デート・ア・DRIVE リメイク (鎧武 極)
しおりを挟む

序章
転生


はじめまして、鎧武 極です
仮面ライダードライブ開始前に投稿するのもちょっと変だと思う方が大半だと思いますが、先にネタをばらすと、この作品の主人公がドライブに変身するのはだいぶ先です。
なので、「今投稿しても大丈夫だろう!」ということで投稿させていただきました
文がおかしいところもありますが、温かい目でお守りください
それでは、どうぞ

※2月8日、リメイクのため話の内容を少し変えました。

※平成30年1月31日、内容を変更


死とは突然訪れるものだと常々理解はしていた。テレビを見ていても、不運な事故で死亡したニュースを見ない日はないからだ。居眠り運転で車が横転し、暴走トラックの下敷きに、建設中のビルの鉄骨が突き刺さりなどなど、人の死はいつだって突然だし、無慈悲だ

彼もまたその不運な一人だった。買い物の道中、突っ込んできた車にはねられ即死。痛みがないのが幸いだった。人はいつだって、痛みのある死は御免だから

 

「それで、俺はこのまま地獄行きですか?」

 

「天国に行けるとは言わないんですね」

 

「冗談を、俺は自分が天国に行けると信じるほど善意しかしてこなかった記憶がないだけですよ」

 

彼は自嘲気味に目の前にいた女性に話す。人は誰だって大なり小なり悪事を行っている。もしこの世に善意だけで生きている人間がいるなら、そいつは人間辞めて神にでもなればいいと思っている。この世って言ってももう死んでいるのだが

 

「で、貴方が神様ですか?」

 

「そうですね、貴方たちの世界で信仰されているような神ではありませんが」

 

この人はいわゆる女神という存在らしい。しかも本人曰くかなり下っ端。神さまの世界にも上下関係があるとは世も末だ

 

「先ほどの質問に関してですがご安心ください、実際は地獄もなければ天国なんてものも存在しないので」

 

「それはそれで信じてる人に酷な事実だと思うのですが」

 

神は無慈悲だった

 

「死んだ人は常に別世界に転生という形で回しているのです。それこそ、何百何千という神が不眠不休で働くほどに」

 

「ブラック企業も真っ青ですね」

 

「ほんとですよ。信仰されてるだけでお金が入ってくる上の人たちが恨めしいです」

 

わざとらしく懐からハンカチを取り出して目元を抑えてシクシクと言っている。妙に人間らしい女神だと思った。いや、この場合自分たちが彼女たちに似ていると言えばいいのだろうか?

 

「それで、転生ってどこにですか?ファンタジー?現実系?まさか元の世界?」

 

「ご安心ください。規定により元の世界に戻ることは出来ないので、無数にある世界の中から適当に人間が生きていける世界に転生という形になります」

 

人間が生きていける、ということは人間が生きていけない世界もあるのだろう。大気が違っていたり、食料となる生物が存在しないだったり、そういう世界の事なのだろう。すこし興味があった。

 

「あと、戦闘が必須となるような世界ではご自身の望む装備や能力などが贈られます」

 

「贈られますって、転生できるのは俺一人なの?」

 

「いえ、他にもいろいろな方が転生はしていらっしゃいますが、その方たちは何も与えられず記憶も消去されてその世界の住人として生きていくことになります。ですがランダムにその世界の『主人公』になる資格を与えられることがあります。その資格を与えられた人には元の世界の記憶とこちらから先ほど説明したとおりの物を送らせていただきます。貴方は()()()()()()ですね」

 

「運ね・・・」

 

女神の笑みに、彼は言われたことを口にだす。運が良かった。まさかそんな事でただの一般人がいきなり主人公になれるなど、生きてる時には到底考えつかない話だ。

 

「注意をしておくと、私たちは転生後の安全は一切保証いたしません。生きるも死ぬも自己責任でお願いします。もし転生後の世界で死亡した場合は今回のように転生するだけです」

 

「了解。それで、特典というのは?」

 

「そうですね、貴方は特撮が趣味だとか?」

 

「はい。死んだときも発売したベルトを買いにいく途中でしたので」

 

「それじゃあそのベルトにしましょうか」

 

「あ、それじゃあここでの事を知ってる設定でお願いします」

 

「分かりました」

 

女神はペンと紙を取り出してスラスラと書いていく。彼がそのような要望を出したのは、愚痴る相手が欲しかったからだ。転生すれば知り合いはいない。事情を知る者もいなければ、最悪一人で生きていくことになるのだ。ならば、せめて自分の事を知ってて愚痴れる相手が欲しかった。

 

「完了しました。これで貴方は今日から主人公です。さあ、あちらの扉へどうぞ」

 

手を向けた方向に顔を向けると、巨大な白い門があった。あそこを通れば、もうそこは全く知らない未知の世界。だが、彼は立ち上がり門へと向かった。死んだのだから、前の世界に未練を持っていたって仕方がない。あの門の先に自分の世界があるのだ

 

「それでは良き人生を」

 

そんな常套句を言われ、彼は門をくぐると同時に女神の方を振り返った

 

「新しい人生をありがとう、神様」

 

 

 

 

               ○●○

 

 

 

(転生した・・・のか?)

 

ベッドの上で意識が覚醒する少年。

神によって転生された少年だ。

 

(一応成功ってことでいいのかな? それよりもなんか両腕が重い)

 

少年は顔を自分の右腕に向ける。

そこにいたのは

 

「すぴ~・・・すぴ~・・・すぴ~・・・」

 

赤く長い髪を伸ばしている、少年より年下と思われる少女が腕を枕にして寝ていた。

 

(誰だこの子? 反対の腕には誰がいる?)

 

反対側の腕に顔を向ける少年。そこには青く長い髪をした少年より少し年上の少女が、赤い髪の少女と同じく少年の腕を枕にして寝ていた。

 

(なぜこうなってるのか全く分からん。というより、記憶が曖昧過ぎて細かい部分が思い出せない)

 

転生とはある程度成長した時点から始まるのかと一瞬思ったが、頭のなかに靄がかかったような感覚に襲われているのですぐに否定した。これはいわゆる

 

「記憶喪失だ」

 

そう結論付け、どこが運が良いのかあの女神に問うてやりたい少年だった




次回からは原作通りに物語は進んでいきます。トライドロンとかドライブドライバーもその時には出てきます。では、また今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十香デッドエンド編
なぜ彼女は悲しい眼をするのか


このたびは、私事の事情で作品をリメイクすることになり、誠に申し訳ございません。詳しい事情はあとがきにて説明します

では、リメイクしたデート・ア・DRIVE第1話、どうぞ


転生してから数年。小学生だった少年――五河進介は今日から高校二年生になる。前日に始業式の準備を済ませた進介は、その特徴的な紫と黒の髪を揺らしながら自室のベッドで静かな眠りについていた。

 

「アーフゥッ!」

 

訂正。彼の静かな眠りは今しがた崩壊した。中学の制服を着た赤い髪を白いリボンでツインテールに括っている進介の義妹、五河琴里が寝ている進介の上でサンバを踊りだしたからだ。それはもう情熱的なサンバを。一部の特殊な性癖を持つ以外の人が受けたのなら、確実に不快に思うであろうその行為を平然とやっている琴里に対して、進介は寝起きのせいで低く唸るような声を出した。

 

「こ、琴里・・・我が愛しの妹よ」

 

「おぉ!? なんだ、我が愛しのお兄ちゃんよ!」

 

クルリと可愛く進介の方を振り向いて笑顔で答える琴里。地味に白いパンツが見えているのは言うべきなのか一瞬迷ったが、言った後に起こる琴里の鉄拳が飛んでくるのを考えると控えた方が良いという考えが勝った。決して進介が琴里のパンツを眺めていたいというわけではない。

 

「た、頼むから降りてください・・・」

 

「お兄ちゃんの頼みなら仕方がない」

 

聞き分けはいい琴里なので、「えぇー」や「いやだー」などと言わずに素直に言うことを聞いてくれるのが幸いだ。これでまたぐっすりと眠りにつける

 

「だが断る!」

 

ベッドのバネを使って高く飛び上がる琴里。空中で右足を突き出すと、突き出した右足は進介の腹の中へと吸い込まれていくように進んでいく。

 

「甘いわ!」

 

ベッドから起き上がった進介は叫ぶと同時に向かってきた琴里の右足をつかみ取ると、そのまま琴里を逆さまにしたまま欠伸をする。

 

「ふあぁ~まだ眠い・・・」

 

「お、お兄ちゃん! ぱ、パンツ! パンツ見えちゃうから下して!」

 

欠伸をしながら目をこする進介に逆さまにされている琴里。パンツが見えないようスカートを抑えてはいるが、前ばっかりを隠しているから後ろがめくれて普通にパンツは見えているわけなのだが。そんな騒がしい部屋に一つの人影が現れる。

 

「あ、あの・・・ご飯出来たよ」

 

「おぉ! お姉ちゃんいいところに来たのだ! お兄ちゃんに琴里を下してくれるよう頼んでほしいのだ!」

 

現れたのは、青く長い髪で目元を隠した進介と琴里の姉、五河士織。内気な性格で進介以外では家族とすら目が合わせられないほどの美少女である。昔はこんな性格ではなかったようだが、とある理由からこんな性格になってしまったらしい。

 

「し、進君・・・琴里ちゃん下してあげて?」

 

「はぁ・・・分かったよ」

 

琴里の背中に手を回して一度お姫様抱っこをすると、士織に言われた通りに琴里を床に下す。

時計の方に目を向けると、時刻はまだ6時。始業式が始まるのは9時からなのでまだ時間はたっぷりあるが、それまで寝ていても仕方がないのでとりあえず3人で朝食をすませようと、琴里と士織と共に1階のリビングに降りて朝食をとる進介たち。

今五河家には両親はいない。仕事の都合で、数日前から海外へと長期出張に行っているのだ。少なくとも、来年までは帰ってこれないらしい。無論、女性2人と男性1人を残して海外出張に行く親はいない。一応この家には、進介たちの他にもう1人、正確にはもう1台の男性?が住んでいるのだ。

 

『Goodmorning! 随分騒がしいお目覚めなようだね、進介』

 

「おかげでいい迷惑だよ、ベルトさん」

 

現れたのは、人の背の高さぐらいある台についた銀色のベルト。これが、進介が転生した際に貰った特典の一つ「ドライブドライバー」である。時折付き合ってくれる愚痴相手であり、彼の一番の理解者でもある。一応、進介たちの保護者代理でもある。

 

「ベルトさんよ、お兄ちゃんたら私の事逆さまにしてパンツを見ようとしてきたのだぞ!」

 

『なんと。進介、さすがに義理とはいえ妹のパンツを見るのはいささか・・・』

 

「ちょっと琴里ぃ~! 嘘を言うんじゃない!」

 

義妹とベルトに引かれる進介。そんな賑わしい中で、士織は一人静かに朝食をとっていた。

これが、五河家の日常である。

 

 

 

 

 

昼にファミレスに3人で行くという約束を琴里としてから学校に登校した進介と士織は、廊下に張り出されたクラス表を見ながら自分のクラスを確認していた。時刻はまだ8時よりも少し前だが、人と目を合わせることができない士織のために、こうして早くからクラスを確認してその教室に行くというのが、海外出張に行く前に両親と約束したことだ。

 

「姉ちゃんも俺も同じ2年4組だってさ」

 

「う、うん。進君がいるなら、安心かも」

 

士織とは誕生日が数カ月違うだけで学年は一緒なので、同じクラスにいるのは何かと好都合だ。それに、席も士織の後ろなので、人見知りの士織のサポートもできる。教師陣も、そのあたりの事を考えてクラス編成をしてくれたのかもしれない。

 

「よお五河姉弟! 3学期ぶりだな!」

 

「ひうっ!」

 

「おう、殿町」

 

いくら人が少ないとはいえ、廊下で人の名前を大声で呼ぶ迷惑な男子生徒の名前は殿町宏人。進介の中学時代からの友人だ。何かと友達が少ない進介の貴重な親友と呼べる人だ。

 

「俺も同じクラスだぞ五河~! それにしても、相変わらず士織ちゃんは俺に目も向けてくれないな~」

 

進介の後ろに隠れるように震えている士織。殿町は何度か経験しているはずの事なのだが、まだ慣れないのか目元にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 

 

「それよりも殿町、まさかお前がこんな朝早くから来てるとはな」

 

「はっはっは! こうして早く来てれば、愛しのお前の顔が見れると思ったからな!」

 

「気持ち悪い、今すぐ俺の視界から消えろ」

 

「ちょっ!? ただのジョークだから、俺から遠ざからないでくれー!」

 

徐々に遠ざかっていく進介に焦って手を伸ばす殿町。多少ふざけた言動をするのが難点だが、それ以外は大方普通である。

 

「――五河進介」

 

廊下に再び響き渡る声。殿町とは違い、今度は全く抑揚のない声だった。名前を呼ばれた進介は、殿町の後方にいる少女に目を向けた。

 

「えっと・・・鳶一折紙さんだっけ?」

 

記憶を掘り返し、その少女の名前を思い出す進介。細身の体に肩にかかる程度の髪、そして人形のように表情がないその顔をした少女の名は鳶一折紙。いま進介たちがいる都立雷禅高校に通う生徒であり、学年一の秀才という天才少女。だが、進介はその名前を聞いたことがあるだけで実際に話したことはなく、ましてや顔を合わせたことすらない。まあ、この特徴的な紫と黒のハネ毛の髪型をしているのは進介だけなので彼女の方からすれば一目でわかるのだが。

 

「なにか俺に用?」

 

「久しぶり」

 

鳶一に声をかけてみるも、返ってきたのは「久しぶり」という、まるでずっと前に会っていたかのような返答だった。再び記憶を掘り返してみるも、やはり彼女と会った事のない進介は申し訳なさそうに言葉をかける。

 

「ごめん、俺たち前にどっかであったっけ?」

 

「覚えてないの?」

 

不思議そうに首をかしげる鳶一。

 

「まあ、覚えていないのなら別にいい」

 

進介が謝る隙も与えず、鳶一は自教室へと向かっていった。拍子抜けした進介に、殿町はその右手で進介の腹を叩く。

 

「おいおい五河! お前いつの間に鳶一折紙と仲良くなったんだよ!?」

 

「い、いや、俺も何のことかさっぱり。てか、名前だけしか聞いたことなかったから正直あの子の事何も知らないし」

 

「な、ないにいいいいいい!?」

 

頭に手を置いてつま先でその場で回転するという少々オーバーなリアクションをとった殿町は、すぐさま自分のポケットの中に入れてあったメモ帳を取り出し、とあるページを開いた。

 

「お前、『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』のベスト3位の鳶一折紙のことを何も知らないというのか!?」

 

「いや、なんだよそのランキング。てか、なんでベスト13?」

 

「主催者が13位だったからだ」

 

「あぁ~」

 

何となくだが、自分が主催したのに自分がベスト10に入っていなかったから無理やりにでもランキング入りをしたい女の意地というのが分かった進介だった。

 

「ちなみに士織ちゃんはベスト1位だ。家庭的で内気、そして何よりそのかわいさが男子たちの心を鷲掴みにしたんだろうな」

 

「ひうっ!」

 

「おいおい殿町、姉ちゃんが怖がってるからあまり大声出すな」

 

震える士織を背中に隠すように前にでる進介。

 

「おおっとすまないな五河。ちなみに、男子はベスト358まであるぞ」

 

「ちょっ、それ全校の男子生徒の数とほぼ同じじゃねか! もしかして、主催者お前か?」

 

「もちのろんさ!」

 

笑顔でサムズアップをする殿町だが、心なしか目元にはうっすらと涙のようなものが浮かんでいる。

 

「ちなみに、選ばれた理由は『毛深かそう』『一緒にいるとめんどくさそう』『キモイ』だからだ」

 

「最後それ悪口だよな!?」

 

「ちなみに五河は匿名希望さんの票も入れて9位だ。理由は『顔がカッコいい』『ワイルドそうに見えるけど実は優しくて胸キュン!』『髪型が変なのと茄子みたいな色をしてる』からだ」

 

「それ、最後の書いたやつ絶対悪口だろ!」

 

「あと、『腐女子が選んだ校内ベストカップル』では俺とペアで2位と圧倒的な差をつけて1位になってるぞ」

 

「嬉しくねえランキング1位がこの世になるとは思わなかったよ!」

 

そんな漫才をつづけながら、進介たちは2年4組の教室へと向かう。教室に入って一番最初に驚いたのは、件の鳶一折紙が進介の隣の席だったということだ。

 

 

 

 

始業式もすべて終了し、放課後になった教室は、朝よりも賑わいを増していた。

 

「進君、一緒にファミレス行こ?」

 

「あ、そういえば琴里とファミレス行く約束してたの忘れてた」

 

士織に言われて思い出した進介は、携帯を取り出して琴里に電話を掛けようとする。今日は中学校も始業式なので、おそらくこの時間帯には終わっているはずだ。進介が携帯の画面に映し出された『琴里 携帯』の文字を押そうとした瞬間、街の方からサイレンの音が聞こえてきた。

 

「うそだろ!?」

 

「始業式の日に空間震とか!?」

 

教室内に残っていた生徒が慌てだす。

空間震。それは、『空間の地震』とも言われる自然災害の事だ。発生原因も不明ならば対処方法もない、全く持って謎の自然災害。それから身を守るためには、地下奥深くにあるシェルターへと逃げなければならない。そう小さいころから進介たちは習ってきたのだ。

進介も士織と一緒にシェルターに逃げようとしたその時、携帯に着信が入り、慌てて進介は携帯の通話ボタンを押した。

 

「もしもし!?」

 

『進介! 空間震の中悪いが、奴ら(・・)の反応があった!』

 

「ロイミュードか」

 

どうやら面倒くさい事は一つではないらしい。進介は軽く舌打ちをすると、ベルトさんからの合流場所を聞いて携帯の電話を切る。

 

「殿町、悪いが姉ちゃんの事少し頼むわ!」

 

「えっ!? お前、どこに行く気だよ!」

 

「ちょっくらファミレスで待ってるバカな妹を叱ってくる!」

 

「し、進君・・っ! や、やめて! いかないで!」

 

琴里がファミレスにいると嘘をついて、殿町に士織の事を任せる進介。士織はそれを聞いていくのを止めようとしたが、進介はそれに耳を傾けずに学校の外へと出て行った。

学校から数百メートル離れた場所で、進介は人のいないスーパーの駐車場に停められていた、荷台にタイヤが付いた赤いスポーツカー――トライドロンに乗り込んだ。

 

「待たせて悪かったなベルトさん」

 

トライドロンの助手席と運転席の真ん中あたりにあるカーナビの上につけられたベルトさんに謝る進介。

 

『NoProblem! それより、奴らは空間震の震源近くにいる。少し危険だが、心の準備はいいかね?』

 

「元から危険と隣り合わせなんだ。そんな覚悟、とっくにできてる」

 

先ほどまでとは違い、鋭い目つきでハンドルを握る進介。車内の中央にセットされているベルトさんを引き抜いて腰に巻き付けると、進介はポケットから大きなブレスを取り出し左手首に装着する。

 

「それじゃあ行こうか、ロイミュードを倒しに」

 

『OK! StartYourEngine!』

 

ベルトさんの掛け声とともに、進介はトライドロンを空間震の震源地へと走らせた。

 

 

空間震の震源地へと着いた進介たちが見た光景は、悲惨なものだった。先ほどまで建っていたであろう建物はすべて吹き飛ばされており、地面にも大きな亀裂が入っている。離れたところでは火災も発生しており、まさに地獄ともいうべき状況になっていた。

亀裂に沿ってトライドロンを進めていく進介。近づいていくごとに亀裂の穴は徐々に大きくなっており、それにつれて周りにある建物の残骸もなくなってきている。そして、その亀裂の発生源であり、空間震の震源地にきた進介は、トライドロンから降りるとその光景に絶句した。

 

「酷いありさまだな」

 

その一帯だけが、まるで何かで掬ったかのように綺麗に抉り取られており、深さで言えば10mはあるであろうその大穴。空間震が直撃した証拠だろう。この付近に進介たちの目当てがいる筈なのだが、やはりロイミュードたちも空間震を喰らってまともにはいられないのか、姿形は見受けられない。

 

『別のところに逃げたか?』

 

「いや、もしかしたらこの大穴の中にいるかもしれない。土煙でよく見えないが、晴れて逃げられるより先にこっちから仕掛ける」

 

『OK。ならば、慎重に行こう。周りは私のセンサーで何かいないか調べておく』

 

大穴に沿ってゆっくりと滑り下りていく。土煙ですぐに周りが見えなくなったが、ベルトさんが周りを警戒してセンサーを発動させているので、安心して行動することができる。こういう時に、頼りになる仲間がいるというのは実に安心できる。

一番奥深くまで滑り下りてきた進介は、足音を立てないようにゆっくりと前に向かって歩いていく。

 

『待て、進介! 人の反応がある!』

 

「人? こんなところに、俺たち以外に人がいるのか?」

 

ベルトさんに呼び止められて足を止める進介。こんな危険な場所に、一般人が来るわけがない。だが、人がいると言ったベルトさんの容姿が少しばかりおかしい。

 

「どうかしたか?」

 

『この反応。人間に似ているが少し違う。この反応はまさか!?』

 

ベルトさんが何かに気付いた瞬間、進介の目の前から斬撃が飛んできた。

咄嗟に左に避けてそれを回避した進介は、斬撃が放たれたであろうその場所に視線を向けた。先ほどの斬撃の勢いで土煙が晴れたその場所にいたのは、一人の美少女だった。

中世の鎧のようなドレスを着た、神に愛されたといっても過言ではない黒髪の少女。そして、その少女の手に握られている、巨大な剣とその後ろにある巨大な金色の玉座。恐らく、先程の斬撃は彼女が放ったのだろう。握っている剣に、虹色に輝く光が見える。

 

「貴様も、私を殺しに来たのか」

 

少女が呟いたその言葉。その悲しげな視線と美しい容姿も相まってか、進介の眼は彼女に奪われていた。




一応この時点で進介はドライブに変身できます。グローバルフリーズについての説明は、次話かその次の話で書きます。

兄の結婚式があり、テストもあり、なにかと書く時間がなく、気が付けば最終投稿から2ヶ月経っており、「このままだとマジで完結させれねえ」と思い原作通りに進めることを決めました。進級したらさらに時間が無くなり、オリジナルストーリーで進めることができなくなるため、このような形でリメイクしたこと、大変申し訳ございませんでした。
幸い、3月には時間がたっぷりあるので、その間に話を進められたらいいと思っております。一部、士織の性格やマッハとチェイサーの処遇など設定変更がありますが、リメイク前と大まかな話は変わりませんのでご安心ください。
今後とも、デート・ア・DRIVEをよろしくお願いします

では、また今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラタトスクとはなにか

進介は今、前世も含めて生まれて初めて女性に目を奪われている。まるで高級人形のように繊細に整えられた顔に体。彼女が着ている鎧のようなドレスも、今の技術では作り出すことが出来そうにない光の繊維が練りこまれており、『今見ているのは現実ではない』と言われた方が納得がいくほどの現実離れした美しさ。手に握っている巨大な剣も、その容姿と相まってか攻撃的な雰囲気と共に芸術品のような雰囲気を醸し出している。まさに、神に愛された存在と言っても過言ではない。その悲しげな眼を除いて

 

「貴様、その腰につけているのはなんだ」

 

少女から発せられた声。透き通るような声は、進介の耳を通って頭の中に入ってきた。恐らく、少女はベルトさんの事を聞いているのだろ。ここで素直に答えるべきか、それともいったん引くか。相手が何者か分からないのにこちらの事を話すのはリスクが大きすぎるが、この空間震が彼女が起こしたのだと考えるのなら、後者を選んだ場合命の保証はない。進介は、ゆっくりと口を開いた。

 

「これは俺の相棒の『ベルトさん』だ」

 

『どうも、私がベルトさんだ』

 

「っ! 鉄の塊が喋っただと!? 貴様、やはり『メカメカ団』の仲間だな!」

 

ベルトさんが喋ったことに驚く少女。それが初見の人の反応なのだが、『鉄の塊』呼ばわりされた本人は少し癪に障ったのか、ディスプレイに怒りの顔が浮かんでいる。

 

「まあ気にせず普通にしてくれ。あと、これは鉄の塊じゃなくて現代より遥かに優れた最先端の科学技術の塊の『ドライブドライバー』だぞ」

 

「ドライブドライバァ?」

 

なんだか最後が変な感じもするが、一応攻撃的な性格ではないということが分かった。現に、手に持っている剣を下して少し警戒しながらもベルトさんに興味を示している。

 

「それよりも君、さっき『メカメカ団』とか『私を殺しに来た』とか言ってたけど、一体何のことだ?」

 

「はっ! そうだった! 貴様、その喋るドライブドライバァとかいう物を付けているということは、『メカメカ団』の一員なんだろ!」

 

「いや、俺はそもそも『メカメカ団』なんてものは知らないし、それに俺は()()()()()()()()()()()()()

 

「嘘を言うな! 奴らは、皆私を殺そうとしていたぞ!」

 

「は? いや、どこの頭狂った奴の集団だよその『メカメカ団』って奴ら」

 

聞けば聞くほど、その『メカメカ団』という集団の事が分からなくなってしまう。もし彼女が空間震の原因だとしても、彼女の反応を見る限りそれには理由があるはずだと初めて会った進介にも分かる。彼女の口ぶりから察するに、『メカメカ団』は少なくとも数度彼女と接触しているのだ。ならば、なぜ彼女を殺そうとしているのか。そもそも、なぜ『メカメカ団』の事を進介は何一つ知らないのか。予想されることはただ一つ、国家間によって秘匿された武装組織(・・・・・・・・・・・・・・・・)。それが、彼女の言う『メカメカ団』の正体だ。

 

『ッ! 進介、後ろに避けろ!』

 

「っ!」

 

ベルトさんに言われて、咄嗟に少女の剣を握っていない方の手を握って後ろに避ける進介。次の瞬間、つい先ほどまで進介たちがいた場所で爆発が起きる。ガスなどによる爆発などではなく、明らかに武器による爆発だ。

空を見上げると、そこにいたのは空に浮かんでいる女性たちだった。軍などでは見たことがない武装をしているうえに、全員が空に浮かんでいるというあり得ない状況。おそらく、彼女たちが『メカメカ団』だろう。たしかに、全体的にメカメカしい格好をしている。

 

「奴ら、また来たか」

 

「またって事は、やっぱりあいつらが『メカメカ団』か?」

 

「ああ、貴様は早く逃げたらどうだ? 先ほどの動きは見事だったが、こんな場所にいたら同族に殺されるぞ」

 

少女はそれだけ言うと、下していた剣を両手で握りしめ、地面を蹴って『メカメカ団』へと向かっていった。女性に戦いをさせるのは気が引けるが、あくまで『変身』はロイミュードとの戦闘のために使うものだ。人間相手には使えない。ここは少女に任せて一時退却をしようとしたとき、少女と戦っていた『メカメカ団』の一人が進介の目の前に落ちてきた。土煙でよく見えないが、年齢的には進介と同じぐらいだろうか。体の大きさからそれほど年の差を感じさせない。土煙が晴れてきて、気になった進介は少女?の顔を覗き込んだ。

 

「う、嘘だろ・・・?」

 

進介は、目の前に落ちてきた少女の顔を見て驚きを隠せなかった。肩まである白い髪に、先程の少女と同じように整えられた顔立ち。水着のような露出の多いスーツと、ロボットアニメに出てきそうなリアクターを背中に背負っているが、間違いない。今朝会った少女、鳶一折紙だった。

 

「と、鳶一・・・なんでお前、そんな」

 

「っ! 五河進介? あなたこそなんで・・・」

 

なぜこんな場所にいるのかが理解できない。鳶一の表情からそんな事を思っているのだろうと考えるのは簡単だった。だが、今はそんな考えを捨てて一刻も早くこの場から逃げなければならない。ロイミュードを逃すのは惜しいが、状況が状況なので仕方がない。進介は鳶一をその場に残してトライドロンに向かって帰ろうとしていた時、聞きなれた声が耳に入ってきた。

 

「進くーん! どこにいるのー!」

 

「姉ちゃん!?」

 

学校のシェルターにいる筈の姉、五河士織の声が聞こえてきた。まさか、いなくなった進介を探しに空間震警報が解除されていない町に来るとは思わなかった。

急いで声のする方に上がってみると、やはりそこにいたのは士織だった。

 

「姉ちゃん! なんでこんなところに!?」

 

「だ、だって・・・進君が心配だったから・・・」

 

「だからって、空間震警報が解除されてないのに探しに来るなんて無茶なことを!」

 

「し、進君だって琴里ちゃん探しに勝手に・・・」

 

「それはあとでちゃんと説明するから、早くここから逃げ・・・」

 

『進介! 上からミサイルが飛んできてるぞ!』

 

一緒に避難しようと、士織の方に寄りかかろうとして瞬間、ベルトさんに言われて上を見上げる進介。先ほどの少女と戦っていた『メカメカ団』の撃ったミサイルが、軌道を外れてこちらに向かってきていたのだ。しかもその進行方向の先にいたのは

 

「まずい! このままじゃ姉ちゃんに! 姉ちゃん、早くそこから逃げろ!」

 

「えっ?」

 

進介に言われて少し上を見る士織。ミサイルは、もうすぐそこまで来ていた。士織はその場から動くことができず、咄嗟に目を瞑ってしまう。

士織にミサイルが直撃しようとした瞬間、士織は風と共に何かに抱き上げられその場から消え去り、目を開けた次の瞬間には、先程いた場所から少し離れた場所にいた。

 

「えっ・・・」

 

自分に何が起こったのか分からない士織。だが、自分は誰かに抱き上げられている。人間の肌の温かさではなく、機械のような冷たい感触。その正体を知ろうと、士織は自分を抱き上げているであろうその人物に視線を向けた。

 

「な、なによあれは・・・」

 

『メカメカ団』の内の一人が、攻撃をする手を止めてそれ(・・)に視線を向けた。

赤い装甲に黒いスーツ、そして片からタスキを掛けているかのように装着された黒いタイヤ。まるで、車を擬人化したかのようなその容貌に、『メカメカ団』や少女を含めた全員の視線が集まっていた。

 

「仮面、ライダー・・・」

 

士織が呟いたその言葉とともに、仮面ライダーと士織はその場から姿を消した。

 

 

 

 

「・・・んぁ? うぉっ!」

 

「あ、目が覚めたか・・・」

 

医薬品の漂う一室で目を覚ました進介は、叫び声をあげた。軍服を着ている眼に隈の出来た見知らぬ女性が、自分の目の前にいたからだ。それよりも、先ほどまで自分は破壊された街中にいたはずだ。士織を助けるために咄嗟に変身をして、その後は・・・

 

「ね、姉ちゃんは!?」

 

「落ち着きたまえ。君の姉は無事だ」

 

「無事って・・・そもそも、あんた誰だ?」

 

「ああ自己紹介が遅れたね、私はここで解析官をしている村雨令音という者だ。医師の免許は持ってはいないが、簡単な治療はできるので君の治療を担当させてもらった」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・ここ?」

 

ふと進介の頭に疑問が走る。今しがた令音は、『ここ』と言った。時計を見ても、時間はあの少女と会った時から1時間も経っていない。シェルターの中にある医務室だと一瞬思いもしたが、それにしては人の気配が全くしない。進介は気を失う前の状況を頭の中で整理していく。士織をミサイルから助け出した後、たしか目の前が一瞬で街中から見たこともない場所に代わって・・・

 

「そうだ! 俺、たしか変な場所に移動したと思ったら足を滑らせて頭打って・・・」

 

「そうそう、あの時はこちらも焦ったよ。頑丈なはずの〈フラクシナス〉の内部装甲が大きくへこんだかね」

 

「す、すみません・・・って、〈フラクシナス〉?」

 

「ああ、詳しい話は君に会わせたい人もいるからその人から聞いてくれ。私が案内する」

 

令音はベッド横の椅子から腰を上げると、カーテンを開け、ふらふらと危なっかしい足取りで医務室の扉に向かう。扉の手前に来た瞬間、令音は足を滑らせるとそのまま扉と衝突し、床へと崩れ落ちた。

案の定というか、想定内の事態が起きた進介は令音に駆け寄ると、冷静に令音に聞いた。

 

「俺がおんぶしますから、道案内だけしてくれませんか?」

 

「すまない、頼むよ・・・」

 

 

 

令音をおぶって歩くこと数十分、電子パネルの付いた扉の前まで来た進介は、令音をパネルの近くに近づけてロックを解除してもらっている。解除をしている間に、進介は周りにある見慣れない機械に視線を移していた。ベルトさんやトライドロン達と比べると技術的には劣っているように見えるが、それでも現代の数世代先の科学で作られたとしか思えない機械類の数々。それに、先程から感じている違和感。体が妙に軽いというか、飛行機に乗った時の同じように足元が浮いているというかなんというか。令音を連れてくるときにも思ったが、この場所は異常なぐらいに広すぎる。どこかの建物というより、戦艦(・・)にいるかのような広さを感じる。

そう考えているうちに令音がロックを解除し終わったのか、扉が開く音が聞こえてきた。進介は令音をおぶったまま扉の中に入っていく。

 

「連れてきたよ」

 

「ご苦労様です、村雨解析官。あと、その状態は『連れてきた』ではなく『連れてこられてきた』と言った方が良いのでは?」

 

金色の長髪をした高身長の男性に話しかける令音。着ている白い服は、アニメなどで見る軍服のような装飾が施されており、どことなく位が高い人なのだろうと分かる。

 

「神無月、無駄話は良いからはやく彼に説明をするわよ」

 

「はっ、指令」

 

金髪の男性――神無月と言われた男性は、すぐ横の椅子に座っている幼い声に答えると、一歩足を引いてその場から動かなくなる。

代わりに、その椅子に座っている人物が椅子を回してこちらに顔を向けてくる。赤い軍服に黒いリボンで結んだツインテール。声のトーンは少し違うが、間違いない、進介の義妹の琴里だった。

 

「こ、琴里?」

 

「ようこそ進介、ようこそ〈ラタトスク〉へ」

 

『し、進介~助けてくれー!』

 

「ベルトさああああああん!」

 

琴里の態度の変化よりも、数人の男女によって解体寸前のベルトさんに驚く進介だった。

 

 

 

 

 

「以上が、彼女たち精霊についての説明よ。って、聞いてるの?」

 

「つ、疲れて内容があまり入ってきていません・・・」

 

『あ、危うくスクラップになるところだった・・・』

 

ベルトさんを解体しようとした男女と格闘をすること数分、なんとかベルトさんを救出した進介は、肩を落として弱弱しい声で返事を返す。右手には、ディスプレイに悲しみの表情を映したベルトさんが握られている。

 

「つ、つまり要約すると、あの女の子は精霊っていう空間震の原因にもなってる生命体。それで、あの『メカメカ団』はASTっていう精霊を殺すための特殊武装集団。対して琴里たち〈ラタトスク〉は、精霊を救うために存在する組織で、俺は精霊を救う人に選ばれたっていうことだろ?」

 

「あら、その微生物並みの脳みそしかない貴方にしては要点を抑えて説明できてるじゃない」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

普段の言動からは想像できないほどに口が悪くなっている琴里に、進介とベルトさんは言葉を失った。目の前にいる琴里は、クローンか人間に限りなく近い容姿のロボットだと言われた方がまだ納得がいく。それほどまでに、目の前にいる琴里の性格は豹変していた。

 

「で、ここからが本題だけど」

 

琴里のトーンが低くなった声に背筋を震わせる進介。

 

「なんであんな場所にいたのかしら? しかも、私がまだ外にいるなんて嘘までついて」

 

「うっ、痛いところを付いてきますな・・・」

 

ゆっくりと琴里から視線を外していく進介。おそらく、士織から事情を聞いたのだろう。

 

「話しなさい進介。そのために士織を外しているのよ」

 

この場に士織の姿はない。おそらく、これから進介の話す事を理解しているからの配慮なのだろう。いや、士織だけではなく、恐らくこの場にいるほとんどの人が聞きたくないことを、進介は話さなければならない。

 

「・・・グローバルフリーズ、覚えてるだろ?」

 

「覚えてないわけないでしょ。あんな事件・・・」

 

グローバルフリーズ。その単語が飛び出た瞬間、琴里の表情が一気に暗くなった。琴里だけでなく、その場にいたほとんどの人の表情が暗くなっているのが嫌でもわかる。

グローバルフリーズとは、今から2年ほど前に全世界で同時に起きた、「人類史上最悪の災害」と言われた事件だ。突如として時間が止まり、その際に起きた爆発などで出た死者行方不明者は全世界を合わせて約10億人。人類の7分の1の人間が亡くなり、場合によっては国家そのものが消滅した国まである。被害はそこまでで抑えられはしたが、未だに多くの人の心に傷を残し、その時に起こった時が止まる現象は『重加速』、通称どんよりとして人々から恐れられている。

 

「まあ一般的に知られているのがここまでだ」

 

『だが、これには真実がある』

 

「真実?」

 

『重加速の発生原因でもあり、私たちが倒すべき存在』

 

「人間が作り出した機械生命体、通称――ロイミュード」

 

「ロイミュード?」

 

琴里が首を少し捻って聞いてくる。

 

「ああ。それを倒すのが俺の役目だ」

 

「役目って・・・あなた、やっぱり私や士織に隠してることがあるわね」

 

「やっぱり薄々は気付いてたか」

 

「当たり前でしょ。ベルトさんみたいなAIが搭載されたベルトにトライドロンみたいな超高性能マシンが来たら誰だっておかしいとは思うでしょ」

 

そりゃあそうですよね。進介は心の中でつぶやくと、さすがに無理がある設定でベルトさんとトライドロンを送り付けてきた神様に文句を言いたい気分だった。

 

――いや、さすがに雑誌の抽選で当たるなんて無理があり過ぎるよ神様

 

たまたま送った雑誌の景品に応募してみたら、超特別枠という意味の分からない物に当選したと思ったらそれがベルトさんとトライドロンで、家族一同相当驚いたという今となっては懐かしい記憶になったあの日の事を思い出す進介。

 

「まあ俺とベルトさんがやってることについては後で話す。そういえば姉ちゃんは?」

 

「士織ならとっくに家に帰してるわよ」

 

「そうか。じゃあ俺もここらへんで・・・」

 

士織が帰ったことを知るなり、進介もベルトさんと一緒に家へ帰ろうと扉の方に体を向け、指令室から出ようとした瞬間、その行先を黒服を着た体の大きな二人の男性に阻まれた。

 

「なにを言っているのかしら進介?これから貴方には、精霊攻略のための訓練(・・)をしてもらうわよ?」

 

琴里の言葉に、進介はただただ肩を落とすだけであった。




デート・ア・ライブ14巻、六喰プラネット読みました!
うん、やっぱり今回も面白かったし六喰が可愛かった!ただ、5月にアンコール5発売で、恐らく7月か8月はクオリディア・コードを発売すると思うから次の15巻は9月か10月ぐらいになると思うんですよね~(やばい今から待ち遠しい)

恐らく今月中に十香編は終わると思います。いや、終わらせないといけない!
ではまた今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

実戦訓練で彼は何を得たのか

〈ラタトスク〉と接触をしてから2日ほど経った。あれから進介は琴里たちの監視下のもと、〈ラタトスク〉特製のギャルゲー『恋してマイ・リトル・シンスケ』なる物をプレイさせられてしまった。最初はただのギャルゲーだと侮っていた進介だが、実際にプレイをしてみると予想以上に難しく、何度『BAD END』の文字を見たかことやら。そんな苦労を続けた甲斐があったのか、ようやくすべてのエンディングをコンプリートしたのだった。

 

「つ、疲れた~!」

 

パソコンの画面に映ったスタッフロールを全て見終えた瞬間、進介は嬉しさと疲れが入り混じった声を上げて机に倒れこんだ。目の下には隈が出来上がっており、髪の毛はいつも以上にハネ上がっている。手元にある時計はすでに6時を示しているが、今までの疲れが一気に来たため、進介はゆっくりと目を閉じてそのまま夢の世界へと旅立とうとしていた。

 

「お兄ちゃーん! あっさだよー! 早くしないと、学校に遅れるぞー!」

 

愛しの義妹(悪魔)によって目が覚めた進介は、琴里を殴りたい衝動を抑えながらかつてないほどまでに重くなったその体を起こして学校に行く準備を始めた。

 

 

 

 

 

「で、学校の放送まで使って呼び出しておいて何事かと思ったら、なに学校の教室改造してんだよお前ら!」

 

地獄のギャルゲー攻略完了から約6時間。午前の授業も終えて眠りに就こうとした進介に来客の放送が入ったため、少々不機嫌な気分になりつつも物理準備室に来た進介は、今日一番の大声を上げた。

なにせ、ドアを開けた瞬間、目の前の光景が自分の知っている教室を合致しないのだ。何百万円もするであろう機械類に、6台ほどおかれたパソコンとディスプレイ。そして、機械類の一部にはつい2日ほど前に見たマークが入っていた。〈ラタトスク〉のマークだった。

 

「令音には今日から進介のクラスの副担任としてこの学校にいてもらうことになったわ。そのために、ここの教室を〈ラタトスク〉が改造したのよ。そこら辺の探知機じゃ分からないようにね」

 

そう答えたのは、黒いリボンで髪をくくった中学の制服を着ている琴里だった。朝はあんなにかわいかったのに、なぜこんなにも性格が豹変してしまうのだろうか。

 

「なによ? 何か言いたそうな顔ね?」

 

「いえ、なにもございません」

 

これ以上考えるのはやめようと思った進介だった。このままでは何の冗談もなしに琴里にボコボコにされてしまうと思ったからだ。

すると、進介はとあることに疑問を持ってしまった。

 

「あれ?そういえばここにいた先生は? 担当教科が変わったなんて話聞いてないんだけど」

 

「あぁあ」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「では本題に入ろう」

 

「何か言って! お願いだから!」

 

〈ラタトスク〉の黒い部分を垣間見えた気がした進介だった。そんな進介をスルーして、令音はポケットから小さな機械を取り出し、進介に差し出してきた。

 

「〈ラタトスク〉の開発した小型のインカムだ。精霊との会話はこちらでサポートするから、君はこのインカムを通して我々の指示通りに動いてくれ」

 

「分かりました。あと、「君」っていうのやめてくれませんか?俺も令音さんって言いますから」

 

「おっと、すまない。たしか君の名前は・・・・・しょういちだったかな?」

 

「なんか「し」しか合ってない!? あとその名前どこかで聞いたことあるからなし!」

 

「そうか。ならばショウ、君にはこれから実戦訓練に入ってもらう」

 

「いや、間違った名前で愛称つけないで!」

 

令音によって謎の愛称を付けられてご立腹な進介だが、既に令音はその愛称で覚えてしまったのか「まあショウ、落ち着きたまえ。ショウの名前を間違えたことは謝る」と、ショウとしか言ってないため、訂正させることを早急に諦めた。

気を取り直して令音からインカムを受け取ると、進介はそれを耳に付ける。

 

「そういえば、具体的な精霊を救う方法を聞いてなかったけど、一体どうすればいいんだ?」

 

「ようやく本題に入れるわね。貴方が変な事で話を脱線させるから時間が少なくなっちゃったじゃない」

 

「いやそれ俺じゃなくて令音さんが悪いんだからな!?」

 

「ショウ、人の性にするとはあまり感心しないね」

 

「いや、事実だから! なにあたかも俺が悪いみたいな言い方してるの!? ちょっと二人とも、なにあからさまに俺に変な視線向けてくるの!?」

 

「まあ冗談はここまでにしておいてあげましょう」

 

「ここまでのやり取り全部冗談!? ただでさえ寝不足なのに無駄な労力使わせるな!」

 

はぁはぁと肩を上下させて声を上げる進介。思えば、今日の6時までギャルゲーを全クリするために夜更かしをし、授業中は寝るたびに教師から叩き起こされ、士織に弁当を食べさせてもらった後に寝る予定だったのだが、それも琴里が学校に来たためすべてなし。つまり今の進介の体は、人間の限界を軽く超え掛けなのだ。このままだと2度目の死を迎えそうである。

 

「あ、あのぉ~・・・」

 

小さくも透き通るような声が準備室に響き渡る。扉の方に視線を向けると、そこに立っていたのは両手に弁当箱を持った士織だった。

 

「あら士織、どうしたの?」

 

「し、進君のお弁当・・・も、持ってきた・・・」

 

「あっ・・・」

 

士織に何も言わずに教室を出てきたことを思い出した進介は、顔から少しずつ汗が吹き出し始めた。

刹那、進介は後ろに殺気を感じて後ろを振り返ると防御の姿勢を取った。

 

「このドアホオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ぼげっ!」

 

防御していてある程度の威力は抑えられたが、それでも琴里の全力のキックを全て受け止めることはできず、進介は勢いよく後ろに吹き飛ばされ、教室の壁に激突した。

 

「このバカ進介! なに士織を一人にしてるのよ!」

 

「す、すまんこっちも寝ぼけてて・・・」

 

「寝ぼけててじゃないわよ! 士織を一人にするなんて、アンタ本当にバカなの!?」

 

「こ、琴里ちゃんもういいよ・・・! べ、別に何ともないから・・・」

 

怒り狂う琴里を鎮めようと、琴里の振り上げた腕にしがみつく士織。その行動に我に返ったのか、琴里は「ふんっ」と言うと、振り上げた腕を下して、ポケットの中からチュッパチャップスを取り出すとそれを口に含んだ。

琴里がここまで怒る理由を進介はよく知っている。士織がグローバルフリーズによって受けた心の大きな傷を・・・

 

「それじゃあ本題に入るわよ。士織、そこに座って一緒にお弁当を食べましょう」

 

「う、うん。でも琴里ちゃんの分が・・・」

 

「ああいいのよ。私は進介の分を食べるから」

 

「ちょっ! それだと俺は腹ペコのまま授業を受けることになるんだが・・・」

 

「はぁ? あんた、士織を一人ぼっちにさせて食事する権利があると思ってるの? 無知で無能であんぽんたんの進介には昼食ぐらいなくても平気でしょ?」

 

「な、何も言えません・・・」

 

「よろしい。それじゃあさっさと教室から出て実戦訓練開始!」

 

「はい!」

 

琴里に言われるがままに、準備室から出て廊下に出て適当に歩いていくと、準備室からある程度離れたところでインカムに通信が入る。

 

『あーあー。ショウ、私の声が聞こえるかね?』

 

「令音さんですか? よく聞こえてますよ」

 

『よし、とりあえず通信はできるみたいだね。君の動向は〈ラタトスク〉の開発したステルス機能付きの小型カメラで監視している。これである程度君の今の状態を見ながらこちらから指示することができる』

 

「へぇ~便利ですね」

 

ステルス機能がついてるとは、やはり〈ラタトスク〉という組織は相当技術が進んでいるらしい。そもそも、精霊という未確認生命体を保護しようという時点である程度の技術がなければできないことなのだが。

 

――ま、こっちにも科学技術の結晶体ともいえるベルトさんがいるんだが

 

ディスプレイが笑顔になっているベルトさんを思い浮かべながら廊下を歩いていると、目の前から一人の少女が歩いてきた。間違いない、入学式当日に進介に話しかけてきた少女、鳶一折紙だった。

 

『あら、丁度いいタイミングで実験台1号が来たじゃない。〈プリンセス〉は見た目は進介たちと同じ高校2年生ぐらいよ、性格まではわからないけど、相手として不足はないわ。それに、彼女はASTの隊員。上手くいけば、情報を聞き出せるかもしれないから一石二鳥だわ。進介、鳶一折紙に話しかけなさい! セリフは私たちが考えるから、貴方は言われたとおりの事を言って!』

 

「ちょっ! いきなりそんなこと言われてもだな・・・」

 

琴里からも無理難題に反論しようとする進介。心なしか、インカムの向こうから何かを食べる音が聞こえてくる。疲れ切った体に、食べ物の音はあまりにも拷問すぎると思った進介だった。先ほどから腹の虫が飢えたように食べ物を欲しているため、早急にこの訓練を終わらせないと本気で死んでしまう。

進介は意を決して、折紙に話しかけた。

 

「よ、よう鳶一!」

 

「五河進介? 一体なに」

 

まるで機械に話しかけたかのように抑揚のない声で返された。だが、これで諦めてはいけないと、進介は言葉をつづけた。

 

「にゅ、入学式の日だけどよ! 俺、お前に会った事ないみたいなこと言ったよな?」

 

「それがどうかした?」

 

「じ、実はあれ嘘でよ! 久しぶりにお前に会って緊張しちまってさ!」

 

「そう」

 

「実は俺、お前の事ずっと目で追いかけてるんだ! 席が隣同士だからよ、先生の話も聞かずにお前の事ばっかり見てるよ!」

 

「私も」

 

「お願いがあるんだけどさ! お前の持ってる体操服俺にくれないか! 無論下着なんか付けずに、生まれた姿のままで着た、お前の匂いが染みついてるやつをよ!」

 

「了解した」

 

「あと、お前が持ってる下着も全部くれ!」

 

「了解した」

 

「じゃあ最後にお願いなんだけどよ、俺と恋人になってくれないか! 無論、肉体関係だけでもいいぜ!・・・・・って、ここまでの話要約したら、俺ただの変態のクズ野郎じゃないかよ!」

 

『まさか本当に言ったままのこと言うなんて・・・進介、貴方もしかして変態?』

 

「言われたとおりに言えって言ったのはお前だろうが!」

 

後ろを振り返って小声でインカムの向こうにいる琴里と令音に叫び声をあげる。今の発言だけを聞いたのなら、100%ただの犯罪者のセリフにしか聞こえない。折紙から反撃の一撃が来なかったのが幸いと言えば幸いだが、恐らく明日の朝には先ほど言ったことがすべて学校中に広まっているだろう。その可能性を少しでも下げるべく、進介は再び折紙の方を振り返ると、言い訳を言おうとした。

 

「いや、鳶一。実は今のは・・・」

 

「別に構わない」

 

「へ?」

 

折紙からの予想の斜め左上の返答に、進介は一瞬思考回路が停止してしまった。

 

「えっと・・・それって、お付き合いの事?」

 

「そう。それとも、肉体関係だけの方が良かった?」

 

「いや、その・・・そういう関係の方が良いの?」

 

「出来ることならば恋人関係の方が好ましい。でも、貴方が私を自分の性欲を処理するための道具としか思っていなくても構わない」

 

「あ、あのぉー・・・」

 

「体操着と下着は明日持って来る。教室では人の目が多いので、屋上にて渡す」

 

「すみません、体操着も下着もいらないからそれ以上言わないで!」

 

無表情で次々と話を進める折紙に恐怖以上の感情を覚えた進介は、咄嗟に彼女に向かって土下座をした。これ以上話を進められると、本気で何かを失う気がしてならない。

折紙は土下座をしている進介の目の前に腰を落とすと、顔を除いてきた。わざとなのかは知らないが、正面を向くと彼女のスカートの中身が見えてしまうのでなるべく首を反らして彼女の顔だけを見るようにしている。

 

「ならば、私たちは今日から恋人という認識でいいの?」

 

「へ? あ、ああ多分・・・」

 

「そう」

 

折紙はそれだけ答えると、腰を上げて立ち上がる。進介もそれに合わせて立ち上がり、服についたほこりをポンポンと落とす。

 

「ならば進介、恋人ならば秘密事はお互いにあってはならない。だから、今から言う私の質問に答えてほしい」

 

「お、おう。俺に答えられることだったら」

 

「ならば一つ聞きたい。2日前、貴方はなぜあの場所にいたの? 空間震警報も発令されていたにも関わらず」

 

「そ、それは・・・い、妹がファミレスの前でバカみたいに待っててよ! それで迎えに行ってたんだよ!」

 

『ちょっと! なに勝手に人を嘘の材料にしてるのよ! あなたが勝手に来たんじゃない!』

 

琴里が異議を唱えているが、「機械生命体を探しに行ったのさ!」なんてことを言って信じてもらえるはずもなければ、言ってはいけないことだからこの際仕方がない。進介は額に汗を垂らしながら、折紙にウソがばれないかドキドキしていた。

 

「そう。妹さんは無事だった?」

 

「あ、ああ! 特に何のケガもなかったぞ」

 

「それはよかった。あと、一つお願いがある」

 

「ん? なんだ?」

 

「昨日あなたが見た光景はすべて忘れた方が良い。あなたは、こちら(・・・)に来てはいけない」

 

折紙はそれだけ言い残すと、来た道を通って何処かへと消えてしまった。折紙の言った『こちら』とは、恐らく精霊やASTの事なのだろう。だが、折紙はまだ知らない。進介がすでに、折紙達すら知りえない世界に足を踏み入れていることを。

その直後、空間震警報が鳴り響き、進介は〈フラクシナス〉に回収された。

 

 

 

 

 

『酷いありさまだな』

 

「全く、学校に来るとかありかよ」

 

『そういっても、精霊が現界する場所は彼女たちにだって決められないわ。それこそ深海や空中に現れることもあるし、最悪宇宙に現れる可能性だってあるわ』

 

「う、宇宙・・・」

 

頭の中で「宇宙キター!」と宇宙で叫ぶ白い仮面ライダーが頭に思い浮かんだが、すぐにその考えを捨て去る。

腰につけたベルトさんとともに、空間震によって半壊した来禅高校の校舎内を歩いている。腕には念のためにシフトブレスをつけており、首からは宝石部分が翼で包まれたペンデュラムを下げている。

 

『そういえばそのペンデュラム、なぜ毎日持ち歩いているのだ?』

 

「ああぁ、これ? ちょっとばかし大切なものだからさ・・・」

 

ベルトさんに聞かれ、進介は静かにその理由について話し始めた。

このペンデュラムは、進介が五河家に引き取られる前からずっと身に着けていたものだ。進介の本当の親が、進介を捨てる際に幸せになれることを願って渡したものなのかはわからないが、オーダーメイドであることは間違いないらしく、昔ネットでこれと同じ型のものを探してみても一切ヒットしなかった事がある。宝石部分も特別なものらしく、宝石店に行って調べてもらったのだが、少なくとも日本には存在しない種類の物らしく、下手をしたら数億以上の価値があるかもしれないと言われた事もある。

進介がこれを毎日持ち歩いている理由としては、いつか本当の親に会った時に自分だと気付いてもらうためだ。捨てられたとしても、やはり親に対して未練は少なからずある。進介の場合は前世で両親が二人とも急死してしまったために余計にそう感じているのかもしれない。さすがに入学式の日などにはつけてはいないが、それ以外の学校生活や私生活では一日中つけている。

 

『そんな理由があったのか・・・』

 

『お人好しすぎるわよ、自分を捨てた親に感謝を言うなんて』

 

「親は何よりも大切だろ? ま、俺はその記憶がないから本当の両親がどんな顔してるのか全然分からないけど」

 

当の本人は笑っているが、〈フラクシナス〉の艦橋は重い空気に満ち溢れていることを知らない。親に捨てられ、その親のことを覚えていなくとも、感謝をするために見つけてくれることを信じて待つ少年に、クルーの何名かはうっすらと涙すら浮かべている者までいる。

 

「それにしても本当に任せていいんだろうな?」

 

『何を言っているのよ。〈フラクシナス〉のクルーはみんな優秀だし、あなたをサポートする人たちだってみんな恋愛マスターなのよ?』

 

「恋愛マスターって・・・」

 

進介は先ほど琴里から紹介されたクルーたちの説明を思い返していた。5回の結婚と離婚をした男に、金の力で夜のお店の女子に騒がれている男に、呪術で恋敵に不幸をもたらす女に、2次元だけに嫁を100人もつ男に、法律で恋人に近づけなくなった女と、不安要素しかない者たちが今後の進介のサポートをする者の簡単な紹介だった。

そうこうしている内に、進介は〈プリンセス〉のいる2年4組の教室の前まで来ていた。

 

『さあ、私たちの戦争(デート)を始めるわよ』

 

 

 




Q実戦訓練で彼は何を得たのか?

A変態な彼女を手に入れました


なんとか書けたー!描写を結構削ったので原作より進行度が早かったけど、大丈夫かな~?
仮面ライダー1号見てきました!昔から仮面ライダーを知っている大人の人用の映画という感じでしたので、小さい子供にはお勧めしない作品ですね。僕も初日に見に行きましたが、子供より大人の人が多かった気がします。
笑いがありつつも、昭和のライダーらしくシリアスもちゃんとあり、まさに「仮面ライダー1号」を体現した作品でした。気になる方はぜひ劇場に!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼女の名前は何がいいのか

「お、おじゃましまーす」

 

進介はゆっくりと扉を開けて教室内に入る。教室の壁の半分は完全に消え去っており、青空が見えるぐらいになっている。

そして、その教室に似つかわしくない風貌の少女が、進介の席の場所で立ち止まっていた。間違いない、2日前に会ったあの少女だ。あの日とは違って手に剣は持っていないが、相変わらずその美しさに目を奪われてしまう。

 

「貴様、あの時の・・・」

 

「お、お久しぶり」

 

『どうも』

 

少女に睨めつけられ、少し怖気づいてしまう。最初に会った時よりは殺気は感じられないが、やはり警戒されているのか少女の指先には黒い球体が浮いており、すぐにでも攻撃できるようになっている。

 

「なにをしに来た?」

 

「え? それは君と・・・」

 

『待ちなさい進介! 選択肢が出たわ!』

 

「え!? ちょ、選択肢って・・・」

 

「おい、何をコソコソとしている」

 

「あ! ちょっと待ってて!」

 

少女から一度顔を反らし、その場に腰を下ろしてインカムを手で押さえる進介。よくよく考えてみれば、実戦訓練で一体何がしたかったのかも、どうやって精霊を救うのかも全く知らされていない進介からしてみれば、急に『選択肢』などというギャルゲーみたいなことを言われては焦るのも仕方がない。

 

(ん? まてよギャルゲー?)

 

進介はそこでふととある疑問が思い浮かんだ。なぜ自分はギャルゲーをさせられたのか、なぜ自分はインカムから指令を受けて行動しているのか、なぜ折紙に対して恋人になってほしいと言わされたのか、なぜ今『選択肢』などという言葉が出てきたのか。全ての要素がつながった時、進介の頭の中にはある一つの結論が浮かんでいた。

 

(もしかして精霊を救う方法って、ギャルゲーみたいにデレさせろって事かよおおおおおおおお!!)

 

そうでなければ、今までの事にすべて説明がつかない。このインカムも、恐らく〈フラクシナス〉側が考えた選択肢を自分に伝えて自身の口から言わせるための物なのだろう。だが、さすがに精霊を救うという大きな目標を掲げた組織が、そんな遊びのような真似をするはずがないと進介は思っていた。

 

『あ、ちなみに精霊を救う方法は、ショウが精霊とデートをしてデレさせるという方法だ。伝えるのを忘れていたね』

 

「嫌な予感的中!?」

 

令音の言葉に思わずその場に倒れこむ進介。その様子に、思わず少女も少々焦りながら少年に近づく。

 

「ど、どうかしたのか?」

 

「い、嫌・・・ちょっと世界の残酷さに絶望していただけ・・・」

 

『進介、ドンマイ』

 

ベルトさんに慰められ、いよいよ本気で泣きそうになってきた進介の耳に、琴里からの指令が入ってきた。

 

『進介、③よ! 『久しぶりだね! 俺の名前は五河進介、君の名前は?』よ!』

 

「久しぶりだね!! 俺の名前は五河進介!! 君の名前は!?」

 

はんばキレ気味で言われた通りにセリフを言う進介。目元にはうっすらと涙が浮かんでいる。その気迫に押されたのか、少女は一歩後ずさりをして、警戒の籠った視線を向けてくる。

 

「な、なんだ急に叫んだりして・・・」

 

「それについては触れないでくれ! それよりも、君の名前を教えてくれか?」

 

「名、か・・・そんなもの私にはない」

 

「は? 名前がない?」

 

まさかの事態に、進介は焦り始めていた。名前がないだなんていうことを考えていなかったため、どう対処したらよいのか分からないのだ。

 

『落ち着きなさい進介。名前はとりあえず置いておいて、彼女と話す事に集中しなさい』

 

琴里からの助言が右耳に聞こえてくる。話す事と言われても、家族いがいの女性と碌な会話をしたことがないため何を話せばいいか分からない進介。何を話そうか考えていると、少女の方から進介に話しかけてきた。

 

「おい貴様、たしかシンスケとか言ったな?」

 

「え? ああそうだけど?」

 

「ならばシンスケ、貴様とあの日の続きをしようではないか」

 

「続き?」

 

「私を殺さないということだ」

 

少女は言うと、進介の机の上に腰を掛けた。それに合わせて、進介も近くの椅子を持ってきて少女の近くに置くと、椅子に腰を掛けた。

 

「あの日シンスケは私に言っただろ、『君を殺しに来たわけじゃない』と」

 

「言ったけど、それがどうかしたのか?」

 

「私は最初、シンスケの言ったことは嘘だと思った。私が出会った人間は、全員私を殺しに来ていた。当たりもしない銃弾を撃ち、通りもしない剣を振るい、無駄なことを繰り返しながらも私を殺しに来ていた『メカメカ団』しか、私の知っている人間はいなかった」

 

徐々に暗くなってく少女の表情に、進介は心を痛めた。ベルトさんも同じ気持ちらしく、ディスプレイには気難しい表情が映っている。何もしていないのに、殺しにかかられる少女の心情を考えたら、悲しまずにはいられなかった。

 

「だが、そんなときにシンスケが現れた」

 

少女が進介の方に顔を向ける。その表情は、先程とは違い少し笑っているような気がした。

 

「シンスケは私に、人間にも良い奴がいることを教えてくれた。あの時、『メカメカ団』の攻撃が私とシンスケの所に来た時に、シンスケは私の手を握ってその攻撃から私を助けてくれた。冷たい〈鏖殺公(サンダルフォン)〉以外に握ったことがない私の手に、シンスケは温もりを教えてくれた。だから、私は深く感謝をしている。私に人間を教えてくれた、人間の温もりを教えてくれた貴様に・・・」

 

「い、いやぁ~そういわれるとなんだか恥ずかしいな~!」

 

『不幸中の幸いというやつだな』

 

「おお、そういえば貴様の存在を忘れていたぞドライブドライバァ!」

 

『ちょ、私の存在を忘れないでくれたまえ! 後、私の事はベルトさんと呼びたまえ』

 

「ベルトさん?」

 

「ああベルトさんはドライブドライバーって言われるの嫌ってるんだよ。だからな? 頼む!」

 

「むぅ~そこまで言うのなら仕方がない。ならば今日からよろしく頼むぞ、ベルトさん!」

 

『OK! 精れ・・・いや、〈プリンセス〉と言った方が良いのかな?』

 

『精霊』と言いかけたところで、ベルトさんは一旦いうのをやめた。いくら名前がないとはいえ、精霊というのはあまりにも失礼な気がしたからである。

 

「その名はあまり好きではない」

 

「じゃあ何て呼べばいいんだ?」

 

『名前がなければこちらも不便なのだが・・・』

 

何とかして会話をすることは成功したが、後回しにしていた問題に直面してしまい、三人で悩む羽目になった。しばらく悩んでいると、少女がなにかを思いついたのかポンッと手を叩いた。

 

「そうだ。ならシンスケ、貴様が私に名前を付けてくれ」

 

「ええぇ!? お、俺が!?」

 

「ああ。私は貴様に、温もりだけでなく名前も与えてほしいのだ!」

 

まさかの事態に再び驚く進介。人に名前を付けるなどという大役を担う日がこの年で訪れるとは思っていなかったため、何をすればいいのか分からなくなってしまう。

 

『落ち着きなさい進介! 〈プリンセス〉の好感度が60を超えてるわ! あなたが名前を付ければ、一気にデートにまで持ち込めるのよ!』

 

「そんなこと言われたって、ペットに名前を付けるのとはわけが違うんだぞ・・・!」

 

名前とは、死んでも付きまとう物だ。中途半端な物を付けるわけにもいかず、頭を悩ませる進介。

 

『なにか彼女と関係する物から名付けるのはどうかな?』

 

令音のアドバイスに、頭をフル回転させて少女と関連する物を考えていく進介。

 

――剣?いや、お姫様?古風?精霊?美人?関係する物関係する物・・・・はっ!

 

「十香。君の名前、十香ってどうかな?」

 

「トーカ?」

 

少女――十香に聞かれて、進介は椅子から立ち上がると黒板の前まで移動し、チョークを取って黒板に漢字を書く。十の香りと書いて『十香』。その本当の意味は、4月10日に初めて会ったからという安易なものだということは進介だけしか知らなくていい事実だ。

 

「こういう字を書くんだ。どうかな?」

 

「むぅ~十香か・・・ふっ」

 

十香が自分の名前が書かれた黒板を見ると、笑顔を作った。

 

「シンスケ」

 

「ん?」

 

「私の名は十香だ! いい名前だろ?」

 

「っ・・・ああ、いい名前だよ十香!」

 

「ふふふ、十香、十香、私は十香」

 

何度も確認するように自分の名前を口にする十香。その表情は、進介が知る限りでは今までで一番の笑顔だった。

その笑顔に、不覚にも進介は頬を赤らめてしまった。

 

「は、反則過ぎるだろその笑顔・・・」

 

「む? 何か言ったか?」

 

「別に、ただ十香の笑顔が可愛いなと思っただけ」

 

「なっ!? なにを急に言い出すのだ貴様は!」

 

「わわわわ! 謝るからその剣をしまえ十香!」

 

照れているのか、顔を真っ赤にしてその手に〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を顕現させる十香。うっかり本音を口に出してしまった自分を殴りたいと思いつつも、なんとか十香を落ち着かせて〈鏖殺公〉を下させると、額に浮かんだ汗を拭う。

 

「ほ、本当にもう無理・・・」

 

『今日はとことん運がないな進介』

 

「むぅ、なにかすまん」

 

「いや、十香が謝ることじゃないから・・・」

 

先程騒いだせいか、もう立つことすらできなくなった進介はその場に横になると、十香が心配な顔をして、〈鏖殺公〉を近くの壁に立てかけて隣に座る。

 

「シンスケ、そこで横になっては体が疲れるのではないか?」

 

「だ、大丈夫。横になれただけまだいい方だから・・・」

 

「しかし、それでは首を痛めるぞ。どれ、少し首を上げろ」

 

十香に言われるままに首を少し上げる進介。すると次の瞬間、十香が進介の顔に手を添えると、先ほどまで進介が顔を置いていた場所に移動し自身の膝の上に進介の頭を乗せてきたのだ。

 

「と、十香!?」

 

「少し恥ずかしいが、これで少しは楽になっただろ?」

 

「う、うん・・・」

 

やられている方としてはやっている本人の何十倍も恥ずかしいのだが、ここは十香の善意にあやかることにした進介。思えば、今日の授業はずっと固い机の上で寝ていたため、こういう風に柔らかいものに頭を預けるのは昨日の朝以来の事だった。鎧のパーツは十香が気を利かせて当たらないようにはしてくれているためそれほどつらくなく、光の膜で作られたスカート部分は十香の太ももの熱を帯びているのかほんのりと温かい。

 

(あぁ~なんだか気持ちいいな。こんなことミオ(・・)にしてもらった時いら・・・あれ?)

 

進介はふと自分の考えていることに疑問を持った。確かに気持ちいい事は間違いない。だが、ミオ(・・)という人物の名前に全く憶えがないのだ。ふと出てきたその人物の名前に、進介は頭に激痛が走るのを感じた。それに気付いた十香が、何やら慌てた様子で進介の肩に手を置いた。

 

「ど、どうしたシンスケ!? ど、どこか痛いのか!?」

 

「あ、頭が・・・」

 

『十香、進介を連れてこの場から離れろ!』

 

ベルトさんの言葉に従い、十香は右手で〈鏖殺公〉を握り進介を抱き上げてその場から離れる。次の瞬間、先ほどまでいたその場所に多くの弾丸が飛んできた。

 

「くっ! メカメカ団の奴らか!」

 

『どうやら彼女たちは強硬手段に出たようだな』

 

十香はベルトさんの言葉を聞いてASTに怒りを覚えた。まだこちらには進介がいるのに、奴らは進介が死ぬ可能性も考えずに自分に攻撃を仕掛けてきた。同族を殺してでも自分を殺そうとするASTが憎い。そして、その原因である自分が憎い。十香はこのまま進介を何処かに隠してASTと戦おうと考えていた。そしてこのまま、進介と二度と関わらないと心に決めようとした。自分が関わる限り、進介は同族に殺される羽目になってしまう。自分にこれほどまで優しくしてくれた進介に、これ以上迷惑はかけられない。

 

「これでさらばだシンスケ。少しの間だったが、貴様と過ごした時間は忘れないぞ」

 

それだけ言い残して進介を攻撃が当たらない場所に隠しに行こうとした瞬間、十香の手がガシッと力強く掴まれた。

 

「ま、まて十香!」

 

「し、シンスケ・・・」

 

「このままさよならだなんて言わないよな? 俺たち、まだ知り合って2日ぐらいだろ?」

 

「だ、だが私といれば、貴様はメカメカ団に殺されてしまうのかもしれないのだぞ!」

 

「それがどうした! こちとらお前を助けるために来てるんだ! そんな覚悟とっくにできてるよ!」

 

進介の真剣な表情に、十香は言葉を失った。もしかしたら、進介なら自分を認めてくれるかもしれない。世界から否定された自分を進介は認めてくれるかもしれない。

 

『進介、十香の好感度が80を超えたわ! デートの約束をするなら今よ!』

 

「十香!」

 

「な、なんだ!?」

 

「明日の朝、この学校で待ってる! だから必ず来い!」

 

「つ、つまりそれはどういうことなのだ?」

 

「デートだよ! デート!」

 

「デェト?」

 

「詳しい事はこういう状況だから言えないが、とりあえず明日ここに来てくれ!」

 

瞬間、十香と進介の近くで爆発が起こる。ASTがミサイルを撃ってきたのだ。これ以上ここにいると、本当に巻き添えを喰らいかねないと考えた進介は十香から離れると、足場の悪い瓦礫の上に着地する。

 

「十香! 明日必ず来いよ! 俺はいつまでも待ってるからな!」

 

「っ! 分かった! 明日必ずここに来る! デェトの約束、忘れるでないぞ!」

 

十香はそれだけ言うと、〈鏖殺公〉の握りしめASTが待つ空へと飛んで行った。それを見届けると、進介もまた〈フラクシナス〉に回収され、その場から姿を消した。

 

 

 

 

「うはぁ~やっぱり酷いありさま」

 

『どうやらASTの修復が間に合わなかったようだな』

 

トライドロンの車内からボロボロに破壊された来禅高校を見て、進介とベルトさんはつぶやいた。校舎の半分以上は崩れ去っており、辛うじて残っている校舎には弾丸の後が痛々しく残っていた。

あの後、電源が切れたように眠りについた進介は今日の朝4時に起きて軽い朝食を取って朝からずっと来禅高校の近くにトライドロンを止めて十香が来るのを待っている。時間の指定をしなかったのが完全に裏目に出てしまい、朝とした指定していないため何時に来るのかわからないのだ。

 

「なんか、昨日の事がまるで夢みたいだな」

 

『だな。どうだ、初めて女の子に名前を付けた感想は?』

 

「もうちょっと自分のネーミングセンスをどうにかしないといけないと思った」

 

『フフフ、君のネーミングセンスは確かに絶望的だからな』

 

「うるさいな~・・・」

 

「おいシンスケ!」

 

「うおっ!」

 

突然名前を呼ばれ驚く進介。声のした方に視線を移すと、そこにいたのは十香だった。

 

「十香? お前、空間震警報が鳴ってないのにどうして・・・」

 

「なんだ? ここに来いと言ったのは貴様だろうが」

 

「いや、そうだけど・・・」

 

『静粛現界というやつか?』

 

精霊が来るときには、必ず空間震警報が鳴ると琴里から聞いていた進介は、なんの前兆もなしに現れた十香に驚愕していた。

 

「ではシンスケ、デェトとやらに行こうではないか!」

 

「・・・おう!」

 

十香の満面な笑みを見て、なぜ空間震警報もなしに現れたのかということ考えるのは無粋だと感じた進介は、心地よく答えた。

 

 

 

 

日本 東京都 国会議事堂 衆議院議場

日本を先導する政治家たちが集うその場所に、彼ら(・・)は集まっていた。クモや蛇、蝙蝠などの生物の特徴を持った機械の体に、胸のナンバープレートを輝かせる彼らの名は『ロイミュード』。グローバルフリーズを引き起こした、機械生命体たちだった。

 

「それで、わざわざこんなところに呼び出して一体何の用かな?」

 

機械体を持つロイミュードの中で、赤いコートを羽織った青年の姿をしているロイミュードのナンバー2、ハートは言った。そして彼の横にいる緑の服に眼鏡をかけた青年、ブレンもそれに続く。

 

「私たちの計画を実行に移すにはいささか早すぎる気がするのですが、一体何かあったのですか?」

 

他のロイミュードたちが議席に座っているのに対し、一人だけ議長席にて偉そうにテーブルに足を置いている少年は、「う~ん」と声を上げると、足を下してテーブルの上に立ち上がる。

 

「〈ラタトスク〉の奴らが本格的に動き出した。それに伴って、()()()()も動くことになった」

 

そう言った瞬間、ロイミュードたちから驚きの声が上がる。それを見た少年は、議長席のテーブルを力強く足を踏む。その音とともに、先ほどまで騒いでいたロイミュードたちが一斉に静まり返った。

 

「なにも驚くことではない。これは元から計画の内に入っていたことだ。僕たちの目的は、当分の間その少年を倒すことにある。幸い、僕たちには切り札がいくつもある。それらすべてを行使してでも、少年を――仮面ライダーを叩き潰す! 全ロイミュードたちよ、その力を存分に振るえ! 人間どもを一掃し、我々がこの星の新たな支配者となるのだ!」

 

少年――ロイミュード001が手を振り上げた瞬間、ロイミュードたちから歓声にも似た声が上がる。

001はテーブルから飛び降りると、緩めていた首のネクタイを締める。進介と同じ顔をした少年は、ロイミュードたちの長から――日本の総理大臣、真影壮一の顔へと変わった。




まさかの連続投稿!
張り切り過ぎて2話も書いちゃいました・・・
出来ることなら僕も十香に膝枕してほしい!

ガンバライジングを20回ぐらいやりましたが、レジェンドレアが出ない!マシーンを変えているからなのかもしれませんが・・・
十香編はあと3話で終了を予定しております!なるべく今月中には投稿できるようにするのでお待ちを!
では、また今度アデュー←最近はまっているYoutuber、フィッシャーズの挨拶


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デートとはこういう物であっただろうか

天宮市の大通り。人が多く行きかうそこを、同じ学校の制服を着た男女が歩いていた。男の方は特徴的な紫と黒の髪のハネ毛の少年――五河進介。女の方は、神に愛されたといっても過言ではない美しさを持った少女――十香。その手には大量のきな粉パンが入った袋が抱えられており、彼女とすれ違う人は皆その美貌に目を奪われるか大量のきな粉パンに目を奪われるかのどちらかだった。

 

「なあ十香、お前そんなに食ってお腹は大丈夫なのか?」

 

「む? このぐらい何ともないぞ? むしろまだ腹がすいて仕方ない」

 

「マジかよ・・・」

 

もう10個もきな粉パンを食べ続けているのに、まだ腹が減っているとは。やはり人間と精霊とでは体の構造が違うから食べる量にも差があるのかもしれない。ちなみに十香が制服を着ているのは、たまたま通りかかった来禅高校の女生徒の服を十香がコピーをしているだけである。

 

「どうかしたかシンスケ?」

 

「いや、それよりも十香、食べるんなら別の物も食えよ。さすがにきな粉パンだけじゃ体に毒だからな」

 

「むぅ~この味と離れるのは少々悲しいが、シンスケがそういうならば仕方がない」

 

十香はきな粉パンをしばらく見つめると、袋に入っていたきな粉パンすべてを一瞬で口の中に入れると、一気に平らげてしまった。さすがの光景に、周りの人たちも信じられないという顔で立ち止まっている。

 

「ぷはっではシンスケ、次はあそこに行くぞ!」

 

「え!? ちょっ、引っ張るなよ十香!」

 

次の獲物(食べ物)を見つけた十香に腕を引っ張られて連れていかれる進介。はたから見れば、仲がいいカップルにしか見えないかもしれない。

 

「あれは、精霊?」

 

その様子を建物の陰から見ていた折紙には、そうは見えなかった。

 

 

 

「それにしても、ロイミュードね~・・・・まさか精霊以上に厄介な奴らがいたとは、世の中何が起こるか分からないわね」

 

とあるレストランの窓際の一席、口にチュッパチャップスを含んだ黒リボンの琴里が呟いた。一緒にいるのは、軍服ではなく普通の私服を着ている令音だった。相も変わらず不気味なクマのぬいぐるみと目の下の隈が目立つが、それ以上にその美しさが際立っていた。

 

「確かに、ロイミュードの事も謎ではあるが、それ以上にショウのことだ」

 

「やっぱり令音も気付いていたのね」

 

「ああ、神無月に集めさせたグローバルフリーズの時の監視カメラの映像を調べてみたが、どうやら意図的に報道しなかった映像があるようだね」

 

隣の椅子の上に置いてあったバッグの中からタブレットを取り出すと、神無月から渡された監視カメラの映像を再生した。

 

「これは?」

 

「その報道されていなかった映像だよ。と言ってもほんの十秒程度の映像で画質は荒いが、確認できないことはない」

 

令音が説明をすると、琴里はタブレットの映像に視線を向けた。暗くてよく見えないが、そこに映っていたのは蝙蝠の姿をした怪物だった。どんよりの性で動けなくなっている人間に向かって指から銃弾を放ち、飛び散る血を見て笑っているようにも見える。

 

「・・ちっ」

 

「すまない琴里。だが、問題はここからなんだ」

 

たちの悪さに琴里が舌打ちをする。令音に言われて息を吐いて落ち着くと、改めて映像に目を向ける。

暴れる怪物の後ろから、映像ではとらえられないスピードで何かがやってくると、怪物を突き飛ばした。怪物は数度地面を転がると、辺りを見回す。刹那、怪物の上空から何かが飛んでくると、そのまま怪物へとぶつかり爆散した。燃え上がるその場から出てきたのは、黒い体をした仮面を被った戦士だった。その戦士は監視カメラへ顔を向けると、その背後から燃え上がるミニカーがこちらに飛んできて、そこで映像は砂嵐に変わった。

 

「これって・・・」

 

「この仮面の人物が何者かはわからないが、()()に似てないと思わないか?」

 

「え?」

 

琴里は疑問に思った。少なくとも、自分にこんな真っ黒な知り合いはいない。こんな子供が喜びそうな姿をした知り合いなど・・・

 

「っ! まさか、進介?」

 

「正解だ」

 

令音が肯定をすると、琴里は再び舌打ちをした。よく見れば、この仮面の戦士が腰につけているのはベルトさんだ。それに、数日前に進介を〈フラクシナス〉に回収した時、彼もこれによく似た姿をしていたのを思い出した。一瞬しか見ていなかったため分からなかったとはいえ、これは明らかに痛手だ。

 

「あの時に何が何でも聞いておくべきだったわ。まさかこんなことに首を突っ込んでいるだなんて」

 

「ショウもそうだが、私は彼の持っているベルトと車の方が気になるね」

 

「ベルトさんとトライドロンがどうかしたの?」

 

「少し気になってあのベルトの表面の金属を少しだけ削って調べてみたが、あのベルトの金属は世界中どこを探しても存在しない未知の金属だということが分かった。おそらく、そのトライドロンという車にも同じ金属が使われているはずだ」

 

「まあベルトさんみたいなAIが搭載されているからもしやと思ったけど、やっぱり何か隠してるわね」

 

「・・・・・」

 

「令音?」

 

「ああすまない。少し考え事をしていた」

 

珍しく考え事をしていた令音。長い付き合いの琴里なら分かることだが、こうして令音が人の話を聞かずに物事を考えるのは珍しい。基本令音は何があっても他人を優先し、自分の事は後回しにするタイプなのだ。だからこそ、こんな風に他人の話を聞かないなんて事は逆に新鮮に感じられた。

 

「とりあえず、この件は上に報告しておくわ。ウッドマン卿は、確か総理大臣との交流があるって言ってたし、何か聞き出せるかもしれないわ」

 

「分かった。では、私は他の映像にも同じような者が映っていないか確認してみよう」

 

タブレットをバッグの中にしまい込むと、琴里は注文していたメロンソーダが入った容器のストローに口を付けると、そのまま吸い込み飲み込んでいった。子供っぽいと思われるかもしれないが、琴里はまだ14歳の女の子なのだ。むしろ、これぐらいの子供らしさがないと可愛くない。

 

(はぁ~結局そんなに大したことは分からなかったわね。精霊の事もあるし、なんだか予想以上に疲れる任務ね。士織の事もあるし、今日はこの辺りで帰ろうかしら?)

 

そんなことを考えていた琴里は、ふと窓の外に視線を向けた。

 

「ぶうううううう!!」

 

瞬間、琴里は驚きのあまり口の中のメロンソーダを令音に向けて噴き出してしまう。そこにいたのは、精霊であるはず(なぜか霊装ではなく来禅高校の制服を着ている)の〈プリンセス〉通称十香と、義兄の進介だったのだ。

 

「な、なんで進介が十香と一緒にいるのよ・・・っ!? 空間震警報はなってないはずでしょ!?」

 

「そのはずだが・・・どうやら、精霊には空間震を発生させずにこちらに来る事ができるみたいだね」

 

「そんな話聞いてないんですけどぉ!?」

 

スカートと令音の顏がジュースで濡れていることすら考えられないほどにパニックになっている琴里に、周りの客はただ冷たい視線を送るだけだった。

 

 

 

 

「はぁ・・・せっかく溜めてた財布の中の諭吉さんたちが、たった数時間で・・・」

 

天宮市内にあるとあるゲームセンター。UFOキャッチャーで景品を取ろうと奮闘している十香の横で、進介は別の意味で軽くなった財布の中身を見ながら嘆いていた。歩けば食事、話せば食事、食べれば食事、この数時間で何十件もの飲食店を回ったが、その全ての店で十香はとりあえずおいしそうな物ばかりを食べていったため、コツコツと溜めてきた進介の財布の中のお札はそのほとんどが十香の腹の中の食べ物へと消えていった。

 

「むぅ~おいシンスケ! この機械は私に意地悪をしてくるぞ! 先ほどから何度もやっても全然景品が取れない!」

 

「あぁ~はいはい。十香、それは機械のせいじゃなくてお店の人がそう設定してるからだよ。俺が代わりにやるから、十香は横で見ててくれ」

 

流石にこれ以上景品のきな粉パンのクッションのためにお金を使うわけにもいかないので、十香と交代をする進介。

 

「しかしシンスケよ、この機械はきな粉パンを掴んでもすぐに落としてしまうぞ?」

 

「こういうのはタグの穴に通すのがベストなんだよ。これでも俺、昔ゲームセンターの景品1000円で10個ぐらいゲットしまくってたから出禁になったぐらいなんだぜ?」

 

無論前世の事なのだが、ここで言うのは野暮だろう。言葉の意味がよく分かっていない十香は「なにか分からないが凄いぞ!」と目をキラキラさせている。これほどまでに期待されては、余計に失敗できない。進介は息を整えると、100円玉を投下し、アームを動かし始めた。

 

数分後

 

 

「いや~大量大量! 久しぶりだから腕がなまってるかと思ったら結構いけるもんだな!」

 

1発目で見事目当てのクッションを手に入れた進介は、調子にのってその後も景品を取りまくっていた。3つ同時に景品をゲットすることもあるため、今や進介と十香の持っている景品は巨大な袋3つ分になっていた。その横では、きな粉パンのクッションを抱えて「すごいぞシンスケ!」と目をキラキラさせている十香と、あまりのテクニックに顔を青ざめているゲームセンターの店員と野次馬が集まっていた。

 

「いやはや、まさか500円でここまで取れるとは~さすがにお店の人に悪いからこれで最後にしますか~よっ!」

 

台の中にあった最後の景品をゲットすると、周りから拍手と歓声が飛び交うと同時に、この店の店長であろう男性が腰から崩れ落ちる。すこし悪い気がしないこともないが、別に進介はズルをしているわけではないのだ。心の中で男性に謝ると、進介は先ほど取った巨大なぬいぐるみを袋に入れると、野次馬たちの拍手を浴びながら十香と共に店の外へと出て行った。

 

「多分俺この店もう出禁だな」

 

「ん? 何か言ったかシンスケ?」

 

「いや、別に何でもないよ。それより、次はどこに行く十香?」

 

「むぅ・・・・・おっ! 次はあそこに行ってみたいぞ!」

 

十香が指をさした方向に視線を移す進介。その先にあったのは、見慣れない商店街だった。しかもご丁寧に「ラタトスク商店街」と大きな看板まで立ててある。

進介はもしやと思い、ポケットの中に入れておいたインカムを耳に付け電源を入れる。

 

『お、やっと繋がった』

 

「令音さん・・・あの商店街、〈ラタトスク〉が用意したものでしょ」

 

インカム越しに聞こえてくる令音の眠たそうな声を聴きながら進介は返す。

 

『そうよ。街中で見かけたけど、貴方ベルトさん置いて十香と二人だけでデートしてたでしょ? 国道を派手な車が走ってるって友達から連絡が来たわよ』

 

次に聞こえてきたのは、指令官モードの琴里の声だった。黙っていたことに怒りを感じているのか、若干声が低い。

 

『とにかく、今あなたたちの目の前に商店街があると思うけど、そこでしばらく時間を潰したらとある場所へ二人で行きなさい。言っておくけど、十香に変な事したら殺すからね』

 

「えっ!? ちょっ、待てよ琴・・・・・切れちゃった」

 

琴里の言葉に少しの不安を抱きつつも、目をキラキラさせて商店街の方を見ている十香の顔を見た進介は、十香の手を引っ張り商店街の方へと走っていく。

 

 

 

『全く、進介も酷いものだな。いくら私がいると不自然だからと言って、まさか二人だけでデートに行ってしまうとは』

 

とある駐車場に停めたトライドロンの車内で、ベルトさんはそんな愚痴をこぼしていた。ベルトである自分を付けて回るのは確かに不自然であり目立つことだが、コンビニで買い物があると言いだしたので駐車場で二人が戻ってくるのを待っていたら、まさか置いていかれるとは予想もしていなかったらしい。

 

『確かに私は少々口を出してしまうこともあるが、何も置いていかなくったって・・・』

 

ベルトだからそんなことはないのだが、ディスプレイから涙が出てきそうなベルトさん。

刹那、車内に車のクラクションが大きく鳴り響いた。

 

『うおっ! な、なんだね君たち!』

 

ベルトさんの前に出てきたのは、いろいろな形をしたミニカー――シフトカーと呼ばれるドライブの仲間たちだった。

ベルトさんが驚いていると、何か話すようにクラクションを鳴らしたのは、炎のような形をしたシフトカー――シフトマックスフレアだった。

 

『なに? それは本当なのか?』

 

フレアからの話を聞いたベルトさんは一瞬考え込むと、何かを決断したようにシフトカーたちに命令を出した。

 

『よし、皆は市内の探索をしてくれ。まだどこかに隠れているかもわからないからな。私も進介を見つけ次第すぐに捜索に向かう』

 

ベルトさんの指示を聞いたシフトカーたちは、次々とトライドロンの車内から出ていき街へと走り出していった。ベルトさんもまた、停めていたトライドロンのエンジンを掛け、進介がいそうな場所へと走り出していった。

 




遅れてほんっっっっっっとうに申し訳ありませんでした!
4月に投稿しようと思いつつも、新しい環境になれずに家に帰るとすごい疲れてて書く気になれず、別の作品でちょっとトラブルが起って書くのを自粛していたので気付いたらこんなに遅れました。
まあ遊戯王を何度も見に行ってたのもあるんですが・・・・・来週もいろいろと学校の行事があるので恐らく今月は出来てあと1回ぐらいが限界です。
あと2回で十香編は終了なので、なにとぞ温かい目で見てください。
ではまた今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なぜ彼は撃たれたのか

「うまい、美味いぞシンスケ!」

 

「そりゃあ良かった。あ、醤油ラーメン2杯追加で」

 

〈ラタトスク〉の用意した商店街にあるラーメン屋にて、十香と進介は慌ただしくラーメンを食べていた。隣で餃子と炒飯とラーメンを同時に食べている十香も十香だが、進介も先ほどからラーメンを十杯ほど食べている。自分の食費を削ってまで十香に色々と食べさせていたためとても腹が空いているのだ。

 

『え、えげつない位に食べるわね・・・』

 

インカムからあまりの食べっぷりに引いている琴里の声が聞こえてくるが、気にせずに食事を続ける進介。

 

「店長! 塩ラーメン追加!」

 

「店長! 炒飯と塩ラーメンとチャーシューと醤油を大盛りで!」

 

進介と十香の容赦ない注文が入った厨房にいるスタッフたちは、目元に涙を浮かべながらイソイソを料理を作り始めた。

 

 

 

 

「ふぅーもうお腹がいっぱいだぞ!」

 

「うぐっ、吐きそう・・・」

 

時刻は午後6時を少し過ぎたところ。夕時になり、学校帰りで友人と別れる者、仕事帰りに上司と一杯飲みに行く者、夕食の買い出しに出かける者。そんな光景を、進介と十香は高台にある公園から見つめていた。

あの後、〈ラタトスク〉側からの指示で大人のホテルに連れ込まれそうになったが、何とかそれだけは回避をしてここまで走ってきた二人。大量に食べた後に走ったため腹を痛めている進介とは対照的に、とても楽しそうな笑顔で進介に取ってもらったきなこパンの抱き枕を抱いて夕日が沈むのを見つめる十香。

 

「綺麗だな、シンスケ」

 

呟く十香。進介は反応が一瞬遅れて十香の方へ顔を向けると、十香が言葉をつづける。

 

「私は今まで、こんなに綺麗な景色を破壊してきていたのだな。人間たちが私を殺そうとするのも無理はない」

 

「十香・・・」

 

街を見つめる十香の視線が、どこか物悲しく感じられる。今まで人と碌に関わってこなかった彼女にとって、今日の進介とのデートは意識を一変させる出来事だったに違いない。自分を殺そうとする人間だけでなく、進介のような優しい人間もいる。だが、その事実が余計に十香の胸を締め付けていた。

 

「奴らの言い分は正しい。私がこの世界に現れれば、それだけこの景色が失われ、人が傷つき悲しむ。私はやはり、この世界に存在してはいけないのだな」

 

何かを諦めたように目を閉じる十香。無意識とはいえ、十香が現れればそれに伴い空間震が発生する。それは結果的に、この世界を破壊していることになる。

 

やはり、私はこの世界から消えた方が良いのだな

 

もう二度とこの世界には現れない。そう決心した瞬間、進介の声が聞こえてくる。

 

「だったら、ずっとこっちにいればいいんじゃないか?」

 

「っ! 気持ちは嬉しいがシンスケ、私はこの世界にはずっとはいれない。時が経てば強制的にあちらの世界に連れ戻される。それはいつ起こるのか私ですらわからない、悪いがお前の言っていることを実現するのは不可能だ」

 

首を横に振る十香。だが、進介は意に返さずに話を続ける。

 

「それはお前が一人だから出来なかったことだろ? 今の十香には俺がいるしベルトさんだっている、他にもいろんな人がお前の事を助けようと努力してる。世界は一人じゃできないことばっかりなんだ。だからさ、そんな悲しい事言うなよ」

 

優しく微笑みかける進介。

 

「だが、私は知らないことが多すぎる」

 

「覚えていけばいい」

 

「食事や寝床だって必要になる」

 

「俺の家に来ればいい」

 

「予想外の事態が起きるかもしれない」

 

「俺がフォローする」

 

暫く黙り込む十香。もしかしたら、進介なら自分を救ってくれるかもしれない。そう思った十香は小さく口を開いた。

 

「なら・・・シンスケはずっと私と一緒に・・・いて、くれるか?」

 

十香の問いかけに、進介は一拍置いて答えた。

 

「当たり前だ。死ぬまでずっと、お前と一緒にいるよ」

 

十香に向かって手を伸ばす進介。その手に一瞬戸惑うも、少し考え込み十香も手を伸ばす。

 

「シンスケ・・・」

 

二人の手が重なろうとした瞬間、進介は背中に悪寒を感じた。明らかな殺意、だがその対象は自分ではない。その対象は

 

「十香ッ! 危ない!」

 

反射的に地面を蹴って十香をその場から突き飛ばす。刹那、進介は自分の胸から下の感覚がなくなるのを感じた。まるでアニメのように飛び出す自分の血。自分が死んだときも、こんな感じだったのかと思いながら、進介は意識を失った。

 

「な、なにをするシンス・・・ケ・・・」

 

突然自分を突き飛ばした進介に非難の声を上げようとした瞬間、自分の目の前に人がる光景に言葉を失った。

地面に広がっていく血の池。その先にある()()は、足だけしかなかった。正確に言えば、腹の上から先がなかった。今十香の足元に広がっている血は、それの綺麗に抉り取られた傷口から広がっていたのだ。そしてさらにその先にある物を、十香は見つけてしまった。紫と黒の髪、首から下げたペンデュラム、そして左手首に付けている大きなブレスレット。間違いない、今しがたまで自分が話していた進介だ。

十香は腰を上げて、おぼつかない足取りで進介に近づいていく。途中で進介の血で靴を汚すが、そんなことすら気にならなかった。一切動かない進介の上半身の傍まで近づくと、その場に腰を下ろして進介の顔を手でなぞっていく。生暖かい感触が、先ほどまで生きていたことを嫌でも十香に教えていた。

 

「シンスケ・・・貴様とのデェトは、とても楽しかったぞ。きな粉パンにクレェンゲェム、そして、人間が決して私を殺そうとしていないことを教えてくれた。貴様は言ったな、「死ぬまで一緒にいる」と・・・その約束を守ってくれて、ありがとう」

 

感謝の気持ちか、それとも悲しみの気持ちか分からない言葉を述べていく十香。進介の体を両手で抱えて立ち上がる。その時、進介の空いた穴から内臓がボトッと地面に落ちると、十香はそれも拾い上げて進介の下半身があるところまで戻ると、その場に進介の上半身をそっと置く。

 

「もう私は迷わない。私が生きてきた意味は、お前のおかげで知ることができた」

 

着ていた上着を進介の亡骸にかける。静かな、それでいて恐ろしい雰囲気を十香は纏っていた。

 

「もう私が()()()()()はない。後はお前を殺した()()()()()()()()、直ぐにお前のいる場所へ向かおう」

 

進介の臓器を触った際に手に付いた掌の血でその美しい顔の半分を汚す。それは怒りを表しているのか、それとも悲しみを隠すためにしたのかは分からない。ただ一つ言える。

今の彼女は、もうだれにも止められない

 

「――〈神威霊装・十番(アドナイ・メレク)〉・・・」

 

静かに唱えられたその言葉。精霊の最強の『盾』を纏うための呪文。

着ていた十香の服は消え去り、代わりに紫の鎧を纏う。十香の霊装、識別名〈プリンセス〉としての姿だ。

 

「来い、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 

十香がその名を唱えた瞬間、地面から巨大な玉座が生えてくる。精霊の最強の『矛』、天使だ。そしてその背もたれにある巨大な剣を引き抜くと、その斬撃を玉座へと放った。

 

「【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】!」

 

砕かれた玉座の破片は、次々と十香の握る剣の刀身へと集まり、さらに巨大な剣へと変貌させる。全長10メートルはあろうその大剣を、十香はその華奢な腕で軽々と持ち上げる。その血で汚れた眼で見据えるのは、ただ一点のみ。

進介を撃った(殺した)あの白髪の女だけ

 

 

 

 

一方そのころ、随意領域(テリトリー)の中で呆然としていた折紙は、未だに現実を理解することが出来なかった。自分が引き金を引いた体精霊用ライフル〈CCC(クライ・クライ・クライ)〉の弾は、確実に〈プリンセス〉を射抜くはずだった。だがその直前、突如として進介が精霊を庇い、胴を二つに引き裂かれた。

「―――――」

 

最早折紙に、声を出すだけの精神力はなかった。自分を助けてくれた、自分を救ってくれた最愛の彼を、事故とはいえ殺してしまったのだ。これでは、()()()の精霊と同じだ。

 

「折紙ッ! しっかりしなさい! 〈プリンセス〉が来るわよ!」

 

燎子の声が折紙の意識を現実へと引き戻す。だが、顔を上げた折紙の前には既に、【最後の剣】を握った十香がいた。

 

「貴様がシンスケを殺したのか・・・」

 

十香の言葉に折紙の表情が歪む。だが、そんな些細な事など気にならないほどに、折紙には気がかりなことがあった。

 

なぜ、彼女は泣いているの・・・?

 

()()精霊が、ASTがどれだけ攻撃を仕掛けようと微動だにしなかった〈プリンセス〉が泣いていた。だが、その涙は普通の涙とは違っていた。彼女の左目から流れているのは普通の透明な涙。だが右目からは、その顔についた血と混ざりあって、まさに血の涙と化していた。悲しみと、怒りが混ざり合ったその表情に、折紙はその場から逃げることが出来なかった。

 

「あの世でシンスケに詫びろ」

 

十香の一撃が、折紙のいる場所へと叩き込まれた。

 

 

 

 

「し、指令・・・っ!」

 

「はいはい五月蠅いわね。少しは静かにしなさい」

 

〈フラクシナス〉内にある指令室は今、大きくざわついていた。自分たちの切り札である五河進介が、つい先ほど死んだのだ。それだけでも衝撃は大きいが、それを凌駕するほどに琴里の素っ気なさに驚きを隠せないでいた。

義理とはいえ、兄が目の前で死んだにも関わらず、悲しむどころか何一つ動揺を見せないでいた。

 

「にしても、お姫様を助けたのは及第点かしら? まあ、おかげでこっちは相当グロテスクなもの見せられた上に、肝心のお姫様は相当ご乱心みたいだし、評価としては中の上ぐらいかしら?」

 

淡々と評価を下していく琴里に、言葉すら出ないクルーたち。唯一神無月と令音だけは違ったが、それでもモニターを見て険しい表情をしていた。

 

「指令、さすがにあんな大けがを負って、本当に大丈夫なのですか?」

 

「完全に胴体が分かれてしまっているからね。下手をしたら、今後も障害が残る可能性があるかもしれない」

 

神無月と令音が何を言っているのかが理解できなかった。死んだ人間に対して、なぜ「大丈夫」などと言えるのだ。なぜ「今後も障害が残る」と言えるのだ。彼はもう死んでいるのに。

 

「大丈夫よ。()()の事は私が一番よく理解しているわ。進介はどこぞのゴーストみたいに、()()()()()()()()()()()()()

 

そう琴里が言いながら笑みを浮かべた瞬間、進介の死体に異変が起こった。

傷口が炎に覆われているのだ。しかも、服で隠されていてよく見えないが、恐らくまだ分かれたままであろう上半身がグチャグチャと奇妙な音を立てながら、下半身の傷口へと近づいて行っている。その光景に、クルーの何名かは口を押え、先ほどまで冷静さを保っていた琴里ですら「うえっ」と吐き気を催す。

そして、徐々に炎が収まっていくと、先ほどまで生命反応がなかった進介が起き上がったのだ。

 

『うっへーまーたあの世で神様に会うところだった』

 

「なにバカな事言ってんのよ。とにかく、こっちで回収するから早くお姫様のところに行ってきなさい」

 

何事もなかったかのように会話をする兄妹。この二人に戦慄を覚えているクルーたちに気付いたのか、「だから大丈夫だって言ったでしょ」と琴里がドヤ顔で言った。

 

 

 

 

状況は最悪だった。力を最大限に開放した十香の前に、ASTは成す術なく蹂躙されていた。だが、傷を負ったほとんどの者はその余波によって負傷していた。十香は最初から、折紙一人にしか攻撃を仕掛けていない。だが、その折紙も随意領域でなんとか攻撃を防いでいる状態だった。あと数回攻撃を受けたのなら、恐らく折紙はこの世から消滅してしまうだろう。塵一つ残さずに。

 

「しぶとい奴だ。シンスケを殺しておきながら、自分一人だけ助かろうとはな」

 

十香の言葉は、折紙の傷ついた心を抉った。そんなつもりはない。自分はここで死ぬわけにはいかない。精霊を全て駆逐するまで、絶対に死ねない。

 

「だが悪あがきもここまでだ。貴様はここで死ぬのだ」

 

折紙の心情など知る由もない十香は、今までとは比べ物にならないほどのエネルギーを溜める。確実にこの一撃で仕留めるつもりだ。【最後の剣】が闇色の輝きを放っていく。その余波だけで、今まで奇跡的に耐えてきた地面が崩れ落ちていく。

そしてついに、その剣が折紙に向かって振り下ろされ――

 

「空から俺参上おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

なかった。直前に、空から聞きなれた声が聞こえてきたのだ。つい先ほど、死んだはずの進介が、空から元気な姿でこちらに向かって落ちてきているのだ。

 

「シンスケ!」

 

十香は咄嗟に進介の元まで飛んでいき、その体を受け止めた。

 

「ほ、本物か・・・?」

 

「あぁ多分本物。どっかの宇宙生命体が俺に擬態してない限りな・・・って、十香! お前その顔どうしたんだよ!?」

 

十香の顔を見て進介は絶句した。なにしろ、綺麗だった顔は涙で目元が赤く腫れ、顔の半分は血で汚れているからだ。

だが、十香は進介の顔が生きていると理解した瞬間、さらに涙を流してしまった。

 

「シンスケ! シンスケ、シンスケ、シンスケ!」

 

「ごめんな、十香」

 

胸の中で泣きじゃくる十香。それを見た進介は、優しく十香の頭をなでる。その時、十香の握る剣が異変をきたした。先ほどフルパワーまで溜めたエネルギーが暴走を始めたのだ。

 

「な、なんかこれヤバくないか!?」

 

「【最後の剣】の制御を誤った! どこかに放出しなければ・・・!」

 

「どこかって、ここにはそんなところないぞ!」

 

「だが、もう臨界状態だ! このままでは辺り一面を巻き込んでしまう!」

 

既に【最後の剣】から放たれる光は周りへと飛び散り、地面を抉り取って行っている。

 

「十香、一つだけこの状況を打破する方法がある」

 

「何!? それは本当かシンスケ!」

 

「いや、俺も実際試したわけじゃないから不確定だし、それに失敗した時のリスクが高すぎる」

 

さっき琴里から聞いた十香を救う方法。それはキスをするというなんとも冗談めいた方法だった。大体、こんな方法で救うことができるのなら苦労はない。

いや、そんな方法で救えるのなら、これ以上ない美しい事だろう。愛を知らない少女に愛を教えることで救う。夢物語だが、なんとも優しい救済だ

 

「十香、今から俺はお前とキスをする。それが俺たちが助かる方法だ」

 

「わ、わかった。して、キスとはなんだ?」

 

「こういうことだよ」

 

進介はそういうと、十香の唇を奪った。

あの世にいるお父さんお母さん、この世界のお父さんお母さん、ここまで育ててくれた五河家のお父さんお母さん、本当にごめんなさい。

心の中で6人の両親に謝りながら、進介は十香とキスをしていた。知る限りではこれが女の子との初めてのキスである。まさかファーストキスがこんな強引な感じになろうとは思わなかった。

 

「ん、んんー!!」

 

口の中で十香の舌が暴れているが、まだ口は離さない。これが本当なのかどうか、まだ確信が得られていないからだ。

瞬間、十香の持っていた剣にヒビが入り、粉々に砕け散って消えていく。それに伴い、十香の着ていた霊装の光の膜が溶け、鎧の部分が次々と消えていく。

十香の力がなくなったことにより、先ほどまで浮いていた二人の体はゆっくりと落下を始める。地面に着地した進介は、ようやく十香の唇から自身の唇を離す。

 

「プハッ! これ、訴えられたりしないよな・・・?」

 

まだ口の中に十香の甘い味が残る中、強制わいせつ罪で捕まったらという恐怖で進介の心はいっぱいだった。だが、十香からの罵倒などは飛んでこない。むしろ、チラリと十香の方を見ると唇を手でなぞっている。

 

「十香?」

 

「っ! み、みるなああああ!」

 

「へ?」

 

十香が突如叫び、ようやく気付いた。今の十香は生まれたままの姿だったのだ。下手に十香の裸体を見たら拳が飛んでくるプラス鼻血が出て貧血になってしまう。というか、先程から十香の胸がダイレクトに当たって心臓がバクバクである。

 

「なあシンスケ」

 

「ん?」

 

十香が尋ねてくる。

 

「また一緒に、デェトに行ってくれるか?」

 

「っ! ああ、お前が望むならいつでも。その前に・・・」

 

進介は血で汚れた十香の顔を血で汚れていない部分の服でふき取る。

 

「笑うんだったら、もっと顔を綺麗にしないとな」

 

「っ! うむ!」

 

今日一番の笑顔を見せる十香。

これですべてが終わった。そう思った矢先だった。

二人を衝撃が襲った。体の動きが突如としてゆっくりとしか動かなくなったのだ。二人だけではない。風で木が動く音、地面が崩れる音、すべてがゆっくりと、テレビでスロー再生しているかのようになっていた。

だがそんな中で、()()()は何事もないように動いていた。

 

『見つけたぞ、精霊〈プリンセス〉』

 

(ロイミュード!)

 

現れたコウモリとコブラを模したロイミュードを見て驚く進介。だが、二体のロイミュードの後ろに隠れていた、両腕に巨大な手甲を持つロイミュードの姿に、進介は更なる衝撃を受けた。

 

『これで俺はさらに強くなれる』

 

(姿が違う! まさかもう進化態が!?)

 

人間の感情を得て進化する機械生命体、それがロイミュード。なら、感情を十分に得たロイミュードはどうなるか。奴らは3種類いる下級ロイミュードから、個々の姿形をもつ上級ロイミュードへと変化を遂げる。別名進化態とも言われるロイミュードは、それぞれが下級とは比べ物にならないほどに強力な力を持っている。

 

『俺のさらなる進化のために、死ね』




遅くなってすみません!フツーに書くのめんどくさがってました!
原作より結構怖い事言ってる十香・・・我ながら恐ろしい。というか進介の死ぬ描写まあまあグロく書いたから運営から怒られないかな?
次回で十香編は最終回、どうか気長にお待ちくださいm(__)m

仮面ライダーエグゼイド、アメトークで見たときはすごくかわいかったけど、映画だと「ダサっ」って思わず口に出してしまった。レベル1のぬいぐるみとか出たら絶対に買うのに・・・そもそも仮面ライダーを「可愛い」と言っている時点でどうかと思うけど
とにかく自分の中ではエグゼイドを見るかほんっっっとうに迷ってます。仮面ライダー見るのか決めるのにこんなに悩むの人生初だわ

それではまた今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面の戦士は何者か

ゆっくりとこちらへ近寄ってくるアイアン・ロイミュード。ロイミュードの起こす『重加速』の中では、一部を除いて人間は動くことはできない。だがそれは、()()を連れていない場合の話だ。

太陽の沈む彼方から、3つの光が飛んでくると、進介の腰に銀色のホルダーと共にセットされる。

 

「うおっ! 遅いぜお前ら」

 

ホルダーについたシフトカー、マックスフレア、ファンキースパイク、ミッドナイトシャドーに話しかける。

 

『何? なぜ人間が・・・』

 

驚くアイアン・ロイミュード。普通の人間は、重加速の中では満足に動くことすらできない。だが、目の前の少年は何食わぬ顔をして普通に動いている。

そこまで考えたアイアン・ロイミュードの頭に、()()()から聞いた言葉が浮かんだ。

 

 

()()()は重加速の中でも普通に動ける。凍り付いた時間の中で、たった一人で僕たちに刃向かうあいつの名前は・・・』

 

 

『仮面ライダー・・・!』

 

口から絞り出された言葉に、進介は「おっ」と反応を示す。

 

「やっぱり()()()も知ってたか」

 

『数年前、我らが実行したグローバルフリーズをたった一人で鎮静し、我らの魂をネットワークに追いやった忌まわしき悪魔っ!』

 

悪魔(おまえら)に悪魔呼ばわりされるなんて心外だな。お前らのせいで、一体何億の人間が死んだと思ってる」

 

『黙れッ! 貴様ら人間など、所詮その程度の存在でしかないッ!』

 

進介の発言に激怒した下級ロイミュード一体が指先からマシンガンを放つ。進介は避けることはできるが、それでは横にいる十香に銃弾が当たってしまう。銃弾が目の前まで迫ってきた時、派手なクラクション音と共に新たなシフトカーたちがやってくると、銃弾を全て弾き飛ばした。

 

『なんだと!?』

 

「助かったぜ、ジャスティス、モンスター、ミキサー」

 

銃弾をはじき返したパトカー型のジャスティスハンター、顔の描かれたモンスタートラック型のマッシブモンスター、ミキサー車型のスピンミキサーにお礼を言う進介。シフトカーたちはそれに答えるように各々クラクションを鳴らす。

 

『進介ええええええええええええええええ!!!』

 

豪快な音と共に背後の崖から飛び上がってきたトライドロンとベルトさんの声に、その場にいた全員の視線が釘付けになる。地面に着地をしたトライドロンは、そのまま下級ロイミュード2体を跳ね飛ばし、アイアンに向かって車両前部に備えられた機関砲で攻撃をする。

 

『ちっ! やはり協力者がいたか』

 

攻撃を受けたアイアンは軽く舌打ちをすると、後方に飛んで攻撃を回避する。

進介が唖然としていると、トライドロンの中からベルトさんが飛び出して進介の腰に巻き付く。

 

『間一髪だったかな?』

 

「ベルトさん。俺、いまとんでもない光景を見た気がするんだけど・・・ここ天宮市見渡せるぐらい高い場所にあるんだけど」

 

『フフフ、やってやれないことはないさ。それよりも進介、十香を裸で放置するのはどうかと思うぞ?』

 

ベルトさんに言われ、「あっ」と声を漏らす進介。自分はシフトカーの力で動けているが、今は重加速が発生している最中。当然十香も例外ではなく、先程から時間が止まったかのように体が動いていない。というより、自分が十香から離れたせいで素っ裸のままでその場に放置してしまっていたため、振り向いた瞬間に進介は十香の体を(勿論包み隠さず全部)見て鼻から血が吹き出しそうになってしまった。

 

「ご、ごめん十香! ベルトさん、なんか服ない!?」

 

『トライドロンに替えの服ならあるが・・・』

 

「よしそれだ! レッカー、早く持ってきて!」

 

近くにいたレッカー車型のフッキングレッカーに命じて服を取りに行かせる進介。その間に十香の裸体をこれ以上晒さないようにするために思わず多い被るが、それが逆効果だということも十香の顏が真っ赤になっている事にも焦って気付いていない様だ。

 

『女の心配より、自分の心配をしたらどうだ!』

 

「危ないっ!」

 

アイアンの攻撃を咄嗟に避ける進介。その時に十香の体を自分の方に抱き寄せたのだが、その時に誤って胸のところを触ってしまう。ただし、それに気付いたのは触られた本人の十香とベルトさんだけだった。

硬い拳から繰り出されたパンチに、先ほどまで進介たちがいた場所には数メートル程度の深さのクレーターが出来上がっていた。それを見た進介は、息をのむ。

 

『あんまり気を抜いてると、死ぬぞ?』

 

「本当に気が抜けないな・・・・・」

 

『仕方がない。少し調整が終わってないが、ぶっつけ本番だ!』

 

ベルトさんが叫ぶと同時に、進介の手元に赤いシフトカー―—シフトスピードが飛んでくる。ベルトのイグニッションキーを捻り、シフトスピードをレバーに変形させると、シフトブレスに差し込む。

 

「変身ッ!」

 

『ドラーイブ! ターイプ、スピード!』

 

掛け声とともにシフトカーを前に倒すと、ベルトからの音声が鳴り響き、進介の体に赤い装甲が装着される。近くに停車してあったトライドロンの左前輪から別のタイヤが生成されると、それは進介の体へタスキの様に装備される。

 

「さあ、ひとっ走り付き合ってもらおうか」

 

その掛け声とともに、仮面ライダードライブはロイミュードたちへ向けて走り出した。

 

 

 

 

同時刻。天宮市上空にある〈フラクシナス〉の指令室。空中に映し出されているモニターの映像に、クルーの面々は度肝を抜かれていた。死人が生き返って十香の霊力を封印したことも驚きだったが、問題はそのあとだった。突如現れたロイミュードに、それと同時に発生した『どんより』。そして何より、再び現れたあの()()()()()。あのロイミュードたちの言葉を借りるのなら、『仮面ライダー』と呼ばれる者に、進介が変身をしたのだ。わずか数分の間に起きた出来事だが、肝心の内容は数分間の出来事にしてはあまりにも濃すぎた。実際、先ほどまで十香の霊力の観測を行っていたメンバーは全員開いた口が塞がっておらず、普段は冷静な令音までもが、一切動けずにいた。

 

「あれが、進介の言ってて役目ってやつね・・・」

 

唯一言葉を発した琴里の声音は、恐ろしく低かった。最愛の兄が、自分に隠してまでやっていたこと。それは、かつて世界を崩壊寸前にまで追い込んだ機械生命体、ロイミュードと戦うことだった。

 

「ちっ」

 

怒りのまま口の中のチュッパチャプスを嚙み砕く琴里。いまモニターに映っている兄は、ロイミュードと戦っている。だが、その戦闘スタイルは素人がやる力任せの戦い方ではない。相手の攻撃を見極め、上手く受け流しながらも相手の急所を突く。もはやベテランのやる戦い方だ。一体彼は、この戦いのためにどんな苦しい訓練をしてきたのだろう。一体どれだけの痛みを味わってきたのだろう。それを知る術はない。だが琴里には一つの確信があった。今の兄の姿は、今まで見てきた中でも一番輝いていたということを

 

 

 

 

「はっ!」

 

アイアンの腕を脇で挟み込み、不意を突こうと迫ってきた下級ロイミュード2体に蹴りを入れる。ロイミュードと戦うのはこれが初めてではなかったが、3体同時に相手をすることはなかったため、予想以上に手間がかかる。

 

『やはりこの数を相手にするのは限界があるか』

 

「ならタイヤの交換と行きますか」

 

そう言うと、ドライブはベルトのキーを回してシフトブレスからスピードを引き抜くと、腰のホルダーからフレアを手に取り変形させると、ブレスにセットし前に倒す。

 

『タイヤコウカーン! マックスフレア!』

 

トライドロンからオレンジ色のマックスフレアタイヤが射出され、ドライブのタイヤと入れ替わるようにドライブに装備されると、燃え上がるような形状に変化する。

それを気にも留めずに背後から殴りかかろうとする下級ロイミュードに、先程取り外されたタイプスピードのタイヤを掴んでその顔へと叩き込む。

 

「おりゃっ!」

 

空中で態勢を崩された下級ロイミュードへ向けて、すかさずマックスフレアの能力で炎を纏った拳を突き出す。灼熱の炎を纏ったドライブの拳は、金属でできたロイミュードの体をいとも簡単につき破り、ロイミュードのコアを突き出た手で握っている。

 

『き、貴様あああああ!!』

 

「これで終わりだ」

 

握っていたコアを握りつぶすと同時に、ロイミュードの体が爆散する。その光景にあっけにとられるアイアンと下級ロイミュード。炎の中から出てきたドライブの手には、既に変形したスパイクが握られていた。ベルトのキーを捻り、フレアとスパイクを入れ替え、タイヤコウカンを行う。

 

『タイヤコウカーン! ファンキースパイク!』

 

ドライブのタイヤが棘のついた緑のタイヤに入れ替わると、もう一方の下級ロイミュードに向かってドライブは走り出す。

身構えるロイミュードだったが、ドライブは攻撃をすることはなく、ロイミュードの腕を掴んで後ろに組み伏せるだけだった。その行動に理解をできなかったロイミュードだったが、次の瞬間、その意味を身をもって理解した。

 

「これでも喰らいな!」

 

『スパ・スパ・スパイク!』

 

ブレスのスパイクを3回前に倒すと、タイヤが棘を伸ばして回転を始める。伸びた棘がロイミュードの体を徐々に抉り取っていく。悲鳴を上げながら暴れるロイミュードを抑えるよう、抑える力を強めるドライブ。

 

「貫け、ファンキースパイク!」

 

ドライブの掛け声とともに、ファンキースパイクタイヤから無数の棘がロイミュードの削り取られた傷口へと吸い込まれていく。そして、先程とは比べ物にならないまでに伸びた棘がロイミュードの体をコアごと貫く。

棘が元の長さまで戻ると、ドライブはロイミュードから離れる。その数秒後、貫かれたロイミュードは爆散し、残るはアイアン一体のみとなった。

 

『貴様・・・よくも我らの仲間を・・・っ!!!』

 

「安心しろ、貴様もすぐに同じ場所に送ってやる」

 

仮面の下から低い声を出す進介。その威圧に一瞬押されながらも、ひるまずに向かっていくアイアン。ドライブは数歩後ろに下がると、すかさずシフトカーを入れ替える。

 

『タイヤコウカーン! ミッドナイトシャドー!』

 

手裏剣のような紫のミッドナイトシャドータイヤに変わると、すぐさまシフトカーを3回倒す。

 

『シャ・シャ・シャドー』

 

タイヤが回転するとともに、ドライブが2人、4人、そして8人へと分身する。その様はまるでニンジャの様だった。

 

『なに!? 一体どれが本物だ!』

 

分身したドライブに焦るアイアン。だが、いくら見てもどれが本物かなど分かるはずもなく、手当たり次第に攻撃を仕掛けていく。

しかし、どれを倒そうとも感触が全くない。ついにはすべての分身体を消し去るが、どれも正解ではなかった。では一体、どこに?

 

『ヒッサーツ!』

 

そう思っていたアイアンの頭上からベルトの声が音声が聞こえてくる。それと同時に、自身の周りを取り囲むかのように巨大な4つのタイヤが出現する。

 

『フルスロットール! スピード!』

 

アイアンの上空から、スピードタイヤにタイヤコウカンしたドライブがトライドロンと共に落ちてくる。先ほどからタイヤコウカンをしていたのは、トライドロンの動きを敵に悟られないようにするためと、ロイミュードの爆発によってトライドロンを上空まで吹き飛ばすための作戦だったのだ。

4つの巨大なタイヤに拘束されたアイアンの体は、そのまま大きな円を描くように回転しているトライドロンの中心に弾き飛ばされる。ドライブはトライドロンのボンネット部分を蹴りアイアンに一撃を決めると、同じ要領を何度も繰り返し、アイアンへ攻撃を加えていく。

 

「おりゃああああああああ!!!」

 

アイアンに最後の一撃を決めるドライブ。地面を滑りながら着地すると、ドライブの後ろにトライドロンが停車をする。

 

『こ、こんなバカなあああああああ!!!』

 

最後の断末魔とともに、アイアンの体は空中で爆散する。コアが完全に砕け散ったのを確認すると、ドライブはシフトカーを引き抜きブレスのボタンを押す。

 

『Nice DRIVE!』

 

変身が解除されると、お腹の部分が丸見えの血に汚れた制服を着た汗まみれの進介が素顔を出す。その直後、全身の力が抜けた進介は膝から崩れ落ちる。

 

「つ、疲れたー・・・」

 

『良い戦いだったぞ進介。十香の霊力の封印、ロイミュードの消去。結果は上出来だ!』

 

「で、出来ればもう二度と3対1だなんて闘いはしたくねぇ・・・・・」

 

笑顔のベルトさんとは対照的に、苦笑いの進介。すると進介は、十香の事を思い出しあたりを見渡すが、それらしき影は見えない。一瞬また消えたのかと思ったが、霊力を封印した十香にそんな力があるとは思えない。となると、考えられる可能性は一つ。

進介はトライドロンの助手席部分を覗き込む。

 

「あちゃーやっぱり目が回ってる」

 

案の定、必殺技の時のトライドロンの回転で目が回った十香がそこにいた。無論全裸で

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで! 今日から世話になる夜刀神十香だ!」

 

あれから数日後、何事もなく送っていた学校生活に大きな変化が舞い降りた。今教卓の前で話をしているのは、来禅高校の女子の制服を身にまとった十香の姿だった。突然の転校生に驚くクラスだが、一番驚いてるのは進介だ。なにしろ、この件の当事者である琴里からは、何の連絡も受けてなかったからだ。

 

「ん? おおぉーシンスケ! 同じクラスだったか!」

 

「ちょっ! こんなところで名前を叫ぶなっ!」

 

十香の一声に、クラスの面々がざわめき始める。

「なになに五河君あの子と知り合い?」「えぇーうそー」「なあ、そういや前に五河が女と歩いてたって聞いたけど・・・」「それ俺も聞いた。もしかしてあの子?」

まずい、非常にまずい。なんとかしてクラスの意識を別の事に向けようと頭の中で模索する進介だったが、そんなこと知る由もない十香が更なる爆弾を投下した。

 

「どうしたのだ急に叫んで? もしかして、私としたキスが忘れられないのか? まあ私も初めてで少し驚きはしたが、あれはとても良いものだった。だがシンスケ、舌を入れるのはなしだぞ? あれはその、なんというかゴワゴワして気持ち悪い」

 

その言葉に、クラスの雰囲気が凍り付いた。今進介に向けられている視線は、女子からの軽蔑と男子からの嫉妬の2種類のみだった。

すると突然、隣にいた折紙が進介を床に押し倒した。

 

「いでっ! と、鳶一さん!?」

 

「今のはどういうこと」

 

「い、今のって・・・」

 

「どういうこと」

 

無表情な顔で迫ってくる折紙。十香と戦った時の負傷で片腕が使えないはずなのに、全く体が動けない。その威圧的な雰囲気に、進介は思わず口を開いてしまった。

 

「ハイ、十香とキスをしました・・・・・」

 

その瞬間、クラスから悲鳴の声が上がる。女子からは罵声が、男子からは怨嗟の声が聞こえてくる。だが、折紙は別だった。十香とキスをしたと聞くなり、自ら顔を近づけて進介の唇に自分の唇を重ねようとする。

 

「おい貴様! 一体何をしようとしている!」

 

その直前、十香に首根っこを掴まれ無理やり離される折紙。

 

「貴女には関係ない」

 

「関係ないわけないだろうが! シンスケのキスは私のものだ!」

 

「そんな根拠はどこにもない。彼の唇は私のもの。貴女に汚された彼の唇を私の唇で上書きする」

 

「そんなことさせるものかあああああああ!!!」

 

言い争う十香と折紙。その様をみていろいろと噂をするクラスメイト。もう何が何だかわからなくてあたふたしているタマちゃん。そして何事かと見物に来る別のクラスの先生や生徒たち。

進介の高校2年の生活は、こうして波乱の幕開けをした




遅れてすみません。運動会、文化祭、中間テスト、その他もろもろが重なりおくれました。

デート・ア・ライブのスピンオフが発表されましたね。正直アニメ3期希望していた僕としては知った瞬間椅子から転げ落ちましたが、まあいいでしょう。というか、同時に発表されたハイスクールD×Dが4期制作決まったのになんで?って腑に落ちない点が心の中に残ってる。まあこれが人気の差ってやつっすかね~
デートももう少し(あと5巻ぐらいかな?)で終わりそうですし、まあ頑張って今年中には凜祢まで進みたい。
というわけで、また今度~



やっぱりエグゼイドのレベル1はかわいい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四糸乃パペット編
雨の日の少女は何者なのか


十香が転校してきてしばらく経った。美しい容姿に天真爛漫な性格が影響して、比較的早くクラスには馴染んだようだ。友達と言える女子生徒も何人か出来ている。

反対に進介はというと、転校初日の十香による爆弾発言によってクラスどころか学年全男子から目の敵にされている。唯一殿町は普通に接してくれてはいるが、時折進介の肩を掴む彼の手に異様に力が入っていることがあるが、その意味を知りたくない進介であった。元々そんなに友人もおらず、唯一の友人と言えば殿町ぐらいしかいなかった進介は今の現状に肩身の狭い思いをしている。

ふと、進介は自分の左隣の席にいる少女に視線を向ける。先ほどの授業の復習をする折紙は、いつもと同じように無表情だ。

だが、進介は知っている。彼女が精霊を倒すために結成された特殊組織〈アンチ・スピリット・チーム(AST)〉の隊員であることを。そして、自分は彼女に一度殺されたことを。もちろん折紙が自分を撃ったのは、単なる事故だ。十香に狙いを定めていた彼女が引き金を引くタイミングで、進介が十香を突き飛ばし弾丸の射程圏内に入ってしまった。結果、進介は胴が真っ二つに割れ、一度死んだ。謎の力によって今は何の後遺症もなく生きているが、そのこともあって進介はうまく折紙に話しかけることができないでいた。それは折紙も同じなようで、十香が転校してきた当日の暴走以外進介に絡んできておらず、静かに学生生活を送っていた。

折紙は決して悪い女の子ではない。なんの理由もないが、進介はそう確信していた。この溝が埋まるきっかけがあればと思いながら、進介は窓の外を見た。

 

「雨、か・・・・・」

 

今日も今日とて雨。ここ数日当たらぬ天気予報を見るのをやめた進介は、鞄の中に入れておいた予備の折り畳み傘を十香の鞄の中に入れておく。そして携帯で、琴里に士織と一緒に帰るよう頼むと、進介は一人足早に教室を出た。今日の食事当番は進介。材料はすでに買ってあるため、あとは家に帰って準備をするだけだから急ぐ必要もないのだが、なぜかこの日のみ進介は早く学校から出なければいけない気がした。

()()()()()()()()()神社への道を通り、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

久方ぶりに通る風景を見ながら、進介は昔を思い出していた。昔と言っても、せいぜい数年前の記憶がほとんどで、それ以前の記憶は全くなかった。何かおかしい気もするが、今の進介にとっては五河家に来たあの日からがすべてのスタートなのだ。昔がどうであろうと今がすべての進介にとって、昔の記憶はそれほど重要でもなかった。

過去の風景と今の風景を比べながら歩いていると、左手にある神社にいるものに目が映る。雨の中、傘も差さずに動いている()()は、緑色のウサギを模したレインコートのような物を着た少女だった。左手には白いうさぎのパペットを付けている。正直好みがわかれるパペットのデザインだが、まるで道化(クラウン)のようなその格好に、進介の印象はなかなか良かった。

軽快にステップを刻みながら踊る少女の姿に、見惚れていると

 

「あっ・・・」

 

段差の部分で足を滑らし前へこけた少女の姿に、進介は思わず声を漏らした。直ぐに少女へと駆け寄り、倒れた体を起こす。

海のように青い髪に、蒼玉(サファイア)のような瞳。十香と同じ、神に愛されたとしか言いようのないその容姿に進介は一瞬目を奪われるが、進介の目を見たとたんに離れるように後ろへ下がる少女の行動に呆気にとられる。特に何もしていないはずなのだが、気付かぬうちに彼女に何かしてしまったのかもしれない。

 

「ご、ごめん。何かしたならあや・・・」

 

「・・・・ないで・・・・さい・・・」

 

「え?」

 

聞き取れなくもない、小さな声が聞こえてくる。その声の主は、目の前にいる少女だった。

 

「いたく・・・・しな、い、で・・・くだ、さい・・・」

 

怯える小動物のような瞳で、少女は訴えた。進介はこの瞳をつい最近見たことがある。一番最初に十香に会った時の、あの誰も信じられない、世界に絶望した目と、いまの少女の目は似ていた

 

 

 

 

 

 

「ううぅ、風邪ひきそう」

 

士織や十香たちよりも先に学校を出たはずなのに、いつの間にか最後に家に帰ってきてしまった進介。あの後、少女が落としたパペットを彼女に渡すと、まるで幻影のように少女は消えてしまった。精霊なのか、幽霊なのかは分からないが、取り敢えず今は冷え切った体を温めるのが先決だ。

リビングに荷物を放り投げ、靴下や上着を脱ぎながら脱衣所に向かっていく。浴槽にくると、既に誰か入った後だったのか扉に水滴がついている。とりあえず、洗濯籠の中に服を全部突っ込んだ進介は、軽くシャワーを浴びようと浴槽の扉を開けると

 

「む?」

 

「ん?」

 

そこにいたのは一糸まとわぬ姿で風呂に入っていた十香だった。胸の大きさ良し、腰回りのくびれ良し、すらっと伸びた手足良し、その美しい要望に100点満点を上げたい進介だった。

そして、十香の悲鳴と進介の顔面にシャンプーの容器が直撃するのはほぼ同じだった。

 

 

「で、なんで十香がここにいるんだよ」

 

「あら、言ってなかったかしら? 訓練よ訓練」

 

五河家の地下にあるドライブの専用基地、通称『ドライブピット』。そこに置かれていたソファーに座っている進介は、仏頂面で目の前にいる黒リボンの琴里と話をしていた。元々琴里たち家族にはドライブピットの存在は秘密にしてきたのだが、今となっては自分がドライブだということもバレてしまったため、こうして招待したのだ。

 

「訓練ね~まさかまだ精霊がいるとはな」

 

「誰も精霊が十香一人だなんて言ってないしね」

 

琴里から聞かされた訓練。それは、十香以外にも存在する精霊たちを封印するためのものだった。薄々は勘付いていたが、精霊が複数いると聞かされたときは流石に泣きそうになってしまった。いったい自分はどれだけの女の子とキスをすればいいのだろうと。もはやアニメなんかによく出てくるプレイボーイそのものではないか。

 

「というか、なんでここに全員いるの!?」

 

今ドライブピットには進介と琴里の他に、令音、士織、十香たちも居座っていた。十香は令音から生活する上でのルールやマナーなどを教わっており、士織は一人静かに本を読んでいた。

 

『まあいいではないか。賑やかなのはいいことだ』

 

「ベルトさん・・・・・」

 

そう言って近寄ってきたのは、台座にセットされたベルトさんだった。元々人に教える気はなかったため今まで二人でここでドライブについての武器開発などを行ってきたが、今はこうして賑やかになっているのがうれしいのだろう。

 

『君はもう少し他人に踏み込む努力をした方が良い。いつまでも受け身の姿勢では、救える精霊も救えないぞ?』

 

「うぐっ」

 

痛いところを突かれた。正直言って、進介は昔から人と付き合うのがどうも苦手な傾向にある。自分から話題を作らず、ただ相手から話しかけるのを待つのみ。そうしてきた結果が、友人が殿町一人という悲惨な結果だ。正直、殿町もよくこんな自分と交友関係をずっと持ってくれていると不思議に思うぐらいである。

 

「ベルトさんの言う通りよ。進介、貴方はもう少し他人と関わる努力をしなさい。それが訓練よ」

 

琴里にきつく言われ、がっくりと肩を落とす進介。今日も今日とて、かわいい妹は手厳しい限りである。

余談だが、後日行われた学校の調理実習で十香と折紙が作ったクッキーのどちらが美味いかの審査をさせられたせいで、意外とすんなり折紙との溝は埋まってしまったとか。




マイコプラズマにかかり、暇なのでずっと書いてました。
ちなみに士織は4巻の内容に入るまでほとんど空気です。勿論彼女にはちゃんとヒーローを用意しておりますのでお楽しみに。
余談ですが、SHフィギュアーツの仮面ライダーマッハチェイサーが明日から受注開始なので、ファンの方はぜひご予約を

ではまた今度


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。