哂・恋姫✝凡夫 (なんなんな)
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プロローグ


 「――っカぁぁ!!いやー、やっぱアレやな!?アレやわ!!」

「先輩!ちゃんと日本語で喋って下さウェヘヘ」

「だめだわ…こいつらはもうダメだ……」

 

自宅で始めた三次会は何時にも増して盛り上がっていた。

言葉がメチャクチャだが楽しいので問題は無い。

おっぱいが大きくて癖毛で天然な後輩と、スレンダー(…)で黒髪でクールな年下の上司を侍らせ、酒を飲んで馬鹿騒ぎするこのイベントは私が三十路中盤にして手に入れた桃源郷だ。

私は女を愛せるタイプの女だ。

所謂バイだ。

男も愛せるのでレズではない。

ただ、女の子のほうがいい匂いがするし柔らかいので女のほうが好きだ。

 

 こうなるまでにはいろいろあった…

親に怒られるのがイヤで勉強してそこそこの高校に入って惰情で大学進学してコネ入社して。

そこに後輩がきて、何かアドバイスとかしてる内になんとなく恋仲になり、上司が移動してきて「そんなに肩肘張るなって」的な事を言ってる内に酒の勢いでやっちゃったり。

修羅場も酒の魔力で何とかなった。

…こうなるまでになにもなかった…

 

 

 「どうしたんですかぁ?先pウェヘヘ」

 

酔って回らない頭で回想していると、酔うとウェヘヘウェヘヘ言いだす後輩が顔を覗き込んできた。

 

「いや私ったら最強やなと思ってなぁ…あと、酒は凄い。後半凄あ」

 

特製の梅酒を一気に流し込む。

梅の香りとアルコールの刺激が心地良い。

 

「それ薄めて飲むヤツよね?30度くらいなかったっけ?死ぬわよ?死んで下さい(?)」

「いや…もう死んでも悔いなし!」

 

上司の問いかけに後輩のおっぱいを揉みながら答えた。

多分ちゃんと答えられてるはず。

 

「ちょっと!!来年カナダに移住して結婚してくれるって言っ「違いますーーー先輩は私とモンゴルで相撲をとるんですーーー」

 

妙な流れになってきた…

 

「そんな事よりお前らデュエルやろうや!?」

「意味が分からな「カンパーイっ!」

 

私はジョッキを高く掲げた。

上司が何か言ったが、結局二人共グラスを上に。

キンッッ

そして再び一気飲み。

私の意識は吹っ飛んだ。

急性アルコール中毒である。

 

 

 「あらん……?」

「どうした?貂蝉」

「そういえばアタシ今、下着着けてるかしら?」

「着けているだろう!!下着無かったらお前全裸じゃないか!!」

「チッチッチ…リボンが有るから全裸じゃないわ!」

「99%全裸じゃないか!!まったく…今は外史の土台創りの大事な時だ。巫山戯るのはいい加減にしてくれ。」

「ウフフ…仕方無いわねン」

「ッたく……俺は他の要素の確認をしてくるから、お前は人物設定仕上げとけよ」

「バッチリ仕上げとくわ〜」

 

――さっき変な魂が突っ込んだケドそれも"仕上げ"の内よね――




既に同じようなの有るかもしれない。
ても退かない。


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原作開始少し前

第一話をプロローグに変えたいのですが作者は情弱でOTなのでイマイチ操作が理解できてないです

変えられました。


……知らない天井だ……

いや…記憶には有るんだが、自分の思い出じゃないような。

三十路中盤のOLの記憶に後付けで"ここ"での情報を足した感じ。

 

 姓は鑑、名は惺、字は嵬媼、真名は聆。田舎村の名家(つまり大したことない)に生まれ、すくすくと身長六尺程度まで育ち、最低限村のまとめ役が出来る程度の教育(簡単な読み書き)を受け、沙和や真桜に負けないように武芸にはげみ、関節をあり得ない方向に曲げる特技を会得し、……ん?

沙和?真桜??

格上過ぎて武芸関連では思い出せなかったが記憶には凪についてのものもある。それに、さらっと流したが、真名……

 

 これは…恋姫だ!!

恋姫のことは結構好きだ。一刀が出しゃばり過ぎず、かと言って空気でもない絶妙な立ち回りが良い。「女の子は守らなきゃ!」とか言って前に出るんじゃなくて、帰ってきた戦乙女達を癒す妻的な立場が良い。空気が読めるし、会社でああ言う部下がいたら凄く助かるにちがいない。ヒロインが可愛いのは言うまでもない。でも呉が死亡フラグなの辛い。なんで孫呉ってすぐ死んでしまうん?

一刀には蜀ルートでいって欲しい。クソ甘馴れ合い世界ってすてきやん?皮肉とかじゃなくて。あの一刀と桃香ってfateに出たら絶対アヴァロン持ちだな。

 

閑話休題

 

 私は町に売りに行くための竹籠作りをサボって昼寝をしていたようだ。体を起こす。

ゴンッ

天井に頭を打った。何だここは狭過ぎる。未だ馴染まない記憶がここは集会所の床下であると教えてくれた。

 

「おい聆!お前またこんな所で……!」

「聆ちゃんズルいのー!沙和もお昼寝したいのー」

「ちゅーか、ようこんなトコ入っとったな!?」

「ちゃうんや…私ん中の睡魔がいぶし銀の大活躍をな……するんや…」

「気が抜けているから睡魔などに負けるんだ」

「凪ェ、睡魔はな?意識の前に先ず気力を奪って来るんやで。やからしかたなかったんや。私に出来るんはより快適な寝床を探すことだけやったんや」

「うっわ、何時にも増してヒドい言い訳やなー」

「うーん、でもそういうことならしかたないのー」

「良ーんかいな!?」

「沙和も時々購買意欲という名の魔物に負けちゃうのー」

「そうやんな。自分の中の敵と闘うんは盗賊とか殴り倒すんとはまた別の難しさで精神的苦痛が音速や」

「武芸にも心を鎮め欲を抑える効果ぐらい有る!!」

「え!!凪は普段溢れ出す欲求をどうにか抑えとる状態やったんか!!?ウヒョー!!!!」

「凪ちゃんムッツリなのー?」

「なぁなぁ、いっつも真面目な凪の心ではどんな欲が渦巻いとるん?ウチにだけコーッソリ教えてぇなー」

「…………私は今、お前達を殴りたい欲求を抑えているが…、これはなかなか難しいな?」

「凪先輩マジパネエッス!!私一生先輩に付いていきます!!」

「凪ちゃんはすごいのー!!流石村一番の烈士なの!!だから欲求に負けちゃだめだよー!!!」

「な、ほら、後で試作品のお菊ちゃん零号機あげるからおちつきぃな!な?」

 

真 桜 は 殴 ら れ た

 

 

 あれから、サボった分余計に多く竹籠を作らされながらこの状況について考えていた。さっきの会話はわざと自分の色をだした。しかしそれに三人娘の反応は無かった。所謂憑依によって私が存在するなら、性格の変化に戸惑うはずだ。元の性格と同じなのかもしれないが…。それなら元の魂(?)はどこに行ったのか?入れ替わり?そもそも、憑依なのか?胡蝶の夢的な?じゃあ私の三十何年は只の妄想?いや、恋姫だから、管理者の作為でこの世界に喚ばれたんだ!役目を果たせば飲み会の次の日に向こうで目覚めるんだ。そうに違いない。それでいいよね。あ、いや、でもこっちの世界も捨てがたい。…大往生したら向こうで目覚めるんだ!!そうだそれが良いそういう事にしておこう。

 

 ただ…やっぱり、こう…胸の中にモヤモヤと不安が残る。こういう時は酒だ。…しかしながら、こちらでの記憶に有る酒はかなり薄いようだ。黄蓋や厳顔が飲んでるような良い酒はどうか分からんが、手軽に手に入る奴はダメっぽい。蒸留のための器具を真桜に造ってもらおう。今日頼めば明後日にはできるか。今夜呑みたいのにな……。取り敢えずあるもので何とかするか。

 

 思考が一段落し、手元を見ると等身大の裸婦像が出来上がっていた。竹の微妙なカーブで女性特有の柔らかさがよく表現されている。うん。我ながら秀作!

 

私 は 殴 ら れ た

 

 




途中で、間違って投稿してしまったんですが、何か落ちみたいのがついててキリが良かったんで退きません。
主人公と真桜のセリフの書き分けが難しいです。霞姉ぇインしたらどうなってまうんや


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原作開始少し前その2

何かこう…かなり言い訳臭い文章で恥ずい


 「凪ちゃんが居るから大丈夫だとは思うけど、気をつけて行ってくるんだよ」

 

村の皆が作った竹籠を荷車に積み出発の支度をする私達に、私の母が声をかけてきた。ふむ。中々の美人。元の世界の私の母とはエライ違いだ。

 

「はい!しっかりと三人を守れるよう頑張ります」

「凪ェ、気ぃ張り過ぎて倒れんなや?加減が大事やで?あの麻婆はやりすぎやで?」

「聆はまたそう私をからかう…。あと麻婆は関係ない」

「まぁそんな怒りなや。聆は心配して言ってるねんで?凪はすぐ熱くなるからなー。麻婆みたいに」

「聆はいつも一言二言余計なんだ!あと麻婆は関係ない」

「それに沙和達もその辺の盗賊なんかには負けないのー!麻婆みたいに(?)」

「しかも今のウチには螺旋がある!この螺旋は只の螺旋やないで!麻婆を突く螺旋や!(?)」

「お前ら…麻婆の具にしてやろうか!?(?)」

 

沙和と真桜は自慢の武やドリルを使う間もなく沈められた。凪相手だししかたないね。にしても、あのドリル。馬超とかが使ったら地獄だな。袁紹に装備させて浪漫ドリルも良い。

 

「もうすこし気を引き締めろ。最近は妙な賊が増えているんだ」

 

黄巾のことだ。

 

「えー、でも天の使いがどうにかしてくれるんやろ?」

 

最近のことだが、何処かから"流星に乗って降臨する天の御使い"の噂がながれてきた。予想はしてたけど私は御使いじゃないんですね。一刀呉には行かないで欲しい。というか、そもそもここって、真恋姫なのか?アニメとか、未だ発表されてない新シリーズとかかもしれんな。それか、御使いが一刀じゃない誰かとか。うえ…世界の根幹に関わること考えてると気分が悪くなる。今居る世界がタダの妄想じゃないかとか、BaseSonって実は転生者組織なんじゃないかとか、そもそも世界って何だとか。足元が崩れていくような感覚は三十路の心にも結構クる。普通は思春期に通る道なんだろうが、私はその頃レディースの中堅でヤニもハッパもやらず、捕まらず、成績を落とさず、且つ付き合い悪いと思われないよう立ち回るのに腐心していた。なんだ、なんかあったんだ。私の人生。

 

「聆、何ボーっとしとんねん!早よ行くで!」

 

私が呆けている内に準備が終わっていたようで、もう皆出発の体勢になっている。

 

「ん?おぉ、わかった!まァ早くイきすぎるのもどうかとおもうが?(下衆顔)」

「何で聆は後半余計なことを言うんだ?毎回毎回」

 

キャラ立てです。白蓮化現象は嫌です。下ネタ鋼メンタル酒豪キャラに成りたい。

 

 真桜に作ってもらった武器と先日作った濃い酒を持って出発する。私の武器は全長七尺半ほどの、刃渡り四尺弱の細身の大剣だ。柄と刃が半々ぐらいで取り回しが良い。一つの鉄塊から打ち出し、黒い錆止め塗料を塗っただけのシンプルなつくりだ。私の長身とゆらゆらとウェーブする雑に伸ばされた暗い茶髪、そして三十路の濁った瞳と相俟って不気味な強者オーラを出している。オーラだけである。実力は沙和並だ。あ、十分か。あと、三十路の濁った瞳といっても、肉体はちゃんと凪達と同年代のものだ。三十路の体でも良かったかもしれない。年増キャラと仲良くなりやすそうだ。

 

 ガタガタと鳴る荷車の音と三人娘の話声が心地良い。こいつら本当に姦しいな。気を抜くと私が空気になってしまいそうだったので、タイミングを図って下ネタを投下する。気分が良い。体も若いし、若い娘と話してるし若返ったようだ。酒を少し口に含むと、喉に突き刺さって目頭から抜けるような感覚がした。やはり酒はこうでなければ。真桜の発明は素晴らしい。蒸留の基本的な情報をザックリと話しただけで蒸留器具を完成させてしまった。真桜はこれで一儲けしようと言ったが、何とか説得してやめてもらった。ストーリーの改変を恐れたのもあるが、濃い酒が手軽に手に入る世の中になると私がアル中で死んでしまう。それに、珍しい酒をきっかけに酒豪キャラ達と仲良くなりたい。

 

 私は平和になった後の宴会を思い描いて一層上機嫌になった。自然と鼻歌が洩れる。

 

 まあ、それも一刀が呉に行くと実現出来ないが。本当に呉はやめてくれ。

 




主人公の語りばかりで怖い。早く本編にいって乙女たちとニャンニャンしたい。一刀視点とかも入れたりしてみたい。散々ネタにしてますが呉ルートもすきです。祭さん居るし、美羽様の命乞いお漏らしがあるので。


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原作開始

やっと本編に入れる…
と思っていたら違った


 行商の間に自然とそれぞれの役割が決まっていった。凪は護衛、沙和は客引きとサイド商品の服作り、真桜は商談と荷車のメンテなど技術担当である。私はその他色々。商売する場所や宿の手配、ナンパ師の撃退、旅のルート決定などだ。行く予定だった町が賊の襲撃で商売できなくなったりして結構大変だ。私は出来るだけ水場を通れるようにした。現代日本に暮らしていた者としてはやっぱり風呂に入りたいし、風呂でなくてもせめて水浴びはしたい。凪や真桜は最短距離で行きたがったが、「旅の間はよく汗をかくし、何時もより衛生に気をつけるべきで、しかも清潔にしていた方が客がよく来る」という旨の話をしたら納得してくれた。

 

 

 「あー!お兄さんの籠なんだかボロボロなのー。でもちょーどいいコトにわたし達籠を売ってるのー!」

 

どんだけチープな客引きだ、と苦笑いが洩れるが、沙和の人懐っこい笑顔と態度のお陰で殆どの客は足をとめる。どうでもいいけど、沙和の知らない人に対する一人称って「わたし」なんだな。

 

 先程声をかけられた男は今、真桜のマシンガントークをうけている。受け流している。おっぱいばっかり見てる。しかたないね。結局竹籠二つと私作の竹細工一つを買っていった。一つはボロボロの奴の代わり、一つはおっぱい代、竹細工は趣味の品だろうか。私と凪は少し離れた所で二人の商売の様子を見ていた。私達が近くに居ると客が引いて客引きできなくなるからだ。行商二日目で判明したのだが、その時の凪はひどく落ち込んでいた。

 

 目が覚めると日が暮れていた。

どうやらまた寝ていたようだ。…ねぼすけキャラも良いかもしれnいやダメだ風とカブる。

 

「あーあ、サボってた聆ちゃんにはお金あげられないのー」

 

竹籠の売上は村のモノなので、服や竹細工や木彫、真桜の技術系便利屋などが私達の小遣いとなる。

 

「なんでどいやそれ言うんやったら凪も立っとっただけやろ」

「私はお前が寝ている間に、真桜にちょっかいをかけた暴漢を撃退したからな。一緒にするな」

「いや、…くそう。それでも何かあるやろ!?私に金を分けるだけの理由が!何か!!」

「無いな。少なくとも今日は無いな」

 

竹細工などを作ったのは私だが、それは義務みたいなものだし、その材料を採りに森に入る時は凪についてきて貰っている。私だけの手柄ではない。

 

「グギギギギギギ……お願いしますもうお酒が無くなりそうなんです」

「我慢しろ」

「ダメです死んでしまいます」

「まぁまぁ…そうカッカせんで。今日はよぉ儲かったからな、聆が好きな酒飲みにいくとしようや」

「真桜先輩マジパネエッス!!私一生真桜先輩に付いていきます!!!!」

「あれー?聆ちゃんは凪ちゃんに付いていくんじゃなかったのー?」

「凪さんは死んでしまいました」

「勝手に殺すな」

「うっし!じゃあ行くか!聆の分は出さんけど」

「真桜さんは死んでしまいました」

 

 三人が呑んでる横でマジ泣きしたらお金貰えることになった。女の涙は武器だ。そうやって手に入れた酒なんだが…薄い。まさか呑み屋で蒸留始める訳にいかず。私がマジ泣きしたせいでちょっと変な空気になったし。あー、他人の会話がよく聞こえるわー。

知り合いの村が黄色い布を着けた賊に襲われたこと。近所のババァが死んだこと。昼間すごいおっぱいの娘がいて竹籠を二つ買ったこと(こいつ竹細工のことは隠してんだな)。……陳留の刺史の下に北郷とか言う天の御使いが現れたこと。

 一刀さん魏ルートかよ祭さん死んでまうやんけふざけんな。

 

 暫くして本日の宿へ。この頃には空気はなんとか持ち直していた。今日の宿は宿泊と風呂が別料金ではない珍しい宿だ。今まで、風呂無しや、有っても何か地味に高い代金が要求されたりしてなかなか入れなかったが、久々の風呂に入れることになった。

 

 水浴びの時とかに何度か見たが…こいつらキレイな躰してんなー。凪も、キズがアクセントになってて良い。なんでコンプレックスなんだか分からん。誰か趣を解さない愚図に何か言われたんだろうか。沙和と真桜も上気してうっすらと桃色に染まった肌が魅惑的だ。魅惑的だが、私は動じない。それくらいで動じるほどウブじゃない。

 

「聆ちゃんまだ拗ねてるのー?」

「いやー、風呂が気持ち良くて呆けとっただけー」

 

沙和が後ろから抱きついてきた。酔うとボディタッチが多くなるタイプのようだ。柔らかな膨らみがむにむにと背中に押し付けられる。前に廻された腕も柔らかく、しかしながら、引き締まり、且つスベスベの肌という素晴らしいものだ。思春期の男子では色々耐えられんだろうな。恋姫ではこれが標準か恐ろしい。だが!私は動じない。それh(ry だから、即座に答えつつ、後ろにある沙和の頭をなでることが出来た。

 

「村帰ったら大浴場つくろかー」

 

グデーっと湯に沈みながら真桜が言った。おっぱいだけ水面から出てて面白い。

 

「あぁ…それは…良いなぁ」

 

堅物な凪も、この時ばかりはだらしなく全身の力を抜いていた。言葉も間延びしている。つーか、酔った影響でもあるのか。あーそういえば酔った状態で風呂入ると危ないんだよなぁ…………。?!真桜ヤバくね?

 

 

 真桜は生きてた。慌てて私が湯から引き上げたのが良かったのかピンピンしていた。死んでたかもしれないというのに。今は他の二人と同じようにすやすやと静かな寝息をたてている。私は三人娘の寝顔を暫く眺めた後、そっと部屋を出た。

 

 宿の外に出る。夜風が心地良い。空には満天の星空。こっちに来てから何度も見たが、それでも感動する。一刀が現代と違うと評したのも頷ける。あっちではあまり夜空なんて眺めなかったから漠然としかそう思えないが。夜には他にヤるコトが有った(下衆顔)。

 

 戸口の近くの切り株に腰掛けた。考えるのはこれからのこと。魏ルートでは祭さんが死に、何より一刀が消える。自分のコトのについてはあまり心配していない。原作で三人娘は死んでない。おそらく、私を入れて「四人娘」としてあつかわれるだろうから、ドジ踏まない限り死にはしないだろう。

 

 祭さんが死ぬのは戦のゴタゴタの内に何とかするとして、…いや、ただ生き延びさせるだけなのは不味い。魏ルートの最終決戦がもし、祭さんが死んでいたからこその勝利だったら?…捕らえなければならないのか。最終決戦で魏が勝たなければ史実と同じように泥沼化するかもしれん。一刀が居ない場合の蜀は若干下衆くなるし。かと言って"天の知識"で超強化すると、圧倒的過ぎて、最後の曹操と劉備の論争がなくなるかも。あれは曹操が劉備を好敵手と認めないと起こらないイベントに違いない。曹操の考えが変わらなければ私の目指す萌将伝は実現出来まい。あの戦い、戦闘で勝ったのは曹操だが、結局は劉備の理想に歩み寄っている。赤壁で戦が始まればこっそりと動くなり遣いを出すなりして黄蓋の船の帆を潰そう。

 

 一刀は…まず、何で消えるんだ?

 本人と占い師は"史実との差異"を原因としているが、そんなはずは無い。蜀ルートでは曹操が天下を諦めているし、呉ルートに至っては魏が消滅してしまっている。そもそも恋姫では、死ぬはずの人物が生きていたり、存在するはずの人物が居なかったりする。あの占い師管理者と関係あるとかじゃなくて適当いってたんじゃねーの?

 では、真桜に新技術を求めすぎたか?さっきよりは可能性が高いが、一刀が真桜に作らせたのって、煙玉と発煙筒付きの矢くらいだったように思う。鎖外す仕組みに新技術が使われたとも思えない。他の変な発明は主に曹操の仕業か、元からのモノだ。そっちの方が問題あるもの多かったよな。技術関係で消されるなら、ルート関係なく真っ先に真桜が消されるはずだ。

 沙和に作らせた天の国の服も…他ルートでもエプロンドレスとかメイド服とか色々やってるしな…。

 何だ…何が他ルートと違う……。個人イベント、戦闘イベント、そもそもの一刀の立ち位置…何がいけなかった……?

 

「どうした?聆、眠れないのか?」

 

うわ、びっくりした!

凪は戸口の柱に背を預け、私の隣にいた。全然気付かなかった。

 

「…凪は何しに来たん?」

「ふと起きると聆が居なかったからな。探しに来た」

「わざわざ?……そんくらい放っとけばええのに」

「お前の身を案じ守るのが、私の役目であり、……願いだ」

 

バカな…!この私が……!!ときめくなど………!!!

 

「お前…まだ酔っとるやろ?」

「酔っていなければお前を想ってはいけないのか?」

 

葡萄色の瞳が此方を見下ろす。普段は、私のほうがかなり身長高いから見下ろされることなどないのだが。……こんなときだけ良い位置取りやがって。

 

「……絶対酔っとるわ…。凪も…私も………」

 

思わず俯きながら答えた。

 

「私は酔わないように気をつけて呑んだんだがな…。で、結局、聆は何をしていたんだ?」

「ちょっとな…先のことを考えとった」

「そうか…。賊やら天の御使いやら、最近は妙だからな…。聆は視野が広いから…色々と不安も有るのだろうな」

「まあ、ちょっとだけな」

 

私の肩に、凪の手が置かれ、そして、そっと頬を撫でた。顔を上げると、すぐ目の前に凪の瞳の澄んだ光が有った。

 

「私は、もちろん沙和と真桜も、聆の味方だ。絶対安心とは言い切れないのかもしれないが、私たちを頼ってくれ。一人で悩んでいるよりも笑顔で冗談言ってるほうが、聆には似合っている」

「……ッ!!早よ帰って寝ぇ!酔っぱらい!!」

 

三十路のプライドでなんとか凪を押し退ける。惚れたら負けだ。こんな刹那的なことで心動かされてはいけない。

凪はフッと笑いとも溜息ともつかない息を洩らし、宿の中へ消えた。と、思ったら戸口から顔を出した。

 

「聆も出来るだけ早く戻れよ。風邪など引いてほしくないからな」

 

それだけ言うと今度は本当に帰っていった。もういいや。凪ならちゃんとしてくれるだろうし。私が戻った時に起きてたらえっちしよう。

 

 一刀もこんなイケメンぜリフをバシバシきめてくるんだろうか。天の御使いでイケメンだったらマジ完璧だな。そら四十人も嫁にできるわ。天の御使いほど完璧な血統なかなか無いだろう。あの曹操にすら効果を発揮する。影響力は凄い。…天の御使いの影響力か……。思えば、一刀が「天の知識だから聞き入れてくれ」的な発言をしたのは魏ルートだけな気がする。それが消滅の原因か!?他ルートでは、前提に天の御使いがあるとしても、軍師や主としての一刀の言葉に従っていた。だが、魏ルートでは、定軍山と赤壁の二回、渋る曹操を、天の歴史だから、と説得していた。これは大体頭痛のタイミングと………曹操に伝える前から頭痛でぶっ倒れてたじゃねーか畜生!じゃあアレだ!天の知識が直接の行動原因になったから?多分これも魏ルートだけだしもうそれで良いじゃん(錯乱)。あ!じゃあ私が消えちゃうじゃん!?一回まではセーフ?定軍山に夏侯淵が行くべきでないことをやんわりと論理的に証明するか?結構異常な動きしてたはずだし、罠かもしれませんって進言すれば回避できるか?じゃあ、普段から切れ者っぽく立ち振る舞わないといけないのか…。

 

 その後暫く考えて基本方針が決定した。

・下ネタ鋼切れ者不気味酒豪キャラでいく

・定軍山は罠じゃないですか?と言う(無理なら一刀が思い出すのを手助けし、カルマの分担をする)

・連環、苦肉の策について一刀に進言させない(しなくても気付くっぽいので)

・袁術、黄蓋の保護(天の知識関係なくただ好きなだけだから多分セーフ)

・ちんぽ大帝北郷一刀の初めてをいただく(アイツ今はブイブイいわせてるけど初めてのときはびくびくしててかわいかったんだぜ的なことを言いたい)

・頭痛が来ないように祈る

…あー、色々考えて疲れた。新しく絞った酒をグイッと一口呑み、若干どきどきしつつ部屋に戻る。…乙女かよ、私は。

 

 凪はグッスリと眠っていた。ホッとしたような残念なような。私は酒をもう一口呑んで、横になった。

 

 翌朝、私の心はすっかり落ち着いていた。流石おとな。これは決してさみしいことではない。決して。




時系列的に本篇はいったのに、全然一刀に絡めなかった不思議。
凪さん酔ったらマジイケメン。
書いてる内に作者自身も凪に惚れそうになりましたが、「不安も」の予測変換にファンモンが出て笑って、醒めました。
魏ルートマジなんでなん?


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第三章一節

やったッ!!
おてぃんぽに定評のある北郷さんやッ!!!
こ れ で 勝 つ る ! !


 「あれが陳留か…」

「やっと着いたー。凪ちゃーん、もう疲れたのー」

「私だって疲れている。だが、これから籠を売らなければ…」

「アテにしとった沢が二つとも枯れとったのは地獄やった…。聆は大丈夫かー?」

「お酒有るから大丈夫……」

「聆ィ、それ、お酒やない…泥水やァ……」

「聆ちゃんが大変なことになってるの…」

「聆は責任を感じてか、ただでさえ少ない自分の水を私達に分けてくれていたからな……。聆が夜中に仔熊の血を啜っているのを見た時は戦慄した………。まず何か食べに行くか」

「飯なんか後や!!酒が先や!!早よ!早よ酒を出せ!!うおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「ちょ、聆、落ち着きぃや!!酒が出る店に行くから!やから全力で地団駄踏むの止めぇ!!!怖いねん!」

 

 

 「ァーー!酒が体に染み渡るゥ!!こんなうっすい酒に………。悔しい!…でも感じちゃう……!ビクンビクン」

 

凪が適当な店を見つけ、少し早めの昼食を摂っている。私はソッコーで酒を注文した。しょーもない酒なのに凄く旨く感じる。

 

「聆はそのうち酒で何か大きな失敗をしそうで怖い」

 

そう言って、凪は何か赤い物体を口に放り込んだ。

 

「凪はそのうち舌がダメになるやろな」

「そう言う真桜は飯屋で何をしているんだ??」

「全自動籠編み装置の調整」

「食い物扱うトコで絡繰いじる奴がおるかいや!コラ歯車に削りかけるな屑出るやろ」

「あー、聆、そんなコト言うてえぇんかなー?絡繰に一番お世話になっとるのはアンタやで?」

「あん?それは脅しか?そっちがそんな態度に出るんやったらこっちにも考えがあるで?」

「なんや言うてみぃ」

「全力地団駄」

「ゴメンウチが悪かった堪忍してぇや」

「あはは!沙和の周りには問題児ばっかりなのー」

「「「沙和はほっとくと服買いすぎで破滅するな」」」

 

 

 「さて、そろそろ籠売りに行くか」

「もう竹籠売るの、めんどくさーい。真桜ちゃんもめんどいよねぇ」

「そうは言うてもなぁ……全部売れへんかったら、せっかく籠編んでくれた村のみんなに合わせる顔がないやろ?」

「せっかくこんな遠くの街まで来たのだから、みんなで協力してだな……」

「そうだよ。(便乗)」

「うっうー……。わかったよぉ」

「最近は、曹操って有能な人が州牧になったとかで、治安が良ぇから商売しやすいんや。」

「ウチらみたいに色んなトコから色んな人が来とるからな。気張って売り切らんと。」

「……そうだ。人が多い街なら、みんなで手分けして売った方が良くないかな?」

「沙和は偶にえぇこと言うなぁ」

「えー、偶にじゃないよぉ」

「うん。良い案だ」

「それじゃ、四人で別れて一番売った奴が勝ちってことでええか?負けた奴は晩飯、オゴリやで!」

「こら真桜。貴重な小遣いを……」

「わかったの」

「沙和まで……」

「競争でやる気が高まればその分得やん。私ら四人の売り上げとしては、競争した方が大きくなるんやから」

「聆……自分の分の小遣いが無くなる苦しみはお前が一番良く分かっていると思うのだが……。今度は泣いてもダメだぞ?」

「私は負けん。絶対にや!!」

「よっし。三対一で、可決ってことで!凪もそれでええやろ?」

「はぁ……やれやれ。仕方ないな」

「ほな決まり!」

「おーなのっ!」

「ほんだら、夕方までには外の大門の所に集合な?解散」

 

私の言葉を受けて、皆が行動を開始した。やはり、商売については三人娘の内では真桜が一番素早い。自分の分の竹籠と籠編み機を持ってさっさと行ってしまった。

 

 真桜は食品街に行くのだが、これは私が思うに最良の選択だ。「予想外に良い品が有ったから余計に買ってしまった」が起きる確率が最も高いのが食品関係だ。つまり籠の需要が発生しやすい。

 

 次に沙和が籠を持っていった。沙和が作った服は売り切れてしまっていたので、籠だけだ。キョロキョロとしながら歩いているが、そのうち服屋街に落ち着くだろう。沙和は自分で需要を発生させるタイプだ。効率はどうだか知らないが。

 

 凪は未だ動かずに居る。

 

「どないしたん?凪」

「いや、聆はどこに行くのかと思ってな…」

 

凪は皆が行ってない所に行くのか…。

 

「じゃあ私はこっちいくわ」

「…そっちは真桜が行かなかったか?」

「真桜は多分食品が多いトコ行っとるやろーから、私はその奥の、門の所におるわ」

「そうか…。じゃあ私はこっちに……」

 

 

 私は荷車を引いて中央の通りを歩く。私が荷車装備なのは、荷物が一番多いからだ。竹細工、木彫(卑猥なモノ売ってると曹操に首チョンされそうなのでマトモなヤツ)はもちろん、木材調達に山に入った時に見つけた薬草とか色々。血抜き(?)して熟成させた熊肉なども有る。私の戦略は、コンビニとして商売し、籠をレジ袋のように使うこと。通常の売り上げから籠代を引いたものが実質の売り上げとなる。まさか、凪には負けまい。負けたとしても、必殺の言い訳を考えている。門前を選んだ理由は、一刀たちと絡んでおきたいのと、いけ好かない占い師のセリフを潰したいということ。そして、現代のコンビニと同じように、何かのついでに客が店に寄ってくれるのを期待したからだ。

 

 深くフードのようなものを被った奴がいる。アイツか。占い師。私は、最も良い位置を計算して腰を降ろした。私に注意を向けると占い師が目に入らなくなる。

 

 少しでも愛想が良く見えるよう、髪をポニーテールにまとめ、顔に掛かる前髪を横に流し、現代社会で鍛え上げた営業スマイルと営業トークをフルに使う。さぁ、戦いの始まりだ。

………一刀たちが来たらキャラ立てのため通常モードに戻るが。

 

 

    ―――――――――――――――――――――――

 

 「帰ったら今回の視察の件、報告書にまとめて提出するように。……一刀もね」

「え?俺も?」

「こういう意見は質云々よりも、まずは色々な視点が大切なのよ。……分かったわね?」

「……了解」

 

俺が華琳の言葉にそう答えたとき。その声は、唐突に掛けられた。

 

「そこの、若いの…………」

「……誰?」

「こっちや。こっち」

 

声の主は、ゆらゆらとウェーブした長く暗い茶髪の少女だった。低く艶のある声は、初めのモノとは違う気がする。それよりも目を惹いたのは、周りに置かれた品々だ。

 

「あら、珍しいモノを売ってるのね」

「おー。なかなか珍しいモンを揃えとりま…揃えとるで」

 

華琳も興味があるようで、冬虫夏草(?)や薬草を物色している。ただ……それよりも。

 

「おい貴様、……これは何だ?」

「え……仔熊やで?」

「それは分かっている。どういうつもりなんだと訊いている」

「熊肉やで」

「……秋蘭、これは私が悪いのか?」

「安心しろ、姉者。私にもよく分からない」

 

春蘭が指さしたのは、……うん。熊だ。大きさから、仔熊だというのはわかるけど、熊肉、というのは……。腕も脚も頭も毛皮もちゃんと有るし、呼吸は無いが、眠っているようにすら見える。

 

「なんか……頑張っても、仔熊の死体、くらいにしか見えないんだけど…」

「血も内臓も抜いて、熟成もしとるからほぼ熊肉や。美味しいで」

 

少女が事も無げに言うもんだから、何だかこっちがおかしいような気がしてくる。

 

「全身残したまんまにするんは珍しいけど、山間の村やと結構の御馳走やで」

 

あ……、一応珍しいことだったんだな……。良かった。

 

「おお!季衣の土産にいいかもしれんな!……しまった!おい秋蘭!!金が無いぞ」

「服の買いすぎだ、姉者。衝動買いも程々にしろ、ということだろう」

「むぅ〜、しゅーらぁん……」

「あー、俺が出すよ。……すいません、幾らですか?」

「おお!北郷!こういうときだけは役に立つな!!」

 

こういうとき だけ かよ……。否定できない。

 

「お、買うてくれるんか!……こんだけや」

 

そう言って示された値段はラーメン四杯分くらい。あれ?熊って高級食材じゃなかったっけ?秋蘭も不思議に思ったようだ。

 

「こんな値でいいのか……?」

「割と簡単に狩れたし、みんなビビってもて、買うて貰えへんかったから。」

「細かく切っておけば良かっただろう?」

「姉者、細かく切ればそれだけ悪くなるのが早まるんだ」

「……そういうものなのか?」

「そういうものだ」

「ここで捌いたらえぇか?」

「いや、私が担いで帰る」

 

買い物袋を持ちたがる子供の心境と同じなのか、春蘭が熊を担ごうとした。その時。

 

「コレを創ったのはだれかしら?」

 

華琳が置物を指さし、少し険しい声で少女に尋ねた。

 

「え……その辺のんは全部私のんやけど……」

「誰かに師事したことは?」

「ないで?」

「……そうでしょうね。削りや磨きに間違いが目立つわ」

 

そう言って、一つ手に取る。竜が牛に噛み付いているモノだ。北海道土産のアレに雰囲気似てるな……。

 

「例えばコレ。あなた、竜の身体に沿って撫でるように磨いたんでしょうけど、実際は木目にこそ合わせて磨かないといけないの」

「はぁ……すいません」

 

ちょっと落ち込んでるな

 

「ただ、この構図は珍しくて良いわ。竜の荒々しい力強さがよく表現されているもの。……こっちのは……どういう意図で創ったの?」

 

そう言って手に取ったのは、色鮮やかな何かだ。現代アートっぽいな。

 

「……色と形の綺麗さだけ考えて作ったから特に意味はないで」

 

まんま現代アートか。

 

「そう……フフフ……。じゃあ、この置物、全部もらうわ」

「なんやて!?」

「華琳!?」

「華琳様!?」

「あら、何がそんなに不思議なの?これは素晴らしい才能への先行投資よ。本当なら囲い込んでしまいたいのだけれど、それをするとせっかくの感性を腐らせてしまいかねないもの。」

 

華琳は偶に突拍子も無いことをするなぁ。

 

 結局、荷物が多くなり過ぎたので、熊と置物は少女の荷車で城の前まで運んで貰った。立ち上がった少女は俺よりも結構身長が高くてびっくりした。鑑惺という名前らしい。少女は去り際に何度もお辞儀をしていた。

 

 熊を捌くときにまた一悶着あったのもいい思い出だ。

 

    ――――――――――――――――――――――

 

 先行投資だって!曹操って天才過ぎるだろ(笑)占い師も黙らせたし、置物も全部売れたし、まあ、籠は少し余ったが、私のテンションはまさに有頂天(?)だ。待ち合わせ場所で待っていると、わりとすぐに凪と真桜が戻ってきた。かなり遅れて沙和も。しかし、半泣きである。

 

「ちょっと沙和!?どないしたん?」

 

真桜が駆け寄った。どうやら、服に一生懸命になっている内に竹籠を置き引きされたようだ。

 

 賭けはダントツで沙和の負けだが、不憫すぎるのでナシになった。

 

    ――――――――――――――――――――――

 

 「おい貂蝉。サブキャラっつーか、誰?ってかんじの奴に警告を妨害されたんだが。」

「へえ?まあ仕方ないんじゃない?(ふざけて突っ込んだままにしたキャラってバレたらおこられるわよね)」

「信じられん…」

「そもそも、管理者が登場人物に接触するのも野暮って感じだしィ……」

「お前が言うなよ」

「………」

「………」

「………」

「………」

「ぶるぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!」

「ギャアァァァァァァッッ」




あれ…?長い。
このキャラこんな言葉遣いしないだろって思ったら指摘お願いします


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第四章一節

呂布は一騎当千ですが、作者は、弓兵百人の方が恐いです。



 いつか、「ドジを踏まなければ死にはしないだろう」といったな。すまない。アレは嘘だ。戦場恐いです。隣にいた人が静かになったと思ったら死んでるんですもの。

 

 陳留から村へ帰る途中立ち寄った街で、北から黄巾の大部隊の襲撃を受けた。運悪く中央城の無い街だったので、外門が破られる前になんとか防壁を建造し、擬似的な砦とした。戦える野朗衆と一部の女、元々の警備兵による義勇軍を組織し、大梁義勇軍と名が付いたが、なかなか思い通りには動かせない。大規模な組織運営は諦め、多数の班を作り、それを南以外の三方位に振り分けた。凪と私が北で一番の大部隊。沙和が東、真桜が西。私達が十数人の班長を操り、班長がまたその下に指示を出す。大勢を一気にまとめるカリスマが無くても、これならなんとか指示が通った。

 

 仮眠の為に退いたついでに東西の様子を見たが、真桜のドリルにやられた死体はヒドかった。大穴開いて傷口がボロボロなんだもの。

 

 酒の入った瓢箪をグイッと傾ける。飲まなきゃやってられない。ホラーゲームとかスプラッタとか結構慣れているが、ナマの切断の感覚はキツい。敵が南にも周り始めて、北の主力が私になったのもイヤだ。斬り合いは別に良い。そこそこ鍛錬を積んでいる(……)し、前世でも一時期レディースで喧嘩やってたし、何せ私は身体がデカい。身体が大きいということは、つまりリーチが長くて威力も出やすいということだ。相手のガードの上から叩き潰す感覚は思わず笑いだしたくなるものだ。ただ……偶に飛んでくる矢が怖い。凪が南に行ってから、完全に私狙いだ。あー、アイツらうぜぇな弓兵の野朗。アイツら殺すかー。雑魚はどいてくれソイツ殺せない。あぁーーーいい感じに酔っぱらってきたー。

 

「オラオラオラオラおラオらァ!!アハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ」

 

首がトぶ、って言うけど、本当に飛ぶんだな。何だか滑稽だ。デカい身体、デカい武器は良い。雑魚はブンブン振り回すだけで吹っ飛ぶ。これで凪に手も足も出ないんだから信じられん。アイツ速過ぎんだよ。

 

 そうこうしている内に、矢の密度が高くなってきた。弓兵の陣地もソロソロか。その辺に転がっている屍を盾にして一気に突っ込んだ。乱入してしまえばこっちのものだ。敵が勝手に盾になって、矢など何も怖ろしくない。

 

「いいぞ 小娘! 逃げる奴は 黄巾だ!!

 逃げない奴は よく訓練された黄巾だ!!

 ホント 戦争は地獄だぜ!

 フゥハハハーハァー!!!」

 

酔いに任せて暴れまわる。相手が死んでるか死んでないかももはや関係ない。立ち向かってくる奴の代わりに背を向けて逃げ出す奴が増え、叫びよりも悲鳴がよく聞こえる。だらしねぇな。まだ二十人も殺してないぞ?

 

     ――――――――――――――――――――

 

「状況は?」

「賊は北の門を破り街に侵入後、四方に分散し、断続的に攻撃を仕掛けてきています。南は先程の許緒将軍の突撃により敵は敗走、今は東西からの攻めが苛烈になっています。」

「じゃあ楽進さんは西、ボクが東に行こう。秋蘭様は南の監視をお願いします。」  

「了解した。……では季衣、華琳様への早馬も出しておくぞ」

「はい!おねがいします」

「そう言えば、北はどうなっている?」

「はい、北はですn

 オビエロ!スクメ!!タイグンノリテンヲイカセヌママシンデユケ!!

「…………大丈夫そうだな」




聆ちゃんアル中人格破壊BADENDがチラーミィ
そんな主人公 修正してやる!!
街の設定、敵や味方の来る方角とかは捏造です。
情報が見つけられなかったので。
恋姫の戦闘はザックリですね。流石ギャルゲー。

酒の力に頼ったら変なことになった。
吹っ飛ぶって言っても、実際はずっこける程度。
これで敵方に魏延レベルの武将がいたら死んでました。
武器左右に振り回してるだけですもん。


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第四章二節前半

酒は呑んでも飲まれるな。
飲酒戦闘ダメ、絶対。


 「夏侯淵さまー!東側の防壁が破られたのー。向こう側の防壁は、あと一つしかないの!」

 

敵は戦力を東西に絞って今までに無い突撃を見せ始めた。西側の防壁も先程一つ破られ、残り二枚となっている。街側の予想外の奮戦の為に時間を消費し、焦っているようだ。焦っている、と表現すれば、逆にこちらには余裕が有るように聞こえるが、全く無い。現に防壁は破られているし、戦力もガリガリ削られている。許緒・夏侯淵率いる先遣隊が加わったおかげで、指揮官を後方に置いた組織的な戦闘が可能になり、効率的に敵を倒せるようになった。だが、元々の戦力差が大きすぎ、特攻紛いの攻撃を止めることができない。

 

「……あかん。東側の最後の防壁って、材料が足りひんかったからかなり脆いで。すぐ破られてまう!」

「仕方ない。西側は防衛部隊に任せ、残る全員で東の侵入を押しとどめるしかない」

「先陣は私と聆が切ります」

「ん!?凪何言っとん?なんで私?いや!行くけど!!」

「私の火力と聆の迫力を合わせれば、戦線をある程度押し戻せるだろう?」

「いや…ゴメンあれ酔ぅとったんや」

「戦いながら呑んどったんかいな!?」

「ちょっと引いたけどすごかったのにー」

 

引いたのかよ。……ただ、あれは本当に危うかったと思う。陣からの突出、思考力の低下、力任せの戦闘。

 相手が貧しく不健康で技量の低い賊だったから弾き飛ばせたが、正規の兵には通じまい。張飛とか許緒とかその他諸々の物理法則を無視した面々はどうだか知らないが、私の剣戟の威力は物理の範疇を超えない。簡単に、とは行かないだろうが、あれでは受け止められ横から切られてお終い、だ。

 突出も、今回は相手が怯えて逃げ出したから良かったものの、もっと組織戦闘に慣れた相手だったら?むしろ、今回の敵でさえ実は微妙なところだ。「北がダメなら西東南がある」相手だから良かったが、「ここで負けるともう後がない」相手だったなら、逆上して皆で突進して来ていたかもしれない。

 調子に乗って色々口走っていたが、元々怯え竦んでいたのは私の方だった。酒に逃げたのだ。

 

「いや、でも私自身先陣任せてほしいし、自分で言うんもなんやけど、適任やとも思う。凪の動きのクセに一番合わせられるんは私やろうから」

 

人を殺すのにはまだ慣れない。……慣れなければいけない。世の中、考え無しではいけないが、考えすぎても上手くいかないものだ。「歩くように撃て。呼吸するように撃て。欠伸をするように撃て」とはどこの軍人の言葉だったか。ゆくゆくは、陸遜をして「気持ち悪い程訓練されている」と言わしめた黄蓋隊を相手にする予定なのだ。さっきは酔ってチャンスを無駄にしたが、敵が弱い内に前線で殺し合いに慣れなくてはならない。ホント狂った世の中だぜ!!

 

「そうか。聆、背中は任せる」

「楽進、鑑惺、先陣頼んだ。……死ぬなよ」

「「はっ!」」

「秋蘭様、ボクたちも……」

「ああ。……皆、ここが正念場だ。力を尽くし、何としても生き残るぞ!」

「わかったの!」

「おう!死んでたまるかいな!」

「報告です!街の外に大きな砂煙!大部隊の行軍のようです!」

「なんやて!」

「えー……また誰か来たの?」

 

メイン馬鹿キタ!!

 

「敵か!それとも……」

「お味方です!旗印は曹と夏侯!曹操様と、夏侯惇様ですっ!」

 

こwれwwでwww勝wwwwつwwwwwるwwwwww

 

「皆!援軍が到着した!憎き賊共を一気に殲滅するぞ!」

 

    ――――――――――――――――――――――

 

黄巾党を倒して街に入った俺たちを、季衣と秋蘭が迎えた。

 

「二人共無事で何よりだわ。損害は……大きかったようね」

「はっ。しかし彼女らのおかげて、防壁こそ破られましたが、最小限の被害で済みました」

「……彼女らは?」

「私らは義勇軍のモンや。賊の襲撃に抵抗する為に戦力を纏めたんやけど…」

 

そう言った暗い茶髪の娘は、いつかの熊肉の娘だ。

 

「あら……あの時の。武の才も持ち合わせていたのね」

「いやー、あん時はどーも」

 

そうやって軽く会釈した彼女の隣にいたのは……

 

「ヘンな絡繰作ってた籠屋の娘……」

「変な絡繰って何やねん!!スゴイ絡繰の言い間違いやろ!」

「貴女も義勇軍の一員なの?」

「せやでー。そっか……陳留の州牧様やったんやね……」

「あ、お姉さん!おひさー!なの♪」

「于禁、姉者と知り合いなのか?」

「そうなのー。前に服yむぐぐぐーー!!」

「あー、ちょっとな!珍しい巡り合わせも有るものだな!!」

「どうしたんですか急に」

「い、いや、何でまないっ。何だも!」

「噛んでいるぞ、姉者」

「むぐぐぐーむぐぐーー!!」

「……で、その義勇軍が?」

 

いかにも武人らしい娘がそれに答える。

 

「賊の規模に圧倒され、こうして夏侯淵様に助けて頂いた次第……」

「早馬でも出せば良かったんやろけど、そこまで頭も手ぇも廻らんかったんや……」

「そう。確かに詳細な情報が回って来ていればもっとやりやすかったでしょうね」

「反省してるのー」

「面目次第もございません」

「とはいえ、貴女たちは、私の大切な将を助けてくれたわ。ありがとう」

「私にとっても大事な仲間やったしな。当たり前やわ」

「あの、それでですね、華琳様……」

「私たちを、曹操様の部下として取り立てては頂けませんか」

「義勇軍が私の指揮下に入ると言うこと?」

「残存の六割、ですが」

「私らと、その六割の奴らはこの国の行く末に不安を持って、それを変えたいと思っとる。曹操さんも未来を憂ぇとるって聞いたから」

「至らぬ力ではありますが、その大業に、我々も加えてくださいますよう……」

「……そちらの二人は?」

「ウチもええよ。曹操様の噂はよう聞くし……曹操様が大陸を治めたら、今より平和になるっちゅうことやろ?」

「凪ちゃんたちが決めたなら、わたしもそうするのー」

「秋蘭、彼女等の能力は……?」

「は。一晩共に戦っておりましたが、経験を積めば皆一廉の将にはなる器かと」

「華琳様、真桜ちゃんが防壁を造ったり、聆ちゃんを前に敵が逃げ出したり、すごいんですよ!」

「そう……。季衣も真名で呼んでいるようだし……良いでしょう。名は?」

「楽進と申します。真名は凪。……曹操様にこの命、お預け致します」

「李典や。真名の真桜で呼んでくれてもええで。以後よろしゅう」

「于禁なのー。真名は沙和っていうの。よろしくおねがいしますなのー♪」

「改めてやけど、姓は鑑、名は惺、字は嵬媼、真名は聆。色々できるから上手ぉ使ぅてくれや」

「凪、真桜、沙和、聆。そうね……一刀」

「へ?」

 

あ、ちょっと寝てた!……昨日ドキドキしてなかなか寝られなかったからな……

 

「さしあたり、貴女たち四人は、この男に面倒を見させるわ。別段の指示がない場合は彼の指揮に従うように」

「なん……っ!?」

「このお兄ーさん、大丈夫なのー?ちょっとカッコイイけどー……」

「ウチの発明品壊してたし……」

「曹操様の命だ。それに従うまで」

「能ある鷹的な感じで、一定の条件満たしたら化けるんとちゃう?主に夜」

「おいおい、ちょっと待てよ、華琳!あと聆!」

 

いきなり義勇軍と華琳の将の候補を四人任されて……どうすればいいんだ?小さな隊の指揮しかした事ないぞ?あと聆さんは真顔で下ネタはやめてくださいそういう人ってイメージが付いたらどうしてくれるんだ!

 

「あら。何か問題がある?」

「大ありですっ!なんでこんなのに、部下をお付けになるんですか……!」

「あ、桂花。いたんだ」

 

桂花いたんだ。

 

「あんたと違って、私はちゃんと仕事をしているの。華琳様、周囲の警戒と追撃部隊の出撃、完了いたしました。住民への支援物資の配給も、もうすぐ始められるでしょう」

「ご苦労様、桂花。もう休んで良いわよ」

「はい華琳様、ありがとうござっ……て、ちょっと、華琳様!?」

「フフフ……。冗談よ、桂花。で、一刀の件だったっけ?」

「そうです!こんな変態に華琳様の大切な部下を任せるなど……部下が穢されてしまいます」

 

うおーい!桂花さん!?

 

「こらこらこら!初対面の連中に変なこと吹き込むんじゃないっ!」

「…………」

「…………」

「まじかぁ…………」

「たまげたなぁ…………」

「いや、誤解ですよ?桂花ってば冗談ばっかり言っちゃって!」

 

うわなにそのびっくりするほど冷たい目。聆は面白い"モノ"を見る目だが……これはこれでかなり嫌だな。

 

「……聆ちゃんの冗談だと思ってたけど……軍師さんも言ってるしー……困っちゃうのー」

「せやなぁ……凪はどうなん?命令とあらば?」

「……時に過ちを犯しそうな上官を止めるのも、部下としての役目……!」

 

ちょっと、拳をかまえないで……!

 

「凪ェ、逆に考えるんや。戦で敵に捕まってマワされるよりはマシやと考えるんや!」

「どっちの展開も起こさないから!」

「……私は関知しないから、するなら同意の下でおねがいね。四人とも、一刀に無理に迫られたら、痛い目に遭せて構わないわよ」

「華琳までっ!」

「そういうことなら了解ですわ。……じゃ、よろしゅうな、隊長」

「了解しました。隊長」

「はーい。隊長さーん」

「逆に襲うんはアリなんけ?」

 

!?……聆さん!?

 

「構わないわ」

 

!!?……華琳さん!!?

 

「華琳!?」

「皆、義勇軍の件に関して何か異論は有る?」

「特に問題は無いかと」

 

あ、無視した

 

「良かったね!四人とも!」

「季衣ちゃん、これからよろしくなのー♪」

「………」

「? 春蘭、一刀の素質に何か懸念でもある?」

「いえ、これで北郷も少しは華琳様の部下としての自覚を出すのではないかと」

「自覚はあるつもりなんだけどなぁ……」

「北郷程度で自覚があるなんて言うなら、陳留市民なんて全員そうだな」

「えー……」

「それではこの件はこれでいいわね。物資の配給の準備がおわったら、この後の方針を決めることにするわよ。各自、作業に戻りなさい」

 

――かくして、北郷隊は結成された。……先行きが不安過ぎる……。




第四章二節前半の前半は原作第四章一節の終盤という不思議。
主人公が絡んでない話を省略したり、セリフを入れ替えたりして頑張ってるんですが、主人公が空気になったり、完全原作コピぺにならないようにしつつ流れを変えないのは難しいです。
キャラが多いのは魅力であり2次創作での難関。
名言を残したのはパンツじゃないから恥ずかしくないお姉ちゃん。


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第四章二節後半

軍議シーンは飛ばしてしまいたいシーンベストスリー。
飛ばしたらダメなシーンベストスリーでもある。
(作者的に)
この小説(?)書き始めたぐらいからずっと下痢なんですけど、なんでですかね?
昨日は熱も出ました。命を吸い取られている……?


 「さて。これからどうするかだけれど……。新しく参入した聆たちもいることだし、一度状況をまとめましょう。……春蘭」

 

軍議だ……。目立ちすぎず、且つある程度存在感を示さなければならない緊張のときだ。目立ちすぎて、向こうから意見を求められるようになったらいろいろとボロがでそうだ。無論、都入りしたら、書庫を利用して軍略の勉強をするが、どの程度モノになるか分からんからな。あ……このまま陳留に入ったら、竹籠の売り上げ持ち逃げ状態になるな。使者でも出すか。閑話休題。私が目指すのは、いざと言う時違和感なく進言を聴いてもらえる立場。

 また、情報を早い段階で手に入れるため、四人娘の中ではリーダー格でもあるべきだ。コレは割と上手く行っている。華琳もさっき元義勇軍のことを「聆たち」って言ってたし。ファーストコンタクトで出しゃばって良かった。

 

「我々の敵は黄巾党と呼ばれる暴徒の集団だ。細かいことは……秋蘭、任せた」

「投げるの早すぎだろ!春蘭」

「やれやれ……」

 

一刀が突っ込み、秋蘭が呆れたように呟く。これ、春蘭が美人だからバカワイイが、そうじゃなかったらと考えるとゾッとするな。

 

「黄巾党の構成員は若者が中心だ。……今のところ、その主張や目的は分かっていない」

 

ここやな。状況理解できてますよアピール。

 

「首魁の張角についてもあんまり分かっとらんのやろ?」

「……旅芸人の女らしいという点以外はな」

「わからないことだらけやなぁ~」

 

真桜がため息混じりにぼやく。真桜って何で軍議参加してんだ?絶対街の復興作業に参加させた方がいい仕事するだろ?

 

「首魁の情報ではないですが、構成員について。我々が立ち寄った村などで聞いた話では、地元の盗賊団と合流して暴れていたとのことです」

「戦闘も全体的な動きも小慣れとって厄介やったみたいけど、陳留辺りではどないなん?」

 

凪はなかなか良い所に目をつけるな。だから、飽くまでも自然に途中でセリフを奪った。中学時代の女子特有の(最近は男子にも有るらしい)立ち位置争いを思い出す。これを何度かやられた相手はいつの間にか会話から置いてけぼりになるという。凪ェ、軍議の間は我慢してくれ。

 

「同じようなものよ。事態はより悪い段階に移りつつある」

「悪い段階……?というのは……?」

 

春蘭が首を傾げる。……美人だからバカワイイな。

 

「ここの大部隊を見たでしょう?ただバカ騒ぎをしているだけの烏合の衆から、盗賊団やそれなりの指導者と結び付いて組織としてまとまりつつあるのよ」

「……ふむ?」

「癇癪起こして暴れとるだけのガキから、冷静に"戦"をする"兵士"に変わるってことや」

「……うん?」

 

えー、結構良い感じの例えだと思ったんだが。

 

「……春蘭が吠えたぐらいじゃ逃げ出さなくなるってコト」

「ああ、なるほど」

「……春蘭さんホンマにわかっとるんけ?」

「秋蘭や季衣だけでは苦戦するということだろう。それくらいは分かるぞ。バカにするな!」

 

分かってねぇなぁ、分かってねぇよ。でもあんまりひつこくすると斬られそうなので黙っておく。

 

「……ともかく、一筋縄では行かなくなったというコトよ。ここでこちらにも味方が増えたのは幸いだったけれど……これからの案、誰か有る?」

 

ここからは確か一刀の見せ場だったよな?一刀は華琳の心を溶かす重要な人物だ。活躍を奪うわけにはいかない。相槌に撤しよう。

 

 一刀が、沙和の支援物資についての相談から兵糧攻めを発案し、敵の物資集積地の襲撃が決定。まずその位置を探ろうということで多数の偵察隊が出されることとなり、私も偵察に出ることになった。

 

 戦闘準備のときに、余っている一般兵用装備を動きの邪魔にならない程度に一部拝借した。胴は私の利点である身体の柔らかさを殺すので着けない。

 私は元々、恋姫基準の軽装が戦闘衣装だったのだが、前の戦いで、乱戦中の流れ矢(?)の恐ろしさを知り、不安になったのだ。少々窮屈だが、胸当てとか肩当てとか草摺(腰から垂らす板)とか凄い安心感。落ち着いたら真桜に私用の甲冑を作ってもらおう。

 

 腰に瓢箪を下げ、元義勇軍の私の指揮下だった者たちを率いて出発する。瓢箪は、別に戦場で酒が飲みたい訳ではない。(酔わない程度にちょっとは飲みたいが)トレードマークみたいなものだ。私も一小隊の長か……。まぁ、現世では私がいた部署は実質私が廻してたし、軍略の勉強ちゃんとすればなんとかなるはず。

 

 

 収穫無しで陣に戻ってくると、なんか一刀が桂花に土下座してた。予備の糧食を街に全部配ってしまったらしい。春蘭が半日ほどの行軍で到着できる位置に在った敵陣を発見し、糧食がむしろ邪魔になったから許されたが、もっと見つけるのに時間がかかったり距離が遠かったりしたら……。会社で発注の桁数間違えるヤツのヤバイ版みたいな。

 

 

 陣の撤収を行い、敵地に赴く。その間に、頭の良さそうな部下を数人こっそり走らせ、各偵察隊が手に入れた情報をあつめる。凪の隊へ行った奴が面白い情報を持ち帰った。また凪か。悪いな、この出世街道一人用なんだ。凪は一刀にいっぱい可愛がって貰えるから別にいいよな。魏ルートで一番多く一刀とえっちしてるのって実は凪だと思う。他人のエピソードの御色気シーンにも登場する優遇っぷり。有能で、変態じゃない忠犬キャラとか正妻には最高だもんな。

 

 山奥にぽつんと立つ、古い砦が敵の陣だ。

 

「廃棄された砦ね……良い場所を見つけたものだわ」

「敵の本隊は近くに現れた官軍を迎撃しに行っとるらしい。守りは一万居るか居らんかやろ。此処ももうそろそろ捨てるつもりやったみたいや」

 

前半ソース凪隊、後半ソース秋蘭隊。

 

「官軍が来たから砦をすてるってのか?」

「何を言っている北郷!華琳様のご威光に恐れをなしたからに決まっているだろう!」

「……もったいない」

「捨てとるモン拾ただけって感じやろからな。あんまそう思ってないやろな」

「あと一日も遅ければ、ここも蛻の殻だったろう」

「厄介極まりないわね……。それで、こちらの兵は?」

「義勇軍と併せて八千と少々。向こうは荷物の搬出で手一杯でこちらに気付いていません。今が絶好の機会かと」

「華琳様、一つ、ご提案が」

 

桂花って唐突にくるの多いな。

 

「何?」

「戦闘終了時、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせてください」

「え?どういうことですか?桂花様」

「旗よぅけ立て過ぎたらキモならん?見た目」

 

やりすぎたバースデーケーキみたいな。

 

「この砦を墜としたのが、我々だと示す為よ。……聆は自重して」

「誠に申し訳なく思っております今回の件を真摯に受け止め再発防止に取り組み今後の行動によって信頼の回復に努めさせて頂きます本当に申し訳ございませんでした」

「……官軍の狙いもおそらくここ……。ならば、敵を一掃したこの砦に曹旗が翻っていれば……」

「フフフ……。その案、採用しましょう。軍旗を持って帰った隊は、厳罰よ」

 

スルースキル高いな。

 

「なら、誰が一番高いトコに旗を立てられるか、競争やね!」

「こら、真桜。不謹慎だぞ」

「競争好きやなぁ」

「ふん。新入りどもに負けるものか。季衣、お前も負けるんじゃないぞ!」

「はいっ!」

「姉者……大人気ない」

 

大人気のある春蘭って、そのほうがおかしいな。

 

「そうね……。一番高いところに旗を立てられた隊には、何か褒美を考えておきましょう」

「おいおい、華琳まで……」

「ただし、作戦の趣旨は違えないように。いいわね」

「「「「はっ!」」」

「なら、これで軍議は解散とする。先鋒は春蘭に任せるわ。いいわね?」

「はっ!お任せ下さい」

 

 

 私の隊の配置は、元義勇軍の先頭、全体では秋蘭隊に次いで四番目に突入する位置だ。皆戦闘準備に慣れてきたのか、スムーズにすすむ。だいたい同じ頃に布陣を終えた真桜と一緒に一刀のところへ報告に向った。

 一刀と凪が何やら話している。確か沙和についてのことだったか……。

 

「何や何や。何?面白い話しとるん」

「私らにも聴かせてくれや」

「別に。面白い話じゃないよ」

「じゃあいいです!!」

「聆ちゃんたち何楽しそうにお話してるのー?布陣終わったから、沙和も混ぜてほしいのー!」

「おお、エエところに来た!この戦がおわったら、隊長がウチらの歓迎会開いてくれるって!」

「この戦いが終わったらさ……皆で旨い酒、呑みに行こうな。って言うとった」

「やめろぉっ!そのセリフはダメだ!!」

「ホント?やったぁ!」

「言うたよな?凪!」

「…………ああ」

「もう歓迎会を開くのは良いから、さっきの捏造セリフだけは撤回させてくれ!!」

 

馬鹿なやり取りに参加しつつ、心の内で戦いへの緊張感を高めていく。

 

 

 「銅鑼を鳴らせ!閧の声を上げろ!追い剥ぐことしか知らない盗人と、威を借るだけの官軍に、我らの名を知らしめてやるのだ!」

 

号令の時の春蘭は頭良さそうに見えるな、などと、ふと思う。余裕が出てきたのか?

 

「総員、奮闘せよ!突撃ぃぃぃぃっ!」

 

酒を一口だけ呑み込み、戦いの渦へ飛び込んだ。




楽進、李典、于禁伝(PSP版)十四枚のスチルのうち、九枚は凪が居るという。張遼伝八枚のうち、三枚に凪が居るという。どんだけー!


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第四章二節戦闘パート

時間も知識もないけど執筆意欲だけはマックスハート


 攻城戦で攻め手が警戒すべき物は何か。素人でも分かる範囲で言うならば、城壁の上の弓兵及び投石隊と、門を抜けた先の敵の包囲だろう。高い所からの矢や投石はもちろん威力が出る。門を通る為細くなった隊列に対し、敵は中の広場に展開して待ち構えているのだ。サプライズパーティーの開幕クラッカーの殺意版だ。罠は…大規模なものはなかなか無い。

 

 さて、その難関だが……全部夏侯姉妹とその部下がやってくれました。秋蘭が城壁の敵をバシバシ打ち抜き、迎撃が弱まったところで春蘭が門を破りそのままの勢いで包囲に突き刺さった。ビックリ箱の圧倒的暴力版だな。敵陣の綻びを季衣が一気に押し広げ、牽制を終えた秋蘭隊が加わることで守りの面でも安定する。北郷隊の役目は細い通路や未だ城壁に居る敵からの茶々入れを潰し、中央から逃げてきた敵を始末すること。

 

 私の部隊は槍メインで、だいたい十人を一班とし、その内六割が攻撃、残りが防御担当だ。攻撃担当の隙を狙ってくる相手を防御担当が突く。班八つで一課で、小規模な包囲をかけたり、又相手のそれを防いだりする。五課で部隊(鑑惺隊)として戦術を実行する。それぞれの小組織に長を置き、五つのうち一課は私の直属だ。私は八人の班長と、四人の私以外の課長に指示を出せばいい。何百人と一気に操れる者はそう居ないが、何十人扱える奴は結構居る。パニックが伝搬しにくいのも利点だ。ただし一斉行動がしにくい。突撃とか撤退とか。

 

 その鑑惺隊だが、今回の戦では砦東側施設を主に担当する。落ち着いて隊列を組み、突出せず、槍の長さを活かして敵を寄せ付けず戦うように指示を出した。通路内では、あの有名な「ゆっくり迫ってくる棘付きの壁」のように相手を追い詰め、スペースのある所では分裂と集合で敵をかき乱す。二班ほどどっか行っちゃうハプニングも有ったが、私結構凄くないか?……いや、思い上がってはいけない。これは序盤敵である黄巾の支部の予備隊との戦いなのだ。サクッと勝てなければならない。

 

 中央戦線に横撃を掛けるよう本陣から伝令が来た。一気に畳んでしまうつもりなのだろう。班を二列横隊に整列させる。そして班の一時解消を伝え、突撃の号令。変に少人数グループで大隊に突撃させると、敵の中で孤立しかねない。やはり一斉操作は大切だ。

 

 私自身も戦闘を開始する。突き出された槍を横から払い、滑らせるように返す刃で首。横からの敵に体を低く沈ませながら胴。梃子を使い引き戻して後ろに刺しとも切りともつかない独特の斬撃を放ち、武器の向きをそのままに、前から迫る相手に柄を叩きつける。飽くまで流れとロジカルな動きを意識する。突進して突き、払い、突き、突き。私には春蘭や凪のような、一撃で何人も倒す力は無い。丁寧に殺らなければこれから先、生きていけない。反董卓連合辺りでピチュンだ。斬撃の合間に殴りや頭突きも混ぜる。身体を柔らかく使って攻撃に幅を持たせるように。時には攻撃に当たりそうにもなる。ただ避けるのではなく次に繋がるように動く。

 

 体力切れを予感し、徐々に下がって味方の後方に紛れる。あ、やっべー。沙和すらまだ闘ってる。体力面に不安有りか?まあ、いろいろと考えながら戦ってたし、もう決着付くからいいよな?額の汗を拭う時に、肩当てに矢が刺さっているのに気付いた。これ、前の戦闘衣装なら大怪我だった。しかもやられたことに気付いてなかったのがやばい。額にさっきとは別物の汗がうかんだ。

 

 そうこうしている内に、最後まで抵抗していた敵も敗走を始め、決着がついた。負けるとは思ってなかったが、とりあえず一息。瓢箪を傾ける。陳腐だが、一仕事の後の酒は格別だな。後は逃げ損ないの殲滅だけだろう。

 

 

 春蘭の閧の声を以ってこの戦闘は曹操軍の勝利として幕を閉じた。




部下を従える以上、将が馬鹿なわけがない!!
とは言い切れないのが恋姫。
今回ネタが無くて辛い。
こんなん可笑しいだろっていうのが有れば是非アドバイスお願いします。


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第四章三節

気温の変化についていけず体調を崩しました。
皆さんはお元気ですか?
私はやる気だけはフルチャージです。
脳味噌は足りてません。

この小説の感想にBAD評価が付いてるのがあったんですが、なんでなん。


 「はあああああっっ!!」

「なっ!?」

「グアッ!?」

「たわばっ」

 

凪が氣を放出すると、周りの黄巾党員が呻き声をあげ仰け反って倒れた。全方位広範囲攻撃マジパネェ。 私、凪さんが氣のオーラで矢を止めるの見てました。 これで凪の担当場所の殲滅は終了である。かく言う私も持ち場を掃除し終わって報告に行くところだ。凪は近くに居た一刀と何ぞ話して、またすぐ何処かへ行ってしまった。

 

「お疲れやなぁ。隊長」

「一番働いてない俺が、一番疲れてるってのも、申し訳ないんだけどね……」

 

そう言って一刀ははにかむように笑う。何だこいつカワイイな。変なフェロモンでも出てんのか?

 

「まぁそのうち体力も付くんちゃう?……ンク、私もちょっと体力不足な感じしたし。お互い頑張ろぅや」

「何か次元が違いすぎる気がするんだけど……うん、がんばるよ」

「じゃあ……ゴク、帰ったら凪にでも稽古つけてもらえや」

「それも次元が違いすぎるよな……って、さっきから何飲んでるんだ?」

「ん?酒やけど?」

「その瓢箪やけに目立ってたけど、酒持って戦うほど酒好きだったのか」

「ん?隊長も呑みたいんけ?ちょっとだけやで?」

「そんなこと言ってないだろ!……帰りも有るのにもう酔ってるのか」

「まだ酔っとらんで。私が本気で酔ぉたら、とんでもないことになるんやで?」

 

ヱヴァ初号機に似てるらしい。

 

「あ、隊長ー。殲滅完了したのー。あれー?隊長、なんだか疲れてるみたいなの」

「ああ、ちょっとな。沙和は大丈夫か?」

「ん?平気なのー」

 

まじかよ。うわっ…私の体力、低すぎ…?鍛錬しまくらないとな。

 

 やがて、中庭へ砦の各所から糧食が運び込まれる。これから燃やすようだ。

 

「あの食料って、さっきの街に持って行かないのー?」

「あー、よっぽどのことが無いかぎり、盗賊の食料なんか利用出来んやろ。風評的に」

「でも、街の人たち…」

「街に持ってったら"自分達の食料が奪われた"って、その街が狙われ安うなるやろ?……それに、なんかしらんけど、誰か軍の予備の食料全部あの街にブチ込んだみたいやし、大丈夫ちゃうん?」

「うぐっ……」

「あー、それじゃあ安心なのー」

 

春蘭たちの指示で、糧食に火が掛けられる。うわー、お百姓さんに土下座しろ。

 

「あーあ、やっぱり、もったいないの」

「そうだよなぁ……。けど、街に持っていくってわけにもいかないだろ」

「あーあ。あれだけ米とか麦が有れば結構な量の酒作れンのに」

「あれ、聆は、燃やすべきって言ってたよな」

「本音と建前って、大切やで?」

 

 

 「目的は果たした!総員、旗を目立つ所に挿して、即座に帰投せよ!帰投、帰投ーっ!」

 

秋蘭の号令がかかる。ずっとここに居たら、もったいないお化けにBANされちゃうもんな。早く帰って酒飲んで寝よう。いや、その前に真桜に私の戦闘衣装頼んでおこう。

 

「さて。帰投命令も出たし、帰ろうぜ」

「わかったのー」

「あー!やっと落ち着いて呑んで寝て呑んで寝て出来る!」

「あ、隊長!沙和と聆二人も侍らせて何やっとん!三人ともいちゃつくんならもうちょっと雰囲気のええところでやりや!」

「……もぅ。そういうんじゃないんだってば!」

「なんや真桜?構ってもらえんで寂しかったんか?ほら、お母さんにいっぱい甘えてええんやで?」

 

私は芝居掛かった口調と動きで真桜を抱きしめる。おっぱい。

 

「誰がオカンやねん!年齢的におかしいやろ!ほら、旗はその辺に挿して、ウチらも帰るで!」

「おう」

「はーい!」

「うーい」

 

年齢的にはギリギリ有り得るんやで?

 

 

 私は砦の、前まで門が有った所(春蘭がぶっ壊した)に穴を掘り、旗を挿した。

 

 帰り道の途中、簡単な会議が開かれた。帰ったら片付けしてすぐ休めるように、という配慮によるものだ。まず、元義勇軍が、「初めてにしては見事な働き」と評された。次に、黄巾党の重要地を掴む法として、補給の流れを偵察することになった。今回、糧食を潰したため、黄巾党は食料不足に陥るだろう。優先して物資が運び込まれ、早く復旧するところほど敵にとって重要だということになる。暫くは小規模な討伐と情報収集が続くだろう。

 

「ああ、そうだ。例の、旗を一番高いところに飾るという話だけれど……結局だれが一番だったの?」

「あーっ。なんか忘れとると思うたら、それか!」

「私は高いとこと違ぉて目立つとこやと思とったわ」

「はっはっは。初めての戦で、細部まで気が回らなかったか!まだまだ青いなぁ!」

「ちょぉ、芸術点も判断基準に加えん?審査員特別賞でもええで?」

「今更ルール変更しようとするな!」

「るーる?」

「……えっと、ものごとを競うときの決まりのこと」

「で、誰なの?」

「…………」

「なに?まさか、誰も見ていなかったの?」

「いえ。おそらく、季衣でしょう」

「………え?ボクー?」

「どこに挿したんや?」

「ええっと……真ん中の大きい建物の屋根の上だよ」

「正殿の屋根に突き刺さっていた、あれか!?」

「…………どうやって挿したの」

「ボク、木登り得意なんですよ」

「…………」

「…………」

「……ならその勝負は季衣の勝ちでいいわね」

「審査員特別賞は無いん?」

「それも季衣よ」

「残念だったな、聆」

「季衣、何か欲しい物はある?」

「うーん……特に、何もないんですけど……」

「欲のない子ね。何でも良いのよ?」

「何かあるだろう。食べ物とか、服とか……」

「え?どっちも、今のままで十分ですし……」

「とりあえず酒って言ぅとき!私が後で何かおもろいモンと代えたるから!」

「あら、聆はこの曹孟徳よりも、良い物を用意できると言うのね?」

「え何言ってるんですか華琳様私さっきから一度も喋ってませんよそれにそんな事できるのこの大陸には居ないんじゃないでしょうか」

「……まあいいわ。なら、ひとつ借りにしておくわね。何か欲しい物が出来たら、言いなさい」

「はいっ!ありがとうございます!」

 

 発つ軍跡を濁さず。……とはいかず、大量の黄巾の死体と旗立ちすぎでキモイ砦の処理は官軍が行ったらしい。




次はいよいよ拠点フェイズ!
……と行きたいのですが、時間のアレで間にアレをアレします。

凪はチートだとおもいます。
それ以上の将がいっぱいいる恋姫✝無双は病気だとおもいます。


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第四章拠点フェイズ : 聆(3X)の女子力

聆さん本気出す


 ゆるりと酒を口に含み、じわりと躰に染み込ませるように呑み下す。いや、今ちょっと横になってるから下ってはいないな。黄巾討伐から戻った次の日。討伐に出ていた者は休みとなったため、私は完全にオフと決め込んで、こうして日向ぼっこしながら酒を嗜んでいる。四日ほど戦と移動を繰り返していたからな。しかたないね。ただ、そうは言っても文官など普通に働いている人も居るので、人目につかないよう、裏庭だ。空はどこまでも澄んだ青。決して濃くはないが、本当の青とはこれのことなんじゃないだろうか。きれいな色してるだろ。ウソみたいだろ。中国なんだぜ。これで……。

 

 瓢箪の半分ほどを呑み、ちょっとぼんやりし始めた頃。

 

「あー!聆ちゃんこんな所にいたのー!」

「人に甲冑作らせといて自分は昼寝かいなー。えぇ御身分やなぁ」

「ああん?やりたい言うたんはそっちやろが。そんなん言うんやったら曹操さん付きの鎧職人に作ってもらうわい。ただ、報酬で先に渡しとった絡繰夏侯惇将軍は返してもらうで?」

「この李典、職人の誇りにかけて最高の甲冑を作らせてもらいます」

「おお。期待しとるでー」

 

 絡繰夏侯惇将軍は籠売りの旅の途中で見つけたものだ。私が先に見つけなければ原作通りもともと真桜の物になっていただろうが、甲冑作りの報酬として利用させてもらった。ちらつかせたらソッコーで飛びついてきた。

 絡繰が専門の真桜に甲冑作りを頼んだのには訳が有る。まず、技術者として大体何でも熟せる腕があること。次に、私が求めている甲冑が少々特殊なものであること。胴は無いし、少し忍者っぽいが、日本の戦国武将に近い物だ。最後に、後々何か修理をしたり改造を加えたりする時に都合が良いことだ。乙女武将たちと戦って、勝てはしなくてもせめて隙を作って逃げ出せるように何かしら仕込もうと考えている。

 

「おい聆、こんな昼間から酒を呑んで、だらしが無いぞ」

「ああん?回回炒飯?」

「……酔い過ぎてるようだな。目を覚まさせてやろう」

「今日は休みやし二日酔いせぇへん体質やし人目につかんように配慮したから大丈夫やと思ったんや」

「酒を喰らって寝ころがっていること自体が相当なんだが……」

「あーあぁー。凪ェ、そんな怒りっぽかったら隊長もびびらせてまうんちゃぁうん?」

「一人だけさん付けで敬語やったりしてな?」

「沙和、聆、真桜!今日も頑張ろうな!あ、楽進さんおはようございます。今日もよろしくお願いします。……ぷぷっ」

 

真桜が付け加え、沙和が声色を作って再現した。

 

「……お前たち…………」

「あ、楽進先輩チーッス」

「あれ?なんか機嫌悪いっすか?」

「あ、私何か飲み物買って来ましょうか?」

 

ドゴンゥ

 

 

 「で、結局、なんの用で私探しとったん?」

「前に来た時はまだだったんだけどー、最近、陳留に怒濤流が開店したらしいのー!」

 

ドトーr……

 

「兗州初出店やからなー。行ってみよってことで」

「二人がどうしてもと……」

「そんなん言うて凪も行ってみたかったんやろー?」

「そんなことは……」

 

真桜と沙和がまた凪イジリをはじめたが、私はあまりテンションが上がらない。沙和の阿蘇阿蘇でチラッと見たことが有るが、ドトーrは恋姫でもオシャレな茶屋だった。現世で、付き合いで行かなければならない感じになって行ったことがあるが、コーヒー一杯で何百円もとられた。駅前の地下街でラーメン食えるっつーの。場所代込みの値段らしいが、私には居酒屋があるからな。それに今日は酒呑んで寝る気分だ。

 

「私やめとくわぁー。また感想聞かせてな」

「だめなのー!女の子として、こういうオシャレなお店には行っとかないとー!」

「休日は酒呑んで寝るだけとか、完全にオヤジやでぇ」

「……たしかに、どうかと思う」

「おぉ?なんどいやオマエら、私の乙女力にケチ付ける気ィか?あァん?」

「絡み方も完全に酔っ払いのおじさんなの」

「しかもチンピラやな」

「性別が迷子だな……」

「は?おっぱいデカいから何の問題もないし」

「体も大きいから相対的には普通なのー」

「沙和ちょっとこっち来ぃ」

「え、イタいのはやなの」

「凪とちゃうんやから、大丈夫や。ちょっと私の乙女力を魅せたるだけや」

「おい、聆……」

 

凪がなんとも言えない表情をする中、沙和が戸惑った様子を見せつつも近寄ってきた。ある程度近づいたところで……一気に抱き寄せる。

 

「きゃっ!?ちょっと、聆tyんむ!……!?」

 

素早く、且つ優しく唇を奪う。柔らかく艶の有る良い唇だ。普段賑やかな口も塞いでしまえばかわいいものだ。腰に左腕を廻し、右腕で肩から頭にかけて支える。否、捕らえる。押し返そうと力を入れても、無駄だ。

 

「ン!……んぅ…ンぁ」

 

沙和の躰がぴくりとはねる。少しづつ覆い被さるようにし、逆に、沙和の躰は仰け反るような型にする。舌を滑り込ませ、全身の力の入り方から、気持ちいいトコロを一秒でさがす。あまり舐め回されても気持ち悪いからな。

 

「……っ…!!」

 

どうやら沙和は上顎の裏が好きなようだ。抵抗が無くなってきた。舌先で撫でるたび、背中の筋が収縮し、私の胸に置かれた手がきゅっと握られる。しつこくならないように気を付けつつ、重点的に責めてやる。時折隙間を開けて呼吸を促して、自然に私の吐息を吸わせた。多分にアルコールが含まれ、弱い奴ならこれだけで酔ってしまう。そのうち沙和の躰から"反応"以外の力が抜けて、立っていられなくなった。ゆっくりと寝かせ、唇を離す。頬を染め、蕩けた瞳で私を見つめる。最高に愛おしい表情だ。だか放置。いつもならこのままえっちパターンだが放置。後二人、私の女子力を示さなければならない奴がいる。

 

「凪ェ、真桜ェ……ほら、おいで……」

 

最高の微笑みで。

唖然としていた二人がビクンと跳ね、逃げ出した。

 

「今 愛が全てを超えていきます!!」

 

私も走り出す。スピードスケートのフォームで。

 

「ちょ、凪!アレ、氣ぃでなんとかして!」

「ダメだ!精神が乱れて上手くいかない!」

「許そう。凡庸なる者達よ……。全てをッ……!!」

「真桜の螺旋でなんとかならないのか!?」

「それで仕留められんかったらウチがヤられてまうやろ!」

「ボクと契約してオトナになってよ!」

「凪!!落ち着いて氣ぃ撃って!!」

「真桜!!勇気を出して突撃するんだ!!」

 

「マテマテマテマテまテマてェ!!アハハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ」




第一回拠点フェイズがいきなりキスイベント。
書き始めたときは一刀と鍛練する話になる予定でした。
なんでなん?


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第四章拠点フェイズ :【北郷隊伝】始動!北郷警備隊 前半

むずい!
恋姫って元がかなり密度高いので、
オリキャラの入る隙があまり無いですね。


 「さて……、と」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「・ー・・・ ・ーー・ ー・・・ ・・ーー・ ・ー」

 

私と三人娘、北郷隊の部隊長一同は玉座の間に集められた。

 

「………………さて」

 

机を挟んで正面に立つのはおちんぽ将軍北郷一刀。

 

「隊長、何緊張しとるん?さっきから『さて』しかゆうてへんがな」

「がっちがちやなぁ」

「いやあ…、人の前に立つのって緊張するなあ。俺は基本的に恥ずかしがり屋の小心者だから、こういうのに慣れなくてな」

 

カリスマ無双の華琳に素でタメ口の猛者が何を言っているんだ。私でも初見は敬語になりかけたのに。

 

「あははっ。そーいうコトを自分で言っちゃうトコが隊長らしいねー」

「うふふ……お客さん、こういうお店は初めて?」

「その台詞にはかなりひっかかるところが有るが、まあ、そういうことだ。はっはっはー」

「はっはっはー」

「あっはっはー」

「アハハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ」

「……はぁ……、しっかりしてください、隊長」

 

本当に良いのか凪。一刀がしっかりしたらお前一瞬で惚れてまうで?

 

「一刀様は我らの隊長なのですから、もっと堂々としていればよいのです」

「はい…………」

 

一刀が、正に「しょんぼり」となる。ここまでキレイな落ち込みもなかなか無いな。

 

「やーん、そんなに落ち込まなくてもいいよー」

「せやせや。凪は基本的にゆーことがキッツイねん」

「凪はキツキツなんや」

「ちょ、聆やめぃ」

「…………」

 

これは……殺気……ッ!

 

「まあ凪の言う通りだよ。俺がしゃんとしなきゃいけないんだよな、隊長なんだから!」

「たまには甘えてもええんやで?」

「聆、茶化すんじゃない」

「聆の言葉は非常に魅力的だけど……。じゃー、気を取り直していくぞ」

「おー」

「やんややんやー」

「わんわんおー」

「おほん……。えー、それでは、俺とキミ達四人は、華琳の命により、街の警備隊の指揮を担当することになりました」

 

一刀は卓上に書巻を勢い良く広げる。

 

「つきましては、このような案を考えてみたのですが、どうでしょうか?」

「ダメだ!……と、言ったら………?」

「え……ダメなのか……?」

「ええで」

「良いのかよ……」

「あははっ、隊長、『キミ』だってー!へんなのー!」

「なんでそんな口調なん?カッコつけても似合わへんで〜。六十点!」

 

そりゃ六十点だろうな。一刀さんまだ本気出してねーもん。お前、ヤベぇぞ?一刀さん本気にさせちまったらマジでヤベぇから。

 

「なんとなくイイ感じかなーと……」

「向いてないの」

「向いてないな」

「私はえぇと思うで?どうでも」

「……やっぱり俺には、こーゆうの向いてないか」

「隊長……」

「そんなしょげんなやー」

「なんも、隊長として認めん言うとるわけやないねんからぁ」

「そうだよ(便乗)」

「隊長は、隊長らしくしてるのが一番なのー」

「………」

 

凪がこっち睨んでるんだが……。こっち見んな!

 

「三人ともいい加減にしろ!隊長がせっかく頑張ってくださっているというのに!」

「つい、なー」

「ねー」

「私ってば軽い嗜虐趣味あるからしかたなかったんや」

「隊長がオモロいからー」

「半分は隊長のせいなのー」

「……………」

「ごめん」

「ごめんなの」

「申し訳ない」

「わかれば良い。……さ、隊長。続きをどうぞ」

「はは……いやあ~なかなか締まらなあいもんだな」

「…………どうぞ、ご指示を」

「あ、はいすいません……」

「……凪、なんやいつにも増して怖いな~」

 

真桜がボソリとつぶやいた。

 

「完全に楽進さんやな」

「きっと隊長の前だから真面目っ子なの」

「いや……あれは真面目っ子やない!番長や!!」

「にしてもカタいなぁ……冷えた米粒くらいカタいっ」

「おばあちゃんの踵くらいかたいのー」

「b「聆はあかん!」

「まー、そーゆうトコも凪ちゃんらしさなんだけどねー」

 

凪がこちらに一瞥。

 

「……………何?」

「何でもありませーん」

「あはは〜なのー」

「異常有りません」

 

そこへ一刀が割り込む。

 

「はーいはーいはいはい!ちゅうもぉーくッ!」

 

ちょっとオカマっぽいな。

 

「えー……こーしてても埒が明かないのでぇー……、本日は!五人で!!街を!!!廻りたいと!!!!思いますッ!!!!!俺に!ついてこいッッ!!」

 

お米食べろ!

 

「…………」

「……」

「…………………」

「・ー・・・ ・ーー・ ー・・・ ・・ーー・ ・ー ・ー ・ーー・ ー・・・ ・・ーー・ ・ー」

「…………あれ?さっきのダメたった?」

「……なーんか……ちょっとちゃうな。隊長」

「自然にって何回も言うたのにな……」

「言いにくいんだけどぉー……ダメなやつなのー」

「『ちゅうもぉーくッ!』の辺で、あ、これはアカンヤツや。って思った」

「……さて。行きましょうか。隊長」

「凪、無かったことにするのは一番キツいんだぞ……」




拠点フェイズって普通にアニメにしたら三十分くらいになりそうなやつ結構有りますよね。


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第四章拠点フェイズ :【北郷隊伝】始動!北郷警備隊 後半

早く美羽様を出したいです。
美羽様万歳 美羽様万歳 美羽様万歳 美羽様万歳


恋姫で好きなキャラ上位十名(高位順)
美羽様 公孫さん 祭 桔梗 風 凪 一刀 麗羽 かゆうま シャム


 「う〜〜ん……」

「隊長、むずかしー顔してどないしたん?飴ちゃんいるか?」

「なんか悩みやったら酒が一番やで」

「聆、仕事中だぞ」

「いやー、街の雰囲気っていうか……なんか違う気が……」

 

独特の熱気に包まれる陳留の街。通りに並ぶ様々な店がお昼時に向けて盛り上がりをみせはじめている。こういうところは、いつも通りなんだけど……。

 

「普段はもっとみんな、声かけてきてくれるんだけど……」

 

今日は遠くから見てるだけ……?

 

「隊長が変態長って噂が広まったんちゃう?」

「嘘だろ……何だそれ嫌過ぎる。……それ、聆が広めてるんじゃないだろうな……」

 

 不穏なことを言う聆を振り返って気づいた。

 

「あ」

 

そうだった。いつもと違って今日は四人が一緒なんだ。

 

「隊長、不審者でもいましたか?」

「えー、そんなの怖いのー」

「アンタが怖いゆうてどないすんねん「どないしようもないな」……聆、強引な割り込みは禁止やで」

「ごめんなー(棒)」

 

気さくだし、四人ともカワイイ女の子(聆はどちらかというとキレイ系だが)だからうっかりしてたけど、立派な武官なんだよな。真桜はドリルだし、沙和もオシャレな格好だけど、しっかり双剣を装備している。特にヒドいのは後ろを歩く二名。オーラを纏い眼光鋭い凪と、破格の身長とこれまた破格の武器を持つ聆だ。

 

「いやー……目立ってるなぁ、俺たち」

「そう?んなことないんちゃう?」

「沙和があんまりにもオシャレだからかなー」

「はははっ!無い無いー」

「いやー……えぇ…?無いわぁ……」

「否定の仕方が酷すぎるの……あれ?目から汗が……」

「もうちょっと、みんながびっくりしないような格好にしないとな。特に聆」

 

聆の衣装がどんどん厳つくなっている件について。

鬼の上顎をモチーフにした頭飾り兼兜。同じく下顎の襟廻。

七段綴りの袖と荘厳な装飾が施された胸当てで上半身が固められ、通常より大きく、角が尖った草摺と佩楯 が、全体にどっしりとした重量感を与える。

太腿と二の腕を包む黒い襦袢の布は見るからに頑丈そうだ。膝、肘にかけて広がったそれを、細身のガントレットと臑当が締める。……右腕はそうなんだが、武器を担ぐ左腕は、三本指のやたらと重厚な手甲に守られている。

それらだけでも十分に異常なんだけど……一番はその上から羽織ったマントだった。窮屈だと言わんばかりに髑髏の蛇が躍り、他がモノトーンで統一される中、その眼だけが真紅に染め上げられていた。

……つまり、体全体で全力で威嚇しにかかっている。所謂厨ニ臭さは、そこはかとなく感じられる確かな技術と威圧感で掻き消されていた。

 

「厳つさだけで人が殺せそうなんだけど……」

「意匠は私で、指導が沙和やで」

「聆ちゃんの意匠は所々いいかげんだったのー」

「製作はウチや」

「何か、地獄の鬼の幹部って感じ?」

「お、えぇとこに気ぃついたな!そうやでー。これは一般兵と並んだ時に自己主張しつつ一体感を出す、 "《鬼神の軍勢》曹魏の指揮官" の観念で作られたんや」

 

ああ……そういえば、曹操軍の標準鎧と色の配置が似てるな……。全体的にエッジが効いてパンクでロック過ぎるけどな。

 

「華琳さんも、『新しい時代の風を感じるわ……』って気に入ってくれたで?」

「あぁ……そうなんだ」

 

好きそうだもんな。こういうの。

 

「ウチらの自信作やで」

 

真桜が目を輝かせて言う。沙和も嬉しそうにニコニコしている。こりゃ、警備では使うなとは言えないな……。

 

「で、凪はさっきから静かだけど……」

「………………不審者、不審者……」

 

異常が無いか目を光らせていた。氣を張り詰めてキョロキョロしてるから、凪自身が不審者になってるぞ……。

 

 暴走気味の真桜、暴走気味の沙和、暴走気味の聆。ひとり真面目だけど集中しすぎて暴走気味の凪。

 

「…………もしかして、戦場よりも危険……!?」

 

思わず天を仰いだその時。

 

「あーーー!!!!」

 

突然、沙和が大声を上げて、数軒先の店先へと駆け込んでいった。俺たちは、慌てて後を追う。

 

「どうしたっ!?」

「もしや、不審者か?」

「突然の便意か?」

「新しい阿蘇阿蘇が出てるー!!!」

「あ、阿蘇阿蘇〜?」

「そ。阿蘇阿蘇なの。ほら!」

 

そう言って、沙和が俺の目の前に阿蘇阿蘇を広げて見せた。どうやら女の子向けのファッション雑誌のようだ。

 

「見て見てー!社練の抜具が載ってるの♪かわいー!」

 

沙和が目を留めたのは、鞘の口に取り付け、剣の抜き刺しをスムーズにするための小物のページだ。

 

「うーん、カワイイっていうより、落ち着いてて上品って感じじゃない?……それにしても、阿蘇阿蘇……あぁ、つまりanaんむ!?」

「あ…ちょっと間に合わなかったの。……それ以上はいけないの。ね、それよりほらー!沙和、今月の恋愛運、二重マルみたいなのー!隊長はー、誕生日いつ?」

「えっと俺は……」

「おーーーっ!!!」

「なんだっ!?」

 

真桜の叫び声が、向かいの店から聞こえてきた。って、いつの間にか皆どっかいってるじゃねーか!

 

「なんだっ!?どうした!?」

「見てぇ!幻の超絶からくり夏侯淵!」

「…………なんじゃ、こりゃ」

「あー、知らんのも無理ないかー……からくり夏侯淵っちゅうねん」

「夏侯淵……」

 

真桜の手の中にある人形は、たしかに、夏侯淵……秋蘭に見えなくもない。

 

「からくり夏侯惇は知っとる?」

「あぁ。あの真桜が偶にいじってる人形だろ?」

「せや。で、しばらくして、それを作ったからくり師が妹の秋蘭様も作ろっちゅうことで作られるはずやってんけど……」

「……作られる『はず』?」

「……まず、からくり夏侯惇もす~ごい珍しいんや。大人気ない春蘭様が、『こんなものはわたしでは無い!』って怒ってもーて、あっちゅー間に発売中止になってん」

「なるほど。『あっちゅー間』に発売中止になった春蘭に引っ張られて、秋蘭も頓挫した、と」

「そ。んでもって、実際作られたからくり夏侯淵は意匠の確認用やった五体だけや。やから世の中に有る全部のからくり夏侯淵は姿勢がそれぞれ違うねん!」

「そんなに貴重なら、それって本物なのかあやしくないか……?」

「五体のうち、歩く夏侯淵をからくり師、呆れ顔夏侯淵を秋蘭様本人が持っとって、騎馬夏侯淵が焼失。で、お茶飲み夏侯淵と踊る夏侯淵が行方不明なんや。……でや。手元に有るこの夏侯淵は?」

「お茶飲んでるな」

「それに、足裏の印も、表面の加工と絡繰の仕掛けのクセも私のからくり夏侯惇と完全に一致したんや!」

「じゃあ本物か!すごいなぁ」

「せやねん〜!こりゃ掘り出し物やで。好事家ならとんでもない値をつけるはずや!……な、おっちゃんこれナンボ?」

「買う気か?」

「は?当たり前やろ??」

「で、でも今は仕事ちゅ……」

「おっちゃん、ナンボ!?……は?あっかん!そら高い!ぼりすぎやろ!」

 

真桜は世界に四体しかないからくりの値切りに夢中だ。世界に一人の隊長の言葉も聞きやしない。

 

「はぁ……俺、甜められてるよな……。確かに弱いし頼りないけどさ……一応俺が隊長なんだからさ……」

 

ただでさえ無い自身が……

 

「待てっ!!!」

「今度は何だよおっ!!?」

 

落ち込む間も無く叫び声があがった。

 

「待てと言われて待つバカはいないッ!!」

「うわっ!!」

 

店先から飛び出してきた不審な若い男が、俺のすぐ横を走り去っていった。その後を凪が追う。

 

「何があった!?凪」

「盗人です!!売り物を片っ端から……!」

「な、なんだってー!!ΩΩΩ」

 

警備隊隊長として、それは放って置けない。俺は、賊とそれを追う凪の後を追った。

 

「頑張れ凪〜!!なんとしても捕まえるんだ〜〜」

「はい、隊長」

 

凪は魏の将軍の中でも12を争う俊足の持ち主だ。だけどすばしっこい盗人は、路地や通行人を上手く使い、凪や俺を追いつかせない。

 

「くっ……ちょろちょろしおって……」

 

凪は走りながら悔しげに呟いた。

 

「ええいっ、まどろっこしい!!!」

「へっ!??」

 

凪の背中に、轟々と氣のオーラが浮かび上がる。

 

「ちょっと待て!アレはダメだ!!」

 

ここは陳留の中心地。多くの店が有り、人が居る。

 

「ちょ、本気出しちゃらめえぇぇぇぇぇ!!!」

 

ああ〜……グッバイ平和な街並み。

 

「ギャッ!?」

 

最早これまでかと諦めかけたその時。盗人は横から飛び出してきた何者かに足を引っ掛けられ盛大にすっ転んだ。盗人の首元を踏みつけ取り押さえたその人は……

 

「おぉ、隊長。小五月蠅い小悪党一人捕まえたでー」

「聆!」

「聆!今までどこにいたんだ!」

「『どこにいたんだ!』っやないわ凪ェ!お前何街中で氣弾撃とうとしとんじゃいや!?」

「いや……その盗人を捕まえようと……」

「周りの被害考えんかったんか」

「だが……隊長がなんとしても捕まえろと……」

「あァん?じゃあ凪ェは、北郷隊長は盗人捕まえるためやったら通行人も周りの店も吹っ飛ばしてええって言うような奴やと思っとるんやな??」

「いや!そういうわけでは…………」

 

歯切れ悪く答える凪というのは珍しいな。聆の説教は……何故かしっくりくる。

 

「なんやなんや、どないしたん〜?」

「あ、凪ちゃんが怒られてるのー」

「真桜……沙和…………、遅いよ……」

 

各々の手の中にはしっかりと、からくり夏侯淵や阿蘇阿蘇を抱えている。

 

「それにしても……二人は凪が怒られてるのにあんまり驚かないんだな」

「聆ちゃんのお説教は偶によくあるのー」

「どっちなんだ」

「聆、ホンマに危ないときとか、他所様に迷惑かけそうなときは怒るよな」

「じわじわ怒るからじわじわ精神が削られてくの……」

 

と、どうやら説教が終ったようだ。盗人を担ぎ上げて聆がこっちに来た。……さっきまでずっと踏まれてたよな。この盗人。

 

「じゃあコイツ詰め所に連れていってくから、見回り戻っといてーな」

「いや、戻ってくるまで待ってるよ」

「ああ、そう?んじゃあ急いで戻ってくるわ」

 

聆と入れ替わりで、凪がやって来た。

 

「先程は申し訳ありませんでした。隊長。軽率な行動で市民を危険に晒すところでした……」

「今度からは気を付けてくれよ」

「はい……」

「じゃ、聆が帰ってきたらラーメンでも食べにいくか!」

「隊長ありがとう」

「ありがとなのー」

「ん?何が?」

「だって隊長がウチらにラーメン奢ってくれるって言うから……」

「言ってないぞ!?」

「沙和たち今お金ないのー。おねがーい」

「好き勝手やっといてよく言うよ……」

 

盗人を取り押さえるとき、聆が飛び出してきたのが酒屋からだったのは忘れることにした。




この拠点フェイズ、最速で選択すると、陳留でのことになるんですが、テキスト確認してたら洛陽になっててビビりました。
無印とアニメ1期2期の馬騰が男なのはしっているんですが、真恋姫の馬騰ってどっちなんですかね。馬騰救済を急に思いついたので。


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第四章拠点フェイズ :【許緒・典韋伝】蕾のご飯粒 前半

拠点フェイズが長いって?
だって恋姫ってギャルゲーですもの。
基本的に、
聆×恋姫、一刀×北郷隊、一刀×恋姫+聆、一刀×聆
の一通りは毎回やります。


 「うぇい、隊長ちょっと遅いでー」

「兄ちゃん、大丈夫ー?」

「すまん。まぁ、何とか大丈夫だ……」

 

そうは言っているが、一刀の顔は苦痛に歪んでいる。恋姫名物「馬に乗ると尻が痛い」だ。序盤の見せ場の一つ(?)である。気の毒だから今度座布団でも用意してやろうか。私も現代人とは言っても、この身体は十数年前こちらで育ったものだ。薪割りや乗馬など、一般生活レベルのことに特別苦痛は感じない。

 

「まったく。馬に乗れると言うから少しは上達したのかと思っていたのだけれど……」

「腰をこう……上手く使うんや。隊長得意やろ?(下衆顔)」

「ちょっと聆、なんでお前の中の俺はそんな感じで固まってるんだ?」

「兄ちゃん、そんな感じって?」

「知らなくていいんだ。知っちゃうと聆みたいになっちゃうからな」

「じゃあいいや」

「ん!?なりたいやろ!私みたいなん」

「お給金の七割をお酒に使うのはちょっと……」

「聆、そんなことしてたのか……」

「えぇやんそれで幸せなんやから」

「はぁ……三人とも、馬鹿な話してないで、少し急ぐわよ。今日中には視察を済ませたいから」

 

華琳は呆れ顔で指示を出し、馬を軽く走らせはじめた。

 

「お、おい!だから、これ以上は無理だってば!」

 

振り落とされないようにするだけで必死だと言うように、一刀が叫ぶ。もはや悲鳴に近い。

 

「少しくらい厳しくした方が身体は覚えるものよ。三人とも、付いてきなさい!」

「了解ー」

「わかりましたー」

「あ、おい、ちょっと待てってば!」

「はよぉせーや」

「心の準備が……っ!」

「行くよ!兄ちゃん。……えいっ」

 

季衣が一刀の横を抜く瞬間。

 

「!?」

 

馬の腹に軽く蹴りを入れたらしい。当然、一刀の馬は勢い良く走り出した。

 

「アッーーーー!」

 

アッーーーー!て……

 

 

     ―――――――――――――――――――――

 

目的地の村に着いたころには、一刀はクタクタになっていた。

 

「落ちんかったし、上出来ちゃう?」

「お疲れさま。お兄ちゃん」

「し…………死ぬかと思った」

「その程度で死なれては困るわよ。馬に乗っただけで死ぬのなら、戦なら十回は死ぬじゃない」

「ごめん……でも季衣、あれはひどいぞ」

「あれが一番上達するんだよー。ボクもあれで上手に乗れるようになったんだし」

「ある程度無理に走らせたほうが手っ取り早いよな」

「命の危険を感じるんだが。……ていうか、やっぱみんな馬に乗れるんだなあ……」

「軍の関係者ともなれば普通は乗れるやろ」

「私の軍でまともに馬に乗れないのはたぶんあなただけよ。一刀」

「うそだろ……桂花は?」

「普通に乗ってるの、見たことあるよ」

「隊長、若干桂花さんのこと馬鹿にしとるよな」

「運動神経とかのレベルの問題じゃないのか……」

「れべる……?」

「あー、えっと、段階?のこと」

「武芸に関してはいまさら期待しないけれど……馬には最低限乗れるようになっておきなさい。これは命令よ?」

「………努力します」

 

馬に乗れないと行軍にも影響が出るしな。一刀には尻の痛みに耐えて頑張ってもらいたい。……そのうち塗り薬イベントでも起こすか。

 

 

 「けど、華琳、ずいぶん急な視察だったな」

 

今朝の朝議で、開墾できそうな土地の情報が入った。その場で視察が決定され、その数刻後には出発をした。メンバーは、華琳、一刀、護衛として季衣、私。そして親衛隊の一部。個人戦力としては私より凪の方が適任なのだが、判断力と防御面での指揮力を買われたのだった。

 

「必要だったから急がせたまでよ」

「まあ、確かに仕事不足は深刻だな……」

「無職の数は食いっぱぐれの数。食いっぱぐれの数は賊の数やしな」

「兵役にも限界があるもんねー…」

 

人口が街のキャパシティを超えてきたのだ。なら、新しく生活圏を作っちまえばいいじゃんjk、というのが今回の目的だ。

 

「できるだけ早く解決したいもんな」

「それだけではないわよ」

「今回の開墾の中心は田畑やからな、植え時逃したらアカンし」

「あぁ、そうか。今からなら急げば間に合うのか。間に合うのか?」

「今すぐ畑を作り始めれば、秋は無理でも冬野菜には間に合うんじゃないかな」

「種や苗の手配もすぐにできるわけではないしね。次の作物を植える時期まで人手を飼い殺しておけるほどの余裕はないのよ」

「いろいろ大変なんだなぁ」

「こんなもの、辺りの農民でもしていることよ」

「食料の確保だけじゃないんだな……」

 

もしかして一刀さんは公民受けてない系?

 

「衣食住、それを支える仕事。全部、どれが欠けても国は回らんで」

「それを管理するのが政というものよ」

「大変なんだな、王者ってのは」

「それをしてくれるから、ボクは華琳様にお仕えしてるんだよ」

 

華琳って俺様系の割りに謙虚だからな。誰よりも自分に厳しい。

 

「じゃあ、そろそろ荷物置いて、行かんか?」

「そうね。荷物を置いたら、すぐに視察に出るわ。ここで遅れた半日は、計画を半年遅らせると思いなさい!」




疲れていたので、一旦寝ようと思ったら朝までガッツリいっちゃったという罠。一刀さんの知識は偏りがちだとおもいます。


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第四章拠点フェイズ :【許緒・典韋伝】蕾のご飯粒 後半

執筆意欲は凄いのに右肩と手首と親指が痛くて辛い。
ずっと下痢で食欲が無いけど執筆意欲は凄いから辛い。

あれ?サブタイトル名の由来のシーンが成り行きでカットされてしまったんですが……どうしてこうなった


「この辺り……?」

 

村人に案内されてやってきたのは、見事なまでの荒野だった。それはそれは見事な荒野だった。所々に突き出す巨岩がまた何とも言えない味をだしている。ふざけんな。コイツら腐海でも「開墾できそう」って言うんじゃねーの?

 

「なるほど。開拓し甲斐がありそうね……」

「これなら、いい畑になりそうですねー」

 

何を言っているんだこのクルクルと春巻は。

 

「そんなもんなのか?聆」

「土壌は良ぇんとちゃう?」

 

私のいた村は立地が良かったようで、こんな荒野を開墾しようとしたという記憶は無い。

 

「更地にするのに、"全力で"働かせて、丈夫五百人で三日。まともに働かせて千行かんやろなぁ。畑にするとか家建てるとかになったら三倍ほどかな?」

 

大体二百間四方足す百五十間四方くらいで、雑草とか低木とかの根がしっかりしてそうだからな。女手を入れようと思ったら、もっとかかるかもしれないな。……岩は無視して。

 

「えー、もうちょっとかかるよー。水路とかけっこう長く作らなきゃなんないし」

「あ、水路か!そーやなぁ……近ぉに川無いしなぁ。山からか?水源探さんなんやな」

「秋までにギリギリかな」

「…………」

 

あれ?何か、華琳さん不機嫌……?あ、ここ華琳が一刀に天の国の農業について質問するところか。自然な流れで天の知識を聞ける良い機会だしな。つい、村の纏め役の娘且つ御局OLの性が……。

 

「隊長はどー思う?」

「……え?もうほぼ答え出てなかった?」

「兄ちゃん、天の国じゃあどんな風にするの?」

「何か新しい方法が試せるかもしれないわね……。一刀、天の国の知識は、こういう時こそ役立てるものでしょう。どうなの?」

 

嬉しそうに尋ねる華琳さん可愛い。

 

「俺達の国は、牛や馬の何十倍もの働きをする仕掛けを使うから……こういう土地を開墾するのも、そんなに人手がいらないんだよ」

「へぇぇぇ……すごいんだねぇ、天の国って」

 

実際、どのくらいかかるんだろうか。あんまりにも石や木の根や低木が多いとトラクターって上手く動かないんじゃないか?となると、電動カッターで草と木を掃除した後、根っこと石をどかして……あまり楽じゃ無いな。本当はもっと何かあるのだろうか。向こうの農業には詳しくないというのも変な話だな。それよりも、電動カッターとかって、既に実用化されてそうなんだが。真桜のドリル的に。

 

「……で、その仕掛けを使って、どのくらいかかるの?」

 

一刀がんばれ。

 

「……………」

「……………」

「一刀」

「……すまん」

「情な〜。今度からは"すまぬ隊長"って呼ぶわ」

「学校とやらで教わらなかったの?」

「うん」

「全然?何もないんか?」

 

何かあるはずだ。一応小中のカリキュラムには入っていると思う。現代人の意地を見せてくれ一刀さん。

 

「うーん、作物の流通とかが中心だったし、詳しい内容は農業専門の学校で教わるから、一般の学校じゃそこまでは……」

「農業は国の基礎でしょう。それを一部の人間しか知らないなんて、ずいぶん浮ついた教育なのね」

「……耳が痛いよ」

 

ここで折れてしまうのが一刀の短所であり長所でもある。

 

「むしろ季衣や聆が軽く分かるのに驚いたよ」

「そりゃわかるよー」

「普通、村の田畑には住民全員が関わるし」

 

まあ、季衣の年齢で分かってるのは珍しい希ガス。

 

「聆と季衣は猟師とかだと思ってたなぁ。聆なんて初めて会ったとき熊の死体売ってたし」

「熊肉やで」

「たしかに猟もしてたけど、田んぼとかもやらないと食べていけないよ」

「そうなんだ……」

「……なら、予定の人数に、水路工事のための人手を集めれば間に合いそうね。だいたいは分かったから、あとは城で詰めましょう」

「はーい」

 

 

 いや、これからが見せ場だな。

 

「なあ、華琳」

「どうしたの、一刀」

「こういうのはどうするんだ?」

 

一刀が指差したのは、私の背丈程もある巨岩。更に大きなものもちらほらと有った。

 

「そうね……一刀、何かいい案はある?」

 

今日はやけに一刀を試すな……。一刀さんは求められると出てこないタイプなんだよ!そっとしとけよ!

 

「この大きさだと、動かすのも一苦労だし……、爆破?……は火薬とかあるのか?」

「こんな岩の為に使えるほど安いものではなくてよ」

 

基本的に、現代の土木工事はデカく強い作業機械と物量と高度な計算を必要とする。一般学生がこの世界で再現できることなど殆どない。

 

「逆に考えるんや……岩が有ってもいいさ、と考えるんや……」

「あら聆、おもしろいことを言うのね。……貴女の考えも聞かせてちょうだい」

 

うわ……自己満で呟いたネタを拾われた。私の言葉を重要視していることの表れで、良い傾向なのだが、その分冗談でしたなんて言えない。何か搾り出せ……古典の授業に扱われるような名説法を……。

 

「華琳さん、牙門旗を立てるんはなんでや?」

「……あぁ、なるほどね。やっぱりなかなか面白いことを考えているじゃないの」

 

物分りが良すぎて話にならないのも珍しいことだ。

 

「??兄ちゃん、何か分かった?」

「安心しろ。俺にもちんぷんかんぷんだ。ちょっと、どういうことなんだ?」

 

季衣と一刀は何が何だか分からないといった様子だ。安心しろ。私にも予想外だ。まだ頭の中で纏まってなかったんだが。

 

「聆はこの岩々を新しい村の旗印にしようと言うのよ」

「あー、なんとなくはわかった。つまり象徴とか名所にしようってことか」

「こんな邪魔な岩、名所になるの?」

「よくよく考えたら、牙門旗だって邪魔なんやで?どこにどの将がおるか、陣形、作戦は何かを敵に悟らせてまうからな。でもそれ以上に、将とその部下は牙門旗を誇りの象徴として大切にする。布に文字が書かれただけのモンがそうなるんやから、こんな立派な岩やったらそれこそ信仰の対象にもなれるやろなぁ。……どうしても邪魔なんはどないかせなしゃあないけど」

 

邪魔ならば、それを超えるほどの意味を見出せば良い。ここに暮らし始めたらそのうち馴染んでしまうだろう。……それにしても、なんとか切り抜けたか……。緊張した。もう、しばらく黙っていても良いよな?

 

「で、そのどうにかしなけらばならない岩だけど……一刀?」

 

まだ続いていたのか。その流れ。

 

「まだ続いてたのか。その流れ」

 

あ、シンクロした。

 

「出来れば、開墾の作業を始めるまでには邪魔な岩を無くしておきたいのよね」

「……帰るまでに何とかしろってことか?」

「そうよ。 今 日 中 に何とかなさい。部下が画期的な妙案を出したのだから、隊長である一刀も何か役に立ちなさい」

「『何か役に立ちなさい』って……。それは分かってるけど……」

 

すっごい役立たず扱いだな。

 

「で、何かいい案は思いついた?」

「勘弁してくれよ。季衣が力任せに壊してくれるとかでもないと、今日中には無理だろ」

「いいよ」

「……………へ?」

 

季衣さんの怪力無双の始まりだ。

まず手始めに目の前にあった岩。

 

「えいっ」

 

ドゴン

 

それよりも一回り大きいもの。

 

「とおっ」

 

ばゴン

 

ちょっとした家くらいのもの。

 

「ていっ」

 

ガガン

 

陳留の城門ぐらいあるもの。

 

「はいっ」

 

ドッゴーラ

 

その後いくつかを全て一撃で粉砕し、岩はもともとの半分くらいになった。そして今目の前に有るのは……なんと言うか、小山?

 

「たまげたなぁ……」

「まぁ……ご立派な……」

「凄く……大きいです……」

「それにとても黒いわ……」

「でも水路作りには邪魔だね」

「山から引くとなるとな」

「やけどこの岩無くすんは惜しない?」

「……そうね。なら穴を開けてしまいましょう。できるかしら?季衣」

「うーん、難しいですけどできますよ」

「じゃあおねがい」

「はーい」

 

この二人は少し頭がアレしてるんじゃないだろうか。

季衣は少し気合いを入れた。

 

「そぉい!」

 

スコーン

 

これで、張飛には弱すぎて相手にならないと言われるのだから泣けてくる。

 

「さすが季衣ね」

「穴が予定よりちょっと大きくなっちゃいましたけど……」

「上出来よ。よくやったわ。季衣」

「えへへー」

 

華琳が季衣の頭を撫でながら褒め、季衣も普通の子供のように目を細めている。

 

「すげぇなぁ……どうしようもないなぁ……」

 

とりあえず私も撫でておく。

 

「隊長も何か言うこと無いん?」

「……そうだな。さすが季衣、たいしたもんだ」

 

一刀も季衣の頭を撫でた。

 

「へへ……っそんなに褒められたら、なんか恥ずかしいなぁ……」

 

照れて頬を掻く仕草が可愛らしい。こんな子があんなコトをする世界なのだ。ヤバすぎる。

 

「よく働いてくれた季衣と聆にはご褒美をあげないとね……」

「え、私もなん?」

「そうよ。なかなか革新的な意見だったもの。そうね……。今日は泊まりだから、夜に私の部屋に来るといいわ」

「ちょっと、華琳……」

 

一刀は華琳が何か卑猥なことを季衣にしないか心配しているようだが、華琳は変態淑女だから大丈夫だろう。YESロリータNOタッチを心得ていて、季衣にはそんなことしないはずだ。……季衣にはな。

 

「ついでだから、一刀も来ていいわよ」

「………マジすか」

「私ちょっと体調悪い感じするから私の分の褒美はまた今度にして自室で寝とくわ」

 

一刀と季衣が退室する中私だけが「聆はここに残りなさい」つって呼び止められる未来を幻視した。華琳の夜伽は体験してみたい気もするが、もうちょっと色々成し遂げてからにしたい。変な房中術とか使われたら嫌だ。

 

「……そう。残念だわ。後でお見舞いに行くわね」

「そんな気ぃつかわんで…」

 

北郷隊内での警護の都合とか言って一刀と同室にして明日までガチ寝して耐えるか……。




説明臭くないようにしようとしたらなんかよく分からなくなった気がする。
ウトウトしながら書いたトコもありますので、ミスの指摘よろしくお願いします。


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第四章拠点フェイズ :【鑑惺伝】早朝訪問イベント

自然にフラグを立てられるようになりたいです。


 「うぃーす。鍛錬の時間やでー」

 

「なんや、まだ寝とんか……。まあ、定番やな」

 

「約束の時間は守るもんやで隊長ェ」

「ん……むぅ…」

「……顔触っても起きんとか……珍しい奴ゃなぁ」

 

「それにしても、幸せそうな寝顔やな……。起きとるのがバカらしぃなってくるわ」

 

「うん、エエこと思い付いた」

 

 

「さて、私もちょっと横になるか……。酒は……その辺置いとこ」

 

   ――――――――――――――――――――――――――

 

「ふ…、ふわぁぁぁ……」

 

朝、起きたばかりの布団の中というのは、天国に一番近い場所なんじゃないだろうか。できるならここから出たくない。と言うより、今、まだ朝早いから起きなくても良いよな?……さて二度寝しよう、と寝返りをうつと、見慣れないものが目に映る。

 

「瓢箪……?」

 

聆がいつも持ってるやつだ。……あ。

 

「やばっ!もう時間じゃないか!」

 

今日は、俺があまりに不甲斐ないからと、せめて一騎当五くらいにはなれるように聆が稽古をつけてくれることになっていた。枕元に瓢箪が有るということは、多分一度聆が来て俺を起こそうとしたってことだ。呆れて帰っちゃったのか……?

 

「謝りにいかないと……!」

 

聆はアレで約束事と危機管理には厳しいからなぁ。真面目に怒っているかもしれない。微睡みは吹き飛んで、寝台を飛び出した。

 

「っうわ!?」

 

踏み出した次の足が出ず、つんのめって思わず手をついた。何だ?何か足に違和感が……?

 

「!?」

 

寝台の下から伸びた異形の手が、俺の足首を掴んでいる。そして、更に歪で不気味な腕がもう一本。

 

「!!?」

 

自由だった方の足首も掴んだ。瞬間。

 

「ちょ、うわ!あぁぁあぁ!?」

 

凄い力で寝台の下へ引き摺り込んでくる。周りの物を掴む間も無く、床に爪を立てても無駄。

 

「誰かぁぁあぁぁぁ!!助けてえええええええ!!!」

 

    ――――――――――――――――――――――

 

 「すみませんでした」

 

俺は今、華琳と桂花の前で正座させられている。寝台の下に潜んでいたのは聆だった。甲冑フル装備でどうやって入ってたんだか分からないが、とにかく入っていた。俺の叫び声で警備兵や親衛隊がすっ飛んできた。対応の速さは流石曹魏だぜ!そして俺と聆に対し、長い長い事情聴取が行われた。朝っぱらからつまらない騒ぎを起こした罰をこれから考えるらしい。

 

「約束をすっぽかした上に、大声で叫んで城内を混乱させた、と」

「打ち首にしましょう!華琳様」

「まぁ、城を騒がせた罪は軽くはないわね」

「尻叩きが良えと思うんや」

 

おれは今 聆の 処世術 を ほんのちょっぴりだが 体験した い…いや… 体験したというよりは まったく理解を  超 えていたのだが……

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「聆は  俺 の隣で説教を受けていたと思ったら いつのまにか説教する側に回っていた」

な…  何を言っているのか わからねーと思うが 

おれも 何をされたのか わからなかった …

頭がどうにかなりそうだった…  催眠術 だとか 超話術 だとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…(AA略

 

「火炙りがしたいです!華琳様」

 

おい、願望入ったぞ?

 

「私は逆さ吊りが好きや」

 

好きとか嫌いとか……。

 

「あら、私は相手が泣き叫ぶようなことなら大体好きよ」

 

華琳さん!?

 

「え!じゃあ色々と無茶してもええのんけ」

「ふふふ……ついにこの白濁男に引導を渡す時が来たわぁ〜^^」

「フフ……はしゃぐのは構わないけど、死なない程度に抑えるのよ」

 

何この黒ミサ?

逃げないとヤヴァイ。理性と本能が同時に叫んだ。華琳たちは入り口の方にいるから……窓からか?相手が油断するタイミングを見計らってじっと耐える。

 

「だから!汚らわしいモノを斬り落としてしまえばいいって言ってるでしょ!?」

「あ゛?ちんぽ有りきの北郷一刀じゃろうが!?今回の目的は破壊じゃのぉて拷問やろが!そんなコトも忘れたんかいや脳味噌も犬並みかこの雌犬軍師!」

 

拷問じゃなくて罰だろ……。とにかく、聆と桂花がモメ始めた今がチャンス!

 

「あら、どうしたの?一刀。そこで座ってるように言ったわよね?」

 

立ち上がろうとしたところ、華琳に釘を刺される。でも、止まるわけには行かないんだ!

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

立ち上がると同時に振り返って後ろに全速前進。窓を突き破ってとにかく逃げる。後を確認する暇なんてない。驚く兵士たちを無視して城を抜け、不思議そうに振り返る人々をすり抜け街を走った。

 

 辿り着いたのは近くの小川だ。

 

「ぜぇ…ぜぇ……ふぅー。もう走れないぞ……」

 

その辺の木に背を預け、そのままズルズルと腰を下ろす。もう、夕方ぐらいまで帰りたくない。

 

「流石にここまでは来ないだろ……。そんなに皆暇じゃないy

 

ガシっ

 

誰かに肩を摑まれた。振り向きたくない。振り向きたくないけど振り向かないとどうにもならない。ギ、ギ、ギ、と出来の悪い絡繰のように振り向いた。

 

「奇襲劇、大成功!!」

 

聆が 可 と書かれた立て札を担いで笑っていた。

 

「なんだよ!ドッキリかよー。本気で怖かったんだからな!?」

「いやー、危機管理の訓練と同時に寝坊の罰を執行してみたんや。桂花はマジやったけど」

「うん……桂花の俺に対する悪意だけは何時も変わらず本物だ」

「華琳さんなんか隊長が逃げ出した後、笑いすぎて立てんくなっとったしな」

「根っからのいじめっ子だなぁ……。まぁ、寝坊の罰がこれで済んだと思えば……」

「ああ、寝坊の件はこれで終わりやけど、隊長、窓壊したやん?」

「……うん」

「それはまた別やん?」

 

ボ ス ケ テ

 




体調が悪くて、やたらと時間を喰いました。
なのに作者的に上手く行かなかった感が………。
上手い人が裏山スィーです。


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※作品の説明、設定と言い訳

電車で居眠りしてしまって、打ち上げに参加できませんでした。
その腹いせに、中古で900円でpsp版真・恋姫†夢想 魏編を買ったのが恋姫との出会いです。
美羽様の可愛さと一刀の調度良さ、アンソロジーコミックの面白さでどハマりしました。


コンセプト : 蜀以外でも幸せになりたい。

 

 

世界観 : 真恋姫準拠。史実ではあり得ないモノが多数存在。魏ルート。

 

 

文体 :

主人公会話→大体関西弁(汚い)。目上には さん付け

主人公モノローグ→硬め。

一刀モノローグ→できるだけ原作通り。おかしかったらアドバイスが欲しいです。

各章毎に四回の拠点フェイズを書きます。しかし、一刀さんは描かれていないところでイベントを進めていたりします。

 

 

重要人物 :

 

・聆(鑑 惺 嵬媼)

本作主人公。どういう訳か恋姫の世界を体験する。バイで幸せな三十路OL。酒が好き。濃い酒が好き。妙に幅広い知識を持つ。

恋姫世界では、凪、沙和、真桜の幼馴染。六尺強の長身を持つものの、化け物じみた力は持たない。苔脅しと小細工とブッ壊れた関節と三十路のプライドが武器。魏ルートからの萌将伝を目指し、一刀、祭の救済、美羽と七乃の回収を企てる。

 

・北郷一刀

我等がおちんぽ大皇帝。話の流れの主役。モテ具合がチート。微笑んだだけでたいていの女は恋心をいだく。

 

・凪(楽 進 文謙)

主人公の立ち回りのため、原作の活躍を奪われがち。ディスってるわけじゃないです。仕方なかったんです。でも酔ったらイケメン(一刀さんには叶わないがな)という俺設定で一発逆転を目指す。

 

・貂蝉

主人公の魂が外史に乱入したのに気付きながら悪ふざけで放置した。

 

・左慈

ギャルゲーの初っ端のボイスが男ってなんなん?

 

 

能力値(これだけで勝敗が決まるわけではないが目安として)

 

鑑惺

筋力 : 5 技能 : 7 機動力 : 6 頭脳 : 7+天 精神 : 8+悟 

ゲテモノ : へ(へ・Д゜)へ  ヴォォオォォォ

 

関羽

筋力 : 9 技能 : 8 機動力 : 7 頭脳 : 4 精神 : 7 

嫉妬 : 410

 

孫策

筋力 : 7 技能 : 8 機動力 : 7 頭脳 : 6+勘 精神 : 10+血

バイオレンス : エロい

 

曹操

筋力 : 6 技能 : 8 機動力 : 7 頭脳 : 9 精神 : 10+誇

ドS : 乱世の姦雄

 

劉備

筋力 : 1 技能 : 1 機動力 : 2 頭脳 : 2 精神 : 4+夢

桃園のお花畑 : ミンナデシアワセニナロウヨ

 

諸葛亮

筋力 : 1 技能 : 0.5 機動力 : 2 頭脳 : 10+閃 精神 : 3

はわわ : これは孔明の罠だッ!?

 

呂布

筋力 : 10 技能 : 10 機動力 : 10 頭脳 : 2+勘 精神 : X 

人中の呂布 : りょ、呂布だぁぁぁあぁぁぁあッッ!!!?

 

公孫さん

筋力 : 6 技能 : 6 機動力 : 6 頭脳 : 6 精神 : 6

没個性 : とりまポニテにしとけばいいだろ(笑) 

 

かゆうま

筋力 : 9 技能 : 6 機動力 : 6 頭脳 : 3-猪 精神 : 8+猪

不遇 : しかたないね。

 

一刀さん

筋力 : 3 技能 : 2 機動力 : 2+補正 頭脳 : 5+閃+天 精神 : 鋼

ちんぽ : それだけで三国纏められるレベル

 

美羽様

筋力 : 匙より重い物を持ったことが無い 技能 : X 機動力 : X 

頭脳 : 足りてない-蜂蜜水が飲みたいのじゃ 精神 : ∞

可愛らしさ : 天元突破 天衣無縫 変態のお兄さんが三万人ぞえ…… 

 

 

聆が原作戦闘パートに出たら

 

将軍

騎 : 1 槍 : 5 弓 : 2

奥義 

Lv1 巳酒乱☆☆☆〈みしゅらんほしみっつ〉: 突撃 迎撃

曹魏の蛇将と恐れられる鑑嵬媼の猛攻。酔っ払っていて見境が無い。

 

Lv2 幻影操兵術 : 敵攻− 敵奥義値−

小隊を幾つも操る戦法。分散と集合を巧みに使用し、撹乱を行う。

 

Lv3 死神降臨〈こーるばいです〉: 自兵− 数日後自兵&自攻+ 敵兵−

GYASHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

軍師

長蛇陣 輪型陣 四段陣




文字数稼ぎに引っ掛かったら不貞寝します。


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第五章一節その一

※凪は好きなキャラです。


 私は今、黄巾と戦う官軍の援護のため戦場へと向かっている。主将は春蘭。季衣と私が副将だ。まぁ、つまりは私が華琳にとっての「積極的に前に出したい将」となったわけだ。どうしてこうなった。護衛や警備、ちょっとした進言などでは確かに目立つ働きをしたし、私自身それを狙ったが、こういう前線でガッツリ戦うことが予想される仕事は同じような立場なら凪の領分のはずだ。「官軍の援護」と、聞こえは防御重視なようだが、その実「官軍と協力し黄巾を殲滅」である。特性上、私の隊は、面的な動き、即ち大規模な包囲に向かない。虫食いのようにダメージを与えたり、表面をズリズリ削ることはできても握り潰すことができない。他部隊の補助には役立てると自負しているが、それなら私の代わりに凪を入れて火力を増す方が効率が良いだろう。体はって突っ込むのを覚えろってことか?

 と、その時部下から声がかかる。

 

「鑑惺様。官軍の指揮官から、連絡文が来ました」

「現物はよ」

「あ、はい。こちらに」

「うぃ。んだら私は夏侯惇将軍のとこ行ってくるから、その間は一課を割って他に振っとけ」

「了解」

 

私の直属の課を分解し、再編成してから春蘭の下へと馬を走らせる。分解と編成に慣らすため、些細なことでも動かすようにしている。リーダー格が討死しても混乱する事がないように。鑑惺隊も随分大きくなった。課数が増え、更に一つの課に属する班も多くなっている。我が隊は生存率が高く、戦慣れしたのリーダーや兵が多いから

まだ上手く動いている。しかしこれからも更に大きくなるし、また、そうしなければならない事を考慮すると、やはり何か連絡方法を考えなければならないだろうか。

 そんなことを考えている内に夏侯惇隊の中枢に着いた。

 

「春蘭さん、官軍から連絡文や」

「……読まずとも良いぞ」

「良んけ?」

「いらん。どうせ、到着が遅いだの早く蹴散らせだの書いてあるのだろう。そのような手紙、見ている間も惜しいわ」

「じゃあ私貰ぉとくわ」

「春蘭様!部隊の展開、完了しました!」

 

季衣が駆け寄ってきて言った。

 

「よし。官軍の援護は聆、貴様に任せる」

「あぁ、春蘭さんらは直接黄巾に突っ込むんか」

「のろまに合わせてやる道理は無い」

「バッサリやなぁ……。じゃ、武運を」

 

鑑惺隊へ戻る背後から、春蘭の口上が聞こえる。なるほどな。黄巾程度なら春蘭と季衣だけで十分ということか。官軍との接触と補助なら私が優れているだろう。

 

「一課は再結集して私に付いて来い。二課以降は初手二班列縦隊で官軍と黄巾を分離させるように横撃。その後は被害を最小にするように流せ」

 

二班列というのは、班を最小単位と見た二列だ。班長がスペースを測って二列に並び、その周りに班員がワラッと居る。個人行動などさせる気が無いので、この指示だ。

 

 

 「華雄m将軍!華雄将軍はどちらか!」

 

かゆうまって言いそうになった。危ない危ない。今は一応かなりの目上だからな。しかも他軍の。

 

「お、おう!ここだ!ここにいるぞ!貴様らはどこの兵だ!」

 

ここにいるぞ!って馬岱の一発ギャグだろ。

 

「私は鑑嵬媼。陳留州牧、曹操の命で参上した。状況は」

「ああ。本隊は既に下がり、こちらも苦戦しておったが、貴公らのおかげで何とか命を繋ぐことが出来た。礼を言う」

「ここは我々が受けます。かゆうま将軍は撤退なされ」

 

あ、かゆうまって言ってしまった。

 

「すまん。ならば、その言葉に甘えさせてもらう。張遼にも連絡せよ」

 

気付かなかったようだ。

 

「張遼将軍は既に撤退開始しています」

「よし。ならば撤退だ。総員、撤退せよ!撤退だ!」

 

まだ撤退命令を出していなかったのか。孤立しかけていたが……。官軍は連絡網がガタガタだな。恐ろしいことだ。

 

「鑑惺様!」

「なんじゃい」

「敵の大部分が逃走し、夏侯惇将軍と許緒将軍が追撃に向かいました」

「今から追いつけるような速さでもないやろ?……じゃあ残った敵の相手と官軍の末端の援助するで。一課も前線に入っていつも通り削ろか」

 

さて、これから春蘭は孫策と出会うんだろう。一仕事終わりか。

 

「鑑惺様、またお酒ですか?」

「悔しかったらお前も出世せーや」

「いや……酔わないんですか?」

「一口だけやしなぁ……むしろ、こんぐらいで酔えた方が安上がりで良ぇんやけど」

 

蒸留は地味に面倒だ。




何か切りが良くなってしまったので一旦出します。
五章一節はどの視点で見るかで話の密度が全然違いますね。
コメントにいい感じに意見が出始めて嬉しいです。
ただ……聆と真桜の書き分けどうしよう……。


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第五章一節その二

完全に風邪をひきました。咳と鼻水がヒドイです。
皆さんも気をつけて下さいね。


 官軍の撤退も大方完了し、この場に残っていた黄巾も、ジワジワ戦力を奪った結果降参した。後は春蘭と季衣が戻ってくるのを待つだけだ。捕虜の扱いについても任せることになるだろう。今回も割と上手く事が運んだ。

 ただ……やはり、経験の浅い班長は引き際を誤ることが多く、被害が全く無かった訳では無い。その中で生き残り、経験を積めるよう、周りのベテランがフォローするように言い含めてある。新人には一戦一戦を糧として更に頑張ってもらいたい。そのためにまず今日は帰ってさっさと休ませたいのだが……春蘭、なかなか戻ってこないな。

 

「鑑惺様!黄巾が戻って来ました!!」

 

袁術領の方から戻って来たのは春蘭ではなく黄巾だった。予定通りの動きをしているに過ぎない黄巾に対し、春蘭は孫策と一悶着有る。思えば当たり前の事だ。相手の数は今のところ我が隊の五倍は軽く有る。落ち着け……まだ焦るようなときじゃない。

 

「官軍に伝令出せ。……鑑惺隊は課を三つに振り分ける。左右二分隊はいつも通り敵の横っ腹を剥げ。残り一分隊は正面から当たると見せかけて更に二つに別れて他と合流。すり抜けられても気にすんな。後ろでのろのろ撤退しよる官軍に相手させるから。そんくらいは官軍にも働いてもらう。目的は敵を止めることやない。勢いを緩めることや。戦闘準備して待機。銅鑼鳴ったら動けよ」

 

実際まだ焦るようなときじゃない。距離があるし、官軍も含めたらそこまで数に差は無い。流石に黄巾が到着するまでには官軍も戦闘準備を済ますだろう。

 

「……鑑惺様、黄巾の更に後から大部隊が……」

「おう。……旗は…夏侯と、孫……やな」

 

それにコイツらも来るからな。蒸発でもするように敵が減っていく。この分ではもう仕事は無さそうだ。

 

    ――――――――――――――――――――――――

 

 「―――とまあ、そういうわけです」

 

結局、捕虜は「置いておく場所が無い」という"建前"で武器を奪い放逐して陳留に戻って来た。軍議も終盤。春蘭の報告、と言うか、語り(?)に華琳は深いため息をついた。

 

「……呆れた。それで、孫策に借りを作ったまま帰ってきたというの?」

「え、そこが問題なのか?」

 

一刀は不思議そうに半ばツッコミとも取れる質問をする。……それは私も思った。

 

「当たり前でしょう」

「……そうなのか……?」

「はぁ……早いところこっちの価値観にも慣れてほしいものだわ。……聆、後で説明しておいて。で、春蘭。どうなの?」

 

私も分かってないんだが。……王というものは筋が通った思考と信賞必罰が重要だから、恩と義、つまり貸し借りは大切にしないといけないということか?イマイチだな。ウヤムヤにしとこう。

 

「え、ええっと……連中の領に逃げ込んだ盗賊の退治は手伝ったのですから、差し引きで帳尻は……」

「合っていないわよ」

「合ってないぞ、姉者」

「あんたが連れ込んだようなものと理解されているでしょうね」

「そもそも、他国の領に入る前に黄巾党を片付けておけば、差し引く必要すら無いじゃない」

 

華琳、桂花、秋蘭の連続口撃か……これは辛い。冷静に諭すような口調が辛い。

 

「それが……わたし達が仕掛けた瞬間、ものすごい勢いで逃げられまして……。今思えば、あれも連中の策略だったのではないかと」

「……策略?聆、それは本当なの?」

「桂花、なぜわたしに聞かんのだ?」

 

おバカだからさ……。

 

「私の隊は官軍の支援しとって、実際に追いかけとらんから詳しい様子は分からんけど、まあ、通常の撤退って言うには早過ぎる感じはちょっとしたな」

「どうして止めなかったの?」

「援軍がおるとかって言う情報は無かったし……。そんな『ちょうちょを追いかけてたらいつの間にか森に迷い込んでた』みたいな話が実在すると思うか?」

「はぁ……。聆には春蘭と季衣を止める役割を果たしてもらいたかったのだけれど……」

 

そんな無茶な。

 

「それは私を買い被り過ぎやわ。華琳さん」

「貴女は人の扱いは上手いように見えるけど……?」

 

鑑惺隊のことを言っているのか?アレは地道に苦労して、頭が良くて臆病と言っても良いくらい慎重なリーダーを探し当てて育成した結果だ。例え私が居なくてもある程度動けるのだ。

 

「調教済の犬は扱えても、猛る狼は御し切れんわぁ」

 

立場的にも実力的にも流れ的にも。

 

「ほぅ……猛る狼か……」

「……褒められていないぞ?姉者」

「聆には追い追いその術を覚えてもらうとして……。今回はその将を討てて幸いだったわね。……春蘭や季衣相手だったとはいえ、黄巾党は策を展開出来る指揮官を得たことになるわ」

「黄巾党の弱点って、練度と将の質の低さだったよな……?マズくないか?」

 

先日の、糧食の焼き討ちによって黄巾の勢いは一時的には小さくなった。しかし、今日の軍議で、既に以前の勢力をほぼ取り戻している、と情報が挙がった。本部の特定の手掛かりにと期待していた物資の流れも、組織として統一されていないのが裏目に出たようで、役に立たなかった。どこも大体均等に復旧したのだ。

 

「予想としては折り込み済の事項だから、驚くことではないけれど……」

 

今のところ手がつけられないんですね分かります。

 

「これからは苦戦することになるでしょうね。以後、奴らの相手は気を引き締めるように。とくに春蘭と季衣、いいわね!」

「はっ!」

「はい!」

 

とか言っても、次も何か有ったら引っ掛かるんだろうな。

 

「……それから春蘭。その孫策という人物。どんなものだった?確か、江東の虎、孫堅の娘よね」

 

あー、孫堅も褐色で巨乳でエロエロなんだろうなぁ。堅どのが荒ぶったときは祭さんが相手していたらしい。ウヒョーー!……もう死んでるから仕方ないが。

 

「はい。風格といい、雰囲気といい、気配といい……袁術の食客と名乗っておりましたが、とてもそのようには見えませんでした」

「それってどれも同じじゃないか?」

「う、うるさいっ!」

「でも、同じ意味の言葉が三つ咄嗟に出るんは凄いことやと思うんや。春蘭さん、そんな落ち込まんで……」

「落ち込んでない!」

「難しい言葉を無理に使わなくても良いのよ?」

「華琳様までぇ……」

「フフ……。変に飾り立てずに、武人の夏侯惇としては、どう見たの?」

「……檻に閉じ込められた獣のような目をしておりました。袁術とやらの人となりは知りませんが、ただの食客で収まる人間では無いでしょう」

「檻に閉じ込められたら曲がりなりにも大人しくしてる辺り、春蘭よりは丸いな」

「春蘭さんは今回も飛び出してもたしな。さすがやでぇ」

「れーいぃぃぃ!ほーんーごぉぉ!!」

「すみませんでした隊長にこう言わないとカキタレにするぞって脅されたんです」

「ちょ、何言ってんだ聆!……はは、もうこの子ったらホント冗談が好きで……。だから春蘭剣を仕舞ってくれ頼む秋蘭も矢を番えるんじゃない!」

「はいはいどぅどぅ。春蘭、その情報に免じて、今回の件は不問とするわ。孫策への借りは、いずれ返す機会もあるでしょう」

「……ありがとうございます」

「それでは、他に何か報告すべき事項はある?」

「いえ、春蘭の件で最後です」

「そう。……黄巾の成長は早く、官軍もあてにならないけれど……私たちの民を連中の好きにさせることは許さない。いいわね!」

「分かってます!全部、守るんですよね!」

「そうよ。それにもうすぐ、私たちが今までに積み重ねてきたことが

実を結ぶはずよ」

 

……アレか……。

 

「……どういう事だ?」

 

一刀さんはまだエンジンかかってないな。

 

「我々と連中との、決定的な違いよ」

「なんだそりゃ」

「その時になったら分かるんちゃう?」

「そうね……。その時が奴らの最期になるでしょう。……それまでは、今まで以上の情報収集と対策が必要となる。各員、十二分に奮いなさい!」

「「「御意!!」」」

「民の米も血も、一粒たりとて渡さないこと!以上よ!」




無印のアンソロジー読み返してたんですが、面白いですね。
秋蘭がボケで春蘭がツッコミだったり、華琳が男口調だったり。
愛紗の(ゴキブリ)ホイホイチャーハンは変わりませんが。


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第五章一節その三

スパイスには体調を整えるアレが有ると聞き、辛い物を食べたんですが、尻が痛くなりました。フィクションじゃなかったんですね。
唐辛子ビタビタでも平気な凪のお尻は凄い。


 黄巾の末端はそもそも張三姉妹が何なのかさえ知らず、中心部は口が異常に堅いため情報源にならない。住民の証言は的を射ないものばかり。本部特定は難航していた。だが、それも今日までだ。

 

「大手柄ね、凪」

「……はっ」

 

一刀と一緒に情報収集に出ていた凪が、黄巾の連絡兵と交戦し、地図と連絡文を入手したのだ。もちろん私は軍議で報告される前、凪が帰還した直後には既にそのことを知っていた。別部隊とは言え、仲間の将に情報を流すくらいやってくれる奴はいくらでも居る。そのおかげで私は少なくとも自軍の案件に関して、軍議の段階ではある程度の考えを練っておくことができる。まあ、今回は何の対策も要らないんだが。上の指示を待つだけの簡単なお仕事だ。

 

「物資の輸送経路からも検証してみましたが、どうやらその連絡文に偽りはないようです」

「ならこれに記されている本陣というのも、アテになるのね」

「……ということは張角もそこにいる?」

「とりあえずでそこに出しといた偵察からは、張三姉妹っぽいのが居ったって報告来とるで」

「間違いないのね?」

「小娘三人を取り囲んで歌聞いとったらしいわ。三姉妹で旅芸人って言う季衣の証言にも当てはまるし、正しいっていう確率の方が高いやろ」

「歌、ねぇ……。何かの儀式かしら」

「連中の士気高揚の儀式ではないかと」

「……まるでライブだな」

「らいぶ?」

 

ライブか……私はあまり行ったことがないな。

 

「ええと……大人数で歌い手の歌を聴く集会みたいなものだよ。俺がいた世界じや、千人や万人単位の集まりもあったなぁ」

 

歌といえば、美羽の歌が聴いてみたい。張三姉妹と比べて落ち着いた歌が得意だったはずだ。放浪しているところを拾って蜂蜜舐めさせとけば歌ってくれるだろう。

 

「それでまともに歌が聞こえるのか?」

「声を何倍にも増幅させる機械があるんだよ。仕組みはよく知らないけど」

 

確かコイルと磁石とダイオードだったような。……それは電化製品大体そうか。

 

「はぁ……。で、それは何のための集まりなの?宗教儀式?」

「いや、娯楽の一種だよ。……宗教っぽくなることもあるけど」

「なら、黄巾党中心部も宗教化しているかもしれないわね」

「うへぇ……それはイヤだなぁ」

「ともかく、凪のおかげでこの件は一気にカタが付きそうね」

「凪サマサマやな」

「動きの激しい連中だから、これは千載一遇の好機と思いなさい。皆、決戦よ!」

 

    ―――――――――――――――――――――――――

 

 「秋蘭、みんな。本隊、到着したそうだよ」

 

私たち先発隊が偵察を終えた頃、ちょうど良く本隊が到着した。先発隊というのは北郷隊、許緒隊、夏侯淵隊から成る。本隊は春蘭と華琳だ。先発隊が大きすぎるように見えるが、今回の戦はほとんど先発隊による工作で決着してしまうようなモノなので問題無い。

 

「ちょうど終わったところやで。連中、かなりグダグダみたいやな」

「策はかなり効果出しとるな。笑いが止まらんわ。笑ろてえぇか?」

「聆、止めとけよ?敵よりも先ず仲間がビビっちゃうから」

「まあ、華琳様の読み通りというところか」

「なあ。華琳の予想って結局何だったんだ?」

「後で説明するさ。まずは報告を聞かせてもらおう。聆」

「うぃ。まず、総数約四十万」

「四十万って!?おいおいマジか!」

「嘘やで」

「……真桜報告頼む」

 

うわ、怒られもしない。コレはマズイ。

 

「ほら、アレや!先に嘘でデカい数言うとけば、ほんまの数聞いても何か落ち着いとれるっていうアレや!」

「……聆はもう少し自重してくれ。……では、総数は?」

「約二十万」

「へぇー。二十万かぁ。……十分ヤバいじゃねーか!」

「すごく多い数からすごく多い数に移行されても運命は変わらないのー……」

「なにせ本陣だからな。数が多いのは当然だろう」

「それって……ボク達で何とかできる数じゃなくないですか?」

「まあ、聞きや。総数が二十万なだけで、実際戦えそうなんは……三万くらいやないかな」

「……ふむ」

「どういう事なんだ?真桜」

「武器も食料も全然足りてるように見えんのよ。その割に、さっきもどっかの敗残兵みたいなのが合流してたから……」

「あ、それ多分変装した私の隊の奴」

「何してんだよ……」

「いや、内部に入り込んどけば色々楽やん?見つけてから今までちょっとづつ入れて、もう一課位は居るで。でも全然気付かんし、完全に、管理と指揮系統腐っとるわ」

「敵は無駄に大きくなり過ぎてるって事か……」

「それだけではない。より馬鹿に、より弱くなっている」

「馬鹿に……?」

「ほら、最近の討伐って、敵の頭だけ潰して、武器を奪った雑魚を放逐しとったやろ?」

「ああ、なるほど」

「神出鬼没の大熊も、太り過ぎればただの的、という事ですね」

「……太り過ぎたら……」

「……イヤな例えなの」

 

真桜と沙和が身震いする。

 

「いやー、脳みそも爪も牙も亡くなっとるから、太ったって言うより、脂肪の塊?」

「これが華琳の狙いか……」

「そうだ。身動きも取れず、剣も足りない烏合の衆など、そこらの野盗にも劣る」

「……では、当初の予定通りの作戦で?」

「あぁ、問題無かろう。華琳様の本隊に伝令を出せ。皆は各個撹乱を行った後、予定通りの配置に就け。その後乱戦が予想されるが……張三姉妹にだけは手を出すなよ。以上、解散!」

 

さて、後は火をつけて右翼に移動して、秋蘭の号令で突撃か。多分鑑惺隊はドンドンこういう仕事が増えていくだろうから、火計の練習として存分に放火してもらおう。




雪蓮はおっぱい。
蓮華はお尻。
じゃあ小蓮は?
作者的にはお腹だと思います。
なでなでしたいです。
でもパンチもしt ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン

公孫さんと孫策って似てますね。
公"孫" 賛(瓚) "伯"珪 白"蓮"
 "孫" 策   "伯"符 雪"蓮"
肌は……親違い?
つまりハムソンサンは本当は孫家だったんだよ!!
な、なんだってー!!ΩΩΩ


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第五章一節その四〜二節その一

咳のし過ぎで吐き気がします。
健康には気を付けてくださいね。
喉が痛いのでミント系のものをいっぱい食べていたら、お腹を壊しました。


 「おぉ~燃えとる燃えとる」

 

指揮系統の混乱からか、消火はほとんど行われず、燃え広がる一方だ。終わってんな。黄巾。

 

「聆ちゃんたちが一番ノリノリで燃やしてたのによく言うのー」

「混乱云々よりそれ自体で死人が出ているだろうな」

「これからの時代、火計やと思うんや」

「イヤな時代なの……」

 

SEKIHEKIとかマジでヤバそうだ。圧倒的勝利は望んでいないが、部下が焼け死ぬのなんて見たくはない。その時に動揺しないよう、火計に慣れ親しんでおいてほしい。

 

「聆。鑑惺隊を敵陣に侵入させられるか?」

「え?いや、現に火ぃつけるときもナンボか入っとったけど?」

「そうではない。鑑惺隊全員だ」

「何も無しに入れられるんは分解してせいぜい二課位かな。あとは前線の崩壊に乗じて滑り込ませるとかで何とか。……ってーか、なんでなん?」

「いや……な。この混乱具合だと、張三姉妹が事故死でもしそうな気がしてな。聆には張三姉妹の確保をしてもらいたい。二十万から三人を探すのは骨が折れるだろう」

「分かった。私率いる一課は横を廻って侵入する。残りは隙が有れば潜り込むように指令出しといて突撃に参加させる。これでええか?」

「ああ。頼んだ」

「秋蘭様ー!本隊が突撃開始したのー!」

 

まさに敵の混乱が最高潮となった頃、華琳の本隊が雪崩込んで行く。勇猛でありながら秩序立った動きは、黄巾とは比べるのも失礼だろう。

 

「では、これより、我々夏侯淵隊、鑑惺隊、于禁隊は本隊と合流。右翼として攻撃を開始する。ただし張三姉妹は生け捕りにせよ。……盗人共に鉄槌を下してやれ」

「応っ!」

「全軍突撃!」

 

 

 「敵がもうこんな所まで!?」

「嘘だろ!?前線はもう破られたのか!?」

「ダメだ!!早く逃げよう!!」

「こんな危険な所に居られるか!俺は故郷に帰らせてもらう!!」

「あぁァンまぁァァリダァァァァァ!!」

 

黄巾に成りすましていた部下の手引で陣内に入ると、そこに広がるのはそれはそれはヒドい有り様だった。変装して侵入して、こっそりと行動した火計のときとは違い、今回はフル装備で百人超えの集団だ。それに、変装した味方がワザと恐怖を煽るように悲鳴をあげ、弱気な泣き言を叫ぶ。食料も武器も不十分な非戦闘員達には少々酷だったかもしれない。どうやら戦える者は全て前線に投入していたらしく、本当に近づくそばから逃げていく。これなら一班毎に分かれても大丈夫だろう。ここまで「始まる前から勝負がついている」戦いもそうそう無い。偶に発狂して襲いかかってくる奴もいたが、そういう手合いはことごとく針山にされ、余計に周囲を青褪めさせた。

 私たちは、張三姉妹を探して、地面に水が染み込むように奥へと進んでいった。

 

     ―――――――――――――――――――――――

 

 「けど、これでわたし達も自由の身よっ!ご飯も食べ放題、お風呂も入り放題よねっ!」

「……お金ないけどね」

「う……」

「そんなものはまた稼げばいいんだよ。ねー?」

「そう……そうよ!また三人で旅をして、楽しく歌って過ごしましょうよ!」

「で、大陸で一番の……」

「そうよ!今度こそ歌で大陸の一番に……っ!」

「……逃亡中に夢を語り合った少女達が結局捕まって悲惨な末路を辿る確率約八割…………」

 

墜ちる陣から何とか逃げ出したわたし達の背後から、地を這うような不気味な声が聞こえてきた。

 

「な……っ!」

「楽しそうなトコ悪いけど……お前らが張三姉妹やな」

 

振り返るとそこに居たのは、見上げるような巨体の……鬼だった。その周囲には黒い兵。曹操の軍だ。

 

「く……っ、こんな所まで……!」

「どうしよう……もう護衛の人達もいないよー?」

「くぅぅ……っ」

「大人しぃ付いてきたら悪いようにはせんけど……」

「……付いて行かなかったら?」

 

冥く濁った目がわたし達を舐め回すように見下ろす。

 

「ククク……その方がオモロいかもしれんなァ……」

「ちょっと……っ、何する気よ……!」

 

ちぃ姉さんが睨みつけても、それすらも愉しむように、一層笑みを深くする。

 

「なに、八割に仲間入りするだけや。安心せぇや多数派やから」

「そういう問題じゃないっ!」

「すぐにそんな事も考えられんようになるわァ」

 

一歩。ただ一歩近づくだけで威圧感と絶望感が膨れ上がる。

 

「張角さまっ!」

「テメェ!俺達の張宝ちゃんに何をしようとしてんだっ!」

 

助けに来てくれた……!わたし達は見捨てようとしていたのに。そのことには本人達も気付いていたはずなのに。でも来てくれた。人数も装備も到底足りないけれど、来てくれたその事実だけで、救われた気がした。

 

「本当に何やってんスか隊長……ぷぷっ」

「三姉妹には手を出すなって言われてたじゃないですか」

「いやぁ……最終命令は『生け捕りにせよ』やったし」

「と言うよりそもそもそう言うの鑑惺様の趣味じゃないでしょう」

「うん。何かノリで……」

 

気がしただけだった。助けに来たと思ったら、潜入していた敵だった。

 

「な……!!オンドゥルルラギッタンディスカー!」

「……諦めましょう、姉さん。ど う し よ う も な い わ 。……いきなり殺したりはしないのよね?」

「曹操はそない言いよったわ」

「……ならいいわ。投降しましょう」

「人和……」

「れんほーちゃん……」

「良し。ほんだら幸運な二割の仲間入りやな」

 

そう言って鬼は人の良さそうな笑顔を見せた。




次はついに呂布登場の時間です。
シーンカットするかもしれませんがね!

COMライセンスが欲しいです。


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第五章二節その二

うわわ、コメント返信で誤字やってしまった。

はわわ軍師ならぬうわわ作者にジョブチェンジしましょうかね。


 将軍格は張三姉妹の扱いについての会議を行っている。ちなみに意外かもしれないが、一刀も将軍だ。そろそろ数え役満姉妹構想が決定している頃だろう。そして私は張三姉妹を華琳に引き渡した後、事後処理をしていた。この事後処理が面倒なのだ。特に、失った物品や糧食、兵の数を記録しなければならない。報告書は後でもいいんだが、記録はさっさとつけておかないとドンドンアバウトなものになってしまう。こういうとこでマメにやっておくのが信用に繋がると思う。

 我が隊では突撃に参加した兵が幾らか死んでいた。班長の被害は二人。やはり新しく選んだ奴だった。非常に残念だ。十人程度まとめられる奴は結構居る、と言っても、実際見つけて戦場に慣れさせるのは大変なのだ。……悲しみより先に戦力とか面倒とかの心配をする辺り、私も相当染まっているのかもしれない。あと、ため息が出るような事としては、変装して黄巾に成りすましていた隊員が曹操軍に幾らかぬっ殺されていた、というものがある。本当に笑えない。何か潜入兵が曹操軍だと示す手立てを考えなければ。

 ……さて、こんなものか。真桜とかと駄弁りに行こう。

 

    ――――――――――――――――――――――――

 

 「あ、聆!記録終わったん?」

「おー。そっちも終わったみたいやな。どんなモンや?」

「混乱しとる言うても殆ど同じくらいの数の敵やったからなぁ。被害は、まあ小さないで。……それよりも、張三姉妹捕まえたん聆らしいやん!大手柄やな!」

「その代わり私の隊は突撃がイマイチやし。そう言えば左翼は凪が大活躍やったんやろ?」

「せやで〜。黄巾党吹っ飛ばして前進しとったからな〜」

「そうだよー。凪ちゃんすごかったのー!右翼からでも見えてたんだよー」

「お、沙和。と隊長」

「よっ」

「ちゃんと記録済ませたんやろな?」

「聆ちゃん、あんまり沙和を見くびらない方がいいよー?ちゃんとやってるの!」

「俺が言わなきゃ忘れてたけどな」

「あわ!?隊長、それは内緒の約束なの」

 

沙和が頬をふくらませて抗議し、一刀はそれを笑ってあしらう。沙和と一刀の距離は目に見えて小さくなっているな。良いことだ。

 

「あ、そうそう。張三姉妹の処遇が決定したんだった」

「なんて?」

「華琳の領内では自由に歌っても良い。けど徴兵に協力するように。って」

「はぁ〜。なかなか破格やね」

「良かった良かった。捕まえてから引き渡すまでしばらく一緒におったけど、ホンマに普通の娘って感じやったし」

「なんにせよ上手くいってよかったよ。……ところで凪は?」

「さー。わかんないのー」

「まだ記録つけとんちゃう?なんやかんや言うてもあんだけ激しく突撃したら被害デカそうやし」

「あー、それ私居場所知っとるで」

「聆はなんで知ってるんだ?楽進隊と鑑惺隊の集合場所ってかなり離れてただろ?」

「離れとっても下が教えてくれるやん」

「……なんか怖いなそれ。いつも色々探ってるのか?」

「いや、ほんのお願い程度に頼んどいて、何か有ったら聞くって感じ。秘密とかは探っとらんやろ。多分。……何?探られたらアカンことでも有るん?」

「うわ、これって地雷踏んだ?」

「あーー、隊長ってやっぱりウチらにはとうてい言えへんようなことをしとんやー?」

「幼女誘拐事件の犯人は警備隊隊長だった!!……これは、世も末すぎるの……」

「隊長、改心して自首してくれんか……?」

「っだーー!!なんで勝手にやったことになってんだ!!その話は終わり!!凪のとこ行くぞ!」

 

そう言って一刀は走り出す。

 

「隊長ー!そっちちゃうでーー!」

 

     ――――――――――――――――――――――

 

 凪はしばらく歩いたところにいた。

 

「お疲れさま、凪」

 

一刀は、猫なで声でもないが、とても優しい声で凪を労う。こういう声一つ取ってもモテる要因なんだろうな。

 

「ああ、隊長、みんな……」

「凪ちゃん、今回は大活躍だったねー」

「華琳もすごく褒めてたぞ」

「そうですか」

「ん?あんまり、嬉しくなさそうだな……」

「そんな事ないよなー。凪、めっちゃ喜んでんねんで!」

「そうなの?」

 

一刀は凪の顔を不思議そうに眺める。ちなみに私には凪の感情の起伏は真桜ほどは分からない。本当は長い付き合いではないからだ。

 

「……はい。これで大陸も平和になると」

「そっか……。そうだよな。四人とも、そのために華琳の部下になったんだもんな」

「そうなの」

「……って事は、これからは……?」

「まだまだ曹操の部下として働くつもりや。黄巾は倒れても、まだ根本は解決しとらんからな。さっさと華琳さんに正してもらわんと」

 

正確には華琳と桃香と一刀、だが。

 

「なら良かった。いきなり故郷に帰るとか言われたら寂しくなるなー……って思ってさ」

「そうですか……」

 

ちょっと凪さっきから会話出来てなさ過ぎじゃないか?

 

「ほらー。凪ちゃん、もっと笑顔になるのー!ほらほら、むにむにー♪」

 

沙和が凪の後ろから頬を摘んで引っ張る。良し!戦勝ムードに水を指すムッツリに鉄槌を下してやれ!

 

「こ、こら、沙和……やへふぇ、やめふぇっへ!」

「こっちもうちょっと、引っ張った方がええんちゃうか?」

「沙和ェもっと上に引き上げるんや!」

「ひゃへー!ひゃへろ、たいひょたひゅけへ!」

「んー?凪はもっと笑ってたほうが可愛いって。なあ、みんな」

 

可愛いとかさらっと言う奴。

 

「そうなの。凪ちゃんにはきっと笑顔が似合うの!」

「ほら、笑ってみぃって。こうやって。

 アハハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ」

「アカン……ソレは人を不安にさせる笑いや……」

「いい感じに盛り上がってきたな。じゃあ、城に帰ったら宴会でもするか!褒賞も出たし、軍議も次の日だ。急ぎの荷解きだけ済ませたら、後は明日にしちまおう」

「おー!薄い酒やろうけど空気で酔えそうな気がするで」

「軍議も後回しか!さすが大将、話が分かる!」

「わ、わひゃひは……っ」

「断る理由なんてあるのー?」

「凪がこないんじゃ、意味ないだろ。三人共、絶対に凪を逃がすんじゃないぞ。隊長命令だからな!」

「まかせときぃ!」

「ぜーったいに、にがさないの♪」

「私は捕縛率十割やからなァ……逃さんでェ〜〜」

「れひ!!ひゃめひょ!!まひひゅくな!!」

 

    ―――――――――――――――――――――――

 

 帰還前に宴会のことを話すとそれが叶わない確率九割。

 

「……ええっと、だな」

 

一刀が気まずそうに口を開く。私たちは荷解きもする暇無く広間に集合をかけられていた。真桜や沙和は勿論のこと、皆不満そうな表情をしている。華琳など今にも誰かしら斬りつけそうだ。なんでも、何進将軍の名代が来たそうな。

 

「華琳、今日は会議はしないんじゃなかったのか?」

「私だってする気はなかったわよ。あなた達は宴会をするつもりだったのでしょう?」

「宴会……ダメなん?」

 

真桜が心底不安そうに華琳を見つめる。そんなに楽しみか宴会。

 

「馬鹿を言いなさい。そのためにあなた達には褒賞をあげたのよ?」

 

宴会のためだけの金だったのか……。

 

「……私だって春蘭や秋蘭とゆっくり楽しむつもりだったわよ」

 

華琳さんイライラし過ぎでモラルがブレイクしてるな。

 

「おいおい、そういうことは……」

「……聆、貴女随分機嫌が良さそうじゃない」

 

一刀のツッコミを無視して。イライラっぷりにニヤニヤしていた私に矛先が向けられた。

 

「いや~、別にそんなカッカせんでも。ほんのちょ〜っと遅れるだけで、宴会が無ぉなるわけとちゃうんやし、ちょっと遅れたぐらいで酒は逃げんって。大丈夫、大丈夫。何も問題は無い」

「……聆、ごめんなさいね」

「アカン……コレも人を不安にさせる笑いや……」

「お酒が遠のいて、相当キてるの……」

「聆、落ち着けよ?宴会はちゃんと開くからな」

「アッハッハ。落ち着いとるって〜。全然キとらんし。むしろ、名代の顔見るんが楽しみなくらいや」

(アカン……ハンパなヤツやったら死ぬ……)

(完全に人殺しの笑顔なの)

(この曹孟徳が……怖れている……っ!?)

(お巡りさんコイツです。……ってお巡りさんのボスが俺じゃないか!……これは詰んだ)

 

皆不安そうな表情をしているが、本当に私は大丈夫だ。別に怒りが振り切れて穏やかな笑顔になっているわけではない。呂布を見るのは楽しみだし、そもそも帰還する前から名代が来ることは知っていた。前世の記憶とかではなく、伝令の情報を最速で素破抜いたからだ。

華琳のもとへ情報が伝わるには幾つかの手順が必要だが、私には完全に口伝えで回って来る。「名代がやって来るようだ」なんてことは、ちょっと「どうしたんだ?」くらいのことを言われればさらっと答えるものだ。極秘情報なんかは手に入らないし、間違った情報も偶にあるが、"知っとくと便利"程度の情報に於いては、私の情報網は最速且つ最大だろう。

 

「……すまんな。みんな疲れとるのに集めたりして。すぐ済ますから、堪忍してな」

「……貴女が何進将軍の名代?」

「や、ウチやない。ウチは名代の副官や」

「なんで来たんだ?」

 

春蘭何言ってんだ。……私の方をチラチラ見るんじゃない!

 

「え!?いや、そんな急いでるん?多分もう直ぐ来るから」

 

「呂布様のおなりですぞー!」(♪呂布のテーマ)

「…………」

 

りょ、りょ、りょ、呂布だァァァァァぃァァァァ!!!!!

 

 

「曹操殿、こちらへ」

 

ちんQちっさ!!

 

「はっ」

「……………………」

 

そして呂布は安定の沈黙である。

 

「えーっと、呂布殿は、此度の黄巾党の討伐、大儀であった!と仰せなのです!」

「……は」

「…………………」

「して、張角の首級は?と仰せなのです!」

 

名代に呂布任命したの誰だ?絶対に喧嘩売ってるだろ。

 

「張角は首級を奪われることを怖れ、炎の中に消えました。もはや生きてはおりますまい」

「……………………」

「ぐむぅ……首級がないとは片手落ちだな、曹操殿。と仰せなのです!」

「……申し訳ありません」

 

一刀が何やら周りにひそひそ言い始めた。学校の集会とかでもやってたんだろうな。で、先生に「なんだ北郷、話したい事があるんなら前に出て皆に教えてやってくれ」とか言われるんだ。想像が余裕過ぎて笑える。……何人かが私の方を見てギョッとしたんだが……。私は笑ってはいけない武将24時か?あ、何かツボってしまった。笑いを堪えるのがキツい。

 

「……………………」

「今日は貴公の此度の功績を称え、西園八校尉が一人に任命するという陛下のお達しを伝えに来た。と仰せなのです!」

「は、謹んでお受けいたします」

「……………………」

「これからも陛下のために働くように。では、用件だけではあるが、これで失礼させてもらう。と仰せなのです!」

「…………………ねむい」

 

キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!

 

「ささ、恋殿!こちらへ!」

 

「………ま、そゆわけや。堅苦しい形式で時間取らせてすまんかったな。あとは宴会でも何でも、ゆっくり楽しんだらええよ」

「解散!」

 

名代の副官って言うかぶっちゃけ霞が広間から出るか出ないかの内に、華琳が解散を宣言した。そしてソッコーで私の手元に酒が用意される。

いや、そんなに酒呑みたかったら自前のヤツ飲むって。




蜀ルートの精神的メインヒロインは恋だと思います。
一刀さんガチ惚れじゃないですか。
あと、なんだかんだで白蓮とは通算で一番長い時間一緒に居そう。

ちんQはトップクラスに小さい上に、画面の向かって左側に立つことが多いので、ウィンドウが高確率で顔にかかるという……。
(psp版)


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※袁分補給※ 短編「もしも袁術がふっきれていたら」

木曜日って辛すぎですね。
疲れ過ぎてクソみたいな発想しか出なかったので
リフレッシュのため
美羽様召喚。
本編には関係ないですよ!?パラレルパラレル!!


美羽様「七乃!七乃はおらんかえ!」

七乃 「はいはい。どうしたんですか?

    お嬢様が朝起きてるなんて珍しいですね」

美羽様「妾はとーっても良いことを思いついたのじゃ♪

    早よ孫策を呼ぶのじゃ」

七乃 「ま〜た無理難題ふっかけるつもりですね〜

    あんまりやりすぎると

    孫策さんに仕返しされちゃいますよ?」

美羽様「孫策は家臣なのじゃから

    妾の思いつきに従いこそすれ恨むなんて有り得んのじゃ」

七乃 「きゃ〜お嬢様ったら領主ってだけで調子付いちゃって!

    まさに恐いもの無し傍若無人ですね!」

美羽様「そうじゃろそうじゃろ♪うははーなのじゃ」

 

 

孫策 「…………………で、

    今回急に呼び出した理由を聞かせてもらえるかしら?

    黄巾だ何だと、と〜っても忙しいのよ」

美羽様「うむ。今日はそちに一つ伝えておくことがあっての」

孫策 「あら、やっと孫家の独立を認める気になったのかしら?」

七乃 「あはは〜。そんなわけ無いじゃないですか〜」

美羽様「うむ。妾はの、孫策に全部任せることにしたのじゃ」

孫策 「任せるって、黄巾を!?無茶言ってくれるわね。

    敵の本隊はどう軽く見積もっても二十万は有るのよ?

    私の兵は多くても一万。話にならないわよ」

美羽様「何を勘違いしておるのじゃ。

    妾は、全部任せる、と、そういったのじゃ」

孫策 「散らばっている呉の旧臣たちを呼び寄せても構わないのね」

美羽様「そんな軍備で大丈夫かの?」

七乃 「大丈夫ですよ。問題有りませんよね、孫策さん」

美羽様「なかなかの自信家じゃのー。

    その更に五倍の兵を使えるというに」

七乃 「?……お嬢様?」

孫策 「……どういうことよ」

美羽様「妾は、全部任せる、と、そういったのじゃ」

孫策 「袁家の兵も使って良い、と、そういうこと?」

美羽様「なんと!兵だけで良いのか。謙虚なヤツじゃのう。

    妾は、全部任せる、と、そういったのじゃ」

孫策 「」

七乃 「ちょっと、お嬢様!?」

美羽様「城の生活には飽きたのじゃ。

    後はてきとーに孫家でも何家でもやってくりゃれ。

    妾は旅にでも出ようかの」

七乃 「お嬢様!?旅に出たら危ないですし

    料理も寝台も粗末なものになるかもしれませんし

    何より蜂蜜水も毎日は飲めないんですよ!?」

美羽様「何を言うておるのじゃ七乃。

    七乃が側に居れば十分じゃろ?」

七乃 「孫策さん後はよろしくお願いしますねさようなら」

孫策 「どういうことなの……」

 

 

その後異様に早く勢力を拡大した呉がなんやかんやで南方を統一。

このまま天は孫呉に下るかと思われたが、

そこに北方の巨人、曹魏が立ちはだかる!

曹操本人が女性を、

張三姉妹が若者を、

そしてフラフラしてるとこをひろった袁術が

ジジババとロリコンを、

それぞれ味方に引き入れるトリプル求心システムにより、

曹魏も又急成長を果たしていたのだ!

やがて訪れた最終決戦。

血に滾った孫策と美女なら何でもいい曹操が、

何か英雄同士の何かアツい何かアレを交わして奇跡の和解!

国号を「馭」とし、何か凄かったそうな。

 

劉備?今俺の隣で寝てるよ

 

―――――数え役萬☆姉妹.・蜜∞姫プロデューサー北郷一刀




頭の中がハッピーセット。
明日にはマトモに戻りますので今回は許してください。


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第五章拠点フェイズ : 聆(3X)の悪戯心

養命酒にレモン果汁を混ぜるとかなり美味しくなることが判明しました。
これで風邪も楽勝です。


 「『形象八十二手』……形意拳の類か?小難しいな……後回し……」

 

広い広い書庫の片隅。武術関連の書が纏められた一角に私は居た。何か新しく、幅の広い戦闘技術のヒントになるモノを探しているのだ。

 

「『猿でも分かる暗器』……本読める時点でそこそこやろ」

 

これからの戦、乙女武将と一騎討ちをしなければならない場面も有る。赤壁の黄蓋などだ。その時、今のままでは恐らく瞬殺される。多少卑怯な手を使って引き分けに持ち込むにしても、ちょっとぐらい打ち合えなければ何ともならない。春蘭や凪を見て分かったことだが、武の英傑達は筋力は勿論、反射神経も桁違いだった。単にデカい武器を振り回すだけでは確実に負ける。

 

「『五胡格闘の基本』……柔道とレスリングを足して追撃を酷くしたモンみたいやな」

 

私の基礎能力を鑑みれば、例え血反吐を吐くほど鍛練しても彼女らより"強く"はなれないだろう。ならば、より"上手く"戦い、"やりにくい相手"になれば良い。剣術一本極めようとしたところで、どうせ筋力不足で頭打ちだ。それを諦め、その時間を多くの武器と技を使う武術の訓練に向けることにした。幸い私の身体は、筋力は心許無いが人外的変態動作に耐え得る柔軟性を持つ。コンボを練って挑めば或いは無理なことも無いかも知れない。

 

 粗方目ぼしいものを物色し終わり、政治と思想の区画へ移動する。道教についての書が欲しい。できれば、老子本人の言葉が載っているもの。何事にも動じない穏やかな心の持ち主にならなければ、関羽とか前にしてチビってしまいそうだ。

 

「老子……老子……ろ、ろ、ろ……」

「一番下の段よ」

 

背後から声をかけられた。桂花だ。

 

「あぁ、ありがとー」

「やっぱりそれだけ背が高いと、低い位置にあるものが見え難くなるものなのかしら」

「まぁなー。やから戦のときは結構気ぃつけとるで」

「そう……。ところで、兵法について学んでいたのは知ってたけど、思想にも興味があるの?」

「戦いには精神も重要やからな。落ち着いた思考やったら老子が一番やろ」

「そうね。他はどうしても政本位の物が多いから。……持っているのは……武術指南書?『猿でも分かる』?……随分初心者向けのものじゃない」

「上級技能なんか本で読んでサッと出来るモンとちゃうから後回しや。それよりもまず種類を揃えたいし、初心者向けほど大切な心得が書いてあるから良えんや」

「……器用貧乏にはならない?」

「それぞれの技能が相互に活かし合えるように考えて戦えば一つ一つの練度が低くても十分に効果を発揮するはずや。例えば、春蘭さんの突進は怖いけど何を仕掛けるか分からへん秋蘭さんの方が怖いやろ?」

「……酒を飲んで下品なコト言ってるだけの田舎者だと思っていたけど、そこそこしっかりした考えが出来る頭も有るのね」

 

普段、警邏の時間以外は人目につかない所で鍛錬して、書庫で本を借りた後自室に引きこもって勉強してるからな。付き合いのために真桜たちとぐうたらすることが有るが、その時に酒も済ましてしまう。桂花が見るのは大方この時なんだろう。……それよりも桂花がデレた。男じゃないだけでこうも難易度が下がるのか。俄にテンションが上がる。

 

「惚れたか?」

「何を言っているの!ちょっと褒めたくらいで」

「えー、やたら厳しい桂花さんに褒められるって、脈有りやと思うんやけど」

「まあまあ使えると思っただけよ。そんな風になんて考えていないわ」

「私は桂花さんのこと結構好きやけど」

 

嘘だがな。

 

「は、はぁ!?」

「何かアカンか?」

「わ、私は身も心も華琳様に捧げているの!」

「はぁ……。それじゃあつまらんやろ」

 

さり気なく近付き、重く、しかし努めて静かに、呟くように言った。対して桂花は怪訝そうに私を見返す。雰囲気にまかせて更に一言。

 

「なら」

 

桂花の背後の本棚に片手を掛ける。私の前から逃げられなくするように。……そんなこと気にしなくても良いか。桂花は全身を緊張させて見上げてくるだけだ。完全な受け体質だな。華琳が気に入る訳だ。スルリと唇を近づけ、耳元に囁きかける。

 

「私と遊んでみない?」

 

敢えて訛りは消して。緩やかに笑みを浮かべたまま、見開かれた瞳を覗く。桂花の顔は見る見る赤く染まって行き、微かに開いた唇が震えている。天才軍師とは言え少女ということか。

し ま っ た 。本を適当なところに置いて両手共フリーにしておくべきだった。ホールドしてキスぐらい出来ていたかも知れないのに。

 

「……冗談やで?桂花さんちょ〜っと動揺しやす過ぎん?」

 

自然な発展がパッと思い付かなかったから、体を離して冗談で流す。……そもそもなんで桂花とイベントを起こしているんだ?桂花とか別に好きじゃない。何かシチュエーションに流されすぎた。図書室に二人きりという王道。あと「惚れたか?」にマジレスされた事で火がついたとも言える。

 

「〜〜〜っ!!うるさい!うるさい!!うるさぁぁぁい!!!出てって!早くここから出てって!!」

「いや、まだ探し物有るんやけど」

「そうなこと言って、またあんな事するつもりなんでしょう!?」

「いや、面白い題名の艶本探すだけやで」

「死ね!死んでしまえ!!」

 

なんだかんだと言い返すが結局、駄々っ子のように腕を振り回して喚く桂花に追い出されてしまった。




おかしい。
もうちょっと聆の出来る娘アピールをした後に艶本関係のドタバタ劇を展開するはずだったのにソフト壁ドンなんてしちゃってる不思議。
3日後辺りに見直した時が地獄だ……。


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第五章拠点フェイズ :【北郷隊伝】突撃!凪の激辛昼ご飯 前半

拠点フェイズで超展開した理由が判明しました。
一回目→聆が酔っぱらっていたから。
二回目→作者が酔っぱらっていたから。


 「うーん……予算も人員も足りないな。これはもっと見直す必要がある、か。あんま無茶言うと、桂花に怒られるしな……」

「へいっ!隊長っ!!」

「たいちょー、まいどー!!」

「やっほー!今日もいいお天気なのー♪」

「失礼します」

「な、なんだ!?」

 

突然、部屋の扉が勢いよく開けられた。俺は地図から顔を上げる。

 

「イタズラな天使がステキなできごとを運んできただけやで」

 

蹴破るように扉を開け放った聆を先頭に、真桜と沙和か賑やかに部屋へ入って来た。凪は入り口でビシッと丁寧に敬礼したが……結局は三人と同じくどかどかと部屋に入ってくるのだった。

 

「悪戯しに来ただけだろ?」

「沙和達みたいなかわいい女の子が部屋に来るって、ステキなことでしょー?」

「時と場合って大切だよな」

「嬉しく無い場合ってあるん?」

「あっ……(察し)」

 

何かまた聆に妙なキャラ付けされた気がするんだけど……。

 

「聆が何を考えてるのか知らないけどとりあえず否定しとくよ」

「えー、じゃあ隊長なにしてたのー?」

「一人で部屋に籠もって、暗いやっちゃなー」

「こんな良ぇ日にじめじめしこしこと……」

「仕事してたの!お・し・ご・と!!」

「隊長がー!?」

 

沙和、どういう意味だソレ。

 

「し…ゴ……TO………??」

 

聆が何のことだか理解出来ないというような顔をする。なんでだよ。

 

「えぇー、うそぉ〜」

 

真桜は信じられないとばかりに疑問の声をあげた。

 

「三人共失礼だそ!隊長だっていつも道案内くらいしていただろう」

 

凪が擁護の形をとったトドメを刺してくれた。

 

「はぁ……。みんなが俺のことをどう思ってるのか、よーく分かったよ」

「あぁん、もぉ〜、冗談やんかぁ〜」

「私らも隊長が何気に働けるっぽい人間やってのは知っとるから〜」

「元気だすの!」

「そ、そうです隊長。隊長は隊長の出来ることをやっていてくだされば……」

「……それがせいぜい道案内だと……」

 

ガックリと机に突っ伏す。

 

「え!?あ、そうではなくてですね!?ええと、あの……」

「あーあ、なにやっとん凪ェ。隊長すねてもたやんか」

「喧嘩最強の凪さんは精神攻撃も最強やなー。さっすが〜」

「楽進先輩流石なのー!」

「くそう、お前たち……あぁ、くっ、どうすれば良いんだっ」

「そらまぁ、隊長の喜ぶことして元気づけるとかやろ?」

「それは、一体……?」

「変態長やしな、分かるやろ?」

「な……っ!」

「とりあえずヨツンヴァイになるの」

「あくしろよ」

「う、うぅ……」

「っだぁーー!もう!ほら、凪、そんなコトしなくて良いから!落ち込む暇すら無いな毎回」

「えー、だって落ち込んで欲しないしなぁ」

「なー。ウチらの迸る遊び心がついつい大暴れしてまうんやもんな」

「玩具にされる側のことも考えてほしいよ……」

「大丈夫やで。そのうちイジられんかったら落ち着かんようになるわ」

「なにそれこわい」

「ところで隊長ー、その紙何ー?」

 

沙和が俺の手元の紙を指差す。

 

「あぁ、これがその"仕事"だよ」

 

俺は紙を四人の目の前に広げて見せた。

 

「んん〜〜?小さい字がいっぱいで、わかりづらいのー」

「これは……街の地図、ですか」

「そ。街の警備計画の見直しをしてたんだ。最近どうも、区画によって格差が出てきてるからさー」

「あー……西地区のことか?」

「そうそう。ヒドイだろ、このところ」

「籠売りに来たときからちょっと様子おかしかったしな」

「結構柄の悪い奴らが集まっとるなぁ」

「うんうん〜。陳留にしてはめちゃ荒んでるよねー」

「街自体もなぁ……」

「道にはゴミがあふれ、家屋も古くぼろぼろなものが多いですからね」

「雰囲気とかの問題やのぉて物理的にも暗いしな」

「だろ。だからちょっと考えてみたんだ。……ここ、見てくれないか」

 

俺が指差した紙の見出しの文字を四人はそれぞれ興味津々といった様子で覗き込む。

 

「なになにぃ〜……『割れ窓理論』?……なんじゃそりゃ」

「初めて聞く単語です」

「えっと……普段なら見逃してしまうような、軽微な犯罪を取り締まることで、凶悪犯罪を含めた犯罪全体を抑止できるとする……環境犯罪学上の理論のこと」

「けいび……かんきょう、はんざい……?隊長〜!ますますワケわかんなくなったのー」

「名前とさっきの話から察するに、……例えば割れた窓を放置するやろ?ほんだら『この辺は人の注意が向いてないな』って思ってゴミを捨て置いたりするよな軽い犯罪がよぉ起きるようになって、そういう怪し気なとこに居るような奴が集まったり育ったりするようになって、大きい犯罪も起きるようになる。ならその割れた窓を直すように、つまりほんの軽い異常も取り締まるようにすればその後の犯罪は防げるやろ常考。ってことやな?多分」

「あー!そういうことなの!」

「聆、完璧じゃないか!」

 

多分俺より理解してるぞ。

 

「悪いことするヤツは治安が良かろうが悪かろうが何かしらしでかすもんちゃうの?」

「……そんなんは叩っ斬るしかないやろ元から」

「そういう特殊例は置いておいて……。大人数っていうか、地域を全体的に良くしようってことだよ」

「なるほど。群衆心理を見事に利用していますね」

「へえぇ〜、そっかそっかー。せやなあー!うち、隊長のことちょーっと見直したわ」

 

俺は計画書を閉じながら、ぽりぽりと頭を掻いた。

 

「……とまぁ自慢したいところではあるんだけど、実はこれって俺が考えたことじゃー無いんだよなー」

「天の知識かぁ」

「そう。あっちじゃあすでに有名で、それを活用させて貰おうかなーって思っただけ」

「がっかりやな」

「私は納得もした」

「無能で悪かったなっ!」

「うそうそ。こういうんで大事なんは、どーいう場面でソレを活用するかやろ?西地区の改革にこの方法を思いついたんは、素直にすごいと思うで」

「真桜ちゃんの言うとおりなの!沙和もめっちゃ良い計画だと思うよー!」

「華琳さんが認めた男は伊達やないな。さすがやでぇ」

「ぜひとも実現に向けて頑張りましょう」

「お、お前ら……」

 

なっ、なんだ!?俺は褒められるのには耐性が低いんだぞっ!……『イジられんかったら落ち着かんようになる』ってのはこのことか!?

 

「そ、それよりどうしたんだ?四人揃って」

 

照れくさくてどこともつかないトコロに視線を彷徨わせてしまう。

 

「あー、隊長照れてるー♪顔真っ赤なのー」

「うわー、乙女かいや」

「うるさいっ!ちょっと部屋が暑いだけだっ」

「熱うなっとるんは隊長だけやろ」

「とにかく早く用件を言え、用件を!」

「ひひひっ、まぁそーいうことにしといたろか」

「くくくっ、もぉ時間もわりかし喰ったしな」

「時間?なんか急ぎの用でもあるのか」

「違うよー。お昼ご飯なのー!早くしないとお昼休みがおわっちゃうのー」

「慌てろ、もう落ち着く時間じゃない」

「えっ、昼!?もう!?」

 

確かに窓から差し込む陽は高い。警備計画に夢中になり過ぎたみたいだ。

 

「今から行けば大丈夫やで!ほら、早よ行こ!」

「行き先は歩きながら決めるのー」

 

真桜が俺の手を取り引っ張る。沙和なんかはもう扉を開けてスタンバっている。

 

「こら、真桜!強引過ぎるだろう」

「や、いいよ凪。俺も昼食い損ねずに済んで助かったし、親睦も深まって一石二鳥だよ」

「そうですか……?」

「そうやで。それに私が見た限りでは隊長は多少強引なんも有りの人間みたいやし」

「……何でもその方向に持っていけるのは逆に何か凄いな」

 

五人でお昼ご飯か……。賑やかそうだな。




聆と真桜が見分けにくい。
逆に考えるんだ……見分けなくていいさ、と考えるんだ………。

楽進,李典,于禁伝は基本的に長いですね。
テキストチェックしてて気づいたのですが、
恋姫って醤油存在するんですね。
しかも酢醤油。


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第五章拠点フェイズ :【北郷隊伝】突撃!凪の激辛昼ご飯 前半と後半の間

スルメ食べてたら口の中怪我しました。
皆さんもスルメを食べるときは気を付けてくださいね。


 「うー……外は日差しがキツイのー……。焼けたくないのにぃー……」

「焼けたほうが好みって男も結構居るから良えやん別に」

「男の子がどう思うかなんてカンケーないの!」

「イミフー」

「えー!?聆ちゃんってやっぱり乙女心が分かってないのー」

「あぁん?煽っとんのんけ?今暑いから私ってば箍外れがちやで?」

「キャーっ隊長助けてー!酔っぱらいに襲われちゃうのー……っておぉう。そういえば隊長は変態長なの……」

「すっごい理不尽な展開でけなされたんだけど……」

「あーぁ……こんな晴れるってわかっとったら、夏侯将軍ら干してきたのになあ」

「真桜、『からくり』を付けないとマズイ……」

 

陳留の町並みを、五人でガヤガヤと騒ぎながら歩く。女の子の会話は内容とかメンバーとかがコロコロ変わって忙しい。俺も通り魔的にイジられたりする。

 

「それにしても、仕事以外で五人で街に来るのは初めてかもな」

「……すみません。先程は仕事の邪魔をしてしまったようで……」

 

凪は申し訳なさそうに俯く。

 

「いやいや、一段落ついたとこで、ちょうど良かったんだ。それより、さ、何食べようか」

「麻婆で」

「即答かいっ!」

 

ペシッ。

 

俺は思わず裏拳でツッコミを入れる。だけど凪は、不思議そうに首を傾けた。

 

「……なんですか?」

 

……ツッコミにきょとんとされるのはキツイ。

 

「いや、遠慮してた割には答えが早かったなあ、と。しかも麻婆だろ?ちょっと意外かも」

「たいちょー、あんな!凪は激辛料理が大好きやねんっ!」

「まぁ凪ェもちょっと問題有りってことや」

「っ!!」

 

真桜が凪の後ろから勢い良く抱きつき、聆がワシャワシャと頭を撫でる。

 

「……や、やめ……隊長の前で……」

「なー♪好きやんな、辛いモン。よう食べてるし」

「我慢せんでもええんやで?」

「……そんなことはない。別に、普通だ。我慢もしていない」

「ねーねー、凪ちゃんに質問そのいち〜!麻婆茄子と茄子田楽、どっちが好きー?」

「麻婆」

「そのに〜!担担麺と拉麺は?」

「担担」

「さいご〜!唐辛子と茘枝はー?」

「………………………唐辛子」

「ってなワケや」

「これァ病気ですワ」

「病気かどうかは別として、まあ、だいたい分かった」

「誤解しないでください隊長。決して辛いモノだけが好きだとか、辛い料理ばかり食べているとか、そういうワケではなく……」

「でも凪ェしばらく辛いモン無かったらイライラしたり調子崩したりするやん」

「なっ!……そう言う聆も酒が切れたら大暴れするじゃないか!」

「やから私は高らかに酒好きを宣言するで」

「ぐぬぬ……」

「ハイハイ、じゃあ今日は辛いもの食べようか」

「はいっ!」

 

良い返事。さっきまで聆と睨みあっていたのが嘘みたいだ。もしかしたら凪って、ただのツッコミイジられ役じゃないのかも。

 

「それで、どこかオススメの店とかあるの?」

「あー、そういえば聆、何かほとんど毎日行っとる店あったやん?香辛料とか追加できるって言っとったし、そこで良んちゃうん」

「えー、『チャーハン兄貴』け?この面子やったらアカンわ」

「え、"一見さんお断り"みたいな店なのか?」

「あー。別にそうでもないんやけど、初見が四人も一気に入ったら"爐途"が乱れまくるし他の"弟分"に迷惑かかるしなー。それに静かにせなならんから趣旨に反するんや。ってか、まず沙和が泣き出すと思う」

「……恐ろしい店だってのは分かった」

 

聆いつもそんなトコで食べてんのか。

 

「慣れたら良えんやけどなぁ」

「ねね、隊長ー。『一見さんお断り』ってなんなのー?」

「あぁ、こっちにはそういうの無いのか?えっと、俺がいた世界の京都って所の店は、常連の紹介が無い限り初めて店に来る人を入れたがらないんだよ」

「えー!?客が減るやん?何でそんなことするん」

「おかしな人間が入って来ないようにして面倒が起こるのを防ぐ……ってことだと思う。詳しくは分からないけど。……聆は知ってたみたいだったけど?」

「……言葉の雰囲気で分かったんや。一見さんをお断りするんやろ?それより、他どこ行くか決めよ」

「あぁ、ほかに誰かある?」

「そーいうことなら、凪ちゃんの出番なのー」

「そーそー。凪って舌オカシぃなっとるかと思いきや、ウチらん中で一番の食通やからなぁ〜!」

「料理屋やったら凪ェに任せとけば外れは無いわ」

「へぇ〜、そうなんだ?」

 

ちょっと意外だな。他の三人とは違って凪は「仕事一本」ってイメージが強いから、こういうことは新鮮に感じるんだよな。

 

「さっきから、凪の知らなかった一面を発見しまくってるなぁ。隊長は嬉しいぞ」

「確かに食べることは好きですが……華琳様たちのように、上等な食事を好む……というワケではありません。美味しいかどうかだけを考えて食べ……そして出来れば、それを自分の手で再現したいと思っているだけです」

「じゃあ凪は料理が趣味ってことかー。ちなみに再現は辛さ何倍で?」

「ちょ……っ!隊長まで!」

「おぉー。分かってきたやないの隊長」

「なかなか見事なちゃちゃ入れやな」

「まあでも料理かー。女の子らしくていいなぁ」

「〜〜〜っ!!」

 

凪含め武官の娘って普段男勝りで女性的な部分を見せてないんだよな。

 

「くすくす……♪凪ちゃんってば照れてるのー!かわい〜〜」

「……………ッ………」

「おーっと。続きは食事しながらゆーっくりしようや。あんま時間無いねんから、急いで急いで」

「まー、ちょっと凪を可愛がるんに夢中なりすぎたなぁ」

「そうだな。凪、案内してくれるか」

「……はい」

 

小さく頷き、先頭を切って歩く凪に案内され、俺たちはお店へと向かった。




この拠点フェイズ凄く長いですね。

あの店は関東に行った際に一度試してみたんですが、"カラメ"は唐辛子じゃなくて味が濃くなることだと知らずにマシて地獄を見ました。なんとか睨まれる前に食べきりましたが。

現代知識の勉強のため回路図を眺めていたら東方の二次創作を思いつきました。
だからなんだっていう。


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第五章拠点フェイズ :【北郷隊伝】突撃!凪の激辛昼ご飯 後半

週休二日制はどこ逝ったん?

曜日の感覚が迷子です。


 「ここです」

「おー」

 

俺たちがやって来たのは、飲食店街の店の一つだった。昼時だけあって、通り自体賑わっているけど、その店は特に人が多いようだ。

 

「……ふむ。見た目はあんまり、普通の店と変わらないな。お客さんはいっぱい入ってるみたいだけど」

「普通の店て……。逆に普通じゃない店って何なん」

「いや、何か特別な何かが有るとか……?」

「なんや隊長、疲れとるん?歯切れ悪過ぎやでぇ」

「なんとなく呟いただけの言葉を拾われて動揺したんだよ」

「素直やなぁ」

「変に取り繕ってもドツボにハマるだけだって凪が身を以て教えてくれたからな」

 

本当に、言い返せば言い返すほど不利になっていく。

 

「な……隊長!そのことはもういいでしょう!?」

「おおー。劣勢を流して他人に擦り付けよった」

「隊長の話術が進化してるの!」

「さすがやでぇ」

「凪なんかず〜っと一緒におるのに全然進歩せんもんなー」

「……悪かったな……」

「で〜もっ!そ~言うところが凪ちゃんのいいとこなのー!」

「初心な感じがして可愛いわー」

「隊長もそう思うよなー?」

「あぁ。可愛いぞ。凪」

「た、隊長!そうやってからかうのは止してください!」

「いや、ホントだって。大人しくて真面目で可愛い」

「〜〜っ」

 

凪の顔が真っ赤に染まる。確かに初心な感じが凄くかわいい。

 

「んん?じゃあウチらは可愛ないと?」

「あぁあ〜。深く傷ついたのー」

「これはもう昼奢ってもらわな今後の関係に良くない影響が出るな」

「さ、凪。早く入ろうか」

「はい。隊長」

「アカン!無視はアカン!!」

「そんなんしたら一流の芸人になれへんで!!」

 

芸人とか目指してないって。

 

 

 「へい、らっしゃーい!!」

 

店内はほぼ満席だった。そんな中凪は慣れた様子で空いたテーブルを見つけ、腰を下ろした。俺たちはその後を付いていく。混んでて歩き辛いな。

 

「あん?なんだぶつかっといてあいさt 「ア゛?」 すいませんでした」

 

誰かが聆にぶつかっていちゃもんを付けようとしたが、一睨みされるとすぐに謝った。

なんとかテーブルに辿り着き、それぞれメニューを見る。

 

「らっしゃーい!何にしましょー!?」

 

ちょうど良いタイミングで店主がやった来た。こういうところも人気の理由なのかもしれないな。

壁に掛けられたメニューを見ながら、まずは真桜が元気よく注文する。

 

「おっちゃん、ウチ、麻婆豆腐と炒飯」

「沙和は麻婆茄子と炒飯と……えーいっ、餃子も食べちゃおーっと!」

「餃子は一人前でいいかい?」

「うん!それ以上食べたら太っちゃうのー」

「じゃあ私は狗火鍋。肉は大きめに切ってな」

「鍋は二人前からの品だけどそれで良いかい?」

「あー。そんくらいは食べるわ」

「えっ?犬?」

「安くてええんやで?」

 

さすが中国……。四足なら椅子と机以外全部食べるってマジなのか……。

 

「ははは……。凪は?……決まってるか」

 

麻婆だよな。

 

「麻婆豆腐、麻婆茄子、辣子鶏、回鍋肉、酸辣湯、全部大盛り唐辛子ビタビタで」

「ちょッ!!?」

「あいよっ!いつもありがとよ」

「いつもなの!?」

 

麻婆はもちろん、回鍋肉は辛味噌炒めだし、辣子鶏は鶏肉の唐辛子揚げだ。酸辣湯はよく知らないけど、「ラー」の音が有るってことは辛いんだろう。それを大盛りで、唐辛子追加とは……!これは辛いもの好きとかそう言うカワイイ次元のものじゃない。聆の言葉を借りるなら、これァ病気ですワぁ。春蘭や季衣と食事した時にその大食いっぷりを目の当たりにしたけど、甘かったみたいだ……。

 

「隊長ェそんくらいで驚いたらアカンわ。もっとヤバいのん色々有るんやから」

「……凪がそれで良いんなら、俺はどうすることも出来ないんだけど、さ」

「あはははっ。やっぱりびっくりしちゃうよねー。沙和なんて分かってても卓の上に真っ赤な物体が並べられていくのにはギョッとするもん」

「ま、凪は小さい頃から訓練された胃袋持っとるから安心し。それより隊長はどうすんの?」

「あ、あぁ。そうだな……うーん、何にするかなあ。おっちゃん、なんかオススメってある?」

「そりゃあ、お嬢ちゃん達も注文してるけど、やっぱり麻婆だね!拘り抜いた挽き肉と唐辛子と山椒が、とろみを研究しつくした餡で具によく絡んで旨みの宝石箱なのさ!」

「おお、なんかよく分かんないけど凄そうだな……。んじゃ、麻婆豆腐と白ご飯ちょーだい」

「へいっ」

 

そして店主は、全員の注文をもう一度確認し、厨房の中へと戻っていった。包丁の音や、炒め物の油が跳ねる音なんかが聞こえてくる。

あー、余計に腹が減ってきたぞ。

 

    ―――――――――――――――――――――――

 

 「はいっ、お待たせしてごめんね〜!辣子鶏と回鍋肉、ご飯はおまけだよっ」

「………………ありがとう」

 

少し時間のかかっていた凪の料理が運ばれてきて、注文の品が出揃った。明らかに大きく、そして紅い皿が凪の前に並ぶ。……料理を見て恐怖を覚えるのって、初めてだな。

 

「こ、これが『唐辛子ビタビタ』……」

 

俺の麻婆豆腐には唐辛子は輪切りで入っている。しかし、凪のソレには胎座、唐辛子の最も辛い部分だけが豆腐が見えなくなるくらいいれられていた。他の料理も同じ。まだ、「まるままの唐辛子で真っ赤」とかの方がだいぶマシだ。辛さだけを集める辺りが本気過ぎて笑えない。

 

「……………………美味しそう」

「そーかそーか、美味しそうか……」

「はい……」

 

凪は恥ずかしそうに頬を染めてコクンと頷いた。

 

「あはは……個性的で良いと思うよ」

「せやせや。凪の食べっぷりは、見てて気持ちいーねんから♪」

「それよりー、沙和もう、お腹ぺっこぺこなのー」

「早よ食べよぅや」

「だな!俺もお腹と背中がくっつきそうだ」

「それってどういうことなん?」

「決まった言い回しみたいなもんだから気にするな。んじゃ……いただきます!」

「「「いただきまーす!」」」

 

 「凪ェ、辣子鶏一個くれんか?」

「もぐもぐ……んぐっ、ん…………はい」

「ありがとー。……沙和、餃子と辣子鶏交換せーへん?」

「凪ちゃんからもらったやつでしょー。それに、沙和それ食べられないのー!」

「じゃあ、こうしよ。私が辣子鶏を食べる。沙和が私に餃子をくれる。どないや?」

「なにが!?」

「聆も取り引きはまだまだやなぁ。ウチが手本見せたるから見とき」

「おぉ!真桜さんっ!」

「沙和、餃子おいしそ〜やなー」

「……あげないの」

「なに、ムリによこせ言うわけとちゃうんや。……ただ、餃子たったの一個とウチとの良好な関係と、……どっちが大切やろなぁ」

「なるほど!脅しやな!よし、私も久々に地団駄を解禁しよっかな?」

「楽進先輩、餃子あげるからそこのチンピラ二人黙らせてほしいの」

「もぐ……ん、分かった」

「うん。そら餃子の方が大切やわな」

「よっし。土下座の準備でもするかぁ」

「ははっ……まるで漫才だな」

 

真桜と聆がずっと立ち位置的に上なのかと思ってたらそうでもないらしい。凪<沙和<真桜,聆<楽進先輩 みたいな?

 

「うわっ!!?隊長何してんの!!!」

「へっ?」

 

いきなり真桜が叫び声を上げ、全員の視線が俺の手元に集中した。

 

「……な、なんか変なことしてるか?俺」

「なんかやあらへんがな!折角の麻婆豆腐を白ご飯にかけて……気持ち悪っ!」

「邪道だよ、邪道〜!変なのー」

「もぐもぐ……もぐ……」

 

凪は何も言いはしないけど、嫌そうに眉をひそめている。

 

「アハハ……個性的で良えと思うで」

 

聆は理解を示してくれたようだ。……若干皮肉のような何かを感じたが。

 

「俺が居たトコじゃ普通だったんだけどなー。食べるの楽だし。それに、聆だって辣子鶏を鍋に浸してたじゃないか」

「あー、気付いとったん?……あれそのままやったら食べられんもん。辛いのちょっと落とさな」

「でも聆の鍋も真っ赤だぞ?」

 

狗肉のインパクトに掻き消されてたけど、スープ自体も火鍋で激辛だ。

 

「ビタビタに比べたら十倍マシ」

 

凄い真顔で返された。

 

「お、おう……まぁでも、こっちじゃ珍しいのか、麻婆丼。……そうだ、食ってみるか?」

「うーん……じゃ、ひとくちだけもらうの」

「……………………私も」

「ん〜〜〜……ッッ、せやったらウチも!」

「聆はいいのか?」

「私、餡掛けと豆腐好きちゃうんや」

「へー、好き嫌いとか無いと思ってた」

「食べられんってわけちゃうけど、できたら食べとうないっていう」

「隊長ー、くれるんやったら早よしてぇなー」

「あ、ハイハイ」

 

凪達は差し出された俺の器から、麻婆丼をそれぞれ自分のレンゲで掬い、恐る恐るといった様子で口に運んだ。

 

「……………どう、だ?」

「おわわ!!?ウマイで、これ!」

「うん、おいしー。なにこれビックリー!」

「……………意外」

「挽き肉と香辛料が餡で米によぉ絡んで相性がええんやろ?」

「聆、麻婆豆腐嫌いな割によく分かってるな」

「理解はできるけど、歩み寄れへんっていう」

「もうひとくちもらうの」

「あー、白ご飯にしとけばよかったなー」

 

沙和と真桜はもうひとくちと、レンゲで掬って食べている。凪は自分の麻婆豆腐を白ご飯にかけ始めた。こっちに来てから文化的にアウェイ気味だったけど、今回は認められたみたいだ。

 

「こ、これは……ッ!!?」

「おっちゃん!?」

 

店主のおっちゃんが俺の麻婆丼を身体をワナワナと震わせながら凝視していた。……そんなに無作法なことなのかな。麻婆丼。

 

「ひ、閃いたぞおおおおおおぉぉーっっ!!!!」

「な、なんだ!?」

「白米に麻婆d(中略)てしまうっ」

「……………………」

 

おっちゃんは麻婆丼をいたく気に入ったようで、麻婆丼のための麻婆豆腐について盛大な独り言を叫んだ。気に入ってくれたのはいいけど、この人も変な人だったのか……。店内のお客さん達ドン引きじゃないか。

 

「あとは、あとは……ッ!!…………よしっ、忘れないうちに試してみるぞーっ」

 

おっちゃんは唸り声を上げながら厨房の奥へ消えた。

 

「あれァ病気ですワぁ……」

 

しんと静まった店内に聆の呟きだけが聞こえた。

 

     ―――――――――――――――――――――

 

 食事を再開し、しばらくした頃、聆がおもむろに口を開いた。

 

「隊長、デブっぽくない?」

「!?」

「せやなぁ。……汗かきすぎやろー」

「あ、おお、そういうことか。こんな辛いの食べてりゃ汗ぐらい出るだろっ……って、俺以外あんまり出てないんだな」

 

本場なだけあって、麻婆豆腐は俺が普段食べていたものよりかなり辛い。ただ辛いだけじゃなく、確かな味のバランスが取れていてドンドンと食べられるんだけど……汗はかく。

 

「言われてみたら、そうだよねー。沙和も凪ちゃんも聆ちゃんも出てないのー」

 

聆なんかは辛いうえに鍋なんだから相当暑いハズなのに……。

 

「なんでそんなコトになるんやろ?」

「汗諾々で料理ガツガツ喰うから大分デブっぽいわぁー。……別にデブを馬鹿にしとんじゃないんやで?」

「……女の子は、みんな天然で女優だからな。そういうふうにカラダが出来てるんだよ。一緒にしないでくれ」

 

聆、俺にデブキャラをつけようとしてるんじゃ……。

 

「天然で女優〜?なにそれー!」

「イミフー」

「分かる言葉で喋ってくれや」

「意識せずに可愛く、美しく在ろうとするってコト」

「えー?沙和はカワイくなるの意識しまくりだよー?」

「服装とかそういうんじゃなくて、基本的な生活習慣とか、そういうのだよ。……つうか、一番驚きなのは凪だよ。そんな辛い料理食べてるのに汗ひとつかいてないな。大丈夫か?」

「……もぐもぐ…………」

 

麻婆茄子を口に入れたまま事も無げに頷く。

 

「……確かに、イイ食べっぷりだよなあ……」

 

がっついてるわけじゃないのに、お皿の上の料理がスルスルと減っていく。当然、大量の唐辛子(胎座)も食べてるんだけど……。

 

「……………………」

 

けろっとしたもんだ。

 

「変態長が本領発揮しとるな」

「えっ!?なにが!!?」

「女の子がご飯食べてるの、じーっと見るのはあんまり良いことじゃないのー!」

「おぉ、そりゃそうか。すまん」

「…………良いです」

 

凪は、気にしていないと首を振り、食事を続ける。凶器にすら思える唐辛子ビタビタの料理がどんどん消えていく。

 

「……………………凪、ひとつ貰っていいか?」

「もぐもぐ…………」

 

コクンと頷いた。それにより唐辛子ビタビタへの恐怖と好奇心のせめぎ合いは好奇心に軍配が上がった。おそるおそる辣子鶏に箸を伸ばし、唐辛子まみれの鶏肉を口に放り込んだ。

 

「ぱくっ……もぐ……あ、なんだ。結構美味し……ッくぁwせdrftgyふじこlp〜〜〜〜っッアアッマドニッマドニッ!!!?!?!?」

「あーあ」

「何で辣子鶏やねん……見るからにアカンやろ」

「な゛ん゛だ゛こ゛れ゛い゛み゛わ゛か゛ら゛ん゛」

「私が、鍋に浸した上にチビチビ食べよったん気づかんかったん?」

「うぃ、隊長、水」

「ありがと……っ……ゴクゴクゴク……!?ぶはっ!?!!喉が!!!?」

「あ、ごめん酒やった」

「酒!?即死系の毒薬とかじゃなくて?ってか、誰か水を早く!ボケとか無しで!!」

「はいなのー」

「ありがとう沙和!」

「だいじょーぶ?たいちょー」

 

俺は涙目になって頷きながら、自分の軽率さを激しく後悔する。辛いとかじゃない。口から喉を鋭い痛みが駆け抜けた。

 

「俺もこっちに来てから色々と食べたけど……これほどの衝撃は初めてだ……。そしてこの先もきっと無いと思う」

「大袈裟やなぁ」

「いや、だって、いくら辛いと言ってもせめて食べ物だと思うだろ?違うんだぜ?兵器だ。これは……ッ!!」

「………………美味しいのに」

「……はは………」

 

乾いた笑いを返すことしかできなかった。残りの麻婆豆腐も食べたけど、しばらくは口が痺れて味がよく分からなかった。

恐るべし、唐辛子ビタビタ。

 

      ―――――――――――――――――――――

 

 「たいちょー、ごちなのー!」

「ごっそーさーん!あー、美味しかった!」

「結構ええ狗使うとったな」

「……ご馳走様です」

「くっそー……お前ら隊長にマジで奢らせるとか……」

「でも領収書切っとったし」

「たいちょーのお財布が直接痛むわけちゃうやん」

「むっ……目ざといなぁ。だけどあまりやっちゃうと桂花に殺されるから、次はワリカンな」

「わかっとるがな〜♪ほんま、おおきにー!」

 

分かってるなんて言っても、次もたかられるんだろうな。でもまあ、四人の喜んだ顔を見られるのは嬉しいもんだ。たまになら奢るのもいいかもな。




長丁場ェ
このフェイズ、シーン多いですね。
・一刀さんの部屋
・街中、店の前
・注文前
・食事一
・麻婆丼
・天然で女優
・華琳は辛いものが苦手(カット)
・唐辛子ビタビタ
・締め

カット数が多いとその分一旦流れが切れるので書くのに時間がかかってしまいます。


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第五章拠点フェイズ : 【夏侯惇・夏侯淵伝】春蘭の涙

一度データがすっ飛んで書き直しです。
昨日の夜一時のことでした。

春蘭はたまに本気でアカンことをするあたり、
なんちゃってバカと一線を画すガチバカの気概を見せてくれていると思います。


 「聆ちゃんおつかれーなのー」

「な~聆、明日暇かー?」

 

自分の隊の調練の後、片付けを終えて一息ついた私に、同じく調練していた真桜と沙和が声をかけてきた。

 

「明日って、正確にはいつや?」

「今夜から明日の昼までや。なー、そんで暇なん?」

「暇か暇じゃないかは要件聞いてから決めるわ」

「言ってることめちゃくちゃなのー」

「まぁ落ち着けや。私の言うとることがちょい変なんは今に始まったことじゃない」

「あ、自覚あったんや」

「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。やで」

「この場合、敵ってなんなのー」

「自分自身の弱さかな?」

「十割自分のことだけやん」

「所詮人は皆自己中心的なもんやってこっちゃ」

「せやなぁ」

「……まって。なんで沙和たちこんな話してるの?」

「あ、せやったせやった!聆、明日暇か?」

「やから、要件早よ!」

「あのね!最近大人気のお店に、限定のお菓子を買いに行くの!早いうちから並ばなきゃだけど、すっごく美味しいって有名なのー!」

 

菓子か。無いな。

 

「残念!私明日は巡回当番やったん思い出したわ」

「ちょ〜、沙和、何でとりあえず酒言うとかへんねん」

「つーか、お前らも当番やろ」

「ちょ〜っと並ぶだけやんか〜」

「夜跨いどって何がちょっとなん」

「あーあー。聆ちゃんまで真面目っ子になっちゃったのー」

「いやー、私の隊って小賢しい奴多いからなぁ。菓子買うから仕事サボったとかなったら反抗されかねんわ」

 

通常、軍隊では集団行動の妨げになるため個々の思考は抑圧されるのだが、我が隊ではそれを活かし、頭が良い、つまり脳味噌の性能が高い奴をリーダーに据えて多数の小隊を作っている。突進力が低い代わりに、逆にイナシと特殊工作では他に無いほど輝く。戦場では心強いんだが、一度反感を持たれると非常に厄介だ。酒関係はすでにキャラ付けされているから許されるだろうが、菓子はナメられそうだ。……もともと好きでもないしな。

 

「あー、なんや聆のとこネトっとしたヤツ多いもんな」

「まー、そういうこっちゃ。また午後にでもそっちに顔出すわ」

「じゃあしかたないのー」

「せやなぁ。凪でも誘うか。凪ドコ居るか知らん?」

「武器庫ちゃう?」

「お〜。あんがと。じゃーまた明日〜」

「うぃ〜。おつかれさ〜ん」

 

さて、後は日が落ちるまで裏庭で投具の鍛錬するか。そんで水浴びして酒飲みながら老子読んで寝よう。

 

   ――――――――――――――――――――――――――

 

 陳留は今日も平和だ。今いるのが東側というのもあってか、事件のじの字も無い。非常に帰りたい。私にはあまりボーっとしている時間は無い。戦場でうっかり格上とエンカウントすることも有るだろうし、精神衛生のための娯楽と鍛錬以外にはあまり時間を使いたくない。正直、隊長格が直々に巡回に出るのはどうなんだ?……いや、そのメリットは分かっているんだが、こうも暇だと否定的な考えも出ようというものだ。

午後から何するか考えとくか。二課の課長相手に五胡格闘の練習でもしようか。久々に喧嘩殺法も良いかもしれない。

 

「鑑惺様!」

「誰が何処で何した」

「え、えと……夏侯惇将軍が四条二小路四坊大路辻付近にて大泣きなさっているとのことです!」

 

は?

 

「……周囲の状況は」

「菓子が散乱しており、夏侯淵将軍と北郷将軍が呆れ顔で何やらおっしゃっていたと」

 

秋蘭が居るのか。なら急ぎ何かする必要も無いな。

 

「ほんだらお前は通常任務に戻れ。私は一応その辺に行っとく」

「……よろしいのですか?」

「春蘭さんを一般兵がどないかできるかいや」

「そ、そうですね」

 

大方、買った菓子を春蘭が持ちたがって、その後うっかり落としたとかだろう。……それだけでは弱いか。その菓子が華琳への貢ぎ物だったとか?……何かそんなイベント有ったような気がするな。

それにしても碁盤の目区画整備は便利だ。場所が一瞬で分かる。華琳様々だ。これでもう少し砂利っぽい地面がどうにかなればなぁ。芝生とか提案してみるか?面倒臭いから却下だな。

 

「――……ね者ぁぁぁっ!」

 

うん?秋蘭!?

 

「死ぬな!死ぬな、姉者ぁぁっ!」

 

アカン。秋蘭が取り乱しとる。死ぬとか死なんとかいう言葉はダメだ。住民が混乱しかねない。

 

「鑑惺様!!」

「私が本人のとこに行くからお前ら人払いしとけ。退去はさせんでええ。野次馬が集まらんようにせえ」

「はっ!」

 

声のした方へ全力疾走する。街ゆく人々はほとんど避難と言ってもいい勢いで道を開けてくれた。そりゃフルアーマーでクソでかい武器を持った巨体がジョンソンダッシュしてたらビビるわな。

 

「姉者ーっ!」

「そこまでや!」

「聆!」

 

私が到着したとき、地面に倒れた春蘭の上体を秋蘭が抱きかかえるようにして、天に叫んでいた。一見春蘭に何か重大なことが有ったように見えるから質が悪い。当の本人は絵に描いたようなキョトン顔だが。一刀は私を見てホッとした様子だ。

 

「一体何があったんや!?いや、マジで!!」

「いや、私がちょっt

「姉者が!姉者が馬群に巻き込まれてっ!」

 

春蘭のセリフを遮って秋蘭が叫ぶ。確かに馬群は近く居たが、こちらも非常に落ち着いたもので、この場で騒いでいるのは秋蘭だけだ。……ストレスで心が………?

 

「まぁ、秋蘭さん落ち着いて」

「でも、姉者が……っ!姉者がっ!」

「……それ、ガチでやっとる?」

「ネタだが?」

「ネタかぁ。よかったよかったふざけんな」

「すまないな。年甲斐もなく街中で号泣する姉者を見て私もやってみたくなった」

「しゅ、しゅうらぁ〜ん……」

 

あぁ、秋蘭は隠れボケだ。

 

「泣くんはえぇけど、そういう死ぬとかなんとかの物騒なネタはやめてくれんか。住民が混乱しかねん」

「済まない」

「隊長も一緒におったんやったら注意してくれな」

「いや、秋蘭まで暴走したら俺にはどうしようも無いって!……それにしても、聆はまじめに働いてたんだな。さっき真桜たちに会ったけど、あいつら二回も限定菓子の列に並んでたんだ」

「何?ご褒美くれるん?酒が良え。酒くれや」

「……あげるつもりだったんだけど、そうやって催促されるとちょっとな……。冷静にかんがえたら当番の日に仕事するのって当たり前だったな」

「えー、じゃあ無しか?」

「う〜ん、どうしようかな」

「……ならば私が昼でも馳走してやろう。迷惑もかけてしまったしな」

「よし酒の呑めるとこで」

「本当に貴様は酒ばかりだな」

「春蘭さんにとっての突進みたいなもんやで」

「お、おう?そうか」

「春蘭、分かってないのか……」

「う、うるさいバカにするな!」

「うわ!!危ねっ!」

 

春蘭が一刀に飛びかかった。

 

「……早く行こうか」

「ぼさっとしとったら第二第三のゴタゴタが起きるな……」

 

まだ終了時間ではないが、さすがに夏侯姉妹と天の御使い相手の昼食に文句は出ないだろう。

 

    ――――――――――――――――――――――――

 

 「やっぱすげぇな鑑惺様」

「夏侯淵将軍に説教したよ……」

「私報告行ったんだけど冷静過ぎて寒気したわ。……良い意味で」

「俺達の自主性を重視する割に、俺達自体はすっごい冷めた目で見てくるよな」

「……そこが良いのよ」

「お巡りさんコイツです」

「……そこの変態もお巡りさんだぞ」




あと二三言ってとこでぶっ飛びました。
心が折れました。
でも一日で治るのは愛のなせるワザ。

そろそろ批判米が来る時期ですかね?


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第五章拠点フェイズ :【鑑惺伝】鍛錬系イベント初回

咳、鼻水が終わったと思ったら貧血がきました。
なんじゃこりゃ。

今回は短いです。
オチがやりたいがためだけに書きました。


 「はあっ!」

 

掛け声と伴に木刀を振り下ろす。引き戻してもう一度。ゆっくりと動きを確かめるように繰り返す。踏み込み、振るい、また構える。その動作が淀みなく混ざり合い重なり合うように。更に速く更に柔らかく。身体にこの動きが刷り込まれ、実践でも、浮足立っていても、敵が襲ってきたら縦一文に叩き斬れるように。

 

「っほぃ」

 

カツーン

 

「いてっ!?」

 

横から何かが投げ込まれ、振り下ろす木刀にちょうど当たった。予想していなかったせいか、叩いたのはこっちなのに反動で手が痺れる。

 

「無心なり過ぎや。それに途中から雑くなっとった」

「聆……。うーん、確かになぁ……」

 

反復で途中から動きの細部への意識が抜けるのは昔からの悪いクセだ。じっちゃんにもよく注意されたっけ。

 

「そう言えば前、一緒に鍛錬しよ言うとったなぁ」

「お!相手してくれるのか?」

「私も丁度体動かそ思とったとこやし。部下として隊長にはある程度強ぉなってもらわんと。……ちょっと目ぇ離した間に雑魚に討ち取られとったとか情けなさすぎるやん?」

「……有り得そうで笑えないな」

 

三人程に囲まれたら軽く死ねる自信有るぞ……。

 

「じゃあ、とりあえず実力とか傾向とか見たいから、私と打ち合おか」

「……手加減はしてくれよ?」

「さー、それはどないやろな?」

 

いや、確定だろ。

 

    ――――――――――――――――――――――――

 

 適当な距離を空けて向かい合う。中段に構えた俺に対して、聆は木刀を右手に軽く握り、だらりと地面にたらしている。……のだが、威圧感がすごい。普段普通に話してるけど、やっぱり聆も武将なんだな。鑑惺って人物は聞いたことないけど。

 

「あれ、聆っていつも左手に武器持ってなかったっけ?」

「確かに左手中心やけど、アレって一応両手持ちやし、私がもし補助で片手剣使うんやったら多分右手やろから」

 

よかった。露骨な手加減アピールじゃないんだな。

 

「じゃ、そろそろ始めるか」

 

そう言って聆も、片手ながら、俺と同じく中段の構えをとった。

 

「構え無しとかじゃないんだ……」

「それ、いかにもナメとるって感じで嫌やろ?」

「そうだけど、ちゃんと手加減してくれるんだろうな」

「何?フリなん?」

「いや、真面目な話、聆に本気出されたら何も分かんないまま終わっちゃうだろうから」

「……せいぜい祈れや」

 

周りの空気がスッと沈む。凪が集中した時は炎のようなオーラが出るんだけど、聆はやっぱりかなり違うタイプなんだな。

 

 

 「っ!!」

 

聆の挨拶代りの真正面からの袈裟斬りを合図に試合が始まった。意外にも聆の太刀筋は直線的で、受け流すのに苦労はしない。……戻りが速すぎて反撃する暇はないけど。

 

「せいっ!!んな!?」

 

流したと思った剣がそのまま戻ってきた。飛び退いて距離を取ろうとするも、軽い一歩ですぐに詰められる。体格の差がモロに出ている。たった数センチの差でもその影響は大きいものだ。さっきとは違い、上から圧し潰すような剣戟が降り注いで、上体が仰け反ってしまう。一気に畳むつもりか!?

 

「っらァっ!」

 

トドメとばかりに大振りに振るわれた剣を左に流すと同時に、右前に踏み込み、

 

「胴ッッ!!」

 

が、これはスルリと退がって避けられた。なら、もう一撃!

 

「ハッっ!」

 

聆はゆっくりと退がりながら確実に俺の攻撃を受け止めていく。なんとか攻め徹さないと、ここで覆されたらそのまま負けてしまいそうだ。

 

「せいっ!はっっ!!ったァッッ!!」

 

手を休めず、ひたすら打ち込んでいく。が、聆の後退が止まり、逆にジリジリとこちらを押し返し始めた。斬撃を尽く流され、間合いより内に入られ、攻めている筈なのに追い詰められる。たまらず横にズレて間をとった。聆もそれにシンクロして逆に動き、始めよりも大きな間が空く。

 

「……仕切り直しってことか」

「トドメやで?」

「何言って……っ!!」

 

いきなり目の前に斬撃が飛んできた。何とか防げたが殆ど運だ。間合いを詰められたわけじゃない。聆は未だ三メートルほど向こうに立っている。

 

「私の間合いは素手でも八尺有るんや」

 

ゆらり、と聆の身体が揺れた。

 

/ヽ゛シィッッ

「ガッっ!!?」

 

腹に激痛が走り、膝が崩れ落ちる。間違いなく今回で最速の一撃。もはや目には見えず、防ぐ手立てなんて無かった。これが本当の聆のスタイル……。直線的な動きは、本当に、ただ俺の力量を試していただけだったみたいだ。

 

「おぉ……。ちょいやり過ぎたかな」

「いたた……。分かってたけど……あんなに鮮やかにキメられると凹むなぁ」

「ホンマは一発目で終わるはずやったんやけどな。よぉ止めれたわ」

「……なぁ、これで、聆は凪には敵わないって、マジ?」

「凪、氣弾爆発させるし……」

「ああ……」

 

確かにアレは何というか、理解を超えすぎて逆に自然な感じがするレベルだ。

 

「で、隊長の問題点やけど、……特定の動きは滑らかやのに他となると素人みたいな適当打ちになる感じ?あと足元への攻撃に弱すぎ。ただ、流しと根性と反応速度はそこそこや。素振りより対人練習増やした方がええんちゃう?」

「……なかなか、人とか時間の都合がつきにくいんだよなぁ。皆、もちろん俺も何かと忙しいし」

「じゃあやれるときにやっとくか!」

「え゛っ」

 

    ――――――――――――――――――――――――

 

本日の成果

腹筋が割れた(外傷)




私が強いんじゃない。お前が弱すぎるんだ。

一刀さんvsその辺の雑魚でも同様の現象が起きます。
一刀さんは春蘭の斬撃を木刀で往なすことができる変人。


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第六章一節その一

原作第六章一節は驚異的な長さです。
流琉スカウトから虎牢関までノンストップ。
しかも聆が絡めるようなイベントがあまり無いという。

反董卓連合での軍議には北郷隊四人娘は身分的に参加できないので、
戦闘準備→待機→進軍→待機→汜水関(ヌルゲー)→待機→進軍→虎牢関
という動きに。しかもずっと作業なので他キャラとの絡み無し。
連合軍議中に独自に斥候放とうか?


 「兄貴!敵軍が見えてきやした!!」

「くくく……この峠に入る前から補足されてるとも知らずに……」

「数は変わりなく二百ほどなんだなー」

「おいおい、こっちは八百だぞ?ナメてんのか曹操さんはよぉ?」

「黄巾本隊で受けた恨み、コイツラにぶつけやしょう!!」

「おラ!野朗共ッッ!!調子付いた曹操軍に今までの鬱憤まとめてぶちまけてやれ!」

「「「オオオぉぉオッッっ!!!」」」

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

 

「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」

「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」

「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」」

 

「なっなんだァ!!?」

「も、森からなんだなー!!?」

「森から曹操軍の大群が湧いて来やした!!」

「か、囲まれてるんだなー!?」

「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」」

「なんなんだ一体!?援軍が来てたようなそぶり無かっただろ!?」

「それに、この叫び声は!!?」

「とにかく何処か包囲の薄いt「FOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「撤退!!撤「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「逃「FOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「FOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」

「「「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」」

「「「「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」」」

 

 

 辺境の黄巾残党討伐、しかも厄介なことに将崩れが居る集団の討伐に出された腹いせに、ちょっとはっちゃけた作戦を試してみた。その名も「森の人作戦」と「バケモンのマネ作戦」。

森の中に大量の兵を潜ませたい。でも、一気に入れると気づかれてしまって潜む意味が無い。かと言って少しづつ入れると最初の方に入れた奴らが森の中に滞在しないといけなくなる。ならば森の中で生活出来るように教育すればいいじゃん常考。というのが「森の人作戦」。

連絡と威嚇に、音が通りやすくて雰囲気ヤバそうな欧米風高音SHOUTを取り入れたのが、「バケモンのマネ作戦」だ。

半ばヤケ、四分の一おふざけ、残りがマジでやってみた作戦だったが、凄い効果が出た。包囲にも全く気付かれていなかったし、相手のビビり方と言ったら、それはそれはもう正にバケモンでも見たような顔をしていた。

特にSHOUTの方は、前々から気にしていた連絡手段の問題をどうにかできそうだ。大まかな指示しか出せないだろうが、それで十分。細かい動きは各リーダーがやってくれる。今回はとりあえず討伐に参加している奴らだけにやらせてみたが、帰ったら早速、鑑惺隊全体に習得させよう。

 

   ――――――――――――――――――――――――――

 

 帰ったら早速反董卓連合に出発することになった。ついでに、流琉も合流していた。こういう、私の知らないところで物語が進んでいくのを見ると、私が端役であることを実感させられる。定軍山や赤壁もこんな風に進んでいってしまうんだろうか。……もはや天に祈るしかないか。

それはさておき、とうとう三国志も本番に差し掛かってきた。ここから終盤まではよく訓練された敵を相手に、華琳様の怒涛の運ゲー&嘗めプラッシュだ。兵力的に最強クラスの安定性を持つ魏が何度も危機に晒される。それを打開する策も、ほとんど運任せだ。……だからと言って私にどうこうできるものでもない。与えられた状況の中で、思いつく限りの丁度いい行動を選択できるように、あらゆるスキルを会得するしかない。

その第一の今回の反董卓連合、張遼・かゆうま・呂布が揃う大戦だが、実は私にとってそれほどでもない。確か、一戦目は関羽がやってくれるし、二戦目は相手が勝手に退いてくれる。都では張遼に春蘭がべったり張り付いていて、呂布もなんかいっぱいの武将に囲まれていたような。仕事といえば、流れてきた雑兵か、モブ将の相手だろう。恐れることは無い。鑑惺隊とて今では数多の戦を生き抜いた戦人集団なのだ。経験値として喰ってやる。

 

 一先ず目指すは連合の集合地点。

 

 私 達 の 戦 い は こ れ か ら だ !




また主人公の考察ばかりで面白くない回。
ここから六章終わりまで本当に他キャラとの絡みも少なく、
わくわくするような戦いも無いという。
部下との会話が肝になりそうですが、
オリキャラ化しそうでちょっと心配です。
拠点フェイズの霞姉との絡みを楽しみに書き上げたいと思います。


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第六章一節その二

原作改変物ならここが第一の山場なんでしょうね。
原作改変物ならね。
この作品では相当の暇パートです。


 「聆、凪、沙和、真桜。顔良の指示に従って陣を構築しておきなさい。桂花はどこの諸侯がきているのかを早急に調べておいて。私は麗羽の所に行ってくるわ。春蘭、秋蘭、それから一刀は私に付いてきなさい」

「うぃ」

「御意」

「了解しました」

「……俺も行くのか?」

「他の将の顔も見ておくといいわ。何か得るものもあるでしょう」

「……了解」

 

黄巾残党討伐から数日。私達は反董卓連合集合地点に到着していた。華琳はこれから諸侯との軍議に参加するらしい。私もグダグダ会議参加したかった。あの頃はハムソンさん輝いていたもの。

 

「では、曹操様の陣はこちらに……」

 

顔良に案内されてかなり広めの空き地にやってきた。曹操軍全員分の天幕を建てるんだが……実際のところ、一つの天幕に結構大人数入れるので数はそこまで要らないし、練度の高い曹操軍の兵は天幕を建てるのも慣れているので、隊長格の仕事は完了報告を受けるくらいなものだ。私には追加で華琳の天幕の調度品のセッティングがあるのだが、そこまで気を張ることでもない。要はOL時代の私の部屋の配置を再現すればいいのだ。「女の一人暮らしなのにキレー」と有名だった私の部屋を。華琳も以前、整っているのに凄く快適だ、と喜んでいた。

 

「鑑惺様。北郷隊天幕設営完了しました」

 

飾りの剣をどこに掛けるか思案していたところ、報告がきた。

 

「うぃー。……おお、三課長か。戻ったら各課長共に面倒が起きん程度に諸侯の陣の見学するように言うてくれ」

「……偵察、ですか?」

「いーや。あくまで見学や。数値とかキワドい情報は桂花さんが取ってくる。お前らには雰囲気とかを見てきてもらいたい」

「分かりました。そのように伝えおきます」

「良し。行け」

 

三課長か……。アイツ私と喋るときニヤニヤしてるから嫌いだ。誰か裏切り者が出たら真っ先にアイツを疑う。いつも大人しい奴が一番怪しい、というセオリーは置いておいて、アイツ。だって普段伝令とか報告とかで出張って№2面してるし、何より若い娘だから。恋姫的に、私に成り代わって幹部になる可能性がある。

 

 「……よし、ここやな」

 

剣の位置も定まり、やることがなくなってしまった。

 

「聆ー。終わったかー?」

「おぅ。丁度えぇとこに来たな」

「何かおもろいこと無いー?暇で暇でしゃーないねん」

「とりま沙和と凪とかと合流しよーや。新しぃ来た流琉とか言うのんとも喋りたいし」

「せやね。たぶん真ん中の広場辺りにおるんちゃう?」

 

華琳の天幕から出ると、目が痛いほどに日が照っていた。そんなに意識はしていなかったが、やはり天幕の中は相当暗い。当り前だがな。

 

 「あ!聆ちゃん!今ねー、腕相撲やってるんだけどー、流琉ちゃんがすごいのー!今から凪ちゃんとするんだよー」

 

広場には人だかりが出来ている。その中心には、凪と流琉。机を挟んで……ああ、凪が負けた。"流琉と比べれば"凪は技術型だもんね。仕方ないね。

 

「あっちゃー!凪も負けたんか!こりゃ聆、あんた行くしかないな」

「は?何言っとんお前」

「新たなる挑戦者ーー!!鑑 嵬 媼!参上!!なのー!!」

「おい沙和ふざけんな」

 

とたんに周囲がざわめき始め、腕相撲のフィールドである机までザッと道が空いた。まったく、曹操軍はこういうトコでも練度が高いぜ!

こうなってはもはやどうしようもない。

 

「……沙和、後で覚えとれよ」

「あ、あははー……」

 

何か打開策を考えるため、努めてゆっくりと歩く。

 

「鑑惺様キタ━(゚∀゚)━!」

「主力鬼来た!これで勝つる!!」

「いったれ熊殺しー!!」

 

あ、真桜テメェ。

 

「鑑惺様なら……鑑惺様ならやってくれる……」

「強い!絶対に強い!」

「アハハ/ヽ戦法来るー!?」

「酒追加!酒追加!!」

 

期待され過ぎだろ。これ裏切ったら、落差ですんごいことになりそうだ。……なんとしても勝たねば。……なんとしてもな。

机の前まで着いた。流琉の正面へと立ち、まっすぐに見据える。

 

「……随分慕われてるんですね。鑑惺さん」

「何でこんな興奮しとんやろな。皆」

「それだけ鑑惺さんに期待してるんですよ」

「凪より力弱いから期待されてもなぁ。それと、聆、でええで。典韋……さん、かな」

「流琉でいいですよ。聆さん」

「くくく……。怪我せんよーに手加減くらいしてな」

 

そう。怪 我 を し な い よ う に。

 

そしてグッと手を握り合う。……これだけでも基礎筋力の差を感じる。レフェリーの季衣がその上に手を乗せた。

 

「よーい……始め!!」

「っ!!」

コッッ

「えっっ??」

「はいドーン」

ドッッ

「……しょ、勝者、鑑嵬媼!!」

…………

「SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」

「えええええええええええ」

「何 が 起 こ っ た ん だ」

「!?」

「どういうことなの……」

「はいドーンwww」

「鬼隊長マジ鬼隊長」

「理屈じゃない………!!」

「今回の腕相撲は典韋将軍の見せ場であって、鑑惺隊長は残念ながら噛ませ犬……。そんなふうに考えていた時期が俺にも有りました」

 

噛ませになったらお前らどうせ言う事聞かなくなるだろーが。

 

「すごーい!聆ちゃんすごいのー!!」

「流琉とはボクでも互角なのに!」

「おい聆、なにか変な修行でもしたのか?」

「ボロクソに負けた聆を笑うつもりやってんのに……」

「真桜と沙和は後で天幕裏な?」

「ちょ、鑑惺先輩勘弁してください」

「あ、あの……聆さん……?」

「お?なんや?」

「さっき、手首が……?」

「オ?なんや??」

「ナンデモナイデス」

 

そこへ怒声が響き渡った。

 

「貴様ら!何を騒いでいる!!」

 

春蘭さん激オコじゃないですかヤダー。

 

「あ、春蘭様!腕相撲してたんですけど、凄いんですよ!!聆ちゃんが流琉に勝っちゃったんです!!」

「なんだと!?」

「はぁ……。聆、お前だけは"こっち側"だと思ってたのにな……」

 

何か一刀が落ち込んでるんだが。

 

「……聆!私と、しろ!!」

「ファッ!?」

「春蘭様だいたーん」

「おい春蘭いきなり何言ってんだ!?」

「いや、どう考えても腕相撲やん」

「そうだぞ!何をそんなに驚いている」

「……春蘭様は間を抜かして喋るん止めよな」

「う、うるさい!で、聆!腕相撲しろ!!」

「嫌やー!絶対怪我するもん」

「何だ、こわいのk

「静まりなさいっ!!」

 

華琳の声に、皆ビクリと体を震わせ、口を閉ざす。

 

「春蘭……私は、騒いでいる兵を静めて出発準備させるように言ったはずなのだけれど……」

「も、申し訳ありません華琳様!!しかしなg

「お黙りなさい。言い訳なら後で聞くわ。……皆!陣を畳み出発の準備を整えよ!!それができ次第汜水関へと進軍を開始する!!」

 

あれだけ騒いでいた兵たちが一斉に動き始めた。あーあ。せっかく建てた天幕がバラされていく。特に苦労もしてないから別にいいが。私も部隊をまとめとくか……。

 

    ――――――――――――――――――――――――――

 

「それにしても腕相撲凄かったなぁ」

「私、孫何とかのとこに見学行ってたから見れなかった……」

「許緒将軍と互角っていう、新しく入った典韋将軍を鑑惺様が瞬殺したんだぜぇ。野性的だろぉ?」

「むぅ……いいもんね!私なんか、鑑惺様に『良し。行け』って言ってもらったんだから!!他にも、『お前ら』を一番多く聞いてるのも私よ!」

「何を言っているんだコイツは……」

「そっとしておこう……。変態がうつる」

「なによ!失礼ね。気持ちいいことを気持ちいいと言うことがどうしてイケナイの!?」

「キモいしコワいからだ」




汚いさすが聆汚い。
流琉ちゃん相手でも小細工全開です。

クレイジーサイコレズが発生しました。
名前は一生付かんがな!


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第六章一節その三〜戦闘パート〜二節その一

相撲を見てるとドキドキしますね。
栃煌山と安美錦が好きです。


 「汜水関の敵の総大将は華雄という将。こちらの先鋒は公孫賛と劉備。我が軍は戦闘準備して待機しておく流れとなると思われます。また、曹操様は劉備及び公孫賛に恩を売っておくお考えのようで、多くの情報を両陣営へと流すもようです」

「なかなか暇なコトになりそうやな……。で、各課長の見学の感想はどんなもんや」

「はい。まず、袁術陣営ですが、士気の低い袁術臣下連中と練度の高い孫家連中との間で相当の確執が見受けられました。逆に、劉備陣営は、練度はその辺の義勇軍並みでは有るが活気が有り、公孫賛陣営と一つの軍と見ても差し支えが無いほどに連携しているとのこと。袁紹陣営は規模こそ最大なれどそれだけの人数をまとめる将が不足しているように感じられたと。次に、西涼連合ですが……」

「なんや、早よ言え」

「『馬糞の臭いがした。早く滅びちまえ』……と」

「第何課やそれは」

「六課です」

「そいつに『お前サイコーだぜ』って伝えとけ。じゃあ下がれ。ゆっくりしとってええぞ」

「はっ」

 

劉備んとこってそんなに練度低いのか……。まあ、あそこは伝説級の武将が十何人も付くからそのくらいでも構わないのかもしれない。

 

「……なんや聆、あんた怖いなぁ」

「悪の親玉臭がぷんぷんするのー……」

「馬糞臭ぷんぷんの西涼よりマシやん?」

「聆、それを西涼の連中に聞かれたら戦争が起こりかねない……」

「多分勝つから大丈夫」

「うわぁ……」

「……」

「聆は遠いトコロへ行ってしまったようだ……」

「冗談って分かれや」

「于禁様!」

「どうしたのー?」

 

伝令が駆け込んできた。私達の中で最も前方に展開する于禁隊の者だ。……ということは、前線で何かあったのだろう。

 

「袁術陣営が突出して軍を動かしています!」

「先鋒は誰や」

「孫の旗ですので、おそらく孫策かと」

「分かった。凪、お前が華琳さんトコに行ってくれ。一番速いやろ」

「言われなくてもそうするつもりだ」

 

駆け出した凪はすぐに見えなくなった。速すぎるだろ。本当に人間か?いや。乙女武将だ。

それにしても袁術……。可愛いけど上司には絶対に欲しくない。張勲もこういう無茶を止めておけばあるいは袁術も終盤まで良い位置に居られたかもしれないのに。そういえば張勲って袁術と二人で居られたらそれでOKっていうスタンスだったっけ。なら仕方ないね。

 

 

 程無くして孫策が汜水関攻略に失敗したと連絡がきた。今度こそ正式に劉備と公孫賛が攻めるようだ。巨大な壁たる汜水関の足元に、両陣営が助け合うような動きを取りつつ展開していく。実際、この二軍は相性が良い。将が不足している公孫賛に劉備側の英雄共。練度が低く機動力に問題が有る劉備を公孫賛の騎馬がフォローする。あとはかゆうまを引き摺り出してしまえば終了だ。

 

「あれが汜水関かぁ……でかいな」

 

軍議から戻ってきた一刀がひどく暢気なことを言っているがそれも仕方がない。

 

「……始まりましたね。でも……本当に見ているだけでいいのでしょうか?」

「いいんだってさ。指示あるまで戦闘態勢のまま待機ってのが、華琳の命令だしな」

「むしろ勝手に動いたらアカンやろ。私らは指示が有ったらすぐに動けるように備えとけばええ」

「まあ、この関やったらちゃんとウチらが三倍の兵力みたいやし、大丈夫ちゃうの?」

「あれ?砦から兵士がでてきたの……」

 

かゆうま自重しろ。

 

「……聆、こういう時って、守る側は籠城するもんじゃないの?」

「補給は問題無し、援軍も期待できる、出たところで勝ち目無し。籠城せん理由はほぼ無い」

「……敵、出てきたぞ?」

「さっき劉備陣営が何ぞ言いよったし、挑発に乗ったとかちゃう?」

「守備隊の将ってどんだけアホやねん……」

 

本当に、賈駆は何でコイツを守将にしたんだ。

 

「何だかな……。あ、一騎打ちだ。ありゃ、誰だ」

「きれいな黒髪なのー」

「劉備のところの将軍で、関羽というそうだ」

 

いつの間にかやって来ていた秋蘭が答えた。

 

「あれが関羽…………」

 

一刀が感慨深げにつぶやく。そうです。関羽さんです。なぜか一刀さんの正妻面して多方面に嫉妬しまくるけどそういうところが可愛いと有名な関羽さんです。

 

「秋蘭様、どうしてこんな所に?」

「あまりに暇なのでな。伝令役を買って出た」

「華琳さんは何て?」

「汜水関が破られたら、ただちに進撃を開始。劉備達が様子見で退いた隙を突いて、一気に突破する。敵に追撃をかけるぞ」

「ウチは敵の罠って可能s……あ」

 

かゆうまェ……。

 

「……今負けたのが汜水関の総大将だ。挑発に乗り出てきて負けて、そのまま逃げ出すような輩に……そんな器用なことは出来まい」

「うわ、ホントに逃げ出したよ……」

「じゃ、今から突っ込めばええんやな?」

「そうだ。先頭は姉者が務める。お前達もうまく流れに乗るがいい」

「分かった。聆!」

「うぇい。お前らァ!!進軍開始じゃ!!敵が引っ込んで門閉じるまでに雪崩込め!!」

 

    ―――――――――――――――――――――――――

 

 ちょっとばかし迎撃してきた敵も春蘭が蹴散らしてしまい、汜水関戦は門を潜るだけの簡単なお仕事であった。現在は既に虎牢関手前だ。

 

 汜水関後の連合軍議にて、虎牢関攻めの指揮は曹操、追撃は袁紹と決定した。また、サブクエストに張遼の捕獲を定め、北郷隊の役目は張遼の騎馬隊にプレッシャーをかけ、動きを鈍らせること、となった。

 

「……ってぇのが、上からのお達しや。私らは北郷隊の中でも特に『相手の気を逸らせて士気を下げる』ことに専念することになる。いつも通り相手を流して横にずれ込む戦法を取る。騎馬に対しては、攻め手は馬を狙い、守り手は上からの攻撃に備えろ。歩兵にはいつもより慎重に挑め。鑑惺隊は戦いの中心と違ぉて、あくまで相手を削る役割やってことを忘れんな」

「はっ!」

「良し。んだら私は中央に行く。戦闘になったら戻って来るからそれまで各自準備整えとけ」

 

 

 そして再びの猪かゆうまである。

 

「……出てきたわね。汜水関の時と言い、連中は籠城戦を知らないのかしら?」

「旗印は華。……先日の失態を取り戻そうと、華雄が独走したのではないかと」

「うわぁ……。これァヒドい。春蘭さんでもせんわこんなん」

「おい聆なぜそこでわたしを引き合いに出す」

「デコに手ぇ当てて考え」

「…………うーん、分からんっ」

「おい、後続の部隊も出て来たぞ。旗は呂と張だってさ!」

「気の毒なことね。一刀は全体に通達の指示。本作戦は、敵が関を出て来た場合の対応で行う!」

「分かった!四人とも、行くぞ!」

「はっ!」

「分かった!」

「はーい」

「ウェーイ」

 

 持ち場について華琳の号令がかかるのを待つ。この戦い、私にとっては、張遼隊の直進と鑑惺隊の受け流しの速さ勝負になるだろう。我が隊の中心を正面に捉えられれば踏み潰されてしまう。最悪、それでも二隊に別れただけと考えて戦うが、正直、呂布の居る戦場で完全に隔離されて別行動になるのは避けたい。『分離したまま半分消えました』とか笑えない。

 

「聞け!曹の旗に集いし勇者たちよ!」

 

口上が始まった。ちなみに、その旗デザインしたの私だぜ?

 

「この一戦こそ、今まで築いた我ら全ての風評が真実であることを証明する戦い!」

 

曹魏はその風評に振り回される羽目になるんだがな。

 

「黄巾を討ったその実力が本物であることを、天下に知らしめてやりなさい!」

 

禿同。

 

「総員突撃!敵軍全てを飲み干してしまえ!」

 

 

 最前線にて夏侯惇隊とかゆうまがぶつかり合う。とはいえ夏侯淵隊の掩護によりこちらが遥かに優勢だ。呂布と張遼が迫る。と、それらの隊は戦ういうより、何とかかゆうまを引き戻そうとしているようで、ひどく消極的だ。結局、受け流しとかそんなものは無く、前を掠める馬を倒かすだけのお仕事となった。

やっとかゆうまが撤退の動きをを見せ始めた頃には既に劉備軍と袁紹軍が回り込み、少し遅れて孫家が関の目前まで迫って……アカン……。呂布が……。顔良、文醜、関羽、張飛、孫策の五人を蹴散らした。張遼、人型の猪もそれに続いて虎牢関に引っ込む。城壁の上から、おそらくチンQの指揮で矢の雨が降り注ぎ、迫っていた軍は退かざるを得なかった。かくして虎牢関の戦いは振り出しに戻ったのである。そういえばそんなエピソードだったな。

 

     ―――――――――――――――――――――――

 

 「虎牢関が、無人?」

 

翌日の軍議に提出された情報は驚くべき物だった。私は驚かなかったがな。

 

「はい。袁紹が偵察を放ったところ、中は呂布どころかネコの子一匹いなかったそうで」

「何の罠かしら」

「分かりません。呂布も張遼も健在な現状、虎牢関を捨てる価値はどこにもありませんし」

「マジで誰もおらんかったん?どっか隠れるとこがあるとか、ちょっと離れたとこで突撃準備しとるとかは無いん?」

 

無いのは知ってるけどね!

 

「その辺りは顔良が念を入れて調べたようよ」

「んー……都に立てこもって、本土決戦したいんじゃないの?」

「まだ攻略が始まったばかりのこの段階で虎牢関から離れる意味が分からないわ。地形的にも、状況的にも、谷に作られた巨大な城壁であり、気を配らなければならない民が居ない虎牢関の方が、絶対に護りやすいもの」

「他所から挙兵があったとは考えられませんか?」

「この連合以外に、虎牢関の全勢力を充てなければならない程の勢力なんて無いわ」

「……だよなぁ。小規模な敵なら、せいぜい将一人くらい持っていけば済む話か……」

 

確かに何で下がったんだろうか。十常侍が董卓に手を出そうとしてどうのこうのだったと思うが、それこそ近衛のモブで片がつく話だ。『月の危険が危ない!(錯乱)』とか、賈駆がトチ狂ったのか?

 

「身内に不幸が有ったとかちゃうん?もーそれで良えやん。それよりお風呂入りたい。せめて水浴びしたい」

「おいおい、適当なこと言うなよ」

「考えてもしゃーないやん」

「いっそのこと、どこかの馬鹿が功を焦って関を抜けに行ってくれれば良いのですが……」

「さすがにそんな馬鹿はいないでしょう。ねぇ、聆?」

「……春蘭さんでもせんわそんなん」

「おい聆なぜそこでわたしを引き合いに出す。……って、華琳様も言わせないで下さい!」

「華琳様ー。いま連絡があって、袁紹さんの軍が虎牢関を抜けに行ったみたいなのー」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

馬 鹿 万 歳

 

「やれやれ。汜水関の時は散々言ったクセに、今度は自分が抜け駆けとはね」

「まあ、袁紹が無事に抜けられたら、罠は無いって事でいいんじゃないか?」

「せいぜい石橋叩きまくってもらおぅや」

「そうね。たまには馬鹿に感謝しましょうか。……袁紹が無事に関を抜け次第、私たちも移動を開始するわよ」

 

 

 結局、虎牢関には何の罠も無く、連合は洛陽へと着々と駒を進めた。

地獄(相手にとって)の決戦地、洛陽へと。




恋姫二次では恐らく初の、
汜水関&虎牢関=ヌルゲー。

洛陽決戦こそは聆に戦ってもらいます。


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第六章二節その二〜戦闘パート

おぱんちゅ
おぱんちゅ
おぱんちゅっていう言葉にハマりました。
発音すると何か口の中が気持ちいいです。
あと、美羽様が穿いているのは多分おそらく絶対に、
パンツじゃなくて
おぱんちゅ


 洛陽へ到着してから各諸侯は連日攻めてはいるのだが、なかなか墜とせない。流石にかゆうまも自重しているようだ。じわじわと士気の低下が見られるようになり、ただでさえ悪い連携も更に悪くなる一方だ。夜中に真桜を走らせて城壁ボロボロにしちまえばいいんじゃね?と一瞬考えたりしたが、「さあ、掘るでー!」と言ってたら「上から呂布が!!」というビジョンを幻視したのでなにも言わなかった。そのうち華琳さんがいい案出すから別にいいはず。

 

「連合軍議にて曹操様が提案なさった案が採用されました。内容は、『一日を六等分し、諸侯が交代当番で攻め続ける』です」

 

ほらな。

 

「分かった。別命有るまで待機しとけ」

 

 

 そして、当番制が実行されてから何度目かの夜。

 

「……今夜は敵の反撃が大人しいな」

「そろそろ疲れてきたか……反撃のための準備しとんか……」

「降参してくれないのー?」

「はーあ。夜は寝るもんやでぇ」

「真桜、戦場だぞ。しゃきっとしろ」

「はいはい。……ふわぁぁ」

 

真桜は不満げだが、夜間当番というのはありがたい。鑑惺隊のスタンスとして、特殊戦闘特化を考えているのだが、それにはもちろん夜間行軍及び戦闘、工作が含まれる。比較的安全な夜間戦闘の実践ということだ。それとは別に、今回で分かった事が有る。我が隊は弓がクソみたいに下手だ。帰ったら風呂る次に弓の訓練をしよう。

 結局、それだけが収穫だった。桂花に敵の様子を伝え、昼まで酒飲んで寝る。夜更かしした金曜みたいだな。

 

   ――――――――――――――――――――――――――

 

 そして目覚めてからしばらくしたとき、桂花が私の天幕にやって来た。

 

「貴女にはしばらく劉備の下で戦ってもらうわ」

「あー、うん了解」

「……驚かないのね」

 

ちょっと前に情報回ってきたからな。

 

「春蘭さんが孫子暗唱したとかやったら驚くで。で、細かい内容は?」

「相手の反撃を正面から受けるのを嫌がった袁紹が当番を拒否。代わりに無理やり劉備を据えたのだけれど、劉備にはそれを担うだけの兵力は無いわ。そこで、華琳様は兵を貸すことにしたの。諸葛亮や関羽の力量を測るための間諜と仕込んでね。そしてその首領として貴女。華琳様は、『聆ならば関羽や諸葛亮の思考や指揮を学び取り、万が一無茶な命令が出されたときは兵を守って離脱することが出来るでしょう』と仰ていたわ。引き受けてくれるわね」

「はぁ、選択肢なんか無いくせに」

「悪いわね」

「構わん」

 

 

 指定された兵を連れ、劉備陣営へと向かう。意外と皆素直に言う事を聞いてくれる。元々の練度が高いのも有るだろうが、やはり先日のインチキ腕相撲が効いているんだろう。流琉には悪いことをした。試合中に相手の手首が外れたらそら力抜けるわ。でもあの場で期待を裏切るわけには行かなかったのだ。真の英雄に非ざる私は、風評、つまりは苔脅しに頼らなければならない事が多々あるのだ。

と、そうこうしているうちに到着してしまったな。

 

「我が名は鑑惺嵬媼。曹操軍より支援兵を連れて参った!劉備殿は何処か!」

 

私の声に、桃色の髪の少女が奥の天幕から姿を現した。

 

「はいはーい!援助有難うございます!初めまして。私が劉備です」

 

挨拶バカっぽいなー。そして、それに続いて二人。

 

「関雲長だ。桃香様の下で将として武を振るっている」

「しょ、諸葛孔明でしゅっ!軍師です!」

「ああ。よろしく。援軍は、さすがにそちらの直接の支配下として分解することはできないが、劉備軍の一部隊として扱ってもらって構わない。共にこの戦を終わらせるため尽力しようではないか」

「はひっ!で、では、兵数を確認した後、軍議にて配置を決定しますので、それまではあちらの天幕でお休みになっていて下しゃい」

「誰か有る!鑑惺殿をご案内しろ!」

「はっ!」

 

兵士の後について天幕へと向かう。孔明ェ、盛大に噛みまくりながらも私をしっかりと値踏みしてやがった。やっぱりはわわって演技なのではないのか?

天幕も質が悪いものだ。別に嫌がらせとかではないだろう。全体的に粗悪品で溢れている。やはりそういうところでも曹操軍は質が高い。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「大きかったねぇー!鑑惺さん」

「武器にしても、鈴々の丈八蛇矛に迫る大きさでしたね」

「にゃにゃ!?鈴々の武器が一番なのだ!」

「だから、『迫る』と言っている!……それにしても朱里、いつもより噛んでいなかったか?」

「そんなに緊張したの?」

「……愛紗さんは、鑑惺さんをどう見ましたか?」

「どうした藪から棒に。……そうだな、鎧と身長からくる威圧感はなかなかのものだが、身のこなしから感じられる武人としての力量は……正直、驚くほど高いものではないだろう。すくなくとも、華雄よりは劣r」

「いーや!!聆殿は、かなりのっ!フィッ……器を持つ御仁でしたぞーーー!!?」

「星!!何処に行って……っ!?酔っているのか!?」

「ベロンベロンなのだー」

「聆殿が……酒を嗜むのがーー趣味と風の噂に聞いとぅえ!少しばかりウェヘヒ語らってまいったのがーーっ!少々の食い違いは有れどッそれもまた新しいはっくんのー!」

「もういい!星!!黙れ!!貴様、戦場で酒に溺れるなど!」

「わらひはーー悪くありませんぞっ!!蜜柑の……フィッ爽やかな甘みと酸味がーーキリッと辛口の橙色の神酒でッッ!聆殿がーー、さも事も無げにスイスイスイっとウッフウーー!!曹操のモットに天の使いが降りたツォいうのはッハアーー!?あながち間違いでもないかも知らませんな!あれは正しく天の味!!!!」

「貴様っ!!黙れと言っているだろう!!戦が始まってもまだ酔っているようなら真っ先にお前を叩き切ってやるからな!!」

「うっひゃぁあーー!聆殿ーー!堅物に斬られてしまいますぅーー!?」

「呼んだ?」

「鑑惺さん!?」

「鑑惺殿!どうしてここに!?と言うより、星に何をしたのですか!?」

「なんや騒がしいから…、おっと、何やら騒がしいので何事かと思い按じ、参った。星については……趙雲殿に関しては少々短慮であったと反省している。せっかく声をかけて頂いたのだから親睦を深めようとしてのことだ。あと、メンマもいただいた礼としても。趙雲殿が自分は酒に強いと何度も言ったのだか……大丈夫ではなかったようであるな」

「いや……星はかなりのザルのはずだが……。そういえば、真名の交換までしているのですか!?」

「そうだぞーー??愛紗ぁ!聆殿と私はなぁ!こう……すごいんだ!!!酔に任せたものではあるがッ接p」

「はいもう迷惑なっとるみたいやから黙ろか」

「ななー!?聆殿まで堅物の味方をするのですガッ!??」

「!?」

「!?」

「ちょっとその辺の天幕で寝かせとくおっと、寝かせて来申す。失礼した」

「……鑑惺殿」

「そう不安げな顔をしなさるな。星は、ここを相当面白く思っているようじゃ。劉備殿の理想が腐らぬ限り、ここに残るだろうぜ」

「………」

「んだら、作戦決まったら呼んでくれや」

 

 

 「……口調、ブレブレでしたね」

「…………あのことは忘れよう。して、朱里は鑑惺殿をどう見たのだ?」

「……水鏡先生と同じ目をしていました」

「にゃ?」

「水鏡先生って、確か朱里ちゃんの先生だよね?」

「……どういうことだ?」

「戦でも、政でも、夢でも、目前のものでもなく、世界を、まるで私達が盤上の駒を見るかのように眺めている。そんな目です」

「そうか?もっと俗っぽいように見えたが」

「神や仙人のようであるとは言っていません。何というか……その……」

「とにかく胡散臭い奴ってことなのだ!」

「全く、曹操も厄介なものを寄越してくれたものだ」

「孫策、張勲と並んで、警戒すべき人物の一人だと思います」

「神がかった勘、行動原理不明、言葉では言い表せない怪異か……。前途多難だな……」

 

     ―――――――――――――――――――――――

 

 ……悪目立ちし過ぎた。星ほどではないが私も多少酔っていた。でも仕方なかったのだ。相手が秘蔵の酒とメンマを持ってきて、酒とか恋話とか政治論とかで盛り上がったら、そりゃあこっちも出すもの出さねばならんだろう。今回瓢箪に入れていたのが、スクリュードライバーを模したカクテルだったのも不幸の一つだ。さすがレディキラー。気付いたときにはもう遅い。その酔っ払いまくった星だが、一刻ほど眠って現在はすでにいつも通りの様子で軍の指揮をとっている。私も、余計なことをしたからヤバい任務に当てられるかと思ったが、なんてことはない。またしても後方での援護だ。まあ、私に無茶をさせることは即ち曹操に喧嘩を売ることと同義だからな。

 

 現在最前線で董卓軍にちょっかいをかけているのは、馬超を大将とする西涼連合だ。と、洛陽の正面の門が開く。ついに決戦の始まりということか。劉備陣営内に、関羽の声が響く。

 

「聞け!劉玄徳が義の下に集いし勇士たちよ!決戦の刻は来た!今こそ、暴政を尽くし民から奪った富を貪る逆賊を討ち倒すのだ!都の民の苦しみを、今日!ここで!!終わらせる!!総員戦闘準備!」

 

「突撃!!!」

 

 

 戦闘開始後次々に、予め各所に放っていた斥候が情報を持ち帰った。敵本陣呂布、右翼張遼、左翼かゆうま。つまり、呂布は諸侯それぞれから呂布を潰すためにに現れる将を次々と相手取ることになり、張遼は曹操と真正面からぶつかり、かゆうまは再び関羽と対面することになるのである。言っちゃ悪いが、これ、またヌルゲーなんではな……?ん?前方の様子が変だ。

 

「鑑惺様!劉備陣営、華雄隊に押し切られます!!」

 

孔明の罠である。まんま孔明の罠である。「はわわwww前線突破されちゃいましたwwww」である。前方の友軍がバッカァと割れて、華雄さんを先頭に董卓軍が突っ込んでくる。だが、まだ慌てるような時間じゃない。慌ててもどうしようもないからだ。鑑惺隊ではないので、味方陣中に雲散霧消することはできない。スペースも機動力も足りないので逃げることもできない。受け止めようにもこの勢いで突っ込んでくる華雄将軍を止められる奴なんて居ない。近くの別の軍はこちらの危機などどこ吹く風で無視を決め込んでいる。劣勢の戦には参加したくないらしい。なにか、曹操が気づいて兵を廻してくれるまで時間を稼ぐ方法はないのか?

 

「……下がれ」

「……鑑惺様?」

「早よ下がれ」

 

ザザと味方が後ろに下がり、華雄隊の前に立つのは私と、私の乗る馬だけとなった。私はどうせ別世界の人間だ。なんだかんだ言って、オマケ的な二度目の人生より、今後ろにいる奴らの命の方が重い。

 

「……ほぅ?このような後衛にもこの私と一騎討ちを望むような剛の者が居たとは……と、思ったら随分嫌そうな顔をしているな」

「そら嫌やわ。明らかにそっちが格上やもん。……でもな、ここをタダで抜けられるんはもっと嫌なんや」

「負けを知りつつ尚立ちはだかるか!その意気や良し!!この華雄!責任を持って貴様を叩き潰してやる!!名乗れ!!」

「我が名は鑑嵬媼ッ!!曹操のもとに降りし天の御使いと共に駆ける四将が一人!!」

「「いざ!」」

「「勝負ッ!!」」

 

    ―――――――――――――――――――――――――

 

 二頭の馬が平行して駆ける。そして、私とかゆうま……いや、華雄の打ち合いが続いていた。正確には華雄の一方的な連撃だが。それもかなり手加減した様子の。

 

「ホラホラどうした!そんなものではすぐに飽きてしまうぞ!」

「もうちょい我慢してくれ!!正確にはこっちの援軍が来るまで」

 

そもそも私は馬には一応乗れるが、騎馬戦は殆どやったことが無い。それに、学んだ技術も馬上ではあまり使えない。勝ち目が全く無い、と言うより、逃げ目も生き残り目もない。ならば……。

 

「ッシィッッ!!」

「むっ!!?」

 

何とか距離を取り、左腕で牽制を受け、もう片方の腕で相手の馬の尻に数本の投具を放った。胴体狙いでは防がれる気がしたからだ。それでも一本を残して防がれたが。その一本は突き刺さり、馬は苦痛に転げる。当然華雄も地に投げ出されたのだが……難なく着地。そして私の馬の首を撥ねた。さよなら黒王号(偽)。上手く着地なんて出来るはずもない。数度地面を転がって、何とか立ち上がった。

 

「グッッ」

 

一瞬の暇も無く斬撃が迫る。何とか受け、流そうとするも流しきれない。よろめいたままに更に一撃。二撃。三撃。四撃。

 

「貧弱!貧弱ゥ!」

 

この距離では破滅しかない。

 

「ゥラッッ」

「またソレかっ」

 

比 較 的温く入った一撃を左腕と脚で何とか受け止め、投具。全て弾かれるが、構わない。その間に一歩でも距離を取るのが目的だ。更に退がりながら、腕を撓らせて斬撃を二発。大体四メートルか……。

 

「おいおい、逃げたって変わらないぞ?」

「分かっとっても逃げ出したくなることもあるやん」

 

そう返しながら、にじりと後退る。……この距離。

 

「っ!!!」

ズバンッッ

「な!?」

 

身体全てを撓らせて放つ。射程は十四尺。切っ先は……音速っ!!

 

「嬉しいぞ!!なかなか良いものを持っているではないかッ!」

 

それでも防がれる。だが、今更驚かない。強いのには慣れた。力の限り撃つのみ。

 

「なるほどッそちらもなかなかやる!ならばこちらも行かせてもらうぞ!」

 

引き動作に合わせて華雄が間を詰める。

この時を待っていた!!

 

「かかったなアホが!」

 

こちらからもシンクロして詰め、ゼロ距離となる。前々から考えていたコンボだ。腕を掴み、一気に捻り落と……せない!?

 

「無駄無駄無駄無駄ァッ!!」

 

人体構造的に決してこらえることの出来ない投げを、華雄は人体構造を逸脱した剛力で押し留めていた。

 

「お前があと一割でも多く修行するか、一割でも大きい力をつけていればあるいは勝てたかもしれないな」

 

そして、腹に激痛。見れば、華雄の斧が腹から生えているではないか。いや、刺さってるんだよ常考。ズブリとソレが引き抜かれ、代わりに顎に衝撃が走った。蹴り上げられたのか?視界と思考が真っ白に染まる。意地で華雄に掴みかかった。

 

「 フ・・・は・・・ 返し 付きの 篭手 の爪は い、痛か・・・ろう・・・」

 

倒…れる……とき…は…前……のめ…り……。

 

 

 

「―――くくく……見ろ!!お前らが頼りないせいで今ここに有能な将が一人倒れた!……黄蓋!!すぐ助けに動ける位置に居ながら傍観しているのに私は気づいているぞ!……関羽!!本当の武人とはコイツのように倒れても尚相手に喰らいつく者のことだ!!貴様がくだらん邪心で故意に退いたこと、私は知っているぞ!!!何が連合軍か!何が『董卓の暴政から民を救う』か!!腹の中で獣を肥やし、争いの種を撒き続けるのはお前らだろうが!!!私はもはや退きはせん!欺瞞の権化たる貴様らを一人でも多くこの大地から消し去ってやる!!」




メインヒロインかゆうまワンチャンあるでぇ。
すっごい茶番です。
かゆうまにカッコイイ風のセリフ言わせたかっただけです。
そして壮大なネタ振りです。


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第六章戦闘パートRound2〜三節

         ブシャッ \: ' /  \\\\ \\ ヾ
        __,,-‐‐'''-- 、_     ,, -‐‐ 、  ヾ/^\_
    ._,,-‐''´      聆 . `ヽ、_/   ヽ \/ ,,_ \   
   ,r'´         __      /⌒ヽ   \/   /  __ ̄
   |  iー--‐‐''i ̄l `ヽ、 /  ,,!ー-\     ,,/  ̄ .__,,\
   .|  〉   ! |    ヾ/  ノ|    ヽ、,,_ ノー'' ̄   ̄
   | |    .! .|   (  '' .ヽ かゆうまヽ
   .ノ _,〉  .  ノ 〉   ( 、Ц ,\     `ヽ、
  (/ /      `-'      ∨ ̄∨/ /( 、Ц, )`ー‐ --r''リ
 ⊂ニ○ニニニニニ⊃      < 〈 ヽ、∨ ̄∨` ー‐ -- '´ >
                    |/ヽmz! ∧ ∧ ∧/ ∨ \ |


 「――貴様らを一人でも多くこの大地から消し去ってやる!!」

 

誰だそんな物騒なことを叫んでいるのは……。それにここは……。なるほど。まだ戦場に居るのだな。完全に終わったと思ったが、……状況は悪くない。右手で華雄の肩を掴み、その他はだらりと垂れて、膝をつき、上体を相手に預けている姿勢だ。奇襲をかけるのにはうってつけである。不思議と頭が冴え渡り、おそらくポッカリと穴が開いているであろう腹の痛みもあまり感じない。これが脳内麻薬というものか?とにかく、まだやれる。なら、どうすれば勝てるか。斬撃は相手が上。柔術的な投げは通じない。乙女武将たちはこの細い身体に法外な筋力を備えているからだ。細いよなぁ。乙女武将のステータスの内、唯一常人を下回るであろうものが体重だ。

……これは…いけるでぇ!!

 

「反論する者も居ないのか……。よかろう。これよr……!?」

「ここにおるでェ……」

「ハッいまたんぽぽの自己同一性が脅かされた気がする!」(in西涼)

 

回り込みつつ相手の腰に腕を廻し、高々と抱え上げる。傷口からジュワりと血が溢れるが、所詮は些事だ。

そんなことより華雄よ、どうだ?十尺の高みからの景色は。

 

「――投げっぱなしジャーマンはブリッジできない奴の言い訳――」

 

ゴしャッッ

 

   ―――――――――――――――――――――――――――

 

 春蘭と張遼の一騎打ちが決着し、俺たちも張遼隊員の捕獲を手伝うことになった。戦況もほぼ連合側の有利に落ち着き、中央の呂布も撤退を始めている。

 

「あと一息ってところかな」

「春蘭様の目……心配なのー……」

「ああ……。でもきっと大丈夫だよ。あの春蘭のことだし、次の日にはケロッとしてるだろ」

「心配と言えば……聆も心配です。戦闘の間右翼からの情報は殆ど廻って来ませんでしたから」

「それこそ大丈夫やろ。なんや戦のすぐ前にも劉備んトコの武将と酒盛りしとった言うし」

「それに、よりにもよってあそこに行ったの華雄だからなぁ。また関羽にやられて聆の出番無かったんじゃないか?」

「報告!!」

「どうした!」

「鑑惺様が華雄との一騎打ちにて討死なさりました!」

 

え……、え?

 

「うそやろ……」

「あ………ぁ…………」

「バカなっ!!それは本当なのか!?どうせ聆のいつもの度が過ぎた冗談なのだろう!」

「せ、せやせや!聆はいっつも他人が普通ふざけんとこで敢えてふざけよってんもん」

「い、いえ……。健闘するも、腹部を戦斧の石突で貫かれ、顔面に強打をあびせられ……。しかしながら、倒れても尚敵に掴みかかったままの、御立派な最期でありました!!」

 

信じられない。認めたくない。

 

「ま……まず、どうして聆と華雄が一騎打ちなんかになるんだ?後方支援だったはずだ!」

「それが……開戦早々に劉備陣営が華雄隊に破られ……」

 

うそだろ……そんな…………

 

「聆……」

「報告!!鑑惺様が一騎打ちにて見事華雄を破り、捕らえました!」

「貴様ァっ!!」

 

新しい報告を聞いた瞬間、凪が先にきていた伝令の襟を掴み、捩じ上げた。された方は全く何が何だか分からないと言った表情だ。

 

「えっと、どういうことだ?さっき聆が討死したって報告があったんだけど……」

「はい、たしかに、一度倒れたのですが……。不意に華雄を、見たことも無い不思議な技でこう……ゴシャッ!と……」

「確かなんやな!?聆は生きとんやな!!?」

「……華雄の四肢を拘束した少し後に気を失われたので何とも……」

「すぐ行く!凪、後のことは任せた!」

「はい!聆を頼みます!!」

 

すぐに馬に跨がる。尻が痛いとか言ってる場合じゃない。全速力だ。

 

「鑑惺様より伝令!!」

 

と、意気込んだ瞬間、聞き逃せないワードが耳に入った。

 

「『鑑惺隊の荷物から酒を有るだけ持って来い。劉備んとこで呑み会するから帰るんは明日になるかも』とのことです!」

「………」

「……」

「…………」

「…………」

「…………」

 

何というか……俺の心配を返せ。

 

   ―――――――――――――――――――――――――――

 

決戦から二日後、陳留に出発する直前、私は華琳の天幕に呼び出された。決戦の次の日は華琳は春蘭とイチャコラしてたから二日後だ。

 

「聆、怪我の具合はどう?」

「良くはないけどそうヤバイってわけでもないわ。今でこそ晒と添え木でガチガチにせなクソ痛いけど、治るんには半月もかからんやろ。傷跡も、将として箔が付いたと思えば問題ないし」

 

内臓から来るタイプの痛みは感じられなかった。腹の中央と、背骨の横に傷口が有り、呼吸に問題なく、排便に支障が出ることから、おそらく胃と肝臓の間を抜けたんだろう。筋肉についても、切断ではなく、突きによって裂けた損傷であることと、肉質が極端に柔らかかったおかげで後遺症が残りそうな雰囲気はない。つくづく運が良いものだ。

 

「そう。良かったわ……。では聆。成果を聞かせてもらえるかしら?」

 

そういえばそんな任務だった。

 

「アイツら元々他人に押し付ける戦法やったから指揮については何も収穫無しや。でも呑み会で張飛、趙雲、関羽と真名交換した。で、こっからが本題なんやけど、劉備陣営の構造についてや。主導権……大まかな指針の決定権は劉備に有るし、全体の思想や忠誠の中心も劉備みたいなんやけど、実際の行動の方法、戦略、政策を握っとんは諸葛亮や。しかも、劉備に入れる情報も調整しとる」

「つまり、諸葛亮が劉備を傀儡に、その思想に惹かれた将を利用していると?」

「そうでもないんや。むしろ、将が諸葛亮にそうすることを求めとる。劉備は首領やけど、保護の対象でもあるらしい。劉備自身も具体的なことは将と諸葛亮に任せとる。劉備が心、諸葛亮は頭脳、将が手足って感じ」

「……甘いわね……。それで?その、劉備の思想というのはどういうものなの?」

「あー、そこまで話す頃には皆ぐでんぐでんでまともに話出来てなかったからよー分からんわ。なんか、弱肉強食が気に食わんみたいやで?」

「全く理解に苦しむわね。……分かったわ。出発の準備に戻りなさい」

「あぁ、ちょい待って。会わせたい奴がおるんや」

 

それを聞くと華琳はニマリと笑った。さすが人材マニア。

 

「そういえば、特に親睦を深めた将が居るそうね」

「そうや。呼んでも良えか?」

「ええ。構わないわ」

 

天幕から顔を出し、衛兵に命ずる。

 

「華雄をここへ。私の天幕に居る」

 

中に戻ると、華琳が何とも言えない表情をしていた。どうした人材マニア。

 

「……趙雲じゃないの?」

「華雄やで?」

「どうして趙雲じゃないの?」

「趙雲は劉備と関羽が面白いからあっちに残るらしいわ」

「どうしてよりにもよって華雄なのよ」

「私に痺れて憧れたらしいで?」

「断ってもいいかしら?」

「それは華琳さん自身が決めることやで?」

「あんな猪どうしろと……」

「使い方次第やん?……と、来たみたいやな」

 

華雄が入り口を潜る。

 

「失礼する!」

「華琳さん相手に失礼なんかしたら首撥ねられるで?」

「むぅ……そうか、なら失礼しない!」

 

そして何事も無かったかのように華琳の前、私の横に跪き、一礼。ああ……華琳様ってばすっごい微妙な表情に……。

こ れ は お も し ろ い 。

 

「……面を上げなさい。華雄、ここに参った要件は」

「は。鑑惺殿の、負傷し、一度倒れようとも敵に喰らいつく闘魂と、命を取り合った敵や、自らを罠にかけた悪党にも頓着せず酒宴に招く豪胆に感銘を受け、共に戦いたいと願い、そのために曹操殿の軍下に加えて頂きたく、参上した次第」

 

ちょ、それ、「別にオメーのことはどーでも良い。鑑惺がどっか行ったら多分寝返るぜ」って言ってるのと変わらないだろう。バカ正直可愛い。七乃が美羽を可愛がるのってこういうことなのか?ああ……。華琳さんの眉間が恐ろしいことに……。覇王の器と個人的なイライラの間で揺れているな……。

 

「…………その申し出を認めましょう。下がって良い」

「失礼した」

 

本当にな。

 

「……聆」

「なんや?」

「貴女の連れてきた猪のせいで私、すっごく機嫌が悪いのだけれど……。どう責任を取ってくれるのかしら?」

 

華琳の指がするりと私の頬に伸びる。

 

「残念怪我人でしたーー」

「…………傷が塞がったら覚えていなさいよ」

「じゃあ一生治らんかもな」

「はぁ……。もう貴女も戻りなさい。一刀たちとも色々話すことがあるでしょう」

 

 

 こうして、大陸の諸侯達を巻き込んだ反董卓連合の戦いは終わりを告げた。その後しばらくかゆうまと三課長がしつこく私の下の手伝いをやりたがったのには正直ドン引いた。




六章が意外とサラッと終わってびっくり。
気がついたら超展開しまくってて更にびっくり。
当初の予定では、張遼隊の春蘭の討ちこぼしの小隊長辺りと戦って終了でした。
ど う し て こ う な っ た 。


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第六章拠点フェイズ : 聆(3X)の兄貴 前半

急に電源切れるの本当にやめて欲しいです。
また途中まで書いていたのがオジャンになりました。
そのせいか本文もちょっとテンション低めになってしまいました。
でもメインネタは次ですのでそんなには問題無いです。


 磨き上げた圧縮琥珀球を日にかざし、自らの作品の美しさに思わずため息をつく。怪我のために戦闘技術の鍛錬ができないため、その間に何か凄い物、fateに出たら宝具化されるような物を作ろうと思った。そこへ丁度華琳からの依頼が来て、その仕事に無駄に力を注いだ。それがこの、夏侯惇の義眼である。真桜の技術協力のもと、試行錯誤を重ね作り上げた最高傑作だ。銀球を核に、圧縮琥珀、赤色硝子で描いた文様、圧縮琥珀という多層構造をとっている。中心の銀が光を反射し、血のような赤が深い黄金色の中を漂うように輝く。文様は、曹操作の戦勝祈願の漢詩を、そうと言われなければ分からない程度にレタリングしたもので、ご利益もバッチリだ。さっさと献上すべきなんだろうが、あと半日くらい悦に浸っていても良いよな。

 

「嵬媼!昼飯の時間だ!!」

「よっす〜。どっか食べに行かん?」

 

勢い良く扉がぶち開けられ、かゆうまと霞がやって来た。

 

「かゆうまェ……扉は静かに開け閉めせいって何回か言うたよな」

「おぉ、次は気をつける」

 

そう言って次も同じことを繰り返すんですね分かります。

 

「あれ?聆それ何持っとん?」

「ああ、これ?キレイやろ?春蘭さんの義眼や」

「義眼?」

「眼球無いままほっといたらどんどん顔歪むからな」

「そういえば夏侯惇は左目を喰ったんだったな。……なぜだ?」

 

霞の表情が曇る。一騎打ちに横槍……この場合は横弓か?が入ったのを思い出しているんだろう。代わりに私が答えた。

 

「お腹空いたんやって」

「腹が減ったのか……なら仕方ないな」

「目玉って栄養豊富らしいからな」

「では私達も栄養を摂りに行こうではないか」

「あー、じゃあ先に華琳さんにコレ渡してくるわ」

 

かゆうまと昼食なんてトラブルの匂いがプンプンする。壊れたらマジ泣きする自信があるぞ。

 

「ちょい待ちっ!アンタらってずっと今みたいなツッコミ不在の会話しとん!?」

「……なんのことだ?」

 

絵に描いたようなキョトン顔だ。すげぇ……曹魏にジャンジャン馬鹿が増えて行く……。

 

「……もーええわ……じゃあ聆、ウチら門のとこで待っとるから用事終わったら来てな」

「早くしろよ」

「あーー。分かった分かった」

 

かゆうまェ……。華琳関係の用事って言っとるのに早くしろとか、ガチで華琳を主君とも何とも思ってないらしいな。その内春蘭との猪対決が起こりそうだ。流石に勘弁。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 「頼んでいたもの……完成したのね」

 

玉座の間で華琳と対面する。一応、一芸術家が支配者に正式な依頼として受けた仕事として処理されるためだ。

 

「……かなり試行錯誤繰り返したわ。作り方にこんな悩んだモンは無い」

「その代わりに素晴らしい出来なのでしょう?」

「私自身はかなり気に入っとる、とだけ言っとくわ」

 

手にした箱の蓋を開けた。クッションに半ば埋もれるように義眼が置いてある。片膝をついて箱を華琳に差し出す。このシーンかなりそれっぽいな。

 

「ふふ……素晴らしいわ。――そこのお前。春蘭をここへ。……貴女の持ってくるモノは本当にほとんど期待を裏切らないわね」

「……『ほとんど』?」

 

何かヘマをしただろうか?

 

「……華雄よ」

 

そんなに嫌いか。嫌いなタイプだろうな。春蘭みたいな忠犬バカじゃなくて我が強いバカだからな。

 

「まあ、上手く導けば良ぇ働きもするんちゃう?」

「そうだと良いのだけれど……」

「単純やから扱い安い方やん?」

「扱い安い人間は二度も関からの突出なんてしないわ」

「ぐぅの音も出んな」

「華琳様!お呼びでしょうか!!」

 

春蘭が息を切らせてやって来た。呼ばれたら全力ダッシュか。

さすがやでぇ。

 

「春蘭、ここまで来なさい」

 

指先で肘掛けをトントンと叩く。

 

「は、はい!」

 

春蘭が足早に私の横を過ぎ、華琳の目の前に立った。

 

「目を閉じなさい」

 

春蘭は一瞬戸惑いつつも言われるままに目を閉じる。その顔の側面に手が添えられた。するすると撫でる。

 

「か、華琳様!?」

「何かしら」

「そ、その……衛兵も見ていますし……。聆の目の前でなんて……」

「ふふっ……それも面白いかもしれないけど、今回は違うわ。……春蘭、眼帯を取りなさい」

「で、ですが……」

「いいから取りなさい」

 

華琳お得意のカリスマゴリ押しに、春蘭は急いで眼帯をはずした。痛々しく落ち窪んだ眼窩が顕になる。華琳はいつの間にか手にしていた義眼をそこに宛てがった。春蘭の体がピクリと緊張する。

 

シュプッ

 

「……え……?」

「目を開けていいわよ」

 

華琳が春蘭に鏡を見せながら言う。

 

「春蘭がせっかく左目と心を捧げてくれたのだから、私も何か特別なものを送るのも良いと思ったの。戦勝祈願の宝玉の義眼よ。受け取ってもらえるかしら?」

 

もうはめておいて何言ってんだ。

 

「はい……!ありがとうございます!!この夏侯元譲、もはや何者にも負けますまい!!」

「喜んでもらえて嬉しいわ。これk」

グきゅ〜〜

「…………」

「…………」

 

おっと腹の音が。グッジョブ腹の虫。いいかげんこのノリ暇だった。

 

「ごめーん。お昼まだやってん」

「……早く行ってきなさい」

 

うわーお。華琳様の私を見る目がかゆうまに対するソレと同じだ!




蜀の仮面がどんどん増えるように、
魏のバカもどんどん増えます。


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第六章拠点フェイズ : 聆(3X)の兄貴 後半

ハイリョヌキネタマシシュンパツカラメ
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

霞姉と聆のセリフの見分け方
→聆は「〜ねん」って言わない
霞姉アンチではありません。運が悪かったんです。


 「……随分賑わっているな」

 

昼時の陳留。おそらく今世界中で最も賑わっている場所だ。

 

「ホンマ、洛陽より景気良えんちゃうの?」

「華琳さんがつまらん役人消したし、税の匙加減が抜群やからな。都は宮中のイザコザで大変やったんやろ?」

「まぁな。でももう過ぎたことやし。これからはこの陳留がウチの街や」

「月や恋はどうなっただろうか……」

 

かゆうまが猪に似つかわしくない遠い目でつぶやく。董卓と賈駆は劉備のとこで……呂布とチンQは放浪だったような。でも立場上私が知っているのは不自然だ。答えるわけには行かない。董卓の居場所に気付いてる霞さん何か言ってやってくれ。

 

「まぁ、月には詠がおるし、恋は何とかなるやろ」

 

ってか、霞はかゆうまに董卓の居場所について話してないのか?話してないよな。ポロッとバラしてしまいそうだものな。

 

「あ、月とか恋とかってのは、ウチらの洛陽での友達のことな」

 

霞が取り繕うように言う。

 

「おー。なんとなくそんな感じやろなって分かっとった」

「よぅ一緒に出かけたりしたもんや。聆もどっかええ店紹介してくれん?ウチらやっぱ陳留の店ってまだあんま分からんから」

 

露骨な話題転換だが乗ってやる。さっきの話を掘り下げる必要も無いしな。

 

「じゃあ怪我する前まで良ぉ行っきょった店久々に行くか」

「ほう……そこは旨いのか?」

「かゆうまは気に入ると思うで?」

「ウチは?」

「二度と行かんと思うで?」

「なんやそれ……」

「まぁそのうち分かるわ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 九条西五坊辻……若手兵士や力仕事に従事する野朗共が集まり、活気のある陳留でもとりわけパワフルな昼食模様が展開されるデスゾーン。女というだけで奇異な目を向けられる。その中でも一際濃い脂と大蒜の臭いを漂わせる店が今回の目的地だ。

 

「チャーハン兄貴……?」

「めっちゃ混んでない?時間、間に合うん?」

「問題無い。並ぶで」

 

三人で最後尾に立つ。臨時の報告のためにいつも携帯している竹簡と筆でメモを書き、二人に渡した。

 

「店入ってすぐのデブの男に一番上の段を言って代金渡して木簡受け取って。店の中で待って、席が空いたらチビの男に木簡渡しながら真ん中の段。最後に、アニキに『ニンニク入れますか?』って言われたら下の段な」

 

初心者には難しいシステムなので先にこのくらいなら食べられるであろうカスタマイズを指定しておく。単純な量では何を言っても問題無いだろうが、味的に好みが別れるからだ。

 

「なんでウチは炒飯の脂少なめ野菜少なめで華雄は大炒飯の脂増し大蒜なん?」

「そのうち嫌でも分かるわ」

「そればっかりだな」

「アカンか?」

「私は一向にかまわんッッ」

「じゃあ何で聞いたねん……」

「ダメなのか?」

「ウチは一向にかまわんッッ……って何言わせとんねんっ」

 

不意に後ろ……列の前方の男に肩を叩かれた。

 

「アンタ……『雪崩の嵬媼』だな?」

「……そう呼ばれとるらしいな」

「長らく爐途から姿を消したと思ったら……こんな喧しい女を連れてきて…………どういうつもりだ?」

「喧しいんについては謝るけど、今日はそれ以上に期待の人材も連れてきた……。お前らそろそろダレとるやろぉから」

「ほぅ……。爐途戦の申し込みととって構わないか?」

「いーや。今回は準備運動や。私も腹ブチ貫かれてから初兄貴やし」

「ふん。せいぜい爐途を乱さないように注意するんだな」

 

そう言い残して男は店の中に入った。と、もう次私達か。相変わらず回転が速い。

 

「次私やから動き見て流れ掴んでくれ」

「……ウチらって食べもん屋に来とるんやんな?」

「違うわ。兄貴に来とるんや」

「次なんだな〜」

 

デブの声がかかった。

 

「回回炒飯一つ」

「んだな。次なんだな」

 

二連か。次は霞の番だ。

 

「炒飯一つ」

「んだな」

 

店内の椅子に座り、席が空くのを待つ。どうやら霞までで一爐途のようだ。かゆうまは別か……。まあ、仕方ない。

 

「凄い匂いやなぁ。ウチ匂い嗅いだだけで汗出てったわぁ!」

 

霞の話し声に、店の中の空気が一瞬ピシリと凍った。今日はよく訓練された奴らが多いのか……。

 

「店内では静かにな」

「……聆ってウチのこと嫌いn」

 

二席空いた。

 

「行くで」

 

「何にしやしょう?」

「回回ジットリ」

「へい。次の方」

「炒飯脂少なめ」

「かしこまりやした。席についてお待ちくだせぇ」

 

手を膝の上に乗せて待つ。カウンターはベタついている。迂闊に触らない方がいい。霞はうっかり肘をついてしまい顔を顰めていたが。

 

「回回炒飯ジットリの方、ニンニク入れますか?」

「ヤサイマシアブラニンニクカラメ」

「炒飯脂少なめの方、ニンニク入れますか?」

「……ヤサイマシカラメ」

 

あ、増した。でも、まぁ野菜だから大丈夫か……?

かゆうまも席に付いた。さっき声をかけてきた男を挟んで右だ。腕を組んで目を瞑り黙っている。かゆうまはやはり兄貴に馴染むな。

 

「大炒飯脂少なめお待ちどー」

 

右隣の男の炒飯が来た。大脂少なめヤサイマシニンニクダブルと言ったところか……。これであんな偉そうにしてたのか?

 

「回回炒飯ジットリお待ちどー」

ドズンッ

「デカっっ!!」

 

霞が声を上げた。

 

「チッ……」

 

その声に、どこかから舌打ちが聞こえた。

でも霞が声を上げてしまったのも仕方がない。

私の前に置かれたのは……山。大量の米、野菜、豚肉が堆く積まれ、圧倒的存在感と臭いを放つ。反董卓連合以前の、日の出前に起きて鍛錬して警邏して鍛錬して調練して鍛錬して勉強して寝る生活を支えてきたメニューだ。いや、そのときはヤサイマシマシアブラニンニクダブルカラメだったな。

ともかくこれを片っ端から掻き込んでいく。豚肉を始めに全部食べる奴とか、底の方の米がベチャベチャになるのを恐れて野菜と米の上下を逆転させる奴も居るが、私は面倒なのでそれをしなかった。山の形が残ったまま端から無くなっていく様を、他人は「雪崩」と称した。

ちらりと横を見やると、霞も食べ始めているようだ。正直あまり美味しそうにはしていない。霞は普段おしゃべりで、時に繊細な乙女だからな。半分くらいでもよかったか……。

右隣の男は私の方をチラチラ見ながらガツガツと炒飯を頬張っている。何だ?大ごときで私に張り合おうとしているのか?それよりも逆サイドに気をつけた方が良い。かゆうまが自分の前に置かれた炒飯を食べ始めた。こちらは実に美味しそうに食べている。脳筋系乙女武将の胃は、嫌いなもの以外を無限に受け入れる。物理法則を無視して。これは……逆爐途崩しが実現するかもしれない。

 

 臭気が充満する魔窟にて、それぞれの食事が繰り広げられていた……。

 

   ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「いや〜、久々やったけど結構イケたな。かゆうまどないやった?」

「なかなか良い店だった。気に入ったぞ」

 

だろうな。猪が豚のエサを好むのは当然だ。

 

「いっつもこの後小川に水浴びしに行くんやけど、どや?」

「良いな。少しさっぱりしたい。あと体も動かしたい」

 

ああ、水場で遊ぶ気まんまんなんだな。

 

「霞はどない?」

「……胃もたれが酷くて動きたない。早よ帰りたい」

「あー、じゃあ帰るかー」

「残念だな。今度また来て水浴びまでやろう」

「……二度と行くかいあんな店!」

 

以上レポっす。




インスパイア系の店に行って大を食べてみました。
スープの辺りで吐き気がしました。
しばらく麺類は要りません。
インスパイア系に行った時点で作者はギルティ。


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第六章拠点フェイズ :【北郷隊伝】必殺!沙和式罵倒訓練術……の裏でいともたやすく行われるえげつない行為

流れが……とかフラグが……とか色々言いましたが、
恋姫は風呂場にさえ持ち込めばえっち出来るゲームだということを思い出しました。

最近鼻血がよく出ます。
どうせなら稟みたいに鼻血で翔べるようになりたいです。


 「はい、集合〜〜〜〜!」

 

一刀の号令に、城門の外に集まった北郷隊隊長格が、ゾロゾロと整列する。

 

「ふああぁ〜〜……朝早いお仕事はツライのー」

「ホンマやで、まったく……昼からにして欲しいわぁ……ふああぁ〜……」

「まぁ、しゃーないやん。そういう仕事に就いとるんやから……ンク……」

「真桜、沙和。シャキっとしないか、シャキっと。そして聆は呑むなっ」

「…………はぁ」

 

一刀がゲンナリとため息をつく。ここまではお約束だ。

 

「はいはい、凪の言う通りだぞ。新人も入ってくるし、しっかりしないと、あっという間に追い抜かされちゃうぞ」

 

いや、基礎能力の差からして、相当どうにかしないと恋姫たちとその他の間が縮む事は無い。普段私がどれだけ苦労していると思っているんだ。

 

「新人〜〜〜?」

「なになに、新しい子入ってくるのっ?」

「そういえば、新兵の募集を行っていましたね」

「まとまった数になったんけ」

「おうよ。今日集まってもらったのは他でもない、新兵の訓練を北郷隊が任されたからなんだ」

「新兵の……」

「訓練〜〜〜?」

「そっ」

 

三日前から知ってました。

 

「うわぁ〜……とっても大変そうなの」

「面倒臭っ!め゛ん゛ど゛く゛さ゛っ゛!!!」

「隊長、頑張ってや〜〜」

「こら!他人事みたいに言うな!!」

「……もしかして訓練を施すのは、自分たちだったりするのでしょうか……?」

「当たり前だろ!俺一人じゃどうしようもないし、っていうか、俺は実践の人じゃないし、訓練に関しては、おまえたち四人に一任したいと思う」

「え〜〜〜〜〜〜っ!」

「マジでーっ!?」

「嘘だと言ってよ、カズピィ」

「嘘なわけ無いだろっ!もうすぐ新兵たちがここに来る手筈になっているから。頼んだぞ」

 

そう言いながら、一刀は真桜と沙和の頭を順番にポンッと軽く叩き……私の手を握った。

 

「頼んだぞ」

「……おー」

 

……私の肩がだいたい一刀の目線くらいの高さだものな。気軽に叩けないよな。……身長が高いことの唯一の弊害は一刀の自然なイケメン動作を受けられないことだ。

 

「隊長……!」

「ん?」

「このように大事なお役目を賜り、大変光栄であります!」

「ははっ、そんなに気負わなくてもいいよ」

 

感極まった表情で敬礼する凪の頭を、一刀は軽く撫でた。クソがっ!

そして、改めて私達の正面に立ち、にっこりと微笑んだ。

 

「おまえたちなら、絶対大丈夫だから。よろしくな」

「はっ!」

「はーい」

「へいへい」

「ウェイ」

 

そうして、それぞれの持ち場へついた。

 

   ――――――――――――――――――――――――――

 

 通常訓練中の鑑惺隊から図体のデカい班長を二人ほどアシスタントとして連れ、割り振られた新兵の前へ立つ。ダラダラと好き勝手に喋っていた新兵共がシンと静まった。うん。ナイス威圧感。

 

「四列縦隊」

 

突然の指示に皆ポカンとしている。

 

「四列縦隊に整列しろ言ぅとんじゃいや。早よせぇオラァ!!」

 

弾かれたように動き出す。だが、まず四列縦隊が何なのか分かっていない奴も居る上、どこ基準か、どういう順番かなどの指定がされていない指示に戸惑っているようで、ザワザワと無駄な動きが目立つ。

しばらく経ち、やっと汚いながらも四列に落ち着いた。

 

「次!二列横隊!!」

 

またアバウトな指示を出す。今回は一度目から動いた。

そんな指示を五度ほど繰り返す。

 

 再び私の前に四列に整列した新兵の列に歩み寄る。

 

「お前とお前とお前……あとソコの。抜けろ」

 

指された新兵は一瞬硬直するも、間を置かずに列から抜け出てきた。

 

「お前らは向こうで訓練しとる北郷隊の内の鑑惺隊の訓練に参加してこい。角付きの鎧着とるやつに言うたら良えように取り計らってもらえる」

 

アバウトな指示を出していれば自然と動ける奴、動けない奴が分かる。最前列に立ち自ら基準となる者、列の形を予想して的確に動く者、指示を出して周りを動かす者。そういう奴らは予め抜いておく。これからの訓練は組織の末端、命令を忠実にこなすマシーンを作る作業だ。考えて正しく動ける者に受けさせるだけ損である。

ちなみに角付きの鎧とは課長用に用意したものだ。

 

「抜けた奴の分詰めろ!……よし。んだらお前らを正しく管理するために新しい名をつける。姓として、四列の右から百、二百、三百、四百。名を前から一番、二番、三番、四番。例えば……そこのお前。お前は訓練の間三百十一番って名前や。全員、分かったな!?……分かったら返事!!」

「は、はい!」

 

沙和はあの軍曹を手本にすることになるが、何も叫ぶだけがあの軍曹の技ではない。

 

「では改めて。私がお前らの担当教官を務める鑑惺嵬媼や。お前らに兵卒として必要な教育と躾を行う。……この中で自分は軍師や将軍の方が向いとる思う奴は手ぇ挙げろ!私が直々に上に紹介したる。才能が無かった場合はどうなるか知らんけどな」

 

手は挙がらない。挙げられても困るから良いけど。

 

「……兵とは上からの指示に忠実に応え、個人の意思を抑えることが求められる。お前らはその兵卒になる道を選んだ。私はお前らの選択に応え、戦場で役に立つ兵に鍛え上げてやる。私の指示をよく聴き、それに従えばお前らの目標はなんの問題も無く達成される。私の指示に反する行動をする理由も、疑問を持つ意味も無い。ただ従え。分かったか?…………分かったら返事やろうが!!ついさっき言った事も忘れたんかこのクズ共が!!」

「は、はいっっ!!」

「守るべき基本事項は三つ。私語を慎め。私の言う事をよく聴け。声を出す時は腹から出せ」

「はいっ!」

「なんもお前らを虐めるんが仕事やない。体調が悪なったら遠慮なく言え。動きの失敗も二度までなら注意で済ます。まぁ、明らかに反抗的やったら潰すけど。……軍の仕事は敵を倒すことや。私は、最大の敵は使えん兵卒やと思っとる。作戦を台無しにし、耳触りな悲鳴で周囲に弱気を伝播させ……二百二十番、言いたいことが有るんやったらハッキリ言え」

「……」

 

何やらボソボソと言っていたヤツに声をかける。お前のような奴を待っていた。可哀想だがお前には贄になってもらう。

 

「おい、ハッキリ言えって言うとるやろ。早よせぇや」

「…………」

 

しまった、という顔をしているが、もう遅い。ツカツカとソイツに迫る。

 

「何か私の話より重要なことが有ったんやろ?なあ、聞かせてくれや」

「……なんでも有りません」

「あン?何でもないワケないやろが。お前はわざわざ三つも命令違反したんやから。なあ、早よ言えや」

「…………」

「無視か……」

 

襟首を掴んで引き倒し、列から蹴り出す。

 

「ナメとんのか?おい、言えや。話しを聞かん、私語をする、ボソボソと陰気な声を出す。その上無視か。アホなん?それとも何?喧嘩売っとん?」

「…………話が長いんです」

 

ビンタを喰らわす。この時を待っていた。

 

「頭が悪いお前らにも分かるようにゆっくり説明しちゃっとんやろが!お前ら何も言わんでも完璧に動けるんかいや!?あァン?初めの何回かもボッサーッとのろのろ動きやがって。そもそもお前に話の長い短いを判断する権利が有るんか?そう言う命令したか?オイ、答えろや」

「してません……」

「ンだら何で私語したんどいや!?喧嘩売っとんやろ?な?そうなんやろ??」

 

散発的にどつきながら詰問する。おっと、泣いちゃったよかわいそうに。

 

「あーあ。お前みたいなん相手にしても時間の無駄や。帰って良えで」

「……」

 

帰ろうとしない。別に帰られても良いが、帰らない方が都合が良い。

 

「なあ、帰れって。アレやろ?私が指示する度に何ぞ文句言うんやろ?邪魔なんやって。なあ、聞いとん?早よ帰れや」

「……訓練……受けさせて下さい…………」

「は?何言うとん?言う事無視する奴の訓練なんかどうつけろって言うん?」

「次からは……ちゃんとします」

「チッ……言うたでな?お前。次何か有ったらガチでしばくから覚えとれ。……列に戻れ」

 

再び列の前に立つ。さっきより大分締まった雰囲気になったな。

 

「訓練の間は、失敗した者に私の説教と折檻が施されるだけやけど、戦場では即ち死ぬ。そのことをよく覚えとくように。これより訓練を開始する」

 

   ―――――――――――――――――――――――――――

 

 小一時間も経っただろうか。あれから更に何人かの可哀想な奴を出しつつ、いい感じに新兵共の目が死んできた。途中で様子見にきた一刀はそれに気づかず、ほぼ完璧な動きに感心しているようだったが。

 

「ぺちゃくちゃしゃべるな、このウジ虫どもー!」

 

よく動いた分、新兵共に休憩を取らせていると、沙和の声が遠くから聞こえてきた。

 

「沙和が貴様たちの担当教官の于禁文則なの!貴様らウジ虫は、沙和が許可した以外に、無駄口を叩くことは許されないの!」

 

沙和さん始まったな。

 

「わかったら返事をしろー!クソったれ!!」

 

確かに返事は大切だ。

 

「ちっがーう!クサイ口からクソひる前後は、必ずさーと言うのだー!」

 

女だからマムじゃね?というのは無粋だ。

 

「『さーいえっさー』だー!」

「さーいえっさー」

 

生SirYesSirいただきました!

 

「聞こえーん!ふざけるな!もっと大きな声を出せ!!」

「さーいえっさー!」

 

私の隊にもSHOUTの練習させるか。

 

「お前ら、休憩終わりや。百一番基準、四列横隊に整列」

「はっ!」

 

四秒もかからずに列が整う。お前ら必死過ぎワロタ。

 

「――いいか!貴様らは今のままじゃ、戦場では屁の役にも立たない、ただメシ食ってクソたれるだけの汚物製造器だと思え!」

 

沙和の可愛らしい声をBGMに、MindFuck第二段が始まった。




イメージは体育の先生!
微笑みデブにぬっ殺されないように注意が必要。


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第六章拠点フェイズ :【荀彧伝】断機の戒め 前半

靴が合っていなかったようで、膝がBOMBしました。


 「んー、今日も街は平和だなぁ〜」

「平和すぎてウチには退屈やわぁ〜」

「いざという時はお役に立つでありますの!」

「審判ですの!」

「どうした?聆」

「ちょっとした気の迷いや。気にすんな」

「……まあ、何かあったときは頼りにするけど。あまり目立ちすぎないように注意してくれよ?」

「はいでありますの」

「任せろ」

 

本当に分かってるのかどうか少し不安だけど……っていうか、聆は現在進行形で目立ちまくってるけど、そう言う努力ってことで、部下は信じてやらないと。

 

「なんやこう……面白いことあれへんかなぁ」

「面白いって例えばどんな?」

「ならず者が隊長を知らずに『おうおうおう、お兄ちゃん、俺に肩ぶつけといて挨拶もなしかよ』みたいな〜」

「うん?ならず者は俺っ娘妹キャラなのか?」

「……」

「……」

「……」

「さすがやでぇ」

 

あ、何かやっちゃった?

 

「おい、どうした?」

「隊長が何を言っているのかは分かりませんが、何か邪悪なものを感じました」

「なんやウチ、ゾワッてしたわぁ」

「沙和の中で描かれてた熱血青春活劇がなぜか一瞬で三文官能小説に塗り替えられちゃったの……」

「いやらしい!さすが変態長いやらしい!!」

「いや、何も悪いこと言ってないだろ!そもそも沙和はどういうのを想像してたんだ?」

「がたいの良い若い男が絡んでくるの」

「絡まれても困るんだけど。で、その時はどうするんだ?」

「決まってるの。徹底的に自分が虫以下の存在だってことを分からせた上に、くっくっくっなの♪」

「『アッーーーーーー♂』?」

「聆やめろ!やめてくれァ!!」

 

ホモキャラまで付加されたら俺どうなっちまうんだ!?

 

「え?絡まれた代わりに変態長も(性的な意味で)絡み返すんとちゃうのん?」

「違うのー!新入隊員の勧誘なのーー!!」

 

助かった……沙和が否定してくれた。けど……。

 

「いや、俺が絡まれるところから始まる勧誘はどうかと思うぞ。凪、お前もどうにか言ってくれ」

「た……隊長は………そういうのもイケるのですか…………?」

「ちょ、そんなわけないだろっ!?おい!聆が余計なこと言うから……っ!」

「でも同性イケるようになればな?可愛い男の娘が現れても躊躇なく(性的な意味で)喰えるやん?……そこんとこ、感謝☆」

「だーかーらー!!そういうんじやなくて、熱血な勧誘なの!よおし、意地でもガラの悪そうな奴を隊長にぶつけさせて流れるように勧誘に持ち込んでやるの!」

「なんや今日は随分とトバしよるなー。で、止めなくてええのん?」

「あ、まずいな」

 

慌てて沙和の方を見ると、走り出そうとする沙和を既に凪が首根っこをひっつかんで止めていた。

 

「ナイス凪!」

「隊長、それはどういう意味ですか?」

「ナイスってのは天の言葉で、男の同性愛を好む女のことやで?」

「な……っ!?隊長、さっきのは決して期待とかそういうのではなく、純粋な疑問としてですね、あの……」

「分かってるさ!聆、デタラメを言うんじゃない!凪、ナイスってのはやるじゃないか、って意味だよ」

「……よかった」

「凪ちゃん、はーなーしーてーなーのー!」

「……だめだ」

「やーぁのー、さーがーすーのー!」

「やめとけ。そのノリでいったら確実に面倒起こすやろが」

「沙和、募集は定期的にやってるだろ。今は巡回中なんだからまた今度にしようぜ」

「ふぇーいなの……」

 

沙和も諦めたのか、おとなしくなる。それを見て、凪も沙和を地面に下ろした。

 

「それにしても、ほんま暇やなぁ……」

「年頃の女の子としては、やっぱり刺激が欲しいの〜」

「夜中に隊長の部屋に突撃でもしたら十分に刺激貰えるやろ」

「そういうのじゃないの〜」

「あーあ、こんだけ平和やったら、巡回の必要無いんちゃう?ウチはこの時間を発明に回したいんやけどなぁ」

「私も色々とやりたいこと有るわぁ」

「あれ、聆は巡回に乗り気みたいなこと言ってなかった?」

「本音と建前」

「あのなぁ、街が平和なのは、俺達がこうして目を光らせてるからなんだぞ」

「ま、分からんでもないんやけどな。それにしても暇やなぁ……」

「そんな、毎日刺激的なことがあったら疲れるよ」

「そうかなぁ。沙和は楽しいと思うけどなー」

 

そんなことを言いながら、いつものように街を歩いていく。活気のある街並みはいつ見ても楽しい。こうして歩いていることは、確かに無駄なところもあるのかもしれないけど、日々の積み重ねってやっぱり大切だと思うしね。




この拠点フェイズは短いと思っていたのですが、
色々と付け足しているうちにドンドン長くなってしまったのです。


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第六章拠点フェイズ :【荀彧伝】断機の戒め 後半

桂花と春蘭はガチで問題有りだと思います。
その分有能なのも問題です。
華琳さんのカリスマがあと少しでも低ければ、魏は瓦解するに違いない。


 「……となると、残りはいくつ?」

「……ん?今、桂花の声がしなかったか?」

「ええ。聞こえましたね……」

 

近くで子供達の騒がしい声に混じって桂花の声が聞こえたような気がしたんだけど、気のせいじゃないらしい。

 

「どこから聞こえて来たんだ?」

「隊長、あそこにいるのー」

 

沙和が指さしたのは、小屋の一室だった。

 

「四つ!」

「無」

「あ、あのねぇ……あんた達、適当に言ってるんじゃないでしょうね」

「わかんないからてきとー!」

「まず宝とは何かの定義から……」

「あ、あんたねぇ……くっ、ここで怒ってはいけないわ。怒ったら余計に話を聞かなくなる……」

「あいつ……あんなとこで何をやってるんだ?」

 

粗雑な椅子に子供達を座らせ、教壇らしきところに立った桂花が、なにやら必死の形相で喋っているのが見える。

 

「公立の私塾……公塾?やな。広く臣民に基本的な学力をつけさせて、国力の増大を図る試みや。で、実験としてまず桂花さんがやっとるんやろ。まあ、教えられる人材は不足気味やから実践に移ってもしばらくは桂花さんも前線に立つことになるやろな。……天の学校とか言うんが元になったらしいけど……隊長、知らんかったん?」

「……むしろ聆はなんでそんなに知ってるんだ?」

「常識やで?」

 

とびっきりの笑顔で返された。

 

「だから何度も言っているじやない。良い?孟徳様が十の宝物を手に入れました。それを強欲な部下の元譲が勝手に三つ取っていきました。

更に何を考えているか分からない嵬媼が、怪しげな細工をして二つ台無しにしてしまいました」

 

「……へぇ」

 

あ、聆さん?

 

「半分になってしまった宝物を見て、孟徳様は謝りながら、一番忠実で、心から愛している文若ちゃんに……」

 

「笑わせてくれる……」

 

聆さん?

 

「おまえはいつ見ても可愛いし、心から愛しているから私の宝物をあげようと言って、一番綺麗で価値のある宝物を一つ、文若ちゃんにあげました」

 

「宝物か……名誉の戦死とかかな?」

 

聆さん!

 

「……さぁ残りはいくつ?」

 

「……なんか今、すごい例えをしたような気がしたんだけど、気のせいだよな」

「春蘭様は強欲で、聆は何を考えているか分からない。桂花様は一番忠実で有能……」

「何を考えているか分からないとか言うんは別に構わんけど、台無しにしたってぇのが気に入らん」

「……抑えてくれよ?」

「抑える抑える。こ こ で は な」

 

さよなら桂花。

 

「隊長」

「なんだ?」

「一番綺麗で価値のある宝物をあげたら、残りは……ゴミですか?」

「いやいや、それはなんか違うだろ。桂花のやってる授業は算数だぞ?」

「算数だったんですか……」

「ウチも一瞬分からんかったわ。余計なこと言いすぎて算数の問題に聞こえん」

 

これは……人選ミスか?

 

「二つじゃなかったから三つ!」

「無」

「何言ってんだよ、一つに決まってるだろ!」

 

子供達は口々に好き勝手な数字を言っては騒いでいる。授業を受ける気はあるみたいだけど、教養自体はまだそんなにレベルが高くないってとこか。

 

「答えは八、若しくは五。やな」

「聆?」

 

いや、四だろ?

 

「台無しになった二つ以外、それぞれ場所が移動しただけで存在しとる。それで八。宝物庫か何かからの出入りで考えるんやったら、まず五つに。で、文若ちゃんにとって一番綺麗で価値のある宝物とは?」

「……孟徳様、か」

「そう。で、残りは五つ。ま、捻り無く考えたら四つやけど」

 

こっちはさすがに余裕があるけど、子供達の方はやっぱり答えを出せていないみたいだ。桂花のこめかみがヒクヒク動いてるのが、ものすごく気になるけど……まさか子供達にキレることはないよな?

 

「よーく考えてよ?強欲な元譲と不気味な嵬媼が、三つと二つ、宝物を失わせたのよ?」

 

お、頑張ってる頑張ってる。有能な軍師にとっては簡単すぎて苦痛であろう初歩的な引き算を、こらえて教えようとしてるんだから、邪魔せず見守ろう。

 

「とはいえ……例えがなぁ……」

「聆は何でか知らんけど、春蘭様と桂花の二人はホンマに仲が悪いな」

「顔を合わせても合わせんでもこうやって貶め合っとるからなぁ」

「恋敵だからなの」

「……少し面白いですね」

「……まあ、面白いっちゃ面白いよなぁ」

 

でも、なんだかんだ言ってお互いの才を認めてて、しかもそれが必要だから、憎んでも憎みきれないって感じなんだろうな。

 

 

 「ん、そこにいるのは北郷か?こんなところで何をやってるんだ?」

「うぉっ!?なんだ、春蘭か。驚かすなよぉ」

「普通に声をかけたと思うのだが」

 

そこに突然聆が声をあげた。

 

「自分のなかの普通と世間一般の普通が同じやと思ったらアカン!」

「お、おう?」

「ほら、城に帰って一般教養の勉強するで!」

 

なるほど、春蘭を強引にでもここから遠ざける作戦か。

 

「いや、私も用事があって街まで来たんだが……」

「そんなんは後や!」

「華琳様に差し上げる菓子の買い出しを『そんなん』とはどういうことだ!!」

「華琳様も菓子より春蘭さんの方が大事やろ」

「む、まあ、それはそうだが……」

 

い、いける!

 

「じゃあ一つずつ考えていきましょう。孟徳様が十の宝物を手に入れました。このときの宝の数は十よね?」

 

「ん?あの声は桂花か。なにをやってるんだ、あいつは?」

「子供達に学問を教えてるんだよ」

「そうやで。これからは民の全てがある程度の教養を持つようになるから、『私は学問は苦手だから秋蘭任せた』なんか言っとったら笑われてまうんや。やからな?早く帰って学問を」

 

「だーかーらー、それを強欲で頭を全然使わない元譲が勝手に三つ取っていったのよ?じゃあこの時点での宝はいくつ?」

 

「なん……だと?」

「あ、もしかして……聞こえた?」

「ウチはなーんも聞こえへんかったでー?」

「私もです」

「幻聴やろ?」

「みんな耳が遠くなったの?沙和はちゃんと聞こえたよ?強欲でzむぐむぐぐんぐむむぐむーーーっ!」

「……馬鹿、いちいち繰り返すなっ!」

「北郷、私の耳はお前達と違って良いんでな。なるほど……聆の勢いが強めだったのはこれを誤魔化すためだったのだな。あの女狐め……こんなところで狼藉を働いているとは……」

 

春蘭から物凄いプレッシャーが放たれる。まずい。このままじゃ下手すると小屋ごと桂花を破壊しかねない。

 

「仕方ない。聆、凪、真桜、沙和……春蘭を取り押さえるぞ!」

「やるしかないみたいやな……」

「沙和の腕の見せ所なの!」

「ほう。お前達、この夏侯元譲の前に立つか……。止められるとでも思っているのではあるまいな」

「私ってば経験者やから止めるんは上手いでぇ」

「ならば存分に楽しませてもらおう」

 

「何度も言ってるように、そこから更に奇っ怪な変態芸術家(笑)の嵬媼が二つ台無しにしたの!さっきの七つから、いくつになった?」

 

「通ってええで」

「ああ。この怒り、お前の分まで晴らしてやる」

「ちょ、聆!そこは頑張ってくれよ!」

「うるさーーーーーい!外で暴れているのは誰?授業の邪魔になるから立ち去りなさい!」

「げっ、桂花!?なんで出てくるんだよ!」

「なんであんたがこんなとこにいるのよ?って……げっ春蘭!?」

「へい!嬢ちゃん、私もおるで」

「聆!?」

「そうやでー。何考えとるか分からん不気味な変態芸術家(笑)の鑑嵬媼さんやでぇ」

「こんなところで陰口を叩いていた割には、威勢よく出てくるじゃないか」

「別に陰口なんて叩いてないわよ?あなたの勘違いじゃない?」

 

桂花の顔がサッと一瞬青ざめたが、すぐにいつもの高圧的な態度に戻る。引いたら負けだと思ったんだろうな。

 

「ならば聞くが……子供達に物を教えるのに、どうして私の悪口を言っている!」

「悪口じゃないでしょ。ついでに事実を教えてあげてただけじゃない」

「へぇ〜〜。んだら私は変態芸術家の名に恥じんようにこのステキな素材を使って何か奇っ怪な作品を作らななぁ」

 

聆がガッシと桂花の頭を掴んだ。

 

「じゃあ私も何も考えずにこの場で血祭りを開催してやらねばな」

 

春蘭が指の骨をパキリと鳴らした。

あぁ……また桂花の顔色がすごいことに…………。

 

「どうせやからかゆうまも呼ぼか」

「ふむ。それも良いかもしれないな。あやつは中々話の分かる奴だ」

「殺したら華琳さんに文句言われるから、せめて泣いたり笑ったり出来んようにしてやろーや」

 

「……隊長」

「ああ……」

 

随分と物騒な流れになってきた……。そろそろ止めないとまずいな。……止められるか?

 

「おい……聆、春蘭。子供達もいるんだからその辺で……」

「そ、そうよ!私には授業が有るの!この辺で失礼させてもらう 「ァン?」 ……ってもいいですか!?」

「……せやな。子供らもおるしな。……春蘭さん」

「……まぁ、仕方ないか。私は菓子を城まで届けてくる」

 

お、意外と行けた。やっぱ子供達は大切なんだな。桂花もほっとした様子だ。

 

「じゃ、授業終わるまで待っとくから」

「私もすぐに戻ってくるからな」

 

縋るような瞳で見つめてくる桂花に、俺は敬礼を返すことしかできない。

 

 人を呪わば穴二つ。荀彧先生の体を張った国語の授業だった。




今、エロをどう書くか考えているのですが、
クッソむずかしいですね。てか、向いてない…?
でも、何事も挑戦だと思うので、頑張ってみます。


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第六章拠点フェイズ :【鑑惺伝】いったれ お風呂イベント 前半

中学生(?)の百合カップルをガチで目撃しました。
女の子同士のスキンシップは通常の友人でも、
抱きつきあったり、多少激しめなんですが、
キスしてたので間違いないです。
部活帰りっぽかったです。

だからなんだっていう。


 「ヤァっ!!」

「踏み込み甘い」

「せっ!!」

「引きにも気ぃつけぇ」

「ハッッ!」

「今のは良え」

「っラアッっ!」

「ガラ空き」

ドボッッ

「ッグぅ……」

 

恒例になってきた聆との鍛錬。筋トレ、素振り、形ときて、仕上げに行われる数分にも及ぶ打ち合い……打ち合いと言っても、完全にペースを握られて、故意に長引かされていたのだが。その最後。腹に前蹴りがめり込み、敢え無く沈められた。

 

「うーん。隊長は正攻法にはとことん強いけどちょっとひねた技にはとたんにグラつくなぁ……」

「いや……グラつかせる技なんだから仕方ないだろ?」

 

長い長い打ち合いの中で、聆は何種類もの流派を使った。真正面から攻めるもの、プレッシャーをかけて動きを制限するもの、攻撃動作即ち回避のような、無敵にすら見えるもの。最後は体術の中に剣術を組み込んだものだ。何度も勝負が付きそうになったけど、その度に聆がわざと甘い手を打って全然終わらせてくれなかった。

 

「はぁ……。やからってホイホイ殺られたらアカンやろ。……どんな動作にも兆候って有るから、それを見極める訓練が要るなぁ……」

「どんな?」

「ひたすら技受けるんが一番ちゃう?」

「うわぁ……明日が大変そうだぞ……」

 

筋肉痛が……。って言うより、打撲とか?

 

「いや、もう今日はええで。結構疲れとるやろ」

「あぁ……。今日は働きっぱなしだったからなぁ……ふぅ」

 

朝の警邏に始まり、書類整理、昼からは調練。そして夕方からの鍛錬だ。もうすっかり日も落ちてしまって、打ち合いは松明の明かりでやっていた。

 

「ほれっ」

「ん?」

 

聆が何か投げて寄越す。……これは……?

 

「『貸し切り』……?大浴場の貸し切りの札じゃないか。なんでこんなもの……?」

 

この時代、風呂は大変に貴重なもので、薪代も馬鹿にならない。大浴場の貸し切りなんてそれこそ国の超高官でもないと有り得ない。

 

「褒美やて」

「褒美?何の?」

「……はぁ。気付いとらんかもしれんけど、結構働いとんやで?」

 

うーん、そう言われれば、曲がりなりにも軍の指揮したり、警備計画練ったり、実際に警邏に出たりしてるもんな。あれ?俺って意外と働き者じゃん。ただ、それにしても……。

 

「贅沢過ぎないか?」

「……トップから十の指に入る立場ってこと、忘れとらん?」

「あ、そうか……そう言えば一応指揮官なんだっけ」

「『一応』とか……」

「あ、いや!そうじゃなくて!!」

「良え良え。じゃ、風呂、半刻後に予約してあるから」

「ああ。ありがとな!」

 

聆は俺の声を背中で受け、ひらひらと手を振って応えた。……聆もちょっと疲れてるのか?向こうから鍛錬を切り上げるなんて初めてだ。

 

「それにしても、貸し切りか〜。のびのび入れて良さそうだな」

 

部下の野朗共とわいわい話をしながらってのも良いけど、一人であの広い風呂でゆっくりってのは格別に違いない。

 

「……ん?女湯?」

 

札の端に、小さく「女」と書かれていた。

 

「まあ、貸し切りだし、一緒か」

 

男湯の都合がつかなかったのか?まあ、実際、文官にしても武官にしても、男性職員の方が意外と多いしな。

 

   ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「〜っくぅぅぅぁぁ〜〜〜〜」

 

湯船の縁に頭を乗っけて大の字に全身の力を抜く。疲れと凝りが溶けて和らいでいくのを感じる。やっぱり日本人には風呂が必要だ。こっちの世界じゃ、風呂は毎日入れるようなものじゃない。それを貸し切りにして誰にも気兼ねなく寛げるってのは相当な贅沢なわけで……。

 

「特にこんなデカい風呂を自由にできるなんて、日本でもそう無いぞ……。あーー、いつまででも入っていたい気分だぁ」

「残念やけどあと一刻で清掃開始や」

 

んーー、残念だけど、あと一刻もあれば十分すぎるかな。二時間だろ?……………ん?

 

「えっ?」

「隣、失礼するで」

 

隣には聆がいて……。気持ち良さそうに目を閉じ、身体を弛緩させている。普段、ほとんど肌が見えないような服を着てるから気付かなかったけど……白くて柔らかそうな……じゃなくて!!

 

「いつの間に!!?」

「掛湯まできっちりやってから入ったんやけど……隊長、鈍過ぎん?」

 

え、全然音しなかったぞ?

 

「やっぱ風呂は良えなぁ……。行水とはエラい違いや」

 

呟いて、いつもの瓢箪の酒を煽る。美しいラインを描く首筋がコクコクと……じゃなくて!!

 

「どうして聆がここに?」

「ここ、私の貸し切りやから」

「え?」

「春蘭さんの義眼作った褒美にな。今回入れて十回貸し切りにできるんや」

 

……俺の働きじゃなかったのか……。おかしいとは思ったんだよ。情けない話だけど。

 

「……じゃあ、俺はどうしてここに……?」

「隊長もなんぞ最近忙しそうやったし?まぁ、私の貸し切りの風呂に私が誰呼んでも構わんやろ」

「いや、でも俺、男だぞ?」

「うん?そうやな」

 

何を当たり前のこと言っているんだ?とでも言いたげな様子で返された。それ以上何も言えなくて……。うう、会話しとかないと余計に意識してしまう。

 

「んぅ〜〜っっ」

 

知ってか知らずか、聆はぐ〜〜っと大きく伸びをした。女性特有のたおやかな曲線に目が奪われる。だめだ。釘付けになって目を逸らせられない。

 

「隊長」

「へっ!?」

 

思わず声が裏返った。

 

「肩でも揉んでくれや」

「えっ」

 

いやいやいやいやだめだだめだだめだだめだ。これだけ見せつけられた上に触れてしまったりしたら……!

 

「た、隊長に肩を揉ませるなんて、な、何を考えているんだっ!」

「何をいまさら……。それに、私って隊長の師匠にあたるわけやん?肩ぐらい揉んでくれてもええんちゃうのん?怪我のせいでちょっと大人しぃしとる内に結構鈍ってもたみたいでなぁ」

「……」

 

何も言えない。俺が言い返さないのを見て、聆は後ろ髪を前に廻してこっちに背中を向けた。しなやかで無駄なく引き締まり、透き通るような純白。それは聆の躰全体に言えることで、研き抜かれた日本刀のような美しさで……。その分、傷跡が痛々しい。

 

「何やっとん?早よぉ始めてぇな」

「お、おぉ……」

 

聆の肩に手を乗せ、指の腹でゆっくりと揉み始める。確かに凝っているけど、それ以上に、滑らかな肌と、女の子らしい柔らかさに理性がグラグラと揺らされてしまう。そして何より……。

 

「ん……はァ……ッ」

 

時折背中をのけぞらせ、甘い声をもらす。その度にこっちまでビクリと緊張してしまう。

 

「隊長……上手…ッ過ぎぃ……」

 

少しずつ朱が注し始めた躰。肩越しに見える、柔らかそうな膨らみと表情に、思わず身震いする。これ以上は本当にマズい……。

 

「そ、そろそろ上がったほうがいいんじゃないかな〜、なんて……」

「いーや。まだまだや……」

 

身体をこっちに預けて、俺の肩に頭を乗せた。甘い香りと感触が心のブレーキをガリガリと削り落としてしまう。

 

「こんな体勢じゃ、上手く肩、揉めないよ……」

「他のトコ揉んだらええやん」

 

そう言って、聆は俺の頬に啄むような軽いキスをした。

 

「自制……出来ないぞ?」

「必要ない」

 

二回目のキス。今度は口に。俺は熱く甘い衝動の中に理性を手放した。




うわーーーーーーーーーーー
ハズカシーーーーーー
酔わないと書いてられねーーーー


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※袁分補給※ 短編「美羽様の一日」

エロスは一日にして成らず。
取り敢えず脇ペロまで行きましたが、
恥ずか死しそうになったので、
袁分と(蜂蜜)水分を補給します。


デーデレッデッデー

デーデレッデッデーデーデーデーデーデーデレッデーデーデーデーデー

ズーチャラッチャッチャラー

ホッコリッヲーワライットーバーサレーテー

(オープニング)

 

 

――袁術公路の朝は早い――

 

「お嬢様〜〜早く起きないと孫策さん来ちゃいますよ〜」

「うみゅ……しょんしゃくの相手など……にゃなのがやれば良いであろ……。わらわはまだ眠いゆえ……スピー」

「もうっ、お嬢様ったら☆」

――龍二つ : 寝言・かわいい――

 

「ん……みゅ……ななの〜?七乃はどこにおるのかや?七乃ーー」

「あ、お嬢様。やっと起きていらしたんですか?孫策さん、もう帰っちゃいましたよ?」

「ふんっ。どうせあれが足りんこれが足りんと文句ばかりであろ?寝ている間に通り過ぎたならそれに越したことはないのじゃ」

「まーたいい加減なことばっかり言ってぇー」

「そんなことより七乃よ。妾は喉が乾いたのじゃ!蜂蜜水を持って参れ」

「ダメでーす。先に着替えて朝食を召し上がらないと。もう時間的に昼食ですけど」

「ヤなのじゃ!妾は今 蜂蜜水が飲みたいのじゃ!」

「も〜〜。仕方ないですねぇ。じゃあ、お食事と一緒に出しますから、それで我慢して下さいね」

「ん〜〜、分かったのじゃ。そのかわり、とびっきり濃く作るのじゃ」

「はいはい。……じゃ、早く寝巻き、脱いじゃってください」

「ん」

「?」

「ん!」

「どうしたんですか?お嬢様」

「脱がしてたも♪」

「これは死ねるッ!!」

(もう。お嬢様ったら甘えん坊なんですから〜)

――巳四つ : 起床(着替え→朝食/昼食)・かわいい――

 

「もーー勉強は飽きたのじゃぁぁぁーーー。あーそーーびーーーたーーーーいーーーーーのーーーーーーじゃーーーーーーー」

「まだ始めてから四半刻も経ってないじゃないですかぁ。もうちょっとぐらい頑張りましょうよ」

「この学問は小難しくて好かん!前までやっておったのがあるであろ?あれが良いのじゃ」

「でも詩歌はもう私じゃ何も教えられることは有りませんしぃ……。帝王学は領主であるお嬢様にとって、とっても大切なものなんですよ?」

「政云々であろ?そんなもの七乃がやればよいのじゃ」

「もー。そんなので、私がいなきゃどうするんですかぁ」

「……七乃は妾とずっと一緒であろ?」

「これは死ねるッ!!」

(はぁ……じゃあちょっとだけ気分転換に散歩でもしましょうか)

――未三つ : 勉強・かわいい――

 

「モグ……んぐ……ハム………」

「お嬢様、そんなにガツガツ食べて……。お行儀が悪いですよ。ほら、ここにもついちゃってるしぃ」

「む……んみゅう………これ!七乃!そんなに強く拭くでない!」

「あ、すみませ〜んお嬢様。お嬢様のほっぺが柔らかかったのでつい〜」

「むーー。……七乃もここに柔らかいのがついておるではないか。……おぉ………柔らかいの♪」

「これは死ねるッ!!」

(お嬢様、そんなことしてないで早く食べちゃって下さいね〜)

――酉一つ : 夕食・かわいい――

 

「お嬢様ー、そろそろ上がらないと上せちゃいますよ?」

「いーや。もう少し入っておくのじゃ」

「お風呂上がりには蜂蜜水が用意してありますよー」

「だからなのじゃ。妾はの、長く風呂に入った後の蜂蜜水が特別美味しいことに気付いたのじゃ!すごいであろ?」

「そうですか……じゃ、もう少し入っておきましょうか」

「うむ!」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「…………みゅ…」

「……お嬢様、上がりましょうか」

「そうじゃの………ん……ななのぉ〜………抱っこ……」

「これは死ねるッ!!」

(立てなくなるほど我慢できるんならその頑張りを他に使ったらどうですか?)

――戌二つ : 入浴・かわいい――

 

「じゃあ、灯り、消しますよ」

「待つのじゃ七乃。……これ、読んでたも」

「え?これですか?でもお嬢様の方が上手じゃないですか。」

(それに内容も難しいし。寝るときに読む感じではないですよね)

「妾には七乃が読むのが一番なのじゃ」

「これはs……ふふ、仕方ないですね」

(これは死ねるッ!!)

「早くしてたも」

「――關雎、后妃之徳也。風之始也。所以風天下而正夫婦也。故用之郷人焉。用之邦國焉。風、風也。教也。風以動之、教以化之。詩者、志之所之也。在心爲志、發言爲詩情動於中、而形於言言之不足。故嗟歎之。嗟歎之不足。故永歌之。永歌之不足。不知手之舞之。足之蹈之也。情發於聲、聲成文。謂之音。治世之音、安以樂其政和。亂世之音、怨以怒。其政乖亡國之音、哀以思其民困。故正得失動天地。感鬼神。莫近於詩。先王以是經夫婦、成孝敬、厚人倫、肇慧教化、移風俗。故詩有六義焉。………」

「……スゥ………………」

「お嬢様ーー」

「ん……みゅ…………」

「灯り、消しますね」

 

「おやすみなさいませ。お嬢様」

――戌三つ : 就寝・かわいい――

 

「……さて…と。今日も一日頑張りましょうか」

――戌四つ : 張勲、仕事開始――

 

 

テン テン テン テン

テレテテテン テン テン

テ テ テレンテレンテレテ テ テ テレ

テレテ テ テレ デン デン

テン テン

アーカクーモーエルーーアカネーグモーシズシーズナガーールー

(エンディング)




美羽様と七乃さんは互いに害のないヤンデレぐらいで丁度いい気がします。
私の中の美羽様は詩歌の才能だけ抜群のイメージ。


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第七章一節その零点五

エロをどんなに頑張っても、
一日にちょっとしか進められません。
比喩とかオノマトペとか上手く使わないといけないので、
凄く疲れます。
現在4300字程。今週末の投稿を予定しております。
待っててね!エロい人!!


 「ハッっ!!」

「くっ……」

 

かゆうまとの鍛錬。相変わらず押され気味では有るが、なんとか動きに反応して受け流せるようになってきた。

 

「遅いぞ!」

「なっ!?……と見せかけてオラァッ!!」

「ぐぅっ!?おい嵬媼!蹴りは無しだろ蹴りは!!」

「投具も細剣も糸も無しにしてその上蹴りも禁止とか、どないせぇって言うんや」

「正々堂々とその……何だそれは?」

 

私が左手に持つ黒いデカいのを指差す。

 

「うーん、なんやろな?私も分からん」

「銘は無いのは予想していたが、まさか種類も知らないとは……。とにかく、正々堂々とソレで打ち合え!」

「それは勝負に成らなさすぎて鍛練には良くないやろ」

「なに、手加減ぐらいしてやる。安心しろ」

「かゆうまェ、絶対途中で忘れるし。それに、これってお前の方の鍛錬も兼ねとんやからな?」

「ぐむむ……仕方ない。蹴りは認めてやろう」

「なんでそっちが譲歩したみたいになっとん?」

 

軽口を言い合いながらもそれは口先だけで、全身は再び戦闘態勢に移行して、辺りの空気がシンと張り詰める。意外なことに、かゆうまも集中すると鎮まるタイプだった。何かと気が合うな。かゆうま。

 

「鑑惺様!」

 

と、その静寂を破る者が一人。

 

「何や?」

「袁紹と公孫賛との争い、袁紹が勝ち、公孫賛は徐州の劉備の下へ落ち延びた、との情報が入って参りました」

「分かった。下がれ」

 

反董卓連合が解散してしばらくの時が過ぎた。後漢王朝にはもはや力は無く、諸侯同士の小競り合いが続いている。今回のハムソンの敗北もその一つだ。そんな中曹操軍は盗賊や野党の討伐を重ね、着実に実戦能力を上げている。鑑惺隊への特殊技能教育も概ね順調に進んでいた。

歴史が動き始めるのも近い。私はといえば、腹の傷も殆ど完治し、再び修行と勉強と仕事と道化をこなすハードな日々を送っている。

 

 

 「アイツは戦場で危険地帯に飛び込んで命を落としそうだな」

 

試合を邪魔されたことに腹を立てたようだ。

 

「アッハッハッハ!!お前がそれ言うか!」

「ぐ……」

「それに、どっちにしろもうそろそろ時間やったわ。丁度ええ区切りや」

「ん?何の時間だ?」

「ハァ……そんなことも忘れてしまったの?相変わらずの猪ね。軍議よ。軍議!」

「うお!?荀彧居たのか!」

「いちゃ悪い?まったく、元からいる猪だけでも大変だってのに、忠誠心まで欠如した特攻バカなんだから!なんなの?一から十まで指図しないとまともに仕事出来ないの?」

 

桂花のかゆうまに対する態度は厳しい。春蘭を上回る特攻気質でその上

 

「ん?どうしたんだ荀彧 。えらく機嫌が悪いな」

 

高度だったり、長かったりする口撃が効かない。(頭が)悪いのはかゆうまの方なのに、逆に桂花が変なように扱われる様は爆笑物である。

 

「ちょっと!聆も笑ってないでこのバカを何とかしてよ」

「おいアホ!軍議くらい覚えとれカス!!」

「何だと!?嵬媼!いくら貴様でも許さんぞ!!」

「だって、そない言えって桂花が……」

「何だと!?おい荀彧 !!歯ぁ食いしばれ!」

「聆、本当に止めて。少し前からずっとお腹が痛みっ放しなのよ」

「おい待てかゆうま。少し話が有る」

「う、うむ。どうしたんだ?急に改まって」

「驚かんと聞いてくれよ……」

「お、おう……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「ワッッ!!」

「うわっ!?びっくりした」

「驚くな言うたやん」

「くっ……この〜〜!!」

「うわーーーー」

「どうして聆までバカになるのよ!?本当にやめてよ!!」

 

桂花が本格的に半泣きになってきた。

 

「じゃあかゆうま。私ら軍議行ってくるから。適当にお茶でも飲んどいてくれ」

「うむ。分かった。なにか命令があったらよろしく頼む」

「どうせ守らないくせに……」

「うん?何か言ったか?荀彧 」

「何でもないわ!ほら聆、行くわよ!」

 

かゆうまはATK(突進力)の代わりにMP(精神力)を消費する魔剣である。

そして桂花には気の毒だか、これから差し掛かる中庭からも何やら騒がしくて愉快な雰囲気が漂ってきている。……今度胃薬の調合法でも調べるか。




桂花のツッコミはネタに繋げやすいです。
つまり桂花が必死になって真面目に話そうとする限りボケは繰り返します。

短いけど久々(精神的)に勢いの良い物が書けて幸せです。
エロも良いんですけどね。観る専でしたね。


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第七章一節その一

追い詰められるほど、いらん事を思いつきます。
俺、このえっちイベントが終わったらさ……妖精主人公の東方二次小説書くんだ……。
さて、というわで「お風呂イベント後半」一通り書けたは書けたのですが、なんかエロくない。
長い長い推敲作業の始まりです。

本編は第一回運ゲー大会戦へと進んで参ります。


 「おー、何ぞ奇っ怪なモンができとるのぉ」

 

庭の真ん中に木製の櫓らしき何かがあった。基部に車輪が付いており、上段は制作途中。その足元で三人娘と一刀が何やら騒いでいる。……あのメンバーはいつも騒いでいるが。

 

「白々しいわね。聆のことだから、あれが何なのかくらい、どうせいつもの妙な情報網で掴んでるんでしょ?」

「さすがに極秘情報なんかは取れんわ」

 

私の情報網は一般兵による口伝えネットワークだ。一般兵が知り得ることならば手に入るが、それ以外……つまり極秘情報や高官連中の間でのことについては意味を成さない。一応、モ武将やモ文官にも協力を要請しているが、魏の上層部は秘密主義であるため、なかなか機能しない。

 

「ま、何作っとんか当てることは容易いけどな」

 

知ってますよ。カタパルトですよね。

 

「はぁ……それで何であの猪とつるんでるのか理解できないわ」

「深く考えることを辞めて無為に当たれば何の苦も無いで?」

「軍師が思考を投げ出たらどうしようもないもの」

「くくく……ほんだら運が悪かったって諦めるしかないわ」

「はぁ。猪もそうだけど、あの能天気な全身性器も気に入らないわ。――――ちょっと!いつまで遊んでるつもり!?」

 

……そう最初からキツい言葉を使うから生き辛いんだろ。

 

「うお、桂花、いたのか!?」

「普通にここまで歩いて来たんだけど!?まったく、ちょっと視界が私より高いからってバカにして……バカのクセに!ついでに変態のクセに!アンタが関わったら我が軍の秘密兵器が異常性癖保持者開発性玩具になっちゃうでしょ!寄らないでくれる?」

 

おー。さすが王佐の才。即興で十二文字熟語を放った。

 

「いや、成り行きでここに立ち止まってただけなんだけどなぁ……」

「隊長、そう言いながらじろじろ見て……やっぱり気になるんやろ?気になるんやろ?せやろなぁ……この丸みを帯びた外装とかたまらんの、よう分かるで!なんて言うかこう……ドキドキするやろ?」

 

太い骨組みに頬ずりしながら語る真桜を一刀が渋い顔をして見遣る。

 

「沙和ー!隊長がわかってくれへーん!」

「わたしもよくわかんないの……」

「桂花ー!」

「そんなの私も分からないわよ」

「じゃあ凪ー!」

「…………すまん」

「聆!聆は分かってくれるやんな??」

「キッショ」

「!?」

「うわー……」

「稀に見るバッサリ具合なの……」

「うぅ……みんなのいけず……。ええもん。ウチ絡繰と結婚するからっ!」

 

骨組みにぎゅうっと抱きついて喚く。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「止めるんやったら今やで!ウチ本気やで!?行くとこまで行てもうたるで!!」

 

真桜活き活きしてるなぁ。

 

「……桂花。こいつ何とかしてくれ」

「あんたの部下でしょ。あんたが責任取りなさいよ。首でも吊って、華琳様にお詫びしたら?」

「いや、さすがにそこまでは責任取れん……」

「変態長が本気出して真桜に絡繰より面白いこと教え込めばええやん(下衆顔)」

「むしろ聆が教えれば良いと思うんだ。でも、これ……」

「何?何か文句でもあるの?真桜の性癖以外で」

「んー?なんや。ウチの最高傑作に、なんか文句でもあるっちゅうん?素人が偉そうなこと言うたらあかんで?」

「いや、文句というか、何というか……」

「何よ。はっきり言いなさいよ」

「これ、もっと大きくなるんだろ?」

「見れば分かるじゃない。いちいち聞かないでよ」

「そうやでぇー。この上に本体のごっつい回転軸と絡繰が備わって、もっとでっかく……と、この先はまだ秘密や!隊長にも教えられへん!くぅぅっ、この言いたいけど言えん悔しさ、たまらんなぁ!」

「じゃあ私、バラして良えか?」

「あ、アカン!」

「黙っといて欲しぃんやったら金と逃走用の馬を用意せぇ」

「わ、分かった。やから言わんとってよ?絶対に言わんとってよ?」

「フリやな了解」

「あぁぁぁ!!」

「寸劇は置いといて、これ、このまま大きくなって、門から出せるのか?」

 

一瞬空気が凍る。

 

「「…………あ」」

 

真桜と桂花が同時に声を漏らした。凄くマヌケな表情で。

 

「考えてなかったのかよ……」

「そ、そんなの後で考えれば済む事よっ!」

「軍師の桂花がそれを言っちゃおしまいなんじゃないの?」

「『軍師が思考を投げ出たらどうしようもないもの』。……私の尊敬する軍師の言葉や」

「う……うるさいわね!もう軍議の時間でしょ!さっさと行くわよ!」

「ごまかすん下手すぎやろ……」

「あんた達が人をからかうのに命懸けすぎなのよ!ほら!早くしなさい!」

 

逃げるような早足で玉座の間へ歩いていく。一刀が気の抜けた返事を返す。

 

「……へいへい。凪、後はよろしくなー」

「え、私……ですか!?」

「実は違うで」

「??」

「聆、混乱させるようなこと真顔で言わないでくれ。凪、真桜が暴走しないように頼むぞ」

「なんやそのウチが壊れた絡繰みたいな言い草」

「絡繰とは言わんけど壊れとるんは壊れとるわ」

「なんやと変態芸術家(笑)」

「あァン?」

「オォ?」

「こら、辞めないかみっともない」

「「無限食欲唐辛子中毒者は引っ込んどれ」」

「な〜〜っ!だから、辛いものだけ食べるわけじゃないとあれほど……!」

「あははっ。どうせ変人同士なんだから仲良くすればいいのー」

「おお、さすがオシャレな于禁先輩は言うことが違うなあーー」

「オシャレな于禁先輩の前では私らなんか等しく醜いゴミなんやから掃除しやすいように纏まっとれって、そういうことやな」

「どうしてこうなったの……」

「はいはい終わり!ほら!聆、もう行くぞ!」

「おー。んだら真桜、頑張れや」

「そっちもな〜〜」

 

真桜達に軽く手を振って別れた。双方共、やり切ったという表情で。




第七章は聆の活躍する仕事が特にないので、ネタ中心。
やっぱり四人娘の会話はポンポン進みますね。
脱線しまくりで収集が付かなくなりがちです。


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第七章一節その二

みかん美味しいです。
みかんに蜂蜜をかけるともっと美味しいです。
寒くて動きたくありません。


 「……呂布が見つかった?」

「あの戦いの後、南方の小さな城に落ち延び、そこに拠点を構えることにしたようです」

 

碁石が示すのは卓上に広げられた地図の右下辺り、はるか南西。少勢力が小競り合いを続ける無法地帯のようなところだ。南蛮にも近く、はっきり言えばハズレの地域。……この時代、アタリなど何処にも無いが。

 

「なるほどね……。秋蘭、呂布が逃亡した時、呂布の隊はほぼ無傷だったのよね」

「はい。軍師の陳宮も健在という情報が届いています。いくらかの武将も呂布に同行しています」

「……どうしますか?呂布が本気になれば、こちらはかなりの損害を被ることになりますが……」

 

誰かが息を飲むのがわかる。

空気が重くなる。袁紹につぎ、袁術と並んで大陸全土でも三強と言って差し支えないであろう曹操の軍勢が、呂布たった一人の名に怯む。虎牢関と洛陽での二度、それぞれ五人ずつの将を破ったという実績は天下を"ビビらせる"のに十分すぎるものだった。

 

「……今は放っておきましょう」

「何ですと!」

「華琳様、それはいくらなんでも危険すぎます」

 

華琳がため息をつくように呟き、それに対して春蘭と桂花が異を唱えた。

呂布に手を出すのは危険な上、そもそもこちらも迂闊に動ける時期ではない。後の軍議であがるであろうことだが、今は袁紹が活発に領土を広げており、呂布討伐の為に遠征するなど考えるのも馬鹿馬鹿しい。放置という選択は消去法的に確定する。

桂花が反対したのは、華琳の口ぶりから無かったことにして忘れようというようなニュアンスを感じたからだろう。多分。

現状放置しか方策は無い。

呂布と戦わなければならないという前提ならば。

 

「……霞。呂布は、王の器に足る人物かしら?」

「…………正直、よう分からん」

「よう分からんってのは、それを測れるほど接触してなかったんか、したうえで判断がつかんのか……?」

 

考えるのをやめているのか。……普通に無しだろ。

 

「まさか、かつての味方だからといって……」

 

春蘭が軽く睨む。

 

「ちゃうちゃう!聆の言うとおり、判断つかへんねん。ここに名代で来たことあるやろ?恋……呂布はほとんど喋らんかったけど、実際ずっとあんな感じやねん。雰囲気としても……秋蘭、流琉、正面からやり合うたアンタらなら分かるやろ?」

「……む。それは確かに」

「えっと、武将っていうより、威圧感と緊張感は呂布の方がかなり高かったんですけど、野生のクマや虎を相手にしているのと同じ感じでした」

「……相手にしたことあるんかい」

「え?季衣もそうですし、聆さんも有るらしいんですけど……皆さんはないんですか?」

「あるかいなそんなん」

「旨いで?」

「食料としてしか見てないんやな……。で、とにかく、そういうこっちゃ」

「だから、どういう意味なんだってばっ!」

「春蘭さん、そんな熱うならんで」

「周りが変な知恵を付けない限り、こっちが手を出さなければ襲いかかっては来ない、って事か?」

「せや。軍師の陳宮はそこそこ切れ者やけど、まだまだおこちゃまや。政とか、長期戦略に関してはそこまで恐ない」

 

……つまり、誰かに変な知恵を付けられれば襲ってくるかもしれないということだ。本気で、なりふり構わず勝ちに行くのなら、そのポジションに立つ……つまり呂布を抱え込んでしまえば良い。それが話に出ないのは不思議だ。……反董卓連合のときに、華琳が呂布を欲しがって周りが半ギレになるっていうイベントが有ったような……。それが効いているのか?

 

「そういうこと。あの辺りは治安も悪いし、南蛮の動きにもきを配る必要があるわ。しばらくは動けないでしょう。ただ、監視だけは十分にしておくように」

「華琳様がそうおっしゃるなら……」

「皆も異議は無いわね。……それに今はもっと警戒するべき相手がいるわ。――――――」

 

話が袁紹に移ったから適当に聞き流す。馬鹿だから劉備よりこっち狙ってくるって話だろ?

それよりも問題は呂布だ。パワーバランスの改変を恐れて、取り込むのを提案しなかったが……。敵に回すのも相当嫌だ。何とか、上手く歴史の表舞台から消せないだろうか。ノーベル殺人賞のバケモンだ。敵として当たれば多くの仲間を失うことになるだろう。

独自に呂布とコンタクトをとって、私の故郷にでも隠遁させようか……。そこ出身の高官からの頼みとあらば女二人とペット百数匹の世話ぐらいしてくれるだろう。動物は山に放っとけばいいし。多少のパワーバランスは…………良くないな。最近部下とは言え雑兵にまで愛着を持ち始めてしまった。雑兵と英傑のどちらの命が重いかと言えば……正直、英傑だろう。英雄の死は永く語り継がれ、民族の思想にまで影響する。今の部下を守るためにバランスを操作し、流れを変えるのは愚かだ。

私は恐らく無能ではないが、そう上手く因果を操作できるわけではない。シナリオに干渉するのは恋姫達の命に関わることだけ。今決定した。

もう既に結構やっちまった感が有るが……大局には影響無いよな?蜀とマブダチでも戦うときは戦うし、これから予定している袁術と張勲と黄蓋の保護も、在野行きとか死亡するとかの奴らを魏に置いておくだけだし……。死んだことにして、決着ついてからネタばらしすれば何も問d

 

「――では聆を」

「そう。聆、桂花の手伝いを頼むけど、構わないかしら?」

「うっさいんじゃ今考え事しとるんどいや話しかけんな」

 

かゆうまっていう戦力が入ったけど……、統率面で難有りな上、華琳も積極的には使いたがらないから問題n……さっきの声、華琳だった!?

 

「あ、はい、何ですか!!」

 

思わず普段の口調を忘れて敬語になってしまった。急いで顔を上げる。

うわぉ……空気凍り過ぎだぁ………。みんなポカ〜んとして……。

よし!無かったことにしよう!!

 

「桂花さんの補佐やな?詳しい指示は後で直接受ければ良えか?」

「え!?……え、えぇ。二人には悪いけど、通常の任務に加えて各方面の情報収集を強化しておいて。特に袁家と呂布の周辺。他の皆は、いつ異変が起きても良いように準備を怠らないこと。いいわね」

「は……、はっ!」

「りょ、了解です!」

「……さぁ〜て、そうと決まったら早速調練しにいかなきゃ」

「確か急ぎ片付けないといけない案件が有ったわね……」

 

解散の声も無く皆ゾロゾロと玉座の間をあとにする。

……私から目をそらすようにして。

 

そして侍女が走って酒を持ってきた。

いや、だからイライラするほど酒が欲しかったら自前の飲むって。




七章は麗羽様サイドのシーンが多くて、
この作品では短くなってしまいます。

麗羽様も好きです。
麗羽様と美羽様を仲良くさせたい。


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第七章一節その三

最近、寝ても疲れが取れません。
オデノカラダハボドボドダ


 軍議の後、桂花の部屋に呼ばれ、細かい指示を受けた。桂花の補佐、つまりは情報収集の手伝いについてだ。いったいどんなダークな仕事をしなければならないのかと身構えたが、なんということはない。私の役目は偵察兵の工面と、その情報の整理だ。国境の城や砦に何人かずつ入れて、その報告を聞けばいい。潜入系の仕事は桂花がやるらしい。まあ妥当だな。素人がやって上手く行くものでもない。

 各城に鑑惺隊から一班ずつ、全部で一課出すことが決定し、それぞれの城の特徴、土地柄、現状の警備体制についてのレクチャーを受けて話し合いは終了となった。

茶ではなく酒がだされたことと、部屋に対して不自然に大きな机を挟んでの会話だったことには敢えて触れなかった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「華琳!袁紹、もう動いたって!?」

「遅いで、隊長」

 

会議から数日と経たない昼間に、城内の将軍格に緊急招集が掛かった。偵察に出した兵がノンストップトンボ帰りで報告にやってきたのだ。ちなみにかゆうまと霞は昼食に出ている。

 

「馬鹿は決断が早すぎるのが厄介ね。聆、敵の情報は」

「数はおよそ三万。旗印は袁、文、顔。敵の主力は皆おるらしいけど……」

 

たった数日で袁紹領の中央から三万の軍勢がこちらに接近するなど不可能だ。恐らくこちらの以前の軍議の時点で動き始めていたんだろう。

元々袁紹のところに潜り込んでいた斥候もいるのだが、これから軍事行動するって時に中央から早馬で曹操のところへ行く奴なんていたらさすがに止められる。そういう場面では偵察兵が斥候より早い。

 

「え、ちょっと待てよ!そんな大群が……?」

「隊長、まぁおちけつ」

「お ち つ け よね。……聆、その様子だと、報告にはまだ続きがあるのでしょう?」

「『動きがクソ遅え。兵力自慢か?早く滅びちまえ』やって」

「何なの?その報告」

「最高やろ?」

「最低だわ」

「……まあ、桂花の言いたいこともわかるけど……。『兵力自慢』、ね。バカの麗羽らしい行動だわ」

「それで報告のあった城に兵はどのくらいいるのだ?三千か?五千か?」

「七百やで?」

「ほほぅ、七千か。七千ならなんとか時間を稼げば間に合うな」

「よく聞け姉者。七百だ」

「一番手薄な所を突かれたわね……」

「桂花、何を考えこんでいるのだ。秋蘭、こんな時に冗談は良くないぞ!聆、……冗談だよな?」

「七百やで?」

「…………」

「なんで聆はそんなに落ち着いてるんだ?」

「逆に」

 

それに結末知ってるし。たまたま文醜の機嫌が悪くてフルボッコとか無いよな?

 

「桂花、今すぐ動かせる兵士はどのくらいいる?」

「いくらなんでも相手の動きが速過ぎます。半日以内に三千弱、もう半日あれば季衣や凪たちが戻ってくる予定ですから、なんとか二万は……」

 

流琉、季衣、三人娘は黄巾の残党その他諸々の討伐に出ている。普通なら私も三人娘と一緒に出ているところだが、偵察の管理のため残っていた。

 

「一日待っていたら間に合わないわね……。親衛隊を加えればどうなる?」

「華琳様!」

 

秋蘭が諫めるように声を上げる。親衛隊を出せば守りがスッカラカンになるからだろう。

 

「季衣も流琉も討伐に出ているのだから、兵だけ遊ばせておいても仕方ないでしょう。どうなの?」

「なら、もう五千は……」

「……援軍込みで八千か。心許ないわね」

「華琳さん、ゴキゲンな報告はまだあるで」

「何かしら?」

「『兵の増援は不要』」

「なんですって!?」

「まぁそう吠えなや桂花さん」

「馬鹿な。みすみす死ぬ気か、その指揮官は!」

「だって、三万対七百だろ?いくら籠城するって言ったって、限度があるぞ」

 

まぁ動揺するのも分かる。私も知っていなければ反対だっただろう。今でも少し抵抗が有る。

 

「……分かったわ。ならば増援は送らない」

「華琳様!?」

「ちょっとおい、華琳!」

「城の指揮官は何という名前?」

「程昱、郭嘉の二人や」

「なら、その二人には袁紹たちが去った後、こちらに来るように伝えなさい。皆の前で理由をちゃんと説明してもらうわ。……そうでないと、納得できない子もいるようだしね」

「わかった」

「しかし華琳様!説明もなにも、そやつらが生きてここに来られる保証などどこにも……!」

「皆も勝手に兵は動かさないこと。これは命令よ。……守れなかったものは厳罰に処すから、そのつもりでいなさい」

 

結局、春蘭をスルーしたまま軍議は解散となる。華琳も説明してやればいいものを。……確証がないから黙ってるのか?

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「糧食は後続に持たせろ。我々が持つのは最小限で良い!とにかく、機動力を高めろ!」

「なにをノロノロやっている!さっさとしろ!」

 

いつも通り裏庭で鍛錬をしていると、中庭から騒がしい声が聞こえてきた。……ダブル猪か。かゆうまェ……帰ってきてたのか。

 

「何やっとん春r「お、おい、何やってるんだよ、春蘭!華雄!」

「あ、隊長」

「聆!何があったんだ!?」

「それ今から聞くとこ。……何やっとん?」

「見て分からんか!出撃の準備だ!」

「それって、華琳に禁止されてただろ!」

「かゆうまもやめぇや」

「寡兵で苦しむ仲間を放っておけるか!」

「夏侯惇様!出撃準備、完了しました!」

「よし!ならば先発隊、出るぞ!」

「全速前進だっ!」

「はっ!」

「こら、春蘭っ!待てっ!」

「かゆうまェ!止まれ言うとるやろうが!!」

「おいこら!自分ら、何やっとんねん!」

「ちっ……厄介なのが」

 

よっしゃ霞姉来た!これで勝つる!

 

「霞!春蘭たちが例の城の応援に行くって……止めるの手伝ってくれよ!」

「……ったく。ここもイノシシか!華雄もええ加減懲りぃや!」

「貴様も似たようなものではないか!」

「今回は別に挑発に乗ったわけではないぞ!」

「あーー!もうっ!!一刀はさっさと華琳呼んで来ぃ!」

 

ん?呼び捨て?

 

「わ、わかった!」

「聆は二人止めるん協力してくれ」

「言われんでも」

「貴様ら……!どうしても止める気か!」

「そもそも何で命令無視してまで行くんどいや」

「袁紹ごときに華琳様の領土を穢されて、黙っていられるものか!華琳様がお許しになっても、この夏侯元譲が許さん!」

「で?華雄はそれに便乗したと?」

「違う!私は仲間を助けるために行くのだ!」

「戦力差考えろや」

「不利だからと言って仲間を見捨てるのなら、己の欲のために悪逆を尽くした十常侍と変わらんではないか!!」

 

かゆうまの猪思考ってそういう理由だったのか。

 

「ぶつかったところで被害増やすだけやろが!」

「それでも!!」

 

言いたいことは分からんでもないが、やり方がアホすぎる。

つーか、種明かししたほうがいいんじゃないか?……ああ、いや、ダメだ。そういえば程昱って失敗したら死ぬ気だった。

 

「自分ら、どうしても行くっちゅうんなら……」

 

霞が飛龍偃月刀を構える。……どこから出した?

 

「ふっ……あの時の決着、もう一度着ける気か?」

 

春蘭が七星餓狼を構える。

 

「嵬媼、お前なら分かってくれると思ったんだがな」

 

かゆうまが金剛爆斧を構える。

 

「分かった上で止めるんどいや」

 

そして私も訓練用ダガーもどき(刃引き済)を構えた。

……… や ば い 。

しかも私今甲冑装備してないから針とか鎖とかサブウェポンが無い。

 

「今度はどこからも矢なんぞ飛んで来ぃひんで?」

「上等だ!ならば……行くぞ!」

「来ぃ!」

 

春蘭と霞はさっそくおっ始めた。できるだけ長く睨み合いを続けてほしかった。

 

「……ではこちらも始めるか」

 

こうなるから。

……空気的に応じないわけにも行くまい。死なないようには加減してくれるよな?

 

「……そうやナッ」

 

言い終わる前に突っかける。

 

「そんな陳腐な奇襲が通じると思ったか!」

「思とらんわ」

 

目的は防御の隙に乗じて間合を詰めることにある。

 

「シィッッ!!」

「クッ」

 

両腕両脚を使っての連撃。……だが防がれる。まだ速さが足りないか……。

 

「今度はこちらからだ!!」

「チッ」

 

普段なら落ち着いて流せるようになったかゆうまの攻撃だが、今の武器はダガーもどき。心許ないにもほどがある。ならば……。

 

「ラァッ!」

「なっ!?」

 

斬撃を受けると同時に無理遣り踏み込み、上段廻し蹴りを放つ。かゆうまは更に斬撃を押し込み、前進することによって回避した。私はそれを流し、振り向きざまに"飛ぶ斬撃"を放つ。……まぁ止められるんですけどね!位置が入れ代わった。

 

「どうしたどうした!止めると言った割には覇気が無いぞ!」

「覇気なんか無くても止められる。……せいっ」

「ヒヒンッ!?」

「馬が!?」

「将を射んと欲すればまず馬を射よ。これで城に向かえんやろ」

「クッ……だが換えの馬などいくらでも居る!」

「用意する度に気絶させる」

「ぐむむ……貴様っ!卑怯だぞ!」

「それだけお前が大切なんや」

「……っ!嵬媼……!」

「かゆうま……」

 

そして抱きしめあった。ふわりとかゆうまの体が持ち上がる。

 

「――プロレスに就職します――」

 

ゴしャッッ

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「華琳!こっちだ!」

 

気絶したかゆうまを日陰に横たえたころ、やっと一刀が華琳を連れて来た。

 

「遅いで、隊長」

「これでも必死に走り回ったんだぞ!?」

「何をしているの!」

「かっ!華琳様!」

「春蘭!聆!霞!これはどういう事!説明なさいっ!」

「今ええ所なんやから、邪魔せんといてっ!てええええええいっ!」

「……くぅっ!」

「さて、今度はウチの勝ちやなぁ。春蘭」

「いっ、今のは油断して……っ!」

「言い訳がましいな」

「かっこ悪いぞ」

「見苦しいわよ、春蘭」

「うぅ……華琳様まで……」

「で、何をしているの。答えなさい」

「い……いかに華琳様のご決断とはいえ、今回の件、納得いたしかねます!袁紹ごときに華琳様の領地を穢されるなど……あってはなりません!華雄も、見捨てるわけには行かないと……」

「そういえば華雄は?」

「あっちで寝とる」

「……それで兵を勝手に動かしたわけね?」

「これも華琳様を思えばこそ!華琳様の御為ならば、この首など惜しくはありませぬ!」

「……はぁ。あなたにはもう少し、説明しておくべきだったわね。いいわ、出撃なさい」

「華琳様っ!」

「華琳!?」

「おぉ……」

 

三百人縛り来るぞ……。

 

「ただし、これだけの兵を連れて行くことは許さないわ。あなたの最精鋭……そうね、三百だけ動かすことを許しましょう」

「逆に私行ってええか?」

「なっ……!?」

「聆!?」

「春蘭さん、三百は正直、勝ち目無いやろ?」

「……お前には有るのか?」

「無いで?」

「だったらどうして……!」

「鑑惺隊やったら、失敗して、敵に追われても九割以上生き残ったまま逃げ延びることができる。勝算の方は策に任せるわ。有るんやろ?何か」

 

何か、と言うより、運だめしが。確率は低いだろうが、原作と違って袁紹が攻めてくるかもしれない。それをカバーするための出撃だ。恐らく春蘭では郭嘉と程昱を守って戻ってくることはできない。鑑惺隊なら、それができる。(確信)

 

「……わかったわ。聆に任せましょう」

 

華琳が面白そうにニヤリと笑った。

 

「ほんだら残っとる四課全部連れて行くわ。だいたい三百やから」

 

もともと、五課を残して凪達に貸し、そこから一課を偵察に出しているため四課。戦時体制なら一課百人越すが、普段は当初と同じく、十人班八つで一課である。つまり現在三百二十人。文醜の闘争心を刺激する人数ではないだろう。逆にこれ以上少ないと城の七百人の誘導に人手不足だ。

 

「構わないわ。……ではここにいる残りの兵は、盗賊団の報告が入っているから、このまま霞が率いて討伐に出発なさい」

「そりゃええけど……それってどういう……」

 

未だ戸惑っている面々を置いて出撃準備をする。予想より大分早く済んだ。三課長曰く「鑑惺様が出撃なさるのは半ば予想しておりました」とのこと。キモイなぁ。これから、場合によっては暫く山籠りしなければならないかもしれないというのに、あんまりテンションの下がることを言わないで欲しい。




また途中で消えましたよちくしょい!
調子良く書いてるときほど途中保存しなくなるので消えたときが酷いです。
呆然とします。


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第七章一節その四

木曜辛すぎです。
……前にも書きましたっけ?


 聆が城を出て、そのまま日が暮れて。

 

 何となく眠れなかった俺の足は、自然と城壁の上へ向かっていた。

 

「あ、隊長……」

「なんだ。三人とも来てたのか」

 

階段を登った先には、凪、真桜、沙和がいた。

 

「ここなら、戻ってきたらすぐに分かるからな」

「華雄、それ以上乗り出したら落ちるぞ」

 

そして、城壁の縁にもう一人。

 

「……でも、帰ってくるったって、こんなすぐには帰ってこないだろ?何か策があるらしいけど、さすがに明日か明後日か……」

 

そもそも三十倍の相手をどうにかできる策なんて有るのか怪しいが。

 

「なんや凪が寝られんらしぃてなぁ」

「そーそー。ひたすら型の練習繰り返したりして怖かったのー」

 

二人してからかうようにククっと笑う。真桜と沙和はいつも通りか。

 

「本当ならすぐにでも出撃したいところです」

「そこは『失礼な!怖くなどない!』とかって訂正するとこなのー……」

「……なんやもぅ、ひとがせーっかく普段通りにやっとるのに……」

 

二人も空気の抜けたようにしおしおとうなだれてしまう。

 

「やっぱ真桜でも気になっちまうか」

「あたりきやん!千対三万なんか勝ち目の か の字も無いわ!」

「こんな無茶するなら沙和たちも連れて行って欲しかったの……」

「沙和たちは盗賊討伐に出てたしな。……急ぎだったから仕方ないだろ」

 

聆が出て、すぐ後に季衣と流琉が戻り、少しして凪たちも戻ってきた。

目を覚ました華雄と一緒に再出撃しようとするのを秋蘭と流琉が止め、そこに季衣が加わって大騒ぎになり、華琳がむりやり静めたのだった。

 

「嵬媼め……私には行くなと言っておいて。……北郷、アイツは前から あぁ なのか?」

「"あぁ" って?」

「どうも自分の命を軽く見ている気がする……」

「華雄も突撃しようとしてたじゃないか」

「それはそうだが、こう……意気込みが違う!」

「なんだそりゃ」

「……危険や責任を一人で抱え込もうとする。自分の生死までも損得勘定に入れている……」

「そう!それだ。……あの時もそうだった。アイツは自ら囮になるようなやつだ……。今回も勝つ気などさらさら無いんだろう!」

 

聆の、出発前の妙に落ち着いた表情が浮かぶ。

 

「い、いや、聆は殆ど被害なく城の皆を逃げられるって言ってたし」

「……聆の隊って、指揮官がおらんよぅになったときの動き、かなりしっかり教え込まれとるらしいやん」

「……ちゃんと帰って来てくれないとヤなの……」

「聆は生きて帰って来るさ。この前みたいに。捕まっても、袁紹のとこぐらいなら軽く抜け出してくるって!」

「むしろ壊滅させてくるんちゃう?」

「ついでに文醜と顔良を連れてきたりするかもしれませんよ」

「嵬媼は死んだと思ってからが強いからな!」

「なんにも心配ないのー!」

「そうだな!」

「せやな!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

結局誰一人として城壁から下りようとしない。

 

「……みんな、そろそろ下りないのか?」

「私はもうここで寝ることにした」

「私はもう少しここに居ます」

「沙和もー」

「そう言う隊長はどないなん?」

「いやぁ、俺ももうちょっと……」

 

やっぱりみんな心配なんだ。

 

「……でも、毛布ぐらい取って来ようかな……」

「あ、じゃあ何か軽い食べ物も持って来てなー」

「それは自分で行けっ」

「えぇやんイケズーー」

「おい真桜、隊長に向かっt

「おい!北郷!!」

 

華雄が突然叫んだ。

 

「どうした!」

「お前ら!あれ……!」

「え!?」

「ん!」

「おい……まさか!」

 

華雄の指し方に見えるのは、もうもうと上がる砂煙。伝令なんかの数じゃない。少なくとも、数百規模の騎馬隊の煙だ。

 

「旗印、誰か見えないか!?霞じゃないのか?」

「んー……?ちょい待って」

「ぅお!?押すな落ちる!!」

「鑑……!鑑惺隊、聆です!!」

「おいおい……いくらなんでも早すぎないか?」

「早いのだからそれでいいのだ!!門を開けに行くぞ!!」

「私は華琳様に伝えて来ます!」

「ほら隊長、行くで!」

「早くするの!」

「お、おう……!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 私の懸念は杞憂に終わり、結局原作通りに事が運んだ。陳留の城はもう目の前。もう後は知っている内容しか出ない退屈な軍議だけだ。種明かし、鼻血、軍師採用だったな。正直言ってもう眠い。鼻血も「これから曹操のとこに行くから」って言った時に既に見たし。

程昱と郭嘉の護衛として帰還した私を出迎えたのは

 

「嵬媼ーーー!!!」

 

かゆうまの

 

「よく無事だったな!」

 

熱い抱擁だった。

 

「せいっ」

「おわっ!?」

ビターン

 

巴投げで応えた。

続いて沙和と真桜が走ってくる。

 

「聆ちゃーーん!」

「レーーーイ!!」

「はいっほいっと」

ビタビターン

 

「聆!無事だったか!良かったぁ……って、何やってんだ!?」

 

心底安心した様子だった一刀が地面に転がっている三人を見て表情を一転させる。

 

「ただいま〜〜」

「ああ、おかえり。……じゃなくて!なんで真桜たちが倒れてんだ!?おいなんで襟首と袖口を掴むんだ止めろ止めてうわっ!!?」

ビターン

 

とくに意味の無い暴力が一刀を襲う!所謂"深夜のテンション"である。その後出てきた華琳にはなんとか踏みとどまって郭嘉と程昱を引き渡した。

 

肩に手を掛けるまで行ったが。




やっと役者が出揃った……と思ったら出番無いという。
拠点フェイズから頑張ってもらいましょう……と思ったら出番あんまり無いという。


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第七章拠点フェイズ : 聆(3X)の回避

挿絵とか使ってみたいです。
でも逆に冷めないか心配です。
クオリティ低い絵を出すとまた黒歴史が……。

関係ないですが全裸で寝るの気持ちいいです。


 「あーぁ……暇やなぁ……」

 

窓の外を眺め、湿気を吸って広がった髪を掻く。

今日は月に一度の休みだ。いや、非番で仕事が無い日はもっと有るんだが、普段はその日にも鍛錬や学問をする。月に一度の休み、というのは、それもしないと自分で決めている日だ。

それに今日は生憎の雨。出かけるのは面倒だ。昼寝もあまり気持ちよくない。

 

「どーすっかなぁ……」

 

私が非番でも、北郷隊自体は別に休みでも何でもない。三人娘と一刀は気の毒なことに警邏に出ている。居ても少し喧しいが居ないと暇だ。夏侯姉妹は討伐に行ってるし、霞も然り。季衣流琉は怪力恐い。……またかゆうまか。いや、でもなぁ。あまりかゆうまと一緒にいて、セットと思われたら困る。戦闘で近くに配置されたりしたらこっちの行動に支障が出かねない。

 

「んー……」

 

そもそも圧倒的に娯楽が少ない。酒は高いし、ゲームも殆ど普及してない上に、できる奴はクソ強いから面白くない。

……………読書か……。気が進まないが、それくらいしか無いかもしれない。晴耕雨読って言うし。書庫で三冊くらい借りよう。ついでに前借りた本も返すか。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 管理官から鍵を受け取り、書庫への渡り廊下を進む。

これは一刀の提案により作られたものだ。それ自体の要望は前々から有ったらしいが、木造の場合は火災の延焼が、石造りの場合は耐震性が懸念されて実現しなかったらしい。だが、一刀の「え、じゃあ一部だけ延焼防止に石造りにすれば良いんじゃないか?」という一言で問題が解決された。

おかげで雨の日でも本が濡れるのを気にせずに済む。

 

「さて……何読もか」

 

外した錠前をポケットにつっこみ、中に入る。ただでさえ薄暗い書庫が空模様のせいでさらに厄介なことになっている。

せっかくの休みに政治とか思想とか、小難しいものは読みたくない。小話みたいなサクッと読めるヤツって有っただろうか……。まぁ、ゆっくり探すとしよう。

 

 

 「『妙高の頂上で仁を叫ぶ』?……秀逸やなぁ……」

 

妙高とは須弥山。仏教などで世界の中心に有るとされる山だ。つまり、セカチューってことか?愉快なタイトルに釣られて中を見たが、なんということはない。ただの儒教教本だった。タイトル詐欺もいいトコだ。

 

「うーん、あと一冊がなかなか決まらん」

 

二冊はなかなか良いのが決まったのだが……。

 

「なにかお探しですかー?」

 

背後から急に声がかかった。

 

「びっくりするから後ろから急に声かけるんやめてな。風さん」

「……そう言う割には動じていないように見えるのですが……」

「あ、稟さんチーッス」

「それは……あいさつ……なのですか……?」

「違うで?」

「ならば一体……」

「あいさつやで?」

「??」

 

おお……混乱してる混乱してる。まだ出会ってちょっとしか経たないが、稟イジりは結構面白い。

 

「で、風さんはどういう用事なん?あぁ、ちな私は何か適当に読めるモン探しとるんや」

「すこし、投石を使った戦闘の記録を確認しに来たのです。それにしてもすごいですねー。以前見たのですが、貸出記録の半分が聆ちゃんでした」

 

そういえばそんな数になるのか……。簡単な部類のものをできるだけ幅広く読むようにしていたからか。あとは意外なところで凪も月二冊くらいのペースで借りてるんだよな。

 

「いやー、まだまだ勉強不足やからな」

「ええ、すごく勉強熱心なようでー。分野も多岐に渡ってますねー」

 

……こいつ、探ってきているな。孔明と同じ目をしてやがる。私の一挙手一投足、呼吸のリズムや視線の動きからでさえ思考を読み取ろうとする。ならば……。

 

「……!?」

 

左右の眼を別々に動かしてやった。

 

「あ、そうそう。何か愉快な読み物無いか?」

「……さぁー。風はなにぶん新参なものでー。稟ちゃんはなにか知りませんかー?」

「……聆殿」

「なんや?」

「あいさつではなくあいさつである、とはどういうことなのですか?」

「まだ考えてたのかよ……。まったく冗談の通じない嬢ちゃんだぜ」

「これこれ宝譿。聆ちゃんの思考に付いていけというのは酷というものですよー」

「本人前にして言うかね普通」

「……………ぐぅ」

 

出たテッパンネタ。

 

「稟さん、あれ適当言っただけやから気にせんといて。で、何か知らん?」

 

そして華麗にスルー。風みたいなワールド展開系ボケは一度突っ込むとめんどくさいことになる。そのまま寝てろ。

 

「そう言われましても私も新参者ですし……。そもそも聆殿がどういうものを好むのか……。その二冊ではいけないのですか?」

「あー、もう一冊ぐらい欲しいかなって。てか、何で敬語なん?」

「やはり目上の方には敬意を……」

「!? 待って、私将軍未満やで!?」

「え!?ですが華琳様と対等に話していましたし……少なくとも一刀殿と同様、華琳様の助言役とばかり」

「隊長もそんな大層な扱い受けとらんからな?……まだあんま日ぃ経たん奴から見たらそう映るんか……。あぁ、やからこれから敬語いらんで」

「……いえ、もう敬語じゃない方が違和感有るので敬語で行きます」

 

……曹魏御意見番熟女枠私?

 

「じゃあまぁ別にえぇけど……。あーあ。あと一冊どないしょっかなぁ」

「むしろ私は聆殿が選んだ二冊が気になります」

「見るか?」

 

左手に乗せていた本を手渡した。……あ、ミスった。

 

「『黙察天子小獨呂』……『館父子娘吻編』!? な、何ですか一体これは!?」

「いやー……古い館に住まう父と娘との禁断の愛を繊細な描写と計算された修辞法で描き切った空前の……」

「こんな薄い本がそんな作品なわけ無いでしょう!ほら!一頁進んだだけでもう……寝…所に………」

 

稟の目がめくったページの上に釘付けになり、どんどん顔が赤みを増す。ヤバい……!

 

「ぶ「させるかァッ!!」

ズボッ

「ふがが!?」

 

そのまま稟を抱え上げ、書庫から飛び出した。

 

「ふがが!ぐががが!!」

 

腕の中の稟が痛そうにジタバタともがく。もうここなら大丈夫だな。汚れる本も無いし。

 

ズボ

ブシャアッッ

「……………」

 

……本は無くても汚れるものは他にも有っだんだよなぁ。足下から頭のてっぺんまで嫌に艶のある赤と鉄臭い臭いに包まれる。戦場でもこれほど酷い返り血はなかなか無い。

 

「……すびばぜん」

 

自らも自分で作った血の海に沈みながら謝る稟に、私は憐れみ憤りの混じった複雑な笑みを返すことしかできないのであった。




有言逆行!
それが作者の合言葉!


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第七章拠点フェイズ :【北郷隊伝】炸裂!怒りの時限爆弾

なんか頭がクラクラするなぁ、
全裸睡眠のせいで熱が出たかなぁ、と思ってたら、
一日何も食べてませんでした。
そりゃ目眩もするよね!


 「よー。大将」

「これはこれは旦那」

「旦那言うな。奥さんじゃ」

「ハッハッハ!これまたご冗談を」

「酷すぎるやろそれは」

 

やってきたのは東地区の中通り、賑やかでオシャレな店が軒を連ねる中、一軒だけ隠れるようにひっそりと立つ小料理屋。

店主のオヤジと軽口を交わしつつ、いつもの席に座る。料理場のすぐ目の前、所謂カウンター席だ。

 

「西の商売は上手ぉいっとるんけ?」

「まぁ、ぼちぼちってとこで」

「それァ良かった」

「へぇ。おかげさまで。それはそうと、ご注文は」

 

壁に掛かっている札をさっと見回し、注文を決める。

 

「じゃあ濁りと炙りと大根の漬物。あと菜譜」

「あいよ!でもいいんですかい?お酒。警邏の途中でしょう?」

「くくく……白々しすぎるわそれは」

 

手渡された書簡にさっと目を通す。もちろん、壁にメニューが掛かっている上、注文が確定しているので菜譜など微塵も必要ない。ここで言う"菜譜"とは、西地区での噂や小悪党共の動向、ちょろっと漏れた犯罪組織の情報などが書かれたものだ。

このオヤジは夜の間西地区でただ一軒の酒屋件料理屋をやっている。……酒屋自体は西地区にも腐るほど有るのだが、何分治安が悪い。夜中に店を開けるなど普通はしないのだ。そこに、私の部下を客に溶け込ませる形で用心棒として入れている。これによってオヤジは夜中の市場を独占し、私はその見返りに色々と情報を貰う。

 

「ふーん……。まぁ、警邏の効果が出とるってことかな?あと割れ窓」

「ええ、それはもう。お客さんの愚痴も増える一方で。はい、漬物と……濁酒ね」

 

もちろんこの時代、そんな夜中に活動している人間に真っ当な輩は少ない。オヤジが西で相手にしているのは"そういう奴ら"だ。自然と声が抑えられたものになる。

 

「ただ……この、何かしら……嵩張らんものが高値で取引されとるってのが気になるな」

「ええ……。アッシが言うのもなんですが……どうもきな臭え品でしてねぇ……」

 

これは……とどのつまりアレか……?

 

「……ちょーっと騒がしぃなるかもしれんなぁ……」

「性急なのは止して下せぇよ?足がついたらたまりやせんから」

 

オヤジが言うように、情報漏れの足がつくかもしれないということで、ここで手に入れた情報はどんなに決定的なのでものでも参考くらいにしか使わないことになっている。あまりにこちらの動きが早いと相手もどこが原因か探ろうとするからだ。あまり便利な情報源ではないが、夜、適当に二三人割けばいいだけなので妥当だろう。ただ……今回は少し様相が違ってくるかもしれない。

 

「そん時は安心して中央来てくれて良えでー。厨房に口利きくらいしたるわ」

「…………そこまで重要な事で?」

「おー。陳留中がひっくり返りかねん一大事や」

「カカッ……ならその凄い情報の褒美がほしいとこですなぁ」

「ほれ」

「え……?」

「褒美」

「いやいやいや、冗談ですぜ?」

「……これは本気で重要な案件や。でかしたぞ大将」

「へ、へぇ……」

「とりあえず怪しげな薬には気ぃつけてくれ。……それ、そろそろ焼けとんちゃう?」

「へ!?あ、あぁ、おととっ……はい、髄の炙り一丁」

「おぉ、私のおかげでえぇ焼き加減やな。……うん、安酒によぉ合うわ」

「はぁ……恐ろしいお人で……。お仲間はこのことをご存知で?」

「さぁ?言うてはないけど?お、ちょーど斜め向かいの茶屋で駄弁っとるわ」

「おや、もう休憩時間ですかい?」

「怠けとるだけやろ。仕事はちゃんとやれよなー……」

「旦那がそれ言いやすかい……」

「私は代わりの奴も立てとるし。ただ呑んどるだけちゃうもん。仕事や、仕事。あと旦那言うな」

「その割にはえらく馴染んでいらっしゃる。……ああいった店には興味は?」

 

オヤジがクイッとその店を顎で指す。現代で言うところのオープンカフェに近い、屋台タイプの茶屋。その机の一つに、見慣れた目立つ人影が二つ。真桜と沙和だ。

 

「無いなー」

「若い娘連中に人気だって聞きやすが?」

「私がその若い娘連中や、と?」

「……違うんですかい?」

「………せいか〜〜い。あ、炙り追加で」

「はいよ。それにしてもあんな可愛らしい娘さんたちが一軍を担う将だとは……」

「可愛らしい?私にはそんなん言わんかったよな?」

「いや、旦那は何というか、……違いやすでしょ」

「あン?よぉ見ろや!」

「…………」

「…………」

「……えーと、さて、そろそろ焼けたかな?」

「おい目ぇそらすなや。何?照れとん?えぇ年こいて二十歳もいかん娘っ子にときめいとん?」

「お、おや誰か来たようですぜ!」

 

オヤジがごまかすように向かいを指さす。

 

「北郷様、でしたっけ?天の御使いの……」

「あと楽進やなぁ……あーぁ。二人共気の毒に」

「あー、注意されてるみたいでやすな。はい、お待ちどー」

「お。今回は凪とちゃうんか説教係」

「凪ってぇと……?」

「楽進の真名」

「なるほど……。お、あれ?説教効いてないみたいでやすが?」

「あいつらまたテキトーなことばっかり言うとるんやろ」

「はぁ……いろいろ大変なことで……。お!つねってやすよ!そうそう。言うこと聞かない駄々っ子には折檻が一番だぁ」

「で、逆ギレ乙。と」

「うわっ……ほんとに逆ギレ……。あー、そこで諦めちまいやすかい御使いさんよぉ……。もう普通に話聞きだしちまいやしたぜ……」

「まぁ、言うても反省する奴らちゃうしなぁ」

「と言うより、そもそもあの紫の……李典様、でしたっけ?態度悪過ぎじゃありませんかい?御使い様相手に一度も顔上げてませんぜ?」

「どーせ絡繰でもいじっとんやろ。趣味のことになったら周り見えん奴やからなぁ」

「……それ、御使い様大丈夫ですかい?」

「あー、大丈夫大丈夫。曹操が認めた唯一の男やで?」

「あ、なら安泰だぁ。あの女贔屓で有名な曹操様が認めたんなら相当な人物で……」

 

民衆レベルで広がってるのか……。華琳の女好き。

 

ドゴーーーーン!!!!!

「うわ!?一体何ですかい!?」

 

「きゃー!服に杏仁豆腐がーっっ!!?」

「ああああ、夏侯惇将軍ーっ!?将軍ーっ!?」

 

凪の拳が茶屋のテーブルを叩き壊したらしい。

 

「おー、楽進先輩のお出ましか」

「一体何が?夏侯惇将軍も来てたんですかい!?」

「夏侯惇将軍ってのは絡繰のおもちゃな?」

「うへぇ……机がバラバラだぁ!あの白い……楽進様?おっかねぇなぁ……。茶屋の奴らが気の毒だぁ」

「あー、確かに。別に机砕かんでもなぁ。やっぱ真面目やけどちょい短絡的やな」

 

「アーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 

凪の足下で何かが砕けた。十中八九からくり夏侯惇だろう。

 

「おぉ……南無ー」

 

「ギャーーーーーーーーーーッッ!!」

 

「へへっいい気味だぁ」

 

……軍の高官の悲劇に何言ってんだこのオヤジ。……まぁ自業自得なのでなにも言わないが。

凪が更に二三言怒鳴り、沙和が真桜を引きずって逃げるように仕事に戻っていく。

 

「まあ不良軍人に天誅が下ったってことで……」

「ちな私が見つかったらこの店の机も潰れます」

「え……」

 

そのときのオヤジの顔はなかなかの傑作だった。

机を潰された時の顔は悲壮すぎて笑えなかった。




うーん、最近聆の三人娘との絡みが少ないですね。
でも一度絡みだすと止まりませんからね。
難しいところです。


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第七章拠点フェイズ :【張三姉妹伝】熱狂と、現実と 上

削除時バックアップありがとう。

 感 謝 !
 圧 倒 的

 感 謝 !


 「彼女たちがこれから護衛を担当する楽進と鑑惺。こっちは護衛対象の張角、張宝、張梁の三人ね」

 

一刀がそれぞれの間に立ち、双方を緩く紹介する。

今回北郷隊に任された任務は、「張三姉妹と協力した、工作員の討伐」。西方の邑に住民を煽動して反曹操の気運を作ろうとしているらしい。これがそれなりのやり手らしく、なかなか尻尾を出さない。仕方ないから、そこに張三姉妹という、求心力の塊みたいなものを突っ込んで相手を焦らせて炙り出そうというのが筋だ。

 

「どもー」

「よろしくお願いします」

「よろしくねー」

 

天和と軽く挨拶を交わす。凄く自然な営業スマイルだ。さすがはアイドル。

 

「あ、あんた!ちぃたちにヒドイことしようとした奴だ!」

 

突然地和がこっちを指さして大声を上げた。

 

「聆……」

「お前……」

 

凪と一刀がじっとりとこちらを見遣る。

 

「ナンノコトカナー」

「忘れたとは言わせないわ!あんたにつけられた心の傷は深いのよ!」

「んー?そうなの?会ったことあったっけ?」

「天和姉さん……黄巾が解散したときに私達を捕まえた将よ。……さすがに身長で気付くでしょう」

「うーん、そう言われればそんな気も……鎧が無いからわかんなーい」

 

邑の住人に気取られないようにとできるだけ普段着に近い格好にしたのが裏目に出たか……。

 

「もう!天和姉さんあんなことされといて何も思わないの!?」

「……ちぃ姉さん、アレはタダの脅しで結局何もなかったじゃない。話が進まないからその話題は置いておいて」

「そうやでー。あんときは悪役っぽかったけど実は私ったらさいきょ……じゃなくて、親切心の塊やから」

「えー?聆が親切?まっさk痛い痛いいたたたたた!!」

 

余計なことを言おうとした一刀の小指を捻る。

 

「……鑑惺の力量は実際に見てるから良いけど……あなた……」

 

人和が視線をスッと凪に移す。

 

「あんた、腕の方は立つんでしょうね」

 

地和の問いに、凪はコクリと静かに頷く。相変わらずの人見知りだ。でも強者っぽい動作なのでこの場合では良い。

 

「……そう。それじゃ、行きましょ」

 

 

 「ねー、まだその邑につかないの?」

 

四半刻も経たないうちに天和が不満を漏らし始めた。

 

「まだ歩き始めたばっかりだろ?」

「歩くの疲れたー。馬はないの?」

「そんな費用ないわ」

「あー、でもそうやなぁ。北郷隊から三人分の馬ぐらい出せんかったん?」

「いやー、できるだけ現場警備に注ぎ込んだから……」

「こっちも無しと……」

「ぶーぶー。楽進ちゃんはどう思う?やっぱり馬が欲しいよね?」

「自分は必要ありません」

 

……とだけ答えてすぐ黙ってしまう。そこは必要無くても一旦相槌打つとこだろうに。

 

「楽進ちゃんは鍛えてるんだー。すごいなー」

 

ほら気を使わせてしまっている。

 

「それにしてもさっきから全然喋らないわよね」

「護衛がべらべら喋ったりしないよ。まぁ、あと、凪はあんまり人と話すの得意じゃないし」

「申し訳ありません……」

 

謝っちゃダメだろ。

 

「別に謝らなくて良いよ。凪は警戒を頼む」

「そうやな。警戒は凪、張三姉妹の話し相手は私、おもちゃは隊長、それぞれ適材適所で」

「まてちょっとおかしい」

「え、そーかなー?だいたい合ってると思うけどー?」

「そうよね。一刀!何か面白いことしなさいよ!」

「うわ!最悪の無茶振りだ!」

「やって〜」

「救いはないんですか!?」

「頑張れ。スベっても私が笑ったる。……悪い意味で」

「いや、それダメだろ……」

「ねぇ、やって〜」

「早くしなさいよ!」

「あくしろよ」

「はぁ……。面白くなくても愛想笑いぐらいしてくれよな?」

 

そしてシンと空気が鎮まる。張三姉妹は普段おちゃらけているもののやはりエンターテイナー。聞く体制の大切さを分かっているらしい。

一刀がゆっくりと顔を上げた。

 

「ヘイ!ボブ

 なんだいジョージ

 今朝、キミの畑で熊を見たぜ

 Ohジョージ、それはウチのカミさんだよ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「ヘイ!ボブ

 なんだいジョージ

 昨日ウチで飼ってる犬に噛まれてさァ、もう捨ててやろうかと思ったぜ。

 Oh、ウチも毎日毎日うるさく吠えるから捨ててやろうかと思ってるんだ

 キミは犬を飼っていたかい?

 吠えるのはカミさんさ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「ヘイ!ボ「もうやめてください!隊長!」ブ

 なんだいジョージ「ごめん!私達が悪かったから!」

 キミの畑の胡瓜はどうしてあん「止まって!とまってよ!!」なに大きいんだい?

 毎日ボクが大切に世話して「狂気を感じるわ……」るからさ キミならもっと大きくできるよ

 それはどうしてだいボブ

 ウチじゃカミさんのせいで萎んじまうからね」

 

「ヘイ!ボブ

 なんだいジョージ

 今朝、キミの畑でチンパンジーを見たぜ

 Ohジョージ、黒人差別は良くない」

 

意地になった一刀のアメリカンジョーク(?)はしばらく続いた。私は内心ウケていたので止めはしなかった。




ホットドッグのことばかり考えてた結果がコレだよ!!


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第七章拠点フェイズ :【張三姉妹伝】熱狂と、現実と 中

今日、成り行きでホットドッグをトータル五つ食べました。
美味しかったです。
ケチャップとマスタードは最高です。私の中で。
子供舌って言わないで。

最後の方半分寝ながら書いてますな……。


 天和地和が駄々をこねて一刀が二人分の荷物を持たされたり、更に地和が駄々をこねて私がおんぶするはめになったりの些事を挟みつつ目的の邑に到着した。

 

「うわー……辛気臭い邑ぁ〜」

「ほんと、何も無いド田舎だねー」

 

その第一声がこれである。

 

「ちょ……二人とも声がでけぇよ」

「だってホントのことだもーん」

 

もちろん、ド田舎とは言っても工作員が目をつけるようなところだ。総人口は四桁ギリ届かない程度は有るだろう。私と三人娘の故郷より余裕で大きい。ただ……

 

「まぁ確かに興行するにはしょぼいな」

「おー、話分かるじゃなーい!」

 

地和はそう言いながら私の頭をパシパシと叩いた。

 

「よっしゃこのまま地和の股関節を"ガコンッ"する」

 

地和の脚に廻した腕にグッと力を込める。

 

「あーっ!ごめんごめん!もう叩かないからーッ!」

「ってぇかそろそろ自分で立てやぁ」

「立つ!立つから早く放してアッーーー!」

 

本日数度目のじゃれ合い。陳留からの僅かな道程……というか、地和の運搬(?)を申し出た辺りから急速に距離が縮まった。冗談混じりとはいえ、はじめは「ヒドイことしようとした奴」との評価だったのが嘘のようだ。

ただ……これもアイドルたる資質なのかもしれない。チケット分のお金に最高の歌と笑顔を売る仕事。私の場合はおんぶで心証を買ったことになるのだろうか。元からの相性が良かったのもあるだろうが。

 

「はぁ。楽しそうにしてるけど、これ一応結構大変な任務に来たんだからな?気を引き締めてくれよ?」

「そんなこと言ったって別に私たちはいつも通り歌うだけだもんねー」

「そーそー。楽しむとこは楽しまないと。ねぇねぇ一刀、近くに観光名所とか無いのー?」

 

天和が一刀の腕にスルリと抱きつき、二つの膨らみ……ぶっちゃけおっぱいがむにむにと押し付けられる。

 

「ちょっ……!天和やめ……」

「そんなこと言ってぇ。嬉しいくせに〜」

「そーそ!鼻の下伸ばしちゃってー」

「い、いや、誰かに見られちゃマズいだろ……」

「アッハッハッハ!隊長、もう既にマズいって」

「え……」

 

キョロキョロと見回す視線を、親指を立てて誘導する。その先には……。

 

「……隊長、不潔です………」

「いや、凪?これはだな……」

「ほんで更に向こう!」

 

今度は人差し指で。

 

「げ……真桜、沙和………」

「なーんや遅い思ったらそ~言うことやったんやなー」

「さっすが昼間っから頑張り屋さんなのー」

「変態長に敬礼!」

「「「「お疲れ様です!」」」」

「何でそんなにビシッと揃ってんだ!?しかも凪まで!?」

「すごーい!息ぴったり!」

「……それだけ普段から破廉恥だと思われてるってことでしょ」

「……ちょっと待て!抱きついてきたのは天和だろ?なんで俺こんなに攻められてるんだ?」

「気分」

「空気」

「慣習」

「本能」

「お前ら最高だよ。悪い意味で」

「て、またよぅわからんノリで時間潰してまいよるし」

「そ、そうね、そ……プフッ、それで準ッ……備は出来て……フフッ本能!?本能ってッ!!わwるwwいwwwいwwwwみwwwwwでwwwwww」

「人和!?」

「あー、なんだかツボに入っちゃったみたい」

「しばらくこうだから無視して話つづけて」

「人和抜きじゃ話にならないんじゃないか?」

「大丈夫だよー。聞いてることは聞いてるから」

「じゃあ、えーと、準備はできとるで。宿とかいろいろ手配して、チラシも配り終えたから、開始時間なりゃお客さんで一杯になるやろ」

「フ……フッ、場所……ッは?」

「邑の外れにある広場やけど」

「……じゃあそこへ案内して。現場の状況を確ブフぉっっ」

「……隊長、どないしよう?」

「天和、どうしよう?」

「多分現場に着くころにはなおってるんじゃないかな」

「……付いてきてくれないのか」

「うん!先に休みたい!」

「地和」

「ちぃも疲れたー」

「全然歩いてないだろ!」

「ふぅ……はぁ、大丈夫……休んでていいわ。私は、もう治ったから」

「そ、そうか?……じゃあ俺と真桜で案内するよ。凪、沙和、聆。天和と地和の相手を頼む。宿まで連れて行っておいてくれ」

「了解です」

 

一刀たちと別れ、沙和のあとに付いて宿へ向かう。まぁ私も少し昼寝でもするか。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 「だから沙和は言ってやったの!『貴様らは厳しい沙和を嫌うの。でも憎めば、それだけ学ぶの!』って」

「ひゃー、カッコイイ!!ちぃも公演でそういうのやってみようかな」

「でもこれをするにはまず自分も本気で叫んだり睨んだりしないといけないのー」

「睨むのは微妙だけど、声なら自信あるわ!」

「えー?でも歌とはまた違うのー」

「大きな声出すんでしょ?どう違うの?やってみてよ」

「じゃあ、いくよー、……a「他の客の迷惑なるからやめとけよ?」……ふぇーいなのー……」

「あはははっ!サー、元気出して下さい教官殿、サー」

「ううぅっ……」

 

……このメンバー、主に沙和と地和が居たらそうそう休ませてもらえないことは、ちょっと考えれば分かることだ。……私はそれを考えていなかったのだが。いや、部屋割によってはあるいは自然に逃れられたかもしれないが、残念なことに護衛の関係で私と凪と三姉妹が同室だった。

天然っぷりを発揮してぐっすり寝入っている天和がうらやましい。私も寝返りをうったりうつ伏せになってみたり、色々と寝やすい姿勢を探すものの意味を成さない。というのも、地和が何を思ったか私の寝台、私の寝ているすぐ横に腰掛けているのだ。沙和も地和も大袈裟な身振りをつけて話す。その度に寝台がギシリとゆれて目が覚めてしまう。もう諦めて地和の隣に腰掛けた。

聞き流しているので断片的だが、二人はファッション、スウィーツに関しては意見が合うようだ。逆に通常の料理とインテリアについては対立も見られた。

そしてまぁ当然恋話に移行する。もちろん一刀が話題の中心だ。

 

「で、どうなの?もう逢い引きの一回や二回したんでしょ?」

「それがねー、一回も無いのー……」

「えー!?あんなに変態とか色情魔とか言われてるのに?」

「確かに女の人と仲良くしてることが多いんだけどね周りが女の人ばっかりだから、って言われればその通りなの。街で困ってるおばぁちゃんとか子供にも親切なのー。……あれ?そういえばおじいさんとか男の子には声かけられてるのあんまり見たことないような……?」

「変な氣でも出してんじゃないの?」

「その割にこっちには音沙汰なしなのー……」

「……そう言えばこの前、真桜と沙和が何か騒いでなかったか?」

「えー、なんだろ?」

「騒ぎすぎて分からんのやろ?」

「聆、起きてたんだ?」

「お前らのせいでな」

「ほら……えっと……聆と隊長が一緒にお風

「記憶を失え!」

ドスッッ

「きゃふっ!?」

 

気絶した凪がゆっくりと寝台の上に倒れた。全く……余計なことを言いおって……。別に隠すことでもないが、根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だ。まさか急に手刀など思ってもみなかったらしく、スキだらけだった。

 

「あ、あー!そう言えば聆ちゃんと隊長お

「記憶を失え!」

ドボッッ

「わきゃっ!?」

 

凪に折り重なるように崩れ落ちた。あとは地和か……。

 

「ちょ、ちょっと何よ……。ま、待って!ちぃは何も知らないじゃない!だから……」

「本能で慣習でそうゆう気分でそうゆう空気やから……」

「ちょ

「記憶を失え!」

トッッッ

 

 

 「おーい、下見終わったぞー?って、みんな寝てるのか」

「……意外ね起きておしゃべりでもしてるかと思ってたわ」

「そんなここ来る途中で疲れたん?」

「そうでもないと思うんだけどなぁ。……まあ、みんな気持ち良さそうに寝てるし、また後にするか」




「www」を嫌う人って結構居るらしいですね。
私は好きですがね。


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第七章拠点フェイズ :【張三姉妹伝】熱狂と、現実と 下

もやし美味しいです。
しばらくホットドッグともやしで生きていきます。


 「じゃあ、そのあとわたしが前に出て……」

「ちぃは右手に動いて……」

「私は左に……」

 

人和の要望により新たに作られた舞台の上で、三人はリハーサルを行っている。観客も集まりつつあった。

 

「……凪、沙和」

「……」

「あい」

 

一刀の目配せを受け、二人が舞台脇の小屋から出ていった。不審人物のチェックだ。……まぁこの段階では見つからんだろうが、一応、である。この段階で見つかるような賊ならそもそもこの作戦の必要が無い。

この舞台は"始まってから"の賊の特定にめっぽう強い。大きな舞台を確保するため、「広い舞台を作る資材が無い?じゃあ逆に客席掘り下げて地面を舞台にすればいいじゃん?」という発想により作られたのだが、この構造が観客の管理において非常に役立った。"観客はココからココまで"という範囲が決まるのだ。穴から出てきた奴は不自然だ、とはっきりする。

 

「一刀、こっちの準備は出来たよー?」

 

舞台の上から声がかかる。

 

「じゃ、私らも出るわ」

「おう。よろしく頼む」

 

数人の兵士と共に小屋を後にする。私は普段着で、兵も村人の服装に合わせている。帯刀はしていないが皆懐に短刀を隠しているし、私も鳶服風の袴にバールのようなものを隠し持っている。酒入れも瓢箪の形をしているが鉄製だ。

 

 

 殆ど日が落ちた頃、会場……穴の入り口が開かれると同時に、観客たちがワッとなだれ込む。……総人口より観客数が多い。隣の邑からも来ているらしい。この中に工作員が居るのか……。原作では三人だったか……?

 

「鑑惺様」

 

と、ウチの隊から連れてきていた者が声をかけてきた。

 

「なんじゃい」

「この邑の工作員の頭目の根城が判明しました」

「放置で」

「はい、了解しまし……え?」

「放置で」

「は、はぁ……」

 

頑張って調べたんだろうが、放置。このコンサートさえ成功してしまえば敵の工作は失敗。頭目を押さえるまでもない。それに捕まえたところでどうせ自害されるだろう。そもそも現地入りしてる時点で、頭目と言っても下っ端臭い。マトモな情報を持っているかすら怪しい。それなら、放置して警備を固めた方が良いだろう。

 

「……早速発見やな」

 

観客席後方に怪しい動きをする人影を見つける。数え役萬☆姉妹の方を見るのではなく、キョロキョロと周囲を窺っている。って言うか、思いっ切り帯刀しているんだが……。しばらく様子を見る。観客の中にいるのでは取り押さえに行くこともできない上、まだ工作員と決まったわけでもない。武器マニアの村人かもな!

 

 

 「みんなー、盛り上がってる〜?」

「おーーーーーっ!」

「まだまだ盛り上がって行くからねー!」

「おーーーーーっ!」

 

天和と地和の問いかけに、観客が一斉に声を上げて答える。まだあの独特の掛け声は浸透していないらしい。陳留の一部の古参ファンの間で流行り始めたぐらいだ。

 

「みんな大好きーー!」

「てんほーちゃーーーーん!」

「みんなの妹ぉーっ?」

「ちーほーちゃーーーーん!」

「とっても可愛い」

「れんほーちゃーーーーん!」

 

そこは、「みんな○○」ではないのか、と。人和なら何だろうか「みんな私の掌で踊ると良いわ」だろうか?おっとそんなこと考えてる内にさっき目をつけていた奴等が動き出した。後方から会場をぐるっと回り込んで小屋の裏から攻めるようだ。

念のため兵士たちに警戒を続けるように指示し、同じく気付いたらしい一刀の合図を受けて先回りする。

 

 袴の左右の切れ込みに手を突っ込み、小屋に背を預けて待つ。足音が近付いて来た。予想通り外野から廻ってきたらしい工作員を、仁王立ちで迎える。相手は私の十尺ほど手前で一瞬立ち止まって互いに目配せし、剣を抜いた。息の合った動きで半包囲するように展開するが……

 

「そこ、もぉ私の間合いやで?」

ズガンッッ

「ぎゃあァぁッッ」

 

超高速で振るったバールのようなものの先端が、一人の膝を薙ぎ払った。何か白い円形の物が吹っ飛ぶ。皿かな?

 

「次っ」

ドスッッ

 

鳩尾に一撃。死なないように手加減はした。ほぼ持ち技になりつつある「飛ぶ斬撃」だが、雑魚相手には驚くほど強い。身体の柔らかさを最大限利用して、破格の射程と速度を産み出すの技術。しかしながら、正味、乙女武将の連撃は体感速度音速なんてザラなので埋没しがちである。利点は、珍しいことと、最速だと脆い服なら衝撃波で破けることだ。お色気アクションアニメみたいに。でも武将っていい服着てるから、破けるのは雑兵のおっさんの服ばかりだったりする。

そんな謎技術で仲間を二人倒され、相手は戦意喪失したらしい残りの一人は、私に背を向けて一目散に駆け出した。でも残念。その先には三人娘が待ち受けていた。

 

「逃げようとしても、そうは問屋が卸さないの!」

「残念やったなぁ」

「ここから先は通さない」

 

立ち止まった男を四人で取り囲み、ジリジリと詰め寄っていく。

 

「抵抗は無駄」

「観念するの!」

「へいへ〜い」

「へいへいへ〜い」

「…………グッ」

 

追い詰められた男は、一瞬顔を歪めた後、突然その場に崩れ落ちた。凪が駆け寄るも、抵抗はおろかピクリとも動かなくなっていた。

 

「やられた……自害しよったわ」

「あ!聆ちゃんが先に倒したのも……!?」

「えー?一人は気絶させたし大丈夫やろ?」

 

と、振り返ると足を潰した奴が気絶した奴のところまで這いより、まさに始末しようとしていた。

 

「ちぇいさっ!」

ゴスッッ

 

あ、頭吹っ飛んだ。ちょっとバールのようなもの投げるの強すぎたか?

 

「おぉう、やってもた」

「……ともかく、これで一人は確保だな」

「とりあえず、死体は山ん中に隠しとこ」

「特にこの頭と脚が半分無いのはヤバすぎるの……」

「待って。真桜の螺旋槍で突かれた方がよっぽどヒドい状態になるやん?」

「それやったら凪かて平気でふっ飛ばすやん」

「聆ちゃんも真桜ちゃんも凪ちゃんも残酷すぎるのー」

「沙和のようなのほほんとした奴に斬られる相手の無念は計り知れないだろう」

「のほほんとなんてしてないの!」

「いや、しとるしとる」

「しーてーなーいーのーー」

「おいおい、何やってるんだお前ら」

「お、隊長」

「戦闘が終わったなら早く……ってうお!?ちょ、何だコレ!!」

「せやったせやった、早よ処理せな」

「凪ちゃん、報告しといてねー」

「任せたでー」

「か、軽いな……」

 

 

 その後、山に穴を掘り、死体を埋め、現場の血を流した。その後警備を続けたが、新たな不審者が現れることは無かった。

三人娘と私は猿轡と目隠しをしてグルングルンに手足を縛った工作員を陳留に運ぶため、一足早く帰ることとなった。去り際の、一刀の「やっぱり皆、武将なんだなぁ」というセリフがやけに印象深かった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「工作員、縛られてたわねぇ……」

「次コイツが何て言うか当ててみせようか?」

「いい……。聞きたくない……」

「ハァ……。目隠しってステキね……」

「あ、予想と違ってた」

「私も情報を漏らせばあるいは……?」

「頭ふっとばされるだろ」

「それは………それで有り……っ!」

「キモッッ」

「俺は一軍人として、コイツの下で働く三課が切実に心配だ」




気の強いあの子はもちろんこれまで何百何千と殺人しています。
恥ずかしがり屋のあの子もいつもは人殺しの方法を考えています。
でもそんなこと誰も気にしません。
だって恋姫はギャルゲーだから。


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第七章拠点フェイズ :【鑑惺伝】お料理イベント

八章は美羽様が反逆されちゃう章だこれで回収できるぜひゃっはー!!
と思っていたら、
その前にまず劉備と人悶着あるっていう。


 ぐぅ〜ぐ…ぐぅ〜〜

「よーし、まてまてもうそろそろだ」

 

長引いていた書類整理が終わり、やっと昼休みになった。

 

「さぁ、今日は何だろうな〜。なんか、メンマが大量に入荷されたらしいけど……。メンマ丼とかじゃないよな?」

くぎゅう〜

「そうだなー、このセリフはフラグになりかねないな」

 

腹の虫と会話しつつ、食堂に向かって早足で歩く。今週は張三姉妹と四人娘に奢りすぎてピンチで、この二三日は食堂にお世話になっている。

 

「ただ……ちょっと遅いからな……。人居るかな?」

きゅるるる………

「そうだな。居なかったら自分で作れば良いか」

 

最近気付いたけど、俺の腹の虫って高確率で応えてくれるんだよな。本当に何か住んでんのかな?

 

「って言ってる間に着いたっと」

 

入り口からちらりと中を覗く。とりあえず、もう食べてる人は居ない。だけど厨房にはまだ誰か居るみたいだ。

 

「すいませーん」

「おーう」

 

ん?この声は……。

 

「よぅ、隊長も今から昼?」

「そうだけど……聆もなのか?」

「違うで?」

「…………真顔でテキトーなこと言うのやめてくれよ」

「アッハッハッハ。そーそ。私も今から昼。さすがに分かるかー。春蘭さんとかやったら本気で悩みだすんやけどなー」

「お前それ軍議の最中でもするから新しく来た禀と風にちょっと警戒されてるぞ」

「うわー衝撃の事実やなー(棒)」

「あんまり気にしてないってことか……。で、厨房に居たみたいだけど、何か作ってたのか?」

「ちょっと水餃子っぽい何かを。隊長も要るか?」

ぐぅ〜〜〜きゅるる

「あっ」

「くくく……なかなか良え反応やんけ……。じゃあどっか適当なとこ座って待っといてなー」

「何か手伝おうか?」

「簡単にやるから別にええわ」

 

俺の腹をスルッと一撫でして、聆は厨房に立った。

城の厨房は、所謂オープンキッチンになっていて、聆の料理姿がよく見える。俺の分の追加なのか、新たに肉塊を取り出し、器用にスライスしたものを重ね、格子状に切って肉の微塵切りの完成だ。次に玉葱、大蒜、判別がつかないけど何か葉物を慣れた手つきで刻んでいく。

 

「〜〜♪」

 

鼻歌なんかも出たりして。

微塵切りの粒の大きさにバラつきがあるものの、気にしていない。と言うよりは元々大きさを揃える気が無いらしい。肉と野菜と香辛料をこれまた適当な容器に入れて混ぜる。

 

「ららららら〜ヒヒヒヒヒ〜〜♪」

「!?」

「お前〜とわた〜しとー牛と蟹〜〜♪」

 

鼻歌はイントロだったようで、変な歌が始まった。何か人を不安にさせるメロディ。聆の艶のある声とのミスマッチ感がヒドい。

 

「ちょ、ちょっと待て何だその歌!?」

「何よもー、ヒトがせっかく良え気分でやんりょるのに」

「いや、何か他の歌はないのか?」

「えー、あの歌嫌か?」

「こう……お腹がむわっっとする」

「んだら無難に役萬で……。……〜♬」

 

そう言う間にも手は休みなく働き、予め準備していた少し分厚い皮に餡を包んでいく。

 

「ちょっと小さめなんだな」

「おー。具にあんま余裕無いからな。元々はもっと小さく作る予定やったし。あと……歌詞入る直前やったんやけど……」

「ごめん」

 

気持ちヒダ大きめの餃子が次々と出来上がり、出来たそばから鍋の中へ。始めからここまで、一切の淀みなく進んでいる。手際が良い、という次元ではなく、無駄な動きと力が全く無い。

 

「すっごい慣れてるみたいだけど……よく料理するのか?」

「うん、まあ最近は特に」

「聆も金欠なのか?」

「あー、ちょっと新しいことやろ思とるから。ちょい入り用なんや」

「聆って多才だよな……料理も上手いし」

「まぁそれなりに努力もしとるからな。特に料理に関してはなぁ……御立派な料理人と美食家がな………」

「流琉と華琳か……アレはまた別だろ」

「いやー、私のんって結構テキトーに作っとるし華琳さんが見たら酷評されるやろなって。この前もどっかラーメン屋で火ぃ噴いたらしいやん」

「あれは不幸な事故だったんだ……。とりあえず今は昼休みから少しズレてるし、華琳が厨房に来ることは……」

「あら、あなた達こんな時間に何をしているの?」

 

……来るんだよな……。

 

「ちょっと書類整理に手間取って」

「私は元からこの時間狙いで予定組んどった」

「華琳はどうしてここに?」

「はぁ……。末端に遅れが出たなら、それを纏めるのが遅れるのは道理でしょう」

 

つまり俺のせい、と。

 

「すまん」

「いいのよ。一刀の手元に渡る以前で資料の数値が狂っていたのは知っているから。そのせいで長引いたのでしょう?それより、聆が作っているのは……水餃子?」

「あ、華琳さんも厨房使うん?空けよか?」

「いえ、私もそれ、いただけるかしら?」

「……ああー、じゃあ、うん。もうすぐ初めのんが茹で上がるから」

「ええ。楽しみだわ」

 

いかにも上機嫌といった様子で、俺の隣に座った。ほとんど間を置かずに、聆が水餃子を運んできた。スープじゃなくて、焼き餃子みたいにタレにつけて食べるスタイルらしい。

 

「いただきましょうか」

「お、おう」

 

華琳が、一つ摘んでタレにつける。

頼む……捻り無く美味しいって言ってくれ……っ!

 

「……そんなにマジマジと見てないで、一刀も食べなさいな」

「お、おう!」

 

言われて、不自然なくらい素早くなってしまった動作で餃子を口に入れる。

……!

 

「う、旨い……!」

 

讃岐うどんのようなしっかりとしたコシのある皮。タレはどうやらポン酢に近いモノのようだ。もう、それだけでも美味しい。皮の中から旨みの強い肉汁が溢れて口の中を満たす。適当に切り分けられた野菜の食感も心地良い。

 

「……じゃあ続き、茹でてくるわ」

「おう!どんどん茹でてくれ!」

 

華琳も黙々と食べている。ただ……これだけじゃあ華琳の判断は窺い知れないんだよなぁ。この前も、一旦「美味しい」って言ってからが地獄だったし。

 

 一皿目を完食してから少しして、聆が追加を運んできた。

 

「聆、色々と聞きたい事があるのだけれど……」

「うーん、お手柔らかに……」

「この皮、凄く食感が強いのだけれど……」

「めっちゃ捏ねたん」

「この肉、豚ではないわね?猪かしら」

「昨日、賊の討伐の帰りに獲ったんや」

「野菜の大きさがバラバラなのは?」

「大きさに気ぃつけて切るんが面倒かったのと、食感オモロなるかな、って」

「このタレは……?」

「醤油に、酢の代わりに酸っぱい蜜柑の汁混ぜた」

「そう……」

 

そして一つ食べ、呟く。

 

「やはり天才か……」

「じゃ、最後、茹でてくるわ」

 

気を良くしたのか、そそくさと厨房に戻る。

 

「そう言えば、聆は食べなくていいのか?」

「茹でながら何個かつまんみょるー」

 

じゃ、ここにある分は安心して食べていいな。

 

「旨いなぁ……」

「……聆が味方で本当に良かったわ」

「そんなに気に入ったのか?コレ」

「確かに気に入ったけれど、そうじゃなくて……あの娘に弱点って有るの?」

 

妙な歌を歌いつつ調子良く料理する聆をよそに、華琳は声をおとして言う。

 

「……それを華琳が言うか」

「そうか……酒を断てばあるいは……?」

「聞いてないし……」

「お待たせー」

「あ、サンキュー」

「産休?また天の言葉かしら?」

「そ、ありがとうって意味」

 

軽く説明して一つ口に放り込んだ。

 

「……!??苦ッッ!?」

 

口の中から脳髄に駆け上る衝撃。思わずビクンと跳ね、椅子から転げ落ちてしまった。

 

「椅子からひっくり返る反応……。さすがやでぇ」

「ロシアンルーレットかよ!?苦ッッにっがっ!何入れたんだ!?」

「最近薬の勉強しとってな。免疫力増進の薬草入れてみた」

「一刀、ろしあんるーれっと、って?」

「あぁ、俺のいた世界の遊びで、小籠包とか饅頭とかのなかに一つハズレを混ぜるんだ。元々は、ロシアって国の決闘(?)からきてる」

「そう……。まあ、これだけ有る中から最初にハズレを引くのは逆に運が良いのではなくて?……ハム……やっぱり皮のd!?辛っッ!!?なに!?なんで!!?痛い!口の中が!!あ゛あ゛あ゛」

「ハズレは一つと誰が決めたか……。この皿にアタリはたった一つ!言うなれば逆ロシアンルーレット。芸人さんも安心!!」

「なんでそんなお約束知ってんだ!?って言うか、水、水!」

「はい!水」

「おう。華琳、ほら、水だ」

「ゴク……!!?!い゛た゛い゛喉が あ あ あ あ あ 」

「聆!?」

「ごめん宴会芸用特濃酒やった☆」

 

 

 その後、食堂の前に数刻の間、華琳デザインの奇抜なオブジェが設置された。

 具体的には、逆さ吊りにされた聆が。




華琳「聆の作品を参考にしてみた」

   華琳       聆
武術 関羽なみ     華雄なみ
政治 一国の主     一隊の長
料理 本格的      ガサツ
芸術 伝統的      前衛的
精神 覚悟を決めた少女 三十代後半+α

聆は尖った知識と武術、
現代社会のドロドロの中で鍛えられた精神を持つものの、
まだまだメインを張れる実力ではないですね。
ちなみに、
現代約三十五年+恋姫(転生前)約十五年+恋姫(転生後)一年弱(?)
で、多く見積もると五十歳以上です。
今回の餃子はたまたま天の知識的なものが多く活かされていて華琳の意表を突くことができて高評価です。


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第八章一節その一

霞姉の扱いが難しいです。
悪・即・斬な性格なので、主人公との相性ががががが……。

あと今回は誤字多そう怖い。
一旦寝てから見直します。


 「袁術が劉備を攻めて徐州を総取りすることを嫌った袁紹が自らも徐州攻めを敢行。当初の予定とはずれ、対応としては後の大戦に向けた国力、軍事力の強化が決定されました。具体的な方策は明日の朝議にて決定されるようです」

 

私が逆さ吊りにされている間に開かれた軍師中心の軍議の内容を、天井に跪いた三課長が伝える。ちなみに床は夕焼け空。もう三刻ほど吊るされている。

 

「ふん。富国強兵としたところで、鑑惺隊に出来ることは特に無いし、変わったこと命令されることもないやろ。せいぜい、調練と討伐に気合入れるように言われる程度やろな……。下がって良し」

「冷静なんですね……吊るされていても……」

「騒いだってしゃーないしなぁ。頭に血ぃ上らん体質みたいやし」

 

強いて言えば、長袖系の服を剥ぎ取られたので少し肌寒い。始めの方は縄が喰い込んで痒かったが、それも慣れた。

 

「それとも何や?顔真っ赤にしてハァハァ言っといて欲しかったか?」

「い、いえ!そういうわけではっ!」

 

焦ったように否定する三課長の鼻からツツッと赤い雫がこぼれた。

 

「お前が頭に血ぃ上らせてどないすんじゃい」

「し、失礼します」

 

三課長は走って去っていく。洗い場ではなく、厠の方へ。初めは不気味な奴かと思っていたが、どうやらそれだけではなく、変態でもあるらしい。他の課長からのタレコミによれば、私をおかずにしているとのこと。

三課長の失脚を狙った陰謀かと思ったが、報告の間、頬を染めてモジモジしていたことと、その前から吊るされている私を物陰から凝視していたことからして、本当のことらしい。好かれるのは構わないが変態は勘弁だ。これからも全力でスルーしていく所存である。

 

「でも有能なんは有能なんよなぁ……」

 

呟いて、欠伸を一つ。

 

「……あまり反省できていないようね」

「元気だなぁ……」

 

本殿から華琳と一刀がやってきた。

 

「ムシャクシャしてやった。誰でも良かった。反省はしている。後悔はしていない」

「それは反省してないのと同じじゃないか?」

「えー、でも素直に謝るなんかはなっから期待しとらんやろ?」

「はぁ……ホント、仕方のない娘ね……。いいわ。一刀、縄を解いてあげなさい」

「おう。じゃあ、解くぞ」

「おー、任せたー」

 

本来なら関節外しで自力脱出できるが、それをすると華琳の神経に追い打ちかけそうなので大人しく一刀のお世話になる。

まず手の縄が外され、倒立のような形で地面に手をつく。次に足を外して終了だ。反動を使ってすくっと立ち上がったものの……

 

「あれっ?うわっ」

「ちょ、聆!?」

 

足首が痺れて力が入らずに、そのまま倒れそうになる。それを一刀が支えてくれた。さすが女の子のピンチとなると行動が素早い。そしてラッキースケべも欠かさない。

 

「大丈夫か?」

「ちょっと足痺れたっぽい」

「あぁ、衰弱してたとかじゃないんだな」

「あと……支えてくれたんは嬉しいけど……そう鷲掴みにされたらちょい痛いかな……」

「え!?ご、ごめん!!」

 

一刀は慌てて、多分、恐らく無意識且つ事故的に掴んでいた胸から手を離す。

 

「ごめん!気がつかなくて……!」

「くくっ……そんなおっぱい好きなんやったら頼んだら触らせたるのに。あ、でも優しくやで?」

「ちょ、何言ってんだ聆!それは本当かっ!?いや、違う そうじゃなくてえっと……っ」

 

予想以上にテンパっている。軽く流してくれると思ったんだが……。元々ちょっと動転してるとこだったからか?

 

「……一刀、これから忙しいのだからさっさと持ち場に戻りなさい。聆は桂花から今回の軍議の説明を受けて来て」

「うぇい」

「分かったけど……急にどうしたんだ?」

「どうもしないわよ」

 

華琳はツンとそっぽを向いて行ってしまった。

おっぱい嫉妬ネタごちそうさまでーっす!

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 それから数日後の夜中。

いつも通り酒を呑みつつ勉強に励んでいる私の所に、劉備陣営より使者有り、との報告が入った。そして、少し遅れて集合命令がかかる。関羽来たか……。つまりこの後、華琳による第一回劉備ぶっ叩き大会及び舐めプの魏ルート黄金パターンが展開されるということだ。

正直やる事ないし、見ていて気持ちいいイベントでもない。

八方塞がりの劉備を言葉攻めするのがメインなんだもの。私はソフトSなのでガチで相手の精神抉る系はちょっとNGなのだ。それに完全に敵ならまだしも、劉備は最終的に必要となる。ザマァwwwと、笑えることでもない。

よし。酔っていたことにして無視しよう。何もできないし、私が行くと変に頼られるかもしれない。

そう思って本に再び目を落としたとき、扉が叩かれ、伝令が大声で至急玉座の間に向かうよう催促した。部屋に入ろうとする気配も有る。

 

「はいはい……。行きますよっと……」

 

重い腰を上げ、のそのそと鎧を着込んだ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「聆にしては遅かったわね」

「ごめんな。酒入って寝とったんや」

 

私がついた頃には大体の重役がそれぞれの持ち場へついていた。逆に言えばついていない奴もまだいたので私が特別足を引っ張ったわけではない。

しばらくして、ようやく全ての居るべき人物が居るべき所に落ち着いた。

 

「……全員揃ったようね。急に集まってもらったのは、他でもないわ。秋蘭」

「先程、早馬で徐州から国境を越える許可を受けに来た輩がいる」

「……何やて?」

「入りなさい」

「……は」

「な………」

「何やて……!」

「関羽……!?」

 

関羽の登場に、一同がそれぞれ驚きの声を漏らす。

 

「見覚えのある者もいるでしょうけど、一応、名を名乗ってもらいましょうか」

「我が名は関雲長。徐州を治める劉玄徳が一の家臣にして、その大業を支える者」

「へぇ。劉備さんは徐州を離れると……?」

 

議論のショートカットのために無理のない範囲で誘導する。

 

「そうだ。袁紹、袁術から逃れる為、曹操殿の領の通行許可をいただければと。益州へと向かう所存だ」

 

私の質問を受け、愛紗は全体に状況の大枠を説明した。

 

「なんと無謀な……」

「けど、袁紹や袁術と正面からぶつかるよりは、ウチはマシやと思うで」

「虫の良いことを言うヤツだ。別にこちらは劉備と同盟を組んでなどいないだろう」

「かゆうまェ……意外と辛辣やな」

「まあ、シャクだけど華雄の言う通りだわ。それに正直、関羽もこの案は納得していないようでね……そんな相手に返事をする気にはなれないのよ」

「…………」

 

沈黙は肯定。乗り気じゃないのは、魏ルートでの関羽の曹操への好感度はどういう訳かはじめから最低ランクだからだろうか。

 

「ほんならなんで、こんな決死の使いを買って出たんや?」

「我が主、桃香様の願いを叶えられるのが、私だけだったからだ。それに我々が生き残る可能性としては、これが最も高い選択でもあった」

「……主のためやて。どっかの誰かさんみたいなこと言うやん」

 

霞が春蘭を見やりながらニヤニヤとした。

 

「ま、待て!お前たち皆だいたいそんなものだろう!」

「納得してなくても主ためなら、って言うとこが春蘭さんっぽいわ」

「私はこんなに愚直ではないぞ!」

「…………」

「…………」

「…………」

「………?」

「誰か何とか言えよ!聆、その『は?』って表情やめろ!」

「春蘭、静かになさい」

「うぅ……、華琳様………」

 

しゅんと大人しくなる。愚直の塊じゃないか。

 

「フフ……。まあ、だからこの件について劉備の元へ向かおうと思うのだけれど……。誰か、付いてきてくれる娘はいるかしら?」

 

次々と手が挙がり、結局皆行く事になった。私もさすがに一人で残る気にはなれなかった。

ついに説教パートか……気が重いなぁ………。




ここを……ここを抜ければ美羽様が!!!!


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第八章一節その二

では主人公の名前説明を……。
※「/」の前が今作での読みです。

姓 : 鑑(カン/ガン)

名 : 惺(ショウ/セイ)

字 : 嵬媼(カイオウ)
嵬→(高く)けわしい,あやしい,でたらめ。聆の身体を表す。
媼→媼(BBA),母,祖母,土地の神、御祖。聆の性格を表す。
つまり、「すっごいBBA」

真名 : 聆(レイ)
「令」は「神意を聞く」の意。世界の行く末を知る聆の魂を表す。
つまり、「こいつチート」



 「華琳様。先鋒から連絡が来ました。……前方に劉の牙門旗。劉備の本陣のようです」

 

予想していたよりかなり早く劉備の本陣前に到着した。

五千に満たない少数行軍とはいえ、急な招集、そして夜間行軍にも関わらず、文句一つ無く素早い行軍。さすが曹魏は一味違うぜ!そしてもう一つ、劉備の陣が本当に国境ギリギリの所に張られていたことも要因の一つだ。

 

「なら関羽。貴女の主の所に案内して頂戴。何人か一緒に付いてきてくれる?」

 

報告を受け、華琳が当然のようにさらりと言う。

 

「華琳様!この状況で劉備の本陣に向かうなど、危険すぎます!罠かもしれません!」

「桂花の言うとおりです!せめて、劉備をこちらに呼び出すなどさせては……!」

 

こちらは寡兵。対して劉備は本陣、つまり軍力の集結地点だ。例え曹操軍の練度が高いといえども、罠なら曹操死亡→反撃不可となるのは明らかだ。相手を呼び出したなら、逆に劉備を人質にして逃げるなりできる。

 

「でしょうね。私も別に、劉備のことを信用しているわけではないわ」

「……曹操殿」

「けれど、そんな臆病な振る舞いを、覇者たらんとしているこの私がしていいと思うかしら?」

「……ぐっ」

 

華琳の理論の前に、春蘭や桂花、他の反対しようとしていた者たちが押し黙る。

私は「コイツらたまに覇道と博打を履き違えるな」と思ったが、目の届かないところで説教を済ませてくれるんならそれで良いとも思い、黙っていた。

 

「だから関羽。もしこれが罠だったなら……貴女達にはこの場で残らず死んで貰いましょう」

「ご随意に」

 

無理だろ常考。……いや、気合補正でなんとか……?

 

「それで……誰が私を守ってくれるのかしら?」

「はっ!」

「ボクも行きます!」

「私も!」

 

言い終わるか終わらないかの内に三人が勢い良く挙手する。

 

「なら、春蘭、季衣、流琉、聆」

「へっ?」

 

何で?

 

「あら、嫌なの?」

「嫌ちゃうけど……」

 

本当はかなり嫌だ。でも命令に背くのはさすがにまずい。

劉備陣営と面識があるからだろうか……。あそこでの出来事が地味に色々と響いてきているな……。

 

「なら良いのよ。……じゃあ、その四人。それから、稟と一刀も来なさい。残りの皆はこの場に待機。異変があったなら、秋蘭と桂花の指示に従いなさい。」

「はっ!」

「華琳様、お気を付けくださいませ。春蘭、絶対に華琳様のことをお守りするのよ!」

「言われるまでもない」

「では関羽。案内してちょうだい」

 

急遽建てられた仮の陣を離れ、関羽の後をいかにも楽しそうに歩く華琳の後をしぶしぶ歩く。嫌いなキャラへの説教なら楽しみなんだろうけどなぁ。左慈とか。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「曹操さん!」

 

陣に入ってすぐのところで劉備が待っていた。驚き半分、話を聞いてもらえることへの喜びがもう半分、といった表情だ。

 

「聆!久しぶりなのだ!」

「おー、久しぶりやな鈴々。空気読めんのは相変わらずやなぁ」

「にゃ?」

「今から華琳さんと劉備さんが話せなならんからちょっと静かにしとかな」

「桃香って呼んでください鑑惺さん。宴会の時は真名交換する前に酔い潰れちゃいましたから……」

「あぁ、んだら私のことも聆って呼んでくれてええわ」

 

一応真名交換したが……桃香も空気読め!華琳様置いてけぼりやんけ!うわぁ。かゆうまを紹介した時と同じぐらい微妙な表情だ。それを見たはわわもはわわってるし。

 

「…………久しいわね。劉備。連合軍の時以来かしら?」

「はい。あの時はお世話になりました」

「それで今度は私の領地を抜けたいなどと……また、随分と無茶を言ってきたものね」

「すみません。でも、皆が無事にこの場を生き延びるためには、これしか思いつかなかったので……」

 

"皆が無事に"という言葉に、華琳の眉がピクリと動いた。

 

「まあ、それを堂々と行う貴女の胆力は大したものだわ。……いいでしょう。私の領を通ることを許可しましょう」

 

喜ばせて叩き落とすスタンスである。よく見ると悪巧みしているときの顔だ。

 

「本当ですか!」

 

実質嘘です。

 

「華琳様!?」

「華琳様。劉備にはまだ何も話を聞いておりませんが……」

「聞かずとも良い。……こうして劉備を前にすれば、何を考えているのかが分かるのだから」

 

その結果クソ甘い子供と判断したんだろう。

 

「曹操さん……」

 

対して劉備は顔全体に感謝と感激を滲ませている。

 

「ただし街道はこちらで指定させてもらう。……米の一粒でも強奪したなら、生きて私の領を出られないと知りなさい」

「はい!ありがとうございます!」

 

本当に嬉しそうに感謝を述べる桃香。それ、フェイントだぞ?

 

「それから通行料は……そうね。関羽でいいわ」

 

ここからが本番 。

 

「…………え?」

「なに……?」

 

桃香と一刀がきょとんとしている。

 

「何を不思議そうな顔をしているの?行商でも関所では通行料くらい払うわよ?当たり前でしょう」

 

だったら関所を通らないルートなら?という屁理屈をぐっと喉の奥に押し留める。言ったらどうなることかわからんからな。……言ってみるか。

 

「関所を通らない順路なら?」

「…………」

「すみませんでした」

 

ヤバい。めっちゃ睨まれた。帰ったら何かされるなこれは。せめてこれからは黙ってよう。

 

「……貴女の全軍が無事に生き延びられるのよ?もちろん、追撃に来るだろう袁紹と袁術もこちらで何とかしてあげましょう」

 

関羽抜きでは益州入りした後がキツいと思うが。

 

「その対価をたった一人の将で贖えるのだから……安いものだと思わない?」

 

劉備は安いものだと思わないと分かっていてこういう事を言うんだから、華琳は本当のドSだ。

 

「……桃香様」

「曹操さん、ありがとうございます」

「桃香様っ!?」

「お姉ちゃん!」

「……でも、ごめんなさい」

 

桃香もフェイント。

 

「愛紗ちゃんは大事な私の妹です。鈴々ちゃんも朱里ちゃんも……他のみんなも、誰一人欠けさせないための、今回の作戦なんです」

 

カッコイイこと言ってるんだがこの後フルボッコなんだよな。

 

「だから、愛紗ちゃんがいなくなるんじゃ、意味がないんです。こんな所まで来てもらったのに……本当にごめんなさい」

 

そう言って桃香はペコリと頭を下げた。

 

「そう。……さすが徳をもって政を成すという劉備だわ。……残念ね」

 

Five……

 

「桃香様……私なら」

 

Four……

 

「言ったでしょ?愛紗ちゃんがいなくなるんじゃ、意味がないって。朱里ちゃん、他の経路をもう一度調べてみて。袁紹さんか袁術さんの国境あたりで、抜けられそうな道はない?」

 

Three……

 

「……はい、もう一度候補を洗い直してみます!」

 

Two……

 

「なあ、華琳」

 

One……

 

「劉備」

 

Zero!

 

「……はい?」

 

F I R E !!!!

 

「甘えるのもいい加減になさい!」

「……っ!」

 

華琳さん始まったな……。

 

「たった一人の将のために、全軍を犠牲にするですって?寝惚けた物言いも大概にすることね!」

 

全軍犠牲とか言ってない言ってない。

 

「で……でも、愛紗ちゃんはそれだけ大切な人なんです!」

 

その返答だと犠牲にするって認めたことになるぞ?

 

「なら、その為に他の将……張飛や諸葛亮、そして生き残った兵が死んでも良いと言うの!?」

 

みんな欠けさせられないって言ってんでしょうが!

でも結果的にはそう言ってるのと変わらないけどな!!

 

「だから今、朱里ちゃんに何とかなりそうな経路の策定を……!」

「それが無いから、私の領を抜けるという暴挙を思いついたのでしょう?……違うかしら?」

「………そ、それは……」

 

ああーー、何も言えないのがもどかしい。何言っても仕方ないことなんだが。

 

「諸葛亮」

「はひっ!」

 

めっちゃビビってる……。コレが私を嵌め殺そうとしたっていうんだから、恋姫は恐ろしい世界だ。

 

「そんな都合の良い道はあるの?」

「そ……それは……」

 

無いだろうなぁ。山の中とか通っていいならいくらでも有るが。あ、コレ私の隊なら行けるのか。我ながら凄いな鑑惺隊。

 

「稟。この規模の軍が、袁紹や袁術の追跡を振り切りつつ、安全に荊州か益州に抜けられる経路に心当たりはある?大陸中を渡り歩いた貴女なら、分かるわよね?」

「はい。幾つか候補はありますが……追跡を完全に振り切れる経路はありませんし、危険な箇所が幾つもあります。我が国の精兵を基準としても、戦闘若しくは強行軍で半数は脱落するのではないかと……」

 

同規模の我が隊なら山と森と川を駆使しつつ瓦解したと見せかけて再合流で九割八分保存は堅いな。

 

「……っ。朱里ちゃん……」

「…………」

「そんな……」

 

ま、練度の低い劉備軍では絶対無理だろうが。

 

「現実を受け止めなさい、劉備。貴女が本当に兵のためを思うなら、関羽を通行料に、私の領を安全に抜けるのが一番なのよ」

「桃香様……」

 

でもここで はいそうですか と関羽を手放すような人物ならそもそも劉備陣営など存在しない。そして、ここで心変わりして渡したとしたら、その後瓦解するだろう。渡しても破滅。渡さなくても破滅。言うなれば完全な八方塞がりだ。

助け舟を求めるように鈴々が見つめてくるが、何もできないし、必要なイベントなので、手で小さくバッテンを作って応える。

(・×・)ムリダナ

魏ルートの桃香は叱られて完成するのだ。蜀ルートなら、一刀の影響によって現実と理想の匙加減と君主の自覚を知り、呉ルートでは立派な外道に進化する。

 

「曹操さん……だったら……」

「それから、貴女が関羽の代りになる、などという寝惚けた提案をする気なら、この場で貴女を叩き斬るわよ。国が王を失ってどうするつもりなの?」

「…………!」

 

結構問題無さそうだと思うのは私だけか?桃香は精神的支柱、つまりその場に居なくても効果(?)を発揮する。むしろ早く桃香を取り返そうとみんな頑張るような……。

 

「……どうしても関羽を譲る気はないの?」

「…………」

「まるで駄々っ子ね。今度は沈黙?」

 

情けないが、この通り沈黙して、華琳が呆れてしまうのを待つのが最善だったりする。

 

「…………」

「桃香様。やはり私が曹操殿の下に降ります」

「でも……っ!」

「仕方のないことです。本来なら、皆揃って討ち死にしていてもおかしくないのですから。それに、死ぬわけではないんですから……」

「愛紗さん……」

「愛紗ちゃん………ごめん……なさい。本…ッ…と うに、ご…めんな……さい…………っ!」

 

桃香がボロボロと涙を流して……あれ?こんな流れだったか?

 

「賢明な判断ね、関羽。貴女ほどの将なら、死ぬどころかいきなり五千人規模の大部隊を率いることも夢ではないでしょう」

 

華琳は心底楽しそうだ。桃香の泣き顔が見られて、関羽も手に入ったのだから。

だが、マズいな……。史実系なら関羽が魏にしばらく入るのは普通なんだが、恋姫だとそのまま天下取りかねない。

 

「いえ。それよりも聆……鑑惺殿の隊で一兵卒として働くことを希望します」

 

は?

 

「……どういうこと?」

 

マジでどういうこと?

 

「私は、曹操殿の下に降りますが、高い身分は求めませんので、その代わりその後の労働や生活を鑑惺殿の下で行いたいのです」

「……つまり、私は主として認めず、聆を主としたい、と……?」

「いやぁー?そういうわけとちゃうんちゃう?」

「そうです」

「あ、そうなん?」

 

何で華琳の神経逆撫でするようなこと言うんだ?武人の矜持か?

アホめっ!!

 

「ふ、ふふふ……アハハハハ!!こんなにも虚仮にされたことが今まであったかしら!?……もういいわ。貴女たちと話していても埒があかない。益州でも荊州でもどこへでも行けば良い」

「…………」

「…………」

 

ほら……華琳様のテンションがヤバい。

 

「ただし」

「……通行料、ですか?」

「当たり前でしょう。……先に言っておくわ。貴女が南方を統一したとき、私は必ず貴女の国を奪いに行く。通行料の利息込みでね」

「…………」

「そうされたくないなら、私の隙を狙ってこちらに攻めてきなさい。そこで私を殺せたなら、借金は帳消しにしてあげる」

「……そんなことは」

「ない?なら、私が滅ぼしに行ってあげるから、せいぜい良い国を作って待っていなさい。貴女はとても愛らしいから……私の側仕えにして、関羽と一緒に可愛がってあげる。減らず口も叩けなくなるぐらいにね」

 

多分原作とセリフほとんど一緒なんだろうけど……相当キレてるなぁ……。

 

「稟。劉備たちを向こう側まで案内なさい。街道の選択は任せる。劉備は一兵たりとも失いたくないようだから……なるべく安全で危険のない道にしてあげてね」

「はっ」

「それでは私たちは戻るわよ。……劉備。今日、ここであったこと、決して忘れることのないように」

「……はい」

「ふん……。帰るぞ」

「はっ!」

「はい!」

「……それから……聆は陣に戻り次第私の天幕に来るように」

 

あ、コレ私死ぬわ。




「原作の大幅コピー」に引っかかったら不貞寝します。

作者も持ち上げて落とすタイプの人間です。
さあ、最近コメントで持ち上げられていたのは誰かな!?


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第八章一節その三

もうね、寒すぎて気待ち悪いです。
あとエロい皆さんがバッシバシ展開当ててくるのでもう開き直ってその通りに進んでやりました。
そして事故発生。

関係無いですが、ワンカップにはワンカップ独特の良さが有ると思うんです。


 「――では、そのように」

「ええ。任せたわ」

 

陣に戻り、袁紹の迎撃指示を終えた華琳は、脇目も振らずに自らの天幕へと歩き出す。私もその後をついていく。

大方、私が出ていた間の陣内の様子を報告しに来たのであろう三課長が、華琳の剣幕を見て、ノンストップでUターンした。

なんて運が悪いんだ。とんだとばっちりである。まあ、ノンケの愛紗にとっては、隙あらばセクハラされかねない華琳の直下の将になるのは相当嫌だったろうことは理解できる。ただタイミングと言い方と要求内容がウンコだった。総じてウンコだった。

 

 

 そんなことを考えている内に、もう到着だ。ぐいっと一度、酒を煽ってから、華琳に続いて中に入る。いつも通り過ごしやすそうな内装だ。今回は私がすぐに劉備本陣へ向かったため、何処に何を置くのかを部下に伝えておいたのだ。きょろきょろと出来栄えを確認する私とは対照的に、華琳は、中央に置いた机の表面を静かに撫でている。

 

「この机、貴女の意匠だったわね」

「うん?まぁ、そうやな」

 

巨大な丸太の輪切りをそのまま天板としたもの。"私の意匠だった"と言うより、何か面白い机を作るようにと華琳本人から依頼が有ったので作ったものだ。今更問うものでもない。

 

「この寝台も……」

「…………」

 

従来の古代中国特有の細かい模様をゴテゴテ彫って"余白"を埋めるデザインでは落ち着かないだろうと思って献上したもの。シンプルながら均整の取れたフォルムで魅せる。

 

 ……何?どういう流れなんだ?脈絡が掴めない。関羽の発言でイラついた華琳が八つ当りしてくるものだと思っていたんだが……。

 

「私の周りがだんだん貴女に染められている気がするのだけれど?」

 

そう来たか!!

 

「いや、華琳さんが気に入ってくれたからこっちもせっせと設計したんやけど……?」

「ええ。調度品に関してはそうでしょうね。……ただ、貴女、それ以外にも色々と影響力を持っているわよね?」

「はぁ……?」

 

噂ネットワークがそんなに鼻についたか?

 

「城下に貴女の息の掛かった店がどれほどあるかしら?」

「いやー、無いんちゃう?」

 

うわ、オヤジの店バレたか?

 

「『珍しい本が入ったらまず鑑惺様に見せるようにしてるんです』……『ウチは鑑惺様のお墨付きなんだからこの味でいくんだ!ぽっと出のお嬢ちゃんの指図なんて受けねぇ!』………『ああ、城のお方ですか?いつも鑑惺様によくしてもらっているんで安くしておきますよ』……。どこもかしこも鑑惺様、鑑惺様。謀反でも起こす気かしら?」

「いや、そんなことは」

 

あと、実は美術品関連で富裕層とも面識が有ったりするのは内緒だ。

それにしても、買い物ついでに世間話したり相談に乗ったりしている内にそんなことになってたのか……。確かに、何か変わったことが有れば教えてもらおうとか、ちょっとくらい便宜を図ってもらおうとは思っていたが……。と言うか、名を伏せて街に出る華琳も悪いよな?

 

「伝令が私の前に立つ頃には既に貴女はその内容に対する策を練っているらしいじゃない」

「…………」

 

だって教えてくれるんだもの。

 

「一刀に張三姉妹……それに劉備とも随分と仲が良いようだし?我が国の将の中でも私よりむしろ貴女に付いていく者も多いのではなくて?」

「かゆうまぐらいちゃうのん?」

「一人でも十分に問題なのよ!」

 

うん。そりゃそうだ。

……冷静に考えたら私って怖すぎだな……。それが今回の関羽の発言で火がついた感じ?

 

「……っ!?」

 

突然、首筋に冷たい感触。

 

「今だって一人、天幕のすぐそばに気配が有るけど……。貴女の部下よね?……いつでも突入してやろうって雰囲気だわ」

 

誰だよそんな余計なことしてるのは?

……アイツか。

 

「聆。貴女の主は誰?」

「…………」

 

……華琳って答える所なんだろうけど、癪だな。首元へ鎌を引っ掛けておいて、忠誠の言葉を求める。華琳の政治……覇道とはこういうものだ。理性で従うべきだと分かっていても、それと同じくらい心は反発する。この鎌が無ければ逃げ出してやるのに。

 

――今は従っているが力が弱まれば――

 

アレクサンドロス、始皇帝、項羽。覇による治世は必ず短命だ。もし永く続いているならば、それは逆らうことができないほど搾取しているから。

今の桃香の無責任さでは三国は治められまい。華琳なら確かに完璧に治めて見せるだろう。だが、その次の世代。争いは繰り返す。

さらに言うなら、強い主による政治は短いスパンなら確かに強いが、不満が蓄積してくると酷く脆い。民主的な王はその辺で強い。他人のせいに出来るから。

ここで私が一言「私の主は華琳だ」と答えるのは容易い。軽くキスでもして、この話は流れるだろう。だが、それでは覇道を認めることになる。「それではいけない」と、誰かが言わなければなるまい。それが……あれ?これって桃香の役目やないですか。

 

「私の主は華琳さんと、隊長」

「随分と時間がかかったようだけれど?」

「国の行く末を考えとった」

「ふぅん……。結構なことだわ。でも、それじゃ不合格」

 

あ、不合格ッスか。

 

「一片の思考も挟む余地無く、私が主であると言えるようにしてあげるわ」

 

華琳が浮かべる表情は、あのサディスティックな笑み。

鎌によって顔を引き寄せられる。

 

「ン……ちゅ……」

 

重なる唇。滑らかで、柔らかくて、瑞々しい。そしてぶっちゃけタイプじゃない。私はソフトSなので、ドSは苦手なのだ。

 

「んむ……、お酒の香りがするわ………」

「あぁ……ちょっと今日のんは匂い強いやつかな」

 

唇をぬらりとすり抜けて、舌が入ってくる。奥に入られたくない一心で、私も舌を絡ませるのだが、華琳はそれを好意的な応答と取ったようだ。

 

「上手いじゃない……ンぅ、はぁ……」

 

私のキス歴>華琳の年齢だぞ?嘗めんな。

 

「……んんぅ……、ちゅ……っ、ンふ………ぅむ」

「ンう……!?」

 

……華琳さんは唾液入れてくるタイプか…………。

 

「………ぅ……ン…………」

「ンく…ん……フフ、負けず嫌いなのね」

 

何の躊躇いもなく飲んだよこの娘……!うーん、相当芋臭いはずなんだが……。流石だな。

 

「ん、ちぅ……あむ…………」

「ん……ぅ…」

「……」

「…………」

「」

 

いっちょあがりっ、と。唾液と一緒に睡眠薬を飲ませてやった。工作員直伝の技が役に立った。

 

「あーあ。これで私にホンマに謀反の気が有ったら終わりやで魏ェ」

 

呉なら孫家の誰かが、蜀なら愛紗か諸葛亮が次の中心になるだろうが、魏にはそれが無い。それぞれの国を支えるものが、呉は孫家の血、蜀は義、魏は華琳だからな。君主=存在意義。ヤバい。良い意味と悪い意味で。

 

「さて、起きた時にキレられんよーにもう一踏ん張りしますかね……」

 

つまりはアレだ。小言を言うのも躊躇われるほど私が酷い状況になっていれば良いんだ。

 

用意するもの

・手頃な紐及びロープ

・丁度いい太さの何か

・自分の血(鼻をキュキュキュッとやると比較的簡単に用意できる)

・自分で自分をラッピングする技能

・気合

 

 

その後しばらくの間、華琳は鬼畜として名を馳せることになった。




華琳「ん……?いつの間に寝ちゃってたのかしら?」モゾモゾ
聆「キノウハオタノシミデシタネ」シバラレー
華琳「解せぬ……」

聆の初物は表向きここになりました。
真実を知る一刀はもちろん口止め。


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第八章一節その四

東方二次を書くに当たって、色々な資料を読んだり、スレを覗いたりするやないですか。
ほんだら本編やりたくなるやないですか。
何が言いたいかというと、
寝不足です。


 つまらない内輪もめをやっている内に他の仲間が上手く袁紹を追い返し、しばらく平和な時が流れた。今は華琳半ギレ騒ぎのほとぼりも冷めて、両袁家とどう戦うかの計画が本格的に進められている。相手の手勢は袁術、袁紹それぞれ片方ずつでも曹操の総戦力に十二分に匹敵する。と言うか、圧倒的だ。それに加え、袁紹は北、袁術は南東に本拠を構えており、常識的に考えてまず間違いなく二面作戦になるだろう。……常識的に考えて。

 

「……敵軍が集結している?」

 

常識は投げ捨てるもの。特に馬鹿を相手にするときには。

 

「はい。どうも袁紹と袁術の両軍が、官渡に兵を集中させているようなのです」

「たまげたなぁ……」

「白々しい……どうせまた知っていたんでしょう?」

「そうやで?」

「…………」

「でもほんの四半刻前やから」

「……もう気にしないことにするわ……」

 

私の色々な縁について、「賄賂も脅迫も無いんだから」と開き直っているのが功を奏したのか、最近、華琳は考えるのをやめ始めた。いい傾向だ。

 

「……それって意味があるのか?袁紹と袁術が別々に攻めてくるって予定だったろ?」

「あの二人に限っては策でもないやろしな……」

 

勢力を集中させていると見せかけて本当は二方向から……とか、仮に誰かが思いついたとしても、面倒くさいからと却下されていそうだ。

 

「麗羽のことだから、人数が多い方が派手だから、と思い付きでやったんでしょうよ」

 

○○はこういう性格だから――という思考はあまり好きではないのだが、確定的にバカだからな……。アイデンティティと言っても過言ではないほどの。

 

「兵力は単純に倍になりますけど、指揮系統が整っていないと、ただ人が増えるだけになりますねー」

「うまく連携が取れなかった場合、互いの足を引っ張り合って、むしろ味方に不利になる事の方が多いわ。黄巾や反董卓連合の時のことを覚えているでしょう?」

「ああ。確かに連合はクズだった」

「かゆうまェ……董卓側の連携を崩しとったんはお前やからな?」

「何を言う!私は武人の誇りにかけてだな……」

「……よく分かった。あの二人に連携は無理だろうな」

 

一刀は、なんだかんだと言い訳を続けるかゆうまを見て、ため息混じりに呟いた。まこと、馬鹿は度し難いものである。

 

「けれど、二面作戦を取らなくて良い分、楽になったわね。そこは素直に喜びましょう」

「……んーと」

「あはは、分かってない顔だね。季衣」

「うん。……うー……どういう意味ですか、春蘭様ぁ」

「……春蘭さんに聞いても……」

「おい聆、何か言ったか?」

「何も言うとりませーーん」

「春蘭様!どういう意味なんですか?」

「う、うむ。二面作戦を取らなくて良くなった分、こちらにとっては楽になったということだ」

 

どうしようもないな。

 

「……華琳、これ、こっちの連携も……」

「…………問題無いわ」

「春蘭様〜どう楽になったんですかぁ……」

「そ、それは……おい北郷!その辺りについてちょっと説明してやれ!」

「俺がかよ」

「いいや、私や」

「いや、それやったらウチが」

「え、……じゃあ俺が」

「そんな、説明したいん?」

「んだら隊長の面白い解説、期待しとくわ」

「え、何?聆も真桜もハードル上げる為だけに会話に乱入したのか?」

「せやで」

「ハードルが何かは知らんけどな」

「…………はぁ……最初の作戦だと、季衣と流琉は別々に行動するよていだったろ?けど、今回は敵が一つにまとまってるから、季衣と流琉は一緒に戦えるようになったって事だよ」

「あー。そういうことなんだー」

「おもんないんじゃいーー」

「もっとふざけろーー」

「ちょっと待ち自分ら。きっと一刀はオチでドッカーンと笑かす気ぃなんや。やからこれは前フリ……」

「そうやったんか……! さっすが姐さん。視野が違う!」

「wktk」

「……その反対に、敵は仲の悪い奴が共同で戦うことになるから、連携が取れない分やっつけやすくなるかも〜ってことだ」

「なるほどー!兄ちゃんの説明、すっごくわかりやすかったー!」

「すっごくつまらなかったー!」

「ふざけんなもっとふざけろや」

「絶望した!山も落ちもないただの説明に絶望した!!」

「いや、お前らが難易度上げすぎなんだって……」

「気合が足らん!!やり直し!!!」

「もうこの際めちゃくちゃなこと言うてええからどないかしてぇや」

「やんややんやー」

「…………

 ヘイ!ボブ

 なんだいジョーg

「面白かった 息出来んくらい笑った」

「面白かった 面白すぎてちょっと引いた」

「面白かった やからもう何も言うな」

「はぁ……貴女達、賑やかなのは良いけど、軍議の最中だということを忘れてないでしょうね……?」

「忘れてないですバッチリです」

「五秒に一回復唱してるで」

「実のところちょい忘れとった」

「……ともかく。……兵を集結させて戦えるというなら、こちらに負ける要素は何もないわ。ただ、警戒すべきは……」

「……袁術の客将の孫策の一党かと」

「そういうことね。だから袁術の主力には春蘭、貴女に当たってもらうわ。第二陣の全件を任せるから、孫策が出てきたら貴女の判断で行動なさい。季衣、流琉、華雄は春蘭の補佐に回って」

「御意!」

「はいっ!」

「わかりました!」

「了解した」

「袁紹に相対する第一陣は霞が務めなさい。補佐で欲しい娘はいる?」

「それなら、凪たち四人がええなぁ。一刀、貸してくれへん?」

「そりゃ、四人が良いって言うなら良いけど……いいのか?華琳」

「三人は良いけど、聆にはいつも通り防御遊撃に回ってもらうわ。初期配置は本陣手前でね。一刀は秋蘭と一緒に本陣に詰めなさい」

「了解」

「……そうだ。霞たちはこちらの秘密兵器の講義を受けてもらうわよ。真桜が一緒だから、ちょうど良いわ」

「……なんや桂花、どんな兵器なん?」

「秘密兵器は秘密兵器よ。それ以上はまだ教えられないわ」

「うーん……あんまり面倒なんは、勘弁して欲しいんやけどなぁ……」

「頭使うこと避けとったら馬鹿んなんで」

「よっしゃ良えやん秘密兵器!完璧に使いこなすでェ!」

「……その秘密兵器の運用と護衛を第一陣に任せましょう。敵部隊には第二陣の華雄を中心に当たりなさい」

「分かった」

「ええーっ!なんでやねんっ!」

「『なんでやねん』頂きましたっ!!」

「さっすが姐さん!キレッキレ!!」

「うわー、これ、やられる側キッツぅ……」

「袁術は作戦立案には顔を出さないはずだから、相手の指揮はおそらく袁紹が中心になるでしょう。桂花は袁紹の考え方を予測して、基本戦略を立てなさい」

「御意!」

「禀と風は桂花を補佐し、予測が外れたときの対処が即座に出来るように戦術を詰めること」

「分かったのですー」

「了解です」

「他の皆も戦の準備を整えなさい。相手はどうしようもない馬鹿だけれど、河北四州を治め、孫策を飼い殺す袁一族よ。負ける相手ではないけれど、油断して勝てる相手でもないわ。

これより我らは、大陸の全てを手に入れる!皆、その初めの一歩を勝利で飾りなさい。いいわね!」

 

かくして、外史は新たな局面へ。

でも、袁家=バカなせいで、官渡もイマイチ盛り上がりに欠けるよな。




軍議シーンって、気づいたらセリフばかりになっていますね。
美羽様登場は次の次でしょうか。
うっひょーいっ!!


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第八章一節その五〜戦闘パート

もうすぐ美羽様回収出来るからって
袁分補給をしていないせいか、
予定外の展開をどんどん思いついてしまって、
ついでにそれを実行してしまうという。
関係ないですが今日雪が降りました。やめてほしいです。


 「おーっほっほっほ! おーほっほっほ!」

 

官渡を埋め尽くさんばかりの袁家の軍勢。城郭にもこれほどのものはなかなか無いであろう巨大な櫓の列。その一つから聞こえてくるのは、あまりにも印象的なあの笑い声。

先程から華琳と袁紹が舌戦をやっているらしいのだが、私の立ち位置は後ろ寄りの中陣。聞こえてくるのは袁紹の高笑いだけだ。

 

「……お、舌戦終了か」

 

櫓の上の弓兵が構える。普通、舌戦に出ている双方の大将が自陣に戻ってから開戦なのだが……。袁紹に常識が無いのか、華琳の煽りが酷いのか。

引き絞った弓を今にも放たんしたとき、上空を巨大な影が幾つも横切った。カタパルト……バリスタだったか?まぁ、真桜作のヤバい兵器によって発射された大岩だ。

 

「い~ち、に~、さん、よん、ご〜」

ドーン ドーン ドン ドン ドーン

 

巨木によって頑丈に作られていたはずの櫓が次々と倒れ去る。袁紹の櫓も、破格の大きさと共に、基部の車輪によって動くというバケモンだったのだが、こっちのチート技師には敵わなかった。気の毒なことだ。

結局、袁紹が乗る一つを残して櫓は全て無くなってしまった。実害もさることながら、士気への影響も計り知れないだろう。

 

満足げに口元を綻ばせた華琳が本陣へと戻って行く。ついに開戦だ。

 

「皆、これからが本番よ!向こうの数は圧倒的。けれど、連携も取れない、黄巾と同じ烏合の衆よ! 血と涙に彩られたあの調練を思い出しなさい!あの団結、あの連携を以ってすれば、この程度の相手に負ける理由など有りはしない!それが大言壮語ではないことは、この私が保証してあげましょう!」

「総員、突撃!」

 

……と言っても鑑惺隊は突撃しないんですけどね。霞率いる第一陣と、春蘭率いる第二陣をすり抜けて本陣に向かってきた敵の勢いを殺して、背後に回って、逆に追い立てて、混乱させた状態で周りの隊にぶつけて始末させるのが私の役目だ。まあ、そのまま潰してしまっても良いらしいが。とにかく、相手が来るまで待機だ。イマイチ締まらないけど。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ふん、いかに練度が高くとも、やはりこの兵力差では前陣を抜くことなど容易い」

「前方に千人規模の集団を確認!旗印は鑑!鑑惺隊です!!」

「ふん!その程度の人数がこの一万の軍勢の前に立つなど……。何をぼんやりしているんだ?どうやら鑑惺は個人の武には優れているらしいが、戦況を読む力は無いようだな。たったの千人……踏み潰してくれる!!総員、速度を上げろ!突撃用意!……突撃ィッ!!!」

「……HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」

「「HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」」

「「「HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」」」

「な、何だァ!?」

「二つに別れました!」

「挟撃!?左右からの攻撃に備えろ!!!」

「既に攻撃を受けています!」

「バカなっ!?反転が速すg「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」

「Gyasyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」

「「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」

「「Gyasyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」」

「「「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」

「「「Gyasyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」」」

「!?退いていく!!!」

「更に勢いを強めて食い込んで来ています!!」

「ええい、それは反対側のことだろう!!」

「HALLL URULAAAAA WRYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!」

「「HALLL URULAAAAA WRYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!」」

「FOOOOOOOO!!!!!!!」

「「「HALLL URULAAAAA WRYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!」」」

「「FOOOOOOOO!!!!!!!」」

「「「FOOOOOOOO!!!!!!!」」」

「前後に回り込まれます!!」

「また反転!?待て、前後ってどっちだ!?」

「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」

「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」

「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」

「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「末端部、分断されました!!」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「削り殺される!!?とにかく、前方に突撃しろ!!」

「ダメです!混乱していて指示が「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「指示が通る奴らだけでもm「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「GRUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

「「GRUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」」

「な……既に半数g「「「GRUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」」」

「「「「GRUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」」」」

「「FOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!」」

「く、来るなァッッ!!!」

「GRUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

「「「GRUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「「「HYUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!」」」

「「「「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」

「「「「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」

「「「「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」

「「「「FOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「第三波、殲滅完了しました」

「んーー。ご苦労」

 

前陣を抜けて攻め込んで来るのは騎馬隊ばかりだった。まあ、機動力からして順当だろう。だが、残念ながら我が鑑惺隊は騎馬崩しを最も得意とする。馬は小回りが効かないし、叫び声に怯えてしまう。一騎で幅を取るので、突進さえ往なせば攻撃の密度は小さい。一度歩みを止めてしまえばこちらのもので、後は細い隊列を組んで分断していけばいい。

騎馬隊でのこの戦術の攻略法は、最初の挟撃を気にせず走り抜けること。だが、そうやって鑑惺隊を抜けても普通に本陣と当たるだけな上、もちろん私がケツを掘りに行く。詰まるところ、弓兵隊でも来たら厳しいが、弓兵隊が攻め込んでくるなどまずない。実質無敵に近い戦術だった。

 

 私がそんな嵌め臭い戦闘をしている間に大局は進み、曹操軍圧倒的有利へ。もはや私の出番もあるまい。孫家は春蘭相手にまだ頑張っているようだが、実際のところ、引いたらそのまま崩れてしまいそうだから踏ん張っているだけだろう。袁紹に関しては、元々、季衣流琉に顔良文醜の二対二の構図になるはずが、かゆうまのせいでこちらの大勝だった。

 

「あ、華雄様が戻ってきましたよ」

「なんでや……」

 

かゆうまを先頭に数騎の騎馬がこちらに走ってくる。かゆうまは袁紹の追撃に向かうはずだが……。

 

「ただいま戻った」

「追撃は?」

「楽進たちに任せている。それよりも……」

「どもー」

 

かゆうまの後ろからひょっこり顔を出したのは、袁家の二枚看板の一人、文醜だ。なるほど。バカ猪同士意気投合したのか。

 

「そういうことやったらこっちやのぉて華琳さんとこ行けや」

「いや、嵬媼に用が有るのだ」

「私にぃ?」

「あ、やっぱ姉ちゃんが鑑惺さん?」

「…………違うで?」

 

何?また私の下でとか言う奴?やめてくれ。華琳にまた警戒されてしまう。

 

「違わないだろう。嵬媼、ごまかしたところで何にもならんぞ」

「はぁ……で、えぇと、文醜さんは私に何の用?」

「おう!あたいと一騎討ちしてくれ!!」

「お断りします」




この前、聆イジメと見せかけた華琳イジりになってしまった分がここに。
骨の一本や二本は覚悟してもらおう!


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第八章戦闘パートRound2

内科に行ったとき、前をたくし上げるのに未だに抵抗が有ります。


 「……どう言うことなんや………」

「文醜を包囲したんだが……『最後に一騎討ちがしたい』と言うのでな」

「いや、それで何で私ンとこ来るん?お前らでやっとれや」

「どうせなら一番スゴイのと殺りたいじゃん?不死身なんだろ?」

「普通に死ぬから他当たってくれ。かゆうまも、春蘭さんとか紹介せぇや」

「え……嵬媼は不死身だろう」

「アレはマグレやからな!?」

「まぁ、永い間稽古もしてきたし、受けてやれよ」

「ふざけんな」

 

一騎討ちとかしたくない。勝ち戦でわざわざ一騎討ちという危険を犯す意味がない。それに、かゆうまに勝ったのも、私が死んだと思って油断しているところに不意打ちをかましたからだ。もはやあんな奇跡は起こるまい。

 

「えー、最期のお願いなんだから聞いてくれたっていいじゃんか〜〜!」

「断る!」

 

最期のお願いだから聞きたくないのだ。最期ということはつまり、ガチの全力を出してくるということだ。出し惜しみも油断も無い。私の戦いは基本的に隙に乗じてのものだ。メチャクチャ不利なのである。

それにあの眼。スポーツ漫画とかの最終決戦終盤の主人公か?ってくらい、澄み渡ってやがる。間違いなく、強い。

 

「はぁ……、しかたないなー。じゃ、」

「!!」

 

文醜が馬上から跳ねる。

 

「アンタの首級をとって最後の手柄にしてやんよ!」

 

真上から降る声。

 

「ふざけたこと言っとんちゃうぞアホがッ!!」

「ぬるいぬるいッ!」

 

大量の投具で迎え撃つも、幅広の大剣……斬山刀を高速回転させることによって止められる。更に斬撃を加えようとした瞬間、全身に悪寒が走った。そこに立っていると死ぬ、と。

 

「斬山刀…… 斬・山・斬ッ!!」

ズガァッッ!!!

 

突然真っ白になる視界。吹き飛ばされそうになるほどの衝撃。いや、実際、その衝撃に乗ってできるだけ遠くに退避した。

振り返ると、今まで私がいたところには……何だ、クレバス?地割れ?

 

「へぇ、やっぱ良い動きするじゃんか」

「褒めてもらっても溜息くらいしか出せんけど?」

「冗談も出てるって!……じゃあ、ドンドン行くぜ!!」

「来んなバカっ!!」

 

五間ほどの距離を一足で突進してくる。

 

「ハァッッ!!」

「オラァッ」

ギャリッ

 

大振りの胴を受け流す。普通なら、これだけの重量の攻撃を流されればよろめくものだが、文醜は片足で踏みとどまる。

 

「っ!?」

 

そして空いた片足で蹴りを放つ。何とか避けたが、これだけでも十分勝負が決まってしまう……そんな蹴りだった。そこから更に横薙ぎ、二段蹴り。

 

「避けてるだけじゃ面白くねぇぞ!!」

「攻める暇が有ったら攻めるわいや!」

 

凪に迫る速さに、かゆうまに迫る重さ。そして、賊上がりのトリッキーな動き。完全にペースを握られている。避けるのに必死で攻めることができない。……「避けるのに必死で攻めることができない」?避けながら攻める技が有ったではないか。やはり技術を学んでも、咄嗟に出なければ意味がないか。今回は思い出せて幸運だった。

 

首を刎ねんと放たれた一閃。コレに"合わせる"!

 

「ふっ」

「ちッ!」

 

上体を倒して斬撃を避け、その反動でハイキックを放つ。回転で避けられ、その回転から更に低い一撃が迫る。なるほど。この技術も使って、やっと打ち合えるということか。だが、それで十分。

身体を深く沈め、滑り込むようにローキック。跳ねて躱しつつの突きを、踏み込むことで避ける。踏み込みとはつまり攻撃の予備動作。浮いた相手に一撃。しかしスカされる。地面に刺さった剣を支点に避けられたのだ。振り向きざまに針をばら撒く。バックステップと斬山刀で防がれた。

 

「急に動きが変わるからびっくりしちまったぜ……」

「そのままやられてくれればええのに……」

「そんなのできねぇって。やっと面白くなってきたんだからな!」

 

そう言って、斬山刀を真っ直ぐ上に構える。

 

「――斬山刀ノ極」

 

光の刃が天に伸びる。それ何てシャイニングフィンガーソード?

 

「こいつをどう思う?」

「すごく……大きいです……」

 

正確には四間ほど。やめてくれよ……飛ぶ斬撃の十四尺で喜んでたのがバカみたいじゃないか……。

 

「せっかくだから全力出させてもらうぜ!!しっかり生き残ってくれよな」

「やめてくださいしんでしまいます」

「じゃあやっぱ死ねっ」

 

真っ直ぐに振り下ろされた。遠巻きに観戦する部下の足下まで地割れが広がる。

とにかく、速く間を詰めないと。投具を使えば少なくともその間は防御してくれるはずだから、その間に!

 

「うおおおおおおオオ!!!」

「くっ、情熱的な雄叫びの割に面倒くせぇの投げてくるじゃん!」

 

ここからは手数の戦いだ。受ければどうせ即死だし、半端な攻撃じゃあ当たってもらえないだろう。

 

「ッしゃオラァッッ!!」

「エッ!?ソレもなげるのかよ!?」

 

足を薙ぎ、地面を抉る一振りを跳ねて躱しながら、黒くて長いのを投げつけた。リーチも破壊力も負けた今、コイツは用済みだ。最後に、相手を驚かせるのには役立ってくれた。今は叩き落とされて真っ二つである。お前の遺志は細剣が継いでくれるよ。

 

「イェェェェェガァァァッ!!!」

「もしかして二重人格?」

 

いいえ、ヤケです。

ともあれ、尊い犠牲のもと、何とか間合いに入れた。

左腕で相手に対処しつつ、右腕はこれまで学んだあらゆる技術を行使する。投具、鎖、二刀流、徒手……。まあ、全部防がれたんですけどね!

 

「煩い右手だぜっ!」

「褒め言葉として受け取っとくわ」

 

その煩い右手での一閃。ピッ と、文醜の頬に赤い線が走る。瞬間、腕に激痛。

 

「へへっ。肉を切らせて骨を断つ、ってね」

 

関節じゃないところで腕が曲がっている。篭手ごと蹴折られていた。

 

「は、はは……そのまんまの意味で使っとる奴初めて見たわぁ」

「おかげでちょっと避け遅れて掠っちまったけどな。でも、もうその腕は使えねぇだろ?」

「いや、使えるかもよ?ちょっと思いつかんけど」

「じゃあ、またうるさくされても困るし、さっさと倒しちまうか」

「もうちょっと遊んでくれてもええんやで?」

 

痛みのせいで頭がくらくらする。冷や汗が吹き出る。

おい、痛がってる場合じゃないぞ私の身体!あともっと本気出せ!リミッターとかかけてると死ぬぞ!

 

「行くぜッ!!」

 

仕切り直し、とでも言うような、大上段からの斬撃。

来い!スローモーションに見えるやつ来い!!

……よっしゃキタ!!止まって見えるぜ!

 

「トオォォォォリャアァァァアアア!!!」

「うわっ!?」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!」

 

速いッ強いッ勝てるッ!勝てる……勝て……あるぇーー?

 

「速いけど……やっぱ単純だよなー」

 

あー、基礎能力の差が……。

 

「右腕潰したのは失敗だったかなぁ……」

 

左腕を撥ね上げられ、細剣が跳ね飛ばされる。

 

「思ったより弱かったぜ」

 

返す刀が胴に接近する。

 

「クソがァッッ!!」

「グアッッ!?」

 

斬山刀が胴を掠めて飛んで行った。

 

「あんまり残念がるから使ったったわ……」

 

右腕の鎧の尖った指先が相手の二の腕に深々と突き刺さっている。

 

「な……っ!?」

「何を戸惑っとんじゃい……。尖ったもんを思いっきり叩きつけたらそら刺さるやろ……。それよりもっと喜べや。お待ちかねの右腕やぞ?」

 

骨が折れたのは肘から先。つまり、肘までは正常に動くのだ。そして肘から先を質量武器と考えてぶつけた。今まで尽く防がれていた奇襲だが、今回ばかりは意表を突くことに成功したらしい。

刺さった右腕をそのままに、アッパー気味の左フックを放つ。

 

「くっっ」

 

防がれる。予想済みだ。

 

「世界八番目の不思議!!」

 

ゴしャッッ

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……で、どうゆう用件でここへ?」

「ただでさえ満身創痍なんやからそんな睨まんでもらえます?」

「そうそうどのの はどうに かんめいを うけ、 びりょくながら わが ぶも その いちじょと……」

「分かったから……ハァ、もういいわ。処遇は追って連絡する。下がりなさい」

「了解しましたー」

 

元々堅苦しい場面が苦手だったらしい猪々子が、いそいそと天幕を後にする。

 

「……で、どういうつもりかしら?」

「覇道に感銘を受けた、って言うてなかった?」

「あんな棒読み聞いたことないわよ」

「行くアテが無いからとりあえず働かせてくれってさ!」

「……また忠誠心の無い将が増えていく………」

「霞も同じようなモンやん」

「そうだけれど……それにしてもどうして文醜なのよ。どうせなら孫策とか、せめて顔良にしなさいよ」

「それはかゆうまに言うてほしいわ。突然目の前に連れて来られて、『一騎討ちしろ』やからな」

「……一騎討ちで勝ったのよね?」

「そうやで?」

「……どうして貴女の方が重傷なの?」

 

担架の上の私の体をサッと一瞥する。

右腕は言わずもがな、残る四肢と体幹は極度の筋肉疲労その他でガタガタ。首も最後のヘッドバットに全力をかけすぎて鞭打ち症気味だ。今マトモに動くのは目と口と尻穴ぐらいなものだ。

 

「……華琳さんへの愛が私に無理を強いるんや」

「貴女の口からの言葉じゃなければ素直に喜べるのだけれど」

「私からの言葉やったら……『複雑ながらもやっぱり嬉しい』って感じ?」

「ふふっ……もうそれでいいわよ。……下がっていいわ。疲れたでしょうし、もう休みなさい」

「戦勝祝いの宴会に参加してからな」

「そんな状態でまだ呑むの!?」

「酒と世界平和に命懸けとるから。……おい、戻るぞ」

「「はっ」」

 

呆気に取られている華琳にドヤ顔をかましながら天幕を出た。

 

 

 「鑑惺様……下の世話はお任せくださいね」

 

担架の足側から声がかかる。

 

「下の世話限定とか……」

「下の世話以外も任せていただけるのですか?」

「おー。任せたる任せたる。具体的にはかゆうまの稽古の相手と猪々子の教育」

「やめてくださいしんでしまいます」

「死んでくれてもええんやで?」

 

最高の笑顔で。




予定外の仲間二人目。
隠れ常識人の猪々子ちゃんだァッ!
斗詩ネタ無しにどこまで頑張れるかガクブルなのは内緒だ!


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第八章拠点フェイズ :【美羽様伝】袁分確保その一

美羽様
キタ━ーーーーーーーー(゚∀゚)ーーーーーーーーーーー━!

うっひょおおおおおおおおおおおおおお!!!!

うえあああああああああああああああああ!!!!

WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!

あっあっあっあっあっうっっ…………………

ぺろぺろコピペは自重。


 「いやー、やっぱまだちょっとキツイなー」

「当たり前だ。まだ満足に武器も持てないのに警邏に出るなど……」

 

昼下がりの洛陽。凪との警邏の帰り道。復帰後初の警邏は滞りなく終了した。全身の痛みが酷いが。

 

「ぼちぼち仕事始めんとな。あんま長いこと休んどったらつまらん噂が流れかねん」

「それでやたらと店主たちに声をかけていたのか……」

 

それはコネの確保作業です。新しい街に来たので。

 

「ま、これである程度は私の健在っぷりを示せたやろ」

「そうだな……。む?城門の方が何やら騒がしい……」

「ん……?」

 

「じゃーかーらーー!妾が袁術じゃと言うておろぅが!!」

 

何やら愉快な声が聞こえてきた。

 

「……私が先行する。聆はゆっくり来てくれていい」

「いーや、見たところ子供みたいやし、凪も別に急がんで良えやろ」

「む、でも季衣や流琉だって子供だが……」

「じゃあその季衣流琉が城内に居るから大丈夫や。……と、そんな話しとるうちにもうすぐそこやな」

 

「お嬢ちゃん、悪いけど俺達にも仕事があるから……」

「妾を曹操に取り次ぐのがそち等の仕事であろ!?」

「うーん……わかんねぇ嬢ちゃんだなぁ………」

「いいじゃんもう。摘み出しちまえ」

 

門番相手に何やら捲し立てていた蜂蜜色の少女が、まるで猫の子でも摘み上げるようにひょいと持ち上げられてしまった。

 

「何をするのじゃこの無頼者め!三公を輩出した名門袁家の一員たるこの袁術に、かような無礼な振る舞い!曹操の懐の浅さが窺い知れるというものじゃ!!」

「その曹操様にコテンパンにやられたのが袁術なんだよ!嬢ちゃん、英雄ごっこをするんなら関羽とか孫策とか、もっと立派な奴にしろよな」

「そ、そそそ………孫策じゃと!!?」

「な、なんだぁ!?」

「ガタガタブルブルガタガタブルブル」

「ちょ、どうしたんだ急に!?」

「おいお前何かしたのか!?」

「分からん!全然分からん!!」

「うぃーっす 何やっとん?」

「どうしたのだお前たち。そんな子供一人に……」

「鑑惺様に楽進様!聞いてくださいよ……この子供が急にここに来て、曹操様に取り次げ、と……」

「まぁ先にとりあえず降ろしたれや」

「あ、はい」

「……さて、お嬢さん。私は曹操様の下で武を振るう将が一人、鑑惺嵬媼と申します。貴女は?」

「ガタガタブルブルガタガタブルブル」

「………」

「ガタガタブルブルガタガタブルブル」

「………オラァッ!!」

「へブッっっ!?」

「!?」

「!?」

「しっかりしてくださいお嬢さん」

「う………ごほ。なんか、鳩尾を凄い勢いで蹴り上げられたような気が……」

「気のせいですよ。それより、貴女のお名前と、ここにいらっしゃった用件をお聞かせください」

「う、うむ。妾は三公を輩出した名門袁家、その正統後継者たる袁術公路である!此度は曹操を我が軍門に加えてやろうと思っての」

「貴様ッ……何をふz

「なるほど。わかりました。曹操様に、面会をしていただけるよう手配いたします。しかしながら、何分急なことですので、しばらくお待ちいただくことになりますが……」

「むぅ……まあ、良い。じゃが、茶ぐらいは出るのであろうの?」

「ええ。せっかくですから庭の草花を眺めながら……」

「うむ!そちはなかなか話のわかる奴じゃの。そこの門番とは大違いじゃ。では、案内してたも」

「かしこまりました。そこのお前。袁術殿を中庭の四阿に案内して差し上げろ。お前は茶の用意。できるだけ良え茶葉使えや。お前は華琳さんに袁術殿がいらっしゃったって伝えぇ。……袁術殿、私は少し着替えのために遅れますが、ご了承くださいませ」

「よいよい。……参るぞ!」

「は、はっ!こ、こちらです!」

 

未だ戸惑っている一般兵の後について、袁術は門の中に入っていった。

 

「……聆、どういうつもりだ?」

「そうですよ。あんな得体の知れない子供を……」

「あの服装……そこらの貴族でもなかなか着てない上等な布を使っとる。それに金髪巻き毛、バカ、子供って点も袁術の特徴と一致しとんや。十中八九あの娘が袁術で間違い無いやろ」

「それにしても、だ。あんな無礼な態度を華琳様の前でとれば首を撥ねられかねない」

「今さら袁家って言うのも……」

「まあ、無礼な態度は私が何とか執り成すとして。……袁家の名もまだ全然使えんワケとちゃうし」

 

本命は張勲だがな。呉の勢力に詳しい張勲を押さえておけば、黄蓋騒動の時にイニシアチブを握り易いだろう。今どこにいるか知らんが、袁術をとらえておけばそのうち現れるはずだ。

 

「それに可愛いやん?」

「まぁ、それは……な……」

「確かにそうですね……」

「私もこの怪我のせいで鍛錬も創作もできんし。愛玩動物?みたいなん欲しいやん」

「愛玩動物なら私がッッ!!!!」

「ど こ か ら 湧 い て き た 」

「鑑惺様在るところに私在り ですッッ!!」

「ウワースゴイナー」




美羽様はバカで無礼なので華琳様のストレスがマッハ。
でも歌を聞けば……歌を聞けばワンチャンあるはずです。
美羽様の歌は張三姉妹の歌より伝統重視なので、
きっと華琳様も気に入ってくれるはず。


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第八章拠点フェイズ :【美羽様伝】袁分確保その二

みうもん!GETだぜ!!
たーたたららららーたーたららーたーたーらーらーらー
たーたたららららーたったったらった
たとえ 火の中 水の中 草の中 森の中
土の中 雲の中 あのコのスカートの中(死ねっ)

右足首を傷めました。


 中庭の四阿へ、渡り廊下を急ぐ。

 

 衣装選択に思ったより時間がかかってしまった。いや、実際は十分もかかってないだろうが。自室に帰っていざクローゼット(?)を開けてみると茶の席に相応しいような服があまり無かったのだ。そして、右腕の怪我のせいで数少ない選択肢から大多数が消えた。いつもは鎧をギプス代わりにしているのだが、まさか篭手を着けて茶を飲むわけにもいくまい。必然的に腕が隠れるものを選ぶことになった。

 結局、軍服……いや、一刀の制服?をアレンジしたようなドレスに決着した。全体的に重厚なイメージに、所々フリルやレースがあしらわれていて、私好みだ。袖が大きく広がっていて腕も隠れる。陳留を離れる際に服屋からプレゼントされたものだった。こちらのデザイナーも捨てたものではない。

 

 角を曲がる。袁術の待つ四阿はすぐそこだ。ここからは走るのをやめて、ゆったりと早足。あくまで優雅に、だ。

ここで袁術に気に入られることが張勲を手に入れることに繋がり、張勲を手に入れることが黄蓋の死を防ぐことに繋がる。媚び売り過ぎぐらいで丁度良い。

 

「お待たせしてしまって申し訳ございません」

「うむ。妾を待たせるなど言語道断じゃ」

 

門での会話と言ってること違うし……。だがツッコミなどせずに耐えねばならない。

 

「服選びに少し手間取ってしまって……」

「ふん、いつも粗雑なものを着ているからそうなるのじゃ」

 

粗雑じゃなくて質実剛健だ。茶会に行くようなヒラヒラふわふわで戦えるか。……ごめんねそんな奴いっぱいいたね。

 

「……じゃが、まぁソレはよく似合っておるではないか」

「ふふ……ありがとうございます。でも、袁術様のお召し物には敵いませんわ」

 

急に褒められて動揺してしまった。口調がマダムみたいに……。

 

「ふふん、とーぜんじゃ♪最高級の服の中から七乃が選んだものじゃからの」

「? その方は……?」

 

知ってるけどな。

 

「七乃……張勲は妾の守役での。あ!忘れておった!留守番を任されておったのじゃ!!」

 

あぁ、張勲が旅費を稼ぎに行っている間に勝手に来たのか。

 

「心配しておられるでしょうか……こちらで遣いの者を出しましょうか?」

「うむ!早よ!早よぅ出してくりゃれ」

「あの……張勲殿の特徴などを……」

 

宿の場所は聞かない。どうせ覚えていないから。

 

「優しくて賢くておっぱいが大きいのじゃ!」

「……こんな感じですか?」

 

予想以上に意味を成さない袁術の言葉を無視し、記憶の中の張勲像を、数枚繋ぎ合わせた竹簡に描き写す。

ショートヘアで……垂れ目気味で……ブレザーみたいな服で……何気におっぱいが大きくて……足下どんなんだったか……まあ、多分ニーソだろ。筋肉痛のせいでところどころ線が震えたが、なかなか良い出来。原画師にでもなろうか。

 

「おおっ♪おぬしなかなかの腕じゃの。じゃが……七乃のおっぱいはもうちぃと大きいぞよ?」

「そんなにですか……?」

 

うーん、 Dカップ寄りのCってイメージなんだが……。

 

「まぁ、だいたいそんな感じでよい。早よ探してたも」

「了解しました。……そこの」

「はっ」

「警備兵にこれを。賓客のお連れ様や。無礼の無いように」

「御意」

 

絵の端に細かい指示を書き込んで近くの女官に手渡した。人海戦術で何とか見つかるだろう。……警戒して逃げられるかもしれんが。

 

 

 「それにしても遅いのー。曹操は」

 

遣いを出してからしばらくして。張勲は未だ見つからず、華琳もまだ来ない。一応、「四半刻も待たせない」との言伝が来たが袁術のテンションは目に見えて下がっている。一応会話(四分の三以上は七乃の話題)は弾んでいたのだが、段々と反応が悪くなってきた。

 

「あと少ししたらいらっしゃるでしょうけど……」

「退屈じゃの〜。何か余興はないのかや?」

「余興……とは少し違いますが。……袁術様は蜂蜜が大層お好きだとか」

「あるのかや!?蜂蜜が!」

「はい。少し、味を見てもらいたいのです」

「少しと言わずいくらでもみてやるのじゃ!」

「では……」

 

袖から小壺を取り出す。中身はもちろん蜂蜜。最近の金欠の原因だ。

実は袁術のために養蜂場の経営を始めた。故郷の村に何度も手紙を書いて頼み込み、巣箱のアイデアと資金をなんとか捻り出して、途中スズメバチの襲撃を受けたりしつつ、やっと収穫まで漕ぎ着けた。

これも袁術に媚びる策の一環だ。いくら利によって雁字搦めにしても、袁術が一言「魏はつまらん」と言ってしまえば張勲も去ってしまう。とりあえず魏にいれば蜂蜜を安定して入手できるようにしようと考えたわけだ。

 

「……ぺろ……ちゅっ……………ぺろ……」

「この度 魏では蜜蜂の家畜化に成功いたしまして……」

「……ちゅ………ぺろ………」

「これにより、かなり安定して蜂蜜を生産することが出来るようになり、価格も低下するだろうと」

「………ンッンッンッ……、ぷはぁっ!……ん?何か言ったかや?」

「ナニモイッテナイデス」

「それにしてもこの蜂蜜はなかなかの美味じゃのぉ……。もっとないのかや?」

「自室にあと少し」

 

このペースで食べられたらちょっと厳しいものがあるな……。養蜂の規模は大きくしていく予定だが、少しは自重してもらうことになりそうだ。

 

「早よう持ってまいr

「お〜〜〜じょ〜〜〜〜ぉ〜〜さ〜〜ま〜〜〜〜!!!!」

「七乃!遅かったの」

「『遅かったの』じゃありませんよもー。留守番しておいてくださいって言ってたじゃないですかー。すっごく心配したんですよ?」

「むぅ……悪かったのじゃ。(それよりも七乃よ)」

「(なんですか美羽様)」

「(おかげで曹操の兵を掠め取る計画が一歩も二歩も前進したのじゃ)」

「(え、お嬢様にそんなことできるんですか)」

「(とーぜんじゃ!曹操との面会の算段も立ったし、それに、見よ!たった一日で、共に茶を飲むほどに籠絡したのじゃ)」

「(お茶会くらい初対面でも社交辞令的に開きますし……。それに何考えてるのか一番分からない人じゃないですかぁ)」

「どうかしましたか?」

 

ヒソヒソ話長すぎだぞ?あと、張勲のおっぱいは生で見ると予想以上に大きい。

 

「なんでもないのじゃ」

「なんでもないですー」

「はぁ、……そうですか。まぁ、曹操様がいらっしゃるまで張勲殿も、いかがですか?」

「あ、はい、いただきます」

「……茶器を一組。茶菓子も追加せい」

「はっ」

「あともう一組用意してくれるかしら?」

「あ、華琳さん」

「遅かったのぉ、曹操」

 

あ、華琳の怒気が増した。

 

「ええ。まさかあの袁術が訪ねて来るなんて思いもしなかったものだから」

「用意の悪いやつじゃ」

 

煽りが酷いなぁ。

 

「……で、用件を聞きましょうか」

「はい。官渡での戦の後、孫策に裏切られたのはご存知ですよね?結果私たちは南陽……呉の地を追われ、現在は戻る家もございません。できるならば、この地であn

「そちを妾の配下に加えてやっても良いぞ」

「は?」

「ちょっ」

「美羽様!?」

 

おい今イケる流れだったろうが!?

 

「七乃の話は長いのじゃ。曹操よ。国の長には良い家柄の者が立つ方が良いであろう。妾も今は兵を欲しておるしの。じゃから妾の軍門に下るが良い」

「………………………」

 

激おこプンプン丸カム着火インフェルノ?

M(マジで) K(首撥ね) 5(五秒前)?

 

「えーと、袁術様はつまるところ、兵が欲しいんですよね?」

「まあ、そういうことになるのぉ」

「ならば、魏国民になられるのはいかがでしょうか?」

「……?」

「魏の兵は魏の民のために鉾を振るいます。魏の臣もまた魏の民のために策を練ります。王は民のためにその二者の手綱を。……最も利のあるのは兵、臣、王、民の誰でしょうか?」

 

実際は税とか兵役とかあるが。バカだから気付くまい。

 

「うむ。妾は魏の民になるぞよ。良いな七乃」

 

よっしゃバカだ。張勲も分を弁えたところに落ち着いてほっとしているようだ。

 

「わかりました。でも、お仕事どうしましょうか」

 

期待するような目でちらっとこちらを見る。好意的だと見たら調子に乗りやがって……。まあ、応えてやるんだが。

 

「華琳さん。張勲殿を軍師に迎えたらどないやろか」

「……聆、ちょっとこっち来なさい」

 

華琳が席をたち、四阿から少し離れたところに私を引っ張る。

 

「(何なの貴女。貴女は袁家の臣下なの!?今までそんなにめかしこんでたことなんて一度も無かったじゃない。少し化粧までしてるし……。それにあの態度は何?袁術の顔色ばかり窺って……!)」

「(袁術に媚びるんは、媚びんかったら機嫌を損ねる器の小さい者やと判断したからや。で、袁術の機嫌を取るんは張勲を手に入れるための策なんや)」

「(張勲?官渡での袁家の失策を見たでしょう?無能だわ)」

「(いや、あれは袁術袁紹の無茶な要求のせいであって、張勲の才を示す結果とちゃう。冷静に、張勲の功績を鑑みた結果、アレはかなりの傑物やった)」

「(……続けて)」

「(まず、袁術の兵数は元々驚くようなものでもなかった。正統やないとはいえ、年長の袁紹の方に袁家の財が流れとったからな。それを、混乱に乗じて南陽入り。孫堅をだまくらかして配下に置いて勢力拡大。孫家の反発が強くなってきたら巧みに配置換えと無理な行軍をさせて勢力を押さえて飼い殺し。あの英傑孫策、宿将黄蓋、軍師周瑜を押さえて、や。春蘭さんが官渡で追撃をやめる、っていう異常がなかったら、孫策は未だに袁術の配下やったやろ。しかも、袁術の話からするに、張勲はその間の軍事、内政、外交の全てを担当しとったらしい。王の代理としての最終確認やのぉて、実際に現場に出とった。……袁術の我儘を最大限叶えて、袁術の世話をしながら)」

「(なにそれ欲しい)」

「(欲しいやろ?そろそろバカやないのんを紹介せな殺されかねん思て本気出したんや。裏切りの心配も低い。張勲には袁術が全てみたいやから、袁術の安全が最優先やろ。私らが強い限り刃向かっては来ん)」

「(一方でバカな袁術を手懐けるのは貴女の役目ってことね)」

「(不本意ながら)」

「……袁術、張勲。貴女たちを魏に招き入れることに決めたわ。張勲は次の軍議で皆に紹介するからそのつもりで。私はこれから住居や報償の調整をしてくるから。しばらく好きにしていてちょうだい」

 

そう言い残して、華琳は嬉しそうに去っていった。

 

「落ち着きのないやつじゃのう」

「鑑惺さん、……目配せしといて なんですけど、どうしてそんなに良くしてくれるんですか?」

「一重に温い世界のために」

「(美羽様、この人ヤバいですよ。悪い意味で)」

「(蜂蜜をくれるから良い奴なのじゃ)」

 

 

 かくして、美羽、七乃が魏の一員となった。張勲の有能さに舞い上がった華琳が美羽のバカさ加減に叩きのめされるのにそう時間はかからなかったが、それはまた別の機会に。




バカと腹黒入荷。
七乃さんは恋姫唯一の真正の悪人らしいですね。
この作品では明るく楽しい馬鹿騒ぎをしてもらいますが、
作者的胸熱(胸糞とも言う)は孫策に見逃してもらえなかった場合のリョナ展開です。
疲れてんな……。


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※作品の説明、設定と言い訳2

マジキューの恋姫アンソロジーはおすすめです。
と言うより、カド○ワから出ているもの意外はだいたいおすすめです。
カド○ワアンチではなく、作者の好みとして。


重要人物

 

袁 術 公路 美羽(様)

MY SWEET HONEY

かわいい。説明不要。かわいいは正義。

次元の壁に隔てられた美羽様と作者は、まるでロミオとジュリエットである。

 

鑑 惺 嵬媼 聆 (カン セイ カイオウ レイ)

主人公。多方面に頑張りすぎてエロいことはご無沙汰気味。浅いもののとんでもなく広い縁と、自分の腕がぶっ飛んでも怯まない精神力が武器。あと変な関節と変な知識。五十年分の人生経験が唸る!!

 

北郷 一刀

原作主人公。空気のように見えるが、描かれていないところで大活躍。主にエロいこと。初体験の相手は聆。凡人に見せかけた天才。

 

曹 操 孟徳 華琳

人材マニア。聆に警戒心を抱き、バカに頭を悩ませる苦労人。ストレスの影響でえっちの回数が増えた。春蘭たちは喜んでいる。

 

北郷隊三羽烏

凪、沙和、真桜の三人。聆の幼馴染。最近疎遠に見えるが、実は調練や警邏などでほぼ毎日顔をあわせている。誰かをイジるときの息はピッタリ。

 

華(葉) 雄

バカ。猪。本作のメインヒロイン(確信)。愛称は「かゆうま」

倒れても戦うのをやめない聆の精神に惚れ込んで魏の一員となった。

真名ネタはそのうちやります。真面目な設定はありませんが。

 

文 醜(丑) 猪々子

バカ。猪。名前負けじゃない斬山斬を放つバケモン。意外なことに空気は読める方。聆のことは尊敬しているが、どちらかと言うと行くところがなかったから、という理由で魏の将に。

 

張 勲 七乃

功績を箇条書きしたら凄かった。美羽様が全て。

ななみう は 俺の Honey Wonderful

 

劉 備 玄徳 桃香

叱られて成長していく、蜀のリーダー。次世代に必要な思想を持つが、迷惑な言動も目立つ。

 

孫 策 伯符 雪蓮

美羽様をガタブルさせる存在。それ以上でも以下でもない。

 

貂蝉

筋肉ダルマ。左慈を筋力で黙らせる係。

 

左慈

聆の活躍に違和感を持つものの、今のところ静観している。

 

于吉

ホモ。

 

 

勢力

 

袁紹を倒し、北方の大部分を治める大国。治安が良く、街は賑わい、兵は精強。しかしバカが多い。武将の半分がバカである。治める曹操は偉大である。

 

新天地で活動を始めた新興国。優秀な人材が多いが、兵の練度は高くない。主力の将はだいたい聆の友達。

 

美羽様を追い出してやり直しを図る古豪。兵の気力が高い。しかし、政治は旧式で、孫家の血と呉の土地の民との繋がりに依存しているため、ぶっちゃけ三国平定の器じゃないよね。しかし、呉自体の防御力は非常に高い。

 

西涼

馬糞の臭いがする。今潰しに行きます。

 

周辺国

今のところ出番無し。三国が落ち着いてからは一刀がおちんぽ外交する予定。

 

 

もし、一刀・聆が他勢力だったら

 

一刀魏、聆蜀

定軍山イベントを防ぐ。赤壁で黄蓋を助けるために凄くがんばる。

 

一刀魏、聆呉

黄蓋「苦肉の策を実行しようとしたらいつの間にか聆が先に出ていっていたのじゃ……」

 

一刀呉、聆魏

陳登をめっちゃ監視する。全力で華佗を探して呉に差し向ける。孫策生存が確定次第蜀に向かい、腐りきった性根を叩き直す。

 

一刀呉、聆呉

墓参りに必ず警備をつける。全力で華佗を探す。孫策生存が確定次第蜀に向かい、腐りきった性根を叩き直す。

 

一刀呉、聆蜀

蜀ルートの一刀や、魏ルートの華琳の代わりに桃香の教育をする。華佗を探して呉に差し向ける。雪蓮救済は無理かもしれない。

 

一刀蜀、聆魏

何もしない。

 

一刀蜀、聆呉

何もしない。

 

一刀蜀、聆蜀

何もしない。




いよいよ三国志も佳境。
一回死ぬ目に遭った後は曹魏TUEEEEEEEE!!!!!!!の始まりです。


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第八章拠点フェイズ :【曹操伝】ほわぁぁっほぉっほわぁ!(こっちサイド)上

カラオケの楽しみ方がイマイチよく分かりません。
逆にそっとしといてくれたほうが良いのにね。


 「ふふふ……集まってる集まってる……♪」

「おぉー!噂には聞いてたけどすっげぇなー!!」

 

張三姉妹のライブ舞台袖。客席側に開けられた小窓から、地和と猪々子が外の様子を窺っている。

 

「ええ。それに、今回は特に。予算も労力も注ぎ込んだから」

「そーそー。人和ちゃん頑張ってたもんねー」

「そうやって笑って他人任せにできる辺りが天和らしいわな」

「えへへ〜。照れちゃうなー」

「褒めとらんわ」

 

悪びれもせず笑う頬を指先でムニムニとつつく。……ちょっとお肉つき過ぎじゃないか?いや、好きな人はこれがいいのかも……。

 

「何やこのむっちりした躰は〜。人前に立つ自覚有るんか〜?」

「うみゃぁ〜」

「ちょっと姉さんいつまで遊んでるつもり!?」

「えー?聆がつつくからー」

「ふとましいダメ姉におしおきしとっただけやしー」

「はぁ。もっとシャキッとしてよね!この『ぎゃらくてぃか☆大☆歌謡天国』にちぃ達の今後がかかってるんだから!」

「それに華琳様も招待してる……。失敗は許されないわ」

「大丈夫だよー。わたしたちはいつも通り歌えば、それで解決なんだから」

「そーやな。で、いつも通り歌えるようにお前らを守るんが、私らの役目」

「と、カッコつけるものの怪我で戦えない聆なのであった」

「うっわ失礼な!もう十分その辺の賊とか楽勝なくらい回復したし!それに猪々子っていう心強い助っ人も連れてきとるからな」

 

会場警備を凪、真桜、沙和、助っ人霞が担当し、

三姉妹の直接の護衛を私と猪々子が担う。

 

「ま、変に強いのが来たら頼むで猪々子」

「…………」

 

無反応か。……というか、妙に真面目な顔して……?

 

「どないしたん?」

「ぎゃらくてぃかって、どう言う意味?」

「あぁ……」

「意味なんてないよー」

「一刀に何か凄そうな天の言葉をきいたのよ」

「へぇー……。ぎゃらくてぃか……ぎゃらくてぃか」

 

お前もか……。春蘭も、華琳に招待状が届いた頃から何かとぎゃらくてぃかぎゃらくてぃか言っている。ギャラクティカには何かバカに作用するものがあるのだろうか。そうだとしたらそろそろ魏にギャラクティカブームが来るな。

 

「……そろそろ会長の前座ね」

 

小窓を影が横切る。背の高い男が一人、幕が降りたままのステージに立った。

 

「もうそんな時間か……お、華琳さんも来とるわ」

 

ウキウキとはしゃぐ季衣流琉に、不安げな華琳と桂花、警戒心ビンビンな夏侯姉妹。そして普段通りの一刀が、舞台正面の最高の席についた。通常の席の何倍もの値が付き、転売目的で買い占めを行った商人が謎の死を遂げたりしたこともある特等席。通称「天汗」観客席中央の天和のファンエリアに位置し、「姉妹の汗がかかるかもしれない」ということからついた名だ。

 

「会長って?なんだ?」

 

静かに一礼して、正面に向き直った男を、猪々子は不思議そうに眺める。

 

「黄巾党……ちぃ達の応援団の団長よ!」

「ちなみに私の隊の二課長の弟」

「何すんの?」

「見れば分か――

「WHAAAAAAAAAAAAA!!!」

「「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

「!?!!?」

 ――らんか……」

「WHA!FOOOOO、FOAAAAAAAAAA!!」

「「ほわっ!ほぉぉぉぉぉっ、ほぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

「…………何アレ……戦争?早速あたいの出番?」

「いや、応援の練習や」

「それに、次はちぃの出番♪」

「ちぃ"達"の、でしょ」

「とにかく!準備はいい!?」

「万全」

「まっかせっなさ〜い♪」

「あんたたちも舞台袖でしっかりと聴いててよね!」

「おー。一言一句どころか呼吸音も聞き漏らさんわ」

「あたいも楽しみにしてるぜ!」

 

私達の言葉に、一瞬、満足げな笑みを浮かべて、すぐ舞台へと向き直った。

 

「いくわよ!」

「うん!」

「いきましょう」

 

互いの心を伝え合うように手を繋ぎ、姉妹はステージへと飛び出したのであった。




立ち絵の沙和の身長が天和より大きくて衝撃を受けました。


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第八章拠点フェイズ :【曹操伝】ほわぁぁっほぉっほわぁ!(こっちサ イド)中

ブランケットをもらいました。

関係ないですが、腰が痛いです。


 「はーいっ!みんな、元気ーーーっ!?みんなの歌姫、地和ちゃんだよーーーーーーーーっ!」

「「ほわあああああああああああああああ(中略)ああああああああああああああっ!」」

 

真っ先にステージに躍り出た地和の声に、向かって右のエリアが激しく咆哮する。

 

「ぜんぜん、きこえないよーーっ!元気ーっ!?」

「「ほわあああああああああああああああ(中略)ああああああああああああああっ!」」

 

天和に応えるのは、華琳一行を除く中央の客たち。

 

「こっちは元気かなーーーっ!?」

「「ほわあああああああああああああああ(中略)ああああああああああああああっ!」」

 

最後に現れた人和の声には、向かって左側の男たちが叫び返す。

 

「みんなーっ!今日は、『ぎゃらくてぃか☆大☆歌謡天国』に集まってくれて、ありがとーーーーっ!!」

「みんながもーっと元気になれるように、わたしたちも精一杯歌うからねーーっ!!」

「みんなーーっ!盛り上がっていってねーーーっ!!」

「「「ほわぁぁぁああぁぁぁぁAaaaaaほぉぉぉぉおおおぉおぉ(中略)おぉぉぉFOOOOOOああああああああああっっっっ!!!」」」

 

大地を揺るがすような大音量が響き渡る。あ、桂花が倒れた。

 

「じゃあ一曲目、いっくよーーーー!」

「「ほわぁぁぁぁぁぁあっ!ほぉぉぉぉ、ほわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ほわぁぁぁぉあぁぁぁぁぁっっ!」」

 

「うひゃー!こりゃ兵が強いわけだ!」

 

猪々子が観客席を見て目を丸くする。

 

「この、士気の高い野朗共をきっちり訓練して、華琳さんの威厳で完璧に操るって寸法や」

「でも、これだけ客が叫んでるのに、よく声が聞こえるなぁ」

「声に氣ぃ乗せとるっぽいな。お、華琳さんが隊長の手ぇ握った!」

 

華琳の顔は、周りのファンの熱気にアテられたらしく、少し青褪めている。そりゃ初見じゃ引くだろう。増してあの少女愛好の華琳だ。

 

「うわー、カズ兄と大将、良い雰囲気じゃんか」

「歌聴けや、って感じやけどな。ってか、その呼び方に落ち着いたん?」

「アニキだとチャーハン兄貴のアニキと被っちまうからな」

 

チャーハン兄貴洛陽店に連れて行ったところ、案の定猪々子も気に入った。それまでは一刀のことを「アニキ」と呼んでいた。ちなみに、私は「レイ姉」で、霞が「アネキ」である。これも、初めは私を「アネキ」と呼んでいたのだが、真桜と沙和が霞のことを姉としているのとこんがらがったからだ。

 

「お、なんか言い合ってる」

「掛け声やるかやらんかで揉めとるんとちゃう?」

「やったらいいのになー。あたいも次の曲からやろっと!」

「舞台袖なんやから加減せぇよ?」

「わかってるって!」

 

バカはいつもそう言う。

 

「みんなーっ!それじゃ、次の曲、聞きたいー?」

「ききたーーーーーーーーーーーーーーい!」

「じゃ、歌っちゃうよーーーー!」

「「ほわぁぁぁあぁあっっ!ほわ、ほわぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁっっ!」」

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!ほぉぉぉぉぉぉぉっ!ほわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

隣から爆音。

 

「ちょ、加減せぇ言うたやろバカタレ!」

「えー、地和も良いって言ってるしいいじゃんかー」

「地和?」

 

見るとステージの上の地和が一瞬軽くウィンクした。

 

「な?」

「地和も偶に無茶するから参考にならんけどな……」

「レイ姉もやったらいいじゃんかー」

「警護の自分らが騒いどったら何か有った時に気づけんかもしれんやろ」

「ちぇー。カズ兄もやってんのに」

「はぁ。あっちは観客やろ……」

 

そちらを見遣ると、会長もかくや、という迫真の雄叫びを上げる一刀の横で華琳が唖然としていた。……あれ?たしか原作にこんなイベント有ったな。……あ、しっちゃかめっちゃかになるやつだこれ。

 

「おー、大将もやりはじめた!」

 

一刀に促され、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに何か言っている。こういうところを見ると、カリスマチートの華琳も年頃の少女だな、と微笑ましい気分になる。まあ、残念ながら応援としては失格だが。

それに今は、これから起こるであろう乱闘をどう収めるかが気がかりだ。原作ではある程度騒ぎが大きくなったところで場面が跳んでいる。うーん、とりあえず三姉妹に危険が及ばないように気を付けつつ他人任せにするか……。

 

「ほらーっ。そこ、盛り上がってないねー!もっと気合入れていこうよーっ!」

 

騒動の火種。地和が華琳たちを指差して発破をかけた。

 

「いっくよーーー!ちゃんと答えてねー!そこのみんな、地和たちの歌、楽しんでるーーーーーっ?」

「「ほわぁあぁぁぁぁぁぁっ、ほっ、ほぉぉぉぉぉぉぉっ、ほわぁぁあああぁあああぁぁあぁぁぁあぁぁっ!」」

 

聞かれてもいない奴らが元気良く返事をするなか、当の華琳達はといえば、一刀、季衣、流琉の三人しか叫ばない。もちろんそれで地和が満足するワケがない。

 

「ほらほらちっちゃーい!もっと盛り上がらないと、次の曲が歌えないよぅっ!」

「ほわぁぁあぁぁあっっ!ほわ、ほぉおぉぉぉぉぉぉっ、ほわぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

未だもじもじとしている夏侯姉妹を他所に、一刀渾身の咆哮。

 

「一人じゃ全然たりないよーっ!」

 

そして撃沈。

季衣流琉も援護シャウトするが、ぶっちゃけ子供二人の声じゃあ足しにならない。

 

「んー、なんか妙な雰囲気になってきたなー」

 

猪々子の言う通り、周りの席の男達から殺気と怨念がない混ぜになったような空気が発せられる。そりゃあファンが血涙流して求める特等席に、大して盛り上がってない奴が居たらたまったもんじゃないだろう。

 

「でもまだ斬山刀構えるには早いで?」

「えー」

「ホンマ戦闘狂なんやから……」

 

負の念が殺到し、華琳のカリスマがブレイクしかけたその時。

 

「貴様らぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁっっ!!」

 

春蘭が暴発した。初めからその声出してればいいのに。

 

「烏合の集まりだと思って堪えていればいい気になりおって!下がれ下がれ下郎ども!」

 

……ファンのみんなは悪くないよなこれ。

 

「このお方をどなたと心得る!」

「畏れ多くも先の副将軍………」

「……副将軍って誰よ」

「…………空気読めよ、北郷」

「お前は少し黙っていろ」

「………うう、すまん」

 

調子良くお約束ネタに乗っかった一刀が封殺された。ところどころ電波受信して、変なトコで素に戻るのは本当に質が悪いな。

 

「このお方をどなたと心得る!畏れ多くも魏国国主、曹孟徳様にあらせられるぞ!」

「頭が高い!控えおろう!」

 

……先に決め台詞をやってしまうから後で収集つかなくなるんだ。後で占める台詞は……「成敗!」とか?いや、それだと三姉妹が死んでしまうな。

 

「ええい、皆の者、出合えっ、出合えーーーい!」

「「ほわああああああああ(中略)あああああああっ!」」

「地和のバカーーーーーーーーっ!」

 

一刀の叫びも虚しく、元観客(現暴徒)たちが押し寄せる。

 

「ふん。この曹孟徳に楯突こうなど、何という身の程知らず。春蘭、秋蘭。構わないから、やーーっておしまいっ!」

「はっ!」

「はっ!」

「アラホラ……」

「……何をふざけているの?一刀」

「大丈夫か?北郷」

「叫びすぎて頭がおかしくなったか?」

「……何でもない」

 

またも撃沈。

 

「……レイ姉、さっきのは『アラホラサッサー!』って言うとこだよなー?」

「うん?そうちゃう?」

 

……そういえば猪々子はアラホラ受信してたっけ。顔良とそれ絡みの会話が有ったような……。

 

「「ほわぁぉぁぁぁぁあっっ!ほぉぉぉぉぉぉぉっ、ほわぁぁぁぁぁっ!」」

 

……と、そろそろ余計なこと考えてる場合でもなくなってきたな。

 

「レイ姉」

「おー。武器用意していつでも飛び出せるトコに移動するか」

 

四方向に分かれてそれぞれに元観客(現暴徒)を叩きのめす将軍たちを尻目に、袖を出てセットの後ろにしゃがみ込む。

 

「お前ら何やってんねーーーーーーーん!興行なら興行らしゅう、野太い声援でほわほわ言うだけにしとかんかーーーーい!」

 

客席後方から新たな一団。よっしゃ霞姉キタ!これで勝つる!!

続いて凪、真桜、沙和。うーん、これだけ居れば、意外と造作無く鎮圧できるか……?やってきた四人に一刀が指示を出しているらしい。

 

「とりあえず、華琳と桂花を頼む。後はまあ……」

 

どこか遠い目で辺りを見回す一刀。

 

「……みんなが何とかしてくれるだろ」

 

あ、投げた。




斗詩ネタを使えない猪々子に妹属性追加。
「レイ姉」より「聆ねぇ」の方がいいですかね?
それとも「れい姉」? 「れぃねぇ」??
キブンイレブン(激寒)で変えるかもしれません。


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第八章拠点フェイズ : 聆(3X)の雑談

文ちゃんの爆破オチの威力(規約違反)で一話ぶっ飛びました。
せっかくなのでそのままいきます。

ちなみにエクストリーム謝罪はまた別のことです。
ちょっとだけ人生終了のお知らせが聞こえた気がしましたが、
運良く全て上手く行きました。
全く年末にヒヤヒヤさせてくれるぜ!


 「……おかしい」

 

穏やかな日の光が包む昼下がり。まるで何かを確信したように猪々子が呟いた。

 

「おー。やっと自分の頭の状態を認識したんか」

「ふん。華琳の短気に比べれば大したことないからの。気にせずとも良いのじゃ」

「なにィ!?華琳様が短気だと!?客将以下の分際で貴様ァ!」

 

机を叩いて勢い良く立ち上がる。今にも斬りかからんという勢いだ。

 

「落ち着け夏侯惇。お前のそういう態度が廻り廻って曹操の評価につながるのだぞ」

「ぐむ……そう言う華雄も猪ではないか」

「よし夏侯惇 表へ出ろ」

 

ぺきパキと指の骨を鳴らしてから、親指でクイッと外を指す。無駄にサマになっているな。

 

「五十歩百歩、目糞鼻糞ですね〜」

 

蜂蜜をこぼしてベタベタになった美羽の口元を拭きながら、七乃がさも面倒臭そうに呟く。

 

「「変態のくせに偉そうにするな!!」」

「変態でいいですから暴れないでくださいね〜」

「「くそうっ!」」

「ハッハッハッハ」

 

春蘭、かゆうま、猪々子、美羽、七乃、私という、華琳や桂花が見たら卒倒しそうなメンバー。場所はいつぞやの四阿。六人とも、とくにすることもないので茶会を開いているのだ。……成り行きで。

 

「そーゆーことじゃなくってさぁ……」

「なんや?漠然と世界そのもの(笑)について疑問持ってもた系?猪々子も思春期かー……。お姉ちゃん嬉しいようなさみしいような……」

「あー、分かりますよその気持ち!私もお嬢様が一人で厠に行けるようになったときそんな気持ち……いえ、悲しさが勝りましたね。あ、でも偶に……」

「七乃!言うでない!!」

 

蜂蜜水片手に丸ボーロ(天の知識)を食べてご機嫌だった美羽が急に慌てだす。

 

「え〜何を行ったらダメなのか分かりませんよ〜。なんだろ〜。……あ、私が討伐に出てる時、夜だとやっぱり一人で厠に行けなくてお部屋でしちゃったことですか?」

「ぎゃーーー!!」

「それとも夜中に裏庭から聞こえた声に驚いて緩んじゃったこととか?」

「わーーーーー!!!」

「悪戯がバレて春蘭さんに追い回された時も……」

「言うでないーー!!とにかく口を閉じるのじゃ!!!」

 

……二個目の私じゃないか。

 

「えーー……だってお嬢様が〜何を言っちゃいけないのか教えてくれないんですもん。言ってくれなきゃ分からないですよー」

「じゃ、じゃあ、寝る前に聆の蜂蜜酒をこっそり全部飲んでおねしょしたことと、遊んでおって厠に行くのを先延ばしにし過ぎて間に合わなくなってしもうたことは言うでないぞ!」

「………」

「………」

 

おっと今何かヤバイの有ったぞ?

 

「茶を飲んでいる時にそんな話をするな、とか、色々言いたいことは有るが……。それよりも、これ……病気なんじゃないのか?」

「もう……袁術はオムツを着けるべきだ」

「あら^〜華なんとかさんいい考えですね〜」

「か・ゆ・う、だ!!」

「今度お出かけしたら真っ先に買い揃えなくっちゃ♪」

「わ、妾は絶対に着けぬぞ!!」

「お嬢様のお股が緩いのがいけないんですよー」

「ああ。そこかしこに出されては敵わん」

「ほら……お嬢様……、ね?」

「やーじゃ〜〜!つ〜け〜ぬ〜の〜じゃ〜〜〜!!」

「まぁ待てお前ら」

「聆!!こ奴らを止めてくれるのかや?」

 

何を潤んだ瞳で見つめてやがるんだこのバカは……くそっ。かわいいじゃないか!

 

「いや、オムツとかそんなんよりも気になることがあってなぁ」

 

でもそれとこれとは話が別である。

 

「どうした嵬媼」

「いや、美羽様 私の酒飲んだらしいやん?」

「………」

「………」

 

美羽の左手から食べかけの丸ボーロが落ちた。

 

「死んだな」

「ぎゃらくてぃかヤバいな」

「ど、どうしてバレたのじゃ!?」

「も〜。お嬢様が自分で言っちゃったんですよ〜。そんなことも忘れちゃったんですか?」

「…………ガタガタブルブルガタガタブルブル」

「あーんもう☆そんなに怯えちゃってぇ〜」

「余裕こいとるけど、七乃さんも美羽様止んかったってことで同罪やと思っとるからな?」

「あばばばばばばば」

「あーあー。結構楽しみにしとったのになぁ。アレ。穏やかな心を持ちながら激しい怒りに目覚めてまいそうやなぁ」

「すいません許してください!何でもしますから!」

「ん?」

「ん?」

「ん?」

「「「今何でもするって言ったよな?」」」

「ぴゃっ!?」

「何が始まるんです?」

「っダァーーーーっ!!もう!なんでみんなそんなに能天気なんだよー!」

 

さっきまで妙に大人しかった奴が急に声を上げた。

 

「うわっ どないしたん猪々子?」

「なんであたいが謹慎なんだよー!」

「安心しろ。ここに居る全員が謹慎中だ」

 

それのどこに安心する要素が有るのか。

 

「だーかーらー!それもひっくるめておかしい!」

「でもなぁ。猪々子は主犯やし、私は入れ知恵したし、春蘭さんはキッカケやしなぁ。三姉妹は興行の関係で謹慎は無しやけど」

 

私達は先日、「ぎゃらくてぃか☆大☆歌謡天国」にて勃発した乱闘を収めたのだが、そのやり方に問題が有り、謹慎を受けているのだった。

 

「えー、でも後腐れ無く騒動を収めるにはアレしかなかったじゃんか」

「騒動収める代わりに時空に罅入れたらアカンやろ。何か変な目玉みたいなん出てってヤバかったんやから……」

「ああ。あの場にいた将全員の氣をぶつけてなんとか押し戻したからな」

 

回想でもしているのか、春蘭は目を瞑っている。

 

「『氣ってすごい』改めてそう思ったわ」

「ちぇー。でも斬山刀没収は酷いっしょ……」

 

武将の場合、謹慎中は武器が取り上げられる。猪々子は斬山刀、春蘭は七星餓狼、かゆうまは金剛爆斧、私は作り直したばかりの黒くて長くてぶっといのを、それぞれ没収されてしまった。

 

「謹慎解けたら返してもらえるやん。あと二三日やって」

「あーあーー。その二三日が長いんだよなぁ……。あ、そう言えば華雄とお嬢と七乃っちは何で?」

 

……七乃の呼び方はそこに落ち着いたのか……。

 

「荀彧のやつが賊の討伐のときに突出し過ぎだとかなんとかイチャモンをつけてくるのでな。しばらく無視していたら昨日曹操に呼び出された」

「そらアカンわ」

「何故だ!賊如きに策など使うべきではないだろう?」

 

こういう事をさらっと言ってしまうからバカと言われるんだ。

 

「はぁ……。かゆうまの気分のせいで余計な死人が出たらな、その家族に申し訳ないやろ?策を適切に使えば被害が減る。何も桂花はかゆうまに意地悪しよ思て文句言っとんとちゃうんやから。指示はちゃんと聞かな」

「ぐ……そ うだな………」

「で?美羽様はどなしたん?」

「切り替え早いな!?」

「お嬢様ったら秋蘭さんの前髪、切っちゃったんですよ〜」

「前が見にくそうじゃったからの」

「そらアカンわ。アカン奴ばっかりやな」

「そりゃあ謹慎中の奴らばかりだからな」

「あ、秋蘭さんの前髪切られちゃって、春蘭さん的にはどうなの?やっぱ激おこ許さん蔵?」

「いや……『おお!秋蘭、おそろいだな!』と言ったら『姉者のどさんぴん!』と罵られてしまった。……そんなにこの髪型は嫌なものだろうか」

「さあ?人それぞれちゃうのん?」

「あたいはそれ面白いと思うぜ!」

「おお!猪々子も試してみるか?」

「他人がやってる分には面白いと思うぜ!」

「よし猪々子 表へ出ろ」

「下賤な者共はすぐに表へ出たがるのぉ」

「きっと野生に還りたいんですよ〜」

「「よし張勲(七乃)表へ出ろ」」

「嫌で〜す。私は文明人なのでー」

「「くそうっ!」」

 

……こいつ等と話していると親戚のガキを預かっているような気分になるな。

 

「よし七乃。袁家家臣の実力というものを見せつけてやるのじゃ!」

「えー、無理ですよぅ!!……あ、私って文官だから剣没収されてないんだった」

 

……それも又 良し、かな。




ちょっと文体がバグっていますが気にしません。
きっとこれもいい思い出になるはずです。

最近何か言うたびに死亡フラグが立つ気がするのですが大丈夫ですかね?


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第八章拠点フェイズ :【鑑惺伝】ヤマオチイミナシイベント

年末忙し過ぎ笑えない。
実家の居心地が悪すぎます。親と馬が合わないので。
ガキ共だけが癒しです。


 「どうもありがとうございました」

「いえいえ。困っている人を助けるのも大切な仕事ですから」

「みつかいさま、ありがとー。おにさんも、かたぐるまたのしかったー!」

 

聆との警邏の途中。道に迷っていた母娘を案内した。なんでも、戦争で夫を亡くし、働き口を求めて最近洛陽に来たらしい。

 

「お兄さんやのぉてお姉さんやでー?」

「おにのおねぇさん!」

「あっ……(察し)」

「……す、すいません!こら、そんな失礼なこと言っちゃダメでしょ」

「まぁえぇがなえぇがな」

 

聆は気にも止めずに女の子の頭を撫でてにっこりと笑う。

 

「ええがなー!」

 

女の子もにぱっと笑いかえした。

 

「ふふっ……じゃあ、俺たちはこの辺で……」

「はい。ご親切に ありがとうございました」

「また困ったことがあったら気軽に声をかけてくださいね」

「またねー!」

「うぃー」

 

ブンブンと手を振る女の子に、ひらひらと手を振りかえして、警邏の順路に戻った。

 

 

 「旦那さん……気の毒やなぁ」

「はあ……。俺達のせい、かな」

「おん?なんで?」

「いや……戦での作戦とか、そもそも戦争するしないを決めるのも俺達だろ?じゃあ、やっぱり、戦争での生き死にって、……」

 

俺達、国の上部の支持で何百何千何万もの人が動く。それはつまり、それだけの数の命を背負うというわけで……。

 

「まあ、確かに私らの責任はデカいけど。罪悪感を持つ必要は無いんちゃう?最善、尽くしとんやろ?」

「まあな……」

「んだら、反省はしても自責は要らんわ。してもしゃーないし」

「そういうもんなのかな……」

 

そう簡単に割り切れないよなぁ……。

 

「そんな気になるんやったら囲ってまえや」

「はぇっ!?」

「結構……いや、かなり美人やったし」

「いやいや!急に何言ってんだ!」

 

確かに優しそうな穏やかな笑顔が印象的なヒトだったけど……。うわ、俺、無意識のうちに結構見てるな……。

 

「うーん、直で側女にしたら抵抗感有るやろから、まず女官で雇って、それとなく隊長の専属みたいにしていったらそのうち惚れとるやろ。さすが変態長」

「いや、頭の中で勝手に計画進めて勝手に変態呼ばわりするなよ」

「……これガチで良え案ちゃうのん?子連れの女の雇い先なんかそうそう無いし。丁寧で真面目そうやったから十分働けるやろ。娘さんも可愛いしな。よし決定。あの人は隊長の専属女官になります!おい」

「はっ」

「うわ!?」

 

どっから出てきた!?

 

「様子窺って適当な頃合いに女官に取り立てぇ」

「御意に」

「ちょ、勝手に決めるなよ」

「いや、何の問題が有るん?まあ想像せぇや。暖かな陽気に微睡んどったら『一刀様、一刀様』と、あのヒトの声がするワケや」

 

……声真似うまっ!

 

「『もう少し寝かせてくれよ……』『いけませんよ。お仕事に遅れてしまいます……』」

 

……ちょっといいかも。

 

「『あと五分……五分だけだから……』『もう……しようのないひとですね。でも、もう起きていただかないと』『うん………あと十分したら………』『はぁ……。こうなったら仕方ありませんねぇ。………それっ!』『うわっ!?』『ふふん。もうお布団はありませんよ。観念して起きて……く………だ…………っ!』『ん?どうしたんだ?……って、あ……』『〜〜〜っ!!』『いや、これは生理現象で!決してそういうアレじゃ………!』」

「ちょっと待て!」

「ん?なんや?ほぼ完璧な……あ、子持ちの未亡人にしては反応が初心過ぎるか。さすが変態長!細かいトコにもよぉ気付く!」

「そーゆうことじゃなくて!」

「何?嫌なん?」

「嫌じゃないです!!って違ーーう!もうこの話は終わり!警邏に戻るぞ!!」

「いやー、露骨に動揺するから弄り甲斐あるわー」

「勘弁してくれ……」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 警邏もほとんど終了した。今回も特に大きな事件は起こらず、いつも通り平和な洛陽だったんだけど……。

 

「うーん、何と言うか………」

「……なんだよ」

「何か変な薬品でも散布しとん?ってくらいに女性に人気やな。あと一部の男性からも。さっすが変態長」

「そう言う聆は店主のおじさま方に人気みたいだな」

 

本屋を覗けば本をプレゼントされ、八百屋の前を通れば珍しい果物を特別に試食させてもらい……。

 

「待って。お姉様方からの人気もあるで。店主やったら」

「値段設定とかも相談されてたろ」

「適正価格での取引の推進に努めとりますさかい安心しておくんなはれや」

「なんだその微妙に違和感の有る言葉遣い……」

「まあまあ。それよりもう警邏も終わったし、お昼行かん?」

「そんな露骨な話題転換に乗ると思う?」

くぎゅるるる………

「乗るらしいけど?」

 

聆が勝ち誇ったようににまりと笑う。くそう。俺の腹の虫ってばいつもタイミングバッチリなんだから!

 

「はいはい、わかったよ……。あ、真桜と沙和に奢る約束してたんだった!」

「無謀な約束やなぁ」

「流れでいつの間にか約束させられてたんだよ。うーん、あいつらどこにいるんだろ」

「向こうもそろそろ警邏終わらせて警備隊の宿舎で待っとるんちゃう?」

「自分達で飯行ってそうだけどな」

 

むしろそうしておいてくれ。

 

「いや。奢ってもらえるって言うんやったら絶対に待っとるな。ついでに凪霞も追加ちゃう?」

「……ありそうで嫌だなぁそれ。財布がまたすっからかんか……」

 

みんな可愛いんだけど……容赦無いんだよな……。いや、これでみんなの笑顔が見れるんなら安いものか……?

 

「んだら半分くらいは出したるわ。最近羽振り良えんや」

「え!出してくれるのか!?」

 

鑑惺先輩!

 

「商売がおかげさまで上手く行っとるからな」

「ああ、養蜂だっけ?上手く行ったんだな!」

「せやでー。やから一回奢るぐらい余裕余裕」

「感謝っ....!圧倒的感謝っ....!」

 

そして俺達は軽い足取りで宿舎へと向かうのだった。

た ま た ま 遊びに来ていたバカたちに集り潰されるとも知らずに。




気がついたら予定していた話と全然違ってました。
それも又一興。
登場した母娘は黄忠と璃々ではないです。
念のため。


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第九章一節その一

正月なので第九です。
いやぁ、間に合って良かった!
初日の出を待ちながら書きました。


 最近華琳さんのようすがちょっとおかしいんだが。

というのも、どうも積極的に主城の守りを緩くしている……っていうか、ガバガバにしている。秋蘭、美羽、七乃、凪を袁家に縁のある豪族連中との折衝に出し、かゆうま、猪々子、沙和は北方の騎馬民族の牽制。季衣流琉と私はそれぞれ盗賊討伐にあっちへこっちへ。春蘭も南方……呉との国境辺りで妙な動きが有るとかなんとかで城を空けている。今城に居るのは……華琳、一刀、桂花、真桜と………えっと……禀、風、霞か。

 どう見ても誘ってます本当にありがとうございました。

まず第一に、これを全部同時期にやるのはおかしい。

メンバーも不安だらけである。

袁家関連の人選はまぁ分かる。戦力と知力と家名と抑えが効いたバランスの良いメンバーだ。

しかし、北方メンバーは明らかにおかしい。猪×2に、あまり接点の無い沙和。バランスが糞で、人間関係も沙和の孤立が明らかな糞塗れ隊だ。せめて沙和と私がチェンジだろう。

そして賊討伐に将軍格三人とか、過剰にも程が有る。よっぽど暇ならべつに構わないが、その辺の賊なら副将を遣いに出しても十二分に殲滅できるだろう。

南方にしてもそうだ。「何か妙な動きが有る」→「行け春蘭」は軽率なはずだ。もっと、敵の兵数はいくらかとか、南方のどの辺なのか、何が狙いかとか、具体的なものをある程度探ってからでないと、つまらない策に嵌められかねない。

 これでワザと空けているんじゃなかったら、魏の軍師ーズの頭の中には脳味噌じゃなくて甜麺醤が詰まっているに違いない。ワザと空けるにしても空けすぎだが。

そして確信した。今は嘗めプし過ぎて死にかけるイベントが起きる時期だろうと。もしそうなら……

 

「昨日、張遼隊が郭嘉様を伴い、西方の豪族の牽制に向かったとの情報が入ってまいりました」

 

やっぱりな……。これで城に残るのは華琳、一刀、桂花、真桜、風だけか……。前線で戦えるのは華琳真桜の二人。しかも真桜はそんなに強くないときた。

 

「KYOOOOOOOOOOOONG!!!!!」

「「KYOOOOOOOOOOOOONG!!!!!」」

「「「KYOOOOOOOOOOOOONG!!!!!」」」

ザッッ

 

私の声に反応して全軍が歩みを止める。

 

「一から六課はこの場で待機!主城の守りが薄くなっとる。有事にはいつでも支援できるように装備と心の準備しとけ。各方面の情報収集も強化せぇ。七課以降はこのまま賊の討伐に向かえ!あくまでも慎重に。被害が九割超えそうなとこには行かんで良え。……七課以降進軍再開!!」

「「FOOOOOOOOO!!!」」

「「「FOOOOOOOOO!!!」」」

ザッザッッザッザッッ

 

うーん、一応、蜀が攻めてこなかった場合の保険でいくらか討伐に向かわせたが、待機組に八課辺りまで入れといた方が良かったか……?

原作より魏の将が多い分、一隊当りの兵は少なくなる。つまり守りの兵が原作より少ないということだ。かなりギリギリの戦いだったはずだから、ほっとくともしかしたら死ぬかもしれない。誇りにかけてとかなんとかで、兵数に関係なく野戦を挑むイベントだったはずだ。

つまり、結構気合入れて守らなければならない。援軍が来るまで持ち堪えられればいいのだが……。

情報を掴み次第他の隊にも伝令を出すか……、いや、それはやり過ぎだろうか……楽勝してもダメだからな……。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 「―――そう。曹操さんは近くの出城に移ったんだね」

「はい。そちらに手持ちの戦力を集中させているようです」

 

その知らせを聞いて、劉備はほっと胸をなでおろす。

 

「良かった……さすが曹操さん。これで街に住んでる人は籠城戦に巻き込まれずに済むね」

 

この少女にとってすれば、敵国の民も自国の民と変わらず大切なものだった。この度のいくさを、「攻城戦」ではなく「籠城戦」と表現したのにも、あるいはそれが現れているのかもしれない。

 

「あの曹操がそこまで考えているのかどうか……。単に少ない戦力を有効に使えるよう、場所を変えただけではないでしょうか?」

 

関羽は言葉の至るところにトゲを含ませてぼやく。彼女にしては珍しいほど後ろ向きな態度だ。

 

「もぅ〜。愛紗ちゃん、曹操さんのこと悪く言いすぎだよー」

「そうでしょうか?」

 

関羽としてはそうは思わない。初めてアレ(……)と出会ったときの、値踏みするような――それも性的な意味を多分に含んだ――目つきが頭から離れないせいだ。実際、見栄えのいい女を女官に取り立てては寝所に呼び……を繰り返しているとも聞く。

 

「けど、朱里ちゃん。本当に曹操さんと戦わなくちゃいけないの……?」

「曹操さんはこちらを攻めると既に予告していますから。現状、曹操さんに万全の状態で攻め込まれては、私たちの戦力では一分の勝ち目もありません」

「それに、向こうから隙を見せたら噛みついてこいと言われているのです」

 

諸葛亮の説明に、趙雲も加わる。張飛ならまだしも、普段は冷静な武将二人がこうも好戦的なのはもう一つの理由が有った。曹操配下にして、乱世の行く末に、自分たちと同じく新しい時代を望む盟友、聆……鑑惺のことだ。

その噂を耳にしたのは、蜀をたててすぐの時期だった。「鑑惺が、劉備との関係を疑われて、曹操によって過酷な拷問を受けた」と。聞けば、以前から逆さ吊りや、絶望的な戦場への派遣などの、虐待とも言えることが度々行われているという。他にも、望まぬ一騎討ちや、謹慎など、数え上げればキリがない。もちろん、噂でのことであり、デマや誇張が殆どなのは分かっているが、実際確認が取れたものも幾つも有った。そして、その殆どに共通の動機が挙げられている。

鑑惺の求心力への嫉妬と恐れ。

それはもちろん、蜀の将との関わりも含まれるのだろう。蜀の武将たちは、自分たちの行いによって彼女の立場が危うくなったことへの後悔と共に、卑猥で鬼畜で背も胸も器も小さい暗君から助け出さねばならないという使命感を持つに至った。

 

「その相手がわざわざ首筋を見せてくれているのですから、ここは誘いに乗ってやるべきかと」

「それって罠じゃないのかー?」

 

いつもとは逆に、情報に無頓着な張飛の方が消極的だったりする。

 

「少なくとも、主力の将が城を空けているのは間違いない。聆がこちらの動きに気付いて引き返しているようだが……。それでも相手の戦力はこちらの二割にも満たない」

「ふむ……さすが聆殿は早い……。ただ、他の将は、伝令が出たとしても、今からだと到着するのは何日も後になるでしょうな」

「虎の穴に入らなければ虎の子は手に入りません。けれど、そこを乗り越える事が出来れば、得られるものはとても大きいはずです」

「うん……」

 

戦いに幾何かの躊躇いを残しつつも、劉備は頷いた。

 

「呂布、お主も良いな?」

「…………?」

 

呂布は答えない。否定的な考えが有るからとか、含みのある性格だからとかではない。ぼーっとしていたからだ。

 

「劉備殿!あなたが天下を取った暁には、恋殿との約束も守っていただけるのでしょうな!」

 

沈黙する呂布に代わり、陳宮がやかましく騒ぐ。足して割るべき。

 

「うん。戦で飼い主の居なくなった動物の国を作るんだよね?でも……森に近い城を一つ欲しいって……本当にそれだけでいいの?」

「…………あと、ごはん」

「そのくらいの食料を買うお金なら、呂布さんにお支払いする給金でどうとでもなるはずですよ」

「…………」

「ならばねね達もこの戦に力を貸すのです!」

 

呂布は納得してコクンと頷いた。それに陳宮もつづく。

しかし、諸葛亮は知らなかったのだ。

呂布本人の食費が国家予算を傾けかねないほど莫大であることを。




何か怖いかって、情報操作が怖いです。
情報操作が怖いです。
大切なことなので二度言いました。

頑張れ負けるな華琳さん。
修造動画でも見て元気出してください。


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第九章一節その二

実家凄く落ち着かないです。
もやしが美味しいっていう話をしたら叔母さんがお年玉くれました。貧乏でもやし喰ってるワケじゃないんだよ!趣味だ!

関係ないですが、昭ちゃんは尻を凝視するのをやめたまえ。



 「本陣の設営、終わったぞ」

「両翼もなー」

 

曹操直属約3000人、北郷隊北郷直属約2000人、北郷隊李典部隊約2000人、北郷隊鑑惺部隊一〜六課960人を再編成し、来たるべき決戦……というか、すぐそこまで来ている戦に備える。思ったより戦力がキツい。八千か……。このイベントは、まさかの負けイベントだったのでよく覚えているのだが、おそらく一万は居たよな……。これは、本当に、大分気合を入れなければなるまい。

 

「ご苦労さま。なら、すぐに陣を展開させましょう。向こうは既にお待ちかねよ?」

「……大軍団だな〜」

 

一刀が平野に展開する蜀軍を見回す。

 

「そうかしら?」

「報告やったら、約五万やったっけ?大軍団以外の何者?」

「それに劉、関、張、趙……深紅の呂旗か。オート操作でも俺TUEEEEEEEできるな……。破れるのってチルノ補正ぐらいじゃないのか?」

「落ち着きなさい一刀。まだ錯乱するような時間じゃないわ。分かる言葉で話しなさい」

「俺は落ち着いてるよ。多分この中で一番」

「変態長は置いといて……。籠城せんのん?明日朝には春蘭さんが戻れるんやろ?」

 

正直、個人的には籠城してほしい。出城、つまり住人の居ない完全に軍事目的の城なので、一般人への影響も無い。五分の一以下の兵力だが、籠城なら一日くらい持ち堪えられるだろう。でも、ここで一回死にかけて、一刀の好感度爆上げしておくのはかなり重要だ。そのせいで強く反論できないのが辛い。ついつい何の生産性もないボヤキが漏れてしまう。

 

「最初から守りに入るようでは、覇者の振る舞いとは言えないでしょう。そんな弱気な手を打っては、これから戦う敵全てに見くびられることになる」

「いや……五倍以上の兵力に対して籠城しても誰も文句言わん」

「それにこの戦いで負けたら、劣勢でも相変わらず攻めに出た覇王(笑)とか、項羽の再来(悪い意味で)とかって言われるんじゃないか?」

「だからこそよ。ここで勝てば、我が曹魏の強さを一層天下に示すことが出来る。こちらを攻めようとしている連中にも、いい牽制になるでしょうよ」

「そうすりゃみんなの負担も減る……か」

 

相変わらず、一つの行動で二手も三手も皮算用してるなぁ。まぁ……だからこそ、こうして城壁の上に立っていられるんだろうが……。

 

「その為には一刀、聆。その命、賭けてもらう必要があるわ。……頼むわよ」

「うぃー」

「……軽いわね」

 

まぁ、私はボーナスステージみたいなもんだからな。

 

「……ああ」

「……どうしたの一刀。変な顔をして」

 

変な顔て……。

 

「いや、そうやって面と向かって頼むなんて言われたの、そういやはじめてだなー、と思ってさ……」

「そうだったかしら?」

「華琳様!出陣の準備、終わりました!いつでも城を出ての展開が可能です!」

 

桂花空気読め!

 

「桂花空気読め!」

「!?」

「!?」

「!?」

 

おっと、つい口に出てしまった。

 

「どないしたんみんな固まって?」

 

とりあえずなかったことに。

 

「な、何でもないわ。……さすが桂花。仕事が早いわね」

「はっ。各所の指揮はどうなさいますか?」

「前曲は私自身が率いるわ。左右は桂花と風で分担しなさい」

「俺はどうする?」

「一刀は真桜と共に後曲で全体を見渡しておきなさい。戦場の全てを俯瞰し、何かあったらすぐに援軍を廻すこと。それが貴方の仕事よ」

「……了解。頑張ってみる」

「聆の初期位置は本陣の中心、私の隣よ。鑑惺隊も本陣に溶け込ませてあるわね?」

「おー。はじめは本陣に同調して、適当な時期から独自行動やな?」

「そうよ。相手は貴女に 思 い 入 れ があるようだから、最初は鑑惺隊が居ないように思わせるのよ。ある程度戦況が"盛り上がって"きたら結集していつも通り"ちゃちゃ入れ"なさい」

「まかせぇ」

 

まあ、私目掛けて単騎突入とかされたらどうしようもないがな。雑兵の壁とか相手にならなそうだし。

 

「先日の反董卓の戦で、諸葛亮と関羽の指揮の癖は把握しております。……必ずや連中の虚を突いて見せましょう!」

「ええ。よろしく」

 

虚も何も、全凸とかされたらどうしようもないがな。どうしようもないことばっかりじゃないか。さすが負けイベントは格が違う。

 

「なあ華琳。それで……勝てるのか?」

「勝つのよ」

 

ドヤ顔である。

 

「……そっか。……そうだな。そうだよな」

 

一刀は、何か決心したように繰り返す。

 

「そんで、勝てるん?」

「…………勝つのよ」

 

睨まれた。そうやな。さっきのんは空気読めとらんかったな。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

石橋産業。

 

劉備「武力で他国を制圧するのは良くないです」

曹操「貴女矛盾してるわよね?」

劉備「叩き潰します」

 

このころの桃香は迷走してるなぁ。武力や立場の弱い人たちを守る……今で言うところの社会福祉が当初の目的だったはずなのに、力そのものの否定をしている。力の上下を完全に消し去るのは無理な話で……。その上、頭の回転の差で完全に華琳に言い負かされてしまい、結局、華琳の言うとおりに戦で決着をつけることになった。

 もっと舌戦の練習とか、思想の熟考とかするべき。周りもお姫様扱いでそういう困難から遠ざけているんだろうな。

蜀ルートなら、その辺の思想バランスを一刀が導き出したり、その一刀に対抗意識を燃やして仕事を頑張ったりして成長するんだが……。まぁ、その分が今回のケチョンケチョンの舌戦だったということで。次回に期待だ。

 あと、華琳さんはカルマルート走りすぎ。

 

「一刀!」

「おう!」

 

お、華琳さん帰ってきた。うっわ〜嬉しそうな顔して……。

 

「全軍を展開するわよ!弓兵を最前列に!相手の突撃を迎え撃ちなさい!」

「了解!」

「その後、一刀と真桜は後曲に。第一射が終わったら、左右両翼は相手を撹乱なさい!その混乱を突いて、本陣で敵陣を打ち崩すわよ!」

「御意!」

「聆はそこから更に分離して追い打ちをかけなさい。頭痛と腹痛の分はきっちり働くのよ」

「待ってそれ私が悪いん?」

「あれだけバカを拾って来ておいてよく言うわ」

「勝手についてきたんやもん」

「野良犬かよ」

「ふふっ……。最後に聆に声をかけたのは失敗だったかしらね」

 

小さく笑った華琳が、兵の方を向いて大音声の号令を放つ。

 

「聞け!勇壮なる我が将兵よ!

この戦、我が曹魏の理想と誇りを賭した試練の一戦となる!この壁を越えるためには、皆の命を預けてもらう事になるでしょう!

私も皆と共に剣を振るおう!死力を尽くし、共に勝利を謳おうではないか!」

 

剣を振るうのに集中し過ぎて、「呂布と関羽に囲まれたテヘペロ」とかするなよな。

 

「敵軍、動き出しました!」

「これより修羅道に入る!全ての敵を打ち倒し、その血で勝利を祝いましょう!全軍前進!」

 

 かくして、第一回 魏vs蜀 因縁の対決が始まったワケだが……。

 正直、桃香の暴走思想にも、華琳の覇道にも賛同していないのでいまいち熱くなれない。

 

 ただ、そんな私にも一つだけ言えることがある。

 

呂布と当たりませんように呂布と当たりませんように呂布と当たりませんように呂布と当たりませんように呂布と当たりませんように。




呂布怖い。
何か呂布の攻略法ないですかね?
恋愛じゃなくて。
毒とかもケロッとしてそうですし。

世界三大勝てる気がしねぇもの
→触手、ブラックホール、呂布
〈改定〉
一刀さんのおちんぽ、ブラックホール、呂布


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第九章一節戦闘パート

※関羽が魏軍に入っていたと思っている方が結構いらっしゃるようなのですが、ブチ切れた華琳さんが交渉の時点で反故にしています。


調子が悪い時に書くもんじゃないですね。
初め書いたとき、二千字くらいひたすら華琳様をdisる文章になっていて驚愕しました。
蜀側……というか、孔明の描写をしていると作者自身が下衆くなってくる不思議。
何故だ……。孔明は間違ったことしてないのに。
世の中は正解だけじゃ回らないってことですね。


 「むぅ……思ったより粘るな……」

「挟撃を無視して全軍突撃すれば容易にカタがつくと踏んでいたのだがな」

「やはり曹魏の兵は練度が高いですね……」

 

蜀軍本陣。

今回の戦、諸葛亮は、五倍という圧倒的兵力差に任せて、相手のあらゆる動きを無視し、曹旗目掛けて全凸する作戦を取った。慢心故の思考放棄ではない。大群にとって最も恐ろしいのは撹乱だ。大群では、末端の兵に指示が通りにくい。だから勝手な自己判断で策に乗せられ混乱し瓦解する。ならば、はじめから突撃しかしない、曹操以外のものは見ない、と言い聞かせておけば大群の破壊力を最大限活かすことが出来る。事実、相手の挟撃は空振りに終わり、単に道を開けるだけになった。そしていとも容易く曹魏本陣を飲み込んだ。……だが、"消化"がなかなかできない。激流を掻き分けて立つ河中の巌のように、攻撃を撥ね退けてそこに在り続ける。

 

「しかし、兵の体力は有限です。このまま攻めれば必ず終わります。……鑑惺隊が分解されているのは幸いでした。アレがあるともっとやっかいでしょうから」

「確かに妙な用兵を行うとのことだが……。五万の突進をどうこうできるものなのか?」

「……これは賊討伐でのことですが、賊の生き残り曰く『決死の思いで突撃して敵陣を突き抜けたら、目の前に自陣があった』」

「……?」

「どういうことだ?」

「直進していると錯覚させられていた、ということです。戦場では、敵兵や仲間との位置関係で方向を掴みますから……。理 論 上 は 可能な作戦です。結果、仲間の攻撃の邪魔になると同時にいとも容易く背後を取られ壊滅」

「……鈴々辺りなら簡単に掛かりそうだな………」

「ええ。ですので、鑑惺隊は、例え戦の結果が覆らないとしても、危険な存在なのです」

 

それ故に、諸葛亮は曹魏を嘲笑する。

何故鑑惺隊を再編して本陣に組み込んだのか、と。

優れた兵を持ち、完璧とも言える政によってその勢力を拡大する曹魏だけに、偶に出る、気分任せのような戦略や戦術が余計に目立つ。

 

「仕方ありません。あまりこうしたくはなかったのですが……。愛紗さん、星さん。呂布さんと鈴々ちゃんと一緒に、 先 頭 に 立

っ て 突撃してください。敵本陣を叩き割ります」

「分かった」

「任せるがいい」

 

待ってましたとばかりに快い返事がかえる。しかし、諸葛亮の気分は晴れない。将軍の武に頼った、単騎での陣の破壊など、軍師にあるまじき下策。流れ矢やマグレによる、所謂「事故死」の危険があるからだ。だが、まぁそれも仕方ない。現状では残念ながら最善手だ。ここで曹操を刈れるなら。それに、もし失敗しても、も う 一 人 は確実に潰せる……。

 

「雑兵とは言え、十分に気をつけてくださいね」

「ああ。それは良いのだがな」

「……?」

「どうやら雲行きが怪しくなってきたぞ」

 

趙雲の指差す方を見る。

ぴくりとも動かなかった黒い塊が、俄に蠢き始めた。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ふふふ……。圧倒的だわ、我が軍は」

「いやぁ……力技やなぁ……」

 

驚くべき……非常に信じ難いことなのだが……なんか、魏軍から勝ちオーラが出ている。華琳直属が攻撃を受け止めて、私の隊の構成員が隙間からド突くのを繰り返していると、何だか敵がげんなりしてきた。無理もない。明らかに勝ち戦なのに一向に終わらないのだから。攻め手は蜀。死ぬのも蜀。不安が広がっていくのが手に取るように分かる。

 

「力技?違うわね。……私たちは、コレができるようになるだけの訓練を積んだわ。当然の結果よ」

「嬉しそうやなぁ……」

「嬉しいわよ。今から甘ったれのあの娘を泣かせてあげられると思うと余計にね。貴女もそろそろ鑑惺隊を纏めなさい。私は真っ直ぐ 赤 絨 毯 の上を歩いていくから、貴女は 飾 り 付 け をしておいて」

「また芝居がかったこと言うて……数年後思い出して悶絶しても知らんで」

「そんなことあり得ないわね。あるとすれば、自分の美しさに、かしら?」

 

ちょっと袁紹入ってない?

ともかく、本陣がゆっくりと進み始める。蜀軍をなぎ倒し、紅い屍の道を踏みしめて。ああ、絨毯ってこのことか。

 

「んだら行ってくるけど、世話焼きの侍女には気ぃつけてな」

 

蜀の将軍共のことを言ったんだが、通じただろうか。どうでもいいか。

 

「ええ。行ってらっしゃい。貴女のところにも来るでしょうから、張飛以外なら連れ帰ってきていいわよ」

 

いや、死ねる自信有るから勘弁してほしい。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 端的に言おう。

死んだ。

いや、正確にはまだ死んでないのだが。呂布がこっち来た。いい調子で敵を撹乱したり削ったりしてたら、呂布がこっち来た。凄い勢いでこっち来た。マリオのスター状態みたいに、魏軍を撥ね飛ばしてこっち来た。愛紗と鈴々と星は華琳の方に行ったのに、呂布がこっち来た。多分、来るとしても愛紗か星だと思って、時間稼ぎの演説を考えていたのに、何故か呂布がこっち来た。

解せぬ……。命懸けで戦って、何か残るのなら良いが、呂布とかほんの数秒で決着付いて何も変わらないじゃないか。

どうする?逃げる?でも何かめちゃくちゃ速いぞ?赤兎って犬になってるから速さに関してはそんな伝説級のものじゃないはずだ。なのにめちゃくちゃ速い。逃げられる気がしないっていうかもう目の前にいる件について。ちなみに速さの秘密は徒歩移動だった。そして視界が何回転かして、目の前にあるのは乾いた地面。口の中に生臭い液体が溢れる。呂布ダンチ過ぎワロ。

 

「落ち着け………… 心を平静にして考えるんや…こんな時どうするか……2… 3 5… 7… 落ち着くんや…『素数』を数えて落ち着くんや…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできん孤独な数字……私に勇気を与えてくれる」

「ダメ。殺す」

 

ヒィっっ!!怖いよこの子!!年頃の娘さんがそんな殺すだなんて!

あどけない表情で方天画戟を構える呂布。まだ構えの段階のはずなのに、もう既に頸に突き付けられているような錯覚を覚える。死んじゃってもいいさと考える暇もなく本能に恐怖を叩き込んでくる。一刀!早く煙玉使ってくれ!!

 

「待って!何でそんな殺る気満々なん?攻めてきたのそっちやん?私悪ないやん?」

 

自分でも笑えるくらい情けない声が出てるんだが。

 

「……殺したら肉まん」

「誰どいやそんなちょっとしたお使い感覚でワイの命狙っとるんは!!」

「……はわわ」

 

孔明ェ………私何かしたか?

 

「えーっと……そのことについて愛紗……関羽は何て?」

「………?」

「二人の時に言われたん?」

「……ねねも」

 

うん。これギルティですワ。孔明の八百一趣味晒し決定。

怒りと恐怖が綯い混ぜになって何か逆に冷静になってきた。

 

「だから殺す」

 

おちけつ私。呂布は確かに意味分からんくらい強いが、一刀さんのおちんぽにひんひん言わされるメスガキの一人に過ぎない。恐れるな。冷静になれ。なんとか相手の戦意が無くなるまで話し続けるんだ……。だから寝っ転がってる場合じゃない。

 

「よぉ考えぇよ?」

 

『魏の方が良えもん食べさせたげられるで』という言葉をギリギリで飲み込む。呂布動かしたらパワーバランスがメチャクチャになってしまう。今更だろうか……。いや、バカ効果でプラマイゼロだよな?ああ……バカたちの顔が浮かぶ。脳天気な表情が私に勇気を与えてくれる!素数とは一体何だったのか。

 

「諸葛亮は別に、今殺せとは言っとらんよな?」

 

頼む。言っていないでくれ!

 

「……言ってない」

 

よっしゃあぁぁぉぉぁぁぁぉあ!!!

 

「じゃあ今殺さんでええやんな?な?」

「……殺したら肉まん。…………早く食べたい」

 

くっ……この食い意地お化けがっ。

 

「えーと、んだら、コレあげるわ」

 

腰につけていた瓢箪を手渡す。

 

「……………?」

 

不思議そうに色々と角度を変えて眺めたりしている。

 

「酒や。なかなか珍しいもんやで」

「……要らない」

 

お腹にたまるものじゃないとダメってか。

 

「じゃあ趙雲に売れ。多分肉まんより良えもんと取り替えてくれるわ」

「……………」

 

じーっと私の目を見て視線をずらさないんだが……。もしかして売り買いの概念が分かってないとか?いや、流石にそれはないよな。

 

「………また、会う」

「へ?」

「会ったら、何かもらえる………?」

「それって一種恐喝の類とちゃう?」

 

見逃してやるから何か寄越せ、ってことだろ?

 

「………おまえを捕まえたら食べ放題?」

「当店ではそのようなサービスは承っておりません」

「さーび………………?」

 

その時。突如として視界が白く塗りつぶされた。やっとか……遅いぞ一刀さん。

 

「まっしろ…………?」

「んだら、孔明によろしく言っといてくれ」

 

さっさと背を向けて退散する。よくよく考えれば、呂布に煙幕がどの程度通用するのか怪しいものなんだが、ともかく追っては来なかった。

原作では、この後城に籠もるんだったよな。確か水を止められてしまうはずだ。はぁ……。嫌だなあ。ちょっとチビってしまったから下着を洗いたいのに。




ビビりすぎて本気出せてなかった模様。
本気になれば三回くらいは打ち合えます。

ちなみにショーツじゃなくて褌。


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第九章二節その一

調子が悪い人の思考を描くのは簡単です。
私がだいたいいつもそんな感じですから。

今回はやたら短いです。繋ぎです。気にすんな!


 「華琳様!ご無事で!」

 

華琳と一刀が一匹の馬に二人で乗って帰ってきた。楽しそうですね。

 

「すぐに関羽の追撃が来るぞ!兵を全て収容し、城門を閉鎖しろ!」

「聆は大丈夫か!?呂布と当たったみたいだったけど……!!」

「気にすんなちゃんと生きとるわ。あと、もぅ収容は完了しとる。城門閉鎖も……今ちょうど終わったみたいやな」

 

戻って来た兵は大体四千弱。鑑惺隊の被害は七十三人で、小隊長の死亡は無し。呂布効果でバッサリ逝ってるかと思ったが、私のところに直進するときに撥ね飛ばした何人かしかやられてなかったらしい。いや、予想はしていたがなかなかの成績だ。一〜四課は私の初陣からずっと戦ってきたベテラン小隊長だらけだ。五課は敵方から寝返った奴ら。六課は盗賊団からの引き抜き。鑑惺隊の中でも戦況を読む力が強い奴らだったのだ(対して、残念ながら七課以降は質がガクッと落ちる)。

 

「良かった!無事だった……ん…………」

「…………」

 

なのに一刀と華琳ときたら、そんな超優秀組織のリーダーをヤバイものを見るような目つきで凝視してくる。

 

「……なんや」

「いいえ……。貴女、"また" なのね……」

「聆?安静にしておいた方がいいんじゃないか?」

 

二人が担架の上の私から目を逸らした。

 城に戻ると、気が抜けたのか何なのか、一気に血反吐が溢れ出た。ついでに古傷も開いた。一発だけ受けた呂布の攻撃は、分かっていたことだが相当のものだったようだ。あと、いつも軽いから忘れていたのだが、生理二日目だった。

呂布とサシで対峙して生還したという、英雄であるところの私は、軍師ーズへの報告中に上下前後から血を噴射して倒れたのである。でも今回は用意が良かった。ギリギリの戦いを予見して、真桜が、半分ネタで、良質な担架を作っておいてくれていた。

 

「んー……でも今、人手が足りんやん?指示くらいはできるやろ」

「何が貴女をそんなにも突き動かすのか……」

「でもあれやで?なんか逆に気持ち良くなってくるで?」

「鑑惺様流石です!!」

「あ、あぁ、そうなの……」

 

普段から部下に足舐めさせてるド変態が何いっちょまえにドン引いてんだよ。

 

「え……えっと、あ、そうだ。真桜は?」

 

視線を泳がせっぱなしの一刀が思い出したように言う。

 

「大丈夫よ。別の作戦が有るから、そちらを任せているだけ」

「そ、そっか。なら良かった……」

 

地下古水道の封鎖罠設置に、無限丸太落とし装置の設計、砦の臨時補強工事など、いぶし銀の大活躍だ。恋姫には、管理者とか言う奴……ホモと筋肉達磨とツンデレが居るが、ぶっちゃけ設定ミスだな。真桜一人でどんどん世界観が崩れていくもの。

 

「でもネタ二次では何出しても『真桜がやりました』で解決できるからすてきです」

「大丈夫か?やっぱり休んだ方が……」

 

一刀が心配そうに顔を覗き込む。うん。確かにちょっとアクセル吹かしすぎ気味の発言しているな私。

 

「大丈夫や。問題ない。あ、華琳さんそろそろ全体に指示出して」

「え!?わ、分かったわ。総員城壁の上に待機!籠城戦で敵を迎え撃つわ!何としても、春蘭たちが帰ってくるまで耐えきって見せるわよ!……って、何私に指図してるのよ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 間もなく絡繰が組み上がり、城壁に登ろうとする敵や、城門を破ろうとする敵に丸太が降り注ぎ始める。クソぶっとい丸太を、クソぶっとい綱で繋いで、梃子とか歯車とかで引き上げたり落としたりする原始的に見せかけて高度な技術が必要な兵器だ。

 私は、華琳の補助として城壁の上で指示を出していた。しかし、丸太にしがみついて昇ってこようとしている敵に血反吐を吐きつける遊びをしているのを見つかり、少し離れた所で休まされている。私的には、敵を迎撃できるし、士気も下げられるので別に良いと思っていたのだが、「お願いだからもう休んで!こんな貴女、もう見てられないわ!」と半泣きで懇願されたので仕方なく聞き入れた。

 『古水路封鎖に敵部隊を巻き込んで被害を与えることに成功した』とか、『呂布にいくつかの絡繰が破壊された』とか、『常用水路が敵に止められたが気にするな』とか言う報告が次々と入ってくるが、私は別のことを考えていた。「出血系一発ギャグで禀に勝っちゃったな……」と。

 敵の攻撃が一旦緩まった(と言っても、兵の体力の温存を狙ってのことだろうが)頃、地平の向こうに大群が現れた。恐らく魏の援軍だろう。今から激アツの反撃戦が始まるのだ。……まあ、私は参加できないが。




ちょっと血を流しすぎてハイ↑になったしまった聆さん戦力外通告。

次回、激アツのガチバトル!!
※聆は出ません


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第九章二節その二

バトル入るまでに意外と長くなってしまいました。
文字数が千五百超えた辺りから反応速度が遅くなるので
短めで出しています。

聆の出番は無いと言ったな。
あれは嘘だ。


 「華琳様!地平の向こうに大量の兵が!」

「敵の増援か!?」

「劉備もそれほどまでの余裕は……そんなワケ………」

 

慌てて城壁の向こうを見れば、確かに地平の辺りに大量の煙が見える。それも百や二百の数じゃない。……もっと大規模な、それこそ蜀軍に匹敵する程の騎馬の群れだ。

 

「狼狽えるのは止しなさい!……桂花。新たな部隊の旗印を確認なさい」

「旗は……何あれ!?こんな大量の旗って……それに将軍格の旗が幾つも!どこかの連合軍なの!?」

「………まさか西の部族連合か……!?」

「んー……ちがいますねー………」

「あれは………!!」

「旗印は夏侯、郭、典、許、楽、于、李、紺碧の張、群青の華、黄金の文、花の張、そして袁。みんなお味方の旗ですねー」

「え、だって、春蘭たちは明日の朝までかかるって……それに、李って、真桜だよな?なんで向こうに居るんだ!?」

「こっそりと探しに行ってもらったのよ。………まあ、必要なかったみたいだけれど」

 

 

 「うっしゃ!間に合うたみたいやな!」

「急いだ甲斐が有ったということか……」

「まったくや。おかげで関羽と殺れるでぇ〜!」

「逆に討ち取られぬようにな。気を引き締めて行くぞ」

「なんや淵ちゃんノリ悪いなぁ……。ま、ええわ。この戦いに勝ったら、一杯奢ったる」

「……その台詞は『死亡ふらぐ』と言うらしいぞ」

 

「季衣!速すぎるよー!」

「何言ってんの流琉?できるだけ急がないと!」

「突出してもダメ!兵がついて来られないよ」

「そっかー……みんな疲れちゃうもんね。じゃ、疲れないように気をつけながら全速前進だ!」

「えぇ〜〜〜!?」

 

「あ、あの上にいるの、隊長みたいなの!おーい、たいちょー!」

「いや、さすがにこの距離じゃ見えへんやろ。沙和って、伊達メガネで実はめっちゃ目ぇ良えとか?」

「ちがうよぉ!あの桃色な感じはどう見ても隊長です本当にありがとうございました」

「あー、確かに、このいやらしい感じは隊長やな。これだけの距離でこの存在感(性的な意味で)……さすが魏の種馬や。あ、これ、凪やったら城の様子透視できるんちゃう?」

「む、そうだな………。……む、覇気……華琳様はご健在なようだ。この何とも言えない感じは風様……。濁った濃い桃色……桂花様か。そしてそれらを包み込むように隊長の氣が……。ん?狂気……? 聆!きさま!呑んでいるなッ!?」

「聆ちゃん相変わらずなの〜」

「それにしても、こんな早う着くなら、先に言うでくれれば良えのに。みんないけずやで!」

「情報を伏せておけと言うのは、禀様と七乃殿の共通した指示だったのだ」

「もし周りから邪魔が入って遅れたら、華琳様たちの士気に関わるってー」

「ああ、なるほどなぁ。確かにかなりしんどかったもんなぁ……。そんで来ると思うとったのが来んかったらガタガタや」

「ごめんなのー」

「でも、その分すぐに見つかったときはメッチャ嬉しかったで!」

 

「急げ急げ!劉備の包囲から一刻も早く華琳様を助け出すのだ!!」

「ふん!妾の留守を守る大役を帯びながら劉備の侵入を許すなど、何たる失態!曹魏の王が気いて呆れるのじゃ」

「も〜お嬢様ったら批判だけは超一流なんですから〜」

「ふふん。当然じゃ。妾は超一流なのじゃ」

「蜀もなかなかの大軍だな。つまり武勲が立てやすいということか」

「呂布に関羽に張飛に趙雲!どの首級を取っても大手柄じゃんか!」

「はぁ……。大手柄は良いですけど みなさん、どういう作戦か覚えていますか?」

「バカにするなよ禀。ちゃんと覚えているそ。突進だ!」

「そして突撃だな」

「殲滅だぜ!」

「まぁ、だいたいそれでいいんですけど〜……。春蘭さんと華なんとかさんはそのまま直進で、猪々子さんは霞さん秋蘭さんと一緒に横から殴ってくださいね。それではみなさん、そろそろ所定の位置に」

「言われずとも分かっている!」

「腕が鳴るな」

「全員叩き斬ってやるぜ!」

「妾もそろそろ号令の準備をしなければの……ゴホンゴホン」

「なんで貴女が号令をかける気満々なんですか……」

「そうですよお嬢様。……全員に聞こえるようにしっかりと息を整えないと」

「七乃殿!?止めてくださいよ!」

 

 

 「おおお……」

 

夏侯旗を先頭にして、全軍一丸となって猛進する様に、思わず感嘆の声が漏れる。

 

「ふふ……。これが我が曹魏の実力よ」

「華琳様ー。作戦はどうしますかー?」

「禀と七乃が上手くやってくれるだろうから、それに合わせて動くわ。こちらからも今一度押し返す。桂花」

「はっ。もう既に編成はできております」

「なら、頃合いを見て開門し、突撃の指示を。風は全体の動きを見失わないようになさい」

「わかりましたー。で、聆ちゃんはどうしますかー?鑑惺隊を有効に扱えるのは聆ちゃんだけなのですがー……」

「主無しでも動けるように訓練しているらしいのだけど……。そうね。聆を出しましょう。指揮だけだとよく釘を刺しておいて」

「御意にー」

 

軽く頷いて、本殿で休んでいる聆に使いを出す。

 

「……でも大丈夫なのか?聆の怪我」

「正直言ってあり得ないことなのだけれど、身体的には結構余裕みたいなのよ」

「『身体的には』?」

「なんというか……言ってることが良く分からないのよ」

「……聆ってもともとそんな感じじゃなかったっけ?」

 

むしろ最近が常識人風過ぎなような。

 

「そうだったかしら?」

「んー、最近は"お守り"していることが多いみたいですからねー。必然的に抑えに回っているのですよー」

「ああ、なるほど」

 

確かに、誰とは言わないけど、無茶しがちな娘とよく一緒に居る。

 

「うーん、そう言われればそうなのかしらね」

「程昱様!」

 

と、さっき使いに出た兵が戻って来た。手には何か木切れを持っている。

 

「どうされましたかー?」

「あの……鑑惺様の姿は無く、空の酒樽がいくつかと、この書簡が……」

「ふむふむ……『お酒を呑んだら何か大丈夫になりました。愉快な気分になってきたのでせっかくだから出撃します』……だそうですー」

「ちょ、早く下の桂花にこのことを伝えなさ

 「開門完了!出撃!!」

  …………遅かったか……」

 

「アハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ!!!」

 

城門をくぐる兵士たちの雄叫びに、けたたましく恐ろしい笑い声が混ざっていた。

 

 

 「皆、戦闘準備は出来ているな!」

「おう!待ちくたびれたわ!」

「聞かれるまでもない。真の武人たる者、行住座臥何時如何なるときも万全の態勢であるべきだ」

「我らはこのまま一気に突撃を掛け、蜀軍の背後を叩く!霞、秋蘭、猪々子はその隙を突き、崩れた相手を根こそぎ打ち砕くのだ!」

「そっちは任せたぜ許っちー!」

「猪っちーも頑張ってねー!」

「我らが目指すはただ一つ!」

「蜀軍を打ち払い、我らが主をお救いする事だ!」

「べつに潰してしまっても構わないのでしょう?」

「少し痛い目に遭ってもらいましょうか」

「そうですね〜。死ぬ程痛い目に」

「ならば行くぞよ!総員、突撃なのじゃぁぁぁっ!!」




痛みを紛らわすために呑む
 ↓
酔っ払う
 ↓
バーサーカー


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第九章三節

髪の毛を短くしたら、
「髪切った?」と言われすぎていい加減鬱陶しいです。
最初の二回くらいで十分ですね。


ここで九章終わってもいいかな?とか思うんですがどうですかね?
あとは一刀さんと華琳さんのイチャイチャーンで、
原作から変えるところがありませんし。


 蜀軍が、兵を交代で出し続けて相手を寝かさない作戦……反董卓連合で曹操が使った作戦を実行しようとした矢先。突如後方から現れた魏の援軍により戦場は大混乱に陥った。それとほぼ同時に城が開門。攻め入ろうとする前曲と、奇襲に反撃しようとする後曲に分裂してしまい、特に前曲には指示がまるで通らない。伝令は何度も出しているのだが、この混乱した戦場を無事に走り抜けられる者などそう居なかった。孔明は思わず歯噛みする。またもや個人の力に頼ることになってしまった。

 

「呂布さん。全軍に"今すぐ"撤退命令を伝えて廻ってください」

「な……恋殿を使い走りにしやがるつもりですかーーー!!」

「……………べつにいい」

 

孔明とて出来れば呂布の力など借りたくない。何か一仕事の度に大量の報酬、しかも食料の現物を要求するし、まるで予想だにしない失敗をしでかすからだ。だが、関羽と張飛が迎撃へ、そして趙雲と白馬の人が攻城へ出てしまっている現状では打てる手段は限られていた。あと、陳宮はもっと働け。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 同じ頃。後曲では関羽が奮闘していた。後方からの奇襲に、完全に瓦解することなくなんとか持ちこたえられているのもまた、関羽と張飛の二人の働きによる。押し寄せる敵を薙ぎ払い、蹴散らし、劣勢の戦場に割り込んで仲間を救う。しかし、当の関羽の疲労も限界が近い。百人斬りなど何度も経験している関羽であったが、今回ばかりは事情が違う。

 

「く……っ。さすがに曹操の兵は強い!」

 

これに尽きる。雑兵のクセにいやに練度が高い。

 

「関羽ぅぅぅっ!見つけたでぇっ!」

 

その兵達を飛び越えるかのように一騎の将が疾走してきた。やけに機嫌の良さそうな声とともに。

 

「貴様……っ!張遼かっ!」

「おーっ。名前覚えてくれとったとは、光栄やな。忙しいとこスマンけど、一手お相手願おうかっ!」

「済まないと思うのならやめてくれないか」

「そう釣れんこと言いなや。……セッッ!」

「くぅっ!」

 

突っかけるように放たれた一撃をなんとか弾く。軽い挨拶のようなものだが、今の疲労が蓄積している関羽には余裕はなかった。普段ならこんなもんカウンターでワンパン楽勝ッスよ。

 

「どや……っ!飛竜偃月刀の一撃……!」

 

ドヤ顔が関羽の神経を逆撫でする。言葉も聆とほとんど同じ訛りのハズなのに態度の違いでこうも鼻につくか。

それに……、

 

「これは……私の偃月刀と、同じ……!?」

 

違うと言ってほしい。

 

「いや、ちょっとばかしちゃうねんけどな……。ほら、ここのトゲトゲんとこ……」

「……………そ、そうなのか」

 

張遼は刃の根本の飾りを恥ずかしそうに弄る。残念ながら、これで、"似せて作った"ことが確定した。しかもなにやらただならぬ想いを乗せて。

 

「きもちわるい………」

「えっ」

 

張遼とは初対面のハズだ。反董卓で敵同士だったが、一騎討ちどころか、張遼隊とすら直接は戦っていない。

接点が無い。

なのに殆どそのまま同じ形の武器を使い、その上、さっき、一瞬だが、確かに"そういう"気を感じた。何だ!?曹魏は上から下までこんな奴ばっかりか!?

 

「えっ……?ちょと関羽?」

 

夏侯姉妹とか、何か軍師の奴らとかも曹操のカキタレらしいではないか。何たる淫婦の巣窟……!はっ!?そうか!聆はソレを拒絶したから酷い扱いを……!?

 

「ちょ……、どないしたん?」

「くっ……寄るな下郎!私は貴様らのような×××には負けん!絶対にだ!!」

「…………そこまで」

「恋!」

「呂布か!」

「………撤退」

「何だと!私はコイツらを……!」

「…………孔明が言ってた」

「……くっ。ならば引くぞ。全軍撤退!」

 

関羽は一睨みして、背を向けた。

 

「待ちぃや!まだウチとの決着が……」

「…………」

 

追おうとする張遼の前に呂布が立ちはだかる。

 

「恋……」

「………………元気そうでよかった」

「アンタもな……。ねねはどうや。華雄はこっちで元気にやっとるけど。あと、月と詠も劉備んとこにおるんやんな」

「…………ねねも、元気」

「月は?」

「…………お茶」

「は?」

「……………?」

「いや、まぁええわ。今日はアンタのぼーっとした顔が見れたんで、十分っちゅうことにしたる」

「……………またね」

「ああ……。今度会うときは、関羽と決着つけさせてな!」

 

元戦友の再会はあっさりとしたものだった。不仲とかではなく、単純に会話が続かないせいだ。

張遼が退くのを見送り、呂布は次の戦場へ駆ける。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃァッッ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!!」

 

常人の粋を遥かに凌駕した連撃の衝突。乱戦にも関わらず、華雄と張飛の周囲には誰も居なかった。ほんの少し前までは居たのだが、大方は巻き込まれて死んだ。

 

「愛紗や聆に負けた割にはなかなかやるのだ!華なんとか!」

「ふん!挑発のつもりで言っているのなら効かんぞ」

「なんでもかんでも挑発に聞こえるのは自分に自信が無いからなのだ」

 

口喧嘩しながら戦っている。思いの外器用な奴らだ。

 

「確かに自信は無い。天下一にはまだ遠いからな!」

「天下一には鈴々がなるからお前はずっと二番以下なのだ!」

「なら早く潰しておかねばな!!」

「………………笑わせてくれる」

 

拮抗し、周囲を満たしていた二人の氣が新たに現れた者によって消し飛ばされた。

 

「呂布!?」

「………撤退。孔明が」

「むー……でも、決着があるのだ……」

「………………些事」

「はぁ……。仕方ないのだ。華なんとか、勝負はお預けなのだ」

「逃げるのか?」

「にゃ……」

「…………………恋が……代わりに殺る?」

「………ッ!!ちっ……無粋なことをしてくれたものだ。……さっさと行け!」

「…………ありがと」

 

華雄は張飛を見逃した。そうするしかなかった。躰の震えを止めるのに精一杯だったから。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 趙雲対夏侯淵。敢えて言おう。そこまで盛り上がってないと。

お互いに汗一つかいていない。夏侯淵としては、撤退してもらえればそれでいい。趙雲はと言えば、蜀の敗戦を感じ取っていた。だから、双方共、「下手に本気を出して相手をやる気にさせても困る」と、抑え気味だ。自発的に退くのは負けたみたいになるのでしなかった。

 

「ふっ、なかなかやるな……!」

「貴様もな……!」

 

心にも無い言葉を交わす。

 

「…………撤退」

「なんと!」

 

ほっとした。いつまでこの茶番が続くのか心配になっていたから。

 

「……………みんな退いてる」

「やれやれ、仕方ない……。そういうわけだ、決着はまたいずれ」

 

全く残念そうじゃない。

 

「ふむ。なら早く軍をまとめて去ってもらおうか。私も早く主の顔が見たいのでな」

「ふっ、正直だな。そういうのは嫌いではないぞ」

 

このやりとりが、魏軍の乱れた性風紀の噂に拍車をかけることになる。趙雲は確信したのだ。「ああ、やっぱりそういう関係なんだな」と。

 

「秋蘭さーん」

「おお、どうした、風」

「敵の追撃をお願いしたいのです……が……」

「…………」

「……………」

「何だ、知り合いか?」

「うむ。しばらく共に旅をしていたのだ。風、禀はどうした?息災か?」

「禀ちゃんも元気ですよー。星さんのことも、幽州の公孫賛さんって人がケチョンケチョンにやられたって聞いたから、どうなったか気になってたんですけど……無事でよかったですー」

「まあ、その頃には既に桃香様の下についていたしな」

「そうですかー。じゃあ、次も戦場でお会いする事になりますねー」

「うむ。……では呂布殿、こちらも戻るぞ」

「……………」

 

呂布がこくりと頷くのを合図にするように趙雲隊は退がっていった。

 

「ふぅ。呂布が来た時はどうしようかと思ったぞ……」

「ええ。でも、猪々子ちゃんや春蘭さんが大暴れしてくれたおかげで大局は決定していましたからねー。あ、そういえば聆ちゃん見ましたかー?」

「一足先に城に戻っているぞ。『今夜は馬刺しや!白くて綺麗な馬やから多分相当美味しいで!!』と言っていた」

 

南無




白馬の人かわいそう。


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第九章拠点フェイズ : 聆(3X)の雑談Ⅱ前半

太りました。
原因はフライドチキンの食べ過ぎ。
近所の山にハイキング行ってきます。

ハムソンさんは生きてます。
スタップ細胞はあります。


 「だっての?他が全部後ろ向きであるのに、一筋だけ飛び出ているのはおかしいであろ?」

「やからって春蘭さんのアホ毛ちょん切ったらアカンやろ」

「そうなのー。春蘭様、あの毛にちょっと愛着あったみたいだしー」

 

いつの間にか恒例となったお茶会……通称おバ会。最近では、バカたちへの指令伝達の場にもなっている。バカと付き合うのにうんざりした人が上層部にいるからだ。メンバーは私、かゆうま、猪々子、ちゃん美羽、七乃さん。本日は、不機嫌のため欠席の春蘭の代わりに、ゲストとして沙和をお迎えしております。

 

「あのような猪でもそんなことを気にするのだな」

「むしろあたいは、どうやって切ったのか気になるぜ」

「ふふん。あの阿呆が間抜けな顔をしてボケーッとしておったからの。鋏で軽ーくちょんっ、とな」

「まじですか……」

「流石ですお嬢様!そういうせこい嫌がらせに関しては右に出るものは居ませんね!」

「そうであろそうであろ!む……ときに猪々子、そなたの毛も跳ねておるの?」

「え、ちょっとやめてくださいよ お嬢!あたいの体をどうこうしていいのは斗詩だけなんですから」

 

猪々子が焦ったように自分のアホ毛を手で隠す。

 

「アカンで美羽様。他人の嫌がることやったら」

「妾は間違いを正しただけなのじゃ」

「それは美羽様のものさしで測った善悪やからなぁ……」

「そうですよお嬢様。あんまり好き勝手やってると華琳さんたちも怒っちゃうかもしれませんよ?孫策さんみたいに」

「そ、そ、そ、そんしゃくじゃと!??」

「はいはいガクブルガクブル。七乃さんも分かっとんやったら止めてぇな」

「えー、だってー。アホ毛を切った瞬間のお嬢様の顔といったらもう……。私は確信しました!真の天の遣いは一刀さんではなくお嬢様だと!!」

「恋は盲目とはよく言ったものだ」

「お嬢様の可愛らしさに気づかないなんて、華なんとかさんこそ目が悪いんじゃないですか?食べることと突進することしか眼中にないんですよね?猪だから!」

「よく言った。表へ出ろ。この前の馬のように解体してやる」

「すぐ腕力に訴えようとするのは、ホント成長しませんね〜」

「ぐぬぬぬ………」

「あー、でも、この前の馬、旨かったよなー」

「………」

「………」

「………」

「………」

「ダジャレじゃないぜ!?」

「うん。分かっとる」

「その目は分かってない目だー!」

「まぁ、文醜のダジャレは置いておいて、私としては、大本命だった白馬が取り上げられたのが残念でならん」

「あー、あれな。無断出撃の埋め合わせで華琳さんに献上させられたんや。明らかに名馬やったからなぁ……」

 

そう言えば、白馬に乗ってた奴に見覚えがある気がしたが……。誰だったのだろうか。酔っていたからあまり覚えていない。公孫さんか……?いやいや、そんな酔っ払い相手に負けるなんていくら地味キャラでもなぁ?白馬は確かに珍しいが、世界に一頭ってワケでもないし。そういうことにしておこう。メインキャラ全員の救済が目的なのに、酔った勢いで襲いかかってたとか笑えなさすぎる。

 

「あと七乃さん、美羽様、ガクブルしすぎで過呼吸なりよるで」

「お嬢様の苦しそうな表情って、……そそりますよね」

「はぁ……コレだから変態は」

「それについては否定しません」

「とにかくそろそろ助けてあげないとお嬢、死んじゃいますって」

「うーん、私としてはもう少し見ていたいところなんですけど、しかたないですね。……そぉい!」

「きゃっふぁ!?」

「しっかりしてくださいお嬢様」

「うう……なんか、頭に尖ったものを叩きつけられたような……」

「きっと気のせいですよ。それより、蜂蜜饅頭ですよ。ほら、あ〜ん」

「……あ〜ん」

「どうですか?」

「むぐむぐ……んむ!美味である!!」

「七乃さんってあんま忠誠心無いなぁ」

「私は鑑惺様に全力で忠誠を誓っております!」

「下がってよし」

「はい!」

 

ちゃん美羽のコロコロと変わる表情を見ているのが楽しいのは分かるが、苦しんでるのも楽しむ辺り、歪んでるなぁ。

 

「…………」

「どうした于禁。さっきから黙りこくって」

「いやー……話には聞いてたけど予想以上なの……」

「何?あたいの風格が?なんつって!」

「沙和はこういうの慣れとるやろ?真桜とかで」

「また別のはちゃめちゃ具合なの」

「さっきからレイ姉冷たくない?」

「そう言う猪々子は寒いのじゃ」

「確かにな。そこの侍女!悪いが肩掛けか何かをもってきてくれ」

「あ、お嬢様の分もお願いします〜」

「んだら、私は肩掛けの代わりに熱燗で」

「ひどいぜ……」

「まぁそう気を落とすな。確かに冗談のキレはイマイチだが、お前の斬山刀の切れ味はなかなかのものだぞ」

「そうですよ。斬山刀はすごいですよね。斬山刀は」

「斬山刀丿極とかヤバイわ。冗談の質と同じぐらい」

「……それ、猪々子は必要あるのかや?」

「くっそぉぉぉ!!みんな嫌いだぁぁぁぁ!!」

 

キラキラと輝く滴を残しつつ、走り去る。

 

「うわッ!?」

 

そして途中で消えた。おそらく桂花が掘った落とし穴だろう。

 

「落ちたの(確信)」

「あんな見え見えな落とし穴にかかる人なんて居たんですねー」

「勘違いするな。猪だ」

 

「うえぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇん」

 

「やりすぎたっぽいなぁ。穴の中からガチ泣き聞こえてきた」

「トドメを刺したのは桂花さんですよね?私たち悪くないですよね?」

「クズやなぁ……。ま、とにかく慰めに行かなな」

「穴をのぞき込んだ瞬間斬山斬……」

「ひゅい!?わ、わらわは絶対に行かんぞ!」

「元から私が行くつもりやから」

「がんばってくださいねー」

「私も行こう」

「いや、かゆうまはうっかり追い打ちかけそうやからええわ」

 

すっかり空気になってしまっている沙和の心配そうな視線を背に、落とし穴に近付く。「のぞき込んだ瞬間斬山斬」を警戒しているわけではないが、いちおう、手前で声をかけておく。

 

「猪々子、私らが悪かった……」

「ほっと゛いて゛くれよも゛う」

 

上擦った声が返ってくる。「放っておいてくれ」と言われた場合の対処法は二つ。部外者なら素直に放っておく。当事者なら一気に間合いを詰めることだ。今回は当然後者。雰囲気的に斬山斬も来なさそうだし、ここは大胆且つ繊細にキメる。二股リア充の実力を見るが良い。

 

「猪々子」

「何だよ!ほっといて゛くれって言ったじゃん……か……っ!?」

 

決まりました。自分も穴に入って抱擁。怒りより戸惑いが勝ってしまって言葉につまる。ポイントは強く抱きしめ過ぎないこと。

 

「みんな、猪々子がかわいいからついやりすぎてまうんや……」

「…………」

 

すかさず甘い言葉。心の底から嫌われてると、「キモい」で一蹴されてしまうが、猪々子はそんな娘じゃない。

 

「許してくれんか……?」

「……………………しょう がねぇなぁ……次から気をつけ てくれよ」

 

ところどころ詰まりながらも猪々子らしい許しの言葉をもらった。チョロイン。

 

「レイ姉、息が 整うまで……こうしてても良 いか?」

 

言葉は無粋。抱く力を強めることで応える。一度雰囲気を作ってしまえば、クサすぎるぐらいで丁度いい。

 

「なぁ……。さっき、みんなあたいがかわいいからやりすぎるって言ってたじゃんか……?」

「うん……」

 

これは……「レイ姉も、あたいのことかわいいって思ってんの……?」→「当たり前やん」→「そっか……///」→二人は幸せなキスをして終了。 の流れですね分かります。

 

「じゃあやっぱり、あたいの冗談が面白くないってのも、愛情の裏返し?」

「いやそれはホンマにおもんない」

 

_人人 人人_

> 突然の死 <

 ̄Y^Y^Y^Y ̄




いつの間にか猪々子が泣いてた。
自分で書いていて自分でびっくりしました。

沙和は後半で活躍します多分。
本当は前半からじゃんじゃん活躍するつもりでした。
七乃さんのせいで会話に入るタイミングを逃したんです。


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第九章拠点フェイズ : 聆(3X)の雑談Ⅱ後半

ハイキングから戻ってきてしばらくしたら
手がめっちゃ痛くなってきました。
どうやら、途中でこけて手をついたときに
どうにかなったみたいです。

アンソロとかでも純粋に猪々子を愛でるネタが殆ど無かったのでカッとなってやった。
出てきただけで特に活躍させてやれなかった沙和と霞には悪いと思っている。


 「猪々子も戻ってきたことやし、仕切り直して――」

「聆さん、まだ首が一周したままですよ」

「おっと失礼。――ヨッと。では仕切り直して……乾杯!」

「「「乾杯!」」」

「そんな……お酒じゃないんだから乾杯はおかしいのー」

「酒やで?」

「えー、何言って……はっ!?茶器がいつの間にか杯に!?」

「すり替えておいたのじゃ!」

 

戸惑う沙和を指さし、ちゃん美羽が渾身のドヤ顔をキメる。

いちおう私がひどい目に遭うことでオチがついたとは言え、一度ガチ泣きしたからには妙な雰囲気になるのは避けられない。だから開き直ってみんな酔っ払ってしまえ、という作戦だ。

 

「酒が飲めると聞いて」

「む、文遠か」

 

どこからともなく霞が現れた。そう言えば、コイツも昼間から酒盛りをする生粋の呑兵衛だ。

 

「あー、んだら、乾杯し直すか?」

「かまへんかまへん。それより、何の話しとったん?」

「ちょっとゴタゴタが有って、さっき飲み直し始めたところなんですよー」

「へー……で、そのゴタゴタって?」

「いや、別になんでもないぜ?」

 

ごまかすのが下手くそすぎる。表情も顔色も声も全部が不自然だ。これ程まで挙動不審になる方が逆に難しいだろうに。

 

「はっはーん、猪っちーが何かやらかしたんやな?」

「そーなのー。あのねー、猪々子ちゃんがあんまりにも寒い冗dヒッ!?」

「言ったら二目と見れない顔にしてやっからな??」

「わ、わかったの……だから早く斬山刀をしまってほしいの……」

「ほぅ……流石は元馬賊だな。中々様になっているではないか」

「無粋じゃのう。酒の席に武器を持ち出すなど」

 

葡萄酒に蜂蜜を溶かしたもの……いや、正確には蜂蜜に葡萄酒を混ぜたもの(?)を飲みながら、ちゃん美羽が呆れたように呟く。……孫策以外のことに肝座り過ぎだろ。

 

「えー?で、結局、何が有ったん!?」

「まぁ、要するに猪々子かわいい。そーゆーこっちゃ」

「ああ、なるほどな。確かにかわいいなぁ」

「やめろよーー!」

「何も恥ずかしがることはない。実際かわいいのだからな」

「そういう冗談いらないってばっ」

「いえいえ。猪々子さんはお嬢様の次くらいにかわいいですよー」

「うむ。そなたの可愛らしさは妾が保証してやるぞよ」

「うんうん。猪々子ちゃんかわいいのー♪」

「やめてよぅ……」

 

顔を真っ赤にして俯いてしまう。これはかわいい。

 

「なんてこと……かつてないほどの美少女臭に釣られて執務室を飛び出してみれば………おバ会じゃないの!?」

「あ、華琳さん」

「聆!貴女この辺で、言われ慣れていない賞賛に恥じらう姿がステキな、そうね、天の言葉を借りるなら『どストライク』な美少女を見かけなかった!?」

「何言ってるんですかー。目の前に居るじゃないですか」

「……?だって、ここにはバカと飲んだくれしかいないじゃない!」

「え?その中に沙和も含まれてるの……?」

「よく見るのだ曹操よ」

「よく見るって言ったって………………っ!?」

 

華琳は一点に目を止めると、尋常じゃない速さでそこに詰め寄った。もちろん猪々子だ。

 

「…………」

「〜〜〜〜ッ!!」

 

顔をのぞき込まれて、もとから赤かった顔がさらに赤くなる。

 

「まさか袁紹の二枚バ看板の片割れがこれ程の素質を持っていようとは………。ねぇ、貴女今夜ねy」

「華琳様ーーー!!華琳様ーーーー!!!!」

 

割と近くから桂花の声が聞こえてくる。突然どこかに行った華琳を探しに来たのだろう。

 

「チッ、潮時のようね……」

 

その声を聞き、華琳は悔しそうに舌打ちして去っていった。

 

「何だったんだアレは……」

「ちょっと様子がおかしかったのー」

「華琳さん、最近仕事詰めでちょい参っとんや」

 

ちなみに禀、秋蘭、桂花もちょっとおかしくなっている。風は分からん。

 

「ああ、劉備戦は被害が大きかったからなぁ。それやのうても、強行軍のせいでウチの隊も何人か道中に置いてけぼりになったし」

「それに、何の獲得もない純粋な防衛戦だったからな。兵や臣への報奨を捻出するのに苦心しているのだろう」

 

そう言えば、防衛戦は初めてだったかもしれない。鎌倉幕府も元寇の防衛の後始末のせいで滅びたって言うし、大変な仕事だ。そんな中私たちは呑気に酒盛りをしているワケだが……。まあ、自腹切ってるから良いだろ。

 

「それに西涼のこともありますからねぇ」

「あれ?それは降伏勧告の遣いを出すってウチは聞いとるけど、他にも何かするん?」

「馬騰は硬派な武将やからなぁ。多分戦うことになるやろってことで、予算組みやりよんねん」

「それって七乃っち参加せんでも良えん?軍師やろ?」

「私はまだあんまり信用されてませんからねー。今回のように先の事を決めるときには呼ばれないんですよ。せいぜい小規模の軍の指揮と緊急の作戦立案ぐらいですねー」

「軍師にもいろいろあるのだな……。それはそうと、さっきの文醜、なかなかのものだったな」

「はっ!?なんでまたぶり返すんだよ!?」

「いや、曹操から顔を背けたお前の顔がこっち向きだったのでな。目に焼き付いたのだ」

「話しとかな落ち着かん、と?」

「まあそういうところだ」

「なんだよそれぇ……」

「あー、もう、アレやな。凪と並べて可愛がりまくったら楽しそうやな」

「それは私も思ったわ」

 

そのうち二人の間で、かわいいって言われるのを押し付けあって「いや、私なんかより猪々子殿の方が可愛いですよ!」「何言ってんだよ!凪の方がかわいいじゃんか!!」みたいなことを言い合った挙句よく分からない空気になって結局二人とも俯いてしまうのが目に見えるようだ。

 

「それ採用なの!」

「で、凪は何処かや?」

「凪さんは残念ながら討伐に向かってますよー」

「はぁ……。ってことは保留かぁ………。あ、凪戻ってったら今度はウチが出る番やん!?くっそぉぉぉ!!」

「じゃあその後はどうだ?」

「霞ェの次は私や」

「じゃあ、それはナシってことだな!」

 

助かったとばかりに、猪々子が元気になる。

 

「あー、まぁ、しゃあないなぁ……」

「良かったー!」

「その代わりに今ここで存分に可愛がるとしよう」

「…………ッ」

 

あ、逃げた!

 

「うわッ!?」

\ズボッ/




初めは、
美羽様可愛い
  ↓
聆には可愛げが足りない
  ↓
可愛い服を着させるのー!
  ↓
やめろぉ!
っていうネタを考えていました。
まぁ、猪々子が可愛かったし、十章につながる話もできたので
これはこれでいいですかね?


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第九章拠点フェイズ :【荀彧伝】続・人を呪わば穴二つ その一

スーパーのお惣菜のお寿司が美味しいです。
イカやエビまでちゃんと美味しくて感動しました。

昨日のは無かったことです。
酔った状態でものを書くといけませんね。


 「では、これより おりえんていりんぐ妨害者会議を執り行う」

 

日が沈んでしばらく経った頃。

秋蘭の音頭で会議が始まる。

メンバーは、秋蘭、桂花、風、禀、流琉、七乃、真桜、そして私だ。

議題は、数日後に行われるオリエンテーリングの妨害について。

妨害と言っても、オリエンテーリングを中止にさせようというアレではなく、競技者の行く手を阻むギミックとしてのものだ。ちなみに、妨害者にはちゃん美羽も居るが、もう おねむの時間らしい。

 

「でも、また酔狂なことをしますねー。やっと戦の事後処理が落ち着いてきたと思ったら天の国の催し物なんて」

「あの色欲魔神が言い出したことよ。まぁ、軍事訓練としては割と使えるみたいだし?実験よ。実験」

 

ことの発端は、子供の遊びを山賊と間違えて緊急出動要請が出たことだ。まぁ、その内容は関係ないのだが、山の中に入ったことで林間学校のオリエンテーリングをふと思い出したらしい。それが華琳の耳に入り、新しいモノ好きが発動した、というわけだ。

 

「んだら、先ずは今回のオリエンテーリングの概要をサラッと言うとくか」

「分かってないバカなんて、幸いこの中には居ないと思うわよ?」

「お嬢様のことかーーー!!」

 

私の発言に噛み付いた桂花に、さらに七乃さんが噛み付いた。うーん、ちょっとバ会のノリを引きずってるのかもしれないな。素かもしれないが。

 

「もしかしたらおるかもしれんし、先にこれやっといたら話し合いやすいやろ?」

「無視はひどいですよぅ」

「ごめんあまりの迫力についついな。私の中の野生の部分が囁くんや。『これはねえ、やっぱり狂ってますよ。この人は。顔見てご覧なさい。目はつり上がってるしね。顔がぼうっと浮いているでしょ。これキチガイの顔ですわ』ってな」

「……随分と落ち着いた野生ね」

「少々言葉が悪いが……ふふ、気の良えジィさんやで」

「話が進まないから、そろそろ、いいか?」

「すみませーん」

「誠に申し訳なく思っております今回の件を真摯に受け止め再発防止

に取り組み今後の行動によって信頼の回復に努めさせて頂きます本当

に申し訳ございませんでした」

「あ、それウチらが大将の仲間になってすぐぐらいの時に言うとったやつやんな。懐かしー」

「それ風も聞いたことありますー。一時期兵の間で流行ったらしいですねー」

「ああ、報告漏れを注意した時なんかに急に流暢になる者が偶に居ると思ったら……聆殿の影響だったのですね」

「……そろそろ、いいか??」

 

秋蘭が再び問う。多分に怒気を含ませて。

 

「誠に申し訳なく思っております今回の件を真摯に受け止め再発防止に取り組み今後の行動によって信頼の回復に努めさせて頂きます本当に申し訳ございませんでした」

「誠に申し訳なく思っております今回の件を真摯に受け止め再発防止に取り組み今後の行動によって信頼の回復に努めさせて頂きます本当に申し訳ございませんでした」

「誠に申し訳なく思っております今回の件を真摯に受け止め再発防止に取り組み今後の行動によって信頼の回復に努めさせて頂きます本当に申し訳ございませんでした」

 

うおぉ……エンジニアと軍師ーズ暗記力すげぇ……。

 

「…………」

ダンッッ

「堪忍な」

「すみませんでしたー」

「申し訳ない」

 

氣を放出させながらの卓ドンでやっと静かになる一同。あれ?バ会と同レベじゃないか?

 

「おほん……じゃあ、内容については私から」

 

いやに気取った態度で桂花が切りだす。

 

「まず、相手方……競技者は。季衣、凪、沙和、バカ、馬鹿、莫迦、そして精液よ」

 

残念ながら、遠征のため霞は欠席である。

 

「開始時間は四日後の辰の刻。終了は、基本的には全員が何らかの形で競技を終了すること、だけれど、華琳様が飽きればそこで試合終了よ。競技全体は点数制で行われるわ。ごーる……つまり最終目的地ね。そこに最初に到達した者には十点。三つ有るちぇっくぽいんと……中継地点に最初に到達した者にはそれぞれ五点が与えられるわ」

「なるほど……。つまり、勇んでごーるに一番乗りしても、二つ以上のちぇっくぽいんとを墜とされていれば同点になってしまう、と」

「おりえんていりんぐのるーるも本来ちぇっくぽいんとを通らないといけないものだしね。まぁ、一部のバカ共はそんなこと無視してごーるに殺到するでしょうけど」

「同点の場合の判定はどうするのですかー?」

「華琳様の審判となるわ」

「これ、仲間割れ有るでぇ……」

「ふふ。そうよ。だから二番以下には得点を与えないの。それと、各地点への到着は競技者それぞれに対応した色の狼煙で知らせることになっているわ。桃色が季衣。黒が凪。緑が沙和。白が精液。バカ共にはそれぞれ赤、黄、青を振り分けているけれど、……これらが使われることはないでしょう。気にしなくて良いわ」

 

バカをバカにし過ぎだろ……。

 

「そして、これが当日バカに……競技者に配布される地図よ」

「ふむ……」

「うーん……?」

「これは……」

 

一つの点と、三つの円、一つの赤い点そしていくつかの線が描かれた、圧倒的に白い紙。それぞれ、スタート、チェックポイント、ゴール、等高線を表しているのだろうが……。

 

「……少し難しすぎないか?」

「嘘は描いていないのよ?」

「いやぁ、情報が少なすぎるやろ……。これ、私でも難しいで」

「そうですねー。これだと、地形の高低だけで場所を判断しなければならないのですよー」

「しかも、その基準になる線も随分と荒いですしー」

「手直しが必要ですね。目印となる物を……例えば目立つ大木とかを描き加えたらどうですか?」

「……そうかしら、………はぁ、まぁ、仕方ないわね。それは出来次第また見せるわ。……次に、いよいよ妨害方法を決めるわけだけれど……。これが詳細な地図よ。あと、石と指し棒」

 

急に本気だ。地図も机いっぱいになるほど大きく、そこに細やかな情報が見辛くならないように上手く書き込まれている。さっきの地図では分からなかったが、どうやら道なりにジグザグに進んだ曲がり角付近にそれぞれのチェックポイントが有り、ゴールとスタートを結んだ直線は、だいたいその道を横切って進むようだ。スタート直後とゴール直前には、道が重なっているところも有るが。

 

「なるほど……。考え無しに直進すると道なき道を進むことになるのですか」

「それで、妨害だけど、"できるだけ"怪我人が出ないように、とのことよ」

 

できるだけ、の部分に力を入れて言う。ああ、これ一刀さん殺す気ですわ。

 

「仕方ありませんねー……。春蘭さんを止めようと設置した罠では一刀さんは大怪我しちゃいますでしょうし」

「お兄さん、脆いですからねー……。不思議と死なないのですけど」

「その罠のことなのだが……私はどうすれば良い?あまり得意ではないぞ」

「あ、私もです。秋蘭様」

「直接攻撃で良いわよ。そうね……流琉はこの辺り、秋蘭はこの辺りで待機しておいて」

 

それぞれスタート付近とゴール付近の開けたポイントを指す。戦略的には、ゴール前に二人配置が良いのだろうが、それではムリゲー過ぎる。さっきの地図とは違って丁度いい判断だ。

 

「あと、聆にも直接攻撃ででてほしいのよ」

「ムリヤナ(・×・)」

「聆さんの戦いって大怪我しますもんねー。主に聆さんが」

「否定はせん。やから罠に廻るわ」

「そう。なら、罠を仕掛けるのは私、聆、風、禀、真桜、七乃ね。罠の基本方針だけれど……」

「待っていただきたい。確かに、罠に嵌めるという点では、基本方針を決めて連鎖反応的に畳み掛けるのは有効ですが、いかんせん彼らの半分は我々とは全く異なる思考回路を持っています。考えの通りに事が運ぶとは思えません。ここは一つ、各々の担当範囲だけ決めて、後はそれぞれの自由にするのはどうでしょうか。多様な罠によって、『嵌める』のではなく、『引っ掛ける』のです」

「おお〜、禀ちゃんが輝いているのですよ〜」

「ウチ、ただいやらしいこと考えて鼻血出すだけの人やと思とったわ……」

「私も『鼻血の人』って思ってましたよー。むしろ、『禀』って名前、初めて知りました」

「あなた達……」

「んだらまず、直進経路と、チェックポイント通過経路の二つに大分されるな」

「そうね。バカとそれ以外ね」

「うーん、季衣ちゃんは直進すると思うのですよー」

「ああ、ボクっ娘、春蘭様にべったりやもんな」

「逆に猪々子さんはちぇっくぽいんとにちゃんと行きそうな気がしますねー。博打好きですけど決まりは守る人なので」

「ま、つまりは考え無しの力任せな者が直進するワケよ。それでわかるように、直進経路の罠は一定以上の威力と耐久性が求められるわ」

「逆に、とにかく力押しで来るやろから隠蔽工作と精密性は適当でも良え、と」

「そう考えると、この交差点付近は真桜に担当してもらいたいわね」

 

桂花は、地図上に二つ有るバカルートと常識人ルートの交差点をそれぞれ一度ずつ指して言う。

 

「精密性と威力の両方が求められる所よ。お願いできるかしら」

「まっかせとき!!完璧な罠で全員仕留めたるわ!!」

 

目を輝かせて大声で答える。期待の言葉のおかけで職人魂に火がついてしまったようだ。

 

「相手が死なんように気ぃつけぇよ?」

「じゃ、私はちぇっくぽいんと付近、貰ってもいいですか?」

 

と、ここで七乃さん。

 

「できるの?ちぇっくぽいんとは競技者が特に注意深くなる所よ?」

「だからこそ、ですよー……」

 

黒い笑み。さすが恋姫唯一の純粋な悪人と評されるだけある。Sとかいじめっ子とか、そんな次元じゃない陰湿な罠が仕掛けられることだろう。

 

「あと、私はちぇっくぽいんと経路の道中をやりたいと思ってるのだけど、構わない?」

「いいのですよー」

「ええ。構いません」

「んだら、私と風さんと禀さんでバカの相手やな」

「ええ。特に聆はバカに詳しいし、期待しているわ」

「直進経路はちぇっくぽいんと経路によって三区画に分かれますね……。聆さん、最後の所をやっていただけますか」

「おお。ええで」

 

何か禀は私に対してめっちゃ下から来るなぁ。

 

「じゃあ風は真ん中をもらうのですよー」

「それでは私は最初、と。……これで決まりましたね」

「ええ。設置は三日後、おりえんていりんぐ本番の前日よ。集合時間は卯の刻。設置後の全体的な調整は私がやるから、作業終了後、罠の詳細を私に伝えるのよ」

「うぃ」

「はーい」

「了解しました~」

「分ったで」

「了解」

「分かりました」

「……このおりえんていりんぐ訓練実用化実験が意義あるものとなるかは皆の頭脳に掛かっている。存分に知恵を振るうように。以上、解散」

 

かくして私はバカ対策の大トリを務めることになった。

バカは打撃に強いし、網も引き千切られてしまい、割と意味がない部類だ。……かと言って刃物で傷つけるのは嫌だ。怪我の苦しみは私が一番よく分かっている。ぬるい罠では軍師ーズに文句言われるだろうし。さて、どうしたものか……。




――組分け時――
美羽様「妾も競技者になるのじゃ」
七乃サン「でも山の中を歩き回ったり罠を避けたりしなきゃいけませんよ」
美羽様「やっぱり妨害者になるのじゃ」


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第九章拠点フェイズ :【荀彧伝】続・人を呪わば穴二つ その二

美鈴とシャーリーが好きです。

関係ないですが左目が超痛いです。


 俺が華琳にオリエンテーリングの話をしてから数日後。

桂花を中心として計画は練られ、軍事訓練用オリエンテーリングが開催されることになった。

 

「おーし、みんな集まったなー」

 

聆がスタート地点に集合したメンバーを見渡しながら声をかける。主催者の華琳と桂花はゴール地点で待っているらしい。妨害者たちもそれぞれの持ち場へと散った。ここに居るのは競技者、詰まるところ、バ……活発な娘たちだ。先程からガヤガヤと好き勝手おしゃべりしている。

明らかに俺だけ体力不足なんだけど……。それに、もちろん妨害は武将基準で作られているわけで……学校のオリエンテーリングのようなレクリエーション気分ではやっていけないのは明らかだ。今回の訓練のきっかけを作った者として感想を聞きたいと華琳に言われてしまったので、サボるわけにもいかないし。

 それに、その不安に更に拍車をかけるのは城から出発する時に桂花に言われた一言。

――覚悟することね――

まるで死刑宣告でもするかのような口ぶりだった。いつものような挑戦的な態度ならまだマシなんだけど、今回に限っては、もう既に勝ったって言うような態度だし……。

 

「決まりはもう分かっとるやんな。チェックポイントを通ってゴールに早く着いたモンが勝ちな。んだら、地図配るで」

 

現代の地形図に似た地図に、スタートとゴール、そして黒い円でチェックポイントが隠されている範囲が示されている。ゴールは斜面を登った上側。そして、蛇行して山を登る道の折り返し地点付近にそれぞれのチェックポイントがあるようだ。……道、と言っても、この辺の道は実は相当古いものでほとんど獣道と化し、所々途切れているのがここまで来る間に分かっている。黒円の範囲も地味に広いし、地図の裏に書いてあるヒントが頼りだ。

 

「ちなみに、優秀な結果を残した奴には華琳さんからご褒美があるらしいから」

「なに!?こうしては居れん!!出発だ!!」

「春蘭さんちょい待ち!準備が整ったらゴールから狼煙が上がるはずやから」

「あれ、そう言やレイ姉は準備しに行かなくて良いのか?」

「ああ、そう言えばそうだな。聆もディフェンスだよな」

「直接攻撃はせぇへんし、手動の罠も仕掛けとらんからな。脱落者の回収でもしながらゆっくり行くわぁ」

「嵬媼自ら手を下すまでもない、と……?ふん、なめられたものだ」

 

いや、それよりももっととんでもないことが……「脱落者」とかサラッと言ってたんですけど。

 

「お、準備完了やな」

 

ゴールの方角に狼煙の煙が見える。

 

「んだら、オリエンテーリングを開始する」

 

……とりあえず、生き残ることを考えよう。

 

「位置について………行ったれドンドコドーン」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!」

「……………ッッ!!」

「あっ、待ってくださいよ春蘭様ー!華雄さーん!!」

「おっと、こりゃ、あたいもぼさっとしてらんねぇな!!」

 

聆の号令と同時に、猛然と走りだりて行くのは春蘭に華雄。続いて季衣と猪々子だ。さすが、魏が誇る猛将四人。あっという間に最初の直線を抜け曲がり角に……差し掛かっても曲がったのは猪々子だけで、他の三人は森に消えていった。

 

「あーあ、やっぱルール分かっとらんかったか……」

「そうだな。明らかにゴールに直進しようとしている」

 

凪と聆がやれやれ、と肩をすぼませる。

 

「でもでも、沙和たちも急がないと負けちゃうよぉ」

 

春蘭たちのあまりの勢いに焦りだす沙和だったが――。

 

「なっ、なんだっ!?うわあああああぁぁぁぁっ!」

「春蘭様っ!?華ゆっ……こっちもーーーっ!?」

 

遠くから悲鳴が聞こえてくる。

 

「よぉ気ぃつけんかったらああなるんや」

「だ、そうだ」

「慎重さが要求されるというわけですね」

「さ、沙和、ゆっくり行くの……」

「その方が良さそうだな。じゃ、行こうか」

 

実質、魏軍を二つに分けた力比べとなっているオリエンテーリングが始まった。

 

「いってら〜」

 

聆の気の抜けた声を背に歩き出す。くそぅ……。俺も妨害に回れば良かったよ……。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「さてと……いったいどんな試練が待ち受けてるのやら。気を引き締めて行かなきゃな」

「はい」

「沙和、隊長たちには負けないのっ」

「まあ、そう言うなって。ここはみんなで協力していこう。だって考えて見ろよ。罠を仕掛けたのはあいつらだぞ?」

 

その絡繰で何度も戦を勝利に導いた真桜を筆頭に、今回はやたらと自信満々の桂花。思いもよらない戦術で勝利をもぎ取ってきた聆。未だ人物像を掴みきれない風などなど……。正直、バラバラに行くと誰もクリアできないと思う。

 

「……そうですね。これはもう、脱落するかしないかの戦いです」

「うん、いっしょにいくのー……」

「よし。そうときまれば――」

「待ってください!」

 

そろそろ件の曲がり角に差し掛かるという時に、凪が静止をかけてきた。

 

「凪ちゃん、どうしたのー?」

「……この曲がり角の先で、戦闘が起こっています。……恐らくは猪々子殿と流琉かと……」

 

曲がり角の方にに目をやるが、密集した木々のせいで様子が窺えない。

 

「うーん、武器がぶつかり合う音もしてな――」

ズバァッッ

「……」

「…………」

「………」

「うん。今、すっごい光が見えたの。これ、戦ってるの」

「迂回しますか?」

「いや、このさい仲間は多い方が良い。加勢しよう」

「分かったの!」

「そうと決まれば早く駆けつけるぞ!」

 

ここはもう春蘭たちが走り抜けた後だ。罠は無い。

角の先では凪の予想通り猪々子と流琉が武器を構えて睨み合っていた。……少し楽しそうに。

 

「……これは、声かけちゃダメなやつだな……」

「そうですね。武人としての誇りある一戦のようです」

「早速目的を見失ったか……」

「でも楽しそうなのー」

「仕方ない。邪魔しないように、静かに横をぬけるぞ」

「はい」

「はいなのー」

 

決闘を行うため競技放棄で文醜脱落。残り競技者六名。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「くくく……全て上手く行っているわね……。森の中から悲鳴が聞こえてくるし、斬山斬も見えるから、猪々子も狙い通り戦闘に夢中になっているわ」

 

ゴールの広場。桂花は文字通り高みの見物をしていた。

 

「この分なら今頃あの男も………。そうよ、あの変態色欲淫猥魔伝なら"アレ"に必ず引っ掛かるわ。その間抜けな姿を見た華琳様はきっとあの男への過大評価を改めて下さるはず。これまでの私の屈辱、思い知るが良いわ…………くくく……ふひひっ…ひはははははははは!!!」

 

小物臭い笑い声を出しても何ら問題無い。華琳はゴールで待つのが思いの外暇だったので眠っていたのだ。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……これって落とし穴、だよな?」

「そうとしか見えませんが……」

「あくまでも消去法で、なのー……」

 

俺達の前にあるのは、多分、きっと落とし穴。

今回のオリエンテーリングでは、ルートの至る所に罠が仕掛けてあるらしいから、落とし穴くらいあっても不思議はないんだが……。

 

「これは……」

「意味不明過ぎて逆に恐ろしいですね」

 

落とし穴に有るべき、小枝や木の葉での擬装工作が一切無い。半端な大きさで、半端な深さの穴がただそこに有る。しかも、その中には……。

 

「……下着ですね」

「どういうことなの……」

「これはひょっとしてギャグでやってるのか!?」

「周りに本命の罠が有るわけでもないですし」

「もしかして二段構造で、下着を取ろうと穴に降りたら更に落ちるとか……?」

「いえ……穴の掘り跡からして、細工はされていないでしょう。もしかして、この下着がこの先の罠を突破するための鍵になっているとか……」

「下着がねぇ……。とりあえず、回収だけはしておくか」

 

俺は穴の中から下着を拾い上げる。

 

「隊長〜、それちょっと変態っぽいの」

「変態っぽいとはなんだ!可愛らしい下着じゃないか!?」

「違うの。隊長が変態なのー」

「変態じゃないって!本物の変態は下着を頭にかぶるんだ。俺は被ってないだろ?」

「よく分かりません。天の国ではそうなのですか?」

「まぁ、そうだ。……はっ!?もしかするとこの罠の目的はこうやって無駄話をさせて時間を稼ぐことなのかも……!?」

「な……!?なるほど!!」

「じゃ、じゃあ早く行くの!まんまと嵌まっちゃったのー!」

 

おのれ下着!恐ろしい罠……!!

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 鬱蒼とした森の道を一人で歩く。私は、一刀たちを送り出してしばらくしてから歩きだした。猪々子と流琉の戦いは、私が通り過ぎる頃丁度「なかなかやるじゃねぇか」「そちらこそ」のテンプレ的掛け合いをしていた。あとそれぞれ一回ずつぐらい見せ場があって、何かのどんでん返し的な展開で決着するだろう。多分。まぁ、あまり長居して巻き込まれてもつまらないから見物はしなかった。道なりに進んでいくと、解除された罠や、残念ながら不発に終わった罠などが散見される。桂花が担当したエリアだが……なんだろう。真桜と真逆だ。質も威力もお粗末。これでよくあんな自信満々でいられるものだ。と、遠くに、うずくまる人影が。まさかの脱落者か!?

 

「おーい、どなしたん?」

「あ、聆さーん!」

 

と、帰ってきた声は七乃さんのものだった。次第にその様子がよく分かってくる。なんと足元にはちゃん美羽が大の字に横たわっていた。

 

「お嬢様がですね……競技者にちょっかいをかけたいとおっしゃってここまで来たんですけど、急にこうなっちゃってー……」

「妾は疲れたのじゃ。もう一歩も歩かんぞ!」

「……負ぶればええやん」

「私にそんな体力ありませんよー。山道で、場所は知ってるとは言え罠まであるのにぃ」

「はぁ。んだら私がやるわ。ほら、美羽様」

「うむ。くるしゅうない」

 

背中にゆるりと重みがかかる。………え?何このいい匂い。

 

「じゃあお嬢様、ごーるに戻ってお昼寝しましょうか」

「何を言っておるのじゃ七乃よ。このように妾の疲れの問題は解決したのじゃから妨害の続きをするに決まっておろう!」

「えー、でも、もう見失っちゃったじゃないですかー」

「今だいたい一個目のチェックポイント辺りちゃうん?」

「だったらなおさらほっとかないと。あの辺りはヒドイですからー……」

「なら追い打ちをかけてやるのじゃ」

「ダメでーす。あそこに行ったらお嬢様ぜーったい、『もういやなのじゃ〜!帰りたいのじゃ〜〜〜!!』って泣き出しちゃいますもん」

「……そんなにか」

「割と本気出しました」

「うむむ……じゃあ、先回りして待ち伏せなのじゃ。早く行くぞよ!」

 

背中のお姫さまに急かされて駆け出しながら思う。これは、本格的に競技者にならなくて良かった、と。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 山道をぬけると地獄だった。

俺たちは今、第一チェックポイント付近に居る。地図の裏によると、人の顔っぽい岩が第一チェックポイントらしい。その近くに狼煙を上げるための道具が入った箱が有る。

 

「隊長、それらしい岩、ありばしたか」

「いや、こっちでぃはだいだー……」

 

俺も凪も不自然な発音で会話する。漂う腐臭を避けるために鼻をつまんでいるからだ。

 

「ギャーーー!!だんかブリュッとしたどふんざったどーー!!」

 

沙和の足下から何かの内蔵っぽいものがのぞく。けど俺も凪も特に驚かない。見慣れてしまったからだ。なんと、この辺りには夥しい数の何かの死体が散乱していた。もう、罠でも何でもない。ただの嫌がらせだ。最初こそ俺と凪も沙和みたいに驚いてたんだけど、もう、何か、疲れてしまった。

 

「あーー!あったど!顔っぽい岩!これでこどくっさいところからおさらヴぁできうどー!!」

 

沙和の声のする方をみると、確かに顔っぽい岩が有った。一目散にそれに駆け寄る沙和。

 

「……!?沙和!あぶだい!!」

 

凪の声が届く頃にはもう遅かった。沙和が振り向くのと、足元が崩れるのとは同時だった。

 

汚物の沼に叩き込まれ于禁再起不能。残り競技者五名。




沙和はおしゃれポイントが下がりすぎると死んでしまいます。
飼うときは十分に気をつけましょう。

やばいですね。迷走気味ですね。


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第九章拠点フェイズ :【荀彧伝】続・人を呪わば穴二つ その三

周りにインフルエンザの人が増えてきました。
でも作者は頑張って予防接種を受けたので救われるはずです。
だってそうじゃないと理不尽じゃないですか。

そして又操作ミスと言うね……。


 「あら、一刀が最初の目印に到着したみたいね」

「えっ!?そんなはずは……」

 

二度寝から目覚めた主の言葉に、桂花は愕然とする。第一チェックポイントの方角に目を向けると、確かに一刀の到達を表す白い狼煙が上がっていた。

 

「うそ……私のあの罠を突破したというの……。ま、まあ良いわ。アレは三段の内の一つに過ぎない。それよりも七乃よ!あれだけ自信満々だったくせに、怪人精液まみれの一人も仕留められないなんて!」

 

自分のゴミみたいな落とし穴は棚に上げ、恐らく最も過酷である七乃の罠をけなす。こんなんでも戦略についての才能は抜群なのだから人は見かけによらない。

 

「ところで桂花」

「はい!なんでしょう、華琳様」

 

そして、主の声がかかればすぐさま眉間の皺も負のオーラも消して最高の笑顔を作れるのもなかなか稀有なことだ。だから桂花は無能じゃない。決して無能じゃない。その辺勘違いしないように。

 

「昨日は随分と遅くまでおりえんていりんぐの準備をしていたみたいだけど?」

「えっ……そ、そのようなことは……」

 

華琳は、桂花がこのオリエンテーリングを成功させるために全力を尽くしていたのだと勘違いしているが、その実、下着やその他を穴に埋めるのを見られたくないがために遅くに行動していただけだ。

 

「ふふ、誤魔化さなくても良いのよ。桂花の頑張りはちゃんと見てるから」

 

見ていない。いや、見ているのかもしれないが、ちゃんと見えていない。

 

「……華琳様、私のことを気にかけてくださっているのですね……」

 

今にも昇天しそうな表情でうっとりと呟く。安い女だ。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 四苦八苦の末、やっと一つ目のチェックポイントをクリアした俺たち。俺たち、といっても、一人減ったんだけど。

 

「さぁ、なにはともあれ頑張ろう!さっきのは悪い夢だったんだ!」

「…………」

 

俺の空元気にも、凪は応えてくれない。狼煙の道具一式が入っている箱に仕掛けがしてあり、顔に、蛆が大量に湧いたネズミの死体を叩きつけられたからだ。それから意気消沈してしまっている。道中のつまらない子供騙しレベルの罠にも頻繁に引っ掛かっているしまつだ。

 

「あれ?」

 

凪に話しかけるのを諦めて顔を上げると、見慣れた姿が目に入った。

 

「………?」

「禀じゃないか。なんで道端に座り込んで……」

「………隊長」

「あ、ああ。用心しなきゃな。どんな罠が仕掛けられているか分からないぞ」

「ええ……。もう嫌です……………あんなのは………」

 

こりゃ相当参ってるな。俺と凪は周囲を警戒しながら、禀に近付いていく。一方の禀も、すぐに俺たちの接近に気付き、視線をこちらに向けてくる。

 

「そんなに警戒しなくても、もうこの辺りには罠なんてありませんよ」

「そうみたいだな……」

 

罠が無い、と言うより、全部作動済み、という感じだ。

 

「はぁ。全くあの人たちは……。まさか全部の罠にかかって、全部の罠を突破するなんて」

「それは……まぁ、春蘭と華雄さんと季衣だし」

「あ、季衣なら真桜の、この辺では最後の罠にかかりました」

「え、そうなの?」

 

ふと見ると、禀の足下に直径一メートルほどの穴が開いている。

 

「ア、ニイチャーン?」

 

そして穴の中から季衣の声。

 

「って、随分反響したような声だけど……」

「ええ。のぞき込んでも季衣の姿が見えないほど深いですからね」

 

……真桜本気出しすぎだよ……。

 

「それで、禀は座り込んだまま何をしてるんだ?」

「別に何も。私には武の才が無いですからね。用意していた罠を壊されてしまっては――」

「……っ!!」

 

とっさに身を退く。さっきまで俺が立っていた地面から網が飛び出し、木にぶら下がってゆれた。

 

「――このように一刀殿に気付かれる程度の急造の罠を仕掛けることしかできませんから」

「……はは……そっか……じゃあもう行くよ……」

 

思わず乾いた笑いが漏れる。……軍師恐ぇ………。

 

「ご武運を」

「ガンバッテネニイチャーン」

 

これ、まだ半分行ってないんだよな……。並みの戦場より緊張してるよ……。

 

罠により許緒行動不能。残り競技者四名。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「どう思う?」

「……やっぱり、落とし穴なのでしょうか?」

「そうかなぁ、そうだよなぁ……」

 

俺たちの前にあるのは落とし穴。落とし穴ならこれまでもいくつか有った……それも、そのせいで二人ほど犠牲になったし、驚くようなことじゃないけど――。

 

「雑だな」

「……これを作った人は多分いい人ですよ。他の罠のような意地悪さが有りませんから」

 

凪がそう言うのも無理はない。カモフラージュが雑で、見つけて下さいと言っているようなものだ。

 

「きっと人を騙したことがないような人なんですよ」

 

ちょっと凪のテンションがおかしいのが気になるが。

 

「初めに見つけた落とし穴と似てるな」

「……そうですね。何か入っているかもしれません」

「開けて見るか」

 

落ちていた木の枝を使って、落とし穴を隠して……いや、塞いでいた小枝を取り除いてみる。

 

「……………」

「……………」

 

俺と凪は穴の中をのぞき込み、そのまま思わず顔を見合わせてしまう。

 

「艶本だな」

「艶本ですね」

 

穴の中に置いてあったのは、一冊の艶本。さっきの下着に続き、妙なチョイスだ。この落とし穴を掘った人間は、一体……。

 

「あ、そう言う事か……?」

「隊長、どうしたんですか?」

 

低質な罠、それに、変なものを入れておくような人間に、俺は一人だけ心当たりがある。と言うか、これ桂花だろ。全く、アイツは学習というものをしないのか?俺がこんな罠に嵌まるわけがない。春蘭でもかからないだろ。

 

「とりあえず、この艶本も回収しておくか」

「隊長……」

「違うぞっ!?決して使用目的での回収じゃないからなっ」

「使用って………」

 

うぅ……、凪の視線が冷たい。そもそも、こっちの艶本ってやっぱり中国語で書いてあるから難しくて楽しめない。……勉強頑張ろう。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「美羽様寝てもたんやけど」

「ええ。かわいいですねー。まさに天使ですよー」

 

今、私たちが居るのは、第三チェックポイント手前、髪飾りが吊るしてある 桂花作の謎罠付近だ。

 

「やっぱここまで来るんって結構かかるなぁ」

 

おかげで私の背中でちゃん美羽が昼寝を始めてしまった。……かわいいなぁ。子供が欲しくなってくるんだが。うわ、一度そう思うとどんどん欲しくなってきた。

私、この戦争が終わったらさ……

一刀さんに種付けセックスしてもらうんだ………。

 

「確かに、ここまで来るには時間がかかりますけど、そのおかげでお嬢様が安全にいたずらできますからね」

「……あ、何か凪ェを脱落させる秘策が?」

「そうですねー……。トドメは刺せないかもしれませんが、大分削れると思いますよ。それに、聆さんに分けてもらった"アレ"も仕掛けましたし」

「うわ、エグぅ……」

 

やはりこの娘は恐ろしい。第一チェックポイントでは、放心状態の沙和が救出されたようだし。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……これはまた、酷いな」

「人間性を疑いますね」

 

第二チェックポイントは、根本に穴の有る木で、その穴の中に箱が入っているんだが……。

 

「この辺のほとんど全部の木の根本に穴が掘ってあるっていうね」

「一つ一つ覗いていくしか有りませんね」

「ああ。でも、第一チェックポイントみたいなこともあるだろうから、気を引き締めて行くぞ」

「はいっ!」

 

 

……………

…………

………

……

 

 

 「隊長……」

「……どうした………」

「帰りたいんですが………」

「華琳がそれを許してくれると思うか………」

 

俺たちがグロッキー状態になるのに十分もかからなかった。お馴染みの死体に始まり、気味の悪い蟲の群れ、開けると汚物が炸裂する偽の箱などなど……。

特に俺の精神を抉ったのは上半身だけのウサギの死体だった。「あ、ここはウサギの巣穴か」と、一瞬穏やかな気分になったのも束の間。違和感に気付く。ウサギがぴくりとも動かない。不思議に思ってそっと触れると……。まぁ、後はお察しの通りだ。

凪は凪で、こちらもガッツリやられていた。蛇だ。穴を覗き込むと箱が見える。「ああ、偽箱かもしれないから開けるときは気をつけないとな」と思いながらそれを引っ張ったそうだ。予想外に軽い手応えに、バランスを崩して尻もちをつく。手元を見ると、箱は正面と側面の一部だけの偽物だった。そして穴に目を移すと……。まぁ、後はお察しの通りだ。

穴を覗いて探さなければならない、という状況を利用した避けられない罠の数々。精神力と言うか、このオリエンテーリングへの参加意欲がゴリゴリと削られていった。褒美がもらえるらしいけど、この苦痛に見合うだけのものが思いつかない。とりあえず、コレを仕掛けた奴を一発殴らせてほしい。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「二つ目の目印も一刀が取ったようね」

「そ、そんなっ!?」

「ほら、見てみなさい。一刀の通過を示す狼煙が上がっているわ」

 

桂花はしぶしぶといった様子で華琳の指差す方を見る。確かに、あの忌々しい淫魔の活躍を示す白い煙が細く――いや、途切れた。

 

パアンッッ

「っ!?」

 

そして破裂音。

 

「でかしたわ……七乃」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 同じ頃、森の中。二頭の猪がズンズンと進んでいた。

 

「ふふ……。禀や風もなかなかのものだったが、我らの敵ではなかったな。華雄よ」

「ああ。真桜も懲りずに二度も仕掛けてきたが、恐るに足りず、だ」

「季衣が脱落したのは惜しかったが……」

「なに、経験が足りなかったのだ。奴はまだ子供。これから幾らでも伸びる」

「ああ。そうだ。私も季衣には期待しているんだ。力は私があのくらいの頃とは比べ物にならないくら――

パキッ

――すまん。何かやった。来るぞ」

「分かっている。だが、どんな罠だろ……うが…………??」

「な……っっ!?」

 

この日一番の悲鳴が響き渡った。




避けられない攻撃はルール違反だぜ!
月のアイツらみたいに干されちゃうぜ!


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第九章拠点フェイズ :【荀彧伝】続・人を呪わば穴二つ その死

自分が不幸な時って書くものも不幸な流れになりますね。
何が言いたいって、予防接種の金返せ。


 「ゴホッッガハッ……ゲはっ!!」

「ぐぁぁぁ……ェ゛っゴホッッ」

 

何が起こったのか分からなかった。

罠の起点らしきものを作動させてしまった。

だから、何が起きても良いように武器を構えた。

視界が真っ赤になった。

全てが痛みに塗り潰された。

目に飛び込むのは光ではなく痛み。

聞こえてくるのは、自分と仲間の苦悶の声。

鼻から、口から、痛みが体内に入ろうとする。火の中に投げ込まれればこうなるのだろうか。

いや、体内に火がつけられたように感じる。中が熱い。痛い。

そして、次々に大質量の何かによる痛みの雨が降り注いだ。

次に爆音の嵐。悲鳴も掻き消される。

そこに、魏の誇る猛将の姿は無かった。ただ恐怖した。

感じるものは全てが痛みの世界。

ひたすらに走った。宛もない、何も見えない、聞こえない中、ここから逃れたくて走った。

 

 

魏の猛将を叩きのめしたのは、聆が、とある古い書物で学んだ五胡の秘術……とか、そんな大逸れたものではない。

唐辛子と青竹と丸太。これが地獄の正体だ。

まず、唐辛子粉末がばーっとバラ撒かれて粘膜フルボッコ。次にオーソドックスな振り子罠が、混乱している間に続々と降り注ぎ、爆竹で恐怖に拍車をかける。後は、パニックを起こしたバカが次々に他の新しい罠を作動させて自爆。

麻婆炒飯が思いの外辛かったことの腹いせに思いついた作戦は、見事にドはまりしたのだった。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 パンパンパンパンドゴッッズシャアァァギャアァァァァァァァ

 

「……何か、森の中から聞こえるな」

「それが今、重要ですか?」

「割とどうでもいい」

 

俺たちはもう精神的にボロボロだ。

苦労してやっと見つけた狼煙にも罠が仕掛けてあって、途中で爆散した。「苦労したけど何とかここまで来たな」という達成感も爆散した。体は別に疲れてない。ソレが余計に虚しかった。

 

「ガッッ!?」

 

凪が突然後ろに吹っ飛んだ。足下に、ゴロリと人の頭ほどの石が転がっている。

 

「わっははっ、ドヤ?春蘭様と華なんとかに壊されてもて予備やけど、ウチの絡繰の威力はなかなかやろ!」

「クッ……真桜!」

「うはははーー!!それそれ!どんどん行くで!!」

 

その声と同時に、地面からいくつもの絡繰がニョッキリと顔を出す。

 

「ちょ、ストップ!ストーーップ!!」

「すとっぷ?知らん言葉やなぁーーーっ」

ズドドドドドド

「ちょ、こんなの当たったら死んじゃうだろっ!」

「やから当ててないやんかー。……今はな」

「そのうち当てる気!?マジで!?」

「試し撃ち試し撃ちー」

ドカンッッ

「…………っ!」

「……?」

 

ついにヤバイのぶっ放してきた、とうずくまった俺だったが、どうやら様子がおかしい。恐る恐る顔を上げると、なんと、真桜の周りの絡繰が壊れて破片が散乱していた。

 

「……楽しそうだな………真桜…………」

 

倒れていた凪がゆらりと立ち上がる。いつもの三倍くらいの氣を纏って。

 

「わたしにも試し撃ち……させてくれないか?」

「ちょ、ま、ヤバイヤバイ!隊長!!アレどないかせなヤバ……って、もう居らん!?」

「まずは命中率の確認からだ」

「ちょ、待って待っ―――」

 

 

ギャァァァァァァァァ

 

「すまない真桜。今の俺にはお前を庇えるほどの心の広さは無いんだ……」

 

真桜の悲鳴を背に、チェックポイントを目指した。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「とうとう競技者は俺一人か」

 

凪は真桜に肉体言語で説教するのに忙しいし、春蘭と華雄は……あの悲鳴と騒音だ。きっと何か重大なことが起こったに違いない。それに、あと一回のチェックポイント鬼畜罠と、秋蘭が残っている。

 

「でも俺はめげないぜ。散っていったみんなのためにも、あの鬼畜罠を仕掛けた奴を殴らなきゃな」

 

妨害者として全力を出した、ってだけなんだろうけど、あんなことを思いつく時点で性根が曲がっているのは明らかなわけで。殴るのは相手のことを思ってであって、決して八つ当たりじゃない。

 

「禀、真桜、桂花は違うとして……聆、風、七乃さんか……。何か納得のメンツだな……って、なんだこりゃ?」

 

木の枝からぶら下がったロープの先端に髑髏の髪飾り……おそらく華琳のものが括りつけてあって、そのロープの逆の先には巨大な杭。つまり、いきなり髪飾りを取ろうとすると、杭が落ちてきて串刺しになるというわけだ。

 

「桂花って実は相当いい奴なんじゃないか……?」

 

偽装工作一切無し。人を騙すということを知らないかのような稚拙な罠だ。なんだろう……癒やされるんだが。

 

「何か掛かってあげたい気分だけど……これ、当たったら相当痛いだろうからな……」

 

木の枝でロープを引っ掛け、クイッと引っ張る。

ドスンッ

重々しい音と共に杭が落ちて、解除完了。

 

「さて、これで三つめのアイテムGET!髪飾りは仕舞って……それじゃ、最後のチェックポイントに向かいますか」

 

さっきより大分軽い足取りで進む。まさか罠に励まされるときが来るとは。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「うみゅ……にゃなのの蜜壺………へぅ………べたべた……」

「まぁ、実際は私の服がベタベタなんやけどな」

 

ちゃん美羽のよだれで。

 

「なにはともあれお嬢様がお起きにならなくてよかったですよ……一刀さん、完全に修羅の顔してましたもん」

「ああ……。美羽様のことやし、空気読まんと突撃しとったに違いないな」

「そして不満のはけ口としてそれはそれは乱暴に、まるで獣のように……。あれ?ちょっと良いですよこれ?」

「何が?」

「分かりませんか?」

「ごめんな。私、変態とちゃうんや」

「嘘ですよね!?だって、想像してみてくださいよ。泣き叫ぶお嬢様が×××されちゃったり、あまつさえ☒☒☒なんて……!あぁ……お嬢様ぁ………ああ………ぁっ……お嬢様……ぁぁ……ぁっ、あっ、ぁ、ぁッッ!…………ふぅ。皆同じ人間……言うなれば同じ仲間で家族だというのに、国だ何だと小さなまとまりに拘って争うのは愚かな事だと思いませんか?」

「女でも賢者になれるんやな……」

「穏やかな時の流れが見える……」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「おかしい……」

 

俺は第三チェックポイント付近まで来ていた。今回は、赤い岩が目印。だけど、死体まみれでも、赤い岩が乱立しているワケでもない。今のところ何も罠が無い。

 

「……そう思ってる間に見つけちゃったしね」

 

赤い岩の上に何の捻りもなく箱が置いてある。細心の注意を払いつつにじり寄り、そっと箱を持ち上げる。……何も起こらない。できるだけ長い枝を探し、できるだけ体から遠ざけて箱を開ける。何も飛び出して来ない。強いて言えば、狼煙の道具の他に応援メッセージとお茶とおにぎりが入っていた。全俺が泣いた。狼煙を上げると、お香が混ぜてあったようで、いい匂いがした。

俺はますます軽い足取りでラストスパートをかける。怒りと悲しみとお茶とおにぎりはここに捨てていこう。……さすがに食べ物は信用できなかった。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「最後の目印も、一刀が最初に通過したわね」

「そんな……そんな馬鹿なことが……」

 

桂花はがっくりと膝をつく。まるでこの世の終わりでも見たかのようだ。

 

「私の罠が……すべてあんなド破廉恥金玉異常夫に破られたというの……?」

 

桂花は全ての自信を打ち砕かれ、うなだれた。まあ、ちょうど良い。元々根拠のない自信だったのは罠の質から明白だ。

 

「あら、どうしたのかしら、そんなに地面に這いつくばって」

「なんでもないんです……なんでも…………」

「ふふ……そう?泣きそうな顔してるみたいだけど?」

「…………」

「桂花の泣きそうな顔、本当にそそるわ」

「華琳様ぁ…………」

「あと、地面がよく似合うわ」

「へっ!?」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「…………………」

 

俺の目の前には、春蘭がいる。そして、その姿はどう見ても満身創痍の行き倒れ。やはり、あの森は恐ろしい魔窟だったらしい。それに、のぞき込んだ顔の酷い有り様と言ったら……。一日中泣きはらしてもこんなことにはならないだろう。

 

「おーい、生きてるかー?」

 

春蘭をツンツンとつついてみると――。

 

「うぅ……………」

 

一応生きているようだ。しかし、ルート無視で走った春蘭がやられるってことは、妨害者たちはルート無視する奴が居ると予想した上でこっ酷い罠を仕掛けたというわけだ。

 

「まぁ、ペナルティみたいなもんかな」

 

こっちも相当酷かったけど。

俺が立ち上がり、歩き出そうとした瞬間、足元に矢が突き刺さった!

 

「秋蘭かっ!」

「その通り。ここから先へは行かさん」

 

木の陰から弓を構えた秋蘭が姿を現す。なんとか、最初の一発は後ろに飛び退いて避けられたけど、恐らく俺がほんのわずかでも動けば、その正確無比無慈悲な矢が今度こそ俺を捕らえるだろう。もちろん、訓練である以上、矢尻は潰してある……いや、期待できないな。割とみんな本気で来てたし。それに、とりあえず、地面に突き刺さる程度の威力は有るということだ。

 

「ここまでなのか……」

「そうだ。諦めて大人しくしてもらおうか。痛い思いはしたくないだろう?」

「俺は諦めるわけにはいかないんだ」

 

怒りと悲しみは捨てたけど、沙和と凪の分まで全力を尽くすっていう信念は捨ててない。

とは言え、俺と秋蘭じゃ実力の差は明確。まともにやりあったら勝ち目は無い。

 

「うぅ……………」

 

春蘭のうめき声。

閃いた。

実行した。

 

俺はダッと駆け出す。と同時に叫ぶ。

 

「あ!ゴールで華琳と桂花がイチャイチャしてる!!」

「なんだとぅ!?」

スコーンッッ

 

俺が動いた瞬間、秋蘭は矢を放つ。俺が叫んだ瞬間、春蘭は反射的に起き上がる。そして秋蘭の矢が起き上がった春蘭に直撃する。

 

「きゅぅ〜〜〜」

「あっ、姉者っ!?」

 

春蘭に思わぬ形でトドメを刺して狼狽える秋蘭を尻目に、俺はゴールまでの直線を全力で走り抜けた。

 

「うわっ!?」

 

と、足下か急に無くなった。落とし穴か!

 

「う、おぉぉぉぉおぉっっ!!!」

 

脚を限界まで広げ、支え棒にして踏みとどまる。

 

「ファイトォォォォォ!!」

『いっぱぁぁぁぁぁつ!!!』

 

聞こえる。みんなの声が聞こえるよ!!

 

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

落とし穴敗れたり。俺の道を阻むモノはもう無かった。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「殺す気だった?」

 

俺が華琳に声をかけると――。

 

「ご、ご苦労様」

 

華琳もねぎらいの言葉をかけてくれる。そんな華琳の後ろを見れば――。

 

「そんな……なんで……私の智謀の全てを賭けた作戦が……」

 

桂花ががっくりと頽れて、なにやらブツブツと呟いている。……アレが智謀の全てってヤバくないか?

 

「さて、訓練終了の狼煙も上げたから、じきにみんな来るでしょう。そうしたら、表彰式よ」

 

とりあえず、表彰式が始まる前に、回収したアイテムを処理しておいた方が良いよな。

 

「えっと……面白いことになってるところ悪いんだけど、これ、返しておくよ」

 

俺はここまでに集めてきたアイテム……(多分華琳の)下着、艶本、華琳の髪飾りを桂花に返す。

 

「なっ!?あんた、これっ!?」

「これ、桂花のだろ?"落ちてた"から拾ってきたぞ」

 

ホント、あの鬼畜罠と比べたら「落ちてた」レベルだ。

 

「わ、わわ、わ……私を馬鹿にしてっ……!!」

「そんなつもりは無いんだけどなぁ……」

 

むしろ癒されたし、感謝したいくらいだ。

 

「あら、これは私の髪飾りね。なぜ桂花がこれを持っているのかしら?」

「ひっ!?華琳様っ。これは違うんですっ、この変態の陰謀で……っ」

「ふふ……言い訳は後でたっぷりと聞かせてもらうわ」

「あ、ああ……、そんな……華琳様ぁ…………」

 

……喜んでんじゃん。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 華琳の言葉通り

狼煙を見たみんながゾロゾロとゴール地点に集まってくる。

 

「今日はみんなご苦労様。今日のおりえんていりんぐのおかげで、我が軍に何が足りないのか見えてきたわ」

 

なんだろう……力加減かな?

 その後も華琳の閉会の言葉が続く。

一位になれなかった春蘭や季衣は見るからに萎れているし、沙和は目から光が消えている。真桜は相当お仕置きされたらしく、華雄に至ってはどう言う訳か全身から韓国料理のような匂いをさせて全身油まみれで聆に肩を支えてもらって立っていた。猪々子と流琉だけは凄く清々しい表情をしていたけど。

 

「さて、それじゃあ約束したご褒美の受賞者だけと……」

 

そうそう、これが楽しみで頑張ったんだもんな。何にしようか。殴るのはもういいとして、休暇も欲しいし、美味しいものを食べるのも良いな。うーん……結構迷っちゃうなぁ。

 

「今日のおりえんていりんぐの計画を担当した桂花よ」

「へ?」

 

桂花って……ご褒美は優勝した俺じゃないの?

 

「………………私?」

「そう、桂花よ。何か問題我ある?」

「問題なんてそんなっ、私……私…………」

 

桂花には問題無いかもしれないけど……。

 

「あの、華琳?」

「なにかしら?」

「俺は?」

 

全チェックポイント一番乗り(凪が狼煙を譲ってくれたってのもあるけど)で二十五点満点の俺は?

 

「あら、私は一番になった者にご褒美なんて言ってないわよ」

 

会場の空気が凍る。

 

「今日のおりえんていりんぐは、桂花がしっかり準備してくれたから成功したんだもの。桂花にご褒美を上げるのは当然でしょう?」

 

華琳はしたり顔で言い切った。第二チェックポイント以上の虚無感。

 

「なるほど……つまりこのおりえんていりんぐ自体が罠だったと……」

 

華雄の低い声が静まり返った広場に反響する。

 

「罠ではないわよ。私は、優秀な者に褒美を与えると言ったの」

「……優秀?あんな、罠って概念自体を馬鹿にしたみたいな変なモンばっか作って喜んどった桂花が優秀??」

 

ボロボロになった螺旋槍を杖代わりにしていた真桜が静かに口を開き……最後には半ば咆哮した。うわぁ……これは、雲行きが怪しいどころの騒ぎじゃない。

 

「どういうことなの……?沙和には分からないの。華琳様が何を言っているのか。初めから競技者にはご褒美なんてくれるつもりは無かったの?」

「い、いえ、そういうわけじゃ……」

「じゃあなんなの?二十五点満点の隊長よりも桂花ちゃんが優秀って判断されるなら、競技者はどうすればご褒美が貰えたの??」

「あー、あたい、運良かったな。さっさと離脱しといて」

 

そして次々と文句が上がる。主にズタボロの面々から。春蘭は微妙な表情でまごついている。止めに入るかと思われていた軍師や秋蘭も沈黙。少しでも刺激すれば爆発しそうだからか。

 

「七乃〜なんぞつまらぬから帰るのじゃ」

「そうですねー、帰りましょっか」

 

七乃さんと美羽はさっと踵を返して行ってしまう。一見ただの無責任だけど、今はちょうど良かった。"不満がある者は帰る"という流れが出来て、最悪のケースである、衝突が抑えられるからだ。

 

「沙和も新しい服買わないといけないから帰るの」

「はあ……螺旋槍作り直さなな……」

「怒りに任せて氣を打ち過ぎました……」

 

続いて沙和、真桜、凪。

 

「私も早く体を洗ってさっさと寝てしまいたい。嵬媼、悪いが送って貰えるか?」

「まぁ、しゃぁないか」

 

そして華雄と聆。ちらりとアイコンタクト。帰宅組の方は聆がなんとかとりなしておいてくれるようだ。

これで一旦場が落ち着く。落ち着く、と言うより、沈み切った、って方が正しいか。

 

「桂花」

「はい、華琳様」

「こういうとき、どういう顔をすればいいかわからないの」

「笑えばいいと思います」

 

人を呪わば穴二つ。

最大の落とし穴を仕掛けた華琳は、更なる深みに落ちた。

穴の底たるゴールの広場に虚しい笑い声が木霊した。

 

BADEND!




使用したお茶とおにぎりは、スタッフが責任をもって地下三百メートル以深に地層処分しました。

元から褒美の話なんか出さずに普通に訓練としてやる、
あるいは普通に一刀を優勝にする、
もしくは「全員が優秀よ!」とか言っていつも通り一刀さんとほほエンドで回避可能です。

今回はハード過ぎてみんなに心の余裕が無かったのが敗因です。


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第九章拠点フェイズ :【鑑惺伝】心理吐露系イベント

遅くなりました。
作者は悪くないです。
ウィルスが全部悪いんです。


 「えーと、これはこっちに廻して……、あ、クソッ記載漏れしてるじゃないか!物資関連は風だったよな……」

 

西涼との戦に向け、じわりじわりと仕事が増えてきて、城内も独特の緊張感に包まれる。優秀な部隊長四人に支えられているとは言え、俺も将軍の一人。当然その仕事量は軍の中でもトップクラスだ。だからミスが起こるのは仕方ないワケで……いや、言い訳はよそう。今は風を探さないと。

 

 

 「――まぁ、予想はしてたけど自室には居なかった」

 

仕事が忙しいからな。それも、風の仕事は軍全体に関わるものだ。会議やらなんやらで、自室にずっといるわけにもいかない。……もしくは、自由人が発動してどっかでサボってるとか。この前も桂花が探してるのに気づいてて無視し続けてたからなぁ。

 

「今もどっかすぐ近くで無視してるとか……」

ニャー

「ん?」

 

どこかから猫の声が聞こえてくる。

 

「……ちょっとぐらいなら良いよな。風もどっか行っちゃってるし」

 

猫でもいじって癒されるとしますか。最近ストレスが溜まってたからな。ストレスが溜まった状態だとパフォーマンスが低下してうんぬんかんぬん……だからこれはただのサボりじゃないんだ。

 

「待ってろよ猫共……存分にナデナデぐりぐりモフモフしてやるぜ!」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「――で、猫と一緒に風が居るっていうね」

「いやー、見つかってしまいましたねー」

「そんなので仕事、大丈夫なのか?」

「風は誰かさんと違って、すべきことはもう全て終わらせてしまっているのですよ〜」

「ぐぬぬ……」

「それに、この光景を見ては抗う術などないのですよー」

 

風がちらりと視線を移す。

 

「……よく、寝てるな」

 

そこかしこに丸まっている猫とは対照的に、全身を緩やかに伸ばして穏やかな寝顔を見せているのは、聆だった。聆は明日から遠征に出るから今日は休んで英気を養っておくように言われていた。

 

「寝てる女の子の顔を堂々と覗き込むなんてー、さすがお兄さんなのですよー」

「あ、いや、すまん!」

「まー、確かにこれが『おりえんていりんぐ事変』を一言で鎮圧した猛者の顔とは思えませんけどねー。えいっ」

「んむあ……」

ニャー

ナーオ

 

頬をツンツンとつつかれ、煩わしそうに寝返りをうつ。お腹の上に乗っていた猫がずり落ちた。

『おりえんていりんぐ事変』とは、言うまでもなくこの前のオリエンテーリングに関するものだ。その苛烈すぎる内容に対して、閉会式での華琳の言動が不適切だったため、一部の将が腹を立てて魏上層部が一時険悪なムードになってしまった。

 

「『一回や二回死ぬ目に遭うたぐらいでピーピー囀んなやこのポンコツ共が』か……」

「聆ちゃん以外が言ってたら戦争もあったでしょうねー……」

「説得力が段違いだもんな……」

 

実際に何度も死にかけてるし。

 

「……風としては、それでも魏に仕える聆ちゃんの方が不自然なのですよ」

 

急に真面目な話に……。あれ?さっき心読まれた?

 

「一時期は華琳様からの扱いも良くなかったようですしー」

「あー、劉備さんの……」

 

失礼なこと言われてたしな。聆はとばっちりだけど。

 

「それに、戦いに命をかける動機も……。どうやら素面では戦好きなわけではないようですし、華琳様に心酔してるわけでもないみたいのですよー。一方でじわじわと影響力も広げて行ってるのです」

「……華雄さんが言ってたことなんだけど、聆は自分の命をあまり大切に思ってないっぽいらしいんだ。だから俺たちじゃ怯んじゃうようなときでも命をかけるんだと思う。それに……風は色々と疑ってるみたいだけど、聆は華琳の危機に誰よりも早く駆けつけてくれた。……それが答えじゃないかな。……って言うか、聆のすぐそばでこんな話してていいの?」

「風も軍師の端くれ……人の心を読むことを生業にしてますからねー。聆ちゃんの深層は読みきれませんでしたけどー、起きてたら気付k」

「ええで、軍師が何でも思い通りに出来るってんやったら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す」

「…………」

「…………」

「………ぐぅ」

 

あ、寝て誤魔化そうとしてる。

 

「あーあ、何でこうも軍師連中に警戒されるんやろなぁ。桃香んとこも諸葛亮だけは真名教えてくれんかったし」

 

猫の喉元を指先で撫でながらぼやく。……あんまり気にしてない感じだけど。

 

「うーん、でも、確かに、経歴と状況を文字にして並べると意味不明になるからな。聆は」

 

経歴、と言えば、史実にも三国志演義にも出ていない、鑑惺嵬媼という武将、その存在自体が気になるけど。もっと出世するはずなのにしてない人とか、存在が消えてる人は結構居るんだけど、この世界でしか有名じゃないってのは聆だけだ。これも歴史のズレなのか……?

 

「なんや難しいこと考えとるみたいだけど、私がここに居る理由は単純なもんやで」

「……それって?」

「私はここが気に入っとる。やから守る。あと、かゆうまが言ったことは割と図星や。言うてもそんな軽ないで?誰かの代わりやったら死んでも良えかな、って思っとるだけで」

 

さも当然のことのように言い放つ。風の顔に落書きしながら。

 

「うん。傑作」

「……聆ちゃんは起こしてくれないから調子が狂っちゃうのです」

「あ、自分で起きた」

「まぁ、今日は芸術品として生活するのも乙なものでしょうかー?」

「いや、俺に同意を求められてもな」

「あ、決心ついたんやったらもうちょいガチで描くけど?」

「おおぅ!風は仕事が忙しいのでこの辺でー。では、さようならー」

 

そう言うなりさっさと立ち去ってしまう。うーん、睡眠回避が封じられた風はこうも脆いのか……。

 

「それに、さっき仕事終わったって言ってただろ……。あ、そう言えば俺も風に用が有るんだった!」

「おー、んだら仕事頑張ってなー」

「ああ!聆も明日からの遠征、頑張ってくれよ!」

「任せぇ」

 

軽く手を振り合って別れる。結局猫とは戯れられなかったけど、また一つ聆のことが分かったから良かったかな。




風をもっとちゃんと動かせるようになりたいです。
でも原作そのまんまだとこの作品の存在価値がないので、
原作通りウィットに富んだジョークを飛ばしつつも何かと受けに回ってしまいがちな風
を目指したいです。
この話はリメイクあるでぇ。


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第十章一節

オリエンテーリングがくっそ長かったので、拠点フェイズを一話分省略しました。
多分ですけど、西涼編<オリエンテーリングになりそうな雰囲気がします。


 「――己は最後まで漢の臣である。……それが、馬騰のこちらに対する回答でした」

 

春蘭が西涼への遣いから戻った次の日。同行した風からより詳しい報告がなされた。

 

「そう。予想はできていたけど、残念ね。……で、馬騰はどういう人物だった?」

 

そういえば馬騰って人、反董卓連合の時は西方の牽制があるとかで、参加してなかったんだっけ。物語と言うか、歴史としての三国志に馴染の深い現代人としては、西涼談義で馬超より馬騰が先に出るのに違和感がある。この段階では馬騰の方が実績があるから同じ時代の人からすれば馬超なんか大したことないんだろうけど。

 

「はい。公平にして勇敢、一言で表すなら『分別がある華雄さん』でしょうか〜?」

「おい程昱!それでは私に分別がないようではないか!」

「風、私の中の馬騰像が少し残念なものになってしまったのだけれど」

「これは怒っていいよな?私」

「まぁ、それはさておき、五胡の間にも勇名を轟かす豪傑……噂に違わない、高潔な人物という印象を受けましたー」

「それを聞いて安心したわ。馬騰……やはり、惜しいわね」

「西方の蛮族を相手にしているだけあり、戦慣れした騎兵が主体です。反董卓連合の時もそうでしたが機動力に関してはあちらに一日の長があるかと」

「ウチみたいな戦い方が基本になるわけか……」

「うーん、じゃあさ、遠征に出てるレイ姉呼び戻したら良いんじゃねぇか?レイ姉って対騎馬やたら強いじゃん」

「……西涼連中が正面から当たってくれるとは限らないわ。馬騰は確かに武人気質が強いようだけれど、西涼は諸侯の連合。どこがどう動くか分からない。私達が進行する順路を回り込まれて逆に攻め入られる、なんてことも有るのよ。聆はそのための保険に、遠征からそのまま防衛にまわってもらうわ」

 

……華琳、これは嘘っぽいな。最初の間が少し気になる。それに、いつもならここで「時が来れば分かるわ」みたいなことを言いそうなもんだ。

 

「蜀、呉、それぞれが地盤固めにかかずらっている今、この時こそ西涼を倒し、後顧の憂いを絶つ絶好の機会。皆、準備は出来ているわね?」

「もちろんです!」

「ふふ……桂花、良い返事ね。貴女の策には期待しているわよ。皆も存分に奮いなさい。それでは解散!各自戦闘準備にかかれ!」

「「「御意!」」」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「たっだいまー!」

「曹操が動いたって!?」

 

西涼連合本拠……つまるところ馬家の本城。馬岱と馬超は伝令を受け、五胡迎撃より帰還した。

 

「ああ。降伏を断ってからたった数日でな。断ることは予想済み、ってことだったらしい」

 

馬騰は椅子に沈み込むように腰掛け、ため息混じりに応える。何とも言いようのない苛立ちにげんなりしてしまう。ただでさえ最近五胡が煩い上、自分は肺病で満足に戦えない。娘は――

 

「よっし!西涼騎馬の恐ろしさ、思い知らせてやる!真正面から踏み潰してそのまま洛陽まで一足飛びだ!」

 

残念ながら自分の若い頃に似て脳筋だ。違うのは、それを諌めてくれる大人が居ないこと。自分はもう戦場には出られないし。馬岱に期待しているが……。それに、今回の相手は――

 

「お姉様のばかー!」

「ひゃあっ!」

「相手はあの曹操とか、荀彧とかなんだよ?それに北郷と鑑惺なんてのも居るし!」

「そ……そうだったな。女の子を夜な夜な食べちゃうとか、千里先の戦況を千手先読みするとか……。それになんだよ。不死で空間を捻じ曲げる力があって洗脳が得意って……。しかもそれが北郷配下四将の一人に過ぎないらしいし」

「そうだよ!魏は変態の化け物ばっかりなんだから何してでも勝たないとダメなの!」

 

そう。変態の化け物だらけだ。夏侯惇の魔眼というのも、つい先日確認した。連れていた軍師というのも、曲者……いや、変人だった。ここまで来れば、他に色々と聞いている噂もあながち嘘ではないのだろう。

 

「確かに相手は強大だ……だが、相手は歩兵の大軍を主とするはずだ。ここに着くまでには時間が有る。その時間を最大限活かすぞ。癪なことだが……ここは五胡の戦術を真似ることにする。少数の騎馬隊での奇襲をかけ続けろ」

「ん、それっていつもとどう違うんだ?」

「あくまでちょっかいに留めておくことだ」

「相手を眠れなくさせてヘロヘロにしちゃうんだね」

「そうだ。それに、一つ良い話が有る」

 

馬騰にとって、この戦で唯一良かったと思えることだ。

 

「魏の締め付けが酷いらしくてな。賊がこっちに大量に入ってきてる」

「は!?全然良くないだろ!」

「バカだな。経験豊富な賊ってのは、訓練無しで戦場で使いモンになる良いコマなんだよ。報酬だけ払っちまえば良いんだ。それもそいつらが死んだら回収出来る。ちょっとばかし柄が悪いが……なに、五胡に比べりゃかわいいもんだ」

「討伐の手間も省けて一石二鳥だねー」

「まあ、一般の招集もかけることになるから、そっちの訓練は頼む。墜とされる前になんとか仕上げてくれ」

「任せろ!」

「よし……。得体の知れん化け物共からなんとしても西涼を守り切るぞ」

「「おうっ!!」」

 

こうして、西涼連合 対 曹魏 の戦が始まった。

 

 

しかし、同時に終わってもいた。




馬騰さん登場です。
外見イメージは尖さの増した翆です。
内面イメージは親分。何親分とは言いませんがとりあえず親分。
翆って、戦場でオラオラしてるときと、恋愛でオロオロしてるときのイメージばかりが強すぎて普段がどんななのかあまり考えたことがなかったんですよね……。


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第十章二節その一

最近白髪が増えました。白髪くんまだ早いですよ!

策略が発動する前に種明かしするは失敗フラグだと思い、ついつい全伏せしてしまった結果がこれです。
「わけがわからないよ」→仕様です。
「バレバレすぎんだよ」→これが作者の限界です。
「何かややこしいの書こうとして失敗した感じ?」→否定はしません。


 「伝令。本隊の涼州入りを確認しました。兵数自体の損失は少ないものの、断続的な奇襲により疲労が蓄積しているとのこと」

 

涼州、馬家本城最寄りの山の中。狒狒に擬態した三課長が華琳たちの戦況を告げる。

 

「んだら、行軍速度は落ちとるか……。突撃できる範囲に入るんは五日後以降になりそうやな。でも、まあ、張三姉妹の活躍も有るし、奇襲自体は少ななるやろから」

 

応える私は熊の毛皮をまるまる被っている。

 

「は。そちらについても、加速度的に支持者を増やしていると。それに、潜入の方は……」

「おー。結構な数が徴兵に乗じて成功しとるな。本城警備にいくらか入ったし、上出来や。前線も割と。どっちにしろ私らは決戦まで待機。……いや、二日後辺りから山中に散らばっとる隊員を集めにかかってくれ」

「了解しました」

「……あと、ちゃんと水浴びしとけや?お前、若干野性的な臭いがするで?」

「……急いで行ってきます」

 

本物の狒狒のように顔を真っ赤にして走り去る。少し直球過ぎたかもしれないが、衛生管理は重要だからな。このくらいでちょうどいい。

 

 ともかく、これで西涼攻めの約九割が完了した。本隊の行軍が半分済んだ時点で九割、というのはなかなか珍しいことだが、嘘ではない。実はこの作戦、蜀軍撃退の翌日には既に始動して、色々と仕込んでいた。私的には、原作からしてほっといても勝てる戦なので余計なことはしたくなかったのだが、華琳が色々と思いついてしまったらしいからしかたない。馬超には原作以上に惨めな目にあってもらうことになるかもしれない。

その辺は心苦しいが、私も魏の将である以上、華琳からの命令はよっぽどのものじゃなければ従わなければならないのだ。

でもその代わりに良いことを思いついた。これが成功すれば恐らくだが、より幸せなエンディングを迎えられることだろう。

 

「とりあえず、今私にできるんは馬家の健闘を祈ることぐらいやな」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「……最近、奇襲成功の知らせが全く来ないんだが」

「ああ。急にどうしちまったんだか……」

 

曹魏の西涼侵入から数日。重々しい空気に包まれた玉座の間。それもそのはず。対曹操戦の要である奇襲が全く機能していないのだ。

はじめの頃は、夜毎敵陣に火矢を撃ち込んだり陣外周の小隊の天幕を襲撃したりと、何かしらの成果が挙がっていた。相手は大軍であり、夜間行軍は難しい。昼動いて夜には寝るしかない。そして、その夜に襲撃をかければ確実に睡眠不足になる。少し前の偵察では明らかに疲弊した敵軍の様子が見て取れた。

しかしどういうわけか敵が目前に迫ったこの時期になって、奇襲の失敗、こともあろうに出撃さえしていなかったなんていう事態が発生している。

 

「たんぽぽ、お前は何か聞いてないか?」

「え?いや、なにも?」

「そっか……ま、奇襲なんて姑息な手段、元から取りたくなかったしな。もう、こうなったら決戦に向けて訓練有るのみだ!」

 

議論を切り上げ、今できることを優先しようとする馬超。思考の放棄とも言う。だが、馬騰は違った。

 

「……蒲公英」

「な、なに?おば様」

「お前、何か隠してるな?」

 

別段確証が有るわけでもないが、何となく、しかし、はっきりと分かった。

 

「え、やだなー。たんぽぽだって不思議に思ってるんだよー」

「蒲公英」

「え、えーっと」

「…………」

「あぅ………」

「知っていることを、今、ここで、全部、話せ」

 

普段は飄々として掴みどころのない馬岱も、長年五胡を相手に戦い抜いた貫禄の前にはかたなしだ。

 

「えっと……その、旅芸人の舞台がね……」

「そこに集まった奴に寝返り工作がかけられてるのか?」

「違うの!そうじゃなくて、純粋に楽しくて……時間を忘れるっていうか……」

「……とりあえず、そいつらを捕らえるか」

「え!? だから!間者とかじゃなくて……!」

「直接何かやってるワケじゃねぇだろうが、実際に邪魔になってるからには放っておくわけにゃ行かんだろ。それに、そもそもこれから戦争しようって言う時期に芸人が来るってのが怪しいもんだ」

「それは……」

「ともかく、まずはそいつらをとっ捕まえて色々と訊かにゃならん。翠、蒲公英」

「あ、あぁ。……たんぽぽ、その芸人の特徴とか教えてくれるか?」

「うん……」

 

馬岱も渋々応じる。

 

「じゃあ、まず見たm」

「伝令ーーーー!!」

「どうした!」

 

さて取り調べを始めようという時に、伝令が飛び込んできた。酷く焦った様子で。

 

「曹操が戦闘準備始めているようです!ここまで一足に攻め入る算段かと」

「バカな……連中の士気ではあと二日は……」

「それが……士気は異様に高いようで……」

「見間違いではないのか?」

「装備を整えているようだったので、間違いないかと」

「信じられん……」

「どっちにしろ、来るってことだろ?じゃあ、迎え討つしかないだろ」

「……そうだな。こっちもすぐに兵を纏めて出撃の準備だ。翠、お前に名代を任せる。蒲公英、翠を助けてやってくれ」

「……おう」

「おば様は?」

「アタシは城の防衛に専念するさ」

「そっか……」

「……うし!そうと決まれば即行動だ!行くぞ!たんぽぽ」

「うん!」

 

戦場に向かう二人を、馬騰は無言で見送った。前線に立てない悔しさと、娘たちへの惜別を押し殺して。

 

「……城の防衛……か」

 

強がりだ。守る力も残っていないし、守れるだけの兵をここに置いておくつもりもない。

 

「でもまぁ、最後に"釣り"でもするか」

 

馬超を主とした西涼連合と、曹操率いる魏本隊がついに激突する。しかし、そこに戦は無い。決まっていた結果が明らかになる、ただそれだけの場だった。




さあ!無駄に出しまくった伏線()を無事回収できるかな!?


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第十章二節その二〜戦闘パートその一&三節その一

西涼編がやけに時間喰ってますが、作者は一応健康です。
原因は今更ファンタシースターにハマったこと。
ですので今は、
普通の生活+サモンナイト1〜5+PSO+東方+恋姫二次
という超過密スケジュールです。
特にPSO時間喰い過ぎぃ……。


 「…………馬騰は?」

 

舌戦の第一声がこれだ。その言葉が示す通り、馬騰はこの場に居ないらしい。……でも、さすがに相手に失礼じゃないか?これも相手を煽る作戦なのかもしれないけど。

 

「あたしは馬超!馬騰の名代として、この軍の指揮を取る者だ!」

 

そしてやってきたのが馬超。そう言えば、これが五虎将との初めての戦いになる。華琳は馬騰がお気に入りらしいけど、やっぱり俺は馬超が気になるよな。……そういう意味じゃなくて。

 

「ああ、そう。馬超ね。そう言われれば連合の時にも見た気がしないでもないわね」

「な……なんだその反応はっ!もっとこう、あるだろうが!この侵略者め!」

「名将と名高い馬騰と相見えるのを楽しみにしてきたのだもの。その代わりが貴方では……ねぇ」

 

いやいや……結構豪華なんだけどなぁ……。

 

「くっそぉぉぉ!その余裕面、あとで泣きっ面に変えてやるからな!この変態っ!」

 

挑発を真正面から受けて、捨て台詞を吐いて陣に戻ってしまった。……何か、夏侯惇が春蘭って知ったときと同じような何とも言えない感覚が……。

 

「……私は変態ではないわよ。失礼ね」

 

いや、それはどうだろう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「おかえりなさーい。姉様、なんか早かったねぇ」

「たんぽぽぉ!あいつらに西涼の騎馬部隊の恐ろしさ、骨の髄まで叩き込んでやるぞ!」

「……あぁ、また言い負かされたんだ」

「ま、負けてないっ!とにかく、連中を一気に叩き潰すぞ!左右両翼にも伝令!予定通り本陣目掛けて三方向から一気に突撃だ!」

「あ、あと賊上がりの挙動には気をつけるように言っといてね」

「了解しました」

「行くぞ!総員、突撃ーーーっ!!」

 

「だ……駄目だww まだwww笑うな……こらえるんだ……し……wwしかし……wwwwww」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「随分早かったですね」

「相手は錦馬超だったわ。あまり舌戦は得意ではないようだけれど」

「舌戦になってなくなかったか?」

 

舌戦ってもっとこう、互いの理想とかをだな……。

 

「あの程度の挑発に乗るようではたかが知れているわ。戦の腕は良いと嬉しいのだけれど」

「……では、馬騰はここには来ないと?」

「そのようね。だから聆が来ない場合の動きで」

「御意」

「あー、やっぱ、聆は何か仕込んでたのか」

「ええ。今度こそ当たりを引いてもらうわ」

「華琳様、真桜から連絡有りました。完了だそうです!」

「うわ……真桜まで何かしてんのかよ……えげつねぇ……」

「散々奇襲をかけられた意趣返しとしてはちょうどいいんしゃないかしら?」

 

その奇襲も地和たちで潰したくせに……。

 

「よし。総員戦闘配置につきなさい!万全の策が整った!あとは勇士諸君が油断せず、日頃の訓練の成果を発揮すれば恐れることは何もない!ここ最近の寝不足の苛立ちを叩きつけてやりなさい。全軍、突撃!!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……そろそろ馬超様と曹操がぶち当たった頃かな」

「さぁ……確か、決戦予定地は東の平原の辺りだろ?」

「始まったら、始まったって伝令が来るさ」

「……あーあ、それにしても暇だなぁ……」

「今、喋ってんじゃんよ」

「つっても俺らそんな喋ったこと無えだろ?気ぃ使うんだよ」

「何 その素直」

「言いたいことは分かるがそもそも人が居ねぇしな」

「正味、騎馬戦できる奴は全員連れてかれてるからな」

「馬騰様、ここ守る気あんの?」

「無えだろ。前線に全振りだろ。ちな ここはゴミ箱な?」

「ヤバくね?別働隊とか居たらイチコロじゃん」

「つってもそんなもん居ないっぽいしな。曹操の本隊が来てるとこしか関所破られてねぇし」

「言ってもお前アレだぞ?魏の八割は人外らしいぞ?」

「はっはっは!バカだなお前!そんなもん噂に尾ひれが付いてるだけに決まってんじゃんよ。どうせアレだろ?例えば鑑惺なんか不死身って言われてっけど、どうせ傷の治りが早いとか我慢強いとかその程度だろ?」

「バッカお前別に本気にしてたワケじゃねぇし!冗談だし!マジで返してんじゃねぇよ!」

「あぁ、ほんの数分でお前のことは大体分かっちまったわ」

「おお、なんだよ。言ってみろよ」

「馬――」

 

「伝令ーー!!」

 

「お、始まったらしいな」

「いや待て、様子がおかし――」

 

「南方より敵襲!!旗は鑑!兵数約千」

 

「は?」

「いや、おかしいおかしいおかしい!!南って山ばっかじゃねぇか」

「ま、待て!まだ慌てるような時間じゃあばばばばばば」

「落ち着け!相手は千人だ!こっちは人が少ないっつっても五百は居る!敵の三分の一居れば籠城できないこともないって孫子先生も言ってたから大丈夫だ!」

「そ、そうだな。まずは落ち着いて――」

 

「開門!」

 

「…………は?」

「…………は?」

「いやいやいやいや、お前何やってんの?」

「は?お仕事ですけど?」

「敵がすぐそこに居るのに何で開門すんの?」

「敵?俺にとっちゃ味方だね!」

「お、お前!」

「ちなみに鑑惺様は確かに我慢強いだけだが……その我慢が人外だぜ!それじゃ、あでゅー!!」

「おい!待てコラ!!!」

「放っとけ!今は門を閉めるのが――」

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!」

「「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!」」

「「「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!」」」

 

「あ、これ死んだわ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「おい!左翼はどうなってるんだ!?突撃って言ったはずだぞ!何波状攻撃なんてしてんだ!!」

「右翼もおかしいよ!何でこっちに合流してるの!?三方向からって作戦なのに!」

「クソッ……とにかく、もうこうなったら走り抜けるしか………っ!?」

「きゃっ!?」

「な……何でこの辺りの地面がこんな……っ!溝やぬかるみなんて……!!」

「わかんないよっ!雨も降ってないのに……!!」

「へっへー!これがウチら工兵部隊の恐ろしさやっ!ちなみに他にも色々とやりたいほうだいさせてもらっとります!」

「くっ……李典か……!たんぽぽ!一旦距離を取るぞ!!」

「逃がすかいな!行程全良好!追撃部隊、発進してください!」

「カユウ、出る!」

「行っくでぇぇぇーー!!」

「シュンラン行きまーす!……って何を言わせる!」

「ゴメン今はツッコミ求めてないねん」

「なら何故ボケた」

「そういう病気やねん」

「なら仕方ないな」

「っと、そんなことを言っている場合ではなかったな」

「おっとそうだった。霞!華雄!行くぞ!」

「おう!連中を追い散らすでぇっ!」

「くそっ!何でお前らはそんな自由に動き回れるんだよ!!」

「何が自由なものか!安全な道順を覚えるのにどれほど苦労したと思っている!」

「今までで一番苦労した作戦だ」

「ゴメンウチは楽勝やった」

「「お前!」」

「くっそぉぉぉ!ふざけやがってぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 「……うわぁ……えげつなぁ……」

 

しっちゃかめっちゃかになって敗走する西涼連合の姿に、自然にため息がもれる。

 

「そう?騎馬を相手にするとき、相手の機動力を削ぐのは基本中の基本でしょう。聆のやり方が普通だと思ってるのなら今すぐ改めることね。歩兵で騎馬隊を翻弄するなんて初めて見たわよ」

「いや、そうじゃなくて相手の指揮系統にも何かしたんだろ?」

「あら、よく気がついたわね」

「動きがちぐはぐだからなぁ」

 

両翼と本陣が全く噛み合っていない。今も本陣は退却、右翼は停滞、左翼は相変わらず無理に前進しようとしている。

 

「さて。ここは春蘭たちに任せましょうか。私たちは馬騰に会いに行くわよ」

 

 

「姉様っ!曹操たちの本隊が!」

「くそっ……あたしらは無視かよ!」

「貴様ら二人に対し、こちらは将を三人も出しているのだ。どこが無視なものか」

「そない言うんやったら真面目に戦えや!華雄!」

「いや。無勢に多勢は私の流儀に反する。お前たちのどちらかが負けたら戦おう」

「ならこの戦で出番は無いと思え!でぇぇぇぇぇい!!」

「くっ……!」

「姉様っ!」

「おっと よそ見は感心せんなお嬢ちゃん」

「きゃっ!」

「華雄!こちらは二人で何とかなる!貴様も華琳様の後を追え!本拠地に攻め入るのに、戦力は多くて困ることは無いだろう」

「多すぎればまた文句を言いそうな気がするが……まぁ、分かった」

「嘗めやがって……っ!」

「ならば嘗められぬように精一杯足掻くのだな!」

「くそ……くそ……くそ…くっそおおおおおっ!」




魏ルートって、敵が可哀想になってくるとこが苦手です。
非常に信じ難いことですが、
原作でもここから魏TUEEEEEEEE!!!!が続きます。

蜀ルート
魏→覇道に呑まれて自滅ワロス
呉→そもそもほとんど戦わない
呉ルート
魏→覇道に呑まれて自滅ワロス
蜀→畜生すぎて殺意が……


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第十章戦闘パートその二

今日は体の調子が良いです。
頭はちょっとおかしいですけどね!


「うぉぉぉぉっ!!」

「セッ!」

ズドォッ!

 

攻城戦には敵の三倍の兵力が必要と言われているが、それは所謂「城の強み」が活かされるという前提でのことだ。今回のように到着即開門 では全くと言ってもいいほど当てはまらない。

そもそも、敵衛兵に少なからず我が隊の隊員が紛れ込んでいたため、実は三倍の壁も超えていたのである。

危険視していた五胡格闘術使いも、始めっから掴みかかる気満々、って感じで迫ってくるので迎撃が簡単だ。そんなんで引っかかるわけないだろう。

 

 

 「鑑惺様。馬騰はやはり自室に居るとのことです」

「周囲の守りは?」

「クソみてェに薄ィぞ!やる気あんのかあの馬糞野朗」

「んだらお前ら二人はついて来い!サッと行ってサッと捕るで!」

「御意に」

「行くぜっ!」

 

そして今回の主目的である馬騰の捕獲……いや、保護に走る。

魏ルートの馬騰は毒で自殺を図るはずだ。実際、薬師から"一番強力な毒薬"を受け取ったらしい、という情報も入ってきている。

ここで馬騰を死なせるのは好ましくない。馬騰が生きているのと死んでいるのとでは三国平定後の西涼との関係が大きく違うだろう。それに、華琳にも、捕まえて来いって言われているし。

 

「あそこです!」

「おうよ!」

 

と、そんなことを考えているうちに着いたな。毒飲んで死んでたら嫌だな……。元気だったら元気だったで交戦することになるか……うへぇ。何か前評判からしてクソ強そうなんだが。……いや、そう言えば肺の病気で戦場にも出られないんだったな。よし、これは勝てる。ドア破ってワンパン!ドア破ってワンパン!

 

「ちわーーっす!曹魏屋でーっす!」

バアンッッ!!

 

勢い良くドアをぶち抜く。

って、当に今毒薬飲んでんじゃんコイツ!

 

「コラッ!そんなもの飲んじゃいけません!ペッしなさい、ペッ!」

ズビスッッ

「くっ!」

 

決まった!音速の腕払い!でもちょっと飲んでしまったっぽいな。さて、どうするか。とりあえず医――

 

「しゃっ!?」

 

さっきまで私の頭が有ったところをものっそいスピードで刃が通り過ぎた。避けられたのは、これまでの戦闘経験の賜物だろう。少しマグレも入るが。

ところでさっきから信じられない速さの斬撃の嵐に晒されている件について。

強すぎなんだけど マジ !

誰だ よこいつを 病人って言った 奴 は!

誰だ よこいつを 病人って言った 奴 は出てこいよ!

ぶっころしてやるよ 私 が!

つーえーなまじ 病人病人 とか言ってまじで!

叩きのめされてるだけ じゃね えか!

そういう心構えじゃねえから私!

どうにか隙を突こうにも、両剣がグルングルン回って全然攻め時も無いし、カウンターすら難しい。恐らくだが、氣によって動作を補助しているのだろう。ところどころ物理法則の限界を突破した動きをしているんだもの。

とにかく、この回転コンボを止めるには敢えてむりやりにでも踏み込んで行くしかない。……逃げたらその隙をみて自刃しそうな気がするし。踏み込んだ後の攻め手がイマイチ思いつかないが、とりあえず出る。強いて言うならそのまま押し倒せれば良い。

 

「っラァァッ!」

「ッ!」

 

瞬間。全身に拘束されたような感覚。……五胡格闘術か!間合いを詰めようと踏み込んだ動きを利用して零距離にもっていく戦法。私がよく使うヤツだ。

 

ガッッ

 

そして視界が120度ほど回転した。

 

……でも、残念ながら私の元々の可動域を超えていない。背後に廻っている馬騰をそのまま後ろ手で掴み、

 

「一本ッ!」

「!?」

 

背負い投げの裏版をキめる。寝技には入らずに下がる。筋力の差が大きすぎると、寝技は逆に危険だからだ。

 

「…………」

「…………」

 

動きが止まって、睨み合う。

互いに格闘戦に入る際に武器を捨てている。……いや、私は他にも色々と持っているな。……勝ったでェ……これは。

 

「ゴホッッがハァッっ」

 

唐突に馬騰が膝から崩れ落ちた。

……肺病か!

 

「おい!医者呼んで来い!!」

「お、おう!」

 

六課長が反応する。アイツ足速いから医者も速く来れるかもな……。

って、馬騰さん自刃しようとしてるじゃないですかヤダーー!

 

「お、おちけつ!」

 

止めようと駆け寄ると、それを拒むように小刀を振り回す。だが、それも弱々しい。……ヤバい咳出てるからね。しかたないね。

このままでは死にかねん。とにかく、落ち着かせなければ。

 

「……っ!?ゴホッーーッゲホッ」

 

小刀は押さえ込んでおいて、余った腕を馬騰の背中に廻して抱きしめる。こういう手合いは抱きしめてしまうのが一番だ。背中ぽんぽんできるし。……ただ、甲冑のせいでゴツゴツしているのが難点だが。

 

 ……そうこうしているうちに落ちついてきた。そろそろ医者も来るだろう。今は息も穏やかd――

 

「オボロロロロロロッ」

 

……何か、肩から胸にかけて熱くて臭いものg

 

ブリュリュリュリュリュッ……ッ

 

「……ちょっと、大量の水……あぁ、できればお湯な。あと、デカめの盥持ってきてくれる?」

「了解しました」

 

……馬騰さんなんて毒飲んでんだよ………。




失禁馬超の親を出したならこうするしかないじゃない!
西涼散々すぎですね。
でも、馬騰さんギリギリ生き残ったので許してください。


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第十章三節その二

よく訓練された読者様方に恵まれて、作者は幸せ者です。


 「前半はキワモノでしたけど後半は眼福でした」

「ちょっと黙れ」

 

馬騰を別の部屋の寝台に寝かし、やっと一息ついた。それまでの行程は……まぁ、残念ながら大体三課長の言葉通りだ。どこのスカビデオだよっていう惨状をどうにかこうにか処理し、体を洗ったのだ……ついでに私自身も。馬騰の名誉のために人を呼ぶこともできず、私と三課長で全てやらなければならなかった。途中で戻ってきた六課長を叩き伏せなければならないというハプニングも起こってしまったし。まぁ、とりあえずこれで馬騰保護は一旦完了だ。

毒が心配だったが、致死量ではなかったようだ。……ちなみに、その毒の種類だが、どうやら食中毒の原因物質を集めたようなものだったらしい。腐った肉とか野菜とかを絞った汁だ。馬騰が即死を狙って「一番強力な毒」をリクエストしたところ、当の薬師は最も苦しむ毒が最も強いという思考だったらしく、コレを渡したのだ。途中で止められて良かった。

と言うか、原作の謎が解けた。馬騰の部屋に入ろうとした一刀に華琳があんなにブチ切れたのか不思議に思っていたのだ。……そりゃ、こんなヤバい症状で死んでたらな。

 

「伝令!曹操様が到着なさいました!」

「おーう。部屋の事伝えといてくれ」

「了解です!」

 

馬騰の自室は立入禁止にして換気している。

 

 そして……ついに死亡キャラの救命をしてしまったワケだが。……頭痛が来ないってことはセーフなのだろうか。あくまで"華琳の命令に従って"天の知識を直接の要因とせずに動くことに気をつけたのだが……。この方式なら大丈夫ということか。いや、まだ油断はできないな。原作一刀さんとか、かなり細かいとこでも頭痛発生してたし。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「一体どんなカラクリを使ったんだか……」

 

馬家本拠に入った俺たちの目に映ったのは、……まるで何事も無かったかのようにきれいなままの街並みだった。兵の死体はおろか、血のあとすらも無い。

 

「圧倒的な大勝なら、こんなものよ。戦おうという意思すら湧かなかったのでしょう」

「何か、実は墜ちてませんでした、みたいなことが有りそうで恐いな」

「私たちがこうやって入城しているのが何よりの証拠よ。それに、馬家の旗も降りているわ」

 

確かに馬家の旗は降りているけど……。

 

「あれ?墜とした城にはその証に旗を立てるんじゃなかったっけ?」

 

曹とか、魏、鑑の旗が上がっていない。

 

「聆の配慮でしょう。馬騰との会談前に"占領"してしまわないようにね」

 

そう言われれば、馬騰は誇り高い武人らしいからな。魏の旗を立てられたりしたら二言と無く切腹しそうではある。

 

「華琳様、聆からの伝言です。『馬騰殿の体調が優れないため、面会の人選はよく考慮してほしい』とのこと。……あと、これが馬騰が居る部屋までの見取り図です」

「そう。では……秋蘭、一刀。ついて来なさい」

「はっ」

「え、俺も?」

「はぁ……。貴方、天の御使いなのだから、顔見せして然るべきでしょう。それに、左右に一人ずつ立っている方が見栄えが良いわ」

「まぁ、そうだな」

 

こういうとき、いつもなら春蘭なんだろうけど。バ……いや、馬超を逃がしてしまったってしょげてたしな。

 

「ふふ……楽しみだわ。馬超も顔は良かったし、期待できるわね……」

 

華琳は相変わらずだな……。

 

 

 「ここです。華琳様」

 

やって来たのは家臣達の私室が集まる区画。

 

「領主の部屋って感じじゃないな」

「馬騰の部屋は別に有るのだがな。どうやらそこで一戦交えたらしい」

「なるほどな……」

 

武将の娘同士の戦いは、例えそれが練習試合でも周囲がボロボロになる。それが本気の戦いともなれば部屋一つ使い物にならなくなって当然だろうな。

 

「じゃあ、入るわよ。身なりを整えなさいな」

「お、おう」

 

これから会談だもんな。一応シャツの裾をズボンに入れて上着のホックまで閉めたけど……。そもそも服の作りからしてこっちのものと違うから意味無いかも。

 

「曹孟徳が参った!面会願いたい」

 

「どうぞー」

 

内側から戸が開き、聆が俺たちを迎え入れる。奥の寝台に座っているのが馬騰さんかな。

 

「……貴様が曹操か」

 

寝台の横に立った俺たちの方にゆっくりと振り返る。

 

「……?」

 

そして少し不思議そうな顔。

 

「ええ。我が名は曹孟徳。覇によって天下を治めんとする者よ」

「私は夏侯妙才。先日遣いとして参上した夏侯元譲の妹だ」

 

あ、これ、俺も自己紹介する流れ?

 

「えっと、俺は北郷一刀って言います。一応天の御使いってことになってます」

 

それを聞いた馬騰さんはますます疑問の表情を深める。

 

「……どうかしたのかしら?」

「いや、想像してたのとかなり違うのでな」

「あら、どんな人物を想像していたのかしら」

「まず"人物"だと想定してなかったな。もののけかそれに類するものだとばかり」

「!? ……どうしてそうなるのよ」

「つってもなぁ……『夜な夜な若い娘を食べる』とかって話を聞いてるしな」

 

……間違っちゃいないけど……。

 

「それに"天の御使い"もとい"種馬"の北郷は、捕虜にした将に、男女問わず種付けして、より優れた魔神を産み出す苗床にするという噂も有るしな。まさかこんな優男が来るとは」

「あぁ、やからあんな自害したがったんやな」

「待て待て!男女は問うし!無理やりなんてしないぞ!?」

「……どうやら色々と悪意の有る情報が流されているようね」

「自業自得でもあるんちゃうのん?ギリギリ事実掠っとるし」

「聆、自重してくれ」

「でも、馬騰さんはどうしてそんな荒唐無稽な噂を信じたんだ?」

「……アタシも眉唾ものだと思っていたんだがな。夏侯惇の左目が噂通りの物だったのを見てな……」

「噂って?」

「『夏侯惇の左目は天の秘術によって作られた魔眼』だと」

「確かにアレは神秘的なほど美しいし、色々と拘った品だけれど。妖術や外法の類とは一切関係無いわよ」

「そう言われてもな。鑑惺の不死身はもう確認したし」

「……貴女、また何かやったの?」

「はっはっは。いや、こう、首がな。でもアレやで?関節技に強いってだけやで?」

「後ろ向きになるまで首を捻られて生きている人間が有るものか!」

「いや、それ言うんやったらそっちの剣裁きも異常やったからな?」

「聆……鑑惺についてはこちらでもあまり良く解っていないから気にしないでちょうだい」

「ヒドない?」

「正常な思考よ。……あら?そう言えば貴女、その服は?」

「西涼の衣装だな」

 

華琳と秋蘭の言う通り、聆は西涼風の服を身に着けている。身長の関係で長い脚が大胆に出ていて、それに、胸もはみ出し気味だけど。

 

「いやー、長いこと山篭りしとったからなぁ。もともとのヤツ結構汚れとったし」

「はぁ。別に隠さなくても良いわよ。どうせまた何かぶちまけたのでしょう?」

「ブフッッ!?ゴホッッゲホォッッ!」

「馬騰!?」

「と、とりあえず医者!」

「い、いや、かまわん。それより、用件を聞こうじゃないか!」

「そう?どうやら本当に体調が優れないようだし、日を改めても良いのだけれど」

「いや、早く済ませてしまいたいのでな」

「そう。なら単刀直入に言うわ。馬寿成、この曹孟徳の軍門に降りなさい」

「断る」

 

即答かよ。

 

「……聆、貴女のことだからもう既に説得済だとばかり思っていたのだけれど……」

「私をなんやと思っとるん?」

「一騎打ちした相手を従えることが出来る便利な娘」

「よっしゃ華琳さん私と一騎討ちするか!」

「ふん……どうやら噂は本当に誇張だらけなようだな」

「ええ。それに、悪く聞こえるように捻じ曲げられているわね。……それはそれで対処を検討するとして。……断る理由を聞かせて貰えるかしら?」

「……以前にも言ったが、アタシは漢の将だ。それ以外に仕える気は無い」

「腐った役人共をのさばらせ、農民上がりの反乱も抑えられずに滅びたような漢に仕えたまま朽ちるのは惜しいとは思わない?」

「例え衰えようと、例え果てようとも一度主を決めたならそれを貫き通すのが武人としてのけじめだ。敵に尻尾を振ってまで生き延びようとは思わん」

「そう……。この天下を手に入れた暁には、西涼を任せられるのは貴女を除いて居ないと思っているのだけれど」

「ふん。おかしなことを言う奴だ。なら何故ここに攻め入ってきたんだ」

「確かに貴女は優れた人物よ。……でも、西涼諸侯の全てがそうかしら?……私はそういう無能で不要な為政者を消し去るために戦っているの」

「『占領地の役人を一掃して自国の者にすげ替える』という噂はここから来ているのか……。やれやれ。バカを見せられたもんだ……」

「どう?私の覇道について来る気は無いかしら?私はこの天下を本気で守りたい。その為には、長年蛮族と戦ってきた貴女の力が必要となるでしょう。貴女が欲しいの」

「……………」

「んだらこないしたら?"家臣"やのぉて"同士"ってことで。アレやん?天下を治めるっていう漢の遺志と華琳さんの目的は同じやから華琳さんに協力しても漢を裏切ったことにはならんのちゃう?」

「聆……お前、天才か!」

「まぁ、華琳さんにとっては、同盟とかは手緩いかも知れんけど」

「いえ。それでも構わないわ。……馬騰。私に力を貸してくれないかしら」

「………………分かった。武を振るうことはもう満足にいかないが、西涼の地理と経験、その覇道に存分に役立ててくれ」

「よし、そうと決まれば早速みんなに知らせないとな!」

「いえ。待ちなさい一刀。……馬騰、貴女が聞いている噂は当然馬超や馬岱も聞いているのよね」

「ああ。そうだが。……なるほどな。ならばアタシの生存は伏せた方が良いか」

「……どういうことだ?」

「噂では私たちは相当な鬼畜なようだから。むしろ生きている方が馬超の心象は悪いでしょう」

「……ここは、自刃したということに」

「ええ。それが一番でしょうね。種明かしは戦を終わらせて馬超に私たちの本当の人となりを知ってもらってからにしましょう。馬騰も、それでいいかしら」

「いや、一つ良くないところが有るな」

「……?」

「同士になったってのに、その呼び方はな。アタシの真名は『靑』だ。受け取ってくれ」

「ふっ……。そうね。私の真名は『華琳』」

「華琳様が許したのなら私も。『秋蘭』だ」

「『聆』やで」

「えっと、天には真名って風習がなくて……強いて言うなら『一刀』がそれに当たるかな」

 

うっ……俺も真名欲しいぞ……。

 

「……なら、華琳。これからよろしく。この私に協力させるんだから、絶対にこの天下を完璧に治めてくれよな」

「言われなくてもそうするつもりよ。でもそのために貴女も十分に働くのよ。靑」

 

 

 こうして対西涼遠征は終わりを告げた。これによって曹魏が大陸の北半分を手に入れたことになる。これからはいよいよ三国三つ巴の戦いになるだろう。蜀や呉とも、こんな風に分かり合えたら良いな。




馬騰オリ設定真名「靑」
表示できないこともないですよね……?
拠点フェイズが終わったらいよいよ定軍山ですが、
楽勝な気がします。
ヒント : 七乃さん無双


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第十章拠点フェイズ : 聆(3X)の見得

作者のことを自宅警備員だと思っている人とか、まさか居ませんよね?

将棋よりオセロが好きです。


 「お前ーがヨミでーオーレーがートーモー♪」

 

ゴキゲンな昼下がり。西涼遠征の間に溜まった書類も意外と早く片付き、今日の業務は終了となった。……日課の鍛錬が有るが、それはまた後の話だ。バ会も無いし、凪は警邏、真桜は工房に篭っている。沙和は一刀とデートだ。こう言う、程よく暇なときは、どこか居心地の良い所でゆっくり呑むにかぎる。

中庭の、四阿に足を進める。以前は、こういう時は専ら裏庭だった……と言うより、裏庭は私の巣と言っても過言ではない感じだったのだが、そこで一刀やかゆうま達と鍛錬したのをきっかけに、武将達の訓練所と化してしまった。

 

「先にーオーチーをー言ーったらー何か上手いこーとー言ったーみたいにーなーりーまーせんーー?♪……ん?」

 

「あーっ、チクショウ!そう来るか!」

「ふふん。貴女もなかなかだけど、読みが甘かったわね」

 

どうやら四阿には先客が居るようだ。……軍師ーズと靑か。ボードゲーム……将棋をやっているらしい。

 

「やはりこの遊戯の性質上、騎馬隊の多方同時一撃離脱の完全な再現はできませんからね」

「ええ。でもその戦法を元にここまで戦えるなんて思いませんでしたー」

「これは新戦法の研究が必要なのです」

「何か、持ち上げてもらって悪いな……。でも、やっぱ本職の軍師には勝てんか。これでもアタシ、西涼じゃ結構なモンだったんだがな」

 

「どっち勝ったん」

「あら、聆。私と靑で、私が勝ったわ。……貴女もやる?」

「いや、観戦。酒の肴にするからええ勝負してな」

 

空いている席につきながら答える。ルールは本で読んだことがあるし、現代日本の将棋もそこそこ強かったから、弱くはないだろうが、それでも、やはり軍師とやり合うには力不足だと思う。

 

「そうですか。聆さんの差し口は面白そうなんですけどねー」

「ああ。アタシも興味有るな」

「きっと思いもよらない手で撹乱してくれるのですよー」

「あ、そう言えば七乃さん、美羽様はどなしたん?」

「お昼寝中ですよー。って言うかー、話の逸らし方雑過ぎません?」

「ごめんなー。今日はもう頭使わん日って決めとんや」

「どんな日よそれ。……まぁ、いいわ。次、誰がやる?」

 

軍師ーズじゃ、桂花が仕切ってることが多いな。気が強いから当たり前か。

 

「じゃあ、風がー。靑さん、お願いしますー」

「二連続は勘弁してくれ」

「なら私とやって見ませんか?」

「そうですね。確か七乃殿と風は一度も対戦していないはず」

「んー……敢えて避けていたのですがー……」

「あれ、そういうこと言っちゃいます?」

 

軽く言葉を交えつつ駒を並べていく。速いな……。やり慣れてる感がすごい。

 

「これ、二人共相当強そーやな」

「ええ。強さを単純に数値で表したら同じようにほぼ満点になるでしょうね」

「でも相性の問題が有るからな」

「え、でも一回もやったこと無いんやろ?」

「二人共極端ですからね。風は仕掛けを作って最後にひっくり返すのが好きで、七乃殿は逆に手数が非常に多いですから」

 

盤上の動きを見ると、確かに七乃さんが角(?)と桂馬(?)で場を荒らしまくっている。

 

「少しずつ削られていって、仕掛けに必要な駒が足りなくなったりしやすいのよ」

「あー、風不利か」

 

だから避けていたのか。

 

「でも、七乃殿は偶にうっかりしますから。まだ分かりませんよ」

 

それ運ゲーなんじゃ……。

 

 

 「んー、勝ち筋が絶えてしまったのですー……」

「そうみたいですねー。じゃ、今回は私の勝ちということで」

「仕方ないですねー。予想通り苦手でしたー」

 

しばらくして。まだ互いに敵陣に入ってもいない段階で勝負がついてしまった。……っぽい。よく分からん。

 

「十八−八の槍兵を取られたのが痛かったですかねー」

「あ、やっぱり十九−三狙ってました?」

「むー、バレてましたか」

「そうじゃないと五−二十の騎兵の説明がつきませんもん」

「やっぱり五手目は四−八弓兵より六−三槍兵の方が良かったんじゃないの?」

「それもそうなのですがー、ちょっと強引な感じがして好きじゃないのですー」

「好きかどうかで手を決めるなんて感心しないわね。風」

「まぁまぁ、禀さん。遊びですからー」

 

うーん、分からんな。やはり軍師はこういうことに関しては格が違うようだ。ちょっと嘗めていた。

 

「どうだ、聆。やってみる気になったか?」

 

今のを見てどうやる気になれと。

 

「ないない」

「なんだよ付き合い悪いな」

「それは聞き捨てならんな」

 

コミュ力で曹操を縮み上がらせるこの鑑惺に向かってなに言ってやがる。

 

「じゃ、やるんだな。誰とやる?」

「おいおい、煽った本人がなに他人面しとんのん?」

「アタシと、か。……もしかしてアタシなら勝てるとか思ってねェだろうな?」

「おうよ 肥溜めに叩き返したるわい」

「ゴフッッ!?」

 

 

 ……と、大見得を切ったものの。

 

「ふん、これはもうアタシの勝ちだな」

「片側に集中して攻めるのは面白い発想だったんだけどね」

「攻めに出た陣の背後に入り込まれてしまえば……」

「いや……まだや。まだ終わらん……」

 

振り飛車からの美濃囲いっぽい戦法をとってみたのだが……。追い詰められていた。この将棋、野戦を模しているため、本陣と左右両翼の三グループに分ける考えが基本だ。それを、片側ガン攻め片側ガン受けの振り飛車で挑んだものだから、始めは大層盛り上がった。しかし、誤算が有った。この将棋は現代日本のものに比べて駒が多い。そして飛車(?)角(?)それぞれもとから二枚ずつだったのだ。囲いを完成させるため、一手攻めを緩めたところ、一気に形成逆転された。もちろん、金(?)銀(?)も多いが、小駒と交換させられたりしてガリガリ削れていく。攻め爆上げに守りが追いつかないのだ。道理で囲いの概念が無いワケだ。

 

「負けを認めたらどうだ?」

パチッ

「降参はせん主義なんや」

パチッ

「ふん。この状況で……」

パチッ

「………」

パチッ

「な……逃さんぞ」

パチッ

「………」

スッ

「おのれ!ちょこまかと……」

パチッ

「…………」

スッ

「ぐ……」

パチッ

パチッ パチッ

…………

………

……

 

 「どうしてこうなった……」

「こんなこと、起こり得るのね」

「棋譜は暗記しています。これを売りましょう(提案)」

「引き分けのはずなのにこの無敵感……」

 

盤上の私から見て奥……靑の陣に赤い長方形が出来ていた。正体は成り駒の塊。私の玉を囲んで守っている。

 

「没落して命辛辛逃げ延びた王が再興して都を作り上げたのですよー……」

「それを守るのが成り上がり……叩き上げの兵達っていうのも心躍りますねー」

「これを元に物語を書きましょう(提案)」

「お前……始めからこれを狙って……!?」

 

そんなわけ無いだろ。

 

「さあ?どないやろな。……んだら、そろそろ鍛錬行ってくるわ」

 

次の対戦が組まれる前に席を立った。

 

……なんとか玉を守りきれて良かった。ついでに私の「何かすごい奴」というイメージも。




実際に有った恐い展開。
敵陣に入ってしまって、成り歩その他でガッチガチに固めてしまうやつ。攻めの要の香車と桂馬は前にしか進めないので全然落ちないという。


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第十章拠点フェイズ :【原作おまけ】盃の中に入る想い の前日(面会者①)

東方二次に向けてペド月精を読み返していると、アリス登場回の人形の雪かきのシーンでルーミア人形を見つけました。他の娘の人形も作っているのでしょうか。かわいいですね。

お見舞いは匙加減が大事ですね。


 「ゴホッ……うぇぅ………」

 

なんか知らんが風邪を引いた。いや、だいたい原因の察しはつくが。最近は色々と頑張りすぎて寝不足気味だった。西涼のアレもあって、毒関連の勉強を始めたし、上からの指示で、火計対策の訓練もやらなければならない。ちょっと詰め込みすぎた。

とりあえず今日、明日は自室療養の申請を出している。移すといけないから面会は極力避けるようにとも言っておいた。多少暇だが、仕方ない。大人しく寝よう。

 

 

 「よーっす!調子はどないや?」

「お見舞いに来たのー!」

「二人とももうちょっと静かに……」

 

少しウトウトとし始めた頃。バァーンと乱暴に戸が開き、三人娘がやって来た。相変わらず騒がしい二人。それに注意しつつも無遠慮に入ってくる凪までセットでいつも通りだ。

 

「お見舞いとかやめといてくれって言ったはずなんやけどな」

「極力、やろ極力。そんなことより良えもん持ってきてん。パンパカパーン!お菊ちゃ――」

「よっしゃ帰れ」

「えー!何でぇな。暇も躰も持て余しとるやろ?それに汗かいたら早よ治るって言うしー」

「その為に無駄な体力使ったら意味無いやろが」

 

それに私はオモチャは使わない主義だ。

 

「まぁまぁ。ウチらが帰った後にこっそり使えるよーに、ここ置いとくで」

「おう持って帰れや」

「あ、せやなせやな潤滑剤がなかったら使い辛いな。パンパカパーン!ろーしょんー!!」

「はぁ……どうしても使わなならんか……?」

「まぁ、頑張って作ったしなぁ」

「そーか。じゃ、使うか……」

「そーそ。それでええねん……って、何でこっち来るんちょ、待っ、待って待ってアカンってアカンアカンギャァァァァァァアァァァァァ!!!!!」

 

 

 「うぅ……ウチ汚されてしもぉた………初めてはたいちょーにあげるつもりやったのにぃ」

「やから尻にしとるやろが。ってかこの前、やったってはしゃいどらんかった?」

「後ろの初めてもあげるつもりやってん」

「あー、んだら女同士は無効で」

「せやな」

「切り替え早いな」

「ちゃうねん。実際に使われてみて改良せなあかんトコが見つかったから、そっちのが気になるねん」

「そうか。帰って、どうぞ」

「んじゃ、お大事になー」

 

何かドッと疲れた気がする。

 

「沙和と凪も風邪移ったらアレやから……」

「うん。でもその前に沙和も渡したいものがあるのー」

「マトモなモンなんやろな?」

「見たら分かるのー。はい、これ!」

 

手渡されたのは毛糸で編まれた服。どうやらセーターのようだ。

 

「この前たいちょーに聞いて作ってたの。風邪のときには暖かくしなきゃだもんね」

「おー……予想外にマトモなモンでちょい動揺しと……?」

 

……広げて見てみると、何か言いようのない違和感が………。

 

「……これ、何で肩と胸元バッサァ開いとん?」

「その方がカワイイの!」

「痴女か!」

「私の服も開いているんだが それは……」

「あ、ごめん凪」

「聆ちゃんが隠し過ぎなだけたよー。せっかくキレイなんだからもっと出してかないと!」

「趣味に合わんから却下」

「でも聆ちゃん西涼でいやらしい服だったのー!」

「大きさが合わんかったんやから仕方ないやろ」

「えー?でも、たいちょーが こーゆーの好きだ、ってー……」

 

確かに好きそうだが……。

 

「待て。『風邪のときには暖かくしなきゃだもんね』って言葉と繋がらんのやけど」

 

さっきの話を聞く限り一刀とどうこうするための服なんだが。

 

「多分たいちょーも後でお見舞いにくるからー、それまでその服を着て待つのー!」

 

なるほどな。風邪対策をしつつ一刀を誘うのか。苦手だなぁ……。

 

「そういうんはちょっと……」

「聆ちゃんは奥手すぎるのー!」

 

一刀さんの一番搾り頂いちゃったこの私に向かって何言ってんだコイツ。

……それにしても服関連の沙和はしつこい。

 

「あーもー!分かった 貰うから騒ぐな」

「うんうん!なら早速着てみるの!」

 

しつこい。

 

「はぁ……。着たら帰ってな?」

 

セーターとか苦手なんだよな。チクチクするし。着るときはいつも内側に丈の長い服を着ていた。もちろんタートルネックはNGだ。

 

「あ、その服、せぇたぁ って言うんだけどー、着るときは下着を脱ぐのが まなー だ、ってたいちょーが言ってたのー」

 

一刀ェ……。

……あ、でもこれチクチクしない。さすが沙和。

 

「今度胸とか開いてないセーター作ってな」

「任せてなのー♪」

 

次は背中が開いていたのはまた別のお話。

 

 

 「私からは治療だ」

 

続いて凪。

 

「治療……?」

 

素人がやると危険じゃないか?

 

「氣を使って生命力を高めて病を治す方法を以前本で読んでな」

 

あぁ、そう言えば書庫に五斗米道《ゴッドヴェイドー》の本が有った。凪なら氣の扱いはむしろプロだ。信用できるかもしれない。

 

「腕を出してくれ。――少し痛むかもしれないが……」

 

縫い針っぽい何か適当臭漂う針が刺される。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ………………!!」

 

凪の周囲に轟々と炎のオーラが現れる。

 

「げ ん き に な れ ぇ ぇ ! !」

――死――

「っらァ!!」

「うわっ!?」

 

突如として浮かんだ明確な死のイメージに、思わず凪を突き飛ばしてしまった。

 

「何をする!」

「いや待てお前!それ何か試したか?」

「……初めてだが」

「……ちょっとこの花に試してみてくれ」

「……? 分かった」

 

朝一で三課長が持ってきた白百合を手渡す。

 

「げ ん き に な れ ぇ ぇ ! !」

パァンッッ

 

破裂。沈黙。

実は五斗米道では、治療用に氣の量と質を細かく調整する必要がある。対して凪の氣はバリバリの攻撃特化。そりゃ破裂もするだろう。

 

「あ、あわわわわ……」

 

凪と沙和の顔が見る見る青くなる。

 

「す、済まない!あぁ……私はなんてことを……!」

「いや、大事には至ってないし大丈夫や」

「いや!あのままでは取り返しのつかないことになるところだったんだ!何か償わせてくれ!そうだ、私を殴ってくれ!!」

 

何これめんどくさい。普段なら笑えるハプニングなんだが、いかんせん今日は体がダルい。

 

「えーっと……とりあえず一旦帰ってくれればそれで」

「そんな!」

「聆ちゃん!凪ちゃんも反省してるし、謝ってるんだから……えっと、その、確かに危なかったけど許してあげて!」

「うん……?別に怒ってないって。ダルいだけや」

「聆ちゃん!」

「すまない……何でも するから、そん なこと言わないで……ッ許してくれぇ」

 

あれ、何か泣き始めたんだが。……あ!

 

「別に顔も見たくないとか、そう言うアレとちゃうからな!?ただ、えーと……」

 

『しんどいから』『騒がしいから』『疲れたから』……どの言葉を選んでも相手に気を使わせてしまいそうだ。

 

「ま、まぁ、明日にでもまた来ぃや」

「………ッ」

 

バッと走って出ていってしまった。なんなんだってばよ。

 

「え、えーと……じゃあ、お大事にーなのー」

 

それを追って沙和も。

 

どうやら私より凪の方が重傷になってしまったようだ。……でも私は悪くないよな?しかたなかったよな?




そろそろ呉攻めということで、呉勢のキャラを確認するために久々に呉ルートをプレイしてみましたが、全編通してお葬式ムードでワロタ。
初期は孫堅さん、次は孫策、最後は周瑜。
英雄譚では死なないことを切に願います。

英雄譚で思い出しましたが、この作品では基本的に英雄譚の設定は無視で行きます。死亡時期とか性別とかが違うっぽいので。
実際にプレイしてみて、使えそうな設定が有ったら使いますが、望み薄ですね。


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第十章拠点フェイズ :【原作おまけ】盃の中に入る想い の前日(面会者 ⑨)

本当は②ですが⑨。

無駄に時間がかかりました。
書いては消し、書いては消しを繰り返していたのが原因です。
※この三日ほどで思いついたトンデモ展開ワーストスリー※
1位 かゆうまの母親が聆
2位 聆死亡。現世に一時帰還
3位 猪々子も五斗米道をやる。もちろん失敗


 「はぁー……。寝れん」

 

三人娘の訪問から少し経った頃。

煩わしかったはずの喧騒が恋しく感じる。……少し身勝手か。本など読みたい気分だが、今はとにかく寝て体力を取り戻さなくてはならない。

まぁ、さっき死にかけたおかげで目が冴えまくって全く寝られる気がしないが。どうしてああなった。……思えば私が迂闊だったかもしれない。確かに凪は氣のスペシャリストで、且つ、実直な性格だが、あと一歩のところで抜ける、或いは雑になるという妙な癖が有る。先に何かで試させるべきだった。真桜や沙和のプレゼントにしても、私の対応は不適切だったように思う。せっかく用意してくれたのだから、例えそれはがどんなに不必要で不真面目なモノでも笑顔で受け取るのが大人だ。

……過ぎたことを嘆いても仕方ない。体調が戻ったら三人娘……特に凪のフォローに気をつけるとして、次、誰か来たら完璧な対応をしてやろうじゃないか。「これぞ大人」って感じの。そう、まるで菩薩のような!

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「嵬媼!無事か!?」

ドゴォォォォッッ

「レイ姉ーー!!」

「ごフっ!?」

 

かゆうまが、破壊するような勢いで戸を開いて(と言うか実際に破壊して)、猪々子が、突進するような勢いで(と言うか実際に突進して)私に抱きついてきた。どうして見舞いでこうも痛めつけられなければならないのか。

……という不満は胸に仕舞い込んで。

 

「二人共なんでそんな大騒ぎしとん?」

「そりゃレイ姉が自室待機なんて相当すんごい病気なんだろ?」

「え、普通に風邪やけど?」

「誤魔化すな。腹を穿かれようが腕をへし折られようが首を捻り折られようが平気な奴が風邪ごときで寝込むはずがあるまい」

「前二つに関しては別に平気やったワケとちゃうからな?あと、自分が辛いのんもあるけど、他人に移さんように部屋に籠もっとんや」

「……なら、本当にただの風邪なのか?」

「そうやで?」

 

……「ただの」って何だ「ただの」って。結構辛いんだぞこれ。

 

「なんだよー。心配して損したじゃんかー」

「ふん。風邪ごときで……」

「そもそも何でかかったんだ?アタイ、風邪なんか引いたことねぇぞ?」

「体力が足りんのだ、体力が」

「あー、確かにレイ姉、技と精神は凄いけど体力がなぁ……」

「ああ。きっちりと基礎鍛錬をしていれば病気になどならん」

 

何このアウェー。

確かに、もうそろそろガチ三国三つ巴ということもあって最近はちょっと手先の技術に傾倒していたが……。

つーかお前らはお前らで、鍛錬ばっかやってたおかげで頭が病気ではないか。

 

「ほら、そんなところでぐーたらしてねぇでさっさと治して鍛錬しよーぜ!」

「いや、やから、治すために寝とんやけど?」

 

横になっているだけで眠れてはいないが。

 

「寝ているだけで状況が良くなるのであれば軍師や兵など解雇して赤子でも雇えば良い」

 

何言ってんだこいつ?……もしかして戦と風邪の対処をごっちゃにしているのか?新手のジョークか?

 

「えーと……寝ることによって体力を養い、抵抗力を――」

「何か回りくどいな、それ。風邪って、結局、何が辛いんだ?」

「咳とか鼻水とか色々やけど。私は熱が酷いかな」

「熱って?」

 

……「熱って?」って?話が分からなさすぎる。こんなのといつもつるんでたのか。凄いな。普段の私。そして凄いな。風邪による能力低下。

 

「ごめん質問の意味がよぉ分からん」

「『咳』は咳が出るってことだろ?で、『鼻水』は鼻水が出るってことじゃん?じゃあ、『熱』は、熱が出るってことか?」

「そ――」

 

まて、このまま肯定したら、「熱」=放熱 と思われるんじゃないか?

 

「えーと、体温が上がりすぎて気分が悪ぅなるんや。お前も、風呂で上せたことぐらい有るやろ?あれと同じ感じ」

 

違うかもしれないが、他に思いつかなかった。

 

「あー、そう言われれば、さっき抱きついた時ちょっと熱かったかも」

「やろ?」

「ならば冷やせば良かろう」

 

そしてかゆうまは女官を呼びつけてなにやら託けた。悪い予感しかしない。

 

「かゆうま、何する気なん……?」

「風呂に水を張ってもらった」

 

裸にひん剥かれて冷水にドボン?確かにドイツの一部ではそういう民間療法も有るらしいが……。辛すぎる。それに、熱は体内の細菌を殺すのに必要な事だ。冷ますのは最低限にするべきだ。寝るのが一番だと思う。

 

 

 「よし、そろそろだろう。行くぞ、嵬媼」

「嫌や!」

「どうしたんだ今日は。やけに物分りが悪いじゃないか」

 

物分りが悪いのはお前らだこのバカが!

 

「……仕方ないな。文醜、そっち持ってくれ」

「おう!」

 

かゆうまが私の背中に腕を廻し、猪々子が足側につく。ヤバイこれ。誰か助けて。

 

「華雄!こんな所に居たか!」

 

誰か来た!これでこのバカ共を――

 

「どうした夏侯惇」

 

\(^ p ^)/

 

「訓練所に居なかったからな。探していたのだ。……何をやっているんだ?」

「嵬媼が風邪を引いたらしくてな」

「何?風邪だと?ふん、修行が足りん!」

「て、熱が酷いらしいから、水風呂で冷やそうぜってことになってたんだ」

「ふふん。バカだな貴様ら。水風呂などと」

「何だと!?」

「えー?じゃあどうすれば良いんだ?」

「『熱が出ているから熱を冷ます』ではしょせん熱にしか対応できないではないか。それは村に降りてきてきた山賊に対処して本拠を潰さないのと同じ愚行!……そして、この場合の本拠、即ち風邪の原因は何だ?」

「……!」

「な、なるほど」

「ふふ。これが分からないほど愚かではないようだな」

「見くびってもらっては困る」

「じゃあ、早速」

「「「今から鍛錬に行くぞ、聆(レイ姉/嵬媼)!!」」」

 

バカコワイ




体力と精神力がガリガリくん。


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第十章拠点フェイズ :【原作おまけ】盃の中に入る想い の前日(面会者 ③)

超展開注意。
場合によっては黒歴史化するかもしれません。
割とワーストな展開を引いてしまったかもしれないので。
※候補※
①霞姉。酒呑んで騒ぎまくって聆がキレるエンド。
②一刀。完璧な気遣いと看病で聆が惚れる。
③華琳。今回の聆が吹っ切れなかったバージョン。そして十八禁へ……。

結論
頭の調子が悪い時は素直に休むべき。


 「……知っとる天井や………」

「あ、やっと目が覚めたか!聆!」

 

私はいつもの寝台の上で目覚めた。

 

「……隊長?」

「聆、二日も眠ったままだったんだぜ?」

「はっ!?」

 

いったい何があったんだってばよ。

 

「私の身に一体何が……」

「むしろ俺が聞きたいくらいだよ。聆が倒れた時に一緒にいた華琳も何も言わないし……」

 

華琳……そうだ。確かに華琳が居た気がするが。

 

「……あ」

 

  ※――――――――――――――――――――――――――※

 

 「虎口を脱すとはこのことか……ごフッ」

 

バカ襲来からしばらく経った後。私は何とか自室に戻って来た。「聆の風邪が治るまで続ける」とか頭のおかしいことを言ってきたので、なりふり構わず飲み水に毒を盛って逃げ出してきたのだ。……それまでに結構ボコボコにやられたが。あまりにもやられすぎて、 "敢えて身体の力を抜き、吹っ飛ばされることによってダメージを軽減する"という超消極的な戦法を思いついてしまうほどだ。バカ達は病人相手にも加減が無さすぎるのだ。そもそも私は普段の手合わせからしてかなり神経をすり減らしてやっているというのに。私も中々の人外になってきているはずなのだが、それでも筋力と体力が違いすぎる。

 

「うぅ……とりあえず寝よ」

 

頭痛と寒気が一段と酷くなって、しかも体中いたる所が痛む。口の中も何か血の味するし。そもそもどうしてマトモな看病を出来る奴が来ないのか。内心、実は期待していた三課長も、しつこく下の世話と体を拭くことを迫ってくるだけの役立たずだった。

……そう言えば、「面会は極力避けるように」といっていたのだった。これではむしろ空気読める奴の方が来ないではないか。

つまり、

 

↑ここまで死地

――――――――――――――――――――――――――

↓ここからも死地

 

ということか。

何だこれ悲しくなってたきた。

 

「聆、入るわよー……って、え!?戸が外れた!?」

 

そして意外にも華琳がやってきた。かゆうまに壊された戸を再び破損しつつ。

 

「全く……またあの娘たちの仕業ね。後で直させないと。……さて、体調はどう?聆」

「最悪や」

「そ、そう……。何かあったのね」

 

何か有ったどころの騒ぎではないのだが。

まぁ、一応 私を気遣う言動をしているのでここまでは及第点。濡れた手拭いを額に乗せるか何かして、「じゃ、何かあったら遠慮なく呼ぶのよ」とか言って帰ってくれれば満点だ。

 

「……貴女、よく見ると随分汚れているわね。体、拭いた方が良いのではなくて?」

 

なんだエロか 欠点!……と言いたいところだが、さすがに早計か。実際、さっきまで幾度となく地面と戯れさせられたからな。

 

「私が拭いてあげるわ」

 

アウt……いや、純粋に、辛そうな私に配慮してのことかもしれん。

だが、一応。

 

「いや、自分でやるわ」

 

言いつつ、その辺に引っ掛けてあった適当な手拭いと水差しを取る。

 

「……研磨用のボロ布と酒で何をしようというの貴女は」

「あー、うん。間違えた。こっちや、こっち」

「それは褌よ。はぁ……。思った以上の弱りようね。もう、私がやるわよ」

「いや……えぇわ。治ってからにするわ」

「そんなに汚れたままじゃ治るものも治らないわよ。遠慮せずに……ほら」

 

言い終わるが早いか、背後からスルリと服を脱がされてしまう。さすが最強のレズビアン。手際が良すぎて、どう脱がされたのか分からなかった。

 

「ふふ……そう緊張しなくてもいいわよ。女同士なんだから。ほら、もっと力を抜いて楽にして」

 

女同士と言ってもなぁ。

 

「……それにしても綺麗な……見事な躰をしているわね、貴女は」

 

背中をひんやりと湿った布が滑る。火照った体に心地良い。背すじをなぞって……肩……腰……

 

「くぅ……っ」

「あら、どうしたの?」

 

首筋に触れられて、思わず声が漏れてしまう。そもそも私は、体のどことも限らず、撫でられるのに弱い。

そして、それに返す声には愉しむような響き。やはり、分かってやっているな。

 

「華琳さん……そーゆーんはちょっと……」

「何のことかしら?私はただ拭いているだけよ?」

 

後ろ側を拭き終えた手は、迷うことなく前に廻され、膨らみを包み込むように撫であげる。背中に華琳の体が密着し、甘い香りが鼻を擽る。繊維に擦られる、微弱ながらも鮮明な感覚に、頭がクラクラする。

 

「……それに、そうなることを望んでいるのは貴女の方ではなくて?ふふ……こんなに尖らせて」

 

トドメとばかりに、先端をキュッと摘まれる。電流のような刺激と、火照りが合わさって、……何かが吹っ切れた。

 

「真剣にしんどいんで本当にやめてもらえますか?」

「えっ」

 

一瞬動きが止まった隙に寝間着を着直し、華琳の方に向き直る。

 

「何でそう、すぐ淫行に走ってしまうんですか貴女は?私は風邪で、体力も精神力も弱っているのは明白ですよね?」

「えっ、え?さっき、イける流れじゃなかった!?」

「イける流れって何ですか頭おかしいんじゃないですか?」

 

何か色々と冴え渡っている気がする。猪々子と一騎討ちしたときの感覚と似ているかもしれない。あぁ、私、さっき死にかけたんだな。

 

「いえ……あの、貴女の体もいい感じに反応していたし……」

「そりゃ擦ったりつねったりしたらどうにでもなりますよ。しかもそれ、強姦魔と同じこと言ってますよ?」

「それに、さっきも言いましたけど、そもそも風邪を引いて寝込んでいると言うのに、どうして余計に体力を使うようなことをするんです?」

「……春蘭や秋蘭はこうすると喜んでくれるし」

「私があの二人ほど曹操殿を慕っているとお思いで?」

「……ごめんなさい」(『曹操殿』!?)

「しかも、貴女が来る以前に私に何か不幸が有って風邪単体によるもの以上に消耗していたのは分かっていましたよね?」

「……貴女、私にだけ厳し過ぎない?」

「それは誰に対する態度と比較して言っているのですか?」

「あのいつもつるんでるバカ達よ!あの娘達の方がよっぽど迷惑じゃないの」

「バカがバカなことをするのは仕方ないからです。バカなんですから。……それでもやはり、やり過ぎだと判断した時は注意しますが。さて、曹孟徳氏。貴女はバカですか?」

「分かったわよ。確かに私の行為は不適切だったわ。……でも、貴女も相当失礼な言葉を並べ立てているのだけれど?」

「……そうですね。腹切って死にます」

「えっ!?ちょ、ちょっとやめなさいよ!」

「いいえやめません。確かに私の言動は主君に対して不適切極まりないものでした。……あぁ、部屋が汚れることを気にしていらっしゃるのですか?」

「違うわよ!そこまで気にしていないから!ちょっとした悔し紛れに言っただけだから!」

「私が失礼な態度を取ったことに変わりは有りません。お手数をかけないよう、どこかの山にでも行っ――」

「えっ!?聆?聆!?衛生兵!衛生兵ーー!!」

 

 ※―――――――――――――――――――――――――――※

 

 「何か思い出したのか?」

「いや?何も?」

 

……ヤベェーーー!!!関係ギクシャクどころの騒ぎじゃねぇぇえぇぇ!!!!

 

「えーと、うん。まぁ、華琳さんに心配かけたやろし、とりあえず会いに行こっかな」

 

ドア開けて土下座!ドア開けて土下座!!

 

「いや、それなんだけどな……今、風邪が大流行してて華琳も寝込んでるんだよ」

「んだら私が看病しに行こか?」

 

そしてジャンピング土下座だ。

 

「いや、聆も、病み上がりだし休んどいた方が良いんじゃないかな」

 

くそう……さすが気配りが出来る男。

もう少し早く……華琳より早く来てくれていればあんな惨事にはならなかったのに……!!

 

「華琳の方は俺がちゃんと看ておくからさ、聆は今日一日しっかり休んで、明日から頑張ってくれよ。それに、華琳も『よく休ませてあげなさい』って言ってたし」

「え、あぁ、そう」

 

つまり、「暫く会いたくない」ってことですね分かります。

 

 

 結局、私と華琳が顔を合わせたのはそれから二日後となった。

……そこから真名で呼び合う仲に戻るのにさらに一週間かかったが。




でも作者自身は割と気に入っているというね。


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第十章拠点フェイズ :【七乃さん伝】明日から本気出す

神戸の公共施設って意外とトイレ汚いとこ多いですね。
作者の地元よりは綺麗ですけど。


 「………ッ!」

ビシビシビシビシビシビシッッ

 

夜明け前、と言うには些か早すぎる早すぎる時刻。練習用のカカシを切り刻む音だけが裏庭の暗がりに響く。音の主は私。最近作った"極細剣"の使用感を確かめているのだ。大仰な名が付いているが、武器そのものは大したことはない。鉄筋にちょっとギザギザを付けたようなものだ。感触は上々。敢えて柄を作らず、代わりに指を通す輪を付けたことにより、何本か一度に持つことや、回転を利用した超変態軌道が可能となっている。それに、よく撓るので"飛ぶ斬撃"との相性も良い。サブウェポンとしては中々の私的ヒット作だ。

 

「うん。これは実用化やな。さて、次は……」

 

極細剣をしまい、次の武器を手に取る。まだ暗く、篝火だけがたよりのこの時間。決まって私は、所謂"隠し武器"関連の鍛錬或いは研究をしていた。他の時間は他の用事で忙しい、というのもあるが、一番の理由は諜報対策。遠くからでは何を持っているのか判別がつかないこの時間なら、思う存分に"切り札"を振り回せる。

 

「やっぱ血滴子はネタ武器。はっきり分か――」

「あれ、聆さん?」

「んあ?」

 

こちらに歩いてくる人影は……七乃さんだ。

 

「随分 朝、早いですねー。噂には聞いていましたが」

「そう言う七乃さんも大分早いやん」

 

結構な不思議人だとは思っていたが、まさか起きる時間まで変だとは。……人のことを言えた義理ではないが。

 

「私は今から寝るところですよ」

「……遅いな」

 

今は確か寅の刻だったはずだ。

 

「なんでまたこんな時間まで起きとん?」

「いやー、最近、ついに魏の正式な軍師になっちゃいましてー……。地味で面倒な仕事がいーっぱい……」

「あぁ……」

 

つまり、今までは戦の現場指揮(しかも殆どは賊相手)のみだった仕事が、戦略から政まで、多岐に渡る分野に広がったということだ。そりゃあ生活習慣も……

 

「……いやいや、それでも遅過ぎん?他の軍師とかそんな遅ぉないやん」

「お嬢様がお休みになってから仕事始めですから」

「あー、なるほどな」

 

七乃さんはちゃん美羽が起きている間は常にべったりだ。当然その間ちゃん美羽の世話以外の仕事はできない。

 

「んだら美羽様が起きるまでが睡眠時間、と」

 

大体、二刻半くらいか。私に迫る短さだな。

 

「ええ。お嬢様と添い寝ですよぉ♪うらやましいですか?うらやましいですね?」

「おねしょの被害が怖いけどな」

「何言ってるんですか?ご褒美ですよ!」

「なんや、変態か。……で、美羽様はこの事、知っとんか?」

「え?ご自分のお小水に滋養強壮作用があることですか?」

「そうやのぉて、七乃さんがこんな時間まで仕事しとることや」

「……えー、知る必要も無いじゃないですかぁ」

「自分の従者の職務状況を知るんは必要不可欠やろ。主として」

「ふふん。お嬢様にはそれを補って余りある可愛らしさが有りますからね!」

「まぁかわいいけども」

「それはそれはもう。おはようからお休みまで余すところなく可愛らしくってもう!あぁ!思い出しただけで忠誠心が鼻から漏れ出る!」

「はい、手拭いと詰め物」

「あ、ありがとうございます。例えばこの前なんかぁ、お嬢様、おねしょしちゃったんですけど――」

「『蜂蜜水をこぼしたのであって断じて寝小便ではないぞよ!?ほ、本当じゃぞ!』」

「!? お嬢様!!?」

「声真似ー」

「え……似てるなんて生温い領域じゃなかったんですけど……。それに台詞もそのままでしたし」

「台詞はマグレや。いやー、でも、アレやな。バレバレの嘘ついとるのは何かかわいいなぁ」「ですよねー。それに、ちょっと悪戯が成功したときの得意顔とかぁ」

「大体七乃さんの働きによる結果やのに自分がやった気になっとんやろ?」

「そうそう。それにぃ、逆に、バレて怒られちゃったときの不貞腐れた顔も可愛いんですよねー」

「憂さ晴らしにまた悪戯を繰り返すのまでで一組やな」

「んー、聆さんよく分かってますねぇ。……はっ!もしや聆さんもお嬢様を!?娘はやらんぞ!!!」

「娘ってなんやのん。あと、狙っとらんから安心せぇ」

「えーー、ホントですかねぇ」

「アレやな。七乃さんは美羽様を溺愛し過ぎ感が否めなんな」

「かわいいですからねー」

「つってもなぁ。あの年で着替えの手伝いまでされとるようではな。ほんで七乃さんの世話について美羽様も当然やと思っとるやろ?」

「『当然や』じゃなくてー……」

「…………『とーぜんじゃ♪』」

「うぉふ……やっぱり凄く上手いですね……」

「……で、私が言いたいんは、このままやったら美羽様が何も出来ん無能に育つんちゃうかって話」

「そんな風に考えていた時期が 私にも有りました」

「うん。……ん?」

「逆に考えるんです。何もできなくていいさ と考えるんです」

「……一旦聞こか」

「簡単な話です。お嬢様が何もできないのなら、私が全部やればいいじゃないですかー」

「うわぁ。予想はしとったけどアカンやつやなこれは」

「それに、逆説的にお嬢様が私から離れられなくもなりますよね?」

「予想以上のクズや」

「酷いなぁ。聆さん、愛ですよ。愛」

「愛ゆえに人は歪まねばならぬ……」

「例え歪んでいたとしても寄り添えるのなら本望です」

「うん。でもそれ美羽様、袁紹の二の舞いになるやんな?」

「……………」

「……………」

「…………躾、しますかー……」

「……できることは協力するわ」




このまま躾パートに移行するのも有りですが、最近流れが止まり気味なので一旦終了。
でも書きたいことが結構あるので、次以降の拠点フェイズでは、下手したら二連続美羽様イベントもあり得る話です。


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※作品の説明、設定と言い訳3

何故か小指がまた折れたのですがなんでですかね?
小指って知らない間に折れてるのでホント困ります。


重要人物

 

袁 術 公路 美羽(様)

説明不要。

美羽様のことを思うと右足の親指と左足の親指の間から忠誠心が漏れるんですがどうすればいいですか?

 

鑑 惺 嵬媼 聆/カン セイ カイオウ レイ

「さすが聆さんや!!」

バカキャラたちのおかげで変な方向に覚醒しつつある本作の主人公。

補助スキル特化型の気持ち悪い戦いが得意。

オーバーワーク気味なため、えっちなことをする体力が無いという、恋姫にあるまじき努力キャラでもある。

 

北郷 一刀

性帝。

キャラが作中に居ない時は大体この方とイチャイチャしていると思ってもらって構わない。

真桜が制作した刀を腰に挿しているが、普段は周りに合わせてヒノキの棒を使っている。

 

曹 操 孟徳 華琳

カリスマブレイク(真顔)。

政、戦略、芸術センス、本人の戦闘能力、どれを取ってもトップクラスだが、ここぞという時に不運。

誰も悪くない。ただ時がその道を阻むのだ。

 

張 勲 七乃

本作の最終(鬼畜)兵器。ハッピーエンドへの鍵となる人物。

一刀と同じく、真桜制作の刀(袁術親衛隊制式採用打刀)装備という俺設定だが、登場することは恐らく無い。

 

バカ

バカ。命の危険。敵にとっても味方にとっても。誰とは言わない。

 

北郷隊三羽烏

作品世界的には、聆も入れて北郷隊四天将。

衣装制作、爆破落ち、ご都合オーパーツ。何でもござれの便利キャラ。

あまりに便利すぎるため自重している間に動かし方を忘れてしまったのは内緒だ。

 

馬 騰 寿成 靑

鮮烈なデビューを果たした新キャラ。

華琳のお気に入りで、しかも病人であるため、周りからは気を使われ気味。生存を隠すため、「曹操が西涼で拾った、馬に詳しい人」という能書きで、普段は馬司として働く。蛮族対策担当。

肺の病のため、戦には出られないが、一呼吸の間なら往年の武勇そのままの戦いを見せる。

使用武器は両剣「幕天席地」(俺設定)

 

諸葛 亮 孔明 朱里

お馴染み「孔明の罠」。悪いことがあるとこいつのせいにされる。

 

呉の皆さん

空気。

 

左慈

黒幕。

 

貂蝉

ホモ。

 

于吉

ホモ。

 

 

魏国要地

 

陳留

作品開始時の曹操の拠点。どういう理由か鑑惺推しがすごい。

 

故郷の邑

聆と三人娘の故郷の邑。養蜂所がある。

 

西涼

くさそう。

 

洛陽

袁紹からぶん取った都。

 

→城壁(外周)

城(街)全体を囲う城壁。5㍍ほどの高さ。御使いがお買い物デート後に〆で立ち寄ることで有名。

 

→城壁(内周)

街と王宮とを別ける城壁。10㍍ほどの高さ。手っ取り早く雰囲気を作れるらしい。

 

→警備隊詰め所

宿舎や休憩室、小規模の練兵場などがある。

あれ、李典様と于禁様は警邏の時間じゃありませんでした?

 

→数え役萬☆姉妹事務所

数え役萬☆姉妹の事務所。出待ちは厳禁。

エロい事がたまによくある。

 

→チャーハン兄貴(洛陽店)

通称「猪の餌」

陳留店より塩辛いらしい。

 

→王宮

武将達や軍師達が住まい、また、政治や戦略についての議論と決定が為される魏の中心。

戦場より危険だとか。

 

→→玉座の間

大規模な軍議や公的な謁見などが行われる。夜はエロい事も行われる。

 

→→裏庭

魔窟。超危険。素人が近づくと死ぬ。

 

→→中庭

度々お茶会が開かれる、美しい王宮の名所。

しかしここも週一のペースで危険地帯となる。原因はヤバい方のお茶会。

 

→→大浴場

男湯と女湯が有るが、御使いはむしろ女湯の方に馴染が有るようだ。運が良ければ貸し切りにもできる。

 

→→食堂

城に勤める者達(下級)の食事が提供される。意外なことに武将達との遭遇率が高い。理由は様々。

度々熊や猪、よく分からない何かなどが運び込まれる。

 

→→工房

李典の要望によって最先端の機器が揃えられ、数々のオーパーツを生み出す原動力となっている。

鑑惺も作品の加工のため、偶に立ち寄るようだ。

 

→→鑑惺の私室

シンプルなデザインの家具が並ぶものの、作りかけの美術品や酒瓶など、デリケートなものもまた多い。

地下への隠し扉がどこかに有るという……。

 

→→北郷の私室

エロい事が起こる(確信)。

 

→→曹操の私室

鑑惺デザインの家具が基本だが、こちらはゴージャスなものが多い。

エロい(ry

 

→→書庫

国勢資料から官能小説まで幅広い蔵書が魅力。

貸し出し記録の殆どが鑑惺だとか。

頻度は低いがここでもエロい事がたまによくある。

 

→洛陽近くの山中の小川

エロい(ry




本編書くよりも、こういう説明を考える方が好きかもしれません。


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第十章拠点フェイズ :【鑑惺伝】デートイベント その一

遅くなりました。
寝るのが幸せ過ぎて何も手につきませんでした。
恐るべきは新しい布団……。
書いてる間も眠くて眠くて。誤字が心配です。


 「最近 聆ちゃん 元気ないの」

「…………」

「…………」

「最近 聆ちゃん 元気ないの」

「沙和、ちょっと静かにしといてぇな。ウチ、今真剣勝負やってんねんから」

「ああ。俺としてもそうしてくれると助かる。真桜は少しのミスでピタゴラ死させてくるからな」

 

朝の警邏が終わって、俺は真桜と昼の奢りをかけて将棋を打っていた。俺が勝ったらワリカン、負けたら全額だ。勝ったところで奢ってもらえるわけではないし、食べる量は俺が一番少ないからワリカンでも損なんだけど、強引に無条件で奢らされるよりマシだ。多分。

 

「えーー!!たいちょーも真桜ちゃんも、聆ちゃんのことはどうでも良いのー?」

「昼飯代も大切や、ってだけの話や」

「ああ。特に俺はな。逃れられるチャンスがある時に逃れられないと、後々財布がすっからかんになるのは経験上明らかなんだよ」

 

最近は、聆が半分出してくれたりしてるんだけど、あいにく今日は凪と一緒に別ルートの警邏で、そのまま城に直帰だ。

 

「それに聆が元気ないってのもなぁ。ぴんぴんしとるやん?」

「確かに、風邪引いたりしたけどさ。あの後結局殆ど全員かかってたし」

 

信じられないことに、聆の風邪は、あの春蘭や華雄にも移った。一時期は魏の中枢が停止寸前までになって……。そう考えると別に聆だけが体調が悪くなったわけではないし、むしろ早くかかって早く治った分、聆が元気に何人分もの仕事をこなしていた印象が強いほどだ。

 

「そーゆーのじゃないのー!」

「はいはい……あ、ごちそうさんでーっす」

「え!?ミスった!?」

「じゃ、ここに……」

「いやいや、落ち着け……。……ここだ!」

「はい」

「うげ!?……ええい!」

「ほい」

「くっ……」

「もー詰んどるってー」

「いや、こうすれば……?」

「あかん。これ効いとる」

「じゃ、これは?」

「ここ下げてこう」

「………」

「………」

「………出来るだけ安い店にしてくれ」

「よっしゃ!沙和ー、勝ったでー!お昼どこ行く!?」

「あーあー!もう!今日は何とか回避するつもりだったのになぁ」

「はっはっはー。確かにたいちょー、天の言葉出まくりやったもんなー」

「あ、そうだった?普段はあんまし使わないように気ぃつけてるんだけど」

「出とった出とった!『ちゃんす』とか『みす』とかなんとか。相当必死やってんなぁ」

「結局負けちゃったけどな。あーあ。もう開き直るさ。で、真桜、沙和。どの店に行く?」

「あ、ウチあっこが良え!あの最近 東地区に出来たとこ!」

「げ、あそこいかにも高そうじゃないか……」

「えー、たいちょー負けてんやからしかたないやん」

「いやいや、沙和の意見も聞かないとな!沙和はどこが良い?……安い店でたのむ(小声)」

「………」

「沙和ー……?」

「悩んどんやったらウチの言うた店で!」

「いやいや、それはおかしい」

「なんもおかしいことあらへんって」

「はっ!?そう言えばそもそもお金出すの俺なんだから俺が決めれば良いんじゃね!?」

「ちょ、オーボーや!沙和も何か言うたって!」

「……うるさいぞこの食うことしか脳にない豚糞どもーーー!!!!」

「!?」

「!?」

于禁軍曹!?

 

「そんなにお昼ご飯が大事かーーー!!!」

「わ、分かった話を聞く!だから落ち着け!」

「どーどー」

「むー、そのなだめ方はすっごく癪にさわるけど……まあいいの。……それでね、聆ちゃんのことなんだけどー……」

「元気がないってんやろ?さっきも言うたけど、ぴんぴんしとるやん」

「そうだよ(便乗)」

「そうじゃなくてー。精神的なものなのー」

「精神的?」

「そーそー。最近の聆ちゃん、何か大人しすぎるかなーって」

「いやいやいや、何言ってんだ?むしろ最近が一番ヤバかっただろ。ほら、華琳の……」

「えー、でもアレ、華琳様が一方的に拗ねてたんじゃないの?」

「せやなぁ。聆がずっと謝り通しやったなぁ」

「うん……まぁ、そうだけどさ」

 

結局、何が原因かは分からず終いだったけど、拗ねさせるようなことすること自体が問題なワケで。

 

「それに、聆ちゃん最近全然怒んないしー……。この前も――

 

 ※―――――――――――――――――――――――――――※

 

 「あーあー。警邏ってつまんないのー」

「沙和ェいっつもそれ言いよんなぁ」

「いっつもつまんないんだからしかたないの」

「多少警戒しながらになるけど……こーやって街並みを眺めるんもなかなか良えと思うで?」

「えー?いつも大して変わんないから面白くないのー。それにこの辺、服屋さんも無――」

「ん、どないしたん?」

「あー!新しい服屋さんができてるのー!」

「は?どこに……」

「ほらほらあそこ!三つ向こうの角のとこ!」

「……沙和って伊達眼鏡?」

「服屋さんは雰囲気で分かるの!……ねー、それより、寄ってこーよー」

「仕事中やろ。後にせんか?」

「先延ばしにしてたらいい服は無くなっちゃうの!じゃあいつ行くの?今でしょ!?」

「………はぁ。分かった。んだら四半刻だけな。その代わり、それ終わったらきっちり全部廻ってもらうで」

「聆ちゃんは来ないの?」

「私は普段廻らんとこでも行って来よかと思っとる」

「えー!聆ちゃんも来ないとー!」

「なんでやのん?」

「やっぱりー、こーゆーことに積極的じゃないと女の子としてどーかと思うの」

「あー、私は将としての仕事を優先するわぁ」

「えー、せっかく聆ちゃんキレイなのにー……」

「んだら沙和が私に合う服選んどいてぇな」

「んー……しかたないの。じゃあ、行ってくるのー!」

「ちゃんと戻って来ぃよー」

 

  ※――――――――――――――――――――――――――※

 

 ――って」

 

うわー……なんと言うか……。

 

 

「うわー、それ、ホンマなん?」

「ホントホント」

「やとしたら確かに聆、元気無いわ……」

「ん?どうしてだ?」

 

沙和の不真面目っぷり以外には特におかしなことはなかったように思うけど。

 

「聆ちゃん、前までは、『女の子として〜』ってダメ出しするといっつも『私の乙女力にケチ付ける気ィか?』ってキレてたのー」

「それに、そもそも寄り道しようとした時点で一喝やったやろな」

「そー言えば、『あァン?』も言わなくなったの……」

「地団駄も踏まんようになったなぁ……」

「うーん……確かに………」

 

言われてみれば、出会った頃の聆はもっとこう、言っちゃ悪いけどチンピラ風だった気がしないでもない。

 

「でも、これって『落ち着いた』って言うんじゃないの?」

「まだ落ち着くような歳じゃないのー」

「せやなぁ。まだウチらピッチピチの十代やしぃ〜」

「わざとらしく言ってるとどんどん価値下がるぞ。……それに、仮に聆の元気が無いとして、結局どうする気だ?」

「そんなの、元気付けるに決まってるのー!」

「具体的にどんな方法で?」

「………」

「………」

「たいちょー、よろしくなの」

 

丸投げかよ。

 

「そう言われても原因が分からないことには何とも……」

「やっぱり仕事中心の生活の問題ちゃうか?」

「一理あるな」

 

将として落ち着いた態度を求めすぎてそれが素になっているのかもしれない。

 

「あと、女の子らしいことができてないからなの!」

「沙和はどうしてもそこに持っていきたがるな」

「いや、でも間違ってもないんちゃう?今の聆は、"将らしさ"ばっかりになってもとるみたいやから……」

「そーそー。だから、たいちょーの力で聆ちゃんの"女の子"を目覚めさせて、ほしいのー!」

 

地団駄とかが女の子らしさになるのかはともかく……。それに何かその言い方卑猥だなぁ……。

 

「はぁ……。じゃ、出来る限り頑張って考えるから、思いついたら真桜と沙和も協力してくれよ?」

「あいあいさー!なの」

「ほーい」

 

女の子らしさとかは一旦置いといてゆっくり休んで、楽しんでもらう計画を立てるつもりだけど……。二人とも何か軽いなぁ。ホントに手伝ってくれるのか……?




そろそろ頃合いやと思うんや。


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第十章拠点フェイズ :【鑑惺伝】デートイベント その二

祖父遺書産業
自分がボケてからみんな意地悪だったけど
××(作者)は話をちゃんと聞いてくれたので
遺産は出来る限り××に相続させます。

母 伯父 伯母が敵になるのは予想したがまさか祖母までとは……。


 「うーむ……もうちょっと自然な流れで行きたかったんだが……」

 

聆との待ち合わせ場所、王宮の大門の前で独り言ちる。というのも、聆のストレス解消を承諾した次の日には沙和がいろいろなところに、たぶん悪気はないだろうけど、誇張たっぷりに言いふらして廻り、華琳が面白がってスケジュール調整したり聆の部下の娘に睨まれたりいろいろあったからだ。

聆の性格からして、あまり大袈裟にすると逆に気を使うだろうからさり気ない親切を重ねるとかそんな感じでやりたかったんだけど……。

でも、こうなってしまったものはしかたない。この「デート」を存分に楽しんでもらおう。

先ずはショッピングから入って、どこか雰囲気の良い店で軽く昼食をとって、……そうだな、やっぱりアバウトに行こう。ガチガチに固めてもつまらない。俺だって警備隊の隊長で、いつも警邏に出てるんだ。話の流れからちょうど良い所を紹介出来るくらいにはこの街に詳しい。

 

 「よっす」

 

と、突然後から肩をたたかれた。

 

「おっ、聆か」

「ごめん ちょい遅なった……?」

「いや、まだ時間前だよ」

「あ、そう?服選ぶんに時間喰うたから心配しとったんやけど」

「服選び?」

 

その割に、聆が着ているのはいつもの私服だ。現代で言うところの鳶服に似たシンプルで丈夫なもの。……いや、微妙に違うとか?もしくはアクセサリーとか……。

 

「あー、真剣に観察してもらっとるとこ なんやけど、いろいろと探した挙句、デート向きの服なんか無かったことに気付いたって落ちやから……」

 

そっか、そう言えば聆の服装っていつも男っぽいか、そうでなかったらお茶会用のドレス(?)だもんな。

 

「いや、その服で全然大丈夫だよ。自然なのが一番だからな」

「うーん……でも、『無い』ってのもな。こう……嫌やん?」

「はは……じゃあ、まずは服屋さんにでも行こうか」

「おー、私、結構良え素材の服に拘るけど、大丈夫なん?」

「あ、奢らせる気満々?」

「え?そう言う催しとちゃうのん?」

「まぁ何も間違っちゃいないな」

「んだら行くでー。今日は久々にはっちゃけさせてもらうから死なんよーに気合い入れぇよー」

「え、ちょっと待てって!死の危険なんて有んのかよ今日……!」

「さーどーやろなー」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……はじまったの」

「始まったな……」

「……ああ」

「でも聆ちゃんヒドイのー。言ってくれてたら、沙和がちゃんと勝負服選んで……って言うか作ってあげたのにー」

「せやなぁ。沙和の服が気に入らんくても、逢引き向きの服が無いんは昨日のうちに気づくよな」

「真桜ちゃん、『逢引き』じゃなくて『でぇと』なの」

「どうなんだろう……昨日の時点では何れかの服で納得していたが、今朝になって気が変わったとかか?」

「甘いわね。三人とも……」

「華琳様!?」

「大将!」

「……!!」

「アレは恐らく聆の策よ」(深読み)

「策……?」

「そう。『時間ギリギリまで悩んだ』こと、『でぇと向きの服が無い』こと。つまり『自分がこのでぇとに対して乗り気である』ことと、『これまでにでぇとの経験がない』ことを示したのよ。さり気ない行き先の提案は言わずもがな」(深読み)

「……!」

「それに、話題作りにもちょうど良いわ。試着室で着替えてそのままでぇとを行っても良いし――」

「あえて今日は着ないで、次のでぇとに着ていっても盛り上がるのー……」

「そう。聆はたった二言でこのでぇとの流れを作り、印象を良くし、次への布石を放ったのよ……!!」(深読み)

「なんちゅーこっちゃ……」

「心配で見に来たのがばからしくなりますね」

「なんなの……こんなの、完全に鑑惺先輩なの……」

「できる娘だとは思っていたけれど、まさかこの分野までとはね……」(深読み)

「……しかし、だからこそ、見ておく価値が有りますね」

「せやな。見守るつもりやったけど、技を盗む方向に軌道修正で……」

「そうね。そうと決まれば早速後を追うわよ」

「あ、華琳様も来るんですね」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 と言う訳で、やって来ました服屋街。思えば、仕事以外で聆とここに来たのは初めてな気がする。

 

「いやー、やっぱ若い娘らが多いなぁ」

「聆も若いだろ」

 

かなり意外だけど、聆って実は凪より一年年下で、魏の将の娘たちの中でもかなり若い方だ。

 

「単純な歳やのぉて、はしゃぎっぷりと言うか……沙和が何人も居るみたいな?」

「まぁ、それは……」

「北側やったら割と落ち着いとるんやけどな」

「あの辺は貴族向けの店だからなぁ。でも、やっぱデート用の服ってなると、こっち側だよ」

「さすが変隊長はよぉわかっとらすなぁ」

「……って沙和が言ってたんだよ」

「苦しい言い訳……」

「そ、それよりもほら、あの店なんか良いんじゃないかなっ?」

 

『やれやれ』とでも言いたげな聆の手を引き、店に入った。

 

 

 「へぇー、結構良え店やん」

 

店内を見回し、感嘆の声を漏らす。よし。気に入ってもらえたみたいだ。

実はこの店、メイド服を作ってもらったりしたのがきっかけで懇意にしている行きつけ(?)の店なのだ。ちょっと値段が高いのがアレだけど。でもその代わりに品質は良いし、混みすぎることが無い。

 

「丈とか合うのん有るかな」

「作り直してもらえるから大丈夫だよ。それに、聆って引き締まった身体してるし、着れることは着れるんじゃないか?」

「ちょっぴんぴんなるやん」

「『ちょっぴんぴん』が何かは分からないけど、前の西涼衣装は良かったよ」

「あれ結構はみ出し気味やった気ぃするんやけど……まぁ良えわ。コレとコレ、どっちが良えやろ?」

 

そう言って聆が取り出したのは、黒のロンティー(?)と、黒の……

 

「ちょっとそれじゃあ普段と変わらないよ」

「えー、でも黒って無難やん?」

「せっかくなんだしいつもと違う感じにしないか?」

「うーん……あ、んだら隊長選んでぇな。そーや、それで行こ」

「お、おう!そうだな。任せとけ!」

 

批評した手前、断ったら絶対文句言われるもんな。……それにしても、どうするべきか。さっきはあぁ言ったけど、聆に黒が似合うのは事実なんだよなぁ。普段が露出度極低で、ボトムにボリュームを持たせる感じだから、イメチェン自体は脚中心に露出度を上げるだけで割と簡単に出来るんだけど……。薄い色のロング丈ニットに補助でミニスカでニーソ……あ、これは凪の制服スタイルとかぶるな。と言うか、スタイルが良かったらニットが万能無双なんだよな。下品にはならずにボディラインを強調しつつふわっとした柔らかみを表現する。……タイト寄りのニットワンピなんてどうだろう。ちょっと胸元を大きめに開けて、でもギリギリで肩は出さないくらいの。で、足下は"ゆる"めのブーツだ。

あとは頭の中のイメージに近いものを選べば完成だな。

 

「つってもそんなの、都合良く有るかな……」

 

ブーツっぽいものは有る。問題はニットワンピだ。

 

「ん?何が?」

「いや、大体頭の中で完成図はできたんだけど、こっちの世界に有る品かな、って」

「どんなん?」

「毛糸でできたワンピース……えーと、一枚で全身覆う服なんだけど」

 

セーター自体はこの前、沙和と服の話になった時に紹介して実際に幾つか作ってたから、街にまで広まってるかもしれないけど……。

 

「これは?」

 

聆が俺から少し離れたところに掛かっていた一着を手に取る。

 

「ん?え!?これこれ!正しくこんな感じ!」

 

すげー……。もう、なんだろう。コスプレ関連以外のファッションに関しては殆ど時代の違いを感じないレベルにまで来ている気がする。

 

「似たよぅなん結構有るけど……?」

 

しかも多種多様選べるときた!

 

「えーっと、じゃあコレかコレ……うーん、こっちだな!聆、ちょっとこれ、着てみてくれ。試着室はあっちだ」

「くく……何か私より隊長のんが活き活きしとるな」

「そりゃ、聆のかわいい姿が見られると思うとな」

「……そんなんさらっと言えてまう辺りさすがやわぁ………」

「……? 何が?」

「いや、えぇ。着てくるわな」

「おう!」

 

今のうちに靴も用意しておいて、ここからは新しい服で廻ろうか。先にお会計も済ませとこう。

 

 

 「聆ー、もう着れたか?」

 

いろいろと順調に進み、軽く鼻歌なんかも出たりしたけど、今度は聆がなかなか試着室から出てこない。

 

「……何か騙された気分なんやけど」

 

カーテンの向こうから困ったような声が返る。

 

「どんな感じだ?取り敢えず見せてくれないか?」

「見せるけどぉ……」

 

ゆっくりとカーテンが開き、躊躇いがちに聆が姿を見せる。

柔らかい、フレンチベージュの生地が、豊かな胸に押し広げられ、腰ではきゅっと締まり、そしてその下でふわりと広がる。少しだけ心配していた袖の丈も、元々余裕を持って作られていたようで、全く問題ない。予想外だったのは、聆の緩くウェーブした髪とニット生地の親和性が思った以上に高かったことだけだ。

 

「完璧じゃないか……どこが不満なんだ?」

「いや、こう……裾、短ない?」

 

膝上丈を想定して作られていたらしいニットワンピは、聆の長身のおかげで太腿の半分も隠せていない。けど、

 

「何も問題無い!」

「うぇっ!?」

「聆の脚はさ、こんなに綺麗なんだから!」

「んっ……ちょ、急に撫でんなや!」

ドカッッ

「ごフッっ。……悪い、つい」

「もぉ……」

「でも、それくらい素敵だってことなんだよ。だから自信持ってくれ」

「分かった分かった。デート用やしな。隊長が喜ぶ服が正解やわ」

「ありがとな。それと、向かいの靴屋で靴も買っといた」

「ふふ……はしゃぎすぎやろ、隊長ェ……」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「お嬢様ー、これなんていかがでしょうかー?」

「む……もう少しお腹周りが楽なのが良いのじゃ」

「あれー、おかしいですねぇ。もしかして、お嬢様太りました?」

「ふ、ふ、ふ、太ってなどおらぬのじゃ!成長したのじゃ!」

「でも背の高さもおっぱいの大きさも変わってませんしぃー。それにこっちに来てから余計にぐぅたらしてますしー」

「い、猪々子!猪々子は何か見つかったのかや?」

「えー、そうっすねー……これなんてどーでしょう?」

「却下じゃ」

「却下ですねー」

「即答!?どーしてですかぁ!七乃っちもひどいぜ!」

「いえいえ、酷いのはその服ですよぉ。何で股間の辺りから白鳥の頭が飛び出てるんですか」

「悪趣味の極みなのじゃ」

「えー……姫はこーゆーの好きだったんだけどなぁ」

「あのくるくるパーと妾を一緒にするでない!」

「そーですよぉ!私の目の黒いうちはお嬢様をあんな感じの人にはさせません!」

「なんでだろ……主を貶されてるのに少し安心してるアタイがいるんだぜ……」

「うーむ……それにしても、もうこの店は粗方見終わったかのぅ?」

「そうですねぇ……あ、あの店とかどうでしょう?あの、斜め向かいの」

「あー、あの、今背の高い女の人と白銀服の男が出てきた……」

「そうそう、……って、え、アレって聆さんじゃありません?」

「いやいやいや、レイ姉があんな色っぽい格好……まさかそんな、なぁ?」

「でもあんな背の高い女の人なんかそうそう居ませんって言うか見たことないですよ?聆さん以外に」

「ふむ、男の方は一刀じゃの」

「マジかよ……なんかこう……なんか、なんか……っ!」

「面白そうですねぇ……姦し娘と華琳さんも後つけてますし」

「良いの。服選びにもちょうど飽きてきたところじゃ。七乃、猪々子。行くぞよ!」

「おー♪」

「おー……」




魏勢の衣装は大体みんなどこかしらに髑髏が入れ込んであって面白いです。
あと、七乃さんのタイと美羽様の帯が同じデザインなのが好きです。

GA〜芸術科アートデザインクラス〜 はとてもためになるマンガです。


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第十章拠点フェイズ :【鑑惺伝】デートイベント その三

こんな深夜まで起きてるから体調が良くならないんだ!

デートイベント終了。
これでやっと本編に戻れますね。
次回からは

  七乃さん無双
 開   幕   だ
 n  ___  n
 || /___\ ||
 || | (゚) (゚) | ||
「「「| \ ̄ ̄ ̄/ 「「「|
「 ̄|   ̄冂 ̄  「 ̄|
`ヽ |/ ̄| ̄| ̄\| ノ



 「やー、結構買ぉたなぁ」

 

あれから、服屋街を少しずつ北に移動しながらたくさんの店を見て廻った。買った服は城に送ってもらうようにしたから、荷物自体はあまり増えてないけど……、いや、だからこそ、ついついいっぱい買っちゃったんだよな。

 

「何か悪いな。俺の方が楽しませてもらっちゃってて」

「私は着せ替え人形ちゃうで……もぉ」

 

たくさん買った理由にはもう一つ。聆が大抵の服を着こなしてしまう、ってのもある。

 

「聆に着てもらうって思うとさ、何か張り切っちゃって」

「そーゆーこと誰にでも言うとーと思ったら複雑やわぁ」

「誰にでもってわけじゃないんだけどなぁ……」

「もー……そこは、私だけにしか言わん、ってはっきり言ぅてくれるとこやろ」

「ご、ごめん……」

「隊長の人柄からしたら、しゃーないんやろけどな……。あ、そろそろお腹すかん?ご飯代くらいこっち出すわ」

「いや、俺が出すよ。さっきは俺が振り回す形になっちゃったし。聆は何か食べたい物、ある?」

「うーん、汁跳んだり臭いキツいんはアレやから……」

 

と、真新しいニット生地を撫でながら呟く。良かった。結構気に入ってくれてるのかな。

 

「やっぱ焼き系の点心とかやな」

「点心か。じゃああそこがいいかもな……」

 

東地区に最近できた飲茶屋が、落ち着いた雰囲気で料理が美味しいって評判だからそこにしよう。ちょっと値が張るみたいだけど……聆にはいつもお世話になってる(?)し、そのくらい良っか。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「むぐ……美味いな!これは。もぐ……んぐ、むぐ………」

「そうですね!春蘭様!はむ……もぐ、もぐ………」

「姉者、もう少しゆっくり食べてはどうだ?そう急いで食べずとも、誰も盗りはしないぞ?」

「季衣も!そんなにぽいぽい口の中に肉饅詰め込んでると喉に詰まるよ?」

「ふん。甘いな秋蘭。盗られはしないかも……ングしれんが、売り切れてしまうかもしれんではないか……もぐ」

「流琉は心配症だなー。ボクが、喉に詰まらせるなんてドジ――んググ!?」

「言い終わらないうちから!?」

「ほら季衣、茶だ」

「ゴクゴクゴク……ッッぷはぁっ!喉に詰まってもお茶が有るから良いよね?」

「飲茶のお茶はこんなことのためにあるんじゃないよ……」

「えへへ、ごめ〜ん」

「季衣にもそろそろ作法の学習をさせた方が良いか」

「そうですね……。周りの目も気になりますし」

「あぁ。こういう静かな店では特に……おや?」

「どうした秋蘭……お、アレは北郷ではないか」

「あ、ホントだ!聆ちゃんも来た!おーiもガガ!?」

「(しーっ!ジャマしちゃダメだよ季衣)」

「(お、おい……何だあの聆の服装は……?)」

「(ん?よく似合っているではないか。どうしたというのだ、姉者)」

「(いや、確かに似合ってはいるが……)」

「(兄様と聆さん、楽しそうですねぇ)」

「(『仲睦まじい』とはこのことだな)」

「(聆なのか?あれは本当に聆なのか!?)」

「(あ、聆さんが兄様の口元を拭いてあげてますよ!)」

「(肉饅が急に甘くなったんだが……)」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「思った以上に旨かったな」

「肉饅売り切れとったんは残念やったけどな」

「それはまぁ、な。でも代わりにたのんだ焼売もなかなかだったろ?」

「あの海老焼売な。あれ好きやわぁ……ってか海老が好きや」

「じゃあ今度流琉に何か作ってもらおうか。海老料理」

「料理自体は自分でも出来るんやけど、殻剥きがめんどいわ。牛とか熊とかの解体やったらスッキリするから良えんやけど海老はなぁ。クシャクシャしてイラッとするやん」

 

あー、そう言えば俺も同じような理由で、蟹が「好きだけど嫌い」だった。

 

「じゃあ俺が剥こうか?」

「カッコ意味深」

「やめろ!」

「くくく……。五十匹とか百匹とか、心乱さんとやれる?」

「どんだけ喰うつもりだよ」

「他人が剥いてくれるんやったらそんくらい軽いやん?」

「『やん?』って言われてもな」

「まーそれはまた今度の楽しみとして、これからどこ行くー?」

「うーん、本屋とかは聆が普段から行ってるしな」

 

普通なら、どんな本が好きかとか、本についての感想とかで盛り上がるんだけど、聆と俺とじゃ知識量が違いすぎるしな。

 

「あ、そー言や最近 隊商が来てたっけ」

「警備隊に連絡来とったな」

「そ。たしか羅馬からだったよな。それ、行ってみないか?」

「良えな。西地区の広場やったっけ」

「え、西地区か。ちょっと遠いな……」

「散歩がてらゆっくり行ったら気にならんやろ」

「それもそっか」

 

べつに、スケジュールをイベントで埋め尽くすこともないもんな。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ほう……なかなか珍妙な品が揃っているな」

「ええそりゃあもう。なんせ西方何万里ともつかねェ国々から集まった品でごぜェやすから」

「アタシは何度か見たことが有るものも多いが……やっぱこっちじゃ珍しいのか?」

「大商人とか豪族貴族の家には結構有るけど、こう気楽に露天で見るんは、ウチは初めてやな」

「ここ十何年かは国が荒れてやしたからねェ。でも最近西涼からここまでの街道が整備されて、治安も前に増して良くなったんで」

「小規模な商隊もここまで来られるようになったということか」

「ここまで完璧に統治されるとアタシの元頭目のメンツが……」

「なに、寿成の力もあってのことだ。気にするな」

「……うーん、でも西涼から羅馬まではこっから西涼までの何倍も有るやんな?そんな変わるもんなん?」

「羅馬から魏の間に通る国は交易が要だから保護が手厚いんだ。……そうだよな?確か」

「へい。それに見通しの効く道が多いんで。……これからはもっと増えると思いやすよ。こっちの新しい服とか美術品は向こうでも大受け間違いなしですからねェ。……ほら、向こうのあの女の人が着てるような」

「うん?………うん!?」

「え!?」

「いやいやいや、まさか、えーーー」

「どうしたんですかィ?……確かに少し……いやかなり背が高い気がしやすけど」

「そうやない……そうやないんや………」

「嵬媼か?……嵬媼だよな………」

「お、おい、それより、こっちに来るぞ!」

「うぇ!?あ、ほな、おっちゃん、またなっ」

「へ、へい。…………Nescio quare」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「んー、もぉさすがに無理かな」

 

不満げに銀のネックレスをいじりながら聆が呟く。

 

「うん。俺もそう思ってたんだ」

 

デート自体は凄く上手くいったんだけど……。商隊でアクセサリーを見た後、演劇を観賞したり、屋台を食べ歩きしたり。大道芸を見てたらなぜか聆と芸人との技比べが始まるなんてパプニング(聆の 全関節パージ→不思議な踊り で圧勝)も有りつつ、とても楽しく過ごしていた。

けど、途中から背後が気になって仕方なくなった。俺たちが移動する度に、十何人もの気配がザザザッと動く。そっと後ろを見ると、曲がり角から長いお下げが飛び出し……看板のかげからアンテナのような髪が飛び出し……。ちょっと手をつなごうともするとドヨヨっとばかりにざわめく。もう、雰囲気がどうとかの問題じゃない。

 

「聆はいつから気づいてた?」

「……朝、出るときから」

「え、その時点でもう居たのか」

「少なかったけどなー」

「俺はお昼過ぎから薄々……」

「あーあ。揃いも揃って無粋な奴らやで」

「どうする?頑張って撒こうか?」

「それこそ大騒ぎされるやろ。そろそろええ時間やし、大人しーに帰ろ」

「聆とのせっかくのデートだったのにな」

「言うて結構やり尽くした感有るけどな。……あとはもぉ、さすがに、なぁ?」

「ナンダローユウショクトカカナー」

 

うぅ……考えると悔しすぎる………。

 

―――――――

―――――

―――

 

 「じゃ、また明日」

「おー。今日の分の書類仕事とか溜まっとるやろから気合い入れ直さなな」

「やっぱ真っ先に仕事のことなんだな」

「何?次のデートの算段でもして欲しかった?」

「割と」

「おお、素直」

「意地張ってもしかたないしな」

「んだら戦争が終わった次の日から十日間ほど予約しとこっかな?……あ、これって『死亡フラグ』?」

「死亡フラグって自分で言ったからセーフ……大丈夫だ」

「ふふ……逆に生存が確定したかもな。……じゃあ、ちょい早いけど、お休みー」

「ああ。お休み」

 

 

 くそう。あっさり終わってしまった。それもこれも、今「さて、私たちも部屋に帰るか」みたいな雰囲気を出しているあいつらのせいだよ全くもうプンプン。……しかたない。俺もさっさと部屋に帰ってふて寝――

 

「……!」

 

不意に甘い香りに包まれ、次の瞬間には柔らかくて暖かいものが唇に触れた。それが聆の唇だと気づいたのは、心地良い感覚が離れた後。

一瞬のことだった。

 

「今日は、ありがとぉな」

 

そして、踵を返してさっさと行ってしまう。

 

明日は忙しいってのに、悶々としたこの気持ちはどうすればいいのさ……。




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第十一章一節その一

癒やしを求めて牧場物語(始まりの大地)を買いました。

画面隅のカウントに追い立てられる毎日。

誤字多いェ……


 その日の軍議は、各方面に放っていた間諜の報告から始まった。

 

「……そう。劉備は、益州周辺の諸侯を次々と取り込んでいるのね」

「はい。荊州の大半は我々が抑えていますし、益州の一部にも勢力を拡大しましたが、……それが諸侯の反感を買ったようです。黄忠や厳顔、魏延といった主要な将は、軒並み劉備に降ったと」

「黄忠も……か」

「黄忠がどうかしたの?一刀」

「確かに弓の名手として名高いが……厳顔や魏延と比べて突出しているわけでもないぞ?」

「いや、何でもない」

 

一刀も気になっているようだが、ここに来て蜀が形を整えつつ有る。西涼からの馬超、馬岱に続き、厳顔、魏延、黄忠、そして、後で話に出るだろうが、南蛮ももうそろそろだろう。

 

「……まぁ、隊長が何に引っかかったんかはさておき、大規模な弓兵隊となるとめんどいなぁ……」

 

魏延はちょろいから問題無し。馬超の方は、私と当たることはないだろう。鑑惺隊が騎馬に強いのは広まっているだろうから、孔明が止めるはずだ。

 

「確かに、聆殿の歩兵隊にとっては脅威ともなる存在ですね」

「在野相手に経験も積んどるし、盾使ったりいろいろ試行錯誤もしとんやけどな。苦手なんはどーにも」

「聆の隊は小回りは効くが移動速度自体はそう速くないからな……。被害が出る前に突撃、というのも無理な話か」

「………」

「………」

「………」

 

春蘭の発言に、場が固まる。

 

「……どうしたのだ?」

「いや、春蘭がマトモなこと言ってるから……」

「なにおー!!私がマトモなことを言うのがそんなに不思議か!」

「はいはいどうどう。話が進まないから、一刀を殴るのはまた後でね」

「むぅ……分かりました」

「え、俺、殴られんの?」

「それで、今、劉備は?私達の領に攻め入るような動きは無いようだけれど……」

「南蛮の連中との戦いを断続的に行っているとのことです。既に何度か大きな激突が有り、その度に劉備の側が南蛮を打ち破っているとか」

「……何度も?それほど南蛮の将は層が厚いというの?」

「或いは、引き際が神がかっているとかでしょうかー?」

「いや、南蛮王と名乗る首領格の人物が居るのだが……それを捕まえるたびに、劉備の命で逃しているのだとか……」

 

いわゆる……あれ、名前が出てこない。七なんとか七かんとか、だ。

 

「……はあ?おい桂花、どういうことだ」

「こんな時だけ私に頼らないでよ!」

「そういう戦略が有るんですか?」

「だから、私に聞かないでよ」

「だって、桂花ちゃんは軍師じゃないですか〜」

「そうですよー桂花さん。軍師として迷える仔羊の疑問にこたえてあげないとー」

「あんた達も軍師でしょうが!」

「なら風、七乃。お前たちなら分かるのか?桂花では分からんらしい」

「……ぐー………」

「……っは!お嬢様が呼んでる気がするので帰っていいですか」

「あんた達も分からないんじゃない」

「全く嘆かわしい……」

「なら禀、お前なら分か「分かりません」

「ふふっ。……一刀、あなたはどう思う?」

 

面白半分、という具合に一刀に振る華琳。

 

「華琳様!どうしてこんな奴に……!」

 

即座に噛み付く桂花。

 

「俺たちみたいに、武力で屈服させたくないんじゃないの?劉備らしいと思うけど」

 

そして華麗にスルーの一刀。ここまでで一ネタ、って感じだ。だが今回はここで私も加わる。

 

「でも結局んとこ、相手の心が折れるまで叩きのめすってことやんな?」

 

蜀ルートの蜀は、武力の行使もやむなしという考えだったはずだが、魏ルートの蜀は武力そのものを否定していたはずだ。前の説教で少し大人になったのだろうか?

 

「まぁ……そうだな。何やってんだあの娘?」

「分からないわね……あまりにも馬鹿なことをやっていると愛想を尽かされそうなものだけど、そういう気配も無いし」

「まぁ平定してからじっくり聞くか」

 

案外、「可愛かったからトドメが刺せなくて逃がしてる」とかありそうだ。

 

「しかし華琳様。劉備が南蛮と戦闘中だと言うのなら、これはまたとない好機かと。それに、これ以上勢力を大きくされても厄介です」

「……まぁ、劉備の側の話ばかり聞いて判断するのは迂闊だわ。南方の孫策はどうなっているの?そちらの間諜も戻っているわよね」

「こっちも地盤固めで忙しいみたいですねー。お嬢様から奪った江東を制圧したあと、周辺のお嬢様派の豪族相手に戦ってますよ。まぁ、そこで追われた軍勢が続々こっちに付いてくれるんで大助かりですけどー。お嬢様派の顔はしっかり覚えてるんで安全性もバッチリですよー♪」

「統治が完了するのにどれくらいかかりそう?」

「あまり時間はかからないんじゃないですかねー……。さっきも言いましたけど、お嬢様派が逃亡するんで戦自体は少ないですしー。私がせっかくバラバラにしてた呉の旧将も復帰してますからねー。あの人たち、やたら血の気が多いんで大変なんですよー」

「ならば、どちらも背後は隙が有るけれど、攻め時を逃せば厄介ということね。どちらを先に攻めるべきかしら?」

「劉備かと。アレの思想は今のところ穴だらけですが無知な庶民には甘い蜜。そして、有力な将を引き寄せているのも奇妙です。放っておくのは大変危険です」

「風としては孫策を打つべきだと思うのですよー。今の勢いを維持したままこちらを攻められるくらいなら、これ以上勢いがつく前に叩いておいた方がいいのではないかとー」

「……禀、七乃、聆。貴女たちはどう?」

「え、私も?」

「そうよ。どうかしら」

「動かんで良えんちゃうん?」

「同じく、動くべきではないと考えます」

「動く必要は無いですねー」

「何?」

「へぇ……」

「どういう事だ?ぼやぼやしていては連中の下に優秀な将が集まってしまうではないか!」

「まずそこが違いますよねー。確かに、劉備さんや孫策さんは戦力を高めてますけど、それは私たちがずいぶん前に済ませた段階です。そう恐れることはないんですよー」

「むしろ今の勢力の安定度を見て豪商がこっちに来ぃ、文化の発展度を見て学者が来ぃ、芸術家が来ぃ、技術者が来ぃでどんどん差が出とるわなぁ」

「西涼を手に入れたことによって羅馬からの通商も開けましたしね。兵の練度は言わずと知れたことですし」

「あと、簡略化して話すけど、『攻城戦は守り手の三倍の兵力が必要』の観点から言ったら守りは攻めの九分の一の兵力で済むし」

「疲れて帰る相手を背後からドーン!って逆に領地取れますよねー」

「まぁ、実際は九分の一とは行きませんが、必要数が大幅に違うのは確かです。補給線も伸びませんし」

「逆に、今どちらかを攻めようとすると逆側から攻撃を受けかねません。南蛮討伐とか豪族平定とか、中断してもすぐに滅亡するわけじゃないんでー」

「片方に粘られて片方に全凸されたらちょい厳しいよな」

「一方で守り、一方で攻め、というのは……」

「……ならばどうするつもり?相手が同盟を組んで、仲良く攻めてくるのを待つ?」

「はい」

「それが最善でしょうかねー」

「え、それって大丈夫なんですか?危なくないですか?」

「あぁ、流琉の言うとおり、孫策と劉備には周瑜や諸葛亮が居る。経験豊富な黄蓋や黄忠、厳顔もだ。七乃には悪いが……袁紹たちのように馬鹿ではないぞ?わざわざ互いの足の引っ張り合いのようなことはせんだろう」

「さすがにそこまで楽観視してはいませんが。……同盟を組んで足並みを揃えてくれることには期待しています」

「どういう事だ?同盟を組まれれば、二方向から攻められたり、いろいろと厄介ではないか?」

「確かにそうなることも考えられますがー……。それは同盟無しでも起こり得ることですので。……むしろ、同盟によって互いの動きを意識することで攻撃の足並みが揃い、劉備さんと孫策さんの両方を一度に相手にできるようになればなー……と」

「現状、我らの総兵数は蜀と呉を合わせたものとほぼ同等ですから」

「ならば、足並みを揃えてきた劉備と孫策を相手に互角に戦えるというわけか」

「いいえ。互角以上ですねー。さっきも言ったように、資源や職人の数、そして兵の練度は私たちが群を抜いてますからー。敵方が完璧な連携で……そうですね、涼州と東の海からそれぞれ攻めて来てやっと互角でしょうかー」

「ま、そんな大回りしよったら相手が攻めて来る前に逆に攻め落とせるけどな」

「それにこれからも成長し続けるって話だったよな」

「ならばそれが二面作戦を行えるほどに成長した段階で両国に一気に攻め入るのか!」

「はい。既に装備類は十分な数が確保してありますから。あとは人材の確保が済めば」

「そ。つまり、防御面は大丈夫やからじっくり力を蓄えよか、っつーこっちゃ」

「なるほどね。桂花、風。貴女たちの意見は?」

「確かに、双方を同時に攻めれば連携を断つことができますしねー。どちらかに的を絞って背後を気にしながら戦うより良策なのですよー」

「二面作戦の研究は、官渡以前から継続して行っています。今まで実行する機会は賊の討伐程度にしかありませんでしたが……諸葛亮や周瑜などに負けるものではないと、証明させていただきます」

「結構。春蘭、軍部としての意見は?」

「我々に出来ることは、軍師連中の指示を完璧にこなせるよう、兵の練度を上げることですな」

「その通り。ならば今後の大方針は、劉備と孫策の二面作戦を狙いつつ、攻められた場合は容赦なく叩きのめすということにするわ。いいわね」




読者の方々は気づいていらっしゃるかもしれませんが……
事実上、既に勝ってます。


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第十一章一節その二

ハリポタの、フォイが女の子だったらめちゃ萌ぇだったろうな〜→ついでに赤毛兄弟も女の子で。→じゃあシリウスとかも女で良いんじゃね?→あれ?安っぽいラノベみたいになった……

以上。昨日一日で考えたことでした。


「隊長ー、疲れたのー」

 

午前の訓練もそろそろ終盤。二度目の休憩で音を上げたのは、例によって沙和だった。

 

「疲れたのは俺も一緒だよ。けど、兵の育成は計画の一番大事なところなんだから、もうひと息頑張ってくれよ、鬼軍曹」

「おにぐんそーとか言われても、疲れたものは疲れたのー……。それにぃ、聆ちゃんのとこの子たち、何か怖いしー」

「そーやんなぁ……。目が虚ろと言うか、気味悪いねんな」

「そうか?無駄口も一切無くキビキビ動く、良い兵士たちだと思うが……」

「うえー……」

「凪ちゃんは氣は読めても空気は読めないからね。しかたないね」

「なんだとっ!」

「それにしてもずっこいよなー聆。こんな日ぃに休んで」

「休んでるわけじゃないよ。朝、何か桂花に呼ばれたんだって」

「何かってなんよ」

「さぁ、そこまでは」

「あれあれ〜?奥様の用事くらいちゃんと把握しといた方がいいんじゃないの〜?」

「ブっ!?奥様って何だよ!」

「えー、なぁ?」

「あのでぇとを見たら、ねぇー」

「いやいやいや、お前たちがデートしろって言ったんだぞ!」

「何言っとんねん!全力で楽しんどったやないかい」

「……隊長も、やはり聆のような人が良いのですね……。私は氣は使えても気遣いは出来ませんからね……ふふふふふ」

「いや、凪、あのな?聆には聆の良さが、凪には凪の良さがあってだな……」

 

うわもう何だこの状況。って、あれ?向こうに居るのは……。

 

「噂をすれば奥様ご本人が登場してくださいましたなのー」

「私が奥様なんやのぉて隊長が奥様やって言うたら……どうする?」

「な、なんやて……っ!!」

「何だよそのわけ分かんない寸劇は。……聆、結局何の用事だったんだ?」

「劉備さんのところの兵が国境付近をうろついてるらしいのでその偵察にこれから行くんですよ」

「あ、七乃さん」

「私と七乃さんと秋蘭さんと、あとこっそり流琉も、やな」

「え?でも、劉備たちは今、南蛮と戦ってるんじゃないのー?」

 

それに、将三人に軍師一人の多所帯ってのは……?

 

「沙和。劉備たちも、今この瞬間もずっと連中と戦っているワケではないのだぞ?」

「……あ、せやんな」

「それに南蛮討伐に参加してない将も何人かいますからねー」

「厳顔に黄忠、馬超、馬岱と趙雲やな」

「つまり、相手の将との戦闘を想定してるわけか。……でもそれだと逆に、少な過ぎないか?」

 

下手したら五人もの将を相手にするってことだよな……。

 

「えー。まぁそうなんですけどぉ……。『来る』って確証があるわけでもないですから。あまり大群を動かして『敵は居ませんでした』じゃあ各方面から何言われるか分かったもんじゃありませんし」

「実はこの編成も、流琉は別任務で申請しとるからな」

「私たちが定軍山での蜀軍の牽制、流琉が益州遠征だ。実際、一日で行き来できる範囲でだが、流琉とは別行動となる」

 

……ん?定軍……。

 

「あーあ。でも黄忠厳顔の二人とかやったらダルいなぁ」

 

定軍山……。

 

「昨日の軍師級会議じゃ、馬家は来るだろうって結論が出ましたけどね」

「あれやろ?『まぁ、うちの子たちは仇討ちに躍起になってるだろうな』って靑さんの一言やろ?結局私が危ないやん」

「状況的に、聆さんが靑さんを討ち取ったと見られてるでしょうからね」

 

定軍山、黄忠、夏侯淵……!

 

「お、おい、やっぱり罠なんじゃないのか?」

「罠でしょうねぇ。相手も、このままじゃ勝てないのは分かってるでしょうから多少姑息な手も使ってくるでしょう」

 

そうじゃなくて……!

 

「だったら、全力で倒しに来るんじゃないのか?三人じゃあ……」

「全力で、と言っても、向こうも本国防を衛しなければならないし、南蛮で消耗した兵の休養も必要だ。そうどうにもならんような数は来んさ」

「これも何度も検討し直して決定した布陣です。おそらく、最も臨機応変に対応できる人選ですし、真桜さんの工兵隊員もいくらか連れて行く予定です。簡単に負けはしませんよー」

「でも、それじゃあ工作員でより詳細な情報収集をするとか……」

「目撃されたんが兵士やからなぁ。さっさと潰さんかったら定軍山、取られるかも知れんやろ?罠の可能性が高いからってのは華琳さんにももう伝えとるし」

「………」

「秋蘭様ー、出立の準備完了しましたー!」

「ご苦労、流琉。では、行ってくる」

「私がおらん間、新兵の訓練頼んだでー」

「えー!!じゃあじゃあ、帰ってきたらお昼ごはん奢ってもらうのー!」

「仕事で行かんなんならんのになんで奢らされるん?」

「そーやないと気ぃすまへんから」

「あーはいい分かった分かったクッソ安っぽい定食屋紹介したるわ。じゃあなー」

 

そう言って聆たちは行ってしまった。俺たちの歴史の「定軍山」は夏侯淵が黄忠に討ち取られる、という話だ。何とか止めたかったんだけど……確かに、俺にもこれ以上の策は思い浮かばない。それに、反董卓連合では華雄が生き残り、官渡では文醜が、孫策の反乱では袁術が、西涼では馬騰が生き残っている。必ずしも歴史をなぞる訳じゃない。……そう思って、自分を落ち着かせるしかないのかな……。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……ここが定軍山か」

 

数日後。私たちは定軍山に到着した。流琉とは途中で別れ、今は秋蘭、七乃さん、私……そしてちゃん美羽の四人を主とした隊で動いている。一刀には「もうやることないんだよアピール」を散々やったし、勝手に消滅フラグを立てることも多分ないんじゃないだろうか。……まぁ、その分私達だけで頑張らなければならないんだが。

 

「周り偵察してったけど、今んとこ特に変わった報告は無いで」

「近くの村人の話も聞き取りしましたけど、見慣れない騎馬が数騎うろついていた以外には特に変わったことは無かったと」

「全く……無駄足じゃったのぉ」

「そうとも限りませんよ、お嬢様」

「おうよ。森の中でなかなかクソッタレなブツを見つけてきたぜ」

「おー、六課長。でかしtうぇー……」

「そのようなものを妾の前に持ってくるでない!!」

「クソッタレと言うか……そのものだな………」

 

そう。六課長が持ってきたブツ……それは、籠一杯の糞だった。

 

「そうだ。糞だ。もっと言やぁ馬糞だ」

「あー……なるほどな」

「騎馬数騎でこれほどの量にはなりませんよねー」

「とりあえず西涼騎馬隊の残党は居るということか」

「アイツらマジでクソだな!」

「そんなん言うたらアカンでー」

「いてててててっっ!悪かった!もう言わないからグリグリはやめてくれぇぇぇぇ!!!」

 

差別は良くないからな。まして西涼出身の者も仲間に居るって言うのに。

 

「ホンマかー?ホンマにもう言わんかー?」

 

「ぎゃぁあぁぁ!!」

 

「ん?急に野太い声が出たのぉ?」

「お嬢様、あれは別人の悲鳴ですよ」

「ふむ。早速来たようだな」

「とりまさっさと森に逃げるか」

 

後に、「三国志は定軍山で決まった」と歴史マニアの間で語られる戦いは、こうして始まった。




余裕過ぎて華琳様が歪んだ娘になっちゃう可能性が微レ存です。


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第十一章一節その三

何か町中の様子がおかしいと思ったら、昨日今日と受験だったんですね。
私はテキトーに、そんなに勉強しなくても行ける大学に行ったので必死な受験生を見ていると不思議な気分になります。

家で、即席ラーメンの余ったスープを使って一人しゃぶしゃぶしたら何かお腹壊しました。


 「姉様ー。第三捜査班、全滅だって……」

「なんだって!?捕まえられないばかりか、全滅!?」

「攻め急いで突出したところを的にされたみたい」

「くそっ!落とし穴とか薬物散布とか、アイツ等、卑怯すぎだぞ!…………で、奴らは大体どの辺りに居るんだ?」

「それが、そのまま見失っちゃって……」

「ちっ……またもう一度、捜査網を広げないと」

「これが鑑惺と夏侯淵の実力……やはり、一筋縄ではいかないわね」

「ああ。だけど、鑑惺は母様の仇だ。何が何でも倒さなきゃならない。それに、アイツ等を倒せば、曹操にとっては大きな痛手になる。しばらくは南蛮討伐の邪魔もして来ないだろ」

「だと良いのだけれど……翠ちゃん。少し、慌てすぎではなくて?」

「慌ててなんかいないってば。……ここまで引き付けたんだ。連中を仕留めるなら今しか無いだろ」

「うん!おば様のためにも頑張らないと!」

「ああもう、あたしが行こうかな……」

「はぁ……お待ちなさい。もう日が暮れてしまうわ。ただでさえこの手こずり様なのに、暗くなってから突っ込んでも自殺行為よ」

「う……」

「夏侯淵の弓の腕では、この森の暗さでも狙ったところに寸分違わず当ててくるでしょうし、罠の危険度も増すでしょう」

「そっか……姉様」

「うー」

「相手の伝令は今のところ全て捕らえているわ。援軍は来ない。だから、歩兵部隊が連中を燻り出すのを待ちなさい。山の中にそう何日も篭っていられるはずは無いわ。二、三日の内に、必ず麓の平原まで降りてくる。そのときこそ、貴女たちの機動力の出番よ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「敵が不憫で飯が旨いのじゃ」

「なんだろうか。もう、ここで暮らせそうなんだが」

「元々持ってきとった食糧に種々の山の幸が合わさって最強に見える」

「綺麗な川もあったしのぉ」

「それに、援軍の方も問題無しですしねー。打ち合わせ通り、夜中に山の一部を焼きました」

「ちゃんと応答有ったか?」

「はいー。ばっちりですよ。ついでに隠蔽工作も」

「これで援軍は確保できたか」

「どないする?これで、適当に移動しつつ篭っとけば多分もう負けは無いやろけど」

「はい篭もりましょう!……と、言いたいところなんですが、ここは打って出ます」

「何故じゃ?山の中の方が有利なのじゃろ?」

「有利は有利ですけどー、相手が発狂して焼き討ちでもしてきたら大変じゃないですかー」

「あー、そらヤバイわぁ……」

「だが、出たとしてどう戦うのだ?相手はこちらが山から出るのを待ち構えているだろう。兵数も今のところこちらが劣っているぞ?」

「でも、向こうには明らかな弱点がありますので。そこを突けば……」

「……策が有るのだな」

「ええ。ちょーっと聆さんに頑張ってもらわないといけませんけどねー」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「まだ奴らは見つからないのか!」

 

定軍山麓の平原。今日何度目かの怒声が響く。この定軍山の計、既に二日目の昼頃にまで達していた。二日目、というのは罠に魏軍が掛かってからの数えである。実際の潜伏期間はもっと長い。もう半月にもなるだろうか。

故に、敵が掛かった喜びは大きく、それを仕留められない焦りと落胆は大きい。

 

「慎重に捜しているのだから仕方のないことよ」

「でもなぁ!昨日の夕方から今の今までの敵状報告が『飯の美味そうな匂いがする。どうやら食事をとっているらしい』だけって何だよ!」

 

魏軍の暢気とも言える態度もまた、馬超の神経を逆なでする。昨晩の小火も、どうやら調理中に起こった事故らしい。焼跡からいくらかの魚の骨が見つかった。「夜は攻めては来れまい」と高を括っているのがありありとうかんでくる。

 

「私が出た方がいいのかしら……」

「昨日はあたしに『行くな』って言ったくせに」

「あれは、もう日没前で、貴女達が山に不向きな騎馬隊だからよ。私達は弓兵隊だし、それに、私が居れば索敵範囲において負けることはそうそう無いわ」

 

と、言いながら、黄忠は自分の言葉に違和感を感じる。「山に待ち伏せて敵を翻弄するのは自分達の方ではなかったのか?」と。

そして、今更ながら、背中にざわざわと冷たい感覚がのぼってくる。幾多の戦いを経験した勘が俄に騒ぎ出す。「この戦いは"終わっている"のではないか?」と。

 

(策の中に在って、その策に敵を、仕掛けた本人すら引きずり込む……"蛇鬼"鑑嵬媼、そしてそれを可能にする魏の兵。……朱里ちゃんの言うとおり、只者ではないわね)

 

そう、心の中で、重々しく呟く。口に出せば、この隣にいる若い将の癇癪が爆発しそうだったから。新たに捜索隊の準備をしつつ、溜息。本来ならば、隣には厳顔が居たはずだったと。それなのに、「母様の仇が討ちたい。打てないにしろ、この手で一泡吹かせてやりたい」と申し出たのだ。それを、情に厚い劉備たち、古参の将が聞き入れた。その情によって蜀は存在しているのは理解しているが、山間部……それもここのような、森林が発達した山での待ち伏せなど、弓兵隊が強いに決まっている。逆に騎馬隊では満足に動くことすらできない。そして何より、そういう不満を吐き出せるような相手がこの場にいないという状況が黄忠を疲労させた。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

「……おう」

「いってらっしゃーい」

 

ともかく、捜索隊を新たに組織し、打って出る。

 

 その時だった。

 

「おい、見ろ!やっと掛かったみたいだぞ!」

 

馬超の声に、山の麓へ視線を向けた黄忠の目に映ったのは、蜀兵と交戦しつつ山を降りてく魏軍だった。

 

「よし!こっちからも突っ込んで一気に潰しちまうぞ!行くぞ!たんぽぽ!」

「うん!みんな、行っくよー!!」

「「「おおおおおぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉッッ」」」

 

「待って!!」

 

色めき立ったのもつかの間。ただ事ではない黄忠の声に、蜀軍は再び静まり返る。

 

「何だよ……せっかく機が巡ってきたんだ。逃さないように、こっちからも畳み掛けるべきだろ!?」

「違うの……これは、罠よ」

 

弓兵……それも、大陸一、二と言われる弓の名手の眼は、魏の策略を見透した。

 

「あの、山を降りてくる蜀軍と魏軍……交戦はしてるけど……どちらにも死人が出ていないわ」




黄忠「勝った!第十一章 完!」


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第十一章一節その四

今日は卒業式ですか。
でもアレですよね。
最近は通信機器が発達してるので寄せ書きとかの有り難みは小さいんじゃないですかね?

それはそうと、最近目頭が痛い


 「互いに死人が出てない……?じゃあ、アレは本気の戦いじゃないってことか!?」

 

ワケが分からない、と、馬超は山から降りてきた兵達を指差す。

 

「ええ。本気どころか、戦いですらないわ。アレは両方が魏軍。好機と見せて私達を誘うつもりなのよ」

「な……」

「このまま突撃するのは危険だわ。大丈夫。兵数はこちらが優っているのだから、落ち着いて陣形を整えて当たれば負けることはないはずよ」

 

黄忠の指示により、突発しかけていた兵は陣に戻り、待機中だった兵は戦闘準備を整える。

 魏軍第一の罠……蜀兵の装備を奪い、成り済まし、敵を誘い込むことで混乱させる策は破られた。

対して、鑑惺、夏侯淵、張勲もまた、作戦が気取られたことを覚る。しかし、さして落胆はしていない。もとより、弓兵である黄忠の目、そして性格から、第一の罠が破られるのは予想済みだった。何の滞りも無く、すぐさま第二の罠へ移行する。

 

「なるほど、さすが永きに渡り益州を守ってきた名将黄忠といったところか!馬超は引っかかってくれると思っていたのだが、どうもそうはいかんらしい!」

 

鑑惺は、全軍に停止、展開の合図を出しながら、前に出て、叫ぶ。

 

「此度のそちらの策略、なかなかにして見事であった!しかしながら、こうも人選を誤っては、それも台無しだろう」

 

「…………」

「何が言いたい……?」

 

蜀の陣形が整うより一足早く、魏の隊列が整う。鑑惺の背後には蜀兵に偽装し、槍を構えた兵が。離れてその隣に、夏侯淵、そして弓を構えた兵が。

 

「もとより、策を成すには、その策を理解し、機を待ち、そして自らの為すべきことを一分の狂いなく実行出来る、そのような将でなければならない。しかし、貴様はどうだ?」

 

一点を見据えて言い放つ。

 

「それは……それは私のことを言っているのかっ!?」

「ほう、言われずとも分かるのなら、まだ救いようが有るかもしれんな」

「あたしは……いち早く母様の……馬騰寿成の無念を晴らすため、仇を討つためにここに来たんだ!そして鑑惺、お前が来た!これ以上の好機がどこに有る!」

「分からん娘だな。確かに私がここに来たのは蜀軍にとって好機かもしれん。私が言っているのは、お前が居るせいで策略が我らに破られる、ということだ」

「そんなことはない!確かに山の中じゃ戦いにくいけど、騎馬隊の機動力が有れば、お前らを逃がすことは絶対に無い!この平野を通らなきゃお前らは帰れないんだからな!」

「私を止める、と……?………ククククク……アハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ!!!」

「な、……何が可笑しい!」

「くくく………お前がこの私に勝てるワケがないだろう?」

「なんだと……っ!」

「貴様の如き三下の死に損ないがこの私に勝てる気でいるのが可笑しくて仕方がない。何だ?西涼騎馬隊はあまりの惨敗に戦うことを諦めて漫談家にでもなったのか?ふっ……後釜がこの調子では馬騰も浮かばれまい。全く、気の毒なヤツだ」

「貴様が……貴様が母様を語るなァァッ!!!!」

「姉様!騎馬隊出撃準備完璧だよ!今すぐソイツ殺そう!!」

「落ち着きなさい二人共!相手の口車に乗ってはダメ。鑑惺は私が相手をするわ」

「何だよ!あたし達はアイツを即刻、この場で踏み殺さなきゃいけないんだ!!」

「そうやって突撃した兵を手玉に取るのが敵のやり方なのよ。愛紗ちゃんたちと朱里ちゃんでかなり印象は違うようだけれど、みんな一貫して「鑑惺は自らを囮とする作戦が得意」と言っていたでしょう。それに、見なさい相手の陣形を。普通、前後に配置する槍兵と弓兵を左右に大きく分離させて配置しているわ。ここで貴女達が、鑑惺に突撃したら、私はほとんど逆方向からの弓兵に対処しなくちゃならないわ。満足に援護できないのよ……そんな状態であの鑑惺に挑んで、部隊が無事で済むと思うの?」

「分かってる!でも、たとえ全滅してでもアイツに一撃入れないといけないんだ!」

「バカなことを言わないでちょうだい!」

「……っ!」

「貴女達が全滅することなんて馬騰殿が望んでいるはずないでしょう。それも、敵の罠にみすみす掛かりに行くなんて」

「くっ……」

「逆に、私の弓兵隊は鑑惺隊に、貴女の騎馬隊は夏侯淵隊に相性が良いわ。そしで、そちらを狙えば恐らく負けは無いでしょう。確かに、仇討ちがしたいのは分かるわ。でも、まずは勝たないと始まらないの。分かってくれるわね?」

「……分かったよ。確かに熱くなりすぎてた。まずはきっちり勝たないとな。……でも、できたら生け捕りにしてくれよ?」

「ふふ……善処するわ。では、行きましょう」

「おう!行くぞ!たんぽぽ!」

「うん!」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「見事な煽りっぷりでしたねー」

「いやー、靑さんの名前出しただけって感じもするけど。でも、くく……見ぃや。アイツらガチで言い合いしとるわ」

「あ、まだ笑っちゃダメですよ。策は途中段階なんですから」

「いや、ごめんごめん。辺境の山に飛ばされて貧乏クジやと思っとったら予想外におもろいことが続いとるから」

「うむ。聆のあの口調は面白かったぞよ♪『貴様の如き三下の死に損ないが――』くぷぷー。あれはなかなかにして相手を逆なでしたじゃろうなぁ」

「あ、ごめんあれウケ狙いと違ぉてちょいカッコつけたん」

「………あら〜」

「なんと……」

「あ、そんなこと言ってる内に相手が動き始めましたよ!」

「おー……黄忠がこっちか」

「のぉ七乃、笑っても良いかの?」

「マジでメシウマすぎるんやけど」

「ふふふ……まだもうちょっと我慢してくださいね〜」

「「自分は笑っとるのじゃ(やんけ)!」」




天才を描くには作者自身も天才でなければならないそうです。
さあ、読者の皆さんはこの天才ワールド(あっさり風味)に付いてこられるかな!?


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第十一章一節その五

Fateで、イリヤのサーヴァントが、ヘラクレスじゃなくてヘラクレスリッキーブルーだったら、というのを考えていたら遅くなりました。
ゴメンネ!

また誤字が多いかもしれません。
ゴメンネ!


 「突撃ッッ!」

 

勇ましい号令と共に、馬超は夏侯淵隊へと突進をかける。無数の矢の雨に晒されるが……槍を縦横に振り回し、打ち払っていく。馬岱と隊員たちもそれに続き、猛進する。犠牲は出るが、それ以上に速く、敵陣に突き刺さり、踏み潰す。それが西涼のやり方だ。敵の策には耐えた。あとは、目の前の敵を倒すのみ。

あと一町…………半町……三間。

そして、天を裂くような轟音に呑まれた。

 

 

 「ハッッ!」

「っラぁ!」

「……なかなか良い反応ね」

「おうよ。小バエ落とすんは得意なんや」

「言ってくれるわね。ただ、貴女自身はそうでも、貴女の隊はどうかしら?……第一射構え!――放て!」

 

ザザザっと空気を震わせ、黄忠の背後の軍勢が一斉に矢を放つ。それらが全て鑑惺の元へ殺到するのだが……当の鑑惺は余裕の表情で片手を軽く挙げた。

 

「……打ち方、始めェェッ!」

 

黄忠隊にも劣らない一斉射撃を皮切りに、無数の矢が鑑惺の頭上を超えて行く。

 

「な……何故、貴女の隊が、矢を………!?」

「自分で、もうわかっとんちゃうのん?……とんでもない間違いをやらかしてもたことになァ」

「まさか……そんな………!!」

「よぉ耳澄ませェよ。もーすぐ聞こえてくるわァ」

 

「……HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」

「「HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」」

「「「HALLLLLLLL URULAAAAAAAA!!!!!!!」」」

 

「はい、西涼騎馬隊終了のお知らせですよー」

 

 ※――――――――――――――――――――――――――――※

 

 「――して、策とはなんぞや?七乃よ」

「はい。まず、危機を偽造し、敵を誘い込んで討ち取る策です。倒した敵の装備を奪って味方の一部を蜀兵に偽装し、追われているふりをして山を下ります」

「相手はそれを好機と見て突撃、そこで偽装兵を含めた全軍で迎撃。混乱した相手を討ち取る、か。ふむ……」

「うーん、なかなかの策やけど、ちょい決め手に欠けるなぁ。やっぱ、演技って気づかれるやろし」

「はい。黄忠さんは経験豊富ですし、何より目が良いでしょうしね。ね?秋蘭さん」

「ん?ああ。その辺の弓兵はどうだか知らんが、大陸で一、二ともなるとな。……だが、そうなると、見破られると分かっていてこの策を?」

「そこで第二の策です。相手が先の策に気づいた場合、恐らく、山中での戦闘、そして鑑惺隊の迎撃を嫌って草原に隊列を組みこちらの出方を窺うでしょう。その間に我々も陣形を整えます。夏侯淵隊と鑑惺隊、左右に大きく分かれて、です」

「前後ではなく、左右、か……」

「はい。そして同時にこの策の目玉、聆さんの登場です」

「……あー、分かった。煽ればえんやな?」

「そうです。思いつく限りの言葉で馬超を罵倒してくださいね」

「馬超を馬騰?どういうことかの?」

「『バトウ』は靑さんの『馬騰』やのぉて、ののしる方の『罵倒』や」

「……だが七乃よ。挑発することによって馬超を鑑惺隊に当てようとしているのだろうが……それも、黄忠が止めるのではないか?」

「もちろんですよ」

「……?…………!ふふ、なるほどな。私が鑑惺隊を引き連れておくワケか」

「で、私が夏侯淵隊を、と。隊列の表面にだけそれぞれ逆の装備を持たせとけば直前まで分からんか」

「……のう七乃。黄忠は山に居る妾らの動きを読むのじゃろ?」

「ええ。そうですけど……?」

「ならば、草原で対峙したときは当然それより互いに近いのじゃから、誤魔化しているのがバレるのではないかや?」

「……………」

「……………」

「……………」

「……どうしたのじゃ」

「すごーい!お嬢様が、そんなことに気づくなんて!いつの間にかこんなにお利口になっていたんですね!」

「めでたいなぁ」

「……ああ。先日の姉者といい、嬉しいかぎりだ」

「そうじゃろそうじゃろ、うははははー」

「でも残念!実はそこも考慮済みなんでーす」

「なんじゃと!」

「角度の関係で、斜面を降りてしまえばもう隊列の表面しか見えないんですよねー」

「……?」

「お嬢様には後で説明するとして、それで思い出しましたけど、第一の策の偽装兵は夏侯淵隊から選出します。そして装備は槍で」

「鑑惺隊と勘違いさせるのか」

「勘違いの補強と言った方が正しいですね。勘違い自体は聆さんの後ろに立つだけで起こりますので」

「……相手の捜索の蜀兵は元々殆どが弓兵やからな。わざと怪しませるってことか」

「はい。まぁ、そこまで見えているか分かりませんが。斜面での戦闘中、槍を持っている上、蜀兵への偽装……つまりは奇策の実行。おそらく相手の想像する鑑惺隊に限りなく近いのではないでしょうか。言ってしまえば、第一の策は第二の策への前振りですね」

「だが……そうなると装備が逆なのをどうするのだ?奪うにしても、敵が持っているのは弓矢だけだぞ?」

「そこが難しいところなんですけど、一応、討伐数から考えると弓は全軍に行き渡りそうですから、隊列を組むときのドサクサに紛れて槍の受け渡しを、と。ですから、聆さんにはできるだけ派手に啖呵を切ってもらいたいんです」

「注意をこっちに引き付けるんやな」

「そうです。そしてもう一つ、黄忠に熟考させることです。黄忠が考えれば考えるほどこちらが有利になりますからね。頑張ってくださいね。あと、そうですねぇ……運が良ければ流琉さんの援軍がちょうど良くやって来てくれるかもしれません」

「なるほどなぁ……。馬超を狙っとると見せて黄忠を踊らすんか。……あ、秋蘭さん、馬超と馬岱、二人は生かして逃がしてくれん?」

「……なぜだ?」

「あ、分かりましたー。蜀本体への打撃ですね!」

「え、うん」

「………ふむ。つまりは馬超と馬岱が蜀の綻びになると?」

「はいー。この戦中、馬超さんは延々と黄忠さんに指示され続けるわけですから、その指示に従った結果、相手の策に嵌った……それも自分の隊が大破となったら……」

「人徳によって成り立つ蜀に、致命的な不和が生まれるな。……私自身、なかなか頭の良い方だと思っていたのだが……。お前たち、恐ろしいな………」

「いえいえ、それほどでもー」

「そーそ。思いついただけ思いついただけー」

「笑顔とはこれほどまで邪悪な表情だっただろうか……」

「さて。それでは作戦はこれで決定で良いですね。秋蘭さんと聆さんは、敵兵の装備を集められるだけ集めてください。私はその結果から子細を調整しますので」

「了解した」

「おー。任せぇ。……お前ら!行くで」

「「はっ!」」

「良いの良いの♪妾も久々に歌いたい気分じゃ」

「あ、じゃあ兵士さんたちのお夕飯の時に歌ってもらえますか?」

「任せよ!皆を妾の歌声で骨抜きにしてやるのじゃ!」

「骨抜きにしちゃダメですよ!」

 

 ※――――――――――――――――――――――――――――※

 

 「翠ちゃんっ!?……くっ」

「全て事も無し。描いた絵図の通りやわ」

 

真逆の答えを導くヒントをチラつかせ、相手を騙す。いわゆるミスリードというやつだ。

 

「騎馬隊はぐちゃぐちゃになって敗走しとるけど……お前らはどうする?黄忠ェ。……おっと、そんなこんなで援軍も来たみたいやな」

 

敵陣の背後に土煙といくつかの旗。……流琉だ。とことんタイミングが良い。出待ちしていたのかもしれないな。

 

「退却……退却よ!全軍、退却!!」

 

悔しげに顔を歪ませる黄忠。コロンビアドヤ顔で返してやった。まさに圧倒的勝利。これで原作通り、孔明をビビらせることができるはずだ。

 

「聆さん!秋蘭様!ご無事ですか?」

「ああ。大丈夫だ」

「おー。……まぁ、でも、多少撃ち合いになったから秋蘭さんの隊に被害は出てもたけど」

「いや、少ない方さ。……こちらも、何人か敵の後をつけさせているが、良いか?」

「深追いせんように言っといてくれたんやったらな」

「ああ。言っておいた」

「なら後でちょっとだけ追撃かけちゃいましょうかー」

「ほほほ。なかなか良い見せ物じゃったのぉ」

「あ、七乃さん、美羽ちゃんも、無事だったんですね!」

「ええ。ここからさらに第四の罠、聆さんの鬼畜策が炸裂しちゃうと思うとわくわくしちゃいますよー」

「ああ。言われた通り、意図的に馬超と馬岱は逃がしておいた。……それにしても、相手が気の毒だな」

「生きてること自体が相手の策略の布石だなんて、絶望以外の何物でもありませんね」

「こんなに飯が旨い状態で、流琉の料理を食べるとどうなるのかのう……?」

「あ、何か作りましょうか?」

「ふふ。私の分もお願いできるか?食材なら色々とあるぞ」

「えーと、じゃあ、熊とかは熟成させた方が美味しいので、川魚を中心に料理しますね。皆さんもいかがですか?」

「お願いしますー」

「期待しとるで」

「よし、ならば、流琉の飯を食べ次第、追撃に出発ということで良いな」

「ふふ。もう仲間割れで潰れてたりして。あ、それだと本国に影響でないからダメなんですか」

「……せやな」

 

戦の直後とは思えないような和やかな空気が流れ、非常に気分が良い。

ちょっと調子に乗りすぎた感が有るけど、結果的に馬超も生きてたし、良いよね!




         定軍山

       夏侯淵隊(弓.槍.蜀偽装)
        鑑惺隊(弓.聆.秋)
          ↓
鑑惺隊(弓.槍.秋.表面弓)  夏侯淵隊(弓.聆.表面槍)


          平原
※どちらも表面上はもう片方の隊のフリをしています。


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第十一章一節その六

少し前から牧場物語(はじまりの大地)をやっているのですが、今作ではキャラメイクで見た目女の男ができるので、擬似レズの遊びをしています。
で、いつものように攻略対象外キャラにイベント用アイテムを渡して反応を見て遊んでいたら、何かイベントが発生。
びっくりして攻略サイトを見てみると、何かそう言う仕様のキャラだったらしいです。優遇されたモブってわけじゃなかったんですね……。


今回は、「蜀潰れるぜヒャッハー!」と思っていた読者様方には少し物足りない感じになってるかもしれません。ご了承なんとかかんとか


 「……ごめんなさい。私が余計なことを言ったばっかりに………私が……」

「……いや、いいんだ。もともと鑑惺のとこに突っ込むって言ってたんだ。これで私の思い通りなんだよ……はは、はははは…………」

「姉様……」

「翠ちゃん……」

「それよりもさ、……全部読まれてたのかな、やっぱり。黄忠が罠だって思うのも、味方への成りすましに気づくのも、……この作戦自体も」

「…………………。今思えばそうとしか考えられないわ……。人選、援軍、戦法。どれを取っても最小の消耗で最大の被害を与えられるようになっている……ように見えるわ」

「でも、どうやって?事前工作に不備が有ったわけじゃないよね?」

「ええ。それに、もし仮に部隊の規模が明らかになっても、それが私達だと知る方法は……」

「その上であたし達の動きを読み切って、自分たちは楽しく晩飯喰ったり、翌朝には策に嵌めたりしたんだな……」

「占いか……後は、五胡の妖術でも使ったとしか思えないよね」

「確かに、一時期の噂ではそういう事もあったけれど……、実際の曹操は質実剛健、誰よりも現実主義というのが朱里ちゃんの言。『天の遣い』ですらも、その予言を聞くわけじゃなくて殆どその辺の凡夫と同じに扱っていると聞くわ。妖術や占いに頼るとは思えない。……考えられるのは………」

「相手が朱里より優秀だったってことか?」

「そうね。……それも、人智を遥かに超えて、心を読み、未来を見透すほどの……」

「それこそ絵空事ではないか」

「………!星、お前、こんな所で何を……!」

「お主らが思わぬ苦戦を強いられていると聞いてな。糧食や馬の手配をしておいた」

「それなら、助けに来てくれれば……!」

「さてそろそろ定軍山か、と意気込んだときには既に惨敗の報せが届いていたこちらの身にもなってくれ」

「くっ……」

「それに、助かったわ。逃げるときは、糧食も何も気にしている場合ではなかったもの……。帰ることすらままならなかった……」

「ふむ……まぁ、まずは帰ろう。ゆっくり休まねばな」

「………分かった」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「――という訳で、相手はこのまま帰るようですね」

 

偵察兵はそう言いつつ、紙芝居を仕舞う。……上手いんだが、構図が平面的なんだよなぁ……。敢えて紙芝居自体にはつっこまない。

 

「この様子やと、私の策はハズレたっぽいな。馬超が予想以上に聞き分け良すぎた」

「……意気消沈し過ぎて八つ当たりすることもできない、と言った方が正しい気もするが……。削り過ぎたようだな」

「いや、別に良えわ。元々が遊びみたいなもんやったし。それに、逆に思たより影響大きぃて蜀が勝手に潰れでもしたら華琳さんもがっかりやろしな」

「……いえ、少し待ってください。偵察さん、さっきの報告は、相手の会話を一言一句正確に記録したものですよね?」

「は、はい!聞き取れたものは全て!」

「なら、会話部分のはじめからもう一度読んでみてください」

「……?は、はい。『……ごめんなさい。私が余計なことを言ったばっかりに………』『……いや、いいんだ。もともと鑑惺のとこに突っ込むって言ってたんだ。これで私の思い通りなんだよ……はは、はははは…………』『姉様……』『翠ちゃん……』『それよりもさ、……全部読まれてたのかな、やっぱり。黄忠が罠だって思うのも、』」

「………!」

「………!」

「ほら、結構効いてるみたいですよー」

「え、え?どういうことですか?」

「……馬超が黄忠を真名で呼んでいない」

「あ……!」

「どうやら一から十まで完璧っぽいなぁ」

 

これは良い。その場で殴り合うわけでもなく、かといって簡単に割り切れるものでもない、絶妙な不和だ。私の場合は一週間ほど謝り続ければ何とか持ち直せたが、コイツらの場合は原因がガチ過ぎてそう簡単には修復できまい。

 

「で、どうする?追撃をかけるか?……私はこのまま帰還した方が良いと思うが」

「ええ。帰還しましょう。趙雲は器用な将らしいですからね。十分な被害は与えましたし、もういいでしょう。何を仕掛けられているか分かりませんから、深追いは危険です」

「よっしゃ決まり。帰り支度すっか。……ところで美羽様は?」

「お腹いっぱいになって寝ちゃってますー」

「さっきまで戦場に居たというのに、気の大きい奴だ」

「あんま分かっとらんだけちゃう?特に今回は余裕やったし」

「そうですねー。お嬢様、ほとんどお遊び気分でしたよ」

「お遊びと言えば、夕食の余興での歌、なかなか素晴らしいものだったな」

「え、美羽ちゃんって、歌が上手なんですか?」

「それはもう。耳が天国の階段を駆け上がりますよー」

「その例えはよく分かりませんけど、よく分からないくらい凄い、って解釈で良いですか?」

「……まぁ、それで間違ってはいないな」

「じゃあ、天和ちゃんたちみたいに徴兵を手伝ってもらうっていうのは……?」

「アカンやろなぁ。美羽様って調子乗りィやから、自分の歌で兵が集まるとなったら独立したがるやろ。なぁ?七乃さん」

「否定はしません」

「やから、使えるとしたら慰安やろな」

 

上手く手綱を引けば徴兵できないこともないが、流石に圧倒的すぎてダメだ。

 

「まぁ、どっちにしろここ居ってもやることないし、帰るか」

「お前はさっさと帰って宴会したいだけだろ」

「バレたーー!」

アッハッハッハ

 

皆は和やかな冗談を言い合って終了。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 定軍山について留守番組の一言

 

一刀

「今だから言えるんだけどさ、定軍山って俺たちの歴史じゃ秋蘭が黄忠に討ち取られるって出来事だったんだ。だから気が気じゃなかったんだけど、無事で良かったよ」

 

華琳

「ご苦労さま。……で、とりあえず美羽をここに呼びなさい」

 

春蘭

「秋蘭を罠にかけるとは蜀の奴らめ!許せん!!どうして追撃をかけなかったのだ!」

 

桂花

「ふふん。諸葛亮孔明、恐るに足らず!」

 

「見事に裏の裏をかいた素晴らしい策ですね。兵法書など出してみてはいかがですか?」

 

「あ〜、これはこれは……黄忠さん、ぽっきりいっちゃってそうですね〜」

 

季衣

「流琉!ボクにも何か作って!」

 

「……無事でよかった」

 

真桜

「ウチの工兵隊ってどこで活躍したん?もしかして出番無し!?……え?連絡用の火の消火?地味やなぁ〜!もっと派手なことさせたってぇや!」

 

沙和

「ねー!やっぱり服装って大事なのー。この策が成功したのも、蜀の服に着替えるっていうのが肝心なところなの!だから服代を経費で(ry」

 

猪々子

「え!?一騎討ち無しかよ!」

 

かゆうま

「つまらん」

 

「同じ騎馬隊としては背筋が凍る話なんやけど……」

 

「え、マジで西涼騎馬隊そんなことになったのか?……容赦無さ過ぎだろお前ぇら……」

 

赤髪の侍女

「犠牲者がまた一人……」




蜀の精神的ダメージをどのくらいにするかで非常に迷いました。
当初の予定では、黄忠と馬超が殴り合い一歩手前まで行って趙雲が止める、というものだったのですが、もうそうなると本気で蜀が瓦解しそうな雰囲気になってしまったので静かな不和に変更。
と、時が解決してくれるさ……。


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第十一章拠点フェイズ : 聆(3X)の長丁場その一

お久しぶりです。
インド行ってきました。インド行った後はその間に溜まった仕事の処理で時間がなかっ(以後見苦しい言い訳
インドは……臭かったです。
あと物騒です。スリと置き引きに遭いました。両方勝ちましたけど。
あとはテンション下がってホテルに引きこもり……。なれないことはするもんじゃないですね。

さて、今回の投稿ですが、かなり長丁場になりそうです。
さっさと戦闘が見たいんじゃ〜って読者様には土下座。
拠点フェイズ更新しつつ本編進める荒業も有りですかね?


 こちらの世界に来てから何度も思ったことだが、風呂とは実に良いものだ。しかも、それが露天の大浴場で、ちょっとした酒の用意など有れば尚良い。そして、傍らに美女でも侍らせておけば正にこの世の贅を極めた心地を味わえるというものだ。

しかし……

 

「良い湯じゃのぉ〜。七乃よ」

「そうですねー。あ、脱力しすぎてお漏らししちゃダメですよ」

「こら!季衣、お風呂で泳がない!」

「えー、猪っちーも泳いでるじゃん。なんでボクだけ」

「こんなに広いんだ。泳いでくれって言ってるようなもんだぜ」

「ばったく、少しは落ち着いていだでだいぼどだどでじょうか」

「鼻に詰物をしたまま言っても格好つかないのですよ〜」

「大丈夫なの!沙和が意匠を担当したかわいい詰物だから!」

「……これはかわいいのか……?アタシにはさっぱりだ」

「ほら凪!そんな隅っこで縮こまっとらんと、もっとゆっくりしぃや」

「いえ、私は……」

「もー、傷のことやったら気にするなって前にも言うたやろー」

「ねー、ちょっとこのお湯ぬるくない?」

「そうかしら?私にはちょうど良いけれど。天和姉さんはどう?」

「私もこれくらいが良いかな〜。熱いのはこの前の痩身の特訓でいっぱい入ったし〜」

「……ふん。全く、騒がしい奴らだ」

「そうだな。落ち着きというものを知るべきだ」

「姉者………」

「騒がしい奴筆頭の貴女がそれを言う?」

「ふふふ。冗談としてはなかなかだわ」

 

……これはやり過ぎと違うのん?

大浴場はさながら修学旅行のように賑わっている。具体的には、私を含めて二十一人の少女(?)がくつろいで……否、騒いでいる。修学旅行と違うのは、全員が全員美女揃いというところか。

 

「一刀は『裸の付き合い』と言っていたけれど、確かに良いものね」

「あー、やっぱ隊長の入れ知恵なん」

「『入れ知恵』という言い方には語弊が有ると思うけれど。……思えば、私達っていくつかの少集団に分かれてて、こうやって全員が一緒に、ってことはなかったでしょう?」

「まあ、なぁ……」

 

確かに、張三姉妹やななみうを筆頭に、グループ分けがキツイ気もする。三羽烏は未だに夏侯姉妹や華琳に恐縮するし、かゆうまと軍師ーズの仲はほとんど断絶していると言っても過言ではない。……ちょっと過言か。

 

「大きな戦いを控えたこの時期に、団結をより高めておこうと思ってね」

「なんや裸見たいだけかと思うとったわ」

「聆!華琳様に対して何てこと言ってるの!口を慎み――」

「……………」

 

噛み付くように割って入った桂花をよそに、華琳は黙り込んでしまう。

 

「……図星みたいやで?」

「華琳様……」

「ま、まぁ、それはさておき、問題は、この浴槽の中でもそのいつもの仲間内での会話に収まってしまっているということね」

「んー、沙和辺りが頑張っとるくらいか」

「反対に華雄と春蘭がこの会の趣旨の逆を行っているわね」

「趣旨?隠れ蓑やのぉて?」

「ん゛ん゛っ……」

「そうやなごめんな。ちょいひつこかったな」

「……そういうことだから春蘭」

「は、はい!」

「別に静かにしていなくても良いのよ」

「わ、分かりました!えと、あの、ほ、本日はお日柄も良く……」

「無理に喋れとも言われとらんやろに……」

「くっ……」

「ふふふ……まぁ、不器用なのも可愛いところよ」

「華琳様ぁ……!」

 

うっとりした表情でとろけた声を出す。うん。驚くほどいつも通りだ。

 

「元譲……お前、安い奴だな………」

「何を言うか!華琳様にお褒め頂いたのだ!喜ばずしてなんとする」

「『はいはいそうですか』っつって何でもない風を装いつつ頬を少し赤らめるとかどない?」

「良いわねそれ。そういう娘欲しいわ」

「………?……、………?」

「あきらめろ。姉者には無理だ」

「安いと言えば、華雄、貴女も安いのではなくて?出会って一日で聆に心酔していたでしょう」

「詩人の心が詩に表れるように、武人の心は武に表れるものだ。戦場で刃を交えることは、千の言葉を交わすことにも劣らん」

「………」

「………」

「む、何だ黙り込んで」

「いえ……。どうしたのかしら、最近、バカだと思ってた娘たちが軒並み強化されているような気が……」

「だ、騙されてはいけません華琳様……また明日にはつまらない挑発に乗って突出して司令部を悩ませるに決まっています!」

「文若……お前という奴は底抜けに失礼だな」

「まぁ実際引っかかるやろけどな」

「嵬媼までそのようなことを」

「刃を交えた私が言うんやから間違いないんやん?」

 

まぁ実際のところは適当言ってるだけなんだが。

 

「ぐ……」

「ふふっ……偶の名言も聆の前では形無しということね。……でも不思議ね。貴女たち、結構親密なのに真名では呼ばないのね」

「つーか教えてもらっとらんのやからしゃーないわ」

 

初対面で真名を明かさなかったのはいいとして、その後の宴会、日常生活でもタイミングを逃しつづけ、しまいには原作未登場のギアスでもかかっているのかというくらい話題にすら登らなかった。

 

「あー、それウチも教えてもろてない!」

 

と、霞も乱入。

 

「ウチら結構長い付き合いやん。教えてぇな」

「董卓の下からだったか?」

「うんにゃ。月……董卓が都に来る前から知り合いやったで。実際轡を並べたんは董卓が来てからやけど」

「へえ……じゃあますます分からないわね。それに、こちらとしても、そろそろ教えてもらいたいところではあるわ。もちろん、無理にとは言わないけど」

 

この世界で言う真名の呼び合いは、言わば信頼の証。逆に言えば仲間同士で真名を呼ばないのは、ある種の特例を除いて、不信や不仲の現れとも考えられること。何というか……メールやライン、また、着信拒否やブロックに近しい感じだ。

 

「……そうしたいのは山々だが」

 

と、ここでかゆうまが渋々と口を開く。

 

「なんや?故郷の慣習で『生涯の伴侶となるもの以外に真名を明かすべからず』みたいなんがあるん?ウチが嫁にもろたっても良えんやで?」

「霞……貴女結構酔ってるわね……」

「……私は都生まれだ」

「んだら家訓か?」

「そうではなくてだな……」

 

もごもごと、バカらしからぬ歯切れの悪い言葉。

うわー、何か知らんが面倒くさい地雷踏んだか?と思ったその時、意を決したようにかゆうまが言い放った。

 

「私には真名が無い」




※この間皆全裸


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第十一章拠点フェイズ : 聆(3X)の長丁場その二

鼻血の量が尋常じゃないので病院に検査に行きました。まず内視鏡的なもので鼻の穴を確認。傷口的なものが見つかるも、別段それほど出血するようなものでもないとのこと。次にCTで副鼻腔の確認。異常無し。もしかしたら、血液が固まりにくいのかもしれないということで血液検査。検査採血でなぜか失神しました。リアルに「知らない天井だ」でした。


かゆうまの真名は投げ捨てたわけじゃないです。次の次の話で回収します。


 『私には真名が無い』……かゆうまの言葉に、周囲に居る誰もが戸惑いを隠せないらしかった。

真名が無い、という事実に、ではない。

生まれて間もない頃に何か重大な不幸があったり、或いは捨て子や奴隷、又はそれ以下の生まれの者は母親が真名をつけられないことも有る。それに、極稀にだが、親子間の不仲などで名を捨てることも。

では何に戸惑ったのかと言えば、それは、真名が無いと言ったことに対して、だ。

と言うのも、先に挙げたように真名が無い境遇であったとすれば、育ての親や主が真名をつけてしまうものだからだ。極端な話、自分でつけることもできる。わざわざ『無い』という状況にする、或いはそのような発言をすることの必要がないのだ。

……まぁ、迷っていても仕方が無い。一応聞いてみてあまりにも面倒臭そうだったら無理やり話題転換すれば良い。

 

「へー。何で?」

 

浴槽の縁に背を預けつつ、いかにもどうでも良いことのように、それこそ、沙和のオシャレ談義に対する相槌と同じような調子で尋ねる。視界の端の華琳が『よく訊いたわ!』と目配せをした。対して、視界の中央のかゆうまは、何だか気恥ずかしそうに俯く。……気恥ずかしそう………?

 

「その、なんだ……。まだ決まっていないのだ」

 

これまたよく分からない答え。いや、まだ決まっていないことは分かるのだが。

 

「うーん、もうちょい分かるように喋ってくれんか?」

「あぁ、えー……――」

 

かゆうまは歯切れ悪く語りだした。元々話下手で、且つ今回は無駄に言葉を選んでいるようだったので余計に時間が掛かったが。そして、その内容は実に些細なものだった。簡単に言えば、『母親が最初に思いついた名前があまりにもかっこ悪い(今で言うDQNネーム)ので自分で考えることにしたが、そういった手前良い名をつけなければならず、決めあぐねている』ということだ。なんてつまらない理由。どえらい肩透かしである。重いのが来ていても困るのだが。

 

「はぁ?そんな理由?バカのくせにもったいぶるからちょっと身構えちゃったじゃないの」

 

桂花も同じ感想らしい。

 

「それは……バカにされるかもしれんと思ったからだ」

「は?今更!?」

「おい嵬媼!その言い草は酷くないか!?」

「まぁ確かに母娘共々残念では有るわね」

「華琳様……そんなことを言っては可哀想です。こんなことでも当人にすれば大事なのですから」

「妙才……お前の言葉の方が刺さるのだが?」

「せやなー……この際やし、ウチらでつけてやるってのはどや?」

「おお!それは有り難い!」

「良い考えだけれど、それはまたの機会でね」

「何故だ!」

「もう既に酔っ払っとる奴も結構居るからなぁ。酔った勢いで変なんつけられても嫌やろ」

「む、それはそうだな」

「本音を言えば、全体の交流の場やのにかゆうま一人のために時間使うんはダルい!」

「……嵬媼、お前も酔っているのだな?でなければ私はお前を殴らねばならん」

「もう飛びかかっとるやないですかーやだー」

 

バシャバシャと水飛沫をあげながらじゃれ合う。傍から見れば『なんだ、天国はここだったのか』と言いたくなるような光景なのかもしれないが、私は内心ヒヤヒヤだ。何しろかゆうまは物理法則を無視した怪力を持っている。ちょっとの気の緩みが大怪我に繋がりかねないのだ。……何だこれ猛獣か?

 

「……ふむ。そうね。今まで明かしていなかったことを喋るのも面白いわね」

「あ、知ってるのー!そーゆーのって『かみんぐあうと』って言うらしいの!」

「ふふ。ではこの後の予定に『かみんぐあうと大会』も組み込みましょう」

「この後?」

「言わなかったかしら?この後『ぱじゃまぱーてぃ』をするのよ」

「それも隊長から?」

「ええ。他にも『王様げーむ』とか、『からおけ』とかも教えてもらったわ。からおけは今のところ少し実現が難しそうなのだけれど」

 

……確かにこのメンツでやったら面白そうだ。

 

「教えてもらった、と言えば、アレをしなくちゃね」

「アレ……?」

「そう。一刀が『お風呂イベントには必須だよね☆』って言っていたのよ」

 

そう前置きして、華琳は嬉しそうに宣言した。

 

「皆、『洗いっこ』するわよ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 〜男湯〜

 

「ふふふ……全て計画通り………」

「大丈夫なんですか?隊長。もしこっちでこうして聞き耳をたてていることがバレたら……」

「大丈夫だ。気づくような娘は、聞き耳たてる程度なら笑って許してくれる娘が多いし、唯一何かしら言ってきそうな華琳は舞い上がってて気づかないはずだ」

「曹操様が……」

「舞い上がる……?」

「そうだ。……華琳が女の子……それも美女才女が好きなのは知っているよな」

「はい。……それは分かっていますが………」

「落ち着いてるように思えて、実際は凄くはしゃいでるんだよ。三日も前からあれやこれやと準備をしてたみたいだしね。……そんなことより、どうやら今から祭りが始まるらしい」

「あーーーーー、見えないのがもどかしい。どこかに穴でも開いてないでしょうか」

「ふふ……素人だな」

「なんですと……」

「確かに、ただの風呂ならそりゃあ覗きの方が良い。でも、これから始まるのは『洗いっこ』だ。……ミスリードの逆利用ってやつだな」

「………?」

「つまりどういうことなんですかってばよ……?」

「それを俺の口から言う必要はないだろう。もう、すぐに答えは示されるさ」

(凄い……なんて頼もしいんだ)

(北郷隊長がまるで曹操様のようだ……!)

 

少女たちの戯れの裏、男たちの戦いが始まった!




記念すべき第百回目の投稿をスランプ状態で迎えたことが残念でなりません。
恋姫のネタを考えようとしたら他の事ばかり思いつくんですよね。
しかも作品に纏められなさそうな突飛な一発ネタばかり。
東方×学園革命伝ミツルギとか。


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第十一章拠点フェイズ : 聆(3X)の長丁場その三

遅くなってすみません。
一回全文書き直したのでこんなに日が開いてしまいました。
アイマスのせいじゃないです。


 「では華琳様、お背中流させていただきますね」

 「レイ姉ー!たのんだー」

 「おいっ、走ると危ないぞ」

 

 

華琳による、洗いっこの簡単な説明の後。楽しげな声が壁の向こうのそこかしこから聞こえてきた。

 

「(始まりましたね……)」

「(ああ……)」

 

「良かったんですか?華琳様の所に行かなくて」

「ええ……。この私の血で華琳様を汚すことなどあってはいけませんから……」

 

 

お、この声は人和×稟か。ちょっと珍しいけど、共通点も多い二人だな。……眼鏡とか。

 

 

「あ、聆さんそれやめた方が良いですよ」

「ん?何が?」

「石鹸って髪の毛を凄く傷めるらしいですから、あまり髪につけない方が……」

「えー!?レイ姉!ちょっと待ってくれ!止めてー!!」

 

 

あ、聆が石鹸で猪々子の髪洗っちゃってるのか。

 

 

「あー、大丈夫大丈夫。薄めた檸檬汁ぶっかけるから」

「え、どう言うことですか?」

「酸っぱいもんかけたらキシつかんねん」

 

 

そう言やそうだったな……。あれ?でもどうしてそれを……?

 

 

「そうなんですか!?……でも、どうしてそれを……?」

 

 

お、流琉ナイス!

 

 

「……この前、風呂に持ち込んどった蜜柑酒ひっくり返したときに気付いたんや」

「日常的に風呂で酒を?」

「はぁ……聆は相変わらずね」

 

 

ホント相変わらずだな……。

 

 

「ん……良いわよ、桂花………」

 

「……!!」

「…………!」

「(た、隊長、今のは……!?)」

 

うっとりとした華琳の声に、部下たちが顔を見合わせる。……狙いが的中した。

 

「(ふふふ……さあ、何だろうな?)」

「(も、もし、も、もしや……!!!)」

 

「ひゃわっ!?……ちょと姐さん、ウチそこ弱いねんから堪忍してぇや〜」

「えっへへ〜ゴメンゴメン。じゃあこっちにしとくわ」

「んあッ……アカン!そっちもアカンー!」

 

「(どこに、どこに触ったのでしょうか!!?)」

 

偶々俺と同席した幸運な部下たちは、揃って前屈みになる。

これこそが今回の作戦……『妄想の翼』作戦だ。

つまり、聞こえてくる声からエロい妄想をして楽しもう、というものである。『いや、覗けよ』と言う者も居るだろうけど、ちょっとよく考えれば分かること。今回は二十一人という大人数な上、季衣や流琉もメンバーに含まれる。本気でエロいことは起こらないのだ。……多分、みんな自重するだろう。だから、さっきの華琳にしても真桜にしても、多分、本当は、普通に体を洗うのが上手かったとか、脇腹を触られたとか、そんな程度のことだろう。

漫画や小説で偶に有る、『いやらしい声がするから駆けつけてみたら健全なことだった』というシチュエーションの逆利用。『健全な行為の声をいやらしい妄想の糧とする』……それが『妄想の翼』。

或いは、量子力学的発想で、『実際にいやらしいことが起こったかどうか観測しない』かぎり『実際にいやらしいことが起きる』可能性と、『実際にはいやらしいことが起きなかった』可能性を重なった状態で保存する(つまりパラレルワールドの発生)ことができ、あとは俺の思いこみ次第で自由に……あ、何言ってんのか分かんなくなってきた。

まぁ、つまり『この壁の向こうではエロいことが……!?』ってドキドキできるってことだ。

 

 

「ンぅっ……ァッ………あ、姉者……すこし、強すぎるぞ」

「お、おうっ。……このくらいか?」

「ああ……そうだ。それと、そこばかりじゃなくて、こっちも……」

 

「(夏侯淵様と!夏侯惇様が……!!)」

「(あ、間に挟まれたい………!!)」

「(ちょ、ちょっと厠に行って来ますってばよ!)」

 

「いーなー、天和ちゃんの、綺麗な桃色で〜」

「えー?沙和ちゃんのもステキじゃない?」

 

「(な、何が桃色なのでありますか!?)」

「(ほわぉぁぁぉぁあぁぁぁあ!!!ほ!ほ!!ほわぉぁぁぉぁあぁぁあぁあぁぁあ!!!!!!)」

「(うわっ!気絶しやがった)」

 

「文謙、と言ったか……貴様なかなか締まりの良い身体をしているな」

「私などまだまだです。そちらこそ……」

 

「(や、やっぱり楽進様は締りが良いんですか!!!)」

「(華雄とか言う人にも俄然興味が湧いてきましたよッッ!!!)」

「(オウフwwwいわゆる率直な百合百合キタコレですねwwwおっとっとwww拙者『キタコレ』などとつい北郷隊用語がwwwまあ拙者の場合百合好きとは言っても、いわゆる性的嗜好としての百合でなく発達した文明の象徴として見ているちょっと変わり者ですのでwww出生率と死亡率の影響がですねwwww ドプフォwwwつい高度な考察が出てしまいましたwwwいや失敬失敬wwwまあ武人と女の間で悩む少女としての楽進殿は純粋に可愛らしいなと賞賛できますがwww私みたいに一歩引いた見方をするとですねwww昨今の奇をてらう風潮に反し徹底的な武人脳を引き継いだ人物としてのですねwww華雄殿の特異性はですねwwwwフォカヌポウwww拙者これではまるで趙雲みたいwww拙者は昇り龍ではござらんのでwwwコポォwwwwでは、このネタを書物に著さねばなりませぬのでこれにてwww)」

 

「はンぅぅっ」

「ちょ、変な声出すなや」

「でも、レイ姉、上手すぎてぇっ……!」

「ちょっと!はやくちぃに代わりなさいよっ!」

「聆よ、妾も!妾も頼むのじゃ!」

「そんな!?お嬢様、私じゃダメなんですか?……もう、こうなったら聆さん!私にもしてください!」

「何でそうなるんや」

 

「(普段元気っ子で男の子っぽい文醜様の艶声キタ━━!)」

「(聆………やはり天才か……)」

「(『私じゃダメなんですか?』……( ゚∀゚)・∵. グハッ!!)」

 

 

洗いっこが終わるころには、男湯に居るのは俺一人になっていた。




犬のおやつって美味しいですよね。


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第十一章拠点フェイズ : 聆(3X)の長丁場その四

この作品はかなり初期の段階でプロットが行方不明になったため、すべて即興で書いています。
そして、筆が乗るほど途中保存を忘れて全消えのリスクが高まるという罠。ショックも大きいというね。

あとショックと言えば、PSOや牧場物語、東方と平行して以前からやっていた
「サモンナイトシリーズ時系列順に並べて全部飽きるまでリレー」
完走したのですが、5のコレジャナイ感が異常。


 「風呂で疲れるってぇのは何でなんやろなァ……」

「聆殿が大勢の体を洗ったからでは?」

「理由訊ぃとるんとちゃぁうんじゃ」

 

稟のボケなのかマジなのか分からない発言に軽く突っ込み、大の字にぐでぇ〜っと身体の力を抜く。色気も慎みも有ったもんじゃないがそんなことは些事で、今はとにかく休みたい。

『洗いっこ』が始まり、うっかり天の知識を披露してしまった私は、その後多数の少女たちにせがまれ、その身体を洗う破目になってしまった。だが、そこまではまだ良い。天の知識もなんとか誤魔化せたし、労力も戦闘に比べれば大したことは無いから。問題はその後だった。猪々子が私の真似をして頭を洗ってくれたのだが、残念ながら爪を立ててガシガシするし、七乃さんは的確にラッキースケべってくるし、地和は隠す素振りもなく乳首抓ってくるし意味分からん。

いやまぁ、軽くぶっ壊れた感じになるというのは、この会の目的に沿っているのかもしれないが。

でもアレだ。季衣流琉が居るんだからえっちなことは良くない。季衣流琉が居なければ私も応戦してそれはそれはおかしなことになっていたというものだ。

 

「そうやって胸と尻にばかり栄養が行ってるから頭がスッカラカンなのよ!」

「言うじゃないか桂花。つまりアタシの頭もスッカラカンだと」

「春蘭に言ってるのよ!何でアンタが出てくんの」

「そうだぞ。気にするな靑。胸だけでなく心も小さい小物の言うことだ」

「ちょっと春蘭……もう一度言ってみなさい??」

「か、華琳様!?え、えと華琳様に言ったわけでは……」

 

向こうの方でなにやらハチャメチャの兆しが見え隠れしているが私には関係ない。『巨乳貧乳戦争』なんてつまらない。おっぱいはどんな大きさでもおっぱいで、そこに貴賎など無いのだ。それが分からないうちは名軍師だろうが猛将だろうがその辺の甘ちゃんと変わらない……なんて心の中で呟きつつ高みの見――

 

「んじゃあ聆はこっち側やんなー!」

「くっ、聆は大きいわね……」

 

グイと腕を引っ張られ、私も争いの渦中へ。

始めは桂花と春蘭との争いだったものがついに全員に広かったらしい。巻き込まれた、と言うべきか。

小乳は華琳、桂花、稟、風、季衣、流琉、地和、人和、かゆうま、猪々子、ちゃん美羽の十一名。

大乳は春蘭、秋蘭、凪、沙和、真桜、天和、霞、七乃さん、靑、私の十名か。

風呂の片側ずつに大乳と小乳がそれぞれ並んでいる光景は……何というか、シュールの一言に尽きる。

 

「ぐ……この曹孟徳が気圧されるなど………!!」

「華琳様、お気を確かに!あんなものはただの脂肪の塊。恐れるべきものではぐわわわわ」

「む、むしろ余計な重量と弾力により戦闘能力を下げ……下げ………下げるはずなのに何なのですかあの余裕はッッ!!」

「勝負せずしてこの敗北感……本当の兵法とは豊かな胸にこそ宿るものだったのですね〜」

「さすがのおいらでも何も言えねぇぜ……」

 

ギノグンシーズは葬式ムードだし。腹話術(?)まで使って。

 

「く……まだ、まだ負けたわけではないわ。こちらには豊富な軍師に、決定力の高い武将が居る!」

「む、確かにそうですね……。此方は武将の数は多いとは言え、流石に沙和や真桜では季衣や猪々子の相手はできまい……」

「悔しいけど、二人がかりでも厳しいの〜……」

「でも、逆にそっちは手綱がとりにくいんじゃねぇの?」

「む?それは私の事を言っているのか?」

 

あれ、何かガチ戦略の時間か?

……となると私のやることは一つ。

 

「あれ……?人和、そんな胸小さないんちゃうのん……?」

「!!」

「!?」

「!?」

「……うん。絶対小さないわ。むしろ体格にしたら大きいぐらいちゃう?」

「ちょ、ちょっと!引き抜きなんて卑怯よ!!」

「そうよ!……人和、あんな筆頭危険人物不気味変態嗜虐芸術家(笑)にたぶらかされてはダメ!」

「いえ。私、巨乳組に行くわ」

「人和!」

「人和!目を覚まして!人和は貧乳。ちぃと変わらない、貧乳なのよ!」

「違うわ。ちぃ姉さん。目を覚ましたからこそ向こうに行くの。私は今まで天和姉さんを見て、天和姉さんと比べて、自分は貧乳なんだと思っていたわ。でも、本当は違った。天和姉さんが大きすぎるだけで、私の胸が小さいわけではなかったのよ。天和姉さんが大の大。私が中の大」

「そんな……そんな!一緒に巨乳の悪口言ったり豊乳の体操したりしたじゃない!あれは、あれは嘘だったって言うの!?」

「嘘じゃない。……でも、間違いだった。それだけ」

「そんな……人和………戻ってきてよ……人和!人和ぉぉぉぉぉ!!!!」

「………とまぁくっそつまらん茶番でも張三姉妹の手にかかれば激アツの離反シーンになるってことで」

「でも結局のところ聆がそそのかしたんじゃないの」

「汚い流石聆汚い」

「ぐぬぬ………む?沙和よ。おぬし、そこまで大きくないのではないかや?」

「は!?何言ってるの!?沙和のおっぱいはバインバインでたいちょーもめろんめろんの一級品なの!」

「……無駄よ美羽。アレは富める者のみに許された業。私達には不可能なのよ………」

「口惜しいのぅ……」

「もう、"巨乳組"じゃなくて"たち悪い組"じゃね?」

「言わんとすることは分かる」

 

夏侯姉妹は『1+1が3にも4にもなる』を地で行くのは明らかだ。それに、三人娘は、"数値化"された強さで言えば他武将に多少目劣り(とは言っても魏の水準が高すぎるだけ)するが、それぞれの特技を活かせば戦術レベルでの作戦の柱となる。あとは腹黒七乃と腹黒人和、自分で言うのもなんだが私。

 

「言うてそっちも、なぁ」

 

かと言って小乳組が弱いかと言えばそうではない。華琳、桂花、稟、風といったメイン軍師は向こうだ。夏侯姉妹に並び、季衣流琉のコンボ効果もなかなかのものである上、猪々子の殲滅力は凪の炸裂氣弾を超える。原作知識から言って、猪々子はまだ『斬山刀斬山陣』を残しているし。それにかゆうまの方も、様々なタイプの武将と鍛錬することによって、とてもやられ役とは言えないレベルに成長している。それに向こうにはちゃん美羽も居るし。

 

「所謂"正統派"ね」

「普通に強えぇよなァ」

「やはり兵力や基盤において華琳様の存在が大きいですねー」

「戦うとなるとやはり一旦西涼に篭もることになるでしょうか」

「明確な首領が居ないのがこちらの弱みか……」

「靑さんは?」

「つってもアタシは死んでることになってるし優れてる事と言っちゃあ西涼の地理ぐらいだからなァ」

「参謀は居るんですけどねー」

「指導者なぁ。……それこそ天和で良えんちゃうのん?」

「わたしー?」

「蜀臭ぇ……」

「ふふ……。この組み合わせで紅白戦も面白いかもしれないわね」

「何というか……半分に割っても予想以上に戦えそうで驚いています」

「それよりも、巨乳貧乳なんて荒唐無稽な基準で選出してここまで神憑り的な組み合わせになったことがびっくりよ」

「盛り上がっているところ大変言いにくいのですが〜、そろそろあがったほうがいいのですよ〜」

「……そうね。議論に飽きた娘たちの水の掛け合いが白熱しすぎて色々と粉砕されているものね」

「おーい、あがるでー」

「えー、でも今いいとこ……」

「そうだぞ!私たちの戦いはまだ始まったばかりだ!」

「風呂上りには天の国でも最高に美味とされる飲み物が振る舞われるらしいのだが……。しかたない、姉者の分も私がもらっておこう」

「よしあがる今あがるすぐあがる」

 

そして風呂場を後にする少女たち。

一刀が倒れた塀の下敷きになっているのに気がついたが……言ったら言ったで春蘭あたりに追い打ちをかけられそうな気がしたからスルーしておいた。




巨乳貧乳戦争(ガチ)
あなたはどちらに付きたいですか?
小乳
美羽様、華琳、桂花、稟、風、地和、季衣、流琉、猪々子、かゆうま
大乳
春蘭、秋蘭、凪、沙和、真桜、聆、天和、人和、霞、七乃さん、靑

とりあえずどちらを選んでも呉には勝てると思います。


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第十一章拠点フェイズ : 聆(3X)の長丁場その五

新しい包丁がめっちゃ強そうです。

東方二次を書こうとは思っているのですが、設定をどうするか悩んでます。
特に人間関係。
例えば設定の文章に従って魔理沙とアリスの仲を悪くするか、エンディングの状況から想定してある程度仲良くするかなど。
設定もねぇ。漫画やラノベの『さえない』主人公みたいなものかもしれませんしね。


 「ふーん……これが天の国最高の美味、ねぇ……」

 

風呂上り。

小瓶に入った薄ピンクの液体を、華琳は訝しげに眺める。

 

「一刀に言われた通りに作ってはみたものの……」

「牛の乳に果物を混ぜただけでしたもんねぇ」

 

流琉の言うことももっともで、確かにこの『フルーツ牛乳』は牛乳に果物を混ぜただけの代物だ。しかし、『最高』は言い過ぎにしても、かなりの逸品であることは間違いない。

 

「ま、物は試しやろ。飲んでみよぅや」

「そうね。皆、行き渡ったかしら?」

「はい!」

「よく冷えてるじゃん」

「む……なんだこの色は………?」

「ウチはどうせキンキンに冷えた飲み物やったら、酒のんがよかったなー」

「アタシは牛の乳自体初めてだ」

 

そうか、内陸部は家畜と言えば馬と羊だからな……なんてウンチクを交えつつ、それぞれが瓶を手にする。オレンジ色やら黄色やら。ミカンとか、南方から貿易で入手したバナナとか、その他諸々の様々な果物が使われているようだ。ただ、かゆうまの瓶の黄緑色は何だろうか。ちなみに私の瓶は白。ただの牛乳ということはないだろうから、白い果物が入っているのだろう。時代考証がどの程度の意味を持つのかは微妙なところだが、古代中国で白い果物と言えばライチだろう。牛乳との相性は正直微妙か。

 

「では、乾杯」

「「乾杯!」」

 

若干間違ったノリで皆がフルーツ牛乳の蓋を開け――

 

「臭っ」

 

私の瓶の液体からちょっと信じられないような臭いがする。え、意味が分らない。何というか……こう、………ダメだ。この臭いを形容できる言葉を私は知らない。

 

「何よ……反応薄いわね」

 

と、華琳はいちごみるくを煽りつつ不満顔。

 

「あぁ、なるほどな。ロシアンルーレットの仕返しか」

「あら、仕返しだなんて人聞きの悪い。聆の『ふるーつ牛乳』に入れた果物、天の国では『果物の王様』と言われるほどのものらしいわ。日頃の感謝を込めてみたまでのことよ」

 

……ドリアンやないか。

 

「それはそれは。また何かお返し考えんとなぁ??」

「構わないわ。これは褒美なのだから、貴女はただ甘んじて受ければそれでいいのよ」

「いや〜、良え君主を持って幸せやわぁ」

「私こそ貴女のような有能な部下を持って幸せだわ」

「アハハハハ」

「ウフフフフ」

 

「くそうっ!聆のやつ華琳様とあんなに幸せそうに……」

「姉者にはアレが幸せそうに見えるのか?……姉者は幸せものだな」

「む?」

「分からないのならその方が良いさ。……それよりも、この飲み物には不思議な美味さが有るな」

「うむ。大したことはないと分かっているんだが、……美味い」

「春蘭様、こうやって飲むのが作法らしいですよ!」

「む、こうか?」

「そうです。そうやって腰に手をあてて……勢い良く」

「ゴクゴクゴクッ……プハぁ!おお、何とも言えん爽やかな気分になるな」

「すぐ無くなってしまうのが痛いところではあるが、な」

「また作ればいいんじゃないですか?作ってくれるよね、流琉」

「そうだな。流琉、また作ってくれ」

「もちろん良いですけど、やっぱり、お風呂上りが一番美味しいんでしょうね」

「ならまた皆で風呂に入る機会が有ればたのむ」

「む、別に普段の風呂上りでもいいじゃないか」

「そんなことをすれば姉者が風呂に何度も行くようになるだろう?」

「……何故バレた」

 

「……この椅子、何だ?」

「脱衣所にこんなの有ったっけ」

「んっふっふー気になるか?気になるやろ?これはウチが作った『もみもみ君弐号機』や!」

「なるほど。嫌な予感しかしない」

「『〜君』は地雷なのー。沙和の経験的に九割方当たるの」

「えー、そんなことないやろ!なあ、凪」

「……真桜、認めるべきだ。『〜君』はだいたい機能を詰め込みすぎて失敗している」

「ちぇー。ウチのお菊ちゃんにさんざんお世話になっとっ――」

「わわわ!やめろ!」

「ん?お菊ちゃんって誰だ?」

「猪々子様、気にする必要は無いです!全く!」

「……で、結局誰も使ってくれん、と」

「うーん、……そうだ!まず真桜が使ってみせたらどうだ?」

「それは嫌や」

「なんでなの?」

「危ないやん」

「……今度お嬢あたりに座らせてみるか」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「大丈夫ですか!?」

「隊長!目を覚ましてください!」

「んあ………?」

 

目を覚ました俺の目に飛び込んできたのは、むさ苦しい仲間たちの顔……の どアップ。

 

「……そうか、俺は………」

 

突如始まった巨乳貧乳戦争。もっとこう、

『だいたいどうやったらそんなに胸が大きくなるのよ!』

『んー、特に何もやってないけどなぁ』

『そう言えば揉めば大きくなるとか……?』

みたいな流れを全裸待機していたのに、何故かガチ戦略語り始めて落胆した。そして同じく飽きた娘たちの水の掛け合いで男湯と女湯を分ける壁が崩壊し、壁にベッタリ張り付いていた俺も同時にぶっ飛んだんだ。

 

「俺は、どのくらい眠っていた……?」

「四半刻弱かと……」

「そうか。華琳たちは?」

「現在、皆様 寝間着に着替え移動中です」

「そうか……」

 

ということはもう牛乳は終わっちゃったんだな。ドリアン牛乳の反応とか、一人だけ抹茶オレの華雄の反応とか聞きたかったのに。

 

「この後、曹操様たちは何を……?」

「パジャマパーティだ」

「『ぱじゃまぱーてぃ』……?」

「皆で布団に寝っ転がったり枕を抱えて座ったり思い思いにくつろぎつつ『そのパジャマかわいい〜!』とか『誰が好き?』とか甘々な会話をしつつ寝るまで楽しむ会だ。その場の高揚感に任せて柄にもないことを言っちゃったりして楽しいらしい」

「なるほど……で、どうするんですか?」

「どうするって……?」

 

何のことだろうか。

 

「……あ、もしかして聞き耳たてるとか考えてる?」

「え、やらないんですか?」

「パジャマパーティは覗いたり聞き耳を立てたりしたらマナー違反なんだよ」

「『まなー』と言う言葉が何なのかは分かりかねますが、良くないことなのですね?」

「ああ。そうだ。ちなみにマナーっていうのは作法という意味だ」

「作法、ですか。それなら風呂の様子を伺うのは作法に反する行いなのでは?」

「風呂は様子を伺うのがマナーだ!……後で誰かがひどい目に遭うことまでセットで」

「『せっと』って、一括でってことですね。不思議な文化ですねぇ」

「初めて触れる文化ってのはそんなもんさ。でも、それを不思議と思いながらも受け入れることができたのなら、……みんながそういう風に考えることができたら、もしかしたら五胡や南蛮ともわかり合えるかもしれない。『仕方ない』という許容の心、つまり『和』。……今思えばそれが俺のいた国に大きな争いが無い理由なのかもしれない」

「す、すげぇ……」

「何が凄いって壮大なことを即興で語れる隊長がすげぇ」

「俺ってば初めて隊長を尊敬しましたってばよ……」

「ははは!今までは俺のことを何だと思ってたんだ?」

「普段はヘタレのくせに美味しいところだけ持ってくえろ天人」

「三課長さん!?」

「様子を見てこいと言われて来てみれば……随分と元気そうで安心しました」

「様子を見てこい、って……誰に?」

「私と言えば鑑惺様です。……ゆくゆくは鑑惺様と言えば私になるように画策していますが」

「え、あ、はい」

「では、ここに居ためんばーの情報も含めて鑑惺様に報告させて頂きますので。あでゅー」

「え、あ、はい」

「………止めないのですか?」

「何か聆なら笑って許してくれる気がする」

「あ、それ俺も思います」

「『あっはっはっはっ!仕方ないやつらやなぁ!』って言ってるのが目に浮かびますね」

「なるほど!鑑惺様はもう既に和を会得してるってことですね!」

「やっぱ聆にはかなわないなぁ〜」

「あはは、そうですね」

「じゃ、用事も済んだことだし、明日も早いから帰るか」

「お休みなさい」

「お疲れ様でしたー」

「………くそうっ!」




【悲報】三課長、敗れる


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第十一章拠点フェイズ : 聆(3X)の長丁場その六

新しい包丁の切れ味が良すぎてテンションが鯉のぼり。




 「わ〜!華琳様、やっぱりすっごく似合ってるのー!」

「ふふっ、いい仕事よ。沙和」

 

嬉しそうに手をたたく沙和の前で、華琳はくるりと回転する。それにあわせて黒いフリルが花弁のように開き、なんとも可愛らしく、美しい。それがシースルー仕立てのガン攻めネグリジェだということを忘れそうになるくらい。夏侯姉妹と桂花と禀なんか、なんかもう色々と危険過ぎるという理由で部屋の逆サイドに避難している。好き過ぎるというのも厄介なものだ。

 

「だけれど、沙和のソレもなかなか面白いわね。一刀の意匠かしら?」

「そうなの!確か……『ろまん』とかいう名前なの!」

 

そして、沙和の方はと言えば所謂『裸Yシャツ』だ。私のイメージでは、裸Yシャツと言えば事後の翌朝の衣装であって、寝間着ではないのだが……、まぁ、その辺は個人の自由か。沙和の勘違いから察するに、一刀はきっと『裸Yシャツは男のロマンだ!』とか言ったんだろうな。分かるぞその気持ち。私も前世で後輩に朝チュン裸Yシャツをキめられたときは思わずロスタイムに入ってしまったものだ。あの時ほど女ながらに敢えてYシャツ派だったことを幸運に思ったことはない。

 

「へー、結構着易そうやな。ウチも今度からそれにしよっかな」

「そうだな。真桜の寝間着は……あまりにも、な」

 

そして真桜。コイツは……ちょっと頭おかしいのではなかろうか?下は極々短い短パンで、まだマシなのだが、上は……。何だろう、マイクロビキニってやつか。普段からしてかなりの露出度だからな……。いっそのこと裸の方がまだ清々しい。

対して凪はと言えば、それで体が休まるのかと問いたくなるようなきっちりとした服を着ている。普段は何気に肩出しもも出し谷間出しのニアグランドスラムのくせに。

 

「でもそれよりも問題なのは聆ちゃんなの……」

「そうねぇ……」

「へっ?」

 

何だろうか……?私はいたってマトモな服装をしているはず。

 

「その色気の欠片も無い服は何?」

「枯れてるの?聆ちゃんってもしかして枯れてるの?」

「いや、どう見ても普通やろ!寝やすいし」

 

Tシャツとジャージの何がそんなにいけないのか。

 

「寝やすいと言ってもねぇ。寝やすければ良いというものではないでしょう」

「運動もしやすいで?」

「なら向こうに混ざってらっしゃい」

 

華琳が指差す方向……戦場が有った。

枕が高速で飛び交っている。『鎌輪ぬ』浴衣姿のかゆうまが空中に飛び上がり渾身の一投。キャミ&ドロワの季衣はそれを残像でもできそうなほどの高速ステップで躱し、両手に持った枕を一気に投げる。それに、お揃いの流琉が絶妙なコンビネーションで併せた。四つの枕は未だ空中に居るかゆうまへと殺到する。しかし、そこにチュニック+ショーパン猪々子が割り込んだ。両手両足それぞれに器用に枕を受け止め、そして、躰全体をすぼめるようにして、四つを同時に投げ返した!

……って何だこれ。枕投げってそういうことじゃないだろう。もっとこう、きゃいきゃい言いながら笑顔で楽しくやるものであるはずだ。いや、一応あいつらも笑顔か。バトルジャンキー特有の獰猛な笑みではあるが。

 

「遠慮しときますわァ」

「んー、でも聆ちゃんならあそこに混ざってもいい勝負できると思うのですよ〜」

 

ここで丸っこい珍妙な生物が登場。……まぁ、着ぐるみ服を着た風なのだが。

 

「はぁ……それにしたって、枕を投げてる娘たちの方がまだ洒落てるじゃない」

 

と言うか普通にセンスが良い。特にかゆうまの浴衣なんか凄く良い。『鎌輪ぬ』とは、鎌の絵、○、平仮名の『ぬ』が繰り返される文様であり、『構わぬ』と読む。もともとは江戸時代に流行ったもので、意味するところは『火水も厭わず弱い者を助ける』である。これも一刀からの入れ知恵だろうけど、なんとなく意外だ。一刀、萌え文化だけに詳しいわけではなかったのだな。

 

「でもな、洒落とるとか洒落てないとかに拘るあまりに着たい服を着れんのは滑稽なことやと思うんや」

「むー、また聆ちゃんが小難しいこと言ってごまかそうとしてるの〜」

「それに、そもそもおしゃれな服が着たい服なのが普通で、着たい服がおしゃれな服なのが理想よね」

「え〜、実用性が第一で、見た目は後からついてくるもんやろ、な?風さん」

「風、貴女の意見はどうなの?」

「……、ぐぅ」

「寝たか……」

「すぐ寝られるという点では、風の寝間着は実用性が高いわね。聆、これと同じものを着てみたら?」

「いやー、たまたま風さんやったから寝たんかもしれんし?再現性実験のために服飾に積極的な華琳さんが着てみたらどないですのん?」

「……風の寝間着がまるで厄介な罰のように扱われているのですよー……」

「あ、起きたの」

「聆ちゃんは狸寝入りすると起こしてくれないから難しいのです」

「狸寝入りって自分で言うのですね……」

「ウチ的には禀とかのんがやりにくいけどな……」

「ボケ殺しの聆、突っ込み殺しの禀様、ですか」

「でもその二人だと、聆ちゃんが禀ちゃんの鼻を塞ぐことで決着がつくのです」

「それはそれでおもろいな」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 台風一過、とでも言うべきか。

一種異様な盛り上がりを見せたパジャマパーティ(?)もメンバーの就寝により徐々に静まり、城内はいつも通り夜の静寂に包まれた。

が、未だ起きている者もちらほらと居るようで……。

 

「今夜は月を肴に一人酒を、と思とったねんけど……けっこう起きとるヤツ居ったんやな」

「とは言え少人数ですがねー」

「まぁこの取り合わせも珍しくて良いじゃァねェか」

 

パーティ会場として用意された急造の大座敷を離れ、月明かりの下、杯を傾けるのは三人。霞、七乃さん、靑だ。

 

「そ~いえば七乃っちは何で?一旦寝とらんかったっけ」

「少し前にお嬢様を厠へお連れしまして」

「で、そのまんま目が冴えちまった、と」

「だってお嬢様のお小水の音なんか聞いちゃったらそりゃ目も覚めますよ。冴えわたっちゃいますよ」

 

前半はうっとりと、後半は興奮気味に七乃さんは言う。

 

「おおっと未だに一人で厠に行けん美羽たんに突っ込み入れるつもりやったのにもっと突っ込み所の有る発言が」

「あ、でもお嬢様も進歩なさってるんですよ?以前はそのままおねしょしちゃってましたから。……そっちはそっちでステキだったんですけど」

「あっちゃァ騙された。アタシゃ七乃のことは数少ない常識人だと思ってたんだが」

「何言うとんねん。七乃っちはこの魏でも三本の指に入る歪んだ愛情の持ち主やで」

「そもそも歪みだらけですけどねー。この前なんとなく相関図書いてみたらとんでもないことになりましたもん」

「うん。まぁ予想はできるわ。一刀は節操無しやからなー」

「何他人事みたいに言ってるんですかー。霞さんもややこしい人間関係の要因の一つなんですからね」

「うそん」

「まぁ、分からなくもないが……意外ではあるなァ。もっとめんどくさそうなヤツがうじゃうじゃ居るじゃねェか」

「そうなんですけどね……。まず、一刀さんについてですが、実を言っちゃうとわりと当たり前なんです。一人の権力者、或いは重要人物に妻が何人も付くというのはよくあることですから。そして華琳様も同様に。ですが、この二人がくっつくことによって状況は一変します」

「ああ、二股状態になる奴が大量に……」

 

つまりは、一つの団体にハーレムの中心が二つ有る状況だ。

 

「そうです。例えば春蘭さんを例にすると、まず華琳様と……ぶっちゃけ肉体関係がありますよね?それで、なんだかんだ言って一刀さんともそういう仲です。そして華琳様と一刀さんは当然恋仲。これで三角形ができて、それがいくつもあるのが華琳様に親しい者達の小集団。ちなみに、これまた春蘭さんが例ですが、秋蘭さんとも姉妹以上の絆で結ばれています。そうやって横の繋がりもあるわけですから……相当みだれてますよね」

「うわぁ……華琳の周りヤバいな」

 

苦笑いとため息がないまぜになったような微妙な反応。

 

「まだ辟易するのは早いですよ。この小集団は最大ですが、まだ三つの内の一つでしかないんですから。ちなみに張三姉妹は一刀さん以外との関係が薄すぎるので除外ですけどね」

「……あと二つも狂ったしがらみが有るんか」

「……そうですね。そして第二の小集団が、霞さんに親しい者達です」

「え、ウチ!?」

「知ってるんですよ〜。凪さんや真桜さん、沙和さんと友人としての触れ合い以上の肉体的接触をしていることは」

「あ、そう言や何かそんな感じの関係臭いな」

「……黙秘権使えるか?」

「この場合沈黙は肯定とほぼ同義ですけどねー。ま、つまるところ霞さんの集団は華琳様の集団の規模が小さくなったものですね」

「で、最後なんですが、聆さんに親しい者達の小集団」

「あー、なんとなく予想はついてたな。あからさまに集団持ってるもんな。バ会、だったか?」

「それとは少しだけ違うんですけどね。ここの特徴としては……まったく冗談のように綺麗な関係」

「魏国曲者筆頭の集団がなんでそんな」

「やっぱり集団の要の聆さん本人が性に消極的と言うか落ち着いてるからじゃないですか?かゆうまさんなんか、聆さんに惚れているのは明らかなのに、本人は恋愛に疎すぎて自分の気持ちの正体に気付いてないし、聆さんもそれにあえて触れないし。聆さんが華琳様くらい積極的だったならここも相当なことになっていたはずですよ」

「……拗れまくっとる割に明るいよな。魏」

「二股相手ごと一刀さんが食べちゃいますからね。二股にならないんですね」

 

所謂セット販売である。

 

「聆が人材確保して華琳が管理して一刀が喰っちまうんだな……」

「でも、この中じゃ一刀さん経験者は霞さんだけですよね。……どうでした?一刀さんの夜間戦術は」

「なんや七乃っちさっきから下世話過ぎん?」

「うふふ、そうかもしれませんね。なんせ酔ってますから」

「で、どこに惚れたんだ?アタシにはアイツの良さがピンと来ねェんだ。何か良いとこ有るか?偶々位の高い男がアイツだからモテてるんじゃねェの?」

「何言っとんねん!優しいし!それに偶に頼りになるし、頭も良えし……………」

「………」

「………ぷふ」

「ちょ、嵌めたなっ!?」

「いやー、おアツいこって」

「ベタ惚れじゃないですかー!ヤダー」

 

砂糖吐いた。

 

「オイオイ赤くなってねェで続きを話せよ。アタシゃ適当に馬に乗るのが上手いやつを見繕って子供産んだクチだからそういう話に興味津々なんだ」

「まずはきっかけから話してもらいましょうかー」

 

……そろそろ戻るか。ここにこのまま居たら糖尿病になるかもしれん。

 

普段は起きてる時間だからとふらついてみたが、なかなか面白い話が聞けたもんだ。……七乃さんの予想に反して、かゆうまについては私は全然気がついてなかったしな。




そのかゆうまの寝相でひどい目に遭うシーンは割愛。


長丁場もいよいよ終わり。
本文内でオチがつかなかったという異例の自体です。
今回の拠点フェイズはもっと膨らませることができたはずだと悔いが残る感じになってしまったので、一通り終わったらリメイクすると思います。


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第十二章一節その一

何か突然友人が泊まりにきたんですけお

ぬいぐるみうさま見て爆笑されたんですけお


 「皆の者!最後までよう付き合うてくれたのぉ!褒めてつかわすぞよ!」

「有り難き幸せッッ!」

「袁術ちゃーん」

「孫にきてくれーーー!」

「また次回もよろしくおねがいしますねー♪」

「ほっほっほ。それじゃァまだ死ねんのぉ」

「張勲さーん」

「息子の嫁にきてくれーーー!」

「それでは皆さん、気をつけて帰ってくださいねー」

「うむ!妾のふぁんは妾の許可無しに死ぬことを許されないのじゃ!」

 

…………

………

……

 

 「あら、聆さん」

「よー。相変わらず惹き込まれる歌やったわ」

「そうであろそうであろ。何せ妾が歌っておるのじゃからな」

「七乃さんの二胡もええ味出しとるしな」

 

七乃さんとちゃん美羽の路上ライブは大盛況。

実は少し前から二人はこのように都でのゲリラライブを繰り返している。……と言っても、警備隊も一応気にかけてはいるし、曲調も穏やかなものが多いため大きな混乱にはならない。ファン層の中心がシニアとジェントルマンなのもある。

切っ掛けは定軍山の宴会での余興の評判が華琳に伝わったこと。その後華琳直々による審査が行われ、国として歌手活動を正式に支援(とは言えそもそもあまり金が掛からないのだが)することが決まった。その時の華琳の一言。『一刀は天の御使い。美羽は天使』

ゲリラライブなのは、やはり客層に原因がある。……お年寄りにとっては、わざわざステージまで足を運ぶのは大変だからだ。ちゃん美羽の気の向いたときに気の向いた所に行き、客寄せも何もなく歌い始めるのだ。ぽつりぽつりと人が集まりだし、五十人にもなったか、というところで切り上げる。あまり人が集まって体調が悪くなる人がでてはいけないからだ。張三姉妹とのバッティングを恐れている、といえのも理由の一つだが。

 

「ありがとうございます。ところで今日はどうしたんですか?いつもなら鍛錬していらっしゃる時間ですよね?」

「良い蜂蜜が出来たから妾に献上しに来たのであろう。そうであろう?そうに決まっておる」

「うんまぁそれもあるけど……」

 

妙ちくりんな決めつけが入るが……実際、質の良い蜂蜜が収穫できたという報告も挙がっていたので別に否定はしない。

 

「主目的はこっち」

 

七乃さんに華琳から預かった資料を渡す。

 

「張三姉妹との合同公演の計画な。何かわからんとこは口頭で説明するわ」

「だからその辺の下っ端ではなくて聆さんが来た、と」

「そ」

 

おそらく七乃さんなら資料を読めばすべて理解できるだろうから、どちらかと言うとちゃん美羽との交渉のためだが。この時間を狙ったのも、ファンの歓声に気分を良くしているだろうからだ。

 

「ふむ、張三姉妹……あの面妖な歌を歌う者たちじゃの?」

「面妖……まぁ、美羽様にしたらそうなんかな」

 

「…………はい、全て把握しました」

 

七乃さんがいつの間にか資料を読み始めていつの間にか読み終わっていた。

 

「つまり、それぞれのファン同士の衝突を避けるため、私達本人同士の良好な関係を印象づけるということですか」

「そーゆーこっちゃ」

 

ファン層の中心が大人しいと言っても、最近は若者のファンも増えている。合同公演は、その若者が張三姉妹のファンと衝突することを恐れて企画された。『袁術様←天使、地和←小娘という風潮』とか、『袁術袁術言っても所詮路上だよなwww』とか、『地和と張勲のどちらが腹黒いか議論』とかは、ステージの上で協力して称え合う姿を見せれば多少収まると思うのだ。あと、普通に兵の慰安の目的も有る。

 

「ほっほっほ。妾の完璧な歌を聞けばあやつらのふぁんもこちらに流れるじゃろうなぁ」

 

……つまり、こういう態度は非常にマズい。

 

「お嬢様ぁ、そーやってすぐ調子に乗るんだからー、ま、そこが可愛いんですけどね!」

「むふふ、そうであろそうであろ?」

「でもそーゆーこと舞台上で言わんとってよ?」

「む?何故じゃ?」

「そうですよ。向こうのふぁんから大顰蹙ですよ」

「むしろ、張三姉妹とは仲良ぉしてな」

「しかしのぉ、あの地和とかいう者はどうも好かんのじゃが」

 

地和も自信家なところがあるからな。同族嫌悪か。

 

「でもな、考えて見ぃ?地和と美羽様が仲良くなって、地和が『美羽のことも応援してあげてね』とかファンに言うやん?そーなったら、奪うとか奪わんとかそんなケチ臭いこと言わんと、地和のファンがゴッソリ美羽様のファンになったのと近似やん」

 

まぁ、実際のところそういうわけでもないのだが……

 

「仲良くするのじゃ」

 

ちゃん美羽なので大丈夫だ。

 

「さっすがお嬢様!王者の余裕ですね!」

「すごいわぁ〜惚れ惚れするわぁ〜」

「うははー♪なのじゃ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「――というわけで、兵士からの要望で企画された慰安公演、お嬢様と私は予定通りに出られます」

「張三姉妹も問題無しだ。後は本人たち同士がうまく折り合いをつければ……」

 

そして次の日の軍議。

ちゃん美羽と七乃さんのユニット『蜜∞姫』と張三姉妹の『数え役萬☆姉妹』とのコラボレーションライブに関する報告が一通り終わった。どうやら張三姉妹の方も上手く交渉できたようだ。……こう見ると、一刀も随分と落ち着いて様になってきたものだ。現世に帰ったら高卒でも速攻で就職できるだろう。まぁ、現世帰還は阻止するつもりなのだが。

 

「良くやったわね。なら、二人はそのまま調整に入ってちょうだい。時間もないから、手が足りないところは他の部署にも協力を要請して構わないわ」

「ん、分かった。会場の設営は、工兵隊に『訓練も兼ねて』ってことでやってもらうのでいいんだよな」

「あの娘たちの人気じゃそんな建前 今更必要ない気もするけれど、ね」

「後は指示を出すだけよ……これで兵の士気も十分。ようやく孫呉攻略の準備が整いましたね。華琳様」

「ええ……」

「あの、華琳様……」

「なぁに、流琉」

「この間の軍議では、攻めるなら蜀と呉、同時に、って決まりませんでした?」

「そうだよな。方針変わったのか?」

「それについては後々、と思っていたのだけれど……ふふ、気になって仕方がないって娘もいるようね。……桂花」

「はっ」

 

歩み出て、咳払いを一つ。

 

「皆、先日の定軍山の件は覚えているわね?」

「ああ。黄忠と馬超を返り討ちにしたやつだな」

「そう。あれ以来、蜀……つまり諸葛亮は必要以上にこちらを警戒するようになったのよ。ならばこの機に呉を潰してしまおう、というのが軍師会議での決定よ」

「もちろん、質問は受け付けますし、皆さんの意見次第では変更も有り得るのですが〜」

 

と、風も続く。

 

「うむ。機を見て敏なり、だな!」

「おっし!斬山刀が光って唸るぜぇぇっ!!」

 

俄に色めき立つ者達を他所に、渋い顔をする面々も。

 

「警戒しているのなら、こちらの動きに敏感になって尚更迅速に後ろを取ってくるのではないか?」

「それに、動かんのが最善策ってこの前言いよっやん」

「ん、霞は呉の英傑共と早く戦いたくないのか?」

「いや、そこは嬉しいんやけど……戦略的な面が不思議でもあるやん」

「そうですね。確かに、お二人の疑問も分かります」

「まぁ色々と複雑やからなぁ」

「実際、軍師会議でも意見は割れたわ」

「まず、蜀の行動だけれど……かなり鈍いでしょうね」

「それは何故だ?」

「定軍山の戦いの後も、将軍格は出ないものの、蜀との衝突は何回かありましたよね?」

「ああ。朝の定例軍議で何度か報告が有ったな。……はぁ、つまり、何かしたんだな」

 

秋蘭は全てを察したらしく、やれやれとでも言うようにため息をつく。……実際小声で言ってるっぽい。

 

「お察しの通り。小規模な戦闘だから内容までは軍議で発表されなかったけど、その衝突の全部に伏兵戦法を使ったの」

「もちろん、全てが成功したわけではないですが、人は失敗の方をより鮮明に記憶し、意識するものです」

「諸葛亮さん、今なら『十万の大軍より空城が怖い』って言うんじゃないですかねー」

 

分かりやすく言うと逆オオカミ少年である。

 

「向こうが引っかかったふりをしているという可能性は?」

「その線も薄いなぁ。向こうが擦った兵数はフリにするにはちょい多すぎるわ。士気も最悪。ここで私らが呉を攻めたら……」

「借刀殺人を狙うか……或いは、立ち向かってくるにしても空城を恐れて呉と合流するか。なるほどな。危険は以前より格段に小さくなっているというわけか。……けど、守りが最善手ということには変わりないんだろ?」

 

一刀さんが借刀殺人とか言ってる!……勉強したんだな。私は嬉しいぞ。

 

「そうやな。どの戦法が一番負けへんか、って聞かれれば、引きこもるんがダントツや。実際、私もそれが良えかな〜と思とるんやけど」

 

でも、よくよく考えると、防御に徹して相手が攻めきれずに体制を崩したところで動く、という戦略は達成されている気もする。

 

「……大陸が三国に分裂したまま睨み合うのと、さっさと私が平定してしまうのと。どちらがこの大陸のためになるかしら?」

「なるほど。つまり多少の危険は有っても得られるものは大きいのか」

「その危険も以前に比べて格段に小さくなっているしね。後を取られる可能性がグンとさがったし、そもそも向こうが空き巣に来ても撃退ができないわけではないわ」

「かと言ってダラダラやっていては蜀もさすがに立ち直るでしょう。そうなればまた厄介なことになる」

「この戦い、とにかく時間が勝負よ。皆、互いに連携して迅速に行動してちょうだい」

「「「はっ!!」」」




ちなみに淑女にも人気。


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第十二章一節その二

全裸にコートで外出したら、誰かに見せつけなくても、露出狂に分類されるんですかね?

口論のシーンになるとついついテンションが上がってしまう作者は心の貧しい子。


 もう日も沈みきったというのに、遠くから歓声が響いてくる。城下の演習場を会場に、張三姉妹とななみうのライブがひらかれているのだ。

 私はそれを、少し離れた城壁の上に一人、グラス片手に眺めている。

チケットが売り切れていたからしかたなく……、とか、そんな理由でここにいるのではない。私の手に掛かれば特等席の斡旋も余裕だし、舞台袖に行って、一曲歌い終えた演者たちとハイタッチすることもできる。

こっちの方がオサレっぽいからだ。

現世でも花火大会とかで会場に行かずに、自宅の窓から眺めて余裕の笑みをを浮かべつつ『セレブごっこ』に勤しんだものだ。

勘違いしないで欲しいが、『すぐ群れるやつwww』なんて言うひねた性格なのではない。その日の気分とか予定とかで変わるのだ。会場の近くを通りがかればそのまま参加するし、お硬い性格の上司を連れて行って、疲れて寝るまで全力で遊ばせたこともある。

今回は明日に迫った孫呉侵攻に備え、OSR値の補充を試みたのだ。

 が、

 

「どうしたの?聆。こんな所で」

 

あとは薄ら笑みと伴に意味深な一言を呟けばフルコンボ、というところで思わぬ邪魔(と言っては語弊が有るが)が入った。

 

「こーやって遠くから眺めるんも乙なもんやからな。華琳さんは?」

「私は少し様子を見に来たのよ。書類仕事の息抜きも兼ねてね」

「あー、戦前戦後は書類がなぁ……」

 

特に上層部は事後処理から本番と言っても過言ではないほどになる。もちろん戦前の物資確保や、その確認、そして戦後のための事前準備も。そういう点では、部隊長に過ぎない私はかなり楽だ。

 

「んだら酒勧めるんはナシやな。またすぐ戻らんなんやろし」

「いえ、いただくわ。一杯二杯程度じゃ酔わないでしょう」

「うーん、まぁこの酒やったら大丈夫かな」

 

普段の酒なら一撃でアウトだろうけど。幸運にも、今回はOSR値に配慮したため、フルーティでスウィートなピーチ系カクテルもどきだ。

しかし、グラスに注ごうとしたところでふと気づく。

うっかりしていた。元々一人で呑むつもりだったのだから、グラスは私の分しか無い。呼べば部下が持ってきてくれるだろうが、仕事以外でこき使うのは好ましくない。

仕方ない。

 

「杯持ってくるわぁ……」

「いえ、そこにあるので構わないわ」

「……これ、私が使うとるやつやけど?」

「ええ。分かっているわよ」

「………まぁ、ええか」

 

グラスに注ぎ直し、縁の一段高くなったところに置く。一段、と言っても、城壁の巨大な石材が基準だ。ちょうどカウンターのようになる。

 

「……甘いわね。貴女のことだから、また度が過ぎた辛口を飲んでいるものとばかり思っていたわ。桃かしら?これ」

「桃香」

「え?」

「桃香。……その酒の銘」

 

暫し無言。

遠くではライブ会場が一層の盛り上がりを見せている。どうやら、七乃さんの二胡ソロパートらしい。

 

「…………甘いわね」

 

言葉と共にため息を吐き、グラスを置く。私はそれを手に取り、一口。舌の上で転がすように味わう。

うん。フルーティでスウィート。アルコール度数は味の割には意外と高い9〜11くらいだろうか。気を抜いてると常人ならすぐに酔う。

 

「でも不味くは無い、やろ?」

 

グラスは再び華琳の手へ。

 

「そうね」

 

……あ、ちゃん美羽がコケた。

 

「劉備、か……」

「おもろい奴やわ」

「貴女は……どうして私に仕えているの?」

「…………」

「春蘭たちのように心酔してくれているワケでもない。霞のように戦場を求めているわけでもない。沙和のように周りに合わせるような人間ではないのは明らか。むしろ、私の『覇道』をいつも冷ややかな目で見ている。そして、この魏から抜けても勝ち残れるだけの胆力、実力、人脈を持っている……」

 

……困ったことになった。おかしいな。華琳が桃香について苦言を呈して、私がヘラヘラ笑いながら適当にフォローする流れになると思っていたのに。

 そして確かに、この世界での出来事だけを考えれば、私が華琳に仕えているのは違和感だらけ。風という不思議ちゃんに疑問を持たれるのは予想していたが、まさか覇王曹孟徳が直接訊いてくるほどヤバかったとは……。

どう返したものか。

そもそもの行動理念が、『脱落キャラを助けたい』というもので、魏に仕えている理由が、『魏ルートなら魏に居るのが一番都合が良い(一刀さんのおちんぽ的にも)』という、原作知識ありきのものだ。

 

「それに反して、戦場での働きは当に忠臣。自らの身を挺してでも曹魏のために戦う。劉備たちの侵攻のときも、真っ先に戻って来たわね」

 

それも何と言うか……。『どうせ一度死んでる(?)んだし、その人生もわりと満足だったし、この世界は所詮ボーナスステージだろ』というゲーム感覚の成せる業だ。

華琳への心象についても、原作に慣れ親しんで、よく『知って』いる。むしろ、『覇王曹孟徳』と、『華琳という少女』との間で葛藤するキャラクター性に母性が湧いてくるぐらいだ(ちなみに恋愛対象としてはNG)。……しかし、そんな一面は本来 一刀しか知らないはず。

はは。一つとして明かせることがないな。

 

「……名誉欲、やな」

「名誉欲……?」

「そ。『格上相手に怯まない(寧ろ倒して仲間にする)』『謀略に長ける』『町民からも慕われる』……千年先にも語り継がれる大英雄やろ?裏切らんのもそのため。一遍でも鞍替えしたら尊敬度半減やからなぁ」

 

おお、適当に言ってみたけどしっくりくるぞこれ。

 

「……そんなことのために?」

「強い奴と戦いたいなんぞ言う理由で動いとる奴も居るんやし、別に可笑しないやろ」

 

うん。一分の隙もないな。

 

「……はぁ。本当のことを言うつもりは無いというワケね」

「華琳さんは勘繰り過ぎや。私の戦う理由なんかその程度」

「『その程度』のことに命を掛けられるものかしらね?」

 

……ミスった………。

 

「あー、んだら、『この国を守りたい』で」

 

そうそう、こっちだ。この前一刀を誤魔化したときはこれ言ったんだ。

 

「『んだら』って何よ『んだら』って。適当まる出しじゃない」

 

言い直した時点でアウトだったがな。

 

「ふふ……。まぁ、いいわ。そろそろ戻らないと桂花が拗ねちゃうから。お酒ごちそうさま。あ、そうだわ。『華琳』は有るのかしら?」

「一応は」

「今度はそっちを飲ませて欲しいわね」

「やめとき。クセだらけのキッツい味しとるから」

「そう。通好みの味と理解しておくわ。……それじゃ、明日は早いんだから、公演が終わったらさっさと寝るのよ」

「おー。華琳さんも切りええとこで寝ぇよ」

 

私の声に適当に手を振って答えつつ、華琳は執務室へと帰っていった。

 

 …………クソッ『桃香。……その酒の銘(キリッ)』くらいまではOSR値MAXだったのにラストで持ってかれちまったZE。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「――そう。ついに動き出したのね」

 

孫策は、自らに言い聞かせるように呟いた。

『曹魏、南東方面への動き有り』……。つまりは呉への侵攻。建業の城は今ままでにない緊張感に包まれている。

 

「本気でしょうか?今まではこちらのことなど殆ど眼中に無いようでしたが……」

「……思春。冗談で軍を動かす者など居るか」

「す、すみません」

 

袁家辺りはやりそうではある。

 

「……眼中に無いどころか、私達が南部を統べるまで待ってくれていただけだろう」

「儂らが南部を統一した所で、その上前をはねるつもりか。……効率が良いと言えばそれまでだが……。あまり褒められた方法ではないの」

「まあ、曹操としては、多すぎたお釣りを取り立てに来ただけなんでしょ。確かに官渡で夏侯惇からもらったお釣りはちょっと多かったわ」

「まさか姉様……!」

 

ちなみにこの議論は的外れである。曹魏がこの時期に呉を攻めるのは、蜀が予想以上に縮み上がってしまって手持ち無沙汰だからだ。色々と事情は有るのだが、要約すればこうなる。

 

「冗談よ。父祖から受け継いだこの江東の地、ようやく袁術から取り戻したというのに……むざむざくれてやるものですか」

「……はい」

「だから蓮華、小蓮。この戦いは袁術と戦ったとき以来の大きな戦になるわ。あの時二人はいなかったけれど……覚悟は良いわね?」

「あったりまえでしょ!シャオに任せてよ!」

「もちろんです。必ずやこの手で曹操を……」

「冥琳。曹魏の大軍団を退け、我が呉が大陸に覇を唱えるための策は揃っている?」

「無論だ。今まで孫呉とこの周公謹を放っておいたこと、さぞ後悔することになるだろうよ」

 

ならば、と孫策が号令を発そうとしたときだ。

 

「……ふむ。机の上でただ思いつくだけなら、それこそ袁術でも万策を思いつこうて」

「……何だと?」

「祭……さま?」

 

闘志に水を指すような言葉に、黄蓋以外の誰もが驚きの表情を浮かべる。普段、冷静でありつつも誰よりも勇ましいのが黄蓋という武将だ。

策に意見することは有れど、このような、ただただ非生産的な発言はするはずかない。……のだが………。

 

「いかな権謀術数を用いようと、一万の兵で百万の大軍団は迎え撃てぬ……そういうことだ。軍師殿」

「例の状況は我らの現状と余りに違いすぎる。敵は十倍も無い。そもそも、仮に味方がたったの一万だとしても、百万の敵を迎え打てるようにするのが軍師の仕事だ」

「果たせぬ仕事は引き受けるべきではないぞ?」

「勝算は有る。曹魏には隙も多い。兵は水辺の戦いに慣れておらず、曹操は覇道に拘る。思考を読むことは容易い。そこを突けば、多少の戦力差など……」

「それはあくまでも理想であろう。魏の兵は地力が高い。何人もの参謀が居る。大軍を前にすれば威に圧されるのが人の常というものじゃ」

「祭。これから戦ってときに、何言ってるのよ!部下が不安がるじゃない。慎みなさい!」

 

見かねた孫尚香が遮るも、黄蓋は言葉を緩めない。

 

「小蓮様の言葉でも、そうはいかん。儂は堅殿から孫家のことを託されたのだ。儂が生きておる間に孫家の血筋が絶えたとあっては……あの世で堅殿に顔向けができんのでな」

「それは、私の指揮では雪蓮が死ぬ、と……?」

「……此度の敵はあまりにも強大。策殿、袁術ごときと同じように考えていると、痛い目どころでは済みませんぞ?」

「曹操と袁術なんか比較すらしたことないけど。……なら、祭。どうしろと?」

「……降伏なさいませ」

 

俯く黄蓋の言葉に、皆がフリーズする。

 

「……へっ!?」

「な、何ですってーっ!!?」

「祭!いくらなんでも言葉が過ぎるぞ!!」

「江東の太守程度の条件なら、曹操も嫌とは言いますまい。そうすれば、孫家の血筋も、この地の安寧も保たれるでしょう」

「……ふぅ。文台様の代から仕える宿将も、老いぼれたものだな」

 

今度は周瑜が黄蓋の提案を揶揄した。多分に呆れを含んだ声で。

 

「……何じゃと?」

「戦わずして王の座を譲り渡すくらいなら、そも乱世に名乗り出る事などするべきではない。初めから曹操の陣営にでも加わっておけばいい。袁術を追い出す必要も無かっただろうさ」

「ふん。戦のイロハも分からぬヒヨッコが……」

「『ヒヨッコ』か。……ならばそちらは如何程の者だと?呉をここまで立て直し、計略によって西涼と魏を争わせたこの私に舐めた口を聞ける程度には戦を熟知していらっしゃるのでしょうなぁ??」

「この黄蓋の歴戦を愚弄するか!」

「前半、田舎豪族相手に暴れまわるも袁術に全て掻っ攫われる。後半、周公謹の指揮の下 呉を再建」

「なっ!?」

「何か間違っているか?」

「貴様の策が滞り無く実行されるのも、儂らが居ってのことじゃろうが!」

「ああ。だから、黄蓋殿のように驕り高ぶった者以外には感謝していますとも」

「驕り高ぶっておるのは貴様じゃろう。自らは剣を持たず、本を読んだ程度で戦を理解した気になりおって」

「学問の才は凡夫か何人集まったところでその代わりを務めることはできない。武術の才は凡夫を集めることで戦力の補填ができる」

「……それは脅しか?」

「……今の私は呉の司令官として雪蓮から全軍を預けられた身。あまり無礼なことばかり言うようなら……」

「ははは。力ずくで来るか……?面白い。総司令官の肩書きごときで、この黄蓋を黙らせられると思うなよ!」

「……祭。冥琳」

 

周瑜が今にも衛兵を呼び出しそうになったが、それは孫策によって遮られた。

 

「はっ」

「何だ」

「戦を挑まれた以上、私の中に、戦わずして負けを認めるという選択肢は無いわ。戦いの中に死ぬのであれば、それが私の定めなのでしょう」

「……………」

「しかし、もし私が志半ばで倒れたなら、その遺志は蓮華が継いでくれる。蓮華の後は小蓮がね。だから……私が死んでも、孫家が途絶えたりはしない」

「姉様!?何を急に」

「冥琳でも祭でもなく、次はあなたが私の想いを継ぐのよ。良いわね?蓮華」

「そ、それは勿論ですが……」

「……ふむ。後継人を決めていただけるのは、儂としても重畳じゃが」

「黄蓋殿!なんという不敬を……!」

「別に死ねと言うておるのではないわ。後継者が決まっておれば、無用な諍いも後継者争いも起きぬ。それを喜んだだけだ。馬鹿者め」

「くっ……」

「なら、祭……」

「じゃが、それはあくまでも後継者の問題が解決したにすぎぬ。儂とて、策殿に死んで欲しゅうない……」

「……そう。分かったわ」

「姉様、魏に降るおつもりですか!?」

「いいえ。……祭がもしそこまで抗戦に反対だと言うのなら、あなたには蓮華と小蓮の警護を命じるわ。いいわね?」

「それは、この儂を一線より外すと……そういうことですかな?」

「戦はしたくないのに一線には拘るのね」

「………」

「それに、蓮華と小蓮を守るということは、呉の未来を守るという大切な役目よ」

「……承知いたしました。それが御大将のお考えとあらば。……失礼する」

 

途中退場……言葉とは裏腹に、護衛任務に大きな不満を持つことを如実に表している。

 

「……行っちゃいましたねぇ」

「どうしたのでしょう、あの祭様が……」

「いつもなら、祭が敵に突っ込もうとして、それを冥琳が注意するよね……」

「あなたらしくないわよ冥琳。一体どうしたの?」

「……どうもせんよ」

「ふーん……」

「…………」

「分かったわ。今は何も訊かない」

「すまん……」

「いいわ。……今日の軍議は解散にしましょう。皆、今回の戦は今までになく大きなものになるわ。くれぐれも準備を怠らないようにね」

「御意」

「了解であります〜」

「冥琳、亜莎は明日の軍議までに作戦をまとめておいて。穏は物資の最終確認をお願い。それでは、解散」

 

 

 曹魏対孫呉。大国同士の存亡をかけた争いは、双方妙な雲行きのままに始まったのであった。




孔明の罠(孔明が仕掛けたとは言っていない)


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第十二章一節その三

500mlペットボトルより1.5lペットボトルのほうが1.5倍お得……?

赤壁超えたらガチで何も考えることがなくなるので、そこで何かやろうかと思います。


 「……あっついわねぇ………」

 

呉の国境を越えて数日経った頃。馬に揺られながら、桂花はぼやいた。

 

「やったらその頭巾ぬいだら?」

 

桂花の頭の上にのっかっている、猫耳っぽいフードに目をやる。……アレだな。マジもんの猫耳が居るのに猫耳フードって微妙なキャラ付けだと思うのだ。

 

「これは私の正装よ。拠点ならともかく、行軍中は外せないわ。それに、そんなこと言うなら、聆、貴女も鎧脱いだら?」

「私は暑いとか言うとらんもん」

「見てるだけで暑苦しいのよ!」

「でも色々と改良して風通し良え素材にしとるし」

 

元々、風通しとかどうしようもない硬いパーツが多く、布地の部分も重なりが多いからへのつっぱりにもならなかったが。まぁ、気分の問題だ。

 

「そう言えば、兜の角が一本になってますねぇ」

 

風が私の頭を指差す。私の二つ名、或いは悪評の由縁ともなっている鬼の髑髏型兜だ。

 

「こっちのんが使い易いからな」

「実用目的だったの!?」

「近接格闘での頭突きはかなり重要やで?……いや、元々は飾りやったけどな。でもせっかくやから使えるようにってことで。前の位置……斜めに突き出とる形やったら首の上下運動に捻りが加えられるから威力自体は出るんやけど、使い勝手が悪いからな。その点、額に一本やったら攻撃面でも防御面でも使い易いんや」

「それで防御もする気なのね……」

「せっかくやしな」

「はぁ……改良しているのは分かりましたけど、無理はしないでくださいね?この暑さで体調不良に陥る兵も出てきていますので」

「分かっとる。無理はせん」

 

と言っても、私自身はそんなに心配していない。私とて乙女武将の一人。なぜか氣がうまく使えなくて派手な戦いは出来ないし、基礎体力も皆に比べて低いが……一般兵よりは格段に強い。それに汗をかいても嫌な臭いがしないし、血豆が潰れて出来てを繰り返しても手がガサガサになったりしないし、歯並び良いし……ホント恋姫はステキ世界だ。

 

「まぁ、聆は色々と人間辞めてっからな。アタシは心配してねェよ」

「靑さんはお腹に気ぃつけぇよ?」

「ぐっ……」

「ああ。暑いと食べ物が腐りやすいものね」

「そーやな。な?靑さん?」

「泣くぞ?」

 

それに、一般兵についても、実は心配していない。原作と同じく――

 

「食中毒という問題もありましたね〜。ますます、お薬を多めに持ってきててよかったのですよ〜」

「ええ。病による戦力減退を抑えられるだけではなく、兵に安心感が与えられますからね」

 

薬を大量に持ってきている。

そして、市場から大量に薬が減ったことに関連して、商人が薬の値段の釣り上げを行おうとしたりして一悶着あった。それを、私の!この私の!暗躍で解決したりもしたが、わざわざ言うと嫌な奴と思われるので何も言わない。

 

「七乃殿さまさまですね」

「って言ってもアイツ、個人的に美羽のための薬買ってただけじゃない。本来ならアイツがもっと早く会議で言っとくべきだったのよ」

「しかしそのおかげで思い出せたんですし……。あの一件が無いと薬が不足するなんて事態になっていたかもしれません」

「そうですねー。でも、稟ちゃんも南方にいた経験あるんですから、稟ちゃんが言ってもよかったのですよ〜」

「それを言うなら風もでしょう」

「………ぐぅ」

「寝るなっ!」

「おおぅ」

「なにやってんだか……。そうじゃなくて、言いたいのは態度よ、態度。『南方侵略では薬は必須……当たり前すぎて言うの忘れちゃってましたー』って……。しかも半笑いで」

「あと一言煽ってきたら逆にネタと思えるんだがなァ。アイツ、その辺の加減分かってやってるよな」

「……それで当の七乃は?」

「美羽様を扇ぐ仕事に全力を尽くしとる」

「はぁ?美羽って前までこっちに住んでたんでしょ?」

「その時からずっとそんな感じだったんじゃねェの?」

「容易に想像できま――」

「伝令ー!」

「……、どうしました?」

「呉に放っていた間諜がつい先ほど戻りました!それを受けて曹操様が軍師の皆様に、集合するように、と」

「分かったわ。……七乃もさすがに来るでしょうね」

「断言できないのが辛いところですが……」

「扇ぐのをやめることを美羽ちゃんが了承するかどうかですよね〜」

「まぁ、そんときは美羽様連れて来るんちゃう?……んだら、みんな軍議頑張って来ぃよ〜」

「は?貴女も来るn……あぁ、軍師じゃなかったわね」

「その間に体調不良の兵の情報纏めとくわ」

「任せたわ。皆、行くわよ」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「小蓮様!兵の準備、完了しました!」

「よーっし!なら、このシャオ様が曹操なんかやっつけちゃうんだからー!」

 

周泰からの報告を受け、孫尚香は城壁から魏軍を見下ろしつつ、自信満々に宣言する。そして、それをなだめるように口を開く者が二人ほど。甘寧と陸遜だ。

 

「あのー、小蓮様、冥琳様の作戦は……」

「それに、この兵力では曹操の討伐は難しいかと」

「もぅ。ちゃーんと分かってるってば!けど、やっつけるって言わないと、こう、勢いが出ないでしょ!勢いが!分かるわよね、思春も」

 

『勢い』を表しているのか、孫尚香は両手をバッサバッサとオーバーな身振りで話す。

 

「は、はぁ………?」

 

ここで適当に流せずに考え込んでしまうのが甘寧の長所であり短所でもある。

 

「んもぅ……明命は?」

「分かります!一撃必殺ですねっ!」

「そう!一撃必殺!当たって砕けろよ!」

 

どういうことなのか実は当人たちもよく分かっていない。

 

「ある程度戦闘を行った後、様子を見て撤退するという手筈では……?」

「それに、当たるにしても砕けちゃダメですよぅ」

「だから言葉の綾だってば!」

「ですがぁ……曹操は舌戦に定評がありますよ?言葉に気をつけないと揚げ足を取られて言い包められちゃいますぅ」

「と、とにかく、祭が頼りにならないんだから、シャオたちが頑張るのよ!」

「……心得ております」

「ここで曹操たちに江東の兵の恐ろしさ、たっぷり教えてあげちゃいましょ!……明命!」

「はいっ!全軍、出撃っ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「展開してきましたねぇー」

「展開してきたなぁ……」

 

呉に入って二,三個目の城。敵方は城から出て軍勢を展開することを選んだようだ。現在は華琳と孫尚香が舌戦を行っている。

 

「相手もあの兵力では籠城しても無駄に被害が出るだけだと分かっているでしょうし、状況に応じて素早く撤退できるように、と考えたのでしょう」

「俺としては、兵力を集中させてどこかで総攻撃を仕掛けてくると思ってたんだけど……相手の中途半端な戦力は逆に気になるなぁ」

「急に現れないでよ!妊娠させる気!?」

「最初から居たし、その思考はおかしい!」

「うるさいわよ!そんなこと言って一体どれだけの女をてごめにしてきたのよ!」

「話の腰を折るなよなァ」

「まぁこういうのも良えんちゃう?」

 

桂花と一刀のお約束ネタは置いておいて。

 一刀の言う通り、その点は気になるところだ。ここまで通ってきた城が尽く空だったため、魏の間では『どこかで総攻撃が来る』というのが定説だったからだ。

 

「勘繰ったら理由付けなんかいっくらでもできてまうからなぁ」

「ワザと城を取らせて罠を仕掛けるとか……俺達が城に入っている間に別働隊を動かすか、時間稼ぎがしたいとか、かなぁ?」

「その辺はあの軍団を囮とする場合ですね」

「こっちの実力を計る意味合いは確実に有るでしょうね〜」

「敵将は孫尚香、周泰、甘寧。軍師に陸遜。将はどの隊も全員機動力に優れていますし、陸遜は高い記憶力を誇りますからー。それに、周泰さん個人としても諜報活動などに精通していますしねぇ。私も、ちょっと手こずらされた思い出がありますよー」

「なるほど、それは確かに厄介ね……」

「他には拠点取らせて、逆にこっちの動きを縛るとかな」

「申し訳程度の戦闘で、その思考に至らなくするわけね」

「……ほんで実は空城の計とかありそうやわ」

「ふむ……」

 

いやー、こんだけ軍師と軍師見習いと智将が居ると発想量が違うな。結局は何かしらの行動を選択することになるから背反する策……例えば、『囮』と、『囮に見せかけて相手に不安を与え、行動を鈍らせる』という策のどちらかに嵌まる可能性が有るとは言え、完全に意表を突かれるなんてことは無いんじゃないか?

 なんて、少し楽観的に見ている私の横で、風は不満気な顔をする。

 

「……んー、これは、先手を取られた形になるのですよー…………」

「相手の策にビクビクしながら戦うことになるからなァ。作戦面では確かに押され気味だな」

「言うてこっちは元から攻め続ける意外方策無いやん。戦術面やったらどないでも捻れるけどな。情報収集と、城に入るときとに気ぃつけたら良えんちゃうのん」

「確かに、そうですよね」

「ふ、ふん!そんなこと元から分かってたわよ!華琳様の舌戦の間に、と思って議論していたまでのことよ」

「桂花さんェ……さすがにその発言は小物臭過ぎるわぁ……」

「なっ、え、うるさいわね!」

「まぁまぁ。舌戦もちょうど良く終わったみたいだしさ。それぞれ戦闘配備に――」

「うるさい!」

「ゴッフ!」

 

おお、綺麗な右ボディ。

 

「いってぇッッ!痛え……けどもう慣れた」

 

そしてそれでもすぐに立ち直る一刀もなかなかのものだ。

 

 

「一刀は居るっ!?」

 

「おっと大将がお呼びだなァ」

「あぁ。じゃあ俺はこれで。――おーう、どうしたんだー?――痛ぁっ!?」

 

あ、何かローキックされてる。

 

 

「………んだら、私も自分の隊のとこに戻っとくわ」

「今回の戦闘では聆さんの出番は無いと思いますが、一応、気をつけてくださいね」

「重々承知しとりますがな。私ほど慎重な将もなかなか居らんやろ」

 

何せ筋力も耐久性も全然違う奴らが相手だ。ジャブで死にかねん。

今回も、相手は少数と言えど周泰なんかも居る。いつの間にか陣に入り込まれていて背後からズバリ!なんてことも有るかもしれない。慢心と決めつけは死を招く。華琳さんが恋姫シリーズを通して教えてくれたことだ。

 

「総員、攻撃準備!江東の連中に実力の差を思い知らせてやりなさい!」

 

そして孫呉攻略戦、その一度目の戦闘が始まった。




テキスト確認しててびっくりしたこと。
『小蓮の方が華琳より背が高くて胸も大きい』


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第十二章戦闘パート……と言ったら嘘になる

先に言っておきましょう!
ここがこんなに冷めてる代わりにSEKIHEKIは熱くなる()と!


 私の強みは何か。

それは、デカい身体と武装の豊富さである。

体が大きいということは、それだけで広いリーチと高い攻撃力、防御力を生み出すのである。……氣の力で物理法則を捻じ曲げる奴らには敵わないが。

そして豊富な武装は、相手の虚を突くと伴に、自分自身に安心感を与えてくれる。一手防がれればまた次、その更に次、というように。

 しかし、その長所は恩恵と同時にちょっとした問題も生み出した。

乗れる馬が限られるのだ。

私の隊は歩兵隊とは言え指揮官……つまり課長以上は馬に乗っている。もちろん私もだ。多少なりとも目線が高くなり、戦場を見渡しやすくなるし、もちろん指揮官として素早く移動できるようにする必要がある。

しかし、私の馬は私の巨体+武装を背に乗せ、戦場を駆け、時に武器を振るう私の下で踏ん張るという重労働に耐えなければならない。

よって、大きくタフな馬でなければ私の馬になれないのだ。

 その点、黒王号(仮)は優秀だった。

奴は、私が部隊長として召し抱えられることになった際に華琳から与えられた馬だった。その名の通り、濡れた鴉の羽より黒い毛並みと他の馬が仔馬に見えるような巨体が印象的で、大きすぎて私が現れるまで乗り手が無かったというほどだ。『寝る子は育つ』ということなのか、寝ることが好きであり、黒い毛並みのせいで温もりすぎるのを避けるためかよく日陰でうずくまっていたのを覚えている。普通、馬は立ったまま眠るというから、黒王号(仮)がどれだけ寝ることに全力を出していたのかが窺い知れる。

まだ装備の少なかった時期というのもあるだろうが、蹌踉めいたりすることは極めて稀で、安心して戦うことができた。が、残念ながら、反董卓連合の際のかゆうまとの一騎討ちで首を撥ねられて死んでしまった。全く惜しい馬を亡くしたものだ。余りに惜しかったものだから、ただ死なせておくのは勿体無いと思い、直後の宴会でそれと言わずに劉備陣営の皆さんに振る舞ってやった。

 次の黒王二号(仮)は……ギリギリ及第点といったところか。

元より、応急処置的に私の馬になったもので、黒王号(仮)より一回り小さく、また毛並みも特筆すべきことは無い、普通の栗毛だった。

基礎能力は単純に黒王号(仮)の下位交換だったし、何より問題だったのは、いつまで経ってもシャウトに慣れなかったことだ。私や部下が号令を出すたびにビクリと身体を硬直させていた。元来臆病な性格だったようだから、軍馬になったのは不幸としか言いようが無い。そんな不幸な二号はその最期も残念なもので、猪々子との戦いの間に斬山斬に巻き込まれて消し飛んでいたのだった。

 黒王三号(仮)は利口な馬で、シャウトにもすぐに慣れた。それに人懐っこく、私にもよく懐いた。てんでダメだった二号の次だったせいか、私も三号を気に入って、休みの日には遠乗りに出ることも多かった。……と言っても、袁紹を倒し、領土が広がって急に忙しくなった時期だったから休み自体が少なかったし、三号は蜀からの侵攻の迎撃戦で行方不明になってしまった。遠乗りは実際のところ十回もしてないと思う。三号のことだ……戻って来ないということは死んだんだろう。仕方ないから、代わりに敵から奪った白馬を料理しようと思ったが、その白馬は華琳に取り上げられてしまったので、結局馬刺にはありつけなかった。

 黒王四号(仮)には特別な思い入れは無い。有るとすれば、斑模様の毛並みがちょっと汚く見えたな、というくらいなものだ。何の不満も感動も無かったし、大きな戦は、私の出番は城内や山中などだいたい馬から降りての作戦だったからだ。そういうわけで四合は戦で命を落とすことは無かったが、この度五号と入れ替わりのためお役御免となった。

 そして、今私が跨っているのが黒王五号(仮)である。

初代にも引けを取らないほどの黒い毛並みを持ち、その巨体は正に『小山のよう』だ。重厚且つ堅実な足取り、時に驚く程の機敏さを見せる様は関取を思わせ、三日月形の角が最高にCOOL。

黒王五号(仮)は水牛だ。

定軍山から戻って以来、順調に装備を充実させていた私だったが、ついに靑さんに『馬の負担も考えろ』と怒られてしまった。そして、『じゃあもう馬なんか乗らねーよバーカバーカ』と内心逆ギレして新しい乗り物を探すことにした。

そして辿り着いた答えが水牛(次点で象)。初め、単純に頑丈そう、ということで試してみたのだが、使い易いことこの上ない。安定感が有り、突進力が非常に強い。元より、暫く飼い馴らせば虎にも圧勝するというほど戦闘力の高い生き物である。最強の名馬である赤兎馬が小型犬になってしまっているこの世界、当たり負けすることはほぼ無いと見て良いだろう。それに、水牛の頭の位置は低く、特に突進する時など地面スレスレまで下げる。これによって、私は殆ど思うままに武器を振り回せるのだ。胴の上にニョッキリと首が伸びている馬ではこうは行かず、騎馬同士での討ち合いの場合、動きがかなり制限される(だいたい突きばかりになる)ものだ。それが解消されたというのは、特に、多彩な技が売りの私にとっては大きい。一つだけ気掛かりだった速度の面も、多少は馬に劣るものの問題無いレベルだった。ゲップとクソがやたら臭い以外 五号は完璧だ。

今も、私が乗っているのを気にも止めずに足元の草を食んでいる。

 

「お前なかなかの大物やなぁー」

「モ゛ーーー」

 

首元を軽くたたきながら声をかけてやると、眠たげな声を返してくる。……牛って癒やし効果有るよな。臭いけど。

 

 孫尚香との戦闘はどうしたのか、って?

……前衛が全部やってくれました。しかも、その前衛も、圧倒的戦力差そのままに呉軍をガリガリ削って行き、敵も何の捻りも無く普通に撤退していったもんだから見せ場の一つも無い。いや、途中で甘寧が廻り込んでこちらの本陣を狙おうとするような動きを見せたには見せたが、ソッコーで霞に追いつかれて捌かれてしまった。

 我が隊の専門は迎撃と特殊環境下での戦闘。圧倒的勝利に終わった野戦ではもちろん出番は無かったし、相手は城からも完全に出払ってしまったため城内戦も無い。現在は、真桜率いる工兵隊が城の状態を確認する作業を行うのを待っているのである。

 何か、これ、大丈夫なのか?対袁紹戦の方がまだ盛り上がっていた気がするんだが。私なんか暇すぎて延々といらんことを考えていたぞ。

……い、いや、嵐の前の静けさだ。多分。何と言っても、次にはSEKIHEKIが控えている。つまりこれは本命の策の前に、ワザと気の抜けた戦いをさせることによってこちらの士気を下げる策!おのれ周瑜!さすが汚い!

 

「伝令!『城内の安全確認終了。鑑惺隊は華雄隊に継いで入城すべし』とのこと。また、入城直後に隊長格での軍議が有るとのこと!」

「お、おう。下がって良し」

 

こうして魏は何の困難も無く呉侵攻の拠点を手に入れた……。

……まぁ、犠牲が少ないことは良いことだな………?




魏ルートは後半になるほど盛り上がりに欠けますね。
原作では一刀さんの消失云々が効いてくるところですね。


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第十二章二節

新しく買った掃除機がめっちゃ強そうです。
前にも言いましたっけ?

次から
拠点フェイズ何か一つ
十三章一節の一部
拠点フェイズ
十三章一節続き
……
という流れになります。たぶん。


 「皆、良くやってくれたわね。特に、春蘭、霞、華雄、猪々子。貴女達の奮戦のおかげで、孫呉侵攻作戦の初戦という重要な戦において我が曹魏は大勝を納めることができたわ。ご苦労様」

「「はっ」」

 

華琳による賞賛の言葉に、四人は深々と頭を下げる。……いや、かゆうまはそうでもないか。だが、とりあえずのところ、急造で魏様式に作り変えた玉座の上の覇王様は満足げだ。やはり侵略戦のすぐ後だ。過去最高に覇王っぽいな。

 

「さて……皆も疲れているでしょうけど、今から次の動きを決めることにするわ。ここに留まるにしろ何か動くにしろ、早く決めておくに越したことはないでしょうからね。私は、まずここに暫く留まることを考えているのだけれど……」

「風もそれが良いと思うのですよ〜。先程入った情報ですが、相手側も何かと激しく動いているようですし。相手の出方を見て合わせていかなければなりませんからね〜」

「え、このまま建業に一直線じゃダメなの?」

「孫策が居ない建業を攻めても意味が無いからな。まず孫策を倒して、建業はそれからだ」

「そして、その孫策が動いているようですから」

「そっか。空き巣しても皆に笑われちゃうだけだもんね」

「うーん、暫くどこかの拠点に留まるのは、俺もその方が良いと思うんだけど……。戦闘の前に何人かで話してたんだけどさ、この城を取らせるのが相手の策だったりしないかな……?」

「えーっと、つまり、拠点置くにしても他の城探した方が良えんちゃうか、ってこと?」

「そんなとこだ」

「んー、お兄さんの言うことももっともなのですが〜、先程も言った通り、隠された賽の目を当てるような話なのですよ〜」

「それに次の城は少し遠いですからね。今回の戦闘、圧勝したとは言え被害や疲労が無いわけではないですから、今夜はここで休む他ないですし。そうなると、移動速度の問題で先回りされてしまうでしょうから厳しい戦闘になる可能性もあります。当るか当たらないか分からない心理戦に乗るより、この城に腰を据えて補給基地として安定させるべきです」

「なるほどな」

「策如何の話やったら黄蓋の話はどないなん?敵兵の士気見たら、ウチ的にはどうもそんな将軍と軍師が喧嘩しとる軍にゃ見えんかってんけど。相手方の動きから何か分からんか?」

「虚言かもしれない、と」

「一般兵には伏せとるんちゃうのん?少なくとも、黄蓋は建業でお留守番させられとるらしいから」

「黄蓋と言えば孫呉の筆頭将軍。それが前線から外されたとなれば、何もなかったということはないでしょう」

「良しにつけ悪しきにつけ、この戦の要は黄蓋さんでしょうねー」

「ええ。そちらも十分気をつけておいてね。……ともかく、この城にしばらくとどまるということで異存無いかしら?」

「はい」

「おう」

「異存有りません」

「よろしい。それじゃあ、さらに細かい統治計画は今夜軍師会で詰めましょう。暫く留まると言ってももたもたする気はないから、皆、気を引き締めるように」

「「「御意」」」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 同じ頃、建業へと続く街道。

東へと進む一団は先程惨敗した孫尚香率いる呉軍である。

 

「皆、無事か?怪我はないか?」

「はい、私は大丈夫ですよー。……けど、予想より被害が大きいですねー……」

「もぅ〜。もうちょっと戦えてれば、曹操なんかケチョンケチョンに出来たのに……!」

「小蓮様ぁ……初撃からズタボロでしたよぅ」

「申し訳ありません……敵将の殲滅力が予想以上に高く………」

「はぁ〜……鑑惺さんの戦いを観察するようにとも言われてましたのに、姿すら見えませんでしたもんねぇ」

「うぅ……、でも、曹操はあの城に留まるみたいじゃない!作戦自体は成功してるでしょ!だからシャオの勝ちなの!」

「はぁ、はいはい」

「小蓮様、ただ今戻りました!」

「あ、明命!どうだった?」

「はい。呂蒙隊、無事に合流が完了しました!脱落者はいないそうです!」

「ほら!やっぱり作戦はほとんど完璧じゃない」

「そうですけどぉ〜……」

「そんな辛気臭い顔してても良いことなんかないでしょ!……じゃあ、このまま建業まで帰るわよ!次の作戦に備えないと……」

「はっ」

「あ、ちょっと待ってくださーい」

「どうしたの?穏」

「そのことなんてすけど、他の隊の作業が予定より早く進んだらしいので、建業には戻らずに雪蓮様と合流せよ、と伝令が来てましたー。蓮華様もそちらへ向かうそうですー」

「そっか。なら総員、移動を開始するわよっ!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「(――しっかし、将の留守とは言え兵が少なすぎないか?もう目当ての部屋の前まで来たぞ)」

「(今回の件が周瑜さんの策であることの証明ですね……)」

「(うーん、こういう策をするには遅すぎるんじゃないか?もっとこう、勢力が固まるまえから仕込んでさ……)」

「(……仕掛けた結果皆帰らぬ人となりました)」

「(あ、そうなんだ……)」

「(それに、今回は潜り込むのが黄蓋さんということも重要です。名のある将の申し出とあらば、風評を気にする曹操さんのこと……無下に断ることもできないでしょうから……)」

「(なるほどなぁ……お、見張りが一人中に入った)」

「(行きましょう)」

「(おう)……っ!!」

「!お、おい、貴様、何やつッ――」

「ハァッッ!」

「ぐはっ!?」

 

「どうした。何かあった――ぐっ!」

 

「……中の奴も片付いたらしいな」

「やはり黄蓋さんの方も脱出する気だったんですね」

 

「――開いているぞ」

 

「……行くか」

「はい。――失礼いたします。黄蓋殿とお見受けいたしますが、よろしいですか?」

「いかにも。儂が黄蓋だが……貴公らは?冥琳……周瑜の手の物か?」

「い、いえ……」

「ならば何者か。名を名乗れ!」

「ひ………っ!」

「おい、しっかりしろって」

「あ……は、はい。……私は鳳雛。貴女の意思を貫くための、お手伝いをしに参った者です」

「誰の差し金だ?周瑜か?それとも、策殿か」

「それは……申し訳ありません。口にするな、と」

「この儂を前にして名乗れんと言うか。……面白い。儂もちょうど人手が欲しかったところじゃ。貴様らに付き合ってやろう」

「はい。では、参りましょう。黄蓋様!」




つまり、呂蒙隊のために時間稼ぎしつつ、予定通りの場書で決戦できるように魏軍を城に留めておくという作戦でした。(出来れば相手の観察も)
魏は読み合いを投げ出した結果、読み合いに負けた形になりますね。
だからってどうってことないんですけどね。


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第十二章拠点フェイズ :【北郷隊伝】特訓のご褒美は…… その一

テトラポットとか見てるとゾクゾクしますよね。しませんか?


 「――ふー満腹満腹、なのー!」

「いやー、こっちの料理も良えもんやなー」

「ご馳走さまでした。隊長、それに聆」

 

 今は呉との戦争中。そしてここは呉からの占領地。とはいえ、だからって人々の生活が大きく変わるわけではなくて。むしろ占領地だからこそ治安維持と人心掌握のために警備が重要だったりする。……という事で久々に北郷隊幹部全員で警邏に出てみたんだけど………案の定昼飯をたかられた。聆だけ、凪だけの時はたかられないし、真桜だけ、沙和だけの時は金額が低い。しかし、これが同時に来ると手がつけられない。今回は聆が半分出してくれてるんだけど、そもそも聆は凪に次いでこの中じゃ二番目によく食べるから、結局俺が一番損している。

 

「おうよ。惚れても良えんやで?」

「はぁ〜……聆は財布に余裕が有るから良いよな……」

「色々とやりたいほうだいやもんな」

「『最大手で最安値』それが我が嵬媼商会の社訓や」

「いつの間に商会なんて作ってたの!?」

「いや、適当言うただけやで?」

「真顔で冗談言うんやめぇや」

「あーあ。俺なんて毎月ギリギリなのに」

「よぉ奢りよるもんなぁ。張三姉妹に季衣流琉に霞に……」

「一番頻度が高いのは真桜と沙和だけどな。いつの間にか奢る流れにされてたりする分余計に質が悪い」

「可愛い部下のためにお金を使うのも上司の役目だと思うなー」

「そーそ。それに腹が減っては戦は出来ぬ、って言うやんか。つまりよぉけ食べるんは戦への意識の高さの現れ……」

「いや、そんなことで納得しないけどな。……そうだ、戦と言えば、お前らって泳げるか?」

「え、何でそんなこと急にきくの?」

 

珍しく喰い気味に質問をしてくる沙和。……あー、これはダメかも分からんね。

 

「いや、この前華琳と話したんだけど、呉を制圧したら本格的に水軍が必要になるな……って」

 

一見取らぬ狸の皮算用っぽい話だけど、計画を立てるのは早い方が良いし、負けた場合についても軍師たちが考えている。

 

「なるほど、そういうことですか。次の戦闘が水上に決定したのかと身構えてしまいました」

「決定はしてないんだけど、一応そっちの方も考慮に入れてるんだよ」

「……それやったら話が遅すぎるんちゃう?もう兵の訓練間に合わんやろ?」

「ああ。それなんだが、戦闘そのものについては一般兵の水泳技能の重要性は低い。考えてるのは水難事故の対応なんだよ」

「ふーん。じゃあ沙和たちも別に今やらなくてよくない?」

「そっちはなぁ。リスクとメリット……代償と利益の兼ね合いでな。たった四人が泳げるだけで戦術的に幅が広がるし」

 

幾度と有る戦闘の中で、水上戦というのは頻度が低い。それに、これまでは河川や水堀の横断を必要とする作戦も少なかった。だから一般兵のうち、一部の隊しか泳ぎの訓練を行っていない。それは呉に入っても同じこと。大きい川なら船で移動するし、微妙な大きさの川は順路に入らないように調整する。でも、将軍格が泳げないのと泳げるのとでは、一般兵が泳げないのと大きく結果が変わってくる。

例えば、赤壁の戦が起こったとしよう。船団のうち一つが沈むとか炎上するとかして水中に逃げたとする。この時、一般兵たちは、船が沈んだ時点で戦術のサイクルから外れてしまっているから、戻ってきたらラッキーくらいの意識だ。もちろん、死んで良いというわけじゃない。あくまで戦術的な話だ。しかし、将軍がその沈んだ船と一緒にログアウトしてしまえば、その船だけではなく船団自体がダメになる。

 

「……だからきいてみたんだけど……さっきの反応を見る限り沙和はダメっぽいな」

「ちっ、違うもんっ!泳げないんじゃなくって、泳ぐのと相性が悪いだけだもんっ!」

「同じやっちゅーの」

「変わらんやろ」

「あぁ。同じだな」

「うぅ………」

「うん、まぁ、そこは練習で何とかするとして。沙和以外の三人は泳げるんだよな?」

「ん?何かさらっと変な宣言が聞こえたけど……?」

「練習するとか言ってた気がするけどきっと沙和の聞き間違いなの」

「いや、練習するぞ?当然だろ」

「そんなこと言うて泳ぎ方教えるフリしつつおっぱい触ったり太もも撫でたり下半身押し付けたりする気ぃやろ!いやらしい!さすが変態長いやらしい!!」

「ひくわぁ〜。ドン引きやぁ」

「……不潔です」

「勝手な妄想で罵声を浴びせるのは止せ!」

 

一瞬そんなことも頭をよぎったけどな!

 

「……で、真面目な話、泳げるのか?」

「……実は、私もあまり得意ではなくて………」

 

うーん、凪は運動神経が良いからいけるかと思ってたんだけど……。

 

「ウチはまあ、なんとか……」

 

真桜も歯切れが悪い。でも、何かと抜け目無い真桜のことだから一定レベルはできてるんだろうな。……なんて希望的推測をしてみる。

 

「ククク……一日二回の水浴びで日頃水に親しんどる私に死角は無い」

 

そして自信満々の聆。……普通なら嬉しいところなんだけど、聆の場合は違う。本気ですごいことをするときの聆はもっとしれっとしている。『ああ、できますけど、何か?』みたいな感じで。ドヤ顔のときは……何かしら妙なオチをつけてくる時だ。

 

「四人中三人がダメか……。仕方ない。この後全員で水泳の特訓するぞ」

「えー!沙和だけとちゃうん!?」

「これから阿蘇阿蘇に載ってた雑貨屋さんに行こうと思ってたのにー!」

「す、水泳……そんな………」

「私は一向にかまわんッッ」

「何と言われようと水泳の特訓はやめないからな」

「横暴やー!」

「横暴なのー!」

「あうぅぅ………」

「ええぞもっとやれ」

「ほら、三人はもたもたしてないで水着を用意して来い。……あと聆はくれぐれも自重してくれよ?」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 四人を城外まで連れ出し、俺達は割と川幅の広い場所までやって来た。広いと言っても小川だから大したことはないんだけど、それでも泳ぐには十分だ。

 

「よし、じゃあ水泳教練を始めるぞ」

「そんなこと言わんとぉ〜。せっかく川まで来てんねんから、たっぷり遊ぼうで」

「真桜……これから重要になることだと隊長も仰っていただろう。もう少し真面目にやれ」

「さっきまでは凪ちゃんも文句言ってたくせにぃー」

「もう決心はついた」

「さっすが公私の切り替えに定評の有る楽進先輩は一味違とるなぁ」

「なんやかんやでやることやっとるのに初心気取っとるもんなぁ。ウチらには真似できんわぁ」

「マジ尊敬するの〜」

「お前たち……」

「あ、楽進先輩じゃないっスかチッスチッス」

「いや〜、今 丁度楽進先輩マジッべぇなって話してたトコなんスよ!」

「あれ?先輩、何か機嫌悪いっスか?何か飲み物買ってきましょうか?」

 

ドッゴーラ

 

「はい。一爆破いただきましたー」

「何かアレやなぁ。最近威力グングン上がっとるなぁ」

「ああ。戦も近いし、無意識にだが気合の入り方も違ってきている」

「……その威力のせいで俺まで巻き込まれたんだけど」

「申し訳ございませんでしたこの度のご忠告を真摯にうけとめ以後の再発防s」

「ストップストップストップ!お前らふざけまくって水練を先延ばしにしようとしてないか!?」

「そうだが?」

「そうだが、って……。さっきも言った通り、水練は戦略的に重要なんだよ。呉攻略にあたって将軍格は最低限泳げたほうがいいし、いずれは新兵訓練にも水練は組み込まれるだろうしな」

「それは、……せやな」

「それに、だ。今までできなかったり苦手だったりしたことをできるようになれば、自分に自信を持てるようになるだろう?……四人にはいつだって自分に自信を持って生きていって欲しいんだ」

 

俺は四人の目を順に見つめる。

とりあえず、格好つけてみたけど――。

 

「隊長……そんなにウチらのこと……」

「我ら四人、どこまでも隊長についていきます!」

「沙和、隊長のために頑張るのっ!」

「ククク……小僧、なかなか言いおるわ」

 

みんな納得してくれたみたいだな。

……けど聆は何キャラなんだソレは?酔っ払っているのか?

 

「よし。じゃあ、特訓を頑張ったら、俺からご褒美を出っ……」

 

気分良くご褒美なんて言っちゃったけど……。沙和が服を大量に要求してくるだろ……で、真桜は貴重な絡繰の部品(もちろん高額)。凪は自重してくれるだろうけど、それに甘えて何もしてやらなかったら色々とマズいことになりそうだから結局はこっちで思案してご褒美を出すことになる。そして聆は何を要求してくるか分からなくて怖い。

 

「うん。特訓を頑張ったら疲れてるだろうから早く帰って早く寝ようか」

「今ご褒美出すって言いかけてやめたやろー」

「そういうのが一番ダメだと思うなー」

「……仕方ないか。言っとくけど、あんまり無茶な注文はするなよ」

 

俺も一応将軍だってのに毎月のように食堂のおb……おねぇさんに頭下げて恵んでもらってるからな……。

 

「さて、それじゃ特訓を始めようと思うけど……」

「はい。しかし……いったいどうすればいいのでしょう?」

「そやなぁ……。ウチら水泳の練習なんかしたことあらへんもんなぁ……」

「沙和も分かんないの……」

「まぁ、隊長の手腕に期待やな」

「……地味にハードル上げてもらっちゃったけど、そんなに難しいことはしないよ。まず、水に慣れてもらう。とりあえず、俺がいいって言うまで好き勝手に遊んでていいよ」

「へ?あんだけ言うといてそれかいな」

「なぁ〜〜〜んだ、ビクビクして沙和、損しちゃった」

「馬の子も遊びの中で走ることを覚えるって言うし、まぁ妥当やな」

「それはそうだが……よろしいのですか?隊長」

「いいよ。ただし、水から出ちゃダメだからね」

「それは潜水的な意味で?」

「……水から離れちゃダメだからね」

「は〜〜〜〜い。そんな命令だったら大喜びなの」

 

思ったより時間がかかったけど、ようやく水泳の特訓が始まったのだった。




さっさと次に行きたいときにうっかり長いイベントを書いちゃうパティーン。その長さ、実に平均の三倍以上(作者調べ)。


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第十二章拠点フェイズ :【北郷隊伝】特訓のご褒美は…… その二

暇があると、ダラダラと時間を浪費して逆に何も出来なかったりしますよね。

最近更新が遅くて申し訳ございません。


そして関係ないですが、東方淫ピ録の体験版の配布が始まりましたね。ちょっと混雑してるみたいなので作者が入手できるのはもう少し先になりそうですが。

布都ちゃんかわいい。美羽様の次にかわいい。


 やっと水練が始まった。しかし、開始早々の自由時間。だから最初は『何やら裏があるのでは?』と思っていたらしかったけど、俺が何も言わず木陰に座ってしまうと安心して(?)水遊びに興じ始めた。

 

「きゃはっ!冷た〜〜〜〜い!やったな〜〜〜〜!」

 

皆が水に入るか入らないかのうちから、真桜が沙和に水をぶっかけた。

 

「よそ見してる沙和が悪いんや」

「なるほどな。…………」

「…………」

「…………」

 

そして、真桜以外の三人は謎の沈黙。

 

「な、なんや……?」

「よそ見したらあかんらしいからガン見してみた」

「うん、ゴメン。適度によそ見してな」

「うん。じゃあお手本見せて欲しいの〜」

「そうだな。適度に、と言われても私たちにはどれくらいが適度なのか分からないからな」

「なんでこんな流れになっとんねん……」

「だいたい聆のせいだな」

「くっそ〜、聆、覚えとれよ」

「まぁそう怒んなって。……で、覚えとれって何の話?」

「早速忘れてるの……」

「あー、せやせや、凪と隊長の逢瀬の詳細についてやったんちゃう?」

「な、何を言ってるんだ!沙和に真桜が水をかけた後その揚げ足を取ったんだろう!……って、何で川の中で雑談をしているんだ!」

「だいたい聆ちゃんと真桜ちゃんのせいなの〜」

「まぁそう怒んなって」

「……で、何の話やったっけ?」

 

……何であいつらゴールド・e・レクイエムやってんだ?

 

「おーい、おまえら、漫才は城でも出来るだろーー」

「おう変態長がお怒りやぞ」

「早く女の子がキャッキャウフフしとるのが見たぁてしゃーないんやな」

「不潔です……」

「でも〜、沙和的には隊長ならいいかな〜って」

 

四人揃うと本当に話が進まないなこいつら………。

 

「ふーん。つまり沙和はこの場で色々と晒しても良えんやな?」

「おっと聆ちゃんお得意の超理解なの」

「まぁでもこの場合は仕方なかったんちゃう?ウチにもそう聞こえたもん」

「真桜ちゃんそう言いながらにじり寄って来ないでほしいの」

「………」

「凪ちゃん無言はやめて!」

 

沙和の包囲がジリジリと狭まっていく。

 

「ひん剥けぇぇぇい!」

「きゃあああ!引っ張っちゃダメなの〜〜〜!生地が伸びちゃう〜〜〜」

 

生地が第一なのは沙和らしいっちゃらしいけど……。それよりも水着脱がすの早すぎないか?普通はもっと水のかけあいが激しさを増してきてからだな……。いい感じに盛り上がってきてからだろう。

 

「ううう……もう怒ったの!皆の水着も剥いであげちゃうから覚悟するの〜〜!!」

「おぉ、こわいこわい」

「戦略的撤退や!」

「うがーーーー!」

 

逃げる三人を追う沙和の胸かバルルンバルルンと……。前言撤回。早めに水着剥いでくれて良かったです。

 

「ま〜〜つ〜〜〜の〜〜〜〜〜!!!」

「うははー!遅い遅い!」

 

頑張って追いかけてるんだけど、いかんせん沙和はこの中で一番泳ぎが下手だ。いつまで経っても追いつけないわけで……。

 

「あーーー!もういいの!!やってらんないの!」

 

ついには川岸に座り込んでしまった。

 

「あーんもぅ!ごめんって!」

「す、すまん。少しふざけすぎた」

「………隙あり〜!」

「わわっ!?」

 

沙和が突然立ち上がり、慰めに来た来た真桜の水着の紐を素早く解き取った。おぉう、眼福眼福!

 

「くっそー!騙したな〜!?」

「へへ〜ん!元はと言えば真桜ちゃんが悪いの!」

「ふん!すぐ取り返せるから良えもーん」

「そいつはどうだか、なの!……聆ちゃん!!」

「うぇ〜い」

「あ!?」

 

沙和が放り投げた水着は、緩やかな弾道を描き聆の手に。

 

「聆、その水着をこっちによこすんや……!」

「………?」

「『は?何で?』みたいな顔やめい!」

「自らも水着を取られる覚悟のない者は他人の水着を取るなっちゅぅこっちゃな」

「なら捕まえたら聆も剥いだるから覚悟しぃや……!」

「捕まえたら、な」

 

言うが早いか、聆は上流に向かって泳ぎ始めた。……何だアレ。魚雷?

 

「まーーてーーーーーーー!!」

 

真桜も結構綺麗な泳ぎで追いかけてるんだけど、その差はどんどん広がっていく。流石ドヤ顔してただけ有るなぁとは思う。でも、アレ、どうやって泳いでるんだ?他の三人は(沙和は泳げてないけど)平泳ぎの腕にバタ足を組み合わせたような泳ぎ方だった。でも聆は何と言っていいのか……。とりあえず、腕は全く動いていない。ドルフィンキックに似てるんだけどキックって感じがしないんだよな。どちらかと言うとウナギとかアナゴとかガノトトスとか、ああいう細長い魚が全身をくねらせて泳ぐのに似てる気がする。つまり、不気味。スラリと長い手足とか、柔らかな黒髪とか、普段はプラスの印象を与える部分が見事に反転しておどろおどろしさを醸し出している。

 

「ぜぇ……ゼェ…………ちょ、速すぎやろ………」

「あっはっはっはっは!どないしたんけ?もう終わりか?口程にも無いのぉ」

 

テンションもちょっとおかしなことになってるしな。……って、ん!?

 

「れ、聆!水着の下はどないしてん!?」

「ん?おわ!?チッ、流されたか!?いつの間に……」

 

聆の短いパレオタイプの水着はどうやら激しい泳ぎに耐えきれなかったらしく、脱げてしまったようだ。ありがとう神様。

 

「どこ行ったんや……?下流か?」

「それやったらそう流れ速よないし、その辺にあるはずなんやけど……」

「……無いな。凪ー、私の水着見んかった?」

「いや、見てない……って何だその格好は!?早く下を履け!!」

「いや、それが無ぉなったから訊いとんやろ……」

「沙和はー?」

「うーん、沙和も見てないのー」

「うん、んだらその腰巻きの隙間からのぞいとる黒い布は何や?」

「げ、ばれるの早すぎだよ〜〜」

 

確かに、よく見てみると沙和はロングパレオ下に聆の水着を隠しているようだ。……というかロングパレオとか、水泳の練習だって言ったのに泳ぐ気なさすぎだろ。

 

「よし、これはもうアレやな。何回か沈める」

「ヴェッ!?」

「その前にウチの水着返して」

 

――――

―――

――

 

 ……そろそろかな。

四人を好き勝手に遊ばせて一時間弱は経ったと思う。

 

「よし、自由時間終了〜〜〜〜〜〜」

「え?どういうことや?」

「お休みじゃなかったの?」

 

本当にこいつらは真顔で冗談を言うから困る。……冗談だよな?

 

「……何度も訓練だと言ったろ?みんなが遊んでるのを見て、どれだけ泳げるのか見せてもらったわけ」

「なんや、そういうことやったんか。ぬか喜びして損したわ」

「まんまと嵌められたの……」

「ハメられたなぁ」

「ハメられた」

「隊長に、ハメられた」

「おい、微妙に意味を変えるのはやめるんだ。それで、お前たちの泳ぎの印象だけど……」

 

俺は少しもったいづけて咳払いをした。

 

「はっきり言って全然ダメだ。沙和は完全にカナヅチだし、凪は動きが硬すぎる。聆は、あの泳ぎ姿は部下に見せられん。真桜はいい線行ってるんだけど……ちょっと問題が、な」

「泳げるんやから良えやん」

「戦では鎧を着込んで武器を持つんだから、なるだけ効率的な泳ぎ方を覚えるべきなんだよ。ここからはそれぞれの技量に合わせて指導していくから、四人とも、特に沙和と真桜は覚悟するように。ということで、早速だけど沙和」

「は、はいっ!」

「まずは最低限泳げるようにならなきゃね」

「あわわわ……隊長、顔はニッコリ笑ってるけど目が笑ってないよ〜〜」

 

ということでまず、カナヅチの沙和への指導をすることになった。




水着は脱ぎ捨てるもの。


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第十二章拠点フェイズ :【北郷隊伝】特訓のご褒美は…… その三

アヘ顔好き。

アヘ顔ダブルピース嫌い。




 「おー、頑張んりょるなぁ」

「結果はともかくとしてな」

「言ってやるな。真桜」

 

沙和への指導が一段落するまで、私達三人は川岸で休憩ということになっている。とは言え、沙和に求められているのは『とりあえず泳げる』レベルなのでそう時間もかかるまい……と思っていたがそんなことは無かった。

 

「何でたいちょーに手ぇ持ってもらっとるのに沈むんやろ」

「鉄でも仕込んどんとちゃうのん?」

「……さすがにアレは………」

 

まず、浮いていられないらしい。一刀に手を引いてもらっているのだが、足が沈み……腰が沈み……と、どんどん沈んでいってバタ足にすらならない。

 

「余計なとこに力入れ過ぎなんや」

「水に対する恐怖心から、脱力するのが難しいんじゃないか?」

「そんなことァないやろ。さっきも平気で水遊びしとったし。何というか、ホンマに『泳ぐんと相性が悪い』って感じ?」

「自己暗示のようなものか?」

「近いっちゃ近いんちゃう?」

 

「きゃぁああああああ!た、隊長!沙和のお尻を勝手に触っちゃダメ〜〜〜〜!」

 

突然、沙和の素っ頓狂な悲鳴が。一刀が指導の為に(?)尻付近を触ったのだ。

 

「!?……隊長………!!!」

 

まぁ、その辺を好意的に理解出来ないのが約一名。

 

「わー!わー!ちょっと待ちぃや凪!そのいつぞやの紅い氣は隊長には強過ぎる!」

「おうよ、それに身体の動かし方を指導しとんやから、尻……つまり脚を動かすに当たって最も基礎的な筋肉が付いとる部分に触れるんは当たり前や。大方いつもの誇大反応やろしそないに怒ることないやろ」

「む……うむ、そうだな。そうかもしれないな………」

 

 凪が再び腰を落ち着かせるのを確認してから、一刀と沙和に目を戻す。こちらは一刀さんの有り難いお話の最中のようだ。口説いているとも言う。

そしてその結果、沙和のやる気が更に上昇すると伴に、目標が『何とか泳げる』から『助けが来るまで溺れない』に下方修正された。沙和には珍しく割と真面目にやっていたというのに残念なことだ。

 

――――

―――

――

 

 「沙和はまだやれるのっ!」

 

「うわっ!?何やびっくりしたー」

「おー、なんや隊長が止めたっぽいなぁ」

「あの沙和が休憩を拒むなんて……。これは負けていられないな」

「どんな対抗意識よ。……でも今は素直に休んどいた方が良えなぁ。あ、転けた。……もうへろへろやん」

 

あれから懸命に水面に浮く……あわよくば泳ぐ訓練を続けていた沙和だったが、とうとうストップが入ってしまった。

 

「ちょっと無理させ過ぎちゃったな……」

「うぅ……ごめんなさいなの」

 

歩くのも辛いようで、一刀に抱きかかえられて川岸まで戻ってきた。

 

「沙和……頑張ったんやな」

「うん。沙和にしてはかなり珍しく頑張っとった」

「ちょっと……聆ちゃん、今は、ツッコむ元気ないから………、ね?」

「隊長!次は自分をお願いします!」

「ん、凪もやる気になってくれたみたいだな。よし、じゃあ行こうか。聆、真桜。沙和を頼んだぞ」

「うぇーい」

「任せとき」

 

 

 そして今度は凪と一刀が水の中へ。

 

「うーん、やっぱ動き硬いな」

「その辺は隊長にも言われとるっぽいな」

 

凪の場合は動きに無駄が多いことに問題が有る。掻いた手を戻すときに水の抵抗を受け、後ろに下がる力を生み出してしまっているのだ。バタ足の方も、脚を滑らかに動かせていないせいで上手く水を捉えらず、思ったように進んでいないように見える。水中で無理な動きをしようとすれば、引っかかるような感覚があるものだが、凪の場合はなまじ力がある分、強引に動かして何とか泳げて(しまって)いるということだ。

 

「お、あの泳ぎ方は何や……?」

「珍しい型やな」

 

珍しいのはこっちの世界での話。現世では一般的な、腕を回し左右交互に掻く泳法……つまるところクロールである。

「へー、腕が水の上を回るから抵抗が少ないってことか」

「なかなか的確に泳ぎ方選んどるなぁ」

「せやな。あの泳ぎ方って消耗大きそうやけど、凪の体力なら十分やろし」

 

しかも、普通のクロールではなく、頭出しクロールのようだ。これなら視認性も高く、実践でも十分に使えるだろう。私や真桜には、武装の関係上、腕を大きく動かす泳法は適さない。対して凪は武器を持たない。となれば現代で最も早いと思われるクロールは恐らく最適解だろう。凪がその気になれば水面走りとかできそうだが……さすがにロマン過ぎるか。

 

「泳ぎ方は良えなぁ。……泳ぎ方は良えねんけどな」

「うん」

「ヒャンとかアンとか聞こえてくるんは何やねんっ!」

「凪ェは敏感やからな。仕方ないな」

 

より効率的な指導のために(?)一刀は凪の体に割と密着した体勢なのだが、そのせいでふとした拍子に凪が嬌声あげる。凪の顔は見る見る赤くなってくるし、一刀もちょっと意識しているようだ。流石魏ルートの正妻ポジというところか。私も周りから正妻とか言われているが、やっぱり原作からのキャラは直球でかわいいな。

 

「凪ちゃん・・・いやらしい娘!」

「あ、沙和。もぉええんか?」

「うん。まだちょっとふらふらするけど大丈夫なの。それよりも凪ちゃんとたいちょーがいい雰囲気すぎるの!」

 

腰周りに触れられて、一段と高い声が出る。

 

「……せやんな。あんなん、ウチらが後に控えてなかったら絶対ズッコンバッコンする流れやんな」

「真桜ちゃん……下品」

「雄蕊と雌蕊が……」

「それはそれで違うと思うなー」

 

――――

―――

――

 

「私らが隠語について語り合いよる内に大分形になってったな」

「あ、ホンマや。エラい長いこと話とってんなー」

 

凪はもう既に、一刀の手から離れてスイスイと泳いでいる

 

「凪ちゃん、運動神経良いもんねー。羨ましいのー」

「でも沙和は隊長に助けてもらえんねんやろ?」

「ふふん。まぁねー、なの!」

 

「おーい、次、真桜と聆、どっちにするー?」

 

と、凪は自主練に入ったようで、一刀がこちらに訊いてくる。

 

「んじゃあ、真桜先行き」

「まぁ、聆が一番上手いし、そーなるな。別に下手な順ってこともないやろけど。……たいちょー!じゃあウチが先でー!」

 

返事をして、一刀のいる川の中ほどまでザブザブと入っていった。

 

「思ったんだけどさ、真桜ちゃんって練習する意味あるのー?」

「んー、普通に泳ぐ分にはそうやけど、真桜の武器ってアレやしなぁ。濡らしたらオジャンちゃうっけ、アレ」

「あ、じゃあ今の泳ぎ方じゃダメなの」

 

もともとの真桜の泳ぎ方は平泳ぎの腕にバタ足を組み合わせたものだが、それだともちろんあのドリルは持てない。もし無理やり持っていても、防水でもない限りダメになる。今のところ防水加工の技術は持っていないようだから、武器を濡らさない泳法が必要になるわけだ。

 

「って、あれ?たいちょーどっか行っちゃったの」

「ん、荷物置いとる辺りやな」

 

しばらくして戻ってきた一刀の手には、何か、棒の先に大きめの石を括りつけたものがあった。

 

「なんなの?アレ」

「……アレを螺旋槍に見立てるんか」

「あ!なるほどー!」

 

……思ってたよりガチなんだが。原作では真桜は背泳ぎだったと思うが、何かこっちでは半身になって片手で槍を鉛直に保持しつつの、古式泳法臭い泳ぎを教えている。……何であんな泳ぎ方知ってるんだ?一刀の祖父が剣術家か何かだったような気がするから、その繋がりだろうか。

 

「うぇう……やっぱり沙和、落ちこぼれっぽいのー」

「せやな」

 

真桜も、新しい泳ぎ方に最初こそ戸惑っていたがもう既にコツを掴んだようだし。

 

「うっ、そこは否定してほしかったのー」

「実際そうなんやからしゃーないわ。でも、真面目にやったんやから良えやん。それに、ちょっとは進歩しとんやろ?泳ぎに関しては」

「最後だけ余計なの」

 

真面目にやってダメだというのは一番救いがない、というのは言わずにおいた。

 

「聆ー!」

 

「お、私の番か」

「沙和も自主練習しよーかな」

「それは……もうちょい休んだ方が良えんちゃう?危ないし」

「……そーだよね。じゃ、聆ちゃん、頑張ってなの!」

「おうよ」

 

 「さて、聆の水練だけど……」

「うん」

「……あの泳ぎ方って、どうやってるんだ?」

「まず、脚を揃えるやん?」

 

と、近くの岩に腰掛け、一刀に見えやすいように脚を揃える。

 

「んで、足首をひねって――」

 

イルカの尾ビレをイメージしつつ、足首から先を変形させる。

 

「あ、やっぱ常人には無理な感じだったのか。はは、膝とか逆に曲がったりしてる気がしたからそうなんじゃないかなーとは思ってたんだ。動きだけじゃなくて準備段階からダメだったんだな」

「何や失礼な。十年くらいかけて関節ぶっ壊したらできるわ。多分」

「はぁ……つまり無理ってことだろ。他の泳ぎ方は出来るか?行く行くは新兵訓練にも水練が取り入れられるだろうから、一般人にも出来るようなのを……」

「うん。できるで」

「あ、やっぱり?」

「うん」

 

軽く平泳ぎをして見せる。

 

「………」

「………」

「……終〜了〜〜」

「うん」

「はい。終了」

「……何か残念そうやな?」

「い、いや、そんなことないさ。それより、聆、ヒマになっちゃうな」

「それやったら、沙和の練習見たることにするわ」

「うーん、でも、沙和も大分疲れてたしな……。沙和がしたいって言ってたのか?」

「おう。何や知らんけどやる気になっとるらしぃてな。注意して見とくし、浅いとこにしとくから」

「……うん、聆なら安心だな。分かった。頼んだぞ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 パチパチと焚き火の炎が夕暮れに溶け込んでいる。四人は寄り添うようにその炎に当たっている。

 

「これで訓練は終わり」

 

その一言で四人は一気に緊張が解けたようにへたり込んだ。

 

「ふぃ〜〜〜」

「あ、ありがとう……ございました」

「凪、よく頑張ったな」

「たいちょ〜〜、沙和も頑張ったの〜」

「ああ。思った以上に真面目にやってくれて嬉しいよ。でも、ちょっと無理させちゃったかな……?」

「えへへ……たいちょー、すっごく優しい……。ますます好きになっちゃうの」

「なんてちょろい……。疲れすぎて脳味噌までとろけとるなぁ」

「えー、じゃあ聆ちゃんはたいちょーのこと好きじゃないの?」

「……本人前にして言うことちゃうやろ」

「あー!聆ちゃん照れてるのー?かーわーいーいーー!」

「うわぁ面倒くさっ★」

「あ、あのっ……自分も、隊長のことが好きです!」

「な ぜ 今 そ の 宣 言 し た し」

 

ワイワイと軽口を言い合う三人に、自然と笑みがこぼれる。

 

「真桜もご苦労さま」

「なんや、ウチの場合は『も』が付くんかいな」

「私はまだ労いの言葉貰ってすらおらんのやけど?」

「あぁ、ごめん。聆も、今日は苦労かけたな。二人とも機嫌なおしてくれよ……、頼りにしてるんだから」

「もー、しゃーないなー」

「はぁ……惚れたウチの負けなんかな」

「隊長、自分は聆や真桜より……その……頼りにならないのでしょうか?」

「そういう意味じゃないよ。凪には凪の、沙和には沙和の、真桜には真桜の、聆には聆の……一人一人、それぞれにしかない、いいとこがある。誰が誰より劣ってるとか優れてるとか、そんなことは無いんだよ。……こんな言い方はずるいけど、みんな頼りにしてるし、好きだ。可愛い部下だと思ってる。今日は柄にもなく厳しくしたけど、四人のことを思ってなんだ」

「隊長の気持ち……ちゃんと受け取ったで」

「うん、沙和も」

「隊長、今日はありがとうごさいました」

「明日からもたのむな」

 

俺が四人を信頼していて、四人もきっと俺のことを信頼していてくれている。こんな部下を持つことができて、俺は本当に幸せだ。

 

「さてと、ええ話も終わったところでご褒美貰おかな」

「ぐっじょぶ真桜ちゃん!忘れるところだったの」

「実際、隊長も忘れとったくさいしな」

「まぁ、ははは……」

「ご褒美………」

「いや、分かってるよ。みんな頑張ってくれたしな。……でも、今から街に行っても夜になっちゃうし……。ご褒美は明日にするか?」

「いーや、そんなの待てへん」

「今すぐが良いのっ!」

「私も……その、待てません…………」

「待てないっていわれてもなぁ……、そもそも何が良いんだ?」

「そんなん決まってるやん。なぁ」

「そーそー、決まってるもんねー」

「………………」

 

真桜と沙和が目配せをしあい、凪も無言で近づいてくる。

 

「なんや、やっぱりおんなじこと考えとってんな」

「えへへー、だってご褒美なんて一つしかないもん」

「…………」ゴクリ

 

こ、これは……もしかしてそういうことなのか……!?

 

「え、えっと、お手柔らかに(?)」

「まぁちょい待てやお前ら」

 

もう少しでゼロ距離になるというところで静止の声がかかった。聆だ。

 

「もー、なんやねん聆」

「何か奢ってもらいたいんだったら聆ちゃんだけ別に頼めばいいの」

「やから、やめろとは言っとらんやろ。ただな?よぉ考えぇよ。普通にするんやったらいつでもできるやん」

「おい何だその言い草は。俺が軽い男みたいじゃないか」

「軽いとは思とらんで。女の子からの誘いを断れんだけやんな」

 

……否定できないのが辛い。

 

「……まぁ、そ~ゆーワケで、私はいつもと趣向の違うのんを提案する」

「それは……どういう………」

「………」

 

聆はいたって静かにソレを取り出した。赤黒く、巨大で、凶悪なカタチをしたソレは―――

 

「……お菊ちゃん肆式改弐」

 

 

 それからしばらくの間、真ん中が空いた丸い座布団のお世話になった。




カットシーンはそのうちあっちに出します。
……需要無いな。多分。


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第十二章X節その一

何か最近、また下ネタにハマりました。下品なことが言いたくて仕方がないです。

このイベントの後、拠点フェイズを再度挟んでSEKIHEKIに臨みます。


 孫尚香との戦闘から数日経ち、補給線も治安もほぼ計画基準に達しつつある。随分早い気もするが、それもそのはず。この城の近辺は元々袁術派の勢力圏だったのだ。呉はちゃん美羽が孫堅から奪い取ったというイメージが強いが、実のところ、ちゃん美羽がトップになってから広がった領土も広い。もちろんそういうところでは孫家と民衆の繋がりも無いため占領作業に苦労することは無いのだ。ヤバイ。ちょろい。もしかしてフラグか?ここらで左慈ェが出張って来たりしないよな?

 

「ぬ、どうしたのじゃ聆よ。妾が話しておるというにぽへ〜っとしおって。ちゃんと聞いておるのかや?」

「聞いとる聞いとる。乗っ込み鮒の旬についてやんな?でももう過ぎたんとちゃう?」

「全然違うのじゃ!妾が話しておったのは春頃に川で見た魚の大群のことじゃ!」

「それが乗っ込み鮒っていうんですよ。お嬢様」

「む、そうなのかや?」

 

……まぁ、ちょろいおかげでこうしてお茶会(今回は補給部隊の護衛のため春蘭が欠席)ができるのだが。

 

「あー、なんか魚食べたくなってきたなー」

「そんだけ口ん中に菓子詰め込んでまだ魚食べとぉなるか……」

「魚は別腹だぜ」

「どうせ肉と野菜と穀物も別腹なんやろ?」

「へへっ、まぁな」

「だが嵬媼も他人のことは言えないだろう」

「何がーな」

「酒」

「でもそれはアレやん、えーと――

「報告っ!侵入者有り!数は二!少々の押し問答の後、門番を薙ぎ倒して侵入したとのことです!」

 

来たか……!

 

「レイ姉!」

「まぁそう焦るなや」

「何を言っているんだ嵬媼!拠点が襲撃を受けているのだぞ!」

「相手は正門から来とんや……こっちと真正面から当たるつもりやろ。ここは中庭……城の中央付近や。ゆっくり向かっても顔合わせることになるやろ」

「でも早いに越したことは無えじゃんか」

「相手は、こっちが焦ってバタバタ動くことを予想しとるやろからな。むしろ余裕こいて行ったら有利になれる」

「うーん、私は囮の可能性を心配してますけど……。伝令さん、華琳さんの警護はどうなっていますか?」

「はい!典韋様がなさっています」

「んー、んだらかゆうま、そっち行ってくれ。私と猪々子で様子見てくるから」

「……………分かった」

 

何かエラい間が有ったな。だが、警護にも廻ってくれるようになった辺り、かなり成長している。昔なら、今頃侵入者に突っ込んでいるところだろう。

 

「七乃さんと美羽様は……七乃さん、よしなに」

「はいー。任せてください」

「うむ。そちらも必ず賊の首を取るのじゃぞ」

「まぁそれは何とも。……行くで猪々子」

「おう!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 最後の扉をくぐって正面の広場へ出た。一刀と秋蘭、真桜の前で侵入者の片方……黄蓋と霞がやりあっているところだ。……と言っては語弊が有るな。実際には、霞の攻撃は尽くいなされてカウンターをもらいまくっている。……って、あー、ぶっ倒された。原作でも『えっ?』ってなったが、実際見てみるとやはり恐ろしく強い。まず、もちろん霞への対応。あれは、『反応が早い』という感じの動きではない。正しく『相手がどう動くか分かっている』動きだ。むしろ誘導しているようにさえ見える。そしてもう一つ。霞の体をブラインドにして秋蘭の援護射撃を封じていたのだ。単純な戦闘能力に加え、周囲の状況を察知してゲームメイクする頭脳をも持ち合わせているということだ。そしてこれが弓や刀、篭手すらも装備していないガチ素手での戦果で有るというのも付け加わる。これは、ダメだ。マトモにやって勝てるワケが無い。私の能力では倒せない。

 

「きゃんっ!」

 

……って、代わって挑んだ真桜も瞬殺された。死んでないけど。

 

「レイ姉」

「分かっとる」

 

俄に殺気を噴き出しかけた猪々子の肩に手を置き落ち着かせつつ、タイミングを見計らう。どうせ無理だが袖の中の隠し刀の確認もして。……最も自分のペースに持って行きやすい雰囲気で登場するのだ。人間関係というのは七割方ファーストコンタクトで決まる。ここからの二,三言で黄蓋に対して優位を取らなければならない。

 

「さて、次は貴公が来るか?それともそちらの優男か?」

 

したり顔で秋蘭と一刀を挑発する黄蓋。

……今です!

 

「第三の選択肢の私が通りますよー、っと」

 

いかにも何でもないように、近所の河原に散歩に出かけるくらいの穏やかな態度で。

 

「聆!」

「ほう?これはこれは、何が出てくるかと思えば毛の長い熊か?やれやれ、曹孟徳も奇っ怪な趣味をしているものよ」

「なんだと……」

「ちょ、落ち着け秋蘭!」

 

一瞬で堪忍袋の緒がブチ切れたらしい秋蘭。私はその一歩前へ出た。

 

「そう言うタレ乳のお前は何もんや?」

「やれやれ、相手の名を聞く前にまず自分の名を名乗るものだろう。いきなり殴りかかってくるヒヨッコ二人の次が無礼な獣とは……魏とは厄k

「私は『何者か』訊いたんどいや。名前なんか訊いとらんわ」

「…………?」

 

勝った。

戦いに勝利し、魏メンバーを煽りに煽って勢い付いていた黄蓋に謎哲学を吹っ掛けることによって停止させることに成功した。

一緒に来た猪々子含め周りに居る全員がポカーンとしている。

 

「何ボケ〜っとしとんじゃ。早よ答えんかいや(半ギレ)」

「ならお主は何者なのだ」

「毛の長い熊」

「認めるのかよっ!」

「……何だこの茶番は………」

「悪いわね。この娘、真面目な場面でふざけるのが趣味らしいのよ」

「華琳!」

「華琳様!?……お前たち、どうして華琳様をこんな所へお連れした……!」

「しかたないだろう。曹操本人が行くと言って聞かなかったのだ」

「申し訳ありません。お止めしたのですが……」

「そう。私が自ら『行く』と言ったのよ。……それよりこのザマは何?」

「喧嘩Party」

「……オホン」

「はい自重しまーす」

「そちらは呉の宿将、黄蓋ね。私は魏国当主曹操。この者達の無礼、主として詫びさせてもらうわ」

 

実際、城に乗り込んで大暴れした黄蓋の方が無礼なのだが。華琳も逆上するのは相手の思う壺だと理解しているのだろう。

 

「うむ。主君はそれなりに話の分かるものではないか。少々安心したぞ」

「皆が貴女の姿を知っていればこのような無礼は働かなかったでしょうけれどね。……出来れば、初めに名乗って欲しかったわ」

「おお、それはすまん。ついいつものクセでn

「は?意味分からん」

 

とにかく黄蓋の発言にちゃちゃを入れる。

黄蓋は圧倒的戦闘力を見せつけた後尊大な態度を取ることによって今後の発言力を得るつもりのはずだ。だから、そのテンポを悪くしてやる。これによって黄蓋のペースを崩し、場の流れをコントロールしやすくする。多少私への警戒が強くなるだろうが、それまでのこと。黄蓋は作戦のせいで決戦まで動けない。恐れることはない。大丈夫だ。多分。

 

「聆、ここは前まで呉の領土だったから黄蓋さんは何も言わなくても通れたんだ」

 

一刀が説明してくれた。うん、それ知ってる。

 

「それで、その呉の宿将殿が何の用や?まさか、ウチらにケンカ売に来ただけ……っちゅうことはないやろ」

 

いつの間にか起きていた霞が黄蓋に問いかける。

……スタンバーイ………。

 

「うむ。儂は売られた喧嘩を買ってやっただけj

「私に対して開口一番『毛の長い熊』っつったんはケンカ売っとったんとちゃうんけ? 」

「レイ姉、さっき受け入れてなかったか?」

「そう言えばそーやったな。ごめん、続けて?」

「え、ああ。曹操殿、少々話をさせてもらいたい。良ければ、席を設けてはくれんかの?」

「いいでしょう。流琉、手配を」

「はい!」

「華琳様!我々もぜひ同席を……!」

「ええ。黄蓋殿、構わないかしら?」

「無論だ。s

「んだらせっかくやから春蘭さんとかにも参加してもらわん?ちょい遅なるけど。でも遅ぉても明日には戻ってくるやろ?」

「聆、先程からえらく食い気味だな」

「ちょい厠行きたいん」

「……行ってこい」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「……おい」

「はい」

「この書簡を」

「了解いたしました」

 

…………さて、準備は整った。魏のため部下のため、何より黄蓋のために。苦肉の策、完封してやる。




ちなみに作者は祭さんのこと結構好きです。損な役回りにさせて心苦しい……。


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第十二章X節その二

ポテトチップスにコーク。マイブームです。

モタモタしてたら東方二次出す前に淫ピ録発売してまた設定練り直さなきゃならなくなるェ……。
なのに今更インド人ダンス動画ループから抜け出せなくなるなんて……。


 「――我が軍に降りたいと?」

「左様。既に我が盟友、孫堅の夢見た呉はあそこには無い。ならば、奴の遺志を継いだ儂の手で引導を渡してやるのが、孫堅へのせめてもの弔いであろう」

 

結局、黄蓋との面会は以前仮設された玉座の間で行われることとなった。聆の、春蘭たちを待つという提案がきっかけでいつの間にか魏の主要メンバーのほとんどが揃って、面会と言うより軍議みたいだ。来てないのは……春蘭と入れ代わりで哨戒に出た流琉に猪々子と、美羽と靑さんか。靑さんは正体を隠すため元々軍師だけの集まりにしか出てないから予想通りだけど。……面白いのは美羽だ。普段ならこういう騒ぎが起こったときは真っ先に首を突っ込んで来るのに呉の将だと聞いたとたん布団にこもってしまったらしい。

 

「周瑜との間に諍いが有ったと聞いたが……原因はそれか?」

「やれやれ、もう伝わっておるのか。……その噂、どこから聞いた?」

「そんなん言わんでもだいたい分かっとるやろ。それよりまずこっちの質問に答えぇ」

「そう急かすな。……心配せずとも事実だ。その証拠に、ほれ……」

「わっ!?」

 

ちょっと、こんな大勢の前で胸元をいきなり広げるか普通!?

 

「はっはっは。なんじゃ、女の乳房を見ることなど、別に初めてでも無かろうに」

「何の前触れもなく見せられたらびっくりするだろっ!」

「とか言いつつ目ぇ逸しもせぇへん変態長マジ変態」

「やっぱりどうしようもない変態じゃない!早く死になさい!!」

「とか言って俺が目を逸らしたらそれはそれで『何 公的な証拠提示の場で意識してんのよ!気持ち悪い!死になさい!!』とか言うんだろ?」

「あら、よく分かってるじゃない」

「……黄蓋、もう分かったから仕舞いなさい」

「やれやれ、孫呉はもう少し落ち着いておったぞ?」

「耳が痛いわね。……で、先ほどの傷が、周瑜に打たれたという傷?」

 

確かに、黄蓋の胸元には俺がイメージする蚯蚓腫れを数倍酷くしたような傷がたくさんあった。それに、長い髪に隠れて気付かなかったけど、同じような傷が背中にもある。普通、嘘のためにここまでやるとは思わない。俺は黄蓋の寝返りは嘘だって知ってるけど、そうじゃなかったら信じてしまうよなぁ。

 

「赤子の頃は襁褓も替えてやったというに……。我らの孫呉を好き勝手に掻き回した挙げ句、あろうことかこの仕打ちだ」

「なんだ。tdn私怨ではないか」

「それよりもまず、周瑜が孫呉を掻き回した、ってとこに納得行かんのやけど?……桂花さん、周瑜がこれまでに何か下手打ったとか言う情報有るか?」

「無いわね。目立つ奇策は今のところ無いけれど、その分堅実で失敗も無いわ」

「策や政の精度の問題ではない。例えば……そうじゃな。もし、曹操が志半ばで倒れたとき、……そこの優男」

「え、俺?」

「そう、こやつが曹操の後を受けたとする」

「北郷が華琳様の後を……?有り得ぬ!」

「そうよ。秋蘭か、せめてバカだけど春蘭ならともかく……それだけは認めないわ!」

「しかも、コイツが今までの方針……曹操の堂々たる覇道を撤廃し、諸国にセコセコと頭を下げて廻ったら……一体どう感じるか?」

「「殺す!」」

「おいおい……」

「と言うか、今死になさい!」

「どうして仮定の話で殺されなければならないのか……」

「むしろなぜ今死なないのか」

「俺には使命がだなぁ……まぁ、そんなことを漠然と考えてる。多分俺にはそんな感じのアレが有るんだって!」

「はぁ!?アンタがやることと言ったら、毎日毎日食料を排泄物に変えて偶に白子出すだけでしょうが!」

「桂花さん下品すぎやわぁ。もっと『生命の種子』とかそう言う感じの言葉使わな」

「ド屑を表現するのに言葉を選んでやる義理なんて無いわよ」

「そろそろ泣いて良いか〜?」

「……それより、そろそろ続きを言っても良いかのう?」

「あ、はい」

「ほら見なさい。アンタのせいで他人にも迷惑がかかってるじゃない」

「それは桂花が変な言いがかりをつけてくるからだろ」

「言いがかりじゃないわよ。純然たる事実よ、事実!」

「だからそれは桂花の主観d――」

「ォ゛ホン」

「サーセン」

「サーセン」

「ともかく、そういう思いをしておるのじゃよ。今の儂は」

「うむ……む?」

 

あ、春蘭は何の話をしていたか忘れたっぽい。

 

「……このような時代だ。戦に負け、滅ぼされるのは詮無きこと。袁術の元にいた頃も屈辱ではあったが、それを雪ぐ日を夢見て、恥を忍んで生きておった」

 

残念ながらこっちでも美羽が結構好き勝手やってるんだよなぁ。歌が上手いって分かってからは華琳も一緒になってかわいがってるし。

 

「じゃが、その雪辱を果たした先にあったものはどうだ……。儂は……あのようなヒヨッコに好き勝手させるために孫呉を再興させたのではない!」

「……んだらお前が仕切るために再興させたんけ?」

「何……?」

「占領から復帰して、その後を仕切るのがその時最高位の文官なんは当たり前……領主が戦闘特化な場合は特に、や。ほんで周瑜は……?」

「……そうだよな。俺みたいな、自分で言うのもなんだけどぽっと出じゃ無いし。それこそ黄蓋さんが言ってたように赤子の頃から孫呉にいたんだろ?」

「私の知る限り、孫策さんとも子供の頃から仲良しだったらしいですしね〜」

「……そうじゃ。そうじゃよ。確かにあやつは策殿と仲が良かった。………忌々しくも、それを利用しおったのだ」

「利用した、とは納得行きませんね。先程桂花殿も言った通り、周瑜は失策らしい失策など一度もしていませんし、今の地位に収まるのはもはや必然。それに、私が呉の地方を旅したときも、孫策と周瑜について不満を述べる者はほとんど居なかった。むしろ孫堅が蘇ったようだとすら言われていました」

「お主が旅したのはまだ袁術の支配下に有るときじゃろう」

「お嬢様がいるときといない時でそんなに態度が急変したんですかぁ?それならしかたないですけど、少なくともお嬢様がいる時は、むしろ黄蓋さんがサボってお酒を呑んでやりたい放題してるって情報が監視官から届いてたんですけど〜?」

「ん?おかしいなぁ〜〜?なぁ?黄蓋さん?」

「何が『あのようなヒヨッコに好き勝手させるために孫呉を再興させたのではない!』ですか……」

「そもそも周瑜が気に食わんからって魏に来るんがおかしいやろ。勝手に暗殺でもしとらんかい」

「ちょっと筋書きに穴あり過ぎですよ〜?」

 

聆、禀に七乃さんと、魏でも特に現実思考な三人が次々に黄蓋を叱責する。俺の知ってる黄蓋と周瑜の確執は演技だ。そして、それはおそらくこの世界でも同じ。いかな宿将黄蓋でも、白を黒と言い張ることはできない。できるとすれば、力で無理やり同意させるか、勢いで流しきるかだけど……そのどちらも今の黄蓋には無い。しかも、この流れでいくら本当だと主張しても、むしろそうするほど嘘臭くなる。

 ……この分なら、俺が出張らなくても赤壁の戦いは勝てるんじゃないか………?史実でも、『郭嘉が居れば赤壁で負けることは無かったかもしれぬ』って曹操自身が言ったらしいし。

 

「よくそんな策でのこのことここまで来れましたね?」

「目的は諜報か暗殺か放火か……はたまたその全てか………」

「なんにせよ敵意見え見えや。文字習うとっから兵法やり直し」

「はぁ……貴女たち、そう必死にならないでちょうだい」

 

と、ここまで沈黙を守っていた華琳が三人の言葉を遮る。

 

「私もこの者を信用しているわけではないわ」

「なら……」

「名の知れた大将軍、黄蓋を寄って集って罵倒した挙句に追い返したとあっては沽券に関わるのですよ〜」

「風の言う通り。……黄蓋ほどの将がここまでしているのだもの。もし計略だというならば、それを見届けた上で使いこなして見せるのも、覇王の器というものでしょう」

「……なるほど。華琳さんの思う覇王とはつまり夏虫のことっちゅーワケや」

 

さっきまでの空気はどこへやら。聆の周りの空気が、まるで戦場にいるときのように淀み、沈み、凍った。

 

「……へぇ、言ってくれるじゃない」

「そら言ぅたるわ。見えとる罠に掛かって自分が怪我するんは結構。やけど、それで死ぬんは兵なんや。『見届ける』って言いよったけど、そのためにどんだけ無駄な犠牲が出るか分かったもんとちゃうやろ。評判とか沽券とか、そんなん誰が言いよんよ。民にしたら、戦に駆り出された男共が帰って来ん方がよっぽど恐ろしい」

 

いつに無く真剣な聆。そして、その目の見据える先にいる華琳の様子を、皆が息を呑んで見守る。

 

「…………しかたないわね」

 

どれくらいたっただろう。華琳がため息混じりに呟いた。

 

「黄蓋、……と、そこの娘、……」

「ほ、鳳雛でsy、す!」

「そう、鳳雛。二人は、取り敢えず今日はここに泊まりなさい。そして、明日………からは、聆の下に仕えなさい」

「な……!?」

「そんなに不安なら、貴女が直接見張ったらいいんじゃないかしら?違う?」

「華琳様!聆の隊の特性上、何を企んでいるかも分からない部外者を入れるなど……危険過ぎます!」

「もう決まったことよ。気に食わないなら勝手に暗殺でもしてちょうだい。……他に何か有る?………無いようね。では、これにて解散。黄蓋と鳳雛は秋蘭の案内に従ってちょうだい」

 

そして華琳は有無を言わさず議論を打ち切って、さっさと奥の部屋に引っ込んでしまった。他のみんなも、それぞれ鎮痛な、或いは不安げな表情で玉座の間を去る。残ったのは、俯き歯を食いしばる聆…………と、大急ぎで酒を持ってきた侍女だけだった。




聆「だ…駄目だ まだ笑うな…
  こらえるんだ…
  し…しかし…」


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第十二章X節その三

缶の中にゼリーが入ってて、振ってから飲むやつあるじゃないですか。
アレ美味しいですよね。お酒で同じようなのってあるんでしょうか。

さて、今回は久しぶりに2000字未満です。
というのも、ここから作者は何をとち狂ったかパターン分けしてパラレるんです。
そういう都合できりのいいトコで切ったらこの短さになりました。
長い言い訳は要らんから良い文を書け、って?
ゴメンネ!


 「――こちらです」

 

謁見の後、黄蓋と鳳雛の二人は客室に案内された。侍女が恭しく戸を開き、入室を促す。

 

「二人一部屋……ということで、宜しかったでしょうか?」

「うむ。見知らぬ地で一人で眠れるほど、この娘は肝が座っておらんからな」

「あわわ……」

「左様でございますか。……では、何かご用向きがございましたら、気兼ねなくお申し付けください。私はこれにて」

 

長い赤髪を揺らすことなく一礼し、音もなく去った。

 

「………行ったか。……それにしても、とても確実に裏切ると評された者への扱いとは思えんの。先程の者、側仕えの中でもかなり高位と見える」

「この部屋も……相当」

 

部屋の中をサッと見回しただけでも、その調度品の質の高さが覗える。派手ではないのだが、どことなく高級感が感じ取れる。住みたい部屋に順位をつけるなら間違いなく上位三位以内には入るだろう。

 

「そうじゃのう。魏の基準がどうであるかは分からんが、呉でこれと同じだけの部屋を用意される客人は……それこそ同盟国などの領主くらいであろう。……簡単にじゃが茶と菓子も用意してある」

「周りからの評価はどうあれ、曹操さんは黄蓋さんを客将として扱う気のようですね」

「その辺はお主の予想通りじゃったか。罠だと忠告されて尚、儂らを受け入れると……」

「魏軍がここまで強大なのは一種風評の力でもありますからね。曹操さんもそれを自覚しているでしょうから、常に必要以上に堂々とする傾向にあります」

「強者も辛いということか……。まぁ、そこまでは良いのじゃが、鑑惺の下に付けられたのはちとまずいのぅ」

「いえ……そう悲観することでもありません。多少は動きにくくなるでしょうが……、この待遇から推測しますと、恐らく、鑑惺さんにも、私達の自由をある程度保証するように命じられているでしょう」

「なるほどのぅ……。それにしても鑑惺、侮れぬ奴よ………」

「あの曹操に啖呵を切ったのもさることながら、終始私達の話の流れを遮るように発言していました」

 

友人の言や武将たちの評価、定軍山の一戦を頭の中で反芻する。狡猾で冷酷な蛇なのか、民を守るために全力を尽くす烈士なのか。……或いはその両方か。

 

「その辺もそうなのじゃが……儂が言いたいのはどちらかと言うと戦闘の方じゃ」

「戦闘、ですか?でも、まだ構えを見てすら居ませんよね……?」

「うむ。……いや、アレはそうと言えるのか……、鑑惺と最初に顔を合わせたとき、覚えておるか?」

「はい。夏侯淵との間に割って入ってきたときですね。……やっぱり、構えてなかったような?」

「そうじゃ。奴はそれこそ、その辺に散歩に行くかのような足取りでやってきて、その後も少し立ち話をする程度の立ち姿じゃった」

「………??」

「……儂ほどになるとな、気配やら殺気やら……そういうもので相手の行動を読めたりするものだ。奴は、『臨戦態勢』じゃった。だが、奴の姿勢はどう見ても動けるものではない。関節というものは曲げるにしろ伸ばすにしろ余裕がある状態でないと十全の力を発揮せんからの。自分が感じている危機感と、相手の姿の齟齬……一体どういうことなのか……何か儂の知らぬ武器や術を持っていると見て相違あるまい」

 

 暫しの沈黙。

どうして部隊長風情がこうも大きく立ちはだかるのか。或いはこれも罠かもしれない。鑑惺に注目させておいて他の何かが動いているのか。例えば張勲。袁家の名を利用するだけ利用された後は歌い手の真似事をさせられていると聞いていたが、今回の謁見ではきっちり発言していた。

 本物かどうかも分からない地図を手に見知らぬ土地の夜道を歩くような不安が二人を襲い、どちらともなく溜息がもれる。

 

「……いや、儂らはすべき事をするのみ。それに、分からんことはこれから調べれば良いのじゃ」

「……そうですね」

「ふむ……そうと決まれば、まず腹ごしらえじゃな。遠慮なく申し付けろと言われたが……勝手に外に出てその辺の使用人に声をかけろということかのう?」

「状況的にそうなるかと……」

「普通の客人でもそこまで自由にはさせんぞ……。曹操め、鑑惺に言われてムキになっておるのではないか?部屋に籠もっておっても気が滅入るだけじゃから、好都合ではあるのだが」

「取り敢えず出てみませんか?何か言われても、よく分からなかったと言い訳すればいいですし……」

「はっはっは!お主も中々言うのう。そうじゃな。では、行くとしよう」

 

黄蓋と鳳雛は、何とか気分を持ち直して戸を開いた。

が、すぐにまた予想外の光景に辟易することになるのだった。




パターンα→イージーモード
パターンβ→ハードモード


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βルート
第十二章X節その四 〈β〉


これは 第十二章X節その三 からの分岐です。

くっそ時間掛かりました。
さすか(作者にとっての)ハートモード√です。

『天才を描くには作者自身も天才でなければならない』
作者の天才力が試されてます。


 黄蓋と鳳雛を部屋に入れ、一先ず落ち着いた城内。……しかし、しばらく経ったころ、また少しザワつき始めた。

 

「……なんだろう、さっきから外が騒がしいな」

 

警備報告書の整理を一旦おいて、ふらっと外に出る。

 何か面白いことをしてるんなら丁度いい気分転換になるし、バk……いつものメンバーが羽目をはずしてるんなら注意しなきゃな。……それで止まってくれるかは微妙だけど。

 

「って思ってたけど、どっちでもなかったぜ」

 

 耳をたよりに倉庫の方に行ってみると、なんてことはない。出兵の準備だった。武器庫から武器が運び出され、食料庫から食料が……て、待て待て。ちょっと大掛かり過ぎないか?確かに最近、哨戒やら賊の討伐やらの出撃命令は出てるけど、今日はもう春蘭が出てたし、そもそもそんな規模の作戦じゃあこんな騒ぎにはならない。大隊規模の人数が動く雰囲気だ。

 俺も、形式的にとは言え将軍格。大きな作戦が有るなら知らされるはずなんだけど……。

 

「ちょっと、コレ何やってるんだ?」

「はっ。詳しくは聞いておりませんが張勲様、鑑惺様による指令の下 出兵準備をせよとのことです!」

「聆と七乃さんが……?」

 

聆と言えば、西涼攻めや定軍山の戦いに代表される特殊作戦のエキスパート。七乃さんはと言えば同じく定軍山の軍略のことも有るし、何より元々この辺りを収めていた実績が有る。

 

「なら、今回もそういうノリか……」

 

考えられるのはやっぱり何か大掛かりな奇策の準備だろう。華琳ってそういう作戦思いついたら味方にも黙ってるしな。さっき言い合いしたばかりだけど、二人ともそういうのはキッチリ割り切るタイプだし。そういうところは見習わないとなぁ。

 作業の邪魔しちゃ悪いし離れてよう。っていうか俺も仕事有るから部屋に戻らなきゃな……。これだけみんなが働いてるのを見せられてるのにサボれるほど俺は腐ってない。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 その少しあと。物々しい雰囲気を漂わせる地下室では、やっと軍師会が終わろうところだった。といっても、議題でもある黄蓋の件が影響してか鑑惺は不参加。そして、調子の悪い馬がでてきていて風土病が疑われるとのことで、その対処のため馬騰も出席していない。よってメンバーは荀彧、郭嘉、程昱、張勲の所謂純粋な軍師連中に曹操を加えた五人だった。

 黄蓋をどう扱うかについての話が中心ではあったが、その話し合いは歪なもの。本来なら、三対一で厳しい監視もしくは追放が決定されるところだが、そこに主である曹操が。

曹操の意見は『黄蓋を客将(そこまででなくても好待遇)として扱う』ことだとハッキリしている。……のだが、それを言葉にしない。ものすごいシャレにならんレベルの不機嫌オーラを出しながら座っているだけなのだ。

 反黄蓋派としては発言し辛いし、しかし日和って自分の意見と違うことを言うのも軍師としてのプライドが許さない。黙っているしかない。

 ならば賛成派の程昱はどうかと言えば、議論を仕切っていくタイプではないし、そもそも対案を出していく型を得意とする。よって、一方的に議論展開して即終了ともならなかった。

 つまり……話し合いではなく、黙り合いと言った方が適当な会であった。

 

「――では黄蓋については、注視しつつもある程度泳がせるということで……?」

「ええ。それで構わないわ」

「……難題ですね」

「それを踏み越えてこそ、よ。もう良いわね?」

「………」

「………」

「では、臨時軍師会議はこれにて解散各自通常の職務に戻るように」

 

曹操の言葉によって、無駄に疲れたメンバーは解散を始めた。

 

「……黄蓋さんのこと、本気ですか?」

 

真っ先に扉を潜ろうとした張勲が、はたと立ち止まって問う。一人 椅子に深く腰掛けたままの曹操は、それに無言で返した。

 

「……」

 

再び向き直った張勲は、今度はもう振り返ることなくその場を後にした。

 

 

「遅かったじゃん」

 

地上に出たところで、文醜が出迎えた。

 

「ホントですよ。もぅ嫌になっちゃいますよね〜。曹操さんの遊び癖には」

 

二人はそのまま急ぎ足で廊下を進む。

 

「遊び好きなのはお嬢も一緒だろ?」

「お嬢様は可愛いからいいんです〜。……で、そっちの準備の方はどうなんですか?」

「だいたい済んでお嬢ももう出発してるぜ。『遅い!七乃は何をやっておるのじゃ!』なんて言いながらな」

「そのモノマネ似てません」

「悪ぃ」

「それで、気取られていませんね?」

「一人だけ心配だった秋蘭はありがたいことに自室に篭ってたし、あとは聆ねぇと七乃っちの名前出せばだいたい変に納得して引っ込んだな。でも……霞はちょっと引っかかってるっぽい。そっちには行ってないよな?」

「ええ。本当に何も問題無く」

「お固い組織ってのは、上が止まったら全部死んじまうから嫌だなぁ。さて、と」

 

食料庫の中に入る。

普段欠かさず居るはずの倉庫番は、今は居ない。

 

「……何か、猪々子さんがそーゆーことやってると違和感が凄いですね」

 

その場に有った縄と油で簡易の導火線を作っていく文醜を見て、目を丸くする。

 

「あたいも真正面から切り合う方が好きなんだけどなぁ」

「いえ、そうじゃなくて、工作する程の知恵が有ったんだなって」

「ん?一緒に燃やしてやってもいいんだぜ?」

「遠慮しときます」

「遠慮なんかしなくてもいいのに。さて、できた」

 

幾度か折り返されながら床に置かれた縄。その片端は運び出された後の残りの食料へと続いている。火事が起こるまでの時間差を作る簡単な仕掛けだ。

 

「これで私たちの仕事は終わりですね」

「意外と火が広がるの早いからゆっくりはできねぇけどな。あ、火ぃ起こしといてくれた?」

「もちろん」

 

張勲がいつの間にか用意していた火種で導火線を作動させる。小さな炎が少しずつ進んでいく。

 

「じゃ、急いで行くか!」

「はい!行っちゃいましょ〜」

 

 

 時は少し遡り二人が倉庫へ急いでいる頃。同じく執務室へ急いでいた荀彧と郭嘉は奇妙な違和感を感じ取っていた。

 

「……おかしいわね」

「ええ。何か様子が……」

「劇的にではないけど、静か過ぎる……。人が……減っている?」

「まさか、黄蓋が……?」

「そんな、争ったようなあともないわよ。……そこの!」

「は、はい!」

「この半刻の間に何かあったか?」

「え?えっと、兵の出撃が有ったのですが、荀彧様はご存知ないのですか……?」

 

使用人の予想外の言葉に、二人は顔を見合わせる。

 

「聞いていない。……有り得るの?そんなことが」

「兵の出立、そして帰還の際には必ず私達に連絡が入るはず。それにそもそもこんな予定は……これはどういう…………?」

「まず、落ち着きましょう。このただでさえ面倒くさい時期に私達が動揺しているのを見られては軍全体の統率にかかわるわ」

「そうですね。では、まず考えられるのが報告漏れ。……徹底するように言い聞かせてありましたが。次が、華琳様直属の極秘作戦。しかし、それにしては使用人にまで認知される程の大規模……」

「やっぱり納得行かないわね。七乃と風を呼びましょう。風は確かあの後すぐ自室に引っ込んだのよね?あと、華琳様に確認を。それと秋蘭、霞、聆、北郷に遣いを出しましょう。約一名不本意な奴が居るけど、この四人なら比較的正確に情報を集められるはずよ」

「いえ、この際その四人も含め、将軍格を一度呼び寄せましょう。その方が状況を整理しやすいはずです」

「……そうね。じゃあそうしましょう。……黄蓋の監視も強めましょう。今は緊急事態……華琳様もわかってくれるはずよ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 なんでこう、今日はゴタゴタしてるんだろうなぁ。

 せっかく机に向かって気合を入れ直したのに、その途端に呼び出されて今は小さな会議室に居る。

 

「――全員集まったようね」

「全員……って言うにはちょっと少ないんじゃないか?」

 

いつもの半分くらいに見えるんだけど……。

聆と七乃さんは任務があるとして、余所者の黄蓋と鳳雛を何か重要な話には呼べないのは分かる。けど華雄と猪々子に真桜、普通の会議には出ないのに緊急会議にはいつも出てる靑さんも居ないのは不思議だ(美羽はもとから除外)。

 

「確かに、言葉が不十分だったわ。……"所在の分かっている者は"全員集まったようね」

「それって……?」

「まるで今居ない者は行方不明であるかのような……」

「『行方不明であるかのような……』じゃないわよ!コイツらどころかその辺の兵も武器も減ってるし文官も消えてるし工兵隊舎と厩に至っては蛻の空ッ!!」

「……!?」

「は?」

 

言ってることがよく分からないんだが……。いや、分かる。一応分かってるぞ?色々消えてるんだろ?

でも……

 

「待て、そんなこと有り得るのか?」

 

兵が減るのは分かる。武器も。だけど、文官が減るのは新たな領地できたときくらいだし、工兵隊とか馬とか、そういう一ジャンルが完全に枯渇するのは有り得ない。絶対に。

 

「有り得ないわよ!普通は!!」

「しかしコトは実際に起こっているのですよ……」

「ですから問いたい。私達が会議をしている間に貴方たちは一体何をしていたのか?」

「あんた達を呼ぶためにちょっと遣いを出しただけでこんだけメチャクチャだって分かったのよ?何やってたのよ!?あんたたちは!!」

「桂花。そんなに捲し立てる必要は無いわ」

 

半分泣き声になりながら叫ぶ桂花を、華琳が制する。

 

「華琳様……」

「コレはたった一言の問いで真相が明らかになる簡単な事象よ」

 

そしてゆっくりと俺を見据えた。

 

「上に居た者も異変には気づいたはずよね。……そのとき、なんと説明を受けた?」

「………聆による指揮だと」

「そうでしょうね」

 

華琳は納得したというように頷いた。

 

「私は聆にそのような命令を下していないわ」




……つまりどういうことだってばよ?

続きはWEB(次話)で!


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第十二章X節その五 〈β〉

数日前からちまちま組み立てていたMGガンダムダブルエックスが完成しました。脚の可動域がヤヴァイ。

そして相変わらずよく分からんβ√。
嘘をつくことと情報を与えないことと情報を選別することは別です。


 「私は聆に出撃命令を出していない。もちろん七乃にも」

 

華琳の言葉に、皆 口を閉す。緊張か混乱か、そうでなければ……恐れか。

 

「もちろん軍師や将軍が個人で兵を動かすことも有るわ。ただ、それは取るに足らない小規模な戦闘や、緊急の防衛のみ」

 

華琳が何を言おうとしているのか、はっきりと分かる。そして、ほかのみんなも同じように感じていることが。

 

「………ふふ……あははははっ! 掴みどころの無い娘だとは思っていたけれど、まさか、本当に、こんな風になるとはね。戦闘も暗殺も……血の一滴すら流さずにこの曹操から兵を盗むとは!!」

 

認めたくなかった事実が、華琳の口から出る。

 

 聆が裏切った。

 

頭では『それしかない』と結論が出ているのに、心では『それだけはない』と頑なに拒絶している。頭がグラグラして、胸が締め付けられる。何か言おうとして口を開けても、何を言ったらいいのか分からない。

 

「か、華琳様!絶対に何かの間違いです!!私が今すぐ聆に確認を……!」

「馬もないのにどうやって?」

「私が走れば何とか……」

「一人で行ってどうするの。消されるか、最悪貴女も丸め込まれるか――」

「火事です!食料庫から火の手が!!」

 

追い打ちをかけるように伝令が飛び込んでくる。それに応える華琳の表情は不自然な程に落ち着いている。

 

「消火は始まっている?」

「は、は!すでに周辺の者を集めて作業にあたらせています!……ですが、蔵の中は――」

「もう良い。延焼の無いようにだけ徹底しなさい。行け」

「はっ!」

「……はぁ。どうやら完全に封殺されていたようね……。後を追うどころかここに留まることすら不可能と。さて、何か言いたいことがある者は居る?無ければさっさと人員をまとめて戦線を退げたいのだけれど」

 

軽くため息をついて、まるでどうでもいいことを流すように言い放つ。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

やっぱり誰も何も言えない。凪も俯いてしまっている。

 聆の裏切りに、みんな思い当たるところがあるんだ。

そもそも聆は華琳に忠誠を誓っていない。血塗れになって戦うのは民や部下や友達を守るためだと言っていた。黄蓋の一件で、華琳の下ではそれができないと思ったのかもしれない。

そして、実際に反逆をするだけの人脈も有る。今回どれだけの影響があったかは分からないけど、聆が一声かければ軍の情報伝達を遅らせるくらいできるはずだ。

 

「なr――」

「何でそんなに冷静なんや?」

 

華琳が再び口を開こうとしたとき、霞の声がそれを遮った。

 

「……どんな顔をすればいいか分からないからよ。話はそれだけ?」

 

依然として落ち着き払った態度。でも、俺は違和感に気がついた。普段の華琳なら『焦れば好転するわけでもないでしょう?』くらいは言うはずだ。華琳も動揺している。俺たちと同じ気持ちなんだ。

 

「……これより我らはこの城を捨て、補給部隊と合流しつつ戦線を後退させる。今日、そして明日……補給隊と合流するまでは特に厳しい情勢となることが予想されるが、略奪や諍いが起こらぬよう、各自 部下を確実に管理するように」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 建業への道をひたすら進む。夕日にかかる城の影がどんどん小さく暗くなって、ついに見えなくなる。

 夜も少しの休憩しかない、兵には随分キツい行軍速度ではあるがこちらには食料が捨てるほど有る。精神面での負担はそれほど無いはずだ。

 

「――しかし、本当に追ってこないものだな」

「馬は全部こっちが取ってんし、食料も運び出せるだけぶん盗ったからなァ。ある程度離れちまえばこっちのモンよ」

「つっても残りの食料ちゃんと燃やせたか分かんないぜ?あたいらを探すときに見つけるかも」

「そんならそれでええわ。どうせあの量や軍を維持できん」

「それに、私達が呉と通じていて待ち伏せを仕掛けているー……なんてことも予想できちゃうでしょうし。結局、補給部隊と合流しながら後退するしかないんですよねぇ」

「以前の国境付近まで退くかな。多分」

「裏切りの報を受けて本国も混乱に陥るでしょうから、勝負は五分五分よりちょっと魏が不利ですね」

「ほっほっほ♪妾もそろそろ民としての暮らしに飽きておったところじゃ。七乃、地図をもて!妾が仲帝国の遷都を行うぞよ」

「気が早いですよお嬢様〜。ここからすっごく大変なんですからぁ」

「そうだ。あたいは細かいとこ聞いてないんだけど、どういう計画なんだ?」

「まず呉に入って適当にねじ込みます」

「いや、そんなことできるのか?」

「呉は良くも悪くも身内贔屓やからなぁ。結束は固いけど人材の面で弱い。名のある将は片手で収まる程度しか居らんしな。やから、こっちが脅せばある程度は聞くやろ。向うもしょうもないとこで消耗しとないやろし」

「それにメチャクチャ言うつもりありませんから」

「ふむ……向こうとしても受け入れた方が得、か。」

「うみゅぅ……孫策がおるのかや………」

「なんぞ言うてったら私がぶっ潰したるから心配せんで良えんやで」

「うわぁ……!」

「ちょっとー!お嬢様を守護るのは私の義務であり権利ですよ!」

「んだら別に七乃さんが孫策と殺りあってくれてもええけど……?」

「ぐぬぬ……」

 

まぁ、本音で言えば私も孫策とはやりたくないんだがな。勘で戦うタイプの奴は苦手だ。

 

「……んで、その次は蜀との同盟を進める」

「それでなんだかんだで蜀に移って乗っ取ります」

「雑だなぁ」

「ってか、臨機応変にせなしゃーないやろ。それは」

「……なぁ、それで凪や沙和やたいちょーはちゃんと生かしてくれるんやろなぁ?」

 

一人浮かない顔をして黙っていた真桜が不安げにつぶやいた。

"私に"ついてきたかゆうまや猪々子と違って、真桜は華琳への不信を煽って、半ば強引に連れてきた。『華琳は遊びで戦をしている。このままでは皆死ぬことになる』と。

 

「……向こうが自棄になって突っ込んできたら何とも言えん。やけど、魏は基本的に曹操の一存で動いとる。戦で曹操を叩きのめせばそれでケリが付くやろ」

「それも挑発すれば割とすぐ出てくるでしょうしねぇ。自分から罠に掛かりに来てくれる敵なんて楽勝過ぎてあくびが出ますよ〜」

「……そうか。せやな」

 

真桜が何か覚悟したように頷く。

まだ安心はできていないようだが、無理やり抑えたって感じか。

 

「んだら、皆それぞれの場所に戻ってくれ。猪々子とかゆうま……二人は後ろについて。特に注意してな。はぐれやらが出たらめんどい。あと真桜も職人らの様子よぉ見といてくれな。神経質なんやろ?」

 

もう日が落ちて見通しも悪くなってきた。何か碌でもないことが起きるとしたら今だ。

 

「うん。まぁ、やることはやるわ」

「お嬢様はあっちの馬車でおねんねしましょうね〜♪」

「うむ!」

「それじゃ、聆さん、靑さん。先頭はよろしくおねがいしますね」

「おう」

「美羽様寝たら七乃さんも来るんやで」

 

私の念押しに、七乃さんは軽く微笑んで返した。……これは来ないつもりだな。

 

「馬車ってかなり揺れると思うんだがなァ。美羽、寝れんのか?」

「あー、何か、鳥の巣みたいに布団よーけ詰め込んどるらしいわ」

「そりゃ贅沢なことだ」

 

ちゃん美羽は蜂蜜もさることながら寝具についてもうるさいからなぁ。城の寝台も一人で三人分くらい要求するし。七乃さんが言うには、本当は意外とどこでも寝られるらしいけど。

 

「……で、だ」

「何や」

「真桜やらにはあの説明で良かったのか」

「全貌を知っとる奴は少ない方が良え。そもアイツらの持っとる情報が何だろうが、私と七乃さんの指示に従うことに変わりない」

「…………こりゃ翠も手玉にとられるわな」

「言っとくけど定軍山の策は七乃さんが主やからな?」

「知ってる。だから二人あわせて悪鬼羅刹だ」

「なんで私ほど思いやりに溢れた人間が妖怪呼ばわりされるのか」

「分かってねェなら医者に診てもらうべきだ」

 

軽口を言い合ううちに夜は深まっていく。

 

 神算鬼謀が渦巻き、誰がどう動くか分からない。もはやこの戦の行く末は誰にも読めまい。




次回はみんな大好き孔明さんの登場です。正直絡みとしては聆って蜀の方が合ってそう。


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第十二章X節その六 〈β〉

ループを体験した気になってみようと思い、まどマギのBADENDssばかり連続で読む遊びをしてみました。
杏子ちゃん以外全員嫌いになってしまいました。やらなきゃよかった。

そして恋姫凡夫名物、妙に長い問答パート。
β√のテーマは『現金を懐に仕舞うまで信用するな』です。
そのことをしっかり意識してないと凄く混乱します。
作者ですら何書いてんのか分からなくなりかけましたから。


 「我は鑑嵬媼!曹操を倒さんと、呉と結ぶべく参った!貴公らに交渉の意思があるならば、どうかこの門を開けられよ!!」

 

夏口近辺の出城。呉、そして密かに同盟を組んでいた蜀の面々が待機している城だ。その門を前に、鑑惺が声を張り上げている。

 

「……やっぱり、分からないわね」

 

 予想より遥かに早い魏の出撃の報から数日。そして、その数が予想の四分の一以下であると分かったのが一昨日。そして、その実 鑑惺による反乱だと伝えられたのが昨日。

 そして今、実際にその一団を前にしている。

が、孫策にはイマイチ納得がいかない。

 

「……なぜこの時期になって反乱を………?」

「それは本人に訊いてみるしかないでしょう」

「門を開けろっての?」

「そうです」

「涼しい顔して言ってくれるわねぇ。他人の城だと思って」

「……いや、雪蓮。ここは諸葛亮の言う通りにするわよ。魏軍はあの数でも十分に脅威。そりゃ負けることはないでしょうけど戦えば余計な被害が出るわ。向こうが下手に出ているところにワザワザ喧嘩を売るのは避けるべきよ。……そして、放っておくなど以ての外」

「一度話を聞いてみるのが無難でしょう。…………話を聞くと言って内に招いてしまえばこちらの将で囲むこともできますし」

「はいはい分かったわよ。孔明ちゃんのそのわっる〜い顔に免じて言うこと聞いてあげる。開門よ、開門。さっさと開けちゃって」

「はっ!開門ッッ!!」

 

孫策の軽い言葉と対照的なハキハキとした門番長の声を合図に、門が重々しい音をたてながら開いていく。

 

「じゃあ、玉座の間に通すからみんなを集めてちょうだい。向こうには上から三人だけ連れてくるように言っておいて」

「人選には気をつけてくださいね。孫策さん」

「分かってるわよ」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 蛇鬼鑑惺をむかえるべく集まったのは孫策、周瑜、陸遜、諸葛亮、黄忠、厳顔そして劉備の七人。玉座の間がこれまでに無い張り詰めた雰囲気で満たされる。如何に経験と知識の豊富な者達といえど、相手は得体の知れない存在。嫌でも表情が硬くなるというものだ(一名除く)。

 短いながらも極端に永く感じる時間の後、扉が開き、訪問者が招き入れられる。

 誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「仲帝国成就のために!江東よ!!妾は帰ってきたッッ!!!」

 

 むせた。

 

「え、袁術!?」

「うむ、久しいの。そ、そんしゃく」

「お嬢様ぁ……ここは自信満々にキメようって言ってたじゃないですかぁ」

「さっそくブルってますよお嬢」

 

黒い鬼の巨体が入ってくるかと予想していた蜀呉の面々は、突然のお気楽三人組の登場に一瞬呆気に取られる。

 

「……えっと……聆さんは?」

「聆さんならそちらの言いつけ通り、門の前の広場で待機してますよ。……それより、劉備さんって聆さんのこと真名で呼ぶんですねぇ」

「はい……。私達がまだ小さな軍だったとき、お話ししたんです。お酒の席だったんですけどね」

「ああ、そう言えばそんなこと言ってましたねぇ。会うのが楽しみだって言ってましたよ」

「そうですか……。私もあれから色々経験して、思うこともありましたから、ぜひ」

「劉備」

 

至って和やかに話しはじめた劉備を、孫策が窘める。

 

「あ、……すみません。張勲さん?……ですよね。あの、今は蜀呉で同盟を組んでいるので孫策さんの話も聞かないとです……」

「それより桃香様……こちらもちゃんと話を聞かないうちから友好を結ぶ前提で話をするのはちょっと」

「え、そんな風になってた……?」

「なってましたよ……」

「でも確かに"鑑惺さんと話す"流れにはなってたけど、それが同盟と直接つながるワケじゃないよね?そこには気をつけて話してたから大丈夫だよ」

 

主の予想外の返答に、諸葛亮は次の言葉が出ない。

 

「「……つまりどういうことなのじゃ(んだぜ)?」」

 

言葉を発することができたのは、そもそも何を言っているのか分からなかった二人だけだ。

 

「………お茶だけしてソッコー帰らせることも、あの人の頭にあったってコトです。……あーあ、取っ付きやすそうな人からさっさとおとしちゃおうと思ってたのに……意外と厄介な娘みたいですねぇ」

「また騙す気だったのね。張勲」

「騙すなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいよぉ。ただの省略ですよ。省略。どーせ一緒になって曹操さんを潰すだけなのに長ったらしい質疑応答なんてお互いに損なだけじゃないですかぁ」

 

射抜くような孫策の視線をお得意の慇懃無礼な笑顔であしらう。

 

「ちゃんと一緒になれるかの確認のための質問なんだけど?」

「今更質問することなんて有ります?」

「こっちとしては納得行かないことだらけなのよね。まずなんで上から三人と言われて貴女たちがここに?」

「その前に聞きますけど、上から三人って、団体での階級とか権威の話ですよね?上から三人って言われてこちらもちょっと悩んだんですけど」

「ええ。そうよ。それで何で鑑惺が入ってないの?」

「いえ、最初にお嬢様が仰った通り私達の最終目的はお嬢様を主とする仲王朝の成立ですから〜、お嬢様と袁家縁の者である我々が妥当かな〜って。それに、魏軍での聆さんの立場も部隊長でしかありませんでしたし」

 

イマイチ納得がいかないというか、モヤモヤする返答だが何も文句がつけられないのも事実。

 厳顔から新たな質問がなされる。

 

「何故に反逆を企てたのだ」

「曹操さんが勝ちを確信してゆるゆるになってたからですよ。そっちの仕掛けた策にも平気で自分から掛かりにいきましたし」

「しかし離反するには他にも時期があった筈。桃香様が蜀を建ててすぐの戦では、鑑惺は敵中の曹操のすぐ隣に居たそうではないか。曹操を倒すのであればその時の方が楽だったろう」

「あの時は聆さんと連携してませんでしたもん」

「そもそも何故鑑惺がお前たちと共に?」

「お嬢様が可愛いからじゃないですかね?って言うかさっきから鑑惺鑑惺って、そんなに聆さんが好きなら本人から聞けばいいじゃないですか!」

 

 

「……えーっと、上から三人って言ったんはそっちやったと思うんやけど?」

 

 代わって呼び出された鑑惺は、親しみ易い砕けた口調で話しはじめた。

……光の無い濁った瞳との対比でこの上なく不気味だが。

 

「悪いわね。こちらとしては貴女が首領だと思っていたから」

「はぁ、こんな小物相手に買いかぶりすぎやなぁ」

「よく言うわ……」

「それで、訊きたいことってのは?事情説明やったら七乃さんがちゃんと一通りやってくれたやろ?」

「はい。鑑惺さんには、鑑惺さん個人の動機を説明してもらいます」

 

むしろ鑑惺個人の動機が、反乱の本来の目的だと踏んでいる。

 

「真実でも説明すればするほど嘘臭なるから嫌なんやけどなぁ」

「裏切る機会ならこれ以前にも多々有ったはず。それを、なぜ曹魏による統一目前のこの時期に起こしたのか……。気まぐれで反逆を起こすような人物ではこちらとしても対処しかねますから」

「……説明するんはええけどその『裏切る』っちゅーん止めてくれん?私は裏切ったつもりなんかさらさら無いし」

「はぁ?現に主である曹操を倒そうとしてるじゃない」

「元々、華琳だけのために戦っとったんとちゃう。私が戦うんは一重に天のため。民がただ生きることにすら苦心する世を終わらせるため。私が魏軍に居ったんは魏が一番強なりそうやったから。とにもかくにもまず統一するなりして落ち着けんと政策作れもせんからな」

「ふむ……。民は救わねばならんと言いながら、戦友は『元より目的が違う』と切り捨てられるその根性が信用できん」

「対峙することが則ち切り捨てることだとは思わんが?」

「………」

「共に在ることが即ち仲間であることではない。……友と一度も喧嘩したこと無いか?子を一度も叱らんと育てるか?」

「……曹操のために曹操を倒すと?」

「適切な表現を見つけるのは難しいんやけど……厳密には、"華琳も含めた"皆のため、かな。華琳はもはや世の要。しかし、元の信念……『最も効率の良い方法で乱世を終わらせ、次の時代を創る』という思想を忘れた……。威を示すことにより安定させ、最終的な被害を少なくするために派手な戦をしとったんが、今ではただ愉しむために危険な賭けを繰り返しとる。それが世の新たな淀みになる。……勝ちにのぼせて歪んだアイツを叩き直すんは天下を正すに等しい」

「叩き"直す"……ねぇ。じゃあ何?貴女は曹操を殺さないことを前提にしてるってこと?」

「アイツほど有能な者を失うんは明らかな損失。然るべき戦場で誰の目にも明らかな敗北を経験すれば、華琳もこっちの話を聞かざるを得ん」

「……それが、奇襲をかけて、病身の寿成殿を殺した者が言う台詞?」

 

黄忠の顔が険しくなる。

『そうなりたい』という希望ですらなく、まるで元から全くの正義の味方"である"ことを自認するかのような傲慢な言葉が、神経に障ったのだ。

しかし、当の本人は尚 涼しい顔で応える。

 

「あぁ、世間ではそうなっとるんやったな。アレは嘘。馬騰は生きとる」

「!?」

「一度戦った後、魏の他の面子も交えて話し合ってな。結果、馬騰も魏の一員になった」

「嘘……!?」

「詳しい説明は冗長になるから省くが……、端的に言えば西涼と魏が争ったのは流言のせいであって、本来の目的は同じ……つまり魏も在りし日の漢と同じく大陸の安寧を目指しているということを馬騰が悟った、っつーワケ。………それも今は状況が変わったんやけどな」

「そんな話、信じられると――」

「信じられんなら信じんでええ。なんなら別にこの同盟自体も信用してくれんでええ。私が野に消えて終わりってだけの話。できるだけ犠牲の少ない戦を望むけど、別に何も言わんし、兵は好きに使ってくれて構わん」

 

 まるで報告書類のような抑揚の無い声。

 鑑嵬媼という人物がこれまでどれほど壮絶……言えば異常な道を歩んで来たかは誰もが知っていることだ。だが、それをさも当然のように、どうでもいいと言わんばかりに自ら切り捨てた。

 コイツが理解できない。返す言葉が浮かばない。

 

「そんな顔すんなや。私も実際にここに来る前は意地でも食い込んだろ思とったんや。………でも、蜀にも任せられるな、って。桃香がこの場に居るってことは、つまり、そういうことやろ?」

 

『危険な存在』である鑑惺の真意を問う場に、『神輿』であるはずの劉備が居るという、そのことの意味。

 

「………私は、もうみんなに担ぎ上げられて夢を見ているだけの女の子じゃありません。みんなに支えられた分、みんなを引っ張っていけるように……現実を見て、それでも……いいえ、"そこから"理想を描ける王になりたい。まだまだ未熟ですけど、でも、変わろうとしなければ変われないから……」

「……蜀には良い将、良い臣が居る。良い王が生まれた今、もう恐れることはない」

 

鑑惺が初めて見せる人間的な表情。それが、諸葛亮には師である司馬徽と重なって見えたのだった。

墜ちたな(確信)。

 

「ちょっと、いい話風になってるとこ悪いけど、こっちはまだ納得してないから」

 

そこで不満の声を上げたのは孫策だ。

 さっきから聞いていれば、鑑惺が興味を持っているのは蜀ばかり。そしてその蜀も、呉の意見を聞くとは言っていたが実際は鑑惺の方を優先しているように見える。

 

「……できる限り質問に答えたつもりやけど、何がアカンのや?」

 

何がアカンかと言えば……自分も尊重してほしいという子供じみつつも切実な願望なのだが、そんなことを面と向かって口に出すのは恥ずかしすぎる。

張勲のときみたいに一言で察してもらえれば良いが、今回は明確に質問されてしまっているのだ。

 何か他の質問を考えなければ。

 

「……あー、やっぱり形だけでも袁術を頭にしてるのが、呉としては受け入れ難いのよね。なんであんな子供を……」

「かわいいからやが?」

 

本日一番の真顔で返された。




「アンタさっきの話じゃ形だけの王を否定してたじゃない!」
「それを補って余りあるかわいさやから無問題」


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第十二章X節その七 〈β〉

何か色々言われてますが、作者はマクドのハンバーガーが一番好きです。
ハンバーガー二つと水を注文してぼっち席に座ると作業がめっちゃ捗ります。

そしてまた説教パート。何か偉そうで主人公が尊大な奴になってしまいそうなので説教パートは二回続かないように気をつけていたのですが、前切ったところが悪かった……。


 ギギと重苦しい音とともに玉座の間の扉が閉じられる。

 黄忠厳顔とかいうガチベテランメンバーに怯むことなく何とか蜀呉同盟に捩じ込むことができたが……我ながらよくもまあ思ってもないことをスラスラと言えたものだ。話に矛盾は無いように気をつけたが、そのせいで変に壮大な話になってしまった。周瑜と孔明なんかめっちゃ不気味がってる顔してたし。でも……元から不気味キャラで通ってたら逆に自然なんだろうか。

 

「まぁ、とにかく今は言われたとおりに兵を城に入れるか」

 

向こうがこっちをどう思ってるかに関わらず、粛々と状況に対処するだけだ。まずは向こうに指定された通りに入城するのが今の仕事だ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 前言撤回。やっぱり好感度とか超重要。

 

「………」

「………ッ!!」

 

 通路の曲がり角で馬超に思いっきり襲撃受けた。

馬超の突きを左の腕で受け止めたが……これ完全に貫通[はいっ]てるよね?

 まずいなー……予想外の状態で五虎将の一角とやり合うとか敗北以外あり得ない。しかも初撃で片手が死んだときたもんだ。骨の間を通り、且つ角度がラッキーだったから正しいテーピングを施せば武器を握るくらいできるだろうが、いかんせん今は包帯も軟膏も接着剤も余裕も無い。

 お付き……というか監視に付けられた蜀兵は馬超の殺気に震え上がってるし。

 

「……いきなりぶっ刺してくるとはなかなか笑かしてくれるなぁ。私は一応招き入れられたはずやが。殺せとかっていう命令は受けたんか?」

 

 痛みを圧し殺し、腕にググと力を込める。これでとりあえず筋肉の膨張によって刃を固定できる。……気休め程度だがな。

 

「……殺すなとも言われてないからな」

「そう。でも今しがた同盟を取り付けたとこや」

「それは呉蜀との間だろ?あたしたちは『漢』の西涼だ」

 

……なるほど。私は同盟国の同盟相手であって自分の同盟相手ではない、と。

 

「確かに儀礼的には許容範囲やけど、これがどれだけの混乱を起こす行為か……バカにも分かるように言えば、どれだけ自滅の危険が大きいか理解できるやろ?」

「……あたし達はどうせ遅かれ早かれ滅びるさ。違うのは仇を討てるかどうかだけだ」

 

え、何この黒い娘……私の知ってるまっすぐでてれやさんな翠ちゃんはどこですか?

 

「私が、西涼とも同盟を結んでいるなら?」

「結んだ覚えはない。結ぶ気もな」

「馬騰と結んだと言って、信じるか?」

「……またお前を殺す理由が増えた」

 

おぅふ。

 

「なんでそこまで殺すことに固執する」

「お前らのせいで仲間が死んだからだ!」

 

「戦の結果の責任は全部敵にある、ってェのか?」

 

槍を握る手に力が籠められ、私の腕がバッサリ縦に割れるのを覚悟した時、それを止めるように声が響いてきた。

 

「……!!」

「靑さんか……」

「お前ンとこの……確か三番だっけか?が血相変えて飛んできたもんでな。……内密に済ましてェだろうから、とりあえずアタシだけで来た」

「流石の判断やな」

「………何だよ……何でソイツと協力してんだよ!?あたし達の戦いは何だったんだよッ!!」

 

心の乱れ。その一瞬を突き、槍に全身で巻き付き、圧し折る。

 

「くっ!?」

 

 情けなく胴体から着地したのを無かったことにするように、できるだけゆったりと落ち着き払って立ち上がる。

 

「……悲しい事故としか言いようが無いな」

「何が……っ」

「元より、双方とも目指しとったんは同じこと。平穏や。それを華琳は大陸の平定っつー形で叶えようとして、お前らは以前通り周辺民族を撃退することによって機を待つことにした」

「で、魏の影響は当然西涼にも伸びてくる。そこにまた別の国の思惑が入ってきた。腹が立つが、ソイツも自分の国を守るためにやったことだった。それにダマされたアタシもバカだったしな」

「状況的に仕方ないことやったと弁護しとくけど……バカやったとしても、その時の西涼で最も有能やったんが馬騰という人間やったし、西涼全体としてもその意向に賛同したはずや」

「なら……なら、あたし達の自業自得って言いたいのかよ」

「お前も含めた私らの自業自得、や」

「………」

「全員に責任が有るし、全員に責任が無い。恨まれる筋合いは無いが恨まれない筋合いも無い。お前が私を殺そうとするのは正常な精神の働きや。でも、それに詫びて甘んじて受ければ私は私の部下と仲間と民を裏切ることになる。……そうやな、まぁ、ただ恨みを晴らすためやのぉて、これから格別の友好を結んでくれるっちゅーんやったら喜んでこの首差し出すわ」

 

 鞘から細剣を抜き、馬超に握らせる。……相手の武器を破壊してすぐ、ちぐはぐな行動にはなるが。

 

「……何でそんなに落ち着いてるんだよ………私がちょっと気を起こせば死ぬかもしれないんだぞ?それにお前、誰も恨んでないのか?それじゃあ倒せないだろ!敵が作れない……相手を斬る度に自分が擦り減るだろ!?」

「こんくらい皆やっとる。桃香も、華琳も」

 

 そして厳密には二人よりもっと難易度が低い。自分の命もそんなに大切に思ってないからな。死にそうになって『ここで死んだら損だ』とは思っても『死にたくない』とは思わない。

 

「……この沈黙は、敵対の意思無しと見て良えか?」

「………」

「んだら久々に靑さんと話でもしぃ。馬岱は?」

「……蜀の連中が来ないように動いてもらってる」

「そ。なら遣いでも出せば良えか。靑さん、んだら」

「つっても、アタシとも気まずいことにはなりそうだがなァ……はは」

 

さっさと背を向けてその場を離れる。

 もうそろそろ失血でヘタって格好つかなくなりそうだ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「おっすー無事同盟組んできた」

 

失血独特の何とも言えない浮遊感を堪えて歩き、ちょっと景色が回り始めた頃に城外の広場に着いた。

 

「あぁ、お疲れ様でしt……ってとんでもない顔色してますよ!?」

「ちょっと蚊に刺された」

 

 手拭いに限界まで濃度を上げた酒を染み込ませ、傷口と刃を丁寧に拭いてから引き抜く。

 ……うわ、一瞬意識トんだ。

 

「いや、腕に思いっきり刃物刺さってるんですけどぉ……」

「何も言うな張勲。果たし合いから始まる縁も有る」

「できれば御免蒙りたい縁ですねぇ」

「そら果たし合い無しに仲良ぉなれたらそれに超したことァ無いわなぁ」

 

 包帯を巻こうとするも意外と難儀する。少しイラっとしたところで三課長が代わりにやってくれた。

 

「この要項に沿って入城してな。私はちょい休むわ」

「休むと言っても、鑑惺、――」

「適当に担ぎ入れてくれれば良えから」

 

 そこまで言ったところで眠気が抑えられなくなった。今日はもう色々頑張ったし、早めに休んでも良いよな。




でも何か出血するのってちょっと気持ちいいですよね。


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第十二章X節その八 〈β〉

なんJすこ。他コミュに沸くホモガキひで。
ネット上での意見の衝突を和らげるために発生したJ語を害悪の象徴にしたホモガキを許すな。

さて、引き続きβ√です。
戦略戦略アンド戦略なので勢いで書けないのが辛いところです。


 聆の反乱から数日。体制を立て直すことを直近の目標とした魏軍は、以前の国境付近の砦に居た。良くも悪くも今は多少落ち着きを取り戻し、本国から追加の兵と物資を入れ、近いうちに来るだろう蜀呉同盟の進撃に備えている。

 そんな中で落ち着きのない者が一人。鳳雛だ。間諜からの報告や、ここ数日の魏軍の動き……物資の移動から何からを書き出した紙の前でうんうん唸っている。

 

「どうしたのじゃ鳳雛よ」

「あわっ……いえ、何か落ち着き過ぎな気がして………」

「確かにこの短い間に体制を立て直した手腕は見事と言うよりないが……じゃが、魏の練度が高いことは以前より明らかであった。そう動転する必要もないはずじゃが」

 

 『魏の練度は大陸一』……それはある程度見聞の広い者なら黄巾の時分から知っていたことだ。整然と一体の生き物のように動けるだけの自律能力が戦場以外でも活かされたなら、それは想像を絶する"打たれ強さ"を産み出すだろう。そして、それがこの状態を作り出したと黄蓋は見ている。

 だが、鳳雛はまた別の考えを持っているようだ。

 

「確かに、魏の統率能力が高いことは予想していましたが……そっちはむしろ予想以下の結果を出しています。鑑惺が自分達の部下以外にも特に有能とされる武官や文官を引き抜いて行った影響か、ここまで退く道程のなかで脱走や抗議が少なからず有りましたし、特に将軍格の動揺が大きかったので」

「ふむ。……ならば『そっち』ではない何かがえらく落ち着いていると?」

「はい。……後方が」

「後方……本国か。じゃが、現場では長く感じる数日も外野にとっては『たった数日』よ。後方が混乱するのはえてして前線が落ち着いてからなものだ。そもそもまだコトが広まってすらおらぬのではないか?」

「しかしその数日の間に本国から物資を搬入し、更に、もっと多くの物を送るように指令も出されています。『予定外の物資の運搬』という鎖によって繋がり、もはや本国も現場と言えます」

「なるほど。……では後方の何が気に入らぬのだ?」

「鑑惺という人気の将を筆頭に多数の将軍格が抜けていながら……民間、もっと踏み込んで言えば商人。……商人の動きがあまりにも大人しい」

「……確かに、下手な諜報より商人の情報網の方が優秀じゃ。それが沈黙しているというのは………」

「特に人や物の動きから情勢を読み取るのは得意とするところ。今回の騒動に気付いていないハズが有りません。そして、戦況の不利に気付いた商人は――」

「買い占めや値上げ、果ては他国へ引き上げることすら有るのう」

 

 あと少し踏み止まれは挽回の兆しが見えるというところで商人のせいで国が乱れて負けたなんてことも珍しい話ではない。

 

「その兆しが未だ見られない」

「抑えがかかっておるのではないか?魏は商売に関する制度も整えておったし、管理もしやすかろう」

「商人というのは『利』以外では決して動きません。例え国が相手でも、自分達商人がそっぽを向けば国が回らなくなるのを彼らはよく知っています。制度によって纏められていたなら、むしろ纏まっていることを逆手に取って増長することも予想されます。彼らが国に協力するのは国が彼らに法や治安という利を与えるから……それは、敗戦国では得られない恩恵です。だから劣勢の国主に対して彼らは冷たく強硬。脅しなど全くの無駄。それは私達がよく実感していることでしょう?」

「まぁ、な」

 

 そもそも魏がここまで影響力を強めたられたのも、蜀呉から商人やらが流れ込んだからだ。

 

「それに、魏には件の新参者も多く、商人に限って言えば愛国心なども期待できるものではありません」

「ならば、商人は魏が勝つとふんでおるのか……?」

「『鑑惺の反逆は策であり、商人連中には予め知らされていた』」

「……!!」

「……いえ………そうなると逆に現場が動揺しすぎになりますね。楽進や于禁なんかは一種危険な状態になっていますから。それに、単に商人の動きが小さいだけだとかまだ始まっていないとか、もしくは間諜が見落としたという可能性もあります」

「まだ情報が足りんか……」

「ええ。ですが、依然として魏は脅威であるということは揺るがないでしょう」

「そうじゃな。………ところで鳳雛」

「はい」

「……お主、意外とよく喋るのう」

「………」

「いや、別に良いのじゃが……」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……知らない天井だ。

まぁここで知ってる天井の下で目覚めて『全て夢でした〜』ってされても困るから良いんだが。

 

「おお、やっと起きたか」

「そんな寝とったか?」

「一刻ほどな」

「そんな経っとらんやんけ」

 

 そういうものか、というかゆうまの言葉に心の中でため息をつきつつ、辺りを見回す。

 勇壮というか、ゴテゴテというか……布団の刺繍から机の足の装飾まで細々と龍やらツタやらで覆われている。何と言うか、魏軍に入ってすぐくらいを思い出す。向こうでは私のデザインが華琳に気に入られたせいですっかりシックな家具がトレンドになってしまった。

 

「お水、お飲みになります?」

「おー、それと、食糧から肉をいくらか。常識的な範囲で多めに用意してくれ」

 

 かなり血を失ったからなぁ……。正直ボーッとして食欲も無いが、気合を入れて喰わねばなるまい。本来なら血を啜りたいところだがなぁ。……別に吸血鬼的なアレではない。肝臓悪くしたらなレバーを食べるとか、精力増強に白子を食べるとか、ああいうノリだ。

 

「……どうぞ。水差、ここに置いておきますね。では」

 

と、そんなふうに思考を彷徨わせている間に、三課長はさっさと水の用意を済ませて肉の手配に出ていった。

 

「……できた部下だな。嵬媼の右腕か」

「いや……何か知らんが昔から出しゃばってくるやつでなぁ。有能は有能やけと、特に『一番の部下』ってワケやないし」

「そう言ってやるな。厳しくすることも大切だが、甘やかすこともまた大切だぞ?」

「珍しぃそれっぽいこと言っとるとこ悪いけどなぁ……私が汗拭いた後の手拭いしゃぶっとるん見たらそんな気も起こらんて」

 

 いつものように城の裏庭で鍛錬をしていて、さて休憩するかと後ろを向いたら、置いてあった手拭いを口に含んでいたのだ。その後何事も無かったかのように一礼して去っていったから本当に気味が悪い。あの時ほど思考が止まったことはそうそうないだろう。

 

「ふむ……確かに、臭いを嗅いだことはあるが、しゃぶるのはなぁ」

「うん。しゃぶるんは…………は?」

「ん?」

「いや、え?」

「どうした?気分でも悪いのか」

「え、嗅いだん?」

「そうだが?」

「お前がか?」

「そうだが?」

「なんでや」

「ふと嗅ぎたくなったからだが……別に構わんだろう?汚れるわけでもなし」

 

 『いかんのか?』とでも言いたげな顔をするかゆうま。

 

「おまっ……ちょとは常識っちゅーもんをなぁ――」

「聆殿!」

 

私の言葉を遮って部屋に入ってきたのは泰山の昇り龍、趙雲だ。

 

「取り込み中であったか……?」

「……そうでもない。何かあったんか?」

「いや、城内から門前まで点々と血のあとが、な。聆殿、身体は大丈夫か?」

 

……血の処理を忘れてた。

 くっそう。こういうときに自己判断で処理してくれてたら三課長も評価してやるものを。

 

「衛兵の話では『眠気覚ましの力加減を間違えた』とか……俄には信じられぬ話だが」

 

おお、靑さんが工作してくれたのか!や靑N1。

 

「えー、アレや……離反してから色々あって寝不足でな。孫策と桃香に挨拶した帰りに急に眠ぅなって……眠気覚ましにちょっと刺そ思たらやりすぎたんや」

「はっはっは!間抜けだな!」

「いらんこと言うなかゆうまェ」

「ふむ、如何な蛇鬼嵬媼といえども睡魔には勝てぬということですかな……ところで、この後宴k――」

「鑑惺様、申し付けられた品をお持ちしました!」

 

台車にこれでもかと食料を満載した三課長が戸を破るような勢いで乱入する。嬉しそうな顔をしおって……。とことん空回るやつだ。

 

「まずはご苦労言ぅとっけど、客人の発言を遮ってぶっ込んで来たんは良くないなぁ」

「は、はっ!申し訳ございません!」

「いや、そんな畏まらんで良えけど……星、さっき言おとしとったんは?」

「今夜、細やかながら歓迎の宴を開こうという話になっていたのだが……ここで食事するつもりであるようだし、延期にしようかと」

「予定通りで良えわ。参加させてもらう」

「そうか……では一刻後、中庭に席を取る手筈だから、それまでゆっくり休んでくだされ。寝不足は大敵ですからな」

 

いかにも星らしいネトッとした笑顔を残して去っていった。

あの顔って得だよなぁ。仮に何も考えてなかったとしてもめっちゃ頭良さそうに見える。

 

「宴か……少し体を動かしてくるか。今から腹を空かせておかねばな」

 

続いてかゆうまもいそいそと部屋を後にする。

 気楽なものだ。どうせ宴会の皮を被った腹の探り合いに他ならんだろうに。特に私なんかあの意地の悪い孔明に一言一句、一挙手一投足まで見られるだろう。

 

「それまでに心の準備しとくか……」

 

 モソモソと布団から這い出て、クッソ重たい頭を何とかまわして受け答えを考える作業を始めたのだった。




源ちゃんからの抗議はスルーで。


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第十二章X節その九 〈β〉

中古でまどかマギカポータブルを買ったのですが、さやかが弱すぎ&さやかシナリオが鬱すぎで詰みかけてます。

そして宴会パート。
呉のメンバーって場合によって口調が変わることが多いので書くのが難しいです。


 「乱世を治めんとする同士との新たなる友好を祝して――乾杯ッ!!」

「「乾杯!!!」」

 

 皆が杯を高く掲げ、一息に飲み干す。それを合図に宴は始まった。

 最上座に劉備、孫策、袁術が座っているのは固定だが後は適当。張勲はいつも通り、文醜はいつの間にか袁紹.顔良と合流しているし、馬家は完全に和解……できたのかは定かではないが取り敢えず一緒に座っている。この中で元気が無いのは李典と鑑惺ぐらいなものだ。

 呉の面々と蜀の一部は警戒心バリバリで逆に元気である。

 

「聆殿、そんなに緊張せんでくだされ」

 

下座に陣取り静かに呑み始めた鑑惺の側に、趙雲が酒を注ぎながらヌルリと絡みつく。やはり他人との距離感が独特な人物だ。

 

「こら星!聆殿も色々と疲れているんだろう。始めからそんなに絡むな」

「いや、まぁ疲れとんは疲れとるけどそんな怒るようなことでもないやろ……。相変わらずクソ真面目やなぁ」

「むぅ……」

「愛紗よ、聆殿に言われるとはお主相当だぞ?」

「『聆殿に言われるとは』ってお前……頭ん中で何か変な印象付けしとらん?」

「それは、なぁ……?」

「あの曹操の嫌がらせに耐えてきたのですから」

 

鑑惺も予想していたことだが、蜀陣営での曹操の印象はかなり悪い。それは判断の基準にもなるのだから相当なもの。

 これでは鑑惺の描く絵図の障害になる。

 

「……華琳について色々と反感が有るんは分かるけどなぁ。有ること無いこと噂になっとるし。そんで実際会うたこと無い相手の評価をその情報に頼るのは自然なことやし、それをもとにある程度想定するんも重要や……けど、それを勝手に断定してあたかも真実であるかのように錯覚するんは気に入らんし、自分らのためにもならん」

「錯覚……確かに、負けが込んだせいでいつの間にか反曹操に固執していたかもしれませぬな。ではあるが――」

「まぁ、桃香の主張を華琳に聞き入れさせる……いや、最低限蜀の安定を図るだけにしても華琳が壁になるから反曹操自体は仕方ないんやけどなぁ。ただ、それで固まってもたらアカンやろって話で」

「なるほど……やはり聆殿の話はためになる」

「それで、実際のところ曹操は鬼畜ではないのか?」

「………性欲が強いのは否定せん」

 

 

「――何だ、また嵬媼が小難しい話をしているようだな」

「いただきっ!なのだ」

「張飛っ!?貴様私の小籠包を……!」

 

 所変わって。

華雄は張飛と呂布と一緒になって大量の料理を口に詰め込んでいる。

 始めは華雄と呂布の再会を懐かしむ語らいをし(ようとし)ていたのだがそれも一言二言で終了。何故か、そしていつの間にか、競うように大皿を次々と空にする大食い大会が始まっていた。

 

「よそ見してるカユーが悪いのだ」

「よそ見してる人のは食べて良い……覚えた」

 

呂布が何か不穏なことを呟き、ニュっと手を伸ばす。

 

「おい……おい、恋!私の頭を掴むな!捻るな!!」

「華雄はこっち見てない……」

「無理やり別方向を向かされているんだが!」

「なら今のうちなのだ?」

「今のうち」

 

ふざけているのか素なのか、華雄の不満は無視される。

 

「ぬっ、ぐおおおおおおおお!!」

「う、後ろ向きのまま食べてるのだ!!?」

 

無理やり後ろ向きに拗じられた身体をそのままに、後ろ手で器用且つ素早く箸を操り視界外の小籠包を摘み口に運ぶ姿は紛うこと無き食欲の権化。

 

「……すごい」

「コレが心眼というものだッ!」

「カユーが強くなってたのだ……」

「……恋も本気出す」

「かかってこい貴様ら返り討ちにしてくれるッ!!」

 

 

「――あの人たち何を暴れてるんでしょうねぇ」

「野蛮じゃのう」

 

そしてこちらは優雅にお酒を嗜む最上座。孫策が一人ムスっとしているが……せっかく追い出した暴君がまたデカい面をしているのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

「鈴々さんが暴れてらっしゃるのはいつものことですわ。まったく、おさるさんなんですから……」

 

シレッと袁紹が混ざっているが、指摘すると面倒なことになるので誰も文句を言わない。

 

「まぁ、お酒の席ですし多少は……」

「優しいのも結構じゃが劉備よ、統率の底が知れるぞよ?」

「その発言自分にも刺さってますよお嬢」

「しかもこれから同盟組もうって相手の目の前で悪態ついちゃう辺りホントスゴいですね。ヨッ自由人!」

「そうじゃろそうじゃろ♪うははー」

(なにヘラヘラしてんのよ……ムカつくわねぇ)

「少し羨ましいです……私、自分に自信無くて」

 

コレにはさすがの孫策も苦笑いである。

 

「それにしてもスゴイですね。美羽様がまさか第四勢力として復活するなんて……」

 

一方 顔良、このまま袁術の不良自慢が始まるのはマズいと思い話題を変えることにした。……が、

 

「ええ、本当に。孫策さんにやられたと聞いて心配しておりましたのよ?」

「っ……わ、妾はそのすぐ後に曹操に取り入りましたからのう。麗羽姉様こそ、これまでずっと音沙汰無しじゃて、気がかりでしたわ」

「!!……お、おほほほっ。無名の民に身を窶すのも一興と思いまして!なかなか乙なモノでしたわ!」

 

袁家で互いに傷を突きあって冷たい笑顔を浮かべる結果に。

 

「麗羽さん、こっちに来てからずっと遊んでましたもんね!」

 

そしてこの追い打ちである。劉備に悪気は一切無いのだが。

 

「………」

「そ、それは何よりですわ、うふふふ」

「お、おほほほ」

(このおこちゃまも袁紹には気を遣うのね……)

「すみません……私が余計なことを言ったばっかりに」

「うん?何のことじゃ??」

「どうかなさったの?斗詩さん??」

「い、いえ………」

「……ドンマイ斗詩」

 

 

「――上座 何であんな冷えとんや……?」

「さあ?桃香様と袁紹は何故か仲が良いからそう冷えることは無いはずだが……」

「ふーん……んだらちゃん美羽が原因か?すぐにも魏侵攻に出ることになるやろからここでちゃんと仲良ぉなっといてもらいたいんやけど」

 

この機会を逃せばあとはずっと忙しいだろう。ここでどれだけ存在感を強められるかに今後がかかっている。

 

「仲良くと言うなら鑑惺、呑み比べはどうじゃ?」

「桔梗」

 

どうしたものかと思案する鑑惺の前に現れたのは厳顔と魏延。厳顔は少し非常識な程の大きさの杯を片手に得意気な笑みを見せ、対照的に魏延は何やら不満顔だ。

 

「おー、厳顔か……噂には聞いとる。酒好きらしいな」

「ハッハッハ!知られておったか。……まあ、お主の酒豪伝説には霞むがのう?」

「また何や鰭だらけになっとるんか。私はただ酒浸りなだけ」

「それもこれから分かること。ほれ、まず一杯」

 

並々と酒が注がれた巨大杯をズイとつき出す。

 

「……私もう結構呑んどるし」

「ほう?受けぬと申すか?」

「いや、この酒で始めよ」

 

どこに置いていたのか……鑑惺は黒塗りの大瓢箪を取り出した。

 

「……それは?」

「『蛇鬼殺』……自作の酒や。弱い酒でチンタラやっとったら酔う前に腹張ってまうからな」

「……面白い」

「桔梗様!?そのような得体の知れない物を飲むのは――」

「控えよ焔耶」

「……ッ」

「その酒で始めよう」

 

先程の酒を一気に飲み干し、杯を空にした。

 

「……注いでくれるか?」

「……毒見は要らんか?」

「要らぬ」

「んだら……」

 

杯の底に少し控えめに注がれる。禍々しい名前からは想像できない、よく澄んだ酒だ。

 

「ほう……どんな毒々しいものが出てくるかと思ったが、中々良い香りがするではないか」

 

匂いから相当の濃さであることも分かったが。

 

「やっぱ身構えとったんやん」

「………」

 

鑑惺の含み笑いにはあえて何も言わずに杯を傾ける。

 

「…………ッ!?」

「味はどないや?」

「喉が焼けるようだ……顔に火を受けたような感覚…………が、確かに華やかな甘みと香りも感じる。……ハッキリ言って、美味い」

「そら良かった」

 

言いながら自分の分を注ぐ。

厳顔が相当な衝撃を受けたそれを、鑑惺は何事も無いように飲み干した。

 

「ほれ、もう一杯」

 

 

「――どう見る」

「……どう見る、とは?」

 

皆がなんだかんだと騒いでいる中、諸葛亮.周瑜.陸遜の軍師連中は湿気た空気を漂わせていた。まず弱気を見せないように動く武将ならいざしらず、彼女らには鑑惺などというわけの分からん存在を前に楽しめというのは無理な話だ。

 

「この酒宴を、だ。質問が抽象的なのは許してくれ。全体的にどう感じたかが聞きたい」

「馴染んでますね」

「……馴染んでいる、か」

「ええ。馴染んでます」

 

目だけを動かして会場をサッと見渡す。

 

「……馴染んでいるな」

 

思わずため息が出る。

 

「鑑惺は、反董卓連合の際に接触していましたから……」

「そして袁術と袁紹は血縁関係……袁術の方は苦手意識が有るようだが袁紹は袁術を可愛がっている。もちろん文醜と袁紹の絆も深い。華雄と呂布は元々董卓の将で戦友。馬騰は言わずもがな馬家に収まるし、黄忠とも縁があるとか……」

「まるで狙い澄ましたかのような組み合わせですねー」

「陸遜さんの言う通り、確かに、私もそう感じないワケではないです。が……『当然』で片付けることもまた可能なんですよね」

「蜀の将は他方から劉備の下に集った者達……」

「寄せ集め、と言いたいんでしょう?」

「この高能力集団を果たしてそう表現して良いかは疑問だがな。……そして、それは鑑惺も同じ」

「バラバラになった国や軍の、その片割れを持ち寄れば引き合うのは当然……ですかー……」

「そうです。鑑惺さんのやること成すことは今のところ全て策略以外の道理で説明できるようになっています。………逆に全て策略と見て筋道をつけることもできます」

 

頭の中に鑑惺のあのヌメっとした笑顔が浮かぶ。そしてあの変にスカした訛りも。

 

「不気味だな」

「本当に」

 

初対面で確実に消しておくべきだったといつも思う。

 

「あのー……」

「どうした?」

「それじゃあ、袁術さんを頭に置いている理由は……?」

「かわいいからって言ってましたよ?」

「整合性の取れる理由は……」

「……こちらが納得できないと言えばスラスラと理由を語ってくれるでしょう。『統治者にとって外見的魅力がどれほど重要か……』みたいな語り口で」

「厄介ね」

「本当に」

「…………」

「…………」

「ともかく今は呑みましょうか〜。色々と考える前にまず気晴らししましょう」

「そうですね」

「ああ」

 

 

 宴は夜遅くまで続く……かと思われたが一部の者の暴飲暴食により存外早くお開きとなった。参加した本人達は三者三様良いも悪いも様々な感想を語ったが、翌日経費を確認した文官は一様に顔を青くしたという。




胃袋と肝臓より先に財政がTKO。


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第十二章X節その十 〈β〉

北斗の拳イチゴ味のアニメ始まりましたね(白目)。
ということで同原作者の『学園革命伝ミツルギ』の主人公『美剣散々』のサーヴァント案をユーザーコメントと僕鯖に書きなぐったので誰か書いてくださいお願いします何でもしますから。

南蛮兵は原作じゃとにかく猫耳肉球推しだったけどお腹が一番性的だと思います!


 宴会の翌朝。

 兵士達がせっせと物資を運び、出立の準備を進めている。散々見下していたが蜀呉同盟の練度もなかなかやるもので、明日の朝には出発する予定とのことだ。はわわ軍師は私の離反が嘘か真か測りかねているようだが……どちらにしろ早く魏の背後に追い討ちをかけに行くより選択は無いのだ。

暗殺も今日未明に返り討ちにしたしな。

 

「忙しないことですな」

「そうやなぇ」

 

いつの間にか近くに居た星に、驚いた素振りをできるだけ見せずに軽く返す。

 

「聆殿は……準備しなくてもよいのか?」

「今日やらなんならんことはもう無いな」

「やはり練度が高いですな……」

「もともと行軍してきたばっからやること少なかったんや。そんな大仰なことちゃう」

 

まぁ練度の差は否定しないが。

 なぜこうも差がつくのか……やはりある程度危険なレベルで厳しくしなければ強い兵は作れないからだろうか。

 

「そう言う星は準備せんで良えん?」

「蜀古参の隊は愛紗に一括で管理してもらっているのだ」

 

さすがにその程度は効率化しているか……。

 

「だから鈴々も暇をしているらしい。……それと南蛮王もな。あ奴らは何をどう準備するのか分からん」

「あぁ、南蛮王」

 

そんなのも居たな……。

 

「そう言えば何で昨日の宴会にはおらんかったんや?作法云々やったら元から十分むちゃくちゃやったやろ?」

「それに輪をかけて荒れるのでな。料理を混ぜ合わせて得体の知れぬ液体を作り出したりもする。……私はそれも面白いと思うのだが」

「んだら呼んだら良かったんに」

「そんなことをすれば朱里から本気の方のお叱りを受けてしm」

「みぃの噂話をしてるのは誰にゃ〜!?」

 

 振り向けば、背後の建物から跳び下りてくる小さな影が四つ。

 

「フリの回収早過ぎん?」

「にゃ!お前知ってるじょ!新入りだにゃ」

「新入りにゃ」

「ひよっこにょ」

「ホヤホヤですにゃ〜」

「う……ん、まぁ、そうなるんかな……?」

「そういうものか?」

「そうにゃ!新入りにゃ!」

「しんいりー」

「そーかそーかー」

 

 何か騒いでいるがそんなことは無視(どうせマトモに取り合っても会話が成り立たないだろうから)し、取り敢えずなでる。……可愛いモノが居たら撫でるのは当然だろう。

……おお、フカフカだ。もっとサラサラした感じかと思っていたが、少し指が沈み込むくらい膨らんだ毛並みでさわり甲斐がある。

 

「ごろにゃん……って、なでるんじゃにゃいにゃ!おみゃーは一番したっぱじょ!」

「したっぱー」

「手下にゃ」

「ふーん」

 

耳の後ろを撫でてみたり、背中に手を滑らせたり。……それにしても南蛮組の衣装はちょっと卑猥過ぎやしませんかねぇ?

 

「んにゃぁ……って、さっきから態度大きいじょ!」

「大きいにゃ!」

「……でも大きいことはいいことにゃ?」

「そ、そうだにゃ。……?…………?」

「なー、大きいことは良えことやんなー」

 

何か自分たちで勝手に混乱し始めた隙に、地面に座ってその膝の上に乗っけてしまう。

 それにしても不思議な存在だ。小動物として扱えばいいのかロリ(18歳以上)として扱えばいいのか曖昧なラインにある。

 

「あー、トラもー!トラもー!」

「んにゃ〜」

「こっちもなでるにゃ〜」

 

 孟獲以外の三匹もワラワラと群がってきて腕にしがみついてきたり、背中から抱きついてきたり。なんとも柔らかくて暖かくて、幼女特有の穏やかな甘い香りがする。尻尾がしゃらしゃらと絡み付いてきて頬を撫でる。

 いやー……子供が欲しくなるな。

 

「んな〜……、にゃーー!!だからっ!このナマイキな新入りをこらしめるのにゃ!こんなことしてるばあいじゃにゃいのにゃ!」

「そーなのにゃ?」

「そうにゃ!」

「そーでもないやろ」

「にゃ……」

「慣れたものですな」

「反応が分かりやすいしな」

 

 はぁ……。幼女のおなかって良えよなぁ…………。

子供という存在、或いは造形としての単純なかわいらしさは当然のこと。

 だが……動物の中でも最も自立能力が低い一つである人間の子供の、更におとなしくて弱い幼女という生きる気が有るのか疑わしいような存在の最も柔らかく突起の少ない箇所であるにも関わらず、本当はグロテスクで醜悪な内蔵がパンパンに詰まっている部分であるという事実が何というか……凄く、こう、湧き上がってくるものがあるのだ。

 

「うにゃ〜………う、うにゃー!やめるのにゃ!」

 

 そんな少々危なっかしくも和やかな時間は孟獲のプライドが快楽に打ち勝ったことで修了する。バタバタと身を捩って私の手から離れ、

 

「うわッ!?……っと」

 

あの猫の手型の鈍器を力いっぱい振り下ろした。咄嗟に体に纏わりついた南蛮兵共々サイドステップで躱したが、地面にはくっきりと肉球の形がスタンプされた。

 

「避けちゃダメなのにゃ!」

「当てる努力もせんと避けるなとか言うな」

「うるさいじょ!」

 

 丸腰の私にも容赦無くぶん回してくる。動きはまさに狩りのそれで、身体のバネを活かしたヒットアンドアウェイ。数メートル先から飛び込んで自分のコンボが途切れるころには離脱する。また、武器の性質上、攻撃範囲……いや、攻撃面積が異様に大きい。

 こうやって実際に対峙すると、あの武器の凶悪性がよく分かる。一見ファンシーでギャグ枠に見えるが、重量は十分で制圧力が高い。一度振ればその軌道が孟獲本人の周囲をほぼカバーするため攻防一体の一手となる。そして肉球は実際に柔らかいようなのだがこのせいで武器による受け流しは困難になる。柔らかいもので殴られても問題ないように感じるかもしれないが……相撲取りを想像してほしい。外部から押されて急な加速を加えられればそれが硬かろうが柔らかかろうが脳は揺れて意識は飛ぶのだ。恐らく南蛮での狩猟生活において獲物の体を傷つけることなく仕留めるのに一役買っていただろう。

 

「おとなしくするのにゃ!」

「ここでおとなしくすると二度と動けなくなる気がするな」

「ホンマそれな」

 

 体を捻って躱す、振りに干渉して逸らすなど普段使っている技能はアテにならない。狙いをずらすためのフェイント、スウェーバックとステップバック、そして相手が離脱した瞬間に自らは前進し位置をリセットすることが重要だ。

 

「うな〜〜!!」

 

 と、回避方法を発見して内心喜んだのも束の間。孟獲が焦れてきている。そう言えば星は原作で孟獲の攻撃を全部避けたせいで嫌われたんだったか。

それは困る。コイツらほどの癒し生物はそうそう見つかるまい。

 当 た ら ね ば。

 

「にゃっ!」

「ッ……!」

「聆殿!!」

 

強烈な振り上げによって屋根の上まで吹っ飛ぶ。これが空を飛ぶという感覚か。

おまけに完璧な着地だ。

 

「ふふん。どーにゃ!…………にゃにゃー!?まだ動くのにゃ!?」

「フッ……なかなか効いたゼ」

「そのような涼しげな顔でよく言う……」

「うににぃぃ……!次はコテンパンにしてやるのにゃ!おぼえてろなのにゃ!」

「あ!だいおーしゃま待つのにゃ〜」

「だいおーしゃまー」

「ふみゅう……」

 

現れた時と同様に唐突かつ騒がしく去っていった。

 

「蜀は混沌としとるなぁ」

「お主に混沌と言われるとはいよいよもって末期だな」

「何よこの言われよう」

「あの短時間で美以の攻撃を無効化する変態のくせに、まるで自分が常人であるかのような顔をする……」

「あ、バレとったか」

「相手の攻撃に自ら突っ込んで武器が十分に加速する前に接触。その後相手の力を利用して飛び上がり屋根に着地……しかも普通に攻撃を喰らったように吹っ飛び方まで巧妙に偽装して"攻撃が効かない"ように見せる。間違ってはおらんな?」

「いや、凄い洞察力やな。あと動体視力」

 

 実際には少し間違っているが。

私は無効化に成功していない。相手の武器に"乗った"までは良かったがその後スイングの勢いで生まれた負荷によって意識が飛びかけた。

 

「そう考えた方が現実的ということもあるが……まぁ、伊達に『昇り龍』とは呼ばれておらぬということだ」

「んだら私も『蛇鬼』らしさ見せれたかな」

「存分にな」

 

互いに不敵な笑みを交わす。

 なにこれ恥ずかしい。

星って基本的に芝居がかった言動するから合わせてると凄く中二臭いことになる。

 

「鑑惺様、お昼の食事のお誘いが……」

 

と、ここで蜀の連絡兵が現れた。助かった。

 

「相手は?」

「諸葛孔明様です」

 

助かってなかった。




誰も書いてくれないとまた自分で新シリーズ書き始めて連載ペースがやばくなるかもですよ(チラッ


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第十二章X節その十一 〈β〉

最近聞いた悲しい言葉ワーストスリー
1:もう不倫は諦めるから托卵だけは勘弁してほしい。
2:何で俺らって淫夢の話題で一番盛り上がるんやろなぁ?
3:子供の面倒見る自信も無いけど年取った自分の面倒見る自信も無いから子供欲しい。早くアシモくん進化せぇへんかなぁ。

そして今回は聆渾身のチャンスをドブに捨て回。
β√は作者にとってのハードモードと言ってましたけだ、やっぱりキャラにとってもハードモードでした。


 案内に従い中庭の四阿へ向う。

 既に席について待っていたのは諸葛亮と孫策。……大方、万一の場合に私を止められるようにという人選。若い将は力不足、或いは懐柔の心配があるし、厳顔は謀を嫌う。黄忠も私に苦手意識が有るの。となれば孫策が適任。

……そういう判断をしたのだろう。

 

「待たせたか?」

「いえ。急に呼びつけたのはこちらですし。……どうぞ」

 

軽く挨拶をして席につく。

 孫策の睨みつけるような視線が刺さる中、卓上に料理が並べられていく。

……そんな嫌われるようなことしたか?孔明に嫌われるのはまぁ分かるが、呉にはそんなに何もしてないはずだ。あるいは孫策の直勘が私の異質さを見抜いているのかもしれないが……。

 そしてもう一つ気になるのが、その孔明の表情がやたらと穏やかなことだ。私ってもしかして対峙したときこんな顔してるんだろうか。

そりゃ気味悪いわ。

 

「――では……」

 

料理が出揃い、各々が杯に手をかける。

 毒とか入ってるんだろうか……。こっちに来てから命の危険だらけだ。昨日から、今を入れて四度も。

 そうは言ってもこの料理を食べるしかない。

何らかの言いがかりをつけて机をひっくり返すことも考えてはいたがその理由が思いつかなかった。暗殺されかけたことは十分な理由になりそうなものだが、それだけに尚の事使えない。もっともな理由であるということは向こうが納得も予想もできるということ。つまりは相手の手の平の上であり、ここを乗り切っても今後のイニシアチブを取り辛くなる。

 ……飲むか。

私は超人でないが故に超人然としていなければならない。格の違いを見せな(アカン)。

 

「………」

 

 うっ!?毒だ。

 

なんてことも無く。いや、もしかしたらお茶に毒が入ってなかっただけであそこの茹で蟹に仕込んであるかもしれん。案外、今朝の暗殺未遂はこのための前フリだったのかもしれない。明確な殺意を示すことによって私に不安を懐かせ優位に立とうという……考え過ぎか。

 だが、とにかくこの会の主導権を向こうが持っていることに変わりは無い。そしてそんな状態で何か話しても良い事はない。かと言ってこっちから逃げ出すのはマズい。何とかしてこの状況を打破できないだろうか……。こんな時に限ってバカ共は現れないし。

 

「どうですか?こちらの料理は」

「んぅ?……あぁ、言うても魏にも結構入ってきとるしなぁ。拒否反応みたいなんは無いで」

「……そうですか」

 

そういうことを聞きたいんじゃないんだ的な顔されてもなぁ。もしかして、料理の質→国の豊かさ→政治論みたいな流れにしたかったのか?

 まあ、もう言ってしまったことは仕方ないし、諸葛亮の思う通りに話を運んでやる義理も無い。既に呉蜀同盟に割り込むという目標は達成しているのだ。今更こちらから政治的な話をする利点は無い。私は適当に世間話でもしながら昼飯を食べて帰ればいい。

 

「あぁ、そー言えばさっき孟獲に会ぉたんやけど周泰大丈夫なん?」

「えっ?」

「は……?」

「いや、周泰って猫めっちゃ好きやん」

 

小動物とか好きでも嫌いでもない私でもちょっとグラッときたほどだ。猫スキーの周泰はよほど荒ぶっt……あ。

 

「………」

「………」

 

うわーお。

 二人がクッソ不審なモノを見る顔してるんだが。

魏から来たばかりの私がこっちの武将の好みを知っているのはおかしいのだ。それが昨日の宴会で全く絡んでない呉メンバーのこととなればなおさら。

 何も考えなくても良いと思ったらとたんに何も考えなさすぎた。

どうしたものか。この空気。

 ……うーん、どうもせんで良えわ。このまま話してまえ。原作知識の使いどころとしては上手い部類に入るはずだ。

 

「お猫様お猫様言うて狂喜乱舞してそうやけどどうなん?」

「……そうね。最初会った時なんか凄いはしゃぎ様だったわ。今でも割と頻繁に話しかけたりしてるわよ。そのせいでちょっと引かれてるみたいだけど」

「猫ってだいたいちょい素っ気ないくらいの人のんが気に入るもんなぁ」

 

良かった。孫策のプライドが『何でそんなこと知ってるの』と言うのを許さなかったようで、話を合わせてくれた。

 

「そう言う貴女こそ大丈夫なの?蜀には可愛い女の子がいっぱい居るけど」

「ン……何が?」

 

ちょっと本当に何のことか分からない。蟹を剥く作業のせいで何か聞き落としたか?

 

「魏じゃ女同士の夜伽が常習なんでしょう?襲っちゃいたくならないの?」

 

あぁなるほど。

……いや、なるほどちゃうわ。昼飯喰ってるのに急に何言い出すんだコイツ。

 

「あー、まぁ、割とそういう関係も多いけどなぁ。私はどっちかっちゅーたら軽い触れ合い……じゃれ合いとか頭撫でるとかその辺やし。そんで他の人らも強姦魔とちゃうからな。本気で嫌がる娘にはなんもせぇへんし、基本、襲うとかは無いわ」

「あら、貴女も曹操と目合ったんでしょう?しかも無理やりっていう噂だけれど。……嫌がる娘にはしないっていう話からすると、実は貴女もまんざらじゃなかったのかしら?」

 

 ……?………あぁ、関羽欲しいとかあの辺のゴタゴタのときのことか。華琳の怒りを躱すために適当に工作したことがここまで伝わってるもんなんだなぁ、と、少し感慨深い感じがする。

 そしてコレはチャンスである。

 

「戦で人斬る感覚と性的快感をごっちゃにして交わる伽の感想聞かせてくれるんやったらこっちも詳しぃ教えたるわ」

「……ッ!?」

 

あの設定は予想外だったなぁ。いや、ジャンル全体としては割とソフトな方なんだが、恋姫という作品の中じゃ何か呉だけエッチが重い。

 

「何なんお前。何思ぅて昼飯時に急に夜伽がなんたらとか言い出しやがって挙句他人の恥掘り返そうとしてくれとんじゃ。しょーもない対抗意識出しやがってこの雌ガキが。そんなんやから『"小"覇王』で『虎"の娘"』なんどいや。お前これでワシがキレてこの城ワヤにしたら責任取れるんけ?……オイ、何か言わんかい。ワシが何か間違ぉたこと言っとるか?なぁ」

 

 孫策困惑、孔明ドン引き。

そりゃそうだ。軽い嫌味のつもりがまさかのブチギレ。

しかも、不評を買うので自粛していたがこの世界に来てすぐのころはこのキレ芸であの曹操をも絶句させていたのだから。

 

「そもそも何で大陸の三分の一みたいな面しとん?お前孫家とその縁の家しか眼中に無いやろが。思想としても格落ちやしまた漢以前と同じことの繰り返しになるからな?しかも呉の全員束にしても正味ウチの張勲以下って実績が証明しとるから」

 

七乃さんもこうやって揚げ足取って押さえつけてたんだろうなぁ。

 

「チッ……けったくそ悪い。おい、何ボサーっとしとんどいや。酒持って来んかい」

 

その辺にいた侍女に言いつける。

 

「あ、あのっ、お酒はもう残量が少なくて……ですね、えっと、グスッ」

 

うわぁ……泣いちゃったよ。

 すまぬ。名も知らぬ侍女よ。

 

「少ないっちゅーことはちょっとはあるんやろボケ。ほんで足りんのやったらさっさと作らんかいマヌケェ」

「ひぃっ、すみません!すみません!」

 

逃げるように走っていく侍女。……マジでごめん。その『ちょっと』が大問題なことも、一朝一夕で酒ができるわけがないことも分かっているのだ。ただ、キレ終わるのに切りのいい所が軽く他人に当たった後なのだ。

 

「……さて、何の話やったか。南蛮兵かわいいって話やったかな」

 

ほら、キレイに切り替えられた。テンションの落差を付ける時に、物理的に顔の向きを変えるのは有効。

 ありがとう。名も知らぬ侍女よ。

おかげで二人はさっき以上のドン引きだ。

 もはやこの会に何ら価値は無い。私の茶番によって孔明の思惑ごと全て混沌に沈んだだろう。

 

「え、えぇ、そうですね」

 

孔明は身なりの悪い常連クレーマーがやってきたときのお客様相談窓口職員みたいなビミョーな顔をしつつ応えた。

 

「あーゆう小さい子 見とったら娘欲しくなってくるよなぁ」

 

孫策が塀の上の猫を睨みつける犬みたいな顔をしているが、そんなことは承知の上だ。こっちは何度も殺されかけたのだから、向こうにも苦行を強いたところで何ら問題は有るまい。

 お前らは問答には慣れているだろう。……なら、"喋らせてくれない"相手にはどう対処する?

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「………」

「………」

「……封殺、ですね」

 

 結局、鑑惺はあれからひたすら一方的に『もしも娘ができたら』の話をした。よく食べよく話し、四杯めの蟹に手を伸ばした時 部下に声をかけられ、これまた一方的に話を切り上げて去っていった。

 

「悪いわね………迂闊だったわ」

「いえ……。鑑惺さんはここに来た瞬間からこの会合を潰す算段をしていました。遅かれ早かれ何らかの手段で同じようなことを起こしたでしょう。最悪、部下に合図でも送って用事をでっち上げれば良い。ただ、今回の場合に痛かったのは、逆上されて自分たちも納得してしまったこと」

 

 口論や舌戦等、言葉を使った駆け引きで『怒鳴る』というのは戦術と意識しないほど初歩的な戦術だ。ただし、相手も同じように語調を強めれば無意味となるし、そもそも恐れられていなければ意味がない。むしろ高度なやりとりでは『人間性の底』を露呈することになりかねないため下策とも言える。

今だって孫策という、気の強さに関しては十分な備えを用意していた

はずだった。

 では、何故あっさりと主導権を潰されたか。

 それは、怒られて当然のことをしたから……自分自身が失敗をしてしまったと思ったからである。

 孫策がネタにしたのは『曹操による虐待』という話題。内容は『鑑惺の働きに危機感を覚えた曹操が鑑惺に対して性的暴力を加えた』というもの。孔明らにはその真偽は分からないが、情報の通りなら『臣として、そして女性としての尊厳の両方を他ならぬ主によって壊された』という、文字通り冗談にならない出来事だ。

更に、その発言の理由も『前日からの敵対心と呉の孤立感に加え予想より遥かに高い諜報能力を見せられ焦った』というもの。

 それらのことを孫策は発言した瞬間に自分で理解した。

 キレられて、素直に反省してしまったのだ。

 

「そもそも孫策さんを呼んだのが間違いでした」

「……何?追い打ち?」

「……語弊がありますね。二人目に孫策さんを呼んだのが間違い、なのではなく、二人目を呼んだこと自体が間違い、です。周瑜さんを呼ぼうと呂布さんを呼ぼうと、極端な話では孔子を呼ぼうとも……『二対一』の構図を確認した瞬間に鑑惺さんは不利を感じたのでしょう。だからそもそも私達と『会話』すること自体を不可とした………」

 

 今から思えば狙い撃ちで孫策を煽ったようにも見える。

 

「結果、たっぷりと料理を食べて言いたいこと言って悠々帰還、ってワケ………」

「………そもそも、今更怖気付いて和睦を交わそうとしたことが無理な話でした。私はこれからも今までと同じく、何倍にも膨れ上がった鑑惺さんの影に怯えながら過ごす……ただそれだけです。孫策さんにはご迷惑をおかけしました」

「やぁねぇ。『呉蜀同盟』でしょ。同盟国の筆頭軍師の悩みくらい協力してあげるのが当たり前よ。……ま、失敗しちゃったけどね」

「……それに、『"蜀"呉同盟』です」

 

 二人は穏やかな談笑をして終了。




「はい論破www」とドヤ顔で貴重なはわわの降参宣言をスルーする主人公です。
はわわも聆もお互いに相手を恐れて根本的な考えが読めてません。
しかもお互いに細部はきっちり当ててる上に自業自得なのでどうしようもないですね。


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第十二章X節その十二 〈β〉

セブンスドラゴンⅢが発売中ですが、買うかどうか迷ってます。
無印からのプレイヤーなのですが、二作目からなぜかスタイリッシュ路線になって何か好きじゃないんですよね。無印のレトロ系の製作者のおふざけが散りばめられた世界が好きだったのに……。で、そのⅢでは無印の舞台も登場するのです。
サモンナイト5みたいに過去作レイプになりそうで怖い。

さて、長ったらしい前書きに対して本編は少し短め(?)です。
初期の長さに近いとも言える。


「聆〜〜!助けてたも〜〜〜」

 

 戸を開けた途端にちゃん美羽が泣きついてきた。南蛮といいはわわといいちゃん美羽といい、今日はロリ(18歳以上)と縁のある日だなぁ。

 

「やぁやぁ、もぉ、そんな鼻水まで出してどなしたん?」

「あの強欲の、クルクルの、忌々しい目の上のタンコブがぁぁぁぁ〜〜!!」

 

袁紹が何かしたらしいが、それ以上のことはよく分からない。まぁ、ちゃん美羽の話が要領を得ないことは最初から分かっていた。顔を拭ってやりつつ七乃さんに目を向ける。

 

「麗羽さんが仲の統治権を主張してきたんですよ〜。袁家再興の仲帝国なら、当然長子である自分が治めるべきだ〜っとかって」

「な〜にが『今までご苦労さまでしたわ。これからは私に任せてもよろしくってよ』じゃ!」

 

うわぁ……袁紹もそれが当然のことと思って言ってるんだろうなぁ。

 

「妾がこれまでどれ程尽力してきたと思っておるのじゃあやつは!?」

 

多分、そこ考慮したら余計に盗っちゃっていい気がしてしまうと思うが。

 

「……別に袁家再興のためとちゃう的なことは言わんかったん?」

「それを言って聞いてくれる人じゃありませんよぅ」

「七乃はアテにならんし、猪々子は薄情にも麗羽姉様に鞍替えしたのじゃ……」

「まぁ、元々向こうの人やしなぁ。袁紹が死んでもたと思っとったからこっち居っただけやし」

 

そんでもって袁紹の主張に頭を悩ませている一人でもあると思う。

 

「むぅ………かゆうまはアホじゃし、靑のことはよく知らん。頼りになるのは聆だけなのじゃ……」

「えぇ……」

 

一瞬七乃さんから殺意を感じた。

 

「七乃さん?」

 

ちゃん美羽は勢いで言っただけで今も昔も本当の一番は七乃さんですよ?

 

「ええ、分かってますよ。うふふふふふ」

 

怖い。

 まぁ、それはそれとして。(超速切り替え)

実際、どうしたものか。

 七乃さんが言った通り、袁紹は自信過剰で自分が言ったことを間違いだと気付かない。気付いてもそれを認めない。何かを主張されてしまった時点で半分詰んでいるのだ。黙殺という手もある(蜀の連中はそうしている)が、この場合ちゃん美羽と袁紹は元から関わりが大きいため不可能。

 

「難しいなぁ……」

 

 この後どう運ぶにしても袁紹を敵にしたくない。

袁紹は利己的で向こう見ずであるが、裏を返せば袁紹に気に入られさえすれば有事の際に袁紹配下の力を極めて速やかに利用できるということになる。例えそれが非常な劣勢でその辺の小狡い奴らにそっぽを向かれている状況だとしても、だ。そして、逆も然り。

 だが、今 袁紹のご機嫌取りをすることはちゃん美羽の信用を失うに同じ。

 どうしたものか……。

 

「聆……」

 

ちゃん美羽が不安そうに見上げてくる。

 かわいいなぁ……。

 かわいいんだが、この表情の原因をガチで解決しなければならないというタスクも同時に有るワケだ……。

何で恋姫世界に来たのか分からないが、ホント、どうせならこんな戦乱の世じゃなくてもっとただかわいい女の子と戯れるだけの世界に行ってみたかった。恋姫OVAの高校編とか。

ここじゃこれから自分で平和な世を作っていかなきゃならないんだもんなぁ。

 

 ………『ただかわいいだけ』か。

 閃いた。

 

「袁紹に王になってもらお」

「!?!!???!?」

 

私が一言呟いた瞬間に声にならない声を上げ、ちょっとなかなかお目にかかれないような絶望顔になる。

 

「お……お主まで妾を裏切るのかや………?」

 

そしてみるみる涙が溢れて……あぁ、もう、かわいいなぁ。ダークなサイドに目覚めてしまいそうだ。まぁ、目覚めないが。

 

「もちろん、美羽様にも王になってもらうで」

「へ……?」

 

今更ながらちゃん美羽は表情豊かなもので、今度は『きょとん』をそのまま描いたような顔をする。

 

「袁紹は富を求む者達の王に。美羽様は美を愛でる者達の王に。片や金を数えて暮らし、片や詩を歌って暮らす……」

「むぅ……しかしそれではこれまでと変わらぬではないか」

 

……うそん。

ちゃん美羽が誤魔化しに気付いた!?

 

「………確かに、"ただ歌って過ごす"だけやったら魏の下に居った時と同じや。今回違うのは、"文化に関する"国家規模の決定権を持つこと」

「こっかきぼのけんげん……?」

「面倒くさい公共事業やら外交はポイーで趣味のことだけ考えられるっちゅーこっちゃ。むしろ得やない?」

「うむむ……それであの強欲が満足するかのう………」

「主な決定権は譲るとか言って、ただし美羽様の好きな歌等を含む文化振興策の執行権はこっちに残して欲しい……とかいう文面でちょろまかせるやろ。相手には『主な』っちゅう如何にも万能そうな言葉をちらつかせて、こっちの主張は謙った表現にしてできるだけ複雑な言葉を使う。……この点に関してはもっと詰めなあかんやろな。そこで、袁紹さんをちょろまかしたらあとは楽や。多分やけど顔良も猪々子も今回の袁紹さんの行動には乗り気ちゃうはずやから突っ込んで来ん」

「そうか……そうじゃな!うむうむ!中々の策じゃ。褒めてつかわす」

 

一瞬ヒヤッとさせられたが、やはり基本はいつものちゃん美羽のようで結局は言い包めることが出来た。

 

「そらどーも。……んだら、今からその調定文仕上げなんならんなぁ。七乃さんは、予定どない?」

「特に無いですけど、良いですか?お嬢様」

「良いぞよ。そなたらであのクルクル頭の頭を中身までクルクルにするような文を考えるのじゃ!」

「おう、任せとき」

 

 踵を返してさっさと部屋を出る。いくら文化面での決定権が有ったところで外交権やら財務権やらが手元にないとクッソ不便だという事実に気付く前に。

 

「口八丁手八丁ですねぇ〜」

 

横から七乃さんの声。

 ……あぁ、顔を見なくても分かる。

 

「……何笑とんじゃい」

「いえ、よくあれだけスラスラと出てくるなぁと思いまして」

「そら誤魔化し一本でここまでやっとるもん」

「良かったんですか?期待させちゃって」

「予想外の動きやったからなぁ……完全に諸葛亮やら周瑜やらに気ぃとられとった。まぁ、もう応急処置で多少の不具合が出るんはしゃーない。ほんでどーせこの戦が終わったら状況は変わる。その時はまた新しい言い訳ができる」

「帳尻合わせが大変そうですねぇ」

「そらそうよ。やけど、それを我慢するだけで欲しい状況が手に入るとも言える。戦場と違ぉて交渉の場やったら命の危険はそこそこの割合しかないからな」

「へぇ〜、お疲れ様です」

「七乃さんもやるんやで」

「お断りします」

「…………山羊の舌ってザラザラしとるんよ。んで、アイツら塩味好きやから気に喰わん奴の身体に塩水塗っ――」

「やらせていただきます」




読者の皆様が付いてこれてるか心配です。
最近買ったゲームがプレイヤー置いてけぼり系のシナリオだったので。


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第十二章X節その十三 〈β〉

お久しブリーフ(激寒)。
食欲の秋、文化の秋、芸術の秋、そして女心は秋の空ということで色々と心がぴょんぴょんしていたらこんなに期間が開いてしまいました。
秋の鮭はクッソ美味しいです。毎日食べてます。太りました。
プレミア12面白かったです。私モお嬢様として実況スレで白熱してました。

さて、本編はと言いますと内容がクッソ複雑な上に私の技量が不足しているためすごく分かりにくくなってるかもしれません。
でも安心して下さい。ここは分からなくていいところです。
聆と七乃さんが意図して分からないように行動しているのですから。
今回誤字多いです。気づいたらご指摘よろしくお願いします。


 「ふゎぁあ…………うえぁ」

 

 決戦の地へと向かう行軍のさなか。野営地の天幕での七乃さんとの話し合いの席。ふとした瞬間に何とも気の抜けた欠伸が出てしまった。やはり身体も頭もかなり消耗しているらしい。

 今回の行軍では真桜によって改良され揺れが抑えられたちゃん美羽の馬車に同席させてもらっているが、これがいつものように騎馬(牛)だったらと思うと……。

 

「あはは……随分お疲れみたいですねぇ」

 

七乃さんも膝枕で眠るちゃん美羽の頭を撫でながら苦笑いする。

初めからそういうもんだと思っているが、それでもちゃん美羽は気楽なものだ。

 

「一昨日から面倒な問答ばっかりや。馬超やら諸葛亮やら……」

 

槍を刺されたり釘を刺されたり。

 

「それに麗羽さんも、ですね……」

「そらもう……あんなんあっかい。外にも内にも活発過ぎや。たった一晩波風立てんように収めるんにどんなけ苦労したことか」

 

 それに加えて麗羽ェの傍若無人ときた。出立の前日に協定を結んでからというもの、自分の再起をアピールしたくてたまらないらしく、いつ余計なことをしでかすか気が気じゃない。

 

「猪々子さんや斗詩さんと連携してコレですもんねぇ」

「ちゃん美羽はどうにでも軌道修正できるけど、麗羽ェは一回『やる』言うたらもう止まらんからな」

 

最悪ちゃん美羽は蜂蜜を舐めさせていれば大人しい。が、麗羽ェの方は自己顕示欲が強く他人の欲しがるものを手に入れたがる(ちゃん美羽にも似たような気質は有るが)。正にトラブル体質だ。

 

「それでも猪々子さんと斗詩さんを味方に付けられるのは大きい、と?」

「消去法や。猪々子が抜けた状態やったら最序盤の私らの将二人だけやぞ。無茶過ぎるわ。ある程度は一騎討ちとかで稼がなならんのに」

 

 正直な話、私たちの戦力では夏候姉妹季衣流琉の最精鋭部隊とかにマトモに当たったら確実に半壊する。文醜隊華雄隊はそこそこの数が居るが魏軍全体と比べればお察しだし、鑑惺隊は一千と五百程度の比較的少数の部隊だ。ぶっこ抜いてきた奴らも有能ではあるがだからと言って覆るものでもない。

 策が成るまで保たないのだ。

 

「聆さんが沢山相手すれば」

「冗談でも御免やわ」

「でしょうね」

「……はぁ、そんでのぉてももう怪我しとるんに」

「まぁ、去ってもらう筋書きはもう通ってるんですから戦さえ乗り切っちゃえばこっちのものですよ」

「軽ーに言ぅてくれるわ」

 

その戦が鬼畜タイミング管理の難所だと言うのに。

 

「え〜、作戦の難易度で言えば今までとそう変わらないじゃないですかー」

「その『今まで』が大変やったやんけ」

「……もしかして、本気で結構弱気になってます?」

「私は黄巾の頃から弱気やぞ」

「不安なら『道化』さんの様子でも確認して来たらどうです?」

「どーせその時までガタガタやろから見てもしゃーない。むしろ下手に刺激せん方が良えやろ」

「まぁ、そ――」

「……どないしたん?」

「いえ、何でもありません」

 

七乃さんが言い終わるかどうかの瞬間、微かに外で動く気配が有った。丁度私が欠伸をした辺りから居た間諜だろう。

 

「七乃さんも疲れとんとちゃう?」

「うーん、そうでもないんですがねぇ」

「大体自分で疲れた思い始めたときはもう相当末期やからなぁ――」

「……」

「……」

「行ったみたいですね」

「くくくっ……七乃さんホンマ狸やわぁ。居るん分かっとってあんな話振ってくるんやもん」

「でも聆さんも即座に乗ってきたじゃないですかー」

「まぁ、せっかくの機会やし便乗しとかなな。さて、これで向こうがどう出るかやね」

「大体決まったでしょう」

「やろなぁ………wwwwwww」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「――なるほど。……その内容に間違いは有りませんね」

「少なくとも、位置取りを定めてからは。互いに淀みなく話していましたから……途中に聞き取れない小声での会話が有ったとも思えません。聞き漏らしは無いかと」

「気づかれてないわよね?」

「は。本人は気のせいだと思ったようですが張勲が何やら違和感を感じたようなので大事を取って帰還しました」

「……まぁ、妥当な判断ですね」

 

 ところ変わって呉蜀同盟会議天幕。

間諜の報告を受けるのは諸葛亮、孫策、周瑜、劉備、関羽の五人だ。

 

「ご苦労様。下がっていいわよ」

「は」

「敢えて周泰さんが見廻りに出てるときに諜報員を放って正解でしたね」

「ああ。奴ら明命のことも警戒しているだろうからな。逆に、明命が留守だと思えば気が抜ける」

 

その予想が大当たりした(大間違い)ワケだ。

 

「……さぁて、どう見る?」

「まず昨夜からこちらでも掴んでいた情報ですが……袁紹さんと何かしらの比較的強い協定を結んだということ。そして次の合戦の後にその袁紹さんを消す気で居ることが読み取れます、ね」

「…………」

「消す、か………」

 

諸葛亮の言った内容に、劉備と関羽の二人は暗く沈んだ表情を見せる。

 

「まーた複雑そうな顔しちゃって」

「以前にも言いましたが、聆さんは私たちの『甘い』考えを嗤わずに受け止めてくれた最初の人です」

「前から思ってたけど聞いてくれた聞いてくれたって……」

「今までは華雄然り、文醜然り、馬騰殿に翠……いずれも仲間に加えるか見逃すか」

「………つまり、敵ながらにしてあなたたちの理想を実行してる人物だと思ってたワケね」

「今回でひっくり返りましたが」

 

諸葛亮がすかさずトドメを刺した。今後(と言っても既に乱世も終局に近いが)のためにこの二人には鑑惺に対する好感度が低い状態でいて欲しいのだ。

 諸葛亮と孫策周瑜という反鑑惺的な集まりに二人を呼んだのもそもそもはそのためである。

 

「私から見れば妥当だがな。……単に戦略面ではなく奴の思考を考慮して。奴はしきりに『有能』『損失』という事務的な言葉で人を評していたし、現在は曹操の下から離れ劉備殿を讃えてはいるが元は曹操の強硬な戦略を支持していた。恐らく奴にとっては思想など二の次で、この大陸を速やかに統一することだけが重要なのだろう」

「袁術ちゃんがかわいいってのも『自分の思い通りになるのが』かわいいってことだったのかもね。文醜華雄も殺すより使う方が効率的だと思ったんでしょう」

「………」

 

 孫策の言に二人が言い返さないのを見て、周瑜は気を良くする。

 

「まあ鑑惺の人柄は別としても、だ。どうやら奴らの頭の中には次の戦での作戦が既に設計されているらしい」

「『一騎討ちで稼ぐ』『難易度で言えば今まで通り』という言葉ですね」

「それに『最序盤は私らの将二人だけ』ね。……まぁ言わなくても分かるだろうけど」

「あぁ。十中八九裏切るつもりだろう」

「っ……だが、ただ単に私たちを信用できていないだけかも知れんではないか」

「信用していようがしていなかろうが、味方だと判断していたならばこちらからの作戦指示もないうちから作戦を立て、それが確定しているかのように話すことなど出来はしない。逆に初めからこちらの提案を蹴って動くつもりなら幾らでも作戦を立てられる」

「開戦と同時に転じてくるんでしょうね。どうせ」

「それならば説明がつくな。奴らにとっては敵陣の中で戦が始まることになるワケだからな」

「それは……でも、周瑜さんの言う通り聆さんが非情な効率主義者だったら、我が強い上に相手の策に喜んでかかる今の曹操さんは一番嫌う相手のはずでしょ?今になって向こうにつくっていうのは……」

「だーかーらー、その策に喜んでかかったってのが嘘なんじゃないの?実際鑑惺がこっちに来たせいで祭の策は丸潰れで全体の流れを掴まれて逆に私たち本隊が急かされて出る形になったんだから」

「桃香様、愛紗さん……辛いでしょうけど、鑑惺さんはほぼ間違いなく黒です」

「く……」

「認めたくないのはわかるけどねぇ。……覚悟、決めときなさいよ」

 

むしろ鑑惺を斬る役目は関羽にさせようか。そうすれば、この戦に勝ったとしてその後の反撃戦線で一皮剥けた戦いが出来るようになるかもしれない。

 

「さ て、と。じゃあ、私たちはどうする?人質を取って封じ……られないでしょうね。アイツは」

「何も言わないでおきましょう。ただ、戦場では相手が寝返り次第即座に叩けるように備えておくべきかと」

「そうだな。策が発動する瞬間に潰せば向こうに混乱を与えることが出来るだろう」

「元々不利な戦い……コレが出来るか出来ないかが勝負ね………」

「…………」

 

 その後、劉備関羽が退出した後もアレコレと議論は続いた。これまで隙を見せないどころか散々自分たちを引っ掻き回した鑑惺の尻尾を掴んだということが、本人たちは気づいていないながら相当嬉しかったようだ。




そう言えば連載して一年が経ちましたね。
4月には終わる予定で恋姫英雄譚発売に絡めたダイマエンドを考えていたのにどうしてこうなった。


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第十二章X節その十四 〈β〉

安くて如何にも体に悪そうな炭酸飲料が何故かすごく美味しいです。ハッピーな気分になれます。にょわ〜☆ちなみにデレマスでは姫川友紀ちゃんが好きです。みくにゃんのファンはやめました。
あと7ドラⅢ買いました。ノーコメントです。

本編は魏側(魏陣営の話ではない)です。
ここ数話ずっと『もうすぐ戦だ』ばっかりですね。
次の次で開戦すると思います。しばしお待ちを。


「……もうすぐそこまで来てるんだな」

 

 蜀呉に動き有り、という知らせが届いてからしばらく経った。桂花の計算では遅くてもあと五日もしない内に俺たちのいる城に敵軍が押し寄せるらしい。

 

「ええ。もう三日も経たない内に着くでしょうね」

「まぁ、間を取ればその辺りかな」

「……間を取れば、なんて軟弱な考えじゃないわ。勘よ」

「勘か」

 

勘って言っても華琳のは『様々な経験や知識から無意識に一瞬で高度な思考を行った』ってことだからな。大体当たるだろう。

 だからこそ――

 

「こんなことしてていいのか?」

「………」

 

華琳は『無粋なことを言うのね』とでも言いたげな表情をしながら盃を傾けた。

 俺は今、華琳の私室に来ている。何事かと思えば『呑みたいから付き合え』というもの。小さな机の上に並べられた小料理や酒は前線基地とは思えないくらい質のいいものだが、正直今は魅力を感じない。

 

「いや、さ。軍議とかいろいろ」

「兵に武器に食料に……もうこちらでできることは全てやっているわ。籠城も余裕よ。……するつもりはさらさら無いけれど」

「……そうだな」

 

確かにやれるだけのことはやった。

 

「………」

「………」

 

やったんだけど、やっぱり、だからって落ち着いてのんびりしてられるかと言えば答えはNOだ。

 

「はぁ……分かったわよ。本題に入るわ。……呼んだのは聆のことで よ」

「! やっぱり華琳は何か知ってるんだな!?聆の裏切りは実は策略だって噂も有るし――」

「私は『覇王』曹孟徳。苦肉策なんて使わないし使えないわ。苦肉策はその名の通り弱くて普通に戦えば勝ち目の無いものが仕方なく使う策よ。使えば自らの格を落とすことになり、今までやってきたことが無駄になる」

「なら………」

「一刀……この戦、貴方の隊が聆に当たりなさい」

 

いつものおふざけでも言うような口調で華琳が言った。けど、その内容は信じられないものだった。

 

「なっ……いやいや、ちょっと待ってくれ。凪や沙和はそんなことができるほど立ち直れてないぞ!?」

 

あの日以来、凪は塞ぎ込んでしまっているし沙和も躁鬱が激しい。俺は……何だろうな、落ち込むとか落ち込まないとかじゃなくて……うん、何かよく分からん。きっと客観的に見ておかしいことになってる。

 

「そもそも、そういう精神論抜きにしても俺たちの戦力は半減してる。聆を相手にするなんて……」

「もちろん兵は補充するわ。それに、確か凪は聆に相性が良いのでしょう?一騎討ちでも仕掛ければ良いわ」

「簡単に言うなよ……アイツらはずっと一緒の友達だったんだ。それを正面からぶつけるなんて――」

「だからこそ、よ。友情と忠誠……どちらを取るのか。良い『悲劇』になると思わない?」

「はぁ!?何言って――」

「………」

 

 思わず立ち上がった俺の目に入ったのは、いつもの嗜虐的な笑みだった。

 

「……はは、華琳らしいな」

「理解してもらえたかしら?……なら、貴方も上手く踊って見せなさい」

 

やっぱり、曹孟徳は覇王だ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「………」

「何もできなんだ、か。……ハハ、ワザワザ痣まで作って来たというに。あとは戦のドサクサに紛れて闇討ちできるかだが……周りが全て敵の状態では難しいのう」

 

 鳳雛と黄蓋もまた同じように話し合っていた。……と言っても、こちらは愚痴合戦だが。

 

「……仕方有りません。作戦の前提が、侵攻してきた敵を止めるというものでしたから」

 

 油断しきった相手のにやけ面をぶん殴る作戦だ。『赤壁での火計に至るまでのあらゆる流れ』に対応できるようになってはいたが、そもそも赤壁までやってこないのでは破綻は必至。しかもこうも守りが硬くなっては本国との連絡もおぼつかない。……逆にこの城と魏との行き来は活発になっているから情報だけは豊富に手に入るから余計にヤキモキする。

 

「ふむぅ……。ますます鑑惺の裏切りが策略じみて見えるのぅ」

「そのことについて一つ。魏の市民が落ち着いている理由が分かりました。……有力な商人が揃って『鑑惺の裏切りは策である』とそれぞれの地域の組合で宣言しているようです」

「商人が嘘をついている……とは考え難いな。もし裏切りが策でなかった場合、魏に留まって割を喰うのは自分たちじゃ。裏切りが本物だと思っていたなら早々に引き上げるはず。……やはり、黒か」

「……ですがこうも考えられます。現在の魏と蜀呉は五分と五分……しかも単純な物量だけで見ればまだまだ魏が有利。となれば、商人が然るべき支援を行えば戦況は覆らず魏が勝つのではないか、と商人が予想している……」

「商人は弱い国に厳しい、しかし、魏はまだ弱くない、ということか。それも筋の通る話ではある。ならば商人の動向から判断は難しいか。……いや、どちらにせよ鑑惺が危険なことには変わりない。策殿らが厳粛な決断をしてくれていれば良いのじゃが……」

「難しいでしょう」

「……随分ときっぱりと言うのう」

「『怪しいから消す』というのは桃香様にはできません。……できない人だから皆が付いてきたんです」

 

黄蓋は喉元まで出かかった『甘いな』という言葉を飲み込んだ。今思えば、そうやって切り捨てる妙に張り詰めた考えがこの戦を産んだような気がしたからだ。

 

「………実際に動いてからでないと対処できぬ、か。……はぁ、手玉に取られておるのぅ。全く、あの鑑惺とかいう輩は何者なんじゃ」

「やはり、背が高いのが大きく関係していると思います」

「背?……いやいや、チビでも強い奴など掃いて棄てるほど居るぞ。お主を筆頭にチビで賢い者もな」

「背が高いと自然と相手を見下ろすことになり、相手を見下ろす表情は目の開き方が小さく静かなものとなります。静かな表情をしていると底知れぬ余裕があるように感じるでしょう。それに、潜在的に『上』は尊い者が居る場所という認識が有ります。……つまり、同じ舞台に立ったときには既に鑑惺さんが有利な状況に居て、私たちは彼女と対峙するだけで圧されるのです」

「……そこまで分析しておったのか」

「黄蓋さんにも増して私は何もできない状態ですから。……それに、鑑惺さんの危険性については私たち自身が大きくしている面も有ります。夜が怖いのと同じです。……暗闇に何があるのかと想像し、勝手に恐ろしい物怪を作り上げ、物音がすればソレが出たと騒ぎたてる」

「儂らが『蛇鬼』を作り出した、と……」

「鑑惺さんはそれを敏感に感じ取り、利用し、増幅させてきたのです」

 

怪しいとか心を操るとか不死身とか……良からぬ噂を立てて妨害しているつもりが自らに暗示をかける結果となっていたというのは皮肉なものだ。

 

「しかし、単に苔脅しなのではなく実際にある程度は危険なのも夜と同じです」

「恐れてはならんが恐れないのもまた危険。……思考は無意味よのう。実際に起きたことにそのつど対処していくしかないのか」

「現状、そういう結論になります。……しかも、私たちはことあるごとに鑑惺さんに注目していますがそのせいで魏の他の面々の策を見落としたことも少なくありません。……探り合いをするにはもう下手を打ちすぎました。あらゆる予想は裏目に出るでしょう。迷信じみた考えですが、そういう『流れ』です」

「そのことに気づいてくれておれば良いが……」

 

 ……更に二人はもう一つ根本的なことも感じていたが、それはあまりにも元も子も無さすぎるので言わなかった。




最近プライベートが忙し過ぎてヤバイ。秋ヤバイ。


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第十二章X節その十五 〈β〉

お久し秋鮭(激旨)。
最近本格的に寒くなってきましたがまだまだ鮭は美味しいです。
先週ぐらいからpso2を始めました。ep3までクリアしたのでep4実装まで放置です。

やっぱりデジタルって苦手です(唐突)。
今回は一回データが消えたのを急いで書き直したので誤字がヤバそうです。気付いた方はできるだけ早急にご指摘頂けると有り難いです。

本編の内容はやっと『もうすぐ戦だ』パートが終わり、最終決戦(β)へ。
まぁ、まだ舌戦が有るんですけどね。


「――以上が、次の戦闘での陣形と大まかな戦術となります。……何か質問や意見は」

 

 野営地本陣にて開かれた軍議は一通りの行程を終え、ある意味定形的な文言で閉じられようとしていた。

 

「………」

 

劉備や関羽などの親鑑惺派も含めた大多数が予想していた通り、方陣に分割されたカタチで蜀呉がそれぞれ布陣したその前面右翼寄りに鑑惺らが配置された。

 特に複雑なこともなく、また何かを言う空気でもなかったためそのまま終わるかと思われたが……

 

「のう、妾はもっと後方の方が良いのじゃが」

 

この者にはそんなこと関係なかった。

 

「……しかしそうなると鑑惺さんや華雄さんと離れることになりますが」

(鑑惺さん……この大掛かりな軍議に張勲さんと袁術さんだけよこして不参加とは何を考えているのかと思いましたがそういうことですか………この二人……質の悪い)

「何を言うておるのじゃ。当然そやつらもともに下がるに決まっておろう」

「そうですよねぇ。そもそも、聆さんが最前線でどうこうする質じゃないことは諸葛亮さんならよ〜く知ってると思うんですけど?」

「いえ。かの西涼騎馬隊を難なく捌いたほどの実力を持ってらっしゃいますし、魏の兵をよく知っているでしょうから……相手の勢いを挫いて攻めの起点にする その要を担うに相応しいと判断しました」

「それなら尚更陣の中程に置いて誘引と組み合わせた運用をする方が効果的だと思うんですけど」

「ですがそうなると華雄さんたちの突撃力を活かせなくなります。分けるのは……なにぶん急造の軍で情報や指示が通りにくくなりやすいので……一つの派閥は一つに纏めておこうということになってますからできません」

「それなら鶴翼と――。……いえ、クッサい言い訳はやめません?諸葛亮と美周瑜ほどの方々がここまで非効率的なことを何の裏もなくするわけ無いでしょう。どうせ裏切るだろうって思ってるんならそう言ってくれて良いんですよ?」

「………、……裏切るにしても、裏切らないにしても、私達はそれを確定するだけの判断材料を持っていません。まさか、あなた方も本気でまるっきり信用してもらえるとは思っていませんよね?」

「………はぁ。分かりました分かりました。諸葛亮さんは随分と"堅実な"方みたいですねぇ。もう私からは何もありませんよ」

「こりゃ七乃!妾の質問を勝手に終わらせるでない」

「えー、でも仕方ないですもん。お嬢様だってぇ、曹操さんや袁紹さんが『仲良くしよう』なんて言ってきたら疑うでしょう?」

「それはそれ、これはこれじゃ」

「えー、でも孫策さんも睨んできてますしぃ〜(適当)」

「そ、そんなもの妾がガツンと言ってやるのじゃ!……うおっほん、えー……」

「………」

 

本人は睨んではいないのだが不機嫌なのは確か。『睨んでいる』と言われればそのように見えないこともない。

 

「……、………やっぱりなんでもないのじゃ」

 

 その一言で軍議は終了。周瑜が『では、ここまで』と言い終わるや否や張勲らはさっさと引き上げた。まるで仕事は終わった、とでも言うように。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 そしてしばらく後。いつもの面々()で反省会が行われる。

 

「良かったのか?」

「訊かれてしまえば答えるしかないでしょう。そもそも……」

「あんな内容は訊くまでもなく互いに認識している事実よね。ぽっと出の新参を本陣近くに配置できるはずがない。それをワザワザ訊いてきたということは」

「その質問自体に意味は無く、質問することによって何かをしようとしたワケだな」

「はい。そう見て間違いは無いかと。恐らくは中陣への移動がソレですね。……桃香様も、今にも口に出しそうでしたし」

「『そんなことありません!……朱里ちゃん、美羽ちゃんたちを中陣に入れてあげて』ってところかしら?」

「……そうですね」

「だが、私は張勲が中陣に行きたがるというのには違和感を覚えるな」

「あー、そう言われればそうかも」

「……?」

「ヤツは自分と袁術……二人だけが無事なら他はどうでも良いという人間だ。それこそ、この戦の勝敗もな。そして、中陣に居れば裏切りの効果は確かに大きくなるが、その後うまく逃げられる確率は低くなるだろう。……四方を敵に囲まれているのだからな」

「張勲さんの行動原理に反するということですね……」

「逆に鑑惺の方にはガッチリと当て嵌まるがな。……だが、それを差し引いても張勲がアレほど語気を強くするのが不自然だ……。ヤツは自分のこと以外……いや、自分のことでさえ熱くはならない」

「確かに、一回殺しかけたときもピーピー泣きつつしっかり冗談言ってきてたわね」

「不自然と言えば、私が応えた途端にやけにアッサリ引き下がったのも……いや、唐突な入りも不自然です」

「………言質?」

「何のです?」

「『向こうも信用してないんだからそれに応える義理もない〜』みたいな。ほら、曹操って覇道に拘ってるじゃない?」

「信頼を裏切るのは卑怯と言われるが元々対立していたとなれば理解も得られる……と?」

「ですが鑑惺側もそもそも曹操が新参を受け入れたことに反発して離反した……という設定です。それを声高に宣言していますから、孫策さんの説では明らかな矛盾が表れてしまいます。言質というのは考え難いかと」

「だが曹操と我々では状況が違うのも確か」

「『曹操は余計なことをしなければ楽に勝てるのに』で、私たちは『ある程度掛けをしないと勝てないのに』ってことよね」

「その点は宣言されていません。なら、そこに考えが至る人がどれだけ居るでしょうか。人間の八割は盲目で難聴で愚かです。それを知らない鑑惺ではないでしょう」

「ならば……分かる者だけに働きかけようとした……?」

「でも分かってたら疑うのが当たり前ってのも分かってるでしょ。普通に考えて」

「………ならば、ならば何だというのだ……」

「案外さー、こーやって悩ませるための無意味な行動だったんじゃないの?」

「それならそれで、頭の作りが単純な人たちが対処してくれます。ですが、もし、あの行動に意味が有った場合……それを察知し防ぐことができるのは私たちしか居ません」

「……あぁ、そうだな」

「じゃあもうちょっと付き合ってあげるわよ」

 

 熱くなっているところ悪いが、一番最初に正解は出ていた。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――なーるほどなぁ……諸葛亮もなかなか踏み切ってったなぁ。人道説いとる主君の手前『信用してるワケ無いじゃんバカなの?』とは言い辛いと思とったんやけど」

 

 ちゃん美羽を寝かしつけたその後。私は七乃さんからの報告を聞いていた。

 どうやら全体的に呉のメンバー+諸葛亮が主導権を握っており、特に私と親しかった娘たちは意気消沈気味だったとのこと。どうやら先日の『黒いのチラ見せ作戦』は予想以上に広まってしまっていたようだ。

 

「ちょーっとヘマしちゃいました。グイグイいきすぎたかもしれませんねー……。一応、その後わざとらしいくらいアッサリ引き下がって混乱を狙っておきましたけど」

「十分や。桃香ェだけ揺さぶるなんかできん。今回は諸葛亮の『防衛線』が厳しかったんや」

 

中陣に行けないにしても桃香と諸葛亮の間で軽く口論くらい起きないかと期待していたのだが……これは、軍議以前にもう諭されてた系かな。

 全く、私がせっかく苦労してあの手この手で麗羽ェが軍議に出席しないように工作したというのに。

 

「んー、でもどうします?最前線に決定しちゃいましたけど」

「どないもこないも……決まったからには最終確認や。……おい」

「はっ」

「"真桜以外の"将軍格の皆呼んで来てくれ」

「御意に」

 

 ……まぁ、既に私たちの一番の仕事は果たしている。そう嘆く必要も無い。後は戦の被害を少なくするように尽力するだけだ(激ムズ)。

 

「さーて、いよいよ大詰めや」

「うふふ……後の歴史家はコレを何と書き表すでしょうねぇ」

「『大茶番』辺りが妥当やろ」

 

ホント、自分でも思うがとんでもない茶番だ。




諸葛亮どころか仕掛けた側の聆まで読みが外れはじめたステキ戦略。


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第十二章X節その十六 〈β〉

お久し生牡蠣(海のミルク)
電車の四人ボックス席の隣と向かい側に知らない人が座ったときの不快感は異常です。体の筋肉が緊張した状態が続いて頭痛腹痛関節痛の同時多発テロです。

さて、作品はようやく戦が始まりました(刃を交えたとは言ってない)。
もうね、作者の天才力はレッドゾーンです。β√とか何で始めたんでしょうか。過去の私をぶん殴りたい。ガシッボカッ。アタシは死んだ。スイーツ(笑)


 平原を埋め尽くさんばかりに並んだ人、人、人……全く、これだけの数をよく集めたものだ。魏軍は予想通り籠城ではなく野戦を選んだ。黒塗りの甲冑の人垣は背にしていた時は大して意識していなかったが、対峙して見るとなかなか威圧感のあるものだ。

 しかもそれを最前線で受け止めなければならんのだから余計に憂鬱だ。

 

「ほんで隊長んとこをぶつけて来る、か。華琳さんはやっぱ冴えとるなぁ」

 

軍団の一角、私の丁度真正面には北郷の十文字旗が揺れている。

 

「なぁ、聆」

「なんや」

「……ホンマに大丈夫なん?」

 

真桜を引っこ抜く時に使った方便……一刀と凪、沙和の安全は保証するという約束。

 

「大丈夫や」

 

敢えて顔を見ずに答える。

 

「聆」

「さて、そうこうしとる内に舌戦や」

 

 真桜の声を遮って戦場の中央に目を向ければ、丁度向こうから華琳が、こちらから孫策と桃香が出て向かい合ったところだった。

 

「あら、そっちからは二人でお出迎え?」

「出迎えに見えたのなら貴女の目と頭は相当な病気を患ってるってことになるけど」

「ふーん……戦いを好まない貴女にしては随分と喧嘩腰ね、劉備」

「私は……戦うかどうか、この場の話で決めます」

「劉備!?」

 

……えぇ………?大丈夫かこれ?

 

「ぷふっ……あはははっ」

「チッ……!」

「可笑しいわねぇ孫策。私が少し躓いたのに気を良くしてたのかもしれないけど、貴女もバラっバラじゃない?患っていたのは蜀呉同盟の方だったようね」

「曹操さん」

「ふふ……えぇ、何かしら?」

「質問が有ります。……貴女の本当の言葉が聞きたい」

 

可笑しくてたまらないというふうな華琳や戸惑いを隠せない孫策たちをよそに、桃香は大真面目な表情。

 

「ふん……」

「何言ってるのよ劉備。こんな場で本当の事なんか言う?両軍の士気を伺って耳障りの良いことしか言わないわよ。どうせ」

「それは違うわ。孫策」

「曹操さんの統治の本質は有言実行の積み重ねです。過去と現在は偽れても、未来は本当のことしか言えない」

「…………」

 

華琳の顔から侮蔑の色が消える。『警戒に値する人物』として評価し直したようだ。

 

「曹操さん。……貴女は、蜀や呉を何故攻めるんですか?そして、侵略した後に何をするんですか?」

「劉備、貴女まさか……」

「……選択肢としては有り得ます」

「何を言って……!?」

「曹操さんの手で皆が幸せになれるなら、わざわざ私が邪魔をする必要なんてありませんから」

「その言葉が何を意味してるか――」

「そろそろ良いかしら」

「……はい」

「……」

「そうねぇ……まぁ、簡単なことよ。貴女たちの国が私の国より劣っているから。私が治め、正常化しなければならないの」

「正常化……?」

「そう。正常化。……腐った社会を滅ぼし、最も効率良く世の中を廻す必要が有る」

「私も、もちろん孫策さんも良い為政者にであろうと努力しています。それに、確かに魏には劣りますが十分に豊かな国を持っていると思っています。……わざわざ侵略をしてまで貴女の流儀に合わせないといけませんか?」

「いけないわね」

「それは何故?」

「貴女たちが『縁』に頼っているからよ。友好やら血筋やら……そういう柵が目を曇らせ社会の機能を腐らせる。保身と汚職に塗れて滅びた漢から何も学ばなかったの?」

「それは自分とその血統にしか愛がなかったからです。国を支える民もその縁の仲として考える心がなかったからです」

「なら貴女にはそれが出来るというの?……もし出来たとして、それを貴女の子や孫が違えず守れると言い切れるかしら?」

「なら曹操さん……貴女は行き過ぎた実力主義が何を産むか、希望的観測を無しに考えていますか?誰かを追い抜かしたくて、誰かに追い抜かされたくなくて、ずっと不安でずっと走り続けて……それが人として幸せなカタチですか?」

「国が前に進みつづけるには民が前に進みつづけるしかないわ。国は魏蜀呉の三つだけじゃない。五胡に南蛮……その外の羅馬に海の向こうの倭。彼らもまた前に進んでいるわ。いつか対峙したとき、私たちはそれ以上に進歩していなければならない」

「初めから敵になる前提なんですね。外交は苦手ですか?」

「為政者は常に最悪の状況を考慮しなければはならないの」

「最悪の状況に引っ張られて希望を手放すなんていかにも貧しい考え方じゃないですか。覇王って思ったより臆病で可哀想な人みたいですね」

「ふふ……中々言うようになったじゃない。関羽のオマケくらいにしか思ってなかったけれど、貴女、欲しくなったわ」

「欲しいとか欲しくないとか……人をそうやって物みたいに扱うから曹操さんには任せられないんです」

「そう。でもこれは私の性分だしねぇ」

「改める気は無い、と?」

「改めさせたいなら私に勝つことね」

「………」

「………」

 

 力強く堅実な言葉で自らの正当性を説いた華琳と、ゆらりゆらりと論点を変えながら印象的な言葉で刺した桃香……文字に並べてみれば恐らくドローか華琳有利だが、さて、聞いていた民の印象は……?

 舌戦は"互角"。

 言葉が途切れ、じっと向かい合う。おそらくは両者にしか分からない"何か"が交わされた。

 

「……孫策さん、ご迷惑をおかけしました。私、戦います」

 

嫌に永く感じる一瞬の後、桃香が先に視線を切って振り向きざまに宣言した。

 

「………初めからそう言いなさいよ。ビックリさせないでよねホント」

「すみません」

「でもまぁ、中々良い"イチャモン"だったわ」

 

 

 互いの大将が自軍に戻り、兵に最後の激励をかける。

 

「孫呉の、そして蜀漢の勇士たちよ!今、憎き北の巨龍の身と心にようやく綻びが生まれた!」

「今こそ力を振り絞ってその野望を打ち倒し、私たちの人間として幸せになる権利を守らなければなりません!」

「敵は強大だ。しかし我らもまた大きく強くなった。勝利は勇士諸君の奮戦により必ずや齎されるだろう」

 

史実では泥沼の戦いの始まりとなる対魏反攻戦。

 

「我が魏の戦士たちよ。此度の侵攻において、確かに、我らの内から離反する者があった。だが、それにより真に我が理想と共に在る者だけが残り、我らはより純化し、その結束は堅くなった。我らは正しい。我らは強い。そのことは我らの国の姿が保証する。……今まで通りに戦いなさい。そうすれば必ず勝てる」

 

それを『戦乱の終焉』にできるか。

 

「「全軍」」

「「突撃」」

 

戦"舞台"の始まりだ。




寒い


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第十二章X節その十七 〈β〉

最近お酒を呑んだら酔う前にすぐ頭痛くなるようになってきました。
お酒は呑みたくて仕方ない。でも呑むと苦しい。
呑むも地獄呑まぬも地獄。私が何をしたというんだ。
更新期間空いたのがいけないのか。ゴメンネ!

さて、本編はついに刃がぶつかり合いはじめ(←本当に始めただけ)ました。もはや某オサレマンガの方が一話ごとの話の展開早いと思います。
そして最後の方に少しネタばらしも。


 北郷隊が久々に顔を合わせることになったのは……俺も向こうも最前線だったんだから当たり前だけど、開戦の号令がかかってほんのすぐのことだった。

 ゴクリと唾を飲み込む沙和、険しい表情のまま眉一つ動かさない凪、目をそらしてこちらを向かない真桜……みんな、敵と味方に分かれそれぞれの反応を見せる。

 そんな中――

 

「いや〜、ほんのちょっと前やっちゅうのにだいぶ久々な感じするなぁ」

 

真桜と同じく、いや、叛乱組の筆頭として対峙した"はず"の聆は、水牛から下りながらそんな風に話しかけてきた。

 兵に停止命令も出さずに。

ほんのすぐ近くの兵だけが不可思議そう……混乱したように見つめているだけで、ワザワザ見ようと思わなくても目に入るような範囲で両軍が殺し合っている。

 あからさまな異常。

 だけど俺は、すぐさま氣を高めた凪を制してできるだけ"今まで通りに"かえす。

 

「まぁ、今まではその『ちょっと』の間も無く一緒に居たんだから長く感じても不思議じゃないだろ」

「ふん……そーやなぁ」

 

 何が狙いだ……?この場面で話しかけてきたのには何か理由があるはず。……だけど、さっきの相槌……"用意していた"会話なら、意味の無い余計な言葉や淀みは無く、スラスラと語るはずだ。

なら、ただの時間稼ぎ?誰かの到着を待っている?……いや、それも……。それならワザワザこんな場違いなテンションじゃなくてガチガチの論戦でも吹っかけてくればいくらでも自然に時間を潰せるはず。

 

「こっちは色々と大変やったけどそっちはどないや?」

 

尚もにこやかに歩み寄ってくる聆。

……そういうことか。

 

「おかげさまで大騒ぎだったよ。聆はいつもやることが派手すぎる」

 

聆と同じように俺も馬から降りた。

 聆の狙いは間合いを詰めること……もっと具体的には、凪の氣による広範囲攻撃を封じること。

 

「私程度で派手なんやったらそれこそ華琳さんやらはどうなってまうんや……。『豪華絢爛』?」

 

 聆は頻繁に春蘭たちと比べれば自分は格が落ちるという節の発言をしていた。ほとんどだれもそれを真に受けてなかったけど、もしそれが本当だとするなら、聆はきっと見た目に反してテクニックタイプだということになる。……それも凄く極端な。

様々な流派の武器と動きを自在に操り相手の攻撃を避け隙を突く(あるいは作り出す)ことに長けるが、反面マトモに刃を交えて押し勝っているのを見たことは無い。だから凪が天敵になる。

 凪は氣を弾や爆風にして使うことができる。爆風……これは、所謂雑魚用の攻撃で、春蘭なんかは『そんなそよ風では私には効かん!』と真正面から突っ切ったりするものだ。だけど、逆にいくら身体を捻ろうが仰け反らせようが避けることができない。それに、氣弾……これも、速く多く撃とうとすれば威力が下がるけど、逆に言えば威力を無視すればその制圧力は魏の中、いや、この大陸でもトップクラスになるだろう。

 隙間を利用する聆にとって、隙間のない凪の制圧攻撃は脅威で、使われればすぐに終わってしまう。

だから無駄な会話をしてその間に距離をつめる必要がある。

 

「うん。ぴったりな評価だな」

 

 相手の陣形を見れば、聆が"使い物にならない"ことを予想しているのは明白。何をするにしても"すぐに"じゃダメだ。

 それに、さっさとケリをつけては"おもしろくない"。

 

「あれ、……もしかして私の派手評価覆ってないん?」

 

狙い通り、俺につられてか他の三人も馬を降りた。

 

「もしかしなくてもそうだぞ。……そもそも自分でも派手だって分かってるだろ」

 

ホントにな。

 なんてったって、これからこの戦場に集まった何十万という観客に一芝居見せようという大女優様だ。

 

「いやぁ、まぁ、良え女の辛いとこか?」

 

そして俺の役目は、華琳と聆が仕掛ける『戦舞台』の行間を繋ぐこと。

 

「あはは。そうだな」

「ええ……突っ込んでぇや。………いや、下な意味ちゃうで?」

「言われなきゃ思いつきもしないからな!?俺といえばソレみたいな考えはやめてくれよ……」

「そら無理な話やろ」

「何でだよ……警備隊の仕事とか頑張ってたろ?俺」

 

さぁ……そろそろだろ、聆。

 凪も、多分聆の『飛ぶ斬撃』の射程圏内には入ったはずだ。……そして、そもそも俺を盾にすればある程度は立ち回れる。

 

「隊長が組み伏せた盗っ人と押し倒した女の子の数、それぞれ数えてみぃ」

「ふっ……俺はどちらかというとだいたいいつも押し倒されてた側だ!………って何言わせんだ」

「えぇ……そっちが勝手に言うたんやん」

 

「聆ちゃん……!」

 

我慢できない、という風に、ついに沙和が口を開いた。

 

「ん?なんや?」

 

おそらく『キッカケ』として待っていたんだろう。

だけど、聆はあくまで穏やかにそちらへ振り向く。

 

「その……やっぱり裏切りなんて嘘だった……んだよね?こんなに楽しそうに喋ってるのー……こっちが本当なんだよね?」

 

一瞬、聆と目があった気がした。

 

「ホンマもウソも――」

 

キ゛ィンッッ

 

 顔のすぐ近くで響いた刺々しい金属音。

 

「――なぁ?」

 

二本の指で弾かれるように放たれた細剣を、反射的に抜いた刀が辛うじて止めていた。

 

「あぁ……」

 

『談笑してるのも裏切るのも本当の私やぞ』みたいなことを言おうとしてると思わせようとしてるんだろ?

 

「そんな……っ」

 

聆の頬が釣り上がる。

一気に腰を入れて俺を押し下げて、

 

「……!!」

「ふヒッ……」

 

二檄目は飛び込んできた凪に防がれた。

正確には、凪によって聆の顔に放たれた正拳を躱すためにモーションが流れた。

 

「………っ」

「……ァァ」

 

凪が着地し向き直ったのと、聆が両手の指に細剣を引っ掛け腕を広げたのがほぼ同時。

 

否、次の衝突音が響くまで含めて同時だ。




センター試験後は板にいろんなキチガイが湧くのでウキウキです。


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第十二章X節その十八 〈β〉

お久しブリリアント(激眩)。
ゆるふわファンタジーな雰囲気に釣られ、中古で『新・ロロナのアトリエ』を買いました。日程を気にするあまりチャートを作成しました。完全に牧場物語の二の舞いでした。

さて、作品は魏VS蜀呉の第二段階(?)。深読みしすぎたり大失敗やらかしたり、誰も彼もがそれっぽいこと言う割に誰も戦況を握れてません。
作者もちょっと頭の容量ギリギリです(超小声)。


「北郷隊、聆ちゃんと交戦開始しました〜。……他の隊も次々に衝突しているのですよ〜」

 

魏本陣。程昱の間延びした、しかし普段と違ってどこかはっきりとした声が戦況を告げる。

 

「華雄、文醜が少し離れたところに居るのが……いや、鑑惺勢で前線の四分の一を守らされているから、そこに均等に配置しただけとも取れる……か?」

「そもそもそんなに広範囲やらせてるのが妙な話よ。露骨に捨て駒にしてるじゃない。こっちにとっちゃ裏切り者だから別にいいけど、大徳が聞いて呆れるわね」

 

非効率な布陣に、荀彧は敵ながら歯痒さを感じている様子。

 

「大方、諸葛亮が考えたことでしょう。それに、アレももともと魏の兵よ。練度を考えればあの配分も失敗ではないでしょうよ。……でも、連携の面から見ればあそこは確かに穴ね」

「そうでしょうか?そのすぐ近くに関羽はじめ蜀古参の武将がわざとらしい程に勢揃いしていますが……。第二波を仕掛けるなら、中央……蜀と呉の陣営の丁度接合面――」

「その付近には黄忠やら厳顔やら……目立った活躍や大戦も記憶に無いけれど、息の長い将が居るわ。蜀呉の隔たりを超えて兵を上手く動かしてくるはずよ。容易くはないでしょう」

「しかし鑑惺以後の敵右翼は明らかに硬いですが……」

「でも袁家の布陣まで勘定に入れれば、その包囲網より後ろまで届いているのですよ〜」

「捨て駒にすることが決まって無言の圧力をかけられる中精一杯駄々をこねたんでしょうね」

「……できる限りの戦力で一刀たちを掩護し、鑑惺を叩き潰す。それで現金な張勲は再びこちらに寝返るでしょう。華雄はこの布陣にされた時点でそもそも向こうに不満を持っているはず」

「袁紹は……?」

「さすがに顔良がなんとか説得するでしょ。少なくともアイツ"は"バカじゃないから。身の振り方は分かるはずよ」

「……そうですか。そう言えば桂花殿は以前は袁紹の下にいたのでしたね」

「そ。不本意ながら、あいつらのことはよく知ってるわ」

「……じゃあ、皆、いいわね?――まず本陣を左翼寄りに移すこと。そして、春蘭、秋蘭……黄蓋に伝令を。突出し迫る呂布の相手をしてもらう。"二人"には『虫身中の獅子』……そう伝えなさい。季衣、流琉、霞、そして私自身が鑑惺討伐に向かう。呉と対する右翼は劣勢になるでしょうけれど……黄蓋がこちらに居る今、特筆すべき殲滅力を持つ将は孫策しか居ない。十分間に合うでしょう。……異論は?」

「………」

「………」

「………」

「無いようね。では、各自行動開始。……役割分担なんかは言わずとも上手くできるでしょう?」

 

 総大将による指示はいい加減にも思えるセリフで締め括られた。しかし、実際に数分も掛からず曹操の思う通りに軍勢は動き出す。ザリザリと地を揺らし、黒い巨人が攻撃の構えをとった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 ふわり、ふわり。

限界まで研ぎ澄まされた脱力。

軽やかな身のこなしはよく蝶や羽毛に例えられるが、今の聆を言い表すには……その二つじゃ"硬すぎる"。

 

「ハァッッ!!」

 

最小の動きで……しかし最大限の威力で打ち出される拳に、聆の体がまるで土煙のように舞い上がる。

 

「……」

 

舞い上がり、渦巻き、結局は体に纏わりつくまで土煙と同じ。

 

「クソッ……」

 

 まるでそれぞれ意思を持った別々の生き物のように四肢がのたうち、俺と凪の体には少しずつだけど確実にダメージが蓄積されていく。

 必要なら俺が『調整』しなきゃいけないかも、なんて思ってたのは完全に余計なことにだったようだ。

 

「随分と……真剣なようだな。聆」

「そう見えるか?」

「お前がそうやってつまらなさそうな顔をしてるときは、一番注意が必要だ」

「そうか?自分じゃ分からんなぁ……。どない思う?隊長」

「ハァ……答える、余裕が………ハァ、有ると思うか?」

「無さそうやな。……実を言うと、確かに私にもこんな話しとる余裕は無い」

 

視線を俺達の背後 遠くに向ける。それに続いて目を向けた真桜の顔が引き攣る。

 

「なんや、なぁ?思たよりガチらしいで」

 

背後の人垣の厚みが何倍にもなり、将軍や副将の旗が密集している。その中には、当然のように大将 華琳の曹の旗も有った。

 

「……再開や」

 

どうやら戦は次の場面に進むらしい。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「敵戦力、左翼に集中しています!」

 

蜀呉連合本陣、方々から飛び交う報せの特に大きな一つ。それに諸葛亮が応える。

 

「予想通りです。相手もここにきて作戦を変えるワケには行かなかったのでしょう。引き続き、鑑惺と袁家の寝返りに注意しておいてください」

「はっ」

「で、でも朱里ちゃん?あれ、聆さんと曹操さんの軍……本当に戦ってるように見えるけど……?」

「動じるな劉備よ。あやつがこれまで勝利を重ねてきた背景にはその演技力が有るわ。多少は戦闘する様子を見せてこちらを油断させる腹づもりだろう」

「そうでしょうね。愛紗さんたちには、指示が有るまで決して陣形を崩さないよう重ねて言っておいてください」

「了解しました!」

 

諸葛亮の命を受け伝令が走る。周瑜は苦々しげな表情でその背を見送って、呟いた。

 

「それにしても舐めたマネを……我が呉軍には将を充てる必要は無いと」

「蜀側は元々魏軍であり打ち合わせも有るでしょう鑑惺隊と、説明不要の戦闘軍団呂布隊が前線を張っていますから〜……。私達の方は雪蓮様たちこちらの将がたくさん倒した分を雑兵同士の戦いで取り返されちゃってます〜……」

「くそ……」

「ある程度予想していましたが、まさかこれ程とは……」

「しかしそれも鑑惺さんが動くまでです。あの人が仕掛けた策を消化したら、こちらも全ての将を前線に投入できます」

 

 あの蛇鬼のこと。どこに何を仕掛けているか分からない。迂闊に動くのは危険と判断した。

武術でもそう。正に"今動いた"その瞬間を刺してこそ、最大の攻撃となる。そして、それ以外では恐らく勝てない。

『後の先』……鑑惺によって成され、幾度も翻弄されたこの戦法。本人は気付いていない無意識での思考であるが、諸葛亮はこれを返すことによってこれまでの負けを精算しようとしていた。

 

「……もしや、それを分かっていて勿体ぶっているのか………?」

 

答えられる者はそこに居ない。

 

 ちなみに、マジレスすると完全な深読みのしすぎである。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 魏軍中央。対呂布のための布陣を済ませた夏侯姉妹と黄蓋が先頭に立ち『その時』を待つ。

 

「呂布か……腕が鳴るな!秋蘭。……しかし、どういうことだ?この『虫身中の獅子』とは」

「……っ姉者……」

 

 伝令の書簡、その隅に書かれた『虫身中の獅子』……これは夏侯姉妹に向けたものと注意が入っており、つまり黄蓋には知られないようにするべきものだ。それをなんの気も無しにいつもの大声で口に出した夏侯惇にこれまたいつものことながら少し驚き、同じく少し呆れる。

 

「ふむ……本来は『獅子身中の虫』じゃが。何じゃ?」

 

案の定黄蓋がそれに反応し、書簡を覗き込む。

 

「ああ。本陣からの伝令と一緒に伝えられたものだ」

「………」

「ふむ、よく分からんのう。あの曹操に限って書き損じではあるまいし」

 

 そう、書き損じではないだろう。ましてや言葉を間違って覚えているわけでもあるまい。曹操は『虫』の身中にそれに仇為す『獅子』が居ると言っているのだ。夏侯淵は初めこそ素直に『黄蓋の裏切りに注意せよ』と読み取ったが、もう一度考えるうちにそれでは納得行かなくなってきた。曹操が、自身の誇る魏軍をワザワザ『虫』と表すだろうか?

 

「……来るぞ」

 

疑問は晴れぬまま、飛びきりデカい闘氣の渦が接近してくる。飛将軍呂布。この者を表すには『獅子』すら生温いか、などという思考を端に弓を引き絞る。

 

「…………っ!!」

「………」

 

一閃。夏侯惇が受ける。馬鹿力で通っている彼女ですら、呂布の膂力に押し負けそうになる。

 

「クッ……、ハァッ!!!」

 

声をあげ、氣と精神を奮い立たせ、膠着を断ち切る。しかし、二手を待たず再び劣勢。

その背後から放たれる矢。ほぼ射線上に重なった二人を、夏侯惇はハズし呂布にだけ当たるギリギリの狙い。

 

「……」

 

しかし、まるで来るのが分かっていたようなスムーズな動きで躱す。

 そんな呂布に次に差し向けられたのは、言葉だった。

 

「聞け!呂布!!」

「!」

「……?」

「貴様は何故戦う。劉備への義……ではないはずだ」

 

 魏のこれまでの歩みで最大の危機……対蜀 荊州防衛戦。その時、呂布は鑑惺の交渉により退いたと聞いた。そして『虫身中の獅子』とは蜀の中の呂布のこと。

曹操の真意は呂布を説き伏せ、蜀から離反させよということとだ。

 

「………」

「秋蘭……」

 

訝し気な黄蓋。何をやっているのか分からないという顔の夏侯惇。当の呂布は眉一つ動かさず無表情。そんな中、夏侯淵は言葉を続ける。

 

「魏は強く豊かだ。蜀と呉を併せたよりも。貴様が利のために動くなら、我らはその欲を蜀より確実に満たす!しかも、だ。我が魏はこの戦で負けたとしてもあと何年でも粘れる力が有る。しかしここで魏が勝てばすぐにでもこの大陸に平穏が訪れる。地力の差は分かっているだろう!」

「………」

 

 単純な人口の差、技術力の差、練度の差、文化レベルの差。そして整えられた補給線により、さらに魏が優勢となる。魏の手は既に蜀呉の喉元まで伸びているのだ。今、魏が攻められる立場に有るのは負け惜しみ無しで『何かの間違い』だというのは少し考えれば分かること。

 

「政治屋でない貴様も、この戦いに関わるものである限り知っているだろう!華琳様こそ、この大陸を治めるに相応しい力を持っておられることを!魏の治世は蜀呉の流す悪評とは無縁のものであることを!!」

 

 話す動機は呂布を誑かすための邪なものだが、その内容は夏侯淵の本心だ。

夏侯淵はずっと苛立っていた。曹操は誰よりも……私情抜きにして客観的に見ても誰よりも優れた為政者である。それは国の豊かさと国民からの信頼を見れば明らかだ。新しく傘下に加わった者に対しても敬意を払う。そうして増えた人材を正しく振り分け、さらに豊かで強い国を作り上げる。損をするのは暴力を振りまき、他人を喰い物にして法外に富を集める者だけだ。

なのに蜀呉はまるで曹操が極悪人であるかのように拒絶し、黒く歪曲した噂を流して覇道を妨害する。

侵略者に立ち向かう勇士のフリをしているが、劉備と孫策の方がよほど権力に対する執着に塗れた餓鬼ではないか。

 

「……………」

「勝利を求めるなら、利を求めるなら、争いを終わらせたいなら我が魏につけ!」

 

簡潔な要求で締め括られた言葉。

 まるで聞いていないように無反応だった呂布が初めて口を開いたのは、それから嫌に永い数秒が過ぎた後だった。

 

「諸葛亮は……嫌なヤツ」

「なら――」

「でも、月と詠が死んじゃうのは……もっと嫌」

「なに……?」

 

意図の分からぬ言葉に疑問を返した瞬間。地に亀裂が走った。

 

「………っ」

「ガ……ッ!?」

 

呂布を中心に崩れた地面に足を取られた次の瞬間には、夏侯惇の体は吹き飛ばされていた。

 

「姉者っ!」

「………いく」

「クソッ……させるか――――っ!?」

 

なんとか立ち上がった夏侯惇の頭めがけて放たれた矢。それを放ったのはもちろん、黄蓋。

 

「……残念じゃったな。大層な演説が空振りに終って」

「………やはり、な」

 

 むしろ話の途中に割り込まずに今まで大人しくしていたことが、夏侯淵には意外に思えた。

いや、黄蓋も本当はそうしたかったのだが……藪蛇という言葉もある。呂布からの『邪魔をするな』という威圧感に逆らわないことを優先したのだった。

 

「秋蘭!!呂布をっ」

「バカかお主は。夏侯淵一人で呂布を引き止める……手負いのお主一人でワシを喰い止める………どちらも数瞬も保つまいに」

「………老害が…………ッ!!」

「――まぁそうなると天下の夏侯姉妹を揃って相手にすることになるが……片方……それも前衛が手負いでは儂が半人分勝るかのぅ。この戦では哀れな道化に終わると覚悟しておったが……さァ、儂にも手柄を挙げる機会が廻ってきたらしい」




今回のブレインたち

華琳→大筋は成功するも対呂布の策が大コケ。
聆→時間調整。予想より楽だった。
冥琳&はわわ→深読みでストレスを貯めるも、当初の作戦はしっかり維持(それで正解とは言ってない)。呂布の寝返り防止のためになにかしたようだ(すっとぼけ)。


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第十二章X節その十九 〈β〉

ああ^〜場面がぴょんぴょんするんじゃ^〜♨
勢いで書いたので勢いで読んでもらえると嬉しいです。

陣形参考(一部省略)
   ■■■ ■■
  ■■■■■→↓■
 ■■■■■■■本■   ■■■■■↓■■■
■■■■■■■■陣■   ■■■■■曹↓■■
■■■■■呂■■↓■\  ■■↓■■■典■↓
■■孫■■↑■■曹■ 拡 ■■張■■北■■許
■□孫周□□関□鑑□ 大→□□華□□鑑□□文
 孫□□□□馬□袁□/  □◇□□□□□□□
 □□□□厳□張□□   関□◇□□□□□□
 □□□□黄□趙□□   □馬□◇□袁□□□
  □□本陣□□袁    


「援軍は……来ぬ、か」

 

 この日何十人目かの敵を跳ね飛ばし、華雄が呟く。蜀最右翼にして鑑惺勢最左翼。最も『温度差』を感じる位置に居た。それまで戦っていた軍勢のその更に後ろから土煙と雄叫びの波が迫る。しかし蜀は動かない。すぐにでも関羽らを怒鳴りつけてやりたいし、曹操自らが迫る鑑惺の掩護に行きたかったが……そうはできない。

 自分のところにもしっかり大物が来ているし。

 

「華雄ーーーッ!!!」

「文遠……!」

 

張遼……その騎馬の腕のせいか、"追い打ち"の中では最も早い前線への到着。

 

「ハァァァッ!!!」

「フンッ!」

 

跳びかかりざまに放たれた袈裟斬りを長斧の柄で受け、石突からかえす。

続けて突き、袈裟斬り。張遼はこれらを飛び退いて躱す。対して華雄は距離を詰めず、そのまま構えに戻る。

 

「なんや……知らん間にえらい落ち着いた戦するようになっとるやん」

「……日々嵬媼と手合わせしていれば慎重にもなる」

 

再び張遼から一手。その切り上げの初動を穂先で制し、そこから撥ね上げる。今度は張遼が柄で受け、すぐさま身を翻し横凪ぎ。華雄は最小の動きで防御し、同じく最小の経路で刃を振るう。張遼はこれをギリギリで躱し、再びもとの位置に退いた。

 

「ふーん………華雄らしないなぁ」

 

 さっきの最後の一手も取り敢えず避けたが、なんとも言えない微妙な威力のものだった。受ければ身体が半分に、とか、頭がとぶ腕がとぶとか……決してそんな攻撃ではない。投げやりとか二の次とか、そんな言葉が似合う"偽物"の攻撃だ。

 

「私らしくはないが……やりやすい。本来、我が家に伝わる流派はこのような戦いをするものだったらしい」

 

 重心を極端なまでに固定し、足運びは細かいすり足。流麗でも派手でもない、堅苦しくて小さくまとまった武術。特別派手で大げさな動きをする張遼と比べればそれが余計に際立つ。

 

「でもそれあいでんてぃてぃの危機ってやつちゃうん?」

「その言葉はよく分からんが……何だ、そう言われるとこの状況がものすごくマズいものに感じられるな………」

「『マズい』…? 今更か?」

 

『もっと他にもマズいことは有るだろ』と言葉にする必要もない。

 

「……戦況は問題ではない。私は人並み外れて馬鹿かもしれんが人並み外れて無知だったことはない。蜀に潜む疑念の波……それに気付くのはそう難しいことではない。こうなることは分かっていた」

 

 華雄とて漢末期の腐敗した治世で将軍となった身である。張遼のように人当たりの良い立ち回りはできずひたすら戦一辺倒の武人として振る舞うことで政略から離れたが、"こういう雰囲気なら次はこうなる"という経験はしっかりと積んでいた。

 

「それは嵬媼も同じ。その上でヤツは"このように"した」

 

キッパリと言い放つ。『勝ちを確信している』のではない。『この結果を自らの正解とする』……そんな表情。

 

「……あははっ。恋は盲目、か」

「今まで経験がないからこれが恋かどうかは分からん。ただ、盲目でないとは言える。私はこれまでに無い程"目を見開いている"ぞ」

「………」

「嵬媼曰く『最後の策』……その顛末に、柄にもなく興味が湧いた」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 激戦の前線の後ろ。中陣と言うには少々前すぎる辺り。鑑惺派の形式上の本丸とされる袁術の陣はそこにあった。『形式上』とはいえしっかりと司令塔の役割も果たせるようになっているが……今の展開はほとんど開戦前からの予定通りであり、前線への指示は行われていない。

 

「さてさて〜いよいよ厳しくなってきましたねぇ」

 

厳しくなるのも含めて予定通り。強いて言えば、ここからが司令部の仕事の始まり。

 

「の、のう七乃や……大丈夫なのかや?なんとも……妾の軍が孤立しておる気がするのじゃが」

「あーあ、まさかうちの娘がこうも薄情だとはよォ。アタシが向こう側に入れてればなぁ」

「それは諸葛亮さんのせいですよ」

 

 馬騰は、機が来れば馬超を説得するなりなんなりして動かせるようにするためにしれっと馬家の陣に居た。しかし、布陣の最終確認に来た諸葛亮の使いに『あれ?なんで馬騰さんこんなとこにいるんですか(威圧)』と突っ込まれてしまったのだ。

 

「そうだけどなァ……まぁ、いざ手が足りなくなればアタシも出るか」

「大丈夫なんですか?」

「一呼吸の間だけなら、まだ一流だと自負してる」

「へぇ……。でも、そうなるかも諸葛亮さん次第ですねぇ」

「言っちまうとそうなんだがな。……どうもこう骰子を他人に振らせる策は苦手だなァ」

「そうじゃぞ!さっきから諸葛亮次第諸葛亮次第と……ヒト任せにせずになんとかせんか!」

「もちろん私たちもそろそろ動きますよ。伝令さん、至急本陣へ掩護要請を。かなり逼迫した状況だと伝えてください」

「はっ!」

「要求が容れられなかった場合は……周辺の将へ直接援軍要請を。なりふりかまって居られません」

「了解しました!」

 

 その命令とは裏腹に、張勲は毛の先ほども援軍を期待していない。

 諸葛亮は動くまい。周辺も……関羽、趙雲、張飛、馬超だが、これらもよく言い聞かされているはずだ。張飛辺りは怪しいが、恐らくは兵を動かすことはないだろう。……いや、そう考えるのは余りに極端か。張勲が数日の間に見た各人の様子から予測に修正を加えるなら『命令に逆らい動いたが既に手遅れ』ということになるだろう。

 それを分かっていてのこの伝令。

 

「結局ヒト任せじゃのう……」

「ふふん。自分で道を開くのが将軍、ヒトに道を開かせるのが大将軍です」

(ま、それなら私や聆さんは大将軍ではないですけどね〜)

 

 ヒトの妨害すら道に変える者はどう呼称するべきだろうか?

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「ムッキィィ〜〜ッ!あのちんちくりんったらここぞとばかりにこちらばかり攻めて来てぇ……!」

「聆さんは向こうにしてみれば裏切り者ですから……。それより、蜀側から掩護の動きが全く無いことが問題ですよ……(大嘘)」

「むぅ……まったく、桃香さんは何をやってらっしゃるのやr――」

「ギャァァァッ!!」

「な、何ですの!?」

「そんな!ほ、ほらあそこ!……こんなところまで敵兵が!?いつの間に……!」

「え!?前線はなにやってますの!?」

 

ちゃんと戦っている。

敵の魏兵は鑑惺の配下。悲鳴も血も偽物だ。

 

「敵本隊がここに押し寄せて来るのも時間の問題です!……麗羽様、逃げてください」

「何をおっしゃいますの!この私があのちんちくりんなんかに二度も背を見せるなど有り得ませんわ!!」

「麗羽様ッ!!!」

 

 今回の作戦が知らされてから練習してきた迫真の『麗羽様ッ!!』だ。実際、ここでちゃんと動いてもらないとあとで悲惨なことになるのだから半分以上は本気であるけれども。

 

「………っ」

「少数の兵だけ連れ、隠れてお逃げください。退いたことがバレなければその分だけ時間が稼げます」

「斗詩さんは……まさか――」

「私はその間の指揮を取らなければなりません。それに、前線で戦ってる文ちゃんを待っててあげなくちゃ……」

「斗詩さん……」

「さ、行ってください。大丈夫です。官渡で一度離れ離れになりましたけど、また会えたじゃないですか。……再後陣のできるだけ中央へ。戦線が広がったとき、その喧騒に乗じて――」

 

 顔良の目配せで数人の兵が集まる。袁紹配下に化けた、鑑惺隊一〜七課長だ。これだけの戦力があれば、よほど本気で殺しにかかられない限りは死なないだろう。

 

「必ず……!必ずですわよ!!」

「はい。約束します」

 

いつもと違い地味な兜や鎧を着せられた袁紹が雑兵の中に消える。

 こう言ってはなんだか、これで後陣がスムーズに動くようになった。

 

「旗を」

 

黄金の袁の旗が少し傾けられ、すぐに立て直される。事前に決めていた袁紹退避の合図だ。

 

(文ちゃんも……上手く演じてよね)

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「斗詩……上手く動かしてくれたみたいだな」

「余所見してると危ないよッ、と」

 

ひょいと避けた背のすぐ後ろに特大の鉄球が小さなクレーターを作る。

 再び前線。文醜対許緒。

 

「そっちこそヘタに手加減してるとケガするぜ。余所見してる相手は黙って討たねーとな」

 

 口ぶりと同じく軽いステップ。しかし、その真逆の信じられないスピードで許緒に迫る。

 

「……当たり前だよ。ボク、猪っちーを殺したくないもん。猪っちーも、そうでしょ?」

 

あやとりでもするように複雑に動かされる許緒の手に合わせ、鎖がのたうち文醜の行く手を阻む。

 

「そうかー?」

 

斬山刀の一振りで払いのけ、更に駆ける。ついに間合いに入り大きく弧を描いて叩き込まれた一撃は、許緒の手元で束ねられた鎖に防がれた。

 

「本気出してないってバレバレだよ」

 

寸前まで文醜の胴があったところを風切り音とともに回し蹴りが通り過ぎる。

 

「やっぱバレてたかー。あたい、演技って苦手なんだよね」

「やっぱり――」

 

斬山刀をだらりと下げて言うその姿に安堵したのも束の間。

許緒の言葉を遮って、あっけらかんとした声が和解の可能性を否定する。

 

「じゃあ今から本気な」

「……!!」

 

切っ先を天に掲げた瞬間、空気がヒリつくような攻撃性を孕む。

 

「斬山刀……『斬山陣』」

 

眩い輝きを放つ氣の刃が地から伸びる。その数は定かではないが『陣』と言うには十分だろう。

 

「死なせる気でいくから……死なねーよーに死ぬ気で演ってくれよな」

 

『気の抜けた戦いはせんで。嘘臭なるんはあかん。部下も向こうの兵も蜀の将軍やら軍師やらも見とるからな。んで一つ。死ぬな。も一つ。殺すな。……これで、私の死が特別なモノになる。一生……いや、古今東西でも最大の舞台……成否はお前らにかかっとるぞ』

 

 




長かったβ√もそろそろ終わり。ここから一気にたたみに入ります(希望的観測)。


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第十二章X節その廿 〈β〉

お久しスキャンティ(履き心地抜群)
どうも『ハーメルンのウッドブロック叩き』こと作者です(意味不明)。
ステーキって美味しいですね。やっぱり若者は肉食べないと。ってことで肉をムシャムシャしてたら友人に『雌コヨーテ』って言われました。せめてハイエナって言って。

さて話は変わりますが、物語で何か大きな仕掛けを書くとして、上手い物書きは伏線を張りほんの少しだけその存在を匂わせ、後になってから『ああ、アレはそういうことだったのか!』と読み手を感動させてくれます。
下手な物書きの例は……この作品を読めばだいたい分かっていただけるかと(自虐で予防線を張る底辺作者の屑)。


 援軍の足音が近づくなか、聆との戦いは続く。殆ど自分の力で動いてない聆に対し、ずっと精神力と筋力をすり減らせてフルで戦ってきた凪には色濃く疲労の色が見える。

 

「氣の力は精神の力……そう乱れとったら勝てるもんも勝てんぞ」

 

 聆の言う通り。凪の精神は今、かなり複雑で劣悪な状態だろう。だから氣による恩恵も普段よりずっと弱い。しかも、それなのに普段以上に強引な戦いをするからスタミナ切れの速さは見ての通りだ。

 

「クっ………。聆……っ、だが、すぐに華琳様たちが来る。もう時間切れだ!これ以上抗ったところで意味は無い!」

「『意味は無い』……そんなことは無い。むしろ今から意味が出てくる」

「何を……!」

 

説得を続けようとする凪。でも、再び強められた聆の敵意から言葉を途切れさせる。

 

「クソッ」

 

斜めに斬りつけた聆の裏を取るように躱す、が、そこは聆の策中だった。

 凪の近接戦闘での『クセ』……氣を特に重視するその戦闘技術のため、呼吸に特徴が出る。そのかたちは場合によって色々だけど、この場合……突然の攻撃に対する防御では特に多くの息を吐き、そして攻めに転じる瞬間はもっと顕著に大きく息を吸う。

聆はその瞬間を突いた。

 

「!? ゴホッ……ぐ……ゲホッッ!!」

 

人間の身体構造の限界を超えて背面から振るわれたもう片方の手から、何かの粉末が撒き散らされる。凪はそれを思いっきり吸い込んでしまったらしく、激しく咳き込みはじめた。

 

「ラ゛ァッ!!」

「ガッ……!」

 

その鳩尾に聆の後ろ蹴りがめり込んで、大きく吹き飛ぶ。

 

「凪ちゃんっ!」

「凪!」

 

呼ぶ声とは反対に、俺はあまり心配していない。聆のことだ。死ぬようなものは使ってない……よな?

 

「相変わらず回りくどい戦いをしてるのね。聆」

「兄様!みなさん!」

「華琳様!」

 

 もともと俺の理解を超えた部分が多い作戦だから何とも言い難いけど、俺たちにやらせるつもりなんじゃなかったのか?

 俺が華琳の顔を伺うのと同時に、向こうもこっちに目を合わせてきた。『予定が変わったのよ。ま、上手く合わせなさい』って感じか?

 

「………」

 

そして、聆と華琳の間でも、一瞬、意図的に目を合わせたように見えた。こっちも、そうか。聆も筋を意識して動いてる。華琳と相対する準備のために、凪との戦闘を終わらせた。

 華琳が言った『戦舞台』という言葉。そして今、事情を全く知らない凪が"退場"させられた意味。二人が何を考えているのかまだ掴みきれないけど……ただ、"分かっている"者だけでしかできないような、かなり難易度が高いことをしようとしているはずだ。

 

「蜀はどうだった?」

「どないもこないも。見たら分かるやろけど諸葛亮は利口やわ」

「他は?」

「この前会うたとき思い浮かべたらそのまんまやと思うで。……ってか呉の方は聞かんのやな」

「あそこはもう対策が済んでいるもの。強いて言えば、諸葛亮と同じ……でしょう?」

「まぁな」

 

 この会話はきっと、いわゆる答え合わせ。今回の作戦は、聆と華琳っていう仕掛け人が離れ離れになってしまうし、蜀の状態に大きく左右される。最後の仕上げにかかる前に『どんな状態なのか』と『何をしようとしているのか』をすり合わせておくつもりなんだろう。そして、それを理解しておかなきゃならないのは俺もだ。華琳ともけっこうな付き合いだ。無茶振りされそうな空気は分かる。

 そしてその内容。『諸葛亮は利口』……利口ってのは、『打算的』の皮肉として使われる言葉。この場合の打算的な行動は、つまり聆を冷遇したってことに違いない。さらに『諸葛亮は』とワザワザ言うってことは、逆に諸葛亮以外は聆に対して好意的だったってことになる。そして、『呉と諸葛亮が同じようなもの』……つまり、呉+諸葛亮(と一部の蜀の将?)と劉備+彼女に近しい(古参の)将の間に溝ができているって話だ。

 

「それで……貴女はまだ戦うわけ?」

「まぁな」

「一応理由を訊いておこうかしら」

「桃香にな……ちょっと頑張ってもらいたい」

 

この発言の意味は………。

 

――――理解した。この作戦の目的。それは、今、ここで蜀を破壊することだったんだ。

 

「なるほど。……一刀、流琉!」

「華琳……。…………分かった」

「隊長………」

「多勢に無勢で悪いわね、聆。……貴女に裏切られて私も少し思い返したのよ。危険には全力で対処させてもらうわ」

「くくっ……意外と素直」

 

 操り手である聆に華琳と、駒二人。事前に"する"ってこととその方向性を知らされた俺、そして、流琉。流琉も事情を聞かされているのか、それとも何も知らないのか。……あの無理に感情を殺してるような表情は、きっと何も知らないんだろう。でも、流琉に限ってはそれでも良い。外道な話だけど、たぶん流琉の天秤じゃ華琳≫聆だ。"聆のピンチだから"って華琳の制御を外れて衝動的に動くことは無いはず。

 

「華琳様、私もまだ、戦います。幼馴染として、聆を止めないと」

「とても貴女の実力を出せそうに見えないのは、敢えて言わないとして。……それで、しっかりと"息の根を"止められるの?妙な気を起こされては困るのよ」

「………っ……」

 

 そう。突然間に割って入って聆の身代わりになるとか……"始まって"からそうやって動かれちゃ困る。今の内に蚊帳の外に出てもらわないと。華琳がわざと物騒な言葉を使ったのも同じ。爆弾処理みたいなものだ。

 

「そんな……隊長!たいちょーはそれでいいの!?」

 

うまい返しが思いつかない。嘘くさくなるのはダメだし、かと言って踏み込みすぎる内容も良くない。

その沈黙が、沙和にとってはまた別の意味に取れたらしいけど。

 

「うそ……そんな………こんなの……」

「聆!もう止めようや!良えやんもう。明らかに捨て駒にされとんのに、なんでワザワザ……華琳様も、いま降参したら――」

「ええ。優秀な人材を減らすのは惜しいもの。ちょーっと厳しいおしおきくらいで勘弁してあげるわよ。ま、その様子じゃ降参なんて――」

「無いな」

「ふふっ……でしょうね」

「なに…………何を笑とんねんッ!!仲間やった奴と殺し合うねんで!?聆も、華琳様も、そんな風に話せるんやったら……」

「それについては残念なんだけどね。この娘が従わないから」

「すまんな」

「"ええんやで"」

 

謝罪と思えないくらい軽い謝罪に、華琳も聆の口調を真似て戯けて見せる。

 

「おかしい……狂っとる………」

 

半ば呆然とした声。

感情の風船はへなへなと萎んだ。もう、破裂することはないだろう。

 

「……やるか」

「そうね」

 

 準備は整ったみたいだ。二人が高めた緊張感……正にこれからクライマックスをつくろうとしている。俺はそのサインを見逃さないようにしなきゃならない。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 同じ頃。再び、魏軍中央最前線。大将が悠長に問答をしていた頃、こちらでは黄蓋と夏候姉妹の激しい攻防が続いていた。

 

「ほれほれ!いつもの馬鹿力はどうした」

 

 弓による速射と体術、技と力が組み合わされた、呉随一の武が猛威を振るう。いつもなら夏候姉妹こそ姉の力と妹の技の連携で他を圧倒するのだが……

 

「ぐぬぬぅッ!それは貴様もその場で見ていただろうに。それに馬鹿と言うな!」

 

 今は事情が違う。先程の呂布との戦闘で夏侯惇が負傷していた。負傷していればもちろん本人の力が下がるし、怪我による痛みや身体の可動域の変化より動きが崩れて連携も感触が変わってしまう。その実力を出せずにいたのだ。

が、流石は魏武の大剣と言うべきか。相手の軽口に反論しつつ無理にでも攻勢に出る。

 しかし、これはマズかった。

 

「姉者!挑発に乗っては……っ!」

「ぬぉっ!?」

 

待ってましたとばかりにいなされる。夏侯惇は体勢を崩すも、そのまま地を転げ何とか黄蓋からの殴打を躱した。

 

「む、惜しいのぅ――おっと」

 

更なる追撃を防ぐため、また、あわ良くば仕留めてしまおうと夏侯淵により胸のど真ん中へ放たれた矢。しかしこれも軽く弓で弾く。

 

「チィッ……!」

「今更じゃが二人がかりとはのぅ。卑怯なのは感心せんな」

「詐欺師が何を……!」

「秋蘭!後ろだ!!」

「!?」

 

背後からの矢が夏侯淵の首筋を掠め飛ぶ。……伏兵ではない。黄蓋が放っていた矢だ。"当てる"ことに特化した氣の力が、放たれ通り過ぎた後の矢の起動を捻じ曲げたのだ。

 

「ほう……そうか、視界が狭い分勘が鋭くなったか」

「さっきからニタニタと……余裕ぶるのもいい加減に――」

「実際に余裕があるのだからそう見えるのもやむなしじゃな」

「確かにそれは正論だ。だが、お前は一つ勘違いをしている!」

 

歯噛みする夏候姉妹の背後から張りのある声で反論が。

 

「何だ……?」

 

目を細めた黄蓋。その視界の奥から雑兵を跳び越え白い騎馬が颯爽と現れる。

 

「もはやお前に余裕は無い!白馬仮面、参上!!」

 

 やがて白馬は黄蓋の前に躍り出る。純白のマントを翻し、赤髪の仮面剣士が高らかに参戦を宣言した。

 

「…………誰だ?」

 

 しかしこの加勢は魏の二人にとっても全くの予想外、しかも心当たりを考えてみても把握できないことだったようで。夏侯惇は思わず疑問を口にした。

 

「いや、だから『白馬仮面』だって。……それに、『誰だ』って訊くにしてももっとこう、『誰だッ!?』とか『何者なんだ……!?』みたいなさ、有るだろ?そんな久々に会った知り合いの顔が思い出せなくてその場は適当に談笑して誤魔化したかけど後々考えてもやっぱり分からなくて思わず呟いたみたいな『……誰だ?』はやめてくれよ」

「それで結局誰なんじゃ?お主らの知り合いか?」

「それはこっちが訊きたい」

「そもそもさっき私が訊いたしな」

「……誰とかもういいだろっ!『白馬仮面』だよっ!それ以上でも以下でも無いぞ!」

「吐く馬鹿麺?」

「おい、その感じは何か勘違いしてるだろ!『はく ばか めん』じゃなくて『はくば かめん』だ」

「どうでも良いが何しに来たんだ馬鹿麺」

「助太刀に来たんだよ!お前らの!……あと馬鹿麺言うな!」

「おお、それはありがたい!では頼んだぞ馬仮面」

「ただの馬じゃなくて白馬だ。……あと、おい、待て、待て待て。どこ行くんだお前ら」

「私たちは呂布の後を追わねばならん」

「何故か奴は乗り気ではなさそうだったが……それでも十二分に危険だからな」

「待って」

「何だ」

「『助太刀』って言ったよね?『ここは任せて行け』とは言ってないよね」

「はぁ……つまり一人で黄蓋を相手取る実力は無いと?」

「ため息つくな!怪我してたとは言えお前らも二人がかりで押されてたろ!とにかく、私も前衛に立つ。二人は今までと同じノリで戦ってくれればいい」

 

そう言って夏侯惇に並び立ち、黄蓋と対峙する。これに夏侯淵は眉をひそめる。

 

「それだと私はお前の動きまで読み切らねばならぬが……?」

 

 夏侯惇のすぐ隣に立つということは、即ち姉妹の連携にも影響する。長年共に戦ってきた姉妹ですら、今回は厳しいのだ。それにこの得体の知れぬ者が入れば、更に連携が取れなくなるだろう。

 しかし、当の剣士は全く動じない。

 

「大丈夫。簡単さ」

 

黄蓋に目を向けたままそう言って、真っ直ぐ中段に剣を構える。

 

「………」

 

ともあれ、元々絶望的だった戦いだ。コイツに合わせてみても良いかもしれない……そう思い直し弓を引く。

準備は整った。黄蓋も同じ。あとは前衛が動き出せば再開となる。

 

(まず姉者が真っ直ぐ突っ込む。……仮面は………一歩遅れて少し横に回り込むような動きで追撃、くらいか?)

「……っ!」

 

何をきっかけにしたのか、夏侯惇が真っ直ぐ踏み込む。

 

(!)

 

 

仮面は、それに一歩遅れて追撃。黄蓋の視線を撹乱するため少しズレた位置から斬撃を放つ。

 

(次……次…………次……………)

 

切り返し、夏侯惇の振りを少し待って横薙――――

 その後も夏侯淵の予測は次々と的中する。

 

(なんと読みやすい剣技だ!……合わせられる。これなら、勝てる)

 

 そのふざけた見た目に反して教本を擬人化したような無味な剣術。百戦錬磨の夏侯淵にとっては次の動きを読むことは容易い。それは本来黄蓋からも言えることなのだが、今は三対一。とても『本来』の結果が出る環境ではない。

 そんな中、白馬仮面の剣術は理論通りの鋭い攻撃を放つ。読みやすいだけで、決して弱くは無い。容易に読めない状況にありさえすれば、その強さはそれこそ武術を志す者が学ぶべき理想形だ。

 

 この戦において曹操の唯一明らかな誤算であった、呂布説得の失敗による夏候姉妹の危機――しかし、戦況は一転した。

 

 

※※※【別パターン】もしも、白馬仮面じゃなくていつぞやの侍女モードだったら※※※

 

 

「余裕ぶるのもいい加減に――」

「実際に余裕があるのだからそう見えるのは――ッ!?」

 

黄蓋のセリフを断ち切るが如く その足元に切っ先が突き刺さる。直感で後退らなければ黄蓋そのものを断ち切っていただろう。

 

「………っ」

 

 一瞬にして現れたこの"誰か"。恐らく、夏候姉妹の背後から何らかの勢いをつけて跳んだのだろうが……黄蓋ほどの将が、それに全く気付かなかった。

 

「一つ、勘違いをしてらっしゃるようですね」

 

鮮やかな衣装を揺らめかせ、赤髪の侍女が顔を上げる。

 

「貴女に、余裕は有りませんよ」

「何者だ……?」

「私は魏に仕える使用人。それ以上でも以下でもありません」

 

 誰がどう見てもその範疇は確実に超えている。が、武将の猛々しさとは無縁の落ち着いた仕草からか確かに使用人だという説得力も感じる。

 

「………」

 

この奇妙な参戦者に、三人はおろか遠巻きの雑兵たちでさえ妙な緊張を覚える。

 

「さぁ、早く倒してしまいましょう。呂布も放っておけないでしょう?」

 

しかし当の本人は至って"普通"。当たり前のように夏侯惇の隣に並び立ち剣を構える。

 

「だが……連携は――」

「簡単です。私は、貴女の予想を超えるような動きはしない」

 

決して大きくはないが、ハッキリとした言葉。夏侯淵には『この者は自分の予想の傾向を完全に把握している』と思うだけの材料は全く無い。しかし、またしてもこの"普通"な態度。

 考えでも仕方ない。もとよりこの者が来なければ競り負けていただろう戦いだ。夏侯淵は自分を納得させるように頷く。

 

「では、始めましょうか」

「応っ!」

 

開口一番、夏侯惇の突撃。

 赤髪の侍女はその背を夏侯淵の思う通りの動きで補っていった。




内容が時間かかってても思いついちゃったものは積極的に書いていくスタイル。


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第十二章X節その廿一 〈β〉

おひさしブランコ(野球選手)。
夏は危険なレベルで痩せ細るので今の内に太っておこうと毎晩ステーキを食べている作者です。
関係ないけど廿って二十より二十一じゃないですか?

さて、内容はまたまた心理描写です。しかし長かったβルートももう本当に終わりが見えてきました。惜しむらくは作者の天才力が作戦の肝となる軍師ーズの精神を描写するには少々足りなかったことです。ギノグンシーズが空気になってるのが悔しい。


「聆殿と曹操がついぞ殺り始めたようだぞ」

 

 張飛隊の最前。そこに、場の雰囲気に似つかわしくない軽い声。趙雲が自分の隊を離れて来ていた。

 

「……持ち場につくのだ。星」

 

反対に、場に相応しくいつもからは想像できないほど沈んだ様子の張飛が、振り向きもせずに応えた。

 

「やれやれ。朱里の使い走りと同じことを言うのだな」

「………」

「私たちに期待されていることは大方、将の相手だろう。向こうに近付く分には問題あるまい」

「顔良が居るのだ」

「顔良?……あっはっは!誰も補助に到着しないうちに本陣に到達できるほど、顔良は強くないだろう。どうした?今日はやけに臆病風に吹かれているな」

 

戯けるように煽る趙雲に、しかし張飛の表情は固いままだ。

 

「……朱里が、それを気にしろって言ってたのだ」

「………」

「聆は必死に戦ってて、でも朱里はそれがお芝居だって言ってるのだ。鈴々はどっちを信じればいいのだ?」

 

張飛の問いに、趙雲は心の中でため息をつく。趙雲自身がその問いの答え……『今から聆を助けに行く』という言葉を聞くために張飛のところへ来たのだ。

 

「ま、仲間のフリをして裏切るのは……黄蓋だったか………こちらもやっているのだから、『蛇鬼』の鑑惺がやっても不思議ではあるまいな」

「…………」

「では、鈴々。聆殿が何をすれば、聆殿を信じる?」

「それは……」

「千の兵を倒せば?曹操を討ち取れば?……それとも、聆殿が死ぬまで信用できんか?」

「ぅ……」

 

 どうすれば信用できるか。こんな単純な質問で、張飛の心は酷く乱れた。

 趙雲の挙げた例……どれも、それでは信用できない気がした。そんなのは、異常だ。自分たちのために最前線で戦い続けて死んでも安心できないなんて何か心の病気としか思えない。……それなのに、やはり不安が紛れそうにない。

 本当はもう信頼しているのだ。だが、『それでは信頼している仲間をどうして見殺しにするのか?』――その思考から逃れるため、無意識に"信頼していないことにした"。だからどうしても精神の辻褄が合わない。

 

「すまん。酷だったな。ここで聆殿のもとへ駆けつけることは容易い。だが、それではこれまで共に戦ってきた朱里よりも聆殿を優先したことになる。そして、もしそれが本当に演技で策だったら……その責任を取ることは、できない。………だからこそ、私もこんな中途半端なところに居るのだ」

 

 張飛を慰めるように隣に立ち、鑑惺が刃を振るう最前線へと視線を向ける。

 柄にもなく余計なことを背負い込んだものだ、と自嘲した。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 その視線の反対側。蜀呉の本陣では、地図と様々な情報が書かれた書面を相手に軍師たちが唸っていた。

 

「いったいいつまでお芝居を続けるつもりなんでしょう……」

「孔明よ。……もう、アレに付き合っている場合では無いし、その必要もあるまい。どういうつもりか、曹操が前線へ出ている。今、最大戦力で叩けば……」

 

 策にのめり込み過ぎたか、それとも計算された挑発か……。どちらにせよ、曹操が、首を狙える位置にまで来ている。

 一方で魏軍背後の城からは蟻のように援軍が足され続け、また、中央の夏候姉妹へ謎の増援が現れ黄蓋が押されているという。呂布の足が予想以上に鈍い今、中央の均衡が保たれている内になんとか沈めておきたいというのが周瑜の考えである。

 

「……」

 

 諸葛亮の方は別のことを懸念していた。

 趙雲の動きに現れるように、蜀の将が迷っている。……それも、鑑惺へ入れ込む方がかなり優性だ。このまま考える時間を与え、さらに鑑惺が"名台詞"なんかを吐いたりすれば離散も有り得る。今の内に無理にでも畳み掛け、鑑惺を殺させる。あとは、その『過ち』を枷にして操れば良い……。

 

「……関羽、張飛、趙雲、馬超隊に出撃の令を」

「朱里ちゃん、まさか――!!」

 

陰鬱そうに仮の玉座で俯いていた劉備がハッと立ち上がる。

 

「袁・鑑の両危険勢力と、愚かにも前線へ出ている曹操を周辺各隊で一気呵成に討つように……そう伝えてください」

「待って。朱里ちゃん。伝令さんも」

「劉備」

 

異を唱える劉備を周瑜が窘める。今はそんなことを言っているときではない、と。

だが劉備は止まらない。

 

「それをしちゃ、いけないと思う」

「甘いことを言うな劉備。アレは何を考えているのか分からん。こちらの予想も外れてしまった今、もはや、多少強引にでも処理しておくべきだ」

「裏切るという予想が外れたなら敵対する必要もないじゃないですか」

「"ここで"裏切るという予想が外れただけで、裏切らないと証明されたわけではありません」

「じゃあ聆さんが何をすれば信じるの?」

「どうしてアレを信じねばならんのだ」

「………っ」

 

劉備は何も言い返せない。

どう言い返したところで、『信じるか信じないか』の話は周瑜の中で決着がついていて、覆らないものだとその一瞬で理解したからだ。

 

「劉備。貴女がアレにどんな感情を持っているのかはだいたい知っているわ。だが、今は大局を見るべき時」

「……大局を見るからこそ認められません。『奸勇』『小覇王』に並んで、私は『大徳』です。ここで『不安だったから』と証拠も無く……仮に、形だけの味方だとしても、敵と戦っているその背後から潰すなんて……。この戦を勝ち抜いてもその後の民の失望は目に見えてます」

「何故『不安だったから証拠も無く討った』と下々に知らせる?敵対行為が有った……そうだな、やつの工作兵が兵糧に秘密裏に毒を仕掛けていたとでも発表すれば良い」

「……」

「それに、鑑惺さんの悪行は既に行われています。……袁紹隊に既に袁紹さんは居らず、恐らく以前言っていたように『消した』と見えます」

「それ、嘘だよね」

「貴様、これまでずっとお前を支えてきた軍師よりも数度耳触りの良い言葉を放っただけの部外者を信頼するというのか?」

 

怒気をはらませ威圧するも、劉備は動じず言葉を続ける。

 

「………ごめんね。今ので信用できなくなっちゃったんだ」

 

妙に落ち着いた態度。

 仏頂面の内心、不思議に思う周瑜。諸葛亮の方は、かなり焦っていた。劉備のこの雰囲気は色々と確信したり決意したりしている時のものだ。

 

「麗羽さん、ホントは後陣に逃がしてもらってるだけだよね」

「思い込みで事実を捻じ曲げるのはやめろ」

 

尚も高圧的な周瑜。焼け石に水だ。

 

「私がいつまでも何も知らないただの『蝶番』だって、そう思ってたんだよね」

 

語数こそ少ないが、様々な意味が込められていた。受け取り手が頭の良い諸葛亮だから、なおさら。

 

「でも、国一つ作る求心力が有って、その中央組織に『信者』が居ないワケ、ないよね」

 

 持ち場の陣に袁紹が居ないと耳打ちが入って、その所在を探した。そして、後方で雑兵に化けている袁紹を見つけ、これも劉備には通さずに軍師だけにもたらされた情報だったはずだ。……だが、その伝達経路の何処かに、劉備へ情報を流した者がいた。

 対魏侵攻戦より後、劉備は国主としての努めとして、各部署が持つ情報をできるだけ知っておこうとした。……それこそ、"国主様が知る必要のない"ことまで。それまでの『お姫様扱い』から脱するためだ。そして、関羽をはじめ蜀の将はそれに従い、耳障りの悪い情報も積極的に知らせるようになった。

しかし一部不自然さが残る部署があった。それが、諸葛亮の担当する一つである『諜報及び戦時伝令』……今回『情報漏洩』が起きたところ。特に汚い仕事の多い部署であるが……結局のところ、諸葛亮は『お姫様扱い』を続けていたのだ。劉備はそれについて諸葛亮に尋ねたが、適当な言葉で誤魔化されるばかり。

 結局、自らの『信者』を伝にその末端に"根を張る"ことによって情報の吸い上げを図る。……奇しくも、鑑惺が魏の情報網を握った方法と同じであった。

 

「……それで、どうするつもりですか?もう、間に合いませんよ」

 

 ここまで不義をはたらいておいて、今更掌を返したところで意味があるのか。

 それに、戦闘が始まってから既にかなりの時間が過ぎた。最前線の鑑惺は、その間ずっと戦っていることになる。それも、将軍格多数を相手にだ。疲労は言うまでもない。そして曹操、典韋、北郷との立合が始まったのも、そう新しいことではない。

 

「それでも」

 

 間違いを認めることを恐れて間違いを重ねることが最も愚かしい。そして、動かなければ必ず手遅れになるが、動けばもしかしたら間に合うかもしれない。

 

「蜀の『心』は今この時にかかってる。それに、無茶ははじめからでしょ?」

「………」

 

『ついて来たくないならついて来なくてもいい』という覚悟がはっきりと見える。たとえ一人でも行くつもりだろう。それで蜀が瓦解しても良いというのか。……そこまで、分かっているだろう。曹操なら、それも纏めて治めることができると、敵ながら信頼している。

 自らを投げうってでも義を通す心。それが蜀の存在意義だ。遅くなった……本当に、謝っても謝りきれないほど遅くなったが、劉備の目にははっきりと"道が見えた"。

 

「周瑜さん――」

「いや、もう殲滅するように指示したが」

 

 でも正直言って呉にはそんなこと関係なかった。




周瑜「そういう宗教……? みたいなのちょっとよく分からないんで(冷静)」


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第十二章X節その廿二 〈β〉

おひさしブリテンの料理はクソ(辛辣偏見)

今回でβ√本筋終了です。あとは解説とエピローグ的なアレです。
普段これを書くときは場面で『甲』『乙』の二つに分けて書いていく(片方に詰まったらもう片方を書いてリフレッシュする)のですが、今回はまさかの『甲』『乙』『丙』『丁』に後から付け足した『零』という五分割進行でした。
そんなんやから纏まりが無くなるんじゃ(反省)。
そんなんやから同じ文章を繰り返すミスするんじゃ(猛省)。


『全兵力を以って曹操 鑑惺を討て』

 

 劉備と諸葛亮の意に反し、中央よりの伝令が蜀呉同盟全軍へ伝わるのにそう時間はかからなかった。訂正を出そうにも呉の軍師でありながら懐刀である呂蒙、そして陸遜により蜀側の近衛は無力化、二人の声は幕内に封殺されたのだ。

 

 鑑惺の消耗、曹操の突出、蜀呉同盟の破綻。戦はついに終局となる。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「とうとう、だな」

 

司令書をクシャリと握りつぶし、趙雲はため息を吐く。

 ここまでつまらないことになったか。

 

「さて、――」

「……」

「鈴々!?」

 

身の振り方を訊く間もなく張飛は駆け出していた。無論、鑑惺のところへ。

 

「もう我慢できんか。……私もだ」

 

趙雲もそれに続く。

 一周回ってシンプルな思考。

 

烈士に濡れ衣を着せる国に仕えたいか。

 否。

 

ではその烈士を助けたいか。

 是。

 

 弱きを助け悪を挫く。まるで初めて武器をとった時のような一本道の心だった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「まったく、こんな命令よく押し通したわね。こうなる予感はばっちりしてたんだけど」

 

列を組んで駆けながら孫策が薄く笑う。

 今日は勘が冴えているらしい。

伝令が廻ってきたとき、既に呉の将軍格は左翼の突撃から後退し、いつでも曹操討伐へ迎えるよう準備していた。

 

「ですが、向こうも、いよいよ全力です」

 

 その孫権の言葉通り。対する魏の兵も敵を動かすまいと呉軍を喰い潰して迫る。

早急に往かなければまた足止めを喰らう。……いや、既に現在地と曹操とを結ぶ直線上にかかって来ているらしい。

 

「たかが雑兵がここまで……」

「でも、コレを抜ければ呉の勝利よ」

 

 曹操が倒れたなら『曹操王国』の魏は当然その力を大幅に失う。『ここで勝っても先が長い』という予想は曹操が健在だという前提有っての話だ。

 そして蜀……これは孫策の勘だが、あそこももう死に体。あの優しい優しい小娘は、どんな心境でこの命令の顛末を見るだろう。自分の無力を嘆いて自ら道を断つか……そうでなければ周りが離れていくか……全員死んだ目でこれまで通り国を保つのか?

どの予想でも、容易い。

 雌伏の時は終わり、呉が大陸の頂点となる。

 

「足を止めるなっ!私に続け!!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「左翼、中央は共に全兵力を華琳様の下へ!右翼は壁を作り呉の動きをなんとしてでも防ぎなさい。――――本陣!?ここなんてもうどうでもいいわよ!とにかく、相手の指揮系統が乱れてるのは明らか。相手首脳に何か重大な問題が起こったことに間違いはないの。このうねりを乗り越えれば勝ちなのよ!――呂布?あぁ!呂布が来てるわね!で、アンタらみたいなのが呂布なんて止められるの?本陣防衛は諦めて各自生き残ることに集中してなさい!!」

「おぉ〜……桂花ちゃん、いつも以上に荒ぶってますねぇ」

「すぐそこまで呂布が来てるのよ!これが荒ぶらずにいられる!?とにかく、指示することはし終えたわ。あんたたちも速く机の下にでも隠れなさい」

「そう苛立たずとも……。すぐそことはいえ彼女も何故か士気が低く、その進軍速度は予測のなん十分の一ほ――」

バギャッゴシャァァッッ

 

 まだ余裕が有ると主張しようとした矢先。

本陣の幕が木の柱もろとも引き倒される。現れたのは、呂布。

 

「おぉ〜……」

「ここにきて予測の百倍ですか……」

「華琳様っ……これからは魂魄として常にお側に………」

 

そこまま接近。三人は狼狽える気すらわかない。

 

「おねがいがある」

 

しかし、予想していたようなこと(斬首、全身粉砕骨折、微粒子レベルで粉砕etc)は起こらず。呂布からのまさかのセリフ。

 

「お、『おねがい』ですか……?」

「そうよ……逆に考えるのよ………体を失えば、その代わり物理的な限界から開放されるはず。なら例えば華琳様のお身体のナカにに入れるのでは………!?」

「……桂花ちゃん〜?」

 

呂布の様子もおかしいが、もう一人様子がおかしいのがいた。

 

「ねぇ」

「ふひっ……そうなれば華琳様の美しい朱色と蜜に包まれて一日……いえ、十日でも一月でも過ごし、ふひひっ……お、オリモノと混ざり合って一緒に排泄される………!!!」

「ちょっと、桂花さん?」

「流石にこの妄想は上級過ぎて禀ちゃんも反応しないようですね〜」

「想像つかないことは重ね合わせようがないですから……って、それは今関係ないでしょう!」

「関係ないからボソッと言ったのですよ〜。ワザワザ拾ったのは禀ちゃんの責任」

「う、と、とにかく、今は妄想してる場合でも漫才してる場合でもありません!」

「あぁ……食べ物に取り憑いてあの白い歯列で引き裂かれすり潰されて細くしなやかな喉を下り溶かされ吸収されて全身を巡りやがて華琳様の血肉となるのもきっと素晴らしいわ………」

「………」

パァンッ

「アッ」

 

呂布によるビンタ。頭が吹っ飛んだと思ったが、意外と無事だった。そのまま胸倉を捕まれ、吊り上げられる。

 

「ヒェッ」

 

 同僚が大変なことになっているときに不謹慎だが……体が完全に浮いて脚がぷらぷらしてる様や、緊張のせいで凄いことになっている顔色に泳ぎまくりの視線なんか凄く面白いなー、と郭嘉は思った。絶対に笑ってはいけないシチュエーションで笑いたくなる心理も働いているかもしれない。

 

「聞け」

「ハイ」

「ここに部下を置いていく。攻撃しないでほしい」

 

会話できそうにない荀彧に代わり、郭嘉が返事をする。

 

「?……それはどういう………」

「月と詠を助けるのは、今しかない」

「月……?詠………?」

「とにかく、おねがい」

「そうは言っても、貴女と私たちはて…き……――」

「………」

「どうしですけど貴女の方も今後こちらに攻撃を仕掛けてこないというならその頼み、受けましょう!」

「ありがとう。行く」

 

端的に礼を述べた呂布は半分意識が飛んでいる筆頭軍師をポイと捨て、来た道を引き返していった。

 目指す先は呉蜀同盟後方……そこに、人質として董卓と賈詡が囚われている……はず。事前に陳宮が入り、今頃居場所を特定しているだろう。

 

「い、行きましたね」

「素人でも分かるあの氣の密度……基本 格上殺しの聆ちゃんが戦闘放棄して説得に全力をかけたのも納得なのですよ〜………」

「そうね………」

 

別に返事をしなくてもいいのに、地面に投げ出されたその格好のまま相槌をうつ。

それがまた郭嘉のツボに入った。

 

「……プフッ」

「とりあえずあんた殴るわ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「あの娘がこの命令通りのことを望むと思うか?」

「……いえ」

 

 中央中陣。厳顔と黄忠は命令を受けて、比較的落ち着いた態度でいた。

 

「どうする」

「望まないことも、やらなければならないときは有るわ」

 

 望むわけないどころか基本理念から危ういというのは、蜀の将なら簡単に分かることだ。だが、鑑惺が理解の範疇を超えた危険因子であるのも事実。未来の安寧のために、今 一度義に反するのも仕方のないことと言えるかもしれない。

 

「それに、もう遅い」

 

しかしそんな複雑な思考も結局、これに尽きる。

 

「……ふむ。ならば、行くか」

 

そうだろうとは思っていたが、やはり返ってきた"つまらない"答え。しかし、厳顔は何も反論はしなかった。

 

「そうね……」

 

逆に黄忠の方も厳顔が命令に従う気がないのは気取っていたが……"そこ"までは一緒に行くことにした。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「むむむ……聆は大丈夫なのかや?」

「策は順調ですよー」

 

袁術の問いかけに、張勲は全く淀みなく普段通りの笑顔で答える。

 

「………――」

「七乃さーん!」

「斗詩さん。……来ましたね」

「はい。殆ど第三予測の通り。中心はやっぱりあそこですけど、こっちにも無視できない数。……一つ予想外に、趙雲さんまで聆さんのところにまっすぐ行っちゃったみたいですけど」

「ふむむ……まぁ、こっちに有利な誤算、ということになるでしょうか……?」

「そうなりゃ逃げずにここで防衛の方が安定するか」

「そうですね……」

「ともかく、ここに来る将軍格は魏延さんのみのようです」

「厳顔とこのガキか。うーん、楽できて嬉しいが、やっぱちょっと物足りねェなァ……」

「靑さんって病人ですよね……?」

「それにこっちにはお嬢様もいらっしゃるんですから無茶はしないようにしてくださいよ。お嬢様も、ちゃんと私の後ろで大人し……く………」

 

言い聞かせなくてもプルプル震えてるだろうけど、と袁術の方へ向き直る。が、姿が見えない。

 

「お嬢様ー、お嬢様ー!?」

「美羽様が消えた……!」

「マジか」

「こ、こんなことも有ろうかと!キュインキュイン!『七乃天通眼』!!」

「なんですかそれ」

「あれほど溺愛してたお嬢ちゃんが居なくなったんだ。そりゃ気もおかしくなるだろうさ」

「見えた!」

「なにがですか」

「お嬢様、よりにもよって右翼前線に向かってます!」

「マジか」

 

二つの意味で。

 

「後を追いましょう!追って下さい!」

 

言うが早いかさっさと馬を駆る張勲。

 

「は、はい!」

 

いつもの流され気質で後を追う顔良。

 

「策は……いや、頭脳がこうも取り乱してちゃ 一緒か」

 

馬騰は少し躊躇したが、諦めて追跡を開始する。

 そして周りの雑兵たちも将軍格が一斉に駆け出したのを見てとうとう進軍かと勘違いし、勇ましく前進を開始した。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんやなんや、きな臭い動きしとるな」

 

張遼が眉をしかめながら辺を見回す。

 敵軍全てが急に行動を開始。しかしその速度は全くバラバラ(一つの隊の中ででも)で動く、という奇っ怪な様相を呈している。

 

「………」

「何か知っとるんか?」

 

終始妙に落ち着いていた華雄の表情がかすかに動いた……ような気がした。

 

「聆の策だ」

「これが………?」

「不思議だろう」

「そんな……仕掛けは……そもそも、これで何が起こるっていうんや」

「気になるなら見に行けば良い」

「はぁ……」

 

『確かにそうだ』という納得と『お前が散々足止めしていたんだろ』とか『もしかして自分が見に行くのまでこの流れの内なのか』とか、諸々の不満と疑問が混ざった『はぁ……』である。

 

「行くか」

「華雄も行くんかいな」

「当たり前だ。興味が有ると言っていただろう」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「桃香様……」

 

 

 およそ劉備のものとは思えない指令。呉と組んでいるのだから、劉備以外の思惑が入ったものが出るのは当然だが……これを、了承したのか?

 もし、鑑惺が本当に裏切ったなら敵同士となるのも仕方ない(それも本当は受け入れ難いが)。だが、この命令はどうだ。まるで鑑惺を殺すことを前提に考えて、考え抜いた結果何も出なくてやけになったような杜撰さ。

 

「………」

 

コレがどういう経緯で決定されたのか。

劉備の心変わりか、諸葛亮が思考の深みに嵌ったか、それとも呉が"何かした"か。

 しかし、それも今までやってきたことではないか。無垢な劉備を守るために各々が最善と思うことをする。多少強引であっても、だ。

 ただ……どんな真相であっても、鑑惺が死んでしまえばそこで"終わり"だ。間違いであっても正せない。解らないまま進むにはこの分岐は大きすぎる。

 

「行かないと」

 

 関羽が思案している間にも、戦場のざわめきははっきりと高まっていた。既に皆"進んで"いる。

 

「聆殿を、護る」

 

曹操や他の魏の将から。命令を受けた蜀呉の将から。

 反逆と取られてもいい。『いまさら』『身勝手』という非難も甘んじて受ける。

 

そして、劉備に問いたい。

何を思うのか。

 

「もっと速く……!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 皆がそれぞれの想いで駆け、辿り着く先。

 

「――カハッ……」

 

そこには、北郷の刃に穿かれる鑑惺の姿が有った。

 

「………」

 

刀がゆっくりと引き抜かれるとともに、いつか華雄から受けた傷と同じ位置から血が滴る。

脚から力が抜け、膝をつく――

 

「聆……もう立つなッ……!!」

 

――が、それ以上崩れない。

楽進の声に逆らい、いつもの"あの"笑みを浮かべ立ち上がる。

 

「聆殿ッ」

「……っ………」

 

人垣から関羽が飛び出すよりほんの一瞬だけ早く、曹操の鎌が弧を描き、鑑惺の顔を薙ぐ。

ついに崩れ落ち、立ち上がらない。

 だが、耳元まで裂けた傷が、まだ嗤っているようだったと関羽は記憶している。

 

――――

―――

――




Q:出番が有りませんでしたね。
A:今回は出たら貧乏クジだから残当。


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β√終章上節

お久しBLEACH(KBTITと久保帯人は別人)。
季節の変わり目ですね。皆さん、お体に気をつけてくださいね。
ちなみに私はもう体調を崩しました。体はもちろんのこと、どうやら頭の調子も良くないようです。

さて、内容はエピローグ。上、下、解説の三つに別れる(予定)うちの、今回は上です。
何かスッキリしない、アレだけ引っ張ってこれか、ちくわ大明神、等の不満を持たれる読者様もいらっしゃりますことでしょうが、大団円エンドはα√でご用意する運びとなっておりますので何卒ご容赦いただけますよう(クッソ丁寧な釈明をする作者の鑑)。


 ブツリと途切れた視界。本当の意味の一瞬で切り替わる。

 標準的な白い壁紙。円形蛍光灯の無機質な光。

懐かしい、我が家の天井だ。

 

「死ぬ予定ちゃうかったんやけどな」

 

"戻って"きてしまったらしい。

 

「先輩!」

「うわっ」

 

 後輩が飛びついてくる。やっぱり、こっちの世界の私はしばらく倒れてたんだろう。そうとう心配していたようで、涙声で『よかった』だのなんだの言っている。

 

「ちょ、あんたそうやって衝撃加えてまた倒れたらどーすんのよ。……大丈夫なの?」

 

視界の端からもう一人。片手に持った携帯で今にも119を押そうとしていたところのようだ。

 

「うん」

「一応病院とか行った方が……」

「いや、恥ずいだけやからええわ」

 

アル中で救急車とか、ドキュメンタリー番組なんかで時々見る迷惑なオッサンそのまんまじゃないか。

 

「まったく……完全に酔いが吹っ飛んだわ………」

「もう、今日は寝ちゃいましょうか」

「そうね。また倒れられても困るし。いいわよね?……っていうか、流石にまだ呑むとは言わないでしょ」

「……しゃーない」

 

念押しされて、渋々頷く。

 日本酒なんかをチビチビやりながら色々と考えたいことが有るんだが……そうも言えないだろう。

 

「ホントに大丈夫ですか?」

「……なんで?」

「何か表情が……」

「んー……ゲームでラスボス倒して、エンディング見る前に電源切ってもたみたいな感じ」

 

 あの世界で、私はラストミッションを確かに遂行した。魏の侵攻を急転させることで呉を地の利のある江東から引き摺り出し、さらに劇的な最期を見せることによって蜀陣営の精神を激しく揺さぶる。そして会戦は混乱し、魏の大勝か、引き分けか……。ともかく、蜀は戦闘能力を失い、そこに魏が譲歩して蜀魏同盟が電撃締結。その後はそれまで以上に増した国力差で呉などどうとでもなる……そういうシナリオ。

そして、そこにはもう一つ仕掛けがあった。

 死なないこと。

 一刀、華琳との阿吽の呼吸で、体にダメージを受けボロボロになりつつ、しかし致命傷は避ける。最後のトドメですら、だ。一刀の刺突は、以前華雄に貫かれた場所と同じ。つまりそこに攻撃を受けても死なない。その後、華琳の鎌を顔に受けた。だが、それも上顎と下顎の間……つまり、頬の肉を切ったに過ぎない。もちろん、単純に体力と血の消耗で死ぬという可能性も十分に有った。それも予想済みで、もう一つの保険も確認していた。

 華佗……あの『五斗米道(ゴッドヴェイドー)』のチート医者。アイツが、戦を予感してか戦場近くまでやってきているという情報を掴んでいた。アイツの治療能力ならば、致命傷以外……特に消耗などは『元・気に なれェェェェッ!!!』でいくらでも対処可能だろう。

 そして私は隠居(流石にアレだけ死ぬ死ぬやって政治の中心に居座るのは格好がつかないし嘘臭すぎる)して『この平和は私が作ったんやで……』と内心ドヤ顔で過ごす予定だった。

 

 だが残念。そんな画策も空振って死んでしまったらしい。シナリオもおじゃん……とはならないまでも少なくとも私がその結果を知ることは叶わなくなった。

『ゲームクリア』の六文字も無しにいきなり暗転して はい終わりとはなんというクソゲーだ。ラストにピーチ姫が出てこないマリオみたいなもんだ。

 

「なにそれ」

「面白い夢見とってん」

「こっちが大慌てしてる間呑気に夢なんか見てたわけ……」

 

何が呑気なものか。大陸の覇権を掛けた一大スペクタクルだぞ。

と言いたいところだが、よく考えるとエロゲーだったんだよな……。

 

三十半ばのOLが生死の境で見たものはエロゲー世界のキャラになって三国統一する夢だった。

 

我ながら酷い。非難も甘んじて受けるべきだな。

 

「はぁ……まぁ、ええかぁ……」

 

そう口に出した瞬間、本当に諦めがついてしまった。

 元々何で"ああ"なったのか分からなかったんだ。帰ってくるのも何が何やら分からない内で当たり前。

未練がましく悩むのも馬鹿らしい。過ぎ去って戻って来ないものなら、こっちにだっていくらでも有る。『戻ってきたのに納得できない。また"向こう"に行きたい』なんて『時間が過ぎるのは理不尽だ。小学生から人生をやり直したい』と駄々を捏ねるようなもの。

 恋姫の世界はおもしろかった。……それでいい。もしどうしても我慢できなくなったら、『真・恋姫†無双』を起動すればいいだけだ。

 

『寝る前に、お風呂どうします?倒れたばかりだしやめときますか?』という問いにベッドに入ることで答えながら今日を終える。そして見た夢はまた恋姫……などということはなく。何か、ネズミになって配管を走り回るという妙なものだった。その次の日も、そのまた次の日も、ついぞ私が向こうに行くことはなかった。

 

 こうして私はこの『夢想』を記憶の隅に追いやり、いつも通りの満ち足りた生活へと戻る。

強いて変わったことを挙げるなら……格闘技能が引き継がれたようで蚊を箸で摘めるようになったことくらいだ。




聆「でもこの力を使って何かする気は無い。そんな体力も無い」


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β√終章下節

おひさしブリ(゚∀゚)ハマチ(激懐)
もうそろそろ梅雨ですね。
私の住んでいる地域では雨≒暴風雨なので雨の季節はガチで辛いです。
当初の一日一話投稿を続けていたら一年前の今頃には完結してたっぽい(小声)。

さて、内容はβルートエピローグの下。
『れ、聆くん、死んだはずじゃ!?』と思った方は普通です。
『なるほどな』と初見で理解した人は読解力が有るとかじゃなくて多分作者とシンクロしてるんだと思います。
最終話でも誤字注意です。


「はァァァァァァァァァッ!!!」

 

 天幕の中、勇者の風格を持つ声が木霊する。華佗という鍼治療が得意な医者(?)が治療のために氣を高めているのだ。

 相手は、聆。華琳の一撃を受けてから目を覚まさない。『俺は取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないか』と腹を斬りたい気分になったりもしたが、華佗の話では単に血と体力の使い過ぎで眠っているだけだとのこと。まぁ、それでも聆にとんでもない負担を掛けたのは変わりないけど(実際、華佗には『よくもこう致命傷以外のほとんど全ての傷を負わせたもんだ』と呆れられた)。

 

 けど、そのおかげで(と言って良いか分からないけど)、最後の一撃から『対蜀呉同盟防衛戦』は まるで坂を転がるように終わりへと向かった。

 聆が倒れる姿は戦に参加した殆どの将が見た。そしてその場で戦況がひっくり返った。それまでの『魏対その他』から『反鑑惺派対その他』に変わったんだ。そして、反鑑惺派は、驚くほど少なかった。実際、戦いにもならなかった。しかもその殆ど同時に、呂布が蜀呉同盟の本陣にと後方を荒らし回ったらしい。

 その時点で戦は決着。

逃げる呉を、華琳は追わなかった。

 

「聆の様子はどう?」

 

聆の身体の至るところに針が刺さって針山のようになってきたころ、華琳が入ってきた。

 

「……まだ目覚めてない」

「あぁ、だが少しずつ氣が強まってるぞ!」

「そう。……良かった」

「それで、華琳。そっちの方は?」

「皆、それぞれに後始末を進めてるわ」

 

 戦死者や物資の消費の記録、諸々の"後片付け"ももちろんだが、それ以上に、雑兵たちが勝利の高揚や敗北の混乱に任せて蛮行を働かないようにコントロールしなければならない。それが、戦の後の大切な仕事だ。

将たちの精神面の動揺が大きかったこの戦いでも、それは変わらない。

 

「もっとも、殆ど最低限のことを済ませたらここに押しかけてくるでしょうし……そもそもそれどころじゃない娘も少なくないけれど」

 

 でも、もちろん限度は有る。凪たち、聆の幼馴染の三人は呆然自失として涙も流さない。逆に張飛は大号泣で仕事にならないし、関羽は戦闘が終ってすぐ自分の首を切ろうとした。

 意外に大丈夫だったのは劉備で、彼女も聆と親しく、しかも戦の最中呉によって衛兵を全滅させられ囚われるという危機も有ったという割にしっかりと落ち着いて後始末の指揮をとっていた。彼女もまた、君主としての強かさを持っているということなのか……それとも、最後のケジメのつもりなのか………。

 

「訪問者については『繊細な治療をしてるからあまり近寄って欲しくない』って言っておきましたよ」

「七乃」

 

 そんなことを考えていたら、天幕の中にもう一人。

七乃さんも、"知っていた"うちの一人なんだろう。

 

「これが、策の最後の部品です」

「おいおい、そういう話を俺の前でしていいのか?」

 

懐に手を伸ばした七乃さんに華佗が突っ込む。も、七乃さんは止まらない。

 

「あなたは、たぶんそういうのは黙っておける種類の人間ですよね?」

 

そして取り出したのは、紙の封筒。

 

「……遺書?」

「……なるほど、ね」

「そうです。『鑑嵬媼は死んだ』」

「医者の治療してる傍でそんな……」

「何も本当に死ねというわけじゃないんで気にしないでください」

「死人の最期の願いほど重いものは無いからね」

「ま、まぁ分かってるが……」

「さて、遺書の内容は大きく三つ。まず『鑑惺の死』に動揺したり責任を感じていたりする者に対する激励。これは主に劉備さん宛てですね。『私は死んで尚、劉備の強さを信じている』と。次が曹操さんへのもの。『戦に酔ってるのを正したかった』的な内容で、蜀の意向を理解してやるように進言する流れです」

「ふん。そもそも聆が何か企んでるようだったから乗ってあげただけよ」

「どうだか」

「……」

 

睨まなくてもいいだろ。

 

「こほん。……で、最後は蜀と魏の同盟を勧めるとの内容」

 

同盟と言っても、国力や状況、なにより蜀の後ろめたさから魏が有利になることは必然だろうけど。

 

「これが、口語調かつ所々に冗談を交える、策のカラクリを知らなければ生前の聆さんを偲んで涙腺大崩壊不可避の名文で綴られています。あとは、華琳さんが蜀側を立てるように振る舞えば」

「分かってるわ。ふふ。関羽も趙雲も、ついでに劉備も私のものよ」

 

 魏は実質的に蜀を下したことになり、一方で華琳が劉備の思想を認めることによって蜀もある意味で当初の目的を達したことになる。劉備たちへの風当たりは穏やかではないだろうけど……華琳が囲ってしまえばそれも些事だ。

……けど、

 

「それで、どうするんだ?目的も大体の流れも分かるけど、肝心の、死んだことにする方法は」

 

 あの傷、あの戦いを見れば誰もが"死んだ"と思うだろうけど……それも、実際に生きている聆を見てしまえば崩れ去る。このまま何処かへ隠れさせることができればいいが、そうもいかない。

 聆の寝台の横に皆が集まる絵面なんて容易に想像できるし、そこを"もう死んだ"ことにして強引に突破しても、最後に一目顔を見たいと言い出す者も多いはずだ。

 

「『火葬』です」

「焼いたら流石に治せないぞ!?」

「本当に焼くわけじゃないだろ。ダミー……えっと、偽物を焼くんだな?」

「はい。天の国式の葬儀と言い張って棺桶に"堅く封じて"早々に。聆さんが生前『死ぬ時は天の国式がええなぁ』と言っていたことにして……その旨もコレに書いてありますけどね」

「それで私達が同盟のための会議を行っている間に聆は物資や雑兵と一緒に本国へ帰すワケね」

「ふむ……それなら、治療はここまででいいかもしれないな」

「というのは?」

「あまり元気を取り戻すと、氣に敏感な人なら気付いてしまう。もう峠は超えたから、多少看病の心得が有る者がついていたら大丈夫のはずだ」

「案外協力的なのね……」

「どうもこれ以上戦が起きないように頑張ってるみたいだからな!」

「そう。……解ってもらえて、この娘も嬉しいでしょう」

「それで、本国に戻ってからは片田舎で隠居でもするつもりらしいです。あと、落ち着いたら流石に凪さん達くらいにはバラしても良いとも」

「できるだけ早くしてあげないとな」

 

ホントにな……。

 

「ともかく、この方針で行くわよ」

 

 そして俺たちは動き出した。

華琳が"信頼できる配下"を呼び出し、割り振った。計画は着々と進められ、その日の日没前には眠ったままの聆が隠された箱が本国へと送られたのだった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

その後。

 

 

 遺書が読み上げられた後、火葬は驚くほどスムーズに済んだ。

 誰かが『顔を見せてくれ』とゴネて『棺桶の蓋は絶対に開けないのが天の国流なんだ!』と押し通すつもりもあったんだけど、そんなことは無く。

 今思えば、聆は最後に顔に攻撃を受けた。それ(見るに耐えない感じになっているかもしれない)が蓋を開けない理由だと察した(間違い)のかもしれない。

 

 同盟の方は予想と違う形になった。

 劉備の言から、そもそも同盟ではなく、正式に魏が蜀を下し統治するということになったのだ。

 蜀の主張を魏が飲んでくれるならそもそも二国に分かれている必要は無い。さらに一つ、聆が許しても、劉備の義と徳を信じていた蜀の民を裏切ったことに代わりはなく、おめおめと上に立っていることは私見を抜きにしても不可能……と。

 結果、蜀の国土と将はそのまま魏へと編入され(これも劉備の意向)、劉備だけが責任を取るような形で政治の舞台から姿を消すことになる。……華琳はほとぼりが覚めたら中央に召し上げる気満々みたいだけど。

 

 そして、呉。

 一度建業へと引き篭もった彼女らだけど、ただでさえ圧倒的だった戦力差がさらに広がってもうどうしようもなくなったことは流石に悟ったらしく、こっちが交渉を呼びかけたら素直に従った。内容は『呉の政治に魏が口出しをする権利を認める』というものが主。この条件が言い渡された時、孫策はそれはもう正に『殺気で人が殺せたら――』な表情をしていたけど、華琳も自らの手で官を正すという信念は曲げるワケにはいかなかったらしい。

 それに、魏と蜀の将の間でも、戦での呉の行動への反感は高かった。

 そんな感じでギスギスしたまま結ばれた条約だったが、例によって華琳は"正しい"ことしかしなかった(むしろ孫家が過去の恩なんかのせいで手出しできなかった部分を正常化できて大いにプラスだったりする)ので敵対心はやがて薄れ、新しい平等な条約を作る目処が立ち始めている。

 

 最後に、聆のこと。

 聆は戦の後、遥か東……遼東まで居を移した。もちろん、会えるような状況(蜀の扱いが決まって体制が整ったくらい)になってすぐ(地方の視察任務というミノをかぶって)凪たちを連れて会いに行った。

 凪たちはそれはそれは喜んで涙も鼻水も流したし、力加減もなく聆に抱きついたり、逆に無茶な作戦を立てたことを怒りもした。

 聆も、口の傷のせいで喋ることはできなかったけど身振りや筆記でいつも通り戯けていた。その傷も大方回復してきてて、華佗もたまに来る約束をしていると言う。次会うときは喋れるようになっているかもしれない。

 

 つまり、今はどういう状況なのか。

一言で簡単に言える。

平和だ。

 もちろん、これから俺たちで守っていかなきゃいけない。でも、三国の英雄が皆揃って同じ方向を向いている今、それが難しいことだと感じない。

 明るすぎて安っぽいかもしれないけど……どう足掻いても希望。

 

 

 

 それでも

……ただ一つだけ挙げるなら。

 聆に会いに行ったとき、無意識に『はじめまして』と挨拶してしまったこと。

そのことたった一つが、思い出す度に星の無い夜空のような不気味さを投げかけた。




ホラー落ち(?)
関係ないですが解説が書き終わってα√の続きの投稿を開始したら目次の順番を弄ると思います。


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※作品の説明、設定と言い訳β√

おひさしブリュー・リンガーダ(よく考えると腕が十本)。
美味しくなかったので全然食べていなかった、買い置きしていたサトウのご飯の消費期限が切れました(半ギレ)。

さて、今回はβ√の解説です。
かゆいところに手が届かない、って?
それは仕様です(公式見解)。


意識しておきたいβ√4つのこと

 

①聆がゲーム感覚

 β√の聆はα√に比べて恋姫世界をゲーム、曹操や劉備なんかも一人の人物というよりやはりキャラクターとして認識しており『面白けりゃいい』と割と無茶をする。

②逆に蜀呉側は割と感情的

 α√に比べ劉備たちの鑑惺ラブ度が高く、諸葛亮の鑑惺アンチがキツい。

③予想外だらけ

 策の主導権を握っていた魏側ですら予想を外れることが多く起き、策に度々修正が入っている。

④もう勝負ついてるから

 魏が国力で圧倒的に勝っていて、もはや詰将棋状態である(これはα√も同じ)。

 

 

重要人物

 

袁 術 公路 美羽(敬称略)

かわいい。あと役に立たないレベルで微妙にかしこくなっていらっしゃる。聆の死に何気にかなり落ち込んでいらっしゃる。慰めて差し上げろ。

 

バイのやり手OL

調子に乗って実際に鬼畜と化した本作主人公。やりたい放題やって現世に帰還。β√の黒幕であるため、主人公らしからぬ心情描写の無さ。

 

鑑 惺 嵬媼 聆

三国平定の立役者(人柱)となった(と見せかけ隠居した)。現在怪我の治療中。

庭に池を作り、そこに飼っている亀を眺めるのがマイブーム。

 

北郷 一刀

凄い理解力で鑑惺らの策に合わせて行動した原作主人公。β√ではおちんぽの活躍は無かった。

戦後初めに聆に会いに行ったときの違和感が尾を引いているが、どう考えても聆本人なので考えないようにしている。

 

曹 操 孟徳 華琳

β√の策で終始迫真の演技を見せた魏の覇王。

蜀を手に入れ呉にも行政介入し、ついに三国平定の悲願を達成。

次の目標は三国中の美女をカキタレにすること。おちんぽ大皇帝北郷一刀と競うことになりそうだが、曹操自身も北郷のおちんぽで気持ちよくなってしまうのでもう負けているとも言える。

 

張 勲 七乃

策の立役者として曹操より秘密裏に多大な褒章を与えられた本作の最終兵器。袁術に頼まれて芸術特区『仲』の整備を画策中。

 

諸葛 亮 孔明 朱里

β√被害者その1。

終始『これは鑑惺の罠だ!?』と孔明の罠状態に悩まされる。

作者はいろんなところにごめんなさいしないといけない。

 

劉 備 玄徳 桃香

β√被害者その2。

優しさを全力で利用され、最終的に政治から自主的に去ることを強いられる感じになった。が、後に曹操によって中央へ呼び戻される。

 

孫 策 伯符 雪蓮

β√被害者その3。

とにかく小物扱い添え物扱い。コメントでも『派手なのに空気』『江東ヤクザ』などと言われ散々。かっこいい雪蓮さんを見たい人は真・恋姫†無双 呉編をプレイしよう!(なお途中で死ぬもよう)

 

周 瑜 公瑾 冥琳

β√被害者その4。

分断されていた呉を再建してやっとの思いで国内を平定したとたん魏が攻めて来て蜀が便乗してきたと思ったら何か蜀の内輪揉めに巻き込まれて大敗北した。コメントでも"呉が蜀に泣きついて蜀呉同盟が出来た"扱いになっていて散々。かしこい冥琳さんを見たい人は真・恋姫†無双 呉編をプレイしよう!(なおラストで死ぬもよう)

 

左慈

鑑惺とかいうわけわからんヤツが蜀呉を追い詰め(しかも精神攻撃)てイライラ。後にその正体が自分たちよりも更に一段階上の次元の存在と判明しガタガタ。

 

貂蝉

外史にとんでもない存在を入れやがったな、と左慈にぶん殴られた。筋肉の鎧で無効。

 

干吉

ホモ。

 

 

大まかな流れ

 

それまで→α√

β√

鑑惺離脱→そのまま蜀呉同盟とドンパチ

蜀呉同盟入り

魏国境付近へ誘引、蜀の将への取り入り

決戦

対北郷隊→死亡→袁術らの寝返り

対曹操

死亡→袁術らの寝返り

終戦

 

 

それぞれの行動の詳細

 

『』:仮称

():時期

〈〉:行動主 ※『鑑惺派』華雄など鑑惺の協力者 『親鑑惺派』劉備など鑑惺に好意的な蜀呉同盟の人物 『反鑑惺派』鑑惺に対し敵意剥き出しな人物。特に諸葛亮,周瑜,孫策

○:成否

 ◎:成功し予想外の効果も有った

 ○:成功した

 △:成功したが予想外の悪影響も有った

 ▲:失敗したが予想外の成果も有った

 □:部分的に成功、部分的に失敗、他、曖昧な結果

 −:失敗した

 ☓:失敗し予想外の悪影響も有った

 

☆『戦略・苦肉策返し』(魏への黄蓋合流〜終戦)〈魏(鑑惺、曹操が主)〉△

 呉の苦肉策に対するカウンター。

 鑑惺の離反→魏の後退→呉の追撃→それに対する反撃戦 という流れを作る。発動当初は鑑惺が蜀呉同盟に割り込むところまでしか具体的な流れは決まっていなかった(後は蜀呉内部の状態を見て判断)。本文では最後まで義を見せつけることで蜀呉同盟を崩壊させる形となったが、普通に裏切る算段もあった。

 策としての有用性としては戦線を魏側に引き寄せることにより、呉侵攻の最大の難点であった地の利を消すこと。実行段階の行動では対蜀の精神攻撃が多くなったが、これはもともと中心ではなかった。

 と、戦略としての性格を真面目に述べたがこれは建前で、実際のところは鑑惺による遊びである。

 結果としては、大筋は成功。

 

『離反伝達書簡』(魏への黄蓋合流)〈鑑惺〉◎

 苦肉策返しの発動トリガー。各方面への連絡。

 ルートによって届け先と内容が違い、αでは主に李典への鎧の新調依頼だが、βでは張勲,文醜,華雄,馬騰など離反組への連絡と、それらが動きやすくするための根回し、曹操への一言メモ、そして、時間差で届くことになるが魏本国商人らへの連絡である。

 この時点で策の全体像を持っているのは鑑惺、張勲、馬騰の三人だけであり、ある意味で華雄らも騙されている(本当に反乱だと思っていた)形となる。特に袁術に至っては仲帝国の建国が目的だと信じていた。

 商人への連絡は『鑑惺の反乱は策である』というもの。また、それを広めよという指令。離反の混乱によって本当に魏の力が弱まってしまうことを防ぐための行動であるが、これにより黄蓋と鳳統を混乱させもした。

 曹操に対するものは曹操の趣味に合わせてかなりアバウトなものであったが、何か上手いこと伝わったもよう。

 

『口論』(魏への黄蓋合流)〈鑑惺,曹操〉○

 これもαとβで意味合いが異なる行動。

 αでは黄蓋の発言を遮り鑑惺の下に置く意図で行われたが、βではストレートに思想の亀裂を表すためのパフォーマンスである。

 

『聆による真桜の脅迫』(魏への黄蓋合流)〈鑑惺〉○

 所謂鑑惺派ではない李典を魏から離脱させる。李典のインチキ科学が有ると魏側(曹操は策を察しているだろうが、他が命令外で勝手に……等)が鑑惺の予想外の動きをしたり超兵器を製造する可能性があるため。

 魏の不利(捏造)を延々と説き、協力するなら北郷隊は助かるように尽力する(また、李典の助けによってその可能性が高まる)、という内容。

 

『離反組出立準備』(離反伝達書簡の発布)〈離反組〉○

 離反にあたり魏から離れるための準備。軍師会によって曹操ら魏の頭脳が部屋に篭っている間に進められた。もちろん疑いの目も有ったが魏内で奇策に定評のある鑑惺,張勲の名を大々的に表すことで回避。

 食料,武器,馬,さらには人材などを大量に奪うことにより魏を侵攻以前の国境付近まで退かせる(又は退くことを自然に見せる)。

 

『離反』(離反組出立準備完了〜軍師会終了)〈離反組〉○

 離反組による魏の砦からの脱出。先に鑑惺,華雄,袁術,馬騰,李典と雑兵らが出発し、軍師会終了とともに張勲と文醜が合流。食料庫への放火の後鑑惺らの後を追う。

 

『離反発覚』(離反の発覚)〈曹操〉△

 離反発覚後の魏の動向。ここでは特に、メモによって何となく鑑惺がやろうとしていることを察した曹操の演技が中心となる。

『敵を欺くにはまず味方から』ということで曹操は迫真の演技をする。結果、軍を自然な形で退却させ、黄蓋らを混乱させることができた。しかしあまりにも迫真過ぎて、曹操的に策だと気付いておいて欲しかった北郷まで騙されてしまう。

 

『鑑惺入城』(離反組の呉の砦への到着)〈呉蜀同盟(主に諸葛亮,孫策,周瑜)〉△

 同盟を申し出た鑑惺に対する蜀呉同盟の対応。

 その場で即開戦となるのを恐れてまず鑑惺を城内に招き入れた。また、これによって場合によっては鑑惺を複数の将で袋叩きにできるとも考えていた。

 結果、鑑惺を蜀呉同盟に入り込ませることになってしまったが、その場で決裂していても蜀呉同盟にとって不利であったため致し方なし。

 初めから魏側が大いに有利であることが如実に効いている例である。

 

『対呉蜀交渉』(離反組の呉の砦への到着)〈離反組(主に鑑惺と張勲)〉△

 蜀呉同盟の尋問に対する離反組の対応。

 同盟側は鑑惺が来ると思っているだろうので、裏をかくためまず袁術,張勲,文醜を出した。そしてその場に劉備が居たため、張勲はそこからなし崩し的に友好を結ぶことを画策する。しかし、これは劉備が予想外に強かであったため失敗。

 次に、相手の要求により鑑惺が出る。隙のない理論で蜀呉同盟側の批判を躱すも、その時の態度や語彙の冷たさを後々利用された(それはそれでその場合の策を立てればよかったため問題無し)。

 曹操の更正の他に、袁術を主とした『仲』であるとの主張を行ったが、これは袁術を乗せ、また、後の軍議等で鑑惺を出さない(自由に動き、逆に諸葛亮などにはプレッシャーを与える)ための方便である。しかし、これによって袁紹が君主権を主張しはじめ面倒なことになった。

 

『鑑惺暗殺未遂1』(『対呉蜀交渉』終了すぐ)〈馬超,馬岱〉▲

 馬超と馬岱による暗殺未遂。馬超が鑑惺を直接襲い、馬岱は蜀の他の将がその場に近付かないように誘導していた。

 西涼と馬騰の仇である鑑惺を討とうとするも、失敗。しかし、この場で実は生きていた馬騰と再会する。

 

『鑑惺暗殺未遂Ⅱ』(蜀呉への鑑惺合流翌早朝)〈諸葛亮〉☓

 鑑惺の合流に焦った諸葛亮による、刺客を使った暗殺未遂。文章内では鑑惺の回想によってめちゃくちゃ軽く触れられている。

 宴会の翌早朝、大量の酒のせいで深く眠っているであろう鑑惺に刺客を放ったが、前日 貧血の影響で昼寝をしたことと酒の量は鑑惺にとってまだまだ余裕であったこと、さらに普段からの睡眠時間の短い生活スタイルの影響で普通に起きていたため刺客が撃退され失敗。鑑惺は『こんなことするのはアイツしかいない』と首謀者が諸葛亮であると断定した。

 命令を出してから冷静になった諸葛亮は激しく後悔。そして失敗の報を受け軽く心が折れ、下の『昼会談』を行う。

 

『昼会談』(蜀呉への鑑惺合流翌日昼)〈諸葛亮〉▲

 精神的に弱った諸葛亮が鑑惺との敵対を緩和するために行った、昼食を伴った会談。心細かったので孫策も呼んだ。

 しかし、鑑惺側は特に諸葛亮と仲良くしたいとは思っていなかった上に孫策も居ることから完全に罠と判断。適当なタイミングでキレて見せ、会を荒した。

 そうして失敗した会談であったが、ここで諸葛亮と孫策の親密度が上がった(それが良い結果を招くとは言ってない)。

 

『仲王権譲渡』(蜀呉への鑑惺合流翌日)〈鑑惺,張勲、他〉△

 袁紹が仲の王権を求めたため、それを譲った。袁術を蔑ろにする形になるが、そもそも仲帝国を立てるつもりはなかったため、どうでもいい。袁紹を黙らせればそれでよかったので、さっさと袁術を言い包める。

 しかし、これにより再び大勢力の長となった(と思った)袁紹が調子に乗ったため、また別の苦労も出た。

 

『曹操,北郷会席』(決戦前、魏国砦)〈曹操〉○

 戦直前になっても北郷が聆の策に思い当たっていないようだったので曹操から話をつけた。相変わらず回りくどいやり方だったが、十分伝わったもよう。

 

『黒いのちら見せ作戦→親鑑惺派論殺』(蜀呉同盟行軍中、野営地)〈鑑惺,張勲→諸葛亮,周瑜他反鑑惺派〉△

 相手の隠密が聞いていると分かったうえで敢えて怪しい話(何でも良かったが、この場合は袁紹の退避計画をワザと物騒な言葉で話す)をする。諸葛亮ら反鑑惺派が『鑑惺は裏切る』と確信し、鑑惺を露骨に冷遇するように仕向ける策。これにより『冷遇されたのだから裏切っても良いよね』又は『それでも忠義を尽くした私凄い』という論法に持って行きやすいようにする。

 結果、諸葛亮らは反鑑惺の材料が増えたと喜び、劉備らを説得する。ここで鑑惺らにとって予想外だったのが、劉備たちが諸葛亮らの主張を受け入れ、予想以上に冷遇されたこと。

 それはそれでそれ用の策を立てるのだが。

 

『呂布激励』(決戦前日)〈諸葛亮〉△

 諸葛亮による呂布が裏切らないようにするための念押し。呂布付きの軍師である陳宮に対し『こっちには董卓さんと賈駆さんが居るのだから寝返りはしないようにしてくださいね』と言った。

 これにより、一時的な寝返り阻止の効果はあったものの、認識の違いにより悲惨な事態が起こる。

 諸葛亮としては『蜀に忠誠心は無いかもしれないけど、ならせめて董卓と賈駆のためと思って頑張れ』という意味で言ったのだが、陳宮はこれを『裏切ったらどうなるか分かっているな……?』と受け取り、そのような認識のまま呂布に伝達。下の『呂布大返し』へと繋る。

 

『布陣変更申出』(蜀呉同盟決戦前軍議)〈張勲〉▲

 決戦前の軍議で、露骨に敵対心丸出しな布陣を訂正するように求めた。

 蜀呉同盟側より発表された布陣は、鑑惺派の将軍格を全て最前線、袁術の陣も前線、袁紹は後陣とはいえ端っこ……しかも内側を主力で固めるという、予想を遥かに超えた殺意まみれのものだった。これでは動きにくすぎるとなんだかんだと理由をつけ何とかもっと後ろの方にねじ込もうとするもバッサリ却下。アテにしていた劉備のお情けも発動しなかった(心が揺らいではいたが)。

 しかし、この露骨なアンチ鑑惺体制は親鑑惺派と反鑑惺派の心の溝を広げることとなった。

 

『鑑惺派最終軍議』(決戦前日)〈鑑惺派(袁紹,袁術,李典以外)〉○

 調整に調整を重ねた、最終的な策の全容が鑑惺派に伝えられた。

 一騎討ちでとにかく時間を稼ぐことが主な指令。序盤は鑑惺に北郷隊が当たるのみで、将軍格同士の一騎討ちが無かったため策がスカりかけたが途中から張遼らが参戦したため無駄にならなかった。

 

☆『戦術・以死為貴』(魏-蜀呉決戦)〈鑑惺,曹操,北郷,張勲、他〉◎

 派手に死んで見せて精神を揺さぶり蜀呉同盟を破綻させる策。戦場での将の死など本来はよくある話だが、より印象的になるように演出し、しかも鑑惺以外に有名武将が死んでいないことにより効果は大きかった。

 文章内では鑑惺の死亡の時点で蜀の大半が改心(?)し、即座に決着となったが、本来は鑑惺死亡→袁術降伏→仲(鑑惺派)が寝返り蜀呉を攻撃という流れが用意されていた。寝返り、裏切りの汚名を元から誰も期待していない袁術に被せ、曹操の覇道を汚さない策であった。

 

★『鑑惺対北郷隊』(決戦序〜中盤)〈鑑惺,北郷〉□

 鑑惺と北郷隊との討ち合い。

 元同部隊、幼馴染という繋がりが有り、討ち合えば悲劇的である。鑑惺は本来ここで死ぬつもりだった。が、予想に反し蜀側の自制心と警戒が高く、動きが無かったため急遽予定を変更。鑑惺対曹操へ移行する。

 思ったような成果は出なかったが蜀の将を迷わせる効果はあったため、及第点。

 

『談笑』(決戦最序盤)〈鑑惺,北郷〉○

 鑑惺と北郷その他の対面後、いきなり戦闘開始せずに軽く話をする。この間に鑑惺が有利なように間合いを詰めておく。離れた間合いでは楽進の氣弾により鑑惺が大きく不利になり熱い接戦を演出できなくなるためである。

 しかし、この時の楽進の状態は悪く、この作戦を使わずとも接戦になったかもしれない。

 

★『鑑惺対曹操』(決戦中盤)〈鑑惺,曹操,北郷〉◎

 曹操の機転により急遽実行された作戦。曹操,北郷,典韋,の三人で鑑惺に当たり、張遼と許緒をそれぞれ華雄と文醜に当たらせる。本陣は軍師を残して将がいなくなるという変態作戦。

 曹操と北郷、鑑惺の阿吽の呼吸により、ボロボロになっても義を守る烈士を演出。精神的なダメージはもちろんのこと、周瑜の失策を誘発させる効果もあった。

 曹操のこの動きは鑑惺の予想以上のものである。

 

『鑑惺死亡』(決戦終盤)〈鑑惺,曹操,北郷〉◎

 戦術の肝である、鑑惺の死んだフリ。蜀の将が掩護にやってきた瞬間にトドメを刺す。それまでずっと迫真の『戦ってるフリ』を続けなければならない根性策。突撃命令の影響により蜀呉同盟の将が集結していたため、効果はより高くなった。

 より痛々しくするため、実際に傷を作るという暴挙。作戦終了時の鑑惺は正にズタボロであった。

 最後の二手は北郷による突き→曹操による顔面薙ぎ払いであるが、それぞれ『以前華雄に刺された所と同じなので安全は保証されている』『実は下顎と上顎の間を抜けて頬が切れただけ』であり、致命傷ではない。この後、鑑惺は疲労で昏倒した。

 

『呂布説得』(決戦中盤)〈曹操,夏侯淵〉☓

 呂布を仲間に引き入れるための説得。夏侯姉妹に対し、これまた分かりにくい文面で指令された。

 しかし、呂布は董卓らを人質にされていた(と思っていた)ために、結果は失敗。夏侯惇が負傷し、しかも同行させていた黄蓋(夏侯姉妹なら対応できるし、呂布も引き入れれば完全に封殺可能と踏んでいた)がここぞとばかりに寝返ってピンチとなる。それは一応、謎の剣士登場によりなんとかなったが。

 

『袁紹退避』(決戦中盤)〈顔良〉◎

 軍を動かすのにぶっちゃけ邪魔な袁紹を退避させることによって戦線から外す作戦。ニセの敵と顔良の演技によりさも危機が迫っているように見せかけて袁紹を追い遣った。

 鑑惺派は全く預かり知らぬことだが、この行動に関する情報操作がもとで蜀呉同盟本陣が破綻する。

 

☆『対鑑惺厳戒令』(魏-蜀呉決戦)〈反鑑惺派〉☓

 なにはともあれ鑑惺は裏切るだろうから決して騙されるなという指令。また、相手が寝返った瞬間を的確に討てとも。

 だが、迷いを消せと言って簡単に迷いが消えるわけもなく、親鑑惺派の将らに非常に強い精神ストレスを与えるこことなり、また、相手も寝返るのは鑑惺が死んでからのつもりだったため、完全に空振り。

 というかそもそも鑑惺を受け入れた時点……もっと言えば国力差で負けていたので残当である。

 

★『全軍突撃』(決戦終盤)〈反鑑惺派〉☓

 曹操、鑑惺の双方を纏めてぶっ潰そうという命令。 

 周瑜は曹操の突出具合から速攻で押し切れば勝てるだろうと、諸葛亮は将の自制心がそろそろ限界だろうという思考でこの命令を出そうとする。

 しかしまず第一に劉備が反対。そこで諸葛亮が諭し落とされる。

 尚も周瑜が強行するも、そこで第二の誤算。もう既に将の大半が鑑惺へ感情移入していたため、むしろこの指令は大反乱のトリガーとなってしまう。

 結果、喜び勇んで曹操らを討とうとした呉の将が大いにスベる結果となった。ちなみに、黄忠と魏延なんかも地味に反鑑惺だった。

 

『本陣掌握』(決戦終盤)〈周瑜,陸遜,呂蒙〉△

 呂蒙、陸遜の(意外な)武力により本陣を制圧し蜀の発言権を奪う。この状態は決戦終了まで続いたが、突如乱入した呂布によって何かよく分からない状態になり解消。

 これにより蜀呉間の心象は糞糞アンド糞になったが、だからって蜀側も呉を大っぴらに批判できる立場と心理状態ではなかったためなぁなぁになる。

 

『呂布大返し』(決戦終盤〜)〈呂布〉?

 鑑惺死亡による戦況の混乱を察知し、董卓奪還のため部下を魏に預け単独Uターン。進路上で戦闘を続けていた黄蓋らを再び跳ね飛ばしそのまま蜀呉同盟本陣をも突き抜けて後方へと到着する。

 各所をひっくり返し回りながら探し回り、ついに呂布が目にしたものは……補給部隊を指揮していた賈駆、医務に従事していた董卓、そして土下座待機する陳宮だった。

 

『雲隠れ』(決戦後)〈鑑惺,北郷,曹操,張勲〉○

 鑑惺は死んだものとし、さらにその遺言によって三国平定へと畳む策。

 詳細は終章下節にあるため割愛(手抜き)。

 これによって鑑惺は権力その他いろいろ失い中央からも離れたが、いずれ死んだふりだったと明かして復権も有り得る。




解説が過去最多文字数をマークする暴挙。


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αルート
第十二章拠点フェイズ : 聆(3X)の虐め〈α〉 ※新話ではない


ちょっとした田舎町の四車線道路って、夜中になると誰も居なくなるんですよね。高い建物もないからすっごい開放感なんです。
そんで作者ったら嬉しくなっちゃいましてね。
全力疾走。
車道の真ん中を猛ダッシュしたんです。
ちょっと酔っ払ってたってのもありますし、深夜のテンションだったんでしょうねぇ…。体力の限界を突破しちゃったらしくて、盛大にずっこけた後しばらく立ち上がれなくなったんですよ。
いや、あの時は流石にやばいと思いましたね。
もう二度とあんなことはしないよ。

長々と書きましたが、何が言いたいかというと、


時間かけすぎて何を書こうとしてたのか忘れた。


 「本日はお忙しい中『瑪会晩餐編〜南方の珍味に舌鼓を打ちつつかゆうまの真名適当に決めてまえすぺしゃる〜』にお集まりいただき、ありがとうございます」

「おい『適当に』ってなんだ」

「司会は私、張勲が。そして解説はこの方」

「どうも鑑惺です。よろしくどーぞ」

「……何だよこのノリ」

「一刀さん!紹介するまで喋らないでくださいよ!」

「全く、分かっておらんな」

「いや、普通分からないって」

「早速グダったなぁ」

「もう!いきますよ。……さらに今回は特別編ということで豪華なお客様にも来て頂いています!まずはこの方。『曹操が唯一認めた男』北郷一刀さんです〜!」

「え、あ、うん。どうも……?」

「夜の兵法では間違いなく三国最強やからな。しかたないな」

「解説役誰か代わった方が良くないか?」

「『日輪を支えて立つ変人』程昱さん、そして宝譿さん!」

「どもども〜」

「お手柔らかに頼むぜ」

「日輪がどうとか言う割に日輪陣は好きじゃないらしい」

「お手柔らかに頼むぜ。マジで」

「そして華なんとかさんとの付き合いも長いでしょう……『神速(笑)の驍将』張遼さん」

「タダで酒が飲めるって聞いて」

「でもそう甘ぉないんよなぁ」

「うん。紹介の時点で何となく分かってもうた」

「ほんで皆気づいとるやろけど、嬉しいことに今回は新しい仲間も加わわっとるで」

「はい。『孫呉の宿将』黄蓋さん!『黄蓋の秘蔵っ子』鳳雛さんです」

 

『孫呉』という言葉に、袁術はビクリと震えた。参加したことを少し後悔する。では何故居るのか。……元々は来たくなかったのだが、何やら鑑惺が黄蓋を言い負かしたらしい。どんな苦々しい顔をしているかと見に来たのだった。

 

「う、うむ。よろしく頼むぞ」

「はひっ!よろしくお願いしみゃっ、しますっ」

「二人共そんな緊張せんで良ぇんやで(菩薩微笑)」

「そ、そうか」

「善処します……」

 

ぎこちなく答える老将の顔を見ながら呑む『蜂蜜かくてる』は格別な気がした。

 

 その黄蓋はというと……後悔するというか、困り果てるというか。

改めて周りを見る。

上座に袁術が。そして鑑惺、張勲、北郷、夏侯惇、程昱、張遼、華雄、文醜が並ぶ。

黄蓋と鳳雛の思うことはただ一つ。

 

どういうことなんだこれは……。

 

 

 遡ることほんの四半時。そろそろ日も暮れようかという城の廊下を、二人は……少なくとも黄蓋は意気揚々と歩いていた。侍女を探すことを口実に、色々と歩き回ってやろうと思ったのだ。もちろん、普通に歩いていたのではすぐ誰かに出くわす。そこは黄蓋の気配察知によって回避していた。……のだが。

 明鏡止水の鍛錬をしていた華雄を察知できず、今に至る。

 

「さて、ではこの会の概要ですが……殆ど名前のままです。永らく保留となっていた華なんとかさんの真名を決めます。夕食を食べつつ何か思いついたら出してください。そして、飽きてきたらそれまで出ていた候補の中から多数決で決めます」

「私に決定権は無いのか……?」

「それで決められんかったからこないなことになっとるんやん?」

「ぐ……そうだが、くれぐれもふざけて決めることのないように頼むぞ」

「それは妾の機嫌次第ぞよ?」

「なぜ私の名をお前の機嫌で決められなければならn」

「はい、思いついた」

「はい、聆さん」

 

華雄の言葉を遮り、鑑惺が名を発表する。

 

「聆って解説じゃなかった?」

「この会がより盛り上がるように運営自ら参加していく感じで。……じゃん」

 

いつのまに用意したのか、文字の書いてある札を取り出す。

 

「『優佳』とかどない?『優』はどちらかというと『優秀』とかそっちの意味で、『佳』はそのまんま」

「おや〜、聆ちゃんはもっとふざけてくると思ったのですが〜〜」

「悪くないのではないか?」

「待て元譲……華雄、優佳………ハッキリと悪いわけではないが、何かと含み笑いをされそうだろう?」

「アレもダメこれもダメじゃ決まんないぜ?」

「まだ一度しか言ってないんだがな?」

「そーゆーノリでええんやったら……」

「はい、霞さん!」

「良いと言った覚えはないが?」

 

華雄の文句を他所に、今度は張遼が発表する。

 

「霞か。愉快ながらも芯の意味は真っ直ぐな名前が期待されるな」

「『猪々』」

「は?……………は?」

「『猪々子』を参考にして、『子』って感じがせぇへんから取った」

「真っ直ぐ(思考停止)やな」

「そうですね」

「これは評価としてはどのくらいなんだ?聆」

「そうやな……。まず、響きが『イイ』で名前としては収まりが悪い。んで、由来が他人のパクリやしな……。評価は限り無く低いな。猪々子とかゆうまの間に何か特別な縁が有るとか、せめて『猪(イノ)』やったらもうちょいマシやったんちゃう?」

「おお……評価はマトモだ」

「完全にふざけていたらブチ切れてやれるのだがな……」

 

華雄は半ば諦めたように溜息をついた。直接的な罵倒や暴力なら考えるより先に手が出る。しかし、どうも巫山戯られることは苦手だった。何というか、燻った火が燃え上がるための風が無いような。

……そんな心境の反面、最終的には上手くまとめてくれそうだという期待が華雄をこの場に留まらせている。

 

「はーい」

「はい、風さん」

「風さんか……」

「『一刀五号』」

「却下で」

「却下やな」

「却下だ」

「おぉう、手厳しいですね〜」

「むしろ何故行けると思ったのか」

「ご利益有りそうじゃないですか〜」

「無ぇよ……」

 

ちなみに一刀一号から三号まではそれぞれ猫につけられた。四号は……一刀本人という噂も有る。

 

「じゃあ、はい」

「あ、ここでの一刀さんですか」

「とっさに良えこと言えるって評判やからな。捻りなく良え名前も期待できるけど、……欲を言えば知識を活かして小洒落た案を出してほしい」

「その辺は期待してもらって良いかもな。……『洎夫藍』」

「……これはどう判断していいのか」

「ああ、それは俺から説明するよ。……まず、俺が住んでたところでは『花言葉』といって、花の一つ一つに意味が有ったんだ」

「……となると、『さふらん』は花の名か」

「そ。香辛料とか薬とかにもなるからもしかしたら別の名前でこっちにもあるかもしれないけど……。紫色の綺麗な花だよ。それで、花言葉が『陽気』『喜び』『歓喜』って縁起が良いんだ」

「ほう……中々良いではないか」

 

他には『過度を慎め』『調子に乗らないで』など。

 

「聆さん、これはどう見ますか?」

「そーやな。正直、期待しとった水準を超えとる。………解説の革を被ったいちゃもん係としてはぶっちゃけクッソおもんない」

「ぶっちゃけ過ぎだ!」

「まぁ宴の席でくらいぶっちゃけよぉや。……黄蓋さんらもそんな大人しーにしとらんで」

 

鑑惺は手に持った杯をヒョイと掲げた。『もっと呑め』という合図だろう。

 ……だが、黄蓋にとっては、呑めと言われてはいそうですかと呑めるような状況ではない。意味が分からない。突然宴に招かれて、しかもその中心が先程自分をボロクソに扱き下ろした張本人で、その上『真名を決める』などという前代未聞な企画ときた。極めつけには、当の鑑惺に面会の時の敵意が欠片も感じられない。全くの意味不明。いっそのこと開き直ってワケを訊いてやろうかとも思ったが、それも墓穴。裏切る裏切らないの話題をこちらから出すことになる。

『鑑嵬媼は人の心を操り、如何なる傷を負っても蘇る悪鬼』……魏と西涼の同盟を阻むため、他ならぬ呉が流した噂である。が、今の黄蓋にはそれが真実のように感じられた。

 

「なんやったら私が注いだろか?」

 

マジ震えてきやがった・・・

 

「さっきまでとはえらい違いだな。華琳様にまで噛み付いたというのに」

 

と、ここで助け舟となったのは意外にも夏侯惇だった。どうやらこの事態に納得できていないのは新参者だけではないらしい。

それに対し、鑑惺は軽く笑いながら答える。

 

「もー言うてもしゃーないしなぁ。そもそも、裏切るとかなんとかに対してはあんまり何も思とらん。私が気にしとったんは今回の作戦が成功するか失敗するか、ほんでその被害についてや」

 

そこで一息つき、空になった杯を静かに置いた。

 

「それぞれがそれぞれに事情やら想いやらを持ってこの戦に臨んどる。その悲劇を悔みこそすれ、相手を怨むことなんか無いわ。やから、武術やら弁舌やらでやりあうことになってもそれを酒の席には持ち込まん」

「は、はは……。鑑嵬媼は人智を超えるとは聞いておったが……どうやら噂は本当らしい。予想していた方向とは逆のようだが」

 

鑑惺の表情を伺うも、その深褐色の瞳には黄蓋自身の姿が映るのみだ。

 

「そらどーも。でもまぁ私も全くの聖人ってワケとちゃうからな。他人の苦しむ様を喜ぶ奴はアレするけど。……やから美羽様、桂花さんに虫やら蛇やらけしかけるんは程々にしぃよ?」

「ひゅいっ!?」

「なんだそういうオチかよ〜!丁度肉ほおばったときに急にマジ話始めるからビビっちまったじゃんか」

「ずっと口の中に入ったままだったもんな。噛むのは止めなくてもよかったのに」

「えー、でもなんかさー。格好いいこと言ってるときに一人だけモグモグしてたら格好悪いじゃん」

「それはそれでかわいいと思いますよ」

「その『かわいい』には少なからず見下しが含まれてるよな?」

「そうですね」

「よし、表へ出ろ!」

「聆さんの話聞いてなかったんですか?」

「アタイは争いを持ち込んだりしてないぜ?たった今ここで発生したんだ」

「あー、これは一本取られましたね」

「ついでに骨も一本折ってけ」

「お断りします(´ε` )」

「絶許」

 

息つく暇もなく再び冗談の応酬を始めた魏の面々に、新参の二人はこの日何度目ともつかない溜息をついた。自分たちの心を波立たせることも、こいつらにはほんの些細なことらしい。

実のところ、曹操のおかげでそれっぽいセリフに慣れているというだけなのだが。

 

「まぁ、そーゆーことやから。切りかかりでもしてこん限りはお前らのことは大切な客将として扱わせてもらう。……部下と上司って形にはなるけど、明日からよろしく」

 

 

 奇妙な宴は夜半まで続いた。袁術は途中で眠ってしまったが、他の者達は酒罌をいくつも空にした。鑑惺が口から火を吹く芸を披露し、張勲はひたすら袁術の魅力を語り、程昱が謎掛けを始め、それに対抗して北郷が異国の漫談を延々と垂れ流し、戦バカは乱闘を繰り広げ、黄蓋と鳳雛は何度も帰りたいと思った。

 鑑惺の思惑通り、意味不明な展開により黄蓋の精神を摩耗させ、しかも話題を誘導することによってバカたちに『黄蓋は裏切る』と刷り込むという策……『常人には疾すぎる宴作戦』は成った。

 一つ失敗したことと言えば、それに気を良くして華雄の真名を決めるのを忘れたのだが……本人も忘れていたので放っておいた。




数日後、そこには元気に走り回る作者の姿が!


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第十二章拠点フェイズ :【ハムソンさん伝】赤髪の侍女〈α〉

NHK受信料払わないのが流行ってますが、作者は払ってるタイプの人間です。深夜アニメで好きなのやってない時はもうホントに鉄腕DASHとNHKの科学系番組しか見てないので。

異民族絶対殺すマン。


 ――ご苦労さま。貴女も災難でしたね。今日は皆様 一段と騒いでいらっしゃいましたから。

 しかもそんな時に限って、普段から宴会の給仕をしている者が体調不良と……。代わりに入れられた貴女には気の毒な話ですが……、ゆっくり休んでもらわないと。

 

 仮病?ふふ、それは無いでしょう。彼女は袁術様にご執心ですからね。よほど酷くない限り瑪会の世話を辞退するワケがないでしょう。

 ……まぁ、今の貴女も相当疲れているように見えますけど。

 ああ、貴女はずっと張遼様にお酌していましたから。あの人の絡み酒には本当にまいりますね。……ですが、話を振られる度に声が裏返るのはどうかと思いますよ?

 

 失礼な。私だって緊張することくらいあります。

 ですけど、張遼様だって、少し粗相があったところで『打ち首だ』なんて仰ったりしません。むしろあれほどまでビクビクしていては、その方が気分を害されるでしょう。

 ……粗相をしでかしてもいいと言っているわけではありませんよ?

 

 落ち着き過ぎなどではありません。先程も言いましたが、将軍の皆様は力の使いどころの分別ができる方々です。恐れる必要など微塵も……。

 

 ……あれは、その、相手の技量から、自分の力を受け止められるという判断をしているからで……。

 

 いえいえ、戦闘中でも喉が乾くことだってあるでしょうから、そして、それに対処するのが私達の仕事ですし。宴に在って乾き飢えるなど有ってはなりませんから。ですから、私が華雄様達の戦いに怯まなかったのは、そういう使命に集中していたからであって……。

 

 …………まさか私が『普通じゃない』なんて言われる日が来るとは………。

 

 いえ、別に何も言ってません。とにかく、慣れです。慣れ。

 

 ……過去になんて何もありませんよ。私は今と同じように使用人として働いてきました。貴女の言うような大それた冒険とは対極の生活です。乱れた時代ですから、人並みに苦労はしましたけどね。

 さ、貴女ももう寝なさい。明日も早いのですから。粘ったって面白い話はできませんよ。

 

 ………どこでそんな情報を?……貴女は変なところだけ鋭いですね…………。確かに、嘘を言いました。正しくは農家の出身で――

 

 ……どこまで知っているのですか?

 貴女のことは可愛い後輩だと思っていたのですが……違うようですね。

 貴女の言う通り、私はかつて将として戦場に立っていました。劉備方に付いていましたが……もはや天下を望むことなどありません。反逆の意志など微塵も……。

 今の私は魏に仕える使用人です。それ以上でも以下でもありませんし、そうあることに満足しています。

 

 っ!!……鎌を掛けたのですか………。

 

 ええ。全く。黄蓋が来ているこの時期に、蜀からの工作員が動くと思われるのは自然ですからね。半ば予想していた事態だけに、諜報員が消しに来たのかと。

 

 はぁ……貴女、本当に諜報の方が向いているのではないですか?

 とにかく、今 私が言ったことは内密にしてくださいね。私もこの仕事を気に入っているのです。騒ぎは起きてほしくないですから。

 

 そんな条件を呑むぐらいなら貴女を斬って私も死にます。……まったく、どこでそんな台詞を覚えて来たのか……。魏に暮らしていて、出版風紀にだけは不満が有りますね。

 何か他の条件なら出来る限り叶えますが……。まぁ、欲を言えば貴女がこのまま許してくれればうれしいのですけれど。

 

 まぁ、それならいいでしょう。重要な部分はもう喋ってしまったようなものですし。……ただ、さっきも言いましたけど、面白い活躍などは無いですからね。物足りないからといって文句を言わないでくださいよ?

 

 ……本当に分かっているのですか?

 

 もう、いいです。

 さて、どこから話しましょうか。あまり昔のことを話しても仕方ないですからねぇ。とりあえず、もとは何をしていて、何故今はこの暮らしをしているかを話せばいいですか。

 漢がまだ健在な時、私は太守として幽州を治めていました。……血統の問題で優遇はされなかったと言っても、一応名家の出でしたし、自分で言うのもなんですがよく努力する、秀才だったので、順当と言えるでしょう。……今思えば、順当すぎたのかもしれませんね。少しずつ少しずつ役割とか責任が大きくなって、大きくなったことを顧みることができませんでしたから。

 それはそうと、です。私は北方から侵攻してくる異民族とも戦いましたし、民の生活のために考え及ぶ範囲のことは実行しました。圧倒的な大勝も画期的な妙案もありませんでしたから、客将からは地味だと言われていましたが。……まぁ、悪い領主ではなかったと思います。

 幽州と言えば察しがつくと思いますが、私は早々に袁紹に敗れ――。

 

 ……貴女も悪趣味ですね。理由は簡単です。反董卓連合の後処理をしているときに圧倒的財力で叩き潰されたんです。

 幸い、馬術が得意でしたから、何とか逃げ切れましたが……。そして、私は残った部下を連れて劉備の下へ向かいました。

 劉備とは同じ私塾で学友であり、彼女の旗揚げの際にはいくらか兵を貸しましたから、その点を考慮すればある意味当然の判断ですね。いくら落ちぶれているとはいえ、見捨てることはないだろう、と。むしろ、好待遇すら、頭のどこかで期待していました。

 実際、劉備は私を受け入れましたし、すぐに将軍格に就けてくれました。

 ですが、"劉備"は受け入れても"劉備陣営"は私を必要としないのです。……他の将から反感を買ったとか、そういうことじゃありません。『不必要』だったんです。武は関羽、張飛、趙雲の前に霞み、智は諸葛亮に及ばない。幽州の秀才は幽州の秀才であって、大陸中の雄が入り乱れるこの時代では特筆するような存在ではなかったのです。

 通常、特に戦略面での頭脳というものは一概に甲乙をつけることはできません。様々な視点からの意見が新たな道を生み出しますからね。……ですが、私は『秀才』でした。『普通の秀才』でした。私塾では先生に気に入られ、君主としても無難に立ち回ってきました。……発想の全てが定石。全てが諸葛亮にとっては"考慮済み"でした。

 結果、戦では数合わせ、政では事務処理に、自然に落ち着きました。

 今では、まぁ、しかたないと思えるのですが……当時の私には受け入れ難いことでした。幽州では太守でしたし、それなりに人気がありましたから。武将談義の引き合いにも出されないというのは、ね。仲間内での軽口も、自覚していることだけに、かなり刺さりました。

 焦ったのは言うまでもありませんね。劉備が益州に入ってからは特に酷かったですよ。彼女が仲間を増やせば増やすほど、自分の居場所がなくなるのですから。

 武勲を求めるあまり無駄な失敗を重ね、奇を衒って的はずれな発言を……。今思うと恥ずかしい限りです。

 そして、貴女も知っての通り、蜀と魏は衝突しました。一度は蜀が魏を抑え込み、決着も時間の問題かと思われましたが……援軍によってその状況は正反対に覆されました。

 そして、私は、再出撃した鑑惺様と当たりました。

 『ああ、これは、ダメだ』……そう思いました。何に対してかは自分でも分かりません。剣を構えることもなく馬上から叩き落とされて、そこで私の将としての人生は終わりました。

 その時の心境は……これも、説明しにくいですね。幸福感……納得とか、開放感とか……、清々しい気分でした。あの時の鑑惺様の様子は度々語りぐさになっていますが……それが、私の自尊心……はっきり言えば将という立場への執着を打ち砕いたのです。住む世界が違うな。仕方ないな。と。

 その後捕虜となった私は、……地味だからかなんなのか、普通の捕虜と同様に扱われて、特に尋問などもなく、簡単な仕事を与えられました。私の場合は、女なので小間使いの更に下……厠の掃除とかにつけられましたね。そこで働きが認められて一般の使用人に組み込まれ、少し経って曹操様の目に止まったらしく、侍女として召し抱えられることとなりました。この仕事は私に合っているのでしょう。……よくお褒めの言葉も頂きます。力不足も、物足りなさも感じず、自然に、私という存在の一部となっている……と言っても間違いはないでしょう。

 分不相応な生活をしていては自分を苦しめるだけだ、と、まぁ、それだけの話です。

 ね、面白くなかったでしょう?

 

 悲しくはないですね……。君主となるために学んだ知識は少なからず生活にも仕事にも役立ちますし。例えば数月先の物価の予想がついたり。それに、将の皆様に対しても過度に緊張することがありませんから。

 

 ええ。では、おやすみなさい。すみませんね。何か盛り下げてしまって。今度は何か面白い話でも用意しておきますね。




ぱ い れ ん た ん の ぽ に て も ふ も ふ (コピペ略


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第十二章拠点フェイズ :【黄蓋・鳳雛伝】砂糖菓子の弾丸は胃壁を撃ちぬけるか その一 〈α〉

魔理沙ファンの作者ですが、霊夢に負けるのは、むしろそうあるべきだとさえ思えます。他は納得いかないです。
とりあえず、
魔理沙イチオシ数トップおめでとう!
こいしちゃんも一位&テーマ三位おめでとう!(血涙)
秋サンドいちご味美味しそう。

キュキュットよりジョイが好きです。名前がエロいから。


 「んーっ、今日もいい天気なのー!こんな日にお店の軒先で飲む冷茶は最高だと思うなー」

 

気持ち良さそうに伸びをした沙和が、物欲しそうな目でチラチラとこちらを伺う。

 

「そうだな。街征く人々を眺めながら、クイッと一杯……」

 

それに、手をチョイと動かして凪が応える。

 

「それは茶じゃなくて酒だろ。それに珍しいな?凪がそんなこと言うなんて。どうかしたのか?」

 

凪は普段から真面目で、むしろ、いつもこうやって脱線しようとするのを止める役割が多い。その凪がこんなことを言うなんて。異国の地に居るせいで、何かストレスを貯めているのかもしれない。

そんな風に気遣っての発言だったんだけど……。

 

「(もうっ!なにやってるのたいちょー!)」

 

沙和におこられた。

 

「(さっきのは、わざとダメダメに演じてたのー)」

 

そう言って、目でとある方向を指し示す。その先には……魔女っ娘みたいな帽子を被った小さな女の子がいる。

 名前は鳳雛……まぁ、鳳統だ。

先日、黄蓋と伴にやって来た彼女は、一悶着の末これまた黄蓋と同じく聆の下につけられた。客将という身分も同時につくからすごくややこしい。しかも、身体は丈夫な方ではないなんていう特徴もオマケだ。聆は、真桜や猪々子とかのみんなと模擬戦をする予定が入っていたんだけど、そんな危険なところに連れて行っても仕方がないということでこっちに預けられたんだ。

……見られても問題ない職場って理由もあるけど。

 

「(って言っても、沙和は普段通りだったけどな)」

「(そんな言い方酷いのー)」

「(酷いのは沙和の勤務態度だ)」

「(むむむ……)」

「(何がむむむだ。……まったく)」

 

でも……

 

「(まぁ、よっても良いか)」

「(おおっ!今日のたいちょーはノリが良いのー!)」

「(こちらから振っておいてなんですけど、良いんですか?)」

「(ああ。この辺でもうちょっとは慣れてもらわないと、な……)」

 

俺は鳳雛に目をやる。城を出る前……黄蓋と別れたときからずっと屠殺前の兎みたいな顔をしている。特に、俺達がひそひそ話を始めてからは輪郭がブレて見えるんじゃないかってくらい震えている。このままじゃ警邏が終わる前に血を吐いて死ぬんじゃないか?

 

「(うわっ……たいちょー、あんな娘にまで手ぇ出す気なの……?)」

「(吐き気が……)」

「(そんなワケないだろ沙和!あと凪も桂花みたいなこと言うな!……あんな怯えた娘引き連れてちゃ俺達自身も気分悪いし、傍から見たらイロイロとマズいだろ!)」

「(一理有りますね)」

「(言われてみればそうかもなの)」

「(だろ?ちょっと良い茶屋に行けば、心を落ち着ける効能のあるお茶とか有るだろ)」

 

多分、ハーブティーの類とかなら有ると思う。

 

「よーし!じゃ、早速行くの!この前見つけたお店があるんだけど、高そうで行けなかったんだよねー」

「おい、俺に奢らせる前提で話してないか?」

「えー、違うのー?」

「前からずっと言ってるだろ……そんなに余裕無いんだよ」

「えぇー……、じゃあ、いつもみたいに職権濫用すればいいの」

「禀と桂花の説得にお前も付き合ってくれるならな」

「うぇー……」

「……もともと沙和も行きたかった店なんだから、わざわざ隊長に奢っていただくこともないだろう。それに茶屋だ。そこまで高くはあるまい」

 

凪の意見は嬉しいが……茶屋をナメると痛い目を見るぞ。高級茶はラーメンより高かったりするからな。

言わないけど。

 

「ま、他で埋め合わせを考えておくからさ」

「うーん……わかったの。それじゃ、出発なのー!」

「ちょ、おいっ!」

「あ、あのー………」

 

走り出した沙和を止めようとした俺の後ろから、か細い声が。

……この娘と打ち解けるために寄り道するのに、放ったらかしで話してたな。

 

「ごめんごめん。こっちで話決めちゃって。これからちょっと休憩にお茶屋さんに行くんだけど、いいかな?」

「はひっ!だ、大丈夫れひゅっ」

「そんなに緊張しないで……って、アイツらさっさと行き過ぎだろ!」

 

ちょっと目を離した隙に大分さきまで行ってしまっている。案内役を見失うのはマズい。

 

「ちょっと急ぐぞ!」

「あわわ……」

 

一瞬だけ躊躇ったけど、俺は鳳雛の手を握って走り出した。急に馴れ馴れしいかもしれないけど……そうでもしないと距離は縮まらないだろうし、はぐれたら大変だからな。ちょっと役得とか思ったのは内緒だ。また桂花に罵詈雑言を吐かれかねん。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 事 案 発 生 。

 ヤリチンの青年が、怯えるロリの手を引いてどこかに連れ去った。

 

「むぅ……ただの優男かと見ておったが、どうやら違うようじゃのぅ」

 

隣にしゃがんでいた黄蓋が唸る。

 

 私たちは今、民家の屋根の上に居る。

というのも、今回の模擬戦が『如何に騒ぎにならずに戦えるか』の訓練だからだ。逃亡者と追跡者に別れ、街の中で戦闘が行われる。逃亡者が時間中逃げ切ったら勝ち。追跡者に殲滅されたら負けだ。大体はそのルールしか決められていないが、街の建物に被害を出してはならないし、もちろん住人が怪我するなど以ての外だ。『どの程度の戦いをするか』が、自己判断に委ねられることになる。まだ衝突は起きていないが、実際に出くわしたらその辺の読み合いが戦いの肝になるだろう。

 そういうことで、逃亡者に振り分けられた私と黄蓋は、普通に歩いていれば視界に入りにくい屋根の上に潜んでいたんだが……。

 

「オモロイもん見れたなぁ」

 

どうせ一刀のことだから、下心とかはそんなにないだろう。だが、見た感じヤバいやつだった。イケメンじゃなかったら通報されてたはずだ。

 

「アレが警備兵の最上だというのだから不思議じゃな」

「ああ見えても和姦専門なんやで」

「ほぅ……もしかしてお主、あやつに抱かれたクチか?」

「抱かれたんやのぉて、喰った」

「照れ隠しか?」

「そう思うんやったら私のワザ、みせたろか?刻単位で時間かかるけど意味わからんくらいドロドロになれるで?」

「お主は閨で何と戦おうというのだ……」

 

黄蓋が露骨にため息をつく。

確かに言葉で表現するとアレだが……気持ちいいのにな。

 

「でもあん時はあんま時間掛けれんかったんよなぁ……」

「すまん。こっちから煽っておいて申し訳ないのだが、……来るぞ」

「おう。春蘭さんやな。……でもこの気迫で踏み込んだら屋根抜けるな」

 

ボッシュートでございます。




このオチ一回やってたかも……。


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第十二章拠点フェイズ :【黄蓋・鳳雛伝】砂糖菓子の弾丸は胃壁を撃ち ぬけるか その二 〈α〉

今日の懺悔
『キルラキル』と『アカメが斬る』
『きんいろもざいく』と『ご注文はうさぎですか?』
が、どちらがどちらか分かりません

また時間を掛けすぎて何を書こうとしたのか忘れました。
やっぱり毎日投稿って大事だったんですね。


 香り立つ淹れたてのお茶に、見た目にも拘った美味しそうなお菓子。茶器も上品で、店員の仕草も優雅。さすが沙和が目をつけた店だけあってレベルが高い。

……当然値段も高い。びっくりするほどの値段じゃないけど、地味にキツイ。でもここで無理なんて言ったら格好つかないしな。我慢だ。

 

「うーんっ!このお茶、不思議な味なのー!なんかおしゃれ〜」

「なんだろう……何の花の香りだろうか……」

「お菓子も美味しいの〜」

「外はサクサクしていて中はフワッと……」

 

二人はさっそくお茶を楽しみ始めた。うーん、良い反応するなぁ。今回は奢ってないけど、こういう顔を見せてくれるからいつも奢っちゃうんだよな。

 

でも、……こっちは、な

 

反対側に目を移すと、やっぱりと言うべきか……鳳雛が緊張した様子で座っている。茶にも手を付けた様子がない。

 

「鳳雛……そんなにカチンコチンになってたら、お茶の味も分からないんじゃない?」

「ひゃひっ!?だ、大丈夫です、美味しいです!」

 

そう言うと湯呑を掴んで一気に飲み込んだ。……一気に!?

 

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

「ちょ、大丈夫か!?何か冷たいもの!」

「はいなのっ!店員さーん!冷たいお茶お願いしますなのー!」

 

うわー……。淹れたてアツアツのお茶を一気に、しかも飲み込んだときた。想像しただけでも喉とお腹がザワザワする。

 

「はい、冷たいお茶です」

「ンク……ンク……プはっ。………ありがとうございまふ……」

「大丈夫なのー?火傷とかー……」

「ちょっと喉の奥がイガイガしますけど……大丈夫です」

「ふぅ……いきなり悶え始めたので驚きました」

「す、すみません」

「あ、責めているわけじゃないんです。気にしないでください」

 

沙和も凪も、鳳雛に対して警戒していたのも忘れて普通に喋っている。元々話好きな娘たちだし、あんなインパクトのあることの後じゃ仕方ないか。

 

「なんか、こうして話してみると普通の娘って感じだなぁ」

「はい……私は、あまり、大した人間ではないですから……」

「え、いやいや、そういうことで言ったんじゃないから」

「そうそう!それに黄蓋さんのお気に入りなんでしょー?」

「私は、兵法を学びましたから、それを……祭様に買われて」

 

『祭』って黄蓋の真名……だよな。多分。言う前にちょっと躊躇った気がしたけど、そうなると、そこまで親密なわけじゃないのか。

 

「へー、じゃあ鳳雛ちゃんってかしこいんだねー」

「いえ……祭様のお役に立ちたいと、そればかりに打ち込んだので……」

「黄蓋殿と鳳雛殿はどういうご関係なのですか?」

「確かにー、ちょっと気になるのー」

「えと……その………、私の故郷が盗賊に襲われて、運良く生き残った私を、祭様が拾ってくれたんです……」

「だからその恩に報いたいと」

「はい。私は、運動が苦手ですから……」

 

やっぱり、小さな女の子になっていても鳳統ってことか。おどおどしてても、嘘を言うところはしっかり嘘を言っている。普段から控えめに喋るから、嘘のせいで挙動不審になっても気づかないよな。……そう考えると、この性格も演技なのかも。

 

「……それにしても、すごいですね。この短期間で、ここまで統治できるなんて………」

「んー、でもこの辺は元々美羽が平定した土地だしな」

 

正確には七乃さんだけど。

 

「土着の豪族や豪商と孫家との繋がりはさほど強くないから」

「それに、ここに入るにあたって住民への被害が出ないように細心の注意を払いましたからね。反発も小さなものでした」

 

その辺は黄巾のときから華琳が一貫して注意してることだ。華琳曰く『今日の敵国の民は明日の我が国の民。それを害するということは我が国への反逆に等しい』とのこと。なんとも華琳らしい言葉だ。

 

「貿易とかもやりやすくなるしねー」

「華琳の政治自体は悪くないからな」

 

資金の整理に、法の整備、治安の改善、公共事業……。そのどれもを絶妙なバランスで最も効率的に成り立たせる。実際、統治が始まってから嫌がるのは不正まみれの役人ぐらいだ。

美女を閨に連れ込んだり、自分の落とし穴に自分で落ちたり、ことあるごとに鼻血を吹いたり、なんか……よく分からなかったり。ウチの文官たちのそういう面を見ている者としては、別人が政治やってるんじゃないかと思ったりもする。

 

「信頼してるんですね……」

「いや……俺達も警邏って形で魏の統治の役割の一つを果たしてるしな。なんて言うか……信頼って言葉で片付けられるもんじゃない。もっと身近だけど、もっと熱烈な何かだ」

 

きっと鳳統は無慈悲な侵略者としての曹操しか知らない。……でも俺はその理想や葛藤を知っている。だから、華琳こそがこの国を平和にできると思うし、俺もそのために全力を尽くす。

 

「……って言っても分からないよな。もっと話術が有れば良いんだけど」

「いえ……なんとなくですけど、分かります」

 

ちょっとクサいこと言ったけど、沙和も茶化さないで頷いてくれてるし、やっぱりみんなも華琳を大切に思ってるんだろう。

 

 ……あれ?

何やってんだ俺。和ませるために茶屋に来たのにマジ語りして場を静めちまうなんて!

こ、こんな時はアレしかない!

 

「ヘイ!ボブ

 なんだいジョージ

 昨日カミさんとハイキングに行ったんだけどさ、帰ってきてからカミさんの様子が変なんだ。

 それは大変だね。何か心当たりはないのかい?

 うーん、そうだねぇ。ボクがちょっと目を離した隙にその辺の木の実やら葉っぱやらを口に詰め込んでいたけど……。

 Ohジョージ、それはさすがに奥さんが気の毒だよ」

「…………」

「…………」

「…………」

「何でそれ今やったの?」

「ごめん」




アメリカ特有の小粋なジョーク大好きです。
アメリカンジョークが得意な人と結婚したいです。


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第十二章拠点フェイズ :【黄蓋・鳳雛伝】砂糖菓子の弾丸は胃壁を撃ちぬけるか その三 〈α〉

ζ*'ヮ')ζ<脳みそ溶けれぅ〜
久々にやよいPとして復帰したら見事に脳みそ溶けました。
アイマスに美羽様ぶち込んだら、それってとっても楽しいかもー!

さて、次はようやくSEKIHEKIです。
西涼編並に書くの難しそう……。


 「どうする?鑑惺よ」

「私としてはさっさと逃げたいんやけど……」

 

隣の屋根に現れた春蘭を前に、二人で二,三言話す。強すぎる踏み込みであえなくボッシュートかと思われた春蘭だったが、屋根を踏み抜くギリギリのところで持ちこたえた。今は強度を心配してか、幾分慎重にこちらに向かってきている。……最初が強すぎただけで、普通に歩いたり走ったりしても屋根は壊れないのだが。まぁ、そのおかげでこちらにもいくらか余裕がある。

 

「そうじゃな。上手く逃げれば、あの歩みではこちらに追いつけまい」

「そ~なんやけどな……多分、私らが背を向けて走り出した瞬間、春蘭さんも走り出そうとするやろ。んで、その一歩が意外と大丈夫で、あとは……な?」

「慣れるということか……」

「それやったらここで一当てしといた方が良え気がすんや」

「そもそもそう言っているうちにここまで来たな」

「何をコソコソ言っている!いざ尋常n……くっ」

 

大上段に七星餓狼を構えた春蘭だったが、足下がミシリと音を立て、その構えを崩す。

やはり、この足場では十全の力を発揮できないらしい。バカたちの馬鹿力を封じることができる。フィールドとして屋根の上を選んだことは正解だったな。

 

「チッ……戦いにくい……」

「ほう……夏侯惇といえば後先考えない突撃が売りだと聞いていたが……この戦いの決まりをしっかりと気にしておるのだな」

「ん!?……あぁ!当たり前だ」

 

……絶対忘れてたな。足がズボッってなったら特大の隙になるから気にしてるだけに違いない。

 

「んだらさっさと黙ってもらおか。……増援呼ばれても困るし」

「ではしっかりと合わせてくれよ。鑑惺よ」

 

黄蓋が軽く一歩出るのに併せて、細剣による斬撃を飛ばす。春蘭にとっては、黄蓋が動いたと思ったらその奥にいた私から攻撃が出たために、軽いフェイントになっているのだ。

 

「くっ」

「そうらっ!」

 

若干反応が遅れたところに、黄蓋の中段突き。

春蘭はそれを大剣の腹で受けるも、勢を殺しきれない。

 

「ぬっ、う、……はっ!」

 

縁を蹴り、隣の屋根へ跳ね戻ることにより距離をとった。無理に押し込んでこないのは、やはり足場に不安が有るからか。

と、そんな考察を他所に、春蘭がこちらを指差す。

 

「貴様ら卑怯だぞ!二人がかりなどと!!」

「え、いや、二人で居るとこに春蘭さんが突っ込んで来たんやん……」

「うるさい!そういう時は空気を読んで一人ずつ相手をするものだろう!」

「空気とかどの口が」

「すまんな聆。うちの姉者が」

「ヴぁ……いつの間に」

「ウチもおるで!」

「来て欲しぃなかった」

「ほぅ……これは………」

 

前方に夏侯姉妹、後方に霞か……。

 

「………」

「………」

 

私と黄蓋は、何も言わず背中合わせに構える。

 

「ちぇ〜。こっち逃げて来ると思って潜んでたのに……」

「気がついていたか」

 

左右それぞれの路地から、猪々子とかゆうまが跳び上がった。

 

「まぁこんだけ集まったらお前らも来とるやろしなぁ」

「ああ。姉者が気配を垂れ流しにしてくれたおかげでな」

「ちなみに真桜も周りに罠を仕掛けてるぜ」

「もはやお前たちに『逃げ切る』という選択肢は無くなったということだ」

「だから何じゃ?ここに居る全員をのせば良いのだろう?」

「言ってくれるな……」

 

何の合図も無しに、四方向から同時に迫る。

この分だと私の相手はかゆうまと霞になるか……。霞は普通に強いし、何よりかゆうま厄介だな。これまで私と鍛錬をしてきたせいで柔軟性が高まっている。もちろん、その分私も乙女武将特有の超反応や怪力に慣れているのだが……。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「おおおおおおおおっ!!」

「来いやォらァッッ!」

「覚悟ッッ!」

ドゴンゥ

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 「いらっしゃいませ〜。こちらのお席どうぞ〜」

「ふふっ……案外似合っているわね。華雄」

「くっ……」

 

都の女官を模したヒラヒラの従業員制服を着たかゆうまを、華琳がニヤニヤと眺める。そして、そこにすかさず霞がチャチャを入れる。

 

「うぷぷっ良お似合うとるわ」

「き、貴様も似合っているぞ!」

「うん。ありがとう」

「くっ……!」

「コラあんたたち!お客様の前で雑談しない!!」

「「す、すみません!オカミさん」」

 

オカミさんというのは、今私たちが働いている店の店主である。……そして、数刻前の訓練の被害者だ。

 数刻前、私と黄蓋に対して、四方から同時に突撃する作戦がとられた。……一足に超えられるような範囲に、私と黄蓋、そしてかゆうま、猪々子、春蘭、秋蘭、霞の計七人分の体重(+α)がかかった。

つまり、この店の屋根がぶっ壊れたのでその罰として働かされているのだ。

 

「ふぅ……今回は私が勝ったと思っていたのだがな」

 

隣で葱を刻んでいた秋蘭が口を開く。私と秋蘭、そして黄蓋は厨房での仕事を与えられていた。

 

「『今回は』って……」

 

多分、私との勝負のことを言っているんだよな?それなら、おかしな話だ。組手や模擬戦なんかでは七:三くらいで向こうが勝っているはず。そんな、『いつもは勝てないが今回はチャンスが有った』みたいな言い草はおかしい。

 

「いっつもだいたい秋蘭さんのが勝ってない?」

「そうは言っても聆は模擬戦で全ての技を使っているわけではないだろう?」

「まぁ……」

 

そりゃ、私の戦いは半分手品みたいなものだからな。訓練で毒霧バラ撒いたり仮死状態になったりしたら大顰蹙だろう。

……あと、この場でその話はやめて欲しいのだが。今は外で野菜を洗っているが、黄蓋が聞き耳を立てている気がする。

 

「それに、こういう特殊な条件下での戦いでは、殆どの場合で聆の組が勝つだろう?」

「照れるなぁ」

 

……特殊なことをしなければ勝てないんで普段から特殊なことばかり考えてるからな。

 

「……まさか、今回も屋根が抜けると見越して一箇所に皆が集まるように誘導を?」

 

(心の中で)噂をすれば黄蓋。

 

「さぁ?どないやと思う?」

 

本当は無理に決まってんだがな。敵方四方向五人の動きの操作なんぞできるか。せいぜい三人が限度だ。

 

「全く恐ろしい奴じゃ……」

 

私としては黄蓋の方が恐ろしい。何気にサラッと屋根の上の戦いに順応していた。私は若干建築もかじったおかげで屋根の強度の見当がついていたのだが……黄蓋はどうなのか。

 

「私も身内ながら気になって仕方がない」

「何?惚れとん?今晩一戦交える?」

「遠慮しておく」

 

敢え無く断られた。本気じゃないからどうでもいいが。

 

「っとまぁそんなことを言っとるうちに餡かけ炒飯あがったでー」

「おうっ!じゃあアタイが持っていくぜ」

「こぼさんように気ぃつけよ?」

「へへっ任せなっt――」

「うわっ!?」

「うぇ!?」

 

案の定、皿をさげてきた春蘭にぶつかった。

 

「………」

「………」

「………」

「わ、悪い」

「やから気ぃつけよ言うたのにぃ」

「ほ、ほら!こぼすのとぶちまけるのとじゃまた別?みたいな?」

「ふふふ……」

「へへへ……」

「私はええけど。……な?」

「……アタイだけ居残りとか無いよな?」

「そぅならんよぉに挽回せぇ」

「うぅ……。じゃあ、作り直し頼む……」

「おぅ。もうやっとる。できたらまた呼ぶから」

「よろしくな!」

 

そう言って、猪々子はテーブル掃除に行った。小走りで。

 

「反省を期待するだけ無駄か……」

「そもそも私が一番下っ端やのに。……もうちょいしっかりしてほしいな」

「その階級差は有って無いようなものだろう」

「魏もなかなか緩いのじゃな」

「外には鬼畜集団として有名らしいけどな。特に私なんか人間ですらないらしいで?」

「ああ、何だったか……。複数の屍と外法を集めて作られた呪の巨人だとか」

「この超美人に向かって屍とかちゃんちゃらおかしいやんな」

「いや、それはどうだろう……」

「じゃが……これほどまでに戦を繰り返していれば、良からぬ噂が立つのも当然と言えるじゃろう。」

「でもなぁ、この戦の時代をさっさと終わらせるにはどっかが勝たなんならんし。停戦協定結んでも結局は牽制のしあいが続くことになるやろからな」

「それに、次世代を作るだけの人材を篩にかけるという意味もある」

 

あ、それは初耳だ。やっぱり、一刀とか秋蘭には色々と言ってるんだな。

 

「私的にはもうちょい自重してほしいけどな」

「……なるほどな………」

 

まぁ、この世界、道楽で戦争やってる奴なんか袁紹ぐらいなもので。……だから、私は皆を救いたい。

 

 ……だからちょっと手加減してくれよ?黄蓋。




正直、華琳が他国を攻める理由を考えるのが難しいです。


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第十三章一節その一 〈α〉

深夜に近所のスーパーに行ったらゴキブリが居ました。そして私の後をついてきました。黒い服を着ていたので、仲間だと思われたのかもしれませんね。

先に何を書こうか決めてから書くとすごくクドい文になってしまうので困っています。


 「何じゃと……!それは本当か!?」

「本当だ。劉備、関羽、張飛を筆頭に、蜀の主力部隊が呉の領内で確認された」

 

黄蓋がやってきてから数日としないうちに、呉に動きがあった。内容は先程秋蘭が言った通り、蜀呉同盟の成立である。実際のところは、孫尚香と戦った時には既に結ばれていたのだろうが。

 

「同盟自体は予想していましたが……」

「呉に入ってるってのが気になるよな。俺達がこっちまで遠征に出てるなら、蜀としたら魏の本国に空き巣に入るのが定石じゃないか?」

「まぁ、そう思てこっちもある程度守り固めてから来とるからなぁ。ほっといたら自分らが攻め落とす前に呉が潰れるって考えたんとちゃう?」

「それに春蘭さんじゃないですけど、相手の最も勢いのあるところを潰すのは重要ですからねぇ」

「巻き返しを掛けにくるってことか」

 

史実でも、呉侵攻作戦が転けたことにより戦況は泥沼化したからな。勢というのは馬鹿にできない。むしろ、私はこの世の中で最も重要なのは勢だとすら思っている。

 

「敵の総兵数は……以前の軍議ではこちらとほぼ同数になるという予想だったわね?」

「はい。ですが、以前より我が国の兵数が増えている上、呉もある程度消耗しています。本国に援軍を要請すれば数の上では優位を取ることはたやすいかと」

「じゃが、それで良しというわけでもないだろう。蜀には優秀な将が多いと聞く。それに因縁も多々あるのじゃろう?厄介な存在だと思うが」

「それに加えて、呉の将もいるのです〜」

「うむ。……孫策か」

「孫策もそうやけど、ウチは周泰と甘寧が気になるなぁ」

「む?以前戦った時はさほど苦労しなかったのではないか?」

「それはそうやねんけど、多分アイツら、野戦向きとちゃうんやろなーって」

「……あぁ。確かに、そう言われれば思い当たるフシがあるな」

「そうなのか?少し急所攻撃にこだわっているような節はあったが、普通の将だったぞ?」

「それが野戦向きではないと言うのだがな。………まぁ、用い方によっては思わぬ強敵になるかもしれんな。測り難い分質が悪い」

 

周泰と甘寧か……。たしか、森の中なら黄蓋を瞬殺できるんだったか。よし。ここからは『森の人作戦』は封印しよう。元々使いどころは無いだろうが。

 

「そして軍師も、周瑜と諸葛亮が……」

「えー、地の利が有る周瑜は分かるけどさー。諸葛亮って、アタイたちがずっと勝ってるし、大したこと無いじゃんか」

「いや、金も土地も兵力も無かった劉備を、大陸三分するまで育て上げたんは諸葛亮やからな……?油断したら殺られるで。私はアレのせいで二回ほど死ぬ目に遭ぉたからな」

「我々は結果的に諸葛亮を下し続けていますが、危うい場面もあったことも事実。侮るべきではありません。ただ、だからと言って勝てないということは決してありません」

「そう。相手が強いなら強い者を倒せる策を。相手が賢いなら賢い者を倒せる策を立てれば良いだけの話よ」

「ま、ソレに従っとけば負けは無いっちゅーこっちゃな。……従っとけばな」

「嵬媼、なぜこちらを凝視する」

「……その点はくれぐれも頼むわね。さて、大分話はずれたけど、その蜀軍はどの辺りで確認されたの?」

 

華琳に尋ねられ、稟は地図を指した。

 

「長江の南……この辺り。そして、北上しており、呉軍の動きと併せて、……合流地点はここと見て間違いはないでしょう」

 

そこは、長江の、夏口と巴丘の中間付近……所謂SEKIHEKI。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「…………なあ」

「なんや、たいちょー」

「これ……川だよな?」

「紛れもなく長江ですが」

 

……対岸が見えない。広い広いとは聞いていたけどどんだけだよ。吉野川より広いぞ?

 

「長江ならこんくらい広いんは当たり前やろ。ウチも初めて見たけど」

「その割に無感動だなぁ……」

「気持ち悪ぅてそれどころやないねん」

「俺は船酔いとかなったことないから分からないけど、辛そうだな……」

「頭の中に握り拳突っ込まれたような感覚なの……。たいちょーも一度味わうべきなの……」

「うわぁ……」

 

例えはよく分からんが苦しいことはよく分かった。凪もさっきから焦点が合ってないし。

 

「これで戦とか、大丈夫か?」

 

まだ赤壁に着いてすらないのに、この疲れようだ。

 

「陸戦やったらどんだけ楽か……ウチら山育ちやのに………」

「はは……。でも、山育ちって言うなら、聆もそうだろ?」

「そうだよ〜」

「割と平気そうだけど?」

 

船主の方に目を向ける。聆はぴんぴんしていて、黄蓋たちとなにやら話し込んでいるみたいだ。

 

「山育ちに対する裏切りや〜……」

「成敗なの……」

 

言葉とは裏腹に、二人ともだら〜んとしたままだ。

 

「ホント元気ないなぁ」

「うう……あとはたいちょーに任せるの……」

「山育ちのオキテを聆に叩き込んだって」

「はぁ……?」

「早く行くのー……」

 

なんだ、いつものボケと酔いからくる混乱のせいで意味が分からないことになってるな。話すのも辛そうだし、大人しく聆のところに行くか。

 

「じゃあ、何というか、お大事にな」

「うぇーい……」

「うう……」

 

 気の抜けた返事に送り出され、俺は聆のもとに向かう。そんな大きな船じゃないから、向かうって言うほど遠くないけど。

 それにしても、短い間に打ち解けたよな。あの二人。……聆って割り切りがすごいからなぁ。それが良いところでもあり怖いところでもある。何かやらかしたら、俺とかでもザックリやられそう。『残念やけど、お前は死ななんならんのや……』って。慈悲を湛えた微笑みのままぶちk――

 

「お、隊長もこっち来たんか」

「うわっ!?」

「……そっちから歩いてきたのに何でそんなビクッとん?」

「い、いや、別に。ちょっとぼーっとしてたんだ。それより、何の話してたんだ?」

「 こ い ば な 」

「えーっと、鳳雛ちゃん、何の話してたの?」

「おう黄蓋見いや。これが曹魏名物『北郷式黙殺』や」

「ほうほう……コヤツもコヤツでなかなかに強かだということじゃな」

「皆が自由すぎて捌ききれないからな」

 

ってそんなこと言ってるから鳳雛が発言のタイミング逃してワタワタしてるじゃないか。

 

「あの、その、あ、アレです!」

「ん……?」

 

鳳雛の指さす先には……漁船かな?でも何か、いくつかの船を鎖でつないだ、見たことない形をしている。

 

「何だ?あれ」

「この辺の漁師に伝わる船の揺れ対策らしいわ」

「この辺りの漁師たちは、船酔い対策や、小さな船を大きく使う技法として、船同士を鎖で繋ぐ方法を使っています」

「え、でもさ……この辺の漁師ってことは小さい頃から船に慣れ親しんで育ってるだろ?酔い対策なんて要るのか?」

「むしろ生活に近いからこそやろ。酔いやすい体質の奴も船使わなならんのやから。それに、寒いとこ住んどるからって雪の中裸で走り回って大丈夫ってこともないやろ?」

「まあ、そうだな」

 

確かに、特殊な環境に住む人って身体能力どうこうよりも、特徴的な道具とかで乗り切ってる気がするな。エスキモーの毛皮服とか。

 

「で、それを私らの船団にも取り入れよかって話しとったん」

「魏の兵たちは、どうも船が苦手と見える。時間があれば儂が教練してやったものを……」

「船同士を繋げは足下が安定して酔いにくくなりますし、兵は陸と同じように動くことができるようになります」

「へぇ……なるほどな」

 

……って、え?赤壁で、鎖で、………ヤバい。

何とかして聆に考え直させないと。でも、どう反論しよう。聆も乗り気だし、何言っても論破されそうだ。いっそのこと『未来の知識が――』って言った方が良いのか……?

 

「あ、隊長」

「ん、お、おう、何だ?」

「この件は私から軍師連中に言っとくから。……そろそろ何か手柄たてとかんとアレされるかも分からん。この前言い合いもしたしな」

「む、儂らから直接言おうと思っていたのだが……」

「いえ、鑑惺さんに頼みましょう。軍師の皆さんには、警戒されていますから……。私たち」

「確かに、取り会ってくれぬやもしれんな」

「頭硬い人も居るからなぁ。怪しいても、良えもんは良えもんとして取り入れたらええのに」

「怪しいとな……いや、仕方ないか」

「実際の働き見てみんことにはなぁ。許すのと信じるのはまた別やし」

「で、では、この件で働かせてもらいます!」

「つってもアレやで?戦場に出る黄蓋さんはともかく、鳳雛は軍議にも出させてもらえんやろし、することなくない?」

「えと、その………、鎖の手配なんかを……。一応地元ですので、鎖の供給網とかは知ってます」

「んー……んだら、頼もかな。クク……何かホンマの部下みたいやな」

「えへへ……」

「待たぬか!鳳雛は儂の弟子じゃろう」

「年甲斐もなく嫉妬かな?」

「お前は本当に容赦なく歳をイジるのぅ……」

 

 また他愛もない談笑を始めた聆たち。ついさっき『この件には関わるな』と釘を刺された身としては、なんともほの恐ろしい光景だった。




『察する』能力がもてはやされ気味ですが、作者は『察させる』能力こそ重要だと思います。何かを言うと、それについて自分の発言としての責任が発生しますから。


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第十三章一節その二 〈α〉

mgジオングは思ったより小さいです。

SEKIHEKIは戦闘が始まるまでが思ったより長いです。


 船団での行軍というのは、兵自らの足で歩く必要が無く消耗が少ないため、通常なら便利なものだ。ただ、他の船との間の連絡手段が大声くらいしかなく(矢文という特殊例も有るが)、さあ何か話し合おうと思い立っても叶わない。また、船酔いでダウンなんかする奴も出る。

 

「まあ、そんなわけでもう夕方やな」

「……悪かったわよ!」

「別に桂花さんを責とるんと違うで。体調不良やったんやもんな。仕方ないな」

「悪意を感じるわ……」

「それで、急にどうしたのですか〜?軍師会に招集をかけるなんて」

「おう。……今日船乗って分かったと思うけど、魏軍って船にめっちゃ弱いやろ?」

「だから悪かったわよ!」

「いや、さっきのはマジで他意無かったんやけど……。まぁ、そんで、船を安定させるんに、鎖で繋いだらどないかなって」

「鎖で……?」

「昼間、漁師が船同士を鎖で繋いどるのを見たんや。黄蓋らが言うには、揺れを抑えたり船を大きく使うための、この地域に伝わる風習らしい。軍船においても、船酔いの防止と兵の移動補助に効果が見込めるんやと」

「あの者らの言うことを信じるのですか?」

「我が軍の状態があまりにも酷いんでな。何や方法が有るんなら一考の価値有りやろ?」

「……アンタ、私が泣くまでイジるのをやめないつもり?」

「だから違うって。……で、どう思うよ」

 

さあ、存分に議論してくれ。大陸の行く末は、今、この会議にかかっているのだ。

 

「そうですねー、まず皆さん分かってると思いますけど、火計にすっごく弱いですよねー」

「火のついた船を隊列から離せないから当然よね」

「まぁ、そうだけどよ。火計についちゃそんなに気にしなくても良くねェか?今日もそうだったが、下流にいる敵からすれば向かい風になってんだろ。となると火矢も飛距離が出ねェし火も廻らない。大規模な火計はできなくねェか?こっちの失火とかにゃ注意が要るだろうが」

「たしかに靑さんの言うことも一理ありますけど〜、いま私たちは懐に火元を抱えてるようなものなのですよ〜」

「黄蓋ね。でも、それについては心配無いわ。もとから最前線で文字通り矢面に立ってもらうつもりだから」

「いえ。それよりも、です」

「ん、どないしたん禀さん」

「まず、赤壁付近ですが……時によって風向きが変化します。ですので時間によっては火矢が有効になるかと。七乃さんは知りませんでしたか?」

「あはは……なにぶん一人で全て仕切らなきゃいけなかったもので………地方の時間単位の風向きとかはさすがに」

「え……袁術の領土全部仕切ってたのかよ!?」

「うふふ……もっと褒め称えてもらってもいいんですよ?」

「ワースゴイナ-。……で、禀さん。『まず』ってことは他にも何か知っとるんやんな」

「『この辺りには船を鎖で繋ぐ風習がある』とのことでしたが、そのような風習はありません。少なくとも、以前私が旅した時はそんな船は一度として見ませんでした」

 

よし。さすが禀さん。やっぱりだ。軍師たちでよく話し合えばSEKIHEKIの計略は破れると思っていた。史実でも『郭嘉が居れば曹操は負けなかった』っていわれていたし。事前に釘を刺しておくことで一刀と黄蓋の動きも押さえた。しかもこの流れなら私の直接の動きはほぼ無し!

 

「……策か」

「策ですねー」

「話に信憑性を出すために偽の漁師を使うなんて……。嫌に手の込んだものね」

「地の利を最大限に活かしているのですよ〜」

「けどよ、その割に根本があまりにも杜撰じゃねぇか?」

「逆に、地の利を意識しすぎたのが失敗ですね。たしかに、風習や風向きというのは、実際にその場に住んだ者にしか分からないほど細かな情報です。普通、余所者には分からない」

「でも禀さんが各地を旅していた、というただその一点で崩れてしまったんですねー」

「そんで、どないする?」

「どうもこうも。黄蓋を処刑するべきよ。明確な裏切り行為をされたんだから」

「えー、一度乗ってあげたらどうかと思いますけどー。黄蓋さんを殺しちゃったらそれまでですけど、引っかかったように見せかけたら、したり顔で攻めてきた敵軍もろとも長江に沈められるんですよ?ステキじゃないですか〜」

「ほんで私ももう鎖発注してもとるしなー。それに、揺れがマシになるんはマジやし」

「ただ、それならそれで被害が出るのでは?引っかかったようにみせるなら、船を鎖で繋いでおかなければなりません。となると、やはり火計の危険が……。気をつけておくとしても、下々まで言い渡すとバレるでしょうし、一部しか知らなければやはり混乱が……」

「いや、何言ってんだ?」

「……?」

「その辺をどうにでも出来る奴がいるじゃねェか」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ん〜〜〜、よく寝たのーーーーっ」

「なんだ、元気一杯だな」

「うん。昨日と違って揺れないからねー、気持ち悪くならないの。この鎖のおかげなの?」

「どうもそうらしい。こんな鎖があるだけで、随分と違うものだな」

「あ、それ私が進言したんやで」

 

 全ての船には、船同士を固定する鉄の鎖が組み付けられていた。相当な突貫工事で付けられたらしく、乱雑に叩きつけられた釘の跡と、『触るな』と書かれた札が貼られているのが何とも痛々しい。……これなら、いざとなれば力持ちが数人集まれば外せるか……?いや、さすがに無理か……。

 

「これを一晩でか……」

「触りなやっ!」

「……っ!?」

「ど、どうしたんだ、真桜……」

「な、なにか大分機嫌が悪いな……」

「ムシャクシャしちゃって働き過ぎ〜?」

「ちょーっと工兵隊で徹夜で突貫工事しとっただけや」

「ああ……お疲れさん」

 

まあ、こういう仕事は真桜に振られるよな。……でも、それだと逆に、真桜にしては仕事のクオリティが低いような気がする。船酔いのせいだろうか。

 

「……そんなわけで、寝かせてもらうで。敵の襲撃があったくらいやったら起こさんといてな」

「いや、それは起きろよ」

「んだら華琳さんの胸が大きなったりしたら?」

「それは起こして。寝ぼけて『もっと寝る』とか言っても叩き起こして」

 

いや、どんな基準だよ……。

 

 

 「それにしても、長江って広いの〜」

「いや、それ俺が昨日言ったけどな……」

「あの時は酔ってたんだもん。広いとか広くないとかそんなのどうでも良かっ……………ん?」

 

船の縁に乗り出して周りを見回していた沙和が、ある一箇所に目を止める。

 

「どうした?」

「隊長、気付かないの?」

「何かあるのか?」

「ねえ、凪ちゃん、聆ちゃん」

「……うむ」

「あー………」

 

沙和に言われて、二人とも何かに気付いたらしい。

 

「何か気になることが?」

「うん。あそこの船の兵士さんたち……私の知らない顔ばっかりなの。凪ちゃん、知ってる?」

 

沙和が言いたいのは、二つ向こうの船らしい。

 

「いや、覚えがない。聆は?」

「私が鑑惺隊以外で育てた兵はあんな風に談笑することは無い」

「多分真桜ちゃんの隊でもないの」

「おいおい、いくら訓練部隊の担当だからって、兵士全員の顔を知ってるわけじゃないだろ……?」

 

新兵の訓練自体は、魏の各所で行われている。都での担当は確かに沙和たちだけど、今回の遠征には都以外からの兵士たちもたくさん参加しているわけで……。

 

「それはそうだけど……あの鎧、都の正規軍が着る鎧なの」

 

そう言えば、鎧っていくつかバリエーションがあるんだっけ。各所に配置されたドクロモチーフの表情が違うとか……。

 

「他の地方ならまだしも、本国の部隊の兵士なら我々の誰かが関わっているはず……」

「老兵集団でもないしな。一人二人は覚えた顔が無かったらおかしい」

「……教えた顔は、全員覚えてるのか?」

「そんなの当たり前なの」

「はい。皆、手塩にかけて育てた大切な部下。………特に聆なんかは……」

「あー、誰かが失敗する度に個人番号読み上げてるもんな」

 

まず顔を覚えるのが前提だってことか。

 

「鎧は本国の正規軍の鎧で間違いないんだな?」

「いつも見てるんだから、見間違えるはずないの」

「丸顔で目つき悪い髑髏やな」

「分かった。凪、このことを華琳に伝えておいてくれ。くれぐれも情報漏れのないようにな」

「……了解です」

「ね、隊長。あれって……」

 

船室から船の指揮官が姿を見せた。沙和の知らない兵たちと親し気に話しているそいつは……。

 

「……ああ。黄蓋だ」




聆がいったい何がしたかったのか理解できた人は武道館で作者と握手。


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第十三章一節その三 〈α〉

七ドラ掲示版……お絵かき掲示版が閉鎖されて泣いたのはあれが最初で最後でしたね。

そして区切りどころミスった感が漂う滑り回が出来上がってしまいました。聆と祭さんが対峙したとこで終了の方が良かったかもしれないです。候乙。


 夜が明け、魏が再度進行を始めたその頃。下流の蜀陣営に入る騎馬が三騎。馬超と馬岱。船を繋ぐ鎖の運搬に際し、黄蓋の兵を魏軍に紛れ込ませた帰りである。

 

「今帰ったぞ!」

「おかえり♪雛里ちゃんと黄蓋さんの様子はどうだった?」

「それが妙に待遇良かったんだよなー。あたしたちと会ったすぐ後も酒宴に呼ばれてたし。あ、それと、これ。雛里から預かった」

 

ごそごそと懐を探り、少々シワが寄った紙束を取り出す。

 

「……宴会というのは、厄介でもありますけどね。監禁や軟禁を受けるのなら文句をつけることができますが、宴の場合は断る方が無粋とされます。それに、酔った拍子に何か喋ってしまうということも………」

 

言いながら、諸葛亮は鳳統の書簡の冒頭を読み、一先ず策の進行を確認して気を良くした。が、その表情は徐々に険しいものとなる。……報告が終わった途端に延々と泣き言が書き込まれていたら誰でもそうなるというものだ。要約すると、

『初見でボロクソ言われた上にその日の夜から毎日飲めない酒に付き合わされて色々ズタズタ。鑑惺も多重人格臭くて気持ち悪いし、曹操もねっとりした目つきで見てきて怖い。朱里ちゃんのお菓子と八百一本が恋しい』

とのこと。どうにもコメントに困る類の内容だったが、諸葛亮自身も同じ目にあったら同じことをするだろうと思い、文句は言わなかった。

 

「……雛里は何と?」

「計画の進行は、多少の不安要素こそあるものの概ね順調だと」

「その割に表情が硬かったが?」

「ええ……雛里ちゃんも苦労しているようなので」

「まあ鬼畜の集まりだからな」

「もう翠ちゃん!それは呉の流した風評でしょ。そんなこと言っちゃダメだよ」

「桃花様、お優しいのは結構ですが……曹操の逸話には真実も多いですからな」

「あの舐め廻すような視線は頭から離れるものではないでしょう」

「うん……それはね………」

 

(曹操は女漁りを控えていればもうとっくに天下を取っているのでは……。孟徳"もうとく"だけに)

 

「星、何を笑っているのだ?」

「何でもない。昨日食べたメンマの味をふと思い出しただけだ。それより、我らもそろそろ動く頃合いではないか?」

「そうね。孫策と周瑜も黄蓋殿を助けると言って、既に移動を開始したらしいわ」

「戻ってきたばかりの翠と蒲公英には悪いが、我々もすぐに出る。夜までには赤壁に到着するぞ」

「屋敷に忍び込んだり鎖運んだり、最近は面倒な任務ばっかだったからな。一暴れさせてもらうよ」

「うん。頑張って黄蓋さんを助けよう!」

「進軍、開始なのだー!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……そろそろか」

 

日が落ちてしばらくした頃。禀の話の通りならもうすぐ風向きが逆転する。そして、黄蓋が動き出す。

 黄蓋の位置は最前線の中央。紛れもない『主力』の席だ。いわゆる慢心采配である。が、同時に余計なことをしたら即座に切り捨てられる位置でもある。そして、その切り捨て役が、我が鑑惺隊。主船を黄蓋の真後ろに取り、他人の隊の船に配置した隊員が黄蓋を取り囲む形となる。

 

「お前ら、準備は整っとるやろな?」

「抜かりなく。……別働隊からも準備完了との報が」

「良し。……んだらそこのお前。この作戦の心構えを」

「はっ!『焦らんとやることだけやってソッコー退却』です!」

「上出来や。お前らの役割はあくまでも出落ちに過ぎん。もたもたとその場に留まらんように」

 

船室内の全員が静かに頷く。それを確認し、私は甲板へ出た。

黄巾の時代から選りすぐり続けた自慢の部下たちだ。今回も完璧な仕事をしてくれるだろう。

 今回の戦は、戦術的には最早勝利している。上層部の全員が黄蓋の裏切りを想定しているし、火計への対策も立っている。黄蓋本隊以外の場所にも敵方の工作兵が潜んでいるが、凪たちの働きによってほとんど特定されているらしい。放っておけば黄蓋は矢に穿かれて死ぬ。

 だが、それでは不完全だ。黄蓋が死んでは私の目指すお気楽なお花畑世界は成り立たない。私の目指すのは、一刀が五十人近い嫁を作り、華琳がカリスマブレイクし、桃香が黒い部分をチラ見せ、雪蓮が何かエロい雰囲気を出し、凪とか愛紗とか蓮華とかが嫉妬し、バカ共が馬鹿騒ぎし、酒飲みが呑み比べで酒蔵を潰すような世界だ。墓参りイベントなんて全く求めていない。故に、黄蓋の討ち死には認められない。自害も却下。

 

「大丈夫……私は蛇鬼の鑑惺だ。捕獲に定評のある鑑惺だ」

 

何かRPGのラスボス戦前みたいな気分だ。圧倒的な火力と耐久を恐れつつも、仕込みまくった戦法を試すのは楽しみみたいな。今の私を七ドラに例えるなら、騎(騎盾)盗(剣)平(毒)姫(癒)かな。

 ……さすがに緊張しているな。思考の方向がおかしい。

 

「酒、呑まずにはいられない」

 

別にアル中じゃない。気分転換に一口だけ酒を呑むのが好きなのだ。田舎のおばあちゃんが料理始める前にお腹のとこをスパーンってやるみたいなものだ。……誰に言い訳しているんだ私は。これは本格的に、さっさと気分転換するべきだな。

心の中であれやこれやとつぶやきつつ、腰の瓢箪に手をかけた時だ。

 

「………風が、変わったな」




ちっちゃいおんなのこすき


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第十三章一節その四 〈α〉

鶏肉旨い。

風呂敷を広げすぎて畳めなくなるのはよくあることですね。


 数分の無風状態の後、風向きが逆転した。

 黄蓋隊の船が俄にざわつき、そして、方々に火矢が一斉に放たれる。それは他の位置でも起こったらしく、魏の船団のあちらこちらからどよめきが聞こえてきた。遠方から、敵の本隊らしき船の影も近づいて来る。私の乗っている船にも何本かの火矢が届き、火の手が上がり始めた。だが、私は焦らない。全て予定通り。やることは決まっている。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

鑑惺隊式情報伝達『大声』発動。黄蓋隊の船に向かっていくつかの煙玉が放たれる。もちろんただの煙ではない。お馴染みの唐辛子粉末と、軽い麻酔薬を混ぜたものだ。

 

「くっ……小癪な!!」

「!……伏せろ!!」

 

黄蓋の放った三本の矢が、帆柱を圧し折り、船主を割り、私の頬を掠め飛ぶ。黄蓋はピンピンしているらしい。やはり、風向きを考慮して薬量を抑えたのが原因か。疎らになったが火矢もまだ健在だ。

 

「アレの相手は私がする!お前らは手筈通りに」

 

私にも遠距離攻撃の手段は有る!

 

「オラァッッ!!!」

ズト゛ッッ

「ぐぅッ!?」

 

全身をフルに撓らせることによる加速で、黒いデカいアレを超高速で投げつけた。黄蓋には躱されたが、何人かの敵兵を葬り去って船室を叩き壊す。それに呼応するように、私の頭上を大量の矢が超えていく。今日のために真桜に発注していた毒矢だ。鑑惺隊は弓の扱いに不慣れだが、前に飛びさえすればいいと乱射している。マップ兵器だ。

 

「このっ……貴様ら………!!」

「………退避!」

 

毒矢を撃ち終わり、ダメ押しに煙玉を投げた隊員は隣の船へ板を渡して即座に撤退する。

 

「ハッッ!!」

 

赤黒い煙に包まれた船から跳びかかる影が一つ。言わずもがな黄蓋だ。

 

「あの毒喰ろぉてまだその動きができるか」

「生憎、儂はアレを吸っておらんのでな」

「氣か……」

「ご明察」

 

氣で周囲の気流を操ったか。……そんなんチートや!

 

「やはりおぬしは蛇らしい」

「まぁそう怒らんと。こっちもあんな毒効く思てなかったし。お前らは私らを騙そうとして、私はお前を手ぇ抜いて倒そうとした。お相子や。それに……」

 

ガシャン という重々しい金属音が響く。

 

「な!?鎖が………!」

「こっからは正真正銘正々堂々一対一や。来いや黄蓋。武器なんか捨ててかかって来い!」

「いや、武器は使わせてもらうが……。その前に、訊きたいことがある」

「手短に頼むで。そっちの本隊も迫っとるし」

「どうやってこの策に気付いた?私が裏切ると予想するだけならまだしも……助言通りに船を繋いだと見せかける工作に加え、同じ鎧を着た兵になんの躊躇いも無く弓を引くなど………」

「細かいとこは機密やけど。……奇策っちゅーんは相手の死角から忍び寄って手の廻らんとこを突く技や。やったら、目と手を増やせば良え」

「国力で策を捩じ伏せるか……」

「納得したか?」

「理解はした」

「そう。……んだら始めよ、か」

 

その言葉と同時に、無数の投具が黄蓋に殺到した。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 帆柱の牙門旗がバサりと翻る。さっきまで川上から吹いていたはずの風が、川下からに変わったみたいだ。

 

「風向きが……」

「昨日桂花たちから報告は受けてたけど……実際に、こうまで急に変わるものなのね」

「華琳!」

「霞、黄蓋の一党が火を放ったわね?」

「おう!沙和らが怪しい言うた連中が、予想通りの動きをしおったで。火が上がったんは三ヶ所や」

「あら、予想より一ヶ所少ないわね?」

「弓引いた瞬間春蘭と秋蘭が消したらしいわ。他は今みんなが消火と迎撃に廻っとる!」

「……ってことはやっぱり聆が黄蓋の相手をすることになるのか……?」

 

たしか、聆は黄蓋のすぐ後ろに控えてたはずだ。当然黄蓋と最初に戦うことになる。

 聆はすごく強い。何度も稽古をつけてもらってる俺が言うんだたから間違いない。でも、黄蓋も信じられないくらい強い。あの霞に素手でボロ勝ちした時は目を疑った。

 

「心配しなくても大丈夫よ。あの娘は引き際のわかる娘。それに……どうせまた何かしら仕込んでいるでしょうよ」

「そうか……そうだな」

 

それで納得できてしまうのが聆のすごいところだ。

 

「ついでに、呉蜀の船団も近付いて来とる。明かりが無かったから気付くんが遅れたって。左翼から季衣と流琉、右翼から春蘭と秋蘭が迎撃に出た」

「そう。皆予定通りにことが運んでいるようね。……私達も隊を動かすわよ。戦場を押し上げる」

「分かった!」

「了解や!」

 

 

 「せぇぇぇいっ!!」

「ぐぅっっ!」

「くそっ!事前に目印をつけていたか……!!」

「ふふふっ。みなさ〜ん、腕に黄色い布をつけてない人は敵で〜っす!じゃんじゃんやっつけちゃってくださ〜い」

「あ〜あ、ウチとしてはあんましええ思い出ないねんけどなぁ。黄巾」

「でもその分みんなの印象に残ってるじゃん。アタイは分かりやすくて良いと思うぜ」

「ぐぬぬぬぬ………!!くっ、だが、火計さえ成功すれば………」

「お嬢様、そこの出っ張り押してください♪」

「うむ。これかの?………ポチッとな」

「なぁっ!?鎖が!!」

「んっふっふー。ドヤ?ウチの自信作。(………桂花め……強度を保ちつつすぐ外れる仕掛けなんて無茶振りしおってからに………)」

「ぐおおおおおおっっ!!こうなりゃヤケだっっ!!!」

「うぇ〜、自分の船に火を付けてるぅ………」

「こ、こっちに向かってくるのじゃ!」

「孫呉バンザァァァァァイッッ!!!」

「斬山刀……斬山斬ッ!!!」

 

 

 「モタモタするななのーー!!燃えてる船はさっさと切り離して外に押し出すの!」

「サー、イェッサー!!」

「さ、サー!間に合いません!サー!」

「凪ちゃん!」

「任せろ。……ハッ!!」

「ほぅ……船ごと破壊するか。なかなか豪快だな」

「よくこの方法で街の火事を消してるのー」

「……それは………住人が困らないか?」

「も、もちろんいつもは最小の破壊で済むように調整しています!」

「サー!こ、この船の側面が燃えて居ます!サー!!」

「凪ちゃん――」

「ダメだ……あそこを破壊するとこの船が沈んでしまう!」

「なら私の出番だな」

「華雄殿……何をするつもりですか?」

「まぁ、少し離れておけ。……………―――――」

「な、なんか肌寒いの……」

「!?」

「サー!火が消えました!!サー!」

「一体どうやって……」

「私にも分からん。心を静める鍛錬をしていたら近くに置いていた水筒が凍ったことがあったのでな。試してみたのだ」

「出来るか分からないのに自信満々だったのー……?」

「ともあれ、これで恐れるものは何も無い。早くこの場を収めて前線の援護に向かおう」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「だめ………全然火の手が拡がってない…………」

 

同じ頃、鳳統は岸の拠点から戦場を見ていた。戦力にならず、軍師としても信用できない彼女は、補給部隊や予備戦力と伴にここに配置されたのだった。

 

(ごめんね朱里ちゃん……せっかくの策だったのに………)

 

鳳統にはどうしようもない要素が組み合わさった結果なのだが、それでもやはり、自分がもっと上手くやっていれば……という思いは拭い切れない。

 

(黄蓋さん……無事に撤退できるかな………)

 

無理なのは分かっているが。あの人は、戦場で死ぬ、そういう覚悟を持った目をしていた。呉の兵は船の扱いに長けているから、逃げようと思えば逃げられるだろうが……。

 

(援軍が早く着けば……)

 

ここまで失敗してしまうともはや勝ち負けは問題にならず、『どう逃げるか』の話になる。理想としては、援軍が高い士気をもって追撃隊に当たり、敵を怯ませることが望まれるのだが。

 

(これからどうなるんだろう……)

 

蜀軍の活躍は期待できないだろう。他国の防衛のために遠い東の地までやってきて負けたとなれば、士気の大暴落は避けられない。嫌でも一度は退くことになる。追い詰められた呉がどれほどの力を発揮できるかが今後の最も大きな争点になる。むしろそれによって大陸の未来が決まるように思える。

 

(………その前に私はどうなるんだろう)

 

鳳統は言わば大胆な手法の間者。武人の誇りによってある意味で護られている武将と違い、間諜やら暗殺者に対する処罰は容赦が無い。

 

(きっと乱暴されちゃうんだ……艶本みたいに。本国に連れて行かれて、分からないけどきっと地下室みたいなところでされちゃうんだ……)

 

曹操は根っからのいじめっ子という印象だった。知っていることを全部話しても許してもらえないだろう。虐めるのが趣味だから。それに、女好きとしてもその名を轟かせている。

 

(きっと……きっと、人間をやめさせられちゃうんだろうな………)

 

それが『人間としての権利を投げ出す』なのか、『人間として必要な能力が失われる』なのかは分からないが、とにかく、そう遠くない未来に雛里という人間は終了するだろう。

 

(怖すぎて気持ち悪くなってきた……。そ、そうだ!こっそり逃げれば助かるかな……?私って小さいし……)

 

できなかった後悔よりやった後悔。鳳統は静かに深呼吸をする。

 

「よ、よし!厠に行くふりをs

「ここに居たか鳳雛」

「あわわわわばばばばばばばばば」




氣の力って言えばなんでも許される気がします。
……閃いた。


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第十三章一節その五〜二節その一 〈α〉

今回めっちゃ言い訳がましい文章になってしまって辛いです。原案とコンテは割と得意なんですが、それに肉付けする段階でだいたい事故るんですよね。

関係ないですけどスープカレーを作りすぎました。


 「くそっ、火の勢いが強くて近付けないな……」

 

本陣からまっすぐ前線へ向けて進軍を始めた俺達は、炎に壁に阻まれて迂回。秋蘭たちと合流していた。

 

「聆は消火指示を出していないそうだ」

「手を出すな、ということでしょう」

「そうは言ってもなぁ……」

 

炎上した船による障壁は、黄蓋の船団をと囲むような半円を描いている。そして、開いているのは敵陣側だ。つまり、こっちからは回り込まないと行けないのに向こうからは直接行けるってこと。

 

「そんなことよりこっちも敵来とるで!」

「関、張、趙、黄、馬……!?五虎将揃い踏みかよ!」

「ウチ関羽な!」

「私は張飛の相手がしたい。以前は呂布に邪魔されたからな」

「あ、おったんや華雄」

「今から肩慣らしもいいかもしれんな?」

「二人ともそういうのは後にしてくれ……」

「ならば私は黄忠を希望する。姉者は馬超をたのむ」

「任せろ!」

「ふふ……じゃあ私は趙雲と、ね」

 

総大将自ら最前線か……今更驚かないけど。

 

「貴様ら!何を悠長に喋っている」

「関羽ぅぅぅ〜〜↑待っとったでぇぇぇーーー!!!」

「うわぁ……鈴々、アレの相手は頼む」

「完全に引かれちゃってるじゃないか……何やったんだ」

「そんなんウチが知りたいわっ!ウチはこんなに関羽のこと想とるのに……」

「……同情する」

「星、そう思っているのならそのニヤけ面を引っ込めろ。……って我らまで無駄話をしてどうする!突撃だ!」

「やれやれ……。では、参るぞ!!」

「にゃにゃー!そこの気持ち悪いヤツも覚悟するのだー!!」

「定軍山ではまんまとしてやられたけど……今回はそうは行かないわよ、夏侯淵」

「望むところ……」

「行くぞっ!……西涼の雪辱、ここで晴らす!」

「久々に心躍る戦ね。……ここは私達が楽しむわ。一刀は炎の壁を回り込んで聆の援護にまわりなさい」

「おう!」

 

互いに入り乱れて火花を散らす華琳たち。あちらが尖い突きを放てば、こちらは力強い斬撃を返す。こちらが巧みなフェイントを繰り出せば、あちらは美しい連撃で応える。勝負は一進一退。こんなに激しく豪快な戦いは、ゲームやマンガでもなかなか見られないはずだ。

 

「って言ってもボーッとみてられないんどけどな。せっかく華琳たちが開けてくれた道だ。敵が広がってくる前n――」

「ここに居るぞーーー!!!」

「うわっ!?」

 

いきなり横から槍が突き出された。俺は咄嗟に後退って避ける。

 

「ありゃ、避けられちゃった」

「馬岱……?いつの間にこの船に」

「お姉様たちが戦ってるところから紛れ込んで、大回りして後ろから」

 

人懐っこい笑顔で答えてくれたんだけど、しっかり槍を構えてもいるんだよなぁ。俺も刀抜いてるから他人のこと言えないか。

 

「へー……戦う気なんだ。でも、そんな棒立ちみたいな気の抜けた構えでマトモに戦えるの?」

「戦えないと思うならさっさとかかって来たらどうだ?もっとも、俺には君みたいな小さい娘が戦場に居るのが心配なんだけど」

「……バカにしてる?」

「心配してるだけだよ。女の子に怪我させるなんて魏の警備隊長として問題だからね」

「これでも立派な将なんだけど?」

「そう言われても、全然そうは見えないからなぁ。もしかして迷子かな?俺がお母さんのところに連れてってあげようか?」

「……もう怒った。一発でヤッちゃうからね」

「あんまり強い言葉を使わない方が良いよ。弱く見える」

「うる、さいっっ!!!」

 

俺の構えは右自然体中段構え。現代日本剣道において最も基本的且つ一般的な型。

 

「ッ!」

「きゃっ!?」

 

相手のどんな動きにも対応出来る。

 

「くっ……」

「………」

 

そして、俺は聆との鍛錬で徹底的に防御を叩き込まれた。

 

「次、来なよ」

「こンのぉぉぉぉ!!」

 

つまり、攻めはその辺のちょっと強い剣道部員程度ってこと。相手の心が折れるか助けが来るまで挑発と防御を繰り返さなきゃいけない。なんてこった!!

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 炎上する船の上。黄蓋と対峙する私は、予想以上の苦戦を強いられていた。

 当初の予定では、精神的にある程度優位に立った状態で遠距離戦を終えて近接戦に移るはずだった。

 大陸トップクラスの弓兵である黄蓋に対して『遠距離戦で優位に立つ』ことを想定するのは変に感じるかもしれない。だが、基本的に単体の弓兵というのは恐ろしくないのだ。

 その理由は二つ。

 まず第一に『矢と槍とならどちらの威力が高いか』という問題。もちろん、槍だ。矢は叩き落とせる。黄蓋の放つ矢は、確かに帆柱を薙ぎ倒すような威力を秘めているが……この世界では別に珍しいことではない。現に地割れとか時空断裂とか経験してるしな。普段から乙女武将らと鍛錬している私にとっては大きな脅威ではない。

 第二に、その弾数に限りがあること。矢筒に入る矢はだいたい二十本で、黄蓋はそれを二つ装備しており、二〜四本掛けで撃ってくるだろうから……実質の攻撃回数は十回前後。対して私はといえば体中に投具を仕込んでいる。袋に詰め込んだ撒き菱まで準備していた。手数は倍以上なのだ。

 そして、一度間合いを作ってしまえば、あとは色々と仕込んだ武装で仕留めるつもりだったのだ。黄蓋の強みはその優れた心理戦能力。裏を返せば、挑発にさえ気をつけていれば他の乙女武将とそう変わらないのだ。そして、そのハードルを超えてしまえば、あんなガーターベルト丸出しチャイナドレス風乳袋なんてナメた服を着てるヤツなんかに負けるわけ無い。

 

 では何故苦戦しているのか。……『当初の』という言葉から分かるように予定通りにいかなかったからだ。

 一つ。

 

「オラァッ!!」

「はっ!何度やっても効かぬぞ!」

 

と、まぁ、頑張って投げつけても氣の障壁を貼られるのだ。クナイ程度の重さがないと撥ねられてしまう。私が多様するのは棒手裏剣だ。重さが足りない。よって手数での優位は取れない。

 二つ。

 

「フッ」

ドシュッ

「ッ!!」

キンッ

「当たれっ!!」

「くっぉぉぉ!!」

 

何が起こったか。……簡単なこと。『弾いた矢が方向転換して向かってきた』のだ。これも氣による作用っぽい。氣を込めて威力を上げたり飛距離を伸ばしたり風の影響を消したりなんかは秋蘭や黄忠もやっていたが……まさかこんなファンタジックなことまでやってくるとは。原作の厳顔vs張飛とかを見て『やっぱ遠距離武器って避たら終わりやん』って嘗めてた。幸い"失速した後"に"一度しか曲げられない"ようだが、何も考えずに適当に弾くと周りに散らばってオールレンジ攻撃される。よって、防御面での難易度も跳ね上がる。

 

「(でも、やからって立ち止まってもしゃーない)」

 

何発も射られる前に間合いを詰める。幸い、ここは船の上。スペースは限られている。

 

「フッ!!」

 

大きく、強引に一歩。黄蓋との距離が俄に縮まる。そしてそれは相手も待っていた瞬間だ。

 相手は弓兵。そのサブウェポンとしての鉄剣による近接戦闘術が『遠距離戦に焦れて突撃してきた敵の迎撃』を想定しているのは明白。対して、私のリーチが極端に長く、中距離では一方的な展開になると相手は予想しているはず。

つまりどうなるか。

私が、私の間合いに黄蓋を捉える瞬間に黄蓋は更に間を詰め、逆に私を捉えようとする。

なら、ここで私は後ろに跳ねる!

 

「チッ」

 

牽制の一発も忘れずに。

体制を整え、半身で黄蓋に対する。左腕で相手との間合いを管理し、右で仕留めにかかる、ボクシングで言うところのヒットマンスタイル。反董卓連合の頃からの十八番だ。

 

「取り敢えずこの駆け引きはこっちの勝ちかな?」

「その割には随分消極的な構えに見えるがのう」

「消極的?無い無い」

 

ヒットマンスタイルの真骨頂は変幻自在のフリッカージャブ。もちろんその性質は私の構えにも反映されている。

 

「私はいつでも攻撃できる態勢や。こっちから攻撃せんのはそのキッカケが無いから。どんな攻撃的な戦い方でも、迂闊に動けんのは一緒やろ?現にお前も今にも突っ込んだろって体勢のまま固まっとるやん」

 

所謂『先に動いたら負ける』である。

 

「ん?儂はお主があまりにも嬉しそうな顔をしておったから話を聞いてみただけじゃが。ほれ」

 

……………どうやら見当違いだったらしい。黄蓋は無造作に一歩踏み込んで来る。

私は、それに手を出せない。

ハッタリか?

マジか?

私が機械的に左を出せばコイツを斬れるのか?

それとも何か超人的な氣の操作によって超反応のカウンターをかけてくるのか?

分からない。

相手の歩に合わせて後退るよりない。

何か、一瞬で完全に流れを掴まれた。調子に乗って余計な会話を振ったばかりに……。

 

「ほれ、どうした?儂がここまで動いてやっておるのじゃぞ?さっさと攻撃してみんか」

 

うるせー!その攻撃手段を一生懸命考えてるとこなんだよ!

 

「さっさとせんと もう船の端に着いてしまうぞ?」

 

クソが……もういい。もう開き直る。そっちがそう来るならこっちも同じことしてやる。

 私は後退るのを止め、剣をゆっくりと動かした。その先にあるのは、黄蓋の剣。剣と剣を接触させることにより、動作をコントローr――

 

キンッ

 

天高く跳ね飛ばされる細剣。同時に、腿にめり込むほどの強烈なローキックによって、私の脚は薙ぎ払われた。

 

あーあ。こうなるとは思っていた。意外と呆気なく終わったもんだ。




祭「鬼とか何とか言われていたが大したこと無かったのう」
愛紗「あの粘着質な敵もやっと諦めてくれました」
蒲公英「めんどくさい相手だったけど、結局力押しで楽勝だったよ!」
桃香「曹操さんも私達の考えを分かってくれたみたい」
雪蓮「合流する頃には魏の船団が退いて行ってたわ」
星「メンマ大量生産の目処が立った」
焔耶「犬が苦手じゃなくなったぜ」
明命「お猫様が子猫様を産みました!」

HAPPY END!


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第十三章一節その六〜二節その二〜三節その一 〈α〉

        ,, _
      / ` 、
     /  (_ノL_)  ヽ
    /   ´・  ・`   l    
   (l     し     l)   
    l    __    l    
     >   、 _   ィ
    /     ̄   ヽ
   / |         iヽ
   |\|        | /|
   | ||/\/\/\ /  | |
英雄譚が予想通り微妙で残念です。
キャラ数に対してテキストが少なすぎるせいでキャラに惚れる前に終わっちゃうんですよね。


 一瞬にして天地が何周もする。予備動作無しのローキックだというのに、とんでもない威力だ。私が回転するように受けたという要因ももちろんあるが、それはそうしやすいように重心移動しただけであって回転のエネルギー自体は全て黄蓋がもたらしたもの。こういうのを見せられると、やはり自力で勝つのは無理な話だったのだと実感する。

 

「ハァッ!!」

「ッ!」

 

トドメとばかりに振り下ろされる一撃。何とかその起動上に、残ったもう一本の剣を置くことができたが、それも砕け吹き飛ばされる。

 

「祭!」

 

孫策も もうすぐそこまで来ているか。合流される前に何とか重症を負わせて最終決戦に干渉できないようにしなければ……。

 今の状況はどうか。先程のローキックで左脚の筋組織が破壊された。黒い太いアレも細剣二本もロストした。二本の脚で踏ん張ることはできないし、メインウェポンとするには心許ない武装しか残っていない。

対して、黄蓋は…………右足首付近が抉れ、額に脂汗を浮かべている。

 

 掛かった。

 この鎧をデザインした当初から温めていた策がようやく成った。

この鎧は恋姫世界ではおよそ非常識に思えるほどに装甲で全身を覆い、至る所に攻撃的な衣装が取り入れられている。それは棘だったり刃だったり。また、様々な武装を収納しているためにそれらの刃先が露出している箇所がいくつもある。だが、二の腕と腿にはそれが見られない。多くの日本の甲冑と同じように直垂が剥き出しになっている。

 これは殆どの相手にはさして意味がない事柄である。どうせ甲冑ごと叩き割ってやろうという意気の者ばかりだからだ。だが、極限られた者には大きな意味を成す。黄蓋、夏侯淵、張飛、そしておそらく黄忠の四人だ。……馬騰については完全に予想外だった。さて、この四人は素手、素足、またはそれに近い状態での近接格闘術を使用すると予想される者たちだ。武器を使う場合と違い、素手で硬いものや尖ったものを殴れば当然自分が怪我をする。

 だから黄蓋は脛でもなく脇腹でもなく私の腿を蹴りつけた。これが、鉄脛当を装備している凪だったなら鎧ごと脇腹を蹴り砕いていたはずだ。

 柔らかく、怪我の危険がないはずの腿を蹴った黄蓋が、足を負傷した。……理由を言い当てるのは簡単だろう。

 今回の戦、私は直垂の下に棘を仕掛けていた。黄蓋は弱点を突いたつもりがまんまと罠に飛び込んだのだ。しかも、麻痺毒のおまけ付。黄蓋の強さを目の当たりにして『自力で倒すこと』を完全に諦めた私は『ならもう自爆してもらうしかないな』と、長いこと自粛していたこの技をつかったのである。

 おそらくこのせいで私は卑怯者呼ばわりされることになるだろうが、そのおかげで勝ちが見えた。黄蓋の眼に闘志はまだ有るようだが、取り敢えず右脚は終わっているはずだ。

 

「鑑惺………ッ!!!」

「蛇鬼の面目躍如ってなぁ」

 

せっかくのチャンス。ここでふいにするわけにはいかない。

 

「ここで、キめさせてもらうでッ!」

 

両腕を甲板に踏ん張り、三本足で一直線に突進する。

 

「このッ下衆がッ!!!」

「果てろッ!!!」

 

後ろ脚を強く蹴り、黄蓋に躍りかかる。

眼前に迫る切っ先を一本角で受け止める。その間も、勢いの乗った躰は前進を止めることはない。強く強く四肢を叩き付け、巻き付き、締め上げる。

 

「ぐ、ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ ッ」

 

全身から突き出た棘が、黄蓋の褐色の肌を引き裂く。

 

「マトモな鎧を着とればこんなことにはならんかったやろにな」

 

ホールドを緩め黄蓋を開放し、そして、張り倒した。

 

 孫策の方は――

 

「祭様の仇……!」

「ォォォオオ!!!」

 

周泰と甘寧が正に今 跳んできてるところか!

転げ落ちるように河に飛び込み、間一髪のところで退避した。鎧は重いし片脚は思ったように動かないが、自陣までの距離はそう遠くない。ちょっと燃えている船の下を潜ればすぐだ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「只今帰還しました」

 

呉の船団に、先行していた二人が戻った。

 

「祭は!?」

「こ、こちらに!」

「………ッ」

「なんて傷……」

「で、ですが止血はしておきました!安静にしておけば必ず……!」

「元より、数は多いですが浅いようです。祭様なら回復なさるでしょう」

「そう……。なら、さっそく相手にお礼しにいかなくちゃね。その様子からすると逃げられちゃったんでしょうけど……」

「すみません……あと一歩のところで河に………」

「そうか……。なら、我々も手早く撤退すべきだろう」

「何言ってるのよ冥琳。ここから敵陣中央を突き破るんでしょう?それに、そうしないとこの戦、負けだわ」

 

 呉軍はその戦力の殆どを陣の中央に集めている。それが引くとなれば前線は完全に機能停止。戦闘の続行は不可能になる。

 

「……もう勝負は決しているさ」

「………」

「中央は完全に炎の壁と成っている。敵が全く消火を行わなかったせいでな。その上、他で出た瓦礫まで集められて燃やされている。炎の勢いは想定の何倍も強い。……そうだな、明命」

「は、はい。船団ではとても……それこそ、鑑惺のように潜りでもしないと」

「なら敵右翼に……。曹操はそこにいるんでしょ?」

「ええ。ここに居るわ」

「曹操!?関羽たちは……!?」

「すまん!一騎討ちの間に兵力で周りを崩された!」

「もう既に畳まれはじめてるってこと……っ」

「伝令!右翼、陳宮様より撤退の催促の文が」

「右翼も、か」

「くっ……江東の地でこんな………!」

「雪蓮……」

「分かってるわ!撤退するわよ」

「逃がすか!」

「夏侯惇……容赦無いわね」

「この状況で容赦するほど姉者は酔狂ではないさ」

「くっ……撤退を急がせろ!」

「急いだところでn――うわっ!?」

「………」

「呂布!!」

「……止める」

「退路は厳顔殿が確保しておりますぞ!でも長くは保たないので急ぐのです!!」

「恩に着る!」

「恋!私も殿をさせてもらうぞ。紫苑、付き合ってくれるか?」

「もちろんよ。必ず防ぎきりましょう」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ふふ……非の打ち所の無い勝利ね。相変わらず聆は怪我をして帰ってきたようだけれど」

「今回は軽傷で済むと思たんやけどなぁ」

 

左太腿の打撲だけで済んだと思っていたら、地味に肋骨が折れていた。

 

「まぁでもその代わり黄蓋の手足の筋肉切り刻んで来たし、おあいこやろ」

「一思いに殺してやれよ……」

「殺したら呉の連中がブチギレて士気上がりそうやん」

 

本来の意図は別だがな。

 

「それで、その後の敵方は?」

「はい。呉軍は建業に引くようです。蜀も成都に」

「劉備は共に成都に移ることを提案したようですが、孫策がそれを拒否したと」

「そうでしょうね。孫策が戦う理由は母親の威光を守ることに他ならないから。例え確実に生き延びることができたとしても、建業を離れては意味がない。……ハァ。だから小覇王止まりなのよ。孫呉という鎖に繋がれた哀れな虎よ」

 

したり顔で言っているが、華琳も覇道に捕らわれているよな。口には出さないが。

 

「あと、言いにくいのですが……鳳雛に逃げられてしまいました」

「それは残念ね……。久々に羽目を外せると思ったのに」

「うわぁ……」

 

逃がしてやって正解だったな。小さい女の子が廃人になる様なんてメシマズ以外の何物でもない。それに、あわわ軍師をそんな風にしたとあっては、はわわ軍師との良好な関係は望めなくなるだろう。

 

「まぁ、手引きした者にもそれなりの理由があったのだろうし、不問とするわ……」

 

バレとるやないですかいややーーー。

 

「それに、もっと気になる失せ物も有るものね」

 

あ、それは私も思った。

 

「誰か、一刀はどこか知らない?」




    ■曹北
    ■張■
■■于■■■■■■■■
■華楽■■■■■李文■
■■■■■鑑■■■■■
夏夏■■■黄■■■許典


関張□□甘□周□□厳魏
趙馬□□□孫□□□呂□
黄馬□□□孫□□□□□
   □□孫□□

     ↓

  ■■■■■■
 ■■■■■■■■
■■■■△△△■于■
■曹夏△ 周 △文楽李
■夏関呂孫甘孫□□典許
張趙黄□□孫□□□魏■
■■馬馬□□□□□□厳
■華張□□□□□□
■    □
        ↘撤退


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第十三章三節その二 〈α〉

≫これ確実に馬岱に攫われたよな?
落ちのためにテキトーに付けた文だったなんて言えない……。
いっそのことここも分岐点にしてしまおうか!?(狂気)

さて、紆余曲折有りました(主にリアルで)がSEKIHEKI終わりましたね。まぁ全然切り良くないんですけど。
 というわけで、以前言っていたように他の話にも手をつけようと思うのですが何をしようか迷ってます。ハーメルンの東方読者怖い。


 「た、たいちょーが……行方不明………」

「す、すぐに捜索隊の準備を……!」

「そんなことより蜀に追撃隊や!一刀が交戦しとったんは蜀の奴やろ?」

「い、行かないと……(使命感)」

 

戦勝ムードも一転。軍議の場は半ばパニックとなった。特に凪なんかは虚ろな目でうわ言を言っている。

 

「落ち着きなさい」

「で、でも兄ちゃんが!」

「そーや!早よせんと!」

「狼狽えても何も好転しないわ。一刀を早く見つけたいと願うからこそ、落ち着いて対処をするのよ」

「ですが……蜀本国へ移送されては………」

「いや……誘拐とかは無いんとちゃう?」

「な、なら、まさか……」

「いや、そもそも何らかの形で蜀方が隊長をどうにかしたら名乗りがあるはずやろ『討ち取ったり!』とか『捕らえたり!』とか」

「そうですね〜。それが作法のようなものですし、討ち取った側としては味方を鼓舞し、相手の士気を削ぐことができる絶好の材料なのですよ〜」

 

孫呉の場合は逆上して強くなるが、あれは例外というものだ。

 

「必ずしもそうだとは限らないのではないか?嵬媼など何度も敵将を破っているが勝ち名乗りを聞いたことなど無いぞ?」

「私の場合、終わった頃には叫ぶ元気なんか無いんや。おかげさまでな」

「なら、今回の相手も疲れていた……?」

「それは無いでしょう。一刀殿が最後に確認されたのは馬岱との戦闘中だというではないですか……その馬岱は、その後も元気に戦闘していましたし」

「秘密裏に捕える必要が有ったとか……?」

「そんなん、捕らえてなにすんのん」

「拷問とか……?」

「無いわね」

「何で断言できるねん」

「男なんて拷問して何が楽しいの」

「…………」

「…………」

「…………」

「もしかして華琳さんも動転しとる?」

「私は冷静よ?」

 

ああ……これはパニクってはるわぁ………。

 

「華琳さんの趣味はさておきですねぇ、戦況がここまで進んでしまうともはや詰将棋……最短で建業を攻め、その後蜀に入るだけです。わざわざ拷問するまでもなく展開は読めちゃうんですよねー。揺さぶりや交渉の駒として使う方が何倍も効果的です。それが無いということは、一刀さんは敵に捕まっていないと見た方が自然でしょうねー」

「どないかして戦線離脱した可能性が一番高いっつーこっちゃ」

 

まぁ、それでも普通ならすぐ味方に発見されるはずだ。そこだけは腑に落ちない。

 ……まさかとは思うが、いいチャンスだっつって左慈ェが消しに来たとか無いよな………?いや、考えるのはやめとこう。もしそうなら手の施しようがないし、そうじゃなかったら時間と精神力の無駄だ。

 

「っつーワケで野営地近辺と赤壁近辺に少数の捜索部隊を出すんを提案する。逃げたは良えけど怪我とか疲れとかで動けんくなっとるとかあるかもしれんからな。万が一捕まっとるとか有れば……明日には斥候が情報持って帰ってくるやろ」

 

それに六課長も鳳雛を送りに蜀の野営地付近まで行ってるしな。

 

「そうですね。方針としてはそれで」

「なら、捜索部隊には私が出る」

「待ちなさい 凪」

「………」

「大戦から数刻も経たないうちに将軍格が出ては『不都合が起きた』と触れ回るようなものだわ」

「ならば……このまま座して待てと言うのですか!?」

「別に寝て待っt――暴力は良くないッ!」

 

いきなり殴りかかるか?普通……。そこは呆れたように苦笑いするとこだろ。

 

「……ならば同じ理由で正規の戦闘員も動かせない、か………」

「普段から何やってるのか分からねェ奴らの仕事になるな」

「その言い方は語弊が有るけど。まぁ、諜報員とか工作員とか……微妙なところで工兵ね。あと、鑑惺隊は出せる?」

「問題無く」

「くっ………隊長にはあれほどお世話になったというのに、……いざ事が起こると何もできないのか、私は」

「そんな気にすんなよ!たまたま凪と相性が悪い状況だってだけじゃんか。次は活躍できるって」

「………」

「………」

「………」

「………」

「たいちょーが居ったら『そもそも次が有ちゃダメだろ!』って言うねんやろな………」

 

 

 (え、え、何だこれ……。みんな何言ってんの…………。鳳雛探してたら集合遅れたとか言えない………)

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 赤壁の戦いから数日後。大敗を喫した呉は緊急の軍議を開いていた。

 

「――そう。曹操が建業に来るのね」

「はい……。長江沿岸の仮拠点に二泊した後、陸路にて進軍を開始したみたいですー」

「二日?」

「それほど消耗していましたか?」

「いや、確かに物資の補給も行われたようだが……。なんでも、北郷を吊るし上げていたらしい。精神的にも物理的にも」

「何かやったの?確か、北郷って夏侯姉妹に次ぐ魏の最古参よね?」

 

それも、鑑惺、楽進、李典、于禁というそこらの将軍に引けを取らない部隊長を従えているという。

 

「そうじゃのう。儂が見る限り、曹操にも対等な立場で話をしておった」

「理由までは伝わって来てないので何とも……」

「……そう言えば、北郷って途中で居なくなってたわよね」

「つまり、敗走したことへの処罰ですか!?」

「そこまで勝利に拘るか……」

「……問題なのは、こんな時に仲間を処罰しているような余裕があること」

「……計略が成っておれば兵の半数は削れたろうに………」

「実際は呂布が敵左翼を押さえ込んだ程度。苦戦は免れないだろう……。済まない。雪蓮」

「冥琳も祭も良くやってくれたわ。ただ、それより魏軍が上手だっただけ……悔しいけどね」

「あの曹操という輩、一体何物なのですか?まるでこちらの作戦を初めから見抜いていたかのような……」

「そうかも知れない……。そうとしか思えないところが多々有る。……でも、そんなことはあり得ないはずなのよ。今回の計画の全貌は、誰も知らなかったはずなのだから」

「あの……どういう事ですか?誰も知らないって、冥琳様も策の内容を知らなかったという………」

 

防がれこそしたものの、本隊と黄蓋と蜀が噛み合っていたはずだ。周泰はその巧妙さに半ば感動していたのだが……。

 

「冥琳と祭の喧嘩に打ち合わせが無かったことは知っているが……その他も?」

「……そもそも、私は"軍議で"喧嘩するつもりではなかった。別の機会に、打ち合わせのもとでするつもりだったわ。だが、祭殿から口論を仕掛けてきた。まず、そこから予想外」

「それに、儂も冥琳も風向きのことは知っておったが……二人共がそれを機に攻めようと考えていたのは偶然」

「じゃあ、祭が誰かに連れられて城を出ていったのも?」

「祭殿が脱出しやすいように兵を少なくしていたのは確かです。が、諸葛亮の手引きが入ったのは予想外だった」

「船の鎖も、言い出したのは蜀から来た小娘だしのう」

「だから私はその工作は知らなかった。諸葛亮も、私たちが本気で仲違いしたわけではないことを知らなかった」

 

ワザワザ蜀の使者が黄蓋は裏切っていないということを知らせに来たものだ。

 

「そんな運任せな作戦だったのですか……」

「もちろん、火計に至るまでの道筋はいくつも考えていたさ。誰がどう動いても対応できるように。……だから敢えて誰にも相談せず、祭殿や諸葛亮の動きに合わせていたの」

「儂らの喧嘩に始まり、魏への火計に至るまで……あらゆる分岐を含めたその全てが、すなわちこの策だったのじゃ」

「それで、誰も知らない策だと……」

「そう。誰も読めないこの策が、曹操と互角に戦うための切り札だった……」

「その綱渡りの計略の道筋を、曹操は全て見抜いていたというの……?」

 

そんなことは常人には不可能だ。天才と名高い孫策も、策の流れは読めなかったのだ。

 

「『計略とは、敵の死角から迫り、手の廻らぬ所を刺すこと。なら、目と手を増やせば……?』」

 

得体の知れぬ相手の力を実感し、黙り込む面々の中、黄蓋が口を開いた。

 

「それは………」

「炎の上がる船の上で、鑑惺が言ったことじゃ。……そもそも『数多に分岐するから見通せない』という考えが甘かったのじゃ」

「なんと言う……そんな力技が」

「もちろん……と言ってはなんじゃが、分岐を起こさせないような工作も見事なものだったがな。挑発を無視し、儂の話に尽く割り込み失速させた。鑑惺と曹操など儂の目の前で口論して見せたぞ。おかげで儂は鑑惺の下につけられることになった」

「?……口論と何か関係が?」

「祭殿は呉に古くから仕える人物。武官の中では最上だ。その威は、例え敵国であっても無視できるものではない。特に、覇道を示さなければならない曹操はな」

「裏切りを恐れて劣悪な扱いをしては、臆病者だと揶揄されるってことね」

「だが、だからと言って高い位を与えて好き勝手されるのも恐ろしい」

「曹操が儂を受け入れようとし、鑑惺がそれは危険だと反論する。そして、『不安ならお前が見張れ』と。曹操は覇王の余裕を見せながら、一方で儂を部隊長の更に下に押し込んだのじゃ。その後は鑑惺によって警邏と酒宴に貼り付けにされ、情報収集など全くできなかった。他愛も無い世間話ならたっぷり聞かされたがな」

「小癪な蛇が……」

「ほんっといけ好かないわよね!一騎討ちでも毒なんて使ってきたんでしょ?」

「勝つために手段を選ばない……それも強さの秘訣なんでしょうね………」

「いや、寧ろ奴は勝ち方を選びに選んで決めたのだろう」

「鎧に毒針を仕掛けていて、しかも開戦すぐに毒矢と煙幕をバラ撒いたのだろう?清々しいほどの外道ではないか」

「奴の戦いはそれはそれは抜かりのないものだった。……儂を"保護する"為に、な。思春、明命。敵を殺すことと捕えること、どちらが難しい?」

「捕える方、ですね……やっぱり」

「………」

「そうじゃ。捕えるためには、相手を殺さずに無力化させねばならん」

「常に加減を気にすることになるものね。……鑑惺はワザワザ麻痺毒を使った………」

「そうじゃ。死に至る毒を使っておれば今ごろ儂はこの世に居らん。それどころか、奴は"儂が回復できるよう"に調整しおった。……儂の傷を見ろ」

 

そう言われれば、黄蓋の傷は全身至るところに有るように見えたが実は急所はおろか腱や主要な血管まで避けられていることが見て取れた。

 

「……何故」

「曹操が欲したのだろう。奴は人間を篩にかけるつもりらしいからな」

「神にでもなったつもりか……?」

「案外そうかもね。覇王に蛇鬼に天の御使い……。今にも神竜の首くらい獲りそうだわ。……だから、負けるわけには行かない。建業は孫呉の聖地と言うべき場所。私たちが自らの力で生きる場所。他所から来た神様気取りに渡すわけにはいかないわ」

「そうだな。敵は強大だが、逃げることはあり得ない。戦い抜くのみ」

「お供致します。雪蓮様。……我が命、尽き果てるまで」

「蓮華、小蓮。あなた達も良いわね?」

「当たり前でしょ!あのちんちくりんに一発お見舞いしてやるんだから!」

「その通りです。我らが受けた屈辱、必ず曹操に思い知らせましょう」

「老兵の浅知恵も役に立ててくれ」

「ありがとう。……ならばみんなの命、私が預からせてもらうわ」




魏ルートの呉はホント痛々しいです。呉ルートはもっと痛々しいです。幸せなのは蜀ルートだけです。


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第十三章三節その三 〈α〉

 お久しぶりです。前々から言っていたように他の作品にも手を出していたため遅くなりました。
 東方東方と言っていたのですが、そそわの方に、私が書きたかったことが書いてある作品群……というか作者様が居たため急遽サモンナイト4に決めました。
 この作品は原作プレイ者向けなので、逆にサモンナイトの方は未プレイの方向けに説明多め……という体でやってます。実際に未プレイの人が納得できる説明かは尻ません。

交代
交代読み
交代読み積み
交代読み積み読みアンコール
交代読み積み読みアンコール読みぶっぱ

ヤバイ、誤字多い……


 SEKIHEKIから数日。春蘭と季衣と霞、そして私は先遣隊として建業への道を進んでいる。建業攻めにあたっての、布陣予定地付近の偵察と露払いが任務だ。常識的に考えて、肋骨逝っちゃってるのに先遣隊などおかしな話だが……華琳曰く『貴女は肋骨一本くらいで音を上げるような娘じゃないわ』だそうだ。実際そんなに気にならないから慣れって凄い。

 

「やはり陸路は良いな!二本の足でしっかりと大地を踏みしめて歩けるというのは良い!とても良いものだ!」

「言うて馬に跨ごうとるんやけどな」

「揚げ足を取るな!」

「でもほんとに、ゆらゆらしない地面がこんなに良いものだったなんて、初めて知りました」

「なにおぅ!霞だって――」

「ウチ、船の上平気やもん。聆もやんな」

「正味 春蘭さんほどの運動能力が有って船酔いするんが解らん」

 

確か、乗り物酔いの原理は完全には解明されてなかったと思うけど、学校の遠足とかで乗り物酔いしてる奴って運動できない鈍臭い奴ばかりなイメージがある。

 

「それにゆらゆら揺れるなら馬の上かて似たようなもんやろ」

「えー!馬は『ずんずんずんずん』ってしますけど船は『もわ〜〜〜っっ』って感じじゃないですか。全然違いますよ」

「そうだぞ。今 季衣が良いこと言った!」

「えへへ〜」

「いや、分からんねんけど」

「言わんとしとることは分からんでもない」

「な!?聆の裏切り者〜!」

「ぬわっ!?馬の上から抱きつくなや!」

「鑑惺様、斥候からの連絡です」

「お、ご苦労」

「呉はこの先の平野に布陣しています。将軍格の旗は全てたっていました」

 

そこで本隊と合流したかったのだが……先に抑えられていたか。

 

「ふふん。総力戦か。楽しみだな」

「籠城してくるかと思ったけど……そこ過ぎれば建業やし、やっぱり城を見せることすら嫌やねんやろな」

「住民に配慮したっちゅーこともあるんちゃうのん?」

「どちらにせよ、孫策と剣を交えるのが待ち遠しいぞ」

 

……私の記憶では、このときの春蘭はもう少し大人しかったはずなんだが。……そうか。黄蓋が死んでないからテンション下がってないのか。

 

「楽しみやからって暴発しなや」

「そ、そのくらいのことは分かっているぞ!……だが、相手が一当てしに来たら相手をしても良いだろう?」

「流石に私たちだけじゃ相手しきれませんよー……」

「突撃されんよーにだまくらかさなな」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「――そう。魏の第一陣がこの先に……」

 

当の呉軍にも、魏軍接近の報は届いた。

 

「はっ。こちらを発見したのか、進軍を停止しており その場で後続と合流する気のようです」

「この数の相手なら、合流される前に痛撃を与えられるわね」

「……相手の将は?」

「夏侯惇と許緒です」

「夏侯惇が?……やめておきましょう」

「ふむ……確かに、よく考えるべきだな」

「どうしたのですか?姉様。それに冥琳も」

「夏侯惇のような猪を、先遣隊に使ってくることが不自然なのよ。変に先走られたら困るもの」

「そこまで愚かでs――ああ、愚かでしたね」

 

盗賊を追って他領に入ってしまった逸話は有名だ。

 

「そうだ。夏侯惇が本隊から離れる場合は常に誰か抑えの効く将がつけられる。夏侯淵やら張遼やらのな」

「その役目が許緒なのではないのか?」

「いや、許緒は夏侯惇の弟子のようなものじゃ。あやつ本人よりは常識的だが、突撃至高主義であることに変わりはない」

「伏兵の可能性が?」

「ここまで来て曹操がそういう手を使うかは疑問なんだけどね」

「じゃが、魏にも曹操の命令の外を動ける存在が、少数ながら居る」

「元々総力戦のつもりだったんだもの。余計なことをして恥を晒したくないわ」

「……雪蓮様」

「何、明命」

「先程新しく放った偵察兵が、夏侯惇の周囲に潜む小隊を発見したと」

「敵の斥候ではないの?」

「斥候にしては規模が大きいと。旗は降ろされていたので確実ではないですが、おそらく張遼と……鑑惺だとのこと」

「なかなか手堅い面子だな……張遼の機動力に鑑惺の奇術。雪蓮の見立ては正しかったようね」

「ですが……鑑惺の歴戦を鑑みるに、策の隠蔽は相当上手いはず。少し偵察兵を出したくらいで見破れるものでしょうか」

「……つまり?」

「いえ、上手くは言えないのですが、違和感というか……本当に策なのか、と」

「……本当は攻められれば負けるから、策が有るように見せかけて 突撃されるのを防ごうとしてるってこと?」

「策を読むことを読んでおるということか」

「確か、定軍山の戦いではそうやって黄忠と馬超を破ったのよね」

「そうなると、攻めてしまうのが得策ですね」

「だが……伏兵を読むことを読むことを読むことを読んでいるのかもしれん」

「何を言っておるのだお主は」

「つまり、相手は『私達が『相手が『私達が『伏兵がいる』と知る』と予測する』と予測する』と読んで、本当にもっと大量の兵を別に隠しているかもしれないということよ」

「????」

「???」

「……おかしい。私自身何を言っているのか分からなくなってきた」

「『強がってるけど本当は何もないんでしょ?』って攻めた私たちを『いや、実はもっと大量に居ったんですわ』って倒そうとしてるってことでしょ?」

「そ、そうだな。うん、そうだ」

「あぁ、なるほど」

「でも、それはそれで解りかねます。元より全ての伏兵を我々に見つからないように隠しておけばいいのでは?」

「いや、そうでもない。何の情報も持っていなければ『何か有るかもしれない』と思って攻めるだろう。だが、疑いの余地の有る伏兵を見ることによって『策は見破った』と勘違いさせられ、油断してしまう」

「な、なるほど……」

「じゃが、それを言うなら『伏兵読み読み読み読み読み読み』も有るかもしれんぞ?」

「あーーー!もうっ!だから言ってるじゃない!変な賭けをするより、ここで待ち構えましょうって」

「あ、ああ。そうだな。そうしよう」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……よくもまあ、こんなところに居て無事だったわね。すぐに引き返せば良かったものを」

 

本隊と合流して真っ先に言われた一言がこれ。引き返すというのは盲点だった。私もまだまだだな。

 

「こんな小勢で敵の全戦力のすぐ近くに留まるなんて……。聆、霞!あんたたち何やってたのよ!」

「私には聞かないのか?」

「あんたに聞いても何もならないでしょ」

「なにを!バカにするなよ?」

「なら何なのよ。どんな考えが有ってこんなことをしたの?」

「やつらは魏の精兵の威に震え上がって動けなかったのだ!」

「しね。霞、何をしたの?」

「ウチらは散開しとっただけやで?」

「あとは相手方が勝手に勘違いしてくれるやろってな。何か私の名前やたら広まっとるらしいし」

 

諸葛亮やら馬超やら、私の命を狙ってる奴はけっこう居るからな。黄蓋の件で更に増えたはずだ。

 

「悪名やけどな」

「この際どっちでも良えんや!」

「決戦前に何をしているのよ貴女たちは……」

「いや〜、でも、なかなか相手の精神力削れたと思うで?」

「はぁ。もう、良いわ。自分の持ち場に付きなさい。禀、陣は整った?」

「はい。当初の予定とは異なりますが、修正を加えて問題無く完了しました。いつでも出られます」

「なら、こちらが寄せ手なのだし、少し挨拶してくるわ」

「は。お気をつけて!」

 

そう言って最前線の更に先まで向かう華琳。こういうのは、ほんとうに尊敬できる。舌戦は、相手のすぐ目の前に立つ危険はもちろんのこと、言い負けないだけの頭の良さと、何より声の覇気が大切だ。私は頭が冴えてくると声のトーンが下がってしまう癖があるからなかなか真似できない。

 

 

「……こうして顔を合わせるのは久しいわね」

「そうね。赤壁では、貴女ったら私の顔を見た途端逃げ帰ってしまったんですもの。話をするのは反董卓連合以来かしら?」

「そういえば官渡じゃ夏侯惇にしか会っていなかったわね……。できれば、貴女とは一生顔をあわせたくなかったんだけど」

「あら、ひどいことを言うのね。その官渡でこちらが多く貸しすぎた分を返してもらいに来ただけなのに」

「おかげで復権できたのは有り難いけど、その礼がこの江東全てというのは、いくらなんでも暴利すぎない?」

「この私が治めてあげようというのだから、そちらにとっては得の上乗せだとおもうのだけれど」

「残念ながら、そういうわけにはいかないの。この江東は我が孫呉の父祖より伝わる大事な聖地。命惜しさに差し出したとなれば、我が母孫堅、太祖孫武に合わせる顔がないわ」

「思ったとおり、孫呉は危険ね。そのような、血に頼った在り方が、親から位を継いだだけの無能な為政者を産み出し、国を腐らせる。やはり、私が変えなければ本当の平安は無いのね」

「そんな暴論を掲げて大陸中に戦火を広げることが、本当の大義なのかしら?北方を燃やし、涼州を滅ぼし、その欲は際限無く広がるばかり」

「おかしなことを言うわね。雑草だらけの畑は健全とは言えないでしょう?私は害悪を滅ぼしてまわっているのよ。現に貴女が引き合いに出した北方諸州も西涼も、以前より安全で文化的で、物も人も豊かになっているわ」

「気に入らないわね。貴女は人を見下すことしかしていない。人とともに歩くことができないのね」

「人に埋れて人を救うことができるのなら、ぜひそれを示してもらいたいわね」

「もちろんそのつもりよ。我が勇気、我が智謀、我が誇りの全てを賭けて、貴女たちを退けて見せるわ」

「ならば、我が曹魏も全力を以てそれに応えましょう。貴女が生かすべき人間なのか滅ぼすべき人間なのか、見極めさせてもらうわ」

 

「孫呉の勇者達よ!この戦、呉の命運を左右する一大決戦となる!我らのこの手で曹魏を打ち破り、この大陸から戦の源を葬り去るのだ!」

「曹魏の勇者達よ!この戦、魏の覇業を大きく躍進させる聖戦である!その力と命を以て、我らの覇を天に謳い上げよ!」

「「全軍!」」

「「突撃ッ!!」」




呉のキャラクターって口調の使い分けが複雑で書きにくいです。
基本三種類の喋り方使ってくるので。


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第十三章三節戦闘パート 〈α〉

完全に氣ゲーになってまいりました。
ちなみに、※――――※は少し過去の話を書くときの目印です。

あと、関係ないですが作者は最近階段登るのが辛いです。息切れがすごい。


 「第一戦域、突破された模様!」

「戦域の移行状況を確認しなさい!あと、後衛が暴発しないように釘を指すのも忘れないでちょうだい」

「張遼様より報告!『敵軍背後より増援と見られる集団が接近』とのこと!」

「どんなに援軍が来ようとこちらの方が多いんです。そのことを各隊によく言い聞かせてくださいね〜」

「伝令!『敵左右両翼に不審な動き有り。甘寧、周泰の横撃に注意されたし』」

「どこからの伝令かまず言いなさいよこのポンコツ野朗!」

「郭嘉様です!」

「秋蘭に『孤立しないように注意せよ』と伝えなさい。そのあとお前は最前線に突撃して死んできなさい!」

「ブヒぃ!ありがとうございます!」

 

 戦場で、ある意味 最も混沌とした場所…それが本陣。

前線は前線でデンジャーゾーンだが、『とにかく敵を斬ればいい』と割り切ってしまうこともできる。対して本陣は戦場のありとあらゆるところから情報が集まり、また、それに対する指示が出される場だ。

 この情報の扱いが非常に難しい。まず、その量がとんでもなく多い上、真偽も判断せねばならない。敵によって虚言が流されることもあれば単なる勘違いのこともある。それに、その情報がいつ発せられたものか……つまり、タイムラグの問題も有る。

 それをサクサク裁いているのだから、軍師というのは侮れない存在だ。桂花なんか普段の残念っぷりがまるで嘘のように活躍している。

 

 逆に私の中で株が下がっているのが……

 

「華琳さんはさっきから嬉しそーな顔して……」

 

さっきからニタニタ笑ってるばかりで働いてない人が一人。ここまで本陣に近いところで構えるのは初めてなんだが、いつもこんな感じなのか?

 

「あら、悪い?呉の民が思い描いていた以上に強かなのが嬉しいのよ。……見なさい」

 

華琳の指さす先……今まさに両軍が刃を交える最前線。

 そこから、何やらオーラ的なものが立ち昇っている。……またか。

 

「氣……」

「そう。氣。本来、視認できるほど強力な氣なんて極めて限られた者しか発することはできない」

「呉の兵はそれを発しとるな」

「そう。すべての兵が死を覚悟し、戦うことを決意した結果、魂魄が共鳴した。『孫呉』が一つの存在として氣を産み出しているのよ」

「残念ながらアレって孫家のための想いの力やからなぁ。華琳さんが呉を手に入れてもアレは手に入らんで」

「それなら孫家を手に入れれば良いだけの話よ」

 

あんなものを見ても余裕で勝つ気なのがなんとも華琳らしい。

まぁ私も、負けるなどとは微塵も思っていないがな。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 圧倒的物量を跳ね返さんとする想いの力。それはなにも前線に限った話ではなく、ここ、孫呉本陣も同じ。強く、深く、叫びたくなるような力で満たされている。

 

「すごいですねぇ……」

「ああ……」

 

武や氣の力は認識している。が、それは然るべき策の中でこそ力を持つものであり、それら単体では何の意味もない。――それがこれまでの周瑜の持論だ。

 だが、この戦はどうか。周瑜が言ったことはたったの一つ。

『曹操を倒せ』

 

「これが、我が孫呉の力か……」

 

兵力が無くても、策が無くても、我らにはこの力が有る。

勝てる。

 敵はあろうことか誘引計を実行しようとしている。普段は前衛に居る将を後方に控えさせ、前線に夏侯淵と張遼。敵の進行に合わせて引きながら戦い、息切れを起こしたところを一気に叩いて討ち取る策。

 

「だが、それは失策」

 

 ただの突撃ならそれで対処できるだろう。だが、今の孫呉にそれは通用しない。息切れなんて起こさない。孫呉の兵は最初から曹操の首を取ることしか考えていない。よって、どんなに走らされようが粘られようが、そんなことは意識すらしていない。

 

 曹魏は無駄に兵を減らし、本陣に敵を近づけ、そのまま喰い破られて潰える。

 

「あと、少しだ」

 

期待が確信に変わろうとしたその時。

 

孫呉の雄叫びは一瞬にして掻き消された。

 

  ※――――――――――――――――――――――――――※

 

 「――やはり気になるのが相手の士気ですね……」

 

部隊の展開が終わってすぐ。孫呉との決戦を前に軽い軍議が開かれた。もちろん連絡は行われるが、聆や桂花、華琳もいないほとんど打ち合わせというか最終確認のようなものだ。

 

「敵はおそらく、いや、確実に直線的な突撃をしてくるでしょう。戦術面で有利な城を出てきたということは、重要なのは勝ち負けではなく誇り。孫策は舌戦の後本陣に下がることすらしないはず」

「なら、問題ないんじゃないか?今やってるのは誘引計の布陣だろ?」

 

相手が籠城してくるというのが大半の予想だったけど、今みたいに野戦になることも考えてなかったわけじゃない。『相手を誘い込んで握りつぶす』っていう作戦は元から考えてあったもので、現に何の戸惑いも無く布陣が終わっている。

 

「確かに、大まかに言えばそうなのですが〜、問題はさっき禀ちゃんが言った通り相手の士気が高すぎることなのですよー……」

「今の呉は強気弱気っていう次元じゃなくて『死んでも敵を倒す』って感じですからねー。強いですよー」

「そのまま押し切られるかもしれないってことか。じゃあいっそこっちも突撃……う〜ん、難しいかなぁ」

 

正面衝突なんて、それこそ向こうが望んでる展開に違いない。それに、下手をするとこっちの士気がただ下がりになる。一番辛いのは攻められることじゃなくて攻め切れないことだ。

 

「早い段階で全軍を密集させちゃって、こちらも孫策のみに的を絞らせますか?」

「あまり使いたくない手ですが〜、それも念頭に置いておくべきなのですよ〜」

 

背水の陣、か。

……そっか。向こうはもう後が無いから、不利だろうが有利だろうが関係なくただ全力を出してくるんだ。

 覚悟の力。

こっちの世界に来てから、想いとか信念とか、そういうの心がすごく重要なんだってことを見てきた。

……だったら、

 

「だったら、相手の頭を真っ白にしてやれば勝てるんじゃないか……?」

「……?」

「ほら、みんな、相手の士気が高いのは仕方ないと思って話してるだろ?でも、相手の士気が高い限りこっちが苦戦するのは決まってる」

「…………」

「は、はぁ……」

「それはそうでしょう。相手の士気が高いのも、それが孫呉を攻める限り避けられないことなのも事実なのですから」

「孫呉を守るっていう意思がそうさせるからだね。でも、想いってのは、つまり頭の働きだろ?それでさっきの話なんだけど、相手の脳味噌止めちゃえば良いんじゃないかなって」

「それはつまり……危ないお薬的なものを………?」

「いや、そうじゃなくてさ。……びっくりさせたらどうかな」

「それは……いや、確かに予想外のことが突然起こればその一瞬は思考が止まりますが………」

「かと言って何をどうすれば向こうが驚くか分からないのですよ〜。奇策というのは、相手が予想していないところを突くものなのです。まず相手が"何の予想も立てていない"なら、"予想の外を行く"ことはできず、驚かせられないのですよー」

「その点で孫呉はどうしようもないんですよねー。相手のことなんて知るかー!俺たちは曹操を倒すんだー!って思ってるでしょうし」

「いや、大丈夫。俺が思いついた」

「………」

「それは……」

「ぜひ聞かせてもらいたいですね」

「うん。もとから隠す気もないしな。難しく考えるからダメなんだ。……単純な相手には単純な方法を使えば良いんだよ――」




正直に言いますと、
SEKIHEKI書き終わる直前までこの戦いがあることすっかり忘れてたんですよね。
だからちょっと因果がおかしくなってるかも。


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第十三章三節戦闘パートRound2 〈α〉

小説での戦術って消耗品だと思うんですよね。一度使った展開は立場逆転させない限りは次使えませんから。何が言いたいかというと、
 つい最近まで存在を忘れてた戦闘を書くの超ツラい。
今回は後で修正入ります多分。入らないかもしれません。

関係ないですが、原作の設定使えんのになんでワザワザそのタイトルで映画作るのか。


 鋼がぶつかり合う音が近付いて来る。……まだ。………あと少し。もうすぐ。

………今!

 

「XAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

「「XAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」」

「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」」」

 

やり慣れた号令。だが、今回は鑑惺隊だけに留まらず全軍に広がり、天地を揺るがさんばかりの轟音となる。鼓膜が破れた奴も結構いるんじゃないだろうか。

 そして、これが『号令』であるからには、当然それに従った行動が起こされる。

 

「斬山刀……斬山斬ッ!!!」

 

官渡の頃より更に太く長く鮮烈な光を放つ刃が、地面ごと敵を吹き飛ばす。

そして、同じような現象が他の地点でも起こった。春蘭、季衣、流琉、凪、かゆうま、猪々子……魏の誇る人外馬鹿力武将たちがありったけの力と氣を込めて反撃の一閃を放ったのだ。

 後衛を、中央が下がった皿のような形(極めて浅い鶴翼陣)に布陣させ、将は一撃に備えて精神集中。各隊がほぼ同じタイミングで接敵するように前衛が調整。更に咆哮によって瞬間的に魏軍の気勢を高める。そして、一気に開放。

 戦線は全ての意味でひっくり返った。

 

「次!弓兵隊!!」

「火桶車隊にも合図出しちゃってくださ〜い」

 

本陣に赤と青それぞれ一本の旗が立てられた。

 ザザザっと空気の擦れる音がして、敵陣に矢の雨が振り注ぐ。

そして、未だ混乱したままの前線に、更なる一撃が加えられた。『火桶車』……火桶と言っても、日本の火桶のような生易しい物じゃない。……と言うより、完全に別物。馬用の桶に油を注いだものを衝車に乗せ、敵にぶつかる手前で火種を投げ入れ炎上させる急造兵器。火を噴く油を大量にぶっかける変態作戦だ。

 元々この進軍は攻城戦を想定していたために、矢と火矢の燃料の油と衝車は豊富に用意してあった。それを一気に消費してしまう暴挙。ただでさえ物資豊かな魏軍の発狂ブッパの威力は……語るまでも無いだろう。

 流石に全軍壊滅とは行かなかったが、前線の主導権は完全に取った。

 

「ただ、火桶車は完全に見掛け倒しやけどな」

 

火桶車一つにつき敵兵十人も巻き込めればラッキーな程度だ。

 

「今はその見かけが重要なのでしょう?一刀もなかなか面白いことを思いつくのね。単純な衝撃によって敵の士気を下げるなんて」

「精神的にキマっとる相手やし効果覿面やな」

 

……爆音と衝撃で敵をビビらせると同時に物理的に跳ね返して敵の進軍を止め、生物が本能的に恐れる炎というものをぶっかけ、大量の矢によって敵の数自体を減らす。普通は伏兵や策を恐れてこんな大量消費はできないが……定石を知らない一刀だから思いついたことなのだろう。曰く、『相手は突撃に命掛けてるだろうし、伏兵は無いだろ』とのこと。

ほとんど相手を畜生扱いしているようにも感じたが……一刀に他意は無いんだろうなぁ。

 

「ほんで流石にこんだけ間引いたら華琳さんの言う『共鳴』っちゅーんも切れかけみたいやな」

「大量の凡夫の魂が高密度で同調することによって一つの天才の魂の代用をするようなものだもの。こうなってしまえば我が曹魏の敵ではないわ」

「んだら、その人数が前線に補充されたらキツいか」

「敵を殺し続けない限りは」

「それは不味いなぁ」

「ええ。だから、牙の折れた哀れな虎を躾けなおしてあげましょう。素早く、とびきり派手にね」

 

そう言って軽くウィンクした。……なるほど、アレをご所望か。

 

「全軍」

 

白馬の上の華琳は天高く鎌を掲げ、そして、振り下ろした。

 

「殲滅」

 

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」

 

各将、そしてその最精鋭部隊を筆頭に、今度は魏が全軍突撃を仕掛ける。舌戦の最後に出る、言葉だけの『全軍、突撃』ではない。ガチの全凸だ。

 そう。全凸。つまり本陣の私たちも出るということ。

 

「さぁ、孫策の顔でも見に行くとしましょうか。行くわよ、聆」

「アハハハハハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ!!!!!」

 

久しぶりの勢い任せの突撃だ。敵軍には大いに慄いてもらおう。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「……ウソ、でしょ…………」

 

兵が、融けた。……この数十秒の出来事は、孫策にそう錯覚させるのに十分だった。

 優勢が一気にひっくり返り、今度は孫呉が押しつぶされようとしている。

 

「あ、あはは……やっぱり、そう上手くはいかないか」

 

負ける予感はしていた。相手が何か仕掛けているのもなんとなく感じていた。だが、物量が圧倒的な魏と戦うには、突撃するより他に無かった。……それに、『勝てるかもしれない』とほんの少し前までは思っていたのだ。

 

「姉様!」

「蓮華!?」

「ああ!無事でしたか!!」

「ええ。私は、ね。……他のところはどう?」

「前線は、どこも……。ですが!両翼の突撃は明命たちが駆けつけて何とか耐えています。それに、中央も亞莎と穏が上がってきています!まだ負けてはいません!!もう一度巻き返しを……」

「そうね。ここからまた反撃……と行きたいところだけど、ちょっと厄介なのが来たみたい」

「厄介……?」

 

首を傾げる孫権に、孫策は前方を指し示す。そこには、魏を示す髑髏の兜が迫っていた。

 

「……!もうこんなところまで!?」

「それにアレ、鑑惺よ」

「死にたい奴はそこでじっとしとれェ!生きたい奴は道開けなァ!!ヒャッハーーーッッ!!!」

 

二人の目に映ったのは、小山のような水牛に跨り、狂ったように笑いながら両手に持った長物を振り回すバケモノ。

 

「あら……祭の話では相当知的な将だったはずなんだけど………?」

「と、とにかく、アレの相手は私が引き受けます!姉様は――」

「私の相手をしてもらうわ。いいでしょ?孫策」

「曹操……!!」

「そんな……」

「そう悲観的な顔をしなくてもいいわよ 孫権。私達が早く来すぎただけだから。兵が着くのはもう少し後よ。……ほんの少しだけれど」

「そんな余裕ぶってていいの?ここでこっちが勝ったら、せっかくひっくり返した戦況が台無しよ?」

「ひっくりかえした?違うわね。在るべき状況に戻っただけよ。兵も馬も将も武器も食糧もこちらの方が多い。そしてそれらのどれもが貴女たちのものより上質。これで負けろという方が難しいと思わない?」

「そんな 物量に頼った侵略者に、私たちは屈したりしない」

「物が有るのはそれを作ろうとする人の思いがあるからよ。それが分からない貴女ではないでしょう?貴女は私に反発する大義が欲しいだけ。だから浅はかな言葉を並べ立てる」

「大義は既に有る!孫呉の聖地たる建業を、曹魏の手から守るという大義が!!」

「私は孫策と話しているのよ 孫権。それに、孫家のために民を死兵に変えるのが大儀?」

「華琳さんェ……素早く倒すんちゃうのん?どーせこーゆー手合は一発ぶん殴らな解らんて」

「そうね。少し喋りすぎたわね。……さぁ、孫策」

「……言われずとも」

「じゃァ私はそこの小娘とやなぁ。ちょっと遊ぼか。孫権」

「くっ、……そのにやけ面、必ず血の海に沈めてやる!」




陣形イメージ

    □呉□
    □□□ 鋒矢+遊撃
    □□□
 □□ □□□ □□
  □ □□□ □
     □
        ⇧風向き(弱)

   ◆   ◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
■■ ◆◆◆◆◆ ■■
 ■■■◆◆◆■■■
  ■■■■■■■
   ■■魏■■ 鶴翼+緩衝


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第十三章三節戦闘パートRound3〜四節 〈α〉

また言い訳がましい文章になって大苦戦しました。しかもネタが無い。辛い。

そして唐突にストパン2次を書きたくなるものの兵器とかに詳しくないので断念しました。


 「ハァッッ!!!」

「くぅっ!」

 

激しくぶつかり合う長剣と大鎌。魏、呉両軍の大将の討ち合いは曹操優位で進んでいた。

 

「――なるほど……最初に馬を狙ったのはこういうワケだったのね」

 

 大鎌という武器は本来非常に扱い難い。確かに、ちゃんと当たれば効果は高いが、取り回しがかなり悪い。しかも、相手を内側に引っ掛けなければ切れないくせに、その間合いに入れば使い手はノーガードという。専ら相手が無抵抗な場合専門の、処刑用武器だ。曹操の『絶』は両刃で、刃の逆側に錐を装備するなど改良点も見られるが、刃と柄の長さがほぼ同じ 完全な『く』の字型をしており、むしろ扱いは更に難しくなっている。

 ならば曹操はそれを素速く振り回せる技能を持ち合わせているのかと言えば、そうではない。無論、常人にはとても真似できない高みには在るが、同程度に他の武器を極めた者にとっては十分に遅いと言える。

 それを補うのは、手数が多く近い間合いに対応できる戦闘技術、徒手だ。しかし徒手の技術を活かすには当然ながら正しい足運びが必要不可欠で、馬上では十全の力を発揮できない。

 曹操は、挨拶代わりの初檄をスカし、孫策の騎馬の腹を掻っ捌いたのだった。

 

「覇王が随分忙しい戦いをするのね」

 

ステップを多様し、武器と一体となって乱舞する。小柄ながら大型の武器を使う者の、一つの究極型とも言えるファイトスタイルだ。

 

「そういう貴女は小覇王の名に相応しい戦いね。……何を焦っているの?それとも、集中できていないのかしら?」

「……チッ」

 

両方とも図星なものだから思わず舌打ちが出る。

 まず、この戦いは"一騎討ちを宣言"したものではない。曹操が『相手をしてもらうわ』と言ったのみ。だから たとえあとから来た魏の援軍に袋叩きにされようともなんら文句は言えない。

 さらに問題なのが孫権のこと。戦況は鑑惺に押されている……と言うよりもはや玩ばれていると表現する方が正しい。近い間合いでは騎馬(牛)の地力の差がモロに出て、かと言って間合いを取れば鑑惺の独壇場。そも、黄蓋に手加減して勝てる腕が有りながら孫権を倒せないハズがない。

 『私が死んだら、蓮華と小蓮が孫呉を継ぐ』それは孫策が常々言っていることであり、言動の裏付けだった。『自分の代わりは居て、自分が死んでも大丈夫だ』と言い聞かせる"呪文"だ。

 だから意識的にも無意識的にも安心して"狂う"ことができた。

 だが、その孫権の存在が脅かされている。これで十全の力を出せという方が無理な話だ。

 

「……分かってやってるの………?」

 

最悪の結果だが、いっそ、殺してくれれば荒れ狂うこともできるのに。

 

「さあ?何のことかしら」

 

曹操は白々しく答えた。

 

 事実 曹操は、孫権が言ったようなことは微塵も考えていなかった。『一騎討ち』と言わなかったのは会話の流れでたまたまそうなっただけ。鑑惺が孫権にトドメを刺さないのは、鑑惺がカウンター中心の戦いを好むため、同じく慎重な孫権には、イマイチ決め手となる隙がないと感じているからだ。

 だが、だからと言って孫策の不利が覆るワケでもない。

 

「クソッ……」

「ちゃんと全力を出しなさい。でないとワザワザ私自ら突出した意味が無いじゃない」

「そんなのそっちの勝手でしょっ!」

「雪蓮様〜〜〜!!!」

「お待たせしてしまい申し訳有りません!」

「っ! 穏、亞莎!ここはいいわ!貴女たちは蓮華の援護に!」

「「御意に!」」

 

普段は軍師としてその才を揮う二人だが、それぞれ九節棍と暗器の心得がある。三人で連携すれば、もしかしたらなんとかなるかもしれない。

 

「軍師まで前に出てくるなんて、呉はなかなか面白いわねぇ」

「そうやって余裕で居られるのもここまで、よ!」

「なっ!?」

 

それまでズルズルと後退っていた孫策が、曹操の掌底を受け止め、逆にそのまま踏み込んだ。急激な変化に攻撃のリズムを崩した曹操は跳び下がって距離を取る。

 

「……無茶するわね。あの受け方じゃぁ結構痛いと思うのだけれど?」

「そうね。あとちょっとズレてたら骨が折れてたかも。……でも、関係ないわ」

「そう……」

 

 怪我を気にしない相手は厄介極まりない。それは鑑惺を見てよく知っていることだ。腹を貫かれても組み付く。腕が折れても殴りかかる。あえて鎧の無いところで打撃を受ける。……普通なら怪我と痛みを恐れてしない行動を平然とやってのけるのだ。しかも孫策には自分が死んででも道連れにしようという気配もある。

 本来なら、相手の刃より先に自分の刃を届ければ攻撃は止まる。だが、この相手はこちらの攻撃に当たってでも首を狙うだろう。

 

(なるほど。孫家のためなら自分はどうなっても良いと……。コレが孫策の強みか……)

 

相手が常に攻撃してくるのだから、自分は常に防御しなければならない。自分を捨てて勝ちを取りにくる孫策に対し、曹操はまだ命を捨てられず、自らの身を守るしかない。

 

「――でも、やっぱり小覇王ね」

「何がよ」

「そうやって必死に藻掻いても、結局は勝てない……そういう星に産まれたところ、よ」

「何を――」

「雪蓮!」

「冥琳か!……それに兵も!」

「時間切れね。孫策」

「何を言っているの。時間切れなのは貴女――」

「退くぞ」

「え……?」

「明命と思春の隊は既に破られ敗走している。今、二人には退路を確保するのに専念してもらっている状況だ。他の隊も削り尽くされ、もうすぐそこまで将が迫っている。夏侯淵、張遼の隊は迂回して建業に到達しようとしている。もはや万が一にも勝ちは無い。私の後ろに居るのは、殿のための兵だ」

「な、…………なら、……貴女は蓮華を連れて逃げてちょうだい。建業を失って……もはや母様に合わせる顔も無い。私は、ここで戦って、せめて誇りを持って死ぬわ」

「私を道連れにしようとしてるのなら無駄よ。こうなったからにはさっさと退がって他の娘たちに任せるつもりだもの。それに、殺してもあげない。こっちには生け捕りの達人もいることだしね」

「曹操……っ!!」

「誇りとは、生き様を魅せるから尊いのよ。名誉の死とは、曲げられぬ信念を貫いた結果の死よ。貴女は上手く行かなかったからヤケになってるだけじゃない。そんな無様な死を見せられても溜息しか出ないのよ」

「私に……また耐えろと言うの?袁術のときのように屈辱にまみれて……っ!」

「貴女がどんな屈辱を受けたのかは知らないけれど……そうね、耐えられないと言うのなら、何も考えられないようにしてあげても良いわよ?」

「貴様ッ……」

「で、どうするの?できれば降伏してくれるとありがたいのだけれど」

「…………………冥琳、退くわよ」

「………ああ」

「そう。早くどこへなりとも消えなさい。……それと、途中で引き返して来ないでちょうだいね。動転して建業に失火してしまうかもしれないから」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「良かったのですか?孫策を逃がして」

 

呉の兵は逃げ、魏はそれに対し追撃隊を出すことは無かった。ちゃんと逃げたのか確認するために小集団に後をつけさせはしたが、それだけだ。

 

「それに将も全然減らせてないじゃんかー。アイツらそのまま蜀に入るみたいだし……あたいには分かんねぇなー」

「そうだぞ曹操。少数の猛将によって気勢が覆るのは今回の作戦で示されたことだ。蜀は無駄に厄介な軍になるぞ」

「そぅですねぇ、まぁ〜、猪々子ちゃんとかゆうまさんの言うことももっともなのですが〜」

「この場合 逃げてもらうしかなかったんですよねー」

「? ……何故ですか?既にこちらの勝利は決まっていたようなものでしたが……」

「そう思うのも最もだよ 凪。でも、孫呉は今まで戦った軍とはちょっと違うんだ」

「氣に詳しい貴女なら、序盤の相手の状態を見て分かるでしょうけれど、孫呉は仲間同士との共感に優れているわ。特に孫策を中心として、ね。その孫策が、『たとえ既に負けていても死ぬまで戦う』という姿勢を見せたらどうなるかしら?」

「……雑兵も、それに倣い……ますね」

「兵どころか本陣の更に後に控える非戦闘用員まで相手にしなくちゃならなかったかもしれないわ。そうなったら、こちらの被害も無駄に大きくなるし、軍を皆殺しにされた呉の民……いえ、噂を聞いた蜀の民も我が魏の本国の民にも最悪の影響を出すわ。そうなれば大陸平定はもはや絶望的よ」

「そんで、実際に孫策が死んだら"死ぬまで闘う"ことの最たる証明になるしな。やから孫策を殺すんはマズかった。他の将にしてもや。孫策に親しい将を殺ってもたら孫策が退いてくれんようになるかもしれんからな」

「……なら、一旦逃がして、あとから奇襲すれば良かったんじゃァねェの?今みたいに野放しにするんじゃなくてさァ。そうすりゃ敵も奮起しねェし孫策も消せるし万々歳だろ。呉の民にしてみりゃァ逃げ出した腰抜けが無様に死んだようにしか見えん」

「…………」

「…………」

「靑さん、なんなんその悪魔的発想。ガチビビるわぁ……」

「テメェに言われたかねェよ……」

「それと、残念だけどそれはできないのよ。地の利は向こうにある。あとから追ったんじゃ追い付かないわ。逃がす素振りを見せたらその時点で逃げ切られるのが確定するってこと」

「馬とばせば追い付けるかもしれねェが……さすがに騎馬隊だけじゃトドメ刺せねェか」

「そういうこと。さて、おおかた疑問も晴れたかしら。……桂花、秋蘭と霞の方はどう?」

「既に建業に到着しているとのこと。戦力は全てこちらに出ていましたし、孫策の去った今 呉の戦意は消失。制圧は容易でしょう」

「ならそれが終わり次第、地方に軍を放って呉全土の制圧作業に入りなさい」

「分かりました。同時に都から呼んだ文官に地勢の調査をさせますね」

「それでいいわ。その情報が集まり次第、統治計画を練りましょう。それが終わった兵は、そうね……都には戻さずに、一旦どこか蜀との国境付近に待機させましょう。牽制しておきたいわ」

「そこから正規兵以外は順次本国の待機兵と交代させていく、ということですね」

「本当ならそのまま攻めたいのだけれど……士気の低下が怖いからね」

「では、そのように。詳細は後の軍師会で」

「対蜀の侵攻計画もおねがいね」

「もちろんです」

「良い返事ね。……それじゃあ、簡易軍議は解散よ。各自作業に戻りなさい」

 

 

 かくして、長かった侵攻作戦は孫呉の敗走により決着した。魏による天下の障害となるのは、蜀一国のみ。

 ……だが、一筋縄にも行かないだろう。呂布居るし。




素直に殺すのが惜しいと言えない華琳さんのツンデレまじ常人には理解不能!


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※作品の説明、設定と言い訳4

最近、思いっきりおしっこ漏らしてみたくなることがあります。
前にも書きましたっけこれ。

そして多分今までで一番言い訳がましい言い訳になりました。


重要人物

 

袁 術 公路 美羽(様)

美羽!美羽!美羽!美羽ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!美羽美羽美羽ぅううぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いですなぁ…くんくん んはぁっ!袁術 公路様の蜂蜜ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!! 萌将伝アンソロジーコミック17 巻の美羽様麗しゅうございましたぞぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!! 恋姫シリーズ復活して良かったね美羽様!あぁあああああ!かわいい!美羽様!かわいい!あっああぁああ! 英雄譚も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃあああああああああああああああ!!!ゲームなんて現実じゃない!!!!あ…コミカライズもアニメもよく考えたら… み う さ ま は 現 実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!! そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!外史世界ぃいいぃぁああああ!! この!ちきしょー!やめてやる!!史実なんかやめ…て…え!?ご 覧に…なっ……てる?表紙絵の美羽様が僕をご覧になってる? 表紙絵の美羽様が僕をご覧になってるぞ!美羽様が僕をご覧になってるぞ!ディスプレイの美羽様が僕をご覧になってるぞ!! アニメの美羽様が僕に話しかけていらっしゃるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ! いやっほぉおおおおおおお!!!僕には美羽様がいる!!やったよ七乃さん!!ひとりでできるもん!!! あ、コミックの美羽様ああああああああああああああん!!いやぁああああああああああああああ!!!! あっあんああっああんあ麗羽様ぁあ!!べ、ベルギー!!春香ぁああああああ!!!ハム蔵ぉおおお!! ううっうぅうう!!俺の想いよ美羽様へ届け!!外史世界の美羽様へ届け!

 

鑑 惺 嵬媼 聆/カン セイ カイオウ レイ

浅く広くとは思っていたがさすがに広がりすぎて作者自身の手にも負えなくなってきた本作主人公。あまりにも意味がわからんお陰で戦場に顔を出すだけで相手が混乱する。こ、これは鑑惺の罠だ。

しかし相変わらずえっちなことをしている暇がない。

 

北郷 一刀

最近おちんぽだけでなく将として、軍師としても成長してきている原作主人公。失敗した分はきっちり取り返した。

イケメンだし優しいし割と有能だし可愛げもあるし分を弁えるしホント部下とか弟に欲しい。

 

曹 操 孟徳 華琳

他国を次々と征服する暴君……に見えるが、その本当の目的は大陸を混乱を鎮め、苦しみから民を救い出すこと。

だが、どうやらもう一つ誰も知らない野望が有るらしい。

 

馬 騰 寿成 靑

本作の半オリジナルキャラ。元は思慮深くも根本は直情的な思考の持ち主だったが、魏に入って染まってきた。

魏によって、自分の元部下を壊滅状態にさせられたが、それは戦の常だと割り切っている。……というより、西涼に間違った情報を流して魏と争う原因を作った呉の方に反感を持っている。

 

孫 策 伯符 雪蓮

強く有能な王ではあったが、母親の影響下から抜け出せなかった哀れな仔虎……とは華琳の談。

蜀に逃れ、再起を図る。

 

呂 布 奉先 恋

通常の乙女武将五人分の強さ(手加減有りで)。

作品中盤にて張った伏線により、特殊な動きをすることになる(既にある読者様によって見破られている)。

 

左慈

SEKIHEKIで魏が勝ったあたりから爪噛みと貧乏ゆすりが止まらない。

 

貂蝉

左慈が水面鏡をひっくり返さないのはこの人のおかげ。

 

于吉

ホモ。

 

 

ルートアレコレの言い訳(並び替えにつき注意)

 

 前回でαルートが一段落つきました。そして、時系列的に次は十三章拠点フェイズとなります。

 ですが、その前にβルートを書こうと思います。(書き終わりました)

 このβルートなのですが、最終的な決着の調整はするとは言えαルート経由の人間関係と異なる結果になります。(なりました)

その場合βルート専用のエンドと後日談が必要となりますが、それを書いてたら元々書くつもりだったメインの後日談を書けるのがすごく遠い話になってしまいます。

 ですので、βルートはあくまでも『呉侵攻戦のパラレル』という位置づけにと思っております。もしβルートエンドを書くにしても、かなり後回しになると思うのでご容赦ください。(結局一気に書きました)

 

 ↓

 ↓

黄蓋の魏入り

↙ ↘

↓  ↓

α  β

↓  ↓

ED  ×(もしくは延期)

後日談(萌将伝っぽい何か)




βルートの呉侵攻終了まで投稿し終わった時点で、続きが欲しいっていう読者様が多数いらっしゃりましたら、その場合は全力で書かせてもらいますが。(書きました)


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第十三章拠点フェイズ : 聆(3X)の雑談Ⅲ

お久し分離器(遠心力)。
最近本格的に熱くなって来ましたね。いや〜、熱は夏い(激寒)。

さて、内容は久しぶりのαルート。書いてるときの感覚がβと結構違っていて難儀しました。
ここから数回は拠点フェイズと戦前のなんやかんやの併用みたいなことになりそう。


 魏軍最前線、蜀国東側の国境を臨む城に私は居た。

 現代の自宅マンションのから飛んでどれほど経っただろうか。恋姫三国志も佳境。呉が墜ち、残るは蜀のみ。有象無象の勢力もやがて魏と蜀に帰結し、最後の大戦の気勢が高まる。

 

「――って言っても、当の国主さまが本国に帰ってますからまだまだって感じですよね〜」

「おい、その言い方ではまるで華琳様が遊びで帰っているようではないか。訂正しろ」

「そんな風に聞こえる箇所あったか?」

「なんにでも噛み付いて忠犬根性丸出しじゃのう」

「でもまぁ、びっくりするくらい平和だし、準備か整うまで時間も有るし別に良いじゃん?」

「遊びに行った体のまま話を進めるな!」

「はいはい。えーと、本国の視察と警備状況確認に華琳さんと隊長、んで高火力炉を使いたいったことで真桜やな。……沙和はホンマに遊びらしいけど」

 

ついでに華琳たちも本当は墓参りが主な目的だったか。

 

「まったく、あの服狂いは。私には何故そうも服に拘るのかよく分からんな。動きやすいものならまだしも、特にアイツの選ぶものは」

「やっぱ機能性だよなー」

「その通りだ」

「……関係ないけど、変わった服……『コスプレ』したら隊長と閨を共にする確率が十五割になるらしいな。お出かけ[デート]中に五割、自室に帰ってからが十割」

「なっ……」

「本当に関係ないな」

「でも改めてカズ兄ってアレだよなぁ」

「アレじゃな」

 

 口々に、ため息混じりに『アレ』と評す。

 手が早い……いや、そこまでがっついてないから不適当か。言葉巧み……うーむ、本人は作為的に『オトしてやろう』とは思っていなさそうだしこれも合わない。

アレとしか言いようが無いな。

 

「あ、あぁ。アレだな」

 

 一人、春蘭は『アレ』とは思っていないようだったが。そうか、もうこの時期になれば春蘭も一刀にお熱なのか。

まぁ、それ抜きにしても一刀の女性方面のアレコレは大したものだ。独特というか、何というか。無能の雰囲気を醸し出しつつ有能だし、鈍くさい鈍感男に見えて見るところはしっかり見てるし。

 

「でもそのアレさのおかげって部分も有りますけどね〜」

「何がだ?」

「あー、たしかにカズ兄がいなかったら魏ってもっとピリピリしてたかもな」

「もしくはもっとジメジメネトネトと」

「華琳様とならネトネトも望むところだ!」

「私も鑑惺様とのネトネトなら望むところです!!」

「さがって良し」

「はい」

 

三課長は奇妙な奴だが『退がれ』と言えば素直に従うだけまだマシかな。

 

「『はい』じゃないが。どこから湧いてきたんだアイツは」

「知らん」

「鑑惺隊だししかたないじゃん?」 

「変なんはアイツだけやぞ」

「聆さんがそれを言いますか……」

 

それなら七乃さんも他人に呆れられる人間じゃないと思うんだがなぁ。

 

「それにしても、聆もすっかり大物になったものだ」

「えー、春蘭さんに比べたら小物やし」

「……よく言いますね」

 

よく言うもなにも……まず氣の力が違うし。私も気が付けば反応速度とかが人外じみてきているが、それでも基礎的なスペックに絶望的な隔たりが有ると思う。春蘭に『よし、軽く手合わせするか』なんて言われる度に私は軽く死ぬ覚悟をしているのだ。

 

「しかし、初めて会ったときは本当にな。確か義勇軍だったか……戦の恐れを酒で誤魔化していただろう」

「初めて会ぅたんは行商のときやで。工芸品やら熊肉やら売っとったときの」

「そうだったか……?」

「そーや」

「大体いつ頃だ?」

「言うて春蘭さんが言いよった義勇軍云々の数日前程度や。どっちも黄巾が暴れよるとき」

「なるほどねー。黄巾賊退治のうちに実力を付けたってことか」

「ありがちですねぇ」

「うーむ、はっきり言ってしまうと、四人のなかでは凪だけが頭二つも三つも飛び抜けた印象だったのだが」

「それは氣で測れば今でもそうなるな」

「いつの間にこうなったのか……」

 

なんか良い意味には全く聞こえない言い方だ。

 それに仲間内での『鑑惺論議』はあまり良くない。これが敵だったなら勝手に好きなだけ訝しんで勝手に怯えてくれていれば良いんだが。

それに、特に初めの頃は……早く魏の中で発言権を得ようと色々おかしなことをした覚えがあるし、ボロが出そうで。

 

「やはり私とやり合って泊がついたのだろう」

「それで負けたのになんで自慢気なんだよ」

 

華雄の少しズレた発言で締め、

と思いきや春蘭はまだ首を傾げている。

 

「どうもそれより前から我が物顔で城内を闊歩していたような……」

「そんな過去のことはもーええやん。氣はあんまやったけど気は強かったってことで、上手くオチつけて終わりで」

「そんなに上手くないじゃろ」

「ともかくこれからの話 しようや。戦も控えとるし、その先には平和な世も控えとる」

「大きな戦の前に先の話をするのを天の国では『死亡ふらぐ』と言うんじゃありませんでしたっけ」

「ああ、確か死の呪いだったか」

「それやったら過去を懐かしむんも死亡フラグやぞ」

「じゃあ何だよ、戦の前は口を閉じて準備に励めって?……正論じゃん!」

「諺には昔の人の知恵が詰まってるって言いますからねぇ」

 

多分その『昔の人』って未来人だと思う。

 

「では、始めるか」

「いっちょやってやるぜ」

「言うて準備がヒマやから集まっとったんちゃうのん」

「なに、よく考えれば、いくら準備しても終わりのないものがあるだろう」

 

あ、これしんどいやつや。

と思った時にはもう遅い。

どこからか『七星餓狼』を抜き放ち春蘭が立ち上がる。

 

「さぁ、相手には呂布も関羽も孫策も居るのだ!」

「ホントに過去も未来もウダウダ言ってる場合じゃねぇな!」

 

と、楽しそうに『斬山刀』が。次いで『金剛爆斧』も。

 

「やるぞ嵬媼!お互い手加減無しだ!」

 

手加減はこの際もう言うまい。

せめて刃引きした武器を使ってくれ。




刃引きしてても殴られたら死ぬけど。


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第十五章一節その一

お久しぶりん(アイオライトブルー)。
6月もはや半ばとなり、だんだんと日の光が夏の様相を呈してきましたが、まだまだ早朝はひんやりと気持ちの良い風が吹いています。
この温度差のせいでがっつり夏風邪をひきました。鼻と喉のダブルパンチ。糞が。

内容は原作十五章、蜀侵攻戦です。クライマックスです。ちょっとだけボリューム増しでいきたいと思ってます。思ってます。


「聞け!魏の勇士達よ!」

 

 一刀たちが本国から戻った後数日を待たずして、出立の時は来た。

 城壁の下に広がる黒い海原……曹魏全軍、五十万。その前に立ち、華琳が声を張り上げる。声は覇気により更に響き、鮮烈な力を纏ったまま最後列まで到達する。瞬間、兵は美しいほどの『気を付け』の姿勢で静止し『海原』と表現するには相応しくない静寂を以って華琳の次の言葉を待つ。

 

「これより我らは国境を越え、劉備率いる蜀への侵攻を開始する。成都への道は嶮しく、地の利は向こうにある。呂布、関羽、孫策……それに諸葛亮、周瑜。敵には名だたる将、そして軍師が居る」

 

マイナス要素を並べる華琳。もちろん、先に不安点を挙げてそれを否定し自らの利を強調するのは演説の常套句だ。それは、ここで聞いている誰もが分かっているだろう。だが、それを抜きにしても、全く恐れが無い。

 

「しかし」

 

声も氣も共に膨れ上がる。

 

「我らは黄巾賊を抑え、反董卓を成し、西涼を制し、定軍山の謀も踏みつぶし、黄蓋の罠も赤壁の火計も孫呉との真っ向勝負も越えて勝利した!……さあ、夏侯惇、夏侯淵、許緒、鑑惺、楽進、李典、于禁、典韋、張遼、華雄、文醜、北郷、荀彧、郭嘉、程昱、張勲……それに私、曹操。これらの名が、彼の者らに劣るか?」

 

「「否!」」

「「「否ッ!!」」」

 

地鳴りのように次々に声が上がる。

あくまで演出としての問かけだったのだろう。まさか応えが帰ってくるとは考えていなかったのか華琳は驚いたように一瞬眼を見開き、そして僅かに微笑んだ。

 

「敗北が我らと縁遠いものであることは、皆が解っている通りだ。では、その先の勝利をどう引き寄せるか。私は、諸君ら『民』によるものと確信している。無論、刃を以って戦うことにも長けている。しかし、それ以外にも皆は、質の良い武具を作り、潤沢な食糧を作り、戦場に在ってすら心を枯らすことの無いほどの文化を作った。この戦乱の時代に在って尚、我らは豊かだ。それこそが、我が魏 最大の力であり、正当性の証明である」

 

 単純な話『良い国だから強い』……転じて『強いことが、つまり良い国である証明だ』と言う。ともすれば危険な思想かもしれない。だが実際、少なくとも突っ込む気が失せる程度には、魏は良い国だ。

 

「この大陸に残るは二国のみ。魏と、蜀。問うまでもない。魏こそ、勝利するに相応しい!今こそ蜀を呑み込み、我らが大陸の主、大陸の守護者となる。総員、出立せよ!我らが威光を蜀の地の果てにまで満たすのだ!」

 

一斉に武器や拳を掲げ、地を揺らさんばかりに叫ぶ。その声は、遠くの山々にまで反響し、もしかしたら成都の劉備の耳にも届いたんじゃないか。いや、冗談抜きで。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――まだ身が震えるようです。あの鬨は……」

 

 進軍開始から一刻ばかり過ぎた頃。ふと、凪が呟いた。

 

「いろんなことが凄すぎて、凄いとしか言えないの……」

「ウチの兵士って、あんなに居たんやねぇ」

 

沙和も真桜も、それに同意する。と言うより、元から二人もかなり感動していて 語りたくてしかたないんだろう。惜しむらくは本人たちの言うとおり、アレを上手く表現する言葉が見つからないことか。

 

「普段は兵とちゃう志願兵もそれなりに居るみたいやけどな。まぁ、やったら尚更、付け焼き刃の訓練だけであの一体感はヤバい。今も進軍全然乱れとらんし」

 

 一つ笑い話にするなら、華琳の演説中に初めに『否』と応えた奴はたぶん演説を聞き慣れていない志願兵だ。

 

「もちろん、追加の兵でも俺達が本国から帰っくるときに連れてきた正規の兵士の方が志願兵より多いんだけどね。でもやっぱり、士気が段違いだよなぁ」

「当たり前でしょ。この戦に全身全霊を掛けるべきだってことはバカでも分かるんだから」

 

むしろバカはいつでも全身全霊な気がするが。

 

「まぁそうだけどさ。……って、軍師の桂花がどうしたんだ?こんな末端に」

 

 おお、そう言えばさっきの声は桂花か。……何か、桂花はいつも突然にさり気なく登場するな。

 

「私も出来れば精液増槽のところになんか来たくないわよ。この先の山で道が細くなってるから、隊列の変更を指示しに来てあげたのよ。わざわざ。わざわざね!」

「そうか。桂花も大変なんだな」

 

発言→『おぉ、居たのか』→毒舌→受け流し この流れを魏の無形文化財に指定してはどうかと、私は最近思っている。

 

「確かに、そう言えば先程より行軍速度が遅くなってきていますね」

「山で、道が細くて、か……奇襲が心配だな」

 

 一刀の心配するように、こういう山道での奇襲は要注意だ。桂花が苛ついているのも、今はよく分かる。大軍になればなるほど軍師の苦労は増える。それは、こういう奇襲の対策では顕著だ。直接被害を抑えることはもちろんだが、そのための整理(情報伝達の徹底だったり、或いは被害を受けたあとの立て直しだったり)の手間も加速度的に大きくなる。

 

「それが有るから私が来てあげたんでしょ!そこまで分かってるならもう少し先まで理解しなさいよ」

「じゃあ何て言えば良かったんだ?」

「黙って私の言葉を待てば良かったのよ」

「理不尽だけどぐうの音も出ねぇ」

「それで、指示ってのんは?」

「聆たち四人は隊を率いて、周囲の偵察に出て欲しいの。伏兵だけじゃなく、罠なんかにも警戒してね。こちらは兵が多い分、奇襲を受けたときの相対的被害が大きくなるわ。責任重大よ」

「この山道やと、待つ側は何でもできるからなぁ」

「定番だと矢の雨とか岩雪崩とかですか」

「薬剤散布も有るかもしれんな」

「さすがにそんなんするんは聆だけやと思いたいけど……ウチらが偵察に来るんを予想して山ん中にトラバサミでも置いとるかもしれん」

「ふっふっふ……地獄のおりえんてぇりんぐで鍛えられた沙和たちは、半端な罠じゃ躓かないの」

 

沙和がふんすと気合を入れる。

 例の一件で少しばかりケチはついたものの、オリエンテーリングは魏の正式な訓練メニューとして取り入れられていた。今や山中での戦闘能力は鑑惺隊の専売特許には留まらない。もう道なんか無視して全軍山越えで行けばいいんじゃないかと薄々思っていたりする。もちろん、よく考えれば物資の運搬や志願兵が混ざっている点が足枷になって不可能なので口には出さない。

 

「ちっ……忌々しいけれど、この全自動女人孕ませ機の提案は有効だったようね………」

「それで、その俺は何をすれば良いんだ?」

「あんたが山に入ったところで何が出来るわけでもないでしょ」

「一応、第一回オリエンテーリング完走者なんだけどなぁ」

「沙和と凪に助けてもらって、でしょ。ともかく、本陣に来るようにという華琳様の命令よ」

「あぁ、じゃあ隊列の整理したらすぐ行くよ。とりあえず今の半分くらいの幅にしたら良いか?」

「その諸々の整理をここからは私が肩代わりするのよ。奇襲に備えて、この、有 能 軍師の私がこの隊を含めた後列一帯を任されたの!そうじゃなかったら、こんな指示のためだけに 筆 頭 軍師が一々直々に来るワケ無いでしょうが!!さぁ、さっさと動きなさい。聆たちもよ」

「はいはい……」

「了解しました」

「了解や」

「了解なの」

「任せぇ」

 

 ササッと兵を纏めて道から逸れ山に入る。もう慣れたものだ。

何も無いとは思うが、なめてかかっては必ず碌でもないことになる。一応、どんな状況にも対処出来るよう心構えはしておこう。




聆+山=


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第十五章一節その二

わんばんこ!
最近のマイブームはシーフード焼きそばの作者です。
おかげさまで風邪は治りました。頭の病気は依然悪化の一途を辿っております。

南蛮兵は、原作ではミケ・トラ・シャムと全く同じ見た目のものが大量にいるという設定ですが、この作品ではその三匹は幹部的な扱いとしています。すまんのか?


「……とうとう、来たな」

 

 魏軍襲来の報せに、馬超が静かに呟く。

 魏軍が踏み入った山道の先。谷合の道が開け、ちょっとした平地となったところに蜀呉同盟の第一波は布陣していた。

 

「陣形はどうなっている」

「えーっと……ふむふむ、どうやら、一応は夏侯惇など突撃力の有る将を前に置いているようですけど、まだ臨戦態勢には……」

 

伝令から受け取ったばかりの書簡に目を通し、すらすらといつもの気の抜けた声で読み上げる陸遜。しかし、途中の一文でピタリと表情が固まる。

 

「『鑑惺の姿は確認できず』と、ありますねぇ〜……」

「………」

「………」

 

その報告に、この場にいる全員がしばし沈黙する。

 この戦は、魏にとっては大陸の覇権を決める最終決戦という認識のはず。……事実、そうだ。ならば、この行軍に鑑惺が参加していないというのは有り得ない。"何か"やっている。

 

「……山か」

 

甘寧がいかにも鬱陶しげに一つの可能性を口にする。

 呉の者たちは実際に山での鑑惺を相手取ったことは無い。が、西涼攻めや定軍山の話は蜀の者たちから聞いていた。なるほど。隘路といえど追い詰めたことにはならないということか。

 

「大丈夫なのか?周泰と、あと孟獲は」

「明命にとって、山林は絶好の戦場だ。それはおそらく南蛮の密林で育った孟獲も同じだろう。そうそう負けはするまい」

「その『絶好』を破り続けているから鑑惺は危ないんでしょ」

 

甘寧の迂闊な発言に、馬岱がやれやれと肩をすぼめる。山に入ったと予想がつく程度に話を聞いていたなら、それ以外のことにも気付いてほしいものだ、と。

 

「そもそも、そういう"流れ"抜きで山のアイツは……ヤバい」

「む……」

 

しかし甘寧の方も不服顔。

 その鑑惺の武勇伝込みで、遮蔽物が多い場所での周泰の神がかり的な強さが上回ると予測したつもりだったからだ。妹分のように共に鍛錬してきた周泰に対する贔屓も多少有るが。また、それはそれとして、戦の前からそんなに弱気で突撃が仕事の騎馬隊がつとまるのか、という不満も有る。負け癖が付いているんではないか、こいつらは。

 

「ともかくですね〜、一旦山中の展開範囲を縮めるよう伝令を出そうと思います。元々、この作戦の趣旨は隘路の出口での強襲……無理に伏兵に拘る必要は有りません」

「穏……いや、解った。異論無い」

 

割って入った陸遜が作戦の調整案を出す。

 呉の陸遜までも周泰が負けるような予測を立てたことに甘寧はまたも若干ムッとしたが、すぐに思い直した。陸遜がそう言うのならそうなのだろう。周泰の戦力も信頼しているが、陸遜の頭脳もまた確か。ここは大人しく従う方が正しい、と。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「……拍子抜けするくらい静かね」

 

 もう軽く飽きる程度には山道を歩いた。けど、華琳の言う通り相手からはなんの動きも無い。もちろん、山道はここからも充分あるはずだから仕掛けるチャンスはいくらでも残っているんだろうけど。勝手なことだけど、こっちとしては山に入ってからは片時も油断できないくらいを覚悟してたから、何というか、肩透かしをくらったような気分だ。

 

「各方面からの定時の報告でも『異状無し』とのことー。左右からの奇襲は無いのではないかと」

「解せませんね……この、山林という奇襲にはうってつけの地形をみすみす素通りさせるなど」

「こっちもそれを予見して偵察を放ったし、それで諦めたんじゃないのか?」

 

 もっと言えば、元から奇襲なんて無かったかもしれない。奇襲を用意していたとして、それを見つけられてしまえばその分損だ。けど、奇襲を置いていなかったなら、逆にこっちが捜索に出した分を丸々無駄足にできる。この山という地形、奇襲を警戒するのは分かりきったことだ。だから防がれる可能性が高い奇襲より、その分の兵を別の戦力に廻したのかもしれない。

 

「奇襲が無い理由は相手に訊いてみないとしかなたいけれど……それならば、相手はこの出口に兵を集めているのでしょうね」

「恐らくは」

「自分ら、"まだ"出てないってだけで『奇襲は無い』と見るんは早計ちゃう?」

 

と、前方への偵察から戻ったらしい霞が話に割り込む。

 確かに、こうやって油断させておいての奇襲かもしれない。……軍師っていつもこんなこと考えてるのか……俺も隊長なんてやってるが、上からの方針に従って動くかその場の瞬発力で決める(考えてる時間が無い)かが多いからな。分かっているつもりだったけど、こうやって全体の方針をじっくり考えるのはやっぱり大変だ。

 

「ふむー。索敵を緩めるつもりも無かった云々と言い訳はありますがー、その苦言、甘んじて受けておくのです」

「いや、まぁ、予想が外れとったってワケやなさそうやけどな。この先の道が広うなっとるとこに、大軍で居るみたいや」

「どうしてあげましょうか……。少数しか展開できないこちらを、大軍で握り潰す策ね……教本にも載らないほどの基本だけれど、それだけに厳しいわね」

「定石的な策だけに……やはり、ある程度奇策を以って当たらなけばきびしいかと」

「でしょうね。行軍を止め、本隊に居る皆を集めなさい。じっくりと打開策を練りましょう」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――ふむふむ。敵本隊の動きが止まったと……。となれば、接敵前の最終軍議でしょうか。こちらも、兵を密集させて山林からの突撃を行います。穏殿にもそのように」

「了解」

 

 そして、問題の蜀呉側奇襲組。魏側の予測は半分当たりで半分ハズレ。警戒されていることを理由に範囲を縮小したものの、奇襲自体は諦めていなかった。

 

「美以殿ー、美以殿!」

「うにゅ?どうしたのにゃ?」

 

手早く自分の部下に伝令を飛ばし、協力者に声をかける。

 周泰の呼び声に、暇に飽かせてその辺で捕まえたリスを分解して遊んでいた孟獲がのそりと振り向いた。

 

「やっと出番なのにゃ?」

「敵の本隊が、そろそろ臨戦態勢に入るようです。こちらも、兵をいつでも突撃できるよう組み直しましょう」

「ふーん。わかったにゃ」

「………」

「………」

「あ、あの、できたら急いでいただけると……」

「おお、いますぐなのにゃ?しょうがないにゃあ・・。ミケ!トラ!シャム!急ぐのにゃー」

 

情報伝達手段はまさかの大声。周泰は一瞬背中がヒヤリとした。

 

「はいにゃ!」

「にゃー」

 

ともかく、元気な返事とともに続々と南蛮兵たちが集まってくる。が、どうも少ない。どうやら三つのグループのうち一つが戻ってきていないようだ。

 

「あ、あれ?トラ殿は……」

「トラはなにやってるのにゃ?」

「さーにゃ」

「知りませんにょー」

 

手当り次第訊いてみるも、情報無し。

 何事もなく、単に号令が聞こえてないだけなのか、無視してるのか。それとも相手の偵察に捕らえられてしまったのか。厄介なのが、南蛮兵たちが基本的にいい加減な性格ということだ。

 

「大王しゃまー」

 

 周泰の隊から捜索を出した方が良いか、いや、ワザワザそれをしては本末転倒……でもお猫様……、などと考え始めた頃、やっと件のグループのリーダーの声が。

 

「おお、トラ!遅かったのにゃ」

「むこうにエモノがいっぱい居るみゃ!」

「にゃ!?エモノにゃ!?」

「えっ……」

 

途端に輝き出した孟獲の瞳に、周泰は強烈な悪寒を覚える。この流れは……マズい。

 

「どんなにゃ?」

「フサフサでズルズルにょ!」

「しんしゅにゃ!」

「ちんしゅですにょー」

 

あれよあれよと言う内に騒ぎは南蛮兵全体へ。

 

「いーっぱいなのにゃ!」

「どれくらいいっぱいなのにゃ?」

「これくらいみゃ」

「お腹いっぱいにゃ!」

「これはたいへんなことにゃとおもうにょ」

「だいおーさまー!早く行くにゃ」

「もっちろんにゃ!一番乗りで一番たくさん食べるのにゃ!」

 

ついに駆け出す南蛮王。

 

「独り占めはだめにゃー!」

「追い抜かすみゃ!」

「にゃー」

 

南蛮兵たちも当然のように後を追う。

 

「えっ!?ちょっと!!密集して待機ですってば!待って下さいよーっ!!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――異常無し、なぁ……この辺にも居らんのか」

 

 探せど探せど敵は居らず。罠も人間の足跡も無い。代わりに熊か何かの獣の足跡は多く、むしろそっちに気を付けている状況だ。もちろん、奇襲など無いに越したことは無いんだが……。

 

「伏兵なんて居ないんじゃないのー?」

「もっと奥には居るかもわからん。おらんかったらそれで良し。居ったら、私らが対処せんかったら本隊に被害が出る」

「そうだけどさー、罠を仕掛けやすいところなんていっぱいあったのにそこに罠が無いってことは、やる気がないってことに違いないの」

「そーやって油断させる策かもしれんやろ。……んなこと言うて、どーせソレ脱ぎたいだけやんな」

「当たり前なの!」

 

バッサバッサと生革仕立ての猪キグルミを揺らして沙和が文句を並べ立てる。

 

「これ生臭いしかわいくないし最悪なのー!動物の外見を被るって発送は良いんだから、もっとこう、カドを丸くして色も軽くしてもこもこふわふわにすればカワイイのに!!」

「いや……そーゆー目的ちゃうし」

 

 まったく、『まるで生きた獣のような適度に汚れ乱れた毛並みと生臭さ泥臭さ』と『強度、耐久性、動き易さ』を両立するのにどれだけ苦労したと思っているんだ。そして、この不快感に耐えられるような精神力と動物の動きをトレスする訓練も容易いことでは無かったんだぞ。

 まぁ、それはそれとして。

 

「んー……真桜と凪の方もスカみたいやなぁ。氣で探っても獣の気配ぐらいしか引っかからんと」

 

二手に別れた凪と真桜のグループの方も収穫無しとのこと。

 凪も、氣を探索に使うのはそこまで得意ではないが……それでも全く引っかからないというのは。

それにもう一つ、同時に本陣側から来た『隘路出口に大軍在り』との知らせ。こっちが本命か?

本格的に、沙和の言う通り伏兵は居ない……居ても大したことない可能性が出てきた。

 

「なんにせよ、沙和……私らの仕事は山を徹底的に狩ること。仕事は嫌でもやるもんや。楽しい仕事に越したことはないけどな」

 

が、当然、まだ見つけていないだけで伏兵はいるという可能性もまだ有るワケだ。

 

「うー……そう言われると言い返しにくいけど……。でもその仕事が無駄なんじゃないの?っていう沙和のシュチョーは――」

「……主張は?」

 

沙和の文句は途中で途切れる。

遮ったのは遠くから微かに聞こえた木の葉の擦れる音。

 

「今撤回するの」

「……」

 

なんとなくだが、周囲の空気が濃くなっている。物理的にか精神的にか、何か近付いて来ているという予感。とりあえず、周囲の兵に"鳴きマネ"で警戒を促す。

 

 何処だ……何だ……?今まで色々な戦場を経験したおかげで、なんとなく危険予知じみた勘は備わってきているが……この感覚は初めてだ。

何かに狙われているのは確か。周囲に目を凝らす。異常は無い。たが、私の中の緊張感は順調に高まる一方だ。

 

………上かっ!!

 

「みゃーっ!!!」

「「うにゃー!!!」」

「AHHHHHHHHHHHHHHHHHH !!!!!!!!」

「「AHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!」」

「にゃにゃ!?ニンゲンにゃっ!!?」

「げぇっ!鑑惺!?」

「えぇっ!?猫つながり!?」

「なにこの子たち!?カワイイのーっ!!」

 

 樹上から襲いかかってきたケモロリ軍団+忍者一名。仕掛けた側の向こうも何か戸惑っている風なのは解せないが、ともかく蜀侵攻戦はたった今 開戦となった。




罠を仕掛けたくて仕掛けるんじゃない仕掛けてしまう者が鑑惺。


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第十五章一節その三

pcが復活したので妖々夢やりました。
Normalのアリスで撃沈しました。


「――敵が隘路の出口に布陣している?」

 

 集まった将たちに敵軍の様子が伝えられる。一部のよく分かってなさそうな面々を除いて、その反応は総じて渋いものだった。

 

「そう。非常に基本的な策よ」

「……敵将は?」

「馬と甘……おそらく、馬超と甘寧でしょう」

「それなら、馬岱さんも居るんでしょうね〜。馬超さんの手綱を握ってるのはあの人でしょうから」

「また山間部に騎馬隊を持ってきたのか……どういうつもりだ?」

 

さっきまで皆と同じく険しい顔をしていた秋蘭が、馬超の名を聞いて今度は心底不思議そうな顔をする。

『また』……か。

 

「……ああ、定軍山か」

 

『山間部』『待ち伏せ』で秋蘭に馴染み深いものと言えば定軍山だ。

 

「そうですねぇ。アレだけ山との相性の悪さを晒しておいてまた山に来るのは……これは臭いますねぇ」

「単に包囲するだけが目的では無さそうね」

「そう考えれば甘寧も……待ち構えるより一撃離脱を得意とする将のはず」

 

まさか、単なるミスなんてことも無いだろうし……。でも、どう考えても噛み合わないよなぁ。

 

「……」

 

沈黙。俺が特別鈍いワケじゃないらしい。

 

「ふむ……おぉ、なるほど」

 

と、それを破る声。風だ。

 

「なにか分かったのか?風」

「んー、ここで声高に語って皆さんに先入観を与えてはいけないので〜。……華琳様ー、少々、お耳を」

「……?まぁ、いいわ」

 

風は皆には説明せず、華琳にだけこしょこしょと耳打ちで伝えた。

 さっき霞に言われたことを気にしてるんだろうか。風がどう思ったか細かいところまでは分からないけど、確かに、机上の推測で全て分かった気になっていた俺に、霞の指摘は刺さった。この戦、もし万が一負けるとしたらそういう慢心からだと思う。

 まぁこの方法はこの方法で、桂花が嫉妬でものすごい顔になってるけど。

 

「……相手の人選について、納得できる答えは出たわ。『どうやって突破するか』の話に戻りましょう」

「……説明せぇへんの?」

「もし外れていた場合のことを考えると、風がさっき言った通り先入観を持ってほしくないわ。そして逆に当たっていたとしても、皆の動きには何の影響も無い。こちらの基本的な命令に従ってさえくれれば、ね。軍師の皆についても。この説はいかにも正解らしいだけに、聞けば思考を鈍らせてしまうわ。貴女たちには、保険として悩んでいておいてほしい」

 

 悩み過ぎで立ち止まってしまっては本末転倒。でも、何の疑いも持たないのは危険。奇妙ではあるけど、ここは華琳の言い分が正しいように思う。

 

「……どうも釈然としないな」

「でも考えなくていいならそれで良いじゃん」

「そう言われればそうだな」

 

華雄が珍しく戦術に口出しした、と思ったそのときにはすでに思考を放棄してた。やっぱコイツすごいないろんな意味で。

 

「さて、それで、この三人の将をどう攻略する?」

「簡単だろ」

 

華琳による再びの軌道修正。それに即答する者が一人。靑さんだ。

 

「せっかく山歩きできる奴ァ多いんだ。今からいくらか山ン中に入れてさ、道から来るとタカ括ってやがる相手を脅かしてやりゃー良い」

「逆に包囲するってことか」

「定石を根底から覆していくワケですねー」

「なるほど。問題視していた出口間際での奇襲への対策にもなる良い手です」

 

 意表も突けて、それだけじゃなく実際強い。そして、志願兵は無理だけど、そんなことは関係ないくらい山中で動ける兵は多い。うーむ……なんでこんな簡単なことに気付かなかったのか。

 

「凪らと合流させたら良えんやな」

「一案ね。桂花、山育ちで特に身の軽い者を選別して」

「了解です。聆たちにもそのように伝えます」

 

 堰を切ったように場が活気付く。思っていた何倍も簡単にここを突破できそうで、となればその後も当然楽になる。調子に乗ってはいけないと分かっていても、ついつい勢いづいてしまうってもんだ。

 まぁ、それにしても……

 

「娘相手に厳しいな」

「一人前の相手として見てやってんだよ。娘だからって贔屓目に評価してな」

「贔屓が人を追い詰めるのか……」

 

馬超もまさか親の期待をこんな形で体感するとは思ってなかったろうなぁ。

 

「そうなれば、相手がそれに気づきにくいよう本隊は派手に行かなくちゃね」

「華琳様!」

「一番槍ね。春蘭」

「御意ッ!」

 

って、ちょっと気を逸らした隙に一番槍が決まってたんだが?

 

「決断早いな!」

「当たり前だ。何と言っても一番槍だからな!」

「上手いか上手くないかの絶妙なラインを……」

「では次は――」

「私だ!」「いやアタイだろ」「何の話か知らんがとりあえず妾じゃ!」「お嬢様はあっちで蜂蜜舐めててください」「はい!はーい!ボク!ボクが行く!」「いーやウチが行く!って言うか一番槍もウチや!」「なっ!?一番槍は渡さんぞ!」

「――士気が高いのはいいけれど、これは困りものね」

「ふん、バカばっかり」

「もうさ、このまま放てば勝手に敵 倒してきてくれるんじゃないかな?」

「そうかもしれないわね……」

 

ァア゚ア゙アァァァァァァァァァァ ァ ァ

 

「な、何だ!?」

 

山に反響して広がる、鉄板を引き裂くような音。

 

「獣か何かか?」

「蜀山間部に潜む影!森林の奥地に幻の珍獣『チュパカブラ』を見た!」

「何言ってんのよ」

「いや、つい」

「とりあえず、あれは聆さんの隊の掛け声ですねぇ。それも、激しさからして既に戦闘が始まってるっぽいですよ」

 

なるほど、そう言われれば確かに何度も聞いたシャウト。

 でも、やっぱりいつまで経っても慣れないなぁ。あのいつも飄々と軽い態度をとってる聆と、この悪魔的な金切り声がどうしても頭の中で結びつかない。

 

「急ぎましょう。あの四人が滅多なことで負けるとは思わないけれど。……秋蘭と七乃は自分の隊の正規兵を率いて聆たちの掩護へ。場合によっては後から山林に入る包囲隊も使って構わないわ」

「逆に軽く終われば私達もそのまま包囲に移りますね」

「そうして頂戴。さて、他。準備が終わり次第、手柄を挙げたい者から並んで突撃」

「「はっ!!」」

「大雑把な……」

「『豪快』と言いなさい。そもそも細かく言ってもしかたないでしょ。それに、一刀もさっきは『このまま放てば』なんて言ってたじゃない」

「そうだけどさ……」

 

 確かに急いでるし、勢いを活かさない手は無いと思うけど……春蘭たちに気をつけるように言っておこう。聞いてくれるかは正直自信無いけど。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「にゃにゃにゃにゃ!」

「みゃおーーっ!!」

「怯むな!手加減するな!オロオロするななの!」

「死角を補え!」

 

複数の兵が寄り集まり、刃を外にしてまるでウニや栗のように丸まり、攻撃に抗する。

 樹上よりの奇襲、そして身体のバネを最大限活かした高起動戦法。ちょっとこれは……情けない話だが、攻め手が無い。いや、勝てることは勝てるのだ。が、如何せん"殴り合い"になるだろう。この段階で消耗するわけにはいかない。接敵のシャウトを聞いて別行動の凪たちや本隊からの掩護が来るはず。それまで耐えなければ。

 

「カクゴするのにゃ!クマニンゲン!」

「クッ……沙和、兵の指揮頼む」

「分かったの!」

 

兵との合流を阻むかのように孟獲が立ちはだかる。

群から個体を分断して狩るというのは、肉食動物の常套手段だ。

 

「ミケ!トラ!シャム!」

 

……ということは私を狩るつもりか?バカを言うな。

 

「らァッ!!」

「にゃっ!」

 

スーパーボールみたいに地面や枝の間をバッコンバッコン好き勝手に跳ねまくって、あらゆる方向から攻撃を放ってくる。

 

「………」

 

 落ち着け、私。確かにこんなにアグレッシブな動きをする相手は初めてだが、全方向からの攻撃は別に初めてじゃない。そして、一匹一匹の強さも大したことはない。立ち止まっていては相手のパターンに入ってしまう。とにかく、ここは多少強引にでもこっちから攻撃をバラ撒いてチャンスを作る。

 

「ウラァァッ!!」

「にょわ!?」

 

一番ぼぅっとしてそうなヤツ(確か、シャムとかいう名前)を狙う。しかもコイツの武器はスリングショット。瞬殺は確――

 

死の予感!!

 

「……っ!」

 

キグルミの肩から上が背後から派手に切り飛ばされ、ぶっ壊れる。その犯人、周泰の姿を頭上に捉えた。細剣での反撃。

そして、反対側、もう片方の眼で確認した背後足もとの"二人目"にも、同時に蹴りを放つ。

 

「くァっ!?」

 

頭上の周泰は丸太に。足もとの周泰は小さく悲鳴をあげた後、距離をとって相対する。こっちが本物だったんだな。

 

「さすが蛇鬼鑑惺……抜け目無い」

 

何が抜け目無いものか。普段なら死んでたわ。

 私は、切られていることに、切られ始めたとき気が付いた。熊のキグルミの背に周泰の刃が触れた瞬間、その感覚で気付いたのだ。そして、反射的に上体を倒してギリギリ躱すことができた。

 キグルミには、四足になったとき、より熊らしく見せるため大きく背中側を膨らませるように骨組みが入っている。そして、その隙間には普段の鎧と同様に大量の装備品を。これらに阻まれて尚、攻撃は私の(本当の)背を掠めたのだ。これが普段通りなら……どう楽観的に見積もっても体の半分までは確実に刻まれていた。

 

「もっと良ぉ狙って斬るんやったな」

 

が、効かなかったと思ってくれたならそれでいい。

 って、睨み合ってる内にまたシャムが私から間を取り、南蛮兵の得意の布陣になった。

 しかしさっき死にかけたおかげか打開策を閃いた。

非常に単純なこと。

 

「みゃぁ!」

「……」

「みゃ?」

 

突っ込んで来た猫をとっ捕まえて盾にすれば良い。

 

「と、トラをはなすのにゃ!」

「いーや!絶対放さん。こいつには私の防具になってもらう」

「ひ、卑怯ですよ!」

「お前が言うな!」

 

背後攻撃に代わり身の術なんて手の込んだマネしやがって。

 

「……まぁ、その背後攻撃ももうできんけどな」

 

防御の薄くなった背中に磔の如く括りつけてドヤ顔。

 

「そんで、コレはまだ第一形態や」

「なに……!?」

「さらにミケ、シャムを両上腕に括りつけ、南蛮王を肩車することによって『にゃんこアーマー』は完成する!」

「ば、バカにゃ……!」

「くくく……抵抗は無意味や………私と同化しろ……!!」

「トラのことは気にせずやっつけるのみゃ!」

 

南蛮兵のクセになかなか"解ってる"セリフを言うじゃないか。

 

「で、できませんよそんなことっ!」

「うむ。わかったじょ!」

 

でも王の方が素直すぎた。

 

「ええっ!?」

「みゃ!?ホントに気にしないのみゃ!?」

 

本当に気にしないんだろう。それはその行動にも既に現れている。武器を思いっきり振りかぶり、弾丸のようにまっすぐ突進する。

 

「破ッッ!!!」

 

それを氣弾が撃ち落とす。

 

「にゃにゃーーっ!?」

「はいなっ!」

「きゃっ!?」

 

さらに一撃。今度は実体のあるドリルだ。

 凪と真桜、援軍到着。危機は脱したということだ。

 

「聆!」

「遅かったやんけ。凪、真桜」

「すまない。……というか何だその格好は?」

「ちょっとしたアレや。それより」

「分かっとる。……行くで!!」

「ハァァァァァッッ!!」

 

不穏なモーター音を上げながら真桜のドリルが高速回転し、木々に着火するのではという勢いで凪の氣が熱と密度を増す。……うん、コイツらと比べたら、私は圧倒的に常識的で良心的だ。

 

「にゃ……タイキャク!退却にゃ!」

 

それはもう、私には行け行けで攻めていた孟獲がビビり上がって逃げだすほどの差が有る。

 

「にゃー!」

「えっ?ちょっと、トラ殿は?美以殿!?美以殿ー!!」

 

それを追って南蛮兵、周泰も。

……逃げ足早いなぁ。あれは流石にどうやっても追い付けない。

 

「ともあれ……なんとかなったか」

 

まぁ、あの奇襲をかけられて撃退できたのならそれだけで上出来だろう。

 

「びっくりしたわホンマ。急にギャー言うて叫び声聞こえて来んねんもん」

「沙和と兵らは?」

「平気なのー!」

「おお、無事やったか」

 

アレだけ密集して死角を無くせば流石に近付けなかったらしい。沙和の激励も効いたんだろう。兵の被害も殆ど無さそうだ。

 かなりヒヤリとする場面も有ったが、迎撃戦は全体的に十分満足できる結果になった。

 

「みゃぁ………」

 

後はこの、私の背で絶望に打ちひしがれている子猫をどうにかすれば完璧だ。

 

「えぇっと……ほら、行き」

 

縛り付けていた紐を解いて地面に下ろしてやったものの、その場でへたり込んでしまっていっこうに動かない。

(まず普通の精神を南蛮兵が持っていたのが意外だが、)普通に考えて、そりゃ、まぁ落ち込むわなぁ。敵に人質にされては(自分が言ったこととはいえ)あっさりコラテラルダメージとして切り捨てられそうになり、撤退ではこれまた迷い無く、そして今度は本当に捨て置かれた。

 南蛮兵はその場のノリと利己で生きているイメージだったが、なるほど、それで切り捨てられた側はこうなるのか。それとも、こいつも寝て起きたら完全に元通り元気になっているものなんだろうか。

 

「その……なんだ………」

「げ、元気出すの!」

「正直 すまんかった」

「ほ、ほら、飴ちゃんあげるから」

 

声をかけてもやはり返事は無し。でも飴はちゃっかり舐めている。大丈夫そうだな。

 

「一足遅かったか。……って何をやっているんだ?」

「あらあら〜、聆さんがまた拉致しちゃったんですか?好きですねぇ」

「誤解や」

 

秋蘭も七乃さんもタイミングが悪いこと……。

 

「そんなこと言ってぇ……正直、小さい女の子とか好きなんでしょ?」

「それは否定せん」

「えぇ……」

「母性愛的な意味で、やんな?」

「それもある」

「『も』てあんた……」

「はぁ……適当なことを言っていないで、本隊の掩護に移るぞ。その子供は……お前、見張っておけ」

「サー、御意!サー!!」

「変なことしちゃダメですよ〜」

「サー!『Yes Lolita No Touch』です!サー!!!」

「やっぱりお前はダメだ」




予定では3000弱だったのになんで5000文字超えたんだろうか。


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第十五章一節その四〜二節その一

Simsおもしろいです。

今回はいつにも増して誤字、脱字、ねじれが多そうなのでお気をつけください。


「奇襲部隊からの、その後の報告は?」

「特に何も来てないみたい。大丈夫かなぁ……」

 

 鑑惺らが包囲へと動き始めた頃、両軍本隊はまだ接敵しておらず、蜀前陣も割と静かなものだった。

 

「……そちらの心配ばかりもしていられないようだ」

 

もちろん、静かと言っても戦場。すぐに騒がしくなる。

敵に備える兵の向こう、道の先を甘寧は睨む。

 

「ん?」

 

湾曲した道の先から地響きのように馬の足音が聞こえる。

程なく、土煙と共にその姿が見えた。

 

「………これは、すごいな……」

「先頭は……夏侯惇、張遼……とんでもない勢いで一気に突っ込んできてる」

「敵ながら素晴らしい士気だな。……けど」

「今は好都合だよねっ」

 

一気に来てくれる方が、一気に引っかかりやすい。馬岱は上機嫌でその時を待つ。

 

「走れ走れぇッ!!我々第一陣で包囲を打ち砕くのだ!」

 

 一方の魏軍先鋒。夏侯惇を先頭に、許緒,張遼,華雄,文醜が続く。こちらもかなりの上機嫌である。多少、敵の動きのせいで急かされるような形での開戦となったが、その指示は『全速で突撃』というもの。非常にわかりやすく、趣味に合ったものだった。

 

「はいっ春蘭様!」

「おお……、この無心で突撃する感覚……これこそ私が求めていたものだ……!」

「あかん……華雄が悪い意味で覚醒しよる」

「そう言う霞もにやけてんじゃん」

「そらそうや。全速突撃は騎馬の華や!」

「蜀の兵よ、覚悟せよ!我は魏武の大剣、夏候元譲なr――」

 

瞬間、夏侯惇の騎馬は体制を崩す。

 蜀の最前線の目と鼻の先、隘路の出口付近を横切る溝のように掘られた落とし穴……いや、対軍団用に作られた『隠し空堀』である。地面を荒らされていたせいで実力を発揮できなかった西涼戦の意趣返しでもあった。

 しかし、期待したような効果は発揮しなかった。落ちると同時に、夏侯惇の勉学以外に関しては高性能な脳が反則的な姿勢制御を行い、馬を乗り捨て対岸に着地することに成功する。さらに『ここで立ち止まっては軍の気勢に関わる。よって、止まることは許されない』と判断を下し、そのまま徒歩で敵軍に突進を続けた。

 そして、地面が崩れる瞬間をすぐ近くで見た張遼以下猪四名も並外れた反射神経で堀を飛び越えてみせる。

そして一言

 

「跳べッ!!!」

 

後続の騎馬隊も次々と堀を跳んだ。『跳べ』と命令されれば完璧に跳ぶのが魏の兵である。

 

「うそ!?跳び越えた!!」

「なん……」

 

呆気にとられ一瞬弱気になりそうになった、が、なんとか踏みとどまる。

 

「いや、それなら定石通り迎撃するだけだ!」

 

 策は空振ったが、それでもなんとかここである程度は削っておきたい。初戦に気を使っているのは蜀側も同じだった。

 

「歩兵は少し迂回して森の中から討ちなさい!」

「はッ」

 

 荀彧と北郷の指揮する第二陣も前線の異常に素早く対応する。堀は板でも渡せば越えられないこともないが、今回は少し道を避けて動いた方が早いと判断した。

 

「ちっ……やられたわね」

 

とはいえ軍師の荀彧は不満顔。

 

「騎馬隊はうまく跳び越えたみたいだけど……」

「堀を跳び越えるなんて曲芸した時点で戦術的には負けてるのよ。……本隊を突撃させる前に軽く一当てしておけば………」

「最初から最大戦力で突撃ってのは華琳の意向だったろ。桂花が気にやむことじゃないさ」

「何?華琳様が悪いって言いたいの?」

 

慰めるつもりが思いっきり地雷を踏み抜いた。

 

「そうじゃないって!時間も無かったし、華琳の指示に不満は無いよ。今回のこの些細な負けはしかたないことだったって言いたかっただけだ」

「些細なんて言葉でテキトーに済ますんじゃないわ――」

「ああ!ほら、敵が変な動きしてるぞ!どうも別働隊を横から廻してこっちの先鋒を孤立させる気みたいだ」

「……私達も急ぐわよ。歩兵隊!森を抜けたらこのまま突撃!!」

 

沸点の低い荀彧だが、仕切る場面では切り替えも早い。この戦の後でたっぷり文句を言ってやろうと心に決めながら私語を切り上げた。

 

「むむむ……ダメな展開ですねぇ………」

 

 後方の陣の中で陸遜は頭を抱えた。まさか堀がこうも簡単に越えられるとは。隠蔽工作を施すが故に多少幅が小さかったことは確かだが、それでも十分機能するはずだった。魏がなんだかんだと解決策を見つけることは分かっていたが、時間はかかると予想していた。そして初激を弱め、あわよくば先鋒の将を討ち取れるとも思っていたのだが、全て皮算用となってしまった。

予定を前倒して放った別働隊も、想定よりかなり早い第二陣の到着で相殺されてしまう。

 言い訳がましいが、こうも兵の技量が高くてはかかる策もかからない。

 

「穏様ーー!」

「明命ちゃん!無事だったんですか!良かった〜」

「……美以殿も、一応。……ですが、今はそれどころではありません!」

「そうですねぇ。敵の勢いが想定の五倍以上……」

「それもそうですけど、そうじゃないんです!山から――」

 

 言い終わらない内から、周囲の山林の木々がザザと揺れて矢が降り注ぎ、抗戦にあたっていた蜀の兵を追い立てて黒い魏の兵が駆け下りてくる。

 色々と察した。

 

「退きましょう!」

「はい!」

 

 負け戦でぐずぐずその場に留まるほど愚かなことは無い。それに、ここでの退却は想定内……というよりかはむしろ大前提。決断は早かった。

 陸遜の指示により全軍へ退却の号令がかかる。

 

「くそっ……もうちょっと互角に戦いたかったけど、しかたない」

「包囲されていたのはこちらというわけか……」

「来るよっ!」

 

しかしそこへ蜀軍とは真逆の有り余る勢いとともに兵の垣根を割って飛び込んでくる、張遼,華雄,文醜の三騎と、それに続く騎馬隊。(徒歩になった夏侯惇は歩兵隊と合流。許緒もそっちについている)

 

「馬超!いざ尋常に勝負や!!」

「そうやってるヒマも無いんでね。ここは逃げさせてもらう」

「落し穴まで作って、しかも先頭には立たないで、いざ顔合わせたらしっぽ巻いて逃げるとか……小物すぎるぜ」

「武人の風上にも置けん」

「あんたたちみたいな突進だけの猪を基準に考えないでよ」

 

と言いつつ、やはり刃を交わす六人。しかし、それも所詮は兵が退くまでの時間稼ぎだ。頃合いを見て逃げに転ずる。

 

「逃がすかいな!華雄、猪々子、追うで!」

「当たり前だ」

「応よ!」

 

対して、更なる追撃を加えようと勇ましく加速する三人。

 

「うわッ!?」

 

が、その鼻先を一本の矢が掠め飛んだ。振り返った先、夏侯淵が駆けてくる。

 

「何すんねん!」

「ああでもせんと止まらなかったろう。事実、私がさっきまで大声で呼んでいたのに気が付かなかったしな」

「そうなん?……いや、言うて加減があるやろ。結構な威力やったでさっきの」

「ワザと多めに氣を込めて気づきやすくしていたのさ。……ともかく、先鋒も追撃はせず本隊と合流、ここで進軍は一時停止だ」

「何故だ!敵がせっかく逃げ腰だというのにトドメを刺さずしてどうする!」

「それにここで逃がしたらまたあいつらと戦うことになるんだぜ?」

「ここで殺っとけば相手の戦力も士気も削れるやん」

 

口々にそれらしい理由を挙げて文句を言うが、実のところ単に思いっきり戦いたいというのが一番の理由だ。そんな心中を知ってか知らずか、夏侯淵は冷静に反す。

 

「馬超が本気で逃げれば、この程度の足ではない。霞と同程度かそれより少し早いだろう。甘寧と馬岱も実力より速度を落としている」

「な………そういうことかいな」

「この後の話がある。華琳様のところへ行くぞ」




これでも原作よりゴリ押しを軽減しているという事実


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第十五章二節その二

誤字注意
郭嘉と賈詡の間違い注意

上手い文章でリメイクしてくれる人募集中です。


「戻ったぞ」

「あら、素直に退いてきたのね」

 

 私が本陣に戻ってすぐ、若干不機嫌そうな顔をした先鋒の面々も戻ってきた。

 

「誘てるて分かったからなぁ」

 

 この山間の平地は確かに防衛に優れている。だが、まさかそれだけで魏軍の……それも、まだ疲労もしていない初戦を破れるとは敵も思ってはいないだろう。なればこその、山馬超(造語)である。落とし穴やら周泰の襲撃やらがあったが、基本的に相手は最初から"ここでは"負けるつもりだったのだ。

 少し戦って相手の闘争心を煽り、相手を速い者から順に奥に控える本当の本隊に誘い込み、倒す。馬超を使ったのは、どんな将にも追いつかれずに本隊まで逃げ切ることができるからだ。

 広場での待ち伏せの定石を使うと見せかけ、実は路地での戦いのテクニックを使った術だったのだ。しかし、風が見破った。敗因は、露骨過ぎる人選。私的には、馬超の代わりに星を入れるのが丁度良かったと思う。

 

「いやぁ、誘っとるように見せかけて安全に逃げるための策かもしれんで?」

 

まぁそういう考察は置いといてとりあえず適当なことを言っておく。最近真面目にやりすぎて魏のお母さん枠とか言われだしている(気がする)からな。私が目指しているのはちょい悪お姉さん枠なのだ。

 

「一理ある」

「聆……引っ掻き回すのはやめなさい。何人か本気にしてるわ」

「そんなやつおらんやろ」

 

『一理ある』というかゆうまの声はきっと幻聴だ。

 

「……さて、それでは宿営の準備にかかるわよ」

「もう宿営に入るのですか?」

「引けばまたこの平地に陣を張られるし、先に進めばまた隘路よ。せっかく比較的守り易い地形を獲ったのだから、ここで一度ゆったりと英気を養いましょう」

「ゆったり……ですか」

「そう。出発前も言ったことだけれど、"普通に"やれば魏の負けは無いわ。では、その"普通"をどう作り出すか……それは、普段通りの、魏での生活と同じ環境でしょう。できるだけ普段と同じ水準の豊かな食事を摂り、安心して眠る」

「せっかく皆士気が高いというのに、落ち着けてどうするのだ」

「こっから成都まで距離も難所もまだまだ有るやろ。士気やら戦の高揚感やらなんぞ捨てるほど押し付けられるわ」

「それに、高すぎる士気もまた厄介なのよ。本当はとっくに限界なのに、本人すらもそれに気付かず気合でどんどん進軍していざ戦うと全然ダメ、或いは、ふと気が削がれた瞬間に再起不能……なんてことになったら笑えないわ」

「今日なんか特にだよな。国境越えて、初戦闘を乗り切ってしかも一つ難関を押さえた。言葉で簡単に表したらもう既にかなり働いてるのが分かるよ」

「それに、自信がつきますしねぇ。敵国に入っても実際余裕が有るっていう。反対に、そんなわたし達の姿を見て相手はイライラしちゃいますよねぇ」

「それも有るわね。……さて、この場での宿営、一石で何羽の鳥を墜とせるかしら?」

「…………」

「まぁ、納得いかないというのも分かるわ。常識的ではないし、なにより先程の戦で不完全燃焼だったものね。……そうね、狩りにでも出てきなさい。多少の憂さ晴らしにはなるでしょう。それに何より食糧がより豊かになるわ。動き足りない者は一般兵にも居るでしょうから、食料調達部隊として隊を組んで出ると良いわ」

「ふむ。戦の足しにもなるならば行くか」

「ボクも行きたい!春蘭様も、行きますよね?」

「ああ、もちろんだ!」

「この時期なら獲物には困らないぜ。鹿に猪……何から狩ってやろうかな」

「熊や虎も合わせて目に入り次第片っ端や!行くで!」

 

と、先鋒隊は戦闘結果の報告もせずにUターンで出かけていった。報告の方は他のルートから入ってくるから別に良いと言えば良いのだが……なんとも血気盛んなものだ。

 

「……ここら一帯の動物根こそぎ狩っちゃいそうだな」

「そこは季衣と……あと意外に猪々子辺りが調節するんじゃないかしら?」

「それより華琳様――」

「分かっているわ。確かに、他に比べてかなり安全な地形を取ったけれど、危険なことには変わりない。警備は普段の三倍とする。でも、さっきも言ったように休憩時間は十分に取るつもりよ。だから、全軍での持ち回り方式をとるわ」

「これだけ数が居れば普段の三倍でも軽いか」

「では、そのように人員の割り振り案を作成しておきます」

「あとの皆は宿営の準備に取りかかりなさい」

「「はっ!」」

「……あ、聆はすこし待って」

「ん、なんや?」

「貴女、また誰かしら捕まえたそうじゃない」

「うん、まぁ……」

「単刀直入に訊くわ。またバカ?」

「バカ」

「そう………」

 

その目は哀しかった。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「――結局、追撃は無し……か」

 

 同じ頃、宿営地の更に少し先に構えられた蜀の陣では孫権が悔しげにため息をついた。

 

「は。敵の先鋒は相当の突撃思考だったのですが……申し訳ありません」

「構わない。相手は突撃思考の将も多いが、その分搦手を得意とする将や軍師も揃っている。そ奴らが動いた結果なのだろう」

 

 猪武者たちの枷役となる夏侯淵、典韋。兵器開発や工作に強い李典。そして、こと敵の策への対処に関しては右に出る者の無い鑑惺。于禁という将は特に目立ったところは無い……と見くびっていると高い統率力に痛い目を見ることになる。更に軍師も多く、それぞれに特色を持つ。荀彧は基本の政略や軍略、物資と人員の管理に圧倒的な素早さと正確さを発揮し、郭嘉は批判役をしつつ、その広い見聞で議論に深みを出すと聞く。そこに程昱の奇想が加わり、張勲が精神的圧迫を付け足して敵を嵌め倒す策が完成する。船頭多くして船 山を登ると言うが、曹操という絶対的船頭の存在によって迷走や停滞は無い。

 

「曹操……やはり、強大だな……」

「とうする?この間合いなら夜襲もかけられると思うけど……」

「誘いに乗らなかったということは、相当慎重になっているはず。夜襲への対策は当然の如く万全を期しているだろう。逆に待ち伏せている可能性もあるわ」

「事実、鑑惺さんは南蛮の皆さんを釣ってきましたしねぇ」

 

 陸遜は周泰の報告を思い出す。

 獣の姿に化けて南蛮兵の狩猟本能を煽り誘い出し、続く援軍での襲撃。なんとか逃げ出したが、無傷ではなかったと。

 

「深読みのしすぎは毒だ」

 

 しかし陸遜の思考はあまりにも鑑惺を神格化しすぎではないか。獣の被り物だって、相手にしてはとりあえず見つかりにくくするためのものに偶然南蛮兵が反応しただけかもしれないし、援軍も、あの奇声が聞こえれば、それは近くの兵が駆けつけるだろうというものだ。

 孫権は建業防衛戦にて鑑惺と直接刃を交えた。そのときの、あの人を喰ったような戦い……陸遜の言うことも解る。だが、同時に、陸遜の考えるほど直接的な強さを持つのだろうか?という疑問も浮かぶ。鑑惺はとにかく前へ出て、自分で動く。それはつまり、事前に読むことが得意なのではなく、その場の機を見て『始めから知っていた』ように取り繕うことしかできないということではないのか?長物から毒薬まで様々な武器が仕込まれた鎧は、実は本人の自信の無さの現れではないのか。

 

「……が、無茶な突撃をしてこちらが消耗しては更に危険。夜襲はほどほどに、掠る程度で良い」

 

 もちろんこの考えは陸遜の"悲観的"な思考に対して、反対に酷く"楽観的"過ぎる予測。

 そしてそもそも敵は鑑惺だけではない。敵には軍師が四人も居るのだ。鑑惺が読んでいなくてもそいつらが読んでいるということは十分に有る。例を挙げれば赤壁の戦い。鑑惺が、鎖で繋ぐという罠に乗ったと安心していたら李典がしっかりと対策を施していたらしいというのが黄蓋の談だ。

 結局、大きく動くことはできない。

 

「……蓮華様。偵察からの報告で、曹操が周囲に大量の兵を放ったそうです」

「大量の兵を?野営地の設営に入ったのではなかったのか。……それは確かなのか?」

「はっ。皆それぞれに武器を持ち、完全武装で山の中に広がって行ったと。それに、夏侯惇や張遼、文醜など攻撃的な将も多く出ていたとのこと」

「こちらの偵察を潰す気か?……にしては、戦力が過剰な気もするが」

「しかし、こちらも明命ちゃんや美以ちゃんを出して、山での強さを見せちゃいましたから……妥当な戦力かもしれません」

「それか、警戒してるって見せつけてるのかもな」

「晩御飯のために猪でも狩りに行ったんじゃないのかなぁ?曹操って猪好きみたいだし」

「猪はむしろ鑑惺が集めたようだがな。ともかく、敵国の山中で狩りというのは非常識に過ぎないだろうか」

「真意は曹操に聞いてみなければ分からないわね。いずれにしても、ここは慎重に行動しましょう。あくまでも相手を"削る"ことが目的よ」

「……だな。ぶつかり合いは次に持ち越しか」




(戦術をAAで説明しようとして挫折)


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第十五章二節その三

平日お昼の投稿ですがニートじゃないです。
そして今回はスマホの調子が悪いのでpcでの執筆。
初めてpCで自分の文章見ましたけど、5000字以下の文章をpcのモニタに写すとすっごいスッカスカに見えますね。見えるだけならまだマシですけどね。


「――たったの一箇所、か……」

 

 狩りに出ていた面々が戻り、夕食前の少しの時間。何ともなく始まった雑談は、当然と言うべきかこの戦の話題で占められ、やがてまるっきり軍議そのものへと変わっていた。

 

「はい。成都までの地形で検討したところ、我が軍の数の利を活かして戦える戦場は、間に一箇所。……綿竹の南方にある平原のみです」

「森ならまだしも急斜面なんかになると今日みたいなこともできませんしねぇ」

「えっ?街沿いに行けばいくらでもあるじゃんか」

「………」

「………」

「ご、ごめん」

 

 猪々子が言ったことは、通常なら正しい。遠征軍というものは敵国の街の畑や民家から食糧を調達しつつ進軍していくものだ。そして、防衛側は敵に奪われるくらいなら、と畑に火を放ったりする。民衆はどちらが勝ったところで関係無い。ただ戦線が過ぎるのを待つばかり。

 しかし、今回は……と言うより魏対蜀の戦に関しては事情が違う。互いに民衆を巻き込みたがらないし、食糧の強奪など以ての外。そして民衆による君主への忠誠も高く、制圧は容易ではない。信条と実質の両方で下策だ。

 

「そこで決戦になるということか?」

「いいえ。蜀は呉での戦いで兵をあまり動かしていないわ。……将は大々的に投入していたけれど。……ともかく、兵数には余裕が有る。急いてはこないでしょう」

「対してこちらの物量的な戦力は蜀の奥地に進むほど下がるワケですから、決戦は恐らく成都……」

「最悪、緊急で遷都してさらに奥まで引き延ばされるかもしれませんねぇ。私ならそうします」

「劉備の性格はそれほど悪くないと思いますから、そのようなことは無いと甘く仮定しても……」

 

……さらっと七乃さんの性格が悪いことになったな。そして誰もそれにつっこまない。

 

「分かっていたことだが……もどかしく精神的に辛い場面が続くということか」

「それで、今日の戦い、いかがでした?」

「戦いにならなかったのだから、感想の持ちようもない」

 

 春蘭が憮然とした態度で言う。けど、それは最終的な……いや、過程をすべてふっ飛ばして結果だけ、しかも勝った負けたという一次元的な判断基準での感想だ。この戦いではこちらも下手をうったし、その失敗は今まで気付かなかった認識面の問題に起因している。

 

「私の失敗やな」

「聆?」

「今回の戦いは戦術的な負けを力技で揉み消したようなもんや。で、戦術で負けた理由。地形の他に、私ら別働隊が後手に回って敵の奇襲を受けたせいで急がならんかったって点も有る。こっちが先に相手を見つけて中央に報告して、作戦を練るんが理想のカタチやったはずや」

「でも手掛かりが全然なくて、それにあの猫みたいな子の身体能力……木の上から来たんだろ?常識外れの反則みたいなものじゃないか?」

「それを言うならこちらも幾つか反則的なワザをだしているわ」

 

華琳の言う通り、自分のことを棚に上げて相手に対しては『非常識だからノーカウント』とはできない。後れを取ったことは認めなければならない。

 

「見通しが甘かった。『敵は優秀な将が揃っている』と言いながら、それらに対する心構えが不十分だった」

「関羽やら孫策やらの名将で鳴らしてるヤツ以外にも一芸特化の厄介なヤツが要注意ってェこったな」

「……と言われても、ならばどいつに留意すれば良いのだ」

「周泰、孟獲……は、今回のことを見るに確実だな」

「それと馬岱もね」

「アイツは精一杯良く言ってかなりの悪戯好きだからな。何かしら罠を仕掛けてると思って良い。足下には落とし穴、頭上には網、逃げたら誘引だ」

「呉の呂蒙とかいう軍師も、およそ軍師とは思えないほど動けるようです」

「弓兵隊を率い、精神力も高い黄忠と厳顔は今後存在感を増すでしょう」

「見通しの悪い道、且つ防衛戦での弓兵か。考えるだけでも鬱陶しいな」

「黄蓋は氣で矢の軌道を曲げたと言うが、こ奴らも何かしらの小細工を持っているのだろうか」

「黄忠は割と素直なもんや。定軍山の時点やったらやけど」

「厳顔の方は破壊力特化のようです。そして、接近戦でも重い一撃が特徴とのこと。ですが、一方で思慮深く緩衝材として布陣の結束に大きく寄与すると」

「星ちゃんも性格の面で要注意でしょうね~」

「星というと……趙雲だな」

「話しかけられても無視したらある程度はマシなるやろ」

「辛辣だな」

「奇襲が怖いって話なら呂布だよなぁ……バッチリ猛将で通ってるけど」

「アレは出てこないんじゃないかしら」

「そうなのか?三万人斬りの猛者だぞ。報償は高くつくが、そうも言っていられまい。出せるだけ出したいだろう」

「アレには聆の口車に乗って命令違反した前科が有るわ。敵地に送り込んでそのまま取り込まれる危険が常に付き纏って、奇襲になんて出せたものじゃないでしょう。……会戦じゃ確かに最も危険な相手でしょうけれど」

「ウチも何かにつけて関羽関羽やったけど直した方がええんかな」

「めったなことを言わないで欲しいわね。天気が崩れたら厄介だわ」

「雨が降ったらその分敵に矢を降らせてやりゃァ良い」

「靑さんはどんどん下衆くなっとるなぁ」

「諸侯のおもりしなくていいからな」

「さきに挙げた将への注意を怠れば矢を降らされるのはこちらだけれどね。……とは言え、個人技を戦術で管理し制することは難しい。大々的な対策は取れないでしょう」

「警戒を逆手に取られたら本末転倒やもんな」

「聆ちゃんが言うと説得力が違いますね~」

「曹魏の蛇鬼の十八番ですもんねぇ」

「雌狸がよぉ言うわ。悪名高い定軍山もホンマは七乃さん主導やったやんけ」

「その後その場に居た全員がドン引きするほど陰湿な離間計を提案したのはだれでしたっけぇ?聆さんだったと思うんですけどぉ?」

「私は『馬超を逃がしてやれ』って言っただk」

「ゴホンッ」

「はい」

「各々が注意することが肝要よ。初歩的なことだけれど、効果は大きいわ」

「見通しの効かないところでは周泰の存在を警戒すること。厳顔が居る場合は優れた兵法に備えること。趙雲の言葉は無視すること。あと馬岱は性悪。……ですね」

「皆さん!猪の丸焼きができましたよ!」

「お、良いタイミングだな」

「汁ものも揚げ物もたくさんありますから、お腹いっぱい食べられますよ!」

「ほう……」

 

我が軍の餓狼たちの眼がギラつく。

 

「や、やっぱりちょっと足りないかもしれないので譲り合いの心みたいなものを……」

「つまり早い者勝ちだな!」

 

慌てて訂正するも、もう遅い。と言うより元々こいつらは食べることが好きで、競うことが大好きだ。流琉の発言に関わらずいずれ暴走していただろう。

 

「……っ!」

「させるかよ!」

 

華琳も愉快そうに傍観してるし、こりゃ私もちゃんと取り分を確保しとかないとダメそうだ。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 魏軍で料理の取り分を巡って熾烈な争いが行われていたころ。成都城壁に、劉備の姿があった。賈詡から初戦の報告を聞きながら、ただ魏の来る方、仲間が戦っている方……東を見ている。

 

「——そう。翠ちゃんたちは無事?」

「残念ながら、南蛮兵の幹部の一人が鑑惺から逃げ遅れたそうよ。当の美以は殆ど気にしていないらしいんだけどね」

「聆さん、か……」

「その子、ピンピンしてるんでしょうね。……定軍山で翠を逃がしたり、赤壁じゃ雛里も返して来たし、黄蓋も武人生命が終わるような傷はつけられていない。……よく考えれば、呂布を誑かしたときもそのまま魏に抱き込んじゃえば良かったはずなのに。アイツ、何がしたいのかしら」

「私と同じ、欲張りなんだよ」

「………今、朱里や周瑜たちが次の作戦をどうするか検討中よ」

「ごめんね。詠ちゃんにも手伝ってもらっちゃって。……蜀の将軍でも、軍師でもないのにね」

「ボクたちはボクたちのために蜀に勝ってもらわないといけないだけだから」

「………曹操さんも」

「—―って、ちょっと前なら言ってたとこなんだけどね。桃香が言おうとした通り、曹操も今更ボクたちを処刑したりしないはずよ。……でも、鞍替えする気は、不思議なほど、全く起きなかった」

「どうして?」

「言わないわよ恥ずかしい。……とにかく、こんなとこで黄昏てないでさ」

「……うん」

「心配なのは分かるけど、風邪でもひいたら大変よ。城に戻りなさい。お茶くらい淹れてあげるから」

「珍しいね」

「ボクは蜀の将軍でも軍師でもないけど、蜀のお茶汲み係ではあるもの」

 

柄にもなく洒落た言い回しをしたと内心はにかみながら踵を返す。

と、すぐにその心情は一転。できれば在ってほしくなかった人影が目に入った。

 

「……」

 

いつからなのか、城壁内側の階段に孫策が腰かけていたのだ。

 

「っ!」

「……貴女も心配なんですか?雪蓮さん」

「いえ。内緒のお話中だったみたいだから、終わるまで待ってたのよ」

「あはは、気にせず声をかけてくれてもよかったのに……何か、御用ですか?」

「ええ。次の戦いの件だけれど……やっぱり、蓮華の帰りを待つのは性に合わないわ。私が出る」

「えっ!?なら、将の選出とか……そう ポンと言われても………」

「あー、そうやって色々蜀側が手を廻してくれなくて良いわ。私の単なるわがままなんだから。主蜀の力は、蜀の主である貴女と供に、蜀の都である成都で時を待てば良い。……そうよね賈詡」

「ボクのこと……!?」

「袁術って、朝廷にツテが結構有ったのよね。支配の地盤を整えてからは殆ど利用していなかったみたいだけど。……その辺りから情報を引き出せば割と簡単に……ね」

「なら、当然周瑜も……」

「知ってるわ。……そう構えないで。桃香と曹操が許して、私だけが未だに貴女たちの首をどうこうすると思う?」

「思わない。……なら、軍略家 賈詡として胸を張って言わせてもらうわ」

 

一度大きく息を吸い、空を仰ぐ。

視線が戻ったとき、その眼は十常侍と連合軍を相手に戦い抜いた希代の軍師のものだった。

 

「涼しい顔でトチ狂ったこと言ってんじゃないわよこの猪バカ」

「……へ?」

「詠ちゃん!?」

「呉の強みは『地の利』『士気』でしょ。それらが万全の状態である赤壁・建業の会戦ですらあの大敗。今はそれに加えて個人の戦闘技能で主力だった黄蓋も、まだ回復しきってない。地の利も当然無い。士気も、落ち延びてきての防衛だからあたりまえに低い。いまさら呉対魏をやったところで何の足しにもならないわよ。武人の誇り?孫呉の意地?ガキじゃないんだからいい加減弁えなさい!そんなことのためにたった一度しかない前哨戦を浪費するワケにはいかないの。いえ、浪費するだけならまだマシよ。これで呉が今度こそ壊滅でもしてみなさい。『同盟国が滅亡した』ってことでこっちまでワリを喰う。貴女の出る出ないはこの際置いておいても、次の会戦は当然蜀も干渉するわ。しなさい。桃香」

「え、う、うん……えぇ………?」

「ま、まさかこんなにバッサリ言われるとはね……」

「言うよ。猪武者が言うことを聞いてくれてたら、あのとき、洛陽が堕ちることなんてなかった!それにアイツ……魏に入ってからは、大事なトコじゃちゃんと言うことを聞いてるらしいじゃない……!」

 

苦い経験を想起し俄かに語勢が強まるが、ため息を一つつき、落ち着いた表情を取り戻す。

 

「戦略的な観点と、個人的な恨みと、あと、人情から言うわ。孫策、蜀と呉は同盟国よ。そのことを、もう一度よく考えて」

「……そうね。ありがとう。もう知ってるでしょうけど、私の真名……『雪蓮』よ。次からはそう呼んで」

「ボクは『詠』」

 

新たに真名を交わした二人。このことは反董卓戦の遺恨の解消を意味し、沈んでいた劉備の心を幾分か晴らした。

 かくして、賈詡は晴れて軍師として蜀呉同盟の軍議に立つこととなる。その第一回目の場で彼女が提案したことは、綿竹南方での呉対魏の会戦であった。……『呉対魏会戦』という名の策である。




孫策「実はちょっと融和の機会狙ってた」


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第十五章拠点フェイズ : 聆(3X)の伝説

お久しBLEACH最終話

今回は話題が迷走Mind(風評被害)
しっとり華琳さんとはっちゃけ華琳さん。一話で二度おいしい(おいしいとは言っていない)。


 騒がしい夕食も終わり、皆それぞれに任務や仮眠へと別れた。

 私は仮眠組。が、なかなか寝られずに居た。原因は、今まで続けていた睡眠時間削りまくりの生活。……それともう一つ。大陸平定、つまり真恋姫夢想のエンディングが近づいていること。

 原作ではこの時期になると、一刀は現世への帰還の前兆と思われる昏倒を繰り返していたはずだ。しかし、そんな様子は無い。夕食にも元気に参加していた。無論、歴史の直接的な改変はほぼ私が肩代わりしているのだから、これでもし一刀が消えたら理不尽を通り越してお笑いになり、そして笑えないから純粋な糞と言える。

 じゃあ、当の私はどうだ。不思議なことに、私も全く異常無し。別世界の人間であることを隠して、できるだけ自然な流れで(そうすれば安全だろうと一旦思考を放棄して)キャラの死亡を回避してきたけど……普通に考えて、正史を知っている者が私を見ればオカシイのはバレバレなはずだ。

 こっちに来てすぐの時もぶち当たった疑問だが、どういう基準なんだろうか。そもそも、左慈たちはどの程度の能力を持っているのだろうか。よく覚えていないが、ルートによっては貂蝉が大陸のどこかにいる一刀を探して旅をする、というものがあったはず。このことから考えれば、全て見通せるワケではないのかもしれない。世界を管理する(らしい)人間に千里眼系の能力が備わっていないとは考えにくいが……。何か特殊な状況だったのだろうか。そう言えば、その時に居た卑弥呼……アレはどういう立ち位置の人物なのか。呉ルートの最後にも出てきていたが。

 バカみたいに酒を一気飲みして(たぶん)死んだ身ゆえ贅沢を言うつもりはないが、わけが分からないのは勘弁願いたい。その辺も全部ひっくるめて左慈や貂蝉にインタビューでもできれば楽なんだが。

 

「……こっちからはどないしょうもないなぁ」

 

しかし現状、インタビューどころか姿も見えない。分からないことしかなくて手の打ちようが無い。

 さらに、身も蓋も無い話だが、全部アイツらの気分かもしれない。管理"システム"ではなく管理"者"である限り、その判断には私情が介入する。

 

「………」

 

 気分が悪いが、やはり気にしない他に何もできないしするべきでもない。全部忘れてさっさと寝よう。

 

「……聆、まだ起きてるの?」

 

そして灯りを消そうとした当にそのとき、天幕の外から声をかけられた。華琳か。

 

「今寝ようとしとったとこや。どないかしたん?」

「これと言って用は無いけれど」

 

出入り口の幕を上げる。

『けれど』ってことは、なんとなく話がしたいということだろう。華琳が私に対してこういう態度をとるのは珍しい。

 

「用の有る無し関係なく好きにゆっくりしていってぇや。国主なんやし」

「そう言われるとむしろやりにくくなるのよねぇ」

「すまんな」

「本当にそう思ってるのかしら?」

「あんまり」

「適当ねぇ」

 

そう言いながら、寝台に腰かける華琳。手前に椅子が有るのに、あえての寝台である。

 

「ふふ、今、ちょっと身構えたでしょ」

「そらな。なんてったってあの"華琳様"やし」

「逆に貴女の方は最近殆どそういう話を聞かないわねぇ。溜まってるんじゃないの?」

「びっくりするほど溜まってない」

 

 私が相手にしているのは戦場という危険度120%の現場と人外じみた力を持つ乙女武将たちだ。私も、この身体に与えられた平均以上の素質と修行に実戦を通して強くなってきたが、いくら強くなってもまだまだ足りない。なんと言っても、パワーが足りない。パワーが足りないなら、その分をどう埋めるか。より多くの時間を戦いの準備に費やさなければならない。よって時間がなかなか無い。その少ない時間も『鑑惺』というキャラを創るのに忙しい。さらに、仮に時間が有ったとしても恋愛関係というのは管理が面倒だ。強いつながりであるだけに、拗れると惨事を招く。広く円滑な人間関係によって広範囲に影響力を持とうという私の戦略とは反する。

 そうやって後回し……いや、ある意味避けている内に本当にそういう気がなかなか起こらなくなってきてしまった。もはや子を産むための手段、通過点としかとらえていない。

 最後にしたのはいつだったか……ああ、そうだ、北郷隊幹部水泳訓練の後だ。ただ、アレは四人で一刀を弄り倒したという印象の方が強いし……。

 

「……大丈夫なの?それ」

「あかんかもしれん」

 

 健康な女の思考とは言い難い。一言で表せば"枯れて"いる。私はどちらかというと旺盛な方だったはずなんだが。……日々の習慣というものは恐ろしい。

 

「私が思い出させてあげようかしら?」

「いやぁ……遠慮しますわぁ」

「脈どころか艶も何も無いわねその返事。せっかくの美しい躰が泣いているわよ」

 

そう言いながら、お手本のように艶っぽく撓垂れ掛ってくる華琳。『遠慮する』と言ったが、思い出すいい機会かもしれない。相手もまさかこの場面でハードなプレイをしてはこないだろうし、乗るのも良いか。

 

「ちょっと、どうして頭なのよ」

 

と、私から返した手の動きに不満の声が上がる。

 

「つい」

「はぁ……美羽たちの世話を任せすぎたかしらね……」

 

 愛撫(性的な意味で)の中で、頭を撫でることは別段悪手ではない。が、どうも私のそれからは子供や小動物をあやすようなニュアンスが感じられたらしい。そういう癖がついてしまっている心当たりは有る。華琳の言った通り、ちゃん美羽その他の相手だ。

 

「……まぁ、欲が無いんはある種好ましい傾向でも有るし」

「今まさに国を大きくしてさらに発展させようという時に何を言っているのよ」

「いやほら、その辺自重することによって向こうの潔癖な子らも引き入れやすい的な?」

「また当然のように生け捕り宣言してるわね」

「あ……いや、華琳さんも同じクチやろに」

「私も確かに欲してはいるけれど、それを前提としてはいないわ。……前々から気になっては居たし、実際、何度か探ったり尋ねたりした記憶が有るけれど……貴女、何が目的なの?」

「えぇ……」

 

色恋の話の次はこの追及か。本当に、さっさと寝ておけば良かった。

 

「別に非難するような意図は無いわ。純粋な疑問よ」

 

 はぐらかすのは無理そうだ。相手は『奸雄』曹操。気が立って平静を欠いているときならともかく、一対一でこうも"静か"では……下手に受け答えすれば余計に不信感を抱かれかねない。実際、私は呉侵攻前に『何故魏に仕えているのか』という問いを誤魔化そうとして失敗している。

 

「言わん」

 

なら、はっきり拒否するのも手の内かも。考えるのが面倒になったとも言う。

 

「……その返事は予想外だったわ」

「あかんか?」

「ダメとは言わない。……けれど、すこし寂しくはあるわね」

「……これから先はもっと長いんやし、そのうち分かるんちゃう?」

「またそうやって他人事みたいに。……『これから先』か………貴女、ふらっと何処かに行ってしまいそうで心もとないのよねぇ」

「………」

 

 上手く切り抜けたと綻んだ顔が再び引きつる。

 何かそういう雰囲気が漂っているのか?それとも、フラグ?何にせよ、華琳……三国志という物語の中心である曹操が私の安否に言及するだけの"何か"が有るということか?

 

「気まぐれだし、急に『羅馬に行きたい』だの『倭国に行きたい』だの言いだしそうだわ」

 

あぁ、そういう……。かなり心臓に悪かった。

 

「そういうのんは霞辺りが言いそうなもんやけどな」

「カラっとしてるようで意外と複雑だものね。こう言ってはなんだけれど、平和を甘受できない向きよあの子は」

「隊長が上手いことやってくれるんちゃうか」

「もうやることはやってるみたいよ」

「それは言わんでも分かり切っとるわ」

「そうよね。言わずとも、よね。……貴女が囲ってるのは別として、要職はほぼほぼ全滅してるみたいだわ。季衣に流琉……霞や凪なんて、私もまだ手をつけていないのに……稟なんて酷いのよ。私は鼻血のせいで触れることすら難しいのに一刀はしっかり結合してるのよ!?」

 

言いながら徐々に語勢が強くなる。そう言えば、華琳が三国統一したがっているもう一つの理由は『大陸中の美女を我が物にするため』だったっけ。それが、目の前で先を越されているんだから心中穏やかでないのもしかたない。たぶん。

 

「結合てあんた……まぁ、アレやて。本命は華琳さんで、隊長は自慰のおもちゃ扱いと思えば」

「一刀が稟の体を楽しめて私が交われないことには変わりないじゃない!!」

「そないに気にしとんやったらもう睡姦でもすればええやん……」

「……やっぱり頭いいわね貴女」

「はは………あ、そうや一つ自慢してええ?」

「何?まさか貴女まで実はいろんな娘を誑し込んでいるというの?最近は枯れ気味だけれど少し前までは私の知らないところでブイブイ言わせていたというの!?」

「そうやないけど……ちょい前の話ではあるな」

「何よ、場合によっては詳細な報告書を要求するわよ」

「隊長の筆下ろししたんは私なんやで」

「………な……」

 

華琳の目が見開かれてしばしフリーズする。

 言ってやった。

こっちに来てすぐの頃に立てた目標の一つを今まさに達成した。

 

「結構前にそういう噂が立っていたのは知っていたけれど、実際にそうだと言われると……何か神代の伝説を目の前にしたような気分だわ」

「予想を遥かに超える反応で嬉しいわ。それ以上に引くけど」

 

私も『目標』とか言って大げさだったが、相手はそれ以上で返してきた。

『神代の伝説』て。女媧やら三皇五帝やらと同列に一刀のちんぽを並べるつもりなんか?

 

「一刀の男根はね、数多の少女の処女を穿った言わば歴戦の猛者。それも、どの娘も一級の容姿と権力、そして実力を持つ英傑ばかり。本来あの子たちの方が大量の娼夫を囲っていてもおかしくないのよ。その辺りの凡婦を抱いた単なる性豪とはワケが違う。見た目が美しいだけの無力な張りぼてを抱いた王たちとも、ね。……非常に、本当に悔しくて胸が張り裂けそうだけれど、性交についてアレの右にでる者は無いでしょう。一刀の前では私の方が主導権を持っていて、絶対の自信があるように振る舞っているけれど、内心では負けを認めているわ。この私がこうまで言うんだから、その凄まじさは分かるでしょう?」

「お、おぉ……」

 

 おかしな雲行きになってきたが、華琳も色々ストレスで大変なんだろう。たまにくらいはっちゃけさせてもいいと思う。そういうことにしておく。私のことについてあれこれ質問されるのに比べたらよっぽど良い。

 

「私の覇道を振り返れば、幼き頃初めて潜った私塾の門を思い出す。将として勇ましく剣を振るう春蘭の背中に、木の枝を振る少女を見る。そして、あの男根にもそんな『初めて』が有った……感慨深いとは思わない?」

「それそう並べて良えんかいや」

「生物の強さはね、『頭脳』と『戦闘能力』と『繁殖』よ。何かと性的な話を卑下する風潮があるけれど、私はその風潮をこそ卑下するわ!」

 

握りこぶしを胸に、勢いよく立ち上がって宣言した。

 

「だから貴女の性器にも歴史的、文化的価値があるのよ。冗談ではなく真面目に。分かる?」

「あんまり分かりたくない」

「そういうわけで聆、女陰見せて♡」

「嫌です」

「なんで?(殺意)」

 

 このあとめちゃくちゃ押し問答した。




オチが分かった人はホモ


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第十五章二節その四

読者様に看破されていた伏線なので初投稿です


 蜀領に入って数日。依然士気は高いまま進軍は続く。予想通り、いや、予想以上に激しい奇襲攻勢を受けるもさして問題にはならなかった。成果を挙げた隊は夜間哨戒免除であったり食事が豪華になったりと、むしろ奇襲に遭遇することに価値をつけることにより精神的負担を軽減しているのだ。私自身はそんなことで誤魔化せるものかと訝しんだりもした(冷静に軍全体を基準に考えれば奇襲されて得するはずはない)が、それはそれ。皆上手く部下をノせている。もしかしたら兵たちも分かっていてワザと盛り上げてくれているのかもしれない。

 そんな中、である。

 

「……ガフッ………」

 

 私はまたもや死にかけていた。

何故か。

 

「鑑惺、殺す」

 

呂布だ。

 突風に吹かれたと思ったら視界がぶっ飛んで地面にうつ伏せになっていた。

 たぶん、首に一撃やられたと思う。しかし幸いにも軟弱な私は刃が触れる前にその一振りが纏う氣に弾き飛ばされた。そしてもう一つ幸いなことに、その衝撃で死なない程度には頑強であった。私があともう少し強ければ、頭と胴体がおさらば。もう少し弱ければそのまま煎餅みたいに平らにのびていただろう。実際、近くに居た兵二人ほどの息遣いが消え、代わりに血と糞尿の混ざった匂いが。まぁ、私も幸運であったとは言えそれはあくまで『即死に比べて』である。何を痛めたか分からんが、全身が一瞬でガタガタ。前もこんな感じだったな。……いや起き上がれるかも怪しい分今回の方がひどいかもしれん。このままでは二人と同じ末路になりかねない。

 

「待て。呂布。なんでや」

 

来ないって予想だっただろ(これはこっちの勝手だが)とか、なんでこんなに強いのかとか、なんで私名指しで殺害宣言してるのかとか。

 

「ウソつきは死ね」

「なにが?」

 

まるで意味が分からんぞ。確かに私はどちらかと言うと嘘つきな人間だが、呂布に殺意を待たれるような嘘をついた覚えはない。

 

「話さなくていい。はわわもそう言ってた」

「クッソまた孔明かっ!!」

 

あのミラクル腹黒クソ幼女め。三国平定の暁には八百一本コレクションを皆の前で強制的に音読させてやる。

 

「とにかくワケを聞かせてくれや」

「ダメ。むずかしいこといってまたダマそうとする」

 

そう言って、私の首に冷たい感覚が。いや、熱い。もう、少し斬られた。

 

「騙さんって!そうや、なんかおかしい思たらすぐその刃押し込んだらええ話やん。な?」

「………」

 

しばらく沈黙。

 

「メンマだった」

「は?」

「星はメンマしかくれなかった」

 

星?趙雲がメンマをくれた話が何故私を殺す話につながるのか?

 

「それがなんで私に?」

「おまえが、肉まんよりいいものくれるって言った」

「あっ」

 

……あのときの命乞いか!

 対蜀防衛戦で呂布は肉まんのために私の命を狙い、私は『趙雲に渡せば肉まんよりいいものと取り換えてもらえる』と酒を差し出し生き残った。

 そしてその言葉通り呂布は酒を星に渡したのだろう。そして、おそらく星は何の悪意も無く、むしろ喜びを表して自分の好物であるメンマを呂布に譲った。しかし、それは呂布には伝わらなかった。呂布が納得するにはメンマは低カロリーすぎたのだ。

 

「わかった?」

 

不幸な行き違いがあったのは分かった。だが、だからといってはいそうですかと斬られる私ではない。

武力では確かに呂布に敵わない。だが、私は『蛇鬼』鑑惺。曹操曰く神代の伝説。がんばれ、私。今こそ振るい立て。

 

「謝れ!!!」

「!?」

 

突然の怒号に、呂布の檄がより強く押し当てられる。もう脈動の衝撃でさえ致命傷を招きかねない。それほど刃が血管に迫っているのを感じる。だが、退かない。ここで失敗すれば死ぬが、何もしなくても間違いなく死ぬのだ。

 

「メンマはなぁ!タケノコを乳酸発酵させて作られた星の大好物なんや!これを気に入らん、無価値やと言うことがどんだけ罰当たりなことか分かるかァ!!?」

「……?」

「タケノコとタケノコを育んだ地や空とタケノコ収穫した人と乳酸菌とメンマ漬け職人と流通に携わった人とメンマ入れる壺作った人と星に悪いと思わんのか!!!??」

「おいしくない」

「いーやメンマは美味しい。美味しいから売れる」

「だって、好きじゃない」

「好きやないんはお前の勝手やろが!!!お前にメンマを価値あるものとする感性が無いだけやろ!!!!目ぇ瞑ったまま暗い暗い言うようなもんやぞ!!!」

「分からないこと言った」

 

更に少し檄が押し込まれる。落ち葉の地面に顔を沈み込ませ、なんとか傷が深まるのを避ける。

 

「眼鏡頭に乗せて『眼鏡どこ?』言うようなもんやぞ」

「それは詠がたまにやってる」

「そう。つまりお前はなぁ、ホンマは美味しいものを、お前が『美味しい』と思うだけで美味しく感じられるはずのものを、美味しく感じる努力を怠って不味く食べただけなんや。メンマやのぉてお前の心がマズかったんや。私は正直者で、お前は確かに良えもんを貰っとったんや」

「………」

「それをお前なぁ、美味しくないやら好きじゃないやら言うて。……お前が嘘つきなんちゃうんか?」

「!!」

「ホンマは美味しいのに、お前は美味しくない言うたんや。これ、どないすんじゃ。嘘つきは……何やったけなァ?」

「……前言撤回」

「やったら私は死なんでええな」

「それとは別。敵を倒すのは任務だから」

 

糞がッ。

孔明マジ覚えとけよ。

 

「お前、任務達成なんかおめおめとできる身分やと思っとるんか?」

「なにが?」

「『嘘つきは死ね』これはお前が言い出したことで、お前が撤回したから確かにチャラや。でも、お前まだタケノコとタケノコを育んだ地や空とタケノコ収穫した人と乳酸菌とメンマ漬け職人と流通に携わった人とメンマ入れる壺作った人と星への詫びが済んどらんよな。メンマの悪口言ったその罪は消えとらんよな」

「……それも撤回」

「いーやこれは無理!だって皆の心に傷をつけたから!!もうお前だけで済む問題やないから!!!」

「……」

「そんなな、謝罪もろくにしとらんやつがな、自分の都合進めて、ましてそれで報酬貰お思とんちゃうやろな?……そんなもん白紙や白紙!!任務は失敗!!なんでって?お前が悪いやつやから!!!」

 

我ながらめちゃくちゃだ。だが、刃は離れる。呂布……いや、恋が素直な性格で良かった。史実の勝ち馬乗りまくり野心有りまくりの呂布だったら100%死んでた。

 

「……どうすればいい?」

「謝れ。タケノコとタケノコを育んだ地や空とタケノコ収穫した人と乳酸菌とメンマ漬け職人と流通に携わった人とメンマ入れる壺作った人と星に謝れ」

「謝ったら、許してもらえる?」

「いーや分からん。もう向こうもお前の顔なんか見とぉないかもしれんしな。謝りにいくだけ余計に迷惑かもしれん」

「………」

 

困り果てたような表情。私は一つ悪いことを思いついた。

 

「お前、私の髪の毛切れ」

「?」

「お前だけで謝ってもしゃーないからな。私からも許してもらえるようにってことや。髪はその印。帰ったら星にそれ渡して、一言『ごめん』とだけ言い。長ったらしいこと言うても迷惑やからな。その後は星から、お前の反省は皆に伝えてもらえるはずや」

「ありがとう」

「困ったときはお互い様や」

 

ザリッと音がして、首回りが涼しくなる。呂布め、遠慮無くガッツリ行きやがった。ゆらゆらと伸びて我ながら非常識なほどだったロングヘアが、この一瞬でショートカットだ。まぁ、その方が都合が良いんだが。

 

「じゃあ、行く」

「おう」

 

もう二度と来んな。




聆は三課長が回収しました


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第十五章二節その五

おひさしブリヂストン(橋石)
その五だから呉(適当)
久しぶりにPCの方の真恋姫やろうと思ったら動きませんでした糞が
やっぱpspって神だわ

今回はいつもより文章がモロモロだと思うので後々修正が入ると思います。思います。


「——こう言うのもなんだけれど、見慣れてしまったわね」

 

 さてそろそろ見張りの交代の時間か、と少し早めに起きて準備していた俺に突然招集の使いがやってきた。全員ではなく、そのとき手が空いていたメンバーだけらしい。こういう場合は大して重要じゃない相談事や連絡……もしくは逆に極秘のかなり重い話題かのどちらかだ。このタイミングでハプニングは勘弁してくれよなんて考えながら本営までやってきたワケだけど……。

 

「やろな」

 

 そこにいたのは呆れ顔の華琳と桂花たち軍師、そして担架に横たわって半笑いの聆だった。後から来た面々もそれぞれに『またか』という表情になる。表情だけじゃなく実際に口に出したりもして、それに聆が軽口で答えたりしていた。

 話を聞いてみれば、どうやら呂布に襲われたらしい。なんとか退却させることに成功したらしいけど……。いや、ちょっと待て。呂布!?

 

「いやいやいや、笑ってられないだろ!俺たちの予想と違って、呂布も普通に奇襲に使って来たってことだろ?」

「相当焦っているようですね。諸葛亮は」

「もう成都までの道のりも半ば近く。余裕が有るはずないだろう」

「第二の会戦の前に一撃加えたかったということでしょうね」

「実際喰らったけどな」

「……?」

「いや、これ見てみないなこれ」

 

そう言って首に巻かれた包帯をずらす聆。首の左側に傷薬の軟膏が塗ってある。

 

「骨が折れたわけでも体に穴が開いたワケでもなし。聆にしては健康な方だと思うが?」

「春蘭さんの場合これガチで言うとるかもしれんから怖い。これ首やで首」

「あんたもヘラヘラ笑ってたじゃないのよ」

「あの長い髪を失ったのは残念ではあるけれどねぇ……」

「でも短いのもかわいいよ」

「……平常運転ね」

「何が?」

 

桂花は何も答えてくれず、代わりに心底鬱陶しそうなため息が返ってきた。かなり長い付き合いになってきたけど、桂花のこの態度だけはブレないなぁ。

 

「ほんで、その第二の会戦、敵の布陣はどんな感じになりそうなん?」

「え?そうね、奇襲に現れた将の記録を見て、呉勢の頻度が高まってきてるから多分呉が中心になるでしょうけど」

「孫策の性格からして、早く借りを返したいのでしょう」

「ふーん……まぁ順当やな」

 

視線を宙に漂わせ、何か考えている様子の聆。聆がこういう顔をした後は、大抵何か不思議なことを言い出すんだ。

 

「んだら私非参戦でええか?」

 

そして、今回もその例に漏れなかった。

 

「え……?」

「非参戦?」

「うん」

「ちょっと、本当にどこか重大な怪我を?」

「怪我の方もあるけど……いや、それ単独で休戦の理由になるほど酷ないけどな?他に、死んだ体で進めて欲しいと言うか」

「それはまたどうして?……いえ、まぁ、理由は色々と思い当たるけれど。でも嘘を流布するのは小物のすることよ」

「やから『死んだ』なんか大っぴらに言わんで。暫く私の出番を無くすだけでええ。内にも外にも何の報せも無くな」

「言質取られなきゃ良いって考えもどうなのとは思うけれどねぇ……」

「そもそも、それで『死んだ』と思うでしょうか?『何かあった』とは思うでしょうが……」

「むしろ聆ちゃんのことですから何か策の準備に入ったと思われるかと~。それもまた面白いのですが」

「……もしかして、もう何かやりました?」

「……この髪、この首の傷の一撃で切れたにしては綺麗に揃いすぎや思わん?」

 

 言われてみれば、確かにきれいに揃った後ろ髪。戦闘の流れで切れたようには到底見えない。ここに来るまでに見栄えを良くしようと整えたわけでも無いんだろう。となれば、何かおかしなことをしたのは明白なワケで……。

『短いのも聆のイメージに合ってて良いなぁ』なんて呑気なこと考えるんじゃなくてこういう原因とか現象の先に有る情報を推測できるようにならないとまだまだ二流ってことなのかもしれない。

 

「はぁ、またどうやって誑かしたんだか。諸葛亮が気の毒だわ」

 

  ―————————————————————————————―――———————

 

「むぅ~、全然余裕ってカンジで腹立つぅ~!」

 

 一方の蜀呉同盟、牽制隊。孫尚香がイライラを爆発させていた。

 

「……成果の有った隊の夜間哨戒免除でしたっけ、曹操さんの方策」

「仕事さぼりのための士気とは……この大陸の明日を賭けた戦で何を不真面目な。我々を馬鹿にするにも程が有る!」

「実際バカにしてんでしょ」

 

 一向に魏の士気が下がる様子が無い。むしろ少しちょっかいをかければ嬉々として襲い掛かってくるほどだ。

 

「呂布さんも一回出たら何も言わずにすぐ後方に帰っちゃいましたしね~……」

 

 しかも切り札と期待していた呂布も陸遜の言う通り黙って帰ってしまった。ここまで空振ると、イライラと負の感情を外に出さないと弱気に潰れてしまいそうだ。

 

「それは、呂布に獲物を取られなくて良かったわ」

 

 しかしそんな陸遜のため息を遮るように、天幕の入り口から聞き慣れた声が投げかけられる。

 

「ここに来る途中ヤツの隊とすれ違った。特に連絡は無かったが、……本当に成果無しだったのか」

「雪蓮様!冥琳様も……」

「皆、牽制任務ご苦労じゃった。後は儂らが引き継ぐ」

「祭様まで!?」

「祭様、お怪我は……?」

「もとより手心をこれでもかと加えられておったしのぅ。おかげさまですっかり……とは流石に行かぬがかなり良くなってきた。それに弓兵隊はこういうことに向いておる。足手まといにはならんよ」

「もう姉様たちが出ちゃうの?」

「『もう』って言う程早くもないわよ」

「既に次の会戦の準備にも入っている。貴女たちは本陣へ退がりなさい」

「し、しかし、会戦が近いならなおさらお三方は本陣にいらっしゃった方が……」

「一国の大将自らがギリギリまで牽制に出てるなんて前代未聞ですよぅ」

「冥琳様、何か策が……?」

「策も何も。呉の玉座は蓮華に譲ったわ。……と言っても、ホントの玉座は魏に取られたままなんだけどね」

「じゃから、今回のことは前代未聞でもなんでもない。ただの将軍と軍師が前線に出てきただけのことよ」

「ぇ~………」

「正直、もともと雪蓮より蓮華様の方が君主に向いているもの」

「それ言っちゃう?……でも、そういう考えも有ってね。今、貴女たちは気まぐれか何かだと思ってるかもしれないけど、これは本気の戦略よ。ついでに蓮華の更に後方じゃ蜀の将たちが控えてくれてるわ。矜持には反するけどね」

「次の一戦には呉の未来が掛かっていると言っても過言ではない。……新体制を布くにはうってつけではないか」

「………」

「……姉様?」

「そんな顔しないで。代替わりはするけど、死ぬつもりじゃないわ」

「少し前までそのつもりだったようだがな」

「今日の冥琳は意地悪ね。……桃香たちに言われちゃったのよ。そうホイホイ死なれちゃ士気に関わる、迷惑だ—って」

「そういうワケじゃ。ともかくまずは会戦までの数日、蓮華様を支えてさしあげろ」

「……分かりました。それじゃ、よろしくお願いしますね」

「シャオにまっかせなさい!」

「な、穏!小蓮様まで……」

「なんじゃ思春、儂らの言うことが不満か?」

「い、いえ……しかし………了解しました。この甘寧、全身全霊を以て蓮華様をお助けします」

「よろしくね」

「……はい!!」

 

 

「——真面目すぎるのが玉に瑕よねぇ」

「それは穏が上手く釣り合わせるじゃろ」

「あの娘たちは大丈夫だろう。……それより、直近の奇襲戦だ」

「そうね。さーて、気合入れて行きますか」

「くくくっ……儂を生かしておいたこと、後悔させてやろうぞ」

 

 呉の古豪が再起を誓い、蜀侵攻戦は中盤に突入する。

なお、因縁の相手は出てこないもよう。




ホウ・レン・ソウは大事


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第十五章二節その六

お久しぶっかけ

聆の策の効果はたぶん読者様方の期待よりかなり穏やかなものになると思います。


「斥候の報告は?」

 

 聆が休みに入ってからまた数日。更に頻度が増した奇襲を掻い潜り、俺たちはついに呉の本隊を前にし第二の会戦に入ろうとしている。

 

「敵の本隊はこちらの想定した位置に部隊を展開していますねー」

「孫策が最前線に。他、予想通り呉の将の旗が、有名どころは全て」

「深紅の呂旗は無い、か。ひとまず安心だな」

「予想と違ったのはここに入る流れ……孫策、周瑜、そして復活した黄蓋が進んで下っ端の動きをしていたことですかねぇ」

「だな。まさかあいつらが本陣で構えずに牽制で出てくるとは」

「そしてここでも孫家の牙門旗……つまり呉の国主の旗は陣の中央後方に、対して孫策本人は今まで孫権が使っていた、ただ赤地に孫と書かれただけの旗を掲げこれ見よがしに最前線……これは………」

「黄蓋さん、それに周瑜さんも前線指令をするつもりのようですねぇ」

「世代交代、ということでしょう」

「何故この時期に?」

「……この時期だから、でしょう」

「………?」

「それで、更に後方は?劉備は来ていない?」

「それが……蜀の兵は来ているようなのですが、極端に後方で……」

「勝敗を見守ろうってわけね」

「やっぱり、孫策はこの戦いに何か賭けて来てるってことか」

「ここで孫策の首を挙げることは難しいですかね~」

「孫策が背負う旗の種類が違うだけで布陣自体は予想通りですから、ある程度は狙えると思いますが」

「蜀を後ろにつけたということは、今までの呉と同じようで大きく違うということでしょう。戦術こそ大きく変わらないでしょうが、負けを知ればなりふり構わず"ちゃんと"逃げるはず。どの道、決着は成都よ。無理に追って戦線を散らかす必要は無いわ」

「聆はなんて?」

「んーと……『黄蓋は危険』です」

「ふむ……確かに、怪我を負っているとは言え歴戦の猛者。奇襲戦でも部下共々良い動きを見せていましたし油断はできませんね。油断できない人物筆頭の聆殿が言うならなおさら」

「『油断できない人物筆頭』ね。全く。アイツのおかげで軍が妙なざわつき方して私の胃もざわつきっぱなしよ」

「敏い者からどんどん噂が広まって死亡説やら策略説やら単なるサボり説やら……」

「酷いのだったら神霊化説なんかも有るな」

「それについては『ええ感じでとっちらかっとるなぁ。あっはっは』って言ってました」

「これで何の効果も無かったら覚えてなさいよアイツ」

 

 しかめっ面でこぼす桂花。でも、聆だからこの程度の騒ぎで済んでるってとこもあると思う。普通、名の有る将……例えば春蘭が突然消えたらもっと大騒ぎになるはずだ。『鑑惺様がやることは分からない』という諦め……ある意味での信頼が騒ぎを抑えてるんだろう。そもそも聆じゃなきゃこんな騒ぎ起こすようなことしないってのは置いといて。

 

「……それで、作戦はどうするんだ?相手はこっちの予想の通りに来てるんだから、……」

「失格」

「うえぇ!?まだ草案も出してないうちから失格判定っ!?」

「……華琳様、この空気の読めない男の首を刎ねても構いませんか?」

「空気も何も、戦に策は必要だろ……」

「……牽制隊の比重を少しづつ呉に傾け、そしてこの会戦でも主力は呉。孫策たちは、あえてこちらに予想の手掛かりを与えてそれに乗っているのよ。気付かない?」

「……もしかして、罠か?」

「このお兄さんには火炙りと百叩き、どちらが相応しいでしょうか~?」

「風まで!?」

 

 まるでこっちの世界に来てすぐの頃のような疎外感。俺も軍議には慣れて来て、何も変なことは言っていないはずなんだが。

 

「おい、稟……」

「こういう時は、正面から叩き潰すと方策は決まっているのですよ」

「……いつもの稟じゃない」

 

稟はこういう他の軍師の意見が纏まってるときに逆のこと(特に慎重な意見)言い出す人だろ……。

 

「私は貴方と違って場の空気が読めますから」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「なっ………」

「一刀、この世には二つの戦が有ってね……」

「勝った戦と、負けた戦か?」

「違うわよ。……何その世紀末的な考え」

「いや、ちょっとした気の迷いだ」

 

華琳の喜びそうな答えを狙ったとは口が裂けても言えない空気だな。

 

「ともかく、二つ。策を弄して良い戦と、弄してはならない戦よ」

「……そういう考えなら確かに、バッターがホームラン宣言してるときに敬遠でフォアボールなんて出したら大ブーイングだよな……」

「飛蝗?」

「ほあぼる?」

「分かる言葉で言いなさい」

「真剣勝負の正面衝突を挑んだ相手に作戦勝ちしても、それは逃げと同じってこと、でいいんだな?」

 

と、俺がやっと状況を飲み込めたときだ。

 

「あーあ。こうやって無策に突っ込んだらそれに合わせてくれる相手ばっかりだったら軍師も楽な仕事なんですけどねぇ」

 

七乃さんが露骨に皮肉った。

 

「……そう言えば敢えて空気を読まない娘も居たわね」

「だって、いい加減鬱陶しいですよぅ。いつまでも足下に噛みついてくる子犬なんて蹴り殺しちゃえば良いじゃないですか。矜持や誇りも纏めてぶち壊して『呉は相対するに相応しくないもう終わった国だ』って分からせてあげましょうよ」

「それ美羽にも同じこと言えるの?」

「お嬢様は正々堂々真剣勝負なんてしません!!」

「うへぇ……」

「まぁ、七乃の言うことも分からないでもないわ。確かに呉はここまで恥を晒し続けて来ている。……けれど、私はまだ期待しているの」

「……うーん、まぁ、華琳さんが 敢 え て そうしようと言うのならそれに従うしかありませんけど」

「ごめんなさいね。貴女の辛辣な策は、また次の機会に参考にさせてもらうわ」

「それでは、こちらの布陣は……」

「中央先鋒は春蘭として副官に秋蘭、華雄と猪々子とその抑え役を左右に振り分けて遊撃に霞ってのがだいたい最大戦力だよな」

「或いは季衣と琉流の連携に期待して二人に左右どちらかを任せてしまうのも手かもしれませんね」

「私は霞ちゃんと秋蘭さんの二人を遊撃に出すのが良いかと~」

「……確かに、敵は周泰と甘寧を遊撃に出してくるはず。それに対応するにはこちらも遊撃を二枚置いても良いかもしれないわね」

「それに建業攻略戦に重なって面白いかもですねぇ」

「なら、その二人を遊撃に、左翼に猪々子と季衣。右翼に華雄と琉流、中央に春蘭と凪沙和真桜……そして一刀、貴方よ」

「聆殿の抜けた鑑惺隊を含め、北郷隊で臨機応変に中央を支えてください」

「後方や左右との連絡も重要よ」

「責任重大だな……。頑張らないと」

「春蘭にはいざとなればあんたを盾にするように言っておくわ」

「流石にそこまでの負担は背負いきれないな」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「――ふむ、敵も展開し始めたか」

 

 そして呉の先鋒。"要注意"の黄蓋が魏の陣を睨んでいた。

特に気にしているのはやはり"要注意筆頭"の人物。

 

「……じゃが確かに、鑑の旗は無いのう」

「まさか、本当に……?」

「あれほどの者がこのように静かに死ぬとは思えぬが……」

 

  *—————————————————————————————*

 

「――鑑惺さんは出てましたか?」

 

 いよいよ会戦の平原が差し迫り、牽制を切り上げて戻ったすぐのこと。待ち構えていたように諸葛亮が孫策のもとへやってきた。

 

「……いや、儂らの方もそのことで意見を聞きたいと思っておったところじゃ」

「他の将が今まで通り比較的短い間隔で輪番を回している中、鑑惺は一度たりとも現れなかった。そして、祭が言うには鑑惺隊は北郷配下の他の隊に組み込まれていたらしい」

「ヤツの隊には多数の副長が居る。魏に居た間にそやつらの顔は覚えておったが……その殆どを見かけた」

 

 鑑惺が何かをしようとしているなら、普通はこの副官らも居なくなっているはずだ。もちろん、代わりに普段他の隊に居るものを連れて行ったかもしれないが……ワザワザ鑑惺隊のあの特殊な兵と入れ替えて大きな利が有るとは思えない。これまでそういう動きをした記録があるか、魏との戦闘経験(ついでに策をうたれた経験)が豊富な蜀の見解を知りたいところだ。

 対して諸葛亮は暫く無言で何やら考えた後、言葉ではなくある物を提示した。

 

「……これを」

「髪?」

 

 孫策たちの前に差し出されたのは長い髪の束。ゆらゆらと捻じれ、暗い琥珀色に光を反射いている。

 

「これは……!」

「間違いない。鑑惺のものじゃな」

「なんで……」

「呂布さんが持ち帰ったものです」

「呂布が鑑惺を討っていたの!?」

「それが、当の呂布がこれを私に渡したきり何も言わんのだ」

「趙雲……貴女に?」

「『ごめん』と一言だけ言って、な」

「普段恐ろしいほど求めてくる食糧報酬も今回は……」

「ううむ……」

「……ともかく、聆殿は、恐らく恋と討ちあってから全く姿を現していないということか」

 

  *————————————————————————————*

 

「呂布から聞き出せれば良いのだがな……」

「元から意思疎通が難しかったというし、今はそれに輪をかけて話さないと聞く。呂布から情報を得るのは難しいじゃろう」

「間諜の情報を待つしかないか」

「……殺したくない相手を殺したら、ああもなるとは思うけどね」

「………」

「呂布と鑑惺の間にそんな関係が有ったかはともかく、もし仮にそうだとしても殺さなければ良いだけの話だろう。呂布の力が有れば多少の我儘も通るはずだ」

 

 もっと言えば鑑惺には出会わなかったとすっとぼけてしまえば良い話。だが、周瑜のこの意見は他の二人にはあまり受け入れられなかった。そもそも呂布が"変わったヤツ"だから困っているのだ『~~すれば良い話だ』なんて常識を基にした論が意味を持つとは思えない。……もっとも、それを突き詰めればあらゆる推測が無意味なのだが。

 

「ふむ……やはり鑑惺。どこで何をしようと悩みの種だ」

 

それは『"何もしない"をする』ことも含めて。

 

「生きててほしい?死んでてほしい?」

「借りを返すためには生きておいてもらわんと困る」

「私も生きておいてもらいたいな。この目で首を刎ねる瞬間を見ない限り安心できん」

「……こんなことを言うようになる風に育てた覚えは無いんじゃがなぁ」

「昼間から酒浸りの大人を見てどう育つと思っていたのか甚だ疑問だわ」

「そりゃあ策殿のように明朗快活にじゃ」

「明るく元気な冥琳ねぇ……フフ」

「何を笑っているの」

「べつにー」

「本陣より伝令!開戦は間もなく。突撃に備えよとのこと」

 

そして伝令。

魏と、新しい呉の戦まで秒読みに入った。

 

「……さて、気を引き締めようかのう」

「久々の前線指揮……勘が鈍っていなければ良いが……」

「しっかりしてよね。この戦での私たちの仕事はただの前衛じゃない。……蓮華たちの道を切り開くのよ」




笑い所さんが行方不明


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第十五章二節戦闘パート

おひさジブリです

前座おばさん軍団

寝不足のときに書いたのでふわっとしたミスをしてそうです。バンバン訂正お願いします。


 何を号令にしてか、呉の兵がにじりにじりと歩みを進める。進みながら事前に組まれた陣形から更に少しずつ拡がって、その横幅は(元々幅を取る布陣ではないとはいえ)数に勝る魏の陣形より大きくなった。

 

「……やっと動き出したか!よし!こちらも全速前s――」

「ま、待ってください春蘭様!」

 

夏候惇がそれを見て嬉々とした表情で号令をかけようとするも、すんでのところで楽進らが止めに入る。

 

「そうなの!待つの!」

「ぬぅ!?『相手が動くまで動くな』という命令で、その後は特に指示が無いかぎり指揮は任されたはずだ。相手は動いたのだぞ?つまり我らも動いて然るべきということだ」

「趣旨は相手の動きを読み取ることだろ。相手のほんの動きはじめでこっちからも喜んで突っ込んで行っちゃったら意味ないだろ!」

「それにあの動き見てみてぇな。明らかになんかアヤシイで」

 

李典が指摘する通り、呉の動きは不自然だ。今までの呉は高速高密度の一点突破を持ち味としていた。……策を弄したとしても、決め手はやはり孫策を主とした速攻。今のような緩やかな動きは警戒すべきシカケ有ってのことに違いない。

 

「しかしだなぁ………」

「分かった春蘭。なら、一つだけ言わせてくれ。……見ろよ。あの華雄でさえ暴発してないんだぞ?」

「ぬぅ……」

 

 一刀の指し示すは右翼。

華雄と流琉が率いる一団は、確かに未だ動いていなかった。

 

「ぬおおおおお!!行ぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁせぇぇぇぇろおおおおお!!!」

「ダーメーでーすッてぇぇええええ!!」

 

流琉の武器である巨大ヨーヨー『伝磁葉々』の紐で繋がれて、だが。

 

「まだ早いですよう!」

「兵は拙速を尊ぶものだ!」

「これは迂闊と言うんです!!」

「なんだとッ!?敵が目に入っているのに迂闊もなにもあるものか!!」

 

 華雄も反董卓連合戦の頃に比べればかなりマシにはなった。事前に作戦をよく説明され、上から命令されれば待つことはできるようになってきていた。

だが、今のように少しずつ展開する、いかにも突撃で蹴散らすと気持ちよさそうな兵を目の前に……しかも明確な合図の取り決めも無い状態ではやはり暴走癖が先に立つ。

 賈詡は魏に移ってから暴発してないらしい華雄に腹を立てていたが、実際のところ魏も苦労はしていた。他国の耳に入らないような国内遠征や賊討伐での突出はしょっちゅう。暴発しないよう再三の注意で胃を痛めた軍師も居るし、初めから暴発してもいいところに配置するという発想の転換もあった。引き入れたヤツは責任を取って、暴発ではなく元からそういう作戦であったかのように取り繕うフォローを行ったりもしていた。

 

「あーもー『進軍開始は各大隊に任せる』って、無茶ですよ華琳様~」

 

そういうわけで思わず不満の声が漏れる。ついでに今からでも中央主導の指揮に切り替えるよう陳情も出した。

 

 

「んー、意外だな。一点じゃなくて面で寄って来てる。もっと孫策中心でガツンと来るって思ってたんだけどなー」

 

 その逆側の左翼はこれまた逆に落ち着いたものだった。

 許緒と文醜の馬が合い言い争いが無いのもそうだが、意外にも突っ込み役ができる二人である。更に言えば、許緒は夏候惇に憧れてはいるが荀彧からも兵法を教わっているし、賊上がりの文醜は機を見ることには長けていた。

 

「どうする?猪っちー」

「何か仕掛けてるってことだよな、これ」

「こっちの方が兵が多いのに……。ばらけさせたら余計に脆くなっちゃうもんね普通」

「本陣から援軍が来やすい距離まで来たら気持ち横から攻めてみるかー」

「兄ちゃんも感づいてるだろうけど、一応連絡出しとくね」

「おう。まぁ、そんでも流れで引き込まれるのが怖いけど、その辺の帳尻合わせは秋蘭たちにまかせるぜ」

 

 そろそろと探るように進軍を開始した魏軍左翼。それを見た中央が突出しないよう続き、さらに右翼が勇んで動き出す。

 

 代わって呉の本陣。孫権は緊張したように、だがそれ以上に凛々しく大将として戦場を仕切っていた。

 

「敵も動き出したか」

「予想よりかなり慎重ですけどね。もっと強引に来るかと思ってたんですけど~。やっぱり、鑑惺さんに何かあったんじゃ……」

「その名を出すな。判断に余計な迷いが生じる」

「ですけど――」

「私が思うに、ヤツはとりあえずおかしなことをして、それで動揺した相手の隙を突くことに長ける。だから考えない方が良い。そうではなくとも、多くの者が思うような恐ろしい策略家ならこちらが頭を捻って考えたところで策は読めない。だから考えるだけ無駄だ」

「……そうですね」

「それで、細かい動きは?」

「向かって右……左翼から順に前進してきてるみたいですねー。遊撃部隊はそのさらに両脇を追従するように」

「左翼から……なるほど、中央での誘引を嫌ったか」

「ひとまず読まれちゃいましたねぇ」

「読まれたら読まれたで良いだろう。元より時間はかけるつもりだ。……ひとまず、中陣を組み替えろ。敵の進度に合わせるよう斜めに。そしてこちらの左翼は二重にしておけ」

「二重……なるほど。分かりました。小蓮様も左翼へ移っていただきますねー」

「そうしてくれ」

 

伝令が走り、呉の陣形が組み変わる。しかしそれは表面からは見えない内部の変化。

 

 

「面白いカタチになったわ」

 

 そして反対側から戦場を眺める曹操。こちらは澄まし顔で軍師と話し合う。

 

「同じ布陣からこうも……敵は今までの呉とは大きく違う。恐らく……こちらが攻めるのを待っているのですね」

「これではっきりと、呉の世代交代が見えたわね」

「この重要な戦……呉が主導できる最後であろう戦で孫権を名実共に主として立てるとは。いよいよもって"本気"のようですね」

「その本気の戦で、こっちは指揮を各隊に任せっきりにしてるんですよねぇ」

「最終決戦ではやむなく各自判断に任せることもあるでしょう。その予行演習よ。この戦も大切だけれど、次が一番だからね」

「危ういようなら指示も出しますし……皆、ここまで戦ってきた歴戦の将。下手な手は打たないでしょう」

「王者に相応しい堂々とした戦いを見せてくれたら尚良いわ」

「既に右翼の琉流さんから泣き言が入ってきてますけど?」

「もう桂花ちゃんが向かったのですよー」

「ああ、そう言えば姿が見えませんね」

「………」

「………」

「……ともかく、呉の世代交代はもっと早くやっておいて欲しかったけれどね」

「でも私が見てた感じ はっきり言って孫権さんじゃ実力不足でしたよ?」

「強い国主、姉としての孫策の存在が成長を阻害していたのでしょう。おそらく無理やりにでも孫権に玉座を譲っておけば、大きな問題が出る前には相応しい器になっていたはずよ。現に、今のところかなり落ち着いた指揮を取れている。……年功序列。妹は姉の下に在るもの。そして娘は母を、妹は姉を手本にしなければならない。そういう考えが孫策を国主に押し込め孫権の頭に蓋を被せた。その点では、実力が伴うまで劉備を神輿に諸葛亮が牛耳っていた蜀の方が上手かったわ」

「前からですけど孫策さんが国主なの、文句言いますねぇ」

「それはそうよ。だってあの娘、明らかに刹那主義の人間よ」

 

 孫策が聞けば『大きなお世話だ』と文句も出ただろうが、曹操はそもそも大陸ごと世話してやろうという大世話焼きであるから結局無駄なことだろう。

 

「やっぱり"猪"ですかー」

「分別は有る方だけれどね。それでも向き不向きは有る。……と言うより、私としては春蘭よりもっと自由な……それこそ霞のような立場が相応しいと思うのだけれど………」

「今ちょうど、その孫策さんと春蘭さんが当たったようなのですよー」

 

 その報告でやっと注意が戦局に戻り、お節介な批評は途切れた。

もう少し早く切り上げられていれば『猪』の不名誉な称号は貰わずに済んだのだが。




孫堅ふつう
孫策すき
孫権ふつう
孫尚香かなりすき


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第十五章二節戦闘パートRound2

お久しぶりです(ネタ切れ)。

久々に自動車運転したらめっちゃこわかったです。車社会とかマジ頭おかしい(前時代的な感想)

最後の部分に分かりやすいようにちょっと付け足ししました。


「待ちわびたぞ孫策!いざ尋常に勝負!!」

「受けましょう……と、言いたいところだけれど、一騎打ちは止められてるのよね。……祭!!」

「悪いが水を差させてもらう」

「な……っ!」

 

 声とともに豪速の矢が夏候惇の体を掠め、それに追従するように孫策が迫る。夏候惇にとっては、普段自分が夏侯淵と行っている連携を返された形となる。もちろん、その完成度は夏候姉妹の方が幾分か上だが。

 

「行くで!」

 

しかしそこで魏側からも多数の礫が飛ぶ。

 

「ハァッ!!!」

 

更に氣弾が炸裂。楽進と李典が追いついてきたのだ。

 

「チッ」

「おお、助かったぞ真桜、凪!!」

「北郷隊の副長どもか!」

「黄蓋はウチらに任せて春蘭様は孫策を――」

「すまんがそれにも乗ってやれん。弓兵隊、撃て!!」

 

戦況が五分になったとたんに雑兵を前に出し隠れるように後退。しかし、まるで『いつでも狙える』と言っているような気配は残される。

 

「くゥッ!面倒な……!!」

 

 こうして初接触は魏にとって嫌なカタチとなった。

 

 

「敵軍、また展開……いや、回転して陣形を変えたの!!」

 

そのすぐ後ろ。中央中陣では前方のフォローのため激しく伝令が走り回る。

 

「巻き取られないように回転方向に逆行するよう移動と増員をして、逆にこっちから包み込むように意識するのを徹底させてくれ」

「はいなの!」

「それと本陣との連絡網の整理を。敵の指揮の複雑さは開戦前の予想を超えてる。そろそろ中央からの指示に切り替わるはずだ」

「はッ!!」

 

後方に走っていった伝令を見送り、前線に向き直る。最近は縁遠かった苦戦。『正々堂々正面勝負』という予想は外れたが、曹操の『期待』の方は当たったわけだ。

 

「この感じ……似てるな」

 

 だが、北郷は他の将ほど戸惑っても焦ってもいない。敵は紛れもなく"珍しい"用兵を実行しているのだが、ものすごく……もはや『慣れ親しんでいる』と言っても過言ではないほどの既視感を覚えていたのだ。

 

 

「ぬるいぬるい!呉の兵はこの程度か!!」

「華雄さん!兵の密度が上がってきてます。たぶんそろそろ――」

 

 調子良く、或いは調子に乗って突進する華雄。その後ろから典韋が注意を促す。旗の位置からして、孫尚香の担当区域に居るのは明らかだが、それにしても敵の密度が高まっている。敵の将が近い。

そしてその予想は当たっていた。

 

「うるさい猿ねぇ。バカみたいにさわいじゃって」

 

高々と跳び上がり、侮蔑の言葉とともにチャクラムを放つ。

 

「なんだと!?……と、孫尚香か。ようやく大物が出てきたな」

「先走り気味だとは思いますが、首級が挙がればそれも良し。その命、もらい受けます!」

 

将が出たと見るや、それまで引き気味でいた典韋も態度を切り替えその怪力を振るう。いざ当たってしまえば進度の差が云々など言っている場合ではない。

 

「させないっ!!」

「……ッ!!」

 

しかし、そんな典韋に死角からの鋭い一撃。首をとるには足りなかったが、冷や汗をかかせるには十分なきわどさ。

 

「ぬおッ!周泰!?文遠は何をやっている!!」

「敵は軍の内側から出て来たから外回りのお二人には対処のしようが……」

「くそっ、そんなこと言っているうちにどこへ隠れた!!」

 

探すのは面倒とばかりに周囲の敵兵を薙ぎ払うも、手応え無し。

 代わりに後方から怒鳴り声が響いてきた。

 

「や、やっと追いついたッ!」

「桂花様!?」

「荀彧!軍師のお前が何故こんな前線まで出てきているのだ馬鹿者!さっさと下がれ!」

「馬鹿者はアンタでしょうが!まんまと流れに乗せられて……!!後ろをよーく見てみなさい!」

「何が……」

「……軸がずれてる………?」

 

 言われてみれば、隊列が微妙に湾曲している。そして、右翼なのだから本来本陣は後方左寄りに見えるはずが、曹の旗が真後ろにあった。

 

 

「一騎打ちを嫌う、か……」

 

 曹旗の下。前線に任せるつもりだった本陣の軍師たちも今は余計な話を止め分析をすすめている。

 

「高い戦闘能力を持つ将もあえて武を控えて指揮に重きを置き、偶に前に立っても一騎で"討つ"のではなく勢いを殺すため"引っかける"といった様相ですね。そしてその指揮は、意図的に左右を不釣り合いにし内部で複雑に組み替えて多方面から攻める戦法を取っている」

「ふむー……」

 

 郭嘉の言っていることは正しい。正しいが、程昱はあと一声踏み込んだところに肝が有ると見ていた。それを口に出したのは張勲だ。

 

「……聆さんの、ですね。これは」

「そうね。正確さや緻密さ、速度の面では比べものにもならないけれど、大筋の意図は同じものでしょう。この大規模でよくやったと言いたいわ」

「少し退きつつ全体に大きく右……こちらから見て左に流し、渦を作ろうとしてますねぇ。そしてその狙いは後方の蜀軍との連携」

「このまま放っておくと気づかぬうちに進路を大きく曲げられ、蜀に体感上横から攻められることになるかと~」

「傾いた戦線を再び真っすぐ……この本陣と蜀軍の中心とを結んだ線に垂直に直さなければなりませんね」

「右翼は桂花が行っているし、中央も一刀が異変に気付いたようよ。連絡はすぐに伝わるでしょう。……問題は左翼ね………」

「単純に距離が出てますしねぇ。とにかく伝令さんを走らせちゃいましょうか」

「そうしてちょうだい」

 

 任せるのは迂闊だったか、と曹操は珍しく後悔を込めて左翼へ視線を送った。

 

 

「うーん、手応えが無いぜ」

「このまま行っちゃって大丈夫なのかなぁ……」

 

 そして本陣が心配するところの左翼。しかしやはり案外テンションは低いままだ。格下だったり消極的だったりするものの有名武将が出てきている中央や右翼とは違い、こちらは見知った顔は一度も出てきていない。それどころか兵の密度も低い。これでは舐められているようで気分が悪いし、誘われているようで不安も有る。

 

「……ノらねー」

「え?」

「真ん中行こう!真ん中。孫策も居るし!!」

 

 というわけで導き出された答えがこれ。

 

「え!?でもそれだと左翼が……」

「敵が薄いってことは離れてもいいってことだろ」

「そうかなー……そだね。行こっか!」

 

 進行速度を落として他に合わせるとか、相手を上回る駆け引きで状況を活かすとかいう答えも無いことは無いが……二人とも"厚いところ"を貫くことを矜持として(逆に敵のやる気が無い状態に戸惑って)いるため、無意識に"そういう場所"……つまり有名武将が守る中央に行きたいという欲が通る答えが優先された。

 

「あとは任せたぜ!秋蘭」

 

 そして元々の持ち場は遊撃として左翼外側を上がっていた夏侯淵に丸投げ。

適当だがもう一つの意味でも適当な判断だった。






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第十五章二節戦闘パートRound3

「お前なんて言った?(小声)」
作者「今月(一月)中に続き出すって……」
「一月中に投稿できましたか?(小声)」
作者「はぁ…できませんでした……」
「でしょ?(小声) …… じゃあお前来いよオラァ!!(豹変) 」

今回はぶつ切り感がすごいです。
次からは戦闘シーンではできるだけ一部に的を絞って描写しようと思いました(学習)。


「で、伝令! 敵左翼、文醜と許緒の隊が直角に右折! 我が軍中央に猛進しております!」

「なっ……!?」

 

 呉本陣に飛び込んできた伝令。敵軍の予想外の動きに孫権は思わず立ち上がった。

 この戦、魏の一部の者の読んだ通り、呉は敵を"巻き取る"つもりだった。方形に陣を取り、その実、兵を実用的な密度で配置しているのは右後方から左前方への対角線以降である。(特に敵左翼を)引き込みつつ進路を曲げ、『見届け人』と思わせて連れてきた蜀と共に"内と外"で挟み撃ちにする策だ。そして、それに感づかれて敵が慎重になっても、それならば『泥戦』になり防衛側としては一応の成功と言える。

 しかし文醜はそのどちらでもない行動を取った。策に気付いて深入りを止める利口さと、持ち場を放り出して自分のやりたいことを優先してしまうバカさの不思議な合わせワザだ。バカの上に大バカが乗っていたのが原因で生まれた稀有な存在、それが文醜と許緒。バカも常識人も、両方を視野に入れた呉の作戦だったが、この一手で歯車が狂う。

 

「私も前に出る。穏、予定とはかなり違う入りになったが、次の段階だ」

 

 一方、これに頬を緩めたのは魏だ。

 

「猪々子ちゃん、ずいぶん思い切ったことしましたね~」

「思い切ったというか、思うのを止めた結果でしょうけどねぇ」

「しかしこの瞬間では良い判断よ。これを機に前線へ一挙に増援を出しなさい。場が長引く前に平原中央を取る」

 

 指令は即座に実行へ移され、魏軍中陣は一気に慌ただしくなった。

 

「華琳のやつ、一気にエンジンかけてきたな。これじゃ分配する俺の身が持たないよ」

「隊長がそんなこと言っちゃダメなの!華琳様だったらきっと『この程度で持たない身ならさっさと潰れてしまいなさい』って言うの」

「だからなんとか捌くしかないんだよなぁ。……次来た部隊は右翼に回してくれ。あと、同じく右翼に『突撃は真前へ』と。それと、沙和も本格的に春蘭の援護に走ってくれ。突撃しすぎないように注意するのも頼む」

「それで止まってくれるかは自信ないけど、了解なの!」

 

 北郷は人垣の向こうに揺れる蜀旗を睨んだ。華琳から来た伝令は平原中央を取れというもの。それはつまり、平原中央より先へ進んでしまうことに注意が必要だということ。今、呉の向こう、平原の出口付近に在る蜀軍から腕が延びるように援護が動いているらしい。全軍ではなく一部だけを動かしてきているその意図を、俺は読まなければならない。また新しい指示を出しながら、北郷は考えを巡らせていた。

 

 そして呉軍中央。雑兵と密に連携を取り戦況を長引かせていた孫策らにも、魏の増援による圧力ははっきりと伝わっていた。

 

「くッ……一気に来たわね」

「所詮、これまではこちらに合わせてくれていただけということか。その傲りをアテにしていた面も有るが……」

「ここまでの急激な切り替えは予想外じゃったのう」

「次の策に移る他無いでしょう。本陣もそれで動くはず。雪蓮、祭、この場は任せるわ」

「言われなくても!」

 

 孫策が剣を握りなおしたその時だ。

 

「……早速来おったな」

 

 呉の兵を薙ぎ、雄たけびと共に夏候惇が現れた。そのまま一撃、孫策はこれを受け、更に一太刀切り返す。

 

「孫策、やっとマトモに戦う気になったか!いざ尋常にッ!!」

「はぁ、分ーかったわよ。時間が来るまではやってあげるわ。祭、後ろの副官二人、いけるわよね?」

「やれやれ、怪我人の老体に厳しいことを言ってくれる。無論、負けるつもりも無いがのう」

 

 黄蓋はゆっくりと威圧するように楽進と李典へと目を向けた。

 

「二人に勝てるワケあらへんやろ!……って言えん辺り辛いとこやなぁ、凪」

 

しかし返事は無く。

 

「……ッ!!」

 

楽進は既に一発の氣弾を放ち、更に次の手に移ろうとしていたのだ。

 

「いきなりかいな!?」

「その意気や良しっ!敵ながら天晴じゃ」

「ウチは味方ながら仰天やで……」

 

 そして魏軍最右翼、華雄も孫尚香と正対していた。荀彧が兵の誘導のため少し後ろに退いたおかげでお小言が減った華雄はまるで水を得た魚のようなはしゃぎっぷりである。

 

「はァッ!!」

「獣みたいに吠えまわって、全っ然優雅じゃないわね!」

 

 叩き上げる刃を躱し、戦輪を腕に滑らせ切りつける。他人を貶めるだけあって、孫尚香の独特な武術は確かに花が風に舞う姿を思わせる優美さだ。

しかし……

 

「討ち合いに優雅さなど要らん!」

 

 堅く厳しく、魅せ要素など微塵も無い華雄の武がそれを撥ねつける。

 

「それにあなたも、かなり息が上がってきてますよっ……と!」

「危ない!」

 

 放たれた巨大ヨーヨーに周泰が割って入った。刃に沿わせて受け流すも、手元にミシりと嫌な感覚が伝わる。あと一回受けられるかどうか、辛いところだ。

 

「明命ありがと!こんどはこっちの必殺!」

 

 周泰に手間をかけさせた分を補うように、孫尚香は渾身の一撃を放つ。全身をしならせ最高速で戦輪を走らせる……が、これもまた華雄に止められる。

 

「フン、軽い軽いッ!」

「えぇっ!?あーもーこれだから筋力バカの相手は嫌なのよ!」

 

 同じころ、反対側の魏軍左翼……の担当のはずだった文醜と許緒。こちらも良い調子で雑兵を跳ね飛ばしながら進んでいた。

 

「良し良し、相手もやーっとヤル気になったみたいだな。ここはアタイたちもこのまま孫策に突っ込ん――っと」

「あわわっ、って、孫権!?」

「……」

「今回は大将だったよな?出て来ていいのか?アタイは遠慮なく刈っちまうぜ?」

「刈れるものなら刈ってみるが良い」

「へぇ……何か潜んでる気配も無し。何が目的だよ?まさか犬死にしに来たワケじゃないよな」

「無論、勝つつもりだ」

「お前がアタイら二人相手に斬り勝てるなら、建業はあと一日くらいは長く呉の都だったろうぜ」

「以前の私と思うな」

「ふーん、そうならこっちも嬉しいんだけどな。じゃ、遠慮無く行く、ぜ!」

 

 中段に剣を構える孫権に、真正面から一息に踏み込む。勢いそのままに、腰元に構えた大剣を、全く明後日の方向へ振るった。

 

「!!」

 

 その一撃で甘寧が弾き飛ばされる。孫権の背後の雑兵に紛れて機を待ち、奇襲を行う腹積もりが失敗してしまった。

 

「へへっ……確かに氣はきれいに消えてたけど、予感はしてたんだよなァ!!……許っちー!」

「うんっ!!」

「クソッ」

 

 そして間髪入れずに許緒が鉄球を振り回す。それ単体に孫権たちを倒すほどの速さは無いが、圧迫感と、文醜との戦闘を困難にする効力は十分だ。

 しかし、文醜有利はそう長く続かない。

 

「おわッ!?」

 

 轟音と共に金属の杭が地面に文醜の肩を掠め、土煙を上げながら地面に突き刺さった。

 

「遅まきながら、撤退の支援に参った!孫権殿、甘寧殿、健在か!」

「厳顔殿!」

「『豪天砲』の厳顔だな。一度真正面からヤってみたかったんだ」

「それは嬉しいな『斬山刀』の文醜よ。じゃが、またの機会だ。皆、退け、退けぇい!!」

「なっ……!」

「逃がさないよ!」

 

 

「そらそらどうしたどうした。軽口はどこへ行ったのだ」

「くっそぉ……」

「小蓮様!」

「貴女もよそ見してるヒマは有りませんよ」

「よそ見する必要も無いしね!」

 

 声と共に、一騎の騎馬が兵の頭上を飛び越えて現れた。そのまま華雄と孫尚香の間を走り抜け、また身を翻して馬の上から突きの雨を降らす。

 

「ぬ、馬岱か!貴様とはよく顔を――ウワップ!?くそ、砂を投げるとは小賢しい」

「ホントはどっかのデカ女みたいに毒撒きたかったんだけど、ちょっと練習してみたら上手く行かなくてね。見てよこの手荒れ。ほんとサイアク」

 

 そう言って見せた馬岱の左手は、いったい何の取り扱いを間違ったのか、赤く爛れていかにも痒そうだった。

 

「助かったわ、馬岱」

「あんたも意外とたいしたことないね、こんな猪一匹に押されるなんて」

「……うるさいわね。今から本気出すのよ!」

「ああ、私も本気を出そう。実力も無しに猪猪と愚弄しおって……躾のなっとらん小娘の相手は一人が限界なのでなッ!!」

「一つの物事にしか対処できないなんてホント猪ね」

「……貴様には泣いて謝るヒマすら与えん」

「べ~っ、だ!真面目にアンタなんかの相手するワケないでしょ。退くよ!」

「こちらとて、逃がすワケが無い。……覚悟しろ」

「あのー、あまり挑発に乗らないでくださいね……?」

 

 典韋の注意が耳に入ってすらいないのか、華雄はそのままの勢いで追撃戦に入った。

 対して、再び中央。ここでは双方拮抗し、激しい戦いを見せていた。

 

「やるわね、夏候惇……!」

「当たり前だ!はあああああああ!!!」

「ラァっ!!」

 

 似通った体躯、同じ長剣という武器で、実力も同等。孫策の方が柔軟な技で勝るも、夏候惇は筋力と反応速度の優で隙を作らない。

 黄蓋の方はと言うと、こちらも見事に楽進らの連携に対応していた。怪我の影響で氣も物理的な能力も目減りしてはいるが、それでも尚楽進の近接戦闘に対処しながら後方支援の李典に牽制の矢を放つ余裕が有る。連撃の速度には目を見張るものが有るが、やはり素直な性格が拳に現れている分、あの鑑惺より大分(強いか弱いかは別にして)戦いやすかった。

 

「やはりまだまだ本調子とはいかぬのぅ」

「本調子やなくてこれかいな……ホンマ化けもんやで」

「だが、それもここまで。……流石に、二度も敗北すれば大人しく隠居してくれるだろう」

「このまま行ったらそうやったかもしれんけど、そんなに簡単やないかもしれんな」

 

 土煙と共に呉蜀の援軍が現れ、戦線に若い将が走り出た。

 

「孫策様、黄蓋様、この魏延、ただ今到着しました!」

「うわぁ……なんやあのゴッツイ金棒は」

 

 一抱えでも足りないような太さの大金棒だ。名のある将の中でも特に力に特化していることは語るまでも無い。

 

「心配無用!こっちも、于禁、到着なの!」

「……ちょーっと頼りないなぁ」

「そんなことないの。双剣と用兵術を組み合わせた全く新しい格闘技が火を噴くの」

「それはまた今度見せてね。中央も退くわよ!」

「なんか呉って最近いっつも撤退しとるなぁ」

「……ちょっと利口になったのよ」

「待て!逃がすか――」

「てやあっ!!」

 

 踵を返した孫策に、思わず踏み出した不用意な一歩。そこに、魏延の一撃が叩き込まれた。すんでのところで防御は間に合ったが、その威力は見た目相応以上である。

 

「ぐおっ!?」

「なんちゅー圧や……ちょっとやけどあの春蘭さんが飛んだで」

「沙和、その新しい格闘技でなんとかしてきてくれ」

「沙和がここに来たのは深追いしすぎて孤立しないように警告するためなの。自ら剣を振るって戦うためではないの」

「せやろね」




ブロック崩しにうつつを抜かさなければもっと早く投稿できたと思う。


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第十五章三節その一

おひさしぶりです。
別のことに打ち込んだりもしたけれど、私は元気です。
それにしてもホントにラストもラスト直前で止まってて自分でびっくりしました。
私流執筆一条:二次創作はあくまで趣味「書かなきゃ」と思ったときは絶対書かない
何言ってだ。ラスト前なんだからそりゃ「書かなきゃ」って思うわ。アホなんかな。
それにしても文章力が足りない。基本的な注意力も足りない。申し訳ない。


「何!?追撃するな、だと?」

 

 俺が前線に着くと、丁度撤退する孫策、黄蓋、そして魏延を追おうとする春蘭を沙和が止めているところだった。

 

「そうなの!」

「なんでや?相手が退き腰になったらそれに乗じてきっちり〆とくもんやろ?」

「今掩護で前に出てるのは蜀の二軍だ。押せ押せで相手の退くのに合わせて追い縋れば、足の早い奴から関羽や張飛たちの一軍に処理される。足の遅い方に合わせて、大軍の強みを保ったまま進まないと」

「結局隊長も来たのー」

「稟が上がって来てくれてな」

 

 稟は春蘭の引き留めに沙和を出した入れ違いくらいで指揮の引き継ぎに来てくれた。「あの突進癖を引き留めるには、沙和では力不足でしょう。……貴方でも怪しいところですけどね」と。

 

「隊長の話からすると、基本的な誘引計ってことやね」

「そうだ。まぁ、ここに至る過程は複雑だったけどな。まず、薄く広く展開して、呉の軍だけで誘引を仕掛けてきたのが序盤。それから、こっちが中央突進を避けたのを見て巻き取るような動きに転じ、蜀と挟み撃ちの狙いを見せたのが中盤。それも読まれて、魏の全軍が動き出し、最後の締めの気運となった油断に漬け込んで再び誘引を計ったのが今だ。いくつかの策や焦らしの後だから、つい気付かずに攻めたくなるのものだけど、今回は前と後ろで完全に分けてたのが良かった。軍の半分以上は冷静な状態を保ってたからな」

「なるほど……さすがです。隊長」

「そうだろ?なんたって稟の受け売りだからな」

「胸張って言うことちゃうで」

「いや、まぁ俺も誘引自体には気付いてたから。順序立てて説明できるほど分析してなかっただけで。ともかく、中央部も過ぎてこの平原は取ったようなもんだ。後は、反転攻勢に出られない程度の勢いでゆっくりにじり寄るべし……っていうのが華琳の意見だぞ、春蘭」

「わ、分かっている!」

 

 なら今にも馬の横っ腹に蹴りを入れて「進め」の合図を出そうとしてたのはどう説明するつもりなんですかね。

 

「ともかく、これで真ん中は抑えられたな」

 

 あとは左翼と右翼か。戦場を縦横無尽に駆けて敵を討つ遊撃のはずが尻ぬぐいや伝令まがいのことをさせられてばかりだけど、秋蘭と霞に頑張ってもらわないと。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ようやく撤退していきましたね」

 

 その後順調に全軍が歩みを揃え、戦況は大軍同士の圧力を使った睨み合いへ。結局、日が沈んで少し経った頃になってやっと、敵はこの平地から退がっていくようだと報せが入った。その情報が信頼できるものか確かめる作業の後、本陣の軍師たちはフッと緊張を解いた。このまま今日はここで野営になる。相手に誘導された感も否めないが、ここより大軍が留まるに相応しい場所が近くに無いのも事実。もともと取っておきたかった場所だ。警戒に当たっていた将たちもそのうち引き上げてくるだろう。

 

「思ったより長い睨み合いになったわ」

 

 周りが少し疲れた様子なのに対して、華琳は満足気だ。

 

「夜戦の準備が無駄になっちゃいましたよぅ」

「それを狙っての、この時間での撤退でしょうね~」

「成都を前にして、双方被害少なく、しかし意義のある、歯ごたえのある戦でした」

「でも厳しいですねぇ。孫権さんが覚醒するのは、私が一番警戒してたことですよ」

 

 稟の総評で締めになるかと思いきや、七乃さんは複雑な表情で言った。以前呉を分断して抑え込んでいたその当人であるだけに、色々と思うところが有るらしい。確かに、今回の戦の呉はかなり慎重で我慢強く攻めにくい戦いをしてきた。戦列の表面ではなく内側を複雑に動かし、気付きにくい突撃や誘引を放ってくるそれは、魏のこれまでの奇策をコピーしていたようにも思える。

 

「そう。孫権が立ったことで、呉はあらゆる面で一段上へ……"三国"たる存在へと至る。楽しみが一層増えたわね」

「相手は弱いに超したことないんですけどー。……やっぱりこっちも初めから全力電光石火の速攻戦で一人二人でも将を削っておいた方が良かったですってぇ」

 

 七乃さんの言う通り、確かに華琳は後に成都の決戦が有るとはいえこの終局にあって未だに勝ち負けの利の大小より両軍の成長を促すことに重きを置いている。しかし面白がってそうしているワケではない。

 

「傲慢な上に純朴だったと反省したのよ」

 

 華琳は小さく呟いた。

 

「でも、ま、どうしても不満が有ると言うなら、貴女は次の戦を投げることもできるし、ひっくり返すこともできるわ。……その上で、それでもついて来てほしい。良いかしら、七乃」

 

「ムキになって反論して来てくれた方がやりやすいんですけどねぇ」と、七乃さんには珍しく困ったような顔を見せた。

 

「本当にひっくり返せたら苦労しませんよ……、まぁ、仕方ないです。まったく、あの人がとんでもない面倒に引き込んでくれたんだと最近になって気付きましたよ……」

「ふふ、……確かに、あの娘の責任ね」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ついぞ読み切られてしまった、か……」

 

 戦の平原からしばらく成都へ退いた丘の上、遠くに見える魏の天幕群の灯りを眺め、孫権はため息を吐いた。

 

「蓮華様が提案なさったとき、大軍を切り崩すにはこの手だと思ったんですけどねぇ~……」

「今回の戦、相手は敢えて本陣が手綱を取らず、前方を自由に動かせていたようです。それに後半の増援は攻めのためではなく、突出した味方を保護するための守りの物だったと」

「二重の陣にしておったのはこちらだけではなかった、とな。うーむ、この期に及んで、試行を欠かさん奴らよ」

「そして最後だけ、深入りしないよう制止をかけた……。三重の誘引の効果が薄かったのはこのせいだろう」

「………」

 

 孫権は俯いた。やはり孫家の主の荷は重いと、喉元まで出かかった。

 

「そんな顔しないの。この戦で、やっぱり蓮華に孫家を譲って良かったと思ってるんだから」

「しかし、将の一人も討ち取れませんでした」

「平地で、あの大軍相手に、これだけ長時間戦って、こちらの被害も少なく済んだのだから上出来よ」

「特筆すべきは圧力の扱いでしょう。蜀軍も協力するとあって、こちらももっと大々的に兵を動かす覚悟をしていましたが……実際は、将の何人かに走ってもらうだけで済みました」

 

 諸葛亮にしてみれば予想のはるか上を行く結果である。同盟とはいえ呉は都を失った根無し草。まさかちゃんと一国の軍として戦いになるとは思いもしなかった。

 

「"背後に蜀軍が居る"という状況を上手く相手に意識させられたということじゃ。策殿では考えられんのう」

「まーね」

「褒めとらんぞ」

「ともかく、成都の決戦を前にした蜀呉同盟に、蓮華……あなたという指揮官の才覚が証明されたワケよ。これで私ももっと思いっきり戦えるわ」

 

「孫家を託して死地に向かえる」などとはもう考えていない。共に戦う家族の成長を純粋に喜んだ。

 

「それで……聆殿は結局出てこなかったか」

 

 しかし戦は美談で終わりはせず。趙雲が"例の"件の確認を。

 

「影も形も」

「相変わらず奴の配下だった者は北郷やら楽進やらに使われておったわ」

「………」

 

 裏をかいたり裏をかくと見せかけて表で来たり、表も裏も用意してると言ってみたりとやりたい放題してきた奇人がここにきての雲隠れ。それに三国無双の呂布の異常。到底無視できることではないが、正視したとて何も見えず。

 

「西涼攻めでは本拠を墜としたのよね?」

「しかしそのときは部下を連れていて、馬騰さんが病に伏せている上に守りが薄いという情報が有っての行動のはず。ここで同じことをするとはとても……」

「成都の守りは」

「薄くないです。兵も多く居ますし、紫苑さんに鈴々ちゃんも」

「流石に、か」

「ならば……」

「『死んだかどうか曖昧にすることによって混乱を狙った』というのも如何なものでしょう?そんなことをするより、鑑惺さんほどの将、本人がその部下を動かして工作や戦闘にまわった方がずっと効率的だと相手も分かっているはずです」

 

 沈黙。

 

「やはり、そう捉えるしか……」

 

 諸葛亮が確認するように呟いた。

 しばらくして、劉備が、どの感情からか、薄く笑みを浮かべた。

 

「不死身の鑑嵬媼……死と心を弄び、窮地を転ずることを最も得意とする蛇鬼。私たちが描いた聆さんの姿。……そんなヒトが"死んでしまった"のなら、それが転じたとき、どうなるんでしょうね」






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第十五章拠点フェイズ : XXX

170回目の初投稿です。
後回しにしたところで問題が無くなったりしないことを痛感している点では私と聆のシンクロ率は高い気がしました。


「……何者や」

 

 戦の最中、魏陣片隅の小さく薄暗い天幕に私は居た。身を隠し、樽や箱に収まって運ばれては時折こうして人目のないところで身体を伸ばす。少々の考え事と共に、嘘のように静かに時間が過ぎて行った。

 しかし、不意にそれを壊す者が現れた。いや、元からそこに居たか……?麦の俵の向こうに、じっと立ったまま動かないヤツが居る。人畜無害な一般兵士じゃない。

 

「それを言いたいのはこっちなんだがな」

 

 気配の主の籠った声が返って来た。知らない、というのは妙な話だな。或いは、もっと本質的な話をしているのか。

 

「なるほど。んだら互いに知らんまま話そうやないか」

 

 ワザワザ、この奇妙な相手が知らないこと……この場で私に有る数少ない利を捨てる道理は無い。

 

「無駄だな」

「無駄か?」

「ああ。無駄だ」

 

 今、こうしてここまでやって来られる人物が、どれほど居るだろう。そうなると、相手の正体は自ずと知れる。

 

「じゃあ帰るか?」

「そうさせてもらう」

 

 意外な答え。私が予想する相手なら、ここでできるだけ食い下がるはずだが。

 

「そんなあっさり帰るんか。ここ来るんに手間も有るやろ?」

「招かれれば造作も無い」

 

『招かれた』……?

 

「その上何をするワケでもないしな。そっちはどうなんだ」

「さぁ、とりあえず、自分で来たワケやない」

 

 しばしの沈黙。計りかねる。

 

「……今一番の話題と言えば天下の行く末か」

「行く末も何も有るものか。魏が勝つ」

「さぁ、もし私が急に離反したら」

「それでも魏が勝つだろう」

「その道のりは変わる」

「………」

「無意味か?」

「悪趣味だ」

「私は面白いと思う」

 

 会話にまた少し空白が。

 

「もし」

「………」

「魏が勝って終わりやとすれば」

「魏が勝ち、終わりだ」

「お前はどないしたい」

「その質問は無意味だ」

「……へぇ」

「お前はどうなんだ。終わりだとすれば」

「終わってほしないなぁ」

 

 応えの代わりに、ガサリと天幕の外で足音がした。端の作業員に化けた華琳の側近だろう。私の所在は極秘。情報の伝達は極めて内々の人員で行われている。

 さっきのヤツの気配はもうどこにも無い。せっかくのチャンスを、腹の探り合いのうちに終えてしまった。不用意に踏み込んで、せっかく穏やかに接触してきた相手を挑発したくなかったのだ。今となってはどちらが良かったか知りようも無い。

 

「会戦はこちらの勝利で終わりました。間もなく野営地の施設に移ります」

「ああ。……戦も、次で終わりか」

 

 結局、コトここに至って、一刀消失の秘密に迫りきれなかった。もう、皆が揃って太平の世を迎えることを祈るしかない。……あ、

 

「……この戦に参加した敵方の将は、情報有る?」

「呉の主要な将は全て。それに、途中で蜀軍が参加して、……厳顔、魏延、馬岱、それに、後方には趙雲や関羽も居たようです」

「……公孫瓚について、華琳さんの方で何か情報掴んどらん?」

「……無いですね」

 

 たしか、ハムソンってこの辺の戦いに参加してたはずのようなそうでもないようなそんな気がするんだが……。

 

「何故急に公孫瓚を?」

「今の私もそうやけど、消息不明やな、って」

 

 そして、もしこのままなら私の目標に唯一欠けたピースとなるだろうから。

 

「……もし、その行く末を知っている者が居るなら、それは貴女であるべきだと思いますけれど」

「………」

 

 ここに来て妙なカルマが襲ってきている気がする。コイツもタダモノじゃないのか……?

 

「……っ!」

 

 周囲が騒めきだす。戦場から兵士たちが戻り、報告通り、野営地設営の作業が始まろうとしている。声の主が去ろうとする。

 今度は、逃がさない。

 立ち上がると同時に、天幕ごと巻き込んで駆け出す。輸送員たちの驚愕の声を背に、林の中に飛び込んだ。



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第十五章拠点フェイズ :【北郷隊伝】硬直!楽進を解凍せよ!!

お ま た せ ☠


 成都決戦を明日に控えて、俺は凪たちの天幕を訪ねた。始めは華琳のとこに行ったんだけど「もっと貴方を必要としてる娘たちが居るでしょうよ。私のところには、全て終わってから来なさい」と。そもそも俺自身が落ち着かなくて話しに来たんだけど、なんて情けないことも言えず。俺の部下にして同じく緊張してる仲間のあいつらに会いに行くことにした。

 

「入るぞー……って、何だこの状況!?」

 

 真桜は螺旋槍を分解し、沙和は化粧用品をそこら中に散らかし、聆は首に刃物をあて、凪はベッドに半裸で腰かけて俯いたまま石像のようにじっとしている。

 

「あ、たいちょーいらっしゃいなのー」

「お、おう。一体何やってるんだ?」

 

沙和の呑気な態度から、差し迫った状況じゃないというのは分かるんだが。

 

「ウチは見ての通り武器の手入れやでー。最後の最後にちゃんと動かんかったらエライこっちゃからなー」

「そない言うてこの夕方から四回もバラしては組み立てバラしては組み立てしとるよな」

「うっ……せやかて何か落ち着かんねんもん」

 

真桜はカッと赤くなった。

 

「はは、俺も落ち着かなくてフラフラしてるとこだから……。それで、聆は何を?」

「首の傷をな」

「いかにも首を斬られたみたいにしたいんだってー」

「そう。一回、もうバッサリ一刀両断されたみたいにな」

「私はそのお手伝いなの」

「ああ、だから化粧品か」

「普通と真逆の使い方だけど、面白いの!」

「ちょーどええ作業もらえて良かったなー、沙和。ほんのちょっと前までうろうろソワソワしとってからに」

「眼鏡拭いたり掛けなおしたりめっちゃしとったな」

「それはもうおわったことなの☤」

「あとよく分からないのが凪なんだよな。凪、なにやってんだ?」

「………」

「無駄やで。緊張で固まってしもとる。ウチらが話しかけてもうんともすんとも言わへん」

「傷跡の観察させてもらうにはちょーど良えんやけどな」

 

ああ、それで半裸なのか。勝手に脱がせた、と。いや、これで納得するのもよく考えればおかしいけど、今更かな。

 

「でも明日のことを考えるとなんとかしなきゃならないよなぁ」

 

緊張しやすくて、それでいてなんだかんだで当日にはキッチリ集中してくる凪だけど、今回は流石に放っておけない。あがり症より恥ずかしがり屋なはずだから、脱がされもすれば普通は反応が有るはずだ。

 

「おーい」

 

顔のすぐ前で手を振ってみる。無反応。

 

「大丈夫かー」

 

肩を叩いてみる。これもダメ。つぎは頬を引っ張ってみる。

 

「起きろー……っうわ!」

 

顔のすぐ前を裏拳が通り過ぎた。

 

「おお、避けれたか。なかなかやるなー」

「私の指導の賜物やな」

「なんだ?罠なのか?」

「反射や反射」

 

確かに、凪ほどの武術の達人ともなれば、無意識に危険排除してもおかしくない。むしろ、肩ポンポンの時点でやられなかっただけラッキーなのかも。さっきみたいに痛みを与えたりしたら完全にアウトだ。

 

「触るならもっとやさしくしなきゃだめなのー」

「と、ちょっと前に眼鏡ぶっ飛ばされた先達が申しております」

「ウチの優秀な部下が作った高強度眼鏡やなかったら大変やったで」

「それももうおわったことなの☠」

「なるほど。やさしく、か」

「今絶対いやらしいこと考えてるの」

「断言かよ」

 

否定できないけど。

 

「隊長、どこから触るの~?」

「ぴっちり張った太もも?ぷりぷりのお尻?それともいきなり本丸に攻め込んでみるか~?」

「私はお腹や背中なんかもしなやかで魅力的なんちゃうか思うけどなぁ?」

 

ゴクリ

 

「いやいや、なんでそういう方向でいくみたいな感じになってるんだ」

「せやかて叩いたりつねったりしたら危ないで」

「じゃあ、くすぐってみよう」

「ふーん、ま、ええんとちゃう?」

「な、なんか含みのある言い方だな」

「さあさあ、するなら早くするの」

「お、おう」

 

じゃあ、まずは脇腹から。

 

「まぁ基本やな」

 

五本の指を軽くあて、掴むような動きで爪を滑らせる。すべすべとした肌の下に、筋肉の段が有るのが分かる。

 

「反応無しかな」

「ちょっとぴくぴくしとる感は有った」

「次は足裏とか」

 

そう言いながら、聆が凪をゆっくりと寝かせ、靴を脱がせた。自然と脚を開く形になって、つい視線が……。

 

「この格好なんかえっちなの~」

「すごくえっちや……w」

「俺には散々いやらしいいやらしい言ってきたくせに……」

「それを悪いことだとは言ってないの~♬」

「ほれ早よし」

 

ムニ。

聆が俺の顔に凪の足を押し付けてきた。少し湿った感触と、汗の臭い。

 

「今絶対グラッときたの」

「やめなさい。心を読むのはやめなさい」

 

理性をフル稼働させ、顔から足を遠ざける。

今度は指の甲で上から下まで……。

 

「ほーさすが技巧派(意味深)やなぁ」

「凪ちゃんちょっと赤くなってなーい?」

「そう言われればそんな気が」

「もうちょいかな」

「さあたいちょー!お次はどこにしますか!なの!」

「脇、かな……」

「言い方よ」

「なんだよ、自信満々に言いきったらそれはそれでなんか言って来るんだろ!いいよもうオラさっさと手を上げろォ!」

「おお、ついにノってったな」

「仰せのままに~♪」

 

沙和が凪の腕をグイッと引き上げて頭の後ろで組んだ。肩の筋肉から胸へのラインが……。

 

「これはもう言い逃れできひんな」

 

聆の無責任な言葉を無視し、脇の薄いところで五本の指をくねらせる。

 

「ンッ……アッ…あ………」

「おお、ついに声の反応が」

「たいちょーがんばれー」

 

少しずつ速くしていく毎に、凪の呼吸が乱れ始める。

 

「そう言えばなー、隊長は胸とか避けたけど、胸とかもこそばいトコやんな」

「まぁ、せやな」

「でもちょっと別な感じだと思うのー」

「いやでも子供ん頃は単純にこそばいだけやったやん?」

「……うーん、いつの間に感じるようになったんやろね」

「性の目覚め、ってやつなの♥」

「『くすぐったい』って『きもちいい』の種って話どっかで聞いたことある気ぃするんや」

「何で今そんな話を」

「いや、手つきいやらしいな、って」

「……確かに、これ実質強姦ちゃうか?」

「そもそも凪ちゃんって脇とか背中とかで気持ちよくなっちゃう娘だったと思うの」

「…………」

「んっ……あ……あっ…………あっ」

「…………」

「嵬媼ー、明日の策のk――」

「あ、華y――」

 

ドゴォ




スイーツ(笑)


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第十五章最終決戦Round1

私のブラウザのブックマークのハーメルンの欄のすぐ下にセブンスドラゴンお絵かき掲示板の欄が有って毎度地味に切ない気分になります。
9/1の軌跡は忘れない。
そう言えば私がここに来たのってセブンスドラゴン二次(転生、クロス無し)を書く場を探して漂流してたのがきっかけなんですよね。まだ書いてないんですけどね。
この話するの二度目でしたっけ。


 伏兵の影は無し。五胡や江東の残党が動く気配も無し。成都決戦は真正面からのぶつかり合いとなる。

 城壁の遠巻きに静止した魏軍に遅れて蜀呉同盟も城門を出て展開を完了し、私はそれを軍の雑踏から少し離れた林で見ていた。

 そして蜀から数人が、陣を出て前に出る。桃香、愛紗、鈴々だ。対して魏からも華琳と夏候姉妹が出た。これから最後の舌戦、さて、どんなものになるか。

 

「せっかくの機会だし、一対一で話したいと思っていたのだけれど」

「蜀の夢はこの三人から始まりましたから」

「『夢』ね。じゃあ、あなたの夢、聞かせてもらいましょうか」

「ただ、皆が幸せに暮らせる世界が欲しい、と」

「それだけ?」

「はい。前に訊かれたときは、弱い者がどうだとか、力がどうだとか、そんな聞きかじった政の言葉に頼っちゃいましたけど」

「そう……そんな子供じみたいい加減な指針で、国が廻ると?」

「廻らないと言って来るのは、今では貴女だけですよ。曹操さん」

「………」

 

王と王が静かに見つめ合う。蜀軍の両翼が、滑り出すように広がって行く。

 

「それに……私たちだって、ただ『みんなが幸せになれれば良いね』なんて言って過ごしてるワケじゃありません。外の敵と戦だってしてきましたし、内の罪を裁くことだって、もちろんします」

「国として最低限、当たり前のことしか言ってないわよ?」

「当たり前のこと。そしてそれ以外は……皆が幸せになろうという願い以外は宣言するに値しないと思います。例えば、武人の皆さん。何のために武器を取りましたか?正々堂々、正面から戦うのは何のためですか?本来、大切なものを守るため、勝った負けたの結果以外に、余計な恨みを残さないための流儀だったはず。それが今ではどうでしょう?ただ戦いたいだけ、戦って給料を貰いたいだけの人が武人を名乗っていませんか?自分の力を十全に発揮したいためだけに正々堂々を謳っていませんか?」

「目的と手段が有り、手段を声高に宣言し続ければいつしか目的が歪む、と」

「どんなに緻密な法を作っても、その分犯罪が緻密になって行く。どんなに国を広げても、その外には別の国が有って、それに、国の中を纏めるのも難しくなっていく。王族の独断だって、会議だって、時が経てばやがて腐っていく。じゃあ、自分が、正義を、幸せを行うしかないじゃないですか。そして、現在と未来に、同じ思いを持つ仲間が居ることを願うしかないじゃないですか。だから、バカみたいでも、おかしくても、矛盾してるように見えても、私は『皆が幸せになれる世界』を掲げます」

「そう。理屈は分かったわ。でも、やはり、大雑把に過ぎると"私は思う"わね。今度は、こちらの主張……は、要るかしら?」

「強い国を作る、ですよね」

「そう。もし仮に、皆が幸せな世界を願う民が集まった国ができても、それが攻め潰されては意味が無い。まず強固な国を作る。各々の幸せは、価値観も様々だし、政で左右するものではない。一般に広くその機会、或いはそのための能力を付ける場が与えられるよう工夫はすべきだけれどね」

「……やっぱり、戦わなければなりませんか?」

「まぁ、少なくとも、丁度いま貴女が持っている辺りまでは纏めておきたいというのが、私の考える強い国への歩みの一つだから。……望みは勝って通せ、と言われてだだをこねる貴女では、もうないでしょう?」

「ええ。曹操さんの"おかげ"で」

「誇りに思っておくわ。……春蘭」

「はっ!」

 

華琳が踵を返した。春蘭が剣を空へ突き揚げた。

 

「全軍、戦闘態勢!戦乱の終わり、そして次の時代の始まりがこの一戦にかかっている!魏の誇りを胸に、そして己が名を歴史に刻め!」

「はるか千年、子々孫々へと我が国を繋ぐために!」

「曹魏の牙門旗の下、覇を天に唱える。各員、奮励努力せよ!」

 

続いて上がった魏軍の雄叫びを跳ね返すように、愛紗が一歩前に出る。

 

「愛紗ちゃん、お願い」

「我らは、多くの苦しい戦いを越えてこの地に立っている。『敵は強大』も言い飽きた。『団結こそ力』も聞き飽きただろう。今はただ、己が心に従い、その刃を振るえ!」

「みんな全力を出すのだ!明日も、明後日も、何年経っても、蜀で笑って暮らすために!」

「劉旗の下、私たちは、私たちの夢を、現実にするんです!!」

 

 そして両軍の主が陣へ戻るより前に、広がっていた蜀の両翼が俄かに一点に突き出すように突進を始める。

開戦だ。

 さあ、私も、今まで通り、ただ幸せな明日を掴むためにできることをしよう。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 いよいよ始まった最終決戦。北郷隊は第一の矛たる夏候姉妹隊を補佐する刀の役割だ。相手の攻撃を受けきり、春蘭たちが攻撃に集中できるよう切り払い続ける。

 

「隊長!敵軍第一陣、突進してきます!」

「旗は!」

「甘。甘寧です!」

「だろうな、って相手だな。浮足立たず、落ち着いて対処しよう。むしろその後来る二波三波の援軍に警戒して、凪と真桜はもっと春蘭たちの近くに居てくれ」

「了解しました!」

 

流石に俺だって黄巾の頃から始まってもう名が知れたのか、華琳への道を阻まれた甘寧はこっちに来る。

早い。典型的切り込み隊長って感じだ。

 

「沙和、行くぞ」

「いつでもばっちこいなの!」

 

 トンっっと嘘のように軽く跳んで、遥か頭上から斬撃を落としてくる。

ワザワザ落下点で受けてやる必要はない。背を向けてでも走って逃げる。一手二手は沙和が受けてくれる。その間に構え直し、二対一へ。

 

「魏軍五本指にも入る大隊長が、小賢しいな」

「バカよりいいだろ?」

 

隙を伺って互いに円を描く。俺が少し切っ先を下げた瞬間、今だ。

俺の喉元に迫った曲刀を三本の槍が受け止めた。

 

「なっ……!?」

「驚いてるヒマは無い、のッ!」

 

反撃、俺の横薙ぎ、沙和の切り上げ。屈強な、信頼すべき兵士たちの一、二、三、四、五、六、七突き。

 

「さっき、自分で俺のことを大隊長って言ったろ。何でそんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんだ?」

 

やっぱり、三国志の人気武将。甘寧は強い。でも、最後の一突きで微かながら届いた。

 

「隊長は部下が居るから隊長なんだぞ?」

「数押しも言い方しだいなの~」

「沙和、そのセリフは余計だ」

「……何を得意になっているのか知らんが」

 

甘寧は目を細めながら立ち上がる。

 

「この領域の斬り合いに、今更、雑兵の入る余地が有ると考えるとは思いもよらなかっただけだ。次は無い」

「そりゃ雑兵には無理だろうね。こいつらは精兵だから」

「減らず口を……!」

 

再びの突進。今度は俺の刀が受ける。俺が掴んだ柄の間を、もう一組の太い腕が握っている。

 

「……くッ!?」

 

同時に何本もの槍が甘寧へ突き立てられる。

 

「こんどはこっちから行くの!」

「そっちが一騎当千ならこっちは千騎当万だ!」




ノスタルジーに溺れそう


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第十五章最終決戦Round2

ダムって超クールですよね。物理的な意味でも。
あと変な時間の投稿ですがニートではないです。断じて。


「助太刀に来たぜ!一兄!」

「助かる猪々子!これで一気に……!」

「くっ……」

「あいにくそうは行かん」

 

 馬上から跳んで切りかかろうとした猪々子の前に、重ねて二本の杭が突き刺さった。凄まじい轟音と威力。噂に聞く豪天砲だ。

 

「またお前かよぉ、厳顔」

 

 猪々子はこの前の会戦でちょっとだけ当たったんだっけ。

 

「おう、またじゃ。だが、今度はしかと手合わせ願おうか!」

「どうせなら手合わせなんてけち臭いこと言わず、狩り合いと行こうぜ」

「なるほど、けち臭いか。ならば、丁度よいかもしれんな。焔耶」

「はぁアッ!」

「また新手か!……っく」

 

 厳顔の背後から躍り出て猪々子に突撃した、金棒を持った若い武人……魏延に意識が向きかけた瞬間に、甘寧の一撃が飛んできた。なんとか刀で逸らし、部下たちも少しの慌ては見えたけど反撃に出る。

 

「ほう、さすがに忘れられてはいなかったか」

「俺はいちおう頭脳職なんでね……!」

「さぁ、一つ畳んでやろうかのう」

「させるか!『斬山陣』!!」

 

 猪々子の斬山刀の動きに合わせて、光の刃が天に向かってのび、地面を走り出す。氣の刃を作り出すことを得意とする猪々子の奥義、多数の刃で陣を作る斬山陣だ。

 

「面白い技じゃが、……薄いッ!」

「うおおおおっ!!」

 

 しかし、多く作るだけ密度が低くなるのか、はたまた相手がパワー型なせいなのか、正面からでは打ち合いで破られる。

 

「けっ、やってくれるじゃん」

「当たり前だ!将たるもの、貴様も正々堂々と武器と武器を合わせて……うお!?」

 

 投槍が魏延の顔を掠めた。

 

「なーんだ、今度はこっちが忘れられてるかと思ったのに~」

 

 目が眩むような光を放つ刃のスキマを縫って、俺の部下たちは変わらず敵を狙い続ける。

 

「ここまで喰らいついてくるか……!」

「連携だよ連携。やっぱ人が居てこその『陣』だからな『斬山隊斬山陣』だ」

「勝手に改名しないでくれって」

「やはり易々とは取れぬか。曹操の嫁の首は」

「嫁って言われてるのか」

「まあ間違っちゃいないの」

「ノーコメントだ」

「この小僧がのぅ。面白いこともあるものだ」

「面白がってる余裕が有るかな、っと!」

 

 刃、それに北郷隊と連携して猪々子直々にも厳顔に迫る。

 

「ああ、面白いとも。予想の上をいく相手と刃を交えることは戦人にとって最高の楽しみだ」

「桔梗様、作戦を忘れないでくださいね」

「そこは弁えておる。……まさか焔耶に言われるとは」

「いつになく昂っているようだったので……」

「昂ってもらえて光栄だよ」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――――

「ハアアアアアッ!!!」

「ぐッ……くっ」

 

 戦場の反対側、馬岱と周泰に対するは華雄と張遼。ここは経験の差、或いは年季の差で魏の二人が押していた。

 

「格っちゅうモンが有るッてんねや。はよ帰って関羽連れて来ぃ!」

「なによ、負けて魏に従ったヤツ二人のクセに……!」

「お前に負けたワケではないからお前に言われる筋合いはないぞ」

 

 挑発にも顔色を変えない華雄。それもそのはず、戦意は元から最高潮で、その心のまま目の前の敵に襲い掛かっているのだ。

 

「ちょっと、そんな年増に負けてんじゃないわよ!」

「小蓮様!」

「援軍ありがと!」

「まーた口の悪いちびっこやで。どっからどう見てもお姉さんやろ!」

「年増でも何でもいいのだが、仮に私が年増だとするとお前の後ろに控えているそいつはどうなってしまうのだ」

「そうじゃぞ小蓮殿。歳をどうこう言うのは良くない」

「黄蓋……格は十分やな」

「さあ。戦は格を競う場ではなかろう」

 

 黄蓋は静かに矢を三本番えた。ヤる気も十分といったところ。

 

「実力で言うとどうなのだ。手負いだろ、お前は」

「確かに全盛とは言わぬが、こちらは四人じゃぞ?」

「お前ら如き怪我持ちの老いぼれと小娘を人数に入れていては初めから五虎将まで手が回らんというものだ」

「華雄あんたいつの間にそんな煽り文句覚えたんや……」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

「開戦の奇襲といい、今の波状攻撃といい、なかなか苛烈に来るわね、劉備」

 

 魏軍本陣に飛び交う伝令と書簡。その量は今までの戦の比ではない。被害状況、対しての防戦、反転攻勢策……大小合わせればその指令の数は既に千にも上る。

 

「こちらの将を将同士の討ち合いで貼り付けにし、指揮を鈍らせたところで周囲の兵を入れ替えつつ何度も突撃させる……おそらく、陸遜と呂蒙、ある程度戦える軍師たちを前線指揮官としてどこかに配置しているものと」

「諸葛亮、周瑜の指揮が殆ど時間差無く末端に届いているものと」

「それで?こっちには武闘派軍師が居ないから打つ手無し、とは言わないでしょう」

「もちろんです。真に遺憾ながら北郷は上手くやっていますし、華雄のところには事前に七乃が向かいました。そして、春蘭秋蘭の中央には、あの策が」

「なし崩し的な同盟、そしてこの大軍相手に見事な指揮ではありますが、私たちが積み上げたものにはまだ及ばない」

「慢心はよくないのですよ~?」

「冷静な分析から生まれる信頼です」

「軍師にとって本来戦場の指揮は最後のトドメ。正面からの突撃だけで勝てるようにするのが最大の目標。神懸った指揮を見せると言うことは、戦の準備にしくじった証と言えます。が……」

「そろそろ来ますね~。軍師の絵図に濁流をぶちまけてくれる迷惑なお方が」

 

 程昱が目を細めて前線を睨んだ。

 

「ええ。左右両翼に援軍を送り、こちらの意識を逸らした上での、渾身の一撃ね。舌戦から帰って来てせっかく一息ついたところなのに、忙しないわ」

 

 憂うセリフとは反対に、曹操の口角はつり上がっていた。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして戦の中心、前線中央。五虎将の二人、馬超と趙雲の猛攻に対するは夏候姉妹による豪雨の如く苛烈な連撃。

 

「腕を上げたな、錦馬超」

「お前に評価される筋合いは無えよ!」

「黄巾の乱よりその名が轟く夏候姉妹……確かに、一足す一が四にも十にもなっているな」

「そちらも、この窮地についに本気を出して来たか。見違えるようだぞ、趙雲」

「それはどうも。しかし私がそちらの立場なら、そう悠長なことを言ってはいられないものだが」

 

 趙雲がニヤリと笑った。その意味を考えるより早く新たに名乗りが上がる。

 

「孫伯符参上!ってね。蜀呉同盟なんだから当然私も出るわよ」

「同じく呉の孫仲謀、今更名乗るのも如何なものだが、雪辱を晴らすこの戦には不可欠だろう」

「四対二だけど、卑怯なんて言わないでね」

「無論!魏の覇を目の前に……如何なる障害も跳ね退けて見せる!!」

「ふむ、威勢の良いことだ。ならば、もう一手打たせてもらおう」

 

 飽和していた氣がザワザワと波立ち、莫大な力の渦に敵も味方も無く塗り潰されていく。

 

「来るか……っ!」

 

呂布だ。

 

「与えられた仕事は、する」

 

 しかし、それだけではない。

 

「関雲長、押し通る!!」

「張益徳、止められるものなら止めてみろなのだー!!」




次回、意外なあの人が活躍!?
意外でもないかもしれない。


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第十五章最終決戦Round3

「靑」は馬騰の真名です(オリ設定)。
念のため。


「りょ、呂布だアァァアあぁぁぁぁぁぁァぁァぁァぁ!!!!!」

 

 伝令か、悲鳴か、その両方か。三国無双の飛将軍による襲撃が報される。

 やはり、呂布。前線を一気に突き抜けて、真っすぐに本陣に迫って来ているらしい。どうやら春蘭秋蘭も追ってきているようだが……その分趙や孫やの旗も近付いてきている。それとも単純に前線を崩されたのか。

 そして呂布が兵の垣を破り、中陣の手前に設けられた広場に現れるのに時間はかからなかった。おおぅ、なんと豪勢な。愛紗と鈴々……関羽と張飛まで両脇に控えてるじゃないか。だが都合の良いこと(まあ予想していたが)に、二人は第二陣を背に立つ私の姿を見て、驚きに何か他の感情が少し混ざったような表情で足を止めた。

 ……対して呂布の容赦の無いこと。全くいつもの憎らしいほどの無表情で一直線に私に向かってくる。

 呂布と当たるのは、これで三度目。この総毛立つような威圧感と恐怖にもいい加減慣れた。そう、例え汗が噴き出て膝が震えだしていても慣れたものは慣れたのだ。決してトラウマを植え付けられてなどいない。とにかく、いよいよ決戦、三度目の正直。今こそは逃げに出ない。

 

「呂オオオオオ布ゥゥゥゥァァァ゛ァ゛ァ゛」

 

速い速い呂布の脚。前までは何も分からない間に一撃打たれていたが、落ち着いて正対してみると余計に不可解なものだ。ずっと向こうに居たはずがもう互いの間合いの中。

 ついに迎えた飛将軍呂布と蛇鬼鑑惺の真っ向勝負―――なワケ無いんだよなぁ……。

 

「……!」

 

 呂布の刃より先に炸裂したのは、背後……魏の第二陣から放たれた鉄球。季衣の一撃だ。巨大で重く鈍い氣の乱流に、私は紙くずのように吹き上げられる。

高速回転しながら迫る鉄塊を防いだ呂布を次に襲ったのは巨大ヨーヨー。琉流。しかしこれにも一歩も退かずに対処。さすが呂布。魏軍の誇る最高クラスのパワー系二人相手に尚この不動っぷり。桁違いだ。

 それにしても上に飛ばされたのは良かった。状況がよく見える。着地のことを考えなければだが。

 愛紗と鈴々も一拍遅れて援護に走ってくる。季衣と琉流の二撃目はその牽制に放たれた。

 

「くッ……!」

「こっちはボクたちに任せて!」

「流石に強い……ッ、でも、少しなら抑えられます!」

 

 それと同時に現れた第三の刺客。靑の突撃。人馬一体。跨る馬ごと氣で強化、制御した上での斬撃。しかしこれも防がれる。

 だが四つ目の刃は、ついにその防御をすり抜けたらしい。呂布の澄まし顔が歪んだ。

 

「……まさか、私が飛将軍を討ち取ることになるとはな」

 

馬騰の陰に隠れて接近した公孫瓚の剣が呂布の胴を貫いた。

が、

 

「まだや白蓮!」

「へぇっ!?」

 

まだ倒れていない。そればかりか、檄を引いて攻撃の構えに移る。

 

「ッラ゙ア!!!」

 

落下の勢いそのままに、今度は私の剣が呂布の腕に突き刺さる。それに呼応してもう片方の腕を靑が裂いた。

 

「トドメよ」

 

正真正銘最後の一撃。華琳の鎌が脛を砕いて、ついに膝をついた。

 

「こうまですれば、いかに呂布と言えど歯向かわないでしょう。そうよね?」

「……」

「まぁ、最後に首を取らなかったという点で、こちらの意思を酌んで欲しいものだわ」

 

呂布はしばらく華琳を睨んでいたが、やがて観念したように目を閉じて、華琳の命で後方に運ばれていった。

 私でも受けた事のないような重症だが……たぶん大丈夫だろう。呂布だし。史実のゲスさが丸々身体能力に変換上乗せされたような呂布だし。

 

「華琳さん直々に来るとは予定外やな」

「あら、元々貴女たちも『苦境になれば出る』なんていい加減な予定だったのだから大した問題ではないでしょう」

「大将だろお前は、てェな常識は通じんか……」

「それよりあなたたち五人でも怪しかったんじゃない?胴を突いただけで勝った気になってた白蓮はともかく――」

「う……」

「――脚だけになっても、蹴ってくるつもりだったわよ」

 

攻撃を途切れさせればその蹴りだけでやられるかもしれないという説得力が呂布の存在感には有る。ホント笑えない。

 笑えないといえば、この状況もだ。呂布を討った開放感で一瞬忘れていたが、前線が崩されているんだった。……それが想定内とはいえ。

 

「季衣!琉流、無事か!?って、華琳様!?すみません!前線を破られてしまいました!」

「分かっているわ。そのための第二陣よ。二人も一旦こちらに移りなさい」

「愛紗!鈴々!状況は……――」

 

 夏候姉妹と、それを追って来た星たち。状況を一度整理したいのは双方同じ。気付けばあちらとこちらでそれぞれに並び立ち、静かに対峙していた。

 

「関羽、張飛、趙雲、孫策、孫権、馬超……壮観ね。劉備もよくこれだけ集めたものだわ」

「反対に、そちらの面子を見ると頭が痛くなるな」

 

星は私、そして白蓮を順番に見た。馬超の視線は靑に釘付けになっている。

 

「お前らが流してくれやがった風評からすれば予想の範囲内やと思うけど?なんやっけ、屍霊術とか、洗脳とか、強姦とかやっけ?」

「おかげで西涼にしてもどこにしても、まず始めは抵抗されるのよねぇ」

「それで?『その風評を本当にしてやった』とでも言いたいのか?」

「貴女たちは夢を現実にするために戦ってるんでしょ?そう怒る必要も無いんじゃない?一足早く貴女たちの戯言‹ゆめ›を現実にして見せてあげたのに」

「星、お前白蓮とちょっとした知り合いやったようなそうでもないようなそんな感じのアレやったかもしれんよな?再会に感動して泣いてええんやで?」

「下衆すぎる煽りはともかく私と星との間柄の文言にいくつか文句をつけたいぞ」

「却下」

「ぞんざいだなちくしょう。昨日は『お前が必要なんや』とか言ってきたくせに」

「貴女たちそういう関係だったの?」

「あ、そういう関係ではないぞ。戦力とか政とかそういう方面の会話で」

「せやな」

「なら私が可愛がってあげてもいいわよ」

「そういう方向での重用は要らないんだよなぁ。やっぱ向いてないのか……」

 

白蓮は足元の小石を蹴った。まるでいじけたヤツのテンプレみたいなリアクションだ。

 そんなとぼけた会話の一方で、マジメに激高してる奴もいた。本心はともかく、影が薄いだのなんだの言ってたせいで今更何とも言えない星と違って、全うに混乱する理由も権利もある奴が。

馬超が静かに、全身に力を込めて言った。

 

「なんでそっちに付いてんだよ……!」

「一つに魏がマトモな国だったから。二つに余計な風評を流してだまくらかしてくれたヤツを叩きのめしてェから」

 

孫策は無表情だったが、孫権は一瞬たじろいだ。なるほど。下衆い風評はどうせ孔明の策だと思っていたが、どうやら呉が主な源だったらしい。

 

「大方西涼を攻めた相手に味方すんのが気に入らねェんだろうが、仇討ちがしたいならむしろお前もこっちに来い。翠。……それとも、マヌケにもまんまと騙されたバカな首領を恨んでるんなら、このままヤり合おうじゃァないか」

 

一切の詰まりも無しに言い放った。全く、病のせいで一呼吸の間しか全力を出せないくせに立派にハッタリをかますのは流石経験豊富な名将だ。

 

「私は、今隣に立ってる仲間のために戦う!」

「ほう……その答えは親として鼻が高いなァ」

 

要らん覚醒スイッチ押したかもしれんが。

 

「どうやら話はついたようね。私も一つ舌戦……といきたいところだけれど、孫策とは建業で話したのよねぇ」

 

華琳はゆっくりと目を瞑った。まるで戦場の音を全て聞いているようだ。

 

「……両翼もそろそろ押し返している頃だろうし、劉備に訊きに行きましょう。この状況でまだ抵抗するか、と」

「どの状況か知らないけど、桃香お姉ちゃんのところには行かせないのだ!」

「元より素直に通してくれるとも思っていないわ。――全軍、突撃ッ!!」

 

 華琳の号令に応え、魏の黒い大群が、根元から敵に攻め込まれているただ中の前線まで全て、成都の蜀本陣へ進み始めた。




三年前は二年前にここまで進んでる予定でした。


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第十五章最終決戦Round4

事故ったときにスローに見えたりしますけど「あー、これ完全にやばいやつだわー……」って思うヒマが有る以外だいたい無意味ですよね。

黒王号(牛)は聆の主人公の愛馬(?)の水牛です。前出たときは黒王五号(仮)表記でした。念のため。
聆は主人公の名前です。念のため。


「はぁぁぁぁああああ!!!!」

「てやああああ!!!!」

 

 初撃、華琳の号令の終わりと共に愛紗と春蘭が駆け、ぶつかり合う。比喩ではなく火花が散り、接触点を中心に土煙が上がった。殆ど同時に秋蘭の矢が風を切る。愛紗が態勢を崩す。

 

「させないのだ!」

 

春蘭が追撃を加える前に、代わって鈴々が前に躍り出た。そこに轟轟と音を立て鉄球とヨーヨーが飛ぶ。その猛攻の隙に陰から踏み込んで、逆に攻めに出た星に秋蘭が牽制の一発を飛ばした。更に重ねて孫策が迫る。戻って来た鉄球とその鎖が道を阻んだ。

 春蘭、秋蘭、季衣、琉流の姉妹親友師弟カルテットに対し、蜀呉側は素早く交代、そして包囲することで対処するつもりらしい。

 

「乗れ!!」

「言われずとも!」

 

 靑の口笛の音に、背後の群衆から白馬が跳び出す。靑が世話を担当し、普段は華琳が乗っている、いつぞやの戦利品として私が献上した馬。……もしやと考えたことも有ったが、やっぱり白蓮の馬だったのか。

 散開した愛紗たちの、更に外から高機動を活かして一撃離脱を繰り出し、攻めのサイクルを崩す。一つ格が落ちる白蓮と、ぶつかり合いをするには万全ではない靑にとっての精一杯の仕事にして、この場での最適解だ。

 

「私たちも"行く"わよ」

「ええ……不相応な感じするけど」

「気負わなくて良いわ。ただの付き添いよ」

 

 そう言ううちに華琳は黒王号(牛)に跨っている。その瞳が指し示すのは兵の原のその向こう、劉備が座す蜀本陣だ。この戦を終わらせる最後の一手、その端をこの私にも担がせようと言うことらしい。しかたない。攻めは得意ではないが、覇王を大徳のもとへ送り届ける騎士の役目、引き受けよう。

 

「んだら行くでッ!!」

 

ブモォォォォオオっと長く太く嘶き、黒王号(牛)の黒い巨体全ての筋肉が膨れ上がる。本気も本気、こいつも決戦の空気と自分の役目の重大さを理解しているのだろうか。

 

「通すかよ!!」

「曹操、覚悟!」

 

 一歩踏み出した私たちの前に立ち塞がるのは馬超と孫権。

 

「一気に抜くわよ」

 

 しかし華琳は自信を崩さない。優勢とは言え難題を、と思ったが言い出す前に道が開ける。靑と白蓮が先んじて突っ込んで行った。剣と剣、槍と両剣が高く鋭い音を立てて衝突し、鎬を削る。

 

「アタシたちごと撥ねろ!」

「なっ……!?」

「へぇっ!?待て私は心の準備が――」

 

ドーン ガシャーン

 

「さぁ、あとは突っ切るのみよ」

 

 撥ね飛ばした四人を振り返りもせず。前線で劣勢の中奮闘していた兵や春蘭たちの討ち合いを迂回して進んできた兵たちと合流して蜀本陣を目指す。

 敵将はほぼ出そろってこちらの将と当たっているらしいが、敵兵にも気が抜けない。さすがに決戦。士気技量の高さで鳴らす我が魏軍でなくとも、恐れず将の首を取ろうと……そして劉備を守ろうとこちらに迷わず向かって来る。

 

「"ああ"は言ったけど……確かに、こうして貴女と駆けるなんて思ってなかったわ……」

 

 背後から撫でるような声がした。窺える状況じゃないが、華琳はすこし笑っているようだ。

 

「あの四人じゃ、凪が頭一つ抜けていたし。そして、貴女をどう思っていたかは、……ふふ、今更言わなくても分かってるわよね」

 

 突き上げる槍を薙ぎ、降りかかる矢を掃う。敵の怒号に圧し潰されないよう、より大きく激しく腸を引き裂くような音で、私も声を上げる。

 

「でも貴女は身を賭して魏を支えてきた……その心の内は、教えてくれないようだけれど」

 

 左に付けて来た騎馬兵の刃を折って取り、右の敵へ投げる。前方の歩兵の首を刎ねた振り切りで、そのままさっきの騎兵を叩き落す。

 

「ただ、今の貴女は、この覇王曹操を劉備のもとへ送り届ける……この乱世を終わらせる重役を担うに足る存在よ。不相応なんかじゃないわ」

「華琳さん……」

「なにかしら?」

 

 捨て身の正面突撃を、黒王号(牛)の三日月形の角が投げ上げた。驚愕の表情に私の太刀が喰い込んで、割れる。

 

「敵兵のけるん手伝ってくれへん?」

「……ごめんなさいね」

 

 ただでさえキツイのに後ろでドヤ声で話されているとなんとも言えない。

 

「……けれど、やっぱり、手伝いはできそうにないわ」

 

 ビュッ、と風が通り過ぎた。

この矢……

 

「黄忠か」

 

 兵がまばらになり、ザッと視界が開けた。いよいよ本陣手前というところにできた人垣の城壁の前に、門番のように黄忠が待っている。五虎将の一人、劉備を守る最後の砦か。

 

「二方向から攻めましょう」

「……了解」

 

 私が黒王号(牛)から跳び下り、二手に分かれる。華琳は大きく湾曲した軌道で、私は真っすぐ黄忠へと接近する。

 一射ごとに空気がビリビリ揺れるほどの威力にもかかわらず、十分な精度と密度の射撃を華琳と私の両方に放ち続ける。黄忠め、定軍山で戦ったときより明らかに強くなっている。……だが威力は実は以前のままでも私を十二分に殺せる。むしろ氣が激しくなった分、今の私にとっては幾分か避けやすい。そして精度と密度に関しては黄蓋の方が何倍も厄介だった。確かに恐ろしい相手だが、今更騒ぐほどでもない(感覚麻痺)。

 三人を結んだ三角形がどんどんと小さくなる。一つ、二つ、矢を避ける。黄忠は目の前。その背後から孟獲が跳び出した。しかし私も華琳も気付いていた。鎌と槌が交差する。それを横目に、正面の黄忠へ一撃。猛将特有のバカに堅い弓でいなされる。こちらの次段と相手の返しが同時……そして私の背に冷たい感覚が迫ったのも同じときだった。

 意識の隅に隠れていた将が、記憶の端に放り出されていた方法で牙を剥いた。

 顔良は、猪々子の好みで派手な大金槌を使うよう勧められているだけで、本来素早さを活かした攻撃を得意としている(らしい)。つまり、甘寧周泰に続く三人目の暗殺武将としての素質を持つ。猪々子が側に居ないからか、もしかしてそれが原因で原作より厳しい局面に遭い"本気"になったのか……ともかく、顔良は賊上がりらしい、鋭く前触れのない攻撃を仕掛けて来た。

 忘却というのは本当にクソみたいな現象である。周泰と甘寧が両翼に当たっている今、私の計算では、この瞬間、私の背後を取れるような敵は居ないはずだった。

 孟獲らと周泰を相手取り五分以上の戦いをした私が、顔良に……?いや、避けられるはず。……この攻撃を避けてどうなる?……ここは黄忠の間合いの内も内。それも互いに打ち合いの真っ最中。黄忠への対処を怠れば次の瞬間終わり。しかし、視界の端に映るこの顔良の腕……脊椎を折るまでに止まってくれそうか?逆手持ちに突き立てられた小刀は、その切っ先に一発で決めると言う決意を孕んでいるように見えてしかたがない。

 この最大の窮地に際して最高速に達した思考と視野で、残念ながら悪い情報ばかり見つかってしまう。どうする、どうすると頭こそ働けどアイデアは閃かず。助けてくれそうな仲間である華琳もそこで「しまった」という顔をしている。どうやら現実は非情なようである。




まぁ無傷で助かるんですけどね、初見さん。


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第十五章最終決戦Round5

エロCG集はエロゲエロ漫画の下位交換
そう思っていた時期が私にも有りました


 私の剣と黄忠の弓が競り合う。背後から顔良の刃が迫る。このままでは首を取られるだろうが、かといって目の前の敵が情けをかけてくれるとも思えない。三国平定を目前にして、潔く死ぬ覚悟など到底できない。

 ジレンマの中で無意味に引き延ばされた一瞬がゆっくりと過ぎていく。

 

「……っ!」

 

 しかし、予見した痛みはついに訪れず。一撃は背に振り落とされ、血ではなく破片が飛び散るに留まる。なぜ首ではなく背中?背中にしても、なぜ鎧を貫通しない?

 だがそうして考えている間も無い。ともかく、時間は進む。華琳が孟獲を二撃の内に下す。黄忠との打ち合いの間に退路を見出す。足並み揃って、二対二。こうなれば"比較的"容易い。

 

「中々良い奇襲だったわ」

 

 華琳が鎌を構えなおした。左肩と右膝をやられ、孟獲はしばらく動けまい。シカケが破られて、黄忠の顔もいよいよ余裕が無くなった。そして顔良、なぜお前がそんな困惑の表情なんだ。色々訊きたいのはこっちの方だ。

 

「でも、相手が悪かったわね」

 

 微妙な語気の変化を合図に、私が黄忠へ一歩滑り出し、華琳がドンっと一気に踏み込む。そして顔良の目前、大きく鎌を振るう。と同時に、百合覇王華琳様らしからぬ捻り無いヤクザキックを突き刺した。

 今度こそ本当に二対一。

 

「さすが、覇王と蛇鬼というところね……」

「後になってさすがと言うよりは先にもっと良い案を考えておくべきだったわね」

 

 しかも私の方は何もしとらんしな。

 

「さあ、道を開けなさい、黄忠。無用な怪我をしたくなければ」

「無用ではないわ。例え、命を取られても」

「そう。しかたないわね」

 

 低く地を這う私の上を華琳が跳び、天と地からの牙が黄忠へ止めを刺す。見事、双方第一の刃は受け流すものの、第二撃、鎌の石突が鎖骨を砕き細剣が腿を裂いた。

 

「ならばそこで寝ていなさい」

 

 そうして二対零。勝負は決し、私たちは動けず弓も引けなくなった弓兵を跨いで最後の一陣へ飛び込んだ。

 

「にしても儲けもんやったな、さっきのは」

「そうかしら。今思えば必然だったわ……」

「いや、顔良が」

「……首を取らなかったって?」

「それ。なんで狙わんかったんやろ」

「……狙っていたわ。始めはね。貴女の背後に跳び出して、視線は首に集中していた」

「ほなやっぱなんか手が滑ったとか?」

「一手で決めたいとき、効果が無いところは避けるわ」

 

 死にもの狂いで向かって来る兵を払いのけながら、華琳が私の首をちらりと見た。

 ああ、そうか。今の私は「呂布に首を飛ばされても蘇った」という設定で動き、話し、首に傷跡を付けてもいる。後方に控えていた顔良にどの段階で私の復活が知れていたかは分からないし、不死身なんて恋姫でも禁じ手なオカルトを信じていたというのも考えにくいが、少なくとも、死んだんじゃないかと言われていた奴が現れた。そしていざ飛びかかると、首に大きく傷跡が見えた。本当に不死身……首を斬り込んでも無意味だと思ったのか、或いはそうまで思わずとも別の場所を狙うべきだと思い直したのか、ここで混乱したのだろう。私が焦っている間、顔良も動転していた。そして中途半端な形で、背中に一発。これが、顔良の刃が首から逸れ、(真桜謹製とはいえ)鎧を貫かなかった理由、そしてあの表情のワケだろう。

 

「ひえ~、まさかそうなるとは」

 

 愛紗辺りをドン引きさせてやろうくらいの軽い気持ちだったのに……。手の打ちようが無いと思っていたら、既に打っていたとは。本物の儲けものだ。

 

「貴女のことだから狙っていたものと思っていたのだけれど」

「そんで『相手が悪かったわね』か。そう考えたらホンマ相手が悪いな」

 

 ハハと小さく笑い、そのあとは口元を引き締める。

 最後の一列を抜け、ついに桃香の前に辿り着いた。

 

「勝負有り、ね。劉備」

「穏さん、亞莎ちゃん」

 

 もう終わったとばかりに静かな足取りで近付く華琳に対し、桃香は陸遜と呂蒙を差し向けた。華琳が軽く手を上げる。私は大きく一歩前に出て、投具と多節棍を掃う。さらに一歩駆け、二人同時に相手取る。

 

「この二人はもう少し前に出ていると思っていたのだけれど」

「護衛に戻ってきてもらいました」

「そう。こんなことしなくても、聆を貴女にけしかけたりしないものを。望むのは、王として、一対一で、よ」

「私は曹操さんと一対一でやり合おうとは思いませんから」

「……なら気の毒ね。そもそもこの二人は戦力として不十分だわ」

 

 私におっ被せといて涼しい顔だ。まぁ、元からそういう役目なんだが。

 

「そして、そちらの駒は、貴女と、強いて言えば他の武器を持たない軍師たちしか残っていない……と言うのは分かっているみたいね」

 

 華琳の一歩一歩に怯むことなく、桃香は静かに剣を握って立っている。

 

「強くなったわね、劉備」

「桃香、って呼んでください」

「私のものになったらそう呼んであげるわ」

「意地悪ですね、華琳さんは」

「……ふふ、まったく、貴女の聞き分けの無さには呆れるわ」

 

 互いに見つめ合ったまま、一瞬も逸らさず近付いていく。

 視界の端から一騎近付いて来る。一刀だ。方向から考えると、右翼の更に外回りから上がって、中央の騒ぎに乗じ横側の薄いところを破ってきたというところか。間の良いことだが、珍しい。一刀がこうして突進してくるなんて。しかしこの最終決戦、劉備と曹操の一騎打ちが起こるともなれば事情も変わるか。

 

「余所見してる場合ですか」

 

 ヒュッと棍の端が過ぎる。二人とも手練れではあるが、氣による非現実的な動きや威力を出してこない分かなりマシだ。

 

「場合やろ。ってかむしろこないな打ち合いしとるんがもったいない。この戦乱最後の一騎打ちの横で」

「私たちは、最後まで、全員が、全力で戦うつもりですから」

 

 ついにあと一歩のところ。

 

「さあ、王として、貴女の意思を示す瞬間よ。桃香」

「華琳さんと私、斬り合ったって……いえ、斬り合いになんてならずに私が負ける」

「………」

「だから、一撃。この一振りに私たちの夢を込めます。受け止めてくれますか?」

 

 鎌を腰に引き付けるように構えた華琳の前で、桃香が肩に担ぐように剣を引く。このまま真っすぐ、袈裟に振りぬくつもりだろう。刀身が太陽の光で煌めいた。

 

「もちろん。全て私が受け止めてあげる。それが覇王だと思わない?」

 

「違う」

 

 桃香の刃は華琳に届かなかった。鎌を折り、刀に止められて。

 

「……何故かしら、一刀」

「もし本人にその気がなくても、臣が自ずと尽くすからだよ。華琳。……本当に全部一人で背負っちゃったらただの鉄砲玉だ」

「……ふん、知らない言葉ね」

 

 華琳はきまり悪そうにため息をついた。

 

「やっぱり、魏は強いですね」

「大事なところで命令してくれないんだけどね。頼ってもらえることに関してだけは、蜀の将が羨ましいよ。皆の力を込めた一撃なんてロマンが有るじゃないか」

「二人で止められちゃいましたけどね」

「ま、そうは言ったって華琳は一人でもかなり強いし、俺も俺一人分だとは思ってない」

 

 桃香の頬に刀を当て、一刀は戦の終わりを告げた。




もう一つ考えていた回避案
三課長「鑑惺様在るところに私在り ですッッ!!」


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α√終章

文才が足りない。
これまで出た戦術とか戦運びとか戦闘シーンとか、頭に描いたものはたぶんかなり面白いんですけどいざ文章にするとこれ絶対伝わらないなもっと面白く書けるはずなのになって。
かといって今なら展開を変えずに違う文章で表現できるとかいう自信もないので、いつかちゃんと書き直せたらいいなぁ。


 日が沈んで、永い戦いが終わった成都。見下ろす城壁の外や内に、いくつもの灯りが揺れてどこからともなく唄や笑い声が聞こえる。大陸の覇者、魏の軍勢の宴。将から負傷者まで、……もしかしたら平安を目前に命を落とした英霊もその輪に居るかもしれない。

 

「……ようやく、終わっ――」

「ようやく始まったな、華琳さん」

 

 階段を昇ってくる小さな足音。覇王は、私の言葉に少し呆れたように二の足を踏んだ。

 

「そのくらい分かっているけれど、ひと段落という意味で言ってもいいでしょうよ」

「被害確認終わったその足で『宴会の監督』なんつう仕事することになった身としたら、段落なんか知ったこっちゃないけどな」

「それはお互い様よ。それに、その仕事ももういいって遣いを出したはずなのだけれど。……貴女も分かっている通り」

 

 華琳は城壁の縁に置かれていた盃を取り上げ、じろりと私を睨んだ。

 

「それとも職務中に呑んでいるのかしら?こんなにキツイ酒を」

 

 盃は空になって帰って来た。悲劇。空気に浸りながら(珍しく)丁寧にゆっくり時間をかけて呑んでいた祝酒の一杯目の残り半分を持っていかれてしまった。

 

「分かった。意地悪の言い合いはやめよ」

「この私に意地悪なんて言わないのは当たり前として、宴にも出てあげた方が良いと思うわよ。貴女と話したい娘は大勢いるでしょう」

「まあ私が今話したいんは華琳さんやから」

「残念ながら、ここに来たのはちょっとの気分転換よ。この夜から文官たちと一緒に査定しなきゃならないのよねぇ。この国のあらゆるモノを」

 

 宴には全軍が参加しているワケではなかった。重傷者はさすがに治療中。華琳や文官たちはそれぞれの将や部隊長らから上がった報告の整理と蜀の情報の吸い上げ作業。そして、一部の戦闘員。……まぁこれは普段の警邏と変わらないものだが。

 何より華琳の言うように、この後からは蜀の情報と人材の整理が有る。しがらみや恩の無い侵略者の立場から、適正に役職を裁くというのは華琳の信念で、どうあっても退けないところ。

 

「……誘たんとちゃうで」

「分かってるわよ」

 

 改めて一杯注ぐ。今度は「職務に障るから」と、接収されなかった。

 

「大変なもんや」

「それこそ、これからが始まりだもの」

「どう治めるつもりなん?」

「戦後処理や五胡対策は当然として……。街道と宿場町の整備。それにこれからは誰の目にもハッキリとした成功――外との戦での勝利という威を示すことができなくなる分、内への対話がこれまで以上に必要になる。それに、成長と人口増加に領土拡大や開墾で対処するにも限界が来る。となれば、早い段階から人口管理の方策を練ることが不可欠でしょう。そのためには、まず前段階として人の生死に直結する医療技術も。もっと進めば、そうして満たされた世の中での新たな問題への思索……この辺りは一刀の天の国が直面していたらしいわ。また、よく話を聞くことになるでしょう」

 

 華琳は眼下に揺れる宴の火の、もう少し先を眺めながら薄く笑った。

 

「――というのが、桃香との話し合いの一部よ」

「早速か」

「……はぁ、だって、あらゆるモノを下し背負う覇王はあの娘に負けてしまったんですもの」

 

 決着のあの時。華琳は覇王として一人で挑み、そして、その鎌は桃香の一撃で折れた。一刀によって魏は勝利したが、曹操個人としては負けなのだろう。……ただ、あまり悔しそうには見えない。

 

「もちろん、周りに任せて力を借りるつもりでいる王になる気も無いわ。皆の力も求める。自分にも妥協しない。その上いつも笑っている。……高望みかしら?」

「いや。現実的な将来像や」

「でしょうね」

 

 華琳は、またふらりと縁から離れた。いよいよ激務へ挑む時間のようだ。

 

「んだらまぁ頑張って」

「明後日にもなれば貴女も頑張ることになるだろうから覚悟しておくことね」

 

 不穏な一言に思わず盃を取り落としそうになる。どういう話か訊こうと振り返ったときにはもう階段を下り終えた後のようだった。何だろうか。撤収作業なんて今更だし。

 

「そういうワケでなんか心当たりない?隊長」

「どういうワケだ」

 

 知っているとも思わないが、入れ替わりでやって来た一刀に話を振った。案の定、よく分からないという態度。その上、下でけっこう呑んでいたのか顔がかなり赤い。

 

「いや華琳さんが『明後日は忙しいぞ』言うて」

「お、華琳に会ったのか。乾杯の音頭とったきり見かけないからさ。探してたんだ。桂花たちも」

「私は?それと今更?」

「もちろん聆も。抜け出すのにも苦労したし……むしろ二人はどうやって抜けたんだ?」

「私は元から。華琳さんに絡めるヤツなんか居らん」

「なるほどな。それにしても、仕事か何か?……って、戦の直後が主戦場な奴らも居るもんなぁ」

「気の毒にな。私はこの灯を肴にやっとっただけやけど」

 

 一刀は城壁の下に目をやりながら「華雄なんかめちゃくちゃ探し回ってたぞ」と苦笑した。

 

「でもまぁ、大宴会の機会はまたすぐに来るだろうし、その時は皆も参加しないワケにはいかないだろ。あ、それこそ明後日にも有るんじゃないか?」

「落ち着いてから、もう一回みたいな?」

「そうじゃなくて、新しい国の歩みと新しい仲間を祝って、だよ」

「……そーか」

 

 もう既に、少しの話し合いにしろ桃香との協力は始まっている。それを、その臣や呉のメンバーにどう広げていくか。もちろん、勝ったからと一方的に仕えるよう命令するのではならないが、かと言ってあまりに配慮しすぎて二国への影響が無いと何のために戦ったのかという話になる。

 

「もちろん、向こうの皆が二つ返事で首を縦に振るワケじゃないだろうけど……」

「今の華琳さんは、逃さんやろなぁ……」

 

 まぁそこを上手くやってしまうのが華琳だろう。

 

「……始まるんだな」

「……そーや」

 

 一刀はふーっと細く息を吐き、空を仰いだ。藍色の空に、星がちらちらと光っている。

 

「黄巾の頃さ、『流星と共に現れる天の御遣い』の噂が流行ってたの覚えてる?」

「……おう。ちゅーかご本人やろ」

「どうなんだろうな。確かに俺は何歩も進んだ知識を持ってる気でいたけど、実際は全然違ってて。華琳も、他の皆も俺が知ってるはずだった"歴史"なんて自分で跳ねのけていった。そもそも俺が知ってた曹操って、どうやったって華琳のイメージと結びつかないオジサンだしな。他にも居ないはずの人が居たり、居るはずの人が居なかったり。下手に一致するところが有る分面倒なだけで、何の役にも立たなかった」

 

 それに比べれば、私は格段とよく知っていた。……が、変わらない。いざ暮らしてみると知っていたのは『イベント』の前後だけで、全力を尽くすことになった鍛錬や学問、事務仕事なんかは碌に分かっていなかった。もし私のこの半生が物語になったとしても、やっぱり省略されてしまうだろう。良くて「これこれを勉強することにしました」って一文で、次のシーンじゃ何事も無かったようにマスターしてる。

 皆との付き合いもそう。従順マジメの凪が何かと私の弱点になっていて実は気が抜けなかったり、華琳には吊し上げられたりもした。いざ引き入れてみた猪々子や華雄との付き合いなんて、意外と律儀だったり普段は物静かだったりして『ああ、こいつってこんなヤツだったんだ』という発見の連続だった。桃香があんなに強い国主になるとも予想できなかった。そしてなにより、当たり前だが、部下や民には一人一人"顔"が有った。

 それに、一番重要なことは後回しにするしかなくて、今の今まで何も分からなかった。

 

「三国志を知っている者として、曹操の統一を達成させるが役目だ、なんてな。……気付けばただ魏の一員として、北郷隊隊長として、必死だった」

「北郷隊の役目は警備……これから一層大事になるな」

「もちろんだ。休んでるヒマは無いぞ、って言うか今も働いてくれてる隊員が居るしな」

「そんな中フラフラと女の子探して歩いとった、と。隊長として宴会を盛り上げるでもなく」

「ぐ……いやいや、聆だって一人で呑んでるじゃないか」

「やから別に悪いーとは言っとらんで」

「どうだか」

「ま、どうせそうならキッチリ目的果たしといて欲しいけどな。華琳さんの方も、ひょっとしたら隊長に会えるかも思てここ来たんかもしれんで」

「……聆はどうしてここに?」

「ここに居ったらこうやって華琳さんや隊長やと会えるやろな思って」

「戦が終わっても、聆の読みは怖いくらいだな」

「読みも何も。二人かて無意識でも同じように思ってここに来たんやろ。私にはぼーっと突っ立っとれる時間が有るだけや。……ともかく、華琳さんとこ行ったげたら?ここから中央に真っすぐ行ったら、どっかの地点で会えるやろ」

「聆はもういいのか?」

「んん?大陸一の色男であるこの俺と別れるのが惜しくないのか、と?」

「いやいや、そんなんじゃないって!」

「ま、聞きたい話は聞けたし」

「何か変な愚痴ばっかりで、大したこと言ってないと思うけど。……それに、華琳も俺に構ってる時間有るのかな」

「覇王にも嫁さんに時間裂くくらい許されるやろ」

「嫁さん言うな。……まぁ、行って来るよ。ありがとう」

「時間有る言うても朝までしっぽりは無理やろけどな」

「一言余計だ!」

 

 覇王に、御遣いに。思えば凄い相手と話したものだ。が、まだもう一人と会うことになるだろう。向こうも今か今かと待っていたようだし。

 

「どこまで掌の上なのかしらね」

「それは今から互いに答え合わせするとこや。貂蝉」

 

 黒幕、ラスボス、謎、私の予想が正しければ被害者。この世界を監視するモノ、そのまま、管理者。

 

「なら、先ずはこっちから。と言っても、ほとんど確信してるんだけどねぇん」

「どーぞ」

「あなたの正体……この外史が生まれるとき紛れ込んだ魂……でも、ただそれだけじゃない。わたしたちや、ご主人様の生まれた世界すら外史として内包する、一つ上の世界の人ね」

「『一つ上』って言い方が正しいかは分からんが、正解と言って良えやろうな」

「どういう物語として語られるのかしら」

「エロゲ」

「ええ……?」

「エロゲ。エロのゲーム。一刀が主人公のな」

「うっふふふふふふん。確かに、ご主人様ったらやり手だものねん。それこそ、あなたも」

「ノーコメで。今度はこっちからか。……とは言え、そっちからしたら何言ってんだって話かもしれんが」

「物語として知っているならば、訊くことはあまり無さそうなものだけれど」

「重要なことはえてして抜けとるもんよ」

「蛇鬼鑑惺にお教えできることが有るかしらね」

「蛇鬼ね……。勝手に妄想して、勝手に怯える。よぉ有るこっちゃな」

「そうねぇ。ヒトの面白いところよ」

「お前ら、さして何もできんな?私と同じように」

「……ご主人様は、あの人ですもの」

「あくまで主人は一刀。管理者は管理するに過ぎん。本当に重要な舵は、一刀の心に依る、と」

「ええ。外史を作り出し、迷い込み、その中の存在を連れ出すことすらできてしまう稀人。それが北郷一刀」

「もし一刀が『俺はここに居てはいけない』と思ったらその分存在が弱くなるし、『大陸平定が役目』と考えたなら、そこで一刀は居なくなる。ついでにこれからの安泰を望んだら、一刀不在の世界が延々と続いていく」

「まるで見て来たようねん。って、見ているのよね。だとすれば、あなたの知っているわたしたちは、相当下手をうったようね」

「それは分からんなぁ。一刀主観の物語では、お前らのことは殆ど語られんし。単刀直入に訊くけど、何が目的なんや」

「そのまま、管理よ。ご主人様の作る外史で、ご主人様が永く暮らせるように」

「……それを崩そうとする動きをするなら、何が動機になる?例えば実際に人物として話に乗り込んで一刀の陣営を攻撃するような」

「今となっては大失敗なのだけれど――」

「やっぱり、つながった過去なんやな」

「単に、偶然事故で生まれた外史とその主だと考えたならば、さっさと潰してしまおうと考える人もいるわ」

「なら、逆に永く保つ理由は」

「偶然じゃなかったとき、それとも、その力を手に入れてしまったとき。その人によって無造作に外史が乱立し、最悪そこからたくさんのモノが取り出されることが有っては正史が乱れてしまう。だから、外史が生まれる予兆に対して割り込み、補助して作り込み、それを"物語"だと認識できないほど本気にさせて閉じ込めてしまうことにした。もっと言えば、新たな、独立した正史になれば良いと繰り返した。大切な人を失ってしまって『もしあのときこうしていれば』と強く後悔すればそこで新たな分岐が生まれてしまう。でも反対に簡単に行きすぎても嘘っぽくなってしまってダメ」

「上手くバランスが取れても、別世界の人間だと強く意識してもたらアウト」

「そうね、そういうこともあるわ。そういう試みが、ここと、それより前のいくつかの外史。……その様子じゃそのいくつかの外史も知っているようだけれどねん」

「知っとるんかなぁ。私はお前らが邪魔しとるんと、平定後まで一刀が残っとる"成功"の話と、あと、この世界に近い一つしか知らん」

「わたしの認識では、失敗を重ねてこの世界が初めての成功しそうな例よ。……やっぱり、生まれた世界が違うわん」

「そうなんかな。でも、私が元居った世界も誰かからすれば物語の一つに過ぎんかもしれん。或いは、この世界も別に私の世界の創作、外史やなくて、単に何かの超能力で受信した同等の世界かも」

「……あなたも本気になっちゃったのかしらん?」

「追い出されることがなけりゃ、な」

「それなら安心よん。むしろあなたが帰っちゃったらどうしようかと思って釘を刺しに来たくらいよ。貴女が別のわたしたちを産み出しちゃうかも……ていうのは、たぶんわたしたちには認識できないから実質関係無いんだけど、それでご主人様を悲しませちゃったらただじゃ済まないわ」

「ダミーでも置くとか?」

「あなたっていかにも作りにくそうだし、ご主人様はそんなことで誤魔化しきれるような薄情な人じゃないわ」

 

 やっぱりなんだかんだ言って人を作れてしまうのか、それとも一刀の中に有る私の記憶を補助するのか。訊くのも野暮だし訊いても意味ないだろうし、訊いても理解できないだろう。

 

「ま、変な奴らに監視されとる以外は至って快適な世界やし?手放す方がおかしいけど」

「予期せぬ来訪者の導きと稀人の意思によってこの世は三国志から外れ、新しい国が始まるわ。それが、新しい世界の始まりでもある。今でもなんでもできるワケじゃない。ご主人様の『もしも』と、世界の偶然について知らないこともたくさんある。それが、更なる進化を遂げたなら、もはやわたしたちがどうこうできるものじゃない。……けど、お客さんとしてご主人様の顔を見に来るくらいは許してねん♥」

「こっちこそそんなこと言われてもどないもできる立場やないわ」

 

 自覚の無い主と、主権の無い管理者と、能力の無い上位もどき(?)。うん、よく分からん神や物理法則によって生まれた世界よりはよほど信頼できるな。

 

「うふふん。なら、一旦ここでサヨナラね。今のわたしがこの世界を外史に押しとどめる最後の楔。新しい朝、新しい世界の第一歩は、それはそれは美しいものよん」

 

 灯りがいつのまにか消え、兵たちは眠りこけている。月と星の軌跡が残った空が、俄に朱に染まる。地平から射した鮮烈な光。

 視界の白さが晴れれば、そこには紛れも無い、朝の光景が広がっていた。ただの、成都の朝。これから私が生きる世界の日常。

 ……直前に会ったヤツが若本ボイスのおかま筋肉ダルマじゃなけりゃもっと素直に感動できたと思った。




ここから文字通りエンドレスなんですけど需要ありますかね。
なくても書くんですけどね。


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※作品の説明、設定と言い訳α√

設定っていうか、オマケ(誰得)です。
「ほんへ」や「この話」は、この晒恋姫の内容という意味で使っています。


世界のカギを握っていたのは、向こうじゃなくてこっちだったと言う話。

管理者を警戒していたのは全く間違いだが、一刀に未来人としての仕事をさせないという方向性は合っていた。

 

 

重要人物

 

袁 術 公路 美羽(敬称略)

かわいい。

 

バイのやり手OL

本作主人公。ついに恋姫世界にガチになった。以下OL氏。

 

鑑 惺 嵬媼 聆

OL氏の恋姫世界での姿。

美術枠採用がいつの間にか有名武将になっていた。演技が得意で呂布が苦手。

 

北郷 一刀

我らがおちんぽマスターにして恋姫世界の主。無自覚に外史と深く関わる能力を持つ人物。

この作品でかなり強化されたうちの一人。

 

管理者

外史を観測し、ある程度干渉できる者たち。鏡運搬中の事故で一刀と接触、三国志の外史での騒動を経験し(無印)、一刀が持つ能力を知った。そうして今度は意図的に一刀の外史に干渉し、自分たちの世界から剥離させようというのが今回(真)……という設定にこの作品ではなってます。

その辺の説明が難しいからと先送りにしているうちに書くタイミングを失って最後数話に押し込む形になってしまった(大反省)。

 

曹 操 孟徳 華琳

大陸平定の覇王。一刀や聆との対話、最後の相手としての劉備との戦いの間に、治世への哲学が少し変わったようだ。

 

劉 備 玄徳 桃香

曹操と双璧を為す大徳。気付いたら作者の予定よりだいぶやべーやつになっていた。

必殺技は、自らと志を同じにする者の氣を集めて放つ『夢現一閃』。

名前は今決めた。

 

孫 策 伯符 雪蓮

孫 権 仲謀 蓮華

呉王姉妹。孫の血と呉の地を守るという意思は決して劣ったものではない(むしろ王としては最も堅実)が、なにかと王とは国とはと哲学的な話になる華琳中心のストーリーでは若干不遇気味に。蓮華は聆に惑わされず対抗できる的な流れも微妙に作ったりしようとしたが、最終決戦では再び地味になってしまった。

 

―――――――――――――――――――――

 

☆ボツ案☆

今回の三国平定より前に考え、紆余曲折で無しになったキャラや案

 

 

白姫†夢奏

 ハーメルンに流れ着く前(五年ほど?)に温めていた案。袁紹や曹操とバカ騒ぎする子供時代編を過ぎると陰鬱一辺倒に。キャラがよく死ぬ。

 倭の国より献上品として大陸へ渡ったアルビノの少女の物語。管理者周りについては触れず、袁紹や曹操の子供時代から三国平定をゴールとしたストーリー。メインヒロインは主人公と呂布。天下統一は袁紹。帝周りや親世代などおびただしい量のオリキャラ(=ボツキャラ)が居るが主なもの以外は割愛。

 

嵬 聆 鑑世 暒

 ボツ案主人公。

 倭より帝に向けて献上品として贈られたアルビノの少女。日光に弱く、常に重装備やベールで身体を覆っている。恋姫基準でも美しい容姿に神がかり的な武の才を持ち頭も悪くないが自我が薄く積極的にものを言わないし一人では何もできない。乱世の激動の中、様々な人々のと出合いと別れを繰り返し自分とは何かを探す。

 畏怖と忌避の対象として半幽閉の幼少を過ごしたと思ったら物扱いで大陸へ。しかもその後更に袁家へ下賜され、ここから物語が始まる。袁紹や曹操に取り合われたり、袁逢と袁隗など親世代や中央に渦巻く陰謀の陰と関わりながら成長し、袁紹家臣に収まっているときに一刀降臨の時を迎える。

 人質やら同盟やら脱走やら、とにかくなんやかんやで常に呂布と敵対する陣営に身を置くことになり、呂布との一騎打ちの戦績は二勝四敗一分け。

 しかし……中央周り、銀髪赤目の儚げな美少女、ベール……董卓のキャラデザとだだ被りである。それに気付いた辺りから特定のキャラ以外あまり原作キャラと絡まないことなどが気になりだし、そもそも人がいっぱい死ぬ話を私の文才で書いて(読者作者互いに)楽しいのかという疑問に至ってボツに。

 名前に使用している文字、重装備、呂布に絡まれる等の設定や展開は聆に引き継がれた。

 

袁 逢

 袁紹の叔母、袁術の母(真恋姫公式では袁術と袁紹は異母姉妹)。落ち着いた物腰の人格者だが、その分すこし政治下手な面もあり、地力と人望でカバーしている。暒の名付け親(姓から真名まで)。袁紹が官職につく頃に病死する。

 

袁 隗  羽瑠

 袁紹の育て親。厳格且つ打算的。今でいうところのバリバリのキャリアウーマンで袁逢より出世している。史実では三人の子が居たとされるが、ナシ。袁逢や、その代わりとして袁紹に歪んだ愛情を向ける。

 

張 邈 孟卓 朗阿

 曹操と袁紹の親友で姉御肌の熱血タイプ。その反面納得できないことには攻撃的になってしまう典型的純情ヤンキーキャラ。しかし反董卓戦の後、覇業へ邁進し始めた曹操と疎遠になり、呂布の処遇について袁紹とも喧嘩別れしてしまう。他の「奔走の友」は省略。

 

孫 堅 文台 紅蓮(公式真名は炎蓮)

 恵まれた身体から恵まれた武勇を上げ、その度量や志にも優れる烈士の鑑――という評は演技の賜物。本来は頭脳派(公式はドストレートに豪傑)。悪く言えば小心者で卑怯。孫家を守るため長いものに巻かれるよう立ち回りつつ、部下や諸侯から侮られないよう自分とは真逆の人物を演じる重圧が酒乱や自傷行為、閨での暴力となって現れる。袁家の走狗として働き、賊討伐や中央との小競り合いが続く中、伏兵の矢によって横死。

 恵体、演技、袁術に媚びる、酒乱……聆はこのキャラから引き継いだ部分も大きい。

 

 

哂・恋姫✝凡夫(プロット)

 この話の初起案。メモの消失と反董卓連合での予定変更(ライブ感)でお流れになった。反省している。後悔はしていない。

 氣が少ないだのなんだの言っても人外化して自分のことを凡人だと思っている精神異常者になっているほんへとは違い、あくまでタイトル通り乙女武将たちより大きく劣った能力のままストーリーが進む。戦では一騎打ちより集団戦が話の中心になる予定だった。

 

鑑 惺 嵬媼 聆(プロット)

 反董卓戦で劉備軍に出向かず、華雄ではなく張遼隊の中隊長と戦う流れを辿った聆。(美羽様は趣味枠だから別として)華雄や文醜はほっといても愉快に生き延びるので仲間にするつもりは無かった。α√最終決戦で一刀と沙和が使った、兵と一体になって戦う技は元は聆の最終奥義になる予定だった。

 

課長たち

ほんへでは三課長(変態女)と微妙に六課長(元女盗賊)のキャラが立っているだけだが、二(ダンディ),四(デブ),五(マッチョ)ももう少し出張るはずだった。

 

張松

オレっ娘ロリ軍師。ほんへにも出たような出なかったような。記憶にない。






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α√アフター 仮面舞闘編
増殖!仮面舞闘会!?


新章なので正確には初投稿です。
なんか9000文字超えました。いつもの三倍です。
誤字も三倍ですね。


 戦が過ぎ去り平穏が戻った成都の町。その一角に建つ茶屋の店先に私は居た。あれから数日。人の行き交いにも活気が溢れ、なじみの薄い街とはいえ、眺めていると穏やかな気分にさせてくれる。

 

「民草とはまったく、強かなものよな」

「桃香様と華琳様の手腕によるところも大きいでしょうけど、私が思っていたよりずっと落ち着いているわ」

 

 桔梗、それに紫苑もその様子を目を細めて見ている。

 ついに魏が蜀を下し、天下は一つになった。そしてまず最初の政策として実行されたのが人事令。新しい魏国の担い手を示すものである。そこには蜀、呉地域の長として桃香、蓮華を筆頭に、元々敵だった蜀呉の将や文官の名も。魏としては敵方の命運すら完全に握ったとも言えるし、蜀呉からすればただ負けて滅びるのではなく、地域としてとはいえ国の名も面子も保たれることになる。まぁ、なんと丸く収まることか。問題は実際戦っていた将兵たちに敵だった者を赦す寛大さ、敵だった者に仕える忍耐が求められるという点だが……そもそもいわゆる"敵意"は無かったとか、上から偶に口出しが有るとはいえ自治が戻るなら上出来だとか、負けたら潔く従うものだとか……それぞれの胸中はあるが、ともかくこの期に及んで文句を言う者は少なくとも将には居なかった。一刀が予想していた大宴会も人事令が発表された日のうちに開かれた。そのときに、皆互いに真名を呼び合う運びになったのである。

 そうして団結の意思が確認されたら今度は本格的に交流だ、ということで。華琳、桃香、蓮華の地域長(華琳は国王も兼任)は首都となる洛陽へ式典のため一旦行くことは確定として、三地域に高官が割り振られてしばらく滞在することになった。

 

「ちょっと拍子抜けやな。なんたらの恨みとかって棒で叩かれるくらい覚悟しとったのに」

「一番恨みを持ってそうな翠たちが魏地域に行っとるのが救いだったな」

「……冷静に分析せんで」

 

 まぁ、そこも翠の性格を考えればそう時をかけずにある程度割り切ってくれると思っている。むしろ翠は純粋な敵であった私とより、靑さんとの関係の方が複雑そうだ。靑さんの方は「微妙になったら親離れとでも思っておくさ」と呑気なことを言っていたが。

 

「裏を返せばそのくらいか。呉の者たちは蓮華の意向に沿うつもりだろうし」

「恋が怖い」

「恋、ああ、お主はあやつにも色々とやらかしたのだったな。じゃが、あれも心根は善いものぞ」

「いやぁ、宴で顔合わせたときに『次は負けない』言われてな。どうやって逃げるか」

 

 両腕両脚に胴までやられた重症ということで宴会にも車椅子で参加、交流も蜀待機組に即決だった恋。しかし、もう最近じゃその辺を平気で散歩するまでになっている。手合わせと称した血祭が開催されてしまう日も近い。

 

「……命まで取られはせんだろう」

「そもそも私の方が何回も殺されかけたし、最後のあれは六対一やったからそんな対抗意識持つ案件やないと思うんやけど」

「そうね」

 

 紫苑が肩に掛けたバンドを直しながら相槌をうった。

 

「傷も凄い速さで治ってるし、うらやましいわ。私なんてまだ左肩がズキズキ痛むし、脚も、歩くのに杖が必要で。まるでお婆さんみたいですもの」

「……いやいや変わらずお若くお美しいですよホント」

「はっはっは。確かに恋より因縁を持つに相応しい者が居ったな。二戦二敗だったか」

「そうね。何と言っても天下の蛇鬼鑑惺ですもの。貴女の方が強いことは証明されているのだから、そうビクビクしないでちょうだい」

「確かにそう考えたら頭が高いぞ婆さん」

「………」

「はははは!紫苑、迂闊な意地悪は言うモノではないな」

「……まぁ、冗談はさておいて。戦の中では色々とおかしなこともしたし、何やかんやと掘り返さんで欲しい」

「だが武人として強い相手と試合ってみたいという願望は、そう簡単に押さえられるものではない。今でこそ戦の直後で静かだが、すぐに騒がしくなるぞ。お主の周りは」

「それにどう言ったところで結果は結果だもの。本人が否定したって謙遜にしか聞こえないわ」

「他人が言えば僻みよのう。戦って確かめるしかない」

「私の記憶では戦いは数日前に終わったはずなんやけど……」

「試合う気になったら、一番手は儂だぞ」

 

 ままならないことだ。話が分かるお姉さん的存在の人は、往々にして勝負好き。紫苑だって、実はさっきみたいな皮肉や意地悪が好きだし、腕比べにも意欲的だ。

 

「空、青いなぁ」

「そんなに嫌なら条件をつけてみてはどうじゃ」

「条件?」

「お主がのらりくらりとしていては、挑みたい者は焦れてそのうち奇襲でもなんでもやりかねん。なれば、筋道を用意し、そこに険しい障害を設けておく方が安全ではないか」

「それは一理ある。けども小難しい題にしたらやっぱり無視されるやろうしなぁ」

「勝ち抜き制はどうかしら?」

「誰が私の前座になってくれるん」

 

 前座を頼みにいった相手から戦う羽目になりそうだ。いや、なる。

 

「やっぱきっぱり嫌や言うしかないか……」

「この憂鬱そうに黄昏ている女が武器を持てば烈士なのだから戦とは面白いものだ」

「って言うか、ワザワザ私と戦わんでも強い奴と戦いたいんやったらそれこそ恋とでもやればええやん。それに『はい今から始め』『これは反則』『こうなったら決着』とかいう勝負やったら、同じ北郷隊でも凪の方が絶対強いし見どころ有るって」

「凪というと、楽進……氣弾の遣い手か。確かに面白そうだ。あやつも今蜀に居るんだったな」

「今日は沙和や祭さんといっしょに街を見てまわっとるで」

「あと、魏から残ってるのは真桜ちゃんと猪々子ちゃん、それに美羽ちゃんと七乃ちゃんね」

「猪々子はさっそく麗羽様の三人組に戻ったけどな」

「蜀勢はその麗羽と斗詩、星と儂ら、恋と音々音、それに美以たち南蛮の者。呉は祭殿と小蓮、それに亞莎だな」

「なんというか……」

「なんというか?」

「問題児とその保護者みたいな組み合わせやな」

「そうだろうな」

「魏で集中して協議に取り組むには、ね」

「一方で国家転覆できるようなヤツでもなし、私ら警備隊と、えー……経験豊富な将を付けとけば治まるやろうと」

「今の間は何?」

「分からん」

「それは後々じっくり聞くとして……早速保護者の仕事ができたようだぞ」

 

 俄に人々の流れが変わる。バタバタと急ぎ足。その先から何やら騒がしい声が、どんどん大きくなり始めた。

 

「落ち着きとはなんやったんか」

「……これも、日常の内なのよ、お恥ずかしいことに」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――———

 

「むねむねー」

「むねむねなのにゃー」

「おーっほっほっほ!」

 

 紫苑の脚の様子に気を配りつつ、出来るだけの速足で到着した大通では、それぞれ仮面をつけた奇怪な一団が良く分からん騒ぎを起こしていた。

 

「うわぁ……」

「うむ……」

「これはすこぶるお恥ずかしいな」

 

 中心で高笑いをしている麗羽に、猪々子と斗詩、特に激しく走り回っているのは南蛮兵たちだ。さらにその他大勢なゴロツキが取り巻きになっている。

 特にモノを壊したり、人に怪我させたりというワケではないが、こっ恥ずかしい歌を歌いながら練り歩き、かなり迷惑そうだ。……おおう、逃げ遅れた店主が歌うのを強要されてる。ちゃんと逃げないと迷惑どころの話じゃないなこれは。

 

「はぁ……なーんで妾がこんなことを……」

「ほら、美羽さんもぶつぶつ言ってないで歌ってごらんなさい。美しい私を讃え崇めるこの歌を!」

「え、ええ。でも、麗羽姉様……なんといいますか……」

「どうしたのかしら?ほら、早く。美羽さんの可愛らしい声で歌えば、きっと素晴らしいですわ」

「(……七乃ぉ)」

「(嫌って言っても聞いてもらえないんですから、歌っちゃうしかないんじゃないですか?同じアホなら踊らにゃ損損、ですよ)」

「(それでもこやつを讃えるなどと……ん?さっき妾をアホと申したか?)」

「聞き間違いじゃないですか?ほら、むねむね~」

「む、むねむね~」

「おーっほっほっほ!ほら、貴女も!」

「むねむねー!」

 

 一歩下がったところでめんどくさそうにしている金髪ロングのロリと黒髪ショートの二人組はちゃん美羽と七乃さん。ちゃん美羽は麗羽を苦手としているが、麗羽の方はちゃん美羽をかわいい妹として気に入っている。大方、あくまで好意でむりやり巻き込まれたのだろう。で、もう一人、大荷物を背負った紫髪のミディアムツインは真桜か。これはなんで一緒に居るのか分からんな。

 

「……増えておるな」

「面目次第もあらへんわ」

 

 猪々子はそういう定めとしても、半分は元魏メンバー。別に私が監督する義務は無いにせよ、もう少しどうにかできたかもしれない。

 

「そこまでだ!」

 

 と、私が思わず顔を顰めたとき。街に勇ましい声が響いた。屋根の上に二人、蝶の仮面をつけた女が立っている。

 

「華よ、蝶よ、人の世よ」

「風よ、月よ、飽くなき悪よ」

「光の裏に影在れど」

「影在るところに我らは舞おう」

「星華蝶!」

「燦華蝶!」

「正義と愛を刃に込めて」

「信じる道を貫かん!」

「「華蝶連者、参上!!」」

 

 頭の悪い部下のせいで頭が痛い。二重螺旋を模ったような二股の槍を振りかぶったポーズをとる星の横で、外向き鉤型コルセスカを天に突き上げているこの女……「サンカチョウ」って。そのままアイツだ。何考えてるか分からないし分かりたくもないヤツだとは思ってたが、本当に何を考えているのだ。

 

「おおーっ!待ってたぞ華蝶仮面!」

「星華蝶様ーー!」

「新しいのも居るじゃないか」

 

 しかし観衆からは私の頭痛に追い打ちをかけるような歓声が上がる。

 

「こっちも、数こそ減ってるけれど……」

「怪我の恋と魏に行っておる朱里に代わって、誰だ?あやつは」

「……申し訳ない」

 

 これは完全に私の管理の問題だ。

 

「出ましたわね、忌々しいちょうちょ仮面!」

「ここで会ったが百年目だ!『華蝶仮面に仕返しをする友の会』行くぞォ!!」

「「ウっス!!」」

 

 ひょろりと背の高い男の合図で、男たちが本格的に武器を構え、華蝶仮面の立つ屋根の足下を取り囲むように陣取る。上ってくるヤツから叩き落せば負けは無いが、そこはヒーロー。二人は大袈裟なジャンプと芝居がかった着地で敵の目のただ中に降り立ち、背中合わせで武器を構えた。

 

「やれやれ、美しくない者どもだ」

「叩きのめされる覚悟はできていますか?」

「叩きのめす決意はしてるぜぇ!!」

 

 バッと包囲が縮まる。星が高く跳び上がると同時に、三課長は地を這うような鋭い脚運びで一人のゴロツキに詰め寄った。

 

「とうっ!」

「げふっ」

 

 上と下からの挟み撃ち。三課長のかち上げを防いだ男の首にストンピングが決まり、崩れ落ちる。反対に星はその反動で更に高く美しく跳ねた。しかし陽光を反射してふわりと廻るその姿に見とれていられるのは観衆だけ。コルセスカが躍動する。

 

「シャァアッ!」

「ぐわっ!?」

 

 星の鋭く速い連突きと跳躍、三課長のぶん回しと低いステップ。対照的ながら非常にうまくかみ合っている。

 

「はっはっは!数ばかりではどうしようもないぞ、小悪党」

「くふふ……。所詮は烏合の衆。群れたところで一人ずつ倒れるだけです」

 

 あっという間にゴロツキの男たちは残り三人もいなくなった。とはいえ、死んではいない。二人とも周りが血の海にならないよう、本気じゃないことは当然ながら、トドメはあえて柄をつかったり防具の上に打ち込んだりしている。

 

「がはぁッ!」

 

 と、戦いの様子を反芻しているうちに

 

「やっぱり強い……何かよく分からないけど一緒に居たごろつきの皆さんが一瞬で………」

「『華蝶仮面に仕返しをする友の会』だ……がくっ」

「あ、『がくっ』って口で言いながら倒れた」

 

最後の一人もおしまいか。

 

「おかーさん!」

「璃々?」

「あんたたちもここに居たのね」

 

 それぞれにこの戦いを分析していた私たちの背後の、かなり低い位置から声がかかった。紫苑の娘の璃々と、その保護者をしていた小蓮だ。保護者の小蓮にもさらに保護者は要りそうなもんだと思っているのは内緒だ。

 

「見物に来たのか」

「元から近くに居たのよ。ま、始まってからはこの子が見たいって言うから、見やすい場所を探してたんだけど」

 

 子供はもちろんだが、大人までわらわらと観戦に集まっている。最前列でもない限り、璃々たちのような子供では人垣に阻まれてしまって振り上げられた槍の先端くらいしか見えないだろう。小蓮だけなら屋根でも上るんだろうが。

 

「んだら私肩車しよか?」

「うん!ありがとー!」

「あら……」

「これは意外」

「どんな印象か知らんが、私かて人の子やぞ?」

 

 どうにも鬼とかなんとか、半分本気で言われているような気がするのだ。

 

「ふん!まだどうでもいい居ても居なくても分からない呼んでもいない人たちが倒れただけですわ。お行きなさい!猫連者!貧乳の文!巨乳の顔!」

「その呼び方は引っかかるけど」

「はぁ……行くしかないかな」

「今日こそ勝つにゃー!!」

「(妾はどうしてこんな面妖な面をつけて大路の真ん中に突っ立って居るのじゃ)」

「(居るだけで良いんだから、何か無茶振りされるよりマシですよ)」

「(さっさと城に帰って茶でも飲みたいのう……)」

「(そうですねぇ……)」

「そこ、何か言いまして?」

「い、いえ何も……」

 

 麗羽の言う通りここからが本番。戯れにしろ袁家の二枚看板と南蛮王、南蛮幹部三匹が相手だ。ちゃん美羽と七乃さんはいかにもやる気が無さそうだが、真桜も控えている。

 

「へへっ、やっぱ斗詩と一緒に戦うのは気分良いぜ!」

「もう……文ちゃんったら」

「む……この空気」

「敵ながら、愛を心得ているということですか」

「気を引き締めねばな」

 

 星がトンっと軽やかに一歩踏み出した瞬間から第二ラウンド開始。迎えるように猪々子が斬山刀を一振りし、美以たちは三課長に飛びかかっていった。

 

「そりゃそりゃそりゃ!!」

「てやーっ!」

 

 猪々子の連撃はその武器の巨大さからは想像できないほど速い上、僅かな隙も斗詩のハンマーが埋めている。

 

「くっ……!」

 

 元から言えば星はこの二人より格上だが、連携が取れている上に魏で実戦と稽古共にかなり経験を積んでいる。ひょっとすると、本気で戦っても結果が分からないかもしれない。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃー!」

「みゃー」

「ふしゃーっ」

 

 そしてこっちは三課長が乱撃に曝されている。

 

「さすがに手ごわいですね……!」

 

 南蛮兵たちが得意とする三次元的な足場の有る地形じゃないとはいえ、四匹の連携は三課長には荷が重いか。

 

「おーっほっほっほ!いい気味ですわ!気を見て敏なり、ここで追い打ちですわよ。カラクリハカセ!」

「やーっとウチの出番かいな。待ちくたびれたで!」

 

 真桜のバックパックからゴツい大砲が現れ、小手調べとばかりに華蝶仮面たちの足下に一発。ズドンという衝撃と土煙だけでは終わらない。花火のように炸裂し、さらに広範囲にダメージを与える砲弾だ。

 

「いやぁ、手練れ相手に絡繰の試運転できるって最高やなぁ」

 

 そんな理由かよ、真桜……。

 

「アレを何度も撃たれてはまずいな」

「幸い、取り回しはかなり悪い様子。速攻で行きます!」

「その程度の対策、欠かすワケ無いやろ!」

 

 三課長の突進に、真桜は細身の剣で対する。確かに、取り回しの良い武器を持っておくのは定石だが、……それだけではないな。

 

「私の槍に傷がっ!?」

「天の国の技術、高周波ぶれーどってヤツや。大戦には開発が間に合わんかったんやけどな」

「得物が傷んで辛いのは分かるけど、呆けてるヒマはないぜ!」

「ぐっ……!!」

「燦華蝶!」

「貴女も、他人を心配してる余裕はないですよっ!」

「にゃー!!」

「ぐはッ!」

「おーっほっほっほ!さあ!そのままやーっておしまいなさい!」

 

 三課長が真桜と猪々子に押し返されたところから、あれよあれよと態勢を崩されてしまう。なんとか三歩ほど離れたところで構え直したが、そこからなかなか前に出られずじりじり圧されてしまう。

 

「おいおい、今までにない危機じゃねえか」

「今回の敵、強いぞ……!」

「恋華蝶は何やってるんだ」

 

 観客たちも騒めき出した。敵も多いが、三国最強の呂布の代わりにうちの部下じゃそりゃ苦戦もするってもんだ。

 

「がんばれー!!」

「ここまで押されておるのは珍しいな」

 

 璃々もいよいよ必死になって応援しはじめ、桔梗も感心したように顎を撫でている。ヒーローショーとして、ここからどうやって巻き返すのだろう。互いに本気ではないとはいえ、じゃあ急にこっちが何の理由も無くパワーアップしたり、逆に向こうが急に手を抜いたら興ざめだ。援軍か必殺技がセオリーだが……。

 

「くっ……もはや出し惜しみはできんか」

「必殺技ですね。いざっ!」

 

 必殺技の方か。ほっとした。仮面にこれ以上増えられてはたまったものではない。決戦の後、再び公孫瓚の名を捨ててしまったが、仮面の因子を持つ白蓮がヒラの使用人としてこの地に残っているのが頭をよぎったからだ。

 二人の動きの様子が変わる。余裕を持ってそれぞれ近くの敵から片付ける形から、二人とも半ばがむしゃらな突進へ。星が振り回し主体、三課長が突き主体に入れ替わった。そして狙っているのは真桜か。厄介な絡繰と振動剣を速く仕留めておきたいのだろう。

 

『聖星燦散』

 

 二人による素早い乱撃。観客向けなのか、振動剣を警戒してなのか、ほとんどが当てる気のないフェイントのようだ。その最後、星が跳び抜けざまに振り抜き、三課長も突き上げを繰り出す。が、避けられた。しかしその直後、槍同士を引っ掛けて星が空中で軌道を変え背後から回し蹴り。そして星を引っ張った反動で三課長が放った強烈な前蹴りも真桜の顎に吸い込まれるように決まった。

 

「あばーーーーっ!!」

「カラクリハカセがやられた!」

 

 なるほど。乱舞技ではなく、あくまで最後の挟み撃ちがメインで、連撃は前振りということか。なかなか面白い技だ。

 

「うにゃー!仇討ちにゃ!」

「そんな安易な突進……っ!?」

 

 真正面からの突進に、何の捻りも無い袈裟打ち。三課長の言う通り安易だが、受け止めることはできなかった。さっき真桜に傷つけられていた辺りから槍が真っ二つに折れてしまったのだ。

 

『地獄突き』

 

 しかし、折れた槍を手放した手がそのまま新たな槍となる。四本指の貫手が美以の喉元に突き刺さった。一歩、二歩と退いて膝をついてしまう。あー、これはしばらく呼吸できないな。

 

「ミ゙ャッッ!?エ゙ッ」

 

 突然の出来事に戸惑い嘔吐く美以に対して、三課長は反撃の手を緩めるつもりは無いらしい。元々格が違う相手、このチャンスを逃して本気になられた後では勝ち目がない。

 

『燦光魔術』

 

 ダッと詰め寄り、左足を振り上げる。しかしそのまま蹴るのではなく、美以の胴へ引っ掛けるように踏み込む。本命はそこを軸にした右の膝蹴り。鈍い音を立て、シャイニングウィザードが側頭部を刈るように決まった。

 

「うっわ、えげつなー……」

 

 武器を失った瞬間、怪我を負った瞬間、その優越感と達成感、あるいは勝った気になって相手には隙ができる。劣勢においてもそこを突けば逆転の目が有り、いかなる時も諦めず、いかなる場合にも攻撃できるよう技を磨く。低く滑るような脚運びといい、伊達に私のストーカーをしているワケではないということか。

 小蓮はドン引きしているが。

 

「だ、だいおーしゃまーー!!」

「タイキャク、タイキャクみゃ!」

「ふみゃ~~」

「お待ちなさい!退却して良いなんて言ってませんわよ!?」

「はっはっは。とうとう二対二だな」

「むぅきぃい!柔乳の張!貴女も少しは腕に覚えが――って、どこ行きましたの」

「七乃っちとお嬢なら随分前に帰りましたよ」

「なぁんですってぇ!?」

「なんですぐ近くで立ってた姫の方が気付いてないんっすか」

「うるさいですわよ猪々子さん」

「へ~い」

 

 南蛮兵たちが美以を担いで一目散に逃げだし、あっという間に形勢逆転。三課長はいつの間にか振動剣を拾って武器の問題も解決している。

 

「さあ、一気に畳みかけるぞ」

「今の内から歯を食いしばっておくと良いですよ」

「ぐぬぬぬぬぬ…………さ、さて、そろそろおやつの時間ですし、私も帰るとしましょう。後は任せましたわ」

「ちょ、麗羽様!?」

「まぁ、飽きたならそれでいいだろ。アタイらもずらかるぞ!」

「お、お騒がせしてすみませんでしたーっ!」

「む、逃げるか。やれやれ、これからという時に」

「しかし、丁度良かったかもしれませんよ」

 

 三課長の指さす方、麗羽たちが去った反対側の人並みをかき分けて、正規の兵たちがやってきた。先頭は街を見回っていた凪たちだ。

 

「アレなの!?」

「何か知り合いに似とる気もするが、他に居らんじゃろう!」

「ですね。星殿に似ている氣がしますが、あの人はああいったおバカな格好はしない方の人種のはず。……覚悟しろ、変質者!!」

 

 警邏の兵としては随分遅かったが、理由は色々とあるだろう。まず、その辺にいた兵じゃあの仮面軍団には対抗できないから将軍格に頼る必要が有る。その頼るべき上官も普段と違うため混乱があるし、そもそも直接的な対処は華蝶仮面がなんとかするだろうと交通整備にまわっていた奴も見かけた。こっちが連れてきている兵は土地勘が無く、結局凪たち自身が騒ぎに気付いて場所を特定するのとそう時間が変わらなかったのではないだろうか。

 

「やれやれ、小うるさい関羽と馬超が居ないと思ったら、また別の将か。しかもなかなかの毒舌ときた」

「我々も退きましょう」

「だな。では、皆の者、また会おう!はーっはっはっは!」

「くっ……逃げ足の速い………」

 

 華蝶仮面二人はまた器用に屋根に上がってそのまま走り去り、どこか適当な路地にでも降りたのか姿が見えなくなってしまう。祭たちが兵士に色々指示しているが、町のことをよく知らないか(華蝶仮面に関しては)やる気が無いか。見つけ出すのは無理だろう。と言うより、星を別人認定しているんじゃあ打つ手無しだ。一応、「マスクしただけで顔が分からなくなる」というお約束には引っかかってないみたいだが。

 

「儂らもさっさと散るか」

「やな。凪に『見ていたのに何故騒ぎを放置していたんだ』言うて怒られかねん」

「かっこよかったー!じごくづきー!」

 

 肩から降りた璃々が興奮した様子でぴゅんぴゅんと手を振り回す。……よりにもよって地獄突きに興味を持ちますか。

 

「でも――」

「ああ、カッコイイばっかりやない」

 

 星扮する華蝶仮面は、そのまま仮面ライダーやスーパー戦隊のような存在。問題は町中で行われる本物の戦闘で、交通もなにもガンガン阻害しまくるという点。もちろん、華蝶仮面の戦いの対象になるようなゴロツキやバカが一番悪いのだが、エンターテイメント重視で派手な動きや時には舐めプも有ることからとばっちりも有る。荒事を楽しまない層や商人、正規の警備隊からは悪印象を持たれてしまっている。『華蝶仮面に仕返しをする友の会』とかいう二次被害的なゴロツキも。

 その辺の警備隊員が間に合わないことや、歯が立たない相手に対する者として、または娯楽として華蝶仮面は大いに役立つ面も有る。が、決まりの外で勝手に力を行使しそれを誇示する存在は、それもまた国家の敵である。

 

「でもはっきり言うと関わりたくない気持ちが強い」

「……そうじゃな」




シャイニング・ウィザードはクロス・ウィザードたる武藤敬司が使用するからシャイニング・ウィザードなのですが、シャイニング・ニーだと通りが悪いのでシャイニング・ウィザードの名前を使いました。


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変身!あの子の新たな一面!? 上

お久しぶりです。
文体や東航頻度はブレブレですが、誤字脱字に不安有りというところだけはいつまでも変わらないただ一つの真実です。


 町が変わっても仕事は変わらず。いつぞやの仮面騒ぎのときは外れていたが、今日は私も見回りの当番だ。代わりに沙和が外れていて、さっき服屋で見かけた。慣れた様子で値切りはおろか服のデザインについて店員と語り合ってすらいたようだが、反対に今目の前にいる知り合いは団子屋の店員に注文することすら難しいようで、長いことうろうろもじもじしている。

 見ている方も流石に焦れて、私はその知り合い……亞莎に声をかけた。

 

「ひゃっ!?はい!な、なにも怪しいことは」

「そんな怪しいやつの手本みたいな返事せんでも……」

 

 余った袖で顔と体を隠すように縮こまり、まるで今にも折檻を受ける子供のような態度だ。戦でまみえたときはもっとクールだったのだが、それはON/OFFの切り替えということなのだろうか。

 

「いや、その、お団子を買おうと思っていたのですが……」

「ちらちら見とったからなぁ。団子屋」

「その、ちょっと、その、甘いものは贅沢品で、なかなか思い切りがつかなくて」

「えぇ……どう見ても庶民向けの店と品物やが」

 

 それに亞莎はいわゆる高官で、仮に贅沢品でも「有るだけ全部」と買い上げたって何らおかしくない。いや、そこまで行くとさすがに財布にダメージが有るし市民の反感を買うかもしれないが。

 

「そうなのですか?そうかもしれませんが……戦場で育って、孫策様に拾い上げられてからは、拾って頂いたからには勉強の毎日だったので……」

「なら新しい勉強やな。いわゆる庶民は団子くらい気楽に食べる。もちろん食べられんような厳しい状況にある人らを忘れたらあかんけど」

 

 というか、この終戦まで呉の仲間たちと甘味を伴った茶の席くらい無かったのだろうか。……遠慮してたら甘いもの嫌いと勘違いされてるのかもしれない。有りそうだなぁ。むしろあのアットホームな呉のメンツ、それくらいしか理由が思いつかない。

 

「でも、その……散々店先でうろうろしちゃいましたし……」

「気にしとらんと思うけど。……んだらこの後もちょっと間私と居れば『ああ待ち合わせか』思てもらえるわ」

「そ、そうですね。でも、ご迷惑じゃ……」

「さすがにこんくらいなんともないって」

 

 見回りも仕事だが、この期間では旧他陣営メンバーとの交流も立派な仕事だ。

 

「胡麻団子くださいな」

「ああ、鑑惺将軍ですか。数は如何程?」

「四つ」

 

 うーん、後ぐされは殆ど無いとはいえ、地元の店と比べるとちょっと冷たい雰囲気の対応だなぁ。しかしまぁ、できたての団子の団子の暖かさは変わらない。

 

「有り難うございました……」

「どういたしまして、って言うほどのことやないけどな」

 

 亞莎は団子の包みを受け取る動作の間にもニ、三回頭を下げた。

 

「そ、それでは……」

「ん、これから仕事か?」

「いえ、今日はお休みですが、そのやはりご迷惑が……」

「いま別れたらそれこそ団子買うにも助けが要る思われるで」

「は、はう……」

「ちょーど話し相手が欲しかったんや。恩感じるんやったらそっちで返してくれ」

「私では面白い話は……」

「それは私が決めること。さ、行こか」

 

 少し困った様子ながら、亞莎は見回りの経路に戻る私のあとについてきた。

 

「胡麻団子がお好きなのですか」

「え?いや……なんで?」

 

 私が袋から一つ取り出したところで、亞莎が怪訝そうに訊いてきた。どうにも次に『私も好きなんですよ』とは言ってきそうにない雰囲気だ。

 

「胡麻が甘いって、変わったお菓子だな、と。点心として広く伝わっていることは知っているのですが……」

 

 ……そうか。すっかり無意識に亞莎といえば胡麻団子と思っていたが、亞莎が胡麻団子好きになるのって、本来は呉ルートの一刀の影響だ。

 

「それが意外と合うから料理って凄いんやなー」

 

 少し、一刀のお株を奪ってしまったことに申し訳なさを感じつつ適当な返事を返す。いや、どうせ今頃桃香や蓮華なんかと新しいフラグ乱立中に違いないから良いか。

 そんなおかしな思考は知る由もなく、亞莎は興味と疑いが半々といった様子で団子を口に運んだ。

 

「はムっ……?…………!」

「どない?」

「美味しいです……!甘くて、香ばしくて!食感も……」

「それは良かった」

 

 やはり亞莎の舌に胡麻団子はピッタリだったようで、初めて私の前に緊張以外の表情を見せてくれる。花の咲くような笑顔。これで自分に自信が無いんだから、ある意味残酷なものだ。

 

「残りもやるわ」

「え、しかしそれでは聆様が……」

「ええって。もともと亞莎の買い物なんやし」

「もともと……あ!お代を」

「それもええって」

「しかし……」

「もう、こういうときはそういうのひっくるめて黙って受け取るもんや」

 

 何とか周りの濃いキャラに負けまいと立ち回ってきたからか、こういういい子にどう接するべきか、私まで少し緊張するような気分だ。

 

「なんや小動物やなぁ」

「私は元々学も無く、粋も趣も分からない人間です。それに聆様や、他の皆様も凄いお方ばかり……」

「学も常識も無いやつなんかよーけ居るけどな」

「そんなそんな……それに、智を武器としない方々はそれが許される覇気や武を備えた人物ばかりです」

「でもお前が学で勝っとるに変わりはない」

 

 この部分は動きようの無い事実だ。いくら自分に厳しい亞莎でも、これには言葉に詰まったようだ。

 

「せっかくこないして魏蜀のやつとも話せるようになったんやから、どんどん交流していかな。緊張するかもしれんが、どーせこいつアホやしとか、本気になったら殴り倒せるしくらい思って」

「そ、そんなとんでもない!」

「でもこれ亞莎が言うところの"聆様"の助言やで」

 

 少し意地悪を言ってみる。

 

「聆様は、どうやってお強くなられたのですか。武でも策でも……」

「それこそ武将は騙して軍師は殴れの精神よ」

「え……」

 

 亞莎は目を丸くした。

 戦も終わって、皆と永く付き合うことになる。これからは蛇鬼鑑惺の化けの皮を積極的に脱いでいきたい。

 

「亞莎なんか素質有ると思うけどな。戦った感じ、器用そうやったし」

「……敵と己を知り、弱点を突けば戦は易いということですね」

 

 そんな綺麗な話じゃないんだけどな。

 

「ともかくせっかくなんやし、もっと色んな人の話聞いてみ。呉のやつらにももうちょっと遠慮無しに。雪蓮さんかて期待して要職に取り立てたんやから、恩感じるならその本人が『自分なんか』言うとったらアカンわ」

「そうですね……急には無理かもしれませんが、少しずつ」

「あ、でも星には要注意な。一の教訓得る間に十の弱み握られる」

「ふふ、確かにそんな感じがします」

「それは聞き捨てなりませんな」

「ほらな」

「もう少し驚いてくれても良いのでは」

 

 突然私達の背後に現れた声の主は呆れたように抗議してくる。亞莎なんか小さく飛び上がるほど驚いたのに、贅沢なヤツだ。

 

「驚き方の総量で言えば二人にしては多いからヘーキヘーキ」

「釈然としませぬなぁ」

「一体どこから……」

「大方、また屋根の上やろ? そろそろ屋根に道敷かなアカンわ」

 

 仮面騒動への釘刺しのつもりも有って言ったのだが――

 

「ふむ。一考の価値は有りますな」

 

 さらっと流されてしまった。もしくは、星も意外と天然なところがあるから気付いていないのかもしれない。

 

「ところで珍しい組み合わせですな」

「成り行きや」

「その、お団子を買っていただいて……」

「ほう……では私も一つ」

 

 星は全く自然に手を出し、亞莎も思わずといった感じでそこに胡麻団子をひとつ渡した。

 

「こうして心置きなく美味なるものを楽しめる時をどれだけ望んだことか」

 

 そう言いながら、星は晴れやかな気持ちを表すように腕を広げる。こいつなら戦の間でも色々と楽しんでいそうだが、やっぱり、終わったら違うんだろうか。

 

 

「? あれは……」

 

 胡麻団子の感想なんかを言い合いながら五分も歩いた頃、視界の端に見慣れた横顔をとらえた。裏路地に入って行く。ちょっと嫌な予感がしたから、柄にもなく大きな声を出して呼びかける。

 

「おーい、猪々子」

「お、おう聆姉じゃん」

「あーら、星さんに聆さんと、……どなたでしたかしら」

「あの、亞莎です」

「こんにちは」

 

 麗羽の三馬鹿。

 

「で、その手に持っとるもんは?」

「お、おーほっほっほ! 全く、何のことやら分かりかねますわね」

「むねむね団、の仮面……」

 

 そして今まさに例の仮面遊びを始めようというところだった。ハッキリ言って華蝶仮面については傍観者で居たいが、事前に防げるなら防ぎたい。意図せず見回り業務でもいい仕事をしてしまった。

 

「えーっと、そうだ! 今流行のごっこ遊びをしようって姫が」

「猪々子!?」

「(何とか誤魔化さないとマズいですって!)」

「(それにしてもごっこ遊びとは何ですの。まるで私が幼い子供のようではありませんか。猪々子が言い出したことにしなさい!)」

「(えー! 嫌っすよー)」

 

 何か露骨にむこう向いて顔寄せ合ってコソコソ言ってるが、「そうだ!」って言っちゃってるし、仮面ごっこってほぼ事実だし……

 

「それで、星さんたちの方は……」

 

 その間に斗詩が何とか話題を逸らそうと頑張る。

 

「何と言うことも無い。私もつい先ほど聆殿に同じような質問をしたばかりだ」

「ああ、散歩兼見回りや。この際やし麗羽さんらも一緒に散歩せんか?」

 

 相手をするのはちょっと……いや、かなり疲れるだろうが、変身されるよりはマシだ。見張りのために一行に誘う。ひょっとすると星とマイペース同士で打ち消し合って平和になるかもしれない、と希望的観測で心を落ち着ける。

 

「い、いえ私たちは」

「仮面"ごっこ"か?」

「失礼な! 私たちは本物の――もごご!」

「ぜひご一緒したいです!」

 

 変な挑発の乗り方をしかけた主を抑えて斗詩が返事をしてくれた。

 そのせいか、しばらく歩いても麗羽は不機嫌そうだ。移り気であるから、何か有ればまたころっと変わるのだろうけれど。

 

「全く、この私を誘ったのですから、相応の場所に連れて行ってくれるのですわよね?」

「そう言われると、私らこっち来て浅いしなぁ」

「ああ、行きつけのメンマ専門店が……」

 

 まぁ、そうだろうな。これは星にうっかり目線を振った私が悪い。

 

「漬物屋ですらなくメンマのみ、か」

「それ何が面白いんですの」

「む、語ると長いですぞ」

「手短に頼みますわ」

「メンマはいいぞ。」

「そう……(無関心)」

 

 星は普通に良い店も知ってそうだが、一方で自分のアイデンティティ、ネタを重視する面もある。メンマが却下されたからといって、メンマ押しを曲げることは無いだろうなぁ。

 

「あの、それなら一つ……」

 

 さてどうしたものかと腕を組んだ横から亞莎がおずおずと手を上げた。

 

 

「ふぅん、なかなか良いお店じゃありませんの」

 

 亞莎に案内されてやってきたのは香の専門店。恋姫にありがちなファンタジック薬物の香ではなく、ちゃんとした、香りを楽しむための香の店だ。バカでこそあるが、麗羽は基本が生粋のお嬢様。いつ突発的に事件を起こすか分からないという点はともかく、一応は大人しく香を楽しみ、吟味しはじめた。

 

「(よぉ知っとったな。来たこと有るんか?)」

「(いえ……実は、入る勇気が無くて……)」

 

 なるほど。さっきの団子屋も私が通りがからないとここみたいに買えず仕舞い入れず仕舞いになってたかもしれないワケか。

 

「(やったらもうせっかくやし他にも入るん躊躇った店廻ろか)」

「(な、何か利用するみたいで申し訳ないです……)」

「(相互利益や)」

「そこ、何こそこそ言ってますの」

 

 匂い袋から原木まで、はじめの大人しさはどこへやら、エンジンのかかってきた麗羽は気に入ったものを次から次へと買い込んだ。城の各部屋に置くつもりならともかく、そんなに一度に持っても仕方ないだろうに。と言うか香はものすごく値が張る。しかもナチュラルお嬢様の麗羽が何気なしに選ぶものは香の中でも高級品ばかりだ。

 

「えぇ……何この金額。隊の運営予算の書類とかでしか見たことないんやが」

 

 こんな金どこから出ると言うのか。しかし斗詩は落ち着いた様子だ。

 

「麗羽様、くじは当たるし賭ければ勝つんで……」

 

 何故か増えていく金で、怪しげなぼったくり品を集めたり変な集団を雇って騒ぎを起こしたりするのに比べれば、相応に良いものを買うのは随分マシとのこと。ならばそれに協力するのもやぶさかではない。私たちも気に入った香をそれぞれ一つずつ買って店を出るときに、亞莎に「予算の心配は全く必要無くなった」と伝えた。

 そのためかどうか分からないが、次に亞莎が選んだ料理屋も中々の高級店。それぞれが一品ずつ欲しいもの(亞莎は完全にハマってしまったのかまた胡麻団子だった)を注文した後で、麗羽がそれではまどろっこしいと言って前菜から点心までの、現代で言うところのフルコースになった。

 

「それにしても亞莎さん」

「は、はい!」

「食事の場に、その袖、何とかなりませんの?」

 

 かねてから気になっていた、という様子で麗羽が言った。亞莎は器用に食器を扱って、万が一にも汚すということは無かったが、まあ、袖から手を全く出さずに過ごしているのも思えば異様ではある。ザ・非常識の麗羽が指摘するのは不思議な感じもするが。……或いは、別の意図が有るような"匂い"もする。

 

「えっと……はうぅ………」

「ふむ。次の行き先が決まったようだな」

 

 星がニィっと笑った。




どうあがいても変身


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変身!あの子の新たな一面!? 中

おひさしブリザック(対激寒)

meet-meも終わったし兄貴も亡くなったし私いじけちゃうし.exe
このファイルは初投稿です.誤字脱字の確認を行いますか?
はい いいえ


「それでは亞莎殿の服を見に行きましょうぞ」

 

 食事の途中であがった、服装についての話。麗羽は点心のころには忘れていたが、星がまた堀り返した。「うっ」と亞莎は都合の悪そうな顔をする。星の悪戯っぽい表情。麗羽の強引で他人を巻き込む性格。服屋に行ってしまえば着せ替え人形一直線なのは誰の目にも明らかだ。

 

「そうですわね。なら、亞莎さんはこの通りですし、私の行きつけの店にしましょう」

 

 有無を言わさぬどころか意見されること自体想定してない様子の麗羽。亞莎は助けを求めるように私を見たが……まぁ、その時々、相手や場面に合った服を持っておくべきだというのは私も思うところ。それに、凪だっていつぞや沙和に無理やり鎧を引っ剥がれてからお洒落の楽しみを覚えたものだ。最悪の場合骨は拾ってやるというくらいの気持ちで、あえて気付かないふりをした。

 そしてやってきたのはさっき沙和を見かけた店。亞莎にとっては幸いなことに今は居ないようだ。麗羽と星の二人はどちらかというと相手の反応を見て楽しみたいタイプだが、沙和は(悪戯心を発揮する面も有るが)服選びには純粋なせいで例え亞莎が疲れ果ててうんともすんとも言えなくなっても納得のいくものが見つかるまで燃え滾っただろう。

 

「さぁ~て、どうしてあげましょうかしら?」

 

 明らかに真面目に選ぶことが目的ではない麗羽の言葉と共に皆それぞれ服の森の間に消えていく。

 

「どうなってしまうのでしょうか……」

「さぁ……」

 

 こればかりはどうにも。あいつらも他意こそあれど悪意は無い。この程度の悪ふざけ、どこにでもある話である。おもちゃにされるのはもちろん気の毒だが、下手に断っても角が立つ……というほどでもないけれど、これから麗羽や星に対して"そういう態度"を取る人として過ごすことになってしまうだろう。私が守ることもできるがそれもなぁ……。

 もう少しだけ自信のある態度で、例えば「選んでもらった分、私もあなたの服を選んであげます」とやりかえすくらいになったなら、やるやられるの関係を超えてむしろ良い友人になれると思うのだが。麗羽と華琳の関係が地味に深いのは、その辺りの要因が有るのではないだろうか。

 ともかく、今は亞莎の服選びである。私も色とりどりの衣装に目を細めながら、様々な亞莎の姿に思いをはせはじめた。「貴女もですか」と絶望的な表情をする現実の方の亞莎は無視した。

 

「では私から、といこうか」

 

 そうして、亞莎のところへ最初に星が戻ってきた。

 

「どれ、まずは小手調べ」

「そうですねぇ……。!? ちょっとこれは……」

 

 受け取った服を広げてみて亞莎は目を丸くした。

 ぱっと見は普通以上にふわふわと豊かに布を使った上品なドレスっぽかったのだが、広げてみると全く防御力が無い。薄紫の生地の向こうに困惑した亞莎の顔が透けて見える。

 

「何かの上に羽織るもの、ですよね」

「そうだな。これと一組だ」

「……その手に乗っかってるのはひょっとして下着ですか? 私の知っているそれより随分と小さいのですが……」

「確かに肌に直接当たるという点では下着だが、これは見られることを前提に作ってあるぞ」

「これ見せて歩くって、殆ど胸もお尻も出してるようなものじゃないですか!」

 

 亞莎の普段の服もしっかり胸元開けてお尻も太腿も放り出してると思うんだが……。まぁ、しかしそれで全体の印象は大人しい感じなんだから、あの服は凄いな。

 

「気に入らんか……」

「できれば避けたいです……」

「いや、ひょっとするかもしれん。試着してみてはどうか」

「そうですわ。服の本当の姿、ひいては着る者の魅力とはその服を身に纏って初めて分かるものですのよ!」

「そういう麗羽殿はどのようなものを? ……ほほう」

「なんですかそれ。……縄?」

「服ですわ」

「江東で漁師たちが使っている網縄にそっくりです」

「それはその網縄"が"この服"に"似ているのです。さぁ、試着室に行きましょう」

 

 亞莎はまるで戦場に立っているときのような冷静さ(そこまで追い詰められているらしい)で星たちが選んだものが服ではないと説明しようとするも、二人にはまるで効いていない。今にも垂れ幕で仕切られた小部屋に連れ込まれそうになっている。

 

「や、やめてください! 縄を身体に巻き付ける趣味は有りません!」

「んもう、しかたのないわがままですわねぇ」

「ん? 別のにするのか」

「どうしても嫌だと言うようですので、しょうがないですわ」

「考え直してくれて有り難いです」

「ええ。そもそもこっちの方が似合うと思いますし」

「……今度は紐ですか」

「あら、微妙な反応ですこと。嫌ですの?」

「貴女はこれを着ることができますか?」

「私が着るとその美貌で周囲の精神の均衡を崩してしまう恐れが有るので着られませんのよ」

「あ、そうなんですか……」

 

 始めの三発でもう突っ込む元気もないという様子である。

 

「それにしても、これもダメですの? じゃあ、こちらは?」

「もはや糸クズ!」

 

 さっきまでのは一応肩に掛ける部分とかが見てとれたが、とうとう両端が小さな輪っかになった一尺弱の紐が出て来た。いや、ホントに何だこれは?

 

「姫ー! 面白いの見つけました!」

 

 そして三人目、猪々子。

 

「何故股間から白鳥の頭が……」

「すみません! 文ちゃんが面白がってるってだけで、亞莎さんに着せようとは思っていませんから!」

 

 それでも今までで一番マシなんだよなぁ……。

 

「いいじゃありませんの。亞莎さんったらお堅いですから、このくらいひょうきんな服を着てみるのもよろしいんじゃありませんこと?」

「ありませんよ……せめて白鳥が無ければ……」

「白鳥が無くてもなかなか面白いがな。この円盤状に張り出した腰布はどういう意図なのだ」

「スケスケ出して来た星がそれ言うか」

「あれはワザとふざけていましたからな」

「………」

 

 ただでさえグロッキーなところに開き直りまで入ればもう亞莎にはどうしようもない。

 

「……さて、私の選んだ服も見てもらおか」

「おねがいします」

 

 色々な意味が込められていそうな「おねがいします」だ。私はそれに応えて優し気な笑みで服を渡した。

 薄茶色のエプロンドレスのような服。さっきまでとはうってかわって普通と比べても大人しめなものだ。ただ、具体的にどうとは表現できないが全体のプロポーションは細身に洗練されていて素材も良い。……そして値段もなかなか。

 

「えっと、……そうですね、これなら。……でも、私には少し高級過ぎる気もしますが」

「大丈夫やって。ほら、着てみて」

 

 そうして試着室へ亞莎を送り出した私の背中にじっとりとした視線が絡みついた。

 

「無難ですわね」

「"置き"にいったな」

「見損なったぜ」

「待って」

 

 一人だけ良い恰好をしようとしたと非難の的。だが待ってほしい。私とて、亞莎をいじめるつもりこそ無いが、こんな場面で一切の遊びも無く服選びできるほど堅物でもないのだ。

 

「こう、無難な服から徐々に崩していくんや。さっきから、反応見て楽しむにしても取り付く島もないって感じやったやろ」

「むう、確かにそうですな」

「面倒ですわねぇ」

「じゃあ、次はさっきのよりちょっと布の少ない服を持って来れば良いんだな」

「良いのかなぁ……」

 

 斗詩は迷っている様子だが、その結論が出る前にシャッと垂れ幕が開いて亞莎が顔を出した。

 

「どう、でしょうか……」

「おお~……」

「ふむ、これはなかなか」

「あら、貧相な体つきかと思ってましたけど、こうして見るとそれなりのものをお持ちですのね」

「はうぅ……」

 

 ふんわりとしているが、それが体形を隠さずにむしろ女性的な柔らかさを際立たせている。我ながら良い選択をしたし、亞莎の素材力にも天晴といったところだ。だが、本当の目的はこれではない。

 

「亜麻色の綺麗な髪やし、これをきれいに見せるような服がええよな」

 

 だいたい思ったそのままではあるものの、他意もバリバリ満載の一言。すぐさま星が便乗した。

 

「となると背中側は簡素な意匠が良いか」

「髪留めで前に流すのも良いですわね。斗詩、隣の小物屋で適当なものを買い揃えてらっしゃい」

「は、はい!」

 

 そして始まる第二ラウンド。

 

「これはどうだろうか」

「清楚な感じでええなぁ」

「けれど、背中側が平坦な感じがしますわ」

「しかし、簡素なものにするという話だったろう」

「簡素は簡素でも、こう、何も変化が無いとなぁ……一面布ベタ張りは。むしろ更に減らしてちょっと開けるとか」

「そ、そうなのですか……?」

「そうですな。では今一度探して来よう」

 

 私と麗羽と星の三人で代わる代わる服を持って来ては、少しずつ布面積を小さくしていく。

 

「これはいかがかしら?」

「うーん、何か、着るというより背負っとるみたいな。後ろ側減らせへん?」

「破けばできますわね」

「それはできんって言うんやで」

 

 ただ小さくする一辺倒ではバレるだろうと適当な理由をこじつけ、ときに布地を増やし戻したりと小細工に余念がない。

 

「ど、どうでしょうか」

「前だけ布が多くてハリボテみたいやなぁ……」

「注文が多いですなぁ。だが、確かに言う通りでもある。後ろで減らした分に合わせて前もある程度削らなくては」

「それだと軽くなりすぎませんこと?」

 

 あたかも意図など無く選んでいるような演技を忘れない。……麗羽の場合は素で忘れているかもしれないが。

 

「髪留めをいくつか買ってきました!」

「よろしい。腕輪と首飾りを選んで来なさい」

「へ? は、はい!」

「あの、手袋とか……」

「もちろん、ええな。それに本人の意見やし重視せん手は無いで」

 

 途中からはすっかり亞莎の警戒も解けていった。

 その結果。亞莎はすっかり露出の高い格好になってしまった。今にもベリーダンスなんかを踊りだしそうだ。他にも色々と服やアクセサリーを買った。最初に星が持ってきたあのスケスケも結局買うことになったし、いつか使う時もあるだろうと勝負下着的なものも。麗羽たちもそれぞれに服を買って着替え、

 荷物と言えば、亞莎のもともと着ていた服だ。これがなかなかずっしり重い。あの長い袖の中に刃物やらなにやらが隠されているのだ。私も服の内側にいつも武器を隠し持っている仲間。頭脳と武力の両刀であることもそうだが、なかなか親近感が湧く。

 

「さて、服も選び終わったことだ。次は相応しい町の遊びでも」

「良い考えですわね星さん。幸いなことに、成都は狭い割に娯楽は充実していますから。それでいいですわよね、亞莎さん?」

「は、はい」

「ああ、楽しんでくると良い」

「星さん、どうされましたの?」

 

 提案したその人の星がまるでついてこないような物言い。振り返れば桔梗にがっしりと肩をつかまれて苦笑いを浮かべていた。

 

「ああ、全く、お主らは楽しんで来ると良い。こやつは放っぽりだしておった兵の訓練をやらねばならんからなぁ」

「そう力まんでくれると助かるのだが。もと対立していた相手と親睦を深める、これも立派な将のつとめだぞ」

「ああ立派じゃろうて。しかしそれをすべきは部下の世話という最低限の役目をこなしてからの話じゃ」

 

 ……私は警邏と同時にやってるからセーフ、だな。たぶん。

 

「ほれ、行くぞ」

「やれやれ。ついでだ。ここまでの荷物は私が城まで運んでおいてやろう」

 

 荷物を抱えて落胆した様子で城へと帰る星だが、さすがに引きずられて行くような醜態は晒さなかった。

 それにしても、桔梗が亞莎に全然反応しなかった。ひょっとして、普段の服装のイメージからかけ離れ過ぎていて亞莎だと気付かなかったのか?




くそダサ作者特有のクッソ曖昧な衣装描写恥ずかしくないの?(嘲笑)


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変身!あの子の新たな一面!? 下

初心に還って一気に書き上げたので初投稿です。
この作品内には誤字脱字、主述のねじれ、矛盾点が今なお初心者レベルで存在している・・・?


 すこし歩いてやって来たのは成都城から南への中心を貫く大路から一本外れた通り。路地というほど細くもなく、むしろ道の幅自体は広いくらいだが店の軒先からはみ出した品物や席で込み合った印象を受ける。そして何より遊び場の側面が強く、並んだ店構えも人々の面構えも少々浮かれたような雰囲気だ。

 

「あら、新しい店ができてますわね」

 

 私がここに来て日が浅いというのもあるが、通りに足を踏み入れてすぐさま変化に気付けるというのは麗羽がいかにここに入り浸っているかをよく表しているように思う。

 

「料理屋、ですかね?」

「ちょっと入ってみる? 小腹も空いてきたし」

「小汚いですけど、まぁ、かまいませんわ」

 

 こういう小さな料理屋は小汚いくらいが丁度良いのだ。

 なんて思いながら入ってみたものの。

 

「一番、全抜きに全額、ですわ!」

 

 料理屋の皮を被った超高レートの賭場だった。賭け仲間たちが、もっとデカい勝負をしたいと、性に合わない貯金なんかしてやっとこさ立ち上げたらしい。ヤバい店という自覚が有るのか、店主は私を見たとたんマズそうな顔をしたものだ。今はこの街の警備を担っているということは知っているらしい。一応、今この街で適用されている旧魏の法は犯していないものの。そして麗羽の顔を見た途端もっと顔を青くしていた。どうやら有名な勝負師になっているらしい。

 申し訳程度に料理も出るようで「食事しながら遊べるなんて得ですわ」と麗羽はさっそく不健康そうな顔色のオッサン連中の卓に殴り込んだ。

 そしてまた少し経ち、それぞれ一通り遊んで(私は初戦でちょい負けして、それを取り返したらすぐやめた)麗羽が今やっているのはトランプのポーカーのような遊びで、誰がどのように勝つかも賭けの対象である。「一番」というのは麗羽、「全抜き」というのは手札すべてが他者の手札に含まれる四方と柄と異なるというもの。やはりポーカーで例えることになるが、自分の手札が♥23456だった場合、残り三人の手札に♥が入っていたらダメ。2,3,4,5,6がどれか一つでも入っていてらダメという超高難度である。その分高倍率なんだけども。加えてさっき山札を切ったばかりのタイミングであった。外野から小声で理由を訊けば「私以外が勝つ予想などありえませんの」だの「全抜きって言葉の響きが好きですわ」だの「今いくら持ってるか分かりませんからとりあえず全額で」だのと。斗詩が「麗羽様は賭ければ勝つ」なんて言っていたが、ここまで、まぁ運で挑んだらそうなるわなという順当なペースで負けている。長い目で勝つだけで、負けることも有るんだろうか。そしてそれが今回なのかもしれない。というか勝つ勝つと言ってもこの人戦で負けて一度全て失ってらっしゃるしなぁ。おまけに今の手札はストレートみたいなものだ。強さは微妙だし全抜きを狙うには最悪である。始めは麗羽を警戒していたディーラー役のババアや同卓のオッサンたちも今や余裕の表情である。

 亞莎が不安げに口を開いた。

 

「その、全額を賭けて負けるとどうなるのですか?」

「借金だねぇ。大丈夫。いい金貸しを知ってるよ」

 

 そしてババアによるこの無慈悲を超えた恐ろしさのある答えである。

 

「姫ぇ、やっぱやめときましょうって」

「うるさいですわね。さぁ、さっさとおやりになって」

 

 麗羽の催促、オッサンたちの無言の了承により、卓上の五組の手札が表に返される。

 そして、賭博者たちの夢は本日で破産となった。創業から三日目のことである。麗羽の並外れた資金と倍率の暴力がしがない市民の金庫を粉砕したのだ。半分自業自得だが。

 

「さすがに店潰した上に借金っちゅうのは忍びないわ。私が麗羽にとりあおか?」

「いや。私どもも勝負人。自分が受けた勝負の結果なら、どんなに大きくても背負わなきゃァならないんでさァ」

「それに、あの賭けっぷりを見ちゃうとねぇ。あれだけの金が有って、あの場面、その全額を賭けた。まず勝負に賭けた思いで負けてたのかもしれないねぇ」

 

 たまにここを根城にして泊りがけで遊ぼうなんて算段を立てている麗羽たちの後ろで、店主とババアは妙に晴れやかな顔だ。

 

「それに、ありゃァ袁紹様ってんでしょ? 噂に聞けば曹操に散々に負けて、着の身着のままお付きたった一人といっしょにこっちに来たってェ話じゃァないですか。それが今じゃァ一等羽振りが良いんだから」

 

 このギャグ担当代表のような麗羽も、他の恋姫たちとは違った方向ではあるが、皆に劣らず大きな夢や尊敬の対象になっているのか。少し新しい一面を見た。本人は賭けとか覚悟とか全く分かって無いただの運だとかいう無粋な突っ込みはしない。

 次に行ったダーツのような遊びの店。ここでは私は見学となった。祭り屋台の射的みたいに景品のが出るのだが、「鑑惺将軍は本職でしょう」と。将軍ではなく部隊長だという訂正はさておき、長物以外に投具も使うことが市民にまで知られてしまっているらしい。その横で亞莎が眼鏡が無いなんて泣き言を漏らしながら十発十中を披露し「そりゃあお付きもただ者ではないか」と店主を悔しがらせた。亞莎を私の侍女かなにか(配慮した表現)と勘違いしたのか。亞莎があまり名乗りを上げたりしないない方の人間だというのもあるだろうが、やはりさっきの桔梗のように、本当にあまりにも雰囲気が違い過ぎて分からないのかもしれない。

 その後も通りを縦断しながら色々な店に入った。ボウリングに似た球ころがしでは猪々子がピンを粉砕し、ストリート将棋では亞莎がこれまた十戦十勝し……。南の端まで来た頃には両手は景品で、周りは見物人でいっぱいになっていた。

 

「このままでは交通の邪魔に……」

「ああ、マズいわなぁ」

 

 亞莎の言う交通の問題もそうだが、それより注目されていることに気を良くした麗羽がまた無茶をしないかが気がかりだ。そうして何か解決策を探ろうと辺りを見回し始めた時には、斗詩がそれを見つけていた。さすがに慣れている。

 

「麗羽様、劇団が来ているようですよ」

 

 指さしたのは街の南端の門前広場に開かれた芝居小屋だ。小屋に入って見物人をやり過ごす算段である。が、麗羽は渋い顔。

 

「ふぅん、演劇……でも、わたくし、これから通りを今度は北上しながら遊びたいと思っているのですけれど」

「でもほら、今からやる演目は項羽様が出るようですよ」

「それを早く言いなさいな」

 

 麗羽の歓楽街蹂躙計画はあっけなく取り下げられた。項羽様というのは、もちろん項羽と劉邦、楚漢戦争の項羽である。以前垓下の戦い(「四面楚歌」で有名な楚漢最後の戦い)の劇を見てからすっかりファンらしい。

 ちなみに、今回の演目は「鴻門之会」……項羽が軍師の提案を聞き入れず劉邦を殺しそこない、地味に身内から裏切者も出るわ軍師も憤慨するわという項羽ファンからすれば散々な内容である。今にも舞台に上がって劉邦を殺すよう大声で主張しようとする麗羽を静かに大人しくさせるのに死ぬほど苦労した。

 芝居小屋から出て、席料代わりの団子一皿とともに甘味処に腰をおろす。一幕分も時間が過ぎればさすがに人も散っている。さっきの演劇小屋での荒ぶりようはどこへやらころっと上機嫌に戻って、服屋を出てからまた新しく手に入れた品々を取り出しあーだこーだとまだまだ元気におしゃべりを始めた麗羽の対角の席で、亞莎はグイッと伸びをした。

 

「ふう、初めてのことが多くて少し疲れましたが、とっても楽しいですね」

「そーやなぁ。私もこないして、街遊びに時間使うんは久しぶりかも。休みでもグダグダ話しながら茶か酒呑むばっかやったし」

 

 疲れた原因は慣れないことよりも麗羽による部分が多いだろうけどな。

 そんなことを考えながら一息ついたところに、慌てた様子で部下がやってきた。

 

「鑑惺様、華蝶仮面が!」

「あー……分かったすぐ行く」

「いえ、その、華蝶仮面が出た街の北側には楽進様が向かわれたのですが、西の通りにもむねむね団?とかいうのが現れまして、鑑惺様にはそちらに……」

 

 その二グループが別のところに? となると、華蝶仮面が名もなきゴロツキ(或いは仕返しする友の会)の退治に出たところに、むねむね団の悪ふざけが運悪く重なったという形か。むねむね団というと、麗羽たちがここにいるのを抜いて、南蛮組。意図的に隙を狙ったということも無いだろう。麗羽たちを抜かなくてもそうだが。

 

「任せえ。……ってことなんで、悪いけど私はこれで……って、麗羽さんおらんやんけ」

「え、あれ!? いつの間に……」

 

 嫌な予感がした頃にはもう遅かった。

 

「おーっほっほっほ!」

 

 辺りに響く高笑い。むねむね団本隊のお出ましだ。これで三面になってしまった。華蝶とゴロツキのところには凪が行き、私が一つ収めるとしても足りない。残るは美以率いる南蛮幹部か袁家の二枚看板。どちらにしても一般兵の手には余る相手だ。

 

「亞莎、その、悪いんやけど」

「は、はい!」

 

 相性や実力から考えて、私が袁家、亞莎は南蛮組の相手をするのが妥当か。

 代金を残して勢いよく飛び出す……つもりだったのだが、亞莎がつっかかったように立ち止まった。

 

「どなした!?」

「そ、そう言えば、この格好……」

 

 調子にのって亞莎で遊んだことが今になって返ってきた。今の亞莎は武器を持っていないし、何より防御力無さそう過ぎて逆にレア装備補正で良いステータスもってそうな高露出衣装だ。亞莎のいつもの服も、それに隠されていた武器も、前半の荷物といっしょに星が持って帰ってしまった。

 ふと我に返ったか、それとも遊びと任務は別ということか。こっちが乗せたとはいえ本当に今まで気にしてなかったのかという私の内心とは別に、亞莎はモジモジと二の足を踏んだ。そうやって顔を赤らめると余計に扇情的になる。

 

「大丈夫やって、堂々としとけば」

「そ、そうですね。それに、今は非常事態。こんなことを気にしている場合では……」

 

 まるで歩兵隊の最前列に置かれた新兵のような顔をする。こんな調子では例え解決に向かったところで美以たちの勢いに呑まれてしまうだろう。しかしそこをなんとか戦ってもらわねば困るのだ。私は、二本の剣を渡し、亞莎の手を握った。

 

「お前はお前やない……」

「私ではない……?」

「……そう、この攻めに攻めた服装で恥ずかしい仮面の軍団と戦うんは呂蒙軍師やないんやと………」

 

 今となっては他にやりようがあっただろうと後悔している。しかし、この時私はこの言葉を思いついてしまい、亞莎はそれを実行した。

 

「分かりました。では、行ってまいります!」

「おう、任せた!」

 

 そしてやっとこさ二手に分かれる。亞莎は店を出てすぐ路地に消えた。

 私の場合はさっきまでいっしょにいた相手。すぐに対峙することになる。

 

「何のつもりかは知らんが、こんなバカ騒ぎは止めてくれんかなぁ」

「おーっほっほっほ!やめろと言われてやめるバカがどこに居ますか」

 

「そんなバカは居ない」という意味か、自分がバカだと認めた上で「バカは言うこときかない」という意味か。

 

「っていうか遅かったじゃんか、れ――おっと、鑑惺さんよー」

「そっちのせいやわ。無駄に同時多発騒動起こしよってからに」

「ふふん、この私の策に翻弄されるとは、蛇だの鬼だの外道だのド畜生だの言われてる鑑惺も大したこと有りませんわねぇ」

「私たちも寝耳に水で便乗しただけですけどね……」

「お黙りなさい! おほん、さて、ちょうちょ仮面をギャフンと言わせる前にまずはこのお邪魔なウドの大木をやーっておしまいなさい!」

「実力行使っちゅーことになると、私も妥協できんが……」

「望むところだぜ! へへっ、ワクワクしてくるなぁ」

「すみません、鑑惺さん」

 

 済まないと思うならやめて欲しいものだが、そうもできないのが袁家の付き人の性なんだろう。ノリノリで一足に突っ込んで来た猪々子の一太刀。それを滑るように退いて避けた私の頭上に斗詩の大槌が降ってくる。

 大戦を一線で戦い抜き、輪をかけて強くなっている二枚看板なんて呂布ほどではないにしろ相手にしたくない存在。しかしこの成都、仮面騒ぎの裏で正規の警邏隊への不満が高まっているなか、外様とはいえその指揮官である私がいい加減なことはできない。

 私の実力、それに騒ぎを収めるという一番の目的のためにも、……いつもの小細工だ。

 

「斗詩、上だ!」

 

 上からの叩きつけに巻き付くように更に上を取った。が……さすがに長いこと私といっしょに居た猪々子。読んで警告する。そしてその一言に一瞬で対応し、槌の柄を支えに全身を使ったアクロバティックな対空蹴りを繰り出して来る斗詩も斗詩だ。

 

「気付いてるって!」

 

 更に一発。猪々子が跳び上がりざまに一閃。槌の先から伸びる紐を切った。アンカー代わりに地上と私を繋ぐ手綱。槌の上でまた一段跳び上がって蹴りを避けていた私は、正に宙ぶらりんになってしまった。

 だが、死に体になってからが私の本領というもの。

 数本の針を下に投げる。猪々子は「そんな小細工効かねぇよ」と余裕の表情で防いで見せた。向こうも跳び上がっていて、防御に貴重な滞空時間を使ってはいられないだろう……そう踏んでいたが、どうやら組体操のように足下を斗詩が支えているようだ。

 実を言うと嬉しい誤算である。

 

「その防御が命取りやァッ!」

 

 勝利宣言と共に片足を蹴り出す。私の言葉に一瞬身を固くした猪々子の斬山刀を足場に、斗詩の支えをしっかりと利用して三度目の跳躍。今度は横方向だ。

 

「逃がすかッ!」

 

 空中で追いつかれ、叩き落される。冷静に考えれば、飛行能力が有るワケでもなし、地に足付けずになにやってるんだか私たちは。

 それはさておき、さぁ、今度は本当に私の勝ちだ。

 

「ひっ!?」

「むねむね団団長、爆乳の袁。この鑑惺が確保した。これより城に連行する」

 

 叩きつけられた先はまさに麗羽の目の前。さっき猪々子の叩き付けを防ぐため抜いた懐刀をそのまま麗羽の首に突きつけた。

 槌やら蹴りやらを上に避けたのも、紐も針も何もかも、上からの攻撃だとか間合いを取るだとか猪々子たちとの戦いを考えた行動ではなく、ただ飛び越えるため。このおバカな首謀者さんに接近するためのことだったのだ。

 あとは本当に城へ逃げ帰るだけ。開けた直線はダメだろけど、民家の間や人々の間を縫って走るのは私の方が慣れている。麗羽を盾にすれば攻撃も受けまい。というか、そもそもこのお嬢様が命令しなければ二人がどうこうすることも無いワケで。さっきの「ワクワク」とやらも流石に霧散しただろうし。

 音に聞く蛇鬼鑑惺の戦いを楽しみに集まりつつある野次馬の皆さんには悪いが、ここからは気の抜けた四人のかけっこ大会だ。

 

  ―――――――――――――――――――

 

「むねむね団の正体が麗羽様たちだった……通りで今まで捕まらなかったわけです」

 

 亞莎はほうっと息を吐きながら言った。

 あれから数日。仮面こそ禁止されたが、麗羽たちは今日も能天気に遊び回っている。非常に迷惑だったとはいえ重大な罪は犯していないこと、それに終戦直後、国主が居ないところで下手に有力者を裁いては余計な混乱の元になるだろう(やはり実権は鑑惺が握っている、なんて思われてはかなわん)ということで注意だけに済んだのだ。

 

「なんせ高官やからな。警備の薄いところ……というか、あいつらの実力やったら隊長格の順路だけ知っとけばええか。簡単なことやな。今回は他の団員の独断行動に焦って便乗しての失敗か」

「お騒がせ軍団が減って良かったですね」

「そうやなぁ……でも残念ながら頭を獲ったからって、むねむね団残党は健在やし?」

 

 絡繰博士こと真桜は麗羽からむねむね団の「爆乳」の名を継いで絡繰の試し打ちにいそしんでいるし、沙和は「並乳」を拝命して悪の仮面軍団向けの派手な衣装作成を楽しんでいる。

 

「新しいのんも増えたしなぁ……」

 

 それに最近は「風月天女」なるヒーローまで出現した。これは仮面ではないが、同じような存在だからと仮面として一纏めにされている。

 

「実は他の仮面も身内なんやないかと思っとるんやが」

 

 思っとるというか知っているが。

 

「うーん……そうなると、いまだに活発であるどころか新たに登場していることが不自然なのでは? 本当に内部に居るなら、警戒して行動を控えるかと思います」

 

 確かに、「身内に仮面が居ることが明らかになった」と知っているのは身内だけ。だから、もし身内に他の仮面が居るならば「身内も疑われるようになる」と警戒して仮面騒動は収まるはず。というのが亞莎の論。

 しかし、だ。「次は無い」という注意だけで殆どお咎め無しだったことを知っているのもまた身内なのだ。顔出しでおふざけして罰を受けるのだって平気な面々。お面で遊んでお咎め無しと来ればやらない手は無いのだろう。糞が。本当に"次は無く"してやろうか。

 それに加えて、である。こうして相談を受けている自分が仮面だと思うと警戒もクソも無いよなぁ? 風月頭巾こと亞莎さんよぉ……。

 あの日の一件が、この娘を変身させてしまったのだ。エロエロ衣装でキザな言葉を吐きながらド派手に戦う快感に目覚めさせてしまったのだ……。

 どうやら本当に、あのベリーダンサー風衣装を着た亞莎を亞莎と認識できる人間は稀有らしい。亞莎は折を見て風月天女に変身しては、人知れず街の平和を守っている。

 ……人知れず……と思ってるんだろうなぁ………。

 

「いやいや裏の裏も……」

「ふふっ、なんだか今の聆さん、聆さんを相手にしたときの私たちみたいです」

 

 なに笑っとんねん。

 この苦悶こそ本物だが、悩んでいる理由は口に出している内容とは全く違う。増えていく仮面と、雰囲気変えたり仮面被ったりしただけでばれないと思っているバカちんどもと、それで実際に大多数が誤魔化されてしまう事実と、こうして平気な顔で相談に乗ってくるご本人のせいで、困惑と疲労がないまぜになって溢れてくるのだ。

 今まで仮面の正体に気付いていない体で相手になってきたが……。いっそ大人気無くマジ対処してやろうか。いや、しかし、正体が分かっているとして、どうすれば良いのか。バカ共は仮面が無くてもバカだ。無駄にしらばっくれたり反省が無かったりだろう。南蛮組だって、ジャングルから遠く離れているストレスをこの形で発散しているのかもしれない。そして、元凶の星。あいつに至ってはあいつなりの正義を行っているつもりだ。哲学的な内容にも触れることになるだろう高度な論議や、それがうまくいかなかったときには討ち合いにもなるだろう……。正体を暴いた上で当たれば、それが「正体不明の仮面」と「警邏隊指揮官」ではなく「趙雲」と「鑑惺」の戦いになってしまうのだ。

 

「か、鑑惺様!」

 

 慌ただしく駆けて来た衛兵に向き直り、一旦思考は隅に置く。蜀の兵たちと任務を重ねて信頼関係を築けたのは、ある意味仮面たちのおかげかもしれない。全然有り難くないが。

 

「何や。また仮面や言わんやろな?」

「……仮面です」

「……どこや」

「……酒蔵です」

「酒蔵ってどこの? まさか城っちゅーことは無いやろ?」

「……城の酒蔵です」

「殺すわ」




くそ陰気作者特有のクッソ曖昧な遊び描写恥ずかしくないの?(嘲笑)


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結成!仮面討伐五大老!? 上

今回は久しぶりに3000文字代です。久しぶりでもないかもしれません。
そして文字が少ないからといって誤字脱字や矛盾も少ないかと言えばそうではないと思います。


「その、なんじゃ……城の防衛訓練のような、な?」

「それにあの蔵の中身と言えば元より殆ど儂らのためにあるようなものじゃろう」

「………」

 

 酒蔵に現れ、それぞれ「酐酔」「酎酔」と名乗った二人組の不審者の正体は、あろうことか祭と桔梗だった。これに対し、私と、同じく駆けつけた紫苑とで協力してやっと撃退する。その後、城への襲撃という重罪であること、二人ともある程度分かった上での悪乗りだろうことを鑑みて、これまでとは打って変わって本人の私室に襲撃しかえした。私が今回も知らん顔を貫くと思っていた二人は泡を喰って対処できず今に至る

 

「いや、……すまん」

 

 張り付いたままの紫苑の微笑、煮えくり返った腸が溶けて出そうなほど深い私のため息に、さすがの老将も言い訳を引っ込める。

 

「ううむ、やはり酒は逆鱗じゃったか」

「はぁ……それも無いことは無いが、それよりそろそろ仮面も飽和状態やろ」

「確かにやり過ぎか。二人に『䣩酔』『酖酔』という名を考えたりもしておったのだが」

「……はぁ、よくよく考えれば皆やっとる中私だけマジになることもないけどなぁ」

「……やめてちょうだいね?」

 

 二人にかけられていた圧が俄かに私に降りかかって来た。

 

「冗談や。むしろいい加減真面目にこの仮面騒動も畳まんとヤバいと思っとる」

「華蝶仮面熱と言えば今や相当なものじゃからのう」

「ほんまにな」

「すまぬ」

「でもどうするの? やっぱり、今回みたいに直接本人にお説教かしら」

「それは一部に対してやな。それもある程度材料を揃えてから」

「ふむ、仮面でもそれぞれ事情が違うからのう」

「おう。やから……」

 

 私は今成都に居る将を書き出し、おまけで「華蝶仮面に仕返しする友の会」も加えた。

 

「まず、お騒がせ軍団……むねむね団の、袁術、張勲、李典、于禁、孟獲と南蛮兵幹部の三人に、友の会」

 

 言いながらその名前の後ろに×印を書き加えていく。やれやれ、あの戦を乗り越えた将がまったくどうしたものだか。戦を乗り越えてこそ、こうしてふざけられるということかもしれないが。

 

「すまん。小蓮様も、ついこの間そちらの組に入った」

「……うん、孫尚香×な。で、こん中で、美羽様と七乃さんは活動せんくなるやろう。この前仮面禁止にした麗羽さんにつき合わされる形やったからな」

「そうじゃろうか……一応、前回の出現でむねむね団頭領を名乗ったようだが」

「んん……麗羽さんから押し付けられたか。でも、まぁそれでもええわ。乗り気やないんに変わりない」

「七乃さんを仲間に引き入れたいのね?」

「おうよ。たぶんあの人今は全然やる気無いから、殆ど無害なんやが……切り崩しが進んできてそっち方面で白熱してきたら知恵比べが楽しくなって本気になるかもしれん」

「その前に味方として固定しておきたいという話だな」

 

 ふむ、と顎を撫で、桔梗はなにやら納得したような顔をした。

 

「蛇臣の恐ろしさは蛇鬼が最もよく知っておる、か」

「『蛇臣』って……七乃さんのことか。そんな呼ばれ方しとったんやな」

 

 本人の名乗りや魏の仲間内だと「大将軍」か「雌狸」か「アレ」だったからピンとこないな。というか「蛇○」って私と対か。名を大きく上げた定軍山の戦いからするとそういう風に広まるのも自然かもしれんが。

 

「そうじゃなぁ。魏の巨体がその腕に持つ大剣が春蘭たちだとすれば、お主らは離れて死角より敵を討つ正に蛇のような存在じゃったのう」

「私は防御主体やし、七乃さんも長いこと重要な作戦は任せてもらえんかったんやけどなぁ。と、まぁ、そんなことはええ。今はとりあえず、さっさと七乃さんに話つけて味方になってもらうっちゅう話。異論無いか?」

「……信用できるのか?」

「もうやる気になっとったらそれも心配有る。やから急がなあかんかもしれんのや。……最悪、損得勘定で動く人やから報酬か罰を突きつけたら味方してくれるやろけど」

 

 ちゃん美羽の命令にも従うが……それも場合によってあの人自身が誘導するし、なによりちゃん美羽も仮面なんてさっさとやめたいという態度だった。七乃さんをこちら側につけることは容易だろう。

 それで、だ。今度は名前の後ろに○をつけていく。

 

「趙雲、呂布……」

 

 呂布。心の中で軽く吐く。

 

「呂蒙、それで、ホンマに申し訳ないんやが、最近湧いた燦華蝶ってのはうちの部下や」

「それはお気の毒に。……この○印をつけたのが、『正義の』仮面ね」

 

 そして、印の付いていない者がフリー。私たち四人と凪、元むねむね団の麗羽たち三人。

 

「ああ。『正義の』な。だからこそ扱いが難しい」

 

 だって正義なのだもの。私個人としては、正義なんて世の中を回すための方便だと思っているし、星だって何でも正義の名のもとに許されるなんて甘い考えも持っていないだろう。しかし、民には正義が必要だ。

 

「それについては、ほんまに、華蝶仮面みたいな謎の武人が現れて悪人を懲らしめたって噂がたまに立つくらいが丁度ええもんやと思うんよ」

 

 本来、悪人を懲らしめるのは褒められるべきことだ。やり過ぎ、派手過ぎという話なのだが……「ならばどの程度なら良いのか? 私はこのやり方が良いと思ったからやっているのだ」と言われればばそこからは単なる意見の相違。あえて「趙雲将軍」ではなく華蝶仮面として戦うのも、正義を国と法任せにして欲しくないという思いからだろう。かつてこの国を混乱に陥れた中央の混乱とて、それは別に犯罪ではなかったのだから。

 華蝶仮面がもたらす混乱と、道徳教育的意義。……悪人をヒーローが退治することによる民衆への心理的効果のデータ、なんてものはあいにく持ち合わせていないので私には何とも言えない。

 こっちの本音としては、このまま行くと国への不満の元だと言う話なのだが、正義を行うと傾く国なんてどうぞ傾くだけ傾いてくれというものだろう。

 

「やったら何が悪いかってなると、やっぱり悪の仮面連中が悪いっちゅーことやわな」

「好敵手、か」

 

 もともと、華蝶仮面はそれこそ取るに足らない問題を利用して華やかに人を楽しませるだけの存在であった。一般兵の目も無い、"本当の穴"を戦場にしていたのだ。受け皿……知る人ぞ知る、というほど地味ではないがたまの楽しみの役割である。

 問題は麗羽たちや、対華蝶仮面の意思でまとまった友の会という大組織ができてからだ。

 麗羽たちは警備事情も知っているし、ただの兵士では相手にならかった。将の巡回経路から少し離れればどこでも好き勝手できる。星たちも同じく将の動きを知っているから、初めからその辺りに居る。町にむねむね団が出ては兵士が逃げるように将に連絡し、その将が駆けつけるより先に華蝶仮面が解決。頻度も上がり、今までになかった「国よりも役に立つ(ように見える)」ところが出て来てしまったのだ。戦いのレベルが上がって娯楽性が上がったのはもちろん、"必要な"存在になってしまっている。

 まぁその悪役たちも、華蝶仮面の派手さの影響や、魅せ重視で痛めつけるだけ、トドメも刺さず捕縛もしない戦闘スタイルのせいだと言えばマッチポンプめいた話になってくるのだが。

 

「つまるところ、これからは本格的に悪の仮面を取り締まろうということか?」

「ふむ、襲撃するか」

「素面のとこに襲撃かけてもなぁ」

「儂らにはそうしたじゃろに」

「祭さんらの場合は、仮面の中身が見抜かれとると自分で分かっとった上での悪乗りやろ? ……他は気付かれとらんと思っとるからな。本気でシラ切るかもしれんし、何より言い聞かせたところで納得するかどうか。一回は仮面状態を捕縛せなならんやろう」

「ならば今まで以上に警邏に力を入れるということか? うーむ、しかし、城を空けるのもそれはそれでな」

「城に出るかもしれんしな」

「すまんかった」

「そもそも、動きを知られとる上から捻り潰すには駒が足りんやろう。凪は仮面の中身に気付いて無さそうやし。一応、仮面対策を強化するからって声はかけるつもりやが」

 

 説明すれば納得するだろうが、いかんせん、気付いていないということは基本的な頭の良し悪しとは別に"そっち側"ということだ。少し頼りないし、下手をすれば既に……なんてことも考えられる。

 凪については、純朴ながらも時折見せる容赦のないマジレス力で見抜いていることに期待していたのだが……見抜いているとすると、私たちのように面倒くさいから気付いていないフリとはいかないだろう。

 

「密かに動くということね」

「そう。休みついでに警邏を補って、っていう。穴は有るけど、引っかかるのを待つ作戦やな。できれば居場所が知られんようにひっそり一人でこじんまりした呑み屋にでも潜んどくよう」

「うーむ、そういう呑み方は性に合わんが、仕方ないかのう」

「あとは袁家を使うつもりや。さっきも言った通り美羽様んとこの七乃さんは仮面に乗り気やないし、麗羽さんとこはもう一回収めとる。それに、仮面狩りやなんやと乗せれば自由に動かせるやろ」

「動かせたところで、"使える"かどうかとは思うが、な」

「それはまぁ七乃さん次第やね。向こうにやる気ないとして、こっちのことにやる気出してくれるとも限らんし。あとは友の会の相手でもしてくれれば程度に」

「その友の会じゃが、アレは面倒な考え無く、単純に討伐対象と考えて良いな?」

「ん、そやな。普通にゴロツキやし、なんやかんや実害出しとらん身内連中と違て、調子乗って野盗まがいのこともしとるらしいし。それこそ斗詩にでも詳しい話聞いて一気に潰す」

「おうさ」

 

 力強い返事が返ってくる。ちょっとした間違いが有ったが、やはり頼りになる老将たちだ。

 そうして方針が決まって話がひと段落すると、桔梗が酒瓶を取り出した。

 

「では決起集会、でもないが、今から吞もうではないか」

「それさっき盗った酒やんけ」

 

 うっかり忘れかけていたが実害有った。やはり仮面は早急に討ち倒さねばならないようだ。




こいつら平定したのになんで戦ってんだ


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結成!仮面討伐五大老!? 下

また初心に返って一文一文思いつくままに書いたのでやはり今回も前々回と同じく初投稿です
「何言ってんだこいつら」の連続かと思いますがそれは酔っぱらいの言動を再現したものであって決して作者の文才の問題ではないです(早口
誤字脱字主述の捻じれ設定矛盾があってもそれは酔っぱらいの言動を再現したものであって決して作者の文才の問題ではないです(嘘も言い続ければ真実


「ははぁ、私ったらとうとう消されちゃう感じですか?」

 

 扉を開けるなり、七乃さんは後から入った私の方へ振り返りった。円卓に着いた桔梗たちの視線の前で、私は内鍵を閉め、眉一つ動かさず細剣を抜き放つ。夕日を反射してギラリと輝く。それで薄ら笑いが消えた。さすがの七乃さんも驚いたようだ。私が一歩踏み出すのと連動するように力なく一歩後ずさる。何歩目かで円卓にぶつかった。

 

「……理由だけ、訊かせてもらってもいいですか?」

「………――から」

「え……?」

「冗談やから!(半ギレ」

「えー……」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「聆さんが突然始めた悪ふざけで、お三方も何が何だか分からなかった、と」

 

 席に着いた七乃さんはじっとりとした視線を私に投げかけた。

 

「いやぁ……なんか七乃さんの一言にピーンと来てもてな」

「悪趣味過ぎますしなんでネタバラシのときそっちがキレ気味だったんですか……」

「ごめん」

 

 最近大人し過ぎたと久々にはっちゃけてみたら、ふざけ過ぎて少し難解だったようだ。これまた反省が必要である。

 

「それにしても目といい仕草といい、どう見ても本気じゃったな」

「面子からして殺される理由に心当たり有り過ぎて本当に心臓止まりかけましたよ」

 

 そう言って七乃さんは深いため息をついた。祭とは呉での因縁が有るし、紫苑とは言うまでもない定軍山だ。加えて自分は魏にとっても外様。目の前に刃をちらつかされれば、和平の生贄に捧げられる恐れに思い当たるのも仕方ないかもしれない。

 

「……よくあるの? こういうことは」

「有る有る。魏やと華琳さんに死刑宣告されたら一人前みたいなとこあるし」

「まぁ、それは確かに、刃物で距離感測ってますものね」

 

 激励の言葉が「しくじれば命は無い」である。それに一刀も私も、何度物理的に鎌をかけられたことか。

 

「睦言の代わりに殺気で仲を深める、みたいなな」

「今回深まったのはたぶん溝ですけどね」

「水に流そやないか。溝だけに」

「はぁ……、これ以上の文句は飲んでおきますけどね。水だけに」

「仲良いなお主ら」

 

 まぁなんだかんだと私と七乃さんの付き合いも長い。このくらいの冗談はもう許されたようだった。

 

「それで、この場に呼んだ理由というのは?」

「そろそろ本格的に仮面騒動を鎮圧しよ思てな」

「やっぱり私ヤられるんじゃないですか」

 

 私の言葉に再び身構える。やはり七乃さんもこちら側……仮面をつけたところで正体が隠せるワケではないと分かっている人間のようだ。それを見て面白くなったのか、桔梗が「今から言うことに首を横に振れば、そうなるやもしれんのう」と意地悪な顔をする。

 

「……どういった要件です?」

「なに、簡単なことじゃ。美羽のヤツを上手く乗せながら、他の仮面どもの動向をこちらに流してくれれば良い」

「相手しやすいように誘導してくれたらもっと良えけどな」

「構いませんけど……今みたいに一人ひとり囲んじゃえば良いんじゃないですか?」

「他の者はお主と違って本当にどうにかされるやもしれんという心当たりが無いじゃろうからな」

 

 言いながら、祭はやれやれと頭を掻き「まぁ、そういうことだ」と話を切りかえた。

 

「して、会の名前はどうする」

「それは、あった方が便利ねぇ」

「『仮面対策の会』でええんちゃう」

「なんじゃ味気無い」

「先ほど見せた冗談への情熱を少しは回してほしいものだ」

「じゃあ『五大老』なんてどうでしょう」

「一つ確認なのだけど、老の字は『老師』とかの意味の老よね?」

「当たり前じゃないですか。私が居るのに」

「待ってそれ私も向こう側扱いなんか」

「『向こう側』とは何じゃ。儂はともかく紫苑と桔梗はまだその辺諦めとらんのじゃぞ」

「『四大姉』にしましょう」

「なんで一人減って……て私かぁ」

「自分でワザワザ『姉』言うたらホンマに後が無い感じするな」

「しかし認めたら終わりだろう」

「終わっとるのか、儂」

「齢には勝てんっちゅーこっちゃわな」

「どうやっても時の流れに逆らえないなら、みんな死ぬしかないじゃない」

「そら(生まれ落ちれば)そう(いつか老いて死ぬ)よ」

 

 生まれ変わって若返るなんてことはそうそうあるまい。

 

「ま、こなして無事結成できたことやし」

「無事?」

「うん、無事。で、景気付けに呑もういうんがホンマの本題や」

「そう言って呑みたいだけでしょう」

「言い出したんは桔梗さんや」

 

 そして「私は呑んでばっかりもどうかと思うけどな」と最近の反省点からくる補足をしたが、酒飲みキャラが定着してしまった今となってはワザとらしい冗談にしか聞こえないらしい。大小差は有れど皆に笑われてしまった。

 

「まぁ、まずは一献」

 

 手始めに桔梗が七乃さんの盃に注ぐ。しかし七乃さんはそれを受け取ったまま、なかなか口につけない。

 

「……いや、毒はさすがに無いって」

「うふふ、冗談ですよ」

 

 暗殺ネタ合戦がまだ続いていたようだ。

 

「じゃあいただきますね」

「さぁ、お主らも」

「ありがとう。……でも、酒だけというのもね」

「もちろん、料理も用意させよう」

 

 異様にレベルが高い魏の城ほどではないにしろ、ここの料理人も相当なものである。一声かければ肉魚問わず次々と豪勢な料理が運び込まれて来た。そこからは、給仕に仮面の息のかかった者が居ても困るからと五大老の話は一旦無しに。やはりなんだかんだと呑みたいだけである。

 そうして日が沈んで少し経ち、今は皿に残った肉の切れ端やタレに浸かった野菜の残りをつついている。料理だけ見るとお開きかと思われるが、酒のペースはむしろ上がってきていた。

 

「揃いも揃ってザルすぎません?」

 

 夕日の色が抜けきらなかったのか、赤い顔の七乃さんが呻いた。それかもう酔っぱらってしまっているのかもしれない。

 

「どうした藪から棒に」

「何本空けてるんですか」

「15本じゃな」

「いま16本になった」

 

 一本目の盗品はともかく、どこから出して来たのか、桔梗たちが結構大きな甕を11本。私も4本私室から持ち寄ってきていた。濃い薄い、甘い辛い臭い、なかなか色々な酒が呑めておもしろい。

 

「良い感じに温まってきたわね」

「おうおう、早いな紫苑。儂はまだまだだがのう」

「そんな赤ら顔で見栄張ったって駄目よ」

 

 また一本空になった。負けず嫌い同士で肝臓のイジメ合いだ。

 

「しかしどうしたことじゃ。音に聞く呑兵衛鑑惺がさほど盃を進めておらぬではないか」

「いやぁ、呑み比べるような酒でもなし、ゆっくりやろうかなと」

「ほほう、これとてそれなりに値が張るものだが、役者不足と」

「味で言えば香りが強くて美味いけど、呑み比べとなれば、これやと酔いの我慢より花摘みの我慢比べになるやろ」

「言うではないか。ならば、呑み比べに相応しい酒とは?」

「ちゅうて私ら程ともなるとって話やが――」

 

 また私室に戻り、細かい傷のたくさんついた鉄の小甕を手に取った。これはキくぞ。私は少し汚い微笑を堪えつつ、皆が待つ部屋に戻った

 

「じゃーん」

「ああ、鎧の腰に提げてるやつですね」

 

 七乃さんが甕の見た目にピンと来たようだ。その言葉通り、この甕は私が戦に出るときに持ち出すものである。とは言え中身の種類はこれまで何度か変わってきたのだが。そして、今回はその最新版。蜀侵攻戦からのものだ。

 

「ほほう……銘は?」

「『戦』」

「なるほどのう……」

 

 桔梗は興味津々といった様子で甕を眺めた。同じく戦に酒を持ち込む者として思うところも有るだろう。ちなみに、その桔梗の酒は少しトロりとした甘味の強い濁り酒だった。こっちも時により変わるのかもしれないが。「早速開けてみてよいか」と、祭も待ちきれないという様子である。

 

「その前に窓開けて灯りどけて……」

「ふむ……?」

「爆発するから」

「たぶんそれ飲んじゃダメなやつだと思うんですけど」

 

 それはそうだ。いつの間にか異様に酒に強くなってしまった私でも一口で火照り上がるように作った"薬品"である。火にかかれば燃え盛るし、常人では酒気だけで目眩を覚える。吹きかけたりばら撒いたりすれば立派な兵器だった。

 それが、五つの盃に満ちた。眺めている暇は無い。さっさとしなければ空気に溶けて無くなってしまうからだ。

 

「……いっそ自分の腕に小刀を何度刺せるか競う方がマシじゃろう」

 

 三杯目でとうとう祭が弱音を吐いた。私も同じ気持ちである。

 

「これはこれで苦痛との戦いであって呑み比べではない気がするな」

「七乃さんなんか一杯で死んだしな」

「幸い、寝てるだけみたいだけれど」

 

 皆一様に顔を桜色にして机に伏せった七乃さんに目を移した。呑み比べはやめのようだ。賢明な判断である。

 

「この女も寝ておれば人畜無害よのう」

 

 起きていれば鬼畜有害か。ともかく今は可愛らしい寝顔を見せてくれている。そうして何という気無しに軽く頭を撫でてやっているうちに、七乃さんはうっ、うっ、と小さく震え出した。

 

「泣いておるのか……?」

「どうかしら……えずいてはいるわね」

「……寝ゲロやね」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「いやぁ、……ご迷惑おかけしました」

「この貸しは今後の働きで返してもらおう」

 

 七乃さんはまだかなりフラフラした様子ながらなんとか礼の言葉を絞り出した。

 幸運にも、今日は城の大浴場に湯がはってあった。どうやら先に麗羽と二枚看板が使ったらしい。この後誰か入る予定は有るかと担当の者に訊けば、無いとのことなので、たった三人のために大量の水と薪を使ったことへの苦言を胸に収めつつ、ありがたく身体や服やを洗うのに使わせてもらった。入れてから時間が経っているためか大分ぬるいが、酔った身にはむしろ冷ますくらいで良い。

 

「このぬるま湯が今は心地良いのう」

 

 岩風呂の縁に背中を預け、祭はふぅと息を吐いた。その姿に七乃さんがねっとりとした目を向ける。

 

「それにしても凄い身体ですねぇ」

「羨ましいか?」

「自分に欲しくはないですけど、ちょっと触らせてもらっていいですか?」

「おう触れ触れ」

「では失礼して……おおっ、……柔らかいですねぇ」

 

 押したり引いたり持ち上げたり、どうにも私の目には「ちょっと」には見えないのだが、触られているほうも気にしていない様子である。私がとやかくいうことではないか。

 

「ふむふむ……」

 

 当たり前のような顔で次に紫苑の胸に移っても、

 

「ほほぉ……」

 

 桔梗の方へ行っても何ら問題ないワケだ。

 

「なるほどなるほど……」

 

 そしてまぁ私の胸とて、この流れで触れられて怒る程小さくはない。

 

「で、感想は?」

「そうですねぇ……まず、大きさは上から紫苑さんと桔梗さんが同じくらい、ほんの少しの差で次が祭さん、最後に聆さんですね」

 

 何のスイッチが入ったのか知らないが、いやにスラスラと話し始める。この場のノリか、それとも普段から胸についての一家言を胸に秘めていたのか。ともかくあんな顔よりデカいおっぱいと比べられても困る。

 

「でも張りの違いで桔梗さんの方が大きい印象を受けました。ああ、張りは聆さん、桔梗さん、紫苑さん、祭さんの順です」

「くっ……やはり儂とて衰えたか」

 

 悔し気に自分の胸に目を落とす祭に、七乃さんは気を良くしたらしい。ペラペラと評論を続けた。

 

「しかし美しい尖りを保ちながら少しだけ崩すこの形は衰えよりも余計な力の抜けた懐の深さを感じさせます。それに乳首のいやらしさで言えば一番ですから自信をもって下さい。ああ、乳首のいやらしさ……言い換えれば触られ慣れた感だと祭さん、紫苑さん、桔梗さん、聆さんの順ですね」

「生々しい尺度の論評はやめろぉ」

 

 またもニタリと笑い、ますます口の滑りが良くなってくる七乃さん。全く、確かに寝ていてもらった方が良い。

 

「それでは個々に対する総合的な考察といきましょうか」

「いかないで」

「はやくいけ」

「いったりいかなかったりしろ」

「ではまず桔梗さんから。張り、大きさに優れ、その存在感には感嘆するばかりです。言うなれば攻めのおっぱい。一方でその威風ゆえに並みの相手では気おくれして手を出しにくく感じるかもしれませんから、積極的に触らせていき、圧殺するような戦いが合うでしょう。そういった意味でも、攻めのおっぱいですね」

「おっぱいに攻めや守りがあるのか……」

「もちろんです。紫苑さんがそうでしょう」

「そうでしょう言われてもな」

「大きさ自体は桔梗さんとほとんど変わらないのですが、見て取れるほどの柔らかさで接しやすく触りたくなるものです。しかし触られ慣れしていますから、それに余裕をもって対処できる」

「頭の良いバカとはこやつのことを言うのじゃろうな」

「さて、祭さんですが」

 

 妙に活き活きした顔で向き直る。声に反応してか、次のターゲットは祭に決定したようだ。まぁ、後は私か祭かの二人だけなんでさして変わらないのだが。

 

「祭さんは『自然体』ですね。これまた相当な大きさですが、先ほども述べた円熟した脱力感によりあまりおっぱいおっぱいと主張してはこないんです。しかし有する実力は随一。いざそれを認識する機会、触れる機会が訪れれば一瞬で相手を虜にしてしまうでしょう」

「いっそ怖いわ」

「確かにある意味怖ろしいおっぱいですね」

「お前のことやぞ」

「そして最後に聆さんです」

「もう好きにしてくれ」

「聆さんも、あまりおっぱいという感じではないですね」

「『おっぱいという感じ』って言葉のたわけ具合よ」

「しかしこちらは祭さんとは逆に観察するほどおっぱい自体の存在感が薄まっていきます。おっぱいも大きいですが、その下の筋肉こそ特筆すべきだということに気付かさるんですね。そこから腋、腕へとつながる曲線へ……あるいは胸の内側から鎖骨、首へと視線が滑っていきます。高い身長、強い骨格、しなやかな筋肉……優れた身体の一部としての、優れたおっぱいということです」

 

 たぶん褒められてはいるのだろうが、この釈然としない心持はなんだ。釈然としない心持をそのままに、「自分の乳はどないなんや? むねむね団とか言うて」とやり返してみるも本人は涼しい顔である。顔色は依然として赤いが。

 

「お嬢様も私もつき合わされただけですし。それに私の胸はどうだこうだとかじゃなくただお嬢様専用ですから」

「そんな答えでは到底納得行かぬな」

 

 と、どうやらやり返す気なのは他の三人も同じようで。まるで雌獅子が獲物に狙いをつけるような眼光だ。

 

「どれ、儂らが測ってやろう」

「ダメですー。おっぱい鑑定士免許無しのおっぱい査定は禁止されてるんですー」

「ええい、観念しろ」

「うわ、ちょっと、助けてー! たすけてー!」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あまり覚えてないんですけど、かなりひどい目にあった気がします」

 

 翌日、それぞれ寝台や長椅子、床から起き上がりながら目をこすっているところ、七乃さんが唇をとがらせた。どうやら呑み比べから風呂、さらにそこからここ、私の私室に来て今朝までの記憶が曖昧なようである。

 

「んあー? いやいや、それはこっちが言いたいで」

「ああ。寝たり吐いたり、しまいにはおっぱい鑑定なんぞ言い出して大暴れじゃったぞお主」

「そうでしたっけ? それはすみませんでした」

「ともあれ、皆大いに楽しんだことじゃ。この五大老、強い結束を以て仮面討伐を成し遂げようではないか」

「「応っ!」」

 

 平和となった後の新たな使命に、名だたる将が声を揃える。

 各々裸でなければさぞ勇壮だったろう。




某有名な寝ゲロ音声聞きながら書きました


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注意!乙女に安寧無し!? 上

私はモンスターハンターワールドの受付嬢のこと嫌いじゃないので初咆哮です。
また書きたいシーンを思いつくままに書きました。考えたって碌な文書けないからね(落涙)。
誤(以下略)



「たかが悪ふざけ集団と甘く考えるなよ。野放しにしとれば私ら警邏隊の信用、ひいては国が傾く。それに面子は余罪だらけの真っ黒や」

 

 成都から少し南に横たわる廃村。劉璋の内ゲバの時分に無人になり、今では「華蝶仮面に仕返しする友の会」の根城になっている。劉璋に代わって主になった桃香たちには、どうせ無人なら村を囲う堀や塀もつぶしておいて欲しかったものだが……最近まで元村民が戻るかどうかのゴタゴタがあったようである。この周囲と、成都に向けての街路にかけて大小の犯罪の報告も増えていて、案の定肥大化した友の会の構成員によるものである。創始の数人とてろくでなしのゴロツキであるという調べは付いているし、やはり上から下まで害悪集団である。どこか仮面の見せ場を作る悪"役"として受け入れられつつある空気が有るが、調子付かせるわけにはいかない。

 五大老結成から数日目、討伐隊を編成。出撃を予定より"突如"二日早め、"偶然"予定が空いていた私と小蓮をそれぞれ隊長と副官とし、ここに至る。

 

「行くぞ」

 

 騎兵で一足に距離を詰め、立てこもる隙も与えない。元より、"襲撃は明後日だと思っていた"相手の反応は遅れ気味だ。そればかりか引っ越し準備のためだろう、ほとんどメンバーが揃っているようである。正に一網打尽の様相だ。

 そんな中、浮足立ったヤツがもう一人。

 

「この白虎猫娘様の手下に、よくもやってくれたわね!」

 

 ビャッコニャンニャンだかココロピョンピョンだか、ともかくこれまた仮面が現れる。……小蓮だ。

 麗羽が引退した後、伝言だか直接だか、ともかくむねむね団団長に指名されたのはちゃん美羽である。しかしもともと持っていた麗羽への苦手意識もあって、七乃さん共々活動には消極的であった。真桜と沙和は趣味の発表の場として便乗しているちゃらんぽらんだし、南蛮組は南蛮組である。そこで、仮面としては新参ながら実質のリーダーとなったのが白虎猫娘こと小蓮らしい。勝気な性格に孫家の末っ子ということもあって、手下を持ってイタズラする遊びが楽しくてしかたないようだ。全く、どうせ親分になるなら暴走させないようにキッチリ手綱をとってほしいものだ。

 今回の討伐について友の会に情報を流していたのも小蓮だと分かっている。自分の情報のせいで(おもちゃ感覚とはいえ)手下が窮地に立った上に、実際討伐する副官も自分である。どうするか迷った挙句、直接私と戦って時間稼ぎすることにしたようだ。一番は、このまま知らん顔で討伐を終えて、「手駒も無くなったし、締め付けもきつくなったから」と引退してくれれば良かったのだが……。今のように出て来てもらっても、きっちり正面から倒して分からせようという方針には沿っているので良しとする。

 そうと決まれば心の準備。小さくて可愛らしく、今となっては私の方が持ち上げられる立場だが、小蓮も破格の力を持つ英傑。平和になって緩んできた気を一度引き締め直さなければならない。それに、手にする武器……大型の戦輪、或いは乾坤圏? どう使ってくるのかよく分からない。

 

「くらいなさい!」

 

 四本の環の内、三つが鋭い弧を描いて飛来する。二つを避け、一つを弾く。そしてその全てが当然の権利のように小蓮の手元に帰っていった。物理法則無視で動き回る飛び道具と言えば、祭の矢で体験したことがある。今回はアレより少しマシというところか。掻い潜って接近するも、そうするほど環の往復が速まり攻撃が激しくなってくる。様子見に短剣を投げたが、振り払う動作の延長で輪を投げて来る。隙を作るのも簡単ではないらしい。一方で、威力の方は他の英傑の一発よりかなり劣る。一発で形勢逆転を狙うのではなく、地道に距離を詰めていく必要が有りそうだ。……この場面ではあまりやりたくないことだよなぁ。

 

「助太刀いたしましょう!」

 

 内心ため息ついたところに二人目の乱入者。燦華蝶が死角から現れたそのまま小蓮に跳びついた。さすがに攻撃も止む。私はこれ幸いと一気に駆け抜け、勢いそのままに二人まとめて蹴り貫いた。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「自業自得ながら気の毒よなぁ」

 

 中庭の四阿で桔梗と今後の話し合いをしていると、数時間にわたる説教でフラフラになった小蓮が祭の部屋から出てくるのが見えた。

 

「な。何日か前は祭さんが説教受ける側やったのに」

「はっはっは! そう言えばそうだのう」

 

 自分も同じだったのを忘れているのか、覚えていてワザとなのか、桔梗は呑気に大笑いした。指摘したところでそれも「はっはっは! そう言えばそうだのう」と笑い飛ばされるだけだろうから何も言うまい。それに、痛いところはこっちにも有る。

 

「そう言えば、もう一人はお主の部下だったのだろう? そっちはどうした?」

「調子乗んなとだけ言っといた」

「手厳しいな」

「一言で済ましたっただけ有情やろ」

「しかし、聞けば元来忠実なはずだったというではないか。それが、仮面を被って騒ぎを起こしたのだから、何か思うところがあってのことだろう。今のうちに話を聞いておいた方が良いのではないのか? 原因を断っておかねば次はどんな暴発のしかたをするか分からんぞ」

 

 元来忠実なんて、どっから聞いたんだか。本当に忠実で奥ゆかしいやつなら話を聞く気にもなるんだがな。なんせアイツは普段からストーカー気味で欲望ダダ漏れだ。これでまだ「ストレス溜まってたんです」なんて言ったらそれは救いようのない病気だから田舎に帰って療養することを勧めるしかない。

 

「話聞いてやるというか、根本的な解決せなならんことと言えば南蛮組やと思うわ。結局、街の中で、喰う寝る遊ぶを我慢するっちゅーことがあいつらの生き方とは合わへんのやろ」

 

 街じゃ狩りをする機会なんてないし(できて小鳥を追いかけるくらいか?)、文化の違いからくる町人とのトラブルも絶えない。なんとかストレスを解消させてやる方法を作らなければならないだろう。それこそ田舎に帰ってもらうしかないのかもしれないが。

 

「そこは前々からから璃々と紫苑が世話を焼いてくれているようだぞ。紫苑の取り合いになったときはすこし喧嘩もあるようだが、良き姉と母代わりになっておる。最近は変な仮面と団名のおかげで悪目立ちしておったが、問題の数自体は以前より減ってきているのだ。姉貴分というところでは、小蓮もそうだったのじゃが……と、噂をすれば」

 

 水場の方からトタトタと軽い足音と一緒にキャイキャイと子供の声が近づいてくる。

 

「こらー! ちゃんと百かぞえないとダメでしょー!」

「暑いからもういいのにゃー!」

「みゃー!」

 

 濡れた髪と体を弾ませて逃げる美以たちの後ろを璃々が一生懸命になって追いかけていた。どうにも美以が烏の行水もとい猫の行水でちゃんと風呂に入らなかったようだ。南蛮組はさすがに余裕でおいかっけっこ遊びの様相である。

 

「はぁ……こんな日常のために戦ったのに、なんでまた内の敵と腹芸しとるんだか」

「それもそろそろ終わりじゃろうて。それにしても……これこれ、裸で走り回るでない。璃々、美以!」

 

 桔梗が美以を抱きとめ、それでもまだ逃げ出そうともがくのを上手く制す。私もお供のミケとトラをつまみ上げた。もう一匹のシャムは手がかからなくて助かる。そして「せっかくだから」と、美以たちを風呂に入れ直すついでに私たちも一風呂浴びることになった。

 うーん、確かに、思えば美以たちは言わば他民族からの協力者なんだし、特別に世話係と言うか接待係をつけてもおかしくはないかもしれない……というのは、よその子扱いが過ぎるだろうか。

 

「やれやれ。前は冷めた湯が心地良いと言ったが、熱い風呂はやはり良いな」

「まぁ酔っとる時の話やしなぁ」

 

 やはりぬるま湯とは筋肉の解れ方や毛穴の開き具合が全然違う。毎日の行水とは比べるまでもない。そう言えば斗詩が、ちょっと行った辺りに温泉が有るとか言っていたか。馬で半日くらいの距離なら、これからの国力なら工事で引っ張って来れるだろうか。

 そんな絵空事を考えながら身体を温める私とは反対に、美以はご不満な様子。水遊びでもして喜びそうなイメージが有ったが……そうか、猫的な風呂嫌いの方が強く出ているのか?

 

「だいおーしゃまー」

「にゃ? んみゃ!?」

 

 南蛮組の主従関係は結構緩いようで、ミケが美以にパシャッと湯をかけた。これに美以の耳がピンと立つ。どうやらスイッチが入ったらしい。

 

「なにするにゃ! しかえしにゃー!」

「ふみゅう……」

 

 にわかに水の掛け合いが始まる。うん、こっちの方がイメージ通りだな。シャムだけは私の隣で脱力中だが。しかしそこで璃々が「おふろであばれちゃダメなのー!」と叱りつけた。

 

「うるさいのにゃー。えい!」

「きゃっ」

 

 こうして騒ぎながらなら美以たちも風呂に馴染めるんだろう。笑って見過ごしたいところだが、しつけに悪いかもな。美以もそうだし、璃々についても、紫苑から言われた(だろう)ことと違うことを私たちが言ってはかわいそうだ。

 

「ほら、こっち来ぃ」

 

 やんわりと間に割り込みながら身体を引く。風呂の浅い水ではあるが、美以たちの身体だといい感じに浮かぶことができる。手の力も貸してやって、船のように進ませながらゆらゆらと揺すってやるともう水かけのことは忘れてしまったようだ。紫苑も、一緒に入った時はこうしているのだろうか。

 

「うーむ、慣れぬなぁ」

「何がや。……いや、言わんでもええ」

 

 どうせ蛇だか鬼だか言うつもりだろう。自分でそのように演じて来た結果とはいえ尾を引き過ぎというか、新たな弱点になったと言うか。死ぬまで弄られそうな気がする。

 

「お主今日何やったか覚えとるか?」

「賊討伐に不審者退治。人間の鑑やな」

「はっはっは、助太刀ごと蹴倒すやつが鑑とは世も末じゃな」

「平定から一月ほどでもう末か。諸行無常にも程が有るな」

 

 桔梗と軽口を言い合っている内にわらわらとミケたちも寄って来た。いつの間にか両手に足も使ってどうにかこうにかこの人の形をした猫たちをあやしていた。注意した手前大人しく座っていた璃々だが、どうにも羨ましそうだ。桔梗もそれに気付いていたらしく、既に定員オーバーの私に代わって「どれ、儂がやってやろうか?」とワシャワシャ頭を撫でた。ちょっと迷った様子だったが、「さわがしくはしていないしいいよね」と自分に言い訳をつけたらしく桔梗に身を預けた。そうそう。子供は素直が一番。特に璃々は怪力でもないんだから他のちびっ子の代わりに暴れてくれてもいいくらいだ。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あー、さすがにのぼせたなぁ」

 

 結局、風呂は私のギブアップで上がることになった。しかたないだろう。ゆっくりとした動きとはいえ四人を相手にしていたんだから。そんな私を見て「こんなときに呑む酒は美味いものだが……どうだ?」と、桔梗がニヤリと笑って盃を傾けるマネをした。コイツときたらまた酒の話か。風呂上がりに一杯やるなんて話し合うまでもないだろう。

 

「おかーさん!」

「紫苑にゃー!」

 

 高官の私室が集まっている区画に戻って来た辺りで、廊下の先に紫苑の姿が見えた。籠手と弓を持っているのを見るに仕事帰りだろう。パッと駆け出して跳びついた四人を慣れた様子で相手する。私ではまだ子供と接するにはどうすれば良いかと少し逡巡するところがあるが、紫苑はさすがの母親具合だ。……それ以前に、私の仕事着であんな風に抱きしめ返したら穴だらけになってしまうだろが。

 

「あらあら。お風呂入ってたの?」

「警邏終わりか。今から一杯どうだ?」

「うふふ、一杯じゃ済まないくせに」

「はっはっは、腹一杯じゃ」

「アレを使えば盃一杯で……」

「それは勘弁」

 

 皆、酒で羽目を外すというより酒のことになると呑む前から既にはしゃぎがちになるところが有る。璃々に「もー、飲みすぎはだめだよ!」と釘を刺されてしまった。

 さて、それにしてもツマミはなににしようか、また何か用意してもらうかそれとも自分で軽く作るかと考えを巡らす。

 

「今からなにか食べるのにゃ?」

 

 ズイッとすそが引っ張られて浴衣がはだけそうになる。見れば、美以のキラキラそわそわとした上目遣いと目が合った。

 

「……せっかくやしみんなで食べるか」

「この様子では三人で呑もうにも放っておいてくれぬだろう」

 

 璃々たちが一緒では酒に沈むのはお預けになりそうだが、まぁ、武器がいらないイベントは大歓迎だ。




美羽様にマッサージを施すサービスを受けたい(正しい日本語)。


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注意!乙女に安寧無し!? 下

このどうしてこうなった感は本当に投稿初期に帰ってる感じがします。たぶん悪い傾向です。
誤脱報求


「それじゃあ、ちょっとの間待っててちょうだいね」

 

 ところ変わって、城の下士官向けの食堂にやって来た。上官が普段私用で使う調理場と料理人たちは、なにやら麗羽が宴会を開いているとかで大忙し。ちょっと待とうかどうか、と考えていたら「普段は下士官が使う場所ではありますが」とここを開けてくれた。設備も良いし、今の時間帯は誰も使っていない。願っても居ない好条件である。少しばかり食材を持ち込んで、紫苑がその厨房に立った。

 

「うーん、様になっとるなぁ」

 

 紫苑がスラスラと人参の皮をむき始めた。配膳係節約のために厨房と食堂が繋がっているここの作りは、料理する様子を見て楽しむには丁度良かった。璃々たちがキラキラした目で見入っている。これなら多少長い時間がかかる料理でも文句は出るまい。

 

「さすがってところやな。紫苑は」

「む、料理なら儂とて負けておらぬぞ」

 

 普段含んだ言い方ばかりしているせいか、ちょっとした嫌味にとられてしまったようだ。私としては、桔梗の料理の腕前を知っているからそんな気は全く無いのだが。でもそれは本当は知っているはずの無いこと。そうでなくとも桔梗は一足先に酒を二、三杯煽って活発になっている。大人しく紫苑の料理ができるのを待っていられないのだろう。

 

「何じゃ黙りおって。本当だぞ」

「嘘やとは思うとらんで」

 

 泥沼。桔梗はいよいよ熱くなった。

 

「よし紫苑、少し場所を空けてくれ」

「場所ならいくらでも有るから構わないけれど……」

「なに、こやつに分からせてやろうと思ってな」

 

 決まった時間に大量の料理を出す厨房である。窯も流しも何組もあった。あとは食材さえ上官向けの方からもらって来れば二人がそれぞれ料理するに不自由しないだろう。

 

「それにしても、お主の方はどうなのだ? この歳ともなれば、『料理できない』などと言っても呆れられるばかりだぞ」

「私はまだ十代やぞ」

「は? でまかせを言うにしても『料理くらいできる』程度にしておけよ」

「『は?』てお前……それに料理も人並みにはできるしな」

 

 何かニタりとした笑い顔を向けられた。これは勘違いじゃなく、挑発だろう。

 

「分ーかった分かった。私も一品作って見せるわ」

 

 武の力比べと違って、料理勝負は安全だしな。

 

「じゃあ美以たちもなにか作るのにゃ」

「璃々もお手伝いするー!」

「いや、お主らには審査員として誰の料理が最も良いか食べ比べてもらいたい」

「とびっきり美味しくつくるから、楽しみにしていてね」

 

 紫苑は特に美以に向けて言っているようだった。南蛮組の料理とはヒドイらしいし、本質は「大人しくしていて」ということだろう。私はちょっと味わってみたいような気もするが。

 

「お、何や何や」

「お料理してるのー?」

 

 さて、私たちも食材を用意しなければと思ったところに、凪、沙和、真桜の三人がやってきた。何も知らない風で入って来たが、嗅覚の鋭い奴らである。何か美味いもの食べさせてもらう気満々という感じだ。

 

「紫苑に触発されてな。料理勝負みたいになった」

「じゃあウチら審査員な!」

「沙和もー♪」

「うふふ、じゃあ、そこに座っていてね」

 

 なんとなくやんちゃな娘と母のような雰囲気。紫苑と組ませたら、本当の年長メンバーでもない限り大抵母娘っぽくなるから面白い。……なんて口に出したらまた「お前は娘っぽくならないな」と言われるのだろう。

 

「そこで迷いなく審査員側っちゅうのがホンマお前らやな」

「えへへ~」

 

 褒めてないぞ。

 

「ウチのために精一杯愛情込めて作ってや」

「ま、それはええけど。この先、料理の一つもできんでやっていけるかねぇ?」

「若者相手に僻むのはみっともないぞ」

「同い年やぞ」

「大概にしておけよ」

「えぇ……」

 

 一瞬本気の目だったんだが……。

 

「ウチには絡繰が有るしー」

「沙和も自分で言ってもばちが当たらないくらいにはおしゃれの道を進んでるの~」

「それに、警邏の仕事がなくなるワケやあらへんしぃ」

「……私も参加しよう」

「ほほう、凪が。料理はできるのか?」

「凪はウチらの中やったら一番の美食家やで」

 

 ともかく、狙い通りの流れにはなった。私と他の二人では、おそらく基本的な料理のスキルに大きな隔たりが有る。もちろん小手先の工夫でどうにか誤魔化すつもりだが、それも凪の舌にかかればすぐに見破られるだろう。一方で、料理人としてはまだ未熟。こっち側に来ておいて欲しかった。

 本人たちが言った通り、真桜と沙和には平和な中でも輝く分かりやすい特技が有る。その点で凪はコンプレックスを持っていた。もちろん、この先も武は必要なものだ。内の賊や犯罪も有るし、外部の部族が攻めかかって来ないとも限らない。むしろ現実の三国時代ではここからが本当の混沌の幕開けだった。しかし、本人はその辺りを割り切れていない。それに、差し迫った問題では一刀のことだろう。前から自分の女性としての魅力に自信が無かったのに、今ではライバルが三倍にもなった。この交流期間に離れているうちにも忘れ去られているかもしれない……。これまたそんなワケはないのだが、凪は悩んでいた。「この先、料理の一つもできんでやっていけるかねぇ?」という煽り文句は結構刺さったはずだ。

 まぁ、今のうちに美食家、料理人の面も伸ばしておいて損は無いという親切心もあるにはある。

 

「変態的な激辛好きでもあるけどね~」

 

 そうそう、激辛好きも特徴だ。特に、美食家として先を行っている華琳は辛いものだけは苦手。差別化にもなるだろう。

 

「……小さい子もおるんやからやめてな?」

「な、何でもかんでも辛くはしない!」

 

 まぁ、今は自重してもらうが。

 

「璃々ちゃんも審査員なの~?」

「うん!」

「ええんか~選手にお母さんおるけど、ずるしたらあかんで」

「しないもん!」

「お前らよりよっぽどちゃんと審査しそうやと思うで」

「えー、聞き捨てならんなぁ」

「順位付けるの面倒臭がって『全員優勝』とか言いそうやもん」

「その手が有ったか」

「有らへん例として挙げたんやで」

「あーあ、戦争は人を変えてまうなぁ。寝て起きて酒呑んでダダこねてやった聆もこんなしっかりした大人になってしもて」

「存分に祝福して頂きたいわ」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それにしてもすごい速さなの」

 

 三人も加わって料理が続けられるが、やはり紫苑の手際は際立っている。本来なら桔梗も互角なのだろうが、今は饅頭か何かの生地を捏ねていて、素人目にも分かりやすい手際の良さは無い。

 

「人妻力ってやっちゃな」

「そっか~、とってもキレイだから思わなかったけど、璃々ちゃんのお母さんってことは、そうなんだよね~」

「あの人は璃々の顔も見ずに逝ってしまったけれど、ね」

 

 少し重い話だが、だからこそ、璃々は父親がいないことをさして気にしていないのかもしれない。紫苑の器なら、一人で父親と母親の両方をこなせるというところもあるだろうが……。その紫苑本人についても、こっちはこっちで意外とキャピキャピしてるものな。

 

「未亡人か……これは隊長が放っておかんな」

 

 真桜のこの言いようにも、母娘揃って気に留めていない様子だ。

 

「その隊長……北郷一刀というヤツはどういった男なのだ? 戦が終わって、顔合わせこそしたが、なかなか踏み込んだことまでは話す暇が無いままに三国に——いや今は三地方か――まぁ、そうやって分かれたからのう。戦で手合わせした限りではなかなか肝が据わっておるようだったが」

 

 桔梗が、料理の手こそ止めないままだが興味深げに尋ねた。変に名の売れている私の上司でもあるし、一歩引いて冷静に考えれば魏の古参、曹操の側近である。気にならないと言う方がおかしな話だ。凪も「私たちの隊長ですから」と嬉しそうである。……その手元で煮えたぎる物体の赤さと鼻を突く刺激臭はスルーして、私も「ま、理由も無く華琳さんが男を近くに置いとらんわな」ともったいぶったことを言っておいた。

 

「節操無いけどな」

「なんかそれもね~、優しさだから許しちゃう! みたいな~」

「ほほう。顔もそれなりに整っておったが、お主らのこの惚気様……楽しみじゃなぁ? 紫苑」

「そうやってギラギラしてると逃げられるわよ」

「ま、ギラギラできるうちにしとけばええわ」

「……何じゃその顔は」

「端的に言うわ。お前らが大戦で対峙し、そして敗北した魏の将……あれだいたい隊長のオンナ」

 

 さすがの桔梗も一瞬顔が引きつった。

 

「待て待て、華琳のカキタレと聞いているぞ」

「華琳さん本人も華琳さんが手ぇ出してない相手も攻略済みやから」

 

 言っていて自分でも薄ら笑いが漏れた。ホント冷静に考えると頭おかしい。

 

「……お主もか?」

「私は……昔は桔梗みたいにギラギラしとったんやけどなぁ……」

 

 勇ましく最速でお手合わせ頂いたものだが……その実力の片鱗を見て以来手が出せなくなっている。主導権を握られるのが恥ずかしい損な性分だ。

 

「人中に呂布あり、閨中に北郷あり」

「恋を引き合いに出すか……」

 

 まぁ、紫苑と桔梗の二人ならガンガン攻めていけるだろうとは思うが、たぶんいつの間にか夢中になってて精神の根本的な部分で下の立場に……うーん、恋愛に上とか下とか言ってる私の方がおかしいのか、これは。やっぱり肉体関係なんて酒の勢いで流してしまうに限るな。

 

「随分賑やかですねぇ」

「何をやっておるのかや?」

 

 と、ガラにもない薄汚れたピンクの思考を止めるように声がかかった。

 私と桔梗で話している間にも沙和と真桜の方はまた新しい話題に移ってペチャクチャやっている。一般兵向けの食堂の周りは、この時間はだいたい閑散としていることも合わさって、確かに特別賑やかに思えるだろう。

 

「おお、美羽様に七乃さん。料理大会をちょっとな。もうそろそろできるって良え頃合いや」

 

 ちらりと他の参加者の方も見た。桔梗は何やら蒸し上がるのを待つばかりいう感じだし、紫苑も最後の一炒めっぽい。私のもそろそろだ。……凪のやつは、もうよく分からない。

 

「ふむふむ、ならば早よう持ってまいれ!」

「やから『もうそろそろ』やって」

 

 なかなか上手い返しが難しいタイプのボケ。ちゃん美羽プロの七乃さんに振って凌ごうかと思ったが、先に桔梗が話しかけた。

 

「七乃よ、……お主もなのか?」

 

 と、しみじみというか、感嘆というか。さっきの話題を引きずっているらしい。

 

「はい?」

「隊長の豪槍伝説を、ちょっとな」

「ああ、私は今のところご縁が無いですねぇ。お嬢様一筋ですし」

「よぉ言うた! それでこそわらわの世話役じゃ!」

「と言うか、聆さんが取ってきた人は聆さんが囲ってましたからね。その点は、猪々子さんや華雄さんも無いと思いますよ」

 

 桔梗と紫苑が妙に合点がいったような顔で見て来た。違う違う。「囲った」って、七乃さんが意味深な言葉を使ってるだけだから。猪々子も華雄もイマイチおバカでそういう雰囲気になってないのだろう。

 

「でもそう考えると面白いですよねぇ。世の男性が散々ホワホワ叫んで騒いでる張三姉妹も舞台を一歩降りれば一刀さんのものなんですから」

「悪い顔しとるぅ」

「天和ちゃんたちも、もう隠す気も無いっぽいもんね~」

 

 もはや熱愛報道されて喜んでるまで行ってた気がする。闇堕ちしたファンに刺されないか心配だ。

 

「これからが楽しみですね」

 

 どういう意味でだろうか……。張三姉妹の炎上か、三国美女総攻略か。どっちにしても楽しみというより恐ろしさが先に来ると私は思う。が、私にはどうすることもできまい。全ては一刀のおちんぽが悪いのだ。今は目の前の料理。

 私は面倒事は未来の私とその他名軍師様方に任せることにして、出来上がったスープを椀に注いだ。

 

「さ、私は完成っと」

「どーしたのじゃ? 急に自己紹介なんぞして」

「『鑑惺』やなくてな」

「なんと、鑑惺ではなかったのかや!? 何者じゃお主」

「抑揚の差ァ」

 

 ちゃん美羽のボケを受けながら、それぞれの前に椀を置いた。中に入っているのは、スープと、薄緑色の丸い塊。一口大のロールキャベツだ。

 

「葉野菜で肉を包んでみた」

「ほうほう、水餃子の生地の代わりに甘藍を使ったワケですね」

「巾着みたいで可愛いの~」

「甘藍……羅馬渡来の、腹具合を良くする薬草と聞いておるが、料理に使うか。羅馬との交易が盛んな魏ならではといったところか?」

 

 ……レッドペッパーは当たり前な顔して存在するのに甘藍はローマから来ていることになってるのか。

 

「いや、これはウチらも初見やね」

「いきなり意表をついてきたな。いやはや、鑑嵬媼らしい」

 

 というか野菜で肉を包む料理もいつから有るものなのだろうか。少なくとも"ここ"では新しい発想のようだが。

 

「おくすり……?」

「うーん、健康に良えんは確かやけど、思とるような味やないで。野菜の中でも全然クセが無くて、これが嫌いって人はあんまり聞いたことないくらいや」

 

 強いて言えば何にでもついてくる千切りが邪魔に感じる人も居るというくらいだろうか。

 

「(元々あまり普及してないから嫌いも何も……)」

「(……そう言えばそーやな)」

 

 千切りがどうこうとかも、キャベツが普及している現代でのこと。またうっかりしていた。戦が終わったからって迂闊な発言が増えてきている気がする。気を引き締めなければ……。

 

「(ほんと聆さんは聆さんですね)」

 

 また勘違いが加速して憂鬱になる私を他所に、沙和が最初の一口をつけた。それに続いて他の審査員も食べ始める。

 

「ん……甘藍ってそんなに味は無いのかな? ちょっと甘くてフワフワした感じ……?」

「包みがペリッと破けて汁が出て来る感じが良えなぁ。小籠包とかと違うんは甘藍自体の水分も多いとこかな」

「あちちっ」

「ほら、よう冷まして」

「剥がして食べるのが面白いのう」

「お嬢様、お行儀が悪……いんですかね? 聆さん」

「少なくとも私はそんなこと気にせん」

 

 見た目に汚いということでもないし、特段味が落ちるということでもない(少なくとも私には分からない)。その作りの面白さもロールキャベツの良さなら、面白い食べ方も良さであっても不思議ではない。

 

「うーん、初めからなかなか良かったな」

 

 概ね好印象といったところ。優勝を狙うにはちょっと弱い感じはするが、まぁ、料理できないというレッテルは剥がせたのではないだろうか。

 

「次は私ね」

 

 キレイに照りが入った酢豚。余談だが、さすがにピーマンやパイナップルは入っていない。ともかく、凄い出来栄えだというとが一目で分かった。見た目も匂いも、今すぐ棄権して審査員席に座りたいほど食欲を掻き立ててくる。

 私の羨望の視線をよそに、真桜がさっそく一口目。

 

「本職かな?」

 

 で、この一言。さっきの物珍しさからくる食いつきじゃなくて単純に味でガッチリ掴んだ感じだ。

 

「おいしい!」

「やっぱり、基本に忠実っていうか、根本的に重ねた経験の力って感じなの~」

「美味じゃなぁ」

「確かに、聆さんの料理は奇抜な分細かいところに詰めの甘さが有ったように思われますね。試作段階というか」

「そこは否定しようがないなぁ」

 

 七乃さんはともかく、沙和たちもいつの間にか舌が肥えていた。ここまで基礎力の差を見破られるとは。

 

「しかし、料理は味の完成度だけではないぞ。次は儂の番。そろそろ甘いものが欲しい頃合いじゃろう」

 

 蒸篭が開かれると共に蒸気がモワッと立ち上る。そうか、蒸し物は登場も派手で良いな。

 

「おぉ~」

「良いですねぇ、桃饅」

 

 そして出てきたのは桃の形の桃饅頭。調理中もちらちら見えていたが、これは完全にやられた。ただでさえ甘いもの好きが多いのに、私のスープから紫苑の主菜、そしてこのデザート。完璧なタイミングだ。

 意外と冷静な勝負師の一面だ。

 

「文句無し! なの!」

 

 もう優勝は決まったようなものか。

 と思ったが、真桜が「一つ言って良え?」と切り出した。

 

「……どうした?」

 

 桔梗もまさか待ったがかかるとは思ていなかったらしく、少し緊張した面持ちだ。

 

「桃饅って、何かいやらしいな」

「思春期の男児か何か?」

 

 真桜の下ネタは置いておいて、味も演出もタイミングも正に文句無し。優勝は決まりだろう。

 

「さて、最後は凪だが……」

「………」

 

 本人もやましいところはあるらしい。凪の料理は案の定唐辛子の赤に染められた何か(たぶん鶏肉)だった。

 

「凪、辛くせん言うたよな?」

「『"何でもかんでも"辛くはしない』だ」

 

 一応言い返して来たが、すぐにまた気を落とした。

 

「………しかたないじゃないか……作っている間にも勝負は見えていた。発想、実力、それに流れを読んだ甘味まで揃えられた。そうなればもう激辛でオチになるしか……」

「そんな真桜みたいなことせんでも……」

 

 個性だとかこれからだとかで煽ったのは私だが、流石に効き過ぎじゃあなかろうか。いや、一応心の中で謝っておくが。

 

「ウチそんな逃げのボケはせぇへんで」

「うぅ……」

「追い打ちは止めて差し上げろ」

 

 机に手をついて肩を落とす凪の背に、ぽんっと肉球が置かれた。

 

「泣くんじゃないにゃ、凪。みぃたちの料理を食べて元気出すのにゃ」

 

 いつの間にか居なくなっていつの間にか戻って来ていた美以だ。もう片方の手には何か見ようによって何色にも見える感じの物体が。聞く限りでは料理らしいが。全く、いつの間に作ったんだか。後ろではトラたちもそれぞれに違う"ナニカ"を持って待機している。

 

「有り難う……ありがとう………」

 

 しかし精神的にダメージを負った凪にとっては唯一の救い。例の言葉と共に頬張り、「ゴっふ」と小さく呻いて動かなくなった。

 

「おみゃーらの分もあるのにゃ! エンリョせずにどんどん食べるのにゃ!」

「……うん」

 

 璃々は紫苑と共にいつの間にか避難。真桜と沙和と七乃さんはノックアウト。ちゃん美羽の一票により美以が料理大会優勝となった。かなり極端に人を選ぶ味らしい。私も割と美味しく頂いたので、桔梗に「やっぱり頭おかしいわお主」と酷い暴言を浴びた。




沙和と真桜がキャラとして便利過ぎる


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絶望!恐怖に直面!?

お浸し鰤です。
恋姫の中でも一層勢いのある仮面ネタを題材にしておきながら終始ねちっこい政争ものになってしまったお詫びとしてはなんですが、ここから数話オリ主がアレなことになります。
わりといつものことですね


 主だったメンバーは抑え、それに怖じたか亞莎も活動を控えたようで仮面騒動は一応ながらひと段落した。南蛮組は紫苑に私も加わって手厚く相手してやることになったし、残るは昔ながらの星華蝶のみ。これでとりあえずあと一月も無い事前交流期間は安泰――と思いきや。私を取り巻く情勢は急転直下する。

 呂布、完全復活。

 今朝、食堂のこと。私はなんとなく周囲の会話を聞き流しながら少々味の薄い飯を口に運んでいた。

 私かその一段下くらいの地位くらいにもなると、食事は業務に差し支えない範囲で好きなものを好きな時間に好きな場所でとって良いことになっているのだが、ときには兵たちの様子を見ることも必要だろうと食堂で朝食をとることにしたのだ。そんな思い付きは下級士官には少々迷惑だったのだろうか。朝の込み合う時間だというのに私の座った周りは空間が広くとられ、皆の背筋も緊張した様子になる。

 凪たちといっしょにいるわけでもなければ子飼いを引き連れているときでもない私はこうも異質な存在で、今や普通の人間ではないのだなと改めて不思議な気分になった。そう思うと怖じずにセールストークをかけてくる商人たちはやはり強かである。

 などという浮ついた思考は突如吹き飛んだ。そのまま地面に押し付けられそうな"圧"を感じる。脊椎にしみ込んだ戦慄を抑え込んで、どうにか呑気に食べる演技を続けるうちに、そいつ――呂布、もとい恋は入り口からまっすぐやってきて、私の左隣にゆっくりと腰を下ろした。

 全く、何と思い上がっていたことだろうか。私の周りが空いていたのは、皆、そこに恋が座ることを無意識のうちに知っていたからだというのが正しいのではなかろうか。

 

「ごはん、もらってきたら?」

「……うん」

 

 何かの要件が有ってやってきた恋。その恋が言葉を発するまでに持つ特有の間に、ささやかな抵抗としての当たり障りない会話を置く。相手は素直に従って料理の受け渡し口に向かい、ほどなくして戻って来た。さっきまで薄味だった焼き魚は、今や完全に味を失っていた。そんな私をよそに、向こうは働き盛りの男たちも満足する量のこの朝食を一瞬にして食べ終わってしまった。そして私の視線をうかがうようにしながら、肩をぐるぐる回したり、腰をひねったり。

 

「もう、なおった」

「へぇ、良かったやん」

 

 最終決戦で傷を受け戦闘不能となっていた恋の四肢には、もうほとんど傷跡らしいものすら残っていなかった。魏による天下統一が成った今本来喜ばしいことなのだが、私にはそうは思えない事情がある。それは特別仲良いということもない私に恋がわざわざ朝から声をかけにきた理由でもある。

 

「手合わせ、おねがい」

 

 三度戦って、二度私をぼこぼこにぶっ飛ばし、最後に六人がかりでやっとこさだったというのに……何を考えているのか、私に因縁を持っているつもりらしい。あまつさえ負けた気でいるようだ。

 三国最強による手合わせの申し出。私の憂鬱をよそに、聞き耳を立てていた兵たちのひそめた声がサワサワと増えていく。

 

「私と恋やと相手にならんやろ」

「……聞き捨てならない」

「そっちが上過ぎるってつもりやけど?」

「それはありえない」

「意味がわからない」

 

 戦闘、ことさら一対一の手合わせで、恋が私を上回っていないところがあるか?

 困惑する私を見て、恋もきょとんとしている。いったいどういった勘違いが起こっているのだろう。

 

「つまり私の方が強いかもしれんと? なんでそうなるんや」

「恋は、目的を果たせてなかった」

 

 恋はぽそりと話しだした。言っていることは攻撃途中に帰っちゃったり私の首を取れなかったりのことか? ……今更すぎる………。

 

「聆は、寝てた」

「うん、私がその状態になる前に自分がしたことを思い出そな?」

「……演技」

 

 つまり、あっけなく負けた演技をすることで武器も振らずに呂布を倒したことになってるのか。根本が違う。あっけなく負けた後に演技をしていたのだ。痛みですぐにも落ちそうな意識と涙をこらえてなんとか言葉をひねり出していた。

 しかし、そう言っても納得しないのだろう。いつぞや紫苑たちも言っていたことだが、実際に結果がある以上、私がどんなに自分を下げたところで謙遜、挑発にしかならない。となれば口先でできることはもうほとんど無いのだが、一つ気になるのは恋がどうしてそう考えるようになったかである。

 

「目的とか演技とか……私はその場その場で必死にやっただけなんやけど。恋も命は取らずとも自分は無傷で私っちゅう敵将に重症負わせて十分な働きやんか。なんでそんなことを。それこそ誰かに騙されとんちゃうか」

 

 恋一人でそういう考えに至るとは思えない。決してバカにしているわけではない。独特のテンポがあるだけで、地頭は良さそうだし、勘の鋭さではトップクラスだろう。ただ、その勘と圧倒的な力でどんな状況も打破できるがゆえに陰謀や演技を疑うことはあまりないはずなのだ。平定されて諸葛亮——朱里も味方になった後、誰が、呂布が私を意識するよう仕向けたのか。もしかすると新しいナニカが敵になったのかもしれない。……巷に流れる「鑑惺最強説」なるクソみたいなタワゴトを耳にしただけかもしれないが。

 恋はピンとこない様子である。「騙された」という言葉にイマイチ心当たりが無いのだろう。私は少し言葉を変えた。

 

「あー、私が強いとか、他の人が言いよった?」

「……星」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それで、どーするの?」

 

 一通り話を聞き終わって、沙和が小首をかしげた。

 

「どうするもこうするも。いまんとここうやって愚痴るしか思い浮かばん」

 

 まず勝つことは有り得ない。可能性が無いという意味でもあるし、仮に勝てたとしても、そうするとなおさら付け狙われるようになるだろう。ならば説得はどうかというと、これもイマイチ。なにせこの問題には"かかっている"ことが無い。単に戦いたいと思ったから手合わせを申し込んできただけ。何か目的があるなら、それを足掛かりに交渉や脅迫ができるのだが……。今回、強いて理由をあげるとすれば恋の闘争本能だろうか。恋は戦争についてはほとんど自分と家族たちの食費のために参加しているだけだったが、一方、戦闘においては少ない言葉ながら相手の技を批評したり自分の強さを強調したり。"強さ"についてのこだわりは根深い感じがする。そしてこうなっては、私が余計な言葉を使って逃げる度にそれを刺激してしまうだろう。と、ぼやけた思考で休み休み考えた。

 

「それこそ聆のことだから、わざと酷くやられて見せそうだと思ったが……」

 

 凪が不思議そうに顎を撫でながら背もたれに体をあずけた。確かにこれまで通り考えればそれも有りだろう。

 

「んー、入れ知恵した星に後悔させる狙いか。できるにはできるけどなぁ」

「できるんかいな」

「恋は嘘偽りない私の本気を試したいやろから、一旦手合わせを受けた後で『何で戦でもなしにそんな必死なん』とかなんとか言いながら適当やっとけば、ホンマに死ぬ寸前までボコスカにやられるやろう。最終的にいよいよ動けんなって、そこでとうとう呆れて帰り支度の恋に『大怪我で帰ったらえらい騒ぎなるから私はしばらくここにおる』とでも言って、あとはしばらく失踪。領の離れの潜伏先と、協力者……ここに残ってうまいこと誘導してくれる役と満身創痍の私を運んでくれる役をそろえればいけるな」

「……すらすらと出て来るということは考えてはいたんだな」

 

 凪の指摘通り、確かにかなり早い段階で思いついた策である。もっとも、策のつもりではなく、真っ先に浮かんだ無様に負けるイメージからなんとか挽回する方法をひねり出した結果であるが。

 

「星どころか他の手合わせ狂いの面々にも考えさせられるええ策なんやがなぁ」

 

 まぁ、なかなかの策である。恋なら本気でやりかねんと思う者も居るだろう。私については「また死んだふりか」と首を振る者が多いだろうが、一方、最近の私が「戦は終わったのに争いばかりだ」と弱っていた様に思い当たる面々もあろう。かえって真実味が増すというものだ。

 そうしていよいよ死んだとなれば……さて、誰が呂布を罰することができよう? 実力的にも、精神的にも。恋は「手合わせ」を求めただけであり、それは武将たち全員が多かれ少なかれやっていたことである。加えて恋は一応蜀のメンバーであるが浮いた位置に居る。旧派閥間の戦争にも発展しにくかろう。闘争本能と行き過ぎた向上心による不幸な事例として反省するしかないはずだ。私が一時的に抜けることによる混乱も有ろうが、大きく分裂しない限りは天才文官たちがうまく纏めてくれよう。

 

「やればいーの」

「やったれやったれー!」

 

 と、真桜に沙和も乗り気である。まぁ、こいつらは何も考えてないだけだが。

 ともかく私はこれを実行する気は無かった。

 

「……それこそ『何で戦でもなしにそんな必死なん』やわ。まず私半殺しにされとるし」

「でも呂布と戦うねやったらそんくらいしかたないで。このままやったらどうせコテンパンなんやろ?」

 

 真桜が極めてまっとうなことを言う。

 

「そうやけどなぁ」

 

 この策ももっとちゃんと考えたら穴が有りそう……とかを差し引いて、何をするにしてもさっさと決めてやらなければならない。ただ、私は何もしたくなかった。本当に、これからこそ国の始まりだとは思っていたが、それは民の統治とかの話で、まさか武将たちとやり合うことになるとは思わなかったのだ。これからは「原作」など無い物語――いや、そのまま私の人生である以上、ここで失いたくはないという欲もある。

 

「まぁ、呑め」

 

 なんとなしに机に突っ伏した私に、凪が静かに言った。顔を上げればなにやら神妙な顔である。

 

「凪ちゃん?」

「策がダメなら、勢いでどうにかするしかないだろう。しかし、最近の聆は冷静すぎるように思う。もう少し素直になることもあっていいはずだ。呑みでも年上の老将相手ばかりだろう……」

 

 戦の中盤あたりから問題だったところだが、ここに至っていよいよどうにかしなければならない。とりあえずコミュニケーションツールとしてではなく思う存分呑むというのは景気付けとして良い選択だろう。

 

「凪こそ素直になりいや。最近聆が他所行きがちで寂しいってんが本音なんやろ? ずるいやっちゃでぇ。悩みに答えるふりして」

 

 ところが、真桜はまた別のところに思い当たったようだ。指摘を受けた凪の顔を改めて見てみると、どうやらこっちが本当の事のようである。

 

「そうなん? 凪」

「そうなの~? 凪ちゃ~ん」

「べ、べつに、聆は一番の武勲をあげているし、しかたない。寂しくなんかない」

 

 ぷいとばかりに顔をそむけるが、耳まで赤いから意味は無い。

 

「それもう自白みたいなもんやん」

「あーーー、ホンマ狡いわ凪ェ。そない言われたら離れられんくなるやん」

「ねー、たいちょーが居るときはず~とこの調子で夢中にさせてたの」

「なー。ホンマクソが」

「おい」

「私が嘘で塗り固めて枯れとる間に凪はホンマ女らしぃなってしもて。吸うたろか」

「なにを!?」

「そらもうアレよ」

「凪のアレやな」

「やめろ」

「三人で吸ったらどれくらい残るかな?」

「減るのか!?」

「とりあえず私は三分の一はもらう。今後のために四分の一は残すとして……あとの十二分の五で分け合って」

「おい、私の……何かは知らないが……アレを勝手に分配するな!」

「ええやないっすかぁ凪先輩は太っ腹なんすからぁ」

「ぬわぁ、もたれかかるな! 吸うな! って酒くさ!?」

 

 俄に距離を詰めてしなだれかかった私の匂いに凪が驚愕した。それはそうだろう。

 

「ふふふ……この私に対して『まぁ、呑め』と。何を勘違いしとるか知らんが………酒なんか真っ先に頼る先なんよなぁ。一人でどんくらい開けたと思う?」

 

 そう。私は既にかなり……いや、異常な量を呑んでいた。どうやらいつの間にか私には酒関係のメルヘンチックな能力が備わっていたようだ。

 

「……樽でも空けたか?」

「くふふ……蔵」

「………」

「もはや知らぬ……体内へ無限に酒を沁み込ませながら、私は何があっても開き直って愚痴をまき散らすことに決めたのだ………」

「通りでさっきから戸がドンドンうるさいわけやで」

 

 戸の外に濃い怒りの気配が見える。そりゃあ、嗜好品の酒とはいえ蔵を空っぽにしたとあれば厳罰は避けられまい。制度外の私刑も恐ろしいものとなろう。

 

「南蛮兵になりてぇなぁ……」

「だめだこりゃなの」

 

 私はもはや脱力して床に大の字だ。そこへ戸を跳ね開けて乗り込んできたのは祭と桔梗に七乃さんだ。

 

「聆! ここに居るのはわかっておるぞ!」

「儂の酒に一体なんということをしてくれたのじゃ!?」

「儂らの、だろう」

「面白そうなんで見に来ました~」

 

 まさか天下の蛇鬼鑑惺が床に薄く広がっているとは夢にも思わなかったのか、三人となかなか目が合わない。そのうちに祭のむっちりした脚に踏みつけられた。

 

「聆は居ない……」

「何言っとるんじゃ」

「私の名前は髑髏仮面……」

「………」

 

 魏メンバー標準装備のドクロアクセサリーを顔に乗せてみる。とはいえ射貫くような視線は防げない。 

 

「……なら侵入者として捕縛じゃな!」

 

 桔梗がパンッと平手を拳で打って気合を入れるような動作をしたかと思えば、たちまち両腕をそれぞれガッシリと抱え込まれてしまう。祭たちのドデカい胸の柔らかい圧迫感は女の私にとっても魅力的だが、これからどうなるかと考えるとそれを楽しんでいるわけにも行かない。

 

「助けろ……」

「ちょっと沙和には荷が重いかな~って思うな」

「絡繰じゃ人の心は救えんのやなぁ……」

 

 お気楽な親友二人は流れるような熟練の動きで目を逸らした。長い付き合いを抜きにしても、最近では仮面遊びに興じていたことを不問にしてやっているというのに薄情なやつだ。

 

「凪……」

 

 しかしもうひとり義理堅い親友が残っている――

 

「初対面で真名を呼ぶとは無礼なやつだな。髑髏仮面とかいうやつ」

 

 ――という望みはバッサリと切って捨てられて。私は不祥事を起こした将が受けるべき当然の仕置を受けることとなった。クソが。




何も解決していない…


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逃走!蛇が住むなら藪の中!?

戦う心すら捨てる系主人公


 結局私は蔵荒らしの罪で、呑み干した酒を私財で補填させられたうえに一晩中鞭打ちを受けた。しかしその次の朝にも職務は変わりなく始まる。その内容としては、やはり戦時中と同じく警邏がメインだが、これには他所からきた将が街を回って蜀の住人と仲を深めるという意味合いもあった。城で暇そうにしているといつ恋に声をかけられるとも分からないので、その職務を口実にこれまで以上に長い時間を街で過ごす。しかし、ずうっと歩き回っているのもなんだ。かといって毎度茶屋や料理屋に入っていれば高くつく。そういう点で、私は立ち寄れるアテがいくつかあって幸運だった。

 

「よう、調子はどないや?」

「いやいや、おかげさまで」

「くく、まだ特に何かしたった覚えは無いけどな」

「いえいえこうしてお顔を出していただけるだけでも助かることがございますよ」

 

 もともとは武でも智でもなく情報でなんとかするつもりで生き抜いてきた私である。必要以上に市民に根を張り過ぎて華琳に警戒されたこともあるほどだ。そのときに懇意にしていた人物が何の縁かこちらに移って来ていて……という程上手い話ではないが、少なくとも手紙や又聞きで私のことを知っている商人は少なくなかった。そういった手合いは、噂に聞く鑑惺の力添えを得ようという下心も有ろう、私が少し寄れば快く座敷に招き入れてくれる。

 そうして数日。とうとう恋が私を探して街中を頻繁にうろつくようになってきたころ。その商人たちの筋から、ある報せが城に持ち込まれた。

 

「国土南端に不穏な影、か」

 

 領内で最も南を走る街道沿いに、奇妙な野盗がうろついているらしいという。野盗、と言っても、人間かどうか怪しいとか。妙に小さいしすばしっこいし、食べ物ばかりを狙っている。と、そこまで聞いた辺りでだいたい皆察しがついた。

 

「南蛮、ね」

 

 紫苑が言った。

 南方の小さくてすばしっこい奴らと言えば南蛮である。一応美以が蜀、そしてこれからは魏に従うことになっているといえども、そもそも美以がどの程度南蛮兵たちを制御できるかというと微妙なところ。

 

「やっと身内の不祥事以外の事件じゃな」

「せやね」

 

 桔梗め、自分も一度やったくせに皮肉めいた目で見てきやがる。

 

「いやぁ、私もこんな仕事がしたかったんよ」

 

 ともかく、これまでも、美以を抑えてからは大きな侵攻こそ無かったが、南方の防人の頭を悩ませる案件はだいたい南蛮がらみだったようだ。しかも最近は美以がこっちに居っぱなし。南蛮内部で何が起こっているか余計に分からなくなって当然である。下手をすれば王である美以が攫われたと考えて攻撃の機会をうかがっているという可能性も考えられる。命令するのもされるのも南蛮人の性に合わないが、美以は慕われてはいるようだし。

 

 

「と、いうわけで! やってきました南蛮密林!」

「南蛮大王直々の案内で旅行できる思たら贅沢なことやで」

「ドーンとまかせるのにゃ!」

 

 ひとまず美以を戻してみようという対応である。ただし、もし本当に蜂起の気風が高まっていたら、美以の方が逆にそれに乗せられないとも限らない。そうでなくともどう暴走するか予想がつかない。そういうわけで、付き添いが必要だった。それが、私と真桜だ。正確には真桜は私の付き添いだが。美以の付き添いの私に南蛮特有のトラブルが発生した場合にその発明力でサポートするのだ。

 

「うわぁ……それにしても同じ森でもここまでと雰囲気変わるなぁ」

 

 そして山越え谷越え、いよいよジャングル目前。その道程で報告にあったようなゴタゴタは無く。

 それもそのはず、南蛮の動きが活発になっているという情報は、真実と予測をもとにした嘘である。南蛮兵が断続的に蜀領に入ってトラブルを起こすことがあるのは本当だし、王が居なくなれば不安定になるだろうというのも当然の予測である。しかし、それで実際に活発化し、国境の警備を掻い潜って街道の商人を襲ったかというと、嘘。

 いやぁ、私は恋と離れられて、南蛮は混乱を予防できて、素晴らしい策である。やはり死んだふりで離脱なんかより、素直に任務で遠征するべきだ。

 まぁ、私の問題については時間稼ぎであって根本的な解決にはならない。しかし交流期間が終われば逆に各々地方入り乱れて恋の興味の対象も移るかもしれないし、忙しいからと躱す口実も増える。そのうちにじっくりと考えることもできるだろう。それよりなにより開放的な文化の中でゆっくりと心を癒すことができそうだ。南蛮が問題になるのは三国側の文化に合わないからであって、こっちが脳味噌をオフにして飛び込めばいい話である。お共に真桜を選んだのも、実は発明よりお気楽な性格を見てのことだった。

 

「おかえりにゃ~」

「だいおーしゃま~!」

「うむ! またせたのにゃ!」

「どこ行ってたのにゃ~!?」

「みんなもよんでくるのにゃ!」

 

 そうしてシダやツタを掻き分け掻き分け森に入ってしばらく進むと南蛮人に出くわした。一匹見れば三十匹、ではないが、美以の姿を見ては仲間を呼び集めニャーニャーニャーニャーと雪玉を転がすように取り巻きが増えていく。私と真桜にも興味津々のようだ。

 

「それで、今はどこに向かっとるん?」

「ムラにきまってるにゃ!」

 

 美以の後ろで、私は真桜と顔を見合わせた。初めからどうにかして入るつもりではあったが、まさかこうもあっさり招き入れられるとは。もう少し民族の秘密とかなんとかでもったいぶられるかと思っていた。その理由も、こっちが訊かずともすぐにこぼれ出る。

 

「おみゃーたちには『イッシュクイッパンノオン』もあるからにゃ! みんなでオモテナシするのにゃ」

「へ、へぇ、そりゃ楽しみやで」

 

 真桜は南蛮のエキセントリックな料理を思い出したのか引き攣った顔。らしくないことに私たちが世話したのは「一宿一飯」どころじゃないと突っ込むのを忘れていた。

 

  ――――――――――――――――――――――――――

 

「ほぉ……これは凄いな」

「これ村か!? むっちゃおもろそうやん!」

 

 高く高く絡まり合うようにそびえ立つ木々によって日光も遮られ、奥へ奥へと分け入り方向感覚もすっかり無くなった私の前に、パッと明るい広場が現れた。真ん中に焚火跡がある以外何のこともないかと思いきや、少し上に視線を移したとたん、真桜ともども思わず声をあげてしまった。

 あそこにも、ここにも。木の葉や蔓で思い思いの形に作られたエナガの巣のような家がいくつも、広場の周り、高さ二十丈もあるような木々のてっぺん付近までバラバラとくっついている。

 その真ん中の一点だけ日の光でスポットライトのようになったところに美以が立つ。

 

「みゃおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!!!」

 

 高い声が森にしみ込むように消える。この広場の周りはもちろん、まだまだずっと奥からもザワザワと木々を揺らしながらたくさんの気配がやってくる。南蛮兵の大集合だ。

 

「まつりにゃ!」

 

 そうしてまだ集まり切ってもいないうちに美以が言った。しかし相手も南蛮人。急な話なんて気にもせずに祭りと聞けば色めき立った。

 

「まつり?」

「まつりにゃ!」

「なんでなのにゃん?」

「なんでもいいにょ」

「お肉をもってくるにゃ!」

「くだものにゃ」

「歌うのにゃ!」

「おどるのにゃー!」

 

 騒がしく行っては帰って人数も数えられないうちにどんどん祭りの準備は進む。準備……というかとにかく色々なものが広場に投げ込まれるように集まっているだけだが。何かの肉……いや、死体そのまま。見たことない果物や魚。あと、うず高く積まれたイモムシの山はあれどういうつもりだろうか。しかしその混沌とした様相のうちに私と真桜は美以に手を引かれ、焚火の前に連れてこられた。美以の隣、たぶん上座にあたるところだと思う。

 

「にゃー、にゃー、にゃー」

 

 風呂かと見まがう巨大さの土器の鍋が焚火の上に掛けられてからしばらくして、美以がその武器、肉球ハンマー『虎王独鈷』をかかげながら立ち上がった。祭りの初めの大号令だろう。しかし、南蛮兵は静かにそれを待ったりしないし美以もそれを気にしたりしない。

 

「今日はひさしぶりにもどってきたし、あたらしいナカマもいるのにゃ!」

「えーっと、私の名前は聆。よろしく」

「いきなり真名かいな!?」

「逆にここには姓とか字とか無さそうやし。美以は大陸風の名前持っとるけど」

「えぇー……? えーっと、ウチは真桜や。よろしゅうな」

「うんうん、めでたいのにゃ! おいわいにいっぱいおいしいものを食べて楽しいことをするのにゃ!」

「「にゃ~!!」」

 

 大きな葉っぱを二枚ほど重ねた皿に次々と料理が乗せられる。だいたいは我先にという勢いで食べているが、一応私たちはお客様待遇らしい。が、それは真桜には都合が悪かったようだ。メイン料理として特に多く渡された、言葉に表しにくい複雑な風味の煮込みはやはり苦手で、果物ばかり食べる方が真桜の舌には優しい選択だったらしい。嫌な予感の通りに食用だったイモムシが盛られたときなんかは面白い顔色をしていた。まぁ、これは一度口に入れてみれば気に入ったようだ。私はというと前回の料理勝負の時と同じくほとんどの南蛮料理を楽しめた。しかし途中に出て来た苦くて臭い茶色い物体はどういったものだろうか。美以は身体が丈夫になると言っていたが。

 煮込み料理が食べつくされて焚火があいたら、こんどは誰がともなくニャーニャー声を張って歌う。曲がった木や一本しか弦の無い琴のようなものが奏でる変則的なリズムに合わせて転がるように踊り出した。

 

「ここは参加するんが粋ってもんやな」

「真桜どっちやる?」

「まずは踊りやな」

「『まずは』な。どっちもやる気か。ま、良えこっちゃ」

 

 真桜は螺旋槍を持って焚火の前にとび出した。何をするのかと見ていると、それを地面に突き立てて、ドリルを回す反対に自分が高速回転してみせる。踊りかどうかで言うとたぶん違うが、やっぱり南蛮人はそんなこと気にしない。真桜の飛び入りは拍手喝采で迎えられる。これは負けていられない。私の方も、普段は殺意100%、部隊への指示に使うシャウトでリズムに加わった。

 

 どれほど経っただろうか。森に入ったのは昼前で、村に着いたらすぐに宴会が始まって、今真っ暗だから……ダメだ。時間の手掛かりになるものが無い。ひょっとすれば夜明け近くかもしれない。方向感覚に加えて時間間隔まで失うとか魔境かな? まぁ、木のてっぺんまで行って星を見れば分かるだろうけど、今は眠いし明日でもいいだろう。

 今夜の騒ぎそのままに折り重なるようにして眠る南蛮兵たちに埋もれながら、私もゆっくりと目を閉じた。休むつもりでここに来たんだし、何かを真面目に考えることも虫刺されの数を数えることも、全部後回しでいいだろう。




ここから怒涛の展開……にできたらいいなぁ


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勃発!南蛮騒乱!?

もう注意も無しに何回もやっちゃってるので今更ですけど今回は一刀視点です。
あと誤字脱(以下略


「……まさかこうなるとはね」

 

 玉座の華琳がため息をついた。

 交流期間も終わり。華琳や桃香、蓮華たちによる洛陽での話し合いもうまく決着がついた。そうして出来上がった法律に組織図その他もろもろの新しい取り決めの発表や、なにより国の始まりを祝う式典のため、各地に分かれていた娘たちも洛陽に集まってくる予定だった。「予定だった」というのは、つまり予定通りにいかなかったわけで。実際にはいざという時のために蓮華と他数名を魏に残して、逆に俺たちの方がこうして成都に駆けつけることになった。

 

「すぐに前線に出ないと。話を聞く限りだと、祭たちもいつまで持ちこたえられるか分からないわ」

「ええ。これ以上の侵攻は絶対に食い止めなければならない」

 

 洛陽からここ、成都までの道のりの疲れを癒す暇もなく、また更に南へ。

 

「美以ちゃん、どうして……」

 

 桃香が物憂げにつぶやいた。

 進む隊列は大戦に逆戻りしたような厳戒態勢。

 南蛮の蜂起によって、蜀の国境は陥落していた。……それだけじゃない。聆、真桜が南蛮の調査から戻らず、様子を見に行った七乃さんと紫苑さん、美羽も"そのまま"だと言うのだ。

 

「璃々ちゃんのためにも、早くなんとかしないと……」

 

 紫苑さんは璃々ちゃんにとってはたった一人の母親だ。防衛のため成都に残っている桔梗さんが璃々ちゃんのケアもしてくれているけれど、……急がないと。しっかりした娘で、今日の出迎え兼見送りでちらりと会ったときこそ笑顔を見せてくれた。でも、目の周りは赤く腫れていた。

 聆と七乃さんがいっしょのはずだ。必ず元気で居てくれる。あとは俺たちの頑張り次第だ。

 

「見通しが甘かった……? いや、人選はしくじっていないはず……」

 

 逆側に目を移せば、華琳も頭が痛そうだ。

 

「北の方が断然脅威のはずだから、な」

 

 交流期間の間、魏呉蜀のどこに誰が行くか決めるとき、実は一番重視したのが異民族対策だった。戦勝国であり、新しい魏の首都を置くことになる旧魏に華琳、桃香、蓮華とその側近たちが付き従うのは当たり前と言えば当たり前だけど、まだ国が不安定な間に北の遊牧民族が攻めて来た時に対応するため「最高戦力」を集める思惑が有った。反対に、呉は民を安心させるために雪蓮を置いたけれど、それ以外は療養中の靑さんや蒲公英のような経験の浅い将に行ってもらっていた。そして問題の蜀はというと、ひょっとすれば「最高戦力」よりも強いかもしれない切れ者ぞろい。怪我をしていたとはいえ三国最強の恋も居た。そこに袁家を入れたけど、本命は西への対策だった。

 

「無理もないです。今になって南蛮の皆さんが脅威になるとは誰も予想できませんでしたから」

 

 と、朱里の言うように南蛮は視野の外だった。なんせ南蛮の王である美以は仲間のはずだから。もっと言うと、それを抜きにしても敵になるような力が有るとは思っていなかった。

 

「……ええ。実際にコトが起こっている以上何にもならない繰り言だけれど、南蛮がここまで攻撃能力を持っているなんてありえないわ。大戦中の話を聞いた分にも、その後実際に会った分にも……」

「美以を余裕で七回生け捕りにしたっていうし、そもそもあのお気楽具合じゃ戦争らしい戦争もできないだろう」

「その見立ては間違っていないでしょう。南蛮のみなさんには継戦能力がありません。おやつにとっておく程度ならまだしも、組織的に食糧を溜めるという概念を持っていません。しかも一刀様が言うように、お気楽……つまり目的意識が無いですから、反撃されて少しでも痛い思いをすれば勢いが萎えるはずです。それに加えて、防衛でも強いとは言えません。南蛮の領域である密林はやっかいですが、美以ちゃんが直接出て来るので」

 

 とにかく「もっと楽しいこと」のために行動する美以たちにとって、勝つための作戦会議や準備みたいな「楽しくないこと」をするなんて本末転倒もいいところ。そして、それも無しに勝てるほど俺たちは甘くない。

 

「それがこうなった、ってことは――」

 

 真っ先に疑うべきは何者かが仕組んだ嘘。でも、この事件についての出撃要請書は、内容のほとんどのことが「調査中」になってしまっているけれど、蓮華によれば紛れも無く祭さんの字だと言う。それに最後に書き連ねられていた署名もそれぞれちゃんと蜀に居るみんなの字だった。

 

「南蛮に、急激に大きな変化が起きたと見るべきでしょう。少なくとも、美以ちゃん以外に指導者となる人物が産まれた……」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「静かな様子だけど、報告によればここが最前線になってるんだよな……」

 

 歩きに歩いて、ようやく蜀の"今の"南端にやってきた。谷をすっぽり埋めて塞ぐように作られた砦。こういうところを見ると何となく思い出すのは反董卓戦の虎牢関だけど、今は俺たちがこの砦を頼みに守る側だ。旗も立ってるし、城壁の上に人影も見える。ひとまず無事みたいだ。

 

「……ええ。いざ着いたときどうなってるか分からないから拠点までの移動のつもりではなく臨戦態勢で来い、ともね。幸い、今のところ堕ちている様子は見えないけれど。春蘭、何か気付いた?」

「いえ。……ただ、戦に関わるかは分かりませんが、なんと言うか、妙な臭いがします」

 

 まさか血の臭いかと一瞬焦ったけど、それなら春蘭はよく知っているはずで。「妙な臭い」とは言わないよな。それについて深く考える前に門が開いて俺たちの注意はそっちに移る。嬉しそうに駆けて来るあの人影は、沙和だ。

 

「たいちょー! 華琳さまー! 春蘭様も! やった、これで助かるのー!」

 

 手を振っている姿からは元気そうに見えるけど……髪も目に見えて傷んでるし、服にも泥か何かの汚れが見える。おしゃれに並々ならぬこだわりを持ったあの沙和がこの調子なんて……些細なことだけに、かなりリアルな切迫を感じた。それともう一人、かなり小さな娘が。あれは、呂布の軍師の陳宮……音々音だ。

 

「ぬー! ずいぶん遅かったのです! それで、どいつを連れて来たのですか」

「華琳様に対して何という口のきき方だ!」

 

 ねねの荒々しい言葉遣いに春蘭は不満げだが、ひとまず話を進めることにする。ねねのこれは言っても直らなさそうだし、なによりそんなこと言ってる場合でもないしな。華琳もこういうところで咎めたりはしないってのは今までの付き合いで分かる。

 

「ここに居る華琳に俺、春蘭だろ」

「華琳様の次には私の名を言わんか! 北郷のクセに生意気な!」

「あと、秋蘭、桂花、桃香、朱里、愛紗、鈴々、焔耶、穏、明命……それに10万の兵が、まずこの隊列でどんどんやってくる」

「無視するなぁ!」

 

 頼もしい仲間たちの顔を思い浮かべながら指折り数える。うん、抜けは無いはずだ。

 

「それと、呉の方から雪蓮と冥琳、季衣、琉流、風が来る手はずになっているわ」

「まぁ、急に揃えたにしては良い戦力なのです」

 

 ねねは少し安心したのか、ほんのちょっと満足そうに表情を和らげた。けれど、すぐにキッと眉を上げる。ついでに両腕も振り上げる。

 

「でも劣勢に変わりないのです。早く配置につかせるのです!」

「配置も何も、戦況を理解しないことにはどうしようもないでしょうよ」

「こっちに上がって来てた報告書も急かすばかりで内容がまとまってなかったし、どうなってるんだ?」

「その目で見れば良いのです! とにかく手と物資が足りないのです。ねねももう現場の指揮に戻らなくちゃならないので。軍師はどんどん指令室に案内するのです! 他の事は、メガネ、任せたですよ!」

「もう、『メガネ』じゃなくて沙和なの~」

 

 ねねは沙和の抗議に一瞥もくれず足早に門の中へ引っ込んでいった。

 

「沙和――」

「言いたいことはなんとなく分かるけど、ねねちゃんの言う事も正しいの。こっち! あ、兵士さんたちは広場で待機しててね~」

 

 沙和に案内されて、ねねや後続の兵士たちと別れ、俺たちは城壁の上へ延びる大階段を上る。そこまで行くともう一気に戦の空気だ。段に腰かけて休む兵たちをすりぬけながら上へ上へ。

 

「なんじゃこりゃあ!?」

 

 頂上に着いた俺は思わず声をあげてしまった。

 

「森が……迫ってきている……!!」

 

 轟轟と熱い風が顔に打ちつける。湿っていて、淀んでいて、獣の息吹をそのまま浴びているような南風。

 砦の向こう側、門からほんの数十メートル先からは、草木が境界も無く絡み合うジャングルに沈んでいた。

 

「ヤツらの兵器、『木偶蟲』じゃ」

 

 見張りとして立っていた祭さんが、険しい表情で密林の方を睨んだまま言った。

 

「蟲……?」

 

 何のことかと辺りを見回しても、それらしいものは見当たらない。もう一度よく訊こうかと思って祭さんの方を見て、その視線の先にあるものに気が付いた。

 さっきと変わらず森の方を見ている。祭さんが言っていたのは、俺たちがさっき驚いた「迫って来ている森」のこと。……青々とした葉の隙間にのぞく、複雑に絡まった幹のように見えていたものは……どうやら純粋な植物じゃない。扁平な円盤の周りに八本の脚が生えたものが知恵の輪のように絡み合っていた。その一つ一つは、見ようによっては確かに虫に見える。脚を広げれば4メートルもありそうなそれは、虫と言うにはあまりにも大きいけど。

 

「木と土でできた巨大な人形。アレが群れを成して突撃して来るのじゃ。ただそれだけでも脅威じゃが、倒してもあのように、そのまま障害物となる。半面、向こうはそれを立体的な足場として使ってくる。しかも体中に成長の早い草の種を仕込んでおるらしい。一度雨が降ればこのありさまじゃ」

「うへぇ……」

「これでもかなりキレイにしたのじゃがな。ほれ、そこの石段についておる傷。アレの脚によるものよ」

「際限なく向こうの領域が広がるということね。この撤去が先決、か」

「そうだけど、切羽詰まってるのはどこもなの。目についたところからどんどん応援を入れてくださいなの」

「そうじゃ。昼も夜も、道も無視してやってくるから見張りは限界に近い。やっかいな毒まで使いおって薬も医者も足りん。それに何より――」

 

 祭さんの言葉が止まる。理由はさっきの蟲と違ってすぐに分かった。みんなより随分氣に鈍い俺でも目に見えるような、このヒリつく圧迫感。「何より……」と口に出そうとした、まさにその人が現れたに違いない。

 

「来たか……!」

 

 目も眩むような極彩の衣装に身を包んだ彼女は、祭さんが先手で放った矢をピクリとも動かずに叩き落して見せた。周囲に浮かんだ五枚の刃がゆらりとこちらを向く。顔に垂れ下がった前髪とヴェールの下で、口角がつり上がる。白い牙がギラリと光った。

 

「祝融ッ!」




ギャグ書きたい,バトル展開したい,「仮面舞闘編」とは何だったのか,趙雲が暗躍してるっぽいのはどうなった,呂布放り出すのか,「オリ主がちょっとアレなことになります」って何,美羽様かわいい
→オリ主を失踪させつつ存在自体がギャグ枠の南蛮で乱を起こし仮面系戦士を登場させ呂布に暴れてもらい最終的に趙雲にフォーカスをあてる。美羽様は何やってもかわいい。
天才かな?(アヘアヘ


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