英雄と呼ばれた軍師のその後 (アリス=ダルク)
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序章 再会

処女作です。拙い所もあると思いますがよろしくお願いします。


「うぅ……,ここは……?」

 

男は暗闇の中で意識を取り戻した。周りを確認してみると辺りは完全に黒一色だったが何故か自分の姿だけは克明に捉えることができた。

 

(確か僕は巨竜の背中でギムレーの魂を破壊して……)

 

其処からが思い出せない。

 

(……ということは、此処は死後の世界か? 本当にあるのか……)

 

ルフレは聖竜ナーガを信奉するイーリス王国の軍師だったが、そういった事象は信じていなかった。

 

(僕が死んだということは世界は救われたのか…。自己犠牲のつもりなんて更々なかっかけど、多分これが最善の選択肢だったはずだ)

 

世界を災厄で満たそうとしていた古の邪竜ギムレーが死ぬ事があればそれは自殺のみ。聖竜の力を身に宿したクロムでさえ封印するに留まってしまう。唯一ギムレーが器として使っていたルフレだけが邪竜を滅ぼすことが出来たのである。

 

 

ふうっと溜息をつく。

 

 

(若干21年の人生だったか…。短い間だったが楽しかったよ、クロム、マーク……。)

 

ルフレは自分との絆を信じてくれた最良の友と未来から迷い込んできた将来の娘の姿を思い浮かべて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………て……、………ん」

「……か、……」

 

何処からか声が聞こえてくる。

 

(いよいよ天界への招待かな…。善行積んどいて良かった)

 

などと呑気なことを思いながらぼうっとしていた。

 

 

「………てよ…、る………ん」

「……ぶか、…ふ…」

 

(まだかなー)

 

「起きてよ、ルフレさん」

「大丈夫か、ルフレ」

 

 

(ん!? 妙にリアルな上に僕の名前呼ばれてる? しかもこの声何処かで聞いたことあるような…)

 

片方は幾らか幼さの残るはきはきとした少女の声。もう片方は力強くも聞く方に包み込むような優しさを感じさせる声だ。

ルフレははっと瞼を開ける。すると其処には金髪をツインテールにした少女と、群青色の髪で強い意志を携えた瞳を持った男がいた。

 

(そうか、僕は帰ってきたのか…)

「あ! ルフレさん起きたよ、お兄ちゃん!」

「そうだな。 ルフレ、目は覚めたか? そんな所で寝てたら風邪ひくぞ? ほら」

 

 

其処にいたのはイーリス王国の王女リズとルフレの友にして現イーリス国王、クロムだった。

 

 

(ああ…、このやり取り以前にもあったな…)

 

既視感を覚えながらクロムの差し出してきた手を取る。そして力強く手を引かれルフレは起き上がった。改めてクロム、リズと向き合う形となった。2人とも最後に見た時からあまり見た目は変わっていなかった。

「やあ、クロム、リズ…。僕はなんとか帰って来れたようだ。もう死ぬのかと思っていたんだけど…」

 

「はは、俺たちはお前が必ず帰ってくると信じていたがな」

「そうだよルフレさん! 私たち相当探したんだから!」

クロムは楽しそうに笑い、リズは少し怒った口調だ。ただ2人ともルフレとの再会に心から歓喜しているのは間違いないだろう。

 

「ともかくだ、お帰り。友よ」

 

そんなクロムに返す言葉は決まりきっているだろう。

 

 

 

 

「ただいま」




本編は次からです。良ければ感想をください


ルフレ
顔 タイプ1
声 僕1
髪 タイプ1
髪の色 茶色やつ(番号忘れた)


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第2章 マーク

国名を少し補足。


イーリス王国 : 神竜ナーガを信奉している。聖王が国を治めている。

フェリア連合国: 東西に1人ずつ王がおり、4年に一度の闘技大会で勝った方の王が4年間国を治める。( オリ○ピックではない) なお、イーリス王国と同盟関係にある。

ペレジア : イーリスと仲が悪い。豊かだが、治安はあまり良くない。

ソンシン : ヴァルム帝国の属国であったがクロム達の介入により独立に成功。日本みないな国。


ルフレがイーリス王国へ復帰してから10年が経過し、イーリス王国やその同盟国であるフェリア連合国には短いスパンで起きたペレジア、ヴァルムとの戦争の傷跡はもはや見られない。これはペレジアからの多額の賠償金、帝政ヴァルムから独立したソンシン国の現女王サイリの支援に寄るところが大きいだろう。

 

 

 

 

現在ルフレは何をしているのかというと、イーリス国でも十指に入るような位に就いていた。ちなみにその役職名は「イーリス王国軍国防戦略一等軍師 」という大層な名称である。

 

…ただこの地位は「有事の際に国軍の最高司令官として軍を使役する」というもので平和を求める声の強いこの時期においては不要の地位かもしれない。

 

そうは言っても全くやる事がない訳ではなく、兵質の抜き打ち調査や事務関係の仕事もあるのだが………、ルフレはそれらを全て部下に丸投げして人手が足りない時以外は自宅でダラダラしていた。なんたら軍師という名の自宅警備員である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうか。 いや、違うか……。

 

ならここをこうして…、

 

 

ルフレは今、自宅のソファで寝転がりながら何かで遊んでいた。

 

「ただいま、父さん」

 

そう言って現れたのは黒髪をロングにしたあどけなさの残る女性だった。彼女こそ未来から来たというルフレの娘であるマークである。

 

「お帰り、マーク」

 

ソファの上に寝そべっている実の父親を目にしてマークは思わず深い溜息が出てしまった。

 

「父さん、また仕事もしないでゴロゴロして………ってこれ何?」

 

ルフレが弄んでいるものをひったくるとそれは木製の箱だった。

 

「ああ、これはサイリから送ってもらった物で秘密箱というからくり仕掛けの箱でね、ちょっと貸して。」

そう言ってルフレはマークの手から秘密箱を取り、木の板を次々とスライドさせていき、最終的に中が覗けるようになった。

「な、面白いだろう? 決まった順序で動かさないと開かない仕組みなんだ。ソンシンの工芸品らしいよ」

 

マークは再び深い溜息をついてしまう。

 

「…ってことはまた父さんは仕事もせずに怠惰な生活を送っていたのね? 私の記憶が正しければ今日は父さんの所は天馬騎士団の兵のチェックがあったと思うんだけど」

 

ルフレはまた秘密箱をいじくり始めながら答えた。

 

「聞かなくてもわかるだろう? 今日の仕事はセントに任せたんだ。」

「今日も、でしょう」

 

セントとはルフレの直属の部下にあたる女でルフレが殆ど仕事をしないためほぼ毎回のようにこういった役回りをする羽目になっていた。

 

「ねえ、前々から言ってるんだけどどうして働かないのよ…。 セントさんが可哀想よ」

そんなことはない、とルフレは否定する。

 

「いいかい、マーク。適材適所という言葉がある」

 

「 ? 」

「要するに人の能力次第でそれに相応しい仕事をさせるべきということさ。悔しいけど事務関係の仕事に関しては僕よりもセントの方が手際がいいからね…。」

 

「本当に悔しいと思ってるの…? どう考えても仕事したくないだk」

「更に言うと、」

 

ルフレがマークの駄目出しを遮って続ける。

 

「僕は働いていない分の給料まで取ったりはしないからね。セントは仕事した分だけ給料をもらっている訳だし。それに忙しいときは僕も顔を出すから」

 

「それって結構当たり前のことよね…」

 

マークはまたもや溜息をついてしまう。

 

 

( あぁ、軍師として皆に的確な指示を出して軍を勝利を導いていたあの頃の父さんが懐かしいな…)

 

マーク自身もルフレに助けてもらったことが何度もある。

 

(そういえばこの時間軸に流れ着いた時も助けてもらったんだっけ…)

 

10年前のことを回想する。

 

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 

 

クロム達が西方より侵攻してくるヴァルム帝国と戦うための諸準備をしていた頃のことだった。

 

クロム自警団の一行は聖龍ナーガの残したと言い伝えられる秘宝を求めて時の神殿という遺跡に立ち寄っていた。

「聖竜ナーガの残した秘宝があるというのはここか」

「ああ、だが屍兵の気配がするな」

 

屍兵とは邪竜ギムレーの使役する魔物のことである。体格は人間によく似ているのだが、不気味な容貌と完全に体が動かなくなるまでしつこく襲ってくるその姿は正に化け物と呼ぶに相応しいだろう。

 

「結構な数がいる。クロム、気を引き締めていこう」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

またクロムやルフレ達とは少し離れた所にセミロングの黒髪の少女マークがいた。

 

「うう……ここ、何処なの?」

 

気付けば全く見知らぬ場所にいた上にそれまでの記憶は殆ど残っていなかった。更に悪いことに、遠方にはどう考えても敵としか思えない物が複数体いる。

 

周囲には自分以外に誰も居ない。あるとすれば鞄に入っている魔道書と腰に差してある青銅の剣くらいか。

 

「弱気になっちゃダメよね。父さんのような立派な軍師になるため頑張らなきゃ!」

マークは怯えながらもなんとか自分を奮起させようとしていた。

 

すると突然柄の悪い男が柱の陰から出てきた。

 

「 ひゃう!」 「 うお! 」

 

両人とも見事に驚きを表す声を上げ、互いを凝視する。

 

( なんだ女か…。驚かせやがって…)

( このおじさん何なの!? いきなり出てきてびっくりした…)

 

男はマークが自分の脅威ではないと判断すると物色し始めた。 その視線にマークは身を竦めてしまう。

 

( ちっ……、大して金になりそうなモンもってねえな…。まあ盗れるモンは盗っとくか )

 

放浪していたら大層立派な遺跡があったので侵入してみたはいいものの、金目のものは見つからずオマケに気味の悪い生き物がうろうろしていたため、盗賊は大分腹が立っていた。

 

「なあ、嬢ちゃん。 悪いこたぁ言わねえから持ってるものを俺によこしな。 …その剣とかな。痛い目には会いたくねえだろ? 」

そう言って刃物を向けてきた。

 

マークはすぐに魔導師を取り出し、魔力を発射しようとしたがしなかった。 否、する必要がなくなった。

 

いきなり盗賊の頭が弾け飛んだからだ。

 

( え……? この赤いのって血…? )

 

返り血を浴び、突然の事態に思考が停止したがいつまでもそうしている余裕はなかった。

盗賊を無惨に殺した屍兵が今にもマークに襲いかかろうとしていた。

 

 

( ! ! ! ! ! )

 

 

 

 

 

 

 

「 魔導師が19体……、グリフォンナイト、ドラゴンナイトが6体ずつ、剣士が12体……あと盗賊が数人紛れこんでいるね。 大方神竜ナーガの秘宝を狙いに来たんだろう」

 

ルフレは敵の職種や持っている武器、間合いなどを把握する才能を持っていた。無能が持っていても宝の持ち腐れだが、ルフレはそれを上手く使える実力を持っていた。

 

「空中部隊と地上部隊に二分しよう。地上部隊で敵のグリフォンナイト、ドラゴンナイトをおびき出しつつ、空中部隊は迂回して残りを叩いてくれ。弓兵がいないから苦もなく倒せるはずだけど用心はしておいてくように」

 

ペガサスやドラゴンといった空中を動く生物を使役する職種は総じて一般的に普通の歩兵のスペックを大きく上回る。ただ一つの弱点が飛来する弓矢であった。

 

起動力と突破力を兼ね備える空中戦力ではあるがだからといって前衛に出し過ぎると弓兵に蹂躙されていまう。戦力的にもその運用には他の兵量よりも断然慎重をきたす必要があり、そこは軍師の技量であろう。

2年前の聖王エメリナ奪還時の作戦では敵の竜騎士を倒し制空権を確保した段階で天馬騎士団を投入させたは良かったものの、突如として出現した弓矢を持った屍兵に為す術もなく撃墜されてしまった。誰も予想出来なかったこととはいえ、自分の作戦で兵を無駄死にさせてしまった事は大いに悔やまれた。

それ以来、空中部隊は必要以上に慎重に運用してきた。

 

空中部隊がゆっくりと離れていくのを見送りながらクロム、ルフレを含む地上部隊は足場の決して良いとはいえない道を進んでいた。

 

「 む。」

 

少し進むと道は二手に分かれていた。

 

「よし、ここで二手に分かれよう。クロムの部隊は右に、僕の部隊は左だ。 障害物が多いから突然の襲撃には気を付けてくれ 」

 

「 分かった。そっちも気を付けろよ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 はあ、はあ…… 」

立て続けに襲ってき2、3体の屍兵をなんとか撃退しマークは柱にもたれかかって休んでいた。

 

( これ以上来たら流石に凌げそうにないわ… )

 

雷系の中級呪文であるエルサンダーを使っていたのだが、もともと残量エネルギーが残っていなかったのかすぐに使えなくなってしまった。

まだ青銅の剣が残っていたが、力の劣るマークが使ったところで時間稼ぎになるかも怪しいところだ。

 

 

自分の方向へ近づいてくる足音を察知した。

 

「 まだ来るの? 隠れなきゃ…… 」

 

気付かれないよう祈るが…

 

 

「こっちには屍兵があまりいないな…、ルフレには貧乏くじを引かせてしまったのかもしれん 」

 

 

それは人間の声だった。だがそれ以上にマークを驚かせたのは自分のよく知る人間の名前が耳に入ったからだ。

 

( 父さんの名前!? )

 

咄嗟に柱から飛び出るとそこには剣を持った青髪の青年がいた。

 

 

「 ん? 誰だ? 」

 

青年は不思議そうな表情でこちらを見つめる。どうやら敵ではなさそうだ。

 

「 あの」

「 お下がりください、クロム様 」

 

突然茶髪の騎士が自分と青年の間に割り込んできた。険しい表情でこちらを睨んでくる。先ほどの盗賊よりも迫力があり、身が竦んでしまう。

 

「こら、フレデリク。初対面の人をそんなに威圧するんじゃない 」

 

「はっ…、しかしクロム様は得体の知れぬ人間に対して緊張感が足りません。貴方は今やイーリス王国の王なのですからもう少し立場をわきまえていただかないと………」

 

「 その言葉は聞き飽きたからもういい。あと俺は一瞬でやられるほど弱くはないから大丈夫だ。それにこの少女は見るからに腕っ節が弱そうだし、碌に使える武器がないじゃないか 」

「そうは仰っても…」と渋るフレデリクという騎士を諌めクロムという青年はこちらを向く。

 

「それで、お前は何者なんだ? 」

 

 

「私はマークという者です。えっと…………、すいません、他の事は何も思い出せないんです……気が付いたらここにいて…」

 

「ん? 記憶喪失なのか。ルフレと同じだな」

 

「 あの…! ルフレと言いましたよね?」

 

「 ああ、そうだが」

 

やはり聞き間違いではなかった。もしかしたらこの青年は父さんの事を知っているのかもしれない。

 

「ルフレって私の父さんの名前と同じなんです…。父さんの名前だけは覚えていて…………あれ?なんでだろう?」

 

今更になってそんな事を考える。

 

「 父親? 確かに珍しい名前だがいくら何でもそれはないと思うぞ。 ……まあ、こんな所にいるのもなんだから一緒に来るか? 」

 

「いいんですか?」

 

マークにとってはありがたい言葉だった。命が助かる上に父親の手掛かりを得られるかもしれないからだ。

 

「ああ、この自警団は困った者を助ける組織だからな」

 

「ですからもう少し警戒心を…」と小言を言うフレデリクを無視しマークはクロムについていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 爪が甘いな。はあっ!! 」

 

グリフォンナイトに乗った屍兵将に大きな隙ができたところを見逃さず致命的な一撃となる呪文をぶつけた。

 

「 ふう、これで粗方片付けられたな… 」

 

「 ルフレ、こっちも片付けたわ。」

 

そう言って近づいてきたのは空中部隊を率いていたティアモという赤髪の女性天馬騎士だった。

 

「 ああ、お疲れ。 クロム達がきたみたいだ……、ん?クロムの側にいる黒髪の女性は誰だろう? 」

 

 

なんとなく見ていたが、黒髪の女性はいきなり顔を輝かせてこちらに走ってきた。

 

「 父さん!! 」

 

( ん? 父さんって……明らかに僕に向かって言っているのか…)

 

「父さんって僕のことでいいのかな? おそらく勘違いだと思うんだけど……なぜなら悪いけど僕には子供はおろか妻もいないからね 」

 

途端にその女性は狼狽え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

( ええ?父さんじゃないってそんなはずは……。嘘でしょ? ………あれ、よく見ると私の知る父さんより大分若いような………なんで?)

 

するとルフレが何か思いついたような顔をして尋ねてきた。

 

 

「 もしかして君もルキナと同じように未来から来たのかい?それなら納得がいく」

 

聞き覚えがない。

 

「 ルキナさんという人は知らない………っていうかここに辿り着くまでのことを覚えていないからわかないの…。でも父さんの顔だけは見間違えるはずないわ 」

 

これは断言出来るだろう。

 

「そうか、参ったな…。僕はまだ結婚していないんだよ 」

 

軽く衝撃の事実である。といってもマークも母親のことは思い出せないのだが。

 

 

2人して悩んでいると、クロムが割って入ってきた。

 

「おい、2人とも。悩んでいても仕方がないだろう。 マークといったな。取り敢えず俺達について来い。そのうち記憶を取り戻すかもしれん 」

 

 

確かにうだうだ悩んでいるよりも良いかもしれない。

 

「それなら」とマークはついていくことにした。

 

 

 

 

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフレがマークを直接助けた訳ではないのだがマークはルフレのおかげだと思っている。

 

 

 

その後、未来から来た子供達が次々と自警団に加わりマークを知る者がいたため未来から来たのだという説は正しかったことになった。

 

ギムレーとの戦いが終わった後、クロム自警団に所属していた未来から来た子供たちはマーク以外本来いるべき時間軸へと帰っていった。そして何故マークだけがこの時間軸に留まっているのかというとマークはこの時間軸にタイムスリップしてくるまでの記憶を一切喪失していたからである。

…自分の父親がルフレであるという事を除いて。

 

 

 

そのため記憶が戻るまでマークはこの時間軸に残ることにしていた。そんなマークをルフレやクロムは受け入れ、彼女は現在イーリス国軍参謀次長という若干26歳にしては高い位の職に就いていた。ルフレとは違って実務をこなしている。

しかし未だに記憶は戻っていない。

自警団にいた頃からマークはルフレから戦術に関するあれこれを指導してもらっていた。そのおかげもあってかマークの軍師としての能力は非常に優秀なものといえる。

 

現在はルフレと同居し、楽しい日々を送っていた。

 

ただ、マークには1つだけ重大な悩みがあった。

 

それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフレが未だに結婚していないことだった。

 

 

 

 

 

 





ティアモ 「 一言しか出番なかった…」

マーク 「 運命を変えましょう! それっ! 」

筆者 「 がふっ 」



2話でした。次の投稿は少し先になるかもしれないです。


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第3章 とある騎士

最近滅法寒くなってきましたね……。


今回からオリキャラを登場させます。



俺は今、とにかく気分が良い。どのくらいか良いかいうと、手の甲にとまった蚊にそのまま血を吸わせてあげる位には良い。え? よくわからないって? うーん、まあそうだな。もっとわかりやすく言うとうざったいバカ夫婦の惚気話しを普通に笑って聞いてあげる位には気分が良い。 本当に気分がいいぜ。

 

 

 

「 ちょっと、1人の世界に入り込まないでくれよ。折角今日は君の昇進祝いに集まったんだからさ」

 

「あ、すいません。リヒト先輩 」

 

「全く…」

 

今、俺はイーリス城下の酒場「 シャーロ 」にいる。

 

おっと、自己紹介がまだだったな。

 

俺の名前はラウド。イーリス騎士団に所属する剣士だ。この前までただの剣士に過ぎなかったのだが…

 

「それにしても君の若さでイーリス騎士団第6隊長に就くなんてね。本当におめでとう」

 

「先越されちゃうなんてね…。悔しいわ。でも、おめでとう」

 

「ありがとう、2人とも」

 

そう、この度俺は栄えあるイーリス騎士団第6隊長に若干22歳の若さで任命されたのだ。( ひゃっほう!!)

そこで俺が普段から割と親しくしている人間がお祝いの飲み会を開こうと提案してくれたのだ。

 

「最近、騎士団内でも実力をつけていたのは知っていたけど、今や騎士団内でも一番強いんじゃないか?」

 

この人はリヒト先輩。俺の4つ上で、かつてはクロム自警団の一員として活動した英雄の1人だ。今は を使用する新しい魔導の研究をしているらしい。

 

「いやいや、褒めすぎですよ。フレデリク騎士団長とかには3戦やっても1勝できるかどうかですから」

 

「ああ、あの人ホントに強いからね。自警団にいた時から相当の実力者だったなあ。今はもう33歳のはずなんだけど……」

 

げ、そうなのか。そういや前に馬は3代目とか言ってたな。

 

「 確かにラウドは真面目に職務に取り組んできたし、上官からの評価も高いのよね。市民からの人気も高いし…。ねえ…知ってる?噂だけど城下には既にファンクラブが出来ているそうよ。しかも女性のね。それに比べて私は……うぅ……、クソッ、マスター! お酒出して!強いやつ!」

 

おいおい、女性にあるまじき発言が垣間見られたぞ?まぁ、俺の偏見かもしれないのだが。

こいつはセント。俺の同期だ。イーリス国軍国防戦略課という所に勤めている。なかなかの苦労人だ。

 

「 それにしても若い世代の成長は目覚ましいね。分野は違えど僕もうかうかしていられないな 」

「はは、それを言うならリヒト先輩もまだまだ若いでしょう」

 

酒を傾けつつ、談笑する。ああ、なんという吉日だろう。こういう瞬間が生きていて一番楽しいと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く酒を傾けていると、いきなりとんでもない方向に話題が曲がった。

 

「 君の人生は成功への歩みを続けているね。ところで……恋の方は進展しているのかい?」

 

( !!!!!! )

 

危うく酒を噴出しそうになる。

 

「 といってもお相手があれだからね……中々難しいんじゃないかな? 」

 

「分かっているのならわざわざ言わないでくださいよ…」

 

そう。俺は今、絶賛片想い中であった。

「 ラウドの好きな人って参謀次長のマークさんでしょ?この前話すことがあったんだけど話しやすい人だったわよ。ぐいぐい攻めればいいのに 」

 

「そうはいってもだな…」

 

彼女いない歴22年の俺に攻め方など分かるはずもないのだが。

 

マークさんとはリヒト先輩と同い年にして参謀次長に登り詰めたエリート中のエリートだ。だからといってその地位を気取ることなく職務に全うし、類稀な才能と可憐な容貌を併せ持つ彼女は国民の間でも人気が高い。才色兼備ってやつだな。何を隠そう、俺自身も彼女のファンだ。

 

「 ラウドの一向に進展しない片想いはどうでもいいわ。私の仕事の方が問題よ。この前天馬騎士団の兵質検査があったんだけれど、うちの上司ったらまた仕事サボって私に全部押し付けたの!!」

 

決してどうでもよくはない。

 

セントの言う上司とはルフレという、事実上聖王からイーリス国軍の管理を任されている人のことだ。

俺はルフレさんのことが好きではない。いや、寧ろ嫌いだ。なぜなら、高い地位を与えられているにも関わらず本人はそれに見合う仕事をしていないからだ。

10年ほど前のペレジア、ヴァルムとの戦争で少ない兵力で敵の大軍を打ち破ったという数々の英雄譚は知っている。戦争終結後2、3年の間各地で起きた紛争の収束の功績もその多くが奴によるものが大きい。ただ、だからといって今の職務を怠けていいのかというと断じてそんなはずはない。

「 またルフレさんはサボっているのか…、全く言語道断だぜ…」

 

(( 君(あんた)のは8割方嫉妬だろう(でしょう)に… )

 

奴はマークさんと従兄弟という関係らしく同居している。全く憎たら…ゲフンゲフン、奴の怠け癖がマークさんに移ってしまったらどうするつもりだ。

 

 

( 本当は親子なんだけどね…。まさか未来から来ましたなんて言えないから従兄弟という事にしてるけど)

 

心の中ではそう思うリヒトであった。

 

 

「 ははセント、君も災難だね。というかルフレさんの下に就いた2年前からそんな事言ってたね」

 

「 どうしたらあの人仕事してくれるんでしょうか………

……、そういえばリヒト先輩。ルフレさんって自警団にいた頃はどんな感じだったんですか?イーリスの英雄の話は耳にするんですけど今の姿見てるとどうも想像できなくて…」

 

それは俺も興味があるな。

 

「うん、その頃は僕も後方支援とかのサポートが主だったな。ルフレさんは優秀な軍師だったんだけど前線にも結構飛び出しててね…。ハラハラさせてくれる場面が割とあったのを記憶してるよ」

 

前線に出てたってことは強かったのか。

 

「 魔道書と剣を使っていたんだけど自警団の中でも相当の実力者だったね。団内の模擬戦ではフレデリクさんでも苦戦していたからね…」

 

 

あの騎士団長が苦戦?当時は団長も若かっただろうに。

 

「 もっとも今となっては実戦からは遠ざかってるしもう30歳になるから衰えてるとは思うよ」

 

へぇ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 なんかルフレさんと闘ってみたくなりました」

 

俺の突然の発言に2人は驚いたような顔をする。俺、そんなに変な事言ったか?

 

「 何言ってるの! 相手はあのルフレさんよ! 勝てるわけ……ってあの人普段はゴロゴロしてるだけか…」

 

「 うん、十分に勝てる可能性はあると思うよ。それにしても面白いことを言い出すなあ」

 

「 とは言ったものの、何の接点もないからまず実現しませんよね。まあ言ってみただけです」

 

「いや、そうでもないかな」

 

俺とセントはリヒト先輩の方を向く。なんかすごく悪い笑みを浮かべている。

 

「今の国のお偉方はルフレさんの事を快く思っていないんだよね。最近は目立った活躍はしていないし聖王のお気に入りだから」

 

「はあ、それがどうしたんですか?」

「つまりだよ、君とルフレさんの模擬戦という形でルフレさんが負けるとこを見れるんだったら嬉々として闘いの場を提供してくれるだろうね」

 

発想が黒いです、リヒト先輩。

 

「 ねえ、ルフレさんと闘いたくなった理由ってマークさんと仲睦まじそうに暮らしていることに対する私怨?」

 

「なっ!! そんなことは………全くないと言えば嘘にはなるが…ただ、英雄とまで呼ばれる人と一兵士に過ぎぬ俺が渡り合えるのかもしれないと思うとな」

 

「ふーん」とセントは一応信じてくれたらしい。

 

「 で、どうするんだい?」

 

「 ルフレさんと闘えるのなら……ってそもそも出来るんですか?」

 

勿論とリヒトは答える。思い付きで発した言葉ではあったが実現するのなら大歓迎だ。

 

「 これでも僕は割と顔が利くんだ。上層部に掛け合ってみるよ」

 

ただ、とリヒト先輩は制す。

 

「 君が負けちゃったら君だけじゃなく、僕の肩身まで狭くなるからそこんとこよろしく」

 

にっこりと微笑むリヒト先輩の笑顔は途轍もなく怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 闘技大会だって?」

 

マークが持ち帰ってきたというチラシを見る。

 

ーー ○の月✖️日に王都にて開催 ーー

 

 

「 うん、国中の腕に覚えのある人が参加するそうよ。城下は相当盛り上がってるわ 」

 

そんなことよりもっと重要なことが書かれていた。

 

「 この主要参加者の欄、なんで僕の名前が入っているるだ? 」

 

「 ん〜、折角だから伝説の軍師にも参加してもらおうって企画だって 」

 

( まだ伝説になった覚えはないんだけどな )

 

ルフレはつい苦笑してしまう。

 

「 どうしても出なきゃいけないのかい?正直身体が鈍っているんだがーー」

 

さあね、とマークは買い物に出掛けに行ってしまう。

 

「 セントが何か知ってるかもしれないな 」

セントを仕事用の連絡方法で呼び出すルフレであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 …で、私が呼ばれたと 」

 

微笑みながら目の前の上司は頷いている。

 

「 別にわざわざ呼び出さなくても私からルフレさんに伝えることになってたんですけどね …というか仕事の回線使ってきたから仕事に関する何かを期待していたんですが」

 

「 仕事にも全く関係ない訳じゃないさ。この前の兵質調査の報告書、持ってきているんだろう?」

 

あーはいはい。そう言うと思って持ってきましたよっ。

 

「 はい。どうぞ 」

 

「 ありがとう。セントは優秀で助かるよ」

 

何故だろう。褒められているのにあまり嬉しくない。

ちなみに報告書は形上、ルフレが提出しなければならないことになっている。

 

「 それで僕はどうしても闘技大会に出場しなければいけないのかい」

 

「はい。神官様直々の御指名だとか。断わる訳にはいきませんね 」

 

「 そうか… 」

心底残念、いや面倒くさいという表情だ。少し気味がいい。

 

「一つだけ忠告をしておきます」

 

キョトンとしたルフレに向かって続ける。

 

「 此度の闘技大会ではラウドという若いですがイーリス騎士団でも指折りの実力者が参加してきます。彼の目的はルフレさんと闘うことらしいので無様に倒されないよう、準備しておいてくださいね 」

 

少し辛辣な言葉だが、この人にはこれ位で丁度良い。

 

「 その口ぶりだと知り合いかい? 」

 

「 はい 同期です。腕は確かだと思います。……私はどちらを応援するという訳でもなく純粋に楽しみにしているので頑張ってください 」

 

そう言ってルフレの家を出る。

 

ルフレの家は王都にあるので頻繁に来る機会がある。仕事の報告書の提出に。 自分で作れよ、畜生。

 

 

 

( というかあの人、ラウドと闘う所まで勝ち上がれるのかな? ……ま、いっか )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 イーリス騎士団第6隊長ラウドーー騎士団内では3位の実力を持つソードマスターか…。やれやれ、大変な勝負になりそうだ 」

 

そう言うルフレの表情は存外楽しそうだった。

 




新登場人物

セント オリキャラ。ルフレに振り回される可哀想な人。

ラウド オリキャラ。マークに片思い中。

リヒト 原作キャラ。成長したら黒くなりました。


次回から闘技大会編です。


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