リリカルなのはW.C.C (さわZ)
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無印編
第一話 邪神様はタンポポの香り


 自分が手にした力は邪神の力。ワールド・カスタマイズ・クリエイト。
 甘いリンゴを辛くしたり、少し足が速くなるという効果を持つ下着を作ったり、焦げた鍋を直したりする。物体に干渉する力。
 前世に出来なかった青春を謳歌するためにこの力を使って気楽な人生を過ごすつもりだった。
 この世界の主人公。高町なのはにあうまでは…。




 おっす。オラ、田神裕。

 お母様はゆうちゃんと呼ぶが仕方がない。だって未だに四歳なんですもの。

 実は中身は三十過ぎのおっさんだったりする

 いや、別に脳みそを幼児と取り換えたとかそんなんじゃない。

 いわゆる転生というものらしい。

 お気に入りのライトノベル。ワールド・カスタマイズ・クリエーターというノベルを読んで眠り、目が覚めると白い世界にいた。

 そして、目の前にA4サイズの紙とペン。

 紙の上の部分には『あなたのこれまでの人生は消失しました』。『欲しいものを一つ書いてください』。と書かれた紙。

 よくできた夢だと思いながら、ただ何も考えず、眠る寸前に呼んでいたライトノベル。ワールド・カスタマイズ・クリエーター。略してWCCと書くと白い空間が暗くなる。

 そして、目が覚めたら赤ん坊。

 

 「ばぶう」

 

 いや、なあにこれ?

 最初の頃、これは夢だと思いたかったが、熱いものに触れば熱いし、転べば痛い。カレーは辛い、お母様のお胸はやわ、げふんげふん。

 とにかく、自分が接触するもの全てが現実のものだと言っている。

 ちなみにお母様はおっとり系の金髪美人。父上は生粋の日本人。

 無難に公務員と言う職につきながら美人のお母様を嫁に出来た時点で人生の勝ち組だ。

 そんな二人の間に出来た俺の容姿は、父上の血を濃く引き継いだのか何処にでもいそうな黒髪黒目の男の子。

 ただ、普通じゃない所があると言えば、

 

 「…実行」

 

 人目につきにくい公園の茂みで地面に手をついてそう呟く。

 すると手を付けた部分。範囲にして半径十センチぐらいの部分が光る。

 数秒もしないうちに光が消えうせると同時に手をどけるとそこには金色に光る米粒。砂金があった。

 この砂金。実はこの公園一帯から金の成分だけを抽出して作り出したものだ。

 これが俺と他の人とは変わっている所。

 少し前に人の背中に羽が生えて超能力が使えるという奇病が流行ったが、それとは違う。その証拠に俺の背中には羽は生えていない。

 

 ワールド・カスタマイズ・クリエーター (以下WCC)

 正式名はカスタマイズ・クリエイトだが、原作を忘れないようにワールドを頭につけることにした。

 

 邪神として異世界に呼ばれた少年が物体に干渉する力を持って活躍する物語で駆使された力であり、ラノベのタイトルにもなっている。

 その力はボロ布をジーパンやシャツに作り替えたり、素材の山を使い、一瞬で砦を作るという力。ただし、そこに元になる物が何もなければ何もできない。

 だが、レア度。希少価値があれば付与効果も持たせることが出来る。

 例えば、ゲル○ニウムブレスレットにその力を使い『体力回復(小)』という能力を持たせ、実際に怪我の治りを早くしたり、『敏捷度アップ(小)』と言う能力を持たせて動きが素早くなったりすることも可能。ただし、レア度。希少度というものがどの物体にもあり、それが低ければ効果も(大)から(小)になり、付与できる効果もいまいちな物になる。

 そんな力が自分にも使える。

 四歳ではあるがこの力を乱用すれば世界がやばい。と言う事を前世のラノベで読んでいたので知っている。

 この力があれば、材料があるだけでミサイルや戦車という兵器が一瞬でしかも大量に生産できる。だからこの力を使うのは人目につかない場所。自分の事だけに使うと決めた。

 

 「この砂金を自分の靴に合成して実行。レア度が上がったから、『敏捷度アップ(中)』にする。と、」

 

 この力を使うとその対象になった物は装備状態から装備前になる。

 『普通の靴』はWCCの効果を受けて『砂金が混じった普通の靴。敏捷度アップ(中)』という物へと変化した。

 実はすでに俺が着けている物はWCCの効果受けている物で、

 

 『銅が混ざった服。防御力アップ(小)』、

 『アルミの混じった短パン。筋力アップ(小)』、

 『タンポポの粉末が混ざった靴下。防臭効果(小)』

 

と見た目は普通の服装だが、本気を出せば大の大人ほど膂力を見せつけることが出来る。

 

 「やっぱり少なくても金を使うと効果が段違いだな」

 

 ほくほくした顔で公園の茂みから出ると自分と同じくらいの子ども達がサッカーで遊んでいたので混ぜさせてもらう。

 前世では自分自身に自信がなく若干コミュ症だった裕だが、WCCという力が自分にあると知って自分に自信が持てたのか積極的に地域の子ども達を遊ぶことにしている。

 もちろん、その時はWCCの力で向上した能力はオフにして遊ぶ。

 

 「またなー」

 

 「じゃーねー」

 

 ちびっこ(自分もだが)達と夕方ごろまで遊び、疲れたのかちびっ子達はそれぞれ帰っていく。自分もそれにならって帰ろうとしたが…。

 

 「…ぐす」

 

 公園の隅っこで泣いている女の子?スカートをはいているからそうなのだろう。

 そんな女の子は誰とも遊ぼうとはせずずっと一人でいた。

 最初はサッカーしようぜと声をかけたのだがスカートだから無理といわれた。かくれんぼや鬼ごっこも誘ったのだが断られた。

 今日も今日とて一人で過ごしていた。

 それが一週間くらい経ったので今日は帰り際にその理由を聞いてみることにする。

 帰り道が途中までは同じ(実は真逆)と嘘をついて幼女に話しかける。

 最初はだんまりだったが、次第にぽつぽつと喋り出す幼女はなのはという名前で、父親が重体で入院。母親は大黒柱無き父に代わって家を支えて、兄と姉はそれを支えるという形で家では構ってもらえない状態。というか、家族が頑張っているのが分かるので甘えられないというなのは。

 だからといって、公園にいる昼間遊んじゃいけないという事はない。

 というか、自分だけ楽しんじゃいけない。と考えているらしく彼女の家につくまでそんな話をしていると彼女の自宅までついた。

 自宅の前には彼女の姉と兄がなのはを迎え入れると同時に俺は子どもボディーを駆使して二人になのはは遊んじゃ駄目なんですかと聞いてみる。

 最初はその質問に不思議そうな顔をしていたが、慌てるなのはを無視して二人にこれまでのことを話すと涙を流しながら彼女を抱きしめて謝った。

 そこに母親も帰ってきて、事情を聴いて涙腺決壊。そして、親子兄妹揃ってなのはを抱きしめる。

 そんな家族になのはもまた泣いていた。

 なのはが我慢していた事に気づかせてくれてありがとう。と、お礼を言われ食事を御馳走しようとしたが丁寧に断る。が、お礼代わりに父親の名前と入院している病院を教えてもらう。

 今度一緒にお見舞いに行こうとなのはに伝えて今日の所は家に帰る。

 

 「ゆうちゃんっ。こんな遅くまでどこに行っていたのっ」

 

 ごめんなさい、お母様。

 今度からは午後八時以降まで外で遊ばないから許して。

 ・・・あと、明日の朝早く出かけることを許してください。

 

 「自分の為だけに使いたかったなー」

 

 だが、前世の記憶があるので自分より幼いなのはを放っておくわけにもいかない。

 そう思いながら俺は目覚まし時計かけて寝ることにした。

 いつもより三時間は早めにセットして。

 

 

 

 海鳴病院で働く一般看護師。

 

 あれは夜勤明けに見た幻だったのかもしれない。

 朝日に光る病院の敷地内が光に包まれた。それに驚いてその時飲んでいたホットコーヒーをズボンに零してしまい、ちょっとしたのやけどを負った。

 はずなのだが、交代する時には火傷が治っていた。

 それだけではなく、重体患者が入院している階の患者全員が完治に向かうという現象が起こった。

 昨日と何も違わない病院。ただ、消毒液臭い病棟の廊下にほのかにタンポポの匂いがする違和感を覚えた看護師が一人いた。

 



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第二話 邪神様と永遠の輝き

 眠い目を擦りながら庭から自宅に入り鍵を開けておいた扉をくぐるとお母様立っていた。

 

 「ゆうちゃん。どこまで行っていたの」

 

 「ちかくで散歩」

 

 「もう、一言言ってから出かけなさい」

 

 そう言いながら俺を抱きしめるお母様。ほ、豊満な胸が当たってヘブン状態に…。

 いかんっ。この人は母親。この人は母親。この人は母親!

 邪念を振り払い母の肩を軽くたたく、そして今日は友達のお父さんのお見舞いに行きたいんだけど、言うとお母様は今からリンゴとバナナの入った籠を渡してくれた。

 母と父はこれから仕事があるので一緒にはいけない。

 あちらの人にはよろしく言っておくのよと言われ、家を出される。その時ついでに大量のリンゴとバナナで見えなくなった下の部分にあった果物にWCCを使う。それにより『体力回復(微小)のリンゴとバナナ』が出来上がった。

 そして到着して公園で待ち合わせをしていたのだが、高町親子はすでに到着していた

 時間には余裕を持って出てきたのだが、それよりも速く皆様方は来ていたようで…。

 

 「裕君」

 

 「うーい。なのは、今日は元気だな」

 

 「うん。裕君が来てくれてうれしいの」

 

 実は朝の明け方よりも早く起きて海鳴病院の敷地全体にWCCをかけておいた。

 WCCは規模にもよるが、たとえどんな物であろうとその力が働く際には光が零れるというエフェクトがある。

 本当は夜中に忍び込んでやるべきかと悩んだが断念。それになのはの父、士郎さんだけでなく他にも重傷な方々がいるのでとりあえず病院の敷地内にWCCで『敷地内にいる全員に体力回復(小)。疲労回復(小)』の効果を付与した。

 整備された病院と最新鋭の機材を設けた病院の希少度はほどほどに高かった。

 ばれることを避けるために朝日でWCCの効果の光をごまかしたというわけ。

 裕の家から病院まではかなり距離があるがそこはWCCの反則技。

 裕がいる地面と病院内の一部を入れ替える。というシフトムーブという技で移動を行った。

 裕の自宅と海鳴病院。そして、その間にある道路など、裕がやろうと思えばどこへでもシフトすることが出来る。

 裕は早朝の散歩を表して家を出て、以前風邪を引いた時に海鳴病院を一つのアイテムとして認識していた。だからシフトムーブでの自宅と病院の往復は簡単だった。

 そんなことは高町親子にわかる筈もなくただ久しぶりに行く父の入院している病院へと向かった。

 

 

 

 桃子視点。

 

 「あなた。今日はなのはや美由紀、恭也が来てくれたわよ。それになのはのお友達も」

 

 返事はしないだろう夫の体に話しかける。

 仕事で重体になった士郎さんの手に触れながら美由紀が椅子に座り、その傍に恭也が立つ。なのはと裕君は持ってきた果物を夫の左側にある棚に持っていき、そこにあった腰掛に座る。

 

 「初めまして士郎さん。なのはちゃんの友達の裕です。からだの調子はどうですか。よくないとなのはちゃん悲しんじゃいますよ」

 

 と、言いながら夫の左手を包むように握る。

 すると、

 

「・・・う」

 

 士郎さんが苦しそうに声を出した。

 今まで瀕死状態で身動きどころか声を出すことが出来なかった彼がである。

 それからは恭弥が先生を呼びに行き、美由紀はつないでいた手をさらに強く握ってお父さんと話しかけ続ける。

 私はそんな美由紀の傍に行って旦那の顔を見ると重そうに、だけどしっかりと見開いた瞳は私を見て言った。

 

 「…ただいま、桃子」

 

 「…おかえりなさい。あなた」

 

 そんな感動のシーンを裕君はベッドの端を握って見ていてくれた。

 

 

 

 裕視点

 

 (病院敷地内を『体力回復(小)』にしても効果が見られない。こうなったらなのはちゃんのお父さんの周りにあるもので回復に向かわせるか)

 

 とりあえず士郎さんの手につけられたダイヤの指輪を包み隠すように手を握ってダイヤの指輪にWCCの力をかけて『自然治癒(大)』をつけることに成功した。

 よほどいい金剛石且つ、リングもかなりのレア度だったため効果も高めに作ることが出来た。

 手の中で光るWCCの光景をなのはの家族に見られることなく使えたので良し。

 今ではなのはちゃんが父親の手を握って話しかけている。

 皆がなのはちゃんのお父さんに向いている間にベッドの端を掴んでWCCの力を使う。

 シーツの下だから光に気づかないだろうと思い、WCCを使い、病院のベッドを『病院のベッド。回復力(小)』を付加する。

 それを行ったおかげで士郎さんの怪我は回復に向かって行く。

 そして恭也さんが呼んできた医者に連れていく。生憎ベッドはその場で普通のベッドに戻した。が、ダイヤモンドの指輪がそのままなのはマズイ。なので、士郎さんを応援するつもりで手を取って頑張ってくださいと言いながら指輪を元に戻す。

 それから検査を受けた士郎さんは二週間後には退院可能という結果が出た。

 この病院一帯に体力回復(小)。疲労回復(小)という効果がある。もしかしたら入院する期間はもっと短いかもしれない。

 

 それから数日後。

 いつもの公園でちびっこ達と一緒に遊んでいたらなのはちゃんとそのご家族が公園の傍で俺を出迎えに来てくれた。

 なのはちゃんの心の底にあった寂しさに気づかせてくれたお礼だと言われ、士郎さんの退院祝いもかねて夕食を御馳走させてほしいと、一応母上には連絡をつけている。OKだそうです。

 なのはちゃんの家の玄関をくぐると小さな池がある庭に結構大きな家(屋敷?)だった。

 御馳走がたくさん並べられた居間に招かれパーティーが始まる。

 自分も何か持ってきた方がよかったかなと言ったら、子どもがそんなに気をつかわないでもいいと、桃子さんに言われた。

 それからパーティーは無事終わり、お開きになった。

 お風呂に入って、今日は泊まっていくといいと言われた。なのはちゃんの方は嬉しそうにそうしたほうがいいよと言ったが、俺は枕が変わると寝つきが悪くなると伝えたら、桃子さんの手に俺の枕があった。

 どうやら事前にお母様からお泊りセットを受け取っていたらしい。

 俺が御馳走を食べた代わりにお母様の方には桃子さんの経営する喫茶店翠屋のシュークリームを頂いたそうな。

 御馳走を食べただけでなくお風呂まで頂いた。途中でなのはちゃんが入って来ようとしたけど、彼女の後方で異様な殺気を放つ恭也さんと士郎さんの支援(私怨?)を受けて丁重に追い返す。

 お風呂をあがった後は寝るだけなのだが、その時なのはちゃんが一緒に寝ようと言い出した。もちろんこれをお断りするとこだったが、桃子さんの謎の圧力を受けてストッパーである士郎さんと恭也さんは沈黙。なのはちゃんと同じ部屋で寝ることとなりました。

 その後、なのはちゃんの部屋に案内をされ、彼女のベッドの横に布団を敷いて眠ろうとすると、なのはちゃんが話しかけてきた。

 自分の悩みを聞いてくれて、そして、それを解決させてくれてありがとう。と、自分は特に何もしていないと伝えた。だけど、きっかけをくれたからありがとうと。

 確かにWCCを使ったけど、ばらされたくないからそれは黙っておくことにした。

 そこからいろいろ話した。明日は公園の皆と遊ぼうとか、来年の小学校はどこに行くのかとか。そんなことを話しながら就寝することになった。

 

 

 

 なのは視点。

 

 私の友達の裕君。

 公園に一人でいる私に何度も話しかけてくれて、私の不安や悩みを聞いてくれて、最後には解決してくれた男の子。

 裕君に出会ってから本当に何もかもうまくいってきた。

 お兄ちゃんやお姉ちゃん。お母さんにも甘えられるし、お父さんともお話が出来るようになった。

 タンポポの匂いがする男の子。

 一緒にお風呂に入るとお姉ちゃんに言われた時、びっくりした。だけど、一緒に入ってもいいかなとも思った。

 裕君は男の子で私は女の子なのに…。

 くかー、くかー。と寝ている男の子。

 その寝姿を見た私はそっとベッドから這い出て裕君の頬を撫でる。そして、そのほっぺたに唇を押し付けた。

 恥ずかしくなってすぐに布団の中に潜りこんだ。

 お母さんが入院中のお父さんによくしてあげた事をしてみたけど、自分がやってみると恥ずかしいよー。

 …だけど、嫌じゃない。

 なんだか胸がポカポカする。

 この気持ちは何?

 今度、お母さんに聞いてみよう。

 

 



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第三話 邪神様がガン○ムだ!

 裕視点。

 

 朝、目が覚めると恭也さんと士郎さんに連れられて道場に来た。というか拉致られた。

 朝一番で見たのがなのはちゃんの寝顔ではなくイケメン二人の袴姿。

 な、なんぞ?

 何でも士郎さんが恭也さんの稽古の成果を見る為と退院後の体の調子を見る為だと士郎さんは言うが、俺いらないよね?

 子供用の袴を渡された時に俺にもその様子を見せたいとの事。そして、興味があるならうちの道場に通わないかと言われた。

 武道なんてしたことないし、見てもわからないだろう。と、思っていたが渡された袴が意外といい材質を使っているらしくステータスをかなりいじくれる。

 更衣室に入り、二人の目を盗んで袴をカスタマイズ。『洞察力アップ(中)、俊敏力アップ(小)、自然治癒(小)』などなど防御力と素早さ。体を癒すことに特化させた袴の出来上がりだ。

 それから袴を四苦八苦しながら着つけて道場へと向かう。

 士郎さんが道場の上座で座禅を組み、すでに木刀で素振りをしている恭也さんの様子を見ている。その剣速は子どもの俺から見るとぶれて見える。

 とりあえず士郎さんの傍に座るように言われ恭也さんの様子を見るようにと言われた。

 俺が士郎さんの傍で正座して座ると更に剣速が上がった。それだけではなく足運びまでも早くなる。

 正直、カスタマイズした袴を装着してなければ見えない程だ。握っている木刀なんか何本にも分裂しているようにも見える。

 俺が驚いている顔に更に驚いた様子の恭也さん。だが、その表情を引き締めると次の瞬間には分身した。

 いや、奥の恭也さんが前の恭也さんに重なるように動いている。まさに高速移動している残像を見せられている。

 

 

 何が彼をそこまでにしているのか!?愛か?!愛なのか!?トランザムなのか?!俺達は分かり合えないのか?!

 

 

 などと考えていたら、恭也さんが木刀を手放しこちらに手を伸ばす。

 俺は思わずのけぞりそうになったがそんな動作よりも早く恭也さんの手が俺の額にかする。

 ただそれだけの衝撃で俺は後方に弾き飛ばされるように転がって壁に激突。そのまま気絶した。

 

 

 

 恭弥視点。

 

 「恭也。お前な…。寸止めくらいちゃんとしろ」

 

 「…父さん。こいつは最後まで反応してみせたんだ」

 

 恭弥が弾き飛ばしてしまった男の子、裕を介抱している士郎が息子の失態に口を出す。

 本来なら素振りをしている時点で木刀が見えないだろうと思っていたが、ちゃんと木刀を追って目を動かす裕に興味を示した二人は何処まで目で追えるか確かめることにした。

 素振りの速さをさらに早く、常人では目で追うことも出来ないほどの細かく素早い足運び。それをしっかり目で追っている事に気づいた士郎と恭也。

 最後は奥義の神速まで出して見せた。さすがにこれはおえまいと思っていたが、おぼつかないながらも目で追っていることに驚きを隠せなかった。

 そして、その確認の為に掌底を繰りだし、それを受け止めるかそれとも避けるかと期待して放った掌底は見事に額に命中した。

 いや、寸止めするつもりだったが避けるような動作を取った裕を見て躱すんだろうと思っていたが、その動作が遅すぎてあたり裕はそのまま気絶してしまった。

 

 攻撃は見えていたけど、避けるほどのスピードはなかった。

 

 「彼は鍛えればかなりの剣士になるかもしれんな。しかし…」

 

 「もしかしたら俺よりも強くなるかもしれない。だけど…」

 

 「「なのははやらん」」

 

 親馬鹿。シスコン。高町親子はなのはと親しくなっている裕にジェラシーを感じていた二人だった。

 後に、高町家最強の桃子とその娘のなのはにお客様になんてまねするのと絞られた二人だった。

 

 




 後日。

 「なのはも剣の特訓してみる?」

 「うう、でも、私運動に苦手だし…」

 「これ、裕君が着ていた袴なんだけど」

 「やるの!」

 「即決?!」

 姉の美由紀に誘われて道場に来たなのはが少しためらいを見せると、美由紀が取り出した袴をみてやる気を見せる。
 その行動に驚いていた美由紀だが、更に驚くことになる。

 「見えるっ。私にも見えるの!」

 「なのはが…。なのはがたったぁあああ!」

 これでもかと体力補助効果を受けた袴を着たなのはは、いつもならすぐへばるのに裕がカスタマイズした袴の力ですぐに立ち上がる。
 更には姉の動きを見よう見まねで木刀を振るう。姉から見たらまだまだだが運動音痴のなのはにしてみればかなりの上達っぷり。
 その為か、二人は調子に乗ってどんどん特訓を重ねていく。

 「たかが素振りの百や二百なんてやり通して見せるの!」

 「裕君印は伊達じゃない!?」

 「…私を導いてほしいの!裕君!」

 「なのは。貴女なら出来るわ」

 若干、なのはが新人類になりかけていたが元気な二人の娘の様子を母、桃子は優しく離れた場所で見守っていた。



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第四話 邪神様がみている。

 裕視点

 

 なのはちゃんと仲良くなって一ヶ月くらい経ったある日。

 WCCを使いこなすために海鳴市にある港町の一角にある倉庫群。

 あまり人の出入りがないこの倉庫の片隅でうねうねと動く土人形(アスファルト製)を作っては壊し、作っては壊しの繰り返し。

 堅いアスファルトがうねうね動く光景は異様だ。触ってみたら堅い。なのにうねうね動く。これいかに。

 などと考えていたら隣の倉庫に車が止まる音が発生したので思わず物陰に隠れる。

 自分がいる倉庫ではなく隣の倉庫に入っていく音がする。なにやらカキンカキンと聴きなれない金属音が聞こえたのでこっそりと倉庫と倉庫の間に穴をあけて様子を覗うことにした。

 

 

 バニングス視点。

 

 宝石商との商談途中で強盗にあった私と取引先の店長は誘拐、拉致された。

 覆面を被った強盗集団。発音から中東系の人間か。

 私達をロープで縛り上げた後、戦利品である宝石や札束を地面にちりばめて歓喜していたが、突如地面が光り札束を残して宝石だけが消えていった。

 それを見た強盗達はあちこちを見て慌て始めるが、やがてその苛立ちをぶつける為に横たわった私達に蹴りを入れる。

 力が強かったのか取引先の宝石商が血を吐いた。

 私と宝石商はやめるように伝えたが相手は聞き入れず、蹴りを続ける。宝石商の方は痛みで気絶した。

 そんな時、再び私達のいる倉庫全体が光り始める。と、同時に幼い声が聞こえる。

 

 「…実行」

 

 ガコンガコンと妙な音がするとともに強盗達の足元の地面が無くなる。

 もちろん人は飛べないのでその穴の下に落ちていく。と、同時に更に声が響く。

 

 「落とし穴の上を格子状の天井に加工。実行。と」

 

 その声について地面が再び光ると同時に落とし穴の上に格子状の蓋がされ、光が収まる。

 それはまるで竪穴式の牢獄のようになっていた。

 

 「…なにが?」

 

 「…えーと、大丈夫ですか?て、外人?」

 

 倉庫の入り口から男の子がこちらの方を窺っていた。

 

 「きゃ、きゃん、ゆーすぴーくじゃぱん?」

 

 「いや、日本語で大丈夫だ」

 

 惜しい。ジャパンではなくジャパニーズだ。

 娘と同じくらいの男の子がポケットからおそらく最初の光と共に消えた宝石を取り出すと私達の前に置きながら私達の縛られたロープを解こうと私の後ろに回る。

 

 「これはあなたの宝石ですか?」

 

 「あ、ああ。たぶん。それより君みたいな子どもにこのロープはほどけな」

 

 「実行と」

 

 ぱらり、と光の粒子をこぼしながら落ちるロープ。

 不可思議な現象を起こしているだろう少年を目の前に私が呆気にとられていると少年は宝石商を縛っているロープに触れる。すると、そのロープも光りだし光が収まると同時に解ける。

 

 「あ、とー。この事は内緒にしてください。口止め料としてこれを」

 

 少年は困った顔をして私に地面が光った時と同じ光を放つルビーを渡す。

 持っているだけで痛みが引いて行き、蹴られた時に出血した頬の傷が熱を帯びてふさがっていくのが感じられる。

 

 「これは…一体?て、君は一体」

 

 「じゃあ、そういう訳で」

 

 少年は私の怪我が治っていくのを見守った少年は光に包まれて消えていった。

 

 

 

 裕視点

 

 倉庫での暴行事件から三日後。

 

 「やあ、田神裕君。君に助けてもらったバニングスだ」

 

 ダンディズムなジェントメン。バニングス氏が我が家の玄関先に訪れた。

 おちつけ。落ち着くんだ俺。

 こういう時こそ素数を数えるんだ。

 

 1、

 2、

 3、

 ダー!

 

 ちがう。これ素数じゃない。

 諦めんなよ!熱くなれよ!冷静になれよ!君は美しい!

 何が何だかさっぱりだ。

 今度のWCCで作るアクセサリーは鎮静効果があるものを作ろう。

 鎮静効果のあるパンツを!

 …駄目だ。

 俺の平凡な日々はもう戻らないかもしれない。

 

 



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第五話 邪神様は踏み台なお友達

 バニングスさんが自宅に来たのでお母様がお茶とお菓子を用意してくれた。

 彼が言うには怪我をしているところで助けをよんでくれた俺にお礼がしたいと子供には高価すぎる懐中時計(純金)とルビーのネックレスとブレスレットを持ってきてくれた。

 内心ガクガクです。

 ルビーとか見せつけるようにお母様に渡してくるんですもの。俺が加工した物じゃないルビーとはいえ、何を言われるか分かった者じゃない。

 あまりに高価すぎる物だというのにお母様はありがたくいただいた。見た目が綺麗なだけだと思っているんだろうけどそれマジで宝石だから。

 そんな一部始終でジェントルメンな笑顔で俺を見る。

 な、何を言われるんだろう。

 

 「ところでこれなんだが…。君の指紋が取れたのでここまで来れたのだが」

 

 懐から俺が加工したルビー、『自然治癒(中)』を取り出す。

 ガクガクブルブル。

 そのジェントルメンスマイルが怖いです。

 指紋一つで我が家までたどり着けることが出来る経済力に庶民の子どもである俺。この後何を言われるんだろうか。

 

 「今度の休み、娘の誕生日でね。私も以前強盗にあったばかりだしね。娘に“とびきりの”『お守り』を渡したくてね。この宝石みたいに。君に準備してほしいな。と」

 

 ガクガクブルブルガクガクブルブル。

 

 わざわざ言葉をきって話すジェントルメン。

 もう確実に俺の能力に感づいているよ。

 少し前にあった事件の患者HGSだったか?その患者達みたいに観察対象になるんだろうか、それとも脅迫されるとか?

 昨日の夜に『超能力者の末路』というサスペンスドラマを見たせいかマイナスイメージが先行する。

 

 「駄目ですよ、バニングスさん。そんな風に裕ちゃんを怯えさせちゃ」

 

 「ははは、そんなつもりはないんですけどね」

 

 「そんな調子じゃ裕ちゃんの『能力』は使ってくれませんよ」

 

 へ?お母様、今、何と?

 

 「…あらあら、裕ちゃん。もしかして気づいていないとでも思った。私はこれでもあなたのお母さんなのよ」

 

 えへんと、胸を逸らすお母様。

 なんでも俺の靴下を洗う時にタンポポの匂いがしたのが気になってこっそりと後をつけていたらしく、更には俺が公園で砂金を取ったり、港町で宝石をゴロゴロと召還したところも見ていたらしい。

 バニングスさんを救出するところまでは見ていないが、いろいろ見られていたらしい。

 

 「え、あの、お母様。怖くないの?」

 

 「私はあなたのお母さんよ。怖いなんて思うわけないじゃない」

 

 涙腺決壊。

 お母様、俺、貴方の息子でよかった。

 ちなみにお父様は気が付いていないらしい。

 

 「というわけで、脅すのはやめてくださいね」

 

 「いやはや、困りましたな。本当に脅すつもりはないんですよ。裕君の力で娘の身の回りを守ってほしかったのですが…」

 

 バニングスさんは一枚の写真を出す。

 そこにはバニングスさんとその奥さん。娘さんが写された写真。

 

 「あらあら、可愛らしい娘さんね」

 

 「…後ろにある家もでっかい」

 

 「ああ、それは別荘です。今度招待しましょうか」

 

 「「別荘?」」

 

 なんでもバニングスさんは大金持ちらしい。

 そこらへん、俺とお母様は疎いので知らないのだが、言われてみれば宝石商とあれだけ大量の宝石を購入する人ならそれなりに大金持ちなのだろう。

 携帯で調べてみると世界有数の大富豪として紹介されている。

 

 「身元も判明したらしいのでお願いを聞いてくれないかな」

 

 「…私は構わないのだけれど。裕ちゃんはどうしたいの?」

 

 まあ、WCCの事をあまり広めないのであれば構わない。

 それを承諾してくれたバニングスさんとお母様に俺の力について簡単に説明する。基本的に何もないところだと何もできないと伝える。

 お母様はこれから包丁やお鍋が新品状態で毎日使えるわと喜んでいたけど…。

 バニングスさんの訪問は本当にあの時のお礼がしたくて高価なアクセサリーを持ってきてくれたらしい。

 とりあえず、娘さんにはエメラルドのブローチを渡すつもりらしい。

 『緊急転移』。危機に陥った時、今回貰った純金製の時計か、バニングスさんのWCCで加工済みのルビーのある所に転移することが出来る。

 …かなり純度の高い宝石だったので初めて見る付加効果だ。

 とりあえず、効果はそういう物だと伝えたら笑顔で了承してくれた。

 

 そして、バニングス令嬢の誕生日当日。

 超が付くほどの高級ホテル。綺麗なドレスを着たお姉さんやスーツを着たお兄さん。

 そこに現れた俺。

 

 …凄く、…不釣り合いです。

 

 こんな時に限って両親。というか、父上が昨晩、ぎっくり腰になって入院することになって、母上が付き添いでここには居ない。

 俺をタクシーに乗せた時に「バニングスさん達によろしくね。あと、妹と弟どっちが欲しい」と、送り出した母上。

 …父上、頑張り過ぎです。

 それはともかく、こんな貴族のパーティーみたいなところで何をすればいいのか分からない。暇だったのでWCCでホテルのデータでも取っていると…。

 

 爆弾を発見しました。

 

 ホテルの入り口とエレベーター付近に複数の爆弾が俺の目にしか見えないモニターに映し出される。

 バニングス家は別名ジョースターとかではないだろうか?

 ここまでトラブル続きだと呪われているんではないだろうかと、疑ってしまう。

 それとも俺か?邪神の力を持っているからトラブルをよんでいるのか?

 とりあえず爆弾はWCCで解除。元々、人目につかない所に設置されていたので解除することに躊躇いはない。

 ついでにどこかの社長さんと話していた。えーとTUYOTAの社長?

 とにかくバニングスさんと話をしようと手を振ってこちらに気づいてもらう。

 彼が今話している人達との話を話を打ち切り、こちらのほうに歩いてくる。早く爆弾の事を教えようとこちらからも近づいていくと、

 

 「おとーさま!」

 

 「むぎゃっ」

 

 俺を踏み台にしたぁ?!

 

 後ろから誰かが奔ってくる気配を感じて振り返ると、目の前に覆い隠す赤い靴。

 俺の顔を踏んづけた勢いそのまま声の主はバニングスさんに抱きつく。

 

 「はは、アリサ。おっきくなったね。だけど、人の顔を踏んじゃいけないよ」

 

 「ごめんなさい、お父様」

 

 謝るんなら俺じゃないの?

 そんな俺の心情を読み取ってくれたのか娘さんに注意する。

 

 「…アリサ」

 

 「う、わ、悪かったわね」

 

 将来美人になること間違いなしの金髪の少女が謝っている。のか?

 どこかで聞いたことがあるような。たぶん、どこかのツンデレだ。

 

 「ところで裕君、どうしたのかね?」

 

 「バニングスさん。じつは…」

 

 とりあえず爆弾の事を伝えるとバニングスさんは目付きを険しくして招待客に変装していたSPに事の次第を伝えると、容疑者達を何人か静かに連れ出していく。

 周りにたくさんの人がいるのに誰にも気付かれずにつれていく手際にちょっとビビった。

 娘の誕生パーティーを邪魔されたくないのか、静かに事を済ませていくバニングスグループのSP。特にあの初老の男性。鮫島さんと言うらしい。

 主人以外には「赤子」扱いしないかな?しないよね?

 あんなパワフリャーなラブコメ世界だなんて生き残る自信無いです。

 強盗事件もあったばかりで警備には力を注いでいたのかパーティーは無事終了した。ちなみに主犯はTUYOTAの社長。

 俺自身が格好よく事件を解決できなかったのか?

 いくらWCCという超常的な力を持っていたとしても五歳児にそんなこと求められても困る。というか、悪目立ちするだけだから使わないで済むならむしろ好都合という物だ。

 とりあえず、爆弾とかは全部撤去したとだけバニングスさんに伝えておく。

 

 

 

 後日。

 

 「田神裕!私と勝負しなさい!」

 

 おなじみの公園で遊んでいると、バニングス令嬢のアリサが誕生日プレゼントにもらった(WCCで加工済み)ブローチを光らせながら俺に勝負挑んできた。

 自分の誕生日なのに俺の事を褒めていた自分の父親にジェラシーでも湧いたのか、俺の事を聞きだしたアリサはコテンパンにしてやると拳を強く握っていた。

 

 いや、別に喧嘩じゃねーよ。

 

 公園で遊んでいたちびっ子。なのはちゃんも混ざってサッカーで勝負することに。

 アリサのオーバーヘッドキックを俺の顔面ブロックで防いだことで勝利することが出来た。

 イナズマシュートはボールを蹴って繰り出すもので、決して人の顔で決めるものではないと、アリサにきつく言っておく。

 だが、サッカーでの勝負を機にアリサとは何かと勝負する羽目になる裕であった。

 



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第六話 邪神様に敬礼!

 アリサと知り合って更に一年が経ち、二度目の小学一年生を迎えたその日。

 

 「なんで一緒のクラスじゃないの!」

 

 「…裕君」

 

 そんなことを言われても…。

 邪神にだって出来る事と出来ない事があるんだよ。

 アリサは不当な怒りを俺にぶつけ、なのはちゃんは若干涙目で俺を見る。

 私立の学校なのでそれなりに学力をつけないといけない。特にこのご時世では小学生の頃から英語を習う。

 見た目からバイリンガルなアリサになのはちゃんと二人で教えてもらったところ。

 

 一番俺が英語出来なかったとです。

 上を向いて歩こう。涙がこぼれないように…。

 

 前世の記憶と、見た目は外国人なお母さまを持つ自分としては悔しいものがあった。

 あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ。

 エイゴデキマセン。

 なので、国語、算数で点数を稼ぎ、何とか入学できた。

 WCCで『翻訳』の効果を持つアクセサリーを作るかギリギリまで悩んだが、使わないことにした。だって目の前でなのはちゃん達が頑張ってお勉強しているんだぜ。出来ませんよ、そんな不正。

 と、まあそんな苦労を重ねてきた三人。

 それが入学と同時に俺だけ違うクラスになるのが寂しいけれど仕方がない。でも、じきに慣れるだろう。

 あと、今更ながら気づいたんだが、ここってアニメか漫画の世界じゃなかろうか?

 だって、クラスメートの中に緑色の髪をした男の子やピンク髪の女の子がいる。カラーひよこじゃないんだから…。

 なのはちゃんもアリサも濃いキャラだったけどクラスメートも濃い。

 とりあえず、存在感を出すためにも自己紹介で一発かましてやりますか。

 

 「田神裕です!皆、気軽にダーリンとでも呼んでください!」

 

 「「「「「ダーリイイイイィン!」」」」」

 

 うん。このクラスでなら俺やっていけそうです!

 

 

 

 昼休み。

 クラスメートの皆でお弁当を食べていると隣のクラスが騒がしくなった。

 特にアリサの絶叫じみた声が聞こえる。

 ところどころで「なのは達は俺の嫁だ!」とか、「ひっこんでいろモブ!俺の物だ!」とか、「踏み台が!オリ主は俺だ!」とか、よくわからない言葉が飛び交う中、「気安く名前を呼ぶな!」「照れてんのか、アリサはツンデレだな」という言葉には同意を示す。

 アリサはなのはちゃんや公園で遊んでいたサッカー仲間には厳しくも優しい子です。

 普段はツンツンな彼女だが、相手が弱っているところを見ると優しく接することが出来るいい子です。

 ちなみに俺は初対面時がアレだったので遠慮なく呼び捨てにさせてもらっている。

 なのはちゃんはちゃんづけで呼べてもアリサはちょっと…。

 一度、アリサをちゃんづけで呼んだらお互いに鳥肌が立った。それ以降は互いに呼び捨てです。

 そんな中、「ところですずかはどこだ?」「恥ずかしがって出て行ったのか?さすが俺の嫁」「あの淑やかさは俺のだ!」と、隣のクラスはヒートアップ。

 

 「~~~っ」

 

 俺の隣でお弁当を食べている月村さんがプルプルと震えだす。

 彼女が件のすずかなのだろうか?

 名前は忘れた。すまん。

 

 「大丈夫か、月村さん?」

 

 「…知らない人たちが私のことを話してる」

 

 うん。それは怖いね。

 知らない人が自分のことを話していたら怖い。震えるのも当然だ。

 お呼ばれされているだろうけど出ない方がいいだろう。

 

 「う、うう、怖いよーっ、裕君っ、裕くーんっ!」

 

 なのはちゃんが騒いでいる誰かの圧力に耐え切れなくなったのか泣き出す声がした。

 ここで行かなきゃ男が廃る。というか、恭也さんと士郎さん。美由紀さんに殺される。桃子さんには精神的に殺されそうだ。

 

 「…行くのか、ダーリン」

 

 「ああ、行ってくるよ。俺帰ったら、デザートのさくらんぼを食べるんだ」

 

 俺は音も立てずに椅子から立ち上がる。

 フラグもきっかり残して、いざゆかん隣のクラスへ。

 

 「総員、ダーリンに向かって…敬礼!」

 

 びっ!

 

 月村さんを除くクラスメート全員が敬礼をして俺を送り出してくれる。

 そんな皆に親指を立てて教室を後にした。

 

 「…なんで皆、敬礼が揃っているの?」

 

 月村さん、それは楽しいからです。

 

 さて、教室を出て、個室トイレに入る。便座の上に座ってポケットからバニングスさんから貰った懐中時計を取りだしカスタマイズを行う。

 キラキラと光る懐中時計に『身体能力アップ(中)』の効果を付属させてなのは達がいる教室へと向かう。

 すると、床に座り込んで泣いているなのはをアリサが守るように立っている。

 そんな二人の前には銀髪で肌黒のイケメン君。

 金髪で肌白のイケメン君。

 茶髪で片方銀。片方金の瞳を持ったオッドアイ君。いや、表彰台君の方がいいか。

 金髪。銀髪。表彰台君が騒ぎの原因らしい。

 その三人はお互いに言い争っていて、こっそりとなのはちゃんとアリサに近付いていく。

 俺に気が付いたアリサはその行動の意図を汲み取ったのか、なのはちゃんを立たせる。このままこっそり抜け出そうとした瞬間。

 

 「裕君っ。裕くううううんっ!」

 

 俺を見つけたなのはちゃんが抱きついてくる。

 よほど怖かったのだろう、抱きついてきた体はプルプル震えている。超低振動抱きつき枕。いやあ、超気持ちいい。ではなく、そのまま抱きかかえて全速力で教室を抜け出す。

 何故なら後ろから異様なまでの気配が三つ俺に向けられたからだ。

 

 「「「てめぇっ、ごらぁっ、モブゥ!」」」

 

 後ろで三人が叫ぶが聞こえんな。

 アリサと共に教室を飛び出し、廊下を駆け抜ける。

 

 「「「なのはとアリサを離しやがれモブゥ!」」」

 

 なのはちゃんはともかくアリサは自力で飛び出しているのでとんだ言いがかりだ。

 

 「アリサさん、呼んでますよ?」

 

 「あんな奴等お断りよ!」

 

 ですよねー。

 飛び出した勢いそのままに廊下を駆け抜けて行くと後ろから俺をモブと呼ぶ三人が追ってくる。

 お嬢様でありながら習い事やスポーツジムに通っているアリサは、なのはちゃんを担いでいるとはいえ小学生にしてはかなり速く走っているカスタマイズ効果を受けた俺の速度についてきている。

 お嬢様じゃなくてアスリートのイメージが強い。だが、そんな俺達に追いかけてくる三人。このままじゃ追いつかれる。

 とりあえず、階段を駆け下りて目に入った保健室に入ってやり過ごそう。

 アリサが保健室のドアを開けると同時に俺が入り、アリサが続いて入り扉を閉める。

 保健室の先生がいれば匿ってもらうはずだったのだがいないので俺達でやり過ごすしかない。

 

 「「「そこかー!」」」

 

 ドアの向こう側からあの三人の声がする。

 仕方がない。

 

 「アリサ、なのはちゃんっ、ここに入れ!絶対声を出すなよ!」

 

 なのはちゃんを保健室に備え付けているベッドの中に放りこんで、更にアリサを押し込んで布団をかぶせて、カーテンを閉める。ついでにWCCでカーテンに細工をかける。

 カーテンを閉めているが、カーテンの向こう側から見ると、『カーテン空いておりベッドの中には誰もいないように見える』。いわゆるだまし絵。

 先に二人をベッドの布団に入れたのはこの二人にWCCのエフェクトを見られたくないからだ。

 後はこれがばれないように祈るだけだ。

 

 「ここかー!」

 

 声からして金髪君。後から知る事だが、金髪君は残る二人を蹴飛ばして地面に強く頭を打ちつけ保健室の扉の近くで気絶していたらしい。

 息をひそめている俺達がいないか探している金髪君の気配がすぐ近くまで感じられた。

 

 「・・・・・・・」

 

 「…ちっ、窓から逃げたか。必ずとっちめて俺の嫁を取り返してやるぜ」

 

 そう言って微かにあいている保健室の窓を開け放って飛び抱いていく金髪君。

 金髪君の気配が遠ざかったのを感じてカーテンの隙間から様子を覗う。…よし。

 

 「ほら、二人とも出てきていいぞ」

 

 「あ、ちょ、まっ」

 

 そう言って、ベッドの布団をめくるとそこには泣いて目を真っ赤にしたなのはちゃんと、布団と一緒にスカートまでめくられたアリサ。

 

 「……あ~」

 

 「……何か言いたいことはある?」

 

 羞恥と怒りで顔を赤くしているアリサが握り拳を作ってプルプル震えていた。

 そんな彼女に俺は。

 

 「黒はまだ早い!」(ソフト○ンク犬風)

 

 未だ追われている身なので、大声を出すわけにも大きな音を出すわけにもいかないアリサは俺の両頬を強く引っ張ることで憤りを発散することにした。

 

 




 後日。

 「裕、嫌がる涙目のなのはをベッドに引きずり込んだそうだね」

 「…責任はどう取ってもらうのかな」

 なのはちゃん、どういう伝え方をしたぁああああっ!

 週に一度の高町道場の訓練日。
 邪神は高町親子の猛特訓と言う名の私刑を受けることになった。



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第七話 進撃の邪神様!

 なのはちゃん。アリサ。月村さんの三人が金・銀・銅(茶)のメダルトリオに目をつけられてから三年の月日が経った。

 

 「やあー、こっち来ないでぇえええ!」

 

 「待てよ、なのは~。一緒に飯を食おうぜー」

 

 なのはちゃんを追う金髪君。

 なのはちゃんの身体能力。特にこの三年間メダルトリオに追いかけられてスタミナがついた。

 

 「ついてくんなーっ、ストーカー!」

 

 「アリサは照れ屋さんだな」

 

 アリサを追う銀髪君。

 アリサも元のスペックとなのはちゃん同様に追われてスタミナとランニングスピードが上がった。

 

 「………」

 

 「元気がないなー、すずか。保健室に連れて行ってやろうか?」

 

 無表情で走る月村さんを追う表彰台あらため銅髪君。

 月村さんもお淑やかなイメージとは違い、勉強だけでなくスポーツも優秀。

 ただ、二年生の時に一人だけメダルトリオと同じクラスメイトになってしまい、メダルトリオのうち一人でも視界に入ると無表情になるという癖がついてしまった。

 …正直怖いです。

 このメダルトリオに追われている美少女トリオの三人はそれを縁に仲良くなっていった。

 一見すると、被害者友の会にも見えるのは気のせいだろうか。

 

 「なんとかしてよ裕君!」

 「裕!」

 「…ダーリンお願い」

 

 「「「モブ!なのは(アリサ)(すずか)と一緒に走ってんじゃねえ!!」」」

 

 メダルトリオに追われている少女達から助けを請われ、共に走る邪神が一人。

 今年、めでたく追われている少女とメダルトリオと同じクラスメイトになった田神裕。

 なのはちゃん達と一緒に絶賛逃走中です。

 …どうせなら、可愛い女の子に追いかけられたかったよ。

 と、嘆きながらも今の状況を打破するために俺は指笛を噴く。

 ピュイーッと甲高く響く指笛は校舎全体に広がる。と、同時に校舎の一階と二階の窓の所々が開け放たれる。

 

 「「「こっちだ、ダーリン!」」」

 

 窓の先にいたのはかつてのクラスメイト達。

 一年前、追われた月村さんが無表情で一年生で同じクラスだった俺に相談してきた。

 殆ど同じクラスに配置された男子は、その月村さんの変わりように驚いた。

 それからというもの一年生、二年生で俺やなのはちゃん達と同じクラスになった男子生徒は彼女等を守るための自警団『イエーガーズ』を結成した。

 ちなみにこの団にはドSな人はいません

 団長は俺。団長選挙戦での決め台詞は『黙って俺に投票しろぉおおっ!』。まあ、自警団を作ろうと言い出したのは俺なので自然とそうなりました。

 この自警団で運動会の出し物の創作ダンスを踊った時のシンクロ率は八十七パーセント。やはり高速で空中を舞うようなダンスは小学生には難しかった。

 ちなみにこの団体は巨人を狩りません。

 

 「やるぞアリサ!フォーメーションSNAだ!」

 

 「わかったわ!私と裕が台になるからすずかから先に行きなさい!」

 

 俺は二階の空いた窓を指さしアリサにそう伝える。

 するとアリサは俺の声に答えながら小さな布の包みをポケットから取り出し、それをトリオにめがけて投げつける。

 その包みがとけると中に包まれていた粉末状の七味唐辛子が宙に舞いメダルトリオの目に入る。目つぶし攻撃である。

 食べ物をそんな風に扱うとは…、まあ、仕方ないか。

 

 「「「ぐあああああ、目が、めがぁあああ!」」」

 

 メダルトリオがムスカしている間に、俺とアリサは校舎の壁付近まで行くと、壁を背中に両手を組み、こちらに向かって走ってくる月村さんを待ち構える。

 

 「1!」「2の!」

 

 「「「3!」」」

 

 月村さんがジャンプして俺とアリサの手の上に乗ると同時に、勢いよく手を振り上げる。

 普通の小学生のジャンプでは二階の窓には届かないだろうが、月村さんの運動神経と俺達のコンビネーションで二階の窓をくぐって二階の廊下へと入っていく。

 

 「次、なのはちゃん!」

 

 「うん!」

 

 なのはちゃんも月村さん同様に手に乗せてジャンプさせる。なのはちゃんのジャンプでは届かないが、先に二階に上った月村さんの手を取って引き上げる。

 

 「最後、アリサ!」

 

 「じゃあ、またあとで!」

 

 「グッドラック!」

 

 アリサは俺の手、肩を踏み台にして二階から手を伸ばす月村さんとなのはちゃんに捕まって二階の廊下へと登っていった。

 この三人を送り出したら俺の役目は終了だ。

 

 「「「く、俺の嫁たちは何処だ!?」」」

 

 目つぶしの効果が切れる頃には三人娘は逃走を完了している。俺は普通に一階の廊下に歩いて教室に帰る。文字通りあのメダルトリオは俺なんて眼中にないからな。

 さて、ランチだランチ。

 あのメダルトリオがあの三人に絡むようになってからお弁当がゆっくり食べる米から早く食べられるパン中心になった。なのはちゃん達も同様にパン中心だ。

 あと、『イエーガーズ』の皆からのリクエストで美少女三人が私服で街中を歩いている写真をメールで送る。あの三人の生写真一つで彼等は忍者のように動いてくれる。

 それもあの三人の魅力であり、彼等の原動力である。

 おっと返信が来た。

 『次は水着姿で』だと?

 ごめん、それはまだ出せない。レア度が高い。WCCもそう言っている。

 

 

 

 

 放課後。

 メダルトリオの目から逃れるために普段は使わない竹林に舗装された道を歩いて帰る事になった。

 

 「あの三人の所為で毎日疲れるわ」

 

 「…王城君も、榊原君も、白崎君もしつこいの」

 

 「……やめてよ、なのはちゃん。あの三人の事なんか聞きたくもないし」

 

 「月村さん、無表情怖いからやめて」

 

 彼女の隣を歩いていると突然無表情になった月村さんの顔にビビる俺。

 彼女の心労は俺では測りきれないほど溜まっているのだろう。

 今度アリサの家に行ったらバニングスさんの愛用しているソファに座ってもらおう。

 リラックス効果と疲労回復を併せ持つソファに座れば月村さんも少しは癒せるだろう。

 バニングスさんと知り合ってからはちょくちょくお呼ばれされて、バニングス邸の家具や服・装飾品などにカスタマイズを行い、より快適にとり住みやすく使いやすい環境にしている。

 その謝礼としてプラチナの指輪(脚用)をもらっている。が、さすがに高価すぎると思う。

 バニングスさんいわく、それ以上の仕事をしているという。

 まあ、確かに普通のスーツを着込んでいるように見えて実は防刃ベスト以上の強度と高級毛布に包まれているかのような癒し&体力回復効果もある。

 というか、高級スーツってあんなにレアなの?

 父上のスーツはあんなにいじれなかったのに。あれがブルジョワパワーか。

 バニングスさんはまたレアな金属のアクセサリーを用意してくれると言うが、完全にパトロン化している。

 月村さんを書斎で休ませてほしいというお願いもきっと聞いてくれるだろう。

 

 「…誰?」

 

 竹林を歩いているとなのはちゃんが急に足を止めた。

 そして辺りをキョロキョロと見渡す。

 

 「どうしたのなのは?」

 

 「…誰か呼んでる」

 

 「メダルトリオか?」

 

 「田神君、言っていい冗談と悪い冗談があるんだよ」

 

 すんません月村さん!無表情且つ油が切れたブリキ人形みたいな動きでこっち見ないで!怖いです!超怖いです!

 なのはちゃんにしか聞こえないのか、俺達三人を置いて行き竹林の少し入ったところでビーバーみたいな生き物を見つけた。

 

 「ビーバー?」

 

 「オコジョでしょ」

 

 「フェレットじゃないかな」

 

 「って、皆、この子怪我してる!はやく動物病院に連れて行かないと!」

 

 三者三様の意見になのはちゃんが大事にビーバーもどきを抱えて竹林を抜ける。

 途中で気が付いたけどこのビーバーもどき、ビー玉くらいの宝石がついた紐をつけている。

 動物病院まで運び、手当てを受けたビーバーもどきをゲージに入れる際にちょっとした興味を持ち宝石に触れると、あまりのレア度に驚いた。

 士郎さんのつけていたダイヤの指輪。バニングスさんに加工を頼まれた調度品の数々。そのどれ等よりもはるかに希少価値がある宝石。

 皆が見ている手前WCCでの加工は行わなかったが、この宝石のデータは取れた。

 

 インテリジェント・デバイス。

 

 高度の人工知識をもった機械。

 邪神。田神裕が魔法世界との最初の接触になる。

 




 とある日の邪神様。

 高町道場で裕の携帯を偶然覗いてしまったなのはを経由して、『イエーガーズ』に生写真を送っている事がアリサとすずかにもばれ、携帯電話に保存していた写真データを全部削除されて、翠屋のケーキを奢ることになった邪神がいた。

 同志達よ、本当にすまなかった。
 今度は動画で送るからな!

 新たに決意した邪神の頭部にアリサの踵落しが落ちる事は確定事項である。


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第八話 邪神様主催!告白合戦!

 フェレットを拾った翌日。

 フェレットの様子を見に行こうとメールで連絡があった。ちょっと前に学校内ではメダルトリオが常に付きまとっているから、ゆっくり話すことも出来ないのでなのはちゃん達はトイレの個室に入って送って来た物だ。

 それにしてもメダルトリオは今朝からニヤニヤしている。まるでプレゼントをもらう前の子どものようだ。もっとも子供らしさなどあまり感じないのだが…。

 そして珍しくメダルトリオに追われることなく落ち着いて屋上で昼食をとることになった。

 『イエーガーズ』の皆と一緒に。

 

 「団長、ターゲット達は教室、校舎裏、中庭などで数人の女子と一緒にランチしていることが分かりました」

 「こちらに気が付いている様子はないですが、女子に囲まれての食事が悔しいであります団長」

 「そうか、しかし俺達にはこの学校きっての美少女達がいるではないか、しかも三人そろって食事を誘われている。我々はこの時を楽しもうではないか。万歳三唱!」

 

 「「「「「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」」」」」

 

 自警団『イエーガーズ』の皆はもろ手を挙げて喜ぶ。

 

 「そうだろう!嬉しかろう!今のうちに美少女に慣れて将来、可愛い恋人を作る為にコミュニケーションレベルを上げまくるのだ!すべては俺達がリア充になる為に!」

 

 「「「リア充になる為に!」」」

 

 俺もバリバリ経験値を溜めます!

 そして、父上みたいに金髪でおっぱいが大きい可愛い嫁さんを貰うんだ!

 ま、マザコンじゃねえし!

 

 「それじゃあ、私達が踏み台みたいね」

 

 「じゃあ、俺の嫁さんになってくれるのかよ?」

 

 すると、アリサは冷たい目線で俺を見る。

 

 「メダルトリオみたいなことを言わない」

 

 「…裕君」

 

 「…田神君」

 

 「「「…団長」」」

 

 「え、俺が悪いの!?」

 

 あれ?ここは顔を赤らめて照れるところじゃないの?

 リアルの女の子攻略は難しいです。…はい。俺、思い上がってました。

 アリサとなのはちゃんから責められるような視線を浴びる。

 

 「あのね、あの三人に散々嫁とか呼ばれているのよ。私達は三人ともお嫁さんに夢は見ない。いえ、見れなくなっているの」

 

 「つまり、後家か」

 

 「お婿さんになるとかいうのはないの?」

 

 おお、その手があったか。

 今度はそう言うから尻を抓らないでくださいアリサさん。

 

 「それじゃあ」「未来のお婿さんになることを前提に」「お付き合いを」

 

 「「「よろしくお願いします!!」」」

 

 あ、お前らずるいぞ。俺も混ざる。

 その日、『イエーガーズ(男子団員)』の告白合戦in小学校が開催された。

 

 同時に玉砕祭りが開催されることになる。

 

 

 

 なのは視点。

 

 「…こちらイエーガー3。了解した。あとは気付かれずに家に帰れ、オーバー。メダルトリオはそれぞれ家に帰ったみたいです」

 

 「お疲れ様。それにしても普段は馬鹿をやるのにちゃんと仕事はこなすのね」

 

 「そこは団長のおかげです」

 

 「裕君の事だよね。裕君のおかげって、何をしているの?」

 

 「…サッカーとか野球で応援したりして皆を盛り上げたり、休みの日はお菓子を持って来たり」

 

 放課後、数人の『イエーガーズ』の女子団員に周りを囲まれながら私達は帰宅路を歩いている。

 何故か私達と目を合わせようとしないCクラスの女の子。

 よそのクラスなのに『イエーガーズ』としての役割として私達を裕君曰くメダルトリオから守ってくれる心強い味方だ。

 だけど、団長の裕君が団員の皆に何かを提供して動かしている。それは何かと尋ねたら少し話しづらそうにしている。

 この時は知らなかったが、休日には裕君と遊んだりする私とアリサちゃん。すずかちゃんの私服姿をいつの間にか写メで取り、女子団員にも送りつけて私達の私服を参考に彼女達もおしゃれを真似しているとか…。

 普通に会って話が出来ればいいのだがメダルトリオが邪魔してくるので休日に彼女達と会う事はあっても話す機会は殆どない。

 しかも自然体の被写体がいいと言う事で裕君がこっそり撮った写メを見て女子団員は女子力を高めようという事だ。

 

 「でも、アリサちゃん凄いね。裕君の告白を簡単につっぱねたんだもん」

 

 「そりゃ、ね。私だってあいつが本気だったらぐらっときたかもしれないけど、あいつが本気じゃないってすぐわかるわよ」

 

 口元が妙ににやけている時、裕君は私達をからかおうとしているとわかるからだ。

 

 「そーなんだ。私は裕君の恥ずかしながらの告白だと思ったんだけどな」

 

 「まー、すずかさんは団長と付き合いがまだ浅いですからね。でも、関係が浅いという訳ではないんですよね」

 

 え、そうなの。

 

 「もともと『イエーガーズ』はすずかさんを助けるための部隊だったんですが、それを先陣を切って動いたのが団長なんですよ。今でこそあなた達三人を保護対象としてますが、団長がいなければ『イエーガーズ』自体なかったに等しいんですから」

 

 「い、『イエーガーズ』て、元は私達じゃなくてすずかちゃん専用だったの?!」

 

 「まあ、そうなりますね。ですが、他のお二人も大変だからついでに助けちゃおうぜ。って、言い出したのは団長なんですよ」

 

 裕君って、いろいろな所で私達を助けてくれているんだなと嬉しくなって頬が緩む。アリサちゃんとすずかちゃんもなんだか嬉しそうだった。

 

 「まあ、話がそれるのもなんですが。…実は団長って女子の中じゃ結構人気なんですよ」

 

 え?!そうなの?!

 

 「まあ、あいつってば面倒見と言うか面白い事があればみんなを引っ張って連れて行くし、調子が上がらない子を見たら励まして一緒に遊ぶとかしているわね」

 

 「あと、掃除で居残りをしている子に『掃除の手伝いをするから、お前イエーガーズに入れ』って、クラスでも浮きがちだった子も今じゃすっかり『イエーガーズ』繋がりでクラスの一員になっているんですよ」

 

 「私が聞いた話だととあるいじめられている子を救う為に『イエーガーズ』全員でタコ殴りにしたとか?」

 

 「タコ殴りにしたのは団長だけですよ。他の団員は周りにいじめっ子の仲間がいないかの確認といじめをしていたという証拠探しです。結果的に慰謝料を取られて、学校にいられなくなったいじめっ子は転校しちゃったみたいだけどね。入念に対象者の行動を調べ上げて一人になったところを私達で囲んで団長が喧嘩したんですよ」

 

 裕君。いろんな所でいろんな人を助けているんだな。なんか、やり方がやくざみたいだけど・・・。

 うちの道場で鍛えた身体能力で喧嘩はして欲しくないな。

 

 「だから、早くしないと他の誰かに取られちゃうかもですよ」

 

 「ふえええ、そ、それは嫌なの」

 

 実はと言うとお昼時間に聞いた裕がアリサに「俺の嫁さんになってくれるのかよ?」と、発言した時、半ばハラハラしていたなのはだった。

 

 「あいつが本気で告白する女の子ってどんな子なのかしらね?」

 

 「団長はおっぱいが大きい人が好きだと胸を張って言ってました」

 

 ・・・裕君。

 何、恥ずかしげもなく自分の嗜好を暴露してるの。

 裕君の知らない一面を知れて嬉しいような空しいような、なんとも言えない気持ちになった私達はそのまま帰宅することになった。

 

 そんな愉快な日常。それはいつまでも続くと思えたその夜。

 高町なのはは魔法と言う存在に接触する。

 



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第九話 邪神様はジュエルシードを手に入れた。

 「いやー、良い事って連続して起こるんだね」

 

 「まったくね。とても清々しい気分よ。入学以来の清々しさね」

 

 昼休みに入るとアリサと月村さんがロイヤルスマイル全開でした。

 何でも、メダルトリオが夜中に起こったガス爆発事故にあって入院が決まったと担任から伝えられると遠くから見てもわかる程にキラキラした笑顔でした。

 逆になのはちゃんは少し疲れた顔をしていた。しかし、そんな様子に気づかない二人。

 …そんなに嬉しいか。

 しかし、普段はあのメダルトリオが授業もきかずになのはちゃん達に話しかけてくるものだから授業中は常に騒がしい。

 

 「…授業が滞ることなく消化されていく。こんなに素晴らしい事はない」

 

 アリサ。お前はどこぞの新人類か。

 でも一年生の頃はメダルトリオに追い回され、二年生になった時でもクラスに乱入され、三年生になった今でも追い回される。

 …ロクな小学生生活ではない。今日ぐらいはそっとしておこう。

 そう考えると昨日の告白大会は酷だったかもしれない。

 形はどうあれ、『イエーガーズ』からもメダルトリオ同様に求愛行動?みたいなことをされたから内心疲れたかもしれない。

 というわけで『イエーガーズ』の皆に、三人娘はしばらくそっとしておこうと伝える。

 あと、昨日の告白(本気と書いてマジ)で失恋した団員が数人いた。

 その心を癒すために放課後には野イチゴが実る林道に連れて行き、ちょっとした失恋パーティーを開催することにした。

 大丈夫。いつかその涙は大きな笑顔になるはずさ。

 こっそりWCCで味を調整した野イチゴを貪るように食べた団員たちは悲しみを野イチゴで満たすと晴れやかな顔をして帰っていった。

 あと、いつの間にやらなのはちゃんが動物病院に預けていたフェレットの飼い主。とはいっても飼い主が見つかるまで預かるという形になっていた。

 

 

 

 夕方。

 「裕ちゃーん。ちょっと来てくれない」

 母上に呼ばれてきてみれば、両親の寝室の天井の一部が妙に変形している。

 変形しているところから水がぽたぽたと落ちているところを見せられて「裕ちゃん、悪いんだけど直してくれない」

 昨晩は気が付かなかったけど、今日のお昼時間に雨漏りをしていることに気が付いた母は俺が帰って来ると同時に修理をお願いしてきた。

 WCCを使えば一発で分かるのだが、何やら異物がある事に気が付いた裕は、周りにある天井の板に挟まれた状態の異物を取り出すために、周辺の天井の板を横に避けて、異物の周りに何もない状態にする。

 すると支えていたともいえる物が無くなったことで異物と判別された青い植物の種のようなものが俺の手の平の上に落ちてきた。

 

 キンコーン。

 裕はジュエルシード№13を手に入れた。

 

 ちなみに『キンコーン』という音はWCCで加工できるものを手にした時に鳴る脳内アナウンスみたいなもの。

 ふむ、日本語に訳すると宝石の種ですか。植えれば宝石が生る草木でも生えるのか?

 そう、のんきに考えながら天井を直しながらジュエルシードの事をWCCで解析していくと…。

 

 『所有者の願いをある程度叶える石。異世界の産物。超圧縮エネルギー体。暴走の可能性中』

 

 …暴走したらどうなるんだ?

 WCCには強度の確認をするほかにも、それをプレビュー。想定することが出来るので確認してみると・・・。

 

 『これが仮に爆発したと想定すると軽く海鳴の街が消滅する』

 

 はい、アウトー!

 速攻で暴走要素を消して、更に内部・外部からの衝撃に強いジュエルシードに作り替える。

 とんだ腐った聖杯だよ!どんな不発弾だよ!というか、これは『№13』と表記されているという事は少なくても似たようなものが十二個はあるということになる。

 というか、『所有者の願いをある程度叶える石』のある程度って、どのくらいの程度なんだろう?

 このジュエルシード(安全確認済み)で叶えられる最大許容範囲は…。

 

 『体力・魔力。状態異常全回復』

 どこのエリクサーですか。

 

 『身体の巨大化・異質化』

 ゴジラ?!

 

 『身体機能が全盛期まで回復。若返る』

 初代ピッコロ大魔王?

 

 『ギャルのパンティーが空から降ってくる』

 オラ、ワックワクしてきたぞ。

 

 まあ、ざっとこんな物だ。

 というか後半部分はドラゴンボール。この世界はでっかい宝島なのか?

 さすがに死者蘇生。時間移動。未来を知るということは出来ない。

 この三つはいずれも願いの中でも禁忌とされていると、どこかで聞いたことがある。

 暴走要素を取り除いた所為で叶えられる許容範囲がかなり狭まったが、解析するとこんな感じだ。

 魔力の回復とか、若返ると夢が溢れるキーワードが溢れ返っているが必要とする人は俺も含めて周りにはいない。

 ふと、あのメダルトリオの性格を矯正できるかどうか考えたがすぐにやめた。もしできたとしたらそれは洗脳。もしくは人格だけを殺した殺人になる。

 ふと冷静になって考えてみる。

 こんな物があと十二個も落ちていると考えただけでもぞっとする。

 この町からは放棄。もしくは処理がしたい。

 俺の持つ邪神の力。WCCはジュエルシードに干渉することが出来る。

 

 「・・・やれるか?」

 

 …海鳴の町全体をグループアイテム化。

 そして、そのグループアイテム化した海鳴市の物体。海鳴市に落ちたジュエルシードに干渉して、処理する。

 いろいろ試した所、WCCにはいくつか制限がつく。

 グループアイテム化している所はシフトムーブ可能。

 干渉も出来るが二次間接。例を挙げるなら、グループアイテム上にある車は干渉できるが、それが生き物の上にあると干渉できない。

 

 移動は出来るけどカスタマイズは出来ない。

 

 あくまでグループアイテム化している物の上に直接触れている物でないと干渉できない。

 原作も自分の部隊や敵の部隊も転移させた主人公も敵が装備している装備までは干渉できなかった。ただし、乗り物としての兵器には干渉できた。

 

 例を上げると敵の戦車には干渉できるけど、ハンドガンには干渉できない。

 

 転移はあくまでその一帯丸ごとの転移であり、個別で処理することは出来ない。

 だが、レーダーやソナーのように感知することも出来る。

 もちろん、グループアイテム化している地帯の上には多くの建物や車、人で溢れかえっていて、ジュエルシードのような子どもの手の平にも収まるような小さな物を探すにはかなりの手間がかかるだろうが、幸いなことにサンプルは既に手の中にある。これを参考にして、似たような物だけをピックアップすれば見つけきれるはずだ。

 WCCの力で自分の目にしか見えないカスタマイズメニューを開き、アイテムグループ化している地帯の上にあるジュエルシードを探す。

 

 「・・・あった」

 

 反応は二つ。一つはここから少し離れた公園。そして病院の屋上。

 すぐさま自宅を飛び出し、暗くなる前に反応があった場所へ行くとそれはあった。

 

 「…実行」

 

 一つ目と同じく、暴走の危険性があったのでそれをWCCで削除する。

 もう一個の方はどうするかと考えていたら、反応が突如消えた。

 

 「あれ?消えた?」

 

 まさか氷のように溶けてしまったのか、反応がプツリと消える。

 カスタマイズメニューを開いても大まかなことまでしかわからないから何とも言えないが、今のところ問題無しだ。

 

 「…今日は遅いし、帰って寝るか」

 

 WCCの操作一つ間違えればジュエルシードを暴走させてしまう可能性も出てくる。

 問題をほったらかしにするわけにもいかないが、集中力を切らせるわけにもいかなかった。

 慎重に事を運ばないと一瞬でお陀仏だと肝に銘じながら、夕食を取った後、すぐに眠った裕だった。

 

 

 

 夜。

 病院の屋上に一人の少女が避雷針の上に立っていた。

 金色に輝く腰まで伸びた髪を揺らしながら、人が立てそうにないその場所に佇む少女は先程手に入れたジュエルシードを手の平の中で転がす。

 

 「…これが、母さんが探している物。…もっと、多く見つけないと」

 

 そうすれば、きっと。

 そう少女が呟くと彼女は避雷針の上から浮かび上がると夜の空へと消えていった。

 



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第十話 おや、邪神様の様子が・・・?

 海鳴市にあるとある森林の中を全力疾走する影が二つ。

 

 「かなりの主とお見受けされる。何故にそこまで荒ぶるのかっ。静まりたまえ!静まりたまえぇえ!」

 

 巨大な猪に追われている少年。田神裕の姿があった。

 ジュエルシードを手に入れた翌日。土曜日で学校は休み。

 裕はサンプルとして一つだけジュエルシードをポケットに入れて、週に一度の高町道場での稽古に向かう途中でいつもなら通らない道を通り、海鳴の町でアイテムグループ化していない地帯をグループ化させていると、WCCの干渉可能域でジュエルシードの反応を捉えた。

 ジュエルシードの探索として高町親子やバニングス氏に協力をお願いするかと迷っていた裕だが、まずはこれを処理しようと思い反応があった森林の中へと向かう。

 

 森林の奥でジュエルシードと一緒に親猪とはぐれたウリボーを発見。

 「・・・やだ、可愛い」と、和んでいたらウリボーがジュエルシードを食べる。

 おや、ウリボーの様子が・・・?

 デンデンデンデンデンデンデッテ、デンデンデンデンデンデンデッテン!!

 デーデデン、デデッデデン!

 ウリボーはドスファンゴ(金冠サイズ)に進化した!

 何と言う事でしょう!あんなにも愛らしかったウリボーが体長二メートルはある威圧感のある猪へと変貌ではありませんか!

 …すごく、大きいです。

 おいおい、そんなにぽやっとしていていいのか、俺は呆然としている奴も食っちまうんだぜ?

 呆気にとられている裕をしり目にドスファンゴは裕をロックオン。少しの間を置いて突撃を開始すると同時に裕も逃げ出す。

 といった状態だ。

 

 子どもの脚ではすぐに追いつかれると思われがちだが金の懐中時計にカスタマイズ効果が施された物。その効果で裕は大人以上のスピードで山の中を疾走する。

 あの時、不思議な飴。もとい、ジュエルシードをBボタンで進化キャンセル。ではなく、回収できなかった事が悔やまれる。

 

 「ブギィイイイイイ!!」

 

 「くそ、調子に乗るな!」

 

 猪がいる場地面に光が奔ると同時に、猪の前から裕の姿が消える。代わりに見えたのは土の壁だ。

 WCCで落とし穴を瞬時に作り上げた裕から見たら猪の方が消えたようにも見えただろう。

 

 「ピギィッ?!」

 

 ズズン!

 と、局所的な地震が森林の中で響く。

 落とし穴に落とされた猪を見届けた裕は、思わずそこに座り込む。

 

 「た、助かった」

 

 ジュエルシードの起こす異常事態は知っていたのに思わず逃げに入ってしまった事。いや、その異常事態から自分の身を守る対策を考えてなかった自分に反省している。

 それが更に悪手となる。

 裕は確かに猪を落した。深さは六メートルから七メートル。普通の猪なら駆け上がることは出来ない。だが、相手はジュエルシードを呑みこんで異質化した猪だ。

 

 「ぎゅあああああああっ!!」

 

 短い脚から信じられないくらいの脚力で土壁を蹴り、駆け上がってきた猪が落とし穴から飛び出してきた。しかも飛び出してきた先には座りこんでいる裕の姿があった。

 

 …あ、これ死んだ。

 

 そう思った裕が猪に潰される瞬間。

 

 「…サンダーレイジ」

 

 小さく聞こえた少女の声と共に晴天の空から雷が飛来し、猪を貫いた。

 

 

 

 少女視点。

 ジュエルシードが発現した気配を感じた私はその気配があった場所へ行くと一人の少年が丸い生き物に追われていた。

 猪の方から魔力を感じた。おそらく原生生物に反応したジュエルシードの暴走。そして、あの男の子を襲っているんだろう。

 助けに入ろうとした瞬間、男の子から魔力に似た何かを感じた次の瞬間、猪が消えた。いや、猪の下に急に穴が出来てそこに落ちたんだろう。

 男の子の方はそこにへたり込んでしまうが、猪の方は諦めずに落とし穴を駆けあがっていく。このままじゃ、あの男の子は殺されてしまうかもしれない。

 私はポケットから三角形のデバイス。バルディッシュを取りだし魔力を込める。

 魔導師と呼ばれる魔法が使える人間が持つ力。私にはそれがあり、それを振るうための道具。機械的な黒い両手斧ある。刃と杖の連結部分にある部分には金色の宝玉のようなものがついている。

 

 「…サンダーレイジ」

 

 そこに意識を集中させて魔法を放つ。

 バルディッシュから放電した雷が意志を持った蛇のように猪の上に落ちる。

 猪は雷で焼かれると落とし穴のすぐ傍に倒れる。

 

 「…上手に焼けました」

 

 少年の方は何やら訳の分からないことを言っているけど、猪からジュエルシードを取り出す為に私はバルディッシュを担ぎながら男の子の前に姿を現す。

 

 「…バルディッシュ」

 

 動かなくなった猪にジュエルシードを摘出する魔方陣を展開。魔方陣の光を浴びながらジュエルシードを取り出しながら私は男の子に静かに告げる。

 

 「…この事は誰にも言わないで。でないと、また危険な目に会うから」

 

 「…な、なんでジュエルシードを取り出せるんだ」

 

 「あなたには関係ない。…っ、どうしてジュエルシードの事を知っているの」

 

 私はこの少年の前では『ジュエルシード』の単語は発していない。

 よく観察していると少年からもジュエルシードの反応がある。

 

 「そうか、君も持っているんだ。…それを渡して」

 

 「…これをどうするつもりだ」

 

 猪を相手にしていた時と違い、落ち着いている。いや、冷静さを取り戻したともいうべきか。

 

 「あなたには関係ない」

 

 「ある。これが暴発したら俺も家族の皆も死ぬ」

 

 …そうか。この男の子にも家族がいるんだ。

 だからこんな危険な目にあってもこんな事に関わろうとしている。

 気持ちはわかる。…でも。

 

 「それにあなたが対処できるとは思わない。さっきのもそう。あなたは弱い」

 

 少年はその言葉を聞いて悔しそうに顔を歪めるも言い放つ。

 

 「弱くても対処は出来る。俺はこれを『調整』出来る」

 

 「…そう。だけど」

 

 私は高速移動の魔法を使い男の子の後ろに回り、次に雷の魔法を当てる。

 火傷しないように、だけど立っていられないほどの麻痺を負わせる威力の魔法を。

 

 「がっ?!」

 

 「根本的に弱かったら話にならない」

 

 少年が地面に倒れるとポケットからジュエルシードが一つこぼれ落ちる。

 それを手に取ろうとした時、バルディッシュを掴まれた。

 だけど、それも一秒たらずで離される。

 

 「・・・」

 

 「…ごめんね」

 

 家族を守りたい一念で振り絞った力なのだろう。

 少年が気絶したのを見届けた私はジュエルシードをバルディッシュの中に封印。そして、男の子を担いで森林を抜け、人目につくベンチに置いて行った。

 

 

 

 夜。

 邪神の力を持った少年はベッドの中で声を殺して泣いていた。

 痛いからではない。苦しいからではない。

 一人の少女に手も足も出なかった自分の不甲斐なさ、彼女の言葉を否定できない悔しさで涙を流していた。

 そして、その日から自分の力を、WCCを戦闘に活かせるよう策を練る。

 家に置いていたジュエルシードを睨みながら決意する。

 自分は無力ではないという事を。

 彼女に認めさせる。そして自分自身に証明するために。

 その為に今は泣く。これ以降は絶対に泣かないと。

 邪神は自分にそう言い聞かせた。

 

 



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第十一話 邪神様、MVP賞受賞。

 日曜の昼。

 小川付近に整備されているサッカー場にて翠屋FCの名をうったチームに檄をする者がいた。

 

 「お前等ぁあっ!気合入っているかー!」

 

 「「「おー!」」」

 

 もちろんこの世界の邪神、田神裕。その人だ。

 『イエーガーズ』の皆と談論しているかのような翠屋FCのメンバーを鼓舞している。

 『イエーガーズ』の何人かがこのチームに入っている事となのは達がサッカーの観戦に誘った事で裕はこの場所にいた。

 しかし、試合に参加するわけでもなく応援、観戦するまで暇だったので鼓舞をすることにした。

 

 「この試合に勝って翠屋のケーキが食べたいかー!」

 

 「「「おー!」」」

 

 その光景を見てぼやく三人組がいた。

 

 「…あいつ、試合どころかサッカーチームじゃないのに何であんなに元気なの?」

 

 「裕君、昨日は道場に来なかったのに…」

 

 「まあ、元気そうでよかったね」

 

 裕は本来ならサッカー観戦などせずにジュエルシードの散策を行いたかったが、今日行われるサッカーを行う場所が子どもの脚では遠い場所にあったので、ついていくことにした。

 サッカー場とその付近をアイテムグループ化した裕は、そのエリアに内にジュエルシードが無い事を確認した裕は、皆に不審がられないようにいつものように『イエーガーズ』メンバーを含めたサッカーチームを鼓舞する。

 

 「あそこにいる美少女三人に良い所を見せたいかー!」

 

 「「「おー!」」」

 

 「にゃっ?!」「…あの馬鹿」「…田神君ってば」

 

 裕の声に鼓舞するサッカーのチームメイトと困惑するなのは達。

 

 「このチームのキャプテンとマネージャーのようにいちゃいちゃ空間を作りたいかー!」

 

 「「「おおおおお!!」」」

 

 「ちょ!?」「ええ!?」

 

 軽く他人のプライベートを暴露する裕。

 不意に自分達の事を言われた二人も顔を赤らめる。

 それを無視して裕は鼓舞を続ける。

 

 「羨ましいかー!」

 

 「「「おおおお!」」」

 

 「自分もあやかりたいかー!」

 

 「「「おおおおお!」」」

 

 「あの三人組のチアリーディング姿が見たいかー!」

 

 「「「おおおおおおおお!」」」

 

 「青春の炎はぁああ、熱く燃えているかぁああああ!!」

 

 「「「おおおおおおおおおおおおっ!!!」」」

 

 どこかで見たことがある光景になのははそれを思い出そうとして頭を捻る。

 アリサは何気にチアリーディングをやらせようとしている裕の行動に憤りを覚えていた。

 そして、すずかは、というと。

 

 「あの馬鹿は全く…」

 

 「ねえ、すずかちゃん。私、アレをどこかで見たことがヒィ」

 

 「………どうしたの、なのはちゃん」

 

 なのはが自分の隣にいたすずかに話しかけた瞬間に小さく悲鳴を上げる。

 まるで人形のように光の無い瞳になったからだ。つまり、

 

 「よー、なのは達じゃないか。奇遇だなぁ」

 

 珍しい銀の髪を有した美少年がなのは達の所へ歩いて来た。

 普通ならその美少年の風貌に頬を赤らめるはずだが、なのは達は彼に会ったその日に苦手意識を持っている。

 

 「…榊原君」

 

 「…なんであんたがここにいるのよ」

 

 なのはとアリサは榊原の登場に声質が落ちる。すずかの方は表情がより無機質になる。

 

 「日課のランニングをしていたらアリサ達を見つけたという訳さ」

 

 「そう、それじゃあランニングに頑張ってね」

 

 すずかが言葉の裏にさっさとここから離れて。と、表情の消えた顔と無機質な声で隠しきれて無い事がなのはとアリサには感じた。

 さわやかに笑顔で答える榊原にすずかの意志は通じず、なのはとすずかの間に座りこみながら、なのはが連れて来たフェレット、ユーノと呼ばれているフェレットの首を掴み上げると魔力を持つ人間にしか聞こえない会話。念話を使う。

 

 (あんまり、なのはにべたべたしいてると首をへし折るぞ?淫獣?)

 

 (っ?!)

 

 (榊原君!)

 

 ユーノを拾った日になのはが聞いた助けを呼ぶ声はユーノが発した念話であり、その次の日に動物病院で起きたガス爆発事件。それはジュエルシードが起こした異常事態であり、それを解決するためにユーノはこの地球へやって来た異世界の人間。

 なのはに拾われる前に一度、ユーノはジュエルシードの暴走体と対峙して負傷し、気絶する寸前に念話で助けをよんだ。それをなのはが救い上げた。

 ガス爆発事件はジュエルシードの暴走で、ジュエルシードは毛玉のような物、思念体へと変貌したものだった。

 その思念体はユーノが置かれていた動物病院に襲い掛かってきた。が、ユーノの念話を再び聞いたなのはが動物病院へ赴き、ユーノと接触。

 ユーノが持っていたインテリジェント・デバイスをなのはが起動したことでなのはは魔導師になることが出来た。だが、それだけではない。

 その現場にメダルトリオが現れた。

 金髪の王城は高笑いながら何もない空間から剣を作り出し、それを持って斬りかかるが毛玉に近付く前に毛玉から伸びた触手にやられた。

 茶髪の白崎もいつの間にか装着していた両手に赤と白の籠手を出現させるも王城同様に吹き飛ばされる。

 今、目の前にいる榊原も何かしようとした瞬間に他の二人同様に殴り飛ばされ、瓦礫の中に突っ込み気絶した。

 ただ、その別にどうなってもいいと思われている三人が吹き飛ばされている間になのはは集中することが出来た事により、ユーノの指導の下、思念体になったジュエルシードを封印することが出来た。

 その三人のうち、榊原はいち早く快復して退院を果たした。

 そして、≪リリカルなのは≫という原作知識を用いて、なのは達と関わり合いを持つために普段は行わないランニングをしてサッカー場の在り処をみつけると、なのはが魔導師になった時のリカバーをするためにこの場所に現れた。

 

 (榊原君、なんてことを言うの!)

 

 なのはは榊原からユーノを奪い取るように離すと榊原を睨む。

 

 (なのは。こいつは女みたいな声をしていても男だ。気をつけないと着替えとか覗かれるぞ)

 

 (ユーノ君はそんな事はしないの!)

 

 榊原を睨むのを止めないなのはを笑って受け流す。

 その様子にアリサは不穏な空気を感じて二人に話しかけた時だった。

 

 「あ~、榊原君じゃないですかー」

 

 白い髪を腰まで伸ばしたチアガールの女の子が四人の元に駆け寄ってきた。

 四人がその声の方に顔を向けた瞬間、なのは。アリサ。すずかの三人は思わず吹き出しそうになった。

 一見すると白い髪の少女にも見えるが、三人からしてみれば一発で分かった。

 あれは、白いかつらをかぶり、チアのコスチュームを着た裕だという事だ。

 裕はまだ九歳。声変わりもまだ先なので、女の子の格好をして、かつらを被れば一見すれば女の子にも見えなくもない。

 

 「…あれ、きみは?」

 

 しかし、裕の事を日頃からモブだと言っている榊原はそれに気が付かない。

 

 「ひどーい、榊原君。裕子、一年生の頃から君の事を知っているのにぃ~」

 

 「あははは、ごめんね。裕子ちゃん。今度からちゃんと覚えておくからさ」

 

 「ぶふっ」

 

 アリサは顔をそむけて抑えきれない笑いを抑えていた。そして気が付く。

 裕は背中であっちに行けと手を動かしていた。

 裕に注意が向いている間にアリサはなのはとすずかを連れて離れていく。

 

 「私、榊原君とお話がしたいんだけどいいかな?」

 

 「ここでじゃ駄目かい?」

 

 「ここじゃ、ちょっと…」

 

 と、顔を下に向ける裕。その表情は必死に笑いをこらえている。少しでも頬の筋肉が緩めば爆笑するだろう。

 内心では『俺も罪な男だな』と笑いが止まらない榊原に対して、なのは達も裕が女装していることに気が付かない榊原に笑いが抑えられないでいた。

 

 「それじゃあ、バニングスさん。榊原君を借りますね」

 

 「…ええ、どうぞ」

 

 アリサは離れていく二人を見ずに答える。今にも噴きだしそうな顔を見られたら怪しまれるからだ。

 そうやって榊原を近くのコンビニまで連れて行った裕はコンビニ裏にある駐車場に彼を連れて行きながら「ちょっと、飲み物を買ってくるね…」と、頬を赤めながらその場を去る。

 榊原の方は『今さら照れるなんて可愛い奴だな』と、勘違いしていた。実際は必死に笑いをこらえるのに顔を赤くした裕に気が付かないまま、その日一日待ちぼうけになるのであった。

 

 

 

 正午。

 

 「では、本日の勝利を祝って、かんぱーいっ」

 

 「「「かんぱーい!」」」

 

 待ちぼうけを喰らっている榊原の事など知ったことではないと、サッカー試合は行われ、2-0という結果で翠屋FCが勝利した。

 祝勝会を称して翠屋でケーキの食べ放題パーティーが開催された。

 裕も既にチアのコスチュームは脱いで参加している。

 

 「いやぁ、助かったよ。あいつ等俺達の試合をしていると途中から俺も混ぜろとか言って乱入してきて試合が滅茶苦茶になるんだよ」

 

 「…正確には私達が観戦している試合にだけどね」

 

 「あの三人はまだ入院していると思ったのに、もう退院したみたいで迷惑でしかないのよね。これじゃあ、私達また応援に行けなくなるわよ」

 

 サッカーチームのメンバーとすずかやアリサからの情報によるとメダルトリオは狙っているかのようになのは達の前に現れては試合を滅茶苦茶にするらしい。

 

 「だけど、今日は裕君があいつを引き離してくれたおかげでことも無く試合が消化できたよ」

 

 士郎さんにあいつ呼ばわりされるほどメダルトリオはやって来たのかと裕は呆れを通り越して感心する。

 その情熱を人の役に立つことに使えばさぞかしモテていただろうに…。

 

 「ところで裕君。あのコスチュームはどうしたの?」

 

 「バニングスさん提供の元、高町士郎さん経由で田神裕が拝借して、近くのトイレで着替えました」

 

 突然上がったスポンサーの名前に驚くアリサをよそにチームの監督を務める士郎は続ける。

 

 「なんでパパが出てくるの?!」

 

 「いやー、チームの指揮を上げるためにはどうしたらいいのか。と、チームの皆で相談していたところに『すずかちゃん達が応援してくれるならやる気がもりもり出ます』という意見が出てね。どうせならそれらしい格好でと思って」

 

 「…『イエーガーズ』のうちの誰かだな。…わかっているじゃないか」

 

 裕の言葉にうんうん、と頷くサッカーチーム。

 

 「ところであの白いかつらは何処にあるの?」

 

 「あれならトイレに流した」

 

 「詰まっちゃうんじゃないの?」

 

 「大丈夫。ちゃんと流せた。百パーセント再生紙のかつらだったからな」

 

 「…あれって、トイレットペーパーだったんだ」

 

 WCCでカスタマイズした雨にも風にも弱いかつらだが、なんとかばれずにやり遂げた。

 

 「あんな短時間で作れたの?」

 

 「『こんな事も有ろうかと』。一度やって見たかった台詞なんだけどな。受け狙いで前々から作っていたかつらを服の中に隠し持っていたのさ」

 

 WCCがあれば即席で作れるがそれをばらすわけにもいかないので嘘をつく裕に、すずかは疑問を持った。

 彼女はとある事情で普通の人よりも嗅覚が優れている。裕が着けていたトイレットペーパーのかつらが放つすこし甘い匂いは一緒にサッカー場へ来た時はしなかった。だから、彼が言っているのは嘘になる。

 疑問には持ったけど榊原を追い払った。というか、連れて行った裕には感謝しているのでそのまま聞き流すことにした。

 そんなことを話している間に裕はなのはが連れて来たユーノが着けていた宝石が無くなっていることに気が付く。

 

 「あれ、ユーノ。お前が着けていた宝石はどうした?」

 

 「…きゅっ」

 

 そう言うとユーノはなのはの方を見る。

 それを見てなのはの方も、その視線に応えるように喋る。

 

 「ゆ、ユーノ君の持っていた宝石は私が預かっているの。飼い主さんが現れるまでは預かっておこうかと思って」

 

 「なるほど。つまりショバ代。預かり賃代わりに頂こうという訳か…。悪いな、なのはも。高そうだったもんな、あの宝石」

 

 WCCでかなりのレアものだと知っていた裕はからかい気味にそう言うとユーノが悲しそうな目でなのはを見ていた。

 

 「…きゅう」(…まさか、そのつもりで僕を)

 

 「ユーノ君、その目で私を見ないで!」

 

 「…なのは。…あんた」

 

 「…なのはちゃん」

 

 アリサとすずかも彼女がそんな事はしないとわかっていながらも悲しそうな目でなのはを見てはからかう。

 

 「み、皆までそんな目で見ないでぇえ、返すからっ。ちゃんと返すからぁあああ!」

 

 涙目のなのははからかわれているという事はわかっていながらも自己弁護をする羽目となった。その為に、サッカーチームの一人がジュエルシードをポケットの中に入れ直しているという場面に気が付くことはなかった。

 




 本日のMVP大賞

 「でも、田神君のおかげで今日は楽しかったよ。あの三人の前でも私って笑えたんだね」

 「いきなり無表情になるすずかちゃんは怖かったけど裕君が来てくれて助かったの」

 なのはとすずかはそれぞれ裕にお礼を言う。
 裕の方も苦笑しながらお礼を受け取る。

 「いや、それでもお前達大したものだよ。あれだけ勢いが強い奴を三人も相手するなんて大したもんだよ。実際相手してわかったけどあいつらグイグイ来るな。腰に手を回してきた時はびっくりしたぞ」

 「あいつら普通に私達の髪を撫でようとするからね」

 「触られたくないから距離を取るのが大変なの」

 「あー、わかるわ。俺の場合はかつらの質感でばれるかもしれないから、ずっと注意していたけど確かに触ろうとしてくるからな」

 裕は今日会った出来事をしみじみと考えていた。

 「そうだ、裕。あんたこれから女装して私達の代わりにメダルトリオの相手をしなさい」

 「断る!」

 「何でよ!別に毎日しろって言ってんじゃないんだからいいじゃない!」

 名案だと言わんばかりにアリサは席から立ち上がる。
 が、それを裕は力強く断る。

 「そりゃ、気持ち悪いからに決まっている!それにな、あいつコンビニの裏にある駐車場に連れて行ったら俺の唇を奪おうとしてきたんだぞ!」

 「く、唇…」

 「が、頑張ったわね」

 「…田神君。本当にお疲れ」

 三人娘は心の底から邪神に感謝した。


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第十二話 邪神様まっしぐら

 『イエーガーズ』の皆でサッカーチームのキャプテンとマネージャーの関係を茶化しているうちにいつの間にかキャプテンを胴上げすることになった。

 皆が茶化している間にマネージャの事が好きだと言い切ったキャプテンの男らしさにみんなで祝った。

 そうしたら胴上げしている間に彼のポケットから落ちてきた・・・。

 

 JEWEL(ジュエル)なSEED。

 

 いや、別に割れてもないし、覚醒もしていない。それにどちらかと言えば俺はアストレイの方が好きだ。

 ジュエルシードを拾った俺はその場の勢いのままキャプテンから内密にこれを貰うことに成功した。

 後日、お礼になのはちゃんと月村さん。アリサが仲良く食事をとっている写メを送ることにした。

 怒られた。

 キャプテンの彼女(マネージャー)。なのはちゃん達からも。

 わかった。わかった。

 お礼は俺にチアコスチュームをしろと言うんですね!

 …あ、はい。すいません。今度アイスを奢りますからそれで。はい、なのはちゃん達にも奢ります。翠屋のシュークリーム?小学生のお小遣いでは…。はい、わかりました。月刊ロンロン今月号は諦めます。はい。

 というわけで、月の初めだというのだというのに財布から漱石さんがいなくなりました。諭吉さんだっていません。樋口さん?知らない人ですね。

 

 そんな俺を察してか月村さんが今度の休みにお茶会に誘ってくれました。

 

 …いや、嬉しいんだけどね。なのはちゃんから聞いた話だと彼女の家って猫屋敷らしい。

 バニングスさん。アリサの自宅も屋敷で犬屋敷だ。

 そこに初めて訪問した時、屋敷中のわんこ達が吼え始めた。

 そう、俺は動物に嫌われる体質らしいのだ。

 公道を歩いて犬に会ったら吠えられて噛まれる。公園で猫に会えば威嚇されて引っ掻かれる。

 動物園に言った時なんか軽いパニックを起こしたサファリパークの如く荒れる。

 いまでこそバニングス邸の執事長、鮫島さんのしつけもあってか噛みつかれるという事は無くなったが、時々唸り声を上げる声がするのは心情的にきつい。

 前世の頃から動物好きだったのに、邪神の力を持っている所為なのか嫌われまくりな俺。

 

 お菓子を取るか。心の平和を取るか。

 

 ぐらぐら揺れる心の天秤が傾いたのは『そこのメイドが準備したクッキーが美味しい』と言う情報。

 決めました。「行きます!何故行くか?そこにメイドがいるからだ!」

 思わず声に出してしまった俺に対してなのはちゃんが少し不貞腐れる。

 

 …それはおいといて。

 一度も行ったことが無い月村邸も結構な広さがあるのでWCCでアイテムグループ化してジュエルシード探索もすることが出来る。

 あ、後付じゃないし。こっちが本命だしっ。

 

 いざ行かんっ、月村邸!

 

 

 

 お茶会当日。

 

 フシャー!猫の鳴き声攻撃。

 グルウニャアアアッ!猫の睨みつける攻撃。

 ニャアアア!猫の引っ掻く攻撃。

 カー!猫の乱れ引っ掻き攻撃。

 猫の噛みつく攻撃。猫の。猫の…。

 

 猫の。猫による。邪神だけを攻撃する為だけの空間が月村邸で繰り広げられていた。

 

 もうやめて!邪神の心のHPはゼロよ!

 そう言わんばかりになのはちゃん達が猫を俺から引っぺがすが、

 HA☆NA☆SE!

 と、言わんばかりに猫たちは彼女達の制止を振り切り、俺に襲い掛かる。

 

 最初から嫌な予感はしていた。

 月村邸に入っただけで猫たちが一斉に俺を睨んで唸りを上げる。

 月村邸を進むにつれて猫たちが俺の周りを取り囲み、その輪をじりじりと狭めてくる。

 屋敷の中庭にあたる所でお茶会の席についたその瞬間、月村邸の猫が襲い掛かって来た。

 その猛攻に耐えきれず俺はそこから逃げ出す。こんな状況じゃ、ゆっくりWCCのカスタマイズメニューも開けない。猫に構って変なカスタマイズでもしたら大変である。

 とりあえず、月村邸の屋敷は案内される間にデータだけ取っておいた。残るはこの屋敷を取り囲むかのように生えている林の部分のデータを取るだけ…。

 敷地内に林…。というか森と言っても過言ではないくらいの広さを持つ林に逃げ込む俺を追ってくる猫たち。

 

 まさに猫まっしぐら。

 

 今度、月村邸に行く際には猫が嫌いなみかんの香りがするポプリを買おう。

 そう固く決意した邪神は林の中へと逃げ出した。

 

 

 

 猫に追われる事30分。

 狩猟本能から目覚めた猫たちから木に登ることで逃げ切ることにどうにか成功した。

 一息入れてから逃げ回りながら辺り一帯のアイテムグループ化したデータをまとめていると、とある一部分が異様な反応を示す。

 何かがゆっくりと大きくなっている。マップ上ではゆっくりだが実際はかなりスピードで巨大化している。

 

 『にゃあおー』

 

 「MA・TA・KA!」

 

 シェンガレオン。もとい怪獣クラスに巨大化した子猫が目の前に現れた。

 そして、またしても目と目が合う。

 俺達は巡り合う運命だったのか…。

 巨大な子猫が奔ってくると同時に気の上から飛び降りてWCCを発動させる。

 猫パンチが襲ってくる前に地面に穴をあけてその中に飛び込む。

 

 『にゃん』

 

 ずずんっ。

 

 可愛らしい声とは裏腹に地面に掘った穴にまで伝わってくる振動が恐ろしい。

 だけど、ビビっている暇はない。

 対ドスファンゴ対策用のアイテムクリエイトを発動させる。

 

 「威風堂々(フード)!」

 

 『植木の法則』という漫画で出てきた能力の一つ。

 地面から手甲のような物をつけた巨大な腕が伸びて敵の攻撃を防ぐ堤防になる。

 それをWCCで再現かつ魔改造を行う事で何本も出現させ、猫を押さえつける。

 

 『にゃあっ?!』

 

 猫から見たら地面から突如生えてきた何本もの土の腕が自分の体を押さえつけるものだから驚くのも無理はない。

 十数本もの土の腕に押さえつけられた猫はもがくも動けない事を悟ると大人しくなった。

 それを感じ取った裕は、自分がいる穴から這い出てくると黒いワンピースを着たアリサとは違う金髪の少女が自分を覗き込むように立っていた。

 

 「…これがあなたの力?」

 

 「…お前か」

 

 少女は手にした鋼鉄の杖の先を裕に向けながらも猫の方を見る。

 

 「…貴方も魔導師なんだ」

 

 「魔導師ってなんだ?」

 

 初めて聴く言葉に疑問を感じた裕の言葉に、少女の方も疑問を持つ。

 

 「あなたも魔法を使うんでしょ」

 

 「いや、俺が使っているのは神技だ」

 

 もともとWCCの作品の中では神技人という、火、風、水、土で起こったり起こせたりする現象を起こす事が出来る人間がいる。

 

 「神技?」

 

 「と、その前に聞きたいことが二つ。お前、この間俺から取ったジュエルシードはどこにある?」

 

 少女の方は少し考える素振りを見せて答える。

 目の前の少年はこの町に住む家族の為にジュエルシードに関わっている。

 

 「…今は持ってない。だけど、何があってもいいようにいずれは持っていくつもり。暴走しても影響がないように遠くに持っていくから安心して」

 

 「…そうか。ならいい。じゃあ、次の質問なんだが」

 

 そう教えると裕はほっとしたような顔を見せつつも、すぐに次の質問に取りかかろうとしたが、少女の持つ杖の先を首元に添えられて中断される。

 

 「今度は私の番。あなたの言う神技って何?」

 

 裕の持つ力を知ることでこれから敵対し続けても対策がとれると考えた少女は未だに冷たい視線のまま湯に質問を投げかける。

 

 「…俺の神技は『物体に干渉する力』だ。物体なら例外なく干渉できて、変形させたり動かせたりする力だ」

 

 「…物体。あの土の腕もそれで出したんだ。…それで」

 

 「ん?」

 

 「それでこの後はどうするの?」

 

 「どうするって…」

 

 「まさか、この猫のお腹を割いてジュエルシードを取ろうなんて考えてない?」

 

 「…抑え込むことまでしか考えてなかった」

 

 裕は慌てて弁明しようとするが最悪そうするしかないという結論に達し、項垂れる。

 WCCでは生き物の体を直接操る事は出来ない。その事を少女に話すと呆れられた。

 

 「…私があの子からジュエルシードを取り出すから、邪魔しないでね」

 

 「…わかった」

 

 ため息交じりに少女は猫の下に魔方陣を展開すると呪文を唱える。

 猫は苦しそうな声を上げているが、裕はそれを黙って見ることにした。

 ジュエルシードについての質問の答え。この町を巻き込まないと答え。

そして、猫の安否を気遣った少女の見え隠れする優しさを信じてみようと思ったからだ。

 

 「最後に質問していいか?」

 

 「…何?」

 

 「俺は裕。田神裕だ。お前の名前は?」

 

 「…フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

 フェイトの魔法で巨大化した猫の体が光りだし、その作業も終わりかかろうとしたその時だった。

 

 「ドラゴンショットォオオオ!!」

 

 どこかで聞いたことがある声が聞こえると同時に猫を抑え込んでいる土の腕。威風堂々ごと赤い光が呑みこんでいった。

 

 

 

 メダルトリオの一人。

 茶髪の白崎健吾という少年は歓喜に震えていた。

 前世の記憶を持ち、かつ、その中でも反則級と言われた力。赤龍帝と白竜皇の力を持ってこの世界に転生出来た事。

 そして、この世界。原作ともいえる主要キャラに関わり合う事でハーレムを形成しようと思い立ち、なのは達に近付いた。

 だが、自分と同じ境遇。考えを持つような人間が裕も含めて三人もいるのでややこしくなった。

 日々、彼等を出し抜こうと考えていたがいきなり殺すのはマズイ。秘密裏に。もしくは事故を装って殺してしまおうとも考えていた。

 そんな事を考えながら人目にはばからずそこそこの高さで空中飛行しながらなのは達を探していると近くでジュエルシードが発現した気配を察知し、裕とフェイトがいる月村邸の上空に現れた。

 原作キャラであろう少女、フェイトが猫に襲われかけているように見える。さらに隣には目障りなモブがいる。

 猫を攻撃してフェイトを助けることで彼女の気を引き、近くの邪魔者を排除する。フェイトは風習な魔導師だと原作知識を持っている白崎は、フェイトなら防いでくれるだろう考えながら全力の魔力を込めた砲撃を猫にめがけて撃ちこんだ。

 ドラゴンの力で強化した砲撃により巻き上がった粉塵の中で、黒焦げになった巨大な猫と裕がゆっくりと倒れていくのを見た白崎は上手くいったと喜びながら巻き上がっている粉塵の向こうにいるフェイトの金髪の一房が見えた時、白崎は声をかけようとしたが、その髪は放たれた矢のようにすぐ自分の傍を通り過ぎると同時に一瞬の痛みが襲い、意識を失った。

 その瞬間見たフェイトの表情はまるで道端に落ちたゴミを見るような顔だった。

 

 

 

 「…いってぇえな。あれが魔法ってやつか?」

 

 「ごめんね。シールドを展開しても防ぎきれなかった。あなたにもバリアジャケットがあれば無事だったんだろうけど」

 

 黒いレオタードにマント。黒い手袋。一見するとワンピースよりも薄着に見えるが、物理的、魔力による攻撃も防いでくれる戦闘服を着込んだフェイト。

 声がした瞬間に巨大な魔力を感じ取ったフェイトはバリアジャケットを瞬時に展開。と、同時に自分を中心に半球状のバリアを張ったが、白崎が放った赤い閃光はそのバリアを貫き猫にあたり爆発した。

 それでもフェイトのバリアが赤い閃光に砕かれるまでの数秒の間に威風堂々を何本かだし自分達を覆うことに成功した。

 フェイトのバリアと威風堂々の二重の障壁。そして、巨大化した猫の陰に入ることで裕は体を強く打ちつけるだけで済んだ。

 フェイトは裕と猫の安否を確かめる前に攻撃してきた白崎を雷の刃を生やしたバルディッシュの鎌で攻撃し、撃墜した。

 その速度は白崎が攻撃されたと感知するよりも早く鋭いものだった。

 

 「…にゃあ」

 

 と、猫が鳴くと猫の体が少しの間輝く。

 その輝きが収まると同時に元の大きさに戻った子猫が横たわった状態で出現し、傍にはジュエルシードが転がっていた。

 

 「おまえ!」

 

 子猫の背中は抉れており、そこからは大量の血が零れていた。

 裕はそれを止めようとして子猫の傷口に手を当てる。

 

 キンコーン。

 

 「っ!」

 

 裕の頭の中に加工可能なアイテムを入手した時のアナウンスが鳴る。

 裕が項垂れている傍に立っているフェイトはその様子に猫が息絶えたことを知る。

 

 「…ごめんね。私がもっと早く封印で来ていれば」

 

 「…いや、お前だけが悪いわけじゃないさ。俺の威風堂々だってもっと頑丈に作っていればこんな事にはならなかった」

 

 裕はせめて飼い主であるすずかに背中が抉れたままの子猫を見せるわけにはいかないと思い、子猫の死体をカスタマイズして、怪我をする前の状態にする。

 裕の腕の中で光りだし、まるで今にも起き出しそうな状態になった猫を見てフェイトは驚きの表情を見せる。

 

 「…もしかして、生き返ったの」

 

 「いいや。…死ぬ前の体に戻しただけ。そこまで便利じゃないよ。俺の神技は生き物には効かないから」

 

 「…そう」

 

 それだけ言葉を交わすとフェイトはジュエルシードをバルディッシュの中に入れる。

 はたから見るとジュエルシードがバルディッシュの中に溶けていったようにも見える。

 

 「なあ、フェイト。連絡先を教えてくれないか?」

 

 「…どうして」

 

 「お互いに情報を出し合えばジュエルシードも集めやすいだろ。それにこいつみたいのが増えるのはごめんだ」

 

 「…ジュエルシードは私がもらう」

 

 「それで構わない。こんな物無い方がいい」

 

 「…わかった。見つけたらここに電話して」

 

 フェイトはメモ帳を取り出して連絡先の番号を書いて裕に渡すと、白崎を切り払った時のように空を飛んでいくとすれ違うようにユーノを連れたなのはが林の向こうから走ってやってきた。

 

 「裕くーん。って、何?!大丈夫なの!あちこち汚れちゃっているし、それに地面に大きな穴が!」

 

 まさか、白崎が魔法をぶっ放して出来上がった穴ともいえない。

 慌てているなのはをなだめながら、既に冷たくなっている子猫を飼い主であるすずかに見てもらおうと急がせる。

 いきなり地面が吹っ飛んで自分と猫が飛ばされた。と言い、猫はそのショックで気絶したまま動かない。と、裕はすずかにそう伝えると、子猫は動物病院に連れて行かれたが改めて子猫が死んだことを伝えられ、悲しんでいるすずかに心で何度も謝る裕だった。

 

 翌日。

 月村忍のメイド。ノエルと名乗る女性は放課後にすずかを迎えに来ると一緒に裕を月村邸に招待することになる。

 



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第十三話 やっちまったな邪神様

 裕視点

 月村邸に再度、お呼ばれされたはず、なんだが…。

 気が付けば薄暗い部屋で椅子に座らされていた。

 車で月村邸に向かっている間に渡されたジュースを飲んだ後の記憶が無い。

 

 「田神裕君。それが君の名前ね」

 

 「・・はい」

 

 目の前にいるすずかの大人バージョンがいた。

 ではなくて、姉の忍さんか。しかし、いやに声が頭に響くな。別に不快に感じるわけではなく、むしろ心地いい。

 

 「あなたは夜の一族の事を知っている?」

 

 「・・・いいえ」

 

 本当に心地いい?何かがおかしい。何かが…。

 

 「あなたは魔法と言う存在を知っている?」

 

 「・・・は、い」

 

 何がおかしい。この空間か…。それともこの人か?

 

 「…。それの存在を知ったのはいつ?」

 

 「…きの、う。きっかけをくれたのは初めて、フェイトと出会った日」

 

 「あなたが使う不思議な現象も魔法?」

 

 「…神技。魔法とも、いえる」

 

 この質問がおかしい?どこがおかしい?

 俺は邪神の力を持っていて、それを使う事が出来る。

 

 「ジュエルシード。あなたは今、いくつ持っているの?」

 

 「…二つ」

 

 何故、答える?何故、黙っていなければならないと思う?

 …決まっている。

 

 「…貴方は強大な力を持っている。それを何に使うの?」

 

 「…俺が使いたいように使う」

 

 この力は強力だ。だからこそ自分の為だけに使う。自分が欲しいものの為に使う。自分の守りたいものだけ守る為に使う。それを誰かのためにじゃない。

 誰かの為に使えば、他の誰かがその誰かになりたがる。恩恵を受けたくなる。それは尽きることが無くなる。だから、対等な関係で、対価を支払い受け取る。

 

 「残念ね。あなたもあの白崎という自称『主人公』だと思っているみたい。…あなたは月村に害を成す恐れがあるわ。だから…」

 

 忍さんの瞳が赤く染まり、彼女の言葉が心地い音色から警戒すべき声室に変わっていく。

 それを本能的に悟る。これはまずいものだと。

 

 「…今までの全てを失いなさい。田神裕」

 

 彼女の言葉に俺は応える。

 

 「断る!旅人(ガリバー)!」

 

 

 

 忍視点。

 

 今までぼんやりと答えていた少年。裕がはっきりと答えたことで私は驚きの色を隠せないでいた。

 彼に飲ませた催眠剤は効果が強力な分、その効果時間は短い。

 それでもこの催眠効果が無くなるのは早すぎる。

 その異変に、すぐ傍に立っていたメイドのノエルが裕に向かって走り出そうとしていたが、それは突然前後左右に現れた壁に阻まれる。

 そして、その壁によってふさがれた箱に蓋を閉じるようにもう一枚の壁が頭上を覆い、サイコロ状の壁に閉じ込められた。

 ノエルはその細腕からは信じられないほどの力で壁を殴り壊すと、まず自分の主である私がいた場所に目を向ける。そこには自分同様に箱形の物に閉じ込められたのかどんどんと中から叩く音が聞こえたので箱の真ん中で伏せていてくださいと言い、その剛腕を持って破壊した。

 

 「お嬢様!」

 

 次に向かうべきは自分達を箱に押し詰めただろう少年の方を見るとそこにも箱があった。

 間髪入れずそれを破壊したが中には少年はおらず、自分達がいる部屋全体が将棋盤のようなマス目のように光る線があちこちに走っていた。

 そのマス目の線から壁が生えるようにあちこちから生えてくる。その壁はどれも私達を閉じ込めようとしてくる。

 その壁から逃れるように私とノエルは屋敷の地下室を出ると、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようになっていた。

 電球が床に設置されていたり、扉が天井についていたり、ドアノブが水道になっていたりしていた。

 

 「単純にものを壊すんじゃなくて、そこにあった物を取ったりつけたりしているの?」

 

 白崎と言うすずかのストーカーは自分の力を倍にしたり、相手の力を半分にするというドラゴンの力があるという。

 現に屋敷内を監視するカメラでは空を飛び、手からビームをぶっ放すという摩訶不思議な現象を捉えている。

 監視モニターは初め、裕は猫たちから逃げている間に監視しているカメラから一時的に消えるが、巨大化した猫と対峙している映像に移る。

 そこで繰り広げられたのは猫を土の腕を出現させて押さえつけているだろう裕の姿と、妹のすずかと同じくらいの女の子が奇妙な杖を掲げると巨大化した猫が光りに包まれる。その様子では猫は苦しそうに唸るが今すぐ死ぬという状況ではなかった。

 白崎が猫の背中を砲撃で攻撃するまでは。

 砲撃で辺り一帯が土煙に覆われるなか、空に浮かんでいる白崎をいつ着替えたのか分からないがフェイトらしき人物に雷の鎌で切り払われって撃墜したあと、空の向こうに跳んで行った。

 そんな中裕君の腕には。先程まで血まみれで倒れていた猫が、怪我などなかったような綺麗な状態で収まっていた。

 その後、猫を病院に連れて行ったが、彼の表情からして腕の中に抱いた時に彼には手遅れだと感じ取っていたのかもしれない。

 すずかを守る為に自警団を作り、なのはちゃん達をストーカー三人組から守ってくれている裕を疑いたくはないが、彼もまた白崎同様に不思議な力を持っている。

 下種な考えだが、私達が吸血鬼。『夜の一族』という事を知っており、それを利用して近づいてきたかもしれない。

 

 「お嬢様、監視カメラの配線が多数切れております。それだけではなく屋敷のあちらこちらがまるでオブジェのように変形しています」

 

 「あの子を野放しにするわけには…」

 

 白崎の方は『夜の一族』に関してのみ記憶を消して彼の家に帰した。出来る事なら彼の持つドラゴンの力の使い方まで消したかったが出来なかった。

 裕はもうこの屋敷から逃げ出したかもしれない。そう考えた時だった。

 

 「ファリンから通信が来ました!すずかお嬢様と裕様が接触!ファリンが交戦中の様です!」

 

 「なんですって?!」

 

 

 

 すずか視点

 裕君に睡眠薬を飲ませた後、地下室に運ばれた彼を見送った私は自室でメイドのファリンにきっと大丈夫ですよ。と、慰められていると私達のいる部屋全体が急に光り出すと私達の足元から壁が出てきて私達を閉じ込められた。

 

 「お、お嬢様!」

 

 ファリンが慌てて私を閉じ込めた箱のようになった壁を壊した。

 メイドのファリンとノエルは普通の人間じゃない。体の中に機械が搭載された人造人間のような存在であり、見た目に反して人以上の力と速さを繰り出すことが出来る。

 ファリンはその力を持って私を救い出すと、私を背にしながら辺りを警戒する。

 私の部屋のあちこちから不思議な光が溢れている。

 異常事態にもかかわらず私はその光に見惚れていた。

 

 「な、なにが起こっているんですかぁあああっ」

 

 ファリンは手にしたはたきをパタパタと振りながら辺りを警戒していると部屋の隅が一際輝く。

 

 「…あ」

 

 「…実行!」

 

 その光の中から地下室でお姉ちゃんと話しているはずの田神君が現れた。

 田神君は私とファリンの見た瞬間、壁に手をつくと同時に空いた手で何もない宙に指を走らせると再び部屋が光ると同時に私達を隔てるように鉄格子で出来た壁が何重にも出現した。

 

 「これって?!」

 

 「ふええええ?!」

 

 「動くな!」

 

 私とファリンが驚いて声を上げると同時に田神君が私達に向かって声を荒げる。

 学校では見たことが聴いたことがない、怒気と恐怖が入り混じったその声に私は一瞬、本当に彼なのか疑ってしまうほどだった。

 学校での彼はお調子者だけど私やアリサちゃん達を助けてくれる明るい子だったのに今では見る影もないくらいに私達に対して警戒の色を強めている。

 

 「…月村、お前も俺を殺そうとするのか」

 

 「…え」

 

 「俺は知らない。夜の一族だとかっ。魔法の事なんかもついこの間まで知らなかった!」

 

 田神君は訴えるように叫ぶ。泣き出しそうな顔をして私を睨みつける。

 あの顔によく似ている顔を私は知っている。

 初めて飲んだ輸血パックをすすって美味しいと感じてしまった自分にショックを受けた自分の顔だ。

 人とは違う自分の体。人とは違う力。それに苦しんでいる自分自身。

 

 「普通の人と違うから駄目なのか!力を持っているから駄目なのか!」

 

 田神君の姿が昔、鏡の前で泣いていた自分と重なる。

 そんな彼を見ていると胸が苦しくなる。

 

 「俺は!俺は…」

 

 田神君が俯きながら言葉を紡ぐ。

 それは昔の私が、そして今も心の中で自問自答している言葉だった。

 

 「…俺は、お前達と友達でいちゃいけないのか」

 

 「そんな事ない!私達は友達だよ!」

 

 その言葉に田神君は顔を上げる。

 怯え、苦しみの表情が消せないまま私の方を見る。

 ああ、そうだ。私もそう言って欲しかったんだ。

 お姉ちゃんでもなく、ファリン達でもない。

 本当に赤の他人である誰かに友達だと言って欲しかったんだ。

 

 「…じゃあ、なんで俺を殺そうとするんだ」

 

 「殺す?!そんな事しないよ!」

 

 「…お前の姉さんは俺を消すって言っていたぞ」

 

 「お姉ちゃんがそんなことを言ったの?!」

 

 とても信じられない事だと思い、田神君にもう一度話を聞こうとした時、私の部屋のドアを開けて入って来た人に言葉を遮られた。

 

 「…ちょっとお互いに食い違いがあったようだな」

 

 「恭也さん?」

 

 手に木刀を持った高町恭也さんが困った表情で現れた。

 

 

 

 裕視点。

 

 恭也さんという知り合いの登場に何とか落ち着いて話を聞いた俺は全身を使って悶えていた。

 

  つまり、忍さんは記憶を消す。って、意味だったらしい。

  それを俺が盛大に勘違いした。

  俺中二廟全開でWCCを盛大に披露して、すずかと遭遇。

 

 たった三行で本日の重要事項が説明できる件。

 つまり俺、超恥ずかしい!

 やっちまった感が半端ない!

 十分前に戻れるなら戻って自分を殴り倒したいくらいに俺は悶えていた。

 

 「…ふぅおおおおおおおおっ」

 

 「…田神君」

 

 月村さんが居た堪れない雰囲気で俺に声をかけるが、それ以上の言葉が出てこない。

 

 「『…俺は、お前達と友達でいちゃいけないのか』」

 

 「ぎゃあああああ!」

 

 俺の声真似しないで忍さん!

 羞恥心が、羞恥心で悶え死にそうです!

 てか、殺せ!いっそ殺せえええええ!

 

 「『そんな事ない!私達は友達だよ!』。成長しましたね、すずかお嬢様」

 

 「にゃああああ」

 

 俺と同様に悶える月村さん。

 うん、恥ずかしいよね。自分の黒歴史を再認識させられるのって。

 メイドであるにもかかわらず自分の主の妹を辱めるノエルさん。

 そのクールな表情から繰り出される言葉攻め。まじパネェっす!

 

 「…まあ、これからの事なんだが。ジュエルシードとやらが海にあるという情報を白崎から得たんだ。それを裕君が処理してフェイトと言う子に渡せばいい。という方向でいいかな?」

 

 「はい。それがいいかと思います。それが今回で一番大きな騒動らしいですから」

 

 メダルトリオの片割れ、白崎を薬物と夜の一族の能力を使ってジュエルシードが海にあるという情報を忍さん経由で手に入れた俺は明日素潜りをすることになった

 ふとしたきっかけで暴走するジュエルシードはWCCの力を持つ俺が直接回収する。

 ああ、ちなみにWCCの事は素直にゲロりました。

 家の中を滅茶苦茶にカスタマイズした事とそれを元に戻したところを直接見た月村姉妹にメイドズ。そして恭弥さんにWCCの事を全部喋りました。

 恭也さんには士郎さんの入院時に施した治癒効果。そして、道場で袴にカスタマイズしたドーピングの事も喋った。

 忍さんに『歩く奇跡ね』と言われましたが、残念。邪神です。事の詳細が明らかになれば騒動につながりかねません。そして、頭の中は中二です。

 忍さん達は『夜の一族』という吸血鬼で身体能力が半端ないと言うが、WCCで装備を固めた俺でも十分に対処できる。

 催眠効果も『身体能力強化』を施した懐中時計の効果で、新陳代謝が速まり薬の効果が切れるのが速まったのが原因かと思う。

 素直に記憶を消すという『夜の一族』の力を使えばいいのだが、俺より先に取り調べた白崎君。彼が持つドラゴンの力がその効果を打ち消した事で俺にもそれを打ち消す力があるんじゃないかと思われた為、薬を使った自白強要・洗脳(記憶消失)を使おうとしていたのだという。

 とりあえず、『夜の一族』の事を知った俺は一生彼女達に付き合っていくか。それとも記憶を失うかという選択を迫られた。

 選んだのは少し迷って前者。・・・いや、黒歴史を忘れたいからじゃないよ。本当だよ?

 月村さん達の事を考えると忘れた方がいいかもしれないけど、WCCという荒唐無稽な力を持った俺を友達だと言ってくれる子の事を忘れたくはない。

 

 「よし、それじゃあ忍。明日の夕方。海の方に行ってジュエルシードを探すための船を手配してくれないか」

 

 「わかったわ。私もこのジュエルシード事件は早々に解決したほうがいいと思う。だけど…」

 

 「どうかした?」

 

 「…ううん。なんでもないわ。船の方なら私の方で準備するから気にしないで」

 (白崎が言っていたジュエルシード事件の黒幕はあの空を飛んで行った女の子。フェイトちゃんの親のプレシア・テスタロッサ。だけど、白崎はまだ情報を持っていそうだった。もう少し薬を多く投与しておけばよかったわね)

 

 様々な思考をしていた忍さんは一度俺の方を見て、ふんっと鼻を鳴らしながら俺の肩を掴んだ。

 

 「…裕君。私達の盟友になってくれてありがとう。すずかが大変そうになったら助けてあげて見た目通り人間関係は苦手にしている子だから」

 

 「わかりました。月村さんを全力でサポートします」

 

 俺が忍さんにそう答えると、すずかが手をもじもじとしながら近づいてきて俺の服の端を掴んで小さい声で語りかけてきた。

 

 「…んで」

 

 「ん?なに?よく聞こえない?」

 

 「…名、前で呼んで。お友達なんだから名前で呼んでほしいの」

 

 少し顔を赤くしたすずかちゃんはとても可愛らしかった。このまま連れて帰りたいくらいに。いや、しないけどね。

 そんなことをしたら悪戯好きな忍さんはともかくメイドの二人と恭也さんが黙っちゃいないだろう。

 恭也さんにとって、月村さんは将来自分の義理の妹になる存在だから、

 忍さんみたいな恋人を持つ恭也さんが羨ましい。

 と、脱線したが名前で呼ぶか。でもな~。

 

 「…駄目、かな」

 

 「いや、ダメじゃないけどあのメダルトリオみたいに呼び捨てされるのは嫌だろうなと思うんだが…」

 

 「全然平気だよっ。だから、その…」

 

 「わかったよ、月村じゃなかった、すずかちゃん。これからもよろしくな」

 

 「うん。宜しくね。裕君」

 

 こうして俺は月村邸の皆と恭也さんの助力を借りることにした。

 明日はレッツダイビング。海に沈んだジュエルシードが俺を待っている。

 




 おまけ話。
 「でも、これって見た目は普通の懐中時計なのに持っているだけで本当に力が湧くのね」

 忍さんにWCCの効果を確かめさせてくれと言われたので持っていた懐中時計を渡すと、なるほどという感想を貰った。

 「一応、こんな事も出来ます」

 「ん?ソファーが?」

 「…ああ、力が抜けて、気持ちいいですぅ」

 恭也さんが座っていたソファーにWCC『治癒効果とリラックス効果』をつける。すると恭也さんの顔にしまりが無くなって来た。一緒に座っていたファリンは見るからにだらけきった顔をしていた。
 ソファー自体もバニングスさんの書斎にあった物と同じくらいのレア度であったため結構なカスタマイズが行えた。

 「…これは使えるわね。ねえ、裕君。このリラックス効果のあるソファーなんだけど屋敷中にかけてくれない癒しと防犯の効果をつけて欲しいんだけど」

 「それは無理。というか駄目です。一応、俺にもパトロンがいますし、そちらの方の意見も聞かないといけません。たとえ許可が出てもWCCをただでやってしまうのも、使うのも対価を払ってからにしてください。でないとお互いの為にならないです」

 「ちなみにパトロンって、誰かしら?」

 「バニングスさんです」

 「…く、表の方で力がありすぎるわ」

 「怖い事を言わんでください忍さん。裏からもやめてくださいよ」

 怖い事を言いだす月村忍にビビった裕は思わず距離をとってしまった。
 後日、バニングスさんから許可を貰ってサファイヤの指輪を貰う代わりに、忍さんの腰かける椅子に癒し効果を付属する邪神様だった。



 貴金属には勝てなかったよ。



 金目の物には弱い邪神様であった。



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第十四話 ボッチだった邪神様

 暮れる夕日。煌めく水面。海に浮かぶボート。紫色の髪の少女。

 それだけで一枚の絵画とも思える風景に混ざっている青い顔の邪神。

 

 「うあああ~、き、気持ち悪い」

 

 「裕君大丈夫?」

 

 女神誕生の絵画の背景にムンクの叫び混ぜた感じの台無し感がいっぱいの光景である。

 白崎から引き出した情報から海鳴市の海の中にジュエルシードを回収するために月村忍が所有するボートで海に出た裕とすずか。メイドの姉妹に高町恭也と月村忍の六人でジュエルシードをサルベージすることになった。

 

 「なんでメダルトリオは回収していないんだよぉおお」

 

 「見せ場だったからじゃないかしら。結構大きな現象が起きるから、それを収める場面をなのはちゃん達に見せたかったんじゃない」

 

 船酔いした裕のぼやきに忍がツッコミを入れる。

 だが、裕としてはジュエルシードを素早く回収して無用な事態を引き起こさない方が、好感度が上がると考えていた。

 少なくても船酔いでダウンしている邪神に対してなら好感度が上がること間違いなしだ。

 ボートに乗り込んでいる全員にWCCで生命維持に特化させたダイバースーツに着込んだ後に船酔い止めの効果をつければよかったと裕が思い直していると恭也とメイドのファリンが海に潜る。その二人に続いて裕も潜る。

 基本的に裕は常に潜り続け、残る二人がサポートを行う。

 ボートの上では残った三人は何があってもいいように待機しておく。

 海底までは六メートル弱で素潜りでもなんとか行ける距離である。

 裕は海底に手を触れて一度、その周辺をグループアイテム化してデータを取り、一度浮上してからそのデータ上にジュエルシードが無いかを探す。

 一度にグループアイテム化できる範囲は限られているので、あらかじめ準備していた海図にマークを施しながら探索を続ける。

 探索から一時間ほどで日が沈むので一日で捜索できる範囲は少ない。だが、現時点でジュエルシードを二個回収することに成功した。

 

 「ねえ、裕君。少しいいかしら?」

 

 裕は暴走要素を取り除く作業をボートの上で行っていると、忍が話しかけてきた。

 ボートの上には裕と忍。そしてファリンが残っており、残りの三人は今まで捜索した海底にGPSの設置に海に潜っていた。

 

 「なんですか忍さ、ん?!」

 

 「お、お嬢様?!」

 

 裕は暴走要因を取り除いたジュエルシードを持ってきた布袋に入れながら忍の方に顔を向けると、身構えてしまった。

 ファリンもまた身構えてしまう。

 何故なら彼女の手には黒光りする拳銃が握られていたからである。

 

 「…ごめんなさいね。でも、私はあなたを信用できないの」

 

 月村忍の人生は壮絶だった。

 生まれたころから『夜の一族』として、周囲には種族間での争い。月村の当主としての財界をくぐってきている彼女は自分を受け入れてくれた恋人でもある高町恭也とその家族しか心の底から信用できない。

 もし、裕が自分達を騙していたらと考えると不安で仕方がない。いくら、恋人の恭也と妹のすずかから彼の人柄について言質があるとはいえ田神裕を信用しきるという事が出来ずにいた。

 彼の持つWCCという異能力は見過ごすわけにはいかない。

 彼は自分の能力を包み隠さず答えた。その弱点として周りに何もなければ何もできないということも。だから、今回のジュエルシード探索を申し出た時はチャンスだと思った。

 彼の能力は脅威でもあっても何もない海の上。たとえ、海水を加工できてもそれを壁にしたところでたかが水である。銃弾を止めることは出来ない。

 

 「あなたは自分の為にその力を使うと言った。それは好感を持てたわ。誰かのために使うという事は誰かの意志でその力を使うという事にもなる。あなたは自分の力に少なからず責任を持って行動する人だと取れるもの」

 

 「…それだけじゃ駄目なんですか」

 

 裕は身動きせず忍の言葉を聞く。少しでも変な動きをすれば撃たれるかもしれないからだ。

 ファリンもまた主である忍やすずかの事を思うと彼女の行動に異を唱えにくい状況だった。

 

 「私は『夜の一族』間での争いを体験したわ。自分の身内すらも敵に回したこともある。恭也に会うまで他人が信じられなかった。それは今でもそう。一族間の争いだけじゃなく月村と言う財閥はね、その資産からも色んな人達から狙われているの」

 

 「…お金ですか」

 

 「だからね。裕君。あなたも月村のお金欲しさで近付いたのかもしれないと思ったの。そして、二年前になのはちゃんやすずかに近付いたのかもしれないと考えたのよ」

 

 「俺の力があれば大抵の物は作れるんでお金はそんなにいらないと思うんですけど」

 

 「そうね。あなたにはその力がある。だからもう一つの可能性があるんじゃないかって思うの。それはすずか。なのはちゃん達自身よ」

 

 「なのはちゃん自身?」

 

 裕はその言葉の意味が分からない様子で聞き返す。

 

 「白崎と言う子。いえ、子と言うには不適格ね。あの白崎と言う人間は前世の記憶を持っていたわ」

 

 「…はい。そうらしいですね」

 

 だからこそこうやって海の上まで来てジュエルシードを集めることが出来ている。

 

 「なのはちゃん達は将来美人になる事が確定していて、彼女達との逢瀬を楽しみたいがために近づいた。そう、白崎は答えたのよ」

 

 彼女達の未来像を白崎は知っていて、それを手にする為。いわばハーレムを作るために近付いたとも喋っていた。

 

 「…裕君。貴方にも前世の記憶はあるんでしょう。子どもにしてはあの状況で大人しすぎるし、今この状況でも私と話し合っていられる。普通の子どもじゃできない事よ」

 

 「…まあ、そうっすね」

 

 「あの子の姉としてはそんな邪な心を持っている人に近付いてほしくないの」

 

 邪神の力を持っている裕は何と答えたらいいか迷っていた。

 だが、忍の言う事もわからないでもない。

 今まで様々な人間関係で戦ってきただろう彼女にとって裕の存在はかなり危険視されてもおかしくはない。他人を信用しきっていれば彼女はもちろんすずかも今この場に居なかったかもしれない。

 自分のたった一人の妹がそんな輩が近寄ってきたら警戒するだろう。

 

 「あなたの事は調べた。普通の家で普通の親の間に生まれたただの少年。だけど、その能力。そして、この世界の未来を知っているかもしれない人間。すずかやなのはちゃんに近付いてきた貴方をそう簡単には信用できないの」

 

 「…どうすれば信用されますかね?」

 

 「あなたがすずかの伴侶になってくれると言うなら信じたかもしれない。だけど、それ自体が狙いですずかに近付いたというのなら私はあなたを許さない」

 

 裕は忍の言葉にはっきりとした意志を持って答える。

 

 「確かに俺には前世の記憶はあります。が、この世界に関する記憶はないですよ。それに似たような、それこそこの世界で放送されているアニメやマンガみたいなサブカルチャー的な物です」

 

 「信用できないわね」

 

 「そうですよね。俺だって立場が違えばそう答えますし…」

 

 裕は困った顔をして忍の次の言葉をまっていたが彼女は拳銃を向けたまま喋らない。

 

 「じゃあ、俺にもう一度、催眠をかけますか。勿論、WCCの影響が出ないよう全裸で催眠術をかけてそれではっきりさせましょう。俺自身、どうしてなのはちゃん達に近付いたか分からないですし…」

 

 「分からない?」

 

 「俺はただなのはちゃん達と馬鹿騒ぎが出来ればよかったと考えていますが、もしかしたら自分でも気が付かないうちに下種な感情があったかもしれません。もし、そうなら忍さんが言う通り記憶を消したほうがいいかもしれません」

 

 さあ、ばっちこい。

 と、言わんばかり裕は腕を広げて忍の出方を待つ。もしかしたらそのまま拳銃で撃たれるかもしれないのに、だ。

 

 「貴方はどうしてそんなに捨て身で挑めるのかしら?」

 

 「少なくても俺をどうこうしようものなら、すずかちゃんが黙ってないでしょうから」

 

 「あら、えらくあの子を信用しているのね。あの子がそこまで貴方に好意を感じていると思っているのかしら」

 

 「少なくても友達関係。…ぐらいには思っていますよ」

 

 「…そう。なら遠慮はしないわ」

 

 いつの間にか変わっていた赤い瞳で裕に近付いていく忍。ファリンはそれを止めることも進めることも出来ずにハラハラと状況を見守っていた。

 裕は何があっても受け入れるつもりだった。

 自分が行ったように馬鹿騒ぎがしたいだけかもしれない。だけど、なのは達の将来性を考えてみると確かに美人になるだろうとも思った。もしかしたら忍の言うように邪な心があったかもしれない。

 これで記憶を消されたとしてもそれは彼女達にとってはプラスであるし、そんな下種な自分の考えを止めてくれた忍にさえも感謝する。

 ただ一点。裕は消してほしくない記憶がある。それは…。

 

 「あ~、一つお願いがあるんですがいいですか?」

 

 「なにかしら?」

 

 「すずかちゃん達との記憶は消しても『イエーガーズ』との記憶は消さないでください」

 

 裕は前世。いわゆるボッチだった。

 他者とコミュニケーションをうまくとることが出来ず、死ぬ寸前まで『友達』と心から言える人間がいなかった。

 それが今の自分にはある。

 一緒に何かをやり遂げる為に共に進んでくれる。共に行動できる。共に笑っていける友人達が多くできた。

 その記憶を失いたくはない。

 そう伝えると忍は怪訝そうな顔をする。

 

 「あなたの記憶。下手したら前世の記憶も消えるのよ。WCCという力の使い方も失ってしまうかもしれないのに、それでもいいの」

 

 裕は笑ってそれに答える。

 

 「当然でしょ。ボッチは友達と言ってくれる人と言える人にはなんだって出来ますから」

 

 だから、裕はなのはにサッカーをしようぜと声をかけた。

 アリサの横暴と思える初対面時にも笑って過ごせた。

 月村の家に監禁され、殺されると誤解していた時もすずかが友達だと言ってくれたから全てを許せた。

 もしかしたら凶悪な犯罪者に友達を言われたら手を貸すかもしれない。だけど、最初に友達になれたのはなのは達で、後に『イエーガーズ』になる子ども達だった。

 ボッチだからわかる彼等とのつながりは何よりも価値がある。

 それはなのは達との思い出もそうである。

 彼女達との記憶が消えるのは悲しいが、裕には『イエーガーズ』という繋がりが残されているから平気だと考えていた。

 

 「何でもできるという事は私達の敵にもなるという事ね」

 

 「敵にならないように奔走も出来ます。説得も出来ます。何でもできます。なぜなら…」

 

 裕は言葉を切って忍におもいっきりの笑顔を見せつけた。

 

 「俺は邪神様ですからね」

 

 そう言うと裕は意識を手放していった。

 

 

 

 夜。

 月村忍は屋敷に戻ると同時に裕に謝った。疑って悪かったと、ひたすら頭を下げていた。

 お詫びに屋敷で御馳走をふるまうとか、高品質の下着(男子用)や服、装飾品。自分に出来る事なら何でもするとまで言い出す彼女に引いてしまう裕だった。

 妹のすずかやメイド姉妹。高町恭也がそれを制しに来ると思いきや、彼女達もまた裕と忍のやりとりをボートの裏側でこっそり聞いていたらしく全面的に裕側についていた。

 とりあえずここは退いてもらおうと、裕は最初の方は忍に顔を上げてもらおうとしていたが、ぷりぷりと怒っているすずかの顔を見て、ふと悪戯心が出てきた。

 にやりと思わず口角が上がった裕を見て、嫌な予感がしてきたすずかは謝っている忍を止めようとしたが、一歩遅かった。

 

 「それなら、すずかちゃんのチューで手を打ちましょう!」

 

 「裕君?!」

 

 忍は一瞬、何を言われたか分からなかったが、裕の実に邪な顔を見て彼の意図を読み取った。単にすずかに悪戯がしたいのだろうと。

 邪神が今最も欲しているのはこういった『友』とのじゃれ合いなのだと。

 

 「ただのチューじゃない!クラスの皆がいる教室でのチューを求めます!ブルーレイでの録画付きで!」

 

 「…く、それだけの事をしたから仕方がないわね。…了承したわ」

 

 「本人の意思確認なしに了承されちゃうものなの!?というか、恥ずかしくてできないよ!」

 

 「その『み、皆の前じゃ出来ない。で、でも約束だし…』と悶えているすずかちゃんのチューが欲しいんだ!」

 

 「悪趣味だよ!」

 

 まさか自分に矛先が向かうとは思わなかっただろうすずかは思わず裕と姉を問いただすと、姉のいかにも残念そうな顔と裕の満面の笑みで返される。

 

 「大丈夫よ。すずか。彼もそこまで酷い人じゃないから…。それにチューの種類まで問われていないからきっと優しいチューで済むはずよ」

 

 「激しいチューでも俺は一向に構わない!」

 

 「私が構うよ!」

 

 邪神が作りだし空気にすずかを除いた全員が和みだした。

 所詮吸血鬼が作り出したシリアスなど邪神の手にかかれば和やかになる物だと、見ている者はそう感じていた。

 

 「舌を入れてもいいぞ!」

 

 「だからしないってば!」

 

 そんな吸血鬼の少女と邪神の少年のじゃれ合いを二つのジュエルシードが静かに映し出していた。

 

 



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第十五話 邪神様、君に決めた!

 最近、アリサの不機嫌ゲージがグイグイ上がっている様子。

 お昼休み時間に珍しくイエーガーズの数人となのはちゃん。すずかちゃん。俺。のメンツが揃って短くも楽しいひと時なのにアリサの不機嫌ゲージが上がっていく。

 この調子でボルテージが上がりつつ攻撃力が上がるなんてないよね。

 我慢だ。我慢。ステイ、ステーイ。

 

 アリサは我慢している。

 

 その我慢が解き放たれ、俺に向かない事を祈るばかりだ。

 いつものようにメダルトリオに追いかけられつつも、イエーガーズの協力もあって逃げ切れつつあるのだがなのはちゃんは上の空だし、すずかちゃんはジュエルシード探索に付き合ってもらっているからか、幼馴染からはぶられているように感じているのだろうか。

 かという俺もジュエルシードを探しているからアリサとなかなか遊べていない。

 そんなイライラが溜まっている様子になのはちゃんとすずかちゃんは気が付いているようだけど、ジュエルシードの事を迂闊に喋れないからアリサの質問をうまくかわして、お昼ご飯後の歯磨きをするためにその場を後にする。なのはちゃんは少しあわあわしていたけど…。

 このままだと喧嘩になりそうだったが、『イエーガーズ』と俺がいるから我慢しているアリサは体をプルプルと震わせながらもお弁当箱を片付けている。

 メダルトリオは女子ならともかくアリサ達と遊んでいる男子に喧嘩を吹っ掛けまくるから自然と周りの男友達がいなくなる。根気強くというか、遊べている男子の殆どが『イエーガーズ』のメンバーである。

 前世ボッチだった裕にしてみれば望外な友人の数だが、その友人達と会うたびに喧嘩が起こるのは結構ストレスがたまるのだろう。実際俺もそうだし…。

 ほら、こっちの視線に気が付いたアリサが無言で睨みつける。

 

 アリサの睨みつける攻撃。

 裕は逃げられない!

 

 壁際に座ってお弁当を食べていた俺に追いかぶさるように、そして逃げ出さないように壁に勢いよく手をつく。

 これが噂の壁ドン。…ドキドキしちゃう。

 アリサの意志が強そうな瞳、彼女の息遣いの音、自分の心臓の音すらも聞こえちゃうじゃないかと思うその距離。そして、鼻を貫かんばかりの痛みと鉄の匂いがぁ?!

 

 アリサの鼻フックの攻撃。

 裕はアリサと向き合った。

 二人の間にラブコメの空間なんて生まれなかった。

 

 「裕!最近あの二人付き合い悪いわよね!そうよね!」

 

 アリサから俺への対応はどうなのだろう?

 鼻フックされたお蔭で鼻から鼻血がドバドバと出てくる。

 同意の言葉も反対の言葉も発することが出来ない。イエーガーズの皆も巻き込まれるのはごめんだとそそくさと自分達の教室帰ってしまうし…。

 

 「ハアハア言ってないで何か言いなさいよ!あんた何か知っているんでしょ!」

 

 お前に鼻を潰されたから口呼吸しか出来ないんですけど?!

 お、俺、ロリコンじゃないし…?

 

 「いや、二人共たまたま都合が悪かったんじゃねえの?俺だって『イエーガーズ』の皆と毎日遊べるわけじゃないし」

 

 そう言えば、今度の休みにポケモンバトルをする約束もしている。

 初代のポケモンはやっぱりいい。151匹だけでいいよ、ポケモンは。この世界ではまだ続編が出てないから151匹のままだが、次世代が出る事を考えるとお小遣いも溜めないとな~。

 ちなみに主力はピカチュウ。フェイトと出会ったその日からカラーリング的に合っていると思う。ニックネームもフェイトにしている。

 フェイト!メガトンパンチだ!

 似合わないとか言うな。データリセットしてから、まだ『いあいぎり』を手に入れてないんだよ。

 

 「~~~。…悪かったわよ。八つ当たりして」

 

 アリサはプルプルと震えていた拳を下ろして俺に謝る。というか、殴るつもりだったのか?バイオレンスなお嬢様になったものだ。

 

 「私はあんたになら素の自分をさらけ出せるし、なのはだって、きっとすずかだってあんたになら何でも話せると思うの」

 

 肉体言語は御免こうむりたい。

 

 「だから、あんたが知っているかもと思っていたんだけど」

 

 「…まあ、元気出せ?俺は『イエーガーズ』の皆とポケモン大会をするから今度の休みは遊べないけど」

 

 「…私も参加させなさい」

 

 「いいけどレベル制限つきでレベル上限50までだぞ?」

 

 「上等よ。私のアズマオウの冷凍ビームで一網打尽にしてやるわ!」

 

 あ、この調子だとアリサはバッジ全部手に入れているかも…。

 とにかく元気を出してくれたアリサの頭をポンポンと叩きながら俺達も教室に戻ることにした。

 

 

 

 放課後。

 俺はピカチュウ。ではなく、フェイトにジュエルシードを渡すためになのはちゃんの両親が経営する翠屋でのんびり過ごしていたら橙色の髪をしたお姉さんがフェイトと一緒に現れた。

 む。おっぱい大きい。あ、そんなに睨まんでください。

 てか、このお姉さん店に入る前からイライラしてないか?

 

 「…あんたがフェイトの言っていた協力者かい。ふん、どこにでもいそうなガキだね」

 

 「駄目だよ、アルフ。一応、彼は協力者なんだから」

 

 …おう、いきなりディスられたよ。

 高町道場に通っているからそこらへんにいる子どもに比べたら体力はある方だと思うんだけどな…。

 そしてピカチュウ。一応ってなんだ。一応って。俺達のきずなはそんなにそんなに薄っぺらい、物でしたね

 まあ、ここは俺の実力。というか成果(月村家の支援+ダイバーの免許を持っていた恭也さん)を見てもらおう。

 …俺だって、貢献したし。WCCで貢献したし。

 

 「とりあえず、三個。暴走要素は取り除いているからそのまま持って行ってもいいよ」

 

 「三個も!…あんた何者だい?」

 

 「邪神だよ」

 

 「邪神?」

 

 「言ってみたかっただけだ。気にするな、ピカチュウ」

 

 「私は電気ネズミじゃないよ」

 

 お前もポケモンやっているのか!…意外だ。

 

 俺が手に入れたのは、家に落ちてきたジュエルシードが一個。公園で拾ったのが一個。サッカーのキャプテンから一個。海で拾った物が二個。

 そのうちの一個はフェイトにとられたから四個なんだが、一つは探索用のサンプルとして持っておきたいと言っておく。

 ふと、フェイトの手に包帯が巻かれているのに気が付いた。

 

 「その手、どうした?」

 

 「あなたには関係な」

 

 「ある。ある意味爆弾を運んでもらうんだ。万全の状態じゃないとこの三個も、残りの一個は渡さない」

 

 フェイトは苦い顔をして話そうとしなかったが、隣にいたお姉さん。アルフが事の次第を話す。

 何でもなのはちゃんが名乗りを上げながらジュエルシードをめぐった喧嘩をして怪我したらしい。

 途中で榊原と名乗る銀髪もいたらしいが手につけたドリルとともに二人の魔法の攻撃の余波に吹っ飛ばされたらしい。どこのゲッターⅡだ、お前は。

 それにしてもなのはちゃんが魔法少女になったのか。魔法少女と言えばアリサ辺りがなると思ったんだけどな。ツンデレだし…。

 

 ツンデレ。魔法使い。ペッタン。馬鹿犬ぅうう。…うっ、頭が。

 

 それはさておき。喧嘩の原因となったジュエルシードを、これまたどこから現れたのか金髪こと王城君がキラキラ光る両手剣を持ってジュエルシードに斬りかかった。

 

 ジュエルシード暴走。余波でぶっ飛ぶ金髪。お星さまになる王城。

 メダルトリオはトラブルメーカー!

 ウザイ海鳴三連星(アリサ命名)でジェットストリームアタック!

 …ロクなことにならない。

 

 慌ててフェイトが封印に取り掛かるが、なのはちゃんとの争いで相棒のバルディッシュがヒビだらけになり、仕方なくバリアジャケットで覆われているとはいえ素手同然で封印をして怪我をしたという。

 なのはちゃん。いや、目の前のフェイトもそうだが、あの鋼鉄の杖が壊れるまで喧嘩するなと言いたい。てか、ジュエルシードほったらかしにして喧嘩をしないで欲しい。

 

 「そのバルディッシュって、今持っている?」

 

 「持っていたらなんだっていうのさ」

 

 「ぱぱっと直す」

 

 「…はぁ?!そんなの無理に決まっているだろ!」

 

 「お姉さんうるさい。周りの人に迷惑」

 

 フェイトはアルフさんに俺の事は何も伝えてないんだろうか?

 俺はテーブルの上に置かれていたティッシュを一枚抜き取って、人目につかないようにWCCをかける。

 ティッシュは光と共に形を変えると、そこにはフィギュアのように作られたフェイト人形が置かれていた。

 素材がティッシュなのちょっとの風で倒れるが、その人形に折り目は無く切り取られた後も無い人形がアルフさんのところに転がっていく

 それを手に取ったアルフさんは思わず目の前にいるフェイトと見比べる。

 さすがにスカート中身までは再現できなかったがいい出来だと思う。

 

 「で、どう?バルディッシュが物である以上、俺ならぱぱっと直せるけど?」

 

 「…わかった。任せる」

 

 「フェイト?!」

 

 「今は少しでも早く戦力を整えるのが先」

 

 「う~~。あんた。変な細工をしたらただじゃおかないからね!」

 

 「俺にメリットが無いよ」

 

 てっきり、持ってきた手提げかばんの中にあると思いきやスカートから取り出した三角形の小物を渡される。

 WCCで見てみるとインテリジェント・デバイス(破損・自動修復中)と表記されていた

 とりあえず、破損したところはWCCで修復するとして…。

 

 「…これで良し。実行」

 

 二人の目の前で光に包まれた待機状態のバルディッシュは元の光沢のある形へと変化する。

 フェイトはそんなバルディッシュを念入りに調べていると、自分の体調の異変に気が付いた。

 

 「…手が、痒い?」

 

 包帯を思わず解いてみるとゆっくりとだが傷がふさがっていくのが目に見えてわかる。

 

 「一応、サービスで治癒効果を持たせた。それ以外は据え置き」

 

 フェイトは裕とバルディッシュを見比べて尋ねる。

 

 「どうして?」

 

 「一応協力者だろ。これくらいの支援はするさ」

 

 「…あんた、これだけの事をして何が狙いだい?」

 

 アルフは未だに。むしろ警戒心を強くしながら裕を睨みつける。

 正直それだけでブルってしまっている裕だが、理由はもう言ったが、それで納得しないなら今度なのはちゃんとジュエルシードを奪い合うなら彼女の話を聞いてほしいとだけ伝えた。

 

 「最後に聞きたいんだけど。…この白いジュエルシードはなに?」

 

 「エリクサーもどき。怪我をした時とか病気を患った時に早く治れ~って、思いながら強く握れば効果が出るよ。わかりやすくするために加工した」

 

 二人は怪しんでいたけど反応がジュエルシードのそれだから一応納得して、お土産にケーキを買って帰っていった。

 さて、次はなのはちゃんを問い詰めるとしますか。

 

 邪神は魔法少女になってしまった幼馴染の携帯に電話をかけることにした。

 

 




 フェイト達との会談が終わった後。
 恭也さんが店の奥からシュークリームを二つ持って現れた。

 「しかし、あんな小さい子に本当に任せていいのか?」

 「少なくても俺よりは強いですし、彼女の方にも保護者みたいな人がいるから大丈夫だと思います」

 しかし、アルフさんが終始睨んでいたからプレッシャーで本当に疲れた。
 恭也さんは俺に何かあったら飛び出してくるつもりだったらしい。

 「まあ、とりあえずお疲れ。これは俺のおごりだ」

 「御馳走になります」

 翠屋特製シュークリーム。
 庶民のお菓子とは思えないほどの代物。
 邪神の精神が少し回復した。

 「うん。これもおいし…」

 高町家長女特製シュークリーム。
 庶民のお菓子とは思えないほどの代物。
 邪神は力尽きた。

 「美由希ぃいいいい!」

 高町家長男の声が翠屋に響いた。


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第十六話 ピカチュウ≧ガンダム>邪神様


 お菓子の材料と翠屋レシピ帳でオーバーレイユニットを構築!
 現れ出でよシュークリーム!
 更にそのシュークリームにシェフ・ミユキ・タカマチをチューニング!
 シークザメイト!
 大豆から作られた日本伝統の調味料でレギオン!
 遊び心の支援によって攻撃力+8000!
 邪神の消化器官にダイレクトアタック!

 邪神「と、いう夢を見たのさ」



 

 「…攻撃力30000。…トリガーチェック。…クリティカル。…ツイントリガーチェック。…ク、クリティカル」

 

 「裕君、しっかり!裕くーん!」

 

 「…う、な、なのはちゃん?…なんでなのはちゃんが俺の前にいるの?」

 

 …あれ、目の前になのはちゃんがいる?そして、いつの間に俺は道着に着替えたの?

 俺はフェイトちゃんにジュエルシードを…。…う、お腹が。

 フェイトと話し合いをした後、原因不明の気絶によりその前後の記憶が無い。

 気が付けば高町道場で高町家族がそろって、俺を介抱していた。

 

 「む~、むむ~」

 

 訂正。美由希さんだけが正座で縛られた上に石をのせられた状態でこっちを見ていた。

 え、公開プレイ?俺、そこまでHENTAI値上げてないから分からない。こっち見るな。

 

 「まったく、あんな物を店頭に並べていたら営業停止物だぞ」

 

 「裕君も一口食べただけで意識不明の状態に陥ったんだ。これが他人だったら損害賠償もあったかもしれないんだぞ」

 

 どうやら美由希さんが作った何かを口にした俺は意識を無くしたらしい。

 それでお仕置きという訳か?

 

 「ごめんなさいね、裕君。うちの娘が」

 

 「美由希さんが俺の食べた物と同じ物を食べたら許してあげます」

 

 「お願い、裕君。お姉ちゃんを殺さないで。お姉ちゃんが吐いた物の中で死ぬのなんて見たくない」

 

 なのはちゃんが今にも泣きだしそうな表情で懇願してくる。

 そんなものを口にしたのか俺は・・・。

 というか、俺はゲーゲー吐きながら死に掛けたと。だから道着に着替えさせられたという訳ですか。

 意地でも食わせたくなった。

 

 「むむっ?!」

 

 俺の不穏な笑みを見て美由希さんがたじろぐ。

 ふはは。実は隠れ巨乳な美由希さんの口に無理矢理あの白いクリームを入れると考えただけで笑いが止まらないな。

 

 「ふへへへ~、美由希さ~ん。覚悟は出来てますか」

 

 うっぷ。まだ、胃にダメージがあるのか、口から胃液が出そうになったところを道着の袖でふき取る。

 

 「裕君、事情を知らない人が見たら通報される状況だよ」

 

 「お願いだから酷い事しないでね」

 

 高町夫妻から止められるが、邪神の俺は妥協しない。

 

 「美由希さんにはこれから一週間。自費で高カロリーの生クリーム1キログラム一気飲みで手を打ちましょう」

 

 「むむっ?!」

 

 いくらケーキ屋を営んでいるご両親の娘とはいえ、それだけの量を摂取すれば…。

 嫌がる美少女(美由希さん)に無理矢理、白いものを…。…ゴクリンコ。

 

 「そんなことをしたらお姉ちゃんが太っちゃうんじゃ」

 

 「それが狙いだからね。…大きく、太く、まあるく、育ててね」

 

 俺は美由希さんの細いウエストを見て、優しく微笑む。

 美由希さんはガクリと項垂れているが、知らんな。

 目には目を。歯には歯を。食べ物には食べ物を。

 食べ物で遊ぶのは、ダメ、ゼッタイ。

 ちゃんと食べるからには摂取してもらう。

 

 「…まあ、本題はここから。なのは。お前、俺達に何か隠してないか?」

 

 「な、なんのことかな?」

 

 恭也さんは咳払いを一つした後になのはちゃんをじーっと見つめる。

 なのはちゃんは目に見えて慌てていた。

 フェイトとの話し合いで彼女が魔法少女になったことは俺と恭也さんは知っている。

 だが、恭也さんはなのはちゃん自身から喋らせたいのか矢継ぎ早に質問を重ねる。

 

 「人目に隠れて危ない事はしてないか?」

 

 「し、してないの」

 

 「ユーノと一緒にどこかに行ってないか?」

 

 「し、してないよ」

 

 「宝探しとかしてないか?」

 

 「してない、よ」

 

 「恭也さん。ここはずばっと言っちまいやしょうぜ。この子頑固だからこうも警戒していたら喋るものも喋らないと思うし…。なのはちゃん。あと、高町さん。ちょっと家に帰りますけどすぐ戻ってきますから待っててもらえます?」

 

 俺は、WCCでシフトムーブを行う。

 シフトムーブで発生した光に驚いている高町一家の顔が見えたが、次の瞬間には自宅の庭に切り替わる。

 そのまま家に入って、自分の部屋に置いていたジュエルシードを一個持って、再びシフトムーブを行う。

 その間、一分弱だったが戻ってきた俺の姿を見て再び驚く高町一家。特になのはちゃん驚きすぎてスッころんでいた。

 

 「これ、なーんだ?」

 

 「ジュエルシード?!なんで裕君が!あっ」

 

 なのはちゃんは俺の手の中で光るジュエルシードを見て驚きの声を上げる。が、同時に自分が秘密にしていた事の一端を喋ったことに気が付く。

 

 「忍の家で見たとはいえ、何度見ても驚くな。まさか、瞬間移動もできるのか。というか、何かするんだったら事前に言ってくれ」

 

 アイテムグループ化とか、地面の入れ替えだとか説明するのは省く。

 

 「すいません。でも実際俺も不思議な力を持っていると言えば、なのはちゃんも話しやすいんじゃないですか?たとえば、魔法とか、ね」

 

 その言葉に観念したのか、なのはちゃんはポツリポツリと話していく。

 ユーノを引き取る前夜に家を飛び出してユーノと一緒にジュエルシードの変異体を封印したことから始まり、あちこちで起こった異変に人知れず一人と一匹で解決してきたそうだ。

 おずおずと出てきたフェレット。ユーノが人の言葉を喋った時は高町家と一緒に俺も驚いた。

 なんでもユーノは考古学者の一族でジュエルシードを発掘したまではいいが、手に余る代物だったので時空管理局にそれを搬送したがふとした事故により、この世界。海鳴の街にジュエルシードをばら撒く事態になったと伝える。

 そんな事情を察して、魔法の力に目覚めたなのはちゃんがジュエルシードの回収を買って出た。

 当然ご両親は激怒。とは言っても怒鳴る方ではなく、言い聞かせるようになのはちゃんを叱る。桃子さんにいたっては危険な事をしている娘にもしもの事があったらと涙目で叱るからなのはちゃんも泣いてしまった。

 そして俺も…。…子どもは涙腺が弱いね。

 

 「そこにフェイトが乱入してきた。と、」

 

 「…フェイト。て、もしかしてあの女の子の事?というか、何で裕君がジュエルシードを持っているの!?それにさっきの光は何?!なんで私が知らない所であの子と知り合いになっているの!」

 

 「家に落ちてきた。邪神の力。運命。それはデスティニーだったんだよ」

 

 「訳が分からないよ?!…というか、裕君も魔導師なの?」

 

 「いや、魔法は使えないよ。俺が使うのは神技っていう。邪神技。物体に干渉する魔法?とでも言えばいいのかな?」

 

 魔法と神技。この差は一体なんだろうね?

 俺の場合は干渉する物が無いと何もできない。対して彼女達の場合、道具も何もなくても訓練次第で攻撃性のある光りの弾。光の鎖で相手を捕縛することが出来る分なのはちゃん達の方に万能性がある。

 

 「魔法じゃないの?」

 

 「たぶんね。だって俺魔力を感じることなんて出来ないし、ユーノの念話?だっけ。それ聞こえないもん」

 

 「…うん。僕も彼からは魔力を感じないよ。でも、魔力とは違う波動?見たいのは感じ取れるよ。なんだか、何と言えばいいかな。なんとなく警戒していないといけない気分になるような気配が?」

 

 もしかして神技の波動だろうか?それが原因で犬猫に嫌われているのかな。

 しかし、これからどうしたいいものか。

 俺はフェイトと協力関係にある以上なのはちゃん達の敵になるわけだし…。

 

 「なあ、ユーノ。これって、本当にお前が落としたジュエルシードか?似てる何かじゃなくて…」

 

 「いえ、これは僕達が発掘したジュエルシードです。ちゃんと刻印もされてますし…」

 

 「ゆ、裕君。とりあえずこれはユーノ君に渡してくれないかな?」

 

 「う~ん。それなんだが、俺はやっぱりフェイトが持っていた方がいいんじゃないかと思うんだ」

 

 「どうして!?」

 

 「なんかフェイトの方が鬼気迫っている感じがするんだよ」

 

 ユーノには悪いが心情的にはフェイトの味方をしたい。

 そりゃ、ユーノが回収したいという理由も原因もわかるが、なんというかそれも含めてフェイトの味方。というか、フェイトを信じたいのか?

 

 「それに俺はフェイトの協力者だしね」

 

 まさにタッチの差だともいえるか。

 でも、ジュエルシードはユーノの物だし…。

 

 「でもジュエルシードが危険な物であることは変わらないんです!しかるべき場所に保管しないと!」

 

 「うん、それは俺も何度も体験している。猫や猪が巨大化して襲い掛かられた。だからこそ、ユーノ。お前はこれをそのしかるべき場所まですぐに持って行けるか?最悪、この町に被害が出ない所に持って行けるか?」

 

 「…それは」

 

 頭を下げてしょぼくれているユーノを見て俺は慌てて言い直す。

 

 「別に責めているわけじゃないんだぞ?俺はこの町に被害が出ないようになればそれでいいんだ。お前だって最初は自分一人でどうにかしようと頑張っていたんだろう」

 

 「…はい。それでも僕に力が足りなくて、なのはを危険な目に会わせたのも僕が原因だし」

 

 今までの事を振り返ってみる。

 ユーノは負傷しているから直接的な戦闘は出来ない。だからなのはちゃんが代わりにジュエルシードを対応している。

 

 「…なあ、ユーノ。お前、怪我で戦えなくなったんだよな?」

 

 「…はい。後は魔力が回復しきれれば、なのはがジュエルシードで危険な目に会うのは無くなると思います」

 

 「駄目だよっ。ユーノ君。私にだって出来るんだから一緒に「なのは」、お母さん?」

 

 なのはちゃんがユーノの言葉を遮り、それを止めようとしたが、それを母親である桃子さんが止めに入った。

 

 「お母さんはなのはが危険な目に会うのは嫌よ。なのはがユーノ君を心配するように私もあなたの事が心配なのよ」

 

 「…で、でも。私も」

 

 「なのは。父さんも母さんに賛成だ。なのはが危険な目に会うなんて考えたくもないよ」

 

 「それでも私は…」

 

 なんだか親子で話し合っているところで申し訳ないとは思うんだが…。

 俺いらなくね?この場に居なくてもよくなくね?

 まあ、出来るだけのサポートをしてからこの場を去るとしようかな。

 

 「…ユーノ。…ユーノ」

 

 「はい。なんですか急に小さい声で?」

 

 「インなんとかっていう魔法の杖?道具を持ってきてくれないか?」

 

 「インテリジェント・デバイスです。たしかなのはの部屋においてあると思いますけど、どうするんですか?」

 

 「フェイトの話だとそっちの方も壊れているんだろ?だから俺が直そうかと思ってな」

 

 「…え?裕さん、デバイスマイスターなんですか?!」

 

 俺達がデバイスだ!わけわからん。

 

 後で聞くがデバイスという魔法の道具を作ったり、直したり、改修する技師の事を指すらしい。

 まあ、俺の場合WCCという反則技で直すんですが…。真剣にデバイスマイスターに勤しんでいる人達に何だか申し訳なく感じる。

 それはさておき、なのはちゃんがご家族(姉放置)と話している間にユーノが持ってきたひびの入った赤い宝石を手に取る。

 とりあえず、元のデータを見て壊れているところを修復。一応、元のデータを見ながらフェイトのバルディッシュに施したように治癒効果をつけておく。

 他にも防御力とか俊敏力を付加すべきか悩む。

 だって、今の状態でも大砲の弾の直撃を喰らっても無事でいられるほどの防御力。これをさらに強化したとなると、まさに白い悪魔と称されたガンダムクラスの装甲を持つ防護服になってしまう。いや、空も高速で飛べるからユニコーンガンダムか。デストロイモードが無い事を祈る。

 そんな機能があったらフェイトが涙目になるのは免れない。

 …ちょっと、その光景も見てみたい。ほんのちょっとだよ?

 てか、治癒効果だけでもかなり嫌な光景が目に浮かぶ。

 なのはちゃんの使うインテリジェント・デバイス。レイジングハートのデータを見る限り、バルディッシュ並みに高性能だ。

 二人共も戦闘機並の機動力と攻撃力を持っている。

 

 

 

 雨あられのように降り注ぐ魔力弾という爆弾。その攻撃を受けてもダメージが回復していく少女が二人。対処のしようがなく逃げ惑う人々。

 海鳴は災厄に包まれた。

 

 

 

 リアルで災厄の邪神になりかねん。

 しかも両方に治癒効果なんかつけたら戦闘は長引き、被害は拡大する。

 サポートするとは言ってしまったが、これって墓穴に入っているのではないだろうか?

 

 「…裕さん、どうしました?」

 

 「…ん、ああ。大丈夫だよ。大丈夫」

 

 大丈夫。二人が争いにならないように説得をすれば…。最悪、俺が二人を止め…、られないよな。きっと。

 …現時点で圧倒的に戦力の開きがある。

 

 フェイト(魔導師モード)≧なのはちゃん(魔導師モード)>俺(WCCフル装備+全力警戒)≧『夜の一族』。

 

 月村家が可愛く見える。

 空戦スキルが有ると無いの差が嫌でも分かる。

 なのはちゃんとフェイトには不意打ちをしない限り勝てそうにもない。

 と、とにかく。これ以上事態が悪化しないようにしなければ…。

 

 「そうだ。裕君。君のWCCという力でなのはを守ってくれないか?」

 

 はいっ。アウトー!

 恭也さん。なんというデッドボールを投げてくれはるんや…。

 てか、なのはちゃんを止めるんじゃなかったの?

 はぁ、なのはちゃんの意志は汲み取ったですか…。

 俺の意志は…?いや、協力はするけどね?レイジングハートさんのデータを見る限りなのはちゃんをこれ以上強化した場合、誰も止めることは出来なくなりますけど、よろしいのでしょうか?

 

 「別にいいですけど、その前にこちらの映像をご覧ください」

 

 レイジングハートと高町家のテレビをお借りして、フェイトとなのはちゃんが戦い、出る被害予想を皆に見てもらったところ、なのはちゃん本人を除き全員が引いていた。

 抑止力っていうのは大事なんだよ。と、高町家が総出でなのはちゃんを説得することになる。

 あと、自分の力。WCCの事は秘匿にしてもらうようにお願いしておいた。

 

 

 

 …美由希さん?たっぷりと皆がなのはちゃんを説得している隣で生クリームを飲ませました。

 嫌がっているところを無理矢理飲まされている姿はエロかったです。

 下種な考えがばれたのか、なのはちゃんに怒られました。

 

 邪神だから邪な考えをしてもいいじゃない。

 



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第十七話 裸の邪神様

 本日で三回目になるジュエルシードをサルベージすることになった俺達は港町の一角で今回のサルベージの打ち合わせをしていた。

 以前と違うのはなのはちゃんとユーノ君。そして、アリサがついて来た。

 すずかちゃんは俺の協力者兼出資者の妹兼ダイバー。

 なのはちゃんはジュエルシードを回収しに行くと聞いてついて来た。

 そんな二人について来たアリサ。寂しかったんか?

 

 「で、あんた達。こんな海に来て何しようとしていたの?」

 

 いざ、出港。というタイミングで現れたアリサは俺に食ってかかる。

 なのはちゃんは意外と頑固だし、すずかちゃんは質問を煙に巻く。俺、ちょろい。

 うん、自分でもこの意志の弱さをどうにかしたいとは思っています。

 

 「ダブルデート!」

 

 「「「・・・・・・・・・」」」

 

 「あ、はい。嘘です。宝探しです。だから真顔で見つめないでください。ゾクゾクします」

 

 自分調子のっていました。

 

 「で、本当の事を言いなさい」

 

 「いや、だから宝探しだって」

 

 「ふざけないで!」

 

 「いや、ふざけてないって。ほれ、これ」

 

 俺は怒鳴るアリサにジュエルシードを見せるが事情が分からない彼女にとって石ころを見せつけられているにすぎない。

 

 「何なのよ、それ!」

 

 「何なのよ、それ!と聞かれたら、答えてやるのが世の情「言わせるかぁあ!」けぼぉ?!」

 

 なんなのっ、鼻フックの次はボディーブロウとか。肉体言語がセレブの中で流行ってるの?!せめて最初の一節くらい言わせてよ!

 アリサの拳が引き抜かれると同時に非難じみた目線を浴びせようとしたが、アリサの顔を再び見ると涙目のアリサが見えた。

 

 「…なんなの。みんなして私だけをのけ者にして!教えなさい!教えなさいよぉ…」

 

 最後の言葉尻は涙声になって消えそうになるくらいに弱々しい声だった。

 このまましらばっくれるとアリサはこれから先ずっと話しかけても返してきそうにないかもしれない。

 なのはちゃんとユーノには魔法の存在は秘密にするように言われた。

 すずかちゃんと忍さんからも『夜の一族』の事は秘密にされている。

 だから、喋れるのは自分の事。邪神の事だけだ。

 

 「…アリサ」

 

 「…何よ」

 

 「じっとしてろよ」

 

 「…え?」

 

 WCCの光が裕とアリサを包み込む。

 その光が収まると、海鳴の街が一望できる空の上に二人はいた。

 正確には透明な灯台を作り上げて、そう見えるようにしただけなのだが、裕以外の人間が見れば二人がいきなり空に浮かび上がっているようにも見えるだろう。

 

 「え、え、えええええ?!」

 

 「一応、これ秘密兵器だったんだけどなぁ」

 

 一応見えないだけであってちゃんと地上に続く階段も落ちないように手すりも完備されている。窓だって開いてはいるが、人が間違って落ちないように格子もつけている。

 これを使って敵の攻撃を防御したり、見えない巨人のパンチをお見舞いする『見えないシリーズ』。

 いくらフェイトでも、これを一見で見抜くという事はないだろう。

 そして、『見えないシリーズ』のもう一つの利点。それは、

 

 「下から見たらアリサのパンツ丸見えだな!」

 

 「アホかぁあああっ!」

 

 いつものキレのいいツッコミ、ありがとうございますアリサさん。

 空に浮いていると感じる異常事態にもかかわらず、俺のボケに突っ込みを入れるアリサは冷静さを取り戻しているだろう。

 さて、地上に戻りますか。

 一応、シフトムーブで地上に降りてから透明な灯台の元になった素材も元に戻す。

 

 「あーあ、これであそこにいた俺達の写真を見られたらバニングスさんに情報操作してもらってもみ消してもらわないと…。いや、忍さんにお願いしようかな」

 

 アリサにはさくっと俺の持つWCCの事をばらす。

 その能力でジュエルシードと言う危険物があちこちに落ちているという情報をある人(フェイト)から教えてもらい、それの回収作業を行っている。

 忍さんと恭也さんにはその協力をお願いしている最中ですずかちゃん。なのはちゃんにばれたと伝える。嘘は言っていない。

 

 「…なんでよりにもよって私のパパが第一目撃者なのよ」

 

 「バニングスさんじゃなかったら俺はお前と会わなかったかもしれないぞ?」

 

 「ううぅ、納得いかない」

 

 魔法の事。『夜の一族』の事は言っていない。というか、WCCの事だけでアリサはお腹いっぱいだろう。

 

 「じゃあ、私と遊べなかったりするのって…」

 

 「まあ、ジュエルシードが原因かな」

 

 「…でも、なんで私が最後なのよ」

 

 そこに文句を言われても困る。

 と言う訳でボートに乗りこむ。俺、すずかちゃん、忍さん。メイドズ。恭也さん。そして、なのはちゃんにユーノ。アリサ。

 

 「なんでアリサちゃんも乗っているの?」

 

 「そのまま返すわ。回収作業って、ダイビングでしょう?運動音痴のあんたが乗っていたら危ないんじゃないの?私は一応経験有るから手伝おうと思っただけよ」

 

 「いやいや、二人と一匹も降りろよ。すずかちゃんは二人よりも運動神経いいからいいとして、俺のWCCで強化したダイバースーツは五人分しかない」

 

 「私の分もすぐ作りなさい。予備ぐらいあるでしょ」

 

 のしのしと船に乗り込んだアリサは船に掛けていたダイバースーツをあさりながら自分に合うスーツを手に取る。

 

 「これは私が着るから」

 

 「それ、俺の」

 

 「あんたはこれを着なさい」

 

 「ショッキングピンクは勘弁してくれ」

 

 「さっきの透明な灯台みたいにすればいいじゃない」

 

 「つまり、透明なダイバースーツを着てなんちゃってストリートキングになれと」

 

 「着たければ着ればいいじゃない」

 

 嫌だよ。邪神にしか見えないスーツを着るのなんて。

 

 「ふ、二人共置いてかないでぇえ、私も乗るぅう」

 

 結局、七人と一匹で海に出ることになった。

 ショッキングピンクは着ていない。

 船の上でダイバースーツを着ることになるので必然と着替えイベントが始まる。

 

 「…すずか、またおっぱい大きくなった」「えっ、そうなの?」「ちょ、そんなこと言わないでお姉ちゃん」「…すずか、あんたちょっとずるいわよ」「うわ、本当だ。私の胸より柔らかく感じる」「なのはちゃ、ちょ、くすぐったい」

 

 と、女性陣が話している間の男性陣はというと…。

 

 「恭也さん!離してください!幼馴染の成長をこの目で確かめないといけないんです!」

 

 「いやいや、そんな事を言われて離す恋人で兄ではない。というか、なのは達に興味があるんだったら今までWCCで見ようと思えば見れたんじゃないのか?」

 

 「このシチュエーションが大事なんですよ!」

 

 「なんだ、その訳の分からん美学は?」

 

 色々な騒ぎがあったもののジュエルシードを二個発見、回収に成功した。

 

 

 

 そして、邪神が雷と共に現れた女性に攫われた。

 

 



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第十八話 邪神様は最高だぜ

 「いきなりこんな真似をしてごめんなさい。まずは謝罪の言葉を受け取って欲しいわ」

 

 「いや、いきなり土下座されても…」

 

 「あなたのいる世界ではこれが最上級の謝罪の形だと聞いているわ」

 

 「いや、まあ、うん。そうだけどさ、そもそも誘拐なんてしなければよかったんじゃないかな?」

 

 それでも雷が落ちた所から俺がUFOキャッチャーの如く、サルベージされる光景を見ていたなのはちゃん達は何を思っただろうか?いや、雷の光で何も見えなかったかも…。わずか五秒での出来事だからな…。

 で、今現在ドラクエの魔王の間というにピッタリな空間にフェイトの母親であるプレシアさんと話し合っている。

 

 「フェイトの話だともう少し落ち着いている感じだと思っていたけど、…いえ、なんでもないわ」

 

 「俺をどういう風に伝えたんだ?」

 

 それにしても金髪なピカチュウと似ていると言えば、そのきわどいバリアジャケットとかいう防護服か?

 それにしてもこの大部屋、滅茶苦茶広いな。

 

 「ところでなんで俺を拉致するような真似を?」

 

 「あなたの力を貸してほしいからよ」

 

 「こんな真似をされて力を貸すとでも?」

 

 「思っていないわ。だけど、あの場ではそうするしかなかった」

 

 「あの場?」

 

 「時空管理局よ」

 

 なんぞそれ?

 

 

 

 なのは視点。

 

 裕君が海から上がってくることなく途方に暮れていると空の上から異様な気配を感じた。だけど、それはしばらくすると消えてしまう。

 そんな時、レイジングハートからメッセージが二つ届けられていると告げられた。

 

 『邪神の少年は預かっている。危害は加えない。しばらくしたらそちらに返す。ただし、邪神の事を管理局に伝えるな。プレシア』

 『時空管理局より。スクライアの一族からの要請により現地に到着した。そちらからの連絡を待つ』

 

 管理局と言うのはユーノ君曰く、魔法世界の警察らしい。

 魔法の事は裕君が黙っていてくれたけど、これはもう黙っているわけにはいかない。

 とりあえず、私は翠屋を貸し切りにして魔法の事をみんなに打ち明けた。

 ユーノ君に出会ってからこれまでの事を全て話した。

 アリサちゃんとすずかちゃんは驚いていたけど、ユーノ君の口添えもあってどうにか納得してくれた。

 

 「それで、これからどうしようか?」

 

 「僕としては管理局に連絡してほしいんだけど…」

 

 裕君の事が気がかりなのかユーノ君は管理局に連絡を入れずに迷っている。

 

 「でも、そのまま連絡したりなんかしたら、プレシアって言う人が何をするか分からないよ」

 

 「邪神。て、裕の事よね。あんな誘拐までしといて黙っていろなんてどういう神経しているのよ!」

 

 「…もしかして、プレシアと言う人は裕君の存在を管理局に隠しておきたいのかもしれませんね」

 

 私達、子どもグループが話しているとノエルさんがぽつりと言葉をこぼす。

 

 「…忍、お前ならどう考える?」

 

 「…ユーノ君。あなたは元々、その時空管理局にジュエルシードを持って行こうとしたのよね?」

 

 「は、はい。そうですけど…」

 

 「…ジュエルシードのような危険な物を預かっている。裕君の力は物体に干渉する力。この二つが合わされば巨大な力を簡単に扱うことが可能なんじゃないかしら」

 

 願いを曲がった形で叶えるジュエルシードに裕君のWCCが合わさっただけで純粋な願望機になる。

 

 「それだけじゃないわ。裕君の力があるだけでゴミ問題や原子力発電で生じた産廃処理。武器を材料さえあれば量産できる。そんな力、どんな組織でも引く手数多よ」

 

 「つまり、裕の力の事が知られたら管理局に入局させられるって言う事?」

 

 「…それも手段は問わずにね。下手したら誘拐されるかも。…少なくても私は裕君の力を手元に置いておきたいわね。ジュエルシードと裕君。二つの存在を手に入れた勢力はかなりの利益になる。そんな存在であるにもかかわらず返すと言っているプレシアという人間を私は信じてみたいと思うわ」

 

 「裕を誘拐した奴を信じるの?!」

 

 アリサちゃんは忍さんの出した答えに驚きと怒りの混ざった声を上げる。

 その隣にいるすずかちゃんは少し微妙な表情を見せていた。忍さんも何かを思い出したのか少しだけ表情を苦しそうにする。

 そんな皆を見たお兄ちゃんが咳払いを一つしてから、皆に教えるように口を開く。

 

 「…とにかく、明日は管理局とやらに接触するとしよう。俺と忍。そして、ユーノ君の三人で出向いて、残りの皆は翠屋に残っていてくれ。特になのは。お前は絶対に残れ」

 

 「え、なんで私が行っちゃいけないの?」

 

 「…お前には海鳴に残って裕君の帰りを待っていてほしい。そして、フェイトという子を探してほしい。おそらく、プレシアの関係者だろう。初めて会う俺達よりお前の方が話を聞いてくれるだろう」

 

 う、そう言われると何も言えなくなる。

 

 「あと、レイジングハートだったか?それをユーノに返しておけ。その中にあるジュエルシードの分だけでも管理局に渡すとしよう。その対応で管理局がどのような存在かをある程度把握しておきたい」

 

 「レイジングハートまで?!」

 

 「そうでもしないとお前は無茶をしそうだからな」

 

 「で、でも。それじゃあ、レイジングハートを持っていない間にジュエルシードを見つけた時、どうすればいいの?」

 

 「それは」

 

 お兄ちゃんが答えようとした、その時だった。

 

 「それは俺に任せて欲しいぜ!」

 

 銀の髪をした榊原君が鍵をかけている状態の扉を壊して翠屋に入ってきた。

 

 私のお父さんのお店に何をしてくれてイルノカナ?

 アトデユウクンニナオシテモラワナイト。

 

 

 後からメイドのファリンさんから聞いた話だが、その時の私とすずかちゃん。アリサちゃんの表情はまるで人形のように無表情で怖かったそうです。

 

 ハヤク、ユウクンカエッテキテクレナイカナ…。

 

 

 

 アルフ視点。

 

 私は今、時の庭園に設置された部屋で安らかに眠るフェイトの寝顔を眺めていた。

 いつもいつも鬼婆のプレシアに褒めてもらいたいがために頑張ってきたフェイト。使い魔という主従の関係を無しにしてもフェイトは一生懸命頑張って来たと言える。

 だけど、そんな努力は報われることなく虐待という形で返って来た時、私は思わずプレシアに殴りかかろうとしたが、それをフェイトに止められた。

 ジュエルシードの回収という危険を伴う事なんて本当ならしてほしくなかった。フェイトにプレシアから逃げようと何度も言ったけど、フェイトはそれだと母さんが一人になるからと言って逃げるという選択肢は無くなっていた。

 だけど…。

 

 「…母さん。…私、やったよ」

 

 その安らかな寝顔からは達成感に満ち溢れた寝言がこぼれた。

 ジュエルシードの回収という仕事の中で出来た協力者。ユウだっけ?

 そいつとフェイトが知り合ってからプレシアは変わった。

 正確に言うと裕から渡された白いジュエルシードをフェイトから渡されたプレシアは事の詳細を聞いた時、その白いジュエルシードを握りしめて「治せるというのなら、あの時をっ、あの時の時間を返して!」そう言いながら空いている方の手でフェイトに魔法を放とうとしていた。

 またいつもの虐待かと思い、私は思わずフェイトの前に立ってそれを防ごうとした。

 フェイトも私も間もなく訪れるだろう痛みに目をつぶっていたが、その痛みは来ない。

 ふと、目を開けてみると、驚いた表情をしたプレシアが自分の手を見ていた。

 そこにあっただろうジュエルシードは砕けて砂になっていたが、それ以上に変化があったのはプレシアの体だ。

 バリアジャケットの所為でか、不気味な雰囲気は纏っていたものの前に比べて生気に満ち溢れていた。

 疲れ切っていた顔も、細すぎた腕もまるで生き返ったかのように生気に満ち溢れていた。

 なによりも、私達を見た瞬間にプレシアは涙を流していたのだ。

 その変化の連続にフェイトも私も驚いていた。が、プレシアは涙を拭きとりながら私達の傍までやってくると、フェイトの頭に手を置いてこう言ったのだ。

 

 

 

 「よくやったわね。…ありがとう、フェイト」

 

 

 

 と、

 私は耳を疑った。あの虐待ばかりしていたプレシアがフェイトにありがとうと言ったのだ。

 隣にいたフェイトも思わずプレシアの方を見ていたがプレシアはそのまま部屋を出て行った。さらに、去り際にはゆっくり休みなさいとまで言ってきたのだ。

 プレシアがいなくなった部屋でフェイトは静かに泣いていた。

 しばらくして泣き疲れたのか、自分の部屋に戻るとすぐにベッドに倒れこむように眠ってしまった。

 ユウが直したバルディッシュのおかげでフェイトの体に残っていた虐待の傷はもう残っていない。

 あの邪神を自称する子どもには感謝するばかりだ。

 出会った時は妙な気配を感じさせたが、彼に出会わなければこうはならなかったのかもしれない。

 そう考えているうちに私もいつの間にか眠っていた。

 そして、目が覚めたら半日以上も時間が過ぎていたのでフェイトを起こして食事を取ろうとフェイトが寝ているベッドに近付く。

 

 「フェイト~、起きてー。もう、夕飯だよ」

 

 「…う~、眠いよ。…アルフ」

 

 普段はしっかりしているのに寝起きが悪いフェイトを連れて歩くようにバスルームへと向かう。

 常に湯が張っている広いバスタブが設置されているのは、この時の庭園の中で数少ない利点の一つだ。

 洗面所で未だに寝ぼけているフェイトの服を脱がせて、私も裸になりバスルームの扉を開けると、件の少年ユウがバスタブに浸かっていた。

 

 「・・・」

 

 「・・・」

 

 「・・・う~?」

 

 目と目が合うのも数瞬、先に動いたのはユウだった。

 

 「キャー、アルフさんとフェイトさんのエッチィーっ」

 

 と、からかい気味に自分の胸を抑えながら言う邪神の姿にアルフの思考が再び止まる。

 

 「…なんで、あんたがここにいるんだい?」

 

 「いや~、プレシアさんに半ば強制的に連れてこられた。あ、それからプレシアさんにいろいろと協力することになったから、ジュエルシードの探索はなのはちゃん達と仲良くやるように。って、詳しい事はあとからプレシアさんに言われると思うから、その辺よろしく」

 

 「まあ、それはいいけど。…まあ、いいか。…ありがとうね。フェイトの事、助けてくれて」

 

 「いやいや、こちらこそ、ごちそうさまです」

 

 どうしてユウがここに居るのかとか、なにが御馳走様なのかとか、プレシアに協力するのかは分からないがとにかくフェイトの敵にならないならそれでいいかと私は思った。

 

 「ところでいいんですか?お互い裸ですけど…」

 

 「あ、そうだね。ほらフェイト、シャワーを浴びて目を覚まして」

 

 「…う~、わかった~」

 

 「え?!そう言う反応!」

 

 目の前のユウは期待していたリアクションじゃなかったからか驚いてた。

 お風呂場だから裸でいるのはいいとして、そのままお湯を浴びないと風邪をひいてしまうからとフェイトはシャワーのノズルを探し、アルフはスポンジに泡をつけていた。

 

 「ほら、礼代わりにアンタも洗ってやるよ。こっちに来な」

 

 「え、ちょ、アルフさんっ、俺男ですよ?」

 

 「何言ってんだい、子どものくせに男も女も無いだろ」

 

 「いや、でも、隣にフェイトが…」

 

 「いいから背中を流させろ。これでもフェイトとリニスには上手だね。って、言われているんだから」

 

 「下は、下は自分でやりますからぁああああ!」

 

 そんなやりとりをしている間にフェイトはシャワーを浴びて眠気を飛ばした後、湯船につかると再び眠ってしまい、危うくお風呂場で溺れる寸前でアルフに起こされることになった。

 お風呂から上がってきた三人の表情はほのかに赤い顔をしたアルフ。

 湯船の中でやっと自分の状況が理解したフェイト。顔は真っ赤っかである。

 そして、最後に出てきた邪神は頬にビンタの後がついてはいたが、実に満たされた表情だった。

 

 「…全く、小学生は最高だぜ」

 

 見た目が小学生(中身は邪神で三十過ぎ)のおかげでアルフのナイスバディ―を至近距離で眺められた満足感。しかもお咎めなし。そして、顔を赤くして湯船に慌てて体を隠すフェイトの仕草に萌えを感じたからこその言葉だった。

 そう呟くユウの言葉に頭をひねるアルフと、顔をさらに赤くしたフェイトだった。

 



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第十九話 ざ・じゃしんさま

 フェイト達と風呂場で遭遇する数時間前。

 

 断固としてプレシアの依頼を断ってやる!

 邪神は鋼の意志で断るつもりだった。

 

 

 

 プレシア曰く、管理局の無理な依頼で暴発事故を招いてしまった。

 曰く、その時に娘のアリシアが事故に巻き込まれ死んでしまった。

 しかもその時に発生した事故の責任を全てプレシアに押し付けた事により、彼女は家族だけでなく、科学者としての地位と名誉まで失った。

 その悲しみを埋めるためにアリシアのクローンを作り出して、彼女を疑似的に生き返らせようとした事。

 この時点でプレシアは事故による被曝症による精神障害と身体障害。それを抑える薬の副作用でまともな判断が下せないでいた。

 それでも、アリシアのクローンとしてではなく、フェイト個人としての情も湧いて自分の娘の一人と考えることもあった。

 当時自分が使役していた使い魔のリニスにフェイトが一人で生きて行けるように教養を積ませ、逆境にも生きて行けるようにアリシアには無かった魔力を生まれ持ってきたフェイトに合った戦い方を伝授させた。

 一人の娘と母親として接しようと考えたこともあったが、精神が不安定だったとはいえフェイトに虐待してきたことは事実。しかも、使い魔という性質上、主の魔力を糧に生きるリニスをこれ以上使い魔にすることは命を縮めることにつながる。

 その為にフェイトが独り立ちするまで強くなった時期を見計らってリニスとの使い魔契約を解除することにした。それは、リニスの存在が消えることを意味していた。

 フェイトにとって、リニスは姉のような存在だった。それを奪ったともいえる自分の所業にプレシアは悔いていた。

 この時、既にプレシアはアルハザードという死者すらも生き返らせることが出来る世界があると信じて、ジュエルシードを用いてそこへ辿りつこうとも考えていた。

 プレシアは今回のジュエルシード騒動でフェイトを自分の元から切り離そうと考えていた。

 辛く、厳しく接することであるかどうかも分からないアルハザードへの道のりにもう一人の娘フェイトを巻き込む訳にもいかない。

 だけど、優しすぎるフェイトはきっと自分の無茶な旅にも付き合ってしまうかもしれない。

 だからこそ、自分の狂気に身を任せて、フェイトに辛くあたった。そうする事で自分を嫌い、離れていくだろうと思って…。

 それがプレシアにとってなけなしの愛情だったかもしれない。

 

 

 

 だが、それはある意味で無に帰ってしまう。

 裕がWCCで万能薬化したジュエルシード。

 世界を吹き飛ばす威力をそのまま治癒効果に回した結果、プレシアの体は事故に会う前の体になってしまった。

 自分の体の負担が無くなったと同時に、今までフェイトにしてきた罪悪感で涙を流してしまった。

 今更、どうフェイトと接していけばいいか分からない。だけど、これ以上彼女に辛くあたることが出来ないプレシアは、『狂気に駆られながらも愛情を』というスタイルから『狂気を演じた愛情を』というスタイルに切り替えるしかなかった。

 だが、同時に裕が加工したジュエルシードの力があればアリシアが生き返るかもしれないという思惑も湧いてきた。

 今まで無理を言ってきたフェイトをこれ以上戦わせるわけにはいかない。

 とりあえず、フェイトを休ませている間に自分が裕に接触しようと海鳴の街へと転移すると同時に自分の人生を狂わせたともいえる時空管理局も海鳴の街に来たことを知る。

 幸いな事にあちら側はまだ裕には接触していない。

 かなり無理矢理もあったが、あちらの綺麗な部分だけの先入観を付け加えられる前にこちらの事情を話して協力してもらおうと思い、プレシアはあのような暴挙に出た。

 あれは管理局への怒り。そして、アリシアが目覚める可能性を奪われるかもしれないという感情が暴走した行動なのかもしれない。

 

 

 

 「ひっぐ、うっぐ、ぶええええんっ」

 

 

 

 もうだいぶ前の段階で涙と鼻水をボロボロと流しながら話を聞いていた邪神は全力で彼女に協力することにした。

 

 

 鋼の意志?ありましたよ。針金ほどの細さで。

 

 

 つまりはバッキバキに丸め込まれたともいえる。

 裕も一応、嘘発見器ならぬ嘘発見紙(ティッシュ)をその場で作り、プレシアに今の話に嘘が無いかと尋ねた。

 嘘なら赤。本当なら青に染まるティッシュはプレシアの手の平の上で青く染まっていた。

 それを見た裕はプレシアから渡されたジュエルシードにWCCをかけてプレシアが回復したようにアリシアも回復するかもしれないと時の庭園の奥に安置されたアリシアの元へ歩いていく。

 時の庭園の最奥には二メートルくらいのカプセルに詰められた少女がいた。

 ついでに、その近くで満足そうな顔で眠っている半透明の女の子の姿も見えた。

 

 

 

 ちょっと。ちょっとちょっと。

 

 

 

 いやいやいやいや。リアルで「ゆーたいりだつ~」の場面を見るとは思いもしなかった。

 

 しかし裕がそう思うのも無理はない。

 カプセルの中で体を丸めている少女が話にあったアリシアなのだろう。その体の上に重なる形で半透明の少女が宙に浮いて寝ているのだ。

 前世の記憶にあったお笑いコンビの事を不意に思い出した裕は、失礼だと思いプレシアの方に顔を向けた。

 

 

 

 「綺麗な顔をしているでしょう。これでも死んでいるのよ」

 

 笑っちゃ駄目だ俺!

 

 

 

 前世で見たことがある漫才コンビと高校球児のアニメの光景が脳裏に浮かんだ邪神は必死に自分の感情を抑える。

 左手で口を押え、右手でふとももを抓り、下を向いてプレシアの方を見ないようにする。

 プレシアからしてみれば、また自分達のことを思って顔を逸らしてようにも見えたのだが、実際はこみあげてくる笑いをこらえているに過ぎない。

 どうにか顔を上げた裕を見て、プレシアは話を続ける。

 

 「ジュエルシードを加工することが出来たあなたになら、アリシアを目覚めさせることが出来るかもしれない」

 

 プレシアが神妙な顔つきで裕に話しかけてくるが、その後ろで半透明の少女アリシアが目を覚まして裕の存在に気が付く。しかも、裕と目が合う。

 この時、裕は嫌な予感がした。

 アリシアは自分と目があった裕に気が付いたのか。手を振って見せる。

 とりあえず無視してプレシアの話を聞こうとしている裕を見て気が付いてもらえるように体全体を揺らしてみる半透明のアリシア。そうする事で自分に気が付いてもらおうと思っているのだろうか。

 だが、それは裕から見るとプレシアを中心にどこかのアイドルグループのようにチューチュートレインしているように見える為、再び裕は目を逸らすことになる。

 

 無論、笑いをこらえる為にだ。

 

 その様子にプレシアは裕が悲しみあまりに体を震わせているように見えた。

 その間にも、裕にWCCを使ってアリシアを呼び起こしてくれないかと、ジュエルシードを用いて助けてくれないかと懇願してくる。が、その間にもプレシアには見えていないようだが半透明のアリシアはFANFANするのをやめない。

 裕が顔を上げればそのような行動が目に入るのだ。

 シリアスな話をしているのに、その後ろでコミカルな動きをするアリシアの姿に裕は大変苦しめられていた。

 

 無論、笑いをこらえる為にだ。

 

 シリアスな雰囲気のプレシアとコミカルな動きをするアリシアのギャップが邪神を苦しめる。

 アリシアにいたってはぴょこぴょこ動きながらプレシアを素通りしてこちらに近付いてくる。

 

 

 

 FANFANしながら。

 

 

 

 邪神の我慢は限界を超えた。

 



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第二十話 ・・・・・・・邪神様だ

 アリシアの遺体が入っているカプセルの前で気が付いたことがある。

 

 一つ、アリシアは今のところ俺にしか見えない。ただし、見えるだけで何を言っているまではわからない。

 二つ、アリシアの体は死体として分類されているのにカスタマイズが出来ない。少なからず、WCCでは死体として認知されない。というか、WCCが反応しない。

 三つ、アリシア幽体は全裸であ

 

ズドオオオオォン!

 

 「いきなりライデインをぶっ放さないでください」

 

 「今のはライデインではなくデインよ」

 

 四つ、アリシアの母親であるプレシアは子煩悩の大魔王である。

 

 「更に付け加えると、私にはあと二段階以上の雷撃があるわ」

 

 四つ目を訂正する。フリーザ様である。

 

 五つ目、ここが重要。アリシアもWCCのメニュー画面が開ける。

 傍にいることでその人の神技を扱う事が出来る『共鳴能力』でも持っているのか?

 いやいやびっくりしたよ。ただ、日本語で表記されているからかアリシアからしてみれば何やら見たことが無い文字が沢山あって分かりにくい。と、いった表情が見られる。

 それでもこちらが言っていることはわかるのか、手を使って○や×で意思表示を示す。

 それと本当にアリシアの幽霊なのかと尋ねてきたプレシアさんに、アリシアしか知らない情報を尋ねてみると、WCCのメニュー画面を利用して、何やら英語のような物を表示してくる。

 これを伝えろと言いたいのか、アリシアはその画面をグイグイと押し付けてくる。

 とりあえず、今いる場所の床を借りてその文字を掘り(彫り?)こむ。

 なにやら数字が書き込まれているからにして誕生日か何かなのだろう。

 どんどん、渡される情報を地面に書いていくとプレシアさんの表情は懐疑的な物から真剣な顔になる。その途中でプレシアさんの顔が突如赤くなる。

 

 「あなたなんてことを書くの!」

 

 「いや、俺はアリシアから渡される情報をそのまま掘りこんでいるだけなんですけど?」

 

 大体読めませんから?なにこれ、英語?

 何を書かせたんだアリシア?もしかして、エロいことなのか?

 アリシアの表情から見ると悪戯心を隠しきれていない笑みを浮かべながら、次の文章を彫れとメニュー画面を押し付けてくる。

 それを地面に彫りこむとプレシアさんに締め上げられた。

 

 「…貴方、書いて良い事と悪い事があるのよ?」

 

 「だから何が書き込まれているんだってばよ…」

 

 拘束を解かれた俺の傍で「…私だって女ですもの。…仕方ないじゃない」と、ぼやいていたところを見ると、エロい事だな!と、確信をもってアリシアの方を見ると、彼女の方もやり遂げたと言わんばかりの表情で頷く。

 ならば、読めない文字から妄想でプレシアさんのエロ情報を探る!

 

 ズドオオオンッ!

 

 「ぎゃあああっ!目が、目がぁあああああ!」

 

 地面を走る紫色の雷が個人情報を焼き払う。その光に目を焼かれたかのように目を抑えながら床を転がる邪神。

 

 「…ええ、認めるしかないようね。アリシアの幽霊がここに居るという事を」

 

 顔を赤くしたプレシアさんが落ち着きを取り戻し、目が回復した裕は今後の打ち合わせをして、本日はお開きという形になった。

 裕を返す前にフェイトに会っていかないのかと言われた裕は、顔を赤らめながら呟く。

 

 「え~、今、磯臭いから恥ずかしい~」

 

 「なんなの、その恥じらい?」

 

 ダイバースーツのまま時の庭園に連れてこられた裕は確かに磯の香りがしていた。

 だったら、お風呂に入ればいいじゃない。

 その一声でお風呂を借りることになった裕はフェイトとアルフと遭遇することになる。

 

 

 

 アリサ視点。

 

 裕が攫われてから数時間が経った。

 恭也さんと忍さんにもう遅いから家に帰るように言われたけど、あの場に居合わせて何も出来なかった私はせめて裕のご両親に事の詳細を伝える。それによる罵倒を受ける責任があると感じて、今、田神の表札がかかった一戸建ての玄関前にいる。

 翠屋になのは達。…あの銀髪の榊原を含めたジュエルシードの今後の管理について話し合いが続けられている。

 隣には事情を説明するために恭也さんがいる。

インターホンを押すその瞬間まで私に家に帰ることを進めたけど、私はそれを受け入れることは出来なかった。

 裕が攫われたとあのいつも笑って出迎えてくれる裕のお母さん。シアおばさんが泣くのは間違いないだろうと思いながらも覚悟を決めてインターホンを押す。

 

 ピンポーン。

 

 インターホン越しにシアおばさんの声が聞こえると思ったその時だった。

 

 『・・・・・・・私だ』

 

 「誰よ!」

 

 妙な間を持って答えた声に聴き覚えがあると思いながらも、思わずツッコミを入れた私は悪くないと思う。

 出迎えられるはずの扉を開け放ち、田神家の家へとお邪魔する。

 裕の家は一般家庭にあるような玄関を入ってすぐのところに居間がある。

 そこでは紫色の髪を腰まで伸ばした見たことが無い人とシアおばさん。そして、なのはの持つレイジングハートに見せてもらったフェイトという女の子とアルフというお姉さんが居間でなにやら真剣に話していた。

 

 「どうだい裕君。かなりの出来だと思うんだが」

 

 「かなりの物だと思います。今までカスタマイズを施してきたものの中でもベスト5に入りますよ」

 

 「ほほう。ちなみにランキングを教えてもらえるかな?」

 

 「ジュエルシード。デバイス。時の庭園にあったロボット。病院や月村邸の施設。そして、この黒袴ですね。てか、ダイヤモンドよりレア度が高いんですけど…。どこで作られたんですかこれ?」

 

 「南米の祈祷師に作らせたものだが本物みたいだね。…あの呪いに使う髑髏の飾りも本物かもしれないな」

 

 「なにそれ怖い」

 

 そして黒い袴をつけた裕が私のパパと愉快に話をしていた。

 裕は紫の人。プレシアさんに誘拐された後、しばらくすると本当に帰ってきた。

 そんな時、私のパパから連絡があって、前から頼んでいた物が出来たとパパ自ら持ってきた袴をカスタマイズしてお披露目をしていたらしい。

 裕はジュエルシード事件に関わるようになってから『これでもか!』というぐらいに豪華な袴をパパにお願いしていたらしく、パパもジュエルシードの事は聞かずそれを了承したらしい。

 いろいろと言いたい事はあるけど、私はどうしてすぐに連絡をしなかったのかと尋ねた。

 

 

 

 「ちょっと、そこの女の子とお風呂をしていたら遅れた」(テヘペロ)

 

 

 

 次の瞬間、アリサの膝が邪神の顎に綺麗に決まった。

 




 邪神なりの心配させないためのジョークだったんですが、アリサには通じなかった様子です。


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第二十一話 ウホッ、いい邪神様

 アリサの膝を受けてのたうちまわっている邪神を無視してアリサはフェイトとプレシアから話を聞く。

 話をまとめるとプレシアはずっと眠り続けているもう一人の娘を目覚めさせるために無茶苦茶な苦労をしていたらしく、心と体を壊してしまった。

 フェイトはそんな母親の力になりたいがために危険な目に会ってまでジュエルシードの封印・獲得に力を注いでいた。

 事情は知らなかったにしろ、突然の母の体の状態の告知に驚いていたフェイトとアルフだったが、裕から渡されたジュエルシードで完治したことを聞いてほっと溜息をこぼした。

 その上で、もう一度ジュエルシードと裕のWCCを用いて万能薬もどきを作るという話になると恭也が待ったをかける。

 そもそもジュエルシードはユーノの物であり、管理局に持って行くことが最初から決まっていた。それを勝手に使うのはどうかという案だ。

 それに対してのプレシアの意見は、その目覚めさせたい人間。アリシアの事だが、その事は裕を除けば誰も知らない。

 誰に使うかも明かさない。その上、警察の役割も担っている管理局に敵対するような態度を取っているプレシアの事は信用できないというアリサと恭也だが、それに対して裕がプレシアを擁護する。

 プレシアも以前は管理局に務めていた事があり、そこで酷い目に会ったという事を伝えると二人は何も言えなくなる。さらに裕が「まだあったことが無い管理局より目の前にいる人を信じたい」という言葉に二人は何も言えなくなりかけた。

 

 「…裕君。君はそれでいいのかい?」

 

 「俺はそれでいいと思っています」

 

 「そうじゃない。君は自分の事を過小評価。いや、過大評価している」

 

 ここ最近、裕はWCCの事をいろんな人に暴露しすぎている。

 人の口に戸は建てられない。

 JSと裕のWCC出来ない事は殆ど無い。

 死に掛けた人間も、病気で苦しむ人も救う事が出来る。

 それが世の世界に出てしまった時、裕はどこか人の手の届かない所へと逃げなければならない。

 

 「プレシアさんが言う事を全部信じたわけではない。だが、その通りの話だとしたらいずれは君も何かを被ることになるんだぞ」

 

 「…う、それは嫌ですね。でも、まあ、ここまで来たら最後までやりきった方がいいんじゃないですかね?」

 

 なにせ、幽霊?とはいえ邪神はもう一人いるのだ。

 ある程度WCCの事も含めて彼女達とは付き合って行かないと色々とマズイ。

 アリシアの事は未だにプレシアが言えていないから喋らない裕だが、それをどう受け取ったのか恭也は不意打ちに近い勢いで裕に拳を繰り出す。

 恭也は当てるつもりで放った拳だが、それを裕は両腕で顔を隠すようにガードする。

 突然の行動にアリサとバニングス氏は驚き、フェイトとアルフは警戒してデバイスや手甲を恭也に向ける。

 

 「あらあら、恭也君。乱暴事は駄目よ?」

 

 「…若いわね」

 

 裕の母親のシアは少しだけ困った顔をしてその行動を見守り、プレシアは恭也の考えが読めたのか、少し呆れたような溜息をこぼす。

 

 「…そこまで言うなら示してみろ。俺ぐらい倒せないようではどうにもならんぞ」

 

 恭也の瞳は鋭く冷たい目をしていたが、その奥にあるのは裕を気遣っての思いがあるというのは拳を受け止めた裕にも分かっていた。

 

 

 

 フェイト視点。

 

 急な展開に何とか追いついている私は今、猫のジュエルシードを手に入れた林。正確には屋敷内にある林らしいが、そこで恭也とユウが戦うらしい。

 勝てたらユウは母さんに協力するが、負けたら協力することを止めるという内容だった。

 正直、私は勝ってほしいのか、負けて欲しいのかどうかわからない。

 彼とは協力関係であり、彼の手によって変化を遂げるジュエルシードが知らなかった母さんの容態を回復させ、目覚めさせたい誰かを助けることが出来る。

 既に白いジュエルシードの作成は済んで入るものの下準備やら加工したジュエルシードの使用後の言い訳など、万全を期して取りかかりたいらしく、まずはジュエルシードの持ち主であるユーノに連絡しなければならない。それも管理局に見つからないように。見つかっても言い訳ができるように。

 

 「裕君。私が言うのもあれだけど知らない人にそんなほいほいついっていったら「ノンケでもくっちまうんだぜ」何言っているの?裕君、なのはの話をちゃんと聞いて」

 

 「…裕君。変なこと言っちゃ駄目だよ」

 

 私とジュエルシードを取り合って魔法戦を繰り広げた白い女の子と何故か顔を赤くしている紫色の髪をした女の子に責められていた。

 え?お母さん、ユウを食べちゃうの?美味しいの?

 

 「おい、モブ!いつまでなのは達と話していやがる!とっとと」

 

 「…まだ、私達の話が終わっていないの」

 

 「…引っ込んでいてくれないかな」

 

 銀髪の男の子まで何故かついてくる始末。

 なんでも「俺がなのはとフェイト達を守ってやるぜ!」とか言っていたけど、…誰?

 バルディッシュからこの前街中で見つけたジュエルシードの暴走で生じた余波に飛ばされた右手にドリルをつけた少年だという。…いたんだ。

 急遽行われることになった恭也VSユウVSツラヌキ(榊原 貫)が繰り広げられることになった。

 

 恭也は両手に木刀を握っている。

 裕はバニングス氏から貰った黒袴に金の懐中時計。手には指輪を幾つかつけている。

 ツラヌキは右手にドリルと人が怒りながら笑っているような凶悪な顔の形をした赤い鎧をつけている。あれはバリアジャケット?

 

 一応、WCCで防御力を上げたという服をつけている恭也とユウだが、バリアジャケットがあると無いではその戦力差は天地ほどある。

 ユウには悪いがこの勝負、ツラヌキの勝ちだろう。私はそう思っていた。

 

 

 

 ツラヌキ(銀髪)視点。

 

 モブがシスコンと何やら話していたが、関係ない。

 俺の貰った特典は魔力を『螺旋力』のように使えるという事。デバイスは小さなドリルの形をしたコアドリルという『天元突破グレンラガン』と同じデザインの物だ。

 以前はその力を満足に扱う事が出来なかったが、恥ずかしがるなのは達から預からせてもらったジュエルシードの力を螺旋力で少しずつ慣らしていくことにより、完全に扱うことが出来た。

 勝負が開始された瞬間に、シスコンとモブがこちらに向かってくる。

 二人共、普通の人間にしてはなかなかの速さ。ここはあえて二人の攻撃を受け止めて俺の実力というものを見せつけてやるか。

 二人の攻撃をそれぞれ片手で受け止めると、バランスが悪かったのか後ろに倒れかかる。だが、二人の攻撃は全く俺に通じていない。と、押し倒されるのを何とかこらえる。

 シスコンが残った方の木刀で攻撃してくるが、グレンラガンを象ったバリアジャケットを貫くことなんて出来はしな「実行~」

 

 ドズッ。

 

 「うげぇっ?!」

 

 モブの声が聞こえた瞬間にバリアジャケット消えて、シスコンの木刀が俺の鳩尾に突き刺さっていた。

 鳩尾を抑えながらその場をふらついていると、いつの間にか後ろに回り込んだモブが両手を合わせて人差し指と中指を揃えた、いわばカンチョーの構えをしていた。

 

 「おいおい、今度は俺の番だろ?」

 

 ゾクッと背筋に走ったが、シスコンから受けたダメージが大きいのか身動き取れない俺は、勢いよく突き出されたそれを…。

 

 

 

 

 

 「アッーーーーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 「…ふ、また、つまらぬ物を突いてしまった」

 

 と、呟いた邪神を最後に榊原はあまりの痛みに気絶してしまった。

 

 



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第二十二話 彼はお節介焼きな邪神様

 メダルトリオの一角である榊原を一突きで気絶させた邪神は少々焦っていた。

 

 (やべー。あの時は恭也さんと一時的に共闘を申し込んだのはいいけど、勢い有りすぎたかな?)

 

 自らが施したWCCの効果を思い切り発揮したのは実はこの一戦が初めてである。そして、考えていた以上にそれは発揮された。

 あまりにも鋭く、早く、深い攻撃を放った後に、戦闘の興奮が冷めた裕は榊原君のお尻を心配していた。

 

 「ユウ、さっきのはなに?」

 

 榊原をどける為に恭也さんとは一時休戦状態の俺にフェイトが話しかけてくる。

 あれは榊原のバリアジャケットの一部に触った時にWCCを発動させて強制停止させた。その名も、

 

 「秘儀『よいではないか~』」

 

 バリアジャケットだろうと物であるにはかわらない。榊原が目の前であの鎧をセットアップとか言って装着した時にお前達が持っているデバイスと似たような物だと思った裕は厄介そうな榊原を先に潰そうと恭也と相談を持ちかけたのだ。

 

 「魔導師もバリアジャケットを取り除かれれば殆どただの人よね…。よくもまああの場で思いついたものね」

 

 まあ、前々から考えていたものだったんだけどね。

 フェイトに負けたあの日からいろいろ考えていた事。

 魔法とか言う不思議な力を持つ相手にはどうしたら勝てるか、と、考えた末に思い付いたのが相手の力を無効化する。もしくは阻害することで勝てると考えた。

 素の身体能力なら高町道場を通っている上にWCCでガチガチに固めた装備状態ならイケる。と、考えたのだ。

 

 「つまり、これは前々からフェイトをひん剥くために考え出された技なんだよ。キリッ」

 

 

 

 田神裕ですっ。新技をドヤ顔で決めたら、

 

 アリサの拳骨。

 すずかちゃんの目つぶし。

 なのはちゃんから両頬同時ビンタ。

 

 以上の三発です。

 じゃん、けん、ぽん。グー、チョキ、パー(×2)。

 来週もまた見てくださいね。

 うふふっ。

 

 

 

 という幼馴染トリオからのジェットストリームアタックを受けた。

 俺の頬ほどではないが顔を赤くして離れるフェイトと俺の視線から守るようにアルフさんが立つ。

 のたうちまわっている俺に毒気を抜かれたのか恭也さんは今日の所は決着をつけずに次回に回す。という事になった。

 皆、呆れた顔をしている中、母親であるプレシアとお母様だけは苦笑していた。

 

 「もーう、裕君。そう言う事はあまり言わない方がいいんですよ」

 

 「…ま、それが貴方なりの優しさなんでしょうね」

 

 母上はこつーん、と、緩く握った拳をおでこに当てて忠告をしている。

 プレシアはというとため息交じりにも見抜いているわよ。と言わんばかりの表情だ。

 ・・・ばれた?

 こうやって馬鹿をすればなのはちゃん達も俺とそんなに深く付き合っていこうとは思わないだろうと、時折、馬鹿な本音を言ってみたりするのだがプレシアと母上には見抜かれているようだ。

 管理局の暗部?という存在を聞かされてからは出来るだけ彼女達からは距離をとりたかったのだが…。

 さすがはお母さま。伊達に九年間俺の母親をやっていない。

 そして、さすがプレシア。実年齢●●歳以上、年の功!

 

 ズドオオォンッ!

 

 「…裕君、女の人の逆鱗は怖いのよ」

 

 「…次はないわよ」

 

 …おっかしいなー。口にしていないんだけど、ばれた。

 俺ってばそんなに顔に出ているだろうか?

 突如、俺の傍に落ちた紫の雷にびくつきながらも目の前の魔女に謝っておく。

 誠に申し訳ございませんでした。

 

 「…ところでユーノ君の意見を聞きたいんだけど、結局ジュエルシードをどうするつもりかしら?」

 

 「…僕としてはすぐにでも管理局に引き渡したい。…だけど、それで誰かが助かるのなら協力したいです」

 

 ジュエルシードが万能薬もどきになる事を知ったユーノはプレシアの言葉に嘘が無いと感じ取ったのか、少しだけ迷ったもののジュエルシードの譲渡を許してくれた。

 とりあえず、申請していたジュエルシードは21個。

 それの数を誤魔化すために月村の家から青い宝石を2個貰い、ジュエルシードに施された刻印をWCCで彫り上げてプレシアにほんの少しだけ魔力を注ぎ込んでもらった。

 そのお蔭でジュエルシードもどきが2個出来上がった。管理局には悪いがまだ見つかっていないジュエルシードとこれを合わせて21個受け取ってもらおう。

 

 「それにしてもフェイトも言ってくれれば、なのはもユーノも協力したかもしれないのにね」

 

 「…うん。私もまさか母さんが体を患っていた事なんて知らなくて、他にも治療したい人がいるなんて思わなくって…」

 

 「…言ってくれれば私達だって手伝ったのに。なのはにしろ、フェイトにしろ水臭いわね」

 

 「そうだよねー、水臭いよ二人共」

 

 「全くだぜ。ゲロ以下の匂いがプンプンするぜ」

 

 「そ、そんなに臭くないよ!お風呂に入ったばかりだからいい匂いだもんっ。というか、ユウも一緒に入ったからわかるでしょ!」

 

 その言葉になのはちゃん。すずかちゃん。アリサの三人が俺の方に視線を向ける。

 その視線に込められて意志を受け止めた俺は両頬に手を当てて、

 

 「きゃっ、恥ずかしい」

 

 と、思わず手で顔を隠すが、その実、三人の顔を見るのが怖い。

 異様な気配がじりじりと突き刺してくるんだもの。

 誰か、誰かこの状況を打破する方法をおせえて、おせえてーよぉおおお!

 

 月村邸の中心でSPW風に叫ぶ。

 

 がしっ。と組まれる左腕と右腕。

 なのはちゃんとすずかちゃんの両名に腕を組まれた状態で連行される。アリサにいたっては俺の胸ぐらをつかんでずるずると月村邸の屋敷に向かおうとしていく。

 い、いかん。このままではまた尋問室に連れて行かれてしまう。

 

 「まあまあ、落ち着いてください。御三方、別にやらしいことなんてしてませんから」

 

 「言い訳は独房で聞くわ」

 

 独房まであるのか、月村邸。

 てか、何故アリサがその事を知っている?

 

 「信用できないかもしれないが、俺にはこれと決めた人がいるからそんな事はしないって」

 

 「だ、誰っ」

 

 なのはちゃんが狼狽し始めて、すずかちゃんの締め付けが強くなる。

 ふむ、すずかちゃんの柔らかい何かが…、そして小指にワンダフルダメージ!煩悩退散。わかりましたからすずか様。小指を捻り上げるのはやめてください。

 

 「俺はこう見えても硬派なの、初めての人にはずっと付き合っていきたいと思っているんだ。つまり、初めて肌を見せた人には真剣につきあってほしいという願望もあるんだ」

 

 「え、それってつまり…」

 

 俺の言葉を聞いてその場にいた全員がフェイトの方に向く。

 だが、それは筋違いだぜ皆さん。

 

 「だから、俺と付き合ってください!…忍さん!」

 

 「ええ?!私!」

 

 幼馴染とのやりとりを微笑ましく見ていた忍さんが狼狽える。

 

 「だって、そうじゃないですか。眠った俺を薄暗い部屋に無理矢理連れ込んで、海の上では裸になることを強要して…。おれ、俺、もうお婿に行けない!」

 

 「忍君。君はそこの恭也君とお付き合いしていたのではないのかね?」

 

 「あ、あの、その…」

 

 俺の言葉を聞いてバニングスさんが忍さんに懐疑的な視線を送る。

 日本語っていいよね。意図的に言葉を抜けばあら不思議。面白おかしく伝わるのだから。

 

 「…裕君」

 

 隣にいたすずかちゃんと離れてみていた恭也さんが心配そうな目で見てきたので撹乱用にもう一言添える。

 

 「あ、でも、アリサには純潔を奪われちゃったし、アリサの方になるのか?」

 

 「はぁ?!」

 

 今度はアリサが驚き、俺の胸ぐらから手を放す。

 

 「だって、お前もいきなり俺を襲って俺に入れて来たじゃないか」

 

 「ちょっ?!何言っているのよ!」

 

 「あんなに血が沢山出たのにしらばっくれる気か」

 

 もちろん鼻フックした時に出た鼻血の事です。

 

 「…俺、汚れちゃった(鼻血で)」

 

 「…アリサちゃんって、あんなに可愛い顔して男の子だったなんて。しかも血が出るほどに太かったの?」

 

 「いや、細かったですよ。ただ長くて奥に突き刺してきたんですよ」

 

 「アリサ、パパはそんなふうにお前を育てた覚えはないぞ!」

 

 プレシアは引きつった顔でアリサを見て、父であるバニングスさんは娘の所業を叱り始める。

 ふと、思ったんだがそう言う話になると俺と恭也さんで榊原君の純潔、もとい穴奪ったことになるのか?

 やったね、榊原君。ハーレムで来たよ。ただし、女の子ではない。

 その場が混沌としてきた中、なのはちゃんが無言でレイジングハートを起動していた。

 俺を拘束していた腕も離して両手でその機械じみた杖の柄の部分を俺に向ける。

 え?俺に向ける?

 

 「…の」

 

 「はい?」

 

 「なのはも裕君の初めてを貰うのぉおおおお!」

 

 嫌な予感がした俺はすずかちゃんの拘束から逃れ、すぐその場を離れると、傍にいたはずのなのはちゃんが、いつの間にか俺が先程いた場所に回り込み、レイジングハートの柄を勢いよく突き出していた。

 

 

 

 なのはちゃんのあなをほる攻撃。

 しかし、攻撃は躱されてしまった。躱せてよかった。

 

 

 

 「私も、裕君を攫って、裸を見て、穴に入れて、純潔をもらうのー!仲間外れはいやなのー!」

 

 仲間外れ=一人ぼっちはいやだよね。

 だけど、願いを叶えないでよ!インキュベーダ―!

 しかし、我ながらロクな目に逢っていないな…。

 

 「裕君の、初めてを、貰うまで、突くのを、やめない!」

 

 このままだと、目の形がグルグルになったなのはちゃんに俺のあなをオラオラされてしまう。

 黒袴にかけたWCCの効果でこれまでにないほどの素早い身体能力を発揮している俺に対抗してか、魔力を全開にして襲い掛かってくるなのはちゃん。

 今のところ速さでいえばこちらが勝っているのだが、徐々に逃げ回る俺の後ろへ回り込むスピード増している気がする。このままだと、長くてかたいブツ(レイジングハート)が突き刺さってWRYYYYYYYYY!!してしまう。

 

 そんなのダメだドンドコドーン!!

 

 恭也さんに妹の蛮行を止めてもらおうと視線を向けたが、以前しでかした俺の誘拐騒動の事を問い詰めている母上と問い詰められている忍さんの仲介役をすずかちゃんと一緒に行っており、手が離せない。

 アリサは普段の素行について父のバニングスさんからお叱りを受けていた。

 ならば、プレシアはというと月村邸の猫と戯れるフェイトとアルフさんの様子に胸を抑えながら見ていた。

 ユーノ。なのはちゃんを抑え込もうと走り回るが、残念。速さが足りない!

 つまり、援軍は期待できない。

 こんな冷静な解説が出来るのもWCCを施した装備のおかげで解説風に自分の状況を把握できる。

 

 

 WCCは解説役(冷静さ)が必要だぜー!

 

 

 などと考えている間になのはちゃんの『あなをほる』攻撃が止む気配はない。

 

 「つーいて、つーいて、つきまくるのー!」

 

 なのはちゃん、何故君みたいな子どもがそのフレーズを知っている?!

 

 彼女のラッキーパンチを貰わないように周囲の動向にも気を配らなければならなくなった邪神は、恭也とフェイトがなのはを止めるまでお尻を守るために逃げ回るのであった。

 

 



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第二十三話 チェンジ!邪神様!!

 時の庭園に設けられた一室に異様な光景が広がっていた。

 頭から被せられた半球状の銀色の機械帽子。そこから伸びるチューブはイソギンチャクの触手のように這えており、それはその一室全体に広がるように伸びている。

 座っている椅子もまたチューブが伸びていて、座らされている人物の身に着けている指輪やネックレスにピアスといった装飾品の数々はつけていない所を探すのが難しい程。

 そのような格好をした人間が二人いた。

 その正面にある巨大コンピュータには幾つもの情報を記す文字や映像が、滝のように流れ落ちるように移されては消える。

 その情報量は世界中のどのコンピュータでも捌き切れないほどの情報量。それを人の手で行うには不可能。だが、邪神の持つWCCで強化された時の庭園にあるコンピュータの情報能力を強化。さらにそれを補佐する人間として体が埋もれるほどのアクセサリーをつけたプレシアと裕でその情報を処理していた。

 

 その目的は一つ。アリシアの復活だ。

 

 WCCでジュエルシードをもってすれば可能とは思うが、万が一ということもある。

 ジュエルシードが及ぼす身体の影響や幽体とも思えるアリシア自身について地球はもとより、ミッドチルダという魔法世界で研究されてきた治療方法。

 幽体に関する方法サーチャーという遠くを見ることが出来る魔法で意識が戻らなかった患者。その快復手順等、ありとあらゆる情報を集め終えたプレシアと裕は椅子から立ち上がる。

 

 「…アリシアの幽体を体に重ねて、この魔方陣を展開させる」

 

 情報の海から必要な物を取り出すために全身から汗を流しているプレシアは、目の前にあるコンピュータ画面に映し出した魔方陣を幾つか添付する。

 

 「…召喚魔法と強化の魔法を組み合わせることで、アリシアの幽体を体に入れて、定着、固定する。…いわば憑依状態に近いものにする。ジュエルシードはその軛にする」

 

 魔法どころか外国。正確には異世界の言葉なのだが、バニングスと月村邸にあった貴金属のアクセサリーや装飾品を借りて『異世界語翻訳』『情報処理能力向上』『疲労回復』等様々なサポート能力を付属したアクセサリーをつけた二人は実に36時間ほどぶっ続けで情報処理とシミュレートを行い、ようやく形にすることにこぎつけた。

 

 「終わったわぁあああああ!」

 

 プレシアはアリシアの目覚めを願って続けてきた研究もようやく実を結べると喜びを露わに傍にいた裕を抱きしめる。

 ジュエルシードで二十代後半まで若返ったプレシアの体はまさに蠱惑的とも言っていい。普段ならにやけ顔でセクハラ発言を行う裕もこの時ばかりは達成感が強かったのか、黙って抱きしめられていた。

 

 「やったわ。これで、これで、アリシアが目を覚ますことが出来るわー!」

 

 「…それはいいから、フェイトの方にも連絡してやってよ」

 

 「それもそうね!」

 

 プレシアは上がりまくったテンションそのままに部屋を飛び出していった。

 そのままのテンションでフェイトを抱きしめたら、困惑するだろう。

 後で聞いた話だが、フェイトも最初は困惑していたものの、「あなたのおかげよ!ありがとうフェイト!」となんどもありがとうと優しく強く抱きしめられたフェイトはしばらくの間抱きしめられていたが、母のぬくもりと欲しかったことがフェイトはプレシアに抱きしめられて涙が出てきた。

 そんなフェイトをプレシアは優しく抱きしめてこれまでの隔たりを埋めようと埋めるようでもあった。

 プレシアはその後、フェイトとアルフにこれまでの非道な行いをしてきたことに関しての謝罪をしていた。

 月村邸での騒動の後。裕は月村とバニングスの家からアクセサリーを借り受けて、プレシアと共に時の庭園にある研究室にこもって情報処理を行っていた。

 その様子に嫉妬しているのかフェイトがむくれていたがプレシアの願いでなのは達と共にジュエルシードの探索を行っている。

 無論、無茶をしない程度に。その他にもいろいろとサポートしているので現在ジュエルシードは15個とかなりのペースで集まってきている。

 

 「…終わった。…やっと、終わった」

 

 しばらく抱きしめられていた裕は、その抱擁から抜け落ちるように床に寝そべりながらサポート能力がついたアクセサリーを外していく。正直、これ以上文字やシミュレート映像など見たくはない程に情報を目にして、頭に流し続けた所為で精神的にひどく疲れていた。

 未だにチカチカしている目と頭を休めたい裕はうつぶせの状態になる。

アリシア復活の決行は三日後。

 ちょうど『イエーガーズ』の皆でポケモン大会をやる日の翌日になる。その日は月曜日で学校に通わなければならないのだが、当然アリシアのほうが大事なので休むことになっている。

 とにかく、休息だ。そう考えた裕は全身の力を抜いて襲い掛かる睡魔をそのまま受け止めた。

 

 

 

 それから数時間してフェイトがアルフと一緒に裕を運ぶために研究室の中に入ってきた。

 あちこちに広がるチューブに足を取られないように裕の元にたどり着くとフェイトはつけられっぱなしのアクセサリーを外してから裕を運ぶ。

 部屋を出て、別の部屋に設置されたソファーに寝かされた。その時、裕は目を覚まして毛布を持ってきたフェイトにお礼を言うと、彼女の方もありがとうと言ってきた。

 フェイトの目元はプレシアとの抱擁で涙を流していたからか赤みを増していたが、うってかわって今まで張りつめていた緊張感は完全に抜け落ちている。

 そんなフェイトがもう一度お礼を言ってきたので、つい調子に乗って「お礼はチューでいいぞ」といった裕のおでこにペチーンと軽く叩いたフェイトはだいぶ裕の扱いが分かってきたようだ。

 フェイトは再びジュエルシードを探すために海鳴の街へと戻ろうと、未だにソファーの上から動こうとしない裕は疲れているのだろうと思い、彼を寝かせている部屋を出ようとした時、「お前のはお前が起きた後でいい」と、よくわからない事を言っている裕は既に目を閉じていたので寝言かと思ったフェイトはそのまま部屋を出るのであった。

 

 

 

 今頃、なのは達は管理局と接触しているだろう。あちらには恭也と忍が出向いているから下手な真似にはならないと思う。

 少し前の自分なら嘘だと思う共同作業にフェイトは嬉しさを感じていた。

 裕のおかげでいろいろと自分の周りが変わったと感じるフェイトはその変化を嬉しく思っていたが一つ気になることがある。

 時の庭園にあるロボットをWCCでステルス状態にしてジュエルシードの探索隊として起動させている。もし、それが見つかっても時の庭園で使われている物ではないと思わせるために姿形まで変えているのだが、ステルス(透明)にしているのに、赤、青、黄色とカラーリングされたロボットたちはそれぞれ空、陸、海と幅広く出撃しておりジュエルシード発見時にはフェイトとアルフで封印処置を行う。

 『ゲッター』の名前を付けられたロボットたちには分離・再合体。それぞれに変形すると言った男の子の夢が搭載されていた。

 そんな機能は非効率だとフェイトとプレシアは裕に訴えたが、そこは譲れないと頑なにその機能をつけたお蔭でロボットたちの防御力は落ちている。その代わりWCCで探索能力は上がっているので問題無いと言えば無い。

 

 

 

 裕自身の事は少しわかり始めたが、邪神。いや、男の子の夢というものには理解が出来ないフェイトだった。

 




 邪神の最終目標は数千数百を超えるロボットが合体して人の上半身と龍がくっついたような形をしたスーパーロボット!


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第二十四話 邪神様のごり押し術!

 説明回。めんどくさい人はあとがきを読んでね。




 時空管理局員であるクロノ・ハラオウンは映し出されている映像を見て唖然としていた。

 管理外世界、地球に世界一つを滅ぼしかねないロストロギア。ジュエルシードを回収するために航行艦アースラを率いてきたのだが、そのモニターに映し出されたのは金色のドラゴン。しかも三つ首の怪獣と言ってもいい存在が映し出されていた。

 この世界出身のギル・グレアム提督からもこの世界を簡単に説明してもらったがあんな怪獣がいるとは聞いていない。

 その怪獣に挑んでいるのが赤や青。黄色にカラーリングされた体長2~3メートルほどの自立型のロボットの大群。

 その視界の隅には魔導師と思われる白い少女と使い魔だろうフェレット。

 フェレットの方が結界を張り、辺りに被害を出さないようにしていて、白い少女はそのフェレットを守るように怪獣から吐き出される光線を障壁で防いだり、フェレットを肩に乗せて回避したりしている。

 時折、隙を見ては時空を管理すると名をうっている管理局でもあまり見ない高出力の収束魔法を放つ。

 

 「…僕が行かないと駄目か?」

 

 正直、あの場に行きたくなかった。

 

 怪獣から吐き出される雷撃。

 ロボットの大群から放たれる。ミサイルや斧、ドリルといった物理兵器。

 その風貌からは考えられないほどの威力を持つビームを放つ少女。

 

 まるでイルミネーションのように放たれている弾幕の嵐。

 その中に飛び込めば即、撃沈になるだろう。

 

 「い、一応。あの白い子のデバイスに連絡入れておくね…」

 

 「…お願いね」

 

 幼馴染でアースラのオペレーターでもあるエイミィが通常回線で白い魔導師の方に連絡を入れる。ロボットと少女は協力関係にあるのだろう、少女とロボットはお互いに攻撃は放ったりはしていない。

 

 『王城君も!白崎君も!余計なことしてくれる、の!』

 

 『ギシャアアアア!!』

 

 魔力を集中して撃ちだされる彼女の砲撃は金色の怪獣をよろけさせるほどの威力を持っている。

 ロボットたちの攻撃ではビクともしない怪獣の頑強さを褒めるべきか、それともロボットたちが繰り出す攻撃が弱いのか、迷うところだが一般人にあたれば即死。悪くても重症だ。並の魔導師でもその攻撃を喰らえば戦闘不能一歩手前まで持ってかれる数値を観測している。

 

 『なんであの二人はジュエルシードで巨大化した鳥を高出力で攻撃するかな!あれじゃあ、暴走を助長するような物だよ!』

 

 『しかもその暴走に巻き込まれてなんかすごく強そうな怪物になっているし!』

 

 なるほど。彼女と使い魔の会話から察するに王城と白崎という魔導師があの怪物に取り込まれているのか。その所為で事態が悪化したのか。

 ジュエルシードとは恐ろしいものだな。

 

 『なのは、ユーノ。手伝いにって、なんじゃこりゃー!?』

 

 緋色の髪に犬耳と尻尾を生やした女性が彼女達のすぐ傍に転移してきたと同時に目の間の状況に驚いていた。

 そりゃ驚くだろう。何やら魔力の気配がしたと思って、そこを覗いたら怪獣とロボット群が争っているのだから。

 僕等だって目を疑ったさ。こんな異世界大バトルを見せられた日には我を疑う。

 

 『それはね、って、管理局から連絡?!こんなややこしいときに?!』

 

 いや、本当にすまない。少しでも気を抜けば撃墜される場面で受け取ったんだ。僕だってイラつくよ。

 とりあえず、クロノは彼女達に今からそちらを援護するからそのスペースを確保してくれと頼む。

 現場に参上すると同時に撃墜されることを防ぐために。

 

 

 

 管理局から援軍としてやってきたクロノと途中からやってきたフェイトと協力したなのは達は協力し合って一時間ほどかけてどうにか怪獣からジュエルシードを抜き取り、封印することが出来た。

 ロボットが怪物へ攻撃。または怪物の攻撃をその身で挺してなのは達を庇って戦ってい事により彼女達は比較的に安全なポジションやタイミングを確保することに成功した。

 しかもロボットたちは一部破損した所があるとお互いに分離してまだ使える部分を掛け合わせて再び戦場に戻るというリサイクルを行う。

 ロボットなので怪獣の口に特攻をするなど物量によるごり押しで、怪獣の意識をなのは達に向けないでくれたのだろう。

 しかも、戦闘が終了するやいなや残存していたロボットたちは全て赤いカラーリングの機体に変形して遠くの空に帰ってしまった。

 フェイトやアルフにもついてきてほしかったが彼女達には彼女達の都合がある。正確にはプレシアの指示を受けてから管理局に赴くつもりだった。何より、プレシアに事故の責任を全て押し付けた管理局への疑いをぬぐいきれなかった事もある。

 残骸となっていたロボットたちのパーツも自爆装置でもついていたのか管理局が回収する前にボンと音を立て、ただの鉄くずになった。

 ロボットの事は裕とプレシアから口止めされているのでなのは達は時折ぽろっと口を滑らせようとしていたが、戦闘が終了したことで結界の外にいた忍と恭也と合流。WCCを扱う裕の事は秘匿のままで済んだ。

 恭也と忍がなのは達にフォローを入れながら、クロノの元航行艦アースラへと赴いた。

 そこで艦長のリンディ・ハラオウンにこれまでの事を説明すると、ユーノとなのはの無茶についてお叱りをした後にジュエルシード探索についての責任を全て管理局が受け持ち、その後の探索も自分達が行うと言い出してきたところで、きらりと光る忍の目。

 

 「では、これだけの被害を被ったので保証してください」

 

 「…ふぁ?」

 

 忍はこれまでのジュエルシードで被害を受けてきた時に出た被害額を要求した。円の価値はわからないだろうがその桁数を見たクロノとリンディはその桁数を見て驚いた。

 見せられた額にクロノが気の抜けた声を漏らす。そこに出された金額はあまりに多く、勿論、いきなりやってきた管理局がそれだけの円を持ち合わせているわけもなく一時的に月村の家が負担することになり、管理局は徐々に返していくという方向性になった。

 管理世界の物で管理外世界の人や物が被害を受けた。それを拒否するというのは法の番人を称す管理局の一員として補償しない訳にはいかない。

 実はこれ、プレシアと忍が前もって打ち合わせていた物である。

 管理局の暗部を知るプレシアは恐らく高資質の魔導師であるなのはを勧誘してくるだろう。あくどい管理局員が来た場合はゲッター軍団がアースラに攻撃を仕掛けると脅すことも考えていたがリンディの場合はそうはならなかった。

 

 「で、ではこちらから幾つか聞きたいのですが…。あのロボットについて何かご存知ですか?」

 

 「我が月村のガードロボットです」

 

 「何を馬鹿な!あれはこの世界。いや、下手したらこちらの技術力をもこえているものだぞ!」

 

 「それはそうでしょう。なにせ、そちらの技術とこちらの技術のハイブリッドみたいなものですし。そちらの技術力プラスこちらの技術力ですしね」

 

 あのロボットは何かと聞かれた時には、テスタロッサと名乗る通りすがりの魔導師と月村の手による合同ロボットであり、今回のジュエルシード事件に貢献した物である。

 正確には邪神の御業で誕生したロボットであるが勿論その事は言わない。

 

 だがこれにはデメリットもある。

 それは管理局の暗部がゲッターを求めて月村に襲撃をしてくるかもしれないという事だ。

 

 一応、ゲッターは月村邸の要所、要所にステルス状態で30機程待機させているがいざとなったらプレシアが拠点としている時の庭園に屋敷ごと転送することになっている。

 ゲッターの技術は企業秘密として取り扱っているので教えることは出来ないとも話した。

 これは裕からの提案でロボット技術が云々と言われた際には、その手柄を全てプレシアが手に入れるというものであり、窓口を月村の家が受け持つことになっている。そうする事でプレシアの知名度を上げて、過去にあった事件の洗い出しを行いプレシアに本当に非があったかの確認をする為。

 裕自身はプレシアを信じてはいるが、どのような事件だったのか詳細を知りたかった。たとえ、ねつ造されている可能性があったとしても、だ。

 

 忍はなのはとユーノ遠回しに手伝うように言ってきたリンディにちくりと言い返すと、リンディはお手上げと言った具合で真剣な目で協力を申し出てきた。

 協力はするがこちらの情報。ロボットになのはという魔導師の存在の秘匿だ。

 彼女ほどの魔導師は喉から手が出るほど欲しがるとプレシアは言っていた。

 リンディはそこまで嫌悪する管理局の暗部に興味を持ち、忍たちの要求を呑む。

 今回の事件が終わればお互いに不干渉という条件でレイジングハートから先程封印した物も合わせたジュエルシード16個(WCCで作った偽物込み)を渡して今日は解散することになった。

 

 クロノに見送られ、海鳴の街に戻ったなのは達の傍で忍は管理局の人間も十分に自分達で対応できると考えをまとめながら、何もないように見える空間を軽く小突く。

 そこにはステルスがかかった状態の赤いロボット、ゲッター1が立っていた。

 なのは達が怪獣と戦い終わった後、一機だけステルス状態になり忍をガードしていたゲッター1はアースラに乗り込んだ後も忍の後ろにずっと張り付いていた。

 リンディとの話し合いの最中もその会話している映像を録画していた。さすがにアースラにハッキングまでとはいかないがこの会話映像だけでも良しとしよう。

 そして邪神の施したステルスは管理局の技術よりも上ということが判明した忍はこれから起こり得るだろう管理局との交渉に気を引き締めながら帰路についた。

 

 




 今回の話のまとめ。

 王城×白崎×ジュエルシード=キングギドラ。
 キングギドラVSゲッターVS魔法少女
 月村忍が管理局に損害賠償を請求。

 それだけが書きたかった。

 王城と白崎は普通にアースラの医務室で寝かされています。


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第二十五話 これを使えば、神にも悪魔にも邪神様にだってなれる!(はずです)

 夏の兆しを見せる陽射しの下で携帯ゲーム機を片手に公園に集まった『イエーガーズ』の子ども達。

 そんな中で見慣れない格好の少年。いや、少女達がいた。

 

 「私のアズマオウで全員を叩き潰してやるわ!」

 

 「わ、私のリニス。じゃなくて、ぺ、ペルシアンでお相手します」

 

 「…裕君の代理で相手します」

 

 「す、すずかちゃん落ち着いてね。また携帯ゲーム機が壊れちゃうよ」

 

 Tシャツにジーパンという格好で現れたのはアリサとフェイト。すずかの三人のポケモントレーナー。もとい、ゲーム機を持った少年少女たちは公園に集まってお互いの育てたポケモンで競い合うことになっていた。

 

 「あの~、ダーリンの代理ってどういうことですか?」

 

 なのはとフェイト達は今まで頑張ってジュエルシードを集めてきた疲れを取るためにも一度、息抜きもかねてこうやってイエーガーズの皆と遊ぶことになっていた。

 

 ジュエルシードの事は管理局の局員に任せており、彼等の手にも負えないようだったらなのはの持つレイジングハートに連絡が行くことになっている。彼女はバニングスさんが資金をだして翠屋のクッキーを参加賞。優勝賞品に好きなケーキをワンホール無料券を用意している。

 

 管理局に素性を知られたくないフェイトはWCCで魔力を抑える効果を持つ白いかつらをかぶり男装?男の子の格好をしてポケモン大会に出るように裕に言われた。

 

 アリサは元から参加するつもりだったのだが、メダルトリオの誰かに目をつけられては困るのでなのは達同様に男の子の格好で出ることになった。

 

 すずかは時の庭園で念の為にと大量に作った元時の庭園をガードするロボットのゲッターロボのチェックで来れなくなった裕の代理を務めることになった。

 その際、裕の使うポケモンのデータを見た時だった。

 

 以下、ニックネーム。修得技。ポケモン名の順でお送りします。

 

 トミタケ:フラッシュ:マルマイン

 チャッピー:「かみなり」「ふぶき」のガチ装備:ニドキング

 

 ここまではよかった。

 

 アリサ:ぐぬぬの「がまん」を修得。:リザードン

 フェイト:「なきごえ」は最後まで取っている。:ピカチュウ

 なのは:「はかいこうせん」は常備:ピクシー

 すずか:「かみつく」「きゅうけつ」:ゴルバット

 

 彼女達の特徴を表したかのようなポケモンと夜の一族をちらつかせるニックネーム。

 しかもカッコいいとも可愛いとも言えそうにない口を大きく開いた蝙蝠を模したポケモンに自分の名前をニックネームとしてつけた邪神のセンスに一度は渡された瞬間に携帯ゲーム機を丸ごと握りつぶしてしまった程だ。

 慌ててWCCで直すことに成功したが、そのあとで二人きりになったすずかに怒られた邪神だった。

 

 

 

 

 一方その頃、時の庭園の格納庫にあたる場所で邪神と魔女は問答を繰り返していた。

 無理矢理つけてしまった変形と合体機能の所為でビームを放つことが出来なくなったゲッター1の前で裕はあれこれWCCでいじっていた。

 

 「あれも駄目。これも駄目。ゲッター線が無いとやっぱり無理か?代わりにジュエルシードを…。いやいや」

 

 「そもそもたかが2~5メートル程しかないロボットにそんな余計な機能をつけただけでも一杯一杯なのにそれに乗り込もうなんて無茶苦茶な話よ」

 

 トマホーク、ドリル、ミサイルなど兵器を積んでいる状態で変形や合体をしようとするとその武器自体が邪魔になって変形や合体に支障をきたす。というか、体積的に考えても無理がある。

 時の庭園に合ったロボットの品質の良さとWCCの力でどうにか形だけは整えることが出来たゲッターロボだった。

 

 「な、なら鎧としてつけるのは?バリアジャケットみたいに装着する形で」

 

 「あなたの体って変形と合体が出来るの?」

 

 裕はガクリと膝を突きながら落ち込む。

 そして、何も言わないゲッターの前で呟いた。

 

 「お前と、合体がしたい」

 

 別の合体ロボ。機械天使に当てはまりそうなセリフを呟く邪神を見たプレシアはため息をこぼす。

 

 「まあ、別にビームを放つだけなら出来ないでもないけど…」

 

 「本当か!?」

 

 「そんなに目をキラキラさせながらこっちを見ないでくれる。あなた時々すごく子どもっぽく、まあ、子どもなんだけど、本当にフェイトと同い年なのか分からなくなるから対応に困るのよ」

 

 「そんな事より、ビームは!ビームは本当に撃てるのか!」

 

 「変形と合体機能を外せば…」

 

 「やだ!そんなのゲッターじゃなくな…。いや、一応あれなら…?一応あれもゲッターだし…」

 

 即答で答えた裕にプレシアは呆れたと再びため息をこぼすと、自らが持つデバイスを起動させてとある設計図を見せる。

 

 「無理に一機分でやっても無理なら百。いえ、千機でそれを担えばビームも変形も可能よ。ただ、変形の部分はあなたのWCCでやればいい。それでも人間でいう所の胴体の部分はあまり変形が出来ないけどね」

 

 「…これって」

 

 プレシアが見せた物を見て裕は打ち震えていた。

 初めて時の庭園でロボットを見た時の感動で忘れていたがゲッターロボは人が乗り込むための巨大なロボットであり、時の庭園にあったロボットのサイズではあまりにも小さすぎた。プレシアの見せたそのロボットは人が乗り込むには大きすぎるサイズだが、それでも裕が望んでいたビームを放つことが出来る機能を搭載することが出来る。

 数千、数百ものロボが一度資材化されて、再び同じ風貌のロボを作り上げる。それはただ大きくしただけなのだが、裕はその多くのロボットが一つになるという所で天啓を得たように感じた。

 あのゲッターなら大きく変形することは少ない。それどころかビームも放つことが出来る。WCCでプレビュー画面を開いて確認しても大丈夫だし、先程思いついたもう一つの案もプレシアから可能とお墨付きをもらう。

 最初に思いついたゲッターは変形合体できないもののトマホークとビームを撃つことが出来るが変形機能と合体機能がないロボットというかバトルアーマー。

 そして、もう一つのロボットは人というよりも異様とも思える形だが、確かゲッターである。戦艦サイズという特大サイズのロボットだった。

 

 「ふは、ふははははっ!これなら、これなら神にも悪魔にもなれる!」

 

 「あなたは邪神でしょ」

 

 これまた別のスーパーロボットを髣髴させる台詞を叫ぶ裕にプレシアは三度目のため息をついた。

 

 



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第二十六話 黒い魔人と黒い邪神

 どこから間違えたのだろう。

 自分は世界の主人公で、特別で、選ばれた人間だと思っていた。

 憧れた力も手に入れて、憧れた世界で、無双できると思っていた。

 だけど違った。

 自分と同じようにそれぞれが憧れていただろう力を持った人間がいた。

 彼等もまた神という存在に選ばれたのだろう。

 一人は王の財宝を。

 一人はドラゴンの力を。

 そして、自分は天をも貫く事が出来る力を手に入れた。

 奇しくも自分を含めた三人の力はほぼ拮抗していた。

 だが、あいつの力だけはよく分からなかった。

 あいつの力は直接的な物じゃなかった。それどころかあいつ自身も変わっていた。

 この世界で主役にあたるなのは達と仲がいいはずなのに友達という一線を越えようとしていなかった。そして、ほかのモブキャラと言っていい奴等と共に遊んでいる事が多かった。

 俺達がそうさせていたかもしれないが、あいつは気が付けば俺が欲しかったものを手に入れていた。

 友人。家族。仲間。

 あいつの周りは少しずつ変わっていき、俺が欲しかったものを全て手に入れていた。

 いや、変えていたんだ。

 あいつは何の変哲もないモノを少しずつ変えていった。それが羨ましかった。それが欲しかった。

 だからこそ、あの青い宝石は光ったんだ。

 あいつのように変えていきたいと、変わっていきたいと。

 その光を浴びた瞬間に自分の中にあった黒い感情が体の中でぐるぐると螺旋を描いて体を飛び出して形を変えていった。

 それは自分も世界も変えてしまいたいという願いを叶える為に変貌してしまった体は黒い魔人となって全てを壊そうとしていた。

 他の三人を出し抜こうと、グレンラガンの鎧を見に纏って海の中に潜り見つけたジュエルシードの暴走で俺は海の中から空へと場所を移していく。

 いつの間にか身に纏っていた赤い鎧もラバースーツのように細くなっていた。だが、漲る力はグレンラガンよりも強く感じられるバリアジャケットに変貌を遂げていた。

 ああ、これは敵キャラのボスが使っていたラゼンガンだ。今の自分にピッタリじゃないか。自分が憧れていた世界の主人公たちを苦しめて、あと一歩のところで負けてしまったボスキャラの風貌だ。

 周りの景色を見ると青い宝石が五つ自分の周りを衛星のように回っていた。

 自分が集めていた物だ。

 その回転に呼応するかのように海上には竜巻が幾つも巻き起こり、空は夜のように暗くなり、雷は所々に落ちている。風は嵐よりも強く荒く吹き荒れている。陸の方では大きな地震があったかのように地鳴りがしていた。

 海鳴の町は突如変貌した天候に混乱しているだろう。そこに暮らしている人達。この世界の俺の家族。

 こんな横暴な性格をしている俺でも迎い入れてくれた家族。今更になって気が付いた。こんな俺を大事にしてくれたお袋。親父。

こんな馬鹿な俺だけど、こんな事で死なせたくない。だけど、体は言うことを聞かずに町へと向かって行く。

それに連れられて竜巻と雷も町に近寄っていく。このままでは確実に海鳴の町は大参事に陥ってしまう。

 今まで自分に悔いても遅いかもしれない。だけど、もし…。もし、もう一度変われる機会を得られるのなら!

 

 

 

 誰でもいい!俺を止めてくれ!

 

 

 

 そう強く願った時だった。

 

 空から現れた宇宙戦艦を模したような空に浮かぶ船。アースラ。そこから出てくる白と黄色の光。

 ・・・ああ、いつだってそうだ。

 主役はいつも遅れてやってく

 

 「はっ、最高の場面じゃねえか!見てろよなのは!フェイト!俺の勇姿を!」

 

 「我が嫁達に見せてやろう!王の力をなあ!」

 

 

 

 …お前等じゃない。

 

 

 

 メダルトリオのうちの一人。銀髪こと、榊原 貫は目の前に現れた自分と同じ境遇の二人に落胆の想いを発した。

 

 

 

 管理局の執務官とは冷静になって事態の収拾を行うことが必要である。

 海鳴の街を中心にジュエルシードを探索していたら突如現れた膨大な魔力反応。高町なのはと月村忍にも警戒するように伝え、現場に向かうと黒い巨大な人間が空中を闊歩していた。

 いや、あれは魔人とも言った方がいいだろう。

 アースラのブリッジにいるはずの自分にも感じ取れるほどの魔力。その迫力にクロノは怖気づいていた。

 本当にあんな物を相手にしていいのかと。

 あれに挑む魔導師などただの馬鹿か。それとも相当腕に自信がある奴だろう。

 先程、医務室で取り調べを受けていた王城と白崎という少年二人はこちらの制止を無視して突撃していったが、間違いなく前者だろう。

 二人はアースラの外壁を破壊して飛び出していった。あとでその弁償をしてもらおう。月村忍の関係者だったら彼女と交渉を行い、損害賠償金を少しでも相殺するように頼むことも視野に入れておく。

 黄金の鎧のようなバリアジャケットを見に纏った王城はまず巨大な鎖で黒い魔人を絡め取る。

 最初はそれで動きを封じ込めたと思ったが魔人はその体に巻きつけたかのような黒いスーツから紡ぎだすかのように細い布のようなものが鎖の隙間から飛び出してレイピアのように鋭くなって全方位に突きでてくる。それはまるで栗のイガに見えた。

 王城はその鎖の持ち主だからか、すぐに異変に気づき防御態勢になってその細い槍に耐えることが出来たが、背中にドラゴンの翼を生やした殆ど生身の白崎は体のいたるところを貫かれ海へと叩き落された。

 測定した所、生身に見えても白崎の防御力は一般魔導師のバリアジャケットよりも二段ほど上を誇る。それが一撃で落とされた。

 それを見たアースラスタッフは白崎を再び艦内に転送させる。

 イガは再び魔人の形に戻る。そこに彼を拘束していた鎖などなかった。

 王城はそれを見て再び己の魔力で鎖を作りだし、魔人の足止めを図る。と、同時に赤黒い剣を右手の中に作り出す。

 

 『つけあがるな!ガラクタがぁあああああ!エヌマ・エリシュ!!』

 

 その赤い剣から放たれた破壊のエネルギーは黒い魔人へと向かう。

 その威力はオーバーSクラス。というか、結界も張っていないのにそんな高出力の魔法をぶっ放したら後ろにある街まで吹き飛んでしまう!

 モニターしていた画面の大半が王城の放った攻撃でホワイトアウトしてしまう。だが、それから戻れば壊滅してしまっただろう街並みが広がっていると考えてしまった。

 

 だが…。

 

 その白い映像の次に映った映像は黒い点だった。

 その黒い点はよく見れば勢いよく回転している。更にはガリガリと削り取っていくような音を発しながら王城の攻撃を受け流していた。

 そう、黒い魔人は自分の下半身を大きなドリルに変化させて王城の攻撃を紙に穴をあけるように、それでありながら台風の目のように自分に向かって放たれた攻撃を拡散させていた。

 

 「エイミィ!急いで彼を回収して!」

 

 アースラの艦長、リンディは王城の回収を急がせる。

 王城は自分の攻撃を受け流されたことに衝撃を受けたのか動きが止まっていた。そして、黒い魔人はそのままの形で王城に襲い掛かる。

 こちらが彼を回収する作業と魔人の攻撃が襲い掛かるスピード。どちらが早いか。

 

 答えは魔人だ。

 

 このままでは王城は魔人のドリルでひき肉にされるだろう。

 そうこのままでは、だ。

 

 『ディバインバスター!』

 

 『プラズマスマッシャー!』

 

 桃色と黄色の砲撃が魔人を左右から攻撃してスピードを少しだけ遅くした。

 更には赤いロボ。ゲッター1が王城を突き飛ばすように彼と魔人の間に割って入る事で彼の身代わりとなったゲッター1は遅れて襲い掛かって来た魔人のドリルで砕け散り、爆発した。

 その爆風で飛ばされた王城は自分を助けてくれたゲッターに悪態をつきながらもなのは達に爽やかな笑顔を向ける。

 

 『俺を助けに来てくれたのか二人共!なんともいじ『…ディバインバスター』ぬわあああああっ?!』

 

 笑顔を向けられると同時に隣にいたフェイトに聞こえるかどうかの声量で桜色の収束砲を撃つなのはの姿にリンディとエイミィは呆気にとられる。

 

 『ね、ねえ。良いのかな?あんなことして』

 

 『どうせ、何も考えないで突っ込んでいって撃墜されるのがオチだよ。ああいうのはさっさと退場してもらうのが一番なんだよ』

 

 アースラの二人同様にフェイトもまた呆気にとられていた。

 そこから少し離れた場所でこれから行われる戦闘に備えて、海鳴の街を守るための結界を張るユーノとアルフの姿も見えた。

 

 『僕も同意するよ。あったこともない僕に対して淫獣だの。ムッツリだの。人の話を全然聞かない奴。いても邪魔なだけだし』

 

 『あ、あんた達も苦労しているんだね』

 

 ゲッター1の爆発によって立ち上った煙が晴れると、そこには王城の攻撃でだろうか、所々に傷が見えるものの戦闘には何ら支障はきたさない様子だった。だが、ダメージは確かに通っている。

 細い身なりにしては異様な防御力を持つ黒い魔人にフェイトをはじめ、その場に駆け付けたクロノも決定打が打てるか不安だった。

 

 「遅れてすまない。…ところで、よかったのか?王城とか言った少年を叩き落として?」

 

 正直に言うのであればあの膨大な魔力攻撃の手法を失ったのは痛い。

 

 ≪クロノ執務官。それに関しては私達に考えがあります。私とマスター。そして、ユーノ氏でメダルトリオを消し飛ばす、もとい撃退するために組みだした魔法があります。しかも今の状況は最適です≫

 

 消し飛ばすって…。そんなにいやか。と、思ったクロノだったがなのはが持つレイジングハートから渡されたデータを見てまたもや呆気にとられる。

 

 

 

 空中に散った魔力をかき集めな、自分の魔力でそれを内包。圧縮させて放つ超圧縮砲撃。

 スターライトブレイカー。

 

 王城が放ったエヌマ・エリシュ。

 Fate/stay nightという作品に出てくる英雄王の持つ天地開闢の威力を誇ると言われたその攻撃は王城が使うには技量が足りず、放出する魔力のみが膨大なだけ。文字通り力任せの攻撃だった。

 そこに技量などはない。本当のごり押し。だが、その威力は英雄王の力を有している物。かなり劣化したその攻撃は半径一キロメートルのなのはの撃つディバインバスターだ。

 

 

 

 なのはの放つスターライトブレイカーは、王城が攻撃した時に散った魔力の粒子をなのはがかき集めて撃ち放つそれは、王城の攻撃を圧縮した砲撃になるだろう。

 なのはとレイジングハート自体に反動によるダメージ大きいだろうが、確かにこれならあの黒い魔人も止まるだろう。

 そう打ち合わせをしている間、月村邸で待機していた複数のゲッター1が魔人の相手を務めていた。

 魔人は蹴る殴ると言った単純な動作だったが、その動作でゲッターは次々と戦闘不能に陥る。ただ撃墜されるのではなく体に張り付いて自爆するゲッターもいたが数は目に見えて減っていく。

 そして、最後のゲッターが撃墜された後、なのはとフェイトクロノの三人は黒い魔人。ラゼンガンへと戦いを挑んでいくのだった。

 

 

 

 一方その頃、月村邸で邪神があっちにこっちにと指を移動させていた。

 

 「帰ってきたらいきなり大地震とかクライマックス過ぎるだろ…」

 

 海鳴の街の殆どをアイテムグループ化していた裕は海の上でなのは達が戦っている間にこの町に帰ってきたら、空は嵐のように荒れて、地面は今にもはじけ飛ぶのではないかと思うぐらいに揺れていた。

 裕はそれを抑えるためにWCCのメニュー画面を開き、海鳴市全体に耐震補強を施すことにする。更に、崩れかかっている崖やビルなどメニュー画面からピックアップして修復・回収を行う。

 今頃、海鳴市の住人は空に嵐。地面は地鳴り。住宅街がビル街の所々で煌めく建物を見て呆気にとられているだろう。

 

 「…裕君。貴方の用意したロボットの反応が今、全部消えたわ」

 

 「データは取れていますか?」

 

 「…ええ、でも正直言って怪物並の攻撃力と防御力よ」

 

 裕の後ろから忍がプレシアから渡された電子端末を持って歩いてくる。

 そこには最後に砕けた散ったゲッターロボが計測したラゼンガンの強度・パワーを見せられた裕だが、その顔には余裕の表情が見えた。

 

 「どんなにパワーアップしてもバリアジャケット。WCCなら引っぺがせる」

 

 「それって一回触らないと駄目なんだよね?」

 

 

 裕の表情から余裕が消える。

 忍のすぐ後ろから声をかける少女の声に裕は自分の能力を再確認する。

 少女は少し前になのは達の援護に向かったプレシアに月村邸の中で待っているように言われたが、外で裕がWCCを使っている気配に気が付いたのか屋敷から出てきて目に入った裕に声をかけたのだった。

 

 「だだだだ大丈夫だしっ。そ、それになのは達だけでもどうにかなるってプレシアが言ってたし」

 

 「どもりすぎ。それに、それ。まだチェックし忘れているよ」

 

 少女は裕に見えるように自らもWCCのメニュー欄を開いて見せる。

 WCCが扱える邪神は基本的に裕以外考えられない。

 もし例外があるのならそれは、『他の邪神の力に共鳴してその力を扱う事が出来る力』を持つ邪神もどきだけである。

 裕がそのメニュー画面を覗こうと顔を少女に近付けると同時に頬に柔らかくも少しだけ熱い感触を感じた。

 

 「な?!」

 

 「まあっ」

 

 慌てて距離を取る裕を見て、含みのある笑みを浮かべる少女。

 忍はそんな二人を見て少しだけ驚いていた。

 

 「にゅふふ。私が起きたらチューしてあげるって約束したもんね?思っていた通り、純粋だったんだね。ユウ」

 

 少女に悪戯されたと事を抑えている裕は、そこから自分が顔を赤くしていると感じていた。

 

 「チェックはお終い。妹とお母さん。そして、妹のお友達を助けてくれたら口にしてあげる」

 

 「~~~っ!…歯磨きして待っていろ!!」

 

 にゃふふ、と笑う少女に裕は仕返しとばかりに裕はそう言い放つと何もないように見える空間に手を当てる。

 そこには黒いマントを体につけた鋼鉄の鎧。

 

 ゲッター1を基盤に作られた空襲型パワードスーツ。

 ブラックゲッター。

 

 ブラックゲッターが光学迷彩を解いて現れると体の各パーツが分離して裕を覆うように再度合体していく。

 WCCで強化した黒袴とアクセサリー。パワードスーツとなるブラックゲッターを着込んだ裕は空へと飛ぶ。

 黒袴には『身体能力大』で身体能力、特に反射速度を上げる。

アクセサリーには『鎮静効果大』に『繊細操作』とつけて常に冷静にかつ繊細な動作を取れるようにする。

 そして、ブラックゲッターの動力としてプレシアがこれでもかと込めた魔力WCCの効果で裕の念願だったビームを放つことが出来る。ただし、WCCで強化しているとはいえ連発すればオーバーヒートし、飛行能力を失う可能性がある。

 しかも、もう一度WCCを使えば装備していると判断されているブラックゲッターの鎧は外れてしまう。

つまり、変形しようとすると効果を変えようとすれば強制解除になる。

 空中でそんなことをすれば地面や海面に叩きつけられる。そうなればWCCでカスタマイズしている袴やアクセサリーをつけた裕でも死ぬ恐れがある。

 

 だが、それがどうした?

 

 それはなのは達も同じだろ。それにこのままだと世界が丸ごと吹き飛んで死ぬ。

 進んでも死ぬ可能性がある。だけど、このままでも死ぬ可能性がある。

 でも、先に進むことで生き抜ける可能性を増やすこともできる。

 

 前に進む勇気は先程少女から貰った。

 希望はプレシアが教えてくれた。ならば、その希望を守りに行こう。

 

 勇気はある。希望もある。彼女達を信じる心もある。

 命を燃やせ、今がその時だ!

 

 

 

 「いくぞ、ゲッタァアアアアア!!」

 

 

 

 黒い風となった邪神は海鳴の海で戦っているなのはたちの元へと全速力で駆け付けるのだった。




 あとがき。というか、没ネタ。

 アリシア「口にチューしてあげるからね♪」

 裕「舌を入れるぞ!」

 アリシア「ばっちこーい!」

 裕「…冗談の言いあいで負けた」

 アリシアさんはガチです。



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第二十七話 実況・解説は邪神様がお送りしました。

 海鳴でなのは達がラゼンガンと戦う少し前。

 裕とプレシア。そして、幽体のアリシアは最後の打ち合わせをしていた。

 

 体中に取り付けられた機械操作で電気ショックを与えて心臓や脳などを人為的に動かす。

 地面に展開されている魔方陣は身体能力を強化する魔方陣に召喚の魔法陣。

 その他もろもろの魔法に生命維持の装置の数々に身体能力の向上や生命維持効果のあるアクセサリーをつけたアリシアの体はまるでどこかの高位な司祭を思わせる格好だった。

 仮死ならぬ仮に生き返る仮生状態にしてジュエルシードでアリシアの肉体にアリシアの魂を封じ込めて定着させる。

 それがアリシアの蘇生方法だった。

 ただ、裕は一つだけ懸念していた事があった。

 

 「…アリシア。お前、もしかしたらもう一人の邪神になって、不死になっちまう可能性も有るんだぞ」

 

 ワールド・カスタマイズ・クリエーターという作品に出てきた主人公とは違う邪神。

 アユウカスという見た目は少女の邪神だが、彼女の能力は近くにいる神技を使う事。そして、不老不死。

 三千年以上一人で生きた邪神。

 人間の寿命は八十年。魔法世界での人の寿命がどれだけ生きられるか分からないが百年は生きられないだろう。

 ずっと一人で生きていくかもしれない。

 それを二人に伝えるとプレシアは苦虫を噛んでいるような表情を見せたが、アリシアの方はにっこり笑ってWCCのメニュー欄にメッセージ書いて見せる。

 

 『女の子の裸を見たんだから責任とってよね』

 

 その笑顔に裕はため息をつきながら了承した。

 WCCの力でどうにかできるなんて考えていないし、完全に未来に投げっぱなしになる。

 本来ならジュエルシードの万能薬&若返り。更に死者蘇生に近い。というか、死者蘇生そのもの。

 ジュエルシードという厄介な物を安全に扱えるようにするWCCの力を持つ俺自身を管理局は黙っていないだろう。

 

 でも、だからと言ってここで投げ出せたとして、自分は笑って過ごせるか?

 絶対にNOである。

 

 そして、アリシア蘇生の作業が始まる。

 生命維持装置の光が点灯し、プレシアの魔方陣がアリシアの体を優しく包むように出現する

 その上からジュエルシードの放つ白い光が辺りを優しく包み込む。

 その光は、その光が照らしだしていた影を二つから三つに増やす。

 一番小さい影がふらつきながらも立ち上がる。

 一番大きな影がそれに近寄る。小さな影もよろめきながらもそちらに近付いていく。

 二つの影が重なり合う

 

 寸前に小さい影がドロップキックの体勢をとる。

 

 そして、重なる影。

 勢いよく突き出されたその蹴りを受けて、

 

 

 

 プレシアさん、ぶっとんだーーーー!!

 超・エキサイティング!!

 

 

 

 いやいやいやいや。何やってくれてんの?!

 

 蘇生するなりドロップキックをかましたアリシアを羽交い絞めにして理由を聞くとフェイトにしてきたことへのお叱りだとのこと。

 

 あんなに良い子なのに。とか、

 あんなに可愛いのに。とか、

 変な方向の趣味に目覚めたらどうしてくれるの。とか、

 虐待を受けているフェイトが妙にエロかった。とか、

 

 最後のは聞かなかった事にする。

 なかなかにハードなプレイ。もとい、虐待をしてきたプレシアへの制裁らしい。

 

 WCCで身体能力を強化した所為か、かなりいい具合のドロップキックがはいったプレシアはバリアジャケットを着こんでいるとはいえ、それだけでは殺しきれなかった衝撃で痛めたお腹をさすりながら立ち上がって来た。

 そこからは裕が間に入ってプレシアとアリシアの話し合いを始めた。

 時折、涙をこぼすようなシーンもあったが、話は一段落つき、アリシアとフェイトをどう合わせるかと打ち合わせをしていると海鳴の街で待機していたゲッターから緊急事態を知らせる信号だった。

 

 

 異常事態を知らされた裕とプレシアはアリシアと時の庭園にあったロボットの殆どを連れて月村邸に転移。

 裕がブラックゲッターを調整している間にプレシアはフェイトの援護に向かい、アリシアには月村邸で待ってもらうことにした。

 

 「スティンガーシュート!」

 

 「フォトンランサー!」

 

 青と黄色の弾幕がラゼンガンに撃ちつけられている間に、なのはがまるでDBの元気玉のようにチャージしている光景を遠くで見ていた裕は思った。

 

 ・・・俺いらなくね?と、

 

 管理局執務官のクロノとフェイトの攻撃で足が止まったラゼンガンは彼等を撃墜しようと全身から飛び出るトゲを伸ばして弾幕を相殺して彼等を貫こうとしたが、そこにプレシアの援護が入る。

 

 「サンダーレイジ!」

 

 ズドオオオオオン!!とおちる稲妻を見た裕はプレシアだけは怒らせないようにと心に決めた。

 どう見てもフェイトの落す雷の数倍以上の威力を誇る攻撃に裕だけでなく、突然現れたプレシアに言葉一つ欠ける事が出来ないクロノだった。

 まあ、味方してくれるならいいか。と、考えているかもしれない。

 

 「…チャージ完了っ。みんな離れて!」

 

 なのはが今まで空に向かって掲げていたレイジングハートの先をラゼンガンに向けると、それに追随する魔力の塊の光の玉。

 

 「スターライトブレイカァアアアアアッ!!」

 

 それはディバインバスターの数倍も太く、それでいて十倍近くの威力を持つレーザーが放たれる。

 それを見たラゼンガンは王城が放ったエヌマ・エリシュの時同様に下半身をドリルにして、なのはの放った砲撃をやり過ごそうとした。だが、

 

 「…サンダーレイジ。オールレンジ」

 

 ラゼンガンの上下左右からプレシアの極悪な雷が当たる。

 その威力がラゼンガンの姿勢を崩すことになり、なのはの攻撃をもろに浴びることになる。

 

 一言でいえば、「ひでぇ」である。

 

 相手に攻撃をさせることも無く弾幕で牽制。

 相手に有効打のある攻撃をしようとしたらプレシアの高威力の攻撃でキャンセル。

 そして、相手の必殺技であろう攻撃を防御しようとしたら姿勢を崩されてもろに喰らう。

 

 うん。ひでぇ。

 

 現にラゼンガンはなのはの攻撃を受けてボロボロな状態で空中に漂っていたものの力尽きたように墜落していく。

 その途中でラゼンガンの中からメダルトリオの銀髪。榊原が落ちていくのが見えたのでプレシアがそれを優しく受け止める。

 正直、受け止めたくないのだがなのはとユーノからの好感度は最悪。

 フェイトとアルフにはそんな人物に触れて欲しくない。

 裕はいざという時の為に取っておく必要がある。

 

 榊原を受け止めたプレシアの周りには五個のジュエルシードが浮遊していた。

 それらをそれぞれ封印したプレシアは怪しく微笑む。

 

 「…さあ、いつまでも見ていないでお話しましょう。時空管理局の皆さん」

 

 あ、俺じゃないのね。

 …さて、プレシアの手腕を拝見させてもらうとしよう。

 

 プレシア達のはるか上空で胡坐を組んだ状態のブラックゲッターはステルス状態だった数十機のロボット達を合体させて威嚇用のロボットを準備するのだった。

 



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第二十八話 邪神様の逆鱗

べ、べつにあんたの為に書いたんじゃないから!
前回、短すぎたから奮発しようなんて思っていないから!











今回、うちの邪神様が珍しく激おこプンプン丸だった為、かなりの長文になっています。コメディが無いので前書きでコメディさせてもらいました。

次回からはコメディが再動すると思いますので気長に読んでください。


 ジュエルシードを全て執務官であるクロノに渡し終えたプレシアは海鳴の海の上を漂っていた。

 先程までの戦闘を終えた全員がお互いに間合いを取り合っていた。

 戦闘後の緊張感は若干薄れたものの管理局への不信感をぬぐえないプレシアはもちろんフェイトとアルフも何があってもいいように距離を取っている。

 不意に空中に浮かび上がったモニターから翠髪の女性の映像が現れる。

 

 『初めまして。私は地時空管理局、アースラの艦長。リンディ・ハラオウンです。今回のジュエルシードの封印処置の手伝い。大変感謝しています。よろしければ、こちらの船に来てお話をしたいのですがよろしいでしょうか』

 

 「よろしくないわね。そちらで私はどのように判断しているかを考えればわかるでしょう」

 

 『…プレシア・テスタロッサ。ヒュードラ事件で大量の死者を出した魔導師として記録されているわ」

 

 管理局の上部からの命令で無理矢理進行させられた計画で娘を、魔導師として、科学者としての全てを失ったプレシアはその言葉を聞いて怒りを露わにした。

 

 「…出したんじゃないわ。出させたのよ」

 

 『・・・どうだかな』

 

 そこにもう一つのモニターが映し出される。

 そこにはぶくぶくと太った初老の男性が映し出されていた。

 

 『…プロフェッサー・マダ。どうして貴方がこちらに』

 

 『…ふん。ジュエルシードとやらを回収するのに時間がかかっているようだから私が自ら出向いたのだ。久しいな、テスタロッサ女史。相変わらず、いや、以前よりも麗しくなったようで。どうかな、今からでも私の所に来ないか。昔の事は水に流せばそれなりの地位を与えってあげてもいいが』

 

 「…私が、貴方の。…ふざけないで!貴方が、貴方達があのプロジェクトを強行させたから私はアリシアを失ったのよ!」

 

 マダはかつてのプレシアの部下であり、ヒュードラ計画の強行を押した科学者でもある。

 今では、その時のデータを元に多大な功績を遺したと言われている科学者の一人だ。

 

 『おや、ではそちらにいるのは。…そうか、あのプロジェクトの人形か』

 

 プレシアは今にも初老の男性を殺さんばかりの眼光をぶつけ、マダを名乗る初老の男性はそれに怯むもフェイトの方に視線を移してにやりと笑って返した。

 

 「この子は…。私の娘よ。汚らわしい目で見ないで!」

 

 フェイトを隠すように前に出るプレシアに対してマダは笑みを深める。

 これは使える。と、

 

 『いい年をしてお人形遊びですか。…まあ、分からないでもないですがね』

 

 「…貴方、まさか。あのプロジェクトを」

 

 『残念だよ。女史。…執務官。そこの犯罪者を捉えてくれ』

 

 「待ってください。プレシア・テスタロッサ。計画を強行させたと言いましたね。だったら」

 

 クロノは今までのやりとりでプレシアとマダの間に何かがあると感じ取った。

 ジュエルシードの危険性は無くなったので事情を詳しく聞こうとしたが、それを無視して急かすマダは口から唾を飛ばす。

 

 『執務官!とっととその犯罪者を捕まえ』

 

 

 

 グオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 

 突如、鳴り響く轟音。

 まるで巨大なエンジンの音にも聞こえた。が、巨大な生物の咆哮にも聞こえる。

 その音を聞いた者は皆が皆、その音源に目を向ける。

 そこにいたのは百メートル近い緑の龍。

 鋼鉄の頭。首。胴体から尾にかけるまで全てが鋼鉄。

 生物とも言えず、かといって完全に機械ともいえないその異形の物体に誰もが気を取られた。

 

 「海の上で異常事態が発生したと思えばその問答。…この世界を守ってくれた者に対しての度重なる無礼。そこまでにしなければ貴様、ただでは済まんぞ」

 

 凛と響く少女の声。

 鋼鉄の龍の頭にブラックゲッターから発せられる声にプレシアは不思議に思ったが、どうやら裕は変声機を使って声を誤魔化しているようだ。

 

 『な、何者だ、貴様!』

 

 「我が名はアユウカス!この世界に流れ着いたゲッターだ!」

 

 堂々とした態度ではったりと偽名をかましている裕。

 だが、その足元にいる鋼の龍がそのはったりを真実に魅せる。

 現にブラックゲッターの中身が裕だと知っているプレシアもそれを真実として受け取ってしまう程の迫力があった。

 

 『…その姿。まさか、あのロボットの大群も貴方の』

 

 リンディは裕の姿を見てこれまでに出てきたロボットとの関連を探ろうとしてきたが、それを裕は即座に否定する。

 

 「それは否定する。ゲッターとは進化の先にある存在!つまり、意志を持つ者すべてがゲッターになることが可能である!この世界に存在していたロボットは元からこの世界にあったモノであり、後から来た私とは違うゲッターである!」

 

 「…つまり、貴方は違う世界からの来訪者だと」

 

 クロノの言葉に裕は頷く。

 その迷いない行動に誰もが納得しそうになっていた。が、実際はったりをかましている裕は内心ぼろが出ないか冷や汗をかいていた。

 

 『それがどうした!ただの次元漂流者ではないか!関係のない奴は引っ込んでいろ!』

 

 若干落ち着きを取り戻したマダは裕に対して強気に出る。

 次元越し。モニター越しに話しているという事もあってか彼は自分の態度を変えない。

 

 「関係はある。私は私とは違う進化をした存在を見守っていた。そこにジュエルシードという世界を滅ぼす存在が現れた。私だけでは対処できなかったそれを解決へと導いてくれたのはそこの親子だ。彼女達には多大なる恩がある」

 

 その言葉にマダは言質を取ったと、言わんばかりに声を張り上げる。

 

 『恩?だったら私達管理局に協力しろ!そうすればテスタロッサの罪を無かった事にすることだって可能だz』

 

 「つけあがるなぁああああああっ!!」

 

 グオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 裕の怒声と共に鋼の龍も同調するように咆哮を上げる。

 それを向けられたマダはモニター越しでも分かるくらいに怯えていた。対してプレシアとフェイト。アルフはその力強い咆哮に心強さを覚える。

 

 「話を聞けばそこの魔女は貴様達の言う無理強いにより娘を失ったことになる!それなのに罪を無かった事にするだと!罪があるのは貴様等の方だ!実の母と子を死というもので引き裂くという所業、断じて許しがたい!」

 

 『ひ、ひいいいぃ』

 

 ぎろりと動いたブラックゲッターの瞳に宿った怒気に怖気づいたマダ。

 確かにプレシアの話が真実だとしたら彼。ひいては管理局はとんでもない罪を犯した。

 だけど、それが真実かどうか確かめようがない。

 

 『落ち着いてください、アユウカスさん。貴方の怒りは最もですが真相は私達が確かめます。ですから…』

 

 「母子を引き裂いた管理局の調べ上げた事を信じろと?」

 

 『…それでも、です。管理局の一人としてではなく。リンディ・ハラオウン個人としてヒュードラ事件の真相を報告します。ですから』

 

 リンディの真摯な対応に裕は矛を収めようと思った。

 だが…。

 

 『何をしている!執務官!はやくその黒い奴と犯罪者を、人形共々逮捕しろ!』

 

 人形と言われたフェイトとプレシアは顔を苦しく歪めた。

 彼女達だけではなく、その場にいたなのはやユーノ。クロノ達、アースラスタッフ。そして、

 

 「…つくづく癇に障る奴だ。どれだけ俺を怒らせれば気が済みやがる!」

 

 『ふ、ふんっ。貴様がどう足掻こうが所詮管理外世界の田舎だ!一番近い管理世界とはいえ、私のいる世界。そう、貴様といる世界が違うんだよ!』

 

 裕の口調は「私」から「俺」に変わっているが、それは演技をする気が無くなる程に怒らせるものだった。

 マダが強気でいられるのは距離。

 時空を超えて話しかけている彼にとってその距離は絶対。どんな攻撃でも届かなければ意味がない。

 ならばその距離を潰そう。

 

 「上等だ!なら、その世界の差を切り裂いてやる!ゲッタァアアア、トマホォオオオオオクゥウウ!」

 

 龍の全体から緑色の光が迸り、その光は頭に乗っている黒いゲッターに手の中に集中していく。

 その光はやがてその手から飛び出すように一つの大きな斧へと変化する。

 鋼の龍の倍はありそうなその斧を振るい、マダが映し出されているモニターを叩き斬る。

 もちろん、そのモニターは立体映像だから画面越しのマダには何の影響を受けない。その行動を見て顔を引きつらせながらも無駄な行為だとタカをくくっていた。

 現に裕が放った斧の攻撃などこちらに対して何の効果はない。だが、裕の振り降ろした斧は攻撃の為に振り降ろしたのではない。

 一つは見ているだけで腹が立つマダの顔が映し出されたモニターをぶった切る為。

 そして、もう一つは振り降ろした軌道上にまるで切り裂かれたかのように傷痕のような魔方陣を展開するためだ。

 裕は魔法が使えない。

 ブラックゲッターと鋼の龍。真ドラゴンの縮小版。ドラゴン・クォーターに内蔵されたプレシアの魔力と転移の魔方陣を展開する動作をクロノやリンディといった管理局員に邪魔されないために攻撃の動作を取った。

 

 「シャイン・スパァアアアクッ!!」

 

 緑色に光る魔方陣に向かって飛び込むドラゴン・クォーターとブラックゲッターは再び輝きだす。

 それはまるで一つの流星ように飛び込んでいく。

 二つのゲッターがその魔方陣に突入すると同時に魔方陣は癒えていく傷のようにその姿を消す。

 その光景になのは達はもちろん。その設計に携わったプレシアも何が起こったか分からなかった。

 

 

 

 グオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 

 何が起こったか。それはマダの顔が映し出されたモニターの向こう側から響く鋼の龍の咆哮だった。

 

 

 

 

 

 マダは大きな勘違いをしていた。

 所詮、管理外世界。所詮は魔法文明が無い程度の低い世界。

 そこにいかなる大きな力が働こうとも世界。いや、次元世界で一番高度な文明を築いている自分達に管理外世界の力など届くわけない。

 そう結論付けていた。

 それが間違いだった。

 たまたま自分の趣味で作り上げていた人形で魔法研究・実験。そして己の欲求を発散するための玩具として管理外世界の地球のすぐ近くで遊んでいた。

 そこからすぐに引き返せばいいものの、すぐ近くの世界で手柄を上げるチャンスを見つけた。しかも、プレシア・テスタロッサが関与していると知ったマダはプレシアを手玉に取れると考えた。

 彼女はプロジェクトF。人造魔導師計画を進めていた科学者の一人だ。自分の玩具も彼女の技術があればもっと高度に、面白く遊べる。そう考えて顔を出した。

 それがいけなかった。

 

 今、彼の前にいるのは鋼の龍を引き連れた黒い邪神だ。

 装甲に施された黄色の瞳は無機質なのに怒りを感じさせるほどの迫力。それに追従している龍の咆哮もまさに自分を喰わんばかりの大咆哮だった。

 

 マダがいるのはただの航行艦。武装は一切積んでおらず、積まれているのは同じ穴のムジナ。いわゆる外道研究者たちから貰った玩具が十数人。

 マダはその玩具に命じた。あの龍と邪神(裕)を倒せと。

 

 航行艦から飛び出してきた玩具達は一斉に砲撃魔法を放つ。

 その威力は百メートル近い鋼の龍を埋め尽くす土煙を撒き上げさせた。

 その光景を見たマダは狂喜に顔を歪める。

 ざまあみろ。と、

 管理局に逆らうから、自分に歯向かうからこうなるんだと、リンディ達と通信が切れていない事に気づかぬまま笑い声をあげた。

 

 

 

 オープン・ゲット。

 

 

 

 そう響いた邪神の声が聞こえるまでは。

 

 土煙を突き破るように飛び出してきたのは地球で戦っていたゲッターロボとは細部が違うロボット。

 いわゆるプロト・ゲッターロボが百以上は飛び出して、マダの玩具達を制圧していく。

 いつの間にかあの巨大な龍は消えていて代わりに出てきたロボットにマダは酷く混乱していた。

 その間に邪神はマダのいる航行艦に穴をあけてマダがいるだろう艦の中央まで隔壁をWCCで強化した手斧サイズのゲッタートマホークやその鋼鉄の拳で破壊しながらマダのいるブリッジへとたどり着く。

 マダは裕。ブラックゲッターの容姿・風貌を見て自分を殺しに来た死神かと思った。

 

 「…よう、来たぜ」

 

 扉をこじ開けた際に放り投げたトマホークがコントロールパネルに突き刺さり緑色の光を放っていた。

 その光で映し出されたブラックゲッターの瞳が不気味に光る。

 醜く怯えたマダは画面に映らないように配備していた人形二人を。プロジェクトFで作られた人造魔導師に命令する。

 一人は金髪の二十歳前後の女性で着ているのはシーツを一枚羽織っているだけの格好でクロノの持つ杖型デバイスに似た杖を持ち突撃していく。

 もう片方はリンディを幼くしたかのような少女で金髪の女性と同じような格好だった。

 マダの言葉を借りれば、『出荷したて』という状況だったからか裕でも対処が出来た。女性と少女の腹部を殴り飛ばして壁にぶつけた。

 二人の意識はまだ持っているのだろうがダメージが大きく動けないでいた。

 

 「ひ、ひ、ひ、わ、私に手を上げれば管理局全体を敵に回すことにぶげぇっ」

 

 マダは醜い体を震わせながら未だに裕に対して強気の態度を崩さない。だが、そんな彼の言葉を遮るようにゲッターの拳がマダの顔を殴りつける。

 

 「…い、いだ、いだい」

 

 裕に背を向けて逃げようとするが、そんな彼の頭を掴み乱暴に持ち上げて壁に投げつけるゲッター。

 WCCで強化された袴の上からゲッターというパワードスーツを着た裕にはたやすい事だった。

 

 「痛い、だと?あのプレシアの受けたもんはこんな物じゃないぞ」

 

 裕がそう冷たく言い放つとマダは失禁しながら今も殴り続ける裕に懇願する。

 自分の持つ人形を総べてやると。管理局が自分に命じた実験の事も全部話すから助けてくれと。

 無様に泣き叫ぶマダに途中から嫌悪を感じていたクロノとリンディからもやめるように頼んできた。

 

 「目だ!耳だ!鼻だ!」

 

 「げっ、ごっ、ぶふぅっ」

 

 外のプロト・ゲッターに捕獲された人造魔導師たちの事も含めてちゃんと罰するからこれ以上はやめてくれと。

 その時にはブラックゲッターの全身にはマダの返り血が所々こびりついていた。

 

 アースラからマダの航行艦に積まれていたデータを転送。

 まだに関する情報は十分に取れたというリンディとクロノの言葉を聞いて裕はマダを殴ることを止めて、マダの体をブリッジの壁に放り投げた。

 顔は元の顔の倍に膨れ上がり、体中に痣や出血している部分が見れたが、プレシアがゲッターにも非殺傷機能をつけている効果が活きているのか、マダに致命傷は見られない。

 

 「…プレシアに感謝しろよ。彼女の手心が無ければお前は死んでいた」

 

 もちろん、ゲッター制作にプレシアがかかわったという事は匂わせない為にもそう話す裕だがアースラ。いや、この光景を見た管理局員が悟った。

 プレシア・テスタロッサの家族に何かをしようとすれば黒い邪神が黙っていないという事を。

 だが、それを悟れていない人物がいた。

 

 「…今だ!奴にしがみつけ!」

 

 マダが殴られている間に先程受けたダメージが抜けた女二人が裕にしがみつく。

 それを振りほどこうとしたその時、女二人の腹がまるで風船のように膨れ上がる。その大きさは大人一人が入っているのではないかと思わせるほどの大きさだった。

 その異様な光景に一瞬間を取られた裕が目にしたものは、彼女達の腹から出てきた爆炎だった。

 

 

 

 ズドンッ!

 

 

 

 と、大きく鳴り響くと同時にアースラとマダ繋いでいた映像回線が途切れる。

 別の画面ではプロト・ゲッターに捕縛されていた人工魔導師たちも同様に自爆してゲッターの数機をスクラップにしていた。

 まだは万が一に備えて彼女達に爆弾を仕掛けていた。

それは彼の命令に忠実に従うように作られた彼女達にとって証拠隠滅を兼ねた代物だった。

 爆発は小規模とはいえ外にあったプロト・ゲッターをも一撃で破壊した物。それが二つ。しかも至近距離で爆発させられた裕はその場に倒れていた。

 ブラックゲッターの装甲は所々が砕け散っており、その隙間からは出血も見られる。

下につけていた袴を突き破っている白い物は裕の骨か、それとも先程自爆を強制された彼女達の物だろうか。

 そんな傷だらけの裕を見てマダは晴れ上がった顔で笑う。

 自分をこんな風にした裕を罵り、プレシアを罵る。

 彼女は所詮、犯罪者。その娘フェイトもいずれは自分の玩具にしてやると、既に回線も復旧しているというのに外聞もなく下品に笑う。

 そこにリンディとクロノからそれ以上喋るなというメッセージが届く。

 

 

 それ以上喋るな。と、

 

 

 管理局の名を汚している行為に対してではない。

 それは彼の身を案じての言葉だった。

 

 

 

 ブラックゲッターを中心に白の光の渦が巻き上がる。

 マダは表情が固まっているのか、ただ目を見開くだけだった。

 黒い邪神が重傷を負いながらも立ち上がった。

 ブラックゲッターは元々裕が着込むもパワードスーツだったために他のゲッターよりも防御力はあった。それでも裕が受けたダメージは甚大だった。

 肉は裂け、骨が突き刺さっている。動くだけでも激痛でのたうちまわるだろうその怪我で立てたのは、WCCで『鎮痛効果』が施された黒袴。

その効果で裕は激痛を緩和し、行動に移せた。

 

 「…ひっ、ひっ」

 

 マダは今度こそ観念した。

 だが遅い。遅すぎた。

 邪神は止まらない。自分の腹にこもったモノを具現化するように力を込める。

 それは元のロボットの製作者の怨念も込められていたのか、黒い邪神の腹に紫の光が灯る。奴を討てと輝きが強くなる。

 ギンッと、ブラックゲッターに睨みつけられたマダは悲鳴を上げる事しか出来なかった。

 

 「…ゲッタァアアアアッ」

 

 「や、やめろっ。やめてくれぇええええ!」

 

 マダの悲鳴がアースラのモニターの向こうにいるなのは達にも聞こえる。

 だが、邪神を止められるものは誰もいない。

 

 「ビィイイイイイイイムゥッ!!」

 

 

 

 紫の光がマダを写していたモニター画面を覆い隠す。

 終わらない紫の光。終わらない爆音。それでもその光景を見ていた人間はモニター画面が砂嵐で覆われるまで目を逸らすことはなかった。

 

 

 

 数分後、再びモニターに映像が映し出されたのは鋼の龍に乗った黒い邪神が天に昇っていく映像だった。

 




爆発に紛れて、WCCでゲッター・クォーターをゲッターに戻して撹乱。
最後はモニターが潰れている間に再合体させました。



幾つか分離したゲッターが落とされているので一回り程ドラゴン・クォーターは小さくなっています。


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第二十九話 邪神様は皆の鎹。

 鎹。かすがいと読みます。
 大工さんが建物の材木などを連結させるために作る部分の事。
 タイガー&ドラゴンという噺家ドラマの最終話で知りました。



 

 ジュエルシードの引き起こした事件。通称J・S事件はそれを発掘したスクライアの一族の一人、ユーノ・スクライア。

 彼が現地で出会った少女。高町なのは。

 偶然、その管理外世界の近くを放浪していたテスタロッサ一家の協力。そして、高町なのはの知人たちの協力により事件は迅速に解決した。

 その事件で発覚した管理局の非人道的実験。

 

 多くの死者を出したヒュードラ事件。そして、人工魔導師生産計画、プロジェクトF。

 

 当時、事件の解決に向かっていた管理局の航行船アースラ船長。リンディ・ハラオウン。執務官クロノ・ハラオウンはその容疑者としてプロフェッサー・マダを連れてジュエルシードと共に管理局本部があるミッドチルダへと戻り、必ずプレシア・テスタロッサの無実を証明してみせると彼女達に約束した。

 その際、監視役としてステルス状態のゲッター1を連れて行っている。これはプロフェッサー・マダの背後関係を調べる為も兼ねている。ばれそうになったら機密保持の為に自爆するという機能も付けている。

 その事を知っているのは艦長リンディとクロノだけ。

 二人は武装が積まれていないとはいえ、プレシアの信頼を得るためにも爆弾付きのゲッターを連れてミッドチルダへと戻っていった。

 

 

 高ランク魔導師に匹敵する資質を持った高町なのは。フテスタロッサ母娘。

 資質だけは高ランクの王城と白崎。

 サポート能力なら管理局の上ランクはあるだろうユーノス・スクライア。

 

 彼女達が(一部を除く)がどれだけ尽力を尽くしたかを報告する。

 だが、彼女達に迂闊に彼女達に接触しないようにとも伝える。

 

 彼女達に危害を加えたその時、鋼の龍に跨った黒い邪神が黙ってはいないのだから。

 それは暗黙の了解であった。

 

 

 

 管理局に少なからず変化を及ぼす事件からしばらくして、邪神の住んでいる町でも少しずつ変化が現れていた。

 

 テスタロッサ母娘の元に長期療養していたという事情で復活したアリシアと合流。

 フェイトとアリシア。

 姉であるアリシアは積極的にフェイトを可愛がろうとするが長い間仮死状態だった体の筋肉は弱り切り、張りきろうとすれば何度も転んでしまうといった事が起こる。

 そのたびに涙目になるアリシアを慰める形でいつの間にか二人の間の距離は縮まっていった。

 そんなアリシアを通してプレシアとの距離も縮めていくフェイト。

 子は鎹(かすがい)。とは、よく言ったものである。

 

 

 

 高町なのはは自分に魔法という力があることを知ったその日からテスタロッサ母娘の元で魔法の特訓を重ねている。

 また、J・S事件のように自分の力が役に立つその日が無い事を願いながらも、自分の力が何かの役に立つと信じて力を高めていく。

 そんな彼女に協力。もしくは追いつこうとアリサとすずかも自分に魔法の力が無いかとプレシアに訊ねてみたが無いときっぱり否定された。

 魔法の力は危ないし、むやみやたらと近付いてはいけない物だと言うプレシアさんに納得がいかないアリサはそこを何とかと迫る。

 すずかもアリサ程ではないが退く気はないらしく二人でプレシアに迫ってみたがプレシアは首を縦には降らなかった。

 リンカーコアと言う魔導師特有の臓器のような物があるかないかで魔法が使えるかどうかが分かる。

 なのはにはそれがあるが二人には無い。と、説明したプレシアに対してアリシアが「魔法が使えないならユウに代わりになる物を作ってもらえばいいじゃない」と、発言した。

 アリシアはこれ見よがしに裕からWCCで『体力増強』の効果がついた指輪を見せる。

 裕は別に指につけるならどこでもよかったので適当に調整した指輪で復活した手のアリシアの補助になればと渡したのだが、アリシアが嵌めている場所。それは魔法世界でもなのは達のいる世界でも共通して愛情を寄せる者から贈られた指輪をはめる場所だった。

 その場所と指輪について小一時間ほど説教じみた説得により、アリサは前から持っていたブローチについていた効果をアリシア同様に『体力増強』に更新された。

 すずかは自分が大事にしていたカチューシャ。カチューシャに金をあしらった刺繍でレア度を上げて、『鎮静効果』という効果がついたものになった。

 これによりアリサはいざという時にはそのブローチ握ってその効果を発揮して離脱する。

 すずかはその『鎮静効果』で冷静な判断を取ることが出来、その場から逃げ出すなどあくまで逃げる為のアクセサリーだった。

 なのはとフェイトは既にある相棒にWCCで強化された物があるから二人に何か渡す必要は無い。

 

 

 

 さて、肝心の邪神様はというと。

 

 「さあ、どうぞ裕様。本日は黒毛和牛のレアステーキです」

 

 「…おおう。グレイトリッチ」

 

 J・S事件。

 マダにゲッタービーム(ゲッター線未使用)を当てて全身火傷。そして、数か所の打撲や骨折という重体に追い込んだ後、海鳴の街に戻った裕はマダの命令で自爆した人工魔導師の攻撃。特攻によってマダ程ではないが重症の状態だった。

 プレシアがなのは達と共にリンディの所に出向いているうちに忍は裕を自分の邸宅で保護し、月村家専属医師を呼んで手当てをすることになった。

 その際、ユーノに月村邸の周りに管理局の監視魔法。サーチャーが展開されていないかを調べ、更には時の庭園から運び出したゲッターに周りを捜索させ、監視されていないと判断してからの月村邸での看護である。

 一応、異世界に行ったという事でその世界にしかいない細菌を持ち込んでいないかとか、人工魔導師の体液に触れているので感染症は起こしていないかなど入念な身体検査は月村邸でしか行えないと判断したからだ。いざとなった時はノエルやファリンといった戦うメイドで抵抗するつもりだったが、管理局の中『清』と『濁』のうち、『清』に属するリンディとアースラスタッフには無用の心配だった。

 いくらWCCで回復力を高めたアクセサリーを見に纏っているとはいえ、あの時流した血と折れた骨。少しだが抉れた筋肉を回復させるにはそれ相応の栄養が必要になる。

 その栄養として月村邸で摂取していた裕だが毎度毎度豪華な食事が運ばれてくる。

 いわゆる庶民派な邪神にとってあまりにも豪華すぎる食事に何度か家に帰ろうかと本気で悩んだ。

 バニングス・月村・高町の順番でお見舞いの品が届けられたが、高級メロン。ハム。バナナと持ってきてくれた品を見て、なのはに「味噌汁を作ってくれ」と庶民の味を要求したが高町父子に却下を言い渡された。

 というか、肉を毎日一回は出してくる月村家の人達。いくら新陳代謝が大きい子どもとは言えこんなに食べたら太るのではと疑問に思う事もある。

 

 まるまると太らせて自分を食べる気なのか?

 あれは養豚場の豚を見る目なのか?

 

 それを全力で否定できたらいいのだけれど、月村邸で看護を受けて三日ぐらいの晩に動けない自分の首に歯を立てているすずかの夢を見た。

 翌朝自分の首過ぎを確かめてみたが、そのような事をした痕跡も無かったので夢だと断定した。のだが、妙にリアルだったのだ。

 夢の中でとはいえ、自分の首に噛みついているすずかの舌が妙に艶めかしい物だった。

 ちょっぴりゾクゾクした裕だった。

 

 

 

 J・S事件が終結して一週間ほどが経過した。

 なのは達の通っている学校にはフェイトとアリシアが同じ学園に入学することが決まって、裕が日常生活に復帰するころには双子として編入してくるテスタロッサ姉妹。

 アリサとすずか。なのははその変化を快く迎えるだろう。

 だが…。

 

 「…では、お前を新しい『イエーガーズ』の一員として迎えいれる!厳しくしていくぞ、覚悟しろ!」

 

 「はい!よろしくお願いします!」

 

 フェイト達が転校する少し前に裕が立ち上げた『イエーガーズ』の集まりで一人の少年が裕の前で勢いよく頭を下げた。

 その頭は太陽の光をよく弾いていた。

 そう弾いていたのだ。頭で。髪ではなく、頭で。

 それは産毛も剃り落としたのではないかと思うほどの坊主頭だった。

 

 「その覚悟、本当かどうか試してやる。…榊原。いや、イエーガーズ№59よ!」

 

 「望むところだ!」

 

 J・S事件後。

 榊原は自分の行いを反省して自ら頭を丸めこんでなのは・すずか・アリサに土下座をしながらこれまでの所業を謝罪し、更には高町道場に入門し精神的に鍛え直そうと訪れた。

 その言動に少女達は困惑、もちろん裕も驚いていたがあのキラキラサラサラの髪を剃り落した榊原を信じてみようと思った。

 更には『イエーガーズ』に入団して陰ながら彼女達を支えるという意気込みを聞いた時裕は彼を信じてみようと思った。

 

 「では、思えに早速やってもらう事がある、それは!」

 

 「…それは?」

 

 裕はWCCで作った『イエーガーズ』の缶バッチ。しかも大きくRと書かれたバッジを榊原に渡す。

 

 「お前には、これから『イエーガーズ』の一ヶ月リーダーをやってもらう」

 

 「いきなりだけど無茶ぶりしすぎじゃないか?!」

 

 『イエーガーズ』の主な目的はなのは達がメダルトリオ。榊原がいなくなったのでコンビになる。

 そのコンビから逃げ出すための逃走経路を探しだし、誘導を行い週に一回何かイベントを起こす。

 それはゲーム大会から体力作りのための鬼ごっこ一度相手を捕まえるごとに鬼の服に重りをつけて行くもの。そんな幹事のような事を考えるのが『イエーガーズ』リーダーの仕事だった。

 だが、この『イエーガーズ』。創立者の裕の無茶ぶりに楽しく答えるという面白愉快で難易度が高い遊びを目指している。

 これぐらいしてもらわなければ今度の体育会で披露する高速組体操には間に合わない。

 

 「これからビシバシいかせてもらうぜ!№59!ちなみに俺は№1.017だ!」

 

 「その端数は必要なのか?!」

 

 とにもかくにも『イエーガーズ』の団員の心得。

 ボケに対してのツッコミを忘れないという規約を守った榊原であった。

 





 さかきばらくんが邪神のなかまになった。



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第三十話 邪神様は病気です。

 「それじゃあ、これからもよろしくお願いしますね」

 

 「いえいえ、こちらこそお隣さん同士、よろしくお願いしますね」

 

 今日、目が覚めて朝ご飯を食べようと居間に移動したらプレシアさん。フェイト。アリシアが居間にいたでござる。

 いやいや、別に隣は空き家だったし、そこにテスタロッサ母娘が引っ越すのもおかしくはない。

 

 だが、何と言う事でしょう。

 

 昨日まで普通の一軒家が複数並んでいた。サラリーマンが40年ほどのローンを組んで立てたと思われるいくつもの家が邪神もどき。もとい匠の手によって立派な研究所に変化したではありませんか。

 というか二軒先に山崎さん。三軒先の山本さん。他にも何家族が住んでいたはずなのに彼等は何処に行ったのでしょうか?

 こちらの視線に気が付いたのか怪しく微笑むプレシアさんが少し怖いです。

 話によると月村さんから出資を受けて買収したらしく元から住んでいた彼等は今よりもいい所に住居を移したとのこと。…し、信じて良いんだよね。

 縦に四軒。横に五軒。合わせて二十軒の家々が一つの研究所になってしまったではありませんか。

 これはあれか?真ドラゴン。住宅地バージョンか?

 というか、俺(邪神)の事を秘密にするつもりなら我が家の傍に研究所を置くのはまずくないかね?

 え?前々からロボット大好き少年(俺)が友達のアリシアが近くがいいと言ったから?人見知りをするフェイトの為にも顔見知りの人(俺)が近くにいる家に引っ越したいからと?

 いやいや、俺にはデメリットしかないんじゃ…。

 

 「むう、私達みたいな美少女がお隣さんになるのに不満なのかな?」

 

 「あ、アリシアっ。変な事言っちゃ駄目だよ」

 

 難しい顔をしているところを見たアリシアがフェイトに抱きつきながら文句を言ってくる。フェイトはそんなアリシアに戸惑っている。

 その姿は可愛いので眼福なのだが、管理局の目が俺に向けられたらどうするんだ?

 プレシアはそこんとこ分かっているのだろうか?

 

 「ゲッターロボを警備に置いているんだけど見に来る?」

 

 「行きます!」

 

 いやいや、メリット満載ですね。プレシアは俺の事をよく分かっていらっしゃる。

 俺はきっと病気なんだ。

 ビイイイイイイッムゥ!!と叫びたくなるんだ。

 ロボット依存症という病気にな!

 

 ブラックゲッターにドラゴン・クォーターは既にプレシアに返却している。

 WCCでゲッターを作ろうと思って元になる物。プレシアの時の庭園にあるロボットクラスを加工してやっとゲッターロボとしての機能を果たせる。

 いや、まあ、フェイトやアリシアみたいな美少女と戯れるのも嬉しいよ。

 だから、その指に摘まんだ俺のほっぺを解放してください。アリシアさん。

 

 それからプレシア研究所について行った邪神はその敷地内の地下をWCCで駆使してゲッターロボの格納庫兼バトルドームを制作。ゲッターの操縦とフェイトとの模擬戦を行いロボット依存症からくるストレスを解消させるのだった。

 何気にフェイトさんの攻撃が鋭く重いように感じたのは気のせいかな?

 仕方がないモノ男の子だもの。今の俺には女の子よりもロボなんです。

 

 「…そんな事を言われたら怒るに決まっているよ。アリシアもフェイトも君に会うのを楽しみにしていたんだから」

 

 「う、それは悪い事をしたな。お前からも何か言ってくれないかなユーノ君」

 

 「素直に謝った方がいいと思うよ」

 

 模擬戦を終えた後、模擬戦で痛めた体を癒すために女装させると女の子に見えそうな美少年。ユーノ君が回復魔法をかけてくれている。

 すわっ、テスタロッサ姉妹の三人目?と、思ったのは内緒だ。

 ユーノ君は金髪美少年だった。そして、この研究所でプレシアの助手をしながら今回のジュエルシード事件。JS事件で魔法に目覚めたばかりのなのはのサポートを終え次第元の世界に戻るというのだが、その時「一緒に発掘しない?」と、誘われたのだ。

 確かにWCCがあれば穴を掘らずともある程度までなら発掘できそう。更にはジュエルシードのような危険物の撤去作業にも一役買えるだろう。

 思わぬオファーに裕は期間をくれと答えた。

 ユーノ達の一族のように発掘を生業としている人達にとってWCCは魅力的に感じるだろう。だけど、管理外世界の人間が管理内世界の発掘にいきなり参加したら管理局が怪しむだろう。

 そこでユーノとプレシアは今回の事件でフェイトと友人関係になった高町なのは。月村すずか。アリサ・バニングスのいる海鳴の街に研究所を作り独自に魔法技術。及び機械技術の特許を作りだし、管理内・外の世界に貢献しながら無視できない程に名を高める。

 その間にその近くにいた彼等は開設当時の知人として紹介すれば怪しまれずに済むだろうと考えた。

 管理局は信用できないから地球に研究所を置いた。娘の友人たちがいるところに研究所を構えた。そこで知り合って仲良くなった彼等に管理内世界の事を伝えてもおかしくはない。と、大雑把な流れだがこのように進めて行こうと考えたのだ。

 今のところは月村・バニングスのお金を借りて研究所を創立。

 プレシアは時の庭園にあったロボットを参考にその技術を小出ししながら地球で月村・バニングスを経由してお金を稼ぐとともに、裕に可能な限り強化したロボットに加工した後、それを分解してその内容・技術を管理局。管理内世界に売りつける。

 それ以外にも管理局から賠償金が出るのだ。借金スタートだが裕関連でスポンサーの月村・バニングス。すぐに元は取れるプレシアの三人は余裕だった。

 

 

 

 それから一週間後。

 テスタロッサ姉妹が裕たちのいるクラスに転校するのであった。

 

 




ユーノ君「(発掘)ヤラナイカ?」

邪神様「?!」

何気に男キャラともフラグを建てている邪神様でした。


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三十一話 JASIN SAMA

 フェイト・テスタロッサとアリシア・テスタロッサ。

 二人の金髪美少女が転校生としてやって来た日。

 邪神。田神裕のクラスは大いににぎわっていた。

 

 「アリシア・テスタロッサですっ。妹のフェイトともどもよろしくねっ」

 

 「ふぇ、フェイト・テスタロッサです。よ、よろしくお願いします」

 

 方や元気娘な美少女。ちっこい系けどお姉さんぶりたいところが可愛い。

かたや守ってあげたい系の美少女。更に妹。これ重要。

 

 

 

 「よろしくお願いしますっ」「こちらこそよろしくお願いしますっ」「やめろ!お前等俺のフェイトが怯えているだろ!」「・・・いらっしゃい。フェイト。アリシア。ストレス世界へ」「バニングスさん、しっかり!・・・目が。・・・死ん、でる」「可愛い系の姉に儚げ系の妹、これで勝てる!」「タガミフラッシュ!」「月村さん、田神君のカメラを没収して」「アリシアさん!ご趣味は何ですか!」「妹へのセクハラです!」「はい」「俺のデジカメを没収しても第二第三の携帯電話による撮影が行われ…」「アリシア?!」「裕君、携帯も没収なの」「騒がしい奴等だな、アリシア、フェイトそんなに気にすることはないぞ。このクラスには俺がいるからな」「良い御趣味ですね。次は僕も混ぜてください!」「ぬああああああっ!カメラが、僕のカメラと携帯がぁああああっ」

 

 

 

 これだけの会話が一つの教室で繰り広げられていた。

 誰がどの台詞を言っているかは各々の想像に任せます。

 

 そんな騒動の後、アリシアとフェイトはお昼時間になるとなのは達と一緒にお弁当を食べようと思ったのだが、アリサ・すずか・なのはの三人はお昼時間になると同時に二人目掛けて走り出した。

 その行動に二人は驚いた。何故なら三人は必至と言ってもいい形相でこちらへ向かってきたから。驚いている間に腕を取られた二人をよそになのはたちは勢いそのままに走り出す。

 そんな二人を左からなのは・アリシア・アリサ・フェイト・すずかの五人六脚のような形で教室を出ようとすると、そこに金髪の王城が扉の前に立ちふさがるように五人に声をかけてきた。

 

 「皆、どうした。そんなに急いで、俺と一緒にどこか落ち着いたところで昼飯でも食べ「煙幕!」むぎゃっ?!」

 

 ボフンと立ち上った黒い煙に包まれた王城は五人を見失った。それは後ろから声をかけようとした白崎も同じだった。

 

 「なんだ?!この煙は!?」

 

 「げほっ。・・・げっ、白崎!俺のフェイト達をどこに連れて行きやがった!」

 

 「あん?お前の手が届かない所に決まっているだろ!」(ちい、いつの間に俺のアリシア達は何処に行った?)

 

 そこからは王城と白崎はお互いに魔力強化をした殴り合いになるのであった。

 

 

 

 

 

 中庭の一角。

 それこそ気をつけてみないと見つけにくいところでなのは達とイエーガーズの何名かが真剣な顔つきで携帯電話のやりとりをしていた。

 

 『イエーガーズ・リーダーより、全イエーガーズへ。目標乙・甲は互いの潰しあいを開始した。昼休み時間終わりまでやり合う模様。これより監視体制を五名から俺と№59と№31の三名にする。各員、昼食を取れ』

 

 「ラジャー。イエーガーズ3とその他これより昼食に入る。・・・では、お昼時間に入りましょうか。どうかしましたフェイトさん?」

 

 「あ、うん。なんでもないよ。というか、小学校って、私初めてだから驚いちゃって・・・」

 

 携帯電話で教室の状況を伝えられたイエーガーズの女子がお弁当箱を広げる様子をフェイトは少し引いた状態で見ていた。

 逆にアリシアは目をキラキラさせている。

 

 「日本って、本当にすごいね!NINNJAは本当にいたんだ!」

 

 「今日は静かなほうよ。いつもはあれの1.5倍はうるさいんだから・・・」

 

 榊原が粛清。もとい、心を入れ替えたのでアリサやなのは達の気苦労は減ったとはいえ、魔力で身体強化を行っている二人から逃げるには未だにイエーガーズの援護がなければ逃げれない。

 その時発生した煙玉も裕が駄菓子屋で見つけた玩具花火をWCCで少しだけ派手にしたもので、後の掃除も軽く箒で掃くだけという安心設定の煙幕だった。

 

 「・・・あれの1.5倍」

 

 フェイトは戦闘経験が少ないだろうなのはのスタミナと諦めてはいけないというガッツの出所を知った気がした。

 

 「それにしてもここの皆って元気がいいよね。私ワクワクしてきたよ」

 

 「・・・アリシア。あんた肝が太いわね」

 

 「あはは、アリシアちゃんが気に入ってくれたら両方貰って行ってもいいんだよ」

 

 肝はすわっているものでは?それとも神経が図太い?その両方を混ぜた良い方なのだろうか?

 すずかはようやく無表情から復帰して笑顔を見せた。が、その心は穏やかじゃない。さりげなくアリシアに件の二人を押し付けようとしたがアリシアはそれを首を振って拒否する。

 

 「うーん。それよりは私はユウのほうがいいな~」

 

 「「えっ?!なんで?!」」

 

 なのはとすずかはなんの躊躇いも無く出てきたユウの名前に驚いていた。

 

 「なんでって、言われても私がよく知っている男の子ってユウぐらいだし・・・。それに命の恩人だよ?悪く思うわけないじゃん」

 

 アリシアのもっともな意見に二人は黙り込む。そう言われればそうだった。と、

 

 「まあ、それだけじゃないんだけどね・・・」

 

 意味ありげに頬を赤らめて、視線を逸らすアリシアに周りの全員が慌てる。

 

 「私達の裸見られちゃったし・・・」

 

 「裸?!ていうか、達?!フェイトも見られたの?!」

 

 「あ、あうううう・・・」

 

 アリサはアリシアの発言からフェイトまで裸を見られたと推測して、彼女達に問いただそうとした。が、彼女達の口ではなく、態度で理解した。

 お弁当の中身をフォークでかき混ぜているフェイトは時の庭園であったことを思いだしたのか、耳まで真っ赤である。

 

 「・・・やろう、団長の奴、許せねぇっ」「いつの間にフラグを・・・」「・・・しかもご近所さんらしいぞ」「・・・お、お隣さんだと」「金髪美少女姉妹を・・・」「・・・なんたる裏切り行為」「とられる前に取るしかないのか・・・」「・・・団長の穴は俺の物」

 

 と、イエーガーズの面々から恨み節が聞こえるが、不意に現生の邪神のお尻辺りが寒くなる言葉も聞こえる。

 それからテスタロッサ姉妹との交流を深めるイエーガーズの面々となのは達。

 お昼休憩が終わりかけたころ、メダルコンビの様子をうかがっていた団長こと田神裕から電話がかかってきた。

 

 『こちらイエーガーズ・リーダー。№3応答しろ』

 

 「団長ですか?私達は丁度お昼を終えた所ですが何かありましたか?」

 

 お昼ご飯が終わってもテスタロッサ姉妹の人気は衰えず、それどころか電話の向こう側にいる裕まで興味の対象になっていた。

 №3こと森下千冬の持つ携帯電話に注目が集まる。

 放課後はおしゃべりしながら帰り、プレシアの設立した研究所を案内すると約束を漕ぎ告げたなのは達は金髪姉妹と一番仲がいいだろう裕も一緒に帰らないかと話していた。

 その実、どれくらい親密なのかをはかり知る為に・・・。

 

 「ええ、そうなんです。・・・はい?はあ、わかりました皆さんには私から伝えておきますね」

 

 携帯電話を切った千冬の様子をうかがっていたなのは達はユウが一緒に帰れるかどうか尋ねてみると、帰ってきた答えがあまりにもひどい内容だった。

 

 「今日は新入りと一緒に薄幸系美少女に恩を着せて仲良くするためのナンパに行くからパスだそうです」

 

 後日、邪神の顔にアリサの拳。すずかのアイアンクロー。アリシアのドロップキックが突き刺さり、テスタロッサ研究所の地下に設けられた演習場ではフェイトとなのはにボコボコにされる未来が待っているのだった。

 



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第三十二話 萌えろ!邪神様!

イメージしろ!
想像力が豊かな人ほど楽しめるお話です。


 「俺のターン!俺は『ツンデレ金髪お嬢様』に『体操服』『夕暮れ時』のコンボだ!」

 

 「ぐはぁ!見えるっ、見えるで!強がりながらも必死に努力して涙目で潤んでいるお嬢様の姿が!」

 

 海鳴市が経営する図書館の一角で邪神と車いすの少女が数枚の写真と手作りのカードを片手に悶絶している姿があった。

 邪神が少女と出会った時、彼女の手には『ツンデレ少女のしつけ方』『ドジっ子娘のご飯の食べ方』『ムキッ、笑いで作る割れた腹筋』『気になる彼女の谷間』という本が抱えられていた。

 一見するとR18の本かと思いきや、どうやら育児に料理。肉体改造にバストアップの本らしい。

 だが、そのタイトルにティンときた邪神様は『いいツンデレ少女の写真があるんですけど・・・』と、近寄った。

 車椅子の少女の方はというと、最初は怪しんでいたが邪神の少年が持っていた本『目指せツッコミマスター!』『ウホッ、漫才、ヤラナイカ』などお笑い(?)系の本を持っていた。

 少女はそれを見てとりあえず「うちには赤毛のツンデレがいますから~」と言って、やんわり断りを入れようとしたが「金髪の天然ボケ少女もいますよ~」と、ちらちらと携帯画面に金髪の美少女が映っている待機画面を見せる。

 

「うちにも天然な金髪美人がいますから~」

「言い値で買おう」

「一枚、諭吉一人前」

「ダースで買おう」

 

 などといつの間にやら意気投合。

 図書館のコピー機を借りて印刷した写真に各々がいろいろと書いた紙を添えて何やら妄想の中でたがいに悶えているらしい。

 

 「くっ、私の『ムチムチ美女コンボ』を受けてまだ正気でいられるとは大したHENTAIやないか・・・」

 

 「そっちこそ『二人はユリキュア!コンボ』を受けて平然としていられるなんて・・・。貴様、やりこんでいるな!」

 

 「ふふふ、周りに美女・美少女をはべらせていれば当然よ」

 

 「まさか、こんなところに同志がいるなんてな・・・」

 

 ぐへへへ。と、笑う少年少女の姿は遠目に見ていた榊原の目から見てもHENTAIだった。

 だが、そんなだらしない顔をしていた少女の顔つきがきりっとした顔になる。

 

 「だが、最後に笑うのは私や!ファイナルターン!ドロー!」

 

 二人の間におかれていた写真の山から勢いよく写真を抜き取る。

 にやりと笑みを浮かべる。

 彼女が手に取ったのは『天然ボケ・妹』の写真。

 

「私は『天然ボケ・妹』の写真に『猫耳メイド服』のコンボや!」

 

 たしかにその組み合わせは大きなお友達が大歓喜するコンボだが、妄想バトルはすでに終盤。いまさらそんな妄想では邪神を悶えさせることは出来ない。

 

 「血迷ったか!今更、そのような組み合わせで萌える俺ではないぞ!」

 

 「・・・何を言うてるんや。まだ、私のターンは終わってないで!」

 

 「なん、だと・・・」

 

 「私はイベントカード『家族遭遇』のカードや!」

 

 イメージしろ!メイド服を始めて着せられ、恥ずかしがっている所に自分の家族がやってきて、更に顔を赤らめる場面を!

 自分でも似合っているかな、と、まんざらではない所に家族に更に可愛いと褒めちぎられて更に照れてもじもじする『天然ボケ・妹』の姿を!

 

 「あ、あああ…」

 

 「可愛い、可愛いよっ!『天然ボケ・妹』!照れながらもはにかんで、嬉しいけど恥ずかしいともじもじしているその姿を!」

 

 「うわあああああっ!!」

 

 「そして、『天然ボケ・妹』はこう言うんや!上目づかいで・・・」

 

 

 

 ・・・本当?私、可愛い?と、

 

 

 

 「も、萌えええええええええっ!!」

 

 勝負決した。

 敗因は『天然ボケ・妹』を知っているが故の邪神の妄想力だという事に。

 

 

 

 「図書館ではお静かに」

 

 「「すいません」」

 

 図書館のカウンターにいた係員に怒られる邪神と少女なのであった。

 結局、最近のお笑いについて口だけではなく体を張って笑いを取る芸人について熱く語る少女と邪神が互いの名前を知るのは閉館時間ぎりぎりまで少女の迎えが来る時まで知る由も無かったという。

 

 「・・・俺、はやての事を助けたくてここに来たんだよな?」

 

 榊原は原作知識で車いすの少女。近い未来、襲い来る困難に立ち会うことになる八神はやてを邪神の力を持つ裕に救ってほしかったのだが、そんな事を忘れたのか。頼りの邪神様はお笑い談義に満足して、榊原君と一緒に帰路についたのだった。

 

 



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第三十三話 邪神様の笑ってはいけない24時!

別名:邪神様の休日


 「最近、裕の付き合いが悪いと思うの」

 

 それは土曜のお昼にバニングス邸で開かれたお茶会だった。

 その言葉の主はバニングス令嬢のアリサ。

 彼女が座る椅子の前には綺麗にかたどられたテーブル。それを囲うように幼馴染のすずかとなのは。そして、テスタロッサ姉妹がいた。

 

 「そう、だね。裕君、最近は放課後になるとすぐどこかに行っちゃうし…。今日のお茶会にも参加しなかったし」

 

 それは単に邪神の神技の波動で動物に嫌われるという事情があっての事だが、バニングス氏(アリサの父)が時々お願いしてくるアクセサリー加工の仕事には欠かさず来る裕にすずかとアリサは不満だった。

 

 「私は朝稽古しているお兄ちゃん達に混ざっている裕君をたまに見るくらいなんだけど・・・」

 

 裕はJ・S事件以降、事件で負った怪我から復帰してからは殆ど欠かさず高町道場に通い詰めてスタミナと反射神経を鍛えている。

 なのはがたまにというのは単に彼女がお寝坊さんなだけだ。

 

 「私達の場合はご近所さんなのに夕方からちょっとの間しか遊べてないんだよ。こんなに可愛い妹がいるというのに」

 

 「・・・ま、まあまあ、アリシアも落ち着いて。でも、確かにここ最近ユウは何かに追われているみたいに忙しい気がするよね」

 

 ぷりぷりといった具合に頬を膨らませるアリシアをなだめるフェイト。

 彼女達の所に遊びに来る裕もブラックゲッターで模擬戦をしたり、今ではテスタロッサ研究所の警備をしているゲッターロボの性能をプレシアと話し合っているだけで、実際姉妹たちと言葉を交わすのは研究所の出入りをする時と模擬戦の時だけで基本的に遊んでいない。

 

 「・・・ここまで来ると私達って、避けられてない?」

 

 アリサの言葉に全員が暗い顔をする。

 大なり小なり裕の事を気に入っている少女達。メダルトリオ。今はコンビだが、あの二人のように自分達を避けているのだとしたら悲しくなってきた。

 

 「・・・明日、ユウの事をつけてみよう」

 

 アリシアの言葉に全員が顔を上げる。

 

 「森下さんから聞いたけど明日、ユウはイエーガーズの集会は午前中だけで午後からは何の予定も入っていない。だから、午後にユウが何をしているかを調べてみて、それで私達をどう思っているかを確かめてみよう」

 

 あわよくば裕が好きな物を調べ上げて彼の好意を上げるのもありだとアリシアは言った。

 かくして、第一回。邪神の素性調査隊が結成するのであった。

 

 

 

 邪神の朝は意外と早い。

 

 AM4:30

 肌色のメロンを象った枕から顔を上げる。と、同時に奇声を上げる。

 

 『キャッチマイハァアアアアアトッ!!』

 

 そのあと、『ぶるわぁあああ!ぶるわぁああああ!』と巻き舌の奇声を上げながら踊るロボットダンスを繰り広げる光景に知人ならず両親が見ても気が狂ったかと思わせるその光景が繰り広げられている裕の部屋はWCCで完全防音となっている為誰にも察知されることはない。

 ちなみにこの行動はいつお笑いの場が開かれてもいいように毎日踊っている邪神の日課である。次候補は『もげもげ』と両手の運動をするようなうねうねとした不思議な踊りである。

 こっそりと部屋の中に配備された監視魔法。フェイトのサーチャーが無ければ。

 

 その行動にアリシアとフェイトは口に含んでいた歯磨きと水を噴きだした。

 

 

 

 AM5:00

 朝食を取った邪神は高町兄こと高町恭也と共に公園の周りをジョギングする。

 それから30分ほど走った二人は軽く組み手を行い、家へと帰る。

 帰り際に、『お、おぼえてろよ~』と嘘泣きしながら帰った邪神は帰り道の途中にある橋の下に行き、そこにおかれていた『E・女人禁制』と書かれた段ボールの中にあったHな本をうひょひょひょ、と閲覧してから家に帰った、

 

 後にアクセルシューターの練習を兼ねたなのはさんの手によって滅却処分される段ボールだった。

 

 

 

 AM9:30

 イエーガーズ全員がさながらチアリーディングの高速で組体操をする。

 何故、高速で行うのか。ゆっくりでも難しいピラミッド。スクラム状態を上に重ねたエッフェル塔なるオリジナル技を繰り広げる彼等のチームワークは海鳴一のチームだろう。

 後に、橋の下にあった段ボールと言う名の秘蔵の宝箱が燃やされた後に滂沱の涙をこぼす羽目になるのはそれから二時間後の事である。

 

 

 

 PM0:00

 

 自分達の宝を失ったとお互いに抱きしめあいながらひとしきり泣いた彼等はお昼ご飯を食べる為に家へと帰る。

 その途中で出会った青いわんこに唸り声を上げられた邪神は更に気分を落す。

 彼は動物好きなのだ。それなのに嫌われる。そのことにとぼとぼ歩いていく彼だったが、途中で出会ったバニングス氏と会い、お昼ご飯を御馳走してもらうことになる。

 その中で宝(Hな本)を失ったことを教えてもらったバニングス氏は、邪神に新しい宝(グラビアアイドル写真集:全年齢指定)を授けた。

 

 後に、娘からそれを知らされたバニングス一家の夜は気まずいものとなった。

 

 

 

 PM5:00

 

 邪神だってお洒落には気をつかう。

 自分の部屋で『もてる男の10万と3000の法則』というあまりにも規則が多すぎるお洒落の本。それはまるで国語辞典やタ○ンページにも似たその本の大きさに読書家のすずかは興味を引かれた。

 その内の一つの項目に『清潔な服を着る』という物がある。

 それを見た邪神は押し入れから綺麗な服を取り出す。

 英語のアルファベットで『V』の字になった服。というか、着ぐるみを着込み、鏡の前に立つ。

 

 『びゅーちほー』

 

 ぶはうっ。と、噴きだすなのは達。

 サーチャー越しに見えた邪神のうっとりとした顔で発言した姿に我慢できずに噴きだしてしまう。

 そこから繰り広げられる朝にやったロボットダンスでお腹が痛くなる彼女達。

 それは2時間後に用意される晩御飯まで続くのであった。

 

 




 邪神「おたくの御嬢さん達。ストーカーしてるよ」

 保護者S「きつく言っておきます」

 お宝を奪った犯人を捜し出した邪神は自分がつけられていた事を知るのはそれから三日後の事である。



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A’s編
第三十四話 華麗なる邪神様!七色に輝くベリーメロン!


 「お代官様、これが約束のブツですぜ…」

 

 「ふっふっふっ。越後屋、お主も悪よのう…」

 

 車椅子からベッドの上にと薄幸度数を上げた少女はやてと怪しく笑う邪神が一人。

 先日、はやてと図書館で遊んだ時に精密検査を受けることを聞いた裕はお見舞いに大量のメロンを準備した。

 もちろん、子どもの裕が買うには高価すぎる果物。メロン。

それがリヤカーに敷き詰められるかのように入っていた。

 だが、そこはパトロンのバニングス氏に準備してもらった。人脈と言うのはこういう時にこそ役に立つ。特に金持ち。

 放課後になって、そのメロンをなのはの父。士郎が入院していた病院まで運ぶ。

 学校の制服も着替えて先日着ていた『V』の着ぐるみ。しかもWCCで『変声』の機能をつけたその着ぐるみからは巻き舌が妙に心地よいあの声が出るようになっていた。

 はやてが病院にやってくる前に『ぶるぅわあああ!』と『ベリィメロン!』の大合唱が病院で行われていた。

 彼女があずかり知らぬところで邪神は病院職員を持ってきたメロンで買収。もとい、入院中の子ども達が喜ぶという出し物という名のダンスを披露。

その結果が奇声の大合唱である。

 一緒に来てくれた榊原君はベッドの上から動けない子ども達に切り分けたメロンを配りに行ってくれている。

 その結果(?)もあってか、はやてにはあらかじめ準備していたとっておきのメロンをはやての前に置く。

 メロンにはハンカチで覆い隠した状態で。

 しかし、そのハンカチはまるで角張った物を覆い隠している様だった。

 

 「・・・なあ、はやて。あたしが知っているメロンはハンカチをかけただけで角張るような物じゃないんだけど」

 

 はやての付き添いで一緒にやってきた赤毛のおさげ少女。ヴィータはユウの奇抜な服装を気にしながらも裕の差し出してきたメロンなる物を怪しい目付きで見ていた。

 

 「食品衛生法と共にそんな幻想はぶち壊す」

 

 「いやいや衛生法は守ってぇな。日本人は食にうるさいんやから。それにうちの台所事情でそれはシャレにならへんわ」

 

 「はやてちゃん。どうして私を見ながら言うんですか?」

 

 それは一緒に来れなくなったピンクの髪をした女性と一緒に寝込んでいる青い狼が物語っている。

 家で寝込んでいる二人を思ってかヴィータは責めるような視線を肩まで伸ばした二十歳ぐらいの金髪女性。シャマルに向かってはやてとは違った視線で彼女を見ていた。

 

 「シグナムとザフィーラにそれ言っちゃ駄目だかんな。シャマル」

 

 「ちゃんと味見をしましたよ?!」

 

 「そこのお姉さんの料理そんなにまずいの」

 

 「まずいんやない。きついんや」

 

 「はやてちゃん?!」

 

 金髪美人さんは涙目だが、はやてとヴィータの視線の方が、彼女よりも説得力がある。

 しかし、怖いもの見たさに裕は関心を引かれる。

 のちにシャマルが持ってきた物体Xは殺人シェフ・ミユキの作り出した兵器と同等のレア度(殺傷力)のブツにより邪神が再び転生しかけたのは後の話である。

 

 「まあいいっ。これが俺の準備したベリーメロンだ!」

 

 裕がハンカチを取り払うと甘い匂いが香る『V』の形をしたメロンが姿を現した。

 

 「なんやねんこのメロン?!」

 

 「とある魔物が夢見たといわれるベリーメロンだ!」

 

 「どんな魔物だよ?」

 

 「こんなだ!」

 

 裕は両足を閉じて両手の指を閉じて空に勢いよく伸ばす。

 その姿勢はまさしく『V』。

 その後ろから見える廊下には入院中やお見舞いに来ていた子ども達が一緒に『V』の姿勢を取る。

 

 「いつの間にこの病院の子ども達を洗脳、じゃなくて統率したんですか?」

 

 「はやてと知り合ってからかな?」

 

 「一週間でこの完成度って一体・・・」

 

 ベリーメロン(歌・踊り。メロン本体の味)の魅力に取りつかれた彼等の動きはまさに一糸乱れない動きだった。

 呆れと驚きが混ざった顔をしていた八神はやての面々だったが、驚くにはまだ早い。

 

 「ちなみにこのメロンの後ろには俺の顔が彫られている」

 

 「気持ち悪っ!白目をむいていて気持ち悪っ!」

 

 「そして、更にそれを切ると・・・」

 

 進められるがままにそのメロンを輪切りにするシャマル。

 その切り口からは七色に光るメロンの果肉が現れた。それをみた三人(はやてはのけぞるだけだが)は思わずそのメロンから距離を取る。

 

 「「「気持ち悪っ!」」」

 

 「何が気持ち悪い!ただ果肉が七色のメロンなだけなのに!」

 

 「配色がアウトやろ!」

 

 金、黒、紫、白、ピンク、茶色、銀。

 と、虹色ではない七色に光る果肉を持つV字のメロン。

 もちろん、裕がWCCで加工した姿形だけ変形させたメロンだ。

 

 「メロンだってそんな事を言われるためにここまで育ったわけじゃないのに何て言い草だ!」

 

 もし、メロンに自分の意志が邪神に伝わるのならこう言うだろう。

 『こんな形にもなりたくなかったよ!』と。

 

 「香りはいいのに配色の所為で喰う気失くすな。これ・・・」

 

 確かにまるでかきまぜられた絵の具のような配色は確かに食欲を無くす。

 

 「んもう、わがまま。はいはい、元に戻せばいいんでしょ。戻せば」

 

 ヴィータの言葉を聞いて裕は再び切られたメロンにハンカチをかけてWCCを発動させる。

 その波動を感じ取ったのか、シャマルとヴィータは裕を見る目付きを鋭くする。

 

 「はい、これで元通り」

 

 「おお~、まるで魔法みたいやな」

 

 「魔法じゃなくて神技ね」

 

 はやてのさりげない言葉に素で返す裕。

 これでようやく本題に取り付ける。

 

 「神技?なんや、それ?」

 

 「魔法じゃない、不思議な力とでも言えばいいかな。俺の力は物体に干渉する魔法とでも考えてもらえばいいよ」

 

 「・・・へー、まるで魔法を知っているみたいな話だな」

 

 「いろいろ知っているよ~。知らない事が多いけど…。空を飛んだり、ビームを出したり、刃を作ったり、変形や合体をしたり」

 

 「最後のはよく知りませんが・・・」

 

 ヴィータは雰囲気が変わったことを察知したのか更に目付きを鋭くする。

 シャマルは裕が喋る言葉から彼がどれだけこちらに気づいているのか観察する。

 

 「あと・・・。壊れた呪いの本の影響ではやての足が悪くなっているとかかな?」

 

 「「っ!」」

 

 裕の一言でヴィータとシャマルははやてを守るように前に出る。

 自分の足が悪いのがある本の影響だと言う彼に少しの怯えと戸惑いを見せたはやては裕に尋ねた。

 

 「…裕君。君は一体、なんなんや?」

 

 その質問に裕は意地悪そうな笑顔でこう言った。

 

 「邪神だよ。ここんとこ、自分の秘密をあちこちに暴露している気がしてならない邪神様だ」

 

 




榊原君(ドリル)には邪神様の後ろで待機してもらっています。
うちの邪神様は何気に保険も用意しています。


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第三十五話 私は何でも知っている邪神様

 さて、邪神であることをばらして一時間後。

 俺と榊原君。はやてとヴィータとシャマルさんは管理外世界の荒野に降り立っている。

 どうでもいいことだが『V』の着ぐるみを着たままで、荒野の世界に転移した俺はその世界につくなり、WCCで簡単な大型二輪のバイクを作り出して、走り出した。

 ぶるぅわあああああっ!

 まるで俺の為に準備されたような世界をみて走り出さなければ華麗なる『V』様に申し訳が立たない!

 十五でもないのに走り出すなとはやてに怒られたが『V』様の威光を知る人なら走り出さずにはいられなかったんだと説明したかったが、それを鋭い目つきのヴィータとシャマルさんに止められる。

 

 「で、お前達は何をどこまで知っているんだよ」

 

 「いや、それは榊原君に言ってよ。俺だって彼から聞いたんだってば・・・」

 

 彼の話を聞くとはやての下半身麻痺は『闇の書』という物が原因。

 もとは『夜天の書』という物だったのだが、転生機能で何度も転生している間にバグが生じて、その影響ではやては下半身麻痺。更にはこのままだと麻痺が進行して今年のクリスマスには死んでしまうとのこと。

 

 「そんな事を言われても信用できるか!」

 

 榊原君曰く、ヴィータとシャマルさん。更にはここには居ない女性と男性の二人がいるらしい。

 

 「まあ、そういきり立つな。そうならないように話を持ちかけたんだから…」

 

 「そんなふざけた格好して言われても説得力ないで」

 

 「ならば、ウェイクアップ!」

 

 『V』の着ぐるみにWCCを使って見かけが普通の服を作り出す。

 加工された着ぐるみはTシャツとジーパンになって目の前に落ちる。

 はやて達の前に全裸の邪神様が降臨した。

 

 「なに全裸になってるんやー!!?」

 

 「な、な、なっ、なぁあああっ」

 

 「・・・あらあら」

 

 装備中(装着中)の物にWCCをかけたら強制解除されるという事を忘れていた裕だが、お約束を果たしたと言わんばかりに満足顔をしながら加工した服を着直す。

 その事を説明したら、顔を赤くしたヴィータとはやてに予め言えとか。下に何かをつけていろとか言われた。

 ごもっともです。

 

 「俺の力はそういう仕様なんだよ。それにいきなりに近い状態で、他の着替えが見当たらないこの世界に連れてこられたんだから仕方ないでしょ」

 

 「それでも乙女の前で全裸になるなんてどういう了見や?!」

 

 だったら着替えを取りに行かせてくださいよ。

 いや、準備しなかった俺も悪いんだけどね。

 まったく『V』様を知ればきっとはやてだって同じ格好したくなるだろうに・・・。全裸の方じゃないよ。そういえば、『V』様も基本全裸だよな。

 

 気を取り直して・・・。

 

 榊原君と共にこちらに敵意はない事を伝えたがヴィータとシャマルさんには届かない。

 それじゃあ、力づくでも分からせるとラゼンガンの形をしたバリアジャケット展開させる榊原君。

 女の子を追いかけるのはやめた彼だが、その分、戦闘意識に持っていかれてませんかね?

 ラゼンガンのバリアジャケットを纏う榊原君に呼応するように赤ゴシックドレスのヴィータにドラクエの僧侶の服に似たドレスを纏う三人。

 

 「まあまあ、両者落ち着いて」

 

 「せや、三人とも落ち着いて」

 

 俺とはやてで三人を止めようとしたが、三人はヒートアップ。

 

 「てめえ等、このままだとはやてが闇の書の呪いで死ぬんだぞ!」

 

 「うるせえっ!いきなり出てきてあたし等に変な事言うんじゃねえ!」

 

 「たとえ、闇の書の呪いがはやてちゃんを蝕んでいるとしても完成させればいいだけです!」

 

 「完成したと同時にはやてが取り込まれてやばいって言っているだろう!」

 

 片方はドリルを全身から生やし、ヴィータもゲートボールのスティックをブンブン振り回し、シャマルさんが必殺仕事人のような糸を伸ばしている。

 話題の人。はやてを置き去りにしてどんどんヒートアップしている。

 

 「ああ、二人ともいうことを聞いてくれない。どうしたらいいんや・・・」

 

 「・・・よし、俺にいい考えがある」

 

 「期待できそうにないな」

 

 酷いっ。

 見てろよ、はやて。

 これが邪神式ネゴシエーションだ!

 

 「まあ、待て」

 

 「なんだよ!そっちから売ってきた喧嘩だ!今更やらないなんて言わせねえぞ!」

 

 「『闇の書』の事とはやてちゃんの事をあなた達はあまりにも知りすぎているの。悪いけど、抵抗しないでくれる」

 

 榊原君とヴィータ、シャマルさんの間に割って入る俺。

 いまさらバトルを止められない。そう思っているんだろう。

 だが、甘い。

 俺は邪神様だぜ?

 

 「確かに俺達はそっちの事を少しは知っている。だけど、そっちは知らないだろう?だから少し教えてやる。一ツ星神器、鉄(くろがね)!」

 

 WCCで自分のすぐ隣に巨大な岩の大砲を作り出す。

 と、同時に大砲から岩の砲弾が飛び出し、百メートル先に着弾すると轟音と共に地面が抉れた。

 

 「なっ?!」

 

 「更に二ツ星神器、威風堂々(フード)!」

 

 WCCを使い、更にカスタマイズを行う。

 荒野と言う地形上、材料になる土や岩は山ほど(荒野だけど)ある。

 巨大な腕が地面から何本も伸びてはやて達と榊原君を含めて俺を隔てる壁になる。

 

 「三ツ星神器、快刀乱麻(ランマ)!」

 

 鉄を表した大砲の傍に十メートルを超える巨大な岩の剣が生えるように出現し、地面に振り降ろされると、その地面はまるで豆腐のように切れてしまった。

 

 「な、詠唱も術式も展開しないでこれだけの巨大な剣を一瞬で?!」

 

 「四ツ星神器、唯我独尊(マッシュ)!」

 

 「ぬうわぁああっ?!箱?!魚?!」

 

 キューブ状の巨大なトラバサミが地面から飛び出す光景にはやては思わず傍にいたシャマルに抱きつく。

 

「五ツ星神器、百鬼夜行(ピック)!」

 

 大砲の反対側に巨大な柱が水平線に向かって伸びる。

 あれをぶつけられたらバリアジャケットをつけていたとしても大ダメージは確定だと榊原は冷や汗を流す。

 

「六ツ星神器、電光石火(ライカ)!」

 

 本来なら靴の部分がローラーシューズのようになって、地面を高速移動できるのだが、今つけているのは普段着(元『V』様着ぐるみ)なのでそこまでの効果をつけることが出来ない。

 その為にWCCでの地形交換に瞬間移動。シフト―ムーブを披露する裕。

 

「七ツ星神器、旅人(ガリバー)!」

 

 はやてとシャマル、ヴィータを囲うように壁が三枚せり上がってくる。と、同時に天井部分が生成され、丁度日傘のようになる。

捕獲用であるガリバーだが、敢えて今まで出してきた建造物を見せるように全面部分だけは空いている状態だ。

 シャマルとヴィータは慌てて自分達を囲うように魔法でバリアを張る。

 

「八ツ星神器、波花(なみはな)!」

 

見た目が岩であるのに反して、滑らかにそれでいてしなやかな巨大な鞭がしなりを上げて大地を打ちつける。

その振動は障壁越しのヴィータとシャマルに危機感を感じさせた。

 こいつと敵対したやばいと感じさせ

 

「九ツ星神器、豊満谷間(ビッグボイン)!」

 

 裕の着ている服の一部が大きく膨らむ。

 それはまるでグラビアイドルも裸足で逃げ出すほどの大きな谷間が出来上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しの間だが世界から音が消えた。

 そう思えるほどに間があいた。

 

 

 

 

 

 

「十ツ星神器、魔王(まおう)!」

 

 裕の後ろから頭はヤギ、体は巨人、下半身は獅子といった怪物の彫像が現れる。

 それは見るもの全てを怯えさせる物だったが、裕の姿。豊満谷間(ビッグボイン)の姿が前にあるので何とも言えない雰囲気があった。

 

 そして、声高らかに邪神は、叫ぶ。

 

 「さて、この中で仲間外れはどぉおれ?」

 

 「「「「                   」」」」

 

 邪神を除く、全員から表情が消えた。

 それに反して、揺れて動く裕の胸元。

 

 「・・・ビッグボイン」

 

 「正解ー!流石は鉄槌の騎士!今回は我々の完敗のようだ!榊原君、素直に負けを認めよう!」

 

 無表情、無感情のままヴィータが裕の胸元に指をさす。

 と、裕は満面の笑みを浮かべて答えたヴィータを手放しでほめたたえる。

 心なしか、今まで出てきた巨大兵器たちも嬉しそうだ。

 

 「・・・いや、もう。・・・なんなの、お前」

 

 それは邪神を除く誰もがそう思っていただろう。

 だが、それが邪神の狙いだった。

 相手の闘志を砕き、交渉に持ち込む。

 現にヴィータは掲げていたハンマーを下ろしている。

 なんだかグダグダになってきた空気の中、とりあえずそれらに詳しい人の所に招待するからついてきて。

 

 要約すると、

 

 「友人の邪神もどきがジュエルシード。魔力の塊で生きながらえているから蒐集しないでよ」

 

 それが言いたいがために、邪神様はこんな茶番をしてきたのであった。

 



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第三十六話 油断大敵!邪神様A!

Aと書いてエースと読む。


 鉄槌の騎士と湖の騎士の闘志をくじいた邪神は、はやてとその騎士二人。そして、榊原君と共にテスタロッサ研究所に訪れた。

 

 目的は一つ。『闇の書』の修復である。

 WCCですぐに直せればよかったのだが。問題が一つ。

 

 「・・・『闇の書』がバグっている」

 

 そりゃあ、闇の書の暴走ともいえる影響ではやてが両足の麻痺という状況。

 助けて、プレえもん。

 いきなり計画がとん挫している邪神だった。

 

 「正直に言ってあなたの力でどうにもならないのに私がどうこうできるとは思わないんだけど」

 

 「いやいや、ゲッター。元は高性能なロボットを持っていたプレシアさんの科学力があればどうにかなるかと思って」

 

 テスタロッサの科学力は世界一ぃいいい!

 そう考えた裕だった。

 第二候補として機械に詳しい月村忍の所も考えたが魔法が関係しているだろうと思い、プレシアに頼みに来た。

 

 研究所に向かう前にはやて達から『闇の書』を見せてもらい、WCCを使ってみると、英語のような文字の羅列が上から下に滝のように流れ落ちていくステータス画面に邪神は下手に手を付けるよりも専門家を呼ぼうということになった。

 自分の娘を助けてくれた邪神の頼みをないがしろにするわけにはいかない。かといって、その娘達に危害を加える可能性がある輩に自分達の居所を知らせるのもどうかと思うプレシア。

 

 「ところで・・・。後ろの守護騎士の将?はなんであんなにも警戒しているの?」

 

 プレシアと一緒に邪神もどきであるアリシア。その妹のフェイトの二人は裕と榊原が連れて来た集団に目を向ける。

 そこには話題の少女。八神はやてを守るように佇んでいる五人。

 はやてとヴィータ。シャマルと彼女に昨晩作ったご飯によるダメージからようやく復帰したばかりの二人の守護騎士がいた。

 中でも、ピンクのポニーテールの女性が裕に物凄いにらみを利かせていた。

 ただし、肌黒で白髪の男性。ザフィーラの後ろ。

 シャマルとヴィータを傍においている。

 はやてよりも彼等の前に出ているところは、さすが守護騎士の将といったところか。

 

 「・・・ひっ」

 

 裕と目があった瞬間。小さな悲鳴を上げる彼女。

 彼女こそ守護騎士の将。シグナム。

 本来なら二つ名である。烈火のごとく敵を叩き伏せる彼女の面影はまるでない。

 それはまさに凶悪な化物を前にした女性のようにも見えた。

 

 「いや、まあ、その、豊満巨乳(ビッグボイン)に警戒しているというか。なんちゃって神器に警戒しているというか」

 

 「・・・ぼ、ボイン?なんちゃって神器?何があったの?」

 

 守護騎士達の信頼を得て、ここに来るまでの話をすることになった。

 

 

 

 今から1時間ほど前。

 

 シャマルから念話で事前に裕の事を知ったシグナム。

 裕の繰り広げた一つ星神器。鉄から始まったお披露目。ビッグボインの部分で念話が一時途切れたが、事の詳細を聞いたシグナムとザフィーラは未だに重い体を引きずって、裕達がいる管理外世界にやってきた。

 

 「・・・主はやて?!ご無事ですか!」

 

 「だ、大丈夫や。ちょっとツボってるだけやから」

 

 転移してきてみれば自分達の主であるはやてがお腹を押さえて苦しんでいる。

 だが、それは単なる痛みではなく、はやて達の目の前で自ら作り上げた豊満巨乳(ビッグボイン)を盛大に揺らしながら真面目にシグナム達の登場を待っていた裕の姿を見ていたからだ。

 真面目な顔をしている少年の胸元に取ってつけたかのような巨乳。

 真面目だからこそギャップがあって苦しいのだ。

 裕の隣にいる榊原君。ヴィータとシャマルもキリッと表情を引き締めている裕の方を見ないようにしている。

 シグナムと一緒に転移してきたザフィーラもいつもの冷静さを失って思わず噴きだすのを堪えるくらいだった。

 

 「・・・ぷふぅっ」

 

 (噴きだすんじゃねえよっ。つられて笑っちまうだろうっ)

 

 榊原君の鼻から漏れた息にヴィータも思わず吹き出しそうになる。

 

 「・・・貴様ぁっ。なんの思惑があって我等に近付いた!」

 

 思わず吹き出してしまいそうになる空間だったが、そこは歴戦の戦士。

 はやての元で平和な暮らしをしていた事もあってか、場違いな裕の姿を見ても毅然とした態度で裕を問いただす。

 

 「おいおい、俺が誰だって?海鳴の街に爆誕した邪神。田神裕さ!」

 

 わざわざ前髪をかき上げながら答える裕。

 それにつられて動く豊満巨乳(ビッグボイン)。

 

 「ではなく、貴様達の目的は何かと聞いている!」

 

 「歌って踊って戦える邪神。田神裕さ!」

 

 なっているようでなっていない会話する二人の光景を見ていた少年少女達は笑いをこらえるのに必死だった。

 シグナムが真剣になればなるほど裕は愉快な行動をとるのだ。

 そして、共に何かしらの挙動を取れば揺れるボイン。

 はやて達は必死にこらえた。それはもう、必死に。

 

 「だっかっらっ!貴様等は何が」

 

 「おいおいっ、俺のサインが欲しいのかい?ほら、受け取りな!サイン付きのベリーメロンを贈呈する邪神、田神裕さ!」

 

 そう言って、胸元にあった豊満巨乳(ビッグボイン)の片方をもぐと、そこから不思議な光を出しながら形を変えたビッグボインは病院に持ってきたメロンへと姿を変える。

 これは予め透明にしていたメロンを隠し持っていて、ヴィータ達に豊満巨乳(ビッグボイン)を見せつける時に服の胸部分に付けたメロンを、元に戻しただけである。

 

 「とろけるベリーメロン!MADE IN JASIN?!」

 

 食べ物を粗末にしてはいけないとはやてに言われていた守護騎士だったからこそか。

 思わず受け取ってしまったメロンに掘られていた日本語を読み上げてしまったシグナムの声を聴いて我慢の限界を超えたはやてが大きく噴きだした。

 

 「仕方ないな、俺の事をよく知ってもらうためにも一曲踊って見せようじゃないか。ミュージックスタート!」

 

 残ったもう片方のボインをもいでWCCを解除する。

 するとそこには軽快な音楽を流すメロンの姿があった。

 

 「それはメロンじゃないのか?!」

 

 こちらはメロンの形に変形させただけのラジカセであり、病院に持ち込んだ小道具の一つ。メロン同様透明にして隠し持っていただけだが、透明化だけを解除。メロンの形は維持させている。

 ヴィータのツッコミにシャマルと榊原君は思わず顔をそむけて口を抑える。

 静かにだがザフィーラの方も体を震わせていた。

 

 そして軽やかに踊り出す邪神。

 それは先程の行動。『乳をもげ』と言う。不思議な踊り。

 自分達の元になっている『闇の書』には相手の魔力を吸い上げる蒐集機能がある。

 今まさにそれを自分が受けているかのように錯覚するシグナム。

 

 目の前の邪神の奇行ともいえる踊りが終えるまで無表情になっていたシグナムだったが、音楽が鳴りやむと同時に片刃の剣の形をしたデバイス。レヴァンティンを起動させる。

 

 「さあ、構えろ!そっちの座興に付き合った。こんどはこちらの流儀に従ってもらうぞ」

 

 「まだ、二番の歌があるんだが」

 

 「あとにしろ!」

 

 まだ不満げな裕に付き合っていたら戦意がどん底まで落ちてしまう。

 現にヴィータとシャマルは陥落。ザフィーラも握っていた拳を完全に解いている。

 というか、このまま躍らせていたらはやてが乳揉み魔から乳揉み魔神になってしまう。

 

 「しかたないな。なら、そっちにも合わせるか。・・・相手に参ったと言わせればいいのかな?」

 

 「そうだ。私は剣士だからな。このようなやり方でないと信じられん」

 

 シャマルから聞いていた。

 彼等は私達を助けるためにこちらと接触しに来たと。

 確かに彼等に悪意。いや、悪戯小僧のような雰囲気はあるが敵意が無い事はわかっている。

 だが、しかし。

 それだけで彼等を信用するわけにはいかない。

 守護騎士の将として、八神はやての騎士として少しでも危害を及ぼす可能性があるのなら油断はできない。

 騎士でありながら剣士であるシグナムは剣を交える事で相手の事を理解することが出来る。

 

 将としていきなり武力行使はどうなの?

 と、裕に呆れられた。が、痴態行動に不思議な踊りを披露した彼程、信頼することはできないだろう。

 

 「・・・でも、俺の戦い方だと余計に悪印象が残るような」

 

 「安心しろ。これ以上ないくらいに私にとってお前の印象は悪印象だ」

 

 性格的に体育会系のシグナムにとって裕のような人間はあまり好印象ではないのだろう。

 

 「じゃあ、これ以上悪くしても問題無い?」

 

 「ようやくその気になったか。聞けば、お前は巨大なゴーレムを瞬時に作り出すようだな。それを相手にしてやってもいいし、お前自身でも。その両方でもいい。どんな形でも私に勝って見せれば少しは信用してやる」

 

 「どんな形でも?」

 

 明らかに話し合い(物理)をしたがらない裕の態度にイライラしているシグナム。

 

 「しつこい奴だなっ。騎士に二言はない!」

 

 「言質は取ったよ」

 

 邪神に『何でも』は禁句であると、後にその場にいた全員が語ることになる。

 

 「では、好きにやらせていただきます。十ツ星神器、魔王!実行!」

 

 裕はWCCのカスタマイズ・ウインドウを開き、先程ノリで出したゴーレムにある程度の遊び心を加えて実行に移す。

 WCCの光が右隣の地面から溢れ出すと同時に、巨大な腕が二本、這いずり出てきた。

 威風堂々(フード)を思わせる腕だが、その腕に続くように巨大な顔が出てくる。

 まるで墓地から這い出るゾンビのように出てきたゴーレムにシグナムはごくりとつばを飲み込む。

 

 

 

 ゴゴン。

 

 

 

 重量感のある音を立てながら現れた十ツ星神器、魔王。

 それは邪神が想像した通りのゴーレムを作り出す。お手軽WCCコードネームである。

 

顔の部分だけでも二メートルはあるだろうゴーレムから放たれる重圧感を邪神以外の誰もが言葉を発することが無かった。

 

 そして、先程とは違うゴーレムの肩から上が見える。

 顔つきはヴィータ達が見た山羊の頭ではなく女性の頭。

 アジア系というよりは人魚を思わせるウエーブの髪を象った髪型をした女性の上半身を象ったゴーレムが現れる。

 

 

 

 バルンッ。

 

 

 

 と、女性像の頭よりも大きい乳房と共に。

 

 「「「「「「          」」」」」」

 

 胸の部分だけでも二メートルはあるだろうゴーレムから放たれる重圧感を邪神以外の誰もが言葉を発することが無かった。

 顔の部分よりも胸の部分が大きい分余計に。

 

 「ゆくぞ、邪神Aよ!あの堅物女騎士を共に倒すのだ!」

 

 『オー、イエー』

 

 地の底から響くような声を上げながら女性の上半身。

だけ。の、ゴーレムが腕を大きく上に伸ばした。

 その光景にとうとうシグナムがキレた。

 

 「貴様ぁあああっ、どこまで私を馬鹿にすれば気が済む!」

 

 「馬鹿になどしていないぞ!俺の力は物体に干渉する力だ!見た目だけで判断すると痛い目に逢うと知れ!邪神Aよ、必殺『ボインチョップ』だ!」

 

 『イエェエエエエエイ!』

 

 シグナムの言葉を否定するように裕は作り出したゴーレム。『邪神A』に指示を出す。

 

 

 

 ビシビシビシビシビシビシビシッ!

 

 

 

 と、土や岩でできているとは思えないほどの質感を感じさせて、邪神Aはその巨大な両手で自分のボインをチョップする。

 

 「「「            」」」

 

 (あれ、どっかで見たことがある。どこだっけ?)

 

 (乳ネタを連続で使うなんて・・・。スベッたな、裕君)

 

 何も言えなくなったヴィータ、シャマル、ザフィーラの守護騎士三人に対して、榊原君は前世であのゴーレムに似た光景を思い出そうとしていた。

 はやてに関しては裕の持ちネタが滑ったと勘違いしている。

 そして、はやて同様にまた自分がからかわれたと思ったシグナム。

 

 「貴様という奴は、どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだーっ!」

 

 と、激高したシグナムが邪神Aから裕に視線を切り替えた瞬間だった。

 

 

 

 「光子力ミサイル!」

 

 

 

 邪神の声に合わせて発射される邪神Aのボイン。

 ドゴォオオンッ。と、轟音を立てながら二つのボインが飛び出し、シグナムの目の前に着弾、破裂するとボインがはじけて辺り一帯が砂煙に覆われる。

 ミサイルとは名ばかりのただの煙幕弾だが、当然、発射した裕にしかその事は分からない。不意打ち当然の攻撃に、

 

 「「「「「汚っ!!」」」」」

 

 と、はやて達の声が聞こえたが、裕は聞こえなかった事にする。

 

 裕に馬鹿にされ続けたと激高していたシグナムは突如ミサイルのように飛び出してきた二つのボインに足を止め、更に、飛んできたのがボインだという事に、思考も一瞬止まる。

 更には自身ではなく、一歩手前にボインが当たったことにより魔法による対空迎撃が間に合わず、目くらましとしての効果を発揮させてしまう。

 

 更に、シグナムと裕の対決を邪魔しないように遠くから見ていたはやて達だからわかるが、裕を中心に半径百メートルほどの地面が光っていた。

 裕はそれを自分が今いる場所も光っているとシグナムに見せたくなかったのだ。

 

 裕のWCCは効果を及ぼす物。範囲にどうしても光が発生してしまう。

 何もない、見通しのいいところでそれを使えば警戒されて、そこから退避されてしまう。

 そうさせないための砂煙。

 そして、シグナムを出来るだけ傷つけないように無力化させる物を出現させる。

 

 「七ツ星神器、旅人(ガリバー)!」

 

 辺り一帯の砂埃を吹き飛ばすように地面から飛び出した陰にシグナムを含め、守護騎士達は裕が負けたと考えた。

 裕の使う旅人は捕獲用の地形変化。

 だが、あんな土壁ごときでシグナムが止められるはずがない。

 身体強化の魔法を使い、裕に突撃すれば彼女の勝ち。

 

 そう考えた時点、シグナムの負けは決定していた。

 

 「ゴキブリホイホイバージョン!」

 

 「は?」

 

 ぶちゃあっ。

 

 と、砂煙を吹き飛ばした陰の正体は、地面をカスタマイズして、糊のような粘着性が非常に高い白い液体に変化させたものだった。

 腰下まで埋まる程、糊で出来た深い水溜りに埋まったシグナムの上から更に大量の糊が振りかかる。

 しかも、固まるのが早く、異様に粘着性が高い。

 動こうものなら自分の髪を引っ張って痛い。それどころか肌も千切れるのではないかと思わせるほどに粘着性が非常に高い。

 

 「ふっふっふっ。身動きとれまい」

 

 「お前も埋まっているぞっ」

 

 してやったりと、ドヤ顔を見せる裕だが、シグナムのように女性にしては身長の高い彼女が腰まで埋まってるのだ。子どもの裕だと首元まで糊の水溜りに埋まっている。

 だが、それは裕が自分で作り出した地形だ。自分の意志で好きなようにいじくれる。

 シグナムのツッコミを聞き終える前に地形の入れ替え。シフトムーブを行い、シグナムのすぐ目の前に転移。彼女の持っている剣。レヴァンティンに触れて、主導権を奪取。

 待機状態になったレヴァンティンを手にした裕は再びシフトムーブを行い、シグナムを糊の水溜りに残して、一人脱出する。

 全裸状態で。

 はやてとヴィータはその姿に顔を赤くしたが、全身にこびりついた糊を落すために必要だったので仕方がない。

 

 服を脱ぐのがお仕事の現生の邪神だった。

 

 「俺の勝ち。イェイ」

 

 「納得いかーん!」

 

 呆気にとられている間に自分の相棒を取り上げられた上に身動きが取れなくなったシグナム。

 納得がいかないのか抗議の声を上げるシグナム。

 

 「やり直しだっ、やり直し!こんな勝負で納得いくかー!」

 

 「やだよ。俺の戦いって、不意打ちか騙し討ちが基本だし、直接的な攻撃も加減が出来ないから相手するのもされるのも危ないんだよ」

 

 服にこびりついた糊をWCCで取り除き、再び服を着直している裕。

 

 「まあ、確かにあのでっかい鞭とか剣で殴られたらたまったもんじゃないわな」

 

 非殺傷設定という魔法にはある意味安全装置が取り付けられているのだ。

 だが、WCCで作り上げた神器にはない。

 裕の邪神としての技量が上がれば可能かもしれないが、上げ方も上がる可能性があるかもわからない。

 神器の威力は1か100。

 今もなお、糊の水溜りから身動き取れないシグナムには粘着性が非常に高い罠で身動きを封じ込めているが、彼女の言う戦い。

 それこそ、お互いに死闘を繰り広げるにはWCCという力は効果を発揮するには遅すぎる上に攻撃力に加減は出来ない。今の戦いのように変化球で攻めないとなると、

 

 地面からトラバサミのように相手を両側から挟んで潰す四ツ星神器、唯我独尊(マッシュ)を連打する。

 潰せなければ、百鬼夜行(ピック)で押し潰す。

 押し潰せなければ、快刀乱麻(ランマ)でぶった切る。

 ぶった切れなければ、浪花(なみはな)で壊れるまで叩き付ける。

 

 なにせ、材料となる物があれば、実行と考えるだけで、それらの兵器を何の苦労もなく連発できるWCCという力。

 地上で相手の動きを止めることが出来れば邪神の勝ちは決まったも当然なのである。

 

 「だから、俺の勝ち」

 

 「諦めましょう、シグナム。彼がやろうと思えば私達なんて彼の存在に気が付くことなくやられていたかもしれないのよ。はやてちゃんをどうこうしようと考えているならわざわざ私達に自分の存在を教えるはずがないわ」

 

 未だに唸り声にも似た声を上げながら裕を睨むシグナムに優しく言い聞かせるシャマル。

 糊で出来た巨大な水溜りはシグナムを中心に半径1メートルほどのドラム缶に首から下を詰められたような状態にされていた。一見するとさらし首のようにも見える。

 シグナムをそこから出さないのは、彼女に戦うのをやめてほしいからだ。

 デバイス。レヴァンティンが無くても多少の魔法は使えるが、裕の作り出した糊から逃げ出すには及ばない。抵抗しようものなら糊の水溜りの深さを深くして彼女を沈めることもできると告げる。

 

 「諦めろ、シグナム。こいつは我々のような前衛の戦士ではない。むしろシャマルのようなサポートに適した術者だ。俺やお前のように拳や剣をぶつけ合うような奴じゃない」

 

 同じ体育会系でも守備に力を入れているザフィーラに言われて苦い顔をするも、諦めきれていないシグナムにヴィータがとどめを刺す。

 

 「平和の使者は槍を持たないというけど、コイツの場合。そこにある物、全部が武器なんだぜ。それなのに話し合いをしましょうとか言って、よくぜ、全裸になっているけど悪い奴じゃないと思うぜ。良い奴ともいえないけど・・・」

 

 シグナムとザフィーラが来る前から戦闘意欲をバキバキにおられたヴィータは彼等の話を聞いてもいいと考えていた。

 

 「シグナム。話聞くだけ聞いてみよ。駄目だったら逃げればいいだけの事や。それに裕君がここまでしてくれてるんやで、確かに人をおちょくっているように見えるけど、それは私達の誰も傷つかんようにしているからや」

 

 「う、主はやて。で、ですが、万が一のことがあったら・・・」

 

 はやての言葉は無視できない。だけど、もしもの事があったらと考えるシグナムに意外な所から声がかかる。

 

 「俺が言うのもなんだけど、早くこっちの話を聞いた方がいいと思うぞ。その万が一が起こるその前に」

 

 どこか諦めきった顔をした榊原が裕の方を向けと促すと、そこには『モザイク加工さている蠢くめく何か』を手に持った裕の姿があった。

 

 「・・・裕君。何を持っているんや?」

 

 「答えはきっと、あなたの心の中に」

 

 「あらへんよっ、そんなモザイク処理がされる物あらへんよ?!」

 

 はやてとそんなやりとりをしながらゆっくりとシグナムに近付く裕。

 手には地面からWCCで作り上げた『モザイク加工さている蠢くめく何か』を持って、一歩。また一歩と近寄る。

 

 「・・・何なの。それ?」

 

 「玩具ですよ。すぐ傍の地面を材料にして作った玩具・・・」

 

 エロ同人誌みたいなものじゃないよ。エロ同人誌みたいなものじゃないよ。

 

 「・・・それを、どうするんだよ」

 

 「それは、もちろん。・・・聞き分けのない人に使おうと思って、ね」

 

 ヴィータの質問に答えながら近づくにつれ裕の邪悪な笑みが深まっていく。

 それはまさに邪神と言ってもそん色ないモノだった。

 

 「・・・主はやての前であまり過激な事は控えてくれよ」

 

 「・・・ザフィーラ?!」

 

 軽く見捨てられたことにショックを隠せないシグナム。

 ザフィーラからしてみれば負けを認めないシグナムと、WCCの力を使いこなしながらもそれをあくまで攻撃に回さない裕を信じてみようという思惑からだった。

 

 「今、シグナムさんは俺の手の平のうち。例えば身動き取れない。そう例えばこれをシグナムさんと埋まっている地面の間に這わせることも出来るんだよね」

 

 にやりと笑う裕。

 お話を聞いてくれないと『これ』をアレしちゃうぞ。と、邪悪な笑みで語っていた。

 

 「わ、私は負けないっ。そんな『モザイク加工さている蠢くめく何か』に負けたりなんか」

 

 少しだけ涙目になりながらも徹底抗戦の意志を伝えるシグナムに、邪神は容赦しなかった。

 

 「実行~」

 

 

 

 

 

 ・・・『モザイク加工さている蠢くめく何か』には勝てなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 「と、いう事があったのさ」

 

 騎士シグナムの闘志をバキバキに砕いた邪神にプレシアは途中でフェイトやアリシアに席を外してもらって正解だったと、ため息をつくのであった、

 



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第三十七話 邪神様は逃げ出した。

邪神「ぼく、悪いじゃしんじゃないよっ」


 はやて達をテスタロッサ研究所に連れて行った翌日。

 裕はアリサに壁ドンを越えるときめきコマンド、体を押し倒される床ドンをされていた。

 

 熱く零れると吐息。

 お互いの鼻がぶつかりそうになる顔と顔。

 そして、涙目の・・・。

 

 

 

 邪神。

 

 

 

 はいっ。マウントポジションを取られた裕です。

 休み時間、イエーガーズのメンバーと交代で久しぶりに幼馴染たちとお昼ご飯を食べようと校庭の一角に来たとたんに、背負い投げからの抑え込みは痛かったです。

 お嬢様の柔らかいはずのふとももががっちり挟まって身動き取れません。

 両腕の方はすずかちゃんに押さえつけられている。

 この二人と一緒にご飯を食べるはずだったイエーガーズのメンバー達は「ごゆっくり」ほほえましい笑顔と共に去って行った。

 俺もそっちに行きたい。

 フェイトとアリシア。なのはちゃんは別の場所で食事をとっているだろう。そっちに行けばよかったな・・・。

 極上の笑顔の後ろに薄暗い炎をともしたアリサが声をかける。

 

 「・・・さて、裕。私達に何を隠しているの?」

 

 「何の事だ。まだ俺は何もばれてないよっ」

 

 「裕君。軽く、自白しているよ」

 

 ミシリと俺の腕から嫌な音が聞こえた気がした。

 金の懐中時計(WCCで防御力アップを施した物)が無ければ俺の腕は大変な事になっていたかもしれない。

 

 「もしかして・・・。また、ジュエルシードみたいな事件が起こっているの?」

 

 すずかちゃんのどこか悲しそうな表情。それでも抑え込んでいる腕は解けそうにもない。

 アリサもどこかいら立ちを隠せないのか声を荒げながら俺の胸ぐらをつかみ取る。

 

 「何年、あんたと幼馴染やっていると思ってんのよっ。あんたが裏で何かしているのはなのはやすずかだって気が付いているのよ」

 

 「今頃、なのはちゃんがフェイトちゃん達を問い詰めているよ。なのはちゃん、見た目に反して頑固だから今頃、フェイトちゃん達にいろいろ聞きだしているよ」

 

 うん、それはJ・S事件で分かっている。

 逆にフェイトとアリシアが不安だ。

 あの二人、一度心を許したらガードが甘くなるからな。

 あれ?でも、俺には冷たいような?

 やっぱりあれか。

 シグナムさんにやった粘着性の高い捕獲用のWCC、旅人からの『モザイク加工された蠢くモノ』のコンボの詳細を聞いたからか?

 エロ同人誌的な物でもない。ただ、それがフェイト対策だと言ったから?

 

 何度も言うようだが、エロ同人誌的な物じゃないのに・・・。

 べつに、『モザイク加工された蠢くモノ』を使ってフェイトにアレしようなんて少ししか考えてなかったのに・・・。

 

 その考えが透けて見えたのだろうか、シグナム戦の詳細を話したあろに、プレシアさんに雷光で光り輝くシャイニング・フィンガーを受けました。

 今、その事をいえば、

 

 お嬢のその手が真っ赤に燃えて、邪神を潰せと轟き叫ぶことになるだろう。

 

 「裕、何とか言ったらどうなの。言っておくけど、あんたが休学届を出したのはもう知っているわよ」

 

 いつ知った?!出したのは今朝だぞ?!

 お嬢様方の情報網の広さと速さに驚愕を隠せない。

 特に静かに笑顔を見せるすずかちゃんが怖い。

 

 「いや、だって、言えるわけない。お前等だったら余計に・・・」

 

 なにせ、暴走すればジュエルシードよりも厄介だと榊原君からも聞いている。

 『闇の書』救済処置を失敗すれば地球があべしっ!ユワッショック!するらしい。

 

 『闇の書』にはWCCでも干渉することはできる。ただ、プログラマーとしての知識や技術が無いから手をつけられないだけであって、これからそれを身につければいい。

 それを身につける為に休学届を出したのだが、こんなにも早くばれるとは思わなかった。

 

 一応邪神もどきでもあるアリシアも『闇の書』がバグっていることを確認する事は出来るだろう。

 だが、邪神の共鳴反応で『闇の書』の悪影響がアリシアに共鳴したらやばいし、彼女の中にあるジュエルシードがどんな反応を示すか分からない。

 一応、蘇生後のアリシアに断って指先を切ってもらい、傷の治りの経過を見てみた。

 アリシアの邪神共鳴能力で『不老不死』という物はなかった。

 ただ、涙目になったアリシアを見て萌えた俺とプレシア。

 それはともかく・・・。

 下手にアリサ達を巻き込む訳にはいかない。

 彼女達は身体能力が少し高いだけの子どもなんだから。

 

 「余計に、何よっ。言いたいことがあるなら言いなさいよっ」

 

 俺が言葉を中途半端にきった所為か、アリサとすずかの表情に変化が見られた。

 よしっ。ここだ。

 

 そう考えた裕は懐から二枚の写真をわざと落とす。

 その写真にはアリサとすずかがそれぞれ写った写真だった。

 

 「これって・・・」

 

 「大事な、友達だから巻き込みたくないんだよ」

 

 すずかがその写真を拾うとアリサにも見せると俺を押さえつけていた足も外れ、裕は照れ臭そうに立ち上がる。

 

 「なによ・・・。それ、結局私達は足手まといだとでも言いたいの」

 

 「いや、やってほしい事はあるよ。王城と白崎の目から俺を逃がしてほしい」

 

 まあ、もともと眼中には無いだろうが、ここ最近なのはちゃん達とよく模擬戦をするためにテスタロッサ研究所の模擬戦場を使わせてもらっているし、はやて達も榊原が言う所の原作キャラらしい。

 管理局の暗部も関係しているらしく、『闇の書』を輸送中に暴走してクライド・ハラオウン。

 以前、この地球にやってきた管理局の船に乗っていたリンディさんの夫。クロノの父親がそれに巻き込まれて死んだ。

 そんなことに巻き込みたくないから魔法の力を持たない二人には出来る限り離れていてほしいし、王城や白崎みたいな魔力の塊がちょっかいをかけて『闇の書』暴走。地球終了のお知らせにもならないためにも処理が終わるまでは二人の目を惹きつけて欲しい。

 

 「全部終わったら話すから・・・。それまで待っていてほしい」

 

 「裕君、本当に話す気あるの?」

 

 それは死亡フラグだよ。と、すずかちゃんが少し困った顔で俺の顔を覗き込んでいた。

 と、そこに怒気を含めた声を発しながらメダルコンビの金髪。王城がやってきた。

 

 「ごらぁっ!モブ野郎!アリサとすずかから離れやがれ!嫌がってんだろう!」

 

 全くだ。嫌がっているだろう。

 

俺が!

 

 嘘です。アリサさん。落ち着いてください。だからその振り上げたこぶしを下ろして。

 俺の体以外の所に!

 

 「たくっ、俺が見ていない間に嫌がる二人に絡むとはキモい考えをする奴だな」

 

 絡んでいるのはどう見てもアリサとすずかちゃんだと思うんだが・・・。

 ひぃっ。すずかちゃんの表情が無表情にっ。

 至近距離且つ下から見る美少女の顔はグッとくるが、それが無表情だと同じくらい怖い。

 

 「別に、俺から絡むつもりはないんだけどな・・・」

 

 「はんっ。どうせ、てめえもこれから起こる『闇の書』事件に関わっていこうと考えているオチだろう!そうやって、俺のなのはやフェイト。はやて達を手に入れようとかんがえているんだろうが!」

 

 「・・・なんだと」

 

 裕は珍しく、怒気を含ませた声で声を上げながら立ち上がり、王城を睨む。

 

 「図星を刺されて怒ったのか?単細胞だな、この雑種が!」

 

 「つまり、お前はこう言いたいんだな・・・」

 

 裕は一度言葉を切りながらも王城を睨み続けた。

 そして、声を大にしながら言い放った。

 

 

 

 「実は俺がジュエルシード事件からフェイト達と関係があって、その時の縁でプレシアの研究所に入りびたり、

 

 その事件前からバニングスさんと知り合った後、月村家という二大スポンサーを手に入れて娯楽に不自由することなく遊びまわり、

 

 『闇の書』関連ではやて達と知り合い、付き合っていく中で、美女・美少女に囲まれた学園生活を過ごしていけてトロピカルヤッフゥイイイイイッ!しているとでも言いたいのか!?」

 

 

 

 ・。

 

 ・・。

 

 ・・・。

 

 「・・・だ、誰もそこまでは言ってはおらぬ」

 

 「王城君っ、今言質とれたよっ?!」

 

 メダルコンビを前にして、珍しく素の表情が出てきたすずかのツッコミがでた。

 そのツッコミを聞いて、呆然としていたアリサもすずかと一緒に王城の視線から避けるために裕の後ろに回る。

 それを見た王城は二人が恥ずかしがっているんだなとおめでたい事を考えていた。

 

 「待っていろ。すずか、アリサ。こいつをすぐにそいつをぶちのめしてやるからな」

 

 にこりと王子様が笑ったかのような笑顔を見せた王城だが、様々な企業が開催する立食界に参加した事のあるお嬢様二人には、その笑顔の下に後ろめたい物があると前々から感じ取っていた。

 

 「かかって来い。雑種」

 

 指をくいくいと曲げて裕を挑発する王城に対して裕は気合の声を上げながら、その一歩を踏み出した。

 

 「遠慮なくいかせてもらうぜ、王城!必殺ぅ!」

 

 裕は右拳を振り上げると同時に裕の足元から以前使用した煙幕の煙が噴き出る。

 その光景を見て、煙に紛れて攻撃するのだと思ったのか王城は全身に魔力をめぐらせてどんな攻撃でも受け止めようと身構えていた。

 

 「テレポート!」

 

 

 

 煙幕が晴れた所には誰も、そして、何もなかった。

 煙玉を使って、煙幕を撒き上げただろう邪神の姿も無かった。

 

 

 

 「・・・もしかして、あいつ。逃げたんじゃ?」

 

 ピーッチチチチッ。

 

 

 と、その通りだよ。と言わんばかりに雀の鳴き声が聞こえた。

 

 煙幕に紛れて見えなかったが、裕はWCCを発動させて、シフトムーブを行い、その場を離脱していた。

 必殺とは名ばかりの見事な逃走劇だった。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 それから数分もしないうちにお昼休み終了の鐘が鳴る。

 王城が来たその時既にお昼休みは終了五分前だったのだ。

 王城はもちろん、アリサやすずかまでその予鈴がなるまで裕が逃げたと判断出来なかったのである。

 

 「雑種ぅうううううっ!!」

 

 逃げられたと理解した時には時間切れという侮辱を受けた王城は遅刻するわけにもいかないので憤りながら、教室へと向かう。

 そこに裕がいれば殴りかかりそうになるだろうが、逃げ出したついでに早退していたのでそれが叶う事はなかった。

 

 「あいつ、ああやって人を煙に巻いて逃げるのは上手よね。でも、今度会ったら全部話してもらうんだから」

 

 「・・・うん。そうだね。いろいろと聞かせてもらわないとね」

 

 アリサのつぶやきにすずかが答えた。

 裕が落とした写真をアリサに見せながら。

 ただし、写真の裏側。

 

 そこには『非売品』の文字が書かれていた。

 

 その時、お嬢様たちの心の中に絶対に邪神をとっちめてやると確固たる意志が宿っているのであった。

 




 アリサ達が持っていた写真は『イエーガーズ』のメンバーのみに配られる団員限定の写真。


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第三十八話 邪神様、廊下に立ってなさい。

 テスタロッサ研究所に設置された医務室で一人の少女が寝かされていた。

 彼女の名前はフェイト・テスタロッサ。

 幼い姿に似合わず、高レベル魔導師である。

 そんな彼女が今、息も絶え絶えにベッドに寝かされていた。

 彼女はその幼い体にある人物からの欲望を一身に受けた所為でベッドの上に寝かされていた。

 その表情から激しさがうかがえる。

 紅潮した頬に、汗ばんでいる体。なんを乗り切ったはずの彼女は未だに苦しんだ呻きをこぼしていた。

 そんな彼女に邪神は黒光りするアレを握らせた。

 

 

 

 アレがナニかって?

 黒光りするアレって言ったらアレに決まっているだろう?

 

 

 

 

 

 模擬戦でシグナムに壊されたバルディッシュ(WCCで自然治癒・回復の効果付与)だよ。

 

 「裕、バルディッシュを直してもらって、フェイトを治してくれて嬉しいんだけど出て行ってくれない」

 

 「なんで?」

 

 「目付きと思考がいやらしいよ」

 

 「俺口にしていた?」

 

 「やっぱり考えていたね」

 

 ぺいっ。と、アルフに医務室から追い出された裕は、ユーノの回復魔法で応急処置を施されているフェイトを心配していた八神家の皆さんと廊下でお話することにした。

 

 「どうだった、いたいけな九歳の美少女を欲望(戦闘意欲)赴くままに蹂躙したシグナムさん?」

 

 「いやらしい言い方をするなっ。模擬戦でちょっとやり過ぎただけではないかっ」

 

 ちょっとだけ、先っちょだけだからという事ですね。わかります。

 

 「だいたいっ、貴様は他の奴とは真面目にやりあっているのにどうして私だけそうやって逃げに走る?!」

 

 「いや、だって・・・。俺とやり合いたければフェイトを倒せと言った俺も悪いけど、あそこまで手加減無しでやられると、…ねぇ?」

 

 邪神の言葉に守護騎士達全員が頷く。

 

 「いくら非殺傷設定があるからってあれはやり過ぎよ。シグナム。(戦闘に)慣れていそうなフェイトちゃんでもあんなに激しい攻撃。捌き切れないわよ」

 

 「・・・うっぷんが溜まっていたのか?」

 

 シャマルがたしなめるような言葉をかけながらも呆れた視線をぶつける。

 ザフィーラはせめてものの優しさなのか銀髪マッチョから狼に変化した状態だったが、その視線の質はシャマルと変わらない。

 

 「私と黒ドリルが模擬戦をやりあっているのがそんなに羨ましかったのか?」

 

 「それ以前にこいつが普通に戦っているのが気にいらなかっただけだっ」

 

 失敬な。

 俺はただ、銀髪マッチョのザフィーラとやりあっていただけだ。

 模擬戦をね!

 ブラックゲッターのパワードスーツを着てね!

 

 「さすがに子どもボディで連戦はきつい」

 

 WCCでブラックゲッターに疲労回復効果があることは教えない。

 言ったら最後、精神的疲労で倒れてしまう。

 

 「そんな子どもに容赦なく襲いかかった女騎士シグナム」

 

 「エロいな」裕

 

 「エロいわね」シャマル

 

 「エロ」ヴィータ

 

 「・・・エロだな」ザフィーラ

 

 「エロいわー」はやて

 

 「榊原っ、貴様裏切ったな?!主はやてまで?!」

 

 唯一相手側の真面目キャラだと思っていた榊原の発言と味方からのコメントにショックを受けるシグナム。

 残念な事に黒ドリルこと榊原君は邪神の軍門に下っているんだよ。

 

 テスタロッサ研究所に通うようになってからまだ二日しか経っていないのに大分、ここの雰囲気に慣れてきた守護騎士達(一名除く)だった。

 

 『ねー、私、まだそっちに行っちゃ駄目なの~』

 

 『我慢しなさい、アリシア。あなたが『夜天の書』のバグに共鳴したら母さん悲しいわ』

 

 医務室の方からテスタロッサ母娘が画面越しに会話しているのが見えたので、今度は榊原、はやて、守護騎士達と共に再度入室する裕。

 アリシアは邪神もどきで万が一に近くにいる神技人の力を使う事が出来る『共鳴反応』が起こらないようにフェイト達から百メートル以上は離れた部屋でフェイト達の事を見ていた。

 

 「ごめんな、アリシアちゃん。私も早くまたアリシアちゃんに会いたいわー」

 

 前回、迂闊にも近づいたが幸い、裕の方が彼女の方に近かった為『闇の書』よりも裕の方に共鳴したアリシアだった。

 その事に気が付いた後のプレシアさんはあまりのショックに裕をアリシアにグリグリト押しつけながらはやて達から距離を取ったものだ。

 

 『私達を助けてくれたユウの頼みを聞かない訳にもいかないよ』

 

 『・・・まあ、私自身も『闇の書』の構造は気になるわ。まだ、裕とシャマルさんにしかその構図は見えないんでしょうけど』

 

 熟女のツンデレ頂きましたーっ。

 

 『・・・ユウ』

 

 「俺、口にしていたか?」

 

 自爆自爆。と、榊原君に突っ込みを受けたが後の祭りだった。

 あとでプレシアのシャイニング・フィンガーを受けることになる邪神だった。

 

 『でも、本当は怒っているんだからね。可愛いフェイトを模擬戦とはいえ・・・。こんな、無理矢理っ』

 

 「本当にすまなかったっ。だからもう勘弁してくれっ」

 

 どうやら廊下でのやりとりを聞いていたのかアリシアまでノリノリでシグナムをいじってくる。

 このままでは土下座までしそうな勢いで謝り倒すシグナムの隣ではやては、グロッキー状態のフェイトを見て彼女にも謝りながら、裕に榊原。テスタロッサ家族に頭を下げた。

 

 「本当にここまでしてくれてありがとうございます。裕君の紹介でここまでしてくれたのはグレアム叔父さんぐらいにありがたいと思っています」

 

 「いやいや、ここはフェイトちゃんのうなされている姿がエロいなぁ。とか言う場面だろ?」

 

 何、真剣な顔して真面目な事を言っているんだよ。と、茶化す裕だがはやては苦笑しながら言葉を続ける。

 

 「無理に茶化そうとしないでぇな、裕君。裕君から借りているこの宝石のアクセサリーのおかげでこうして元気でいられるけど、本当の事を言うとここに来るまではきつかったんやで」

 

 はやては袖をめくり、そこにつけられていた銀色に光るブレスレットを見せる。

 その腕輪には裕がWCCで『呪い耐性』の効果をつけた物だ。

 『呪い』の無効もしくは解除の腕輪も作っては見たが、それだと『闇の書』の呪いの方が大きく、その効果だと腕輪そのものがすぐ壊れてしまう。

 今、裕達が施せるものはこれだけなのだ。

 

 「はいはい。それじゃあ、学習装置のある部屋に裕は戻って勉強してきてね。一応ゲッターを偵察に出しているとはいえ、ツラヌキ(榊原君の名前です)の話だとはやて達を監視している管理局の猫?を見つけきれていないんだからあんまりここに長居するわけにもいかないよ」

 

 特に裕のような存在は管理局に知られたらまずい。

 特にJ・S事件でゲッターを使って大暴れした邪神の存在はもちろんだが、邪神もどきであるアリシアや管理局の暗部に関係しているプレシア。さらにはプロジェクトFの産物であるフェイトなどテスタロッサ家族も極力管理局とは関わらない方がいい。

 それなのに力を貸してくれるテスタロッサ一家に裕。榊原にユーノ。後からなのはの協力も得るだろうはやてはもう一度お礼を言う。

 

 「・・・本当に、本当にありがとうございます」

 

 はやてに続くように守護騎士達も頭を下げる。

 裕と榊原に出会って、『闇の書』救済処置の話を聞かなければ通り魔まがいの事をしてでも、魔力を糧に完成する『闇の書』を作り上げてはやてを救おうとしただろう。

 そうすれば自分達ははやての元には居づらくなるうえに主であるはやてにもその罪が付いて回る所だった。

 それを思うと頭を下げずにはいられなかった八神家に裕は気軽に笑って声をかけた。

 

 「気にするなって、はやて。だって俺達・・・」

 

 「・・・裕君」

 

 「HENTAIだろ」

 

 「台無しや!」

 

 そこは友達やろ!と、いつもの通りの空気を作り出す邪神に感謝と自分の思いを素直に受け取らない事に対して少しだけ憤りを感じたはやてだった。

 




 冒頭でエロい事を考えた人。廊下に立ってなさい。



 廊下
 作者「はい」
 邪神「はい」


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第三十九話 みんなで歌おう邪神様の歌

 私、リーゼロッテ・アリアこと、アリアは目の前の現象に目を疑っていた。

 聖王教会や無限書庫で調べたところによると守護騎士プログラムという物はその名の通り、『闇の書』の持ち主をサポートするために作り出される人造人間みたいなモノ。

 それが四人までは確認撮れており、その一人一人が戦いのエキスパート。

 一人一人が一騎当千の実力を持ち、四人そろえば不意でも突かない限り軍隊レベルで対応しなければ応戦のしようがない。

 そんな彼等にたった一人。いや、ひとつの存在だけで応戦できるのはよほどの馬鹿か、もしくは化物だろう。

 今回にあたっては後半にあたる。

 

 「シャマル―!あいつに何渡したぁああっ!」

 

 「ごめんなさい、ごめんなさいー!」

 

 「まさか、白紙状態の闇の書1ページを取り込んだだけであそこまで進化すとはな・・・」

 

 「あれはもう進化というか別のステージのものだろう!」

 

 回避、防御、迎撃などいった専守防衛を強いられている守護騎士達がいた。

 そんな彼等が相手をしているのは異形の怪物。

 全身は黒いのが特徴的な上半身が鬼で下半身は四足歩行の恐竜を思わせる風貌。

 その接合部分にあたる所からはうねうねと触手のような物が這いずりまわりながら、大地に突き刺さるとその接合面からじわじわと蛍光色にも似たショッキングピンク色に染め上げていく。

 遠目に見ているアリアでも目を覆いたくなるような光沢だった。

 その上、

 

 「ジャシンゴー、ジャシンゴーッ、ジャッシッンッガーズェット♪」

 

 (※某『鉄の城』調で読んでください)

 

 「大地をむーしばむ、じゃしーんの触手―、

 スーパーゴーッド~

 ジャシンガーズェットー

 邪神の力は自分の為にー

 悪戯心でレッツラーゴー

 揺らせ~乳房~、ビィッグボイン~

 今だ~、出すんだ~、『蠢く何か』~

 ジャシンゴー、ジャシンゴーッ、ジャッシッンッガァアアアっ、ズェット!」

 

 軽快な音楽が怪物の体から流れてきている上に時折、怪物の体の所々から『モザイク加工された何か』が飛び散っている。

 あんな野太い声で愉快な歌を歌っているのが、神を越えたスーパーゴッドとは思いたくもない。

 気のせいだろうか?

 ピンク色の髪をしている女騎士が震えているようにも見える。

 

 「な、なななあ、あれはやっちゃっていいよな。殺っちゃってもいいよな!」

 

 「おちつけシグナムッ。殺っちゃたら蒐集できないだろっ。シャマルが『旅の扉』蒐集するまで待てっ!」

 

 「わ、私だっていやよ!あんなぬちゃぬちゃした『蠢く何か』を撒き散らすようなリンカーコアを触りたくないもの!」

 

 「かといって、この向こうの中。触手の中をかいくぐってあいつを倒すのも難しいと思うが・・・」

 

 怪物から伸びる触手は大小さまざまあるが、地面に向かって伸びている触手は地面をピンク色に染め上げている。

 空に向かって伸びる触手は守護騎士達を警戒しているものと一定範囲内をビチビチと蠢き、守護騎士達が直接武器を叩き付けるのを妨害している。

 無暗に突撃すれば触手の餌食になるだろう。

 遠くから見ていたアリアがそう考えた時、今まで愉快?な歌を歌っていた怪物が歌を止めて、守護騎士達を笑った。

 

 「ぐは、ぐはははははっ。感謝するぞぉ、守護騎士とやらぁ。貴様等のおかげで我がにっくき同胞のアユウカスを倒す手段が取れたわぁ!」

 

 「蒐集しようとしたら逆にこっちの方が力を吸われるなんて・・・」

 

 会話から察するに守護騎士達はあの怪物から一度は蒐集しようとはしたものの逆に力を吸われて防戦状態に陥った。と、

 主である八神はやても『闇の書』の影響で体調も芳しくはないに見える。

 ・・・彼女のことを思うと良心が少し痛む。

 自分お主人である、ギル・グレアムの命令とはいえ、十歳にも満たない子どもに全てを擦り付けて『闇の書』を封印しようとしているのだから、尚更・・・

 

 「とにかく、絶対に私はあいつには近づかないぞ!」

 

 「・・・く、シグナムは退け。ここは俺が食い止める!」

 

 「付き合うぜ、ザフィーラ」

 

 「サポートは任せてっ」

 

 「な、なら、私も」

 

 「「「どーぞどーぞ」」」

 

 「貴様等―!」

 

 ・・・対象の八神はやてはお笑い番組が好きだとは聞いていたけど、守護騎士にもそれが伝播しているのだろうか?

 守護騎士達が一悶着している間に怪物から伸びた触手が彼等をまとめて、からめ捕り、まるで趣味の悪い毛玉のようになった。

 あのままでは吸収されると思った私は彼等を助け出そうと腰を上げた瞬間、頭に衝撃が走った。

 

 「・・・え?」

 

 アリアの意識が崩れ落ちていく意識の中で最後に見たのはハンマーを掲げた赤い守護騎士ヴィータの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しかし、上手くいったな。地球から少ししか離れていない世界で魔力を全開にして大暴れしていれば異変を感じて私達の様子を見に管理局の猫がやってくる」

 

 ヴィータは手にしたハンマーを担ぎながら自分が倒した猫耳を生やした女性、アリアを見ながら言葉をこぼした。

 

 「裕君が作り出した怪物を見て呆気にとられている間に私が彼女の位置を把握。そこに裕君が転移させる。裕君のWCCは変わった波長をしているけど魔力ではないから感知されにくい」

 

 シャマルは彼女が逃げ出さないように拘束の魔法をかけながら周囲を警戒する。

 彼女達がいう通り、守護騎士と怪物。怪物を作り出した邪神。ユウは怪物の形を元の形。腕の伸び縮みがするゲッター・ロボに戻す。

 

 「いやー、姿を誤魔化して増やした腕を適当に動かすだけの簡単なお仕事でした」

 

 現に怪物だったゲッターは一歩も動いていない。

 裕はWCCを使って、怪物だったゲッターの操作をしながら変声機で声を偽り、愉快な歌を歌い続けただけ。

 アリアを発見したと、シャマルが「ごめんなさい」と連呼する合図を聞いた裕は予めグループアイテム化した大地の一部分に彼女達をシフトムーブさせた。

 それを気取られないように触手。もとい、増設したゲッターロボの腕をがんじがらめにしてWCCで発生する光を隠した。

 『蠢く何か』はアリアの注意を逸らせるための囮のような物。実害や機能。役割は殆ど無い。

 

 「・・・とりあえずは管理局のおびき出しは成功か。次は交渉だな。・・・シグナムは何処に行った?」

 

 ザフィーラの言葉に裕や他の守護騎士達も辺りを見渡す。

 すると、ここから少し離れたとこ。

 正確には守護騎士達が触手に捉えられた場所付近で気絶している女騎士が一人。

 

 「あれ?!俺、シフトムーブし損ねた?!」

 

 邪神の不手際により、一層『蠢く何か』に嫌悪感を抱くシグナムがそこにいた。

 



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第四十話 ツキサセ、邪神様。

 リーゼアリアが裕達に捕まる少し前。

 我等が邪神はテスタロッサ研究所の一角で人生の春を謳歌していた。

 背中には金髪美人のシャマルの体温を、前には子狸少女な少女の体温のサンドイッチ状態。

美人の匂いと美少女の匂いにだらしなく鼻の下を伸ばしていた。

 そんな邪神の様子に面白くなさそうな顔をしたテスタロッサ母娘と榊原。八神一家が注意した。

 アリシアとプレシアの方はモニター越しにだが。

 

 「・・・ユウ。だらしない顔をしないでちゃんと闇の書の検索をする」

 

 「主はやてに妙な気を起こすなよ」

 

 「そんな!美女と美少女に挟まれるなんて機会、生まれて初めてなんですよ!今のうちに鼻の下を伸ばすのは当然の行動だと思うんですよ、フェイトさん!こんないい匂いっ、深呼吸の要領で吸い込みまくるよ」

 

 「鼻息荒いぞ、団長」

 

 裕に後ろから抱きしめられる形のはやてはいつもの裕のノリに少しだけ安心していた。

 今からやることが成功すれば『闇の書』の呪いを解くきっかけにもなるかもしれないからだ。逆に下手な手を打てば即暴走する可能性がある。

 だが、そんな不安などないと言わんばかりに愉快な空気を作り出そうとしている裕にほっとしているのも事実だった。

 

 『だからってそんなに鼻の下を伸ばさなくてもいいと思うんだよっ』

 

 「だったらいつ伸ばすの!」

 

 「「今でしょ!」」

 

 闇の書を抱えているはやてと共にサムスアップをする裕。

 その様子にやれやれと言った具合で裕とはやてを抱きしめているシャマルは闇の書に異常がないかを確認しながら指示を出す。

 

 「それじゃあ、裕君。闇の書と私のデバイスを接続してくれる?」

 

 「アイマム」

 

 ある程度、WCCで強化したアクセサリーの効果でデバイス知識を修得した裕は二度目になる『闇の書』にWCCで干渉を行うことにした。

 シャマルには『闇の書』の状態を常にチャックしてもらい異常があればすぐに中断する手はずになっている。

 闇の書に触れると同時に裕の目にはバグが生じている『闇の書』のステータスが見える。

 それを一個ずつ一個ずつ削除。正常なデータに更新。削除。更新。を繰り返していく。

 それが一時間ほど経った。

 

 「・・・シャマルさん。結構な量のバクを削除しているんだけどどんな感じですか?」

 

 「う~ん。こちらとしては変化ないわね・・・。はやてちゃん。足の麻痺はどう?」

 

 「うーん。なんというか靴下を脱いだ感じにすーすーする感じやな。だけど、何かすぐにしけっている感じがする」

 

 「水虫?けぴっ」

 

 「乙女に向かって水虫とか失礼やな裕君っ」

 

 裕の失礼な一言にはやては頭突きを入れる。

 はやてを後ろから抱きしめる形だった為顎を強く打ち、下を噛んだ裕はしばらくの間悶えていた。

 その時、

 

 くちゃあっ。

 

 何やらぬめっとしたモノが闇の書から零れた。

 

 「な、なんや。なんか、白くてぬめっとしたなんとなく生臭い液が零れてきたで?!」

 

 自分が持っていた部分が妙なぬめりを持った液体が零れてきたことに驚いたはやては思わず闇の書を放り投げる。

 シャマルが慌ててそれを解析すると、『魔力を持った生体部分』と判明した。

 裕のWCC画面にも同様にそれが表示されている。

 闇の書の表紙には本来、十字架を模した飾りが見えるのだが、放り投げられた闇の書の表紙にはぬとぬととしたスライムのような物がこびりついていた。

 

 「過去に『闇の書』が喰らった魔力かしら?裕君、ちょっとこれを引き抜いてくれない?」

 

 「そこで俺っすかー」

 

 シャマルにはいざという時の為に『闇の書』の強制停止をお願いしている。出来るだけ彼女の負担を減らすためにも裕がスライム状の何かを掴んで確かめなければならない。

 

 くちゃあっ。

 

 「ひいいいっ、気持ち悪い」

 

 WCCでは粘液に包まれている何かと表記されている。一応、触っても害がない物らしい。

 ただ掴んでも滑ってつかめないので思い切って粘液の奥にまで指を入れる。すると、指がどうにか入りそうな小さな穴を一つ発見した。

 とりあえずボウリングの玉を持つ要領でその穴に指を入れる。

 

 「シャマルさん。・・・これ、引っ張り上げますね」

 

 「ええ、お願い。それを引きずり出せば『闇の書』のバグが見つかるかもしれないし。・・・はやてちゃん。少しでも異変を感じたら言ってちょうだいね」

 

 「い、今のところ見た目で気持ち悪いと思っているだけで、おっけーや。皆も何かあったらよろしくな」

 

 はやての言葉にその場にいた守護騎士達。フェイトとアルフも頷く。

 モニター越しにだがプレシアとアリシアも頷くのが見えた。

 

 「安心してください。何かあれば闇の書と邪神もろとも滅して差し上げますから」

 

 「俺の安心要素は何処?」

 

 シグナムの発言に裕はスライムから手を引っ込めるところだった。

 

 「大丈夫。ユウは死なないよ。私が守るから」

 

 「笑えばいいのか?」

 

 何気にダメージフラグを建てているフェイトに裕は榊原にフェイトを抑えるように言っておく。

 それと、穴に指を入れてだがスライムに包まれている物体は妙にビクンビクンと動いているように感じる。

 

 「それじゃあ・・・。ヌクぞ」

 

 いやらしい意味じゃないぞ?

 

 裕は穴の奥まで指を入れて一気にそれを引き上げた。

 そして、そこから現れたスライムに包まれていた人間を引きずり出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・それが、僕なんだよね」

 

 「・・・な、な、な。なんじゃそりゃあああああああっ」

 

 十一年前に『闇の書』の暴走で『闇の書』に取り込まれ、アルカンシェルという戦艦クラスの砲撃で消し飛んだはずのクライド・ハラオウンの姿に、テスタロッサ研究所で絶叫するアリアだった。

 




 裕の入れた穴はクライドさんの穴。











 鼻のね


 NGシーン。

 バグを削除。新規更新。削除。新規更新。削除。新規更新。削除「あべしっ」。新規更新。

 邪神「ん?なんか聞こえたような気がする?」

 邪神様は劣化クライドを削除した。



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第四十一話 邪神様が鳴くころに

邪神様の日頃の悪行が露わになります。


 目が覚めると幼馴染三人組を中心に高町親子が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 な、何が起こったか自分でもよくわからねぇ…。

 と、内心、ポルポルごっこで冷静に自分の状況を確かめる。

 高町道場の真ん中で、高町親子とアリサ。すずかちゃんに囲まれて、自分の四肢がバインドで宙吊りにされている。

 

 たしか、テスタロッサ研究所で闇の書からサルベージしたクライドさんが捕獲したリーゼ・アリアさんに事情を説明している間にお茶うけを買いに翠屋にケーキを購入してきてくれた時に美由希さんからオマケのケーキ(高町家長女特製)をその場で食べてから記憶が・・・。

 

 何がいけなかったのだろうか?

 食物摂取で死に掛けたことに何の反省も学習もしていない事か?

 いや、違う!

 アレを食べた後に美由紀さんにお詫びとしてマヨネーズ(500ml)、チューチュー吸ってもらおうと考えた邪な心だ!

 総じて反省していない俺が悪いですね、はい。

 WCCで中身が分かっていても怖いもの見たさで食べたいと思ったのもいけない要素だったと今更ながらに思う。

 

 「さーて、裕、今度会ったら全部話すって言っていたわよね。さあ、洗いざらい喋ってもらいましょうか」

 

 アリサが仰向けで寝ている状態の俺のお腹をグリグリと踏みつける。

 

 「やめろ、俺の中の何かが目覚めちゃうっ」

 

 「そうなったら私が一生面倒見てあげるよ」

 

 「はいっ。喋りますです」

 

 目だけが笑っていないすずかさんの目付きに怯えたわけじゃないんだからねっ。

 なんちゃってどMな俺にとってそんな一生なんて、・・・いやだ。

 

 「実は、俺・・・」

 

 「うん」

 

 「俺・・・」

 

 「うん」

 

 アリサとすずかちゃん。そして、なのはちゃんを含めた高町親子が俺の言葉を待つ。

 

 「・・・俺、六人目のSMAPのメンバーなんだ」

 

 「ふんっ」

 

 「ぱほうっ?!」

 

 アリサが俺の言葉聞くなり、全体重を鳩尾に押し付けている足にかけた。

 腹に加えられた圧力に耐えかねて口から変な声が出たが、これ以上は喋らないと大変な事になりそうな気がしてきた。

 

 「ねえ、裕君。私達にちゃんと本当の事をしゃべってくれないかな、かな?」

 

 なのはが裕の頬を押さえながら質問してくる。だが、その頬を掴むてが微妙に光っているのは魔力の所為か?

 徐々に徐々にだが、頬が潰されて、痛みが走る。

 もはや、これまでかと思った裕だがそこに救いの手。というか、声が上がる。

 

 「ごらぁああっ、モブゥッ!オリ主である俺の嫁に何してやが「(無言でディバインバスター)」あああああ!?」

 

 そして、すぐに沈黙した。

 もうちょっと頑張ってくれよオリ主君・・・。

 まあ、無理か。

 道場の扉を開ける同時に口上を上げるのはいいが、そこにノーモーションのなのはの砲撃をバリアジャケット無しで受ければひとたまりもないだろう。

 そして、初めて見た。人が吹き飛ばされて衝撃で壁に張り付いている姿を。

 

 「わかった、わかったから。喋るから手を離して」

 

 「本当の事を言わないと裕君もさっきみたいにドーンするよ」

 

 物騒な壁ドンもあった物だ。

 まあ、これ以上秘密にしていても意味ないし、言ってもいいか。

 ただし、面白おかしく・・・。

 

 「じつは…」

 

 「本当の事を言わないと、それが終わるその前に裕君はズタボロになっていいるだろうけどね」

 

 最近、幼馴染たちがバイオレンスになりつつある。

 裕は涙目で高町夫妻に訴えかける。

 ごめんね。と、表情だけで謝ってきている。というか、なのはと同じように裕が最近何をしているか気になるからこそ、高町家長女にシュークリームを作らせて自分に渡したのだとすると家族ぐるみの仕業だ。

 観念して言おう。

 

 「実は・・・」

 

 病弱美少女(笑)と裏取引をして、

 病院を買収して『V』様の威光を病院関係者に知らしめ、

 美少女(笑)と美幼女と美女と榊原君と遠くまでお話をしに行ったあと、

 美少女(笑)の家族が集まったところで全裸になって、

 桃色髪の巨乳のお姉さんを××した後、

 そのお姉さんがフェイトとやりあった後、

 赤く紅潮したフェイトの肌にハァハァした後、

 クライドさんの穴をアーッした

 

 そう説明するなり、裕の幼馴染のなのはの行動は早かった。

 

 「ちぇりおっ、ちぇりおっ、ちぇりおっ、ちぇりおっ」

 

 ⊃☆))Д´)「アベシッ」

「アベシッ」(`Д((☆⊂

 ⊃☆))Д´)「アベシッ」

「アベシッ」(`Д((☆⊂

 

 「ユウ、なのはは前持って言っていたでしょ」

 

 アリサが呆れた顔でユウに馬乗りになってビンタをかますなのはの後ろで言葉をかけた。

 

 「嘘じゃないもんっ。本当の事だもんっ」

 

 「なお悪いよ」

 

 裕の言葉にこんどはすずかまでもが呆れた顔をしてなのはの所業を止めようともしない。

 

 「ちぇりおっ、ちぇりおっ、ちぇりおっ、ちぇりおっ」

 

 ⊃☆))Д´)「アベシッ」

「アベシッ」(`Д((☆⊂

 ⊃☆))Д´)「アベシッ」

「アベシッ」(`Д((☆⊂

 

 結局、裕が戻ってくるのが遅いと探しに来たアリシアとプレシアが来て、更に事の詳細をプレシアから聞かされるまでなのはに往復ビンタを喰らわされる羽目になる裕だった。

 ちなみに美少女(笑)との裏取引に使われたのが自分達の写真だという事を知ったすずか。

 シグナムさんにやらかした事の詳細を知ったアリサの両名からもビンタを貰う邪神だった。

 

 

 

 美由希さんのチューチューはありませんでした。・・・残念。

 

 




日本語って楽しいよね


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第四十二話 邪神様の人間関係

 幼馴染トリオからビンタを受けて一時間後。

 右腕にアリシアが腕を組ませてテスタロッサ研究所へと再びやってきました。

 これは邪神の共振で『闇の書』の呪いを移さないための防衛策です。

 

 美少女に腕を組まれて羨ましい?

 なら、代わるか?頬が破裂するんじゃないかと思わんばかりのビンタを受ける羽目になるが?

 誰にむかって思っているかは分からないが、代われるなら代わってやりたい。

 

 美少女に馬乗りにされてのビンタ。

 少女特有のニホイとスカート越しの熱を感じながらのビンタ。

 それをカンジながらのビンタ。

 (特殊性癖に)変われるなら変わって・・・。・・・いやいや。

 

 裕はそんなことを考えながら待合室に入ると、そこで待っていた榊原君とはやて。ザフィーラさんにシグナムさんがなのは達+高町親子が(平和的)お話をし始める。

 基本、なのはちゃん、幼馴染トリオが自分と話す時はお話(物理)もしくは(強襲)である。

・・・自分の行いを思い直す必要があるな。

 あと、シグナムさん。俺を見るたんびにびくつかないでください。

 ・・・まだ、ナニもしてないじゃないですか。

 

 「あの子が裕君のいっていた病弱薄幸美少女(笑)?」

 

 「病弱美少女(笑)じゃなかったかしら?」

 

 「美少女(笑)だったような?」

 

 「皆、失礼な事を言うなっ。少女(笑)だろうにっ」

 

 「ちょっと裕君、面かせや」

 

 なのは達を連れてテスタロッサ研究所に戻ってきた裕を出迎えたはやては顎でくいっ部屋の向こう側に行くように示す。

 自分の事をどう説明してくれたんだ、この邪神は、拳を使って話そうかと態度で示したはやてだった。

 

 「先に行ってくれ。…俺は行かないけど」

 

 「なら意味無いやんっ」

 

 真剣な顔をしてふざけた事を言う裕にいつものツッコミを入れながらも、そこにいる全員でこれからの方針を話し合う為に、クライドとアリアが話し合っている部屋へと向かう。

 部屋に入るとヴィータとシャマルさん。ユーノ君にフェイトとアルフに見守られながらも自分達がどうこう度すべきか検討していた二人がいた。

 

 「・・・『闇の書』のバグを直せる可能性を持つ邪神。神を名乗るからどんな奴かと思えばどこにでもいそうな坊やじゃない」

 

 アリアさんは自分を攻撃した守護騎士達がいるからか表情を硬くしている。

 だけど、そっちもそっちではやてを犠牲にしようとしていたよね?

 アリアさんの言葉にムッとしたなのはちゃんたちだったが、こちらの方としてはその方が助かる。

 

 「そうそう、どこにでもいそうな子どもだから俺の事は管理局に報告せずに黙っていてほしいぞ」

 

 「・・・僕を助け出したその力があればどんなところでもやっていけると思うんだが」

 

 「すいません。就職先は別に決めているんで」

 

 クライドさんは自身を助けてくれたWCCの力はかなり応用が利くと思っているのだろう。

 その判断は正しいと思う。

 現に科学者のプレシア。考古学、発掘のユーノ。企業家のバニングスに発明家の月村とあちこちからオファーを貰っている。

 最有力候補はバニングス。宝石加工と特殊効果をするだけでベリーメロン四個分の報酬という破格の待遇です。

 たまに豪華な食事もつく。いたせりつくせりな職場環境である。

 それに管理局はプレシアさんの事件も有るので後ろめたい。というか、不安要素満載なので断固拒否である。

 

 「あら、どこに決めているのかしら?」

 

 桃子さんが俺の将来が気になったのか聞いてくるので考えたままを伝える。

 二番候補はユーノ君一族と一緒に発掘作業。理由は土曜ロードショーでインディーを見たから。

 

 「ゆ、裕君。うちのケーキ屋とか道場とかどうかな?」

 

 「痛いのはパス。食べ物を扱う店はあまり好き勝手で着そうにないから嫌。…まあ、WCCで0カロリーケーキとか作れそうだから面白いと思うけど」

 

 「裕君。今の話、詳しくっ」

 

 なのはちゃんの質問に答えると異様なまでに美由紀さんが食いついた。

 最近体重が気になるんだと。そのおぱーいなら問題無いと思うんだが…。

 なのはちゃんが目に見えて落ち込んでいたけど、ごめんね。

 俺は危険な目に会いたくないんだ。

 榊原君の言う『原作』。

 正義の味方サイドとして描かれているなのはちゃん達に力を貸せればいいが、敵サイドにWCCの力を発揮したらはっきり言って取り返しがつかない。

 まさにバランスブレイカーな代物が世に出ていいはずがない。

 『原作』の部分を上手くごまかしてなのはちゃんのご機嫌を取る。

 

 「なのはちゃんの事は、                      

 

 

好きだから。別に嫌いという訳じゃないよ?」

 

 「今の間は何なの!?しかも疑問形?!」

 

 「いや、だって、さっきビンタ喰らった後だもん。いくらWCCで回復効果を付与したアクセサリーをつけているとはいっても痛い目にあったばかりだし?ここですぐに好きだよとか言ったらマゾじゃん?」

 

 「え?」

 

 「おう、はやて。ちょっと、面かせや」

 

 はやてが意外。っって、顔をしてこっちを見る。

 さっきの仕返しか?

 

 「それにしても、子どもが多いわね。一体どういう関係よ?」

 

 アリアさんがいつの間にか大所帯になったメンバーを見て言葉を投げかけられる。

 実質、四面楚歌だよなこの人。

 シャマルさんがジャミングかけているから管理局に連絡を取れない。

 うん、まさに絶体絶命だろう。うん。

 緊張をほぐすためにもここに居る人間関係を説明しよう。

 

 「え~と、右から順に」

 

 同類:アリシア

 幼馴染:なのは

 幼馴染の家族:高町家族

 純潔を奪った人:アリサ

 全てを見られた人(ぽっ):すずか

 自分が泣かされた人:フェイト

 嫁:ユーノ君

 旦那:榊原君

 友人:はやて

 

 「以上だ!」

 

 「まさかの重婚?!」

 

 「しかも、同性?」

 

 「「しかもまともな人間関係が二人だけ?!」」

 

 アリアさんとクライドさんが驚くが、周りの人間はなれたようで俺がアリサとすずかに足の甲を勢いよく踏みつけられたのを生暖かく見守っていた。

 俺がのたうちまわっている間に話は勧められて、管理局のハラオウン家とグレアムさんにクライドさん回収。もとい救出。そして、『闇の書』の改善案を提出。

 『闇の書』は魔力を一定期間、魔力を与え続けなければはやてちゃんを麻痺で殺してしまうかもしれないので、ここに居る魔導師達から一人ずつ与えながらWCCでバグ処理をすることになる。

 魔力を守護騎士達は最初と最後。まずは誠意を見せてからこの計画に乗り出そうという話になった。

 

 「しかし、ロストロギアである『闇の書』に干渉することが出来るレアスキル。やはり、管理局に務める方としては、・・・惜しいな」

 

 「いや、だから、入るつもりはないですって。しかも、魔力主義なんでしょ?俺、魔力持ってないもん」

 

 魔導師には固有結界という魔力を持った人のみを入れることが出来るバトルフィールド的な物があるらしい。

 らしいというのも一度、フェイトに展開してもらったんだが俺の目から見たらフェイトが消えただけになった。

 フェイトの方から見ても俺が消えたように見えたんだと。

 

 「でも、僕やアリアはそれなりの地位にあるから口聞きすれば…」

 

 「だから、入らないんですって。俺危ないのも痛いのも嫌なんだって…」

 

 WCCだって、日常生活を楽に愉快にしか使わないようにしている。

 J・S事件したって、今回の『闇の書』だって、自分の身が可愛くて首を突っ込んだに過ぎない。

 そう説明したが、未だに渋るアリアさんに向かって一言。

 

 「もし、俺の能力を管理局に伝えようと考えているのなら、・・・その口を塞ぐよ」

 

 俺が真剣な目でにらみを利かせると怯んだのか、やや強張って聞き直してくる。

 

 「・・・殺すの?」

 

 「んにゃ、とろけるような甘~いキッスで」

 

 ん~、ちゅばっ。

 と、唇をとがらせて投げキッスを投げる。

 それに肩透かしを食らったアリアさん。

 

 「何だそれくらいで私が」

 

 「邪神バージョン(R指定)」

 

 「考え直せ!アリア!」

 

 ポケットに入れていた財布から硬貨を取り出して、WCCを使いうねうねと動かす。

 それを見たシグナムさんが、必死に考え直すように言い聞かせた。

 あまりの剣幕にアリアさんも俺を管理局への入局を諦めてくれたようだ。

 

 とりあえず、今日の所はヴィータのリンカーコアから活動限界ギリギリまで魔力を吸い取って『闇の書』に魔力を与えることで今日の所はお開きになった。

 

 

 

 帰り際、フェイトに呼び止められた。

 何のことかと思いきや、先程自分が言った人間関係についてだ。

 

 「ところで、アルフは裕にとってどんなものなの?」

 

 「愛玩動物。肉球プニプニ。尻尾モフモフ」

 

 アニマルセラピー。それは自信とやる気を取り戻す。

 俺も疲れているのよね。

 J・S事件だけでも一生分のイベントを体験したというのに『闇の書』に関係してからずっと緊張のしっぱなしである。

 ふざけていることもあるが、緊張の糸を緩めいて行かないと疲れ切ってしまうからだ。

 それをケアしてくれるアルフさんマジ有能。

 ユーノやザフィーラでもいいんじゃないと言われたけど、無理だと答えた。

 なりはあれでも人間形態を知っているからなんとなくいやだ。

 

 男のアレをプニプニしたりモフモフしているなんて嫌だろう。

 下手にユーノ君のをいじって、お互いに目覚めてはいけない何かに目覚めたら大変だ。

 

 そうフェイトに伝えると何か怪しむ目で見ていたけど、無視することにした。

 邪神でも癒されたいと思ってもいいじゃない。

 




 仕事が終わって、
スパロボ天獄編。
 小説を書く。
 仕事。
 スパロボ。
 仕事。
 スパロボ
 仕事
 スパロボ。・・・はっ。

 すいません、仕事やら身内的事情で更新おくれました。
 これからも少しずつ更新していますので長い目で



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第四十三話 残念すギルよ、邪神様

慣れないシリアス視点。
じ、蕁麻疹ががががが・・・。


 それは夫の親友でもあるグレアムからの報せ。

 正確には、その使い魔からではあるが、知らされた報せ。それは・・・。

 

 「・・・あの人が、生きている」

 

 『闇の書』の暴走に巻き込まれて、アルカンシェルという超重力砲で元凶ごと吹き飛ばされたクライドが生きているという報せだ。

 その強力無比な砲撃により、『闇の書』もろとも吹き飛ばされ遺体なんて回収できるはずが無かった。

 それでも目の前で散っていった旦那が生きているという情報に私はいてもたってもいられなかった。

 ジュエルシード事件のあった世界。地球。

 から少し離れた管理外世界だった。

 私は溜まりに溜まっていた有休もすべてつぎ込み、仕事中のクロノとその補佐をしていたエイミィの首をひっつかんで報せを持ってきてくれたグレアム提督とその使い魔のロッテの五人で地球へと向かう。

 報せを持ってきたグレアム提督も信じられない様子だった。

 だが、もう一人の使い魔。アリアの念話から懐かしくも忘れられないクライドの声を聴いた私は提督が貸し切った次元航行船に乗り込みながらも念話で何度も何度も連絡を取った。

 アリアとロッテという双子の使い魔間で伝わっている念話。それを切ると彼とは連絡が取れないんじゃないかと思った。だから、何時間もかかる航行時間も苦ではなかった。

 何故かその途中で次元を何度もまたいでまるで痕跡を誤魔化すような航行路にすら疑問を持つことも無かった。

 たとえ、それが自分達をはめる為の罠だとしても、あの人の声を聴けば行かざるを得なかった。

 そして、指定された世界へと降り立った私達を出迎えたのはクライドがいなくなった原因となった『闇の書』プログラムの一端。

 細部は変わっているが、忘れるはずのない守護騎士達だった。

 だけど、そんな事よりも・・・。

 

 「・・・今、帰ったよ。リンディ」

 

 少しやつれた頬。だけど、見間違えるはずがない。

 最愛の人が守護騎士達の輪から外れるように歩いて出てきた。

 私は走った。走って、クライドを抱きしめた。

 二度と離さないように。離れないように抱きしめて、思いっきり泣いた。

 ひとしきり、クライドの胸で泣いているとクライドの手が頬を包み、優しく上を向かせる。そして、唇を重ねた。

 それから数秒。周りに人の目がある事に気が付いたものの、クライドが本当に帰って来たのだと再認識して、再び涙が流し、クライドの胸に顔を埋めた。

 

 「…馬鹿。馬鹿ぁっ。今まで、今までどこにいたのよぉっ」

 

 「…実は」

 

 「巨乳美人が二人にツンデレペッタン娘と一緒に狭い空間にいたんじゃよ」

 

 「・・・・・・・・・あなた?」

 

 「リンディ、ちょ、苦しい?!まだ病み上がりなんだから、それ以上締め上げないでっ?!折れるっ、背骨が折れる!」

 

 「更には筋骨隆々の肌黒マッチョさんと一緒の空間に」

 

 ミシミシミシミシと鈍い音が耳元で鳴っているけど気にしないわ。

 浮上した浮気疑惑。

 寝取られたのかしら?どこぞの馬の骨とも知らない女に?それとも男かしら?

 あはははは、クライドが何を言っているけど聞こえないわ~。

 

 グレアム提督とその使い魔であるリーゼロッテ・アリア。更にはクロノの四人が力づくで私達を引き離したけど、私、まだ、あの人を抱きしめたりない。

 

 「どいてクロノ。クライド、抱きしめない」

 

 「いろいろ言葉遣いがおかしくなっている間はちょっと無理っ」

 

 「あの人の、胸の中で、眠りたいの」

 

 「それは、物理的にイン?それとも、アウト?」

 

 「勿論、物理的にイン」

 

 「アウトだよ、リンディ!クライド君、完全に眠っちゃうよ」

 

 二度と目覚めない眠りに。

 

 「今日という今日はあの人をお持ち帰り。テイクアウトするの」

 

 「テイク(撃破)アウト(いろいろやばいという意味の)だよね!?それって、やばい方の持ち帰りだよね?!」

 

 「うふふふ」

 

 「絶対にリンディを離すんじゃないよ、クロスケ!」

 

 「わかってる!って、ぬぅおおああああああ!す、すんごい馬力!?く、ストラグル・バインド!」

 

 「うおおおおおっ!魔力が抜けていく?!クロスケ!凄いじゃん、これなら魔力で身体能力をブーストしているリンディも止まる。いつの間にこんな魔法を・・・。って、それでも止まらないリンディって何者?!」

 

 女という生き物ですが何か?

 

 「ええい、こうなったらデュランダル起動!リンディ君、少し頭を冷やそうか!」

 

 「ちょ、僕らごとですか?!」

 

 目の前で氷ついていく妻と親友の使い魔と見覚えのある、恐らく成長した息子が氷ついて行く様子を呆気にとられながら見ていくことしか出来なかったクライド。

 さらにその様子を離れた場所で見ていた守護騎士とその主、八神はやて。そして、リンディが暴走した原因を作った邪神がいた。

 

 「まったく、人間とは言葉一つでこうも簡単に乱れ狂う」

 

 くっくっくっ。と、いかにも意地悪そうな笑いを作る白い民族衣装を着た邪神。

 

 「な、なあ。ユウ、なんで」

 

 「これこれ、今はアユウカスで頼む」

 

 「あ、ああ。アユウカス。なんで余計なひと言を入れたんだ?」

 

 ヴィータは白袴に白い狐の仮面。白く長いかつらをつけ、身元を隠すために変装した裕の答えに、こめかみを指で押さえながら質問する。その答えが、

 

 「美形のカップルが目の前でいちゃいちゃしているとムカつかない?」

 

 「いや、もう、なんていうか、いろいろと残念やな。この邪神は」

 

 はやては仮面の下ケラケラ笑っているだろう裕の顔を想像しながらも、今まで自分の生活を援助してくれたギル・グレアムに挨拶をするのであった。

 一方で、死んだと思っていた親友が生きていたというのに、目の前で氷漬けになった親友の妻子と自分の使い魔達を一時的に氷漬けにしたグレアムはとても残念そうな顔をしているのであった。

 

 




シリアス?ラブ?なにそれ美味しいの?


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第四十四話 残念だったね、邪神様

うちの邪神は色んな意味で残念な子です。

彼の思考と目論見は色んな意味で残念に終わります。


 テスタロッサ研究所の会議室にあたる場所で高町一家から八神一家。テスタロッサ一家にハラオウン家。バニングスに月村家。そして、榊原一家にグレアム一派に集まってもらった。

 ちなみに自分の母もいます。

 ・・・父上。なんだか文字通り蒸発した気がする。

 ザ・庶民な父上。見た目的には邪神である自分もそっちサイドなんだが・・・。

 いつもは日が暮れる前には帰って来るのに、こういうビックイベントの時に限って出張なのは少しかわいそうな気がする。

 事情を説明されても驚くだろうが、目の前でゲッターロボが闊歩していたり、なのはちゃんが空を飛んでみせたり、なのはちゃんが空を飛んでいる間に彼女のスカートの中を覗き込んだ自分にフェイトが十万ボルトぶちかましたりするところを見れば信用せざるを得ないだろう。

 一応、WCCを施したバルディッシュを持って怪我が回復しているところも見てもらったけど「地味」の一言を貰いそうだが・・・。

 ・・・べ、別に悔しくないんだねっ。周りの人間が派手なだけなんだからっ。

 さて、内心で一人ツンデレを終えた所で本題に入る。

 

 「え~、このままだと『闇の書』の主はやては年を越す前に死んでしまう」

 

 それはシャマルさんとプレシア。それにグレアム一派が前もって調べたデータを元に出した結論だった。

 WCCでバグを処理していっても、バグがどんどん生まれる。

 それはWCCでも届かない所にある。

 そもそも『闇の書』は物ではない。

 四割が魔法的な物。

 四割が機械的な物。

 残りの二割が生物的な物。

 例えるなら、外から何度も何度も直しても、中から壊されていく感じだ。

 しかも、その壊すスピードが半端ない。WCCで『壊されていない状態』を維持できても、限りがある。それも雀の涙ほどだし、少しでも気を抜くとそれを維持できない。

 それを聞いた瞬間にシャマルさんを除く、八神一家の表情に暗雲が立ち込めるがすぐに言葉を繋ぐ。

 

 「なので、根本的な所を『直す』必要がある」

 

 そう言いながら懐から取り出ししたのは小瓶に詰められた『白くて生臭い。ぬめぬめした何か』。

 

 「クライド・ハラオウンにこびりついていたこの生臭い何かを量産して私と守護騎士の誰かと共に『闇の書』の中に侵入。バグを起こしているだろう魔法的な何かを。もしくはそれに包まれている機械的な何かを。生物的な何かを破壊する」

 

 ちなみに今回は変装しているので一人称は私にしないといけない。・・・めんどい。

 リンディさんとクロノさん。エイミィさんの前ではブラックゲッターの鎧を纏った状態で対面したことがあるが、今回はそのブラックゲッターはない。

 もともと偶然的にクライドさんを助けたので自分の事を詮索するのは控えてもらっているから今はまだ必要ないし、目の前に出したら緊張ムードが一気に高まってしまうだろう。

 それに、以前の事件で邪神の事は存じ上げているだろうリンディ・クロノ親子。

 事前に邪神関連の事で怒らせると痛い目に会うと分かっているのだろう。今回は大人しく質問を投げかけてくる。

 

 「・・・その白い液体のような物は?」

 

 「簡単に言うと医療用のゼリーのような物だ。これを私と守護騎士の誰かにいやらしく塗りたくって、『闇の書』に侵入する。侵入する際には湖の騎士に扉を開いてもらう。それで取り込まれるような形で侵入することが可能だ」

 

 自分が「いやらしく」と、言った時点でなのはちゃん達の表情から完全に不安が消える。

 さすがに何年も邪神である自分の幼馴染はしてませんね。

 自分がそう言うとギルさんが待ったをかける。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれっ。取り込まれる形って、それでは万が一入り込めたとしても脱出することはかなわないのでは!」

 

 「・・・そうだのう。湖の騎士は常に扉を開いてくれないと。クライド・ハラオウンを引きずり出せたのも偶然が重なりあったものだから・・・」

 

 「それに扉を開いている間にせっかく溜めこんだ魔力も流出していく。出来るだけ抑え込んでも1~3ページ分は減ってしまうわ。…クライドさんをサルベージした時に『闇の書』のページが何枚か消えちゃったし」

 

 つまり、毎日Aランク以上の魔力を喰わせ続けないとはやての麻痺は今まで以上に広がり死に至るのが速まるという事だ。

 

 「この場に居る全員から蒐集しても十二月の頭まで。もって、1ヶ月といったところよ」

 

 「・・・そんな」

 

 「しかも侵入できたとしても『闇の書』内部はハッキング防止のためにかまるで迷宮みたいになっている。進むのも戻るのも大変になっておる。・・・時間制限つきダンジョン。しかも失敗すればそのまま取り込まれてお陀仏といったところか」

 

 くっくっくっ、と、喉を鳴らしながら乾いた笑いをこぼした俺にシグナムさん。ヴィータちゃんが食ってかかる。

 

 「貴様、主はやてが死に瀕している状況で何を笑っている!」

 

 「そりゃあ、笑うしかなかろう。なにせ、失敗したら死んでしまうのだからなぁ」

 

 「貴様、貴様、何様のつもりだぁあああああっ!」

 

 アユウカスの姿を扮した裕の言葉に我慢ならなかったのか、胸ぐらをつかみ上げるシグナム。

 狐の面が揺れて、その表情の下の表情がちらりと見えた。

 その表情はまさに愉悦とも思える顔だった。

 その時、裕の思考はこうだった。

 

 計画通りだと。

 

 これで自分が提案した案。

 『闇の書』の改修が失敗したとした時、自分ごとシグナム達に『闇の書』を破壊してもらえる。

 

 第一案が自分達の『闇の書』改修。

 第二案にギルさんが持っていたデュランダルで自分ごと封印。この時守護騎士とはやて。そして、改修に失敗した自分自身が永遠に封印される。

 第三案。第一、第二が失敗したら『闇の書』を即座に破壊。これは従来通りにアルカンシェルという超重力砲で破壊。

 

 第一案で成功できればいいが、何事も滑り止めは準備していた方がいいだろう。

 クライドさんを偶然とはいえ助け出したというイレギュラーが起これば、それに相当するイレギュラーも起こり得る。

 特に自分が『闇の書』に入っている間は『闇の書』は蓄えていた魔力を放出しているのだからはやての麻痺を蝕むスピードも速まる。

 さらにはジュエルシードのように周りの環境にどう及ぼすかもわからない。

 その上、第二・第三案には榊原君が言う『原作』通りにいかない可能性がある。

 邪神である自分自身の存在もそうだが、一番の問題は、『クライドさんを助け出した恩人』いう点だ。

 原作でもなんとかはやては闇の書の支配を守護騎士達と共に脱出。管理人格?というもう一人の犠牲を出す物の結局は『闇の書』のバグはアルカンシェルで吹き飛ばされるという未来。

 そこに第一案で失敗した自分が『闇の書』にいたらどうだろうか?

 アルカンシェルの引き金を引くリンディさんは躊躇うかもしれない。なのはちゃん達は絶対に止めに入るだろう。守護騎士達やはやてちゃんも止めに来るかもしれない。最悪、アルカンシェルは撃てずに『闇の書』のバグは増殖しながら世界を壊すかもしれない。

 自分が『闇の書』の中に居ても躊躇わずに引き金を撃てる環境を今作らなければならない。

 などと考えていたら・・・。

 

 「・・・いたい」

 

 「痛くしているの」

 

 「反省しなさなさい」

 

 「そんな嘘をついても怒るよ」

 

 幼馴染トリオが仮面の下にある頬を抓ってくる。

 新たに伸びてくる二つの手。

 

 「今さらそんな事を言っても信じないからね」

 

 「私の知っている邪神はそんな事を言っている時は反対の事を考えているんだから」

 

 テスタロッサ姉妹の手が伸びてきて唇とまぶたを摘まみ上げてくる。アリシアさん、まぶたは地味にきついです。

 てか、君等には前もって説明したよね?

 邪神の力を持つ俺が君等と近しい事を知られてはいけないという事を。

 君ら関係で俺の居場所が特定されて管理局に最悪拉致られたり、実験動物扱いされる可能性があるって・・・。

 

 「・・・まあ、考えてみればそうよね。ジュエルシードでの一件であれほど激高した貴方がそう言うには訳があるのよね」

 

 「だから止めようと言ったんです。どうせすぐにばれるんだと」

 

 リンディさんは何かを思い出したかのように呟き、俺の隣にいたシャマルさんが狐の面を取り上げる。と、同時に自分の素顔が現れる。

 

 「あ、ちょっ、まっ」

 

 「ここまで来たなら最後までやり通しましょうよ。って、なんで鼻髭メガネまでつけているんですか?」

 

 と、思ったか?

 

 「こんな事も有ろうかと、変装は二重に重ねて・・・」

 

 「ふんむっ」

 

 狐の面の下につけていたに鼻髭メガネをつけた邪神の顔にアリサの拳が突き刺さる。

 

 「ぬわああああっ、拳が割れて、メガネに刺さったぁああ!?」

 

 「裕君、逆、逆」

 

 幼馴染トリオに、テスタロッサ姉妹。終いにはシャマルさんにこちらの内情は見透かされて、はやてには正体をばらされる。

 最後のあがきと榊原君の方を見るが諦めろと首を横に振る。

 おーい、俺達、友達だろ?

 

 「・・・あ~、はいはい。わかりました降参ですよ。降参」

 

 鼻髭メガネをはずしながらかつらも脱いで管理局の面々に素顔を晒すことにする。

 

 「どーも、管理局の皆さん。邪神の田神裕です。俺の事は他言無用で宜しく~」

 

 「・・・なんか、一気にだらけたね」

 

 脱力仕切った自己紹介にエイミィさんが引きつらせながら応対する。

 俺の胸ぐらをつかみ上げているシグナムさんもあまりの変化について行けないのだろう。

 

 「そりゃそうでしょ。目立たないように行動していたのに、こんな風に注目を浴びるんだから・・・」

 

 「目立たないように?それはまた、どうして?」

 

 「世界観の差とか言う奴かな。あまり大事に関わりたくないの。平凡的で面白おかしくのほほんと生きていきたかったのに、こんな世界が滅ぶかもしれないという局面に駆り出されているのよ、俺」

 

 クロノさんみたいな子どもからそんな大事に駆り出される管理局というあまりにもブラック。まあ、向こう側からしてみれば普通なのかもしれないが、生まれも、前世も平和な日本の生まれの俺にはハードすぎる。

 しかも、WCCという能力が知られれば、絶対に引き抜きが来るだろう。

 そんなブラック企業はいやだ。

 ほどほどに働いて、人生の大部分を面白おかしく生きたいんだと説明すると、管理局側の人達に守護騎士達まで何とも言えない表情になったけど知らんな。

 

 「だけど、君みたいな能力を持っている人間が世界に出れば、いろんな人が救え」

 

 「悪いけど、それ以上は言わないでくれる?それを許したら後から後からどんどんつながる。俺は、俺の好きな範囲でこの能力を使いたいの」

 

 クロノさんが早くもスカウトに来たがそれを手で制す。

 

 「嫌だと思う事には使いたくない。好きな物には使いたい。だからは俺は好き勝手にはやてを助けようと思ったの。これは大局を見据えた物じゃなくて、ただの、俺の、我が儘なの、OK?」

 

 だから諦めてね。と、念入りに言っておく。

 それでも諦めが悪いのか、勧誘してくるクロノ君。

 あまりにしつこいと『闇の書』から取ったデータで管理局に攻め入るぞ。と、行ったら顔を青くして黙った。

 いや、冗談だからね?

 

 話が脱線したので路線修正をする。

 闇の書に侵入するのは邪神である裕。そして、ザフィーラかシグナム。ヴィータの誰かになる。

 

 「『闇の書』の中を探索するのは約十日間。だけど、クライドさんの容態から見るに外と中での体感時間に多少のずれがある。恐らく『闇の書』の中での時間は十分の一になっている」

 

 「つまり、実質一日だけか・・・。それならば探索できる人間は増やしたほうがいいのではないか?」

 

 「それは無理。中ではぐれたらWCCを扱う事が出来る俺なら力技で脱出できるけど他の人達は無理でしょ。闇の書の中はダンジョンみたいに複雑でシャマルさんのナビ無しだとすぐに迷うみたいだし…」

 

 WCCなら入り口と出口を一本道にすることが出来る。

 ただし、その時の影響で闇の書にどんな影響が出るかは分からない。

 

 「どうして、私達守護騎士のうちの誰か一人なんだよ」

 

 「・・・言い方に難が出るかもしれないけど、気を悪くしないでくれよ。第一は俺の護衛。第二は守護騎士の誰かなら最悪、死んでも構わない。また『闇の書』のプログラムで復活できるからな」

 

 「・・・。お前の今の表情を見ればわかる。どうしてあのふざけた仮面をつけていたのもな」

 

 ザフィーラが裕を見ながら言葉を発する。

 今の裕の表情はあまりにも悔しそうな顔をしているのだ。

 自分の感情に嘘をつく時は笑う事も出来るのに、正直に話そうとすれば歪める。

 それだけ事態は劣悪な状況であり、邪神が優しいと感じ取れるからだ。

 そう感じさせないための仮面だったのだが、そうすると話が進まない。それで仕方なく正体を晒すことにしたのだ。

 元々、クライドさんと守護騎士。アリアさんにも顔這われているから、裕の存在が管理局に知られるのは時間の問題だろうけども。

 

 「・・・すまない。お前がそこまで我等の事を考えていたにお関わらず、私は」

 

 「いやいや、勘違いするなよ。俺が考えていたのははやての事だけだ。最悪、守護騎士の皆を犠牲にしてでも、はやてに恨まれようとも、俺は『闇の書』とかいうモノを処理できればそれでよかったんだってば」

 

 これは本心である。

 もともと魔法なんて物の認知度が低い地球という世界。

 触れ合う期間が短ければ短い程、喪失感は少なくなるだろう。

 

 「・・・裕君。それって」

 

 はやては複雑そうな顔で裕を見る。

 それは彼の真意を確かめる為でもあった。

 

 「俺の事を恨んでもいい。憎んでもいい。絶対に助けてやる。だから、はやて。黙って俺達に助けられろ」

 

 「・・・ずるいわぁ。そんな事言われたら拒否できないやん」

 

 状況は最悪とまでは言わずとも、良いともいえない。

 だけど、どうにか希望の道は残されている。

 

 「守護騎士には俺が『闇の書』に潜りこんでいる間、『闇の書』の護衛を。管理局の皆さんには『闇の書』の魔力の補給をお願いしたい。テスタロッサ家はそれのサポートを」

 

 守護騎士はともかく。次元をまたいで平和を守ると銘打っている管理局が、世界が滅ぶ片棒を担がされるかもしれないという事案に難色を示すだろうが、ここはクライドさんの護衛。そして、『闇の書』が改修されるかもしれないというメリット部分を伝えることでどうにか納得してくれた。

 これは管理局の人間としてではなく、クライドさんの関係者だからこじつけることが出来た。

 

 「あ、あのっ。裕君。なのは達にも出来ることはないかな」

 

 「そうね、ここまで話を聞かされて何もしない訳にはいかないわ」

 

 「うんうん。私達何でもしちゃうよ」

 

 「団長、俺達にも指示をくれ」

 

 幼馴染トリオと榊原君が身を乗り出すように裕に声をかける。

 もちろん、邪神らしく、彼女達にもしてもらいたいことはある。

 ・・・そう、邪神様的に。

 

 「それじゃあ、なのはちゃん。すずかちゃん。アリサの三人にはメダルコンビとデートしてくれ」

 

 「「「・・・え?」」」

 

 その時、幼馴染の三人の瞳から光が消えた。

 

「そして、だらしなくデレデレと油断したところを榊原君と守護騎士達が強襲。魔力をゲットしてきてくれ」

 

 メダルコンビの魔力保有量は多い。

 ランクにするとSに届くかどうか。しかも、慢心が過ぎるのか隙も有り余るくらいなので失敗する要素があまりない。

 

 「・・・団長。他にやれることはないのか?」

 

 「まだ考えついていない。なのはちゃんには『闇の書』に魔力を明け渡してといてほしいけど・・・」

 

 「でも、他に言いようが・・・」

 

 榊原とユーノ君がどうにかフォローを入れようとしている後ろで幼馴染トリオの周りの雰囲気が明らかにトーンダウンしているのだ。

 

 「ホカニヤレルコトガイイイナ」

 

 「ワタシハマリョクノホジュウガアルカライイヨネ?」

 

 「アハハハ~、ユウクンモジョウダンガスギルナー」

 

 目はうつろ。口から零れる言葉は機械的。

 そんな三人娘の様子におののくテスタロッサ姉妹。

 

 「フェイト、なのはたちが怖いよっ」

 

 「あの三人に一体何が・・・」

 

 「俺の事を恨んでもいい。憎んでもいい。だから、黙って俺達を助けてくれ」

 

 ここまで事態が深刻なのを説明すれば幼馴染トリオも納得せざるを得まい。

 

 「「「・・・コノウラミ、ハラサデオクベキカ」」」

 

 「ごめんなさい!前言を撤回させてください!」

 

 「おいこら、私のときめいたハートを返せ」

 

 少し前に自分に言われた台詞が、目の前で土下座を敢行する邪神の姿によって台無しになった。

 はやては行き場の無い怒りを拳に込め、プルプルと振るわせるのであった。

 

 




 邪神とその愉快な友人達が戯れている頃、

 テスタロッサ母「お宅の息子さんはどうして、ああも残念なのかしらね」

 邪神母「そこが可愛いんじゃないですか。男の子というのは大体そんな物ですよ」

 ハラオウン母「・・・えっ、じゃあ、うちの子も」

 などという三者面談が行われていたりしていました。





 ・・・シリアスはコメディーの最大のスパイスだと思うんだ。


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第四十五話 邪神様の予定表(**年12月版)

ちょっとシリアス続きだったので、箸休め的なお話です。


 強襲するなんてひどい事したらいかん。

 まずはその魔力を提供してくれないか交渉するのが先じゃない?

 

 はやての一言からメダルコンビとのデートを取り消す可能性が出た幼馴染トリオは歓喜した。

 うん、そうだよね。まずは話し合いだよね。

 あの二人に関する記憶が争い事とか厄介な事とかしかないから対応も思考もそっちに向かう。

 せっかく、イエーガーズメンバーで集めたデートスポット情報を集めたのに・・・。

 ・・・うん?これをどう使おうと考えていたかって?

 それは自分達に恋人。もしくはそうしたい子とデートに行こうと思った時に使おうと思ってコツコツ、イエーガーズの皆で集めたメモ帳。って、なのはちゃん、何をするだぁああああ!!

 メモ帳をぶんどられた俺をしり目に奥の扉から普段着に着替えたシグナムさん。ヴィータの二人が王城?と白崎?に魔力を分けてもらう為に出かけるみたいだ。

 美女と美少女のお願いならあの二人も聞いてくれるだろう。

 そんなに思いつめるな、俺とデートするつもりで行って来いよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駄目でした。

 

 うん、俺とデートと言うのがいけなかった。せめて、榊原君と言えばよかった。

 最近、心を入れ替えた榊原君はシグナムを含め、ザフィーラや士郎さんとも模擬戦をして汗の匂いが香るさわやかボーイになったんだし・・・。

 シグナムさんは終始イライラというかムカムカしていたそうです。

 

 王城に会う。

 シグナムさん、キザっぽく話しかけられる。

 なにやら悪戯を仕掛ける前の俺と同じ顔をしていたらしく、魔力を提供するのを渋り、挙句の果てにこの俺を倒したならいいぞ。と、言い切ると同時にシグナムが襲い掛かったらしい。

 そんなに襲いたくなるような顔をしていたのか俺は?

 

 白崎に会う。

 あちらが口を開く前にシグナムさんが襲い掛かった。

 なにやら王城と雰囲気が俺に似ていたらしく、直感的に襲い掛かったらしい。

 

 シグナムさんの中では、

 王城=白崎=俺なのか?

 ちょっと失礼。

 ・・・あの二人に!

 

 俺はしかたないよ。有無を言わさぬ搦め手、卑怯な罠。今日が初対面だろう二人はひどいとばっちりだろう。

 ・・・今度のクリスマスパーティーの二次会にあの二人を呼ぼうかな。

 イエーガーズ男子のみで行われるパーティーに。

 

 『傷心自棄食いパーティー』(クリスマスにかこつけて女子に告白するも振られたメンバー限定)

 『馬糞投げ大会』(目標はいちゃつくカップル)

 

 もちろん、身元が割れないように目の周りが炎を象られているマスクを着用。そして、上半身裸で、▽パンツをはいて聖なる夜を性なる夜にしようとするいちゃつくアベック共を駆逐してやる!

 いや、三分の一は冗談だから、お母様に言いつけようとしないでください、すずか様。

 え?どれが冗談かって?

 もちろん『自棄食いパーティー』が冗談ですが・・・。

 え、え、えええええっ、アリサさん。なんで拳を振り上げているんですぐはぁっ!

 

 

 

 以降、邪神様の手元には幼馴染トリオの監修の元、健全な予定表を書かされることになったそうな。

 




 艦これ、イベントでちょっと更新が遅れましたすいません。
 ボス手前で戦艦二隻が大破がデフォに成りつつある。
 ・・・仕事してよビッグ7。



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第四十六話 やったね、邪神様。家族が増えるよ

 さて、メダルコンビから魔力を奪うことに成功したヴィータとシグナムさん。

 なんかシグナムさんがつかれているように見えるけど、俺の所為で男嫌いになってしまったのだろうか。

 ここは是非に榊原君に頑張ってほしい。

 彼との模擬戦を通して少しでも男慣れしてほしい物だ。

 なに?俺が変な事をしなければ問題無かっただって。

 俺、邪神だよ!?

 変な事をしない邪神なんて聞いたことありません!

 

 さて、管理局サイドの人達から『闇の書』は一度、主とその守護騎士達と共にミッドチルダに行くことになった。

 その目的は魔力の蒐集だ。

 囚人達からの。

 さすが世界を管理する集団だけあってか、魔力を保有していた犯罪者達も幽閉している。

 そいつらから魔力をごっそり頂いて『闇の書』のリミットを伸ばそうということになった。

 囚人という事は悪い事をした輩だ。遠慮なく魔力をぶっこぬける。

 更には失敗した時にはアルカンシェルで吹き飛ばせるように重罪。死刑や禁固100年オーバーの囚人達だけ収容された管理惑星で時間稼ぎをすることになる。

 問題は十年前に守護騎士達がやらかした罪。

 クライドさんが『闇の書』が搬送する前に守護騎士達の蒐集活動で犠牲になった人達の怨嗟。

 前の主のことを思いだせない。記憶の殆どをリセットさせられた守護騎士達はそれを一身に受けるだろう。

 自分達の仇が幸せそうにしていたら、その恨みは募るだろう。

 それは主であるはやてにも向かう。

 それを説明して納得したうえではやてはミッドチルダに行くことを決心した。

 守護騎士やテスタロッサ一家。なのはちゃん達もはやてが巻き込まれるのは筋違いだと言った。

 いっそのこと、『闇の書』の主を辞めることが出来たら。守護騎士達が極悪人ではやてはそれに利用されただけだという事ならどれだけよかったか。

 それでも数ヶ月しか過ごしていない守護騎士達を家族として受け入れた。家長として家族の罪は自分も償う。と、言ったはやての頭を叩いたのはいい思い出だ。

 

 『子どもが何悟りきっていると』

 

 守護騎士達が完全に有罪になるという事はないだろう。

 情状酌量や減刑はあるとしても完全に無罪になるのはありない。

 なんせ、暴走していたとはいえクライドさんの船を沈めかけた。

 それは一クルー分の殺人未遂。しかも、彼女達は人に見えて闇の書の機能の一つ。言ってみれば暴走の危険がある機械のような物だ。

 WCCでそれを取り除ければいいが、彼女達には人と同じように文字通り肉体がある。その肉が邪魔して効果が及ばない。

 死体という状態ならいくらでも改変できるのだが、さすがに今から死体になってとは言えない。

 説明してもごねるはやて。

 そんなに一人になるのが嫌だったらうちの子に成りなさい。と、田神母の一声で強行突破。

 八神から田神になるだけの簡単な案に俺は乗る気だったが、周りの美少女達に動揺が起こり、それは考え過ぎじゃないかとか、月村やバニングスでも面倒見るよと皆がこぞってそれを考え直すように諭しにかかった。

 

 そんなに不安か、邪神様に感化されて悪戯娘に育つはやての将来が・・・。

 

 むう、不安要素しか見当たらない。

 でも、俺、家の中では割といい子だし・・・?

 内弁慶ならぬ外弁慶。弁慶よりも傾奇者の前田慶次に近いが・・・。

 

 まあ、臭い飯を食って、綺麗な体になってようやくはやての家族に成れるのではないかと。

 前の闇の書の主がどんな人物かどうかわからないが、はやては以前『闇の書』が完成すれば足の麻痺が治るかもしれないと聞かされたことがあるらしい。

 それでも他人に迷惑をかけるのはいけない。だから闇の書は完成させない。蒐集など行わないでいい。と、いった事があるらしい。

 主であるはやての意志に逆らい、挙句の果て他人に迷惑をかけないようにと手を差しのべても彼女達はそれに逆らった。

 つまり、はやての前の主の命令に逆らえた。自分の意志で行動したともとられる。

 状況証拠だが、有罪になった場合にそう言えばはやてに迷惑をかけない。

 元より無罪になればそれはそのままにすればいい。

 はやての事を監視していたリーゼロッテ・アリアがはやての人柄を証明すればいい。

 今回、比較的はやく『闇の書』の欠陥を見つけ、更には被害を出すことなく、現地での協力者を得て、更には欠陥を直すことができるかもしれない邪神がそこにいた。

 邪神の事を出来るだけ知られないように、現地の協力者はプレシアと月村にして地球とミッドの技術を結集して『闇の書』を直した言えば大丈夫だろう。だぶん。

 邪神。WCCの事が管理局にばれたら・・・。どうしよう。

 プレシア。いや、今回コネが出来たギルアムさんとリンディさんに保護を求めるか?

 

 自分の事になるととんと先が見渡せなくなる裕だった。

 

 

 

 裕がリンディとギル・グレアムにごますりに言っている間にシャマルはシグナムから魔力を収集している最中だった。

 

 「こんな時、裕君だったらいやらしい顔をしてシグナムを眺めているんでしょうね」

 

 年の割にはいやらしい思考を持つ裕の事を考えたシャマルにシグナムが文句を垂れる。

 

 「ま、全くだ。そんな奴に主はやてを任せるわけにはいかん」

 

 「あら、私は結構いい線だと思うけどシグナム。あの子はああ見えて。いえ、そう見せられているんだもの」

 

 シャマルは不機嫌そうなシグナムに教えるように訥々と語る。

 

 「彼は切れ者よ。何せ私達をここまで追い込んだのだから」

 

 「どういうことだ?」

 

 主はやてを助ける手段と可能性を見出し、更には最悪の場合でも出来るだけ被害は少なくしている手腕はなかなかのものだと思うが?

 

 「私達が今、ここに集められている。しかも敵と思っていた管理局の陣営のど真ん中に居ても緊張感はないでしょ」

 

 プレシアは管理局を嫌っているので管理局の陣営というには少し間違いがあるが、ここから先は管理局の手を借りることになる。

 

 「・・・主はやての体を思ってこそだ。疑いは私だって持っているぞ」

 

 「それでも歩みを止めないのは何故?」

 

 「それは・・・」

 

 言葉が詰まる。

 命懸けではやてを助ける。文字通り死ぬ恐れがある作業に進んで行う邪神は少しは信じられる。そう、シグナムは考えている。

 

 「ええ。そうね。でも、もし私達が猛反対した時。いえ、彼等の申し出を断っていたらどうなると思う?」

 

 「それは・・・。私達はどんな手段でも使って魔力を集めていただろう」

 

 文字通り、強奪。下手すれば相手を殺してでも魔力を集めていたかもしれない。

 だが、今からそれを行おうとは考えられない。

 何故なら、主であるはやてが厳命するだろう。そんな時ははやてを気絶させてあちこちの世界を飛び回り、そして、来襲してくる管理局の人間を撃退しながら、そして、なのはやフェイト。プレシアにアルフといった魔導師達の魔力も強奪し、アリシアの中にあるジュエルシードも奪う。

 

 「だが、それをすれば・・・」

 

 「アリシアちゃんは死んでしまう。そして、友達のアリシアちゃんが自分の所為で死んだと知ったらはやてちゃんはどう思うかしら」

 

 嘆き、悲しみ、絶望し、・・・最悪、自殺。

 そのような事になるかもしれない。

 だが、それも裕がはやてと友達に成り、ある程度親しくなり、友達を紹介した。その時点ではやてはアリシアの存在を知った。

 もし自分の足が治った場合、真っ先にアリシアの安否を確認するだろう。

 はやてがアリシアの存在。裕と友達になった時点で守護騎士達の行動の幅は狭まり、他の行動がとれないくなっていた。

 しかもあれよあれよという間に、自分達の状況は管理局に知られてしまった。

 今回は助けてもらえるから手を取っただけだが、考えてみるとまるで裕に手引きされている感じがする。

 

 「まさか、これが、奴の・・・」

 

 「ええ、もしかしたら全部あの子の手の平なのかもしれないわね。だけど、それではやてちゃんを助けられるのなら私は構わないわ」

 

 「それは私も同じだ・・・」

 

 そっぽを向くシグナム。

 シャマルに説明されて裕に助けてもらい、はやてが助かるなら構わないのだが、どうにも自分をおちょくりながら模擬戦を断られている。

 一度くらいぶっ飛ばさないとこのもやもやする物は晴れないのだ。

 そう思ったからこそ、シグナムはそっぽを向いた。

 そんな彼女に小さく笑いながら戻ってきた裕に蒐集は終わりましたよ、伝えると、美人が悶えるシーンを見逃したと悔しがる裕を見た時、シグナムはやっぱりこいつはこんなやつだと、言い残し部屋を出て行った。

 

 「シャマルさん?シグナムさん何か怒ってましたけど、どうしてんですか?」

 

 「胸に手を当てて考えればわかりますよ」

 

 「え、シャマルさんの胸に手を置いても」

 

 「いいですよ~」

 

 「えっ?!」

 

 まさかこう返されるとは思わなかったのか裕の方は一瞬固まり、顔を赤くしながらシャマルの胸に手を伸ばそうとする。

 だが、その手が震えているのは見て取れた。緊張しているのがバレバレだ。

 

 「はーい。カウントー。ごー、よーん、さーん、にー、いーち、ぜ~ろ」

 

 「あっあっあっあっあっあああああああああああっ」

 

 絶好のチャンスだったのにヘタレてしまいチャンスを見過ごしてしまった裕はその場に崩れ落ちた。

 そんな裕の傍にシャマルは近寄って顔を上げてそのまま抱きしめた。

 それはシャマルの胸の谷間に顔を埋める体勢だった、

 

 「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉおおおおおおおおっ!」

 

 「ねえ、裕君」

 

 「は、はい。なんでしょうか?」

 

 優しく抱きしめられて、その上、おっぱいに挟まれた状態で思考回路がぶっ飛んだ状態で裕。

 そんな彼に優しく微笑みながらシャマルは話しかける。

 

 「はやてちゃんのこと。お願いしますね」

 

 「え、あ、はい。当然でしょ」

 

 考えがまとまらない所で出てきた言葉に嘘はないだろう。

 そんな事を考えたシャマルは裕のおでこにキスをして、彼をハグから解放する。

 

 「それじゃあ、明日の『闇の書』侵入頑張ってくださいね」

 

 今度はおでこを押さえながら顔を真っ赤にした裕を部屋に残し、シャマルははやてが調理室で皆の夕食の準備をしているだろうから手伝いに行きますかと意気込みながらはやての元へと向かうのだった。

 

 





 はやて「戦力外通告」
 シャマル「酷い!」

 さすがに食中毒はマズイ。
 はやてさん、ナイスセーブ。
 シャマルはコップや料理が乗せられた皿を持っていくウエイトレスさんになりましたとさ。



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第四十七話 邪神様ホイホイ

うちの邪神様は基本チョロい。が、面倒くさい。


 はやて達がミッドチルダに向かう日。

 既に他の魔導師の皆さんからも蒐集を終えた『闇の書』にいざ、突入する時がやってきた。

 と、その前に母上と一緒に持ち物チェック。

 三日間は『闇の書』に潜り続けることになるからちゃんとしないと・・・。

 

 「裕ちゃん。お弁当は?」

 

 「持っている」

 

 「水筒」

 

 「持っている」

 

 「傷薬は?」

 

 「勿論WCCで加工済みっ」

 

 「どくけしそうは?」

 

 「えっ?『闇の書』、毒あるの?」

 

 だとしたら、『闇の書』というよりも『病みの書』じゃね?

 

 「じゃあ、最後に・・・。トイレットペーパーは?」

 

 「もちろん、再生紙!」

 

 排泄行動。それはRPG最大の謎だよな。

 葉っぱや布でふいているのだろうか?

 日本に生まれ育った俺のお尻はデリケートだからトイレットペーパーじゃないと・・・。

 

 「・・・裕君。『闇の書』は私がずっと持ってないかんのやけれど?」

 

 うえ~っ。と、嫌そうな顔で親子のやりとりを見ていたはやて。

 自分が持っている物の中で排泄物が出る時かされれば嫌な顔も出るだろう。

 

 「だ、大丈夫ですよ、はやてちゃん。『闇の書』は取りこんだ物をいったん溶かして自分の一部にしますから」

 

 「・・・排泄物を溶かして」

 

 「それ以上言うな。榊原」

 

 イメージしちゃったんだろうな。アレが解けて、『闇の書』のシミ。もとい、一部になるイメージが・・・。

 榊原君の言葉を遮るシグナムさん。

 自分達の生まれがそれであると改めて認識するのが嫌になったんだろう。

 

 「・・・裕君。半日で帰って来い」

 

 「お願い通り越して命令形か・・・。まあ、俺もそうならないように気をつけるよ」

 

 「・・・裕君、気をつけてね」

 蒐集をし終えた自分にはもう手伝える事はないと知っているなのはちゃんが心配そうに声をかけてきた。

 周りを見渡せば、一緒に『闇の書』に潜りこむヴィータを除いた全員が大なり小なり心配している様子。

 ここはいっちょ、いつもの冗談で明るくしていこうか。

 

 「大丈夫、『闇の書』のシミを数えている間に終わるよ」

 

 「変な事言わないの!」

 

 「裕君ってば・・・」

 

 おませなお嬢様方め。

 ほんのり顔を赤くしたのを見過ごしていないぞピカチュー。お前もムッツリか。

 

 「ユウ、終わったらWCCでいろいろやらかそうね」

 

 「OK。エロエロやらかそうぜっ」

 

 「「エっ?!・・・う、ううんっ」」

 

 アリシアのパスに全方位のセクハラ問答で答えるとお嬢様方に引き続き、ユーノ君・クロノさんまで顔を赤くした。

 これでムッツリは五。いや、榊原君とヴィータも赤くしているから七人か。

 守護騎士の皆さんと管理局の大人の皆さん。・・・エイミィさんは苦笑していたが、ふざけるのもこれくらいにしておく。

 あらかじめ用意していた緑色のバケツになみなみと入っている粘液。

 それを頭からかぶって準備OK。

 ヴィータも後を追うように頭からかぶる。

 粘液は白いのだとあっちの方向に思考が奔るので水色にした。

 

 ・・・緑色のバケツ。水色の液体。ボス線手前。枯渇していく資材。ワンパン大破。妖怪1残る。・・・うっ、頭が!

 

 何がどうあってもネタに走るのは前世の記憶。

 くぅ、前世の俺が今の俺を苦しめる!

 

 「とっとと行くぞー」

 

 シャマルさんが『闇の書』に触れるとあら不思議。ほんの手前に人一人通れるくらいの丸い光の渦が出現した。

 これを通れば『闇の書』の中に行けるわけですな。

 では、ヴィータ。お先にどうぞ。

 私は後から行きますんで。

 いえ、決してスカートの中を除こうという魂胆はありませんよ。

 俺が興味あるのは、「スカートの中がのぞかれているかも・・・」と、恥じらう乙女な顔を見たいだけで・・・。

 

 「「「「「とっとと行ってこい!」」」」」

 

 俺、口にしたかなぁ?

 

 

 

 裕とヴィータを『闇の書』へ送り出した直後にアリシアとフェイトを残してミッドチルダに向かった八神一家と管理局一派。考古学者としての知恵を借りる為にユーノ。そして、現地協力者のプレシアのメンバーでアースラに転移。そのままミッドチルダへと向かうのを見送ったなのは達。

 

 「行っちゃったね。裕君達」

 

 「まあ、あいつがあんな調子なら大丈夫だとは思うけどね」

 

 「・・・うん。母さんも一緒に行っているから万が一の事があっても何とかしてくれる。と、思うよ」

 

 「つまり、ユウはいつも通りってことだね」

 

 「・・・え。あ、うん、そうだね。いつも通りだと思う」

 

 「なのは。・・・あんたの目にはどう見えたの?」

 

 アリシアの言葉になのはが間を置いて答えた。

 それを不思議に思ったアリサはその間について問い詰めた。

 

 「あ、あのね。裕君がバケツの水を被る時だったんだけど、手が、ね。震えていたんだよ」

 

 「え?それってあいつがビビっているってこと?」

 

 「裕君が怯えているなんて・・・。直前までの様子からだと考えられないわね。」

 

 「うん。私と初めて会った時も少し震えていたけど、今回は怯えていないんじゃないかな?」

 

 裕を初対面で怯えさせる出会いって、フェイトちゃん何したの?

 まあ、それは置いといて。今の裕が怖がっているなんて・・・。ありえないと考える皆だったが、裕の母親のリアはなのはの頭に手を置いてよしよしと撫でる。

 

 「よく出来ました。なのはちゃん。お嫁さんポイントを3つあげようじゃないか」

 

 「リアさん」

 

 「あの子はね。とってもめんどくさい子なの。一人ぼっちの奴を見つけては強引に友達にしたり、メンバーを増やしていっている。だけど、ね。なのはちゃん。そして、皆。裕はね、ここにいる子ども達しか『友達』としか言わないんだよ」

 

 「え?」

 

 「あの子は邪神である自分の事を受け入れてくれた皆だからこそ『友達』だと思っている。裕ちゃんは『友達』のためなら何でもやるの。だから・・・、皆とは必要以上に仲良くなるのを怖がっているの」

 

 裕のお母さん。シアさんの言葉が分からない。と、悩んでいたら、アリシアが閃いたと言わんばかりに声を出す。

 

 「わかった。私達の誰かを好きになるのが怖いんだ!」

 

 「す、すきぃっ?!」

 

 「で、でも、ユウが好きなりそうな女の子って・・・」

 

 「おっぱいが大きい人だっけ?」

 

 「と、なると・・・」

 

 この中で一番大きなおっぱいの持ち主と言えば、最近ブラジャーをつける様になったすずかちゃん?

 

 「あっはっはっはっ。まあ、確かに外見ならそうだろうけどね。でもね、それはあくまでおまけみたいなもの。あの子が本当に近くにいて欲しい人はね『どうしても自分の手が必要な人』だよ」

 

 「ほえ?」

 

 「フェイトちゃん・なのはちゃん達の場合。ジュエルシードの時はこの世界が崩壊しないように。危険性を可能な限り取り除いた。レイジングハートとバルディッシュもそう。あの時、二人は裕ちゃんに頼ったでしょ」

 

 アリサちゃんの場合はWCCで加工したプレゼントを用意してもらうため。

 フェイトちゃんはアリシアちゃんを助ける為。

 

 「すずかちゃんは~。・・・あら?何か頼る様な事をしたかしら?」

 

 「え、えっと。私の場合はちょっと家庭の事情に裕君を巻き込んでしまって・・・」

 

 「・・・それは解決したのかな?」

 

 「は、はい。解決しました」

 

 「そう、なら、裕ちゃんはここに居る女の子にはあまり興味ないわね」

 

 「「「ええっ?!」」」

 

 幼馴染トリオは驚きの声を上げる自分達になんの欠点があるのかと?

 

 「欠点が無いのが欠点なんだよ」

 

 「・・・よく、わからない」

 

 「わかりやすく言うと、あの子は自分よりダメな子が好きなのよ」

 

 「常に優越感に浸りたいということ?」

 

 アリシアちゃんはさらっと毒を吐くね・・・。

 

 「そうじゃないの。頑張ってるのに上手くいかない。ぐすん・・・。となっている女の子が好き。萌え!そう、萌えなのよ!」

 

 「団長はドジっ子好きなのか・・・。なら、ここに居る女子達は当てはまらないな。みんなしっかりしているし・・・」

 

 「・・・だとしたら、フェイトが当てはまるんじゃないのかい?家の中じゃポンコツだし」

 

 「ぽ?!あ、アルフ、ポンコツは酷いよ!」

 

 「だったら毎朝私やアリシアに起こされるような真似しないでよ」

 

 「・・・寝ぼけて魔法を飛ばすのも」

 

 遠い目をしながらテスタロッサ家の末娘を見る使い魔と姉。

 

 「・・・だ、だったら、私も」

 

 「でも、ダメなところは直そうとしないと駄目よ。そうでないと萌えは無くなってしまうわ」

 

 「あう」

 

 「そう考えると団長って実は攻略難しいんじゃ・・・」

 

 「無理にドジな所を作ろうとしても駄目よ。あの子、自分が予想だにしない事に落ちるとすぐに駄目になる。純粋のポンコツだから」

 

 実の息子をポンコツと言う邪神の母。

 邪神の好みを改めて知らされた幼馴染トリオにテスタロッサ姉妹は少なからずあたふたしていた。

 本当にめんどくさい邪神。というか、嗜好をばらされた彼を気の毒に思ったアルフと榊原だった。

 

 

 

 一方、『闇の書』内部を探索している邪神はというと・・・。

 

 「うわっ、何だこれ?!罠か?!」

 

 ダンジョン化した『闇の書』内部を探索していると不自然に建てられた小屋にノコノコと入っていった邪神。中は粘着性の床で入り込んだ獲物を動けなくするというどこかで見たことがある罠だった。

 ヴィータはあまりにも不自然過ぎたので黙って見ていたが、まさかそのまま入っていくとは思わなかったらしい。

 

 「入らずにはいられない何かがそこにあるのか?」

 

 彼女の目から見ると、その小屋の屋根には『ホイホイ』という大きな字が彫られていた。

 

 



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第四十八話 邪神様と闇の書ダンジョン・前編


 邪神の目の前に最悪の罠が立ちふさがる!
 『?』:うふふふ。私がそんなに欲しいの?



 

 闇の書内部。

 それは今まで蒐集してきた生物たちの魔力がまじりあった迷宮。

 その迷宮からは時折、唸り声を上げながらゾンビの様に出現する魔物や人の形をしたなにか。

 守護騎士である自分もこんな風に作られたのかと思いながらも鉄槌の騎士ヴィータはシャマルが誘導するその方向に向かって歩みを進める。

 魔力を使えばそれを嗅ぎつけられて彼等がやってくるかもしれない。

 そんな時に役に立つ、邪神が持ってきた段ボールだ。

 バニングスの持つ人脈を駆使して最高級の段ボールを用意、そしてそれにWCCを施すことにより『隠密効果(大)』の効果を発揮、闇の書から生まれただろう異形の者達は段ボール自体が見えていないように先へ、先へと進んでいく。

 だが、やり過ごすことが出来ない時、溶岩や氷山が降り注いで来たり、接触した瞬間に自爆する異形のモノが現れた時はヴィータが段ボールの中から飛び出し、それを防いだり、

砕いたりするのが彼女役目だ。

 邪神の役目はそのようなそのような罠を事前に探知し、解除もしくは発動させないようにする。

 その部屋に入れば周りからモンスター達が一斉に襲い掛かってくる仕掛けを外したり、逆に襲い掛かってくる抜け道を予め潰しておくなど、サポートに徹する。

 

 直接的な物はヴィータが潰す。

 間接的な罠は邪神。裕が潰す。

 

 この二人ならどんなダンジョンも攻略できると思っていた。

 だが、ダンジョンというのはそんな思いを打ち砕いた。

 それは欲。

 金が、そして、目の前にある『もの』が欲しいという欲が二人を襲った。

 

 はやてを助けたいと信念を持つ守護騎士が・・・。

 物なら殆ど作り出すことが出来る邪神が・・・。

 

 とても欲しいと思い、隣にいる協力者を蹴落としてでも欲しいと思う物がそこにはあった。

 

 何もない一本道その床に落ちている三枚の金貨。

 別にこれは問題無い。

 だが、この三枚があることによりその奥に浮遊というか不自然に空中に固定されている『?』と書かれた箱。

 

 

 

 謀ったな!謀ったな、任○堂ぉおおおおおおおっっ!!!

 

 

 

 それを見た瞬間にヴィータと裕は金貨を取り、『?』ボックスを真下から腕を九十度にしてジャンプして叩きたい衝動に駆られた。

 

 猛烈にあの金貨が欲しい!

 『?』ボックスを叩きたい!

 

 WCCで調べた結果、あの地面に落ちている金貨をとっても罠らしい罠は無い。

 だが、『?』ボックスは空中に浮いているので調べようがない。

 アレを叩けば何が出てくるか分からない。

 だが、叩きたい。叩きたいのだ!

 

 「じゃあ、あれは私が叩くからな」

 

 「いや、何があるか分からないから俺が一度触ってから確かめるのが先だろう?」

 

 「いやいや、だったら尚更頑丈な私が触るべきだろう?」

 

 「いやいやいや、WCCで強化しまくっているこの服なら大丈夫だって」

 

 「いやいやいやいや、あれの中身がエイリアンみたいなやつだったら終わりだろ?」

 

 「いやいやいやいやいや、ソフトタッチする程度だから仕掛けは動かないって、間違って強く叩かなければ」

 

 「てめぇっ、やっぱりアレを叩くつもりだな!」

 

 「そういうヴィーたんだって叩きたいんだろ!」

 

 「金貨を拾って『?』ボックスを叩くのは私だ!てか、ヴィーたん言うな!」

 

 「金貨はくれてやるが『?』ボックスを叩くのは俺だ!Vita!」

 

 「携帯ゲーム機みたいに言うな!」

 

 ギャーギャー言いあう二人に闇の書侵入時からずっと後を追うように漂っているクラールヴィントの片方から連絡が入る。

 

 『あのー、二人共、早く先に行ってくれないかしら?まだ半分しか進んでいないのよ?あの箱は無視して進めばいいじゃない。あなた達の身の安全もあるけど、はやてちゃんの事も考えて走って行きなさい』

 

 シャマルからの注意を受けた裕とヴィータはお互い、足元に落として口げんかを辞めた。

 

 「そうだな。一応、ここもダンジョンで危ないもんな」

 

 「そうだな。ここははやての事を第一に考えて」

 

 『そうそう』

 

 シャマルが相槌を打った瞬間にヴィータと裕は顔を上げて駆け出した。

 

 「「Bダッシュ!」」

 

 『二人共、私の話を聞いていた?!』

 

 シャマルの耳がコイーン。コイーン。コイーン。ドムッ。コイーン。と、いう音を拾ったのはそれからすぐの事だった。

 

 

 

 ダンジョンの根本的な深層に行けば行くほど出てくるモンスターも罠も一癖、二癖ある物が出てくる。

 まあ、罠はWCCで探知、罠潰しは可能なのだが、先程の『?』ボックスの様にWCC対策の罠まで出現してくる。

 シャマル曰く、裕(邪神)が侵入してきているのは闇の書も感知しているからそれに対応してダンジョンも変化している可能性があると示唆してきた。

 WCCがあれば、即座に深層までシフトムーブできないのも邪神の存在を、守護騎士を通して知っているからか、深層部は生体部分。まるで内臓の様になっているそうだ。

 まったく、バグがあるのに自分には何で対応するんだと思う裕。

 そんな時、ヴィータが指さす方向に目を向けてみると、そこには・・・。

 

 コピーシグナムA:バーサーカーモード

 コピーシグナムB:ムカチャッカファイヤーインフェルノ状態

 コピーシグナムC:俺は怒ったぞおおおおお形態

 

 の三体の魔物が闊歩していた。

 

 さーて、段ボールを用意しなくっちゃ。

 

 裕とヴィータは再び段ボールを被り、ゆっくりゆっくりと深層部へと進んでいくのであった。

 





 邪神&ヴィータ「くそっ、あと3コインあれば1アップだったのに!」


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第四十九話 邪神様と闇の書ダンジョン~中編~

その血に刻まれた罠が今、発動する!

対『邪神様』プログラム起動中


 

 管理外世界地球を旅立ってしばらくして。

 ヴィータと裕が『闇の書』内部に潜入して十八時間ほど経過した。

 残り時間三時間を過ぎた。それ以上の滞在は脱出不可能。それは裕自身の死亡を意味する。

 WCCで入り口までの避難経路は常時維持しているとはいえ、既に『闇の書』は邪神と謀反を起こしたに等しい鉄槌の騎士の存在を感知している。

 それだからだろう。

 『闇の書』の中核に近付けば近付くほどヴィータの鉄槌では押し潰しにくいスライム形態の物から細かく小さい飛来物が飛んでくる。

 邪神対策だろうか生体。まるで内臓の中の様にグロテスクな物に変化してWCCの効果があまり効果を及ぼさない。完全に生体ではなく無機物の要素もあるからその通路を潰そうとしても、WCCで上書きし、通路をこじ開け進んでいくヴィータと裕は歩むのを辞めない。

 だが、どんな物でも『生きている』なら学習能力はある。

 ヴィータと裕の弱点は小さく細かい『生体』の攻撃。

 それをいなしているのは二人の目的が『はやてを救う』という目的の為か時にはヴィータが裕はかついで攻撃を躱し、裕が邪神の力で壁を作り出し防ぎ、その壁を攻撃に転用し、進んでいく。

 それでも『闇の書』。元は違う名前で呼ばれていただろうそれにいつの間にか帰省していた『呪い』は侵入者を許しはしない。

 生体による攻撃だけでなく人間の体を持っている以上その反応を示すだろう裕に対しての妨害処置を強くする。

 時に大音量で集中力を途切れさせようとしたり、強力な光量を出して視力を奪おうとする。だが、裕が身に着けているのは月村・バニングスの両方の家から揃えた最高品質の服とアクセサリーにテスタロッサの科学力で加工を行った物にWCCで底上げした効果を施した物だ。裕の集中力を途切れさせたいのであれば、殺す気で来るか余程の不意打ちをしなければならない。

 だが、それを許すほどヴィータの技量は甘くない。その障害を叩いて潰す。

 邪神が道を作り、騎士がその道を突き進む。

 自分達を止めるモノは何もない。

 

 「そうだろ、アイゼン?」

 

 『いやぁっふぅー』(某配管工ボイス)

 

 「裕、いい加減アイゼンの声を元に戻せよっ!」

 

 「べつにぃ~、いいじゃね。金貨を独り占めするような騎士にはお似合いだろ?それに声を戻したらパワーアップ要素も消えるし」

 

 魔法というスタートダッシュが効く力を持つヴィータに金貨をごっそり持ってかれた裕は彼女の要求を却下する。

 もちろん、声を直すとパワーアップ効果が無くなるというのも嘘だ。

 自分とはやての命がかかっているという緊張感をほぐすために施したおふざけだが、カートリッジシステムというブースト機能を使うたびに自分の相棒から配管工の声が聞こえるヴィータは脱力していく。

 

 「声なんか集中していれば気にならないって」

 

 「そうは言うがな…。アイゼンの声がこうも変わると…」

 

 『ノンノン。イッツミー、マリオ』

 

 「やっぱり戻せよ!」

 

 「ちゃんと機能はしているんだから文句を言わない」

 

 騎士として、長年の相棒がここまで変わると泣けてくる。

 ヴィータは変わり果てた自分の相棒。その原因を作ってしまった自分の行動に後悔していた。

 

 そんな中、邪神と騎士がじゃれ合っているように突き進んでいく。この二人を止めることが出来ないものか。

 『闇の書』は思考しながらも思いつく限り抵抗をする。

 何が有効打になる?あの騎士に?あの邪神に?

 そうだ、あの邪神だ。

 あの邪神が現れてから騎士達もおかしくなった。『闇の書』の侵攻に歯止めがかかった。

 だから、考え得る限りの手を打とう。

 

 その変化は『闇の書』の外側でも変化が起こっていた。

 

 

 

 八神はやてとその騎士達。執務官のクロノとその師、リーゼロッテ・アリアをある星に降ろした後、その場の監視をアルカンシェルという高出力の魔道の大砲を乗せた航行艦に乗ったグレアムとプレシアが監視している。

 不穏な動きがあれば彼等ごとアルカンシェルで吹き飛ばす算段だ。

 もちろんそれは最悪の手段である。使うことなく、使わないでいることが最優先だ。

 

 「・・・という事から『闇の書』とその主、八神はやて。そして守護騎士達を道徳的に考え、保護してきました。つきましては彼女の延命処置の為に魔力の収拾をお願いしたいのです」

 

 「だが、暴走する可能性がある。その被害はリンディ君。君にもわかっているだろう」

 

 そんな中でリンディ・ハラオウンは自分の愛する旦那。クライドも連れて管理局上層部に直接嘆願を出している。

 

 「その可能性も視野に入れて彼女達には既に別空間で待機してもらっています」

 

 「な?!あそこは次元犯罪者を投獄している世界でその星そのものが監獄の場所だぞ?!しかも、死刑や終身刑が決定している極悪人だけの場所っ、そこで『闇の書』が暴走し、奴等を逃すようなことになればただでは済まんぞっ!」

 

 「その為にもグレアム提督には『闇の書』の所有者ごとアルカンシェルで攻撃。暴走勝利をしてくれます」

 

 「な、ならんっ。あそこにいる奴等の中にはまだ改心の余地がある奴等もいるっ!それこそ人道的に反する!」

 

 「失礼ながらあそこにいる彼等に改心の余地はありません。罰を受けながらその生を全うするまでそこに留まる。なんの感情の起伏無く凄く罪人達がいるだけの星です。・・・そして、非合法な薬品や魔法の人体実験場でもあります」

 

 「・・・なんと」

 

 「既に彼等には監査が向かっています。それに『夜天の書』。アレの傍には私の息子と友人でもある使い魔達もいます」

 

 「・・・そこまでの覚悟を決めているのか」

 

 下手をすれば自分の息子まで死んでしまう。

 それでもこうやって行動に出るからには何らかの勝算があるのだろう。

 

 「勝算はあるのかね?」

 

 「あります。濡れ衣を着せられた天才大魔導師プレシア・テスタロッサ。そして『闇の書』の主とその騎士達の協力。更には今現在も『闇の書』、いえ、『夜天の書』に関する情報を聖王教会からも助力を得ています」

 

 「それが来てからでも行動に移せばよかったのではないか」

 

 「それでは遅すぎるのです。『夜天の書』の主。八神はやてを救うにはあまりにも遅かった」

 

 「それは早計という物では…」

 

 「・・・ゲッター」

 

 「なに?」

 

 「すでにご存じの方もおられるでしょう。人の進化を見届ける存在。私はそれに賭けました」

 

 人の口に戸は建てられない。

 JS事件でアユウカスとしてゲッターロボを駆使し解決し、テスタロッサ一家を救った存在を上層部が掴んでいないはずがない。

 少なくても暗部を知るプレシアとその娘の存在を知る彼女達に何かがあっただろうと勘ぐるのが普通だ。

 

 「その存在に私も助けられた」

 

 「・・・クライド君」

 

 「どうか信じてください。『闇の書』いえ、八神はやてとその騎士達。そして、彼女達を救おうとしている存在を」

 

 夫婦の訴えをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。

 しかし、奇跡の体現者が今、目の前にいる。

 それに救われ、また今もすわれようとしてる小さな少女の動向。

 それが失敗に終わっても愛する我が子を犠牲にする覚悟。いや、成功するだろうと信じているからの行動に上層部は小声で相談し合い、審議を続ける。

 そんな時だった。

 『闇の書』に変化が現れたという情報が届いたのは。

 

 「映像を出してっ!・・・これは」

 

 映し出された映像には『闇の書』の拍子が紅白に点滅している様子があった。

 爆発。いや、暴走の前触れかと計器を見るが魔力の乱れが少しある物の暴走の類ではないらしい。だが、『闇の書』で何かが起こっている。

 邪神が何かしでかしたのだとハラオウン夫妻はそう思った。

 

 「音声来ます!」

 

 「・・・これは」

 

 ハーッ、ラッセーラー、ラッセーラ♪

 ソーラン♪ソーラン♪

 ハーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪

 アーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪

 ソーラン♪ソーラン♪

 

 軽快な音楽と共に赤白に光る『闇の書』はまさにお祭り騒ぎだった。

 『闇の書』の主であるはやてはもちろん、『闇の書』に直接触れているシャマルもびっくりを通り越してあきれ顔。

 シグナムにザフィーラの脳裏に腹を押さえて笑い転がっている少年がよぎり、クロノとリーゼ姉妹はこれは本当に『闇の書』か?と疑いの目を向けている。

 残念な事に『闇の書』本物である。

 すべてあの邪神の所為だと裕の事を知っている人間は断定した。

 

 「・・・リンディ君。本当に信じていいのかね?」

 

 「・・・・・・・・・・・し、信じたいです」

 

 「リンディ。そこはきっちり言いきろうよ」

 

 「…だって」

 

 ハーッ、ラッセーラー、ラッセーラ♪

 ソーラン♪ソーラン♪

 ハーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪

 アーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪

 ソーラン♪ソーラン♪

 

 今もなお、軽快な音楽を流し続ける『闇の書』。

 その内部では日本人の血を持って生まれてしまったがために体が音楽に連れられて踊っている邪神を止めようとしている鉄槌の騎士がいるという事を。今は誰も知らなかった。

 





 邪神「体が、体が勝手にうごいちゃうぅうううう!!?」

 駄目だ駄目だと分かっていても体は正直なのよね・・・。
 じゃぱーにーず・まじかる・みゅーじっく『音頭』!
 作者はインドアはなんであまり効果はないですが、アウトドアで活動的な邪神様には効果絶大です。


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第五十話 邪神様と闇の書ダンジョン(後編)

皆さんは綺麗なお姉さんが恥ずかしがるのは好きですか?




 あれからも『闇の書』の足止めは続いた。

 邪神と鉄槌の騎士はサブカルチャーに弱いと見た『闇の書』の数々の足止めを行う。

 

 時に音で体を操り(音頭)

 時に物欲を刺激したり(ニンテンドウ)

 

 と、様々な足止めの罠が襲ってくる中で特に苦しめたのが。

 

 

 

 劇的ビフォアー・アフター。

 『桃太郎の実家、改装計画』

 ―鬼の屍の上に立つ家―

 

 『森の泉の精。殺人事件』

 ―血に濡れた金の斧。銀の斧―

 

 うさぎとかめⅡ。

 『うさぎリベンジ』

 ―もう、眠らないー

 

 

 

 という、日本童話をどこぞの番組やハリウッド風にアレンジした映画館を作られた時は本当に苦しんだ邪神と鉄槌の騎士。

 『闇の書』の所有者のはやての記憶をたどって様々な映画を作り上げる『闇の書』は間違いなく凶悪だ。

 

 「だが、ここで最後だ!最奥部に突入するぞヴィータ!」

 

 「おう!」

 

 邪神とヴィータは迫りくる欲望を必死に抑えながら残り一時間になってようやく『夜天の書』のバグ。『闇の書』に変化してしまっただろう原因地点にたどり着いた。

 厳重そうな扉で行く手を阻んでいたが、邪神のWCCで罠ごと撤去され、内部へと踏み込む二人が目にしたのは、鈍重そうな鎖で体を縛られ、身動きの取れない女性の姿だった。

 それを見たヴィータと裕。そして、クラールヴィントの片割れ越しのシャマルはお互いの目を見て頷いた。

 

 「「『罠だな(ね)』」」

 

 「そう決めつけるのもどうかと思うぞっ」

 

 鎖に繋がれた女性は疲れ切った表情をしながらも、自分を罠だと断定した彼等にツッコミを入れる。

 

 「いやいや、だって、あのはやての持つ『闇の書』だよ。動けない美女を配置するってことは絶対罠があるって・・・」

 

 「ああ、はやてだからな。あいつシグナムやシャマルの乳をもごうとする手つきで揉みまくりだからな。きっと、自分がこんな状態だったら、罠にかかろうともあの乳をもごうとして罠にわざと突入するだろうし・・・」

 

 今まで散々な足止めの罠を受けてきた邪神と騎士は彼女自体が罠なんじゃないかと疑っていた。

 クラールヴィント越しに見ているシャマルも同じ意見である。

 

 「主はやては」

 

 「とりあえず、このおっぱいには触らないで鎖の方から調べてみるか」

 

 「そうだな」

 

 「主は」

 

 『その鎖に生体。魔法的な罠はないわね。だけど、『闇の書』暴走の原因はそれかも』

 

 「ある」

 

 「WCCだと・・・。うわっ、やっぱりこれか。装着した奴に『強化』と『狂化』のステータスがかかってる。『魔力吸収』に『生体吸収』。『緊急脱出』は例の転生機能か?とりあえず全部削除しても大丈夫かなっと」

 

 「おいおい、反動とか気をつけてくれよ」

 

 「大丈夫、プレビューで見てみると『闇の書』から魔力が大量放出されるだけだから」

 

 『それって危ないんじゃないの?』

 

 「あ」

 

 「一時的に周りにいる魔導師達の魔力が上がるだけみたい。というか、この鎖が魔力の粒子になって飛び出す。のか?だとしたらはやて達には別の星に行ってもらわないと駄目か。犯罪者がパワーアップして脱獄。何てなったら後先やばそうだし・・・」

 

 「それ自体を無くせばいいじゃないか」

 

 「・・・」

 

 「うーん。そうなんだけど、この鎖ってカプセルみたいなんだよね。無機物で周りを囲って中にある肉を保護しているみたいな?肉自体は生きているみたいでウイルスみたいに凄く細かいから干渉できない」

 

 『とりあえず、他の場所に転移しておくわね』

 

 「オッケー。転移が終わったらこの鎖を分解すれば『闇の書』も直ると思う」

 

 ある程度鎖を分解して、捕らわれの美女を解放した時、彼女の方から鼻をすする音が聞こえた。

 

 「うっ、ひっく、ぐずっ」

 

 「うおおおいっ、ちょっと無視されたぐらいで泣くなよ。お前も騎士だろ?」

 

 ヴィータは慌てて彼女に話しかける。

 捕らわれの銀髪美女は構ってちゃんだったのか。先程から声をかけても、罠に反応してはまずいと思ったヴィータと裕に無視されて鼻声になっていた。

 もしくは自分の今の主がとても残念だから涙を流していたのか。

 

 「な、泣いてない。ちょっと涙腺と鼻腔から水が零れそうになっただけだ」

 

 ガン泣き寸前じゃないか。

 

 「はいはい。せっかくの美人さんが鼻水を垂らしたらはやて同様残念な称号がつけられるでしょ」

 

 残念な邪神である裕に言われても説得力はないが、彼が鼻に押し付けるハンカチでチーンッと音を立てて鼻をかむ。

 そして、美女の鼻水がついたハンカチ。正確にはその鼻水をクラールヴィント。シャマルに良く見えるように広げる。

 

 「シャマルさん。これに異常ないですか?WCCだと普通の鼻水みたいなんですけど?」

 

 『うーん。ちょっと待ってね』

 

 「・・・っ」(羞恥心で顔が真っ赤)

 

 「・・・」

 

 自分の鼻水を広げられてじっくり調べられるという羞恥プレイ(+拘束プレイ)に銀髪美女さんのまぶたから水が溢れそうになる。

 そんな彼女を見てヴィータは邪神に関わったんだから諦めろと無言で首を振るだけだった。

 銀髪美女さんの鼻水を調べながら着々と、彼女を拘束し、『夜天の書』のバグ。鎖をゆっくりと慎重に分解していった裕はプレシアとシャマルが作り上げたワクチンプログラムの入ったカプセルを準備する。

 

 「はい、あーん」

 

 「鉄槌の騎士!せめてお前がしてくれ!」

 

 今度はどんな辱めを受けるのかと警戒心MAXの美女さんは必死にヴィータに助けを求める。

 

 「あー、わるい。あたしも一応『闇の書』の一部だからそのカプセルには触れないんだよ。私を伝播してお前にワクチンに対する抵抗を覚えたらまずいだろ・・・。まあ、諦めろ」

 

 「そ、そんな」

 

 鉄槌の騎士の言葉により、絶望という色に染め上げられた美女。

 そんな彼女に優しく邪神は語りかける。

 

 「大丈夫大丈夫。ちょっと、『生臭くてぬめぬめした液体』と一緒にこれを呑みこんでくれればいいから」

 

 「嫌だぁああああああっ!」

 

 『生臭くてぬめぬめした液体』は元をたどれば『闇の書』。無毒化しているので害はない。

 見た目以外は。

 

 「胃カメラの時に飲むバリウムみたいなもんだって。ほら、ぐっといけ」

 

 「あむうううぅっ」

 

 「嫌がる美人に白い物を飲ませるのは興奮しますね」

 

 『裕君、声に出てるわよ』

 

 「おっといけない。つい、本音が。ほらほら、こんなじめじめした所から出れるんだ。これぐらい安いもんだろ」

 

 「む、むん」

 

 口から白い液体を少し零しながら銀髪さんは裕の言葉に頷き、バリウムもどきと一緒にワクチンカプセルを飲みこむ。

 

 「お~、いい表情、いい表情」

 

 「写メすんなよ」

 

 「いや、動画だ」

 

 『なお悪いわよ』

 

 「~~~~っ!」

 

 「冗談だよ冗談」

 

 顔から火が出るんじゃないくらいに顔を赤くしている美女。

 地面。『闇の書』ダンジョンの床から即席で作り上げた即席携帯電話を投げ捨てて、新しいハンカチを取り出して美女の口元をぬぐう。

 バリウムも牛乳もクリームも。

 白い物は大抵乾くと臭くなるもんな。

 

 「もう、それは広げないでくれよ」

 

 「わかった。大事に保管する」

 

 「~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 「もうその辺にしてやれ。いい加減可哀相になってきた」

 

 「わかった、わかった」

 

 「そう言うんだったらちゃんと捨ててくれ!」

 

 ・・・ち、懐にしまおうとしたところをきっちり見ていたか。

 闇の書ダンジョンを脱出した暁にはこれを使ってセクハラをしようと思ったのに・・・。

 

 『裕君の場合。セクハラというよりも命の恩人という立場からのハラスメントだからパワハラよ』

 

 「・・・毎度のことながらどうして俺の考えが皆には分かるの?」

 

 「顔、顔」

 

 現世邪神は考えが顔に出やすいようだ。

 

 「・・・うう、はやく外に出たい。主はやてに会いたい」

 

 「はやても俺くらいひょうきんな奴だぞ?」

 

 「おいっ、ちょ、何度も言うけどお前も騎士だろっ。そんな子どもみたいに顔を振って戻ろうとするなっ」

 

 まるで遊園地から出たくない子どもの様に足で踏ん張って外に出ようとしない美人さんを無理やり引っ張って出ようとするヴィータ。

 衰弱しきった体の所為か、彼女の抵抗空しく引きずられていく美人さん。

 終始、子どもの様な仕草を見せる美女に邪神が動かないはずがない。

 

 『裕君もせっかく成功しかけているのに変な事を言わないの』

 

 「・・・現実って、非情だよね」

 

 「しみじみ言うなっ。ほらっ、お前もそんなにイヤイヤいわない!」

 

 哀愁漂う感じの邪神に更に怯えた美女は抵抗を激しくする。

 だが、もともとヴィータの方が力強く、更には彼女のデバイス。グラーフアイゼンはWCCで装備者の能力を大きく向上させる(マリオヴォイス付き)。

 

 そんな騎士を相手に弱りきった美女の抵抗など本当に可愛いものだった。

 邪神に目をつけられた獲物は苦痛(嫌がらせ)に会うのは必然だった。

 

 銀髪美女がシグナム同様に裕の事を見ることに疑問というか疑惑を感じた幼馴染トリオ。

 邪神は楽しそうにその事を幼馴染達に自白した。

 もちろん、幼馴染達からはジェットストリームアタックを受けるのも必然ともいえる。

 

 

 

 

 闇の書内部で珍道中を繰り広げている邪神達の詳細を事細かにはやてやクロノ達に伝えたシャマル。

 聞かされたはやてを除いた全員が何やってんだと思っているなか、はやては悔しそうに表情を歪めて…。

 

 「ちぃっ、邪神め。これでは私がセクハラしにくくなったやないか」

 

 「そう言う問題なのか?」

 

 「クロノ君もわかるやろ。綺麗なお姉さんが恥ずかしがっている場面を想像してみい。・・・萌えるやろ?」

 

 「・・・。はっ!いやいや、そんな事はないぞ」

 

 ここで即答できなかったクロノ。

後日談として、エイミィを初め、自分の魔法の師匠であるリーゼ姉妹からセクハラを受けることが確定した。

 

 「警戒心の無い美人のお姉さんの『初めて』(のセクハラ)を奪い負ってからに・・・。これがNTRってやつか?!」

 

 「主はやて。言葉を控えてください。というか、どこでそんな言葉を覚えたんですか」

 

 「何ゆーてんの。シグナム(元父親)の部屋でや」

 

 その言葉にはやてを除く全員が一歩シグナムから距離を取る。

 

 「ちょ、私はそんな本や情報等は購入してません」

 

 「泥棒をしてまでもほしかったんやなぁ」

 

 「・・・シグナム。今のうちに守護騎士の将を辞任してくれ。新たに出てくるだろう新たな騎士の為にも」

 

 「ザフィーラ信じてくれ。私は買ってないし、泥棒もしていない!」

 

 「すまんな。俺は主はやての守護獣だから」

 

 「ザフィーラァアアアアアっ!!」

 

 自分に合わせるようにとシグナムに見えないようにウインクをしたはやてにやれやれといった具合に合わせたザフィーラ。

 シグナムから見たそれは自分がエロい本を持っているように思われて失望したんだと感じ取れた。

 邪神の手によって主はやての悪戯が加速した。

 ある意味、守護騎士達(特に将であるシグナム)が被害を被っていた。

 だが、邪神の手を取らなかった場合、被害は甚大な事になっていただろう。心労はあるがその見返りは大きすぎるくらいだ。

 はやては新たな家族がもう一人増えると喜んでいたが。そのもう一人の家族候補の女性は『闇の書』。ではなく『夜天の書』の奥に逃げ込もうとしているらしいが・・・。

邪神と騎士達の手により、バグから切り離すことが出来そうで、今からこの宙域から無人の星がある世界へと転移しよう。

 

 そんな時だった。

 はやて達の後ろに陽光を弾くほどまばゆい光を放つ鎧を着た少年が現れるのであった。

 




 前書きの答え。

 邪神様&作者「私は大好物です」


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第五十一話 邪神様的最終進化!

 はやてさん、何気にダウトー!




 「・・・ふん何やらあちこち這いずりまわっていたようだが。そんなにもその闇の書を完成させたか。雑種共」

 

 金の髪に黄金の鎧をつけた王城がはやて達の後ろから現れた。

 

 「・・・だ、誰や、あのキンピカは?」

 

 「そこの愛嬌のある狸少女よ。・・・貴様、足を患っているようだな。今の俺は気分がいい。我が宝物庫にある妙薬を飲ませてやろう。それで貴様の足も呪いという呪縛から解かれ、動くだろうよ」

 

 王城はその秘薬を一つ。自分が持つゲート・オブ・バビロンからエリクサーを取り出す。

 エリクサーは回復アイテムの一つで。魔力と体力を回復させる物。

 その夢のようなアイテムは王城の転生特典。ゲート・オブ・バビロンの中にある宝物。そして、ギルガメッシュが関係している宝物の中にエリクサーというアイテム。それもそのまま引き継がれていた。

 

 「どうした?お前達の主を助けたいのだろう、守護騎士達よ」

 

 「闇の書といい、我等守護騎士の事といい、我等の事をどこで知った?」

 

 「ふんっ。そんな物俺様の手にかかれば造作もない!というか守護騎士に襲われたデータが我がデバイスのキレイがとっていたぞ」

 

 「・・・くっ。奴もデバイスを持っていたか」

 

 「ただ声をかけただけなのに攻撃して俺の頭を強打する。このような無礼万死にあたる所だが、俺様は寛大だ。守護騎士とその主。俺のモノになれ。そうすれば寛大な俺様が貴様等を助けてやる」

 

 上から目線ではやて達に話しかける。

 だが、王城が出してきた案件はあまりにも遅すぎた。

 既に邪神から『闇の書』に『夜天の書』への快復プログラムを打ち込み、後は自動で治るのを待つだけだ。

 

 「それには及ばないわ。そちらの方は既に処理が済んでいるの。お人好しの邪神。いえ、ゲッターが快復させてくれているから」

 

 リーゼ・アリアがキンピカ。王城に残念だったわねと嘲笑気味に答えた。

 その言葉が気に障ったのか、こめかみに欠陥を浮き上がらせた王城だったが、すぐに言葉を返す。

 

 「ふん、まさかの神頼みか。神の名を持ち出すものほど碌なものではないだろうに・・・」

 

 アリアを含めてそんな神に頼ろうとした全員をいかにも憐れんでいる口調で喋る王城にはやては力強く否定、

 

 「そんなことっ・・・。そんなこと・・・。そんな事あらへんわっ!」

 

 出来なかった。

 

 「主はやて。ここははっきり言わないと説得力がありません」

 

 「せ、せやかて、あの、邪神様やしな」

 

 「駄目ですよ、はやてちゃん。ここはびしっと言わないと。あんな邪神でも一応命の恩人なわけですし・・・」

 

 『あんな』呼ばわりされる邪神。田神裕。

 確かに日頃の行いを見ていると『あんな』呼ばわりされても仕方がない。

 持っている能力も以上で異様だったとしても彼が持っているとどうにも威圧感というか覇気を感じない。

 

 「・・・ふん。俺もあまり暇ではないのでな。俺の温情を無にするつもりならどうなっても知らんぞ」

 

 「生憎だな。お前と違い、私達に救いの手を伸ばした邪神はこう言っていたぞ『ウランでもいい。だから助けられろ』と。恩を着せるのでもなく、自分の我を通し、成功の合否がどうなろうとも怨んでもいいと。お前と同じように我儘な奴ではあるがまだ、こちらの方が信用できる」

 

 邪神の被害を一番感じているだろうシグナムが王城に言葉を返す。

 彼に酷い目に遭わされたというのにこう言えるのは彼が真摯にはやてを助けようと行動した結果だ。

 だが、それをどう解釈したのか、それを聞いた王城の背後に無数の魔方陣が展開され、更にはそこから飛び出してきた黄金の鎖が守護騎士やプレシア。管理局を面々を縛り上げた。

 

 「なに?!この鎖?!」

 

 「バインド?!違う、魔力とは違う何かで構成されている物なの?!」

 

 補助魔法のスペシャリストであるシャマルは王城が繰り出した鎖を解除しようとするが

 

 「天の鎖。神すらも捕縛することが出来る。なるほど力尽くが好みならこれで捉えられても仕方あるまいな?これからは俺もそうさせてもらおうか」

 

 鎖が飛び出していない魔方陣から一振りの短剣が出て、王城の手の中に納まる。

 同時にはやて達から取り上げるように鎖が『闇の書』を巻き取り、王城の目の前に

 

 「ルールブレイカー。術式といった魔力で構成されている物ならば自分で好きに改変する事が出来る我が宝具で『闇の書』に干渉するとしよう」

 

 「っ。待ちなさい!そんな事を今行えば回復処理を行っている『闇の書』がどんな異常をきたすか分からないわよ!」

 

 王城の繰り出した鎖。そして、握られた短剣から異様なプレッシャーを感じたプレシアは彼に制止を求めながらも自分の魔力を全開にして鎖を解こうとしたが鎖は砕けず、魔法も放てない。

 

 「やめてっ。今、それに変な事をしたらヴィータが!裕君が!」

 

 「裕?・・・ああ、あの雑種か。いつまでも我が王道を邪魔する道化も『闇の書』に捕らわれたか。いいだろう、ついでだ『闇の書』の異物に対して命じる。『闇の書』よ、『夜天の書』に戻り、且つ、中にあるバグもろとも異物を排除しろ!」

 

 はやての悲鳴じみた声を聴いて、王城は口元を歪ませながら手にした短剣。ルールブレイカーを突き刺す。

 すると、『闇の書』全体にまるで血管の様に赤い文様が浮かび上がり、王城の言葉に反応するようにビクビクと震え始める。

 その様子に王城は更に愉悦の表情を見せる。そして、その震えが一瞬止まり、次の瞬間には大量の生々しい肉で風船のように膨れだしてきた。その膨張のスピードはあっという間に『闇の書』事態を呑みこみ醜い肉の風船へと変貌した。

 天の鎖で縛られている為、その時は溢れ出した肉の塊は王城に触れることはなかったが、肉は膨れ上がろうと密度を高めながらなおも広がろうとする。

 

 密度が溜まりに溜まった風船はどうなるか?答えは子どもでも知っている。

 

 バンッ!

 

 「なにっ?!」

 

 と、王城の目の前で肉の塊がはじけ飛ぶと中に詰められて生々しいピンクの液体が王城に降り注がれる。

 彼が着込んでいる鎧もバリアジャケット。いわばパワードスーツのような物なのだが、振りかかった液体がまるで侵食していくコンピュータウイルスの様に増殖していく。

 そして、液体がついた鎧から新たな肉の風船の目が出ると、まるで王城の魔力を吸い上げる様に膨れ上がる。

 

 「な、何だ、これはあああぁぁぁ、ぁぁ、ぁっ」

 

 王城の鎧に付着した肉の芽。それが風船のように膨れ上がるに反比例するように王城の体が衰えていく。まるで空気を抜かれ、しぼんでいく風船のように彼からごっそりと魔力と体力を削り取っていった肉の風船にその場にいた誰もが戦き、その場から離脱しようとしたが王城の施した鎖が未だに絡みついており、先程から解除に全力を尽くしているが解ける気配が未だに見えない。

 

 王城は三つの間違いをした。

 

 

 一つはルールブレイカーを突き立てた時に『排除せよ』という言葉を発した。排除とはその場から取り除いたり、撤去することで消滅することではない。

 ルールブレイカーで初期化された後に真っ白な状態の『闇の書』に命令すれば排除してくれると考えた事。

 

 二つ目は初期化される前のリミッターは守護騎士達を通して、闇の書の最奥にいた女性が必死に強化を施した物。

 闇の書のバグを抑え込んでいたのリミッターがルールブレイカーの初期化により、強化状態を解かれた。弱くなったリミッター等意味をなさない。

 闇の書のバグは外に飛び出すことになった。

 『闇の書』プログラム及び『夜天の書』は邪神に対して攻撃しても何らかの手法で対処されると学習していたから邪神。裕を攻撃することは止めて、裕と『闇の書』のバグごと放り出そうとした結果が魔力を急襲し増殖する肉の芽を『闇の書』の外に出してしまうという事だった。

 『闇の書』が侵入してきた裕やヴィータを最初から吐き出そうとしなかったのは、シャマルのジャミング。裕のWCCでそれを阻止していた。言うなれば吐き気を催している物のそれを薬や根性で無理矢理押さえていたに過ぎない。

 

 要はバグを押さえつけていた強化型のリミッターをルールブレイカーの初期化により緩めてしまった結果、バグが外に出るということになったのだ。

 

 三つ目は天の鎖にて自分を助けてくれるかもしれない守護騎士や管理局の人間を捕縛してしまった事だ。これでは王城を助けたくても彼を助けることは出来ない。

 

 自分の出した鎖で自分の首を絞める事になった王城。

 はやてやシャマルは目を閉じて肉の風船に飲み込まれそうになっていく王城から視線を逸らすことしか出来なかった。

 シグナムにザとフィーラ。プレシアに管理局の面は一刻も早くこの鎖を解こうと足掻いていた。

 主である王城の意識が無くなったからか鎖の締め付けは無くなり何とか解けた彼等はその場から弾かれたように退避する。

 

 「ちょっ、ちょっと待ってシグナム。ザフィーラ。あの子を放っておいていいの?!」

 

 「自業自得です!それにもう間に合いません!」

 

 シグナムがはやてを急いで担いでその場から離れて行こうとした時に『待った』をかけるが、シグナムの言葉通り、王城の体は『闇の書』から生じた肉の風船。そして、王城から発生した肉の風船は一つになりながらも膨張していく。

 はやてがシグナムに声をかけた時には王城がまるで助けを求める様に伸ばした右腕が今にも呑みこまれようとしていた場面だった。

 しかも魔力を吸収する性質上、守護騎士に管理局。プレシアといった魔力を主体とした魔導師達に彼を救う手だてはない。

 

 

 

 ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!

 ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ!

 

 

 

 と肉の風船から聞こえてくる金属音と肉の断裂音を響かせながら脱出してきた邪神の御業以外には・・・。

 

 「「これが邪神的グラーフアイゼンの最終進化だあああああああぁっ!!」」

 

 「・・・私が知っている鉄槌の騎士のデータじゃない」

 

 巨大なドラム缶の上部分に高速回転するドリルを装着し、下部分には巨大なロケットブースター。そして、真ん中に位置するところには申し訳程度にヴィータが愛用する呪いウサギを機械的にデフォメル化した顔がついた巨大な建造物が肉の風船から飛び出してきた。

 

 それはヴィータの持つグラーフアイゼンが持つ最終形態であるギガント・シュラーク。

 彼女が持つ魔力とカートリッジシステムを使い鉄槌部分を巨大化させ、ビル一つを簡単に押しつぶしてしまえそうな鉄槌を裕がWCCで改造。

 破壊力を突破力に変換されたグラーフアイゼンのギガント・シュラークはあるドリルの付いたゲッターマシンの姿に変貌した。

 

 自分達がいる『闇の書』内部に異変が起きた事を察知した裕とヴィータは即時に脱出する際にこれを敢行。

 巨大なドリルな潜水艦(呪いウサギヘッド付き)を思わせる物に変貌したアイゼンに乗り込み、脱出してきた二人と呪いで外に出られずにいたはやてのもう一人の家族が肉の風船から飛び出してきた姿にはやてとプレシアは一縷の希望を見出すのであった。

 




 脱出のイメージとしては、

 チェーンジ、真・ライガー!です。



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第五十二話 邪神様式コミュニケーション(&キストーク)

邪神様キッスの効果。

く、くやしい。
だけど、感じちゃう。ビクンビクン!


 ぶくぶくと膨れ上がる肉の風船から飛び出してきたヴィータと裕が地面に降りると同時にプレシアが裕に指示を出した。

 

 「アユウカス!アレをどうにか抑え込みなさい!」

 

 「アイサー!唯我独尊(マッシュ)!」

 

 脱出する際に事前につけていた狐の面の奥から幼い声を発信がら裕は地面に手をついてWCCを作動させる。

 すると肉の風船を丸飲みするかのように巨大なキューブ状のものが地面から生える様に飛びだし、膨れ上がっていく肉の風船を呑みこむように噛みついた。というか呑みこんだ!

 

 「うおっ?!凄い勢いで膨れ上がっていく!修復と一緒に強化と弱体化。浸食した部分から魔力放出。無毒化しないと」

 

 キラキラと光を放つキューブ状の物体。唯我独尊と呼ばれた建造物。

 その目(鼻?)にあたる部分から薄紫色の魔力の霧が立ち上っている。

 

 「アユウカス、抑え込めそう」

 

 「うーん、何とか。浸食型だったから良かったのかも。浸食しようとしてもWCCの方が上みたい。接触部分から上書きすれば抑え込める。この調子なら地形効果、というかトラップ効果での『魔力放出』ができる。・・・もしかしたらダンジョン・マスターにも使えるかもWCC」

 

 「・・・嫌な思い付きね」

 

 「まあ、接触してないと効果が無いんだけどね」

 

 噛みついた唯我独尊を一つのアクセサリーとして置き換えて装着している。接触している存在から魔力を吸い上げて放出。唯我独尊自体を強化。魔力耐性の特性を付加していく裕の後ろでははやてがヴィータに抱きついて『闇の書』脱出期間を喜んでいた。

 

 「ヴィータぁああっ、無事でよかったぁああっ」

 

 「うっ、はやて、ただいま。ぐすっ」

 

 先程まで自分達が肉の風船に取り込まれそうになったのだ。ヴィータ自身も脱出した後になってはやての元に帰れなくなったという事に気が付いてはやてとしばしの間抱き合っていた。

 

 「そ、そうだ。はやて、あいつが『闇の書』の中にいた最後の騎士だ」

 

 銀髪の女性を指さして紹介する。

 

 「あなたが私の新しい家族」

 

 「っ」

 

 はやての言葉に銀髪の騎士は感動したように涙を浮かべた。

そしてお互いに近付いて行き、お互いの影が交差する。

 

 

 

 「へやあっ!」

 

 「にゃふんっ」

 

寸前で騎士ははやての頭にチョップをかました。

 

 

 

 どうしてここでチョップをかましたのか誰もわからなかったが、はやてと新たな騎士とのやりとりでそれが判明する。

 

 「なにするんやっ」

 

 「怒っていてるんですっ。こんな危険地帯にどうして貴方の様に非力な子どもがいるんですか!」

 

 「それは私が『闇の書』のマスターやからや!危険を感じたら所有者権限でどうにか抑え込もうと考えていたんや!」

 

 「どうしてこんな無茶をしたんですか!自分が死ぬ可能性があったかもしれないのに!」

 

 「自分の家族が命かけて戦っているのに家長である私が動かないなんて道理はないで!家族の為にや!」

 

 「じゃあ、どうしてそんなに手をワキワキさせているんですか!」

 

 「チィッ・・・」

 

 「どうしてすぐに答えないんですか!?」

 

 「ええやんっ!巨乳がそこにあれば揉みたくなるのは人の性や!」

 

 銀髪の騎士の後ろで邪神がうんうんと頷いているのはどうでもいい事である。

 ようはシリアスで感動的な場面でセクハラを働こうとしたはやてに気が付きチョップをかましたという事らしい。

 

 「それより、はやてさん。お礼をいう人はもう一人いるんじゃないかしら?」

 

 プレシアははやてに視線だけずらして裕の方を見る。

 白いかつらに白い袴と真っ白な風貌をしている邪神の傍に騎士(ザフィーラの後ろに将・新入りの順で続いている)を引き連れて。

 すでに屈強と称されている守護騎士のうち二人に畏怖の対象として見られている邪神はある意味、邪神らしいだろう。

 

 「・・・裕君。私を。私達の家族を助けてくれて本当にありがとうっ」

 

 「・・・はやて」

 

 裕ははやてに近付いて行き、裕ははやてに手を伸ばし、

 

 「バルス!」

 

 「ぎにゃあああっ?!目がっ、めがああああっ!?」

 

 目つぶしを喰らわせた。

 のたうちまわるはやての頭を掴んで叱りつける邪神。

 

 「お前、あれほど名前で呼ぶなって言っただろっ!」

 

 「ごめんなさいっ。わざとやないんや!決してここまできたんなら裕君も巻き込んで邪神の力をこっち側につけようなんて考えてないで!」

 

 「確信犯じゃねえかっ!それに邪神の方もアウトだろうが!」

 

 ぎゃあぎゃあ言いあうはやてと裕。

 そんな二人を放っておいてシャマルと銀髪の騎士。プレシアにクロノとリーゼ姉妹は唯我独尊を見ながら話し合いを進めていた。

 

 「闇の書本体はあの肉の風船の中にあるのにあなた達はなんで無事なの?」

 

 「私自身がデバイスのような物なので騎士達と闇の書とのリンクを書き換えて私自身が闇の書の任を負っています。適度なデバイスがあればそこに移そうと思うんですが」

 

 「闇の書クラスのデバイスってあったかしら?」

 

 「邪神に作ってもらえば」

 

 「っっっ」

 

 「そんなに涙目にならないの」

 

 (この短期間で守護騎士をここまで怯えさせるとかユウって、何者?)

 

 リーゼアリアとロッテはもう遅いだろうが管理局への通信の一部をオフにする。

 裕の情報をこれ以上流すのは危ないだろうと思っての事だ。

 一応彼も主人の親友の命の恩人だ。

 彼は管理局に関わりたくないようだった。今ある平穏を無くしたくないから邪神の力を振るったのだ。

 これで管理局が彼の力を求めて強硬な手段を取った場合。文字通り神の怒りに触れてどうなるかたまったもんじゃない。

 現に邪神は自分の素性を暴露しようとしている少女の口を塞いでいた。

 

 「うむんんんんんぅううううっ」

 

 「は、はやてぇええええっ」

 

 むちゅるるるぅじゅっぽじゅっぽじゅるじゅるりずちゅぅうううっ。ピロリロリン♪

 

 「1upした?!」

 

 と、生々しい音を立てながら。

 見れば邪神がはやての口を自分の口で塞いでいるようにも見える。

 

 「裕、お前はやてに何してるんだよって、うわぁっ、きも!」

 

 はやての口から離れた裕の口には彼女とのつながりを示す涎の後と、裕の口元から生えているイソギンチャクのような物があった。これはマスクのような物で口の上に装着してキスをした相手にイソギンチャクの触手の感触を与えるという物である。

 

 「ヴィータお前も喰らいたいのか?邪神キッスを?」

 

 「いや、うん。はやての口が滑ったのは悪かったとは思うけどはやては大丈夫なんだろうな?」

 

 「安心しろ。ちょっと癖になる程度だ。試したことがある俺が保証する」

 

 「そうかそれならって、安心できるか!」

 

 仮面の上にかぶせた邪神キッス(マスク)の下で頬をやや赤くした邪神は肉の風船を噛み潰したままの唯我独尊にWCCをかけ続けていく。

 

 「・・・で、アユウカス。この調子ならどうにかなりそう?」

 

 「うーん。この調子ならあと五十年ここに留まって浸食されるのを防ぎながら魔力を放出し続ければ普通の魔法で灰も残さず消えると思うよ」

 

 「そうならよかっ・・・。て、五十年?」

 

 「五十年。俺がここでWCC使い続けていればね。ここから離れたら肉の風船が解放されて辺り一面肉の海になるだろうし。そこまで居座るつもりもないけど・・・。とりあえず俺が抑え込んでいる間に何か策でも考えて」

 

 裕は簡単に説明したがWCCは繊細な作業だ。何かあった際にミスして対応が違うWCCをされた大変だ。その事も考えて裕は懐から指輪を幾つかとりだし嵌めていく。

 それぞれに『集中力アップ』『体力回復』『睡眠防止』の効果を持たせたアクセサリーだ。

 

 「まあ、こっからはそっちにませたから早く対抗策を考えてね」

 

 目の前に爆発寸前の爆弾を目の前にしているような状況で裕は簡単に言ってくれた。

 

 「あ、あと、それから真・ライガーの先っちょに引っかかってた。あいつも療養させたら・・・」

 

 真・ライガーの羽の先っちょに引っかかっていた王城。

 色んな物に見離された彼だが悪運だけは残っていたらしい。

 シャマルから汚物を見るような目で簡単な手当てを受けた王城はそのままアースラに搬送されるのであった。

 




 今日の戦果
 干からびた王城。


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第五十三話 さらば邪神様。また会う日まで。

 邪神が作り出した巨大な建造物。その中には『夜天の書』を改悪した『闇』が文字通り封印されていた。

 キューブ状の唯我独尊の周りをシャマルのクラールヴィントがグルグルと旋回しながら警戒を解かなかった。

 

 何の異常もない。このままいけば。摩訶不思議な現象を引き起こす邪神が言うように五十年維持すれば『闇の書』は処理される。

 管理局の重鎮。リンディやクライドを含めた管理局員の殆どがそう思っていた。

 

 邪神の作り出した建造物。唯我独尊(マッシュ)から機械的な触手が飛び出すまでは。

 

 『っ!?まさか、俺のWCCを学習して対抗したというのか?!』

 

 バキバキと唯我独尊を打ち破るように鋼色の触手が飛び出すと同時に周りにいたクロノやアリアといった管理職員。守護騎士達やプレシア達にも迫った。

 

 『させん!』

 

 そう言った邪神が腕を振るうと触手か光り、次の瞬間には枯れた葉の様に地面に粉となって落ちたが触手は唯我独尊を呑みこみ、もはや巨大な毛玉の様になっていた。

 その浸食スピードはじりじりと邪神のWCCでも追いつかない程で、その触手は既に邪神の足元にまで近づいていた。

 

 『裕君!今助け』

 

 『来るな!今、俺が手を離せば爆発してお前らまで巻き込まれるぞ!』

 

 邪神の一喝により裕に手を伸ばしかけた手を引っ込めたはやて。

 周りの人間も同様に差し伸べようとした手を止めた。

 WCCで分解を試みている物の光り輝き朽ちていくはずの触手は光の内側から新たな触手を生やし、邪神の足首に絡みついた。

 

 『ぬかったわ。・・・湖の騎士。そして、ギル・グレアム。クロノ・ハラオウン。見ての通りだ。『闇の書』の闇の部分は俺が抑えておく。今ならまだ、俺ごとあの闇を宇宙に転移させてアルカンシェルとやらで吹き飛ばせ』

 

 『何、馬鹿な事を言っている!諦めるな!お前は神を語るんだったらこれぐらいの事を脱してみろ!』

 

 クロノは仮面の下から聞こえた邪神の諦めの声に抗議する。

 

 『諦めろ執務官。もう、間に合わぬよ。・・・まっこと、邪神とは難儀なものよ!』

 

 『アユウカス。いや、裕君。何を言って』

 

 『まあ、聞け。『邪神』とは自然現象みたいなものよ。時代が、文明が停滞した時に発生する現象だ。それは時に異形の怪物だったり、お前達がいう所のレアスキルという特殊な能力を持つ人間。それらを発展させたり衰退させたりする現象だ』

 

 邪神は淡々と語る。

 その間にも触手は下半身を覆いつくし裕の首元にまで伸びていく。

 

 『恨み言は、後でいくらでも』

 

 『・・・転移』

 

 『・・・悪い。はやて』

 

 『ザフィーラ!シグナム!ヴィータ!待っ』

 

 ザフィーラとシグナム。ヴィータはこれ以上はやてに裕が触手に取り込まれていく姿を見せたくない。この場に居させてはいけない。そう判断して、主であるはやての意図も聞かずにその場を転移する。

 

 『こうなったらデュランダルで』

 

 『やめなさい、執務官。それを使ったらアユウカス。邪神が『闇の書』の闇よりも先に砕け散ってしまう』

 

 『じゃあ、どうするんだ!!』

 

 『・・・』

 

 『執務官。これは邪神の役目だよ。そして、『闇の書』の闇という時代を終わらせる。役目を果たした邪神はそこから去るのが俺の役目だ』

 

 プレシアがデバイスを起動させたクロノを手で制する。

 もう既に裕の首から下はWCCで光っている触手に包まれていて直視できない。

 それは邪神に縁がある人間が見たくもない現象だろう。

 自分達を救ってくれた神が今まさに消滅するかもしれない場面なのだから・・・。

 

 『ここで終わるのがお前の役目だというのか!僕の家族を!あの少女の家族を救ってお前がここから消えるのが役目だなんて認めないっ。認められるものか!』

 

 クロノの説得に狐の面の下から苦笑する気配を感じた。だからこそ声を荒げて彼を力づくでもそこから引きはがそうと近寄ろうとした瞬間。後ろに回り込んだリーゼ・ロッテの手刀で意識を刈り取られた。

 

 『・・・後は任せた』

 

 『最後まで見ている。それが私を救ってくれた神に対するせめてもの礼だ』

 

 『・・・見守ってあげるわ。あなたの最後を。私の娘を救ってくれた神の最後を』

 

 『待機している船に命じる。五秒後に指定した座標にアルカンシェルを撃ちこめ』

 

 銀髪の女性は触手に飲み込まれていく邪神の姿を最後まで見守っていた。

 そして、邪神が完全に光輝く触手に呑みこまれる直後にシャマルは俯きながら邪神と『闇の書』の闇を取りまく一帯を宇宙空間に転移させた。

 

 『・・・転、送』

 

 いざという時は邪神ごと吹き飛ばすように事前に話し合った事だ。

 それは誰もが覚悟。承知している事だった。

 

 シャマルが転送を行うその瞬間、『闇の書』の闇を吹き飛ばした超重力砲のアルカンシェルが放った光が辺りを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 地球に帰ってきたなのは達はそれらを貸し切り状態の翠屋で聞かされた時、愕然としていた。

 はやてとクロノはずっと下を向いたまま顔を上げようとしなかった。

 彼女を気遣って守護騎士達は二人にどう声をかけて良いのか分からなかった。

 守護騎士だけではない。

 アルカンシェルが撃ち込まれる場面を見ていた。ギル・グレアムやリーゼ姉妹。ハラオウン夫妻。プレシア・テスタロッサ。

 現場を見ていた誰もが二人に声をかけることが出来なかった。

 

 「・・・どうして、どうしてなの」

 

 「・・・なんで。なんで裕がそんな事になったっていうのに」

 

 「裕君は、裕君は」

 

 邪神の事の顛末を聞かされた幼馴染の三人の少女は体はプルプルと体を震わせながら叫んだ。

 

 

 

 「「「どうしてここにいるの?!」」」

 

 目の前で暢気に煎餅を齧っている邪神に向かって。

 

 「だって、嘘だもの」

 

 実際のところ『闇の書』の闇は裕が作り出した唯我独尊を打ち破る事など出来なかった。

 あの時の光景は≪WCCでも『闇の書』の闇が抑え切れていないと思わせるために辺り一帯をWCCで変形変化させた物≫であり、転移される手前に裕はWCCを使い、地下百メートルあたりシェルターを作り、そこにシフトムーブ。

 予め、ギル。プレシア。シャマルと打ち合わせていた『邪神消滅』を思わせる茶番を行っていた。

 真実味を出す為。そして、それがばれないように子ども組やシャマルを除く守護騎士達には知らせていない。

 ギル・グレアムはリーゼロッテ・アリアに通信を一時的にきらせていたが、その間にシャマルやプレシア。そして裕に予め予定していた茶番『プランF』を始動。

 守護騎士達やはあの時必死になって邪神を助けようとしていた二人が羞恥で顔が上げられない様子をただただ見守る事しか出来なかった。

 

 『最後まで見ている。それが私を救ってくれた神に対するせめてもの礼だ』

 

 「どうしてここでリプレイ画面を出す?!」

 

 「いや、主である『うっかりはやてえ』が羞恥に悶えているのにお姉さん。リインフォースさんが悶えていないのはどうよと思って」

 

 「そんな水戸黄門に出てきそうな名前で呼ばない方がいいよ」

 

 銀髪美人ことリインフォースは邪神である裕が回収されるまで失意の彼女達が二度とこんな事にならないようにと名付けた事だが、三時間もしないうちに再び会いまみえようとは思わなかっただろう。

 はやてを擁護するかのようにすずかが裕の言葉に突っ込みを入れるが、はやてにも非がある。

 

 「そもそもはやてさんが口を滑らせなければこんな事にはならなかったのよ。プランAからEまでは邪神の存在を隠匿する。もしくはゲッターという偶像に押し付けて処理しようとしたのに裕の名前なんか出すから」

 

 「まったくだ。これだからクロノ君やうちのアリアやロッテ。ハラオウン家まで巻き込まれて騙されたんだ」

 

 ギル・グレアムの言う通り。特にクロノはもの凄いとばっちりを受けた。

 当事者でもある裕も思い出すのもはばかられる茶番に付き合わせてしまったのだから。

 

 「・・・うう、だって、裕君やで。いままではっちゃけていたからそのままの勢いでつい」

 

 「あのな、俺だって命の危険があるのにはっちゃけるわけないでしょ。それに前々から言っていたでしょ。厄介事や危険な事には極力関わりたくないって言っていたでしょ」

 

 「・・・そうやけど」

 

 「ちなみにどれくらいの割合ではっちゃけていたの?」

 

 「八割くらいかな」

 

 「ほぼ本気ではっちゃけているやないか」

 

 裕の傍にいると命の危険があるとはわかっていても時々訳が分からなくなることがある。

 しかも自分が苦しめられていた『闇の書』の闇が裕を襲い掛かっていると思わせる場面を見れば焦る。

 その焦りが管理局やはやて達を騙すことになるという事に繋がった。

 敵を騙すにはまず味方から。とは、よく言ったものである。

 

 「だけど、これも一時的なものよ。すぐにでも管理局の調べがついてあなたの素性が割れるわよ?」

 

 「その間にプレシアさんとリンディさん。グレアムさんに俺の身元。その周りを保護してくれる環境を作ってくれればいいよ」

 

 「あんたが管理局に入局してくれればそんなこともしないで済むんだけど」

 

 「いやでござる、いやでござるっ。拙者働きたくないでござる!」

 

 まるで子供の様に。というか子どもなのだが邪神は駄々をこねる。

 というか、先程まで命懸けの事をやり遂げた後なのだ。

 いくら邪神の力を持っているとはいえ、十歳の裕に管理局で働けと言うのは酷だろう。

 しかもJS事件に始まり、『闇の書』事件という命の危機があることを二つもこなせば働きたくないと駄々をこねるのも仕方ないかもしれない。

 

 「ちなみにどれくらいはっちゃけるのを我慢したの?」

 

 「・・・一割くらいかな」

 

 「もう毎日はっちゃけているじゃないか!」

 

 クロノが羞恥と騙されたという怒りで顔を赤くしながら裕に食ってかかる。

 

 「まあ、いろいろな意味で原因ははやてなんだから責めるならはやてにして」

 

 『夜天の書』の主であり、邪神の正体を滑らせた少女であり、茶番をせざるを得ない状況を作り出したのもはやてだ。

 つまり、はやてが悪い。

 

 「うう、裕君はこんな病弱な美少女に色んな罪を課されていくんやね」

 

 「もう病弱(笑)じゃね?」

 

 「なんやとー!・・・確かに足の感触は戻りつつあるけどまだ歩けないから病弱はまちがっとらへんわ」

 

 「微少女(笑)」

 

 「酷いで裕君。うちの、うちの初めてのキッスを奪ったくせに。そんな言い方って・・・」

 

 はやては口元を押さえながら裕から目を逸らす。と、同時に邪神の後ろから三人の少女の腕が伸ばされ肩を掴まれた。

 ここはいつから振り向いてはいけない道になったんだろう?

 JOJOならぬ邪邪の奇妙な冒険?

 

 「裕君、今の話なんだけど」

 

 「はやてがピーピー言うから止める為に」

 

 「無理矢理したんよね・・・」

 

 「・・・裕君?」

 

 「反省も後悔もしていない」

 

 「・・・ユウ。他に言いたいことはある?」

 

 はっはっはっ。そうですな、しいて言うなら・・・。

 

 「嫌がるはやての表情に興奮を覚えました」

 

 「「「ギルティ」」」

 

 幼馴染トリオに連れられて話し合いの場となったお客様用の一室から出ていく邪神。

 彼の顔にはやり遂げたから悔いはないという潔う笑顔があったという。

 

 

 

 邪神はこの後滅茶苦茶セッカンされた。

 

 

 

 もし、邪神のその後を聞くような人たちがいたのなら伝えて欲しい。

 彼は精一杯悔いの無いように生きたと。

 

 

 

 後日、バニングスや月村の家からも、イエーガーズが主催のクリスマスパーティに参加することになった。八神一家とハラオウン親子も含め、参加するために騒がしいパーティー準備が行われることとになった。

 部屋の隅っこで燃え尽きた邪神を無視しながら。

 




 邪神「まだ続くんじゃよ」



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第五十四話 邪神様の軍勢

 
作者:『金髪おっぱいさん』と入力しようとしたら入力ミスで『金はおっぱ遺産』になってしまった。これも邪神の影響だろうか?


 12月23日。

 邪神は自分の陣地にようやくたどり着くことが出来た。

 

 「・・・長かった。とてつもなく長かった」

 

 邪神は幼馴染トリオにグラビアアイドル・コレクション。通称(通な人達に称されているの略)『グラこれ』をはやてにやらかした罰として目の前で焼かれてしまった。

 彼は必死に抵抗した。

 だが、邪神は自分に関する情報を漏らしすぎた。

 WCCは自分が触れている物。もしくは連結された状態といった特殊な条件下でしか発動しない事を知らされてしまったがために、なのはの空中バインドで手足をロックされた状態で宙吊りにされ、目の前でグラこれを焼き払われた。

 その時の邪神の必死な形相は今にも血の涙を噴きだしそうになるくらいに必死だった。それはその時身に着けていた袴を分解して全裸になりながらもなのはの施したバインドを振りほどこうとした。だが、現実は非情だった。

 なんとなのははそれを予期していたのか邪神の全身を覆うようにバインドをかけていた。よく見れば金色と緑色のバインドも施されているところから見てフェイトとユーノも協力するように言われたのだろう。

 WCCを取られたら何もできないのが現世邪神。田神裕は唯一自由に出来たのは自分のお宝が消し炭になっていくのを見届ける目だけだった。

 なんて、ひどい事を。と、幼馴染トリオに目で訴えたが邪神母から『うちの子、なんかマザコンの気があるから・・・』と、欧米人の血が混ざっているハーフグラビアアイドルの写真集の滅却許可を貰っているらしい。

 

 俺、マザコンじゃねえよっ!?

 ただちょっと金ぱつおっぱ遺産が好きなだけだし!!

 

 脳内変換されている日本語がちょっとおかしい事に気が付いた邪神であり、『・・・まさか。・・・いやいや』と思いながらも消し炭になってしまったお宝のショックで真っ白になっていた。

 

 

 

 ・・・そう、思わせていた。

 

 

 

 「・・・くっくっくっ。やはり物をいうのは人脈。金や技術。力を持つ人間との交流よのう」

 

 邪神はとある集団と待ち合わせをしていた。

 場所は海鳴市の経営している図書館の地下に設置された部屋。そこは一般職員でも見逃しがちな部屋だが、大人五十人は入ることが出来る広々とした会議室。

 邪神は懐から怪しげな懐中時計にも似た代物を取り出す。

 それはギル・グレアムとシャマルの共同制作による『魔導師レーダー』。

 カートリッジシステムという特殊な弾丸で一時的に魔導師をブーストすることが出来るらしいが、邪神はこれに管理局の魔道探査に使われた特殊レーダーを小型化したレーダーの動力とし、カートリッジを利用した物で非魔導師である裕にも使える。見た目は七つ集めればどんな願いでも叶えることが出来るボールを探すレーダーの形をしているのは裕の趣味である。

 WCCのおかげでリーゼアリア・ロッテ。クロノの三人が欲しがるほどの精度のレーダーが出来上がった。

 このレーダーと自分自身が身に着けている私服(バニングスさん提供)といつも持ち歩いている懐中時計にWCCで『隠密性アップ』の効果を付与している為、サポートに特化したシャマルか獣の嗅覚をもつアルフ。もしくはザフィーラでなければ裕の後をつけることが出来ない。

 忍者並のステルス性能と戦艦クラスの索敵能力を持った邪神を追い詰めることが出来るのはほんの一握りだろう。

 

 「・・・団長。お待ちしておりました」

 

 「・・・うむ。待たせてすまなかったな。首尾はどうだ?」

 

 薄暗い部屋にぽつぽつと小さな光が灯る。

 その光は準備されたテーブルに等間隔で灯っていき、そこに座っている『イエーガーズ』の男子メンバーの殆どが座っていた。

 その内の一人が裕が部屋に入ってくると同時に上座に位置するテーブル席をずらして着席を促した。

 彼は裕が『闇の書』対策に追われている間にイエーガーズを率いてくれた副団長的存在だった。

 

 「上々といったところです。十月下旬からこれまでにかけて女子達のご機嫌取り。掃除や体育用具のセッティング。更にはお弁当時間の時の席取りなど好感度を上げてきました」

 

 「・・・ほほう。それはそれは。では、明日のクリスマス会に彼女達とのフォークダンスへの興味は」

 

 「ええ。気づかれぬように聞き耳を立てた所、『最近の男子達も優しいし、踊ってもいいかな』と、女子同士で話しているところを何度か確認しています」

 

 「ほうほう」

 

 にやり。と、裕の口角が上がっていくと、話をしている少年のつられてあがっていく。

 彼ら二人だけではない。ここに居る男子メンバー全員の口角が上がっているのだ。

 

 「・・・諸君たちに問おう。我々はリア充か?」

 

 「・・・否です」「俺達には大切な何かがいないから」

 

 「それは何か?」

 

 「・・・可愛い、恋人です!」

 

 悲しみや苦しみ。そして嫉妬で涙をこぼす者達もいた。そんな彼等に邪神は言いきる。

 

 「そうだ。俺達には彼女がいない。そして、今もなお我等が母校の海鳴のクリスマス会では彼女がいない我等にとっては『クリスマス会』ならぬ『苦しみます魔界』に変貌する!」

 

 うわぁああああ~。とか、いやだぁあああああ~。とか、だ、団長がいるなら俺はそれで。とか、最後の言葉により邪神は二重の寒気を感じたが敢えて無視する。

 

 「我等がそうなる理由はモテ男がいるからだっ。奴等が女の子達を乱獲するからだ!」

 海鳴の街の男女は老若問わず美形が多い。だが、普通な顔のつくりをしている人間もいる。それを考えるとなのはといった幼馴染トリオはかなりの優良物件だと邪神は思った。

 だけど、自分の趣味に寛容の無い女の子はちょっと・・・。

 

 「だが、奴等は足りない。足りなさすぎるんだ!それを考慮すれば俺達にも希望は。いや、勝算はある!」

 

 「そ、それは一体・・・」

 

 「モテ男どもに足りないものは、それは~  情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!

 そしてェなによりもォ------- (異性を意識する)速さが足りない!!」

 

 「「「!!?」」」

 

 団長の。裕の心強い応援は続く。

 

 「奴等は自然とモテてしまうが故に気が付かない。生まれ持った才能。素質だけで女にモテている奴など、女の子にモテたいと努力している我等がいずれは追い越すだろうなど夢にも思っていないだろう!だが、我等はどうだ!クリスマスという気持ちのリミッターが緩む頃を見計らって、地道に女の子達の好感度を上げ、更には準備やセッティングをするという細やかさを見せつけた。その姿に女の子達の心は少なからずときめいたはずだ!」

 

 「・・・お、おお」

 

 「モテ男どもには細工を施したくじで買い出しに行かせているがそれは男同士。もしくは女同士で組んでの事。奴等に付け入り隙などございませんしね」

 

 「お、おおおおっ」

 

 「汚れ仕事から細かい所まで進んで行った君等の所業を見て悪く思う奴等いないだろう。・・・みな、明日は聖戦前夜だが我等にとっては聖戦本番といってもいい。総員、全力で告白しろ。そして、共に歩もうではないか。リア充への道を!」

 

 「「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

 その場にいた全員が裕。そして、副団長の言葉。激励に呼応して声を上げた。

 そんな彼等の様子に裕もまた声を上げて彼等に激励の言葉をかける。

 

 「我等がリア充とは、誰よりも自分好みの女の子と仲良く放課後や休みの日にデートしたり勉強会を開いたりと自分が愛する者と共に過ごしてこそのリア充である!よって、本物のリア充とは友人と恋人が初めてそろってそう言える!」

 

 「「「「「然り!然り!然り!」」」」」

 

 「我等は同胞たちを見捨てない!手助けを行う!なぜならば、その者がリア充になればその相手から我等の未来のリア充相手が見つかる可能性があるからであり、リア充となった我等の同胞との友情もさらに固くなるからだ!」

 

 「「「「「然り!然り!然り!」」」」」

 

 「もう一度問おうっ。我等は何だ!」

 

 「「「「「非モテ!非モテ!非モテ!」」」」」

 

 「共に戦場へと向かう同胞はどうする!」

 

 「「「「「援護!援護!援護!」」」」」

 

 「勝ちをもぎ取った奴等は何をするっ」

 

 「「「「「合コン!合コン!合コン!」」」」」

 

 「顔だけでモテル奴はどうするっ」

 

 「「「「潰せ!潰せ!潰せ!」」」」」

 

 「女の子に囲まれて『いや~、困っちゃうなぁ~』て、ほざく奴を見つけたらっ」

 

 「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」」

 

 邪神の鼓舞によりテンションは最高潮に達した彼はそのままの勢いで話し合いを始めた。

 いつ、どこで、誰が誰に告白してフォークダンスを踊るかとまとめていた。

 そして、そのまとめを終えた彼等は明日に備えてたっぷりと睡眠を取ろう家路につく。

 裕を先頭に背筋を伸ばし手先もピンと揃えて歩いて帰る彼等はまるでどこかの軍勢だと思わせた。と、図書館の司書さん達は語ったという。

 

 「皆、明日は決戦だ。たっぷり寝て明日に備えろよ。以上、解散!」

 

 「「「「「応!」」」」」

 

 交差点で別れていく彼等はまるで長年戦い合った戦友の様だったと近くにいたサラリーマンのおっちゃんは語った。

 




作者:うちの邪神様は馬鹿をやらせると輝くなぁ


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第五十五話 邪神様の聖典。

投稿おくれてすいません。
いや、艦これがね。E-3がね。
未だにクリアできねェええええええ!!


 

 「私、明日。団長に、裕君に告白します」

 

 

 

 裕がイスカンダルしている間、なのは達は女子のみで構成されたイエーガーズと翌日のパーティーの打ち合わせを終えた所だった。

 パーティーの細かい所までイエーガーズ男子で殆ど終えたので備品のチェックと集合時間だけを済ませるだけだった。

 それなのにそれを終えると同時にイエーガーズ№3で女子団員リーダーの森下千冬。ちーちゃんと呼ばれる彼女はなのは達が揃って帰る所に開口一番にそれを伝えた。

 なのは達は何かの冗談かと苦笑しながら彼女と話していたが、彼女の纏う雰囲気は真剣そのものであり、冗談と思えないほど強い目だった。

 

 「団長は今の今まで本当に忙しかったんだと思います。そして、それはあなた達に関係している物だと前々から感じ取っていました」

 

 「ち、ちーちゃん?」

 

 「だからこそ、今、あなた達に伝えておきたいんです。私はユウ君の事が好き。彼の事を何とも思っていないなら。友達以上に想っていないのなら明日は邪魔をしないでください」

 

 黒い髪を肩まで伸ばした文学少女然としたちーちゃんはなのは達を見据えて正面から言いきった。

 

 「ちょ、本気なの・・・」

 

 「はい。だから、私と裕君が付き合うようになったら彼にもうこれ以上ひどい事をしないでください」

 

 「付き合えなかったらひどい事をしていいの?」

 

 「アリシアちゃん、そう言う事じゃなくてね・・・」

 

 アリサはちーちゃんの言葉に気圧され、アリシアは変な事を言うとすずかがそれを嗜めた。こういう所は裕と似ている邪神というのは皆こういう物なのかとフェイトも変な方向に考えていた。

 

 「じゃあ、私も好きっていう」

 

 「ちょ、アリシアまで」

 

 「ただの好き嫌いではなく」

 

 「結婚したいの好きでしょ?」

 

 「あ、アリシア」

 

 先程までおどけていた様子を見せていたアリシアの声室まで真剣なものになっていた。

 

 「そりゃあ、ね。ユウは私達に大きく関わってきた。ユウがいなかったら私達はここに居なかった。だからこそ、ユウを誰かに取られたくない。だからそうなる前に私が取るよ」

 

 「・・・アリシアさん。では、正々堂々勝負です」

 

 「オッケー、望むところだよっ」

 

 アリシアは堅く握手すると先に家に帰るちーちゃんを見送った。

 そんな二人をぼんやり眺めていたなのはをよそにフェイトはアリシアに本気なのかと思いとどまるように言っていた。

 

 「裕君が、誰かにとられる?どこかに行っちゃう・・・?」

 

 「・・・べ、別にアイツが誰と付き合おうと私の知ったことじゃないよ」

 

 「わ、私はいやだな」

 

 幼馴染トリオは慌てふためきながらも家路に帰っていく。

 街並みはすっかりクリスマス一色に染まり、電飾でピカピカと光を灯し、そこを通る人の心も明るくしてくれそうな街並みの中にいるのに彼女達の心は暗い。

 そうだ、いつもこの町の電飾の様に自分達の心光を灯してくれたユウがいなくなる。

 いつでも愉快な空気に変えてくれた邪神が、事も無く地球の危機を、自分達を助けてくれる彼が自分達から離れていく。そう考えていくだけでなのは達の心は裏路地のように薄暗くなった。

 

 「裕君、ちーちゃんが告白したら私達から離れちゃうのかな・・・」

 

 「そ、そんなこと。あり得るわけないじゃないっ。だ、だって、あいつはいくら私がアプローチしてものらりくらりと躱しているのよ、きっと、色恋だって察するわけ…」

 

 「私はアリサがアプローチかけていたのにびっくりだよ」

 

 裕がバニングス邸に加工の依頼をされるたびにちょくちょくと足を運んでいる時にアリサはいろいろと裕の気を引こうとしたが、往来の性格が災いし、いつも素直にならず裕にアイアンクローやボディブロウなどをかましてしまう。悪ふざけが過ぎる裕も悪いのだが・・・。

例としてあげるのならアリサの部屋で裕が待たされているとアリサのベッドの下やら机の下で家探しをしていたり、洋服ダンスに見覚えのないマントを入れたり、何故か緑色のセーラー服を入れたり、模擬刀や鞭などを入れる始末。彼に何の目的があるのかさっぱりだが、何かくだらないを期待しているのだろう。どこから出したのか首輪と犬耳もつけて待機しているんだから・・・。

 

「ユウは体を張って笑いを取りくるタイプだからねぇ。気持ちは分からないでもないかな?」

 

「アリシアはわかるんだ・・・」

 

邪神は邪神を知るという事だろうか。

 

「私だって、綺麗におめかしして裕君を迎えて、感想を聞いても『君が眩しすぎて、何も見えない』とか言いながら携帯で写メを取るばかりだし・・・」

 

すずかはもちろんその写メを削除した。

 裕が所々ではぐらかすのには思い当たる節があるらしい。

 

 「私は裕君の事は好きだよ。いつもふざけてばかりだと思いがちだけどいつも私達の為に一生懸命だもん。それに小さい頃からずっといたんだもん。今更離れられるなんて嫌だよ」

 

 「…でも、森下さんはもうユウにひどい事をしないでって、言っていたけどなのは達、それを我慢できるの?いつも思うけど恥ずかしいのを隠したり、思い通りにいかないからユウにひどい事をしていたのは確かなんでしょ」

 

 「うっ」

 

 「これからはしないようにするよ」

 

 「…努力はするけどアイツ次第よ」

 

 フェイトの言葉に行き詰る幼馴染トリオ。

 

 「じゃあ、私達は明日のパーティーでユウに告白する。抜け駆けは無しでちーちゃんと一緒に告白するでいいかな?」

 

 「うん、それでいいよ」

 

 「私も」

 

 「あいつが誰を選んでも恨みっこなしよ」

 

 今までの事をまとめてアリシアは幼馴染トリオに向かって言う。

 なのは達もそれに問題はないらしい。

 フェイトは自分の姉が裕と付き合うのに不安を覚えているようだが、彼女自身裕に助けてもらった恩がある。それに裕の事は姉程ではないが好きである。それは友人の域を出ないが好意的なものである。

 裕が誰かと付き合う事でこの友人関係が崩れないかと心配していたがそれも無いようだ。

 姉と友達の三人が決意を秘めた瞳で何を思うのか、フェイトは心の中から応援するのであった。

 

 「「「「あ」」」」

 

 「うおっ、お前達。今帰りか」

 

 商店街の本屋から出てきた邪神。裕と遭遇した彼女達は慌てふためく。それは彼も同様で慌てて手にしていた買い物袋を後ろに回す。

 

 「な、なんだ。こんなところで奇遇だな」

 

 あまりにもわかりやすく慌てる態度の裕に幼馴染トリオは怪しげな眼で見ていた。

 

 「ユウ、本屋で何を買ったの」

 

 「そりゃあ、何をっていわれても、ナニを、いや、ナニも」

 

 「・・・裕君」

 

 「健全だから、ちゃんと対象年齢さげたからっ、児童ポルノ法にも引っかかってないから!」

 

 ドサドサ。

 

 裕の必死の自己弁護も空しく、ユウの背中から先程隠したばかりの本が数冊落ちた。

 彼曰く『対象年齢が低く、児童ポルノ法にも引っかかっていない』本。

 

 

 

 褐色レインボー娘写真集(JCアイドル写真集)

 月刊モテ男 DOTEY

 パーティーで許される悪戯集

 

 

 

 フェイトは友人達が先程約束した事が破られる事を心から残念に思うのであった。

 




 聖典の良く末。

 褐色レインボー娘写真集(JCアイドル写真集)
『皆、またな』(本屋に返却)

 パーティーで許される悪戯集
『俺、まだ何もしてねえよ』(本屋に返却)


 月刊モテ男 DOTEY
『助かっ・・・た?』(邪神が死守したのでセーフ)

 目の前で燃やすのは流石に自重した幼馴染トリオでした。


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第五十六話 邪神様のふゅーちゃー

 艦これイベント制覇だ、おらぁっ!
 ようやく落ち着いて小説を書ける&投稿!
 戦果は『丙提督!投稿してもいいけどさ、時間と場所を考えなYO!』
 ・・・うちのダイヤモンドちゃんの笑顔を直視できない。


 時は12月24日。場所は海鳴市の小学校。終業式を終えたその場所は急ピッチでパーティー会場へと変貌させるためにバニングス・月村の両家から貸し出させてもらったメイドや執事の皆さんがセッティングしてくれている。

 執事の中にはやけに力持ちな人がいてテーブルをまとめて十も二十も持っている。外見は盾の守護獣的な人だ。人手が足りないからといってゲストに手伝わせるのはどうだろう?

 

 それはさておき、クリスマス・パーティー。

 それはリア充共が非リアたちに現実を見せつけるという外道極まりない行いであり、非リアとリア充の明暗が分けられる実に忌むべき会合である。

 

 だが、それは昨日までの事。

 今年の邪神。俺は頑張った!

 どれくらい頑張ったかというと「世界を二回も救ったんだぜ!まあ、誰にもそれを言わないがな。どやぁ、俺かっこいいやろ~」

 くっくっくっ。と、思わずにやける両頬が緩みまくっているところで後ろから声をかけられた。

 

 「裕君、声に出てるで」

 

 「俺のカッコよさがか?」

 

 ゲストとしてよんでおいたはやてと八神一家の声を聴いて振り返るとなんだかとても残念な人見ている感じだった。

 

 「いや、残念雰囲気が。気づいていないんか?世界を救ったんだぜとか言っているところから」

 

 「いやん。恥ずかしいところ見られちゃった」

 

 「むしろ残念な所しか見ていないというか・・・」

 

 俺の冗談に冗談で返してくれると思ったら熱のこもっていない瞳で非情な現実を突きつけてきたはやて。

 

 「俺、そこまで残念かな?!」

 

 「いや、まあ、その、うん。・・・まあ、頑張ったよな」

 

 ヴィータのフォローとも思えない言葉に衝撃を受けた裕。

 

 「まあ、そう思わせる為の演技なら分からんでもないが・・・」

 

 「そう言えば、最近、地が出てきているんだよなぁ。イエーガーズの秘宝。グラビア写真集の隠し場所も何故か№3ことちーちゃんを始めとして女子団員。というか、なのはちゃん達によく見つけられるし」

 

 「また燃やされたんか?」

 

 「俺一人だけだったら燃やされていたが他の団員たちもいたから無事だったぜ」

 

 その時のパス回しはとても見事な物だった。それはもう、プロラグビー選手も唸るようなパス回しとランで女子の魔の手から秘宝を守りきった団員達の表情はとてもさわやかなものだった。

 

 「そんな事をしているからもてないんじゃないかしら?」

 

 「だけど、シャマルさんっ。裏表のないの男性はモテるって月刊モテ男にしっかり記載されていて」

 

 「裏も表も残念だから駄目なんじゃないか」

 

 ぐはっ!シグナムさんの言葉に思わず崩れ落ちそうになる。

 お、俺、残念な奴じゃないし。

 リーダーシップは他の団員や先生からも好評化だしっ。

 

 「非モテであったとしてもリーダーだし。非リアじゃないしっ。非モテのリーダーだしっ。・・・げふ」

 

 「自分の言葉にダメージを負ってどうするんだよ・・・」

 

 ちょっと焦って思考と口が合わなかっただけだ。

 

 思考と口が交差(事故)する時、邪神は膝をつく!

 

 カッコよく言っても事態も内容も残念だ。

 しかし、確かに今の俺は残念だ。残念過ぎる!

 

 「お、俺やばいかも・・・。なんだか最近、相手に舐めてもらうようにドジを自ら踏んでいこうとしていた所為か、ドジが癖になっている?!」

 

 「ドジが癖になるって・・・。一体どういう事なんだ?」

 

 「お笑い体質?」

 

 「ドジは癖になるもんじゃありません!生まれ持った特徴です!」

 

 「はいはい。ファリンはちょっと黙っていようね」

 

 リインフォースは呆れ顔で見てくる。ちょっぴりゾクッてきた。って、いかんよっ。マジで!はやての言葉に反論しようとすればするほど自分の残念さが明確になってくる。

 後ろで天然ドジっ子メイドのファリンが有能メイドのノエルに引きずられていく。ドジっ子のという割にはスカートの奥にある布を未だに見たことが無い。くっ、これがメイド服(ロングスカート)の力か!

 

 「・・・俺は、俺は、モテ男に、成れない」

 

 どこぞのマイスターさんの様な言葉をこぼしながら両手を地面について言葉をこぼす邪神の肩にいつの間にか車椅子で近付いてきたはやてが優しく手を置く。

 

 「大丈夫やって、裕君だって、がんばればぷすぅ」

 

 笑い出すのを堪えながら、いや、こらえきれずに肩に手を置いた。

 

 「慰めるならせめて噴き出すのを堪えてくれよ!」

 

 「いや、だって、ぷふぅっ」

 

 「はやてぇえええっ!」

 

 はやての笑いをこらえてプルプルと震えているほっぺたを引っ張ろうとしたが、彼女の繰り出す車椅子裁きは見事なもでスピードはこっちより遅いくせに回避性能はいい。

 

 パーティー会場の準備の邪魔にならないようにはやてと裕はそこらじゅうを駆け巡るのであった。

 

 

 

 はやてとの追いかけっこも20分ほどした後、裕はパーティー参加者の名簿を見ながらチェックを行う。

 そこにはイエーガーズ団員の名前とその保護者の名前。送迎の車の時間に、運ばれてくる料理、プレゼント交換の時間など事細かに書かれたそれは裕が自主的に作った物だった。

 

 「えーと、パーティーに参加する人と来れない人への連絡は~と」

 

 「なんか、裕君、様になっているなぁ。こういうのなれてんの」

 

 「ああ、悪巧m、じゃなくて、悪戯、でもなくて、まあな」

 

 「ああ、もう、この邪神は。・・・もう」

 

 「「こんなやつに辱められたのか私達は」」

 

 「まあまあ」

 

 一秒前までは小学生にしてはしっかりと幹事としてきりっとしていたように見えた裕だが、すぐにその残念さが露呈する。

 はやてが邪神に話しかけ、返ってきた言葉にヴィータはもう彼の弁護のしようがなく、シグナムとリインフォースは落ち込み、それを慰めるシャマルだった。

 

 「参加者といえば、私達なんて本当に無関係やけどほんまにええの?」

 

 「大丈夫だって、ここの校長と教頭には賄賂、じゃなくて話は通している。イエーガーズ関係者だけでやるパーティーだから大丈夫。それにこれからわらわらと団員やその関係者が来るんだ。はやて達の五人や十人どうってことはない。それよりもプレゼント交換に使うブツは持ってきたか?」

 

 もう突っ込まない方がいいだろう。

 はやてはそう思いながら、家から持ってきたプレゼントを自分の膝の上に乗せる。

 

 「出来るだけ手作りがいいって言っていたけど、やっぱりこういう時はちゃんとした物がいいと思って買ってきたんやけど・・・」

 

 「何を言っているんだ、だとえ不器用なものでもそれにお前嘘でもいいから恥ずかしがっている姿の写真を添えて『私が作りました』って、コメントを添えれば大きなお友達が大歓喜だぞ?」

 

 「いろいろとそれはやばそうやな。そういう裕君は手作りなんか?」

 

 「当たり前だろ?俺ってばこういうのは大の得意だからな!」

 

 ふんすっ。と鼻息をこぼしながら綺麗にラッピングされたプレゼント箱をはやてに見せつける様に取り出す。

 

 くちゃあっ。と、生々しい音を立てながら。

 

 「なんやねん今の音は?!絶対にラッピングには向かない物が入っているやろ!」

 

 「何を言っているR-12指定に入るか入らないかの代物だ!」

 

 「はやてちゃんや裕君にはアウトじゃないかしら?」

 

 「大丈夫だから、本当に大丈夫だからっ」

 

 「ますます信用ならないな」

 

 「大事な事なので二回言いました!」

 

 「お前の言葉はどれをとっても怪しいな」

 

 シャマルの言葉に慌てて言葉を重ねるがそれは更に不信を買うだけだった。

 

 「大丈夫だから、ちゃんとテストもしているから!」

 

 「テストって?」

 

 それは裕が準備したプレゼントを使った時のコメントをまとめた物だった。

 

 

 

 通りすがりの邪神さんのコメント。『新しい扉を開けそうになりました』

 夜天の王Aさんのコメント。『言葉にならない未知の感触でした』

 街中を歩いていた烈火の将さんと祝福の風さんのコメント『『くあせpwjkこ?!』』

 

 

 

 「と、被験者の声も上々」

 

 「被験者というか被害者しかいないな」

 

 「というか、中に入っているのは『邪神キッス』やろ!」

 

 触手の生やしたかのように見えるマスクを対象の口の中に入れることにより何とも言えない感触を与える物を思い出した夜天一家は一気に引いた。

 

 「害はないだろ!悪戯するほうには!」

 

 「悪戯前提のプレゼントですか・・・」

 

 「俺らしいでしょ?」

 

 確かに邪神から贈られる物といえそれらしい。だが、それだけだ。

 結局、そのプレゼントは駄目と言われた裕はしぶしぶながら引っ込めた。出さないとも言ってもいないが・・・。

 あと、それから特別ゲストとして何もしない訳にもいかないのでザフィーラ同様に何か手伝いをしようかといいだしたはやてに裕はにこやかな笑顔である衣裳の入った袋を彼女達に渡した。

 

 「じゃあこれを着てパーティーの皆を盛り上げてくれ」

 

 「変な服だったら着ないぞ」

 

 「・・・。大丈夫だってちゃんと俺が着るのと同じ衣裳ペアルックだから」

 

 「ペアって・・・」

 

 「クリスマスでペアルックといえば」

 

 邪神は服を取り出して見せた服。それは赤い服に赤い帽子。そしてミニスカート。そしてハイグレ水着に似た感じの物だ。ハイグレの上からスカートをはくのだが、はかなくても十分。むしろつけない方がいいと強く言う裕。イメージとしてはフェイトのバリアジャケットを参考に作ったらしい。

 もう片方にはトナカイの角と赤くて丸い花と首輪だけという何とも簡素なものだった。

 

 「サンタとトナカイのコスプレだ。レディーファーストで好きな方を選ばせてあげよう。希望としてはトナカイの方をチョイスしてくれると嬉しい」

 

 「ちなみにどうして片方の装飾は少ないんだ?」

 

 裕の意見にヴィータが質問を投げかける。

 ヴィータもはやてからクリスマスという習慣からサンタやトナカイの存在を教えられている。トナカイの装飾の少なさに違和感を覚えたヴィータの質問に裕は静かに答えた。

 

 「ヴィータ。サンタさんやトナカイは知っているな?」

 

 「ああ、はやてから教えてもらったけど・・・」

 

 「サンタさんは赤い服を着ているな」

 

 「そうだけど・・・。まさかっ」

 

 「トナカイは動物。服を着ない。そのコスプレをする。合法的にその裸体をををををををぉWOWOW!?シグナムさんのゴッドフィンガーがめり込むめり込む!」

 

 「無論、サンタを選ばせてもらう!」

 

 ミシミシと軋む音を内部から感じさせるシグナムの握力にしばらく苦しめられた裕を補降り投げるとシグナムはサンタ服の方に手を伸ばし、そのまま苦笑しているシャマルとシグナム同様に羞恥で顔を赤くしたリインフォースを連れて普段は女子学生たちが着替える更衣室にのっしのっしと歩いて行った。

 その後ろ姿をちらりと確認した裕はにやりと口角を上げた。

 

 かかったな、この間抜けが!お前はこの邪神との知恵比べで負けたのだ!サンタかトナカイの二択しかないと思ったのがお前達の敗因だ!すべてはお姉様であるお前達のサンタコスチュームを拝むための布石よ!このクリスマスパーティーにお呼ばれされた時点でそれを着込むフューチャーだったんだよ!その着やせする体型に隠されたムチムチバディを披露するというふゅーちゃーにな!そのサンタ服は予めはやてから聞かされた体のサイズ。個人情報保護の為に黙っておくが一回り小さくしているっ。着れない事はないが体のラインが確実に浮かび上がる代物よ!「そのムチムチバディを拝見させるがいい!サンタもトナカイのコスプレをしないとは言えんよな!断れんよな!なぜならばこの場、っ、このクリスマスパーティーという雰囲気に呑まれ、はやてが楽しみにしているこのイベントに水を差す真似なんて出来ないよな!凄いよ!このクリスマスパーティー凄いよ!流石リア充空間への登竜門!全体的に楽しげな雰囲気を作りだし、その雰囲気をぶち壊してはもったいないと言わんばかりのイルミネーションにパーティー料理!これがゲレンデマジックという物かぁ!WRYYYYYYY!!最高にハイってやつだぁあああああ!」

 

 「裕、裕」

 

 「どうした、ヴィータ?」

 

 ヴィータがつんつんと裕をつついて正気に戻す。

 

 「声に出ているぞ」

 

 「え?どの辺から?」

 

 「ムチムチバディという所から」

 

 「俺の作戦丸見えじゃないかっ」

 

 「まあ、シグナム達には聞こえてへんようやけど」

 

 「まあ、たとえ聞こえていたとしてももう断る事などできんがな!」

 

 ふぅわはっはっはっは。と、勝ち誇った裕を再度つつくヴィータ。

 

 「裕、裕」

 

 「どうした、ヴィータ?」

 

 ヴィータは黙ってとある場所を指さす。

 そこには幼馴染トリオ&テスタロッサ姉妹が静かに笑う姿があった。

 

 「・・・OH」

 

 自分の残念さをこんなに恨んだことはない。

 そう、自分の残念なフューチャーを呪う邪神だった。



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第五十七話 邪神様に 1.告白する  →2.告白しない

 とある少女の選択肢。
 本編では2を選択しているのでまずはこちらからどうぞ。



 まるでス○イダーマンのようなマスクとかぶった赤いビキニだけをつけた少年が体育館の舞台の上でまるでプロレスラーの様にマイクを持ち、パーティー会場にいた人達の視線を集める。その行動に彼の後ろにいたマスクの集団達も彼の行動に付き合うように拳を天に突き上げた。

 

 

 

 「会場良し!料理良し!参加者殆ど集合!野郎どもぉ、クリスマス・パーティーの準備は十分かぁああああっ!」

 

 「「「いいですぜっ!団長!」」」

 

 それはまるでプロレスがこれから行われようとしているような光景だった。

 だが、知ってるか?

 彼等がいる場所ってば、クリスマス・パーティーが開かれようとしている小学校の体育館なんだぜ?

 

 「良いわけあるかぁああああっ!なによ、その格好はぁああああっ!」

 

 「ぐふぅっ?!」

 

 「「「だ、団ちょおおおおうっ!」」」

 

 アリサの放ったドロップキックが綺麗に赤いビキニをつけた少年。現世邪神である俺の腹に突き刺さりながら部隊の端へとそのまま転がっていった。

 俺は運命に打ち勝った。

 ではなく、あまりにもひどい仕打ちを受ける前にフェイトが幼馴染トリオ&姉を止めてくれた。

 フェイトたそマジ天使。いや、なにその視線。マジで感謝してますですのよ事よ?そんな呆れたような目をしてないで、助けて。

 

 「今からパーティーだというのになんて格好しているよ!」

 

 「なんの格好と言われても・・・。クリスマス・パーティー二次会用のコスチュームだけど」

 

 「なんで二次会のコスチュームをもう着ているの?」

 

 一般人では買うどころか触ることもはばかれそうなほど綺麗なドレスを纏ったアリサにドロップキックを喰らい、舞台裏から現れたすずかもまた綺麗なドレスを着ていた。ナイトドレスというものか?アリサは黒、すずかは白のドレスをつけている。

 このパーティーはバニングスと月村がパーティーに出る食事と貸衣装持ち。テスタロッサはパーティー終了時に清掃業。というか、次世代型ゲッター(ステルス状態)の試運転も兼ねた清掃作業。高町からは特製のクリスマスケーキと、結構な有力者たちが出資してくれている。裏ではギル・グレアムさんやハラオウン家の善意ではやて達の事を嗅ぎまわろうとしている輩の警戒に出ているといった警備面もばっちりである。

 さて、話を戻してすずか嬢の質問に答えるとしよう。それは、お前達が無理矢理、俺を、ひん剥こうとを・・・。何でもないです。べ、別にすずか嬢の視線に怯えたわけじゃないんだからね!

 

 「せっかくパパや忍さんが準備してくれたスーツが沢山あるのにそれを着ないのよ」

 

 だって自分で用意した衣装は着たいじゃん?あと残っているのっていえばトナカイコス(全裸+鹿角のみ)。またの名を全裸せんと君しかないよ?

 

 「俺、何にも縛られたくないんだ。縄でなら縛られたいんだ」

 

 「だからといっても解放感ありすぎるよその格好。あと、荒縄でいい?」

 

 俺のボケに対して懇切丁寧にかつ優しくツッコミを入れてくるすずか嬢。成長したなぁ。あ、最初は優しく、じゃなくて縛らないで、縛らないで。公開プレイは俺達にはまだ早すぎる!

 

 「あと、何よその格好は・・・」

 

 「この格好?この格好はだな・・・。聞いて驚け、この姿こそ、非モテ男達の英雄!その名もぉおおおお~~~~っ、『しっとマスク』だぁっ!」

 

 ひゅぱっと立ちあがりながら綺麗にポージングを取りながら答える俺の姿にイエーガーズ男子団員が歓声を上げる。

 

 「非モテたちの目の前で無駄にいちゃつくカップルに外道な手段で制裁を加える非モテの星!」

 

 「それって、たたの八つ当たりよね?」

 

 「地獄の底から舞い戻った救いのヒーロー!」

 

 「まず自分を救い出そうよ。あと、地獄に落ちていたの?」

 

 「餓鬼、畜生、地獄、修羅、人間道を極めた正義(非モテ限定)の味方!それがすぃいいっとぅ、マァアアアアスクゥアアアアアアア!」(巻き舌調)

 

 「きっとその人は絶対に天道は極めきれないわね」

 

 アリサとすずかは呆れ顔になりながらも俺を解放してくれた。

 変態ルック(自覚あり)な俺から距離を取ろうという思惑があるのだろうか?まあ、それはそれで構わない。何故ならばこの後に催されるイベントは告白大合戦だからな!

 パーティーの序盤からいきなりクライマックスだと?何を言うかと思えば、人生初だってクライマックスなのさ!それに表向きはビンゴ大会の様になっているが、じつはお目当ての女子が見事ビンゴした時、特別賞としてイエーガーズ団員からの愛の告白付きで商品を授与されることになっている。イベントに乗じて告白無事に受け取ってもらえれば後でビンタ付きの祝福の言葉を贈る事になっている。失敗したとしても『その場の雰囲気でしちゃっただけなんだからねっ』と言い訳して二次会で涙滂沱の歌を歌えばいい。『三年目の浮気』でも『ガラスの少年』でもオールナイト歌い尽くそう!敗れ去った兵達は潔くリア充共の怨嗟を呟けばいいのだから!

ちなみに幼馴染トリオ&テスタロッサ姉妹はもちろん、他の女子団員達への愛の告白。更にはゲストとして招き入れた八神一家のうちの誰かにでもOKだ。前もって男子団員との打ち合わせ済み、きっと大合唱でアイの歌が歌われるのだろう。哀でない事を祈る!

・・・あ。と、その前にマイクテスト。マイクテスト。マイクチェックの時間だ!おらぁっ!ではなく、おーい、ちゃんと回線繋げているかーい。今回風邪や家族で過ごすメンバーにもこのイベントには参加できるようにプレシアさんと忍さんに技術提供として携帯電話越しにでもこのビンゴには参加できるようになっている。ビンゴ用紙は既に発送済み。電話でちゃんと届いているのも確認しているから大丈夫。不正が無いようにちゃんとビンゴ用紙は写メで送るように!

 

 「もごぉ!もーごごもごもごご!」(さあ、パーティーの始まりだ!)

 

 「ユウ、なんで口元を押さえながら喋っているの?」

 

 「あ、いや、ねぇ。俺もちゃんと学習しているんだよ。悪巧みを考えていると口に出ているみたいだから口元を押さえているのさ!さらに言うんであれば表情にも出るからマスクをかぶっているのさ!」

 

 「裕君、ダウトや」

 

 ・・・しまった。見事にフェイトの誘導尋問に引っかかってしまった。

はやての指摘に気が付かなければずっと騙されていた。・・・フェイト、恐ろしい子!

 

 「裕君がただチョロいだけだと思うの」

 

 「・・・なのはちゃんにまでチョロいって言われる俺って」

 

 「にゃっ。どういうことなの裕君!」

 

 「だが、思い通りにいくと思うなよ!たとえこの俺を訊問できても第二第三の俺が」

 

 「呼んだ?」

 

 「お姉ちゃんは呼んでないよ。ああ、もう、そんなにお皿に持ったら零しちゃう」

 

 「そもそも今の台詞じゃ詰んでいるで」

 

 くっ、認めたくない現実が俺を苦しめる!

 憤るなのはちゃんの後ろで既にお皿に山盛りの御馳走を持ったアリシアにフェイトが駆け寄り、はやてが俺を残念な子を見るような目で見ている。お、俺、チョロくねえもん!

 若干涙目の裕の姿を見て『やっぱちょろいやろ』と思いはしたものの出すのはやめた。いやだってもう自分のチョロさに泣きそうだったから・・・。




1. 告白する。を選択した場合。

森下家に舞い降りた邪神

 ここで一つの物語を語ろう。
 邪神に恋した少女の物語を。



 少女は元々病弱だった。
 体が弱いからなかなか学校に行けず、また友達も作りづらく、今でも初見の人と会うと距離を取ることも多い、引っ込み思案な少女だった。
 そんな彼女を変えたのは七歳になったばかりの邪神。田神裕だった。
 少女が授業中に風邪による高熱で倒れた。倒れると同時に抗いようのない嘔吐感に負けて吐瀉物に顔や制服を汚してしまった。そんな彼女の様子に誰もが悲鳴にも似たような声を上げて彼女から離れて行った。邪神以外は。

 『俺に任せろ!』

 そう言うなり彼は汚れる事を考えていないのかすぐさまおぶさり、保健室へと直行した。その途中でまた嘔吐してしまった少女は恥ずかしさと申し訳なさ。そして、裕の背中をさらに汚してしまったことに涙を零しながら謝った。彼から帰ってきた言葉は慰めでもなければ謙遜でもなかった。

 『ありがとな』

 まさか感謝の言葉が返って来るなんて思ってもみなかった。彼と付き合って一年経った今でもあの言葉を発する彼はいわゆる変態なんじゃないかと考えさせる物だった。
 保健室に連れて行かれ、なんでありがとうと感謝の言葉を言ったのか聞いてみると彼曰く『馬鹿は風邪をひかない』という事を女友達に言われたらしい。

 少女の吐瀉物の付着 → それによる風邪の感染 → 風邪をひく → 『俺馬鹿じゃない』どやぁ

 それを証明したいという何とも間抜けで馬鹿な理由だ。まるで風邪を引いているのなら誰でも助けるというそんな彼の優しさと馬鹿さ加減を垣間見た気がした。
 何故なら彼は自分の使っていないジャージを私に貸し、彼自身は自分の吐瀉物で汚れてしまった上着を脱いで肌着のまま家に帰ったのだから。
 翌日、彼は当然の様に風邪を引いた。保健室には半袖とはいえ夏服の制服があることを知っているにもかかわらず肌着のまま帰ったのだから。後日、「あんたはやっぱり馬鹿だ」とその女友達に言われたらしい。
 その日から彼になんとなくくっついて行動するようになった。彼の馬鹿な行動の裏には何かと人の縁がある。それは自分と同じように彼に付いて行きたいと思わせるものが男女問わずついていた。
 気が付けばイエーガーズという少年探偵団を思わせるグループを作り、彼の女友達を助けるためのグループの参謀役を任されるという無茶ぶりもされた。・・・体が弱いから頭を使えとかひどい団長だ。だけど、こなせるようにさりげないフォローやサポートしてくれたのを覚えている。
 『計算づくされた馬鹿騒ぎ』。そう感じ取るまでそんなに時間はかからなかった。
 そんな彼の周りには彼の言う美少女とも言ってもいい女友達が沢山いる。彼もそんな彼女達が気になるのだろう。だからこそ彼女達を助ける団体を作った。
 だけど、その団体を通して広がる友人の輪。そして、彼を独占したいという卑しくも狂おしい恋心も広がっていった。
 彼がしばらくの間学校に来なくなった時期がある。それを終えると同時に彼はまた魅力的な少女を紹介してきた。悪く言えば節操なしな彼だが、その連れて来た彼女と彼女の家族も訳有なのだろう。今度のクリスマスパーティーに参加するから皆仲良くするんだぞー。と、幼稚園の先生みたいな紹介をする彼の傍でふざけ合う少女。はやてさんの存在。
 一番付き合いが長い高町さん。何かと性格が似ているアリシアさんが一番恋人になりそうな気配がしていたけど、はやてさんが一番近い気がする。
 なんというか彼との間に遠慮が無いのだ。
 高町さんは団長に助けられた恩があるからかなかなか進もうとしない。
 アリシアさんの場合は団長の方が彼女に遠慮している。
 それに比べてはやてはどうだ。遠慮なくお互いに馬鹿を言いあっている。それは心を許しているといっても過言ではないのではないか。
 団員の皆と馬鹿騒ぎするときは『計算された馬鹿騒ぎ』感を覚えさせられるのに対してはやてさんに対してはそれが無い。つまり彼女が特別な存在なのではないかと勘繰ってしまう。
 だから決意した。クリスマスパーティーに団長に告白しようと魅力的な少女に囲まれた彼のめがねにかなうとは思っていない。だけど、万が一という可能性も有る。一応、これでも男子団員から告白やラブレターを貰ったこともあるから私も少しは可愛いのかなともう。一応、告白は全部丁寧に断った。教室に帰ってきたらで団長と他の団員達がハンカチを噛んでいた。

「き~、妬ましい~」とか。「あの子ってばまたラブレターを貰ったそうよ~」とか。「いーなー、俺もほしいなー」「お前にくれる女の子なんていないよ」「男子からの手紙は?・・・ありかもしれんな」「俺、パス」「俺もパス」「え、俺もう書いちゃったよ」「誰に渡すんだ?」「お前達にさ」「「「・・・・え」」」。

 馬鹿騒ぎしていた彼等に一枚ずつ手紙を渡していく裕。何故か顔を赤らめて・・・。
彼からもらった手紙に書かれていたのは、

『俺達、ずっと友達でいようね』

 「「「だ、だんちょぉおおおおっ!」」」

 「俺達ずっと友達だかんなぁああ!」

 まるでラグビーの様なタックルからの抱擁に男の友情というものを垣間見た瞬間だった。
 相手に恩を着させない彼に心惹かれるのは男女問わずだ。
 そんな彼に一代決心して告白しようとしたクリスマスイブの日。この日に自分の貧弱さを感じたことはない。

 「・・・けほっ」

 「・・・38.9度。今日のパーティーは諦めなさい。お母さんが電話で断りの電話を送るから」

 「・・・お母さん」

 「駄目よ」

 せっかく彼に告白しようとした矢先に風邪を引いた私は終業式を家で迎えることになった。お母さんは私を気遣ってベッドに押しやるとリビングの方へと歩いて行った。
 それと同時に私の携帯に一通のメールが入る。

 『今からそっちへ行きます。










                  待っててね?』

 怖っ?!なんでこんな風に行間とスペースを開けたメールを送るんだろう。時々自分達を率いる団長の思考回路に驚かされる。
 彼の奇行と彼に率いられる男子団員の奇行には慣れてきたところに不意打ちをかましてくる。
 そんな事を考えているとドアのインタホーンが鳴った。

 『ちぃ~~ちゃん。遊びましょ~』

 「千冬っ、110番!変なマスクをかぶった赤い海パン少年が人差し指を空に向けながら家の前にいるわ!」

 その変な海パン少年が団長だとしても私は驚かない。
 千冬はそんな思いのまま母親を落ち着かせるために裕について説明しようとして、ふと足が止まった。
 どう、説明すればいいのかと・・・。



 「と、言う訳でパーティー不参加の人達にも前もってこのビンゴ用紙を持ってきたという訳なのです!」

 エッヘンと胸を張る海パンマスクこと田神裕はお見舞いも兼ねて来たらしくビンゴ用紙を千冬と森下母。今から帰ってくるだろう森下父の分も通された客間で彼女達に渡す。

 「どうしてそんな恰好をしているのかしら?」

 「パーティー不参加の人にパーティー分のサプライズをと」

 森下母の疑問はもっともだ。娘からはとても愉快な少年とその仲間達とで遊んでいると聞かされているがこんな奇行をしていると思われると付き合いを考える様に言われるかも。最悪の場合隔離とか・・・。裕の場合は本当にありえそうで怖い。

 「それはいいんだけど。・・・田神君、マスクを取ったらどうかしら?」

 「え~、そんな事をしたら身元がばれちゃう~」

 恥ずかしそうに身をくねらせながら言う裕。むしろ真冬にマスク装備で海パン一丁の少年が街中を闊歩している方が身元を特定されそうだ。

 「寒くないの?」

 「このホットパンツ(WCCで耐寒性能UP)をはいているから大丈夫っ」

 シャキーンッ。と、ナイスポーズをしながらそう言い放つ彼はどこか誇らしげだった。
 WCCの事など知りもしない森下親子は早々に彼の格好について言及することを諦めた。

 「そ、それじゃあ、お茶でも出しましょうかね?」

 「あ、お構いなく。これを渡したらすぐパーティー会場に戻りますので。早く戻らないとすずかちゃんとかに心配かけちゃうんで」

 変態的な格好なのに紳士的に断りを入れる彼の事を俗にいう『変態紳士』のだろうか。
 外にはここまで来るまで送ってくれた月村邸のメイド。ノエルを待たせている裕は早く戻らないと彼女の主であるすずかや待たせているほかのメンバーに心配をかけてしまうと思っての発言だが、特定の女子の名前が出てきた瞬間に千冬は風邪以外の熱で顔を赤くした。
それは自分からなのは達にした約束を忘れさせるほどに焦りと嫉妬。そして恋心だった。

 「ま、まあそう言わず。お茶の一杯でも飲んでいってくださいな」

 「あ、それじゃあ、一杯だけ」

 日本人の性なのか、一杯のお茶だけを出して裕にはパーティー会場に戻ってもらおうと千冬母は台所へと向かった同時に千冬は裕を押し倒した。それは彼女の母親には見えないタイミングで。彼が座っていたのは割と質のいいソファーだったのか押し倒した音は母親には聞かれてなく、押し倒したことも気取られていない。そこから一気に裕のつけているマスクを取り、彼の顔を確認した後考えなしに自分の唇を彼の唇に押し付けた。

 「・・・ち、ちーちゃん??」

 自分が何をされたのか分からないのか裕はきょとんとした顔を見せたが、すぐに気づき顔を赤くした。
 風邪がうつった訳ではない。自分がした行動が彼にしっかり伝わった事を実感した千冬はそのままの勢いで彼の顔を見つめてこう言った。



 「好きです。裕君。私の恋人になってください」



 その日以来、邪神がしっとマスクをかぶることは無かった。


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第五十八話 もっとやれ!邪神様のLPはゼロよ!

 邪神の音頭で始まったクリスマス・パーティー。

 パーティー開始直後にビンゴのガラガラは回り始めた。

 体育館全体を使ってのその会場にはカラオケマシン(WCCで加工済み)を始めとして貸衣装で普段は着れないようなドレスやコスチューム(使用後はWCCで仕立て直す)を見に纏ったイエーガーズ団員とその家族。関係者で二百人近い人達が聖夜を楽しんでいた。聖夜の催し物の殆どに邪神の手が及んでいるのはいかがなものだろう。そして、邪神の思惑により、一つの催し物が開始されていた。

 

 「次の番号は~~~っ、19!19番ですっ」

 

 「はいっ。ビンゴッ!ビンゴです!」

 

 また一人イエーガーズ団員女子のビンゴ用紙に一つの列が作られた。それを持って壇上に山盛りにされた景品のうちの一つを男子団員の手によって授与される。と、同時に愛の告白が始まる。

 

 「団員№31ちゃんっ。恋人として付き合ってください!」

 

 「いや、団員№31っ。俺と付き合ってくれ!」

 

 「せめて名前で呼んでほしいよっ!」

 

 スパーンッ。スパーンッ。と景気の良い音を立てて頭を叩かれた団員二名の恋は儚く散る。そんな光景を男子団員達はもう七回は見ている。

 次にビンゴする女子は誰だ?それは自分が恋してやまない相手なのか?それともリーチなのか?告白する勇気が無いからどうかビンゴしないでくださいと願う団員達も出てくる中、邪神様の視線が弱気になっている団員達に突き刺さる。

 

 『団長の権限を持って命ずる!全団員は時期が来たらすべて告白すべし!』と、

 

 そう言っているような目だった。

 団長命令。それは十にも満たない子ども達には抗いにくい強制力を持ったギアス。

 

 『重ねて団長の権限で命ずるっ。散って行った者達の想いを無駄にするな!』

 

 先に散って行った団員達のおかげで『場の流れ』が出来ているその流れに合わせて行けば上手くいくかもしれない。だが、だが、それでも怖いのだ。自分の想いが叶わないかもしれないという恐怖が彼等の肩にのしかかる。そんな時だった。

 特別ゲストとしてよばれた八神家の女性の一人が見事にビンゴを引き当てた。銀髪のその女性は大人陣営では初のビンゴ達成者である為か少しおどおどしながら壇上に上がっていく。

その女性を確認した後邪神が、男子団員達の前をコツコツと小さい音を立てながら真っ直ぐ突き進んでいく。その様子を彼等は見て確信した。あの女性が団長の目的の女性なのだと。

 そして、その背中からこう言っているようにも見えた。

 

 『さらに重ねて全ての団員に命じる。共に歩もう!リア中の道を!』と、

 『男には負けるとわかっていてもやらねばならない時がある』とも言っているようにも見えた。

 

 「「「「「だ、だんんちょおおおおおおおおっ」」」」

 

 自分達の前を歩いていく彼の姿はまさに先駆者(ヴァンガード)だった。

 

 

 

 「・・・負ける事は確定なんだ」

 

 「まあ、私としてはその方が都合がいいけど」

 

 それを言ったらおしまいだ。プレゼントの補充にやってきたテスタロッサ姉妹に唇の前に指を立てて言わないようにと注意する男子団員達だった。

 

 

 

 おいっ、デュエルしろよ。

 八神家長女に位置するリインフォースさんサンタコスチュームバージョン。着なれない服だからかスカートの端を押さえながら姿に俺の攻撃力。もとい、告白力が50%アップする。さあ、受けてもらうぞリインフォースさん。俺からの告白(アタック)を。

 

 「第一印象の外見だけで決めましたっ。付き合ってください!」

 

 「『外見だけ』って、どういう意味だ馬鹿物がっ」

 

 邪神様 攻撃力300! VS リインフォース 防御力2100!

 

 って、弱っ!

 50%上がって攻撃力が300って、弱すぎる!

 スパーンッ。先程見た光景が再び繰り広げられていた。どうやら邪神様の告白は失敗に終わったらしい。だが、邪神様のターンは終わっちゃいないぜ!フィールド魔法『クリスマス・パーティー』の効果で俺のライフにダメージを与えても俺自体は破壊されない。てか、破壊されたら怖いわっ。

 

 「次の番号は~~、60番。60番です!」

 

 「・・・ビンゴだ」

 

 んも~、景品がもらえるんだからそんな嫌そうな顔をしないの。いくら賞品を授与するのが俺だからって・・・。

 ムチムチバディで少し小さめのサンタコスチュームで団員はもちろん、その父兄たちからも黄色い声が上がる。後に締め上げられる悲鳴にも変わるが・・・。

 俺の視線から自分の体を隠したいのか出来るだけ腕を体に回しているのは逆にエロスを感じる。そうっ、日本人の萌えという感情は見えないからこそ掻き立てられMO☆SO♡から来るものである。

 

 「その恥じらう姿にS心を刺激されました!これからも辱めていくのでよろしくお願いします!」

 

 「それに答えるような被虐嗜好に見えるのか私は!」

 

 邪神様 攻撃力450! VS シグナム 防御力2300!

 

 邪神様の残りライフは250!もう、後が無いよ、俺!

 あと、どちらかといえばお前がMだろ?どMだろ?という視線があちこちから飛んで来るが俺、どMじゃねよっ。ソフトMだっ。略してSMだっ。

 

 「・・・リアさん、お宅のお子さんが変態的な格好でいろんな女性たちに声をかけているのですけれどよろしいのですか?」

 

 「私は一向に構わない!突き進め息子よ!」

 

 高町夫妻が私のお母様こと田神リアはワイングラスを片手に顔を真っ赤にしながら俺を応援してくる。あ、お母様がお酒を飲むと色々とタガが外れるんだよね。いろいろと。というかエロエロに・・・。

 

 「洋(ひろし)さん?またお酒が進んでないじゃない?」

 

 「いや、リア。私はこれで二樽目なんだが・・・」

 

 ド派手というか胸元を大きく開いたドレスを着こんだお母様の隣に立っている頭が少し透けて見える40代後半のサラリーマン然とした男性に蛇のように絡むお母さま。

 サラリーマン風の男性は俺の父上殿だ。というか、自分の体積よりも多いはずの樽を空にする父上の成分の半分は優しさとアルコールで出来ているんだろう。この二人が出会ったのはいわゆるお水な商売の場で、接待としてきた父上の飲みっぷりに惚れたお母様がむすばれた。お酒で繋がった二人だ。真面目一辺倒の父上だがお酒に関しては無双できる。それは魔法を使い始めたなのはちゃんの勢いにも勝るとも劣らない。そして、べろんべろんに酔っぱらったお母様は飢えた大神もとい狼のごとく父上に求愛行動をする。ちなみに酔っぱらったお母様に父上以外の男性が近づいたら握りつぶされるぞ。何をって?ナニをだよ。少し前に地域の飲み会で酔っぱらったお母様に邪な考えを持って近付いた五十代独身のSさんは三十年以上も務めていた建築業を辞めてオカマバーで働いているぞ。

 

 「私のお酒が飲めないっていうのか?というか、私がお酒飲めないってか?」

 

 メイドさん達もきっと上等なワインをグラスじゃなくジョッキで持ってくるが片っ端に父上が飲み干していく。お母様がこれ以上飲んだらドレスを脱いで邪神の弟か妹を作成する作業に移ってしまうからだ。OK、父上。今年はイエーガーズの皆とオールナイトで歌ってくるから。父上もお母さまを連れてオールナイトで歌っても大丈夫だから。あ、美少女な妹希望で。

 

 「・・・この親にして子ありか」

 

 そして高町夫妻は俺の行動を止めることを諦める。大人って大変だよね。世間体ってやつがさ。お酒が入るとそれが無くなるけどね。あ、ちなみに変態行動とは相手を不快に思わせたり、訴えられない限り『変態』にはならないらしいよ。たぶんね。そして、次に美人さんがビンゴした時が俺のファイナルターン!性行率もとい成功率は低いが0出ない限り諦めない。まあ、可能性としては0.00000000001%だがな!

 

 「次は7番!7番です!」

 

 俺という海パンマスクが隣にいるというのに司会進行を平然と務めるイエーガーズ女子団員№10もだいぶ成長したなぁ。ツッコミが無い分ちょっとさみしい・・・。

 

 「・・・・・・・・・ビンゴよ♪」

 

 俺に告白されると思ったのか、それともその方が面白いと思ったのか声色が明るい美人さん(確定)の声が聞こえた。ふふふ、知っているか、非リアの執念っていうのは立ち直るには時間がかかるが立ち直った時の戦闘能力がその都度あがっていくことをっ!その上がった戦闘能力はリア充へと至る事が出来る存在へと進化していくことを。そう、今の俺はスーパー邪神様だ!見ていろ皆(男子団員)っ、これが俺のファイナルターンだ!

 

 

 

 邪神様 攻撃力675! VS 月村忍 防御力3500!

 

 

 

 「・・・なん、だと・・・?」

 

 「あらあら、私には告白してくれないのかしら?」

 

 にこにこと微笑むのはその馬鹿げた防御能力の所為か。これがリア充とそうでないものの差だというのか?そして、気づく。いや、気づいてしまった。彼女の左手に光る物体に。あ、あれは『こんやくゆびわ』というものではないか!?ばっと会場を見渡し高町恭也が呆れた顔でこちらを見ている姿を彼の左手にも光る『こんやくゆびわ』を!そして彼が『リア充力は53万です』という気迫を持っていることを。

 

 「・・・あ、うあああ」

 

 「あらあら」

 

 邪神様は知ってしまった。自分がどうしても勝てない存在に。

 リア中の中でも過酷な運命に抗い、打ち勝ち、そして美女や美少女に囲まれて生涯を過ごす伝説のリア充。奴が、奴が伝説の・・・。

 

 月村忍の特殊効果発動。彼女がアタックされた際、『高町恭也がいるのなら彼の防御力を足してよい』

 

 高町恭也の防御力は・・・530000!

 月村忍の防御力と合わせて533500!

 

 邪神は泣いた。

 改めて見せつけられた彼との圧倒的な差に悔しくて泣いた。

 

 団員達が何やら騒いでいるが俺には聞こえない。あまりのリア充力に聴覚が遮断されているのだろう。だが、口の動きから察するに、「もうやめて、団長のLPゼロよ!」だろう。

 

 月村忍の反撃!

 

 「ごめんなさいね。私達来年籍を入れるの♪」

 

 崩れ落ちていく邪神は薄れていく意識の中。最後に高町恭也の姿を見た。彼は呆れ顔だがその気迫には『私には美少女な義理の妹二人いる。この意味が分かるな?』といっているようにも見えた。そして、最後の力を振り絞って叫んだ。

 

 

 

 「恭也さんの、恭也さんのエロゲしゅじんこぉおおおおおおおおおうっ!!」

 

 

 

 邪神があまりにも失礼な一言を吐き捨てた為、恭也が人外なスピードで裕の頭を張り倒した。その一撃とこれまで受けてきた精神ダメージ(自爆)が大きかったのか気絶した裕は保健室へと運ばれた。ちなみに田神夫妻はそんな息子の末路を見届けることなく、メイドさん達に二次会の準備とお願いを済ませた後、その二次会が終わり次第迎えに行くまでホテルで休憩してくるそうだ。邪神の妹か弟爆誕待ったなしである。

 

 「・・・あいつは本当にモテる気があるのかしら?」

 

 「団長が持っていた『月刊モテ男』には自分に正直にと明記されていたんですが、何か間違っていましたでしょうかバニングスさん?」

 

 「あれになびく女の子ってなかなかいないんじゃないかな?」

 

 アリサの言葉に男子団員の一人が答えるが、その答えにすずかが苦笑しながら答える。

 裕は連続で女性に告白していたが、もしビンゴしたのが彼に想いを寄せる自分達あったらどうなっていただろうか?

 

 「私は、あんな状態だったら断るな・・・」

 

 「・・・私も」

 

 「私的には・・・。・・・・・・無し。いや、ありかな」

 

 アリシアになのはも否定的なコメントを出すがはやてはギリギリありらしい。あの面白い格好をする彼とならたぶんずっと楽しめるだろう。

 可憐な少女達の言葉になのはの姉である美由希もまた苦笑しながら言葉を零した。

 

 「あははは。こりゃあ、なのはも大変だ。・・・鈍感な振りして彼の事が好きな女の子を振りまして、最終的にはナイスなボートに乗車するような男の子にならなきゃいいけど」

 

 「「「「「団長の事かぁああああああっ!!」」」」」

 

 「いや、そうだけどっ。少しは否定しようよっ。皆、裕君のお友達でしょう?!」

 

 バッドエンドを迎えそうな少年の末路に合わせて、そうならないようにと思って口にしたのだがそれを聞いた男子団員達が起こったように叫んだ。というかその幼さであのアニメを知っているのだろうか?

 

 「まあ、確かに団長がモテるのはわかりますけど」

 

 「まあ、俺達のムードメーカーだし、リーダーだし」

 

 「男女問わず好かれると思うけど。俺の方が団長の事を・・・」

 

 「あんな変態的行動を取っても笑って済ませるくらいの仁徳者ですしおすし」

 

 それでも非モテの男子団員としては自分達のリーダーがグループから離れていくのはさびしい。というか、彼以外に自分達を率いてくれるヴァンガードな先導者はいない。それに、なのは達に恋している団員達もいる。だから団長が彼女達の誰かにふざけ半分でも告白してカップル成立なんかしてほしくない。まあ、お互いに本気なら祝福する。ビンタ付きで。

 

 「てか、なんで皆私達が裕君の事が好きって知っているの?!」

 

 「見ればわかりますよ」

 

 「バレバレです」

 

 イエーガーズ男子だけでなく女子もうんうんと頷いて見せる。

 

 「まあ、うん。団長を除けば王城?とか白崎?以外に思い当たるのがいませんし。それ以外だとしたら百合ですし・・・」

 

 「私としてはそっちの方が萌えるんですけど・・・」

 

 オタク系な女子団員の目から見ても彼女達が裕に想いを寄せているのは明白だという。

 

 「・・・皆が気づいているのに、裕が気づいていないはずがないんじゃないか?」

 

 「ホモなのかしら?」

 

 高町恭也の疑問に忍がとんでもない事をさらりと答えると、複数の女子達ががくがくと震えだし、一人の男子団員は頬を赤く染めた。

 

 「団長が男色?」

 

 「笑えないって」

 

 「Don’t恋、団長」

 

 「いや、でも、これだけあからさまなのに気が付かないという事は・・・」

 

 「・・・不能?」

 

 「いや、俺達の年齢だと機能し始めているかどうかも不明だ」

 

 「君達は本当に小学生かな?」

 

 

 

 ホモやら不能やら様々な疑惑が疑惑を呼び、裕が保健室から帰ってくるとそこでは『団長はホモか不能かどMなのか調査会』というふざけた垂れ幕が追加されていた事に裕は怒って「ふざけんな俺はどSじゃーっ!」と叫ぶと即座に「「「それはないっ。どMだよ」」」と満場一致で返された邪神は涙を零しながら保健室へと逃げ帰るのであった。

 

 




特別編。
日頃お世話になっている高町恭也へ邪神様からのプレゼント。
『YES』と『NO』とそれぞれ書かれた枕を二つ進呈。

恭也「意味わかって渡しているのか?!」

邪神様「俺が普通な贈り物するわけないでしょう。それに裏を見てください」

恭也が『YES』と書かれた枕の裏を見る。そこには・・・『YES』の文字が。
『YES』の後ろも『YES』だった。

邪神様「忍さんみたいな美人さんなら男は誰だっていつだってYESです!」

恭也「やかましい!」

邪神様「あとこれ、回復薬作っていたら偶然できた精力活性剤なんですけど・・・」

恭也「だから意味が分かって言っているのか?!分かっていたらいたで問題だぞ!」

邪神様「いらないんですか?」

恭也「・・・・・・・いや、もらっておこう」

ちなみに『NO』の裏は『NO』だった。
付属として拳の形をした枕『オラオラ』枕も贈呈する邪神様だった。


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第五十九話 邪神様の宝箱

SAN値充電中


 騒動。もしくは乱痴気騒ぎとも言ってもいいクリスマスパーティーはつつがなく笑顔(?)で終わった。だが、その参加者の中には邪神さんと恋人に成りたかった少女達がいた。

 彼女達のうちの一人が風邪を引いたため邪神に告白することはなかった。むしろ、あの場で告白していたら正気を疑われていただろう。それだけの騒ぎを起こした邪神様の家の前に少女達が集まった。クリスマスの翌日に彼女達は改めて邪神様に会いに来た。風邪をひいていた少女が快復したのもあるが、もう一つの理由がある。それは八神はやてを一時的に田神家で預かる事になっていた。

 ミッドチルダに赴き、これまでの管理局を通して『闇の書』の被害にあった人達に謝罪を入れるべく守護騎士達が赴いている間、はやての面倒は田神家で面倒を見ることになったからだ。

 本来なら自分も行くべきだとはやては言いだしたが、「子どもが何言っているんだ?」と、裕の生ぬるい視線と共に言いくるめられるはやて。伊達に人をおちょくったり裏をかくのが趣味というか仕事というか生きがいという邪神に口で勝てるはやてではなかった。トドメとなったのは「邪神キッス(ぬるめ)をくらわすぞ?」と何やらモザイク加工の掛かった茶色い何かを持ち出す姿にはやては降伏した。彼が言いださなければ守護騎士達が止めていた。

過去に侵した罪は自分達の所為でありはやてには何の関係も無い。念のためにリーゼ・アリアが田神家のリビングではやて同様に預かる形の護衛に回ってくれている。彼女もまたはやてや守護騎士達の事を半ば怨んでいたような物だが、裕が榊原から聞いた情報を元に、彼女達の動作を前もって潰したお蔭で何とも言えない罪悪に悩まされていた彼女だったがはやての護衛という償いにしては少なすぎるかもしれないが納得してくれた。その上での護衛だ。

 まあ、そんなこともあって、年末は一人になるはやてが裕の家にお世話になる前になのは達は告白をして、自分達の色恋に決着をつけようと思った。特にはやても裕に気があるようにも見えたのでそれを思っての行動でもある。

 

 「じゃ、じゃあ、押すわよ」

 

 「う、うん」

 

 「な、なんかドキドキするね」

 

 普段はすぱっと決断し、行動するアリサが田神家の家のインターホンを押す。その後ろにはなのはやすずか。アリシアにイエーガーズの千冬。それについて来たおまけのフェイト。

 何度か彼の家にお邪魔することがある彼女達だが、今日ばかりはその平素な家づくりがまるで巨大な城のような圧迫感を感じさせていた。既にはやては田神の家にいるらしいのでもたもたしていると先を越されるかもしれない。だが、彼に想いを伝えるのはかなりの覚悟がいる。早く早くと思いながらも、ちょっと待って、ちょっと待ってと思う乙女心のせめぎ合いをしながらも玄関の扉が開く。

 

 「あら、いらっしゃい皆。待っていたわよー♪」

 

 「・・・まあ、上がってくれ」

 

 妙に肌がつやつやのピカピカの裕の母。リアが現れた。その様子から下手したら十代にも見えそうなその笑顔。その後ろにはかなりやつれた感じの田神父。洋の姿があった。昨晩は凄くお楽しみだったらしい。もともと口数が少ない彼だが今日はそれに輪をかけて物静かというか生気が無かった。

 

 「お、お邪魔します」

 

 「あらあら皆今日も可愛らしい格好ね。これからデートかしら?」

 

 「そ、そんなんじゃないでひゅ」

 

 珍しくアリシアが言葉を噛んだ姿に更にピカピカと下手したらギラギラと輝いている笑顔に一同目を覆った。リアは彼女達が自分の息子に気があるのを知っている。そんな可愛らしい女の子達が可愛くってしょうがないのだ。

 

 「さあさあ、寒いでしょうしはやく上がって上がって」

 

 今にもスキップを通り越して空中バク天三回転捻りをしそうなリアの後ろについていくなのは達。田神父はそれを見送った後自分の部屋に戻った。

 通された居間にはすでにはやてもスタンバイしていたが何故かその表情は暗い。

 

 「ちょ、はやてさんどうしたんですか?」

 

 「は、はは。聞いてな。ちーちゃん。実はな・・・。・・・君が、おらんのや」

 

 「・・・は?」

 

 「だから、おらんのや。裕君が!」

 

 「・・・え?」

 

 「なんやねん裕君ってば、私達が何か言おうとしたらすぐどっかに行ってまうんやで!しかもどこに行ったと思う!管理局やで、管理局!どっちかといえば裕君の方が関係ないのに、元『闇の書』の主の私を差し置いて管理局行ったんやで!」

 

 ムキーッ!と怒り狂うはやてはようやく動き出した足をぴくぴくと痙攣させながらも腕をバタバタと動かす。その様子をソファーの上で丸まっていた猫。アリアが呆れた目線ではやてを見ていた。

 

 『仕方ないでしょ。あんたは『闇の書』の被害者で。『闇の書』を解決したのは邪神であるあの坊やなんだから…。被害者と当事者じゃ雲泥の差よ。それに今も『邪神レーダー』に反応がある。これはあの坊やが邪神だって管理局も気が付いているのよ』

 

 (まあ、一週間前からなんだけどね・・・)

 

 クロノやロッテと共にはやても含め、裕の周りを警戒していた彼女達。邪神の力を欲した管理局。中には強引な手で勧誘する輩もいる、そんな輩を相手にした彼女達。猫の状態でいるのも少しでも魔力を回復させたいからだ。

 考えたくはないが、邪神がいない今。邪神の親しい人間。親を人質にして勧誘。いや、強要してくる奴がまた出てくるかもしれないから。

 

 (そんな汚い部分を目の前のお嬢ちゃん達に見せないために自分から敵地に乗り込む邪神も邪神だけどね・・・)

 

 「これはもう、裕君の部屋の家探しをするしかないで!」

 

 「それはただの八つ当たりですよはやてさん・・・」

 

 「それについてはモウマンタイやっ。ちーちゃん、これを見てみいっ」

 

 はやてが取り出した紙切れ。

 そこには裕の字でこう書かれていた。

 

 

 

 『俺がいないからって勝手に部屋に入るんじゃないぞ。絶対だぞ』

 

 

 

 あっやしいぃい~~っ。

 日頃の裕の行いを見てきた少女達はこう思った。

 こうも念入りに言うという事は部屋に入ってもいいという事だろう。

 

 「という訳で、すずかちゃん。だっこして」

 

 「なんで私なのかな?」

 

 バリアフリー構造ではない田神邸。二階にある裕の部屋に行くには誰かの補助が必要なはやては一番運動能力が高いすずかにお願いをした。

 生憎、車椅子のはやてにはまだ歩行が困難だ。元『闇の書』である『夜天の書』は邪神と共に管理局の局員と待ち合わせをしている世界にある為魔法が使えない。というか、一般人の千冬がいるから尚更使えない。

 という訳で少女達は邪神お部屋の前にたどり着く。その扉には『Welcome』と書かれた札がかけられていた。これはもう、あれだ。絶対何かが仕掛けられているのだと誰もが身構えた。そして、その扉をゆっくり開く。そして、部屋の中には一個の宝箱が置かれていた。しかも丁寧に宝箱の蓋の部分には『開けるな』というメモが張られていた。

 

 あっやしいぃい~~っ。

 二度目になる少女がしてはいけない顔。怪しがる表情を見せたがその宝箱以外に怪しいところはない。

 普通の部屋の中には勉強机にベッド、本棚。そして妙な存在感を放つ宝箱が部屋の真ん中に置かれていた。

 

 「とりあえずこの箱を開けようか?」

 

 「ちょっと正気なの?」

 

 「でもこの箱を開けない限り進まないで・・・」

 

 「うう、でも、あの裕君が作った宝箱だよ。びっくり箱レベルじゃ済まないよきっと・・・」

 

 「大丈夫やって。きっと・・・。いきなりザラ○かましてくるような物は流石に作らんやろ」

 

 「あれ?メモ用紙の裏にも何かが書かれているよ」

 

 ペロンとメモ用紙をめくったすずかが見た物は。

 

 

 

 『メ○ゾーマ』と書かれたメモ用紙だった。

 

 

 

 「これ絶対ミミッ○だよ!?」

 

 「くそうっ、ここにシャマルがいればイ○パスを使えたのに!」

 

 「いや、必要なのはマホ○ーンでしょ!」

 

 「しっぷ○づきじゃ駄目かな?」

 

 「皆さんドラクエ大好きですね」

 

 部屋の中に入る前からだが女三人で姦しい。それが倍になればもっとだ。

 とにかくフェイトが千冬にばれないように軽く魔法を使って調べた結果、魔法的なものはないらしい。

 

 「多分、罠はないと思うから開けてみるよ」

 

 「魔法的なものが飛んでこない事を願います」

 

 そして宝箱の蓋を開けて邪神のお宝を見ることにした。

 それは全身を釘で滅多打ちにされた藁人形(使用後)だった。

 

 「・・・宝物?」

 

 「あかんて!裕君(邪神)が持っていたらシャレにならんて!」

 

 「しかもギリギリ藁人形とわかるか分からないかぐらいまで釘を打つなんて・・・」

 

 「あ、藁人形に小さい写真が挟まれてる」

 

 その写真に写っていたのは・・・。

 邪神。裕自身の姿だった。

 

 「まあ、なんとなくオチは読めていたけど・・・」

 

 「写真の裏にもなにか書かれているよ」

 

 「えーと、『北斗七星のすぐ横に未発見の星を発見記念』?」

 

 「それは見えちゃいけない星だよ!」

 

 凄い笑顔の裕の写真。それはまるで彼女達を笑っているかのようだ。

 次はグラビアアイドル写真集と文字だけで書かれた大きめの本だった。

 

 「これまでの流れからして、きっと禄でもない気がするわね」

 

 「でもだからって、ここでこの宝箱を閉じるわけにもいかんやろ。というか、皆が帰った後きっと私一人だけじゃあ開けてまう。きっとひとりじゃ処理できん」

 

 「それに団長の好みを知ることもできるし・・・」

 

 「・・・じゃあ、開けるよ?」

 

 アリシアがゆっくりとその写真集をめくる。

 それにはしおりがついており、そのしおりがついていたページをめくる。そこにはなのはたちがよく知る人が写されていた。

 汗でぬれた髪。吸い込まれそうな瞳。道着の下から見える異性を魅了する体つき。そう、その人の名は・・・。

 

 「なんでお兄ちゃん?!」

 

 高町恭也。その人である。

 

 「あ、ザフィーラの写真もある」

 

 ザフィーラの写真もそこには掲載されていた。

 よく見ればそれは女性向けの写真集。そして、そこに掲載されているのは裕が盗撮して無許可で投稿した物であり、後に怒られる結果になる。

 

 「・・・あ、あー、なるほどつまりモテる男になるにはモテる男を研究すればいいという訳ですね」

 

 「驚かせてくれるわね。でも、変ね?あいつの事だからエッチな本でも入っているのかと思ったんだけど…」

 

 「あ、まだ何か入ってるよ」

 

 少女達の探索は終わらない。邪神の宝箱を空にするまでは・・・。

 

 「にゃああああ~~、何か『うねうね動いてぬとぬとする液体がついたモザイク』がぁあああ~~!」

 

 「あいた、く、ない?綿毛のトラバサミなんて初めて見たわ。すんごいふわっふわっ」

 

 「なんか、小型マイクが何かをぼそりぼそり言っているような・・・?『お嬢ちゃんどんなパンツはいてる』ふんすっ」

 

 「すずかさん、一応団長個人の物ですから壊さない方がいいと思いますよ」

 

 「あ、裕の事も写真集に乗ってる選考外枠で・・・」

 

 「一応自分も応募していたんだ・・・」

 

 少女達の家探しはまだ始まったばかりである。

 

 




次回 SAN値注意警報発令


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第六十話 うちの邪神様がヤンデレすぎて笑えない。

邪神様の愛。というか闇が一部覗ける話です。


 プレシアとギル・グレアム。その使い魔リーゼ・ロッテを左右に並べ、後ろからハラオウン親子に守護騎士達。囲まれた裕はとある管理世界に設置された管理局の施設にやってきた。その施設では管理世界・管理外世界の動向を見守り、干渉すべきかどうかを観測する施設。この施設があったからこそ管理局はJS事件で迅速に地球に干渉することが出来た。

そして、邪神はそこで今後の事についていろいろと話し合う予定だ。

 裕は黒い袴に狐の面。金の懐中時計に指輪といったお気に入り且つ最高装備。バニングスや月村。テスタロッサといったパトロン達から装備類は見た目に反してバリアジャケットには及ばずともそれの半分。そして身体能力の強化。更には冷静さを保つ効果を及ぼすといった防御力と判断力を伴ったパワードスーツを着込んでいるようなもの。

 そんな臨戦状態の邪神と相対するのは初老の男性に三十代半ばほどの男女。彼等が管理局の代表であり、邪神との交渉に来た人達だ。明らかに頭脳系な人達だ。この人達相手にどこまで我を通せるか。ハラオウン一家含めて裕の出方を見守ることにした。彼の身柄に不自由があれば即座に援護に入る予定だ。

 邪神を相手に。敵対したら碌でもない事になる。個人的に、集団的に敵対した事があるプレシア達は管理局の人間たちを守るため意味でも援護に入らなければならない。

 

 「君が邪神。タガミ・ユウ君だね」

 

 「邪神?何の事ですか?」

 

 既に調べはついているという事は裕も知っているだろう。狐の面をかぶっていながら、こちらの動揺を誘っているのか、そんな事も知らないのかと呆れ気味に表情を変えようとした管理局代表の三人だったが、

 

 「俺は何処にでもいる通りすがりの美少年です」

 

 (((((全次元世界の美少年に謝れ!)))))

 

 邪神を除くその場にいた全員の想いが一つになった。

 惚れんなよ?と、ポーズをとる邪神は心の中でガッツポーズをとる。これでこちらのペースで話せると思った。

 

 「まあ、それは置いといて・・・。俺からの要求はこれぐらいです」

 

 一つ、邪神である自分に管理局に勧誘しない。問題事を押し付けない。

 一つ、守護騎士達の過去の罪をはやてに被せない。

 

 「・・・ほう。それが君の要望かね」

 

 「間違えるな。要望じゃなくて、要求だ。これを果たせば俺にしでかしたことは許してやる。まあ、二つ目はともかく。一つ目が通らない場合、今まで俺にしでかしたことをそちらがしでかした事を管理局関係者の全員にやり返す。というかやり通す。具体的には拉致監禁に強要と言ったところか?」

 

 「何のことかね?」

 

 子どもである裕の上から発言に眉一つ動かさず、さらっと狐の面の下から聞こえてきた拉致監禁と言った物騒な言葉に平然と返す管理局の初老リーダー。我々は関係ないよと言った顔をしている。顔の厚い奴等だとプレシアは思った。だが、狐の面の下で邪神がほくそ笑んだのも感じとっていた。

 

 「これを見てもそう言えるのか?」

 

 裕は懐から取り出したプレシアに作ってもらったリモコンのスイッチを入れる。

 

 ギャオオオオオオオオオオンッ!!

 

 その瞬間、施設のはるか上空で何もない空間から現れた鋼の龍の咆哮が鳴り響き、裕達がいる施設全体を咆哮だけで揺れ動かす。その爆音に誰も驚き屋内にいるにもかかわらず鋼の龍。ドラゴン・クォーターが現れた頭上を見上げた。

 けたたましく鳴り響く異常事態を知らせるサイレンと共に幾つものモニターが浮かび上がり鋼の龍の姿を映し出す。それは邪神の最大戦力であり、彼の唯一持つ機動兵器。

 管理局の人間だけではなく、裕と共に来た守護騎士達やプレシア達も驚いている。特にプレシアの反応は顕著だった。

 

 「・・・あ、押すボタン間違えた」

 

 「おいっ、今なんのボタン押したんだよっ!」

 

 それは何かあった時の為に出撃させるために配備したステルス状態のドラゴン・クォーターの咆哮だった。どうやら報告にあった邪神のうっかり癖が出たらしい。管理局側の三人は緊張の表情を崩さないまま彼に畳み掛ける様に声をかけた。

 

 「我々は友好的に話し合いをしている最中にそのような事はしない方がいい。たとえ念のためにとはいえ」

 

 「何言ってんですか。管理局という存在を認知してから今まで友好的だと思ったことは一度もありませんよ」

 

 返された言葉は明らかな敵意。最初に行ったように邪神。裕は管理局に中立よりも敵対的な感情があると言いきった。

 プレシアの事情を知ってから裕は管理局に良いイメージを持っていない。それはプレシアと友人である榊原からの情報から集めた物だ。それでもリンディやクロノと言った『裕にとって好ましい人物』達がいるので基本的には中立だった裕だが、それもここ一週間で敵対することになる。

 

 「…悪い事は言わないわ。邪神への勘繰り。情報収集及び捜査を外してください」

 

 「そうだ。我々は彼に恩はあっても恨みや禍根はない。確かに彼の力は魅力的であり危険だ。だが、彼の行動を束縛するのはやめてほしい。それが彼の為であり我々の為だ」

 

 裕の後ろにいた管理局サイドのリンディ。グレアムが口添えをする。

 触らぬ神に祟りなし。

 裕のご機嫌を損ねるとロクな目に遭わない。それは守護騎士達がよく知っている物だ。

 

 「どうしたのかねリンディ君。グレアム提督。彼の力、自らを邪神と称するその力の優位性。危険性は近くで見ていた君等でがよく知っているだろう」

 

 「然り。そして、それを今の様な『うっかり』で暴発させてしまえばどうなると思う。文字通り世界が滅ぶかもしれないのですよ」

 

 「我々管理局がそれを管理すべき力です。子どもが使うにはあまりにも巨大すぎる」

 

 確かにWCCは使いようでは魔法より凶悪だ。なにせ、一度加工すればその品質が劣化しない限り能力が付きっぱなしの極悪兵器にもなり得る。ドラゴン・クォーターがそうだ。

 

 「なに、彼にも損はさせない。可能な限りの「断る」・・・。なに?」

 

 「断るって言ってんだ。てか、そっちの返事がまだだぞ。さっさと俺に詫びを入れろ。『ごめんなさい』が言えんのか」

 

 明らかに侮蔑の感情を。隠そうともしないその態度に管理局から来た交渉人の男女のこめかみが浮かび上がる。

 

 「君、いくら子どもと言えど立場というものを・・・」

 

 「あんたらが俺にしでかしたことに比べれば微々たるもんだろ?」

 

 「だから我々はそのようなものは知らないと言っている」

 

 「へえ?そう出るんだ。彼等の持っているデバイスのログや経歴を見ると管理局の人間だって出て来たけど・・・」

 

 「『管理局』のデータと偽った犯罪者だな。こちらで引き取ろう」

 

 「あんたは見知らぬ犯罪者を見知らぬ組織に預けて安心できるのか?それもその犯罪者と組織がグルになっている可能性があるのに?」

 

 裕が普段通りにしている間。WCCで強化されたデバイスを持った榊原にプレシア。リーゼ・ロッテ。アリアやクロノが裕の身辺を探っていた管理局の人間らしき者達を捕縛した。元から素養の高い魔導師である彼等にWCCで強化したデバイスを持たせたのだ。『邪神レーダー』もそれぞれに渡しているのでその探査能力は群を抜いている。

 更に尋問の際には嘘発見器というかリトマス紙のような物にWCCで強化した後の残らない『自白剤』など裕がサポートするだけでその性能はぐんと上がる。デバイスに施されたブラックボックスや機密事項もWCCにかかればいとも簡単に解かれてしまう。

 あくまでWCCの事は隠しつつ、吸い上げた情報を開示しても目の前の三人は『知らない』と通すだけだった。

 

 「物を加工する君のレア。いや、ユニーク・スキルというべきか。それがあればどんな情報も意味を持たない。何せ加工し放大なのだからな」

 

 「だから、我々とあれとは無関係だ」

 

 「だ。そうだ。残念だったな」

 

 裕は再度リモコンをいじると新たに浮かび上がるモニター。そこには両手両足鎖で縛られた状態の男女がいた。それは先程話した管理局の人間と思われる諜報員たちだった。

 その内の一人、諜報活動のリーダーである男が涙を滝のように流し、口からはだらしなく涎を垂らしながら、助けを請う。助けてくれ、死にたくない。と、

 彼とはある約束をしていた。

 彼を助けるために管理局が己の非を認めたら、そのまま返す。だが、認めなかった場合。実験台になってもらう。WCCで特殊加工したデバイス。

 

 『いやだぁあああああああっ!?あ、ぎ、ぎがぁああああああっ!?!!?』

 

 映像に映し出される男の胸に小さな赤い染みが生まれ、そのしみが一気に体全体に広がり始める。その染みが広がるにつれ男性の皮膚部分も黒く染まり上がる。やがてその染みが体全体を覆い、男の意識はそこで途絶えた。そしてしばらく痙攣する事数秒。男の痙攣していた右腕が不自然に破裂した。それは膨らませ過ぎた風船ように。そして、破裂した腕に変わってまるで焼死体の様にくろく、水死体の様に光沢を放つ腕というにはまりにも不細工すぎる肉塊が生えていた。

 

 「な、何をした?!」

 

 交渉人リーダーと女性はあまりの光景に息を呑みこんだ。その光景を見守っていた守護騎士やプレシア達も絶句している。彼女達もこうなるとは思わなかっただろうか。

 

 「何って、決まってんだろ。見せしめだよ。見せしめ」

 

 狐の面をかぶり直し不敵に笑う邪神。

 彼の能力は生体。生きている物に反応しないのではないのかと自分達が持っている情報を思い返す。今まで隠し持っていた能力なのかと。

 

 「・・・見せ、しめ。だと」

 

 「俺の家族に。友人達に危害を加えようとしたんだ。それ相応の罰ってのを与えるのが当然だろ」

 

 「タガミッ、お前、奴に何をした!」

 

 未だにビクンビクンと痙攣している諜報員。生きているのか死んでいるのか分からないくらいの涎と排泄物を体中から溢れ出している。大の大人が演技でもやりたがらない脱糞をするはずがない。諜報員があんなに怯える様子を。無様を晒すはずがないと。だが、映し出された諜報員の姿は何だ?それを近くで見ている他の諜報員の怯えは何だ?それら全てがまるで現実だと言っている。そう伝わる。

 

 「JS事件で俺はデバイスというものを知った。デバイスとは魔力を持つ人間の魔力を使ってその不可思議な力を発動させる。自働防御とかもそうだな、本人の意志と関係なく使用者を守ろうとする機関がある」

 

 「・・・まさか」

 

 管理局が強く出ることが出来るのは魔法が使える人材があり、それを従えるからだ。それは同じ魔法の力を用いたモノ。だが、それが邪神に支配されるなど。第一人体の作り変えるデバイスなど作れるはずがない。

 

 「俺は知った『闇の書』の機能の中に魔道の力持った肉の体を作り上げる機関を」

 

 「ユウ、お前。まさか・・・」

 

 「確かに貴方なら作れるでしょうけど。そんな、まさか・・・」

 

 デバイスは物である。そこに魔力があればそれを使って不思議な力を生み出すことが出来る。所詮物である『闇の書』が肉体を作り出すことが出来た。

 

 「その二つの知識、技術に触れた俺はある実験をしてみることにした。魔導師につけさせることで俺に従順な部下が作れないかと。それが、これだよ」

 

 『キュウウウアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 諜報員の人だった体の部分はすべてはじけ飛ぶとそこにあったのはまるで黒く焼け焦げたようなゴム人形のような異様な怪物。その怪物は元になった人間の残滓だろうか目だけが残っていた。口の方だけは異様に変化し、まるで虫のようなマスクのようなくちばしが生えていた。

 

 「そのデバイスをつけた人間に莫大な力を与え、絶対遵守で俺を守る。強化人間・インベーターっといったところか?」

 

インベーダーは自分と同じように鎖に繋がれた他の諜報員を見つけるとその何体を活かしてちゅるんと拘束を解き近づいてくる。来るな。来ないで。と泣き叫ぶ諜報員だったがその声は会議室にいた裕にも届いていたはずだ。だが、裕は冷たく言い放った。やれ。と、

 

「あびうぎゅうううがああああああああっっっ!!?!?」

 

インベーダーは拘束されている人間の顔を自分の方に向けると同時に正面からその顔にかじりついて、その諜報員の顔に穴をあけた。この時点でこの諜報員の命はない。だが、恐ろしいのはここからだった。

何を思ったのかインベーダーは自分の腕を食いちぎるとその何もかも無くなった顔のあった場所に放り投げる。すると、ビクンビクンと痙攣して十秒弱。その諜報員の体も破裂した。そしてそこに出来上がったのは二体目のインベーターだった。

 

「こ、これは合成だ!合成映像に決まっている!」

 

「なあ、交渉人さん。いい加減認めた方がいいよ。そうすれば残っている諜報員たちも助かるんだけど」

 

 「君が命令を取り下げればいい事だろう」

 

 「・・・ああ、確かに俺が言えば止まるだろうな」

 

 「なら」

 

 「俺が直接あいつ等に触れないとあいつ等は止まらない。俺が触れるまで増殖を辞めない。それこそ、魔導師を糧にネズミのように増えていく。凄いよな、『闇の書』のバグってのは・・・」

 

 狐の面で隠れているからわからないが邪神の発する言葉は嬉しそうだった。実験に上手くいった。自分達が動揺しているのがおかしくてたまらない。そんな薄暗い声色だった。

 

 「いいのか君は!これは殺人だぞ!」

 

 「何言っているんだ?これは正当防衛だ。俺の家族や知人たちの情報を嗅ぎまわり、捉えてみればこちらの捕縛や脅迫の使命をおびている。その場で即座に殺せたにもかかわらずそれを保留していたんだぞ」

 

 「だからといって」

 

 「間違えんなよ。俺はチャンスをあげたんだ。あいつ等を助けるチャンスを。あいつ等の命を見限ったのはお前等だ」

 

 「だ、だから、彼等と我々は関係ないと」

 

 「関係が無いなら執行権は俺にある。被害を受けたこの俺に」

 

 映像に映し出されたインベーダーはなおもその数を増やしていく。また一人また一人とその犠牲になっていく。その犠牲者の中には交渉人にやってきた人の名前を叫びながら命乞いをする人間もいた。

 

 「こ、こんな事をしてただで済むと思っているの。管理局はあなたを敵とみなしますよっ」

 

 女性の交渉人は震えながら邪神を睨みつける。

 

 「あんたは管理外世界で。地球で行われている犯罪に口を出すのか?出さないだろ」

 

 邪神の声色は変わらず薄暗い笑みを含んだ声色。

 

 「その力、その使い方、その思考、その存在!君は危険すぎる!」

 

 

 「別にそっちが何もしなければこっちも何もしないよ。因果応報って言葉知らないか」

 

 邪神は諭すように言うが交渉人たちの顔色は子どもに口がよく回る子供が調子に乗っているという憤怒と何のためらいもなく非人道的手段を用いる邪神の手腕への恐怖で染まっていた。

 

 「・・・そうか、その言葉。対応。後に後悔することになる。よく覚えておきたまえ。話は以上だ」

 

 交渉人たちは彼と言葉を交わすことは何もない。放った諜報員は全滅。今から本部に戻り邪神の危険性を伝え、彼の排除を行う手続きを踏もう。そう思い立って席を離れようとした瞬間だった。

 これまで一言もしゃべらなかった守護騎士のシャマルとリインフォース。クライド・ハラオウン。グレアムの使い魔ロッテ。の四人が彼等に飛び掛かった。交渉人の男性にはシャマル。女性にはクライドが組み敷くと同時に顎が外れるくらいに口を開けると、そこから黒い物体が零れだす。

 

 「ひっ。ま、まさか、インムゥアアアアアガアアアアッ」

 

 シャマルの口から零れだしてきたのは先の映像で見てきたインベーダーだった。その黒い物体は自らを液体へと変貌させて、押さえつけた男性の口の中へと注ぎ込まれ、入りきれなかったそれは溢れ出し全身をコーティングするように男性の体を覆い尽くす。そして、

 

 「ギュアアアアアアアアアッ!!」

 

 濡れたゴムを擦りつけたような、耳障りな声をあげながら新たなインベーダーが生まれた。

 

 「いやっ、いやぁあああああばあぁああああああっっっ!!」

 

 シャマル同様にクライドの口から溢れ出した黒い液体が女性も同様に包み上げ新たなインベーダーを作り出した。

 

 「な、なにをっ、なぜこんな事を・・・」

 

 「おいおい、そっちが言ってきたんだろ『今から君を殺す』って。殺されたくないから殺した。これって、立派な正当防衛だろ」

 

 「それは貴様がそう誘導したからだろう!」

 

 「おいおい、俺の要求は経った二つだろ。俺に謝れ。はやてに迷惑かけるな。そうすれば許してやる。それが出来なかったからこうなるんだろ」

 

 プレシアは止めない。いや、止められないといったところか。リンディは自分の旦那がまさかこのような状態に陥っているなんて思いもよらず、そしてこのような事になってしまったショックで気絶してしまったのかグレアムに支えられる。クロノもあまりのショックで言葉どころか身動き一つとれない。守護騎士であるシグナムとヴィータも何か言いたげではあったが命の恩人と言ってもいい邪神に何も言えず、彼の言葉にははやての助命嘆願もある為に動けない。

 

 「これは人道的な問題であって」

 

 「勘違いすんな。これは『ごめんなさい』と言えなかった。それが無くても『そちらから何もしなければ何もしない』と言った俺に『お前を殺す』と言ったお前等が招いた結果だ」

 

 狐の面か見えるその瞳の暗さ。それは何よりも淀んだ泥沼のようにも見えた。邪神を名乗る少年を手駒に取れればとやってきてみれば既に彼の手のうち。いや、腹の中だった。

 交渉人は悟る。我々は触れてはいけない逆鱗に。邪神の怒りを買ったのだと・・・。

 

 「あと、ドラゴン・クォーターはあと三隻用意していてな」

 

 邪神はとつとつと語り始める。

 手に持っていたリモコンを操作して新たなモニターを浮かび上がらせる。そこには三体もの鋼の龍が映し出されていた。

 

 「それには百近くのインベーダーが搭載されている」

 

 「ま、まってくれ」

 

 邪神は席を立ち、交渉人に近付く。

 切り替わったモニターに映し出されたのは邪神が生み出した黒い化物が蠢く光景だった。

 

 「その三隻は全て管理局のあるミッド・チルダを目標に進んでいる。俺が命令しないと止まらない。そんな命令を出す理由も今無くなった」

 

 「まて」

 

 邪神は笑う。こうなったのはお前の所為だと。

 

 「・・・さあ、互いの生き残りをかけた戦争を始めようか?」

 

 「まってくれぇえええええええっ!!」

 

 

 

 それから必死の説得と謝罪をした交渉人はどうにかして邪神の機嫌を取る。

 管理局には『邪神は管理局が取るに足らない存在』であるという事と『八神はやてへの誹謗や中傷はさせない』事を約束させたうえで、地球に次元犯罪者及び余計な干渉はしない・させないように約束させた。

 そう約束させた後、インベーダーにされたと思っていた交渉人の男女。そして、諜報員全員が実はほぼ無傷で返されることになる。

 シャマル達の中に潜んでいたと思われたインベーダーも元から自動ロボットの外見を彼女達に似せて加工した物。流れ出した黒い液体はとりもちのような物でそれに覆われた瞬間に覆われた中身と予め魔法で姿を消したシャマルと一緒に持ち込んだインベーダーロボットをWCCのシフトムーブで入れ替えた。勿論暴れられたらばれるのでシャマルと同様にステルスの魔法で姿を消したザフィーラがその意識を瞬時に刈り取った。交渉人そして、諜報員たちが見せられた映像も途中からは合成映像だったとネタバレもしておく。それと一緒に、こう言っておいた。

 

 『やろうと思えばできるんだよ』

 

 それは邪神からの最終通告であった。

 この日の出来事は語られることはなかったが、邪神の存在はそのまま黙殺されていくのであった。

 

 

 

 管理局との話し合いも済んで地球へと帰るドラゴン・クォーターの中でハラオウン親子。グレアムは裕の行動に文句を言ってきた。

 

 「裕君。さすがにあれはやり過ぎではないかね」

 

 「そうよっ。いくら脅しでもあれは…」

 

 「え?脅しじゃないけど?」

 

 「は?」

 

 「俺はね。なのはちゃん達が大好きなんだよ。フェイトもはやてもアリシアも皆が大好きなんだ。榊原君も好きだぜ。皆が笑っているのが好きなんだ。だから、な」

 

 裕は狐の面を取りながらこう言った。薄暗い瞳のままでこう言った。

 

 「あいつ等の笑顔を壊さない為ならなんだって出来る。あいつ等が笑顔になれるんだったらなんだってやれる。あいつらの笑顔を守れるんだったら何でもできる。それがたとえ戦争だろうとね」

 

 どこまでも暗く、熱を帯びているがそれは決して触れてはならない狂気じみた瞳をした邪神の姿がそこにあり、その姿を見た者達は皆こう思った。

 

 邪神を本気で怒らせてはならないのだと。

 



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第六十一話 邪神様の部屋。薔薇風味、触手を添えて。

想像力が豊かな人ほど酸っぱい思いをするお話です。


 管理局との話し合いが終わったと連絡を受けたなのは達は裕と守護騎士達を迎えに行くために待ち合わせた場所にやって来たなのは達。そこはアリサに魔導師やジュエルシードなどの邪神のことを知らせた港の一角だった。

先日の田神家訪問から二日後の事だった。もうすぐ年越し。初詣に行こうと裕を誘うつもりでもあった少女達。生憎、千冬は体調を崩したため彼等を迎えに来たのは魔法に関して大なり小なり関係する少女達だった。

 

「・・・榊原君、大丈夫か?」

 

 「おう、大丈夫だ。団長がいない間、虫よけは俺がやる」

 

 はやてが心配そうに見ている先にはあちこちに生傷が見える榊原がいた。今朝方、白崎とバトっていた。なのは達が仲良く裕を迎えに行こうとした瞬間に白崎がやってきた。いかにも偶然を装って嘘くさい爽やかな笑顔を見せながらやってきた白崎を見た幼馴染トリオは一斉に無表情になった。それはもう、近くにいたテスタロッサ姉妹。そして、以前は自分もこんな風にさせていたのかと思った榊原は罪滅ぼしの為にも白崎に喧嘩を売って結界を展開。ドラゴンとドリルの喧嘩が勃発。WCCで強化されたコアドリルが無ければ生傷だけでは済まなかっただろう。

 

 「・・・あ、魔法の反応が出た。もうすぐやって来るよ」

 

 フェイトはバルディッシュから読み取った反応を見て皆に注意を促す。と、同時に魔方陣らしきものが現れて、何やら愉快な音楽が流れてる。

 

 じげんのう~みから、やぁああってきた~♪

 ぼ~くら、ゆかいなオットセイ~♪

 ずんどこオットセイッ♪

 

 「たぁ」

 

 それはまるでオットセイに丸飲みされかかっているような着ぐるみを着たシグナムが艶めかしいふとももを出した状態で妙なポージングを取りながら現れた。

 

 

 (・・・おい、シグナム)

 

 ずんどこオットセイッ♪

 

 「えい」

 

 「・・・シャマル?」

 

 自分の守護騎士の将。そのあまりの変わりように主であるはやてはショックでツッコミが遅れた。羞恥で顔を赤くしていて絶対に来そうにない着ぐるみと足を出したそのファッションスタイルに唖然としていたら彼女に続いて現れたシャマル。こちらはなんだか楽しそうだが、シグナムと同じ格好だった。それは後から出てきた守護騎士達もそうだ。

 

 ずんどこオットセイッ♪

 

 「てや」

 

 「・・・ヴィータちゃん」

 

 どこか諦めたような表情のヴィータ。

 

 ずんどこオットセイッ♪

 

 「せい」

 

 「ザフィーラ、だよね」

 

 思わず確認をとるアルフ。ザフィーラは応えない。

 

 ずんどこオットセイッ♪

 

 「とお」

 

 「…っ、リインフォースさん」

 

 目が死んだ魚の様に光を失ったリインフォースの惨状を見て言葉失うアリシア。

 

 ずんどこオットセイッ♪

 

 「やあ」

 

 「それ、絶対オットセイじゃない!」

 

 一番愉悦に浸っていそうな、嬉々とした瞳をした邪神が現れた。だが、その姿はオットセイというよりも魚のブリを思わせる物で守護騎士達が身に着けているオットセイの着ぐるみよりも派手さがある。妙に光沢を放つ魚の着ぐるみを着た状態で『私は森の妖精』と書かれたたすきをかけていて、しかもお手玉をしながら出てくる裕の姿に榊原はツッコミを入れた。

 

ずんどこオットセイッ♪ずんどこオットセイッ♪ずんどこオットセイッ♪ずんどこオットセイッ♪

 

 「いや、なんで踊ってんの?」

 

 「しかも私達を取り囲むように」

 

 なのは達を囲むように不思議な踊りをしている裕達。呆気にとられている彼女達の周りをグルグルと踊りながら、『ずんどこオットセイッ♪』と謎のオットセイサークルを形成する。

 

 「・・・シグナム。どうしてこんな真似を?」

 

 「タガミがちょっと不慣れな大人な話し合い(※脅迫合戦)をした所為で自分のアホさが足りないと言い出して・・・。失礼します。アホのビンタをおみまいです」

 

 むち。と質問してきた質問してきたはやての頬に触れて押し上げるような優しいビンタのような行為を行ったシグナム。

 

 「その格好は、なに?」

 

 「なんでも自分のアホさを高めるヌイグルミだそうです。アホのビンタをおみまいよ」

 

 むち。と、笑顔のシャマルのビンタを受けるフェイト。

 

 「なんでヴィータちゃん達までそれを着こんでいるの?」

 

 「一応、裕の奴には世話になったからな。これはその礼だ。アホのビンタをおみまいだ」

 

 答えるのも億劫だと俯きながらむち。と、なのはにビンタをかますヴィータ。

 一応はやてへの便宜を図るようにしてくれた邪神へのお礼としてこの悪ふざけに付き合うように言われた守護騎士達はそれを受け入れるしかなかった。

 

 「ザフィーラ。あんた。・・・すね毛処理をちゃんとしているんだね」

 

 「アホのビンタをおみまいだ」

 

 べちーん。と、アルフの頬を叩くザフィーラ。見当違いなコメントを出すんじゃないと言わんばかりのビンタだった。

 

 「リインフォースさん、しっか」

 

 「アホのビンタをおみまいだ」

 

 何かを言われる前にむちと頬に柔らかすぎるビンタをかますリインフォースとそれを受けるアリシア。

 ここまで来ると何か質問をすると『アホのビンタをお見舞い』されると悟ったありさとすずか。そして榊原は押し黙っていた。おそらくもうすぐ『すんどこオットセイ音頭』は終わりを迎えるだろう。そして愉快な音楽が鳴り終わると同時に邪神の目がカッと開くと同時に榊原に向かってお手玉を投げつけた。

 

 「アホのお手玉おみまいだぁああああっ!」

 

 「「なんでや、榊原君関係ないやろっ」」

 

 おもわず関西弁になるアリサとすずか。だが、そんなのお構いなしに裕はビシッとポーズをとる。

 

 「これより俺はレッスントゥーに移る。さらばだ!」

 

 だばだばだばと両腕を振りながら邪神は海の向こうへと飛んで行った。

 

 「・・・あ、あれはトリックアートで魚の格好をしているように見えるブラックゲッターだから」

 

 と、説明するシャマルだが、裕の内心を察していた。

 ここに戻ってくる前。管理局とのやりとりをしている時自分の心情が歪んでいく殿を感じた彼はせめて彼女達。なのは達の前ではいつもの自分で。馬鹿をやっている自分。ふざけ合っていた頃の自分の感じを取り戻すためにこのようなふざけた真似をしたんだと。そして、照れ隠しもあったのだろう。ここに来る前にどす黒い感情ながらもはのは達の事を好きだと言ったばかりの裕はどう彼女達に接すればいいのか戸惑っているのだろう。彼には少し時間が必要だと考えていたシャマルに声がかかる。

 

 「おい、シャマル。裕がいなくなったんだからそれ脱げよ」

 

 「え、これ可愛くない?」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 裕がその場を去った時点で『ずんどこオットセイ』は終わりのはずなのにそれを辞めようとしない湖の騎士の嗜好に一抹の不安をぬぐえない鉄槌の騎士だった。

 

 

 

 海の向こう側にたどり着く前に光学迷彩機能を起動させ、最寄りの公園近くに降り立った裕は一息つく。

 

 「あ~、はずっ、はずっ、恥ずかしすぎるっての。あんな告白まがいの事をした後になのはちゃん達の前に居られるかっての」

 

 シャマルの読みは当たっていたらしく裕は前から考えていた悪戯をしながらも今日一日は一人過ごすつもりだった。

 汚い腹の探り合い。というか脅迫合戦でイライラしているのを彼女達に気取られないように逃げるようにやっては来たものの、さてどうしたものか。はやてはしばらく田神家で預かるつもりだったが守護騎士の皆もとりあえず情状酌量で帰してもらったが八神邸に戻るのか、それとも田神でそのまま預かるのか。

 色々と考えなければいけない事がある裕は薄暗くなった公園でぶらぶらすることにした。もうすぐ帰らないといけない時間帯だが、ここから家までそう遠くはないと思いながらその辺を散策していると草むらの方で何かが動く音を聞いた。

 

 「くせぇ。こいつはフラグの匂いがプンプンするぜぇ」

 

 だけど、見ちゃう。ビクンビクン。

 きっとこの邪神様なら道端にバナナの皮があれば全速力で踏みに行くだろう。

 

 茂みの奥をこっそりのぞいてみると。

 汚らしい格好のおっさん。おそらくホームレスが幼女に覆いかぶさるように組み敷いていた。

 1アウト。

 

 WCCで冷静さを。鎮静効果を持つアクセサリーを身にまとった裕だからすぐに手を出すのはやめた。何らかの事故でそのような格好に陥っただけかもしれない。いわゆるラッキースケベと言う奴だ。更なる情報収集を行う。

 

 「むーっ!むむーっ!」

 

 「ちっ、暴れるんじゃねえよ」

 

 おっさんの手が涙目の幼女の口を塞ぐ。

 2アウト。

 ああ、あれだ。幼女がラッキースケベで悲鳴を上げるのを慌てて抑えたとかそういうのだよな。

 

 「ガキとはいえ一応女だしな」

 

 と、言いながら下着ごとズボンを脱ぐおっさん。

 3アウト。

 邪神様、コイツです。

 

 「待てい!」

 

 「っ!だ、誰だ!」

 

 おっさんが後ろを振り向くとそこには腕組みをした状態の少年が夕日を背に立っていた。その腕を組む体制は夕日によって影としてしか認識できなかったが、まさに威風堂々とした雰囲気を身に纏っていた。

 

 「己が力を研鑽せずに無下な花を散らそうとする下郎よっ、自身の姿を見るがいい!花とは愛を持って摘み取るからこそ美しい。その花を得る為には努力、才能、時間。様々なものの積み重ねを行った者のみに許されるっ。人、それを代価という」

 

 「て、てめぇ、何もんだ!」

 

 「貴様に名乗る名前はない!」

 

 おっさんはズボンをはき直すと同時に声をかける少年に唾を飛ばしながら怒鳴る。相手が子供だから脅せばすぐにいなくなると踏んだのだろう。だが、彼が食ってかかるのは邪神だ。

 

 「青いツナギよ!性技の使徒を呼べ!ぷぅわアッ―――いる、フォーおおうルメイション!」

 

 夕日の向こうから、青い作業服が飛んできて(※WCCで加工したブラックゲッターです)、裕にかぶさると更なる光が彼を包み込む。その光に目をくらませたおっさんの前にいたのは妙に綺麗な瞳をした青いツナギを着たイイ男だった。

 

 「おい、こいつを見てくれ。こいつを、どう思う?」

 

 「・・・すごく、・・・大きいです」

 

 おっさんはいやな気配を感じてその場を急いで離れようとした。先程組み敷いた幼女を攫うようにこの場を離れようと思って自分の足元を見たが幼女の姿が無い。いつの間に逃げ出したのか、とにかくここは早く逃げなければと思った矢先に自分の肩に大きく暖かい手が置かれた。

 

 「おいおい。掘っていいのは掘られる覚悟がある奴だけだぜっ」

 

 ずむっ。

 

 「アッ―――――!!」

 

 おっさんの悲鳴が公園に鳴り響いた。

 

 

 

 おっさんが青いツナギのいい男に彫られている最中、そこからそう離れていない所に裕と押し倒された幼女がいた。

 裕はわざと大きな声と光を出しながらおっさんの目と耳を塞ぎ、おっさんがこちらの姿を見失っている間に幼女をシフトムーブで救出。更に合体したと思われたゲッターから分離し、おっさんを襲うように仕向けた。

 その目論見は見事に性行。もとい、成功した。だが、あのブラックゲッターはもう廃棄しておこう。使う気が起きない。

 

 「追加で旅人(ガリバー)。バラの部屋バージョン触手を添えて」

 

 まるでフランス料理か何かの様におぞましい小部屋をおっさんを中心にして作り上げられる。

 外から見るとそれは公園のトイレにも見えなくもないが、その中身はおっさんとイイ男と触手が絡み合っている婦女子限定の空間だろう。

目の前の幼女にはまだ早すぎると判断した邪神はブラックゲッターに動力がきれるまでがおっさんの性癖が変わるまで掘り続けるように命令して、使用後は誰もいない所で自爆してもらうように最後の指令を出しておいた。

 

 「う、あ?」

 

 「大丈夫か幼女よ。危機は去った」

 

 「ぶ、無事に決まっているだろうが。わ、わりぇは王なのだかりゃな」

 

 おっさんに組み敷かれていた少女に優しく声をかける裕。気丈に答える少女だがその声は震えすぎてかみかみだ。

 だが、間に合ってよかった。もう少しで児童ポルノに引っかかる展開になっていたし、少女の心と体に消えない傷が出来ていたかもしれない。いや、すでに心の方は傷ついている。だって、何気に自分の事を王だって言っているし・・・。

 

 「レビにシュテゆがいればあんや奴」

 

 「おお、よしよし。怖かったんだな。・・・はやて」

 

 何より襲われたショックで髪の毛が白くなっているじゃないか。

 裕は目の前にいるはやてと思しき少女の頭を撫で続けるのであった。

 




邪神様は目の前の少女をはやてだと勘違いしています。
自分を追ってきたはやてが公園でおっさんに襲われたと勘違い。


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第六十二話 邪神様Aが現れた。邪神様Bが現れた。邪神様Cが現れた。邪神様Dが現れた。邪神様Eが現れた。邪神様Fg

艦これイベント、初の甲勲章GETだこらぁあああああっ!!
ハイなテンションで投稿!



 公園でおっさんに襲われかけたはやて(白)を保護した後、速やかに自宅へと帰る。ぐすぐすと鼻を鳴らしながらもぷるぷると振るえた手でしっかりと握り返してくるはやてに胸がキュンキュンしてきます。こ、これが萌えと言うやつか、ギャップ萌えと言う奴かっ。はやてのくせに生意気だ。くっ、涙目になりながらもこちらを睨んでいる表情、アリですっ。公園で落としていた魔法の杖を引きずっているとか、保護欲を刺激してくる。

 

 「べ、べつに泣いてなどいにゃい」

 

 くはっ、また噛みやがった。「可愛いです。ありがとうございますっ。これからもたまには苛めてもいいですかっ」

 

 「い、いじめるのか。わ、我を苛めるのかっ」

 

 「いじめるに決まってんだろ馬鹿っ」

 

 「そうかっ。それはよか、ってよくない」

 

 「違うっ、これは本音だっ」

 

 「よくないっ。よくないぞっ」

 

 「・・・冗談だ」

 

 「少しの間があったぞっ」

 

 もう、この女の子可愛い。ぎゅってしたい。なに、している?おっとこれは失礼。ああ、ロリコンになりそう。うっかり本音と本能が出て、目の前の少女を抱きしめて彼女の頭と背中を優しくさする。

 何とか落ち着かせて手を引いて自宅の扉をくぐる。もう外は暗いし、はやてと守護騎士達にはうちに泊まってもらおう。とりあえず風呂に入ってすっきりしてもらおう。寒いし、さくっと風呂に入って身体的にだけどすっきりしてもらおう。体を綺麗にしてあっためて、嫌な事も水に流して忘れてもらえればなお良し。

 

 「ただいま~」

 

 「おかえり~、って、どこか行っていたの?」

 

 「公園に行っていたんだけど、はやても来ているから。すぐに風呂に入るから」

 

 「わ、我は」

 

 「一緒に入ってきなさい~」

 

 「それもそうだな。では、浴槽へレッツGO」

 

 「ま、待て。我は」

 

 「裸のお付き合い(NOTエロス)をしようじゃないか」

 

 ロリには目覚めかけたがペドではないよ。本当だよ?って、誰に言い訳してんでしょうかね?まあ、はやてもいつの間にか立って歩けているようだから魔法か何かで歩けているんだろうし、こうやってふざけ合っている間に元気になってきたようだ。

 念のため湯船のお湯の量を確認しよう。間違ってもお風呂で溺れたら大変だし。風呂場へ繋がるドアを開けようとした瞬間に扉が開いた。

 オープン、セサミ。ごまってセサミっていうんだぜ。英語のスペルは書けんがなっ。って、んな訳かい。そんな加工はまだ施していない。という事は父か?父が先に入っていて扉が開いたのか。ということは俺とはやて(白)の前には全裸の・・・。

 

 「「「・・・」」」

 

 俺がいた。まるで鏡に映ったような俺がいた。ただし、全裸?

 いや、いつの間に俺は服を脱いだんだ?いや、これは鏡じゃないんだ。それを確認するためにも腕をビシッと伸ばし、足を曲げる。すると、目の前の俺(全裸)同じようなポーズをとると真横に顔を向ける。当然俺もそれにならう。

 

 「「ふゅ~」」

 

 ちょこちょこと横歩きにも似たような動きでお互いに近付く。と、同時に腕を上から横に動かしていく。

 

 「「じょんっ」」

 

 お互いの手が触れるか触れないかの位置まで移動すると同時に再び反対側の方向に拳を作りながら腕を伸ばす。

 

 「「はっ」」

 

 ビシッと突き出すように伸ばした指を全裸の俺に向けると指と指が触れるのを感じた。まさに鏡に映したかのようなシンクロ率100%。

 

 「「これは間違いなく・・・。俺だ!」」

 

 「いや、どちらかが偽物だと考えるのが普通であろうっ」

 

 はやて(白)がいやいやと手を振って俺の意見を否定する。そうとなると、

 

 「信じてくれ、はやてっ。俺が」

 

 「俺が」

 

 「「偽物だ!」」

 

 「どっちも本物を否定している、・・・だと?」

 

 いや~、さすがは俺。息もぴったりだ。全裸と言う準備不万端というのにこっちのフリに気づいてくれるなんて。

 

 「其処まで言うならはやて偽物だと思う方を」

 

 「その鋭い杖の先で突き刺せばいいよ」

 

 プスッ。プスッ。

 

 はやて(白)の攻撃。

 裕Aに2ダメージ。

 裕Bに6ダメージ。

 

 「躊躇いなく刺したねっ?!」

 

 「そこに痺れるっ、憧れるぅ!」

 

 「どうでもいいから服を早く着ろ!」

 

 憤るはやて(白)をよそにもそもそとパンツをつける裕B。そのパンツは一枚の葉っぱのマークが描かれたお気に入りのパンツだった。後ろから見ると何も吐いていないふんどしのようにも見えるやつだ。YATTAAAA!大丈夫、履いていますよ。どうやら準備していたのはパンツのみで服は準備していない様子。部屋に取りに行くことになった。んっ?なんでこんなふうにふざけていられるかって?だって、近くに魔法少女とかスーパーロボット(♂)とか存在するんだぜ。おまけに自分自身が邪神ときたもんだ。自分のそっくりさんの一人や二人が出た所で動揺する俺じゃ・・・。

 

 「「「・・・あ、おかえり」」」

 

 裕C(ベッドの上漫画を見ている赤い服を着た俺)が現れた。

 裕D(勉強机で月刊モテ男を見ている青い服を着た俺)が現れた。

 裕E(部屋の真ん中で筋トレしている黄色いジャージを着た)が現れた。

 

 五人の俺の視線が交差した時、きゅぴんと光った気がした。

 

 「俺は赤レンジャイ!」

 「俺は黄レンジャイ!」

 「俺は青レンジャイ!」

 「俺は桃レンジャイ!」(入浴後の為肌が桃色になっている)

 「俺は黒レンジャイ!」

 

 「「「「「五人揃って!」」」」」

 

 「それ以上はいけない」

 

 はやて(白)の攻撃。

 プスッ。プスッ。プスッ。プスッ。ゴスっ!

 裕Cに3ダメージ。裕Dに1ダメージ。裕Eに2ダメージ。裕Bに2ダメージ。裕Aに2ダメージ。

 WCCで加工している装備が無ければ死んでいた。※赤い彗星バージョン

 

 のたうちまわっている俺達。もう一人称なのか何なのか分からないが五人の俺がのたうちまわっているとはやて(白)は何かに気が付いたように呆れが顔になって杖の先をこちらに向けてくると杖から何やら機械的な声で『蒐集』と聞こえた。キィエァアアアアアッ、シャベッタ、ツエガシャベッタァアアアッ。って、魔法少女もロボットも邪神も(以下略)。

 そしてはやて(白)が持っていた杖から発せられた光を浴びると裕BからEは杖の中に吸い込まれてしまった。あれって、西遊記に出てくる瓢箪か?

 

 「なにかと思えば『闇の書の欠片』か。とはいえ、四人分とはいえ中身がこうでは、あまり足しにならんか」

 

 「俺になんてことをするんだっ。くそうっ、俺の仇だっ」

 

 「落ち着け。自分で何を言っているか理解できているのか?」

 

 「出来てないっ」

 

 「ぬけぬけと言いきりおっただとっ。・・・まあ、よい、いいかアレはだな」

 

 はやて(白)曰く、

 あれは『闇の書』が中途半端に分解された所為で発生した魔力で出来た分身のような物であり、自分自身はその魔力を回収して完全復活をとげようとしている。

 

 

 

 という廚二設定ですね。わかります。

 そして、廚二ごっこらしく俺(邪神)を捕まえて遊ぼうとしたらおっさんに襲われたと。その王様のような喋り方もしているんですね。だというのであれば俺がすべき行動はただ一つ。

 

 「これは失礼いたしました。紫天の王よ。これまでの無礼を許していただきとう存じます」

 

 その設定についていきましょう。何処までも。そして数年後これをネタにいじくりまわしてやる。

 片膝をついてどこかの騎士の様に彼女に謝るとはやて(白)は少し驚いた様子を見せたがすぐに胸を張る。

 

 「お、おう。まあ、事情を知らなかったお主にも情状酌量というものがあるだろうし、仮にも我を助けたという功績もある。許してやろうぞ」

 

 「王の懐の深さに感謝いたします」

 

 「うむ。これからも忠義に尽くせ」

 

 ふふん。と鼻息を立てるはやて(白)。とてもかわゆいではないか。ふふふ、数年後が楽しみだぜ・・・。せいぜいこの事を反省して悶えるといい。闇の王から紫天の王とネーミングを変えても廚二は消えないぞ。邪神の考えが見えていないのかはやて(白)は落ち込んでいた雰囲気など元からなかったと言わんばかりだったが、くちゅんと可愛らしいくしゃみをした。

 

 「王よ、今は師走。これからもっと冷えてくるでしょう。私の力を使い極上の物を用意いたしますのでどうか湯浴みなどをなされてはいかがでしょうか」

 

 「む、むむ。それもそうだな。うむ。準備いたせ」

 

 「はっ。すぐに」

 

 くっくっくっ。俺の思惑も読めていないようだな紫天の王よ。まあ、冗談半分心配半分なのは確かだ。はやては未だに病弱のイメージが抜け切れていないし、レイプされかけたのも確かだ。このテンションのまま過ごしてもらって、トラウマになる様ならこの日の事は全部忘れよう。廚二と共に!そう考えながら部屋を出ようとしたら不意に背中越しに服を掴まれたのを感じた。振り返ってみるとそこには再び涙目になったはやて(白)が強がりながらこう言った。

 

 「わ、我も一緒に湯を見てやる。ありがたく思えっ」

 

 もうっ、どこまで俺をキュンキュンさせるんですかこの子!

 WCCでリラックス効果(微弱)に加えて滅多に使わない入浴剤も入れて更に効果を上げて王様と一緒にお風呂に入ったよ。描写はしないよ。ただ一人でいるのが嫌で強がっている王様マジ可愛いとだけ言っておこう。王様とおそろいのパジャマを着て夕食を準備した母が不思議そうな顔で声をかけてきた。

 

 「裕ちゃん、今日はなのはちゃん、アリシアちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんそれぞれの家に泊まるんじゃなかったの?」

 

 「お母様、何かがおかしいと思わんのか?」

 

 もしかして裕G・H・I・Jもいるのだろうか?王様の顔を見ると何やら疲れた表情で首を縦に振るのであった。

 




邪神から王様への好感度がぐんぐん上がっています。
ドジな子ほど邪神に好まれるという典型的なパターンです。


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第六十三話 邪神様のお仕事

 

 「なんか、どのうちも裕ちゃんの様子がおかしいから一時的に預かるって言っていたわ」

 

 複数の俺がなのはちゃん達の所にお泊りするという話を風呂上がりに聞かされた田神親子。

 

 「俺の様子がおかしい・・・?」

 

 「裕ちゃんの様子が・・・?」

 

 「いつものこと」(邪神母)

 「そうだった」(邪神本人)

 「そうなのかっ?」(白はやて)

 

 外に出るのはひたすら嫌がっているはやて(白)。もう王ちゃまでいいか。もう暗くなった夜道を出歩くのは危険だと母に言われたが、彼女本人が出向かなければ蒐集という廚二ごっこがおわらない。そこまで本腰を入れなくてもいいじゃない。だけど増殖した俺が何をしでかすが自分でも予測できないので早めに事態の収拾にあたることにした。テスタロッサ研究所までならシフトムーブでいけばすぐにつくが念には念を入れてあるものを引っ張り出す。それはバニングス提供の超高級段ボール(隠密効果大)。這寄る傭兵さんも愛用している物を完全再現させた物だ。使うのは俺と王ちゃまなので、あの人クラスの隠密効果は望めないだろうが、それでも目の前で段ボールを被った俺達をお母様は声をかけないと見つけられなかった。もう傭兵というよりもドラえもんの『石ころぼうし』ではなかろうか。これをつけて外は歩かないぞ。車を運転している人通りを歩いている人達にも認知されなくなるからな。

 

 「じゃあ、いってきます」

 

 「すぐにもどる」

 

 「いってらっしゃい」

 

 お母さま、俺は後ろや。この段ボールの隠密性マジですごいな。

 

 

 

 さて、テスタロッサ研究所の玄関をすっ飛ばしていきなりロビーに転移した俺と王ちゃまが見た物は、まさに異様といった物だった。というか、あまりの光景に王ちゃまは固まっていたけど・・・。

 恐らくそこから先は自宅エリアだろうと思われる扉の前に転がっている俺(黒焦げ)がユーノ君の魔法により拘束されると、アルフが運送して部屋の隅に積み上げてアリシアがその上に座る。アリシアのお尻の下にいる俺はなんだか幸せそうな顔をしている。くそう、ピンクのパジャマをつけていることから風呂上がりなのだろう暖かい幼女のお尻はそんなにも気持ちいいモノなのか。是非、替わって欲しい。

 

 「いきなり貴方が現れたと思ったら、揃って風呂上がりのアリシアの前で大きく腕を広げて『Come on!』なんて言うから雷を落としちゃったけどアリシアのプリプリのお肌を好きにしていいのは私とフェイトだけよ」

 

 「・・・くっ。俺はただアリシアではぁはぁしようとしただけなのに」

 

 「…管理局での交渉の時のプレッシャーでおかしくなったのかしら?リアさんに連絡していてよかったわ。管理局の何かされてるかもしれないし・・・」

 

 え?マジで?シャマルさんにチェックしてもらったけど一応問題無しだと言われたんだが?

 

 「・・・あれ?WCCが使えるようになった」

 

 「ん?どういうことだい、アリシア?」

 

 「何かいきなりWCCのメニュー画面が開いた」

 

 「僕がバインドした時は使えなかったのに、今は使えるってこと?それって・・・」

 

 「まさか本当に第二、第三の邪神が・・・」

 

 アルフさん正解です。まあ、アリシアという第二の邪神がいるし、というか俺の家にも4人はいたし、あと何人いるんだろうな。

 

 「とにかく、これ以上変な事をしないように確保しておかないと。放っておいたらフェイトのお風呂を覗かれるかもしれないわ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほう?

 

 同時に裕G(テスタロッサ研究所にいた俺)と邪神の目が光ったのはほぼ同時だった。

 ここまで言われたらやるしかあるまい、俺。

 

 「ならば、ここで倒れるわけにはいかない、よな」

 

 バインドされていたのは簀巻き状態だったが何とか立ち上がる裕G。わきゃあと裕Gの背中に座っていたアリシアが転がされる。

 

 「分かっているのかしら裕?それ以上はいくら貴方でも許される事ではないわ。私の雷が黙っていないわよ」

 

 プレシアはゆっくりと立ち上がる裕Gに自身のデバイスの先を向ける。だが、それで止まる俺じゃないだろ!俺!

 

 「間違っている。間違っているぞ。プレシア・テスタロッサ。俺が見たいのはフェイトの裸ではない」

 

 「なに?」

 

 「俺が見たいのはその先!そうっ、裸を見られて恥ずかしがっているフェイトの顔だぁあああああっ!」

 

 やっぱりあいつは俺だ!俺はあいつなんだ!

 ただのスケベ心じゃないっ、萌えも取ろうとしている欲張りな存在。邪神という力に呑みこまれず『田神裕』という人格を宿した一人の人間だ!

 

 「そして、何よりもっ、フェイトの裸+恥じらう表情は雷に打たれるというリスクを負ってでも見る価値はある!」

 

 「「くっ」」

 

 

 「「納得しちゃうの?!」」

 

 テスタロッサ母娘に驚きを隠せないアルフとユーノ。

 俺の隣では王ちゃまもツッコミをしそうだったが口を塞ぐ。大きいとはいえ段ボールという空間に美少女な王ちゃまの口を塞ぐ。・・・うむ、これはこれでありかもしれん。

 

 「いざゆかんっ、更なる高みへ!」

 

 腕を拘束され立つのもやっとなのに彼は行く。己の道を。

 邪神がフェイトを見る。フェイトも邪神を見る。フェイトは邪神を見られることで美しく(萌え)なる。

 その思考に王ちゃまが尋ねる。

 

(邪神は?邪神はどうなるのだ?)

 

 (邪神?邪神は・・・羽ばたくのさ)

 

 

 

 まあ、プレシアさんのサンダーレイジ(非殺傷:弱め)で一撃ダウンだけどな。

 と、そこへ顔を赤くしたフェイトがやってきた。湯上りだからではなくきっと裕Gとプレシアとのやりとりを聞いていたんだろう。

 

 「もうお風呂あがったから恥ずかしくないもん!」

 

 フェイトちゃんが「もん」を使うと萌え度が上がるじゃないか。そして、もう一人の俺!お前ならまだやれるだろ。頑張れ頑張れやれるやれる。そう、顔を赤くしながらもアリシアとおそろいのピンクのパジャマのフェイトを辱め改め、恥ずかしめろ!それではフェイトファンの皆様ご一緒にっ。

 

 「可愛いっ。可愛いよフェイト!湯上りの肌もピンク色で超キュート!ちらちらと覗くおへそも可愛いっ。そして運動もばっちりしているから小学生のくせに腰のくびれが悩ましい!だがそれがいい!いつものツインテールから降ろしている金髪も大人っぽくてゴッドだ!ミステリアスの中にも保護欲をくすぐるその様子がたまらなくいい!は邪魔の裾から見える手首よりも奥の方もちらちらと腕の細さと機目の細やかさがあってなおいい!さすがフェイト!よく見れば手に塗っているのはハンドクリームの残りかすか何かなにかを髣髴させる。そして手に残っている豆の後か。ただ柔らかい手の平かと思ったらバルディッシュを振るって出来たという痕跡もまたいい。私頑張ってます。だけど隠してますと言う感じで保護欲をくすぐる!何が言いたいと言うと。可愛い!可愛いよ!全部が可愛いよフェイト!フェ・イ・ト!「フェ・イ・ト!」「「フェ・イ・ト!」」」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 「「いじめかっ」」

 

 いつの間にか裕Gに混ざってプレシアとアリシアも混ざってフェイトコールをする。トウのフェイトは出てきた時よりも顔を赤くして俯いている。それは第三者から見ればいじめにも見えるだろう。フェイトコールからしばらくして、ダメージが大き過ぎたのかまるで空中に溶ける様に体全体が薄れていく。その様子にプレシア親子とアルフ。ユーノは驚いていたが裕Gの捨て台詞によって更に驚くことになる。

 

 「・・・俺を倒してもきっと第二、第三の俺がお前達の前に現れるだろう」

 

 「「「「邪神(アンタ)なら本当にありそうで怖いわ!」」」」

 

 そして、完全に裕Gが消えると同時に俺は段ボールを脱ぎ去る。

 いつでもガサゴソ。あなたの隣に這寄る邪神。

 

 「待たせたな」

 

 それは裕Aの頭上に紫の雷(非殺傷:強め)が落ちる2秒前の事でした。

 

 

 

 「で、あなたは魔力を回収して回っていると?」

 

 「あ、はい。そうです。でも、散っていった魔力は今消えたんで帰ろうかと」

 

 プレシアの雷を見た瞬間に王ちゃまは戦意喪失。というか、間近で非殺傷とはいえ強烈な雷を見たのだ戦意を喪失させても仕方がない。

 

 「まあ、消しちゃったのは私だし。私のでよければ多少は融通するわよ」

 

 「あ、じゃあ私も」

 

 「じゃあ、僕も」

 

 「あんたも邪神に引っ掻き回されて大変だね」

 

 「うう。ありがとう。・・・ありがとう」

 

 テスタロッサ一家とユーノの優しさに涙を流す王ちゃま。でも、邪神自体は彼女の害になる様な事はしていない。事態をややこしくはしているが・・・。そんな王ちゃま達の隣で焼き加減はレア(生)とはいえ多少なりにダメージがある邪神の頬をつつく邪神もどきのアリシア。

 

 「ねえ、裕ってフェイトを特別視しているみたいだけどフェイトの事が好きなの?」

 

 「いや、俺はフェイトだけでなく可愛い女の子や美人は好きだけど」

 

 「その割には私に構ってくれないよね」

 

 さり気に自分は美少女だと言っているような物だがそれは置いておく。

 

 「それじゃあ、今度の大晦日近所の神社に行くときに屋台の食べ物を奢るってのはどう?」

 

 そしてさり気にアリシアをデートに誘う裕。邪神というのはさりげなくフラグを撒くのがお仕事のようだ。

 



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第六十四話 綺麗な邪神様

 

 王ちゃまがテスタロッサ邸で蒐集を終えてさて、これからバニングス邸に向かおうとした時にいろいろ聞かせてもらった。

 どうやら砕け得ぬ闇の魔力(笑)が俺の分身を作り出しているそうだがその分身にWCCは使えないとの事。そりゃあ、WCC自体が神の力だからそう簡単に複製が出来ても困る。

 次に分身は俺だけじゃなくて王ちゃまみたいにはやての分身(設定)の様に容姿は似ていても性格や特性が違っている奴もいるらしい。つまり・・・。

 

 『持ってくれよ私の体ぁああああっ!ディバインバスター、カートリッジ四発だぁあああああっ!』と言う鋼鉄さんみたいななのはちゃん。

 『お姉様、あれを使うわ』『ええよくってよ』と言いながらテスタロッサ姉妹による超稲妻蹴りとか。

 『私は人間を辞めたぞぉおおおお!じゃしぃいいいいんんっ!』とか。

 『風穴開けるアルよ!』と言うツインテールな中華娘とか。

 

 みたいな幼馴染達に会えるという訳か・・・。いや、さらに欲を言うのなら、

 

 『いくぞ!アースラぁあああ!』とか言いながら榊原君が有無を言わさない怒涛合体(もちろん無許可)を見せたりとか。

 『小学生は最高だぜ』という白崎に『激しく同意なんだお』とかいう王城。

 『はーはっはっは!』とか言いながら隕石の上に仁王立ちするユーノ君に『魔王剣疾風の如く!』とかいって対抗する恭也さん。他にもいろいろなみんなが見れるという訳か。

 

 「オラわっくわくしてきたぞ」

 

 「自分や知人の分身がいるというきいてそう言えるお主も大概よな。もしかしたら見たくない自分や見られたら恥ずかしい自分がいるかもしれないというのに・・・」

 

 つまり俺より愉快な俺がいるという訳か。それはそれで。

 

 「駄目だコイツ。早くどうにかしないと。せめて、これから会う邪神の分身はまとめであってほしいものだ」

 

 まともな俺ねぇ・・・。

 

 

 

 『初めまして。僕は田神裕。小学三年生です』

 『WCCという不思議な力を持っていますが皆さんと仲良くやっていければ嬉しいです』

 『触手?エロ?あはは、嫌だなぁ、そんな恥ずかしい事言わないでくださいよ』

 

 

 

・・・誰、これ?これ、俺?

 

 「急ぐぞ王ちゃま。これ以上俺の分身が迷惑をかける前に駆逐してやる」

 

 俺が今まで積み上げてきたイメージ(三枚目)が消えるその前に。

 

 「お、おういきなりやる気になってくれたの嬉しいが何を考えたのだ、いきなり真面目な顔になりおってからに。あと、我の名前は」

 

 「急ぐぞ王ちゃま俺に捕まれ」

 

 「ちょ」

 

 段ボール兵士ごっこをもう少ししていたかったがもうその余裕はない。田神邸とテスタロッサ研究所。月村邸とバニングス邸は邪神の手によって地下ケーブルで繋がっている。勿論WCCで加工した物で最初は無許可(面白そうだから)でやろうと思ったがお母様に止められたのでちゃんと許可は貰っている。このケーブル伝いでこの四か所は一つのアイテムとしてWCCでシフトムーブが可能。

 王ちゃまは何か言おうとしたが構っていられない。即座にテスタロッサ研究所の床とバニングス邸の玄関近くの床を入れ替える。

 WCCで発生した光が王ちゃまと俺を包み、その光が消えると同時に風景も入れ替わる。そこは何度か行き来したバニングス邸の玄関だった。いきなり現れた俺の姿に驚いたバニングス邸に務めているメイドさん達だったが執事長の鮫島さんがすぐ近くにいたのでそんな騒ぎにはならなかった。が、

 

 「今まで申し訳ございませんでした田神様」

 

 「なんで謝るんですか?」

 

 「いえ、人知れずにお嬢様の為に翻弄してくれたのにお嬢様があのようなふるまいをしてしまい大変申し訳ございません」

 

 「いや、本当に辞めてください。何がどうしてどうなってるんですか?」

 

 「お嬢様を地べたに這わせて、その上に乗って体で分からせてくれたことに多くの感謝を。お嬢様も上に乗られてようやくありがとうございますと泣きながら感謝しています」

 

 「鮫島さん従者ですよね?!アリサの従者がそんな事に感謝しちゃいけないんじゃないかな?!」

 

 分身の俺何をした?!

 

 「いえ、そんな事裕様が今までしてきてくれたことに比べれば微々たることです」

 

 「全然微々じゃないですよ!?」

 

 むしろアリサのトラウマになっちゃうんじゃないかな?俺の分身何をしやがった!?

 

 「むしろトラウマになるくらいじゃないとお嬢様も反省しないかと」

 

 「王ちゃま俺、言葉に出したっけ?」

 

 「いや、出していないと思うが」

 

 「執事ですから」

 

 執事凄い。

 とにかく鮫島さん曰くアリサの部屋で俺の分身はアリサを押し倒して泣かせた挙句無理矢理ありがとうと言わせている外道の俺(分身)をとっちめる為にも急行することにする。

 

 

 

 

 

 「大体だな、人が好意でやっているのをお礼をいうのが恥ずかしいから手を上げるってのはどうなの?」

 

 「・・・はい。ごめんなさい」

 

 「大体、本体の俺。ふざけるなと言わんけどちゃんと公私混同しないようにしろ。だからこんな状況になるんだぞ」

 

 「・・・はい、ごめんなさい」

 

 「お嬢様だからそうなの。それとも相手が俺だからそうするの。いい加減にしてくれよ。こっちはそっちにあまりプレッシャーをかけないようにおどけているんだぞ。大体本体の俺もWCCで加工した金の時計を外すと思いだしプレッシャーで吐きまくるくせに」

 

 「ちょ、それは」

 

 「お前は黙ってろ。俺、というかお前がそこまで頑張っているのを隠そうとするのはこいつ等が好きなのはわかるがこのままだと自分がブッ潰れるだろう。馬鹿なの。少しくらい甘えるという言葉を知れ」

 

 「・・・はい、ごめんなさい」

 

 バニングス邸に現れたのは理論武装やさぐれバージョンの俺(裕H)だった。

 裕Hがバニングスさんと一緒にロビーでゆっくりしていたところにアリサが乱入いつものおしゃべりから何故か口論になりアリサが裕Hにアイアンクローをかまそうとしたところに高町道場で鍛えた護身術で撃退。組み伏せたまま今まで俺が頑張ってきた功績とそれに対しての評価を改めるように論破していく。それはまるで管理局の暗部に脅迫をかけていた自分の様だった。

 そんな風に物理的にも論理的にも打ちのめされていくアリサはついには泣きだしたが裕Hの言葉のナイフはブッサブサ刺さる。それを見ているだけでは可哀相に見えてきたのでやめるように言おうとすると日頃の自分を改めろとかアリサ達に甘すぎだと説教を喰らいアリサと一緒に土下座するように裕Hに謝り続ける。

 裕Hの説教が終わると同時に王ちゃまが蒐集して裕Hが退場する。その後、アリサを慰めるのに時間がかかった。

 大丈夫だから、俺まだ大丈夫だから。今までの様に照れ隠しのボディーブロウを売ってください。そんなアリサ見たくないです。元気のないアリサが俺大好きだから。さあ、撃つがいい世界を狙える右をっ、ギブミーボディーブロー!王様そんな汚いものを見る目で俺を見ないで!ビクンビクン、悔しい、DAKARA感じちゃう!俺は元気なアリサが大好きぃいいいいいっ!

 

 「夜に変な事を大声で言うなぁあああっ!」

 

 アリサの張り手が俺の顔面に襲い掛かる。ありがとうございます!でも、どうにか持ち直してくれたあんなに女の子を泣かせるのがきついとは思わなかった。バニングスさんと鮫島さんは月村邸に向かおうとする俺を見て何やらニヤニヤしていたけど何でだろうね。アリサが照れているところが可愛いからでしょうかね。ツンデレの魅力は照れている部分にもある。では俺もニヤニヤとアリサを見つめる。張り手の二発目を貰った。ありがとうございます!さて、月村邸に行こうか王ちゃま。

 

 「そ、その私もあんたの事」

 

 「じゃあ、お邪魔しました~」

 

 アリサが何か言いかけたけど綺麗な邪神様(裕真面目バージョン)や裕H(やさぐれ)みたいなやつがすずかちゃんやなのはちゃんの所にいるといろいろやばいから早くこの件は収めないといけない。アリサが何か言いかけていたけどちゃっちゃと行くとしよう。

 

 「す、・・・」

 

 

 

 後日、お嬢様から理不尽なベアハッグに襲われる邪神だった。

 

 

 

 「でさ、俺頑張ったんだよ。だから撫でて」

 

 「うんうん。裕君頑張ったよね」

 

 「そうでしょそうでしょ。にゃんこ達よ。もう少しだけお前達のご主人様のナデナデを受けさせてくれ。結構俺も一杯一杯なんだよ」

 

 「うんうん。なんか裕君って猫みたいだよね。普段は誰にも甘えないで頑張っちゃう。なんだかアリサちゃんにも似ているね」

 

 「そうなんだよ~、だからもっと~」

 

 「はいはい、今日の裕君は甘えん坊さんですね~」

 

 「そいつは偽物だぁあああああ!」

 

 月村邸に移動した俺達はファリンさんの案内ですずかちゃんの部屋まで案内された俺は思わず裕Iを突き飛ばした。

 何この甘えん坊な俺!あああああもう、羨ましい!じゃなくて口惜しい!何嬉しそうな顔をしているのすずかちゃんまで問答無用で王ちゃまに回収させる。

 

 「ああ~、甘えん坊な裕君が消えちゃった~」

 

 「すずかちゃん君も何かゆるゆるになっていないか?」

 

 ああもう、ちょっと覗いて様子を見ようと思ったらソファーに座っていたすずかちゃんのお腹に頭を擦りつけている裕Iがいて猫なで声ですずかちゃんに甘えていた。俺を叩き落とした俺。どうやらこの裕Iは構ってちゃんみたいのようだ。さっさと蒐集した王ちゃまはGJ。あ~も~、本当に俺のイメージを崩すような俺の分身がまだいるんだろう。忍さんやすずかちゃんに簡単に説明して次は高町邸に向かうことすると、すずかちゃんがやってきて俺を優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。

 

 「裕君~、無理しないようにね~」

 

 「そんな優しい目で俺を撫でてくれるなんて・・・。癖になったらどうしてくれるっ」

 

 「ずっと撫でてあげるよ」

 

 ・・・ふらっ。

 は!思わずその包容力に抱きつきそうになったがまだ闇の魔力(笑)で出来ている俺の分身があっちこっちで暗躍している。少なくても高町家でも起こっている。さあ、急いでサルベージ。ああ、これから向かう高町邸にはいったいどんな俺がいるのであろうかシフトムーブを行う。ああ、まだすずかちゃんが優しい目でこっち見る。こっち見るな恥ずかしい。

 

 「じゃ、じゃあ、またな」

 

 「うん。またね」

 

 邪神見送る少女の瞳は何処までも優しかった。

 しかし、邪神の知らない所で闇の書の欠片たちがあちこちで行動をし始めた事に彼はまだ知る由は無かった。

 



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第六十五話 邪神様(R)が現れた。

大分、間を開けてすいません。
前々から考えていたネタだったんですが思った以上に難産でした。
短めですがちびっとグロとコメディーを詰め込むのには苦労しました。ホラーって意外と難しんですね。


 「・・・うっ、うっ」

 

 「・・・ひぐっ、えっく」

 

 「・・・ふぎゅ」

 

 王ちゃまとなのはちゃん。そして美由紀さんの三人が高町邸に備え付けられたお風呂に入っている、何故わかるのかというと後で俺もそのお風呂に入る予定だからだ。

 美少女達の入った後お風呂に浸かるのが楽しみで仕方ありません!と言えたらどれだけ楽な事か・・・。

 

 「・・・裕。さすがにあれはないだろう」

 

 「いや、あれは俺じゃなくて王ちゃまの魔力で作られた俺の分身ですから・・・」

 

 「だが、元はお前が考えていたものだろう」

 

 「あ、その。・・・はい」

 

 恭也さんと士郎さんの目の前で正座させられている俺は十分前の光景を思い出していた。

 十分前。

 高町家の玄関にシフトムーブした俺と王ちゃまを出迎えたのは高町家の皆さんと何人メカの邪神Jがお出迎えしてくれた

 なんでもなのはちゃんが家に帰ろうとしていた矢先、公園でボーっとしていた俺に話しかけた所無反応だったらしく。最初は俺とよく人間かと思っていたらしいが根気よく話しかけると『はい・いいえ』とこちらの質問には答えるらしく、田神裕なのか?と、聞いてみた所『たぶんそう』と元気なく答えた。

 元気の欠片がまるでみられないが病気をしていそうな様子もない。無気力、無表情の俺を不思議に思ったなのはちゃんは邪神Kを連れて家に帰ってきた。

 それからいろいろと質問をするがはいかいいえ。もしくはたぶん。と元気なくただ淡々と答える邪神Jになのはちゃんはいろいろ話しかけた所どうやら自分の思い出と照らし合わせながら質疑応答をしていたらしい。その結果『田神裕の記憶はあるが田神裕ではない。だけど質問にはいろいろ答えてくれる。遠距離アクセルシューターの的が出来た』とも言っている。後半の言葉に嫌な予感がぴんぴんなんだが・・・。

 どうやらこの邪神K。どうやらこちらの質疑応答に答えるだけの分身らしい。彼の目的も高魔力の魔導師がいるこの町で自然と放出される微弱すぎる魔力を充電するという地味すぎる役割だったらしい。というか、今までの邪神B~Jにはその機能が搭載されていたらしい。地味すぎる設定だぞ、はやて。じゃなくて王ちゃまよ・・・。

 王ちゃまの外見に最初は戸惑っていた高町家の皆さんだったが素早く皆さんを集めて『はやてはごっこ遊びに夢中だから』と優しく小さな声で伝えたことにより王ちゃまをとても優しい目で迎えてくれた。やったね、王ちゃま。皆が優しいよ。

 さて、この邪神分身体はこれで打ち止めらしい。残りの分身体はなのはちゃんやフェイト。アリシアといった幼女に姿を変えて魔力を集めているらしい。が、こんな深夜に美少女たちがどんなひどい目に遭うだろうか。たとえ分身たちとはいえ、その気は無いとしてもなのはちゃん達ほどの美少女を目にしたら魔の手が伸びるかもしれない。酷い目にあってほしくない。手を出そうとした準犯罪者達にな!

 ほんのわずかな出来心で後ろから迫りくる青いツナギを着たイイ男の機械、じゃなくて魔の手が忍び寄る。ロリコン予備軍がゴールドラッシュ並に掘られた日には海鳴という町は薔薇の花びらが咲き乱れたただれた街並みになってしまう。その噂を薔薇の香りを嗅ぎつけたイイ男達が溢れかえるとしたら、恭也さん士郎さんはもちろん榊原君にザフィーラ。特にクロノ辺りのお尻を開発されつくされてしまうだろう!おお、怖い怖い。あとメダルトリオもイケメンだし、俺の尻を狙う奴が溢れるかもしれん。そうなる前に王ちゃまの放った分身を回収せねば!(使命感)

 さて、この邪神Kだが実は一番最初に放たれた分身で一番魔力を溜めていたらしい。王ちゃまが蒐集を行おうとした時にそれはおきた。

 備考として、守護騎士達は肉体を持っている。それは肉や骨。血にいたるまで魔力で出来ているがそれは確かに存在する。それは目や耳。心臓や腸にいたるまで魔力で出来ている。まあ何が言いたいのかというと・・・。

 

 

 

 蒐集の過程が凄くグロかった。

 

 

 

 王ちゃまの持つ杖の先に吸い込まれる邪神Jの穴という穴から人体模型の中身のような物が飛び出して王ちゃまの杖に生々しい音を立てて吸い込まれていった。

 

 

 

 ちびった。

 

 

 

 王ちゃま。なのはちゃんがその場でちびった。いや、仕方ないとは思うよ。だっていきなり分身とはいえ友達がスプラッタな目にあったらちびっても仕方ないと思う。美由紀さんもちびったから一緒にお風呂に入っているのか?

 俺?俺は常に携帯している黄金の懐中時計で平常心を保っていたから、冷静に対処したよ。ちびったパンツを即座にシフトムーブさせたよ。

清潔な状態にしながら自分の家の玄関に転移させたよ。いきなり玄関に俺のパンツが落ちているのを見たお母様。もしくはお父様は何を思うだろうか。さっさとこの事件を解決してパンツを回収しないと。(使命感Ⅱ!)

 王ちゃま曰くあの邪神Kは比較的俺の嗜好。もとい思考に近いモノらしく、出来るだけ魔力を溜めていたからこそ中途半端な肉と魔力を持ち、あんな事になったらしい。

 いや、まあ、試作型インベーダーの中にもそんな脅しを兼ねた奴を考えたことはあるよ?だけど実装するには早いし、プレシアの許可も貰ってないから未だに机上の空論なのだが?というか王ちゃま(はやて)が知っているのはおかしい。もしかしてシャマルさんから何かしら何か聞いていてそれを実行に移した?いや、だったらちびるはずがない。それともあまりにショッキングだったから記憶から外したとか。てか、そのショックで髪の毛が白くなっちゃった?

 

 つまり、この闇の書の欠片事件(笑)の元凶は俺だったんだよ!!

 な、なんだってぇえええええ!!!?

 

 「裕君、話を聞いているのかねっ」

 

 「あ、はい。すいません。何か本当にすいません。まさかこんな事になろうとは思いもせず・・・」

 

 自己完結で驚愕していた俺に士郎さんのお小言が飛んできた。いや、本当に反省しないと。

 

 「まったく、うちの娘たちをあんな目に遭わせて責任は取れるのかしら」

 

 「責任が取れなくても最大限補填はします」

 

 テスタロッサやバニングス。月村の方はまあ、大丈夫だとしても王ちゃま(はやて)となのはちゃんは本当に災難だったのだろう。よ~し、WCCで色々サービスしちゃうぞ。『トラウマ克服』の効果って作り出させるかな?

 

 「まるで経営破たんした責任者みたいな言い草だな」

 

 「はい。申し開きもありません」

 

 自分の体勢を正座から土下座へとシフトさせる。いやぁ、邪神って本当に大変だわ。自分でも知らないうちにあちこちに迷惑かけているんだもんな。・・・本当に『災厄の邪神』だよ。なのはちゃん達がお風呂から出てくるまでこんこんと説教された俺はお風呂から出てきた王ちゃま(裕のパジャマだけしか着こんでいない為ノーパン)にパンツを作ってあげる為になのはちゃんのパンツをサンプルとして欲しいと言ったらさらに怒られた。泣きべそを未だにかいている王ちゃまとなのはちゃん。あと美由紀さんを気遣っての事だったのだがそれくらいならそのままなのはちゃんのパンツを王ちゃまに譲渡すればいいじゃない。ということになった。そりゃあ、そうだ。

 




 とある路地裏にて。

 「おいおい、なのは。こんなところに俺を連れ込んでどうしようっていうんだ」

 白崎はようやく闇の書事件で負った負傷から回復してしばらくすると夕暮れ時に目の輝きを失ったなのはを見つけた。それはなのはの友人だけでなく、周りの人達がよく見れば何か様子がおかしいと感づけたが白崎には『高町なのはの形をした何か』が高町なのはに見えたのだろう。
 お目当ての女の子が向こうから近付いて来た時にはとうとうデレたかと思いあがっていた。だから、『高町なのはの形をした何か』に誘われるがままホイホイと路地裏に連れて行かれた。その『高町なのはの形をした何か』に促されるまま目を閉じた、だが、彼は薄目で『高町なのはの形をした何か』の動向を見た。見てしまった。

 それは海の妖精『クリオネ』。見た目は愛らしいが、捕食体勢に入ると頭にあたる部分がイソギンチャクのように広がり獲物を捕食する。それを連想させるような体勢をとった『高町なのはの形をした何か』の変態の姿を・・・。



 「アッ――――――――――――――――!!!!!!!」



 海鳴の薄暗い路地に少年の悲鳴が上がった。

 同時刻、王城が入院していた病院でも似たような悲鳴が上がった。その際、フェイト・テスタロッサ。もしくはアリシア・テスタロッサに似たような人物を見たとかどうとか。その情報は定かではない。



 邪神のRは閲覧やばいのR。



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第六十六話 邪神様が乗っています。

シュテルんファンの皆さん申し訳ございません。


 王ちゃまを高町家に預けて邪神様の海鳴に散らばった闇の欠片(笑)の分身体探索は終わらない。世界のノンケを救うため、ロリコンホイホイと貸したなのはちゃん達の形を模した分身をすべて回収せねばならない。この状況を作り出した邪神として。というか、なのはちゃん達みたいな美少女が深夜を徘徊。ロリコンがホイホイついてくる。その後ろからブラック・ゲッター改めゲイ・バキュームが海鳴の一角に彼等を招き入れる。この三連コンボを阻止しなくてはいけない。一応、王ちゃまからマジカルステッキを借りて自分でも蒐集が出来るようにWCCで加工した。もちろんグロ展開にならないように設定もしたし、大丈夫だろう。

 

 「それじゃあ、少し出てくる。忍にも話をしているからすぐに来るだろう」

 

 「なんかジュエルシード事件からお世話になってすいません」

 

 「あれはお前の所為じゃないだろう。まあ、今回は自重しなかったお前が原因だろうから、まあ、これでチャラだな」

 

 自分達の妹をちびらせた相手なのにこんな風に恩を着せないように言ってくれる恭也さんマジ男前。否、漢前!これだから文武両道で容姿端麗の出来る男は違う!欲望まみれの邪神とは違う。さっすが天さん!(高い声で)

 

 「なにか変な事を考えていないか?」

 

 「俺が真面目な事を考えているとでも、いた、痛い、痛いですっ!すいません真面目に考えます!」

 

 いつか、『(モテる為の)技を借りるぜ!』という前にアイアンクローを受けネタを出す前に中断せざるを得なかった。剣士の握力舐めたらあかんよ。マジで頭蓋骨から聞こえてはいけない音が聞こえる。すずかちゃんのアイアンクローは音は聞こえないがじわじわと痛みが増すのに比べていきなり危険域に来るんだもんな。もう、恭弥君のせっかちさん!あがががが、すいませんっ。今度こそ真面目に考えます!

 

 「まあ、プレシアさんとグレアムさん達。あとシャマルさんに頼めばすぐに捜索隊を出してくれますって・・・」

 

 恭也さんのアイアンクローから逃れると同時に携帯電話を使って

 餅は餅屋。魔法の事は魔導師に。特に人海戦術としてテスタロッサのゲッターロボには手伝ってほしい。管理局側にはたっぷりと貸しがあるのでこういう時にこそ払ってもらわないと。シャマルさんというか守護騎士達にも動いてもらおう。なんて言って手伝ってもらおう?う~んっ、あっちもあっちで交渉後だから疲れていると思うんだよな。闇の書の欠片(笑)があちこちに散らばって悪さをしようとしている。は、ダメか。ただでさえはやての立場は危うい。俺が原因だったとはいえ、ここで騒げばのちのち厄介な事になること間違いなし。となると・・・。

 

 件名:邪神の所為で海鳴がヤバい。

 

 これでいいか、関係者に一斉送信。と。

 

 

 

 魔導師組。特に管理局サイドの人間に激震が走る

 邪神は未だに自分の影響力というものを理解していなかった。

 

 

 

 「裕、なんとなく『やらかした感』がぬぐえない気がするんだが?」

 

 「いや、『魔導師の分身が大量発生。対処方法は邪神の俺に一報を』って、メールを入れたんですけど」

 

 「まあ、それならいいか」

 

 もう、天さんってば気にしすぎなんだから。

 高町家の玄関で待っているとファリンさんが運転する軽自動車がやってきた。ファリンさんって免許持ってたんだ。ドジなイメージがあるから免許とかそういうものは持ってないように思えたんだけど。軽自動車から降りてきたのはファリンさんだけで、忍さんやノエルさんは明日の大晦日の会議に備えて家で待機しているそうだ。ブルジョワ様は年越しを外国で迎えるそうだ。恭也さんもそれについていくらしい。まあ、海鳴で過ごす俺にはあまり関係ないんだけど。

 ファリンさんに今回の探索の協力についてお礼をいいながら軽自動車に乗ろうとして、

 

 

 キンコーン。

 『物損事故を起こしすぎた車』。人身事故を起こしていないのが不思議なくらい事故を起こしている車。とあるメイドがとある敷地内での接触事故のみしか起こしていないというある意味奇跡な車。

 

 

 降りた。

 忍さーんっ!なんでこの人を車に乗せてこっちに連れて来たんですかーっ!?

 これはあれか。夜間運転の練習も兼ねてと言う事と物損事故ならWCCで直せると打算付きのやつなのか!いや、まあ、それくらいなら協力するけどさ。とりあえずファリンさんは初心者マークを車に貼ろうか。とりあえずファリンさんが乗って来た車に耐久力(小)を付与して出発する。あまり効果をつけるとファリンさんがそれに依存しかねない。壊れたらその場ですぐ直すからさ!

 俺と恭也さん。ファリンさんの三人で探索か。まあ、後で魔導師組の人間も来るだろうから近場の触手スポットとなってしまった公園に行って色々と回収しよう。

 という訳で公園近くまで行くと青い髪のツインテール娘が『いいもの有ります』と書かれた看板を持って公園を出入りしている姿が見えた。よく見ると青い髪をしたフェイト(バリアジャケット装着済み)に似ている。そんな彼女の後ろには何人かの大きなお兄さん達(おそろらく30歳以上)がぞろぞろとついていく。その異様な光景に恭也さん、ファリンさん。俺自身も呆気にとられていた。そんなフェイトに似た少女が向かうのは公園の茂みに不自然に建てられたトイレに入っていく。って、あのトイレは・・・。

 

 アッ―――――――!!

 

 完全防音とはいえ中に入っていった大きなお兄さん達の悲鳴が聞こえた気がする。現にトイレから出てきたのはフェイト似の少女だけ。そんな彼女は歩くのに疲れたのかトイレの上に視線を向ける。その先にはなのはちゃんに似た少女が鎮座していた。

 

 「シュテルーん。僕、もう疲れたよ。交代してよ~」

 

 「我慢してくださいレヴィ。王が不在の間私達が魔力を集めないといけないんですよ。体が出来たての私達は魔力を上手く練れないから、簡単な射撃魔法と飛行魔法。身体強化を使っても一般人の身体能力に毛が生えた程度しかないのです。それに貴方に蒐集という細かい作業は出来ないでしょ」

 

 「そうだけどさ~。って、僕から見てもあの人達は魔力を持っていそうに見えなかったよ?」

 

 「レヴィ、この国。日本にはとある伝承があるそうです。何でも人は誰でも魔法を使う事が出来ると」

 

 え?そんなのあるの?

 

 「とある条件を三十年を満たせば男は皆、魔法使いになれると」

 

 それは満たしたんじゃなくて満たせなかっただよ!そっとしておいてやれよ!じゃあ、あれか!トイレの中に入っていった人達は童貞より先に処女を失ったって事か?!

 

 「それにこんなに美味しい事はまだあなたには早すぎます。・・・はぁっ、はぁっ」

 

 駄目だ。あの子、腐ってやがる。トイレとアベを回収するのが遅すぎたんだっ。

 

 「・・・そんな伝承は初めて聞いたな」

 

 「私も初耳です」

 

 恭也さんとファリンさんは少女の言葉を疑問に感じていた。イケメン&美女にはほぼ無縁の事だから仕方ないよ!畜生っ!これ以上被害者を出すものかっ。幸いな事にあのトイレとアベはWCCではギリギリ射程圏内だ。トイレと触手は土に返して、アベは海鳴の地中深くに封印しておこう。何かあった時の為の保険にしておこう。WCCを使ってトイレを土に戻すとその上にいた少女は突如足場を崩されたことに少しだけ驚いた表情をしたが、すぐに着地体勢をとり音もなく更地になった地面に降り立った。フェイトに似た少女はトイレが消えた事とトイレが光りに包まれて消えていくのと変わってその中に入って行ったお兄さん達(非処女)のいわゆるアヘ顔に驚いていた。

 

 「・・・なのは、じゃないな。そっちの少女もフェイトちゃんではないな」

 

 「というかあの人達は大丈夫なんでしょうか?全身がビクンビクンしているみたいなんですけど・・・」

 

 触れないであげてっ。ちょっとした下心(ロリ)が出た所為で大事な物を失った彼等の事はそっとしてあげてっ。

 

 「どうやら夢のエネルギーじゃなくて、魔力が溜まる前に前に大本命である邪神の方がこちらの方に来たみたいですね」

 

 「え?あ、本当だ。あ、でも分身たちがいっぱいいるんだよあれが本物かな?ねえ、君が悪戯の神様?」

 

 「イエス」

 

 「即答するな。少しは否定しようとしろ」

 

 残念だけど恭也さん。俺の生き様がそれを否定する。そんな俺にややあきれた様子でファリンさんも言葉を投げかける。

 

 「少しは直そうとする努力はしないんですか?」

 

 「俺もちょっとな、と思う事もあるんだけど・・・。こんな自分が結構気に入っている」

 

 ここ最近、命や生活に関わる事件や事柄に関係しすぎて麻痺しかかっているけど、やっぱりそんな事件を解決したりして誰かに感謝されたりするよりも馬鹿やっている自分の方が好きなんだよね。だからこそこんな物騒な事になりそうな事は事前に摘み取る必要がある!

 

 「どうやら邪神は護衛を連れてきているみたいですね。しかもロボット達も集まってきている!幾分エネルギーを蓄えた私でもメイドとお兄さんを倒し、ロボ達から逃げるのは困難・・・」

 

 「えっ、シュテルん。回復していたの?僕は回復してないのに?」

 

 「ふっ、あそこにいる方々から幾分分けてもらいましたから」

 

 「え?あの人達魔力ないよね?」

 

 「腐腐腐腐腐腐っ」

 

 「シュテル~ん?」

 

 もうやだあの子。発酵が進み過ぎているじゃない。腐りきっているじゃないっ。まあ、原因は俺なんだけどさ。なのはちゃんに似ているだけでもやりづらいのにこれじゃあもっとやりにくい。その上、俺と恭也さんを交互に見て無表情ながらにも抑えきれない笑い声をあげているんだもの。

 

 「何を考えているかしらんが裕君に簡単に近づけると思うな。大人しく俺達について来い。子どもがこんな時間帯までうろつくんじゃない」

 

 「そうですよ。事情は裕君から聞いています。だからごっこ遊びはやめてください」

 

 「ごっこ遊びじゃないぞーっ。力を取り戻せば『砕け得ぬ闇』が手に入るんだから!」

 

 恭也さん達の声にフェイトに似た少女。レヴィと呼ばれていた少女が反論の声を上げる。はやてめ、フェイトに似た分身にまでごっこ遊びを強要させるとは許せん。そんな事しないで直接言えばいいのに。きっとごっこ遊びに付き合ってくれると思うぞ。

 

 「そうです。それに目の前の人が本当に邪神なら。私達が知る邪神であるのなら戦いなどせずにこちらに来させることは容易です」

 

 シュテルんと呼ばれた少女がレイジングハートによく似た杖を何もない空間から呼び出すと同時にこちらに向ける。その矛先はなのはちゃんが持つレイジングハートよりも鋭利で杖というよりも槍に近い形状のものだった。

 その矛先に赤紫の光が灯る。まさか、ビームをぶっ放す気かと俺と恭也さん。ファリンさんが身構える。

 

 「邪神の弱点。それはっ」

 

 彼女の持つ槍の先から出てきたもの。それはっ!

 

 べちゃっ。

 

 「・・・バナナ、の、皮?」

 

 「・・・え?裕君の弱点って?」

 

 恭也とファリンは一瞬何が起こったのかわかなかった。目の前にいる少女が魔法を使うのかと思ったら、いや、使ったのだろう。彼女が持つデバイスにある拡張空間に収めていただろうバナナの皮が丁度自分達との間に放り捨てられたのだから。

 いや、なんで、バナナの皮?まさか戦闘開始をすると同時に自分達が突っ込んでこれを踏むと予想していたから?いや、だとしたらもっと気づかれないように捨てるべきだ。わざわざ杖の先を光らせて、いまからバナナの皮を置きますよ。と言っているような物だ。罠だとしたらあまりに稚拙。こんな物に自分はもちろんドジっ子のファリンだって引っかからない。それはもちろん自分の後ろにいる裕だってそうだと。と、恭也は考えていた。考えてしまった。その次の瞬間邪神である田神裕は自分達を置いてシュテルん達に飛び出していた。そこで彼はようやく気が付いた。邪神がこんなお膳立てされた場面を見逃すはずがないと。

 

 「うおおおおっ、走り出さずにはいられないいいいいぃっ!」

 

 全力でバナナの皮を踏んだ邪神は思いっきりバナナの皮で滑り、まるで超低空のオーバーヘッドキックの体勢のまま宙へと投げ出されていた。

 

 「今です!」

 

 「うんっ」

 

 その瞬間、レヴィが魔法を使い高速移動で裕に急接近。そのまま彼を抱えてその場を離脱、海鳴の夜の空へと逃げて行った。シュテルもまたレヴィを追うように空へと飛んでいった。WCCの対象となる地面から切り離された裕に成す術は無かった。まさに邪神を知っていたシュテルんの計算通りであった。

 

 

 

 「な、何が起こったかさっぱりわからないがよく聞いてくれ。気が付けば裕のやつが飛び出していったんだ。あれは超能力とか魔法とかそういった物じゃなく・・・」

 

 「恭也さん。ファリンさん。もうちょっとしっかりしてください」

 

 数分後、海鳴の公園に合流してきたクロノや管理局の皆さんにお小言を貰う高町恭也とファリンの姿がそこにあった。

 




邪神様がピーチ姫化している気がするのは作者だけでしょうか?


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第六十七話 邪神様×3 → 邪神様×2 → 邪神様×1 → 邪神様×0

タイトルは邪神様の残機。もしくは抵抗値。


 シュテルんことシュテルの狡猾な罠により見慣れない廃ビルに閉じ込められた邪神。裕は辺りを見渡していた。見た所自分が下の袴しかつけていない(パンツも穿いていない)状態の自分に何が出来るかを模索していた。

 このビルに連れ込まれた時には王ちゃまの杖に金の懐中時計のアクセサリー上の袴までちゃんとつけていたんだ。逃げ出すチャンスもいくつかあったがそのチャンスはことごとくシュテルとレヴィによって阻まれ、阻まれるたびに一つずつ装備品を外されていったのだ。

 

 シュテルにバインドを解きますけどあの『緑色の土管の中』を通って逃げないでくださいね。逃げ出すたびに一つずつ装備品を剥ぎ取りますから。と、明らかに廃ビルの中にあるはずがない緑色の土管を指さして言われた俺は迷わず走り出して土管の中に入って行った。「どぅどぅどぅ」と言いながら。土管の奥にはキノコの形をしたチョコポッキーを齧りながら待ち構えていたレヴィの手により捕まった。

 

 レヴィに連行されて別の階層の部屋に移された俺はシュテルのバインドによって拘束された際に、もう一度言いますけどバインドを解いても決してこの部屋に通じる『扉』をくぐって行かないでくださいねと言われて、連れてこられた部屋の中を見渡すとボロボロな扉が二つに明らかに新品な『赤い扉』があった。どうせだから俺は赤い扉を通って逃げ出すことを選んだ。だが、シュテルの説明中に部屋を出て行ったレヴィが上から来るぞ気をつけろ。勿論捕まった。金の懐中時計を取られた。

 

 再三に渡る階層移動とシュテルの説明を受けた俺はたった一つしかない扉を見ながらシュテルのバインド拘束から逃れ、扉をくぐった。そこにはビニール袋に包まれ、『レヴィのとっておきのおやつ』とメモが添えられたペロペロキャンディーと、雀鳥のような大きな籠とひも付きの棒。その紐の先にはレヴィが涎を垂らしながらこちらの様子をうかがっている姿が見えた。本人は隠れているつもりなのだろうか曲がり角から顔を半分出した状態だった。これ以上狡猾な罠に引っかかるわけにもいかない。だが、ふと気が付いてしまった。キャンディーには『レヴィのとっておきのおやつ』と書かれていた。それがもし本当ならレヴィは『本当は嫌だけど邪神である俺を捉えるにはこれしかなった』と、思ったんじゃなかろうか。そんな自分の身を切る思いで配置した罠を回避していいのだろうか。今もなお涎と自分の『とっておき』を出してしまった悲しみで潤んだ瞳を裏切れるのか?ぬぅおおおおおおっ。耐えた。耐えきったぞ俺!俺は前振りに応えることを辞めるぞっ、ジョジョォオオオっ!

 

 くきゅう~。と、レヴィの顔が見えるところから子犬の鳴き声のような音とジワリと彼女の瞳が濡れるような音が聞こえた。気が付けば俺はペロペロキャンディーを手に持っていて罠にかかっていた。何が起こったが訳が分からねえ。超能力とか魔法とかWCCでなく何か本能的な(以下略)・・・。

 

 

 

 「さて、これ以上肉体的にしか剥ぐものがありませんね」

 

 肉体的な物を剥ぐことを考慮している時点で彼女に逆らわない方がいいと思う。というか、あの前振りを無視したらはがれていたのではないだろうか?そんな一抹の不安もさることながら邪神である自分をここまで翻弄する彼女の手腕にも冷や汗をかく。

 

 「こんな事をして、何が目的なんだ?」

 

 「私が欲しいのは貴方」

 

 ・・・やだ、凄く男前。

 相手はなのはちゃんみたいな美少女なのに乙女な反応をしちゃうじゃない。

 

 「というのは半分冗談で私達の狙いは『砕け得ぬ闇』の入手」

 

 冗談半分って半分は期待していいってことなのかっ。じゃなくてまたもやはやての妄想に付き合わされる分身体の皆さん。本当にもうお疲れ様です。レヴィという子は王ちゃまの杖を持って高町家へ飛んでいく。なんでも俺を預かっているというメッセージを届けに行くとか。デバイスの通信機能を使えばいいんでね?

 

 「『砕け得ぬ闇』とやらを入手するためにここまで大騒ぎするなんて、それを入手してこれから先どうするつもりなんだ」

 

 「聞いてくれればあなたもきっと理解しますよ。邪神を名乗る貴方ならね」

 

 そう言えば俺も「アイタタタ」な能力を持っていました。もしかしてこの茶番劇って本当に俺が原因じゃないの。シュテル曰く彼女達は闇の書暴走体がアルカンシェルで吹き飛ばされた時に発生したという設定の遊びをしているわけで、その起因は俺で・・・。あっ、やっべ。本当に俺の所為なんじゃないの?!

 

 「私達がこのような騒ぎを起こす理由。それは」

 

 「・・・それは?」

 

 無表情の顔つきから隠しきれない程面白そうな声色を発するシュテル。彼女の様に狡猾的な罠と実行力を持っている者がはやてのお遊びに付き合う理由は何なのであろうか。

 

 「悪戯って周りが大騒ぎすればするほど楽しくないですか?」

 

 「わかるっ」

 

 即答出来た俺はやっぱり邪神なんだと思う。だが、それならもう十分に騒いだろうに。これ以上は笑えない、自分のそっくりさん。というか裕B~Iぐらいだったか?肖像権の問題とかが特に問題視される。今まで自分が作り上げてきたイメージが崩壊する事がこんなにも恐ろしいなんて・・・。もうあれだよ。なのはちゃんが魔王様。フェイトが忠犬。すずかちゃんが月村からエロムラ。アリサが幽霊に。はやてが子狸ならぬ古狸。・・・なんでだろう、どれもこれもぴったりなイメージが?なんというか近い将来本当になりそうな、いやいや俺の周りにいる美少女達がそんなに変わるはずがないっ。はずがない!大事な事なので二回言いました。

 

 「ではお分かりですね。貴方の置かれている状況が」

 

 「・・・くっ」

 

 「もう一度だけ言います。こちらの用件が済むまでじっとしておいてください。でないと貴方の物を剥いじゃいますよ」

 

 くそっ、考えるだけでゾクゾク。じゃなかったぞくっとするような事を言いよる。だが、俺もただ捕まっていたわけではない。今まで数度捕まってきたが既にこのビルの内部事情はWCCで把握済み。空中でバインドされているが拘束が外され次第シフトムーブを行い逃げることが出来る。

 

 「次も逃げてしまった際には報復も考えております。まず服を脱がすのはもちろん。アレな行為も辞さないつもりです」

 

 ちなみに装備品は袴(下)のみ。残り一枚、リーチ。

 

 「あ、アレな行為って?」

 

 聞くのが恐ろしい。聞いてしまえば俺は戻れない気がするが聞かずにはいられない。常に最悪な状況を予測し行動しなければならない。集中力を要するWCCには必須と言ってもいい情報は可能な限り揃えなければならないのだから。

 

 「わかりませんか?一つ、この薄暗い部屋」

 

 ついっと彼女の指が俺の顎に触れる。

 

 「二つ。若い男女、二人きりの空間」

 

 彼女指は顎からへその方まで撫でる様に移動していく。その仕草は幼さしかない外見に似合わな過ぎる。

 

 「三つ」

 

 ごくりっ。何を・・・。

・・・するつもりだ?

 

 「カツドゥーン」

 

 「俺がやりましたぁあああああ!」

 

 って、なんだその『逃げてまた再び捕まりたくなるようなお仕置き』はぁああああああ!

 

 「さあ、バインドを解いてあげます。大人しく待っていてくださいね」

 

 まるで今まで一度も笑わなかった少女が生まれて初めて笑ったかのような笑顔で拘束を解くシュテル。

 俺は、俺はどうすればいい?彼女の言う通りここで待っていればいいのか?それとも彼女の意図を飲んで脱出して捕まればいいのか?どうすればいいんだ?!ていうか、捕まらなくてもいいじゃんっ。大人しく待っていなくても脱出しきればいいじゃんっ。

 

 そう考え浮いた邪神は扉を蹴破りながらその部屋を飛び出した。その際に扉に張り付けられていたメモを見てしまった。

 

 『取調室』

 

 その文字こそが邪神の脚から力を奪い去り、彼を膝から屈する魔法の言葉。邪神の後ろからゆっくりやって来たシュテルが優しく彼の肩に手を置く。

 

 「それじゃあ、行こうか?」

 

 「・・・はいっ。刑事さん」

 

 シュテルという匠の技(魔法)により邪神は完全に捕縛された。だが、邪神に悔いはない振られたボケに全て答えることが出来たのだから。

 

 

 

 

 

 「・・・まあ、本気で逃げようとしたら撃つだけだったんですけどね」

 

 彼女達のふりを無視し逃げなくて本当に良かった。

 

 

 

 レヴィが高町家にやってくるとなのははもちろんだが王ちゃまと美由紀の三人はベッドの中で夢の中へと旅立っていたので高町夫妻がレヴィから貰ったビデオメッセージを見ていた。

 

 『というわけで私達は魔力だけで出来ているので邪神の力を持つ彼に専用のデバイスを作ってもらおうと思い彼を攫いました魔力の確保もそうですが割と切羽詰まった状況なので、自前では少し心持たないので、デバイスの材料をこちらに譲渡してくれると幸いです。渡してくれないと私達という存在が消えかねませんので。ああ、邪神である彼にはあまり危害は加えませんので、ちょっと辱める程度の嫌がらせくらいに留めておきます。あと、分身体の中で私達が手の付けきれないほど凶悪なモノもいるのでお手数ですがそちらの駆除もよろしくお願いいたします』

 

 『皆はやくデバイスの材料を持ってきてくれ!俺が辱められる前に!』

 

 と、上半身しか移されていない状態だが見様によっては全裸にされているのではないかと思われる裕の姿に・・・。

 

 「裕君的には全裸は辱めに入らないのね」

 

 「そういう問題じゃないと思うぞ桃子」

 

 最後に付け加えるのなら地球の片隅でシュテルが言っていたその暴走体と熱血バトルしている榊原の姿に管理局は彼を大いに評価したという。

 




 榊原君『ぎぃがぁああっ、どぉりいるぅうっ、ブレクゥアアアアアアアアア!!!!』

 暴走体『ヴァアアアアアアアアア!!?』

 榊原君、一日に二度目(一度目はメダルコンビの片割れ、白崎)の大バトルである。


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第六十八話 今、世界が安い!邪神様特売会!

どこぞの魔王達「いくら寛大な儂等でも、もうちょっと出し渋る」


 シュテルんこと、シュテルの度重なる卑劣な前振りに成す術無く捕まった邪神(全裸)。そんな状態で彼はクールな表情でこちらを見てくる幼女と一緒にいた。全裸で。

 

 「まあ、こちらの要求は大体通るでしょう。後は管理局のデバイスが来るのを待つだけですね」

 

 「なあ、ふと思ったんだけど何で管理局からなの?プレシアの方から貰うっていうのもアリだと思うんだけど?」

 

 彼女達ははやての持つ元『夜天の書』のプログラムにある守護騎士のような存在であるため、管理局という暗部がある組織にその存在が知れれば狙われる可能性も有ると今更ながらに考えた裕はシュテルに訊ねてみた。

 

 「それは管理局が貴方に借りがあるからです」

 

 「俺に借りがるのと今回の件で何か関係があるのか?」

 

 「何言っているんですか。お前の物は俺の物。今夜限りはお前自身も俺の物」

 

 「・・・やだ、ときめく」

 

 邪神の顎を指で撫で上げる男前美幼女に乙女ハートを持つ邪神ボーイは思わず目を逸らした。文字にするとこの上なくややこしい。

 

 「まあ、私達が出現する際にアルカンシェルとか言うふざけた物で吹き飛ばされたから私達という存在があまりにも脆弱になったのでその仕返しにと思ったわけです」

 

 「あ、なんか申し訳ない」

 

 元はと言えば『闇の書』のバグ取りが失敗したら自分もろとも吹き飛ばす作戦を立てたのは邪神の案でもあったので無関係という訳ではない。その事に関して謝るとシュテルは特に文句を言うことなくそれを受けた。逆に邪神と縁が出来たと感謝しているらしい。邪神の力を借りれば自分達は完全な存在になれるかもしれないのだからと。

 裕がアイタタタという表情をした。未だにこの邪神は『はやてが廚二ごっこしている』と勘違いしているらしい。

 さて、お互い話すことが無くなったと考えのんびり待つかとシュテルが言いだしたのでもう少し『廚二ごっこ』に付き合うことにした。

 

 「そんな事言って皆が来る前に俺を手籠めにしようと考えているんでしょっ。エロ同人誌みたいにっ。エロ同人誌みたいにっ」

 

 キャーと言いながらシュテルが呆れ顔でツッコミを入れると思って期待して待っていたのだが、ツッコミが来ない。むしろ何か考えている様子とはいってもあまり表情に変化が見られないのだがこちらを見ているシュテルがぽつりとつぶやいた。

 

 「・・・なるほど。それもアリですね」

 

 「しまった藪蛇?!」

 

 しかも丸腰。(全裸だけに)手籠めにしやすい状況である。

 まさかの事態に慌てだしそうになった裕だが、一度落ち着いて自身の能力を思い出した。

 

 自分はWCCという反則的な力を持っている。何かに触っていればそれを変幻自在に操れるのだ!残念だったな!

 

 裕の状況:全裸拘束。拘束魔法バインドによる空中固定。

 

 ・・・俺!

 

 干渉する物自体ないじゃん!魔力に触れてもWCCで加工できないじゃん!シュテルに全部脱がされたばっかじゃん!忘れていた俺って馬鹿じゃん!?

 目に見えてじたばたともがくがそこから拘束が解けるわけもなく、ゆっくりと近づいてくるシュテルに未知の脅威を感じた裕。

 

 「そう言えば町に分身体達の情報からも貴方の弱点は知らされていましたね。…フフ」

 

 「やめてそんな『今まで一度も笑う事が無かった少女が花が咲いたように笑った』ような笑顔を浮かべて近づいてこないで!」

 

 「わかってます。フリですね」

 

 「フリじゃないよっ?!」

 

 シュテルに止まる様に懇願する邪神だが、そんな願いも通る筈も無く・・・。

 

 「大丈夫ですよ。優しく。そう、とってもやさし~くしてあげますから」

 

 両手で裕の顔を包み込んだシュテルは微笑んだ。

 

 

 

 突然だが、因果応報という言葉がある。

 高町なのはを元にして出来上がったのがシュテル。彼女の知識はなのは(正確にはその姉)から来るもので、更に邪神が作り出したゲッターⅡ改良型ことA・BEEの行動から『快楽堕ち』という言葉と知識を手に入れた。駄目押しに邪神のドジとノリとウッカリがファイナルフュージョンを起こした結果がこれである。

 

 

 

 一方その頃、廚二廟ごっこしていると思われていたはやてとその守護騎士達はクロノ経由で裕が闇の書の欠片の分身によって攫われたことを知る。

裕が管理局との話し合いを終えた後、アリサ達がはやてと一緒に迎えに来て、自宅に帰り、夕食を取ってさあ、寝ようとした時に裕が連れ去られたと聞かされた八神家は騒然していた。

 

 「いかんっ。今スグに向かわねば(誘拐犯が)危険だ!」

 「ああ、これ以上私達の被害が(邪神の手によって)あってはならない!」

 

 管理プログラムさんと烈火の将は急いで現場に行き、『誘拐犯』を助けなければならないと感じていた。

 

 「あいつの事だからその分身体とも仲良くやっているんじぇねえか?」

 

 対して鉄槌の騎士は何となくだが裕が酷い目に遭うイメージはなく、むしろ一緒に誰かを酷い目に遭わそうとしているのかもしれないと考えていた。

 

 「もしや我々のプログラムを幾ばくか解析した管理局の者が操作を誤魔化すために裕のやつを攫ったのでは」

 「それはありえない事じゃない。管理局の暗部ならそれぐらいやりそうだしね。裕君の弱点は生体ないし魔力による拘束が一番だから・・・」

 

 「逆に返り討ちにして言葉にならないような仕返しをしているかもしれへんな」

 

 盾の守護獣に湖の騎士は最悪のケースを考えて行動すべきだとはやてに伝えた。

 自分の騎士達の主であるはやてはアハハと苦笑しながら言葉を漏らした。後にその場にいる全員が思った。

 

 ((((((どれもあり得る!))))))

 

 基本的には一般人と変わらない裕だが彼の持っている能力は魅力的かつ脅威的かつ非力なくせに凶悪。

はやては知らないが守護騎士達は裕が本気(マジ)で怒ると真剣(ガチ)で世界が滅びかねないのだ。管理局の暗部を知ったと同時に邪神の持つ心の闇のような物も垣間見た彼女達だからこそ早めに動くことを決意したのだった。

 それからクロノを含めた複数の管理局の魔導師達と、一応『邪神の眷属』と銘を打ったテスタロッサ研究所から貸し出されたゲッターロボと合流した八神家。

 どうしてテスタロッサ研究所の人間が動かないのかと聞けば、王ちゃまみたいなのが犯人の仲間なら害はないだろうと判断。高町家からは娘がショックを受けて寝込んでいると全く正反対な反応で拒否された。ショックを受けて寝込んでいる人間が出ているのに危険が無いとはどういうことなのだろうか?あと王ちゃまって誰?と悩みながらもレヴィが持ってきたメッセージに指定された廃ビルに行くとそこにはあまりにもひどい光景が繰り広げられていた。

 

 幼い肌ピンク色に紅潮させ惜しげも無く晒し、全身をビクンビクンと痙攣させ、虚ろな目をして、口からは断続的で荒い息遣いをしながら涎を垂らしていた幼児の姿があった。これはいわゆるポルノというものではないか?『事後』というものではないかと思わせる光景だった。

 『加害者』ははやて達がやって来たことを確認しながらも『被害者』の事をいたわるように優しく頭を撫で続けていた。その際に『被害者』がアヒンアヒンと言いながら、頭に何故か1UP!1UP!という擬音が流れているようにも見えた。

 

 お察しの通り『被害者』は我等が邪神。田神裕、その人である。

 

 「「「「「ヴィータ(ある意味)ビンゴォオオッ!」」」」」

 

 「嬉しくねえ!」

 

 管理局の人間は何がどうなっているのかと戸惑っている間にツッコミを入れながらも裕を助け出した八神一家。

 ザフィーラとシャマルがシュテルから裕を切り離すと同時にはやての近くにいるヴィータにパスする。シグナムとリインフォースがシュテルの身柄を確保する。その流れるような動作は流石というべきか。

 

 「ふう、さすが管理局と守護騎士というべきですか。ほら、ご主人様に変わって皆さんに挨拶しなさい」

 

 「はっ、はひっ。ほひゅひんひゃひゃ」

 

 「裕君しっかりしてください!」

 

 シュテルの言う事を何とか実行しようにもあまりにも刺激が強すぎたのか舌が回らない裕に回復魔法をかけながらすぐ傍に落ちていた裕の袴と金時計を彼につけてゆく。それからしばらくしてWCCで袴に施した効果と回復魔法が効いてきたのか息を整えた裕ははやて達にお礼をいった。

 

 「ふっ、ふぃっ。ふぅっ。た、助かった。危うく俺の中で芽生えた何かがカンストするところだった。ありがとう王ちゃま」

 

 「だから王ちゃまって誰やねん。というかほんまに大丈夫か裕君?」

 

 「いやぁ、あの御方のゴッドハンドが凄すぎて」

 

 「本当に大丈夫ですか?」

 

 もう既にカンストしているのではないだろうか?依存心とか忠誠心とかが。とシャマルの心配を横目で見ながらクロノはシュテルに杖の先を突きつけながら問いただしていた。

 

 「どうしてこんな事をしていたのか答えてもらおうか」

 

 「くっ、こうなったら戦うしかないですね」

 

 シグナムとリインフォースに捉えられていながらも、どう見ても悔しそうには見えない無表情なシュテルの態度に邪神が待ったをかける。

 

 「お止め下さいシュテル様っ!この数の差は貴女様でも無茶です!」

 

 「実はカンストしきっとるやろっ!裕君!」

 

 「そ、そんなことはにゃいっ」

 

 邪神の叫びに八神が答えると邪神の口調が再び怪しくなる。

 この邪神、実はチョロいんじゃないか?と管理局の人間に知られたら確実に裕の身元を確保されるだろう。

 

 「ユウ、ユウ。ここはびしっと邪神らしく止めに入った方がいいんじゃないか?」

 

 とヴィータが一応アドバイスを贈る。まあ、なんとなく駄目になるんじゃないかなと思っているはいるが。

 それを受けた裕はコクンと頷くと再びシュテルとクロノに向かって再び声をかける。

 

 「シュテルよっ、世界の半分をあげるから事情を説明せよ!」

 

 「もう籠絡されきっとるやろワレェエエエッ!!」

 

 世界の半分をあげると言いきれる邪神の凄さにつっこむべきか、それとも世界が安すぎることにつっこむべきか、どちらにせよ邪神のチョロさとウッカリにツッコミを出さずにはいられないはやてだった。

 




 神(ボケ)は神(ツッコミ)がいることでより輝く。

 だいぶ間を開けての投稿誠に申し訳ございません。リアルの生活とイベント(艦これとか艦これとか艦これとか)が忙しくて投稿遅れてしまい、申し訳ございません。実はまだ邪神誘拐騒動。というか、シュテルのターンは続きます。お楽しみに!
 あと、うちの邪神様。本当にチョロくなってしまった。どうしてこうなった?と、作者も不思議に感じております。キャラが勝手に動くとはこういう事を指すのでしょうか?


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第六十九話 とある真面目な管理局員の邪神様考察記録

更新おくれて大変申し訳ございません


私ことクライド・ハラオウンは現在とても困惑している。と言う訳でこれから念話を通して記録するつもりだ。何故ならば命の恩人の邪神。ユウ・タガミを救出する息子のクロノと共に救出に向かった。バックアップにリンディを控えさせている。まさか親子での共同作業が命の恩人を救う為の作戦とは皮肉な物だ。とは言っても自分がやることはクロノの補佐のような物だ。最前線に出られるほど自分の体力も魔力も回復しきっていないので後詰め、現場補佐官のような物だ。こんな異常事態だがそんな時だからだろうか、息子のクロノの成長を頼もしく感じている自分がいる。クロノには『冷静かつ慎重に行動する』ように言っておいた。

 親友のギルの使い魔。リーゼ姉妹からもそれを言われているから大丈夫と言いきった息子は何と頼もしい姿になった。だが、そんな感傷に浸かっている時ではない。相手は子どもとは言え口先一つで守護騎士だけでなく管理局を翻弄させた邪神を誘拐した輩だ。決して油断してはいけない。けっして突入する部屋の前に異様な存在感を出すバナナの皮なんて踏まない。

 そして、部屋に突入した部屋の中で苦しめられてい、る?邪神ことユウを救う事に成功した。その事に安堵した。危険性を帯びているユニークスキルを持つ存在とはいえクロノより幼い子どもだ。本当に大事に至らなくてよかったと安堵している。だからこそ私はこの言葉を呑みこんだ。

 

 『どうしてこいつはパンツをはいていなかったんだ?』

 

 この地球と言う世界ではパンツをつけるという習慣が無いのか?いや同じ地球出身のギルと局員時代に何度か泊まり込みで職務をこなしていた時にあいつは着替える際にパンツをはいていたはずだ。と言う事はニホンというこの国だけパンツを履くと言う習慣が無い。もしくはあの邪神が着けている着物のような服装の際にはパンツはつけない習慣があるのだろう。でなければ高町なのはや八神はやてといった少女達もパンツを履いていないということになる。それはいけない。特殊な趣味をした次元世界の犯罪者たちがこの事を知ったら一斉にこの地球に来てしまう。私は決して『地球にあるニホンという国で着物をつけている人はノーパン』という情報は外部には漏らさないと誓う。

 

 さて、邪神を救い彼を攫っただろう少女。シュテルは高町なのはと言う少女を元にして作られた闇の書の欠片と言うではないか。あまりにも突拍子の無い事だが彼女が言うには闇の書のデータと力の欠片が偶然に合わさった物だと考えて欲しいと言うではないか。確かに守護騎士といった魔法の力で出来た肉体を持つ存在があるから納得できる。だが、それ以上に恐ろしい事を言ってきた。彼女はこういったのだ。

 

 『私達はあなた達の情報。そして、邪神のデータ持っています』と、

 

 その言葉に危険を感じた守護騎士の将シグナムとリインフォースが止めようとするが、少し遅かった。彼女が次に出した行動。それは、邪神であるユウへの待遇についてである。

 シュテルが言うデータというものはこれまで守護騎士達が体験してきた記憶。それはユウが管理局と話し合いをしてきた直後までの事まで把握している物だった。そしてこういった。

 

 『貴方達の命の恩人に対してないがしろにする行為は見るに堪えません』

 

 ぐふぅっ。とシグナムとリインフォースは胸を押さえる。クロノも思い当るところがあるのか彼女達から視線を逸らす。それに続き彼女の言葉による攻撃は続く。『騎士。いえ、人とならばその御恩に報いるのが筋じゃないんですか?』とか『辱めにあった?精々体をくすぐられるといった物でしょう。長年苦しめられた呪いから解き放たれたんだからそれぐらいは享受すべきじゃないんですか』とか『ああ、騎士の体と言う存在は気高いんですね、一度助けられた恩ではそこまでと言う訳ですか』とか『ところで貴方達の主である八神はやてを救い出した報酬はお払い済みなんですか?』と言いきられた時にはシグナムとリインフォースはその場で地面に崩れ落ちていた。ヴィータはユウに何か飲みたい物はないかと聞いている。シャマルは元から裕の悪戯にも寛容で彼が望むなら大体の事はしてあげるつもりだった。今この場で苦しんでいないものは邪神にちゃんと報いている。もしくは報いていこうとする者だろう。

 それからはシュテルの指示の元、ユウがいた部屋はまるで南国のビーチを思わせるような装飾に作り替えられ、シグナムとリインフォースには騎士甲冑と言うバリアジャケットをパレオの水着に変形させてシュテルも率先してパリアジャケットを変形させてフラダンスを始める。こうやって邪神の少年を楽しめなさい。と言う。

 はやてはユウを膝枕しながら三人がフラダンスしているところを見せる。その隣ではハンマーのような形をしていた自分の愛機を大きめのうちわにして仰ぐヴィータ。そして邪神だけではなく邪神がシュテルに言われて用意させたハンモックやソファーを作りださせ管理局の皆さんを座らせたザフィーラをパシリにして買い物行かせて、その買って来た物を簡単なつまみとして飲み物をシャマルが配っている。いつの間にか、私達管理局員は突入した部屋でシュテル指導の下、南国気分を満喫していた。

 

 「って、なんで南国築いているんだぁー!」

 

 冷静にかつ慎重にツッコミを入れたクロノ。

 息子以外の管理局(自分も含む)がいつの間にか形成された南国フィールドに毒気づいた局員達の尻を蹴り上げる。その威力は半端ないものだった。さすがはリーゼ姉妹に鍛えられただけの事はある。ギルだけでなく彼女達にもお礼をいわなければならないな。って、違う違う。下手にシュテルの機嫌を損ねるとどうなるか、想像できない。これが邪神のデータを手に入れたというものの力(話術)か。

 人の痛いところをついて、あらかじめ用意しておいた逃げ道へと誘導する。だが、それは罠でこちらを籠絡させ、時間稼ぎをする物であり、本来の意図を誤魔化すもの。まさに邪神と言う存在ではなく心を揺さぶるその手腕、恐るべし。特に有無を言わせず、力づくと言った非人道的な事をすれば邪神本人による報復があるので下手に手出しが出来ない事も考えると本当に・・・。この目の前にいる少女は確かに邪神の力を持っている。落としどころというのが分かっている。

 

 「気を取り直して、君は闇の書の欠片だと言ったな。何が目的だ」

 

 「そちらには高性能なデバイスのパーツを用意してもらえるだけでよかったのですが?」

 

 「それを何に使うんだ?」

 

 「私達自身の為ですよ。私達は闇の書。いえ、夜天の書にある守護騎士プログラムのような物ですのでそちらに自分の核のような物を移して完全に独立したいのですよ。・・・邪神の手によって作られた物でね」

 

 「見逃せるか馬鹿!」

 

 確かに。

 MADE IN JASIN

 これほど安心できない物はないな。

 クロノがその様な事を見逃せるはずがないとシュテルも分かっていたのだろう。そしてその不敵な笑顔でこういった。

 

 「残念でしたね。もう時間の様です」

 

 「何の、時間だっ」

 

 「私が邪神を誘拐してから何も考えずに時間を稼いでいたとお思いですか?」

 

 「まさか何かあるのか?!」

 

 「まさにその通りです。私達という存在はあまりにも不安定なものなのでいつ消えてもおかしくありません」

 

 ドヤ顔で自分の命があと僅かだと伝えるシュテルに思わずツッコミを入れるクロノ。もし、息子がいなかったら自分がツッコミを入れていただろう。

 

 「じゃあなんで時間稼ぎをしたんだよ!」

 

 「それは私達が中途半端に危険性が無いということを印象付ける為。再び復活した時に貴方達に私達を問答無用で攻撃させない為に良心につけいる記憶を植え付ける為。そして、邪神の元で復活した時。再び邪神を手に入れる為の下準備をしていこうと思ったまでです!」

 

 何気に邪神を既に手中に収めたかのような物言いにはつっこまないぞ。そして復活した時邪神であるユウをさらっと巻き込んでいる辺りが酷い。更に復活した時に管理局員が彼女達を捕まえにくくしている。更には邪神と言う保険もかけている。本当に人を転がすのが性の邪神のデータを受け継いでいやがる。

 

 「くっ、ならばそうはさせないためにもこのまま封印を」

 

 「ふっ、残念でしたね執務官。今の私がその気になればすぐにでも無へと帰る事が出来るんですよ」

 

 「もう気合と根性で立っているという事じゃないか!」

 

 そう言いながらシュテルの体は風景に溶けていくようにその体が溶け出していくかのように薄くなっていく。これでは封印も間に合わないだろうその中で守護騎士達にはもっと邪神に優しくするようにと。管理局員側には邪神に対する待遇をよく計らうようにと言いながらシュテルは消えていった。相変わらずはやての膝枕でくつろいでいるユウ少年だが、確かに彼はJ・S事件に闇の書事件を解決した英雄と言っても過言ではない存在。たとえそれを望まなくてもそれに対する恩赦を忘れてはいけない。それを僕達に教えてくれたのだと思う。

 ユウを保護したうえで八神はやて達も自分達が住んでいる家へと帰る。

 騒動の真ん中にいた邪神。その姿はまるで生まれたての鹿のようにブルブル震えていたが確かに彼は頑張った死ぬ危険性があった事件に介入して何度も死にかけた場面がありながらもそれを誇ろうともせず、今度から無いようにしよーぜと守護騎士達にも声をかけていた。

 そうだ。忘れていた。管理局としての正義。それは魔法だけじゃない。体を張って、力無き者達の為に力を振るう。傷つき倒れながらも誰かの為に進む彼の姿はまさに正義じゃないか。

 シュテルは間違ったことは言わなかった。・・・ありがとうシュテル。僕等は邪神の行動を見て学ぶこと大切にしていくものを再確認できた。

 そしてありがとう邪神ユウ。君が道化な事をしてるのはその周りにいる人達に気を負わさないものだろう。そんな彼の優しさに付け込んで我々は不当に当たっていたのではないのだろうか。

 送り出されるユウとはやて達を見ながらクライドは思った。

 

 ありがとう少女よ。私は彼の恩に報いることに全力を尽くそう。

 ありがとう邪神よ。僕等は忘れない。君の様にパンツを履くのを忘れても誰かを守りたいという正義を忘れないよと心に誓うのであった。

 




 アースラに戻るとリンディーを含めた管理局一同から「聞こえていたんだよバカ!」と言われた。ああ、あれだけつっこむのを我慢させていたけど念話中継での思考はアースラの船体全域聞こえる仕様になっている。そして事件だっため、艦内の殆どはおきていながら館員の殆どはシュテルとクロノの漫才をクライドの解説付きで見ていたのである。そんな喜劇が繰り返されていたが一応彼等も管理局職員必死に彼等のコントを笑わないようにしていたが、クライドの最後の報告で、自分の口を塞ぎ笑いを押さえていた笑いが放出させられ、アースラの船の中は大いに笑っていたのであった。


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第七十話 とある真面目な守護騎士による邪神様考察記録

 神というのは変な奴だ。

 

 盾の守護獣を自負している、俺ことザフィーラの意見はこうだ。

 

 管理局から恩人であるユウ・タガミの救助の要請があったのだが捕らわれた彼の容態を見ると変だったのだ。捕らわれた身の上辱められたのか全身を紅潮させ息を荒くしていた光景を目にした瞬間に思った事だ。

 思い返してみれば邪神である少年ユウの動向はとにかく動揺を誘うような事ばかりだ。

 初めは主はやてが闇の書により心身を害していると知った時は自我のあるうちでは一番驚いたが、二番目に驚いたのはそれを『直す』ことができるかもしれないと知らされた時だ。もちろんその一番目はとにかく、二番目に関して部外者であるユウが関与していたので信用できなかった。何せ彼の初見はあまりにも『あぶのーまる』という物だったからだ。

 だがその初見から考えられないような、いや、元から考えきれない状況だったのだがその動向に騙されたシグナムが完封された。それ以来シグナムは邪神に対して苦手意識を持っている。いつかレヴァンティンの錆にしてやると言っていたがその錆から『何か』がにじみ出たとしてもおかしくないと俺は考える。

 主はやてとヴィータは日本のサブカルチャー繋がりで邪神の少年の事は好意的に見ている。シャマルの方はやんちゃ弟か妹の様に感じ取っているらしい。邪神というフレーズに怯えすぎていたかもしれないがその中身は好印象の相手にはひたすら甘い人格者だというのが自分達の意見だ。だが一度敵対、もしくは警戒を見せた輩には割と容赦ないといった性格も垣間見せたのがついこの間だ。主から新しい名を貰ったリインフォースも実はあの容赦ないのが本当の彼なのではないかと疑っている。そもそも彼女もシグナム同様邪神に良いイメージを持っていない。というか持てないらしい。

 まあ、だからか。彼の周りで天変地異といった事象や事件があっても『まあ、邪神の事だし』と思える俺はおかしくなっているのだろうか?

 誘拐事件が解決した後に彼を自宅に連れて行く際に彼の持つ金の懐中時計に事件の首謀者と思われる『シュテルん』のミニチュアサイズ(半透明)が俺の目に映ったのだが誰も注意しないのは邪神の事だから仕方ないのか?・・・よし、俺は何も見なかった。邪神に対しての接し方はさわらぬ神に祟りなし。だ。あのシュテルんも俺の視線に気づいたのか口元に人差し指を立てていたからその事には触れないようにすればいいだろうし・・・。

 

 これが後にとある事件に繋がるとザフィーラは思い知る事になる。

 

 さて事件解決だと主はやての家の門をくぐった時には既に太陽が昇るかどうかといった時間帯だった。そして、昼過ぎまで休んだ我等というより主はやてに知らされたのは一本の電話。それは邪神もどきことアリシア嬢が邪神との逢い引き(デート)に出ると言った内容だった。それを知った主はやては「抜け駆けやーっ!」と騒いでいたが、主はやてがユウに恋慕の想いがあると知った我等は大なり小なり驚いた。勿論小の方は俺とシャマル、ヴィータ。大の方はシグナムとリインフォースだ。特に後者の二人が騒がしかった。

 日常面でもあれだけ騒動を起こしている彼が主はやてと常に共にいるというヴィジョンを思い描いただけで卒倒しかけたくらいだ。というか主はやてのノリが軽いのとユウの悪戯癖がミラクルフュージョンをしたら、それはそれは大変な事になるだろう。間違いない。

 そんな止めにかかる二人の胸部をまさぐりまくると言ったセクハラで制した主はやてはアリシア嬢とユウが逢い引きの待ち合わせ場所にしている神社の前で二人を待つことにした。正直に言うと主はやてやユウを中心に何があってもおかしくない。何があっても驚かないぞ、と思っていた矢先に俺は早速驚くことになる。

 

 

 

 邪神は逢い引きの時間に遅刻した。

 

 

 

 やはり神というのはへんなやつだ。

 




 裕が遅刻した理由。
 その日の前日に管理局との交渉から始まり、誘拐事件といった一日二十時時間フルマラソンによる疲労。


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第七十一話 邪神様と初・猛デート(ソース味)

あとがきでルートが分岐します。


 初詣兼年明けのカウントダウンの為に近くの神社付近までやって来たなのは達を待っていたのはメダルコンビ。ではなく、イエーガーズの面々だった。その中にはあのクリスマスパーティーで珍しくカップルになった団員達もいた。

 

 「あ、高町さん。それにアリシアさん達もこんばんは」

 

 「ちーちゃん、やっほー。また風邪とかひいていない?」

 

 「ええ、熱も下がって今のところは大丈夫です」

 

 「それは。・・・逆に不安になるんだけど」

 

 クリスマスでは告白できなかった女性団員のちーちゃんやそのほかの団員の面々とも挨拶を交わす。

 なのはたちの面々は各々がブルジョワ兼邪神というコネが有るためか身綺麗な着物を着ての年明けを待っている。だが、その着物の制作に携わっていただろう邪神はというと。

 

 「遅れて(→→)、しまい(↑)、大変(↓B)、申し訳(→→)ございせd」

 

 人ごみの中をかき分けて走ってきながら空中で土下座の体勢をとり、なのはたちの目前まで滑りこもうとした裕だったが目測を誤りなのはたちのすぐ近くにあったベンチの下にスポーンと綺麗に入ってしまった。

 

 「…え~と。やっ、ほっ、やっ、やっ、やややややややや」(A連打)

 

 

 「無理にしゃがみジャンプしながら前進しないで普通に這い出てこようよ!」

 

 コイーンッ。

 

 「金貨あった?!」

 

 ベンチに座っているのはただの一般カップルだったのでさぞかし驚いただろう。

 裕がベンチの下から這い出た後も思わずベンチの下を覗き込むくらい。ニンテン○ウは何処までも浸透している物だとその光景を見ていたはやてはそう思った。

 

 「ところで裕君、他に言う事はないんか?」

 

 「おう、もう少しであけましておめでとうだな、はやて。白い着物がよく似合っていいぞ。ヴィータは黒でシグナムさん達は互いのイメージカラーを入れ替えた2Pキャラみたいで似合っている」

 

 「それは褒めているのか?」

 

 はやてや裕とよくゲームをするヴィータは微妙な表情をする。ちなみに裕はジーパンにジャンパーという冬の普段着と言ったところだ。本当ならなのはたちと同様に着物をつけたいところだが一応邪神という事を勘ぐられないように着物は出来るだけ控えている。まあ、それも微々たる抵抗。というか管理局にはばれているのだがそれでもそれは一部であり全体ではない。それに対しての抵抗だが。

 

 「テスタロッサ姉妹も中々。黒かと思いきや白で攻めてくるとは光の加減と妄想力で補えば全裸にも見えるな」

 

 「それはもう妄想百パーセントだよ。というか視姦っていうんじゃないかな?」

 

 普段のバリアジャケットがバリアジャケットなだけに最近その所を姉のアリシアや最近母親と仲良くなってきたリンディに注意されているフェイトが思わず裕から距離を取る。逆に姉のアリシアは見れる物なら見るがいいとふんぞり返っているが。

 

 「そしてなのは様。いつも麗しゅうございます」

 

 「「「なんでなのはだけ様?!」」」

 

 同じ顔のシュテルに調教されたから。とは言えない。そのシュテルとなのはたちの家に泊まっていた王ちゃま達は今では二頭身のねんどロイドようになって裕の持つ金の懐中時計の中で英気を養っていることを邪神とそれを見たザフィーラしか知らない。

 

 「まあ、着物を褒めてくれるのは嬉しいんやけど他にも言う事あるやろ?例えば誰かとデートするとか」

 

 「え~、やだぁ、はやてさんたら何処で聞いたのかしら~?」

 

 思わずオネエ言葉になって場を誤魔化そうとした裕だったがそれを見逃さないのがイエーガーズ(非カップル組)。

 

 「誰となんですか団長!」

 

 「どう言う事なんですか団長!」

 

 「俺とですよね団長!」

 

 「いやー、実はアリシアとの約束で、って、最後のやつ誰だよ?!」

 

 周りを見れどもそれらしき人物は見当たらず裕は警戒の色を見せる。声はすれども姿は見えないBL団員に戦々恐々と言った具合だろうか。

 

 「どういうことなの裕君?」

 

 「どうしてアリシアと急にデートするようになったのかしら?」

 

 それ初耳なんですけど。と、静かに怒っているように見えるアリサとすずか。そしてイエーガーズの面々。

 

 「いやー、じつは、昨日アリシアにデートを申し込んでみたら意外とすんなり受け入れてくれて~」

 

 「「「なんだ」」」(イエーガーズ面々)

 

 「「「あれ、あっさり?!」」」(裕&アリサ、すずか)

 

 淡白な反応に思わず驚く裕。

 てっきり団員達が嫉妬のあまり自分を叩いてくるんじゃないかと思っていた話をしたら。

 

 「もしかしてそれを断られた傷心と僕等に叩かれたくてアリシアさんをデートに誘ったんですか?団長ってばエムいんだから」

 

 「まだそんな極みに達してないから!」

 

 「まあ、俺達のリーダーが勇気を出してやった行動を貶すなんてことするわけないじゃないですか」

 

 「・・・お前達」

 

 いつの間にか団員達は裕と肩を組み始め、そして。

 

 「表向きはっ!」

 

 この野郎いつの間に抜け駆けしやがって。見せつけやがって。やっぱこいつ良い尻してんぜ。となのはたちからは見えない所で裕を抓ったり叩いたり撫でたりする団員達の統率力は相も変わらず脱帽物だ。

 

 「裏側が酷い!あと誰だよ!俺の尻を狙っている奴は?!」

 

 後ろを振り返るが誰か団長の尻でも触ったかという顔をしているから怖い。ステルスホモ団員。一体誰なのか・・・。

 

 「まあ、そんな事よりも早く行こうよ裕!」

 

 アリシアが裕の腕を取って早速と言わんばかり露店めぐりをしようと言いだす。

 だが、そこは裕達同様に初詣に来た人達がごったがえしている。そんな中に入りこめば体の小さい二人はあっという間に離れ離れになる可能性がある。だから手をつないでいこうというアリシアに対して何かを思い出したかのように何かを取り出したフェイト。

 

 「一緒に行くならこれを持っていって」

 

 裕に首輪をつけさせアリシアにそれを繋いだリードを渡す。

 

 「も~、なんなのこの天然どS。…嫌いじゃないけどよ」

 

 「それじゃあ行こうか」

 

 「本気でその格好で行くんか?!」

 

 レッツゴーと行こうとした二人を思わず止めたはやてに首輪を外された裕がどこか残念そうな顔をしていたがデートに出向いた二人を見送った。

 

 「まだ付き合うってわけじゃないんだから」

 

 「でもっ、でもっ・・・」

 

 「うううぅ~」

 

 「アリシアちゃんの裏切り者~」

 

 「「「・・・団長、グッドラック」」」

 

 三者三様の様子を見ながら裕とアリシアの後ろ姿を見送る面々。そんな中、

 

 「そんなに気になるのなら音声だけでも聞いてみようか?さっき裕に首輪をつけると一緒に盗聴器を襟首につけたんだけど」

 

 いつの間に?!と他の面々が驚く中興味もある。という訳で早速盗聴してみる。いろんなところが逞しくなってきたフェイトは待機状態のバルディッシュを盗聴器だと言って周りの人達に聞こえるようにした。

 周りにいたシグナムやシャマル。高町夫妻も気になるのかそれに耳を傾ける。

 

 『ほら、これを見て嗅いで見ろ』

 

 『・・・うん、これ面白いね。この粉』

 

 いきなりやばそうな所を回ってないかあの二人?!

 

 『綿菓子って見ていて面白いね』

 

 「そっちかーいっ!」

 

 と、思わずツッコミの声を上げてしまったはやてだが周りに人がいる事に気が付いて慌てて口を抑える。ここから先は何が聞こえてもツッコミをしてはいけない。

 

 『あれってかき氷とか言う冷たい食べ物だよね。こんな寒いのに買う人なんかいるのかな?』

 

 『いると思うぞ。ラインナップを見てみろ。イチゴにザクロ。スイカとドラゴンフルーツ。いろいろなかき氷があるだろ』

 

 どれも赤いんやん!と必死にこらえるはやてと美由紀。

 

 『でも、本物はどれか一つだけなんだぜ』

 

 残りは何だ!?

 恭也やザフィーラと言った男性陣もツッコミを堪えていた。

 

 『あ、射的。私、結構得意なんだよね(パァンッ!)』

 

 実銃?!

 といった具合にツッコミが絶えない音声を拾うフェイト達だった。

 





番外編。邪神様と初・猛デート(イチゴ味)。アリシアサンルート。

 アリシアとデートを開始して三十分もしないうちに手を繋いで歩くようになった。子どもの体だから離ればなれになりやすいし、この方が効率的だから別にいいよね。っと、自分に言い聞かせながら露店めぐりをする俺こと田神裕。実はドッキドキのワックワクである。前世も合わせて幼女とはこんな美少女とのデートは初めてだからだ。それを気取られないようにと出来るだけ平静を保ちながらアリシアとデートを楽しんでいるとある程度開けた場所に出るとアリシアがアクションを起こしてきた。

 「ねえ、ユウ。左手も寒いんだけど」

 今は自分の左手とアリシアの右手を繋いでいるから暖かい。なので両手で繋ぎ合う。これであったかい。

 「ねえ、ユウ。ゲームしようか?」

 この状況で?

 「じ~」

 アリシアがこちらの顔をじ~っと見る。なんざんしょ?

 「・・・我慢できずに先にキスしたほうの負けだから」

 ・
 ・・
 ・・・

 へへ、笑えよアリシア。
 お前がナンバーワンだ!



 勝者アリシア!TKO(トークによるノックアウト)により邪神様の彼女の座を射止めました!


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第七十ニ話 邪神様過ぎぃ

遅れてすまない。
その分、ヒロイン力ましましだ。
誰のとは言わないが・・・。



 アリシアと出店回りをしたら赤いマフラーに白いジャンパーにこげ茶のジーパン白いニット帽をつけたイエーガーズ一の美少女の千冬ちゃんこと、ちーちゃんが人ごみの方から出てきてアリシアと繋いでいる手とは反対側の方を掴んで自分の方へと引き寄せる。

 

 「では、団長。今度は私といきましょう」

 

 「もしかして俺、今最大のモテ期っ」

 

 寒さ以外の原因で顔を赤らめる裕。大晦日の出店回りをアリシアと歩き回れたという事もあるが、前世と現世で初めてのデートに続いて二回目のデートか、と浮かれてもいたし、嬉恥ずかしという物があった。特にアリシアが西欧系美少女ならちーちゃんは日系美少女だから尚更である。

 

 「自覚はあるんだ・・・」

 

 「いつもはぐらかされるから気付いてないと思っていました」

 

 「え、あ。・・・マジで?」

 

 「「マジで」」

 

 冗談で言ったつもりがまさか本当だったとは。いや、本当はうすうすそうなんじゃないかと考えたこともあった。なにせ、この邪神、前世ではコミュ症で現世に入ってからは人との繋がりを大事にすることに力を注いできたのだ。その分人の感情に敏感になっていた。だからこそ拒んでいた。

 自分が特定の誰かと恋人関係を結べば、他の人。邪神が大事にしている友人達との繋がりが薄くなることを恐れていた。それなのにそれを確かめるような言動に出たのはよほど今の状況に浮かれていたに他ならない。

 

 「・・・アリシアさんはもう団長と十分に楽しみましたよね?今度は私の番です」

 

 「まだもっと楽しみたいもん」

 

 裕が戸惑っている間にちーちゃんとアリシアは裕を取りあう。が、この後なのは達も順番待ちしていることを伝えると不承不承ながら裕から離れるアリシア。だが離れ際に裕に抱きついて、その頬にキスをした。

 

 「私本気だからね」

 

 「あ、あ、アリシアさんのトキメキハラスメントッ」

 

 「行きますよ、団ちょ。・・・裕君」

 

 「ちーちゃんまで。・・・トキメキクライシスっ」

 

 突然名前で呼ばれるだけでもドキドキものなこの邪神は本当にチョロ過ぎぃ。

 だが、そんなある意味純粋な所も考えてみれば魅力の一つと言えよう。

 WCCによって自信がついたおかげで、同世代(肉体年齢が)に対してカリスマを発揮し、体力と行動力があり、バニングスというパトロンがついており、前世の記憶から場を和ませたり盛り上げたりすることが出来る。まとめるとこうなる。

 

 ・カリスマ ランクE

 ・体力 週に一度の高町道場のおかげで上位にあたる。

 ・行動力 この海鳴の街では恐らく最上位。

 ・黄金律(バニングス家と月村家。テスタロッサ家の繋がりがある限り) ランクD

 ・純粋な性格?

 ・前世の記憶(主に賑やかし)

 ・WCC(物体操作) ランクEX

 

 やだ、この邪神、主人公力高過ぎぃ。

だが、逆にWCCが無かったら?WCCによって生まれた自信が無かったら?

 

 ・前世の記憶(賑やかし)

 

 やだ、この転生者、主人公力低過ぎぃ。

 特筆すべき点が賑やかしだけとなる。

 

 「だ、ううん。裕君、どうしたの?」

 

 「いや、どうして俺が皆に好かれているのか疑問に思っていたところだ」

 

 ちーちゃんと共に賽銭箱のある境内の奥まで歩いている間に自分の事を振り返った裕だった。いかにWCCに助けられているかを再確認した裕はもうちょっと自分磨きに力を入れようと思った。

 

 「女の子と一緒にいるのに考え事は駄目ですよ」

 

 「うん。・・・うん。そうだよね。ごめん」

 

 WCCが無ければ今の状況は作れなかった。そう考えるとちーちゃんは何故自分が好きになったのか分からない。WCCが無ければ自分の魅力は半分どころか5分の1にも満たないだろう。

 なのは達のように魔導師関係の人間にはWCCの事を伝えており、それが魅力的に見えるだろう。だがそれを知らない人間。ちーちゃんはどうしてこんな見た目平凡。行動変態紳士な自分の事を好いてくれるのか。もしやちーちゃんってば倒錯的な趣味が・・・。

 

 「ちーちゃんの男を見る目を鍛えられますように」

 

 「裕君が変な事ばかりに頭が働きませんように」

 

 お互いに失礼な事を言っているがお互いのことを思ってである。そしてお互いに視線をかわしているとちーちゃんは裕の手を引っ張って人気のない境内裏の建物へと連れて行く。

 

 「ちょ、ちーちゃん。こ、こんなところに連れ込んで何するつもり・・・」

 

 「こういう変な所での対応は早いんですね。もちろん、返事を聞こうと思って」

 

 「へ、返事って・・・」

 

 「さっきも言ったと思いましたけど団長。私は裕君の事が好き。裕君は?」

 

 「うぐっ」

 

 顔を赤くしながらも顔を近づけてくるちーちゃんに壁ドンされるようにもたれかかる裕。このまま近付いていけば唇の正面衝突待ったなしである。

 

 「お、俺は」

 

 「俺は?」

 

 くらくらしていく思考の中で思わず同意の言葉がのど元まで来た時だった。

 裕が背中を預けていた建物の天井に物凄い勢いで何かが二つぶつかった。

 

 「追いつきましたよキリエ!」

 

 「アミタしつこい!」

 

 (助かった―!)

 

 なにやら無視できないトラブルが起こったようだが邪神にとってはこれ以上ないくらいの時間稼ぎだった。

 




 番外 フェイトちゃんと邪神様の関係。

 アリシアとちーちゃんが裕の取り合いをしている間になのは達は恋バナをしていた。

 「そう言えばフェイトは裕の事好きじゃないのね」

 「私も裕の事は好きだよ?ただ友達としてでアリサ達みたいにそこまで好意を持っていないだけだし」

 「じゃあ、裕君の事をどう思っているの?」

 「ん~。・・・たぶん相性じゃないかな」

 「相性?」

 「どういえばいいいかな凸凹コンビっていうんだっけ?性格が似ていないのに仲がいい事を」

 「まあ、だいたいあっとるな」

 「私と裕はどこか似ているんだよ。凸と凸というか、磁石のS極とM極みたいな」

 (フェイト、それを言うならMじゃなくてNだよ。SとMって言ったら二人共Mになっちゃうんじゃ)

 「だから私は裕の事、皆ほど好きになれないんだよね」

 「というか主はやて達はあの邪神の事を美化しすぎです」

 「まあ、楽しい奴ではあるんだけどな」

 確かになのは達の周りに裕のように騒がしたり賑やかしたりする奴はいないだろう。

 「主はやて、どうか考え直してください。あいつに身動きを封じ込められたことを考える」

 「あれはシグナムが油断しすぎたからじゃないかしら?」

 (あいつも大変だな)

 (((妹・娘達の好意の対象が特殊すぎてどういえばいいか分からん)))

 誰がどの台詞を言っているかご想像にお任せします。


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第七十三話 いくぞ邪神様。ネタの貯蔵は十分か

 ライトピンクとライトブルーの革ジャンにタンクトップを身に着けた赤と桃の髪をした少女達が神社の境内の上でこれまたカラフルな銃から発光する丸い球を撃ちだしながらガンアクションを繰り広げていた。

 

 「キリエ、これ以上この時代の人達に迷惑かけないのっ」

 

 「アミタの分からず屋っ!私はここで砕け得ぬ闇の力を手に入れるんだから」

 

 ウエーブの掛かった桃色の髪を腰まで伸ばした16・7歳くらいの女性。キリエを諌める様に腰まで伸ばした赤髪を一つの三つ編みにした同じくらい女性のアミタ。

 衆人観衆が最も多くなる大晦日の晩にまるでアトラクションのように飛んだり跳ねたりしてその煌びやかな衣装と髪をきらめかせていた。

 その途中で、私が世界を救うなど、過去に干渉してはいけないだの、自分達の星は死に掛けているだの、それを救う為に砕け得ぬ闇が必要だの、何だか重要な案件に関するワードがぽろぽろ聞こえる。

 

 「団ちょ、ううんっ。裕君、あれなんだと思う」

 

 自分の告白を台無しにした出来事を引き起こしただろう二人を睨むように眺めるちーちゃんに裕はこう答えた。

 

 「うん、凄いアトラクションだよね。二人とも若いのにあんな風に境内の屋根を飛んだり跳ねたりしているんだから」

 

 「いや、そうじゃないでしょ」

 

 ふむ。ちーちゃんの目にはあれはアトラクションではないと言っている。まさか魔導師関連だろうか?いや、それにしてはリンディさんやプレシアさんから何の連絡もないし、来ない。そもそも魔法関連は極力人目を避けるように言っていたはず。つまり、あのアトラクションは魔法関連ではない。そしてちーちゃんの言う通りならアトラクションでもない。ということは、つまり。

 

 「つまりあの二人は、もの凄い身体能力にもかかわらず人目にはばからずド派手な衣装をして絶賛廚二廟ごっこしていて自宅に帰った後悶えることなく、数年度若気の至りを思い出して生活で悶え狂う人生をと。…しゅごいな、今の俺のM度じゃ全く歯が立たない」

 

 「いや、そうでもなくて」

 

 どうしてこうも見当はずれな事を言うのだろう。いや、見当はついているけど敢えて斜め上の事を言っているのだろうか。喉を鳴らしながらそういう邪神にやや呆れた表情を見せるちーちゃん。

 そんなやりとりをしていたら邪神の携帯電話が震える。

 

「いやんっ、バイブ(レーション)強すぎぃ。ほぎゃああああっ?!」

 

 「どうして何度もおふざけが過ぎるんですか」

 

 それは今、目つぶしされた女の子に告白されたからです。こういう時に邪神が装備している黄金の懐中時計(WCCで鎮静化の効果を持つ)が役に立つ。おかげで邪神のボケはいつでも絶好調だ。

 

 「おー、いてて。えーと、これはこれは」

 

 裕に送られたメールにはリンディからのメールで海鳴市。地球世界で何やら異常な時空振動が発生したとの事。遅れて榊原君からのメールでもうすぐGOD編が始まるから気をつけろと言う。

 え?何、邪神様だけじゃなくて破壊神であるビルス様も来るの。俺、破壊されちゃうの?まったく、海鳴はイベントの巣窟だぜぇ・・・。

 

 「…またか」

 

 盆と正月くらいゆっくり休ませてくれよ。もうそろそろ俺もネタ切れだよ。このお参りが終わったら父方の実家に行って親戚に顔を見せに行きながらお正月番組見てネタの貯蔵をしたいんだよ。

そう思いながら懐から出した邪神のネタ帳38と書かれたいろんな付箋が張られたメモを見ながら懐から鼻眼鏡やあんたが№1と書かれたたすきなどを出したり入れたり忙しい。その途中で青い髪をしたフェイトのネンドロイドのような物が飛び出して慌てて白い髪をしたはやてのネンドロイドのような物がそれを掴んで裕の服の中に戻っていった。

 

 「裕君、今なにか」

 

 「気のせいだろ」

 

 「いや確かに」

 

 「気のせいだ」

 

 「・・・」

 

 「気のせいだ」

 

 「そうですね、気のせいですよね」

 

 裕の着ている服の陰でなのはのネンドロイドのような物がもきゅもきゅと大判焼きの欠片を食べていたなんてのも気のせいだろう。

 

 「私は例え砕け得ぬ闇が手に入らなくても邪神の力を手に入れるからっ」

 

 「この駄々っ子!」

 

 ちーちゃんが目を擦っている間に境内の上でのガンアクションは佳境に入ったらしい。そして邪神という言葉が出た次の瞬間に裕は持っていたたすきをひっくり返して『I AM GOD』と記された部分が見えるように体に回して境内によじ登っていく。勿論これはちーちゃんが目を擦っている間に裕がカスタマイズ能力を使って作り出したものである。

 

 「裕君、何しようとしているの?」

 

 「綺麗なお姉さんが俺をよんでいる」

 

 「・・・もしかして逃げようとしている」

 

 びくっ。と思わず体を強張らせてよじ登っている柱からずり落ちそうになった裕。そんなことはないよと言いながら柱を上っていくのを見守るちーちゃんだった。

 

 

 

 赤髪の女性アミタは焦っていた。時間移動などという禁忌を犯した妹を追ってきたはいいがこんな人目が多い所に来るとは思わなかった。過去の文献を見て砕け得ぬ闇が手に入れれば確かに自分達の星エルトリアは救われるかもしれない。しかしそれはあくまで『かも』だ。そしてそれ以上に眉唾物である邪神の存在。ありとあらゆるものに干渉し変化させることが出来る黒の存在。その力を手に入れれば救うどころか作り変えることだって可能だろうだが、そんな物は存在しない。そんな物があればどこかにその存在を保持しようとするだろう。だがそんな経歴はない。ただそれがあったという記録があっただけだ。例えるならドラゴンボールがあると言っているような物だ。だから、そんな物は

 

 「違うな間違っているぞっ!神はいるっ、今ここにっ」

 

 キリエと争っているとそこに子どもの声が聞こえた。やけに自信に満ち溢れたその声がした場所を振り向けばそこには。

 

 「我という存在がなっ」

 

 その者の正体は王城。半人半神の英雄ギルガメッシュの力を特典としてもらった転生者がそこにいた。

 




 邪神様と榊原君「「出遅れたぁああああっ!」」
 邪神様は未だに境内の中をよじ登っている。
 榊原君はなのは達を守る為に白崎君をボコった後に王城をボコろうとしたが思った以上に手間取った。
 王城、久しぶりにヒロインとのイベントを起こせた。
 白崎、榊原君にボコられてノックダウン中。



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第七十四話 邪神様討論会

 遅れてすまない。ネタはあったのだが、最近スランプが激しくて筆が進まない。


 キリエとアミタはこの時代の人間ではない。未来から超技術でなのは達のいる世界に来た。しかし、その技術をもってしても成すことが出来なかった。

だが、キリエはなのは達がいたころにあったと言われた『闇の書』に隠されたとあるシステム。そしてそれをも超える邪神の存在。そのどちらかを手に入れれば世界を変える力を手に入れることが出来る神の力を求めてきた。

 それに対してアミタは反論した。そんな都合のいいモノなんてない。そもそも過去に干渉するのはいけない事だと言い放つ。

 しかし、それに反論する王城。神というのは自分の事であり自分こそがルールだと言い放ち、これ以上の議論はあるまいと自称する。

 そして、そこに思っていた以上に神社の建物の内部をよじ登るのに手間取った邪神の力を有した少年。裕が肩で息をしながらようやく屋根の部分まで上ることが出来た彼は彼女達に待ったをかける。何故かバックライトが彼を照らし出し足元からこぼれ出るドライアイスの霧で彼の姿は人影にしか見えない。

 この時点で宙に浮いている王城は魔法の秘匿を完全無視しているが、そこに現れた海鳴のトリックスター、裕という少年のおかげで参拝に来ていた人達はこれもショーの一部かと思われることになる。リンディさん、他管理局員はひそかに裕に感謝し王城に憤慨した。

 

 「それは違うよ!議論とはお互いに成そうとしている目的を成そうと共に案を出し合う事だ!でも皆がやっていることはなそうとしている目的が違っているその時点で議論ではなくなっている。自分の意見を通して相手の意見を押しつぶす。人、それを討論と言う!」

 

 「なっ、だ、誰ですか?!」

 

 「お前達に名乗る名前はない!」

 

 「じゃあなんで出たのよ・・・」

 

 「無論、そちら方の意見を論破するためだ!そして桃色のお姉さん、あなたの探している神はこっちだ」

 

 霧が晴れ、光が力を失っていく。闇夜に浮かぶ光と露店の光で裕の姿が映し出される。

 そこには『I AM GOD』と書かれたたすきをかけ、鼻髭メガネをつけたあまりにも説得力が無い少年の姿がそこにあった。説得力の欠片も無い少年の姿がそこにはあった。神の威厳も減ったくれもない姿があった。

 

 「・・・私は神の力を手に入れる!」

 

 キリエは何もなかったかのようにアミタに言い放つ。

 

 「お姉さん、ここ!あなたの大事な神様はこーこっ!大切なモノはいつだってすぐ傍にあるものっぉおおおっ!」

 

 「ぎゃあああっ、どこに引っ付いているのエロガキッ!」

 

 視界から外されたことにショックを受けた裕はキリエの背中側、腰回りの辺りにしがみついて陳情を訴える。

 

 「我を差し置いて神を語るとは貴様、いい度胸だな、雑種!」

 

 「ふっ、良いのか英雄王。今の俺がその気になれば…。俺の股間がおしょんしょんしてしまうぜ!」

 

 「ぎゃあああっ!本当に離れろぉおおっ!」

 

 「…甘酒飲み過ぎた」

 

 「もう、子どもがこんな夜中に水分を取りすぎるからですよっ」

 

 「この我が時間を割いての会話だというのに、ここまで茶々を入れるとは相当死にたいようだな雑種!」

 

 「だがしかしこのお姉さんのウエストから離れる事はしない。そう、何故ならば、…既にのっぴきならない状況だからさ」

 

 「ぎゃあああっ、もうっ本当にいやああああっ!腰にしがみついて微妙に震えているのが嫌ぁああああっ!」

 

 しがみつかれたキリエには裕の姿を見なくても直接地肌に触れている分、彼の状況がよくわかる。キリエが言うように裕が微妙に震えているのがよくわかるのだ。

 アミタの方を警戒。ついでに王城の方にも警戒しているが少しでも彼女達から意識を逸らせば捕まってしまう。かといって裕を引きはがそうにも思った以上に力強くしがみつかれている上に自分達がいるのは神社の屋代の上であり、子どもである裕をここから落としたらただじゃ済まないと考え、無理矢理引きはがすという事も出来ない。そう考えたキリエが考え付いたのは裕を抱えてこの場から全力で撤退することだった。

 

 「すぐにトイレの近くに降ろすからしっかり捕まってなさいよ!」

 

 キリエは腰につけていた未来じみた拳銃を握り、そこに充電されていたエネルギーの一部を解放して辺り一帯を強烈な光で埋め尽くした。いわゆるフラッシュグレネードである。

 

 「・・・」

 

 「何か悟ったような、諦めたような顔をしないでぇえええっ!」

 

 光が晴れると同時にそんなキリエの悲鳴じみた声を残して彼女と裕の姿は消えていた。

 

 「…あの子、トイレに間に合うでしょうか?」

 

 「いや心配すべきところはそこでない。…あの珍獣めっ、今度会ったら我が宝具の錆にしてくれる」

 

 憤りの無い怒りで拳を振るわせていた王城だったが、そんな彼の後ろから物凄い勢いで突貫してくる大人一人分の巨大なドリルが襲い掛かって来た。

 

 「海鳴神社第二幕、黒と金の対決だこらぁっ!」

 

 「貴様、榊原かぁあっ!」

 

 魔法の秘匿をガン無視する白崎を先程のしたばかりの榊原が王城に向かって右腕にドリルを纏って突撃し、王城がそれの迎撃に入る。

 

 「王じょおおおうッ!」

 

 「榊原ぁあああああっ!」

 

 二人がまたもや空中でぶつかり合いを広げるが榊原が第二幕と称したお蔭でか、またもや何かの出し物かと思った参拝客の方々。いいぞー、もっとやれとヤジが飛ぶくらいににぎわっていた。その合間に榊原がアミタに向かって手の甲の部分をひらひらと動かしたのを見てアミタも遅れながらもキリエの後を追うのであった。

 

 一方その頃、アースラ組は謎の女性の行方と榊原と王城の戦闘での流れ弾で被害が出ないように結界を張るように奔走するのであった。

 

 

 

 そして何とか逃げだせる事が出来たキリエは腰に引っ付いていた裕を神社から離れた海辺に降ろして尋問を始めた。

 

 「で、あんた一体何者なの」

 

 「神様です。ただし悪戯が結構好きな邪神の方ですけど」

 

 「ふーんまだそう言う事言うのね。トイレの事はも冗談だったみたいね」

 

 「いや、半分は本当。まだ我慢は出来るよ」

 

 「そっちはマジだったのね。あんたが神だっていうなら何が出来るっていうのよ」

 

 「何がって言われても…。地形変化とか?」

 

 そう言って辺りに人がいない事を確認して砂浜をにWCCをかけて即席ゴーレムを作ったり自分達の周りに精巧なお城のミニチュアのような兵が作り上げられていく。

 

 「・・・は?」

 

 一瞬で出来上がったゴーレムや砂の塀を見て目を点にするキリエ。さらに

 

 「あと、そこの桃色は『闇の書の欠片』とも言っておったな」

 

 裕の胸元からミニサイズの王様が出てくるとそこから飛び出しながら光る。そして彼女が着地するとそこには裕と同じくらいの身長をした白はやてこと王ちゃまが現れた。

 

 「聞かせてもらうぞ桃色。我等にどのような用件があってこちらに来たのかをな」

 

 「・・・もしかして私二つGETしちゃった」

 

 もしキリエがおみくじを引くことが出来たのならそれは大吉を引けていただろう。最も邪神の方は難有なのだろうが。

 兎にも角にもキリエは好スタートダッシュをすることに成功するのであった。

 




キリエさん、アンラッキーかと思いきや超ラッキーでした。


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IFエンド 運命の人?

この作品は未成年の飲酒を勧める作品ではありません。




 「ユウがTECに全振りするからっ!」

 

 「そういうフェイトはSPDに全振りじゃないか!」

 

 「裕がやることなすことクリティカルだって自覚してよ!」

 

 「そういうならお前は行動回数が多かったじゃないか!」

 

 「どうするの!本当にねえ、どうするの!」

 

 「落ち着けっ、こういう時こそ落ち着いて考えれば…。どうにもならねえな」

 

 「落ち着いて諦めた?!」

 

 田神家長男の部屋で一組の男女が向かい合って部屋の真ん中にあるちゃぶ台を挟んで怒鳴りあっていた。

 片方はこの部屋の主、今年で16。今年の春に高校二年生になる田神裕。

 もう片方はお隣の研究所で同じく16になるフェイト・テスタロッサ。今年から管理世界ミッドチルダで念願の執務官という職業に就いたばかりのキャリアウーマン(予定)である。幼いころから育った二人がこうも言い争うのは珍しい。

 裕の方は幼いころから変わらず公私問わずの場を賑やかすのが好きなムードメーカーで今でも小学生、中学生の頃の知り合いに何かイベントがあれば率先して場を盛り上げるスペシャリスト。

 対してフェイトは優等生で優しい性格だが、パーティーを盛り上げるというよりもその下準備をして陰から祝うといった大人しい性格で、どちらかといえば裕とは反対側の性格の人間だ。

 そんな二人がこんな風に言い争う事は珍しい。だが、この二人。実は一カ月前にもこのように言い争っていた事があるのだ。

 

 一カ月前。

 

 それはミッドチルダで執務官の合格通知を受けて一週間たった頃だった。

 フェイトはある悩みを抱えていたのでコミュニケーション能力の高い裕に相談したいことがあった。それはセクハラ。ミッドチルダでは地球程晩婚化は進んでおらずむしろ早婚が進んでいる為にフェイトはそう言った目で見られることが多く、自分の娘ほどの差がある彼女にねっとりと近づいてくる輩が多い。執務官とは狭き門でクロノといった前例を除けばフェイトはかなり若い部類で入門したと言ってもいい。しかも器量もいいので男受けもする。

 そんな状況をどうにかできないかと相談したのがリンディと邪神である田神裕である。実の母プレシアに相談すればその相談先が物理的に消される事待った無しになるため出来ない。リンディからは断り方を学び、裕からはどうすればそのような目で見られないようになるかを相談する。男友達で特に親交が深いのはユーノ、クロノ、裕の中で今回の件で頼りになりそうなのが裕だった。

 

 かくいう裕もフェイトに相談したいことがあった。それは幼馴染達による猛アタックである。なのは、すずか、アリサ、はやて、アリシアといった美少女達に交際を迫られて困っていたのだ。こう聞くと非モテの男達には怨敵認定されそうだがこの邪神。恋もしたいが友情を失いたくない。彼女達の気持ちは嬉しいが自分はまだ友情を大事にしたい。彼女達との関係を崩したくないといった正真正銘の『ヘタレ』だった。かといって彼女達を傷つけるのも嫌だ。だから自然に好感度を下げる態度を取ろうと思ったが参考にするのがいない。クロノやユーノは好青年だし、王城達のように「おいおい止めるんだ。全員まとめて俺の嫁だろ?」と言おうものなら本当に重婚させかれない状況だった。片やお嬢様で自分の両親すらも囲いにかかっている手段とか、片や魔法少女(邪神もどき)の為、実力行使と言う逆レ○プもされかねない。一般(?)女子(男子も含む)からも似たような状況もある。そうならない為に身近な女子(良識派)のフェイトに白羽の矢を立てたのだった。

 ちなみにこの二人に友情はあっても恋愛感情はほぼない。

 

 フェイトが地球に帰ってくる日に合わせて裕はテスタロッサ研究所で彼女の帰りを待っていた。

 

 「あっ、ユウ。ただいま。良かった来てくれて。相談したいことがあったんだ。実は」

 

 彼女が奇抜な行動を取って好感度を下げようとしたら本当に心配されてそうだが、心優しく真面目な彼女に奇抜な行動を取るという選択肢は最初からなかった。だから、

 

 「おかえりー。なに、俺も相談したいことがあったんだ。実は」

 

 彼は常日頃から奇抜な行動を取っていたためにそのような事をしても中々好感度が下がる事はなかった。だから、

 

 「「どうやったら他の人から嫌われるようなれるかな?」」

 

 二人の意見は一致した。と同時に相手の相談ごとに憤りを感じた。

 なんでわざわざ好感度を下げる必要があるのかと。というか自分は他人から嫌われているのかと。これは人間関係で疲れ切っている二人だからこその憤りだった。

 

 「ま、まあ立ち話もなんだし、私の部屋で話そうよ。いろいろと長くなりそうだし」

 

 「そ、そうだな。よーし、WCCで美味しく加工しちゃうぞー」

 

 「それじゃあ、あの、お互い聞きたいことがあるみたいだしここは思い切ってお酒見たいに飲む?」

 

 「いいねー、お酒の勢いで話したい事全部ぶちまけちゃおうかー」

 

 「「あはははははは。…はぁ」」

 

 それと同時に悟った。あ、目の前のこいつ人間関係で疲れているな。と、

 二人共幼馴染と言う事もあるが人間関係には敏感なのでなんとなく感じ取った。これはかなり深刻だと。お酒の力でも借りないとか話せないと。一応ミッドチルダでもワイン程度なら裕達にも飲めるが二人は未成年。しかし裕のWCCを使えばアルコール無しでも酔う事は出来るだろう。そういう訳でフェイトは研究所に入ると同時に取っておいたお菓子とミッドチルダで買ってきたジュースを取りだし、裕を自室へと招く。途中でアルフとすれ違い、これから裕と大切な話があるから部屋に入らないでねと伝えた。その時の気配が一年前、執務官試験に落ちた時に似ていたのでアルフは一もなく二も無く頷いた。ご主人様のご機嫌も伺えなくて何が使い魔か。

 

 「とりあえず、フェイト、執務官テスト合格おめでとう」

 

 「ありがと。ユウから貰ったアロマオイル良かったよ。試験前日もぐっすり眠れたし」

 

 「おう、力になれたなら何よりだ。まず一献」

 

 「おとと、ありがと」

 

 フェイトの持つコップにジュースをまるでお酒のよう注ぐ裕。まあ、WCCでお酒の様にテンションが上がる効果付属したこのジュースはノンアルコールで悪酔いも呂律が回らなくなるという心配もない。幼馴染達の日程上、彼女の執務官試験合格祝いは後日の予定だが今日あいているのがたまたま裕だけだったので二人だけの祝勝会が開かれた。

 

 30分後。

 

 「いやー、しかし去年の落ち込みようが嘘のようだな」

 

 「もー、勘弁してよー」

 

 この時まではケラケラと笑いあう二人の声が響いた。ちなみにこの部屋もWCCで防音性はばっちりである。ちなみに酒の勢いを得るために裕は愛用している懐中時計(WCCで鎮静効果を持つ)を外している。

 

 1時間後。

 

 「でね、ちょっと、変な目で見られるようになって」

 

 「ああ、俺も背筋をぞっとさせられるような思いをするなぁ」

 

 徐々に互いの苦労話がにじみ出てきた。

 この時にアリシアとプレシアが帰宅してフェイトにお祝いの言葉をかけようとしたがご主人様が愚痴をこぼしているだろうと考えたアルフに面会謝絶を言い渡されたところだった。

 

 2時間後。

 

 「だからさっ。私だってそんな目で見られたいわけじゃないんだよっ」

 

 「あー、うん。自分が想定していた事とは違うことになると結構くるもんなぁ。俺もこの間…」

 

 徐々に自分の悩みがぼろぼろこぼれ落ちてくるようになった。フェイトから負のオーラのような物がにじみ出てきている。裕からも徐々にそのオーラ零れだしてくる。

 

 2時間30分後。

 

 「ユウはいいよねっ。自分勝手にしても受け入れられるんだからっ」

 

 「受け取り方にもよるっつーのっ、こっちだって」

 

 フェイト、だんだん吹っ切れる。

 

 3時間後。

 

 「大体、その容姿・性格でもてないわけないだろ。めっちゃ発育しまくってんじゃん。なんだそのメロンは、男なら誰でだってその果実に手を伸ばしたくなるんだよっ!それに群がる男達だってお前なら選び放題じゃん!」

 

 「それを言うならユウだってそうでしょっ!それに私は選びたくない相手ばっかりだよ!皆、胸とかお尻とか見ていやらしいっ。ユウみたいな悪戯はするけどそこに性的意図が無い人なんてほぼいないんだよっ!ユウの方が贅沢だよ!」

 

 「お前には『選ばない』って選択肢があるだろ!誰も選ばなくても苦労しないだろ!俺には選択肢自体が無いんだよ!あっても『保留』って選択肢以外ないんだよ!でも皆には離れて欲しくないんだよ!」

 

 「ユウのいやしんぼっ!贅沢者!」

 

 「なんだと!?」

 

 愚痴合戦はヒートアップし互いの悪口合戦に。テンションも変な方向へと上がる。

 

 3時間15分後。

 

 「ユウのヘタレ!おたんこなす!」

 

 「フェイトのムッチリ優等生!」

 

 ムッツリではなくムッチリと言う所にフェイトへの悪意?が。感じられる。

 

 3時間27分後。

 

 「ぜえぜえ・・・。この、いやしんぼ邪神」

 

 「はあはあ・・・。我儘天然ボディ」

 

 息切れを起こすくらいに悪口を言いあう二人。一息入れてWCC加工のジュースを煽る。

 

 3時間51分後。

 

 「ふうふう・・・。この、女の敵」

 

 「げほげほ・・・。この、男性の夜のおかず」

 

 息切れを起こしながらWCC加工のジュースを(略)

 

 4時間29分後。

 

 「けほけほ・・・。こんの、童貞神」

 

 「どっ?!うぇほうぇほ・・・。こんの純情サキュバス」

 

 「なっ?!」

 

 息切れをしながらWCC(略)

 

 4時間42分後。

 

 「く、う・・・。これならどうだなんちゃってエロ」

 

 「ばっ、ぶふぉ・・・。なら、こっちはこうだムッツリスト」

 

 「へあっ?!」

 

 息を切らしながら(略)

 

 4時間57分後。

 

 「ん、ふうっ、これでも純情に見えるか童貞神」

 

 「・・・ぷはっ、まだまだ純情すぎるだろムッチリサキュバス」

 

 息を(略)

 

 6時間23分後。

 

 「ふう、はあ、ん・・・。こにょ早漏童貞」

 

 「く、はぁ、もう童貞じゃねえよ、純情ムッチーリニ」

 

 「わ、私だって純情じゃないもん。サキュバスだもん」

 

 い(略)

 

 12時間13分後。

 

 ((やっちまったぁあああああ!!))

 

 二人は賢者タイムに入る。

 ナンデ?!最初は愚痴を聞きながらお悩み相談のはずがナンデ致しちゃっているンデスカ?!酒の勢いって怖い。やはり未成年がお酒(ノンアルコール)を飲むのはいけなかった。お互いにこれからの事を考える。これがばれたら幼馴染(姉)達にばれるとやっかみを受ける。そしたら自分の就職先(就学先)で印象がダウン。好感度もダウン。その結果手に入るのは自分の良き理解者だけ。・・・あれ?これっていいんじゃね?

 

 ((んなわけあるかぁああああ!))

 

 まず、最初の段階。幼馴染(姉)達にこの事がばれたら想像もできない末路がまっているかもしれない。

 

 「と、とりあえずこのことは無かった事に。お互い無かった事にしよっ。お姉ちゃん達が来る前に片づけて」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 (なんで俺残念そうにしてんの?!)

 

 (なんで私嬉しがってんの?!)

 

 そして二人は頭を抱える。自分は目の前の相手に恋愛感情は持っていないと言い聞かせながら相手の事を考える。片方はコミュニケーション能力も高くて人脈も広く、地域限定だがカリスマ性も高く、陰ながらずっと力になってくれる。片方は容姿端麗、成績優秀、エリート街道まっしぐら、内面も三歩下がって自分を押してくれる人格者。自分にないものを持っている。あれ?考えれば考えるほどかみ合ってないか?そう思案し始めた時、

 

 フェイトー、ユウー。もう朝だよー。起きてー。というアルフからのメールが互いのスマホに届いてお互いの体が十センチほどベッドから浮く。そこから急いで事後の後片付けをして身なりを整える。WCCという物体干渉の力をフルに生かして事案が起こる前の状態に戻した後、裕は懐中時計を、フェイトはWCCで『鎮静効果』を着けてもらったバルディッシュを手にして部屋を出た。フェイトの家族であるアリシア・プレシア・アルフはこの二人に限って何かあるわけではないし、あったとしたら顔に出ているはずだとタカをくくっていた。もしWCCが無ければ部屋を出た時点で二人は終わっていた。

 それから何もなかったかのように演じきった二人は自分と相手に言い聞かせるように昨日あったことは無かった。犬にかまれたと思って忘れようと言いあった。しかし、一ヶ月後。

 

 「…来ないの」

 

 「…は?」

 

 「だから、…が来ないの」

 

 「へ?」

 

 「だからっ、生理が来ないの」

 

 「ふっ?!」

 

 フェイトが自宅に押しかけてきてから聞かされた事実。それは裕のファーストアタックがクリティカルヒット。犬に噛まれたら実はTウイルス感染しましたと言うくらいに致命的な事実だった。そして冒頭の部分に戻る。

 

 「あ、あれだ!体調不良とかで来ていないだけだって!」

 

 「そ、そうだよね!きっとそうだよね!」

 

 「それにそうだっ、不安ならそれを調べる薬用品を買えばいいじゃないか!」

 

 「買えるわけないでしょ!私達まだ16だよ!ユウが作ってよ!」

 

 「そ、それもそうだな。よしっ、ちょっと待ってろ!」

 

 そして、その結果は。

 

 

 

 九か月後、プレシア・テスタロッサ。おばあちゃんになりました。

 




 運命の人は意外と近くにいた(嫉妬)!
 そして誤字訂正のメッセージをくれる皆さん。ありがとうございます。こんな拙い私を補助してくれて助かります。頑張って誤字が少なくなるようにしていきたいのでこれからも感想を待ってます。


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第七十五話 A!M!邪神様にジェットストリームアタックを駆けるぞ!

邪神様のヒロインはまだ決まってません。


 邪神がキリエに捕まっていた頃、海鳴市のとある上空でウサギの人形と共に金の髪をした10歳くらいの少女、猫のような人形と緑が入った銀の髪を持った12歳くらいの少女。そして自身の身長をも超える盾と薄紫色の髪を持った8歳くらいの少女の三人が海鳴市のかなり上空にいきなり投げ飛ばされていた。

 この三人の少女投げ飛ばされる前まではミッドチルダで「次元犯罪者に俺はなる!」と豪語していたとある邪神の青年を追っていたのだが気が付けばこんな上空に投げ出されていたのだ。

 

 「またやりやがりましたねっ、あのろくでなし!」

 

 「ま、マシュちゃん今はそんな事を言っている場合じゃないよーっ」

 

 「てぃ、ティオ!クリスさん!ギャラハットさん!空中制御を!」

 

 銀の髪を持つ少女がそう叫ぶと三人の少女は光に包まれ、それが晴れると三人とも17歳前後くらいの女性に変身していた。

 ウサギの人形が無くなる代わりに金の少女は全身タイツの上に袖の短いコートを着たような女性に。

 猫の人形が無くなる代わりに銀の少女はライフジャケットのような服装を着た女性に。

 そして盾を持った女性はタイツとライトアーマーを足して二で割った服装に変化していた。

 

 その三人は各々で展開した浮遊魔法で落下スピードが次第に緩やかになっていきながら地上へと降りていくはずだった。が、

 マシュと呼ばれていた女性は降りていく途中、魔力で強化していた瞳に黒い頭と黒い瞳。更には首から下げている金の懐中時計を持った人物を移して、浮遊魔法を解いた。

 盾を構えていたがそれを槍のように構え直し、空気抵抗を減らして落下スピードを再び引き上げた。

 

 「見つけましたよ!穀潰し!」

 

 「ちょっ?!マシュちゃんっ」

 

 「マシュさん、何を」

 

 落下スピードを上げたマシュを慌てて追う二人。いつもは心優しくあまり好戦的ではないはずの彼女の目がギラギラになっていた。そして盾を突き出した。

 

 「チェストォオオオオっ!!」

 

 

 

 キリエから王ちゃまに話し手をしている間にトイレを済ませた裕が二人の元に戻ろうとしていた時にそれは頭上からやって来た。

 

 「チェストォオオオオっ!!」

 

 「まっしゅっ?!」

 

 頭上から落ちてきた黒い物体に潰された裕の姿に思わず臨戦態勢に入るキリエと王ちゃま。警戒していると落下地点に更に二つの女性が舞い降りる。

 

 「何やってるんですかマシュさんっ、あんなスピード殴りつけたら死んじゃいますよ」

 

 「大丈夫です。非殺傷設定ですから!でないと色々と吐き出させることが出来ません!それに邪神相手なら有無を言わさず先手必勝です!」

 

 「あー、なるほど。じゃないよっ、マシュちゃん!」

 

 分かってるじゃないか、邪神に考える時間を与えてはいけない事をマシュと呼ばれる女性はしっかり理解している。落下地点で目を回している裕の襟首を持ち上げているマシュ。

違うそうじゃない。それを見たキリエと王ちゃまは慌てて止めようとするがその前に金の髪をした女性が、魔法で裕を空中に縫いとめる。

 

 「邪神相手なら空中バインドしないとっ」

 

 分かってるじゃないか、邪神を地面につけてはいけない。それは邪神に武器を与えるような物だから。この金の髪の女性はわかっている。

 違うそうじゃない。王ちゃまとキリエは思わずずっこける。助けるんじゃないのか、と。

 

 「駄目ですよヴィヴィオさん。ちゃんと身ぐるみを剥がないとっ」

 

 分かってるじゃないか、邪神は身に着けているもの全てを武器にすることが出来るんだから。銀の髪を持った女性が裕のジャンパーやジーパンを剥いでいく。

 違うそうじゃない。あんたらがやっていることはただの追剥強盗だ。更に暴漢罪も適用されそうだ。と、王ちゃまとキリエはそう思った。

 

 「って、いやぁああああーっ、何この人達っ、レイパー?!」

 

 裕は空中で身じろぎするがあれよあれよと言う間に全裸にひん剥かれた。

 

 「というかお主は裸になっても別にそう恥ずかしがることではあるまい?」

 

 以前、分身とはいえ王ちゃまの前で裸になってもネタに奔る裕だ。今更裸を見られても何とも思わないはずだろうと王ちゃまが尋ねたが、

 

 「自分で脱ぐのはいいけど脱がされるのは嫌なんじゃー!」

 

 「なにその微妙な性癖」

 

 キリエは思わず頭を抱えて蹲る。自分が探していた邪神がこんなのかと落ち込む。

 そりゃ落ち込むだろう。苦労して、藁にもすがる思いでやって来た管理が世界地球。偶然にも自分が探していた物が二つも同時に手に入れた。が、その片方がとっても残念だった。

 

 「と言うかだな、お姉さん達初めて見る顔なんですが?!」

 

 「嘘を言わないでください。その黒い目、黒い髪、そして金の懐中時計!そしてその反応!例え子どもの姿になったとしても私の目はごまかせませんよっ、お父さん(・・・・)!」

 

 「本当に人違いだろう!?この年でなすびちゃんみたいな子どもを持った覚えは・・・。ぐふぅっ」

 

 前世を合わせると子どもどころか孫がいてもおかしくない自分自身の経歴に自爆する邪神。自分の言葉に傷つく裕。

 

 「やっぱりこの反応、ユウさんです!人違いだったら私達軽犯罪者になる所でした。よかったぁ」

 

 「よくねえよっ!きっと人違いだよっ。たとえ探し人だとしてもこれは立派な犯罪だからね?!」

 

 「ママ達が言ってました。邪神に常識は通用しないって」

 

 「しっかりしているママ達だな。まさしくその通りだよ!」

 

 しっかり自分対策は練られているようだと悔しがる裕。そこに全裸にされたことを責めるような毛色はない。

 

 「正しい対応なんだ、これ」

 

 「残念な事にな…」

 

 ますます落ち込むキリエの肩に手を置く王ちゃま。奇想天外な事をする邪神は身動き取れなくするよりも物に触れさせないようにするのが一番なのは王ちゃま自身も理解している。奇しくもその光景はシュテルんが裕を拘束した時によく似ていた。

 

 「さあ、私達と一緒に帰りますよ。お母さん達に迷惑かけたりかけられたりしないでください!」

 

 「かけるのは自重できるけどかけられるのはどうしようもないんだが…」

 

 「お父さんがそんな頭マーリン下半身ランスロットだからですよっ!」

 

 えー、やだー。俺ってばそんなにプレイボーイだったっけー。

 

 「だからよくママ達に押し倒されたりするんだね」

 

 えー、やだー。俺ってばそんなにプレイ(される)ボーイだったっけー。

 

 「まあ、その、うん。あれだけフラグを建てたり、回収したり、処理しなかったらそうもなりますよね…」

 

 えー、やだー。俺ってばそんなにプレイ(される:確定)ボーイだったっけー。

 

 「…と言うかだな。本当に誰?」

 

 「まだとぼけますかっ!そんなんだからフェイトお母さん(・・・・)やプレシアおばあちゃんに迷惑かけてるんですよ!」

 

 まさか未来の自分の娘が自分に会いに来た。とは邪神も考えてはいなかっただろう。

 

 

 

 その頃、邪神がいなくなった事に気が付いたなのは達はと言うと、

 

 「また、裕のやつが連れて行かれたか」

 

 「なんか裕君らしいというか、それとも厄介事=裕君と考えるべきか、悩むところやなぁ」

 

 大晦日で集まっていた魔導師組は管理局が駐屯しているマンション前に集まって相談していた。

 その中でヴィータは呆れてはやては眉間に指を当てて考えている。

 

 「いやむしろ邪神=厄介事なんじゃ」

 

 「まあ、とりあえず迎えに行きますか」

 

 「み、みんな一応ユウに助けられたことあるよね。助けに行こうよ」

 

 アリシアとアルフがため息をつくとフェイトがフォローを入れる。この差がとある未来でフェイトがお母さんになれる可能性が含まれているかもしれない。

 

 「皆、結界を張ったから準備してー」

 

 「それじゃあ、レイジングハート、セートアーップ!」

 

 シャマルが人避けの結界を張り、なのはを先頭に皆がバリアジャケットを展開していく。

 すると、

 

 と~く戦隊、と~く戦隊!

 

 と、なのは達の持つデバイス。レイジングハート、バルディッシュ、レヴァンティン、グラーフアイゼン、クラールヴィントからギニュー特戦隊のテーマが流れた。

 これは邪神がなのは達五人がデバイスを同時に起動させると流れるように『設定』した物であり、各々がギニュー特戦隊のポーズを強要させる効果がある。

 

 「か、体が勝手にっ」

 

 「ちょっ、ええー?」

 

 「…やられた」

 

 「これって裕君の仕業?」

 

 「ちょ、主はやて見ないでください!」

 

 しかもご丁寧になのは達の事を紹介するように替え歌まで流れていく。中でも一番格好いい(恥ずかしい)隊長のポーズを取らされたシグナムはというと…。

 

 「野郎、ぶっ殺してやる!」

 

 邪神へのヘイトを思いっきり高めるのであった。

 




 今回出てきたマシュ。モデルはソーシャルゲームFGOのヒロインさんをモデルにしてます。マシュマロおっぱいサーヴァント。


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第七十六話 邪神プレイ

更新が遅れてすまない。
そして話もあまり進まなくてすまない。
これもソシャゲのFGOが面白いからなんだすまない。
ちょっとスランプ気味です。
それでもチマチマ書いていきますのでどうかよろしくお願いします。



 邪神を押しつぶし、身ぐるみを剥いだ女性三名は素っ裸にひん剥いた状態で空中に固定した後、彼から目を離すことなく現状確認を行うことにした。

 自分達の持つ猫やウサギ。盾を模したデバイス達。そして自分達の知るはやての幼少期によく似た少女と一緒にいた桃色の髪をした女性からどうやら自分達は自分達が生まれてくる前の世界。過去の世界に来たということが判明した。

 なるほど、それなら小さい姿の邪神やはやての姿も理解できる。

 

 「おーい、理解出来るならこの拘束を解いてくれ。もしくは服を着させてくれ。真冬に全裸はきつい」

 

 外気温0度。しかも海岸付近と言う事もあって体感温度はもっと低い。そんな状況で全裸空中バインドはきつい。

 

 「駄目です。小さいとはいえ邪神は邪神。自由にさせたら何をするか分かりませんし、物を与えても何をしでかすか分かりません。ナニが小さいとはいえ」

 

 「ナニを見ていっているンデスカね銀色姉さん?!」

 

 「お母さん達が邪神にはナニもさせないのが一番だと言っていました。ナニが有ろうと小さかろうと」

 

 「だからナニを見ていってるんですかねタイツ姉さん?!」

 

 「まったくいつもそんなのだからフェイトお母さん達に迷惑をかけてるんですよナニお父さん」

 

 「もうっ、お前等ナニ見て言っているだろう!」

 

 小さいのは寒い空の下に出されたから縮んだだけだいっ。

 そんな女性達と邪神の会話にキリエのテンションはどん底だった。

 

 「…まじで、マジで私が探していたものってこんなのなの。ああ、こんな事ならお姉ちゃんの言うことを聞いておけばよかったなー」

 

 「我等とあれを一緒にするでない。いや、まあ、今はあれだがやる時はやる、はずだ」

 

 そんなキリエを慰める王ちゃま。全裸で宙ぶらりんのぶらぶらりんだが彼の持っている能力は本物である。使い方を正せば世界をひっくり返せるだけの力はあるのだ。

 

 「ぶえっくしょいっ。いや、マジで服着させて、風邪引いちまうよ。拘束を解いて服を返してくれ」

 

 「駄目ですよ、そんな事したら逃げるでしょ」

 

 「そりゃ逃げるよ!」

 

 誰だって複数の異性に押しつぶされて全裸にひん剥かれて拘束されたら逃げたくもなる。絶対に公安のお世話になること間違いなし。犯罪臭ぷんぷんである。

 

 「せめて服をっ。服を着させてくれっ。このままじゃ風邪をひく!」

 

 「仕方ないですね。じゃあ上着だけ…」

 

 なすびちゃんが一枚だけ衣類を着させる。

 空中にバインドされた裸ワイシャツの少年の出来上がりである。

犯罪臭上乗せ。

 

 「・・・これはお姉さんたちの趣味?」

 

 「「「違います。一般常識です」」」

 

 「そんな常識嫌だ」

 

 「お主等、もう何もするでない。桃色が立ち直れなくなる」

 

 キリエのテンションもどんどん落ちていく。終値が見えない。

 王ちゃまは一応恩人でもある邪神の扱いをどうにかしようと思いいきなりやって来た女性に声をかける。

 本来なら女性達が現れた瞬間に迎撃をして砲撃魔法をぶっ放すのだが、襲われたのが邪神であり、襲った側も邪神の事をお父さんと言っているので吹き飛ばすわけにはいかなかった。

自分達の事を探っていたキリエに聞きたいことがあったが目の前の光景にどんどん落ち込む彼女に何かを聞くことが出来なかった。

 

 「ていうか俺が何かしでかすって決めつけんなよっ、俺だって好きで馬鹿騒ぎしているわけじゃないんだよ」

 

 「「「「それは違うよっ!」」」」

 

 王ちゃまとなすびちゃん達の背景に『論破!!』と言う文字が出てきそうな勢いで邪神の言葉が遮られた。

 

 「いつだって馬鹿騒ぎしているイメージだもんっ」

 

 「というか騒ぎの中心にいますよねっ」

 

 「というか元凶じゃないですかっ!」

 

 「本当だってのっ!それに俺、どちらかと言えば・・・ツッコミだから」

 

 「「「それは違うぞっ!!」」」

 

 先程よりも強い語気を感じさせながら言葉を重ねるなすびちゃん達。未来の邪神の事を知っているからこその反論だ。

 

 「どちらかと言えばボケでしょっ」

 

 「S(ツッコミ)というかM(ボケ)でしょっ」

 

 「邪神を知っている人達から反論受けまくりですよっ」

 

 「違わねえよっ、俺だって何もしないで馬鹿騒ぎ出来たらいいさ。でも俺がそうしないと途端にシリアスになっちまうから仕方なくやってんだよ!培養型ボケを舐めんな!フェイトみたいな天然じゃないんだよ!」

 

 そういえば。と、王ちゃまは自分が持っている情報をまとめてみる。

 邪神が馬鹿騒ぎする前にはよく重大な事件や内情がはらんでいるような気がする。

 それに彼自身から動かないと必ずシリアスになるような場面が幾つもあった。もし彼のようにシリアスな場面を崩すことが出来るなら彼は便乗するか静観を決め込んでいたかもしれない。

 普段の彼。『冷静効果』を持つ金の懐中時計を持っている状態ならこんな事は言わなかっただろう。彼は恩に着させるような真似はあまり好きではないのだ。だがそれを取られた以上自分の赴くまま喋っている。ある意味正直な邪神だと言える。

 そしてそんな邪神にのっぴきならない状況が押し寄せていた。

 

 「トイレに行かせてください」

 

 「…またなのね」

 

 「仕方ないじゃんっ。この寒空の下、全裸で空中バインドされたらお腹も崩しそうなのっ!」

 

 「…もしかして大?」

 

 「いや、この感触。水だ」

 

 「なおヤバいな」

 

 「だからお願いっ。トイレに行かせて!」

 

 「もう、仕方ないですね」

 

 タイツの姉さんが邪神の四肢の拘束に使っていたバインドを首だけの物にしてそこから伸びる鎖のような物が彼女の手に納まる。チェーンバインドと呼ばれる物に作り替えられる。

 見た目は光る首と鎖に繋がれた邪神(9歳)裸ワイシャツの出来上がりである。

 犯罪臭さらにドンッ。

 

 「これは何のプレイだ!」

 

 「邪神なんだから我慢して」

 

 「わがまま言っちゃ駄目ですよ」

 

 「普段の行いの所為ですから」

 

 「もうやぁだぁあああああっ!こんなじゃしんいやああああああっ!おねえちゃあああああんっ!」

 

 「ああ、桃色泣くでないっ。ほら、きっといい事あるから」

 

 邪神達のやりとりにキリエは幼児退行を起こして癇癪を上げて王ちゃまはそれをなだめる。そんな彼女達のやりとりを少し離れた所から生気があまり感じられない表情で見ている紫のバリアジャケットを羽織った女性と白衣の女性の姿があった。

 

 「…あれが、この世界の特異点。リニス。あの騒いでいる子を連れてきなさい」

 

 「トイレに行かせた後でいいですか?」

 

 「・・・そうしなさい」

 

 邪神が関わるとどうしてもシリアスになれないといのは本当らしい。

 




うちのカルデアに沖田ちゃんが来てくれました、やったー。


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第七十七話 邪神様が得意な事は?「ヒロイン役かな?」

 すまない。会話回だけですまない。一ヵ所にキャラが集まり過ぎて会話だけでもすごくなるんだ。
 更新が遅れて本当にすまない。生活リズムが変わってなかなか筆を執る時間が無くて・・・。この邪神様騒動はまだ続くんだ。
一応、これラブコメ(だと信じたい)だから。ちゃんとした堕ち。じゃなくてオチ各種ヒロインエンド(邪神じゃないよ)は考えているから。それまでゆっくりのんびり見ていってください。



 

 大晦日である31日も残すところあと一時間と言った時刻。海鳴の街のとある浜辺で邪神がポンポン痛い痛いしていると突如魔法で仕組まれた結界が発生した。当たり前だと思うが邪神に魔法云々の力はない。この結界は魔法の力を有した存在しか中にいることは出来ない為、結界からはじき出されるように邪神の姿が消える。と、同時にシグナムの愛剣レヴァンティンが突き刺さった。

 

 「チィッ、仕留め損ねた!」

 

 「やだこの人怖い」

 

 邪神が消えた事よりもその邪神を不意打ちで仕留めようとしたシグナムの行動に思わず引きつるキリエ。

 

 「忘れかけていたけど邪神って魔力ないんだったな」

 

 「はっ、いけません。このままお父さんを野放しにしていては世界の危機です。カタスロトフですっ」

 

 「あのあまりあの人の事を悪く言うのはちょっと・・・」

 

 「そうですよ。リスクはありますがちゃんとリターンのある人ですし、アフターケアもしてくれているんですから。その、恩人の事を悪く言うのは」

 

 王ちゃま。なすびちゃん一行は魔力を持っている為、邪神が消えた原因に気が付き、辺りを見渡している。結界を張った人物を探し出して解いてもらおうという算段だろうか。そして、結界の方を張った守護騎士達とその主はというと、

 

 「…ぐふっ」

 

 「気持ちはわからんでもないがあたし等がしてもらっている事をトータルすれば確実にプラスだからなぁ、あいつ」

 

 「分かっている。わかってはいるんだが…」

 

 「何言うとるんねん。私の方が裕君よりセクハラしまくってるで」

 

 (よかった。シグナムが飛び出した瞬間に結界を張っておいて。あのまま直撃していたら死んでいたかもしれないわ裕君)

 

 「まあ、あいつのセクハラを受けている身としては大変だろうが実害はないのだろう?」

 

 精神的疲労が実害に入るなら受けていると言ってもいいだろう。

 

 「時空管理局だ。そして死ね。エターナルk」

 

 「ストップなの、クロノ君?!」

 

 「離してくれ、なのは。フェイト。もう邪神関連でうちはてんてこ舞いなんだよ。ははっ、激務には慣れているんだけどな。あいつが関わるだけで小さなことでも大げさに動く僕等管理局はピエロじゃないか。・・・温泉に入りたい。体中がふやけるまでどっぷりつかりたい」

 

 「落ち着いて、シャマルかユーノに回復魔法をかけてもらえば」

 

 「効くかボケェっ!どれだけ僕等管理局を振り回せば気が済むんだあの邪神は!」

 

 (精神疲労にまで効く魔法って・・・。催眠魔法くらいなんじゃ)

 

 「今度エイミィにクロノを癒してやれと言っておくかね」

 

 管理局サイドも荒れに荒れている。決して誤解してほしいわけではないのだが邪神自体が事を大きくしているのではない。むしろ邪神は事態を収縮させようと行動し、それに恩着せがましい事(いたずら)をして管理局やテスタロッサ。守護騎士達のプレッシャーを取り除いているに過ぎない。

 だが、そのフォローが上手く伝わらないとクロノやシグナムのように荒れに荒れるのだ。

 だからと言っていきなり抜刀。氷漬けは酷いと思うが…。だが確かに邪神の動きを封じたいのなら有無を言わさない攻撃が一番なのだ。

 

 「ぜぇ、ぜぇ。…ごほん。あー時空管理局だ。こちらの重要人物の拉致。…拉致?疑惑でそちらの身柄を拘束しに来た。自然に返すのなら大賛成だが人の世に放つというのならこのクロノ・ハラオウン容赦せん」

 

 「クロノ君、疲れてる?シグナムのおっぱい揉む?」

 

 「あれが我のペースになった闇の書の主か…」

 

 クロノの言動と自分の部下に更なる仕打ち(セクハラ)をするはやてに思わず落ち込む王ちゃま。それは少し前に見たキリエの姿に重なって見えた。そして、その姿を見たキリエは遠い目でぶつぶつと独り言を話し始めた。

 

 「うふふ、あれが私の望んだ神だなんて信じないわ。…今ならお姉ちゃんが来ても受け入れられそう。この滅茶苦茶な状況なら今更一人増えたって」

 

 「とうっ。お姉ちゃん登場ですっ。さあ、キリエ、帰りますよ」

 

 「本当に来るな馬鹿ぁっ!収集つかないでしょうが!」

 

 キリエの慟哭は未だに絶えないのであった。

 

 

 

 そんな集団を結界外から見ていた白の女性と紫の女性。その二人に魔法による空中遊泳(強制)で拉致られている邪神はというと、

 

 「悪いけど私達に付き合ってもらうわよ。…邪神」

 

 「大丈夫です。拉致られる事には慣れていますから」

 

 「「慣れている?!」」

 

 本当に自分達の願いを叶えることが出来るのかと今更ながらに思う。『転生者がいなかった世界』からの来訪者。プレシア・テスタロッサとその使い魔リニスは実に良い笑顔で答える邪神を見て、頭を抱えることになったのであった。

 

 



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IF運命の人 第二話

コメント一つでここまで書いちゃった。
我ながらチョロい。
珍しく邪神様は自発的には馬鹿していません。



幼馴染との間に出来ちゃったことが発覚して三ヶ月が経過した。

この時点で邪神である裕は暇さえあれば頭を抱えていた。いや、悩んでいる時以外で日常生活を過ごしているだけにしか過ぎない。

それは彼が通っている文月学園と呼ばれる高等学校。学業成績で学ぶ環境が左右され、学業成績を持って特殊な制度がある場所でも彼は悩んでいた。

 

出来ちゃった子どもをどうするか。

 

一般的な高校生なら堕胎が選ばれるだろう。

母体への危険から、経済面や世間体。将来の事を考えれば子どもには悪いが堕胎してしまうのが邪神にも幼馴染にも良案だと思われる。

 

だが、問題がある。

それは幼馴染の出生が普通じゃない事にある。

 

彼女は出来ちゃったではなく、作っちゃった。しかも愛情を持って生まれたのではなく、とある理由で冷遇された環境で生まれてしまった人物である。

そして、心優しい女性でもある。

自分と似たような状況で生じた命をどうして切り捨てることが出来ようというのか。

それに彼女も邪神の事を悪く思ってはいない。むしろ好感が持てている相手だ。

だからこそ、彼女はこう言ったのだ。

 

産みたいと。

 

そして、邪神もまた彼女の内情をよく知る人間として、無下にできるものではなかった。

彼女の想いを踏みにじる事も、まだ生まれていない小さな命を切り捨てることも出来ない。

幸いなことに邪神も幼馴染も自活どころか数人なら養っていけるだけの人脈・生活力を備えていた。

幼馴染は既に社会人。邪神は高校生だけどその人脈は広く、高校生と言う若輩ながらも接客業から肉体労働までこなせるうえ、時空をまたにかける組織や別の幼馴染の稼業である遺跡発掘というビッグプロジェクトにも手を伸ばせるだけの邪神の能力がある。

 

ここまでなら普通にお前ら結婚しろよ。と、茶化せるのだろうが問題がある。

 

この邪神、別の幼馴染から好意を長年受け続けてきたにもかかわらず、彼女たち以外の女性との間に子どもをもうけてしまったことである。しかも皆が皆美少女で将来を約束されたキャリア持ち。そんな彼女たちの好意を裏切ったに他ならないのだ。

 

ああ…。俺はあの時、なんで酒もどきなんか作り出してしまったのだろうか。

どうして、男子学生の必需品である避妊具を用意していなかったのかと悔やんでも悔やみきれない。

 

日に日に少しずつだが大きくなっていく彼女の胎。今は太り気味かな?とごまかしているがもうそろそろばれる頃合いだ。

ばれた時、どうすればいい?

 

そんな悩んでも、考えても、答えが見えない思考の袋小路で邪神が廊下を歩きながら悩んでいると廊下の角から出てきたとある男子学生とぶつかった。

 

「うおっとごめん。って、田神君」

 

「っと、すまん。って、吉井か」

 

邪神とぶつかったのはこの学園に入学してすぐに交友関係になった吉井。成績が残念過ぎてFクラスという最下位のクラスで、邪神とは別のクラスではあるが二年生になり、上位の成績を収め、Aクラスという最高クラス。

クラスの格差はあっても何かと波長の合った二人の交友は続いている。

まあ、邪神以外にもFクラスに何かと接触したがる人間は数人いる。

 

「…どうしたの田神君。ここ最近ぼーっとしているのが多いよね。インフル?」

 

邪神は今抱えていることをふと思い出しては考え事にふけるというのが日課になってきており、それは違うクラスの友人にも感じ取れるほど深刻だった。

勿論、吉井少年は気になって声をかけてきた。彼だけではない。同じAクラスの久保君や木下さんなどにも声をかけて来られたが、誰かに相談できることではないと今まで拒んできたがもう本当にどうすればいいのかわからなかった。

だから馬鹿にも縋る。違う。藁にすがるつもりで吉井少年に縋ってしまった。

 

「…吉井。放課後、飯おごるから相談に乗ってくれないか?」

 

「奢りっ!うんうん、何でも言って!どんなことでも相談に乗るよ!」

 

ちなみにこの吉井少年。高校生にしては珍しい一人暮らし。

両親と姉は外国におり、自由を満喫する暮らしを送っていたが、ゲームやムッツリ商会という所から美少女の写真の購入しており、金欠状態が多い。むしろ、そうじゃない時が少ないくらいだ。

決して奢りのご飯につられて相談に乗るのではない。三割くらいは当てはまるが。

 

「これは、…俺の友人の話なんだが」

 

邪神は一拍子おいて自分自身じゃなくて友人の事なんだと前置きをしておく。

確かに彼の友人は、下は幼稚園。上は社会人。老人会のお爺ちゃんたちと年齢の幅は広い。

これも幼少期に彼が作り出した幼馴染をストーカーから守るための組織イエーガーズ。幼馴染一年半前に次元世界を跨いだ場所に15歳という若さで就職をしたこと。ストーカーも追うようにそっちへ行ってしまった。

地球に滞在することを選んだ邪神の手の届かないところに彼女達が行ってしまった。彼女たちの事は元イエーガーズの団員である少年に警護を任せた。

これを機に一度解体。再結集した時邪神と団員の目にかなった人物たちを無差別に招集。新たに再結成された組織の名は、

 

恋愛支援団体ラブラビッツ

 

主に恋愛に悩む若者から熟年者の悩み事を解消するボランティア団体。全身黒タイツでうさ耳をつけた変態紳士の集団である。

活動内容は肉体改造から服のセンス磨き。更には就職先の斡旋等。自分磨きを助ける団体へと変貌。その実績は確かなもので年末までには邪神の地元である海鳴を超えて県外まで組織は成長する見込みだ。

 

話を戻す。

そんな幅広い人脈を持つ邪神の悩み事を聴いている吉井少年は学問面では馬鹿だが、なぜかこういったことには聡い少年だった。

 

うんうん。

これは友人の話とか言っているけど田神君本人の悩みだな。

昨日のテレビでも言っていた。これは、真剣に答えなきゃ。

 

そして、邪神はこういった時に限って運が味方してくれない。

 

「出来ちゃった婚って、どう思う?」

 

…これは、目の前の少年は大人になったという事だね。

騙したねっ!純粋に心配した僕の純情を騙したね!

許さないっ!絶対に許さないぞ!この似非非モテ男め!じわじわどころか確実に仕留めてくれる!

 

「YUDAが出たぞぉおおおおおおっ!!!」

 

「うおおおおっ?!も、もちつけ吉井っ!」

 

そう叫びながら吉井少年は邪神に殴りかかった。しかも血涙を流しながら。

邪神は幼少期から体を鍛えており、そこらの不良やヤンキー。暴走族やヤクザまで相手しても逃げ切れるスペックを持つ。そんな彼だが、吉井の攻撃をかわすことは出来ずにクロスアームブロックで何とかしのぐしかないほどまで鋭く重い物だった。思わず邪神の口調も慌てたものになる。

それだけではない。文月学園のあちこちから獣のような呻き声が鳴り響く。そして、それらは確実に自分に向かってきているのだと感じ取れる。

 

「吉井ぃいっ!YUDAは、そいつかっ!!」

「って、そいつは俺らの救世主でありながら裏切り者の田神じゃないか!!」

「こいつ、いろいろ否定していたけど俺らの黒髪アイドルのも森下さんとヤル事やっていたという事くぅあっ!!」

 

続々と黒い頭巾をかぶったカルト集団のような男子学生達が表れる。

彼らの名前はFFF団。主にこの文月学園二年。成績最下位クラスのFクラスの男子生徒で構成されているある意味、邪神が組織しているラブラビッツに似た団体だ。

その活動内容はモテる男への粛清。

鞭打ち。石抱き。張り付け。火あぶり。引きずり回し。と、魔女裁判もどきの事をしでかす団体である。

だが、その中の殆どがモテたいがためラブラビッツに接触していることもある。その度にモテる知識をもらっているのだが、残念ながら彼等は馬鹿なのでそれを生かし切れていない。

彼らの残念さは運動面にも表れるのだが、なぜか粛清の時は必ずと言っていいほど身体能力が倍増する。

ちょうど邪神を殴ろうと拳の連打をする吉井のように。

その形相は我が子を奪われた鬼の如く歪み、力強いラッシュが繰り出されていた。

そのラッシュもなんとかさばきながら邪神は自己弁護を開始した。

 

「待て待て待て待てっ!誤解があるぞ!ちーちゃんとはまだ何もないっ!」

 

ちなみに森下さんと言うのはイエーガーズの時から邪神のサポートをしてくれていた少女で、邪神や元イエーガーズの団員たちからはちーちゃんの愛称で慕われている大和撫子な美少女。しかも高校生にしては大人顔負けのスタイルであり、特にバストは幼少期からバストアップの体操をしていたので学生の中ではトップ3に入るほどの巨乳だ。

そして、邪神に思いを寄せ続けている少女でもある。その勢いは衰えることなく続いており、Aクラス。学年主席の霧島少女。同じくAクラスの工藤少女と共に三大肉食獣と呼ばれるほど邪神にアタックし続けている美少女である。

 

そのため、邪神はFFF団から目の敵にされており、吉井少年もそれを憎らしいと思う程である。普段は友達想いの彼だが、女性関係が浮き彫りになるとそれが豹変する。

しかもそれだけではない。邪神の交友関係の中には彼女レベルの美少女が何人もいるのだ。

 

「とは!?まだ!?田神君、君はやっぱり森下さんと関係を持ちたいと思っていたんだね!このムッツリーニ以上のムッツリめ!しかもその様子だと森下さん以外の人と関係を持ったんだね!!」

 

「なんでこんな時に限って察しがいいんだよ!ニュータイプか!」

 

言葉の端々から邪神の交友関係を察する吉井少年。

今の彼は怒りによって肉体のリミッターが外れていた。彼だけではない。FFF団の連中も黒頭巾をかぶっているとは思えないほどの俊敏な動きと連携で邪神を追い詰めていく。

 

暗号名YUDA。

それはFFF団関係の人間が自分達に何も伝えずに彼女を作ったという裏切り者に振られる禁忌ワードである。

 

特に彼等を裏切ったわけではないのだが、状況的言えば何も否定できないのが今の邪神だ。

彼等と邪神の身体能力は明確な差があるというのに確実に追い詰められ始めている。

 

「貴様ぁああああっ!!誰とだ!誰と一緒に大人の階段を上ったんだ!ちーちゃんか!?ケーキ屋の子か!?お嬢様学校の誰かか?!それともロボット研究所の子かぁあああっ!?」

 

「ち、ちちげぇしっ!」

 

大振りながらもスピードが乗っている。その上、長年付き合ってきた戦友のように連携を取る吉井少年を含めたFFF団の連続攻撃に邪神は内心怖気づきながらも、核心をついてきた吉井の言葉に動揺した。

ちなみに邪神からムッツリ商会経由で吉井少年もFFF団も彼の幼馴染の事を知っている。何せ、金持ちで、美少女で、誰もがナイスバディーだ。とある写真集にも取り上げられたこともある。

そして、その動揺を敏感に察したFFF団は血の涙を流しながら更なる猛攻を浴びせ続ける。

 

「「「「「あのグラマラス金髪美少女と大人の階段を上ったんだな!!!」」」」」

 

「だから何でそんなに察しがいいの?!お前ら自分のステータスを全部粛清に振っているのかっ!」

 

普段の邪神ならこんなことは口走らないが、今は精神的にも肉体的にも追い詰められている。と、首筋に冷たい感触を覚えた邪神はFFF団の攻撃から何とか逃げながらも、急に感じられたすぐ後ろの気配に目を向けると、そこにはムッツリ商会の主が横たわっていた。

 

「…はぁはぁ。…金髪、グラマラス美少女?」

 

「これ以上、興奮するなムッツリーニ!一度、撤退をするのじゃっ」

 

「…取り消せよ。今の言葉。…退けるかよ。…ここで退けば、俺は一生後悔するっ!」

 

一見地味で細身な男子学生である土屋少年。ムッツリーニと呼ばれている通り、エロへの探求が物凄いどころではない誇り高きエロへの行動力とそれに通じる高い身体能力を持った少年であるが、同時にピュアな少年である。

彼は本来、邪神の意識外からの奇襲で彼を仕留めようとしたFFF団の一人でもある。その奇襲は途中まで、攻撃が邪神に当たる寸前まで成功していた。だが、吉井少年達の邪神を責める言葉に過剰に反応。

何度も盗撮。もとい撮影したこともあるからわかる。金髪グラマラス少女ことフェイトの事を知っているムッツリーニはその言葉を聞いた瞬間にフラッシュバックの如くフェイトのあられもない姿を想像し、興奮のあまり鼻血を噴出した。その血しぶきが邪神の首筋に当たり、自分の存在を知らせてしまった。

かなりの量を吹き出し、今もなお流し続けている出血量で、ムッツリーニは意識を保っているのが精いっぱいだ。

そんな彼を介抱する美少女。に見間違うほどかわいらしい顔つきの人物。木下。性別:秀吉がムッツリーニの様態を心配していた。

二人ともFクラスであり、FFF団の一員だ。吉井少年の招集に飛びだしてきたのだろう。

 

「これはムッツリーニの血か?!てか、持っている物が危ないな本当に?!」

 

ムッツリーニが手にしているのはバーベキューで使われる鉄串、シュラスコである。あれで首筋を刺されていたら邪神と言えど、人の子だ。ただでは済まない。

既に瀕死状態のムッツリーニ。彼が万全の状態であったとしたらいくら邪神でも逃げ出すのは難しいだろう。

と、とうとう廊下の最奥。行き止まりに邪神が追い詰められた。

 

「よーしっ。お前らよくここまでうまくあいつを追い込めたな。後は任せろ」

 

FFF団のかぶっている黒頭巾。その集団の中で一回りは大きい体格の少年がマスクを取りながら、邪神の前に一歩出た。

 

「さ、坂本。お前まで来ていたというのか…」

 

「まぁな。屋上でのんびりしていたらバカの叫ぶ声がしたんで、何があったのかと思えばこんな面白い事になっているじゃないか」

 

坂本と呼ばれた少年は、吉井少年やFFF団の所属するFクラスのリーダーを務める統率力、行動力、戦闘力から話術まで兼ね備えた、少し昔では神童とまで称された少年だ。

粗っぽい口調や喧嘩の腕っぷしもあり、地元の不良に絡まれることもあり、そこを通りかかった邪神と共に不良を叩きのめしたこともあり、ある意味吉井少年達よりも長い付き合いの彼だが、邪神の美少女が多い交友関係に文句を何度も言ってきた人間でもある。

 

「お前は何かと首を突っ込むのに争いごとを避けがちだよな」

 

「な、ならわかってくれるよな。坂本」

 

邪神の言葉に納得したかのように一度、息を吐いた坂本少年。次に彼が見せた表情は罠にかかった獲物を見て笑っている猟師のような顔だった。

 

「ああ…。大義は我にあり!これで心置きなくお前をぶちのめせる!」

 

「おまっ、お前にだって霧島さんと言う女性がいるだろう!」

 

「それが今のお前と俺に関係があるのか?」

 

坂本少年は既にやる気満々のようだ。

もう出し惜しみしているわけにもいかない。

 

「ならば、…こっちも!こぉおおおおおいっ!ラァアアブッラビィイイイイイッツ!!」

 

邪神が指を鳴らすとFFF団の人垣をかき分けて黒ずくめのうさ耳集団が飛び出して邪神を守るかのように立ちふさがる。

 

「「「ラヴィッ!」」」

 

FFF団と対抗するには少なすぎるが数人のラブラビッツのメンバーがやってきてくれた。

全身黒づくめだから性別は判断しづらいが恐らく男女ともに3人ほどいるのだろう。女性らしい丸みを帯びた胸部の持ち主もいる。

 

「…ボディラインが、ピッタリフィット。…戦闘能力はDランク。…ぷはっ」

 

FFF団の数人がラブラビッツ女性団員の一人の格好に前かがみになり、再びムッツリーニが地に沈んだ。

フー、フー。とパリピのような掛け声をかけながらその場で踊りだしているような動きを見せるラブラビッツのメンバー。彼等はこの文月学園に通うメンバーであり、団長でもある邪神の命令を第三に考えている。

 

第一は恋愛に悩んでいるメンバーの力になるために。第二は自分磨きのためを考えている。

 

なぜ、邪神がこのようになっているかは不明だが助けを求めているのは明白なため、とりあえず仲間になってくれているようだ。

そしてこのメンバーも一般時と言うには色々とステータスが上回っている。

邪神の悪ふざけに付き合ってきたからか、身体能力と学力はFFF団の1.5~2倍のステータスだ。早々に負けるはずがない。いわばエリート戦士だ。

 

「どうだっ。これで少しはこっちに勝ち目が出たぞ!坂本!」

 

「ど、どうするの。雄二。田神君や男子学生ならいざ知らず女子は殴れないよ」

 

吉井少年は邪神を守るラブラビッツのメンバーの登場に若干焦りを見せる。

そう、ラブラビッツのメンバーは全身黒タイツ。某名探偵の犯人のように性別が区別できない。FFF団は馬鹿とはいえ、女子に手を上げればモテなくなるという理解はあるため、攻撃をすることをためらっていた。

 

「ふん。慌てるな。いや、むしろここは強力な味方が表れたと思え。あいつらは恋愛支援団体のラブラビットだぞ」

 

「味方?…そうかラブラビッツは基本ハッピーエンド主義だっ」

 

坂本少年が言うようにラブラビッツ恋愛支援団体。

モテない不衛生なデブ男がモテるためにはどうすればいいか?それは相手をデブ専に思考誘導したり洗脳することはない。

持てる男にするためにダイエットやエクササイズ。身の回りのお手入れの方法を伝授し、共に汗水流してモテ男にする。女も同様である。

相手を変えるのではなく自分の価値を上げ、相手に受け入れてもらう。

無理やりとか脅迫などもってのほか。そんなことをすれば裏切り行為となり厳しい制裁が下される。とりあえずその土地にはいられなくなるような制裁が下されるのは間違いない。

彼等は変態だが、紳士であり、誇りを持っていた。

 

「聞いてくれ!ラブラビッツの諸君。そいつは少女漫画界のYUDAだ!」

 

「「「っ?!」」」

 

吉井少年の言葉を聞いてその場で踊っていたラブラビッツのメンバーの動きが止まる。

彼等も知っているのだ。邪神が複数の女性から好意を持たれていることを。だがラブラビッツはFFF団のように粛清はしない。むしろ逆。祝いの場だと胴上げをするくらい好意的だ。だが、それも内容によっては違ってくる。

 

「そいつはどうやらとある女性とやらかして責任逃れをしようとしているらしいぞ」

 

「ち、ちが」

 

違わない。

確かに邪神は言い逃れを、逃げ道を模索していた。

恋愛支援団体の長が、やらかした上に責任逃れとはどう言いつくろってもごまかせない。

 

「「「………」」」

 

全身黒づくめのタイツのため、表情すらも見て取れないが、そこから放たれる圧から『どういうことだ?』という電波が目に見えるようだ。

 

「いや、それは、その…」

 

ラブラビッツを呼べばこの状況を打破できると思った。

馬鹿めっ!それはお前の包囲網を更に強化するためのものだ!

 

「脱出!!」

 

「「「させるかぁああああああっ!!」」」

 

邪神が近くにあった窓に手をかけて外へ逃げる為に身を投げ出そうそして、それを吉井少年と坂本少年。そしてFFF団が防ごうと邪神に手を伸ばす。

ちなみにここは三階(約十五メートル)である。

 

吉井少年や坂本少年が邪神の上着をつかみはしたものの邪神は体をひねって無理やりシャツを引きちぎり、上半身インナー姿のまま三階の窓から飛び出した。

そこから五点着地という高所から飛び降りた時に行う着地技を披露して、そのまま校外へと逃亡を図る。

FFF団だけではなくラブラビッツまで敵回ってしまってはどう考えても勝ち目がない。このまま逃げ切って、あとから根回しをする。

そう考え、校門まで走っていた邪神の前に複数の女子生徒が立ちふさがる。

 

「田神っ!やらかしたってどういうこと!」

 

「田神君!女の子の事を何だと思っているんですか!」

 

「…裕。やったのなら責任は取るべき」

 

Fクラスで、帰国子女でもあるポニーテールで勝ち気そうな少女。島田少女。

同じくFクラスで病弱でありながら体育以外はAクラスに匹敵する頭脳を持つ姫路少女。

そして、邪神と同じAクラスであり、坂本少年に想いを寄せる二年生の中で最高の学力を収める才女。霧島少女もまた今回の騒動を耳にして最後の防波堤になるために校門を見張っていたのだろう。

 

地雷。かなぁ・・・。

 

本音を言えればどれだけ楽になれただろうか。

そんなことも言えるはずもなく邪神は走ってきた勢いを殺してしまい立ち往生する。

さすがに邪神と言えど目の前の少女たちを力で押しのけて逃げようとは思わないが、後ろから多数の気配を感じているもうFFF団とラブラビッツが迫ってきているのだ。

何としても逃げ出さねばと模索していると、そこに一陣の風が吹いた。

それは爽やかさでも、嫉妬に狂う熱でもない。

 

「…会長。瑞希。美波。…足止めありがとう」

 

「ち、ちーちゃん。と、鉄人?!」

 

その風上にいたのは大和撫子のお淑やかさとモデルのようなメリハリの付いた妖艶な肉体を持った少女、森下千冬。元イエーガーズのメンバーで邪神の幼馴染でラブラビッツの参謀的なポジション。そして邪神に想いを寄せていることを公言しており、邪神が今最も会いたくない少女である。

 

そして、鉄人と言われたのは西村教諭。

坂本少年の二回りも三周りも大きい筋肉質な男性教諭。見た目通りの屈強さと頑固な性格。そして戦闘能力と学力を有している。

 

ま、まさか、ここで文月学園だけで行われている争い。『試験召喚』を行うつもりか?!

 

確かに鉄人は生活指導のほかにも総合科目と言う教科に携わっている。

ここでそれを持ち出されてしまえば確実に負ける。

なぜなら今、ここにいる人間はみんな敵。しかもAクラス級の学力を持つ生徒が3人もいる。いくら邪神でもそうなれば勝てない。こうなってしまえば試験召喚をされる前に逃げるしかない。

 

「西村先生。学園の風紀を乱す人間が目の前にいます」

 

「風紀を乱す奴は指導ぉっ!」

 

が、

それ邪神の抱えている物は以前の問題だった。

 

「ごぶぅっ!」

 

鉄人から繰り出されるステップインボディを受けた邪神は、その一撃を持って意識を刈り取られ、生活指導室へと連行されていった。

 

その後、生活指導室にてどうにか話をごまかして退学処分とまではいかなかったものの、これからどうクラスメートや友人たち。そして組織の人間を言いくるめればいいのか、邪神は必死に模索することになった。

 

 

 

同時刻。

新人執務官であるフェイトも友人たちの前でポロっとこぼした発言から妊娠の事が発覚。

幼馴染達に引き連れられて邪神のお家にお邪魔するまで残り七日に迫っていた。

 




幼馴染達。「「「「「へーい、そこの邪神様。私達とフェイトちゃんみたいにお話ししない。…お酒も交えながら、ね」」」」」

邪神様に拒否権はなかった。



備考。
邪神様の試験召喚獣は黒い袴に、黒い鞭を持った男版プレシアをマスコットにしたかのようなフォルム。
得意科目は保健体育の体育の実技。


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第七十八話 海鳴の邪神様

「で、私が産まれたってわけです」

 

未来からやって来たという邪神の娘を語る大きなラウンドシールドを持った少女。マシュは疲れ切った表情で自分の出生を話してくれた。

いつの間にかいなくなっていた邪神の代わりにいた少女三人組。魔力持ちでバリアジャケットも羽織っていたから自分達と同じ管理世界の人間だろうと話を聴いてみれば、邪神の関係者。

それを知った時のクロノとシグナム。リインフォースは憐れみと驚愕とまだ見ぬ疲労から感情が抜け落ちてしまい、一時的にマネキンのようになっていた。

だが、マシュから話を聴いていくたびに彼等からは同情と気苦労から零れだした涙を拭おうとせずに「そっちも大変だったんだな」と声を掛けていた。

 

そんな邪神否定派の人達とは逆に邪神肯定派の人間達というと。

がっくりと俯いて凹んでいるフェイトを囲むように邪神に想いを寄せる少女たちからの非難を受けていた。

 

「フェイトちゃん、魔法使いじゃなくてシーフだったんやな」

 

「フェイトちゃん。…横取りはよくないよ」

 

「フェイトちゃん。その場の流れもあるかもしれないですけどちゃんと避妊もしなきゃ駄目よ」

 

なのはとはやてからは若干冷めた声質で、シャマルからは保健体育の大切さを説かれていたフェイトは恥ずかしさのあまり直下の地面に砲撃魔法を打って、その開けた穴に埋まってしまいたい気分になった。

 

「私かもしれないけど。私じゃないもん」

 

「いやぁ、大変なことになっていますねぇ」

 

今回。未来や並行世界からの来訪者といった事象を作り出してしまった妹を追ってきたアミティエは今回の事件を解決するには地元の協力者が必要だと思い、自分の事を知った人の記憶はもれなく消すという条件で協力してもらっていた。

 

だが、邪神の有用性を知ると良心が揺れる。

 

自分達のいる世界は荒れ果てていて、汚染されているが邪神がいればあっさり解決してしまうのだ。

土地の浄化。それがどれだけ難しく時間がかかる物かを知っている。

それを妹であるキリエもわかっているのだろう。しばらくは邪神のあまりコメディチック(オブラート三枚包)で調子を崩されていたが、アミティエ。アミタがいざ捕まえようとする直前でその場を離れ、並行世界から来たプレシアに攫われた邪神の後を追跡した。

本当はあの場にいた王ちゃまがいるから別にいいか。とも思ったが、邪神の有用性と過去の人間に迷惑をかけてしまったという良心から邪神の救出に嫌々で向かった。

そのキリエを追跡して、なのは達。王ちゃま。アミタに未来組に時空管理局で向かっていた。

 

はっきり言おう。戦力過剰であると。

 

しかも追われる側は邪神という毒にも薬にもなる人物を抱えているのだ。その心労を思うと本当に可哀そうになる。

 

「で、でもでも邪神のお陰で私は助けられたよ。それにアインハルトさんだって」

 

「そ、そうですよ。邪神は結果的に見ればクズ男に見えるかもしれませんが、その倍は助けられた人がいるんだから」

 

「だからといって、シン兄さんや私のような人達がこれ以上増えてしまうのは看過できません」

 

それとなく未来から来た二人が邪神のフォローを入れるが即座に否定されてしまう。未来から来た少女。ヴィヴィオとアインハルトはマシュの言葉を聞いて明後日の方向を見てしまう。

そして、その否定からクロノは嫌なことに気が付いてしまった

 

「ちょっと、待ってくれ。もしかして、君一人だけではないのか?邪神の血縁者は」

 

この言葉も否定してくれと懇願する想いで声をかけたが、返ってきたのは力のこもっていない苦笑だった。

 

「シン兄さんはまだ誠実ですよ。邪神の弟。私の叔父なんですが、邪神が小学校を卒業する前に生まれた男の子なんですが、邪神と違って変な能力はありません。異常に身体能力が高くて何の補助もない拳で岩を砕いたり、空中ダッシュしたり、魔法弾をジャストガードで弾いて、無傷で受け流すくらいの身体能力を有していますが、『まだ人間』レベルのいい人ですよ」

 

邪神はもう『人間じゃない』レベルなのだろうか?

いや、確かに持っている能力は文字通り神レベルだが、そのスペックはWCCを除けば魔法も使えない人間と変わらないはずだ。

 

「…皆様、ご存じでしょう。邪神は変にモテるんですよ。変に!」

 

力なく微笑んでいたマシュだったが、突如人が変わったかのように物語る。

 

「ええ。ええ!わかっているっ、分かっているんですよ!彼に関わる人達は何かしらの厄ネタを持っていることを!それが父さんにしか解決できない問題だったりするんですよ!あの人は邪神の力以外にも人脈というチートがありますから!相手を悲しませないための知識と技術を日々取り入れている努力を怠らない人だから!」

 

一気にまくし立てたマシュは一度深呼吸をする。

 

すぅぅうううう~。

 

そして再び語られるは邪神の所業。

 

「だからと言って何でああも父さんみたいな人を好きになってしまうのか!ええっ、ええっ!分かってますよっ、あの人は恩に着せないように悪ふざけや見返りを求めますけど実際のところお返しとしてみれば3%未満が殆どなんですよ!実績100:お返し3が殆どデフォなんですよ!残りの97がどうして好感度に回されるのか、これが分からない!」

 

「…お、おう。そうだな」

 

助けられたことがある人達はマシュの苦悩が分からんでもない。

しかし、ヴィータのように考えてみればそうなのだ。

人の命を文字通り救い、世界の危機すら救った邪神の御業。その代償が邪神のおふざけに付き合うだけでいいのだ。まるで見合っていない。

地球にいる様々な神話に出てくる神と比べればなんと優しい慈悲深い神だろうか。

 

「父さんも父さんですよ!どうして知り合う女の人が皆美女か美少女!それなのに厄介ごとは特大!で、それを解決しちゃうんですか!?アイドルからOL。赤貧少女からお姫さまにまで興味を持たれるって何なんですか!?呪いですか!モテる呪いでも受けているんですか!」

 

邪神の能力もあるが、彼の第二の武器はその人脈にある。

前世の記憶持ちという余裕から行動力に拍車をかけた邪神の交友関係は広い。そこから広がる出会い。

それが半端なく広いのだ。

邪神の能力を無しに考えてもこの人脈は広すぎる。

だからこそ、様々な女の子に出会い、厄介事を解決し、惚れられる。

そして関係を持ってしまい、マシュのような子どもが爆誕する。

その数の多さからついたあだ名が、『海鳴のエイリアン』。

出会った女性たちと関係を持ち続けてしまう彼。そして、そのやらかした証拠が爆誕する確率が7割越え。あまりの的中率から地球外生命体の二つ名を得ることになった、

 

「もう、ね!人類皆兄妹(同父)がデフォなんて嫌なんですよ!いずれ邪神の子供たちだけで世界が埋まってしまうのではないかと本気で管理局に恐れられたこともあったりするんですよ!」

 

「…わぁ。…だが、邪神は悪くないのではないか?」

 

マシュの嘆きを受け止めつつも、何とか邪神の弁護を図る王ちゃま。

彼女も邪神の世話になっていたから彼を慕う気持ちはあるが、そこまではない。

それに邪神は人を誑し込むこと意図的にやっているわけではない。むしろ、そうならないように馬鹿をやって好感度を下げようとしている。

だが、それがいけなかった。

ついさっきマシュが言っていたが、実績100:お返し3。

邪神の貢献度があまりにも大きく、報酬が少ない。

ある程度の文化と教養がある大体の人はそれ相応の報酬を用意しようとする。

邪神に見合う報酬などほとんど存在しない。だが、ほんの小さな報酬で満足している邪神を見て思うのは『あ、この人いい人だ』である。

そこに97の感情が流れ込むともうだめだ。惚れる。

邪神がもっと強欲に請求すればこうはならなかった。しかし、しょせん一般庶民でしかない邪神にそれ相応の報酬など思いつかなかった。

邪神がもっと完璧を演じていれば『あ、この人は私たちをは違う立場の人間なんだ』と、思わせることも出来た。だが、邪神は馬鹿をやって助けてくれた人の目線に合わせてくる。だから『あ、自分はこの人の隣にいていいんだ』と思ってしまう。

そこに97の好感情が流れてしまえば仕方ないというもの。

 

「だからと言って、あんなに女性と関係を持つ方がおかしいんですよ!あんなんだから永遠のプレイ(される)ボーイって言われるんですよ!」

 

「なんか妙な間があったように聞こえたよ?」

 

王ちゃまの懐にいたちっさい青髪のフェイト。省エネモードのレヴィがマシュの発言に疑問を持つが、その答えを聞くことは出来なかった。

 

「もういっそのこと去勢してしまえばっ…。ああ、そうだ。去勢させれば丸く収まるじゃないですか」

 

マシュの思い付きの呟きに、ひゅん。と、男性陣は股間を寒くした。

 

「そうか。私はこのためにこの場所に来たんだ」

 

先ほどまでの狂乱は収まり、何か悟りを開いた僧のように答えを見出したマシュに慌ててヴィヴィオとアインハルトが止めに入る。

 

「待って!そんな事をしたらこの先の未来で私が助からないかもしれないから!」

 

「駄目ですよ!そんな事をしたらマシュさんがいなくなってしまいます!」

 

「親殺しのパラドックス。…私はそれをなしてみせる!」

 

割とシャレにならない決意を固めたマシュを説得するのに一時間かかってしまった。

説得に当たった同期の二人に、歴史を変えるという大罪の重さを説いたアミタと邪神肯定派の人達。

だが、邪神否定派の人間にはそれもありかと思われた邪神様はというと。

 

「海鳴の邪神!私立聖祥小学校四年!田神裕!とう!」

 

と、風邪で思考回路がバグり始めた彼の介抱に当たっていたリニスとプレシアはとある宇宙皇帝お抱えの特戦隊のポーズを見せられていた。

何でもこれをやらないと邪神の技が使えないという理由で、自分達にもポーズを強要してくる馬鹿に頭を悩ませていた。

こいつ、今からでもクーリングオフできないものかと。

 



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第七十九話 邪神様クオリティ

げぼあっ。

 

悪ふざけをしていた邪神様にとうとう限界が来た。本格的に風邪をひき始めたのだ。

ギニュー隊長のポーズを取った瞬間に夕飯だった物を口から吐き出してそのまま前のめりに倒れた。勿論、その吐き出したものに顔から突っ込んで。

 

うへぇ。

 

と、別時空からやって来たプレシアはその様子に顔をしかめた。

確かに目的のためならどんな汚れ仕事もやるつもりだったが、これはない。

いや、邪神を誘拐した時点で彼の不調は知ってはいたが、実際にするとなると躊躇する。

そんな邪神に自分と同じ時空からやって来たリニスが邪神の世話を焼く。

どこで手に入れたかはわからない清潔なお湯で邪神の体をさっと吹き上げ、厚手の毛布でくるみ上げた邪神の姿はまるで手足をもがれた羊のようだった。

 

本当に使えるのかなぁ。この邪神。

 

疑いの目を向けてしまうが、彼の存在の有無が自分の娘の組成に不可欠なのだと結論は出ている。その証拠として、自身の武器であり、防具でもあるデバイスに彼の技が加わることで確かに身体能力が向上した実感が持てた。

あとは自分が元居た時空に戻るだけといったところだが、現状、戻れる手段はない。

あの未来から来たという桃色の娘の言葉を信じれば自分も戻ることが出来る。その技法があれば自分は元の世界に帰れる。もしかしたらアリシアが死ぬ手前の時間軸に行けるかもしれない。

邪神はその時の保険だ。彼の技には+αの効果がある。これを手放す人間は馬鹿だ。

 

そんな事を考えていると彼を取り戻しに来ただろう管理局の人間達がやって来た。

邪魔が来るのは想定済みだ。だが、プレシアは科学者ではあるが、同時に強力な魔導士だ。戦闘だって想定内の上、リニスもいる。並大抵の戦闘員なら撃破できる。

 

さあ、来るが言い。どんな輩が何人来ようと我が道を通してやる。

 

「時空管理局だ!お縄に着くといい、別時空からやって来たプレシア・テスタロッサ!こっちは疲れているんだ正月くらいゆっくりさせろや、こらぁっ!」

 

邪神が繰り広げる騒動のせいで口調が大分乱暴な黒髪の時空管理局院のクロノ。

その後ろに自分の娘のクローンのフェイトを筆頭に。彼女のペットのアルフ。

友人の高町なのは。

八神はやて。彼女の守護騎士達。

アミタに特殊な荒縄で、特殊な技法で縛られたままのキリエ。

そして、この状況を呆れた様子で見ている王ちゃまとその配下であるミニチュア状態のシュテルとレヴィ。

 

恐らく、この地球という世界での最高戦力な魔導士達(十人越え)がやって来た。

 

多すぎぃっ!

 

どんな奴でも、どんな数でもこなしてやると言ったがここまで一気に来いとは言っていない。

いくら自分の実力に自信があってもこの物量は無理。一般管理局職員なら完封できるが、目の前の少年少女達からは並々ならぬ魔力を感じる。相当力を込めた攻撃じゃないと倒せない。リニス目を配ると首を横に振って肩をすくめる。ええい、もう少し頑張ろうという気概を見せてみろ。

だが、勝算がないわけではない。こちらには邪神の手が加えられたデバイスがあるのだ。少しは戦力が上がっているはずだ。リニスが彼女達の注目を集めて、自分が広範囲かつ高出力の魔法を放てば少しは勝ち目がある。

 

え~、やるの~。

 

と、言いそうなリニスの視線に強い眼力で返して突撃させる。五秒持てばいい方だろう。

 

ちなみにプレシアたちがいるのは海鳴の町の端にある海岸で、今もなお冷たい海風が吹きつけていた。

そんな中でプレシアがいざデバイスを起動させようとしたが、なぜか起動しない。邪神に預ける前までは問題なく起動できたはずなのに。まさか、だましたのか?!

そう考え、毛布にくるまれ、彼女の足元で転がされていた邪神の方を見ると、彼はにやりと笑みを浮かべてこう言った。

 

「そのデバイスは確かにパワーアップしたが、合言葉がある」

 

「合言葉ですって?!面倒な機能をっ!早くその合言葉を言いなさい!」

 

「合言葉は『開眼せよ!愛と希望のマジカルドレス!展、開♡』」

 

「よし、『開眼せよ!愛と』って、できるかぁあああっ!踏みつけるわよ!」

 

そう叫びながらプレシアは邪神の顔のすぐ傍を踏み抜いて脅した。

 

「すいません、プレシア。もうもちませんっ」

 

そんな事をしていると、リニスがやられかけていた。仕掛けるタイミングをミスった。

仕方なく。本当に仕方ないが、邪神の言う通りにしないとご破算になる。

羞恥に耐えながらプレシアは合言葉を言うプレシア。

 

「か、『開眼せよ!愛と希望のマジカルドレス!展、開♡』」

 

スン。

 

デバイスは機能しなかった。

 

「うわぁ、本当に言っている」

 

「踏むわ!」

 

「ぎゃああっす!」

 

羞恥八割、騙された怒り二割のストンピンクが邪神の顔面に繰り出された。

その間にリニスは数の暴力にやられ、その二秒後にプレシアも捕縛されることになった。

守護騎士とキリエからはやや同情的な目で見つめられるプレシア達だった。

 

そんな喜劇を少し離れた上空で眺めている白い民族衣装のような服を着た金髪の少女がいた。

 

「…え?私、あれ(邪神)と同一視されていたの?」

 

割とショックを受けていた。

 



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第八十話 ちょっと~、邪神様ぁ~。女の子泣いてんじゃん。

邪神がいない世界のプレシア・テスタロッサは激怒した。

この暴虐非道の邪神に辱められた上に計画をまるっと潰された事に激怒した。

たった一人の娘を救うための手段を目の前の邪神に潰されたのだ。神を語る輩などろくなものではない。

うんうん。と、クロノと一部の守護騎士を始めとした邪神関係者達は頷いていた。

 

俺、そんなにろくでなしなの?

 

邪神の視線に乗せられた想いにその場にいた九割が頷いていた。

王ちゃま一味。聖王と覇王の末裔は苦笑いしている。

 

邪神が手を下した時点で何かしらの負担を背負う運命。

邪神に助けを乞えば、好意を持つ。

邪神に敵意を剝ければ予想外の報復に会い、忌避感を覚える。

邪神と交友を持てば、未来から自分の娘(やらかし)がやってきて恥辱を受ける。

 

「まさしく、触らぬ神に祟りなし!ですね!」

 

「…理解したくないものね。これが邪神という奴か」

 

未来からやって来たというアミタが元気よく邪神の評価を発表した。

キリエは泣きたかった。だが、涙は出ない。先ほどの騒動で余計な水分をうしなったから。

 

「とにかくっ、だ!これで終わりだな!?終わりだろ!休暇置いてけ!」

 

妖怪休暇置いてけになりつつあるクロノが別時空のプレシアを捕縛しながら、息を荒げる。

なにせ、彼はこの管理外世界。地球にやってきてろくに休めていない。

いや、邪神の手によって彼等の拠点である時空航行艦アースラから間借りしているマンション。今現在装備しているデバイスにまで邪神の御業で回復効果が施されているので休めている。はずなのだが、

 

『ちょっ~とっ、クロノ君がお疲れだから裕君、あまりはしゃがないでね』

 

遠距離通信からエイミィが邪神を名指しで諫める。

クロノはこの騒動が無ければ、年越しをマンションで過ごした後、久しぶりに取った連休で昼まで何も考えずに寝て過ごそうとしていた。が、そこに邪神がやらかした。という知らせを聞いた時点で臓腑に収まっていた空気を口から一気に吐き出した。

邪神が施した回復効果が無ければ今頃、胃潰瘍か若年性脱毛症に悩んでいただろう。

 

「これで終わりだな?!終わりと言ってくれ!そうなんだろう、ザフィーラァアアっ!」

 

八神はやての守護騎士。その慌てようで盾たる守護獣。唯一落ち着いている。頼りになる男性に縋りつく烈火の将。彼女も本当なら邪神に関わらず八神邸でゆっくり過ごしたかった。

だが、彼女は年越しに邪神とデートがしたいというではないか。

シグナムは絶望した。万が一。万が一にだ。主と邪神がいい仲に。結ばれるようなことになってしまってはこれから先、邪神の加護とシャマルの介護を受けても押しつぶされる未来しか見えない。

 

「よしっ、もう終わりですね。帰りましょう。そうしましょう。え、まだ何て言いませんよね?」

 

「まだだぞ」(無慈悲)

 

「だとしたらこれは夢だ。私は今頃、主はやての家でおせちとやらをつついた後、炬燵でぬくぬくしてみている夢なんだ。…いやな、初夢だなぁ」

 

それはリィンフォースも同様だった。彼女は頼りになる同性でシグナムに次いでの実力者であるヴィータを盾にするようにして泣きついていた。彼女はシグナム同様、邪神によって弄ばれた存在だから。

 

「…精神分析」

 

「待って。ザフィーラ。それは私の役目だから。その拳を下げて。それをやったらシグナムのSAN値がもっと減っちゃう」

 

邪神を目撃したんだから狂気に落ちるのは当然だよなぁ?

 

「・・・ユウ」

 

「ど、どうしたフェイト顔色悪いぞ?」

 

「・・・去勢に興味ない」

 

「ない」

 

そんなお茶会に誘う感じで男をやめさせようとしないで。

なすびちゃんもそれ関係の病院の情報をこれ見よがしに検索しないで。それは見るからに盾でしょ。何かを押しつぶすような素振りをしないで。

それを聖王娘と覇王娘が必死に止めている。混乱の場を作ったのは自分かもしれないが、どうしてこんな事になったのかわからない。

 

「「裕君」」

 

「な、なんでございましょうなのは様、はやて?」

 

「「初潮を迎えた女の子をどう思う?」」

 

え?セクハラ?

 

「どうして、そんな事を聞くの?」

 

「「質問に質問で返さないの」」

 

「た、大変だなぁ。と、思う?」

 

内臓が抉られる痛みらしい。男だからわからんけど。

 

「「高校生な人妻をどう思う?」」

 

え?だからセクハラなの?

 

「え、いかんやろ。自活も出来ない子どもが子供を作るなよ。と、思う」

 

風邪をひいて思考もまとまらんが、それくらいはわかる。

 

「「…裕君。去勢しよ」」

 

「まだ精通もしていないのに!?」

 

嫌だよ、そんなの。

風邪をひいて思考もまとまらんが、それくらいはわかる。(二回目)

もうだめだ。この場にいる人の殆どが狂気に陥っている!原因はおそらく俺?

た、助けてユーノっ、お前だけが頼りだ。この場を収めてくれ。

 

「…逃走!」

 

「逃がさんぞっ!お前一人だけ逃がしはしないぞっ!」

 

砂浜に倒れ伏している友を見捨てて逃げ出そうとしたユーノに組み付くクロノ。さすが年上。戦闘を行う事が前提の執務官と言うべきか。逃げ出そうとしていたDEXとSTRの対抗でユーノをその場に押しとどめていた。

 

「いや、離してくれよ!絶対これ碌なことにならないじゃん!民間人の協力、拒否権くらいはあるだろ!」

 

「ふざけるな!お前も道ずれだ!」

 

さすがは我が友。邪神に関する危機察知の能力はずば抜けているね。

でも、さすがに。ちょっと傷つく。

 

「もう放っておいていいじゃん。どうせ、邪神効果で敵対者は勝手につぶれるよ!それに巻き込まれたくない!」

 

「もう潰れているんだよ。特に僕の休暇が!どうせ、プレシアの研究所でニートしているんなら働け!」

 

言っておくが、ユーノ君はニートではない。

管理局に情報提供。プレシアの手伝いをしながら、歴史研究者として地球の勉強もしている。というか、まだ子どもなんだからニートは無い。勉強が仕事と言うのなら過労と言われてもいいくらいに頑張っている。

 

「あ、あの~。お話があるのですがいいですか?」

 

「ああん?ちょっと待ってろ。この魔法生物チューノを巻き込むまで」

 

「ぴぃ。ごめんなさいっ」

 

ちょっと~、クロノくん。その見知らぬ民族衣装を着たゆるふわ女子を睨まないの。泣きそうじゃないか。

 

「…邪神効果で敵対者が潰れるって聞いていないわよ」

 

プレシア(別時空)が邪神を睨みつけるが、邪神も初めて知ったよ。

というか、味方であるなのはちゃん達も勝手に潰れたよね。

俺、(事前に)何かやっちゃいました?…やっちゃっていたぜ☆

 

「…ふむふむ。なるほど。システムU―Dの因子と一緒に邪神のデータを取り込んだことで暴走気味だった思考回路に余裕が出来たんですね。で、投降しに来たと。いい判断です。判断がつかないまま暴れるのは得策ではないですからね」

 

「…うう。やっとまともな人と会えたぁ」

 

キリエが探していた。砕け得ぬ闇。システムU―Dが年端もいかぬ少女の姿になって、接触してきたが、それに気が付いたのは捕縛されたリニスと騒ぎの中心にはいるが、風邪を引いていた事で注意散漫になっていた邪神だけが、彼女の接近に気が付いていた。

 

システムU―D。のちにユーリと呼ばれる彼女の存在になのは達が気付くのはあと五分かかった。

 




システムU―D(バーサーカー)で邪神(フォーリナー)に勝てるはずがないんだよ。
だから、暴走じゃなくてどうにか言いくるめをしようと接触してきたけど、その場は混沌と化していた。


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