101番目で1番目のイレギュラー (kue)
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101番目で1番目のイレギュラー
「1……2……ちぇ。今日の残金200円か」
大きな公園にある芝生の上で俺――――矢原浩二は寝転がりながら自分の財布の中に入っている小銭の数を数えていたがここ数日の浪費が祟ったのか残金はわずか200円だった。
一月のお小遣いはバイトの給料……でも、給料支給日は明後日……あと2日を200円で過ごせって神様よ。
いくらなんでもそれは鬼畜だぜ。
「ま、俺のせいなんだけどさ」
そう括り、小銭が入っている部分のチャックを閉めて地面に置き、両腕を芝生に降ろした。
大学は夏休みだし、連れの全員が県外からきてるから実家に帰省しているし宿題という宿題も出されていないし、成績も無事に発表されてすべて単位とれてたし。
「バイトは今日から1週間くらい夏季休業に入るし……マジでやることがない」
眼前に広がる青空を飛んでいる鳥のように人間も羽があったら暇な時に世界中を飛び回って、
色んな人と出会えるのに……そんな事よりも金が欲しい! 友達が欲しいいぃぃぃ!
あぁ……何で俺はこんな誰も来ないような大学に入学してしまったんだ……偏差値的には他にも行ける大学はあったのに……なんで他の連中は全員、県外の大学に行ったんだぁぁぁぁぁ!
「…………いや、マジで友達欲しい。でも、ほとんどの奴らはもうグループ化してるしな~。
…………神様よ~。俺の友人をくれ~」
「叶えてやろうか?」
「……おっさん誰だ」
突然、声をかけられたかと思えば俺の視界に手にうちわをもって半被を着た結構ダンディな40くらいのおっさんが立っていて俺を見下ろしていた。
「人の話に入ってくるなよ~」
「てめえ、神様にそんな言い方はねえだろうが……で? 友達が欲しいのか?」
「……ま、まぁ……叶うなら」
「ん、わかった。ほい」
おっさんはそう言うとズボンのポケットから一枚のチケットのようなものを取り出して俺の顔の上で手を離すとヒラヒラとそのチケットが落ちてきて、目隠しのように俺の両目をふさぐ形で落ちてきた。
なんだこれ……チキチキ、第100回自分の願いを叶えちゃWars……なんじゃこりゃ。
目に覆い被さった物を手に取り、よく見てみると黄色い色をしたチケットにそう書かれていた。
「よく聞け小僧。これはな、本来だったらお前みたいな友達も居ねえような奴に渡す代物じゃねえんだが運営の手違いか何かで一枚、余計に余った物だ。それをてめえにくれてやる」
「……遊園地か何かのチケット?」
「ば~ろ。それはな……天界へのチケットじゃ! カモン!」
おっさんがそう叫んだ直後!
「うわっ!」
突然、俺がおっさんからもらっていたチケットから視界を潰すほどの眩い光が発せられ、
あまりの光の強さに俺はもう片方の腕で目を覆い隠した。
「さぁ! てめえの望むもののために! 戦え!」
「……ここどこだ」
眩い輝きが消えたのかを確認するために恐る恐る目を開けていくと俺の眼前に広がっている景色は公園の芝生の上などではなく、大勢の男女が集まった光景だった。
見渡す限り人、人、人……お、俺今まで公園にいたよな?
周りの奴らをよく見てみると全員が俺と同じような黄色いチケットを手に持っており、
その表情は今か今かと何かを待っているものだった。
その時、周囲の奴らが騒がしくなったので俺も立ち上がってみんなが見ている方を見ると前にあるステージのような台に四角い箱を持った女性が数人と何も持っていない眼鏡をかけて青一色で統一された上下の服を着ている女性がいた。
『長らくお待たせしました。これより詳細説明を行います』
直後、周囲の奴らから爆音にも似た歓声が上がった。
『お静かに。ここにいるのは本来は100人ですがこちらの手違いにより101人です。
願いを叶えるこの戦いは予選と本選に分かれており、今から行うのは予選です。
今から必要器具をお配りします』
その言葉とともに四角い箱を持っていた女性たちが動き出して一人ずつ手渡して箱に入っている機械を笑顔とともに一言いいながら手渡していく。
……ちょっと待ってくれ。かなり俺の頭は混乱しておいつけていない状態なんですが。
え? 天界ってマジなの? 願いを叶える戦いってマジなの?
あ、あのファンタジーみたいな展開って現実にありなの?
グルグル同じことを考えていると俺にも機械が手渡された。
『今、お渡しした機械は転送装置でございます。予選第一ステージでは貴方方を我々の力でこの天界の広いある森へと転送いたします。そこで貴方方一人一人が持つ能力が覚醒すれば予選突破です。
ですが予選通過できるのは101人中100人でございます。本来ならば別の予選なのですが今回は一人多いと言う事でこのような予選にさせていただきました。では、みなさん……ご武運を』
女性がそう言った直後に手を上げて指をパチン! と鳴らすと101人全員の足元に光り輝く円が出現し、
そこから放たれる輝きに俺たち全員がつつまれた。
なんでこうも眩しくするんだよ!
あまりの眩しさに腕で目を覆い隠すがすぐに目を刺すほどの眩しさは消えていき、
完全に目に刺激がなくなったのを確認して覆い隠していた腕を退けて目を開けると俺の視界全部に大量の木々がそこらじゅうに立っていた。
「マジでここ天界かよ……ん?」
その時、電子音が響くとともにもらった機械が携帯のバイブのように震えたので機械を見てみると1という数字が表示されていると思いきや結構な速さで数字がたされ始めた。
お、おいおいおい! これってもしかして予選通過していくやつらの人数かよ!
お、俺もどうにかして能力を……ってどうやってそんなもの覚醒させるんだぁぁぁぁぁ!
そんなことを思っている最中にも通過していく人数を表す数字は数を増していく。
「え、えっと……こうか! あちょー!」
適当に握り拳を作って突き出してみたり何もないところで蹴り上げてみたりするが何が起きるわけでもむなしいほどに俺の声がここら一体に響き渡った。
……は、恥ずかしい!
「数字は……あ、58で止まってる……でも、もう半分か……急がな……」
その時、表しがたい気配が俺の後ろから感じて額から変な汗を少し出しつつもゆっくりと振り返ると、
俺の少し後方の場所に白いドレスを着た少女がジーッと俺のことを見ながら立っていた。
その少女は何を言う事もなく風で揺れる白い髪を抑えることもなくただじっと俺を見てくる。
「…………」
……何俺まで黙ってるんだよ! こんなんだからいつも一人なんじゃねえか!
俺がどうにかして言葉を紡ぎだそうとした瞬間!
「っっ! な、なんだ!?」
後ろからグシャッ! という踏みつぶしたような音が聞こえ、振り返ってみると俺の後ろで、
高層ビル並みの背丈をして四足歩行のライオンのような獣が立っていた。
…………うん。ここは天界だぁ~
『ゴアァァァァ!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
獣が叫んだと同時に俺も叫びながら回れ右をしてダッシュして逃げると同時に立ちすくんでいるのか一歩も動いていない少女の手を取ると思いのほか体重が軽く、マンガであるように俺が走っている間、
少女の体が揺れながら空中に浮いていた。
女の子の体重も驚きだけど獣も驚きだあぁぁぁぁぁ!
少女の手を持っている腕を引っ張って姫抱きして今出せる全速力で獣から逃げていく。
逃げているところに洞窟のようなものが見え、そこへ入って息を潜めていると獣はその場で立ち止まってから周囲を見渡すとそのままその場から去っていった。
「ふぅ……危なかった……大丈夫か?」
姫抱きしたままの少女へそう問いかけるが少女の表情は変わることもなかった。
手に持っている機械を見てみると既に数字は先程の58から95にまで膨れ上がっていた。
能力覚醒の手がかりすら分からねえのにこの人数じゃもう終わりだな……まあ、夏休みの暇な時に日常をぶち壊してくれる不思議体験ができたから良しとするか。
「まあ、友達なんて自分で作るものだし……来年入ってくる後輩に友達作」
直後、凄まじい爆音とともに俺の頭上から小さな岩石の破片が飛んできた。
な、なん……………何が起こって
ゆっくりと上を向くとそこには大きな穴が開いており、そこから太陽の光が差し込むと同時に俺たちを視界に入れるさっきの獣が口から牙を見せながら小さく笑っているように見えた。
そしてその獣は腕を大きく上げた。
「うわっ!」
反射的に少女を抱きかかえたままその場から飛び退くと俺がさっきまでいた場所に、
獣の鋭い爪が突き刺さって、地面に穴をあけていた。
……俺、死んだかな。
「…………生きたい?」
その時、初めて少女の声が聞こえ、そちらの方を向くと少女は立って俺にそう問いかけていた。
「……生きたい。でも、術が」
「術ならあるよ」
そう言い、少女が自分の胸の前で祈るように手を重ねて手を離すと、
彼女の胸の中心から青い輝きが放たれ始め、周囲を青く照らし始めた。
な、なんだこれ……。
「これもまた運命…………君が適格者ならば力を……不適格ならば死を……さあ、
101番目にして1番目のイレギュラーさん。その手で運命を」
彼女に言われるがまま、光り輝く一点へと手を伸ばした。
直後、その輝きが少女から抜けるように出てくると俺の右腕に絡みつくようにして場所を移ると、
俺の腕の中へと輝きがもぐりこんでいき、それと同時に右腕から伸びるように光が放たれ、
その輝きは形を変えていく。
「君は運命を手に入れた……さあ、叫ぶんだ」
少女が俺の肩に手を置いて耳の傍でそうつぶやく。
「「
そう呟いた直後、輝きが周囲に散ったかと思えば俺の手に背丈の倍はある刀身が白い一本の刀が現れ、
持ち手を握りしめてその刀を空に向けた瞬間、切っ先から天に向かって白い輝きが放たれた。
『グラアァァァァァァ!』
獣が叫びながら俺に飛びかかってくる。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
叫びながら握りしめている刀を横に大きく振るった瞬間、周囲の地面を抉るほどの衝撃波が放たれ、
迫ってきていた獣を顎で上下に切り分けるだけでなくそのまま突き進んでいき、
向こうの方に見えていた山の頂上を切り裂いた。
上下に切り分けられた獣は地面に着地する前に光の粒子となって消え去った。
「ハァ……ハァ……」
息を切れ切れにしながらも渡された機械を見てみるとちょうど100という数字が示されており、
俺がちょうど100人目なのか数字の横に合格、と表示されていた。
「101番目で1番目のイレギュラーさん。頑張ってね」
その少女の声がしたと同時に俺の足元に光り輝く円が出現し、視界を潰すほどの輝きを放ち、
俺の視界を潰すと一瞬にして俺を最初の地点へと転移させた。
『これで予選通過者が揃いました。では、始めましょうか』
―――――――欲望渦巻く戦いを
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