俺、ポニーテールになります。 (明智ワクナリ)
しおりを挟む

第1章『ー覚醒のツインテイルズー』
『ポニーでテールなプロローグ』


さあ、アニメ化と最新巻発売(まだ買っていない)を祝してツインとポニーの最強コラボを始めましょう!


キミはポニーテールを知ってるかな?

って、そう訊くと大体の人が奇異な眼差しで俺を見てくるけど、あれはどうしてなんだろうね。

別に変なこと訊いてるわけでもないし、むしろ女の子なんかは髪型の話なんだから、少しは反応してくれてもいいと思うんだけどなあ。まあ、別の意味でなら反応してくれるんだけど。

 

それはともかく、俺はポニーテールが好きだ。

 

この世界が楽しく思えるのは、きっと――――いや、間違いなくポニーテールのおかげだと、俺は昔から考えてる。

 

それこそ世界はポニーテールで回っていると言っても過言なんかじゃないだろう。実際のところ、俺はそれが真実だと信じている。

眩しいのは空に浮かぶ太陽なんかじゃなく、同じ地を歩いている女の子の髪型なんだ。

とにかく俺はポニーテールが好きでしょうがない。それは愛していると言ってもいいくらいだ。いや、愛してると言わせてほしい。

 

もういっその事ポニーテールと結婚したいくらい――――というのはあまりにも誇大表現だけど、お嫁さんになる人はやっぱりポニーテールの似合う人がいい。

 

そもそもポニーテールっていうのは、頭の後ろに束ねる髪型のこと。

ある程度の長さがあれば大体対応できる、実に素晴らしい髪型だ。

 

バリエーションも豊かで、左右のどっちかに束ねるサイドテールっていうのも、中々に魅力的だと俺は思う。

世の中の半数以上の人は名前を知ってるだろうね。その位メジャーな髪型なんだし。

 

しかし、名前が浸透してるというだけであって、実際ポニーテールにしてる人は中々見かけない。

 

いやいやそんなことねーだろ、意外と見るぜポニーテール。

 

と思う人もいるだろうからここで一つ補足説明しとくけど、俺がここで言っているポニーテールは皆の言うソレとは違うんだよね。

例えば、仕事中に邪魔だからとか、今日はポニーテールにしてみようかなとか、そういうポニーテールを求めてるんじゃない。

 

俺が求めてるのは、ポニーテールを愛し、誇りと情熱をもってポニーテールと一体化できる女の子のポニーテールなんだ。

 

で、話を元に戻すと、結果的に俺が理想とするポニーテールにはそう滅多に出会えない。

それでも俺はこの心を、ポニーテールへの情熱を捨てるつもりはないさ。

 

好きなものを無理やり別のモノに偽るのは、きっと間違ってると俺は思う。

だってそうじゃないかな?

好きなものを好きと言えないなんて、それはとても悲しいことだよ。

人は時間と共に変わっていく。でも、変わらないモノだって一つくらいある。

 

だから俺は、このポニーテールへの情熱を絶対に偽らない。

そう胸に誓いながら過ごしていたある日。

 

 

―――――――俺は彼女と出会ったんだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『ポニーテールな俺とツインテールなアイツ』①

初見の方考慮で最初は原作通りです。


高校デビュー。

それまでの自分を卒業し、新たなる自分に生まれ変わることを指す。

そしてこのデビューを目論んでいる学生は、百パーセント知り合いの居ない遠く離れた高校に入学する傾向がある。

 

まあそれもそうだよね。昔の自分を知ってる人がいたら、元も子もないわけだし。成功すれば何の問題もないけど、一度でも失敗すれば地獄行き。そう考えると高校生活って結構難しいなあ。

 

と、俺――一ノ寺(いちのじ)良人(りょうと)は幼馴染の観束(みつか)総二(そうじ)津辺(つべ)愛香(あいか)周防(すおう)(じゅん)たちと喫茶店『アドレシェンツァ』で一息つきつつ、高校生活の厳しさを噛み締めていた。

 

周りを見ると客の姿はどこにも見当たらない。ドアに『CLOSED』の看板が立てかけられてるんだから当たり前なんだけど。それじゃあ何で俺たちはここに居られるのかというと、この喫茶店が総二の実家だからだ。俺たちは幼馴染の特権でこうしてのんびりとしている。周りに誰も居ない空間で、四人仲良く食事をしてるように見えるだろうけど、俺と総二の状況は見た目以上に切迫しているんだなあこれが。

 

「…………何であんなことを…………」

 

「…………どうしてだろうね本当に…………」

 

「ツインテール部とポニーテール部とか。流石にないわよそれ、ねえ純?」

 

「ユニークだった…………」

 

正面で面白そうに笑う幼馴染と、反応の薄いもう一人の幼馴染。

 

「し、仕方ねえだろ。俺だって書きたくて書いたわけじゃねえ、無意識に書いちまったんだよォ!!」

 

「そうだよ、これは不可抗力なんだ!濡れ衣だってば!!」

 

「まったく、何が濡れ衣よ。無意識に自分の好きな髪型書くとか、アンタたち相当ヤバいんじゃないの。ま、でもよかったじゃない、最初の内にツインテール馬鹿とポニーテール馬鹿が暴露されて」

 

「それがよくねーんだって言ってんだよ!」

 

「どうしよう、明日から『よう、ポニーフェチ』とかって言われたら俺は、色んな意味で死んでしまう…………」

 

脳裏に浮かぶ恐ろしいシチュエーションに、俺は耐え切れずに頭を抱えたくなる。

学校で通りすがる度に皆からそんなことを言われるとか、一体どんな羞恥プレイだよ!

 

「今更後悔したって仕方ないじゃない。元々アンタたちにまともな高校生活が送れるとは思ってなかったけどね」

 

なんとも得意げに言う愛香。挑発するように左右に垂れた髪を俺たちに向かって振ってくる。

 

相変わらず腹立つくらいに綺麗なツインテールだ。

 

振る度に美しい曲線を描いて、しなやかに揺れる二つの髪。その度に光を浴びた髪が艶やかに輝き、幻想的な美しさを放っている。ポニーテール好きの俺ですら、目を奪われるほどの光景なんだ。隣に座っている総二には俺以上の素晴らしい光景が映っているはずだろう。

 

俺が横目で盗み見てみるとやはり想像通り、総二の双眸は力強く輝いていた。

 

観束総二。総二は俺の心友であり、おそらく世界最高のツインテール愛好家だ。

その証拠に、視界に映した女性の髪型を瞬く間に脳内変換でツインテール化させるほどの実力を持つ。きっと総二の右に出る人は居ないだろう。まさに世界最高の名に相応しい力だ。そう思いつつ隣の純を見る。

 

そしてこう思うんだ、やっぱり俺はポニーテールが好きだって。

 

特に飾り気もなく、ただ後頭部で結わえただけのポニーテール。ただただシンプルで、そして純粋だからこそこの髪型は輝く。腰まで伸びる艶々の髪は、純が頭を動かすたびに柔らかく揺れ、見ているだけで心が洗われていくよ。

 

そう、俺はポニーテールが好きだ。

 

そして総二はツインテール好き。お互いにぶつかり合うこともたくさんあった。ほら、よくあるでしょ?絶対に譲れない信念とかって。俺たちの場合、ただそれが髪型だったってだけで、俺たちはそれをおかしいとは思わない。

 

俺と総二は譲れない思いを胸に何度も何度もぶつかり合った、数え切れないほどに。その結果、俺たち二人は互いの思いを尊重し合い、手を取り合えたんだ。だから今の俺と総二は宿敵であり、同時に心から信頼できる『心友』なんだよね。

 

はい、俺と総二の関係終了。

 

挑発的な行動を取る愛香に総二は言い返した。

 

「まるで俺たちが普通じゃないヤツみたいな言い方だなおい」

 

「いや、普通に考えて普通じゃないわよアンタたち」

 

「普通普通ってうるせーんだよ!!そういうお前だって十分普通じゃ―――――」

 

「何か言ったかしら?」

 

「スミマセンデシタ。ナニモ イッテマセン ハイ」

 

愛香の放つ殺人級の視線に打ち抜かれた総二は、テーブルに額を擦り付けて謝罪した。

変わり身早いな、お前には男のプライドが無いのか。なんてそんな野暮なことは言わない。

誰だって命は惜しいだろう?

 

俺はそんな二人から視線を外すと、正面に座っている純と視線がぶつかった。

 

「皆、元気なのはいいこと」

 

「え、ああ。そうだね」

 

柔らかい笑顔を浮かべる純。隣で展開されている一瞬でも選択を間違えれば即処刑の状況を見て、何故そんな笑顔を保てるのか是非とも訊いてみたい。

 

が、しかし。俺も正直この展開にはもう慣れている。俺とこの三人は小学校からの付き合いで、どういうわけかクラスもずっと同じメンバー。高校ですらこの摩訶不思議な引力が働いたらしく、今年も四人全員が同じクラス。

 

そう、俺たちは今日から晴れて高校生だ。

 

私立陽月学園、俺たちがこれから三年間通う母校の名だ。初等部から大学部までがエスカレーター式で進学できる、割と有名な学校だったりする。

 

そして俺と総二の二人は高等部登校初日でやらかしたのだ。

 

部活の希望入部アンケート、それが全ての原因だった。特に入部したい部活もなくどこにしようかなぁ、と考えてたけど結局答えは出ずに時間切れ。慌てた俺はアンケートを急いで書いて出したのはいいものの、それが間違いだったんだなあ。俺がアンケート用紙に書いた回答は『ポニーテール部』、そして総二が『ツインテール部』という何ともカオスな部活名を書いてしまったんだ。

 

しかもそれに気付いたのは担任のやる気のない口頭、しかもクラス全員の前で暴露ときた。顔も名前も知らない、これから仲良くなれたかもしれないクラスメイトたちの前でこの羞恥。生殺しですよホントに。

 

流石の俺も穴があったら飛び込みたい気分だったよ。

 

「ってなんでオメーは人の苦悩を聞き流して俺の分のカレーまでがっついてんだよ!」

 

「仕方ないじゃない、だって足りないんだもん」

 

「『もん』じゃねーよ!なんでもかんでも語尾に『もん』つければ許されるとでも思ってんのか!世の中そんなに甘くねーぞ!!」

 

「うるさいわね。食事中のマナーもわからないわけ?」

 

「平然と人のカレーをパクるやつより、それを抗議してる俺の方がマナー違反なのかッ!?」

 

知らない内にまた言い争いが勃発していたらしく、またしてもギャーギャーと騒いでいる。俺はそんな二人を微笑ましく思いながら、愛香に残りを取られないよう食べようとした時、ふと視界の端に人影のような何かが見えた。

 

「…………人?」

 

注意深くその場所に視線を移すと、女性が一人だけカウンターに座っているのが見える。

 

(なんだ、ただのお客さんか)

 

と納得しかけたところで、いやいやいやと頭を振った。店はとっくに閉店してるし、外にも看板が立てられている。つまりこの店に入ってくる客はいない。仮に入って来たとしても、扉のベルが鳴って気付くはず。だとすれば、ここのオーナーである総二の母が気付かずに店を閉めてしまったのだろう。昔からどこか抜けている人だからあり得なくはない。

 

知らなかったとはいえ、ちょっと騒ぎ過ぎたかな。この二人もいい加減静かにさせないと。

 

未だに客の存在を知らず、大いに騒いでる二人を宥めようとした時、奇妙な視線を俺は感じた。気のせい―――というより明らかに女性がこっちをチラチラと盗み見ている。こっそりと見ているようだが俺からの位置ではバレバレだ。もしかしたら、静かにしてほしいけど言い出せない気の弱い女性なんだろうか?

 

と、一瞬考えもしたが、時折女性から放たれるまるで何かを見極めるような視線に、俺は言い様のない胸騒ぎを感じた。

 

「そ、そーじ…………また触ってる」

 

「あ…………わ、わりぃ、ついな」

 

総二を見れば、いつもの癖でテーブルの上に乗せられた愛香のツインテールを触っていた。総二は子供の頃から悩み事や何かがあると、無意識に愛香のツインテールを触る癖がある。本人曰く、愛香のツインテールを触っていると落ち着くらしい。

 

ちなみに愛香がテーブルに髪を乗せるのは、地面に着かないようにするため。それなりの長さがあるため、座った時に着いてしまうそうだ。

 

俺が総二をちらりと見ると、総二も怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

 

「(な、なあ良人………。あの人、最初から居たか?)」

 

「(わからない。俺も今さっき気付いたんだ)」

 

女性に気付かれぬよう小声で話し、再び女性の方を見てみる。すると、やはり女性は俺たちが気になるのか、さっきと同様にチラチラとこちらを見ていた。

 

怪しい。何なのかはわからないけど、とにかく怪しい。と、そこで俺たちの異変に気付いた純が不思議そうに訊いてきた。

 

「二人とも、どうかしたの?」

 

「え、あ………いや」

 

「なによ、随分と歯切れが悪いわね。…………ははーん。さてはりょーと、アンタまたポニーテールのことでも考えてたんでしょ」

 

「ち、違うって。別にそういうのじゃないけどさ」

 

俺は慌てて頭を振る。というか愛香の言い方だと、まるで俺が毎日ポニーテールのことしか考えてないやつみたいじゃないか。まあ、事実だから否定は出来ないけど。

と、ちょうどその時、愛香も店内に居る客の存在に気付いたらしく、顔を大袈裟に強張らせた。

 

「冗談でしょ、さっきまで何の気配も感じなかったのに…………!?」

 

「私たちが来たときは居なかったはず」

 

愛香に続いて純も気付いたようで、おっとりした目を大きく見開かせている。俺としては毎日周囲の気配を察知して生きてる愛香の方に驚くよ…………。

 

改めて店の奥に座る女性を見る。すると女性は姿を隠すかのように新聞を広げ、それでもなお俺たちを見ていた。

 

新聞紙に穴を空けて覗き見るという、なんともベタな技を使って。

あまりのベタベタな仕込みに、俺たち一同は椅子から転げ落ちそうになる。

 

「(と、とりあえず無視しときましょ。関わらないのが一番よ)」

 

一様に頷く俺たち。

愛香の判断は賢明だろう。下手に関わって面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 

と、その時だった。

 

女性は新聞紙をカウンターに置くと、そのまま立ち上がって出入り口の方へと歩いていく。何をしたかったのか結局わからず終いだったが、どうやら帰る気になってくれたらしい。その姿を確認した俺たちは安堵の息を漏らした。

 

が、しかし。そのまま帰ってくれるかと思いきや、女性は出入り口を素通りして俺たちの方へと歩み寄って来た。徐々に近づいてくる女性に対して、俺たちの警戒心は強まる一方。

 

が、距離が縮まるにつれて明らかになる女性の容姿に、俺はつい目を奪われてしまった。

 

そこにいたのは、今までに見たことないがないくらいの美少女。

 

とりあえず見た目でわかるのは、彼女が日本人ではなく外国人だということ。その証拠に彼女の髪は、日本人ではありえない銀色だ。窓から差し込む午後の日差しが彼女の髪を照らし、揺れる髪先が流星の如く輝いている。あの美しさは染髪などではなく、きっと本物なのだろう。

 

小さい顔には長い睫と、サファイアの大きな二つの瞳。桜色の小さな唇が綺麗に収まっている。

そして何と言っても一番に目を惹くのは、歩く度に揺れている圧倒的なボリュームの胸元だ。

 

なんという大きさなのだろう。

 

見た目から察するに俺たちと然程変わらない年齢だろうに、そこの発達だけは凄まじく進んでいる。愛香とは比べ物にならないほど絶望的な差だな。しかも彼女の服装は、視線のやり場が困るような肌色の多い服装だ。胸元を強調するような薄手の上着、超がついてもおかしくないほどのミニスカート、そしてなぜか白衣。

 

どことなくミステリアスで妖艶な雰囲気の彼女は、女神のような笑顔を浮かべたまま、優雅な足取りで俺たちの方に向かってくる―――――

 

「フギュウッ!」

 

その途中で盛大にズッコケた。しかも顔面から。

 

「「「(えー…………)」」」

 

「…………………」

 

あまりの衝撃に俺たちは揃って声を出してしまった。純に至っては眉ひとつ動かさない。あれだけ決まっていたというのに、今ので色々とぶっ飛んでしまったような気がする。

 

少女は「イタタタ………」と可愛らしく鼻を擦りながら起き上がり、俺たちの視線に気づいたらしく物凄い勢いで体勢を立て直した。そしてそのまま何事もなかったかのように俺と総二に微笑む。

 

「すいません。相席、よろしいですか?」

 

…………………はい?




オリキャラ説明の要望がありましたので記載します。

周防 純

性別・もちろん女の子。

総二やオリ主たちと同じく幼馴染みです。基本的に物静かなオリ主のヒロイン1号、愛香と仲良く水影流柔術やってたので事実上愛香に次ぐ殺戮マシーンです。意外と巨乳っ娘なので愛香に妬まれがち。あと天然属性、これ鉄板。

と触りはこの辺で終了です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『ポニーテールな俺とツインテールなアイツ』②

まだ3話目だというのにお気に入り件数が20件を超えているとは…………。皆さんありがとうございます!


「ちょっと待てえええええええええええい!!」

 

ここにきてついに愛香のツッコミが火を噴いた。頑張ったね愛香、記録更新だよ。

一方、顔も見知らぬ銀髪少女は心底不思議そうな顔で愛香を見る。

 

「え、どうかしましたか?」

 

「え、じゃないわよ何なのアンタは!」

 

「私ですか?何って、どこからどうみても人間じゃないですか」

 

「くだらない所で人の揚げ足取る中学生みたいな答えを返してんじゃないわよ!!アンタは一体どこの誰よ!!」

 

「ああ、そういうことでしたらどうぞお気になさらず」

 

「気にするわよ!」

 

「いえ、用があるのはそこのお二方なので」

 

と、笑みを崩さずに俺と総二を指さす。え?なんで俺たちなの?

少女は戸惑う俺たちを他所に隣から椅子を持ってくると、そのままテーブルの端に椅子を着ける。

 

「まあまあ、そう熱くならずに。どうぞ、まずは珈琲でも飲んでリラックスしてください」

 

「そう、ありがと―――って騙されるかあああああああ!!どうしてアンタが仕切ってるわけ!?」

 

まるで何事もなかったかのように珈琲を勧める少女に、愛香は全力でツッコミを入れた。

 

「何なのよもう!胸ばっかり強調させた服着て腹立つのよ!!ちょっとりょーと、この店に杵と臼ないの!コイツの胸で餅つきしてやるわ!!」

 

「お、落ち着こうよ愛香。これじゃあこの人が誰だか聞きたくても話が進まないよ」

 

それにマジ切れしてもその絶望的な差は埋められないんだから、などということは言わない。それを言ったが最後、明日にはミンチになった俺が破格の値段で売り出されるだろう。そんな人生の終わり方は迎えたくない。

 

俺の言葉は愛香に届いたらしく、表情を憤怒に歪めながらも震える拳を引いてくれた。

もしこのまま続いていたら被害者は俺ではなく彼女だったかもしれない。俺は今一人の尊い命を救済したんだ。

 

と、ここでだんまりを決め込んでいた純が唐突に口を開いた。

 

「ところで貴方は何者?そもそも要件はなに?」

 

「え、要件ですか?」

 

「そう。貴方はさっき良人と総二に用があると言った。二人に何の用があるのか、そして貴方の身分を説明してほしい」

 

淡々と表情一つ変えずに言葉を並べていく純。心なしか純の声がいつもより怒気を含んでいるように感じる。表情も普段より不機嫌だ。とはいってもほとんど無表情に近いんだけどね…………。

 

少女は思い出したかのように手をポン、と叩いて俺たちの方に身を乗り出してきた。

 

「そうですそうです。実はお二人にとても重要且つ早急な用があるんですよ」

 

「………………お、俺たちにか」

 

「あ、自己紹介が遅れました。私はトゥアールと申します」

 

「そ、そうか…………よろしく」

 

明らかに嫌そうな顔をする総二。かくいう俺もきっと同じ表情をしているに違いない。忘れてたんならそのまま帰ってほしかった。

そんな俺たちを見て少女はやんわりとした笑顔を浮かべながら両手を軽く振って続ける。

 

「お二人ともそんな顔をなさらなくても大丈夫ですよ。別に何かをしようっていうわけではないですから。ただこの腕輪を着けていただくだけなので」

 

と、そう言ってトゥアールと名乗る少女は白衣のポケットから文字通りの腕輪を二つ取り出した。燃えるように煌めく赤い腕輪と透き通るような美しさを纏った銀色の腕輪。何となく高そうなイメージを感じさせるその腕輪―――もといブレスレットを、トゥアールは俺たちの前に差し出した。

 

「あの、一つよろしいでしょうか」

 

「な、何かな」

 

「お二人はツインテールがお好きですか?」

 

時間が止まったかのように感じた。いや、停止したのかもしれない。主に俺の体内時計とか。愛香は思いっきり顔を引きつらしてるし、純に至ってはシベリアの吹雪を連想させるくらいの冷たい視線を放っている。

 

そんな中、総二は間髪入れずにこう答えた。

 

「大好きですっ!」

 

おそらくツインテールという単語に反応して答えたのだろう。事実、ハッと我に返った総二は気まずそうな顔をしている。

 

俺にもわかるよその気持ち。もしも彼女が『ツインテール』ではなく『ポニーテール』と言っていたら間違いなく総二と同じ行動を取った筈だ。自分の気持ちに嘘はつかない、それが俺と総二の美徳なんだから。その答えをトゥアールは笑顔で了承し、彼女の視線が今度は俺に向けられる。

 

「貴方は、どうなんですか?」

 

トゥアールの真剣な眼差しを受けて俺は思わず背筋を伸ばした。

 

なんだろうこの重みは……………。

 

意味不明なふざけた質問とは裏腹に彼女の言葉にはどことなく重みが感じられる。もしかしたら俺は今、今後の人生を大きく変える分岐点に立たされているのかもしれない。とはいえ、なんとなくそう感じただけで何の根拠もないけど。

 

俺は呼吸を整えてからトゥアールの瞳をしっかりと捉えて答えた。

 

「俺も大好きです」

 

偽りのない俺の気持ちを。

 

確かに俺はポニーテールが好きだ。これだけは絶対に揺らがない。でも、ツインテールも同じくらい大好きなんだ。何故なら、ツインテールは俺と総二のかけがえのない絆の証なのだから。それにきっと立場が逆だったら総二も同じことをしていた筈だろう。

 

「そうですか。お二人の意志はわかりました。では何も言わずに、この腕輪をつけてください」

 

「待て待て待て待て!脈絡無いにも程があるわよ!一体どんな展開でそういうことになるのか説明しなさ――――って言ってる傍からつけさせようとするなあああああああああああああああああ!!」

 

愛香は強引に腕輪をつけさせようとするトゥアールから俺たちをひっぺ返し、物凄い形相でトゥアールを睨みつける。今の愛香と睨めっこしたら例え百獣の王と称されるライオンでも尻尾を巻いて逃げ出すだろう。一方、そんな視線を全身に浴びているトゥアールは、平然とした表情で愛香と対峙している。

 

「そんなに睨まないで下さいよぉ、別に怪しい者なんかじゃ――――」

 

「怪しいでしょうが!アンタの行動を一部始終見て怪しくないなんて思うヤツがいるわけないじゃない!!」

 

「そこまで否定しなくても………え~と………あっ」

 

問答無用で切り捨てる愛香に初めて焦りを見せるトゥアールは、少し唸ってからポンと手を叩いた。

 

「良人君、総二君。私よ私」

 

「……………はい?」

 

またしてもトゥアールから何の脈絡もない会話がぶっ飛んできた。急に馴れ馴れしい口調で話しかけられて俺たちは若干動揺する。

 

「あれ、二人とも覚えてないの~?私よ、トゥアール。あ、もしかして、会うの久しぶり過ぎて私の顔忘れちゃった?」

 

「……………どういうこと良人。詳しく説明して」

 

「いやいやいやいや!!おかしいよ純ツッコむところがズレまくってる!!」

 

ここにきてまたしても純が話に割り込んできた。というか、純の顔がさっきより若干怖いけど気のせいだろう。…………きっと背後が奇妙に揺らめいてるのも気のせいに違いない。というよりそうであってほしい。

 

しかしトゥアールは純の横槍を物ともせずさらに言葉を続けていく。

 

「もう、二人して酷いなぁ。女の子の顔も覚えてないなんて。でも、これも何かの縁だろうし………………このうで―――じゃなくてブレスレットをつけてくれるかな?」

 

「対面でオレオレ詐欺してんじゃないわよ!っていうかセリフ長いのよおおおおおおおおお!!」

 

「ヒギャアアアアアッ!!?」

 

突如としてトゥアールが断末魔を残して俺の視界から消え去り、代わりに愛香の姿が目に映る。

 

走り抜ける疾風。それがトゥアールの頬へ放った愛香の平手打ちの余波だと気付いたのは、トゥアールが再び床にぶっ倒れてからだった。

 

「何やってんだよおおおおおおおお!?お前、見ず知らずの他人をマジでぶん殴るなって!!」

 

「というか今物凄く嫌な音してたよね!?平手打ちじゃ絶対に聞こえちゃいけない鈍い音がしたよね!?」

 

気付いた時にはもう手遅れ。

 

俺たち二人は目の前で起きた惨状にただただ頭を抱えるしかできない。対面でオレオレ詐欺を強行した少女に、幼馴染が尋常ならざる平手打ちでノックアウト。難事件に幾度となく直面してきた高校生探偵も驚きの展開だ。

 

「良人、まだ詳しい説明を聞いてない。………………早く吐いて」

 

「まだ続いてたのソレ!?って何で手刀を喉元に突き付けて脅迫するのさ!?」

 

一瞬の隙も窺えない完璧な構えで俺の自由を奪う幼馴染。その目はまさに獲物を仕留めにかかろうとする狩人の瞳だ。

 

流石、としか言い様がない。

 

愛香の放った殺人級の平手打ち、そして純の暗殺術のような構えは随分と前に亡くなった愛香の祖父が伝授した水影流柔術という流派だ。相手を気絶させず、その上で確実なダメージを与えるというある一種の拷問に近い武術。しかもその技のほとんどが格闘技では反則技だと聞く。

 

使い方を一つでも変えれば殺人拳にもなる、そんな極めて危険な技を女子高生たちが何の躊躇もなく人に使っているのだから世も末と言えよう。日本は安全だというのに俺たちを取り巻く環境と治安は悪くなる一方だ。

 

「そーじ、気を付けて!こいつ詐欺師よ!ブレスレットを着けさせて無理やり金を巻き上げようとするヤツに違いないわ!きっと逃げられないように外の入り口で顔中ピアスだらけのモヒカン野郎が大勢待ち伏せてるのよ!!」

 

「ねーよ!前半はあっても後半はねーよ!!」

 

もはや愛香の言い分は妄想の域に達しているが、それにしてもうら若き乙女の想像とは思えない。

 

「うぅ…………痛いですぅ」

 

瞳を潤ませながら頬を押さえるトゥアールが鼻声で呻き、俺と総二は二人して彼女の傍に駆け寄った。

 

「あ、あの、大丈夫?」

 

「悪いな。こいつ、怒ると見境がなくなっちまうんだ」

 

心配になって俺たちが声をかけると小さく頷くトゥアール。下手に起訴されたりしたら国際問題として俺たちが色んな意味で有名人になってしまう。そんな事態だけは絶対に避けなければならない。

 

流石の愛香たちも心配になったのかトゥアールの下へやって来た。

 

「べ、別に大したことないでしょ?ちゃんと手加減だってしたんだし」

 

あの威力で手加減をしていたというのだから驚きだ。もし愛香が本気でぶっ叩いていたらどうなっていたことやら。

凄惨な事件現場を想像しつつ俺は床でうずくまる少女に手を差し伸べる―――――

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

寸前で愛香に腕を掴まれこれまた強引に引き戻された。驚いた俺はとっさに愛香を見ると、人間に宿る生来の野生本能が目覚めたのか物凄い形相でトゥアールに威嚇している。もはや人間という枠から外れかけている愛香の視線を辿っていくと。

 

あははは、とぎこちない笑みを浮かべるトゥアールの手には銀色のブレスレットが握られていた。

 

「ふぅん、やっぱり演技だったわけね」

 

「クッ…………!!」

 

なぜか悔しそうに下を向いて唇を噛み締めるトゥアール。何故ブレスレットを着けられなかった程度でそこまで悔しがるんだろうか。謎は深まるばかりだが、とりあえず確かなことは俺と愛香を除く2名が軽く引いているくらいだ。かくいう俺も彼女とは物理的に距離を取りたいのだが、愛香に腕をホールドされているせいで動けない。

 

「お願いです、着けてください!着けるだけでいいですから!お代だっていりません!むしろ差し上げますよ!なんだったら私をお代にしたっていいんですから!!」

 

地べたに這いつくばりながら上目づかいで懇願してくるトゥアール。物理的には離れていなくとも精神的には地上と大気圏くらいの差が開きつつある。そんな俺の心の内を知る由もなくトゥアールは消え入りそうな声で続けた。

 

「…………お願いですよぅ。なんでもしますから。だから…………」

 

「……………………(ピクリ)」

 

不覚にも俺はその魅惑的な日本語につい反応してしまった。

 

「なんでも、してくれるの?」

 

「え………、あ、はい。私に出来ることであればどんなことでも」

 

「どんなことでも…………」

 

次に反応したのはやはり総二だ。二人して彼女の鮮やかな銀髪に目を移す。

 

「「(この髪をポニーテール《ツインテール》にしたい…………)」」

 

「アンタたち、願望がダダ漏れよ」

 

「「ハッ――――!?」」

 

愛香の呆れ果てたツッコミで我に返った俺たちは前のめりになった体を直立させる。あ、危ない危ない。もう少しで銀髪ポニーの妄想に憑りつかれるところだった。それは総二も同じだったようで額の汗を拭っている所だ。

 

「あう…………踏みとどまっちゃうんですかお二人とも。今ならどんなことでも受け入れられますよ。お二人が望むのならどんな偏った道でも…………むしろ道を逸れた方が私好みで…………グフ、グフフフフフ」

 

顔を赤らめて妙な笑い方をするトゥアール。どうしてだろう、こんなにも可愛いのに今はとっても気持ち悪い。四つん這いで締まりのない笑顔を浮かべる彼女に、俺はついそんなことを思ってしまった。

 

「勘違いしてるようだから忠告しとくけど、アンタが想像してるようなことはないわよ。こいつらが望むとしたらポニーテールかツインテールにしてほしいってとこだろうし」

 

「その通り(コクコク)」

 

「えっ!?そんな馬鹿なっ!?お、男の子ですよ!しかも思春期真っ盛りの欲望溢れる野獣のような年頃なのに!?」

 

愛香と純の回答に驚愕するトゥアール。

 

あれ?やっぱり異国の地だとこういうところって違うのかな?もし知らないのなら覚えておいてほしい。なんでもするって言ったらもちろんポニーテールかツインテールでしょ。これは日本の常識だからね。

 

「さて、これでわかったでしょ?あたしたちもいることだしそろそろ諦めてくれないかしら」

 

「…………そういうわけにはいきません。もう次の適合者を捜している時間なんてありませんから」

 

後半から意味不明なことを言いながら立ち上がるトゥアール。しかしさっきまでとは違い、その顔は死地へと赴く兵士のような覚悟で染まっている。纏っていた雰囲気すらも様変わりしたように凄味を感じた。

 

その変化にいち早く気付いた人間レーダーこと愛香は少しだけ後ろに下がる。

 

「な、なによ。あたしとやろうっての?」

 

「いえ、今さっき申し上げた通りそんなことをしている余裕と時間はもうないんです。何故なら――――」

 

そこで言葉を止めたトゥアールは意を決したように衝撃の言葉を口にした。

 

「もうすぐこの世界からツインテールが消滅してしまうからです!」

 

「「――――――――――――っ!!?」」

 

その瞬間、俺の頭が真っ白になった。

 

ツインテールが消えるだって?なんだよそれ、意味が分からないよ。ツインテールが消えたら俺と総二の夢はどこに行っちゃうのさ。いや、そんなことよりも――――――

 

「「どういうことだよ説明してくれ今すぐに!!!!!!」」

 

俺と総二の声が重なり二人してトゥアールに詰め寄る。後ろから愛香たちの制止する声が聞こえたが、今はそんなものに耳を傾ける暇はない。何故ならたった今、目の前の少女がツインテール滅亡宣言をしたからだ。そんな事態に形振りかまっていられるはずがない。

 

と、その時だった。

 

「はいー♪ではお二人にはこれを差し上げまーす♪」

 

ガチャッ、ガチャリ

 

やっとの思いで顧客を捕まえたセールスマンのような笑顔で俺たちの腕に装着させた。あの手この手で付けさせようとしていたブレスレットを。

 

「「あ」」

 

気付いた時にはもう装着させられていた。俺には銀色のブレスレット、そして総二には赤いブレスレット。俺たちはお互いにお互いのブレスレットへと視線を向け、そして同調したような動きでそのままトゥアールへと移す。

 

そしてその先に立つトゥアールと言えば。

 

「いやー間に合いました。最初からこう言っておけば簡単に済んだかもですね。でも結果的にうまく行ったわけですし、これでやつらが来ても大丈夫そうです」

 

と一人でぶつくさと喋りながら、一仕事終えたーと言わんばかりに晴々とした笑顔を浮かべていた。

 

「ちょ、だから待てって言ったじゃない!二人とも早く外しなさい!」

 

一拍遅れてやって来た愛香たちが俺たちの元に駆け寄り、腕に嵌ったブレスレットを外そうとするが。

 

「なに、これ?外す部分がない」

 

外そうとした純が信じられないと言わんばかりに呟く。俺も吊られるようにブレスレットを確認してみると、純の言う通り接合面が見当たらなかった。手に力を込めてみるものの微動だにせず、よく見ればブレスレットがガッチリと隙間なく腕に張り付いている。まるで俺の腕の形状に合わせて作られたかのように。

 

「なによこれ外れなさいよ!ただの腕輪のくせに生意気ね!!」

 

「やめろ愛香それ以上は俺の腕が外れるうううううううううううううッッッ!!!?」

 

それは総二も同じだったようで凄まじい悲鳴を上げていた。なんというか、俺の所に純が来てくれてよかったよ。

 

「仕方ない。良人、キッチンに行くから待ってて」

 

「何故キッチン!?そのフレーズからしてここで大人しく待つ必要ないよね!?一体俺に何をするつもりなの!?」

 

「外れないなら腕を落とせばいいじゃない、的な?」

 

「なにそのマリー口調!?あの人も大概おかしかったけどそこまでの狂言者じゃないよ!?」

 

「大丈夫。縫えばくっつく」

 

「俺は人形かっ!!」

 

前言は撤回します。誰にも来てほしくなかった。

 

おぞましい狂言を吐き散らす幼馴染みを他所に、俺はもう一度腕に嵌められたブレスレットに目をやる。着けられたということは外す方法もあるということ。俺はそれを模索しようと――――

 

「く、くそホントになんだよこれ!無理やりはめ込んで取れなくなった結婚指輪みたいじゃねーか!!」

 

「なっ、結婚指輪ですってえええええええ!?もう総二の腕なんか気にしてる場合じゃないわ!!意地でも外すわよ!!!」

 

「いや気にする場合だろ!俺の腕をなんだと―――――っぎゃあああああもうやめてくれええええええええええッッッ!!!!?」

 

してその思考を根源からバッサリと却下することにした。

 

総二の腕を抱きかかえながら必死にブレスレットを外そうとする愛香。普通なら嫉妬心で強引な行動に出てしまった幼馴染み、という仲睦まじい青春溢れるシーンになる筈なのだが、愛香というフィルターを通しただけで青春から血みどろの地獄絵図と化してしまう。もはやブレスレットじゃなく総二の腕を引き抜こうとしているように見えるのは、気のせいではないのかもしれない。

 

総二が自らを犠牲にして俺の有り得る未来を再現してくれてるんだ。俺はその意思を汲み取って違う選択肢を選ぶとしよう。

 

「良人、やっぱり落とすしか――――」

 

「はーいはーいあのトゥアールさんッ!このブレスレットの外し方ってどうやるんですかね!?」

 

またしても湧いて出た狂言をスルーし、俺は最も正攻法と言えるブレスレットの持ち主に訊くことにした。

 

これ以上方法を模索していると、おままごとセットの人参やピーマンよろしく切ってくっつけてを本当に実践されそうで恐ろしい。何故か俺の隣に居る純が残念そうに眉を八の字にしてるけど、なにが残念なのか俺にはさっぱりわからないよ。

 

とりあえずトゥアールの返答を待ったのだが、返って来た答えは期待とは真反対のモノだった。

 

「すみません、それはできないんです」

 

申し訳なさそうに謝るトゥアール。できないって、どういう…………。

 

「ちょっと待って、できないってつまり外せないってことなの?」

 

「いえ、厳密には私が外さない限り外せません。皆さんの、現在の科学力ではその腕輪の解除は到底困難です。それにその腕輪はあなた方が着けていなければ意味のない物ですから」

 

「?俺たちじゃないと意味がないってどういう――――」

 

「申し訳ありませんが今細かい説明をしている暇はありません。やつらがもうすぐ現れる時間です」

 

時計を鋭く睨むトゥアールに吊られて後ろの時計を見ると、時計は午後の1時半を指していた。

 

謎の少女と謎のブレスレット。そして頻繁に気にしている時計と彼女の言う『やつら』。その単語だけを繋ぎ合わせると尚のこと意味が分からない。こんなわけのわからないブレスレットを着けられた挙句、俺たちが着けないとツインテールが消えるだなんて。

 

と、そこで俺は重大なことを思い出した。知恵の輪みたいな外し方のわからないブレスレットに気を取られ過ぎて、最も大切なことを訊きそびれていたのだ。この銀髪少女さんは俺たちに言った『ツインテールが消滅する』というその言葉の真偽を確かめていない。

 

「そんなことよりツインテールが無くなるって―――――」

 

もしもブレスレットを着けさせるための口実ならば、到底許される嘘ではない。俺はそれを確かめるべく正面を見た瞬間だった。

 

「うわ―――――!!?」

 

トゥアールを中心に光が迸り、瞬く間に閃光が眼前に迫ってくる。

 

愛香たちの悲鳴が響く中、鮮烈なまでの白色が視界を埋め尽くし、俺たちは光の渦に飲み込まれていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『ポニーテールな俺とツインテールなアイツ』③

気が付いた時には1万字超え……………(笑)
長いです。


謎の光から一転して蒸し暑さを覚えた俺は、急いで閉じていた瞳を開いた。同時に遥か上空から降り注ぐ光に目を細めてしまう。電球の光というには眩しすぎる上、とっさにかざした腕には熱を感じる。空調の効いた屋内とはあまりにも違う感覚に不信感を覚えた俺は、光を手で避けつつその先に広がる景色を見た。

 

空だ。

 

視界に広がるのは真っ青な空。吹き抜ける風や擦れ合う木の葉を耳にしながら俺は視線を彷徨わせる。視線を落とせばそこにあるのはクラシック感のある木目の床板ではなく、蒸し暑さを立ち昇らせるアスファルト。

 

振り向けば総二たちも俺と同じように周囲を見回している。

 

なにがなんだかわからないが俺たちは今、外に居るのだ。総二の実家である喫茶店『アドレシェンツァ』ではなくどこかもわからない外に。

 

無言の空気が流れる中、その空気を砕き割ったのは総二だった。

 

「ここってマクシーム宙果じゃないか!?どうしてこんなところに…………!?」

 

信じられないと騒ぎ立てる総二の視線を追っていくと、確かに総二の言う通りの建物があった。イベント開催地としてよく使われているマクシーム宙果がそこには確かに存在している。

 

中学三年の合同文化祭で使用したこともあって記憶に新しく、総二の見間違いではないようだ。だからこそ俺たち一同は驚きを隠せない。

 

何故なら俺たちのいた総二の実家からこの場所まで、車で有に二〇分はかかる場所なのだから。俺は慌ててブレザーのポケットに仕舞っていたスマホを取り出して時間を確かめた。

 

「嘘、でしょ…………」

 

液晶画面に表示されている時間を目にして俺はたまらず呻く。そんなはずはない、あり得ない、嘘に決まってる。頭の中に渦巻いていた数々の疑問が一瞬にしてかき消された。

 

表示されていた時間は午後の一時半。

 

光に包まれる寸前に確認した時間と何一つ変わらないのだ。このスマホが指し示す通りの時刻なら、俺たちは一瞬という時間の中でこの場所に来たことになる。つまりは瞬間移動、言うなれば空間移動とでも言うべきかもしれない。普通なら否定できるところだが、こうして今現在体験してる身としては判断しかねることだ。

 

と、その時。

 

「想定時間よりも早くに現れましたか。迎撃できなかったのは少々痛い所ですね」

 

俺たちの正面に立つトゥアールがそんなことを呟く。腕を組みながら遠くを睨むトゥアールは何かを観察しているかのように見える。が、この場で唯一事情を知っている彼女に現状を聞く他なく歩み寄ろうとした時だった。

 

眼球にチクリと痛みが走り、続いて何かが焦げたような異臭が鼻孔を満たしていく。心なしか呼吸するたびに喉もキリキリと痛い。しかしそれはトゥアールの先にある景色を見ることで簡単に理解が出来た。

 

煙が上がっているのだ。それも見るからに有害そうな真っ黒な煙。

 

「これは一体…………?」

 

「ああ、皆さん大丈夫でしたか?」

 

パニックに陥りかけている俺とは対照的に冷静なトゥアールが、喫茶店の時と変わらないやんわりとした笑顔で振り向いた。それと同時に後ろから大股で歩いてきた愛香が俺の横をすり抜け、食い掛かるような勢いでトゥアールに詰め寄る。

 

「ちょっと!これはどういうことよ!?あたしたちに一体何を――――むぐぅッ!!?」

 

大騒ぎする愛香の口にトゥアールは片手で栓をし、唇の前に人差し指を立てると静かに、というジェスチャーを送る。少し経ってから気に入らなそうにしつつも頭を縦に振った愛香を見てホッと息をつくトゥアールは、塞いでいた手を降ろした。

 

「すみません。認識攪乱を使用しているのであまり音は立てないでください。やつらに見つかります」

 

「にんしき?かくらん?一体何なのよそれ?大体さっきから言ってるやつらってどこの誰よ?」

 

「あれです」

 

トゥアールが指を指した瞬間、凄まじい炸裂音がその方向から響いた。続いて鉄屑がひしゃげる音とそれに伴うように鳴り響く爆発に似た炸裂音。

 

「…………なに、あれ!?」

 

信じられないとばかりに驚愕の声を漏らす純。俺たちがその視線を辿っていくと――――空中に何かが浮いていた。いや、浮いているというより打ち上げられたと言うべきかもしれない。

 

空に向かって飛んでいるのは紛れもなく車だった。

 

ボディの一部分が大きくひしゃげた車は弧を描くようにして落下し、落下の衝突に耐え切れず車は爆発、炎上する。駐車場に停められた車が次々と同じ運命を辿り黒煙は更に勢いを増していた。視線の先で起こっているあり得ない事象に困惑しながらも、それこそが煙の正体だと俺は気付く。

 

「お、おい見ろよアレ!なんか後ろから出てきたぞ!」

 

とそこで総二が慌ててその場所を指し示す。黒煙と真っ赤な炎がチラつく中、ソレは煙を裂くように悠々と姿を現した。それを目にした俺たちはその姿に驚愕と戦慄を覚える。

 

煙の奥から現れたソレの体躯は有に二メートルを超えていた。鎧のような謎のアーマーを身体中に装着し、筋骨隆々と言っても過言ではない肉体が所々から窺える。しかしその肌は人間ではあり得ない緑色で、肌も爬虫類特有の鱗肌。一言で言ってしまえば特撮物に現れる怪人のような風貌だった。

 

(俺、疲れてるのかな?)

 

どうやら俺の目は想像以上に負荷が掛かっているらしい。俺は目頭を軽く揉んでからもう一度例の場所に焦点を合わせる。

 

「え、えーと、なにあれ?着ぐるみ、なのかな?」

 

「…………違う。きっと特撮用の特殊なスーツ。あれはきっと怪人の類い。この演出も番組でやってるんだと思う」

 

「なーんだ。驚き損だなあ」

 

「全くその通り」

 

「その通りじゃありませんよぉ!?何勝手に自己解釈で解決しちゃってるんですか!あれが私の言う『やつら』です!言うなれば敵なんです!」

 

何事もなかったように頷き合う俺と純の間に待ったをかけるトゥアール。大声を出すなと言っていた当人が大声で騒いでるのは置いとくとして、ここまでボケの一方通行を通してきたトゥアールにツッコまれるとは思わなかった。

 

とはいえ、あの得体の知れない生物が本物であることは流石の俺にもわかっている。現代の技術がいかに進歩していようともやはり偽物と本物の差は歴然だ。当然本物の怪人なんて見たこともない俺がそんな偉そうに言うのもなんだけど、あれが相当にヤバい存在だというのは本能的に理解できた。

 

口から覗くのは獰猛な牙、手から伸びるのは触れただけで切れそうなほど鋭い爪、無数に並んだ背びれが更に凶悪さを滲みださせている。見た目から察するにトカゲと言ったところだろうか。

 

「者ども!我が下に集結せよ!!」

 

大音量で発せられた声と共に強靭な足がアスファルトを踏み抜いた。粉塵が舞い上がり破片が散弾のように飛び散る。

 

その時俺はふとある疑問が頭に浮かび上がった。今怪人は言葉を発し、そして俺はその言葉を理解できる。そしてそこに問題があるのだ。

 

あの怪人は今、俺たちの理解出来る語源を発した。つまりは日本語。

 

唖然とする俺たちの視線の先で怪人は拳を振り上げ、ひしゃげた車に片足を乗せた。その姿は軍団を率いて戦場に猛然と立つ大将を思わせ、並々ならぬ威圧感を放っている。

 

そして―――――――

 

 

 

 

 

「この世界に存在する全てのツインテールを、我らが手中に収める時が来た!――――――さあ、始めようではないか、我らが野望(ツインテール)の為にッ!!!」

 

 

 

 

 

「「「はああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!??」」」

 

雄叫びのような雄々しき声で凄まじく的外れな声明に、俺たちは驚きを超えて仰天してしまった。どんなおぞましい野望を口にするかと思えば、まさか巷の変質者も大変驚きそうな問題発言をするなど一体誰が予想できよう。

 

一方、総二たちはというと、

 

「……………そーじ、アンタ着ぐるみまで着てそんなこと叫びたかったわけ?まだ間に合うから今すぐ撤収して海岸にでもその思いぶちまけてきたらいいじゃない」

 

「おい!何故俺がアレの中の人って設定になってるんだ!あんな痛い格好しながら衆人観衆の中で自分の趣味を曝け出すほどおかしくはなってないぞ!?」

 

などと実にくだらない論争が始まっていた。でも、確かに愛香の言う通り総二が中の人でもおかしくはなさそうだ。むしろそうであるほうが現実味が増すだろう。

 

とその時。

 

『モケェ――――!!』

 

突然全身黒ずくめの集団が現れ、怪人の元へと集結していく。よく見てみるとなにやら珍妙なマスクと全身タイツという前時代的且つ非常にダサい風貌をしている。どうやら士気は十分に高まっているようで至る所から「モケェ!」という如何にも雑魚らしいモッサリとした声を挙げていた。

 

怪人が手を振って何かしらの合図のようなモノを送ると、やつらは蜘蛛の子を散らすようにバラバラになり、小走りでやって来た者は女の子を抱えている。どうやら今の行動を見る限り怪人が司令塔、そしてあの黒タイツは戦闘員と見て間違いないようだ。

 

「―――――――ッ!?あれは、ツインテール!」

 

総二の指摘通り、戦闘員が抱えている女の子は皆ツインテールだった。どうやら怪人の指示でツインテールの女の子だけを選別して連れてきているらしい。

 

「一体何の目的でツインテールを……………」

 

俺たちが固唾を飲んで見守る中、状況はさらに変化していった。

 

「むう、これほどの技術発展がありながらツインテールがこの程度の数とは。住居が鋼鉄と化した箱にすり替わっただけではないか。なんという罪深き世界よ。文化ばかりが進歩した程度でその実人間は進歩から何も得なかった、ということか」

 

意味不明な日本語を発しながら何故か人類の進歩に対して葛藤している怪人。ツインテールと技術発展にそれほど重要な関係性があるとは思えないんだけど…………。いや、人類という種族には必要不可欠だね!

 

「ククク、だがここは逆転の発想もできよう。少なければ少ないほど希少性の高いツインテールは現れるというものだ。探し甲斐があるというものではないか」

 

顎に手を当てて怪人は不敵な笑みを漏らす。とりあえずあの怪人の言葉はもう無視しておくことにしよう。これ以上はツッコみきれない。

 

「いいか貴様ら!隊長殿から仰せつかった重大な任務、我らを信じ託してくださったのだ。凄まじいほどの力を持つツインテールはこの周辺で観測された!どんな手段を用いてでも探し出し、隊長殿の下へお届けする!!―――――兎のぬいぐるみを抱きかかえて泣きじゃくる幼女は、あくまで特例として俺の下に連れてこい!!」

 

「…………モ、モケェ。モケ、モケケ、モケェ(は、はあ。しかしながら我らの目的は)」

 

「うむ、そのことは重々承知している。確かに究極にして最強のツインテール属性を手中に収めることこそ、我らが主、そして我ら全員の悲願である。しかしだ、一介の戦士である俺もまたこの胸に男としての信念がある!」

 

「モケェ…………。モケモケ?(信念ですか…………。それが兎の幼女であると?)」

 

「その通り!俺とて己が魂に刻み込んだ信念までは捻じ曲げることは出来ん!それはツインテールへの冒涜だ!!だからこそ俺はぬいぐるみを抱えた可憐な幼女をこの目に焼き付けたいのだ!見つけ出したものには褒美を遣わそう!!さあ行け!」

 

「モケェ―――――――――――!!」

 

再び戦闘員たちが四方へとばら撒かれていく。

 

言葉巧みに自分の欲望を正当化させていたが、一介の戦士が語るには随分とふざけた話だ。武人のような風格を漂わせたまま世迷言を吐き散らす、威厳と言動が全くと言っていいほど噛み合っていない。

 

「大人に用はない!幼女を、幼女だけを連れてくるのだ!!」

 

もはやただの変態だ。

 

一方、戦闘員は洗練された動きで怪人の指示をこなしていく。すると一人の戦闘員が隊列から離れ挙手して前へと進み出た。

 

「モケ!モケケ、モケモケ!(大変です!ぬいぐるみを持った幼女が見当たりません!)」

 

「なんだとっ!?何故幼女がぬいぐるみを持っていない!?くっ、この世界はどれだけ堕落しきっているというのだ!嘆かわしい!…………だが持たぬなら持たせるのが男の甲斐性というもの!構わず捜索を続けろ!!」

 

あの怪人は甲斐性という言葉の意味をはき違えてるんじゃないだろうか?ぬいぐるみを持った幼女がいない世界に対して葛藤する怪人に、俺はどうしようもなく呆れてしまうのだった。

 

隣に並んでいる三人もどこか白い目でその光景を見ている。なんというか温度差が明確に表れすぎてて怪人たちが非常に痛々しい。

 

そうして観察を続けていると、次々に戦闘員たちが幼女をあちらこちらから攫ってきていた。そうして攫ってきた幼女をどうするかと思えば、戦闘員たちが人形を渡して泣きじゃくる幼女たちをあやしているように見える。

 

ますますあの怪人たちの真意が掴めなくなってきた俺は、この中で唯一事情を知っているであろう隣の人物に声をかける。

 

「ね、ねえトゥアール。これは一体何なのさ。これが君の言うツインテールの危機って―――――」

 

「離しなさい!」

 

と話の途中で聞こえた一際大きい声に俺の声はかき消された。何事かと反射的に視線を向けた先には、金髪のツインテールっ娘がさっきの怪人と対峙している。その姿を目にして俺や総二たちは悲鳴にも似た声を挙げた。

 

「あ、あれは会長じゃないか!」

 

「ホントだわ!どうしてこんな所にいるのよ!」

 

私立陽月学園生徒会長、神堂(しんどう)慧理那(えりな)会長。総二が絶賛し、愛香に次ぐツインテールとして認めた人だった。俺もその姿に一瞬でも目を奪われるほどに美しいツインテールの持ち主がそこにいるのだ。

 

毛先の絶妙なカールはまるで舞台の上を舞い踊る白鳥のように躍動感を感じさせる。そんな彼女のツインテールは確かに怪人たちにとって絶好の獲物かもしれない。

 

物怖じすらせずに怪人と真っ向から対峙する会長。一触即発の空気に俺たちも緊張を滲ませる。

 

「こんな人攫いの真似ごとをして、あなたたちは一体何が目的なんですの!?今すぐ他の方たちを解放しなさい!!」

 

遠目でよく見えないが会長は何かを大事そうに抱えながら、倍以上の身長がある怪人に向かって指を指した。その行動に驚いたのか、怪人は少しばり関心したように会長を見つめる。

 

「ほう、この俺を前にしてそれほどの言葉を口にできるとは。流石は誇りと愛に満ちた素晴らしいツインテールを持つだけのことはある。そのツインテールは敬服に値するものだが、その要求には答えかねるな小さき勇者よ」

 

「ならわたくしたちに何をするつもりなんですの!?」

 

「そう慌てるな。時期に我らの目的もわかるだろう。…………と、その前にだ」

 

怪人が会長から目を離すや近くに居た戦闘員に対して指示を始めた。戦闘員たちが再び慌ただしく働き始め、ソファーやテーブル、カーペットなどの日用品が次々と運ばれ、着々とセッティングされていく。最後に四台の照明器具が設置されライトアップされた。

 

瞬く間に撮影用のスタジオが完成。全体的にピンクが多く、一〇代前後の女の子が好みそうなファンシーなセッティングだ。勉強机にランドセル、本棚の中身に至るまで事細かく再現され、極め付けにソファーの上にはどっさりと山のように置かれたぬいぐるみの数々。しかも驚くべきことにぬいぐるみの一体一体の顔が被らないように配置され、独特の一体感を表している。

 

並々ならぬこだわりとプロ意識がひしひしと伝わってくるスタジオだ。

 

(って何を関心してるんだ俺はッ!?)

 

場の勢いに圧倒されて関心しかけていた俺は頭を振ってリセットさせる。今はスタジオなんかよりも会長の安全を確保する方が大事だ。それに怪人たちが言っていた『ツインテールを手中に収める』というフレーズに嫌な胸騒ぎも感じる。

 

「さあ、この猫のぬいぐるみを持ってそこに座るがいい。そうだ、その真ん中に。いや、そこではないぞ。それでは後ろのクマさんが隠れてしまう。そう、もう少しずれて…………そこでストップ!あとは顔の角度だな。少し顎を引いて―――おお、素晴らしい角度ではないか!そのままこちらに上目遣いの視線をだな…………」

 

その間にも怪人たちは行動を移し、会長に猫のぬいぐるみを持たせてソファーに座らせていた。細かな指示を会長に飛ばし、会長も渋々その指示に従ってポーズを取っている。…………なんというか、怪人がモデル撮影のカメラマンに見えてきたよ。

 

そうして少しの時間が経ってから、怪人が感極まったように声を大にして叫び始める。

 

「おお!!これこそが俺の望む最高にして究極の美ッ!!――――お前たち、この光景をその瞳に焼き付けておけ!これこそが長年の修行で得た業!ツインテール、ぬいぐるみ、そしてソファーにもたれながら俯きがちに上目遣いでこちらを見る姿!美の三大法則である!!!」

 

『モッケェェェ――――――――――!!』

 

派手に盛り上がっている怪人たち。しかし長年の修行とやらで手にしたのがアレとは、どうリアクションを取ればいいのか分からない。怪人の言う美という言葉には賛同できるけど。確かに今の会長はすんごく可愛いです!

 

その時、ついに総二が立ち上がった。

 

「おいトゥアール。あいつらがツインテールを狙ってるのはよくわかった。未だに状況はよくわかんねーけどよ、俺たちをここに連れてきたってことは俺たちにできることがあるからなんだろ?」

 

同時に腕に嵌っている赤い腕輪を見せてトゥアールに回答を促す。そしてトゥアールは静かに頷いた。

 

「あります。総二様と良人様にはそれを成すだけの力がありますから。ですがもしここで立ち上がると言うのなら―――――お二人が過ごしてきた日常へはもう帰れませんよ?お二人にそれだけの覚悟がありますか?」

 

覚悟。その言葉が俺の心に重く圧し掛かってくる。

 

今ここで俺たちが出来る『何か』をした場合、今までの平穏な日々は切り捨てなければいけない。この先の平穏な人生を切り捨てるか否か、つまりはそういうことだ。

 

そんなもの、最初から決まってる。

 

「「上等だ」」

 

俺と総二の声が重なる。

 

普通ならこんな馬鹿げた状況でこんな回答は正気の沙汰とは思えないだろう。でもそれが俺と総二の導き出した答えだ。目の前の危機に瀕したツインテールを助ける力があるのなら、何に代えてでも助けてみせる。それが今後の人生を棒に振るくらいで済むのなら安いモノだ。それでツインテールが守れるのなら。

 

俺たちの覚悟にトゥアールは力強く頷き、彼女もまた覚悟を決めたように立ち上がる。

 

「わかりました。お二人の覚悟、しかとこのトゥアールが聞き届けました。ではお二人とも、まずはこちらへ。総二様はそのまま前へ、良人様は私の後ろに立ってください。まず良人様が私の両手を後ろでキッチリと掴んでください。そして総二様は強引に服を破って、その両手でブラをこうズバーッとむしり取れば…………」

 

「この非常時になにやってんのよアンタはあああああああああああああああッ!!」

 

「………………それ以上は地獄を見る!!」

 

こっちもこっちでとんでもない世迷言をぶっ放すトゥアール。それに対して愛香が激昂し、純が本気で徒手空拳の構えを取り始めた。ま、まずい!?このままだと愛香と純がトゥアールと一線を交えそうだ!?

 

「って愛香!声が大きすぎる!」

 

一拍空けて気が付いた総二が慌てて愛香の口を塞ぐ。しかし時は既に遅かった。

 

「ぬっ!新たなツインテールの気配だと!?我らの捜索網にかからないとは何奴!?おのれ姿を現せツインテールよ!!」

 

怪人が怒号を上げて辺りを見回している。それに合わせて戦闘員たちも警戒態勢を取っていた。

 

(あっちも気配を感じて生きてるのか――――!!)

 

愛香のレーダーに続いて怪人までそんなレーダーを搭載していようとは。…………ツインテールの気配ってまさか。

 

その時全員の視線が愛香に――――正確には愛香のツインテールに集中する。そしてその視線に気付いた愛香も、今立たされている状況にやっとたどり着いたらしく。

 

「ど、どうしよう!?あたしもツインテールだったわぁ!!?」

 

「おのれぇ!まだ姿を現さないのかツインテエエエエエエエエエエエエエエエルゥッ!!!!」

 

依然として俺たちを見つけられていないのか、怪人は地団太を踏みながら喚いている。拡声器を使っているかと思うくらい大きい声が、駐車場に雷鳴の如く響き渡る。―――――っていい加減うるさいよあの怪人!

 

戦闘員を総動員して探しているようだが、俺たちの捜索に難航しているようで怪人の怒号がさらに唸る。

 

と、そこで俺はある疑問が浮かんだ。これだけ騒いでいて目立ちに目立っているというのに、怪人たちは俺たちに気付くどころか見つけることすら出来ていない。

 

「最初にも言いましたが私は今、認識攪乱のフィールドを構築しています。簡潔に言うと相手の五感を狂わしてこちらの存在を認識させにくくさせているんです」

 

俺の疑問を手に取るかのように気付いていたらしいトゥアールは、「声までは対応しきれませんが」と愛香を半眼で見ながら説明した。一方の愛香と言えば苦虫を噛み潰したような顔で縮こまっている。

 

「ええい!お前たちはそのまま捜索を続けろ!俺は先にこちらを片づける!!」

 

苛立ちを募らせているらしい怪人は捜索を戦闘員たちに任せると、そのままツインテールの女の子たちの方へと歩いていく。中程で立ち止まった怪人は片腕を上げ何もない空間に向かって手を伸ばした。まるで何かを引きずり出そうとして手に力を込めている怪人。

 

そして次の瞬間、虹色の閃光と共に地震のような揺れと何かが落下したような衝突音が響く。

 

目を開けるとそこにはまたしても信じられない物体が鎮座していた。巨大な鋼鉄のリングだ。リングの内側は虹色の膜のようなものが波打ち、何故かそれを目にした俺は背中に寒気が走った。これから何が起こるのか全く予想できないが、恐ろしい何かが始まろうとしていることだけはわかる。

 

そして俺の予想は的中してしまった。

 

リングに向かって女の子たちが一列に整列し、先頭の女の子が宙に浮いたかと思うと、そのまま前方のリングに吸い込まれるように近づいていく。そして女の子がリングの内側に張られた虹色の膜を通り抜けた瞬間、次に起こった出来事に俺たちは目を疑う他なかった。

 

女の子のツインテールが消え去ったのだ。音もなく自然に。

 

そして後続の女の子たちも同じ運命を辿っていた。通り抜けてはツインテールがほどけ、髪留めだけが空しく地面に落ちていく。

 

「なんなんだよ、これは………………」

 

信じられないと言わんばかりに総二が声を震わせ、愛香もまたその光景に声を失っていた。隣に居る純も俺の制服の裾を握って俯いている。その中でトゥアールだけはその光景を直視していた。

 

「これがやつらの目的です。こうして罪の無い人々からツインテールを奪っているんですよ……………!」

 

そう言うトゥアールの声は怒りに打ち震えていた。表情までは見えないものの、トゥアールがどんな顔をしているのかは簡単に想像がつく。

 

「なあトゥアール。俺たちにはあいつらに対抗できる力があるんだろ。だったらそのやり方を俺たちに教えてくれ」

 

総二がいつになく落ち着いた声でトゥアールに話す。その顔は憤怒に歪む阿修羅のような表情だった。止めようと手を伸ばした愛香ですらその表情を見た途端に委縮してしまっている。

 

「落ち着いてください総二様。まだ間に合いますから」

 

諭すように総二を宥めるトゥアール。

 

「お二人とも、腕のブレスレットで変身してください。そうすればやつらと戦えるだけの力が手に入ります!」

 

「「変身!?」」

 

ここに来てまたしてもトゥアールから突拍子もない言葉が転がり出てきた。困惑する俺たちを他所にトゥアールは言葉を続ける。

 

「そのブレスレットは対エレメリアン戦闘用に開発したデバイスです。そのデバイスの力を解放し、スーツを身に纏えば身体能力を飛躍的に向上・強化させることが出来ます!やつらに対抗できる唯一の武器だと思ってください!」

 

鼻息を荒くして熱弁するトゥアール先生。説明してる人が妙に興奮してることはスルーするとして、もしそれが本当だとすればあの怪人たちの理不尽な横暴を止めることが出来るかもしれない。

 

隣に居る総二はどうやら熱は冷めたようで俺の目を見て頷いた。

 

(今は考えてる暇なんてない。俺たち以外にこの状況を打開できないなら、それは紛れもなく俺たちの使命なんだ…………!)

 

そう思い俺もまた総二に頷き返す。

 

「変身する方法はシンプルです。”変身したい”と強く願ってください。それでデバイスは起動するはずです」

 

強く念じるだけで変身できる、実にシンプルな方法だ。ともあれ俺と総二にはむしろそのくらい簡単な方がちょうどいい。

 

総二と共に腕輪を胸にかざし、トゥアールの言われた通りに念じようとした時だった。

 

「駄目!!二人ともやめなさい!」

 

愛香が制止に入った。今にも泣き出しそうな顔で俺たちの前に立ちふさがる。

 

「今度ばっかりは絶対に駄目!そんな危ないことあんたたちにさせられないわ!もしかしたら怪我だけじゃすまないかもしれないのよ!!」

 

「私も反対。二人の身に何かあったら困る。行かないで……………!!」

 

愛香に続き純までもが制止に加わってしまった。けど、俺たちももう腹を決めてしまった―――――やつらと戦うと。

 

「悪いな、今回だけはお前らの言うことは聞けない」

 

「どうしてよ!?どうしてツインテールの為にそこまで――――」

 

「決まってるだろ。お前のツインテールも守りたいからだ」

 

「え……………?」

 

恥ずかしいセリフを惜しげもなく吐き出す総二。一方の愛香はみるみる内に顔を真っ赤にしていく。そこで俺も理解を得るために純へと声をかけた。

 

「そういうことなんだよ純。君の親友のツインテールを俺たちに守らせてほしい」

 

「……………良人、でも」

 

「俺は総二の夢と愛香の心と、そして純との日常を守りたいんだ」

 

「……………」

 

逡巡しているのかその場で立ち尽くしてしまった純。やっぱりダメかと思った時、行く手を塞いでいた純は愛香を連れてスッとその場から離れ「…………絶対に帰って来て、待ってるから」とすれ違い様に言い残していった。俺と総二は無言でその言葉に頷き、そして再び強く念じる。

 

(変身するんだ。そして皆の日常を、総二と俺の絆を守るんだ……………!!)

 

そう念じた瞬間だった。

 

俺と総二の腕輪が凄まじい閃光を解き放ち、暖かな光が俺たちを包み込んでいく。

 

 

◇◆◇

 

 

凄まじい閃光が良人たちの腕輪から放たれ、二人の少年の姿を掻き消した。

 

それはデバイスの起動に伴う赤と銀の輝き。

 

やがて光が帯状の形となり良人たちの体に強く巻きつけられていく。張り付いた光の帯が霧散すると体のラインに沿ってぴっちりと張り付いたバリアジャケットが姿を現し、肩から足にかけて更なる閃光が走る。その輝きは爆発するように消え去り、各部に鋭角なシルエットのアーマーが装着され、より攻撃的な姿へと変貌していった。

 

赤と銀の閃光が膨張したかのように広がり、二つの色が複雑に混ざり合う。そして次の瞬間、二つの閃光が爆発し凄まじい速度で霧散した。散らばる赤と銀の輝く粒子は空へと舞い上がっていく。

 

その奥には二つのシルエットがあった。

 

一人は灼熱の業火を思わせる赤色の鎧を纏い、もう一人は閃光の如き輝きを放つ銀色の鎧を纏っている。二人の頭に余計な装飾はなく、あるのはその者たちの覚悟と信念を体現したかのように伸びる銀色と赤色の二対の髪。

 

 

 

ツインテールの戦士が誕生した瞬間だった―――――――。

 

 

 




ツインテール、だと……………ッ!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『戦士爆誕、ツインテイルズ!』①

一際輝く閃光が晴れた時、二人の戦士は待ちきれないとばかりに前方へと空を蹴って飛び出した。二人の凄まじい脚力によって空気が振動し、その余波が荒れ狂う突風となって赤と銀の粒子を空へと弾き飛ばす。周囲の物体をかき乱すように巻き上げる光景はまるで嵐のようだ。

 

そんな中、トゥアールが認識攪乱と同時発動させていた衝撃吸収フィールドによって事なきを得ている愛香たちが目を開いた時、目の前で変身した二人の姿はなかった。あるのは遥か遠くで燦然と輝く二色の閃光とそれをなぞるように繋がる光の軌跡だけ。

 

激しい閃光のせいで途中からは何も見えなかったが、変身という非現実的事象を目にした二人の少女は唖然としていた。正面に立つトゥアールは対照的に冷静なまま端末のようなもので総二たちに何かを説明している。

 

一瞬という認識の外に存在する時間の中で変身を遂げ、嵐を巻き起こしながら風を切って飛び立った二人の少年。よもやツインテールを奪う怪人と戦うために馬鹿二人が変身して戦うなど、喫茶店で談笑していた愛香たちにそんな斜め上のぶっ飛んだ予想が出来るはずもない。

 

夢といっても過言ではない非現実的な光景。故に彼女たちが最初に口にしたのは二人に対しての皮肉だった。

 

「…………考えなしに行動するの、二人の悪い癖」

 

「全くその通りよ!どうしていつも髪型のことしか考えてないのよあの馬鹿は!!」

 

純はともかく愛香は明らかに総二への不平不満を垂れ流している。おそらくは総二が言ったセリフに対してだろうが、別段ツッコむべきことではないと思った純はキョロキョロと周囲を見渡した。そうして三六〇度見回したところで不思議そうに呟く。

 

「…………居ない」

 

「え?居ないって誰がよ?」

 

クールダウンしたらしい愛香が聞き返した。

 

「女の子。さっきここに居た、ような気がする」

 

「女の子って…………ここにはあたしたち以外居なかったけど」

 

愛香が周囲の人間の気配を感じ取りやすいのは他でもない純が知っている。その愛香が気付かないということは自分の見間違いだったのだろうか?もしかしたら逃げ遅れた市民の姿を偶然見ただけかもしれない。

 

「…………じゃあ、あれは誰?」

 

どうにも煮え切らない純は眉を顰めるのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「「うわあああああああああああああ―――――――――――――ッ!!!!???」」

 

一方、変身完了と共に気持ちが昂ぶってつい飛び出してしまった俺と総二は絶叫していた。軽く片足でジャンプしようとしただけだというのに、強化された脚力によってあり得ないほどの高さで飛んでいる。体感では正確な数字はわからないけど時速五〇キロ以上は出てるかもしれない。

 

景色は凄まじいスピードで後ろへと流れていくというのに風圧は大して感じられなかった。例えるならパワーを強にした扇風機の前に座っている程度の風だ。

 

(こ、これがあの子の言ってたスーツの力ってやつなの………!?)

 

確か変身する前にトゥアールは『そのブレスレットは対エレメリアン戦闘用に開発したデバイスです。そのデバイスの力を解放し、スーツを身に纏えば身体能力を飛躍的に向上・強化させることが出来ます!やつらに対抗できる唯一の武器だと思ってください!』と言っていた。

 

つまりスーツを身に纏えば超人的な力が出るということらしい。にわかには信じがたい話だが、この現状を現在進行形で体感している以上信じる他ない。

 

そう、確かに信じるしかないんだけど――――――

 

「このあとどうするのさ――――――ッ!!」

 

さっきより高度が落ちたとはいえ滑空はまだ続きそうだ。周りに衝突しそうな遮蔽物が無いだけマシな方だと考えたいところだけど、このままだと不時着で木端微塵になるのも時間の問題だよ。

 

隣で同じ状況に陥っている総二もギャアギャアと騒いでいる。声からしてこっちも相当焦っているようだ。

 

とその時。

 

『お二人とも意識を集中させてください!そのテイルギアはお二人の精神力によって構築された専用スーツです!つまりはお二人の想いと意志が具現化したもの!あなた方の意志がそのテイルギアを動かすんです!!」

 

「想い………」

 

「意志………」

 

俺は体全体に意識を張り巡らせ、空気抵抗で重くなった四肢を『意志』で動かす。その瞬間、頭のてっぺんから足のつま先までの感覚が今までになく鋭くなるのを感じた。スーツという武装を通して風の動きが手に取るようにわかる。まるで風と一体化したかのような圧倒的な感覚。

 

――――――行ける!

 

そう直感した時、俺は無意識の内に全身を制御しながら重心を安定させていた。それに気付いた俺は、自分でやっておきながらつい驚いてしまう。

 

(これがトゥアールの言ってた想いと意志なんだね)

 

出発地点から離れるにつれて髪の解けた女の子たちが倒れているのが確認できる。ただ静かに横たわる女の子を見るたびに総二から悲しみの声が響いていた。どうやら視力だけではなく聴力も飛躍的に向上しているらしい。そのおかげで総二の怒りと悲しみが痛いほど伝わってくる。

 

そんな地獄のように残酷な道を抜けてついに怪人の姿が視界の中心に入った。俺は強化された視力でその場所を睨む。するとそれに応えるかのように視界が変化し怪人の姿がズームアップされた。

 

「やめなさい!わたくしたちのツインテールを奪ってあなた方は本当に何がしたいんですの!?髪は女の子の命なんですのよ!?」

 

そこにいたのは会長。どうやらまだツインテールは奪われていないようだが、例のリングの前に立たされている以上、状況は切迫していると認識すべきだ。

 

「確かに主の言う通りだ。我らとてこの美しきツインテールを壊したくなどない。これほどまでに完成された美などどこにも存在せぬのだからな」

 

「なら何故!?」

 

「大義のためだ!これは我らが悲願、延いては我らが主の野望のために必要な犠牲なのだ!そのためならば心を鬼にしてでもその務めを果たす!許せ、小さき勇者よ!主のツインテール貰い受けるぞッ!!」

 

ついに会長が空中へと浮かび上がりリングの前へと差し出された。両手を広げた会長はまるで十字架に張り付けられた聖女のようで、みるみるうちに会長の表情が悲しみで染まっていく。

 

会長がリングに吸い込まれる直前、ついに総二が吠えた。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

怒りに満ちた怒号。その迫力は凄まじく幼馴染の俺ですら久々に聞く本気の怒りだ。

 

「ちょ、総二!?」

 

視界の隅で急降下した総二を確認した俺は、総二の動きに合わせて地面へと進路を変更させた。腰や足のブースターのような装備が忙しなく動き続け、速度を維持したまま着陸、地面を蹴る足に意識を集中させて総二と並走する。

 

その時俺は総二の声に妙な違和感を抱いた。総二の声がいつもよりもワンオクターブ高い――――いわゆる女の子の声に似ている、ような気がする。気がするだけでおそらくは風の音が邪魔してるだけだろう。

 

「ぬっ!この気配は!?」

 

一拍遅れて気が付いたらしい怪人が大仰な声を上げる。だが怪人が気付いた時にはすべてが遅い。怪人の前に躍り出た俺は、今まさにツインテールを奪われそうになっている会長の手を掴み、強引に引き込むとそのまま抱えて跳躍した。一方怪人を牽制した総二もそのまま走り抜けて俺を追走している。

 

会長を抱えている以上、さっきみたいな無茶な着陸はできない。俺は再度全身のアーマー部分を使って重心を安定させ、降下速度をできるだけ落としながら地面へと降り立つ。俺は衝撃を殺すよう着地と同時に膝を曲げ、会長への衝撃を最小限に抑えた。

 

「……………あ、あの」

 

一息ついた俺の眼下で声をかけられ、視線を下にずらしていくと会長が顔を赤らめながら見上げていた。潤んだ瞳、上気した頬、そしてツインテール。その全てが俺の目の前に広がっている。

 

はて、どうして会長がこんなにも近くに―――――と思ったところで俺が今彼女を抱きかかえていることを思い出した。背中に手を回し、膝裏に手を差し込んだ状態。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

 

「え、え~と大丈夫?会ちょ―――――じゃなくてお嬢さん」

 

会長と言いそうになった俺は慌てて言い直す。トゥアールにはイマジンなんちゃらで俺の正体は誰にもばれない、とは言ってたけど会話でボロを出したら意味がないからね。

 

すると会長はなにやら恥ずかしそうにもじもじしながら小さく頷いた。怪我もなさそうだし、ツインテールも間一髪で奪われてないみたいだ。いやー、一時はどうなるかと思ったけどこれで不安要素は一つ消えたよ。

 

とはいえ安心はしてられない。目の前で呆気にとられているあの怪人を倒さないことにはなにも解決はしないだろう。なによりあの怪人が行っていた行為は決して見逃せないし、当然見逃すつもりだって毛頭ない。

 

「おい…………聞こえてんだろ怪人野郎」

 

隣に立っていた総二が声を震わせながら言う。その声は小さく静かだが、強い怒りがこもっているように感じた。

 

……………ってあれ?やっぱり総二の声が女の子っぽく聞こえるんだけど、変身しておかしくなったのかな?

 

「な、なんとッ……………!!?」

 

一方怪人といえば俺たちを見て驚愕の表情を浮かべている…………と思う。正直顔がもはや人間じゃなくてトカゲだから表情がわかりづらい。驚いてるのか怒っているのか全然わからないんだけど。

 

総二の言葉で場の空気が張り詰め、一触即発という雰囲気に近づきつつある。怪人はフリーズしたみたいに止まってるし、周囲でモケモケ言ってる戦闘員たちも警戒の色を濃くしているようだ。ここで大乱闘を引き起こしかねないと示唆した俺は、一先ず腕に抱えた会長を避難させることにした。

 

総二と怪人の睨み合いが続く中、俺は抜き足差し足で少し離れた場所へと向かい、抱えていた会長を降ろす。

 

「会ちょ―――――オホンッ!お嬢さん、ここは危ないから早く逃げるんだ」

 

「え?あなた方は避難しませんの?」

 

「ああ、俺たちはあのトカゲもどきを止めなくちゃいけない。ツインテールを守るために、ね」

 

「ツインテールを、守るため……………?」

 

会長は驚いたように目を見開いて俺を見た。けどそれは仕方ないことだ。いきなり筋肉隆々のトカゲ人間に捕まってツインテールを奪われそうになった挙句、颯爽と現れて自分を助けた人が『ツインテールを守るため』などと言えば驚くのも無理はない。

 

きっと奇異な眼差しで俺のことを見ているのだろうと思い、早々に立ち去ろうと立ち上がった時だった。

 

「そ、それは正義の味方ってことですわよね!?」

 

「………………………は?」

 

唐突過ぎてたまらず間抜けな声を出した俺。一方瞳を輝かせながら食い気味で俺に詰め寄る会長。俺はたまらず一歩後ろへ下がってしまう。すると会長が空いた一歩分の距離を埋め直すようにまた一歩近づいてくる。

 

「正義の味方でいいんですの!?どうなんですの!?」

 

何故か『正義の味方』というフレーズを口にするたびにヒートアップしていき、そしてこれまた何故か俺に羨望の眼差しっぽい熱い視線を叩きつけてくる。それはまるでヒーローに憧れる子供のような純粋な瞳だった。しかも彼女から発せられる声には並々ならぬ情熱を感じる。

 

だからこそ俺はこう答えることにした。

 

「俺は―――――いや、俺たちは通りすがりの正義の味方だ」

 

言ってみて我ながら低レベルな回答だと思った。今どき幼稚園生でも”通りすがりの正義の味方”なんてフレーズに信用性がないことくらいわかっている。そもそも正義の味方自体を信じてなさそうだけど。

 

しかし会長の瞳は俺の予想とは裏腹に一層輝きを強めていた。

 

「……………本当に、本当にいたんですのね。正義の味方は……………」

 

「え?」

 

「わかりましたわ。わたくしのツインテールはあなた方に託しますの。ですから絶対に負けないでくださいな”正義の味方”さん」

 

何故かすっきりした表情で会長は頭を下げた。

 

「え?あ、うん。ありがとう」

 

思わず素で返してしまった俺。会長はその返答に満足そうに頷くとそのまま走り去ろうとして――――立ち止まった。

 

「いつかわたくしもあなた方のような()()()()()()()()()になって、あなた方と肩を並べて戦えるよう頑張りますの」

 

それじゃあ、と元気に手を振って去っていった会長。姿が見えなくなるまで見送った俺は総二と怪人の件を思い出して駆け出そうとした時、会長の妙な言葉が脳内でリピートされた。

 

「あなた方のような立派なツインテールになって―――――――」

 

この場合ここにいるのは俺だからあなたは俺を指してるから、あなたは俺だとしてもう一人は誰だろう。とりあえず彼女が言いたかったのは「俺たちのような立派なツインテールになりたい」ってことかな。うん。

 

 

 

…………………………立派なツインテールってなに?

 

 

 

俺にそんな立派なツインテールなんてないし、そもそも俺はツインテールを結べるほど長い髪じゃない。というより自分の髪型をツインテールにしたことすらない。まあ、こう言うのもなんだけどツインテールはそもそも男用ではないしね。総二ですらその一線だけは超えてないわけだし。

 

だとしたら会長の言葉はなにを意味するんだろうか?俺の熱意を感じてそう言ったのかな?それにしては会長の目線は俺の頭の方をずっと見てた気がするけど……………。妙に嫌な寒気が背中を走り抜ける。

 

とその時。

 

「グワアアアアアアアアアッッッ!?」

 

軽い炸裂音と共に怪人の野太い悲鳴が響き渡る。何事かと急いで後ろを振り返ると何故かトカゲの怪人が中を舞っていた。巨体から伸びる強靭な四肢をジタバタさせるも空を切るだけ。やがて地球の重力によって地面へと引き戻され、怪人は顔面からアスファルトにダイビングする。音からして相当痛そうだ。

 

というより俺が目を離した隙に一体何が起こったのだろうか?状況を把握するべく俺は急いで総二と立っていた場所に戻るも、そこに総二の姿はなかった。

 

「あ、あれ?総二?」

 

さっきまでここに居た、ような気がする。正直会長を避難させることで頭が一杯だった俺は、変身してから総二の姿を確認していない。とりあえず声が届く範囲に居るという認識しかしていなかった。

 

辺りを見回してみるものの、目に映るのは炎上し続けている車とそこから吐き出される黒煙ばかりだ。いや、正確にはその景色に混じって首から上が地面に突き刺さっている怪人と、それを引き抜こうと奮闘している戦闘員たちも見えた。でも総二の姿はどこにも見当たらない。

 

「おーい総二!?どこにいるのー!?」

 

「なにやってんだよ良人。俺ならここにいるぞ」

 

と、ちょうど総二の名前を呼んだ時、背中から声をかけられた。どうやら全くの別方向を見て勝手に混乱していたらしい。

 

「まったく、いるならいるで返事くらい―――――って、あれ?」

 

声の方向へと振り返った俺は、本日何度目になるか分からない疑問符がまた語尾についてしまった。というのも振り返った先に総二の姿が無いからだ。

 

(お、おかしいな。今声をかけてきたのって間違いなく総二だったよね?)

 

次から次へとわけのわからない事象が飛び込んできて、正直俺の頭はパンク寸前だ。怪人は謎の攻撃らしき何かで埋まってるし、それに加えて声だけで姿の見えない総二と来た。一人駐車場のど真ん中で頭を抱えたくなったその時、視界の下から声が発せられる。

 

「だから俺はここだって。下だよ下、お前の下」

 

と声が聞こえ、自己主張するように視界の下からニュッと小さな手が伸びる。その声の通り視線を下に移していくと――――――確かにいた。

 

「お、やっと気づいたみたいだな。つーかお前デカくないか?俺の身長の倍はあるだろ。それに体も細いし――――ってなんでお前そんな立派なツインテールを持ってるんだッ!?」

 

ちっちゃなツインテールの幼女が。

 

スクール水着のような赤と白のスーツ、各部に装備されているアーマーも同色。起伏のないツルペタの体にごてごてした装備、如何にもオタクが喜びそうな姿だ。そしてまだ一〇歳程度だろうに顔のレベルは相当に高い。いわば美少女ならぬ美幼女といったところかな。

 

しかし何よりも驚くべきはそのツインテールだろう。燃えるように赤いそのツインテールは目を見張る美しさだ。身長とほぼ同じ長さもある二対の髪は滑らかな曲線を描き、地面スレスレで不可思議に浮いている髪先。艶やかな髪は輝く度に赤い閃光が迸る。

 

なによりこのツインテールからは凄まじいほどの熱意と愛情を感じるのだ。一朝一夕では辿り着くことなどできるはずのない本物のツインテール。こんなにも美しく勇ましいツインテールを今までに見たことがない。まるで総二の心を体現させたかのようなツインテールに俺は周囲の状況すら忘れて―――――――。

 

「ウソおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!????」

 

驚愕のあまり絶叫してしまった。続いてツインテ幼女も驚いたように困惑する。

 

「ど、どうしたんだよ良人!何で俺を見てそんなに驚いてんだ!?そんなに俺の姿が滑稽なのかよ!?それよりお前のそのツインテールはどうしたんだ!?」

 

「ツイン、テール……………?」

 

「そうだ!その王冠のような輝きに満ちた立派なツインテールはどうしたんだよッ!?」

 

ツインテ幼女の指摘で我に返った俺は、恐る恐る視界の隅でユラユラと揺れる物体に目を移した。――――――髪だ。しかもかなり手の行き届いた綺麗な銀色の髪。俺は震える手で俺の髪ではない髪に触れてみる。

 

(なに、これ。ものすごくサラサラで、今までにないすべすべした肌触りだ……………!)

 

恐ろしいくらい指通りの良い髪だ。俺は確かめるようにもう片方の空いている手で反対側を握りしめる。すると手に伝わるのはやはり同じ感触。そして俺は更なる発見をしてしまった。

 

視界の下側に妙な膨らみがあるのだ。それは二つ存在し、呼吸するたびに上下している。何かのパーツかと最初は思っていたものの、妙に柔らかそうなソレを見ている内に俺の想像は確信へと変わっていった。

 

俺はその確信が間違っていてほしいと願いつつ、近くにあった車のフロントガラスに自分の姿を映す。その先に映っていたのは――――――。

 

 

 

見紛う事なき可愛らしいツインテール美少女だった。

 

 

 

銀色の髪、ツインテ幼女と同じスクール水着のようなスーツ。色は髪と同色の銀色だ。勝気な瞳が活発さをアピールしている。そして出るとこは出て締まるとこは締まる、という完璧ボディを持ち合わせた美少女。

 

俺は試しにフロントガラスの向こうで困惑している美少女さんに手を振ってみることにした。俺が手を振ると美少女も手を振ってくれている。同調するように左右非対称で。

 

「あは、あはははははは……………」

 

もはや笑うしかない。俺はどうやら変身という事象を経て性転換されてしまったらしい。信じたくない、信じたくはないんだけど……………ここまで証拠を突き付けられると、ねえ?

 

そしてここにきてやっと会長の言葉の意味が理解できた。

 

『いつかわたくしもあなた方のような立派なツインテールになって、あなた方と肩を並べて戦えるよう頑張りますの』

 

会長が言った言葉は文字通りそのままの意味だったということだ。俺たちのようになりたいと。悪を倒す正義の味方になってみたいと。

 

そんな彼女に一つだけ言いたいことがある。

 

「のおわああああああああああなんじゃこりゃあああああああッ!?俺がツインテールの幼女になってるうううううううッ!!?」

 

正義の味方ってかなり辛いみたいです、精神的に。

 




しまった!?予想以上に前座が長引いてしまったぞ!?……………というわけで次回がバトルパートです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『戦士爆誕、ツインテイルズ!』②

約3ヶ月ぶりの更新…………。

不定期更新とはいえ少し間隔を空け過ぎですよね。
楽しみにして頂いている方、本当にスミマセン<(_ _)>

もう少し更新ペースを上げられるよう頑張ります!

遅れながらですが、明けましておめでとうございます!今年もどうかよろしくお願いしますね!


これは一体何の冗談だろうか?

 

喫茶店でカレーを食べてたら妙な銀髪少女に絡まれ、いきなり別の場所へ飛ばされたかと思えば怪人と戦うために変身。その結果――――――

 

「どうすりゃいいんだこれ!?なんで俺がツインテ幼女なんかになってんだよ!?何がどうなってんだか意味がわかんねえけどこのツインテールはいいなぁおい!!」

 

「待つんだ総二!確かにツインテールはいいだろうけどそこに呑まれちゃいけない!!」

 

「ハッ!?…………あ、危ねえ。もう少しでこのツインテールに持ってかれるところだった」

 

二人仲良くツインテールの美少女になってしまったのだ。総二は赤い髪の幼女、そして俺は銀髪の少女。恐ろしいことに胸まで存在している。……………どうでもいいけど大きさは愛香より上っぽい。

 

これが夢なら笑い飛ばせる話だろうけど、どうにも夢とは言い難い状況だった。石ころのように転がる炎上した車、辺りを満たす鼻を突くような異臭、そしてこの溢れんばかりの輝かしさを放つツインテール。他のことはどうでもいいにせよこのツインテールが何よりも現実であることを証明しているのだ。こんなにも気高く美しいツインテールが夢であってたまるものか。しかし女体化は夢であってほしい。でもツインテールは現実であってほしい。

 

「ぬうう……………奇襲だったとはいえ少しばかり気を緩めすぎたようだな」

 

と、俺たちが頭を抱えて悩みそうになった時、怪人は頭を振りながらのっそりと立ち上がっていた。どうやら戦闘員たちの活躍によって戦線復帰を果たした怪人は体に付いた埃を払っている。

 

「それにしても凄まじき幼気……………。そうか、貴様らが観測にあった強大なツインテールの正体だな?」

 

ズラリと並んだ牙を見せて笑う怪人。ただ不気味に笑う、それだけで異常なプレッシャーが俺たちに圧し掛かった。遠目で見ていた分にはただの変態としか思えなかったが、こうして対峙することで初めて相手の力量に気付かされる。

 

――――――コイツは強い。

 

異常な威圧感、身に纏う風格。そのどれもが圧倒的で、言うなれば歴戦の猛者を前に立っているような感覚だ。怪人が一歩前に踏み出し、両手をゆっくりと広げる。ただそれだけの行動だというのに空気がビリビリと張り詰めた。

 

そして、

 

「素晴らしい!素晴らしいぞ!!これぞ我らが求め続けている最高にして究極のツインテール!なんと美しく、そして輝かしいことかッ!こうして貴様らを前にするだけでその気迫が伝わってくるぞ!!」

 

ツインテールを前にしてまた騒ぎ始めてしまった。

 

「これほど早く究極のツインテールと相見(あいまみ)えようとは幸先の良きことよ!しかし、しかし解せんぞ!そこの銀色の乙女よ!」

 

「え?お、俺?」

 

「それほどのツインテールを持っていながら成熟した体とは……………。主とは出会う時期が遅すぎたようだな。惜しい、実に惜しい人材だッ!!」

 

血涙を流しそうな勢いで怪人は俺に対して何かを嘆いている。相変わらずわけのわからない日本語のおかげで、俺の背筋は氷河期時代に戻ったかのような寒さを感じていた。

 

「だがしかし!まだ遅くはない!あどけなさの残るその姿ならば間に合う筈!者ども、この者に見合うぬいぐるみを持つのだ!」

 

「モケケェ――――――!」

 

俺たちが自分の姿に困惑してる内に包囲網が完成していたらしく、周囲一帯を黒尽くめの戦闘員たちが陣取っている。その手には様々なぬいぐるみが握られ、見るからに危険な変質者だ。

 

「ど、どうする良人!?」

 

「どうするって言われてもどうしようもできないよッ!?」

 

四方は完全に固められ、ジリジリと包囲網を狭める全身タイツの変質者たち。隙を突いて逃げようにもこっちが混乱しててとてもだけど無理だ。…………どうする良人。考えろ、この場を切り抜ける方法を。

 

(ってこんな状況に遭遇したことないんだからわかるはずないよ――――――ッ!!!!)

 

と、その時、隊列に並んでいた戦闘員の一人が『モケェェッ!』ともっさい雄叫びと共に俺たちに特攻してきた。明らかに人間離れした速度で走る戦闘員はぬいぐるみを振りかざして跳躍する。

 

もうやるしかない!

 

俺は即座に拳を構えた。左手は前に、右手は弓を引くように腰元まで引き絞り、重心を安定させるため腰を落として両足に力を入れる。これは水影流柔術の基本体術である正拳突きの構えだ。しかし基本体術とはいえ水影流、その威力はもちろん折り紙付き。ちなみに愛香がこれを始めてやった時、勢い余って板を構えていた祖父ごと吹き飛ばしたと聞いている。

 

流石にそこまではいかないとしても俺だって一応は経験者だ。使いどころのない殺人拳だと思ってたけど、今まさに使うべき瞬間なんだ。

 

相手との間合いを見切った俺は拳を繰り出そうとしたその時。

 

「うわっ!?」

 

足元がグラつき気付いた時には重心がズレて大勢を大きく崩してしまった。

 

(し、しまった!?俺の体って今女だったんだアアアアアアアアッ!!)

 

そう、俺の体は現在ツインテ少女化している。元の体に比べたら背は低いし体つきも違えば足や手の長さも違う。体格が違えば必然的に構え方も変わってくるのだが、目の前の状況に焦っていた俺はそのことをすっかり忘れていた。

 

前のめりになりつつある俺は反射的に上体を起こそうとして踏ん張り、その結果戦闘員に繰り出した拳の威力を殺してしまい、軽くトンと当たる程度で留まってしまう。

 

(ヤバい、やられる―――――)

 

と思った矢先、戦闘員はバッコーンとでも軽快な音を鳴らしそうな具合で空へと舞い上がった。空中で見事なスピンを決めつつ身体中から青白い電流が走り始め、次の瞬間小さな爆発と共に光る粒子となって音もなく消えていく。例えるなら特撮物でよくある怪人を倒すと派手な爆発が起こるあの感じだ。

 

突然の出来事に唖然とする俺の隣でまたしても戦闘員が打ち上げられ、遠くにそびえる建物に大きなクレータを作り出してさっきと同じように爆散。

 

隣を見てみると俺と同じように茫然と立ち尽くす総二と目が合った。

 

「…………お、俺たちがやったのか?」

 

「…………う、うん。多分そうだと思う」

 

自分でやっておきながら目の前で起こった非常識な出来事に戸惑ってしまう。軽く触れただけで戦闘員はあり合えないほど高く吹き飛んだ。単に戦闘員の体重が軽かったという推測もできるけど、見た感じではそういう風には見えなかった。

 

よくわからないけど…………つまりこれもテイルギアの性能の一部ということだろう。

 

「なんと…………!?戦闘員(アルティロイド)を武器も持たずに素手で退けるとは、なんという凄まじき力!よもやその力、ツインテールだけではないようだな…………!」

 

動揺して腰を引かせる、というより感嘆とした雰囲気で驚く怪人とその取り巻き一同。どうやら恐れるというより俺たちにより興味を持ったという感じだ。

 

「これほどの属性(エレメーラ)を持つ者は世界広しと言えどそうは居ない。貴様ら、いったい何者なのだ!!」

 

『さあお二人とも!相手からのフリです!”お約束”通りにカッコよく名乗っちゃってください!』

 

何故か耳元で俺たち以上に白熱したトゥアールがそんなことを言ってくる。ていうかフリって…………。これ特撮の収録とかヒーローショーとかじゃないんだよ?

 

けど、昔こういうシチュエーションに憧れたこともある。悪の怪人の前でカッコよく名乗るという、まさにこういう展開に一度でいいから立ってみたかった。まあツインテ少女なんだけどね…………。いや、もうこの際そんなのは気にしない―――――

 

 

 

「「……………何者なのか逆に知りたいです」」

 

 

 

なんてことが出来るはずもなく、俺たち二人は上の空でそんなことを呟いていた。

 

だってそうでしょ?女に変身できる男って生物学的にどう分類されるのさ。人類以外の生物なら自然に性転換できる生物もいるって聞いたことあるけど、人類史上そんな臨機応変な種は確認されていない。じゃあ俺たちって今どういう状態にあるんだろうか?

 

ここにきて自分たちがツインテ少女になってしまったという事実を思い出し、そんな事ばかりが頭の中を駆け巡っていく。

 

そのせいで俺たちは敵の接近に気付けなかった。

 

「ふぅむ…………何故かは知らぬが落ち込むその表情もたまらぬ。赤の乙女よ、そのツインテールの両端を指で摘まんで俺の頬をペチペチと叩いてはくれないだろうか?」

 

「イヤアァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

可愛らしく絶叫して尻餅をついている総二の正面にいつの間にか怪人が立っていた。その目は見開かれ、妙に熱の籠った息は荒く、口元から涎が零れるんじゃないかと思うほどにんまりとした笑顔。しかも両手をワキワキと動かしながらそんなことを口走る。

 

「くっ!させない!」

 

俺は二人の間に入り込み、総二を守るように怪人の前へと立ちはだかった。

 

「ぎ、銀のツインテールもいい…………。その毛先で顔を撫でたらどれほど癒されるだろうか…………さあ、貴様も遠慮せずにそうしていいのだぞ!むしろやってくれ!!」

 

「キャアァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

総二に負けず劣らずの悲鳴を俺も上げてしまった。

 

正面に立つことでその異様さが身に沁みるようにわかる。明らかに異常なツインテールへの愛着と執念、そしてそれに対する羞恥の無さ。羞恥心という名の感情を捨て去った存在がこんなにもおぞましかったなんて……………。

 

「ツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテール……………」

 

壊れたラジカセのようにその単語だけを繰り返し続ける怪人。正直その姿は酷く痛々しく、常軌を遥かに一脱している。

 

「そ、総二、大丈夫?怪我は―――――」

 

「これが俺、なのか…………」

 

振り向くと総二の表情はさっきよりも弱々しかった。

 

「ははは…………、そうか。皆俺のことを変な目で見てたのはこういうことだったのか」

 

何かを悟ったかのように自嘲気味に笑う総二。その言葉を聞いて俺はその真意に気付く。

 

おそらく総二はこの怪人と自分を重ね合わせてしまったんだ。

 

総二は昔からツインテールについて所構わず誰にでも熱弁してしまう癖があった。今でこそその癖は限りなくゼロに近づいているが、その頃は総二の最盛期だと言っても良かっただろう。

 

そんな総二はいつも奇異な眼差しで周りから見られていた。多分総二の熱弁は周囲の人間からしたらかなり異常に感じていたんだろう。

 

その感覚を総二自身が知ってしまったらしい。

 

確かに総二の熱弁癖は酷かったしそのせいで喧嘩することも多かったけど、でもこの怪人と総二は違う。この怪人は奪うためにここにいるけど、総二は守るためここにいるんだ。

 

『そーじ、りょーと!あんたたち何してるのよッ!!』

 

「愛香…………!」

 

俺が声をかけようとした時、愛香の声がそれを遮った。

 

『ツインテールを守るとか馬鹿なこと言ってたさっきまでの覚悟はどこにいったのよ!あれだけ大口叩いといて今更怖くて戦えないなんて言うんじゃないでしょうね!?』

 

「い、いや。そういうわけじゃ――――」

 

『だったら何よ!?自分とそいつを重ねて気持ち悪いとか思っちゃってるわけ!?だとしたらほんっとに今更ね!言っとくけどあんたはそこのふざけたやつと同じよ!』

 

「……や、やっぱりそうか」

 

愛香の罵倒で更に凹む総二。しかし愛香はそれに対して気にすることもなく続けた。

 

『…………でもね、あんたのツインテールへの想いはそいつとは違うわ。馬鹿みたいにどこまでも真っ直ぐで、絶対に曲がったり折れたりしないもの。あたしたちはそのことをよく知ってるし、なによりそーじ自身がわかってるとはずよ』

 

語り掛けるように話す愛香の言葉に、総二は目を閉じて耳を傾けている。

 

「…………そうだったな」

 

『そうよツインテール馬鹿。胸を張って正面から蹴散らしてやりなさい』

 

『くぷぷぷぷ、張る胸もない人がよくもまあそんなこと言えますね』

 

『負けるんじゃないわよ二人とも!そんなやつら軽く捻り潰してやりなさい!』

 

『お二人に発破かけながら私の胸を捻り潰さないでくださいいいいいいいいいいいいッ!!?』

 

最後に余計な雑音が聞こえたような気がしたけど、愛香の声は確かに総二に届いたようで、立ち上がった総二の瞳には再び闘志が燃え上っていた。

 

「悪かったなりょーと。俺はもう迷わないぜ」

 

「うん、それでこそ俺の心友だ」

 

互いに頷き合った俺たちは再び怪人と相対する。相変わらずツインテールと言う単語を呪文のように唱えながら異様なプレッシャーを放っていた。それを正面から改めて受け止めた俺は、思わず後退りそうになる足をなんとかして留まらせる。

 

(…………あんなの相手にして本当に勝てるのかな?)

 

『…………良人』

 

「え、純…………?」

 

相手の威圧感に飲み込まれかけた意識が純の声によって持ちこたえた。

 

『…………こういう時なんて言えばいいか分からないけど―――――頑張って』

 

訊き零してしまいそうなほど小さなエール、だけどその声は何よりも大きく感じた。

 

「ありがと、純」

 

俺は大きく深呼吸してもう一度怪人を見据える。相変わらずおぞましい威圧感を放っているが、さっきのような恐怖感は無くなっていた。

 

勝てる勝てないじゃない、勝つんだ。そのために変身したのにここで逃げ腰になったら意味がないじゃないか。

 

俺と総二は再び拳を構える。

 

「ほう、なかなかいい目をしている。(たぎ)るような闘志がそのツインテールから伝わってくるぞ」

 

不敵な笑みを浮かべる怪人の威圧感が更に増大し、俺たちと同じように巨大な拳を構えた。

 

「その覚悟、しかと確かめさせてもらおうッ!!」

 

(――――来るッ!)

 

先に動いたのは怪人だった。アスファルトを豪快に踏み砕きながら凄まじい速度で俺たちに突進してくる。巨体に見合わぬ素早さに俺たちは隙を与えてしまい、見逃すまいと怪人は更に加速し、岩のような拳を大きく振りかぶった。

 

「まずは一撃、撃たせてもらうぞッ!」

 

風を砕くような音と共に圧倒的質量の拳が放たれる寸前、俺たちは間一髪その場から飛び退くことに成功する。次の瞬間、耳を突くような炸裂音が走り、俺たちのいた場所には小さなクレーターが現れた。

 

その光景に俺は思わず息を飲んだ。もし今の一撃を受けていたら体が粉々に吹き飛んでたんじゃ………。

 

「初撃を躱すとは流石だな!」

 

拳のアスファルト片を払いながら高揚しているかのように笑う怪人。言うまでもなく本気を出しているようには見えない。

 

「良人、また来るぞ!」

 

総二が声を上げると同時に怪人から攻撃が放たれる。空気を突き破るような拳圧が俺と総二の間を駆け抜け、僅かに大勢を崩した瞬間を狙って再び怪人が接近してきた。

 

「ハアッ!」

 

ボクシングのような隙の無い軽やかなフットワークで拳を撃ち出され、俺たちはその一撃を確実に回避する。拳一つ一つが地面を穿つほどの威力を持っている以上一発でも受けるわけにはいかない。しかも俺たちの攻撃手段は今のところ素手しかなく、怪人を相手にするには少し心元の無いため守りの一手を取るほかなかった。

 

「どうした!守りばかりに徹していてはこの俺には勝てんぞ!」

 

常人離れした拳を連続で放っておきながら、疲れも見せずに怪人は余裕の笑みを浮かべる。

 

「くそっ、何か攻撃する手段はないのかよ!?」

 

『聞こえますかお二人とも!』

 

と、その時トゥアールの通信が入った。

 

「遅いよトゥアール!」

 

『面目ありません。愛香さんが執拗に握りしめてきたので、シャツにアイロンをかけてしわ伸ばしをしていたら遅れてしまいました』

 

「ホントに面目ねえよ!!」

 

こんな状況でも服装に細心の注意を払うトゥアールに総二が思わずツッコんだ。身だしなみは女の子にとって重要だと思うけど、この状況でそれを敢行する彼女の神経の図太さにはある意味感心できてしまう。

 

『っとそんなことより、聞いてください!お二人の頭に装着されているリボン型のパーツに触れてください!あなた方の思い描く武器を念じれば対エレメリアン用の武装が展開されるはずです!』

 

本当に出るのだろうか、と一瞬考えたが迷うような余裕はない。トゥアールの指示通り俺はリボン型のパーツに触れてありったけのイメージを流し込む。

 

(…………守るんだ。愛香も、純も、総二も。俺たちの絆を!!)

 

その瞬間、銀色の閃光がリボンから溢れ出して周囲に銀色の粒子が舞った。雪のように舞う粒子は目の前に集中し始め、徐々にその形を明確にしていった。

 

剣だ。

 

交差する二振りの剣が俺の目の前に浮かんでいる。白く神々しい刀身と一点の曇りも窺えない銀の刃。手を伸ばして握れば呼応するかのようにその輝きを一層強めた。

 

<エクセリオンソード>

 

本来知る筈のないこの双剣の名が頭に流れて来る。

 

ふと隣を見ると、総二は燃え盛る炎を纏う長身の赤い剣――<ブレイザーブレイド>を手にしていた。まるで総二の想いを体現しているかのように炎が煌びやかに燃えている。

 

俺たちがそれぞれの武器を手に構えると怪人は体を身震いさせていた。

 

「なんと美しい戦女神だ………!剣を構え煌びやかなそのツインテールをなびかせる姿、我が魂を揺さぶるほどの絶対的な美に巡り合えようとは!!」

 

大粒の涙を流しながら感嘆の声を上げて号泣する怪人。

 

「行くぞ良人ッ!」

 

「うん!」

 

攻撃の止まった怪人の隙を突いて今度は俺たちが先手を打った。感動してる最中に横槍を入れるのは少し悪い気もするけど、この場が戦場である以上そんな甘い考えは捨てるべきだ。

 

「オラァ!お前の望み通りペチッとしてやるよッ!!」

 

「ぬう!?」

 

総二がブレイザーブレイドを振り上げ上段から斬り下ろすも、怪人は驚異的な速度でその一撃を躱してみせた――――ように見えたが、怪人の頬には総二の気合いの一閃が刻まれていた。

 

「馬鹿な!?軌道は完全に見切った筈!何故――――」

 

完全に躱しきっていたと確信していたらしい怪人は一瞬だが動揺して隙を見せ、俺はその瞬間を見逃すことなく攻撃に出た。

 

「今度はこっちだよ!」

 

「ぐッ!?」

 

エクセリオンソードを交差するように構えた俺は体勢を崩した怪人に斬りかかった。×の字を描くように放った刃は怪人の体を捉える寸前で回避され空振りに終わる。しかし怪人の身に着けていた胸部のアーマーに交差する二つの刀傷が走っていた。

 

「まさか一度ならず二度までもこの俺に刃を当てて来るとは…………」

 

躱しきれなかったという事実に怪人は怒りを露わにすると思いきや、

 

「ハッハッハッハッ!この高揚感、久方ぶりに戦士としての血が騒ぐぞ!」

 

盛大に笑い始めた。しかし口はにやけたままだが、怪人の纏う空気がより鋭く荒々しいものとなっていくのがわかる。

 

「貴様らとは戦士として尋常に相対しようぞ!我が名はリザドギルティ!アルティメギルの特攻隊長にして、人形を抱きしめる幼女にこそ、男子は強き信念と深い愛情を抱けるという思いのもと戦い続ける戦士だ!改めて貴様らに問おう、貴様らの名を!!」

 

「テイルレッド!」

 

「テイルホワイト!」

 

俺たちは肩を並べると剣の切っ先を怪人に向けて言った。

 

 

 

「「俺たちはツインテイルズだ!!」」

 

 

 

意識もしていないのに俺は総二と言葉を揃えてその名を口にしていた。まるでツインテール自身がその名を伝えてきたかのように。

 

「ツインテイルズよ!その名、この魂にしかと刻み込んだぞ!!同じ信念を抱く者同士、尋常なる勝負と行こうではないか!!」

 

「人に自慢できねえ気持ち悪い信念掲げるようなお前と一緒にすんじゃねえよ!!」

 

ブレイザーブレイドの纏う炎が更に増大し、爆発したような衝撃と共に総二が躍り出た。噴出する炎をブースターとして使い自身を加速させてリザドギルティへと突進した総二は、触れた物全てを焦がしてしまいそうな灼熱の剣を振り下ろす。

 

しかし――――

 

「甘い!」

 

「なっ――――――!?」

 

ブレイザーブレイドはリザドギルティに触れる手前で止められてしまった。

 

しかし攻撃事態を止められたことにそこまで驚くことはない。さっきの激しい攻防戦でリザドギルティの戦闘力が非常に高いことは身をもって体験している。だからこそ総二の攻撃が受け止められても当たり前のことだった。

 

けど問題はそれを受け止めている物体だ。リザドギルティが素手で受け止めているわけでもなければ、不可視のバリアや障壁を展開させているわけでもない。

 

総二のブレイザーブレイドを受け止めているのはほんの数分前に見た――――クマのぬいぐるみだった。

 

「えええええええええええええッ!!?」

 

予想外の出来事に総二が物凄い勢いで声を上げた。

 

愛らしいクマさんが可愛いお手て真剣白刃取りなんてやらかしたら驚くのも無理はないだろう。しかもクマさんはブレイザーブレイドの纏う炎が効いていないらしく一向に燃える気配がない。誤算…………というよりこれは流石に予想しようがない、よね?

 

一方にリザドギルティといえば腕を組みながらドヤ顔をしていた。

 

「そう簡単にはやらせんよ。この鉄壁の守護神たるクマさんがいる限りこの俺に刃は届かないと思え!!」

 

やたらとカッコつけたことを言うも、クマさんのおかげで相殺されるどころか酷くシュールなセリフになってしまっている。

 

「う…………おりゃあああああああああッ!!」

 

と、その時。ついに総二のブレイザーブレイドがついにクマさんを押し切り、リザドギルティの懐へと飛び込んだ。

 

「ヘッ、言う割には大したことないクマだったな!」

 

「クマさんの防御を打ち破るとは流石だな!しかし――――」

 

リザドギルティが右手を空へと掲げた瞬間、流星のような光が周囲から飛び出し、総二に目掛けて一斉に降り注いだ。

 

「油断は大敵だぞテイルレッド!」

 

よく見てみると光の正体はぬいぐるみだった。大小様々なぬいぐるみたちは、まるで意志を持っているかのように独立した動きで総二に迫っていく。それにいち早く気付いた総二はその場から後方へ跳躍し、第一波を寸でのところで躱した。

 

「しまっ――――――」

 

しかし着地と同時に第二波が総二の下に押し寄せる。その瞬間、俺の体は自然に動き出していた。

 

「はああああああああああ!!」

 

総二の前に立った俺はぬいぐるみの集団をエクセリオンソードで弾き返した。舞うようなステップを踏みつつ襲い来るぬいぐるみを確実に叩き落としていく。弾かれたぬいぐるみは光を失うと爆発し、煙とその破片が周囲に撒き散らされていった。

 

「なんという素晴らしいツインテールだ!あまりの美しさに身震いが止まらん!!」

 

身悶えするかのように体をくねらせるリザドギルティ。あまりの気持ち悪さに俺は薄ら寒い何かを背筋に感じてしまう。

 

「良人、速攻で倒そう。これ以上アイツを地球に居させたら色々とおかしくなりそうだ」

 

「そうだね。とりあえずそれだけはわかるよ」

 

ふと湧き出てきた使命感に俺たち二人は頷いた。…………あれをそのままのさばらせてたらきっとこの世界によくないものが浸透しそうだし。

 

『…………二人とも、聞こえてる?』

 

「どうしたの純?」

 

『…………トゥアールからの伝言。ツインテールの奪取方法、だって』

 

その言葉に俺たちはハッと気づく。そういえばトゥアールにはまだ間に合うって言われただけで、具体的な説明はまだ聞いてなかったっけ。

 

『…………属性、っていうツインテールの源はあの輪っかに保存されてるから、そこの怪人は倒しても問題ない。倒した後にその輪っかを壊せばその属性はみんなの下に帰る。…………よくわからないけど、今説明した通りにすれば大丈夫みたい』

 

「わかった、後は任せて!」

 

『…………アンタ、姿が見えないと思ったらこの非常時にアイロンなんてかけてるんじゃないわよ!!…………』

 

『…………はあ、やはり胸が更地の蛮族には女の子の嗜みという物がわかりませんギャアアアアアアア………』

 

最後にトゥアールの悲鳴と何かを地面に打ち付けるような音が聞こえたけど気にしないことにしよう。俺と総二は互いに無言で頷き合って聞かなかったことにした。

 

正面では興奮から落ち着いたらしいリザドギルティが再びぬいぐるみを背後に従わせている。

 

「見苦しいところを見せてしまったな。あまりの美に己自身を食い止めることが出来なかった」

 

あの姿をを見苦しい程度で終わらせられるリザドギルティの精神が疑いたくなる。人間が公衆の面前であんな行為に及べば社会的に抹殺されるのは言うまでもない。やはり人とは違う存在だからだろうか。

 

「そろそろこの戦いにも決着をつけなくてはなるまい。できることならば貴様たちと(しば)(たわむ)れたいところだが、重大な任務を(おお)せつかっている身。許せ乙女たちよ」

 

「いや許すも何も俺たちはお前と戯れたくねえし」

 

半眼でツッコむ総二。しかしリザドギルティは気にも留めずに続けた。

 

「記念撮影でもしたい気分だな。恐らく生涯(しょうがい)でこれほどのツインテールに出会えることはもうなかろう。我らの戦いの記念に一枚どうだろうか?もちろんぬいぐるみを持って―――――」

 

「だああああああもう面倒クセえええええええええ!!行くぞ良人!!」

 

「わかった!!」

 

業を煮やした総二がついに爆発した。かくいう俺もこんな戦いはさっさと終わらせたい。

 

「ぬうう…………!やむを得ん!これも我が野望のため!!」

 

俺と総二が飛び出すと同時にリザドギルティもぬいぐるみを飛ばしてくる。

 

三つの剣とぬいぐるみが交錯し、第二ラウンドが幕を開けた。




漢字にルビを振っていますが、『読み方がわからない』『ルビがあった方が良いのでは?』という漢字がありましたらぜひご連絡ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『戦士爆誕、ツインテイルズ!』③

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「はあああああああああああッ!!」

 

高速の弾丸と化して襲い来るぬいぐるみを弾き飛ばしながら、俺たちはリザドギルティと激しい攻防戦を繰り広げていた。

 

総二―――テイルレッドのブレイザーブレイドがリザドギルティに降りかかるも、相変わらずの俊敏さでそれを難なく躱し、隙を突いてレッドの背後からエクセリオンソードによる連撃を叩きこむが、強固な腕のアーマーで全てを弾き返されてしまう。それどころか俺たちの連携の隙を突いてぬいぐるみを襲い掛からせ、大勢を崩したところで拳を振り放ってくる。

 

二対一、俺たちが有利になる筈だったこの戦いは互いに均衡していた。いや、それどころかリザドギルティの方が押しているかもしれない。

 

「フハハハハハハッ!まだまだぁ!!」

 

また笑ってるよこの怪人。

 

テイルギアのおかげでリザドギルティとの力は均衡しているはずだけど一向に押しきれる気配がない。それどころかさっきよりもリザドギルティの反応が早くなってるような気がする。このまま行けば俺たちの方が崩される可能性が高い。一度距離を置いて体勢を立て直す必要があるだろう。

 

隣に視線を向けると同じことを考えていたらしいレッドと目が合う。俺たちは互いに小さく頷き合うと、リザドギルティが拳を構える僅かな隙を見て後方へと跳躍した。

 

しかし、その判断が誤りであったことに気付いたのはリザドギルティの不穏な笑みを見た瞬間だった。背中に怖気が走り抜け本能的に回避しようと体が僅かに動くが、空中に身を投げ出した俺の軌道は寸分も変わらない。

 

刹那、拳を構えていたリザドギルティが凄まじい移動速度で俺たちの差を詰めてきた。まるで映像を早送りさせるように自身を加速させて接近したリザドギルティは、弓を引くように溜めていた拳を俺たちに向けて躊躇なく放つ。豪速とも言える拳は空気の層を打ち破りながらさらに加速し俺たちの眼前へと迫っていた。

 

よもや空中での回避は不可能、そう直感した俺は半ば無意識に両腕を体の前でクロスさせガードの姿勢を取り、レッドも同様に構える。

 

次の瞬間、今までに感じたこともない圧倒的な衝撃が全身を貫き、俺たちは紙切れ同然に吹き飛ばされた。

 

飛び跳ねるボールのように地面へと体を打ちつけられるが、放たれた拳の威力が相当のパワーだっただけに止まらず、最終的には駐車場の隅に設置された塀にぶつかることでようやく停止した。

 

「う、ぐ……………」

 

半壊した塀の瓦礫に埋もれた体を起こそうとして激痛が走る。

 

それでも四肢に力を入れてなんとか立ち上がった俺の横で、小さな体のレッドもまた顔を苦痛に歪めながら立ち上がっていた。

 

「怪我は、ない…………?」

 

「あ、ああ。とりあえず怪我はねえよ。身体中が激痛って以外はな」

 

テイルギアで身体能力が人間とは比にならない程向上しているおかげで外傷はないものの、痛覚によるダメージだけは相当に大きい。まるでアクセル全開のダンプに正面から突っ込まれたような衝撃は確実に俺たちの精神に傷を与えていた。その証拠に全身を強打した体は軋むような痛みで支配されている。

 

立ち上がるだけで精一杯の俺たちは離れた場所から悠然と歩み寄ってくるリザドギルティに目を向けた。

 

拳を鳴らしながらさっきと寸分違わぬ笑みを浮かべるその姿はまさに屈強なる戦士そのもの。幾つもの戦いを超えてきたであろうリザドギルティの体から発せられるオーラは、長い時を経て練りに練り込まれた本物に違いなく、土壇場で力を手にした俺たちとは比較の対象にすらならない。

 

普通ならばそんな圧倒的な力を身をもって知れば誰もが諦めていることだろう。恐怖に駆られてこの場から衝動的に逃げ出したくなるのは必然だと思う。

 

けど俺たちは違った。

 

「はは、やっぱそう簡単にうまく行くわけねーよな」

 

「まあそうだろうね。ゲームじゃあるまいし、敵の大将がそんな簡単に打ち破れる筈ないよ」

 

圧倒的な力の差を目の当たりにしても尚、俺たちの闘志は燃え尽きていない。むしろ沸々とその勢いが増していくのがわかる。

 

「敵は現役の戦士でこっちはただの高校生、おまけに二人そろって満身創痍なんてホントに最悪だね。こんなんでアイツに勝てるのかなあ?」

 

「どうだろうな。やってみなきゃわからねえけど、こういうのって大抵は負ける方だよな」

 

レッドの言う通り、普通に考えてここからの逆転劇なんてことはまず起こらないだろう。ここが漫画やアニメの世界ならまだしも現実に起こってしまっていることだ。現実でそう都合良く奇跡が起こるはずもない。だからきっと戦っても負けるのが現実的だと思う。

 

普通ならね。

 

「けど――――こういう展開って燃えるよな」

 

レッドの燃えるような赤い瞳が俺に向けられる。あちこち埃まみれで立っているのもギリギリだというのに、小さな少女が浮かべている表情はそれを微塵も感じさせない挑戦的な笑みだった。これだけ派手にやられておいてまだ戦おうというのだから呆れる他ない。

 

「昔から憧れてたからね」

 

勿論、相棒の馬鹿げたセリフに笑顔で答えてしまった他ならぬ俺自身もなんだけど。

 

「さてと、インターバルもこの辺にしてそろそろ行こうか」

 

「ああ、そうだな。あの野郎の鼻っ柱を叩き折ってやるぜ」

 

エクセリオンソードとブレイザーブレイドをそれぞれの手に持ち直した俺たちは、悠然とこちらに歩いてくるリザドギルティを再び見据える。

 

がむしゃらに突っ込んで勝てるような相手じゃない。少なくともレッドと俺の連携攻撃がなければ勝機すら見出せそうにもないだろう。でも仮にうまく連携が出来たとしてもこっちは戦いの素人、プロを相手に善戦できるとは到底思えないしヤツとの差は依然として縮まらないはず。

 

けど最も注意すべきはあの並外れたパワーと防御力、そして巨体に見合わない機動力だ。この際他はガン無視するとしてもあの機動力だけは何とかしないといけない。

 

「…………何か足止めする方法は」

 

その時、俺の頭の中に一筋の閃光が走る。

 

飛来する四つの剣閃が浮かび上がり、同時にそのイメージが勝利の鍵になり得ると直感した。レッドも同じようなイメージを見たのか焔を思わせる瞳を俺に向けている。

 

「ホワイト、今のって…………」

 

「うん。このオーラピラーってやつでいけると思う」

 

戦術アシスト機能、ヘルプフォルダという機能から頭に直接文字出力を送り出されて再生される。ある程度のイメージさえ浮かべればあとはシステムが自動で処理を行い、反映させるというかなりの優れものらしい。ということは、今の瞬間的なイメージはシステムが見せてくれたものだったのか。

 

「行くぜ!オーラピラー発動!!」

 

レッドが構えるブレイザーブレイドの炎がその色を一層濃くしたかと思うと、剣先に炎が渦巻くように凝縮され始め、やがてバスケットボール程度の大きさへと変化していった。レッドはブレイザーブレイドを上段に大きく振りかぶり、そして思い切り振り下ろす。

 

「いっけえええええええッ!!」

 

レッドの放った球体はリザドギルティ目掛けて一直線に飛んでいった。球体自体が銃弾のように回転することで推進力が増し、後続に伸びる真っ赤な閃光がアスファルトを焦がす。その速度は凄まじく、リザドギルティとの差を一瞬で埋めるほど。俺がやっとの思いで視認で来た頃には球体は既にリザドギルティの眼前まで迫っていた。

 

「ぬっ!?」

 

しかしリザドギルティはチートとしか思えない反応速度でそれを躱してみせた。

 

「なかなかいい球を投げるではないかテイルレッドよ!しかしこの程度の攻撃、既に読んでいたぞ!!」

 

「悪いが俺も読んでたぜ―――お前の行動をなッ!!」

 

レッドがブレイザーブレイドを横凪に振るった瞬間、リザドギルティに回避された球体が背後で爆散し、四方にばら撒かれた閃光が周囲を取り囲むように螺旋を描き始め、リザドギルティを中心に真っ赤な円柱が立ち上った。

 

そうか、これがレッドのオーラピラー。敵を拘束し、尚且つ柱の内側に閉じ込めるバインド能力なんだ。

 

「グウウッ!?おのれッ、今の技は砲撃ではなく拘束結界だったか!!やってくれるなテイルレッド!!だがこの程度でこの俺を止められると思ったら大間違いだ!!」

 

強引に腕を空に向けてかざすリザドギルディの頭上に、またしてもあのファンシーな人形たちが集結していた。しかしその数はさっきまでとは比べ物にならない量に増えていて、おそらくこの辺一帯にある人形を総動員させたのだろう。集結を確認したリザドギルティは再びその手を俺たちへと向ける。

 

「行けッ!我が秘奥義、『愛と勇気のパペットストーム』!!」

 

名状しがたいセンスの秘奥義名を厳つい声で叫ぶリザドギルティ。よくもそんな痛々しくてこっ恥ずかしい秘奥義を自身気に――――ってそんなことは今どうでもいいって!

 

気を取り戻した俺が再び空を見上げた時、とんでもない数の流星もとい人形が降り注いできた。

 

「お、おいおい嘘だろなんなんだよこの数はァ!?」

 

あまりの物的質量にレッドは顔を青くした。

 

その数は到底二人で捌ききれる量じゃないし回避しようにも範囲が広すぎる。しかもこのままじゃ周囲で倒れてる女の子たちにまで被害が出かねない。

 

(そんなことは絶対にさせない!!)

 

エクセリオンソードを強く握りしめた俺は、頭の中にもう一度四つの煌めく剣閃を思い描きながら流人形群へと突っ込む。

 

「ホ、ホワイト!?」

 

レッドの呼ぶ声が微かに聞こえるもそれすら置き去りにしてイメージを完成させることに集中した。そして―――、

 

「オーラピラー発動!!」

 

エクセリオンソードの刀身が激しく明滅し、それと同時に遥か上空で何かが煌めいた。その煌めきは瞬時に巨大化し、超高速で飛来する閃光は眼前に迫る人形を一瞬で全滅させる。そして辺りを満たす黒煙を払うかのように吹き飛ばし、その奥から姿を現したのは俺の身長ほどもある巨大な四本の剣だった。

 

これが俺のオーラピラー、閃光の如く空を駆け巡り全てを切り裂くオールレンジ型の遠隔操作武装だ。

 

俺はすかさず地上に立つレッドへ叫んだ。

 

「今だレッド!倒すんだ!」

 

「おう!!」

 

レッドが跳躍すると同時にブレイザーブレイドの炎が巨大化し、各部の装甲のスリットから炎が溢れんばかりに漏れ出す。

 

「これで終わりだアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

炎を纏う剣と化したレッドは凄まじい気迫と共に業火に包まれたブレイザーブレイドを振り降し、リザドギルティは頭から一刀両断された。

 

「ぐあああああああああッ!?ば、馬鹿なああああああ!!?」

 

荒ぶる炎が静まったレッドの隣に着地した俺は、二人でリザドギルティの最後を見届けるためその場に留まる。そんな俺たちにリザドギルティはどこか満ち足りた声で言った。

 

「ああ…………ついにここで俺も果てるか…………だがこれでいい。こうして最後にそのツインテールで俺を優しく包み込んでくれたのだ…………これ以上を望むのは欲が過ぎるというもの。長き戦いの果てに会い見えたのが貴様らで良かったぞ…………ツインテイルズ…………」

 

「お、おい!ちょっと待ってくれ!!」

 

息も絶え絶えというリザドギルティは途切れ途切れの言葉を紡ぎ、レッドは散り行く命を前に手を伸ばして叫んだ。

 

「…………フッ、テイルレッドよ。出会いとは別れと表裏一体、こうして出会った以上別れもまた必然。…………別れを惜しむなツインテールの戦士よ」

 

そしてついに最後の時はやって来た。

 

「さらば、美しき戦士たちよ!!」

 

漢は声のあらん限りに生涯の全てを込めて叫ぶ。

 

 

 

 

 

「幼女サイコォォ――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!」

 

 

 

 

史上最低な魂の叫び声だった。

 

「俺たちで妄想したまま勝手に死んでんじゃねえええええええええええええ!!!!!」

 

こうして記念すべき俺たちの戦いは心に多大なダメージを受けて幕引きとなるのだった。

 

 




後半がかなり早足になってしまいました。悪い癖です………。

次話はできるだけ早く投稿できるよう努力します!というわけで次回はヒロイン3人によるカオスパートですね!

では!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『次元を渡り歩く痴女』

リザドギルティとの激戦を勝利しなんとか総二の実家に辿り着いた俺たち一行。

 

トゥアールの認識攪乱によって無事に辿り着けたはいいものの、着いた頃には日が沈み始めようかという夕方。辛くも勝利を収めた俺と総二ではあったが、想像を絶する変態との戦いは予想以上に俺たちの体力を奪っていた。

 

途中で唯一元気溌剌としていたトゥアールは愛香と純の手によって松葉杖と化し、肩を貸すという行為に新たなレパートリーが生まれた歴史的瞬間の目撃者となったが、残念ながら疲労困憊の俺たちにはそれを祝福する力すらなかった。

 

しかし、やっと戻ってこられたという安息の時間もつかの間、新たに浮上したある問題を前に俺たちは喫茶店の裏口で緊急会議を開く羽目になっていた。

 

「まずいな…………やっぱり母さんが帰ってきてる」

 

そう、その問題とは総二の母・未春さんである。

 

諸々の事情を聴くためにトゥアールを連れてきたまでは良かったが、彼女を未春さんにどう説明するかが問題となっているのだ。いきなり接点もない美少女を堂々と連れて行くわけにもいかず、かと言って『異次元からツインテールを狙ってやってきた怪人を倒す為に力をくれた人なんです』なんて突拍子もない馴れ初めを話すわけにもいかないだろう。

 

なにより、

 

「まあッ!総二様のお母様が帰っていらっしゃるんですか?善は急げと言いますし早速ご挨拶を――――」

 

「せんでいいわァッ!!」

 

「ご両親よりも敷地への挨拶が先なんて固過ぎですうううううううううううううううッ!!?」

 

愛香の剛腕によって顔面から地面にご挨拶しているトゥアールを未春さんに会わせるのは少し危ない気がする。その懸念は総二も同じだったらしく、

 

「やっぱり母さんにはトゥアールのことを伏せておこう。…………というより母さんに会わせるのは色んな意味でまずい」

 

真に迫るような真剣な表情で作戦を立案する。しかしその一方で、

 

「でもどうやって連れて行く気?おばさんに気付かれないようにって言っても結構なリスクがあると思うわよ」

 

「た、確かに…………」

 

愛香の意見に俺はつい頷いてしまった。

 

彼女と知り合ってまだ二四時間も経っていないというのに、愛香の懸念しているリスクがありありと想像できてしまう。

 

しかし、かといって他に方法があるわけでもない。さっきまで使用していた認識攪乱はエネルギー切れで使えないみたいだし、ここは多少のリスクを踏んででも未春さんに気付かれぬよう侵入する他ないだろう。

 

そこで愛香が恐ろしいことを呟き始めた。

 

「いっその事バッグか何かに詰め込んでやろうかしら」

 

人差し指を顎に添えるという非常に女の子らしい仕草を取りながら、平然と猟奇的な作戦を口にする我が幼馴染。

 

…………おかしい。花の女子高生というのはもっとこう清らかな存在じゃなかっただろうか。俺のイメージ像では間違ってもこんな言葉を使っちゃうお転婆っ子ではない。

 

しかし現実とは常に非情なもの。第三者の介入によって俺の桃源郷は一瞬にして打ち砕かれる。

 

「…………愛香、ナイスアイディア。トゥアールそこに座って」

 

「何を言ってるんですか純さん、冗談にも程がありますよ~。確かに体の柔らかさには自信がありますけど、モノには限度というものがあるので手際よく梱包しないでくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!?」

 

我が軍最強武将の一人、純が愛香の思想に賛同してトゥアールを梱包し始めてしまったのだ。

 

同時に俺の中の『花の女子高生像』は大気圏を超え、太陽系すらも通り抜けて遥か宇宙へと飛びだってしまう。

 

さようなら輝かしい青春、ようこそ混沌の世紀末。人の心というのはこうやって荒んでいくのだろう。

 

「ちょっと二人とも、いつまでも遊んでないで早く行くわよ」

 

後ろから愛香に声をかけられ、黄土色の荒野と化した世界から現実に引き戻される。振り向いてみると総二が裏口のドアに鍵を差し込んでいる姿が見えた。慎重に行動し過ぎているせいかピッキングを試みている空き巣に見えてしまう。

 

「…………よし、鍵は開いた。それじゃあ行くぞ。母さんにはバレないよう、そっとな」

 

まずドアを開けた総二が先手を切り、次に俺、愛香という順で潜り抜けていく。しかし四番手に差し掛かったところで俺たちの危惧していたことが現実となる。

 

「いやあ、とてもいい裏口ですねえッ!この木目の柱のデザインなんか―――デュフゥッッッ!?」

 

突如として自宅訪問番組のリポーターと化したトゥアールの両脇腹に、愛香と後ろに控えていた純が流れるような無駄のない動作でコンマ一秒のズレもなく同時に肘鉄を突き刺す。

 

必殺仕事人もかくやと思わせる二人の活躍によってホッと胸を撫で下ろす俺と総二。しかしアクシデントはこれで終わりではなかった。

 

「あら~、総ちゃん帰ってきたの?」

 

「―――――――――ッ!?」

 

未春さんに気付かれるという最も恐れていたことが起きてしまったのだ。

 

いつもならばここで普通に挨拶が出来るものの、後ろめたさがあると判断が鈍るのが人間というもの。しかもトゥアールというとびきりの隠し事を抱えている俺たちにとって、この不意打ちにも等しい未春さんの声は効果覿面だった。

 

「こ、こんばんはおばさん!愛香です!ちょっとおじゃましますねッ!」

 

「―――うおッ!?」

 

戸惑う俺たちを他所に愛香が大きな声で挨拶をしながら総二の腕を引っ張って台所に向かう。どうやら愛香が機転を利かせて未春さんの意識を逸らす作戦に切り替えたらしい。

 

その行動にいち早く気付いていた純がトゥアールを引っ張りながら俺にアイコンタクトを送ってくる。俺はそれに無言で頷き返し、愛香たちが未春さんと談笑している隙に階段を上って総二の自室へと急いだ。

 

◇◆◇

 

「そわそわ、そわそわ」

 

なんとかして当初の目標である総二の部屋に辿り着くことに成功した。純と俺も未春さんに軽く挨拶をしておき、紅茶やらお菓子をテーブルに広げたところで全員同時に脱力する。

 

「そわそわ、そわそわ」

 

なぜ友人の家に上がるだけでこんなにも緊張しなくてはいけないのだろうか。そう思うと紅茶を啜る度に今までの行動が馬鹿らしくなってきてしまった。

 

「そわそわ、そわそわ」

 

「うるっさいのよあんたッ!擬音を一々口に出すんじゃないわよ!!」

 

「なんですかもう。私と違って胸すら擬音がつかない程地平線だから怒ってるんですか?大丈夫です、そんなあなたにも擬音はちゃーんとありますよ。そうですねえ…………ゴリゴリとか」

 

「アンタの胸からその擬音が聞こえてくるまで磨り潰してやるわ」

 

「あああああああときめきよりも摩擦熱で胸がバーニングウウウウウウウウウウウウッッ!!!?」

 

部屋に入った時から寸分違わぬトゥアールの姿勢に業を煮やした愛香が鉄拳制裁を下した。

 

どうにも男の部屋が気になるのか、トゥアールはここに来た時からずっと辺りを見回しているのだ。もしかしたら異性の部屋に入るのはこれが始めてなんだろうか?

 

「…………それにしても随分元気、あの技で倒れなかったのはあなたが初めて」

 

「っと、言われてみればそうね、割と本気でブチ込んだのに。普通だったら二日は気を失う一撃よ」

 

さらりととんでもないことを口にする幼馴染たち。二日は気絶を強いられるような強烈な一撃を躊躇わず使える彼女たちに畏敬の念すら覚える。

 

一方、そんな少女たちの狂言を真正面から受けてもビクともしないトゥアールは、誇らしげにえっへんと大きな胸を突き出してみせた。

 

「ふっふ~ん。そりゃそうですとも、このトゥアールさんはその程度の攻撃で気を失う程弱くはありませんよ。これからいろんな経験を経て総二様と良人様のあつ~い洗礼をブチ込んで――――」

 

「…………私の洗礼を今ここでブチ込んでもいいよ?」

 

「もらうなんておこがましくてできませんねえHAHAHAHAHAHA」

 

純の瞳からスッと光がなくなると同時に、何かを言いかけたトゥアールは命の危機を察知したのかワザとらしく笑い始めた。

 

「それより本題に入ろうよ。時間だってそんなにあるわけじゃないんだし」

 

何故か背中に妙な寒気を感じたところで俺は慌てて本題へと話しを戻す。これ以上この二人にトゥアールの相手をさせていたら日が暮れるどころか明けてしまいそうだ。

 

「…………すみません、お恥ずかしいところばかり見せてしまって。お、男の人の部屋にお邪魔するのが初めてだったので、その、つい…………あはははっ」

 

と、照れたようにはにかみながらねぶるような視線でがっつりと室内を観察していた。…………女の子にとって男の部屋とはそんなに気になるものなんだろうか。言動と行動が噛み合っていない彼女に俺はそんな疑問を浮かべる。

 

「と、とりあえず落ち着いてきたところだし、そろそろ俺たちの状況について説明してもらえるかな」

 

「…………どうしよう、二人分の愛なんて私に受け止めきれるかな…………」

 

「そうだな。俺たちが貰った力とあのわけのわからない変態について聞かなきゃいけないことがたくさんある」

 

「…………ううん、挫けちゃダメよトゥアール。貴方ならきっとできるはず、これまでだってずっと頑張ってきたじゃない。さあ勇気を出してもう一歩踏み出さなきゃ…………!」

 

「話が噛み合わないとかそんなレベルじゃないわねこれ」

 

あまりに呆れすぎてツッコむ気すら起きない愛香。

 

(あ、あれ?おかしいな…………俺、ちゃんと日本語で話してたよね?)

 

愕然とするほど会話のキャッチボールが成り立っていない。投げたボールがことごとく場外ホームランとなってしまうという状況に俺は困惑せざるを得なかった。

 

すると、突然トゥアールが佇まいを直し真剣な表情で正面を向いた。

 

「オホン、では前座はこれぐらいにして本題に入りましょう。ですが、愛香さん純さん、お二人はお疲れでしょうし帰ってはどうですか?明日にでも書面にしてポストに投函しておくので」

 

「…………帰らない、私たちにも聞く権利はある筈。それとも―――居られると困るようなことでもある?」

 

カクン、と糸が切れた人形のように首を傾げる純。その姿を目にした俺の背中は再び悪寒に襲われ、急いでトゥアールとの間に入り込む。

 

「ほ、ほら。二人ともあの場に居たわけなんだし、この場で説明を聞く権利はあると思うよ」

 

「むう…………良人様がそこまで仰るなら仕方ありませんね。と・く・べ・つにそこのお二人も同席することを認めます。いいですか、と・く・べ・つですからね!本来なら同席なんてもっての外ですが良人様のおかげでここに座れているんです。そのことを重々承知して――――」

 

「早よ説明せんかい!!」

 

「ぎゃあああああああ骨格成型はお呼びじゃありませんんんんんッ」

 

再び大噴火した愛香が獲物を狩るが如く目にも止まらぬアイアンクローを繰り出し、トゥアールの顔が万力のように締められていく。

 

程なくして愛香の手から逃れたトゥアールはやれやれ、といった具合でポケットから小型端末を取り出しテーブルの中央に置いた。

 

「…………全くこれだから節操のない蛮族は困るんです」

 

「何か言ったかしら?」

 

「さあてそれではまずテイルギアから説明致しましょうかスイッチオーンッ」

 

ボソッと何かを呟いたトゥアールに愛香が無言で手を見せると、捲し立てる様に物凄い勢いで端末を起動させた。

 

すると何もない空間に画面が立体投影され、テイルレッドとテイルホワイトの全身図が映し出される。各部に名称とそれに関する簡潔な説明文も書かれていた。

 

「おお、なんか近未来っぽくていいな」

 

身を乗り出して興味深そうに未知なる立体投影装置を観察する総二。その姿は新しいおもちゃを見つけた子供のように見える。かくいう俺もこのオーバーテクノロジー感に興味津々なんだけどね。

 

「さあさあ場の雰囲気も乗ってきたところで説明を始めますよお!」

 

こうしてトゥアール教授によるテイルギア大説明会が始まったのだった。

 




お久しぶりです。

約一年ぶりの投稿となってしまって本当に申し訳ありません。

スランプからの脱却になんとか成功しましたので投稿を再開したいと思います!

重ね重ねご迷惑をお掛けしますが、俺ポニを今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『次元を渡り歩く戦士たち』

皆さまお久しぶりですm(_ _)m

大分遅れてしまいましたが今回はアルティメギルサイドのお話しです!


―――――エレメリアン。

 

それは属性力(エレメーラ)と呼ばれる強大な力が生み出した負の産物である。かつて属性力によって凄まじい発展を遂げたある世界がその存在を生み出してしまったのだ。

 

精神という目に見えぬ概念が結晶化し、自我と肉体を得たソレは、ありとあらゆる生物から存在そのものが逸脱した未知の生物である。

 

そして属性力を核とする彼らの食料は人間の持つ精神――――他の生物が持ち得ない強大な属性力だった。

 

エレメリアンは人間から属性力を奪う過程で人間の文化を取り込み、集団という一つの生物として機能する頃には人類の文明など歯牙にもかけぬ技術力を有していた。

 

そうしてエレメリアンは人智を超えた技術と組織力を武器に、次元を渡って属性力を奪い始めたのだ。

 

そして意のままに属性力を搾取する彼らはいつしかこう呼ばれるようになっていた。

 

 

 

 

次元を渡り歩く異形の軍勢―――――アルティメギルと。

 

 

 

 

◇◆◇

 

「先行した部隊が姿を消したというのは本当なのか!?」

 

「ハッ。つい先ほど地上への斥候(せっこう)を向かわせたのですが部隊の姿は見当たらず。何者かと交戦した跡が見受けられ、さらにリザドギルティ様が愛用していたぬいぐるみが発見されております」

 

声を荒げながら立ち上がったのはバクのような姿をした異形の存在だった。そして動揺を隠せずにいるその者に対して冷静に答える者もまた異形の存在。

 

「状況から察するに全滅………もしくは壊滅的なダメージを受けて一時的に姿を隠したか」

 

「よもや己の欲望に憑りつかれて任務を放棄したのでは?」

 

「馬鹿な!それこそあり得ぬ話であろう!確かに己の欲望に忠実な男ではあったが、それ以上に我らの本懐を叶えようと獅子奮迅していたではないか!!」

 

「ではこの状況を卿はどう説明するつもりだ!?この星の者に敗れたとでも言うつもりか!?」

 

円形の重厚なテーブルを挟んで異形の者たちは怒声を上げる。

 

一面鈍色で覆われた異質な空間、言うなれば企業の会議室とでも表すべき場所には姿形がとても印象深い個性的な面々が集まっていた。

 

ある者は神妙な表情で押し黙り、ある者はやり切れぬ複雑な感情を滲ませ、ある者は携帯ゲーム機に熱中している。三者三様の反応を見せるその空間はまさに人智を遥かに超えた異界と言っても差し支えないだろう。

 

それもその筈、この場所はツインテールを求めて進軍し続ける異形の戦士――――アルティメギルの拠点なのだから。

 

とはいえこの場所がアルティメギルの総本山というわけではなく、各部隊に手配された移動型の大型母艦である。

 

現在その艦内では、先行部隊として出撃したリザドギルティ率いる特攻部隊の行方が掴めず、慌ただしい雰囲気に包まれていた。

 

撤退したのか、逃げ出したのか、もしくは壊滅したのか。様々な憶測が飛んではその度にその数だけ怒号が返ってくる、現状を把握しきれていない彼らはそれを繰り返す他なかった。

 

しかし。

 

「皆の者、静まれいッ!!!!!」

 

広大な艦内全てに響くのではないかと思うほどの一喝が部屋に響き渡り、たったその一言で喧騒に満ちた艦内は静けさを取り戻した。

 

全員の視線の先に立つのは竜騎士のような厳かな姿をしたエレメリアン。周囲の者たちとは明らかに一線を凌駕する威圧感を身に纏い、牙の並んだ獰猛な顔は自信と誇りで満ち溢れている。

 

「……ドラグギルティ隊長、戻られていたのですか」

 

「これほど事態が大きくなれば嫌でも戻ってくる羽目になる」

 

想定外の状況に狼狽する部下たちを見回しながら、金属板の床を打ち鳴らしてただ一つ空けられた席の前に立つ。

 

「皆に報告しなければならないことがある。リザドギルティの件についてだ」

 

その名を口にした瞬間、集まる面々の表情が険しくなり室内はさらに静けさを増す。ドラグギルティはそんな部下たちを見渡した後、意を決したように言葉を紡いだ。

 

「特攻部隊は全滅、部隊長であるリザドギルティは――――――名誉の死を遂げた」

 

『―――――――――――ッ!!?』

 

静かに語った言葉は部隊全体に大きな衝撃を与えた。同時に周囲がざわつき始め、幹部の一人が信じられないという表情のまま椅子から立ち上がる

 

「そ、そんなことがあり得るのですかドラグギルティ隊長!?リザドギルティ殿はあなたの―――――」

 

「言わずともわかっている。リザドギルティは我の一番弟子、その強さは誰でもなく我が一番よく知っている。つまりは、我が弟子を打ち破るほどの戦士があの星には存在したというわけだ」

 

「戦士………もしや観測にあった強大なツインテールなのでは?」

 

幹部の一人が立てた予測に多くの者がその可能性を示唆し始める。しかしドラグギルティはあくまで首を横に振った。

 

「いや、リザドギルティを打ち破るほどの属性力があることは確認できたが、それだけで判断するのは流石に早計だろう。いずれ手にするとはいえ、この件に関してはもう少し慎重に動かねばならん」

 

そう言いつつドラグギルティは控えさせていた部下に指示を出し、部屋前方に備え付けられた大型スクリーンにある画像を映し出させる。

 

「これは先の戦闘で戦闘員が消滅寸前に残した記録映像だ。そしてこの二人がリザドギルティを倒したと見て間違いないだろう」

 

そこに映し出されていたのは変身後の良人と総二、テイルホワイトとテイルレッドの二人だった。

 

瞬間、周囲の騒めきが一層濃くなる。主に感嘆の声で。

 

「これがリザドギルティ殿を打ちとった者か………なんという気高きツインテールなのだ………!!」

 

「まさかこれほどのものだったとは。これほどのツインテールが二人も並んだならば全滅も頷ける」

 

誰もが二人のツインテールを見て大きく頷く。この画像を見てなにをどう納得できるかなど人には到底理解できないだろう。

 

「我々の目が曇っていたということですな、ドラグギルティ隊長」

 

「ふっ、耳の痛い話ではあるがな。所詮事前の情報など表層だけを写し取った仮初に過ぎん。文明のレベルに見合わぬ進化を遂げた戦士は今まで何度も見てきたつまりだったが、情報にかまけて胡坐をかいてしまった我もまだ修行が足りんと言うわけだな」

 

自嘲気味に笑うドラグギルティは再び二人の姿を両の瞳に映す。

 

(しかしこの幼女と少女、どこかで会い見えたような気がするが………)

 

だがその思考はすぐに終了した。稀に見る本物の強者だけが持ち得るこのツインテールを一度でも見たならば忘れるはずがない。

 

しかし記憶の奥底で何かがチリチリと燻っているような感覚は残ったままだった。

 

(なんなんだこの違和感は。何かを見過ごしているとでも言うのか………?)

 

モニターに映る赤と白のツインテールを凝視しても答えは浮かばない。それどころか謎は深まる一方で、考えれば考えるほど深みにはまっていくような気させしてくる。

 

一方でその他のエレメリアンといえば、

 

「よし、画像の全方位コピーが取れたぞ!これを今すぐ企画部のメインサーバーに転送するんだ!」

 

「同人誌監修はこちらの部隊が引き受ける!フィギュアの制作はそちらの部隊に任せても大丈夫か?」

 

「ああ任せろ友よ。よしお前ら、今の聞いたな!データが各PCにアップロードされ次第作業に取り掛かってくれ!」

 

胸中の違和感に疑念を浮かべるドラグギルティを他所に、周囲は同人誌とフィギュア制作に取り組み始め、先ほどとは違う意味で慌ただしい空気になっていた。

 

「なぁ!?貴様ら、我を置いて勝手に話を進めるとは何事か!!我の仕事もきちんと空けてあるんだろうな!」

 

先の威厳はどこへ行ったのやら、流れに乗り遅れまいとドラグギルティもその輪に参加する。

 

武骨な姿をした怪人たちが同人誌やフィギュアの制作に勤しむ姿はまさにシュールである。

 

しかし、そのシュールさとは裏腹に部隊の結束はより強固なものへと変化しているのは確かだった。霞んでいた各々の闘志が炎の如く輝きを取り戻しつつある。

 

「我らはアルティメギル先遣部隊、不可能など我々の前には存在などせん!!この作品を完成させた後、この世界のツインテールは我らの手中に収まるだろう!皆の者、心して作業しろ!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ………………!!!!!』

 

そこには一切の迷いも見えない、高潔な戦士たちの雄叫びが響いた。

 

 

 

 

次元を渡り歩く異形の軍勢―――――アルティメギル。

 

それは属性力が生み出した負の遺産であり、いずれ人類を破滅に誘うであろう最悪の存在――――――と語られている。




短い上に文章の構成がかなり原作寄りになってしまいました…………。

それとお気に入り件数が100件を超えました!登録してくださった方々、ありがとうございますm(_ _)m

不定期ではありますが今後とも更新頑張らせて頂きます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。