女性憲兵提督の無人島鎮守府記 (休日ぐーたら暇人)
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1 提督が鎮守府に着任しました!

初めまして、作者の休日ぐーたら暇人です。
艦これの他にもオリジナル戦記とか書きたいと思っていますが……まあ、先ずは慣れる事が先だな。
では、どうぞ。


「……ここの何処が鎮守府なの!!?」

 

 

私……能義崎歩弥(のぎざきあゆみ)は着任地を見て叫んだ。

砂浜から見えるのはジャングル……しかも、鎮守府とおぼしき建物も何も無い未開発の無人島である。

そして……ここが私の新しい『仕事場』であり『住処』だ。

 

 

「うん、これは絶対に左遷ね。何にもしてない私を左遷したに決まってるわ」

 

 

「ですが、能義崎殿。能義崎殿は提督でありますよ?」

 

 

「あきつ丸、それは左遷の為の理由付けよ。だいたい、憲兵少尉をいきなり少佐よ? 戦死後の2階級特進の前倒しね」

 

私の秘書艦…と言うより相棒…のあきつ丸の言葉に反論する。

 

「それなら、3階級特進はおかしいのでは?」

 

 

「そんなもんよ。それに大尉で提督にはなれないし…まあ、何でもいいわ。早く準備よ、準備!」

 

 

「了解であります。能義崎殿」

 

敬礼をしながらそう言うとあきつ丸は浜辺に置かれた機材……主に通信機材を手早く上陸用舟艇から降ろしていく。

 

 

「はぁ…なんで憲兵の私を提督にするかな…上は…」

 

そう呟きながら能義崎は空を見上げた。

 

 

 

数年前に突如現れた敵……深海から遣って来たと言われた為、『深海棲艦』と呼ばれた敵により、たちまち人類は海を抑えられ、島国である日本は存亡の窮地に立たされた。

そんな時、日本に突如現れた『艦娘』と『妖精』、そして、その双方を率いる『提督』達によって反撃を開始。少しづつではあるが確実に海域を確保していった。

そして、私…能義崎歩弥はその『提督』達を取り締まる『憲兵隊』に所属していた。

『提督』の中には『ブラック鎮守府』と言われる様に艦娘を酷使する者、あるいは艦娘によって性的欲求を満足させる者、艦娘によって不法的利益を挙げる者等々、後々に不適合とされる事案をおこす者がおり、その取り締まり・逮捕を主任務とするのが『憲兵』だった。

その『憲兵』の一員として提督の取り締まりにあたっていた私に提督への就任を告げる命令書が届き………何故か私は『憲兵』で『提督』になってしまった……。

 

 

「能義崎殿、通信機の設置、終わったのであります」

 

後ろで通信機を調整していたあきつ丸が言った。

 

 

「ありがとう。こちら、能義崎。横須賀鎮守府、応答願います」

 

 

『こちら、横須賀鎮守府の大束中将。そちらの通信を受信した。無事着任出来て何よりだ』

 

通信に応えたのは(提督としての)上官である横須賀鎮守府所属の大束義郎(おおつかよしろう)中将だった。

 

 

「はい。何事も無く現地に到着しました」

 

色々と含みながら能義崎が答えた。

 

 

『では、着任早々悪いが、さっそく島の周辺海域の哨戒と掃討を実施せよ』

 

 

「……はあ?(ちょっと待て。ここは無人島ですよ? 施設も何も無いよ? しかも、あきつ丸しか居ない状況で、出撃!?)」

 

能義崎のすっとんきょうな声に向こうの大束中将が答えた。

 

 

『むう、通信状況が悪いのかな? もう一度言うぞ。鎮守府周辺海域の哨戒と掃討を…』

 

 

「待って下さい! 此方にはあきつ丸しか居ない上に施設もありません! そんな中で出撃ですか!?」

 

 

『そちらのあきつ丸は実戦経験者と聞いている。まあ、問題は無いだろう。施設については後続の補給で順次整えていく。それまでの辛抱だ。以上、通信を終わる』

 

 

「ちょ、大束中将!? ちっ、切られた!!」

 

そう言って能義崎は受話器を通信機に叩きつけた。

 

 

「……これは困った事になったのであります」

 

 

「困った…なんて問題じゃあ無いわよ! 絶対に私を殺す気ね。本土に帰ったら真っ先に殺してやるわ!!」

 

 

「の、能義崎殿、少し抑えるであります」

 

 

「ふん!」

 

そう言って能義崎はその場にドカリと座る。

その時………

 

ガサゴソ…ガサゴソ…

 

近くのジャングルの中から物音がした。

 

 

「何者でありますか!!」

物音にあきつ丸はそう言って警戒態勢に入る。

艤装に搭載されている10㎝連装高角砲を展開し、構える。

能義崎も腰のホルスターから9㎜拳銃を抜き、安全装置解除し、初弾を装填、物音の方向に向ける。

 

ガサゴソ…ガサゴソ…ガサッ!

 

 

「あれ? 人が居たっぽい?」

 

 

「「…………」」

 

出て来たのは……白露型駆逐艦四番艦の夕立だった。

 

 

 

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2 出撃します!

プロフィール 1


能義崎歩弥 女性
(のぎざきあゆみ) 24歳
少佐(憲兵少尉)
所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

今作の主人公。
憲兵少尉であるが、提督拝命の辞令により、大束中将の南方方面分遣隊の一員として無人島鎮守府に配属を命ぜられた。
本人は何もしていないと言っているが、この憲兵隊に配属されてから3年間の間に数々の違法提督の逮捕・拘束に出動、真っ先に鎮守府へ乗り込む為、『斬り込み隊長』と同僚・先輩達からは言われていた。
違法提督には容赦がないが、普段は優しく面倒見が良い為、艦娘や妖精の新たな配属先を探したりしていた。
家事全般はそつなくこなせる。
家族は両親の他に幼稚園で保母さんをしている姉がいる。



あきつ丸 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊・(憲兵隊)

能義崎の秘書艦兼相棒。
とある一件で能義崎に助けられ、能義崎が預かる形で憲兵隊に配属された。
その後、能義崎と共に事案の解決や出動現場での深海棲艦との遭遇戦で活躍。
能義崎が提督となった際、その秘書艦として無人島鎮守府に着任した。


 

「じゃあ、いただきま〜す」

 

 

「「いただきます」」

 

 

能義崎、あきつ丸、そして夕立は合掌の後、持ってきていたレーションを開けて昼食をとる。

なお、メニューはビーフカレーとご飯、うどん。入っていた袋には皿代わりの容器が2つだ。

 

 

「能義崎殿、粗茶であります」

 

 

「ありがとう、あきつ丸。それで夕立さん?」

 

 

「ぽい?」

 

あきつ丸が水筒に入れていた粗茶を入れたコップを受け取り、夕立へ顔を向ける。

 

 

「なぜ、貴女はここに居るのかしら? この島は無人島で私達しか居ない事になってる筈だけど?」

 

 

「護衛任務の帰りに深海棲艦に遭遇して、ここまで逃げて来たぽい」

 

 

「そして、そのまま隠れていたわけでありますか」

 

夕立の説明にあきつ丸が頷きながら言う。

しかし、能義崎は疑問を持った。

 

 

「(それなら、所属している提督が戦死か行方不明で報告している筈よね…でも、最近は聞かないし…)ねえ、夕立。貴女の提督は?」

 

 

「私の提督さん? 提督さんは…」

 

夕立の言った名前を記憶の中から手繰り寄せ……溜め息を吐いた。

 

 

「どうしたでありますか?」

 

 

「う〜ん…夕立の提督、確か数日前に『物質の横領・横流し』とかで捕まってた」

 

 

「……あっ、何処かで聞いた名前だと思いましたが…そうでありましたか」

 

 

「あれ、だと、私って帰る場所は無いぽい?」

 

 

「ぽい、では無くて、確実に無いわね」

 

長期遠征から帰って来た時には提督が憲兵に捕まり、居場所が無くなっていた……と言う話は憲兵であればザラに聞く話であった。

 

 

「まあ、夕立に関してはウチで預かりましょう。そっちの方が今はいいだろうし…あきつ丸、海図」

 

 

「どうぞ、能義崎殿」

 

受け取った海図を拡げ、さっそく周辺海域哨戒のブリーフィングを行う。

 

 

「いま私達が居るのはこの島。そして、夕立も知っている通り、ここから数キロの海域にトラック鎮守府から南方の鎮守府への補給航路が通っている。この鎮守府はこの航路を守る為に出来たと言っても過言ではないわね。そこで、今回はこの島から補給航路までを哨戒してもらうわ。質問は?」

 

 

「はい、なんでこの島ぽい?」

 

 

「先程言いました通り、ここはトラック鎮守府と南方方面鎮守府の中間地点にあります。そして、この一帯は各鎮守府の限界警戒ラインの外側…つまり、空白海域なのであります」

 

 

「その空白海域を埋める為の鎮守府…それがこの島ね。まあ、今は何にもないけど…さて、さっそく出撃してもらうわ。夕立、あなた損傷は?」

「大丈夫ぽい! でも、弾薬と燃料が空っぽぽい」

 

 

「弾薬・燃料はありますので、補給出来次第、出撃するであります」

 

 

「わかった。では、お願いね」

 

 

 

暫くして……

 

 

「ねえねえ、あきつ丸」

 

 

「なんでありますか?」

 

燃料・弾薬の補給を終えた夕立とあきつ丸は2人で哨戒を行っていた。

そんな中、夕立があきつ丸に話し掛ける。

 

 

「あきつ丸は提督さんと付き合いは長いの?」

 

 

「まあ、長いと言えば長いでありますね。憲兵隊に居た頃ですから…あっ、そろそろ、補給航路であります」

海図を見ながらあきつ丸がそう言った矢先……

 

 

「航路上に敵ぽい!」

 

夕立の声に顔を上げ、指差す方を見ると駆逐艦クラスの深海棲艦が補給航路上をうろうろしていた。

 

 

「駆逐艦イ級1隻…夕立殿、自分が援護します。夕立殿が敵を撃破して下さい」

 

 

「了解ぽい!」

 

速度を上げる夕立を横目にあきつ丸は10㎝連装高角砲を向ける。

 

 

「距離よし、狙いよし…砲撃、開始であります!」

 

そう叫ぶと同時に10㎝連装高角砲が吼える。

砲弾は狙い通りイ級の手前に着弾する。

それに気付いたイ級は此方を見る。

だが……

 

 

「油断大敵…であります」

 

その言葉に合わせたかの様に次の瞬間、イ級の本体側面に夕立の12.7㎝連装砲から放たれた砲弾が直撃した。

 

 

「さて、とどめよ!」

 

夕立の脚部に設置された61㎝三連装魚雷発射管から酸素魚雷が発射された。

 

 

 

無人島の砂浜

 

 

 

「お帰りなさい」

 

イ級を撃沈し、哨戒を終えて戻ってきた2人を上着を脱いで作業をしていた能義崎が出迎えた。

 

 

「お疲れ様であります」

 

 

「お疲れさま〜」

 

 

「その様子だと損傷は負ってないみたいね」

 

 

「能義崎殿は夕飯の準備でありますか?」

 

 

「えぇ、ちょっとジャングルに入ってみたけど、自生している物があって助かったわ。芋とかあったし…夕飯は一工夫出来そうよ」

 

 

「提督さん、料理出来るぽい?」

 

 

「得意…って言う程でもないけど、自炊するくらいわね。あきつ丸、夕立と一緒に寝床を確保してきて」

 

 

「了解であります」

 

……そんなこんなで無人島鎮守府着任1日目が終了した。

 

 

 

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3 鎮守府整備

プロフィール 2


夕立 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(元佐世保鎮守府)
無人島で出会った艦娘。
元は佐世保鎮守府所属であったが、所属提督が憲兵に逮捕された為、能義崎が預かる形で無人島鎮守府所属となる。
あきつ丸ほどとはいかないものの、実戦経験があり、鎮守府の貴重な戦力である。



3日後………無人島

 

 

「やっと来てくれたでありますね」

 

 

「えぇ…一時はどうなると思ったけどね」

 

補給航路哨戒を続けていたいた能義崎達に昨日の夜、『必要機材と物資、艦娘1人を派遣する』と連絡があった。

そして、その連絡通り、機材・物資を積載した輸送船と駆逐艦と思われる艦娘が遣って来た。

 

 

「今日の晩御飯はご馳走ぽい?」

 

 

「夕立、それは早急だと思われるであります」

 

 

「そうね…ほら、新しい仲間が来たわよ」

 

能義崎の言葉通り、輸送船に同行していた艦娘が此方に遣って来た。

 

「陽炎型駆逐艦の黒潮や。よろしゅうな、司令はん」

 

 

「ここの提督の能義崎歩弥よ。まあ、何も無いし、新米だけどよろしくね」

 

 

「あはは…ほんまに聞いた通りの無人島やな…あっ、司令はんに会いたいって妖精はんがおるんやけど?」

 

 

「私に?」

 

そう言った時、黒潮の右肩に2人の妖精が登って来た。

 

 

「「御久シブリデス、能義崎少佐」」

 

 

「あなた達は…呉鎮守府の一件で助けた工厰長妖精とドック長妖精!」

 

とある一件で呉鎮守府所属の提督を捕縛した時、この2人とその下で働いていた妖精達は疲労困憊の状況だった。

何故なら、捕縛した提督の罪状が『ブラック稼働』……つまり、ブラック鎮守府に化していたからだ。

そんな状況だからこそ、捨て艦が当たり前の上、妖精達の扱いも酷かった。

そこで能義崎は自分が出来る範囲で妖精達に休養を取らせ、新たな配置先も探し出してあげた。

まあ、この時、何かの手助けになればと元提督の備蓄物資・資材から妖精達が幾らかちょろまかしたのも黙認したのだが…。

 

 

「2人共、あっちはいいの?」

 

 

「我々モ手持チブサタデシタカラネ」

 

 

「ソレニ、提督ノ事ヲ話シタラ快ク転属届ケヲ出シテクレマシタ」

 

 

「そうですか…でも、見ての通りの状況ですし…それにドックも工厰もありませんよ?」

 

 

「ソレハ我々ニ任セテ下サイ」

 

 

「餅ハ餅屋デス。ソンナ物ハ造ッテミセマスヨ」

 

 

「じゃあ、お任せいたします。さて、今日は出撃を止めて、鎮守府整備に掛かりましょう」

 

 

「「「了解や〜」ぽい」であります」

 

 

3人の返事を聞いて能義崎はさっそく作業に掛かった。

 

 

 

2時間後………

 

 

 

「ふぇ〜〜、穴堀ってキツいねんな〜」

 

スコップを地面に突き刺し、疲れた様子で黒潮が嘆いた。

 

 

「そうでありますか?」

 

その横で慣れた手付きでスコップで穴を掘るあきつ丸。なお、2人はイザと言うときの避難場所である防空壕を掘っていた。

 

「それにしても、寝床が擬装網を張ったテントって凄いな〜」

 

 

「陸軍では当たり前みたいなものでありますから」

 

 

「う〜ん、早よう宿舎建てなあかんな〜」

 

 

「それは言えているのであります…さあ、掘り進めるでありますよ」

 

 

「はいな〜」

 

……こうして2人は防空壕を掘り進めていく。

 

 

 

その頃………

 

 

「うわ……」

 

 

「妖精の力は聞いていたけど……凄いわね」

 

 

工厰長妖精・ドック長妖精が率いてきた妖精達が忽ち司令部とドック、宿舎を造っていく。と言っても司令部と宿舎は木材の小屋であるが…。

 

 

「ところで、ドックは何処にあるっぽい?」

 

 

「ドックハコノ近クニアル岩壁ノ洞窟内部ヲ整備シマス。マア、出撃口モ兼ネテマスガネ」

 

 

「地上施設はジャングル、出撃口やドックは岩壁の洞窟…正に離島の秘密基地ね。まあ、敵に存在バレると危ないし、当然と言えば当然ね」

 

自然を利用した鎮守府整備である。

 

 

「今日中に何処まで整備出来ますか?」

 

 

「宿舎トドックハ今日中ニ完成スル。司令部ト工厰ハ…明後日ニハ稼働出来ルナ」

 

 

「明後日か…まあ、ドックは早急に必要ですし、妥当な判断ね」

 

 

そもそも施設も何も整っていない状況だったのだから、これだけでも随分と改善している。

 

「施設整備はこれでいいとして…次は戦力ね。あきつ丸と夕立、今回加わった黒潮の3隻だと余りにも手不足よね」

 

幾ら後方地域とは言え、空白地帯を埋めるなら3隻では全く手が足りない。

 

 

「まあ、それは後で考えましょう…それより、鎮守府整備優先、優先」

 

ここは割り切って鎮守府整備に専念する事にした。

そして……3日後、施設の整備が終わり、鎮守府が本格的に稼働を始めた。

 

 

 

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4 初建造!

プロフィール 3

黒潮 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

能義崎の鎮守府に配属された新人艦娘。
横須賀鎮守府で生み出され、そのまま鎮守府に配属された。
その関西弁から鎮守府のムードメーカーである。


無人島鎮守府情勢
(配属時点)

能義崎歩弥 新米少佐
提督レベル1

あきつ丸 レベル25
夕立   レベル12

鉄鋼ーーー 燃料ーーー 弾薬ーーー ボーキサイトーーー



3日後……無人島内 司令部

 

 

司令部……と言う名の提督執務室…しかも、小屋……には能義崎、あきつ丸、夕立、黒潮、工厰長が居た。

 

 

「工厰も完成したし、そろそろ建造してもいい頃ね」

 

 

「そうでありますね。今の数ではいずれじり貧になるのであります」

 

 

「そやな〜、ウチも新しい仲間と後輩が欲しいしな〜」

 

 

「それで、提督さんの希望は?」

 

 

「まあ、駆逐艦と軽巡かな。水雷戦隊を組むにしても、軽巡が必要になってくるし」

 

 

「ワカリマシタ。2隻ガ建造可能デスカラ、一緒ニ済マセテシマイマショウ。デハ、投入資源ハ如何程ニ?」

 

 

「オール30と鉄鋼・弾薬・燃料60、ボーキ30の2つでお願いします」

 

 

「ワカリマシタ。デハ、期待ニ添エル様ニシテミマス」

 

そう言って工厰長妖精は工厰員妖精達を招集し、建造に入る。

 

 

「能義崎殿、あの数値でよかったのでありますか?」

 

 

「補給の心配があるんだから、今は節約しないとね。それに両方駆逐艦だったとしても、戦力が増えるのは悪い事ではないし」

 

 

「まあ、妥当判断やな〜」

 

 

 

暫くして………

 

 

「建造ガ完了シマシタヨ〜!」

 

工厰長妖精の声に4人は工厰の中に入る。中には右目に眼帯をした娘と夕立と同じ制服を着た娘が居た。

 

 

「僕は白露型駆逐艦の時雨。みんな、よろしくね」

 

 

「木曾だ。お前に最高の勝利を与えてやる」

 

 

「時雨〜、久し振りっぽい!」

 

それぞれの自己紹介が終わった直後、そう言って夕立が時雨に飛び掛かる。

 

 

「や、やあ、夕立、久し振りだね」

 

少し困惑しながらも、夕立の包容に応える時雨。

 

 

「……えーと、時雨と木曾ね。私がこの鎮守府の提督の能義崎歩弥。階級は少佐。まあ、無人島の鎮守府だから、余り期待は出来ないけど」

 

「無人島か…それは楽しそうだな」

 

 

「まあ、別に問題は無いかな」

 

どうやら、大丈夫のようだ。

 

 

「じゃあ、さっそく出撃…」

 

 

「あっ、ちょっと待って、司令はん」

 

 

「どうしたのでありますか、黒潮殿?」

 

 

「いやな、いま思たら、木曾はんと時雨はんの装備は主砲だけやねんけど?」

 

 

「……あっ…工厰長! 開発! 次は開発ね!!」

 

 

「……大丈夫なのか、これで?」

 

 

「工厰は今日稼働したばかりであります。これは仕方無いかと」

 

 

「……それは大変だったね」

 

時雨が苦労を察したのか、そう言った。

 

 

 

61㎝三連装魚雷発射管を装着し、海上を進む5人。

先頭が木曾、あきつ丸を殿、その間に夕立、黒潮、時雨が続く。

 

 

「敵を見付けた。どうやら、此方と同じ水雷戦隊だ」

 

先頭に居て素早く敵を見付けた木曾が皆に伝える。

 

 

「数はわかるでありますか?」

 

 

「えーと…駆逐艦イ級3、軽巡ホ級1だ。ホ級は俺の獲物だぜ!」

 

 

「まあ、ちゃんとしてくれれば良いのですが…」

 

 

「よし! 夕立、黒潮、時雨はイ級3隻! 掛かれ!」

 

 

「「「了解」ぽい」や〜」

 

 

「自分も戦闘を開始します」

 

そう言ってあきつ丸は10㎝連装高角砲を構えた。

 

 

 

 

「まあ、大きな怪我をせずに皆が戻って来てよかったわ」

 

戻って来た木曾達を見て能義崎が言った。

戦闘は敵を全滅させて勝利。損傷は黒潮、時雨が小破、木曾は中破に近い小破だった。

 

 

「まあ、木曾殿は積極的に撃ち合いを行ったからでありますが」

 

 

「何を言ってるんだ、俺に掛かれば余裕、余裕」

 

……艤装のあちこちにある被弾孔からブスブスと煙を挙げている木曾が言った。

 

 

「わてらは正直に苦戦したわ〜」

 

 

「けど、やっぱり実戦経験のある夕立とあきつ丸は違うね」

 

 

「ふっふ〜ん、夕立は強いぽい!」

 

 

「はいはい…3人はドックに入って。まあ、直ぐに出てこれると思うけど…それで、ちょっと早いけど昼食にしましょう」

 

 

 

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5 あきつ丸と提督の出会い

題名通り、あきつ丸と能義崎との出会い(昔)話です。
本日も午後に二作目投稿予定。


3日後……無人島 東側の岸壁

 

 

『木曾水雷戦隊』が初出撃し、その後2日間、午前・午後に分けて出撃を繰り返した。

そして、今日は休息日と言うことでお休みになり、5人は岸壁に座って魚釣りに興じていた。

 

 

「……釣れないぽい」

 

 

「まだ始めて20分も経っていないのであります。諦めるのは早いでありますよ」

 

 

「まあ、ボクも釣りは初めてだからね」

 

 

「まあな〜、ウチの蛸狙いやけど…木曾はんの狙いは?」

 

 

「もちろん、大物だぜ」

 

 

こんな会話を交わしながら5人は釣糸を垂らしている。

 

「ねえ、あきつ丸。あきつ丸に聞きたい事があるんだけど」

 

 

「なんですか、夕立殿?」

 

 

「あきつ丸って、提督と付き合いが長いって言ってたけど、どんな風に会ったぽい?」

 

 

「えっ、自分と能義崎殿の出会いでありますか?」

 

 

「それはボクも興味があるね」

 

 

「ウチもやな〜。木曾はんはどうや?」

 

 

「うーん、まあ、確かに言われてみれば気になるな」

 

4人の視線があきつ丸に集中する。

これにあきつ丸も応えない訳にもいかなかった。

 

 

「……まあ、隠す様な話ではないでありますし……あれは3年前の事であります…」

 

 

 

 

3年前……横須賀鎮守府 とある提督の工厰

 

 

 

「…う、あ……丸か」

 

 

「は…、こ……3……です」

 

目覚めたばかりで覚醒していない意識の中で途切れ途切れながらあきつ丸に会話が聞こえてきた。

 

 

「本当……、別の艦…が欲……ったが……ま…、…い。あ……へ送り……う」

 

 

「辻……、あ……は……まで儲……気……か?」

 

 

「君…甘…汁を吸っ……るじゃ……いか」

 

そう言いながらその提督はあきつ丸の顎に手を宛て、クイッと自分に向ける。

ボヤけている目が僅かづつはっきりと見えてくる。

その提督の顔は……厭らしくにやけていた。

途端にあきつ丸の背筋が寒くなった。初めてではあるが間違いない……この提督は『危ない』と。

しかし、目覚めたばかりの彼女は生まれたての子鹿同様、走って逃げる事など出来ない。

 

 

「さて、このあきつ丸を頼んだよ」

 

 

「はい。我々にとっても大切な『商品』ですからね」

 

悪寒によってはっきりとした意識により、明確に会話が聞こえる。

だが、そんな事はあきつ丸にとっては身の危険が迫っている事を教えるぐらいにしか役立っていなかった。

その時……突然、前の扉が乱暴に開かれた。

 

 

「辻少将! 貴方とそこに居る人身売買人を『艦娘の監禁・拘束』並びに『違法利益収得』の疑いで逮捕します!!」

 

腕に『憲兵隊』と書かれた腕章を着けた女性が叫んだ。

 

 

「ええい、小娘1人に今までの富を失えるか! 殺れ!!」

 

素早くあきつ丸が暴れても大丈夫な様に配置されていた部下8人が女性憲兵を半包囲する。

そんな状況下にも関わらず、女性憲兵はニヤリと笑うと腰のホルスターの拳銃でも折り畳み警棒でも無く、背中に背負っていた軍隊用携帯シャベルを取り出す。

 

 

「どっからでも掛かって来なさいよ。それともこっちから行こうかしら?」

 

そう言うやいなや近くにいた部下に突撃した。

構えていたアサルトライフルをシャベルの先端で撥ね飛ばし、柄で右頬を撲った。

周りにいた2人の仲間が女性憲兵にアサルトライフルを向けるが、1人は勢いそのままに顔面に柄をぶつける。

そして、もう1人に間髪入れず腹に柄を叩き込んだ。

大の男3人を瞬く間に叩き伏せた女性憲兵に誰もが目をみはる。

しかし、女性憲兵はその視線を気にする事もなく、次々に部下を制圧していく。

 

 

「ええい! 小娘1人に…おい、これを見ろ!」

 

最後の部下を叩きのめした女性憲兵に向かい辻少将が叫ぶ。

辻少将はあきつ丸の頭に拳銃を突き付けていた。

 

「おい! この艦娘が…」

 

どうなってもいいのか……と続く言葉を遮ったのは女性憲兵が投げた携帯シャベルだった。

投げられた携帯シャベルは辻少将が持っていた拳銃を撥ね飛ばして壁に突き刺さった。

 

 

「あっ…」

 

 

「加えて公務執行妨害です。拘束します!」

 

逃げようとする辻少将を床に叩き付けて拘束する女性憲兵。

 

 

「ひぃ!!」

 

女性憲兵に睨み付けられた人身売買人は慌てて逃げ出すが、部屋の外に出た瞬間、駆け付けて来た憲兵隊が人身売買人を拘束した。

 

 

「ふう、骨の折れる奴らね…あっ、あなた、大丈夫?」

 

目の前でおきた事態を呆然と眺めていたあきつ丸に女性憲兵が声を掛けた為、漸くあきつ丸も我にかえる。

 

 

「え、あっ…だ、大丈夫であります」

 

 

「そう、よかった。私は憲兵少尉の能義崎歩弥よ。あなたは?」

 

 

 

 

「……これが能義崎殿との出会いであります」

 

 

「「「「………」」」」

 

あきつ丸の回想を聞いた4人は唖然としていた。

 

 

「えっ、何かおかしかったでありますか?」

 

 

「い、いや〜、司令はんって、結構凄い人やな〜、と思ってな」

 

 

「あ、あぁ、提督が憲兵って聞いてたが…凄いな」

 

 

「そんな提督さん、見てみたいぽい」

 

 

「ボクも気になるな…そう言えば、その辻少将って何をしていたんだい?」

 

 

「後で能義崎殿に聞いたのですが、あの場で捕まった人身売買人と共謀し、風俗営業をしていたとの事であります。その風俗は……お察しの通りであります」

 

 

「「「「うん、同情も出来ない糞野郎だね」」」」

 

全員が頷きながら言った。

 

 

「それで、あきつ丸は憲兵隊に?」

 

 

「えぇ、預かる所がなかったので憲兵隊所属で能義崎殿とコンビを組んだのであります」

 

 

「ふ〜ん、あきつ丸は良い提督と出会ったぽい」

 

 

「そうでありますね…あっ、黒潮殿! 竿が引いているであります!」

 

 

「え、あっ! ほんまや!!」

 

 

「急いで巻け!!」

 

 

「かなり引いてるぽい! かなりの大物ぽい!」

 

 

「黒潮、巻いて巻いて!」

 

 

仲間達の協力で必死に巻いて釣り上げた獲物は……大物の鮪だった。

その後、入れ食い状態となり、その日は大漁だった。

なお、黒潮は蛸を釣り上げ、たこ焼きを作ったのは別の話である。

 

 

 

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6 護衛任務 前編

プロフィール 4


時雨 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

言わずもながらの駆逐艦娘のボクッ子娘。
無人島鎮守府の建造第一号であり、木曾戦隊の一員。


木曾 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

無人島鎮守府の建造第二号にして、初の軽巡洋艦。
夕立、黒潮、時雨(+あきつ丸)を加えた『木曾戦隊』戦隊旗艦。
なお、黒潮とは相性がいい。


数日後……無人島鎮守府 司令部(提督執務室)

 

 

「護衛任務…でありますか?」

 

 

「そう、護衛任務」

 

執務中にあきつ丸が持って来た横須賀鎮守府からの通信を見て話していた。

 

 

「トラック鎮守府から南方方面各鎮守府へ送られる資源・物資を輸送する輸送船団が通過するそうよ。その護衛が私達の任務」

 

 

「なるほど…では、今回も全力出撃でありますね」

 

 

「そうね……まあ、もう1つあるんだけど」

 

 

「もう1つ…でありますか?」

 

 

「えぇ、横須賀鎮守府から此処に護衛を兼ねて艦娘が配備される…みたい」

 

 

「……なぜ、不確実みたいな言い方なのでありますか?」

 

 

「通信内容も付け加え程度にそう書いてある程度だから、よくわからないのよ」

 

 

「そう言った事ははっきり書いて欲しいであります」

 

呆れた様に言うあきつ丸に能義崎は苦笑する。

 

 

「そうね……まあ、それは置いておくとして、護衛任務は確実よ。合流は1000(ヒトマルマルマル)…いいわね?」

 

 

「わかったであります。木曾殿達に伝えておくであります」

 

 

 

1000 合流海域

 

 

「そろそろ合流海域であります」

 

 

「あれじゃあないのか?」

 

旗艦を務めるあきつ丸の言葉に木曾が前を指差しながら言う。

指差した先には複数の輸送船とタンカー、そして、これを護衛する3人の艦娘が見えた。

 

 

「横須賀鎮守府南方方面分遣隊所属のあきつ丸であります」

 

 

「水雷戦隊旗艦の木曾だ」

 

合流したあきつ丸と木曾は軽巡とおぼしき艦娘に挨拶をする。

 

 

「軽巡洋艦、神通です。ただいまをもって神通戦隊は指揮下に入ります」

 

 

「わかりました。ところで神通殿の指揮下の艦娘は?」

 

 

「駆逐艦の綾波と潮です。2人共、来てください」呼ばれた2人の艦娘が神通の所へやって来た。

 

 

「う、潮です。よろしくお願いします」

 

 

「ごきげんよう。綾波と申します」

 

 

「以上2名が私の指揮下に居ます」

 

 

「潮殿と綾波殿ですね。わかりました」

 

 

「それで、神通達は俺達の所にそのまま配属か?」

 

 

「はい。命令書の方にもその様に…こちらは輸送船の積載リストです」

 

 

「わかりました。引き継ぐであります」

 

データリンクによって送られてきたリストを確認する。

 

 

「(やはり、公認鎮守府への補給は多いでありますね…これ程の補給があれば少しはマシでありますが……ん?)神通殿、このリストにある『栄養ビタミン剤』と言うのは?」

 

「えっ、普通にビタミン剤か何かでは?」

 

 

「そうでありますか…いえ、何も無いであります」

 

そう言ってあきつ丸は神通との受け継ぎを終える。

しかし……内心ではやはり、この『栄養ビタミン剤』が気になっていた。

 

 

(栄養ビタミン剤……これは人間用なのか、我々艦娘用なのか…非常に気になるであります……能義崎殿に連絡しましょう)

 

そう内心で呟きながら憲兵用の回線を繋いで能義崎へ連絡をとる。

 

 

『こちら、能義崎。あきつ丸、どうしたの?』

 

 

「はい、無事に輸送船団と合流出来たであります。ですが、ちょっと気になる事が…」

 

 

周りを気にし、声のボリュームを抑えながら手短に事情を話した。

 

 

『……確かに気になるわね。わかった、こっちで調べてみる』

 

 

「お願いするであります」

 

 

そう言ってあきつ丸は通信を終えた。

 

 

 

 

数時間後………

 

 

「ところで神通殿達はなぜ此方に転属を?」

 

 

「私は司令部からの命令です」

 

 

「私は南方と聞きましたので志願しました」

 

 

「転属願いを出したら…此処になりました…」

 

……三者三様の理由だった。

「あ〜、島は無人島だから、当分は大変だぞ」

 

 

「「「………」」」

 

「木曾はん、不安にさせたらあかんって」

 

 

「いや、事実なんだし…」

 

 

そんな会話を交わしていた時、それぞれ左右を警戒していた時雨と夕立から声が挙がった。

 

 

「左舷方向より敵航空機多数ぽい!」

 

 

「ソナーに感! 右舷より敵潜水艦複数!」

 

 

「敵ですか…しかも、海中と空…厄介で難しいですが、やるしかありません。神通殿達は潜水艦を、木曾殿達は航空機に対処するであります!」

 

 

「「了解!!」」

 

 

 

その頃……近くの海域

 

 

「……もう、矢駄。引きこもる」

 

 

「何処に引きこもるの?」

 

 

「こんな海の真ん中で引きこもる場所なんてないぞ」

 

 

「初雪、今の状況を理解しいや」

 

龍驤を旗艦とする浜風、長波、初雪の艦隊が海上を航行していた。

ただ……

 

 

「でも、流石に不味いね〜。このままだと、餓島の陸軍連中になっちゃうよ」

 

 

「燃料も弾薬も余りが怪しいです。どうにかしないと」

 

 

「……せやな…」

 

長波と浜風の言葉に龍驤は頭の帽子を深く被り直しながら考える。

その時、初雪が龍驤の肩を叩いた。

 

 

「龍驤、あれ、敵編隊」

 

 

「ホンマや…けど、目標はわてらやないな」

 

 

「だと、近くに味方が居る…わね」

 

 

「でも、今は近寄れない…味方であっても」

 

 

「わてらが見た物が物やしな……手が回っとる可能性は否定出来ひん……けどな…」

 

 

自分達の事情もあるが味方の危機を見てるだけでいいのか?……と言う問いには考える龍驤。

視線を3人に向けると3人の答えは決まっていた。

 

 

 

「……しゃあない。行こか!!」

 

 

 

 

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7 護衛任務 後編

予定の関係で今日投稿します。
午後には二作目を投稿予定。


暫くして……輸送船団

 

 

 

「やはり、航空機は面倒でありますね」

 

そう呟きながらあきつ丸は10㎝連装高角砲を撃つ。

時限信管で炸裂した砲弾により、敵機が墜ちていく。

だが、未だに多数の敵機が上空を乱舞していく。

 

 

「木曾殿、みんな無事でありますか!?」

 

 

「あぁ、夕立達も輸送船団も今のところ無事だ」

 

装備している25㎜機銃を撃ちながら木曾が答える。

実際、夕立、黒潮、時雨は搭載している12.7㎝連装砲で牽制を行っている。

 

 

「此方はよろしいでありますね。では、神通殿達は…」

 

そう呟きながら神通達の方を見る。

 

 

「爆雷投下!」

 

神通の指示で綾波と潮が次々に爆雷を投下する。

海中の爆雷が連続的に炸裂し、水柱が乱立する。

そんな中で、1ヶ所から油と破片が浮き上がる。

 

 

「敵潜水艦1隻撃沈しました」

 

 

「了解であります。ですが、敵潜水艦は…」

 

 

「魚雷複数! 輸送船に向かいます!」

 

あきつ丸の言葉を遮る様に綾波が魚雷接近を報せる。

あきつ丸が目を向けると自分達が使う酸素魚雷とは違う雷跡を残す空気魚雷が見えた。

そして、その予想進路を見て……素早く判断する。

 

 

「黒潮殿、輸送船に回避指示を!」

 

 

「了解や!」

 

黒潮は冷静に輸送船へ回避指示を出す。

しかし、その輸送船は何故か指示に従わず、そのまま真っ直ぐに進もうとする。

 

 

「なっ、気でも狂ったのか!?」

 

思わず叫んだ木曾の言葉の通りと言うべきか……当然の様に船体側面に2つの水柱が上がる。

 

 

「ちっ、手空きは救助を!」

 

 

「それは無理っぽい!」

 

あきつ丸の指示に皆を代弁するかの様に夕立が言った。

実際、木曾達は牽制射撃で手一杯だった。

 

 

「神通殿達は!?」

 

 

「すみません、敵潜水艦対応で一杯です!」

 

 

「ちっ!」

 

……あきつ丸が余りしない舌打ちを2度連続でする程に状況が悪かった。 ふと、上を見上げると艦爆があきつ丸に向かって降下しようとしていた。

 

 

「あきつ丸!!」

 

それに気付いた時雨が声を挙げる。

そして、敵急降下爆撃機が急降下爆撃に入ろうとした瞬間……何処からか現れた戦闘機が銃撃を仕掛け、たちまち爆散した。

 

 

「……あれは味方機?」

 

緑色の塗装に胴体の日の丸…零戦52型だった。

しかも、何処からか現れたのか、その数は増えていく。

 

「助かった…のか?」

 

 

「そう…ぽい?」

 

 

「せやな〜、とりあえず一息吐けるな〜」

 

 

「何を言っているんだい。先ずは救助作業だよ」

 

 

「そうであります。先ずは…」

 

 

『こちら、神通! 敵軽空母、並びに重巡を基幹とする艦隊が接近中!』

 

敵潜水艦を追い回していた神通達から連絡が入った。

 

 

「軽空母と重巡…今まで自分達を襲っていたのはこいつらでありますね」

 

 

「にしても、タイミングが悪いぜ。軽空母と重巡の艦隊だろう? あっという間に蹂躙されるぜ」

 

それを聞いてあきつ丸は顎に手を宛てて考える。

だが、それも考える必要はなかった。

 

 

『あっ、敵艦隊に急降下爆撃! 敵軽空母・重巡被弾、大破炎上中…雷撃隊がとどめの雷撃を敢行します!』

 

 

「敵艦隊の事は心配しなくてもいいようですね。木曾殿、救助作業に入るであります」

 

 

「了解だ」

 

 

 

翌々日……護衛終了海域

 

 

その後、何事もなく木曾達は受け渡し海域に到着した。

すると、1隻の船が近付いてきた。

 

 

「うわ…ちょっとうちら隠れさせてもらうわ」

 

 

そう言うと龍驤達はあきつ丸達の陰に隠れる。

 

 

「あれがそうでありますね」

 

 

「あ〜、面倒臭いな〜」

 

 

「まあまあ、司令はんが来れば終わりやさかい、ここは我慢やて、木曾はん」

 

あきつ丸達の会話をよそにその船は近付いてくる。

そして、甲板には提督と思われる男が立っていた。

 

 

「貴様が護衛部隊の指揮艦か?」

 

 

「そうであります。なにか?」

 

 

「私はラバウル鎮守府所属の服部少将だ。私へ配分される物資と資材の輸送船はどうした?」

 

 

「あぁ…その輸送船なら、提督殿の要らぬ指示のお陰で撃沈しました」

 

 

「なに!? またか!! それに『要らぬ指示』とはどう言う事だ!?」

 

 

「『艦娘の指示には従うな』…と言われた為、船長以下乗組員達は随分困っておりましたね。まあ、負債は提督殿に来ますでしょうが」

 

 

「貴様…まさか、物資も資材も沈めたのか!?」

 

 

「まあ、一部は回収しましたが…提督殿の一番欲しいのはこれでは?」

 

そう言って時雨が持っている木箱を指差すあきつ丸。

 

 

「それだ! 早く差し出せ!」

 

 

「それは……無理でありますね」

 

 

「なに!? 貴様、貴様の提督がどう…「なにか?」……はぁ!?」

 

 

いつの間にか服部少将の後ろに居た能義崎。

しかも、服部少将の周りは憲兵達が包囲していた。

 

 

「御初に御目に掛かります。彼女達の提督、能義崎少佐です。そして、服部少将。あなたを逮捕します」

 

 

「貴様! いきなり現れて逮捕だと!? どう言った権限で…「私は憲兵ですから」……憲兵で提督だと!?」

 

服部少将の言葉に素っ気なく答える能義崎。

 

 

「まあ、そんな事は後ででもいいでしょう。服部少将、あなたを『艦娘の強制動員』並びに『違法薬物使用』『権限私有』の疑いで拘束します。まあ、証拠品は時雨が持っていますしね」

 

 

ニコニコとしながら言う能義崎に服部少将は苦しい言い訳を始める。

 

 

「こ、これは私を嵌める為の罠だ! 誰かが私を貶める…「うるさいは極悪人! 我の悪行はしっかり見とるで!」…お前は龍驤!!?」

 

……まあ、それも龍驤の声で破綻した。

 

 

「我がわてらを騙して違法物資や薬物輸送をさせてたやろう! 薬物は艦娘に使う物やったしな!」

 

 

「だ、黙れ! おい、あの龍驤と高波達は脱走者だ! 早く捕まえ…「証言者は逮捕では無く、保護ですね」…貴様!!」

 

そう言って能義崎に掴み掛かろうとした服部少将を能義崎は軽く投げ飛ばし、甲板に叩き付ける。

 

 

「証拠は揃い、証言者も居る。更に本土の業者は昨日、憲兵隊が強制捜査に入りました。それに『公務執行妨害』の現行犯です。階級並びに権限を現時点を以て剥奪します。連れて行きなさい」

 

甲板で伸びている服部少将を憲兵達が無理矢理立たせ、足を引き摺りながら連行していった。

 

 

 

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8 後始末

……こんなタイトルでよかったのかどうか……。


プロフィール 6


神通 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

夜戦バカな姉とアイドル妹に挟まれて有名な川内型二番艦。
元は横須賀鎮守府所属のとある提督の指揮下であったが、補助要員的な扱いであった為、大束中将が分遣隊に編入させた。
神通戦隊の戦隊旗艦である。


綾波 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

第三次ソロモン海戦での活躍が有名な駆逐艦。
元は呉鎮守府所属提督の指揮下であったが、護衛任務にしか仕事が来ないので自ら南方方面分遣隊に志願した。


潮 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊


何故か胸の大きさをネタにされてしまう人見知りな駆逐艦。
元は舞鶴鎮守府所属提督の指揮下であったが、この提督(男)の視線が怪しいので転属願を出したら分遣隊に編入された。
史実の戦歴とは性格が反比例している。


1週間後……無人島鎮守府

 

 

護衛任務の騒動から1週間が経過した鎮守府は何事も変わらない日々を送っていた。

そもそも、服部少将の事はラバウル鎮守府の事である為、この無人島鎮守府にはまるで関係の無い事だった。

まあ、変わった事と言えば神通、綾波、潮が加わったぐらいなのだが…。

 

 

「能義崎殿、木曾殿達が帰って来ました」

 

 

「そう、帰って来たのね」

 

あきつ丸の報告に能義崎は立ち上がると執務室(と言うより執務小屋)から出て行く。

そして、木々によって上手く擬装された道を走り抜け、断崖近くにある地下埠頭入り口の階段を駆け降り、地下埠頭にたどり着く。

そこには木曾と黒潮、更に編入される事になった龍驤、浜風、長波、初雪の4隻が居た。

 

 

「久し振りやな〜、提督」

 

 

「提督のお陰で此方に着任する事ができました。ありがとうございます」

 

 

「提督は田中少将と同じ匂いがするね〜…楽しみだ」

 

 

「…初雪です。よろしく」

 

三者三様の反応だが、能義崎は微笑みを浮かべて受け入れる。

 

 

「あらためまして、この鎮守府の提督、能義崎歩弥です。4人の着任を歓迎するわ。よろしくね」

 

 

 

暫くして……執務小屋

 

 

 

「ところで、憲兵隊の方は何もなかった?」

 

 

「まあ、うちらは証言とらされたぐらいやから、何もなかったな」

 

 

「それより、よく私達を鎮守府に呼べましたね」

 

 

「それは能義崎殿が憲兵少尉だったからであります」

 

浜風の質問にあきつ丸が答えた。

 

 

「服部少将が出していた『脱走者捜索願』の件が役に立ったの。まあ、あの『栄養ビタミン剤』が危険薬物だったのを知ったから逃げた訳だけど、出されている以上は有効だからね」

 

 

「そこで能義崎殿は憲兵隊本部に『ウチの鎮守府で預かります』と具申したのであります。上層部もそれが都合が良かったらしく、あっさりと許可が降りたのであります」

 

「……上手く立場を利用したんやな」

 

 

「あら、恩人であるあなた達をこっちに編入するぐらいなら、別に立場を利用してもいいんじゃあない?」

 

 

「ふふーん、やっぱり、提督は他の提督とは違うね〜」

 

能義崎の手口に長波が感心し、あきつ丸は苦笑いを浮かべる。

 

 

「ところで資源の方は大丈夫なんですか? 私達が入ると一気に10人を越えてしまいますけど…」

 

浜風の問いに能義崎はニコリと微笑む。

 

 

「大丈夫。『臨時収入』もあったし、遠征で回収したりしているから、今のところは問題ないわ」

 

 

 

「臨時収入?」

 

 

「まあ、棚からぼた餅と言いますか…なんと言いますか…」

 

 

「実はな、撃沈された服部少将行きの輸送船からあきつ丸が証拠を回収する様に指示されてんけど、ウチらは証拠のついでに資源もちょこっと回収したんよ」

 

 

「「「……えっ!?」」」

 

黒潮の回答に龍驤達が当然の如く驚く。

 

 

「俺は止めたけどな…誰も聞かなかったけど」

 

 

「何を言うてるねん、木曾はん。その後、ウチら以上に熱心に回収してたやんか」

 

 

「あっ、お、おい、黒潮!」

 

「まあ、書類上は全て撃沈損失になってるから、別段問題は無いし、遠征でコツコツ貯めました、と言えば何も言えないわよ」

 

 

「……ちなみにキミら、どれ程パチリよったん?」

 

 

「えーと、燃料2060、弾薬2540、鉄鋼2240、ボーキサイト2670、開発資材20、高速修復液20…やったかな?」

 

 

「「「…………」」」

 

いや、盗み過ぎじゃあない?……と内心ツッコミを入れる3人。

 

 

「まあ、こんな無人島の鎮守府には補給の量は期待出来ない。だから、出来る事は何でもやる。今は畑もあるし、周りの海で釣りも出来る。自給自足がこの鎮守府よ。こんな鎮守府でごめんなさいね」

 

 

 

「え、あぁ、いやいや、そんな事あらへん! 提督はウチらの事をちゃーんとかんがえとるからな」

 

能義崎の呟きに龍驤が慌てて否定する。

 

 

「……何でもいい。早く自室に籠りたい」

 

 

「初雪、キミは空気を読みいや…」

 

空気を読んでいないであろう初雪に額に手を宛ながら龍驤が言った。

 

 

「あらあら、憲兵の監視で良く休めなかったのかしら…あきつ丸、みんなを宿舎に案内して。今日は早めに休んでもらいましょう」

 

 

「わかったであります。では、どうぞ」

 

そう言ってあきつ丸は龍驤達を案内する。

 

 

「木曾と黒潮はスクランブル待機。何かあっても直ぐに出れる様にね」

 

 

「「了解」や」

 

そう言って2人が退出する。

残った能義崎は事務仕事に取り掛かる。

何も無ければ……後は遠征に出て居る神通達の帰りを待つだけだ。

 

 

 

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9 現状維持? 戦力強化?

本日も午後に二作目投稿予定。


プロフィール 7


龍驤 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(元ラバウル鎮守府)

無人島鎮守府初の空母艦娘。
元はラバウル鎮守府所属の服部提督の指揮下であったが、例の一件で脱走、その後、無人島鎮守府所属となる。
出撃は遠征など裏方任務中心だったが、かなりレベルは高い。
装備航空機は零戦52型、彗星艦爆、天山艦攻。


浜風 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(元ラバウル鎮守府)

龍驤同様、例の一件で脱走した駆逐艦艦娘。
似た体型の潮とは反対の性格。
数回の戦闘経験があり、駆逐艦の主力戦力。


長波 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(元ラバウル鎮守府)

龍驤ら脱走メンバーの1人。
『前世』の記憶から、能義崎を『田中提督に並ぶ提督』と評価している。
彼女も数回の戦闘経験があり、(何気に)駆逐艦の中では新型である。


初雪 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(元ラバウル鎮守府)

龍驤ら脱走メンバーの1人。
今やその発言・行動等により引き込み(&ニート)キャラな駆逐艦娘。
しかし、与えられた仕事はキッチンこなし、脱走メンバーの中では龍驤に次いでレベルが高い。


2週間後………無人島近海

 

 

「これでとどめや!!」

 

黒潮の叫びと共に61㎝四連装魚雷発射管から4本の酸素魚雷が発射される。

黒潮の見越し射撃により発射された酸素魚雷は正確に敵軽巡洋艦に命中し、敵を轟沈させる。

 

 

「敵水雷戦隊撃滅。皆さん、現状の報告を」

 

神通の問い掛けに神通戦隊の面々が答える。

 

 

「ウチは無傷やで〜」

 

 

「浜風、異常なし」

 

 

「潮、怪我はありません」

 

「……初雪、敵弾がかすっただけ」

 

 

「そうですか…良かった…任務終了。帰投します」

 

 

敵水雷戦隊との戦闘を終えた神通戦隊は素早く撤退した。

 

 

 

1時間後……執務小屋

 

 

 

「…以上、こちらの被害は初雪の至近弾のみでした」

 

 

「そう、ご苦労様。ゆっくり…」

 

 

「提督、戻って来たぜ!」

 

神通の報告が終わったタイミングを見計らったかの様に木曾と龍驤が入ってきた。

 

 

「お帰りなさい、木曾、龍驤。そっちはどうだったの?」

 

 

「ウチらは重巡洋艦が1隻居ったけど、ウチの航空機と木曾戦隊の攻撃であっという間に撃滅したで」

 

 

「龍驤の航空攻撃は正確だからな。こっちも大助かりだぜ」

 

「ふっふーん、ウチを軽空母と侮ったらあかんで」

 

 

「まったくだ」

 

 

「その様子だと夕立、時雨、綾波、長波、それに資源も大丈夫そうね」

 

 

「おう、しっかり護衛して持って来たぜ」

 

 

「ご苦労様…あきつ丸、資源の量は?」

 

 

「鉄鋼7860、燃料8190、弾薬7970、ボーキサイト7030、開発資材120、高速修復液80…となっているであります」

 

 

「そう……」

 

そう言って能義崎は少し考える。

 

「……どうしたのでありますか?」

 

 

「…実はね…戦力を強化しようと思ってね」

 

能義崎の呟きに小屋に居た3人も能義崎に視線を向ける。

 

 

「なんや、提督? ウチらやともの足りんか?」

 

 

「違うわ。あきつ丸、ここ2週間の敵編成を言ってみて」

 

 

「龍驤殿達が就かれた直後は二個水雷戦隊が中心でありますね。ですが、1週間が経った頃から重巡洋艦がどちらかに配置され、更に最近はどちらも軽巡洋艦が2隻以上配置される様になったであります」

 

 

「つまり、提督は敵が戦力を強化してきている…と言いたいんだな」

 

 

「えぇ、木曾の言う通りよ。今は龍驤が居るし、木曾・神通戦隊で対応しているけど、何時まで維持出来るか解らない。なら、今の内に戦力強化を図りたい…と思ってね」

 

 

「そう言う事なら…私は賛成します」

 

 

「能義崎殿の事は信じております。自分も賛成であります」

 

神通とあきつ丸がさっそく賛成の意思を見せた。

 

 

「木曾と龍驤は?」

 

 

「…まあ、龍驤に頼りっきりって言うのも悪いしな、別にいいよ」

 

 

「うーん…なんか、ウチの出番が少のうなりそうやけど…正論やしな」

 

 

最終的に龍驤が賛意を示した。

 

 

「よし、じゃあ、建造に取り掛かりましょう」

 

 

「ちなみに何を作るつもりなんだ?」

 

 

「狙いは重巡洋艦。出来れば2隻は欲しいわね。まあ、運次第だから、どうなるかは解らないけど」

 

 

「では、さっそく工厰に行くであります」

 

 

 

工厰

 

 

 

「重巡洋艦2隻ノ注文デスネ?」

 

 

「はい。まあ、こんな注文をしても、どうなるかは工厰長達にも解らないのに…」

 

 

「イエイエ、我々ハ出来ル事ヲヤルダケデス。御希望ニ添エル様ニシテミマショウ。デハ、投入量ハ?」

 

 

「そうですね……両方とも、鉄鋼250、燃料200、弾薬200、ボーキサイト50でお願いします」

 

 

「了解デス。オーイ、仕事ダゾ!」

 

そう言って工厰長妖精は工厰員妖精達に招集を掛け、さっそく建造に取り掛かる。

 

 

「ところで重巡洋艦を配備した場合、どう言う編成にするつもりですか?」

 

 

「それはいま考え中。集中配備か、分散か…まあ、出来てみないとね」

 

 

「そうでありますね。あっ、工厰長殿、時間の方は?」

 

 

「ウーント…ムッ、片方ハ1時間、モウ片方ハ2時間ダナ。巡洋艦以上ノ艦種デアル事ハ間違イ無イナ」

「2時間…よし、執務でもしながら待ちましょう」

 

 

「わかりましたであります」

 

 

「じゃあ、俺達は歓迎の準備でもするか」

 

 

「そうやな〜、ある物で何とかしよう」

 

 

「そうですね。あまり浪費は出来ませんけど」

 

そう言って各々の準備を始めた。

 

 

 

2時間後………再び工厰

 

 

 

「どうも〜、初めまして、青葉です! 一言お願いします」

 

 

「鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

……青葉と鳳翔が建造されました。

 

「久し振りやな〜、鳳翔」

 

 

「あら、龍驤も居たの。他に空母は?」

 

 

「ウチとお姉だけや。それに人員の少ない鎮守府やし、さっそく『御艦の航空隊』も活躍出来るで」

 

 

「まあまあ…でも、龍驤が居るなら大丈夫ね。提督、改めて宜しくお願いします」

 

 

「えぇ、航空戦力が少ないので、頼りにしています」

 

 

「それでは提督! 何か一言!」

 

鳳翔とのやり取りを終えたのを見計らい、青葉が訊いてくる。

 

 

「青葉殿、少しうるさいであります」

 

 

「あ〜、騒がしいのが増えたな〜」

 

 

「これで大丈夫なのでしょうか?」

 

 

 

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10 ドロップ

「今になってドロップかい!?」とツッコミが入っても何もいえないな…。


無人島鎮守府情勢
(護衛作戦前)

能義崎歩弥 新米少佐
提督レベル10

あきつ丸 レベル27
夕立   レベル18
黒潮   レベル10
時雨   レベル10
木曾   レベル10

鉄鋼3180  燃料3120  弾薬3220  ボーキサイト2980


1週間後……鎮守府近海補給航路海上

 

 

 

「風向き…よし。航空部隊発艦!」

 

 

「お姉に続くで! 攻撃隊発進!」

 

鳳翔の弓矢と龍驤の召喚により攻撃隊が発進する。

龍驤は零戦52型、彗星艦爆、天山艦攻。鳳翔は零戦21型と99式艦爆の編成だ。

ただ、そこは有名な『お艦』の航空部隊。忽ちレベルは龍驤に追い付き、今や機体性能差など気にしない程になっていた。

 

 

「よし…みんな、お艦と龍驤の攻撃が終わり次第突入だ!」

 

 

「「「了解」」ぽい!」

 

 

木曾の指示に随伴の綾波、時雨、夕立が了解の意思を示す。

この間に鳳翔・龍驤の攻撃隊が攻撃を開始、重巡洋艦2、軽巡洋艦1、駆逐艦3の艦隊に襲い掛かる。 99式と彗星の急降下爆撃の直撃をくらい駆逐艦が轟沈、軽巡洋艦が傾く。

ここに龍驤の天山が雷撃を敢行し、急降下爆撃に気を取られていた重巡洋艦の横腹を抉る。

これでも重傷ものだが、ここに高速接近していた木曾戦隊が斬り込む。

本来ならこれを阻止する軽巡洋艦と駆逐艦は大破するか轟沈しており、止める者はいない。

 

 

「手負いものだが関係ないぜ! 砲雷撃戦始め!」

 

 

無傷の水雷部隊と重傷の残存艦……これでは結果など見えてしまう。

無論、深海棲艦側も使える兵装で抵抗するが、高速で動き、更に牽制砲撃が徐々に兵装を損傷させていく。

「……よし、全艦魚雷発射!」

 

木曾の指示に綾波、時雨、夕立が次々に魚雷を発射、酸素魚雷は敵艦に向け疾走する。

そして、向こうが魚雷に気付いた時、全てが手遅れだった。

 

 

「敵艦隊の撃滅、確認したっぽい!」

 

 

「皆さん、怪我はありませんか?」

 

 

「お姉とウチの航空部隊で怪我人無しや」

 

 

「あぁ、やっぱり鳳翔さん達の航空戦力は頼りになる」

 

 

「そうですね。航空隊のお陰で私達も暴れますし」

 

 

「ありがとう。鳳翔さん、龍驤」

 

 

……敵艦隊を撃滅した後でこんな会話を交わす鳳翔隊の面々。

その時、夕立が『それ』に気付いて声をあげる。

 

 

「ねぇ、龍驤。あれってなに?」

 

 

「ん、なんや?」

 

 

そう言って夕立が指差す方を見る。

先程の戦闘でちょうど旗艦と思われる重巡洋艦が沈んだ辺りが発光していた。

 

 

「あ、あれは……」

 

 

 

1時間後……無人島鎮守府 執務小屋

 

 

 

「以上、青葉の取材報告、終わります!」

 

 

「青葉殿、『取材』ではなく『出撃』報告であります」

 

呆れながら指摘するあきつ丸に青葉が「テヘペロ」と言いたげに舌を出す。

この場景に能義崎と神通は苦笑するしかなかった。

 

 

「じゃあ、資源取得任務は敵との遭遇戦闘はあったものの、敵を撃滅して無事に戻ってきた…と言うことね」

 

確認する様に能義崎が言うと神通が頷く。

それを確認し、後ろの壁に張り付けてある鎮守府担当海域の大海図に目を向ける。

海図には黄色、青色、赤色の磁石が付けられている。

分類は黄色が『着任前の深海棲艦確認場所』、青色が『着任後の深海棲艦確認場所』、赤色が『着任後の深海棲艦戦闘場所』である。

そして、海図は黄色が少なく、青と赤がほぼ同数と言ったところであった。

 

 

「見ての通りだけど、深海棲艦も知恵を付けてきたのかしら?」

「有り得るであります。深海棲艦は重巡洋艦クラスになると人型になるであります。空母ヲ級に関しては『人』でありますし」

 

 

「そうね…どちらにしろ、敵が補給路を狙い始めた事は確かだし、気を引き締めないとね…ところで神通、貴女の後ろに居る子は誰かしら?」

 

そう言って神通の陰に隠れる様に居る少女に声を掛ける。

 

 

「響だよ。その活躍振りから不死鳥の通り名もあるよ」

 

 

「実は先程の戦闘後に航行しているのを見付けてここに連れて来ました」

 

響の紹介の後、神通が付け足す様に言った。

 

 

「なるほど…じゃあ、彼女はドロップ…なのかしら?」

 

 

「そうだと思います」

 

ドロップ……発生例はまちまちだが、建造以外で艦娘が入手される手段だ。

ただ、ドロップの原理は深海棲艦や艦娘達同様解ってはいない。

ただ、ドロップにも2つあり、戦闘後に撃沈した深海棲艦から『再生』される例と過去に戦闘が起きた場所の付近を航行中に偶然出会う例がある。

まあ、後者は前者との再生時間的な差異でおきる事ではあるが、前記の事が有るからこそ、深海棲艦が過去に沈んだ船の怨霊である、と言う主張の根元になっている。

ただ、このドロップにも多少問題がある。何故なら、提督の中には深海棲艦によって家族等々を奪われた憎しみからなった者も居り、深海棲艦からの再生である事からドロップ組を捨て艦にする提督も数は少ないが居る事は居る。

また、ドロップがタダで入手する事から捨て艦にする者も居る………そんな事例を能義崎は何度か見ていた。

 

 

「わかったわ。神通、響さんを休ませてあげて」

 

 

「わかりました。失礼します」

 

能義崎の指示を受けて神通が響を連れて退出した。

 

 

「さてと…青葉、こっそり退出しようとしているけど、ちょっと話を聞きなさい」

 

 

「あはは……提督は鋭いですね〜」

 

神通に続いて退出しようとする青葉に声を掛けて阻止する。

 

 

「青葉、今は貴女が最上級者なのよ。その自覚はもってよね」

 

 

「わかってますよ〜。私だって伊達で重巡洋艦をやってる訳ではないんですから」

 

 

「それが心配なのであります」

 

青葉の返答にあきつ丸が困惑した様子で呟く。

その時、部屋のドアが乱暴に開いた。

 

 

「て、て、て、提督! 大変だ!!」

 

 

「落ち着きなさい、木曾。いったいどうし…」

 

能義崎の言葉が途切れたのは木曾の後ろから入って来た艦娘が原因だった。

 

 

「重巡洋艦の古鷹です。重巡洋艦の良いところを皆さんに知っていただければ嬉しいです。それと青葉さん、お久しぶりです」

 

 

「……あ、う、うん…久しぶり…」

 

古鷹にどぎまぎしながら応える青葉に能義崎は指示を出した。

 

 

「事情は後で聞かせて貰うわ。青葉、古鷹さんを宿舎に案内して」

 

 

「え、あ、でも…」

 

 

「命令よ♪」

 

 

「……わ、わかりましたよ〜」

 

 

 

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11 心中

さて、題名と内容があってるかどうか…。
本日も午後に二作目を投稿します。


プロフィール8


青葉 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊


良い意味でも悪い意味でも記者キャラが定着している(問題児)重巡艦娘。
無人島鎮守府ゆえにネタなど無いが、本人は気にせず島じゅうを駆け巡っている。


鳳翔 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊


艦歴から『お艦』キャラが定着している軽空母艦娘。
担当はやはり食堂厨房。出撃を調整し、鎮守府全員のお腹を満たしつつ、主に駆逐艦娘の世話をする。
龍驤とのコンビもあってか、メキメキとレベルを上げている。


1週間後……無人島鎮守府 宿舎

 

 

古鷹・響がドロップ編入されて1週間が経過した。

だいぶん昔の学校校舎の様な木造宿舎の廊下を能義崎は歩いていた。

 

 

「あら、古鷹。青葉を探しているの?」

 

 

廊下の向こうから初雪を連れて歩いて来る古鷹を見付け、声を掛ける。

 

 

「はい。部屋はもうもぬけの殻でした」

 

 

「あら…ホントに青葉には手が掛かるわ」

 

 

「…あの時もそうだった」

 

珍しく余り自分から喋らない初雪が言った。

なお、初雪が言う『あの時』とはサボ島沖海戦の事だ。

 

「初雪、今はいいけど、そんな事を言っちゃダメよ」

 

 

「……わかった」

 

 

「うふふ、あっ、青葉なら島のあちこちを回ってる筈だから…下手に探すと行き違うわ」

 

 

「わかりました。ありがとうございます、提督」

 

そう言って古鷹は初雪を連れて外へ行ってしまった。

 

 

「古鷹は大丈夫そうね。まあ、巡洋艦だから、当然かもしれないけど」

 

そう呟くと能義崎は再び廊下を歩き始めた。

 

 

 

 

「あら…スコール?」

 

暫くして食堂の方に足を向けて廊下を歩いている途中に雨音に気付いて視線を外に向ける。

 

 

「…小雨ね。洗濯物を干していなくてよかった」

 

まあ、洗濯物ぐらいなら乾燥室があるので少しくらいは大丈夫なのだが。

 

 

「あら、時雨。どうしたの?」

 

 

「あぁ、提督…いい雨だね」

 

能義崎が窓の外を見ていた時雨に声を掛け、時雨はそれに応える。

 

 

「ん…あぁ、いい雨ね。畑には最大の恵みね」

 

 

「そうだね…やっぱり提督はいい人だね」

 

 

「そうかしらね……こんな無人島鎮守府だと、嗜好品とかの調達なんて難しいし、遊ぶ事なんて出来ないし…本当に提督課業をやってるのかどうか…」

 

 

 

「そんな事ないよ。長波も言ってたけど、提督はボクらの事を信頼し、尊重して、しっかり守ってくれてるよ」

 

 

「まあ…元が憲兵だから…そうなっちゃうのよ」

 

 

「そのままであり続けてほしいよ。田中提督や西村提督みたいにね」

 

その2人の名前が出た時、能義崎は内心頷き、こう言った。

 

 

「時雨、誰か待ち人でも居るの? 私も出来る事はするつもりよ?」

 

 

「えっ、あ……それはちょっと…今の鎮守府だと迷惑だよ?」

 

 

「いいのよ。訊くだけなら幾らでも出来るし、計画を立てるのも提督の仕事なんだから」

 

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて…扶桑と山城、それに最上…この3人と会いたいな」

 

 

「なるほど…確かに今のこの鎮守府にはキツいわね。でも、そのお願いはしっかりと聞いたわ」

 

 

「ありがとう、提督。あっ、響、どうしたんだい?」

 

 

いつの間にか能義崎の後ろに響が居た。

 

 

「おはよう、提督、時雨……提督、時雨のお願い次いでに私のお願いも訊いてくれる?」

 

 

「さっきも言ったけど、出来る事はするつもりよ。それで、なにかしら?」

 

 

「うん…姉達とまた会いたいんだ」

 

「了解。正確に日時は示せないけど、その約束は守るわ」

 

 

「…ありがとう、提督」

 

 

「あっ、能義崎殿。此方に居られましたか」

 

 

「あっ、あきつ丸。どうしたの?」

 

 

「鳳翔殿が昼食の料理の味見をしてほしい、との事であります」

 

 

「鳳翔さんがね…わかった。雨がやんだら、午後から魚でも釣りにいきましょう」

 

 

「了解であります。時雨殿も響殿も御一緒に如何ですか?」

 

 

「いいのかな? 私達が行っても?」

 

 

「大丈夫でありますよ。鳳翔殿は怒りません。まあ、食べ過ぎには注意すべきではありますが」

 

 

「こら、あきつ丸…さて、行きましょう」

 

そう言って能義崎を先頭に食堂へと向かう面々だった。

 

 

 

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12 条件

……なんだか、クエストとその報酬の様な事になってしまったな。


1週間後……無人島鎮守府

 

 

「……それは本当ですか? はい! もちろんです! はい、はい! わかりました!」

 

そう言って能義崎は満足そうに電話を切った。

 

 

「どうしたのでありますか、能義崎殿?」

 

 

「うん、朗報と言えば朗報だけど…間宮が出張で此方に来てくれるそうよ」

 

 

「ま、間宮殿が!? あの、間宮殿でありますよね!?」

 

 

「えぇ…でも、ちょっと厄介な話も有るんだけど…とりあえず、みんなを呼んでくれる?」

 

 

「了解であります! 大変でありますよ! 間宮殿が来ますよ!!」

「……嬉しいのは解るけど…ちょっと騒ぎ過ぎね」

 

苦笑いを浮かべながら呟く能義崎だった。

 

 

 

暫くして………

 

 

「提督! 間宮さんが来るって本当か!?」

 

木曾を筆頭にあきつ丸が呼んできた鎮守府の面々が執務小屋に殺到して来た。

 

 

「えぇ、本当よ。間宮さんと補給の輸送船2隻が来るわ」

 

それを聞いて艦娘達は喜びの声を挙げる。

既に話題は間宮さんの作った料理の何を食べようかと言う事になり、仲間達と相談しあっている。

 

 

「みんな、静粛に…この間宮さんの派遣には交換条件があるわ」

「交換条件…ですか?」

 

 

皆を代表するかのように鳳翔が訊いてきた。

 

 

「えぇ、交換条件って言うのが……」

 

 

 

3時間後………補給航路付近海域

 

 

 

「はぁ…間宮さんのアイス……間宮さんのモナカ……間宮さんの…」

 

 

「綾波、あまり間宮さん、間宮さんと言うな」

 

 

「そうそう、そう言ってると、間宮さんが逃げるっぽい」

 

 

「それに今回の任務は潜水艦の討伐…難しいけど、不可能ではないよ」

 

綾波の呟きに木曾が止める様に言い、夕立がツッコミを入れ、時雨がホローに入る。

この光景を後ろで見ていた、あきつ丸と鳳翔。

 

 

「やっぱり、間宮さんのお菓子は人気ですね」

 

 

「まったくであります。自分も楽しみでありますが」

 

「あらあら…その交換条件が補給航路付近の通商破壊中の敵潜水艦部隊撃滅、と言うのはちょっと意地悪に感じますね」

 

 

「意地悪…なのでしょうかね? まあ、ご褒美が待っている、と思って、ここは気持ちを切り換えるであります」

 

 

「うふふ、その方が良いかもしれませんね」

 

そんな会話を交わしながら木曾戦隊は哨戒を続ける。

 

 

 

その頃……

 

「はぁはぁ……くそ…」

 

 

「…姉さん」

 

戦闘撃沈により『浄化』された深海棲艦から再生した重巡洋艦の那智・羽黒は逃げていた。

たまたま遭遇した駆逐艦4隻の艦隊と戦闘になった。

本来なら駆逐艦4隻の艦隊など簡単に蹴散らせる筈だった。

ただ、『2隻欠けている』事を気にするべきだった……そこに重巡洋艦と戦艦が現れた事が全ての答えだった。

 

 

「……羽黒、お前だけでも逃げろ」

 

 

「なにを言ってのる、姉さん! 今は…」

 

 

「お前は無傷だ! お前の足と運なら逃げられる! 私はここでくい止めるから、一刻も早くここから離れろ!!」

那智は敵戦艦からの射撃から羽黒を庇った為に大破していた。

故に那智は羽黒を逃がそうとしていた。

 

 

「そんな…姉さん! 嫌だよ! また別れるなんて嫌だよ!!」

 

 

「馬鹿者! こうしていては自滅…」

 

そう言った時、那智の耳にエンジン音が聞こえた。

自らを葬った存在ゆえに敏感だった那智……そのエンジン音が自らの上を飛び越え、その先に居る深海棲艦の駆逐艦2隻と重巡洋艦、戦艦に襲い掛かる。

 

 

 

 

「第二次攻撃隊発艦!」

 

そう言って鳳翔の矢が放たれる。

矢は99式艦爆に変化し、大空に舞って行く。

そして、99式艦爆は深海棲艦艦隊に空爆を仕掛ける。

 

 

「よし! 戦艦は俺の獲物だ! 重巡洋艦は任せた! 突撃!!」

 

木曾がそう命じると木曾は真っ先に突撃し、時雨、夕立、綾波は呆れながらも突撃する。

 

 

「鳳翔殿、支援は任せるであります」

 

 

「わかりました。お任せ下さい」

 

対潜哨戒の故に鳳翔は99式艦爆をガン積みしていた為、数は多く、命中率も良かった。

航空支援を鳳翔に託したあきつ丸は那智・羽黒に近付く。

 

 

「自分はあきつ丸であります。御二方、無事でありますか?」

 

 

「あ、あぁ…私は那智、妹の羽黒だ…ぐっ!」

 

損傷が響いたのか苦痛で那智が倒れる。

それをあきつ丸と羽黒が受け止める。

 

 

「これは…傷は深そうであります。羽黒殿、那智殿を曳航するであります」

 

 

「はい! 姉さん、もう安心していいからね」

 

 

 

……暫くして、戦闘は鳳翔の航空支援を受けた木曾達が全艦沈めた事で終了。

木曾達は那智と羽黒を護衛し、鎮守府へ帰還した。

 

 

 

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13 間宮来航

本日も午後に二作目を投稿します。


プロフィール9


古鷹 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊


ドロップ入手の重巡洋艦。
青葉と共に無人島鎮守府の主力として活動中。
なお、青葉は微妙に古鷹を避けている模様。


響 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊


無人島鎮守府初のドロップ入手艦。
どこか大人びいていて、どこか不思議で、どこか寂しがり屋な駆逐艦娘。
時々、ロシア語が出てくる。
今の目標は姉妹達との再会。


1週間後……無人島鎮守府

 

 

 

「みんな〜、間宮さん達が来たで〜!!」

 

外で沖合いを見張っていた黒潮がそう言って隊舎に入って来た。

それを聞いて朝から食堂で待機していた艦娘達が一斉に立ち上がり、浜辺へ走っていく。

それを執務小屋から見ていた能義崎の一言は……。

 

 

「まるで砂糖に群がる蟻ね」

 

 

「能義崎殿、その言葉は少しキツいでありますよ」

 

苦笑いを浮かべながらあきつ丸が言う。

無論、そんな事を言った能義崎もあきつ丸も間宮のスイーツを楽しみにしているのだが…。

 

 

「さてと…行きましょうか」

「はい。先ずは輸送船の補給品の荷揚げからでありますね」

 

 

「みんながブー垂れるかもしれないけど…さっさと終わらせましょう」

 

そう言って2人は執務小屋から出て行った。

 

 

 

3時間後………食堂

 

 

「間宮さんのアイス〜♪ 間宮アイス〜♪」

 

 

「モナカ! 俺のモナカは何処だ!?」

 

 

「木曾はん、アイス持ったまま走りよったら危ないで〜」

 

 

「……間宮スイーツ、美味しい…おかわり」

 

 

「初雪の笑顔って見たの初めてぽい!」

 

 

「まあ、余り感情を見せないからね、初雪は」

「ハラッショー、これは美味しい」

 

補給品を積載した輸送船からの荷揚げ作業を終え、皆が楽しみにしていた間宮さんの『間宮スイーツ』を堪能する面々。

その中には先日助け、そのままメンバー入りした那智と羽黒の姿もあった。

 

 

「……食べていいのか?」

 

 

「怪我人に必要なのはしっかりした食事と休養よ。時にはこんなスイーツを食べてもバチは当たりません」

 

「そうですよ、姉さん。さあ、食べましょう」

 

間宮アイスを前に訊いてきた那智に鳳翔がそう言って食べる様に促し、羽黒も背中を押す。

なお、那智は静養中。羽黒は那智の看護で出撃していない。

これは能義崎の指示であり、余り無理をさせない為の対策でもあった。

 

 

「今のところ、那智と羽黒は大丈夫そうね」

 

 

「はい。能義崎殿がドックを開けて待っていてくれたお陰であります」

 

間宮アイスと間宮モナカを食べながら2人は那智達を見ていた。

 

 

「まあ、貴重な戦力だし、傷付いた子を放ってもおけないでしょう」

 

 

「そうでありますね。まあ、那智殿はゆっくりと休養してもらうであります」

 

 

「えぇ…うん、さすが間宮モナカ。噂通りに美味しいわね」

 

……彼女も間宮スイーツを堪能していた。

 

 

その日の夜………執務小屋

 

 

「う〜〜ん…あ〜〜…疲れた〜〜」

 

昼間に間宮スイーツ、夕食は間宮フルコース(間宮さんの手作り料理)を食べた後、執務を開始し、漸く終わった能義崎は延びをする。

既に外は夜の闇が覆っていた。

 

 

「ふぅ…そろそろね」

 

 

そう呟いた時、小屋の入り口のドアがノックされた。

 

 

「どうぞ、間宮さん」

 

 

「失礼します。能義崎提督」

 

そう言って入って来たのは間宮だった。

 

 

「今日はありがとうございました。一時とは言え、皆が楽しめんでくれてよかったです」

「いえ、これも私の仕事ですから…今もお仕事ですけど」

 

……何か含みのある言い方に含みのある笑顔…それを気にせず能義崎は執務机の引き出しから報告書を取り出す。

 

 

「憲兵でも噂になっていましたよ。『間宮さんは各鎮守府の調査と特定提督の報告書の受け取りを行ってる』って」

 

 

「あらあら。でも、私は皆の笑顔が見れるのが嬉しいんですよ」

 

 

「わかってます。では、此方の方をよろしくお願いします」

 

 

「はい、確かに受け取りました。提督、上手く皆を纏めていらっしゃいますね」

 

 

「まだまだ半人前で色々と試行錯誤をしています。それに…私は憲兵ですから」

 

「大変ですね。提督」

 

 

「今は何処も大変ですよ。さて、明日は鎮守府から護衛を付けて帰還させますから、御安心下さい」

 

 

「えぇ、期待しています」

 

 

 

翌日昼頃、木曾を旗艦とした戦隊が間宮達を護衛し、トラック諸島へと向かった。

 

 

 

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14 秘書艦代行

那智と羽黒がメインになります。



間宮さん帰還の翌日……

 

 

 

「では、行ってくるであります」

 

 

「えぇ、気を付けてね」

 

 

「はい。では、朗報を待っていて下さいであります」

 

そう言ってあきつ丸は神通を基幹に潮、浜風、長波を引き連れて出撃していった。

なお、間宮達を護衛している木曾は黒潮、夕立、時雨、綾波を率いている。

 

 

「さてと…那智、羽黒。あきつ丸の代行で秘書艦業務を宜しくね」

 

 

「あぁ、まだ静養中だが、リハビリついでにやらせてもらおう」

 

 

「私も那智姉さんの看護で御迷惑を掛けたので、頑張りますね」

「意気込みはいいわね。まあ、無理はしないでね」

 

 

 

2時間後…………

 

 

「えーと、これが補給関連、これが戦闘報告書…これはなんだ?」

 

 

「それは…健康診断書みたいね」

 

 

「あぁ、なるほどな。提督、報告とその決済は以上だ」

 

 

「ありがとう…う〜〜ん…疲れた〜」

 

とりあえず、今ある執務仕事を終えた能義崎と那智、羽黒。

 

 

「……失礼だが提督。執務は毎日しているのか?」

 

 

「まあ、事務仕事なんて憲兵隊に居たときにさんざんしてたし、あきつ丸も慣れてたからね。毎日してたわよ」

 

「提督、お仕事は慣れてますね」

 

 

「まあ、慣れないと皆を困らせちゃうからね。さて、事務仕事が終わったら次に移るわよ」

 

 

「次の仕事…次はなんだ?」

 

 

「畑の世話よ」

 

 

「「は、畑の世話…」」

 

 

「そう畑の世話よ」

 

 

 

暫くして……鎮守府の畑

 

 

 

「まあ、家庭菜園程度なんだけど」

 

 

「こ、これが家庭菜園…程度なのか?」

 

 

「わ、私も解んない。姉さん」

 

草刈りをしながらそんな会話をする3人。

実際、畑は結構広い。家庭菜園なんて物ではなく、田舎の農家がやっている程度の広さがある。

しかも、ご丁寧にも擬装網を掛けて畑の場所を隠蔽していた。

 

 

「それと、この近くにはモヤシの育成壕もあるわ。後で育ち具合を見に行くけど」

 

 

「「……なんか、本当に自給自足なんだ」」

 

現状を聞いて姉妹でそんな呟きを呟く那智と羽黒だった。

 

 

 

お昼過ぎ………

 

 

「ほな、行ってくるで〜」

 

 

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

龍驤を旗艦に鳳翔、青葉、古鷹、初雪、響が周辺海域の哨戒で出撃した。

なお、6人が出撃した為、鎮守府に残っているのは能義崎と那智、羽黒だけだ。

 

 

「さて…龍驤達が戻るまでは自由時間ね」

 

 

「自由…と言われてもな」

 

そう呟きながら那智は腕を見る。

本来の彼女なら自由時間は自己鍛練に回すのだが……健康状態は知っての通りだ。

 

 

「なら、ちょっと頼める?」

 

 

「何をでしょうか?」

 

 

「それはね…今晩のおかずの確保ね」

 

そう言って能義崎は2人に釣り道具を見せた。

 

 

 

暫くして………岸壁

 

 

「……なあ、羽黒」

「なんですか、姉さん?」

 

釣糸を垂らしていた時、那智が羽黒に話し掛けた。

 

 

「うむ……この鎮守府が無人島にあって、不便だと思っていたが……案外、そうでもないな」

 

 

「……まあ、確かに物資的、余暇的に不便ではあるけど…そうかもね」

 

 

「あぁ…羽黒、私達は良い提督の指揮下に入れた様だ。ここなら、思う存分戦えそうだ」

 

 

「もう、姉さんったら」

 

 

「ん、あっ、羽黒! 竿が曳いているぞ!」

 

 

「え、え? あっ!?」

 

 

「私が釣り上げる! 羽黒は手伝ってくれ!」

「は、はい!」

 

……その後、那智と羽黒は20分の格闘の末、大物の鯛を釣り上げたのだった。

 

 

 

暫くして……食堂

 

 

「大物の鯛に…小魚が何匹か…小魚はいいとして、鯛は鳳翔さんと相談ね」

 

那智と羽黒による本日の戦果(釣りの結果)を見て能義崎はそう呟いた。

 

 

「ただいま〜、いま帰ったで〜」

 

そこにタイミング良く龍驤達が帰って来た。

 

 

「お帰りなさい、みんな。あら、新しい顔もまじっているの?」

 

出撃の時は6人居たのに、今は7人になっていた。

 

 

「はい。2度目の偵察部隊との交戦後に…さあ、弥生ちゃん、ご挨拶」

 

 

「初めまして、弥生です。あっ、気を使わなくていい…です」

 

鳳翔に促されて弥生が挨拶をする。

 

 

「よろしく…新しい子も入ったし…鳳翔さん、大物の鯛がありますけど、どうします?」

 

 

「鯛ですか……確かに良い鯛ですね。弥生ちゃんの歓迎も含めて今夜は豪華にしましょう」

 

 

「そうね…あっ、那智、お酒は禁止。今は静養・リハビリ中なのよ」

 

 

「い、いや、私は未だ一口も飲んでいないぞ」

 

 

「大丈夫です。姉さんは私が看ますから」

 

 

 

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15 上層部と鎮守府と前線

本日も午後に二作目を更新する予定です。
にしても……題名が適当過ぎる。


プロフィール10

那智 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

武闘派の妙高型二番艦。
浄化後、妹の羽黒と共に深海棲艦と交戦・大破したところを龍驤隊に助けられ、無人島鎮守府に編入される。
現在は無人島鎮守府の主力。


羽黒 艦娘

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

人見知りで気弱な態度で有名な妙高型四番艦。
那智同様、浄化後に那智と共に深海棲艦と交戦、龍驤隊に助けられる。
現在は無人島鎮守府主力。
なお、性格の似た神通や潮、意外にも初雪とも仲が良い。


2週間後……横須賀鎮守府

 

 

横須賀鎮守府の一角にある部屋の中に南方方面分遣隊を束ねる大束中将が居た。

そして、彼の手には間宮が能義崎より受け取った報告書があった。

その報告書はトラックから帰還した間宮から大束中将へ渡り、今はこの部屋の主に手渡された。

 

 

「これがラバウル鎮守府、服部少将の事案の報告、そして、こちらが無人島鎮守府の経過報告書です」

 

 

それを部屋の主の秘書艦である五十鈴に渡し、五十鈴は部屋の主……横須賀鎮守府元帥、東郷源治郎(とうごうげんじろう)元帥に渡された。

 

 

「御苦労。やはり、外周になるほど、統制の目は届き難いな」

 

「はい。ですが、あの娘の筋も中々かと」

 

 

「ハッハッハ、何も無い無人島からそれなりに使える鎮守府をつくりおったのだからな…憲兵隊に文句を言いたい程だ」

 

初老の元帥はその皺顔にまるで孫の成長を見るかの様な笑みを浮かべる。

 

 

「……僭越ですが、元帥。訊いてよろしいでしょうか?」

 

 

「ん? なにかね、大束くん?」

 

 

「はい。自分は元帥より『南方方面分遣隊』の統率役を仰せ遣い、提督業務と兼務してきました。そこで思ったのですが…本当に分遣隊の創立目的は『補給線の確保』なのですか?」

 

 

「……つまり、なにかね? 私が何か悪巧みを企んでいる、と言うのかね?」

 

 

「い、いえ、そう言う訳では…」

 

 

「……ハッハッハ、冗談だ、冗談。だが、今のところ、儂の予想通り、深海棲艦も補給線を狙い始めてきた。向こうも我々と戦う内に賢くなってきたな」

 

 

「そうなりますと…やはり、あの無人島鎮守府は重要な布石になりますね」

 

 

「後方補給線を脅かされれば、どんな精強な部隊も崩れる。今は能義崎少佐の手腕に任せようじゃないか」

 

そう言いながら東郷元帥は服部少将の一件の報告書を読み始めた。

 

 

 

その頃……無人島鎮守府

 

 

 

「クッシュ!」

 

 

「風邪でありますか、能義崎殿?」

 

 

「うーん…多分、違うわ。誰かに噂されたみたい」

 

秘書艦あきつ丸、那智、羽黒と共に執務をしていた能義崎。

無人島鎮守府では往復2週間を掛け間宮達を護衛していた木曾戦隊がトラック鎮守府より帰還、神通戦隊は遠征任務を行い、残りの者で戦隊を編成し、哨戒任務を実施していた。そして、これを毎日行っている。

 

 

「さてと…駆逐艦狙いで建造しようかな?」

 

 

「能義崎殿、脇を固める駆逐艦が必要なのは解るでありますが、限度を考えて欲しいであります」

「わかってます…でも、弥生ちゃんが入って来たから、もう少し欲しいかな〜、と…」

 

 

「……私がどうかしましたか?」

 

タイミングが良いのか悪いのか、弥生が入って来た。

 

 

「どうしたの、弥生ちゃん?」

 

 

「……出撃の報告書です。青葉さんの代理で届けに来ました」

 

羽黒の問いに弥生が脇に挟んでいた報告書を見せる。

 

 

「青葉か…まったく、古鷹もあれだけ言っているのに、報告書を自分で持って来ようとしないな」

 

 

「あれは仕方無いのであります。まあ、古鷹殿がサポートに就いてくれているので助かっているのであります」

「あはは…弥生ちゃん、あまり怒らないでね」

 

 

「……弥生、怒ってなんかないですよ。すみません、表情固くって」

 

羽黒と弥生の一連のやり取りを見ていた能義崎の一言。

 

 

「弥生はあの表情の固ささえ何とかなればね〜」

 

 

「能義崎殿、それは時間が掛かる話であります」

 

 

「はいはい…さて、話を…」

 

 

「た、大変や、司令はん!!」

 

そして、戻そうとした話を遮ったのは慌てて入って来た黒潮だった。

 

 

「どうしたの、黒潮? まさか、深海棲艦の御一行様が来たの?」

 

「提督、それは洒落にならない冗談だ」

 

能義崎の一言に那智がツッコミを入れる。

 

 

「ちゃうちゃう、私の妹の舞風が来てくれたんや! さあ、舞風、司令はんに挨拶や」

 

 

「こんにちは。陽炎型駆逐艦舞風です。暗い雰囲気は苦手です」

 

黒潮の後ろに居た舞風が能義崎に挨拶をした。

 

 

「初めまして、そして、よろしく、舞風。私も暗い雰囲気は苦手よ。貴女を歓迎するわ」

 

 

「こちらこそ、提督」

 

 

「うん…さて、次は…」

 

 

「能義崎殿、建造の話は後でお願いするであります」

「はいはい」

 

 

 

その頃………無人島鎮守府近海

 

 

「これで…終わりです!」

 

神通が最後の雷撃を実施し、その直後、最後に残っていた雷巡を撃沈した。

 

 

「戦闘終了です。では、皆さん一言!」

 

 

「青葉、それは後ででも出来るよ」

 

何時もの調子の青葉に対し、古鷹は呆れながら止める。

 

 

「今日もいっぱい倒したっぽい」

 

 

「やっぱり、敵は補給線を狙い出したみたいだね」

 

 

「……ふう…」

 

 

随伴の夕立、時雨に対し、響は一息吐いただけだった。

その時、響は気付いた……敵駆逐艦が沈んだ辺りにドロップの光が輝いている事に…。

 

 

 

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16 辺境鎮守府現状

……題名のネタがないと本当に大変です。


1週間後……無人島鎮守府

 

 

 

「ふむふむ……まあ、今のところ、ウチの担当範囲で被害はないわね」

 

輸送船団護衛任務の報告書と輸送船通過状況報告書を交互に見ながら能義崎が呟いた。

実際、やって来る深海棲艦の潜水艦や水雷戦隊などは護衛部隊か哨戒部隊が潰している為、被害は皆無だった。

 

 

「このまま平穏無事ならいいけど……向こうも頭を使い始めたから油断出来ないわね」

 

此方としては余り手の内を晒している訳ではないが、敵も戦力を強化していっている事は戦闘報告書を見るだけでも明らかだ。

 

 

「だからと言って、戦力強化は暫く控えて欲しいであります」

 

 

「舞風と響のお姉ちゃんが入って来たからでしょう? そんなに余裕無いかしら?」

 

 

「隊舎の余裕が無くなりつつあるであります」

 

 

「はいはい、わかりましたよ。工厰長とドック長に頼んで隊舎拡張をお願いしたみるわ。建造はその後ね」

 

 

「わかっていただければ、それでよしであります」

 

 

「最初からわかってるわよ。でも、暁は大丈夫なの?」

 

能義崎の問いにあきつ丸が答えようとした時、その本人が入って来た。

 

 

「司令官、青葉さんの報告書、渡しに来たわよ」

 

 

「また、青葉は…そう、ありがとう。よく此処まで来れたわね」

 

そう言いながら暁の頭をナデナデする能義崎。

 

 

「っぅ…、あ、頭をナデナデなんてしないでよ! 子供じゃないんだから!」

 

 

「レディはね、人の厚意を素直に受け取るものよ。暁」

 

 

「うぅ…ま、まだ、やることがあるから、失礼するわ!」

 

少しトゲのある言い方だが、そう言って暁は慌てて執務小屋から出て行った。

 

 

「能義崎殿は暁殿の扱いが上手いでありますな」

 

 

「そう? 子供の時なら誰でもやる事だから、普通だけど?」

 

 

「うーむ…自分の頭が固いのでありましょうか?」

 

 

「まあ、それは置いといて…部隊整理ね。今の戦力は?」

 

 

「駆逐艦が舞風殿、暁殿を入れて駆逐艦が12隻、軽巡洋艦2隻、重巡洋艦4隻、軽空母2隻、そして、自分を入れて21隻であります」

 

 

「うーん…バランスよく振り分けたいけど……軽巡洋艦2隻と駆逐艦も2隻欲しいわね」

 

 

「能義崎殿」

 

ジト目で睨むあきつ丸に能義崎は苦笑いを浮かべる。

 

 

「わかってる、わかってる……でも、補給線確保…シーレーン防衛主体なら駆逐艦と軽巡洋艦は必須よ。特に駆逐艦は数多く必要ね。後は軽巡洋艦と軽空母をあわせていけば大丈夫よ……戦艦が団体で来なければ、だけど」

 

 

「戦艦や正規空母なんて持ったら、この鎮守府は間違いなくパンクするであります」

 

 

「まあ、今の鎮守府なら確実にパンクね。まあ、そっちはのんびりと待つけど」

 

そう言いながら能義崎は暇そうに鉛筆をクルクルと回す。

 

 

「まあ、大きな作戦でも発令されない限り、大きな変化はおきないでしょうし。それにこんな無人島鎮守府の戦力を護衛・哨戒以外で宛にしてる訳でも無さそうだし…まあ、何時も通りにやらせてもらうわ」

 

 

「確かにそれが妥当な話でありますね」

 

 

「そうね…さてと、工厰長妖精とドック長妖精に隊舎拡張をお願いしてくるわ」

 

 

「わかりましたであります」

 

 

「その後は……どうしようかな〜? やっぱり、建造しちゃおうかしら?」

 

 

「能義崎殿、おふざけは止めて欲しいであります」

 

 

「はいはい…とりあえず、お願いしに行ってくるわ。哨戒と護衛に出てる部隊が帰ってきたら報せてね」

 

 

「能義崎殿も寄り道は無さらない様にお願いします」

 

 

「わかってる。じゃあ、留守をお願いね」

 

 

 

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17 発端

書いといてなんだか……凄い事に足を突っ込んだ気がする…。


1週間後……パラオ鎮守府担当区域内のある海域 通商航路上

 

 

日本海軍の鎮守府展開により比較的安全な海域になりつつあったパラオ鎮守府担当海域のある通商航路を大型客船が航行していた。

客船は『サフラン』号、深海棲艦の出現によって航行制限されていたが、航路の安定化によってサフラン号はパラオに向かって航行していた。

 

 

「化け物がこの付近から消えてよかったですね、船長」

 

 

「うむ……まあ、化け物…と言うには少し引っ掛かるがな」

 

ブリッジに立つ一等航海士と熟練者の船長はそんな会話を交わしている。

 

 

「深海棲艦を化け物と言う表現以外に的確な表現がありますか?」

 

 

「では、なんで『深海棲艦』と呼ばれるのかな? 色々あるが、中には彼らを『昔沈んだ軍艦や船舶の怨念』と言う声もあるぞ」

 

 

「…………」

 

船長のその言葉に一等航海士は黙る。

何故なら、船乗りと言うのは『縁起』を気にする職業であり、人種だからだ。

 

 

「せ、船長! レーダーに異常が!」

 

レーダーを見ていた二等航海士の悲鳴の様な報告が入った。

 

 

「なに!? くっ、近くの鎮守府に…」

 

 

「そ、それが…通信も妨害されて……あっ、レーダーに何かが…えっ?」

 

レーダーには高速で至近距離から近付く物体が映っていた。

 

「船長! あれは…」

 

 

「…バカな! なぜ彼奴らが…」

 

次の瞬間、サフラン号に激しい衝撃がはしった。

 

 

 

 

 

 

攻撃により激しく燃える『サフラン』号。

これを海面から眺める4つの目があった。

 

 

 

 

3日後……無人島鎮守府 通信小屋

 

 

 

「ですから、そんな事を言われても……はあ!? まるで我々が原因だと仰るんですか!? そんな事まで責任なんて取れません!!」

 

通信小屋の中で通信相手に喧嘩腰の発言をする能義崎。

これを通信小屋の外であきつ丸が眺めていた。

 

「……提督はどうしたんだ?」

 

そこに哨戒の為に羽黒らを連れて出撃を伝えに来た那智があきつ丸に問うた。

 

 

「実は……横須賀鎮守府より、3日前の一件で通信が入りまして…20分前からあの状況なのであります」

 

 

「あぁ、サフラン号の一件だな…だが、それと提督と何の関係があるんだ?」

 

 

「パラオ鎮守府司令部曰く『無人島鎮守府の活動で逐われた深海棲艦が担当海域に逃げて来て暴れている』…との事らしいのであります」

 

 

「……確かにそれは言い掛かりだな」

 

 

「はい。しかも、最近パラオ鎮守府は深海棲艦の襲撃で単独行動の客船や貨物船、タンカーが撃沈されているでありますからね」

「それを自分達が原因と言われている訳か…提督でなくても、文句を言いたくなるな」

 

モニターに向かい激しく言い返す能義崎を見ながら那智が言う。

そして、10分後、漸く通信は終わったらしく、溜め息を吐きながら出て来た。

 

 

「もう、逃げた深海棲艦まで対処してたら、太平洋なんて問題を越えるに決まってるでしょう!」

 

 

「抑えて、抑えて…能義崎殿、那智殿達が来ているであります」

 

 

「えぇ、わかってる…状況は以上の通り。警戒は厳重に。気を付けてね」

 

 

「わかった」

 

振らぬ神に祟りなし…では無いが、これ以上、能義崎に迷惑を掛けられないと思った那智はそう返事を返し、出撃した。

暫くして………

 

 

 

「にしても、司令も大変やな〜」

 

 

哨戒中、真ん中に陣取る龍驤が呟いた。

 

 

「どうしたんですか、龍驤さん?」

 

 

「いやな、羽黒はん。言い掛かりにも対応せなあかん司令も大変やな…と思てな」

 

 

「でも、それが提督の仕事ですから」

 

そう言って神通が会話に入ってきた。

 

 

「確かにそうやな…でも、あの時、司令は一言も『艦娘が』とは言わんかった。前々から解とったけど、司令はウチらの事を信頼しとる…そう思うんよ」

 

 

その会話を聞きながら那智は考える。

自分はドロップ組だが、龍驤や神通などは転属組だ。

その転属組……特に龍驤組……から見れば能義崎提督は信頼の置ける提督だそうだ。

なにせ、龍驤達の前の提督は誰彼問わず聞いているから知っている。

また、実際に大破した自分と泣きながら曳航して来た羽黒を何も言わず受け入れ、何も求めなかった。

なにせ、無人島鎮守府ゆえに余裕など少なく、青葉・古鷹の居るなら大破した那智を修理する必要もなかった。

だが、そんな事を気にせず修理と休養を施した事を考えると……。

 

 

「……やめよう。それを考える必要など…ん?」

 

思考を止め、周りを見渡した時、視界の隅に黒い影が写った。

「イ級型駆逐艦発見!」

 

浜風の声が響いた。

 

 

「全艦砲雷戦用意!」

 

そう言いながら敵イ級に視線を向ける……その瞬間、何か解らないが違和感ば過った。

 

 

(……なんだ? 何かが感覚的におかしい)

 

内心、何か解らない疑問に疑問符を浮かべながらイ級を睨み続ける。

そして、砲戦を開始しようとした時……

 

 

「ま、待って下さい!」

 

止めたのは潮だった。

 

 

「どうしたの、潮ちゃん?」

 

 

「あのイ級、私達を見付けても、何もしてきません」

 

羽黒の問いに潮が答える。

確かにイ級はこちらを見たまま、攻撃態勢にも入らず、なにもしてこない。

 

 

「……まあ、確かに彼方さんはやる気は無いみたいやな」

 

 

「では、何かの罠でしょうか?」

 

 

「…………(罠…にしてはイ級が単独? 余りにもおかしな罠だな)」

 

周りがヤイヤイと騒ぐ中、那智はイ級を見続ける。

するとイ級はクルリと反転し、前へ進んで行く。

 

 

「……何がしたかったんや、あのイ級は?」

 

 

「………追うぞ」

 

 

「「「「「え??」」」」」

 

那智の言葉に誰もが驚いた。

 

 

 

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18 疑惑の始まり

二作目投稿。
またもや巻き込まれる事になる無人島鎮守府。



6時間後………

 

 

 

「那智は〜ん、何時まで付いて行くつもりや〜?」

 

 

「黙って付いて来い。目的が解るまでだ」

 

疲れた様子の龍驤の問いに那智がそう答える。

イ級を追尾し続けて6時間。那智以下、浜風、潮、神通、龍驤、羽黒の6人は何時・何処まで続くとも解らぬ追跡行を行っていた。

 

 

「羽黒、ここはどの辺りだ?」

 

 

「えーと……もうすぐ、パラオ鎮守府との担当海域境界線に入ります」

 

防水紙で防水パックに入った海図を見ながら羽黒が答えた。

 

 

「つまり、担当海域の端まで来たと言う事か」

 

「おかしいですね。罠なら、なぜここまで私達を連れて来たのでしょうか?」

 

 

「そりゃあ、ウチらを疲れさせてから一気に…」

 

 

「それなら、もっと出鱈目で振り回す様な動き方をする筈だ。だが、真っ直ぐに…まるで誘導するかの様にしか進んでない」

 

神通の問いに龍驤が答え、その答えを那智が否定する。

その後もイ級を追い続け………

 

 

「那智さん! 島が見えます!」

 

潮の報告に那智は視線を向ける。

すると、確かに島が見えた。

 

 

「羽黒、どうだ?」

 

 

「はい、確認しました。無人島のD1です。あの島から半分が境界線です」

 

 

「了解した。イ級もあの島に用がある様だしな」

 

イ級が真っ直ぐに無人島に向かうのを見て那智が呟く。

そのまま那智達は無人島の海岸沿いをイ級を追いながら進み、断崖の洞窟に辿り着く。

そこでイ級は洞窟の中に居た別のイ級と合流すると何処かに言ってしまった。

 

 

「…………ホンマに何がしたかったんや、あのイ級達は?」

 

 

「…洞窟だ。潮、洞窟の中を調べてくれ」

 

 

「はい!」

 

元気な返事と共に洞窟に入る潮は……暫くして声を挙げた。

 

 

「那智さん! 男の子が…男の子が倒れています!」

 

「な、なに!?」

 

 

 

7時間後……無人島鎮守府

 

 

 

「…で、そのイ級を追い掛けて行くのに夢中で定時連絡をするのを忘れた、と言う訳でありますか?」

 

 

「め、面目ない…」

 

その後、男の子を背負って帰って来た那智達。

男の子を羽黒達と鳳翔に預け、那智は能義崎へて報告に行き、あきつ丸に怒られていた。

 

 

「まったく…青葉殿でもあるまいし…那智殿らしからぬ失態でありますね」

 

 

「い、いや…本当に面目ない。すまなかった」

 

 

「まあまあ…イ級を攻撃しなかった件は置いておきましょう。今は男の子の事よ。それで、男の子の他に何かあった?」

 

「うむ…男の子が寝かされていた洞窟の中にあった。多分、救命浮き輪だと思うが…」

 

 

そう言って渡された浮き輪を調べた能義崎が苦笑を浮かべる。

 

 

「那智、あなた、とんでもない物を拾ったわね」

 

そう言って能義崎は船名の書かれた場所を見せる。

船名は……『サフラン号』と書かれていた。

 

 

 

 

「どう思う、那智?」

 

男の子の様子を見に行く途中で能義崎は那智に訊いた。

 

 

「なにがだ?」

 

 

「サフラン号と男の子こと」

 

 

「あぁ…まあ、男の子が偶然、物好きなイ級2隻に救われただけだと…」

 

「甘いわね」

 

那智の意見を止めるかの様な一言に那智も思わず黙る。

 

 

「あきつ丸、相棒なら言いたい事は解るわね?」

 

 

「はい。サフラン号の一件が深海棲艦の仕業に見せ掛けられた…で、ありますね」

 

 

「な、なにっ!?」

 

 

「御名答…あら、那智。意外って顔ね」

 

 

「当たり前だ! 深海棲艦以外に船を襲う者など…」

 

 

「海賊よ。パラオ近海なら可能性は更に大きいわ」

 

 

「か、海賊…い、居るのか、そんな物が?」

 

 

「憲兵隊に居た時、何度か聞いた事があるわ。今の海賊は支那系で、軍艦も現代艦ばかりよ。なにせ、大半が逃げ出した海軍軍人だしね」

「なんと言う奴らだ! 見付けたら、私自ら…」

 

 

「ですが、これはあくまで推測であります。また、海賊の闊歩するとなると、それなりの『実力者』が何とかしないといけないであります」

 

 

「……まさか、内部に…」

 

 

「これも推測よ。まあ、今は下手に動かない方がいいのかも知れないけどね。あっ、鳳翔さん、あの男の子の容態は?」

 

前から廊下を歩いて来た鳳翔に能義崎が訊いた。

 

 

「はい。命に別状はありません。ただ、意識が戻るのが何時になるか…」

 

 

「それは仕方無いわね。様子見をお願いします。さて、男の子の事だけでも横須賀に報告しないとね」

そう言って能義崎は通信小屋に足を向けた。

 

 

 

暫くして……東京 憲兵隊本部 捜査部

 

 

 

「う〜〜ん……疲れた〜」

 

捜査部の部屋の一角、元は能義崎が使っていた机と椅子には後輩の名嘉三美(なかみつみ)准尉が思いっきり背伸びをしていた。

今日も違反提督を捕まえ、その報告書を書き、漸く仕事から解放されたからだ。

 

 

「さてと、今晩は何を食べよう…」

 

かな?…と言いかけた時、机の電話が鳴る。

不機嫌な顔をしながら名嘉は渋々、受話器を取る。

 

 

「もしもし。こちら、憲兵隊…」

 

『あら、三美じゃあないの。久し振りね』

 

 

「能義崎先輩! お久し振りです!!」

 

 

『あい変わらず元気ね。また、那珂ちゃんでも追っ掛けているの?』

 

 

「むう、追っ掛けてません! まあ、新曲はダウンロード購入しましたけど…」

 

 

『それ、完璧に『追っ掛け』よ。それより、調べて欲しい事があるんだけど』

 

 

「いいですよ、先輩! あの鬼親父には内緒…あっ…」

 

上からスルリと受話器を取り上げられ、名嘉は唖然とした声をあげる。

 

 

「『鬼親父』がどうした? 能義崎少尉…いや、少佐、久し振りだな」

 

 

『お久し振りです、藤谷教官。それと、憲兵隊の階級は少尉のままですので』

 

それを聞いた能義崎の元上司兼教官だった藤谷佐武郎(ふじやさぶろう)大尉

はニコリと笑う。

 

「はっはっは、提督になって貫禄が着いたな。お前さんの代わりがこれで育て難くて仕方無いぞ。あぁ、それとラバウルの一件は聞いているからな」

 

 

『教官。それは私にも言ってませんでしたか? それとあれは偶然ですから』

 

 

「ほうほう、偶然か…それで、そんな事で電話をして来たのではないだろう?」

 

 

『はい。これは横須賀の上には報告済みで、その内、情報が回ってくると思いますが……サフラン号の生存者を救助しました』

 

「ふむ……サフラン号か。それで?」

 

 

『えぇ、それで……』

 

 

能義崎は藤谷大尉と名嘉准尉に経緯を話した。

 

 

「ふむ……深海棲艦の行動は置いておくとして、少し怪しいな」

 

 

『はい。あくまで推測ですが…可能性は高いと』

 

 

「よし、わかった。こっちからも探りを入れてみよう。但し、能義崎少尉…気を付けろ。いいな?」

 

 

『はい、教官』

 

 

 

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19 スクープ…??

本日も午後に二作目を投稿致します。


3日後……無人島鎮守府近海

 

 

 

「提督達も大変ですね〜」

 

哨戒の為に出撃していた青葉を旗艦とする古鷹、木曾、弥生、暁、響の艦隊。

その途中で青葉はそんな事を口に出した。

 

 

「あぁ、例のサフラン号の話だろう?」

 

 

「提督達も何か掴んでいるのか、あきつ丸さんや那智、羽黒達と真剣な話をしていますね」

 

 

「なのに、なんで私に話してくれないんですかね〜」

 

 

((((それは貴女だからですよ))))

 

 

「…………」

 

古鷹、木曾、暁、響は内心でツッコミ、弥生は沈黙を守っていた。

「ねえねえ、響。レディとして、こう言った場合はどうすればいいと思う?」

 

 

「姉さん、今は私達が入る余地は無いよ」

 

 

「むう…響、もう少し真剣に考えてよ」

 

 

「もっと別の事にその思考を使おうね、姉さん」

 

レディを目指しているにしてはどうも変な方向に思考が行ってしまう姉の事が妹である響の最近の悩みだった。

そう言った時、後ろにいた弥生が肩を叩いた。

 

 

「…あれ、イ級」

 

 

「えっ?」

 

弥生の指差す方を見るとイ級が2隻、こちらを見ていた。

 

 

「あれが例の男の子を助けたイ級か?」

横で話を聞いていた木曾が暁の頭に手を宛ながら言った。

 

 

「では、イ級に一言…」

 

 

「青葉、イ級の言葉が解る? それ以前に敵に取材出来るあなたに呆れるけど」

 

……敵を目前にしながらこんな会話を交わす面々。

まあ、イ級2隻ならこの戦力では余裕で潰せるが……緊張感がない。

そんな中、響はイ級に向けて手を振りながら叫んだ。

 

 

「Спасибо(スパシーバ)!」

 

 

「な、なんて言ったの、響?」

 

 

「『ありがとう』って言ったのさ」

 

 

「ロシア語はさっぱり解らん」

暁の質問に響は答え、木曾が頭を掻きながら呟く。

すると、響の叫びが聞こえたのかイ級2隻は反転した。

すると………

 

 

「スクープの予感がします! 追跡!!」

 

そう言って青葉がイ級2隻を追跡し始めた。

 

 

「ちょ、青葉さん!」

 

 

「あ〜、これは追いかけないとダメだな」

 

 

「れ、レディが走るなんて…」

 

 

「姉さん、そんな事を言ってる場合じゃあないよ」

 

 

「……弥生、追尾開始します」

 

イ級2隻を追跡する青葉を追う為、古鷹達も走り始めた。

 

 

その頃………無人島鎮守府

 

 

「さて……問題は確証ね」

 

能義崎を筆頭にあきつ丸、鳳翔、那智、羽黒…と鎮守府の幹部達が集まっていた。

議題はもちろん…サフラン号の一件である。

憲兵隊等から仕入れた情報を総合したところ、海賊とその裏に居る黒幕を推測出来るところまできていたのだが……確かな証拠が無かった。

 

 

「パラオ鎮守府に頼んで、現場海域の調査を…」

 

 

「無理であります。文句を言ってきたパラオ鎮守府が調査などさせてくれる筈がないであります。まあ、させてくれても、証拠を隠滅される恐れがあります」

 

那智の提案をあきつ丸は今までの経験から否定した。

 

 

「なら、あの男の子の証言を…」

 

 

「そうなんだけど…まだ子供だからね…信憑性に問題が出てくるのよ」

 

羽黒の提案は能義崎が答える。

 

 

「そうなりますと…後は現場を抑えるしかないのでは?」

 

 

「まあ、それしか方法はないですね…今のところは」

 

それがかなり難しい……と言う事は口に出さずとも、能義崎の顔を見れば皆がわかった。

 

 

「はぁ……さて、どうしようかしら…完璧に手詰まりよね」

 

そう呟いた時、龍驤がドアを蹴破る勢いで入って来た。

「た、大変や、提督! 青葉が不味いで!」

 

 

「どうしたの!?」

 

 

「青葉のアホ、那智達が出会ったイ級2隻を『スクープの匂いがする!』って言うて追い掛けとるみたいや」

 

それを聞いた鳳翔達艦娘メンバーは誰もが呆れ顔で内心で嘆いていた。

 

 

((((あのバカは…))))

 

そして、こちらは…

 

 

「……いま、青葉達は何処に居るの?」

 

 

「えーと…まだウチん所の担当領域内やけど…」

 

 

「…………」

 

腕を組み、暫く考えた能義崎の判断は……

 

「……放っておきましょう」

 

この言葉に龍驤をはじめ、秋津丸を除いたメンバー全員が転けた。

 

 

「て、提督! そんな悠長に…」

 

 

「いいのであります、那智殿。能義崎殿には何か考えがあるであります」

 

 

「あきつ丸…いくら付き合いが長くても、喋り過ぎよ。那智、今回の一件の始まりは何だったかしら?」

 

 

「それは…単艦行動のイ級を我々が見付けたからだ」

 

 

「そうね、そして、男の子を回収、疑惑が出てきた……私が思うにイ級は何かを掴んでる。それを私達に伝えたいのよ」

 

 

「突飛な発想に聞こえるんはウチだけやろか?」

 

「いや、私も同じだ」

 

龍驤の言葉に那智が賛同する。

 

 

「まあ、それは置いといて…あきつ丸、残ってる子達を集めて。臨時の補給部隊を編成して」

 

 

「了解であります」

 

 

「提督は長期戦になるとお考えですか?」

 

能義崎からあきつ丸への指示に鳳翔が訊いてきた。

 

 

「長期戦と言うか…長距離移動にはなります。多分、真実はパラオ領域内にありますから」

 

 

「わかりました。誰か手伝って、皆のお弁当を創らないと」

 

 

「あっ、私が行きます」

 

鳳翔と羽黒が退出し、龍驤とあきつ丸は二・三言交わすと編成の為に出ていった。

 

「……提督、こう言うのは不適切かも知れないが…我々は何と戦っているんだ?」

 

 

「あら、天下の那智戦隊長らしくない言葉ね……難しいわ。ただ、憲兵として言える事は『人も敵になる』…と言う事ね」

 

 

「人も敵に…か…」

 

 

「大丈夫、大丈夫。私は絶対に『敵』にはならない。話は変わるけど、那智。貴女と羽黒も出撃用意をして待機よ。イザとなったら貴女達にも出てもらうわ」

 

 

「わかった。では、準備をしてくる」

 

 

 

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20 確証得たり

遅くなり申し訳ありませんでした。
なお、来週は更新出来ないかもしれません。ご了承下さい。


8時間後……

 

 

「スクープ! スクープ!! スクープ!!」

 

 

「青葉さん! 少しは後ろも考えて下さい!」

 

 

「青葉の奴…何時になったら止まるんだよ!?」

 

 

「れ、レディは疲れないのよ!」

 

 

「「………」」

 

未だイ級を追う青葉、止めようとする古鷹、愚痴る木曾、痩せ我慢をする暁、何も言わない響と弥生。

彼女達は休みなくイ級(を追う青葉)を追っていた。

 

 

「古鷹、青葉は何時諦めると思う?」

 

 

「……後ろから主砲でも当てれば止まるかな?」

「おい! ブラックになるな、古鷹!!」

 

 

青葉をよく知る古鷹だからこそ、それくらいやらないと止まらない事を知っている。

故に主砲を向けようとするが、木曾が止める。

 

 

「あぁ、ちきしょう! もうパラオ鎮守府の領域に入ってるしな……どうしろって言うんだよ」

 

 

「とりあえず、休憩はしたいわね…無理だけど」

 

 

「なんだ、暁はお腹が空いたのか?」

 

 

「れ、レディが(グゥ〜〜)………」

 

暁の反論は自身のお腹の虫が表現したので中止された。

 

 

「さて……ん? イ級が進路を変えた…な」

今まで真っ直ぐにしか進んでいなかったイ級2隻が進路を右側に変えた。

イ級の向かう先には小島の群島があった。

 

 

「う〜ん……あれは本命ではありませんね〜。休憩でしょうか?」

 

 

「当たり前です。8時間もぶっ通しで進んでいたんですから」

 

 

「つーか、青葉、お前はイ級の心が読めるのかよ?」

 

そんな会話を交わしつつ、青葉達はイ級を追って群島に向かった。

 

 

 

 

「う〜〜〜〜ん…疲れましたね〜」

 

 

「「「「「それより御腹空いたよ!!」」」」」

 

とりあえず上陸し、砂浜に寝転ぶ青葉達6人。

青葉の言葉に古鷹達が総ツッコミを容赦無しに入れる。

 

 

「古鷹〜、ここは何処だ?」

 

 

「えーと……パラオ鎮守府担当領域、東方小島群の1つである小島…となってます」

 

 

「そうか……あ〜、腹減った〜〜」

 

大の字に寝転びながら木曽が呟く。

それは当然。なにせ、朝食以降なにも口にせず、8時間以上も追跡していたのだから。

 

 

「困りましたね…このまま追跡を続けるのは難しいですし…」

 

 

「いえ! スクープが目の前に有るのに諦めるなんて…」

 

 

「あのな……お前も燃料はからっけつだろう? しかも、休息無しって無理があるぞ」

「……とりあえず、何か食べたい」

 

 

弥生の一言に青葉以外の艦娘は空を見上げる。

その時………

 

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

その声に青葉達は振り向いた。

 

 

 

 

「……それで、この状況でありますか?」

 

 

「……はい」

 

連絡を受け、能義崎が憲兵隊の伝を使って用意したUS-2飛行艇を使い到着したあきつ丸は古鷹の返事を聞き、古鷹の背後の光景に苦笑いを浮かべる。

軍用レーションを空け、空き殻を山と積む、がっつく木曽達が居た。

 

 

「それで霰殿、この物資は?」

この島の主……駆逐艦霰にあきつ丸は問う。

 

 

「島の倉庫にあった物だから大丈夫。他にも燃料、弾薬、鋼鉄、ボーキサイト…一通りの物はあるから」

 

 

「……ちなみに霰殿の提督は?」

 

 

「私の提督? 提督は…ここには居ない。パラオ鎮守府に居る。ここは備蓄倉庫。私は管理人…かな?」

 

 

「備蓄倉庫でありますか…出来ればお名前を伺いたいのでありますが…」

 

 

「名前? 名前は……」

 

 

 

暫くして……

 

 

『なるほど、事情はわかったわ。霰の提督だけど、物資の不正横流しの件で捕まってるから、彼女の命令は解除ね』

 

「では、こちら側に引き込んでも問題は無いでありますね?」

 

一通りの事情を確認し、あきつ丸は能義崎に報告した。

 

 

『えぇ、そっちの物資は私が報告しておくわ。ところで皆の様子は?』

 

 

「鳳翔殿のお弁当を見たとたん、そっちにがっついたので…問題は無いであります」

 

 

『そう…イ級は?』

 

 

「イ級は律儀に此方を待っているであります。まあ、彼等も休息中だと思いますが」

 

 

『……ほんと、今の状況だと敵味方がバラバラね』

 

 

「それは憲兵時代に覚悟づみであります」

 

 

『そうね……そこを一時的に拠点として、そのままイ級の追跡を続けて』

 

 

「わかったのであります。では、また何かあれば連絡するであります」

 

 

 

無人島鎮守府

 

 

「ふう……後は確実な何かがあればね」

 

あきつ丸との通信を終えた能義崎はそう呟いて椅子に凭れかかる。

今回の一件はほぼほぼ自然的な流れで動いている為、越権克つ独走状態だった。

 

 

「きっかけよ…小さくても何かきっかけがあれば…」

 

そのきっかけが見付からず、少しイライラしかけた時、鳳翔が執務小屋へ入って来た。

 

「提督! あの男の子の意識が戻りました!」

 

 

「意識が…話は聞ける?」

 

 

「はい、少しなら」

 

 

「じゃあ、少し話を訊きましょうかね」

 

そう言って能義崎は執務小屋を出て男の子の居る隊舎の一室に向かう。

そこには龍驤と羽黒と話す男の子が居た。

 

 

「あっ、提督。キミ、あのお姉ちゃんがここの提督やで」

 

随分と打ち解けたのか何時もの喋りで提督を紹介する龍驤。

 

 

「この鎮守府の提督よ。早速だけど、ぼく、乗ってたお船の事なんだけど…」

 

 

「ほら、さっきお姉ちゃん達に話してくれた事を話して」

 

「うん! あのね、お船が揺れた時、お母さんとお父さんはシンカイセーカンが襲ってきた、って言ってたけど、船員さんが海賊だ!って言ってたんだ」

 

 

「それは本当なの?」

 

漸く得た証言に内心喜び、興奮しつつ、落ち着いた様子で聞き返した。

 

 

「本当だよ。それに…ほら、これ」

 

そう言って見せたのは子供用の防水カメラだった。

 

 

「これで海賊のお船を撮ったんだ。そしたら、お父さんとお母さんが窓から僕を逃がしたんだ……お父さんとお母さんは大丈夫かな?」

 

 

「大丈夫。無事で居るわ…疲れたでしょう? もう休んでいいわよ」

そう言って能義崎は部屋から出る。

そして、いつの間にか部屋の前に来ていた那智に命じた。

 

 

「那智、鳳翔と羽黒は残留。龍驤を連れて青葉・あきつ丸達と合流して。今回は大事よ」

 

 

「わかった。だが…まさか、海賊とは…」

 

 

「私達の任務は『海を護る事』。深海棲艦であれ、海賊であれ、荒らすなら倒す…それだけよ」

 

 

 

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21 突入

午後に二作目を投稿します。


翌日……パラオ鎮守府担当領域内 とある島

 

 

「……あそこが海賊の本拠地ですか〜」

 

 

「まさか、こんな領域内にあったとはな」

 

 

「しかも、装備は重装備であります」

 

 

霰の居た島で那智達と合流後、休息し、日が昇ってから律儀に待っていたイ級を追跡、イ級が止まった島陰から覗くと海賊の本拠地があった。

そして、3人はその本拠地を双眼鏡で偵察していた。

 

 

「いや〜、軍艦にあの本拠地、更にパラオ鎮守府担当領域内…これはますますスクープの匂いぎしますね〜」

 

 

「彼らの武器・弾薬・燃料・食料の事を考えれば後ろ楯がいるのは当然だな」

「まあ、それは能義崎殿と憲兵隊の仕事であります。今はでありますが」

 

イザとなれば艦娘が出ていく……なんて事態ならあきつ丸は憲兵隊所属時代に数回ながら経験している。

 

 

「それは置いておくにして…あの海賊達をどうする?」

 

 

「本来ならば、このまま攻撃を仕掛ければよいのですが…今は担当海域外であります。しかも、証拠がないであります」

 

 

「あっ、あきつ丸さん、あれを見て下さい。タンカーですよ」

 

 

「本当ですな……ん、あれは……!?」

 

あきつ丸の双眼鏡から見えたのはアサルトライフルを突き付けられた乗組員達だった。

暫くして……

 

 

『そのタンカーは昨夜遅くに消息を絶った物ね。ついさっき報告が入ったわ』

 

「やはり…能義崎殿、ここは…」

 

 

『言わなくてもわかってるわ。今夜『制圧作戦』を実施して。責任は私が持つ』

 

 

「わかったのであります。では」

 

そう言ってあきつ丸は通信をきる。

そして、青葉、那智をはじめとした面々に顔を向ける。

 

 

「能義崎殿より許可が出たであります。今夜、我々は海賊の根拠地に夜襲を仕掛けるであります」

 

 

「夜襲ですか…私達の十八番です」

 

 

「久々に暴れさせてもらうぜ」

 

神通と木曾が嬉しそうに言った。

 

 

「ですが、今回は深海棲艦ではなく、人間が動かす兵器であります。慎重克つ注意を払ってほしいであります…では、2300まで待機であります」

 

 

 

2130時

 

 

 

「ん…?」

 

近くの小島で仮眠していたあきつ丸は微かに聞こえた発砲音に目を醒ました。

周りを見ると同じく聞こえたらしい那智、青葉、古鷹、神通、木曾も起きていた。

 

 

「微かだが…発砲音が聞こえたな」

 

 

「どこかの船が襲撃されているのでしょうか?」

 

「それにしても、何かおかしくないか?」

 

那智の言葉に神通が応じ、それに木曾が疑問を呈する。

そこに交代で潮とペアを組み哨戒についていた綾波が飛び込んで来た。

 

 

「大変です、あきつ丸さん! あのイ級2隻が海賊の根拠地に夜襲を開始しました!」

 

それを聞いたあきつ丸は那智の方に顔を向ける。

 

 

「那智殿、やりましょう」

 

 

「わかっている。那智戦隊、出撃するぞ!」

 

那智の音頭に青葉、古鷹、神通、木曾を筆頭に次々と海賊の根拠地に向かって行った。

 

 

「では…我々も行くであります、龍驤殿」

「了解や〜。ウチの艦載機達を久々に暴れさせてもらうで〜!」

 

龍驤と弥生、霰を連れ、あきつ丸も根拠地へと足を向ける。

 

 

 

その頃……海賊の根拠地内のある部屋

 

 

 

「うぅ…なんだろう?」

 

Z1ことレーベレヒト・マースは硬い床に敷かれた布団の上で揺れを感じて起き上がった。

しかも、その揺れは次第に激しく強くなっていた。

 

 

「これは…危ないな。早くここから出ないと…」

 

そう呟いた時、直撃弾が壁に命中し、部屋の一角に大穴をあける。

 

 

「よし、脱出だ!」

 

そう言ってレーベは穴から抜け出した。

 

 

 

 

「各自自由射撃! 周囲の海賊船舶と砲台を凪ぎ払え!!」

 

那智の指示に各々の武器を使い、根拠地内の艦艇や砲台に向かって攻撃を開始する。

施設に関しては人質が居る事を考え、攻撃を控えている。

 

 

「いや〜、記者冥利に尽きますね〜」

 

攻撃を行いながらもデジカメのシャッターを押し続ける青葉。

無論、これは証拠保存の為の写真撮影である。

 

 

「青葉さん! そう言って油断しないで下さい。サボ沖の二の舞になりますよ!」

 

 

「神通、右を頼む。俺は左だ!」

 

「はい! みんな、撃ち方はじめ!」

 

 

青葉に対する古鷹のツッコミの横で木曾と神通が率いる戦隊に指示を出しながら砲撃を始める。

既に先行する形のイ級2隻の攻撃で所々炎上している。

そこに那智達を基幹とする艦娘達が突っ込んで来たのだから、その被害は忽ち鰻登りに増えていく。

更にイ級や艦娘達の夜襲が寝耳に水だった為、何の警戒もしていなかった海賊達の対応は後手に回っていた。

そして、漸く応戦出来る様になっていた時には艦艇の大半は大破していた。

だが、まだ無事な物はある訳で……

 

 

「! 木曾はん! 後ろ!」

 

神通戦隊所属の黒潮が木曾の背後にある健在な速射砲を見て叫ぶ。

木曾はその声に振り向くが速射砲の旋回の方が早かった。

そして……速射砲が砲塔ごと爆発した。

 

 

「……な、なんだ??」

 

 

「えーと…そこに居るのは日本海軍の艦娘ですか?」

 

艦艇の陰から出て来た影…艤装を奪い返し、ここまでやって来たレーベレヒト・マースが木曾に訊いてきた。

 

 

「あぁ…誰だ、お前は?」

 

 

「僕はドイツ海軍駆逐艦Z1ことレーベレヒト・マースです。僕も参加します!」

 

発砲煙を吹く主砲を見せながらレーベレヒト・マースが言った。

 

 

「よし、じゃあ、付いて来い!」

木曾の言葉にレーベレヒト・マースは付いていく。

 

 

 

その頃……施設内

 

 

 

「おい! 止ま…」

 

近付いて来たあきつ丸にアサルトライフルを向けた海賊はあきつ丸の取り出した携帯スコップの柄を顔面に受けてひっくり返る。

 

 

「そんな物で止まる方がおかしいであります…さあ、行きましょう」

 

 

「「「………」」」

 

航空支援役の龍驤、護衛役の弥生と霰は唖然としていた。

 

 

「……なにか?」

 

 

「いや〜、あきつ丸はん…結構やるな〜、思てな…」

 

愛想笑いを浮かべながら龍驤が言った。

 

「まあ、提督直伝の戦闘術でありますから…」

 

 

(て、提督って…憲兵やからな……うん…)

 

内心で納得させている龍驤を尻目にあきつ丸はズンズンと前に進んで行く。

その都度、海賊が武器を向けるがあきつ丸が張り倒していく。

 

 

「……ここであります。やあ!!」

 

ある部屋の前で止まり、力を込めて携帯スコップの先端を鍵の部分にぶち当てる。

艦娘の力もあってか簡単に鍵は壊れた。

 

 

「皆さん! 大丈夫でありますか!?」

 

あきつ丸が扉を開けてそう言うと憔悴しきっていた人質達が顔を上げる。

「あなた方を救出に参りました! さあ、出て下さい!」

 

あきつ丸の言葉を聞いて人質達の顔が喜びの表情に変わっていく。

 

 

「それと、誰か責任者は居りませんか? あと、他の人質の居場所は?」

 

 

「他の人質も付近に居る筈だ…ただ、我々は接触しない様にされていたからな」

 

人質の1人が答え、あきつ丸が頷く。

 

 

「龍驤殿、霰殿と弥生殿を連れて人質達の誘導をお願いするであります」

 

 

「了解や。けど、捜索は1人でええんか?」

 

 

「大丈夫であります…憲兵でありますから」

 

そう言ってあきつ丸は携帯スコップを持って走り始めた。

 

 

 

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22 結末

二作目です。


翌朝………海賊の根拠地

 

 

日が昇り始めた時、能義崎から連絡を受けたパラオ鎮守府憲兵支部から慌てて駆け付けて来た憲兵隊に那智達は拘束した海賊達と救出した人質達を引き渡した。

なお、憲兵隊は独自の戦力を持っており、国外鎮守府の憲兵隊支部には当然の如く戦闘艦船が配備されていた。

 

 

「では、後はお願いするであります」

 

 

「わかりました。能義崎提督によろしくお伝え下さい」

 

手続きを知っているあきつ丸が憲兵隊の指揮官に申し送りを行い、全てを託し終えた。

そこから別れ、疲れ果てている艦娘達を見ながらあきつ丸は歩いていた。

大半の艦娘…主に駆逐艦…は余程疲れているのか、野外にも関わらず仲間達と添い寝し、寝息を発てている。

これを那智、古鷹、神通が毛布を掛けていた。

 

 

「お疲れ様であります。皆さんも休んでほしいであります…木曾殿は?」

 

 

「木曾なら、暁と響を探しに行ったぞ」

 

 

「そうでありますか…では、少し探して来ます」

 

 

「私も同行しよう。念のためにな」

 

 

「ありがとうございます…古鷹殿と神通は終わり次第お休み下さい」

 

 

「「わかりました」」

 

古鷹と神通の返事を聞いたあきつ丸は那智を連れて探し始めた。

 

 

「えーと……お、いたいた、おーい!」

 

暁と響を探していた木曾は湾内の撃破した艦船の一角に居る暁と響を見付け声を掛ける。

しかし、2人は気付いて無いのかそっぽを向いたままだった。

 

 

「おい、暁、響。どうし…」

 

2人の視線の先に居たのは……体のあちこちに被弾し、見るからに重傷を負っている『あの』イ級2隻だった。

 

 

「き、木曾! お願い、このイ級を助けて!」

 

 

「お願いだ、木曾。私からも頼む!」

 

暁と響の切実な訴えに木曾も何とかしたかったが…どう見ても助かりそうになかった。

「……ありがとうな。お前らのお陰だ…感謝するぜ」

 

そう言って木曾はイ級の頭部を撫でてやる。

その言葉と行為に暁と響はこのイ級の状態を把握する。

そして、木曾が離れると暁と響はそれぞれのイ級に寄り添い大声で泣き始めた。

 

 

「………っぅ」

 

 

「木曾殿は優しいでありますね」

 

そう言ってあきつ丸と那智がやって来た。

 

 

「……見てたのかよ」

 

 

「お前と暁、響を探していな。まあ、偶々だ」

 

 

「……人が悪いぜ、那智」

 

 

「まあまあ…それより、あれでよいのでありますか?」

そう言ってあきつ丸は暁達の方を見る。

 

 

「あの状態で今まで保ったのが不思議な事ぐらいだ…何の手の施し様もないぜ」

 

 

「そうでありますか……那智殿、我々が居ても邪魔であります。行きましょう」

 

 

「あぁ……出来れば私も礼を言いたかったが…今や無理みたいだな」

 

 

「自分もです…さあ、戻りましょう…」

 

か、と言おうとした時、暁と響が居る場所が光輝いた。

 

 

 

1週間後………無人島鎮守府

 

 

 

「まあまあ……デカデカと載ってるわね」

 

『憲兵隊新聞』と『海軍提督公報』の2つの新聞を拡げながら能義崎が呟いた。

一面には『パラオ鎮守府中堅提督、逮捕される』と題名がデカデカと書かれていた。

内容はパラオ鎮守府のとある中堅提督が裏で海賊と手を結び、私腹を肥やしていた……との事だった。

 

 

「逮捕後、さっそく裁判を開き、直ぐに捜査終了後の死刑判決が出たとか」

 

秘書艦の那智が記事に目を向けながら呟いた。

 

 

「えぇ…まあ、前々からマークされてた訳だし、今さらな話だし…なんと言っても証拠をバッチリ憲兵隊が抑えていた訳だから、言い逃れも出来ないでしょう」

 

憲兵隊だった訳だから、能義崎はその詳細をよく知っているのだが、ここでは話題にしない事にした。

「それにしても……またウチの人員が増えたわね」

 

那智の手伝いをしている霰、Z1を見ながら呟く。

 

 

「Z…レーベ、本当によかったのか?」

 

 

「はい。ここなら、上手くやっていけそうな気がしたんで」

 

Z1ことレーベレヒト・マース…レーベ…はそのまま無人島鎮守府所属になってしまった。

もともとドイツから単身日本へやって来る途中で海賊に捕まってしまったレーベ。

そして、そのまま無人島鎮守府の一員に収まっていた。

 

 

「まあ、ドイツ艦が仲間になるとは思ってなかったけどね」

 

 

「えへへ…ありがとうございます」

能義崎の言葉にレーベが答えた。

 

 

「それに…鎮守府も賑やかになったしね」

 

そう能義崎が呟いた時、パタパタと外から駆けて来る音と賑やかな話声が聞こえてきた。

 

 

「帰ってきたわよ、司令官!」

 

 

「帰ってきたのです、司令官」

 

 

「ただいま、提督」

 

 

「レディが帰ってきたわよ」

 

雷、電、響、暁がワイワイと入って来た。

その後ろから羽黒と木曾…今回の哨戒隊の旗艦と副旗艦…が続けて入って来た。

 

 

「異常は無かった?」

 

 

「あぁ、無かったぜ。まあ、この賑やかな面々がいたから退屈はしなかったけどな」

 

 

「はい。電ちゃんと雷ちゃんが居て楽しかったです」

 

 

ニコニコと語る羽黒に那智は苦言を言おうとしたが……暁四姉妹の前ではそれを言う気にはならなかった。

 

 

「そう、お疲れ様。後はゆっくりしてね」

 

 

「「「「は〜い」」」」

 

暁四姉妹が返事をして出て行く。

その時、入れ違いにあきつ丸が入って来た。

 

 

「今日も第六駆逐隊は元気克つ賑やかでありますな」

 

 

「えぇ、そうね…ねえ、みんな、電と雷が入って来てよかったと思うんだけど…どう思う?」

 

 

「……いま思えば、あのイ級が電と雷だった事に頷けれる私は大丈夫なのか?」

 

「いや、それは…大丈夫だと思うぞ」

 

 

「那智姉さん、それは私も同じですから」

 

雷と電……この2人はあの海賊の根拠地で瀕死だったイ級だった。

あの時にイ級から浄化され、雷と電になった。

そのまま暁と響にこの鎮守府に引っ張り込まれた。

まあ、本人達は四人姉妹の再会だった為、住処の環境などどうでもよかった様だが…。

 

 

「自分も電殿、雷殿が来て頂き、嬉しいであります。あっ、能義崎殿、横鎮の大束中将から今回の一件の報告書の催促が…」

 

 

「はいはい……まったく、報告書の催促は良いけど、ちょっとは補給を増やしてよ」

 

そう愚痴を溢しながら苦笑混じりに事務仕事をこなすのであった。

 

 

 

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23 幕間 鎮守府現状&プロフィール

明けましておめでとうございます。
今年初投稿です。
今回は今まで前書きで書いていたのを幕間の形で入れました。
午後に二作目も投稿致します。


無人島鎮守府現状

(海賊根拠地襲撃後)

 

 

提督レベル

能義崎歩弥 階級中佐 提督Lv18

 

秘書艦・揚陸艦

  あきつ丸 Lv30

 

重巡洋艦

  青葉   Lv15

  古鷹   Lv15

  那智   Lv10

  羽黒   Lv10

 

空母

  鳳翔   Lv20

  龍驤   Lv20

 

軽巡洋艦

  木曾   Lv24

  神通   Lv24

 

駆逐艦

  夕立   Lv25

  黒潮   Lv21

  時雨   Lv21

  綾波   Lv23

  潮    Lv23

  初雪   Lv23

  長波   Lv23

  浜風   Lv23

  響    Lv16

  弥生   Lv16

  暁    Lv16

  舞風   Lv16

  霰    Lv14

  Z1   Lv8

  雷    Lv4

  電    Lv4

 

 

 

鉄鋼15740 弾薬13280 

燃料13420 ボーキサイト12980

 

 

 

プロフィール

 

 

弥生 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

 

睦月型駆逐艦の艦娘。

口数が少なく、表情が硬い為か、時々怒っている様に見られてしまう。

ドロップにて編入。

 

 

 

暁 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

 

暁型駆逐艦1番艦の艦娘。

1番艦でありながら、吹雪型駆逐艦のくくりでは21番艦になってしまう為、自らからを「レディー」と言うなど背伸びで大人っぽく見られ様としてしまう。

そんなところがあってか、能義崎や木曾、羽黒達には案外かまってもらっている。

 

 

 

舞風 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

 

陽炎型駆逐艦の艦娘。

黒潮が言う通り、名実共に黒潮の姉妹。(建造造船所も一緒)

任務と食事以外のプライベート時間の大半は踊って(あるいは舞って)いる。

 

 

 

霰 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(元パラオ鎮守府)

 

朝潮型駆逐艦の艦娘。

元はパラオ鎮守府所属の提督の指揮下であったが、彼の秘密倉庫を任されている間に提督が憲兵隊に摘発され、あきつ丸達が来るまでそれを知らず倉庫を守っていた。

その後は無人島鎮守府に配属される。

なお、弥生とは仲が良い模様。

 

 

 

Z1(レーベレヒト・マース) 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊(ドイツ海軍極東方面派遣隊)

 

ドイツ海軍の駆逐艦艦娘。

深海棲艦に対しドイツが生み出した最初の艦娘の1人。愛称はレーベ。

しかし、運用ノウハウが無い事にドイツ政府は充分にある日本へ派遣する事でノウハウとシステムを構築しよう考えた為、レーベが日本へ派遣された。

その途中、パラオ鎮守府担当海域内で海賊に捕縛され、無人島鎮守府の面々に助けられる。

なお、彼女が簡単に捕まってしまった理由は単艦で休み無しに日本に向かった為の疲労とそれに伴う注意力不足が原因だった。

 

 

 

雷 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

 

スラバヤ沖海戦の一件と提督をダメにしてしまうキャラとして有名な暁型駆逐艦3番艦。

浄化前のイ級だった頃、サフラン号の一件で両親が逃がした男の子を相方のイ級(電)と共に助け、無人島の洞穴で保護していた。

その後、保護してくれた無人島鎮守府の面々を事件の真相がある場所へ導き、先手ととって襲撃、瀕死の重傷を負って浄化され、雷となった。

現在は暁達と第六駆逐隊を組んで任務に励んでいる。

 

 

 

電 艦娘

 

所属 横須賀鎮守府 南方方面分遣隊

 

語尾に「なのです」が付く心優しき暁型駆逐艦4番艦。

ドロップの経緯は雷の項で書いてあるので割愛するが、イ級であった頃も変わらずの心優しい娘。

なお、雷と共に鎮守府へ来てからはそのほのぼの光景からか、第六駆逐隊は大事にされている。

名嘉三美(なかみつみ) 階級 准尉

 

所属 日本国憲兵隊 本土(東京)本部 捜査部

 

能義崎の後輩。

あきつ丸の次に付き合いの長かった後輩で能義崎を慕っている。

大好きな艦娘は那珂。新曲やライブは必ず行く程のファン。

 

 

 

藤谷佐武郎(ふじやさぶろう) 階級 大尉

 

所属 日本国憲兵隊 本土(東京)本部 捜査部

 

憲兵隊捜査部に所属する『鬼親父』にして能義崎・名嘉の元教官。

能義崎とはあきつ丸より付き合いは長く、彼女にはかなり目を掛けている。

憲兵隊では古参隊員であり、提督の中にも顔見知りがおり、独自の情報網を持っている。

 

 

 

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24 緩やかな変化

とりあえず、お約束通りの二作目です。


二週間後……無人島鎮守府

 

 

「提督〜、て、い、と、く〜…あれ、提督は?」

 

通信小屋に立ち寄り、幾つかの通知書を持って能義崎の居るであろう執務小屋に入って来た木曾は中に那智しか居ない事に気付き、那智に訊いた。

 

 

「提督か? 提督なら…行方不明だ。私も事務報告で来たのだが…この状態だ」

 

那智も困った様子で言った。

そこにあきつ丸が入って来た。

 

 

「おや、那智殿、木曾殿。おはようございます」

 

 

「あぁ、おはよう…あっ、あきつ丸。提督の居場所を知らないか?」

 

 

「能義崎殿ですか? 能義崎殿なら…この時間は射撃の練習だと…」

「「しゃ、射撃の練習…?」」

 

思わず互いに目を合わす那智と木曾。

 

 

「えぇ、今日のこの時間なら、射撃場で射撃の練習でありましょう」

 

 

「ふ、ふ〜ん、射撃の練習な…じゃあ、ちょっと行って来るか」

 

 

「私は待たせてもらう。今のところ、急を要するに事は無いからな」

 

 

「なら、射撃場は道なりに行けば着くでありますよ」

 

 

「ありがとう、あきつ丸」

 

そう言って木曾は射撃場に足を向けた。

 

 

 

 

「にしても、射撃か……やっぱり、憲兵だよな〜」

 

射撃場に向かう道途中で木曾は呟いた。

木曾が聞いている限り、憲兵である能義崎が軍用携帯スコップの使い手である事は知っている。

では、射撃の腕は…と訊かれると木曾は知らない。

あきつ丸は知っているかも知れないが…ここは見に行った方が早い。

 

 

「そろそろ…だな」

 

道の先から乾いた音が響いてくる。

その音を頼りに音源の方に向かうと、人型標的に向かい9㎜拳銃を的確に撃っている能義崎が居た。

 

 

「あら、木曾。どうしたの?」

 

アイセイフティと耳栓をした能義崎が木曾に気付いて訊いてきた。

 

 

「あ、えーと…上から通知書を届けにな」

 

「そう、ありがとう」

 

アイセイフティと耳栓を外し、プラスチック篭の中に放り込むと鍵つきロッカーの中に仕舞う。

何気無く見たロッカーには篭の他にアサルトライフルも置かれていた。

 

 

「ふむふむ………なるほどね。木曾、戻って幹部メンバーを招集してくれる」

 

通知書を一通り読んだ能義崎が顔を上げ、木曾にそう言った。

 

 

 

 

暫くして……食堂

 

 

「みんな揃ったわね。では、幹部会議を始めます」

 

普段であれば駆逐艦達を含めた艦娘達の食事の場である食堂は会議室になっていた。

なお幹部会議のメンバーは秘書艦あきつ丸、那智、羽黒、青葉、古鷹、鳳翔、龍驤、木曾、神通に能義崎を含めた10人である。

「木曾が持って来た通知書によると、北方方面で深海棲艦に大きな動きがあったそうよ。主に戦艦タ級、空母ヲ級を含む艦隊による威力偵察、水雷戦隊による対潜哨戒の強化等ね」

 

 

「それはつまり、敵が北方方面からの攻勢を意図している…と言う事ですか?」

 

能義崎の読み上げに古鷹が意見を言う。

これに那智が反論する。

 

 

「にしては此方に動きが知られ過ぎている。北方の動きを囮にして、他方面から来るとも考えられる」

 

 

「上層部もその2つの意見で分かれて論戦中よ。とりあえず、各鎮守府に対する注意喚起と警戒・哨戒の強化通知ね」

 

 

「それだけなんか?」

 

龍驤がが訊いてきた。

 

 

「後はね…そうそう、新しく艦娘がこっちに回される様ね。軽巡が2隻」

 

 

「増えるのは良いでありますが、問題は生活スペースであります。まあ、この前拡張されましたから、問題は無いと思いますが」

 

 

「あきつ丸、ちょっと辛辣よ」

 

 

「現状を考えてほしいだけであります。まあ、前々から軽巡の増加は望んでおられたので、よいのでありますが」

 

 

「あぁ〜、あきつ丸は最近の感心が自分に…」

 

その瞬間、何処からともなく軍用携帯スコップが飛んできて、青葉の顔の直ぐ横を飛び、壁に突き刺さる。

 

「……あきつ丸さん、怖いです」

 

被っている軍帽で少し顔を隠しながら青葉を睨むあきつ丸に羽黒がオドオドしながら言った。

 

 

「あきつ丸、やり過ぎ。青葉は口に出しすぎ」

 

 

「あはは……はい」

 

 

「とりあえず、今のところはこれだけよ。じゃあ、解散」

 

と言う事でお開きになった。

 

 

 

その頃…………第六駆逐隊

 

 

 

「「「「…月月火水木金金!」」」なのです!」

 

……無人島周辺の近海哨戒に出ている第六駆逐隊は軍歌『月月火水木金金』を陽気に歌いながら哨戒していた。

そんな陽気な哨戒も響が視線を別の方向に向けた事でお開きになった。

 

 

「どうしたの、響?」

 

「姉さん、あれ」

 

暁の問いに響はそう言って視線の先を指差す。

そこには何故かあちこち損傷しながらも出し得る速度を出して向かってくる艦娘が2人居た。

 

 

「敵に追われているのかしら?」

 

 

「で、でも、敵の姿が見えないのです」

 

 

「潜水艦に決まってるでしょう! 行くわよ!」

 

暁の声に響、雷、電も一斉に最大速で走り始める。

ほぼ目と鼻の距離だった為に直ぐ到着した。

 

 

「姉さん、測音開始するよ」

 

 

「わかったわ。お願い、響」

 

ソナーを使う為に速度を落とし、耳に全神経を集中する響。

そして、ソナーは一発で位置を示した。

 

 

「数は3…現在潜望鏡深度…方向は9時、12時、3時!」

 

 

「電は9時、12時は私、3時は雷よ。掛かれ!」

 

暁の指示に雷と電は頷く担当位置に向かいソナーを使い、爆雷を投下していく。

潜水艦を暁達に任せ、響は潜水艦に追われていた艦娘に接近した。

 

 

 

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25 嵐の前兆…?

前振り? いえ、知りませんね…。
本日も午後に二作目を投稿します。


翌日……執務小屋

 

 

「祥鳳に瑞鳳…軽空母2隻が潜水艦に襲われて追われていた……変な話ね」

 

昨日、哨戒から戻って来た第六駆逐隊が負傷した艦娘2人…祥鳳と瑞鳳…に肩を貸して連れて来た時はとにかくドックに放り込んだ。

本来、潜水艦相手なら軽空母は対潜攻撃も出来るので鎮守府でも龍驤や鳳翔を同行させ、活躍してもらっている。

しかし、その2隻が中破、しかも軽空母単独で航行していたのがわからなかった。

 

 

「艦載機を発進出来なかったのは奇襲雷撃を受けたから、と言うのはわかるでありますが、空母を単独で運航するとは…あまり考えられないであります」

「そうよね…だから余計に訳がわからないのよね…」

 

ドックに放り込む際に艤装を引っ張り剥がしたドック長妖精と鳳翔・龍驤によると、彼女達の艦載機は搭載総数の半分ではあったものの、搭載(矢を携帯)していた。

では、なぜ、対潜哨戒の航空機を出していないのか…これも気になっていた。

 

 

「わからない……まったくわからないわ」

 

そう言って視線を天井へと向ける。

 

 

「だが、どちらにしろ、あの祥鳳と瑞鳳の事をスッキリさせておかないといけないのでは?」

 

 

「うぅ〜〜〜ん…」

 

那智の言葉に能義崎は唸る。

確かにさっさとスッキリすべき問題なのだが、怪我人を叩き起こす訳にもいかない。

 

 

「はあ……どうしたものかな〜…」

 

天井を向いたまま、能義崎はそう呟いた。

 

 

 

その頃……

 

 

 

「う〜ん…これがね〜」

 

私室で能義崎が暇潰し用に引いてくれたインターネットを見ながら木曾は呟いた。

それは銃…主にアサルトライフル…などの紹介をしているホームページだった。

昨日、射撃場で見たアサルトライフルが気になり、こうしてプライベート時間を使って調べていた。

 

 

「提督にお願いしたら、撃てるかな?」

此方も視線を天井に向けながら呟く。

艦娘だから…と言うより個人的にあれを撃ってみたいと言う欲望が沸いていた。

しかし……あきつ丸とは違い果たして撃たせてくれるかどうかとなると……。

 

 

「……まあ、それは追々考えるか」

 

そう言って木曾はパソコンをシャットダウンさせた。

 

 

 

その頃……食堂

 

 

「そう言えば、今度来る軽巡って誰っぽい?」

 

 

「どうだろう…多分、誰も聞いてないだろうから、何とも言えないな」

 

食堂に居た夕立と時雨が近々来るであろう軽巡の事を話題にしていた。

 

「まあ、私としては、しっかりと私達を引っ張ってくれるなら、何でもいいけどね」

 

横で話を聞いていた長波が言った。

 

 

「長波さんはそれしかないですよね」

 

長波の言葉に潮が言った。

 

「じゃあ、潮と初雪はどうなの?」

 

 

「え、えーと…私は何でも…」

 

 

「私も誰でもいい…それより眠い」

 

 

「……初雪、眠り過ぎ」

 

 

「うん、何時も直ぐに御布団に潜り込んでるのに」

 

 

弥生や霰も初雪のツッコミに入り、ワイワイと賑やかになる。

 

 

「神通戦隊長はどうですか?」

そんな賑やかな輪の隣で聞き耳を立てていた綾波は同席していた神通に訊いた。

 

 

「私は……そうね、提督もご存知ない様ですしね」

 

 

「じゃあ、神通戦隊長も誰でもいいの?」

 

 

「それは…上層部が決める事です。私が何か言って決まる事でもないわ」

 

 

「まあ、そうですけど…でも、この鎮守府に配属されるなら、提督とは仲良くしてほしいですね」

 

 

「この孤島に配属されるなら…自然的に仲良くなれるわ」

 

そう言いながら神通は視線を窓から見える海に向けた。

 

 

 

暫くして……執務小屋

「嵐? 天気予報が嵐なの?」

 

 

「そうであります」

 

各鎮守府の天気予報を持って来たあきつ丸に能義崎は聞き返した。

 

 

「台風並みの風雨の嵐…これ、本当なのかしら?」

 

 

「パラオ・トラック、ラバウルの鎮守府がここまで一致すると言う、奇跡に等しい合致の予報でありますが?」

 

 

「あぁ、なるほどね…確かにこれはね……しかも、明日…はあ…仕方無いわ。明日は出ない方がいいわね」

 

 

「それで大丈夫でありましょうか? 」

 

 

「ここまでの嵐なら、彼女達自身が危険よ。それに本土と鎮守府間輸送は運航停止よ。只でさえ危ない海に艦娘の護衛無しで輸送? 私なら本部に頼んで延期してもらうわ」

 

 

「わかりました。明日は出撃状態で待機させておくであります」

 

 

「えぇ、お願いね」

 

 

 

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26 珍客

お待たせいたしました。
二作目です。
さて、艦隊と向こうのアイドルが……。


2日後……無人島鎮守府の海岸

 

 

昨日の嵐で木片やらブイやらゴミやらが流れ着いた海岸を第六駆逐隊の面々がワイワイと賑やかに歩いていた。

第六駆逐隊の面々は海岸に漂着した物品の中から使えそうな物を探す様に能義崎から指示を受け、こうして海岸を4人で散策していた。

 

 

「もう〜、なんでレディーがこんな事しないといけないのよ〜」

 

 

「姉さん、これは提督からの命令だよ」

 

 

「そうよ。任務はしっかりとしないとね!」

 

 

「そうなのです」

 

何時もの調子で話ながら4人は海岸に漂着した物品の中から再利用出来そうな物を探す。

実際、何処かの戦闘で損失した小口径砲塔や破壊された魚雷発射管、砲弾の破片、燃料・弾薬・鋼鉄・ボーキサイトなどなど、資材となりそうな物が散乱していた。

 

 

「司令官さんが言ってた通り、資材がいっぱいなのです」

 

 

「そうね。それに結構使えそうな物もあるじゃない」

 

そう言いながら雷は14㎝単装砲を拾いながら言った。

こうして、第六駆逐隊の面々は海岸を歩きまわる。

すると………

 

 

「あれ? ねえ、あれは何かしら?」

 

そう言われ、3人は暁の指差す方を見た。

 

 

 

暫くして……執務小屋

 

「まさか、神通の姉妹が揃って転属してくるとはね…あっ、ごめんなさい。川内と那珂よね?」

 

 

「はい。川内、参上! 夜戦なら任せておいて!」

 

 

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ〜。提督、よろしくね〜」

 

辞令書と共に先程やって来た川内と那珂を能義崎は出迎えていた。

そこに神通が入って来た。

 

 

「姉さん! 那珂!」

 

 

「神通、久し振り〜」

 

 

「神通お姉ちゃん、久し振り〜」

 

 

「ちょうどよかったわ、神通。貴女の姉妹が転属して来たから、部屋と鎮守府の案内をお願いするわ」

 

 

「は、はい!」

 

嬉しそうな返事をした後、久々の姉妹再会に湧いた3人は喋りながら隊舎の方へ歩いて行くのが執務小屋の窓から見えた。

 

 

「ところで…川内殿と那珂殿の転属理由はなんでありますか?」

 

川内達を執務小屋まで案内し、先程まで黙って執務机の隣で待機していたあきつ丸が訊いてきた。

 

 

「色々と適当な事を書いて有るけど…まあ、多分、あの性格が原因ね。それで提督がウザがって転属名目で厄介払いしたんでしょう。ウチには好都合だけど」

 

 

「そうでありますね。では、川内を中心に夜間哨戒隊も編成するでありますか?」

「そうね、いいアイデアね…控えの駆逐艦がもう少し必要だけど」

 

 

「もう少し隊舎の規模を拡大してからでありますね」

 

 

「わかってる、わかってる。それより、祥鳳と瑞鳳は相変わらず?」

 

 

「はい、未だに目を醒まさないであります」

 

 

「そう…とりあえず、様子を…」

 

そこから先の言葉を中断させたのは慌てて入って来た第六駆逐隊の面々だった。

 

 

「司令、大変よ!」

 

 

「司令官さん、大変なのです!」

 

 

「どうしたの、貴女達…って、雷、背中の子供は?」

 

よく見ると雷は背中に少女を背負っていた。

 

 

「指示を受けた通り、海岸を掃除していたら、あの少女が倒れていたんだ」

 

 

「早く診てもらわないといけないわ!」

 

響が冷静克つ簡単に事情を説明し、暁が急かす。

 

 

「報告なら後でもよかったのに…とりあえず、鳳翔さんの所へ連れて行って」

 

 

「「「「了解!」」」なのです!」

 

 

そして、4人は入って来た時と同様にドタバタと出ていった。

 

 

「……ねえ、あきつ丸。あの少女、どう思う?」

 

 

「……ハッキリと言っていいでありますか?」

 

 

「今更な話よ。それで、どう?」

 

 

「あれはやはり…深海棲艦の幼体か、あるいは新種か……どちらかでありますな」

 

 

「……後でそれとなく調べておいてね」

 

 

「わかりましたであります」

 

 

 

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27 ホッポちゃん

……まあ、大半の人はわかっちゃっていましたよね。
本日も午後には二作目を投稿します。


その日の夜……食堂

 

 

 

「あ〜、疲れた〜」

 

 

「あはは…1日中、哨戒やったからね〜」

 

哨戒任務を終えた木曾と龍驤が本当に疲れた表情で食堂に入って来た。

すると食堂の一角が妙に賑やかだった。

 

 

「なんだ、チビ達か…どうしたんだ?」

 

賑やかな輪の中心が第六駆逐隊の面々だった為に何の躊躇いもなく第六駆逐隊に声をかける木曾。

 

 

「あ、木曾さんなのです」

 

 

「お疲れ様、木曾さん」

 

 

「お疲れ様。この子と一緒に食事を食べていたんだ」

 

 

「下の子を世話するのはレディにとっては当たり前なんだから」

 

暁の何時もの言葉は頭を撫でて対応しつつ、第六駆逐隊の真ん中で鳳翔さんの夕食を食べる少女を見る。

木曾とて解る…頭から足まで白い少女…深海棲艦であると。

しかし、この第六駆逐隊と鳳翔の夕食、そして、周りがもの珍しそうに眺めている事から、最低限、提督である能義崎は知っている事を示している。

 

 

「それで、この子の名前は何なんや?」

 

横から龍驤が聞いてくる。

 

 

「ホッポセーキ」

 

一生懸命に鳳翔さんの美味しい夕食を食べていた白い少女……北方棲姫が答えた。

 

「なんや〜、喋れるんか。木曾はん、わてらも食べよか」

 

 

「ん、あ、あぁ、そうだな。鳳翔さ〜ん、俺達にも夕食〜」

 

 

「はいはい。ちょっと待っていてね」

 

 

 

その頃……執務小屋

 

 

 

「提督! あれ…いや、ホッポセーキはいったいなんだ!?」

 

あきつ丸から報告を聞いていた所に那智が飛び込んで来た。

 

 

「あぁ、やっぱり…その事なら、ちょうど報告を受けたところよ。あきつ丸」

 

 

「はい。最近の軍の資料を調べたところ、『新種』の欄に登録されていたであります」

 

 

そう言ってあきつ丸は報告書を挟んだバインダーを那智に渡した。

 

 

「名称は『北方棲姫』。アリューシャン方面などの北方方面に存在が確認されたので、その名称になったそうですが…写真はそのボヤけた物しか無いであります」

 

戦闘の合間に偶然に撮られた物らしく、その姿はボヤけ過ぎていて、漸く身長が解る程度だった。

しかし、ついさっき実物を見た那智にとってこのボヤけた写真でもよかった。

 

 

「提督、これでハッキリした。それで、あの少女をどうするつもりだ?」

 

 

「どうするって…当分は私達が預かろうかなっと…」

 

「あ、預かろうって……まあ、提督はそう言うお方だからな」

 

 

「ふふふ、それに那智、貴女もよ。北方棲姫なんて…」

 

 

「ちゃ、ちゃんとした名前が有るかなら…それに…」

 

 

「雷、電の一件でありますな。それなら自分もであります」

 

 

「決まりね。それに北方方面の動きも解決するかも知れないわね」

 

 

「……どうゆう事だ?」

 

 

「あくまで推測だけど…北方方面の動きは北方棲姫…ホッポちゃんを捜しての事だったなら……なんてね」

 

 

「「……………」」

 

 

「なんで、黙っちゃうの?」

 

 

「いや、さすが提督…と思ってな」

 

 

「突発的な思考であります」

 

 

「まあ、とりあえず、ホッポちゃんの話はおしまい! 解散!」

 

……とりあえず、対応が決定したので解散とあいなった。

 

 

 

夜11時頃……隊舎内

 

 

 

「まあまあ……早速仲良くなったみたいね」

 

あきつ丸と共に消灯後の見回りをしていた能義崎は第六駆逐隊の部屋で寝息をたてているホッポちゃんと第六駆逐隊、そして、木曾と龍驤が一緒に輪になって寝ていた。

 

 

「本当に…まあ、木曾殿や龍驤殿は世話好きでありますからね」

 

 

「えぇ、そうね…でも、このままだと風邪をひいてしまうわね」

 

 

何も被らずにスヤスヤと寝ている7人を見て能義崎とあきつ丸は出来る限り静かに毛布を被せてあげた。

 

 

「さて…もう少し見回りを続けましょう」

 

 

「そうでありますね」

 

そうして2人は見回りを続けるべく静かに部屋から出た。

 

 

 

翌朝……執務小屋

 

 

 

「さて、神通、今日は川内と那珂を連れて担当範囲の案内をお願い。同行は…そうね、黒潮、舞風、レーベで」

 

 

「わかりました。では、言ってきます」

 

そう言うと神通は執務小屋から出ていった。

 

 

「……気のせいか? 少し微笑んでいた様に見えたが…」

 

 

「昨夜も遅くまで姉妹と話していた様であります…離れ離れになっていた姉妹が再会出来たのが余程嬉しかったのでありましょう」

 

 

「……まあ、仕方無いか。ホッポちゃんの事も解決しているし、後は祥鳳・瑞鳳の事か」

 

 

「ホッポの事がなんだって?」

 

那智の言葉に偶々ホッポを肩車した木曾が龍驤、第六駆逐隊の面々と共に入ってきた。

 

 

「いや…それは終わっているからな。それより、なんだ?」

 

 

「いや、ホッポが提督のところで遊びたいって」

 

 

「あぁ、そう言う事、なら、いいわよ。ただ、執務の邪魔に成らないようにね」

 

 

「まあ、そうなるでありますね」

 

 

「本当に大丈夫だろうか?」

 

そんな事を言いつつ、口は密かに笑っていた那智だった。

 

 

 

暫くして……

 

 

「た、大変です! 提督!!」

 

そう叫んで羽黒が執務小屋に入って来た。

その時、執務小屋では執務をする能義崎、それを助けるあきつ丸、それを手伝う那智、そして、遊びながら手伝う木曾、龍驤、第六駆逐隊、ホッポが居た。

「どうした、羽黒? まさか、敵が…」

 

 

「え、あ、違うの、姉さん。提督、祥鳳さん、瑞鳳さんが目を覚ましました!」

 

 

「そう、じゃあ、さっそく行くわよ」

 

 

 

隊舎内病室

 

 

ドックで修理を終えた祥鳳・瑞鳳が収容されていた病室。

そこには鳳翔が2人にお粥を奨めていた。

 

 

「鳳翔さん、お話は大丈夫?」

 

 

「短時間なら大丈夫ですよ」

 

 

「そう、ありがとう…私がこの鎮守府の提督、能義崎中佐よ」

 

能義崎の自己紹介を聞いた祥鳳・瑞鳳はお辞儀をするだけで何も言わない。

「祥鳳さんと瑞鳳さんでいいわね? なんであの海域にいたのか聞かせてもらえるかしら?」

 

この質問にもまるで貝の様に口を閉ざしている為、答えてくれない。

 

 

「……じゃあ、質問を変えましょう。なんで艦載機が互いに艦攻の矢1本しか無かったの? 戦闘で損耗したの?」

 

 

「「…………」」

 

……またも沈黙を貫く2人。

 

 

「……まさかとは思うけど、黙っている理由は脱走してるから?」

 

ここまで黙る理由はそれぐらいしかない…憲兵の勘が告げていた。

そして、それを示すかの様に2人の顔は青くなっていた。

 

 

「……そう、無理に事情を話してもらう必要はないわ。話せる様になってから話して。龍驤、手空きの子を使って空母隊舎の一室を片付けてくれる?」

 

 

「了解や、提督」

 

 

 

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28 夜戦と駆け込み寺

遅くなってごめんなさい。
仕事の関係で執筆時間が取れないもので…。
では、二作目です。


暫くして……空母隊舎の一室

 

 

「龍驤、部屋の掃除は終わったぜ」

 

第六駆逐隊と北方棲姫、木曾が空室ばかりになっている空母隊舎の一室を掃除し、木曾が終わった事を龍驤に伝えた。

 

 

「了解や。さあ、今日からこの部屋は君ら姉妹の物や。今日はゆっくりしいや」

 

掃除を終えた面々がゾロソロと戻って行く中、龍驤が祥鳳・瑞鳳姉妹を部屋に案内した。

 

 

「……あの、1つ訊いていいですか?」

 

 

「ん、なんや?」

 

出ようとした龍驤が祥鳳が引き留めた。

 

 

「あの…私達はどうなりますか?」

 

「う〜ん、提督次第やから、何とも言えんけど…まあ、事情も解らんのに脱走やからって突き出す事はせんやろうし…まあ、憲兵の提督や、今はゆっくりしとき」

 

2人に手を振りながら部屋から出ようとする龍驤……だったが、入り口で立ち止まる。

 

 

「まあ、我ても元は脱走やけどな。ここに居る間は安心してええで」

 

そう言い残し、龍驤は出ていった。

 

 

 

その日の夜……無人島鎮守府担当海域内

 

 

 

「夜戦♪ 夜戦♪ 夜戦〜♪」

 

嬉しそうな呟きを口にしながら川内を旗艦とする夜間哨戒隊は夜の海を疾走する。

まあ、嬉しいのは川内のむで、他の面々はと言うと……

 

 

「眠い…帰りたい…引き篭りたい」

 

 

「いや、初雪はん、引き篭ったらあかんで」

 

 

「そうですよ〜、こう言う時は踊りましょう」

 

 

「あの、舞風さん…今は夜ですから危ないですよ」

 

 

「……今日の夜は騒がしいですね」

 

 

「や、夜戦…や、やれるかな?」

 

上から初雪、黒潮、舞風、弥生、レーベの5人。

特にレーベはドイツ海軍所属時代にやらなかった夜戦に対する不安もあって少し心配気味である。

 

 

「大丈夫だよ、レーベ。神通さんの訓練に付いてこれてるんだか〜。ほ〜ら、踊〜ろ〜♪」

「え、う、うわ〜! ま、舞風、ふ、振り回さないで〜〜」

 

 

「大丈夫、大丈夫〜」

 

レーベの手を取り踊る……と言うより振り回す……舞風と振り回されるレーベ。

この光景をチラリと見た川内は微笑む。

 

 

「さすが神通が鍛えた子達…我が自慢の妹が鍛えてるだけあるわ」

 

自らが夜戦バカと呼ばれ、一番下の妹がアイドルと言って騒がせているなか、真ん中で中性的な神通には迷惑を掛けてばかりであった。

そして、妹が育成した駆逐艦達ならば……存分に暴れまわれる事も……。

 

 

「川内さん、敵艦隊です…こちらから3時の方向、距離50、大型3、中型2、小型1」

目を回したレーベを姉の黒潮に預け、電探の反応を報告する舞風。

 

 

「重巡クラス以上3、軽巡2、駆逐艦1か…ふーん、いいじゃない、肩慣らしにはね」

 

報告を聞いた川内がニヤリと笑い、指示を飛ばす。

 

 

「総員砲雷戦用意! 魚雷は次弾もチェック。夜戦、いくよ」

 

 

 

2時間後……無人島鎮守府 執務小屋

 

 

 

「それで、戦闘結果は?」

 

 

「重巡3、軽巡2、駆逐艦1…川内隊が見付けた艦隊は全滅であります。対しこちらは至近弾などでかすり傷程度。最大でも先頭で突撃した川内殿の服が破けたぐらいであります」

 

「つまり、川内隊の初陣はパーフェクトゲームだったってことね。川内達は?」

 

 

「ドックです。点検後に異常が無ければお風呂に入るとの事であります」

 

 

「そう…なら、午後に作っておいた鳳翔さんのアイスを出しておいて。黒潮達にとっておいた物だから、人数分はある筈よ」

 

 

「わかりました。では、ちょっと言ってくるであります」

 

そう言ってあきつ丸は執務小屋から出ていった。

 

 

「さて、続き、と」

 

そう呟いて能義崎は閉じていたノートパソコンを開く。

そこには最近、脱走・失踪・行方不明などの各鎮守府の艦娘のデータが入っていた。

 

 

「……単艦なら知らず、姉妹で脱走なら目立つ筈。でも、届けられていないとなると…捨て艦か、表には出せない理由か…どちらかね」

 

 

「祥鳳姉妹の事ですか?」

 

……いつの間にか青葉が居た。

 

 

「えぇ…何か思い付く?」

 

 

「さあ…まあ、私も提督と同意見ですよ。それと、これは噂ですけど…」

 

 

「なに?」

 

 

「一部の艦娘では、この無人島鎮守府を『駆け込み寺』と見ているそうですよ」

 

 

「喜んでいいのか、迷惑と思っていいのか…悩むところね」

 

皮肉そうに言いながら苦笑していた。

 

 

 

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29 幕間2 ホッポちゃんの1日

先週は更新出来ず申し訳ありませんでした。
仕事の都合上、執筆の方が…これからも、こういった事がおきると思いますのでご了承下さい。
本日は午後に二作目を投稿します。
また、時間がありましたら、他の艦これ二次作も投稿するかもしれません。


北方棲姫が来てから2週間後のとある日

 

 

0600…あきつ丸の起床ラッパが鎮守府に鳴り響き、休息待機以外の艦娘達(主に駆逐艦)が飛び起き、隊舎の外に駆け出し、点呼を受ける。

しかし……ホッポちゃんこと北方棲姫にはこれと言って関係なく、今日は未だに睡眠中の能義崎の布団で一緒に寝ている。

最初こそ、この起床ラッパに驚いて半ベソをかいていたホッポも慣れてしまい、今や聞いてもそのまま寝ている。

しかし、0640になると能義崎も起きたのでホッポも吊られて起きる。

 

 

「おはよう、ホッポちゃん。鳳翔さんの朝御飯を食べよっか」

 

 

「ウン、食ベル♪」……北方棲姫も虜にしてしまう鳳翔さんのご飯…何故か納得出来てしまう。

 

 

 

0800……鎮守府業務が始まる時間である。

しかし、ホッポちゃんには余り関係ない…そこが執務小屋であってもだ。

 

 

「能義崎殿、近隣鎮守府からの現状報告であります」

 

 

「提督、これからの艦隊予定だが、これでいいか?」

 

入って早々、秘書艦あきつ丸と当直の那智が担当事項を能義崎に報告する。

それを聞いて処理し、次々に入る報告や執務業務をこなす能義崎を横目にホッポちゃんは床に寝転がり、画用紙にクレヨンで絵を描いている。

 

 

 

「何を書いてるの、ホッポちゃん?」

 

たまたま来ていた羽黒がホッポちゃんに声をかける。

 

 

「テートクとナチとアキツマル♪ 楽シソウダカラ♪」

 

 

「そうなの…うふふ、本当に良く書けてるわね」

 

画用紙に描かれた能義崎・あきつ丸・那智の絵を見て羽黒が微笑む。

 

 

「ハグロも描イテアゲルヨ?」

 

 

「私? う〜ん…また今度ね」

 

そう言って羽黒は北方棲姫の頭を撫でる。

北方棲姫嬉しそうな表情だった。

 

 

 

1000……提督執務小屋は一通りの執務業務が終わった為、静かになっていた。

故に能義崎も北方棲姫の相手をする余裕も出来ていて、今は北方棲姫の相手をしていた。

そこに外から賑やかやって来たのは……昨日は川内の夜間哨戒組に入っており、今日は代休になっている第六駆逐隊の面々だった。

 

 

「司令官、ホッポちゃん居るの?」

 

 

「私達もホッポちゃんと遊びたいのです」

 

 

「鳳翔さんからホッポちゃんはこっちだと聞いてね」

 

 

「れ、レディは皆の意見を聞かなくちゃね!」

 

何時もの様子の4人が何時もの様に入って来た。

 

 

「ちょうどよかったわ。おやつならそこにあるし…ジュースは冷蔵庫。ホッポちゃん、暁ちゃんとも遊ぼうね」

「ウン♪ アカツキお姉ちゃん、遊ボウ〜」

 

 

「っぅ…もう、仕方ないわね!」

 

 

((((今日も暁は背伸びだね))))

 

……やっぱり、何時もの暁であった。

 

 

 

1205……昼食ラッパが鳴り響いた後、能義崎と第六駆逐隊、北方棲姫は食堂で昼食をとっていた。

お昼は肉じゃが、サラダ、ご飯、お味噌汁、お茶。

なお、本日の朝食は鮭の塩焼き、卵焼き、薄切りハム、サラダ、ご飯、お味噌汁、牛乳である。

 

 

「やっぱり、鳳翔さんのお料理は美味しいのです」

 

 

「そうね…私達も鳳翔さんから習おうかしら?」

 

「そうよね。レディとしては料理ぐらいは出来ないとね」

 

 

「姉さんは料理を習う前に適量を学んだ方がいいと思うよ」

 

 

「ちょっと、響! それどう言う事!?」

 

 

「この前、色々とやらかした事、忘れてないよね?」

 

 

「うぐ……」

 

 

「はいはい、そこまで。どう、ホッポちゃん、美味しい?」

 

 

「ウン♪ デモ、コノ前食ベタテートクノ料理モ食ベタイ♪」

 

 

「この前…あぁ、3日前にあきつ丸と食べてた…」

 

 

「「「「食べてた、なに!?」」」なのです!?」

 

 

「オムライスでありますね」

 

タイミング良くあきつ丸が昼食の載ったトレイを持って能義崎の隣に座った。

 

 

「「「「私達も食べたい!」」」のです!」

 

 

「ホッポモ食ベタイ♪」

 

 

「…まあ、時間があればね。オムライス以外にも幾らかは…」

 

……その後、偶々聞いていた他の艦娘達からも作る料理を頼まれる能義崎だった。

 

 

 

1300〜〜1500……第六駆逐隊の面々と共にホッポちゃんお昼寝。

 

1500〜〜1530……第六駆逐隊並びに手空きの艦娘達とホッポちゃんおやつの時間。

 

 

 

1545……無人島の海岸

 

おやつを食べた後、木曾に付いて来た北方棲姫は興味有り気に見ていた。

 

 

「ネエネエ、キソ。何ヲヤッテルノ?」

 

 

「ん、何って釣りだよ。釣り」

 

 

「ツリ??」

 

 

「そう、釣り、魚釣りだよ。鳳翔さん達が来る前は提督が飯を作るからその材料集めにしてたのさ」

 

そう言いながら慣れた手つきで餌を付け、海に向かって釣竿をふる。

 

 

「こうして、後は竿が反応するまで待つだけだ」

 

 

「フーン…」

 

 

…………1時間後…………

 

 

「うーん…今日は外れかな?」

「外レ…ナノ??」

 

1時間の成果は……何故か木曾の後ろで小山になっている魚だった。

 

 

「何時ものなら、この山が2つ出来るんだぜ」

 

 

「フ、フーン…」

 

木曾の言葉に何を言えばいいのかわからない北方棲姫。

しかし、その後も釣りを続ける木曾を北方棲姫は木曾が釣りを終えるまで見ていた。

 

 

 

1730〜1750……能義崎、第六駆逐隊、木曾、龍驤のメンバーと共に夕食。メニューは木曾が釣った魚のホイル焼き、ゴボウと鶏肉の炒め物、ごはん、お味噌汁、乳飲料。

 

 

1755〜1815……上記メンバーと共に入浴。

 

 

1820〜1840……酒保に立ち寄り、お菓子など購入。

 

 

1845〜2135……自由時間。

本日は第六駆逐隊の部屋で木曾、龍驤、羽黒、第六駆逐隊メンバーと遊ぶ。

 

 

2140〜2155……掃除時間。

もちろん、ホッポちゃんも皆と一緒にお掃除。

 

 

2155〜2200……就寝前点呼。

 

 

2200〜2300……消灯前自由時間。

 

2300……消灯・就寝。

 

 

2300〜翌日0600……就寝。

なお、本日は第六駆逐隊の部屋で就寝。

何故か、木曾と龍驤も第六駆逐隊・ホッポちゃんと共に就寝。

 

……以上、ホッポちゃんの1日でした。

 

 

 

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30 北方へ

と言う訳で二作目です。
無人島鎮守府は何処へ行くのか……。

本日中に艦これ2次作の第二・第三弾を投稿しますね。


それから1ヶ月半後……無人島鎮守府

 

 

南方方面……トラック鎮守府とラバウル・パラオ鎮守府の間……にある無人島鎮守府には季節の移り変わりなど無いので時の変化に鈍くなる。

更にやる事にそれほど変化が無い護衛任務が主となるので余計に鈍くなる。

しかし、各鎮守府と日本への補給を担う補給船団護衛は決して気の抜けない任務である。

そんな鈍くなる事や気の抜けない事と戦いながら、深海棲艦に対処していた。

そして………

 

 

 

提督執務小屋

 

 

 

「変化が無いって飽きるわね〜」

 

 

「能義崎殿。それは問題のある発言であります」

 

「仕方ないでしょう。季節の変化も無いと余計にそう感じちゃうんだから」

 

 

「まったく…はい、先程帰還した遠征隊からの報告書であります」

 

 

「ありがとう…祥鳳も瑞鳳も大丈夫みたいね」

 

 

「はい。元気に一線で戦っているであります。もう大丈夫でありましょう」

 

 

「一時は大丈夫かと思ったけど、祥鳳は鳳翔さん達、瑞鳳は工廠長妖精達のお陰ね」

 

部屋を用意した当初は引きこもり状態だった2人も龍驤や電が中心となりケアを続けた事により、少しづつ外に出る様になった。

最終的には祥鳳は鳳翔の弓指導により、瑞鳳は工廠長妖精達が出入りを自由にしてくれた事により、元に戻っていった。

「あの様子を見る限り、前の提督の所は余程自由が無かった様でありますな」

 

 

「…まあ、彼女達が話してくれないと真相は解らないわ。無理に話してほしくもないし」

 

 

「そうでありますね。下手をして元に戻ってしまっては本末転倒でありますし」

 

 

「そう言う事。さて、今日の業務をとっとと終わらせて、ゆっくりしましょう」

 

 

「……まあ、業務が終わっていればよいのですが」

 

 

「提督にお手紙ですよ〜」

 

久々に執務小屋に顔を出した青葉がそう言って横須賀からの命令書を持ってきた。

 

 

「…珍しいわね。明日は雨かしら?」

「いえ、嵐でありますな。念のために各施設の補強を進言するであります」

 

 

「何気に酷くないですか、2人共!?」

 

珍しく命令書を持って来た青葉に能義崎とあきつ丸そんな冗談を言い、青葉のツッコミにも反応せず能義崎は命令書に目を通す。

 

 

「……あきつ丸、冬季装備と冬季被服を上に要請して。あと、北方状況の再確認もお願い」

 

 

「了解でありますが…なぜ北方なのでありますか?」

 

あきつ丸の言葉に能義崎は命令書を見せながら言った。

 

 

「無人島鎮守府は北方に出張よ。出発は数日後ね」

 

 

 

暫くして……食堂

 

 

『幹部会議中』と書かれた掛け札が食堂のドアに掛けられ、能義崎とあきつ丸をはじめとした幹部達が集まっていた。

 

 

「命令書の内容を簡単に言うと我々は大湊鎮守府の要請により、占守島分駐所への増援として派遣されるわ」

 

 

「提督、その『占守島分駐所』とは何処にあるんだ?」

 

那智の質問にあきつ丸が答える。

 

 

「千島列島の北端、ロシアとの国境線にある島が占守島であります。ここに大湊鎮守府が設立された際、偵察拠点兼哨戒所として設立されたのが占守島分駐所であります」

 

 

「占守島分駐所は1人の提督が少数精鋭で運用しているの。でも、北方での動きが収まってないから、私達が臨時の増援として行く事になったの」

「なら、冬季装備は確実やな」

 

 

「お食事も向こうの分駐所の方々と相談しないといけませんね」

 

 

「いや、そもそもの話だが、何で俺達なんだ? ウチの最高戦力は重巡と軽空母だぜ? それこそ、本土の鎮守府の出番だろう?」

 

 

「そうなんだけど…先方はウチをご指名らしいの。それに向こうは向こうで縄張り的な事があるのよ」

 

本来なら縄張りだ、担当区域だと言う事では無いのだが、場所も違えば状況が違う訳で、馴れない場所に入って邪魔になって欲しくない…と言うのが根底にあった。

 

 

「とりあえず、時間は別示するけど、出発の用意を怠らない様に。以上、解散」

能義崎の解散宣言に鳳翔をはじめとした幹部達は食堂からゾロゾロと出て行く。

そして、残ったのは能義崎とあきつ丸の2人だった。

 

 

「能義崎殿、ホッポ殿の事ですが…」

 

 

「もちろん、連れて行くわ。鎮守府は空っぽになるのにホッポちゃん1人お留守番なんて可哀想でしょう?」

 

 

「まあ、そうでありますが…しかし…」

 

 

「もちろん、あの子が私達の元から離れるかも知れない……でもね、それを決めるはホッポちゃんよ。私達はね…見守るしかないの」

 

 

「……そうで…ありますね」

 

 

 

……2日後、無人島鎮守府はホッポちゃんを連れて占守島分駐所に向かい出発した。

果たして、占守島分駐所と北方海域で何がおこるのか……それは誰にも解らない。

 

 

 

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31 占守島分駐所

では、いよいよ、北方へと舞台を移します。
午後に二作目と他作品を更新予定。


4日後……占守島分駐所

 

 

先方からの要請の為、航空機移動となった無人島鎮守府の面々。

艤装を含めた航空機で輸送出来る機材を数機のUS-2に分散して全て積み込み、数便に分けて往復して本土の横須賀鎮守府へ送り出した。

その横須賀鎮守府から大湊鎮守府を経由し、占守島へ輸送された。

そして、艦娘29名(+1)、これに提督の能義崎をあわせた30(+1)名が占守島分駐所に到着した。

そして、分駐所の提督執務室では……。

 

 

「無人島鎮守府提督、能義崎です」

 

 

「占守島分駐所提督、マリアです。活躍の方は海軍広報で知っていますよ、能義崎中佐」

「あはは……あれはちょっと…」

 

海軍広報の話を出されて能義崎は苦笑いを浮かべる。

まあ、あれを活躍と言えるかどうかが怪しいが…。

 

 

「それにしてもマリア大佐。なぜ、横鎮所属の私達に指名を?」

 

備え付けのソファーを勧められ、ソファーに腰掛けた能義崎はマリアに訊いた。

 

 

「海軍広報を見たから…と言うだけではもの足りなさそうね」

 

見事なフワフワ白髪を弄りながら答えるマリア提督。

 

 

「16歳で大佐となり、占守島分駐所を預かる方がそれだけで私達を呼ぶ筈がありませんので」

 

 

「ですよね…出生や方針は違えど私と貴女は同じ思いがあると思いましてね」

 

 

「……つまり?」

 

 

「艦娘の事を『兵器』や『物』ではなく、同じく血の通う『人』として見ている……そうではありませんか?」

 

 

「はい、見ています。だから、私は憲兵になった」

 

 

「うふふ、まあ、その事もあって深海棲艦にも情が出てしまうのでしょう?」

 

 

「そ、それは…」

 

まさか、ホッポちゃんの事がこっちにバレてるのか…と思った時、ノックと同時に意外な者が現れた。

 

 

「失礼スルヨ〜。マリア〜、頼マレテタ紅茶ダヨ〜」

 

入って来たのは……尻尾の艤装が特徴的な……戦艦レ級だった。

レ級は両手で御盆を持ち、あの尻尾を器用に使いドアをノックしたのだ。

 

 

「ありがとう、レ級。驚かせてしまいました?」

 

平然と当然の様に話すマリアに能義崎は慌てて答える。

 

 

「え、えぇ! 大丈夫です! はい! 本当に大丈夫です!」

 

 

「マリア、コノ提督ハ大丈夫ナノ?」

 

能義崎を見てレ級がマリアに訊いた。

 

 

「大丈夫、大丈夫。能義崎さん、そちらも深海棲艦が居るのかしら?」

 

マリアの質問に能義崎はお互い様だと思い答えた。

 

 

「はい、北方棲姫…ホッポちゃんが。一月程前の嵐で流れ着いてきたのでそのまま居着きました」

 

「ウチのレ級と似ていますね。レ級は流れ着いてから、自分の足で分駐所に来てしまいましたけど」

 

 

「アー! マリア、酷イ! ソコマデ話サナクテイイジャン!」

 

……どうやら、マリア提督とレ級は仲良しの様だ。

 

 

「さて、今回の要請に関してだけど」

 

 

「あっ、そうですね。それで、何の為に私達が?」

 

 

 

占守島分駐所 隊員食堂

 

 

 

「輸送部隊の護衛と哨戒部隊と支援部隊の編成…でありますか?」

 

 

「えぇ、そうよ」

 

こちらではあきつ丸と叢雲の秘書艦同士の打ち合わせが行われていた。

 

 

「ウチの分駐所は少数精鋭なの。だから、普段なら事足りる事も忽ち足りなくなるわ」

 

 

「それで護衛任務や哨戒任務に慣れた我々が呼ばれた…と言う認識で良いでありますな?」

 

 

「えぇ。1ヶ月程前の北方での異変から今日まで、威力偵察と思われる侵入のみよ。でも、何故か最近、その頻度が増えたのよ」

 

 

「そうでありますか…ちなみにでありますが…」

 

 

「ん、何か…し…ら…!?」

 

いつの間にかあきつ丸のみ膝にちょこんと座っているホッポちゃんを見て叢雲が驚く。

 

 

「北方での異変はこのホッポ殿が居なくなったからでありますか?」

「あ…えっと……まあ、レ級から聞いた話だと、北方棲姫が消えた事もあるみたいね」

 

なんとか自らを落ち着けながら叢雲が答えた。

 

 

「そちらにはレ級が居るでありますか!?」

 

今度はあきつ丸が驚いた。

まあ、当然と言えば当然である。

 

 

「まあ、深海棲艦が居る鎮守府や分駐所なんて、そうそう無いでしょうね…あったら、それはそれで問題有りだけど」

 

 

「確かにそうでありますね…しかし、他の理由とはいったい…?」

 

 

「ウチのレ級は基本的に一匹狼だから、それ以上は解らないわ…まあ、私達がやる事は変わらないけど」

「まあ、慣れない環境に慣れるまでが大変でありますが…頑張るであります」

 

 

「頑張るね…まあ、こっちも頼んだ身だから、そっちの頑張りに期待するしかないわ。それより…問題はウチの提督なのよね」

 

 

「マリア大佐でありますか? 何か問題がある風には見えませんでが?」

 

 

「見た目はね……まあ、それを知った上で私も秘書艦をしてるけど…それにあんた達なら話しても問題なさそうだしね。実は……」

 

 

 

再び分駐所執務室

 

 

 

「マリアはなんでこの分駐所に?」

 

互いに慣れた為、名前で呼ぶ事にした能義崎がソファーに座り猫の様にレ級の頭を膝に乗せ、顎を撫でてやるマリア。

 

 

「異国の故郷と場景や環境が似てるの。それに派閥とかに巻き込まれるのも嫌なの」

 

 

「あぁ、なるほどね」

 

気持ち良いらしいレ級が猫の様に尻尾を振っている……物凄く危なく見える。

 

 

「さて…ウチの面々の紹介がまだね。行きましょうか。レ級、起きなさい」

 

そう言ってマリアはレ級を起こした。

 

 

 

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32 占守島分駐所の艦娘達

長らくお待たせしました。
そして、遅れてすみませんでした。
直ぐに第二・第三弾も更新します。


占守島分駐所内廊下

 

 

レ級を伴い分駐所の廊下を歩くマリアと能義崎。

南国の無人島鎮守府とは違い、雪がちらつく占守島分駐所の景色を見ながら廊下を歩く能義崎は前から話し声が聞こえたので視線を前に向けた。

前から互いに眼鏡を掛けた艦娘が喋りながら歩いてくる。

 

 

「あら、霧島、武蔵。2人は部屋で待機中じゃあないの?」

 

巫女服に連装砲塔4基を搭載した霧島に褐色肌に巨大な三連装砲を搭載した武蔵だった。

 

 

「はい、提督。ですが、無人島鎮守府からの皆さんが到着された、と聞いたのでちょっと見に行こうかと」

 

 

「あら、そうなの。なら、ちょうどいいわ。あっ、こちらはその無人島鎮守府の提督である能義崎中佐よ」

 

 

「能義崎です。短い間だけど、よろしくね」

 

 

「霧島です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

「戦艦武蔵だ。増援の件、感謝する」

 

 

(いいな…霧島と武蔵……今のウチで運用したら、資材がぶっ飛びまくるわ…)

 

羨ましむべきか、喜ぶべきか、どちらとも言えない思いを抱いた時、後ろから3人の艦娘が現れた。

 

 

「提督、あら、武蔵さんに霧島さん、レ級。3人も一緒だったのね」

 

マリアに声を掛けたのは空母加賀、これに同じく空母の大鳳、雲龍の3人が来た。

「なに、加賀さん?」

 

 

「はい。大鳳と雲龍の訓練時間が終わりました。その報告に」

 

 

「ありがとう…あっ、こちらが無人島鎮守府の能義崎中佐よ」

 

 

「初めまして。空母加賀です。こっちは新人の大鳳と雲龍です」

 

加賀の紹介に大鳳と雲龍が頭を下げた為、能義崎も下げる。

 

 

「ちょうどいいわ。加賀達も無人島鎮守府の艦娘との挨拶も未だでしょう? 一緒に行くわよ」

 

加賀達が頷き、総勢8人が食堂に向かい歩き出す。

 

 

「マリア、この分駐所の艦娘は何人なの?」

 

 

「戦艦はレ級を抜けば2人。空母はついこの間まで加賀だけだったけど、今は3人。後は航巡2人、重巡2人、軽巡2人、駆逐艦6人。計17人よ」

 

「17人…う〜ん、多いのか…少ないのか…」

 

補給船団護衛と哨戒が主な任務なだけに駆逐艦を16隻抱える無人島鎮守府。

また、戦艦を除けばほぼ互角に戦える数は揃っている……とは能義崎も思ったが、最前線と後方拠点との練度の上下差を考えると怪しく思えた。

 

 

 

分駐所食堂

 

 

食堂では秘書艦叢雲とあきつ丸が打ち合わせの続きをしていた。

その横では占守島分駐所の不知火、霞、曙、漣、初霜が黒潮、時雨、夕立、響、潮と話していた。

 

 

「いや〜、聞いてたけど、北方は寒いな〜」

 

 

「そうですか? 不知火には普通ですが」

「いや、不知火は慣れてるからだよ」

 

 

「そうね。でも、南方か…いいな〜、ご主人様と一緒に行きたいな〜」

 

 

「糞提督は暑いのが苦手なのよ。それに私達もここを離れる訳にはいかないのよ?」

 

 

「なら、今度は私達が援軍を要請すればいいっぽい!」

 

 

「なるほど…それなら、占守島分駐所も大湊か単冠湾泊地から代行を出せるね」

 

 

「もう、バカばっかりね! 南方に行く相談なんかして!」

 

 

「あの…じゃあ、霞さんは南方に行くのは反対なんですか?」

 

 

「え、あ、いや、その…」

 

霞が答えに窮している中、他の駆逐艦の面々は……ホッポを連れ、外で暢気に雪合戦をしていた。

 

 

「ウチの面子は元気だな」

 

窓から外を見た木曾が呟く。

こちらでは木曾、神通、川内、那珂が占守島分駐所の長良、名取と話していた。

 

 

「まあ、私も毎日走り込みをしてるよ」

 

 

「長良姉さん…それはちょっと…ううん、かなり違うと思う」

 

 

「私は夜戦がやれれば何でもいい」

 

 

「那珂ちゃんはアイドルだから、何でもやらないとね〜」

 

 

「姉さん…那珂…それ、違うから…」

 

なんだかズレてる姉妹に木曾は苦笑いを浮かべる。

なお、ここには居ない無人島鎮守府の重巡・軽空母組と占守島分駐所の重巡の愛宕・摩耶、航巡の鈴谷・熊野は歓迎会の買い出しで不在だった。

 

 

「しかし…これで大丈夫なのかね」

 

雪合戦をしている駆逐艦艦娘達を見ながら木曾が呟いた。

 

 

 

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33 演習 前編

長くなるので2つに分けました。今回は空母隊の演習です。
なお、二作目は午後、占守島分駐所とマルタ島鎮守府はこの後に投稿します。


翌日……占守島近海

 

 

 

歓迎会が行われた翌日、マリア大佐と武蔵からの提案により、無人島鎮守府と占守島分駐所の艦娘達が演習を行っていた。

今まで双方、提督同士の演習をやった事が無かったので実力把握&レベルアップを兼ねて演習を行う事になった。

そして、状況はと言うと……

 

 

「さすが鳳翔さんと龍驤さん…相手に不足はありません」

 

そう言って空を睨む加賀。

しかし、現状は加賀達に不利だった。

確かに加賀は高レベルで強かった…しかし、大鳳・雲龍は編入されたばかりで実戦経験があまり無かった。

対し、経験豊富な高レベルの鳳翔・龍驤に加え、実戦経験が有り、姉妹ゆえに連携プレーを得意とする祥鳳・瑞鳳の繰り出す航空部隊に加賀達は苦戦していた。

加賀の紫電改隊が迎撃するが、鳳翔、龍驤の零戦52型隊がこれを妨害する。

そして、それを尻目に祥鳳・瑞鳳隊が加賀達に襲い掛かっていた。

加賀はキレのある回避をするが、大鳳と雲龍は何処か鈍い。

故に次の瞬間、加賀の持つ旗艦用タブレットに被弾報告が入った。

 

 

『雲龍被弾 中破』

『大鳳被弾 軽微』

 

横目で見て密かに舌打ちをする加賀。

中破では装甲空母では無い雲龍は艦載機の運用が出来ない。

大鳳の被弾は痛くない……今のところはだ。

 

 

「次は雷撃機ですか…上手いですね」

 

艦爆の急降下爆撃の次は艦攻による雷撃だ。

しかも、急降下爆撃に間髪入れずに行う程に連携が出来ている。

故に中破判定の雲龍は忽ち捕まった。

 

『雲龍複数被雷 大破・戦闘不可』

 

タブレットに出た文字に加賀は一瞥して顔を上げる。

そんな事は今はいい。次はどうするか……そう考えた時、タブレットに情報が更新された。

 

『大鳳複数被雷 大破・戦闘不能』

 

 

その表示に加賀は思わず聞こえるくらいの舌打ちをした。

いくら加賀とは言え、軽空母4隻では不利だ。

が、そんな思考をする前に先程より手強い第2波が来た。

 

 

「あれは…鳳翔さんと龍驤さんの攻撃隊!」

接近する艦攻と艦爆の編隊を見て加賀の表情が厳しくなる。

今まで2人の艦戦隊だけが存在していたが、これに攻撃隊が加わる。

と言う事は……向こうの取った戦法は時間差攻撃しか無い。

しかも、祥鳳・瑞鳳の護衛隊と鳳翔・龍驤の艦戦隊を先行させ、制空権を確保させたのだ。

 

「はぁ…やはり、『御艦さん』には敵いませんね」

 

そう呟きつつも全力で走る加賀……そうそう簡単に当たる気など無かった。

 

 

 

暫くして……

 

 

 

「負けてしまったわね」

 

 

「申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに…」

結果を語ると加賀は鳳翔・龍驤隊に捕捉され、爆弾4発、魚雷4本を受けて大破・戦闘不能判定が出た。

 

 

「まあ、今回は練度と連携プレーに負けたわね」

 

 

「はい…大鳳と雲龍にはまだまだ訓練が必要です」

 

 

「それは当然だけど……能義崎さん。お願いがあるのだけど…聞いてくれるかしら?」

 

鳳翔達とあきつ丸と共に今回の反省会をやっていた能義崎にマリアは声を掛ける。

 

 

「やれる事ならいいけど…何を?」

 

 

「鳳翔さん達を指導役として貸してくれない? 加賀1人だと指導や訓練に限界があるし」

 

「私は別に問題無いけど…鳳翔さん、そちらは?」

 

 

「私達も問題はありません。それに私達も分駐所を借りている身ですから」

 

 

「だそうよ。加賀、鳳翔さん達と一緒にあの2人を鍛えてやって」

 

 

「わかりました」

 

 

 

暫くして……

 

 

「さて……航空戦は自信があったけど…問題は艦隊戦ね」

 

鳳翔達を送り出してから能義崎が呟いた。

 

 

「そうでありますな……戦艦は無し、重巡洋艦は互角、軽巡洋艦・駆逐艦が有利…戦艦の有無だけで圧倒的であります」

 

あきつ丸の言葉に能義崎が額に手を宛てる。

 

「……不利は覚悟の上。武蔵が居ても居なくても同じ…やるわよ」

 

 

「その意気であります。ですが何の策も無しにと言うのは…」

 

 

「策と言うか、なんと言うか…軽巡洋艦と駆逐艦の数、そして、夜戦に掛けるしかないわね」

 

 

 

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34 演習 後編

遅れてすみません。二作目です。
なお、来週は仕事の関係で更新出来ない可能性が高いです。ご了承下さい。
申し訳ありません。


占守島分駐所付近海上

 

 

 

「占守島分駐所艦隊、砲撃きます!」

 

 

「全艦艦隊回避運動用意!」

 

古鷹の報告に那智が鋭く命じ、指揮下の羽黒、青葉、木曾、那珂が構える。

 

 

「弾着、きます!」

 

 

「回避!!」

 

飛来する砲弾に対し、那智以下5人は回避行動をとる。

周囲に水柱が立ち上ぼり、その真横をギリギリに避ける那智達。

 

 

「皆、無事か!?」

 

 

「羽黒、被弾なし」

 

 

「青葉、無事です」

 

 

「古鷹、異常なし」

 

「木曾、全弾回避!」

 

 

「那珂ちゃん、衣装がずぶ濡れだよ〜〜」

 

全員の無事を確認した那智は間髪を入れずに命じる。

 

 

「各員二斉射、撃っ!!」

 

那智は指示を出すと同時に発砲、5人も続いて射撃を行う。

しかも、着弾観測をせず、サッサと二斉射を行う。

 

 

「も〜、こんな事しても当たらないよ」

 

 

「あのな、作戦を聞いてたか、那珂? 今の時間は不利だ。だから、今は回避…」

 

 

「次がきます!」

 

 

「回避用意! 今は耐えろ! 夜戦を待て!」

 

……そう、これは作戦だった。

昼間の戦いでは戦艦を保有する分駐所艦隊には勝てない……武蔵が居るならなおさらである。

だからこそ、駆逐艦・軽巡洋艦を中心とする今の無人島鎮守府艦隊が自信のある夜戦に全てを掛けていた。

 

 

 

その頃……占守島分駐所艦隊

 

 

「……どう思う、霧島?」

 

 

「無人島鎮守府艦隊ですか? どうも、今の戦いには本気を出していませんね」

 

砲撃を行いながら無人島鎮守府艦隊を観察していた武蔵が同じく砲撃を行いながら観察をしていた霧島に意見を訊き、霧島が素直に答えた。

 

 

「後方任務中心の鎮守府とは聞いてたけど、なかなか手強いわね。油断出来ないわ〜」

2人の話を聞いていた愛宕が話に入ってきた。

 

 

「あぁ、那智や古鷹はいい奴だぜ。妹の羽黒も性格はああだけどな…よっと!」

 

摩耶が那智達の砲撃を避けながら言った。

 

 

「鈴野、熊野。着弾観測はどうだ?」

 

 

「あ〜…なんかね……出来ないや」

 

 

「どう言う事だ?」

 

 

「那智さん達は艦隊で回避行動を取っておりますの…しかも、こちらの水偵が観測を行えない様に動いていて、観測が出来ませんわ」

 

 

「だから、照準も曖昧な砲撃か」

 

遥か手前で立ち上る水柱を見ながら武蔵が呟いた。

無人島鎮守府艦隊は回避を優先し、砲撃は一度に二回、しかも、照準も曖昧ときた。

となれば………

 

 

「夜戦に賭ける気だな」

 

 

 

夜……同海域

 

 

 

「ひゃ〜! 顔はやめて〜!!」

 

 

「ばか! 顔を下げるな!」

 

 

「ちょっと、これは無茶があったのでは!?」

 

 

何とか無事に夜戦へと引き摺りこんだものの……向こうも夜戦に賭けていると見ていたのか昼間以上に熱心に砲撃を行っていた。

 

 

「やはり、そう簡単に勝たせてはくれないな」

 

 

「その割には表情は余裕があるね、那智」

那智の独り言に古鷹が微笑みながら言った。

 

 

「あぁ…なにせ、我々には『夜戦バカ』が2人も居るからな」

 

ニヤリと笑う那智の顔は……少し怖い。

 

 

 

 

「なかなかしぶといな」

 

夜の闇越しに那智達を見る武蔵。

無人島鎮守府艦隊にとって待ちに待った夜戦。

しかし、何故か昼間と同様、積極的に動こうとしない無人島鎮守府艦隊に武蔵も疑問を持つ。

何か嫌な予感がした時……

 

 

『こちら、叢雲! ごめん、武蔵、向こうの水雷戦隊は止められなかった!』

 

 

「詳しく報告してくれ」

向こうの川内・神通率いる水雷戦隊を止めるべく、叢雲ら駆逐艦達と長良、名取で別行動をとらせていた。

 

『向こうは夕立・時雨を中心にした駆逐艦6隻でこっちの8隻を抑えてるわ…おかしな話ね。向こうの損害は軽微なのに、こっちは大半が大破か中破よ。長良と名取は真っ先に大破させられたわ』

 

 

「ご苦労さま、下がって休んでくれ……みんな、敵の水雷戦隊が…」

 

来る……と言おうとした瞬間、目の前が明るくなった。

 

 

 

 

「探照灯照射!!」

 

 

川内・神通水雷戦隊突破、との報告に那智は探照灯照射を命じた。

6隻の探照灯が武蔵達を照らしだす。

被弾は覚悟の上、この照射は突破した両水雷戦隊が雷撃出来る様にするためだ。

 

 

「雷撃戦用意! これで最後だ! 一度で決めるぞ!」

 

那智の言葉に羽黒達は頷いた。

 

 

 

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35 北方環境

お久し振りです。
約3週間、仕事の関係でドタバタしてしまい、執筆時間もあまり取れず、ここまでずれ込んでしまいました。
なお、今後も仕事の状況によって更新出来ない事がある事をご了承下さい。
出来る限り、活動報告などで事前・事後にお伝えしようと思います。
では、どうぞ。


その後……占守島鎮守府 提督執務室

 

 

 

「見事にやられちゃったわね」

 

マリアが帰ってきた艦娘達を見ながら言った。

実際、占守島鎮守府の艦娘達は主力隊が全艦大破、長良以下水雷戦隊防止隊は大破・中破半々の判定を受けていた。

 

 

「いえいえ、私達のところは数と支援隊で押しきったギリギリ勝利ですよ」

 

能義崎の言葉は本当だった。

武蔵達と撃ち合っていた主力隊は旗艦那智、青葉、古鷹が大破、木曾は中破、羽黒、那珂が小破。

ただ、叢雲達と戦っていた牽制隊と突入した水雷戦隊は川内と神通が小破した程度ですんでいた。

 

「さて、皆は休んで。夜戦をしたんだから、疲れたでしょう」

 

 

「武蔵、貴女達もよ。もう休みなさい」

 

那智・武蔵達がその指示を聞いて退出した。

 

 

「お互いに実力を見れた様ね」

 

 

「えぇ、でも、私達のところも戦艦が欲しいわね」

 

 

「大丈夫。優しい貴女達の事だから、直ぐに来てくれるわ。それより、貴女達の軽空母艦載機…特に艦戦だけど」

 

 

「零戦52型ね。まあ、今は満足だけど…」

 

 

「そうかもしれないけど…実は開発で余っている紫電改が幾つかあるの。棄てるのも勿体ないし…けど、ウチの分駐所は少数精鋭だから、空母は満杯なのよ」

「能義崎殿、マリア殿の提案を受けては?」

 

横で話を聞いていたあきつ丸が賛意を示す。

 

 

「うーん…まあ、戦力強化になるし、御互いに困る話では無いし…わかった、受けるわ」

 

 

「よかった…さて、細かい事は明日にして、私達も休みましょう」

 

 

「そうね。私達も夜更かしなってしまうわ」

 

 

 

翌日午後1時頃……

 

 

たっぷりと睡眠をとった木曾と第六駆逐隊は占守島分駐所の長良に誘導され、輸送船団へと向かっていた。

 

 

「にしても、やっぱり霧は厄介だな」

 

霧で視界の悪い事にそう呟く木曾。

船団護衛隊は大湊鎮守府から単冠湾泊地経由でやって来る輸送船団と合流すべく向かっているのだが、霧の視界の悪さはその輸送船団を見付ける事すら困難にしていた。

 

 

「そろそろ合流海域なんだけど…あっ、いたいた」

 

霧の中からゆっくりと現れた6隻の輸送船。

その内の1隻から発灯信号が瞬く。

 

 

「『そちらは占守島の部隊なりや?』か…まあ、間違ってはないけどな」

 

信号の意味を読んだ木曾が苦笑しながら言った。

 

 

「向こうは合同部隊であると知らないですからね。さあ、護衛開始です」

 

 

 

先頭を長良、後方を木曾、左右を第六駆逐隊が固めた輸送船団が霧の中を航行する。

6人は電探と音探、己の目に神経を集中し、警戒を続ける。

 

 

『ちなみに長良、こいつに積んであるのは全部、分駐所への補給品か?』

 

 

後方の木曾からの無線通信に長良が答える。

 

 

『いいえ、分駐所と島民への補給品です。それが何か?』

 

 

『いや、分駐所への補給にしては多いな、って思っただけだ』

 

このやり取りを聞いていた暁は自らが護衛する輸送船を見た。

そして……溜め息を吐く。

 

 

(あ〜あ…これぐらいの配給量があれば、鎮守府ももう少しは楽になるのに…)

 

輸送船を見上げてからそう心中で呟き、警戒の為、前を見て横を見た。

そして……一瞬の間が空いて漸く理解した……いつの間にか自分の横に戦艦タ級が居た事に……。

 

 

「……ぴ、ピャャャャ!!」

 

間抜けな暁の悲鳴が響いた。

 

 

 

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