ハリーポッターと3人目の男の子 (抹茶プリン)
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1980年〜1981年

初めまして、抹茶プリンです。少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
#ルシウスとベラが話す時の態度を変更しました


温かくて居心地が良い空間から少し寒くて眩しい場所へ出されたとき、自分が赤ん坊であり、異質な存在であることを自覚した。

赤ん坊であるのにも関わらず、しっかりとした自我を持ち、様々な知識を持っているのである。輪廻転生というものだろうか。輪廻転生したら、前世の知識を引き継げるのかは知らないが。

あぁ、言い忘れていたが、恐らく前世で培った知識が自分の中にあるが、どのような人間だったか、何をしてきたかとかそういった記憶は引き継がれていない。だから、前世の自分について知ることは出来なさそうだ。英語で思考しているから英語圏の人間だったことは分かるが。

 

まともな人間ならそのことを恐ろしく感じるだろうが、俺にとって記憶が無いのが当たり前のこととして認識されているようで不安を感じることは無い。

 

自己整理していた俺の身体が突如持ち上げられ、尻を叩かれる。突然の出来事に驚いた俺はうぎゃーと泣き叫んでしまった。どうやら俺はまだ自分の力で呼吸をしていなかったようで、肺呼吸をさせる為に叩かれたようだ。

 

何はともあれ再び命を頂いたのだ。一生懸命に生きて行こう。

 

1980年6月7日、フィリップ家の嫡男が大きな産声をあげた。

 

 

 

 

 視力が上がったことにより、ようやく周りの状況が把握出来るようになった頃、この世界が自分が生きていた世界とは大きく異なる世界だということに気がついた。

家族は棒のようなものを振って現実ではおこりえない事象を起こすし、時折、ゴブリンとはちょっと違う小人が家政婦のようなことをしているのだ。

 

どうやら俺は”ファンタジー”の世界に生まれてきたらしい。

 

このことは驚きはしたがすぐに受け入れることが出来た。

これについては、知識はあっても昔の自分の記憶が無いおかげで柔軟に受け止められているからだと考えている。輪廻転生したことに対する受け止め方と同じだ。

 

今回はそれに加えて、生活していくことが恐らく心配する必要がないことも関係している。

フィリップ家は地位の高い家系だ。ヨーロッパの貴族が住んでいるようなお屋敷に住み、フィリップ家に子供が生まれたと聞けば多くの人が集まり、集まった人の多くは父に畏まった態度をすることから相当な地位と名誉を持つ家だと分かる。

父と母の様子だけ見るとそこまででは?と思ってしまうのだが……。気品は感じるのだが、そこまで地位のある人かと疑問に感じる時があるのだ。

 

 

 

 最近、家に訪ねてくる人が増えてきた。それも様々な種類の人達が。

ある日は、どこか落ち着かない様子の男性が訪れ、ある日は、高級そうなローブを来た上品な男性が訪れ、ある日は、煤だらけで見窄らしい格好の男性が訪れ、ある日は、厳つい顔をした男性が訪れる、このような感じなのだ。

この人達は大きく分けて二つのカテゴリーに分けることが出来る。

忙しなく時間的に余裕が無い人と、落ち着いており余裕がある人だ。

 

父に抱っこされ甲斐甲斐しく世話されていたとき、呼び鈴を鳴った。今日も人が訪れてきたようだ。今日こそは何故この家に人が来るのか知りたいものだ。

 

屋敷しもべ妖精のプーワに連れられ男女2人組が入ってくる。どうやら今日は慌てている方の人達のようだ。

 

お客様が来たら俺はすぐに隣の部屋に移される。このせいで声が聞こえなくなり、何故くるのかが分からないのだ。

父にそっと乳母車に戻される。

それを確認したプーワが隣の部屋へと乳母車を押し始めた。

 

今日も謎は解けなさそうだ。

 

しかし、幸運なことに諦め落胆する俺の耳に男性の声が飛び込んできた。男性は少しでも時間が惜しいらしく、矢継ぎ早に喋り始めたのだ。

 

「フィリップさん!いい加減に決断してください!こうして悩んでいる間にも”闇の帝王”の力は日に日に強くなっています!あなたがこちら側についていただければ、仕方なく死喰い人(デスイーター)に従っている人も決断することが出来るんです。ホグワーツであなたのことを慕っていた人達のことを思い出してください……。これ以上被害を大きくしてはならないんだ……。」

 

男性の最後の声は絞り出すような声で、聞いた人を心配させるようなものであったが、今の俺には気遣えるような余裕は無かった。

 

男性の話から聞こえた聞き覚えのある単語から連想されるものが驚愕的なものであったからだ。

 

闇の帝王、死喰い人(デスイーター)、極めつけに”ホグワーツ”。

 

これはあれじゃないだろうか。もしかして、この世界は「ハリー・ポッター」の世界何じゃないだろうか。

今思えば、大きいな屋敷などで働く小人を屋敷しのべ妖精と呼ぶのも一致している。

 

本当に「ハリー・ポッター」の世界なのかは分からない。だが、もしも「ハリー・ポッター」の世界だとすれば大変なことになる。

 

プーワがドアを閉める音は、やけに重く大きく聞こえ、耳にいつまでもこびりついた……。

 

 

 

 本当にこの世界が「ハリー・ポッター」の世界なのか、もしそうであるならばどこらへんの時期なのか知る必要がある、そう思った俺は情報を集めることにした。

ハイハイをしてもおかしくない時期であるし、危険があると魔法が助けてくれる便利機能もあるらしいので、そこらへんを歩いていてもにこやかな顔を向けられるだけであった。プーワはヒステリックに叫んでいたが。

 

今日もハイハイという意外にも体力を使う移動手段で冒険をしていた俺は、机の上に新聞紙が置いてあるのを発見した。

机の足にしがみつき、徐々に体を持ち上げて行き、寄りかかってはいるものの2本の足で立つことに成功した。妙に感慨深く感じた。

左手で机の足をつかみ体を支えながら、机に載っている新聞紙を地面に落とした。

 

『日刊予言者新聞』

 

新聞には大きく会社名が書かれていた。「ハリー・ポッター」で登場する新聞社だ。

ここまでくると受け入れざるを得ない。俺は「ハリー・ポッター」の世界に転生してしまったようだ。

 

少なからず衝撃を受けた。

本来、小説の世界でフィクションであるものの中に来てしまったのだ。常識を覆された。

それに「ハリー・ポッター」は友情とか恋愛とかどこかほっこりする部分があるものも基本ダークファンタジーな部分がちらほら見える。原作の後半では、名前も気配も感じなかった人達が拷問されたり、殺されたりとひどい目に合っているはすだ。

正直言って、これからの人生がかなり不安である。

 

そうだ、年月を調べなくては!闇の帝王ことヴォルデモートが力を付ける機会は二回ある。

一回目はハリーが生まれる前。二回目は体を取り戻した後。一体どちらの時期なのか。

新聞に目を戻す。

 

『1981年4月23日』

 

これは原作前ってことか?確か原作の最後の方が2000年近くであった気がする。つまり波瀾万丈の年代に生まれてきた訳か。大変だ...。

 

 

 

 

 悲鳴が聞こえる。今日はカラっとした暑い日でなかなか寝付けなかった。ようやく寝れたと思っていたのに悲鳴のせいで飛び起きてしまった。

 

ガラスが割れる音や怒鳴り声、物を打ち付けるような音が聞こえる。

 

なんだか様子がおかしい。一体何が起こっているんだ?

 

しばらくすると音が止んだ。

 

またしばらくすると、俺のいる部屋に向かって複数の足跡が聞こえ始めた。

 

これはマズくないか?何者かによって襲われ、父と母は敗れたと考えるのが自然じゃないだろうか。

この時勢で敗者が生き残っている可能性は低いだろう。だから父と母は死んだと思う。

二人が亡くなったことが悲しいし、襲撃してきた人物達が憎いが、正直に言えば約1年しか一緒に暮らしてこなかったのだから、そこまで気持ちに揺れが無い。俺は冷めているのだろうか。

 

徐々に足音が大きくなっている。

 

とにかく逃げなくては。乳母車のふちにふとももをのせ、乳母車を乗り越えた。

そしてなるべくゆっくりと降りようとする。

しかし、足が届かず転げ落ちてしまい、大きな音を立ててしまった。

 

その音が聞こえたのだろう。足音が歩く音から走る音に切替る。

 

なんとかしなくては!移動するにしても既に遅すぎる。こういったときにこそ魔法が発動すれば!必死にこの状況を逃れられることを祈った。

 

だが、どの世界も共通らしく、どんなに強く願ったことであっても運という要素が加わると、その願いが叶うことは難しくなるらしい。

 

状況は変化すること無く、部屋の扉が勢いよく開き、ドタドタと杖から光を出す4人の男女が入ってきた。

 

「見てごらんよ!こいつったらいっちょまえに逃げようとしているよ。この優秀そうな子供がルシウス、あんたの子供になるなんて羨ましい限りだね!」

 

四人の中で唯一女性である女が鋭い声で叫んだ。

 

ルシウスだって!?まさか、ルシウス・マルフォイなのか!?それに子供にするってどういうことだ?

四人の顔を覗き込もうとするが、光が眩しく覗き込むことが出来ない。

 

「大きな声を出すな、ベラトリックス。そのことについては既に話し合っただろう。それに闇の帝王のご指示だ」

 

ルシウスがどこか憮然とした口調で話すと、ベラトリックスは舌打ちをして黙った。

 

「早めに済ませよう。俺たちはこれから色々な処理をしなきゃならないんだ」

 

ルシウスとベラトリックスの後ろに居る二人のどちらかがいらただしげにしゃべる。

 

「私はこの子を連れて帰る。後の処理は頼んだぞ。くれぐれも慎重にな」

 

三人はうなずいた後、部屋から出て行く。

 

ルシウスはそれを確認すると再び俺の方を向いた。そして静かにこちらに歩き、大事そうに俺を持ち上げ抱っこした。

ルシウスは俺の顔を数秒見つめた後、何かを呟いたが、それは本当に小さな声で聞き取ることは出来なかった。

 

 

 

 玄関を開け、家の敷地へと歩き出す。全く状況が把握出来ない俺は既に考えることをやめ、初めて見る家の敷地にある数々のオブジェをボーと眺めていた。

 

無駄に広い土地を暫く歩き、門から敷地外へと出た。

ルシウスは立ち止まり、マントから杖を取り出した。

次の瞬間、周りが回転しているのか、自分が回転しているのか、はたまた両方が回転しているのか分からないが、すごい勢いで回転し始めた。さらには四方八方からぎゅうぎゅう押さえつけられている気がした。

 

始まりと同じように終わりも突然やってきた。ピタッと回転が止まり、重圧も無くなった。そして、先程居た場所ではなく、月明かりに照らされた細い道に移動していた。

周りを見ようとしたが、酷い倦怠感(けんたいかん)と気持ち悪さが押し寄せ、ルシウスの中で吐き出してしまった。胃の中の物を全て出したんじゃ無いかと思うほどの量を吐き出した俺は、ふわりとした感覚が体を襲い、気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の前世の自分の記憶を無くした理由は、主人公の人格は完成してなく、これからの経験によって成長したり捻くれてしまったりする可能性があって欲しかったからです。分かりづらかったらすみませんorz


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ハリー・ポッターと賢者の石
ダイアゴン横丁


映画の部分と小説の部分が混ざっています


 「セルス!おい、セルス、早く起きろ!」

 

布団をはがされると同時に耳元で大声を出され、強制的に起床させられた。心地よく寝ていたところを起こされたので実に不快だ。

 

「なんだよ、ドラコ……。起こすにしてももっと優しく起こしてくれよ」

 

反動をつけベットから起き上がった俺はドラコに文句を言った。

 

「一度声をかけても起きなかったんだ!それより今日はダイアゴン横丁に行く日だろ。早く準備をしろよ。父上も母上も待っているぞ」

 

「ああ、わかったよ。すぐに用意するよ」

 

俺の返事を聞くとドラコはさっさと部屋を出て行った。

余程楽しみなんだろうな。だが、入学準備が楽しいのは理解できるんだが、いささかわくわくしすぎなんじゃないだろうか。

少し不満はあるが、待たせるのはいけない。タンスを開け寝着から外出用の服に急いで着替える。

 

着替え終わった俺は一階のリビングに向かった。

 

部屋から出て家族が居るであろうリビングに向かうまでの暇な時間、この10年間のことを振り返った。

ルシウスによってさらわれた日から数日たった日に、純血の家系や高位の方々を集めたお披露目会が行われた。俺のお披露目会である。

そしてそこでは、マルフォイ家の二男として紹介された。今まで知らせていなかったのは、病弱だったからだと説明されている。

自然に受け入れられたのは魔法省に根回しをしたからなんだろう。

後に分かったことであるが、フィリップ家の嫡男は亡くなったことにされていた。当時の闇の勢力の影響がどれだけ大きく、深いところまで影響力を持っていたことが簡単に予想することが出来る。

 

マルフォ家の二男になって二ヶ月ぐらい経った頃だろうか、闇の帝王が打ち倒された。原作通り打ち倒したのはハリーだった。

それからのマルフォイ家は忙しかった。

家にある様々な物が家の外へ運び出されたり、家の隠し部屋へと運ばれた。ルシウスが家にいるのは珍しく、忙しなく動き回っていた。各所に根回しをしていたんだと思う。

家へとやってくる役人が消え、落ち着ける状況になったのは、闇の帝王が打ち倒されたという話が広まってから一年ほどたったころだった。

 

闇の帝王が打ち倒されたことにより、闇の帝王の命令によって押し付けられたであろう俺は、ハリーのように惨めな暮らしをさせられるか、孤児院にでもほうりこまれると思っていたのだが、何年経ってもそのようなことは起きなかった。

むしろドラコと同じ量の愛情を受けながら育った。余所の子であると思わせる素振りは一切無かった。

つまり、この十年間はドラコと遊び回り、パーティーに出たり、貴族のマナーを学んだりする素晴らしい幼少期だったと言える。

だから、ルシウスは肉親を殺した相手でありつつも育ててくれた恩がある相手でもあるということになる。このことは未だに悩んでいる。

 

 

 

  階段を下りて一階の周りの扉と比べて一際大きい扉を開け、リビングに入る。

 

「父上、母上、おはようございます。お待たせしてしまって申し訳ありません」

 

部屋の真ん中のソファーに座り寛いでいた二人に挨拶をする。

 

「ああ、おはよう。なに、そんなに待っていない。ドラコが早すぎるんだ」

 

ルシウスはドラコを軽く睨む。

 

それを聞いたドラコは、壁にかけられた絵から目を離した。

 

「だって、ようやく杖を買ってもらえるんだ」

 

そして、ルシウスに拗ねた口調で文句を言った。

 

「セルス、おはよう。さっ、セルスも準備できたことだしダイアゴン横丁に行きましょう。あっそうだわ、セルスはお腹が空いているでしょう。軽く食べられる物を持って行きなさい。ドビー!」

 

ドラコと同じブロンドの髪の毛を持つナルシッサが、静かだが鋭い声で座敷しもべ妖精のドビーを呼ぶ。

 

パチッという音とともに目の前に古い枕カバーのようなものを着たドビーが現れた。

 

「奥様お呼びでしょうか?」

 

「セルスに食べ物を持たせなさい。急ぎよ!」

 

ナルシッサは蔑んだ目でドビーを見下ろしながら命令した。

 

「承知しました。ただちに!」

 

ドビーは慌てて頭を下げたあと、再びパチッと音をさせて姿を消した。

 

「では、行こうか」

 

ルシウスがソファーから立ち上がり、部屋から出て行く。その後を二人は着いて行った。

 

また、パチッと音がしてドビーが現れる。今度はその手に小さな箱を抱えていた。

 

「セルス御坊ちゃま、お待たせしました。サンドイッチをお持ちしました」

 

「ああ、ありがとう」

 

ドビーは大きなギョロ目を潤わせた。

 

「ドビーには勿体無きお言葉でございます」

 

声が少し震えている。

昔よりはマシになったが、こうなったドビーは大変面倒な存在になるので、みんなが待っている場所に早足で向かった。

 

 

 

俺が着たことを確認したルシウスは、ナルシッサを促した。

ナルシッサは暖炉の横に設置されていた鉢から煙突飛行粉(フルーパウダー)を掴んだ。そして、暖炉の中に入り、煙突飛行粉(フルーパウダー)を地面に叩き付けると同時に叫んだ。

 

「ランジワート!」

 

ナルシッサが消えたのを見届けると、ルシウスはドラコを促した。

ドラコはナルシッサと同じことをして消えた。

 

次に俺だ。

二人と同じことをして、ランジワートへと向かう。

巨大な穴に吸い込まれるような感覚と轟音が消えると、そこには綺麗な店内が広がっていた。

ここは限られた者だけが使用することが出来る暖炉を設置する為に建てられた店だ。高位な者は下々の者と一緒のものをつかうのが不快らしく用意されたらしい。

不思議なことに煤や塵が体につかないので便利だ。

 

すぐに暖炉を出た。ルシウスがくるからだ。

 

シュッという音とが聞こえルシウスが現れる。

 

「行くぞ」

 

ルシウスが店の扉を開け外に出た。

 

さあ、ダイアゴン横丁だ。

 

 

 

 小さな店が立ち並び、様々な物が売られている。フクロウや猫、大鍋、望遠鏡、様々な薬草、かぶ、お菓子……すべてを確認することなんて不可能だった。

ルシウスとナルシッサは学用品を買いに行っている。つまり我々には監視の目がないということだ。

ドラコは店で買ったお菓子を片手に店内を覗き込み、俺はサンドイッチを食べながら道を歩く人を眺めていた。二人が居たら怒られていただろう。

 

ある程度満足した俺たちはマダムマルキンの洋装店に向かった。元々ここに行くように言われていたのだ。

まあ、服を買うにしては高すぎるぐらいのお金をもらっていたから、遊ぶことは想定されていたのだろう。

 

『マダムマルキンの洋装店ー普段着から式服まで』という看板が掲げられている。

 

ここで、ハリーとドラコが初めて会うんだよな。原作にここから関わっていく訳だ。

堂々と店の中に入って行くドラコと対称的に俺はぎこちなく店へと入って行った。

 

店に入ると、藤色ずくめの服を着た、愛想の良さそうな、ずんぐりとした魔女が居た。

 

「坊ちゃんたち、ホグワーツなの?」

 

質問に答える前に彼女は口を開いた。

 

「全部ここでそろいますよ……。さぁ、奥に行って採寸しましょうね」

 

促された先には踏み台が三つ並んでいた。

ハリーと隣になるわけにはいかないので、ドラコよりも早く移動し、端の踏み台に乗る。

ハリーがドラコに嫌悪感を抱かなくてはならないのだ。

心配する必要は無いと思うが、ハリーの組み分けに万が一があってはならない。

 

「セルス、後で競技用の箒を見に行こうよ。一年生が箒を持っちゃいけないなんて納得出来ないね。僕たちは必ず寮の代表選手になれるはずなんだ。」

 

踏み台に登ったドラコが声をかけてきた。

 

「その話はもう何度も話しただろ……。父上の権力を使っても無理なんだ。それに一年生が出しゃばったら不満が出てくるだろ?」

 

「確かにそうなんだけどさ……」

 

ドラコは拗ねて口を閉じた。

 

 

 三分の一ほど終わった時、店のドアが開いた。

そちらを覗き込むと小柄でやせていて、長めの黒髪の少年が立っていた。よく見るとかけている眼鏡にはヒビが入っていた。

前髪が長いので額の傷は確認出来ないが、ハリーポッターだろう。

 

マダム・マルキンに連れられてハリーがやってきた。

 

「やあ、君もホグワーツかい?」

 

ドラコは気だるそうな、気取った喋り方で、ハリーに話しかけた。

 

「うん」とハリーが答える。

 

「隣に居るのが、僕の弟だ。「よろしく」似ていないのは、母上の家系の血が強く出たからだと思う。髪の色も漆黒だしね。父上は学用品を買いに行っているし、母上はどこかその先で杖を見ている。」

 

ドラコは自分勝手に話しかけていた。端から聞いているとハリーがこの時点で苦手意識のようなものを持つのは無理ないなーと理解出来た。

 

ドラコが純血主義の話にさしかかったとき、ハリーの服の調節が終わった。

 

「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」

 

ドラコが気取った口調で別れを告げた。

 

「じゃあな」

 

俺はそれだけだった。

 

 

 

 マダム・マルキンの店の外にはルシウスが待っていた。

 

「学用品は既に買った。もちろん最高級品のをな。あとは杖とフクロウだ。まずは杖だ」

 

 

店は狭くてみすぼらしかった。扉には剥がれかかった金色の文字で『オリバンダーの店ー紀元前三八二年創業 高級杖メーカー』と書かれてある。埃っぽいショーウィンドウには、色あせた紫のクッションに、一本の杖が置かれていた。

 

中に入るとチリンとベルが奥の方で鳴った。中ではナルシッサとオリバンダーが話していた。

 

「ようやく来たのね。二人に合いそうな杖を選んでおいたわよ」

 

「まずは、ドラコから選びましょうか」

 

ナルシッサは箱の一つを空けると杖を取り出した。そして、杖をドラコに手渡す。

 

「ザミアにドラゴンの心臓の琴線。二十三センチ、バネのよう。さあ、振ってみなされ」オリバンダーが補足した。

 

 

ドラコは杖を振るうが、起こった現象は花瓶が割れることだった。ドラコの顔に陰りが差し込んだ。

 

「次にいきましょう。」

 

ナルシッサは2つ目の箱を空け、杖を取り出した。

 

「サンザシに一角獣のたてがみ。二十五センチ、ある程度弾力性がある」

 

杖を受け取ったドラコはおもむろに杖を振った。

 

次の瞬間、杖の先から火花が飛び出し、空中で弾ける。

 

オリバンダーが「ブラボー!」と叫んだ。ナルシッサは拍手し、ルシウスはよくやったと肩を叩いた。

 

「やったな」

 

ドラコに声をかけ場所をかわる。ドラコははにかみながら、ありがとうと返した。

 

「次はセルスね」

 

一つの箱を隅に移動させ、箱が三つになる。それぞれ三つずつ用意していたようだ。

ナルシッサから杖を渡される。

 

「シナノミザクラにドラゴンの琴線。二十四センチ。軽い」

 

杖を軽く振るうと、棚から杖の箱が飛び出した。

 

「いかん、いかん。合わぬようじゃ」

 

ナルシッサから二つ目の杖用意する。

 

「イチイの木にアオバネトリバナの琴線、28センチ。良質で振りやすい」

 

杖を握ると体の中心が温かくなるのを感じた。先程よりも大きく、そして素早く杖を振り下ろした。

すると、杖の先からいく筋もの光が飛び出し、光りの川を作り出した。

 

ルシウスによくやったと肩を叩かれ、ナルシッサとドラコからは大きな拍手をもらった。

 

「いやー素晴らしい!お二人は良き母を持ちましたな。杖を選ぶにはその者との相性を考えなくてはならない。様々な杖がある中からこうしてお二方の杖を選ぶことが出来るのは、子供のことをよく見て理解しているからなんでしょうな」

 

オリバンダーが大きくうなずきながら話す。

 

オリバンダーに言われて気がついた。ルシウスは肉親を殺したが、それは闇の帝王の命令だったからだ。本当は殺したくはなかったんじゃないだろうか。だから、こうして二人は本当の子供のように俺を育て、愛してくれたんじゃないだろうか。

いずれにしろ俺は彼らから、マルフォイ家から大きな愛を受け取っているのだ。大きな恩がある。

原作でのマルフォイ家の最後は軽めのバットエンドだ。ルシウスはアズカバンに収容されるし、ナルシッサは子供を憶うあまり、やつれてしまう。書かれてはいなかったが、地位と財産を多少なれとも損なったであろう。

自業自得と言われればそれまでだ。だけどマルフォイ家は俺の”家族”だ。

救えるかもしれない手だてを持っているなら助けてやらなければならない。

 

お金を払うルシウスの背中を見つめながら、そう決意した。

 

 

 

 イーロップふくろう百貨店にやってきた。店に入るさいに店からでるハグリットと遭遇した。両親は仲がよろしいようで同じタイミングで大きく舌打ちした。

一方、俺とドラコは身近で見たときのハグリットのあまりの大きさに驚愕し、口を大きく開けてつったっていた。自分の身長が小さい分、より巨大に見えたのだ。

ハグリットの手には白く美しいメンフクロウが入った籠が握られていて安心した。ヘドウィグという優秀で忠誠心が高く、優しいふくろうがいなければ、ハリーは殺されていたのだ。

 

イローップふくろう百貨店は暗く、ふくろうがバタバタとはばたかせる音がし、いくつもの輝く目がこちらを見つめてくるという楽しい場所であった。

まあ、動物がたくさんいるということは、自然と動物の体臭や糞や尿の匂いが店内にこもり少し臭かった。少しで済んだのは。店員が一生懸命掃除をしている成果だろう。魔法でやっているのだとすればもう少し頑張れよと言いたいところであるが。

 

ルシウスとナルシッサはその少しの匂いも駄目なようで、店に入ってすぐに、買うふくろうを決めたら呼びにきなさいと言った後、さっさと店を出て行った。

ドラコも同じように匂いを嫌がると思っていたのだが、自分のペットを選ぶという夢中になれることがある今はそんなことは気にならないらしく、店にいるふくろうを見定めていた。

 

一方、俺はなかなか欲しいふくろうを選べずにいた。

荷物や手紙を遠くに運べる大型のふくろうにするか、見た目を重視して、かっこいいミミズク系のふくろうにするか、愛らしいふくろうにするか。

長い間一緒に暮らして行く訳だから簡単には選べない。

 

長い時間悩み、二羽までしぼった。モリフクロウか、メガネフクロウである。賢そうなので選んだ。どちらもまだ子供である。

 

ドラコは飼うフクロウはワシミミズクに決めたらしく、二羽のワシミミズクのどちらが強いか比べている。

 

ここは潔く決めようと思った俺は、それぞれのふくろうの目をじっと覗き込んだ。すると、メガネフクロウの方が二回目を閉じたのだろう。

それを見た俺は不思議なことに意気投合した気分になり、このメガネフクロウを買うことにした。

 

店の外で待つルシウスを呼び、メガネフクロウと成長を見越して大きな籠、その他必要なものを購入してもらった。

 

やることが終わった俺は、ナルシッサと二人で店の外にいた。

暫くすると、ドラコがルシウスに続いて出てきた。その腕の中には大きなワシミミズクの入った籠が収まっていた。

 

太陽は既に真上から少し西に傾いていた。

俺たちは昼飯をダイアゴン横丁でとること無く、家へとそのまま帰った。

 

 

 

 自分の家族の存在と新しい家族を迎えた今、入学準備はとても楽しいものなんだな、そう思えた。

 




メガネフクロウの画像見てたら、厨二心をくすぐられた...。


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ホグワーツ特急

夏休み終わり、新学期が始まるので、マルフォイ家はキングス・クロス駅にやって来た。

デカいトランクとふくろうの入った鳥かごが乗ったカートを押してだ。とても怪しい格好だ。ナルシッサの魔法で軽量化されているので楽だが、どうせなら軽量化だけじゃなくて荷物ごと小さくしてほしかった。

一応文句は言ったが、伝統、ならわし、と言い方は違うが同じ意味で却下された。

 

キングス・クロス駅は魔法を使えない人間が作ったものだ。つまりマグルがそこらへんにたくさんいる。我々は彼らからしたら非日常そのものであり、注目を集めまくっていた。

純血主義の者からしたら、それは不愉快極まりなく、俺以外の者はかなりイライラしている。

 

「ここに来るたびに腹が立つ!何故我々がマグルの作った場所に来なければならない。九と四分の三番線ホームに直接移動出来るようにするべきだ!」

 

ルシウスがその青白い顔の額に青筋を浮かべながら怒鳴った。その文句を言う声が大きいものだから、さらに注目を集めるという悪循環を発生している。

 

「だから、荷物を小さくするべきだったんだ……」

 

「その話は何度もしただろう!”しきたり”だ!」

 

文句を言ったのだが、ルシウスに頭ごなしに叱られた。余程機嫌が悪いらしい。

 

 

 

 一家は何とも気まずい雰囲気の中、九番線と十番線の間にある柱の前に来た。

 

「ドラコ、セルス先に行きなさい。」

 

ドラコが一瞬戸惑った後、勢いよく柱に向かって走り出す。壁にぶつかるかと思われた瞬間、何も抵抗ないように壁をすり抜けた。

 

すり抜けられることは間違いが無いようなので、小走りで柱に向かった。一瞬、頭の隅にドビーの顔が浮かんだが、それを打ち払いスピードを緩めず壁に突進する。

やはり、何の心配はいらなかったようで、霧の中をすり抜けるような感覚で壁をすり抜けた。

目の前には紅色の蒸気機関車が、ホグワーツに通う生徒とその保護者達がごった返すプラットホームに停車していた。

 

「クラッブとゴイルと待ち合わせしている。向こうに行くぞ」

 

後ろから出てきたルシウスが何処か疲れが取れたような口調で言った。ようやく魔法族の世界に入れて安心したのだろう。確かこの蒸気機関車もマグルから譲り受けたものであった気がするが...。

 

 

全体的に体がしっかりしているというか、太っている二組の家族がいる。クラッブ家とゴイル家だ。

親は親で固まり、子供は子供で集まる形に自然となった。

 

親は楽しそうに談笑しているが、子供の方はドラコが基本的にしゃべり、たまに俺が口を挟んでいた。クラッブとゴイルは、理解しているのかしていないのか分からない顔で、ボーと話を聞いていた。お腹が空いているようでたまに腹をさすっていもいた。

 

話が終わり、荷物を列車に乗せた後、それぞれの家族に別れ、別れを惜しんだ。

 

「ホグワーツに行っても怠るなよ。頑張ってこい」

 

「体に気をつけるのよ?手紙は必ず送るわ。」

 

ルシウスは堂々としていたが、ナルシッサは目を潤ませていた。

 

「行ってきます、父上、母上」

 

「寮が決まったらすぐに手紙を出します」

 

家族と別れをした俺たちは、蒸気機関車に乗り込み、空いているコンパートメントに入った。

 

後から入ってきたクラッブとゴイルは俺たちの座る席の反対側に座った。少し窮屈そうにしていたが、二人を見ていると替わる気にはなれず、何も言わなかった。

これから成長したらどうなってしまうんだろうかと不安になった。

 

「クラッブ!ゴイル!ハァ...車内販売はまだ来ないぞ。だから体を揺らすのは止めろ!なんだか、列車まで揺れている気がしてくる。それより、俺たちの寮はどこになると思う?無論スリザリンだがな」

 

なら聞く必要ないじゃないかと思いながら俺は口を開いた。

 

「ん〜スリザリンかレイブンクローかな。俺結構勉強好きだし」

 

「レイブンクローか……。そういえば家で教科書読んで勉強してたもんな。それに理屈っぽいところがあるし。でも、セルスはスリザリンだと思うぞ?血筋的に言って。でもそっかー。セルスと別れる可能性があるのか……」

 

血筋か……。ドラコは知らないが、俺にはルシウスとナルシッサの血が流れていないから、そこら辺はわからないんだよな。

レイブンクローであればいいが、ハッフルパフやグリフィンドールに入ってしまったら家族との関係にヒビが入るだろうな……。

他の生徒にとっても俺にとっても組み分けの儀式は、重大なイベントだな。何だか不安になってきた。

 

俺たちが談笑していると、汽笛がなった。そろそろ出発するらしい。

 

もう一度汽笛が鳴り、汽車が走り出した。

 

プラットホームでは生徒の家族が大きく手を振っていた。その中に小さく手を振る両親の姿があった。

列車がカーブを曲がって、プラットホームが見えなくなる。窓から見える風景が変わり、街中の風景になった。すごい勢いで後ろに流れていく家々が少なくなり、緑が増える頃、クラッブが声をかけてきた。俺は窓から目を離し、目の前に座るクラッブの方に顔を向けた。

 

「お腹がペコペコでさ、お菓子を買いに行きたいんだ……」

 

「もうか?朝飯は食べてきたんだろ?」

 

ドラコが呆れたように喋った。

 

「食べたんだけど……」

 

ゴイルがお腹を擦りながら、情けない声を出した。

 

二人の様子が何だか可哀想そうだったので、俺は立ち上がるとコンパートメントの扉を開けた。

 

「俺も少し腹が減った。少し早いけど車内販売している人を探しに行こう」

 

俺の言葉を聞くと二人は破顔した。食べ物のことになると表情が豊かになる二人が可笑しくて軽く吹き出してしまった。

 

「なら、僕も行くよ!」

 

慌てて立ち上がったドラコは俺の後に続いてコンパートメントを出た。

 

 車内販売しているおばさんは先頭車両にいた。そこで大量のお菓子を買い自分たちのコンパートメントに帰ってきた。

 

色々なお菓子を食べ、百味ビーンズで美味しいものだけを選ぼうと頑張ったり、百味ビーンズ五個を一気にゴイルに食べさせたりして、楽しい時間を過ごした。初めて買ったカエルチョコレートが、ただのカエルの形をしたチョコレートでがっかりしたが。

 

クラッブとゴイルがすままじい勢いでお菓子を消費し、そろそろお菓子が無くなりそうになった時、コンパートメントの扉が開いた。

 

「ここにいたのか。探したんだぞ」

 

そう言って入ってきたのは、黒人の少年、ブレーズ・ザビニである。昔開かれたパーティーで知り合った。その際、彼の母親を見かけたがすごく美人だった。しかし、刺があるようで彼女に手を出した男性は必ずさされてしまうらしい。これまでザビニの7人の父親が亡くなっている。

 

「ザビニどうしたんだ?」

 

「それがさ、なんとだ、なんと、この列車には”ハリーポッター”が乗っているんだ!さっき顔を見ちゃったよ!」

 

俺の問いかけに、ザビニはハリーポッターの部分を強調し、自慢げに答えた。

 

「ハリーポッターだって!?」

 

それを聞いたドラコは大きな声を出して驚いた。

 

ドラコの反応に満足したのか、ザビニはすぐに出て行った。他の知り合いに自慢しに行ったのだろう。

 

「なんであいつが僕より先に知っているんだ」

 

ドラコは不満げな顔をしながら腕を組んだ。

ドラコとザビニは仲が悪いのだ。お高く止まっているところが似ているので反発してしまうのだろう。身内補正がかかっていないザビニは俺も苦手だ。長い間つきあっているだけあって、ドラコの良いところはよく知っているしな。

 

ウーン、ウーン唸っていたドラコが、あっ!と声を上げた。

 

「そうだ!僕は直接話せば良いんだ!よし、行くぞ!」

 

ドラコが立ち上がった。

それを見た、クラッブとゴイルは慌てて口にお菓子を詰め込むと立ち上がった。既にお菓子は無くなっていた。

 

「俺はいいや。そんなに興味ないし」

 

よっぽどハリーが気になるらしく、俺を説得することなく、分かったとだけ告げ通路を歩いていった。

ドラコの後を追おうとする二人に菓子のゴミを渡し捨ててくるように言った。本当にゴミが多かったのだ。

 

暇になった俺はトランクから「基本呪文集(一学年用)」という本を取り出した。暫く読んでいたのだが、視界の隅にお菓子のゴミにちらついていることに気がついた。

 

便利だから家で必死に使えるようにした掃除の呪文を唱えようと杖を取り出した時、ドアが勢いよく開いた。

栗色の髪の毛をした女の子と、丸顔の顔の泣きべそをかいた男の子が入ってきた。

 

「ヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」

 

威張った感じがする話し方だった。

 

この子がハーマイオニー・グレンジャーか。で、後ろにいるのが、ネビル・ロングボトルか。

 

「いや、見なかったよ」

 

ハーマイオニーは俺の答えを聞いていないらしく、俺の杖をじっと見ていた。

 

「魔法をかけるの?さっき会った人は失敗したのよね。じゃあ、見せてもらうわ」

 

ハーマイオニーはそう言うと、俺の隣に座った。前の席は汚いから座りたくなかったのだろう。

この自分勝手さはハリー達と出会うことで丸くなっていくのか。

ネビルはドアの側に立っていた。

 

「まぁ、いいんだけどさ...。んんっ……『スコージファイ!きれいになれ!』」

 

呪文を唱えつつ、ゴミを払うような動きを杖で再現する。

 

すると、お菓子のかすが一カ所に集まり、パッと消えた。

 

それを見たネビルはすごいっ!と声を出した後、小さく拍手した。

 

「あなたも家で勉強してきたのね!私もその呪文を成功させたわ。あなた他にどんな呪文が出来るの?私は簡単な呪文なら成功させたわ。教科書も勿論全部暗記したわ。あなた、『魔法族として必「悪いな、そろそろホグワーツだろ?もう着替えたいんだ。そろそろいいか?」そうね。この話はまた今度にしましょう。そういえば自己紹介してなかったわね。ハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしく。」

 

話の途中で割り込むのはマナー違反だが、長くなりそうなので遮らせてもらった。

 

「セルス・マルフォイだ。よろしく」

 

俺の名前を聞くとハーマイオニーはコンパートメントを出て行った。

ネビルは俺の名前を聞いた瞬間、ビクっと体が反応した。そして、ハーマイオニーに続いて出て行こうとする。

 

「じゃあな、ネビル」

 

出来る限り優しい顔をしてネビルに別れを告げる。

ネビルは何度も顔を頷かせて慌てて出て行った。

 

 

ホグワーツの制服に着替え、再び教科書を呼んでいた時、ドラコたちが帰ってきた。

ドラコはドサッと勢いよく座り込むと矢継ぎ早に話し始めた。

 

「今、ポッターのところに行ってきた。あいつは無礼すぎる!何があったと思う!?」

 

「あー、その話は後で聞くから、早く制服に着替えちまえ。そろそろホグワーツだ」

 

ドラコは窓をちらりと見た後、トランクから制服を取り出し着替え始めた。

 

「おい、クラップ。その指はどうしたんだ?血が出ているじゃないか」

 

「ポッターのコンパートメントにウィーズリー家の奴がいたんだ。そいつのペットのネズミに噛まれたんだ」

 

憎しげにドラコが答えた。クラップに聞いたんだがな……。

 

トランクから傷薬を出す。何かあったときに使えと渡してくれたのだ。俺とドラコが使うのを想定してるんだろうけど、別にいいだろ。

 

蓋を外し、クリームを手で掬い傷に塗ってやる。すると、みるみる間に傷が塞がった。小さな傷はすぐに治せる効果はあるようだ。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

3人が着替え終わった時、車内に響き渡る声がした。

 

「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は学校に届けますので、車内に置いていってください」

 

汽車は徐々に速度を落とし、ついに停車した。

 

通路には人が溢れかえっており、押し合いへし合いしながら、小さな、暗いプラットホームに降り立った。

暖かい場所にいたので外は身震いしてしまうほど寒く感じた。

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」

 

少し離れたところにランプを掲げたハグリットがいた。ハグリットを確認したドラコはクソッと声を漏らした。

 

「さあ、ついてこい。足下に気をつけろ。いいか!イッチ年生、ついてこい!」

 

ハグリットについて行くと、険しくて狭く薄暗い小道に入った。

足下が見えないので、木の根っこと思われるものにつまずいたり、水でぬれる地面によって滑った。

それが六度目になった時、思わず舌打ちした。ランプを生徒にも持たせればいいし、そもそもこんな危険な道を通ることが腹立たしいからだ。

先輩達の方は楽な道を通ってホグワーツに向かっている。俺たちは、先輩達が席につき、組み分けの準備をする為の時間を作る為にわざわざ険しい道を歩かされている訳だ。

それなら待たされた方がマシだ。

 

「みんな、ホグワーツがそろそろ見えるぞ」

 

前方からハグリットの声が聞こえた。

狭い道を曲がった瞬間、道が大きく開け、大きくて黒い湖のほとりに出た。向こう岸には山がそびえ、その頂上には壮大な城が建っていた。

数々の窓から光りが溢れ出し、その光りが星空の光りと共鳴し、幻想的な光景になっていた。

 

皆もその光景には感動したようで、あちらこちらから「うぉーー!」という声が上がった。

 

「四人ずつボートに乗って!」

 

ハグリットは岸辺につながれたボートを指差す。

 

列車のときと同じように座ろうとしたのだが、クラッブとゴイルのほうにボートが傾いてしまうため、慌てて場所を交換した。

 

ボートはハグリットの掛け声で一斉に動き出す。

 

崖下の近くに来た時、ハグリットが頭下げー!と大きな声を出した。城の方を見ていた皆は、一斉にに頭を下げる。

 

地下の船着き場で降り、ハグリットのランプの後に従って歩き、石段を登った先には城の巨大な門があった。

 

「みんな、いるか?」

 

後ろにいる人にも聞こえるように大きな声で確認を取った後、ハグリットは城の扉を三度叩いた。

 

 

さぁ、ホグワーツだ。

 

 

 




本当はこの話に組み分けの儀式も加えるはずだったんですが、汽車の話が長くなりすぎたんで次話で書きます。
次話は文章が短くなる気がする...。

感想お待ちしています!

※血筋云々の文章を変更しました。


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組み分けの儀式

巨大な樫の木で出来ているからギィーと重圧を感じさせるような音で開くと予想していたのだが、想像とは違い、扉はパッと開いた。

扉の先にはエメラルド色のローブを着た厳格そうな魔女が立っていた。彼女がグリフィンドールの寮監であるマクゴナガルだろう。

 

ハグリットからマクゴナガルに生徒が引き継がれ、俺たちは石畳のホールの脇にある小さな部屋に押し込まれる。

この窮屈な部屋で長く待たされるのと危険な道を歩かされるのではどちらがマシか考えたが、どっちもどっちだなと結論が出た。

 

「ホグワーツ入学おめでとう」

 

マクゴナガルが挨拶した。続いて彼女は、組み分けの儀式、これからの学校生活、心構えについて簡潔に話し、最後に身なりを整えることを促すと部屋から出て行った。

 

部屋にいた少なくない数の生徒が手で髪を整えたり、襟を正した。

ドラコと俺は堂々と立っていた。少しでもおかしなところがあればお互いに注意するように昔から言い聞かされてきたので、相手が何も言わなければ自分はしっかりとした格好をしていると分かるのだ。

 

クラッブとゴイルも直しはしなかったが、それはマクゴナガルの話を聞いていなかったからであろうことは容易に推察することができた。

 

「組み分けって何するんだ?」

 

ゴイルが不安げに問いかけてきた。

 

「さあな、父上は最後まで教えてくれなかった。だが、危険なことじゃないだろうな。もしも危険なことだったら父上が許す訳が無い」

 

「おい、ドラコ……。何でもかんでも父上を出すのはやめろって言ってるだろ?」

 

ドラコの”癖”に呆れ、口を挟んだところ、ドラコに睨まれてしまう。

 

「わかっているさ……」

 

ドラコは直そうとはしているようで、渋々ではあるが反省したようだった。

 

そこで会話が終わったと思ったのだが、クラッブが

 

「父上が、お前は必ずスリザリンに入る、って言ってた」

 

と、喋った。

 

タイミングがズレているのに誇らしげに話すのが可笑しくて、笑いながらお前は必ずスリザリンに入るよ、とさらに自信をつけてやった。

隣を見るとドラコは笑みを零していた。

 

マクゴナガルが扉を開けて入ってくる。

 

「組み分けの儀式が始まります。さあ、一列になって」

 

皆が一列になるのを確認した後、

 

「ついてきなさい」

 

そう言って歩き出した。

 

 

 

 二重扉を通った先の大広間には、何千もの蝋燭が空中に浮かび、四つの長テーブルには上級生が座り、机の上には金色に輝く皿とゴブレットが置いてあった。

今までパーティーやらで、こういったものを見てきたが、そのどれよりも素晴らしい光景であった。

 

先生方が座る机の前に二列に並ばされる。

 

俺たちのいる場所から三段の階段を登った先には、四本足のスツールが置かれており、その上にはくたびれたとんがり帽子がのせてあった。

 

突如帽子が動きだし、皺が口の形になる。そして、帽子は歌い出す。

 

帽子は組み分けの仕方とそれぞれの寮の特徴を歌で説明した。

 

歌が終わると、広間にいた全員が拍手喝采した。

 

この帽子が組み分けした結果に不満を持つ者がいないということだろうか。

 

歌い終わった帽子が四つの寮にお辞儀をすると再び静かになった。

 

マクゴナガルが長い巻き紙を手にして前に進み出る。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組み分けをしてください」「アボット、ハンナ!」

 

金髪のおさげの少女が転がるように前に出てきて、椅子に座り、帽子を被った。

 

「ハッフルパフ!!!」

 

帽子が叫んだ。

 

右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、少女はハッフルパフの席に座った。

 

その後も次々と名前が呼ばれ組み分けが行われた。

 

「グレンジャー、ハーマイオニー!」

 

ハーマイオニーは走るように椅子に座り、待ちきれないようにグイッと帽子を被った。

 

「グリフィンドール!!!」

 

帽子が叫んだ。俺はそれが嬉しくて控えめな拍手をした。彼女が原作通りの寮に選ばれたからだ。ハーマイオニーがいなければ、ハリーとロンは成り立たないし、困難に上手く立ち向かうことが出来ないだろう。

 

ハーマイオニーは俺が拍手しているのに気がついたようで、こちらに小さく笑みを向けた。そして、全開の笑顔でグリフィンドールの席に走って行った。

 

「知り合いか?」

 

「ちょっとしたな」

 

うかつだったな。ハーマイオニーの両親が魔法族じゃないと気がついたとき、ドラコは俺に不信感を抱くかもしれない。

 

ネビルが帽子を被ったままグリフィンドールの席に走って行き、爆笑を発生させた後、「マクドゥガル、モラグ」が呼ばれ、組み分けをした。

 

「マルフォイ、ドラコ!」

 

マクドゥガルの次にドラコが呼ばれた。

ドラコはふんぞり返って椅子に向かった。そして帽子はドラコの頭に触れるか触れないうちに叫んだ。

 

「スリザリン!!!」

 

左側の席から歓声と拍手が上がった。俺はその音に負けないぐらい大きく拍手した。ハーマイオニーの時のことを忘れさせる意味もあったが、本当に嬉しかったからだ。

ドラコは俺に嬉しそうな顔を向けたあと、スリザリンの席に歩いて行った。

 

「マルフォイ、セルス!」

 

ついに呼ばれた。

スリザリンかレイブンクローじゃなければ家族との関係が壊れてしまうのだ。不安で不安で、恐る恐る椅子に向かった。

 

俺が椅子に座るのを確認したマクゴナガルが、頭の上に帽子をのせた。

 

「フーム」耳の中で低い声がした。

 

「家系では、スリ……いや、違う。どうやら、事情があるようだ。ふーむ、難しい。知識をつけたい意欲がある。才能もある。ふむ、目的の為ならどんな手でも使うか…….。自分のことが大事だが、気遣う心もあるようだ。さて、どうするか……」

 

「スリザリンか、レイブンクローがいい」頭の中で強く願った。

 

「ふむ、君には他の寮は生きづらいか。ならば...君の才能を開花させられる寮にしよう。...スリザリン!!!」

 

スリザリンから歓声と拍手が上がった。

そちらに顔を向けると、ドラコが小さくガッツポーズしているのが見えた。スリザリンでよかった...。

 

早足でスリザリンの席に向かった。

ドラコが隣の席を空けてくれていたのでそこに座った。

 

「時間がかかったな。だけど、スリザリンでよかった」

 

「レイブンクローと迷われてな」

 

ドラコと俺の会話が終わったのを確認した目の前に座る上級生が話しかけてきた。

 

「マーカス・フリントだ。五年生だ。クディッチのキャプテンをやっている。何か困ったことがあれば言ってくれ」

 

体を鍛えまくっている先輩が手を差し出し、挨拶してくる。助けを借りる時は荒事があったときな気がした。

 

「セルス・マルフォイです。よろしくお願いします。その時は是非」

 

差し出された手を握り、自己紹介した。

 

他にも挨拶したそうな人はたくさんいたが、マクゴナガルが新たな名前を呼んだとき、シーという囁きが広がり、皆が帽子の方を真剣に見つめた。

ハリーの組み分けの番が来たのだ。

 

帽子が随分長い時間悩んでいる。スリザリンかグリフィンドールか悩んでいるんだろう。

生徒達は結果が出るのを静かに待っていた。

 

「グリフィンドール!!!」

 

帽子が大広間に響き渡る声で叫んだ。

グリフィンドールが割れるような歓声を上げ立ち上がった。赤毛の双子が「ポッターを取った!ポッターを取った!」と叫んでいた。

対照的に他の寮はお通夜の状態だった。”英雄”というビックネームを逃したのは余程のダメージだったのだろう。

 

最後の一人である、ザビニがスリザリンに決まるとダンブルドアが立ち上がった。

 

「おめでとう!新入生おめでとう!歓迎会の前に一言言わせてもいたい。そーれ!わっしょい、こらしょい、どっこらしょい!」

 

そう話すと大きく手を広げ席に座った。

 

スリザリン以外の生徒が拍手し歓声をあげた。少し微妙だった俺も拍手はしなかった。

 

ダンブルドアから目を離したとき、テーブルの上に様々なおいしそうな料理が並んでいることに気がついた。

 

少しずつ好みの料理を取り、お皿に並べていたとき、ドラコと俺の間から白くて透明なものが出てきた。

肌寒くて少し水気を感じさせるものが急に出てきたことに驚いたドラコと俺は「「うわっ」」と声を上げた。

 

「新入生か...私は血みどろ男爵だ。今年も寮対抗優勝カップをとれることを願っている。今年も取れば七年連続の記録が達成出来る」

 

ゴーストらしい。虚ろな目に、げっそりとした顔、衣服は銀色の血で染まっていた。不気味そのものだった。

血みどろ男爵が側にいると食べる気にはなれず、血みどろ男爵が移動するまでドラコと俺は食べ物に手を出せなかった。

 

 

 食べ物がデザートに変わり、満足出来るだけ食べたとき、テーブルに載っていたものが消えた。

 

「エヘンー皆よく食べたじゃろう。皆が眠くなる前に注意事項を言っておこう。構内にある森には入ってはならん。これは上級生もじゃぞ。

それと、管理人のフィルチから授業の合間に廊下で魔法を使ってはならないとのことじゃ。最後ですが、死にたくない人は今年いっぱい四階の右側の廊下には入ってはならん」

 

ダンブルドアが真剣に言うものだから笑うものは少数だった。

 

「以上じゃ。さあ、就寝の時間じゃ!駆け足始めっ!」

 

 

 

スリザリンの一年生は監督生に従って地下にある少し湿っている壁の前にやってきた。

 

「合い言葉は一週間ごとに変わる。週の初めに談話室の掲示板に貼られるから確認するように。『純血万歳』」

 

監督生が合い言葉を言うと壁が横に移動し洞窟が現れる。薄暗かった。

 

洞窟を抜けると談話室だった。高級そうなソファーが置かれ、奥には湖が見られる大きな窓があり、淡い緑の光りが部屋の中を照らしており、落ち着きのある部屋だった。

 

「左の階段が男子寮に繋がる道、右が女子寮に繋がる道、部屋は五人部屋だ。好きなところを選んでくれ。あとから変更も出来るぞ」

 

監督生が説明し終わると皆は部屋に向かった。

 

いつものメンバーで部屋に入った。知り合いの方がやりやすいと思ったからだ。

 

「俺もいいかな?」

 

「おっ、ノットじゃないか!勿論だ。いいよな、セルス?」

 

「当たり前だろ?」

 

ノットはドラコと俺の友達だ。気の利く奴でノリもいい。

 

「もっと、しゃべりたいけど今日は疲れた。もう寝かせてもらうよ」

 

すでにベットに倒れ込み、寝ているクラッブとゴイルを見ながらドラコが話した。

 

「そうだな」

 

それぞれは寝着に着替えると、お休みと言ってベットに潜り込んだ。

 

俺はベットに潜り込んでも寝ようとせず、この一年間どうするかを考えていた。

この一年間はハリーが自信をつけるために用意されているような年で一般生徒にはほぼ関わりのない年になる。つまり、特に動く必要がないのだ。

ならばこの時間は自分を磨くのと使えそうな物を手に入れるために使える。

本当に動かなければならないのは二年生の時だ。それまで家族を守れるように力をつける。

 

明日から始まるホグワーツでの生活を頭の中で描き、俺は眠りについた……。

 

 

 




オリジナルの部分が少ないんだけど、これでいいのだろうか(震え声)なんか不安w


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ホグワーツ

 「セルス!起きろ、セルス!」

 

ドラコによって夢の世界から現実の世界に舞い戻ってきた。

 

「あぁ、おはよう」

 

「朝食を食べに行こう。制服に着替えておけ」

 

俺にそう言ったドラコは、ノットと一緒にクラッブを押してベッドから突き落とした。そんなに起きなかったのか。

ゴイルは既に起きていた。

 

俺が制服に着替えを確認した一同は、まだ眠そうなクラッブを押して大広間に向かった。

 

 

 大広間では生徒が点々と固まりを作りながら食事をとっていた。スリザリン以外の寮は同級生同士で固まっていた。スリザリンと違い事前に上級生と顔見知りだったりしないからだ。

 

俺たちはスリザリンのテーブルの人が少ない場所に座った。

座ると同時に、これぞ朝食!と言った内容の食べ物が現れる。

 

「今日は何の授業だったっけ?」

 

ノットがソーセージをフォークで転がしながら尋ねた。

 

「薬草学と変身術、それと魔法史だ」

 

カボチャジュースにしようかオレンジジュースにしようか、それともリンゴジュースにしようか迷いながら答えた。

 

「あ〜魔法史か。ゴーストが教えていてすごく眠くなる授業らしいな」

 

ドラコが物凄い勢いで朝食を食べる二人から目を離し喋った。

あ〜原作にもそんなことが書いてあったな。完全に忘れていた。その時間は内職の時間にしよう。あとで、図書館から本を借りておくか。

 

朝食を食べた俺たちは一回部屋に戻った。薬草学で必要な物を取りに行くためだ。『薬草ときのこ千種』と安全手袋を手に、スプラウト先生の待つ温室へと向かった。

 

 スプラウト先生は泥だらけの服を着た少し汚い魔女だった。しかし、授業は面白く、教科書に載っている植物を見せてくれたり、珍しい植物を触らせてくれた。スプラウト先生は見事に生徒達の心を掴んだ。

 

次の授業はマクゴナガルの授業だ。

彼女は厳格で聡明そのものであり、生徒がみんな着席するなり、説教を始めた。

 

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険な物の一つです。いい加減な態度で授業を受ける者には出て行ってもらいますし、二度とこの教室には入れません。」

 

彼女は説教を終えると目の前の机に魔法をかけ豚に変えてみせた。生徒は感激し、自分も試したいと体をソワソワ揺らした。

しかし、彼女は呪文を唱えさせる前に複雑なノートを取らせた。変身術には理論が必要なようだ。

 

黒板に書き終え、説明を終えた彼女は、一人一人にマッチ棒を配り始めた。

このマッチ棒を針に変える練習から始めるようだ。

 

マクゴナガルから教わった呪文を何度も唱えるが何も変化しない。何がいけないのか考えていると、マクゴナガルが最初の方に変身術はイメージが大切と言っていたのを思い出した。

 

まずはマッチ棒をよく見て形と特徴を覚える。続いて頭の中で銀色の鋭い針を浮かべる。そして、マッチ棒が針に変わるのをイメージしながら呪文を唱えた。

マッチ棒は、所々木で出来ている針に変化した。

 

「惜しかったですね、セルス・マルフォイ。もう少し具体的な形を浮かべれば成功するでしょう」

 

いつの間にか側に立っていたマクゴナガルがにこやかな顔でアドバイスしてくれた。

 

この授業では完全な針には変わらなかったが、少しずつ理想の形に近づいていたので、次の授業で成功させられる気がした。

 

 

 「ん?どこ行くんだ?」

 

隣で昼食を食べていたドラコが立ち上がった俺に問いかけた。

 

「図書館に行って本を借りてこようと思ってな」

 

「あーそっか。流石、レイブンクローと迷われただけあるな。僕は談話室にいるよ。魔法史の授業には間に合うようにしろよ」

 

 

 ホグワーツの図書館は巨大だった。

書棚の高さは天井付近まであり、本がぎっしりと詰まっている。そして、その書棚が多数並んでいた。これだけの本を全て読むのは一生かけても無理だと確信した。

 

とりあえず一年生用の本がそろえられている書棚に向かう。

『基礎から学べる呪文集』『あなたもこれから魔法使い』『呪いの書=一年生編』...その他色々。

『呪いの書』は一年生編から七年生編まだあるようで分かりやすそうだったし、『あなたもこれから魔法使い』には魔法を成功させるこつが書かれていた。

 

二つの本を抱えて難しい本が置かれている書棚に向かう。

閉心術と開心術について書かれている本を探しているのだが、なかなか見つからない。悪手かもしれないが司書に聞くしかない。

 

 

 司書のいる貸し出し返却口にきた。司書は気難しそうな顔で生徒の様子を監視していた。

 

「すみません。閉心術と開心術について書かれた本の場所を教えてくれませんか?」

 

司書は俺の顔と制服をじろじろ見た。

 

「一年生が読むような本ではないと思いますがねぇ〜。しかし、初日から図書館に訪ねたのを評価しましょう。精神・心・耐性・魔法の棚にあります。十三番目の三番目です」

 

生徒をまるで敵であるかのように見たり、人を評価するようなところは嫌いだが、彼女が優秀な司書であるのは確かなようだ。置いてある本の場所をすぐに言える人なんて普通いないだろう。それもこんな巨大な図書館で。

もしかしたら、彼女はここにある本を全て読み終わっているかもしれない。

 

彼女に言われた場所で探していると『開心術とその対抗法』という本が見つかった。きっと分厚い本であると思っていたが、かなり薄い本だった。

それを持って本棚に囲まれたところにある席に向かう。先程本を探していた時に見つけた場所だ。

少し薄暗くて本を読む環境には向いていない。だが、落ち着いて本を読む場所には向いている。人がほぼ来ないからだ。

 

椅子に座り、机に『あなたもこれから魔法使い』を広げる。

『閉心術とその対抗法』も気になるが、これは魔法史のときに読もう。

 

 

 

 魔法とは、杖の動きとイメージ、それと適量の魔力を杖に注ぎ込むことによって発動するらしい。呪文名はあくまでイメージを補助する為のものだとか。

マクゴナガルも言っていたがイメージが大切なのか。

無言呪文は呪文名がなくてもちゃんとしたイメージが浮かべられると成功させることができるみたいだ。でも、呪文名を唱えないよりイメージは落ちてしまうらしく、無言呪文で唱えた魔法と呪文名を言って唱えた魔法では、呪文名を言った魔法の方が強力になると書いてある。

 

予想以上にためになる本だ。低学年ように書かれているだけあって分かりやすかったし。

 

少し休もうとしたとき、斜め後ろに誰かの気配があることに気がついた。

振り向いて確認するとハーマイオ二ーが大量の本を抱えて立っていた。

 

「どうした、グレンジャー?何か用か?」

 

「用があるというか...たまたまあなたの姿を見つけたから。座ってもいいかしら?」

 

ハーマイオニーは俺の返事を聞く前に、俺と一個席をあけた椅子に座り、大量の本を間に置いた。

 

「...ふぅ。よく座る気になったな。俺はスリザリンでお前はグリフィンドールだろ?」

 

「確かにあなたはスリザリンだけど、私の組み分けのときに拍手してくれたじゃない。だから、スリザリンらしくないというか...よくわからなくて。なんであの時拍手してくれたの?」

 

しまった!やはり、あの時拍手するべきではなかった!気になるものは追究するハーマイオニーのことを気にしていなかった。マルフォイ家の人間がグリフィンドールに選ばれたことを祝福するなんて変だ。

 

「なんというか...汽車で知り合った仲だろ?一応祝っておこうと思ったんだ」

 

「でもあなた、ネビルのときには拍手していなかったじゃない」

 

そこまで見ていたのか...探究心が強いというか目敏いというか、なんとも邪魔な物を持っている。

 

「えーとだな。彼とはあまり話さなかったからだ。それに君は優秀そうだ。何かしらつながりがあった方がいいと思ったんだ」

 

「あなたもそう思ってたのね!実は私もあなたと勉強したいと思ってたの!だって汽車でも魔法を成功させてたし、初日の日から図書館に来るなんて優秀なんだと思うわ!今度からここで勉強会をしましょう!あっ、ハーマイオニーよ。改めてよろしく。あなたはセルスだったわよね?そう呼ばせてもらうわ!」

 

ハーマイオニーは息継ぎをせず、この長い台詞を言い切った。そのやり方について是非聞いてみたいが、今はそんなことどうでもいい。

 

どうしてこうなった?

 

 

図書館以外ではあまり話しかけないでくれと念を押した後、司書のところに本を持って行き、貸し出しの許可をもらい、談話室へと向かった。

 

 

 

 俺は今、黒板にチョークを走らせる音と、小さいのに何故か教室の奥まで通り、生徒を夢の世界に誘い込むビンズ先生の声と、生徒達の寝息のみが聞こえる不思議な空間にいる。魔法史の授業だ。

初回だとあって生徒は一生懸命にノートを取っていたが、一人が沈没すると次々と沈んで行った。

 

周りの連中が眠るのを確認した俺は、『開心とその対抗法』を読み始める。

 

薄い本なのですぐに読み終わった。

簡単にまとめてしまうと、開心術は、相手の心の奥底にある記憶、心、今考えていること、そういったものを見たいという欲求を持って、相手と目を合わせ、目から相手の中に潜り込むことで成功する。一方、開心術に対抗する為の手段である閉心術は、自分の中のものを見せたくないと思うことで成功するらしい。

どちらとも実践することで実力をつけることが出来るが、その幅は才能に大きく影響される。

 

才能がなくても実践すればある程度使えるようになるのか。

本当なら対人の方がいいのだけど、俺の場合は原作という知識があるからその選択肢は不可能だ。だから実践は必要の部屋で行うことにする。

しかし不安だ。この学校には最低でも三人の開心術を使える人がいるし、そのうちの二人はエキスパートだ。

つまり、ある程度の実力では簡単に破壊されてしまい、心の中をのぞかれてしまうのだ。一般の生徒の心を覗いたりすることはないと思うし、闇の帝王がわざわざ少ないエネルギーを使ってまで俺の心を覗こうとはしないはずだ。多分...。

だが、用心するにこしたことはない。早速、今日から練習しに行こう。手に入れたい物もあるし。

 

授業終了のチャイムがなる。

魔法が解けたように、生徒達は眠りから覚めた。

 

 

 

 必要の部屋の正確な場所は分からなかったが、すぐに見つかった。八階にあるというのは覚えていたし、映画でT路になっている場所にあるのを見ていたからだ。

 

壁の前を、ホグワーツにいる者の場所がわかる地図が必要だと心の中で唱えながら三回往復する。

 

灰色だった石壁が徐々に黒色になり、最後には黒い扉になった。

 

扉を開くと小さな部屋で、部屋の中央には台座が設置されていた。

台座には一枚の紙が載っており、開いてみるとそれはホグワーツの地図で、ホグワーツにいる者の場所と動きを現在進行形で表示していた。

 

「よし!」

 

いたずら四人組が作れてホグワーツが作れない訳がないという予想は見事的中した。

これがあれば学校生活を有利に出来る。これは様々なところで利用出来るだろう。

 

地図を手に入れた俺は、閉心術が一人で学べる場所が必要だ、と頭で思い続けた。必要の部屋は必要な物が増えた時、食べ物以外の望みを叶えると知っていたからだ。

 

地図を載せていた台座が床に沈んで消え、小さかった部屋が縦に伸び、その先に杖を持った銀の鎧が現れた。

あの鎧が開心術をかけてくるのだろうか?警戒して鎧に近づく。

しかし、何も起きない。何か合図が必要なんだろうか。

試しに杖を取り出してみる。

次の瞬間、体の中に何かが潜り込んでくる。自分の記憶の中に誰かが立っている。気持ち悪くて必死に追い出そうとするが、それは変わらず俺の中にいる。

 

不意に現実に戻る。鎧が開心術が解いたようだ。

人ではないとはいえ、自分の中に何かがいるというのは本当に気持ち悪くて疲れるものだった。心の準備ができていなかったのも大きく影響した。

 

次こそは!と、気合いを入れて再び杖を上げる。

再び何者かが心の中に入ってくる。俺は必死にそれをはじき出そうとするが、心の中を覗かれる状況は変わらない。

また、不意に現実に戻される。俺は地面に倒れ込んでいた。

 

二回しかやっていないのにも関わらず、かなり疲れた……。今日はここまでにして帰ろう。

 

地図で外に人がいないのを確認し外に出た俺は、寮へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 




御都合主義な部分が結構ありましたね。すいませんorz


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1週間目の金曜日

グリンゴッツに何者かが侵入したという手紙が届く時間は映画の方を選択しています。


 「今日って何の授業だっけ?」

 

「闇の魔術に対する防衛術だ。それからスネイプ先生の魔法薬学さ。グリフィンドールと合同でね」

 

ドラコは嬉しそうに答えた。スネイプはルシウスの後輩だし、贔屓してくれると思っているんだろう。事実その通りなのだが。

それにしても今日は濃い一日になりそうだ。

闇の帝王に寄生されているクィレル先生の授業に、ハリーがスネイプを完全に嫌いになる魔法薬学の初回の授業。

覚悟はしていたが、ホグワーツでの生活に安息の日々は訪れないのだろうか……。

 

バサバサという大きな音とともに何百羽のふくろうが大広間に入ってきた。郵便の時間だ。

このふくろうたちは手紙や新聞、お菓子、その他様々な物を運んでくるのだ。目的の者を見つけるまでは天井を旋回し、見つけるとその者の許に降下して荷物を渡してくれる。

 

すっかり毛の色が反転し、大きくなったメガネフクロウのミニッツも俺に荷物を届けてくれた。

ミニッツに朝食のハムをあげ、持ってきたもの確認する。契約してある日刊予言者新聞に加えて、ナルシッサの手紙とお菓子があった。後でお礼の手紙を送ろう。

 

新聞の一面には『グリンゴッツ侵入される』という見出しが載っていた。魔法族の財産を預かる場所が襲撃され、しかもその侵入を許したのだから注目されるのは当然のことだろう。

あのグリンゴッツにバレずに侵入し、発覚するまでの時間が長いということは、クィレルは手練の魔法使いであることを意味する。

いや、そうとも言えないか。ヴォルデモートの的確なアドバイスがあっただろうし。

 

新聞から顔を上げると、いつの間にかミニッツが目玉焼きをペロリと食べ終えていた。

 

 

 

 

 闇の魔術に対する防衛術の教室はニンニクの匂いやその他色々な物の匂いが充満して臭かった。クィレルが後頭部に寄生する闇の帝王の匂いを隠す為に匂いがキツい物を身の回りにおいているせいだ。

 

理由を知っている俺からすると納得ものであるが、何も知らない生徒たちからすると不審極まりなかった。

さらに、生徒たちは闇の魔術に対する防衛術に期待していたのに、クィレルが闇の生物や闇の呪文を言うたびにビクビクして授業が進まず、大変つまらなかったので、すぐにクィレルの悪口を言い出した。

 

アルバニアの森に旅行に行ってしまったのが彼の運の尽きだった。

 

チャイムがなり、授業が終わる。早くこの臭い教室を出たい生徒は早足で教室を出て行った。

 

「セ、セルス君!セルス・マ、マルフォイ君!す、少し残ってく、ください」

 

おい、ちょっと待ってくれよ。何で目を付けられているんだ?闇の帝王が俺にこだわる理由はなんなんだ?

 

「なんですか?」

 

「な、なにかこ、困ったことはないですか?じゅ、呪文と、とか?ち、力になりますよ」

 

「……何で力を貸してくれるんですか?」

 

「え、えっと、き、君がゆ、優秀だとお、思って」

 

クィレルは引き止める理由を考えていなかったのか、墓穴を掘った。

 

「先生とは今日が初対面ですし、今日の授業でも僕たちに会話はありませんでした。それなのに優秀かどうか分かる訳がありません。失礼させていただきます」

 

クィレルに背を向け、教室の外に向かう。

 

ゾクッ

 

背後から何か恐ろしい気配を感じた俺が後ろを急いで振り返ると、表情をストンっと落としたような顔をしたクィレルが立っていた。

恐ろしくなった俺は、冷や汗が背中から出てくるのを感じながら早足で教室を出た。

 

もしかしたらクィレルは望んで闇の帝王に寄生されたのかもしれない。

 

 

 

 クィレルの表情が頭から離れず昼食があまり食べれなかった。スネイプがいかにいい先生であるかとドラコは説明していたが、それに対する反応も薄くなってしまった。

 

「おい、何かあったのか?クィレルに残されていたみたいだが、なにかあったか?」

 

いつもと違うことに気がついたノットが心配そうに言った。

 

ノットの言葉で俺の様子に気がついたドラコも話をやめて心配そうな顔を向けた。

 

「いや、クィレルの近くに居たせいで食欲がわかなくてな。ほら、あいつ匂いがキツいだろ?」

 

それを聞いた二人はあ〜なるほどな、といった顔をし、再び魔法薬学の話を始めた。

 

彼らに危険があることがあってはならない。

何故だか分からないが、俺が闇の帝王が俺に目を付けているのは分かった。

今まで以上に勉強と原作知識を使った自分強化をする必要がある。

 

それにしても闇の帝王が目を付けてきたのは、幼少期からのことであるから、生れに何かあるのだろうか。

これはフィリップ家について調べる必要があるな。

 

 

 

 魔法薬学の教室の教室に向かう生徒たちの顔は二パターンに分かれていた。嬉々とした表情と不安げな表情だ。言わずもがな嬉々とした表情はスリザリンで、不安げな表情の方がグリフィンドールだ。見ていないがハーマイオニーは嬉々とした表情であるかもしれないが。

 

教室は地下牢であるため寒かった。手先を暖めようと手と手を擦り合わせて待っていると、教室の扉を勢いよく開いてスネイプが入ってきた。

スネイプは颯爽と生徒の座る席の間を抜けて教壇に立つ。

 

スネイプはまず出席を取り始めた。

 

「ああ、さよう」猫なで声だ。「ハリーポッター。われらが新しいーースターだね」

 

スネイプの皮肉にスリザリン生はクスクス冷やかし笑った。

 

出席を取り終わったスネイプは生徒を見渡すと、静かな大演説を始めた。

 

いかに魔法薬学が難しいく繊細な物であるか、いかに危険な物であるか、上手く作れればいかに素晴らしい物であるか、といった内容を直接言わずにややこしい言葉で伝えるのはスネイプらしいと言えた。

 

大演説を終えたスネイプは突然『ポッター!」と呼んだ。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になるか?」

 

何であったか。ここで質問された物は結構使えるものなんだよな。

ハリーの方を見ると困った顔をロンに向けていた。しかし、ロンにもわからなかったようで、さらに困った顔になった。

ハーマイオニーは流石な物で手をピンッと伸ばしていた。

 

「分かりません」

 

「チッ、チッ、チーー有名なだけではどうにもならんらしい」スネイプは口元でせせら笑った。

 

「ポッター、もう一つ聞いておこう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたらどこを探す?」

 

ここからなら覚えている。ベゾアール石は原作で凄い伏線として使われたし、最後の問題は意地悪問題であったからだ。

ここで手を挙げるとグリフィンドール生には嫌われるだろうが、そんなもの元々だろう。

スネイプに優秀だと気に入られて、色々便宜を計って貰った方が重要だ。

 

スッと手を挙げる。

 

「ん?何だセルス・マルフォイ?」

 

「その質問には僕が答えてもよろしいのでしょうか?」

 

隣でポッターが答えられないのを笑っていたドラコが口を開けて、俺の顔とスネイプの顔を交互に見るのが視界の隅に映った。

 

「ふむ……いいだろう。答えてみろ」

 

「ベゾアール石は羊の胃から取り出せます。ほとんどの薬の解毒薬になります」

 

クラスがシーンとなる。

 

「正解だ。スリザリンに一点やろう」

 

スネイプが加点するとスリザリン生は、はしゃぐまではいかないが喜びの声を上げた。

 

「ポッター、モンクスフードとウルフスペーンとの違いはなんだね?」

 

再びスネイプはハリーに問題を投げた。次こそは自分が!と思ったのかグレンジャーは席から立ち上がり限界まで腕を伸ばした。

ハリーは俺が手を挙げようとしているのを見ると急いで、分かりませんと言った。続いて

 

「ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

と、挑戦的にスネイプに言い放った。グリフィンドール生の数人が笑う。

しかし、スネイプには面白くも何ともなかったようで、不快そうに顔をしかめただけだった。

 

「座りなさい」スネイプはピシャリとハーマイオニーに言った。

 

「教えてやろう、ポッター。アスフォルデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。余りに強力なため『生きる屍の水薬』と言われている。ベゾアール石はマルフォイが言った通りだ。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、トリカブトのことだ。どうだ?諸君、何故いま言ったことを全てノートに書き取らんのだ?」

 

一斉に羽ペンを取り出す音と羊皮紙を取り出す音がした。その音にかぶせるように、スネイプが言った。

 

「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」

 

その後、スネイプは生徒を二人組に分けておできを治す簡単の薬を調合させた。クラップとゴイルが二人組になるのは大変不安なので、クラッブにはドラコが、ゴイルには俺がついた。

干しイラクサを俺が計り、ヘビの牙を砕くのはゴイルが行った。

生徒の様子を見回っていたスネイプがドラコの前で止まり、いかにドラコが角ナメクジを完璧に茹でたかを褒めていた時、地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音と悲鳴が教室に広がった。

ネビルが調合方法を間違え、大鍋を溶かし、ねじれた小さな固まりに変えてしまい、薬がこぼれてしまったのだ。

 

スネイプは「バカ者!」と怒鳴ると、杖を一振りして、こぼれた薬を取り除いた。

 

スネイプは、ネビルのペアだった男の子にネビルを医務室に連れて行くようにと命令した後、ハリーがネビルが失敗するのを気づいていたのに何も言わなかったとし、グリフィンドールから一点減点した。

 

授業が終わり地下牢から出て行く生徒たちの表情は、より明確に二つのパターンに分かれることになった。

 

 

 

 魔法の地図で周りに人がいないのを確認する。

ん?ハリーとロンがハグリットの小屋にいる。この時から賢者の石をさらに気にするようになるんだっけ。

クィレルの名前を探すとトム・リドルと一緒に四階にいた。この地図ではヴォルデモートとは書かれないようだ。姓を嫌っている彼がこれを見たら激怒するかもしれない。

 

灰色の壁の前で手順を踏んで秘密の部屋の扉を開ける。

 

今日はいつもと違う方法を試してみようと思う。

今まで俺は、自分の中に入ってきた者を追い出そうと必死になっていた。そこでこう考えてみたのだ。相手を心に潜り込ませるのを前提にするのではなく、始めから自分を隠すのだ。

閉心術をスネイプが身につけたのも、家族を拒絶したかったからだった。

そこで開心術をかけられる前に、自分の心を見せたくない、見せたくないと念じる。自分の感情、知識、感情を誰かに見られるのを拒絶する。

 

準備を終えた俺は鎧に杖を向ける。

 

ガツンとハンマーで殴られるような感覚がした後、自分を覆っていた物がパリンと壊れるイメージが頭に浮かび、心の中に誰かが入ってくる。そして、誰かが自分の中にいる気持ち悪さが訪れる。

 

「ハァ……ハァ……うえっ」

 

現実に戻ってきた時、疲れと気持ち悪さで地面に胃の中身を吐き出した。それだけ壁を破壊されたダメージが大きかったのだ。

だが、ほんの一瞬であるが開心術を妨害させることが出来た。より強く自分の心を見せたくないと思えば防ぐことが出来るようになれる!

 

 

 

何回もの練習でゲロまみれになっていた俺は、必要の部屋が用意してくれたシャワーと瞬間乾燥機で体を清めると、必要の部屋を後にした。

もしも部屋を出る瞬間の俺の顔を見ていた者がいたとしたら、何かいいことがあったのだなと必ず思っただろう。

閉心術は確実に進歩していっている。

 

 

 

 

 

 

 

 



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飛行訓練

 談話室の掲示板に、『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です』というお知らせが張り出されてから、一年の生徒たちの話題はクィディッチの話や飛行時の武勇伝で持ち切りだった。

ドラコはマグルの乗ったヘリコプターを本当にギリギリのところでかわす話を自慢げに何度も話し、決まって最後には自分と俺なら、今すぐクィディッチ・チームの選手になっても活躍出来ると言って話を終える。

ドラコがヘリコプターを交わした話は本当なのでいくら話そうと構わないが、俺のことを巻き込むのはやめてほしかった。ドラコも俺も下手か上手いかで言えば上手いが、飛び抜けて上手いという訳じゃないんだから。

 

 

 

 

 朝食を食べていると、郵便の時間になり、ミニッツが新聞とお菓子を運んでくる。ドラコも同じお菓子を貰っており、このお菓子がどれだけ高く、そしておいしいのかを説明した後、周りの人にお菓子を配った。

ほぼ毎日送られてくるので甘いものに飽きてきているのだ。だから、ナルシッサの手作りではないお菓子は友人やスリザリン生に配っている。

今日の俺のお菓子はノットにあげることにする。クラッブとゴイルが物欲しそうにお菓子を見つめてくるが、ここは無視だ。彼らにはいつも何らかの食べ物をあげている。

 

不意に立ち上がったドラコが、「行くぞ」と言ってグリフィンドールの席の方に歩き出す。

慌てて俺とクラッブとゴイルはドラコの後を追いかけた。ノットの方をチラリと確認したが、お菓子を食べることに夢中でこちらに来る気配はなかった。

 

ドラコはグリフィンドールの席に近づいた瞬間、眉間に皺を寄せるネビルから真っ赤に光る玉をひったくった。

あー、こっちだったのか。

てっきりハリーに喧嘩を仕掛けにいくのかと思っていたが、狙いはネビルの持つ思い出し玉であったらしい。

自分が両親からプレゼントを貰う姿を、ハリーが羨ましそうに見ているかどうか確認した際に目に入ったんだと思う。

 

これはいくらなんでも横暴な行いであるし、ドラコの誇りを汚している。

 

ドラコの手から思い出し玉を奪い取り、ネビルに返す。

 

「ごめんな。行くぞ、ドラコ!」

 

ドラコは俺に文句を言おうと口を開くが、近くにマクゴナガルがいることに気がつくと口をつぐんだ。

 

大広間を出るやいなやドラコは叫んだ。

 

「どうして止めたんだ!」

 

「分からないのか!?自分がいかに恥ずかしいことをしているのか?重要な目的があるならいかに汚いやり方でもいいさ。でも、あんなくだらないことで自分を辱めるな!」

 

堪らず怒鳴り散らしてしまう。

 

ドラコは静かに俺を見つめると、無言で去っていった。

 

妙にイライラして、ドラコについていったらいいのか、この場にとどまるべきかを迷い、あたふたとしてしている二人に怒鳴ってしまう。

 

「ドラコの後を追いかければいいだろ!!」

 

二人はビクッと体を止めると、何度もこちらを振り返りながらドラコの後を追いかけていった。

 

何やってるんだろう……。最低だ……。

 

 

 

 午前の授業はノットの隣に座って過ごした。いつもならドラコと一緒に座るはずの俺が自分の隣りに来たことで何かを察したようだが、ノットは特に何も言わなかった。ノットなりに気を利かせてくれたのだろう。

 

ドラコは昼食のときも俺を寄せ付けようとしなかった。俺もどうしたらいいのか分からなくて、話しかけようとしなかったし近づかなかった。

 

 

 

 飛行訓練を受ける為にグリフィンドール生とスリザリン生は、晴れ渡った過ごしやすい校庭に集合していた。

 

「なにをボヤボヤしているんですか」

 

マダム・フーチは校庭に来るなり、生徒を叱った。

 

「みんな箒のそばに立って。さあ、早く」

 

マダム・フーチに急かされてグリフィンドール生は箒の横に立つ。スリザリン生は既に箒の横に立っていた。

 

「右手を箒の上に突き出して」

 

マダム・フーチが掛け声をかける。

 

「そして『上がれ』と言う」

 

マダム・フーチの合図で、みんなが「上がれ!」と叫んだ。

 

箒はすぐに飛び上がって手に収まった。

周りを見渡すと、一発で成功させた者は少なかった。箒は使用者の感情を感じ取るので、初回の授業ということで不安な生徒には難しかった。

 

次にマダム・フーチは、箒の端から滑り落ちないように箒にまたがる方法と、箒の握り方を教えて回った。

 

「さあ、実際に飛んでみましょう。私が笛を吹いたら強く地面を蹴ってください。二メートルぐらいまで飛び上がって、それからすぐに前屈みになって降りてきてください。笛の合図でですよ。...1、2の」

 

ところがマダム・フーチが笛を吹く前にネビルが思いきり地面を蹴ってしまう。自分にコンプレックスがあるネビルはみんなから出遅れたくない一心だったのだろう。

 

「こら、戻ってきなさい!」

 

先生の大声をよそに、不規則に動きながらぐんぐん上昇していき、空中でネビルは箒の柄を離してしまう。声にならない悲鳴を上げて、ネビルは地面に向かって落下し始める。そして、ドサッ、ボキッという嫌な音を立てて地面に激突した。

 

「手首が折れているわ」

 

マダム・フーチは心配そうにネビルを立たせると、生徒の方を向いた。

 

「私はこの子を医務室に連れて行きます。その間誰も動いてはなりません。箒を動かしてみなさい。クィディッチの『ク』の文字を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ」

 

生徒に念を押した後、マダム・フーチは、痛みのあまり涙で顔をグチョグチョにしているネビルを支えてゆっくりと医務室に歩いていった。

 

二人がもう声の届かない場所に行ったとたん、マルフォイは大声で笑い出した。

 

原作通りの流れになったことは喜ぶべきことである。

このことをきっかけに、ハリーのシーカーとしての才能がマクゴナガルの目に留まり、ハリーはグリフィンドールのシーカーという誇れる物を手にするのだから。

でも、朝の俺の説教がドラコにはまったく届いていなかったことを考えると、とても悲しく、ひどく悔しかった。

 

みんなが二人の成り行きを見守り、ハッと息を飲みこむ瞬間も、俺は地面をただ見つめていた。

マクゴナガルがハリーを連れて行くのを見てスリザリン生が喜びの声を上げてもジーとその場に立っていた。

 

地面に人影が差し込むのを見て顔を上げると、満面の笑みを浮かべたドラコが立っていた。

 

「どうだ、セルス!僕はやったぞ!これでポッターは退学だ!」

 

やはりドラコは理解していなかった。

 

「俺が……俺が言いたかったことはそんなことじゃない。今回のだってたまたまだろ?お前が退学の可能性だってあったんだ」

 

ドラコに背を向けて歩き出す。本当に気落ちしていたのだ。

 

「なんなんだよ……なんなんだよ!!!」

 

ドラコの大声で騒いでいたスリザリン生がシーンとなり、この場にいる全ての人が俺とドラコに注目する。

 

「頑張ってるんだよ……頑張ってるんだよ!!だけど分からないんだ!セルスが言っていることが正論なのはわかるさ!でも、いつも正しい生き方なんて出来ない!!それに、セルスは僕の悪いところだけしか見ないで、いいところなんて見ちゃくれないじゃないか!!それに……それに……クソっ!」

 

泣きながら校舎に走っていくドラコを引き止めることは出来なかった。どんな言葉を掛けてやればいいのかわからないからだ。

 

ただ呆然とドラコが走っていった校舎を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 飛行訓練を終えた俺は図書館のいつもの席に向かった。一人になって考えたかったのだ。

 

でも、誰もいない静かな空間にいても、頭の中には何も浮かんできやしなかった。

 

「本当にあの人たちって勝手よね」

 

声をかけて座ってきたのは、案の定ハーマイオニーだった。

 

「セルスは悪くないわ。だって、フーチ先生は箒には触っちゃいけないっておっしゃったもの。それなのに二人は空に飛び上がってしまったんだから、叱られて当然よ。マルフォイーーーああ、あなたじゃないわよ?マルフォイの朝の行動を止めたのは正しいことだったわけだし。彼らって子供過ぎるところがあるのよ。だか『もう黙ってくれないか!!!』」

 

どうして俺の気持ちを察してくれないんだ!今は一人になりたいんだ。机に顔を伏せて拒絶をアピールする。

 

静かになったと思ったらシクシクと泣く声が聞こえてくる。慌てて顔を上がるとハーマイオニーが泣いていた。

 

「お、おい、どうしたって言うんだよ?」

 

「わ、私、あなたを慰めようと思って……うっうっ……でもまた余計なことを言っちゃって!ヒック……いつもそうなの。いつも相手のことを考えないで余計なことを言ってしまうの...未だにと、友達だって出来ないしっ!……うっうっ、うううう」

 

「……」

 

彼女もドラコ同様、溜めに溜め込んでいたのか。そして、それがふとしたきっかけで爆発してしまったのだろう。

 

「俺も同じだよ...。ドラコの気持ちを考えずに自分の望む姿を押し付けていた。しかも、兄弟であるのにも関わらずだ。最低だと思う。それにハーマイオニーに言われるまで、そのことに気がつけていなかった……」

 

ハーマイオニーは静かに俺の話に耳を傾けていた。

 

「でも、そのことに気がつけたなら変われるはずだ。衝突はこれからも起きるかもしれないけど、時間をかけて妥協点を見つけていけばいい。ドラコも努力してくれているしな。ハーマイオニー、君だって変われるはずだ。自分で気づけたんだから。それに、ハーマイオニーの優しさが伝われば友達なんてすぐに出来るさ。一緒に頑張ろうぜ。……それに友達はもうここにいるだろ?」

 

ハーマイオニーは、泣き顔を笑顔溢れる素敵な顔に変えると、元気よく「うん!」と頷いた。

 

 

 

 ドラコを探しに夕食の時間の大広間に行ったがドラコはいなかった。ドラコが寮にいることを聞いた俺は走って寮に戻った。

寮に戻るとドラコは自分のベットにうつ伏せになっていた。

 

「はぁ、はぁ……。ドラコ……。すまなかった」

 

カサッと布団が動く。

 

「俺は……ドラコに自分の中の立派な人のイメージを押し付けていた。気に入らない部分ばかり気にしてた。……ドラコにはドラコのよさがあるのに、それを見ようとしなかった。本当にごめん」

 

ガサガサという音を立ててドラコが布団から這い出てくる。

 

「僕もごめん……。感情を爆発させて。悪いところは直していくけど、嫌いな奴に嫌がらせをしたいと思うのは僕の感情なんだ。僕は、セルスみたいにはなれない。そこは分かってほしい」

 

「俺だって悪いところはたくさんあるさ。そうだな、俺たちは兄弟だ。それぞれのいいところを伸ばしていこう。仲直りでいいか?」

 

ドラコに手を差し出す。

 

「ズズッ……うん、もちろんさ」

 

ドラコは鼻水をすすり上げ、涙を袖で拭い取ると、俺の手をガッチリと握りしめた。

 

夕食を終えて帰ってきた三人は、夕食で出てきた食べ物やたくさんのお菓子を持ち帰ってきてくれた。

俺たちはそれをつまみに真夜中までおしゃべりし、朝まで騒ぎまくった。

いつもなら夕食を食べ終わったらすぐに寝てしまうクラッブとゴイルも眠そうに目をこすっていたが、最後まで起きていてくれた。

 

友人たちのおかげで俺とドラコの溝は完全に埋まった。

 

 

 




すごい恥ずかしい...。ハーマイオニーのことを慰めるシーンで納得出来ない方がいるかもしれません。ですが、作者には女性を慰める才能がないようで、これが限界です。
それにしても恥ずかしい...。
感想、評価お待ちしてます!


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ハロウィーン

徹夜で遊びまくった俺たちは、少し遅めの朝食を摂りに、眠気と戦いながら大広間に向かった。

そしてその途中で、細長い包みを抱えたハリーとロンに出くわした。

 

ドラコはその包みからあるものを連想し、ハリーから包みをひったくった。

 

「やっぱり箒だ……。ポッター、退学は確実になったな」

 

外から触り、中身を確認したドラコは、憎々しげに呟くと包みをハリーに投げ返した。

 

「これはただの箒じゃないぜ。なんてったってニンバス2000だぜ。君、家に何型の箒があるって言った?コメット260かい?」

 

ロンはニヤッとハリーに向かって笑いかけた。

 

「君に何が分かる、ウィーズリー。柄の半分も買えないくせに。小枝を一本一本集めて作らなきゃいけないくせに」

 

ドラコに応戦しようとロンが口を開きかけた時、ドラコの肘あたりからフリットウィックが現れた。

 

「君たち、言い争いじゃないだろうね」

 

フリットウィックは俺たちの顔を見上げながら、キーキー声で問い質した。

 

「先生、ポッターたちが箒を学校に持ち込んだんです」

 

「あーなるほど。いやーいやー、そうらしいね。マクゴナガル先生が特別措置について話してくれたよ。ところで、その箒は何型かね?」

 

ドラコがフリットウィックの言葉を聞き、困惑と苛立ちで顔をしからめる。

 

「ニンバス2000です」

 

口元をピクピクと動かし、必死に笑いを抑えるハリーが答えた。

 

「実は、マルフォイのおかげで買っていただきました」

 

ドラコの顔は怒りで真っ赤に染まる。

 

フリットウィックが俺たちから離れたのを見届けた後、勝ち誇ったように階段を上る二人に言い放った。このままじゃ負けっぱなしで悔しかったのだ。

 

「ポッター、ネビルにお礼を言ったか?お前は、箒を貰えたのはネビルが怪我をしてくれたからだと思っているんだろ?」

 

すぐに二人は階段を駆け下りてきた。

 

「そんなわけないだろ!」

 

ハリーが勢いよく反論した。

 

「どうだか」

 

ドラコがニヤニヤしながら鼻で笑った。

 

「だまれ、マルフォイ!昨日は、僕に負けた上に泣いてしまったらしいじゃないか?一人じゃ何も出来ないんだな」

 

すかさずドラコは言い返す。

 

「僕一人だってお前をこてんぱんにしてやれるさ!何なら今夜だっていいぞ。魔法使いの決闘だ。杖だけを使用し、相手には触れない。どうしたんだ?もしかして魔法使いの決闘なんて聞いたこともないんじゃないか?」

 

「もちろんあるさ。僕が介添人をする。おまえのはそいつか?」

 

ロンが口を挟み、俺をジロリと睨む。

 

「ああ、俺がやろう」

 

「じゃあ、真夜中でいいな?トロフィー室だ。いつも鍵が開いているからな」

 

二人と決闘の約束をした俺たちは大広間に向かった。

 

 

 

 「本当に今夜決闘しに行くのか?」

 

ノットが大きな欠伸をしながら尋ねた。

 

「まさか。僕たちは夜遅くまで騒いでこんなに眠いんだぞ?その時間にはグッスリ睡眠中だ。でも、あいつらは眠れない夜になるだろうな。真夜中のトロフィー室に誰かが現れるってフィルチに告げ口しといてやる。いい方法だと思わないか、セルス?」

 

「ああ、素晴らしい方法だ。あいつらになんと思われようが構わないからな」

 

食パンに齧り付きながら、ニヤリとドラコに笑いかけた。

 

 

 

 

 次の日の午後、いつもの席で本を読んでいるとハーマイオニーが現れた。

 

「昨日はあなたたちのせいでとんでもない目にあったわ!一体何があったと思う!?」

 

ハーマイオニーは席に座るなり、捲し立てた。

 

「ハーマイオニーも行ったのか。何があったんだ?」

 

笑いながらハーマイオニーに問い返す。

 

「あなたたちフィルチを呼ぶだけで来なかったでしょう!……まぁ、それはいいわ。スリザリンらしいと言えるもの」

 

褒める気はまったくないようで、皮肉気な口調だ。

 

「それよりも重要なのは、ダンブルドア校長先生が入っては行けないっておっしゃってた、四階の隅の部屋に三つの頭を持った化け物がいたことよ。その化け物は何かを守っていたようだったわ。足の下に隠し扉があったの。一体何を守っているのかしら……」

 

彼らは順調に賢者の石に近づいているようだ。これならクィレルの俺に関わろうとする動きさえ注意してれば、安心して自分のことに集中できそうだ。

 

 

 

 毎日たっぷりと出される宿題を片付けたり、図書館でためになる本を読んだり、必要の部屋で閉心術の練習をしたり、友人たちと簡易版クィディッチで遊んだりと、暇な時間が一切ない毎日を過ごしていたら、いつの間にかホグワーツに来てから二ヶ月経ち、ハロウィーンの日になっていた。

本来なら、今日はクィレルがホグワーツにトロールを招き入れ、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人で、そのトロールを一緒に倒し、友達になるはずだった。でも、この世界では違うルートになると思う。

何故なら、この世界では既に三人は友達であり、簡単に思いやりの無い言葉を言って、傷つけ合うような関係ではなかったからだ。

俺というイレギュラーが変化をもたらしたのだろう。

原作知識が使えなくなるかもしれないという不安があったが、ハリーとロンと楽しそうに話すハーマイオニーを見ていると、多少の変化なんてどうでもいいなと思えた。

 

 

 パンプキンパイを焼く美味しそうな匂いがホグワーツ一杯に広がり、生徒たちは夕食のごちそうを想像してソワソワしていた。

 

ホグワーツのハロウィーンは、みんなの想像していたものよりも凄かった。

 

大広間はハロウィーン仕様に飾り付けられ、壁や天井では千は超えているであろう数のコウモリが羽をばたつかせ、もう千羽のコウモリが低くたれこめた黒雲のようにテーブルのすぐ上まで急行下し、くり抜いたカボチャの中の蝋燭の炎をちらつかせた。

 

みんなは「トリックオアトリート」と言い合い、お菓子を交換した。持ってない生徒は、下級生であれば顔にいたずら書きされる程度であったが、上級生は臭くなる魔法をかけられたり、鼻を豚の魔法に変えられたり、なかなかハードなイタズラをされた。

仮装した上級生は、美味しいお菓子を大量にくれるので、周りに下級生が集まっていた。

 

みんながある程度はしゃいぐことに満足した時、ダンブルドアが立ち上がり、手を叩いてよく響き渡る音を出した。

次の瞬間、新学期の始まりのときのように、金色に輝くお皿に乗ったごちそうがあらわれる。

みんなはすぐに席に着き、ハロウィーン仕様のごちそうを自分のお皿に盛りつけ始めた。

 

チキンに齧り付こうとした時、クィレルが部屋に全速力で駆け込んできた。まったく、食事ぐらい食べさせてくれてもいいのに。

クィレルは見事な演技で怯えてる振りをし、ダンブルドアの席までかけよった。

 

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って……」

 

クィレルは喘ぎ喘ぎでダンブルドアに報告すると、その場で倒れ込み、気絶した振りをした。

俺からすれば自演行為だと分かっているので馬鹿らしく見えるが、事情を知らないものからすれば、何か恐ろしいことが起きているんじゃないかと思えた。

生徒たちはパニックになり混乱を巻き起こす。しかし、ダンブルドアの素早い冷静な対応により、大混乱になる前に収束することができた。

 

これはクィレルにとって予想外のことだっただろう。クィレルの予定では、生徒たちをパニック状態にして大混乱を生み、誰にもバレずに四階に行こうとしていたのだから。

クィレルが四階にバレずに行くためには、先生たちがトロールを倒しに行く僅かな時間を利用するしか無くなった。

 

「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を連れて寮に帰るのじゃ」

 

重々しいダンブルドアの声が響いた。

 

「スリザリン生!僕はここだ!僕に従ってついてきてくれ。冷静に騒がずに行けば安心だ!さあ、ついてきて!」

 

監督生に従ってスリザリンの寮へと歩き出す。

 

「どうしてトロールが入ってきたんだろう?大丈夫かな……?」

 

青白い顔をしたノットが不安そうに尋ねた。

 

「さぁな。森から迷い込んで来たのかもしれないな。それに、先生方がすぐに対処してくれるから心配ないさ」

 

一年生は恐怖を紛らわすために固まって移動した。

トロールという名前を知っていても、見たことがある奴なんていないだろうから怖いのは当たり前だ。俺も実際に遭遇したら冷静に立っていることなんて出来ないだろう。

一年生でトロールに立ち向かったハリーとロンは、やはり相当の勇気を持っているんだな。流石はグリフィンドールだ。

 

先程まで怯えていた生徒たちは、寮につくなりすぐにバラけて騒ぎ始め、個人個人好きなことをやり始めた。

寮の談話室には、お菓子やごちそうが置いてあったのだ。ダンブルドアの計らいだろう。こんな状況なら先程の出来事なんて綺麗さっぱり忘れ去ってしまえる。

 

騒いでいるみんなから離れ、周りに誰もいない場所で地図を取り出す。

 

地下の女子トイレ付近には教師がいるだけで、ハリーたちの名前は無かった。四階を見ると、スネイプはフラッフィーのいる部屋におり、クィレルは四階から急いで離れているのが分かった。

 

上手いことクィレルのハロウィーン騒ぎは収束したようだ。

安心した俺は、みんなの輪に潜り込み、ハロウィーンの続きを楽しんだ。

 

 




原作が変わってきていますよっていう話でした。


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冬の過ごし方

スリザリン生としての生活と純血家としての生活を想像して書いてみました。


 十一月に入ると、コートを着ないで外に出れば、凍り付いてしまうのではないかと思えるほど寒くなった。

しかし、そんな環境であっても子供たちは元気で、鋼のように固まった湖でスケートをしたり、自分の寮のクィディッチチームを応援しに練習場に駆けつけた。

そろそろ、クィディッチ・シーズンなのだ。

初戦が永遠のライバルであるグリフィンドールなため、練習場には多くのスリザリン生がやってきた。

俺もこの時ばかりは、勉強と閉心術の練習を控えめにした。自寮が頑張っているなら応援したかったし、クィディッチは、やるのは勿論のこと、見るのも好きだったからだ。

 

 

 

 試合当日の土曜日は、カラッと晴れた試合日和の日だった。

今日も寒い日であったが、スリザリン生が固まって今日の試合について熱く語り合うので、それほど寒くは感じなかった。

 

十一時には学校中がクィディッチ競技場の観客席に詰めかけた。それほどクィディッチは人気で興味引かれるスポーツなのだ。

 

「おい、大統領って何だ?ほら、あの大きな旗に『ポッターを大統領に』って書かれてる」

 

望遠鏡で周囲を見渡していたノットが尋ねた。

 

「ああ、マグルの偉い奴だ。魔法大臣みたいな」

 

「ハッ、ポッターにはお似合いだな」

 

ドラコが吐き捨てるように言った。

ハリーがシーカーになっているのが気に入らないのだ。このことはドラコだけじゃなく、他の寮の一年生も同じで、みんな不満を持っている。

誰だって自分が活躍したいと思っているのだ。

原作では勝てたから英雄となったが、この世界では彼はただの目立ちたがり屋になるだろう。

今日勝つのはスリザリンだ。

 

 

スリザリンの選手とグリフィンドールの選手が入場してくる。

観客は彼らを大歓声で迎えた。

 

マーカス・フーチは注意事項を選手達ーーフリントの方を向いていたーーに告げると、選手達をポジションに着かせた。

 

ポジションに選手達が着いたのを確認したフーチ審判は、銀の笛を高らかに吹いた。

 

選手やクアッフルが空中を行き交い、たまにブラッジャーが物凄い勢いで選手に襲いかかった。

 

「あぁ、クソッ!」

 

グリフィンドールのアンジェリーナによって先取点が取られる。

スリザリンの席からはため息とヤジが上がった。

 

「さて今度はスリザリンの攻撃です。チェイサーのピュシーはブラッジャーを二つかわし、双子のウィーズリーをかわし、チェイサーのベルをかわして、物凄い勢いでゴール!……あれ?あれはスニッチか?」

 

リー・ジョーダンの実況を聞いた観客席がザワザワし、金のスニッチを見つけようと周りを見回す。

 

スリザリンのシーカーであるヒッグスとハリーが金のスニッチを見つけ急降下する。追いつ追われつの大接戦だ。

観客もチェイサーも固唾をのんで二人の勝負に注目した。

 

ハリーがヒッグスを引き離し、もう少しでスニッチ取れるという距離に来た時、ハリーにフリントが体当たりした。

 

スリザリンは歓声を上げた。グリフィンドールにフリー・シュートのチャンスを与えてしまったが、負けるよりはマシだ。

 

試合が進み、フリントがゴールを決めた時、ふと、上空を見るとハリーの箒が妙な動きをしているのが確認できた。

 

双眼鏡で教員専用観客席を確認すると、スネイプとクィレルがハリーから目を離さず何やらブツブツ呟いているのが分かった。

それにしてもクィレルは何がしたいのだろうか。この高さから落ちても死にはしないのに。

 

ハリーが安全なことを知っている俺は、ハリーが復活する前にヒッグスがスニッチを取ること祈った。

 

 

 

 

 スリザリンの談話室はお通夜状態だった。

あの後、スリザリンは70対170で負けたのだ。原作通り魔法がとけたハリーはスニッチを口で取り、そこで試合が終了した。

負けるということは原作知識で分かってはいたが、必死に練習する先輩達を見ていた者としては先輩達が負けるとは思いたくなかった。必死に応援すれば勝ってくれる、そう信じたかった。

勝利したときに祝おうと準備していたごちそうやジュースは滑稽だった。

 

「すまなかった……」

 

フリントが代表して謝った。

 

「謝る必要なんて無いさ。お前らはよくやったよ。それに、まだシーズンは終わってないぞ?次こそ必ず勝とう」

 

上級生のダレンは、そう言うとテーブルの紙コップをフリントに渡し、カボチャジュースを紙コップに注いだ。

それからフリントの肩を軽く殴った。

 

スリザリン生はダレンの行動とクィディッチ選手の頑張りを讃え、大きく拍手する。

スリザリンの結束が壊れるなんてことはありえなかった。

 

それから次の戦いに備えて、スリザリン生はごちそうやお菓子を腹一杯食べた。

 

 

 

 

 十二月のなかば、ついにホグワーツに雪が降り積もった。

珍しく朝早く起きた俺は、そのことに気がつくとすぐさま友人達を叩き起こし、雪合戦を行った。大人数でのチーム対抗雪合戦は憧れだったのだ。

渋々だったみんなもすぐにはしゃぎ始めた。

途中で高速で雪玉を作れる魔法を使いだした俺は、そのときだけであるが、確実にヒーローになった。

 

 雪合戦で体を冷やした俺たちは、体を暖めるために暖炉のある談話室に急いで帰った。

 

暖炉の目の前にあるソファーに座り、体を暖めながら先程の雪合戦について話していると、三人の女の子が近づいてきた。

 

「ドラコにセルス〜、ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら?」

 

パンジーが何処か媚びるような口調で話しかけてきた。

 

「なんだい?僕らに出来ることならいいけど」

 

ドラコが気取った口調で尋ねる。

 

「本当!?私たちマルフォ……」

 

パンジーの後ろにいた女の子がパンジーに睨まれ、口を閉じる。

何だか内容が分かってきた気がする。

 

「あのね、二人の家のクリスマスパーティーに招待してほしいの。大きくて素敵なパーティーなんでしょう?」

 

あぁ、やっぱり。マルフォイ家のパーティーには大物や地位の高い家の跡取りが来るからな。家柄が微妙な彼女達やその親からすれば、マルフォイ家のパーティーは心の底から行きたい場所なんだろう。

 

「あぁ、我が家のは規模も大きいし、様々な業界の大物がやってくる。そうだな、君たちのことは父上に話しておくよ」

 

ドラコはそのことに気がついていないようだが。まぁ、これから学んでいけばいいだろ。

 

「ありがとう!クリスマスパーティー楽しみにしているわ!」

 

三人は、はしゃぎながら女子寮へと向かう階段を軽やかに駆け上がっていった。

 

 

 

 

 

 地下牢のにあるため寒くて仕方が無かった魔法薬学の授業を終えた俺は図書館に向かった。クリスマス休暇の間に読む本が欲しかったのだ。

 

『呪いの書=四年生編』と『魔法使いの戦い方』という本を借りた。

四年生とあるが、これは一年生編と二年生編に書かれていた魔法が微妙だったからだ。一体どこで、輪ゴムを当てられたような感覚をさせる魔法や靴ひもを一瞬で固く結ぶ魔法を使うのか……。

 

『魔法使いの戦い方』という本は、魔法をある程度使える人を対象にしていたが、とてもためになりそうになりそうな本だったので借りた。

 

もう少し休暇中に読めるかなと思い、新たな本を探していると、ロンの姿を見つけた。

 

ニコラス・フラメルについて調べているのか。

ふと、ニコラス・フラメルについて話した方が、早く問題が解決されるんじゃないかと思ったが、訳の分からないことになるかもしれないし、ハリーがみぞの鏡を見つけることが無くなると思いやめた。あそこでみぞの鏡と決別出来たのは将来的にハリーの力になったのだから。

それに、俺が何者なんだっていうお話しになるしな。

 

無駄な喧嘩するのは嫌なのでロンに見つからないように、そっとその場を離れた。

 

 

 

 

 汽車がキングズ・クロス駅に到着する。

プラットホームには、久しぶりに自分の子供と再会するために、ソワソワしている親で溢れ返っていた。

 

「ドラコ、セルス!こっちよ!」

 

ナルシッサがこちらに大きく手を振る。そして、自分のところに息子達が駆け寄ってくるのを確認すると両手を開いた。

 

「父上、母上、ただいま!」「父上、母上、ただいま!」

 

俺とドラコは、ルシウスとナルシッサとハグしてもらった。

 

「ああ、お帰り。問題はなかったか?」「お帰りなさい。体調を崩さなかった?ホグワーツは寒かったでしょう?」

 

ルシウスとナルシッサは笑顔で尋ねた。

 

「はい、大丈夫でした」

 

「おい、問題はあっただろう。父上、ポッター贔屓が凄いんです」

 

「その話は後で聞こうか。そろそろ屋敷に戻ろう。少し慌ただしくなるからな」

 

ルシウスは、ドラコの話をやんわりと制すと、そう提案した。

 

ドラコも俺も、手紙では書き切れなかった学校生活を両親に早く話したくて、屋敷に戻るまで始終落ち着かなかった。

 

 

 

 

 クリスマスがやってきた。

ベットの横にはプレゼントの箱が積まれていた。両親以外のプレゼントには全て手紙が着いていた。

ノットからは魔法のオルゴールが、クラッブとゴイルからはお菓子を送られた。

オルゴールは、魔法で音符が飛び出してくるし、色々な曲が聴ける素晴らしい物だった。お菓子は、特に珍しい物ではなかったが、あの二人が食べるのを我慢して送ってきたと思うと嬉しかった。

 

他にも親しい人やスリザリンの先輩から送られてきていた。プレゼントを整理しているとハーマイオニーから来たプレゼントを見つけた。

手紙は急いで机の引き出しに隠した。彼女から送られてきているのがバレたら家族会議になってしまう。

プレゼントは本だった。ハーマイオニーらしかった。

 

両親のプレゼントはどれも素晴らしい物だった。

珍しい生物が載っている『魔法生物図鑑』、小さいものならたくさん入れることが出来る魔法の小袋、香りのいい木で出来た新しいチェス版、エメラルド色の手触りの良いマフラー……。その他色々な物があった。

 

部屋の扉がノックされる。

俺の許可を貰い、両親が入ってくる。

 

「メリークリスマス、セルス。プレゼントは気に入ったか?」

 

「メリークリスマス、セルス。プレゼントはルシウスと選んだのよ」

 

「メリークリスマス、父上、母上。ええ、気に入りました。どれも素晴らしいものですから」

 

二人は顔を見合わせ、微笑み合った。それを見ていると俺も嬉しくなった。

 

「そうだ。そろそろパーティーの身支度をしなさい。今日始めて我が家にやってくる方々にお前達を紹介しなければならないからな」

 

「はい、わかりました」

 

俺の返事に頷いたルシウスはナルシッサを引き連れて部屋を出て行った。

 

挨拶か……。パーティーは好きでも挨拶回りは嫌いなんだよな。

 

正装に着替えるために衣装部屋に向かう。

 

 

 

 

 衣装部屋には既にドラコがいた。

 

「メリークリスマス。俺のプレゼントは気に入ったか?」

 

「メリークリスマス。うん、本当に気に入ったよ!来年のシーカーは確実に僕だな」

 

ドラコにはスニッチを贈った。勿論本物じゃないので、動きは少し遅いが。

 

「僕からのプレゼント。直接渡したいなと思って」

 

小包を渡してくる。

 

「開けていいか?」

 

「勿論さ」

 

中身はクィディッチの戦略について書かれている本だった。

 

「考えてることは同じだったようだな」

 

静かに笑い合った。

 

 

 

 

 

 「皆様、今日は我が家のクリスマスパーティーに来てくださり、誠にありがとうございます。どうぞ、楽しんでいってください。では、メリークリスマス」

 

ルシウスの挨拶でパーティーが始まる。

 

まず始めは挨拶回りだ。

顔見知りであればすぐに終わるが、始めての人であれば自己紹介とあからさまなおべっかを聞かなくてはならない。

 

大体挨拶回りが終わった頃にはヘトヘトになっていた。

こういうところではドラコは頼もしく、未だにピンピンしており、挨拶回りをしていた。マルフォイ家はパーティー慣れするDNAでもあるのだろうか。

 

「セルス、お疲れさま。未だに慣れないのね」「メリークリスマス、セルス。昔からそうよね、ドラコは平気なのに」

 

部屋の隅で休んでいた俺に双子の姉妹が話しかけてくる。ダフネとアステリアだ。

彼女達はグリーングラスという純血の家の娘なので、会うことが多く、昔からの知り合いだ。

 

「合わないんだよな、こういうの。あれ、そういえば話すの久しぶりじゃないか?」

 

「そうよ!同じ寮なのにまったく喋ってないわ」

 

「セルスのことあまり見かけないからね。見かけても男の子たちで固まってるし」

 

時間がないから談話室で過ごすことが少ないからな。でも、彼女たちは媚びてこないレアな存在であるし、話も面白いから交流すべきなんだよな。結局時間の問題になるけど。

 

「悪いな。結構いそがしいんだ」

 

「ふーん。あっ、そうだわ!勉強会を開きましょう!」

 

「は?」

 

「姉様それはナイス、アイディアよ!セルスは頭がいいし!ドラコも入れて勉強会をしましょう」

 

「ちょっと待て!俺は忙しいって言っただろ!?」

 

おいおい、本当に時間が無くなってしまうんだ。

 

「忙しいのだって勉強しているからでしょう?みんなでやった方がはかどるわ」

 

「じゃあ、決定ね。それじゃあ、毎週金曜日の放課後にやりましょう!約束破ったらあなたの父上に言いつけるからね!」

 

二人は唖然とする俺を放置して、ドラコの方に走っていった。

 

最後の望みをドラコに掛けたが、ドラコは頷き、二人が飛び跳ねて喜んでしまった。

 

どの予定を削ればいいのか……。

勉強会にクラッブとゴイルを呼べば中止になるかもしれないと思いながら、俺は予定の優先順位を考え始めた。

 

 

こうして楽しい(・・・)クリスマスパーティーは終わり、すぐに家族と過ごす楽しいクリスマス休暇も終わった。

 

名残惜しい思いをしながら、俺たちはホグワーツ特急に乗り、再びホグワーツへと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様のおかげで日間ランキングにのれました!本当にありがとうございます!かなり嬉しかったw
面白い小説を書けるように、これからも頑張ります!
閲覧ありがとうございました。


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ドラゴン

昨日投稿した『ドラゴン』は削除しました。本当にすみませんorz



 新学期が始まると俺は、空いている時間さえあれば必要の部屋に籠った。

二年生になる前にある程度しっかりした閉心術に身につけたいのだ。二年生では事前に知っていなければ出来ないことをするつもりだからな。そのことをダンブルドアに怪しまれ、目を付けられることは確実だろう。

 

この間、閉心術の練習していて気がついたのだが、本に書いてあった開心術と閉心術の才能っていうのは、人を理解したい気持ちと自分を守りたい気持ち、または周りを拒絶したい気持ちの強さなんだと思う。

実際、孤独で、どこか人に縋ろうとしているようなところがあったダンブルドアとヴォルデモートは開心術が得意であるし、家族が嫌いで幼少期から家族を拒絶していたり、リリー以外の人間にまるで興味を抱かなかったスネイプは閉心術のスペシャリストだ。

 

頭の中にある原作知識を誰にも知られたくない俺は、ある意味この世界の全ての住民を拒絶していると言える。つまり俺には閉心術の才能があるのだ。

と、適当な理由を付けて自分には才能があると思い込むこんでいる。その方がやる気が出るし、練習が捗るからだ。

 

その影響か分からないが、以前よりしっかりとした防御のイメージが浮かべられ、開心術を防げる時間が延びている。

さらに強化した防御のイメージが浮かべられるようになれば、開心術を防ぐことが出来ると思う。

今年中に閉心術を会得することは決して不可能なことではない。

 

しかし、必要の部屋に籠ることで多くの時間が削られてしまい、勉強は疎かになったしーー学校の勉強はなんとかやっているーー、クィディッチはスリザリン以外の試合は見に行けなくなってしまった。

グリーングラス姉妹との勉強会のせいでもある。放課後を潰されるのはかなりダメージが大きい。

 

ハーマイオニーがマクゴナガルから貰うことになる逆転時計が喉から手が出るほど欲しい。あれほど便利な物は無いだろう。まぁ、あれほど恐ろしい物は無いとも言えるが。

とりあえずそれはどうでもいい。とにかく言いたいのは俺には時間が足りないということだ。

 

 

 

 

 復活祭(イースター)の休みは、休みという名の自習日だった。先生達が大量の宿題を出してきたからだ。学期末試験は十週間も先のことであるのに、先生達はこの時期から勉強させたいらしい。

タメになる宿題であれば納得出来るのだが、ただの暗記問題を解かせる宿題だと不満が溜まってくる。こういったものは仲間で分断してやるに限る。

そんなわけで、復活祭(イースター)の日は友人達と談話室で勉強会を開くことにした。

 

「なあ、セルス。ミコンドリアって何だ?」

 

「大抵の植物の成長を促す魔法生物だ」

 

「ふ〜ん。じゃあ、ラスナリルとミナルの違いは?」

 

「んー、分からない。教科書に載ってないのか?」

 

「調べたけど載ってなかった」

 

「おい、ダフネ。ラスナリンとミナルの違いわかるか?」

 

魔法史の勉強をしているダフネに問いかける。

 

「1673年!?嘘、1643年じゃなかったの!?……このノート意味がな、えっなに?」

 

授業中にとったノートと教科書の内容が違ったらしく、かなりイライラしている。やめた方が良さそうだ。

 

「あー、なんでもないわ。おい、ドラコ図書館行って借りて来た方が良さそうだ。あっ、ついでにドラゴンの血について書かれている本も頼む」

 

「わかった」

 

ドラコは嬉しそうに談話室を出て行った。一時的とはいえ、勉強をしなくていいのが嬉しいんだろう。

 

「これってなんて書いてあるんだ?」

 

クラッブとゴイルが教科書を俺の目の前に広げ、文章の一部を指で指した。

 

「えっ、これか?ここ?……ほとんど全部じゃねーか。えーとだな、お前ら筆記試験は諦めた方がいい。今年の試験は実技に専念しろ。」

 

どうやら彼らは字の勉強から始めないといけないらしい。

 

 

 

 

 復活祭(イースター)から数日たったある日の妖精の呪文の授業にドラコは遅刻してやってきた。

俺の隣りの席は既にノットが座っていたので、ドラコは俺のいる場所から離れた席に座ったのだが、授業の間俺のことをチラチラ見てはソワソワしていた。

 

授業の終了を告げるチャイムが鳴ると、ドラコは俺のローブを引っ張って教室の外に引きずり出した。そして人が少ない場所に来ると、重要なことを告げられる予感をさせる、低くゆっくりとした小さな声で喋りだした。

 

「ビッグニュースだ。なんと、森番がドラゴンを飼っている。しかも、それにポッター達が関わっているんだ」

 

ドラゴン事件がついに来たか。この事件でハリーとハーマイオニー、ネビル、ドラコの四人は森に入るんだよな。

原作ではクィレルと遭遇しても何も無かったが、この世界ではどうなるか……。大丈夫だとは思うが、万が一を考えてドラコは罰則を受けさせるべきじゃないな。

 

「それはビッグニュースだな」

 

「僕が信じられないのか?朝食の帰り道で、森番のドラゴンの卵が孵るって話をポッター達が話しているのを聞いたんだ。最初は嘘かと思ったんだけど、一応魔法史の授業が終わった後、森番の小屋に行ったんだ。で、窓から小屋の中を確認したら、本当にドラゴンの赤ちゃんがいたんだ!」

 

テンションを上げて言ったつもりだったのだが、あまり上がってなかったようで、ドラコに疑っていると思われてしまう。既に知っていたことだから、いまいち盛り上がれなかっただけなんだけどな。まぁ、分かるはずが無いが。

 

「勿論信じてるよ。で、これからどうするつもりなんだ?」

 

「うーん、森番をクビにするのは簡単だが、それじゃあ面白くない。ポッター達がドラゴンの件に関わっているっていう証拠を見つけるまでは、放置しておくよ」

 

ドラコは、にやにやと笑った。

 

 

 

 それから一週間、二週間、ドラコはポッター達の行動を監視した。しかし、ポッター達は透明マントを使ってハグリットの小屋に移動するので、それは完全に無駄だった。

ドラコに無駄なことをしていると教えてやりたかったが、透明マントの存在を俺が知っているのは、おかしいことなので言えなかった。

勉強をしろとは忠告しておいたが。

 

今日はドラコが医務室に行っている間、俺は必要の部屋に来た。学期末試験も近いし、今日こそはっ!といつも以上に気合いを入れてだ。

 

鎧の前に立つ。そして、心を覗かれることを拒絶し、自分の記憶、感情をいくつもの壁で守るイメージを浮かべる。壁は巨大で厚く、誰にも壊すことが出来ない。どんなに地面を掘っても、どんなに高く上昇しても壁が途切れることはなく、俺の中身を見ることも近づくことも出来ない。そんな鉄壁をイメージする。

 

準備ができた俺は杖を鎧に向ける。

 

次の瞬間、何者かが俺の中身を覗こうと物凄い勢いで壁にぶつかってくる。しかし、この感覚は何度も体験している。いくらぶつかってこようが怯まない。

いくばくかの時間が経った後、衝撃が止む。

 

「ふぅー、……やった、ついにやったぞ!!!」

 

ついに閉心術が成功した!

これなら簡単に知識を覗かれることはないだろう。あとは、閉心術を一瞬で使用出来るようにすれば完璧だ。

 

もうホグワーツで目立った行動をして、ダンブルドアに目を付けられても平気だ。これで二年生になった時に自由に行動出来る。

 

 

 

 

 「セルス!!!これを見てくれ!」

 

部屋に入ると、ドラコが何かを握りながら駆け寄ってきた。

 

ドラコが渡してきたのは、皺くちゃになったチャーリーからロンへの手紙だった。土曜日の真夜中にドラゴンを連れてホグワーツの一番高い塔に来てくれといった内容だ。

 

「ウィーズリーから奪った本に挟まっていたんだ。まったく間抜けだよな……」

 

「ついに証拠を掴んだな。これをスネイプ先生に渡せば奴らは大減点だ!」

 

くっくっとドラコが笑う。

 

「あの野蛮人も逮捕だな」

 

それはどうかな。ダンブルドアが通報するとは思えないし。

 

「今からスネイプのところに行くんだろ?俺も一緒に行っていいか?もちろん一緒に行っても手柄はドラコだけのものだ」

 

「今から行くのか?……まあ、いいか。じゃあ、行こう」

 

 

 スネイプの部屋の前に来た。

 

「スネイプ先生!ドラコ・マルフォイです」

 

部屋の扉をノックしたドラコは中にいるスネイプに呼びかけた。

 

扉が開き、スネイプが出てくる。

 

「何用だね?ん?お前もいたのか」

 

ドラコがスネイプに手紙を差し出す。

 

「これを見ていただければわかりますよ」

 

手紙をジーと読んでいたスネイプが顔を勢いよく上げる。

 

「これにはポッターも関わっているのか!?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「よくやった!」

 

スネイプは何処かに向かって歩き出した。

 

「スネイプ先生!ちょっと待ってください!」

 

「なんだ?まだ何かあるのか?」

 

スネイプが足を止め、こちらを振り返る。

 

「もしも減点しようとしたり、退学させようとしているんだとしたら今じゃない方が良いんじゃないでしょうか?現行犯で捕まえた方がいいのでは?」

 

「あぁ、確かにそうだな。では、そうしよう」

 

三人は顔を見合わせ、ニヤリと悪そうな顔で笑った。

 

 

 

 

 

 日曜日の午後には、ハリーとその友人二人が夜中に抜け出し、150点も減点されたという話がホグワーツ中に広がった。ネビルは巻き込まれないと思っていたが、土曜日の夕方にドラコになにやら吹き込まれたらしく、原作通りマクゴナガルに捕まったらしい。

ハリーは一夜にして人気者から叩かれる人間に立場が逆転した。一方、ドラコはスリザリンの英雄だ。宿敵のグリフィンドールの点数を減点させるチャンスを作り、スリザリンを寮対抗杯のトップにしたのだから。

 

こうしてグリフィンドールだけが減点されることとなり、罰則もグリフィンドールの三人だけが受けることとなった。

 

 

 



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学期末

一週間ほどすると、生徒達はハリー達が減点されたことについて騒がなくなった。学期末試験がすぐそこまで迫っており、自分達の勉強でいっぱいいっぱいだったからだ。

 

俺の周りでは、特にドラコが焦っていた。ハリー達の行動を見張っていたために、一、二週間ぐらい勉強をしていなかったからだ。

ルシウスとナルシッサは基本的に俺たちに甘いが、家の評判を落とす行為や、勉強が疎かになっている場合は、しっかりと叱ってくる。だからドラコには開き直って勉強をしないという選択肢をすることはできなかった。まぁ、そもそもプライドの高いドラコが勉強をしないという選択肢を取る訳が無いのだが。

 

ドラコは減点騒ぎがあった日の次の日から猛勉強を始めた。

暗記系の教科は他の人よりも少し遅れていたが、実技の方は他の人よりもリード出来ていた。元々才能があるのに加えて、基礎の部分がしっかりしていたからだ。基礎がしっかりとしていれば上達していくのも早いからな。

 

焦る人がいる中、落ち着いている人もいた。事前に勉強をしていたために詰め込む必要がない者と、完全に諦めている者、やる気が無い者だ。クラッブとか、ゴイルとかだ。

二人は結構高い確率で落第しそうだったので、実技系の教科をみんなで教えた。二人は理解しているのか理解していないのか分からない表情で教わっていた。

基礎があるのかどうか不明な彼らだったが、本当に不思議なことに魔法を唱えることは得意だった。シェーマスの唱える呪文の多くを爆発系の魔法に変える不思議な現象と同じように、呪文の一部が間違っているのにも関わらず魔法を成功させる力があった。勿論、その魔法は他の生徒よりも劣っていたが、これはチートと言ってもいい程の才能だ。イメージ力が強いのだろうか……。

 

俺はというと、ひたすら暗記教科を勉強していた。実技は得意中の得意だから、そこまで勉強する必要がないからな。魔法薬学は別だが。

あれは難しすぎる……。手順を間違えてはならないのは当たり前だが、少しでも分量が違うと上手くいかない。本当に繊細な教科だ。

 

図書館に参考資料を借りに行くと高い確率でハリー達に見かけた。みんながあまり騒がなくなったとはいえ、グリフィンドールの談話室で勉強はできなかったんだろう。

 

生徒たちは、様々なスタイルで勉強し、試験に備えた。

 

 

 

 

 試験の日はうだるような暑い日だった。そして筆記試験の行われる大教室は、さらに暑かった。

むんむんと熱気がこもる大教室にいると、せっかく覚えてきた知識が蒸発している気がしてきた。魔法で、この教室を冷やして欲しいと心の底から思った。

 

「始めなさい」

 

担当教員の合図を聞いた生徒たちが、いっせいに問題用紙をひっくり返し、問題を解き始める。

 

最初の方は簡単な問題で、だんだんと難しい問題になり、時折かなりの難問が出てくる。

一番下の問題までと気負える。空欄があるが、結構出来た方だと思う。

 

見直しを終えた時には、残り十分になっていた。空欄はあったが、それは完全に諦めた。カンニングでもしない限り、埋められない自信がある。

そういえば、試験前にカンニング防止の魔法がかけられた特別な魔法羽根ペンが配られたが、これはどうやってカンニング行為を発見しているのだろうか?使用者の心の中でも覗いているのだろうか?もしそうだったら閉心術でバレない可能性が……。やらないが、いつか試してみたい。

 

「終了。答案羊皮紙を丸めて」

 

一個目の教科が終了した。

 

 

 

 筆記試験では自信の無い教科があったが、実技試験は全て完璧と言える結果を出した。

フリットウィック先生のパイナップルを机の端から端までタップダンスさせる試験では、パイナップルを上手く動かし、フリットウィック先生を喜ばせた。

マクゴナガル先生のねずみを嗅ぎタバコ入れに変える試験では、ねずみをシンプルだが上品な嗅ぎタバコ入れ変えることに成功し、頑張りましたねという褒め言葉も貰った。

スネイプ先生の試験は忘れ薬を作ることで、見た目は忘れ薬になった。成功したかはスネイプ先生が何も言わないので分からなかった。

最後は魔法史の筆記試験は、ほとんどの単語問題が教科書に載っていることだったが、記述問題は教科書に載っていないことが出てきた。おそらく授業中に話したのだろう。前の問題の流れで推察出来るようになっていたのはビンズ先生の優しさだろうか。

 

ビンズ先生の言葉で試験が終わると、生徒は歓声をあげた。そして羊皮紙が回収されると、教室の外へ向かって駆け出した。

 

「セルス、中庭に行こうぜ!ドラコ達がもう待ってるぞ!」

 

ノットが急かす。

 

「こんなに暑いのにか?」

 

「馬鹿野郎!こんないい天気なのに外にでないでどうする!?行くぞ」

 

ノットが俺の腕を引っ張って走り出す。

朝は、なんて天気だ!って言ってたくせに……。だけど、テストから解放されて夏休みが来ると思うと、いい天気だと思えてくる。

問題はハリー達に任せて、俺はテスト終わりの幸せな時間を満喫しよう。

 

 

 

 

 学期末試験から二日後、試験が終わり遊び回っていた生徒たちにある噂が流れた。

 

クィレルが学校に隠された賢者の石を盗もうと、真夜中に四階にある部屋に入り込んだ。賢者の石を守る為の罠はあったが、クィレルは突破してしまう。もう少しで賢者の石を手に入れてしまうかと思われた時、ハリーが現れ、クィレルを倒した。そして、賢者の石は守られた。

 

という噂だ。生徒たちは噂の真偽を確かめようとハリーを探した。そして怪我をして医務室にいるとわかると、ハリーを英雄と讃え、医務室に見舞い品を贈った。

 

この噂が真実であると知って喜ばなかったのはスリザリンの生徒だけであった。スリザリンの生徒は、ハリーの英雄的行為によってグリフィンドールに大加点され、自分たちが寮対抗杯の一位の座から落ちることを恐れたのだ。

しかし、いくらたっても寮の得点を記録している大きな砂時計は変化しなかったので、安心した一部のスリザリン生がハリーの行動を讃えることがあった。

 

 

 

 学年末パーティーの日、大広間はグリーンとシルバーのスリザリン・カラーで飾られていた。これを見てスリザリン生は勝利を確信した。

無論、俺以外のスリザリン生がだが。ダンブルドアも罪なことをするよな。負けたと思っていたら勝ってしまったならいいが、勝っていたのに負けただと、かなりダメージが大きいし、怒りも大きくなる。

 

ハリーが大広間に入ってくると、みんなは突然静かになり、そしていっせいに喋りだした。英雄の姿を見ようと立ち上がる者もいた。

しかし、ダンブルドアが現れたことによって騒ぎはすぐに小さくなった。

 

「また一年が過ぎた!」

 

ダンブルドアがほがらかに言った。

 

「君たちが何かしらの知識を頭に詰め込めていればよいがの……。それでは、食事の前に寮対抗杯の表彰を行うことにするかの。点数を発表する。四位、グリフィンドール324点。三位、ハッフルパフ359点。二位、レイブンクロー423点。そして一位のスリザリンが544点」

 

スリザリン生が嵐のような歓声を出し、足を踏み鳴らしたり、ゴブレットで机を叩いたりした。

 

「スリザリン、よくやった。実に良くやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 

ダンブルドアの言葉によって、スリザリン生の表情は凍り付いた。

 

「まずはロナルド・ウィズリー。素晴らしい才能と努力によって、最高のチェスゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに60点を与える」

 

今度はグリフィンドールから嵐のような歓声が上がる。

スリザリン生は唖然とした表情で顔を見合わせた。

 

「火に囲まれながらも冷静な論理を用いて対処した、ハーマイオニー・グレンジャーを称え、グリフィンドールに60点を与える」

 

スリザリン生はこれから起こるだろう未来を想像し、青ざめたり、唇を噛み締めたりした。

 

「次に、ハリー・ポッター。……その完璧な精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに80点を与える」

 

「敵に立ち向かうためには大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かうのにも同じくらいの勇気が必要じゃ。そこで、ネビル・ロングボトムに30点を与えたい」

 

スリザリンを除いた全ての寮の生徒が立ち上がり歓声を上げた。どれだけスリザリンが嫌われているか分かる。レイブンクローの一部はスリザリンが八年連続で優勝しなかったことを喜んだかもしれないが。

 

「したがって、飾り付けを変えなきゃならんの」

 

大広間の飾り付けが、スリザリン生の絶望した真っ青な顔と対照的な真っ赤なグリフィンドール・カラーに変化した。

 

 

 

 

 学年末パーティーの次の日に試験の結果が出た。

俺は二位で、ドラコは四十八位、ノットが三十一位、クラッブとゴイルはなんとか落第を逃れられるラインだった。

ドラコは成績が中の上であったために、家に戻りたくないとごねていた。ノットと俺は自分の成績に満足しており、家に帰るのが楽しみで仕方が無かった。

 

汽車に乗り込み、ホグワーツを離れる。

親に会いたい気持ちもあるが、それ以上に友達と別れたくなく、いつも以上にふざけおしゃべりをした。

 

とうとう汽車がキングズ・クロス駅に着いてしまうと、夏休みに遊ぶことと、手紙のやり取りをすることを約束した。

 

友人達と別れたドラコと俺は、ルシウスとナルシッサに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて賢者の石編終了です!楽しんで頂けたか不安です……。

秘密の部屋はオリジナル感のあるストーリを書きます!多分!オリジナル要素の多い方が書いてて楽しいので、大丈夫だと思いますがw

そういえば、セルス君八位にしましたけど高すぎましたかね?一学年140人ぐらいらしいので八位にしたんですけど。ハーマイオニーと勉強会出来るレベルならこのぐらいだよね!(自己解決)

閲覧ありがとうございました!

*二位に変更


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ハリー・ポッターと秘密の部屋
夏休み


面白い、もしくはワクワクするようなサブタイトルにしたい.......。


 ドラコから学期末パーティーの話を聞いたルシウスは、夏休みが始まってすぐに、ダンブルドアを校長の座から引きずり落とそうと、様々な人に手紙を送ったり、色々な場所を駆けずり回ったりした。

 

魔法大臣のファッジにも手を回そうとしたようだが、うまくいかなかったようだ。

ファッジは、ダンブルドアはホグワーツの校長をやめたあと、魔法大臣の座を狙うと考えているらしく、重大な問題じゃない時は黙認するとスリザリンの友人から聞いた。

それに、あのハリーポッターが英雄らしいところを見せたのに、わざわざ魔法大臣が出しゃばってきて釘を刺したという話が広がると、支持率が下がってしまうかもしれないという不安もあったのだろう。

 

他の人も上手くいかなかった。

英雄として多くの人々の関心を集めるハリーを叩きにいく行為は、自分にも火の粉が降り掛かる可能性があるので、簡単に手を差し出せることではなかったのだ。

周りからの掩護射撃を受けられないまま理事会でダンブルドアを解任するかどうかの話し合いが行われ、多数決によってダンブルドアを解任しないことが決定した。

 

そのことに対するルシウスの怒りは尋常なものではなかった。

そのため、家族に八つ当たりしてしまうのを可能性を考え、ルシウスは自分の仕事部屋にこもった。食事は屋敷しもべ妖精が部屋に届けていた。

 

四日経ってルシウスは仕事部屋から出てきた。出てきたときの顔は素晴らしいことを考えついたような、そんなワクワクした表情だった。

原作知識を持つ俺には、闇の帝王の日記をホグワーツに持ち込むことを考えついたのが分かった。ホグワーツの校長という肩書きをダンブルドアから奪う為に、ウィーズリー家の子共がマグル出身の子供を殺すという大事件を起こさせる為に自分できっかけを作ることにしたのだ。

 

ルシウスが仕事部屋から出てきてから、ドビーの様子がおかしくなった。マルフォイ家の人間を見ると怯え、いや、それはいつものことか。問題なのは俺の姿を見ても体を震わせるのだ。

つまり、闇の帝王の日記をホグワーツに持っていくことを知り、そのことをハリーに知らせようとしているということだ。俺の前でおかしな態度をする理由はそれぐらいしか無い。

 

ハリーと会う前にドビーに伝えなくてはならないことがある。

 

 

 

 

 ドビーを屋敷の端にある物置部屋に呼び出した。

ドビーは、何故自分がこんな所に呼び出され、そして何故俺がこんな所に一緒にいるのか分からず、不安そうに部屋にある物をキョロキョロ見ていた。

この汚い物置部屋には屋敷しもべ妖精しか入ってこないからな。つまり、この家の人間に万が一にも話が聞かれる心配が無い場所だということだ。

 

「ドビー、単刀直入に聞くぞ?マルフォイ家を裏切るような行為をしようとしているな?」

 

ドビーは、大きな目をさらに大きくすると、体を痙攣させた。

 

「ち、違うのです、セルス御坊ちゃま!ただ、ドビーはハリー・ポッターに危険を知らせ……」

 

自分が余計なことを言ったことに気がつき、慌てて細い手で自分の口を押さえる。

 

「ポッターに危険か……。闇の帝王の所持品のことかな?」

「な、なぜそのことを!?」

 

暗い部屋なのにも関わらずきらきらと光る不思議な目で、俺をじーと見つめる。

 

「たまたま父上の仕事部屋の前を通りかかった時に聞いてしまってな。で、俺がドビーに言いたいことは一つだけだ」

 

ごくりと唾を飲み込む音が部屋の中で響く。

 

「ポッターに危険が迫っていることを知らせるのは構わない。俺もポッターが傷つくのは嫌だからな。でも、ホグワーツに行くのを無理矢理邪魔するのだけはやめろ。自分から行きたくないと思っているなら話は別だが」

「どうしてですか!?学校に来なければ、ハリー・ポッターは安全なのですよ!?」

「学校にいれば俺がポッターを助けることができる。それに、家にいれば安全なんて誰が言ったんだ?危険はそこらに転がっているぞ?」

 

ドビーが何かに気がついたようで慌てて俺に喋る。

 

「セルス御坊ちゃまがご主人様に止めてくださればいいのでは?」

「父上はしらばっくれるだろう。他の人にだって言えないし。父上を捕まる手助けなんて出来る訳が無いだろう?」

 

解決方法を考えるドビーを残し、部屋の出口に向かう。そして、まるで今思いついたかのような口調でドビーに話しかけた。

 

「あっ、そうだ。ポッターを守りたいのなら俺の命令を聞いてもらえるか?俺たちが力を合わせれば全てが上手くいくと思うんだ。協力してくれたら父上にお前を自由にするように頼むよ。自由に憧れているんだろ?」

 

部屋の扉を閉める瞬間にチラリと見えたドビーは、ぼんやりとした表情で虚空を見つめていた……。

 

 

 

 

 ドビーは、友人からの手紙が来なければ学校に行きたくなくなると考え、ハリーへ届く手紙を全て回収したらしい。でも、ハリーに危険を知らせる際にうっかり口を滑らせてしまい計画は失敗した。原作と同じだ。しかし、ケーキをお客様にぶつけることはしなかったようで、ハリーは部屋に監禁されなかった。

 

ここまでドビーから話を聞いた俺は、ウィーズリー兄弟のハリー救出作戦はなくなったと思ったのだが、どうやら原作通り車でハリーを連れ去ったらしい。

原作でハリーを救出したのは、ハリーを心配しているというよりも、単純に車を運転したかったからなのかもしれない。面白そうなことを優先するようなところがあるし。

 

そういうわけで原作通りハリーはウィーズリー家で夏休みを過ごすことになった。

ウィーズリー家を見張っていたドビーの話では今日ダイアゴン横丁に行く予定らしい。そして、今日ダイアゴン横丁に行くのはマルフォイ家もである。ズレなくてよかった。

 

 

 

 煙突飛行ネットワークを利用して夜の闇(ノクターン)横丁に移動した。ナルシッサは来なかったので、男だけの集団だ。

夜の闇(ノクターン)横丁には、凶悪な顔をした者や怪しげな格好をした者など、かなり危険そうな連中がウロウロしていたが、ルシウスのことを確認すると道をあけたり姿を隠したりした。

 

ルシウスは何も言わずに奥に向かって歩いていたが、ボージン・アンド・バークスという周りの店と比べると立派な店の前で足を止めた。そのことから、ここが目的地だと気がついたドラコが店の扉を開き中に入った。

 

「二人とも一切触るんじゃないぞ」

 

店の奥へと移動する俺たちにルシウスが釘を刺した。

 

「プレゼントを買ってくれると思ったのに」

「競技用の箒を買うと言ったんだ」

 

ルシウスがカウンターを指で叩きながら言った。

 

「寮の選手に選ばれなきゃ、そんなの意味無いだろ?」

 

ドラコが不機嫌な顔になる。

 

「なんだよ、ドラコは選手に選ばれないと思っているのか?」

 

すぐさまドラコが言い返す。

 

「選ばれるに決まっているだろ!」

「じゃあ、いいじゃないか」

 

俺たちの会話を聞いてルシウスが苦笑する。

 

「マルフォイ様、また、おいでいただきましてうれしゅうございます」

 

カウンターの奥から猫背の男が現れた。ボージンだ。

 

「恐悦至極でございますーそして若様たちまでー光栄でございます」

 

ボージンに軽く頭を下げると、使えそうな物がないか陳列棚を再び眺める。大人(・・)の商談に興味は無いからな。

 

ドラコが『輝きの手』を買って欲しいと強請った時に、指にはめた者の記憶をごちゃごちゃに掻き混ぜる指輪を発見した。一体どういうことだろうか。絞首刑用のロープは触った者に自殺願望を植え付けるらしい。どれも強力すぎて使えそうにない。

 

ドラコがキャビネット棚を開こうとした時に、商談を終えたルシウスが声をかけた。

チラリとキャビネット棚を見てから、店の外に出た。

 

「ボージン君、お邪魔したな。明日、館の方に物を取りにきてくれるんだろうね」

 

ボージンが頷くのを確認したルシウスは店のドアを閉めた。

 

 

 

 

 夜の闇(ノクターン)横丁を出たルシウスは箒を買う為に高級クィディッチ用具店に向かった。

店の箒棚には様々な種類の箒が飾られていた。軽くて素早いのが特徴であるクリーンスイープの最新型も販売されていたが、ドラコはニンバス2001を選んだ。ハリーの箒よりも優れている箒であることが気に入ったのだろう。

俺もニンバス2001の見た目が気に入っていたことと、ニンバス型は乗り心地がいいことを知っていたことから、ニンバス2001を買ってもらうことにした。

ルシウスは箒を管理する為の道具も一緒に買い、それを家に届けるようにと店員に頼んだ。

 

高級クィディッチ用具店を出たルシウスは、お金を俺たちに渡し、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に行っていろと言いつけた後、数人の集まっている場所に歩いていった。知り合いを見つけたようだ。

 

書店につくまでかなりの時間がかかった。店が売っている様々な商品を眺めたり買ったりしていたからだ。

 

書店に着いた俺たちは二階に上がった。一階はロックハートのサイン会に集まった人でごちゃごちゃしていたからだ。

 

ルシウスが来るまでの暇な時間は商品の本を読んで過ごした。拍手と歓声が聞こえ、二階の手すりから下を見下ろす。ロックハートのサイン会が始まった。

 

ロックハートのサイン会が始まって少ししてルシウスがやってきた。ルシウスは書店の騒がしさに眉を潜めながら、教科書を買ってくると俺たちに言い、店員の方に歩いていった。

 

一階がより一層騒がしくなる。ハリーが見つかったようだ。

ロックハートは無理矢理ハリーを引き寄せると、自分とのツーショットを日刊予言者新聞のカメラマンに撮らせた。ハリーと一緒なら新聞の一面に載れると思ったんだろう。自分でも言っていたし。

 

最後にロックハートがホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の担当教授職についたことをファンと記者に発表した。ダンブルドアは人を見る目があるのか無いのかどっちなんだ……。今回ロックハートを教員にしたことは俺にとってはプラスの出来事になりそうだが。

 

人混みを何とか抜けてきたハリーはジニーの大鍋に、ロックハートから無料で貰ったサイン付き本を入れた。

 

ドラコが階段を降りる。

 

「いい気持ちだっただろうねぇ、ポッター?」

 

完全に馬鹿にしている口調でドラコがハリーに言った。

 

「有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行くだけで一面大見出し記事かい?」

「ほっといてよ!」

 

ジニーがハリーの前にずいっと出てきてドラコを睨んだ。

 

「ポッター、ガールフレンドかい?」

 

ドラコがせせら笑う。

 

「なんだ、お前か」

 

ロックハートの本を抱えたロンが、ゴミを見るような目でドラコを見る。

 

「ハリーがここにいて驚いたのか、え?」

「ウィーズリー、君がここにいるのを見てもっと驚いたよ。そんなに本を買って家計は大丈夫なのか?」

 

ロンが殴り掛かろうとするが、ハリーとハーマイオニーに止められた。

 

「ロン!」

 

ウィーズリー家の主がこちらにやってくる。

 

「何しているんだ?早く外に出よう」

「おぉ、これは、これは。ウィーズリー」

 

ルシウスが俺とドラコの間に立つ。

 

「ルシウス……」

「ここ最近お仕事が忙しいようだが、しっかりと給料は払われているのかね?そんな……味のある?本しか買えない所を見るとそうでもないようだが……」

 

ウィーズリーの父親は顔を真っ赤に染めた。

ルシウスの目が、成り行きを心配そうに見つめるハーマイオニーの両親だと思われる人物に移る。

 

「こんな連中と付き合うとは……。一体どこまで落ちれば気がすむのかねぇーー」

 

とうとうウィーズリーの父親が切れ、ルシウスに跳びかかった。周りを巻き込んだ喧嘩の始まりだ。その喧嘩はハグリットによって止められたが、二人の怪我は酷かった。本で叩きあったんだから当たり前だ。

 

「ほら、君のだ。君の父親がなけなしの金を使って買った本だ」

 

ルシウスが落ちていた本を拾いジニーに渡した。

本の中には、黒い革の日記が入っていたことをしっかりと確認した。

 

「セルス降りてこい!行くぞ!」

 

ルシウスがドラコを引き連れて店を出て行く。

 

下にいた人達は誰も俺のことに気がついてなかったようで、ルシウスの言葉を聞いて二階を見上げた。

 

俺は一階に降りるとウィーズリーの父親とグレンジャー夫妻に軽く頭を下げた。それから店内の惨状を見て困った顔をしている店員にすみませんと謝り、店を出た。

 

当たり前の行為ではあるが、このようなマルフォイ家の人間がしないようなことをしたのは、こちらを見ていたロックハートに真面目な少年という印象を与える必要があったからだ。

 

 

新学期まで、あと一ヶ月。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これから少しずつ原作が変わっていきます!
注目はロックハートさんですかね。彼を上手く利用したい。
閲覧ありがとうございました!


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目論み

『教師に一人変人がいる』をサブタイトルにしようとしてやめた...。シンプルが一番!


 ダイアゴン横丁から帰ってきてから数日後にニンバス2001が家に届いた。これほど素晴らしい箒が目の前にあるというのに、飛ばないという選択肢を選ぶことは出来ず、届いたその日からドラコと平原で空を飛び回った。競争をしたり、キャッチボールをしたり、チキンレースをしたりなど、楽しくて仕方が無かった。

あまりに箒にはまってしまったせいで、宿題が終わっていないことに気がついたのは夏休みが終わる一週間前だった。

そんなわけで宿題を片付ける為に徹夜をしていた俺は、8月31日の夜は何も考えずにベットに飛び込んで熟睡することが出来た。

 

 

 

 十一時になって、汽車が発車した。ハリーとロンが列車に乗ってくる姿は確認出来なかったが、ドビーは何もしないと言っていたので大丈夫だろう。

 

「お前ら、夏休みの後半何してたんだ?手紙が来なかったんだけど」

 

席の真ん中で足を組んでいるノットが尋ねる。クラッブとゴイルは他のコンパートメントに乗っているので、ノットは一人で席に座っているのだ。

 

「聞きたいか?聞きたいだろう?」

 

ドラコがニヤニヤしながらノットを見る。ノットは若干引き気味だった。

 

「ずっとニンバス2001で飛び回っていたんだ。あと、宿題な」

「ば、ばか!何で先に言うんだよ!?」

 

ドラコが襟元をつかんで揺らしてくる。ドラコの自慢はめんどくさい。

 

「本当かよ!?すっげぇ……。なぁ、今度俺も乗せてくれよ」

「あぁ、いいぞ」

 

ドラコが手を離し、胸を張った。

 

「よっしゃ!選抜試験は勿論受けるんだろ?じゃあ、絶対応援行くから二人とも頑張れよ」

 

原作だとドラコは選ばれていたけど俺はどうなるのか。まぁ、ホグワーツで事件が起きたら試合が中止になるんだけど。

 

 

 

そろそろホグワーツに着くことを知らせる放送が聞こえたため、本を閉じる。ロックハートが書いた本だ。

この本は教科書には向いていないが、自分のことを持ち上げるシーンに目をつぶれば、この本は十分満足出来る内容であり、面白い。

しかし、この本を完成させる為に人の記憶が奪われていると考えると複雑な気持ちになってしまうが。

 

汽車がプラットホームに到着すると、通路が生徒達で埋まった。汽車を降りて外に出ると、ハグリットの一年生を呼ぶ声が聞こえてくる。

勿論今年はハグリットにはついていかず、上級生の案内に従って別ルートで移動した。やはり、一年生以外の生徒は安全で早い道を使うようだ。

 

何事も無くホグワーツに到着する。

大行列で玄関ホールを抜けて、大広間に入り、生徒は寮ごとに別れて座った。

 

しばらくして、不安そうな表情の一年生が大広間に入ってきて、組み分けが行われる。

 

組み分けが終わったのを見届けたダンブルドアが立ち上がり、新学期のあいさつと闇の魔術に対する防衛術の先生にロックハートが就いたことを発表した。

ロックハートは立ち上がり生徒たちに爽やかな笑顔を振り撒き、大きく手を振る。それを見て一部の女子生徒が黄色い声を上げた。

ロックハートは前に出て何やらやろうとしていたが、マクゴナガルによって止められた。

ナイス判断だ。ロックハートに魅力を感じていない者にとっては、彼の演説などどうでもいいことで、それよりもお腹が空いていることの方が重要なことなのだ。

 

ダンブルドアの合図で、テーブルに様々な料理が並ぶ。みんなは急いで自分の皿に料理を取った。

 

「ねぇ、ロックハート先生って素敵だと思わない?ほら、見て。食べ方も上品……。完璧な人ね」

 

少し離れた席に座っている一年生の女の子が隣りの女の子に話しているのが聞こえる。

教員席を見ると、ロックハートはフリックウィット先生になにやら熱心に話しかけていた。んー、上品にはとても見えない。

恋は盲目ってやつかな。女子生徒の一部にかかっている魔法が解けるのはいつなのか見物だ。

 

新入生の歓迎会が終わり、寮に戻るとすぐに俺は夢の世界に入った。寝不足のうえにお腹いっぱいで眠気が半端なものではなかったのだ。

 

 

 

 スリザリンの二年生以上の生徒は朝食の時間に遅れずにやってきた。

去年はダンブルドアによって寮対抗杯はグリフィンドールに奪われてしまったが、今年は寮対抗杯を奪い返してやると燃えているからだ。減点されるような隙は作らないし、授業で得点を貰えるように予習もしっかりしている。

 

スネイプが大量の紙を持って、スリザリンの席に歩いてくる。上級生から紙は配られていった。スネイプが渡してきた紙は時間割表だった。

 

「おい見ろよ、この時間割!グリフィンドールとの合同授業ばかりじゃないか」

 

ドラコの言った通り、グリフィンドールとの合同授業は多かった。魔法薬、闇の魔術に対する防衛術、薬草学の三つだ。

 

「今日はほとんどグリフィンドールと一緒だ。楽しい一日になるな」

 

俺の皮肉にドラコが顔をしからめた。

 

「まさか、年々増えていくとかじゃないだろうな?」

 

スリザリンとグリフィンドールの二年生の気持ちを表しているかのように、大広間の天井にはどんよりとした灰色の雲が浮かんでいた。

 

 

 

 

 薬草学の授業は三号温室で行われるらしい。今まで一号室でしか授業をやってこなかったから中がとても気になる。

スプラウトが大きな鍵で温室のドアを開けた。中に入ると甘い匂いと肥料の匂いが混ざった感じの匂いがした。かなり不快だ。

温室の真ん中には簡易ベンチが置かれ、そのベンチの上には耳当てが置いてあった。そして、温室の片隅には鉢がたくさん並べられていた。

 

「今日はマンドレイクの植え替えをします。マンドレイクの特徴が分かる人は?」

 

スプラウトが問いかけた瞬間、俺とハーマイオニーが手を挙げる。スプラウトはハーマイオニーを当てた。ハーマイオニーは見事に答えることができ、グリフィンドールは十点加点された。それに対して、グリフィンドールは小さく歓声を上げ、スリザリンは呻き声を漏らした。

 

スリザリンとグリフィンドールの合同授業を行うのは失敗だろ。この合同授業に対抗心が生まれるが、その対抗心が勉強に繋がらない気がする……。

 

「マンドレイクは大抵の解毒剤の主成分になります。しかし、危険な面もあります。何故か分かりますか?」

 

今回も俺とハーマイオニーは同時に手を挙げた。今度は俺が当てられる。

 

「マンドレイクの泣き声を聞いた者は死んでしまうからです」

「その通り。スリザリンに十点。」

 

今度はスリザリンが喜び、グリフィンドールが悔しがった。

 

スプラウトからマンドレイクの植え替え方法を聞いたあと、四人組になって一つの苗を植え替えることになった。

植え替えの途中でドラコがマンドレイクの口に指を突っ込んで噛まれた。そのときのドラコの顔が面白くて大きな声で笑ってしまった。みんな耳当てをしているからバレないと思っていたのだが、スプラウトに見つかり怒られた。何を言っているか分からなかったが。

 

説教が終わり鉢を見た時には鉢の半分が土で埋まっていた。マンドレイクの植え替えは土を入れるだけで終わってしまった。しかし、汗まみれの泥だらけの人達を見るとやらなくてよかったかもしれない。

 

 

 

 薬草学の次の授業は妖精の呪文だったが、ほとんど一年生の後半の授業の復習だった。夏休みの間に忘れてしまった人がたくさんいたのでフリットウィックの判断は正しかったが、少し退屈な授業だった。

 

昼食の時に、昼休みは中庭で過ごそうという話になったので大広間から中庭に来たのだが、中庭の石段付近にポッターがいるのを見てドラコが足を止めた。

 

「ーーそれから、写真にサインしてもらえますか?」

 

カメラを持った少年がハリーに熱っぽい視線を送りながらお願いした。

 

「サイン入り写真!?ポッター、サイン入り写真を配っているのかい?」

 

ドラコの声が中庭に大きく響いた。中庭にいた生徒達が何事かとこちらに注目する。

 

「みんな、凄いぞ!ハリー・ポッターがサイン入り写真を配ってくれるそうだ!」

 

ハリーが真っ赤になって言い返す。

 

「僕はそんなことしてないぞ。黙れ、マルフォイ!」

 

カメラの少年とハリーとドラコの三人が何やら言おうとする前に石段に座っていたハーマイオニーが「気をつけて」と、ささやいた。

 

「いったいどうしたのかな?サイン入りの写真を誰かが配っていると聞こえたが」

 

ロックハートが軽い足取りでこちらに近づいてくる。

 

「聞く必要はなかった!ハリー、また会ったね!」

 

ロックハートにハリーが絡まれるのを見届けると俺たちはハリーに背中を向けて歩き出した。めんどくさい人間はハリーに任せてしまおう。

 

 

 

 

 闇の魔術に対する防衛術の教室に行くと、既に前の席と後ろの席が埋まっていた。なので不自然に空いている真ん中の席に座ったのだが、持ってきた教科書をどこに置けばいいのかでテンパってしまった。持ってきた教科書七冊は分厚く、重ねて置いてしまうと完全に見えなくなるのし、広げておくと机が狭くなってしまうのだ。

 

授業開始のチャイムが鳴り終わった瞬間、教室の二階にある部屋のドアをバンッ!と勢いよく開いてロックハートが現れた。

ロックハートは桃色のマントを手で払い、颯爽と階段を降りてきた。それから生徒の顔を見渡そうとして失敗した。教科書のせいだ。

 

「ウーン、教科書は机の上に広く並べて欲しい。君たちのキュートな顔が見えなくなってしまうからね」

 

ロックハートはウィンクしたあと、ネビルの席に近づき、ネビルの教科書を取り上げた。

 

「私だ」

 

……うん、そうだな。どうして彼がこんな図太い性格になったのか知りたい。

それからロックハートは自分の輝かしい経歴をスラスラと生徒達に話した。この話は何回も喋っていることが推察出来た。

 

「ーーバンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけじゃありませんしね!」

 

ロックハートの感覚がズレているのは知っていたが、身近で聞くと辛いな。

 

それからロックハートはテストペーパーを配り、ミニテストをやらせた。自分に関するテストだ。自分を前に出せるところは尊敬出来ますね。最初の方は真面目に答えていたが、段々面倒くさくなり、三十分程ボーとしていた。

 

 

 「ふむふむ、皆さんの一部にはもう少し 「狼男との大いなる山歩き』を読まなければいけない人がいるようですね。」

 

みんなの答案を見ながらロックハートは言った。

 

「おや?おぉ、素晴らしい!ハーマイオニー・グレンジャーが満点です!私のひそかな大望も知っていましたね。ミス・ハーマイオニーはどこにいますか?」

 

ハーマイオニーが手を振るわせながら上げた。前の方の席に座っていた人はハーマイオニーのことを睨んでいたが、後ろの方に座る人はドン引きしていた。いくらなんでも全問正解は怖いからな。

 

「さあ、皆さん注目してください。この籠には恐ろしい悪魔が入っています。捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精ですよ。ーーおおっと、馬鹿には出来ませんよ?この連中は狡賢く、脅威的だ。今から布を取りますが、決して悲鳴を上げないように……それっ!」

 

教卓に乗せられていた籠の中には、身の丈二十センチ程で群青色をしたピクシー妖精が大量に入っていた。

籠から出ようと飛び回ったり、ガタガタ籠を揺らしている。大量のピクシー妖精が一斉にしゃべりまくるのでうるさくてたまらない。

 

「さあ、それでは、君たちがピクシーをどう扱うか見てみましょう!」

 

ロックハートが籠の戸を開く。すると、ピクシー妖精がロケットのように勢いよく籠から飛び出した。

二匹のピクシーがネビルの耳を引っ張ってシャンデリアに吊り上げる。その他大勢のピクシーは教室のガラスを叩き割ったり、生徒の教科書を奪い取って投げつけてきたり、墨汁を撒き散らしたりした。教室の外に飛び出していったピクシーも数匹いた。彼らの破壊力は尋常なものではなかった。

生徒は走り回ったり、机の下に隠れたりしたが、あまり意味は無かった。

 

「さあ、さあ。捕まえなさい。たかがピクシーでしょう……」

 

ロックハートが腕まくりをして杖を振りかざす。

 

「ペスキピクシペステルノミーーピクシー虫よ去れ!」

 

呪文の効果はいつまでたっても現れない。そこに一匹のピクシーが現れ、ロックハートの杖を奪った。それからその杖でシャンデリアと天井を結ぶ鎖を杖で破壊し、杖を窓の外へ放り投げた。シャンデリアが落ちた時、ネビルが奇跡的に無傷で机の上に着地するのが見えた。

混乱が少し収まるのを見届けてから、俺は杖をローブから取り出した。

 

「イモビーラスーー不動せよ!」

 

呪文はきちんと効果を発揮し、教室にいるピクシーの動きが止まった。みんなはそれを見て逃げるのはやめたが、終業のチャイムがなるとすぐに教室を飛び出した。ピクシーの動きが止まったとはいえ教室内は酷い状況だし、逃げていったピクシーが帰ってくる可能生や再び動き出す可能性を考えたらこんなところにいたくなかったのだろう。

 

「いや、いや。よくやったよ、君!まぁ、私なら違う魔法でもっと上手く対処していましたがね」

 

ロックハートが乱れた髪型を直しながら話した。

 

「やはりそうなんですか!偉大なロックハート先生なら簡単に対処出来ると思っていました。教室がこんな状況なのに申し訳ないんですが、先生の部屋で先生の武勇伝を聞かせてもらえませんか?先生の大ファンでして是非直接お聞きしたいんです」

「いいでしょう!あの状況を対処したことへのご褒美です。これは特別なことなので自慢してはいけませんよ……。聞いた者が嫉妬してしまいますからね。君たちもだよ!」

 

ロックハートがハリー達に声をかける。今残っているのは彼らだけだ。頷いたのはハーマイオニーだけで、ハリーとロンはうんざりした顔をしていた。

 

「では、行きましょうか。まずは何から聞かせてあげましょう?レッドキャップの群れに立ち向かった話がいいかもしれません。あれは恐ろしい化け物でしたね……」

 

清々しい笑顔を見せながらロックハートは自分の部屋へと続く階段を上り始めた。

 

 

 

 

 

 




ロックハートって魔法の才能がないと思っていたんですけど、ググったら平均以上の才能があるって書いてありましたw
幼少期のエピソードも書いてあって凄く興味深かったです。気になる人がいたらロックハート 才能 で調べてみてください。多分出ます。

閲覧ありがとうございました!
内容に関する批評頂けると嬉しいです。批評ってかなり難しいんですけどねwwwそこを是非お願いします!



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お願いの仕方

今回は少し短いです


 ロックハートの部屋は少し狭いが、一人が生活するには十分なスペースがあった。壁と天井は荒削りの石造りで出来ていたが、ロックハートの写真が壁一面に飾られていたり、ロックハートの私物が飾り付けられていて、冷たい雰囲気は感じなかった。たくさんのロックハートに見つめられるという点では薄ら寒いものを感じるが。

部屋のドアを閉めると、目の前にロックハートの等身大ポスターが現れた。ドアの裏側に貼ってあったのだ。ポスターの中にいるロックハートが俺に決めポーズでスマイルを見せてくる。白く輝く歯がとても鬱陶しい。

無駄にイライラする心を落ち着かせながら後ろを振り返ると、ロックハートが小さな箱から何かの瓶を取り出し、それを机の上に置いているのが見えた。

その瓶は香水だったらしい。部屋中に甘ったるい匂いが広がったことで分かった。客は男なんだから他の物にして欲しい。

 

「どうかしましたか?あぁ、私としたことが!椅子を出すのを忘れていましたね」

 

ロックハートは、大きなトランクの横にある趣味が良いとはお世辞にも言えないピンク色の派手に装飾された椅子を机の前に置いた。

 

「さあ、座りなさい」

 

俺はゆっくり椅子に腰掛けた。見た目の割に座り心地は良かった。

ロックハートは棚に置いてあるティーカップを二つ取り出し、俺の前に一つ、それから向かい側に一つ置いた。そして机の上にある金色のティーポットで二つのティーカップに紅茶を注いだ。

これが噂の魔法のティーカップか。中身がなくならないうえにいつでも温かい飲み物を出せるし、味は本格的な物には劣るが十分満足出来るレベルなので、かなり人気があると聞いた。かなり気になる。

 

「さて、何から話そうか」

 

ロックハートは向かい側の柔らかそうなソファーに腰掛けながら話を切り出した。あぁ、こちらに集中しなくては。

 

「レッドキャップの話をするんだったね!あれは、恐ろしい化け物だったよ………」

 

勿体振った話し方だ。それにわざと声を低くして恐怖を与えるようとしているのが分かる。ピクシー妖精の時と同じやり方だ。

 

「先生、その前にお話したいことがあるんですがいいですか?」

 

湯気が昇っているティーカップを手に取りながら、話を遮る。

 

「なんだい?」

 

表面上はいつもと変わらない爽やかに笑うロックハートだったが、口の端が引きつっていたので怒っているのが分かった。これから自分の武勇伝を語り始めるはずだったのに、話を遮られて不満なんだろう。

紅茶を少し口に含み、そっとティーカップを置く。

 

「先生、まだ僕の名前をご存知ないでしょう?ですから、まずは名乗らせて頂きます。セルス・マルフォイ、マルフォイ(・・・・・)家の二男です」

 

ロックハートはマルフォイという名字を聞き、目を僅かに見開いた。知っていてくれてよかった。もしも何も反応しないのであれば、ロックハートの価値はあまり高くないと判断して彼を利用することをやめていただろう。

 

「単刀直入にお伺いします。先生が書いている小説の内容には誤りがありますよね?本の主人公は先生ではなく、別の人物であるというところが」

 

ロックハートの笑顔が凍り付き、頬がピクピクと微かに痙攣する。ロックハートは腰を少し上げて椅子に浅く座り直した。それから

 

「一体何を言っているのかね?皆目検討もつきませんよ」

 

と、冷たくて低い声で言った。そして、人指し指で机をコツコツと叩き始めた。

 

「そうですか……。しかし僕が調べた所によると、化け物退治を終えて帰ってきた人物が、先生に取材を受けた次の日に化け物を倒したことと先生に会った記憶を喪失していることが分かったんですよ。そうだ先生、忘却術で忘れさせられた記憶でも、優れた魔法使いにかかれば思い出すことが出来るって知っていましたか?このまま先生が否定するようなら記憶を取り戻した方が良いかもしれないですね」

 

勿論そんなこと調べていない。でも、心当たりのあるロックハートは俺の言葉を信じ、顔を怒りと恐怖で歪める。小さな子供が自分の隠していたことに気がつき、そのことで脅してきていることへの怒りと、自分の輝かしい人生が崩れてしまうかもしれない恐怖を同時に味わっているんだろう。

 

「そうだ。私は素晴らしい仕事をした人を捜し出して、どうやって化け物を倒したのか細かく聞き出した。それから忘却術をかけて記憶を消し、私が自分の功績にしても文句を言われないようにした。だが、それの何が悪い!醜い魔法戦士が化け物を倒したという本を書いても、その本は売れない。一切世間に注目されることは無い。それならば私がやったことにして本を書いた方がよっぽど良いはずだ!」

 

ロックハートは必死に自己弁護し、最後に机を拳でドンッと叩いた。

 

「セルス君、君はそのことを誰かに話したかね?」

 

声を落として尋ねてくる。

 

「いいえ」

「そうか……」

 

ロックハートはおもむろに席を立った。それから後ろを振り返り、窓の外を眺める。窓から太陽が西に大きく傾いているのが見えた。

俺もロックハートも何も喋らないし、物音も一切たてないので、時計の秒針が時間を刻む音が良く聞こえた。

 

「それならば……君には忘れてもらおうか!」

 

ロックハートが勢い良く振り返り、ローブから杖を取り出し、杖を俺に向け……ようとして失敗した。肝心の杖が無いのだ。ロックハートの杖はピクシー妖精によって教室の外に放り出されている。

 

「冷静になりましょう、ロックハートさん。ほら、椅子に座って」

 

ローブの中から杖を取り出し、杖先をロックハートに向ける。ロックハートは自分がどういう状況にいるのかを理解し、顔をブルーベリーのような青紫色に変えて大人しく椅子に座った。

 

「ロックハートさん、脅すつもりは無いんですが、俺はかなり優秀な魔法使いです。痛い目に遭いたくなければ、変な真似だけはしない方が良いですよ。では、話を戻しましょうか。盗作の話です」

 

ロックハートは体を縮こませる。自分の未来を握られているんだから当たり前だ。

 

「心配しないでください。俺のお願いを聞いてくれれば、このことを世間に公表するつもりはありませんから」

「お願い?」

 

沈み込んでいた頭をゆっくり上げて、ロックハートが恐る恐る尋ねた。

 

「はい。日刊予言者新聞の記者や上層部の人間と俺が手紙のやり取りを出来るようにしてください。手紙の相手がセルス・マルフォイだとは伝えないでくださいね。適当な人物を作れあげてしまえば、大丈夫でしょう。そういうの得意でしょ?あぁ、記者のリーター・スキーターは必ずお願いしますね。無理だなんて言わないでくださいよ?一度手紙のやり取りが出来ればそれで満足ですから」

 

ロックハートが沈んだ声で笑った。

 

「君の父親に頼めば簡単にそんなことできるだろ?」

 

首を横に振り、それを否定する。

 

「父繋がりじゃ駄目なんですよ。独自のルートが欲しいから頼んでいるんです。少し難しいことかもしれませんが、成果をあげれば、その分の見返りは必ず返しますので頑張ってください。貴方が望むなら、今の地位以上の地位を与えますし、貴方に英雄となれるチャンスを与えることもできますよ」

 

ロックハートの目の色が変わる。

 

「それは、本当か!?」

「ええ、俺はマルフォイ家の人間だし、頭も冴えている。まさに選ばれし者だ。不可能なわけが無い」

 

ロックハートは机の上で手を組み、ジーとその手を見つめた。輝かしい未来でも想像しているのだろうか。

 

「紹介出来る人が見つかったら、手紙で知らせてください。それと、学校の中では授業関係のこと以外は話しかけないでください」

「あぁ……わかった」

 

ローブに杖をしまい、ボーとしているロックハートを見ながら立ち上がる。

 

「両者が利益を得ることが出来るように力を尽くしますが、あくまで主導権を握っているのは俺であることは忘れないでくださいね。貴方が選ばれし者か、それともただのペテン師か決めるのは俺なんですから」

 

ロックハートの顔に再び恐怖の感情が浮かび上がるのを確認してから、部屋のドアに向かって歩き出す。

 

ドアに貼られているポスターの中でも、ロックハートが恐怖で顔を歪めているのが面白く、クスクスと笑いながらロックハートの部屋を後にした。

 

 

 



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セオドール・ノットの悩み

 火曜日の夜、夕食を食べ終わったため大広間から寮に帰ると、談話室は人で溢れかえり騒がしかった。夕食を食べたらすぐに眠りについてしまう初々しい一年生もちらほら目につく。

何かあったのだろうか?何事かと同級生に問いかけると掲示板を見ろと興奮気味に言われた。

人の垣根をかき分けてなんとか談話室の掲示板の前にたどり着く。

掲示板には大きな文字で木曜日にクィディッチの選抜試験を行うことが書かれている紙が貼られていた。なるほど、道理でここまでスリザリン生が大興奮している訳だ。

ドラコとセルスは俺より先に帰っているから、もうこのことを知っているだろうな。一通り周りを見渡し、背の高いクラッブの姿が見えないことを確認した俺は部屋に向かって歩き出した。

 

 

 部屋に戻るとドラコがニンバス2001を手に持ち、選手になれるチャンスがようやくきたと同室の三人に捲し立てていた。

 

「おぉ、ノット戻ったか!談話室で話を聞いたよな!?選抜試験が木曜日に行われるぞ。あー、木曜日が待ち遠しいな……」

 

ドラコは飛び跳ねんばかりに試験が行われることを喜んでいた。自分なら必ず選手になれるという自信があるから選ばれない場合の不安がないのだろう。

セルスのことが気になりチラリと様子を伺うと、ベットに腰掛けて百味ビーンズを食べながらドラコの話を聞いていた。こちらは確実(・・)選ばれることがわかっているんだろうな。頬が上がっているのは選抜試験が楽しみだからだろうか?……セルスのことだから百味ビーンズが美味しいからだけなのかもしれないが。セルスはよくわからないのだ。

 

「お前らなら確実(・・)選手に選ばれるよ。才能もあるしニンバス2001もあるからな。セルス俺にも一個くれ」

 

それにマルフォイ家のご子息という看板もある。

セルスが投げたビーンズを受け取る。キレイな緑色のビーンズだった。メロン味か芽キャベツ味だろうか。

口にいれ、ゆっくり噛む。ハズレだった場合すぐに吐き出すためだ。

何だろう……土っぽい味がする。すぐに紙を取り出し、そこに吐き出した。

 

 

 ドラコがいつまでもクィディッチの話をしていたせいで、俺たちが全員ベッドに潜り込んだ時には水曜日の二時だった。いつもなら日が変わる前にベットに入る俺たちからしたら夜更かしにはいる。

夜更かしか……。

ふと、俺は去年、ドラコとセルスが初めて喧嘩(俺が知らないだけであったのかもしれない)した時のことを思い出した。

 

あの時、俺は二人が喧嘩した理由を知らなかったが、些細なきっかけで二人の関係が崩壊することは予想できていたから喧嘩が起きたことは不思議でも何でもなかった。そして、一度崩れた二人の関係は修復することがないと思っていたから何かしようと思っていなかった。

ドラコとセルスの関係は、俺からしたら歪でいつ崩れても可笑しくないものにしか見えないのだ。だからあの二人が仲良しなのが初めて会った時からずっと信じられない。

優れている部分はあるが特別抜き出た才能とカリスマ性を持たないドラコは、血筋や財産で他の人よりも自分が優れていると思い込み無駄に高いプライドを維持している。だが、その血筋や財産は弟のセルスと比較されるときには役に立たない。

ドラコがセルスよりも優れているのなら今の仲の良さは納得できるのだ。

でも、ドラコは弟のセルスに比べて劣っている。セルスは勉強という分野で才能があることは勿論、人を……いや、スリザリンに入るタイプの人間を引きつける、一種のカリスマめいた才能を持っているからだ。

弟よりも劣る兄、そのレッテルをドラコが受け入れるはずがない。マルフォイ家は純血家を引っ張っていくような高貴な家だ。当然、本家の当主が優秀なことを望まれる。第一候補のドラコは相当なプレシャーのはず。やはり、仲が悪いのが自然だと思う……。

 

でも、二人は一日にして仲直りした。夕食を食べていない二人のために食べ物を部屋に持ち帰った時、二人は握手して関係を修復していたのだ。

仲直りしたことは嬉しかったが、自分が惨めに感じて心の底から夜更かしを楽しめなかった。その理由はよくわかっていない。でも、純血であるノット家を支えるために考えていたことが馬鹿らしく思えてきてしまったのだから理由は何となく察している。そうであってはいけないのだが……。

 

寝返りをうち、セルスのベットの方向に体を向ける。カーテンを閉めているから見えはしないが、軽い(いびき)が聞こえるからそこにいることはわかる。

目をつぶると、ドラコとセルスの顔が浮かんできた。そして、同時に二人と関わると俺は変わっていってしまうのだろうか?という疑問が頭に浮かんだ。

それは何か恐ろしいことであるかのように感じる……。

不安になった俺は再び寝返りを打ち、微かに光る湖が見える窓の方向に体を向けた。

 

 

 選抜試験は六年生の全ての授業が終わった後に競技場で行われた。試験を受ける人の集中を乱さないようにと見物、または応援する人数は限られた。そのため、この場には上級生と家柄が良い一部の下級生しかいない。

幸い、ノット家という割と影響力が高いネームとマルフォイ兄弟の友人ということで、俺はその一部に選ばれ、この場に来ることが許された。クラッブとゴイル達はここにいて不思議ではない立場だが、選抜試験自体に興味がないということでこの場には来なかった。過程には興味を示さない彼ららしい。

 

「みんな集まってくれ!よし、今から選抜試験を行うぞ。まずは、ポジションごとに分かれてくれ。ここからチェイサー、ビーター、キーパー、シーカーの順だ。」

 

フリント先輩の指示で候補者は四列に分かれる。

チェイサーの所には十人ほどの人が集まり、ビーターの所には屈強な体つきをした五年と七年の先輩がいた。キーパー志望の人は、去年補欠メンバーにもう少しで選ばれそうだった先輩のみ、そしてシーカー志望の人もドラコだけだった。

ここに集まった人達は現在のレギュラーメンバー、もしくは控えメンバーの人よりも役に立つ(・・・・)と判断されればチームの一員になることができる。

俺は友人二人に頑張れよと声をかけてから、試験を見物するために競技場からスタンドに移動した。

 

フリント先輩は、まずチェイサー候補者の選別にかかった。この選別試験はすぐに結果が出た。

何故ならビーター候補者によってブラッジャーが飛び交う中でもキーパーにフェイントをかけ確実にゴール出来る人物がいたからだ。

セルスだ。もう流石としか言いようがない。レギュラーメンバーのチェイサー空き枠は一つなので、セルスが選ばれた時点で試験は終わった。

笑顔のドラコが同じく笑顔のセルスの肩を殴っている。やっぱり、あいつら仲がいいな……。

 

 

 試験が終わった。

友人二人のところに行くためスタンドから立ち上がり、競技場に繋がっている木製の階段を動かし辛い足を使って降りた。

 

「ノットーーー!!!」

 

満面の笑みを浮かべたドラコがこちらに向かって走ってくる。

 

「二人とも選手になったぞ!これで憎きポッターを打ち倒してスリザリンに勝利を導けるな!」

 

もしかして二人が仲がいいのってポッターがいるからなのか?だとしたら悩んでいる俺が馬鹿らしく思えるんだが……。そんなことはどうでもいいか。俺の中にある問題とポッターは無関係だ。

 

「ドラコの飛行見事だったよ。これならグリフィンドールなんて目じゃない」

 

本当にドラコの飛行技術は見事だった。シーカーとしての才能があるんだと思う。ヒッグズ先輩と互角といっていい勝負をしていたんだから。ただしニンバス2001を使ってだが。

別に文句がある訳じゃない。ただ、やはり家の力は重要なモノなんだなと再認識しただけだ。

ドラコに遅れてセルスがやってきた。

 

「ノット、寒い中ありがとな。お前がスタンドにいたおかげで安心して試験を受けられたよ」

「いや、むしろ有り難いのは俺の方さ。セルスが選手になれる瞬間を目撃出来たんだから。おめでとう、よかったな」

 

セルスが恥ずかしそうに鼻をかく。

 

「寮に戻らない?冷え込んできたし、何よりみんなに結果を教えたい」

「じゃあ、ドラコの箒しまっておくから貸してくれ。ノットも長時間ここにいて冷えただろう。早く帰って体を温めた方がいいぞ」

「じゃあ、頼むなセルス!」

 

ドラコはセルスに箒を渡すと校舎に向かって走っていく。

 

「じゃあ、またあとでな」

「あ、うん……あとでな」

そう言ってセルスは箒置き場に向かって歩き出した。

 

俺は気がついた。俺が揺らいでいる原因は、ドラコとセルスの仲が良いからではない。こいつが異常だからだと。

 

俺は見えなくなるまでセルスの背中を追い続けた……。

 

 

 

 金曜日の夕方、マルフォイ氏からスリザリン寮の談話室宛てに五本の細長い包みが届いた。一緒に送られてきた手紙はフリント先輩宛てだった。フリント先輩は手紙を黙読すると、手紙の内容を大まかに説明した。

『息子が所属するスリザリンチームを応援するために箒を送ることにした。君たちなら去年の雪辱を果たしてくれるだろう。頑張ってくれ』みたいなことが書かれていたらしい。

 

包みを開けてみると、やはり包みの中身は箒だったが、恐るべきことにその箒は全てニンバス2001だった。これには全てのスリザリン生が驚いた。いくらなんでもニンバス2001を五本も送ってくるとは思っていなかったからだ。

このことによってスリザリンの生徒は、マルフォイ家は財があり由緒正しき家であることを再認識した。そして、ドラコとセルスと親しくしたり、手助けをする機会があった場合、自分にも得があるかもしれないという期待を抱くことになった。

 

 

はしゃぐみんなと離れ、空いているテーブルに腰を下ろし、腕を組みながら考え事をする。

問題が解決した時、机の上が誰かのお菓子とその食べ(かす)で汚れていることに気がついた。でも、そんなことどうでもよかった。今、俺の問題が解決したことに比べれば。

 

俺はもう迷わない。セルスと過ごすことで抱いてしまう淡い期待は完全に頭から追い出す。もうそう決めた。

 

一度決断すると、今まで俺が抱えていた問題は対した物ではなかった気がしてくる。

気分が楽になった俺は掃除ぐらいしてやろうという気分になり、杖を取り出した。魔法を唱えようとしたとき、置いてあるお菓子の中に百味ビーンズがあることに気がつき手を止めた。

食べるべきだと思ったのだ。

箱を手に取り、適当に一つ取り出す。緑色のビーンズだった。

おそるおそる口に入れる。

 

なんてことはない、ただのマスカット味だった。

 

机に箱を戻し、呪文を唱えた。

 

 

 

 

 

 




読者にうまく伝わるかちょっと不安。
簡単に言ってしまえば純血の家の嫡男としてあるべき姿と一般的な人との間を彷徨うノットの話でした。

昔からの考えや自分が正しいと思っている考えは、もしかしたら間違っているかもしれないと思うことがあっても変えることは難しいことです。周りの人間がその考えを肯定しているなら尚更。
ノットは変わることができるんでしょうか?

読んで頂きありがとうございました!


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練習日

 誰かの声が聞こえる。誰かが僕の体をユラユラと揺らしている。なんでこんなことをしているんだろう?この人もみんなと同じ目的なのかな。

不意に僕がうずくまっているこの世界が、夢の世界であることに気がついた。そうだ、そうに違いない。現実ならこんなに暗く苦しいはずがない。

この人はみんなとは違う。そうだ、そうに違いない。悪意を感じないのだから。きっとこの人は僕を起こそうとしているんだ。

それなら、

 

 

 

 

早く僕を起こしてくれ

 

 

 

 

 

 「セルス起きろ!クィディッチだ!」

 

ドラコの大声で目が覚める。だが夢の余韻が残り、ぼーっとして意識がハッキリしない。半開きの目で窓から湖を見ると、湖はもしも大きな化け物がいたとしても分からいほどに真っ暗だった。おそらく太陽がまだ上がっていないのだろう。

ぼーっと湖を眺めていると、意識が徐々に徐々に覚醒してくるのが分かった。同時に今日が土曜日で、クィディッチの練習があることに気がつく。

だが、今は太陽がまだ昇っていないような時刻だ。集合時間までまだまだ余裕があるはず。

 

「あともうちょっとで起きるよ」

 

だからもう少し布団の中にいさせてくれ。布団を引っぱり、完全に布団の中に入り込む。

今度こそいい夢を見るんだ。ん?今度こそ(・・・・)

 

「そのまま眠るつもりだろう!?ほら、布団から出ろ!」

 

ドラコによって布団が引きはがされる。その瞬間、冷気がパジャマ姿の俺を襲う。

 

「わかった!わかったから大きな声を出すな!」

 

あぁ、糞っ!何もかもルシウスのせいだ!ルシウスがニンバス2001を送ってきたおかげで、先輩たちは練習予定を変えて本来ならグリフィンドールの練習日であるこの日を練習日にしたし、スリザリンの生徒がやたら媚びてくるようになってしまった。チームの戦力が上がったことは嬉しいが、これでは素直には喜べない。

頭の中のルシウスに八つ当りすることである程度イライラを発散した俺は、仕方がなくベットから降りた。

ベットから降りた俺はドラコの姿を見て、目をこすっていた右手の動きを止める。目の前に立っているドラコがエメラルド色のクィディッチ用のローブを着ていたからだ。

ドラコが既にクィディッチの準備をしているということは、もしかして集合時間まで僅かな時間しかないのかもしれない。

焦った俺は急いで時計のある場所に駆け寄る。

 

短い針はⅣを指している。寝坊どころの話ではない。集合時間まで約三時間もある。

 

いくら何でも早すぎる時間に起こされたことに腹が立ち、一言、二言文句を言ってやろうとドラコの方を振り向いた時、再び体が硬直した。

ドラコが悪意を感じない物凄い笑顔を浮かべていたからだ。心なしか目がキラキラ輝いている気がする。おそらく今日の練習が楽しみで仕方がないのだろう。

そんなドラコを見てしまったら、早く起こされたことで生まれた怒りなんて吹き飛んでしまう。

だが、それでもドラコの非常識と言える行動は注意しとくべきだろう。

 

「練習時間の三時間前じゃないか。いくら何でも早すぎだろ」

 

ドラコの反応は俺の想像の斜め上をいった。何故か目に見えてわかるほど落ち込んだのだ。まさかそんな反応が返ってくるとは思っていなかった俺は若干パニックになり、思わず謝ってしまう。

 

「い、いやそこまで強く言ったつもりじゃないんだ!だ、だから!あぁ、ごめんな」

「ち、違う!悪いのは僕さ!今日の練習が楽しみで早く起きちゃってさ。それで何だか落ち着かなくなって……。で、何だか分からないテンションでセルスを起こしてしまったんだから。本当にごめん」

 

ドラコがあたふたした後、目を伏せながら謝ってくる。

もう今となっては怒りの感情なんてないし別にいいんだが、これってもう寝てもいいよな?

ドラコに聞こえない小さなため息をはく。

 

「解決したようだな。ならもう大きな声をだすなよ。正直かなりうるさい」

 

隣のベットにいるノットが顔をこちらに向けながら不機嫌そうな声を出した。そりゃあ、こんな朝から大声出されたら腹が立つよな。自分と関係のないことならなおさら。

 

ノットに謝ってから、もう一、二時間寝るために、熱を失い冷たくなってしまった布団の中に潜り込む。もう夢のことなんて何一つ覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 一時間後、再びドラコによって起こされた。その時、ドラコの服装がパジャマだったのが笑いの壷にはまり、吹き出しそうになるのを押さえるのに一苦労した。

練習前に朝食を食べに行こうという話になり、私服に着替え、暖かいローブを纏った俺とドラコは大広間に向かった。どうして二度手間となる服に着替えたのかというと、食事のときにクィディッチ用のローブを汚してしまうことが嫌だったからだ。誰だってこれから着るユニフォームを汚したくないだろ。

大広間に向かう間の時間が暇だったので、ドラコにあの後どうしていたのか聞いてみた。

あの後、ドラコは俺が寝てしまったことで暇になり、勉強や読書する気にもならなかったので、寝る努力をしようとパジャマに着替えてベットに入ったようだ。でも、結局寝ることはできなかった。そしてそのせいなのか分からないが、現在お腹がペコペコでたまらないらしい。

これを聞いた俺は笑いを抑えることができなかった。ドラコの行動がアホらしく可愛らしく可笑しかったからだ。

しかし、俺が楽しめたのはその一瞬だけで、その後はドラコの機嫌を直すのに力を尽くさなければならず、全く楽しくない時間になってしまった。まさか、あれだけで食事が終わるまで不機嫌であるとは……。もしかしたら自覚していて恥ずかしくなったのかもしれない。

これ以上はやめておこう。

 

 

 

 「よし、みんな集まったな!」

 

チェイサーであるグレジー先輩が更衣室に入ってきたのを確認したフリントは、その大きな体を椅子から浮かばせた。そして、選手一人一人に目を向ける。

 

「最高のメンバーだ!それに俺たちはマルフォイ氏のおかげで最高の箒を持っている。これなら今年も優勝間違いなしだ!」

 

フリントは、それから数分かけて選手を激昂させる演説を行った。その結果は上々で練習だというのにみんなはやる気に満ち溢れている。「ハリー・ポッター」を読んで、てっきりフリントは脳筋であると思っていたが、その想像は間違いでしっかりとした考えが出来る人物だった。心の中で謝っておこう。

フリントの演説で悪い点があるとすれば、逆にテンションを上げ過ぎて、俺とドラコが軽めではあるが遠慮なく肩を殴られたことになってしまったことぐらいだろう。いや、俺もドラコも悪い気はしないどころかチームの一員にちゃんとなれた気がしてむしろ嬉しかったから悪い点にはならないな。

なら、完璧だ。

 

「それじゃあ、競技場に行くか。フッ、グリフィンドールの奴らは面を食らうだろうな。わはっはっは!」

 

フリントの大きな笑い声に合わせるように、みんなが笑い出す。この後起きることがなければ俺も素直に笑えるんだけどな……。少し憂鬱だ。

それぞれ自分の箒を専用のロッカーから取り出し更衣室の外に出る。空は雲一つないくらい晴れきっていた。

 

 

 

 

 

 真っ赤なローブを着るグリフィンドール生が上空で固まって話し込んでいる姿が競技場に入った瞬間に見えた。

その集団の一人であるジョージが、いや、フレッドかもしれない。……とにかくウィーズリーがスリザリン生が競技場に入ってきたことに気がついたらしく、仲間にこちらの存在を伝えた。

グリフィンドールのキャプテンであるウッドは遠くから見ても怒っていると分かるほど顔を歪めていた。まぁ、練習中に部外者が突然入ってきたら怒りたくもなる。その部外者が敵対しているチームともなれば。

 

ウッドがハリーとウィーズリー兄弟を後ろに引き連れて、こちらに物凄い勢いでやってくる。そして、フリントに今日のグランド使用件がグリフィンドールにあることと即刻立ち去って欲しいことを大声で伝えた。この言い分は正しかった。ただし、グリフィンドール側からの目線ではだが。

何やら揉めていることに気がついたグリフィンドールメンバー三人がやってきた。

またスリザリンか、みたいなことを思ってそうだな。アンジェリーナが物凄いあきれ顔を浮かべている。

 

「僕が予約したんだぞ!」

 

ウッドの怒りの叫びにスリザリンの数人が微かに笑う。スリザリン生からすればウッドの行動は無様に見えてしまう。

フリントがローブから大事そうに丸まった羊皮紙を取り出した。斜め後ろにいるので表情が伺えないが楽しそうなのは伝わってきた。

 

「ふっ、こっちにはスネイプ先生がサインしてくれたメモがあるぞ。『私、スネイプ教授は、本日クィディッチ競技場において、新人チェイサーと新人シーカーを教育する必要があるため、スリザリン・チームが練習することを許可する』」

 

このサインをすることに関してスネイプは対して悩まなかったらしい。当たり前の話なんだけどな。嫌いなグリフィンドール生に対して嫌がらせにもなるし、ハリーに対抗する形となったドラコの育成も本当にしたいと考えてるだろうから。

 

「ルシウス・マルフォイの息子達じゃないか」

 

気がつくと目の前に壁のように立っていたスリザリン生が消え、後ろに立っていたドラコが隣に立っていた。そして、敵意たっぷりの目線を注がれていた。少し注意散漫になっていたようだ。

 

「ルシウス氏の名前を持ち出すとは、偶然の一致だな。その方が我々に下さった素晴らしい贈り物を見せてやろうじゃないか」

 

フリントの言葉に合わせて七人全員そろって自分の箒を突き出す。これは、ここに来るまでの時間に決めたことだ。想像以上に恥ずかしいももだな……。

グリフィンドール生に馬鹿にされなくてよかった。そんな気力はないとは思うが。七本のニンバス2001を見せられた上にスリザリン生から追い打ちをかけられたのだから。

 

「おい、見ろよ。競技場に乱入者だ」

 

フリントの言葉どうり、ロンとハーマイオニーが芝生を横切ってこちらに向かってくる。俺はそれを確認すると、二人から見えないようにがたいの大きいスリザリン生の後ろに回った。

ドラコがロンに喧嘩を売っている。マルフォイ家とウィーズリー家は本当に相性が悪いな。親も子も対立している。俺も嫌われているし。

 

「グリフィンドール・チームも資金集めして新しい箒を買えばいい。クリーンスイープ5号を慈善事業の競売にかければ、博物館が買いを入れるだろうよ」

 

スリザリンが大爆笑する。ほんとにドラコはとっさに思いつく貶し言葉が面白い。頭の回転がこういう時になると物凄いことになるんだよな。

 

「少なくともグリフィンドールの選手は、誰一人お金で選ばれたりしないわ。こっちは純粋に才能で選ばれたのよ」

 

ハーマイオニーの喧嘩言葉が終わる少し前にドラコの近くに移動を開始する。ハーマイオニーは言い終わると同時に俺の存在に気がつき、戸惑いの表情を浮かべた。

 

「誰もお前の意見なんか求めていない。この『穢れた血』め」

 

ドラコの『穢れた血』発言にグリフィンドール生は激怒し批難の声を上げる。ドラコに殴り掛かろうとする者もいた。

俺は、ジーとロンの動きに注意していた。そして、ロンが手をローブの中に入れるのを確認すると、ほんの少しだけロンに遅れながらローブに手を突っ込み杖を取り出す。

 

「思い知れ、マルフォイ!『ナメクジ『ペトリフィカス・トタルス!(石になれ)』

 

ロンは呪いの呪文を唱えようとしたが、青い閃光を胸にくらったため動きを止める。そして杖を突き出した状態で背中から地面に倒れた。

一瞬静寂が生まれる。すぐにロンが俺によって魔法をかけられたことにグリフィンドール側は気がつき、杖を取り出そうとする。

俺はその前に、

 

「クククッ……えっ?うガッ!」

 

ドラコの顔を殴った。

殴られたドラコは地面に倒れる。スリザリン側もグリフィンドール側も動きを止めて俺に注目した。地面に倒れたドラコもポカーンとした顔で俺を見つめている。

 

「グレンジャー、兄が失礼な発言をしてすまなかった。怒るのは分かるが、この問題はこんなところで解決出来る問題じゃないはずだ。ここは穏便に解決したい。ウィーズリーの方はそいつが先に杖を出したのだからこちらに問題はないはずだ。そもそも部外者は競技場から出て行って欲しいな」

 

 

 

 

 あの後、ハーマイオニーがロンにかかっている呪文を解いた。ロンは呪文が解けるとすぐにドラコと俺を殴ろうとしたが、ハリーとハーマイオニーによって止められ、競技場の外へ連れ出された。

競技場の使用権はフリントとウッドで話し合われ、スリザリンが使えることになった。スネイプの許可証がある上にハリーがいないのでウッドは争っても意味がないと判断したのだろう。

グリフィンドールが去ってすぐに練習が始まったが、スリザリンのテンションは低かった。そして、俺はみんなの冷たい視線を全身で受け止めなくてはならなかった。

 

肝心のドラコには、練習後に謝ろうと近づいても避けられた。想像していた結果ではあったがやはり寂しく辛く心にズキリッと痛みが走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




選民主義や差別問題ってどこの世界にもありますよね。複雑な問題ですけど頑張って綺麗にまとめたい。稚拙な内容になりそうですがw

私事になってしまうんですが期末テストが今日終わりました。なので恐らく更新ペースが上がります。本当に恐らくですが。
感想・出来れば批評もお待ちしています!


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亀裂

短いです。


 お昼の少し前にクィディッチの練習が終わり、箒を片付けユニフォームの泥を落とした選手達は寮へと向かう。その間微かな会話があるだけで気まずい雰囲気が流れていた。

談話室に着くなり俺たちはスリザリン生に周りを取り囲まれ、矢継ぎ早にチームワークはどうだった?グリフィンドールの選手はどんな反応をした?など様々な疑問をぶつけられた。取り囲んでいたスリザリン生は選手達が嬉々として答えると思っていたのだろう。何も答えない選手達をキョトンとした顔で見つめていた。

一人のスリザリン生が選手達の間に重苦しい雰囲気が流れていることに気がつき、隣の人のローブを軽く引っ張り何やら耳打ちした。耳打ちされた方はチラリとこちらを見ると、耳打ちした人と一緒にこの場を離れて行った。

その様子を見ていたり、選手達の間に流れている雰囲気に気がついた人が徐々に離れていく。最初に集まっていた人の四分の一の人が消えたとき、ドラコが口を開いた。

 

「セルス、ちょっといいか?話したいことがあるんだ」

「あぁ…部屋で話そうか」

 

ドラコが自室に向かって歩き出すと、囲っていた人がサッと二つに分かれた。流石に何かが合ったと気がついたらしい。

 

 

 

 

 部屋に戻るとノットがベットにゴロンと横になりながら本を読んでいた。

 

「おっ、帰ってきたか。じゃ、着替えて大広間に行こうぜ。クラッブとゴイルはもう行っ……何か合ったか?」

 

流石というべきか、ノットはすぐに俺とドラコに何か合ったことに気がついた。小さい頃からパーティーや夜会に呼ばれ、大人達にもまれ続けた影響か、観察眼が優れているのだ。

 

「ちょっとね。先に行っててくれ。僕とセルスは後から行くから」

「……わかった。じゃ、先に行ってるよ」

 

ノットが部屋の扉を閉めるのを確認したドラコは、扉から目を離し俺の目をまっすぐ見つめてきた。

 

「セルス……まず確認させてくれ。セルスは『血を裏切る者』なのか?」

 

血を裏切る者……純血であるのにも関わらず、マグル、マグル生まれの魔法使いと仲良くする者。人によっては半純血も含む。ここで俺が違うと答えればドラコは怒りを治め、俺はドラコと今までと変わらない関係を築けるだろう。ただ……それでは何も変わらない。

 

「俺はマグル生まれとも仲良くしようと考えている」

 

ドラコが机を蹴り飛ばす。机は大きな音を立てて倒れ、机に載っていた物は床に散乱した。俺は黙ってドラコを見つめていた。

 

「どうして……どうしてなんだ!?セルスは純血主義だっただろう!」

 

ドラコは激怒しながらも悲しそうな顔で理由を問う。俺はそんなドラコの顔を見ていられなかった。だから目線を下げた。でも、目線を下げても意味がなかった。ドラコが真っ赤っかに染めるほど右手を強く握りしめているのが目に飛び込んでくるからだ。どこを見ても心が痛むのは変わらないらしい。それなら……それなら顔を見て話したかった。それが偽りの答えであっても。

 

「純血主義を貫き通しても魔法界の衰退にしか繋がらないと気がついたからだ。もしも純血の魔法使いとマグル生まれの魔法使いがこれ以上対立してしまった場合、ただでさえ少ない魔法使いが減ってしまう可能性がある。それに本当に純血な魔法使いが僅かしかいないことは知っているだろ?これから先も純血を守っていくのは不可能なんだよ。俺は別にマグルと仲良くしたい訳じゃない。でも、これから先の魔法界を考えれば少なくともマグル生まれとも仲良くしなきゃいけないんだ」

「魔法界のことを考えたら、マグル生まれは排除するべきじゃないか!だってそうだろ?!奴らがマグルと手を組んで魔法界に攻撃するかもしれないんだから!」

 

こういう反論が返ってくるのは想定していたため、返答はあらかじめ考えていた。

 

「勿論、そのことは考えた。だから俺はマグル生まれの奴に、自分が魔法使いだと分かったときに親がどんな反応をしたか聞いてみた。そいつの親はまるで化け物を見るかのようにそいつを見たらしい。同じくマグル生まれに、マグルをどう思っている?と聞いてみた。すると、そいつはマグルは選ばれなかった可哀想な人間だ、と答えた。マグルとマグル生まれは必ずしも仲がいい訳ではないんだ」

 

質問をしたというのは嘘だが、そういった人間がいるのはずだから間違ったことは言っていない。それにドラコが本当か嘘か見分けることは出来ない。俺が間違ってることを言っていると判断するにはマグル生まれについて知っていなければならないからだ。

 

俺の返答をドラコは腕を組みながら相応考えている。ドラコが口を開くまでの時間が物凄く長く感じた。

 

「セルスが、なんて言うか……うーん、こういう考えを持っていることを僕以外の誰かに話したか?」

「いや」

 

ふぅと、ため息を吐き、腕を下ろした。

 

「それなら良かった。セルス、忠告しておく。この話を僕以外のスリザリン生にするな。僕であってもセルスの話を聞いて苛立つんだから。正直言うと僕はセルスが言っていることがよくわからなかった。……だからよく議論しよう。僕はセルスを説得するための時間になるし、セルスは思想を確かな物にするために役に立つだろうから。一番始めに話す相手に僕を選んでくれてありがとう」

 

ドラコは困った顔をしながら、俺に笑いかけた。

 

「……ありがとう。やっぱり、ドラコはいい奴だ。お前のためなら頑張れるよ」

 

ドラコがマグル生まれに寛容にれるように頑張らなければ。

 

「なにが?あっ、でも殴られたことは許してないからな!いつか仕返ししてやる」

 

ふっふっふとドラコが笑う。

 

「昼食にしようか」

「そうだな」

 

ドラコと俺の間には小さな亀裂が走ったかもしれないが、これなら大丈夫だろう。

 

 俺たちはユニフォームから制服に着替えると、大広間に向かうために談話室に繋がる階段を上がった。談話室につくと、スリザリン生が固まってコソコソ話しているのが見えた。そして、俺が来たのに気がつくと慌てて散らばって行った。

何が合ったのか先輩が話し、それが広まったのだろう。後で弁解しなければ。

解散する集団の中から一人がこちらにやってくる。ノットだ。聞いてしまったか。こちらから事前に言い訳を伝えておけば良かった。

 

「なあ、ノット多分ごか「セルス、俺はお前とはもう付き合えない。部屋も移るつもりだ。じゃあな」

 

 

ーードラコがノットに何やら呼びかける声が遠くのことのように感じた




ドラコへの説明、もうちょっと何とかならないですかねー思ってる人多そう……。
気がついてるなら直せよって思ってる人もw
直そうとしたんですけど、メンドクサイ説明の長文が出来上がってしまったのでやめました。


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予兆

 ドラコを殴り、ハーマイオニーに謝ったあの日から、俺の周りは変化し始めた。端から見ればノットと喧嘩しただけの些細な出来事に見えたかも知れない。だが、確実に俺の周りは変わっていった。

 

ノットは俺に友達は止めると告げた後、部屋にあった荷物を別室に移動させた。ドラコが必死に説得したが、まるで聞く耳を持たなかったらしく、さっさと友人の部屋に引っ越してしまった。それ以来ノットは明らか様に俺を避け始め、一切しゃべろうとしなかった。

変わったのはノットだけではない。

スリザリンの上流階級の生徒達は、今まで俺にベッタリだったが、今は、敵対行動をとるというほどではないが、少し距離を置くようになった。不穏な気配を感じ、俺と一緒にいてもあまり得にならないと考えたのだろう。代わりにドラコにさらに纏わりつくようになった。

家柄を自慢出来ない側の生徒達は俺との関わり方をあからさまな変化させた。今までは上流階級の生徒がたくさんいたため、こういった生徒が俺に付け入る隙など無く、俺と関わることはほとんどなかった。しかし、今の俺にはそんな人間はいないので簡単に近づくことが出来るため、うんざりするぐらいに接近してくるようになった。そんな訳で、マルフォイ家の威光に目を輝かせる”友人”が増えた。

 

変わらなかったのは、ドラコとクラッブとゴイルだけだった。クラッブとゴイルは全く状況を理解していないからだとは云え、今までと変わらない態度で接してくれるのは本当に有り難かった。今まで仲が良かった人間が、冷たい目線で俺を見てくるのは、本当に辛かったからだ。体が痛いと思ってしまうぐらいに。

だからだろうか?尚更ドラコを守りたいと思った。

 

 

 

 

 

 城の東側の通路を抜け、禁じられた森への入り口がよく見える丘に出る。ここはハグリットの小屋を見下すことができる場所だ。

丘の淵に突き刺さるように立っている大きな石に背中を預けて座り込む。それから俺はローブにしまっていた地図を取り出し、パッと開いた。

 

「…よし。ちゃんとジニーはグランド方面からハグリットの小屋に来ているな」

 

ジニーは、ばったりハリーと会うことを期待して来ているんだろうが、残念なことにハリーは珍しく図書館にいる。ハリーとロンだけなので、勉強では無いのだろうが。

 

ジニーが確実に小屋に向かっているのを確認した俺は、冷たくて座り心地が全く良くない地面から腰を上げた。少しの時間くらい立っていれば良かった。

周りに人がいないのは知っていたが、何となく周りを確認してから、一段一段高さが違う階段をゆっくり降り始めた。ハグリットの小屋に先に到着するのはジニーの方が望ましい。

 

タイミングはバッチリだったようで、俺が階段を降りて歩き出したときには、特徴的な燃えるように真っ赤な髪をした少女が小屋の周りをウロウロしていた。

小屋の中を覗こうと窓に張り付いていたジニーが、こちらまで聞こえてくるほどに大きなため息をついて肩を下ろした。お目当ての人どころか、ハグッリットすらいないからな。

諦めて城に帰ろうとしたであろうジニーが振り返り、自分を見ていた俺に気がつく。最初は自分の行動を見られたことが恥ずかしくて顔を髪の色のように真っ赤に染めたが、エメラルド色のネクタイと俺の顔を見て、すぐに顔色を変えた。

 

「なんで、あなたがここにいるのよ!」

 

ウィーズリー家の勇ましさをしっかりと引き継いでいるようで噛み付いて来たのだ。

 

「俺がここにいる理由を君に話す必要があるか?まぁ、言うけど。カボチャを見に来たんだ」

「カボチャを見に来ているの?」

 

ジニーは目を丸くした。カボチャをわざわざ見に来るなんて、ただの変人だからな。

 

「そうだが。じゃあ、君は何をしにここに来ているんだ?」

「た、ただ来てるだけよ!」

「ふーん、そうか、そうか。なるほどな。君はポッターに会いに来ているんだろう?」

 

ジニーは俺の言葉を聞いて、まるで不意を突かれた人間のような反応をした。

 

「ち、ち、違うから!理由は言えないけど!そうじゃないから!あ、あたし、か、帰るから」

 

ジニーは俺にそう言い放つと、クルリと体の向きを変えるとカチコチな動きをしながら城に向かって歩き出した。

 

「ポッターなら諦めた方がいいかもしれない!ポッターは他の寮に好きな人がいると聞いたことがある!」

 

ジニーは振り返り、俺を鋭い目で睨むと、城に向かって駆けていった。

 

その姿を見届けてから、俺は大きなため息を吐いた。 この行動が俺の望むことに繋がるのか、その結果が本当に正しい行動なのか、それが分からなかったからだ。

確信を持てなかったが、それから俺は、お互いが一人のときを見計らって(ジニーは基本一人であった)ジニーに話しかけるようにした。

それは、ジニーに取って全く嬉しくない出来事であっただろう。スリザリン生でマルフォイ家の息子の時点で嫌悪感を抱くだろうし、会話の内容がジニーを追いつめる物だったのだから。

 

 

 

 

 

10月は湿った冷たい空気を引き連れながらやってきた。

 

「ハックション!」

 

そして、その急激な温度の変化は、先生も生徒も関係なく風邪を大流行させた。

 

「セルス大丈夫か?」

 

心配げに尋ねてきたドラコ自身が、熱っぽくて赤らんだ顔をしていて、まったく大丈夫そうでは無かった。こんなに寒くて大粒の雨が降る日にクィディッチの練習をすれば誰だってこうなるんだけど。

フリントは雨の日であってもお構いなく、厳しい練習メニューを行った。勿論、彼はかなりの批難を浴びていたが、意志を曲げることは無かった。

俺も不満はあったが、厳しい練習のおかげでいつの間にかチームメンバーとの間に合った溝を埋めることが出来た。彼は見た目に反して色々考えているようだ。フリントが狙って行ったという確信は無いのだけど…。

 

「ああ…あまり大丈夫じゃないな…早く戻って暖まろう…」

「そうだね…」

 

城に入る前に泥と水を適当に落としてから、寮に向かって廊下を歩いていると反対側からノットが歩いてきているのが見えた。

 

「おい、ノット!」

 

ドラコが手をあげて呼びかける。

こちらに気がついたノットは、俺を一瞥するとさっさと来た道を引き返した。

 

「ッなんだよ…あいつ!訳が分からない!」

 

ドラコが言うようにノットの行動は訳が分からなかった。ノットの行動はプラスになるどころか、マイナスにしかならないからだ。俺はノットが離れていったこと以外は対してダメージを受けていないが、ノットはスリザリンで浮いた立場になってしまい、友人も減ってしまっていた。本当にノットは何を考えているのだろうか…。

 

「やっぱり人を理解するのは難しいな…」

 

 

 

 

 「トリック オア トリート!」

 

大広間にやってきた皆がこの言葉を口にした。10月31日、皆が待ちわびたハロウィーンの日がやってきたのだ。

去年はトロールのせいで騒ぎ足りなかったことに加えて、今年はダンブルドアが余興用に『骸骨舞踏団』を予約したという噂が流れたために、誰もが大広間に集まり、騒ぎ回った。

近くに座っていた人からお勧めされた、パンプキンの皮を皿として利用したグラタンを自分の皿に載せる。そして一口齧りついたのだが、その味に驚いてしまった。美味しいとか不味いとかではなく、甘さ控えめだったからだ。去年のハローウィンの料理は全て甘かったので、毎年のことなのだと考えていた。

 

ある程度料理を楽しむと、みんなはおしゃべりの方に力を入れ始めた。そんな中俺は、周りの人間が大広間の飾り付けを見て評論家のように様々な感想を語るのを聞き流しながら、考え事を始めた。ハローウィンは楽しい日だが、原作を知っているとホグワーツのハローウィンを心の底から楽しむことが出来ないのだ。

 

バジリスクに襲われる回数は全部で五回。

一度目は、フィルチのペットであるミセス・ノリスが襲われる。これは今日だ。

二度目は、コリンが襲われる。

三度目は、ジャスティン・フレッチリーとほとんど首無しニックが襲われる。

四度目は、ハーマイオニーとレイブンクローのペネロピー・クリアウォーターが襲われる。

五度目は、ハリーが襲われる。そしてこの時、バジリスクはハリーに殺される。

 

これが原作での流れだ。今日はほとんどの生徒が一カ所に集まっているという事件を起こすのにぴったりな日なので、ミセス・ノリスが襲われるのは原作と変わらないだろう。

しかし、それ以降の流れは、俺というイレギュラーな存在によって大きく変わっていくだろう。犯人を知っているとはいえ、油断してはいけない。見知らずの生徒が死ぬのは別にかまわないが、原作に関わる人間が死んだり、リドルが肉体を得てしまったりすれば、本当に取り返しのつかないことになる。

俺は、ジニーが秘密の部屋に囚われてしまったという流れを原作よりも早く起こすために、ジニーに日記を多く書かせようとしているが、同時にハリー達が事件の真相に辿り着かせるのも早めなければいけないのだ。ロックハートが本当に使い物にならない無能だと気がつかせるのも。

 

 

 

 

 

 「皆、楽しめたのかの?『骸骨舞踏団』を招待するのに一苦労したのにつまらなかったと言われてしまってはたまらんがのぉー」

 

ダンブルドアがニヤリと笑うと、大広間に大歓声と爆音のような拍手が響き渡った。噂は本当だったようで、パーティーの途中から『骸骨舞踏団』が演奏してくれたのだ。彼等の演奏は最高で、今の俺の気持ちでさえ高ぶらせ、このパーティーを盛り上げてくれた。

 

「良く食べ、良く騒ぎ、皆は満足したじゃろう。さぁ、就寝時間じゃ。駆け足!」

 

ダンブルドアの言葉を聞いた監督生が立ち上がり、一年生を集め始める。

 

「早く寮に戻ろう。もう少しすれば大行列の中に取り込まれてしまう」

 

ごちゃごちゃと並ぶ一年生を見てドラコが顔をしかめた。

 

「そうだな。さっさと引き上げた方が良さそうだ」

 

早歩きで大広間を出たが、同じことを考える生徒はたくさんいたようで、結局人ごみの中に取り込まれてしまう。流れに従って階段を上り、廊下に出た時、突然前の生徒が立ち止まった。先頭の生徒がミセス・ノリスを発見したのだ。

ざわめきが前の方から聞こえ始め、それが次第に後ろに拡散し始める。

 

「なんだ、これは?…フィルチの猫?おい!セルス行くぞ!」

 

人垣をかき分けて前に進むドラコの後を追うと最前列に飛び出た。人ごみの中でポカリと空いた空間には、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が顔を青くしながら呆然と立っていた。そして、三人の前の壁には、

 

『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』

 

松明の光に照らされてチラチラ光る真っ赤な文字が書かれている。この文章を理解出来る生徒は少ないだろう。それでも、何か恐ろしいことが起きていることは気がついていた。

 

「継承者の敵よ、気をつけよ…」

 

ドラコがボソッと壁の文字を読むと、壁から目を離し、生気のない顔でこちらを見つめてくる。

 

 

 

 

 

 

静寂を打ち破る者はやってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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動き出し方

 「なんだ、なんだ?何事だ?」

 

 大勢の生徒が立ち止まり、ざわめき合っていることを不審に思ったのだろう。フィルチが生徒たちをかき分けてやってきた。

 

「またお前か、ポッター。今度は一体何をやったっ」

 

 フィルチはハリーから目を外し壁を見た瞬間、全身の動きを止めた。壁に愛猫であるミセス・ノリスがぶら下がっていたからだ。フィルチにはミセス・ノリスは死んでいるように見えただろう。それはフィルチには残酷すぎる出来事だった。

 

「わたしの猫だ!ミセス・ノリスに何があった!」

 

 フィルチは金切り声で叫んだ。

 魔法界から、そして家族からも見放されたフィルチにとって、唯一と言える家族(・・)を殺されるのは耐えられるものではない。フィルチの目は血走っており、パニックを起こしているのは誰にでも分かることだった。

 

「おまえだな!」

 

 フィルチは自分の怒りの矛先をハリーに定めた。その理由は、状況的に考えてハリー達三人は怪しかったし、ハリーとフィルチの関係が悪かったからだと思うが、俺には誰かを責めなければ自分を保てなかったからだとも思えた。

 

「おまえだな!あの子を殺したのはおまえだ!俺がおまえを殺してやる!」

 

 ミセス・ノリスが死んでいないことを知っている俺は、フィルチが今後正常(・・)でいられることを知っている。けれど、ミセス・ノリスが生きていることを知らない生徒には、フィルチが狂って本気でハリーを殺そうとしているように見えた。空気が冷たくなっていくのを感じた。

 事実、分からない未来ではあるが、ミセス・ノリスが本当に死んでいたとしたらフィルチは狂っていたかもしれない。俺は未来を変えることで苦しむ人間がいる可能性があることを再び確認した。そのことを後悔しなければならない、反省しなければならない、ためらう必要がある、そういうことを思っているのではない。ただ、そのことを知っていなければならない気がした。

 

「アーガス!」

 

 数人の先生を引き連れてやって来たダンブルダアが、殺す、と言いながらハリーに近づくフィルチに鋭い一声を浴びせた。その効果は抜群で、フィルチを少し落ち着せるだけでなく、生徒達の間に流れていた空気を正常なものに戻した。ダンブルドアの存在は凄まじかった。

 

「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャーさん。君たちも来なさい」

 

 ミセス・ノリスを松明の腕木から外し、両腕に抱えたダンブルドアが四人に呼びかけた。

 

「それなら私の部屋を使うといいでしょう。ーーほら、すぐ上ですから」

 

 今の状況に相応しくない、嬉しそうで興奮した顔のロックハートが、ダンブルドアに進言した。

 

「ありがとう、ギルデロイ」

 

 ダンブルドアはロックハートの提案を受け、ロックハートの部屋に向かって歩き出した。人垣が無言のままパッと左右に開き、彼等はそこを通過して行く。誰もが口を開かず、一行の後ろ姿が見えなくなるまで見続けた。

 

「皆さん、寮に戻りなさい!ほら、就寝時間はすぐですよ!」

 

 突如、中央からキーキー声が上がった。見ると、そこにはフッリットウィック先生がいて必死に生徒を誘導しようとしていた。

 

「監督性、誘導しなさい!」

 

 その言葉を聞いて監督性が慌てて動き出した。監督性の中には必死に自寮の生徒を集めようとしている者がいたが、生徒が密集している状況では無理な話であり、ゾロゾロと寮に向かって全寮の生徒が歩くことになった。

 

「なぁ、セルス……。ーーもしかして危ないんじゃないか?」

 

隣にいたドラコが恐る恐る言葉を吐き出した。ドラコから見れば、壁に書かれていた”継承者の敵”には俺も含まれているのだ。ドラコが心配してくれることはとても嬉しかった。

 

「ーーそうかもな。まだ状況が分からないけど、やっぱりドラコ以外にあの話をしない方がいいみたいだな」

「うん、それは勿論だけど、やっぱり考え方を変えた方がいいんじゃない?ほら、危険だから」

 

 ドラコがキラキラした目で俺を見つめてくる。俺はそっと目を逸らしながら答えた。

 

「ごめん。それは無理だ」

 

 ドラコのことを考えると純血主義を認める訳にはいかなかった。

 

「……そっか」

 

 それっきりドラコは口を開かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィーンの日から数日、学校中でミセス・ノリスが襲われた日のことが話されていた。しかし、数日経ってもダンブルドアが事件について詳しく生徒に説明しなかったので、話し合うことの内容は確信も無いただの噂話がほとんどだった。例えば、ミセス・ノリスを石に変えたのはハリーであるーーとかだ。そんな噂話では満足出来ない、探究心溢れる生徒は図書館へと急いだ。秘密の部屋とは何のなのか知るために。

 そんな理由もあって、図書館にはいつもよりも多くの人がいた。俺は、騒いでいる生徒を追い出そうとしているマダム・ポンフリーを尻目に、数冊の本を抱えながらいつもの席を目指した。

 いつもは生徒がほとんどいない場所であったが、今日は数人の生徒がいた。ハーマイオニーが来ることに期待しているので、その生徒達は邪魔な存在であったが、彼等はスリザリン生ではなかったので特に気にすることなく席に座る。持って来た本はミセス・ノリスの一件とは関係ないものだ。運んで来た数冊の本は全て動物もどき(アニメーガス)に関する本である。まだ自分には早すぎる魔法であることは分かっていたが、動物もどきについて知っておくことは重要なことだと思ったのだ。

 動物もどきになった人物の体験談が書かれている本を捲っている時、肩を叩かれた。ハーマイオニーがやって来たか、そう思って後ろを振り向いた俺は呆気にとられた。目の前にはハーマイオニーだけではなく、ハリーとロンがいたからだ。

 

「セルス、ごめんなさい。あなたとの関係を言うつもりは無かったのだけど、クディッチでのことを二人に問いつめられて話してしまったの」

 

 ハーマイオニーは申し訳無さそうに言った。

 

「いや、別にいいんだけど……」

 

 俺はハリーとロンの顔を見ながら返答した。しかめっ面のロンが俺との会話を望んでいるように思えないし、この状況は訳が分からなかった。

 

「やぁ、マルフォイ。まとも(・・・)に話すのは初めてだよね? 」

 

 ハリーが尋ねてくる。ハーマイオニーとロンがこの対話を望んでいないのだとすると、ハリーが望んだことになる。何らかの打算があって近づいたのだろうか?

 

「そうだと思うぞ。何しろ俺たちは対面する度に罵り合いをしているからな」

 

 肩を竦めて返事をすると、ロンが突っ掛かって来た。

 

「それはお前達のせいだろ!いつもおま「ロン!喧嘩はしない約束でしょ!?」……わかってるよ」

 

 しかし、それはハーマイオニーによって止められた。ハリーとロンと話すのは早すぎると思っていたところだが、この状況を見ると、もしかしたら今がチャンスなのかもしれない。

 

「別に喧嘩をするために来たんじゃないんだ。ーー聞きたいことが合って」

 

 ハリーが一度言葉を切った。それからまた口を開いた。

 

「ーーミセス・ノリスの件について何か知っているの?」

 

 ハリーはハッキリした声で尋ねてきた。その質問を聞いて俺は、この機会がチャンスであることを確信した。

 

「いや、何も知らない。でも、ポッターとマルフォイ家が関わっていないことは知っている」

「マルフォイ家が関わっていないだって?どうしてそんなことが言えるのさ?」

 

 ロンが嘲笑うように話す。今度はロンを止める者はいなかった。ハリーもハーマイオニーも俺の答えを聞こうとしていたからだ。返答の内容には慎重にならなければならなかった。

 

「俺が純潔主義じゃないからだ。そのことは家族に言っている」

 

 ハリーとロンは目を大きくしながら、まじまじと俺の顔を見つめた。

 

「何となく察していたんじゃないか? 二人とは仲が悪いから喧嘩をすることはあったが、ハーマイオニーの生まれについて馬鹿にしたことは無かったんだから」

 

 俺の言葉を聞いてハリーとロンは顔を見合わせた。

 

「ほら、言った通りでしょ? セルスとマルフォイは違うのよ」

 

 ハーマイオニーは得意げに驚く二人に言った。

 

「でも、あの(・・)マルフォイ家の二男だよ? まさかと思うよ」

 

 ハリーが不満げに言い返す。

 

「本人の前で言うことではないと思うぞ? 」

 

 まるで良い人が困っているような雰囲気を”作り”ながら、彼等に告げる。

 

「じゃあ、そろそろいいかな?」

「うん、ありがとう。君のことを少し勘違いしていたかもしれない」

 

 ハリーは和やかに言った。

 

 ーーちょろいな。

 

 心底思った。内側に入れた人間に対して甘くなるのはハリーの長所であるが、それは欠点でもあった。裏切った者に対しては厳しいという特徴でカバー出来てはいるものの、それは大きな欠点だ。

 

「マルフォイはどうなんだ? お前の兄だよ。あいつは純血主義だろ」

 

 ロンはマルフォイ家に厳しい態度をとる。幼い頃からスリザリンとマルフォイ家の悪い点を聞かされて来た人間がマルフォイ家に対して良い思いをしないのは当然であったが、彼は”かわいそう”に思えた。ロンの兄弟が自分の考えで物事を捉えられているのを踏まえると、尚更そう感じた。

 

「ドラコは純潔主義だ。残念ながら」

 

 本を腕に抱え、席を立つ。

 

「でも、いつか変えたいと思っている。」

 

 俺を半ば睨みつけるロンを見つめ返しながら、俺は言葉を紡いだ。

 

「その時には君が変わっていることを願うよ」

 

 キョトンとするロンから目を離す。

 

「また何かあれば”図書館”で話しかけてくれ。それじゃあ、”また”」

 

 ロンのことを気にしていたハリーが慌てて俺に意識を戻す。それからハリーは確かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと待って、セルス!」

 

 先程の場所からちっとも離れていない場所でハーマイオニーに呼び止められた。少し気に障るものがあったが、彼女の年齢を考えると当然なのかもしれない。ーーあれ? そういえば俺の年齢っていくつだったのだろうか?

 

「あなたにお礼を言うのを忘れていたわ。ほら、クィディッチの時の」

 

 年齢なんてどうでもいいか。前世のことは考える必要は無いだろう・

 

「あの時はロンに魔法を使ってしまったし、お礼はいらないよ」

 

 ハーマイオニーは静かに首を横に振った。

 

「ロンが呪いをかけようとしていたみたいだし、それは防衛として正しかったと思うわ。とにかく、わたしはお礼を言いたかったの。ありがとう」

 

 ハーマイオニーは少し恥ずかしそうにお礼を言った。

 

「どういたしまして」

 

 俺の言葉を聞いてハーマイオニーが笑みを零した。しかし、それは一瞬のことで、すぐに厳しい表情になった。

 

「そうだ、忘れてた!純血主義じゃないなんて簡単に言わない方がいいわ。今の状況を考えると特にね」

 

 ハーマイオニーが厳しい声で忠告して来た。行動と発言が一致していないように思えるのだが……。

 

「ポッター達と家族にしか言ってないよ。ーーというか、俺よりもハーマイオニーの方が危険だろ」

「確かにそうね……」

 

 ハーマイオニーが下を向いて黙り込む。先程の場所よりも人通りの多い場所なので早く解放して欲しい、そう思い始めたとき、ハーマイオニーが顔を上げた。

 

「ねぇ、”秘密の部屋”について一緒に調べない?」

 

 その言葉を聞いた俺には、ハーマイオニーが女神であるかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




前話のジニーがジニーらしくない気がして来た。もっと強気だよな…。


少しずつですが、1話からおかしな点を改訂して行こうと思っています。


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