マイナー好きの彼は無双を試みた (赤須)
しおりを挟む

1話

 

 

 

「よーし、行こう! 慎ましくな」

 

 緋色に照らす色鮮やかな装甲。さらに動き回るその速さはまるで流星のようで、射出された四方八方からのビットやファンネル、ドラグーンやファングとはまた違った特殊オールレンジによるビームの嵐が標的に向かって放っていく。

 

 『機体名:TS―MA4Fエグザス』

 

 ガンダムSEED DESTINY作品・地球連合軍のモビルアーマーで、前作のSEEDに出てきたメビウス・ゼロの後継機にあたる。

 メビウス自体もエグザス同様、オールレンジを主とし、高い機動力で敵を翻弄したのちに連装ビーム砲と呼ばれるガンバレルで敵を撃沈させるというマイナーにしては恐ろしい機体だ。

 実際にインパルスガンダムを圧倒しただけの機体だけある。

 まあ、ザクにガンバレルが2基も焼失させられ、そこから登場しなくなったというのは如何なものか。

 

 対する敵の機体は漆黒に染められたガンダムレオパルド。背にはブーストらしきモノが装備されており、宇宙空間にでも適応できるよう改造したのだろう。右手に翳されたビームガトリングガンを連射し、左手のシールドで自身を守っている。

 だがしかし、敵を一掃・牽制に特化されたガトリングはエグザスにとって関係なかった。

 ブーストが取り付けてあるだけあって高い速度で移動するレオパルドなのだが、四方から流れてくるビームが、その機動力を殺し、スキを狙ってエグザスが搭載する連装リニアガンをレオパルドに向けて襲い掛かる。

 

「くぅ!? つ、つえぇ」

 

 レオパルドはシールドで真正面に囲ってガトリングを向ってくるエグザスに照準を合わせてビームを撒き散らす。

 

 エグザス搭載のガンバレルにはメビウス・ゼロのようにただ撃つだけの機能だけじゃなかった。フィールドエッジ<ホーニッドムーン>と呼ばれるビームカッターがガンバレルに追加され、応用性が増えたのだ。

 

「お褒めに預かり光栄だね。でも君のその黒い機体……出来栄えがいいし何やら機動性を高めた改造レオパルドみたいだけど……動かなければただのレオパルドと何ら変わらないよな」

「んな!?」

 

 男が操るレオパルドは必死でビームを回避しようと試みるが、もう遅い。

 

「突貫する!」

 

 ビームカッターがレオパルドのガトリングガンを手にしている右手を切り刻み、もう一方からブーストに主砲が着弾、最後にエグザスのリニアガンが目前で火を噴かせてガンダムレオパルドが燃え盛る爆炎に覆われ、見事に粉砕されてしまった。

 

 

 

 ガンダムレオパルドの残骸から抜け出したエグザス。

 今大会の名種目であるバトルロワイヤルにて、大気圏内や圏外を戦場とした舞台でエグザスを操縦していたパイロット兼ビルダーであるエイキは、この宇宙空間を彷徨っていると目の前から赤い閃光の如く現れたMSがエイキの前に立ち塞がった。

 

「―――先の戦い、見事だったよ……ムロト・エイキ君!」

「むっ、その声は……ユウキ・タツヤか!?」

 

 名はユウキ・タツヤ。彼は外国の学校において常にトップクラスの優等生として知られている。

 だが、その実態はガンプラビルダー。それもかなりの熱烈な好戦者でガンプラを愛する人物だ。彼をガンダム作品のキャラクターに例えるなら、彼はグラハム・エーカーそのものと言えよう。

 それほどまでに彼は熱い。ガンプラ愛に満ちている。それしか言いようがない。

 

「……目の前に現れたってことは、ボクに戦いを挑みに来たってことで受け取っていいかな?」

「無論、そのつもりで君の目の前に現れた! さぁ戦おう。今戦おう。すぐ戦おう!」

「……君のその熱さ……学校のようにクールにいかないのかな?」

「フッ、無理なことを言うな。今の僕は燃えている……! そう、戦いを求める飢えた獣そのものだよ!」

 

 あはは……と、エイキは苦笑いしながら彼の熱さを鎮圧させることを諦めた。

 諦めたのと同時にエイキはエグザスを赤いフレームの敵機に方向を変える。

 

 ユウキ・タツヤの操る機体はザクアメイジング。

 シャアザクをベースに鍛え上げられたそのモデルは、まさに猛者を相手にするような異様な雰囲気を齎している。

 見れば肩部にミサイル、両手にハンドガン。背にはいくつかの武装がみられる。

 装甲も通常のザクとは比べられないほど厚く、並大抵な攻撃では弾かれてしまうだろう。

 だが、エイキはそんなのはどうでもよかった。なんせ、紅の彗星と呼ばれた男と一戦交えることができるのだから……

 

「さて、ここで止まっていても他のビルダーの的になりかねない。そろそろ始めようか」

「……本来なら決勝戦で戦うのだと思っていたんだけどね。運命とは複雑なものだ」

「同感だ……!」

 

 ザクアメイジングが動いた……! そして見た目以上に速いっ。

 しかし、エグザスはエイキが仕上げた中でも出来栄えの良い機体であるため、そう簡単に彼に勝利を譲るつもりはないし、譲らない。勝ち取る。絶対に……!

 

 そういう気でエイキはエグザスを起動させた。

 その動きはまるで紅の彗星と相似しており、アクロバティックな操作は誰もが見惚れるほど……故に、彼の異名にはこう名付けられた。

 

 

 

 ――――――緋色の流星と……

 

 

 

 

 

 あれから3年後……

 

 主人公―――ムロト・エイキはマイナーな機体を好む。

 ガンダムタイプやαアジールのようなレギュラー厨のモノに乗りたがらず……ガンダムシリーズにおいて原作で目立った動きをしてこなかった機体を使用することで有名になった話だ。

 性能ばかりを頼りに勝つようなマネはしたくないとか、ただ単にレギュラー系統の機体が嫌いなのか、そういった噂が同じビルダーであり、彼と友人関係にあるユウキ・タツヤの耳に届いていた。

 あれほどの腕前を持っていて、なぜ彼は性能として曖昧な機体ばかりを選ぶのか、ユウキ・タツヤは興味本位で聞いてみたところ、

 

「ん……? ああ、ボクはふつうにマイナーな機体が好きなだけで、別にガンダムとか厨MSとか好まないわけじゃないんだよ? でも確かに傍から見ればそう判断されそうだね」

 

 それを聞いて少し驚いた。ユウキ・タツヤは彼のことを厨ガン嫌いとばかり思っていて、それ以外の機体には眼中にないと思っていたからだ。

 彼が操っていたエグザスは確かに機体性能としては高く、マイナーにしてみればかなりのモノだろう。しかし、あれには欠点がある。

 それは、あの機体と同じ系統であるメビウスやメビウス・ゼロと同様……宇宙空間でしか動かすことができないことだ。確かに宇宙空間においてはガンダムに匹敵するぐらいの性能差を見せるが、大気圏内のエグザスは無力と化する。

 他は機動力の速さのせいで防御のほうが手薄になっていることだ。当たらなければどうということはないというが、万が一に着弾してしまった場合、致命傷を免れることは全くと言っていいほど無いだろう。

 マイナー機をもってして、彼は前回世界大会上位ランカーに入ったのだから、もしイージスガンダム、Zガンダムといった可変式ではあるが、高機動を誇り、かつ大気圏内でも活躍できるような機体に乗っていれば優勝なんて目じゃない。

 想像すれば想像するほど空恐ろしく思えてしまう。かと言って、彼を倒したのはユウキ・タツヤ本人なのだが、あれを勝ったとは微塵たりとも思ったことすらなかった。

 

 ユウキ・タツヤは「エグザス以外の機体に乗るつもりはないのか?」という軽い会話染みた風に再び質問してみると……

 

「おや? おやおや? もしかして次の世界大会に向けて情報収集かな~、タツヤもやるねー。でもそれだと負けフラグ建っちゃうからやめときなよ。そういうのは主人公にしか通用しないんだから」

 

 そのつもりで話したわけじゃないが、とユウキ・タツヤは呟く。

 どうも彼は話すつもりはなさそうだ。

 たった一言ではぐらかされたユウキ・タツヤは少し気難しそうな顔をするのだが、ムロト・エイキはそんなのお構いなしに机に置いてあった弁当の料理を頬張っていた。

 すると、彼は何かを思い出したかのような表情になり、自分の方に顔を向けてくる。

 

「そういや、タツヤ。さっき耳にしたんだけどさ、知ってるかい?」

「……? 何をだ」

「サザキがイオリに敗れたっていう噂だよ。サザキってギャンというマイナーな機体を扱うからボクのお気に入りだったんだけどさ、これが面白おかしくイオリの完成した機体を巡って返り討ちにあったんだって」

「あのサザキ君が……」

 

 サザキという人物はギャンを操ることで有名で、ここ聖凰学園の周辺において切っての実力者なのだが、その彼をイオリ・セイが倒した。

 イオリ・セイは世界大会準優勝者として有名なビルダー……イオリ・タケシの息子で、実力は未だ不明。彼の息子だからという理由で強いのだろうという判断はしてないものの、まさかサザキを倒すほどの実力と思うと、驚かざるを得ないのだ。

 

「でも、考えてみれば納得するかも……僕も何度かイオリ君の模型店に立ち寄ったことがあるんだけど、彼の作ったガンプラは実に素晴らしいものだったから、サザキ君を倒したのも本当なのかもね」

「へぇー、戦ってみたいものだ。タツヤもそう思うだろ?」

「まあね。僕としてはサザキ君を倒したその実力……この目で見極めたいと思っているよ」

「……さっきからサザキを過大評価しすぎだと思うんだけど……ボクの気のせい?」

 

 世界大会出場者であるエイキにとってサザキはまだまだ未熟としか思えなかった。

 対するタツヤも同じ世界大会出場者なのだが、彼の人に対する敬意というのが少し正しすぎる。

(……まあ、戦う時よりはまだマシかな)

 あの二重人格染みた変貌ぶりには驚きを禁じ得ない。

 つまりだ。エイキは彼のことが少し苦手だ。

 普段、友人として話すのなら問題ないのだが、あの真面目すぎる性格をどうにか柔らかくならないものなのか、と彼と会うたびに思う。

 

「じゃあ、僕はこれからイオリ君のもとに行ってみるよ」

「行くのはいいけど、もしかして君……イオリに勝負を挑みに行くんじゃないだろうね?」

「まさか! そんなはずがないだろう?」

 

 彼の言葉を聞いて、絶対に何か仕出かすに違いないとエイキは察した。

 長年の付き合いというわけじゃないが、聖凰学園で3年間同じクラスだっただけに、エイキは彼の行動が読めるようになってきたわけで、それが良いことなのか、悪いことなのかは知らないが、得というわけではないだろう。

 

 タツヤは教室から立ち去るのを見送りしながら、サザキを倒したというイオリ・セイという少年に武運を祈った。彼の目が光ったが最後……戦いというものから逃れられない。

(……でもボクが祈られた人、大抵やられちゃうんだよな。なんでだろう)

 ちょっとした疑念が湧き出し、うんぬんと考えたエイキ。その結果は何も思いつかなかった。

 どちらにせよ、エイキにとっては無価値な悩みだったので思いつかなかったらそれだけで、あとはそれ以上考えることはなかった。

 

「さて、と……タツヤも行ったことだし、ボクもアレの構想を練らないと……」

 




マイナーなMSが好きな諸君! マイナーなMAが好きな諸君!

ガンダム好きな諸君! 私は書いてしまったぞぉ!

因みに、私が好きなMSはバイアラン・カスタム。MAはエグザスです。
ね、マイナーでしょ? でもバイアランってマイナーだよ、ね?
劇場版UCに出てきたあの無双劇はマジで惚れた。そんでもってここのSSに書きたいですね。

バイアランやエグザスのみならず、他のマイナーな機体を使わせてみたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

 

 

 

 ゴンダ・モンタと呼ばれる聖凰学園高等部2年生の少年? は非常に不機嫌であった。

 なにせ、昼休みの時間……生徒会役員の1人として学校の治安が乱れていないかどうかを判断すべく校内を見回りしていたのだが、その歩いている最中にゴンダはあるものを発見した。

 女子たちが校庭でお弁当を食べていた。それまではいい。実に仲がいいことで何よりだ。

 しかし、その女子たちの中に見知らぬ少年が女子生徒に話しかけているのではないか。

 このゴンダ・モンタは、今まで校内の見回りをしていたこともあって、ほとんどの生徒を覚えていると自負している。故にあの少年は誰だ? と厳つい思想を抱きながらゴンダ・モンタは少年に話しかけた。

 

 赤い髪の日本人離れをした少年だった。風貌からしてきっとそうだろう。しかし、彼は学校の生徒ではないし、胸元に入校許可証すら付けていない。

 結果、彼は部外者ということになる。学校の治安を守るのは生徒会の役目であり、義務である。ゴンダ・モンタは直ちにこの学校から立ち去るように勧告した。だが彼は首を縦ではなく横に振った。しかも表情が無邪気というか無知な顔をしている。

 見た目通り外国人だからなのだろうか……いや、それでもゴンダ・モンタは自分の心を鬼にし、再び彼に出ていくよう口にした。いくら外国人であろうと部外者は部外者。ここで屈しては生徒会の名に泥を被ることになる。というわけで喋ったのだが……

 彼は訝しく首を横に振った。それがどういうわけか、ゴンダ・モンタにとって怒るに値する仕草であった。ゴンダ・モンタはこうなったら力付くでしか意味を伝えることができないと悟り、少年に肩を掴んで追い出そうとしたその時――――――!

 

「……!?」

 

 意識が一瞬真っ白になり、薄ら薄らと元の視界に戻る。

 そして気づいた。自分自身が地に這いずっているではないか……と。

 ゴンダ・モンタは何が起きたのか理解できず、混乱で頭がいっぱいだった。

 さらに、ズキィッ―――と足の関節部に痛みが生じる。

 それもかなり痛い。口から先ほど食した昼食のごはんが出そうになったのをどうにか引き戻し、この痛みの原因をおずおずと振り向くと少年がゴンダ・モンタの腰に馬乗りにし、自分の両足を少年の両脇に挟んでメキメキッと通常では曲がらない方向に自分の足が曲がろうとしていた。

 ―――自分がされていたのは逆エビ固めだった。

 

「――――――ッ!?」

 

 あまりにも強烈な痛みにゴンダ・モンタは目に涙を溜め、もがき苦しむが如く片手を地面に叩き付けて悶えていた。

 そこに途方から「レイジ!?」と少年の声が耳に入った。痛みに堪えながらもゆっくりと発せられた声をもとに顔を傾ける。その方向は学校棟の2階……模型部の場所からだった。ちょうど見知った顔であり、生徒会長兼模型部の部長のユウキ・タツヤが窓から覗いていた。しかし、先ほどの声の主は彼のモノではなく、ちょうど彼の近くにいた青髪の少年だった。確かヤツはイオリ・セイとやらか……とゴンダの頭から浮かび上がる。

 前にユウキ・タツヤがイオリ・セイのガンプラ制作技術を高く評価しているような話を聞いたことがあった。それに前世界大会準優勝者であるイオリ・タケシの息子だということも。

 

 彼らが来てからようやく解放されたゴンダ・モンタはこの少年について問いかけてみたところ、会長ことユウキ・タツヤが言うには先ほどの侵入者……レイジと名乗る赤髪の少年は会長が歓迎した客だそうだ。だがそんな話一切聞いてないし、急なことだったので半信半疑ではあったが、会長が言うのだから仕方ない、と彼を追い出すことに断念した。

 しかし、あまりにも火に油を注ぐかのようにレイジがゴンダ・モンタに茶化すせいなのか怒りに震え、ゴンダはレイジにガンプラバトルを仕掛けた。会長が言うにはレイジという少年は、この地区の実力者であるサザキをコテンパンに倒したそうではないか。その彼の実力を知るにも丁度いいと考えたユウキ・タツヤはその勝負を認める。

 だから挑んだ。ゴンダ・モンタ自慢のガンプラ……ゴールドスモーで……

 相手はユウキ・タツヤが認めるガンプラ制作者イオリ・セイの作ったビルドストライクガンダム。そして戦った。戦ったまではいい。ゴールドスモーに搭載するメガ粒子砲でヤツにお見舞いし、その威力をもって捻じ伏せようと考えた。

 しかし、ビルドストライクの性能は予測を遥かに超えていた。メガ粒子砲は躱され、コロニーに大穴が開かれる。その時に生じる気流が彼らのガンプラを宇宙空間へと引き込もうとしていた。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 その生徒会長と何者かは知らないがガンプラバトルをすると聞いて、様子を見に来ていたムロト・エイキは試合を見ていた。

 ゴンダ・モンタのガンプラは実に素晴らしい。ゴールドスモーをシルバースモーにすれば面白いが、それは兎も角……あの片手から放たれるメガ粒子砲の火力は早々出せるもんじゃない。去年に比べて実力が上がっているな、とエイキは心の中で称賛を送った。

 しかし、今注目すべきなのはレイジが操作するビルドストライクだ。…………見た感じあれは未完成だな、と察する。

 武装もビームサーベルと頭部に搭載されているバルカン砲ぐらいしかない。

 だがあのスピードと操作の技術はあのサザキを倒したのも頷けた。

 まるで武闘家のような動きに加え、MSの性能に振り回されずそれに合わせて使いこなしていたのだから。

 

 しかしだ……ムロト・エイキにとってレイジは、やはり未熟にして戦闘に大雑把さが見える。動きが大振りで、素早いが一々無駄がありすぎだ。でもあの動きはこれから伸びるであろう動きであった。

 それとこれはエイキの私情なのだが、彼の操る機体がマイナーでないことが非常に残念であった。あれがマイナーなMSだったら面白かったのに、とエイキは不服そうに眉を八の字にした。

 

「……そろそろ決着が付くかな」

 

 気流に覆われる中、次弾を放出しようと溜めているゴールドスモーに対して、その溜めている間のタイムラグを利用して近づこうとするビルドストライク。風向きもあるのでゴールドスモーの方が優位そうに見えるが、ビルドストライクの性能はそれすらも打ち砕いた。

 ビルドストライクに搭載されたブーストをさらに火力を上げ、有無を言わさぬ速さでゴールドスモーの懐に飛び込む。それに驚愕したゴンダ・モンタは慌てて対応しようとIフィールドサーベルで迎え撃ったが、もう遅い。

 ビルドストライクのビームサーベルがIフィールドサーベルの出を上回っていた。そしてスモーは高熱の斬撃によって倒されるのであった。

 

 

 

 ゴンダ・モンタがやられたのを見ていたムロト・エイキは彼のもとに行き、ドンマイと声をかけてあげたのだが、外野から「ゴンダが負けた!」「ゴリラが負けた!」の悲鳴を耳にゴリ……じゃなくてゴンダが怒り狂って先ほど禁句を口にした生徒たちを追い回している。あれだけ元気なら問題ないだろう。

 その様子に呆れながら苦笑いしていると……エイキはバトルフィールドに1人の少年が手にした紅いガンプラをセットしているのを気付く。

 

「ん……あれ、タツヤ……?」

 

 エイキはタツヤの不審な行動に目を細めたが、あの紅いガンプラ……ザクアメイジングを見て察した。

(あー……また始まったか。戦闘衝動が)

 例えがグラハム・エーカーのようなキャラだけに、先ほどの温和な態度から勇ましい熱血キャラへと変貌してしまった。

 あの時、戦わないとか言ってたのに……話が違うじゃないか。

 

「……はぁ、仕方ない人だな」

 

 ザクアメイジングをすぐに出撃させたタツヤは、

 気流の風力を物ともせず、イオリとレイジの前に立ちはだかった。

 

「……これではせっかく集まってくれたギャラリーに申し訳が立たない。君も……そうは思わないかね? いーや……私はそう思う! レイジ君!」

「ゆ、ユウキ先輩……?」

「あ、あんにゃろー」

 

 タツヤを前にレイジは片眉をあげながら問いかける。

 それをタツヤは、前髪を後ろに整え目つきを刃のように鋭利に尖らせた。

 あれが現役高校生において最強と謳われたユウキ・タツヤ……

 

 紅の彗星と呼ばれた少年である。

 

「突然乱入してすまない。……だがね、レイジ君。先の戦いは実に素晴らしかった。が、君はこのガンプラに対する思いがなっていないことが分かった。そこでだ、レイジ君。私は君に勝負を挑ませてもらおうじゃないか。それで君には敗北というものを知ってもらう!」

 

 ザクアメイジングの両手にはヒートナタが握られ、それをビルドストライクに向ける。

 焚き付けられた闘志が伝わったのか、レイジは冷や汗を掻きながらも彼の威迫に動じず、彼と対峙した。

 

「いいぜ、乗ってやるよ。こんな挑発をされて……おちおちと引き下がってられるかよ!」

「……! れ、レイジっ」

 

 レイジの好戦的な態度にイオリ・セイは驚きの声を上げる。

 しかし、イオリ・セイはそれに反対する言葉を出さない。

 どちらかといえば、イオリも戦ってみたかったという好奇心があった。

 自分の作った……それも最高傑作とも言えるビルドストライクがどこまで彼に通用するのかを……

 

「……フッ、それでこそガンプラビルダーだ、私はそれに感謝する。戦士とは……目と目があえばその瞬間戦うのが定めなのだからね……!」

「……ッ、しゃらくせぇ!!」

 

 さきに仕掛けたのはビルドストライクに搭乗するレイジだ。

 タツヤはそれに一向に怯むことなく、感情を昂ぶらせていながらも冷静にビルドストライクのビームサーベルの熱線を躱す。

 

「は、早い……!?」

「んなろーッ!」

 

 驚きの音を上げるイオリに対し、レイジはビルドストライクの腰に携えたもう1本のビームサーベルに下段に向けて熱線を噴出させる。

 しかし……

 

「―――燃え上がれ!」

 

 あのビームサーベルの攻撃を躱したザクアメイジングにエイキを除いて全員が驚愕した。

 そして、ザクアメイジングが見た目とは裏腹にあの速い立ち回りでビルドストライクの後ろに回り込んだ。武装が少ないのが不幸中の幸いというべきか、ビルドストライクはその機動に負けず全体を反転させ、手にしたビームサーベルをザクアメイジングに向けて振り払う。

 

「―――燃え上がれ!!」

 

 ビルドストライクの猛攻を紙一重で避け、ヒートナタを薙いで彼のビームサーベルを弾き飛ばす。さらにもう1本……後方に逃げたビルドストライクは頭部のバルカン砲で牽制するが、

 

「―――燃え上がれっ!!」

 

 タツヤが操るザクアメイジングには通用せず、そのまま接近されて足払いし、首元にナタが寸止めされるのである。

 これにてバトルが終わるのだが、このバトルの決着が始まってから約50秒か……流石だね、タツヤ。

 

「さて、と……ボクもこれに参戦したいけど……まだアレが完成していないことだし……ここはガマンガマン」

 

 世界大会選手権……楽しみだな。タツヤも3年前とは比べ物にならないぐらい技術と力が向上しているし、サザキや他のビルダー……それにおそらく彼らも出場するのだろうイオリ・セイとレイジの2人組。今年度は期待しても、良いかな。

 

 そしてボクはこの時、誓った。

 

 マイナー勢を使って無双してみよう……と……

 




今回はオリ主が傍観者のように立ち振る舞わらせました。
一応、レイジがガンプラバトルをするキッカケにもなっていますし、
そんな事情を知らないエイキが彼らを見てどう思うのか、そういう描写にしてみました。

グラハム・エーカー……ガンダムシリーズの中で好感を持てるキャラなので似ていないかと思いますが、物語が進んでいくごとにタツヤをグラハム化させてみたいと思います。

感想・批評・誤字脱字がありましたらよろしくお願いします。

―――追記―――
感想でこういうガンプラを出してほしいという要望がありますが、感想以外のことを投稿すると、
規約違反になるそうなので、控えてほしいと思います。申し訳ありません。

2話書いてて、自信も少し上がってきたので1週間後に作者の正体を出したいと思います。
1週間後に活動報告でマイナーな機体などを募集するのでその中から3機~4機ぐらい選出したいなーと思います。

ついでにこれは作者の私情なのですが、匿名を使うのはいいけど活動報告とか必要な場合って不便だなぁ、って思います。これも匿名とかできないのかな? まあ、ボチボチ頑張りたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 

 

 

 現役高校生最強といえばユウキ・タツヤ。日本ガンプラビルダーのほとんどがそう言うだろう。ガンプラ塾と呼ばれるガンプラのエキスパートを育成する養成所で彼はそこであらゆる困難を乗り越え、紅の彗星と称されるほどまでに至った。

 しかし、彼を高校生最強に例えるのはまだ早いんじゃないか、という声がある。前世界大会バトルロワイヤルでそれが明らかになっていた。それはマイナー機を好み、ありとあらゆるガンプラに精通した男……ムロト・エイキ。

 

 緋色の流星として紅の彗星と対を成していた少年で、聞けばユウキ・タツヤと同年代にして同じ高校に通っている人物だと言われている。そして彼はMA―――エグザスでバトルロワイヤルに出撃し、彼と巡り合った高校生最強ユウキ・タツヤは戦った。

 

 ムロト・エイキが操るエグザスと対峙していたザクアメイジングが先に仕掛け、ハンドガンからの実弾と肩部に搭載したミサイルが一斉に放たれていく。

 それを見越してエグザスは方向を上に飛び上り、弾丸やミサイルの嵐を回避する。それはユウキ・タツヤにとって分かり切っていたことだ。タツヤの目的はエグザスが前にしか突発的に動けないのを知っているので、それを追撃する形で彼を仕留めようと試みた。おそらくこれもエイキには見抜かれているだろう。

 

「……なッ」

 

 見抜かれていたのはいい。問題はその対処され方だ。

 エグザスはザクアメイジングの追撃を掠りともせずに躱し、有線式ガンバレルを使用するのをタツヤは用心しながらも追い回していたのだが、エグザスの後部から何やら煌めく鱗粉のようなモノが散らばり始めたのを目にした。 一瞬何なのかと思いきや、それはプラフスキー粒子だった。

 プラフスキー粒子とは、とあるプラスチックに反応して外部から操縦することができる特質なモノで、これはガンプラビルダーにとって基本中の基本とも言える。そのプラフスキー粒子が一斉にタツヤの目前に振り撒かれた。

 

 どういう意図なのか、タツヤはわからなかった。しかしガンプラ塾からの経験と脳裏に浮かび上がる生存本能から危険だと訴えてくる。だが遅かった。

プラフスキー粒子を凝縮し、一気に解き放たれる粉塵爆発染みたその威力がザクアメイジングに襲い掛かり、吹き荒れる爆音と爆風に見舞われ、エグザスから遠く離れてしまった。先ほどの攻撃はおそらく、プラフスキー粒子の応用を活かした技なのだろう。これでは追撃どころか逆に撃たれる危険性もあるわけだ。

 そう感じ取ったタツヤは即座に対応し、ミノフスキー粒子のような弾幕から抜け出した。タツヤはエグザスがどこにいるかザクのメインカメラで辺りを見回すが、姿が一片たりとも現さない。

 

「……どこだ」

「―――ボクはここだよ! タツヤ!!」

 

 ボフッと粒子の煙から現れた物陰がザクアメイジングに襲い掛かるのをタツヤは確認した。

(―――ッ、正面から向ってくるとは……愚かなッ)

 二丁拳銃に持ったハンドガンをそれに向けて狙い撃った、が、しかし……

 

「有線式ガンバレルッ……囮か……!?」

 

 シルエットを見て、あれが有線式ガンバレルの<ホーニッドムーン>だということを理解したタツヤはそれを破壊するも―――

 

 ―――ガッ

 

「……ぐっ、真下からだと!?」

 

 2基目の<ホーニッドムーン>がザクアメイジングの背部を削り取るかのように切り刻む。ちょうどアメイジングブースターが身代わりになってくれたので、本体へのダメージは少なく、何とか一命を取り留める。

 タツヤは自分のプライドもあってか―――タダではやられん! という勢いで切り刻んでくれた有線式ガンバレルのワイヤーをハンドガン1丁収めた直後、ヒートナタを抜き放って胴体の回転運動を利用し、ナタの薙いでワイヤーを引き裂いた。

(……これでヤツのガンバレルは2基のみ。手負いを喰らったが、これでお相子だっ)

 自身が駆り出すザクアメイジングに比べ、エグザスは応用が多いものの武装面が少ない。先ほどのプラフスキー粒子も何度も使えるモノじゃないだろうし、一度やられた技だ。二度目は喰らわん。

 と、タツヤは戦場に張り巡らせる知識の増量と、経験がそう語りだされる。

 ―――その時、コックピットに張り出されるモニターからブゥンッ―――と少年の顔と共に出現した。

 

「えへへ……ボクの2段構えを躱すなんて、さっすが」

「それはこちらのセリフだ、エイキ君。私のザクに搭載するアメイジングブースターがなければやられていたのはこっちなのだからな」

 

 煙幕から抜け出したエイキに向けて称賛を送ったタツヤは速やかにザクアメイジングを稼働させてヤツを追いかけた。

 ブースターが破壊され、機動力が多少減ったが……それでもなお、エイキの操るエグザスを狙い続ける。エグザスの機動力はタツヤが操るザクアメイジングを遥かに凌ぐ存在。だが、彼と渡り合えるのは、おそらく機体の性能ではなくてタツヤの技術力がそれをカバーしているのだと思われる。

 

 

 

 タツヤもまたマイナーというものをよく使う。というより、彼の場合はマイナーという思考ではなくて「やられるだけの存在なのに、改良により多くの高性能機が生み出されている」という設定に惹かれたとか。

 高校に上がる前、彼と出会い……知り合ってから間もないというのに友好的なのは、同じマイナーとしての同志に巡り合えたとか、バトルが好きとかではなく、ただ単にガンダムが好きだという共通点から生まれた友情なのである。

 そんな彼らとの対決に観客からの声援が聞こえ始めた。もうこれ、決勝戦でいいんじゃね? という声もあり、その雰囲気に呼応したエイキとタツヤは笑わずにいられなかった。

 

「だからこそ、燃え上がる! そして滾る。この熱き戦い……私は嬉しい。これが本気のガンプラバトル……

 

―――まさしく愛だ!!」

 

 瞬く間に紅い闘志を剥き出しにしたユウキ・タツヤは片手のヒートナタを仕舞って再びハンドガンを手にする。

(ハンドガン2丁……だが装弾数は残り右3発と左5発……ミサイルは6発。ヒートナタは2本。ヤツを相手にするなら物足りないのだが、今のヤツなら事足りる……ッ)

 

「うん、ボクも……楽しい。今まで物足りなかった戦場に対する欲が潤いに満たされるよ。こんなのいつ以来かなぁ」

 

 口元を吊り上げ、無邪気で冷たい戦意を見せるムロト・エイキはエグザスに搭載された有線式ガンバレル2基を放ち、連装リニアガンをザクアメイジングに狙いを定める。

(ガンバレル2基、P粒子パックも残り1つ……連装リニアガンはまだまだいけそうだけど……タツヤ相手にこれは厳しいなー)

 

「この大会……この私が優勝をもらうっ!! 覚悟するがいい、エイキ君!」

「それは否だよ。断じて否だ! こう見えてもガンプラ心形流造形術の珍庵(ちんあん)さんから太鼓判を貰ったほどなんだから、ボクは師の期待に応えられるよう頑張らないとね……

 

 

 

―――でも、本来ならエグザスじゃなくて決勝戦用(・・・・)のガンプラで相手したかった」

「……っ?」

 

 なに、不思議なことじゃない。ガンプラバトルにおいて創作と破壊の連鎖が続くわけで、それらに対応するためにも同じガンプラを作ったり、出場したガンプラを修理するために必要な素材を予め準備していたり、改造したり、新調したり、解除したり、と様々な工夫によってガンプラが日々進化するものだ。

 だが、先の言葉……『決勝戦用』とは何だ。ではヤツ……ムロト・エイキは本気じゃなかったというのか。ユウキ・タツヤはエイキの言葉に思いの他、痛恨にして会心の一撃を喰らったかのような打撃であった。

(……や、ヤツの本気はあれが全部じゃないというのかっ)

 ただでさえ、今こうして互いの本気というものを激突しあっているのに……

 エイキという少年はまだ力を奥底に隠しているというのだ。

 ―――果てしなく底が知れない少年。

 

 ユウキ・タツヤはこの時思い知った。格が違うと……

 

「で、どうするのさタツヤ。このまま続けるかい?」

「…………」

 

 このままいけばタツヤは彼に勝つことができるだろう。

 勝率としては十分にある。だがしかし、タツヤは彼の本気で戦ってみたいという信念が篭っていた。それはエゴだと思う。ここで勝てる試合を無駄にすることは、今まで戦ってきた自分の傷ついたガンプラに申し訳が立たない。故に、タツヤは思った。

 

「―――ああ、もちろんだ!」

 

 格が違っても、タツヤはガンプラビルダーとしてのプライドがある。故に、それを打ち砕けと拳が唸り、今こそ勝利を掴めと轟き叫んだ。

 ザクアメイジングもタツヤの叫びに呼応したのか、ブーストが壊れているはずなのに噴出作動が動く……昔主人公を努めていた時の補正が残っていたか、とでも思うぐらいに。

 

 そして流星と彗星の激闘に幕を閉じたのであった。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……夢、か

 

「……あの戦いから僕は戦い続けた。だが物足りなさと口惜しさが残ってしまった……、これが真の戦いを求める僕の傲慢だというのか」

 

 ユウキ・タツヤは自分が住む宅……その自室にてタツヤは夜遅くまで勉学と同時にガンプラの組み立てをしていたのだが、いつの間にか寝ていたらしい。時刻もどうやら朝方になっている。

(……エイキ君。君の本気はいつ、出してくれるというんだ?)

 目の前のガンプラ……赤く、朱く、紅く、と色濃くフルカラーされたMSを見て、タツヤはそう思った。

 それはザクアメイジングとはまた違うガンプラ……、それもザクではなくガンダムの姿をしている。その悍ましい雰囲気はタツヤの中でも最高傑作と思っていたザクアメイジングをいとも簡単に超越していた。

 

 武装は2つだけ……ヒートロッドとビームサーベルのみ。これだけ聞けばもう分かるだろう。これがやられるだけの存在が高性能機を生み出してきた頂にしてタツヤが新たに生み出した最高傑作のガンプラ……

 

 ―――アメイジングエピオンはその彼の本気を相手にするのに相応しいことこの上ないガンプラであった。

(……これで、エイキ君を本気にさせてみせる!)

 これが元主人公であるユウキ・タツヤの決意の表れであった。

 

 

 

 

 

 

 ―――ある時、1人の男性が日本・この町に颯爽と現れた。

 ダンディーなバイクに乗り、滑走路を走っている姿はまさに男らしい。

 街中で混み合う人ごみの中を歩けば大抵の女性がその男性に振り向いてくる。

 彼はそれに誇りに思っていた。誇りに思っているからこそ、それに恥じぬ行動をしている。

 

 人呼んで、イタリアの伊達男……名はリカルド・フェリーニ。

 ガンプライタリア大会のチャンプにして世界大会に2回出場しているベテランのガンプラビルダーである。

 

 

 

 

 

 

 そんな彼は何をしているのかというと……

 

 ナンパをしていた。

 

 リカルドはナンパのためならガンプラ制作に約1週間も命懸けで作り上げて、それらをナンパ用に使っている、伊達男ならぬ駄目男。

 傍から見れば、何故ナンパにガンプラを女性にプレゼントするんだ? と疑問に思うのだが、これがまた面白く、上手い具合に成功しちゃっているわけである(成功しても続かないが……)

 まあ、大半はガンプラじゃなくて容姿のおかげなのは秘密の内である……

 

「そこのお嬢さん、オレとドライブでもしないかねっ?」

 

 喫茶チェーン店で優雅にお茶を嗜んでいた女性に、リカルドは躊躇いもなく気軽に話しかけてから、テーブルに1体のガンプラを置いた。

 

「ぬ……ガンプラか?」

 

 ピンクに近い赤毛の髪をした美人の女性はキリッとした態度でリカルドを見た。

 剣幕でも張られたかのような視線なのだが、それを気にすることなくリカルドは紳士な姿勢で答える。

 

「はい、これはZガンダムというエゥーゴ試作可変MSです。このデザインの出来栄えと機体のフォルム……まさしく貴方にこそ相応しい……どうぞオレの愛と共にお受け取りください」

「…………」

 

 リカルドと話している女性……カンハマ・アン―――通称・ハマーンは非常にメンドクサそうな気持で心に抱いていた。

(……この俗物め……今日の運勢が最悪だとは聞いていたが、まさか本当に当たるとは)

 よく見れば、こやつはテレビで見たことある気がする。確か……何かのイタリアチャンプだったか? まさかだとは思うがガンプラの、じゃないだろうな。

 

 実を言うと、ハマーンはガンプラビルダーを趣味としてやっていたこともあり、その中でも最も毛嫌いしていたガンプラが2機あって、見るだけでも吐き気がするという。

 ……そのガンプラとは、Zガンダムと百式のモビルスーツであった。

 

 Zガンダムの方は昔友人と何度も相手をしてて、自分が使用するキュベレイがZのバイオセンサーや「ビーム・コンヒューズ」で自慢のファンネルが落とされたり、あのウェイブライダーの速さに翻弄とされて、やられてしまうという屈辱的な敗北を何度も、何度も味わい、鬱になってしまったほど……

 百式の方は昔好きだった男が使っていたガンプラなのだが、振られて以降、百式を見るたびに思い出し、嫌気が差すのだ。

 ハマーンの嫌うZガンダムを目の前に置いたリカルドの方はそんな事情を知るすべもなく、ただ返事を待っているのだが……

 

「どうですか? お嬢さん。是非ともオレの愛の形を受け取ってくれませんか」

 

 ニコやかな態度にハマーンはどっかの部下を思い出すのだが、それは別としてこの男をどうするか……ここはいっその事、率直に断るべきか……

 と、考えていたハマーンはジロりとリカルドの方へ視線を向けて、口を開く。

 

「……断る。私は貴様のような女たらしの俗物は好かん。それに、Zガンダムは私の嫌いなガンダムだ」

「え……、マジですか……?」

 

 リカルドはハマーンの言葉を聞き、顔を真っ青に変えていく。

 失敗でもしたかのような、そんな表情だった。

(こ……これはっ……ニュータイプだというのかっ!? なんて威圧感!!)

 まさかこの美人な女性が、ガンプラ基ガンダムのことを知っており、しかも嫌いなガンダムだと仰った。リカルドにとっても、予想外にして思わぬ方向に進み、気持ち的に控えめになっていくことに理解した……その時だった―――

 

「―――あれ、カンハマさん?」

 

 その声は、リカルドでも……今目の前にいる女性でもなかった。

 ―――いわゆる第三者からの出現。

 リカルドはおずおずと話しかけてきた第三者の方へ振り替えると、そこには自分よりも年下で無垢な少年がきょとんとした顔でこちらを向いていた。

リカルドはその少年を、目を凝視して細めると……なんと見知った顔であった。

(……んなぁ!? こ、コイツは!!)

 前世界大会でユウキ・タツヤと互角に戦ってた少年じゃねえかっ。

名前は確か、ムロト・エイキ……! オレのフェニーチェと戦って一打撃を入れた……エグザス使い―――緋色の流星かよ!?

 そんな驚きを胸に抱くリカルドに対し、少年ことムロト・エイキは気にもせず、こちらに話しかけてきた。

 

「それに、フェリーニさんも……こんなところで奇遇ですね」

「ん……あ、あぁ……そうだ、な」

 

 戸惑いつつも、どうにかクールに答えるリカルドなのだが、そこにカッコよさなんてなかった。

 

「ぬ……? 貴様は、ムロトか。ふむ……久しいな。2か月ぶりか……」

 

 リカルドとの挨拶を交わした後、次の声を発したのはリカルドがナンパしようとした女性であった。女性の方は少し驚いたかのような顔をしているのだが、すぐにキリッとしたところが自分との違いであった。

 

「ええ、そうですね。あっ、ミネバちゃんは元気?」

「うむ……ミネバ様は相も変わらずご健康だ。貴様は学校の行きか?」

「はい、今日は模型部がありまして……ボクはその部員なもんですから……」

 

 何やら2人で先ほどの感じのいい話をしているぞっ?

 ……これはどういうことだ。わけがわからん。

 と、思っていたリカルドはエイキと女性の会話を眺めていた。

 さっきまで自分との会話に重たい地球の重力に圧されていたというのに、少年との会話がなぜか温かく感じる……不公平だ、とリカルドは怨めしくエイキを睨む。

(……しかし、この2人が知り合いだったとはなぁ)

 先ほどまでエイキに怨みの念を送っていたのだが、それも飽きて次にリカルドはとっても不思議な現象に巡り合ったものだ、と関心を持ち始めた。

すると、エイキと女性の談話が終わったらしく、次に顔をこちらの方へ向けてきて、エイキは不思議そうな表情で話しかけてきた。

 

「……そういえば、カンハマさんとフェリーニさんで何か話していたみたいだけど、もしかして知り合い?」

「い、いや……これにはその……『ナンパだ』……ッ、そうそうナンパだ、ナンパ。あはははっ」

 

 リカルドは彼の質問に答えようとしたのだが、その話を割ってカンハマと呼ばれる女性がそう直線的に言った。

 

「ナンパ……」

「貴様もこの俗物のような大人にはなるなよ。いずれ駄目男になるに違いないからな」

「おいおい、ひどいこと言うねぇ。これでもオレはイタリアの伊達男って呼ばれてんだからよ、それなりの威厳ってものがあるんだぜ?」

「ふんっ」

「あ、あはは……」

 

 カンハマの言動にリカルドは肩書になぞって胸を張った。

 エイキはその2人の様子に苦笑いしながら、自分の腕時計を確認すると―――

 

「あっ、もうこんな時間だ。それじゃ、ボク急ぎますので……また会いましょう」

「うむ……確か、近いうちに地区大会が行われるそうじゃないか。ミネバ様にも貴様が出場することを伝えておくとしよう」

「はい、ありがとうございます。……では、また」

 

 そのセリフを最後に、エイキは去っていく。何とも言えない不思議な少年であった。

 少年の背を眺めていたリカルドはハマーンに一礼を交わし、バイクに跨って次の行く先に向かおうと、エンジンを踏み鳴らす。

(……ムロト……エイキ、か。こりゃ、楽しみだぜ)

 リカルドははにかむように笑みを口元に浮かべ、バイクの車輪を転がすのであった。

 

 

 




こんばんは、そして更新遅れてすいませんでした!

今回はバトルを少なめ、というか過去の話なのですが……タツヤを改造するため、新たな機体……アメイジングエピオンをオリジナルとして出させていただきましたw
ベースはガンダムエピオン(EW)です。アニメのエピオンと同一MSですが、カッコよさはこちらの方が好みなので、こっちを採用いたしました。


そしてパロキャラの登場はガンダムビルドファイターズのお約束。
ハマーン様が出てきたことにはお気づきかと思います。
1期のアニメ23話に出てきました、ハマーン様。似ていないかと思いますが、それは作者の描写不足だと思ってください<(_ _)>

感想・批評・誤字脱字がありましたらよろしくお願いします。

次はバトルをしたいと思います。他パロキャラの登場もご期待ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

 

 

 

 翌朝、学校も模型部も休みだったこの日……ムロト・エイキは暇を弄んでいた。

 アレがようやく完成したので大いに喜び、さっそく実戦に持ち込もうと思ったのだが、これは大会用のガンプラなので、やめた。

 無闇に人前で晒すのは相手が対策してくださいと言っているようなもの。かつて、某電撃文庫のラノベに出てきた狙撃手さんが口にした言葉だ。それでもまあ、世界大会に出場した自分が、予選落ちっていうのは何とも言えないから、という理由なんだけど……

 

 そんなムロト・エイキは気まぐれの行くままに商店街を立ち寄ってみると、近くにある模型店からドンパチとガンプラバトルをしている集団が見られた。

(……あれは、タッグマッチバトル?)

 確か2人組によるペアを組み、二機とも落とされたら負けなんだっけ。

 

 ちょうど今、その最中らしく……攻防一戦の激闘を繰り広げられていた。

どちらも優れた……いや、片方の操縦の腕がハンパない。世界大会レベルの人物だ。

 その機体とは、ザフト軍・クライン派が秘密裏に開発していたキラ・ヤマト専用機……無双代表―――ストライクフリーダムガンダムだった。カラーリングとしては至って普通の原作通りで、上位機体をあそこまで操れるのは、操縦者の技術が優れているからだろう。

 それをサポートしていたのは、朱い装甲を誇り……二対のアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を撃ち放っていたセイバーガンダム。セカンドステージに降り立つMSで、デュランダル議長が推進して開発されたアスラン・ザラ専用機。

 その2人が、相手……ヤヨイ・マコトとタカツキ・マリア、それをサポートするタマキ・レイを陥れていた。それも圧倒的な技量の前に……

 

「もうやめるんだ! こんなことをしても、お前の機体がボロボロになるだけなんだぞッ」

 

 セイバーガンダムを使用していた1人の青年、アレックス・ザラが相手に対してそう訴える声がする。だが、ヤヨイ・マコトは聞く耳持たずとデスティニーインパルスに搭載されているエクスカリバーを持って、怒りを纏いながら長大な剣を振るっていた。

 

 デスティニーインパルスとは、インパルスガンダムの換装形態の1つで……通称『デスティニーシルエット』と呼ばれている。フォース・ソード・ブラストの3つの性能を兼ね備えた万能型であり、「1機であらゆる戦況に対応できる万能兵器」という形で開発されたガンダムである。

 

「あ、アンタは……いつもそうやって偉そうにぃ……!」

 

 ヤヨイ・マコトが扱う機体はデスティニーインパルス。だが、その装甲を見るに相当相手にやられたようで、関節部分に緩みが掛かっている。マコトはそれを気にもせずにミラージュコロイドによる残像現象を起こさせながらセイバーを撃墜しようと躍起になっていた。

 

「―――アレックスッ、下がって!」

 

 激情に動いていたデスティニーインパルスを腹部に搭載されているカリドュス複合ビーム砲で追い払うストライクフリーダムがマコトの前に立ちはだかった。その姿はまるで蒼い天使そのものである。

 

「ふ、フリーダム、なんで……!? はっ、マリアは……っ?」

 

 先の戦いではマコトがアレックスを、マリアと呼ばれる少女はフリーダムを操るタケルを相手にしていた。だがしかし、今フリーダムがここにいるってことは……

 

「ご、ごめん……マコト……やられちゃった」

 

 その言葉をもとに、マコトはマリアのガンプラを模索する。

 土煙が撒かれてうまく見えないが、そこには汚れた赤い装甲のガナーザクウォーリア[ルナマリア専用機]が破損した状態で倒れ伏せていた。

 

「すまない、マコト。私のサポートが力不足だった」

 

 声も出なかったマコトにレイが済まなそうな表情で口にする。

 それは無理もない。彼が操るストライクフリーダムは前世期に最強を誇ったフリーダムガンダムの後継機で、ヴォアチュールリュミエールやスーパードラグーン、ビームシールドの武装が追加されたことによって機動力から火力などのあらゆる面においてハイスペックな機体に変貌した。

 さらに言えば、マリアが使用するガナーザクウォーリアはどの作品に出てくるザクよりも優れているが、相手は最強のストフリ……勝てないにせよ、足止めぐらいは熟せるだろうと踏み込んでの勝負だったので、このフリーダムの登場が何よりも驚きであった。

 

 そして時間の方もマコトにとっては一刻と速く彼らを倒したかった。

 なにせ、デスティニーインパルスはその性能からして3つの要素をより強くして取り入れた。故に、この機体には欠点というものが1つある。

 

「はあぁぁ!!」

 

 ブラストの持つケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲と同等以上の威力を誇るテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔をフリーダムとセイバーに向け、散開したところをデスティニーインパルスはエクスカリバー二刀流に構えられた動きで、セイバーを襲うものの相手は易々と受け入れるわけにはいかなかった。

 そして―――

 

「―――マコトっ、エネルギーがもう持たない。ヤツらに牽制を図り、デュートリオンビームの充電を受けるんだ」

「……ッ、んなことわかってる! わかっているさっ、……くそっ」

 

 レイの焦りの声を交えつつ、助言を口添えする。

 デスティニーインパルスの欠点の1つ……それは過剰なエネルギー消費だ。3つのシルエットを持つこのMSは確かに性能はセカンドステージのどの機体をも超える力を持つが、反面的にエネルギーの消費が激しく、原作でも1回の戦闘に2~3回のデュートリオンの充電が必要とする極めて使い勝手が厳しいガンダムとも言える。

 補充を必要とした彼の戸惑う様子にフリーダムを操るキラ・タケルはそれを察してデスティニーインパルスに踊りだす。

 

 ―――キラ・タケルはかつて世界大会第5回ガンプラバトル選手権に出場したファイターで。その当時は無敗を誇るフリーダムを使いこなす現役高校生最強と謳われた天才ガンプラビルダーであった。今はユウキ・タツヤに最強の座を譲り渡しているが、その強さはかのガンプラ塾一期生……次期メイジンと称されたジュリアン・マッケンジーと並ぶほどの腕前だそうだ。

 

 セイバーに跨るアレックスもタケルの行動に合わせて、MS状に変形したセイバーをインパルスの行く先に立ちはだかり、ヴァジュラ・ビームサーベルを肩部から抜き放って攻撃を仕掛ける……

 

 これらを見ていたエイキは「ああ、これは詰んだな」と呟いた。

 そこに―――

 

「―――おっ、エイキじゃないか」

「……?」

 

 バトルを眺めていた自分にいきなり話しかけられたので、

 思わず振り返ってみると、1人の青年が立っていた。

 容姿としては、まるでSEED DESTINYに登場したハイネ・ヴェステンフルスを彷彿させるかのような人物だ。

 ―――彼はハイネさん。本名はわからないが、グフイグナイテッド[ハイネ専用機]を愛用するガンプラビルダーなのでハイネさんとみんな呼んでいる。しかも噂では「青い巨星」の異名を持つラルさんとは遠縁らしく、そんなハイネさんのことを通称―――ラル二世と親しみを込めて称するものがいるそうだ。

 

「ハイネさん」

「おう、元気そうで何よりだな」

「……彼らはタッグマッチしているように見えますが……凄いですね。本気の本気じゃないですか、双方とも」

 

 エイキは先のバトルを見ていてそう思っていた。

 何よりもマコトの様子が躍起になっていたところから何か裏があるのかな、と感じたので一応聞いてみようとハイネさんに耳を伺うと……

 

「ああ、マコトは今、タケルにリベンジマッチを挑んでいるんだ。これでも何十回も挑んでんだが……まぁ、見ていてわかるようにタケルに勝てないでいるんだよ」

「なるほどねー」

 

 聞けばマコトはこれまでタケルに1体1のタイマンや3分間に一度、休憩(インターバル)がある英国式ルールなど幾多の方法で勝負を仕掛けているものの、一度として勝利していないそうだ。

 しかもあのマコトの性格だ。負けず嫌いのせいか、勝たないと気が済まないタイプらしく、対するタケルも手加減というモノが苦手で、負けようとしても思わず勝ってしまうとかなんとか……

 

「どうだ、エイキ。せっかくだからオレとガンプラバトルをしてみないか?」

「えっ、ボクとですか?」

「他に誰がいるんだよ。……ま、無理は言わねえがオレとしてはお前と一度戦ってみたいんだ。それに近頃地区大会が行われんだろ? アレックスも出るって言うから余興も兼ねて練習試合をしよって話だ」

 

 気さくな感じで話しかけてくるハイネに、エイキは「ああ」と察した。

 ちょうどハイネの手元には通常のグフイグナイテッドとはまた違う改造されたグフイグナイテッド[ハイネ専用機]を持っていたので、それを試そうという魂胆なのだ。

見た限りでは、そのカラーリングは艶やかな煌めきを誇り、新品同然の姿をしたグフであった。つまりまだ作ったばかりの新型機ということになる。

 

 という見解からエイキは……戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『機体名:ZGMF-X2000グフイグナイテッド[ハイネ専用機]』

 

 ガンダムSEED DESTINY作品・ザフト軍の次期主力MSとして担われた存在で、ザクウォーリアと同時期に開発……そして完成されたのがこのグフイグナイテッドである。劇中ではグフと呼称し、「Guardian Of Unity Forerunner」(統一の守護たる先駆者)という意味合いで付けられた機体。

 だが、コスト負担が大きくザクと争ったのはいいもの、次期主力MSの量産機には届かなかったという。しかし、グフの完成度が高かったためかザフト軍の上層部はこれをザフトにおける「FAITE」やザフトレッドのようなエリートに使われるようになり、[ハイネ専用機]だけではなく[イザーク専用機][エルザ専用機]など……専用機持ちのようにパーソナルカラーが多く見られるため、正にエリートと思わせるような印象を齎していた。他、戦場においても宇宙・空中・地上戦において多様な戦術を熟すことから、ザクウォーリアにザクファントム、ドムトルーパーといった量産候補と競り合えるというものだ。

 実際にこのグフイグナイテッド[ハイネ専用機]はガイアガンダムとの戦闘において引けを取らせずに圧倒した技で追い詰めたほどだ。

 

 と、いうのが通常のグフイグナイテッドなのだが……

 このハイネさんことラル二世が使用する機体は―――グフイグナイテッドR25。

 スレイヤーウイップからエピオンに使われるようなヒートロッドに付け替えられており、シールドに取り付けられてあるはずのスパイクが一段と鋭利になっている。

 見た目からして実に攻撃的な雰囲気をしてそうだ。

 

「これがオレのグフイグナイテッドR25だ。よろしく頼むぜ?」

「……えぇ、こちらこそお願いします」

 

 エイキは大会用に使うガンプラではなく、この模型店に置いてあるガンプラを買ってから数十分と掛けて作り上げる。もちろん世界大会出場者にしてガンプラ心形流の弟子の1人であるから、数十分とは言わずわずか9分47秒の速さで出来上がってしまった。

MS自体も作り上げるのはそう難しそうなものでも無かったので、あとはカラーリングさえパテれば問題はないだろう。

 

 そして出来上がったガンプラを戦場の舞台に立たせた。

 

 

 

 このガンプラはオーブ軍のM1アストレイに次ぐ主力MSとして開発された機体で、今対峙しているグフイグナイテッドと同じ時間軸に輩出したものだ。

性能はSEEDにおいて……ザフト・地球連合軍といった強大な軍事組織の他の追随を許さない量産機といえよう。

 

 何故なら、宇宙戦・海上戦・地上戦・空中戦のどれにも適応し、

 

 可変式による高い機動力と滞空性を誇り、MS状でも空中に浮くことが可能。

 

 とは言いつつも、実を言えば島国の領空・領海・領土を戦場に想定されたMSなのだから、先ほど述べた戦場を選ばないMSを開発したオーブ軍の技術というのは、実に恐ろしいものだ。

 

 武装も70J式改ビームサーベル

 

    12.5mm自動近接防御火器

 

    72式改ビームライフル・イカヅチ

 

 他、可変式による66A式ミサイル・ハヤテ

 

 などと火力には乏しいが、非常にバランスの取れた面子を揃えられている。そしてこの機体は戦術のパターンが大幅な範囲に及ぶ多様性を持つ。一対一による戦闘も良し、人海戦術による連携も良し、支援良し、大型ウイングに偵察用の超高感度ディスクレドームⅢを取り付ければ偵察型として軍の衛星を支配することができる。

 

 さらに特別出血サービスで神風特攻も可だ(笑)

 実際にこれでザフト精鋭艦であるミネルバに深手を負わせることができたんだからね。

 

 ……これほど優れた量産機は、ガンダムシリーズにおいても……少なくともSEED系の中では上位に立つ機体とみるべきだ。また、たった3機による連携だけでエクステンデッドが搭乗するカオスガンダムを圧倒できるほどの成果を齎したんだから、これ以上性能の追及は必要ないと、エイキは考えていた。

 

 そのMSとは……

 

 

 

『機体名:MVF-M11Cムラサメ』

 

 これがエイキが使用するガンプラであった。

 マイナーかレギュラーかどうかは気になるが、これはどちらかといえば『レギュラーに値しそうなマイナー機』と矛盾した感じで認識した方が良いだろう。

 

 なぜこのガンプラを使用する気になったか……それはある一種の気まぐれというべきか、……または神からの啓示とも言うべきなのだろうか、どちらでも一向に良かったエイキは何となくで、それを手にしてしまったのだ。

 

 

 

 そして、フィールドに流れるプラフスキー粒子がエイキとラル二世を戦場へと誘う。

 ステージは海上……それもタケミカヅチやイージス艦といったオーブ艦隊じゃないですか。

 

「ニシカワ・ハイネ―――グフ、行くぜっ」

「ムロト・エイキ―――ムラサメ……行きますっ!」

 

 お約束のセリフに加え、出撃に来すエイキのガンプラ―――ムラサメとハイネのガンプラ―――グフイグナイテッドR25が海上に飛び出した。

 

 エイキはムラサメ特有の可変式を以てしてMA状に変形し、向かい側のグフに翻弄を謀る。もともとエグザスのような高い機動力を持つMAのアクロバティックな戦闘を十八番としていたエイキは空中戦・宇宙空間戦においても他の追随を許さぬ技術と歴があったため、例え数分そこらで作り上げたガンプラでも敵を軽く倒せる自信があった。

 

 MA状からMSに変形させ、ビームの連射。

 そして、再びMAになってグフの遠距離攻撃ができない右側ばかりを狙い続ける。

 ムラサメの内部に搭載されているミサイル・ハヤテを撃ち放ち、グフは鋭いスパイク付きの対ビームシールドで防御。

 そのワンパターンの動きにハイネさんは―――

 

「くっ、手当たり次第かよっ……こんのぉ、生意気なっ!!」

 

 ババババッ

 と、連射されるドラウプニル連装ビームガンを後退しながら撒き散らし、ミサイルを迎撃。そんな中、エイキは不思議とハイネが操るグフに疑問を浮かべていた。

 ……可笑しい。こんな安易な戦法にハイネが遅れをとるとは思えない。

 何かあるのかな……?

 

 

 

 そう思っていた直後―――

 

 

 

「オレのグフはっ、ただのグフとは違うんだよっ……ただのグフとはぁ!!」

「……ッ」

 

 ビルダー業界において、グフを使用するビルダーの絶対的な言葉を基に、グフイグナイテッドR25がグフならぬスピードでムラサメの機動力を連装ビームガンが押し殺してきた。さらに―――

(意外と……速い……!?)

 流石は『青い巨星』と謳われたラルさんの再来……ハイネさんことラル二世と言うべきか、橙に灯るグフの速さにエイキのムラサメが付いていくことができなかった。

 66A式ミサイル・ハヤテを使用しても、あの連装ビームガンが阻害してくるだろう。

(というかハイネさん、今日はハイテンションですね! あの気さくなハイネさんはどこいったんですか……!)

 

 

 

 とまぁ、ハイネのグフはただのグフではないことは分かった。

 MS状において、MAと最も比較されている所は……

 

 ―――機動力。

 

 だが、彼のグフイグナイテッドR25はそれを克服していた。

 全身がオレンジだったから分かりにくかったが、あの関節部位にはヴォワチュール・リュミエールが搭載されているのが戦ってみてようやく理解したよ。

 それに、あれはターンデルタアストレイのヴォワチュール・リュミエールのように、タクティカルアームズⅡLに改造された後、レッドアストレイに移植し、ネブラブリッツとの対決の際ヴォワチュールを起動させることによってモビルスーツの位置や数を捕捉できるレーダーの役割を持っていることが明らかになっている。

 

 つまりだ。ハイネのグフがエイキの乗るムラサメの動きを捉えることができたのは、

 ヴォワチュールの緊急推進システムというだけある速さに加え、レーダーの役割をも担っていたから……グフイグナイテッドR25の性能は全てこの恩恵があったからだと見て間違いないだろう。という推理が浮かび上がる。

 

「もらったぁ!」

 

 グフイグナイテッドR25の右腕に搭載されたヒートロッドを戦鞭のように仕掛けてきた。それに対し、ムラサメは遠ざかるように上空へと逃げていく。

 

「……ッ、やるね……だけどもう見切った!」

 

 MS状に変形を伴うムラサメのビームライフル・イカヅチがグフの真上からピンポイントに射撃が放たれた。ハイネはそれを容易に躱すが、次に降りかかるビームが躱す一歩手前に放たれ、軽く避けたはずの回避運動でグフの左・上腕部を抉り取った。

 

「な、なにぃ……っ? このオレがぁ!?」

 

 それだけではハイネを落とすことは不可能であることを知っていたエイキはビームライフルを投げ捨て、サーベルの抜き放ってからの畳みかけ。

 

 ハイネは、エイキの行動に驚きながらも近接用のヒートロッドではなく……テンペスト ビームソードを対ビームシールドから掴み取り、ムラサメのビームサーベルと結びつける。

 その辺の判断にはボクも驚かざるを得ない。そうなるとラルさん……グフ使いとして立場が危ういね。でもまぁ、まだあの人の方が断然強いかな。

 

 そして―――

 

 ガンダムSEED DESTINY作品―――ネオ・ロアノーク大佐曰く、

 

「予測というのは常に悪い方向へしておくものだろ。特に戦場では常にね」

「んなっ!?」

 

 ムラサメのビームサーベルをテンペストの刀身に当てて打ち払い、胴体の背後に回り、蹴りつけながらも上空に浮かび上がったグフ……その背に向けて―――

 

「うぐっ……こ、こんな感じ……どこかで―――!?」

「はあぁ―――!!」

 

 ハイネ・ヴェステンフルスの死に様……

 作品によって死に方は異なっており、

 

 漫画版だとシンをガイアガンダムのビームライフルから庇って……

 

 小説版だとアスランをガイアガンダムのビームサーベルから庇って……

 

 ジ・エッジやテレビ版だとガイアガンダムのグリフォンブレイドによって……

 

 様々な戦死があり、それらはアスランとシンをつなぐ重要な役として全うした。

 

 エイキはそんなハイネさんの姿を思い浮かべながら、渾身の一撃を以てして翔け上がるムラサメのビームサーベルで、グフイグナイテッドR25の背を焼き切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅむ。セイ君やレイジ君、タツヤ君だけじゃなく彼も出場するのか」

 

 模型店の外―――窓越しでエイキとハイネの決着を見届けた中年の男がそう呟く。

 どこから現れたのか、いつ来たのか、誰も知らず……不気味なほどに考えていることが読めない人物……

 

 だがしかし、それは一般人が見たら……だ。

 

 彼の考えることはただ1つ。ガンダムに対し、全力でいること……

 

 本名は―――不明。だがそんな彼に人々は親しみを込めてこう呼んでいた。

 

 ……ラルさん、と……

 

 今エイキと戦っていたハイネの遠縁である。

 

 

 

「緋色の流星……紅の彗星と対を成す者。セイ君、レイジ君……どうやら君たちの世界への道は修羅の道と見た」

 

 地区大会は世界大会へのスタート地点だ。そのための準備期間と言えよう。

 それでも、だ。準備期間で『ギャン使い』サザキ・ススムや『軍団の魔術師』カトウ、『紅の彗星』ユウキ・タツヤにあの『緋色の流星』ムロト・エイキも出ようとしているのだ。今ラルさんが気になっている新進気鋭の有望株であるセイとレイジにはあまりにも過酷すぎる……

 

「……セイ君たちに知らせておくべきかな。彼らは……強いと」

 

 凄みかかった言葉を交えながら、ラルさんはキリッとした表情を浮かべながら振り返りざまに立ち去ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、ももももうやめるんだ! これ以上やったらお前の機体がっ!」

「まだまだぁ!」

「……(どうしよ、キララのミュージカルコンサート……間に合わなくなっちゃう)」

 

 セイバーガンダム:軽微

 デスティニーインパルス:中破もしくは大破

 ストライクフリーダムガンダム:損傷無し

 

「ちょ、マコト! やめなさいってば」

「仕方ない、ここは俺が出て取り押さえよう」

 

 ガナーザクウォーリア[ルナマリア専用機]:撃墜

 レジェンドガンダム:出撃

 

「……平和ですね、ハイネさん」

「……あぁ、そだな」

 

 ムラサメ:軽微

 グフイグナイテッドR25:撃墜

 




みなさん、お久しぶりです!
もう何ヵ月も更新していないような気がしますが、ようやく書き上げることができました。

そして今回はアンケートでSEED率が多少あり、ちょうどムラサメ出したいなーという気分から出しました(マイナーではないかもしれませんが……)
パロキャラの方も完全にハイネさんを中心に話を進めましたが、最初はミゲル兄貴とどっち出そうか迷いましたね。
でも印象的にハイネさんの方が強かったのでこっちを選出しました。

あと何故ハイネさんがニシカワという苗字なのか、
それはヴェステンフルスを日本語訳にすると「西川」になるからです。

ちなみに作者の話の展開の作り方はパロキャラを交えつつ、原作キャラとやっていこうって感じで進めていきたいと思います。

次回は地区大会! さてはて、セイ君やレイジ君……あと忘れてはいけないサザキ君をどうするかですね……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 

 

 

 第7回ガンプラバトル選手権 第3ブロック日本代表予選……当日。

 

 待ちに待った世界選手権のスタート地点である。

 それらには様々な機体と共に様々なビルダーがこの地方の中から集まるわけで、ボクが期待するほどの人物もあの中にいるってことだ。

たとえば、

 

 この地区実力者であり、ギャン使いにおいて右に出るものなしのサザキ。

 

 高火力を以てして敵を屠るマラサイの使い手、クリタ・コンスケがサポートするシリド・マサ。

 

 第5回ガンプラバトル選手権で元現役高校生最強と謳われたキラ・タケルの友人、アレックス・ザラ。

 

 ガンダムDXとGXビット12機を以て戦場を支配する導師、カトウ。股の名を軍団の魔術師。

 

 今や新人有望株として力を群として伸ばしているビルドストライクの担い手、ビルダー……イオリ・セイとファイター……レイジの2人組。

 

 噂では彼らだけでなく、個性的なファイター達がこの場に募っているとか……

 

 そして―――

 

「楽しみだなぁ……この大会にどんなガンプラやビルダーが待ち受けているんだろ」

「……確かに。僕もイオリ君やレイジ君がどれくらい成長したか楽しみでしょうがないよ」

 

 紅の彗星ことユウキ・タツヤ。ガンプラ塾において三期生のトップエリート。次期メイジンにまで上り詰めた男。そんな彼と共に、ムロト・エイキはエナメルバックを肩に微笑を浮かべる。

 

「前にも思ってたけど、そんなに彼のことを買っているんだ……」

 

 イオリっていうのは、イオリ・セイのことで……

ガンプラバトル選手権に出場し、世界大会準優勝をしたイオリ・タケシの息子だ。

 数週間前、その彼とレイジっていう不思議な少年がタツヤと戦って敗れたものの、あの時に見せた闘気はこれから、っていう感じの雰囲気であった。

 

 その彼らが今日の大会に出るというのだから、以前にタツヤと戦ったあの時よりもどれほど強くなっているのか、またはボクの予想よりも遥かに上回った伸びしろとなっているのだろうか、実のところ楽しみにしていたのだ。

 

「ふっ、当たり前だ。彼らの成長には僕のセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないからね」

「なるほど、ラウ・ル・クルーゼ曰く……物事はそうそう頭の中で引いた図面通りにはいかないってことか」

「そういうことだ」

 

 などとボクとタツヤの2人で納得し合う中、辿り着いた会場内に入ってエントリーを済ませようと先を急ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人がエントリーを終える頃……重要キャラの如く1人の少女が動きだす。その場所は会場ではなく、ここから大きく離れた……木々に見舞われた自然豊かな場所に、純白でお城のような屋敷が広大な森を差し置いて頭角を現していた……

 

「うぅ……ハマーン。ハマーンはいるか……?」

 

 無垢で眠たげな声を発しながら少女はゆっくりと上体を起こして辺りを見渡している。

そこに緋色な髪を揺らし、凍てつくような目つきをした女性が少女の前に立つ。

 彼女の名はカンハマ・アン。またの名をハマーンと呼ばれており、ここ―――ミネザキ邸の屋敷に努めているSPにして教育係として任命された人物である。

 

そんなハマーンも今日は仕事としてではなく、1人の友人ということで来ていた。

 

「はい、ミネバ様。ここに……」

「ハマーン、今日は仕事じゃないから我のことはコトリというがよい」

 

 使用人のメイドが少女の顔を御湯に浸かったタオルで拭う。

 この少女の名はミネザキ・コトリ。ミネザキ財閥の跡取り娘で、かつて両親と暮らしていたのだが、とある理由で離婚し母親の基で過ごすことになる。そんな中で財閥のトップとして働く母親であるゼナは今の状況でコトリを育てることが出来ない身であったため、代わりとしてハマーンを用意したのだが、意外にも上手くいったのかコトリは健やかで利口な子に育ったということで、今でも使用人として契約中だそうだ。

 

 と、普段はミネバ様と呼ぶことが日課のせいか、ハマーンは表情を訝しくさせる。

 

「ぬ……こ、コトリ」

 

 不慣れな言動に戸惑うハマーン。だがそれをコトリは満足げに笑みを浮かべ、元気よく「うむ!」と大きく頷くと、パジャマ姿から外に出歩くための私服へと着替え始めた。

 

「ハマーン、今日はガンプラバトル選手権・地区大会が始まるのであろう? 楽しみだな!」

「はい、コトリも久しい休日ですので十分に楽しめる1日になるかと」

 

 やはり丁寧語が抜け切れていないハマーンは緊張しながらも、コトリの言葉に肯定した。

 

「ということは、あのムロト・エイキも出るのかな? 我はあの男の戦いを見てみたいよ」

「……そう、だな。前にも言った通り……ヤツは出る。ムロトもきっとコトリの応援を待っているでしょう」

 

 ムロト・エイキとは、今から2ヵ月ほど前にアクシズ喫茶店でガンプラバトルの試合があった時、コトリからのご所望でハマーンは愛機であるキュベレイで出場した、が。

 

 ヤツの駆けるガンダム試作0号機のEWAC機能を保有する性能がハマーンを圧倒し、さらに大型ビームライフルの的確な攻撃に敗れたのだ。

 それを観戦していたコトリはそんなエイキに感心を抱き、ファンになったとか。

 

「うむ! では早速出発と行こうではないか!」

 

 着替え終わったコトリは我先に、と自室から飛び出していこうとする。

(……ミネバ様があんなに微笑んでいるとはな。これもムロトのおかげと言えよう)

 数年前に父親が行方知らずとなって以降、彼を慕っていた彼女に笑顔を見せなくなり、寂しさが故にベッドに籠って縮こまる娘だった。そんな彼女を私は支えようと頑張ってきたものだが、やはり友人と親とでは差が生じるわけで、この差を埋めるためには、それ相応の何かをしなくてはならない。

 だが、私に何かできないかと探しては見たが……やはり私はガンプラ(これ)しかなく、女の子として、高潔な少女として、不味いだろうと思い表に出さなかったものの、彼女を喜ばせるためにはガンプラ(これ)に頼る他なかった。

 

 そしてガンプラ(これ)のおかげでミネバ様は少しずつだが明るみを取り戻し、ガンプラバトルでもアクシズ喫茶店で時々行われる試合で勝つたびにミネバ様は喜んでくださった。勝つことで私自身も清々しく、また彼女も喜んでくれるというのなら、今まで嫌いであったガンプラ……Zガンダムであろうと、百式であろうと、戦ったものだ。

 

 そんなある時に現れたのがムロト・エイキで、その時に味わった敗北には少し驚かせたものだ。ミネバ様も私が負けるところを見たことがなかったので失望するのではないかと思ったのだが、実はその逆で私を負かすほどの腕を持ったムロト・エイキに興味を持ったらしく、いつも見せてくれた笑顔にはさらに深みが増したそうだ。

 ムロト・エイキも人並み以上に友好的で、ミネバ様とはすぐに打ち解けあった。

(ふむ……ヤツは何か人を惹き付ける……いわゆるカリスマ性というものがあるのか? だとしたら納得するのも当然と言えよう)

 

「ハマーン! 早く行こー、試合が始まってしまうではないか!」

「……あ、ああ、今行く」

 

 

 

 そしてミネザキ邸から外に、駐車されてあるレクサス・LFAと呼ばれる、「世界超一級レベルの運動性能と超一流の感性と官能を持ち合わせるスーパースポーツカー」として世に送り出すべく開発された、レクサス初のスーパーカーにコトリを助手席に乗せて私は運転席に座り、シートベルトを敷く。

 コトリは「いざ、しゅっぱーつ!」と無邪気な一声に私はアクセルを踏み出そうとしたその瞬間……!

 

 

 

「ハマアァァ―――ンさまぁぁあ―――ッ!!」

 

 どこからともなく、と空を劈く聞き慣れた声に私は「……」と沈黙に帯びてしまう。

 ミネバ様は至って普通で、もう慣れている、的な表情で助手席からミネザキ邸の方へ顔を向けた。

 

 そこからドドドドッ! と、アクロバティックに走ってきてはここを通りすがり、そしてスタッと戻ってきて、颯爽とバラの花びらを背景に彼―――マシマ・セイジが登場する。

 

「は、ハマーン様! いったい、どこに向かわれるのですかぁ! このマシマ・セイジことマシュマーは! たとえ火の中、地の中、水の中! 地球の裏側だろうと私は付いていくと誓ったはずです! それを……それを、ハマーン様は……私に断りもなく……」

「……い、いや……このレクサスは2人乗りだからな。お前を乗せるわけにはいかんだろう」

 

 流石のハマーンもこれには呆れるを通り過ごして引く一方だ。

 しかし、マシュマーはそれに気にもせず、サッと胸元のバラを取り出し、それを崇めるかのような動作を送って、私を見つめてくる……

 

「ハマーン様! それでしたら荷積めにお乗せください! 貴方がくれた忠義の証たるこのバラに賭けて、忠義の荷物マシュマーとして役割を全うしましょう! ですからこの私に――――――」

 

 と、最後まで言い切る前に走り去るレクサス。

 その速さは正に世界超一級レベルの運動性能を誇るだけあって、たった数秒してマシュマーの視界からレクサスの姿が瞬く間に消え失せた。

 

「……は、ハマーン様?」

 

 ぽかーん……と、マシュマーは一瞬だけ固まる。

 思考に張り巡らせ、なぜハマーン様がいなくなったのかの理由を自分自身に問いかけてみた。

 ミネバ様を助手席に、ハマーン様は運転席に、2人乗りのレクサスには乗ることはできず、荷積めするしかないのだが、それ以外にも乗る方法でもあるというのか。

 何か、何か画期的な方法が……

 

「―――ハッ!?」

 

 マシュマーは気付く。

(そ、そうか! これは試練なのだっ。ハマーン様はこの私を忠義の騎士として試されている……! なるほど、それなら頷けるというもの……)

 

 となれば、答えなんてアレしかない。

 

「走って付いてこい……これが答えか!」

 

 いや、間違ってるだろ、と誰か突っ込みがいないのが心もとないが……

 マシュマーは、先ほどレクサスが向かった方向へと体を向け、陸上選手の短距離走が見せるクラウチングスタートの体勢を作り―――

 

「―――ハマアァァ―――ンさまあぁぁ!! ばんっ―――ざあああぁぁぁぃぃ!!」

 

 猛き咆哮のもと、マシュマーが進撃する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ」

「……ハマーン? どうしたのだ」

 

 レクサスを運転する最中、ハマーンは持ち前の直感に悪寒が冴え渡った。

 ミネバ様は心配そうにハマーンの様子を伺うも、

 

「ぬ……何やら背筋に寒気がしたもので……」

「無理はするでないぞ?」

 

 キョトンとした顔で首を傾げる。これが日常茶飯事なせいか、ミネバ様にとってはさほど驚く必要がなかったらしい。慣れと言うものはこれほど怖いものだとはな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このガンプラは一年戦争末期に開発された量産試作機の完成系・ジム改をベースに近接戦闘を向上させようと目論んだMSである。接近時で着弾を考慮し、搭載されるようになった「ウェラブル・アーマー」を全身に装い、その性能は被弾時の衝撃を外に逃がす内部炸薬があるため、実弾に対して無類の強さを発揮した。

 

 が、着装された「ウェラブル・アーマー」の重量が機動力が殺されてしまうのが、このMSの弱点と言えよう。……と思うが、それはもう克服済みである。

 何故なら、それらをカバーする大型バックパックと脚部スラスターが搭載されており、重くて速い―――白兵戦のために生まれたMSだ。

 

 主武器は伸縮可能なビームサーベルを2本付けたツイン・ビーム・スピアで、ロッドモードとサイズモードで戦場による状況に合わせた戦術をする。

 もちろん他にも100mmマシンガン、ビームサーベル、60mmバルカン砲があるため、接近戦に掛かれば一騎当千の力を振るうことが可能。

 

 また防御に関しても、先日ハイネさんが使用していたグフイグナイテッドのスパイクが付けられたシールドと似た盾を持っており、先端のスパイクをクロー・アームとして敵機を捕縛……接近戦に持ち込むのが、このMSの戦法だ。

 

 これは、実戦経験の練度が高いエースパイロットだけが許された、いわば隊長機に相応しき連邦のMS。だが接近戦を得意とするため、接近戦にそれなりに熟すパイロットでなければ発揮されない……言うなれば、人を選ぶ機体として扱われる。

 

 宇宙世紀において、先ほど述べた人を選ぶ機体として最もこれを扱うことが出来たのは、ユージ・アルカナと言われている。彼は北米戦線で多大な戦果を挙げ、幾多にボロボロとなろうが前に進むことを止めず、味方全員を生還させることから、敬意を込めて「ゾンビー・ジム」と異名を付けられた。

 

 不死身のジム……その名は……

 

 

 

『機体名:RGM-79EPジム・ストライカー』

 

 

 

 

 

 の、流れを組む接近戦を……更に重視したエース専用機として一年戦争後に開発された「ジム・ストライカーの次世代対応型モデル」として生まれたこの機体が―――今!

 

「妖刀……抜刀(きどう)

 

 戦場に紅く灯る燐光のもと、彼……ムロト・エイキが躍り出る。

 

「こんな場面に出れば、シャアのあの名言を言わざるを得ないよね……うん」

 

 このガンプラは「機動戦士ガンダム カタナ」に登場するイットウ・ツルギが使用したMSで、モチのロンことゾンビー・ジムを異名としたユージも使用したといわれているこの機体はジム・ストライカーを上回る接近戦に特化された対ニュータイプ専用のジムである。

 

 だが、ジムはジムでも、この機体は次第にガンダムタイプと認定されるようになった。

 

 その理由は―――ガンダムの頭をしているから。

 

 

 

『機体名:FA-79FCフルアーマー・ストライカー・カスタム』

 

 敵はガンダムスローネアイン。相手にとって不足無し。

 

「―――見せて貰おうか、君の作ったガンプラの性能とやらを……」

 

 FAストライカー・カスタムは、抜き放つツイン・ビームサーベルを手元に出すだけで、静かに……ソッと佇みだした。まるで……何かを待っているかのように……

 

 

 

 

 

「……ッ、EXAMシステムだと!?」

 

 スローネアインのファイターであったミツギ・ヨハンはFAストライカー・カスタムの様子に驚愕を覚えていた。

 彼はミツギ兄弟妹(きょうだい)の長男で、GNランチャーで敵を寄せ付けず、高い射撃能力で相手を撃墜させる……初手で相手に自分の存在を悟られないように動き、隠れ、意表を突くことでどの敵に対しても一撃必中で紛うことなく沈めるのが、彼の戦法であった。

 

 敵は初手に繰り出される攻撃に弱い。これは世界の法則である。

 斬られれば、撃たれれば、叩けば、潰せば、捻じれば、壊せば……皆、ほとんどの相手は死ぬのだから……

 ましてや初手に加える一撃ならば尚更だ。

 たとえば、先に日本刀で相手に傷を負わせることが出来れば、その時点で相手は動きが鈍くなり、こちらの優勢となるのだから……。

 刀身に毒でも盛られていたのなら更に勝率が上がるだろう。

 

 だが今―――ヤツは覚醒した。EXAMシステムとは、対ニュータイプ用に開発されたシステムで、ジムやガンダム、ギャンやグフにも搭載可能。装備させることによって最強の力を手に入れることができるジョーカーのようなもの。

 

 しかも相手は世界大会出場経験あり……しかも上位ランカーに入る緋色の流星……ムロト・エイキが相手。

 

 こちらの遠距離型の機体は近接戦闘に特化された機体に有利である。距離的な感覚から近づくことすら許ないわけだ。遠すぎて文字通り手も足も出せないといった方が話が速いだろう。しかも相手は自分の姿を視認していない。気付かれていない内に仕掛ければ確実に屠れるはず……

 

 これは絶好にして好機といっても過言ではないだろう状況だ。

 

 だがしかし、ヤツの機体の様子が可笑しいことに気付く。

 

「……EXAMシステムにしてはどこか違う……何なんだ、アレは」

 

 異常なまでに紅く、煌めくメインカメラをしたFAストライカー・カスタムの、増大な畏怖による威圧感が機体の周りを覆っていた。ニュータイプで言うところのプレッシャーと見て間違いないだろう。

 ヨハンは肌に滲む汗を拭い、宇宙空間を戦場としたこの態勢において小惑星に隠れながらヤツに近づく彼は、エイキが操るFAストライカー・カスタムの様子を伺った。

 

 撃てば勝てる……なのに撃てない。あの威圧感(プレッシャー)がオレの判断を鈍らせているのだ。

 

「……ならば一気に畳みかけた戦術を取り入れるべきか。善は急げと言うしな」

 

 思いのほか決心したヨハンは、右肩に担がれたGNメガランチャーを展開させ、バレないようにゆらりと小惑星から飛び出し、ヤツに照準を向ける。

(……よし、この距離ならば当てられる。これは、オレの距離だ)

 冷静に、黙殺し、集中し、一刻の時を有効に活かすために……GNメガランチャーの出力を最大限にまで溜めていく。

 

「ふぅ―――……っ」

 

(ヤツに動きが見えないな。……フッ、動かない的ならば寧ろ好都合だ)

 もしかしたら誘いを掛けているのかもしれんが、今から放つGNハイパーメガランチャーは今までのGNメガランチャーを改造し、サイコガンダムに風穴空けるほどの威力を発揮させた代物だ。

 放たれたら最後……躱すことが不可能なほどの速度と幅で発せられる。要は不可避の一撃。撃った後はオーバーロードによる冷却時間が必要とし、しばらく稼働しないのが玉に瑕なのだが、それでもだ。絶大なる破壊力はそれだけ所要しているということを意味する。

 

 ヨハンは息を潜めながら、落ち着いてタイミングを計った。

 2秒、4秒、8秒と経て……ついにGNハイパーメガランチャーの粒子が最大にまで溜まるのを確認した後、彼が動き出す。

 

「……最後まで動かない、か。何を考えているのか知らないが……弟と妹にオレが優勝するところを見せてやるんだ。……悪く思うなよ」

 

 相手は世界大会に出場したほどの実力者だ。オレはそれに臆病で、狡猾に挑ませてもらうっ……ただ、それだけのことだ。

 

「―――GNハイパーメガランチャー……発射っ」

 

 

 

 砲台に照らされた膨大なるGN粒子。

 

 

 

 解き放たれる一撃が、ムロト・エイキの操るFAストライカー・カスタムに向かって、

 

 

 

 破滅に導こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――待っていたよ。……この一撃を……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――刹那―――

 

 ムロト・エイキの凍てつく眼光が揺らぎだした……

 

 また、ストライカー・カスタムもファイターに呼応したのか、悍ましく光る赤黒いメインカメラが……破滅の一撃に向けて、視界と、機体の全身を……方向を変える。

 

 そして―――

 

「唸れ……妖刀……!」

 

 ―――妖刀。ストライカー・カスタムの頭部に内蔵された精神感応AI。一種の強化人間プロジェクトである。ニュータイプの兆候にあったイットウ・ツルギの脳波を手本とし、この妖刀のシステムを新人類に与えることによって、ニュータイプの覚醒へと促進させる波動を促すことが可能となる。同時にこの波動が、彼らの兵器となり、超振動による波動の触発が、物質を砂塵状と化した。……これは、ツルギ流居合い「空合掌底気」と呼ばれた奥義を再現させたもの。別名:『超妖刀』と言われている。

 

 即ち、ガンプラであっても発動するこの妖刀というシステムは、ある一種のニュータイプへの昇華に繋がる触媒と成り得るものだ。

 そんなチートみたいな性能を、今、ムロト・エイキが再現させる……!!

 

 

 

「「「「「――――――ッ」」」」」

 

 

 

 誰もが、ここにいる観客席のほとんどが、彼の様子を我先に確かめようとした。

 果たして、ムロト・エイキは何をやらかした(・・・・・)のかを……!

 

 思わず唾を飲み込んだヤツもいるだろう。

 

 彼の安否を心配したヤツ……は、いないだろうが……無事なのか撃墜されているのかは知りたいものである。

 

 ムロト・エイキの対戦相手……ミツギ・ヨハンも、GN粒子の残量が少ないであろうガンダムスローネアインに構わずヤツが撃墜されているのか、はたまた沈められていないのか、目を細めながら凝視した。

 

 その先に目にした光景とは―――

 

「……バカなっ」

 

 最初に口が開いたのはヨハンだった。

 先に気付けた理由は、スローネアインから送られる映像によるもの。

 ヨハンはすぐさまに危機感を覚え、咄嗟にGNビームライフルの照準を構える。

 

 

 

 なんせ、彼は―――FAストライカー・カスタムは―――

 

 

 

「―――さっすがだねぇ。ボクの機体にここまで傷を負わせるとは……流石の『カタナ』もパージせざるを得ないよ」

 

 FAの装備をパージさせたストライカー・カスタムの姿がヨハンの視界に写る。

 今の一撃で、左腕、右足首、ガンダムのシンボルである左アンテナ、そしてFAアレックスに搭載される「チョバムアーマー」が、他にも所々破損して失っているようだが、

(沈め……きれていないだとっ?)

 ヤツは何を仕出かしたというのだ。オレのGNハイパーメガランチャーを防ぐなんて……

 

「―――ま、まさか……っ」

 

 ヨハンは気付く。あの時、スローネアインのGNハイパーメガランチャーが放たれた瞬間に、ヤツの操るFAストライカー・カスタムが、手元のツイン・ビームサーベルを両手に、振り下ろす様を。

 

 GNハイパーメガランチャーの粒子砲を……

 

 あのツイン・ビームサーベルで……

 

「両断したというのかっ、あの一撃をっ!?」

「うん! ……ま、これは妖刀システムの応用だね。妖刀システムは超振動(ニュータイプ)による波動であらゆる物質を細胞レベルにまで分解させる機能なんだけれど、それをこのビームサーベルに転じさせて、熱線による超振動を作り、君のGNメガランチャーを切り裂いたんだよ。一応、これって斬れぬ物質はないって設定になっているしさ。もしかしたらソレも斬れるかなぁって思って」

 

 あはは、と苦笑いするエイキ。

 それに対してヨハンは絶句した。

 改造したガンプラで、あのGNハイパーメガランチャーを防いだのなら納得が付くものだが、ヤツは改造もせず、IフィールドやGNフィールドのような特殊武装を取り付けた盾を装備したわけでもない。原作通りに製作したガンプラで、あの一撃を防いだのだ。

 ありえない、と思いたいが……これが現実。

 

「でもさ、君のアレ……GNハイパーメガランチャーだっけ? ホント、アレは凄いよ。ボクの知り合いにアレと同じくらいの威力で撃ってくる兄弟子ならぬ年下の子がいるんだけど、あの子よりも速く溜め、速く撃ってきたのは驚いた。やはり捨てたもんじゃないね、今回の大会は」

「……見抜かれていたのか。オレが奇襲をかけるのを」

 

 ヨハンは少し悔しそうにエイキに問いかける。

 あの時に妖刀システムを発動していたのは、動かない自分にオレが仕掛けるのを待っていたから。ヤツは分かっていたんだ。オレがどんな風に動き、どう仕掛けるのかを。

最大の一撃を斬ったのも、その威力までもが……知っていたから。

 まるで掌の上で踊らされた気分だ。

 

 苦虫を噛み潰したようにヨハンはジッと答えも待つ。

 GNメガランチャーは暫く使えない今、彼に対する勝率の見込みがない。

 負けたんだ、とヨハンは思った。

 

 すると、エイキはちょっとした間を置いて、口が開く。

 

「……正直言うと、そうだね。君がガンダムスローネアインを使用するときから、かな。ボクの使うストライカー・カスタムは接近戦用のMSだからどうしても遠距離戦のMSに不利な状況で挑まなくちゃいけない。だから敢えて待っていたんだよ。場所もわからない中で君が撃てば場所も距離も明らかになるからね」

「そ、そこまで……予測していたのか……」

 

 その述べた言葉に悔しいをすっ飛ばして、驚愕を覚える。

 あっさりしすぎるのもアレだが、ヤツの予測する範囲が大きすぎだ。

いくら世界選手権に出場したことのあるからといって、そこまでの考慮を頭の中に詰め込むなど、ガンプラを……ガンダムを愛していなければ、到底果たせない所業のはず。

 

 ヨハンはそこまで考えた後に、ふと思想が浮かび上がる。

(……そうか、あのエイキとやらがあそこまで強いのは、ガンダムを愛しているからなんだな。それなのにオレというヤツは、自分のガンプラに愛や信頼にすら置いてなかった。弟や妹にカッコいいところを見せてやろうとしたばかりに、ガンプラに対する思いの筋が見えてなかったんだな。……どおりで強いわけだ)

 

「さて、ボクはまだ戦えるけど君はどうする?」

「……正直、ここでサレンダーしたいところだが、生憎……弟や妹に無様な負け姿を見せたくないのでな。()らせてもらう」

「そうこなくてはねっ」

 

 ストライカー・カスタムの妖刀システムはまだ続いていた。

 基はEXAMシステムを手本として独自に開発された機能だけに、俊敏された動きにはキレがある。損傷が多く、バランスがとりづらそうに見えるが、それで戦闘に劣るほど彼は甘くはないだろう。

 

 現にGNビームライフルで射撃された熱線が、ストライカー・カスタムのツイン・ビームサーベルによって弾き飛ばされていたのだから。その光景から「機動戦士ガンダムSEED」に登場するフリーダムがラケルタ・ビームサーベル二刀流で、プロヴィデンスのドラグーンによるオールレンジ攻撃を斬って防ぐシーンを彷彿させてくれる。

 

「……っ、負けて……たまるか!」

 

 切羽詰るヨハンは、咄嗟の判断で迫りつつあるストライカー・カスタムに後方に下がりつつGNビームライフルで牽制し続けた。

 ―――だが弾かれる。ヤツに、射撃は効かない。剣術も、話にならんな。

 戦慄にさえ感じるヨハンの焦りが、そう語ってくる。

(強……すぎる、だろ……ッ)

 機動力も背を向けないで退きながらでは何れ追いつかれてしまうだろう。

 かと言って背を見せれば何をしてくるか分からない。

 

 これが、真にガンプラを愛するファイターの力だというのか。

 と、ヨハンは痛感する。だが、力の差を知ったところで、ここで終わるような自分ではなかった。

 

「……―――GNメガランチャー、稼働」

「……!」

 

 エイキは「冷却時間がまだなのに、撃つのかっ?」と言動を放つが、今のヨハンからすればどうでも良かった。これで決着を付けさせたかった。

例え……この一発でGNメガランチャーが大破しようと、次の戦いに勝つことが出来なくとも、ヨハンは少なくとも今は、ムロト・エイキという少年を倒したいと願っていた。

 これほど戦いに対して楽しいと感じさせ、勝ちたいと思ったのは、ここに来てガンプラバトルを始めたあの頃以来だ。

 弟や妹とのあの楽しかったあの時間を思い出させてくれる。

 

「……―――これで仕留めるっ」

「させるかあぁぁ!!」

 

 照準を合わせられたエイキは、瞬時―――瞳を見開いた。

 まるで種子(SEED)でも割れたかのように……

 

「それでもボクはっ、守りたい世界があるんだあぁぁ!!」

 

 GNメガランチャーから放たれるGN粒子がストライカー・カスタムの頭部に被弾し、ヤツの悍ましい空気が止んだ。おそらく妖刀システムが途絶えたのだろう。

 だがしかし、エイキは止まらなかった。頭部を失ったストライカー・カスタムのツイン・ビームサーベルをガンダムスローネアインの胴体に突き立て、アインはそのまま熱線を受け入れた。

 

 そのシーンがちょうどプロヴィデンスがフリーダムにやられるというシチュエーションと同じ感じに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝者と敗者が決まったこの時、観戦していたファンたちからの大きな盛況が流れ始めてきた。

 エイキとヨハンはその中で互いのガンプラを回収するなり、熱い握手を交えて会場から退いた。会場内のフロアに辿り着くなり2人は自分たちを待っててくれた人たちの下へ向かっていく。

 

 ヨハンは少年少女……おそらくは弟と妹なのだろう。弟は何やらスネてプンスカと怒っており、妹の方は何故かエイキの方へ向けて目付きを鋭くしながら睨んでいた。

 

そんな中、エイキはというと―――

 

「待ち構えてたぞ、エイキ君!」

「た、タツヤっ?」

 

 バトルしているわけでもないのに、何故かグラハム化しているタツヤ。

 たぶん、さっきの試合……ザクウォーリア使いのファイターと戦って()ったんだろう。

 エイキは彼の変わり様に驚いて思わず苦笑いする。

 

「先の戦いは実に素晴らしかった、おめでとう」

「あ、ありがと……。でもあれは危なかったな。あそこでGNメガランチャーを撃ってこようとしてくるんだから驚いたね。避けるのも間一髪だったよ」

「だが勝てたのだろう? それでこそ……私が認めた熱き宿敵(ライバル)だ。抱きしめたいな、エイキ君」

「い、いや……それは遠慮しとく」

「ん? 残念だ」

 

 今一瞬だけ危険な匂いがしたのだが、気のせいであろうか。

 いや、気のせいでありたい……と、エイキはそう願う。

 最近になってタツヤの変化が大きくなっていくような感じもするのだが、まさかソッチ系に目覚めたとか、じゃないよね? ノーマルだよね?

 

「タツヤ……」

「どうしたんだね、エイキ君」

「……ボクは……君がどんなになっても友達でいるからね」

「急になんだ、頭でも打ったのか?」

「うん、そうかもしれない」

 

 タツヤは今の言動に不可解そうに手を顎に当てて首を傾げながら考える仕草をする。

 そんな動きにボクは何故かお腹が、というか胃が痛くなってきた。明日から胃薬が必要になりそうだ。

 

 そして改めて思う。

 

 ボクは……ムロト・エイキは、ユウキ・タツヤが苦手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、マシマ・セイジことマシュマーはというと……

 

「どこにいるのですかあぁぁ! ハマアァァンンさまああぁぁ!!」

 

 と、道端で叫ぶ。

 

「ひっ」

 

 一回戦の終了を機に帰宅しようとしたハマーンとミネバ。

 悲鳴を上げたかのように声を出すハマーンを、ミネバは心配そうな瞳で問いかける。

 

「ハマーン、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ、コトリ。ただのしゃっくりです」

「無理だけはするでないぞ?」

 




お久しぶりです、ガンダムファンもとい読者の皆さん!

今回は以前と同じように活動報告からの要望で、ストライカー・カスタムとガンダムスローネアインを出させていただきました。4話までの話でSEED系の機体ばかりでしたので、そろそろ宇宙世紀やOOあたりの機体を出さなくちゃな、と思い選考しましたが、如何だったでしょうか? (速くバイアラン・カスタムを出したい。

あとパロキャラ……ZZの忠義の騎士道さんとミネバ様、そしてOOの三兄弟など豪華ゲストの登場で、作者としては満足ですね(特にマシュマーがw

……ここからは私情による話になりますが、アニメ・ガンダムビルドファイターズトライでトランザムしていたキュリオス「MA」に、あのライトニングが当たり前のようにMS状態で追いつくシーンを見たのですが、トランザムとは一体……何だったんだろうか。
それが疑問に今も思っております。

それでは感想・批評・誤字脱字などがありましたらお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話





「オレはなぁ、スペシャルでっ、模擬戦で負け知らずの! エリートなんだよぉ!!」

 

 この人物はあらゆる模擬戦においても、守りが硬く、並外れた反射神経、そして揺るがぬ不死身っぷりにより、模擬戦でも大きな戦果を繰り出していた実力者。

だがしかし、彼のその力の源とは……ハイメガキャノンやサテライトキャノンなど膨大なる一撃を喰らっても生き抜いて見せた激運にあると推察される。

 

先ほど述べたハイメガキャノンやサテライトキャノンのみならず……

 

ガンダム試作2号機のアトミックバズーカ、

 

デストロイガンダムのアウフプラール・ドライツェーン、

 

デビルガンダムのメガデビルフラッシュ、

 

ガンダムキュリオスのTRANS-AM 起動、

 

そして……バンシィのNT-Dからも撃墜を逃れたほど……

 

 

 

 そう、まるで機動戦士ガンダムOOに登場する「不死身のコーラサワー」の再来とも言うべきか、その幸運がこれまで幾多における戦場を彼は生き残ってきたのだと物語っている。

 そんな彼に付いた渾名とは――――――

 

――――――不屈のコカサワ……

 

 

 

 

 

「……おっ、と」

 

と振り被るであろう敵機のソニックブレイドを難なく躱すムロト・エイキ。

 

続けざまに斬り込もうとしても……当たらない。

 

フェイントを掛けた……と見せかけての二重フェイントも……当たらない。

 

もう自棄になってソニックブレイドを振っても……当たらない。

 

刀身から粒のような黒い塊が飛ばされ、爆発するが……当たらない。

 

「……エリートが、なんだって?」

「何じゃそりゃあああ!!」

 

と声に出しても……当たらない。

 

何故ならば……

 

 

 

―――このMSの速さに追い付いていないから―――

 

 

 

 このガンプラは一年戦争末にジオン軍がペズン基地で開発され、この機体は後に「ザクⅢ」のベース機として生まれたMSである。「ザクⅡ」を発展させて向上したその性能は、ザクとは思えないほどの桁違いな力を発揮させた。

 

 各関節部にはマグネット・コーディングが施され、高い機動力を持つようになり、ジオンに使われる流体パルスシステムから地球連邦軍製の駆動形式に用いられるフィールドモーターを採用したと言われている。

 

 武装は当時ザクには配備することすら儘ならなかったビームライフルとビームサーベル、専用ブルパップガン、専用ヒートホークなどを装備し、近接距離・中距離に優れているため、ザクでは到底成し得なる事が不可能だったとされていた。

が、しかし……これらを使いこなし、ガンダム5号機と相対した―――

 

 

 

 

 

―――機体(ザク)が現れた。

 

 戦闘ロボットヘビーメタル・重戦機エルガイムの操縦席(コクピット)に使用された架空の技術として登場した全天周囲モニター・リニアシートを搭載しているため、全天的に周りをメインカメラからCG合成として敵機やデブリを認識させることが可能。

 ただし、弱点としてガンダムF91による質量を持った残像(M.E.P.E.)に弱い。よって気を付けておくべきことは、敵の動きをモニターに頼るのではなく、感じ取ることが大切で、一言いえば、このMSはパイロットの腕を確かめるような機体である。

 

後に多くの機体が輩出されてきたのも、この機体があってこそだと言えよう。

 

この次世代への導き手となったザクの名は……

 

 

 

『機体名:MS-11アクトザク』

 

 マレット機に改造されたこのアクトザクが、吹き荒れる雪原の中で駆動音を唸り上げながら専用ヒートホークの刃が敵機の装甲に傷を入れる。

 

「この不屈のコカサワに傷を入れるたぁ……やるじゃねえのっ」

 

 自身の腕に酔っているのかニヒルに笑う男性―――コカサワ・リクがAEUイクナト【デモカラー】を奔らせ、地にソニックブレイドを突き立てながら反動による慣性を促した。

それに対し、アクトザクを操縦するファイターことムロト・エイキは、

 

「なるほど、そのガンプラはどうやら硬さを主として改造しているのですね。斬ってみてわかります。それと雪原を利用した環境の中で、ソニックブレイドを振るう時に刀身から何かが飛ばされたのを見ました。おそらくは弾薬が仕込まれているのかな?」

「……っ」

 

さっきまで笑みを浮かべていたはずのニヒルなコカサワから笑いが消えた。

 対するエイキはアクトザクの持つ専用ヒートホークが更にイクナトを陥れていた。狙いは重装甲にとって必要な重さを支える関節部分。

 人間の五指五体の間には各部位の関節があり、それらが体を動かすときに必要な組織といれよう。ガンプラもそれと同じで、先ほど述べた必要な組織を潰せば、いずれにせよ敵を沈めるのには十分すぎる手際であった。

 

「こ、こんのぉ……!」

 

 などと最後の奥の手と言うべきか、最後まで繰り出さなかったフルアーマーシステム特有のパージ機能を展開させ、軽装備となったイクナトが俊敏された動きと共にソニックブレイドを振るってくる。

流石は不屈のコカサワと名乗るだけあって無駄にしぶとい。

が、ムロト・エイキはそれを楽しんでいた。

 

「―――遅い」

「……なっ!?」

 

 イクナトからの猛攻が止んだこの瞬間の隙を逃さず、回避から攻撃に転じたアクトザクの専用ヒートホークがイクナトに切り刻む。それがどれだけ機体にダメージが掛かるかは喰らってみて分かるように、関節部位が破損した今……コカサワは動けないのだ。

 

機能(のう)は動いても機体(からだ)が動けないのでは、考えることはできても、行動に移ることが出来ない……即ち―――

 

「引導を渡してやろう……このボクがな!!」

「俺は! スペシャルで! 2000回で! 模擬戦なんだよおおお!!」

 

 関節部位を集中的に狙い続けてきた甲斐もあり、全てが破損し、五体満足が見事に斬り降ろされる。終には、不屈のコカサワが崩れ落ちていた……

 

「……いくら模擬戦で負け知らずでも、試合とそれとでは話が違う。出直してきなよ」

 

第7回 ガンプラ選手権 第3ブロック日本代表予選・2回戦

 

ムロト・エイキVSコカサワ・リクの勝敗はエイキの勝利に収まった。

 

「さて、と……ガンプラも回収した事だし、タツヤの方を見に行ってみるとするか」

 

 試合を終え、尊敬している悪役(ラウ・ル・クルーゼ)の名台詞を言えたエイキは、満足気になって近くのロビーへ辿り着くなり、そこから流れる映像を基にタツヤの様子を見てみた所、どうやらタツヤはあのアレックスと相対しているようだ。実力的に考えるとタツヤの方が上だろうし、やられるのも時間の問題か……

 

 

 

 

 

『行くぞっ、トゥーッ、ヘアァア!!』

 

 ∞ジャスティスのビームシールドの盾からシャイニングエッジを手に取り出し、ザクアメイジングに向けて投擲する直後、それを察したタツヤは持ち前の反射神経で易々と躱す。

 

『燃え上がれ、ガンプラッ……今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!』

 

 その一言を基にタツヤはザクアメイジングに搭載されているロングライフルを宇宙空間の中で体を反転させた見事な動きと共に狙いを定め、撃ち放つ。

 

『当たるかっ、そんなもの!』

 

 流石はアレックス。タケルの友人を務めるだけあって、タツヤの連撃をMSの機体とファトュム―01に分離させた特異戦法で何発か回避していく。が……それもまたタツヤには通用しないことをエイキは知っていた。

 

『ならば……これでどうだ!!』

 

 反転させた状態であったザクアメイジングの態勢を元に直し、タツヤは∞ジャスティスに追撃するためアメイジングブースターの推進力を底上げに……手にしていたロングライフルをハンドガンに持ち替えながら早撃ちを繰り出していく。

 その狙った先が敵機本体ではなく、宇宙空間に帯びる数多の小惑星(デブリ)にだった。

 

『いったい、何を考え――――――』

 

 

―――タツヤの銃弾が途方もなく現れてアレックスの行く先を奪い、

 

 

―――身動きが取れなくなったため、牽制に振り返ようと身を乗り出した瞬間……

 

 

―――ハンドガンから放たれる弾丸が∞ジャスティスの胸元を弾かせた。

 

 

 

『ぐ……なんだと!?』

 

 ∞ジャスティスにはヴァリアブル・フェイズシフト装甲を搭載しているため、ハンドガンによる実弾のダメージは低かったが、卓越な回避に銃弾が当たるなど、アレックス・ザラには到底考えられなかった現状であった。

 しかも当たった感触から正面からの衝撃とは思えなく、ファンネルかビットでも備えているのかとアレックスは疑ってしまう。

 

 

 

それを映像越しに見ていたムロト・エイキはどことなく察し始めた。

(……そうか、ハンドガンの銃弾を小惑星にワザと当てて弾道を曲げたんだ(・・・・・)。跳弾を利用するとは、タツヤも腕を上げたな)

 ハッキリ言っておくと、跳弾を使っての敵を仕留める戦法は、かなりの技術と空間認識能力がなければ勤まらないのだ。それに一朝一夕で出来るような芸当じゃない……あれは。曲撃ちは……!

 

 ∞ジャスティスを操るアレックスはその着弾に怯み、隙を生じた瞬間……追撃のためタツヤはハンドガンをヒートホークに切り替え、動き出した。

 

『も、もももうヤメルンダッ、お、お前の欲しかったものはそんなものじゃ……!』

『フッ、何を世迷言……私の欲しいものはただ1つ、純粋なる勝利だけだ!!』

 

 凄まじい気迫と猛攻に∞ジャスティスも流石に躱すことが限界に達したようで、胸部に着弾した直後、動きだしたザクアメイジングはヒートホークで火花を散らせながら一撃を加えると、∞ジャスティスは一閃の灯と共に爆ぜ去った。

 タツヤは宿敵と書いて愛と呼ぶほどのガンダムを倒せて……実に楽しそうで何よりです。

 

「相変わらずガンダムに容赦ないなー。先週のザクウォーリアの時は止めを刺さずに終わらせたのに。…………きっと愛を超越し過ぎたんだ、タツヤは」

 

 でもあれ、タツヤのザクアメイジング……チューンされているみたいだし、以前よりイオリ・セイたちと戦った時に比べてちょっと速くなっていたのでわかる。

 ガンプラバトルの技術も相当キレが増しているみたいだし、きっとタツヤが期待しているセイ君たちの影響なんだろうな。

 

―――そう、タツヤは今も成長しているのだ…………

 

 

 

「……いいなぁ」

 

思わずそう口にしてしまう。

 

 強すぎるが故に、上に昇りすぎたが故に、次に何を目指せばいいのか、このムロト・エイキには理解できなかった。強すぎて立ちはだかるライバルも、師も、ラルさんも、かの有名なイオリ・タケシですらボクに適うことすら出来なくなり、戦っても自分に勝てるファイターがいなくなってから、戦意の潤いに渇きが次第に募ってきていた。喉が渇けば水を欲するように、エイキもまた戦いと言う名の潤いを欲していた。全てはこの潤いを満たすために……

 

圧倒的な力っていうのは……ツマラナイモノである……

 

「…………あれからタツヤと出会って3年も経つのかぁ」

 

 師に言われ、全国に旅するようになったエイキはちょうど3年ほど前にガンプラ塾と言うものを知り、そこに行って少しの期間だけ通うことになったエイキはタツヤやアランなど塾生たちと出会った。

 

 マイナーな機体を使うようになったのもその頃だ。タツヤがザクアメイジングというベタなガンプラを使用していたものだから、自分も、と用意したのがエビル・Sで……戦った時のあの感覚はホント、心地よかった。きっとその影響なのかもしれない。ボクがマイナー機で無双してみようと試みたのは……

 

「ん? なんだろう。あれ……」

 

 イオリ・セイ、レイジ組、タツヤに次の試合の対戦相手になるであろうサザキ・ススムが勝ち進んだのを確認したエイキは他のファイター達の様子を伺ってみたのだが、これがどうも信じがたい決着の仕方を目撃してしまった。

 

 戦っているのは、キララとかいうガンプラ・アイドルだっけ? 確かキラ・タケルさんやラルさんが絶賛している女性だとか。よく見たら観客席でタケルさんがファングループの団体に紛れてめっちゃくちゃ応援しているよ。

……親友の応援よりもアイドルの応援を取ったのか元現役高校生最強ッ。

 

 他にもラルさん経由で知り合ったブライト中尉もいるが……『オォォ――ル・ハイルッ・キッラァーラァア―――!!』と叫んでいるな。

……アンタはどこぞのオレンジ君か。

 

対するは、スーパーガンダム使いのヘンケンさんは苦戦している模様。

 だが信じがたいと思ったのはそこだ。ヘンケンさんはスーパーガンダムの使い手として有名な実力者。その彼が新参で、経歴もないアイドルに陥れられているのだ。

ダークホースとかでヘンケンさんを倒すとかありそうな話はなくもないが、その戦い方が気になった。

 

『オォォ――ル・ハイルッ・キッラァーラァア―――!!』

 

「ヘンケンさんのガンプラ……動きがおかしい。キララっていうアイドルも相当な実力を持っているみたいだけど、戦い方……まるでタケルさんみたいだ。あのガンプラの作りも完全にタケルさん仕様だし」

 

『オォォ――ル・ハイルッ・キッラァーラァア―――!!』

 

 見ればヘンケンさんのスーパーガンダムは手足がボロボロとキララの攻撃で、崩れ落ちていく姿が目に浮かばれる。直撃ならまだしも―――掠っただけで(・・・・・・)機体に損傷を与えるとか、普通はありえない。

ユニコーンガンダムに搭載されているビームマグナム級の威力ならともかく、たかがMMI-M633ビーム突撃銃であれはちょっとなぁ。

どこか、調子でも悪いのだろうか。

 

『左舷、弾幕薄いぞ!! 応援団、なにやってんの!』

 

「まあ、それでやられるヘンケンさんもそこまでの人としか言いようがないかな。ちょっと厳しい評価だけど……」

 

『オォォ――ル・ハイルッ・キッラァーラァア―――!!』

 

「って、ブライト中尉どんだけ叫んでいるんですか!」

 

……全く、オレンジ君にも程があるよ。ホントに全く、こういう時に胃薬を持ってきておいて正解だった。

 

 それは兎も角、ヘンケンさんがあそこまで追い詰められているのは、女の子に弱いっていう節もあると聞いたことがあるから、そのせいかもしれない。

 

「それよりも次の対戦はサザキ君か。君のギャンは好きだったがね……ボクも彼に負けない個性的なガンプラを作っておくべきかな。そうなると、ムットゥーにするべきか。いやいや、ズゴックEも捨て難い。ああ、ギャンと言えばそれに対を成すあの機体を使うべきか、うん、そうしよう」

 

などと内なる闘争心を外へと剥き出しながら微笑を浮かべるムロト・エイキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3回戦に備えようと自宅へ赴いたサザキ・ススム。

次の対戦相手は現役高校生最強のユウキ・タツヤに並ぶほどの実力を持ったマイナー使いとして有名なムロト・エイキが今大会・3回戦の対戦相手だ。噂ではユウキ・タツヤをも超える力を持っているんじゃないかと言う話があり、それを聞いたサザキは当然勝ち目がないと悟り始めた。もちろん、自分の力に自信がないわけじゃない。相手が悪すぎるのだ。

 

 マイナー使いというだけあって、あまり知られていない未知なるMSやMAを使いこなし、策略や戦術に加え、機体を対戦ごとに変えてくる。

これがどう恐ろしいのかというと、まず1つが情報戦において必ずこちらに不利な状況へと持ち込まれること。一試合ずつ変えられると、相手に対する対抗策や戦法が読み取れず、最悪の場合、何もできずに終えてしまうケースが多い。

 

 そして2つ目は相手の力量が自分よりも遥か上に達するファイターであること。世界大会に出場したという経歴は、逆シャア風に言えば世界選出者は伊達ではないってことだ。

 

「ど、どうすれば……あのムロト先輩に勝てるというんだ。僕のギャンじゃあ太刀打ちできないじゃないか」

 

 必ずしもギャンで出ることはないのだが、このサザキはギャン使いとしての誇り(プライド)があり、彼にとってギャンが全てであった。だがこの機体は幾つかの欠点があり、元は量産機として開発されてきた故に性能が量産機特有の安易さ、そして接近戦に主とされて練られた戦術とニードルミサイルにビームサーベルという数少ない武装に加え、ハイドポンブという奥の手しかギャンに搭載されていないというのが、この機体の弱さにも繋がるであろう。……やはり、ここは重層に兼ねて武装を増やすべきか。

 だがそれでムロト・エイキに通用するのか……否や……

 

 

 

とその時、

 

 

 

『―――あのムロト・エイキを図に乗らせるわけにはいかんな……サザキ・ススムよ……』

「ひっ!? だ、誰なんだい……」

 

ふと聞き覚えのない男の声に思わず振り返るサザキ。

視界に写るその光景には1人のジオン兵……それも位の高そうな軍服を羽織った男性が自分のすぐ傍で立っているではないか。

 

『私か……私はマ・クベ司令官だ。君のギャン使いとしての名君はこの目でよく見ているぞ』

「ま、まさか、本人……?」

 

そう尋ねてみると、マ・クベと名乗る男は首を縦に振った。

変に全身が透けているから幽霊かスタンドか何かかと思ったが、どうやら本物らしい。

 

 マ・クベとは、サザキが使用しているガンプラ……ギャンの搭乗者として有名なガンダムのキャラで、キシリア配下の基、ヨーロッパ方面の司令官を務め、オデッサ作戦で撤退するまでは地球上の鉱山採掘が任務だった。

 条約で禁止とされていた水爆を使用したり、味方もろとも排除しかねないこの人物の性格は正に危険だとも言われていた。だがしかし、ニュータイプの覚醒に障壁なしで突き進むアムロ・レイによって逢えなく戦死を迎えるという哀れなキャラだ。

最後のあの壺をキシリアに届けるなど名シーンがあるが、あの壺……こっちの世界では4万円しか値打ちがないらしい。ホントに哀れすぎる。

 

「そのマ・クベさんは……僕に何の用で……」

『……うむ、私がこの場に現れた理由とは、君がヤツ……あのムロト・エイキを倒すための援助だ。聞けばヤツは相当な実力者だと聞くのでな。君1人では心細いと思って馳せ参じたのだよ』

「は……はぁ……」

 

あまりにも非科学的な現象が起こったことにサザキは訝しく相槌を打つが、対面するマ・クベは気にせず懐からHGサイズの箱をサザキの手に渡される。そのガンプラとは、

 

 ジオン公国軍が一年戦争時に開発されたギャンをベースに発展させて開発したMSで、アクシズにて完成させた試作型MSである。先代のギャンと比べ、主に武装が大きく強化されており、ニードルミサイルを搭載したシールドや試作ビームサーベルなどが変化されている。さらにアナハイム・エレトロニクスから裏でムーバブルフレームやリニアシートなどの第二世代における技術が入り込まれていた。

 

 しかし、それでもだ。量産機目的で開発を目論んだものの、全面的な性能が低く量産にまでは至らず……加えて開発までもが中断してしまったという―――

 

幻の機体であると……その名は―――

 

 

 

「―――……ギャン改っ、しかもリアルタイプじゃないか……!!」

 

 

 

そう、幻の機体にして、リアルタイプなど存在しない……影のようなMSであった。

普段は二頭身で有名なSDガンダムGジェネレーションやオーバーワールドなどゲームにしか登場しておらず、機体の性能としても接近戦には強いがそれ以外は微妙と言わざるを得ない武装面で……やはりと言うべきか、量産向きではないと思われてしまう。

 

(だ、だが僕がこの機体を使えば……ムロト先輩にも……!)

 

これに足りない部分を追加して、アレンジすればギャン改で彼と渡り合えるどころか10年は戦えるんじゃないのか……っ?

と、感じ取ったサザキの表情をマ・クベは見て、

 

『それでいい、サザキ・ススムよ。そのガンプラは……いいものだ』

 

などと満足気に含み笑いをする。

 

『……ではな、私はあの方の下へ帰らねばならん。暫しさらばだ』

「マ・クベさん……!」

 

そして、マ・クベは次第に姿が薄れていき、雲散霧消の如く去って行く。

サザキは彼の消えていくのを見届けた後、薄らと笑みを浮かべた。

 

「……勝ったぞ先輩、この戦い。僕の勝利だ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、エイキ君。次の試合……サザキ君が相手だね」

「おうふ……」

 

 二回戦から数日経ち、聖鳳学園の模型部でガンプラ製作していたムロト・エイキにタツヤはふと思い付きに尋ねてみる。

……確か前にエイキ君はサザキ君の事を気に入っていると言っていた。エイキ君ほどのファイターが気にしている相手、しかもギャン使いとして名を馳せた彼と戦うんだ。エイキ君がサザキ君にどんな思いで決着に赴くのか、つい考えてしまう。

 それにもし彼に勝てば……いや負ける通りがないエイキ君とは次の次、4回戦準々決勝で逢い見えるのだから。気になっても何らおかしくはないはず。

などと疑念に感じていたタツヤに対し、エイキは無関心な表情で頷いた。

 

「どうだい、気に入っていたというサザキ君と試合をする気持ちは」

「相手が相手だからねー。ギャンを使う彼には敬意を払わないと、そう……敬意を」

「フッ、流石は我が宿敵(ライバル)。それはそうと、そのガンプラは……?」

 

 話している途中でふと彼のガンプラ……彼の力作たちに紛れて飾られてあったあるガンプラに目が留まった。タツヤは気になってムロト・エイキに聞いてみると、エイキは作り掛けのガンプラを置いて、隅に置いてあったガンダム(・・・・)を懐かしむように見つめる。

 そのガンプラはあまりにも美しく、端正に作り込まれたその完成度には無駄が無い。そして磨きかかった達人の業と共にまるで格の違いさを見せつけるかのようなガンプラであった。

これを見たタツヤは唖然と口を空けた状態で驚愕する。

(二代目メイジンと同等……いや、それすら超える出来栄え……)

図体からMSなのは間違いないが、このガンプラは彼の好むマイナーな機体ではないことは確かだ。

 

「これは……」

 

―――……見れば見るほど、凛としていて見惚れてしまうほどだ。

なんせ、そのガンプラに搭載されている紅く輝くフルアーマーユニットはもはや生半可な攻撃では通じないであろう装甲で、内部構造から察するに各装甲にはスラスターが内蔵されているため、機動力にも申し分なく発揮されるはず……

 

 そして、背には4基ほどのファンネル。これにはおそらくファンネルによるIフィールドが展開できるようにと予想されるが、そのままでも大型ビーム砲として放てるように設計されてるみたいだし、ファンネル自体の発射後にビームが撃てるよう小型のビーム砲までもが備わっている。

 

……正に飛ぶ要塞。

 

まるでパーフェクトガンダムと思わせるかのような壮大さが目に浮かばれる。

パーソナルカラーはおそらくエイキ君の異名「緋色の流星」に模させた緋色の装甲……

だが、タツヤはこれを知っていた……このガンプラが何の機体なのかを。

 

「フォーエバー、ガンダム……!」

 




ガンダムファンの皆さん、お久しぶりです。
久々の更新で驚いたんですが、お気に入り数が100を超えていたとは思いもしませんでした。
始めはエクザスやバイアラン・カスタムが活躍した物語を書きたいな、と思って書いたSSなんですが、いつの間にかこんな展開に……感無量です。
マイナーな機体を軸に物語を進めようと思ったのもポケモンがきっかけですしw

話は変わりますが、今回の話では新キャラについて如何でしたか?
コカ・コーラさん。オレンジ君。そしてマ・クベ本人の登場……それに加えてここのサザキ君がスタンド使いという疑いが……

アニメの方も遂にフルクロスが出ましたねぇ。ホントあれには感動を覚えました。
いくら補給しなければ長時間戦いに保てないとはいえ、たった1機で圧倒するところは流石はフルクロスと言ったところでしょうか。

感想・批評・誤字脱字などがございましたら、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

久しぶりにSDガンダムGジェネレーションオーバーワールドをやってみました。
メンバーを全員ヒロインや女性キャラにして趣味パーティーを組んでみたのですが、これがまた楽しいです。
艦長はローラ・ローラです。いつもミネルヴァで撃ちまくってます。



 彼には、師がいた。

 

 ガンプラを製作するため……多くのプラモに触れたビルダー達が、長きに渡る時の流れで様々な技と奥義を生み出し、それらを基に体現化したのが『ガンプラ造形術』である。

 

 また、ガンプラ造形術には流派と言うものが存在していた。

 

 1人の剣豪の下で修業を勤しんでいた弟子が免許皆伝を得て、それぞれの技と法を編み出して新たに己だけの流派を展開するように、『ガンプラ造形術』にも流派と言うものがあり、1つの造形技術が達人の域に達するのと同時に独自の流派を開くようになる。

 その中でも特に名声が高いことで有名なのが『ガンプラ心形流』―――

 

 珍庵と呼ばれるガンプラ心形流の継承者で、世界レベルに達するファイターたちにとって畏れ多い貫禄のある老人だ。

 その彼には、弟子が2人いた。1人は京都出身の12歳の少年で、次期ガンプラ心形流の後継者として注目されている。そしてもう1人は若15歳でガンプラバトル世界選手権に出場と言う実績を上げた少年―――ムロト・エイキ。

 

 彼もまた心形流の後継者だと、思われていた(・・・・・・)

 

 思われていたというのは、彼があまりにも強すぎて……製作技術はどの流派よりも高すぎるが故に、造形術の同派である門徒たちから珍庵のように畏れられた訳ではなく、彼の場合、怖れられていた(・・・・・・・)

 

 戦闘能力は、二代目メイジン・カワグチやガンプラ造形術の筆頭に匹敵するほどの実力者で、当時―――心形流に属した時から、彼は強かった。それが門徒たちに怖れられている原因だとされている。

 

 そんな彼が世界レベルの実力者を相手に引けを取らないのも頷けた。

 

 だが、それは彼にとっての最強である由縁の一端でしかないと知ったのは、

 

 〝彼〟の名を聞いたからだった……

 

「まさか都市伝説とされている伝説のファイター……否、ガンプラマイスターにバトルを教わっていたとは……聞いてないぞ、エイキ君っ!」

 

 ガンプラバトルに興味示したのも、〝彼〟の影響だとエイキは言った。そして彼がいなかったら自分はガンプラバトルどころかガンダムにすら興味を持たなかったのかもしれないと。

 湧き上がる闘志と共に笑みを浮かべながら拳を握る。これは決して怒りによる言葉ではない。ムロト・エイキがどんな師を持っていようとも、導いてくれたのが〝彼〟だったとしても、私……ユウキ・タツヤにとってはどうでも良い事で、寧ろ〝彼〟には感謝したいぐらいだ。

 これでまた、エイキと言う少年と分かり合えたというもの。

 

「しかし、この戦いを終えれば次はエイキ君との決着が待っているのか……」

 

 いや、まだだ。彼には難関な相手と戦っていない。

 エイキにはサザキ・ススムという強敵が待っているのだ。

 ギャンを使わせて右に出る者なし……私の目から見てもそう思えるぐらいの実力を彼は持っている。

 果たして……彼は勝ち残れるのだろうか……

 

「その前に私もガンプラの調整に手を施さなくては……彼の、あのガンプラを見てしまってはどうも居心地が悪い」

 

 そう呟くタツヤの頬に、冷や汗が伝う。そして一笑に付した。

 ……さっきから私はエイキ君の事ばかり考えてばかりだと。このトーナメントで勝ち上がれば彼が待ってる。彼ほどの実力者が、目前で待ってる。あと少し……あと少しでだ。

 前世界大会の時は曖昧に終わってしまったものの、今回は違う。

 何故なら、大乱闘(ロワイヤル)とは異なり、誰からも邪魔はされず……1対1による正当な決闘だ。

 

 勝てば世界。負ければ即終了。

 この運命を決する戦いに、緊張が起こらない方がおかしい。

 しかも相手はあの宿敵(エイキ)なのだ。

 油断なんてものはしない……余裕で()くなど言語道断。 

 互いの本気でぶつかり合える至高の遊戯に嘘、偽りなど不要。

 全身全霊、持てる自分の全てを相手にぶつける。

 ただ、それだけだ。

 

「ようやく、長年に渡ってエイキ君と決着が付けられる……この時をどれだけ待った事よやら……」

 

 

 

 そして気付く。

 

 

 

 どうやら……私は目覚めてしまったようだ。

 

 

 

 彼に対する……

 

 

 

 想いというものを、

 

 

 

「括目させてもらおう、エイキ君」

 

 

 

 正真正銘の〝愛〟というものを……!

 

 

 

 メイジン進行形(アメイジング)エピオンに手を添えたタツヤは更なる改良を施すため、完成したはずの機体を一度分解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうですかー先輩。僕の作り上げた、ギャン改の力はっ!』

「……初めて見たな、リアルタイプのギャン改。ギャン好きとはいえ、本当に作り上げるとは」

 

 第三回戦。ムロト・エイキとサザキ・ススムによる1対1の準々決勝。

 サザキが使用するガンプラ、ギャン改による猛攻をエイキは受けていた。

 

 長大なるビームソード。その長さと共に実体剣もまた長く、一振りだけで薙ぎ払われそうなのを、エイキは高機動スラスターに起動させて飛び上がり、地底遺跡という珍妙な舞台の中で攻撃を躱していく。

 

「SDガンダムだけかと思ったけど、リアルタイプのギャン改……存外、魅力的なガンプラだね。しかもその出来栄え、サザキのギャン愛は確かなモノだと図らせてもらったよ」

『先輩からそう言ってもらえるとは、光栄ですよッ!!』

 

 そう叫ぶサザキにギャン改のビームソードが、エイキの機体に掠め取った。

 流石にこの機体で回避していては限界がある。どうにか対処しないと……

 苦悶な表情を捉えるエイキに、気にも留めないサザキの斬撃は止まらず、ビームソードが振り下ろされるのと同時に、降ろされた先にあった建造物が崩落していく。

 なんて馬鹿力だ。

 

「凄い……まさかギャンのビームソードがここまで威力が発揮するなんて……」

 

 勿論、それだけじゃない。そのビームソードの威力には驚かされるが、それを振り回せるギャン改の性能にはより驚かされるよ。

 そして離れれば遠距離兵器・ニードルミサイルが束が待っていた。基のベースとなった機体がギャンなだけあって、接近戦に強いが、遠距離戦には劣っている。しかし、ニードルミサイルが弱いなんていう設定はどこにも無い。

 

「くっ、ボクが押されるとは……ッ!」

 

 加えて軽やかな動きにあの破壊力は、あまりにも単純(シンプル)すぎた。

 エイキは読みや観察、そして速い動きで相手を翻弄し、隙あらば一気に捻じ伏せるという戦い方が癖になっており、多くのマイナー機でこの戦法を使用し続けているが、それがこの舞台では通用しないという。

 

 読みも、観察も、速い動きによる翻弄も、このフィールド内では範囲が縛られすぎて動きようもない。単純が故に柔軟(フレキシブル)で、単純が故に強靭(タフネス)……それがエイキの全てを抑え込んでいた。

 

 しかも、あれほどサザキを未熟と称し、弱いとばかり思ってたボクが……今では押されているというのだ。彼と、彼の操るギャン改によって。

 

『先輩だからといって、僕は遠慮しないっ。戦いとは駆け引きですからねぇ!』

「……ッ、そ、それでいい。ボクに遠慮なんて不必要だ。胸を借りるつもりで掛かってくるといいよ」

 

 ムロト・エイキのガンプラは、ギャンと同様……ジオン脅威のメカニズムによって開発されたMSで、ザクに次ぐ量産機を巡って争ったギャンと対を成す機体。

 ビーム兵器をMAや一部の水陸両用MSを除くジオンの量産機の中で、初めて搭載できたMSである。

 

 地球連邦軍を意識して、ジェネレーター出力の向上にビームライフルの開発を励み、ビームサーベルはヒートサーベルを採用した形で構成に赴いたものの、実用化における機体を完成させるまで3ヵ月ほど遅れる事となる。

 その理由は、この機体のスラスターや推進部を開発する担当になったツィマッド社と次期主力開発に働いていたジオニック社との『EMS-04ヅダ』を巡る執拗さにヨーツンヘイム艦長は言った。

『これでは次期主力MSの開発が遅れるのも当然だ』

 と、嘆息しながら呟いたという。

 

 そして開発できたヅダがヅダったり、一年戦争末期で多くのエースパイロットが殉職するなど、多くの難問を乗り越えて完成できたのが、このMS……

 

 ガンダムと同等の性能を持ち合わせたジオンの傑作量産機。

 

 もしもこの機体の量産が1ヵ月早ければ、1年戦争の行く末は変わっていたのかもしれないと称されたという―――

 

 

 

『機体名:YMS-14先行量産型ゲルググ』

 

 先行して25機ものゲルググを製造し、様々な戦場で名を馳せたというエースパイロットたちを集め、キマイラ隊を編成された部隊がア・バオア・クーでの攻略戦に投入された。

 しかし、その後の量産には問題があり、738機もの数を量産させたにも関わらず、出撃できたのはたったの67機。

 そのほとんどが学徒兵なため、機体の性能を発揮させるまで至らなかった。

 だがそれは、作中の中だけの話。

 

 ここは自分の作り上げたガンプラと相手の作り上げたガンプラとの真剣勝負。

 趣味であり、遊びであり、本気であり、それらの信念を貫いた者こそが勝利を得る。

 いわば、スポーツみたいなモノだ。

 どちらが強いか、どっちのガンプラが上手く作り、そのガンプラをどう活かせるか……そんな世界だ。ガンプラとは、自由。戦争じゃない。

 

 そして『ソロモンの悪夢』がこの場にて再誕させるのもまた、自由であると……

 

 

 

『僕は先輩に勝ってみせる。そしてユウキ先輩にも、イオリ・セイやレイジとかいうヤツにも……僕とギャンで上を目指すんだ!』

 

 歓喜に震えたサザキが野心に燃えた猛獣のようにビームソードの出力を最大にして薙ぐ。その熱線の刃はエピオンのビームサーベルのように伸びるのではなく、刀身ごと幅を広げた巨大な剣。しかも巨大化して重量も微々向上したためか、遠心力による速さが一気に増大され、傍に立っていた獅子の石造も一瞬にして蒸発していった。

 ダブルオーライザーのライザーソードほどではないが、これほどの出力を発揮させ、ここまで扱い熟すサザキは流石だと言えよう。

 それにこれを受ければ先ほど蒸発していった石造のようにエイキのゲルググは消し炭になるに違いない。

 だが、それを甘んじて受けるほど、ムロト・エイキは甘くなかった。

 

「ふっ、意気込みは良し。だが相手がひよっこではな」

『えっ……?』

 

 これほどのビームソードをどうやって躱すか……それは空か、後方に下がるか、否……この場合、前に進んで通り過ぎるのが正解だ。

 何故なら、空に逃げても次の斬撃で滞空性のないゲルググは落下して終わり。後方に逃げても2撃、3撃と続かせることで、この狭いフィールド内ではすぐに場外負けとなるか、追い詰められて逃げ場を失い、そこで試合終了。

 だが、ギャン改の薙ぎ払いの逆側を行き違いするように行けば、薙いで来るビームソードはゲルググを追う形で迫るものの、腕ごと振るわれる胴体の関節には限界があり、そこで動きが止まる。

 よって、擦れ違いで互いの背を向けた状態になりうるわけだが、今のギャン改は攻撃を寸断に留めたばかりだ。その一瞬をエイキは……

 

『なっ!? この僕の攻撃が……!』

 

 ゲルググは基の武装が少ないが故に、軽装である。しかも擦れ違いの流れに沿って反転し、いつでも試作型ビームライフルが撃てるわけだ。

 その威力は敵戦艦を一撃で撃沈させるほどの弾数に限りありの威力。

 ジョニー・ライデン専用のゲルググが搭載するロケットランチャーほど破壊力は持たないが、それでも十分に事足りる。

 それにギャン改のビームソードを振り回してくれたおかげで建造物が崩れ去り、地形が広くなった。ムロト・エイキの真骨頂はここからが本番である。

 

「未熟ながら君は確かに地区屈しの強さを持っていることは知ってる。ギャンに対する想いはボク以上だと認めるよ。……けどね、ボクはギャンだけでなく、ガンダムの全てを想うこの気持ちだけは、誰にも負けないっ。だから……勝たせてもらう!」

 

 ライフルから放たれたビームがギャン改の振り返りに右腕が撃ち落され、ビームソードを突き立てたギャン改は、機体の重心を支えたまま体勢が崩れるのを防ぐ。

 それを好機と見たエイキはビームライフルを撃ち続けた。

 

『くぅ……!』

 

 ギャン改はビームソードの太い刀身を盾にゲルググの試作型ビームライフルから凌いでいる。が、それも時間の問題だ。

 艦隊を一撃で葬れる試作型ビームライフルはたかだかビームソードで防げるほど軟弱な代物ではない。だが、そのビームを何度も防ぐギャン改は本当にサザキ自身の魂が籠っているみたいだ。

 

『うああぁぁ!!』

「なに?」

 

 刹那、ギャン改の姿が忽然と消えた。

 一瞬、ギャン改のモノアイから紅く光ったように見えたが……

 ……まさかっ。

 

 

 

 ザクッ

 

 

 

『いい音色ですねぇ?』

「EXAMシステム!? 確かギャンにも搭載されることがあるって知ってはいたけど……ここでかっ」

 

 ギャン改のビームソードが片手間で振り下ろされる中、ゲルググはそれを横に避けて間合いを計るため遠退いたものの、地形が歪んでいるせいか機体バランスに異常が発生し、体勢が崩れ落ちるのと同時にゴトンッと音を立てながら左腕が地に落ちる。

 先ほどの斬撃でやられたのか……

 

「……形勢逆転かと思いきや、さらに形勢逆転されるとはね」

 

 サザキは右腕、ボクは左腕を持っていかれた。

 どちらもジオニズムによって同時期に生まれた兵器であり、競い合った二機。

 ビームソードのギャン改、試作型ビームライフルのゲルググ……

 まさに理想を越した燃え上がる決闘。今まで渇きしかなかったボクに潤いが満たされていくような気がする。どうやら、バトルというものはガンプラの奥深さが包まれているようだね。そのことを今までずっと忘れていたよ、そして思い出した。

 

『これで僕の勝ちですよ、先輩』

「……どうかな」

『流石は世界大会に出場しただけあって負けを認めないですね。そのプライドは僕も憧れてましたよ』

「負けを認めたらそこで試合終了だろ」

 

 それにボクが決意した『マイナー勢で無双』する理想図が書けなくなってしまう。

 

 それだけは何としても遂げなければ……!

 

「サザキ、ボクやタツヤを敵に回すには……まだ早いんじゃないかな?」

 

 バッ、と試作型ビームライフルを捨て、ビームナギナタを取り出す。

 これを見たサザキは怪訝そうにゲルググの手元を見た。彼が言いたいことは分かってる。

 だけど、これはあくまで先輩としての意地であり、君を未熟だと称した実力者としての意地だ。ここで負けるわけにはいかない。

 次の対戦であのユウキ・タツヤが待っているしね。

 ボクと渡り合える宿敵。苦手なヤツだけど、それでもだ。

 彼と戦いたい。そして勝ちたい。

 なら、ボクは……君を討つ!

 

『先輩、僕のビームソードにビームナギナタで挑むんですか? やめておいた方がいいですよ。そんな軟弱なビームナギナタじゃあ、僕に適うはずがないじゃないですか』

「そんなことはわからないよ。素人の射抜く矢が、達人の投げる石ころに負けるように……君みたいな未熟な者のEXAMシステムで、ボクのゲルググが負けるなど、ありえない」

『……そうですか』

 

 サザキは残念そうに仕草を取るものの、その後に見せた表情は笑みでいっぱいだった。

 勝利を確信したのだろう。接近戦でボクが不利だからなのだろう。MSの性能が僅かばかりギャン改の方が高いからだろう。世界大会に出場したボクを倒せる、などと思い浮かべたのであろう。

 だが、それらを打ち破るのもまた、ファイターとしての義務である。

 

『なら、ここで先輩を断ち切るっ!』

「やってみなよ。ただしその頃には、君は八つ裂きになってるだろうけどね!」

 

 悍ましき波動は放つギャン改はビームソードをゲルググに突き向け、突進してくる。

 EXAMシステムの恩恵か、その速さは並の機体では出せない力だ。

 対するは何ら力を持たず、ただビームナギナタを構えただけのゲルググ。ギャン改と同様ナギナタを相手に向けて、ただ滑走し、加速していくだけ。

 その光景は、正にガンダムエクシアとOガンダムと対峙した際、2つの勢いがぶつかり合う瞬間と似ていた。

 

 

 

 

 

「……ハマーン」

「どうかいたしましたか、コトリ」

 

 観客席から見ていたハマーンとコトリ。2人が応援しているというムロト・エイキの苦戦に強いられた光景にコトリは不安がっていた。

 

「ムロト・エイキは……負けるのか?」

「……それは」

 

 ハマーンとて、あそこまでエイキが追い詰められる姿は見たことが無い。

 無敗を誇り、マイナーの使い手として最強の座にいた彼はどんな相手だろうと戦って勝利を捥ぎ取ってきた……そんな彼の負い目姿にハマーンも驚いてる。

(まさかあのムロトがここまで…………ムロトっ)

 ぎりっ、と歯噛みするハマーンは今のエイキの姿にどこか寂しさ、というものを感じた。

 たぶんそれは彼が負けるところを見たくないだとか、決してそういうのじゃないんだろう。きっと何か違う気持ちなのだとハマーンは思ったが、それは勘違いだと無理やり思った。

 

「…………ハマーン?」

 

 そこにコトリが不思議と首を傾げながら問いかけてくる。

 

「大丈夫だ、コトリ。彼が……ムロトが負けるところなんて見たことが無いでしょう?」

「う、うむ」

「なら……最後までヤツを信じればいい。ヤツは必ず勝ち上がる。私とコトリが応援しているんだ、勝って当然だろう」

「おお、そうであったな!」

 

 無邪気に微笑むコトリの表情にハマーンはホッと安堵を付く。

 とはいえ、彼とサザキの勝敗が決したわけではない。ハマーンやコトリが応援したところで、エイキが勝てるという保証はどこにもないのだ。

(……だから勝てよ、ムロト。ミネバ様の期待を裏切るような事があれば、その時は承知しないからな)

 そして、ハマーンの視線はゲルググとギャン改とのぶつかり合いに集中した。

 

 

 

 

 

「はああぁぁぁッッ!!」

『りゃあぁぁぁッッ!!』

 

 ギャン改の進撃に迎え撃つゲルググ。ビームソードとナギナタとの間合いはどちらも大差無し。互いの持てる全ての技術を以てして作り上げたガンプラが激突する。

 EXAMシステムは元々、対ニュータイプ用に開発されたシステムだ。その馬力と推進性はストライカー・カスタムを使用していたエイキが一番理解していた。

 だから、その力を……逆手に取らせてもらうっ。

 

 高機動型スラスターを開放し、スピードを上げたゲルググは咄嗟に片足で地に叩きつけ、空中へと身を放り投げる。

 

『逃がさないよ!!』

 

 ビームソードごと片腕で振り上げ、ゲルググを捉えようと斬撃を繰り出してきたのを、ゲルググの背中に装備されていたシールドでわざと受けた。

 このMSの背に防御兵装として先端に尖った楕円状……ゲンゴロウ型とも呼ぶシールドの形には意味がある。

 それは、『MA-08ビグザム』などの技術応用による耐ビームコーディングが、ある程度施されていて、ジムやガンダムなどのビームライフルは何発か耐えていた。付け加えてあの形は〝受け流す〟に適したシールド。

 劇中では脆くビームサーベルの斬撃だけで半壊するなどの印象を見受けられるが、それは使い方が誤っているからだ。

 

 そして追撃してくるビームソードを背に装備してあったシールドで受け流し、その時に生じる逆ベクトルの回転がゲルググを舞わせる。

 EXAMシステムは対ニュータイプのために搭載された機体は、それぞれ異常な性能を発揮させた。速度や反応速度など……全てはニュータイプに対抗するために……

 だからその斬撃を、回転扉の如く受け流した時に機体を働かせ、攻守に切り替えつつゲルググのビームナギナタが、その突発力を以てしてギャン改に突き立てれば、その速さはEXAMシステムによる斬撃と同じ。

 故に、躱すことができない。

 

『なっ!?』

 

 サザキもボクの狙いが目に見えたのだろう。だがもう遅い。

 そしてギャン改の動きは先ほどと同じく攻撃をした直後に行われた一瞬の隙。

 ここを利用しなくて何時する……今でしょ。

 

「南無三ッ!!」

 

 一閃の刃が、ギャン改の真上から仕掛けられる。

 サザキもビームソードを咄嗟の判断で戻そうとしていたが、EXAMシステムとてこの刃には届かない……終わりだ。

 そして、ゲルググのビームナギナタがギャン改を刺し貫き、怒涛の衝撃がゲルググを巻き込んだ状態でフィールドを轟かせ、後に残っていたのは破損したゲルググのみ。

 つまり―――

 

 

 

「ギャンかあぁぁぃいッッ!?」

 

 

 

『―――BATTLE END―――』

 

 

 

 バトルの決着が付いたのと同時に、フィールドから流れるアナウンスが会場の全体に向けて響き渡り、観客席から歓声の嵐が舞い上がってきた。

 

 

 

「……そ、そんな……僕の、僕のギャンが……敗れた?」

 

 プラフスキー粒子が薄れ、古代遺跡のフィールドが消えたボクの視界には、1人の少年。サザキ・ススムの姿が目に受けていた。その姿は先ほどの自信溢れたあのサザキとは思えない。落ち込んでいるというよりも、不可解といった表情のようだ。

 

「サザキ」

「……せ、先輩」

 

 話しかけてみたものの、サザキの声には力が籠ってなかった。

 あれほど勝利に尽くして戦ったんだ。気力が失うのも当然なのかもしれない。

 そう思いながら、エイキは口を動かし続ける。

 

「君に謝りたいことがあるんだ」

「僕に……謝りたい、ことですか?」

 

 唐突な言葉に、サザキは大きく目が開かせた。無理もない……ボクだって驚いている。普通―――負けた相手に向かって謝りに行くなど、前代未聞のありえない出来事。現象に近い。

 ……だからこそ、ケジメというものはキッチリと付けなくちゃいけないんだとボクは思うんだ。だってこれは普通じゃないし、これを言わないでいるといずれ後悔するだろう。

 

「そう。ボクはね、最初は君の事……弱い、未熟とばかり思ってたんだよ」

「えっ……?」

 

 サザキは驚きに声を漏らす。

 本人の前でこの事を言うのもどうかと思うのだが、ここで言わなければボクはずっと彼を未熟なままで見てしまうだろう。そんな気がして止まない。

 ボクはそれが許せなくて、ただ真っ直ぐとサザキに向けたまま喋り続けた。

 

「君は野心こそ凄まじいが、欲張りすぎるが故に未熟だと感じてしまったんだ」

「先輩……」

「だけどね、君は今日……この試合でボクを驚かせた。君の持てる全てとやらをボクにぶつけ、ボクを追い詰めた。未熟だと思っていたボクだが……してやられたよ」

「そ、そんな僕なんてまだまだですよっ」

 

 わたわたと急かすように謙遜するサザキ。その動作に何だかもどかしく思ったのかエイキは微笑を浮かべた。

 

「だから、ごめんね。こんなボクだけど……許してもらえたら嬉しい」

「……! い、いえ! 僕も、先輩と戦えてとても経験になりました。また僕で良ければ対戦してください!」

「……ありがとう、サザキ」

 

 語り終えたエイキはスッ、と手を差し伸べる。それに気づいたサザキは、飛びつくようにエイキの掌を手に取り、握手する。

 

「……いや、ここはススムと言った方がいいかな? ボクも君とギャンの再戦を楽しみにしてるよ」

「はいっ!」

 

 その声には、とても力があり……これから成長するであろうファイターとして、期待に添えられるほどの真っ直ぐな音だった。

 




お久しぶりです、ガンプラファンの皆さん。

今回のエイキ君のバトルは色々と他作品の戦闘シーンを参考に書かせていただきました。
回転扉のように受け流し、そこからのカウンターは某ラノベの主人公の技で、楕円状の盾を使っての技術は某ジャンプの幕末漫画に出てたあの人の応用ですね。

あとサザキ君に関してですが、先輩に対する態度や喋り方など素材が少なすぎて似てないかもしれません。そこは温かい目で見ていただけると嬉しいです。

そしてハマーン様はやはりハマーン様だ、ふつくしい……!
ミネバ様もロリで可愛い。これは鉄則。ですが何年後かすると……(遠い目



感想・批評・誤字脱字などがありましたら、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

更新遅くてすまない……FGOに夢中ですまない……ガンダムに関係なくてすまない……


 

 

 

 

 

「……準決勝、か。ようやく決着が付けられるね……タツヤ」

 

 第四回戦、当日。

 待ちに待った宿命の相手との勝負が今日、ここで行われると言うのだ。

 これまでの困難を乗り越えてきたムロト・エイキにとって、因縁の対決となるであろう……ユウキ・タツヤとのバトルは、正にアムロとシャアのような決戦になるに違いない。

 否、そうであってほしいとエイキは思った。

 

「昔、ボクは言ったよね。本来ならエグザスじゃなくて決勝戦用のガンプラで相手したかった、って……」

 

 大会へ赴いたエイキは試合会場へと足を運ぶと、そこに幾人もの人物たちがエイキの前に立っていた。ミネザキ財閥の令嬢ミネザキ・コトリと、その教育係にしてSPを担っているカンハマ・アンだ。

 ただカンハマさんはいつものタキシード姿ではなく、私服のようだった。

 その姿は紛いも無く美しくて、常に冷静(クール)な彼女の大人っぽさが溢れる……そんな服装で、思わず見惚れたボクがじぃー、と見つめていると、それに気付いたらしいカンハマは少し頬を赤くしながらも、コホンとわざとらしく咳込む。

 

「―――……いよいよだな、ムロト」

「ええ、そうですね」

 

 貫禄というモノが彼女から発せられる雰囲気に、真剣な目付きでエイキは頷く。

 

「それにミネバちゃんも来てくれたんだ」

「うむ! 我もエイキの応援に駆けつけてきたよ」

 

 相変わらずの無垢で純粋なミネバちゃんにエイキは彼女の頭を撫でる。

 気持ちがいいのか、擽ったそうに微笑むミネバちゃんの表情に、思わずエイキも笑う。

 

「だが、笑っていられるのも今の内だぞ」

 

 エイキとミネバちゃんの光景に水を差すかのように話しかけてくるカンハマは、腕を組みつつエイキに向けて忠告してきた。

 それに対し、分かってる、と言いたげな表情でカンハマに視線を向ける。

 今はガンプラバトルの大会だ。

 それも、世界選手権というプラチナチケットが懸かった大切な試合。

 準決勝にまで昇ったエイキとしても、ここで終えるほど満足してはいないだろう。

 しかし、

 

「はい、何たって相手はあのユウキ・タツヤですから」

「ぬ、ユウキ・タツヤ……紅の彗星か。厄介な相手と当たるな」

 

 世界選手権ではないにせよ、ここにはそれに目指す猛者たちが集まっている。

 故に、その頂きに辿り着くためにはそれ相応の覚悟でなければ昇り付くどころか足を踏み入る事さえできないのだ。

 ミツギ・ヨハン、コカサワ・リク、そして……サザキ・ススム。

 多くの強敵たちを破り、辿り着く頂きへの先にはユウキ・タツヤという最凶の敵が待っている。おそらくこの地区において一番の障害と成りうる人物は、彼を除いて他にいないだろう。

 イオリ・セイとレイジの2人組に、軍団の魔術師ことカトウも油断ならない相手だが、ユウキ・タツヤに挑むエイキとしては、まだ警戒に値する相手ではないと判断する。

 サザキの件で学んだ事もあり、侮るという事をやめたエイキは、ユウキ・タツヤという強大な敵に対する思いを馳せながら、

 

「ええ、だけどボクはそんな彼に余裕も隙も与えさせません。勝つのはボクですよ」

 

 ……心が躍っていた……

 唯一無二の相対できる強敵と戦えるエイキにとって、これほど待ち望んだ事は無い。

 

「……ふん、そうか。どうやら私の目に狂いは無かったようだな」

 

 それに対し、カンハマはそんなエイキの決心な顔に、ふっ、と笑みを作る。

 が、その直後―――

 

 

 

「―――ふ、ふつくしい……! 流石です、愛しのハマーン様。凛々しい立ち振る舞いに、その恍惚な大人の笑顔……正しく、甘美の果実っ!! 不詳、マシマ・セイジ。このバラに誓い、貴方様の優美たる姿を撮らせて戴きますっ」

「ま、マシュマー!? いつの間に……ッ。お前はミネザキ邸に捨て―――じゃない、待機していたはずでは……!」

 

 そこに突如出現した謎の人物―――マシマ・セイジことマシュマーが、ガガガガガッ、と両手に高機能性3Dカメラを持ちながらマシンガンの如くの連写性能で撮り続けていた。

 ちなみに彼もミネザキ財閥を代表とするSPのはずなんだが……

 

「ふふふっ、貴方だけのSPマシュマーは言ったはずですよ? 例えハマーン様がどこに行かれようと憑いていくと」

 

 何故だろうか……ついていく、という言葉に悪寒が奔るのだが、気のせいかな。

 それにカンハマの様子を伺うに、彼はカンハマが連れてきたという訳でもないらしい。

 しかも貴方だけのSPって……ミネバちゃんの護衛を放棄したよ、この人。

 

 などと何だか蚊帳の外に放り出されたかのような気分になったエイキはそう思いながら眺めていると、

 

「……お前、どうやってここまで来た。確かミネザキ邸から会場まで距離はあったはずだが」

「走ってきました!」

「ま、まさかだとは思うが……車やヘリで、じゃないだろうな?」

「いえいえ! それこそまさかですよハマーン様っ。自分の足で、ですよ!! この忠義のSPマシュマー、ハマーン様のお声があれば百人力というものです!」

「…………」

 

 ミネバちゃん曰く、レクサスでミネザキ邸からここまで辿り着くのに、およそ2時間くらいは掛かったそうだ。

 しかし、その前にマシュマーにはミネザキグループの企業スパイを炙り出せ、と命じたはず……話を詳しく聞いてみると、スパイなどいないらしい。なので到底炙り出すのは不可能どころキチゲーにしてムリゲー。カンハマも前もって部下にこの事を伝えたそうだが……

 

「ええ、まさかクレミ・トモがスパイだったとは思いませんでしたね……他にも数名ほどのスパイが潜んでいましたが、コセイと共に粛清してやりましたよ。ははっ」

「な、んだと……!?」

 

 まるで悪戯に成功した子供みたいな笑顔をするマシュマーの表情と言葉に、カンハマことハマーンは絶句する。

 それに加えてエイキも驚きに瞳を見開くが、

 

(え、ちょっと待って。スパイって何……?)

 

 確かミネザキ財閥にはスパイなど存在しないはずなのに、それが居たってこと?

 しかも彼らを捕えた後、レクサスでさえ2時間は掛かると言う距離をマシュマーさんは件の事も踏まえて2時間で走ってきたっていうの……?

 ……自分の足で。そんなバカな!?

 

「私はあの時(5話)、尊いハマーン様から与えてくださった試練を乗り越え、自らの肉体と精神を強化し、果ての末……マシマ・セイジという騎士道は、阿修羅すら凌駕する存在と成り得たのです。嗚呼、騎士道に誉れ在れ、騎士道に栄光在れ、ハマーン様、万歳……!!」

 

 水に浸かれてもしな垂れず、ちょっとした衝撃でも壊れないコーディングされたバラを掲げながら崇めるマシュマーさん。そのあまりにも異常(アブノーマル)さに、ハマーンとエイキはひどく溜息を吐いた。

 

(ダメだこいつ、速くなんとかしないと……!)

 

 ミネバちゃんは「おお、それは大儀であったな!」と純粋に感心しているのはあながち間違ってはいないけど、何か違う。

 で、でもまあ、結局アレだ。いつも通りってことだね、うん。

 などと、遠い目で彼らの光景をエイキは現実逃避しながら眺めていると、ふと脳裏に過ったある重要な件を思い出す。

 

「……っと、そうだった。そろそろ受付に行かないと」

 

 そう、これから待ち受けているのは現役高校生最強……ユウキ・タツヤ。

 だがエイキは変わらず、自らが掲げた目標であるマイナー無双で向かっていこうと思う。

 好きなガンプラで、色んなガンプラで、エイキは―――ボクは勝ちに行きたい。

 

 エイキは、騒がしくなる一方になるであろうミネバちゃんご一行に別れを告げ、先を急ぎながら会場へと向かう。

 

「タツヤ……君の本当の実力を、図らせてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、しかし……現実はそうはいかなかった。

 

 何故?

 

 理由はボクが知りたいぐらいだよ……

 

 

 

「な、何で……何でなのさ、タツヤ……」

 

 

 

 ―――準々決勝の試合は、ユウキ・タツヤ選手の辞退のため―――

 

 

 

 ―――ムロト・エイキ選手の不戦勝となります……―――

 

 

 

 と、アナウンスから流れるメッセージ。

 それに対し、エイキは呆然と傍観する事ぐらいしか出来なかった。

 手元にあったはずのガンプラも、今は足元に転がっている。

 

「はは、バトル……楽しみにしてたのにな」

 

 あの時に再戦をしようと誓った。なのにだ。

 辞退―――エゴだよ、それは。

 タツヤの事だし、何か事情があるのだろう。

 だが、それでもきっと……タツヤなら絶対に来る。そう信じてた。

 

「あーあ、ボクはいったい……今まで何を……」

 

 長い時間を掛けて待って、待って、待ち続けて……

 ようやく戦えると思った直後にこれだ。

 

「……タツヤ風に言えば、興が覚めた―――かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――PPSE社。プラフスキー粒子やガンプラバトルに関連する技術の発明・独占を有する、世界的に代表とする大企業。バトルフィールドであるGPベース、バトルシステムもまたこの会社で開発しているのもPPSE社だ。

 ガンプラバトル選手権の主催企業でもあるため、ガンプラにおける特許も複数保有しており、世界選手権への選手枠にも特別枠として参加が可能とされている。

 ミネザキ財閥もこれに結託し、主にガンプラバトルを集中的に発展・向上を図っているそうだが……

 

 

 

「―――PXシステム、オーバァードライブ!!」

 

 

 

 準々決勝から数日後、PPSE社の運営するトレーニングルームの高性能なバトルフィールド内で、1機のガンプラが輝かせた彗星の如くの速さで悉く、周囲のガンプラを薙ぎ払い、切り裂き、一寸の間を与えずに蹂躙していった。

 

 

 

 動きは正に―――『紅の彗星』……!!

 

 

 

「はぁッ!!」 

 

 気高き勇猛な一声と共に、一振りの斬撃―――その一撃が……3機ものMSを両断する。

 しかし、それだけでは紅きMSは止まらない。AIによって動かされているMSたちは、彼の紅きMSに向けてミサイルやビームライフル、機関銃(ガトリング)などを用い、躊躇いなく放射していく。

 だが、

 

「そんなものでッ……!!」

 

 全てを、躱す―――

 十に及ぶミサイルの弾を、百に及ぶビームライフルの弾道を、千に及ぶガトリングの弾幕を紅きMSが……

 

「私が後れを取るなど、ありえんのだよ!!」

 

 光灯す紅蓮の輝き、PXシステムによる恩恵でフィールドを奔らせる。

 このガンプラは、ユウキ・タツヤが対ムロト・エイキ用に組み立てたMSで、本来、このMSはゼロシステムが搭載されるはずだったのだが、タツヤはそれを組み替えてPXシステムに変更した。

 

「これが私のガンプラ―――!」

 

 紅きMSは宇宙空間を支配するかのように駆け巡るものの、そこに立ちはだかる大型MS……デストロイガンダムがタツヤのガンプラを蓋うかのように出現する。しかし、タツヤは表情を変えず、そのまま突っ切った。

 

 PXシステムとはパイロットの脳波により、従来の反応性能を映す……ブースト機能の1つである。

 パイロットの身体的操作や未来を予測する点で有名なゼロシステムからPXシステムに取り換えたのは……その反射神経を、更に活かしたこの機能に目を付けたから。

 一見、ゼロシステムとPXシステム……未来を予測するのと、現地点におけるその場凌ぎの反射神経とではどっちが優れているか、記述通りに見ればゼロシステムの方が秀でていると思っても致し方ないだろう。

 しかしだ……未来を予測するというのは、あくまで予測に過ぎない。1つの動きだけで、未来というのは大樹の根の如く分かれていき、さらに深く分かれていく。

 そんな予測を完全に再現させるのは、ニュータイプでも、イノベイターでも、不可能な領域であると思う。

 だが、敢えて可能にさせたいのなら……未来を変えたいのなら、やはりその場凌ぎによる一寸の行動こそが、変わる運命に必要な柔軟(フレキシブル)さであるとユウキ・タツヤは思った。

 

(……だからこその、対エイキ君用のガンプラなのだがな)

 

 デストロイガンダムによるイーゲルシュテルンやスプリットビームガン、スーパースキュラなどの、文字通り〝破壊〟に冠するだけあっての盛大な火力は、他のMSを壊滅し尽す。

 だがしかし、これだけの兵器の嵐を前にしても、タツヤには掠り傷すら負わせれない。

 反射神経と機体反応速度の融合……それこそが、PXシステムのあるべき姿なのだから。

 

「―――アメイジングエピオンの、力だっ!!」

 

 一瞬にして懐に潜り込む紅きMS……アメイジングエピオンが掲げるビームソード……―――その最大出力は、デストロイを一刀両断するのに十分すぎるほどの刀身であった。

 

 そして靡く轟音。バトルシステムからの終了ホイッスルがタツヤの耳元で囁く。

 プラフスキー粒子が次第に消え、散布するのと同時に一息吐いたタツヤは、手すりに掛けていたタオルを顔に覆わせて汗を拭い取っていた。

 

 そこに、タツヤに近づく足音が聞こえたので振り返って見ると、金髪の少年がこちらに歩いてくる姿が、視界に入る。

 

「―――流石だね、タツヤ。たった3分で28機ものMSを撃沈させるとは……しかもその内1機はコズミック・イラにおける最大級の体積を有したMS、デストロイガンダムを1撃だ。素晴らしいよ」

「……アランか」

 

 アラン・アダムス。PPSE所属のワークスチームに務めるタツヤの旧き間柄の友人なのだが……そんな彼が今ここに現れたという事は、ただ友人として会いに来た、というわけでもなさそうだ。

 

「それにPPSEの助力を受けず、自前で製作したガンプラだからね。我が社が誇るワークスチームのテストファイターですらデストロイには苦戦するはずなのだが、君は一瞬で倒したんだ。これで継承式の次期メイジン・カワグチに選ばれるのは君で間違いないと確信したよ」

「ああ、それについては私も実感している。だが、ようやくエイキ君との決着が付けられるというのに……。口惜しさは残るが、私とて人の子だ……」

 

 すまないとばかり、心の底からムロト・エイキに謝罪の念を送るタツヤだが、アランはそれに同情するかのようにタツヤの肩に手を置いた。

 

「仕方ないさ。あの二代目メイジン・カワグチが倒れたのだからね。エイキも事情さえ話せば納得してくれると僕は思うよ」

「……そうだといいがな」

 

 嘗てガンプラ塾で競い合ってきたことのあるアランだから言える言葉なのだろう。

 弱肉強食という熾烈に窮まるあの学び舎の中で、ごく一部の人達はそれを覆すほどの熱き闘志で、ガンプラ塾という地獄を楽観的に乗り越えてきたのだから。

 そこにはアランがいて、カイラがいて、ジュリアン先輩もいて、そしてエイキもいた。

 彼の友人でもあったアランも、彼の性格をよく知っているつもりだと自負している。

 

「それに、彼はあの大会に出場しているのだろう?」

「……ああ」

「なら、いずれ君と彼は……世界大会でぶつかり合う事になるね。確か地区大会も次で準決勝だし、彼ほどの腕前なら余裕で世界に向かってくるはずだ」

 

 ユウキ・タツヤは確かに選手権を辞退し、世界の切符を捨てた。

 しかし、三代目メイジン・カワグチに襲名した暁にはPPSE社の特別枠として世界大会に出場が可能とされている。

 そしてエイキは世界大会に出場したことのある実力者。地区大会など彼にとっては準備運動に過ぎない、とアランは考えているのだろう。

 が、それをタツヤは否定するように首を横に振り、

 

「……いや、それは有り得ないだろう」

「ん、まさかエイキが地区大会で敗れるとでも? 君や彼以外であそこの実力者を考えると軍団の魔術師ぐらいしか思い浮かばないのだが……」

 

 アランの言う軍団の魔術師というのは、おそらくカトウの事を指しているのだろう。

 彼はガンダムDXと12機ものGピットで人海戦術を用いるファイターだ。

 戦いは数であるという精神を掲げながら敵を包囲し、圧倒的な物量で蹂躙するというのが彼の戦闘スタイルで、彼個人としての実力もそう悪くはない。確かに、強敵。

 だがアランの言葉を基に、エイキに対抗出来うる実力者を思い浮かべるとなると、やはりあの2人しかいないとタツヤは思った。

 

「アラン、確かに軍団の魔術師ことカトウさんは手練れの猛者だ。何度か地区大会に出場しているだけあって相当な経験もあるだろう。……だがしかし」

「しかし?」

「……あの2人の少年、まだバトルとしての経験は浅いが、ギャン使いのサザキ君に、模型部の副部長であるゴンダ君を破ったというイオリ君とレイジ君が残っている」

 

 その時、アランはタツヤの話中に出てきた『イオリ』という言葉に眉を潜めた。

 このガンプラ業界において『イオリ』と口にすれば、ガンプラファンやファイターの誰もがその苗字に聞き覚えがあるように反応する。

 アランもその中の1人。それを聞くだけで、そのイオリ・セイという人物がどういう人物なのかを確信してしまう。

 

「イオリ……イオリ・タケシのご子息か」

 

 イオリ・タケシ。第二回ガンプラバトル世界大会選手権の準優勝者。

 使用するガンプラは『RX-78-2ガンダム』。知る人ぞ知らない者はいない、世界的に有名な全ガンダムの始祖で、タツヤはそんなガンプラを何ら改造もせず、あそこまで使いこなせれる彼のファンであり、また才能を開花しつつあるイオリ・セイのファンでもある。

 そのことを知っていたアランは、思わず納得してしまった。

 タツヤの紹介で、彼らの住むイオリ模型店に展示してあった見本製作のガンプラをガラス越しで何度か見たことがある。

 それは今まで自分が見てきたガンプラや、この手で製作したガンプラなど足元に置くほどの完成度で、あれほどの製作技術に加え、レイジという謎の少年がイオリ・セイと共にエイキ君と争う事となれば、タツヤの言う「有り得ない」の言葉は間違いなくそれになるだろう。

 

「ああ。彼らの成長っぷりと、才能……そして底知れぬガンプラ愛は、おそらくカトウさんをも打砕く。だがその前にエイキ君と対峙するはずだ。―――そうなれば……どっちに転んでもおかしくないと僕は考えているよ」

 

 などと、オールバックにしていた前髪をスッと前に戻し、学校で見せるいつもの甘いフェイスなタツヤに変貌する。ガンプラ塾の時からの付き合いだったためか今はもう慣れているものの、その辺りはやはりタツヤだな、とアランと安堵する。

 

「さて、僕はそろそろ行くとするよ」

 

 唐突にそんな言葉を口にしてきたので、少しばかり「む?」とアランは表情を怪訝そうに変える。

 そして、タツヤはそんなアランを背にトレーニングルームから出ようとしたその直後、背後からアランの声がした。

 

「どこに行くつもりなんだ、タツヤ」

「……ちょっと、ね。外せない用事があって僕はそれに応えなくてはならないんだ」

「エイキとの決着か?」

「いや、これから成長する後輩のもとへさ……実を言えば彼らとのバトルはエイキ君と同じくらい楽しみにしていてね。それを果たせれなかった僕のケジメだ。……エイキ君との決着は、まだ先だと僕は思うよ」

 

 タツヤにはエイキとの再戦の他に、あの2人の少年との決着も約束している。

 本来ならば地区大会で果たすべきだと、思っていたのだが……運命とはそう上手くは事を運んでくれないらしい。

 だからタツヤは動く。運命をどうすれば上手く歩めるのか、どうすれば皆が夢中でいられるようなバトルをさせられるのか……正にアメイジングエピオンに搭載されたPXシステムのように、自らのその場での判断が委ねられている。

 そして、イオリ・セイとレイジとの戦いは、今にこそあるのだとタツヤは感じ取った。

 ただそれだけに過ぎない。

 

「……へぇ、それは興味深いな。僕も付いていっても構わないかい?」

「もちろんさ。きっと君も、彼らのバトルする姿に見入るはずだ」

 

 ふっ、と笑みを零すタツヤは、自分の後を追うアランと共に聖鳳学園へと向かう事に決めたのであった。

 





……皆さんに一言。

闇墜ち主人公って、カッコイイよね! (シンェ……





感想・批評・誤字脱字などがありましたら、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話




長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
ハードでスイーツなお仕事に中々合間が取れず、更新が遅れてしまいました。

そして今回はバトルではありません、バトルは次話です。
まぁ、闇墜ちといっても鬱になるだけだしね! (シンェ……




 

 

 

「―――はぁ、ユウキ先輩が……まさかの出場辞退だなんて……」

 

 準々決勝。これが終わったら次に戦うべき相手だったイオリ・セイとレイジのタッグコンビは1人の宿敵とも、目標とも言えるユウキ・タツヤの失踪に、彼らの抱くこの疑念はすぐに途絶えるモノではなかった。

 あれだけ再戦をしようと言葉にしていたユウキ先輩が、突如となって消えたのだから。

 それは無理もないだろう。

 

(……だけど、今はそんな事を気にしてはいられない。次の対戦相手はあのムロト先輩だ)

 

 ユウキ先輩ほど友好的だったとは言えなかったが、面識はある。

 初めて会った時のあの人の雰囲気は、怖ろしくも、冷たくもあったが……

 あの瞳だけは違っていた。

 あれは、ガンプラに対する熱い闘志を抱いた目だったのだ。

 彼の『紅の彗星』ことユウキ先輩と双璧を成す『緋色の流星』と謳われたムロト先輩のそれは、正しくファイターとして、ビルダーとしての格がイオリに伝わっており、試合で見えるとしたら、勝てる保証はほとんど無いと見て間違いないだろう。

 

「……うーん、レイジもあの調子だからなぁー」

 

 自分の相方、レイジと呼ばれる少年の存在はイオリ・セイにとって奇跡と言っても過言ではなかった。

 年齢不明・身元不明、しかも神出鬼没で風来坊。

 もはや謎そのものであるレイジなのだが、とあるきっかけを基にガンプラバトルというのを勧め、タッグを組み始めたセイとレイジの2人は、幾多における強敵たちと戦い、ここまでの試合で勝利を掴み獲ってきた。

 ただそれは、ユウキ・タツヤという宿命の相手が存在していたからである。

 特に、レイジ。サザキやゴンダ先輩を打ち破った事に自信家となっていた彼はユウキ先輩に手も足も出ず、まるで赤子を捻るかのように敗れたのだから、レイジこそが一番彼との再戦を望んでいたはずなのだ。

 それなのに、そのユウキ先輩がいなくなった事で、レイジはきっと……

 

「……」

 

 ―――サザキとの試合で、どうしようもなく絶対的なピンチに現れたレイジ。

 

 ガンプラバトルに対する知識は無いにも拘らず、その類稀なる戦闘技術と順応性はイオリも驚くことばかりだった。

 もしもあのまま現れず、ただ臆するだけの自分のままだったら、きっと今のビルドストライクはサザキの手に渡っていただろう。ゴンダ先輩とのバトルも、ユウキ先輩とのバトルも、彼が現れなければ起こり得なかった。

 そして感じる。

 彼となら、レイジと一緒なら、世界と渡り歩けるかもしれない、と……

 

「レイジ……」

 

 ……レイジがいたからこそ今の僕がいる。

 だけど、それはレイジがいるから、今の僕がいられるのだ。

 このままユウキ先輩のようにいなくなったりでもしたら、そしたら僕はまた逆戻りになってしまう。

 

「……いや、そうじゃない。僕がもっとしっかりするべきなんだ! ここで立ち止ってたって、しょうがない。進むべき道は、進まないと……でないと僕はいつまで経ってもあの頃のままだ」

 

 そう、いつまでもレイジに甘えてばかりではダメなんだ。

 確かに僕は操縦がヘタだから、父さんのようにはなれないけれど、それでも僕はガンプラが好きだ。

 だから、少しずつでもいい。

 強く、なりたいんだ。

 

「……でも、できる事ならレイジと一緒に強くなりたい。次の試合はどうなるかは分からないけれど……レイジ、君はユウキ先輩がいなくとも来るよね、そういうヤツだ」

 

 待ってるよ、という言葉を最後に、イオリ・セイはビルドストライクに続き、組み立てられた1機のガンプラ……ビルドガンダムMk-Ⅱを見据えた。代用品といえども、その性能や出来栄えはイオリ自身も傑作に値するMSだと数えている。

 だがしかし、それでは彼のユウキ先輩と並び立つムロト先輩には勝てない。

 なればこそだ。

 

「……だから僕も強くなる前に、新たにもう1機。ガンプラを作ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ―――!!」

 

 ブッピガンッ! と音を立てながら爆散する倒れた軍事列車のあるフィールド。そこで1人の少年ムロト・エイキが息を荒立てながら、戦闘レベルの高いAIが搭乗するモビルスーツを薙ぎ倒すが如く蹂躙していた。

 

 ―――それは、緋いモビルスーツ。

 

 4基の大型ファンネルを背負い、左腕にシールド。右腕にビームサーベルとバランスの整った上に、寄せ付けぬ分厚い装甲。腰にはビームライフルが提げられている。

 

「足りない!」

 

 修羅と化していくエイキは緋いモビルスーツを駆けて迫り来る敵にサーベルを納め、取り出したビームライフルと大型ファンネルで敵を撃ち払う。

 まるで緋い悪魔とでも思うかのように……

 

「物、足りないっ!」

 

 高い機動力を誇る緋いモビルスーツは敵の攻撃を掠りもしない。そして撃ち抜かれ、次々と撃墜されていく。圧倒的な火力を前に、AIたちは成す術も無く爆風に吹き飛んで藻屑と化する。

 

 

 

 ―――……ボクは、いったい何をやっているんだろうか。

 

 

 

 ああ、確か……大会に出て、色んな人とバトルをするために出場したんだっけ? 世界ともう一度戦ってみたいからだっけ? 成せれなかった世界の頂点に立ちたかったからだっけ?

 

 

 

 ―――否!

 

 

 

 ―――断じて否だ!

 

 

 

 タツヤと本気で、ボクの本気のMSと本気の技術、本気の力を以てして、全身全霊の勝負をしたかっただけなんだ、ボクは。

 

 再戦を望むためにボクは待ち続けてきたんだ。

 

 前世界大会のあの時から、ずっと……

 

 それを、それを……ああ、ああ、嗚呼……

 

 

 

「―――……無様だな、少年。今のキミを見ていると滑稽とさえ思えてくる。ガンプラが泣いているぞ?」

「あ、貴方、は……!」

 

 その声に反応して、振り返ると思わずボクは見開く。

 フィールドの外に立っていた1人のサングラスを掛けた青年。ガンダムに登場するシャア・アズナブルを彷彿させるかのような金色の明るい髪をしたその人は、ボクに向かって話しかけてきた。

 そして同時に見知った人物だと認識する。その人はエイキにとって、最も偉大で、崇拝すべき人。限りなき極致に至ったガンプラ道の頂点。又の名を―――

 

「……ボリス、さんっ?」

 

 ボリス・シャウアー。ガンプラ道において、古今東西……彼に並ぶ者、メイジン・カワグチをおいて他になしと謳われた―――世界最高にして最強の『ガンプラマイスター』。同時にエイキの最初の師匠でもある。

 

「久しいな、我が弟子よ。しかしまぁ、やはりキミはやさぐれてたか。準々決勝で()の紅の彗星と決戦を迎えようとしたが、紅の彗星は不在。そして不戦勝という形で少年は勝ち上がってしまった……キミのその様子を伺うに、随分と酷く荒れているようだな」

「別に、ボクはやさぐれてなんか……」

「なら何故、キミはフィールドでAIなんかと戯れている? しかも、こんなズタズタにするまで蹂躙に破壊とは、店泣かせにも程があるよ。ガンプラ道を極める私からすれば……少年、キミのそれはガンプラを持つに値しない男だ。その器は高が知れるぞ。と、叫ぶだろうな」

 

 それを聞いて、ボクは思わず「うっ」と呻く。

 確かに、フィールドを見れば模擬戦用に用意されていたプラモ店サービスのMS全部が全部、真っ二つだったり、消し飛ばされていたりの幾多における残骸で撒かれていた。

 しかもボリスさんの言う通り、これだけのガンプラをここまで破壊されては、これらを元の姿に直す事は到底不可能である。

 何故なら、それほどまでに戦闘という蹂躙の破壊を繰り返していたのだから。

 それをボクは悪くない、なんて言ったらボクの目はきっと節穴なのだろう。

 だけど、これは仕方ない。仕方なかったんだ。

 タツヤが、あの戦いから降りてしまったのだから。

 

「……」

「……ふむ」

 

 だんまりを決めていたボクの様子に呆れたのか、ボリスさんは溜息を吐く。

 

「やはり少年、キミは戦いたかったんだな、紅の彗星とは……」

「……ッ」

 

 突然の言葉に、ボクは驚きの表情を隠せないでいた。

 そして合っている。ボリスさんの言う通り、ボクは、タツヤと……戦いたかったんだ。

 全身全霊を賭けた、本気という名の遊びを、心から楽しみたかった。

 そのために何年間も我慢してきたし、最高の舞台で戦おうと約束して待っていたボクに、タツヤが突然と消えて舞台から去っていたのを知った時にはショックを受けたよ。

 だけど、それは過ぎた話。ボクは、マイナーな機体を使って世界の頂点に立とうと決めたんだ。

 ならばやり遂げなければならない。

 有名で、強いガンプラじゃなくて、界隈では知られざる機体で、弱い、それでもやり方次第で勝てるんだと、ビルダーやファイターに知ってほしくて、試そうと思ったボクの挑戦。それがまだある。

 

 

 

(でも、それでもボクは……)

 

 

 

「だからとて、ガンプラに自らの憎悪をぶつけるのは些か度が過ぎるな。少年、今のキミはバトルに熱を入れすぎて、まるでガンプラへの熱意が全く伝わらん」

「……っ」

 

 バッサリと言い放つボリスの覇気のある言葉に、ボクは狼狽える。

 

「それではいずれ、その熱意を持ったキミがこのままバトルに燃やせば燃やすほど……キミの好きなガンプラを、キミの好きなガンダムを……穢していってしまうだろう。ああ、そうなったらキミ自身が苦しむ事になるかもしれんな」

「……そんな」

 

 ではどうすればいいと言うんだ。せっかくここまで来たと言うのに、決着を付けられるチャンスだったのに、長年待ったというのに、それを空かされては最早どうしようもないじゃないか。

 やりようが、ないじゃないか……

 

「少年、別にバトルを嫌いになれとは言わない。それに、ガンダムを想うその気持ちは……私も十分に図っているつもりだ。ただパーツを素組みしただけの機体……それもごく少数でしか知られていない機体を使って、今まで多くの幾人と超える強敵たちと戦い、そして勝ってきた事も、私は知っている。とても素晴らしい事だが、今のキミの姿を見れば一目瞭然だ。ただ1つの、ただ1人の宿敵相手にしか目を向けていない。同時にガンプラを見てすらいなくなっている。そんなキミでは……この私どころか、紅の彗星の足元にも及ばんよ。

 

 

 

 ……キミは、ファイターはおろか、ガンダム失格だな」

「……ッッッ!?」

 

 あらゆる点を付いてくるボリスさんは、悉く言葉を口に出していく。

 それに対してボクは何も言えないでいた。返す言葉も無いからだ。

 

(……タツヤ、ボクは)

 

 キミと、キミのガンプラと戦って、ボクは満足したかったんだ。

 

 勝っても良い。負けても良い。

 

 ただ一時の情熱を、ボクは味わいたかった。今まで戦ってきたファイターたちとは似て、似て非ず。ガンプラに対する本気の熱さを、タツヤは持っていて、そんなキミの本気をボクはぶつかりたかった。

 

 ガンプラを愛する者同士、全てを超越した何かとぶつかり合えば、きっと分かり合えるんだと、そんなニュータイプ染みた発想を持つボクは、きっと……

 

 昔に戻りたかったんだと、あの楽しかったガンプラ塾やまだ自分がガンプラに触ったばかりの日々を、もう一度味わいたかったんだと思ってしまったのだろう。

 

 今のバトルでは、物足りないから。

 

 だからボクは……

 

 

 

「……ふざ、けるな」

 

 

 

 ……タツヤとバトルで、―――で勝ちたかった。

 

 何故ならムロト・エイキは、ボクは、彼を嫉妬していたから。

 

 あんなに楽しそうで、嬉しそうに戦っているタツヤが……ボクは気に食わず、苦手だったんだ。

 

 誰をも圧倒できる強さを持ち、それでいてガンプラとバトルを嬉々として遊んでいる。そんな姿が……

 

 羨ましかったんだ。

 

 

 

「ほう……では聞こうか、少年。キミ自身のその想い、ファイターとしての想い、図らせてもらう」

 

 

 

 好きな、―――で。―――が好きだからこそ、バトルも好きになる。―――で勝てば、バトルも―――もより好きになる。

 だから、今までバトルし、学び、研究し、好きな―――と共に、勝利を掴めとボクの中で轟き叫んできた。

 

「ボクは……」

 

 だから―――で勝った時、どれほどの感動と満悦を抱いたのだろうか。きっと、自分でも予想を遥かに上回る喜びがあったのだと、ボクは思う。

 そして敗北すれば次にどこを改善すれば勝てるのか、どうすれば負けなくなるのか、自分の作ったのが最強であると、証明するために……そう考えれば考えるほど奥深く、ワクワク感が募ってくる。

 ―――はそれだけに魅力があった。魅力があったからこそ、ボクは……

 

「―――だよ!」

 

「……聞こえんよ」

 

「―――だよ!!」

 

「聞こえないぞ、少年ッ!!」

 

「ボクは……」

 

 普段のボクとは思えない、今までにこれほどの声を出したことが無い。と、断固出来るほどの声を張り上げた。人気のない店内は響く、店長は突然の熱狂な叫びに思わず見開く。

 

ガンプラ(・・・・)が、バトルが好きだよ!! ガンプラがあるからバトルが出来る。バトルがあるから好きなガンプラが輝く! そして同時にボクはガンダムの全てが好きなんだ、大好きなんだぁ!!」

 

 だがそんなのは最早どうでもいい、このボクの想いを、師匠に伝えなければ、ボリスさんに、世界最高にして最強のガンプラマイスターに届かなければ、ボクはボクでなくなる。

 だから伝えなければ、と口から轟き叫んだ。

 何度でも、何度だって、ボクは……

 

「だいすk―――」

 

 しかし、言葉が遮られた。ボクの口元をボリスさんがオープンフィンガーグローブの手で、蓋い伏せる。

 

「もういい、十分に図らせてもらった……」

「……!」

 

 声音が低く、とても静かな雰囲気が込められた声だった。

 その感じだけでも、ボクは悟り始める。

 

 

 

 ああ、ダメだったのか、と―――

 

 

 

「フッ……」

 

 だが世界最高にして最強のガンプラマイスターは笑う。

 ボクの肩に手を置き、そして……

 

 

 

「……見事だ、少年。流石は私の弟子だ」

「え……?」

 

 

 

 その言葉に一片の曇りが無い、ボリス・シャウアーの一言にボクは驚いた。

 自分の伝えたいというガンプラ……ガンダムに対する気持ちは全てぶつけたはず。それを彼はどう受け取ったのか、ボク自身知るまでもなく、ただ答えを待っていたのだが……

 ボリスは、師は今、なんと言ったのだろうか。

 そんな苦悶な表情をするボクの様子に、ボリスは察し、我が子のような笑みを浮かべて、

 

 

 

「聞こえなかったか? ならばもう一度言おう、ムロト・エイキ。流石は私の弟子だ―――『二代目(・・・)・ガンプラマイスター』として名乗る事を、私が許そう」

 

 

 

 





大人気ない初心者狩りマンことボリスさんの登場です。

正直、ガンプラバトルで誰が最強かと問われた時、作者はこの人を推すでしょう。
あの人のプラモ道は廃人の極みですからね。

ビルドファイターズも面白いですが、何気にガンプラビルダーズの続編とか見てみたいという気持ちもある。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

長らくお待たせいたしました!

今回、前話で述べたようにバトル回となっておりますが、正直な話、この『白いヤツ』で彼らと戦わせてみたかった。悔いはない。


 

 

 

 ―――この戦いは、前代未聞と言っても過言ではない面々だろう。

 

 

 

 誰もが期待した、『紅の彗星』と呼ばれたユウキ・タツヤと『緋色の流星』と称されたムロト・エイキとの決戦。だがそれは、ユウキ・タツヤの辞退によって期待を翻す事になる。

 熱烈なガンプラ、ガンプラバトルのファンである彼らからすれば、その期待はどん底の地に落ちたはずだ。どちらも世界大会出場者にして、誰もが認める最高にして最強のファイターの2人が戦うと、それを見てみたいと口語する者たちが描いた、理想の激戦を期待させておいて、この結果なのだから。

 

 だがそれも覆される事になる。

 

 何故なら、残った『緋色の流星』の前に立ちはだかるのは……

 

 ダークホースの2人組、新進気鋭として幾多の猛者たちから激戦を潜り抜けて見せた新人。

 

 1人はあの有名なイオリ・タケシの息子、イオリ・セイ。

 

 1人は謎に包まれた風来坊、天性の才能に秘めた赤髪の少年、レイジ。

 

 ユウキ・タツヤに代わる2人組の強き少年たちは、今―――

 

 

 

『ただ今より、地区予選準決勝、第一試合を始めます』

 

 

 

 ―――始まった。『緋色の流星』を前に現れるセイとレイジは、自信に満ち溢れた表情でガンプラを設置する。

 

 このガンプラはザフトにおける『セカンドステージシリーズ』と呼ばれた5機の試作型MSの内の1機で、その中でも上半身に下半身、そしてコクピットの3つに分けられた合体・分離を持つ特異過ぎたスタイル『コア・ブロック・システム』と似た構造で、各所に応じた戦闘を行うMSとしての概念を捨てさせた万能機だ。

 これは元々、コズミック・イラにおけるザフト、オーブ、連合の間に敷かれたユニウス条約のMSの保有数の制限を、その規制をスルーするためにという狙いがあり、上半身、下半身、そしてコクピットのそれぞれが分かれているのは、それぞれがMSの1機(・・)としてではなく、航空機や航宙機としての1機(・・)という名目で割り当てられ、条約からの違反を完全に詐欺するような形でスルーさせた、ある意味でズルい機体である。

 これを主人公が使用したというMSだとは思えないぐらいだ。

 

 また、このMSの背部に備えられた換装式バックパック―――『シルエット』と呼ばれたシステムにより、任務や状況に応じたカスタマイズを可能としているのがこのMSのポテンシャルの1つだろう。

 そしてその功績は、ミネルバのタンホイザーを容易く凌いで見せた地球連合軍の新型MA、ザムザザーの単独撃破。加えて水上艦艇に取り付きの空母を2隻、戦闘艦を6隻を撃沈させる戦果を挙げている。

 続けてクレタ沖の戦闘において、アビスの撃破やオーブ艦隊の壊滅など、ミネルバからのデュートリオンビーム送電システムのおかげもあってエネルギー消費にも激しいながら、長時間の戦闘にも対応してみせたこのMSは、後に前大戦で最強と謳われたフリーダムをも、変形と合体、分離の特性を最大限に活かした戦法で落とすことになる。

 

 飛んでいるのなら、自由の天使(フリーダム)だって()としてみせるMS―――それは、

 

 

 

『ZGMF-X56Sインパルスガンダム』

 

 

 

 チェストフライヤー、レッグフライヤー、コアスプレンダーが飛び交い、合体されていく。

 そして最後に射出されるシルエットフライヤーが、合体していくインパルスに接近してフライヤーの取り付けてある謎のシルエットを分離させる。そのシルエットには、アカツキのオオトリに装備された73F式改高エネルギービーム砲を模したかのような両脇の砲口と、デスティニーの両翼、そしてその後部の真ん中にはゲイルストライクのシールドストライカーを参考にしたのか、一振りの対艦刀―――MMI―714アロンダイト・ビームソードが備わっている。

 両腕には、小型のチョバムシールドと強化型ビームライフルといった以前使用されていたビルドストライクの装備が施されており、見た目の色合いや姿形などはそれと相似されているかのように至って変わらずとも、ストライクとインパルスというガンダムの性能の違いだけで、その異様な雰囲気は凄まじい。

 

 

 

『ZGMF-X56SB/STビルドインパルスガンダムステラ』

 

 

 

 インパルスのパイロットであった主人公のシン・アスカと、何かと縁がありそうな恒星(ステラ)の名を持つガンダムが上半身・コアスプレンダー・下半身、そして『ステラシルエット』によって完成され、新たなる星の姿がステージ上に現れる。

 

「行くよ、レイジ。相手はあのムロト先輩だ、世界クラスの実力者だから気を付けて!」

「……へぇ、てことはあのユウキ・タツヤと同じくらい強いって事か? だとしたらおもしれぇな」

 

 世界クラスの実力者だと聞いたレイジは、関心を抱くようにニヤりと笑いを浮かべる。

 数日前、準々決勝を辞退して行方が掴めずにいたはずのユウキ・タツヤが、イオリ・セイとレイジの前に姿を現して、そしてあの時の約束通りに、限界を超えた戦いが繰り広げられていた。

 両者共に本気と本気の……全霊を賭してぶつかりあったあの勝負は、結果としてセイとレイジの完敗であったものの、それでも学ぶべき事が多く、世界の広さを知る。

 そして今日、再び世界を相手に2人は戦いへと赴く。

 

 舞台はホンコンシティ、機動戦士ガンダムZでカミーユとフォウが戦ったあの戦場だ。

 

「……ムロト先輩は、どこに。それに何のガンプラで挑んでいるんだ?」

『―――ボクは、ここだよ』

 

 

 

 

 

「!?」

「なっ」

 

 それは暗殺者(アサシン)。ガンダム界における、皆が思う暗殺のイメージを持ったMSなど、ガンダムシュピーゲルやガンダムデスサイズ、ブリッツガンダムなど……黒く、また光学迷彩などを汎用させた色彩で、しかも陰湿なMSを挙げると思われるが、エイキが使用するこのMSは白い(・・)

 まるで火や水を出すような忍者に向かって「おい、忍べよ」と言うような、そんな言われ文句を出されそうなこのガンプラは、しかして暗殺という名目ではかなりの優秀な性能を持ち合わせる。

 

「……ッ、レイジ! 後ろ!」

「おぉ!」

 

 戦闘が開始した。否、始まっていた。

 ステージにMSを出した以上、その時点で戦いは始まっていたのだ。

 それを重々知っているはずなのに、注意を怠ったとセイは反応していたレーダーの観測を見ながら悔む。

 

 超新奇にして、ビルドストライクの性能を一段階繰り上げたビルドインパルスはレイジの操縦技術による咄嗟の反射が前方へと寄らせ、振り返るものの、ムロト・エイキのMSが見当たらない。

 姿が捉えられない……ハイパージャマー? ミラージュコロイド? いや、そんなはずがない。それならレーダーの反応は起きないはずだ。

 

「くっ、翼がやられてるっ!? レイジ、いったん上空に飛んで!」

「よし、任せろ!」

『―――させるか』

 

 影のように現れる白い物体が、ビルの物陰から出たMSは、たった一足でビルドインパルスの懐へと跳躍し、熱の籠められた一刀の短い刃が差し向けられる。身軽で、素早く、それでいて細いその体格のMSは、ただ一本のナイフだけ(・・・・・・・・)でガンダムへと挑む。

 ただレイジたちもそう簡単にやられるほど、今までの戦いに苦労を入れてきたわけじゃない。

 ビルドインパルスの片腕に持たされた強化型ビームライフルとステラシルエットに搭載された両脇の砲口で、迫り来るMSに熱線を放つ。が、それでも当たらない。

 

「……ッ、あの動き。おいセイ、あのガンプラは何だ! 速過ぎて当たらねェ!」

「あれはっ―――」

 

 

 

 ―――『機動新世紀ガンダムX』史上、最も頭の可笑しい変態(・・)

 

 そして最も軽い(・・)、本体重量が4.5トンという恐るべき軽さを誇るこの機体は、『極限までに軽量化を目指したメカってどんな感じになるんだろう?』という何とも言えない発想から生まれたMSである。

 コンセプトは敵の攻撃を完璧に避けて、敵のコクピットへと狙い定めたまま突き刺すという一撃必殺のMSだ。

 

 この時に使用したパイロットは白厨で有名なあの白い悪魔ならぬ白い死神と呼ばれたデマー・グライフが使用し、本来このMSの色は白だけでなく赤色なども含まれていたそうだが、白厨だけに、白に染められてしまった哀れなMS。

 そして哀れなのはこれだけに非ず、当時このMSに対してエ○ァと相似している事から盗作被害の疑惑を持ち掛けられてしまったという、正に哀れなMSだが……

 

 

 

 

 

 だがしかし、変態である!

 

 

 

 

 

 別の意味でデンドロビウムに劣らぬ男のロマンと戒められたMS、生まれはガンダムX、しかして存在はGガンダムのMF。その名は―――

 

 

 

『NRX―007コルレル』

 

 

 

「コルレル!? 機動新世紀ガンダムXにおいて……最も重量が軽いMSじゃないか!」

 

 加えてマイナー機でも、コルレルはその中でかなりの異常さを見せつけている。

 

『―――流石、タツヤが認めたビルダーだね。その豊富な知識量、そしてレイジという頼もしいパートナー……ここまで上り詰めたのも頷ける。けれど、ボクはまだ君たちとは戦っていない。まだ、君たちの事をよく知らない。だから今ここで、君たち自身のファイターとしての、ビルダーとしての実力……

 

 

 

……図らせてもらうよッ!!』

 

 白い閃光がナイフ1本だけを携え、稲妻が奔るかのように躍り出た。

 その速さは原作においても、まるで出る作品を間違えたんじゃないかというぐらいの軽々さで建造物を渡って駆け巡る。

 

「……ッ、レイジ! バルカンで牽制して動きを封じるんだ!」

「そら、喰らいやがれッ!!」

 

 ビルドインパルスの胸部二門に内蔵されたCIWSを放ち、エイキが操るコルレルに向けて狙い撃つものの、それで簡単に屠れるほど彼は易しいものではない。牽制をするにしても、それをトラウマに持つコルレルがこの戦いで何ら対抗策を講じていないはずが―――

 

『―――当たらなければ、どうということはない!』

 

 そう、当たらなければ……サテライトキャノンも石破天驚拳も、ましてやバルカンも恐れるに足らない。

 そして高濃度の圧縮粒子を全面開放して、3倍以上もの機体スペックを底上げにするトランザムや、質量を持った残像(M.E.P.E)による金属剝離効果もなしに、ただ脚だけで高い機動力を持つコルレルは弾幕に張り巡らす弾丸をナイフで切り結び、弾かせた。

 それも当たる銃弾だけを瞬時に選び、全てを刻んで防ぐと言う絶技だ。

 

(強い……! これが世界クラスの、ムロト先輩の実力っ)

 

 だがセイやレイジたちは驚きはするが、動揺はしなかった。ムロト・エイキは第一回戦にミツギ・ヨハンとの対決で、スローネアインの最大火力であるハイパーメガランチャーを、たった一太刀で斬って見せたという映像を、ラルさんを通して周知済みだったのだから。

 

 そして絶対的な防御力、耐久性、運を味方につけたコカサワ・リクを相手に隙という間を見切り、精密な対応を以て倒し―――

 

 フィールドの善し悪しにも気を配り、あの圧倒する破壊力と奥の手によるサザキ・ススムの猛攻で危機に陥ってもすぐさま逆転の機を見出し、貫き通した起点の良さ―――

 

 機体は全ての試合において、決して同じMSまたはMAに乗ろうとしない変人。

 

 しかしその実力は、彼の『紅の彗星』と並び立つ強さを有した戦士だ。

 

 加えてファイターとしても、ビルダーとしても、セイやレイジたちにとって遥か高みの存在であり、彼からすればセイやレイジへの思いは、それこそ未熟としか思われていないだろう。

 残念ながらそれは事実であり、ナイフ一本を相手に圧されている2人の強さは、彼を相対させて比べて見せても、やはりあらゆる全てがムロト・エイキという少年には程遠く及んでいないのだ。

 

「……ちィッ、あの野郎! また消えやがったぞ!?」

「レイジ、上だッ! 上から来るっ、気を付けて!」

 

 セイの言葉にレイジは反応し、頭部のメインカメラを上空へと向ける。それは―――ホンコンシティの空を軽やかに舞うコルレルの姿。

 

「こ、のォっ!」

 

 ビルドインパルスが持つ強化型ビームライフルを狙い定めようと、レイジは操作する持ち手を上げるが……上げる前にトンッ―――と何か(・・)が軽重の音を立てた。

 ライフルが上がらない。逆に下がっている……否、下げさせられたのだ。

 

 そして銃身に、白い死神(コルレル)が直立している姿がある。

 

『これぞ、ライフル立ち(・・・・・・)。コルレルだからこそ出来るロマンな立ち方だよ!』

「そんな」

「嘘、だろっ?」

 

 思わぬ発言を、セイとレイジは絶望を声にして漏らす。対するムロト・エイキは何やら満足気な表情をしているのだが、それだけで、大きく格差(・・)というものが、圧倒的に開かれていると分かってきた。

 

 

 

 

 

「なんと、まさか機動新世紀ガンダムXの第二十六話、あのシーンを再現させたというのか。いやはや、ムロト・エイキという少年……なかなか侮れない強者というべきかな? 流石は世界大会出場の経験者だけの事はある!」

「……ラルさん」

 

 一方、観客席から彼らの戦いを眺めていたラルさんはムロト・エイキの操縦技術に称賛を送るが、その隣に座る1人の少女―――イオリ・セイの同級生でもあるコウサカ・チナは不安な様子だった。

 それは無理もない。イオリ・セイの丹精に込めたビルドインパルスは、性能からムロト・エイキのコルレルのそれと比べて見れば一目瞭然、イオリ・セイに軍配が挙がる。しかし性能は上でも、ガンプラの操縦技術における力はエイキがその上を征くのだ。

 

「イオリ君、大丈夫かな……」

「ふむ、ムロト・エイキという少年の実力は、彼の『紅の彗星』と謳われたユウキ・タツヤと互角以上の強さを持っていると言われているのはもちろん、世界中の強豪たちを相手に取れるほどの凄腕ファイターだ。あらゆるガンプラを理解し、使いこなして見せる柔軟性は、彼をおいて他に居ないだろうからね」

 

 現にこの試合で、コルレルという今までに彼が使ってこなかったガンプラを用いながらも、その機体を存分に活かしてきている。

 ヒット&アウェイを繰り返し、相手の手癖や特性などを見極めながら受け(・・)つつ、その理を暴いた瞬間が彼の攻め(・・)の体勢が行われる―――それがエイキの戦い方であり、そんな彼の戦法を踏まえれば、確かにコルレルという機体はエイキのそれを最大限に発揮できるのだろう。

 

「ムロト・エイキは、確かに強い」

 

 だからこそ、ラルさんはチナに言わざるを得ない。

 

「それこそ、生半可な気持ちで挑んでいい相手ではない。寧ろ彼の場合、そんな相手には徹底的な手段で叩き潰すだろう、前例がある」

 

 ムロト・エイキは、燃え上がる闘志を剥き出しにしながらも、常に真面目なユウキ・タツヤとは真逆の冷静な振る舞いだが、その本質はとても熱く好戦的。そして、降りかかる戦慄は響き、純粋な戦術を以てセイたちの技術を覆うかのようにして塗り潰そうとしてきているのは、やはり『緋色の流星』という二つ名を貰い受けるのに相応しい。と、言ったところか。

 果たして、そんな彼にセイやレイジが勝てるのかと訊かれたら、勝てる以前に敗北から免れないと断言してしまうだろう。

 

「しかし、セイ君やレイジ君は今や紅の彗星(ユウキ・タツヤ)と刃を交えるまでに、力を付け始めてきている。彼らの成長っぷりを考えれば、あるいは……」

 

 

 

 

 

 そして同時にセイは、目前の敵が放つ感情を、肌にしてビリビリと受け止めていた。

 

(やっぱり、ムロト先輩は強い。そしてユウキ先輩と同じ、ガンプラバトルを楽しんでいて、本気で僕たちを倒しに来ているのかが……分かる)

 

 でも、

 

(それでもレイジと僕で、世界に挑むんだっ。ここでムロト先輩を倒せなければ、とうてい世界なんて行けやしない!)

 

 だから、

 

(負けて、たまるものかッ!)

 

「レイジっ、7番のスロットをっ!」

「……ッ、ああ、分かった!」

「うん、これでいける! ドラグーン・システム!」

 

 ステラシルエットに搭載された二門の砲口が、分離して空を飛び交う。ドラグーンとは、『機動戦士ガンダムSEED』や『DESTINY』において、終盤にてよく使われていた遠隔操作兵器の1つである。

 そしてそれは他作品に登場するファンネルやビットなどと同じ空間認識によるオールレンジ攻撃を主とするが、それにはファンネルやビットのような人間の脳波によって思考制御するのとは違い、ドラグーンというのは、量子通信による大量の情報操作を必要とし、加えて、ドラグーン・システムを活用できるのは『操縦技能が高いパイロットのみ』と言われるほどの制御に難解を示された―――尚且つ、大気圏外(・・・・)専用の兵装だというのに、それを重力下で、何ら問題なく……むしろ速いッ。

 

『……っ。宇宙でないところで、これほどのドラグーンを……! いや、そもそもドラグーンは宇宙でしか使えないはずだけど……ああ、カオスを参考にしたのか』

 

 しかもドラグーンを操っているのはレイジではなく、あの様子だとイオリ・セイが操作しているのだとムロト・エイキは察する。

 そして2人の士気が上がり、セイの雰囲気がレイジに影響され、ニヤりと不敵に笑う彼も覚悟を決し、ビームライフルを捨て、背部の長大な刀身を有するアロンダイトが抜き放たれた。

 ここで、勝負を終わりにしよう―――彼らはそう語らっている。

 

 なればこそ、そんな挑戦者にムロト・エイキは快くして受けて立つ。

 

 

 

 

 

『―――うん。いいね、咬みごたえがありそうだよ……!』

 

 

 

 

 

 エイキはここで初めて、二ィと笑った。

 

 それはもう恍惚に……

 

「「……ッッッ!?」」

 

 ―――なんて凄まじい圧力(プレッシャー)だ。コルレルから放たれる、あまりにも強すぎるそれは、思わずセイはその威圧感に吞まれかけ、レイジは戦慄を覚える。

 そして彼らはラルさんから言われたことを、ふと思い出す。―――ガンプラは所詮遊びだと、だからこそ本気になれるのだと……ラルさんを始め、あのユウキ・タツヤだって呟いていた。

 あの人たちの本気は、限界以上の戦いというモノを心から望んでいる。

 

 そして彼も、エイキも願っているのだ。

 

 約束された激しい戦いを、超越されたガンプラバトルを……!

 

 だからこそセイは真っ先に感知する。

 

「行こう、レイジ!」

「……ッ、そうだよな、セイ。ここで立ち止ってちゃ、アイツ(・・・)に立つ瀬がないぜ」

 

 そう言ってレイジは、ステラシルエットの両翼を大きく広げ、『光』を展開させた。しかし、コルレルから貰った損傷により、片翼だけがその光を出させずにいる。けれど関係ない。失ったのはたかだか片翼(・・)だけだ、もう片方の翼があれば事足りる。

 

「―――セイ、ついてこれるか?」

「もちろん、レイジに後れを取らせないよ!」

「よォしッ、よく言った!!」

 

 比翼は羽搏き、原作において終盤から良くも悪くもあったという、デスティニーガンダムのカッコイイ使い回しポーズ……を構えたレイジは、低空飛行により、宙で弾けるロケットスタートが残像現象(ミラージュコロイド)を散布させ、ビルドインパルスを突撃させた。

 その速度はこれまでに無かったほどのスピードで、箒星の如く複写されていく機体の残像が、流出して放たれる。

 

『面白い……! だけど、嘗めてもらっては困るよ! なんせ、ボクの機体は伊達じゃないんだからッ!!』

「それは、僕たちだって―――ッ!!」

 

 そしてイオリ・セイが操るドラグーンの二機もまた、ビルドインパルスには及ばないが、それでも高速に移動し、コルレルの逃げ道を塞ぐようにして包囲する。

 

「そこッ!」

「落ちろォォォッ!!」

 

 二門のドラグーンからビームが発射される。同時に雄叫びを上げるレイジが続けて、ビルドインパルスのアロンダイトを、コルレルの眼前で振り下ろされた。

 しかし、エイキには想定されていたらしく、僅かに機体を逸らすと、アロンダイトの刀身が宙を斬り、コルレルはその落ちた刀身を足場に、二つのビームをビルドインパルスの頭上に目掛けて跳び、躱す。

 

『気合いが惚けているぞ、イオリ、レイジ、後ろにも目を付けるんだ!』

「……ッ」

 

 跳び越えたコルレルが地上へと降下し、クルりと急旋回してビルドインパルスの方へと向き直ると、再びビームナイフを構え、その隙だらけな背後を狙い穿とうと地を蹴った。だが―――

 

『なッ……!』

 

 ここに来て、エイキは驚愕な表情を初めて浮かべた。

 ビルドインパルスの特性……もとい、インパルスの最大の特徴は、合体と分離である。突き刺そうと伸ばされたコルレルの細身な腕が、ビルドインパルスの上部と下部の間を通過された。 

 

『……ッ、なるほど……さらに出来るようになったな、ガンダム……!』

 

 二人の卓越された回避運動の姿を目にしたエイキは、悔しくも嬉しそうに口角を吊り上げながら笑った。これは、インパルスとフリーダムとのエンジェルダウン作戦の折りに発生させていた戦闘で、合体と分離による特殊回避を行ったシーンが僅かながら異なるものの、その再現に近い動きをしたインパルスならではのスタイルだ。

 

 以前、使用していたストライクベースのビルドストライクとは違い、ビルドインパルスは合体や分離による連結仕様の複雑な構造で出来ているため、その機体の維持に掛かる負担や戦い方などにおいては、ストライクと比して分かるようにとても難しいとされている機体―――アニメや漫画ではシン・アスカはこれを難なく操っていたが、それはシンだからこそ出来た技量であり、これがルナマリア・ホークだったらやっていなかっただろう―――イオリとレイジはそれをやってのけた。

 

 そう、これこそが真の戦い。常に進化し続けてこそガンプラバトルの楽しさは、奥深くなっていくのだ。

 

 だからこそ、エイキは確信する。

 

 タツヤが以前まで好敵手として共に戦ってきたカイラやジュリアン、カイザー、そしてイオリ・タケシなど……多くの強敵たちを認め、高め合ってきたという彼らを差し置き、イオリ・セイとレイジを特に注目していた。

 

 彼らこそが自分に相応しい、宿敵であるというタツヤの想いからでた答えなのだろう。

 

 それは二人を選んだという事にも成り得る。

 

 自分ではない、二人を……

 

 だがそれでも、エイキにとって宿敵はタツヤである事だけは変わらない。

 

 同時に、彼らの実力はもはや世界クラスであり、エイキにとって侮ってはならないであろう好敵手と―――認めていた。

 

『はあァ―――ッ!』

 

 ビルドインパルスが再度分離していた機体を繋げようとコルレルの細身な腕ごと連結するが、コルレル自身の身のこなしにより、捕まることなく引き戻すことに成功する。

 そしてこれはエイキとコルレルの間合いだ、加えてビルドインパルスの連結する際に生じる隙も大きい。

 ビームナイフを逆手に持ち、切っ先を押し込むような勢いで挑みかかる。

 

「させない!」

『くっ!』

 

 そこにセイの操るドラグーンが、ビルドインパルスとコルレルの間に正確な位置を定めて撃ち込んだ。4.5トンという重量しかないコルレルからすれば、それは強力な衝撃となり、着弾されたビームの振動が襲い掛かる。

 当然としてその勢いに巻き込まれたコルレルは吹っ飛ばされるが、これを起点とするエイキは気流に乗り出した。

 

「逃がすかよォ!」

 

 コルレルとは異なり、衝撃波に呑まれること無く耐えきったビルドインパルスはコルレルの方向へ向け、胸部に搭載されたCIWSが撒き散らされる。

 

『ちぃ……!』

 

 だがエイキはこれを見事に反応して見せ、神業の如くレイジの放った銃撃はビームナイフの刃によって斬り伏せられた。

 それでもレイジからすれば、エイキの実力からして、それは分かり切っていた事である。

 なればこそ、レイジは咄嗟にビルドインパルスを分離させ、下半身であるレッグフライヤーを突貫させた。

 セイが根気よく作り上げた最高傑作、それを壊してしまうというレイジの罪悪感が抱かれるが、セイはそれを良しとした表情でレイジを後押しするように叫ぶ。

 

 

 

「レイジ! 行けえぇぇぇッ!!」

「うおおおぉぉぉッ!!」

『こっちも負けて、たまるかあァァァ!!』

 

 

 

 そして、激突する二機のMSが互いに交差した。

 

 上半身しかなくなったビルドインパルスのアロンダイトが、レッグフライヤーを真っ二つにせんと切断したコルレルのビームナイフが、互いの機体に差し穿つようにして、全身全霊を以て解き放つ。

 

 射程は圧倒的にコルレルが不利と見たか、エイキはすぐさまにビルドインパルスのコアスプレンダーのあるコクピットへとビームナイフを投擲し、セイとレイジはそれに気を留めずして、大剣を真っ直ぐに向けて突進してくる。

 

 一分一秒のミスも許さない、一寸のズレも相容れない―――そんな乾坤一擲の、全てを賭けた本気(・・)の力と力が、激突した。

 

 

 

 ―――次の瞬間、ブザーが鳴り響く。

 

 

 

 それは、舞台に降り立った戦士の勝敗を決したという合図の音……

 

 

 

 勝負による結果を示された、判定の音だ。

 

 

 

 だからエイキは、セイやレイジ、ラルさんやその他の観客たちは、その全てが結果を待った。

 

 

 

 そしてこの二組の内、勝利者となったのは……

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 イオリ・セイ、レイジ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ムロト・エイキ。

 

 

 

 




ガンダムファンの皆さん、お久しぶりです。

今回登場したのは、ガンダム界の白厨代表、デマー・グライフが搭乗するコルレル。
ビームナイフ一本でガンダムDXを追い詰めただけに、インパルスを相手にしても引けを取らない戦いを繰り広げれましたが、最初っから上空にいられたらコルレル(エイキ)は何も出来なかったですねw

それと祝200のお気に入り数の突破! ありがとうございます!

また感想・批評・誤字脱字などがありましたら、よろしくお願いします。




目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。