IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~ (のろいうさぎ)
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~プロローグ~

アメリカ合衆国。

 

世界のすべてに影響力を持つ世界の中枢とも呼べる自由の国。

 

日差しがまぶしく照りつける空港で、一人の少年が今まさに一人の女性に見送られ、

日本へ飛び立とうとしていた。

 

一人はショートヘアーの金髪に蒼眼を持つ、まぁまぁ普通の顔立ちにサングラスをかけ、

白のパーカーとジーパンというラフな組み合わせ。そして大きなキャスター付きの旅行鞄を携えている。

そしてもう一人は、金髪は同じだが綺麗なロングヘヤーに深い緑色の瞳をもち、紺色のスーツを着こなす

綺麗な女性だ。

「アルディ、本当に忘れ物は無い?」

「姉さん、大丈夫だよ。それに、最悪パスポートさえあれば、入国は出来るしね」

彼の名前はアルディ・サウスバード。これから日本へとと旅立つ少年。

そして、もう一人の見送りの女性は、ローラ・サウスバードだ。アメリカでは結構な有名人である。

ま、なぜかは追々。

「フフッ、あなたらしいわ、まぁせいぜいがんばってらっしゃい」

「僕の苦手な事ベストスリーに入る事だねそれは」

アルディはククッっと笑うと、パーカーの前ポケットからフライトチケットを取り出す。

それと同時に、空港内にアナウンスが響いた。

〝I start 003 flights of All Nippon Airways boarding procedure. The embarkation planned visitor come to the third international airline gate.〟

 

(全日空003便搭乗手続きを開始いたします。ご搭乗予定のお客様は、国際線3番ゲートまでお越しください。)

 

アルディはそのアナウンスとチケットの便名を照らしあわせる。

そしてローラに向かって、微笑んだ。

「そろそろ時間みたいだね」

「そうね、行ってらっしゃい」

「うん、行ってくるよ」

そう言い残し少年は、歩き出す。

これから始まる事に、不安と期待を抱きつつ。

少年は日本へ飛び立った。




どうも、初めまして。
のろいうさぎと申します。以前は別サイトで書かせていただいておりました元〝しるく〟と申すものです。

本日よりこちらへ移転させていただく運びとなりました。
基本的に二次創作はこちらにアップしていく予定でございます。
よろしくお願いします。


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第1話~嘘つき転校生~

日本へ到着し、その日はホテルに泊まった。

 

フライト時間約10時間。

流石に疲れていたのか、チェックインして部屋に着いた後の記憶が無かった。

そして時刻は現在午前6時30。

今日は、初登校の日だった。

僕は、壁に立てかけてあった旅行鞄の中から、手続きの書類の入った封筒を引っ張りだした。

確かその中に、IS学園までのアクセス方法が書いてあったはずだ。

・・・・・・うん、大体読める。

良かったよ、向こうで辞書引っ張り出してローマ字表記書いといて。

漢字は苦手・・・・というかはっきりってわかんないんだよね、まだ。

日本ってどうして、こう漢字、英語、カタカナ・・・・こんなに複雑な表記をしてるんだろう。

ややこしいなぁ。

と、まぁそんなことを考えている間にも、時間は過ぎていくわけで。

流石にね・・・・初日から遅刻はまずいよね?

僕は、手早く荷物をまとめ旅行鞄に押し込むと、ロビーへ急いだ。

 

チェックアウト後、最寄りの駅から電車に乗る。

日本の鉄道って言うのはほんと時間に正確だよね。

僕の住んでた所にも鉄道はあるけど、平気で遅れてくるもんね。

何のための、時刻表なのかと何度も思ったことがあるけど。

電車に揺られてしばらく。

学園案内に書かれていた、駅名を確認し電車を降りる。

さて・・・・・。

 

これが僕にとっての最大の難所乗り換えだ。

最後に降りる駅は分かってるんだけどね。

どっち方面なのかが分からない。

さて・・・・どうしたものか。

路線図なんて見ても分からないし・・・・。

このままだと、本当に遅刻の可能性が出てきたな・・・。

幸い日本語は流暢に話せるが・・・・。

って、僕の馬鹿・・・。

降りる駅名の名前にルビがふられていない。

つまり・・・読めない。

さ、最悪だ。

言葉が話せても、これじゃあね。

いよいよ、厄介だ。

駅員はどうやらいましがたの時間帯は、総出で電車に乗客を詰め込んでいる。

この時間帯はラッシュアワーなのだ。

とても聞けたような雰囲気じゃないねぇ。

すると、ふとどこからか声をかけられる。

「どうかしましたか?」

声の主は、黒い髪に整った顔立ちをした背の高い男子だった。

年齢はまぁ、僕と同じぐらいかね。

「いや、うんちょっと迷っちゃってね」

「どこ行きたいんです?」

「ココのモノレール乗り場なんだけど」

僕は、学園案内に書かれているモノレール乗り場を指さす。

それを見た男子は、気さくな笑顔で僕を見ると心強い一言を言ってくれた。

「おんなじ方向ですね、案内しますよ」

偶然でもなんでも、丁度いいね、こりゃ。

「それじゃ、頼もうかな」

僕は彼に連れられて、ようやく電車の乗り換えに成功した。

ただ・・・・もうこの国のラッシュアワーには乗りたくは無くなったね。

 

更に電車に揺られること20分余り。

ようやく目的地に到着し電車を降りる。

駅を出ると、すぐ目の前に、モノレールの軌道が見えた。

アメリカではモノレールを見たことが無かったから、一本のレールにぶら下がってゴンドラが移動する

姿は少し・・・・いやかなり異様な光景だった。

「ココで、良いんですか?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

「そうですか、まぁ良かったですよ役に立てたなら。それじゃ俺ちょっと急ぐんで!」

最後まで気さくな笑顔を絶やさぬ彼を見送った後、僕はモノレールに乗り込む。

モノレールってこんな感じなのか。

モノレールは振動も少なく乗り心地は快適だった。

でも、やはり軌道が上で下にぶら下がっているというのは不思議な浮遊感を覚える体験だった。

窓の外をぼんやりと眺めていると、海上にせり出す形で建築された、

大きな近未来的な施設が顔をのぞかせる。

(これがIS学園か)

優秀なIS操縦者を育成するために作られた国立機関。

ここに集まってくるのは各国のエリート達。

あぁ、僕は違うよ。僕の場合は〝ISを動かせる男〟ってことで

姉にも進められたけど、それ以前に気が付けば転入の手続きが終わっていて

今日からIS学園に行くっていう事が結構知らない所で決められてたからね。

まぁでも、僕は別段それに関して反対とか反抗はしなかった。

大事なのは〝なんとかなるでしょ〟の精神だ。

何しても、今日からここの生徒になるわけだからね。

楽しまないと。

 

 

モノレールを降り、正門付近まで歩いていくと、その建物の大きさがよくわかる。

特に中央の特徴的なタワーは本当に高い。

何をする所なのか、何もしない所なのかはわからないけど、とにかく中に入らずともその大きさに

少なからず圧倒されてしまう。

ここまでくれば迷うこともないと思っていたが、この大きさは予想外だ。

受付を探すだけでも一苦労過ぎる。

なんとかたどり着いたは良いものの結局、場所はここの、生徒に聞いた。

「すいません、転入手続きお願いしたいんですけど・・・」

言いながら僕は、封筒の中身を受け付けの女性に渡す。

受付の女性は、書類を見ながら、PCを操作していく。

ピアノを弾いているかのようになめらかにキーをタイピングしていく女性。

ほどなくして、生徒手帳の発行やこの学園の詳細な見取り図などを渡される。

「寮の部屋割なんですが、決まり次第担任の方からお話があると思いますので」

「あぁ、そうですか」

「それと・・・・・その格好は」

女性が少し、怪訝そうに僕を見てつぶやく。

そこで初めて僕が、制服ではなくいつも通りのパーカーにジーパンというラフな格好であることに気が付く。元々アメリカの学校では特に決まった制服なんてのは無い。

その感覚が抜けきらないまま、何の疑問も持たずこの学園に来てしまったという事も確かにあるが、これには根本的な理由がある。

「その・・・・僕の住んでた所に制服届いてないんですけど」

「・・・・・・あれ?」

女性は僕の返答を聞くと、受付の奥の棚から何やら伝票の束を持ってきてパラパラとめくっていく。

そして少し語気を強めて僕に言い返してくる。

「いえ、ちゃんと送ってますよここに伝票もありますし」

「でも来てないんですけど・・・」

「カリフォルニア州のロサンゼルス宛てにちゃんと発送されて・・・・」

「へ、ロス!?」

ちょっと待ってよ・・・ロサンゼルスになんて住んでないよ・・・。

一体どこへ送ってるんですか・・・。

「あの、僕サクラメントなんですけど」

「・・・・・・ロサンゼルスって州都じゃないんですか?」

ここは本当に、エリート養成学校なんだろうか。

双方の都市の距離約600㎞。

なんで間違える!

「私州都って大抵人が一番多く住んでるところだと・・・」

「とりあえずその考えを改めましょう、って言うかなんでそんな間違いが・・・・」

「あなたのお姉さんからの電話の際に、カリフォルニア州の州都の市役所へ送っておいてと言われて・・」

「らしい説明です」

姉さん・・・・説明不足さが、素晴らしいよ。

いやだとしても、州都を間違えるかね普通。

PCでサーチしても簡単に出てくるよ。

とりあえずだ、今それを嘆こうが制服が届くわけではない。

予鈴の時刻も迫っていたから、僕はその話を切り上げ、その女性に連れられ職員室へと案内される。

ガラッと、職員室の扉が開かれると、一斉に注目が集まる。

そりゃ珍しいんだろうけど・・・ここまで見られるのもなぁ。

というかこの学園、男の教師少ないね・・・。

まぁ仕方ないのかもしれないけど。

そして案内された先に黒いスーツで決めた、鋭い眼光を放つ女性が一人。

「織斑先生、転校生をお連れしました」

「あぁ、ありがとう」

ん・・・・織斑?どこかで聞いたような・・・。

それではと言い残し、僕と織斑先生を残し女性は去っていく。

「お前が、転校生か」

「はい、アルディ・サウスバードです」

「ん?サウスバード?」

何か引っかかったのか、少し怪訝そうな顔でこちらを見やる。

「あの、何か?」

「いや、何でもない。それよりお前制服はどうした」

「事務員のミスで今頃ロスでひとり旅しています・・・」

はぁっとため息をつきボソリとまたか・・・とつぶやく織斑先生。

あの人何度も同じミスしてるんだ・・・。

「まぁ良い、制服の件は、今日中に何とかしてやる。とりあえず教室へ向かおう」

僕は織斑先生に連れられて、いまだに周囲の教師陣から異様な注目を集める職員室を足早に後にした。

 

「少し待っていろ」

織斑先生は僕を、廊下で待たせて一人教室へ入っていく。

騒がしかった教室内が一気に静かになり、中からかすかに織斑先生の声がする。

「おはよう、諸君。既に一部では盛り上がっているようだが、転校生を紹介する」

その発表で、中から女子生徒の声で

「やっぱりくるんだー!」

「なになに、うちのクラスなの!?」

という騒がしい声がする。

「えぇい、やかましい、いちいち騒ぎ立てるな馬鹿どもが、まったく。おい入ってこい」

さてと、行きますかね。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

転校生ねぇ。

また女子なのだろうか。

いやまぁ十中八九女子だろうけど。

俺、織斑 一夏はそう思い顎をついた。

ただまぁ、これ以上女子が一人増えても何も変わらない。

やまて!既に彼のHPはゼロよ!状態なんだ。

千冬姉・・・・いや、織斑先生が呼ぶと同時に教室のドアが開かれ転校生が現れる。

だがそれは、女子では無かった。

学園に不釣り合いな白いパーカーとジーパン傍らには大きな旅行鞄を転がしている。

俺もだが、周囲の女子も唖然となっている。

っていうか、あいつ!

向こうもこちらに気が付いたらしい、少し驚いた顔でこちらを一瞬見たが気にせず自己紹介を始めた。

「アメリカ、カリフォルニア州出身、アルディ・サウスバード。どうぞよろしく」

流暢な日本語ですらすらと、自己紹介をするアルディ。

一通り、自己紹介を終えると再び女子達が声を上げた。

「アメリカ人!それに男の子だ!」

「織斑君とはまた違うタイプそうだよね!」

「でもなんで制服じゃないんだろう・・?」

「アメリカって私行ったことないんだ~」

・・・・・最後のはどうなんだ、関係あるか?

そしてお決まりと言えばお決まりだが、騒いだ女子を一人残らず出席簿でたたいていく千冬ね・・・

「織斑先生だ、少しは学習しろ」

「・・・・すいません」

なんでこう俺の考えは漏れるかね。

「それと織斑、アルディの面度を見てやれ、この学園に慣れていないしな、日本の生活にもだが」

「え・・・・あ、はい。分かりました」

「よろしく頼むよ?」

ヒラヒラと手をこちらに手を振るアルディ。

なんていうか、軽い奴だな。

「それでは、これでSHRは終わりだ!今日もしっかり勉学に励めよ、馬鹿ども!」

「あ、ちょっといいです?」

ビシッと締めた所に、言葉を挟むアルディ。あいつは怖いもの知らずか。

織斑先生はそのアルディを、顔を動かさずジロッと睨む。

そして、腕を組むと瞳を閉じ、何だ?と若干不機嫌そうに言う。

「僕の席が見当たらないんですが」

「ん?・・・・・」

・・・・・・あ!しまったぁ!!

そう言えば昨日一つ机を運んどくように言われてたんだった・・・・。

課題やらISの事やらですっかり忘れていた・・・・。

「織斑・・・・・」

千冬姉の鋭い眼光が俺を射抜く。名前だけ呼ばれただけだが何を、言わんとしているかなどすぐに分かった。

「あ、あの・・・・・・忘れてました」

スパァンッ!

当然の出席簿インパクト。あの出席簿ほんと鉄でも入ってるんじゃないか?

「はぁ・・・・机が無ければ話にならん!一時間目は・・・・・ふむ私の授業か」

千冬姉は、時間割を見やると、こちらに向き直りまた一つ大きなため息をついた。

「お前たち二人で、準備室から机をひとつ取ってこい」

「え!僕もですかっ!?」

あぁ馬鹿!!

思ったが時すでに遅し・・・出席簿でたたかれるアルディしかも2回。

「・・・・・分かったな?」

「・・・・はい」

多分今のやり取りで、千冬姉の理不尽さはよく理解してくれたと思う。

俺は、立ち上がるとアルディを連れて教室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

痛い・・・・日本の教師って言うのはだれでもあんなに人をバシバシ叩くものなのかい?

・・・っていうか出席簿ってあんなに痛かったかなぁ・・・。

僕もアメリカでは、昔先生に手でたたかれた事はあったけど、あれほど痛くは・・・。

「何にしても悪かったな、こんなことに付き合わしちまって」

織斑君が頭をかきながら気まずそうに謝罪の言葉を述べる。

「まぁ、いいさなんとかなるんでしょ」

「そりゃそうだけどさぁ」

「それより君、下の名前は?」

「え?あぁ一夏だ」

イチカね。オリムラよりも呼びやすい。

「なら一夏と呼ばせてもらおう」

「ッフ、お好きなように」

少しおどける彼。

にしても偶然とは凄いものだね。

あの時駅であった男子とこんなところで生徒として会えるなんて。

・・・そうだ思いだした、織斑一夏・・・この前アメリカのニュースショーで、

トップニュースで取り上げられていた人物だ。

〝世界で唯一ISを使える男子〟ね。今となっては僕もいるから2人だけど。

そして、あの担任織斑千冬・・・・そうだ、どこかで聞いたと思ったら姉さんだ。

姉さんがしきりに千冬千冬言っていたのを思い出す。

あの時は、僕は「だれその人」状態だったけど・・・。

あの人が・・・。

「着いたぜ、こっから机を運び出すんだが・・・・」

一夏の声に気が付き、考えをやめ顔を上げるとそこにはPCの機能やら何やらを丸ごと詰め込んだ

超が付く程重たそうな机が鎮座ましまししていた。

これを、教室まで運ぶのかい・・・。

僕は、今来た道を振り返る。

まぁ教室は見えてはいるけど、目の前の机が見ただけで重いという事がわかるだけに、

この距離なら・・・・という前向きな気分をへし折ってしまう。

「とりあえず運んじまおうぜ・・・遅いとまた千冬姉になんて言われるかわからん」

「そう言えば、織斑先生っていつもなんななの?」

「あんなっていうと?」

「うんいや、だからいっつもこんな感じで目釣り上げて、出席簿でたたくのかなと」

「ぶっ!アルディそれ目元似てたぞ!?」

どうやら、僕のやった織斑先生の眼付の真似が似ていたらしい。

少し一夏のツボに入ったようだった。

・・・・・なるほど面白い。

「もっとやってあげようか?」

「くっくく・・・やめてくれ・・・笑いをこらえるのが大変なんだぞ・・・くくく」

「ほれほれ~」

「や、やめ!!」

「ほぅ、面白そうだな私にも見せてくれ」

「いいよ、ほらこう・・・・・」

この後2人とも回数忘れるぐらい出席簿でたたかれた。

 

 

なんだか色々、あったけど初日って言うこともあり、

あっという間に授業は終わり放課後を迎える。

壇上では、織斑先生ともう一人、おっとりとてどこかドジっ子そうな小柄な山田先生が立っている。

どうやら担任が織斑先生で、山田先生は副担任と言う立場らしい。

織斑先生よりも、温和で近寄りやすい山田先生はすぐに女子たちと打ち解け楽しそうに話に参加している。

まぁ織斑先生は、あのモンドグロッソの優勝者だもんねぇ。

いくら担任とはいえ、気易く話しかけられないよね、呼ばれでもしない限り。

「おい、サウスバード」

そんなことを、思ってるからか、呼ばれたよ。

僕は、これ以上出席簿でたたかれたくないので、素早くそれに反応した。

「なんでしょう?」

「お前の制服の件だ。一時間目の終わりにサイズを聞いただろう?

あの後すぐに発注をかけた。今日の放課後には上がると言っていたからな、受付まで取りに行くように」

「わかりました、ありがとうございます」

「では、山田先生そろそろ」

女子と話に花を咲かせていた山田先生を呼び、教室を出ていく。

注目すべき対象が居なくなった女子達の眼は、必然的に転校生の僕に向くわけで。

不思議だったんだよね、今の今まで何も聞かれなかったことが逆に。

まぁ・・・・聞いてほしくもないけど。

一瞬の静寂の後、ワッと一斉に僕を取り囲む。

「ねぇねぇ!アルディ君もIS持ってるの?」

「そんなことより、あたしは趣味とかそっちのが聞きたいなぁ~」

「アメリカってどこ!?」

・・・・ちょっと思ったけどこのクラスに一人おかしな子がいるようだ。

まぁいいや、ふぅ。

「僕は持ってないよ、候補生でもないしね」

「持ってないの?織斑君は持ってるよ?ねぇ、織斑君」

「ん?いやまだ来てないって」

苦笑いして女の子のパスを上手く受け流す。

来てないってことは、あれか。もうすぐ来るってことか。

ふぅん。

で何だっけ。

「趣味はカラオケかな、と言っても邦楽ばかりだけど」

「え!?日本の曲歌えるの?」

「違うわよ、アルディ君から見て邦楽だから洋楽に決まってんでしょ」

あぁそっかと頭をかく女子。

まぁよくありがちな間違いだろうか。

それで最後の質問は。

「アメリカは、海を挟んだ日本の隣の国だよ」

「おぉ!分かりやすい」

「ん?んん?隣??海、あぁ太平洋ね・・・隣って言うには離れ過ぎてるような」

「でも隣でしょ」

「隣って言うならハワイとかじゃないの?」

「ハワイだって立派なアメリカの州の一つさ」

「そりゃそうだけど・・・・?」

「いやだけど隣ってねぇ」

「いいじゃん分かりやすけりゃ何でも!」

・・・・・ふぅ、ま、こんな感じで良いかな。

最後のあの抜けた質問のおかげで、その場を少し混乱させることに成功した僕は、

そんな彼女達を後目に教室を後にし、受付へ制服を取りに行った。

 

 

・・・・・まさかここまで受付へ行くのがサバイバルとは思わなかった。

それほど距離もないはずなのに、なんであんなに女子が・・・。

僕はパンダ?

いいえ、ケフィア・・・・でもありません。

・・・これなんのCMだったかな。ま、いいや。

僕は制服を持って一夏に教えてもらった、男子用のトイレで着替えを済ます。

割とサイズは適当に言ったんだけど、あながち間違っていなかったようだ。

丁度いいサイズだね。

 

着替えを制服の入っていた袋に入れ、教室に戻り片隅に置いてあった旅行鞄にしまう。

そして立ちあがって振り向くと、そこには綺麗な金色のロングヘアーをたたえた

いかにも気品あふれる女子が立っていた。

「・・・・あの、何か?」

「あなた、ひょっとしてあのローラ・サウスバードの弟ではありませんこと?」

ん?この人僕の姉を知ってるのか。

まぁそこは、嘘をつく必要もない、素直に肯定しよう。

「そうだけど」

「やっぱり」

その女子は、納得したようにうなずくとゆっくりとこちらを見やる。

「あの、いい加減自己紹介お願いできるかな・・・」

「・・・・・私を知りませんの?」

いきなりジト目でこちらを見てくる。

外見はお嬢様なのに、その目とのギャップが凄い。

「あぁ、知らない」

「全くあの男といい、あなたといい私を知らないなんて、許されることではありませんわよ!」

「いや、そう言われても知らないものは・・・知らないし」

「あ、あなたねぇ・・・・・・」

ジト目を通り越して、目元が真っ暗で怒り心頭のオーラがあふれ出している。

そこまで自分を知ってなきゃ怒ることなのか?

「よろしいですこと?私は入試主席にしてイギリスの代表候補生・・・」

「セシリア・オルコット?」

「そう、私はッ・・・!?」

「間違えたかな?」

多分僕は何も間違ってないと思うけど。

相手のハッとする顔が実に面白い。

そしてそのあと必ず決まって、なぜ知っているのかという顔になる。

本当に楽しい。

「あなた、なぜ!?」

「いやだから、セシリアであってるんでしょ、名前」

「そう言うことではありません!あなた先ほど知らないと・・・・・・・嘘ですのね」

激昂を途中で区切り、一気に声のトーンが下がる。

怒りのボルテージも頂点を突破すると

誰でも、ドスの効いた低い声で相手を威圧するのはどこの国でも変わらないね。

僕はフフッと口元を緩め、首をわざとらしく傾ける。

「やはり、あの人の弟だけありますわね」

「褒め言葉だね」

あの人とは、言わずもがな姉さんのローラ・サウスバードだ。

姉さんは担任の織斑千冬が優勝した第一回モンドグロッソで大会総合二位に輝いている。

功績だけ見れば非常に輝かしいものだが、その闘い方から、地元アメリカのメディアは

実力を認めながらも、姉さんをこう揶揄した。

〝Rola of betrayal〟(裏切りのローラ)〟と。

裏切りは言い過ぎだが、一言で言えば嘘つきなのだ。

言葉巧みに相手を、惑わせて時に卑怯とも撮れるような闘い方。

それが姉のスタイルだった。

だからセシリアが、さっきああ言ったのは、何も間違っちゃいない。

僕も同じようなものだからね。

「ふん、まぁ良いでしょう。私は寛大ですから。名前を知っていただけでも許して差し上げましょう」

「別に怒られてないんだけどね、僕」

「・・・・まだそんな事言いますの?」

「別に?」

「・・・・・良いですわ。今度クラス代表を決めるために、

あの男とアリーナで決闘しますの。あなたも参加なさい?」

「・・・・なんで」

「そのふざけた態度叩き直して差し上げますわ」

「君、代表候補生でしょ?」

「それがどうしましたの?」

「残念だけど、やめとく」

だがその返答は予想していた、というよりもそう帰ってくるのが当然と思っていたのか、

フフンと鼻を鳴らし、腰に手を当てあたかもモデルのようなポーズで、嘲笑を含んだ笑みでこちらを見やる。その目は完全にこちらを見下していた。

「フフフ、まぁそうでしょうね。少なくともこれであなたがあの男よりも、

利口だと言う事は分かりましたわ。あの男私に向かってハンデはどうすると言ったんですのよ?」

あの男・・・十中八九一夏だな。

代表候補生相手にハンデか・・・・。

流石に自殺行為だね。

「まぁ良いですわ、今回の件は、不問として差し上げましょう。

観客席から、あの男がボロ雑巾になるのをとくとごらんなさい」

・・・・今思ったけど、結構口が悪いね彼女。

にしてもそんな面白そうな事があるんだねぇ。

「ま、とくと見学させてもらうさ」

僕はセシリアとの会話を切り上げ、受付で制服と一緒に貰った、部屋割表を見ながら寮へと足を進めた。

さて・・・・これからどうするかね?

 

 

 

 

 

カタカタと、キーのタイプ音が響く薄暗い研究室。

ここはアメリカのカリフォルニア州にあるとあるISの研究開発局。

「うん、そうねここはこのまま・・・こっちの数値をもう少し何とか出来ない?」

「分かりました、ちょっと考えてみます」

技術者に意見を求められ、それに的確なコメントを返す深緑の瞳の女性。

ローラ・サウスバード。

ローラはデスクに腰かけると、何もない空中に目を泳がせる。

・・・・・あの子ちゃんとやってるかしら。

別に弟を信じていないわけではないが性格が、あたし似というのが気になる。

まぁ自分の性格は一番誰よりも自分が知っているが、だからこそなのだ。

浮いてなきゃいいけど。

そんな事を考えていると、いきなり右頬を、冷たい感覚が襲う。

「きゃっ!」

「あら、意外に可愛い声出すのね、さすが鳥さんね」

あたしは声の方向を見やると、あたしと同じように綺麗な金髪の女性がコーヒーを持って悪戯そうな笑みを浮かべていた。

「もう、ナターシャ・・・」

「アドバイザーがボケっとしてるからよ、ほらコーヒー」

あたしはナターシャに言われるがままに、コーヒーを受け取る。

そのコーヒーを、裏返してあったコーヒーカップに移し、砂糖を入れる。

「ブラック飲めなかったかしら?」

「あたしは、微糖派なのよ」

「・・・・・それもお得意の嘘かしら?」

「あら、なんの事?」

あたしはおどけてみせたが、ナターシャにはお見通しの様だ。

「この前ブラック飲んでたじゃない。私がそれを見逃すとでも?」

「フフッ、ISのテストパイロット様ともあろうお方がそれは無いわね」

互いに軽口を言いあい、少しの静寂の後ナターシャが、口を開いた。

「・・・・気になってるのかしら、アルの事」

「まぁ、あの子の事だから大抵の事はスルスル蛇みたいに抜けるでしょうけれど、性格がねぇ」

「ローラ、あなたがそれ言えるの?」

「それはそうだけど」

間髪いれず、ナターシャの突っ込みが入り苦笑いが止まらない。

そう言えば、ナターシャは昔からアルディをアルと呼んで可愛がってくれていた。

ありがたいものだ。特にあたしがモンドグロッソで長期間アメリカを離れていた時には、

アルディを預かって面倒を見てくれた。

「ふふ、にしてもあのアルが、もう高校生で更にISを動かせるとはねぇ、やっぱり素質なのかしら」

「どうかしら、別にあたしはただの口が達者なだけのお姉さんだから」

「それも嘘ね」

フフッとまた悪戯っぽい笑顔を残して、その場を去るナターシャ。

なんだかんだいってアルディを心配してくれているようだ。

ローラは目の前にある一機のISを見やる。

青色にオレンジのラインの入った非常に無骨なフォルムに、

大きな多用途リアスラスターが目を引くIS。

ほぼ完成段階に入っていて、現在は使用者のパーソナルデータなどをインストールしているため、多くのケーブルが接続されている。

それを見て優しくローラは微笑むと、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

・・・・頑張りなさいよ、アルディ。

 

 

 

あなたは、〝世界第二位のお姉さんの弟〟なんだからね。

 




今思ったんですが、この小説50数話あるんですが結構大変ですね。

とにかく頑張るしかないですが…。
それではまた次回お会いしましょう


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第2話~アメリカからの贈り物~

えぇと・・・・1029、1029と・・・・あったぞ。

僕は渡された部屋割表と照らし合わせ、番号と同じ扉をあける。

一夏から聞いた話では、2人部屋ってことらしいけど。

そうなるとやっぱり僕は男同士一夏と相部屋なのだろう。

そう思い、扉を開くと・・・。

 

・・・・・狭っ!

どこからどう見てもコレ一人部屋じゃないか。

大体大きさは四畳半。そこに机とベッド、小型の冷蔵庫が押し込まれており、

実質動ける範囲はもっと狭い。一応シャワールームはあるようだね。

同室者を気にしなくていい利点はあるにしても、まさかの一人部屋とは。

・・・・・でもこれはこれで気を使わなくてやっぱりいいか。

僕は、自室の片隅に旅行鞄を置くと、中からノートPCなどを取り出し机の上に置く。

電源を入れ確かめたが、どうやらネット環境は整っているようだ。

よかったよかった。

ひとまず、それを確かめたかっただけなので電源は落としておく。

シャットダウンを確認すると僕はドサッとベッドへ仰向けに倒れこんだ。

IS学園か。

何にしても入学初日はあっという間に終わった。

慣れていないと言うのもやっぱりあったんだろう。

それに今日、なんくせ付けられたあのイギリス代表候補生。

セシリア・オルコット。

姉さんを知っているみたいだったけど。

っていうか、僕自身彼女をどこかで見た気がするのは気のせいだろうか・・・・。

わかんないなぁ・・・・思い出せない。

ただ、あの顔どこかで見たような見てないような・・・。

ま、いいか。

人生は楽に行かなきゃ楽しくない。

楽しいと言えば、今度あのセシリアと一夏がISで決闘をするらしい。

・・・・・・これは面白そうだ。

やっぱり人生は楽しまないと損だな。

そう、楽しまないと・・・・・そ・・・ん。

流石に疲れたようで、急激な睡魔に襲われる。

僕はその睡魔にあらがうことなく身をゆだね、深いまどろみへ落ちて行った。

 

 

「そしてこのざまか、転校二日目にして早くも遅刻とはな、やってくれる」

「予鈴とほとんど、ギリギリで滑りこんだんですけどっ!?」

ついつい返してしまうこの口を、今はとても恨みたい。

そのおかげで、僕は主席簿で頭を殴られる羽目になったのだから。

「今後気をつけろ、良いな?今度やってみろ、反省文を書かせるからな」

「・・・・気をつけます」

僕は叩かれた頭をさすりながら、自分の席へ着いた。

一夏の何とも言えない、目が凄く痛かった。

「さて、諸君それではSHRは終わりだ、山田先生それでは授業の方を」

「はい、それではみなさん、前回の福州から始めましょうか」

山田先生がそう言うと、皆が一斉に教科書を開く。

僕もゆっくりと、教科書を開く。

教科書の内容をスキャミングしていくと、一つの項目に目がとまる。

篠ノ之 束・・・・。

会ったことも見たこともないが、ISの開発者として名は広く知られている人物だ。

世の中には凄い天才もいたものだ。

たった一人でISのコアを開発してしまったのだから。

そういえば、篠ノ之っていう名字このクラスにいたような・・・・。

「山田先生、質問です」

唐突に後ろの方の席から声が上がる。

「篠ノ之さんって、もしかして・・・」

その問いに答えたのは山田先生ではなく織斑先生だった。

「そうだ、篠ノ之は束の妹だ」

その返答に質問をした女子を含めた数名が、驚きの声を上げた。

「凄い凄い!このクラスに織斑君以外にも凄い人がお姉さんの人がいたよ!」

「そう言えば、篠ノ之博士っていま行方不明なんだよね?」

「篠ノ之さんどこにいるのか知ってるんじゃないの?」

次々に浴びせられる、予想だにしない質問の集中砲火。

確か彼女を一夏は箒と呼んでいた。

その集中砲火に対して箒は、鋭い声で一閃した。

「あの人と、私は・・・なんの関係もない、だから教えられる事など何もない!」

はっきり、そう言いきられてしまっては、流石の女子も黙るしかない。

というよりも、発せられた言葉の鋭さに、言い返せなくなったというのが正しいのかな。

まぁ・・・・なんていうか、気の強そうな子だ。

そんな感じで、授業は進んでいった。

 

休み時間。

一夏と箒が、さっきの件で話をしていた。

「箒、さっきの言い方は流石に無いぞ?」

「別にかまわないだろう、私とあの人は本当に関係が無い。あんなことを聞かれるだけいい迷惑だ」

「でも姉じゃないか」

「だから、関係ないと言っている!」

また声を張り上げてる。思うに、いや確実に、箒は篠ノ之 束を嫌っているんだろう。

理由は分からないが。

「やぁ、相変わらず大きい声だ」

気さくな声で話しかけたが、内容は箒の気分を害するには十分だったらしい。

キッと睨む目は、それだけで小動物なら死んでしまいそうだ。

「まぁまぁ、悪気あって言ってるんだから」

「余計にたちが悪いだろう、お前・・・・アルディといったな馬鹿にしているのか!」

「いやいや、こういう性格なものでぇッ!!!」

見るものを魅了する動き、全く無駄のない動きで、教科書が刀のごとく振り下ろされる。

僕はなんとかそれを寸でで避けることに成功したが、あの速度でしかも背表紙。

加えてISの教科書は僕の街の電話帳のごとく分厚い。出席簿アタックよりも威力は高そうだ。

「あ、危ないなぁ!」

「馬鹿もの、避けるやつがあるか!外れたじゃないか!」

「アメリカ人でも分かる、言葉のおかしさに気付こうね・・・!」

言葉のキャッチボールという言い方がある。

これはまぁ、その名の通り言葉とは投げかけて相手に受け取ってもらって、またそれを返す、

事を繰り返すことから名づけられたものだが、今の会話はどっちかって言うと言葉のドッヂボールだ。

しかもアウトになっても外野から生還できないと言う、鬼ルール。

すなわち・・・・死。

これで死んだら死因は教科書とかなんだろうなぁ・・・・体裁を気にする人間ではないが、

それは流石に格好が悪すぎる・・・・。

「まぁまぁ、箒落ち着けって。アルディもなんだかんだ言ってお前の事を

気に掛けてくれてるんだからさ」

「むむぅ・・・・」

「まぁ、そう言う事に」

「ふん!」

腕を組みとドカッと腰を下ろす箒。

そう言えば気になると言えば、この二人の関係だ。

随分中がよさそうだけど。

「君たち、付き合ってるの?」

何気なく聞いてみた、これには悪気はない。サラッと。

本当にサラッと聞いただけだ。だがその言葉に、箒の顔は真っ赤に染まり、

周囲の女子は撒き餌に群がる魚のごとく集まってきた。

「えええええ!!やっぱり織斑君と、篠ノ之さんってそういう関係!?」

「やっぱり、怪しいと思ってたんだよねぇ・・・入学初日も一緒にどっか行っちゃったし」

「それに、篠ノ之さんも織斑君も、互いに親しみこめて下の名前で呼び合ってるし・・・」

「これは決まりじゃないの・・・・あたし新聞部の先輩に連絡してくる!」

やいのやいの騒ぎ立てる女子。

・・・・これは予想できなかった・・・・本当にごめん。

箒も、さっき見たいに怒って集まった女子をを散らすのかと思ったけど、

見るからに動揺を隠せない。

「べ、別に私は、そういう関係では・・・その」

「そうだぞ、お前ら俺と箒はただの幼馴染で、そういう関係じゃいからな」

「・・・・むむぅ・・ッ!!」

動揺から一変少し不機嫌な顔でそっぽを向く箒。

だが一夏がそれに気づくことはなく、必死に周囲をなだめ、

騒動を鎮静化させていく。

うぅん・・・・・なるほど。

片思いってやつなのかな。

僕も語るほど恋愛には詳しくないし、そもそも誰かを好きになったことが無いからよくわからないが

さっきの表情の変化からそれぐらいは素人の僕でも分かった。

というより普通の感性もってれば大体気が付くと思うのだが・・・。

えぇと・・・・なんていったかな。そういう人の事を。

と・・・とう・・・・。

「トウボウヘン?」

「唐変木だ、馬鹿もの」

そうだそうだ、唐変木だ。

って今の誰?

僕は声の方向を振り返る。

そこには、腕を組んで黒いスーツをビシッと着こなした織斑先生が立っていた。

「あ、どうも」

「早く席につけ」

僕は、出席簿がピクリと動くのを確認すると、身の危険を感じ足早に自分の席へ戻るのだった。

・・・・・日本では本で叩くのが習慣・・・いや流行りなのかな。

 

結局あの時叩かれなくても、授業で当てられて答えられずで1発貰った僕は、まだ痛みの残る頭を

気にしながらSHRで壇上で話す織斑先生を見ている。

「以上が、諸君への連絡事項と・・・あぁそうだ。織斑とオルコットの試合の日程が決まった。

生でISの戦闘を見られるいい機会だ。これから諸君も同様の機会は増えるだろう。

率先して見学するように」

「あの、織斑先生。俺の・・・そのISは・・・」

「前も言っただろう、専用機だけに時間がかかると安心しろ、試合までには間に合わせるさ」

その時、教室の後ろの席から嘲笑を含んだ声が飛んだ。

「あら、間に合わない方がよろしいのではなくて?みじめな姿を見られずに済むのですからラッキーではありません事?」

「負けるとはまだ、決まってないだろ」

「決まってますわよ。何せ私は代表候補生、セシリア・オルコットなのですから」

スッと立ち上がると腰に手を当てポーズを決める。

それが様になっているだけに、そして言っていることも間違ってはいないだけに、一夏も反論に窮してしまう。

「静かにしろオルコット、候補生なだけで偉そうな口を叩くな。あとお前も安い挑発に乗るな馬鹿ものが」

織斑先生にこう言われては、流石にセシリアも一夏も黙り込むしかない。

世界一の名は伊達じゃないってことだね。

「それでは以上だ。つまらんもめごとは起こすなよ」

言うが早いか織斑先生はさっさと壇上を降り教室を後にする。

それを追いかけるように、山田先生も続いていった。

 

放課後。

一夏と箒が、特訓をするというのでついていくことに。

ここは剣道場か。

剣道はよくわからないけど、手合わせ10分足らずで一夏が一本負けしたのだけは分かった。

「弱すぎる!一夏、お前いったいこれまで何をしていたんだ!!」

「じゅ、受験勉強!」

勤勉勤勉。勉強嫌いな僕からすれば関心するね。ただ、その答えは箒には納得できるものでは無かったらしい。

「受験勉強なら私もしていたぞ!」

「勉強時間の差じゃないか?」

「ふざけるな!」

バシーンっと竹刀が床を叩く音が剣道場に響く。

「えぇい、中学時代は何をしていたんだ!!」

「帰宅部だ。これでもエースだったんだぞ!」

それを聞きわなわなと、体を震わせる。

どうやらボルテージが突破したらしいね。

「軟弱者めがッ!!」

勢いよく振り下ろされる竹刀が防具をつけていない状態の一夏に振り下ろされる。

一夏はそれに素早く反応すると、竹刀でそれを受け止めた。

だが体制が悪い。

座っている一夏に対して、箒は上から両手で体重をかけているのだ。

当然いくら腕力で勝る男といえど、片手で体重を乗せた一閃を受けきることは不可能だ。

プルプルと震える腕で踏ん張りつつ一夏が必至の形相で懇願する。

「頼む箒、俺はまだ死にたくないんだ!」

「一度死ねば、強くなって帰ってくるかも知れんぞ!!」

一夏はサ○ヤ人か何かかい?

ちなみにどうでもいいけど、ドラゴンボールはアメリカでも人気の高い先品の一つだ。

「そんな超設定俺にはない!頼む箒今度何かおごるからさ!!」

「・・・・ふんっ!これから放課後三時間必ず空けておけ、私がお前を叩き直してやる!!」

鼻を鳴らし、軽蔑のまなざしで一夏を一瞥すると剣道場を一人後にする箒。

大きく肩でため息をつく一夏に僕は、壁にもたれたままの体制で声をかけた。

「大丈夫かい?」

「そう見えたら、お前の眼一度眼科で見てもらった方が良いぞ?」

「ははッあいにくと目は良い方だよ。まぁ色は分からないけどね」

「ん、どういうことだよ?」

「色盲なのさ。世界が毎日白黒映画なんだよ」

これは本当だ。

何でも数万人に一人という確率らしいが、見事僕はその一人にあたってしまったようだ。

個人差はあるらしいが、僕の場合は色が極端に言えば白と黒しか判別できない。

後はそれ濃淡で大体なに色かを判別するしかないのだ。慣れるまで凄く戸惑ったけどね。

まさに白黒状態。幸いにして視力は良いから日常生活で困ることはあまりない。

「あ、悪い・・・なんか変な事聞いちまって」

「ん?良いよ別に。僕も聞かれなかったし」

気まずそうに頭をかくが、僕は別に気にしていない。

こんなの言わなきゃ誰もわからないし。

そんな事よりもだ。今は彼の特訓の話。

「それはそうと、箒、三時間とか言ってなかった?」

「言ってたなぁ・・・・あいつ有言実行だから、みっちり本当に三時間しごかれるに決まってる」

「昔からああいう性格なのかい彼女は?」

「あぁ、まっすぐで芯の通った良いやつなんだけどな、まっすぐすぎて困るんだ」

融通が利かないってことかな?

「だけど、やっぱり凄いわ。剣道の全国大会で優勝した腕は流石の一言だったよ」

「優勝したんだ・・・・」

それは確かに凄い。

僕は頭の中で、自分が何か一つでも優勝したり表彰されたりしたことが無かったか記憶を探るが、

全くこれっポッチも浮かんでこない。というよりそんな経験無い。

楽観的とかで賞貰えないのかな・・・・。多分断トツなんだけど。

「まぁでも、俺も男。女に負けっぱなしって言うのは納得できないしな」

「フフッ、ま頑張ってよ・・・・そうだまた見学しに来ても良いかな?」

「おう、良いぜいつでも見に来いよ」

気さくに笑いかける一夏を、流し眼で見つつ僕は、寮へと足を向けた。

その後1週間みっちり、本当に三時間、一夏は箒と特訓に打ち込んでいた。

 

 

そして代表決定戦の前夜。僕はいつも通り、一夏と箒の特訓を見届けて寮の部屋に帰ってきていた。

・・・・・ふぃ~今日もつかれた。

手慣れた動作で習慣化していたPCを立ち上げる。

さてさて、何か情報は・・・。

僕はメールボックスを開いて、新着メールを確認する。

・・・・うん、今日もメルマガとかばっかりだ。

ツツーとスクロールバーを下げていくと、一通見慣れないアドレスからメールが入ってきていた。

(second place sister@・・・?)

セカンドプライスシスター・・・・?

こんなメルアド知らないけ・・・・あ。

まてよ直訳すると・・・・2番目の・・・姉妹・・・いや姉!

分かった、姉さんだ。

メルアドの差出人が分かったところで、そのメールをさっそく開いてみる。

 

〝親愛なる弟へ

元気にやっているかしら。あたしはいつもどおり元気にやってるわよ。

そうそう、ナターシャがあなたの事気にかけてたわ、今度連絡でもしてあげて?

連絡先はこのメールに添付しておくから。それはそうと、あなた以前、アメリカでパーソナルデータを取ったこと覚えているかしら。あの時は、ISを動かせるからその研究材料としてって言う理由だったけど、本当は違うの。あれにはちゃんとした意味があるのよ?

この意味わかるかしら。フフッ楽しみにしていなさい。明日か遅くても明後日にはあなたの所に届くはずだから。何かは来てからのお楽しみ♪

まぁそうね、姉さんからの贈り物だと思いなさい、それじゃ頑張って!〟

 

・・・・イマイチ、わかるかしらと言われても、分かんないとしか。

それに明日か明後日って、何が届くのさ・・・・。

・・・・まぁ良いか。今考えても、何が来るかなんてわからない。

それにだ・・・このメール自体が嘘の可能性だってあるのだ。

はぁ、我ながらややこしい姉さんを持ったなぁ。

そうも思ったがすぐにその考えを否定する。

そうじゃない、僕も似たようなものなんだから。

何にしても明日は一夏とセシリアの決闘の日か。

それだけは変わらない。

セシリアは代表候補生だし、一夏が勝てる見込みはあるのだろうか。

・・・っていうか、一夏ISの事箒から教えてもらってるのかな?

とたん嫌な考えが頭をよぎる。

で、でも流石に、教えてもらってるよね。

僕は嫌な考えを振り払うかのように、布団にくるまった。

 

 

「箒・・・・」

「なんだ」

「結局俺達、剣道場で打ち合っただけだったな」

「良いではないか。感覚も戻ってきたのではいか!?」

試合当日。

僕と箒そして一夏は、ピットに居た。

観客席でもよかったんだけど、せっかく特訓を見学したんだしお前も来いよとの一言でピットに案内されたのだ。

だが問題はそこでは無い、先ほどから一夏の質問に、わざとらしい大笑いなどで返答を誤魔化す箒。

そしてそれを見て、頭を抱える一夏。

どうやら、昨日の嫌な考えは当たったらしい。

一夏は、何も箒からは教わっていないようだ。

だってそうだよね。

僕自身も、剣道場で打ち合ってる姿しか見たことなかったし。

「おぃっ、どうしてくれるんだよ!!ISの事全く知らないまま当日迎えちまったじゃないか!!」

「し、知るか!・・・そ、そうだお前が予想以上に弱かったのだ!そのためスケジュールが狂ってだな」

「苦しい言い訳してるんじゃねぇよ!!」

ギャーギャーわめきあう二人と、それを静観する僕。

そこへ、織斑先生の鋭い声が飛ぶ。

「ピットでわめくな、やかましい!織斑!」

「あぁ、は、はい!」

ビシッと姿勢を正して、その声に反応する。

そして続いて山田先生が口を開いた。

「織斑君、お待たせしました!織斑君のISが到着しました!」

一夏のISが到着した。その声に僕を含めた三人の目つきが変わる。

そしてそれと同時に後ろのハッチが開き、一夏の専用機が姿を現した。

 

白い。

真っ白だ。

姿を現したISは本当に真っ白で、まぶしいぐらいだった。

それを見て一課が声を漏らす。

「これが・・・・俺の・・」

「はい!これが織斑君の専用機。その名も白式です!」

白式ね。名は体を表すと言うが本当だと思う。

その名の通り、こんなにも白い。

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナの使用時間は限られている、ぶっつけ本番でモノにして見せろ」

「いやでも、俺ISの事・・・」

「急いでください織斑君!」

「お前も男だろう、覚悟を決めろ!」

「い、いやあの・・・」

「「「早く!!」」」

「はいっ!!」

三人にせかされて、一夏は準備を始める。

搭乗者がISに乗り込むと、一夏に合わせるように装甲が閉じ膨大なデータがすさまじい速度で処理されていく。

程なくフィッティングの初期段階が終了し、ハイパーセンサーが起動。

敵ISのデータが表示されている。

「ハイパーセンサーの起動は問題ないようだな。気分はどうだ一夏?」

「あぁ・・・・・大丈夫行ける!!」

やっぱり姉弟だねぇ。

一夏を名前で呼ぶ所をはじめてみた。

力強い返答に、一同が安堵の表情でそれを聞き。

箒が一夏に力強く声をかける。

「一夏・・・・勝ってこい!」

「・・・・・あぁ行ってくる!!」

言い残しカタパルトが一夏と白式を勢いよく打ちだした。

さてどうなる事やら。

僕はモニターが見える位置に移動するとモニターを見上げる。

なにやら二、三言葉を交わして先制攻撃を行ったのはセシリアだった。

主な武装は、大型の特殊ライフルだ。

さてどうなるか・・・・と観戦を決め込む僕の首根っこを織斑先生が引っ張る。

「さてちょっと来い。お前に用事がある」

「え!?いや、あの一夏の戦闘を・・・」

「お前に関係あることだからだ。山田先生後を頼む」

そのまま僕を引きずって、織斑先生は別のピットへ僕を連れてきた。

別のピットとはいっても、解放されていないだけで別のアリーナというわけではない。

「今朝がた、空輸でIS学園に一機のISが届けられた」

「はぁ」

「差出人は・・・・これだ」

織斑先生は、伝票らしきものを僕に見せる。そこにあった名前は・・・。

「姉さん」

「そうだ、ローラだ」

そう言えば姉さん昨日のメールで何か送るって言ってたけど・・・・。

ま、まさかIS!?

「フフッローラらしいと言えばらしいな。朝からそれでちょっとした騒ぎになってな」

「すいません」

「まぁそれは良い。サウスバード、お前も感づいているとは思うがこれはどうやらお前のISのようだ」

「はい・・・多分そうでしょうね」

「今すぐフィッティング作業に入れ」

「え?」

「聞こえなかったのか、フィッティングを開始しろといったんだ」

なんで?

今すぐに!?

僕は今日別に戦わないし、保管して別の機会でも・・・・。

「いつまでも搭乗者未登録のまま放置しておくわけにもいかんだろう!!」

「あ、なるほど」

「今からそのISを出す。早く準備して来い。着替えはアリーナの更衣室を使え今はだれもいないからな」

僕は織斑先生から、IS用のユニフォームを渡されと言われるままにアリーナの更衣室へ急いだ。

 

ISスーツに身を包みピットへ戻ると、そこには大きなISが折り畳まれた状態で鎮座していた。

「あの・・・・大きくないですか?」

先ほどみた一夏の白式と比べてもふた周りぐらい大きい。横に織斑先生がいるからその大きさがより分かりやすかった。

「このでかさも、騒ぎの要因の一つだ、ほら急げ」

僕は先ほど一夏がやったみたいに、ISへ体を預ける。

装甲が閉じ目の前のモニターには、様々な情報が処理され、その詳細が表示されていく。

そして、顔には大きなバイザーが取り付けられる。

「・・・・これは!」

バイザーを通して見た世界は、これまで見たことのないほど鮮やかなものだった。

白黒映画から、一気に現代の3D映画に進化した気分だ。

バイザーのモニターの端には〝Direct color adjustment〟の表示。

直訳すると直接的色彩調整。

どうやらこのバイザーが、視覚に働きかけて欠落部分の色彩を補ってくれているらしい。

なるほど、確かにこれは僕専用のISの様だと今更になって実感する。

初期設定が終了し、ハイパーセンサーが起動する。

不思議な感覚だ360度見えていない所まで、何があるのかはっきりとわかる。

これが・・・・IS。

まだ初期設定が済んでいないため、本来の形は分からない。だがどうやら使用者の登録は済んだようだ。

「どうやら機体の設定は終わったようだな、では待機状態に戻しておけ」

織斑先生の言葉に従い、ISを待機状態に戻す。鮮明だった世界が一瞬にして白黒へ。

・・・もう少し見ていたかったなぁ。

僕は名残惜しいかったが、叩かれることを思えば、白黒でも見えた方が痛くないし良いや。

待機状態の僕のISはどうやら銃弾のネックレスになるらしい。

ライフルの銃弾ぐらいの大きさで、その大きさに似合った重さがある。

こんなの首からぶら下げてたら、この国じゃ大問題なんだろうなぁ・・・。

注意しよ。

そして考えを切り替えると、頭のなかでもう一つの疑問が首をもたげた。

・・・そう言えばこのISの名前なんて言うんだろう。

モニターには表示されなかったけど・・・

「何をしている?戻るぞ。あの馬鹿が心配だ」

「ああぁ、はい」

織斑先生に連れられ、ピットへと戻る。

その最中もずっと、名前やらなんやら色々な事を考えていた。

 

ピットへ戻ると、あれ?一夏のISの形が違う・・・。

「ファーストシフトだな、あれが本来の白式の形なんだ」

「先ほどから一夏は刀しか使っていないようですが、白式にはあれしか武装が無いのですか?」

箒が織斑先生へ尋ねる。刀しかないっていうのは大変だけど、良いんじゃないの。

一夏って剣道の特訓してたし。

「そうだ、白式にはあの刀・・・雪片しかない」

そしてセシリアのISがモニターへ映る。セシリアのISは見ただけでわかる射撃特化型のIS。

そんなの相手にに刀一本で、戦っていたのか・・・。

「だが、あれ一本あれば十分なのさ・・・・あれには特殊な能力もあるしな」

言っている間にも戦闘は続く。

セシリアのビットを一夏が正確な一振りで破壊していく。そして一瞬のすきをついて肉薄。

「とりあえず、俺は千冬姉の名前を守るさ!」

モニターから聞こえた自信たっぷりな声に、誰もが勝利を確信した。

だが・・・・

『試合終了、勝者 セシリア・オルコット!』

試合終了の声とともに、頭を抱える織斑先生と、ポカンとした一夏をはじめとする面々がそこにいた。

 

 

「あそこまで言ったら普通は勝つだろう・・・」

「面目ない」

箒に呆れた声で言われ、情けなく頭を下げる一夏。

「でもさ、何で負けたの?」

僕の疑問は一夏をはじめとする皆の疑問だ。

それに織斑先生が答える。

「バリア無効化攻撃を使ったからだ。雪片の特殊能力がそれだ」

「でも一気に俺のシールドエネルギーがゼロになったんだけど」

「その特殊能力をお前は、何のの代価無しに使えると思っているのか?お気楽な奴め」

「なるほど、つまりその能力を行使するためには、自分のエネルギーを攻撃に転化する必要があると言う事ですね?」

箒が得心したと言うようにうなずき、織斑先生もそれを肯定した。

中々厄介な武器だな。もろ刃の剣じゃないかそれ・・・。

出しどころを間違えなければ、最強なんだろうけど。

「さて・・・馬鹿の自爆の所為で思いのほか時間が余ってしまったな」

「馬鹿って・・・というか、織斑先生一つ聞いていいですか?なんでアルディはISスーツにみを包んでいるんです?」

その問いに織斑先生は、チラリと僕を見て、ふむとうなずくと、再び一夏へ向き直った。

「丁度いいな・・・織斑、まだ行けるか?」

「え?体力は大丈夫ですけど」

「よし、すぐにエネルギーを補充しろ。これより予定外だがエキシビジョンマッチを行う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

そこに僕と一夏の抜けた声が響いた。




のろのろとですが移転作業を進行中です。
今日は時間も遅いので第二話だけですが順次、移行してまいります。


今更ですが、この偽りという言葉には本編の中でも触れていくのですが結構色々な意味合いを持たせています。
そのあたりも楽しんでいただければ幸いです。


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第3話~射撃の妖精とセシリア~

え?

え!?

なにエキシビジョンマッチって・・・。

 

エキシビジョン:英語表記〝exhibition〟

意味:公式記録に残らない、公開演技や模範試合

 

・・・って言葉の意味を考えても仕方がないじゃないか!!

そうじゃない、そうじゃないよ。

いきなりなんで?

「何をしている、サウスバード。織斑は既にエネルギーの補給に入ったぞ。お前も準備しろ」

ちょっと一夏!なんで素直に従ってるんだい?

思わず一夏に詰め寄ろうとしたが、一夏の顔を見てそれをやめた。

一夏の顔が、〝お前、また殴られたいのか?〟という事を物語っていたからだ。

うぅ・・・。

再度織斑先生を見る。

うわっ、箒の睨みなんて足元にも及びそうにないほどの、蛇睨み。

・・・はぁ。

まだ初期設定しか済んでないのになぁ。

僕は渋々、ISを起動させる。弾丸型のペンダントが光り一瞬で装甲を展開。

一気に視点が高くなり、周囲に本来の色が塗られてゆく。

バイザーのモニターには、いまだに先ほどの段階では処理しきれなかったデータが

次々に処理されていき、装甲やインターフェースのフィッティングが行われていく。

「大きいな・・・」

ぽつりとこぼした箒の声も、ISのハイパーセンサーは拾ってくれる。

「僕も思うよ、一夏の白式に比べても明らかに大きいからね」

「でもそれ、まだファーストシフト前の形だろ?本当の形はどんなだろうな」

確かに一夏の言うとおりまだファーストシフトへ移行していない。

モニターに残り時間が表示されているが、まだ少しかかりそうだ。

そのため背部の大型スラスターも動きが怠慢で、多分今飛べば機動力は皆無だろう。

「準備はできたのか織斑?」

「あ、はい終わりました」

「サウスバードは?」

「動けますけど、まだそこまで激しくは・・・」

「・・・・そうか、織斑先に出ていろ、サウスバードは後どれぐらいかかる?」

僕は再びモニターで確認する。インストールバーの下に予想終了時間が表示されている。

「えぇと・・・あと3分ぐらいです」

「よし、織斑出ていろ、準備している間にこちらも終わるだろう」

「分かりました」

待ってるぞと、言い残し一人ピットから飛び出す一夏。

はぁ、ここまで来たら覚悟を決めよう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

自分が勝ったと言うのにどこか釈然としないセシリアは、スポーツドリンク片手に

汗をタオルでぬぐい、ロッカーのベンチに腰をおろしていた。

この感覚が何なのかはわからない。

いつも勝った後にはこんな感覚は無かった。

あくなき勝利への渇望。

そして今回も、過程はどうあれ自分は勝利を収めた。

でも・・・・その気持ちは沈んでいた。

だがそれは、一夏に対するものでは無かった・

アルディ・サウスバード・・・・。

私と戦っていないあの男。

でも過去に一度私たちは・・・・

・・・・・忘れてしまったのかしら。

でも名前を覚えていてくださいましたし・・・・。

セシリアはかぶりを振って考えを切り上げる。

このままこの考えをつづけたところで、気分が沈んでいくだけでプラスにはならない。

・・・ふぅ、まぁ今はそれよりもシャワーですわ。

浴びてスッキリすればこの気持ちも晴れるでしょう。

そう思い立ち上がった時だった。ロッカールームにまで聞こえるほどの歓声が上がる。

なんですの?

今日の試合はもう終わったはず。

いったい何が・・・・。

気になったセシリアは、自分のピットへ急ぐ。

ここからならそちらの方が近いからだ。

ピットのハッチから、何を騒いでいるのかを確認する。

辺りを見渡すと、そこには織斑一夏のIS〝白式〟がいた。

・・・何をやっていますのしかも一人で?

間違いなく先ほどの歓声は、あの男が再び出てきたことだろうが、何をしに出てきたのだろうか。

勝ったなら凱旋で、再び出てきてもおかしくはないが、彼は負けた。

だがその理由はすぐにわかることとなる。

あの男が出てきたピットから、もう一機見たことのないISが飛び立ったのだ。

なんですの、あの機体は!?

セシリアはブルー・ティアーズのモニターを起動させ、データを照合させるが結果は・・・。

〝該当データ無し〟

一体あれは・・・・。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

〝A format and a fitting were finished. Please push the Confirm button.〟

(フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください)

 

「織斑先生終了しました!」

「よし、行け!」

勢いよくカタパルトが、僕とISを打ち出す。その最中ようやく戦闘用のOSが起動したようだ。

そして、モニターには次のような文字が躍る。

〝Welcome to strike birdie!〟

 

ストライクバーディ・・・それが名前。

良いじゃないか、良い名前だ!

射出されると同時に僕は、翼を広げた。

それと同時に光に包まれ、〝ストライク・バーディ〟は本当の姿へとその形を変える。

元々大きかったスラスターは長方形のおおきな物に姿を変え、更に外観が武骨さを増す。

そして色は鮮やかな青色に縁どりとしてオレンジのラインが走り、両手には大型の荷電粒子砲が握られている。

腰部には・・これはプロペラントタンクだろうか、菱形の大きなエネルギータンクが取り付けられている。

これで、僕専用になったって言うわけか。

「派手だな、アルディ!」

プライベートチャンネルを通じて、一夏の声がする。

「一夏の程じゃないよ。ただ大きいだけだしね」

あいさつ程度に、軽口を言いあい、互いに戦闘態勢を整える。

さて、行こうか!

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

アルディのISのデータは、教師陣の、端末にも送られてきていた。

「ストライク・バーディだと?」

「織斑先生ご存じなんですか?」

意味深につぶやいた、行動に疑問を感じた山田君が尋ねてくる。

「確か、記憶が正しければ、私がモンド・グロッソの決勝であいつの姉と戦ったときに使用したいたISがそんな名前だった気がする」

「えぇぇぇ!じゃ、じゃあ、あれヴァルキリー機じゃないですか!ローラさんって確か射撃部門で優勝してましたよね!?」

確かに、ローラは総合優勝こそ逃し、〝ブリュンヒルデ〟の称号は得られなかったが、射撃部門の部門別では優勝し〝ヴァルキリー〟の栄誉が与えられている。

だが、と私は思案する。

〝ストライク・バーディは果たしてあんな形だったか〟と。

もっとシャープだった気がするし、あそこまでゴテゴテしていなかったはずだ。

それにあれはアルディの専用機。ローラのとは・・・・・・

あぁ、あぁ、そうか。そう言うことか。

「ふふ、山田君あれは確かにストライク・バーディだが、当時のものとは違うよ。

おそらくはあれを元にして、新しくISを組み上げたんだろう」

「え?」

何事でもそうだが、一からすべてを作るには莫大な予算と時間が必要だ。更に人手も。

だが、なにか既存の物がありそれをチューンなり、カスタムするのは、

一から作るよりも遥かに簡単だし時間も費用も下げられる。

「つまり、延長線上という事ですか?」

「そういう意味では、さっきいったヴァルキリー機というのは正しいかもしれないが、

まったく同じというわけではないさ。それに戦いはISで決まらない」

そうだISがいくら優れていようとも、操るのは人間。

乗り手がヘボでは、性能を生かしきれないだろう。

フフッ、さて見せてもらおうか。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

先制したのは一夏だった。

先のセシリアとの戦闘の際に学んだのか、直線的な動きではなくランダムに

飛行軸を変えて接近。ヒットアンドアウェイで正確に攻撃を当ててくる。

当ててくるのだが・・・。

「ちょ、お前のIS固すぎるだろ!!」

「見た目通りで・・・」

そうさっきからほとんど、一夏はシールドエネルギーを削り取れていないのだ。

だが、いずれにしてもこれでは攻撃に転じられない。

僕は、展開可能な武装一覧を呼びだし、一夏の攻撃を最小限避けつつそれに目を通す。

そこにあったのは、三つ。

現在両手に構える、荷電粒子砲〝ファイアーフライ〟

背部火器内蔵スラスター〝ウェポンスクエア〟

そして、特殊音響兵装〝ハウリングエコー〟

ん、火器内臓?

僕はアイ・タッチでウェポンスクエアを選択。

その詳細が表示される。

「こりゃぁ・・・」

その内容に驚いた。

左右合わせて六門のミサイルポットに更に威力の高い、高圧荷電粒子砲とそして内臓の小型バルカン。

これに手持ちの〝ファイアーフライ〟を合わせた全砲門射撃まで可能とある。

・・・・つまりこのISは機動力を全く考えていない、重装甲重砲撃戦仕様の特化タイプということか。

だとすると現在の状況はかなりまずい。

ただでさえ距離を取らなければいけないのに、機動力不足と特性把握の遅さから、一夏に接近を許してしまっている。

「余所見するとは、余裕じゃないか、アルディ!」

「余所見じゃない、理解してただけだよ、このISを!」

僕は、両手の〝ファイアーフライ〟を狙いもつけず無造作に放つ。

別に狙っているわけじゃない。要は牽制だ。

「おっと!」

一夏が、身をひるがえして、その射撃を次々に回避する。

かかった。

僕は口元を緩め、射撃によって次第に動きを制限していく。

自分の行動範囲が狭められているということは一夏も気づいたらしい。

ハイパーセンサーの映像からも焦りの色がうかがえる。

同時に、僕は〝ウェポンズスクエア〟のミサイルポットを展開。

「lock-on」の表示が出るや、全弾を発射する。

「全部当たれば、流石に落ちるよね?」

 

ドガァァァァァンッ!!!!

爆煙が、一夏と白式を飲み込んだ。

 

・・・・やったかな?

――――ッ!?

 

いやまだだ!!

黒煙の中から、真っ白な機体が光を受けて輝く。

「避けたの!?」

「流石に同じ手はくわねぇよ!」

同じ手とはおそらくセシリア戦の事だろう。

どうやったのかは見えなかったが、一夏のISに損傷らしい損傷は見受けられない。

つまり全弾回避されたという事。

っちぃ!

「今度は俺の番だ!」

一夏は今度は突っ込んでくるのではなく、僕の周囲を一定の距離を取って回る。

「お前のIS確かに、攻撃力と装甲は大したもんだけどさ、機動力では俺の方が上なんだよな!」

っく、てかはっきりってこのIS。大きいし、機動力もない。

単機運用を前提にしてないことない!?

それとも僕がまだ何か使いきれてないのか?

だが武装は大体見たし、機動性能だって・・・。

待てよ。

僕は背部の巨大なスラスターを見やる。

・・・・これって結局、荷電粒子砲とか打つ時は前にせり出すんだよな。

ってことは・・・・、これひょっとして・・・・。

〝360度どの角度にも動いたりする?〟

試してみる価値はありそうだ。

僕は一夏を見やる。

いや正確にはハイパーセンサーでその位置を見ると言った言い方の方が正しい。

縦横無尽に動く一夏の位置を確認しながら、慎重にスラスター角をイメージする。

そのイメージに従いスラスターが、任意の方向へ動き始める。

やっぱり思った通りだ。

そして、一夏がある方向で向きを変え一気に距離を詰めてくる。

「そこかぁ!!」

その瞬間一気にスラスターに火がともり、方向転換。

逆さになりながらも、一夏を素早く正面にとらえることに成功する。

「いぃ!」

「もらった!!」

今度は狙いをつけて、〝ファイアーフライ〟が放たれる。

真正面から受けてしまった一夏は、体勢を崩しながらも、その後の追撃をなんとか回避したが、

もうこちらのターンだ。

そうか・・・・だんだんわかってきた。

〝ストライク・バーディ〟の戦い方が!

この機体は、動いて狙い打つチャンスをうかがう戦法ではなく、

フレキシブルに動く巨大なスラスターを利用して、高度を固定し自分が素早く360度旋回しながら

狙いを定め、強大な火力に物を言わせて戦う戦法が有効なのだ。

万一攻撃を貰っても、堅牢な装甲がそれを守ってくれる。

言ってみれば、固定砲台か・・・。

同じ要領で、確実に正面に一夏をとらえ続け射撃を続ける。

回避もだんだん苦しくなってきたんじゃないかな?

僕は〝ファイアーフライ〟とミサイルで十分にタイムを稼ぐと、

〝ウェポンスクエア〟を全展開させる。

スラスターが前両肩の上か前にせり出し、それまでスラスターのサポートをしていた部分が更に前に突き出しマズルサポートの役割を果たす。

そしてスラスターのバーニア下部に取り付けられた高圧荷電粒子砲と小型バルカン、マズルサポートの上部に取り付けられたミサイルポットに加えて手持ちの、〝ファイアーフライ〟を加えた強大な火力が一気に放たれた。

 

全砲門一斉射撃〝アヴァランチ〟

そして雌雄は決した。

 

『試合終了、勝者アルディ・サウスバード!』

 

・・・・あ、あはは。

これ使いどころ間違えると危ないかも。

使っておいて何だが、この一斉射撃。どうやら何度も使える代物ではなさそうだ。

気付くと、余裕だったエネルギーは底を尽きかけ、シールドエネルキーも半分ほど無くなっている。

つまり、これエネルギーとシールドエネルギーの両方を使うのかぁ。

恐らく、最低限飛行や本体維持に必要な余力分のエネルギーを残して、それでも尚足りない部分はシールドエネルギーで補うという方法で、この攻撃は行われるのだろう。

それにだ。一回使っただけで、〝ウェポンスクエア〟から嫌な音がする。

どうやら本体にも、かなり負担を強いる攻撃の様だ。

・・・・って、はッ!!

一夏は!?

直撃だったけど・・・・。

「一夏大丈夫かい?」

「踏んだり蹴ったりだぜ・・・」

わ、悪かったね、ほんと。

僕はせめてもの償いに、一夏をピットまでえい航した。

 

ピットで待っていたのは、箒と織斑先生、そしてセシリアだった。

僕と一夏がISを待機状態に戻すや否や、一夏には箒が、僕にはセシリアが詰め寄ってきた。

「あなた、やっぱり私に嘘をついていましたのね!」

「えぇ?流石に僕が嘘つきって言うことは自覚していても、セシリアに何か嘘ついたかな・・・」

「つきましたわ!!あなた専用機はないと、おっしゃっていたではありませんか、それがこれはどういう事ですの!!」

あぁそのことか。

いやでもあの時点では本当に無かったし、それに〝ストライク・バーディ〟が届いたのだって急すぎた。

少なくともあの時点では本当に、僕はISを持っていなかったのだ。

そこへ織斑先生が助け舟を出してくれた。

「そう言うなオルコット。今日急に届いたんだ」

「む、むうぅ・・・」

それでも納得がいかない、セシリアだったが、織斑先生の言ったことということもあり、

追求をやめる。・・・・そうこの場では。

「ちょっと来てくださいな!」

「ま、また!?」

今度はセシリアに首根っこを捕まれピットを退場する羽目になった。

 

とりあえず着替えを済ましてからという僕の提案に、首を縦に振ったセシリアと分かれ僕は着替える。

ジャラ・・・。

弾丸のネックレス型をしている待機状態の愛機。

専用機か。

姉さんはどうして、僕にこれを届けたんだろうか。

何か理由があるのかな。

・・・・・・・・まぁいずれわかるだろう。

それよりも今はセシリアだ。

待たせて何を言われるかたまったもんじゃない。

・・・まてよ。

セシリア・オルコット・・・・?

なんかどこかで、その名前を。

・・・・・えぇい、良いや。とにかく行こう。

僕はセシリアの待つ、アリーナのロビーへと急いだ。

 

「遅いですわよ?」

「はぁ・・・すいません」

「で、どういうつもりですの?」

どういうと言われても・・・。

セシリアの意図を測りかねる僕は、答えに窮する。

「あなた私に嘘をついていますわよね?」

「いやだからISの事は本当に・・・」

「違いますわッ!」

ひと際大きい声に、少し驚き後ずさってしまう。

一体なんだって・・・・・。

「本当に思い出しませんの?」

「思い出す?」

・・・・・嘘の事じゃなかったのか。

嘘の事じゃ・・・・・ん?

待て待てさっきも、同じような考えが浮かんだが、あの時軽く流して軽口を言いあったが、

教室での会話には不審な点がいくつかある。

まずなんでセシリアは僕の姉さんを知っていたんだ?

そりゃ有名人だし、どこか雑誌か新聞で見たのか。

だがそこから、弟がいると言う事まで想像が及ぶだろうか?

そして何より〝僕はなんで彼女を知っていたんだろう〟

スッと口をついてでてきた名前だったが・・・・。

そしてさっきから、頭の隅に引っかかっているような気持ち悪さは?

・・・・・・セシリア・オルコット。

オルコット・・・・・・。

その時ひとつの単語がぽつりと口をついた。

「・・・・セシリー」

その単語にセシリアの顔がはっとなる。

そして確信する。

セシリー・・・・まさか

「セシリーなのか?」

「ふぅ、ようやくですの・・・」

「あ、いや・・・・・」

驚いた、そうか、そうだ。

僕たちは、子供のころ一度〝会っている〟

昔からアメリカで、ISの操縦者として抜きんでていた姉は、各国の企業が勧誘に訪れるほどの人材だった。

そしてあるとき、イギリスからIS関係の会社を経営しているので、是非ともわが社へ来てほしいという女性が現れ、その女性と共に訪米したのが、セシリアだった。

交渉は意外に伸び、二週間近くその女性はアメリカで粘りの交渉を行っていた。

結局交渉は決裂に終わったが、その間色々カリフォルニアのサクラメントの地を案内して回った記憶がある。案内と言っても、裏路地や秘密基地チックな所を連れまわしただけだったが、

彼女はとても楽しそうだった。

毎晩僕は、服を彼女は綺麗なドレスを汚しに汚しまくって帰っては怒られてたっけ。

確かその、初日に名前を言いあったんだ。

「あなた、名前は何といいますの?」

「僕?僕はアルディ。アルディ・サウスバード。君は?」

「セシリア・オルコットですわ」

「じゃあセシリーだね」

「ま、まぁ良いですわ特別に許しましょう、ではあなたは、

アルディ・・・・・そう、アルですわね」

こんな風に。

「そうか、すっかり頭から飛んでたなぁ・・・・」

「それもお得意の嘘ですの?」

「いや。ほんとに」

「ま、思い出しただけでも良しとしましょう」

さっきまでの雰囲気はどこへやら。

フフッと笑う。セシリーはいつも通り自信たっぷりの顔だった。

「あの時、あなたに戦いを吹っ掛けたのは、あなたが私の事を忘れていたからですわ。

名前は覚えてらしたのに・・・。結局戦えませんでしたが」

「だから・・・・悪かったよ」

「冗談ですわ、もう怒ってなどいませんわ」

またクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべるセシリー。

・・・・なんて言うか、見ないうちに綺麗になったよなぁ。

まぁ、会ったのはもうだいぶ前の事だし、それから互いに月日が流れた。

成長するのは当たり前か。

「あら、私に見とれてましたの?」

「違う・・・・いや違わない・・・?」

「あら、あなたらしくない返答ですのね、あいまいな返答を返した罰ですわ、

これから一緒にご飯を食べに参りましょう」

「それが罰なの?」

「もちろんおごりですのよ?」

そ、それは、確かに罰だ・・・・。

ふぅ・・・まぁ良いか。

それじゃあと・・・ロビーの出口を見やる。

・・・・・そして絶句した。

 

そこに群がる女子女子女子女子・・・・・。

な、なんだこれ。

「あ、私達はお構いなく」

「良い感じだったよね今、しかもアルディ君セシリアの事セシリーとか呼んでたし!」

「これは何かあるよ、絶対・・・」

「米英二国間同盟だ~」

中々旨いこと言うな・・・・じゃなくて。

またこのパターンだ。

最悪だよ、さっきの全部見られた。

「ねぇねぇ、セシリア、アルディ君とどういう関係よ!?」

「まさかのまさかで・・・・」

唐突な問いに、驚くかと思いきや、セシリーはにこやかに笑うと、女子たちに意味深な言葉を残した。

「さぁ、どうでしょうね、それでは待っていますわよ、アル」

今ここでその名前で呼ぶのは、まず過ぎる・・・・・。

絶対わざとだ・・・・。

そして当然その呼び方は、普通じゃない。

ごく親しい間柄であるという事を悟った女子群が先ほど以上に騒ぎ立てる。

「聞いた聞いた!?いまセシリア、アルって呼んでたよ!?」

「これは間違いないわ・・・・間違いない!」

「専用機持ちのビックカップル・・・・」

色々誤解があるようだ。

流石の僕もこの場を切り抜ける打開策が、口をついてでてこない。

今僕に出来ることと言えば・・・・

「あぁ・・・えぇと・・・さよならッ!」

逃げることだけだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

アルディのISが起動したその日の夜。

アメリカではすでに朝日が昇り多くの労働者たちが仕事に励みだす。

そしてローラも例外ではなく、〝ストライク・バーディ〟の稼働データに目を通していた。

ローラが自動転送するようにプログラムを指示したもので、これは今後の研究開発に活かされていく。

「うん、初稼働にしては上出来だわ」

一人、つぶやいたのだが意外に大きかったらしい。

「朝っぱらから、うるせぇなぁ」

「それはあなたもでしょ、イーリ」

「あら、ナターシャもいたのね」

アメリカの国家代表IS操縦者イーリス・コーリングとナターシャが軽口をたたきながら研究室に入ってくる。

「もって、何よもって。私はおまけ?」

「ありがたく思えよな、あたしのおまけなんて光栄じゃねぇか」

「十セントチョコのおまけぐらいかしら」

「てめぇ、流石に安すぎだろそれ・・・」

「おまけの方が高くなっちゃったわね」

クスッとナターシャは笑うと、それを見てイーリスも口をとがらせてフンと鼻を鳴らす。

私はそれを横目で見つつ、データに再度デーダに目を落とす。

「フレキシブルターンは成功、あら、あの子〝アヴァランチ〟を・・・」

ブツクサ言う、ローラに興味を持ったイーリスとナターシャが、軽口をやめデータを覗き込んでくる。

丁度机に座っていたので、ナターシャは椅子越しに、イーリスはデスク越しにそれぞれデータを眺める。

「これ、ひょっとして例の機体の実戦データ?」

「例の機体?」

イーリスの頭に疑問符が浮かぶ。

それを見てナターシャが補足説明を続ける。

「ここで開発されてた、〝ストライク・バーディ〟の事よ。ほらアルの専用機で造ってたじゃない」

「アル?・・・・あぁ、ローラの弟か。にしてもストライク・バーディねぇ。このデータを見る限り

原形無ぇじゃねぇか」

「仕方ないわよ、そのまま使うにはクセがありすぎたし」

元々〝ストライク・バーディ〟は射撃特化型とはいえ、有り余るほど高い機動性能がウリの第二世代ISだった。だが、それがあまりにクセのある代物で、特に360度どの方向にも回る特徴的な、〝フレキシブルスラスター〟は慣れるまでに相当な時間を有し、最悪の場合扱いきれないという事態になりかねないものだった。

そのため、アルディの専用機ベースとして本機が選ばれた時、初めはこのスラスターを外す方向で開発がすすめられたのだが、あまりの重装甲銃火砲の所為で機動性が確保できなくなった為に、急きょこのシステムを方向転換用に組み込むことになったのだ。

「第二世代つっても、火力だけ見たら第三世代に迫るんじゃね?」

「火力だけ見ればね。第二世代機の初期型のISとしてはトップクラスの火力だから」

おっかねぇの。とイーリスは続け、黙ってまたデータを見やった。

・・・・・しっかり、あの子を守ってあげてね、〝バーディ〟

ローラは心の中でそう呟きながら、自分の仕事に移っていく。

 

今日も仕事に忙殺される日常が始まっていった。

 

 

 




完全移行までもうしばらく掛かりそうです(汗


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第4話~転校生はチャイニーズ~

 

かく言う僕も、一夏は箒と僕はセシリーにそれぞれレクチャーを受けている。

受けているのだが・・・。

 

「だからこう、クイッと言う感じだ!なぜわからん!!」

「違いますわ!良いです事、アル。先ほどの機動では接近されたときにあまりに無防備。

ロール角は三十五度を維持、そしてそのままピッチ角を・・・だから違いますって!」

僕と一夏は互いに顔を見合わせると、口をそろえてこういった。

「「ごめん、わからん」」

見事なハモりっぷりに二人の顔が引きつる。

「大体、箒そのクイッて感じってどんなんなんだよ・・・」

「セシリー、細かすぎる・・・・」

さっきからレクチャーを受けているのだが、イマイチ分かりにくい。

だがまだセシリーは具体的な数値を上げてくれるだけでも本当は感謝しないといけない。

箒に至っては・・・

「クイッて感じで動いて、ズガーンと当てて、スパッと行く感じだ」・・・・

暗号だろうかこれは・・・。

「全く、よく見ていろ一夏!こうだな・・・こうして・・・クイッて感じだ」

箒が〝打鉄〟を使って実演してみせる。

「おぉ、そこのクイッて感じか、俺の想像とは違ったよ」

僕もそのクイッて感じだったのかと納得するが、今はそれどころじゃない。

こっちはこっちで・・・

「どこを見てらっしゃいますの!?ほらもう一度やりますわよ」

「あぁ・・・はい」

渋々従うが、やっぱり分かりにくい・・・。

もう一度浮上して、スラスター角を細かく調整する。

バシュッバシュっと細かく姿勢制御をスラスターが行っているのが分かる。

はじめて使ったあの時は、一夏にまだ直線的な動きが混ざっていたからそれほど難しく感じなかったが、

セシリーを、仮想的としてやってみると、全く狙いが定まらなかった。

まぁ、代表候補生相手だから当たり前と言えば当たり前だけど。

全方位特殊機動旋回。通称〝フレキシブルターン〟。

その機動をマスターしない限りこのISを使いこなしたとは言えないとセシリーにも言われたが、それはそうだと思う。

〝ストライク・バーディ〟は前も言ったが固定砲台色の強すぎるISだ。

そのためにも、回頭速度の向上は至上命題だった。

何が難しいかって、普通の砲台なら横に三六〇度で良いのだが、僕の場合は上下左右に三六〇度なのだ。

二次元から一つ次元が増えるだけでここまで難しくなるのか。

まぁ、何にしてもやってみよう。代表候補生の言うことだ。

下手な事は言わないはずだからね。

「それでは行きますわよ、私の今から言う角度にISをあわせてくださいな」

「うん・・・」

しばしの沈黙の後、セシリーの声が響いた。

「ロール四五、ピッチマイナス十!」

聞こえた通りに、機体を制御する。

セシリーは僕が、角度を合わせるのを待たずに次々に角度を言い放っていく。

「次ロール十、ピッチプラス三五、続いてロール二四六、ピッチマイナス七六!」

バシュッバシュンッ!

小刻みに角度と姿勢を制御し角度を合わせていく。

矢継ぎ早に発せられるセシリーの指示を、ひたすらに追う。

そして何十回それを繰り返し、セシリーがひと際大きな声を張り上げる。

「最後ですわ!ロール一五九、ピッチプラス八七!」

「っく!!」

しまった、噴かし過ぎた!!

ここまで来て失敗したくはない。

僕は反動で行きすぎた機体を、小型バーニアの全噴射でなんとか止め,

最後は両スラスター全部で勢いを殺して、なんとか範囲内で機体を制御させる。

「くっはッ!どうかなッ!?」

バッとそのままセシリーを見やる。

セシリーは少し何かを考えている。

・・・・まさか、ダメ?

「ま、及第点ですわね」

その言葉を待っていた・・・。

僕は、地上へおりるとISを待機状態にしてそのまま地面に座り込む。

「はぁはぁッ・・・つかれた・・・」

「もう、このぐらいで、へこたれてしまわれても困るのですけれど・・・」

「そうは言うけどね・・・大きさを・・はぁッ、考えてよ・・・」

〝ストライク・バーディ〟はISにしては非常に大きな部類に入る。

一夏の白式と比べても、その大きさは一回り半ぐらい・・・そのぐらい違う。

その分巨大なスラスターを備えて入るが、大きさの質量分はどうにもならない。

いくらPICで、操縦者への負担を軽減しているとはいえ、機体の重量分はごまかしようが無いのだ。

「それを使いこなしてこそ、一流ではなくて?」

「一流ね・・・」

「それぐらいになっていただきませんと、流石に不釣り合いですわ」

「不釣り合い・・・何に?」

「・・・・い、いえ、何でもありませんけど・・・・」

急にそっぽを向いてしまうセシリア。・・・・なんだろうね。

「そ、それよりももうすぐお昼ですわ。食堂へ行きません事?」

「あれ?もうそんな時間なんだ・・・そうだねおなかも減ってきたし」

「ん?飯か・・・箒、俺たちも切り上げて食いに行こうぜ!」

「話を反らす・・・・む、むぅまぁお前が行くというのなら・・・仕方がないな行くとしよう」

素直に行くと言えばいいのになぁ・・・

 

 

食堂は、今日は休みと言う事もあり、出掛けている生徒も多いのか、

それほど混みあってもおらず、僕たち一行は奥のテーブルへ腰かける。

ちなみに、僕と一夏は日替わり定食。箒は和食御前Aそしてセシリーは・・・・サンドイッチ?

「セシリー、流石にあれだけ動いてサンドイッチって言うのは少なすぎないかい?」

「い、良いのですわ、私は・・・・その・・・そうエコな女なのです!」

え、エコな女!?

初めてそんなフレーズを聞いたけど、具体的にはどんなんなんだ?

「大方無理なダイエットで、倒れるパターンだな」

「ちょ、っちょっと箒さん?変な事おっしゃらないでくださいな」

「何がエコだ、言い訳としても苦しいな」

「食べた養分を全部胸に回してらっしゃる方に言われたくありませんわ!」

味噌汁をすすっていた箒が盛大に噴く。そしてむせる。

「おいおい、箒、大丈夫か?」

一夏が心配そうにのぞきこむが、回復した箒はそれを気にも留めず、セシリーに詰め寄った。

「お前、言って良いことと悪いことがあるだろう!!」

「なんですの!本当の事ではありませんか?!」

「まぁまぁ、二人とも・・・・」

「そうだってお前ら落ち着けって」

ワイワイ騒いで食べる事はいいことだと思う。

ただ流石に僕らを挟んで、睨みあうのはやめてほしい。

・・・・その・・だから。

色々と・・当たるところとかあるわけで。

「大体、箒さんは!」

「セシリアだって!」

バシン!バシン!バシン!!!バシンッ!

「黙って食え」

「「「「はい」」」」

織斑先生・・・・。まさかいらしたとは。

ちなみに殴られた順に、箒、一夏、僕、セシリー、の順番だった。

なぜだが一番強く殴られた。

 

 

 

昼食を平らげ、ラウンジでくつろいでいた時。

「そう言えば一夏、転校生の噂は聞いているか?」

箒が唐突に口を開いた。

転校生か。

まず間違いなく女子だろうが、はてさてどんな子なのか。

「・・・・何か?」

「別に何でもありませんわ」

ジトーっとこちらを見ていたセシリアだったが、

言うや不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。

いや、別に変な事は考えてないよ。

「転校生ねぇ、でも珍しいな。箒が噂話に興味を示すなんて」

「別に興味があるわけではない、たださっき近くにいた生徒達が話をしているのをたまたま、耳にしただけだ」

「それを興味あるっていうんだろ?」

「ふん、屁理屈をこねるな」

「だけど、この時期に転校生かぁ、つい先日僕が来たばかりなのにね」

先日と言っても、もう数週間前だけど。

そんな、僕にセシリーが意見する。

「アル、確かにあなたが来たばかりですけれど、ここはIS専門の育成機関なんですのよ?

今こうして私たちが、くつろいでいる間にも、各国ではIS学園入学のために代表候補生やそれを目指す操縦者が切磋琢磨しているはずです。

そう考えても、今回の転校生も間違いなく代表候補生が来ると思って間違いなさそうですわね」

なるほどね。

確かにこの学園にIS操縦者を入学させる意味は大きい。

この学園は日本に存在するが、原則どの国家機関にも分類されていない。

そのため、新技術の開発・試験であったり、多くの国の代表候補生たちが集う学園なだけに、

各国とのIS比較が容易に行え、かつ、操縦者は本国に関係なくこの学園で育成されていくので、

〝入学した人数分のIS操縦者の育成費用が浮く〟これは国にとっても大きいことだ。

ISだけでも国家予算の何割かを割いて行われる一大事業だし、当然国家代表、代表候補生の選出や育成にも、莫大な予算が必要となる。

だがこのIS学園に一度入れてしまえば、その心配はほとんどなくなり、国は技術の開発だけに専念できるのだ。

これほど使い勝手のいい〝実験施設〟は無い。

「まぁ、今それを考えてもねぇ、今日は休みだし入ってくるとしても明日でしょ?」

「そうだな、気にしても明日になればわかることだし」

「一夏は・・・その・・・気になるのか?」

「そうだな、まぁ気にならないって言えば嘘になるけど」

「・・・・そこは気にならないと言ってもらわないと・・・だな・・その」

箒も・・・・大変だなぁ。

一夏がここまでトウボクヘ・・・・ん?

「唐変木ですわよ、アル、この前織斑先生に言われたばかりじゃありませんか」

あぁ、そうだそうだ。それそれ。

「・・・・あなたも似たような、ものなんですけどね」

「ん?何か言ったかい?」

ボソッと何かセシリーが言った気がしたけど気のせいかな?

セシリーは何でもありませんわと口をとがらせ、無造作にコップを差し出す。

注いで来いってか。

はいはい、いきますよ、お嬢さま。

僕はコップを受け取ると、サーバーまで足を運んだ。

 

 

 

そう言えば一夏達が何を飲むか聞いてこればよかったね。

・・・・水でいいだろう。

箒は緑茶でよさそうだし。

セシリーは・・・・。なんだろう。

紅茶かな?

僕は、セシリーからしか貰ってなかったコップに加えて、備え付けのコップ三つを取り、

それぞれの液体を注いでいく。

そして整理されていた、トレーを取ってその上に乗せる。

それを片手で器用にバランスを取りながら、もといた席に向かう。

途中すれ違った女子に「わッ、まるでウェイターだね」と言われたが・・・・。そんな風に見えるのだろうか。

席に戻ると、そこでもやはり席の周りの女子から同じような事を言われた。

そうかな、と少し苦笑いしてそれぞれの前に、飲み物を置いていく。

その姿をセシリアは、ほうっとした顔で見ていた。

きっかけはさっき、誰かが言った〝わぁ、まるで給仕さん?いや執事さんみたいだねぇ〟という一言。

(アルの執事・・・・悪くありませんわねぇ・・・)

目の前には普通の制服姿のアルディがいるのだが、セシリアの目にはフィルターが掛かり、その服装が制服から燕尾服へすり替わり、「どうぞ、お嬢様」と幻聴まで聞こえていた。

(お嬢様・・・・・いい、良いですわ!)

そんな事を考えているとはつゆ知らず、アルディがセシリアに声をかける。

「あの、セシリー、今更だけど紅茶でよかったかな?」

「良いですわ!!」

ガタッと勢いよく立ち、言い放つセシリアに対して、アルディは苦笑いで、「そ、そう・・・」と驚きを隠せずにいた。

 

 

 

その夜、僕と一夏はアリーナ使用ギリギリの時刻まで自主練に励んでいた。

コーチは変わらずセシリーと箒だったが、箒もセシリーも今回はより実践的にと箒は一夏と手合わせ。

僕はセシリーと、射撃訓練に勤しんでいた。

これがまた結構忙しい。昼間やっていた練習は角度をただ合わせるだけでよかったのだが、今回はそれに射撃が追加される。

自分で言うのもなんだが、射撃自体は苦手ではない。

姉も射撃部門で世界一に輝いているし、その姉からある程度の手ほどきは受けている。

だがそれでも、ハイパーセンサーによる瞬時捕捉、スラスター角調整、照準、射撃。

これだけの事を一度に行うのは至難の業だ。

だがそうは言っても、お手本と言ってセシリーは〝フレキシブルスラスター〟を持たない〝ブルー・ティアーズ〟で〝フレキシブル・ターン〟を行い見事にすべての的の中心を捉えていた。

セシリーによると

「私の〝ブルー・ティアーズ〟には〝フレキシブル・スラスター〟はありません、じゃあその機動は出来ないのかと言ったらそれは違う。

まったく同じことができないのなら、それに似たことのできる方法で、再現すればいいだけの話。

私が使ったのは、〝アブソリュート・ターン〟スラスター角を完璧に制御できるからこそ、可能な特殊旋回機動ですわ」

そう考えると、〝ストライク・バーディ〟にはこの〝フレキシブル・スラスター〟が付いている。

お手本を見せた相手が、いくら代表候補生とはいえ、こちらはその機動が確実に出来る機体なのだ。

僕は一通りの的に打ち終わると、体勢を立て直して、セシリアの横へ移動する。

成績は・・・・・・これまた酷いな、ほとんど的の外側じゃないか。

そのデータを見てセシリーは何か少し考えている。

「うぅん・・・・ちょっと〝ファイアーフライ〟貸していただけます?」

「え、いいけど」

僕はそう言って、右用の荷電粒子砲〝ファイアーフライ〟をセシリーに渡す。

受け取ったセシリーは、持ったり、構えたりして感触を確かめ、

試しに表示されている的へ向かって一発撃つ。

当たった的が衝撃音と共に弾け、手元のモニターにデータが表示された。

「・・・・やっぱり」

そう言って〝ファイアーフライ〟を僕に返し、顎に手を当てまた何やら考え始めるセシリー。

僕は意図を測りかね、その顔を覗き込む。

「何がやっぱり?」

「先ほどからの、射撃訓練を見て思っていたことですわ。難しい角度なら仕方が無いにしても、簡単な角度射撃でも、的を外しかける。

初めは腕かとも思いましたが、そうか思うと別もな的にはしっかり当てたりする。

これはおかしいと思って見ていましたが、先ほど一度撃ってみてその謎が解けましたの。

だから〝やっぱり〟なのですわ」

「えぇと・・・つまり?」

「簡単に言うと、あなたのISは細かな射撃には向いていないと言う事ですわね。この〝ファイアーフライ〟も反動が大きすぎますし・・・。

高火力で狙いもつけずに辺りに砲撃をまき散らす。広域せん滅型と言えるでしょう」

確かに、あの時一夏に撃った〝アヴァランチ〟も一夏に直撃したものの、多くが地面や、アリーナのシールドに当たり爆散していた。

正確に誘導できるミサイル以外は、細々しく狙いを定めて・・・というISでは無いらしい。

・・・・待てよ、じゃあこの訓練はもう・・・

「今、この訓練は無駄だからもう終わりで良いと考えませんでした?それは違いますわ。そう言ったISだからこそ、このような訓練が必要なのですわ、さぁまだもう少し時間はありますし、私がその・・・・・・て、手取り足とり・・・・その」

「また、何かボソッと・・・」

「な、何でもないですわ!さ、再開しましょう!!」

それからもしばらく。セシリー教官の鬼のような訓練が続いた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

あぁ~もう受付どこよッ!!

無駄に広いわねぇ~~~ほんとに!!

電気の消えた通路を受付を探しさまよう少女が一人。

ツインテールで髪をまとめた小柄な少女は、小さなボストンバック一つを持って見るからに、いらついている。

ついさっき、探せばいいんでしょ!と何も考えずに足を踏み入れた自分を呪いたい。

外見から想像した以上に中が広かったのだ。

ほんとにもぉぉ~~~ッ!!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!

わしゃわしゃと、自分の頭を両手で勢いよくかく。

こうなったらISで空から・・・・・。

とふと思ったが、その考えはまずい。

特にまだ受付も済ませていない状況で、ISを機動させれば国家問題に発展する。

本国政府の官僚たちが、〝頼むから軽率な事はしないでくれ〟と頭を下げられるのは気持ちよかったが、それ以前に、少女の中にも流石にまずいという考えはあるようだった。

すぐにその考えを、ゴミ箱へ放り投げ、ため息をついて足取り重くトボトボと歩きだした。

しばらくすると、どこからか声がする。

それは彼女にとって誰よりも聞きたい声だった。

「結局、お前の擬音講座だったじゃねぇか・・・」

一夏だ!彼女はIS学園に編入が決まった時、確かに実力が認められたその嬉しさはあったが、

何よりその学園に彼がいたという事が何よりもうれしかった。

一年ちょっと会っていない彼としかもこんなところで再開できるなんて・・・。

これはもう運命だ。明日にでも式場の予約を入れなければ!

そこまで興奮しきった、彼女の頭を一人の女子の声が一気に冷やす。

「一夏の想像力の無さの問題だ!」

「想像力とかの次元じゃねぇよ、宇宙人でも首かしげるぜ!・・・・って聞いてんのか箒!!」

少女は、物陰に身を潜めさっきとは打って変わって冷めた目で男女を見送る。

・・・今の誰?なんで〝あたしの〟一夏となれなれしく話してんの?

親しそうに一夏も話してるし。

少女はスクっと立つと、本来の目的であった受付を探す。

程なく受け付けは見つかり、手続きも滞りなく済んだ。

「以上ですね。はいこれ生徒手帳です。ようこそIS学園へ、凰鈴音さん!」

そんな明るい声も鈴音には届いていない。

バッと身を乗り出すと、事務員に詰め寄り一方的に質問を投げかけた。

「織斑一夏って何組かわかります?」

「え!?あ、織斑君ね。転校生にまで知られてるなんて有名人ねぇ」

「それで、何組なんですか?」

「一組よ、あなたは二組だから、お隣ね。そう言えば彼、クラス代表になったらしいわ」

クラス代表・・・・あ、そーだ!

鈴音の頭にピコーンと電球が灯る。

「二組のクラス代表って決まってますよね?」

「えぇ、この時期ですからね・・・それが何か?」

「いえ、別に」

そう言って、受付を離れた鈴音だったが、別にでは無い。

ちゃんと頭の中では考えている。

待ってなさいよ一夏・・・・・。

あたし以外の女の子と、仲良くしてるツケは大きいからね・・・・・。

足取りは軽かったが、顔は反して引くぐらい怖かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

いやぁ、今日の昼にもここにいた気がする。いや、いたね。

チラッと、壁に掛けられた横断幕を見るそこにはこう書かれていた。

〝織斑一夏クラス代表就任パーティ〟

ここは寮の食堂で、セシリーの特訓後二人でアリーナのロビーにいたところを、

一組の女子に半ば拉致されて食堂まで連れてこられたのだ。

それにしても騒ぐのが好きだなぁ・・・僕も嫌いじゃないけどネ!

「織斑君おめでとう!」

「一組の未来は君に任せた!」

などと、盛り上がっているが・・・。

「セシリー、君一夏に勝ったよね、なのになんで彼が?」

「そうだぞ、セシリア!俺は負けたのになんで代表になっているんだよ!」

僕の質問に便乗して、ガバッと、焦りの表情で迫る一夏にセシリーはさらりと答えた。

「辞退したからですわ、代表を」

「「どうして?」」

思わず声が重なるが、一夏は納得できていない声だった。

「ど、どうしてと申されましても・・・・その・・・・そう!あの試合は確かに結果私の勝ちでしたが、内容はどう取っても私の負けでした、だからですわ!」

腕を組んで、フイッと違う方向へ顔を背けるセシリーに、女子が横から茶々を入れる。

「え~。アルディ君のためじゃないの~?」

「セシリア、嘘は体に悪いのよ?」

「う、嘘ではありません!というかはじめて聞きましたわよ、そんな理論!!」

顔を真っ赤にして、大げさなアクションで否定するが、周りの女子のニヤニヤは止まらない。

「セシリアは愛くるしいなぁ~」

「可愛いなー可愛いなー」

「もうッ!やめてくださいな!!それにほら今日の主役は一夏さんでしょう!」

あーセシリアが怒った~っと最後まで茶化しながら、女子は一夏の方へと集まっていく。

まったくもぅ!と鼻を鳴らしながら着席すると、カップに入っていた紅茶を飲む。

「にしてもさ、本当にどうして辞退したんだい?あんなに自信満々だったじゃないか」

「先ほども言いましたでしょう、あれは私の負けだったと」

「本当にそれだけかい?」

「本当にそれだけです!・・・・・それにほ、本当の事など言えるはず無いではありませんか・・・」

「ん?」

セシリアは、何でもないですわとアルディの追及を、そこで切らせると、昼間と同じようにアルディへカップを差し出す。はぁ・・・とため息をつくアルディだったが、受け取るとサーバーへ向かって歩いていく。

(ま、気を取り直して、お嬢様気分を味わうとしましょう)

セシリアの目には、また再び燕尾服のアルディが映っているのだった。

 

 

 

翌日。

結構みんなグッタリとしていた。

それもそのはず。昨日のパーティで騒ぎ過ぎたのだ。

だがそんな事を言っていては、織斑先生にどやされるのは目に見えている。

皆重たい身体をなんとか引きずって、表面上は明るくふるまっていた。

そんなクラスだったが、妙に皆ソワソワしている。

他でもない転校生の事だ。違うクラスだが、やはり気になるようだった。

「そう言えば今日か、転校生のくる日って」

「僕が来る時もこんな感じだったのかな?」

「あぁ皆、騒いでいたな」

「私も、あの日は教室に入ってから、その話を幾度となく聞きましたもの」

僕と一夏の周りには、セシリーと箒のいつものメンバーが立っている。

「何でも、中国の代表候補生らしいね」

「へぇ、中国人か」

「そう言えば二組のクラス代表は代表候補生では無かったな」

「でも、もう一度決まってしまったものを、覆せないでしょ?」

時期が時期だしね。僕は、箒にサラッと意見を述べる。

流石に転校生が代表候補生でも、決まってしまったものを・・・・。

にしても中国ねぇ。

いい時だけ先進国、途上国を使い分けるあの国に、正直言って良いイメージはしないかなぁ

なんてのを考えていたら、唐突に大きな声が一組を揺らした。

見るとそこには、全身から活発そうなオーラを放ったツインテールの女子が立っていた。

「覆せるんだなぁ~これが!」

効果音をつけるなら、〝ドーン!〟と言うのが正しい。

腕を組んで仁王立ちするその少女は、自信たっぷりの笑みをもらし、一夏を指さす。

「あたし、今日から二組の代表になったんだからね。一夏、今度のクラス対抗戦覚悟なさい!」

どうやらその口ぶりから、一夏の知り合いの様だ。

そして対する一夏も、彼女を見て気さくに笑う。

「お前・・・鈴、鈴なのか?久しぶりだなぁ~、にしても何やってるんだ、全然似合わないぞ?」

それを見て、箒の顔が一瞬曇ったのは内緒だ。

「あ、あんたねぇ、もうちょっと言う事考えなさいよ!」

「おい・・・・」

その声に、クラス中の顔が引きつった。だが怒り心頭の鈴にはその変化に気づけない。

「大体、あたしがせっかく来てあげてるのに、喜びそれだけ!?」

「おい!」

「こっちが、どれだけびっくりしたと思ってんのよ!TVつけたらあんたがニュースになってんのよ!」

「おい!!」

「あ~もうさっきから誰よ、うっさいわっねっ!?!?」

振り返りざまに鋭い出席簿アタックが顔面にクリーンヒット。当然、織斑先生だ。

手加減などするはずもない。その衝撃でようやく鈴も我に帰り、自分のやらかした事に顔をひきつらせ冷や汗をダラダラ流す。

「ち、千冬さっぶ!!」

「織斑先生だ、馬鹿ものが・・・・邪魔だ、とっとと自分のクラスに戻れ」

「っく、一夏!卑怯よ、織斑先生を呼ぶなんて!!」

「私はここの担任だ、もう一発食らいたいのか!」

鋭い声に、鈴の戦意も粉々に砕け散ったようで、「逃げないでよ!」と捨て台詞を吐いて、ようやく嵐は去った。

それを見送って、織斑先生は鼻を鳴らす。

「・・・・・ふん、朝から元気のいいことだ。それに引き換えお前らは」

どうやら、織斑先生には何でもお見通しの様だ。

「騒ぐなとは言わん、時にはな必要だからな。だがそれを翌日にまで引っ張るな。

・・・・丁度いい今日は、一時間目からIS実習だぞ」

織斑先生の口元が緩む。だがそれを決して優しさととらえている生徒はこのクラスにはいない。

「叩き直してやろう、五分で用意し第五アリーナへ集合しろ良いな?」

うげっ!?第五アリーナぁ!?

しかも五分の制限時間付き。っていうかここからアリーナまでが大体全速力で走っても五分ぐらいかかる。

「あぁ、そうだ言い忘れていた・・・・遅れたらその分数×アリーナ十週の褒美を出してやろう」

それは褒美じゃない。

僕が辞書を開いて調べた時そういうのは罰って言うって書いてあった。

完全に鬼だよ・・・。

って、こうしてる場合じゃない!!

「い、一夏!急ごう!!」

「あぁ、そっか、俺たちは更衣室が別だから遠いんだった!!」

僕たちに続いて、女子群もバタバタと教室を後にしてアリーナへ急ぐ。

それを織斑 千冬は実に楽しそうに笑うのだった。

 




何気に鈴は良いキャラだと思いますw


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第5話~嵐のチャイニーズ・憂鬱のブリティッシュ~

まったく・・・・あの人,生徒を何だと思ってるんだろう・・・?

あの後結局間にあわなかった、僕と一夏と一部の女子はアリーナの一番外側を三十周させられた。

ただ、なぜだろうか罰を受けているはずなのに、後ろの女子たちは意外とにこやかだったのは。

そして、走り終えたらすぐにIS実習。

涙出てきた・・・・。

まぁ、いいや・・・もう終わったことだし。

どの道ようやくお昼なのだ。

疲れた体には食事、これ鉄則だね。

 

食堂に入ると、もう既に多くの生徒で、満席に近い状態だった。

食券を買って、食堂のおばさんに渡す。

今日は、趣向を変えて中華にしてみた。

ドーム型に盛られたチャーハン。野菜や細かく切った肉が、食欲をそそる。

さて問題は・・・座るところが無いことだ。

う~ん・・・・パンとかなら立って食べてもいいけど飯物だからなぁ。

下手にこぼしそうで怖い。

「あれ、アルディじゃないか、お~いこっち開いてるぜ?」

あれこれ考えていると、奥のテーブルから一夏の声がする。

そこには今朝、織斑先生に顔面クリーンヒットを貰っていた、鈴の姿もあった。

そしてソファを隔てて向こう側にセシリーと箒が、座っている。

セシリーも鈴の事が気になるようで、チラチラその様子を観察していたが、

箒は、完全にジト目で鈴を見ていた。

まぁ今回は、一夏に呼ばれたし、一夏の方のテーブルに行こう。

「助かったよ、満席で困ってたんだ」

「チャーハンか・・・・そう言えば、俺も鈴の家でよく食べたなぁ」

その一言が引き金で、箒が勢いよく立ちあがると、バンッとテーブルを叩く。

セシリーも立ってきたが、それを後ろから静観している。

「一夏、いい加減説明したらどうだ!?」

「説明って言うと・・・・?」

「この転校生の事だ、知り合いなのか?」

ジロッと睨むが鈴もそれに、不敵な笑みを浮かべ、睨み返す。

「知り合いって言うか、幼馴染だよ」

「それは私だろう!」

また大きくバンッとテーブルを叩く箒。

だいぶ苛立っているようだがそれに追い打ちをかける様に鈴が口を開く。

「どーも、一夏がお世話になってます」

「な、なな・・・ふざけるな!!」

妙に〝一夏が〟を強調して言った鈴。

あたかも、自分の物と言いたげな鈴に箒が、怒鳴る。

だがそんな空気を、全く感じていないのか一夏は、笑いながら説明をつけたした。

「いや、箒が引っ越しして、そのすぐ後に店越してきたのが鈴だよ、丁度入れ違いみたいな感じだな」

「ま、まぁ幼馴染と言うのは、もうどうでもいい。その・・・・食事をしたというのはどういうことだ!」

「食事したってそんなの、そう言うことじゃない。ねぇ一夏」

「そうだぞ、箒。丁度鈴の家が中華料理屋で、よく食べに行ってただけだ」

「・・・なるほど、店か、店なのだな。店なら、おかしくはないな・・・うん」

必死の形相から一転、安堵しうんうんと頷く箒。

一方鈴は、さっきまでと打って変わって、顔から余裕たっぷりの笑みが消え、

そっぽを向いてブツブツつぶやいている。

「一夏の馬鹿・・・・なにも、そこまで正直に話さなくてもいいじゃない・・・」

「あん?おい鈴何言ってるんだよ」

「べ、別に何でもない何でも!」

その間も僕は黙々とチャーハンを口に運んでいく。

「あ、セシリー、水ありがとう」

「いえ、いつも運んでくださいますしね、お礼ですわ」

静観していて状況が少しこう着した時に、セシリーが水を汲んできてくれたようだ。

ありがたいありがたい。

目を再び一夏方面へ移すと今度は鈴が、一夏に訪ねていた。

「で、この子誰?」

「だ、誰だとッ!さっきから言ってるだろう、おさな・・」

「もー、うるさいなぁ、あんたには聞いてないの」

「こ、こら!」

箒を片手で制すと、鈴は一夏を見やる。

「箒だよ、篠ノ之 箒って名前で俺の幼馴染。そうだなファースト幼馴染だな、で、お前がセカンド」

「ファースト・・・・そうか・・・うんうん、そうだな、初めての幼馴染は私だしな」

そう言って納得したようにうなずく箒に対して、今度は一変鈴の顔が悔しさににじむ。

「ちょっと一夏!なんであたしがセカンドなのよ!!一.五ぐらいにしなさい!!」

「やめろって、鈴!苦しいだろ、それに何だよ、一.五幼馴染って!?」

「お前!一夏から離れないか!!」

確かに謎だ。

まぁ、セカンドよりは確かにファースト寄りだけど。

そんな中、何を思ったかセシリーが、いつも通りの腰に手を当てたポーズで箒たちの間に割り込む。

「まぁまぁ、箒さん落ち着きなさいな。

よろしいではありませんかファーストなのですから。さて、鈴さんでしたわね。

何でも中国代表候補生だとか。箒さんなどは知らなくて当然ですけど、

私はご存知ですわよね?」

・・・・あぁ、なるほど。

初めはどうしたのかと思ったが、そうかセシリーは自分の知名度を、知らしめるいいチャンスだと思ったのか。

相手は注目の転校生だし。

多分セシリーの中ではこんな感じのシナリオを描いているんだろう・・・

自分が登場

  ↓

相手は転校生で代表候補生と注目の鈴

  ↓

鈴が「知ってるわよ、あんた確かイギリスの代表候補生のセシリアでしょ」的な事を言う

  ↓

自分は他国にも名の知れ渡った、代表候補生と言う事で株が上がる。

と、まぁこんな感じだろう。

セシリーが期待と自信に充ち溢れた顔で鈴の返答を待っている。

そして鈴から驚きの一言が!!

 

「誰あんた、あたし知らないよこんな金髪、そもそも何人?」

あ、固まった。

あまりのショックにそのままの表情で固まった。

そして数秒後、セシリーが涙目で帰ってきた。

よしよし、お兄さんが飴玉を上げようね。

 

・・・・・・っと、むっ!?

ここ数週間で、発達した織斑先生レーダーが警鐘を鳴らしている。

どこだ!?

辺りを見渡すと、食券の列に並ぶ鋭い眼光を確認した。

横を見る。一夏達はまだ気づいていない。

ぎゃあぎゃあと言い争いの真っ最中だ。

皿を見る。僕の皿は既に完食。

そして前には意気消沈のセシリー。

ここから導き出される答えは!!

〝救助できる人物セシリーを連れ、この場を緊急退避〟

それからは早かった。

「行こう、セシリー!」

「え!?、あ、アル?」

僕はセシリーを強引に引くと、そのまま食堂の出口に向かう。

その間にある返却口に皿を戻し、出口付近で織斑先生とすれ違った。

〝・・・・・命拾いしたな・・・・〟

あーあー何も聞こえませーん!!

なんとか食堂からの退避に成功した僕とセシリーはそのままふりかえらず教室方面へと走った。

その直後、鉄拳制裁と思われる、鈍い音が三つ、食堂の方から響いた。

 

 

はぁっはぁはぁ・・・・ここまでくれば大丈夫だろう。

僕は、教室のドア付近で立ち止まると、振り返りセシリーを見る。

「ごめんね、食後に走らせちゃって・・・」

「い、いえ・・・そのそれはよろしいのですが・・・・その・・・えっと」

ん、よく見るとセシリーの顔が心なしか赤い気がする。

息切れ・・・・ではない。肩で息もしてないみたいだし。

「その・・手を・・・」

「手?」

僕は視線を落とすと、そこにはしっかりと僕の手がセシリーのか細い手を握っていた。

一気に僕の顔が熱くなっていくのが分かる。

「わぁぁ、ご、ごめん!」

「・・・ぁ」

あわてて手を離す。セシリーが何かをつぶやいたようだったが、

それはよく聞き取れなかった。

・・・・・しばしの沈黙の後。

互いに顔を見合う。

僕もそしてセシリーも顔が真っ赤だった。

僕はそれを誤魔化すように、目線を下に向ける。

そこには、さっきまでセシリーの手を握っていた僕の手があった。

その手には、まだ微かにだが、セシリーの手の温もりが残っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

わわわわ・・・・アルったら、いきなり手を!

セシリアの頭の中は、パニック寸前だった。

だが、食堂で意気消沈していた自分の手を、いきなり取られ、

状況を把握した段階では既に頭がオーバーヒート状態

だったのだから、それを思うと今の状態は、これでも落ち着いた方なのかもしれない。

でも・・・・・。あの時手を・・・と言った自分を今さらになって少し悔やむ。

もう少し繋いでいればよかったと。

それにセシリアは、どこか懐かしいものを感じていた。

確か・・・そう、あれはアルとサクラメントの、アルの地元を一緒に走り回っていたあの頃。

アルはあの時も、今日みたいに私の手を握ってくださっていましたわね。

 

「この路地に入るんですの?」

きょとんとした顔でアルディに言うセシリア。

お互いにあどけなさの残る、幼いあの頃。

「そうだよ、この先に階段があってね、その上から見る景色が綺麗なんだ」

気さくに笑う。その笑顔がセシリアは好きだった。

彼が笑うたびに、自分の心臓がドキンと跳ねあがるのが分かるぐらいだ。

「ですけど・・せ、狭いですわね」

「大丈夫さ、セシリーは小さいから」

「全く、レディに対して細いとおっしゃるならまだしも、小さいというのは、失礼では無くて?」

「ははっ、僕は別に何が小さいとまでは言ってないよ」

「な、そう言う事を言ってるんじゃありません!」

ボッと赤くなる顔だったが、それは彼に対してなのか、彼の言ったことに対してなのか。

「ほら、行こう!」

またセシリアの手を取って路地の奥へ進んでいく。路地の壁に擦れて汚れていくドレス。

だがセシリアにはそんな事気になど、ならなかった。

セシリアの気を引いていたのは、自分の手を握っている一人の少年だったのだから。

しばらく路地を、進むと彼の言った通り、階段が目の前に現れた。

それを一段一段登っていく。

かなり長い階段だ。

「もう、息切れ?」

「まだ・・大丈夫ですわ!」

彼なりの励ましもあって、二人はようやく屋上へ辿り着く。

彼が住んでいたのはサクラメント市内でも結構山寄りの小さな街だった。

そしてそこは、簡単に言えば低所得者の暮らす一昔前のNYのハーレムの様な場所だ。

そして、この場所は、その中でもまぁまぁ高い、建物の屋上。

今思い出してみると、多分それは高いと言っても、すべてが一望できるほどの高さは無かった。

自分の住んでいたお屋敷の屋上の方が高かったぐらいだ。

でもその景色は、それよりも低かったのに、とてもきれいだった。

既に傾き始めていた、太陽が遠くに見えるサクラメント中心部の摩天楼を美しく照らし出し、

サクラメント川に、夕日が映えるその光景は今でも鮮明に思い出せる。

「綺麗でしょ」

「えぇ・・・本当に」

「君と、どっちが綺麗かな」

「ちょっと、くさすぎですわよ」

「アメリカでは、意外とまだ主流なんだけどなぁ」

そう言って頭をかく彼を、私は優しく見る。

そして今度はまた、もと来た道を彼に手を引かれ帰るのだ。

帰れば、私は用意された部屋に通されて、彼とは別々になってしまう。

本気でいっそこのまま帰らなかったらどうなるのだろうと考えたこともあった。

だから少しでもその手を、握っていたくて帰りは決まってゆっくり歩いて帰った。

遅くなって、母親に怒られようともそれはそれで、よかった。

母親の仕事を心配しつつも、反対に交渉がもっと長引いてくれることを望んでいた。

 

懐かしいですわね。

本当に懐かしい。

いまだに、昨日の事を思い出しているのかと錯覚するぐらい鮮明なその記憶に思いをはせながら、

セシリアは、アルディと繋がっていた方の手を、もう片方の手でそっと包む。

そこには微かにアルディの温かさが残っていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ど、どうしよう。

セシリーが、何が引き金かわからないがトリップしてしまった。

時折、頬を染めて体をくねらせたり、そうかと思うとどこか懐かしそうな目で宙を見ていたり・・・・。

流石に声がかけづらい。

そして、何より周囲の目が痛い。

・・・これどうしよう。

いつも気丈にふるまうお嬢さんも、今はただの扱いに困る危険人物になり下がっている。

って、もうすぐ予鈴が鳴る時間じゃないか!

と、とにかくセシリーを教室の中に入れよう。そうだ、そうしよう。

僕はセシリーをとりあえず教室の中へ入れるべく後ろから押す。

その間も、お構いなしに色々考え事をしているようで、微妙に動くセシリー。

ちょっと、動くのだけはやめてほしいなぁ。

こっちもバランスを取るのが難かし・・・・!?

突然バランスが崩れる。

何が!?

一瞬足元を見ると、そこにはドアスライドの溝が。

・・・・嘘でしょ。

「え!?あ、アル、あなた何をって、きゃぁぁぁぁぁ!!!」

「うわっと!!」

ようやく我に返ったセシリーがこちらを振り向くが、それで体勢が立て直せるわけもなく、

そのまま一緒に盛大に倒れてしまった。

 

一瞬の衝撃の後、痛みと一緒に、何か手の下に柔らかい感触がが・・・・・。

ん?床にしては・・・あまりに・・・・・。

焦点がまだぼやけているが、セシリーに怪我は無いようだ。

少なくとも顔には。

・・・・さっきから何を、掴んで?

「わぁ・・・・アルディ君大胆・・・」

だい・・・何?

そりゃダイナミックに転んだけど。

そしてようやく、焦点が合って来た時、僕はその意味を理解する。

・・・・・こりゃあ。

柔らかいわけだ。

僕の右手は丁度セシリーの胸を・・・・。

そして目の前のセシリーは、ワン、ツー、スリィ、フォー・・・・少なくとも四つ以上額に、血管が浮き出ている。

「あの・・・・」

ニコッ♪

ドガンッ!

笑顔とほぼ同時に、ブルー・ティアーズを部分展開した右腕がさく裂。

僕は人生初体験の、天井にめり込むという貴重な体験をした。

 

 

「さて、それではSHRを始める・・・・・。どうしたサウスバードその怪我は」

「・・・・何というか、自業自得です・・はい」

昼からの授業も終わり、今は織斑先生のSHRの時間だ。

これが終われば、みんな大好き放課後が始まるのだが、どうもセシリーがあの件で、ご立腹なようで・・・・。

何度が話しかけてみたのだが、すべて追い返されてしまった。

 

「ふむ・・・まぁいい。それよりも来月・・・まぁもう残すところ数週間と言ったところだが、

いよいよクラス対抗戦が始まる。このクラスの代表は織斑お前だな」

「はい」

「しっかり準備して、挑めよ。私のクラスにいるという意味を、よく考えてな」

つまり勝てってことか。

姉とはいえ、もの凄いプレッシャーをかけるな、織斑先生も。

「それから、サウスバードもな」

「はい!?」

「うむ、言い返事だ」

声が裏返ったのに、何が良い返事だ!

って言うか僕が何?

「あの、先生・・・僕がなんです?」

「喜べサウスバード、お前はクラス代表選の補欠候補に選ばれたぞ」

選ばれた、じゃなくて選んだんでしょ!

「いや、そんないきなり、僕はそんな話聞いてませんよ!?」

「ヨカッタナァ、イヤァホントウニヨカッタ!」

一夏・・・・君か!!!

「何考えてるんだよ君は、代表らしく堂々と一人で挑みたまえよ!!」

「だって、お前俺は素人だぞ!?」

「そんなの、僕だってそうだよ!!」

「まぁそう、言うなサウスバード。私が許可したんだ。

織斑の場合練習中にも下手なミスを犯しそうだからな。それでもしもの事があれば一組は不戦敗だ。そんな情けない結果を出せると思うか?」

出せばいいじゃないかぁ。

見栄は張ると下手見るんだよ?

だが相手は織斑先生だ。

何を言っても、これが覆るなんて言うことは無いだろう。

「一夏・・・・怪我したら、本気で怒るからね」

諦めて、念だけは押しておいたが・・・・・。

まぁ、そうそう滅多な事は怒らないだろう。

 

 

放課後。

今日は、他の誰ともつるむことなく、一人部屋に帰ってきていた。

放課後すぐにセシリーを探したが、既にいなかったし、一夏は一夏で箒との自主練があるとのことで、アリーナへ行ってしまうし。

ってかよくよく考えたら、僕友達少ないねぇ・・・。

椅子に座りながら、考え事。

色々考えることが多すぎる。

ISの操縦もそうだし、今回のクラス対抗戦そしてセシリーの事もだ。

優先順位をつけるなら・・・

一:セシリー

二:ISの操縦

三:クラス対抗戦

と言ったところだが、最優先しなくちゃいけないセシリーが取り付く島もないのでは。

どうしたもんか・・・・。

その時、部屋にノック音が響いた。

ん、誰??

再び、響くノック音。

次第に音が大きくなってるような・・・。

ったく・・・わかった、わかりましたよ!

もぅ、誰だよ。

そして、僕がドアノブに手をかけた次の瞬間

バンッ!!

勢いよく開かれた、ドアが僕の顔面に直撃する。

「いったぁぁぁぁ!!!」

「ノックしたらすぐに出なさいよね、全く!!!」

その悪びれる様子もない、気丈で勝気な声・・・

「や、やぁ鈴・・・」

「やぁ、じゃないわよ!ちょっと来て」

「なんで?」

「いいから!」

無理やり僕の首根っこをつかむとそのまま部屋から引きずり出される。

この学園の女性は、首根っこを掴んで男子を引きずるのがトレンドらしい。

初めて知った。

 

鈴に引きずられ、連れてこられたのはアリーナだった。

放課後と言う事もあり、自主練に励む生徒たちが見受けられる。

その中に白い専用機〝白式〟を展開する一夏の姿もあった。

「準備してきなさい!」

「だから、なんで!」

「な、なんでって・・・そ、それは」

「それは?」

鈴は無言で、僕の頭をつかむと、一夏の方向へ顔を向けさせる。

「あそこに誰がいる?」

「一夏と箒だけど・・」

「そーよね、そう。あの女と一夏がいるわよね」

「それが僕と何の関係が・・・・」

全くわからない。

箒と一夏が自主練しようが、彼らの勝手だと思うのだが。

「どうして、一夏が、あの箒ってこと一緒に居るのかしら」

「自主練でしょ」

「あたしは何も聞いてないわよ!」

言う必要が無いだろう。って突っ込んだら、何されるかわからん。

「だから手伝いなさい」

「・・・・はい?」

「だから、手伝ってって言ってんの!」

何を手伝えと。この状況で僕が手伝わなきゃいけないことが、これまでの会話であっただろうか。

「あーもう、分かんないやつね。一夏とあいつが、

自主練してる所にあたし一人乗りこんだら、あたしががっついてると思われるじゃない!」

・・・・・あぁ、そうか。そう言うことか。

つまり鈴も。

「一夏が好きなのか」

「ばっ!声がでかいのよ!!なんでアメリカ人はそう言う事をズバッと言うかな!!」

真っ赤になって、詰め寄る鈴。

どうやら図星っぽい。

いいねぇ、一夏モテモテだ。

要は鈴が言いたいのはこういうことだろう。

箒と一夏が自主練しているのが気に入らない。でも、一人で出ていくと、なんだか一夏に、がっついているようで恥ずかしい。

だから僕と一緒にあたかも〝自主練習しに来ました〟という事を装って一夏に近づきたい。

多分そう言うことだ。

あの唐変木の一夏の事だ。

どれほどあからさまに近づこうと、自主練習で、たまたま出会ったという意見は通りやすい。

だけど・・・

なんだか、面白くない。

「なんか、それ僕にメリットでもあるの?」

「多分無いわよ」

「じゃあ、やだ」

「あんたねぇ・・・・立場わかってるのかしら、初めからあんたに・・・」

さっきとは比べ物にならないほどの剣幕・・・。

そうだ、さっきのトレンドに追加しておこう。

この学園では、蛇睨みも最近流行りのトレンドなんだな。

めっきり流行には疎いから知らなかったよ。

そして、僕が聞きたくないセリフが、容赦なく放たれた。

 

「拒否権なんて無いのよ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

・・・・まぁ、あれは事故・・・みたいなものでしたし。

流石にあれは、やり過ぎたでしょうか・・・。

セシリアは教室に戻って、先ほどアルディに自分が取った行動を考えていた。

い、いやでも、あれぐらいは、危機感を持たせるには丁度いいのかも。

アルディは、自分では気が付いていないだろうが

一夏程では無いにしても、唐変木である。

まぁ、察しが良い分下手な事を言わないが、逆にそれがどこかさみしい時もある。

そうですわ、これぐらいなら大丈夫ですわよ!

きっと、しばらくすれば向こうの方から、またアクションがあるはずですし!

グッと拳を握って二度ほど頷くセシリアの耳に、少し気になる話し声が聞こえた。

「ねぇねぇ、専用機持ちがアリーナで自主練してるんだって!」

「マジで!?専用機って言うと・・・」

「何でも、うちのクラスの子と、転校生が一緒に自主練してるらしいよ」

え?

このクラスの?

一組の専用気持ちと言えば、一夏とアルそして自分だ。

初めは一夏が鈴と自主練をしているのかと思ったセシリアだったが、一夏は今日も箒と・・・・。

ま、まさか!

嫌な予感がする。

そう思うが早いかセシリアは、アリーナへ向かって走り出していた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

あぁ・・・・もう。

何だってこんなことに・・・。

アリーナへ入ると、ぶつかり合う音や掛け声の迫力に圧倒される。

「何ボケっと、突っ立ってんのよ」

声の方を見ると、ピンクのISスーツに身を包んだ鈴がそこにいた。

そして腕を組んで自信たっぷりな笑みを、浮かべている。

「ふふん、あそこに一夏達がいるのね」

渋々見やると、一夏達はアリーナの奥の方で打ち合っていた。

「良い自然に、近付くわよ」

「はぁ・・・・」

「あんたも、男ならここまで来たら、諦めなさい」

「諦めるの・・・?」

「とっととISを展開しろぉ!!」

鈴にせかされ僕は〝ストライク・バーディ〟を起動する。

いつも通り銃弾型のネックレスが光、一瞬の内に装甲が展開される。

「あ、あんたねぇ」

「今度は何!?」

ISを展開しろって言うから展開したのに、怒られる筋合いなど無い。

「なんでそんなに大きいのよ!!」

「そこは、僕の所為じゃないよ、アメリカに文句言って!」

やっぱりみんな言うことは同じ。

〝大きい〟

もう言われ慣れたが、こんな理不尽な言われ方は初めてで、ちょっと斬新・・・。

「もう、良いわよ。ほら行くわよ!」

鈴もISを展開する。

鈴のISは、赤みがかった黒色で、〝ストライク・バーディ〟ほどごつくはないものの、

アンロック・ユニットを持ち、肩には大型のスパイクアーマーが取り付けられている。

ストライク・バーディにその詳細が表示される。

「〝甲龍〟・・・・だめだ漢字は弱い」

続いてローマ字表記が記されてようやく読むことのできた僕だったが・・・・。

こ、これは・・・。

どうするかな。

「これなんて呼べばいい?」

「シェンロンでもコウリュウでも、どっちでもいいわよ」

こうりゅうか・・・うんそれで行こう。

「で、どうするのさ、展開はしたけど」

「ん~そうね。すぐに行ってもいいんだけど・・・・せっかくだし・・・」

「せっかくだし?」

また嫌な予感がするぞ。

「模擬戦しよう!」

やっぱり・・・、ほんと戦うのが好きだな・・・・・。

だけど、これはこれでいい経験かもしれない。これまでセシリーにばかり、頼って技術を教えてもらったけど、実際その技術がどれほど身についているのかまでは分からなかったし。

それに相手は、見た目からわかる近接型。

一夏との初陣では、接近を許しちゃったしなぁ。

それにISは戦い方や戦闘経験から学んで、自己発達していくものらしい。

こういう経験を積んでいくことは、デメリットにはならないはずだ。

「・・・・ふぅ、分かった」

「それじゃあ、準備しなさい」

鈴が一気に浮上する。だが僕はそれを追うことはしない。

このISの基本戦法は、〝フレキシブル・ターンを使った固定砲台〟なのだから。

しばしの沈黙の後、鈴が一気に間合いを詰めてくる。

「ハァァァァァッ!!」

僕は、落ち着いてセシリーの教えを、思い出す。

〝あなたのISは細かな射撃には向いていないと言う事ですわね〟

僕は、〝ファイアーフライ〟を構えると、狙いなど定めずその方向へ連射する。

荷電粒子砲は連射には向かないが、一発あたりの攻撃力は高い。

発射間隔があるとはいえ、直撃すれば大きなダメージを避けられない鈴は、一気に高度を下げ、

今度は、ほぼ真下から、こっちに接近する。

「威力は高いの揃ってるみたいでも、やっぱりその大きさ!早さは無いみたいねッ!」

それはどうかな

ハイパーセンサーで位置を瞬時に把握し、〝フレキシブル・スラスター〟が稼働。

素早く鈴を正面にとらえ同様に弾膜を張っていく。

「っく!なるほど、そう言う戦い方か!!」

「近づかれたら、手も足もでないんだよ!」

また再び、距離を取る鈴。一定の距離を取って言ったん動きを止める。

そしてこちらに、今までで初めて、笑顔を見せた。

「やるじゃない!」

「それはどうも」

と言っても、僕がここまで代表候補生とやりあえているのは、紛れもなくセシリーのおかげだ。

まぁ相手は本機の半分も出していないんだろうけど、それでも、何もレクチャーを受けなかったら、

恐らくはこの攻防などなく、一瞬で終わっていた。

僕は着実に、セシリーの教えが身についていることに喜びを覚えつつ、鈴との模擬戦に再び身を投じた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

アリーナの観客席からセシリアは二人を見ていた。

アルと、あの鈴という転校生が模擬戦をしている。

やはり、予想は的中していた。

・・・・はぁ、私馬鹿ですわね。

そう自分を自嘲する。

アルディは、私の態度に見切りをつけて、あの鈴との模擬戦の方を優先したのだ。

そう、自分によりメリットがあるから。

フフッ・・・。

今まで浮かれていた自分が馬鹿らしい。

何が危機感だ。

アルディには初めから私の事などどうでもよかったのだ。

あの笑顔を見てもわかる。あんな笑顔私の時には見せたことなど無かった。

きっと教えを受けられれば誰でもいい。

ほんと、馬鹿ですわね・・・・。

フラフラする足取りで、アリーナを出ていくセシリア。

その後、アルディが鈴によって撃墜されたが、それはもうどうでもいいことだった。

そう・・・

 

 

もう、どうでもいい。




セシリアさん可愛いなぁ~

声はあんまり好きではないけど(爆w


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第6話~どん底アメリカン・不敵なアンノウン~

全く、踏んだり蹴ったりだ・・・

あれ、この言いだし似たようなのを前回も・・・・まぁいいや。

 

踏んだり蹴ったりとは鈴の事である。

ドアパンチされて拉致された後、流れで模擬戦に突入。

結局最後は、鈴の〝双天牙月〟という青龍刀の餌食になって、地面に叩きつけられてしまった。

大型の〝ストライク・バーディ〟をいとも簡単に・・・・。

なんてパワーだ。

一夏のそれが、スピードだとすれば、鈴のそれは、近接は近接でもかなりのパワータイプだろうか。

アリーナの更衣室を出て、ロビーまで出ると、フラフラと歩くセシリーを見つける。

ん?

な、なんだろう、凄く危なっかしいな。

そう思っていた矢先、段差につまづいて転ぶ。

あぁ、もうなにやってんだか・・・。

「セシリー大丈・・・!?」

セシリーは差し出した手を乱暴にはらうと、これまでにないほどきつい拒絶のまなざしで僕を射抜いた。

とっさの事に、少し茫然としてしまった僕だったが、その態度が気になって既に一人で立ち上がりさっさと歩きはじめていたセシリーを追う。

「ちょ、ちょっとセシリー!」

僕は腕をつかむ。だがそれをセシリーはまたも振り払った。

「触らないでくださいな」

「ひょっとして、怒ってる・・・・よね」

当然のことと思いつつ、そんな言葉しか出てこない僕のボキャブラリーの無さに呆れてしまう。

「怒る、何に対してでしょうか?私、別に怒ってなどおりませんけど」

「いや、あの・・・」

明らかに怒ってるじゃないか・・・・。

この上ないほどに。

やっぱり、あの教室での事を・・・

「あの事でしたら、別にもう何とも」

僕が今想像しようとしたことを先読みされて否定される。

あれ?じゃあ何をそんなに。

「もう良いですわ」

話を切って、再びスタスタと歩いていくセシリー。

待て待て、全然意味がわからないぞ!

「セシリー、一体何なのさ!言ってくれなきゃ分からない!!」

「言ってましたわよ、これまでも!」

「え!?い、言ってないだろ、何がだい?はっきり言わないなんてセシリーらしく・・・ッ!」

言いかけた刹那、僕の右頬に鋭い痛みが走っていた。

状況はすぐにわかった。

セシリーが僕の頬を叩いたのだ。

流石に叩かれることを予想していなかった僕は、困惑のまなざしでセシリーを見る。

え、泣いて・・・・。

「私らしい!?何も知らない、何も気づいて無い、あなたにそんなこと言われる、筋合いありませんわ!!」

ブロンドの髪を振り乱しながら、かぶりを振ってヒステリックに叫ぶとそのまま背を向け走り去る。

「あ・・・・」

僕はなぜか、セシリーの名を呼ぶことも、追いかけることも出来なかった。

 

 

僕は部屋に戻ると、いまだにジンジンする頬をさすりながら、PCの電源を入れる。

・・・はぁ、一体何をしたって言うんだろう。

セシリーは、教室での一件は、どうでもいいって言ってた。

じゃあ、他に何が?

全く訳がわから・・・・・ん?

PCの電源を入れると同時に、画面端に、ネット通話の着信通知が来ていた。

アドレスは・・・姉さんだ。

着信時刻は、もうほんの数分前。

僕はすぐに折り返し発信の準備をする。

僕のPCには既にカメラとマイクが内蔵されているので、周辺機器は必要ない。

数秒の呼び出しの後、画面に姉さんが映し出された。

『アル、少し・・待って』

ヘッドホンの調子を確認する姉さんそして、最初少しノイズがかった声が次第に鮮明になっていく。

『あーあー・・・聞こえてるわね?』

「うん、大丈夫だよ、それで何の用?」

『酷い言い方ねぇ、遠く離れた異国での生活に心を痛めてないか、心配で連絡してるのに』

「・・・嘘だね、大方ISの事でしょ」

『ンフフッ、ま、それぐらい察し付くわね・・・・ってその頬どうしたの?』

僕はとっさに右頬を隠す。だが時すでに遅し。

入学一ヶ月で、女の子にひっぱたかれましたなんて、恥ずかしくて言えるわけがない。

「ま、まぁ・・こ、転んじゃってね」

『・・・嘘ね、姉さんに嘘を吐こうなんて、百年早いわよ』

流石は〝裏切りのローラ〟なんておっかない二つ名をつけられただけの事はある。

嘘やはったりで、姉の右に出る日は、おそらく姉生きている限り無いだろう。

「あぁ・・うん」

『何があったのか、姉さんに話してみなさい、解決にはならないかもしれないけど、

糸口ぐらいなら見つけられるかもよ?』

「・・・実は」

僕は今日、あったことをありのまま話す。

包み隠さずだ。隠してもしょうがない。どうせ見透かされるのだから。

「・・・・と、言うわけなんだ」

『セシリア・・・セシリア・・・どこかで聞いたような名前ねぇ』

姉さんも、セシリーの事を微かにだが覚えているようだ。

だが、中々名前と顔が一致しないのか、首をかしげて考えている。

「ほら、昔姉さんを、勧誘に来た女性実業家の人がいたでしょ。あの人と一緒に来た女の子だよ、ブロンド髪の綺麗な・・・」

それでようやく思い出したらしい。ポンっと手を打ち、笑顔になる姉さん。

『あぁ、居たわねぇ。あの子かぁ・・・それで、あなた本当に心当たりないの?』

「教室での一件以外、怒る要素が分からなくて・・・」

『ふ~む・・・・いい、アルディ。女の子って言うのは意外と小さいこと、自分が何気にやってることでも気になって、嫉妬とかしちゃうもんなのよ』

「嫉妬って・・・それは、好きな人にやるもんでしょ」

『・・・・アルディそれあなた、本気で言ってるの?』

姉さんの顔がい一気にジト目へと変貌する。本気も何もないんだけどな・・・・。

だって事実だし。

『はぁ・・・もう少し物分かりが良いと思ってたけれど・・・』

「どういう意味さ」

『まぁいいわ、そうね・・・もう一度よく、これまでの自分の行動、

そして相手の行動や言ったことの意味をしっかり考えなさい。絶対その中に答えは有るはずだから』

言い聞かせるように僕に言う姉さん。

よく考えろって言ったって・・・。う~ん・・・・。

『女の子は、いつでも本当の事を言われると弱いものなのよ。

あなたも嘘ばっかり言ってないで本当の事言ってみたら?』

最近は嘘は言ってないし、言う暇もないに等しいんだけどなぁ。

だって最近はセシリーとの訓練に忙し・・・・訓練?

なんだろう、何か引っかかって・・・。

『後は自分で考えなさい。・・・・ハイッこの話はここまで!本題に移るわよ』

パンッとてを叩いて話題を切り替える姉さん。

その後ISの事を色々聞かれたが、僕の頭は〝そんな事〟など全く考えていなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

我ながら馬鹿だと思う。

まさか戦いに夢中になって本来の目的を忘れるとは・・・

鈴は意気消沈していた。

そう、、鈴の〝自然に一夏接近作戦〟は失敗したのだ。

 

「はぁっ!!」

「しまっ!?」

鈴はアルディの射撃の一瞬の隙に間合いに入ると、軽快なフットワークを駆使して〝ファイアーフライ〟を左右に蹴り飛ばす。

そして無防備になった胴体に蹴りの回転そのままに青龍刀〝双天牙月〟を叩きこむ。

元々重い〝ストライク・バーディ〟だったが鈴の突貫の移動エネルギーも相まって威力は充分。

そのまま、地面にたたきつけられた。

「ふんっ!舐めんじゃないわよ、こう見えてもあたしは中国の代表候補生なんだからね!」

高笑いをして、アルディを見下す鈴に、唐突に声が掛かる。

「おぉ、鈴じゃないか、相変わらずやることが派手だなぁ」

しまった・・・・。

この時、鈴の顔は多分誰にも見せられないほどに〝しまったぁぁぁぁぁっ〟という顔になっていたに違いない。

鈴の頭の中で、小さな鈴たちが自分をパカパカ叩いているのが分かる。

あたしの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!

本来の予定では、アルディのISが長距離戦仕様と言う話は聞いていたので、わざとらしく攻め手にかけるふりをして、距離を離し

「あら、一夏自主練?」

「鈴もか、精がでるな」

「クラス対抗戦負けないわよ!」

「俺だって!」

となって、模擬戦を中断するはずだったのだ。

それが、夢中になった挙句、トドメまで・・・。

当然周囲からも注目されるし、気付かれずに一夏に近づくことも出来なくなってしまったのだ。

今回は、一夏から声をかけてくれたからよかったが、かけてくれなければ完全に詰んでいただろう。

だが、何にしてもだ一夏に声をかけられたことには変わりない。

意気消沈するのは、いつでもできるが、一夏と話せるのはこの機会しかないのだ。

そう考えを改め、鈴は更衣室へ消える一夏ともう一人・・・(名前忘れた)を追いかけて行った。

 

 

「ふぅ・・・」

一夏達が更衣室へ戻った少し後をつけて鈴が、更衣室へ入る。

あの女も一緒だ。

あの女は既に、着替えを終わっていたが、一夏はまだ着替えておらず、額には汗が滲んでいる。

ふっふっふー・・・鈴は、自分のロッカーから持ってきた、

スポーツドリンクとタオルを手に不敵に笑う。

そしてタイミングを見計らって、飛び出した。

「一夏、お疲れ」

出来るだけ、スマートに。一夏と話せる喜びを押し殺して鈴はあたかも、さらりと言う。

そして持っていたスポーツドリンクとタオルを、一夏に投げ渡した。

「お、っと・・・サンキュー鈴、丁度喉が渇いてたんだ」

「いいわよ、別に」

いい、良いねあたし!超自然じゃん!初めっから、こうすればよかったかのかも。

「ぷはッやっぱり、運動した後のスポーツドリンクは格別だな、そういえば鈴お前自分のは無いのか?」

「え!?」

そうだった、一夏にあげることしか考えていなかったから、

一本しか用意しなかったが、よく考えれば当然の疑問だ。

ど、どうしよう・・・何か・・何か言わないと・・・。

だがその時、鈴にとってそして後ろで、ジト目睨みをしていた箒にとっても爆弾発言が一夏から発せられる。

「・・・じゃあこれ飲むか、お前も喉乾いてるだろ?」

「「え!?」」

待って待って・・これって・・・これって・・・間接キスなんじゃ・・・・!!

当然鈴に断る理由など無い。むしろ早く欲しいぐらいだ。

だが、それを無言で済ませる箒では無い。

「ば、馬鹿もの!!そ、そんな事が許されると思っているのか!!」

「ちょっと、何勝手なこと言ってんのよ、えーっと・・・なんとかさん。一夏はあたしにくれるって言ったんじゃない、一夏の許可があるんだから、あんたには関係ないでしょ!」

「なんとかさん!?」

箒は名前すら覚えてもらえていないことに、そして鈴のあまりの態度に、いつもの怒りボルテージが二倍早く上がっていくのが自分でもわかった。

それを鋭く察すると、鈴はまた言葉を続ける。

「もー、いい加減引っこんでてよ、そこ通行の邪魔だよ」

「き、貴様いい加減にしろ!!」

箒は声を張り上げ、一夏の手からスポーツドリンクをかっさらうと、鈴の見上げる先で、

スポーツドリンクを一気に飲み干す。

それを見て今度は鈴の怒りが一瞬で沸点に達した。

「あぁぁ、あんたね何やってくれてんのよ、あたしのよ、それ!!」

「ふんっ、そうだ一夏、今から代わりに何か買ってきてやろう」

鈴の夢も希望もすべてを打ち砕いた箒が、勝ち誇った顔で更衣室を出ていく。

それを、悔しさで歪む目で、睨む鈴だった。

・・・くっそぉ・・あの女~~~・・・。

戻ってきたら覚えて・・・・ん?戻ってきたら・・・。

鈴は、急激に冷めていく頭で辺りを見回す。

・・・・あたしと、一夏だけじゃん!

そう、さっきのやり取りの間に、ほとんどの利用者は更衣室を去り今は一課と鈴しかいない。

あのバカ女、やったことは許せないけど、いいタイミングで出て行ってくれたじゃない。

「全く、箒も・・・悪いな鈴。あいつも悪い奴じゃないんだけど、ちょっと色々不器用なんだよ」

「別いいわよ、そんなに喉乾いて無かったし」

「でも、結構、欲しそうな・・」

「大丈夫よ!・・・・それより・・・さ」

急に打って変わってもじもじと、しおらしくなる鈴。

それに一夏はほんの少しだけ、心を揺さぶり一夏の頬を少し赤く染めていた。

い、一夏が、その赤くなってる・・・。

一夏が少しなりとあたしを女友達ではなく、

女の子として見てくれているという事が、分かっただけでも鈴はうれしかった。

だが、鈴はあえて、それよりも少し踏みこんで質問をする。

「その、一夏は・・あたしが居なくなって、さみしかった?」

「そ、そりゃ、遊び相手がいなくなったわけだしな」

う~ん、でもこういう所はやっぱり鈍感だ。まぁそういう所も含めて好きなわけだが。

「そうじゃなくてさぁ~・・・なんて言ったらいいのかなぁ」

聞き方に困っていると、足早にスポーツドリンクを買いに行った箒が帰ってくる。

・・・・っち、こいつ早い・・。

箒はダンッと、ベンチにスポーツドリンクを叩きつけるように置くと、チラッと鈴を見て余裕の笑みでこう言った。

「今日は、シャワーは先に使って構わん、ではまた後でな」

それだけを言い残して帰って言ったのだが、鈴には気が気では無い。

し、シャワー!?なに、あの子とどういう関係なの!?

そんな気も知らず一夏は、明るく助かるぜと、手を振っていた。

「い、一夏!!あの子と・・・シャワーって何の話!?」

「え?何のって、シャワーの先か後を決めて・・・」

えぇい、そう言うことじゃないのよ、この朴念仁!!

「だからなんであの子と、どういう関係よ!!」

首をゆさゆさゆすって、問い詰める鈴に一夏は、

ようやく意味を理解した一夏は、鈴を諭し落ち着かせると説明した。

「箒とは、部屋が一緒なんだよ。それでシャワーの順番とか言ってたわけ」

「一緒!?じゃああの子と、寝食を共にしてるってわけ?」

「まぁな、でも箒で良かったよ、幼馴染だし気心も知れてるからな」

そうか・・・・・なるほど・・・。

ふーん・・じゃあ

「幼馴染なら良いのね・・・フフフ・・・幼馴染ならいーんだ・・・フフフフッ」

「り、鈴・・・お前怖いぞ・・・」

あの女見てなさいよ!!!

鈴は不敵な笑みを絶やさず、一夏の不安を余所に次なる作戦を考えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

う~ん・・・わからん。

 

あれからずっと、セシリーの怒った理由を考えていたけどさっぱりだ。

姉さんは、これまでの事を全部考えてみろって言ってたけど、考えても糸口すらつかめない。

あ~~~もう・・・・。

僕は、何か飲み物を飲もうと冷蔵庫を漁る。

「あれ?」

あいにく冷蔵庫には飲み物は全く入っていなかった。

入っていたのは、食べかけのスナック菓子とゼリーのみ。

・・・・・そう言えばこの前、全部飲んじゃったんだっけ。

仕方がない、購買に行こう。

僕は財布と、カギを持って部屋を後にした。

 

丁度、階段を降りる直前だったかに、誰かのどなり声がする。

・・・この鋭い声は・・箒?

気になった僕は、その声がした部屋を探そうと思ったが・・・すぐに見つかった。

なにせドアの前が黒山の人だかりだったのだ。嫌でもわかる。

僕は手近な生徒に声をかけた。

「何の騒ぎだい?」

「あ、アルディ君、よくわかんないけど篠ノ之さんと、今日転校してきた子が騒いでるっぽいよ」

ふむ・・・よくわからないシュチエーションだな・・・。

僕は女の子の間を縫って、部屋にたどり着く。

その間、色々当たるものがあったが、邪神よ去れ、信ずる者は救われるのだの精神で乗りきった。

ドアの前に立つと、扉に耳を当てて中をうかがう女子三名と目が合う。

「アルディ君、中々面白いことになってるよ!」

「・・・・君たちもまぁまぁ、面白いと思うけど」

「まぁね~」

褒めてないっていうのに。

「で、何が起きてるの?」

「それがね、あの鈴って子が篠ノ之さんに部屋変わってって言いに来たみたいなのよ!」

あ~なるほど・・・。

そりゃそうだよなぁ、一夏を好きなわけだし自分以外の女の事相部屋なんて聞いたら黙ってられないよね。

僕も、習って耳を当ててみる。

「アルディ君だってやってるじゃん」

「・・・いいの」

耳を澄ませ中の音を聞く。

どうやら鈴と箒が激しく言いあっているようだけど・・・・。

一夏は?

・・・・あぁ、聞こえた。

箒と鈴から選択肢を突き付けられているみたいだ。

・・・ある意味究極の選択だよな。

と、突然

バッシーン!!!

耳をつんざくような衝撃音が中から。

流石の女子たちも、驚きを隠せない。

僕だってそうだ。

急いで部屋のドアを開ける。

幸い鍵は開いているみたいだ。

「今の音、大丈夫!?」

バッと勢いよく中に入ると、そこには〝甲龍〟を部分展開した鈴が、

箒の一閃を受け止めているという、中々ハードなシーンが展開されていた。

「今の、普通の人が相手だったら本当に危ないよ・・・・」

真剣なまなざしで、鈴にそう告げられる箒。

確か箒は全国大会で優勝したと、一夏は言っていた。

そんな箒の一閃だ。鈴の言うとおり普通の人が相手ならまさに凶器だろう。

そしてそのことを、指摘されて気まずい顔で竹刀を収める箒。

なんとかなったみたい。

・・・・・っていうか、僕は言った意味無いね。

まぁ、開けてどうするつもりでもなかったけどさ。

箒を退けた鈴は、一夏に詰め寄る。

そう言えばさっき、ドア越しの会話では約束がどうたらこうたら言ってたな。

「で、鈴・・・約束の事なんだが・・・」

あぁ、やっぱり今からその話なんだな。

「うん、一夏!覚えてるよね!!」

期待に満ちた笑顔で一夏の返答を待つ鈴。

そして一夏がゆっくりと、その内容を口にする。

「えーっと・・・・確か、鈴の料理の腕が上がったら・・・・」

「そうそう!」

「毎日酢豚を―――――おごってくれる・・・・だったか?」

「・・・・・え?」

鈴の顔が固まる。

どうやら違う見たいっぽいけど・・・?

「だから、料理の腕が上がったら毎日酢豚をごちそうしてくれるって約束だろ?」

腕を組んで、確信の顔でうなずく一夏。

目をつむっているから多分、鈴の変化に気が付いていない。

鈴はわなわなと体を震わせ、その瞳には涙も見える。

・・・なんだかデジャヴだなぁ。

そんな事を思っていた直後・・・。

パァンッ!

乾いた音が、部屋に響く。

僕も、そして箒も、もちろん叩かれた一夏本人も。

みなが唖然とする中、鈴の怒号だけがその場を支配する。

「最っっ低!!!女の事の約束一つ覚えてられないなんて、男の、いや人間の風上にも置けないやつねッ!!今度のクラス対抗戦、覚えてなさいよ・・・・・」

冷たく一夏を睨む鈴。そしてボソッとそれでいて背筋の凍るような声で言い放つ。

「殺す・・・」

僕に言われたわけじゃないのに、この迫力・・・。

鈴はそれから足元にあった、ボストンバックを乱暴に肩にかけると、目を覆って出口へと走る。

・・・・・ん?出口。

こっち!?

普段ならすぐに気付くだろう。当然だ。

目で見えるからね。

でも、いま鈴は、涙を一夏や周りの生徒に見せまいと目をふせている。

僕の予想通り、鈴は僕に気付かず、そのまま突っ込んでくる。

「わっ!?」

「とっ!」

僕もそんな事、考えていたのが悪かった。

避けるのが遅れて、鈴に押し倒されてしまう。

「いったぁ・・・あんたねぇ、ボケっと突っ立てんじゃないわよ!!」

「そんなこと言ったって、そっちだって突っ込んできたじゃないか・・・」

ていうかちょっと鈴、暴れないで!

て言うかむしろ早く立って!!

ドアも開いてるし何より、状況が状況だ。

こんなとこ、セシリーにでもみられたら、ますます状況が・・・。

「全く何を騒いでいらっしゃいますの?」

・・・・うそぉ・・・。

今一番聞きたくない声が、後ろからする。

・・・終わった。

そして、セシリーが姿を現した。

「・・・・・・」

「あ・・・・・」

それしか、声が出なかった。

向こうは、そんな声すら出ないらしい。

一瞬だがセシリーの顔が、苦虫をかみつぶしたように歪んだのを僕は見逃さなかった。

だが次の瞬間には、いつも通りの調子で、鈴に手を差し伸べ鈴を立たせる。

「何があったのかは知りませんけれど、お気をつけなさいな」

「うぅ・・・まぁ、ありがと」

それだけ言い残し、セシリーはすました顔でドアの視界から消えた。

だめだ、追いかけないと。

でも追いかけて何を言えば・・・

えぇい、そんなの後で良い!

「セシリーッ!」

大声でセシリーを呼ぶ。

そのまま行ってしまうかと思ったが、意外にも足を止めてくれた。

「何でしょう?」

「あ、いやその・・・」

だがその次が出てこない。

頭が真っ白になるっていう言い方は、あながち間違っていないようだ。

「何もないのなら、呼ばないでくださいまし。〝アルディさん〟」

「え・・・・!?」

あぁ・・・・・くそ・・・。

アルではなくアルディさんと呼んだ。

それはつまり・・・・そう言うことだ。

完璧な拒絶。

・・・・これは、大変な事になった。

話するとかしないとかの次元じゃないぞ・・・。

 

 

結局、セシリーと話すことができないままクラス対抗戦を迎えてしまった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「バイパス安定。どう調子は?」

薄暗い部屋。

PCのモニターが発する光だけが、人の表情をかろうじて映し出す。

映し出された表情や、体の形状から判断するに、声の主は女性の様だ。

「大丈夫です・・・・ちょっとまだ重いですけど」

「大丈夫、すぐになれるわ。もうすぐ、システムも着床するころだから」

女性の声に、少年の苦笑をはらんだ声が反応する。

闇に浮かぶシルエットは鋭角的で、バックパックに四つの砲をラックしている。

一見するとISの様だが、その姿はどことなく工業的で、ISの様なスタイリッシュさは見受けられない。

「フフ、これを見たら、なんて言うかしらね。皆やっぱりISだって言うのかしら」

「外見そうですもんね」

「でもこれは、そんなものじゃないわ・・・・。

篠ノ之束・・・・。世界を馬鹿にしたツケは大きいわよ・・・私たちが見せてあげるわ・・その大きさを・・」

女性は、いったん言葉を区切り不敵に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このIS-Nでね」

 

 

 

 

 

 

 



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第7話~あのサクラメントの夕日~

クラス対抗戦だけに、アリーナの観客席は満員御礼だった。

そりゃ当然だろう。

今日戦うのは、中国の代表候補生の鈴と、世界で二人だけISを動かせる男の一夏なのだ。

否が応でも、注目が集まる。

一応リザーブで待機しておけと言われ、ISスーツに着替えて、ピットで待機しているものの、

今日、出番はないだろうね。

僕の祈りが通じたのか、一夏は大きなミスもなく無傷で今日までたどり着いたのだから。

・・・それに今僕はそんな事を心配してる場合じゃないんだよなぁ・・・・。

僕は、セシリーの事を思い浮かべる。

今思っても、タイミングの悪さと、運の悪さの二つに頭が痛くなる。

・・・まるでドラマ見たいじゃないか。

流石はセシリー狙いは外さないってか?

・・・冗談じゃないよ。

そんな狙いは外してほしかったなぁ・・・。

僕は、ため息交じりにチラッと時計を見やる。

もうそろそろ、来てもいいことなんだろうけど・・・・。

と思っていた矢先。

「あれ、アルディ準備早いな」

選手がピットへご到着だ。

「まぁ僕の場合、ただISスーツ着て待ってるだけでいいからね、一夏みたく出場選手じゃない僕は気楽でいいよ」

「自分で言うなっての」

ははっと笑いあうが、全然気持ちが晴れません!!

一夏は早速、〝白式〟を展開し、準備を始める。

「一夏、お前以前アリーナで鈴のISを見ただろう?」

一緒にいた箒が、一夏に聞く。

「あぁ、あの赤っぽい奴だろ、見た見た」

「今回は、どうやら接近戦になりそうだな、セシリアの時とは違って。」

「だな、流石に俺も、毎日お前に鍛えてもらってるんだ。

代表候補生相手とはいえ、女に遅れはとらねぇよ!」

力強い返答に、箒も満足そうにうなずく。

「でも、一夏気を付けなよ。鈴のISのパワーは本物だからね」

「そういや、お前吹っ飛ばされてたな」

地味に恥ずかしい・・・。

「と、とにかく、僕の〝ストライク・バーディ〟を一撃であの高さからたたき落としたんだ、注意するにこしたことはないだろ?」

「まぁな・・・」

パワータイプは、組み付かれると振りほどけない。

僕のはまだ重さや装甲分の厚さがあったから、ほぼ無傷(痛みはかなりあったけど)で済んだけど、あれが〝白式〟だったら、流石に無傷とは行かないだろう。

更に鈴には、それなりのスピードがある。

それにあれは、全然本気じゃなかった。

それを思うとやはり代表候補生と、そうでない人との、

実力差は月とすっぽん並みに離れているのかもしれない。

言うまでもなく厄介な相手だ。

『聞こえているか織斑?』

スピーカーから織斑先生の声がする。

一夏はそれに、ISのオープンチャンネルで答えた。

「はい、聞こえています」

『そろそろ、時間だ。準備は良いな?』

「・・・大丈夫です」

『よし、サウスバード、篠ノ之お前たちは、管制室に来い。特別に特等席から見せてやる』

特等席だってさ。

まぁ、立ち見やピットのリアルタイムモニターよりは、鮮明に見えるだろう。

「一夏・・・・」

「なんだよ、箒。その顔は」

「前にも行言ったが、負けるなよ?」

「あぁ!」

一夏の力強い肯定の声が聞こえたと同じぐらいのタイミングで、

ピットの通路ハッチは閉じられた。

「まぁ、大丈夫だって」

「・・・ふん、し、心配などして・・ないぞ!?」

今さら、言い訳しても遅いよ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

セシリアは、多くの観客が詰めかけた客席の最上段から、アリーナを見降ろしていた。

ただ、そこに明確な理由はない。

ただ、なんとなく。

本当になんとなくそこにいた。

あの時見た光景。

誰がどう見ても、彼は被害者だった。

彼は悪くない。

ただの事故なのだから。

でも、どうしてもセシリアは、その状況を見て事故だから仕方ないと割り切ることができなかった。

相手が鈴だったから?

自分じゃ無かったから?

分からない。

何度考えても・・・。

もう、そんなこと考えても仕方がないというのに。

彼は・・・そう・・・もう私を必要としていない。

初めから誰でもよかったのだ。

でなければ、鈴との模擬戦の時もあんな楽しそうな顔はしない。

自分の時には、あんな顔見せたこと無かったのに。

セシリアは焦点の定まらない目でボーっと、アリーナを見ている。

何も、感じず。

何も考えずに。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「逃げずに来たじゃない!」

鈴の自信と余裕の声が、ISのチャンネルから聞こえてくる。

「誰が逃げるかよ、誰が!」

「覚悟なさい。今日のあたしは、初めっから何もかもが振り切れちゃってるんだから!!」

どうやらその言葉に嘘は無いらしい。

目の色が違うし、何より手に持っている、〝双天牙月〟が今にもへし折れそうだ。

一夏は、若干冷や汗をかきながらも気合を入れ直す。

目の前にいるのは、代表候補生なんだ。

鈴とはいえそれは変わらない。

「鈴!俺が勝ったら、約束の事説明してもらうからな!!」

「大丈夫よ、その必要はないわ。だって・・・」

鈴は大きく両手の〝双天牙月〟を振り回すとそれを柄の部分で連結させて一本にする。

そしてそれを大きく振りかぶって、こちらへ投擲してきた。

「あたしが勝つから!!」

高らかな勝利宣言と共に、試合開始のブザーが鳴る。

鈴の攻撃は若干早かったが、到達がブザー後だったため有効だ。

「鈴!頭に血が上って、血迷ったのか?自分の武器放り投げて・・・丸腰だっ!!」

一夏は一気に間合いを詰めると、丸腰の鈴に切りかかる。

「もらった!」

「あんた、馬鹿ね・・・あたしは代表候補生よ!!」

その時、一夏が衝撃音と共にアリーナの側壁へ吹き飛ばされる。

かろうじて、体勢を持ち直せたものの、アリーナ側壁への直撃。

痛いでは済まない激痛が体を走る。

い、一体なんだ!?

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

一夏が吹き飛んだ映像は、管制室のモニターでも確認できた。

「なんだあれは!」

箒が思わず叫ぶ。そりゃそうだ僕も何が起きたのか分からない。

すぐに、鈴のISのデータを閲覧し山田先生が、答えた。

「〝衝撃砲〟ですね・・・空間圧縮兵器の一つです」

「空間圧縮・・・?」

聞き返した僕に答えたのは、織斑先生だった。

「空間に圧縮をかけ砲を形成し、その余波で生じる衝撃波を砲弾変わりに打ち出す、第三世代兵器だ。

ウェイトがある分、即対応時の射撃には向かんが・・・」

一度目をつむり、そして勢いよく目を開く。

「その砲弾は目に見えない」

目に見えない、砲撃・・・・。

そんなもの積んでいたのか。

やっぱりあの模擬戦、ただ遊ばれただけだったんだ、僕は。

チラッと箒を見やると、手をきつくグッと握っている。

これが安全の考慮された、命の危険の無い模擬戦であってもやっぱり、心配なんだろうね。

「それに、あの〝衝撃砲〟には砲身傾斜の制限が全くありません・・・」

つまり、見えない砲撃を三六〇度制限なく撃てるということか。

・・・・本当に厄介な相手だ。

と、急に一夏の飛び方が変わる。

何かするつもりなのか?

初めの、間合いを詰める方法から一転、鈴から距離を取り始める一夏、

一夏に射撃武器はないし・・・・離れて良い事なんて・・・。

「〝イグニッション・ブースト〟を使うつもりだな・・私が教えた」

「イグニッション・ブースト?」

また聞き慣れない単語が出てきたぞ。

それに人差し指を建てて山田先生が、説明する。

「慣性エネルギーを使用した、特殊加速技術ですね、外部エネルギーを一度取りこんで圧縮。

それを一気に放出する事で、一瞬でトップスピードに到達するテクニックです」

「あの馬鹿でも、出しどころさえ間違わなければ、代表候補生と互角に渡り合えるテクニックだが・・・・チャンスは一度きりだ」

一度・・・。

代表候補相手にたった一度の少なすぎるチャンス。

ものに出来るのか・・・・。

モニターを見上げる僕の手も箒同様、グッと握られ手汗で、びっしょりだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

距離を取るんだ。

チャンスは必ずある・・・。

いくら、砲身傾斜が無制限って言ったって、打ち出す所は一つしかないんだ。

ランダム機動を繰り返せば、必ず追いきれない角度ってやつが出てくる。

一夏は、ひたすらその機会を待つ。

鈴の衝撃砲〝龍砲〟は今も確実に自分をとらえている。

だが、どうやらそれを鈴はオートにしているようだ。

狙いだけ定めてタイミングだけ鈴が指示している。

それなら!

機械は正確だ、驚くほどに。

だがその正確さがアダになることがある。

一夏は方向転換から〝イグニッションブースト〟の移行を、絶え間ない訓練の成果で完璧にこなす。

一瞬、本当に一瞬だが、〝龍砲〟が一夏をとらえきれず砲身が一夏からそれた。

今だ!!

それと同時に、圧縮されたエネルギーは一瞬で〝白式〟を、一夏を、トップスピードまで押し上げる。

「ぜあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ッ!?」

刃がもう一歩で鈴に届く、その時だ。

アリーナは、轟音と巨大なクレーター、そして砂煙に包まれた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

何だ!?

モニターから一夏達が見えなくなって、次に見えた時には何やらクレーターの中心に機械的な〝何か〟がいた。

「試合中止!織斑、凰!すぐにピットへ避難しろ!」

織斑先生の、切迫した声が緊急事態だという事を、否が応でも認識させる。

「IS・・・なのか?」

「アリーナにはシールドがある。それを突き破ってきたんだ。少なくとも通常兵器じゃないね」

冷静そうに言う僕だけど、前以上に手汗は凄いし、冷や汗だって止まらない。

その時、耳を疑いたくなるような言葉が一夏の口から飛び出した。

『いや・・・・俺達でなんとか抑えよう』

何だって!?

そう思ったのは箒も同じだったようだ、山田先生のインカムをひったくると声を張り上げる。

「一夏!もうすぐ、教師陣が到着する!早くピットへ戻るんだ!!」

『箒・・・でも、それにはまだ時間がかかるんだろ?』

「そうだな・・今三年の精鋭がシステムクラックを実行中だがすぐと言うわけにはいかん」

腕を組んだまま、淡々と述べる織斑先生。

それを聞き、だったらと続けた一夏。

『少なくとも、その時間分稼いでみる・・・・大丈夫さ、こっちには代表候補生もいるしな』

そう言って鈴を見る一夏。

鈴の顔も、今までと比べ物にならないほど真剣だ。

でも・・・相手が相手だし・・・。

「・・・・・分かった。その代わり無茶はするな。少しでも身の危険や命の危険を感じたら、すぐにピットに戻れ、良いな?」

『・・・はい』

力強くうなずいて、通信が切れる。

沈黙の訪れた管制室に、次に響いたのは山田先生の声だった。

「織斑先生!」

「大丈夫だ・・・本人たちがやれると言っているんだ・・・・任せてみようじゃないか」

全く弟も、弟なら姉も姉か・・・・。

あれ・・・それはひょっとして、僕が言えない?

 

そして再びモニターが開くと、そこには一夏・鈴のペアが、アンノウンと戦っている姿をがあった。

アンノウンは、上半身と下半身のバランスが明らかにとれていない、奇妙な形をしていた。

頭部には複数のカメラが動き、動きもどこか〝人工的〟だった。

それでも、一夏の〝一撃必殺〟のザンゲキはことごとくかわされ、隙を縫って攻勢に転じる姿は確かに人間っぽい動きのようにも見える。

・・・・・なんだろう、この変な感じ。

僕はその違和感の正体をいまだつかめていなかった。

そうこうしているうちに、一夏達が追い込まれていく。

アンノウンの放ったレーザーが、よけきれなかった一夏のスラスターに当たり、体勢を崩す。

それが絶望的な隙を生む。

その時誰もが思った。

・・・・・まずいと!

しかし、またもアリーナは、轟音に包まれてしまった。

二度あることは三度あるとはよく言うが、これは一度あることは二度あるだ。

砂煙が晴れると、一夏とアンノウンの間に、入るようにして一機の黒いISが立っていた・・・。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

なんだ、何か起こったんだ!?

それに、コイツは一体。

俺の目の前に立つ〝ソレ〟工業的な角ばったフォルムに、

バックパックに二門の荷電粒子砲を背負っている。

顔はバイザーで覆われており表情を確認する事は出来ないが、男と言う事だけは分かった。

「お、お前は・・・・」

「・・・・・・」

無言でこちらを、一瞥したあと、両手に構える荷電粒子砲がアンノウンに向けて放たれる。

その威力はすさまじく、〝龍砲〟の直撃にも耐えたアンノウンが、いとも簡単に吹き飛ばされる。

体勢を立て直す暇さえ与えず、〝ソレ〟はアンノウンに砲撃を浴びせていく。

それはどれも正確で無駄が無い。

もはやそれは、戦闘ではなかった。

あれだけ俺達を苦しめたアンノウンがただの動く的になり下がっている。

両腕を吹き飛ばされても尚、攻撃姿勢を取るアンノウン。

だが、両手に多くの兵器を集中させていたアンノウンは、ほとんど丸腰に近い状態だ。

それに対しても、なんの躊躇なくトリガーを引いていく。

程なく、すべての武装をつぶされただ立っているだけになったアンノウンに、とどめの一撃が放たれる。

「・・・・・・・鉄クズですね」

冷たくつぶやき、頭部・胴体・脚部のすべてに一瞬で荷電粒子砲の雨が降り注ぎ、大爆発を起こして吹き飛ぶアンノウン。

そこで一夏はハッとする。

「お前!操縦者は!」

「・・・・・大丈夫です、これは無人のISですから・・・それより・・・」

〝無人のIS?〟

そんなものがあるのか?

普通ISは人間が乗りこまないと動かない。

ISとはそういうものだ。

だがこれは無人・・・。

呆然とする俺に、〝ソレ〟が近寄ってくる。

助けてくれたはずの相手に対して、嫌な汗が流れる・・・。

コイツは・・・・コイツは!!

「君も、鉄クズにしてあげます・・・」

敵だ!!!

「一夏下がって!!!」

「っ!」

鈴が〝龍砲で牽制すると、予想外の攻撃だったのか一瞬隙が生まれる。

スラスターがうまく稼働しない〝白式〟に鞭打ち、無理やり浮上して、追撃の荷電粒子砲を回避する。

まずい・・・これはまずい・・・。

シールドエネルギーは、ほぼ底を尽きかけ、鈴も、アンノウンに片側の〝龍砲〟を破壊され、

満足に火力を発揮できない状態だ。

そんな中で、あれだけの火力を持つISを相手になど出来るわけもない。

・・・・どうする!!

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ぼうっとしていたセシリアだったが、この非常時にまで呆けているような人間では無い。

これでも、腐っても候補生なのだ。

すぐに頭を切り替え、情報を整理する。

進入してきたISは一機・・・。

装備はあの四門の荷電粒子砲ですわね・・・。

荷電粒子砲は、一発単価は高火力だが、その反動の大きさや狙いのつけにくさ、連射速度などは

以前アルディの〝ファイアーフライ〟を撃った時に分かっていた。

先ほどの戦闘で、セシリアの目は、あの正体不明機が射撃の際に砲身がブレ、わずかに

狙ったところへ撃てなかったことがあったのを見逃していなかった。

一方こちらの装備は、反動の少ないレーザーライフルに自立機動のビット〝ブルーティアーズ〟がある。

大丈夫だ。やれる。

そこまで考えて、こんな事を考えられたのはアルディのおかげだ、と言う事に気が付く。

アル・・・・。

あんなに拒絶反応を見せていたセシリアだったが、正直彼に会うのが怖かった。

本当に今度こそ、彼の口から〝もういいよ〟と言われてしまうのではないかと。

自分はまた、失ってしまうのか大切なものを・・・。

って、いけませんわ・・今は集中しないと!!

かぶりを振って沈みそうになった気持ちを切り替え、セシリアは〝ブルー・ティアーズ〟を起動し、

さっきあのISが撃ち抜いたアリーナのシールド破損部へ機体を躍らせた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

一体何なんだ、あいつは・・・。

目の前で信じられないものを見ている。

僕は、あのISの介入と同時にロックが解除されたピットへ来ていた。

当然、ロックが解除され田と言う事は教師陣ら制圧部隊も駆けつけるということだ。

ようやく、終わった。そう安堵しかけたが、どうだ?

国家の代表や、代表候補だったこの学園の教師陣がハエのごとく叩き落とされてくる。

既にアリーナの地面には、何十体という〝打鋼〟が行動不能状態で墜落している。

・・・・まずい。

あれは本当に。

「織斑先生!」

「無理だ・・・もう機体が無い・・・」

苦虫をかみつぶしたような顔で、告げる織斑先生。

一夏達も、なんとか逃げ回っているが、もう機体も人間も限界だ。

僕も出ていきたいが、あの実力差では・・・。

諦めかけたその時アリーナの上空で何かが、きらめいた。

それは鋭角的なデザインを持つ、イギリスの専用機。

〝ブルー・ティアーズ〟・・・セシリー!!

程なく、ブルー・ティアーズの攻撃が始まる。

流石の黒いISも、エネルギーを使い過ぎたのか、攻勢に転じることなくその攻撃の回避に専念している。

その間に一夏達も距離を取って一番近いピットへ避難する。

一夏達の無事に安堵しながら、セシリーの攻撃をことごとく回避する黒いISに恐怖と戦慄を覚えた。

凄い・・・・一発も当たらない。

エネルギーが無いにしても、あの機動力は・・・。

だがそのエネルギーが無いのだろうという考えは、黒いISの取った次の行動で疑問に変わる。

黒いISが、地上でまだ動けるISが構えた、銃に向かって荷電粒子砲を撃ったのだ。

なぜだ・・・?

今のは別に撃たなくてもよかったはずだ。

反応できていたのだから・・・・・。

まさか!!

僕は、ISを展開して一気に飛ぶ。

セシリーが・・・セシリーが危ない!!

ハイパーセンサーが射撃に集中するセシリーの後ろから急速に接近する紫色のISをとらえる。

頼む!!間にあってくれ!!!!

必至で重い機体を加速させる。

スラスターも悲鳴を上げるが知ったことじゃない!

むしろ馬鹿でかいんだから、もっと加速しなよ!!

そのISは、手に槍を持っている。

それを構え、今まさにセシリーに切りかかろうとしている。

やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!!

そして槍は振り下ろされた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

あ、当たらない!!

この私を遊んでいらっしゃいますの!?

黒いISは、セシリアの攻撃を、あれよあれよと回避し、エルロンロールやインメルマンターンなど〝曲芸飛行〟まで入れるほどの余裕ぶりを見せつける。

それは、プライドの高いセシリアにとって耐え難い屈辱だった。

ライフルを持つ手が、怒りで一層強くなる。

絶対に当てて見せますわ・・・・!

ビットのけん制で動きを制限しつつ、ライフルの照準を合わせる。

ハイパーセンサーによる補正で敵ISの操縦者の顔まではっきりと見える。

当てる!!

そう強く念じ、狙いを定めトリガーを引こうとした時、相手がこれまでにないぐらい不敵に笑った。

「・・・・ッ!!」

ハイパーセンサーの警告音と共に顔を上げる。

そしてそこでようやく後方からくるISに気が付いた。

完全に致命的なミス。

〝射撃時における周囲の安全確認不良〟

こんなところで終わりですの・・・・。

セシリアはそう思った。

せめて彼と、仲直りだけはしたかったですわね・・・。

ゆっくりと目を閉じる。

・・・・だが、身を切り裂くような痛みも、何も感じなくなるという死の感覚も、何も訪れない。

セシリアは、疑問に思って目をあける。

そこには、仲直りしたいとたったいま思った少年がいた。

「あ、アル・・・・」

「諦めるなんて・・・・らしくない・・・・・・こういう言い方するとまた、叩かれる?」

ハハっと笑う彼だったが、その顔は苦痛にゆがんでいる。

見ると相手の槍が、深く腕のアーマーに突き刺さっていた。

ISは、より操縦者が扱いやすいように手で持った感覚。

つまり柔らかいや固いとかそう言った感覚をフィードバックする。

そしてそれは痛覚も例外ではない。

恐らく今、彼は気が飛びそうなほどの激痛に耐えている。

そう、拒絶を示した、あんなにふうに言ってしまった自分を守って。

その彼が、苦しみながらも声を出した。

「せ、セシリー・・・・正直言って僕はまだ、どうしてセシリーが怒ってるのか・・・・

はぁっ、見当もつかない。でも・・・でもね・・・これだけは言えるんだ。

君は僕にとって必要な存在だから・・・。

怒らせといて、都合のいいこと言ってるかも知れないけど、

これからもさ・・・色々教えてほしいこといっぱいあるんだ」

あぁ・・・自分は本当に馬鹿だ。

あの時もそう思ったが、あのとき以上に自分は大馬鹿ものだ。

初めは変な嫉妬心からだったのかもしれない。

アルが鈴と笑顔で模擬戦をしている所見て、なんで自分じゃないのかと思った。

そして一方的に拒絶して、気付いてくれないことにいら立って、彼を叩いて。

そのまま自分で勝手に、もう私は必要ないんだと決めつけて・・・・。

彼も自分を残してどこかへ行ってしまうのだと。

でも、それは違った。

彼はどこへも行ってなどいない。

彼はそこにいる。

「物分かりの悪い僕だから・・・・何言っても一回じゃ、よく覚えられない僕だから・・・

だからその度に、セシリー、君が・・・・はぁはぁっくぅ・・・君がその度に僕に言ってよ・・・

いつも見たいに笑ってさ、怒ってさ・・・ね・・・」

そう彼は、ここにいる。

私の目の前に!!

セシリアは先程までの動揺など毛ほども見せずに、目にも止まらぬ速さでビットをコントロールして、紫色のISに攻撃を加える。

「てめぇッ!!」

女性の乱暴な口調が聞こえるがセシリアはそんな事気にも留めずに、

いつもの気丈な声で言い返す。

「よくも人の殿方に、手を出してくださいましたわね・・・・その代償は大きいですわよ!」

ビットの攻撃に、気を取られた一瞬の隙を突いて、

セシリアのレーザーライフル〝スターライトMkⅢ〟が火を噴く。

「ちいぃっ!!この!!」

その閃光は、またたく間に紫色のISを切り刻む。

主兵装であろう、槍も貫かれて爆散した。

味方の危機を察して、離脱する紫色のISを援護すために黒いISが救援に駆けつけるがそれには、体勢を立て直したアルディのISが迎え撃つ。

「君の火力と、僕の火力・・・・どっちが上だろうね?」

息をなんとか整え、いつもの口調で話すアルディにセシリアは安堵した。

あの黒いISの圧倒的な実力を見ても、セシリアにはアルディが、

負けることなど想像できなかった。

それは、アルディを信じているから。

それは、アルディを認めているから。

そして何より、

アルディが好きだからである。

「まいりますわよ、アル!」

「蹴散らそう!!」

互いに自信たっぷりに頷くと、黒いIS目掛けてトリガーを引いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

よかった。

本当に・・・。

間にあって。

そして何より、セシリーと仲直りできて。

アルと呼ばれた時、それがたまらなくうれしくて、そして心強かった。

負けるわけにはいかない!

いや違う。

セシリーがいるのだ。

負けるわけがない。

黒いISは一旦距離を取ると、背面にラックしていた荷電粒子砲に持ちかえ、

再び狙いを定めて撃ってくる。

ケーブルが見えていることから、どうやら荷電粒子砲は充電式のようだ。

とすると、再充電されると厄介だな。

「セシリー!」

「即攻ですわねッ!」

〝ブルー・ティアーズ〟のビットが舞い、黒いISの周りにレーザーの花を咲かせる。

「っく、悪あがきを!!」

言いながらも、的確な操縦でレーザーを避けるのは流石だが、ならこれはどうかな。

僕は〝ウェポンスクエア〟のミサイルハッチを開き小型ミサイルを発射させる。

そのミサイルを神業とも言うべき、タイミングとコントロールでセシリーのビットが不規則に

爆破させていく。

「これは!?」

不規則な爆発に対応しきれずに、思わず攻撃と機動をやめる黒いIS。

その隙を待ってたんだ!

背部の〝ウェポンスクエア〟が前にせり出し、小型スラスターが高度を維持する。

爆煙が晴れた時、相手が見たものは、自分の方へ向けられた絶望的な火力だった。

「Power is justice!・・・アメリカ人に喧嘩売ったこと後悔するんだね」

「っく、させるかぁ!!」

相手は素早く、機体を立て直し一気に間合いを詰めてくる。

・・・・・かかったね。

黒いISの射線上に鮮やかな青色のISが躍り出る。

「なっ!?」

「フィナーレですわ!」

セシリアのビットが僕の行動に気を取られ、完全に無防備となった黒いISの真後ろから

スラスター部を正確に攻撃する。

制御を失った、ISはセシリアの上を通過。そして補助スラスターの点火と

PICのおかげでようやくその動きを止めることに成功し、僕の高圧荷電粒子砲に耐えるべく〝頭部を中心に防御する〟。

「見かけにだまされちゃだめだよ?」

「何といいましても彼は・・・」

「「嘘つきだからね」」

ズガァァァァァァァァンッ!!!!!

「ぐあぁぁぁっ!!」

敵にとどめを刺したのは、腹部への荷電粒子砲の一撃だった。

この作戦はこんな感じだ。

まずミサイルとセシリアのビットで弾膜と煙幕を貼り、視界を遮った後

僕は〝アヴァランチ〟の準備をしてセシリアはその影へ。

そして、相手が隙のでかいこの〝アヴァランチ〟を阻止すべく突貫してくる。

そこでセシリーのビット攻撃が役に立つ。

周囲に気を配れるだけの実力があっても、それは常にと言うわけではない。

追い込まれればそんな余裕など、どこかへ消し飛んでしまうものだ。

そうして、ビットでスラスターを破壊した後は、ご覧のとおりである。

僕は小型スラスターだけで、ゆっくりと旋回。

見た目で大きいのが来ると思わせておいての、ハッタリ攻撃だ。

いやぁにしても、面白いぐらいに旨くいったね。

墜落していく黒いISを紫のISが、再び降下して素早く回収していく姿を見ながら、僕は満足げに笑う。

ふぅ・・・・・。

色々あったけど、本当に仲直りできてよかった・・・。

ほんと、記念に花火でも打ちあげたいぐらいだよ。

ボンッ!

そうそう、そんな感じの音でさ。

バンッ!ボンボボンッ!

ん?なんだかやけに近いな。

バゴォォンッ!!

ひと際大きな音にびっくりするのもつかの間、スラスターが炎を吹いて自壊する。

「うぇうそっ!?」

多分あの時だ。

セシリーを助けるために、無理な加速を行ったあの時。

悲鳴上げてたもんなぁ・・・・ってそんな事言ってる場合じゃない!

この高さから落ちたら死ぬ!!

って、あれ!

IS自体も限界だったらしい。エネルギー切れでリミット・ダウンが始まる。

いよいよまずい!!

僕は、目をつむるが、いつまでたっても地表に叩きつけられないし落下感も無い。

むしろ何か、暖かいものに包まれているような感覚を覚えた。

ゆっくりと目をあけると、僕はセシリーに優しく抱きかかえられていた。

しかも・・・・その・・・。お、お姫様だっこで・・・助けてもらって言うのもなんだけど、

もの凄く恥ずかしい・・・・。

顔を真っ赤にする僕に、セシリーは悪戯っぽく肩目を閉じて微笑みかける。

「全く、女性にエスコートさせるのはマナー違反でしてよ?」

「き、緊急時はOKってことにしよう」

「ま、仕方ありませんわね」

満面の笑みで笑いかけられ、更に僕の顔は熱くそして赤くなったまま、地上へと降りて行くのだった。

 

 

 

ピットへ降り立つと、そこには織斑先生と山田先生そして、先にピットへ避難した一夏達が僕たちを出迎える。

「アルディ!怪我大丈夫なのか!?」

怪我?・・・あ。

今さらになって痛みが、よみがえってくる。

右腕に走った激痛に再び顔をゆがませる。

みると、アーマーを突き抜けた敵の槍は肘のあたりを、深く切り、血で真っ赤に染まっていた。

うわぁ・・・・こんなのでさっき、僕は荷電粒子砲を撃ったのか。

「サウスバード、先に治療して来い・・・変に細菌でも入ったら厄介だ」

織斑先生がしれっと、言い放つ。

・・・・もう少し心配してくれてもいいのに・・・。

トボトボとセシリーに促されて、治療室へ向かう。

それに一夏達も追随した。

ピットのハッチをでる時、背を向けてだが織斑先生がぶっきらぼうに言い放った。

「まぁ・・・なんにしても、全員無事でよかった」

それを見て、クスクス笑う山田先生が印象的だ。

それにつられて、皆の顔も笑う。

チラッとこちらを一瞥した、織斑先生の顔は照れて少し赤くなっていた。

 

「はい、これでよし!」

包帯を巻き、患部をポンと叩く保健室の先生。

「いっつ・・・・」

た、叩かないでくださいよ・・・。

痛みで体が、ビクッと反応する。

「これぐらい我慢なさい、男の子でしょう?」

これぐらいって・・・こっち切られてるんですけど。

はぁ・・・。

僕は礼を言って、保健室を後にする。

保健室の前のベンチには、皆が待っていた。

「それで、怪我はどうだったんだ?」

「腕を数針ね・・・ま、逆にそれだけですんだんだから、運が良かったよ」

「あんた意外と頑丈なのね、また吹っ飛ばしてあげようか?」

鈴が前と変わらず、だが前よりもどこか柔らかい言い方で、冗談交じりに言う。

冗談でも怖いよ・・・。

いまやられたら、それこそ体がバキバキになりどうだ・・。

目に見えた外傷はこの腕だけだったけど、見えない所のダメージも結構あるらしい。

保健の先生にも、しばらくは無茶は絶対にだめだと言われた。

・・・できても無茶なんてしたくないよ。

「そうか、よかったな・・・。あぁ~・・なんか安心したら、急に腹が減ってきた・・・着替えて食堂でも行かないか?」

一夏、君って・・・・

本当にずぶとい神経の持ち主だね・・・。

まぁ僕もお腹は減ってたし行こうかな・・・・。

僕も行くと言いかけた時、これまで一度もセシリーが口を開いていないことに気が付く。

見るとセシリーはどことなく、申し訳なさそうな、でも怪我が大したことなくて安心もしているような、そんな複雑な表情を浮かべていた。

・・・ふぅ。

「一夏、ちょっと用事があるから〝僕たち〟は遠慮するよ」

それを聞き自然に、そうか、それなら仕方無いと流す一夏と、ニヤニヤした目で見る鈴と、

そして、やれやれといった顔をする箒。

三者三様の顔で、僕たちを残して更衣室へと消える。

「セシリー、着替えたら・・・シャワー浴びた後でもいいけど、ロビーで待ってるからね」

「え、あの・・・アル・・」

そう言い残し、僕も更衣室へ消えた。

 

 

制服に着替えドカッと、更衣室の椅子に腰を下ろす。

・・・・今日のあれは何だったんだろう。

・・うまく撃退できたものの、実力は目に見えて違ったよな。

もっと、強くならないとな。

〝ストライク・バーディ〟だってまだ完全に使いこなせていない現状で勝てたのは、

やはりセシリーがいたからだろう。

誰かを守るって柄じゃないし、セシリーよりも弱い僕がそんな事思ってもしょうがないんだろうけど、何時か、何かを守れるぐらいには強くなろう。

いつしか、僕の中にはそんな気持ちが芽生え始めていた。

・・・・ってわッ!

意外に時間が経っちゃってたのか!!

遅れたら、セシリーに悪いし、急ごう。

僕は手早く荷物をまとめると、足早にロビーへと向かった。

 

 

夕焼けが世界を橙色に染め上げる。

僕が、ロビーに着くとそこには既にセシリーが立っていた。

橙色の光に照らされるセシリー。

ブロンズの綺麗な髪を、白い肌を、夕焼けが染め上げる。

・・・・綺麗だ・・・。

何か映画の一部分でも切り取ったかのような光景に心を奪われる。

「どうかしましたの?」

「え、あ・・・あはは・・」

セシリーが不思議そうに、訪ねてくる。

笑ってごまかしたが、セシリーにはどうやらお見通しだったようだ。

フフフっと笑って、悪戯っぽく手を差し出してくる。

「それで、私をどちらへエスコートしてくださいますの?」

「・・・こちらですよ、お嬢様」

僕はその手を取ると、ある場所へ向かって歩き出した。

そこは、僕が偶然見つけた、穴場のスポットだ。

見つかりそうで見つからない。

僕は校舎の上へ、どんどん階段を昇っていく。

そして到着したのは、屋上だった。

「ここが、連れてきたかった場所ですの?」

「違うよ、ここからもう一個上るの」

これ以上どこへ登ると言うのか。

疑問符を頭に浮かべたセシリーを、〝ストライク・バーディ〟の腕部のみを

部分展開させヒョイッと抱き上げる。

「ちょ、ちょっと!?」

「あーはいはい、暴れないでねー・・・」

まるで赤子をあやすように、言いながら、セシリーを屋上の出入口の上に乗せる。

それに続いて僕もフェンスを使って、そこへよじ登る。

「・・・・ちょっと汚れてるけど、ここ座って」

セシリーは促されるままにそこへ座る。

背中には給水塔があるが、それが丁度いい背もたれになる。

「セシリーあっちを見て・・・」

僕の指さす方向へ、セシリーが目を向ける。

それでも、イマイチ、ピンと来ていないセシリーに僕は指で枠を作ると、セシリーの目の前に置いた。

「あ・・・・」

「綺麗でしょ・・・まるでサクラメントみたいに・・・」

セシリーが見たものそれは、まさしくあの時見せた、サクラメントの光景だったに違いないと、

僕は確信する。

遠くに見える街並みと、眼前に広がる海と山。

それを、こうして指の枠で切り取ってやると、不思議なもので海は川に、

山は川岸に、そして市街地はサクラメントの摩天楼に見えてくる。

セシリーも僕が手をどけた後も、指で枠を作って、それを懐かしそうに眺めたいた。

「本当に・・・綺麗ですわね・・・」

「君と、どっちが綺麗かな?」

「・・・・・・クスッ、そうですわね、今は私ですわ」

「くさいって言わないんだね」

「だって、それアメリカでは、まだ、主流なのでしょう?」

あ、あはは・・。

これは、取られちゃったな。

二人が眺めるその先で、〝あのサクラメントの夕日〟はゆっくりと沈んでいくのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・・どうだ、山田君、解析の方は」

「ダメですね・・・無人機と言うことぐらいしか・・・こうまで破壊されては・・・」

織斑千冬と、山田真耶は薄暗い部屋の中で今日回収された、

無人ISと襲撃した二機のISの解析に追われていた。

だが無人機の方は、コアの損傷も激しく、あの黒いISが粉々にしてくれたおかげで、

解析は難航していた。

しかし無人機とは穏やかな話では無い。

現在も、無人機の開発は行われているものの、どの国も開発に成功したという話も聞かないし、ましてやそれがスタンド・アロンで戦うなど想像も出来ない。

ふむ・・・・。

「あの二機のISはどうだ?」

「アレについての方が、まだ情報はつかめてます」

片方だけですけど・・と続け真耶や千冬に端末を渡す。

そこには、交戦する紫色のISが移っていた。

「紫香楽・・・・か」

紫香楽家《しがらきけ》。つい最近自前のISを一機試作したという、元々武芸の名家だ。

ISを製造するには、莫大な資金や設備が必要だ。

いくら名家とはいえ、単独でそれを実現するのは難しいはずだ。

「しかもこのISは、しっかり国籍を持っています。登録されたコアをもとにして製作された

正規のISですね・・・」

真耶が端末を操作すると、その情報が千冬にも転送される。

・・・・〝紫燕《しえん》〟か。

黙り込んで、思考する千冬に真耶が声をかける。

「あの・・・織斑先生?」

「まぁ、何にせよ・・・面倒な連中が出てきた事は確かだろう・・」

そう言う千冬の目は、かつて世界一の座に君臨した時の、鋭い眼光だった。

 

 

 

 

 

 




筆者は、アメリカ大好きです。
行ったことありませんけどw


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第8話~天使のフレンチ・悪魔のジャーマン~

あの一件以来、余計に学園内で目立つ存在になってしまったこの僕。

だが目立つのは嫌いでは無い。

別にそれはどうでもいい。

問題は、あのセシリーへ言った必死の告白が、ISのオープン・チャンネルを通じて

この学園内ほぼすべてに筒抜けだったことだ・・・。

あの時はもう、言葉さえ聞こえれば何でもいいと思って

チャンネルの切り替えなんてやってる暇なかったし、敵の目の前だったから、やってる余裕もなかった。

文字通り必死である。

だが、今になって考えてみると、これは非常に恥ずかしい・・・。

お姫様だっこでの地上帰還なんて、生易しいものだ。

あーーーくそぅ・・・。

すっごいやばい・・。

顔から火が出そうとはまさにこのことである。

更衣室前での鈴のあの笑顔はそういう意味だったのかと、今更ながらに理解する。

僕は、火照る顔を隠そうとうつむきながら、教室へ入った。

「君は僕にとって必要な存在だから・・・」

「きゃーーーー、あたしも言われてみたいなぁ~」

「あたしだったら、それ聞けただけで昇天しちゃいそう・・・」

女子が昨日の一件を、ものまねして騒いでいる。

くぁ~・・・。

やっぱり胴体切断覚悟で、プライベートチャンネルを開けばよかったかな。

・・・・死ぬけど。

にしても、本当に朝から皆その話で持ちきりである。

僕がいる、いない関わらずその話だ。

初めその話を聞いた時はもう、窓から飛び降りようかと思った。

僕で、こんなんだから、セシリーもさぞうんざりしているだろうと思ったが・・・

「ねぇねぇ!どんな気分だった!?」

「そうですわねぇ、覆っていたモヤが一気に晴れ、暖かな太陽が私を包み込むような・・そんな暖かい心持でしたわねぇ~」

「いいないいなぁ・・・・・・」

「そうでしょう、そうでしょう~」

・・・・うんざりどころか、今にもくるくる回りだしそうな雰囲気だった。

二年生の黛薫子っていう、新聞部のこまで来てたなぁ。

大方、良いネタを見つけたから記事にしようとしてるんだろうけど、それじゃただのワイドショーじゃないかな・・・。

「よう、俺にもばっちり聞こえてたぞ」

ニッと歯を見せて笑う一夏。

その前歯を全部折ってやりたい。

そう・・

「バキボキに・・・・」

「なんだ、どうかしたのか?」

つい本音が口に出てしまったようだ。

別にと手を左右に振って、合図する。

「面白い奴だなぁ・・・まぁ、元気出せって!別に悪い噂じゃないんだからさ」

「恥ずかしさって意味では、史上最悪だよ・・・全僕が涙するぐらいね・・」

現に今にも僕は泣き崩れそうだよ。

必死に小さな僕が、折れそうな心を支えてくれてるから良いけど、その噂を耳にするたびに、一人ずつ

その、ミニアルディが事故死していくのが分かる。

あ、作業場の足が・・・また一人か。

こんな具合で、僕のテンションは、朝からアメリカ空軍のアクロバットチームも

真っ青なほど超低空飛行だ。

あぁ・・・・もう何か障害物があっても避けずに突っ込もう。

砕けた方が、はっちゃけて面白い事になれそうだ。

ランナーズハイじゃないけどさ・・。

「諸君、楽しい授業の時間だ、用意しろ」

ガラッと、教室の扉が開き、織斑先生が登場する。

すると騒がしかった、教室は一瞬にして静寂に包まれた。

今日だけは、この人が僕の救世主に思えた。

・・・もう末期だろうか。

この授業中、五回は叩かれた。

織斑先生はあまり救世主では無かった。

 

 

授業が終わり、前の席の一夏が笑いをこらえながら、こちらに顔を向けた。

「くっくくぅ・・・お前・・・・あの間違いはないだろ・・・ッくく・・」

「し、仕方がないだろ!漢字は苦手だ・・・」

不覚だった・・・。

テンションダウンでボケーっとしていた僕に、織斑先生は問題を出した。

それはごく普通のIS関係でも何でもない単語。

〝一夏〟

答え:ひとなつ

僕の回頭:いちか

言うまでもなく、一夏は噴きだし、クラスにクスクス笑いが広がっていった。

そして、織斑先生には「もう少し日本語を覚えろ」ということと

「ボケっとするな」という意味を込めて二発の出席簿が僕の頭を襲った。

っていうか、織斑先生もあんな質問出すかね、普通。

もっと他の単語でもよか・・・・くないか。

他の単語なら最悪、読めないっていうのがあるし。

「だいたい日本が、漢字もひらがなもカタカナも使う変な言語だからいけないんだよ!」

「そんなお前に、良い言葉を教えてやろう。〝郷に入らば郷に従え〟その土地に行ったらその土地の習慣や風土には合わせた方がいい、という意味のことわざだ。やはり昔の人は旨い事を言うな」

気付けば箒が、横で腕を組みながら、日本のことわざとやらを教えてくれる

「郷?ごうってなんだい?」

僕は聞き慣れない日本語に、箒に聞き返す。

「郷とはふる里とか集落とかそういう意味だぞ」

・・・集落?あぁ村の事か。

村に入れば村に従えってことか。

「それなら、君たちにも教えてあげるよ。When in Rome, do as the Romans do.この意味わかる?」

お、考えてる考えてる。

一課も箒も、首をひねって色々考えているようだ。

でも・・・そろそろ。

「時間切れー」

「え!おい早いぜ」

「も、もう少し時間をくれ」

「ダメダメ、これはアメリカのことわざでね・・・」

「ローマにいる時はローマ人のする様にしろ・・・ま、郷に入らば~のいわば英語版ですわね。厳密に言えばそのまま同じような意味と言うわけでもないようですが」

僕の説明よりも先にセシリーが人差し指を立て、腰に手を当てながら得意げに説明する。

まぁセシリーは知ってて当然か。イギリスとアメリカ。発音やスペルに多少の違いはあれど同じ言語を使っていることに変わりはないわけだし。

「ところで、皆さん。いつまでこうして、いらっしゃるおつもりですの?」

「どういうことだよ、セシリア」

「いえ、もうお昼ですわよ。早く食堂に行かないと席が無くなってしまいますわよ」

見ると時計の針はもうすぐ正午になろうとしていた。

確かに、それで以前一夏に救われたことを考えても、早く行った方が良いね。

今回は、席が無くても助けてくれそうな人はいなさそうだし。

僕達は立ち上がると、食堂へ向け足を進めた。

 

 

あ、そう言えば鈴がいた。

食堂に到着して、思った通り席が無い状態の僕たちを、鈴が助けてくれた時ぼくは、鈴の存在を思い出した。

クラスも違うし、今日はもうあの地獄のような噂の所為で、すっかり存在を忘れてしまっていた。

そんな事を言えば何をされるかわかったもんじゃない僕は下手に口を開かず、ありがとうと礼の言葉だけ鈴に告げて、着席する。

僕のすぐ横にセシリーが座って、そこまではスムーズだった。

だが一夏が座る席で少し今もめている。

「なにやってんのよ。早く座んなさいよあたしの〝横〟あいてるんだから」

「一夏、出入りしやすいようにお前は一番外側に座るんだ、うんそれが良い」

「ちょっと、何勝手なこと言ってるのよ!」

「一夏には・・・そうだ、水汲みという大事な役目があるんだ、ゆえに一位番外側で良いのだ!」

こんな具合だ。

水汲みって・・・・ここが、水も出ないような場所なら確かに重要だけどさ・・・・。

ここは食堂だ。水はサーバーで簡単に出る・・・・・箒流石に苦しいよ。

とりあえず、今の状況を簡単に整理すると・・

〔ソファの端〕セシリー・僕・鈴・○・○〔ソファの端〕

この○のところでもめている形だ。

もう、どうでもいいじゃないか・・・。

この場で織斑先生が来よう物なら逃げようがないな。

まぁまだ僕の織斑先生レーダーに反応はないし大丈夫だろうけど。

・・・・時々誤作動を起こすけどね。

まぁ、感覚なんてそんなもんだろう。

結局一夏は、箒に押し切られ、ソファの端に自分のトレーを置き、

それを鈴がもの凄い目で見ていた。

 

ようやく皆が落ち着いて、ご飯を食べ始めた頃。周囲から何やら噂声が聞こえる。

ほんと、女子って噂が好きだねぇ。

大方今朝の延長線上だろうと思っていたが、聞き耳をたてるとどうも違う。

・・・・ん?一夏がどうたらって言ってないか。

「一夏、君、何か噂になるようなことでも?」

「そりゃ、お前だろ」

その返し、今日はダメだ・・・。

何気ないその一言が凶器になったりするんだよ・・・。

僕は、グサッと刃物が突き刺さった心を必死に支えつつ、一夏に言葉を返した。

ここで折れたら、ダメだ。本当に今日終わっちゃう。

「で、でも、噂になってるのは、現状では君みたいだけど?」

僕はクイッと声のする方向を指さす。

その方向を一夏が見やると確かに、そこでは身をひそめてヒソヒソ話す女子のグループがいた。

そのグループはまだ指を差されたという事を知らず、会話を続けていた。

「・・・でね、・・・らしいのよぉ」

「それ、ほんとなの、あの織斑君が?」

「ほんとだって、あたしの友達が直接聞いたんだから!」

 

「・・・・本当だな、俺の名前が聞こえた」

「だから言ったじゃない・・・・おや、どうかしたのかい箒?」

内容のつかめない、一夏に対して箒は明らかに目が泳いで動揺している。

キョロキョロと辺りを見渡したり、その噂が聞こえる度に顔が赤くなっているのが分かった。

「・・・・怪しいですわね・・・」

セシリーもその様子を見て疑問に思ったようだ。

食事の手を止め、ナプキンで口を拭きながら言う。

「そうだね・・・箒だけがあの噂で動揺するっていうのはおかしな話だし・・・

あ、セシリー頬に、まだ付いてる・・・動かないでね・・・・うん取れたよ」

「ど、どうも・・・」

頬を、箒と同じぐらい赤く染めるセシリー。

・・・頬についてたのが恥ずかしかったのかな。

まぁそれは良いとして。

「多分これ、箒と一夏がらみの噂だね・・・。なるほど一夏鈍感だからなぁ」

「・・・・あなたもですわよ」

え?

「何か言った?」

「別に・・」

ボソッと言うからよく聞き取れなかったけど、こういうのがダメなんだろうなぁ。

ちゃんと聞くって言ったばかりなのに。

「セシリー、本当になんて言ったの?」

その追求はセシリーにとってあまりに予想外だったようで、

そっぽ向いて水を口にしていたセシリーが、盛大にむせた。

「ゴホッ・・・ケホケホッ」

「あぁぁ・・大丈夫かい・・・」

トントンと優しくセシリーの背中を叩いてやる。

トントントントントントン・・・・

・・・・・やけに長いな。

トントントントン・・・・まだ?

トントントントントントン

「あー、アルディ。それ演技よ演技。とっくに咳止まってるって」

へ?

「鈴さん・・余計な事を・・・・・・!」

なんで咳の演技なんてしてたのか、分からないけど、とりあえず止まってよかったね。

で、止まったところ早速で悪いんだけど。

「で、さっきなんて言ったの?」

「ケホケホッ!!」

「あんたも、相当なもんだわ・・・」

鈴のため息がやけに大きく響いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

・・・・なぜだ。

なぜこんなことに、なってしまったのだ。

箒は、あの女子たちの噂が、昨日、自分が一夏に言った「トーナメントで優勝したら付き合ってもらう」という宣言の事だと言う事にすぐ気が付いた。

さっきキョロキョロ辺りを見回してみたが、アルディの噂にまじって、この噂をしている女子たちが意外に多いことに驚いた。

っく、勝っても付き合えるのは私だけに決まっているだろう!

私は・・・・その幼馴染だしな!

鈴はどうあれ、私の方が早いのだ。ファーストだからな。

そんなわけのわからない自信が箒を、奮い立たせる。

要は勝てばよいのだ。

それで万事うまくいく!

いつものように、自己完結するとうんうんと何度もうなずきながら、箒はご飯を口に運んだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

さて・・・時は過ぎて放課後。

今日からは、鈴も一夏の特訓に参加することになった。

まぁ、おおよそ鈴側から無理やりねじ込んだんだろうけど。

でも幼馴染とはいえ鈴は代表候補生だ。

流石に箒ほど、抽象的な表現はしないだろうと、一夏も期待を寄せていたのだが・・・。

「だからさっきから言ってるでしょ~。なんで分かんないのよもー、気合よ気合!!」

余計に酷かったようだ。

これならまだ、クイッとか言って実演して見せてくれる箒の方が分かりやすい。

「鈴・・・・気合いだっていうのは説明じゃないだろ・・・」

「何言ってんのよ一夏!これほど簡単な説明ないじゃない!!」

簡単だよ、そりゃ。

何でもかんでも、気合で説明が付くんだから。

あ、ちなみに今日は僕は見学者だ。

なぜなら・・・。

 

 

「はい?」

「だから、あなたのISはしばらく使えません」

「どうして?」

僕は、昨日セシリーと分かれた後、既に夜になっていたが

〝ウェポンスクエア〟の爆散によってダメージを受けた

〝ストライク・バーディ〟の簡易検査を山田先生にお願いしていたのだ。

その結果は今朝明らかになったのだが・・・。

「ダメージレベルがCを上回っていますからね。使用は許可できません」

ISは良くも悪くも成長する。その過程で多くの経験を積んで進化していくわけだが、当然その間の損傷時稼働もその経験内容に含まれる。

さっき先生の言ったダメージレベルCと言うのは、ISのダメージとしては相当のもので、そのまま無理に使用を続ければ、不安定なエネルギーバイパスを構築してしまい、後々重大な欠損を生む可能性があるのだ。

でも・・・・

「ただ、リアスラスターが爆発しただけですよ、それだけで堅牢な僕のISがレベルCの損傷ですか!?」

「はぁ、サウスバードくん。あなたのリアスラスターには何がありますか?」

・・・・あ。

そうだった。

〝ストライク・バーディ〟のリアスラスターの正式名称は〝フレキシブル・スラスター〟だが兵器名は〝ウェポンスクエア〟多くの火器を搭載したいわば〝ストライク・バーディ〟の武器庫だ。

そんなものが、爆発したら確かに流石の〝ストライク・バーディ〟も耐えられないよね。

「どうやら、引き金はスラスターの高付加によるオーバーブローの様ですが、

それが、他の火器の誘爆を引き起こしてしまったようですね」

だめじゃないっすか・・・。

 

 

って言う事があったのだ。

そのため、僕だけ一夏達から少し距離を取って、見学しているというわけだ。

なぜ、一夏達の声が聞こえるかと言うとセシリーのおかげだ。

僕が見学と知ると、なぜかセシリーまで見学と言いだしたのだ。

まぁだがそのおかげで、こうして〝ブルー・ティアーズ〟のモニターで一夏達の話し声を聞いたり、

こちらから話しかけたりできるわけだから、感謝しないといけない。

「にしても、本当によかったのかな、セシリー」

「何がですの?」

「いや、一夏達と訓練しなくて、良いのかなって。それに最近、全然自分の訓練とかできてないんじゃないの?」

「そう言うことは、一度でも私に当ててから言いなさいな。

一発も当てられていないアルが、心配なさることではありませんわ」

うぅ、まぁそれは本当なんだけど・・・・。

事実、様になってきたというだけで、セシリーには今日まで一発の、〝い〟の字すら当てた試しがない。

それを言われると、言い返せないんだよなぁ。

「とにかく、今日は私も見学しますの!」

強く言いきると、フンッと鼻を鳴らすセシリー。

僕はそれを見て、少し笑みがこぼれた。

アリーナの中で縦横無尽に飛び回る一夏達を見て、体がウズウズしながらも、

まぁ見学もまんざらじゃないかなと、思う僕だった。

 

 

翌日、人のうわさも七十五日とか日本では言うらしい。

意味は、世間のうわさも一時の事で、時が過ぎれば忘れられていくものと言う意味だそうだ。

なのに、昨日の噂はどこへやら。

今日の噂の対象はすっかり一夏へと移っていた。

対象になった人物は、昨日の僕と同じように机に突っ伏している。

言っちゃあ悪いけど、ざまぁ見ろだ。

昨日は、散々それで僕に精神的ダメージを与えてくれたんだ、今日は僕の番だよ・・。

「一夏、噂になってるねぇ~」

ニヤニヤしながら、一夏に言う。

だが返答が無い。

ほほぅ。

返事すらできないほど衰弱しているのか。

これは面し・・・・・面白いな。

「一夏聞いてるのかな?皆君の噂してるよ」

それでも返事が無い。

・・・ん?

「一夏?」

僕が呼びかけた時、ようやく一科が体を起こした。

伸びをしながら。

「ふあぁぁぁっ・・・あ、おはようアルディ」

「・・・・寝てたの」

「あぁ、ちょっと寝不足でな」

・・・・・そうだった。

一夏は超が付くほど自分の事に鈍感で、ずぶとい神経の持ち主だった・・・。

「ところでさ、アルディ。箒どうかしたのか?」

え?

指さす方を見ると、箒が机に突っ伏していた。

どうやら僕の攻撃は、一夏へ行かず、ブーメランのように戻って箒に当たっていたようだ。

・・・・・ごめん、悪気はないんだ。

少なくとも君には。

「諸君、今日も元気が良いな。結構結構。それではSHRを始める」

いつもと同じように、織斑先生が山田先生と共に教室部屋やってくる。

今日もいつもの日常が繰り返される。

「さて、山田先生からの話の前に私から一つ言っておくことがある。

本日よりISの実習もから授業は本格的な実践訓練に入って行く、各人使用するのは、専用気持ち以外は訓練機だが、ISはISだ。しっかり気を引き締める様に。ここまで言って怪我をしても私は知らんぞ。泣きついてくるなよ」

・・・・教師とは思えないね。いやまぁこれまでだって、教師?って思うぐらい理不尽だったけど、教師って思うぐらい身の危険を感じたけど・・・。

「あぁ、あとISスーツの申し込みも忘れずにやっておくようにな、それでは私からは以上。では山田先生、後は頼もう」

「はい」

そう言って、立ち位置を交換する二人の担当教員。

山田先生は、教壇に立つと第一声。

「えっとですね、おはようございます皆さん。今日は早速なのですが転校生を紹介します」

その瞬間クラス全員が一瞬凍りついたのが分かった。

噂好きの女子の情報網をかいくぐって、急に湧いて出た転校生。

驚かずにはいられないのだろう。そして直後、クラス全体が揺れた

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」

「転校生、また!?」

「この前だって二組に、凰さんが来たばっかりなのに?」

「違うクラスじゃない」

「でも、ここまで頻繁にあるのも珍しいとは思うけど・・・」

以前セシリーに聞いた、話は本当だったようだ。

〝今こうして私たちが、くつろいでいる間にも、各国ではIS学園入学のために代表候補生やそれを目指す操縦者が切磋琢磨しているはずです〟

なるほどね・・・。だとすると今回も、代表候補生か。

「あ、ちなみに二人ですよ今回は!」

「「「えぇぇぇぇぇっ!!!」」」

再び湧く、教室。一気に二人も代表候補が?

確かにそれは驚きだ。

「うるさいぞ!驚くのは休み時間まで取っておけ」

パンパンッと手を叩いて場をなだめる織斑先生。

それに続くようにして、教室の入り口から転校生二人が姿を現す。

普段、あんまりこういうことじゃ驚かないんだけど、流石の僕も驚いたよ。

だってそのうちの一人が、男の子だったんだから。

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスからきました。よろしくお願いしますね」

フランス人の貴公子は、ブロンドの髪を後ろで束ね、天使のような微笑みで、教室の女子たちに自己紹介する。

その笑顔は、僕たち男子でも、見とれるぐらいのものだったからその破壊力は相当なものだ。

「男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子男の子・・・」

「やばい・・やばいよぉ・・あの笑顔は反則だって~~~」

「織斑君やサウスバード君とはまた違うタイプだよね!」

なんだ・・・・男の子男の子唱えてる女子がいるが・・。

なにかの発作なのか。

そんな騒ぎ立てる生徒たちを余所にもう一人の転校生は、瞳を閉じ静かに佇んでいる。

・・・雰囲気が。

明らかに一線を画するその少女は、左目に黒い眼帯をした、白銀の長い髪の毛をたたえている。

軍人・・・?

姉が元々アメリカ軍関係もあって、昔その仕事を見せてもらったことがあったのだが、

その時基地で見た軍人の鋭い刃物のような、触れたら切れてしまいそうな雰囲気。

彼女がまとっていたものはまさしくそれだった。

「黙り込むな、お前の番だラウラ」

「はい、教官」

・・・・教官か・・・。

間違いないあの子は軍人だ。

どんな経緯で織斑先生を教官と呼んでいるのかはわからないが、雰囲気そして今の口調。

僕の中で、仮説が確信へと姿を変えた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

・・・・・以上?

「それだけですか?」

言った山田先生は、中々勇敢だと思う。

ラウラは、山田先生を一睨みする。

その鋭い眼光に、委縮する山田先生だったが、流石のラウラも教師にたてつくことはしない。

「以上だ」

そう言って、なにやら辺りを見回す、ラウラ。そして一人の人物に視線を合わせた。

それは・・・

「貴様か・・・」

「え!?」

一夏だ。

僕は、ひそひそと一夏に声をかけた。

「何?あの子と知り合いのかい、あんなきっつい子と」

「知らねぇよ・・・千冬姉を教官って読んでたからドイツ人って事は、

なんとなく想像はできるんだけどさ」

「うん?織斑先生ドイツで何かやってたのかい?」

「昔、向こうで教官やってたんだ・・・色々あって・・」

ふむ・・・なるほど。その時に何かしら関係のあった人物と言うことか。

僕と声をひそめていた、一夏の前に立つラウラ。

明らかに友好的な目じゃないよね。

ラウラに気が付き一夏も、前を向く。

そして手を振り上げて・・・

 

 

パコンッ!

ペットボトルが直撃した。

一夏にではないラウラにだ。

「・・・・貴様、どういうつもりだ」

「ごめんね、手が滑っちゃったみたい」

投げたのは僕なんだけどね。

あのまま行けば一夏殴られてたし。

投げたペットボトルは僕が今朝、購買で買ったものだ。

丁度取り出しやすい位置にあって助かった。

「ふざけるなよ・・・」

「わぁ、ほんとごめんね。いや実はペットボトルがちょっと濡れててね、

仕方ないじゃない・・・不慮の事故だよ」

「くぅッ!!!」

ガッと胸倉をつかむラウラに僕は笑って言う。

「だから、謝ったじゃないか」

「どうやら、痛い目を見んと分からんらしいな」

「凄んでも無駄だよ・・僕は、君を舐めてる」

「貴様!!!」

「いい加減にしろ、ラウラ、サウスバード!」

そこへ織斑先生が来て、ラウラを引っぺがす。

「きょ、教官!これは正当防衛で!!」

「いつまで軍人気分だ、貴様は今日から私の生徒だ、黙って従え、不服でも従えいいな」

「しかし!」

「初日から問題を起こすな!」

ピシャリと言い放つ織斑先生に、ラウラは尚も不服そうな顔をするが、渋々それに従う。

ふぅ、作戦成功。

作戦と言うかまぁ、ただ騒ぎを起こせば織斑先生が必ず止めに入るだろうから

それを狙って騒いだだけなんだけど。

「サウスバード」

「はい?」

「教師をコマとして扱うとは、お前もいい度胸だ」

「い、いやですねぇ・・・こ、コマだなんて」

その後、問答無用で一発を貰った。

 

「はぁ・・・ガキはこれだから・・・まぁ良い、織斑。

早速だがデュノアの面倒を見てやれ、これから実習だからな、まだ右も左も分からんだろう」

「はい、わかりました」

「では、各人はISスーツに着替えてアリーナに集合!今日は二組とお合同で模擬戦闘を行う、急いで準備しろ!」

今日は合同なのか・・・。

・・・・って。

「ボサっとしてる場合じゃなかった!」

「そうだった、シャルル!急ぐぞ」

「え、どうしたの?」

いまだに、要領のつかめないシャルルは、少し戸惑っているが、その手を一夏が引っ張る。

「一時間目、お前も聞いてただろ。これから織斑先生の授業なんだ、遅れたら何やらされるかわかったもんじゃないッ!」

「確かこの間は、遅れた分数×アリーナ十周だったねぇ」

あんな思いはしたくない。

「「悪いけど、慣れて!」」

僕と一夏の声が重なる。

それほどまでに、織斑先生と言うのは恐ろしいのだ。

そんな僕たちを見て、シャルルはクスッと笑うのだった。

 

にしても、ラウラにシャルルね・・・。

ま、何にしたって人生は楽しくなきゃいけない。

ここ最近はセシリーの件もあって下降気味だったが、その件もなんとか収まったし、

これからは、色々楽しくなるよね。

僕はそんな事を考えながら、女子包囲網をかいくぐってアリーナへと向かうのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

っちぃ!!

とある場所の遥か上空で、二機のISが火花を散らしていた。

「貰った!」

「まだだ!!」

その二機のISはほとんど形状は変わらない。

背部に計四門の荷電粒子砲を背負う。

それはまさしく、あの日IS学園を襲撃したISだった。

操縦者も声も背丈も全く一緒。

しかし色だけが違う。

片方は黒だったが、もう片方は真っ白だった。

互いに、砲を打ち合いそして動きが止まる。

「はぁはぁ・・・・君は・・・君は!!」

「僕が、僕であるために・・・・はぁ・・」

その時、白い機体のセンサーが上空から飛来するISの反応をとらえた。

「っな!!」

「下がりやがれぇッ!!!」

それは紫色のIS〝紫煙〟だ。

高速強襲型の機動力と近接での高い戦闘能力を備えた紫香楽製のIS。

「っう・・!」

「触んじゃねぇよ・・・・」

〝紫煙〟の操縦者はワインレッドの髪を風になびかせながら、

怒り狂ったように赤目で相手の白いISを睨む。

「・・・っ!姉さん、何で分からないの、それは僕じゃない!!」

「うるせぇッ偽物!!総也の顔でぬりぃこと言ってんじゃねぇぞ・・・」

総也と呼ばれた少年は、バイザーで覆われた顔をゆがませる。

「Nの技術を奪ってまで、することが本当に正しいの!」

「そのための技術だろうが!!」

一気に〝紫煙〟は距離を詰めると、戦槍〝大蛇〟で切りかかる。

それを手に持つ荷電粒子砲でなんとか受け止める。

そして動きが止まったところで、黒いISの援護射撃が入り、その一発は確実に総也をとらえた。

「ぐはっ!!」

その一瞬のすきを突いて、〝紫煙〟は黒いISを回収し、超高速で離脱する。

次に総也が目を開けた時には、何もないただ青い空が広がっているだけだった。

「あぁ、くそっ!!!!」

やりきれない悔しさが彼を包む。

その時通信が入った。

そこには白衣の女性が写っている。

「すいません、逃げられました・・・」

『仕方ないわ、二対一ですもの』

「また追わないといけませんね」

『もう、やみくもに探しても時間の無駄ね・・・。こうも逃げられては』

自分の失態だ・・。

くそっ、せめてあの黒いほうだけでも落とせれば・・・っ。

『だから、方法を変えましょう。実はあの二機が最近とある施設を襲撃したの』

「え!?」

『その施設名はIS学園』

IS学園・・・・。

『でね、あなたにはそこへ行ってもらいます!』

「え?」

いきなり何を言って・・・・行く?

誰が??

「僕ですか!?」

『あたしに、ヒラヒラのミニスカートが似合うとでも?』

「それはそうですけど」

『否定しなさい馬鹿!』

性能のいいISの通信機器でもハウリングする程の声で怒鳴られ、頭がキーンとする。

『まぁすぐにじゃないから、それなりに準備ってものもあるし』

「いやでも!」

反論しようとしたがとにかく、これは決定事項よ!

とだけ告げられ一方的に通信を切られてしまった。

「・・・・・IS学園か」

ボソッとつぶやき。総也はひとまず、帰還の途へついた。

・・・・これからどうなるんだろう、ただただ不安だけが総也の心に積っていった。

 

 

 

 

 




僕はオルコッ党です。
そこは譲れませんw


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第9話~思い、君と共に~

「それでは本日より、格闘と射撃を含めた実践訓練を開始する」

 

結局、色々あって間にあいませんでした。

一夏は更衣室でシャルルと、物理の問題を出したりしていたが、何やってたんだろ。

ちなみに僕の場合は、完璧にルートミスだった・・。

あの角をまっすぐ来たのがダメだったんだよなぁ。

あそこで、包囲網に見つかるの覚悟で曲がっておけば、後は直角だったのに・・・。

で、予想通り、罰はアリーナランニングだったが、遅れた分数=アリーナ外周という慈悲深いお情けのおかげて、前ほど酷いことにはならず、なんとか皆が準備し終えるまでには合流できた。

なぜか箒と鈴が叩かれてたけど。

「さて・・・・そうだな。模擬戦闘でもやってもらうか・・・・。

サウスバード、凰、前に出ろ」

名前を呼ばれた鈴は渋々前に出ていくが、あいにく僕のISは使用禁止だ。

僕は挙手して、織斑先生に報告する。

「先生、僕IS、無いです」

「・・・・あ、そうだったな、ではオルコット出てこい」

「わ、私ですの・・・」

これまた渋々と言った感じで前に出ていく。

前にセシリーが言っていたが、こういう授業などでの実演はあまり好きじゃないそうだ。

パンダみたいっていう理由らしい。

別に人気取りってわけじゃなさそうなんだが・・・。

 

「お前らもう少しやる気ってものは出せんのか」

「いや・・・」

「そう申されましても」

「・・・なんなら、私がお前らにやる気を出させてやろうか・・・そうだな何発が良い?」

その発言に鈴とセシリーの顔が引きつる。

「何発!?」

「既に複数形ですの!?」

ひきつる両名に、対して、ジリッジリッと近づいていく織斑先生。

「最低は五発からだ。最高はそうだな時間の許す限りでどうだ?」

「で、出た出た!あたし今、すっごいやる気出てます!!」

「わ、私もなんだか、凄くやる気が湧いてきましたわ、何せ代表候補生ですものね私たち!」

り、理不尽だな・・・・。

流石は織斑先生だ。

半ば無理やりやる気の出された(?)二人は早速ISを起動する。

セシリーのはなんとなく青っぽいっていうのは色の濃淡でわかるけど、鈴のは完全に黒だな・・・。

色盲の目では、鮮やかなカラーリングもこの通りだ。

慣れたからこそ、これ赤だねとか青だねとか言えるけど、一度バイザーの色彩調整を目にしてしまうと、一気にこれまで、それがすべてだった白黒映像が味気なくなってしまう。

「それで、私たち誰と戦えばいいんですの?」

「なんなら、あたしとあんたでやる?まぁ結果は目に見えてるけど」

「そうですわね、私の勝ちと言う事は、誰の目から見ても明らかですわ」

そう言えばこの二人って、妙に張り合うよね。

あれか、プライドが高い者同士だからか?

「はぁ・・・やる気を出してくれたのは結構だが、そう張りきられてもな。

まぁ落ち着け。お前たちの相手は・・・・・ん?」

織斑先生が少しとぼけたような顔になる。

これは珍しい・・・。いっつもその表情で固定なんじゃないかと思うぐらい表情が変わらないのに。

織斑先生は、上を見上げて何かを探しているが、一向に見つからないようで、辺りをきょろきょろしている。

「・・・・・・む、織斑そこ危ないぞ」

「え?」

一夏を名指しで、注意喚起。

その時風を切り裂くキィィィンと言う音と共に何かが、一夏へ向かって墜落してくる。

「は?え!?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

叫ぶ暇があれば、少しでも避けたら・・・・あぁ・・遅かった。

墜落した何かは一夏を巻き込みおおきなクレーターを作って砂煙を巻き上げる。

そのクレーターを、囲むようにして女子が見守る中徐々に砂煙が晴れていき・・・・

そこには、一夏とISを展開した山田先生が転がっていた。

なるほど・・・。

落ちてきたのは山田先生に様だ。

で、一夏はというと。

おぉう、一夏・・・・。

アメリカのスラム街も真っ青だよ。

流石に彼らもだね、人目に付かない所でそういう行為をするからね。

一夏は白昼堂々、山田先生の放漫なバストを揉みしだいていた。

「一夏・・・・君、多分スラム街でも力強く生きていけるよ」

「な、何言ってやがる・・・これは・・・事故だ!!」

「一夏!あ、あんたねぇ・事後ですってぇっ・・なぁに言ってるのよ!!!!!」

ISを展開していない一夏に向かって、色々切れた鈴が〝双天牙月〟を投げつける。

直撃したら・・死ぬだろうね。

だがそれは一夏に到達することなく、撃ち落とされる。

一夏を助けたのは、さっき墜落した山田先生だった。

いつもとは全く雰囲気が違う山田先生に僕だけではなくこの場にいる誰もが、驚いている。

構えていたライフル〝レッドバレット〟を下ろすと、山田先生はまたいつものほやっとした顔で

一夏に、笑いかけた。

「大丈夫ですか、織斑君?」

・・・あぁこの顔は山田先生だ。

なぜだろうか、ほっとする。

「山田先生は、代表候補生だったからな。このぐらいの射撃造作もないさ」

織斑先生が、自慢げに話す。

そりゃまぁ、世界一の担任を補佐する副担任だからタダものじゃないだろうなとは予想してたいが、

まさか代表候補生だったとは・・・。

つくづく、この学園は恐ろしい。

そう言えば、あの時事態の収拾に駆けつけた、学園の教師陣も、

そのほとんどが代表や代表候補生の人たちだった。

・・・・でも・・。

あの黒いISは、そんな人たち相手に、全く引けを取らなかった。

いや、圧勝だった。

・・・・何をしに来たんだろう。

一夏達を狙いに?

でもそれなら、あの無人機の攻撃から、一夏を救ったのはなぜなんだ。

・・・わからない。

「おい見学者!」

そんな事を考えていると、いや考えていたからかな。

声と共に出席簿が頭を叩いた。

「ボケっとするな、見学者なら使える奴らを見てもっと学べ」

僕はその一撃で考えを切り替え、早速始まったセシリー・鈴ペア対山田先生の

模擬戦に目を移した。

まぁ・・・今考えても答えは出ないだろうし。

授業に集中しよう。

 

・・・結局この後セシリーと鈴は山田先生にコテンパンに倒された。

 

 

 

今日の授業も、このSHRを乗り越えれば終わり。

放課後って言ってもなぁ、僕はISを使えないし、訓練って言っても見学だからなぁ。

その後山田先生から聞いた話によると、なんとか一週間ぐらいでISの起動制限は解除されるらしい。

ただ、解除されると言っても、すぐには全部のシステムや武装を使えるわけじゃないらしいけど。

要は人間と同じく、徐々に体を戻していくことが必要なわけだね。

「・・・・これで、以上か。それでは今日はここまでだ。何か用事があるものは職員室へ直接会いに来い」

織斑先生が、いつもの調子で、切り上げそれに続く山田先生。

日常が繰り返され、そしてそれは放課後がやって来る事も例外ではない。

さていよいよ本当に、終わってしまった。

後ろの席では女子たちが、今から訓練機を借りに行こうとか、部活なんだとかそういう話をしている。

・・・・何しよう。

IS学園在籍なのにISが使えない。

笑えるね・・・。

ふと後ろを見ると、セシリーもいない。

流石に、昨日僕が言ったことを気にして自主練にでも行ったのか。

まぁ・・・うん。

そうなら、言った甲斐があったというものだろう。

どこか手持無沙汰だった、僕を救ったのはシャルルだった。

いや正確にはシャルルと一夏かな。

「アルディって、IS持ってないの?」

「持ってないわけじゃないさ、ただ使えないだけでね」

「使えない?」

「コイツのIS、ダメージレベルがCを超えて起動制限かけられてるんだって。お前が転校してくる前にちょっとあってな」

「あぁ、なるほど」

一夏が捕捉を入れて、一応納得したそぶりを見せたシャルル。

「ま、そう言うことだよ~」

僕は両手を開いて、おどけて見せる。

それを見てクスッと笑うシャルル。

・・・本当に、なんて言うか同じ男かね。

最近日本じゃ、男の娘って言うジャンルがあるみたいだけど、その類に放り込んだら

賞の一つや二つ取れそう・・・いや、賞を総なめに出来そうだよね。

「で、何か用?」

「用ってわけじゃないんだけど、今から時間あるかな?」

「俺達、今から一緒に訓練するんだけどどうだ、お前も」

「だからね、僕はISが使えないの」

僕の話聞いてた?

僕が言えたことじゃないけど、ひょっとして鈍感なだけじゃなく物分かりも悪い方?

「見学ぐらいできるじゃないか、今日丁度、射撃武器についてシャルルに聞こうと思っていたんだ。

剣ならともかく、射撃武器ならお前もセシリアに習ってるし、それに元々結構知ってるらしいじゃんか」

「まぁ、姉さんに色々習ってたからね、基本的なとこは」

「そう言えば、お前の姉さんって、あのローラ・サウスバードなんだろ」

「ローラさんって言えば、モンド・グロッソの射撃部門一位のヴァルキリーだよね、

そんな人がお姉さんなんだったら、射撃の知識は僕よりあるかも」

「ハハっ、買いかぶりすぎだよ」

習ったと言っても、本当に構え方とか、打ち方だけで、それ以降はずっと独学だったし。

それに僕も、別に旨くなりたいっていう向上心というより、姉さんがせっかく教えてくれたものだから、

このままやめてしまうのも、もったいない・・・

ぐらいのあいまいな理由で、やってきたから、別段射撃の腕が良いってわけでもないし、

知識が多分にあるっていうわけでもないのだ。

言ってみれば人より少し旨い程度って言うのが今の立ち位置だろう。

旨いアドバイスも出来ないんじゃ邪魔になるだけだし、断ろうかとも思ったが、じゃあ逆に何するかって話になってくる。

・・・はぁ・・・今日も見学か。

「まぁ、何も気の利いた事なんて言えないよ、それも良いかい?」

「あぁ、気が利くか利かないかはともかく、アドバイス貰えるのはうれしいしな」

そう言って僕は、やたら重く感じる腰を上げた。

 

 

アリーナに着くと、早速一夏とシャルルがISを起動する。

一夏のISは、もう何度となく見ているが、シャルルのISを間近で見るのはこれが初めてだ。

授業中は、ずっと一夏の手伝いだったしね。

シャルルのISは。授業で山田先生が使っていた〝ラファール・リヴァイヴ〟のカスタム機らしい。

確かに、ベース機の面影が随所にみられる。

だがそこは専用機。ちゃんと汎用機との区別のためにパーソナルカラーにペイントされている。

「シャルルのIS・・・・赤?」

「え?なに冗談言ってるの、オレンジだよ」

「あぁ、オレンジか・・・ごめんね色盲で色が分かんないんだ」

「あ・・そのごめん」

「いや・・・なんで謝るかな・・・」

一夏の時もそうだったが、なんで謝るんだろう。

別にこれは、一夏やシャルルの所為でこうなったわけじゃない。

生まれつきの事だから、誰を責めるわけにもいかないし、

前にも言ったが幸い視力は良いのだ。生活に何の支障もない。

「まぁ、そんなことより、始めないの?」

「そう・・だね!」

既に一夏はスタンバイOKの様だ。

シャルルは一夏に自分の武装を手渡す。

 

あれは・・・〝ヴェント〟か。

あれと同じようなライフルを、アメリカで見た気がする。

姉さん関係なのは間違いないが、どこで見たのかまでは思い出せない。

・・・思い出す必要なんてないけど。

確かあれはアサルトライフルだったよね。

アサルトライフルは単発・連続射撃の切り替えができる小型軽量の自動小銃の総称だ。

有名どころで言うと、カラシニコフの愛称で有名なAK-47がそれだ。

有効な間合いは、中近距離で、あまり長距離戦には向かないが、威力も高く扱いやすいから各国の軍も、多く配備している。

 

一夏は、〝ヴェント〟をシャルルに手ほどきを受けながらしっかりと構える。

そして、シャルルが一夏から離れると、バンッ!という射撃音と共に、

弾丸が発射され、撃たれた弾は的の外側に当たった。

「うぉっ!すげぇ音!」

そうだろうねぇ、僕も始めて撃った時そんな感想を持ったよ。

ただ僕の場合は、ISではなく実際にこの手で拳銃を持ったけどね。

あの時の、もの凄い反動は今でも忘れられないよ。

そして、あの姉さんの顔も。

何が、軽く手を叩くぐらいの衝撃だ。

まだ、小さかった僕には、腕がちぎれるかと思うぐらいの反動だったよ。

「それで、どうだった、初めて撃った感想は?」

「なんて言うか、射撃すげぇよ。音もそうだけど、何より滅茶苦茶速いんだな、弾丸って」

一夏・・今さら?

君、射撃武器持った相手と何回かやりあったことあるよね。

抜けたことを言う一夏に、僕は遠巻きに話しかけた。

距離はあったが叫ぶ必要はない。

〝白式〟のハイパーセンサーが全部僕の声を拾ってくれるからね。

「速いって、当たり前でしょ、拳銃でも亜音速なのに」

「いや、でもすげぇぞコレ。バンバーンって・・・」

初めての体験は誰だって興奮する。

それは一夏とて例外ではない。

確かにバンバーンって音したけど・・。

「シャルル。これもう少し撃ってもいいか?」

「いいよ、マガジン使いきっちゃって」

持ち主の許可も降り、再び射撃を開始する。

初めて構えるにしては、一夏はうまい。

ほとんど、的の端だがそれでも今まで一発も的からはそれていないからだ。

僕でも、初めのうちは的に当てるのだって苦労した。

あ、その事はISじゃないよ。

中々、射撃の筋も良いようだ。

バンッバンッと、乾いた音が響くアリーナ。

しばらく撃つと、ようやくマガジンが空になったようで一夏がシャルルに〝ヴェント〟を返した。

「射撃ってこんな感覚なのか、サンキュな」

「うん、どういたしまして。まぁでも全部が全部こんな感覚じゃないよ」

〝ヴェント〟を粒子化しながらシャルルが話す。

そうなのかと、自分でも色々考えることがあるのであろう一夏は、〝白式〟を待機状態へ戻すと

あごに手を当てて、色々考えているようだった。

それにならってシャルルも待機状態に戻す。

 

「そう言えば、話は変わるけど〝白式〟って、イコライザーが無いんだって?」

射撃について思考中だった一夏だったが、急な話の方向転換にもしっかり反応する。

「あぁ、この前見てもらったんだけどパススロットが開いてないんだと。だからインストールも無理らしいぜ」

「それって多分ワンオフ・アビリティーに要領を割いてるからじゃないかな、

〝白式〟って初めから使えるんでしょ?」

ワンオフ・アビリティー。

各ISが操縦者と最高状態になったときにのみ自動発生する能力の事で、絶対にその能力はかぶらない。

だからワンオフってわけ。

一夏で言うと確か〝零落白夜〟がそれに当たるらしい。僕は見たことないけど、対象のエネルギーを消滅させることのできる能力だそうだ。

・・・・・怖いね。

「なるほどなぁ・・・そういえばアルディ。お前はどうなんだよそこらへん」

「僕? あははっ、〝ストライク・バーディ〟の性能の半分も使いきってないのに、

そんな話飛びすぎだよ」

「扱いきれるっていうのとも、少し違うんだけどなぁ」

シャルルがう~んと、腕を組む。

だが、言われてみればそうだ。

僕のワンオフ・アビリティーねぇ。

使える日が来るんだろうか、僕のにも。

聞けば、ワンオフアビリティは、発動するよりもしないことの方が圧倒的に多いらしい。

・・・だけどまぁ、使えたら使えたで、使えなかったら使えなかったで、別にどうでもいいや。

どの道、今は〝ストライク・バーディ〟が使えない。

早く、慣れないといけないのになぁ。

稼働時間も全然足りないし、実戦経験だってほぼ皆無だ。

焦っても仕方が無いとはいえね。

やることはやったしそろそろと思っていると、急にざわめきだす場内。

・・・何かあったの?

「あれ・・・ドイツの・・・」

「第三世代機じゃないアレ」

「うそ、あれってまだトライアル段階だって聞いたけど・・」

ドイツそこから連想させるのは、あの人物しかいなかった。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

一夏がつぶやく。

今朝僕がペットボトルを投げちゃったからね、それの報復かな?

だがラウラが次に発した言葉は、僕の想像を容易く崩す。

「織斑 一夏・・・私と戦え」

「・・・なんでだよ」

「御託はいい、ISを展開しろ」

有無を言わさぬ声で、命令するラウラ。

その目は完全にこちらを見下している。

「やだね、理由が無い」

「理由だと?」

「あぁ、そうだ俺にはお前と戦う理由が無い。だから俺は戦わない」

「・・・そうか」

ラウラは、そう言ってゆっくりとこちらを向く。

・・・なんだか嫌な予感・・・。

「ならば、理由を作ってやろう!!」

「うぁぁぁぁぁっ!!」

言うが早いか僕に向かって何の躊躇もなく、肩の大型カノンを撃つ。

流石に直撃は相手も避けたようだが、僕は爆風で何度か地面に打ち付けられながら

アリーナの側壁まで吹き飛ばされた。

その衝撃からか右腕から血が流れ出す。

どうやら完治していないあの傷口が、今のでまた少し開いてしまったらしい。

だが今はそれよりも、全身の痛みが凄い。

動かすだけでいろんなところが痛む。

すぐにはまともに立てそうもない。

「てめぇ、何してんだ!!あいつは今ISを展開できないんだぞ!?」

「理由を作ってやったまでだ、貴様が必要だと言ったのでな」あたかも、当然のことをしたかのように言ラウラ。

キッと睨む一夏だが、次のラウラの一言で完璧に切れた。

「それに展開も出来ない雑魚だ、吹き飛ばさただけでも役割ができて良かったじゃないか」

「ふざけんな!!!!」

怒鳴ったのは一夏だったが先に攻撃したのは、シャルルだった。

さっきのアサルトライフルとはまた違う〝ガルム〟を展開してラウラへ向かい引き金を引く。

目つきも先ほどまでの、優しさはなく、まさに激昂だった。

「ドイツ人って言うのは、やっていいこととやっちゃいけないことの区別が出来ないほど低レベルなんだね!」

「・・・・・フランスのアンティークか・・・。話にならんな」

「いまだ量産のめどすら立たない、そんな試作武装だらけのモルモットよりはましなんじゃない?」

睨みあう両者。

そしてしばしの時が流れ、一夏が急に声を上げた。

「お前、なんでそんなに俺に突っかかるんだ!?」

「・・・・・貴様があの教官の弟だからだ!」

「何!?」

「貴様、昔ドイツで誘拐事件にあったそうだな。その際教官は貴様を助けに行き、モンド・グロッソ二連覇という偉業を達成できなかった!」

「それは・・・」

「貴様がいなければ、教官よりも劣る低レベルな出場者だ。二連覇出来たことは容易に想像が付く・・・」

・・・待て・・・待てよ・・・・。

今なんて言ったんだい彼女・・・・。

低レベル?

織斑先生が勝つことは容易に想像できる!?

・・・・舐めるなよ・・・。

気が付けば僕は、痛みすら忘れて叫んでいた。

「ふざけるんじゃない!低レベル?容易に想像がつく!?

いい加減な事ぬかすなよ、君に何が分かるっていうんだ!!

確かに織斑 千冬は強いさ、でも無敵じゃない。最強なだけだろう!

僕の姉さんをなめるな!!!」

今のは姉さんを侮辱されたに等しい。

姉さんは、あんなおちゃらけた性格だが、日々努力や鍛錬を怠らなかった。

モンド・グロッソ第一回大会で、織斑先生に負けた後、表彰台では笑顔だった姉さんが、

僕の前で笑い続けていた姉さんが、僕の前で初めて泣いた。いや泣き崩れた!

なんで勝てなかったんだと、これまでの努力は何だったんだと。

結局、ああ言う理由で織斑先生が辞退したことで、姉は第二回大会の総合優勝〝ブリュンヒルデ〟の栄冠に輝いたが、その顔は全然うれしそうではなかったし、

何より姉はその称号を自モンド・グロッソの委員会へ返納している。

プライドが許さなかったのだろう。

だからこそさっきの発言は許せなかった。

何も知らない、彼女が姉さんを侮辱するなど。

「そう言えば、貴様の姉もモンド・グロッソに出場していたのか。

大方、無様に負けたのだろう。そんな負け犬の弟に何を言われようとな・・・」

「流石の僕も、切れたよ・・・・」

「ほう、だったら何だと言うんだ?」

・・・・彼女は・・・彼女だけは許せない。

「トーナメントだ、学年別トーナメントが今度ある。僕のISもそれには間に合うはずだからそこで決着をつけようじゃないか・・・」

「・・・・ふん、決着か。私はその男にしか興味が無いが・・

まぁ良いだろう。作業が一人増えるだけだからな」

そう言うと、ラウラはISを待機状態に戻し、すたすたとピットの奥へ引っ込んで行ってしまった。

 

ラウラの退場で、スッと頭の冷えた僕は、また激しい痛みに襲われる。

僕は顔をゆがませながら一夏に謝った。

怒ったとはいえ、彼の姉さんを悪く言ってしまったのだ。

「・・・一夏ごめん・・・カッとなって。織斑先生の事・・・」

「へっ、気にすんなよ、誰だって自分の身内を馬鹿にされたら怒るだろ?」

「・・・あ、でも僕はそれをしたんだけど」

「時と場合によるってな」

どうやら怒ってはいないようで、安心したが、痛みだけは安心できるレベルじゃない。

「いっつつ・・・・」

一度は立ったものの、痛みでよろける僕をシャルルが支えてくれた。

「あぁぁ・・・大丈夫?とりあえず、保健室行こう」

「うん、面目ない・・・」

僕はシャルルの肩を借りながら、一夏と一緒に保健室へ向かった。

・・保健室の先生に〝また来たの!?〟って顔で見られたのは内緒だ・・。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

アルディが怪我を負ったという話は、すぐに自主練習のため

アリーナに来ていたセシリアと鈴にも伝わった。

アルが怪我を!?

すぐに訓練を中断して、鈴と共に着替えもそこそこに保険室へと急ぐ。

いつもなら、すぐについてしまうのにこんな時にはその道のりが長く感じられてしまう。

ようやく、保険室に到着すると、ノックもせずにその扉を勢いよく開ける。

そこには、今まさに先生の診察が終わったアルディがいた。

「アル!」

「やぁ、セシリー」

こちらの気もしらないで、何ともまぁ軽い挨拶を・・

「先生、大丈夫なんですか!?」

「そうね。アリーナの側壁に叩きつけられたときにだいぶ上半身を強く打ってるみたいだから、しばらくISの実習も自粛した方が良いとは思うわ、その他は特に異常は見られないから大丈夫だと思うけど」

「・・・・そうですの」

「・・・あの女やってくれるじゃない」

鈴が憎々しげに言う。

鈴は素直には言わないがそれなりに、アルの事を心配してくれているようだった。

「まぁ、逆に生身でISの攻撃を受けて、これだけで済んだわけだし運が良かったんだね」

「アル!楽観的なのも大概にしておきませんと、後々大けがしますわよ!」

本当に、少しはこっちの身になってほしいものだ。

大体の事を「まぁ、いいや」で済ましてしまうのが彼だが、自分の体の事までそれで済まされては、たまったものではない。

彼に万が一の事かあったら、自分はどうすればいいのだ・・・・。

「にしても、一夏に・・・・えーと・・・」

「あぁ、シャルル。シャルル・デュノア」

「そう、デュノアがいてなんてザマなの?」

確かにそれはセシリアも思う。

それに、デュノアは、代表候補生だ。

もう少し、周囲に気を配ってくれれば、アルがこんな怪我をせずに済んだかもしれない。

悪いのはあのラウラという女だと言う事は分かっているのに、セシリアは、アルディの身を案じるあまりそんな事を思ってしまう。

「わ、悪い・・・」

「僕も流石に、生身の人間に向かって攻撃するなんて思わなかったから・・・」

一夏とシャルルが弁解をするが、セシリアの心は一向に晴れなかった。

そしてその、もやもやはやがて、一つの形に集束する。

ISは、今や世界最強の兵器である。

たった一機で一国の軍隊とやりあって勝てるほどのすさまじい力だ。

そんなものを、生身の人間に向かって撃てばどうなるかなど、幼稚園児でもわかる。

・・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・・許しませんわよ、私は。

そう、ラウラへの怒りだ。

だが静かに闘志を燃やしていた、セシリアにアルディが声をかける。

「セシリー、分かってると思うけど・・・・馬鹿な真似しちゃだめだよ」

「馬鹿な真似?何のことですの」

セシリアには、アルディが何を言わんとしているのか分かっていたが、内にその怒りを押し込め、勤めてクールにふるまう。

「・・・・手、ずっと握りっぱなしだよ」

「あ・・・・・」

あわてて、グッと握っていた手解く。それと同時にアルディのため息も聞こえた。

「セシリー・・・彼女とは僕が、決着をつけるよ」

「え?」

「僕にも色々、譲れない物はある」

譲れないもの?

それは一体・・・。

「彼女は僕の姉さんを馬鹿にした・・・・何も知らない癖に負け犬呼ばわりまでして・・・」

一瞬だがセシリアの心にズキンッと痛みが走る。

ローラはアルディのお姉さんで、そのお姉さんを悪く言われてアルディが怒るのは当然の事だ。

だがセシリアはほんの少しだけ、それが自分だったら・・・・と思ってしまった。

要はその姉に対する嫉妬心である。

誰よりも、彼の近くにいたいと思うセシリアの正直な気持ちだったが、すぐにその考えを振り払う。

私は何を考えているんですの!

前もそんな嫉妬心から大変な事になったばかりだと言うのに・・・。

ましてや、アルの実の姉に嫉妬するなど失礼極まりないではありませんか!

だがそうは言っても、・・・・・何時か。

お姉さんよりもなんてことは言わない。

ただそれと同じぐらい近くで彼を見守ってあげたいと

思わずにはいられない複雑な心境のセシリアだった。

セシリアはアルディを見やる。

そのセシリアを見返すように、アルディもまた決意のこもった眼でこちらを見ていた。

「アル・・・」

「僕は彼女を許さないし、許せない・・・・誰が何と言おうと彼女は僕が「・・・残念だけどそれは無理ねぇ」・・・・・え?」

アルディの発言を遮ってまで発せられた保健の先生の一言に一斉に注目が集まる。

「何が無理なんですか?」

鈴が答えをせかすように、誰よりも早く質問を返した。

それに保健の先生は腕を組みながらこう告げる。

「学年別トーナメントまで、そんなに日は無かったわよね・・・二週間あるかないかぐらい」

先生は、白衣のポケットからスケジュール帳を取りだして日程を確認しながら話を続ける。

「で、今日あなたがその怪我をして・・・・完治にこれぐらいだから・・・・・うん無理ね」

何か一人で納得して、勝手に無理と結論づけた。

いまいち、内容のつかめないセシリアたちは、首をかしげるばかりだった。

その様子を見て、先生が苦笑してようやく説明らしい説明をしてくれた。

「あぁ、ごめんなさいね。無理って言うのは彼のトーナメント出場の事よ」

「えぇ!?」

誰よりも一番大きな声を上げたのはアルディだった。

それはそうだろう。あれだけ意気込んでいたのだから。

「普通ななら、何の問題もなくエントリー出来るんだけどね。

ただあなたも時期が悪かったわ。この学園には、操縦者の健康や身の安全を確保するために、

大きな行事・・・・今回で言えば個人戦トーナメントがそれに当たるんだけど、

そういったイベント前に大きな怪我をした生徒は原則、私や医師の診断書が必要なの」

「え、じゃぁ・・・」

「えぇ、あなたの怪我からみて完治はトーナメントの直前ってとこ。

それに今回は外側からじゃ分かりにくい怪我だから、なおさらね。

そんな状態の生徒に診断書は書けないわ・・・残念だけど出場は諦めて」

「そんなっ!」

グッと拳を握りしめて、やりきれない思いをどうしたらいいのか分からない様子のアルディ。

先ほどの話を聞いていただけに、その悔しさはこの場に居る誰もが共有していた。

皆、なんと声をかけたらいいのか分からず、沈黙が部屋に訪れる。

だがセシリアだけは違った。

セシリアは椅子に座るアルディに目線を合わせる様にかがむと、優しい声で言った。

「アル・・・・・私にお任せくださいな。彼女とは、私がその思いと共に闘いますわ」

「セシリー・・・・でも、彼女は・・・僕の・・・」

「ですから、お姉さんへのその思いを私に預けてください」

彼が自分を助けてくれたように、今度は自分が彼を助ける番だ。

悔しさの、にじむ目からはうっすらと涙も見える。

本当に・・・本当に忸怩たる思いなのだろう。

こんな表情のアルディを見たことが無かった。

彼が楽しむのなら、自分もそれを楽しもう。

だが、彼が苦しむのなら、自分は進んで苦しみの中へ飛び込もう。

そして、その苦しみを共に分け合おう。

それで、少しでも彼の苦しみが和らぐのならば。

「彼女は、一夏さんを目の敵にしているようですが、

そんなの知ったことではありませんわ。私が勝って、証明してみせます」

「・・・・・・・セシリー」

アルディが急に自分を呼ぶ。

そしてなにもい言わずに、セシリアの首に〝銃弾のネックレス〟をかけた。

それは、現在使用できないアルディの〝ストライク・バーディ〟の待機状態のものだ。

「アル?」

「やっぱりこんな顔は僕には似合わない。僕は年がら年中笑っていたい人間だからね」

アルディは、打って変わって明るいいつもの調子で言うと、椅子から勢いよく立ちあがり、

保健室の扉の前へ歩いていく。

そしてドアノブに手をかけて、静かにこう言った。

「・・・・君に預けるよ、僕と姉さんの思い。無茶しろなんて言わないけど・・・・一言だけ言わせて」

セシリアは、首に掛けられたネックレスをギュッと握りしめる。

「・・・・・勝って!」

そう言い残し足早に、保健室を後にするアルディ。

残された面々は、その背中をただじっと見送った。

セシリアは預けられたネックレスを首から外すと、それを両手で持つ。

・・・・・重い。

元々重量のあるネックレスだが、これにはアルディとその姉のローラの思いが詰まっている。

今のセシリアには、そのネックレスの重量がとてつもなく重く大きいものに感じられていた。

それと同時に、セシリアの中で決意も固まる。

「・・・・こりゃ、負けられなくなったな、セシリア」

「あんた、ヘマしたら今度こそ捨てられちゃうかもね~」

「彼女も大変だね。こんなところで最高の操縦者が生まれたんだから」

三者三様の言葉を投げかけてくる彼らに、セシリアはふりかえると改めて決意のこもった眼で宣言した。

 

「この思いと共に、勝ってみせますわ!!」

 

言いきったセシリアの表情は、いつも以上に自信に充ち溢れていた。




この小説はオリジナルな展開がこの先も多数待ち受けております。
それをご了承のうえご覧ください(今更ッ!


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第10話~僕が嘘をつく理由、彼が彼女である理由~

トーナメント出場禁止が宣告されたその日の夜。

僕は自室で、ボーっとPCを眺めていた。

何か特別な意味はない。

画面には世界各国の情勢や事柄が、表示されている。

僕はそれを、特に何の考えもなくカチカチとクリックして開いては閉じまた開いては閉じるを繰り返していた。

あの時、感じていたやり場のない憤りが、全く無くなったと言えば嘘になるが、もうあれはセシリーに任せたのだ。自分自らが選んで。

彼女ならやってくれると思ったから。

だから、僕はもう特に深く考えるのをやめた。

勤めて僕らしくあろうとしたのだ。

深く考えるよりも気楽に事を構えていたい。

それが自分だから。

楽観的は自分の専売特許だと思う。それ以外に、特にこれといった特技もないしね。

「・・・・別に良いんだけどなぁ」

何が良いのかもわからないが、呟いてみる。

一人部屋だ。返事は当然ない。

・・・・・はぁ。

だが、そうは言ってもやはり悔しい。

出場できないことが。

姉さんを馬鹿にしたラウラが。

そして何より、セシリーに思いを託すしか選択できなかった自分自信が。

はぁ。

また一つため息が漏れる。

ダメだ。ネットサーフィンしてたら気も紛れるかと思ったけど・・・・。

頭に全然内容が入って来ない。

・・・・・ふぅ、一度外に出よう。

夜風に当たれば、少しは気分転換になるだろう。

 

 

丁度僕が、寮の玄関を出る辺りで、シャルルとすれ違った。

「あ、アルディ・・大丈夫?」

「まぁ、なんとかね」

「大丈夫だよ、セシリアさんすっごく良い顔してたから」

「そう・・・・・そういえば一夏は?」

「うん、なんか用事だって。山田先生と一緒に書類書きに行ってるよ」

「ふ~ん」

「それじゃ、僕もシャワー浴びたいから」

「あぁ、じゃあ」

少しの間言葉を交わして、シャルルと分かれる。

心配してくれていることは、何にしてもうれしい事だった。

しっかりしろ!アルディ・サウスバード。

落ち込んで、皆のモチベーションまで下げる気か!

自分に自分で渇をいれ、夜風心地いい、満点の星空のもと近くのベンチに腰を下ろした。

 

・・・・星空かぁ・・・。

これまで、こうやって見上げたこともなかったなぁ・・・。

だって、よく見えないし、真っ黒で。

・・・・どんなんなんだろうね。

〝ストライク・バーディ〟のバイザー越しにみた青空はそれは綺麗だった。

皆こんなきれいなものを見てるのかって、羨ましくなったぐらいだ。

ふぅ・・・・。

本当に情けない。

こんなことならもう少し、鍛えとくんだったかなぁ。

自慢じゃないが、僕は銃器の扱いには人よりはまぁまぁ上手くできるが、それだけだ。

運動は・・・まぁ嫌いじゃないけど。

一夏や箒みたいに剣道のような、武術を習っていたわけじゃない。

僕のはあくまで趣味の範囲内だ。

そんなこと言ったら、姉さんは怒るかな。

・・・・。

弱っちいなぁ、僕。

僕にあるものと言えば・・・。

しいて言うならこの口か。

子供のころ、今もだが僕はそれはそれは弱かった。

いじめられっ子って言うのかな。

その時姉さんが教えてくれたのが嘘だった。

 

いつだったかな、いつも見たいにボコボコにされて帰ってきたんだっけ。

そしたら姉さんにこう言われたんだ。

「アルディ・・・やり返せとは言わないけど言い返すぐらいしたらどうなの?」

「・・・・だって、言い返すとまた叩かれちゃうし」

「じゃあ、あなたは相手が飽きるまで、叩かれていたいの?」

「いやだよ・・・痛いのも、怖いのも」

多分あの時僕は、半べそ状態だったかな、今思い出すと笑っちゃうけど。

そんな僕に、姉さんは目線を合わせると、頭をなでながらこう言ったんだ。

「アルディ、そんなあなたにいいことを教えてあげる。嘘吐きなさい、なんでもいい嘘を吐くの」

「え?でも・・・」

「他の大人たちは、色々言ってくるかもしれないけどそんなの気にしちゃダメ。

この世にはね、吐いてい良い嘘と吐いちゃダメな嘘があるの、わかる?」

僕はよく言葉の意味が理解できなかったから、首を横に振った。

そんな僕に姉さんは、また優しく笑いながら言う。

「ダメな嘘って言うのは、その場に居ない誰かを傷つけてしまう嘘。

これは絶対にだめよ。どんなことがあってもそれはダメ。

反対に良い嘘って言うのは、自分が傷つく嘘の事。

変な言い方かもしれないけれどね」

そう言うと姉さんは第一回大会のモンド・グロッソでの新聞を僕に見せた。

そこには、二位という成績を片方で称賛しながら、もう片方では〝Rola of betrayal〟

(裏切りのローラ)という文字が一面を飾っていた。

「丁度この記事が良い例だわ、姉さん嘘つきでしょ。

それが招いた記事の見出しなんだけど・・・・

アルディはこんな姉さん誇りに思えない?」

それもノーだ。

僕はさっきと同じように首を横に振る。

どんな理由であれ、姉さんが世界第二位という事実には変わりない。

そしてそんな姉さんを僕は誇りに思っている。

「でしょ、だからそう言う事。たとえ自分の名前や自分自身が傷ついても、

それで誰かに信じてもらえるなら、誰かを助けられるのなら嘘をついても良いの」

「・・・・本当に?」

「あら、姉さんを信じられない?あたしは、世界第二位のお姉さんよ。

それに私はそう言うのを嘘って言わないと思う」

「でも、僕が嘘言ったら、姉さんも悪く言われちゃうよ?」

「フフッ姉さんは良いの、特別よ。姉さんはあなたのためなら喜んで傷ついてあげる」

「・・・・姉さんは強いんだね」

「強くなんて無いわ、そうね格好悪く言えば、ずるがしこい、格好良くえば確かに強いのかも…。

私はこう思うの、嘘って言うのは、あたしににとってそれこそが強さなんじゃないかって。

ただ扱いには結構苦労するけどね」

強さ・・・。

僕にもそれがあればいいのかな。

そう言って笑う姉さんの後ろ姿を見てそう思った僕は、その日以来よく姉さんの真似をするようになった。

真似っていっても、何だろう。

身近な物で色々嘘言ったりするだけなんだけど、これがやってみると結構難しかった。

まず、嘘って言うのは結構周到にやらなければ、ばれてしまうものだ。

そのことを姉さんに言ったら

「そりゃそうよ、そんなに簡単に出来たら、あたし、何のためにあんな事まで言ったの?」

だそうだ。

 

そしてそれから今まで、ずっと。

最近でこそ、それほど嘘吐いてないけど、要所要所で色々吐いてることは吐いてるよね。

にしても、懐かしいなぁ。

こんなにも鮮明に思い出せるのは、今の人格形成に多大な影響を及ぼしたきっかけだからなのか、それとも何かまた別の事なのか。

だが、何にしても少しは気分転換になった気がする。

僕は、ゆっくり立ちあがって、深呼吸を一回。

そして、もと来た道を戻り始めた。

僕が寮の玄関を入ったあたりで今度は一夏に出会う。

一夏も寮に帰って来た様子で、自然と横並びになって会話が始まった。

「アルディじゃないか、今帰りか?」

「いいや、ちょっとそこら辺を」

「徘徊してたのか?」

「言い方・・・・まぁ似たようなもんだけど」

ふうっ、息を吐くと丁度一夏が何か袋を抱えているのが見えた。

「一夏、それ何?」

「ん、あぁこれか、茶っ葉だよ。良いのをネットで見つけてさ、でも距離が遠かったから今着いたんだ」

「アレ?シャルルは書類をかきに行ったって・・・」

「だからその後だよ・・・・そうだ、お前もどうだ一杯。これは美味いぜ!」

・・・・そもそも、その年でお茶っ葉をネットショッピングするのとは。

中々、一夏って珍しいよね。

でも、せっかくのお誘いだ。

どうせ部屋に帰っても、やる事なんて特に無かったし。

「じゃぁ、いただこうかな」

そう言って僕は、行先を変更し一夏の部屋へと足を向けることにした。

 

「たっだいまー」

一夏の能天気な声が響くが、返答はない。

そう言えば、今はシャルルと相部屋だっけね。

ふと、今の一夏の行動が僕の日常の寮へ帰宅する風景に重なる。

・・・・・時々僕も、誰もいないのにこう言う事言ってるけど・・・やめよう。

甚だしく馬鹿らしい・・・。

「あれ、シャルルが・・・・ん、あぁシャワー浴びてんのか」

確かにシャワールームからはシャァァァッっという水の音がしている。

いつまでもドア付近に突っ立っていた僕に、一夏が席へと促す。

「あ、適当に座っててくれよ、今からお茶入れるから」

僕は、適当な椅子に腰かけ、少し辺りを見回す。

・・・・広いね、当たり前だけど。

よくよく考えてみたら、二人部屋でこれだけの広さがあるのに、どうして一人部屋になるとあそこまで小さくなってしまうのだろうか。

普通に考えれば、これの半分でしょ・・・。

そんな事を考えている間にも、一夏は手早く急須にお茶っ葉を入れてポットのお湯をそそいでいる。

と、急に一夏があっと声を漏らした。

「そう言えば、ボディソープ切れてたんだっけ・・・・悪い、ちょっとシャルルにボディソープだけ渡してくる」

「あぁそれぐらいなら僕がしよう。丁度手持無沙汰だったんだ」

僕は一夏がクローゼットから、取りだしたボディソープを受け取るとシャワールームへ。

ガチャリとドアを開けると、中に滞留していた湯けむりが一気に流れ出した。

うっすらとだが奥にシャルルが見える。

「シャルル、一夏から。ボディソープが切れてるんだ・・・・・・・って?」

「え!?あ、アルディ、なんでどうして!?」

・・・・・あれ?

シャルルって男の子・・・だよね?

それとも何、お湯かぶると女の子になっちゃうとか?

そこでは、平均的な胸のふくらみをもった、明らかな女子がシャワーを浴びていた。

「おーい、何あけっぱなしにしてるん・・・・・だ?」

一夏の僕と同じ反応だったが・・・多分今は固まっている場合じゃない気はする。

僕は、ボディーソープをシャルルの、近くに置くと一夏に飛びかかる形でシャワールームから飛び出した。

「おわッ!!おまえいきなり飛んでくるなよ!」

「緊急事態だろう!これぐらい我慢したまえ!」

僕は、一夏寄りかかる形で、先ほど飛び出したシャワールームを振り返る。

ど、どう言う事なんだ?

・・・・これは。

 

しばらくして、シャルルがシャワールームから出てきた。

格好は、オレンジと紺色の入ったジャージ姿だったが、明らかに胸が膨らんでいる。

そ子に居たのはシャルル君ではなく、シャルルさんだった。

「あー・・・えっと」

「・・・・・」

一夏は何か話題を切りだそうとするが、中々口を開けない。

シャルルもそれは同様なようで、椅子に座ってからもずっとうつむいたままだ。

ほんと、こう言う時自分が軽くて、楽観的主義でよかったと思う。

内心は焦ってはいるものの、平気で嘘がつける人間だ。

なんとか外見は平静を保てるし、何より頭が働いた、まささっきよりは。

「とりあえず・・・・お茶でも淹れたら?」

「そう、だな・・・ちょっと待っててくれ」

一夏が立ち上がり、少しの間シャルルと僕の二人がその場に残された。

シャルルは、うつむきながらもぽつりとつぶやいた。

「・・・驚いた、よね」

「まぁ、そりゃ」

むしろこの場で驚かない人間がいたら見てみたい。

・・・・姉さんは楽しみそうな気はするけど。

「・・・・・」

「・・・・・」

再び訪れる沈黙。

流石に僕も、二人きりに慣れると何を言っていいのか困るね。

一夏は数分後に戻ってきたが、その間が僕にはとても長く感じられた。

一夏は、湯呑をシャルル、僕、自分の順番で置いて席に戻った。

シャルルは出されたお茶に、まっ先に口をつけた。

あたかも、自分を落ち着けるかのように。

一夏はシャルル同様に少し口に含んだ後、ふうっと息を一回ついて口を開いた。

「その、なんで男のフリなんかしてたんだ?」

「実家の命令なんだ」

実家・・・デュノア。

・・・・あぁ、デュノア。

フランスの大手IS企業じゃないか。

なるほど、そこのお嬢様だったのか。

「命令?どうしてそんな・・・」

一夏がさらなる疑問を投げかける。

だがシャルルはチラチラと先ほどから僕の方を見てまた黙り込んでしまった。

・・・・・どうやら、複雑な話の様で。

ガタッと僕は立ちあがる。

その行動に、二人とも驚いていたが、僕は構わず言う。

「はぁ、まぁいいや」

それだけ言って僕はきびすを返した。

「おい、まぁいいやってなんだよ、真剣な話してるのに」

当然一夏は僕の行動が癪にさわって、肩を掴んでくる。

だがそれを僕は振り払うと、ふりかえって睨み返した。

「確かに、真剣な話の様だけど、僕はそんな昔話に付き合うつもりはないんだ」

「何!?」

「これからどうせ、お涙ちょうだいな昔話が始まるんでしょ、そう言うの僕は好きじゃないんだ」

「お前!いい加減にしろよ、シャルルはお前の事心配してくれてたじゃないか!!」

「それとこれとは話が別さ、それに僕は心配してなんて頼んだかな?」

「出てけ・・・今すぐに!」

「言われなくてもそうするさ」

僕は、吐き捨てるように言うと乱暴にドアを開けそして、思い切り締めた。

中からは一夏の気にするなよシャルル・・・って声が聞こえる。

・・・・・さて、それじゃ改めて聞かせてもらおうかな。

僕はポケットから、受信機付きのイヤホンを取りだすと、片方の耳に取り付ける。

フフフっ、一夏達には後でちゃんと謝らないとね

僕はほくそ笑むと、イヤホンから聞こえる〝一夏とシャルルの会話〟に耳を傾けた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あいつの事なんか気にすんなよ、あんな薄情なやつだとは思わなかったぜ・・・」

「・・・うん、まぁそれは良いんだけど・・さっきの話の続き」

続き・・・その言葉に急速に冷えていく一夏の頭。

一夏は椅子に座り直すと、シャルルの言葉を待った。

「僕ね、愛人の子なんだよ」

「え・・・・」

つまり、父親と本当に母親の子供じゃないってこと・・・。

「二年前に実家に引き取られてね・・・。色々検査していく内にISの適性が高いことが分かって、非公式ではあるけどデュノア社でテストパイロットをしてたんだ」

一言一言語られていく真実に、一夏は心が締め付けられる思いだった。

特に真実を語っているシャルルはもっとだろう。

「一度だけ、本邸に呼ばれたんだけど・・・本妻の人に殴られちゃったよ。あれはびっくりしたかな」

びっくりしたなんて、生易しいものでは無かっただろうと一夏は思う。

それと同時に、怒りがこみ上げてくるのが自分自身でもわかった。

手は知らず知らずのうちに、グッと握られ震えるほど力が入っている。

「・・まぁそれは僕の事で、それから数年後、デュノア社は第三世代IS開発の遅れから経営危機に陥ったんだ・・・。もともと遅れていた上に時間も無くて、最終的に今度の政府のトライアルで選ばれなかったら、予算全面カットの上でISの開発許可もはく奪されるって話になって・・」

確かに、デュノア社が大変だと言う事は分かった。だが・・・・それがどうして。

「でも、そこからどう男装につながるんだ?、聞いた限りじゃ何も繋がりが見えないんだが」

その問いにシャルルは、乾いた声で少し笑った後、苛立ちを含んで言った。

「ISは男の人には使えないって言うのが一般常識でしょ。そんな中でフランスで男のIS操縦者が見つかったってことになれば、広告塔にもなるしその子がIS学園に入学したって何も不思議じゃない・・・・それに」

シャルルは、うつむくと声のトーンを落とす。

「それに、そこでなら日本で発見された特異ケース・・・一夏に接触しやすいでしょ」

そこでようやく合点が言った。

つまり、そう言うことだ。

白式のデータは、一応公開されているもののその奥が謎のまま。

そのISのデータがあれば、デュノア社は再びそれを元に第三世代ISの開発に着手できる。

仮に予算が下りなくても、〝白式と特異ケースを含むデータ〟を交渉材料に出来る。

一夏は、中々考えたものだと思ったが、それ以上に怒りが沸点を迎えそうだった。

「でも、一夏にもアルディにもばれちゃったし・・・・僕は本国に強制帰国させられて・・・

会社はどうなるのか分からないけど、僕にとってはどっちみち良い選択肢はなさそうだね」

一夏はもう我慢が出来なかった。

親なら、何をしてもいいのか?

むしろ親と呼べるのかそんなものが!?

「お前は良いのかよ!?」

気が付けば、シャルルの両肩をつかんでいた。

一瞬の事で驚いたシャルルはグッと身体をこわばらせる。

「い、一夏?」

「確かに親がいなきゃ、子はできないし生まれないさ!だからっていって、そんな事が許されるのかよ?親なら、何をしてもい言って道理は通らねぇよ!」

なりふり構わず、叫ぶ一夏をシャルルがとりあえずなだめようと、肩をつかむ手に自分の手を重ねる。

それにハッとした一夏は、肩を離すと息を整える。

「・・・大丈夫・・何か変だよ」

「-―――いや、その・・・俺と千冬姉は両親に捨てられて・・・それでお前の親があまりに身勝手で・・・なんか重なってさ」

シャルルも一夏に両親が居ないと言う事は知っていた様で、顔を伏せると小声でごめんと謝った。

「なんで、謝るんだよ・・・今更会いたいなんて思わないし・・・良いんだよ。それより今はお前の事だ」

そうだ、そんな事はどうでもいい。

自分が勝手に重ねて変に熱くなっちまっただけなのだから。

「僕の事?」

「あぁ、お前はそれでいいのかよ」

「良いも悪いもないよ・・・僕には選択肢が無いんだから」

再び顔を下に向けてしまうシャルル。

それを見た一夏は生徒手帳をめくりながら、ある記載を探す。

今のこの状況を、打開できうる策がそこにあるのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

・・・・さてねぇ。

僕はここまで聞いてなんだけど、気持ちは軽く沈んでいた。

シャルルもだけど一夏もなのか・・・。

全く、重たい過去だねぇ。ほんと。

ふと自分の両親が頭の中によみがえる。

・・・・父さんと母さんか。

・・・ま、ころ合いもいい頃だしそろそろ良いかな。

一発は覚悟しよう。

僕はイヤホンを耳から外すと、一夏の部屋の扉を勢いよく開けた。

「シャルル、アメリカは自由の国だ」

そして僕は、いきなりそんな事を高らかにのたまった。

当然一夏は、僕の登場を歓迎してなどいない。

「お前、何しに来たんだよ、出てけっつったろう!!」

そりゃそうなるよね。

僕は半ばあきらめながら、一夏に胸倉をつかまれる。

そして、それでもニヤつく僕を問答無用で、殴り飛ばした。

「いっつぅ・・・・一夏ねぇ、僕はこれでもけが人だよ?」

「知るか!俺はお前が許せねぇだけだ、人の悩みを真剣に聞こうともせず鼻で笑ったお前が!」

おやおや・・・。

一夏君は大事な事を忘れてる。

僕は、殴られて切れたのであろう口から流れ出た血を、右手でぬぐうと座りこんだ体勢のままいつもの調子で言った。

「一夏・・・僕は嘘つきだよ?」

「それがどうしたっていうんだ?大体嘘吐きなんて最低以外の何物でもないじゃないか」

「それは、昔から延々と言われ続けてることだからねもう慣れたよ」

僕は、怒る一夏を尻目にシャルルに近づく。

「さて・・ちょっと失礼」

僕はテーブル下をまさぐる。そしてそこから出てきたものは・・

「あ、ICレコーダー!?」

シャルルが素っ頓狂な声を上げ、一夏が更に睨む。

「コレ、録音した音声を電波で飛ばせるんだ、これ受信機ね」

「お前、ほんといい加減にしろよ、どこまで人を馬鹿にしたら気が済むんだ!?」

声を荒げる一夏を、僕は睨む。

「だったら、僕がいてシャルルは正直に全部話したかな?」

「・・・何だと?」

「あの時、シャルルは明らかに僕を警戒してたんだ。チラチラこっちを見てたしね。

あいにく信用されなさには自信があってね、おんなじような目で見る人間はごまんといた」

それは本当だ。

この性格。

確かに嘘の強みはあるが、逆にそのことがあらかじめ情報として知れ渡っていたりすると、

総じて僕や姉さんを避けたり、警戒したりする。

「だけど、流石に露骨に話しづらそうだからって出ていくと、余計に気を使わせちゃうと思ってね」

「そのための演技だったの?」

「君ほど上手くは無かったけどね、ま一発は覚悟の上でだから。あ、それと僕のは演技じゃなくて嘘ね

そこ重要だから」

「な、何だよ!お前そんなの・・・もっと早く言えって、殴っちまったじゃないか!」

僕の考えを聞いて、急にあわてる一夏。

いやぁ、こういう姿を見られるから、嘘をつくのって癖になるんだ。

「だから、一発は覚悟の上だって言ったでしょ。それより今はほらシャルルの事だよ」

僕は、混乱する一夏に道を示してやる。

あぁそうかと、我に返ると一夏は生徒手帳をめくっていく。

そして一夏は目当てのページを見つけたようだ。

「これだ」

そのページを開いて、こちらに見せてくる一夏。

ふむ・・・なになに特記事項第二一。確かこれは学園の生徒に関する記載事項だ。

えぇと・・・在学中の生徒はありとあらゆる国家・組織に帰属せず・・・・なんだっけ・・。

・・・あぁそうだそうだ。

本人の同意が無ければ、それらの外的介入を一切認めないってやつだ。

全く・・なんでこんなに条例文とかってやつは難しい日本語を使うんだ。

もう簡単に、生徒はどの組織にも属しませんでいいじゃないか。

「・・・よくそんなの見つけたね」

「ふん、俺は勤勉なんだよ」

「織斑先生に頭叩かれる回数一番多いのに?」

「う、うるさいアルディは黙ってろ、お前だって同じぐらいだろ!

それに何より今、俺格好良くまとまったじゃないか!」

「一夏も嘘が旨くなったね」

自分でまとまったとか言うのって、大抵外れだよね。

その様子を見て、フフッと笑うとシャルル。

「・・・・その条項が当てはまったとして、僕に選べるのかな」

「シャルル、そう言えばさっきの話だけど。アメリカは自由の国なんだ。そこでは誰もが自由。

まぁ法の名のもとにだけどね」

「自由・・・」

「そう、自由。そこでは誰もがみな平等にチャンスを与えられている。それに気が付けないだけで」

そう、シャルルも気が付いていなかっただけだ。

これまでもそのチャンスは絶対にあったはずだ。

「そのチャンスに気がつけた者だけが、そこでようやく選択肢を与えられる。そして気が付くんだ。

選ぶのは他でもない自分だって言う事に」

「僕が・・・」

「そう、そして君はたった今チャンスに気が付いたじゃないか。そして一夏が選択肢を与えてくれた」

何が言いたいのか、シャルルにはもう分かってるはずだろうね。

彼女頭良いし。

「そう、だね・・・これまで僕はそのチャンスをただ無理だって自分から放棄してたのかも・・・

僕考えてみるよ、これからの事・・・今度は誰でもない自分で、しっかりと」

その声にはさっき、の様な不安や苦しさは消えていた。

もう、大丈夫だね。

そう思うと、ホッとしたのか急に力が抜けて僕と一夏は椅子にドサッと腰を落とした。

「あ~それにしても・・・覚悟したとはいえ痛い・・・全身も悲鳴あげてるし」

「そんな事言ったってお前仕方ないだろ。あの状況でそんな事どうやって分かれって言うんだよ」

そりゃそうだけど、やっぱり織斑先生の弟の事だけはある。

いや本当に痛い。

弟でこれだから、織斑先生の鉄拳制裁はくらっちゃだめだ。

多分、一撃で即死の可能性がある。

「アハハ、でも僕もびっくりしたよ。確かに警戒はしてたけどあんな事言いだすなんて思わなくて」

「ったく、お前の嘘は姉さん譲りだっけ?はぁ・・・お前の両親も見てみたいよ」

ボソッと言った何気ない一言。

両親。

両親か・・・・。

「そうだね、会いたいね・・・・僕も」

言い方が意味深だっただけに、一夏とシャルルは頭に疑問符を浮かべ首をかしげた。

「僕も?」

「どう言う事?」

僕は、少ししまったと思う。

余計な僕もなんて言葉、言わなきゃよかった。

だが聞かれてしまったものは仕方がない。

僕は諦めたように笑うと、こう続けた。

 

 

 

「・・・・死んだんだ、海難事故でね」

 




やっと10話ですか…そうですかw


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第11話~水と油~

もう何年前になるのか。

僕は、父さんと母さん、そしてようやく休みの取れた姉さんの四人で旅行に出掛けたんだ。

それは船旅だった。

初めて乗る大きな船に、そして海に、僕の心は躍っていた。

はしゃぐ僕を父さんも母さんもそして、姉さんも笑顔で見守ってくれた。

青空のもと海風気持ちの良い中、客船は出港。

だがそれから数日後、いきなり大しけに見舞われてしまう。

船は揺れ、立っているのも無理なぐらいだった。

しばらくはなんとか、船首を波に垂直に向け乗りきっていた船だったが、ついに最悪の事態が訪れる。

突如、真横から予想だにしない大波にのまれたのだ。

船の窓ガラスは水圧で吹き飛び、一瞬にしてすべての電気が消える。

そして、それからは覚えてない。

気が付いたら僕は病院のベッドの上で、泣きながら姉さんが僕を見つめているだけだったから。

「そうだったんだ」

「・・・あぁ、別にこんな空気にするつもりは無かったんだけど」

シャルルと一夏そして僕の間に流れる、重たい空気。

さっきまでも相当重たい空気だったのに、それにまた僕の話が上乗せしてしまったようだ。

確かに、両親が居ないっていうさみしさが無いと言えば嘘になる。

でもだからといって、同情してほしいとかかわいそうだとか、そう思ってほしいわけじゃない。

こちらからすれば、そうなんだで終わるような話だと思ってたのに・・・。

「・・・・なぁ、アルディ。お前は両親の事好きだったのか?」

「当然だね、僕は一夏やシャルルみたいに重い過去なんて無いし・・・あぁ、別に悪く言ってるわけじゃないよ」

「そうか」

一夏は親に捨てられ、シャルルは少し複雑で・・・・。

でも、それでも生きてる。

一夏の親は分からないけど、シャルルの両親は生きてるし。

「一夏、シャルル。僕がこんなこと言うのおかしいけど・・・・どんなに嫌でも、きらいでも・・・

生きてるなら、両親を恨んじゃ駄目だと思う」

「別に俺は、もう何とも思っちゃないけど・・・」

だがそう言う一夏の顔にも少し動揺が見える。

どんなことをしたって、親なのだ。

完全に振りきれるわけがない。

いや、それを振りきっちゃいけないんだ。

血のつながりは、どこまで行っても途切れる事は無いのだから。

僕はパンパンッと織斑先生のように手を叩くと話を切り上げた。

このままもっと空気が重くなっても困る。

いつも言ってるけど、人生は楽しくなくちゃ。

「あ、そういえばさっきの話なんだけど。対象がなんで俺だけだったんだ、アルディも男だろ?」

一夏がそれを悟ったのか、話題を少し方向転換させる。

こういう気づかいはできるのに、どうして鈍感なんだろう・・。

「あぁ、それは優先順位の問題だよ」

「優先順位って言うと・・・・あぁ、僕と一夏ならだれでも一夏を選ぶね、正直だし優しいし」

そう言うとシャルルが少し頬を赤らめて、わざとらしく声を張り上げた。

「そ、そう言うことじゃないよ!た、確かに一夏は優しいし正直だけど・・・・・ってそうじゃなくて!」

ひょっとして、この子自爆大好き?

頭がいいのと、性格が抜ける抜けていないっていうのとではどうやらイコールではないらしい。

「もぅ、アルディ冗談が過ぎるよぉ・・・で、優先順位って言うのはそのままの意味だよ。〝白式〟の性能や、一夏のバックグラウンド、そして〝ブリュンヒルデ〟織斑 千冬・・・・これらに勝るものが一つもアルディには無いんだ」

少し傷つく言い方だけど、しょうがない本当の事だ。

〝白式〟に対して僕の〝ストライク・バーディ〟は姉さんのお下がりの改良品だし、僕のバックグラウンド?・・・・嘘つきになったそれだけ。そして姉さんは織斑先生ほど影響力も無ければ有名でもない。

おまけに、性格でも負け負け。

・・・・最後のはいらなかったかな・・・自虐で傷つくのなんて久しぶりだ。

「それらの事を統合的に考えた結果、一夏だけが対象になったんだ。下手に対象を増やすより確実だと思って・・・・でも見つかっちゃったけど」

そこで一夏はようやくしまったって顔をした。

そう、話題を変えたつもりだったんだろけど、これ戻っただけだよね。

またズーンと暗くなるシャルル。

「この馬鹿、なに話しぶり返してるのさ・・・」

「す、すまん・・いま俺は自分のリカバリー能力の無さを嘆いている所だ」

声をひそめて一夏の脇をコツく。

あの時ほんの少しでも感心した僕の心を返してもらいたいね。

「・・・・やっぱり、僕」

だが、次の行動を見て僕はやっぱり一夏は凄いと思った。

僕はあそこまではっきりと、面と向かって言う自信は無いよ流石に・・・嘘でもない限りね。

「さっき、選ぶって言っただろ、もう覆しちまうのかよ?

それでも、それでも・・・選べないっていうのんら俺が言ってやる!」

一夏は立ち上がると叫んだ。さっきまでの静かな雰囲気の中からいきなり大声を出すから、

僕は少し驚いてしまう。それはシャルルも同様だったようで、

びっくりした顔で一夏の顔を、見上げるシャルル。

「いち・・・か?」

不安がまたシャルルを包み込んでいく。

声は先ほどまでとは違い、僕がイヤホンで耳にしていた不安一色のか細いものだった。

だが一夏はその暗雲を一言で、吹き飛ばして見せた。

「ここにいろよ!それで解決だろ!?」

「え・・・・」

呆けた顔だったが、僕にはそれがどこか、嬉しそうにも見えた。

恐らくそんな事、初めて言われたんだろうね・・・。

僕は、興奮気味にまだ何か言葉を探す一夏を諭した。

「一夏、それ以上先はさっきも言ったでしょ、彼女が考えることだよ・・・ね」

僕はシャルルに笑いかける。

シャルルはまだどこか、不安そうな顔はしていたがうつむいてはいない。

「・・・ほんと僕って駄目だなぁ、二回目だね言われるの」

「僕は三回四回言われても、覚えられないけどね」

「自慢じゃねぇだろ・・・」

「自慢とは言ってないけど」

ハハハッと笑いあう。

そうさ、こうじゃなきゃ人生は。

僕は、その後の事を一夏に任せて部屋を後にする。

部屋のドアを閉めると、ふと懐かしい話をしちゃったなと思う。

これまでもまぁ数えるぐらいは、した気がするけど最近は全く自分の事なんて話したこと無かった。

それに聞かれなかったしね・・・。

僕は、足を自分の部屋に向ける。

そこで、腹の虫が鳴いていることに気が付いた。

・・・・あ、ご飯まだだったな。

急遽方向転換。

今日はこういう突発的な行き先変更が多いね。

僕は、その足を部屋から食堂へと向き直した。

階段を下りていた時、声をかけられる。

ん?んん?

声はすれど姿は・・・

「ここですわよ!」

声のした方向を見やると、ようやく見えた。

階段の手すりの所為で僕側からはその姿が見えていなかったようだ。

「セシリー?」

「セシリー?じゃありませんわ全く・・・・それでその、大丈夫ですの・・・?」

「あぁ、うん。まだ完璧に整理が付いたわけじゃないけどね」

ああ言ったものの不思議なもので、さっきシャルルたちと話しただけで僕の心は

驚くほど整理が付いていた。

姉さんや両親の事を、順序立てて色々話したからかもしれない。

「そうですか・・・・あ、ところでこれから一緒に夕食でもいかがかしら?」

おぉ、丁度いい。

・・・向こうにとっても丁度いい。

「・・・はぁ、アル。私そんなにあなたに奢らせてばかりだったでしょうか」

頭を押さえながら、ため息をつくセシリー。

・・・僕も、読まれやすくなったものだ。

「アル、あなた初めて会ったときから、意外と考えダダ漏れですわよ」

「嘘!?」

それは心外だ・・・。

僕はさらりと嘘を言ってのけるクールな嘘つきを目指しているのに。

「はぁ、もういいですわ、でどうですの?ま、無理と言っても無理やり連れて行きますけど」

そう言ってスルッと腕を僕の腕にまわしてくるセシリー。

・・・やれやれ、こうなっては断れない。

まぁ断る気なんてハナから無かったんだけど。

「それじゃぁ、行きましょうかお嬢様?」

「フフフっ、苦しゅうな~い」

僕は、〝お嬢様〟を食堂という名の、パーティ会場へエスコートした。

・・・・流石に言い過ぎかな?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

・・・・なんですのこれ。

アルが出られなくなったことが分かった日から一週間半が経った。

今セシリアの目の前には申込書が一枚。

その申込書には、『今月開催の学年別トーナメントは二人一組での参加を必須とする』という旨の緊急告知文が書き込まれていた。

な、なんてタイミングの悪い・・・。

二人一組ということは当然ペアを探さなければならない。

セシリアは、ペアを組むならアル以外考えられなかった。

だがアルはご承知のとおりである。

・・・・不味いことになりましたわ。

相手が、専用機持ちでなければ正直いって、セシリアは単機でもどうにか相手に出来る算段はあったのだが、この告知文にあるとおりペアは必須だし、何より勝ち進んでいけば必ずどこかで専用気持ちに当たる。

そうなると、いくらまだ実力が伯仲している一年生といえども、

〝打鉄〟や〝ラファール・リヴァイヴ〟で専用機を相手にするのはあまりにも酷だ。

・・・・勝てるペアがいりますわね。

一夏さんは・・・デュノアさんとでしたわね。

箒さんは剣の腕は立ちますが、専用機を持っていない。

ラウラ・ボーデヴィッヒは論外・・・

消去法で消していくと・・・・・。

一人しか残らなかった。

 

「・・・なんであたしなのよ」

セシリアは、残った一人に会うべく二組を訪れていた。

鈴は腕を組んで、渋い顔をしている。

「仕方が無いでしょう、勝てるペアが必要なのです」

「勝てるペアをアテにして来たのは良いけど、仕方がないっていうのやめなさいよ」

仕方が無いものは仕方が無いのだ。

実際鈴とは、初対面での〝知らない発言〟から犬猿の仲であり好きな男子が違うから、

その事でもめごとは起きないが、それでもその他の些細な事で意地を張り合ったする仲だ。

その鈴が、自分の申し出を素直に受け入れるとは考えにくいし、そんな事思ってもいない。

だから、少し交渉をしてみようとセシリアは初めから色々考えてこの場に足を運んでいる。

「鈴さんは、もう誰かと?」

「いや、まだだけどさぁ・・・」

鈴は口をとがらせる。

恐らく一夏とペアになれなかったことが、相当尾を引いているようだ。

セシリアはそのことを察すると、不敵な笑みを浮かべる。

「そんなに一夏さんと一緒がよろしかったのでしょうか?」

「だ、誰が!?そんな事一言も言ってないじゃないのよ」

誰に目から見ても明らかに動揺する鈴。

これはもう少しですわね。

「そうですわよね、いつもアピールしているのに一向に振り向いてくれない一夏さん。そのお気持ち分かりますわ、本当に悔しいですわね」

「う、うぅ」

図星をバンバン言い当てられて、気まずそうに小さくなる鈴。

「ですが・・・あのデュノアさんがいなければ、一夏さんは鈴さんに振りむいてくれたかもしれない」

流石に苦しかったかと肩目を開いて、鈴の様子を伺うがどうやら、気まずさとモチベーションの低下から、先ほどの言葉の不自然さには気が付いていないようだった。

ふぅ、危ない・・・。

デュノアさんは男の子でしたわね。

下手言って、ここでばれたら鈴とペアが組めなくなって不利になってしまう。

それだけは避けなければ。

「トーナメントで優秀な成績を残せば、一夏さんはきっと鈴さんに振り向いてくれますわよ!」

「・・・一夏が振り向いてくれる・・・・振り向いてくれる・・・デュノア邪魔・・・デュノア邪魔・・」

しばらくして、うつろな目でそのフレーズだけを繰り返し始める鈴。

流石に吹っ掛けたセシリアも引くぐらいのシュールさだったが、セシリアはその鈴にとりあえずペンを持たせ、申込書にサインさせると足早に二組を後にした。

何にせよこれで、セシリアと鈴というある意味、最強のそれでいて、

磁石の同じ極同士のデコボココンビが誕生した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ふぅ、ISを持っていなくても、意外と日って言うのは早く過ぎるものなんだなぁ。

僕はアリーナの更衣室からピットへと続く通路のモニターに映し出される観客席の様子を見ていた。

各国の要人やIS関係者、あ、アメリカの技術者までいるね。

僕は出場できないけど、こんな人たちの目の前で戦うのかぁ。

・・・いいなぁ、目立てるし。

身体の痛みは消えていたが、まだ腕の刺し傷の包帯は取れていなかった。

でもまぁ、セシリーに僕は任せたのだ。

今日はそれを信じて応援するしかない。

「お待たせいたしましたわ」

「・・・う~ん・・なんであたしオーケーしたんだろ?」

後ろから、セシリーの自信たっぷりな声と鈴の納得出来ていないような声の二つが通路に響いた。

既に二人とも、ISスーツに身を包んでいる。

「何をウダウダ言っていますの、鈴さん!ここまで来たら覚悟をお決めなさいな」

「ウダウダってねぇ・・・良いように人を丸めこんどいてあんたがそれ言う?」

少なくとも鈴には、丸めこまれたっていう感覚はあるらしい。

だったら素直に納得すればいいのに。

「それに、別に覚悟決めたとか決めてないとか言うつもりないし。始まったら代表候補生としてその実力を発揮するだけよ」

「その意気ですわ、鈴さん」

どうやらセシリーは、鈴になるだけ逆らわずに持ち上げて、丸め込まれたっていう事で生じるモチベーション低下を最小限に食い止めようとしているようだった。

「はぁ、わざとらしいのよあんた!」

「せっかく、人が褒めているのですから、少しは素直に受け取ったらどうですか!?」

・・・・・どうやらそうでもないらしい。

鈴ははぁっと、ため息をつくと僕に質問する。

「まぁ良いわ、で、あたしらの対戦相手ってもう決まったの?」

「今、抽選会やってるんじゃないのかな、もうすぐ出ると・・・・ってえぇ!?」

タイミング良く表示される、トーナメント表。

それを見て僕だけじゃなく鈴やセシリーも同様に驚きの声を上げていた。

セシリーと鈴はAブロックに振り分けられている。

そしてその一組目がセシリーと鈴だったのだ。

だが驚くべきはそこじゃない。

「一夏さんと、デュノアさんのペアが・・初戦ですのね」

「順当にいけばラウラと二回戦で当たる・・・」

ラウラと・・・箒がペアになったのか。

あの二人、絶対に気なんて会うわけ無いよなぁ。

・・・・でも。

ラウラ・ボーデヴィッヒは、平気で生身の人間に向かって攻撃ができるほどの冷徹さを持つ人物だ。

そして、彼女はドイツの軍人。

並の操縦者など一蹴してしまうだろう。

そう考えると、セシリー達は一回戦を落としてしまうと、

仮に三位決定戦に回れてもラウラと戦えないことになる。

答えは簡単だ。

単純にラウラが強いからである。

「セシリー・・・」

「大丈夫ですわ、アル・・・・ほら」

「あんたそれ首にぶら下げて戦うつもり?」

セシリーは首にぶら下げていた〝ストライク・バーディ〟を掲げて見せる。

そしてそれをギュッと握った。

「アルと、お姉さんの思いは私が必ず証明してみせます」

「・・・ま、良いわ。あたしも友達やられて黙ってられるほど人間出来ちゃないし、あの女の顔面に一発入れてやるためにも、一夏達なんて瞬殺よ!」

セシリーに引っ張られる形で、鈴もどうやらモチベーションが復活してきたようだ。

二人とも、自信に満ち溢れた良い表情をしている。

〝これよりAブロック第一回戦を開始します。参加ペアはピットにて準備を行ってください。繰り返します・・・〟

場内アナウンスが聞こえ、セシリーと鈴の顔に緊張が走る。

出場しない僕でさえ、ピリピリした雰囲気に当てられて少し身体がこわばってしまうぐらいなのだ。

当の本人たちのそれは、ちょっと僕じゃ計り知れないだろう。

でも、だからこそ。こういう時だからこそ、楽観的に事を構えるのも必要なのだ。

「セシリー、鈴。スマイルスマ~イル。肩の力入りっぱなしじゃいい戦いは出来ないよ」

僕は言いながら、両者の肩を軽く揉む。

初めはやはり、身体が緊張していたが揉んであげるとすぐにほぐれてきた。

「あ、アル・・・私はその・・大丈夫ですわ!」

「あんたねぇ、あたしを誰だと思ってんのよ!」

頬を赤く染めるセシリーと、その手を振りほどこうとする鈴。

そうそう、そうやっていつも通りにね。

僕は肩から手を離すと、笑顔で彼女たちを見送った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「一組目から強敵だね」

「まさか、つぶし合いになるとはなぁ」

一夏は頭をポリポリ書きながら、トーナメント表を見つめていた。

確かに、こうなることの可能性は一夏も考えてはいたが、まさか本当になってしまうとは。

ベストだったのは、ストレートにラウラと戦う事だったのだが仕方がない。

「・・シャルル、勝とうぜ」

「そうだね、あの二人には悪いけど本気で行こう」

一夏は真剣勝負で手を抜いたり手を抜かれたりすることを極端に嫌う。

だからこそ、こうなってしまっても一夏は手を抜こうとは思わなかった。

正々堂々・・・真正面からぶつかってやる。

一夏とシャルルは強い決意と共に、ピットへ向かい歩き出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ふん・・・初戦に雑魚とのつまらん戦闘が入ってしまったが。

まぁ良い。

私のすべきことに、変わりは無い。

織斑一夏を完膚なきまでに倒すことこそが、私のすべきことだ。

他になにも必要無い。

それだけを完遂すればいい。

教官に汚点を残したあの男さえ排除すればな。

ラウラは腕を組みながらチラッとペアになった箒を一瞥する。

「貴様、何やら張り切っているようだが、邪魔だけはするなよ」

「ふん、それはこちらのセリフだ。お前こそ油断して足元をすくわれないように注意しろ」

箒は、いつもの調子でだが少し威圧的にラウラに言い返す。

だがラウラはそれを鼻で笑う。

「はッ、笑わせてくれる。雑魚は雑魚らしくピットでボサっとして居ればいい。私がすべてやる」

「なんだと!!」

ラウラに詰め寄った箒だったが、逆にラウラによって足を払われると無駄のない動きで箒の胸倉をつかんだ。

「・・・・・調子にのるなよ?邪魔をするなと言ったらするな。それが出来ないのら撃つだけだ。貴様ごとな」

ラウラは箒をまるでごみを放るかのように払い捨てると、一人ピットの扉へ消えた。

・・・・・私は・・・あんな暴力の塊のようなヤツと、本当に失敗を犯さず。もう間違えずに力を振るえるのだろうか。

箒は以前束の開発したISの所為で、家族と別々にされ執拗な監視と事情聴取。

かろうじて続けていた剣道も、本来心身を究め力の本質を見誤らぬ事が剣の道であったにもかかわらずそれを、ただの憂さ晴らしの道具として考えてしまった時期があった。

今回のトーナメントでは、その間違いを犯さないように自分で自分んをしっかりコントロールするつもりだった。

だがペアがアレである。

箒はラウラを見た時、昔の自分とどこか重なる所を感じていた。

・・・・駄目だ駄目だ!考えるな。大丈夫・・・大丈夫だ。

箒は自己暗示のように繰り返しながら立ち上がると、ゆっくりとピットへと足を進めた。

・・・そう、私は絶対に間違わない!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ワァァァァァァァァッと歓声の響く中、両ピットからそれぞれのISが計四機飛び出してくる。

初戦から専用機持ち同士の対戦とあり、否が応でも注目が集まっていることは容易に想像ができた。

両者が互いに所定の位置へ、ISを移動させる。

対峙するは一夏・シャルルペアとセシリア・鈴ペアだ。

「よく、お前たちが組む気になったな。水と油みたいなのに」

「誰が水よ!!」

「鈴さん、私が油ですの!?」

「アハハ、からかっちゃダメだよ一夏」

四人とも軽口を言いあう。

互いに緊張は程良くほぐれているみたいだった。

・・・・絶対に、負けられませんわ。

この思いと共に・・・・絶対。

セシリアは瞳を閉じて、またそのネックレスを強く握る。

すると一瞬、本当に一瞬だが何かそのネックレスが光った気がした。

(・・・・なんですの、今のは)

セシリアは先ほどの感覚を考えようとしたが、試合開始のブザーがそれを遮った。

〝Aブロック第一回戦・・・・始め!!〟

セシリアは頭を切り替え、飛ぶ。

〝ブルー・ティアーズ〟は射撃特化の支援に適した長距離戦ISだ。

セシリアは、鈴が孤立しないように距離を取りながらもビットを巧みに使いながら

一夏達を牽制する。

「僕も忘れてもらっちゃ、困るな」

そこへ、早々に鈴を一夏に任せたシャルルが両手にアサルトライフルを展開してセシリアへ迫る。

「忘れてなどおりませんわ、むしろ一夏さんよりもあなたの方が厄介ですものね!」

セシリアは四機中二機を一夏側に振り分け、残りの二機と〝スターライトMKⅢ〟でシャルルを狙う。

ビットの弱点は、一夏に指摘された通り。

〝このビットは毎回自分が指示をしないと動かず、更に一番感覚の遠いところを狙う〟

これが相手に読まれた弱点だった。

だが・・・それなら。

仮に一度の事をいっぺんに考えることができるのならどうだろうか?

すべてのビットを、隙なく動かし尚且つ自分もしっかりと攻撃と機動、防御を行えたら?

・・・そして、今の自分にはそれができる。

今日の今日まで、じっくりと時間をかけて反復練習を重ねてきた。

練習はうそをつかない。

それにこれぐらいできて当然だ。何せ自分はセシリア・オルコットなのだから。

「なッ!くッ!?動きが・・一夏から聞いてたのと違う!?」

「私は代表候補生ですのよ!立ち止まってなど居られませんの!」

ビットと〝スターライトMKⅢ〟の驟雨がシャルルを襲う。

だがシャルルは笑っていた。

「・・・なんてね、そのぐらいの事は予測済みだよ」

シャルルは的確な操縦でその攻撃をかわす。

先ほどまでの焦りも、当たりそうな感覚も無くなる。

つまりシャルルは〝わざと〟焦ったふりをしていたのだ。

という事は、シャルルの実力はセシリアが考えていた以上に高いと言う事になる。

(・・・・まいりましたわね)

セシリアに向かって今度は、シャルルがアサルトライフルを撃つ。

っく、私はこんなところで・・負けられませんのに!!

やがて、勢いを殺されたセシリアはシャルルに押され始める。

必死に回避と、隙あらば攻撃を繰り返すセシリアは、焦りながらも程良く冷えた頭で

打開策を考えていた。

必ず勝たねばならない。

自分のためにも。

そして何よりアルのためにも!

セシリアは駆る。

降り注ぐ銃弾の先にある勝利を目指して。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

気付けば鈴は、旨く一夏に分断されてしまった事に気が付く。

っく、このあたしが!

そしてそのことは、代表制ペアよりも相手のペアの方がコンビネーションに長けていると言う事でもある。

「鈴!いつかのリターンマッチになっちまったな!」

「ふん、一夏のくせに偉そうね!あの時見たいにイグニッションブーストで、奇襲するつもりなら無駄よ、二度も同じ手は食わないわ!!」

確かに鈴はあの時、一夏に完全に勝っていた。それは事実だ。

だが最後の最後、油断から招いた一瞬の隙を突かれ、乱入騒動が無ければ負けていたのも事実。

その苦い経験から、鈴は脅威である〝イグニッション・ブースト〟には細心の注意を払っていた。

流石の鈴のISでも、〝イグニッション・ブースト〟で迫られてはとっさに避けようがない。

だが、鈴はさらなる懸念事項に襲われた。

(一夏の飛び方が・・・デュノアね!)

そう、あの時とは明らかに飛び方が違う。

ベースは直線的なのだが、所々でスピードに強弱をつけたり高低差を利用したりと、変化が見られた。

恐らく、この日までにデュノアと特訓に励んだのだろうと思われる。

でも・・・

「そのぐらいで勝てるなんて思わないことね!!」

鈴は〝双天牙月〟を振り上げ、突っ込んでくる一夏の〝雪片〟を正面から受け止める。

腕の振りに加えて、移動エネルギーも加わっていたのだが、それをもしっかり受け止めきれるだけのパワーが〝甲龍〟には備わっている。

「くそッ!やっぱパワーじゃ勝てないか!?」

「しっかりしなさいよ、男の子!」

鈴は、瞬間ほんの少し高度を上げ一夏を、〝双天牙月〟で下方向へ払うと〝龍砲〟で

一気に地面にたたきつけようとする。

「食らいなさい、流石に避けられないでしょ!!」

しかし鈴の〝龍砲〟は不発に終わる。

いや、不発というよりは鈴は吹き飛ばされたのだ。

鈴が見やるとそこには、いつのまにかセシリアを振り切り、

こちらへ銃を向けるデュノアの姿があった。

(なっ、セシリアは!?)

鈴は素早くハイパーセンサーでセシリアを探す。

まさか、あのセシリアをもう落としたというのか?

「鈴さん勝手に、殺さないでください!」

声のした方を見やると豆粒サイズのセシリアが。

「・・・あんたこの距離をどうやって飛んできたの?」

「どうって、〝イグニッション・ブースト〟だけど」

さらりと言ってのけるが、鈴やセシリアは事前に出場者の目ぼしいデータには目を通している。

だが、デュノアが〝イグニッション・ブースト〟を使用できるというデータはどこにもなかった。

この状況で鈴はようやく理解した。

(この子、ヤバイ)

正直、一夏を先に自分が倒せると思っていた鈴は。考えを改める。

無理だ。

一人でこのコンビネーションを抜けるのは。

鈴は、周囲に構わず〝龍砲〟を振りまくとその隙を縫って、セシリアの元へ移動する。

「体勢を立て直した方がいいわね」

「・・・舐めておりましたわ。ですが・・・負けるわけにはまいりません」

一瞬の険しい顔の後、すぐに自信たっぷりな笑みをこちらへ返すセシリア。

だがそれは、鈴も同じだ。

こんなところで負けるわけにはいかない。

鈴はもう一度セシリアを見る。

「・・・・セシリアあんた、これ出来る?」

鈴は手早く、アイ・タッチでデータを〝ブルー・ティアーズ〟へ転送する。

「これは・・・」

「出来るの?」

セシリアは、一瞬目を見開いて少し考える。

「・・・・・」

「あのコンビネーション。あたしから見ても大したもんだわ。特にあのデュノアが厄介。

一夏も、前に比べれば動きも良い。一人で個別撃破は難しいしリスクもデカイ。

でもこれなら二人が負うリスクは半々よ?」

「私,博打は好きではありませんが・・・良いですわ、やりましょう」

鈴はその返答を待っていたとばかりに、ニヤッと笑う。

「ヘマるんじゃないわよ、これはスピードとタイミングが命なんだから!」

「誰に言っていますの、私は・・セシリア・オルコットでしてよ!!」

鈴とセシリアが一気に敵へ加速する。

その行動にシャルルと一夏が身構える。

その様子を確認した鈴とセシリアは、不敵に笑いそして同時に高らかに叫んだ。

 

「「タクティクス〝レイ!〟」」




鈴とセシリアって、なんだかんだいって仲は良いと思う。


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第12話~暖かい世界~

モニターで戦闘の様子を見ていた、千冬と真耶は鈴とセシリアの動きが変わった事にすぐに気が付いた。

「何か、するつもりでしょうか・・・」

「この機動は・・・〝レイ〟だな」

つぶやいた言葉に真耶が首を傾ける。

「レイ?」

「中国語で雷という意味を持つ、マニューバタクティクスの事だ」

機動戦術〝雷〟。

これは中国IS軍による機動戦術で、主に二機以上の僚機で行われる機動戦術だ。

高い機動技術と、射撃そして格闘戦闘が求められる高度な戦術だ。

「この戦術には、近接戦闘の技術も必要なんだがな」

「オルコットさんは、苦手としてますね・・・」

「・・・何か考えがあるのか・・・まぁ見せてもらおうじゃないか」

千冬はそう言うと、台の上にあったインスタントコーヒーを取り出しコーヒーを淹れ始める。

粉を入れ、ポットからお湯をカップへそそぐ。

「でも、織斑君たちのコンビネーションも結構な完成度ですよね。凰さん達の作戦がうまくいっても落としきれるんでしょうか?」

千冬はコーヒーを淹れる作業を中断してモニターを見やった後、麻耶に向き直る。

「山田君、確かにデュノアと織斑は動きは良いが、これがそのまま実戦で使えるかと言えばノーだ。

あくまでこれは、トーナメント用に作った付け焼刃みたいなものだろう。

だが〝レイ〟は違う。元々実戦の中で考え出された、戦術なのだよ。

だからこの一戦・・・〝レイ〟を完璧にあの二人がこなせれば、織斑たちは負ける」

そこまで言い切ると千冬は、コーヒーを作る作業へ戻る。

えぇと・・そうだ砂糖を・・・。

「・・・でもそこまで言っても、やっぱり織斑君の事心配してるんですよね!やっぱりお姉さんだなぁ」

そうだ、塩を入れよう。

千冬は塩を〝適量〟コーヒーの中へ落とす。

そしていつも以上に笑顔で麻耶に近づいていった。

そこでようやく麻耶は自分の、失言に気が付いた。

千冬が身内の事で弄られる事を嫌っていたのをすっかり忘れていたのだ。

青ざめる麻耶だが、もう遅い。

「山田君、君の好きな塩入りコーヒーだ。ちゃんと適量測って淹れたぞ?」

「い、いや・・その塩適量って言うのは・・・それに私そんな好物」

「飲みたまえ」

「あ、いや、でもあの織斑先生がお飲みになられたら・・わざわざ手を煩わせるのも・・・ッ」

「・・・・・・飲め」

「はい」

麻耶は苦みと辛みが混在する、おおよそコーヒーとは呼べない代物を涙目ですすった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「鈴、突っ込んでくるなんてヤケにでもなったのか!」

「一夏、あんた油断してるとマジで怪我するよ?」

さっきまでと明らかに、雰囲気の違う鈴の声を聞き一夏は、身体に緊張が走る。

鈴はそのままこちらへ突っ込んできていた。

一夏はそれを受け止めるために、〝雪片〟を構え、シャルルはそれを迎撃すべくコンビネーション機動を開始する。

「凰さん、何をするつもりかは知らないけどやらせない!」

シャルルは瞬時に武装をリアルタイムで変更する。

その速さから鈴にはすぐにあれがシャルルの〝ラピッドスイッチ〟という特技である事に気が付く。

(・・・なるほどね、ほんと器用だわ・・・でも)

鈴はそのまま〝双天牙月〟を一本に連結させ一夏に突っ込む。

一夏はそれをなんとか受け止めると、やすやすと後ろを取ったシャルルがそれを狙う。

だがそこへセシリアのビットの一斉射撃が降り注いだ。

「おっと」

シャルルはそれをヒョイッとかわすが次にシャルルが見たものは、一夏を〝龍砲〟で吹き飛ばした鈴が自分の真正面にいる光景だった。

鈴は再び〝双天牙月〟を使いシャルルに切りかかる。

「うっくッ!」

シャルルは手に持っていたライフルでなんとか受け止めたが、いかんせんパワーが違う。

鈴はさっきと同じ要領で〝龍砲〟を発射しシャルルを吹き飛ばすと、また今度は一夏の方へとその衝撃をも加速に使って一気に肉薄。追うシャルルをセシリアのビットが襲う。

マニューバタクティクス〝レイ〟は、このように、同じ動作同じ攻撃を寸分たがわぬタイミングで行う機動戦略である。

〝敵陣を光のごとく駆け抜ける姿、まさに雷のごとく〟という事から〝レイ〟と名付けられた本戦術は、本来なら、一撃離脱のできるISの方がより効果的である。

だがこの場合、セシリアはのISは機動力は一般的だし近接武器をほとんど持っておらず、また苦手としているし、鈴のISもそこまで高いとは言えない。

だから動き回る約を買って出た鈴はそれを〝龍砲〟の発射衝撃を反動にして、言ってみれば疑似的なブーストで補っているのだった。

そして援護側にまわったセシリアは、寸分たがわず性格無比な射撃で動きを制限し、こちらもこちらで疑似的な一対一の構図を作り上げていく。

セシリアは縦横無尽に動き回る鈴を見て、改めて感嘆の声を漏らす。

「鈴さん・・・・中々やるではありませんか。代表候補生はやはり伊達ではありませんのね」

 

鈴の動きは非常に速くしかも、正確に相手を旨く払える位置に〝双天牙月〟を撃ちこんでいる。

これにはシャルルも、手をこまねいて見ているしかなく、かといって攻撃の隙があっても動き回る鈴を旨くとらえきれず、セシリアはセシリアで必ず相手の上、出来るだけ太陽を背負いながら射撃を行ってくる。

いくらハイパーセンサーがあるとはいえ、逆光で正確に射撃を当てるだけの技術はまだ流石のシャルルに備わっていなかった。

「このままじゃ!」

「あぁ、やべぇ!!」

始めて二人の口から、焦りの言葉を聞いたセシリアと鈴はたたみかける。

「鈴さん!」

「あんた、あわせなさいよ!!」

鈴は再び一夏へとその進路を取る。

だが今回はセシリアの援護が無い。

そこへなぜ援護が無いのか、疑問に思いながらも、シャルルが割って入った。

「やらせない!」

それを見て口元を緩めた鈴。

鈴は一気に高度を上げる。そして背後から現れたのは〝ブルー・ティアーズ〟の一極集中射撃だった。

そう、鈴はギリギリまでセシリアの放った射撃を隠していたのだ。

「しまった!?」

避けるすべなく、その攻撃に直撃するシャルル。

そしてシャルルに一瞬気を取られた一夏に〝双天牙月〟と〝龍砲〟そしてビットの一斉射撃が襲う。

反応して防御でもされれば火力不足だっただろうが、ろくに反応も出来ず一斉掃射を浴びた後、トドメの一撃が鈴によって再度振り下ろされた。

「ぐあぁぁっ!!」

激しく地面にたたきつけられる〝白式〟と三枚のマルチ・スラスターを欠きマルチウェポンラックは、誘爆を起こしたのか吹き飛んでいる〝〟ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを尻目に、

悠々とアリーナへと降り立つ二人に、勝利を告げるアナウンスが流れた。

〝試合終了!Aブロック第一回戦勝者セシリア・オルコット、凰鈴音ペア!!〟

鈴はセシリアの方を向くと、右手を挙げる。

始めはきょとんとしていたセシリアだったが、すぐにその意味を理解したのか同じように手を挙げた。

「ま、中々だったじゃない」

「そちらこそ、まずまずですわね

軽口を言って互いにニッと笑う。

そして・・・・ガシャァンッ!

人間で言う所のパァンッという、IS同士の無機質な、だがどこか心地のいいハイタッチ音がアリーナにひと際大きく響いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

まさに、水と油の融合ってところかな。

僕は通路のリアルタイムモニターで、観戦してそんな感想を持った。

程なくして、ピットからセシリーと鈴が帰ってくる。

「お疲れ様」

僕は勝っておいたスポーツドリンクを二人に手渡す。

「アル、助かりますわ」

「ん、サンキュ」

二人は、ゴクゴクッとスポーツドリンクを口にする。

そしてセシリーは上品に、口を飲み物から離し口周りに付いた水分をタオルで拭き取る。

一方の鈴は、飲むとくぁ~~やっぱ、動いた後はスポーツドリンクよねぇ~!と言いながら、こぼれるのも気にせず、勢いよく口から離した。

飲み物一つ飲む動作でもこれほど違う二人が、さっきまで寸分たがわないコンビネーションで

相手を圧倒したのだから、面白い。

「あ、そういえばあいつ・・ラウラはどうなったの?」

鈴の質問のセシリーも頷きながら、こちらに無言で質問を投げかけてくる。

気になるよね、やっぱり。

「まさか、負けたとかはありませんわよね」

「そうだね、終わったよ。さっきスタッフの人・・・まぁ教員なんだけど、その人に聞いた」

「で、どうなったのよ!?」

じれったいなぁと言わんばかりに鈴が、こちらに詰め寄ってくる。

それをセシリーが、鈴の首根っこを引っ張って、無理やり引き離した。

「近いですわよ!!!」

「うっさいなぁ、気になるでしょうが。それにあたしはね、あんたみたいに邪な考え持ってないの」

「よ、よよ、よこしまですって!?」

やっぱりこの二人は水と油だ。

仲良く笑いあえる日は来るのだろうかと心配してしまうが、いくらなんでもここで騒ぐのはまずい。

「まぁまぁ、二人とも。ここで騒ぐのは、ね。結果は言うからさ」

鈴はボソッと早く言いなさいよと言い、セシリーとの言い争いを切り上げる。

セシリーは、その後も少しジト目で鈴を見ていたが鼻を鳴らして、そっぽを向く。

・・・・大丈夫かなぁ。

また色々考えてしまう僕に鈴がまた迫る。

「だから早く言えっての!!」

「分かった分かったよ! ラウラの試合は箒の出番なく終了。相手の二人は保健室送りだってさ」

僕は聞いた事を一言一句間違えずに伝える。

そして、結果を聞き鈴とセシリーは首をかしげた。

「あの箒って子が手を出さなかったの?・・・あんな性格の強い子が?」

「確かに妙ですわね・・・。箒さんは言われても脅されても絶対それに従うような性格ではありませんし・・・」

「あぁ、違う違うそうじゃなくて、箒は試合開始早々、ラウラに敵ごと吹っ飛ばされたんだよそれで壁に打ちつけられて、駆動部を破損した〝打鉄〟を交換しに行ってる間に終わってたらしいんだ」

「・・・・・・何よそれ」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・何と言う事を」

二人とも絶句するしかなかった。

だがそれが真実なのだ。

これで二人にも、ラウラの冷徹で非常識だってことは理解してもらえたと思う。

「で、落ち込んでる所悪いけど、策はあるのかい?正攻法で行って勝てる相手じゃ・・」

言いかけた僕を、鈴が遮った。

「ふふんッ、あんたねあたしたちをなんだと思ってるの?」

「私たちも、代表候補生。彼女に劣っているとは思っておりませんわ」

「でも・・」

「あーもう、あんたは黙って勝つこと祈ってなさい!」

鈴は、大声で早口にまくしたてると、更衣室へと消える。

それを見送り、僕はトーナメント表に目を落とす。

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

・・・・相手を保健室送りに。

一瞬だがセシリーと鈴が、そうなる映像が頭をよぎりそれをかぶりを振って、かき消す。

だが、そうは言っても心配だ。

「・・・大丈夫ですわよ。私も鈴さんも」

唐突にセシリーがつぶやいた。

「え?」

「だから大丈夫ですわよ、私たちは。それに私に至っては、これがありますもの」

セシリーはそう言って笑いながら、〝ストライク・バーディ〟を首から外す。

「私は一人で戦ってなどいません。鈴さんもいますし、ここに二人も私を後押ししてくれる人がいる。だから大丈夫ですわ。必ず次も勝ってまいります」

「セシリー・・・」

それだけを言い残し、鈴同様に更衣室へと姿を消すセシリー。

・・・そうだ、

僕は信じて応援するしかない。

心配しても仕方ないんだ。

僕はここで、二人が勝つのをただただ祈る。

それが今僕に出来る唯一の事だから。

その時、ほんの一瞬意識が遠のきかける。

「わわわッ!?」

力の抜けた足がバランスを崩させ、僕はなんとか壁の手すりにつかまって転倒だけは回避する。

・・・・な、何だ今の?

僕は、その症状の正体をつかめぬまま、きょとんとした顔でまるで答えでも探すかのようにキョロキョロと辺りを見回していた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「お前ッ!!!」

箒はピットでラウラの胸倉をつかんでいた。

だが掴まれているラウラの目は冷めきっている。

怒っている自分が馬鹿らしく思えるほどに。

「味方ごと吹き飛ばすなど、何を考えているッ!」

「言ったはずだ、私は邪魔をするなと」

「邪魔だと!?相手の動きを抑えていたのだ、それが邪魔だと言うのか?」

「誰もそんな事、頼んでなどいないだろう」

さらりとそんな事を言われて、更に逆上する箒。

「いいか、お前と私は今はペアだ! お前一人で戦っているつもりか!!」

「・・・・・あぁ、いつでもそうだが」

箒は絶句する。

それと同時に、するっと手の力が抜けラウラが箒の元を離れる。

・・・・こんな、ここまで。

箒はラウラを睨むが、既にその姿は消えようとしていた。

そこへ、次の対戦相手の情報が届く。

箒は、息を整えると口を開く。

「おい、次の対戦相手が決まった様だぞ」

「そんなもの、私の方にも届いている」

「・・・・・良かったな、一夏ではなくて」

箒の意味深な言い方に、ラウラは目じりを若干上げながら戻ってきた。

「どういうことだ?それはつまり私が、あの男に負けると言いたいのか?」

箒は、ペアを組んで恐らく初めてではないかと思うラウラの苛立つ声を聞いた。

だがそれに臆することなく箒は、はっきりと言う。

「あぁ、そうだ。お前は一夏には勝てない」

「なんだとッ!」

今度はラウラが箒の胸倉をつかむ。

その目は、鋭く刃物のようだった。

「貴様・・・何を根拠にそんな事を言う?」

「根拠だと、笑わせる。そんな事も分からずに一夏に勝とうとしていたのか。そんな事ではセシリア達にすら勝つことはできないな」

ラウラにはその意味が理解できない。

なぜだ?

ISの性能も、実力も、そして力も。どれ一つとして自分はあの〝代表候補生コンビ〟に劣ってなどいない。もちろんあの男にだって。

なのになぜそんな、出任せが言える!?

「分からないのか、本当に?」

箒の少し憐みの入った声をラウラは鼻を鳴らして反論する。

「・・・・・ふん、そんなもの分かる必要はない」

そうだ、分かる必要などない。

要は勝てばいい。圧勝だ。

それ以外必要はない。

あの男が負けてしまったから、〝合法にあの男を始末する手段〟は無くなってしまったが、

それでもチャンスはいくらでもある。

ラウラは考えを切り替えると、箒をら手を離し、無言でその場を後にした。

それを箒は、どこかさみしそうな目で見送るのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

予定時刻になり、両ペアがアリーナに姿を現す。

だがそこに第一線の様な、和やかな会話は無い。

「・・・・・やはりあの男は雑魚だったか」

ラウラは誰に言うでもなく吐き捨てる。

それに鈴が噛みついた。

「少なくとも、あんたよりは強いわよ、一夏は」

「ほう、だがあの男はお前たちに負けたようだが?」

「別に私たちは、一夏さんに勝った負けたという話をするつもりはありませんわ。だってあなたは既に一夏さんに戦う前から負けているのですから」

セシリアの言葉にラウラは目を細めた。

「またその話か、あの女にも同じことを言われたが、お前たちはよほど現実と言う物が見えていないようだな」

「はん・・・どっちが」

「・・・・・はぁ」

鈴はそれを鼻で笑い、セシリアは呆れてものも言えなかった。

試合開始のカウントダウンが始まる。

しばらくの沈黙の後、試合開始のブザーが響いた。

「はあぁぁぁッ!」

鈴は、ラウラへ一気に距離を詰める。

だがラウラはそれを微動だにせず待っている。

そして、〝双天牙月〟をラウラの首元へ一気に付きつける・・・が。

「なッ!!」

「・・・・ふん、こんなものだろう」

〝双天牙月〟はラウラに到達することなく、見えない何かによって遮られそれから先へは全く動かない。

ラウラは余裕の笑みで鈴を受け止めると、ワイヤーブレードを射出し、鈴の足にそれを巻きつける。

「しまっ!」

「落ちろ」

冷たく言うと同時に鈴を襲ったのは、全身へのすさまじい衝撃だった。

意識が飛びそうになるのを何とか繋ぎとめ、鈴はすぐさま体勢を立て直し一旦下がる。

「あれは・・・」

「AIC・・・アクティブ・イナーシャル・キャンセラー・・・・これほどとは」

AICは理論上鈴の空間圧縮砲撃〝龍砲〟の空間圧作用ににたエネルギーで運用されていると考えられた。

そうだとするなら、同じ圧縮攻撃の鈴の〝龍砲〟はあのAICとかなり相性が悪い事になる。

セシリアにもそのことは分かったようで鈴へ叫ぶ。

「鈴さん!先に箒さんを無効化しましょう、ラウラさんは私が引きつけますわ!!」

鈴には中近距離の武装しかない。

AICがある以上、近づくのは得策ではないだろう。

だがこちらには遠距離用の武装が数多く搭載されている。

仕留めきれなくても、牽制で行くばか時間はつなげるはずだ。

「分かった。あんた・・・気をつけなさいよ」

「えぇ、そちらこそ」

それに二つに分けたのにはもう一つ理由がある。

それはこの手の相手には、〝レイ〟は使えないからだ。

〝レイ〟は相手が僚機の危機に救援に訪れ、お互いのISの距離が近くなることで

初めて発動できる戦術だ。

だが、今回の相手は、箒はともかくラウラは箒を助けることはしないだろう。

そうなるとどうしても中で動く距離が増えてしまい、

〝レイ〟の真髄である〝素早い攻撃〟が間延びしてしまう。

「ふん、イギリスの第三世代機か・・・・。だがいくらISが良かろうと乗り手がクズでは意味が無い!」

ラウラは、腕部からプラズマ手刀を出現させこちらに急接近してくる。

(安い挑発に乗っては命取りですわ・・・しっかりと距離を取る事が最優先ですわね)

セシリアは冷静に判断し、ラウラと一定の距離を保ちながらビットや〝スターライトMKⅢ〟で牽制しながら、チャンスをうかがう。

どうやら、単純な機動力は相手の〝シュヴァルツェア・レーゲン〟よりも〝ブルー・ティアーズ〟の方が高いらしい。

セシリアはチラッと、鈴と箒を見やる。

箒は〝打鉄〟で、なんとか鈴の攻撃をやり過ごしてはいるようだが、

それでも、もうしばらくすれば決着は付くだろう。

それまで、自分はこの化け物を引きつけなければならないのだ。

セシリアはラウラに視線を戻すと、ラウラのほぼ死角に待機させていたビットに発射の指示を送る。

この角度ならば、いくらハイパーセンサーがあるとはいえ!

・・・だがラウラはそれを難なく回避したばかりかビットをそのプラズマ手刀で切り刻む。

「くぅ、やりますわね・・・」

「つまらんな・・・この程度で第三世代とは」

一言一言がセシリアの神経を逆なでする。だがここで熱くなってはダメだとセシリアは

自分に必死で言い聞かせながら、三機のビットと射撃を繰り返す。

だがそのどれもが、難なく回避される。

「・・・・もういい、終わりにしよう」

セシリアの顔に嫌な汗が流れる。

ラウラは、先ほどまでとは全く違う機動で飛び、気が付いた時には目の前にいた。

「まさか・・・!」

「私が初めから本気でやっているとでも思ったか、お気楽な頭だな」

ラウラはセシリアのビットをまたたく間に、プラズマ手刀で破壊すると、ワイヤーとAICによって動きを止められたセシリアに向かって肩の大型レールカノンを向け間髪いれずにそれを発射した。

ドカァァァァァンッ!!

爆風が、熱波がセシリアを覆う。

そしてすぐに、地面にアリーナの側壁に何度も叩きつけられる。

そうして、何度か振り回した後、ラウラは意識の遠のくセシリアにプラズマ手刀を付きたてた。

「・・・・死ね」

そう言えばセシリアはこれに似た感覚を既にどこかで味わっていた気がした。

どこだったかと、記憶を探る。

そう、あれは・・・・黒いISと戦った時だ。

自分のミスで、もうあの時は命は無いと思った。

・・・・でもその時彼が・・・嘘つきな彼が助けてくれたのだ。

そうだ・・・助けられたのだ。

自分は彼に・・・・。

そして今度は・・・自分の番だ。そう彼に言ったではないか!!

こんなところで終っていはずがない!!

終れない!!

セシリアの強い思いが、飛びそうな意識を何とか繋ぎとめる。

セシリアは足に絡みついたワイヤーブレードをビットの攻撃で切り、なんとか脱出する。

「はぁっはぁ・・・ダメージは・・・」

セシリアは一息ついたところで、シールドエネルギーや各部の損傷チェックを手早く行う。

シールドエネルギーはまだ余裕はあるがそれでもイエローゾーン。武装はビット四機中二機が大破。

残りも中波と中々のボロボロ加減だ。

手持ちの〝スターライトMKⅢ〟はまだ大丈夫だが、これだけでは火力が圧倒的に足りない。

(・・・・きついですが・・・やるしかありませんわね)

セシリアはグッとネックレスをつかもうとして・・。

「あ、あら・・・な、無い!?」

セシリアは何度も見直すがどこにも、アルから託されたネックレスが見当たらない。

そんな、一体どこへ!?

セシリアがキョロキョロとしていると、ラウラが上から声をかけた。

「貴様が探しているのは、ひょっとしてこれか?」

ラウラは右手をかざす。

そこには確かに〝銃弾のネックレス〟があった。

「なんでそれをあなたが!」

「さぁな、さっき飛んで来たのだ・・・・大事な物の様だな?」

ラウラはそれを、ヒョイッと上に投げると―――――――

 

 

――――――――プラズマ手刀で真っ二つに切り裂いた。

「すまん、手が滑ってしまった」

真っ二つになって落ちていく、思い―――意志。

そしてその瞬間セシリアの中で何かが振り切れた。

「あなたは・・・・・あなたはぁッ!!!!」

もうシールドエネルギーや武装の破損状況などどうでもよかった。

ただ、あの女を、自分のそしてアルの、ローラのその意志を軽々しく放り投げ、切り、笑ったあの女を

セシリアは許せなかった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

セシリアは〝スターライトMKⅢ〟を撃ちまくりながらラウラへ突撃する。

だがそんな攻撃もラウラには簡単に避けられてしまった。

そしてラウラはすれ違いざまに、残っていた武装とスラスターすべてを―――――破壊した。

大きな爆煙に包まれた〝ブルー・ティアーズ〟が落ちていく。

先ほどなんとか繋ぎとめた意識も、もう限界だった。

・・・・私、こんな・・・。

終ってしまった。

あっけなく。

薄れゆく意識の中でセシリアは後悔の念にさいなまれていた。

結局何も・・・出来なかった。

無力な自分に涙が出てくる。

セシリアは次に包まれるであろう地面への冷たい衝撃を覚悟する。

だが、次にセシリアを包み込んだのは冷たさではなく、暖かさだった。

身体の奥から、心の奥から、暖かいものに包まれていく感覚。

そしてどこからか声がする。

『セシリー大丈夫だよ』

その声は、とても優しくて。

『僕が、ついてる』

その声は、とても暖かくて。

『あはは、酷い顔だなぁ・・そんな顔似合わないよ』

その声は、とても明るくて。

『ほら笑って』

その声は、とても――――

『うん、その顔がやっぱり一番あってる』

心強かった。

そして次第にその声の主が姿を現す。

彼は自分に対して手を差し伸べていた。

彼はニコッと笑うと、セシリアに向かって優しくささやいた。

「行こう、セシリー」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

あれ?

僕は・・・・それにここは?

確か僕は、通路でモニタリングしてたはずなのに・・・・

僕はキョロキョロと辺りを見渡すが、そこは綺麗な光の世界だった。

そう、光だ。

僕の目は色盲のはずなのに、それが鮮明に見える。

そこは、心地いい暖かさと、優しさに包まれたような世界だった。

・・・・一体ここは。

「あは、来ちゃったね、来ちゃったね、ね、ね、ね?」

唐突にその空間に、底抜けに明るい女の子の声が響く。

その女の子は、ブロンドの髪を後ろで束ねて青いパーカーに

オレンジのラインの走ったジーパンというラフな格好。

更に顔にはスポーツタイプのサングラスをかけていた。

身長は・・・僕よりも少し低いかな?

「あの、ここは・・・」

「んん?分からずに来ちゃったパターン?うぬぬ・・これは予想が~い」

その女の子は、小さな身体をめいいっぱい使って、とび跳ねたりしゃがんだり・・・・とにかく動き回る子だった。

「分からずにって言うか、気が付けばって感じかなぁ」

「ふ~ん・・・・まぁいいや」

いいんだ。

「で、ここは何処なんだい?」

「う~ん・・・・・天国」

「はぁっ!?」

「えへへ~うっそ~」

うっ・・・なんだこのキャラは。僕にそっくりじゃないか・・・。

特に嘘を付くところなんて特に。

少女は腕を頭の後ろで組み、二カッと笑う。

「まぁ、細かいことは気にしない。それより心配はあの、ですわ姉ちゃんだよねぇ~」

ですわ姉ちゃん?

・・・・・あ、そうだセシリー!

「セシリーはどうなったの?確かラウラに・・・・あぁ、もうッ!!」

「まぁまぁ、落ち着きんしゃししゃいボーイ」

「これが落ち着いてられるって言うの!?」

僕は思わず少女に詰め寄ってしまうが、少女は笑みを絶やさず僕にこう告げた。

「大丈夫だよ、彼女は」

「・・・本当に?」

「うん、これは本当」

「でも・・・」

それでも心配な顔をする僕を、少女は優しくなでた。

「大丈夫大丈夫、ちゃんと君は彼女の力になってるよん」

「え、力に?」

「そう、時に思いや意志は世界の理を覆すのさぁ!!」

少女はバッと手を勢いよく上にかざした。

それで何が起きるわけでもないのだが。

「ま、大丈夫だよ彼女には〝君〟が付いてるからね」

「僕?」

「そう、僕。だから大丈夫」

・・・・意味はよく理解できないが、だかそれでも感覚では、

なんとなくわかってきているようにも思える不思議な感覚が僕を支配していた。

少女はくるりと僕にきびすを返し、二、三歩あるいたところでこちらをニヤッとした顔で振り返る。

「君ってさ、あの子の事好きなの?」

「んなっ!」

いきなりの質問に顔が真っ赤になる。

それを見て少女はまた大きな声で笑うと、最後にこう言った。

「今度は答えを持ってきてね」

その答えというのが一体何を指すのか、考えるひまさえ与えられず

急激に僕の意識はホワイトアウトしていく。

そして僕の意識は心地の良い風と暖かな世界に優しく包まれていった。

 

 




ここらへんも自分で読んでいるとかなり懐かしいですねwww


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第13話~強さと一夏とラウラ・ボーデヴィッヒ~

アリーナでは、鈴が、箒が、観客が、そしてラウラが、信じられない現象を目の当たりにしていた。

ラウラはセシリアを撃破したと思い、その姿を追わなかった。

だが、次の瞬間ラウラを強い衝撃が襲う。

その衝撃は思いのほか強く、ラウラはアリーナの隅の方まで飛ばされてしまった。

初めは、油断していたところへ鈴の〝龍砲〟が当たってしまっただけかと思ったがそれにしては〝あきらかに火力が違い過ぎた。〟

少なくともラウラが事前に目を通した〝甲龍〟のデータでは、確かに〝龍砲〟の威力は高かったものの、この〝シュヴァルツェア・レーゲン〟をここまで吹き飛ばす威力は無かったはずだ。

では・・・何が?

とラウラは、センサーで攻撃が来た位置を割り出す。

そして目にした光景に今こうして、驚いているのだ。

「・・・・・なんなのだ、それは!?」

そして叫んだ声に呼応するように鈴と箒もそれにつられて視線を移動させ、同じように驚く。

観客も同様だ。

なぜならそこには、先ほどラウラが完膚なきまでに破壊した〝ブルー・ティアーズ〟がいたからである。

いや、厳密には〝ブルー・ティアーズ〟がそのままの形でいたわけではない。

かろうじて稼働できるビットが一機に、砲身が切られ短くなった〝スターライトMKⅢ〟と満身創痍ではあったがたったひとつ、異なる点があった。それは〝ブルー・ティアーズ〟には無かった、長方形型の大きな火器内臓スラスターが〝あたかも、初めからそこに付いていたかのように思えるほど、自然に背部に搭載〟されている事だ。

そしてそれはまさにアルディの〝ストライク・バーディ〟の〝ウェポンスクエア〟そのものであった。

「貴様・・・・っく、イギリスの第三世代にこんな隠し玉があったとはな」

「隠し玉・・・えぇまぁそうですわね・・・。

ですがそんな考えではやはり私達にはあなたは勝てない」

苦々しく言い放つラウラに、セシリアはニヤッと笑い意味ありげな口調で言い返す。

セシリアは、先ほど拾った〝ストライク・バーディ〟のネックレスをかざした。

それはラウラに真っ二つにされ痛々しい切断痕をその身に刻みながらも、ほんのりと温かく光っていた。

更にその光に、共鳴吸うかのように〝ブルー・ティアーズ〟も同じような温かい光を放って・・・・。

いや・・・・。

その光に、包まれていた。

温かい黄金色の光に。

セシリアは、自分の身に何が起こったのか、理屈ではなく感覚で分かっていた。

理屈では説明が付かないと言う事も。

あの時聞こえた優しい声も、温かさも。

そして、今この自分のISの姿も。

そして、自分には〝彼が付いていてくれる〟ということも。

セシリアは、胸の奥にこの上ない温かさと優しさを感じながらラウラと対峙する。

「・・・あなた、先ほどまでの考えで飛び込んできますと・・・・」

セシリアは、自信に充ちた表情でラウラを睨むと高らかに告げた。

「負けますわよ!」

「黙れ、死に損ないがッ!!」

ラウラは再びセシリアへ急接近する。手には先ほどと同じようにプラズマ手刀を起動させている。

しかし、もうセシリアに焦りは無かった。

セシリアは先ほど撃った〝ウェポンスクエア〟の高圧荷電粒子砲を格納するとラウラを正面でとらえ、〝スターライトMKⅢ〟を構える。

砲身長が短くなっている分、威力は半減しまた狙いも定まらない。

「そんなもので!」

ラウラも、一瞬でそのことは見抜いたようで避ける必要もないと言わんばかりに直線コースでセシリアへ突撃してくる。

だがセシリアは構わずにトリガーを引いた。

〝スターライトMKⅢ〟がマズルフラッシュと共にレーザーを発射する。

だがやはり砲身長の足りなさで、初速が足りずラウラに到達するまでに意地限界を超え霧散するレーザーも少なくなかった。

しかし、それでも尚セシリアは焦りの表情一つ見せない。

「ふぅ・・・やっぱりそのままではまともに射撃ができませんわ」

余裕たっぷりに〝スターライトMKⅢ〟を持ち直しそんな軽口までたたいた。

ラウラはその行動が癇に障ったのか、更に激昂してセシリアに切りかかる。

気付けばラウラはセシリアの目の前まで接近していた。

「叩き潰してやろう!」

「その前に・・・私を捕まえてごらんなさいな!」

ラウラがプラズマ手刀を振った瞬間、目の前から黄金色の粒子を舞い散らせながらセシリアが消えた。

むなしく空を切る自分の攻撃に、一瞬なにが起きたのか分からないラウラはセシリアと対照的に焦りの表情を浮かべる。

「馬鹿な、今の攻撃に反応しただと!データ上では〝ブルー・ティアーズ〟にあんな機動性は!?」

キョロキョロと辺りを見回すラウラに真上から〝ウェポンスクエア〟の高圧荷電粒子砲を再展開したセシリアが笑って声をかける。

「データ、データですわねさっきから!」

「なっ!?」

気が付いた時には、ラウラは地面にたたきつけられていた。

高圧荷電粒子砲。別名〝ヘヴィハンマー〟。〝ウェポンスクエア〟の中でも最も高火力な二門の直撃を受けラウラは肩のレールガンが爆散していた。

先ほどセシリアがなぜ、ラウラの攻撃を避けられたのか。

それはこの〝ウェポンスクエア〟の強大な推進力のたまものだ。

元々重量級の〝ストライク・バーディ〟用のスラスターだけにそれよりも軽く軽量な〝ブルー・ティアーズ〟がそれを使用すれば、ラウラがデータで見た機動力を凌駕することなど簡単な事だった。

もちろん既にこれが、データで推し量れない事ではあるのだが。

そしてこの〝ウェポンスクエア〟はただ機動力のためだけにあるのではない。

「本来は、立つまで待つのがマナーなのでしょうけれど」

セシリアは再び狙いを定める。

「その前に、あなたのマナー違反を正して差し上げますわ!!」

それからは降り注ぐ〝ヘヴィハンマー〟の雨あられ。

ラウラは防御で手いっぱいになってしまう。

「ぐうッ・・・がはっ!!!」

やがてその攻撃に、他の〝ウェポンスクエア〟の武装である小型バルカン〝ファイアスピード〟そして小型ミサイルポット〝トーネイド〟もその攻撃に加わる。

そしてラウラに、防御シールドを抜けた攻撃が通り始め、苦しむ声が聞こえる。

しかしセシリアは撃つ事をやめない。

当然チャンスだと言う事はある。

だがそれ以上にセシリアは許せなかった。

彼を笑ったラウラが。

彼の意志を笑ったラウラが。

そして何より、一度は彼の意志を粉々にしてしまった自分自身が。

それなのに彼は、自分をまた助けてくれた。

温かな気持ちに自分を包みながら。

だから・・・だから!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

最後のラッシュが始まる。

もうペース配分もペア戦と言う事も、何も考えてなどいない。

ただその意識はたったひとりの敵へと向けられている。

「フィニッシュです!!」

ズガアァァァァァァァァァァァァァン!!!!

ひと際大きな爆煙が、アリーナの砂煙を巻き上げ、辺り一面の視界を奪う。

もうすでに、砂煙が晴れる前から誰の目にも明らかだった。

観客も、鈴も、箒も。

――――――セシリアが勝ったと言う事は。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「こんな極東の地で、教官はなぜ教師など!」

ラウラは夕焼けに染まる、寮の近くで千冬と言い争っていた。

いや、一方的に言い分をぶつけていると言った方が正しいのか。

「私には私でやることがある。それだけだ」

ラウラには、〝彼女がここですべきこと〟と言うのが全く分からない。

「やること?・・・・あるはずがありません!

教官のレベルに対して明らかにここの生徒たちはレベルが低すぎる、次元が違う!」

「だから、私がここで教師をするのは間違っていると?」

「そうです、教官!お願いです、もう一度ドイツでご指導を!」

千冬は肩目を閉じたまま、ラウラを睨み黙ってラウラの言い分を聞いている。

だが次にラウラが言った一言が千冬の逆鱗に触れる。

「大体、こんなところで何を・・・・・・・あ、織斑一夏・・・ですか?」

「何?」

「そうなのですね、やはり・・・あの男が教官を―――――ッ!?」

千冬はラウラの胸倉をつかむと、近場の気に押し付ける。

千冬の鋭い眼光にあてられ、ラウラは今までの勢いを失い小刻みに震えはじめた。

「いいか、小娘。いくらお前が激昂していようと言っていいことと、言ってはならん事がある。

それに私は別にあの馬鹿な弟のためにここで教鞭を振るっているわけじゃない・・・・わかるな?」

「で、ですがッ!!」

「いい加減にしろ小娘。世の中何でもかんでも思い通りになるとでも思っているのか!?

見ないうちに随分増長したな」

千冬は胸倉を持つ手をパッと離すと、冷たいまなざしでラウラを射抜く。

「げほげほっけほ・・・」

「とにかく私は、ドイツへは帰らんし指導もしない。分かったらとっとと寮にでも戻れ」

千冬はそれだけ言い残すとラウラを置いて、歩いていってしまう。

ラウラは、それをいまだにせき込んで苦しい身体で見送ることしかできなかった。

だがそこでラウラは気が付く。

そうだ、そうなのだ。

教官は私を試しているのだと。

そうに決まっている。

私がどれほど、成長したのかを確かめようとしているのだと。

それにきっと、教官の事だ。

図星を言い当てられて、照れ隠しにでもあんな事を言ったに違いない。

どこまでも、千冬に憧れるラウラにとって先ほどの千冬の態度は、そう写ってしまっていた。

そして、やはり自分が睨んだ通り、教官は弟である織斑一夏を疎んじているのだ。

・・・それならば。

・・・私がやってみせる。

織斑一夏を完膚なきまでに叩きつぶせば、きっと教官は喜んでドイツへきてくれるはずだ。

・・・そう、はずだ。

それなのに・・・・・

 

それなのに・・・・!!!

ラウラは一機に現実へと引き戻される。

愛機である〝シュヴァルツェア・レーゲン〟はシールドエネルギーはおろか武装すらほとんどが使えない状態。

しかも、それをやられたのが織斑一夏なら、まだ負けを受け入れやすかった。

だが自分をこんなのにしたのは、あのイギリスの妙なISだ。

あの女に・・・!!

あの女が!!!

すべてが狂ってしまった。

あの女があの男を倒したから、自分はあの男と戦う事が出来なくなってしまった。

あの女も邪魔だ。

そう邪魔だ・・・邪魔なんだ。

私は・・そうだ、私は邪魔な物を倒して、あの男つぶして教官とドイツへ帰るのだ!!

そうだ・・・そのための力だISは。

お前たちとは何もかもが違う!

覚悟も、誇りも、意志も!!!

ラウラは身体を動かそうとするが、ISからバチバチッと火花が飛び力が入らない。

えぇい!なにをしているのだ!!!

力なら力らしく、私の欲する力を与えないか!!

その時ラウラの中でドクンッと何かがはじけた。

その直後ラウラの身体へ、すさまじい力の奔流が駆け巡る。

・・・・なんだあるのではないか。

そうだ、それでいい!!

力こそが強さだ!!

そうさ、私は!

私は教官と一緒にドイツへ帰るのだ。

力だ、力!!

力を私によこせ!!!

絶対的な力を、私によこすんだ!!!

 

Damagelevel D over

Mind Condition Uplift

Certification clear

 

《Valkyrie Trace System》 boot

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

ラウラの咆哮ともいうべき声がアリーナに響き、ゆっくりと立ち上がった〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の周囲を火花とも電撃ともとれる閃光が包む。

「な、なにあれ・・・」

いつしか箒との戦闘を早々に切り上げ、箒と共に近くに、来ていた鈴がつぶやく。

だがセシリアにも答えが見つからない。

次第に〝シュヴァルツェア・レーゲン〟は黒いドロッとした塊となってラウラを包んでゆく。

セシリアの時は、ISの武装展開と同じように〝ウェポン・スクエア〟が光に包まれて現れたがそれとは全く違うラウラのISの〝異変〟。

やがてその黒い何かは、ラウラを包み一つの形へと固定されていく。

顔は、今まで無かったバイザーで覆われ、あれほど無骨な外観は全体的にシャープになり、その手には得物であろう一つの刀が握られている。

そしてその刀は、色こそ真っ黒だったが、どこかで見たことがあるフォルムだった。

「あれは・・・」

「雪・・・片よね」

嫌な汗がセシリアにも、鈴にもそして箒にも流れる。

あれが本当に雪片なら・・・・相手は〝零落白夜〟を使えると言うのか。

仮にそうだったら、これは最悪だ。

セシリアは先ほどのラッシュで、シールドエネルギーまで〝ウェポンスクエア〟に持って行かれほぼ空。

鈴も箒も、激しく打ち合っていたため残っているといっても、セシリアよりも少し残っているかいないかといった程度だった。

そんな心もとない状態で、あんな化け物と戦うなど自殺行為だ。

だが、そんなこちらの気など関係ないと言わんばかりに、

形成を終えた〝ソレ〟は一瞬でセシリアたちの前に飛び込んできた。

「え!?」

「馬鹿な!」

「ちょ、あんた速すぎ!!!」

箒と鈴を〝ソレ〟はなぎ払うと中腰に刀を構え、必中の間合いから鋭く放たれる一閃。

セシリアは、かろうじてそれを回避するものの、攻勢に転じようと〝ヘヴィハンマー〟を展開し終える前に〝ウェポンスクエア〟ごと武装を真っ二つにされてしまう。

なんとか残った片方のスラスターで間合いは取ったものの、このままでは負ける・・・いや殺される。

だが、やるしかない。

鈴や箒も立ち上がって、〝ソレ〟と対峙している。

しかし、そうはいっても皆限界だった。

ことセシリアに至っては自機のほぼすべての武装が満足に展開できないばかりか、

もう後一度接近のためにバーニアでも噴かそうものなら、その時点でエネルギーが底を尽きる。

それでも相手は止まらない。

箒が切りかかりそれを鈴が〝龍砲〟で援護する。

箒は相手の刀を旨く下にはらい隙を作ると、そこへ鈴が一本にした〝双天牙月〟を叩きこむ。

今しかない。

セシリアは、現在残っているエネルギーを〝ヘヴィハンマー〟に回すと最大出力で発射した。

ズガァァァァァンッ!!

やはり、出力不足か・・・。

先ほどと同じく舞う砂煙。

それと同時に、リミット・ダウン。

セシリアのISは光となって消滅した。

でも・・・・

「直撃したはず・・・はぁっはぁ・・流石に落ちたでしょ」

当たる瞬間に箒を引っ張って離脱した鈴が、腰に手を当て言う。

「・・・流石にあれで経っていられるはずが・・」

箒も、勝利を薄々感じてはいた。

だが、次の瞬間、我が目を疑いたくなるような光景が目に飛び込んでくる。

砂煙の中から勢いよく〝ソレ〟が飛び出して来たのだ。

「そんな!!」

誰が叫んだか、三人も分からなかったがそれはどうでもいい。

二人は満身創痍で一人はISを展開すらできない状態。

・・・・すなわち・・・絶望。

そしてそんな三人に向かって、死の太刀は振り下ろされた。

皆が、目をつむる。

そんな事をしても、助かるはずなど無いと分かっているのに。

しかし、次に三人が聞いたのは身を割く生々しい音ではなくガッ!!という鉄と鉄がぶつかり合う音だった。

「てめぇ、やらせねぇよ!!!」

バッと顔を上げた先にいたのは半壊状態の〝白式〟を駆る一夏だった。

「一夏、あんた何やってんのよ!」

「お前どこから入ってきたんだ!?」

「お身体は大丈夫なんですの!?」

三者三様に叫ぶ中、一夏はのんきに返す。

「大丈夫だって、白式のダメージレベルはB。起動制限も掛けられてないしな!!」

一夏は敵の刀をはじくと、セシリアを小脇に抱え距離を取る。

そして一定の距離を確認するとセシリアをアリーナの隅へと下ろした。

「一夏さん?」

「お前に何かあったら、アルディになんて言われるか分かんねぇからな。じっとしてろよ」

一夏の言葉にボッと顔が赤くなるセシリア。

「な、何を言ってますの、全く!!」

「ハハハッ・・・それよりもありゃ一体何なんだ?」

冗談めいた笑みから一転、鋭い顔になる一夏。

キッと敵を睨む眼光は、やはり千冬の弟なのだという事を思わせた。

「・・・・わかりませんわ、ただ急に叫んで気が付けば」

「・・・・そうか」

一夏はチャキリッと雪片を持つ手に力を入れる。

そして一気に敵との間合いを詰める。

「はっ!」

一夏が切りかかるが、〝ソレ〟は瞬時にスラスターを噴かし距離を取ると再びセシリアを襲ったあの一閃を繰り出す。一夏は構えた〝雪片弐型〟を弾かれると更に敵は上段の構えへと移る。

一夏はそれをなんとか、かわすが一夏の顔はさっきまでとは違っていた。

かわせて良かったという、安堵の表情では無い。

一夏の顔には、激しい怒りが渦巻いていた。

「お前・・・・・!お前ぇぇぇ!!!」

頭に血が上ったのか、何の考えもなくただ突っ込んでいく一夏。

その一夏を前の戦闘で、愛機が破壊されたシャルルが〝打鉄〟を装備して止める。

「一夏!ダメだよッ!!」

「離せ、シャルル!あいつは・・・あいつはぁッ!!!」

更にそこへ箒も加わる。

「落ち着け一夏!一体何だと言うのだ!!」

「箒まで!いいから離せよ、邪魔するなら箒もシャルルも―――――ッ!?」

パッシーーーン!

一夏の頬を強い衝撃が襲う。

それと同時に頭が冷えていくのが分かる。

「ほう・・・・き?」

「私もなんだ? 落ち着け一夏!どういうことなのだ!」

「・・・・あれは・・・あの太刀筋はあいつが使った太刀筋は、千冬姉のものなんだ!!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

―――――――ここはどこだ?

さっきの力の奔流を感じた後、その闇は更に暗くなった用に感じる。

ぼんやりとだが、何かが見える。

これは私の視界か?

白いISが黒いIS二機と何かを言い争っている。

あれは敵だろうか。

・・・敵だな。

そうだ敵だ。

倒さないと。

倒さないと教官と一緒に帰れない。

そうだあれは〝織斑一夏〟だ。

そうに決まっている。

視界が急激に速くなる。

どうやら私は、白いISに接近しているようだ。

倒せ、倒せ、倒せ、倒せ。

そればかりが頭の夏で響く。

だが、次の瞬間白い閃光が私を包んでいった。

そして瞬時に理解する。

私は・・・・アレに負けたのだと。

笑ってしまうぐらいにあっけない。

・・・・なぜだ。

私は強くなったはずだ。

この力を経て。

なぜなんだ!!!

「なぜ!!!」

そう叫ぶ私に誰かが話しかけてくる。

『お前は強くなってなんていない』

「誰だ?」

『お前が一番よく知ってるだろ』

「織斑一夏・・・」

『あぁ、そうだ。お前さっきなんでって叫んでたよな』

「・・・・」

『その力はお前の力だったのか?』

「なに?」

私の・・・・力?

そうではないのか、だって私はその力で・・・・

「私はその力で、強く・・・」

強くなったのではないのか?

『・・・強さってのは、そんなもんじゃない』

私の疑問をあっさりそいつは否定する。

『強さってのは、心の在処。拠り所。自分がどうありたいのかを常に思うことじゃないかって思う』

「―――そう・・なの・・・・・か?」

『少なくとも、俺はな』

「おれ・・・・は?」

『みんな違うと思うぜ、そんなの』

私はこれまで、たったひとつの物だけが強さだと思ってきた。

それこそ〝織斑 千冬〟であり、その強さの具現である彼女の汚点であるこの男を、

この弱い男をつぶせばいいと思っていた。

だが違う・・・。

この男は・・・・

「お前は強いのだな」

『強くないさ』

「いいや、強い」

『そうか・・・まぁそうだとすれば』

「だとすれば、何だ?」

『強くなりたいから強いのさ』

――――――あぁそうか。

『それにやってみたい事もある』

――――――これが強さか。

『誰かを守ってみたいんだ』

――――――これが力か。

『だから、お前も守ってやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

――――――これが織斑一夏か。

確か昔、教官が言っていた。

この男と対峙する時は気をしっかり持てと。

出なければ惚れてしまうと。

 

 

 

なるほど。

その意味がわかった。

これは確かに・・・・

 

 

――――――惚れてしまいそうだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うっくぅ・・・・」

まだ頭が少し痛い。

ゆっくりと辺りを見渡す。

ここは・・・・。

保健室?

「目覚めたが、サウスバード」

織斑先生の声がする。

ぼんやりとだが、黒いスーツの輪郭が見える。

僕はその方向へ顔を向けようとして身体を起こそうとするが、それを織斑先生が制する。

「やめておけ、まだ満足に歩けるような状態でもないだろう」

言われてそう言えばと思い、身体を戻す。

いまだに視界は回復してはいなかった。

ただ、そんな中でもなぜか頭は冴えている。

「・・・僕は、どうなったんですか?」

「気になるか?」

「はい」

そりゃそうだろう。

だって急に倒れて、気が付けば白い世界に居てまた意識を失って、

次に気が付けば夕暮れの保健室だ。

気にならない人間がいたら見てみたいよ。

「お前、トランスという言葉を聞いた事があるか?」

「いえ、ありませんけど」

「別名、感応覚醒というが、まぁ知らなくて当然だろうな、私も初めて見た」

「はぁ」

腕を組み、淡々と話す織斑先生に僕は生返事で返す。

僕が倒れたそれが、〝トランス〟ってやつなんだろうか。

「昔、束に聞いた事がある。ISは人の強い思いや意志をもくみ取って成長するものだと。

そしてその意志が強いと、たまに何かをきっかけにして親しい人間のISと同調する事があるそうだ。まぁIS自体完成されていない技術だからな、定かではないが」

織斑先生は語尾を濁したが、つまり僕の思いがその〝トランス〟を引き起こしたってことでいいのかな。

「具体的に、どんな感じになるんです?」

「ふむ、見てもらった方が早いかもしれんな、もうそろそろ視界もはっきりしてきたころだろう?」

頷く僕に、織斑先生は、端末を取りだすと僕に映像を見せる。

そこには〝ウェポン・スクエア〟を駆使して戦うセシリーの姿が映し出されていた。

「な、なんですかこれ・・・・」

「見ての通りだ。さっきの説明通りならば、オルコットのISとお前のISが感応しあった結果、

と言う事になる」

言うと織斑先生は、真っ二つになったネックレスを僕に手渡した。

うわぁ・・・こりゃ酷い。

ちゃんと起動できるのかなこれ・・・。

「オルコットから預かった。お前これをオルコットに預けていたそうだな」

「はい・・」

「多分そのせいだ。オルコットはこれを首から下げて試合に臨んだらしい。その時何かしら作用して〝トランス〟が起きたようだな」

「・・・・・そうですか」

何かしら作用してか・・・・。

ひょっとしたら、あの時。

僕はラウラに完膚なきまでに負けたセシリーを見て、居てもたっても居られなかった。

心配だったのだ。

でも何もできない。

待つことしかできない自分が腹立たしかったし、セシリーは傷だらけで。

その後だ。

僕が意識を失ったのは。

・・・強い思いと意志か。

なるほどね、なんとなくそう考えると納得できたかも。

「さて、納得できた所でお前には色々聞かねばならん事があるな」

ぎくぅッ!!

僕は一瞬で背筋が凍るのが分かった。

「まず一つ目だが、聞いた話ではボーデヴィッヒと、このトーナメントで戦う約束をしていたようだな」

・・・あ、なんだそのことか。

「はい」

「なぜだ?お前は自ら喧嘩を吹っ掛けるようなヤツでは無いだろう」

「姉さんを・・・・馬鹿にされたから」

「・・・・ローラをか」

織斑先生は言うとため息をついた。

その顔からはやれやれと言う感情が読みとれる。

なんだか、また馬鹿にされてるのかな。

ムスッとする僕に織斑先生は、少しあわてた様子で弁解した。

「いや、悪いな、別にローラを馬鹿にしているわけじゃない。

ボーデヴィッヒの事だ。あいつはドイツからの縁でな。

私になついてくれるのはありがたいが、それが行きすぎてしまうこともしばしばなのだ。

そう悪く思わないでやってくれ」

「・・・まぁ、もういいですけど」

僕はそこまで根に持つタイプじゃないし。

「それと、もう一つ。お前自分のISを他人に預けることが何を意味するのか分かっているんだろうな」

やっぱりねぇ。

言われるよねそれ。

僕は今までの良い感じで、ゆったりと流れていた空気が一転するのが分かる。

「その顔は、分かっているという顔だな。なら話が早い。明後日までに反省文とレポートを提出しろ」

織斑先生は、持ってきていた紙袋をベッドの横の台に置く。

ズドン!

・・・・何が入ってるんだろうね。

なんだか凄くいやな音が・・・って言うかあれは紙の音か!?

「ではな、私はボーデヴィッヒの様子も見ねばならん」

織斑先生は、きびすを返すといきなりドアに向かって歩き出す。

そして、ドアノブに手をかけ・・・・・一気に開いた。

「ちょ、っとっと・・・きゃんッ!」

ドシーンっと何かが倒れ込む。

顔から床に打ちつけられてピクピクと痙攣していたのは・・・

「せ、セシリー・・・」

「ろ、ろふほ・・・」

鼻がしらをさすりながらろれつの回らない声で、挨拶をするセシリー

それを見て織斑先生は、フッと笑って部屋を後にした。

 

 

「大丈夫?」

「急に開くと思いませんでしたわ・・・」

セシリーはまだ鼻がしらをさすっていたが、ろれつは回るようになってきたらしい。

って言うか・・・

「ドアの前で何してたの?」

「い、いやそれはッ・・・・その・・・・。先生方にアルが倒れたと聞いて・・・心配で」

なるほど心配してくれていたのか・・。

ダメだなぁ、僕が心配されちゃうなんてね。

本来ならベッドで寝てなきゃいけないのはセシリーのはずだろうに。

いつも通りの制服を着てはいるが、その下は包帯だらけだろう。

その証拠にさっきこちらへ歩いてくる時も足を少し引きずってたし。

「アハハ、大丈夫だよ。僕は・・・それよりセシリーは良いの?」

「私は、大丈夫ですわこのてい・・・・つつつ・・・」

気丈にガッツポーズを作ろうとしたらしいが、それは激痛によって阻害されてしまったようだ。

苦痛で歪む顔を、ベッドから上半身を起こした状態でなんとか覗き込もうとする。

だが、セシリーは更にうつむいてしまい、顔を伺う事が出来ない。

よほど痛かったのだろうか。

「あの・・・セシリー?」

「大丈夫ですわ、大丈夫・・だからその・・・顔がその近くて」

言われてハッと気が付く。

僕が覗き込もうと躍起になって、セシリーの顔に急接近していた事に。

「あ、ご、ごめん」

「いえ、その嫌だったというわけではありませんのよ・・・ただ・・こちらにも準備と言う物が・・」

最後らへんゴニョゴニョ言って聞こえなかったけど、何にしても大丈夫だったらしい。

ただ、それから少し変に意識してしまい両者無言の時間がしばらく続く。

な、何か前にもこんなのあった気がするけど、やっぱりこう言うの気まずいよなぁ。

とはいえ、だからと言って言葉が出てくるわけもなく、更に黙りこくってしまう。

どうしようか・・・えぇっと、何か話題・・・話題・・・あぁそうだ。

「その、ごめんね。必死で戦ってくれてたのに僕だけなんかこんな・・・横になっちゃってたみたいで・・・応援すら出来なくて・・・」

ひねり出した話題が、結局トーナメントの事だとは・・。

僕ってひょっとして、ボキャブラリーやコミュニケーション能力が実は低いんじゃないかな。

だが僕のそんな急場しのぎ的な話題に意外にも、セシリーは優しく笑ってこう言った。

「いえ、アルあなたは私と、戦っていましたわ」

「え?」

「声が・・・聞こえましたの。〝僕がついてる〟って。

その声が私にどれほど勇気を与えてくれたか・・・。

たとえあれが幻だったとしても、私は信じます」

そう言えば織斑先生はこう言っていた。

〝オルコットはこれを首から下げて試合に臨んだらしい。

その時何かしら作用して〝トランス〟が起きたようだな〟

と。

当然だが、僕には、セシリーに試合中に声をかけたなんて記憶は無い。

だがセシリーは声が聞こえたと言っていた。

・・・・これが〝トランス〟・・・・。

なかなか神秘的な現象じゃないか。

僕は優しくそれでいて、どこか照れくさい笑みを浮かべるセシリーを見る。

「・・・そう、じゃあ僕は役に立てたんだ?」

「それはもう、温かいものに包まれるような。そんな心地のいい感覚でしたわ

貢献度から言えばペアの鈴さん以上ですわね」

「それ、鈴が聞いたら怒りそうだね」

「フフフっそうですね」

二人で夕暮れの中笑いあう。

とりあえず、何が起きたかは良いや。

今はこの時間を楽しもう。そうだ、それが良い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うぅッ・・・」

「お前も目が覚めたらしいな」

ラウラが気付いた事を察し千冬は声をかけた。

「教官・・・・?」

千冬は、まだ焦点の合わないラウラに質問する。

「寝起きのところ悪いが、ラウラ。VTシステムの事は知っているか?」

ゆっくり千冬の顔を見るラウラ。

その目はまだどこか、怯えているように千冬には写った。

「・・・怒っているわけではない。まぁその顔を見る限り認識はしているようだな。そのシステムが巧妙に隠されお前のISに積まれていた」

ラウラは下を向く。

どうやら、どこまで言っても自分はあの国にとって実験動物でしかないらしい。

その事が更にラウラを苦しめる。

「・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「はいッ!?」

いきなり名を叫ばれ、ラウラはビクッとなりながらぼんやりする頭を叩き起こすとベッドの上で背筋を伸ばした。

「お前は誰だ?」

「わ、わた・・しは・・・」

誰だ。

私は、ラウラ・ボーデヴィッヒで・・ドイツ人で。

たったそれだけの事が出てこない。

「・・・お前はラウラ・ボーデヴィッヒではないのか?」

「い、いえあの・・私は・・・・」

「ボーデヴィッヒ。私は転校初日にこう言ったな〝貴様は今日から私の生徒だ〟・・・と」

ラウラは記憶を漁る。

確かに言われた。

確かあれはアルディとかいうアメリカ人にペットボトルを投げつけられた時だ。

「私にとってお前は、どうあれ大事な生徒だ。それは変わらん。では自分ではどうだ?」

「自分・・・」

「・・・・それが分からんのなら丁度いい。今日からお前はIS学園の一生徒、ラウラ・ボーデヴィッヒとして新しい自分を始めてみろ」

「新しい・・・・自分」

そんな事考えたことも無かった。

そんな事言われるなんて考えたことも無かった。

新しい自分を始められるなど。

これまでもこれからも、ずっと一人で暗い中を歩いていくんだと思い込んでいたラウラには、

まさに青天の霹靂だった。

「出来るでしょうか・・・」

「出来る出来ないは、今考えることじゃない。それにな、出来るか出来ないかではない。これはお前自身が絶対にやらなくてはならないことだ」

・・・・出来る出来ないでは無い。

・・・・・・やらなくてはならないこと。

「まぁ、とことん悩め。小娘」

千冬は言い残し、部屋を後にしようとする。

だが、二歩三歩歩いたところで立ち止まる。

疑問に思ったラウラに千冬が、口を開く。

「そう言えば、サウスバードといざこざを起こしたそうだな」

「サウス・・あの男ですか」

「何でもあいつの姉を馬鹿にしたと聞いたが」

そこでようやくラウラはピンっときた。

アリーナで言いあったあの男だ。

「私は話の前後を知らんからな。下手な事は言えんが・・・ローラは強いぞ。

口は軽いし、嘘つきだがな。それに・・・・・」

 

ラウラは言葉を黙って聞く。

千冬が〝ローラは強いぞ〟と言った時、ラウラは自責の念と恥ずかしさでいっぱいになった。

あの時は、織斑千冬がすべてだった。

だからあんな事も軽々しく言えた。

しかし、私が馬鹿にした相手は私の恩師も認めるほどの人間だった。

そして逆に私がそれを言われる立場だったら、どうなっていたのだろう。

私があの男の立場なら。

大人しくトーナメント出場を辞退しただろうか。

そんな事を考えてしまう。

・・・・・謝らないと・・・・な。

ラウラは、再び千冬の話に耳を傾ける。

そして驚愕の一言を聞いた。

 

 

 

 

 

 

「あいつは、私に一度勝っている」




後書きがかなり適当で申し訳ないですが、後書きはがまともになるのは50数話を全部移行してからになります。


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第14話~姉さんとセシリー=買い物?~

翌日。

おぉう。

目の前で朝っぱらから。

ここは教室。

現在SHR中。

今日は驚く事が朝から多い。

まず、シャルルが意を決したのか、シャルロットとなって再転入してきた。

女子として。

うん、どうやら自分で選択したみたいだね。

良かった良かった。

それは・・・良かったんだけど。

もう一つが問題だ。

・・・・。

あ~・・・・。

どーも目のやり場に困ると言うか。

実はシャルル・・・いやシャルロットが戻ってきて、彼女を女と知らないはずがないって理由で

現在は意外と修羅場だったりする。

一夏がね。

二組からはISを展開した鈴が乱入し、箒は真剣をすらりと抜き放っている。

で、鈴が一夏に〝龍砲〟をぶっ放したんだっけ。

でもそれを、何を思ったかラウラが止めて・・・・

「んんっ・・・・ん」

「・・・・・・・・!!!!!????」

このあっついキスだ。

アメリカでもまぁ、中学生辺りはもうしてたよ。

僕は経験ないけど。

もう一分はこうしてる。

そしてようやく口を一夏から離すとラウラは、叫んだ。

「織斑一夏!お前を今日から私の嫁とする、異論は認めん!!!」

それは朝っぱらから、地獄の宣告だったよ。

 

 

 

修羅場のSHRが終わり。

・・・今日はすべての一組と二組の授業が自習になった。

理由は簡単だ。

鈴が、箒が、ラウラがそして良識あると思っていたシャルロットまでが、教室を壊しに壊してしまったからである。

さて・・・自習って言っても結局まるっと休みになったのと変わんないんだよなぁ・・・。

ちなみに今僕はひとりだ。

他の人たちは、こってりと織斑先生に絞られ、いま教室の修復作業を手伝っている。

それも人力でだ。

・・・・良かった、僕に飛び火しなくて。

それでなくても、レポートと反省文があるっていうのに。

「あら、アル」

「あぁセシリー」

廊下でばったりと遭遇する僕たち。

偶然って言うのは、あれだね凄いね。

「どこへ行かれますの?」

「うん、いや別にぶらぶらしてただけだけど」

本当にぶらぶらしていただけなんだよね。

行くあてもないとはこのことだ。

だからと言って教室には戻れないし、部屋に行っても・・・・部屋?

「セシリーは?どこか行く予定あるのかい?」

「いいえ、私も暇を持て余していたところですわ」

ふむ、だったら丁度いいね。

「セシリー僕の部屋に来るかい?」

「はいぃッ!?」

声を裏返しながら叫ぶ。

そんな驚かなくても・・・。

ん、驚いたのかな。

セシリーの顔がなんかゆでダコ見たいなんだけど。

「あの、セシリー?」

「あ、いや、でもほら、何事にも順序と言う物がですね、あって。だからその・・・・・」

どんどんなんでかパニックになっていくセシリー。

どこに、パニックになる要素があったのだろうか。

そうして何秒か、矢継ぎ早に言葉を発した後、セシリーの頭がオーバーヒートしたようだった。

「きゅう~~~~」

ボンっと言う音が聞こえてきそうなほど真っ赤になった顔でその場で気を失うセシリー。

うわッ!

僕は倒れるセシリーの身体を支える。

・・・・と、とりあえず。

保健室・・・・はぁ・・・・。

・・・あの目で見られるのか。

急にあの保健の先生の目が思い浮かぶ。

あの目はいやだなぁ・・・。

よし、部屋に運ぼう。

僕は、セシリーをお姫様だっこで持ち上げると部屋まで急いだ。

途中、何人かの女子に「あーーーーー!!!」って言われたけど、今はそれどころじゃないんだ!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

あ、ううん・・・。

額に何か冷たい物がのっている感覚がある。

ゆっくりと、目をあける。

まだ視界はぼやけているが、どうやらどこかのベッドらしい。

そう言えば私は・・・。

アルに部屋に来るかと言われた後の記憶が無い。

えぇと・・・・私は・・・一体。

「あ、目が覚めたセシリー」

この声は・・・・アル?

・え!・・・アル!?

急速に覚醒していく頭。

それと同時に頭が多くの情報や記憶を整理していく。

・・・・・まさかここは!!

ガバッと身を起こす。

それと同時にまた頭がクラッとした。

「あぁ、いきなり起きあがっちゃだめだよ。血が頭までしっかり回らないから貧血症状が出るよ?」

「あぁ、あの私は・・・その」

セシリアは、ポスッとベッドに横になるとアルディが布団をかけながらセシリアの疑問に答えた。

「びっくりしたよ、急に倒れちゃうんだから。放置するわけにもいかなかったし部屋まで運んだんだ」

「そ、そうですの」

平静を装ってはいるが、はっきりってまた頭の中はパニックだった。

運んだ!?

私・・・重くなかったかしら・・・じゃなくて!!

えぇと、そのだから・・・はぁ。

にしても、なんて言うことでしょうか・・・

まさかそんな失態を・・・。

セシリアは恥ずかしさのあまり布団を両手で上に引っ張り、顔半分うずくまる。

ふぅ、でも部屋まで運んで・・・・部屋?

・・・・あれ?

「アル・・・よく私の部屋が分かりましたわね、鍵開いてました?」

「何言ってるさ、よく見てごらんよ。ここは僕の部屋だよ。

セシリーの部屋に無断で入るわけにいかないでしょ、相部屋の人もいるわけだし」

「なっ!?」

で、ではここここ、これはあ、アルの・・・ふ・・布団!?

セシリアはまた顔が真っ赤になる。

今うずくまっている、この布団がアルの布団・・・・。

そう思うと、セシリアは急に恥ずかしさですぐに出なければと思う気持ちと、でももう少しアルの布団にくるまっていたいという気持ちがせめぎ合う。

「まぁ、体調がすぐれるまで横なっててよ、別に今日は二人とも用事ないわけだしね」

その言葉が、セシリアの後者の気持ちを後押しし、セシリアは結局その後しばらくアルディのベッドで布団にくるまり続けることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

セシリーがまだ起きないけど、仕方がない。

準備だけは先にやっておこう。

・・・・準備って言ってもね。

繋ぐだけなんだけど。

僕はPCを起動させる。

そしてネット通話を起動する呼びだすのは姉さんだ。

程なくして姉さんにつながる・・・・って、おい。

映し出された画面では姉さんが・・・・・寝ていた。

・・・・・いくら今日が休みだって言ったって、気を抜き過ぎじゃないかなぁ・・・。

僕が言えないけど。

そこに写っていたのは、おおよそ世界二位の座をつかんだISのパイロットとは、

思えないあられもない姿の姉さんだ。

映像の壁紙からして自宅でこれは寝室だろう。

姉さんは、昔から下着姿で寝る。

今回もその例にもれず下着姿でしかも、かぶっていたんであろう布団をまぁ見事に蹴飛ばしていた。

姉さん・・・・。

これは何が何でも起こさねばならない。

少なくとも、起きたてのセシリーが見たら僕は間違いなくまた吹っ飛ばされる。

「・・・・ね、姉さん!」

とりあえず出来る限り大声で姉さんを呼ぶ。

反応が無い。

えぇい、クソ!

「姉さん!!」

今度は少し大きな声。

『ううん・・・・うあ・・?』

あ、少し反応した。

よし、もう少し・・・・。

「起きてよ、姉さんってば!」

『うぬゅう・・・・もう少し・・・』

うぬゅうって何!?

いいからもう起きてよ!!

「姉さん、起きてって!!」

くっそーーー起きない・・・・!!!

画面越しだから、何もできないが目の前にいたら叩いてるところだ。

流石にイライラして来た僕は、思わず大声で叫んでしまった。

「起きろーーーーーーーっ!!!!!!」

「何をしてますの?」

「いやだから、起きなく・・・・・・・・・せ、セシリー」

しまった・・・。

あまりに起きないから、セシリーが立っている事に気が付かなかった。

そしてセシリーがモニターを確認する。

・・・うわぁ・・・・良い笑顔。

その血管さえなければ、見とれてたところだ。

スッパァァァンッ!!!

・・・案の定叩かれた。

『あはは、あなたも大変ねぇ』

誰の所為だい!?

ってか、起きてたのか・・騙された。

 

「信じられませんわ、私が寝ている間に、そ、そのアルがそのような映像を!」

セシリーは腕を組み、ムスッとした顔で椅子に座っている。

「だから、これには深いわけがあるんだ」

「どんな理由がおありですの?」

うぅ・・・こ、怖い。

下手な事言っちゃだめだな。

って言うか、別に隠すことじゃないよね。

「・・・はぁ、セシリー。これ僕の姉さんなんだ」

「・・・・え?」

一瞬できょとんとした顔になるセシリー。

そして、画面に向かって問いかける。

「お姉さんなんですの?」

『違うわよ』

「・・・・アルゥ~~!?」

何言ってんだよ!!この状況でその嘘はいらないんだってば!!

僕はあわてて、セシリーにフォローする。

「違う違う!本当に姉さんなんだってば!!!」

『私、こんな人、しらない』

知ってるでしょう!!

更に眼光鋭くなるセシリーに半分涙目の僕を見てようやく姉さんが本当の事を言ってくれた。

『ウフフッ、面白いわねやっぱり。弟弄りって癖になりそう』

「え、じゃあやっぱりあなたは・・・」

『えぇ、私はローラ・サウスバード。アルディの姉のね』

ようやく納得したようなセシリーを見て、僕はホッと息をつき、ヘナヘナと部屋の床に座り込む。

全く、何だってこんなに疲れなきゃいけないんだ・・・。

っていうか姉さん・・・頼むから上の服ぐらい着てよ。

そんな事を考えいるうちに、察しのいいセシリーが気付いたようだ。

「あの、アル?私を連れてきた理由ってひょっとして・・・・」

そう、彼女を僕の部屋に招待したのは、姉さんと会わせるため。

まぁ連れてきた方法はともかくね。

前にセシリーの話をした時、言われたんだよね。今度紹介してくれって。

『あたしがあなたに会いたいって言ったのよ。それであなたがセシリアちゃんね』

「は、はい」

『ふぅん・・・・』

姉さんはまじまじとセシリーの顔を見ている。

実のところ姉さんは、セシリーがあの女性実業家についてきた少女と言うことぐらいしか覚えていないらしい。

それも幼いころだから、今の成長したセシリーは初めてみるのだ。

「あ、あの・・・」

『綺麗ね、アルディもそう思わない?』

「え!?」

いきなり話を振られてびっくりしてしまう。

完全に油断していた・・。

『アルディ、失礼よ』

「ご、ごめんなさい・・・」

姉さんはセシリーの方を向くと、なぜかしみじみとした顔で腕を組んだ。

『あなたも、苦労するわね・・・』

「・・えぇ、それはもう」

なんで?

なんであの二人は、そんなところで共感しちゃってるの?

互いにうんうんと頷きながら、話はまたセシリーの事へと戻っていく。

『そう言えば、セシリアちゃんアルディのISコーチしてくれているそうね、どうかしら弟は』

「そうですわね・・・」

これは僕も興味あるね。

顎に手を当ててしばらく考えているセシリーの横顔を僕は、ジッと見つめる。

そしてセシリーコーチの短評が始まった。

「アルは基礎的な事、つまり射撃に対する適正は高いと思いますわ。

ただ、ISの特徴をつかんだり、何かを感じ取ったりという感覚的な部分はまだまだ未熟と言わざるを得ないかと・・・まぁ、このあたりは経験を積んでいくしかないと思いますけど」

・・・・なるほど。

つまり

『応用の効かない鈍感男ってことかしら』

「・・・ま、まぁ簡単言ってしまえば・・・・そう・・・ですわね」

姉さんのド直球な物言いに若干濁すセシリー。

あのね、僕だって傷つくんだよ。

『でもまぁ、基礎がそこそこしっかりしているのなら、まぁ良しとしましょう』

一応姉さんから及第点のコメントは出たが、次の発言が僕を焦らせる。

『それと、アルディ。最近〝ストライク・バーディ〟からデータが送られてこないんだけど・・・・

何かあったのかしら?』

これにはセシリーも僕同様にビクッと身体が反応した。

「あ、いやぁ~・・・その」

「えぇと・・・・」

僕はセシリーと、一旦姉さんのモニタリング出来ない位置へサッと移動すると、声をひそめる。

「どうしよう、セシリー・・・僕のこんなのなんだけど」

「そうした責任は私にありますけど・・・さ、流石に開発者に見せる・・・勇気が出ませんわね・・・」

こんなのとはそう、ラウラによって真っ二つにされているのだ。

実際まだ起動できるかさえ、教師陣でさえわからない状況だ。

確かに開発者の姉さんに見せれば、何かしら分かるかもしれないが、かと言ってこの愛機の惨状を見せるのも気が引ける。

『アルディ、セシリアちゃん?どうしたのかしら。あ、ひょっとしてメンテナンス中とかだった?』

一瞬これは使えるとも思ったが、ダメだ相手はあの姉さん。下手な嘘は簡単にバレるに決まっている。

でも、見せるには・・・・。

あぁ・・・

はぁ・・・・ふぅ・・・。

くそ。

僕は観念して姉さんに、〝ストライク・バーディ〟をかざしてみせる。

それを見て姉さんは、やはり驚いていた。

『アルディ、それ・・・・真っ二つなのはなぜ?』

「あ、いやこれは・・・・・その、ちょっとした事故で・・ねぇ」

「え、えぇそうですわね・・・事故でその・・おほほほほッ」

一気に怪訝そうな顔になる姉さんだったが、僕は次の言葉を言われる前にと、

ほとんど間髪いれずに姉さんに尋ねた。

「姉さんこれ、使えるかな?」

一瞬ジト目で睨むが、姉さんはすぐに頭を切り替え少し考えた後、予想通り難色を示した。

『はっきり言って、分からないっていうのが実際のところね。まぁ下手に起動しないっていうが一番安全でしょうけど』

要するに、どうなるのかは分からないが、出来れば安静に置いておいた方がいいってことか・・・。

『はぁ・・・にしてもねぇ・・。これは予想外だったわ』

「僕だってそうだよ・・」

「申し訳ありませんわ」

実際ISが待機状態で破壊されると言うのはかなり稀なケースらしい。

そりゃそうだろう。

たいてい戦闘ぐらいでしか破壊されない代物だ。

それが展開もせずに、真っ二つ。

見た感じ姉さんも、このケースは初めてっぽいね。

『とにかく、そっちで一度見てもらってこっちにもう一度連絡ちょうだい。対策は考えておくから』

「うん、ありがとう姉さん」

「お願いしますわ」

『さて・・・と。アルディ、あなたはちょっとどこか行ってなさい』

急にそんな事を言い出す姉さん。

どこかって・・・・。

「あの僕の部屋なんだけど・・・」

『良いから、ここからはちょっと、女の子同士の話よ』

女の子って・・・。姉さんもうすぐ・・

『ん?』

・・・・・何でも無いです。

凄い笑顔でこっち見られた。

やめようトラウマになりそうだ。

『ほらほら、変な話はしないから、ね』

姉さんは更に僕をせかす。

こりゃ出てかいかないとアレか。

言いあっても、時間の無駄だね。

僕は渋々立ち上がると、部屋を後にするのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

『さて・・・・邪魔者が出いったところで』

邪魔者って・・・とセシリアは思う。

どちらかと言えば、自分が部屋にお邪魔してるのだから、その言葉は自分に当てはまるのではないだろうか。

だがそんな事気にも留めずにローラは言葉を続ける。

『さて・・・ふ~んズバリ聞くわね』

「は、はい・・」

セシリアは少し緊張する。

部屋の主を追い出してまで自分に話とは一体何なのだろうか。

『あなた、アルディの事好きなの?』

「えぇっ!?!?」

思わず大きな声を上げてしまい、すぐに両手で口元を押さえる。

『ウフフッ、どうやら図星っぽいわね』

「うぅ・・・は、はい」

セシリアはゆっくりと、頷くと恥ずかしさのあまりうつむいてしまった。

『あなたって、本当に可愛いわね。外見とのギャップが特に』

外見との?

そんな事初めて言われた。

それにローラは、女性が見ても見とれてしまうぐらい魅力的な女性だ。

そんな女性に可愛いと言われて、嬉しくないはずはないがセシリアの顔はますます赤くなってしまった。

『まぁ・・好きなのはわかったけど。お姉さん気になるのはあの子のどこが好きなのってことなのよね』

「はぁ」

『その人を好きになるってことは、少なくともどこかに魅力を感じたからだと思わない?』

「それは、確かに」

会話しながらセシリアはふと考える。

今まで考えたこともなった。

アルディのどこが好きなのか・・・。

・・・ぜ、全部という答えはアリなのでしょうか・・・。

はっ、いやでもそう答えると節操のない女と思われるかもしれませんわね・・・。

実際セシリアはアルディのここの部分と言う物に惹かれたわけではない。

会った時は忘られていて少しショックだったがすぐに昔の事も思い出してくれて、そしてふたを開けてみれば、彼は昔から何一つ変わっていなかったという事がたまらなくうれしかった。

彼の声、彼のちょっと嘘つきな性格、彼の笑顔、彼が手を握ってくれた時の温もり。

そのすべてがセシリアにとってはアルディ・サウスバードであり、彼女が好きな男の子なのだ。

だからどこが・・と言われても中々困ってしまう。

『う~ん答えられない?・・・魅力ないのかしらあの子』

「い、いえ違います、そうではありません!」

答えに窮していたセシリアにローラがわざとらしくせかした。

セシリアも釣られてしまったと思いながらも、それを必死で否定する。

顔を真っ赤にして声を張り上げる、セシリアの様子を見てローラは笑っていた。

『フフフッ、やっぱりあなた可愛いわ』

「・・あぅ」

セシリアは少しはしたなかったかなと自問自答する。

だが、そんなセシリアの考えとは裏腹にローラは優しく言葉を投げかけた。

『ちゃんとわかってるわ。あの子をちゃんと見てくれてありがとう・・・』

「・・・・いえ」

『あの子、あたしの影響とはいえ結構難儀な性格してるでしょ。それが少し心配ではあったのよね』

「大丈夫ですわ。アルは意外と人気者ですのよ」

それが少し、悔しかったりする。

本当なら独り占めしていたいのだが。

『あなたも大変ね、あの子鈍感だし。振り向かせるのは骨が折れるかもよ?』

「大丈夫ですわ、私こう見えて我慢強いんでしてよ」

セシリアは自信ありげにはっきりと言う。

ローラはそれを黙って、それでいて優しそうな目で見つめていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

あぁ~あ。

部屋を出されたはいいけど・・。

どうしよう。

部屋の前で立ってるのもなんか変だし。

かといってセシリーを置き去りにどこか行くのもなぁ。

僕は若干手持無沙汰に、寮の廊下を歩いていく。

文字通りあてのない旅である。

・・・ふぅ。購買でも行こうかな。

商品を見てるだけでも時間はつぶせるだろうし。

と、言う事で僕は行先を購買に決めた。

「いらっしゃいませ~」

ここの学園の購買は、しっかりとしたチェーンがテナントとして入っているのが特徴だ。

そこら辺は作画は国立だろう。

僕は中をぶらぶら見て回る。

そうだ、ジュースでも買おう。

僕はスッと、冷蔵ケースの取っ手に手を伸ばす。

すると、丁度そこへもう一人の手が重なった。

「おっ?」

「む?」

僕はその手の持ち主を、目で追う。

するとそこには、銀髪、眼帯の少女が一人。

「ラウラ?」

「アルディか。すまない、先に開けてくれていいぞ」

その口調に、初めて会った時の刺々しさは無い。

何があったかは知らないが・・・・いやって言うかどんな心境の変化なのだろう。

あんなに、嫌っていた一夏に口づけまでして・・・。

でもまぁ・・いいや。

フレンドリーに接してくれてるのに、こちらからそれを壊すこともないだろう。

「そりゃ、どうも・・」

僕は一番上の棚から百パーセントのオレンジジュースをセシリアの分も合わせて二本取ると、

ラウラに場所を譲った。

さて、お会計お会計~。

レジへ行く途中でチラッとラウラを振り返る。

すると・・・

「ん~~ッ・・・んんん~~~!!!」

ラウラは背伸びをして一番高い棚に手を伸ばすが、後少しの所で届かない。

・・・・まぁ小さいからね。

最初はまぁ頑張ってとそのままレジへ足を運びかけたが、後ろからするラウラの声に後ろ髪を引かれてしまう。

あぁ・・・っとに・・。

僕は何度か迷った挙句、ジュースコーナーに戻るとラウラに尋ねた。

「何が取れないんだい?」

「べ、別に取れないと言うわけではないぞ・・・その少し高いだけで」

「それが取れないっていうんでしょ。ほらこれでいいの?」

僕はヒョイッとリンゴジュースを取るとラウラに手渡した。

「あ、あぁ・・・すまない」

ラウラはそれを戸惑いながら受け取ると、礼を言う。

ほんと、どんな心境の変化だろうね。

また同じような疑問が頭をよぎるが、こんなところで聞くわけにもいかない。

それに、ま、何にせよ大人しくなったならそれでいいじゃないか。

僕は今度こそ、レジへ足を運ぶ。

そしてお金を支払って、購買を出る直前。

「お、おい!待て」

ラウラに呼びとめられた。

僕はふりかえる。

するとそこにはリンゴジュースをこちらに向けてポーズを決めるラウラがいた。

ポーズだけ見れば、結構面白いが顔は真剣そのものだ。

「お前に話がある。今日のそうだな・・二〇時頃に寮の中庭まで来てくれ」

・・・・これは何?

・・・やっぱりあのペットボトルの件許してませんよって遠まわしなアピール?

・・・でも、あの真剣な顔は。

僕は少し考えた後、ラウラに答えを返した。

「二〇時だね」

「あぁ」

「分かったよ」

互いに短く答え、その場を後にした。

・・・にしても、話ねぇ。

ラウラからの話か・・・。

まぁなんか良い話じゃなさそうだよね。

僕は嫌な予感にかられつつ、セシリーの下へと急いだ。

流石にもう、話終わってるだろうし。

 

ガチャッ

部屋を開けるとそこには、まだ会話を続けるセシリーと姉さんがいた。

・・・・本当に女の人ってよく喋るなぁ。

って僕、アメリカから画面越しに出てけって言われたんだっけ?

今考えるとえらい遠距離から言われたんだね。

とりあえず僕は、入ってしまったものは仕方がないから、〝二人〟におずおずと聞いてみる。

「あの、もう大丈夫だよね?」

「あら、アル、いつ帰ってきましたの?」

『話に夢中になっちゃったわね』

どうやら二人とも、そもそも僕に気が付いていなかったようだ。

・・・なんか、凹むなぁ・・。

「それで、話はもう済んだの?」

「えぇ、ほとんど」

『アルディ、セシリアちゃんの事大事にしなきゃだめよ?』

「・・・・え?」

「ああぁぁッ、それは以上はぁ~~!!」

あわてて姉さんの口をふさごうとするセシリー。

ただまぁ、モニター越しだから、姉さんは喋れちゃうけどね。

だが、姉さんも姉さんで、話せるのにニコニコ笑ってそれ以上口をはさまない。

・・・何なんだ?

『あぁ、そう言えばアルディ』

「ん、なに?」

僕はセシリーに場所を変わってもらってPCの前に座る。

画面越しの姉さんの顔はいつになく真剣で、一体どんな話が飛び出すのか分からないぶん、

変に背筋が伸びてしまう。

『・・・・あなた・・・もうすぐ臨海学校ですってね』

「え、あ、あぁうん」

そう言えばそんな事書いてあったなぁ。

貰ってからほとんど確認してない、年間計画表をなんとか頭に思い浮かべる。

・・・・なんとなく・・書いてあった気がする、うん多分。

『もう、色々買い物には行ったの?』

「買い物?特に必要なものは・・それに色々旅行鞄に詰め込んできたからだいじょう・・」

『甘いわ!!!』

うわ、びっくりした!

多分イヤホンしてたら、鼓膜破れてたね多分。

姉さんは、腕を組んで頭を左右に振って今にも〝やれやれ〟と言う声が聞こえてきそうだった。

『やれやれ・・・・我が弟ながら情けない』

ほら聞こえた。

って言うか、何か必要なものがあったかなぁ。

水着は・・別に良いし・・・。

日焼け止め?

僕そんなの気にしないし。

「別に欲しいものなんて何も」

「・・・・・でも、セシリアちゃんはあるわよね?』

唐突に話をセシリーに振る姉さん。

一瞬の戸惑いの後、何かを感じ取ったのかセシリーは勢いよく首を縦に振った。

「はい、はいッ、それはもう!買う物が多すぎて、どなたかの手を借りたいぐらいですわ!」

そ、そんなに・・・!?

女の子って、色々準備が凄いって聞いてたけど臨海学校行くだけでもそんなに買い物するものなのか。

『あらら、それは大変ね』

「はい、大変ですの」

なんとなくわざとらしく感じるのは気のせいだろうか。

まぁ、考えすぎも良くないか。

『と、いう事よ』

「・・・・はぁ、荷物持ち?」

『まぁ、当たらずとも遠からずよ』

姉さんはウィンクすると、そろそろ切るわと言って一方的に電話を切ってしまう。

・・・よくよく考えれば、なんだか色々凄く強引に決まったような決まってないような・・。

僕は、チラッとセシリーの顔を見る。

その顔は、買い物へ行くことへの楽しさからか、凄くニコニコしている。

まぁ、荷物持ちでも何でも・・。

僕は覚悟を決めると、机の片隅に置いてあったスケジュール帳を取りだす。

「えぇと・・・・今週末が良いかな?」

「あ、あの、本当に一緒に行ってくれるんですの?」

さっきのニコニコから一転なぜか、微妙に不安そうな顔でこちらを見る。

女心と秋の空って言う言葉が日本にはあるらしいけど、それはそれでとてもうまい例えだと思う。

あ、ちなみにセシリーの母国イギリスでは〝Awoman`s mind and winter wind change often〟女心と冬の風って言うんだって。

まぁそれはさておき。

「何言ってるのさ、さっき誰かの手も借りたいって言ってたばかりじゃないか、まぁ僕はそんなに力持ちじゃないけど、荷物持ちぐらいなら出来るさ」

「アル・・・・・・。フフッそれじゃ、お願いしますわ。

日程ですが先ほどので大丈夫です。それと集合は何時にしましょう?」

「ん~~・・どうせ街に行くんなら、他のところも見て回りたいよね・・・、じゃあ十時ぐらいに部屋に迎えに行くよ」

「えぇ、それではお持ちしておりますわ」

セシリーは立ち上がるとドアノブに手をかける。

「あれ、もう行っちゃうのかい?」

「え、ええ。その・・ちょっと用事を思い出しましたの」

「あれ、暇を持て余していたんじゃ・・・」

「と、とにかく、買い物楽しみにしておりますわッ!」

セシリーは叫ぶようにして言うと、足早に部屋を後にした。

・・・・う~ん。

やっぱり女の子って〝Awoman`s mind and winter wind change often〟だね・・・。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

こ、これって・・・デート・・・ですわよね!!

セシリアは表面上いつも通り上品な足取りで部屋に向かっていたが、

今にもうれしさで、叫びたい衝動にかられていた。

ローラさんがせっかく作ってくださったチャンスですもの、必ずモノにしなければッ!

セシリアはその衝動をなんとか抑え込み、

心の中で大声チャンピオンも真っ青なほどの声で叫んでいた。

あ~~~~、でもどうしましょう!そ、その、そうですわね。

人生何があるか分かりませんものね・・・じゅ、準備はちゃんとして行かないと!

セシリアは自分の部屋に戻るとベッドの上に滑りこむ、

どうやら相部屋の女子はいないようで部屋には自分ひとり。

それを確認すると、セシリアはさっきまで我慢していた喜びを爆発させる。

「あ~~~~~もうどうしましょう!!これは間違いなくデートですわ!!

アルから、誘われたわけではないのがちょっと残念ですが、でもこれは絶好の機会ではありませんか!!」

もうはたから見れば救急車を呼ばれかねない。

だがセシリアはそんな事お構いなしで、右へ左へベッド上を転がる。

「うまく行けば、あんなことや・・・こんな事まで・・・・キャーーーーアルそれはダメですわーーー!!」

その時だった。

ガチャッ!

っは!!

セシリアは我に返る。

どうやら相部屋の女子が帰ってきたようだ。

セシリアは周囲を見渡す。

さっきまでの自分の行動の所為で、きちんとベッドメイクされた自慢のシーツはしわくちゃになり、

掛け布団もずれ落ちかかっている。

仮に平静を装っても、このベッドの乱れ具合は明らかにおかしい。

「と、とにかくすぐに直しませんと・・・ってきゃぁッ!」

セシリアは、あわてて起きあがろうとするが、

足にシーツが絡んでそのままベッドから転げ落ちてしまった。

それに引っ張られてシーツが自分の上に覆いかぶさる。

「・・・・何やってんの?」

そして丁度そこを相部屋の女子に見られてしまった。

「いえ・・・特に意味はありませんわ」

その女子はシーツから返ってくる返答に、どうしたらいいのか分からずしばらく互いに無言の時間を過ごした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

時刻は二〇時。ラウラとの約束の時間だ。

僕は中庭まで流れてくる海の風に心地よさを感じながらラウラを待つ。

しばらくして無音の中庭にドアの開く音が響いた。

「すまないな、遅れた」

「いいや、僕も今来たところだから」

二人とも形式的なあいさつを交わす。

そしてまた沈黙。

・・・にしてもラウラの話ってなんだろう。

やっぱり、あのペットボトル?

・・・だとすれば、相当根に持つタイプだなぁ。

「・・その、今日はお前に謝らなければと思ってな」

ん?

僕は想像していたのと違う答えに思わずキョトンとしてしまう。

どうやら本当に僕は姉さんがセシリーの言うように、想像力とかの感性が欠如してるのかもしれない。

「謝る、なんで?君何か僕にしたかな」

「お前の姉の事だ」

それでようやくピンと来たぞ。

そうだ、ラウラは姉さんの事を馬鹿にしたんだ。

もう踏ん切りもついて、自分の中じゃ片付いた事だっただけに思い出すのに時間が要ったけど。

「本当に、すまなかった」

まっすぐに、素直にラウラは頭を下げる。

その思いに嘘偽りはない。それはいくら鈍感な僕でもすぐにわかった。

「きょうか・・・織斑先生から聞いたのだ。お前の姉の事を」

「織斑先生から?」

思いがけない経路だな。

確かに姉さんの事は知っていて当然だとは思うけど、織斑先生が自ら姉さんの事を話すとは意外だった。

「織斑先生も認めるほどの人物だったのだな」

「・・・そうなんだ」

「ん、お前は何も聞いていないのか?」

「まぁ、聞いてはいたけど、そういう肯定的な意見は久しぶりかな。

ほら織斑先生って凄く人気もあるし、聞く事聞く事ほとんどが良い意見ばっかりじゃない。でも、僕の姉さんの事聞くと、大抵は知らなかったり知っていても悪評がほとんどだったから少し驚いちゃってね」

この学園に入ってからと言うもの、織斑先生の凄さや人気は目を見張るものがある。

前にも行ったが、この学園の教師陣は、ちょっとは名の知れた元国家代表なんてごまんといるのだ。

だがその中でも、飛びぬけて高い実力と人気を持ち合わせているのが、織斑先生だった。

まぁ、他国の代表なんて優勝でもしない本国以外じゃ、注目されないんだろうけどそれでももう少しは知ってるかと思ってた。

僕たちは話しながら、中庭にベンチに腰掛ける。

「そうか、でもお前はそんな姉が好きなのだろう?」

「まぁね」「だとしたら、やっぱり私はお前に悪い事をしてしまった」

「もう良いけど、確かにあの時はカッと来たけど・・・もう終わった事だしね。

フフッ、僕は根に持つタイプじゃないんだ」

僕は背もたれと肘かけに身体を預け、ラウラに半身の体勢になる。

リラックスした体勢でラウラに微笑みかけるがラウラの顔は晴れない。

「・・・織斑先生から他にも色々と聞いたんだ。お前があのイギリス人に自分の思いを託してトーナメントを欠場したと言う事も・・・」

「そうなんだ」

「そして、その事を私なりに色々考えてみたんだ。でも、答えはいつも同じだ。私ならトーナメントにも無理やり出場していただろうし、ましてや自分の思いを他人に預けるなんて事出来なかった」

ラウラはうつむきながら、一つ一つ言葉を選んで紡いでいく。

これがあの、初日に騒動を起こした少女だとは到底思えない変わりっぷりだ。

ラウラは僕の方を向き直ると、困惑したような表情を浮かべる。

「なぁ、教えてくれないか? お前はどうして、そんな事が出来たんだ?」

「どうして・・か。う~ん・・・強いて言えば信じていたから・・かな」

僕は自分の思いを意志をセシリーに預けた。

セシリーを信じていたから。

ひょっとしたら、それが出来たから僕は、今ラウラとこうして話せているのかも知れない。

思いを人に預けるのって一見すると無責任な事かも知れないけど、相手を信じなきゃ出来ない、

意外と大変なことだと思う。

任せた方も。

そして任された方も。

「信じる・・」

「そう、信じる。まぁ嘘つきな僕が言っても説得力は無いけどね」

「ではそれが、お前の強さなのか?」

「どうだろ・・・強さとは違うかなぁ」

うん・・・・・強さとは違う気がする。

これはただ単に、ぼくがセシリーを信じていただけだし、僕の力でも何でもない。

「・・・お前は強くないのか?」

唐突にラウラがそんな事を聞いてくる。

僕はそれを全力で否定した。

「強くなんて無いよ、多分主要なメンバーの中じゃ一番弱いんじゃないかな」

実際これまでだって、なんとか戦えてきたのは〝ストライク・バーディ〟の性能によるところが大きい。

多分イコールコンディションでやりあえば、僕なんて瞬殺だろう。

「そうか」

「っていうか大体なんでそんな話に・・・。さっきの質問はどこに飛んでったのさ」

「いや、実は話したかった事と言うのは。これが本題なのだ」

「え?」

「実は、あのトーナメントの時・・・・」

 

 

・・はぁ~なるほどねぇ。

不思議な事もあるもんだ。

ラウラが言うには、どこか暗い空間で一夏と話をしたらしい。

そしてそこで一夏が言った強さの理由。

それがラウラには気になって仕方が無いらしいのだ。

「一夏は、他にも強さは色々あると言っていたのだ。

だからとりあえず・・・謝らねばならんとも思っていたから、丁度いいと思って・・・お前に」

だんだん最後の方は、声がしぼんでいってしまったラウラ。

だが主要な部分は聞き取れたし、大丈夫だ。

「ふ~ん・・・そっか。強さねぇ」

僕もそんな事、考えるのは初めてかもしれない。

何を持って強さと言うんだろう。

力?

意志?

仲間?

それとももっとほかの何かだろうか?

よくわからないが、とりあえず言葉にまとめてみた。

「僕は、強さって言うのはその人自身だと思うな」

人自身?」

「うん、そう。結局強さって言うのは力を使わないといけないでしょ。

でも力は力じゃない? でもそこへ使う人が出てきて初めて力は強さになるんだと思う」

「よくわからないな」

「わからなくていいのさ、そんなの」

開き直ったような僕の声にラウラは驚いたような顔になる。

「わからなくて・・・いい?」

「あぁ・・えっとだから・・・やっぱり人それぞれな訳だし。答えは無数にあるわけでね・・・

なんて言ったらいいのかなぁ・・・アハハ、ごめんね一夏みたいに旨く説明できないや」

やっぱりそれをしっかり、考えられている一夏は強いんだろうな。

僕は頭をかきながら笑う。

多分僕にも、強さって言うのはこれだ!っていえる時は来るんだろうけど。

それがいつなのか・・。

ふむ、まぁ来る時には来るでしょ。

ラウラは僕の話に耳を傾けた後、ゆっくりと立ち上がり、二歩三歩歩いたところで止まる。

「そうか・・・そういう考え方もあるのか」

「それに、うだうだ考えていたってね。やっぱりほら、人生は楽しくなくちゃいけないでしょ。たった一度の人生なんだからさ」

「・・・楽しく・・・そうか・・そうだな」

ラウラは振り返らない。

表情はうかがい知ることは出来ないが、声色でなんとなく落ち込んではいないと言う事はわかる。

するとラウラは、そのまま上を見上げ言った。

「フフッ、お前と話せて良かった。そうか、やっぱり一夏の言ったように色々あるのだな・・・。

私はもっと知らねばならんのかもしれないな」

「この手の問題に、答えなんてある意味、一つもないんじゃないかな」

「そうかもしれん・・・。おぉ、そういえば、お前も専用機持ちだと聞いたぞ。

今度暇を見つけて模擬戦でもどうだ?」

模擬戦・・・あぁ・・。

模擬戦ねぇ。

僕は、真っ二つの愛機を思い浮かべて、さっきまでとは一転肩を落とす。

・・・そう言えば、これ直るのかな・・。

「ん?どうした、都合でも悪いのか?」

「いや、都合って言うより・・その・・・・」

どうしようか・・・本人に直接言ってもいいものか・・・。

僕が迷っていると、ラウラが近づいてきて僕がポケットに隠している物を興味深そうに見つめる。

「何を持っている?」

「あ、いや別に・・・何をってほどのもんじゃ・・・」

「見せろ」

「いやだから・・・」

ラウラは半ば強引に僕の腕を引っ張る。

すると僕の手に握られた〝ストライク・バーディ〟が姿を現した。

「これは・・・」

ラウラはそのネックレスに見覚えがあるようだった。

てかむしろ、見覚えがあってもらわないと困るのも確かなのだが。

「あーえと・・・これが僕のIS・・・・見事に真っ二つでしょ」

僕は観念して、気まずい気分で告げる。

何で僕が気まずい気分かって?

決まってる。

壊した張本人が無理やり引っ張り出した物が、その張本人が壊した物だったら、

誰だって互いに気まずくなるでしょ。

少なくとも僕はなる。

「あ、あぁ・・・かさねがさね・・すまない」

「まぁ・・・良いけど」

ラウラは若干顔をひきつらせながら、謝罪する。

まぁ、確かに気まずいっちゃ気まずいけど、もうそれは良い。

終った事だしね。

僕はあまり根に持つタイプじゃないってのは言ったでしょ。

つまりそう言う事。

だがラウラにとってはそうでは無かったらしい。

ラウラは再び僕の横に腰かけると、しゅんっとなってしまった。

「それにしても、お前のだったのか・・しかもISだったとは」

「そんなに気にしないでって、もうやっちゃったもんは仕方ないよ」

「だが・・・」

「さっきも言ったでしょ、人生は楽しくなきゃ。

まぁIS学園でISが使えないっていうのは笑えないけど、

別にそれだからどうだっていうのもないしね、逆に変に気を使われる方が僕はいやだな」

「そうか・・そう言ってもらえると助かるが」

さてと・・・・良い感じかな?

僕は携帯の時計を確認するともう二一時を回っていた。

ラウラとの会話も一区切りついたし。

「それじゃ、そろそろ部屋に戻ろうかな」

「あぁ、そうだな・・・・わざわざ呼び出してすまなかった」

「さっきから、謝ってばっかだね」

「フフッ、元々そのつもりで呼びだしたのだ」

僕らは軽く二言三言話して互いに分かれる。

僕は部屋に向かう道中少し考えた。

・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ。

初対面での、イメージは最悪だったけど・・・。

このIS学園にまた一人。

個性的な生徒が〝本当の意味〟でクラスの仲間になったのは確かだろうね。

 

さてさて、どうなる事やら・・・。

主に一夏が。

 

何にせよ、人生は楽しまなきゃね。

誰もいない廊下。

そこに僕の足音だけが軽快に、そしてどこか楽しげに響いていた。




ここまででこの二次創作小説の第一章が終了です。
後日今度は第二章を移行していきますのでよろしくお願いします。
H.24 7/24


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第15話~疑惑のジャパニーズと白き鳥~

・・・・・はぁ。

やっぱり断ればよかったのでしょうか・・。

いやいや、もうここまで来たわけですし・・・。

朝日がIS学園を照らす。まだ時間も早い関係で誰もいない校門前で、

一人の少年はIS学園の制服に身を包み一歩足を出しては、その足を引っこめる。

そしてその後、また何かを考えるという行動を繰り返していた。

これが普通の学校なら、警察を呼ばれても良いレベルの怪しさだった。

それにしても・・・なんでこんな事。

少年は頭の中でひとりごちる。

だがそれで何が変わると言うわけでもない。

少年は息を深く吸い込むと、ゆっくりと吐く。

さて・・・行きますか。

少年は意を決した顔で、IS学園の門をくぐるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ねぇねぇ、また転校生らしいよ?」

僕はもうその話を聞いても何も驚かないぞ。

だってラウラ以上の転校生なんてそうそう居ない。

それにだ、転校してくると言っても今回は僕たちのクラスじゃない。

それでも・・・

「どんな子だろうね?」

「また代表候補生かなぁ」

「絶対そうだって、どこの国の子かな!」

これだ。

本当に噂話が好きだねぇ。

って言うか毎度思うんだけど、女の子の情報網って言うのは一体どれほどのものなんだろう。

ひょっとしたら、一国家機関の情報網に匹敵するぐらいあるんだろうか・・・・・・

それは言い過ぎ?

いやでも、ねぇ。

「お前、さっきから何ブツブツ言ってんだ?」

「え? 声に出てた?」

一夏に言われてハッとする。

自分じゃ分からないもんだねぇ。

「いやね、転校生の話」

「お前も気になるのか、やっぱり?」

「もう誰が来たって言っても驚かないよ、大体ラウラであの騒ぎでしょ。慣れたよ」

本当に、あれ以上の転校生騒ぎがあってたまるもんか。

・・・まぁ僕からペットボトル投げたんだけど。

「私がどうかしたのか?」

そこへラウラがやってくる。

どうやら聞こえていたらしい。

「いや、一夏がね。ラウラ可愛いって」

「なっ!!お前そんな事一言も・・・・・・ッほ、ほうき」

この手の会話にはすぐに飛んでくる箒。

僕はそれをニヤニヤしながら見つめる。

あ、ちなみに今の箒の顔は、真正面から見ると子犬なら死んでしまいそうなぐらい怖い。

「お前・・・・」

「お、おう・・・」

「その、なんだ。やっぱりききき、キスとかしてほしいのか!?」

「はぁッ!?」

うわぁ、予想外の爆弾発言だね。

これは面白くなりそうだ。

「全く・・・アル、またやってますの」

そこへ小声でセシリーが声をかけてくる。

「だって、ねぇ・・。見る分には楽しいし」

「はぁ・・・やられてる側は地獄でしょうけれど」

僕とセシリーは再び一夏を観察する。

現在一夏は、箒に詰め寄られ変な質問をされた後、ラウラがそれに異を唱え、おまけにシャルロットまでその話に参加してきたから、種をまいた張本人が言えた事じゃないが小規模なカオスだった。

「お、お前、急になんてこと言ってんだよ!!」

「そうだぞ、一夏は私の嫁だ。よって好き勝手にしていいのは私だけに決まっている」

「あぁもう、二人とも何言ってるの!大体一夏とのキスだったら僕だって――――――――――あ」

え!?

更に予想外のカミングアウトに僕だけじゃないクラス全体が驚きの声を上げた。

「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?!?!?」」」」」」」

声でクラスが揺れるのなんて久しぶりだ。

えぇと・・・前に揺れたのは・・・。

あぁシャルロットがシャルルとして転校してきた時だったっけ?

・・・いや違うラウラがキスした時だ。

なんだ、つい最近じゃないか。

などと僕はのんきに構えているが、周辺はもうカオスを通り越して若干暴動である。

「シャルロットあんた抜け駆けしたの!!」

「あぁぁ!そう言えば二人ともしばらく同じ部屋だったし・・・・」

「そ、そんなぁ~」

皆口々にシャルロットを責め立てる。

これには流石のシャルロットもあわてていた。

何せ自分の失言からの暴動だ。

気持ちは分からなくもないけど・・・。

「あ、その・・キスって言うか・・そのうぅ・・なんて言ったらいいのかな」

「む、シャルロット。言い淀むほど凄いキスだったのか?」

その上で更にラウラが火をそそぐ。

今気が付いたけどこの子って戦闘時は恐ろしいけど、普段はこんなにも空気が読めない困ったちゃんだったんだね・・・。

こりゃ一夏は大変だ・・・。

「お前今、他人事みたいに言わなかったか・・・・ってこら、箒引っ張るな!」

「えぇい、黙れ!! 大体なぜ私が最初ではないのだ!!」

「色々意味がおかしい事に気づけ!!」

「離さんか!先に誰が何をしていようとこの男は私の嫁だッ!」あぁ・・・平和って良いね。

今の状況はこんな感じだ。

僕の右側で、シャルロットに詰め寄る女子たち。

そして僕のすぐ目の前で箒、ラウラの主要メンバーを筆頭に一夏を残りの女子たちが取り囲む。

そしてその中で唯一、僕とセシリーがいる所だけぽっかり平和な空間が開いている。

ほんと・・平和って良いなぁ。

「悪いが、その平和はもう終わりそうだ」

へ?

刹那、僕の頭は出席簿の餌食となった。

「朝から元気なのは良いが、クラス全体で何を騒いでいる!とっと席につけSHRを始めるぞ」

織斑先生の声を聞くや、さっきまでの喧騒がうそのように静まり返る。

そしてものの数秒で皆が席についた。

それを確認して何事も無かったかのようにSHRを始めようとする織斑先生。

「ハイ、質問があります」

「なんだ、サウスバード」

「どうして僕は叩かれたんでしょうか?」

「・・・・・分からないのか?」

「・・・・・すいませんでした」

あー下手な質問はするもんじゃない。

 

 

「以上だ。それでは今日もしっかりとな」

今日も特にこれと言った連絡はなし・・。

まぁ、臨海学校について二、三あったけど、そんなに覚えておくような事柄でもなかった。

荷物を手早くまとめると教壇をおりていく。

だがその織斑先生を女子が呼びとめた。

「あの、山田先生は今日どうされたんですか?」

「ん、あぁ。山田先生は臨海学校の下見で現地へ飛んでいる。

なに心配するな、今日一日山田先生の仕事は私が担当する。

自習だと思って喜んだやつは・・・覚悟しておけ」

一瞬喜びかけた女子のかをがみるみるしぼんでいく。

・・・にしても臨海学校か。

ってことは、やっぱり海があるんだよね。

・・・あんまり海には良い思い出が無いけど。

まぁ、ここから海を見ても大丈夫だし。

海に入らなかったら、大丈夫だよね。

こうして、今日も一日平凡で変わり映えのない一組の日常が始まった。

 

 

 

・・・・始まらなかった。

昼休み。

一組に飛んできた鈴が言った一言がちょっとした問題を起こす。

鈴は僕たち主要なメンバーを集めると声をひそめる。

「ここだけの話なんだけどさ、今朝うちのクラスに転校生が来たんだ」

「どんな方ですの?やっぱり代表候補生でしょうか?」

「いやさ、代表候補生うんぬんよりも・・・男子なのよ」

男子?

はぁ~それでよく今まで騒ぎにならなかったものだ。

・・・流石に慣れたのかな。

だが、その疑問はすぐに晴れた。

鈴が聞かなくても答えてくれたのだ。

「ま、うちのクラス全員で口裏合わせたしね・・・。

一夏やアルディの時みたいになるのはウチの先生も恐れたみたい」

・・・そりゃそうだよね・・・あ、でも。

「もうばれてるんじゃないの?」

「・・・昼休みは、どうしようもないじゃない」

あぁそこら辺は、もう割り切ってるんだね。

だがそうは言っても、男子は男子。

その事について、箒が腕を組んだ。

「しかし、男子か・・。女にしか扱えないISを扱える男子が三人も・・・」

「まぁ特異なケースと言うのは、あながち少なくないのかもしれんな」

「でも、ねぇ」

確かにラウラの言うとおり、ひょっとしたら世界にはもっと居るんじゃないんだろうか。

って言うかISもなんか、そこらへん適当だなぁ・・・。

「でね、問題はここからなのよ」

騒ぎにならなかっただけで、意外と男子の転校って言うのは重大な問題だと思うんだけど。それをシャルロットも感じたようで、鈴に尋ねる。

「まだ何かあるの?」

「あいつの使ってたISが、あたしたちを襲撃したのにそっくりなのよ・・・」

「「「「え!?」」」」

一夏と僕、そして箒とセシリーの声が重なる。

一方シャルロットとラウラは、あの時は居なかったから、

何について話しているのかよく分かっていないようだった。

「ねぇ一夏、何の話なの?」

「あぁ、鈴が転校してきた時にな、ちょっとした事件があって・・・その話なんだけど」

「まぁ詳しい事は大方、かん口令がしかれているのであろう。私たちも詳しくは聞くまいが・・」

ラウラの意見にシャルロットも賛成のようで、それ以上一夏に聞こうとしなかった。

・・・でも。

どういう事だ?

仮に襲撃者だったら・・・・わざわざ自らこの学園に入ってくる事なんて。

「ねぇ、鈴。本当にそっくりなの?」

「えぇ、まぁ色は真っ白だったけどね」

「それだと私たちが見たものと、違うな」

「ラウラ。お前ドイツ軍に居たんだろ? ISの塗装とかって簡単に塗り替えられるもんなのか?」

軍ではよく、パーソナルカラーなどで隊長機を塗り分けたりするし、

作戦によって頻繁にカラーリングを変えることもしばしばだ。

ラウラは軍人。その辺の事には詳しいはずだ。

「ふむ、そうだな。まぁ難しくは無いぞ。極端な話、

作戦行動中に手持ちの油性ペンキやスプレーで塗装する事もあるぐらいだからな。

以前も、僚機をアグレッサーカラーにして偵察任務をこなした事がある」

なるほど。

体験者は語るじゃないけど、流石は現役軍人・・・。

具体例まで挙げて実に分かりやすい説明だよ。

ふむ・・・。

「鈴、彼に会えるかな?」

「会えるけど・・会ってどうするの?」

「確かめたい事があるんだ」

鈴は一瞬怪訝そうな顔をするが、何も言わずに居場所を教えてくれた。

ありがとう、鈴。

さて・・・それじゃ噂の彼に会いに行くとしよう。

 

僕は二組のドアの影からひょっこり顔を出して、転校生君を見る。

その転校生は、黒髪に青色の目を持つ少年で恐らく日本人だろうか。

噂の彼は、ごく普通に二組でISの教科書に目を通していた。

そう、ごく普通に。

彼だけ。

多分彼自身意識しないようにはしてるんだろうか。

いくらなんでも、ねぇ・・・。

だってさ。

僕は辺りを見渡す。

そこはもう黒山の人だかりだった。

もちろん女子で、その目的は噂の彼を一目見ようとである。

僕は再び視線を彼に戻す。

・・・ふむ。

まぁ、遠巻きに見てても仕方がない。

僕はスッとドアの陰から立ち上がると、噂の彼のもとへ。

少し・・・いやかなり目立ってしまうがしょうがないね。

「どうも」

気さくに声をかける。

すると相手も若干ぎこちなく、それなりに気さくに応じてくれた。

「ええと、こんにちは」

「あぁ、そんなに固くならないで。とりあえず自己紹介をしよう」

僕は開いていた、椅子を引いて彼の向かいにこしかける。

「僕は、アルディ・サウスバード。君と同じ男のIS操縦者ね」

「はじめまして、アルディ。僕は一条 聡也。よろしくお願いしますね」

「聡也か。良い名前だね」

僕は自己紹介を済ませると、聡也を一組へ呼ぶ。

すると今度はクラス前の軍団が一組へ移り、元々一組にいた女子たちも急な転校生の登場に湧きかえる。

「あれが、転校生!?」

「え、なに!? 男の子だったの?」

「だからみんな見に行ってたんじゃん。気づいてなかったの!?」

一気にざわつく教室の女子たちを、聡也は不思議そうに見つめる。

「皆、何をしてるんですかね?」

「・・・あれ?気が付いていたんじゃないの?」

「そう言えば、廊下にも人がたくさん・・・」

なんだろう、同じ臭いがする。

親近感を覚えると言うか。

「あなたほど、鈍感では無いと思いますが・・・」

唐突ににセシリーの声がする。

あれぇ、僕口に出したかな?

「だから、前にも申したでしょう・・・わかりやすいと」

どうやら、ちょっと本気でポーカーフェイスを学びに行ったほうが良い気がしてきた。

・・・通信教育でも出来るのかな。

「で、そいつが二組の転校生か」

僕がそんな、ばかばかしい事を考えていると転校生に興味を持ったラウラが口を開く。

ラウラってさ、刺々しさは抜けたけどそれでも言葉遣いが・・・。

もう少しフレンドリーにした方が・・。

「はい、二組の一条 聡也です、その・・・よろしくお願いします」

「あぁ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。そしてコイツは織斑 一夏。私の嫁だ、覚えておけ」

サラッと結構凄い事をのたまうラウラに箒たちが噛みつく。

「また、お前は! 別にそれは必要ないだろう!! それに一夏はお前の嫁では無いッ」

「そーよ、あんたねちょっと美味しい思いしたからってつけ上がらないでよね! 一夏は私のなんだから!」

「ちょ、ちょっと鈴!? 勝手に私物化しないで!」

「・・・どうでもいいが俺は・・・その嫁なのか?」

一夏の疑問は最もだろう。

普通なら婿だね。

アメリカ人の僕でもわかる簡単な日本語な気がするんだけど。

また騒ぎを始める彼らを余所に、今度はセシリーが自己紹介。

「私は、セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ。どうぞよろしく」

「ラウラに・・・セシリアですね。で・・・彼女たちは・・・」

指さし確認で名前を繰り返す聡也。

だがまだまだ収まる気配を見せない、騒動に聡也は少し戸惑ってしまう。

そこで僕が残りの四人に代わって名前を挙げていく。

「えぇと、まず彼女が篠ノ之 箒」

「よろしく頼む・・・・あぁ、だから何度言えばっ」

「で、その横が 凰 鈴音」

「って、あたしは知ってんでしょうが!!・・・だからさぁ一夏はあたしの幼馴染でぇ!!」

「そして、そのブロンド髪が、シャルロット・デュノア」

「あはは、よろしくね。・・・・んもう、いい加減にしてってば!」

そして最後に、なぜか騒動の原因の一つであるにも関わらず蚊帳の外状態の彼・・・。

ほんと、気苦労が絶えないねぇ。

「んでもって、彼が僕たちと同じISを使える男子、織斑 一夏」

「よろしくな、聡也」

一夏は、喧騒どこ吹く風で聡也に手を差し出す。

そして聡也もその手をしっかり握り返した。

「あなたの事はよく知ってますよ。ニュースで見ました」

「あー・・やっぱりか。大体のやつに言われるんだ」

世界で初めてISを動かせた男子、織斑一夏。

それにあの織斑先生の弟って言う事もあって、結構大々的に報じられたらしい。

何せアメリカでもやってたぐらいだしね。日本人の彼が知らないわけはないだろう。

さて・・・。

とりあえず全員の自己紹介が済んだところで。

「ところでさ、君今日放課後は開いてるかい?」

「え? 放課後、うん大丈夫ですよ」

「なら放課後さ、アリーナに行かないかい?」

「アリーナですか、良いですけど。何かあるんですか?」

そこへ一夏が、説明に入る。

「実はさ、今放課後、みんなで合同練習してるんだよ。

アルディはちょっとISが今は使えないんだけどな」

そう言えば・・・・僕のIS一度見てもらわないとなぁ・・・。

早くなんとかしないと、実戦経験もロクに詰めやしない。

・・・っとと、今はそんなこと言ってる場合じゃなかった。

「ま、確かに僕は見学だけどさ。ほらセシリーとか代表候補生だしラウラに至っては軍人。

学べることは多いと思うよ?」

「そうですわね、まぁ私の理路整然とした完璧な説明があれば、どんな操縦者も一瞬で代表候補ですわ」

凄い自信だけど、正直いって僕はすぐに理解できなかったけど・・・。

そんなセシリーの自信に押されたかどうか分からないが、聡也は少し考えてやがて申し出をを受け入れた。

「・・・まぁ、確かにそうですね。良いですよ、じゃぁ放課後楽しみにしてます」

聡也はチラッと時計に目をやると、それだけを言い残して自分のクラスへと戻っていく。

ありゃりゃ・・・もうこんな時間か。

さて次の授業の用意をしないとな。

僕はまだまだ終わりそうにない、四人を尻目に次の授業の用意を鞄から取り出す。

あ~あ・・知らないぞ~。

次の授業は織斑先生なのになぁ~。

そして案の定、織斑先生に一発づつ出席簿アタックを貰った四人。

だから、言ったのに・・・・。

いや、言ってないか。

ちなみにだが、放課後その四人から僕は理不尽なげんこつを一発づつ貰う羽目になった。

言ってくれればってねぇ・・・。

理不尽すぎでしょ。

 

 

さてさて放課後。

僕たちは、アリーナに来ていた。

既に皆ISスーツに身を包んでいる。

僕はISを使えないから、制服のままだけど。

「さて、今日も始めるか」

一夏の掛け声に、ピクっと四人が反応する。

「そうだな、よし一夏今日も軽く打ち合いから始めよう」

「そうね、早速中近の総合機動を始めるわよ」

「一夏、今日はこれを撃ってみようか」

「良い心がけだ。お前にはどうも高度な機動戦術が足りていないようだからな。

わたしがみっちり教えてやろう」

一度に四人が全く別々のメニューを提示する。

そしてその誰もが、〝当然自分とやるよね〟という無言のメッセージが感じとれるから断りにくい。

差し出される四通りのメニューに一夏が恐る恐る、聞き返す。

「ちなみに・・・・誰か一人選んだら怒る・・・よな?」

「「「「当然!」」」」

「どうしろってんだよ!!」

あはは、流石に同情するよ一夏。

ま、向こうは一夏に任せてこっちはこっちで始めちゃおう。

「さて、聡也。こっちはこっちで始めようか」

「はい。それで・・・何をしましょうか?」

「そうですわね、まずあなたのレベルを見たいですわ」

「レベルですか・・・はぁ、まぁ良いですけど」

セシリーいわく、教える側としても現状でどのぐらいのレベルにあるのか

知っておくことは重要なことなのだそうだ。

それを知らない事には、どうやって何を教えればいいのかさえ組めないらしい。

既に鈴からの情報で自分のISを持っているという事を知っていた僕たちは、

セシリーが先に〝ブルー・ティアーズ〟を展開して聡也にもISの展開を促す。

「さ、まいりましょう」

「分かりました、少し待ってくださいね」

聡也は、鉄製の白いカードにキーシリンダーが付いたものを取りだす。

どうやらあれがISの待機状態らしい。

そのシリンダーに聡也がキーを差し込む。

するとキーが霧散して、それと同時に光に包まれ真っ白いISがすがたを現した。

・・・・・確かに。

確かにそれはあの時見た黒いISに酷似しているデザインだ。

工業的で角ばったシルエットに、バックパックには四門の砲。

そして顔にはバイザーが備わっている。

だが、色は白い。

黒じゃない。

さっきまで言い争っていた一夏達も、そのISに釘付けになっていた。

聡也はゆっくりとセシリーの高さまで浮上する。

「さて、準備は良いですよ、いつもどうぞ!」

聡也はバックパックから二門の砲を選びそれを手に取り構える。

「・・・・では、行きますわよ」

こうして、セシリーと聡也の模擬戦がスタートした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

あのIS・・・。

どうやら色は違いますが、基本的な装備はあの黒いISとほぼ同じ様ですわね。

セシリアは一人心の夏でつぶやきながら、こちらへ砲を構える聡也を見やる。

さっき〝ブルー・ティアーズ〟のライブラリを参照したがあのISに関する情報は登録されていなかった。

原則この学園には新技術の情報開示義務は無いとはいえ、

IS本体のデータまで無いと言うのは少し疑問だった。

アルディの〝ストライク・バーディ〟も見たすぐ後に検索をかけたから、

まだ識別番号が有効になっておらずデータを見ることはできなかった。

しかしその後再び検索をかけたらそのデータはしっかりと登録されていた。

つまり、ISを起動してそれが有効になった時点で各関係部署や各ISにそのデータが送られるはずなのだ。

だがあの白いISだけはどうしてかそれが出来ない。

とにかく・・・妙なISですが・・・。

今は頭を切り替えましょう。

セシリアは一つ息を吐くとビットを展開。

更にそこへ〝スターライトMKⅢ〟の精密射撃を加える。

それを聡也は、スラスター角を調整しながら巧みに避けていく。

この前も確かこのような感じで避けられましたわね。

ふとセシリアの頭にあの黒いISの機動がよみがえる。

確かに聡也の機動はそれに類似してはいるが、それでもどこかが違っていた。

この違和感は・・・何でしょうか。

セシリアは頭の片隅で違和感を覚えながら、距離を取りつつ攻撃を続けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「始まったわね」

「あぁ・・・・」

「機動自体は何となく似ている所もあるが、変な違和感があるな…」

地上から見守る僕達は独り言のように、つぶやいていた。

聡也の動きは、確かにあの黒いISににている。だが箒の言うように何か違和感を感じてしまう。

「ふむ・・・あれが襲撃したISに酷似した機体か・・・・私には別段おかしな所は見受けられんが」

「僕もだよ。やっぱり元々の黒いISを見てないからかな?」

そしてどうやらシャルロットとラウラには、特に違和感なく見えているらしい。

・・・・・とするならこの違和感はあの時、黒いISを見た人間にしか分からないようなことなのか。

僕は再び聡也を見上げる。

聡也の戦い方は距離の素早い切り替えと上下機動を組合せた耐狙撃機動ベース。

そこに自分の砲撃を組合せた比較的変則的なスタイルだった。

そしてその機動になってから、セシリーの手数が目に見えて減少する。

セシリーは紛いなりにも代表候補生、半端な機動や技術は通用しない。

つまりそのセシリーが攻撃の手数を減らしてまで狙わねばならないほどに、

聡也の実力は高いということになる。

さすがに実際戦っていないから正確な実力はわからないがそれでも、あの黒いISに肉薄するほどの実力に加えて、似たようなIS、似たような戦術・・・・。

細かく見れば疑うべき余地はいくらでもある。

「ねぇ一夏。君はどう思う?」

「・・・確かに、変な違和感はあるんだけど。でもさよく考えてみれば俺たちを襲撃した犯人が本当にあいつだったとして、のこのこと転校なんてしてくるか?」

「それはねぇ・・・・引っかかってるんだ僕も・・・」

そう。

そんなリスキーなことを冒してまで、何かを手に入れたいのなら別だが

これまで少し会話を交わした感じではそんな感じは見受けられないし。

・・・考えすぎなんだろうか。

何度も言うが、似ているだけで全く同じではない。

「まぁ、仮にそうだったらそんときゃそん時だろ? はなから疑ってかかるのはもうやめないか?」

「一夏・・・最近あんたアルディ化してきたわね」

失礼な鈴。

僕はこんなに神経図太くないよ。

「そうか? 俺は別に金髪じゃないぞ」

「・・・・そういうことじゃないよ、一夏」

さすがのシャルロットも呆れて苦笑いしている。

その奥では、箒とラウラも腕を組んでため息を漏らしていた。

ただ一人、その意味を分かっていない一夏だけがきょとんとした顔でキョロキョロと周囲の顔を見まわしていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

えぇと・・・・。

聡也は、セシリアと撃ちあいながら少し困惑していた。

なぜなら、下の皆は気が付いていないようだがアリーナに人が集まり始めていたからだ。

なんで、こんなに人が集まってくるんだろうか。

その理由がいまいちピンとこない聡也。

と、一瞬気を逸らした聡也をセシリアのビットが襲う。

「っとと!」

聡也はそれを、宙返りで避けると手持ちの荷電粒子砲をお返しとばかりに撃ち返す。

セシリアもそれは予期していた行動のようで、難なく避けた。

「私相手に、余所見とは。随分と余裕なんですのね!!」

セシリアは一度体勢を立て直して、再びビットとレーザーライフルでこちらに迫る。

ダメだダメだ!今は集中しないと。

聡也は、頭を切り替え一気にそのビットとレーザーの雨に飛び込む。

「なっ!? あなた、正気ですの」

「まぁ、もう大体分かりましたから」

その言葉。聡也に悪気は無い。

だが聡也には本当に分かったのだ。

セシリアの戦術が。

攻撃パターンが。

おおよその実力が。

それらが分かってからの聡也は速かった。

聡也はセシリアに肉薄すると、至近距離から左右の荷電粒子砲を二発。

そしてそれで吹き飛んだセシリアを、真上から蹴り飛ばす。

「っく、この速さッ!!」

「さて、仕上げと行きましょう」

聡也は一度両手に持っていた荷電粒子砲を背部へ戻す。

そして同時に四門の砲のロックが解除され、聡也はそのまま勢いよく宙を回る。

ロックが外れ自由になった四門の方がくるくると宙を舞う。

「な、何を」

セシリアはようやく体勢を立て直そうかという所で、聡也の行動が目に入る。

セシリアが見たものは、くるくると回りながら綺麗に横一列に並ぶ四門の砲だった。

そして次の瞬間、セシリアへほぼ同時に四発の砲撃が直撃する。

「あぁっ!!」

激しい衝撃を受けながら、アリーナへ叩きつけられるセシリア。

この瞬間、聡也の勝利が決定した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

・・・ま、負けちゃった。

僕は信じられない物を見ている気分だった。

〝ブルー・ティアーズ〟はセシリーが地面にたたきつけられてからすぐに霧散する。

セシリーは、〝ブルー・ティアーズ〟が衝撃の大半を受け止めてくれたようで大きな怪我もなく、

すぐに立ち上がった。

僕たちは、セシリーのもとへ急ぐ。

「セシリー大丈夫!?」

「え、えぇ・・・少し腕を強く打ちましたが、問題ありませんわ」

「そう、良かった」

僕は、怪我が無いようだという憶測が、怪我が無いと言う確証に変わった事に安堵の表情を浮かべる。

そこへ、ISを待機状態に戻して不安そうな顔で聡也もやってきた。

「あの・・・・大丈夫でしたか・・?」

「えぇ、何ともありません。にしてもまさか私が敗れるとは・・・不覚でしたわ」

「油断するからよ、あんたって大体相手を甘く見て負けるタイプよね」

「それを言うなら鈴さんだって、一夏さんと初めてのクラス代表戦では危なかったようですけど?」

「ばっ、馬鹿言ってんじゃないわよ・・・あれは・・・そう、あそこから始まるあたしのターンだったのよ!」

セシリーの嫌みたっぷりな口調に、顔を真っ赤にして怒る鈴。

だが、他のメンバーはそんな彼女たちよりも聡也のISが気になるようだった。

 

「でも、すげぇよ聡也。セシリアに勝っちまうんだからな」

「いえ……そんな事は」

一夏の若干興奮気味な声に対して聡也は謙虚に振る舞う。

だがそこへ更にラウラが賞賛した。

「謙遜することはない。練習といえども、勝ちは勝ちだ。胸を張ればいい。

そしてセシリアはもっと精進すればいい。ただそれだけの事だろう」

ラウラは鈴と言い争うセシリーを横目で見て、ため息混じりに言った。

それを見て苦笑する聡也。次に口を開いたのは箒だった。

「そう言えばお前のアレは、どこ製のISなんだ?

どうもどこの国のISにも似つかんフォルムだが」

「専用機だからじゃないの?」

「だがシャルロット。お前のリヴァイヴのカスタム機だって原型を止めていないだろう?

そう考えるとコレもどこかの量産ISのカスタム機ではないのか?」

箒の疑問は当然だった。 黒いISもそうだが、明らかにISと言うには

メカメカしく工業製品のような無骨さがある。

全てのISがそうだとは言わないが、異質な外観であるのは事実だった。

聡也はあたかも、そんな質問を予期していたかのように何の言葉の詰まり無く饒舌に答えた。

 

「僕のは“ホワイトアウル”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界でたった“二機”の、ISではないISです」




停滞していたので、移行作業を再開しますね。


サーバーも安定した用ですし…


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第16話~似て非なるもの~

一号機:起動失敗

 

二号機:起動失敗

 

三号機:起動成功も、定格出力で安定せず廃棄

 

四号機;同様のトラブルにて廃棄

 

五号機;初の定格出力運用に成功。※機動試験中に空中分解。搭乗者意識不明の重体

 

六号機:上記のテストを踏まえ安全性を考慮しすべての問題をクリア。

                         以後本機を甲式と命名

七号機;同様に成功乙式と命名。

          ※これより以降の試作機の開発の計画は無し。

 

              ~中略~

 

試験運用期間終了。以後両機登録名を

甲式:ホワイトアウル

乙式:ブラックアウル

と命名し、両機を専門研究機関のあるアメリカへ委譲するものとする。

 

 

以上、疑似ISプロジェクト『N-Development Technology Project』pp45-47より抜粋。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ISでは・・・・無い?」箒が怪訝そうにつぶやく。

いや箒だけではない。

この場にいる誰もが同じ様な顔をしていた。

当然だ。

だってこの世でISに対抗しうるのはISだけであり、現にさっきセシリーを撃墜して見せた。

そんな物がISではないと言われて、はいそうですか・・・と言うわけにはいかない。

「あぁ、いや、厳密に言えば全く異なるってわけじゃないんですよ。

ただ・・・そう、似て非なる物というかなんというか」

聡也も聡也で、一斉に怪訝な目を向けられて困惑しているようすで語尾を濁しながら弁解する。

「似て非なるもの・・・か。だがそんな物ドイツに居るときにも聞いたことがないが・・」

「まぁ、開発自体が表には出ませんでしたからね」

「んん? でも、ならそれをこんな所で話しちゃって良いの?」

シャルロットの質問に聡也は苦笑いを浮かべ、頭をかいた。

「あはは、もう言っちゃいましたし、それに別にコレはもう隠すような事柄じゃありませんから」

 

どういう事だろう。

通常どの国のISも機密情報って言うのは一つ二つあるもので、

詳細は開発した人間や操縦者以外には原則伝えられない。

だが聡也のニュアンスだと、まるで“ホワイトアウル”に

何の機密情報も秘匿性も無いって聞こえてしまう。

「確かに、全くないと言えば嘘になりますけど、

Nの技術自体もうこれ以上の進展は望めませんからね。

そんな事を隠した所で何の得もないんですよ」

「あ、ちょっと待って聡也。聞き慣れない言葉が飛び出した。

そのNの技術っていうのは何だい?」

「あぁ、確かにISでは使いませんよね。

Nの技術っていうのはいわゆる“ホワイトアウルの技術”ってことです。

僕のは、ISに似てる物ってことでIS-Nっていうんです」

「IS-N?何だよ、そのNってのは」

「NearのNですよ」

一夏の質問にサラッと答える聡也。

なるほどね。

近いって意味でNか。

僕も含めて皆ようやく納得した様子で何度か頷くが、

それを聞いて心中穏やかじゃないのもまた事実だった。

「ねぇ、ちょっと待ちなさいよ。聡也、そのIS-Nってのは誰でも使えるわけ?」

今までだんまりだった鈴が少し声のトーンを落として口を開いた。

「基本的には、操縦者登録をすれば大抵の人には。ISに近いと言っても駆動システムやそもそも使われている技術が大きく異なりますからね」

「では・・・やはり」

セシリーもそれを聞いて、呟きながら考え込む。

「ん? 皆さんどうかしましたか?」

その様子に疑問を感じ、今度は聡也が怪訝な顔になる。

多分、鈴もセシリーも考えていることは同じだろう。

「聡也、あたし達ね。多分そのもう一機のIS-Nと戦ったことあるわよ」

「え!?」

「そのもう一機というのは、黒い同型機ではありません?」

一気に顔つきが険しくなる聡也。

恐らく図星なのだろう。

だが特に、言葉を発することなく聡也は黙って耳を傾ける。

「あたし達、代表候補生でさえ手こずった無人機を、

ものの数分で再起不能にまで、追い込んだ。

その後も〝打鉄〟を何十機と先頭不能にしてたし。

信じらんない戦闘能力と実力だったわ」

「えぇ・・・調子が悪かったとはいえ私の攻撃が一度も当たりませんでしたものね。

まぁ・・・今回もですけど」

声が最後になるにつれてしぼんでいくことからも、ショックは相当大きかったようだ。

セシリー・・・まだ引きずっていたんだ・・・。

二人の意見を聞いた聡也は、しばらくあごに手を当てて考え込む。

この様子からも、もう間違いなく聡也は何かを知っているとみて間違いないだろう。

むしろ、そのために転校してきたとも考えられるし。

「う~ん・・・おかしいですね」

「何がおかしいって言うの?」

「本当にその黒いISは、無人機を撃墜した後何十機というIS相手に大立ち回りを演じたんですか?」

聡也の疑いに対して、鈴とセシリアが心外の声を上げた。

「何よ、あたしたちの言ってることが信じられないって言うの?」

「そうですわ! 私たちの言っていることにうそ偽りは無くてよ!」

セシリーは目で一夏と僕に同意を求めてくる。

僕たちはそれにうなずくと、鈴もそれを確認してほら見なさいよという顔で聡也をにらみつけた。

「い、いや別に信じて、ないってわけじゃないんですよ・・ただ・・」

「ただ・・・何よ?」

「普通に考えて、IS-Nのスペックは最大稼動時でも

せいぜい通常のISの能力の半分以下ぐらいの出力した出せないはずなんです・・・。

それなのに、いくら日本の量産機とはいってもそんな何十機を相手になんて」

「ちょ、ちょっと、それ本当なんですの!?」

これには僕やセシリーたちあの場にいた人物だけじゃない。

その場にいなかったラウラやシャルロット間でもが驚いていた。

なぜならその事実は、その操縦者がとてつもなく実力が高い人物であるということを

暗に示していたからだった。

・・・・そう思うと僕たちよくあれに勝てたよね。

「少し良いか?」

驚きのあまり少しの間、沈黙が流れた後

それまで腕を組んで、ただ聞いているだけだった箒がズイッと前に出た。

「えぇ、何ですか?」

「とりあえず、その黒いISのことはなんとなくわかった。

だが忘れてはいないか? あの時ISはもう一機いたことを」

あ、そういえば。

確か紫色の戦槍持ったISだったはずだ。

IS-Nの話が、結構大きなことだっただけにポンッと頭の中から飛んでしまっていた。

「それ、紫色のISじゃなかったですか?」

「・・・・ということは知っているんだな」

箒の、尋問のような鋭い声に聡也はゆっくりと頷く。

「あのISは、紫香楽製近接強襲型IS〝紫燕〟。操縦者は・・・・・・」聡也は一呼吸おいて、息を整えると意を決して言った。

「僕の姉さんです・・・」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

とある部屋の一室で、青い制服に身を包んだワインレッドの髪に赤い目を持つ少女が

椅子に座って暇そうにくるくると回っていた。

そしてあくびをひとつ。

・・・やることがなさ過ぎて暇でしょうがないときはいつだってある。

だがそうは言っても、〝しなければならない仕事〟は山積みだ。

「・・・・大体試験運用のデータを送れって言うだけで、んでこんなにレポートが必要なんだよ」

少女は、傍らの紙の束を見て吐き捨てるようにつぶやくとまた大きな、ため息を吐いた。

 

ガチャリ…

不意に後ろのドアが開く。

そこには、同じ青い制服に身を包んだ少年が立っていた。

その少年を見るや、少女の顔がパッと明るくなる。

「聡也!」

ガタッと勢いよく立ち上がる。

椅子が倒れるのも少女は気にしない。

少女は少年に駆け寄り、肩に手を置くと優しく笑いかけた。

「大丈夫だよ、姉さん。 ただの検査なんだからさ」

「い、いや・・・けどよぉ」

検査という言葉に少女の顔が曇る。

「あたしは、お前が心配だ・・・。

あいつら・・・特にあの女、時々訳わかんねぇ事しやがるし」

「大丈夫だって、博士を信じようよ」

少年は屈託のない笑みを少女に向ける。

そんな笑顔を見せられたら、さすがに心配そうな顔は見せられなかった。

「まぁ、何があっても大丈夫だって。

聡也の事はあたしが守るからよ! この紫香楽 聡華がな」

 

少女は高らかに宣言して、ニカッと笑う。

それを見た少年も同じ様に笑顔で答えた。

「うん 頼りにしてるよ・・・・姉さん」

最後の一瞬だけその笑みが、不適なものだと言うことに、少女は気がつかなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

衝撃の告白が、たくさんあったアリーナから場所を移して、僕たちは食堂へと来ていた。

ってか最近、ここに集まること多いよね。

聡也だけは、機体の整備があるとまだピットにいるが、主要メンバーはそろっている。

「・・・・ってかさぁ、何か疲れたわあたし。っていうか自主練どころじゃなかったし」

「実質、IS起動したのセシリーだけだもんねぇ。あぁ、あと聡也か」

「起動したといっても、まぁ無様だったがな」

箒のジト目と嫌味たっぷりな声が、セシリーを貫く。

声は発しなかったが、おそらく今の発言でセシリーは心の中で

「ぐはっ!」的なことは叫んでいたと思う。

「ほらほら、箒もセシリアを、いじめないいじめない」

「しゃ、シャルロットさんだけが私の味方ですのね・・・」

「だが事実だぞ?」

「ま・・・まあ、そりゃそうだったけどさ・・・」

「裏切られましたわっ!!」

ラウラの意見に同調したシャルロットを見てセシリーがさらに凹んでしまう。

まぁ仕方ないよね、若干持ち上げて落とされた感じだから。

「アァ~ルゥ~」

最後の手で僕に涙目で、同意を求めてくるセシリー。

その頭をやさしくなでてあげる。

「よしよし・・・お兄さんが飴をあげようね」

「うぅ・・・ありがとうございます~」

包み紙を破り、ポイッと口の中に飴を放り込むセシリー。

それを見て箒が、呆れた目でこちらを見やる。

「おい、アルディ。あんまり甘やかすな。

失敗をうやむやにしてしまっては、セシリアのためにもならんぞ?」

「甘やかされてなどおりませんわ! アルは、味方のいない私を

かわいそうに思って手を差し伸べてくださっただけのこと。

どこぞの誰かみたいに、同じミスをチクチクつつくような方に言われたくありませんわ!」

「・・・・そういうことらしいよ」

「ふん」

「まぁまぁ、箒そんな怒るなって。シワになるぞ?」

そして一夏には問答無用で箒のチョップが直撃した。

 

「そういえば・・・その、アルディ」

ラウラが少し気まずそうにうつむきながら名前を呼んでくる。

「何?」

「お前の・・・ISだが。どうなのだ?」

「ラウラさん、あなたどの顔でそのような」僕は、あの件に関してまだ納得のいっていないセシリーを片手で制する。

不服な顔を向けるセシリーだったが、すぐにそっぽを向いて座りなおした。

それを確認してから僕はラウラへと向き直る。

「それがまだ、何も」

「見てもらってもいないのか?」

「一応姉さんには見せたんだけどね、こういう破損ケースは

すごく希らしくてわからないっていわれちゃったよ」

「・・・・・そうか」

「まぁ、あの時も言ったけどもう気にしてないんだから、そんなに気を使わなくて良いんだって」

まだラウラは少し顔を伏せている。

多分、ラウラ本人もこのことに対してどうしたら良いのかわからないのだろう。

自分ではどうにか責任を取りたいのだが、その方法が解らない。

加えて僕もこんなスタンスだから余計に。

だけど、前にも言ったが僕は本当にもう何とも思ってない。

やっちゃったことを、責めてもそれで何が変わるわけでもないし何より、自分も不愉快だからね。

と、急に肩を掴まれる。

振り返るとそこには、凄く笑顔の(怒った)セシリーがいた。

えぇと・・・・。

何で怒ってるのかな。

「アル?」

「は、はい・・」

「あの時とは、いつでしょう?」

「あの時? あ、あぁ。姉さんと話をした夜にラウラに呼び出されてね」

「何故、何も私に教えて下さらなかったのでしょう・・・私、寂しいですわ、あぁ寂しい寂しい・・・」

ぎゅぅぅぅっ!

い、痛い痛いぃッ!!

めり込んでる、セシリーゆ、指がめり込んでるッ!!

「セシリー! 何をそんなに怒ってるのさ!!」

「まだ分かりませんの!!」

何でかな。

・・今肩からボギュッって音がした気がする。

 

 

 

あ~、えらい目にあった。

僕は、皆と別れて織斑先生の下を訪れていた。

と言っても、織斑先生は会議中だから職員室前で待ちぼうけだけど。

 

ジャラッ。

僕は真っ二つの“ストライク・バーディ”を見やる。

本当に大丈夫なんだろうか。

姉さんでも、現状ではコメントを避けていた。

つまりそれは下手なことは言えない問題が起こり得る可能性があると言うことでもある。

にしても、自爆で使えなくて、ようやくと思ったら身体がアウト。

で、これだ。

実戦経験どころか、満足にISを起動させた時間が短すぎて不安になってくる。

なるようにしかならないとは言え、時たまそう言う考えが首をもたげるのも事実な訳でね。

そんなことを考えていると、多くの先生たちが職員室へ帰ってくる。

どうやら、会議は終わったらしい。

そして当然その中には織斑先生の姿もあった。

「織斑先生」

「ん? 私に用事か? すまないな待たせてしまった」

「いえ」

僕は織斑先生に促されて、職員室へ入る。

そして織斑先生は、自分の椅子に腰掛けるとすらりと伸びた足を組んで冷めたコーヒーをすする。

「で、何の用だ?」

「このことで・・・」

僕は織斑先生に〝ストライク・バーディ〟を差し出す。

織斑先生はそれを受け取ると、渋い顔で目の前で掲げた。

「もう、ローラには連絡したのか?」

「はい、一応」

「で、あいつはなんと言っていた?」

「先に、こっちで調べてもらえって言ってました。その結果をまた連絡してほしいと」

織斑先生は大きくため息をつくと、ジト目で何もない宙を睨んだ。

おそらくそこには、姉さんでも見えているのだろう。

「まったく・・・、面倒事は学園側に全部丸投げか。

アメリカらしいというかローラらしいというか」

その点はアメリカ人の僕も、何も言い返せません。

何気にこのIS学園の設立の際にもまぁ、圧力を掛け捲ったという噂もあるし。

まぁ・・それを、貫いて作らせちゃうあたりがさすがわが母国だとは思うけど。

「あの・・それで・・」

「あぁ、まぁ調べるだけ調べてみよう。簡易検査なら明日には結果が出ると思う」

「そうですか」

とりあえず結果待ちか。

僕は、もう一度頭を下げ職員室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

今日も白衣の研究者たちがせわしなく動き回るアメリカの研究開発局。

あるものはキーを軽やかにタイプしまたあるものは研究データ片手に、

ほかの研究者と言葉を交わしている。

そして、アルディの姉であるローラ・サウスバードも

また例に漏れずカタカタとキーをタイピングしていた。

傍らには〝strike birdie All predictive assumption results list〟

(ストライクバーディ予測想定結果表)

と書かれた資料が置かれている。

これは、ストライクバーディに不測の事態が発生したときを想定して

あらかじめ作っておいたマニュアルのような物なのだが、

それをもってしてもローラは現状の〝ストライク・バーディ〟を把握しきれずにいた。

解析を妨げているのは何よりデータ量の少なさと、加えて壊れ方が異質であること、

そして仮に起動できてもその後の重大な欠損につながる可能性などを考えていくとシュミュレートを

かけても、そのつど違った答えが出る。

今は、〝ストライク・バーディ〟が最後に送って来たダメージデータを元にして

そこから、現状のダメージデータを予想して数値を変えながらシュミュレートしているところだった。

そして、出た結果は・・・。

〝Expected damage level C

Conclusion in the start tolerance level〟

「予想ダメージレベルC、起動許容範囲内と断定・・・ね」

ふぅっとため息を吐いた後ゆっくりとプラスチックマグカップを口につけると

いきなりダンッと乱暴にたたきつけた。

「さっきから、どうしてこうバラけるのよ、腹立つわねっ!!」

ローラは、数値のメモ書きをクシャクシャに丸めると、ゴミ箱へ放り投げた。

紙のボールとなったそれはきれいな放物線を描いて、ゴミ箱に吸い込まれていく。

「ナイスシュートね、鳥さん?」

茶化すような声に、ジロッとローラが反応するとそこにはきれいな金髪をたたえた女性が

ココアを手にたたずんでいた。

「・・・ナターシャ」

「そんな目しないでよ」

ナターシャは近くの開いていた椅子を引っ張ってくるとそこに腰掛ける。

「荒れてるわねぇ・・・。何をやってたのかしら?」

「なんでもないわ、用がないなら何処か行きなさいよ」

ローラは額を押さえながら、左手でシッシと追い払う。

しかしナターシャはそれに気を悪くすることなく、ニコニコ笑ってローラを見ていた。

「何よ・・?」

「そんなに邪険にすることないじゃない。大方アルのことで頭悩ませてるんでしょ?」

「わかってたんなら・・・聞~く~な~ぁ」

ローラはナターシャの髪をワシャワシャとかき乱す。

「ちょ、ちょっと・・ローラやめて~」

「こうなったら、ナターシャでストレス発散してやる~」

「ちょ、ちょっと痛い痛いっ!!」

「このこの~!!」

その後しばらく、それは続いてナターシャの髪は見るも無残にボッサボサになってしまった。

 

 

「もー・・どうしてくれるのこれ・・・」

「クシあるわよ」

ローラは再び、PCに数値を入力しながらナターシャにクシを手渡す。

ナターシャはそれを受け取ると髪をとかし始めた。

「ちょっとぉ・・・絡んじゃってるじゃない、痛んだらどうするつもり・・・」

「いちいちセットするなんて、あたしには理解できないけどね」

「あなた、セットしてないの?」

「そうね、暇があればやってるけど、基本寝起きのままね」

ローラはあごをつきながら、面倒くさそうにポチポチと入力していく。

そして、エンターを押して結果画面を見るたびに

目に見えてイライラが募っていくのがナターシャにはわかった。

「ローラ・・・シワが増えるわよ?」

「朝からずっと、画面とにらめっこしてたらそんな心配どっかに飛ぶわ」

「・・・・ローラに憧れてる子も少なくないんだから自覚がほしい所だけどね」

「あなたほど人気じゃないわよ」

「そう言えば、あなた今度試験があるんですってね」

「ハワイ沖でね。まぁ普通の試験稼働だから・・楽に終わると思うけど」

「あたしも、楽に終わりたいわ・・・」

ローラは、ギシッと背もたれに寄りかかると大きく体を伸ばした。

そんなローラを見ながらナターシャはクシを置いてズズッとココアをすする。

解決策はわからないが、ローラのほしい答えは、

まだまだ出そうにないということだけは分かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

カチャカチャと工具の音がピットに響く。

聡也はまだピットで整備をしていた。

服だけは制服だと汚れる可能性があったので、体操服に着替えている。

(右側のスラスターの出力値が安定しない・・・)

聡也は工具片手に〝ホワイトアウル〟のスラスターのサービスハッチへ顔を突っ込んでいた。

顔には汗をぬぐったときに付いた黒いオイルの後が滲む。

いくら空調の効いたピットとはいえ、顔を突っ込んでいる個所は

さっきまで噴かしに噴かしたスラスターの中だ。

汗をかかずには居られない。

聡也はデータスキャナで〝ホワイトアウル〟の出力値とにらめっこしていた。

(なんでだろう・・・・一応許容値ではあるんですが)

スラスター出力が安定しないと言う事はそのまま機動力の低下につながってしまうだけに、

いくら許容値であるとは言っても、油断が出来ない。

ただでさえ、ISに性能面で多分に劣るIS-Nなのだ。

訓練や実習で壊れる程度なら笑ってすむが、実戦ともなればそれは命取りだ。

(ふぅ・・・・そう言えば、これオーバーホールの時期でしたっけ)

聡也はこれ以上どうにもならないと判断して、

ため息交じりにパタンとハッチを閉めIS-Nを待機状態に戻した。

そこでふと聡也は思い出した。

懸念事項はこれだけではないと言う事に。

(そう言えば・・・今日一回起動させたから・・・キーはあと五本ぐらいですね)

IS-NはもともとISのように自在にオープンやクローズを行う能力を持たない。

待機状態のシリンダーカードに専用のキーを差し込むことで

初めて起動する。

ISに比べるときわめて限定的なパワースーツということになるだろう。

そしてそのキーは一度使うと霧散してしまうので、回数も限られる。

少なくなれば博士のほうからキーが送られてくるようになっていた。

だがまぁそれもこちらから連絡しないといけないのだが。

(残り二本切ってぐらいからでまぁ大丈夫でしょうけど)

聡也は、少し考えてから使っていた工具や器具を所定の位置へ戻す。

基本的に〝ホワイトアウル〟の整備は出来るだけ聡也がやる事になっていた。

博士いわく、〝私が居ない時に壊れたら手も足も出ないじゃIS-Nの操縦者としては失格〟だそうだ。

実際、今回セシリアに勝てたのはそれも大きい。

自分で整備するからこそ今日は調子がどうなのか、悪いのかそれとも良いのか。

良かったらどこが良いのか。悪いならどこをカバーすればいいのかまで

理解するのではなく身体で感じる事が出来る。

だからピットへ帰ってきてすぐに右側のスラスターの異常に気づけたのだ。

ISに比べて性能の劣るIS-Nで、ISに勝つと言う事はそう言った見えない所で勝負するしかないのである。

(・・・まぁ、おかげで色々知識も増えて良かったと言えば良かったんだけど)

そう言えば、まだ先の話だが二年生になると整備科というのがあるらしい。

実のところ、聡也は戦闘での実力は高がIS-Nの操縦よりも機械の整備の方が好きである。

何より、自分で調整したところが結果となって現れる事が何より楽しい。

二年になったらそっちの道へ進むのも悪くない。

そんな事を考えているうちに機材の片づけが終わる。

すると、ピットのハッチが開き数人の女子が話をしながら入ってきた。

(おっと、そろそろ出よう。邪魔になってもいけませんし)

聡也は足早にピットを去ろうとする。

だが・・・・。

入ってきた女子の一人の顔を見てその動きが止まった。

(・・・・・・・え)

相手はこちらを見向きもしなかったが、聡也にとってその女子は衝撃を受けるには充分な人物だった。

(ワインレッドの髪に・・・・・赤い眼・・・・?)

絶対にそれは間違えることは無い。

(それに・・・・少し聞こえたあの声・・・)

いや間違えられるはずがない。

(どうして・・・・なんで!)

聡也は既にパニックを起こしていると言っても過言では無かった。

どうして、なぜ? そればかりが聡也の頭を支配する。

あの人はここに居てはいけない。

いやそもそも居るはずがない・・・。

聡也はバッと振り返ってその名を叫んだ。

「姉さん!!」

その声に雑談していた女子全員が振り返った。

その中には確かに、赤い瞳を持つ目じりのつりあがった

女子がこちらを怪訝そうに見つめている姿があった。

そしてその女子はそのまま眉ひとつ動かさずこう言った。

 

 

 

 

「はぁ、姉さん? 誰だよお前?」




ここら辺からこの小説オリ展開が凄い事になって行きます


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第17話~もう一人の聡華もう一つの紫燕~

その言葉の意味を聡也は理解できなかった。

誰って?

何を言ってるんだ・・・だって僕は・・・。

「誰と勘違いしてんのか分かんねぇけど、あたしに弟はいねぇぞ?」

その荒っぽい口調だって・・・。

「勘違いで変な事言うんじゃねぇよ」

僕の姉さんそのものじゃないか。

聡也は、冷たくあしらわれても尚も食い下がった。

「でも、あなたは僕の――――!」

「いい加減にしろっての!」

いきなりの怒号にビクッと身体が震え立つ。

その女子は、僕の胸倉をつかむと睨みをきかせ、語気を強めた。

「てめぇ、あたしの言ってる事が分からねぇのか? あたしに弟はいねぇ! 

分かったらこれ以上話しかけんな、いいな?」

吐き捨てるように言うと女子は、そのまま僕の胸倉を乱暴にはらう。

それがあまりに乱暴で、僕は尻もちをついてしまった。

そんな僕を見て、一緒に来た女子が手を貸してくれた。

「大丈夫・・?」

「あ、はい・・ありがとうございます」

僕はその手をつかんで、立ち上がり礼を言う。

「にしても、君も命知らずだね」

「え、どういう事ですか?」

「彼女、今日はこんなぐらいで済んであたしたちもホッとしてるけど、

あんな事言ったら、酷いと殴られちゃうよ」

「はぁ・・」

女子は苦笑交じりにちらりと、〝姉さん〟を一瞥する。

本当に・・・姉さんじゃないのか?だがあまりにも共通点が多すぎて、

すぐにそんな疑問など消えてなくなってしまう。

でも、また聞けば今度こそ殴られる。

間違いなく。

だから僕は、とりあえず目の前の人に名前を聞く事にした。

「・・・あの、あの人。名前はなんて言うんですか」

「あれ、知らずに声かけてたの? お姉さんって呼ぶから知ってるものかと」

「はぁ・・・まぁ、その似てるんで・・」

僕はあいまいな返事を返す。

と言うより、そんな返事しかできなかった。

いまだに頭が混乱しているのだ。

仕方がない。

女子は少し驚いた顔を見せたが、すぐに頭を切りかえて名前を教えてくれた。

「彼女は、鳥越 聡華。IS学園二年一組の風紀委員よ」

「とり・・・こし・・そうか。・・・・名前は同じ・・・」

僕はその名前をゆっくりとつぶやく。

それを不思議そうに見つめながらも、「じゃっ」と軽い挨拶を残して

女子は聡華のもとへ走っていく。

・・・あ、そう言えばあの人も先輩だったんだ。

今さらながらそんな事を思うほど、僕は混乱していた。

どうすればいいのか分からないが、だがそれでも呆けているわけにもいかない。

アリーナへと消えた先輩達の後を僕は追いかけていった。

そうだ、確認すべき事はもう一つある。

追いかける僕の手には、シリンダーカードとキーが握られていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

そう言えば・・。

今週末、セシリーと買い物に行くのは良い。

だが問題が一つある。

僕はセシリーには色々見て回りたいよねと言ったが、具体的に何を見て回ろうか。

この街の事なんて僕、ほとんど知らないよ・・?

言ってしまって今さらだが、自分のノープランさに呆れてしまう。

一人トボトボ歩いていると、丁度目の前に書店があった。

購買に併設される形で作られた小さなものだけど・・・。

まぁ、観光マップぐらいはあるよね。

僕は書店に入ると、ガイドマップコーナーへ一直線。

ここ周辺の情報がまとめられた本を一冊手に取る。

表紙には〝イチオシデートスポット情報満載!〟とでかでかと書かれている。

デートスポットねぇ・・そんなんでも、ないんだろうけど。だって荷物持ちだしなぁ

パラパラと、雑誌をめくっていく。

っていうか、女子生徒しかいないのにデートもくそもないよね。

あ、そういうアレ、趣味?

・・・・まぁ、いいや。

何気なしに見ていたが、とあるページで手が止まる。

ん? これは・・・。

そのページには〝篠ノ之神社で凛とした空気に触れよう!〟とあった。

篠ノ之なんて珍しい名字は箒以外に考えられない。

・・・へぇ、実家は神社なのか。

写真で見ても境内などとても立派な作りで、建物だけでも名家を思わせる。

そして、そこには剣道の道場もあるらしい。

なるほどね、そりゃ強いわけだ。

実家が剣道の道場ってことは、父親が師範かな。

・・・ふぅん。

僕はまたパラパラとめくっていく。

どうせなら射撃場とか無いのかな・・・無いよね。

自分で思いながら、それをすぐに否定する。

だいたい、銃や刀の取り扱いが特に厳しいこの国でそんなものがあっても問題だ。

あってもせいぜいこの学園ぐらいだろう。

本当にそう思うと、この学園って滅茶苦茶だよね。

どこの国の法にも触れないから、原則この学園内では

高校生が何の許可や免許もなく銃器や真剣を扱える。

ある意味色々危ない。

あ、でもISの方が強いから、いくら銃器で暴れまわっても無駄か。

すぐに鎮圧されるだろうし。って、そんなのはどうでもいい。

今は、どこを回るかだ。

ふ~む。

再びパラパラとめくっていくと、見開き四ページも使って特集の組まれたページを発見する。

〝買い物ならここで決まり、好きなあの人と共鳴しちゃおう!〟

駅前大型ショッピングモール〝レゾナンス〟か・・・。

特集を見るとそこは、かなり大きくまた駅と繋がっているため利便性も高い。

何よりその品数の豊富さは、アメリカ人のアルディでさえ驚くほどだった。

アメリカにもメガスーパーと呼ばれる広大な敷地面積を持つスーパーが存在する。

だが〝レゾナンス〟のそれは、メガスーパーに負けずとも劣らないものだった。

いや品質だけなら、〝レゾナンス〟の圧勝だろう。

確かにここで決まりだな。

・・・・っていうかこれは結構役に立つのではないだろうか。

何気に最後のページには鉄道の路線図なんかも掲載されている。

裏表紙を見て値段を確認すると、そんなに値段も高くないし。

よし、買おう。

僕はそれを、レジに持っていく。

レジの人がやたらニヤニヤしてたけど、一体何だったんだろう。

僕は寮の部屋に帰って、雑誌の表紙を見てようやく分かった。

・・・・なるほど、デートね・・・。

僕は苦笑いしながら、さっき立ち読みで見つけたスポットをメモに列挙し始めた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ねぇ、聡華。ほんとに知らない子だったの?」

一緒にいた女子の一人が声をかけてくる。

内容はさっきの訳の分からねぇ一年坊主の事だった。

聡華は、面倒くさそうに頭をかきながらそれに答える。

「あぁ、知らねぇよあんな奴。大体よあたしが一人っ子だってのは皆知ってんだろうが」

「それはそうだけどさぁ・・・あの子結構必死だったし・・」

「必死だったら、何でも許されんなら風紀委員なんていらねぇわな」

聡華はまだ口をとがらせる同級生を軽くあしらうと準備を始める。

起動させる前に、ISの状態をステータス上で確認する。

こう言うのは安全上とても大事なことだ。

いざ起動してみて、ダメでしたじゃ笑いごとにもなりゃしねぇ。

それに風紀委員が事故ってのも更に笑えねぇよな。

聡華はステータス画面で異常が無い事を確認すると、紫色の丸いキーホルダーを取りだす。

これが自分のISの待機状態である。

さて、始めっか!

ISを起動すると聡華は光に包まれそして一瞬で装甲が展開する。

紫を基調とした、そのISは腕や足そして背部に至るまで

所せましとスラスターが搭載されている。

それでいて、気品を漂わせる流麗なフォルム。

これが鳥越 聡華の専用機。高機動強襲型IS〝紫燕〟である。

そして、すべての準備が整い早速自主練と思っていた時、

聡華をかすめるようにして高エネルギーの閃光が走った。

反射的に身構える聡華と同級生たち。

聡華が見上げるその先には、白いISが荷電粒子砲を構える姿があった。

「・・・・・・てめぇ、やってくれんじゃねぇか」

「・・・・確かめたい事があります」

 

「確かめてぇ事だと?」

聡華は目を細める。

聡華は姉ではないと、はっきりと言った。

これ以上他に何を確かめたいと言うのか。

怪訝な顔をする聡華に聡也はまた静かに言う。

「あなたの実力ですよ」

「あんだと?」

「僕の姉さんじゃないと仰るならそれはそれで良いです。

だけど僕はまだ納得まではしていません」

聡也はまるで、何か台本があるかのように冗舌に言葉を紡いでいく。

それを聡華は、所々相槌を打ちながら聞いていたが、その何かを演じているかのような

話し方はことごとく聡華の神経を逆なでた。

「だから、実力を知りたいんですよ。

僕の姉さんなら・・・・僕なんてひとたまりもありませんからね。

僕の姉さんじゃないのなら、良い勝負ができるかもしれませんよ?」

そこでようやく聡華は聡也の言っている本当の意味を理解し、

そして見かけによらず考える事が、えげつないと言う事に更に腹が立った。

つまりだ。

自分が勝ってしまったらその時点で自分自ら〝姉である〟と言う事を宣言したも同じ。

それが嫌なら、無様に自分に倒されろと言う事を遠まわしに言っているのだ。

(・・・やろぉ、いい度胸してやがんじゃねぇかほんとに・・・ッ!!)

だが、聡華はその考えに気が付いたところで冷静に事を判断するような人間では無い。

相手の策だと言う事が分かっていても、この人物は自らその中へ突っ込んでいく。

そしてそれを、内側から何もかもをぶち壊す。

それが風紀委員である、鳥越 聡華と言う生徒だった。

「へっ・・・上等だ。その減らず口・・・・黙らせてやる」

「良いんですか? 僕を倒しちゃうと、姉さんってことになっちゃいますよ?」

「ならねぇよ」

「・・・・・・?」

聡華は、しれっと言い返す。

そして疑問符を浮かべる聡也に対して、名乗りを上げる様に高らかに言い放った。

 

「あたしがそれすらも・・・ぶっ壊す!!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

聡也は、この策に乗ってきたという事が少し意外だった。

こんなの誰が見ても、罠だと言う事は目に見えている。

と言うよりも、自分でそう言っているようなものだ。

なのに、聡華は乗ってきた。

ちなみにだが、あれほど大口をたたいたものの聡也に聡華を傷つけるつもりは無かった。

確かに本人確認もしたいところだったが優先度がより高かったのは、

紫香楽 聡華のISと瓜二つのあのIS〝紫燕〟の戦闘データである。

聡也が博士から聞いていた情報では紫香楽製のISは〝たった一機〟しか作られていないと言う事だった。

その情報が正しいと仮定するのなら、〝どちらかが偽物である〟

という事を証明するための後々の検証材料にもなる。

聡也は、一直線に向かって飛んでくる聡華に荷電粒子砲を連続で浴びせ続ける。

だが聡華も、それは予測済みのようで、速度を落とさす最低限の動きでそれをかわす。

「おらあぁぁぁぁぁッ!!!!」

聡華は戦槍〝大蛇〟を思い切り突き出す。

聡也はその攻撃を、横に避けると至近距離から荷電粒子砲を撃った。

だが、当たったと思った攻撃はアリーナの側壁のシールドに当たって霧散する。

「なッ!!」

「ほら、遅せぇ遅せぇ!!」

聡華は、〝大蛇〟で聡也の二門の砲を弾くと無防備に開いた胴体に蹴りを入れる。

衝撃で吹き飛んだ聡也が体勢を立て直す前に再び〝大蛇〟の一撃が襲う。

「ぐあっ!!」

今度は完璧に入った〝大蛇〟の衝撃がシールドを貫いて聡也に激痛を与える。

そして立て続けに二回三回と“大蛇”を振り回して攻撃を加える聡華。

繰り返し訪れる痛みに顔をゆがませながら、

聡也はなんとか頭の中で打開策を模索する。

この状況、別に聡也が遅いというわけではない。

聡也の想像に反して、そしてあの紫香楽 聡華の〝紫燕〟に対して、

この鳥越 聡華の〝紫燕〟が速すぎるのである。

〝ホワイトアウル〟には通常のISの平均的な速度を出せるだけの推力はある。しかしそれは、あくまで〝打鉄〟の様な汎用機を

相手にする事を前提に組まれた出力であり

このような高い機動力をもつISが相手だと、明らかな出力不足だった。

・・・このままじゃ、クロスレンジは一方的になる・・・距離を開けないと!!

聡也は〝大蛇〟の振りかぶるタイミングを見計らって、〝ホワイトアウル〟の

全スラスターに最大推力での後退を命じる。

それと同時に、砲を荷電粒子砲から、

バックパックにラックされたもう二門の砲に持ち変えた。

それは荷電粒子砲ではなく、荷電粒子砲よりは連射の効くレールガンだった。聡也はその二門のレールガンで牽制しながら距離を取ると、再び荷電粒子砲に持ちかえて

一撃必殺の威力で聡華を狙う。

だが距離を取られた聡華は、焦り一つ見せずむしろ

こちらを小馬鹿ににしているような顔をしていた。

聡也の攻撃をひょいひょいとかわして、ニヤッと口元を釣り上げる。

「なぁ、お前距離を取れば勝てるとか思ったのか?」

そして届く不気味なほどに自信に満ち溢れた聡華の声。

一瞬の疑問の後、聡也は自分が最悪の隙を相手に与えてしまった事に気が付く。

そもそもの間違いは、一方的になると踏んで

とっさに開けたこの約三十メートルという〝死の間合い(デッドライン)

聡也の考えに、このスペック表に、そして何より目の前のISが〝紫燕〟であると言う事に。

そのすべてに間違いが無ければ。

(不味い! アレが来る!!)

「しまっ!!!」

その声が漏れたのは、〝大蛇〟が振り下ろされる前だったか後だったかは分からない。

だが、〝大蛇〟が振り下ろされる直前に聡華は聡也の耳元でこう囁いた。

「あたしに、逆らうな」

その直後聡也は、アリーナの地面にたたきつけられていた。

・・・聡也の完敗である。

 

 

 

聡也はIS-Nを待機状態に戻して身体を引きずりながらピットへ戻ると、

そこには聡華が仁王立ちで待っていた。

既に他の女子はいない。

聡華が先に行かせたのか、どうかは定かではないが

とにかく今はピットに聡華と聡也の二人だけがいる。

聡華はジッと聡也の顔を睨んでいる。

対して聡也も聡也で、若干混乱していたとはいえ、やっぱり無理やりすぎたかと

気まずそうな顔を聡華に返した。

「気まずそうな顔するってことは、少なからずやっちまった観はあるわけだ」

「・・・・えぇ・・それは」

「まぁ、今回はその顔に免じて許してやる」

聡華は不機嫌そうにつぶやく。

聡也はただうつむくことしかできない。

そんな聡也に聡華は一枚の紙を手渡した。

それは名刺ぐらいのサイズで表に名前、裏にはIS学園の校章が印刷されていた。

「それは、あたしが〝風紀委員〟として関わった事を

証明するための、まぁ証明書みたいなもんだな」

「どうしてそれを僕に?」

「言ったろうが、許してやるからだよ。一応さっきのは私闘に当たるからな。

仮に教師に何か聞かれたら、そいつを渡しな。にしてもなぁ。

大体あの・・・誰だったっけか。ほらあのドイツ人・・・」

聡華は思い出せない名前に首をひねる。

ドイツ人、ドイツ人・・・・。

とりあえず、聡也は自分の知っている名前を挙げてみた。

「ラウラですか?」

どうやらそれは正解だったようで聡華はバッとそれに食いついてくる。

「おぉ、そうだそうだ。そいつ。

そいつがさ入学当初っからやらかしてけが人まで出しちまってな。

別段、教員の間じゃよくあるもめごとの延長線上ってことで

さほど大きな問題にはならなかったんだが」

ポリポリと頭をかく聡華。

それを見て聡也は少し、姉の面影を重ね合わせていた。

・・・・きっと、僕のそばに姉さんがいたらこんな表情するんだろうな

聡也には、そもそもなぜか姉であるという事を特定できても、

姉との思い出や記憶を思い出せないでいた。

それがなぜなのかは分からない。

ただ本当に過去の事を思い出そうとすると、その度に変な頭痛に襲われるのだ。

だから聡也には、きっと姉さんなら・・という想像しかできない。

聡也にはその想像がたまらなく楽しい半面たまらなく切なかった。

しかし今回はその姉に瓜二つな人物が目の前にいる。

その思いも更に強いものだった。

だが、そうは言っても今は聡華の会話中。

当然想像に浸っていては聞き逃してしまう。

そして案の定・・・。

「聞いてんのかッ!」

「・・・すいません」

余計な一発を貰う。

聡也はその一発で我に返るともう一度聞き直す。

「で、えぇと・・・なんでしたっけ?」

「はぁ・・・お前強かなのか馬鹿なのかどっちなんだよ」

流石の聡華もあきれ顔だったが、気を取り直して説明し直す。

「だから、あのラウラって言うドイツ人の暴走を止められなかったっていうんで、

教師陣とも掛けあって風紀委員が独自に私闘に関する規則を設けたんだよ」

「規則ですか?」

「そこでこの名刺だ」

聡華はピッと名刺を指で挟んで掲げる。

「こいつはな、その私闘に風紀委員が立ち会ったっていう証明なんだ。

仮にアリーナでなんかあって教師に聴取されても、そいつ見せれば

後は、それを回収した教師から個別に連絡が来るようになってんだ」

言うと、聡華は小型の通信端末を指さす。

それは片耳に装着した状態で使用するハンズフリーの様な物だった。

 

なるほど。

中々考えられている。

特に私闘のみに規制をかけているのがいやらしい。

この方法だと、模擬戦をしていたという言い訳が通用しづらい。

逆に本当だった時は少し問題がある気もするが。

どっちにしてもこの方式を考えた人は頭のいい人だろう。

得心いった顔の聡也を見て、少し笑うと聡華はきびすを返す。

「じゃ、これ以上面倒事起こすんじゃねぇぞ」

そう言う聡華の背中にやはり自分の姉を重ねてしまう聡也だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

よし、こんなもんかな。

僕はペンを置き書き終えたメモを見やる。

そこには、目印やそのスポットへ行くための道筋などが書かれている。

非常に簡単なものだったが、所詮メモ。

わざわざ、ややこしくする必要もない。

(後はコレを当日までに頭に叩き込んでおくだけか)

何事もそうなのだが、僕は暗記が大の苦手である。

だが苦手とは言え、セシリーとの買い物だ。失敗して変な空気になりたくない。

そうして必死にメモの内容を頭に入れていくうちに、気がつけば夜になっていた。

 

 

 

夕飯がまだだった事に、気づいた僕は食堂に来ていた。

時間ももう少しで食堂も閉まると言い事もあり、閑散としている。

僕は食券を渡して今日の日替わり定食を受け取る。

タイの塩焼きと幾つかの惣菜。それに味ご飯がついている。

お盆を持って座る席を探していると、奥の方に一人僕と同じく遅めの夕食を食べる鈴を見つけた。

 

「や、鈴。隣良いかな?」

「ん? 別に良いけど」

鈴に許可を貰って隣に腰掛ける。

鈴はどこか上の空で、何度かため息を繰り返していた。

鈴のこういう姿は珍しい。いっつも人を嵐のごとく巻き込んでワガママを連発するのに。

「あんたねぇ・・・はぁ、まぁいいわよ」

また考えを読まれてしまったらしい。

よし、今度ポーカーフェイスの通信教材カタログを取り寄せよう。

にしても本当に様子が変だな。

「ねぇ、鈴何かあったの?」

「何かあったから、こんなにテンションがた落ちなんでしょうが・・・」

また鈴は大きなため息を吐く。

う~ん・・・やりにくいなぁ。

ふむ、仕方無い元気付けてあげよう。

「あ、ひょっとして恋煩い、一夏に対する?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ!! 何であたしがあいつのことで気を病まなきゃいけないのっ!」

「いや、だって好きなんでしょ?」

「アメリカ人死ねっ!!」

おぉう・・・。

何時もの鈴に戻った(?)ようだがいきなり、アメリカ人に死刑宣告が。

鈴を元気付けようと思っただけだったんだけど。

「そんなもんで元気付くかっ!!」

パッコーンっ!

またも読まれて今度はお盆で僕の頭を叩いた。

どうやら鈴は、体調不良でお盆を武器か何かと勘違いしているようだ。

「鈴、お盆は殴るものじゃないよ」

「そんな真顔で言うなっ、 そこまで重傷じゃないわよ!」

鈴は、お盆を乱暴に置くと鼻を鳴らしてテーブルに肘をついた。

「ごめん、ごめん。ちょっとしたジョークじゃないか。それで、一体何をそんなに落ち込んでるのさ」

僕は鈴にわざとらしく目の前で手を合わせてオーバーアクションの謝罪を行う。

まぁ鈴もそこら辺のことは分かっていたらしく、まぁ良いけどと言ってまたまたため息を漏らした。

「で、あたしがこんなにテンションダウンしてんのは聡也の事よ、そーやの」

聡也の事?

珍しいな。鈴って自分の興味ない事には全く関わろうとしないタイプだよね。

その証拠に初対面ではセシリーの事、全く知らなかったし興味すら持ってなかった。

 

まぁ、聡也について鈴に全く興味がないかと言えばウソになるが、

それでも直接的に鈴がテンションダウンする理由が見つからない。

「聡也がどうかしたの?」

「あいつね、何したかわかる!? こともあろうに風紀委員に喧嘩売ったのよ!!

まぁあたしも詳しくいろいろ聞いたわけじゃないけど、なに馬鹿やってくれてんのよ・・」

鈴は、フンッと鼻を鳴らすと足を組んで何もない空間を睨む。

聡也が?

あんなにまじめで、優等生っぽい聡也が喧嘩を?

しかも風紀委員に?

「ちょ、ちょっと待って。どういうことさ!? 本当に聡也がやったの!?」

「あたしだってびっくりしたわよ! あいつまだ会って間もないけどぱっと見おとなしそうだし」

「・・・あぁ、でもなんで聡也がそんな事を

引き起こしたからっていって鈴が落ち込まなきゃいけないのさ?」

「あいつの所為で、風紀委員に二組が目をつけられたからよ。

本当に迷惑だわ!! これでますます動きにくくなっちゃったじゃない。

もう、どーしてくれんのよっ!」

鈴は言うとゴンッ大きな音が出るほどの勢いで机に突っ伏した。

・・・いや、でもあの聡也が。

・・・・・何かありそうだね。

彼、セシリーとの戦闘の時にも思ったけど慎重っぽいし、

何の考えもなくそんな行動をとるとは思えない。

フフっ、これはちょっと面白そうだね。

とにかく、明日の放課後いろいろ情報を集めてみよう。何かわかるかもしれないし。

・・・・って言うか鈴さっき動きにくくって言ったけど。

「やっぱり動きにくいって一夏のこと?」

「はぁ? そうに決まって・・・」

なるほど。

やっぱりね。

確かに今織斑先生だけでも大きな障害だもんねぇ。

うんうんとうなずく僕の頭にお盆がクリーンヒットし

その音が閑散とした食堂に響いていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ふぅ。

お決まりと予想通りの答えをありがとう。

ローラは心の中でつぶやいてPCから顔を離して伸びをする。

ローラはあれからずっと、データの打ち込みに追われそのたびに表示される

欲しくもない答えにイラつくという作業を繰り返していた。

そしてそれを家に持ち帰ってまで続けていたのだが、

もう今となってはイライラする気さえ起こらない。

期待もしなければ返ってくる答えに落胆する事もなくなる。

完璧に作業である。

ローラは立ち上がると、傍らの缶コーヒーに口をつける。

一息つくが正直言ってローラは、ほぼ半日を割いて作業をしたというのに

〝ストライクバーディ〟の現状をまったくといっていいほど把握できていなかった。

ローラはチラリと欲しくない答えを表示するPCに目をやる。

・・・こんな事初めてだわ・・・。やっぱりあのISは、〝普通じゃない〟のかしら?

ローラはあの〝ストライク・バーディ〟をモンド・グロッソで使用していた時も

何度か不思議な体験を経験していた。

言っても誰も信用してくれなかったがローラは、

いやローラもまたあの〝少女〟と邂逅の経験を持つ人物だった。

ローラにはアルディがその経験をしたかどうかまではわからなかったが、

当時のローラは何か得体の知れない物を内包する自分の愛機に若干の怖さと、

それでいてなぜか守られているような不思議な気持ちを感じていた。

しかし、そうはいっても結局はIS。

あの当時だって半日も使えば欲しい答えや、

それに到達するための手がかりは見つかったものだ。

だが今回はそれがまったくと言っていいほど見つからないのである。

あのISは、あたしが一番よく知っているISだから・・・

不測の事態に陥っても、あたしなら何とかなると思って

あの子に預けたんだけど・・甘かったわね。

今更なにをと思いながらもローラは自分の考えの甘さに少し後悔する。

今回は、その事でアルディが怪我をしたというわけでもないが、

いずれにしてもその可能性は捨てきれない。

それにだ。

あの“N”が出てきている以上最悪のケースも考えるなければならず、ローラは一瞬寒気を覚えた。

そしてローラの中で、とある考えが首をもたげる。

今までは、こちらでの事もあるし責任のある立場だからと敬遠していたその考えだったが

自分の対応の遅れで、アルディを危険にさらす可能性がある以上迷っている場合ではなかった。

ふぅ・・姉馬鹿とか言われるかしらね。でもこうなったら仕方がないわ

 

 

 

 

 

 

 

 

行きましょうか、日本へ!

 

世界第二位は動き出す。

 

ただただ弟のために。

 

 

 




そう言えばローラさん良いキャラだと思いますよ?


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第18話~転校生は見かけによらず~

二組的には結構な騒動に発展した一日が終わり、再び平穏な日々がやってくる。

教壇では、IS史の授業とあって一組の担任である織斑先生が教鞭を振るっている。

「以上のことから諸君等にもISにおいて、

いかにその歴史を知るという事が大切かと言うことが理解できたと思う。

次に、ISを軍事転用の視点から本来の開発目的を見ていく」

 

別に歴史なんてどうでもいーじゃん。

鈴は千冬の授業を、表面上ビシッと内面気だるく受けていた。

内なる鈴はあくびまでする体たらくだ。

もちろん、それは外には見せない。

見せよう物ならそれこそ出席簿か、最悪小型端末が飛んでくる。

あ~あ、早く終わんないかなぁ・・・。

この後は丁度お昼休み。

鈴は最近一夏と戦ってばかりでまともに食事をしていないことを気にして、お弁当を作ってきていた。

メニューは勿論、酢豚である。

フフンッ、授業が終わったら速攻よ速攻!

箒もシャルロットもラウラも、誰にも邪魔なんてさせないんだから!

 

先ほどまであくびをしていた内なる鈴だったが、

今はグッと拳を握ってその背後にはメラメラと闘志がたぎっていた。

んでもってぇ、一夏にあたしが食べさせてあげるんだもんね~。

で、で、あたしの料理を食べた一夏が・・・。

 

『おい、鈴も食べてみろよ』

 

『い、いいわよ、あたしは』

 

『いいからほら』

 

『な、何くわえてんのよ?』

 

『この方が鈴を近くに感じられるだろ・・・』

 

『一夏・・』

『鈴・・』

『あん♡』

的なことになっちゃってぇ!!

恋する乙女の妄想は止まらない。

たとえそれが千冬の授業中であっても。

「そうだな・・凰、

このアメリカ製のISについてその特徴を述べてみろ」

「真っ白い塔の上に大きな鐘が特徴のチャペルで・・・ 」

次の瞬間鈴の顔面に小型端末の角がめり込んだ。

 

 

「痛ったぁぁ~・・・」

鈴は授業後も顔を押さえて、涙目だった。

ちなみに言っておくと、鈴は小型端末で殴られたわけではない。

文字通り飛んで来たのだ。

すさまじい勢いで。

多分、妄想の世界へトリップしていなくても鈴は反応できなかっただろう。

そして、そのせいで完全に鈴は出遅れた。

顔をさすりながらも、足早に一組に入ると既に一夏は

箒、シャルロット、ラウラという三匹の野良猫(鈴主観)に囲まれた状態だった。

鈴は、身体の後ろにお弁当の入った小袋を隠しながら一夏に近づく。

「お、鈴も来たのか」

「なによ、〝も〟って!」

あたしは何かのおまけかっての!

ついつい、いつもの調子で返してしまう。

おっといけない。

今日は一夏をお昼に誘わなければいけない。

いつもの調子では当然同じ事の繰り返しだ。

「んんッ! ねぇ一夏」

「なんだよ、鈴」

鈴は少し声を整えて名前を呼ぶと、二カッと笑う。

「ねぇ、お昼行こ!」

うわッ、今のめっちゃ良い感じじゃん!

いいね、あたし超自然体!

鈴は心の中で自画自賛を繰り返す。

そして、自然体で言えた事が功を奏したか、

一夏はそれに二つ返事で返した。

「あぁ、良いぜ」

その返事を聞けて、鈴の中では小さな鈴がガッツポーズを繰り返している。

心の中はお祭り状態だ。

なんだ、初めっからこうすればよかったんじゃん。

早速一夏を連れだそうとする鈴に当然と言えば当然だが、残りの野良猫が邪魔をする。

「おい、ちょっと待て鈴。一夏は今日私と昼食をともする事になっているのだが?」

「ふん、何を勝手な事を。私の嫁なのだから、私と共に食事をするのが自然・・いや当然であろう」

「ちょっと、何二人とも勝手に決めてるの! この前僕も約束してたんだから僕とだよ」

だがこの反撃は鈴にとって予想の範囲内だった。

何せこちらには最終兵器〝愛情弁当の酢豚〟という最終兵器がある。

鈴は余裕の笑みで三匹の野良猫を見やると鼻を鳴らす。

「ふふん、残念でした。一夏は〝あたし〟と一緒にご飯を食べるの。

だってさっき良いって一夏本人が言ったじゃない?」

「貴様、拡大解釈をするな! 一夏はお前の昼食に行こうという提案に賛同しただけだ!」

「でも肯定は肯定じゃん!」

両者一歩も譲らない。

いや譲れない。

ここを譲ってしまったら、双方ともに一歩リードを許してしまう事になるからだ。

それはラウラもシャルロットも同じ事。

だが、あまりがっついて言い返すのも一夏の心証を悪くすると思い、

両者箒への賛同と言う形で、自分の意見をぶつける。

「いい加減にしろ、大体二組の貴様がなぜ優先的に一夏を連れて行けるのだ? 

箒の言うとおり一夏は、昼食に行くと言う事に賛同しただけだろう」

「そうだよ、鈴。無理やりすぎるのは嫌われるしね」

それでも鈴は余裕を崩さない。

しばらく三人の意見を聞き流していたが、

ここだっと言うタイミングで最終兵器を持ちだす。

「そう言えば一夏さぁ、酢豚食べたいって言ってたじゃない~?

今日ね、本当に偶然朝作ったのが余ってて持ってきてるんだぁ」

「「「なッ!!」」」

三人の顔が引きつる。

唐変木の一夏は、おぉそうなのかと酢豚の登場に喜ぶが、他の三人は、

いや恐らく一夏以外の全員は、それは鈴が一夏のために用意したものだと言う事を直観する。

鈴は勝ち誇ったような顔で三人を見下す。

勝った!

やった!!

あたしの独り占め!!

鈴は飛び跳ねて喜びたい衝動を抑えて、改めて一夏を一組から連れだそうとする。

だがそこで、鈴にも予想していなかったひところが一夏の口から飛び出した。

「なぁ、箒たちも来いよ! 鈴の所の酢豚って滅茶苦茶旨いんだぜ?」

なぁッ!!

余裕の笑みが一転、焦りに変わり今度は三人にざまぁみろという視線が注がれる。

鈴もどうやら、一夏の唐変木発言まで完璧に予測する事は不可能だった。

「んんッ、そうだな。では相伴にあずかるとしよう、うん。鈴の料理か、〝是非〟参考にしよう」

「そうだな、私も中国の料理には〝興味〟がある」

「僕もすっごく〝楽しみ〟だよ」

三人の嫌みたっぷりの言葉に鈴は自分の敗北を悟った。

 

「・・・・・鈴、策士、策におぼれたね」

「うるさい」

一部始終を見ていたアルディに肩を叩かれる。

鈴はそれに力なく返すのが精いっぱいだった。

その後ろでは呆れた様子でセシリアがため息をついていた。

あたしが吐きたいわよ、ため息・・・。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

とりあえず僕は、鈴を立たせて皆で屋上へ向かった。

天気もいいし屋上でとは一夏の提案だったが、

なるほど確かに気持ちい良い風が頬をなぜる。

と言うか、少し暑い。

そう言えばもうすぐ夏だね。

ちなみに、策におぼれた鈴は皆が輪になって座ってからもブツブツと

文句を言っていたがシャルロットになだめられてなんとか気分を持ち直していた。

「さて、それじゃぁいただくとするか!」

鈴が中央に置いたタッパーにまっ先に一夏が端を伸ばした。

豚肉をつまむとひょいと口に放り込む。

「うん、旨いぞ鈴! 本当に料理上手くなったんだな!」

「ほぅ、そんなに上手いのかでは私も食べるとしよう」

「ふむ、確かに程良いとろみがあって口触りも良い。確かに上手いな」

ラウラと箒が端を上手く使って、酢豚に舌鼓をうつ。

しかしシャルロットだけは、もじもじと手を出してはひっこめるを繰り返していた。

それを不思議に思った、一夏がシャルロットに尋ねた。

「どうしたんだ、シャル?」

「あ、うん・・いや何でも」

「食わないのか、これ美味しいぞ?」

「その・・・えっと・・・僕、まだ上手く・・お箸使えないんだ・・」

あぁ、なるほど。

つまり恥ずかしかったんだね。

確かにお箸って、アジア圏中心の文化だよね。

最近ではアメリカでもつかわれるけど

棒二本で挟んで食べるっていうのが中々やってみると出来ないんだよなぁ。

それに、作法で箸の身を使って食事をする文化が確立しているのは

日本だけとも言われているらしい。

それぐらい、文化に根づいているのは分かるがそれでも難しいものは難しい。

僕も姉さんに教わってやっとできたぐらいだし。

「まぁ、私もこの箸と言う物は苦手ですわね」

セシリーが少し困った顔で酢豚を見つめる。

確かにイギリスも、基本的にお箸は使わない文化だもんね。

僕は、ヒョイッと箸で豚肉を取るとセシリーの口元に持っていく。

「はい、食べる?」

「え!?」

少し顔が赤いけど・・・。

「あぁ、ごめん。やっぱり恥ずかしいよね」

僕はスッと、箸を下げようとするとセシリーがあ、ああと名残惜しそうに

その箸を追いかけてくる。

「何? あ、やっぱり食べたかった?」

「あ、いや・・・・そ、そうですわね・・・せっかくですしいただきましょうか」

僕はセシリーの口元にもう一度箸を近づける。

するとセシリーは更に頬を赤らめながらも上品にゆっくり小さく口を開く。

「良い? セシリーあ~ん・・・・」

「・・・・んむ」

そしてゆっくり味わうように何度も咀嚼しながら酢豚を味わう。

「ね、美味しいでしょ?」

「・・えぇ、とても!」

セシリーは満面の笑みを浮かべてうれしそうに答える。

そんなに酢豚が食べたかったんだね。

それは良かった。

と、そこで皆の注目が集まっている事に気が付く。

そしてそれを見ていたシャルロットがハッと何かに気が付き

一夏に懇願のまなざしを送った。

「ね、ねぇ一夏! 僕も・・その食べたいなぁ~」

「ん? 酢豚か? いいぜ」

一夏が酢豚へ箸を伸ばしかけてようやく残りの三人は

シャルロットがしようとしている事に気が付きそれを必死に阻止しようとする。

「しゃ、シャルロットあんたにはね、あたしが食べさせてあげるわよ!」

「よし、鈴そのまま抑えていろ!」

「酢豚の確保成功。続いてシャルロットへの投下を開始する!」

「わわわわわッ!!」

ほんと、こういうときのチームプレーは凄いと思う。

「ねぇ、セシリー。こういうときの連携って凄いよね・・・・・ってセシリー?」

「・・・・アルにあ~ん・・・アルにあ~ん・・・」

・・・・呪文?

そんな感じで昼休みは過ぎて行った。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

えぇと・・・二年一組・・・二年一組。

聡也は、名刺を持って二年一組に足を進めていた。

目的は言うまでもなく、鳥越 聡華である。

えぇと・・・ここか。

当然だが、二年生に男子は居ない。

全員女子だらけの中に、ポツンと聡也が現れた事で

一気静かになり、女子の注目が否応なしに聡也に集まる。

ただ一人を除いては。

聡也は、これ以上の騒ぎになる事を警戒してあえて名字で聡華を呼ぶ。

「鳥越・・・先輩」

名前をつぶやくと今度は女子の注目が聡華に集まった。

聡華は、ため息をついて面倒くさそうにこちらを睨むとガタッと立ち上がる。

そして、ズンズンと近づいてきてすれ違いざまに首根っこを引っ張った。

「ちょっと来い」

「わ、っちょ!」

そのまま聡華は、聡也を階段の踊り場まで引っ張っていく。

そして他の生徒の目が、亡くなった事を確認してから声を荒げた。

「てめぇな、何しにきたんだ!?」

「い、いやその・・・用ってほどでもないんですけど」

「あのなぁ、お前は目立ちすぎるんだよ。

大体ああなる事ってのは想像できたろ」

聡華は聡也の頭をコンコンと二、三回軽くコツく。

「それはそうですけど・・・」

「用が無いなら来るな、分かったな。こっちも迷惑なんだよ、色々騒がれると」

聡華はそれだけを言い残して聡也のもとを去ろうとする。

実のところ聡也の行動に明確な意図はない。

ただ、聡華に会いたかったそれだけだった。

あの、姉に瓜二つの聡華に。

でも確かに、聡華の言うとおり。

自分は男子で、良く目立ってしまう。

用が無いのにうろちょろされれば確かに迷惑になる。

だが・・・・。

ふと、聡也に一つのアイデアがひらめいた。

そうだ。

用があればいいんだ。

聡也は聡華の後ろ姿を見やる。

そして声を張り上げた。

「用があれば、本当に良いんですね!?」

それに聡華はこちらを振り返り、怪訝そうな顔を向けたが

いつもの調子でぶっきらぼうに答えた。

「・・・・あぁ、用があればな」

フフフっ、なるほど。

用があればいいんだ・・・用が!

心の中でつぶやくが早いか、聡也は自分の教室へ向かって走り始めた。

作ってやろうじゃないか!

ちゃんとした理由を!

 

 

 

聡也は、二組に戻るなりこのクラスの風紀委員である

代表候補生のロッソ・ミオネッティに話しかけた

ロッソは綺麗な赤い髪を持ち、半眼の一見やる気のないような目が

特徴の少し無口なイタリア人だ。

「ロッソさん」

「・・・何?」

ロッソはそっけなく返事をする。

ロッソは特に何をしているでもなく、

空中投影型のディスプレイに表示されている

自分のISのものであろう情報に目を通していた。

そんなロッソの机をわざとバンっと叩く。

ゆっくりと目を細め睨むロッソに聡也は言った。

 

「風紀委員を僕に譲ってください」

「君・・何言ってるの?」

当たり前と言えば当たり前の返答だ。

既に決まっている委員会を代われと言っているのだから。

ロッソは冷めた目で聡也を一瞥してから、

何事も無かったかのようにディスプレイに目を戻した。

聡也のアイデア。

それはずばり、風紀委員になることであった。

それなら聡華に会うのに用も何も関係ない。

同じ委員会なのだから、用が有ろうが無かろうが嫌でも顔を合わせられる。

そのためにも聡也には軽くあしらわれた程度で、

引き下がるわけにはいかないし何よりも聡也には考えがあった。

「ちょっと話を聞いて下さいよ、ロッソさん」

「だから・・・聞いてるじゃない。

それについて・・返答もしたわ。

これ以上何か必要?」

ロッソは既に目線すら動かそうとしない。

だが聡也は構わず言葉を続けていく。

「僕は、風紀委員を譲ってくれって言ったんです」

「・・・だから、何故?」

「僕がやりたいだけです。わかりやすいでしょう」

「・・・・いや」

来た!

その言葉を待っていたんだ。

明確な拒否。

それがあってようやく聡也の策は動き出すのだ。

「そこを、何とかお願いしますよ。それに風紀委員って

結構物騒な連中も相手にしないといけませんし」

「・・・大丈夫。私、こう見えても代表候補生。」

「僕は、心配してあげているんですよ?」

少し挑発的な台詞でロッソを煽る。

ここまでこれば、もうロッソの無視は来ない。

なぜならその口から“代表候補生”と言う言葉が飛び出したからだ。

少なくともロッソは今少しずつ苛立ち始めているはずである。

代表候補生が、いくらISを使えるとはいえ男に心配されるというのは女尊男卑のご時世。

プライドが許さないだろう。

「・・・あなたいちいち、感に障るわ」

「そうですかね? でも本当に心配しているんですよ」

「・・・余計な心配はいらない」

あともう一押しだろうか。

何にしてもロッソは、初めのポーカーフェイスから今では、

こちらを再び睨みつけて目に見えて怒っているのは分かる。

 

「でも、本当に僕風紀委員がやりたいんですよ。大体僕にだって選択権があると思いませんか?」

「・・・選択権?」

「そう。元々転校生の僕は、皆さんが委員会役員を決めた時期には居られなかった。

いくら女尊男卑と言っても学生生活ぐらい平等にチャンスがあっても良いと思いませんか?」

ロッソはしばらく考えて、コクンと頷いた。

「・・・それはそうね」

「だから・・・あ、そうですね。良いことを思いつきましたよ」

聡也はあたかも今思いついたかのような素振りで、

ロッソに話すが当然これは初めから聡也が考えていた事だ。

それは・・・

「わかりやすく、模擬戦で白黒つけましょうよ」

「・・・良いの? あなた無様に地面に這い蹲ることになるよ」

「それは、どうでしょうね?」

「・・・ッ!!」

この場合ロッソが聡也を挑発するより、聡也がロッソを挑発した方がより効果的だ。

聡也は、今だけは女尊男卑の社会に感謝したいと思った。

「・・・その言葉忘れないでね」

ロッソはガタッと立ち上がると、足早にその場を後にしようとする。

その後ろ姿へ聡也は、大事な確認事である日時を尋ねた。

「試合は何時にしますか?」

「・・・いつでも良い」

「では、早速なのですが今日の放課後でどうです?」

聡也の提案に無言で頭を縦に振り、聡也もそれに頭を振り替えした。

そしてロッソは今度こそ本当に教室を後にする。

その後ろ姿を見送りながら聡也の頭にふと疑問が浮かんだ。

・・・はて、彼女どこへ行ったんでしょうか。

もうすぐ授業なんですけどね。

そして、少し考えてサーッと青ざめた。

しまった、次は実習じゃないか!

聡也はロッソの後を追いかけるように教室を飛び出す。

聡也とロッソ。

二人の内に秘める闘志を現すかのように、頭上にはもうすぐ夏の訪れを

予感させる暑い太陽がこうこうと照りつけていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

さて、今日の授業も残すところこのHRだけとなった。

前では織斑先生が、連絡事項を話している。

「先ほど、諸君に配ったプリントに臨海学校に最低限必要な持ち物が書かれている。

当日忘れ物をして泣きついてきても知らんぞ。

その時は一人さみしく部屋で勉強でもしていろ」

相変わらず辛辣なお言葉。

では以上と話を区切り、教室を後にする織斑先生。

そしてようやく放課後だ。

僕は、昨日予定していたように聡也がなぜ風紀委員と

もめごとを起こしたのかを調べるべく、

とりあえず僕のクラスの風紀委員に話を聞いた。

「え? 一条君と風紀委員の事?」

「そそ、何か知らないかな?」

ん~っと、女子は顎を指でトントンと叩きながら、視線を宙に泳がせる。

「確かに、二組の一条君が風紀委員ともめごとを起こしたって言う話は聞いたけど・・・」

「誰ともめごとを起こしたとか、分かんない?」

「誰・・・・あ、名前は分かんないけど上の学年だっていう話は聞いたよ」

なるほど、上級生か。

う~ん・・同級生ならまだ探りやすかったんだけど。

僕は礼を言ってその場を離れる。

さて、上級生か。

・・・ふむ。

理由は全くわからなかったが、どうやら聡也がもめごとを起こしたのは

一年生以外だと言う事は確定した。

それでもまだ二年か三年か。

そこが問題だよね。

「何をしてますの?」

聡也の事についてあれこれ顎に手を当て考えていると、

それを不思議に思ったセシリーが声をかけてきた。

「いや、ちょっとね」

「ちょっと、なんですの?」

流石に今回は二人だと動きにくいから、

旨くかわしたいところなんだけど・・。

「だから、ちょっと」

「むむ・・・・なんだか怪しいですわね」

「あ、怪しくないよ」

なんでこういうときだけ変に疑り深いんのさ。

僕は苦笑いを浮かべながら、何か良い言い訳は無いものかと頭をひねる。

しかし、僕もこう言う時に限っていい案が浮かんでこなかった。

「あぁ・・えぇと」

「何か隠してますわね」

「いや、隠してと言うか人を探して・・」

―――――――――あ。

言っちゃった。

「人探しですの?」

なに口滑らせてるのさ僕。

そんな事言ったら確実にセシリーは・・・。

「なら、私もお手伝いしますわ」

・・・・だよね。

あぁ、もう。仕方ないや。

僕は諦めの表情でため息をつくとセシリーに人探しの内容を説明した。

「なるほど。聡也さんの・・・」

「まぁね、聡也って真面目そうだし、

何か問題を起こしそうには見えないからね。少し気になっちゃってさ」

「確かに、中々大人しそうな方ではありましたけれど・・・。

でもそういう方って案外そうでもないのかもしれませんわよ?」

まぁ、誰にでも裏があるとは言うけど・・・。

あの聡也が?

僕は頭の中でオラオラと幅を利かせて、そこらじゅうに喧嘩を吹っ掛ける聡也を想像する。

そしてそれを苦笑いで否定した。

いや、ないない。

流石にそれは。

「ま、まぁどっちにしても、気になるでしょ」

「確かに。でもまだまだ情報が少なすぎますわねぇ」

「とにかく、他のクラスの人たちにも聞いてみようよ」

僕はそう言うと、二組へ向かう。

二組の風紀委員が聡也と面識があるかどうかは分からないが、

多分、一組の風紀委員よりは情報を持っているだろう。

ガラッ

二組の教室のドアを開け、中に入る。

僕はグルッと、教室内を見渡した後、手近にいた子に声をかけた。

「ねぇ、ここのクラスの風紀委員の子どこにいるかしらない?」

「え? あ、ロッソ。え~っと・・あれ、居ない」

「いませんの?」

「おかしいな、さっきまで座ってたんだけど」

ポリポリと頭をかいて首をひねる女子。

僕はその子に、ここのクラスの風紀委員の子の特徴を聞いて二組を後にする。

その特徴って言うのが。

・赤い髪

・イタリア人

・無口

・・・・・・どうしろって言うんだいこれ・・。

これでどう人物を特定しろと?

聞く人間違えたかな。

ふぅ、とりあえず他のクラスも回ってみよう。

僕たちは、次の教室に足を進める事にした。

 

 

一通りクラスを回り終え自分のクラスに戻ってきた僕たちだったが、

結局分かったのは、「上級生」「風紀委員」というたったのこれだけ。

しかも二組の風紀委員に至ってはまだ見つかっていない。

「はぁ・・・中々人探しって大変だねぇ」

「これだけ人数のいる学園ですし・・・

まぁ、そこまで簡単に行くとは思っていませんでしたけれど」

セシリーも腕を組んでうーんと唸る。

せめて二組の風紀委員の子が見つかれば何か分かると思うんだけどなぁ・・・。

二人して頭を悩ませていると、不意に教室の扉が開いてさっき二組で

僕たちにロッソという風紀委員の子を教えてくれた女子が駆け込んできた。

「ねぇねぇ、大変大変!」

息を荒げて声を張り上げるその様子に、

ただならぬ事態を予想した僕たちに一瞬緊張がはしる。

僕たちの近くにいた別の女子になだめられながら、

その子は言葉をまくしたてた。

「ロッソと一条君が・・・!」

「「え!?」」

思わず声が重なる。

聡也が!?

それにロッソ!?

「お、落ちつてください。一体何がありましたの?」

「一条君とロッソが・・・第三アリーナで!」

僕とセシリーは顔を見合わせると、弾かれたように教室を飛び出した。

まさか、あの聡也が本当に?

何のために。

それに相手はまた風紀委員。

・・・・なんで風紀委員にこだわってるんだ?

僕はぐるぐると頭の中で、答えの出ない同じ事を考えながら

第三アリーナへ急いだ。

 

 

僕たちが第三アリーナへ到着すると既に多くの人だかりができていた。

人ごみを掻き分け、アリーナの中が見える位置まで移動する。

今いる場所は観客席ではなく、強化ガラスで守られた通路の一角。

そこからアリーナを見下ろすとアリーナの中央で対峙する

聡也とロッソの姿があった。

まだ両者共にISを起動させていなかったが、二人からは窓越しにも分かるぐらい

凄い闘志がビリビリ伝わってくる。

一体全体何があってこんなに睨みあってるんだ?

あまりの両者の雰囲気に若干、気おされていると聞きなれた声が聞こえる。

「あーーーー! あいつまた何騒ぎ起こしてくれてんのよ!!!」

鈴・・・。

しかもかなりご立腹のご様子。

そりゃそうか。

二組が目つけられたってあれほど怒ってたもんね。

「鈴、まぁまぁ落ち着いて・・」

「アルディ、それに・・・・えーっと」

「鈴さんわざとやってますでしょ・・」

「アセロラだっけ?」

「セシリアですわッ!!」

すごい! 文字数しかあってないミスなんで初めてだ。

でも、アセロラか・・・ふむ。

そう言えば最近セシリー肌荒れがどうとかって・・・。

「ア~ルゥ~~、何かおかしなこと考えていません?」

セシリーにジト目で睨まれ、僕はすぐさま考えを切り上げる。

・・・全く本当に読まれやすいね、僕。

頼んだポーカーフェイスのテキスト全然届かないし・・。

「あんたらねぇ・・・いちゃつくのは良いけど今それどころじゃないっつーの!!」

「別に、いちゃついては無いでしょ!」

「あ、・・・そうですわね」

ん?

セシリーがなんだか不満そうに・・。

って、確かに鈴の言うとおり今はそれどころじゃない。

僕は視線を聡也たちに向ける。

二人はまだ全然動いていない。

・・・聡也。

本当に、どうしたって言うんだい?

その問いかけを心の中で叫びつつ、

僕たちは両者をジッと見守った。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・・逃げずに来たのは良いけど・・・後悔するよ」

「だから、それはやってみないと分かりませんよ」

聡也はロッソの挑発的な発言に、更に挑発しかえした。

少しムッとするが、すぐにいつも通りの無表情に戻る。

そうそう、もっと怒って貰わないといけませんね。

ただでさえ、性能の劣るIS-Nなのだ。

必死に短い時間で情報収集したとはいえ未知の相手。

揺さぶらなきゃ確実に勝てないでしょ。

それにここまで来たんだ。

策士策におぼれるなんてバカな事は許されない。

「・・・・・ほんと、癇に障る男」

「それは、失礼しました」

「・・・・いいわ、その自信砕いてあげる」

ロッソの目つきが変わる。

ロッソは左手をゆっくりと顔の前に持っていくと

ISを起動させる。

「あなたに、本当の夏を教えてあげる」

「おあいにくさま・・・僕は春が一番好きなんですよッ!」

聡也も言い返すと、シリーンダーカードにキーを差し込みIS-Nを展開。

光に包まれ一瞬で真っ白い装甲が展開され〝ホワイトアウル〟が姿を現した。

そして少し遅れて、ロッソのイタリア製IS〝ペルフェッド・エスダーテ〟もその姿を晒す。

真っ赤な鋭角的なフォルムに、右手に蛇腹剣。

そして左手には武装とシールドバリア発生装置が

組み込まれた攻防複合兵装防盾を備えている。

あれが・・・ロッソさんの。

データ上では見ていたが、やはり実物はいつ見ても迫力が違う。

そのISを注意深く観察していた聡也だったが、ふとロッソの様子がおかしい事に気が付く。

ISを展開したと言うのに、だらりと腕を垂らして下を向いている。

・・・・なんだ?

・・・早速何か仕掛けてくるつもりか?

聡也は警戒しながらも観察を続ける。

すると突然、不敵な笑い声が聞こえた。

「フ、フフッ・・フフフッ・・・ハハッ! ハハハハハハハッハァッ!!」

それは、紛れもなくロッソのISから聞こえてきたものだ。

でも・・明らかにロッソさんが出すよな声じゃ・・。

声に焦る聡也を尻目にロッソがゆっくりと顔を上げる。

その顔を見て聡也は驚いた。

無表情だった顔は、不敵にニヤッと笑う口元に

目じりはつり上がって、その瞳には確固とした意志が見える。

「あ、あなたは・・!?」

「へぇお前、楽にあたしを倒せるんだってなぁ・・・えぇ?」

あまりの豹変ぶりに聡也の顔に冷や汗が流れる。

それでもなんとか睨み返すが、いやな汗が止まらない。

「お前も焼いてやるよ・・・・情熱の炎で・・・たっぷりとなぁ!!!」

その声が合図だったのかは分からないが、

風紀委員の座をかけた、真剣勝負の火ぶたが切って落とされたのは間違いなかった。

 




二重人格は、色々と使いやすいですね。


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第19話~それがお前の強さだな?~

聡也とロッソの騒ぎを聞きつけた教師陣が、緊急で正式な模擬戦と定めたため

先ほどの様な混乱は解消し生徒も皆アリーナの観客席に座って観戦している。

そして僕とセシリー、鈴の三人は織斑先生に無理を言って管制室に入れてもらった。

管制室では山田先生の代わりに、榊原先生がコンソールの前に座って

ヘッドギアをつけている。

織斑先生は相変わらず、腕を組んで仁王立ちだ。

「・・・全く、やっぱりガギの扱いは疲れる」

「まぁまぁ、織斑先生ぼやかないぼやかない。

それに、一条君とロッソさんのISの稼働データも取れるじゃないですか」

榊原先生は、カタカタと送られてくるデータを処理しながら織斑先生をなだめる。

織斑先生はフンっと鼻を鳴らすとモニターに目をやる。

それにつられるように僕たちもモニターに目を移した。

そこには激しい攻防を繰り広げる二機のISの姿。

・・あ、片方はISじゃないんだっけ。

織斑先生は聡也を目を細めてじっくりと見た後、僕たちに声をかけた。

「お前たち」

「はい?」

代表するかのように僕が答える。

セシリーも鈴も急に呼ばれた事に少し驚いたのかキョトンとした顔をしている。

「一条のIS・・・・似ているな」

流石は織斑先生。

すぐに分かちゃったね。

僕はそれに静かに首を縦に振る。

「何かあいつから、あのISについて聞いているか?」

「「「・・・・・・」」」

一同気まずく下を向く。

いくら織斑先生にとはいっても、IS-Nの事をすんなり話す気になれなかった。

確かにまだ聡也を疑っていないかと言われればそれはNOだ。

多少なりとまだ警戒している部分はある。

それに今回の事だってそうである。

何の理由で風紀委員ともめごとを起こしているのかもわからない。

〝はなから疑ってかかるのはもうやめないか〟一夏の声が頭の中で響く。

・・・・。

だから僕はまだこの事を話すときじゃないと判断して、勤めて明るく織斑先生に答えを返した。

「あはは、それが僕たちは何も。それに聡也のISだって初めてみましたし」

「・・・・ん、そうか」

織斑先生は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに視線をモニターに戻した。

・・・なんとかなったかな。

チラッとセシリーと鈴を見やると、二人揃って小さくグッと指を立てていた。

う~ん・・・なんて見事なポーズの一致。

「ねぇセシリー、鈴。前の大会の時にふと思ったんだけど君たちって仲良いの?」

「何を言いますの、それはつまりこの私の事を知らないような

無知な方と同じレベルに見られてるってことですの!?」

「そーよ、こんな腹黒いのと一緒にしないでよねッ!」

「黙って見てろ!!」

二人同時に殴られて、二人同時に頭を抱える。

・・・・仲良いじゃん。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

っく、予想以上に!

聡也は汗とそして冷や汗を一緒にかきながら、必死にロッソの攻撃を避け続けていた。

ロッソのISは〝ペルフェッド・エスダーテ〟。

日本語訳は〝完璧な夏〟

その名の通り、一撃は軽いものの総合的な火力という面では中々のものだ。

搭載火砲はさほどでもないが連射力が半端じゃない。

それに加えて、伸縮自在の蛇腹剣〝テンポラーレ〟の不規則かつ変則的な攻撃に

聡也は攻めあぐねていた。

〝ホワイトアウル〟の搭載されている武装はすべてが射撃武器。

 

近接戦闘では〝打鉄〟にすら勝てない出力では使えない近接武器を搭載するよりも

使える射撃武器をという考えだが、いかんせん連射力に圧倒的な差があった。

構える前に、左腕に搭載された攻防複合兵装防盾〝パーチェ・ディフェーサ〟の

内臓バルカンによって荷電粒子砲が反らされてしまう。

「ほらほらぁ、もっとあたしを興奮させてくれよ!!」

ロッソの〝テンポラーレ〟が聡也を襲う。

蛇腹剣は、通常の剣とは違いその機動がきわめて不規則。

言ってみれば鞭に刃が取り付けられているようなものだ。

・・でも、いくら蛇腹って言ったって、振り下ろしてくる方向だけは絶対に一方だ。

しっかり見切れば!

聡也は刃の動きを凝視し、それをなんとかかわすがロッソはニヤリと笑うとその方向へ

〝テンポラーレ〟を払う。

「何!?」

「甘めぇよ、プロセッコより甘々だぜ!!」

「っと、うわっ! ぷ、プロセッコは特に甘いお菓子じゃないでしょ!」

ちなみにプロセッコとはイタリアの伝統的な菓子パン、パネトーネの一種。

生地に練り込む干しブドウを「プロセッコ」というワインに漬け込んだ風味豊かな逸品だ。

ちなみに、パネトーネとはイタリア語で〝大きなパン〟って意味らしい。

――――――――って、そんな事言ってる場合じゃなかった!

ロッソの払った〝テンポラーレ〟は、腕の動きに機敏に反応して向きを変える。

その動きはまさに、獲物の喉に食らいつく獰猛な蛇そのものだ。

とっさの事に反応しきれず、完全に避ける事の出来ない聡也は〝テンポラーレ〟が

直撃する瞬間、荷電粒子砲を自分の前に付きだす。

突き出した荷電粒子砲を〝テンポラーレ〟が切り刻み残っていたエネルギーが大きな爆発を起こす。

そして爆風で一瞬両者が見えなくなった。

「あんだと!?」

聡也はその、素っ頓狂な声を聞き洩らさなかった。

素早くバックパックからレールガンを取り出すと、

声のした方向へ迷わず引き金を引く。

「ちっ!」

「離すのが好きなのは良いですけど、おしゃべりしすぎるのも考えものですね!」

反撃らしい反撃には出れたものの依然として、距離がある。

本来なら射撃武器オンリーの〝ホワイトアウル〟は、

このぐらいの間合いが一番戦いやすいのだが・・。

思った以上にあの蛇腹剣が厄介ですね。

しかも長さの割に、かなり手元の操作に機敏に反応してくる・・。

まさか振り下ろした後に軌道を変えられるとは。

それに・・。

聡也は撃ちながらチラッとバックパックを見やる。

とっさの判断でなんとか直撃は待逃れたが、

一番威力のある武器の一つを失った事は痛い損失でもある。

仕方がない・・・。

下手に間合いを取って蛇腹剣に苦戦するぐらいなら、こっちから間合いを詰めてやる!

聡也は、レールガンをそのまま撃ちながら、一気に間合いを詰める。

しかし、それをさせまいとロッソはバルカン砲を掃射し、聡也を牽制する。

「おしゃべりがなんだってぇッ!」

「こんなもので!」

「ッはぁ! 良いね良いね、その面ぁ、ゾクゾクしちまうだろうがぁ!!」

ロッソは頬を赤く染めながら興奮気味に、バルカン砲と小型の荷電粒子砲を撃ち続ける。

聡也は、削られていくシールドエネルギーとにらめっこしながら、

最適なルートで被弾を最小限にとどめ、間合いを詰めながらチャンスをうかがう。

・・・流石に今の火力じゃ落としきれないけど・・。

至近距離の一撃なら追撃の足がかりにはなるはず。

それには、あの蛇腹剣を相手に振らせる必要がある。

距離が離れているから、動きが読みづらいんだ。

近くならその動きもまだ単調なはず。

そしてロッソが蛇腹剣を振り下ろしたその時

聡也にとって最大のチャンスが訪れるのだ。

「ほらぁ、次はコイツだぜ!!」

よし、貰った!

ロッソは〝テンポラーレ〟を振りかぶるとそれを素早く振り下ろす。

聡也はその刃に沿うように飛び、一気に正面に躍り出た。

その流れでロッソにレールガンと荷電粒子砲を向ける。

「この距離ならはずしませんよ?」

「てめっ!?」

未だに〝テンポラーレ〟を振り切った状態でとっさに反応できずに、ロッソは焦りの声を挙げる。

・・・・・わざと。

ロッソは口角を釣り上げ不気味に笑う。

「・・・なーんてなぁッ!蛇腹剣ってのは、

こういうこともできんだよ、馬鹿がッ!!」

叫び、手を素早く払うと先ほどまで伸びていた〝テンポラーレ〟が瞬時に収縮し

、日本刀程のサイズに変わる。

このサイズなら、敵が至近距離に居ようと関係ない。

いやむしろその距離こそ間合いだった。

聡也は、無理やり右側のスラスターを噴かして

機体を正面から逸らそうとするがそれよりも、ロッソの〝テンポラーレ〟の方が早かった。

「ぐうッ!」

ほぼ真正面から、〝テンポラーレ〟を食らった聡也は衝撃で真下へ飛ばされる。

そこへ再び、蛇と化した〝テンポラーレ〟が襲いかかる。

体勢すらままならない聡也はまともに反応することすら出来ず、蛇の猛攻に捕らわれてしまった。

繰り返し訪れる身を切り刻む痛み。

衝撃に耐えられない〝ホワイトアウル〟の装甲が次々に破壊されていく。

こ、このままじゃ、負ける!

負けたら意味がない。

ここで負けたら、全てが水の泡だ。

勝たなきゃ。

・・勝つんだ!!

聡也は、〝テンポラーレ〟で弾かれたボロボロの機体を次に襲い来る〝テンポラーレ〟の軌道に合わせて反転させる。

「はッ! だから無駄なんだって、こいつの反応速度はもう見て知ってんだろーが!」

ロッソは聡也に合わせて“〝テンポラーレ〟の軌道を修正する。

「こんな物ぉ!!」

聡也は当たること覚悟で〝テンポラーレ〟へ向かって跳躍する。

そこは本来なら直撃コースだったが、〝ロッソが軌道を変えたおかげでできた〟一瞬だけ開く突破口。

聡也は右足の先を持っていかれながら、そこから脱出して持っていた砲を一度バックパックへ戻す。

・・・砲は三門。

しかも機体はパワーアシストが弱まってきてる。

〝アレ〟の直撃後に装弾数全部を当てきれば・・ギリギリ何とかなるか!?

聡也はバックパックのロックをリリースし、軋みを上げる機体と身体で宙を回る。

フリーになった砲が全てバックパックを離れて、くるくると宙を舞う。

それを見て何かを感じたロッソが今度こそ本当に焦りの声を上げた。

「な、何しようって・・!?」

「すいませんね。少し火力不足かもしれません」

「訳分からねぇことを!

何するか知らねぇが、させっかよ!」

聡也は一度ゆっくりと瞳を閉じて、集中した後カッと目を見開いて叫んだ。

「獅哮閃!」

ロッソは〝テンポラーレ〟を振るうが、

それが聡也に直撃する前に身体に強烈な痛みが走った。

〝獅哮閃(しこうせん)

本来は〝ホワイトアウル〟の四門の砲を使って行う

瞬時多目的射撃(マルチロックシュート)で、最大八機まで一度に攻撃ができる。

バックパックのロックを全て解除し、

ラックしていた砲を急速な旋回によって目標方向へリリース。

それを聡也が落下する前に“アブソリュート・ターン〟を

駆使して全ての引き金を引くという曲芸のような技だ。

ちなみに目標の数によって旋回の仕方は異なるが、

目標が一つの場合は一般的に宙返りを行う。

セシリアの時のように。

いくら、万全の状態では無いとはいえ三門でも威力は低くない。

直撃を受けたロッソはこの試合初めて、後方へ吹き飛ばされた。

「くっそ、この!」

「まだまだいきますよ!!」

そこからはもう聡也のターンだった。

レールガンと荷電粒子砲の残弾数すべてをロッソに向かって撃ちまくる。

ロッソは、すばやく反応して〝パーチェ・ディフェーサ〟のシールドを展開するがそれよりも早く

聡也のレールガンが、展開装置ごと〝バーチェ・ディフェーサ〟を切り刻む。

それと同時に〝バーチェ・ディフェーサ〟が装着されていた左腕が爆散した。

「うあッ!!」

苦悶に表情をゆがませるロッソ。

だがそれでも聡也は射撃をやめない。

ガキンッ!

レールガンから残弾の尽きた音がすると聡也はレールガンを投げ捨て

もう一門のレールガンに取替えまたトリガーを引く。

それからすぐに荷電粒子砲のエネルギーが底をつくと、

レールガンを乱射しながらロッソに肉薄する。

その一発一発がロッソの機体の、腕を、脚を、スラスターをそして武装を、

そのすべてを破壊していく。

そして聡也が肉薄したころには、すでに〝ペルフェッド・エスダーテ〟は

戦闘はおろかPICで空中に浮かんでいることすらままならないほどボロボロになっていた。

「これで、終わりです!!」

「う・・・あっ・・」

勢いの死んだ虚ろな目でこちらを見やるロッソに向かって聡也は、

肩を一発レールガンで弾き仰向けになった所へ、残っている左足の踵を振り下ろした。

ズガァァァァァンッ!!

大きな砂煙を巻き上げ、アリーナの地面へ叩き落されるロッソと〝ベルフェット・エスダーテ〟。

ロッソはまだ、かすかに残る意識で地に伏したまま片手を伸ばすが、

すぐに力なくその腕を地にたらした。

それを確認して聡也は、勝利を確信してホッと胸をなでおろす。

 

しかし、次の瞬間先ほどとは比べ物にならないほどの大きな砂煙と共にアリーナが揺れた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

管制室へも、アリーナの異常はすぐに伝わった。

何が起こったのかわからず唖然として砂煙で一時ブラックアウトしたモニターを見つめる僕たちと

対照的に織斑先生は、険しい表情で榊原先生に指示を飛ばしている。

「何だ、何があった?」

「まだ、モニターが回復してませんからわかりませんよ!」

そこへ、真っ先にわれに帰ったセシリーが声を挟んだ。

ここら辺の頭の切り替えの早さはやはり代表候補生だろう。

「生徒の、避難状況はどうなっていますの!?」

「それは大丈夫みたい、今のところシステムへのハッキングは無し。

ロックも何もかけられていないわ」

「よし、榊原先生。現場の教師陣に生徒の避難誘導の指示を!」

「わかりました」

織斑先生は言い終わるとチラッとセシリーと鈴を見やる。

「凰、オルコット。事と次第によってはお前たちに、

対処に当たってもらうことになるかもしれん。ピットへ行って準備しておけ」

「はい!」

「わかりましたわ!」

力強くうなずいて管制室を後にするセシリーと鈴。

僕は、自分自身が出て行けない悔しさと不安を押し殺しながらセシリーを呼び止める。

「セシリー・・その」

「大丈夫ですわ、こう見えて私・・」

「強いんですのよ?だっけ」

僕は、茶化すように言う。

それにつられてセシリーの顔にも笑みが浮かぶ。

「ウフフフッ、えぇ私は代表候補生ですもの」

「あぁそうだね。・・・・・・本当は、

僕も・・・出られれば良いんだけどね」

そんなセシリーの笑顔を見ていると思わずポロッと本音が零れ落ちてしまう。

あの時みたいに、セシリーを信じていればいいだけなのに。

それがたまらなくもどかしい。

それに何より、ラウラの時セシリーは勝ちはしたがボロボロになった。

そしてもしかしたら今回も。

そんな不安が頭を離れない。

どうやら、みんなが言うように僕にはポーカーフェイスは無理らしい。

だってついさっき、悔しさと不安を押し殺そうって決めたばかりなのに、

もう恐らく表情に表れてしまっている。

「・・・フフッ、アル?」

「ん?」

名前を呼ばれて、顔を上げると指をピストル型にしたセシリーの人差し指が

僕の眉間に狙いを定めていた。

「バーン!」

「え? せ、セシリー?」

セシリーの行動の意味を理解できず、頭に疑問符を浮かべる僕に

セシリーは優しく語りかけた。

「今ので、アルは死にましたわ」

「はい?」

「だから、今ので不安そうなアルを殺したんですわ。

だから今、目の前にはいつもどおりのアルが居る。私を信じてくださるアルが・・」

一瞬きょとんとしてしまうが、その後すぐになぜだか笑いがこみ上げてきた。

「何を笑っていますの! け、結構その・・・本気でやりましたのに」

「いやいや、あはは、なるほどセシリーからそんな言葉が飛び出すと思わなかったから」

「もう、失礼ですわね!」

プイッと顔を背けて足早に部屋を出て伊湖とするセシリーをあわてて呼び止めた。

「あぁ、ごめんごめん。いや・・そのちょっと驚いちゃって・・。

でもありがとう。そうだね、僕にこんな顔は似合わない」

セシリーはこちらを振り返ってクスリと笑う。

「えぇ、そうですわ。あなたは笑っていませんと・・・ね?」

ハハハッ、セシリーに励まされるとは思わなかったなぁ。

・・・そう、そうだ。

人生は楽しくなくちゃいけない。

変に不安がるのは楽しんでるとはいえないしね。

フフフッと笑うセシリーを織斑先生がせかし、セシリーは今度こそ管制室を後にする。

僕はその後姿を、信頼のまなざしで見つめていた。

その後ろでは、織斑先生と榊原先生がヒソヒソと声をひそめて話をしていた。

「・・・まったく、行けといったらすばやく行かんか。ばか者が」

「織斑先生、まぁまぁ。おかげでいいもの見れたじゃないですか」

「ガキ共のノロケを良いものというのか、榊原先生?」

「本当は、織斑先生も織斑君にああいうこと、したいんじゃないんですか?」

ニヤニヤと笑う榊原先生に、織斑先生は無言でコーヒーを淹れ始める。

もちろん塩を大匙で三杯ほど入れた、ある意味スペシャルブレンドだ。

それを榊原先生の前にこれまた無言で置く。

山田先生なら引きつっていただろうが、榊原先生は別段いやな顔ひとつせずに受け取り

静かに黒い液体に目を落とす。

そして。

「ほっ!」

「むぐっ!?」

おぉ、すばやい手つきで織斑先生の口にコーヒーを流し込んだ!?

・・・この人、すごい。

その後榊原先生が、正当な理由で織斑先生に殴られたのは言うまでもなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

砂煙が時間と共に晴れていく。

聡也は、ボロボロのハイパーセンサーで砂煙の奥を凝視する。

なんだ・・・。一体何が降りて・・・・!?

聡也は、ハイパーセンサーが送ってきたその映像を

見なければよかったと後悔し、そしてその状況に絶望した。

そこにいたものそれは・・・。

「・・・・・失礼します」

聡也と〝ホワイトアウル〟とほぼ同じ形スペックを誇る黒い翼。

「ブラック・・・・・アウル・・・」

驚きに呆然としながらも、聡也は静かにその名を口走る。

〝ブラックアウル〟はこちらに砲を向けバイザーで隠され目は見えなかったが

口元は不気味に笑っていた。

「・・・何をしに来たんです?」

聡也は、声のトーンを落としてたずねる。

〝ブラックアウル〟は砲をおろさずにその問いに答えた。

「・・・・ちょっと、鉄くずを作りに・・・・ですかね?」

その瞬間、〝ブラックアウル〟の荷電粒子砲が火を噴いた。

聡也は、それをスラスターを噴かして回避するが、

はっきり言ってただ飛び上がるだけでもかなり厳しい。

PICがかろうじて生きているとはいえ、右足を失ってバランスをとるのが困難だ。

それに今、スラスターを噴かしてわかったことがある。

それは感覚的なものだったが、次にモニターに表示された文字が

感覚という不確かなものに、証拠という確かなものを上乗せする。

「右スラスターの内圧弁制御不良!? ・・・:・・・あのときのか!」

そこは聡也が、前に修理していたところだった。

結局直しきれずに、そのままにしていた箇所がこんな時に泣きを入れてきたのだ。

故障箇所は内圧弁。

つまり今右スラスターは、全開か停止そのどちらかしかできない。

細かな調整が不可能ということ。

「これぐらいなら通常飛行に問題はないけど・・・・もっと最悪なのは・・」

聡也は自分の背後のバックパックを一瞥して舌打ちをする。

そう、いまの聡也には武装が何ひとつ残っていないのである。

さらに全ての火力を最大稼動の状態で打ち続けたため、シールドエネルギーよりも

本体のエネルギーは残っていない。

こうして逃げ続けてはいるがいつまで耐つかは、正直わからない。

ただ、どっちにしても長くは持たないだろう。

「フフフッ、今の君はもうすでに鉄くず同然だから・・・

スクラップのほうが似合ってるかな!」

〝ブラックアウル〟の砲はは正確に聡也を捕らえ、

そのうちの一発が聡也のメインスラスターを直撃する。

大きな黒煙を上げ、爆散するスラスターユニット。

推力を失い、そしてその衝撃で完全にPICが死に、アリーナへ墜落する。

ドシャアァァァァッ!!

「うわあぁぁっ!!」

「・・・もう少し抵抗があれば、よかったですけどね」

うつぶせに、アリーナの地面に横たわる白き翼を黒き翼が狙う。

〝ブラックアウル〟はすでに勝ち誇ったような口元の笑みを浮かべていた。

もう、パワーアシストすら切れ身体に〝ホワイトアウル〟の装甲の重さが

あたかも今、身に降りかかっている絶望のようにのしかかってくいる。

〝ブラックアウル〟が今まさに、トリガーを引こうとしたとき、

不意に何かに気がついてある方向を振り返る。

「そんなに抵抗してほしいなら、あたしたちがしてあげるわよっ!!」一本に連結した〝双天牙月〟が〝ブラックアウル〟を襲い、それを下へかわしたところに

〝ブルー・ティアーズ〟のビットと〝スターライトmkⅢ〟が狙う。

「弱いものいじめは関心いたしませんわね・・・。あ、すいません。

今私たちがやっていることでしたわッ!」

セシリアは軽口をたたいて〝スターライトMKⅢ〟

で荷電粒子砲を弾くと続けざまにビットで追撃する。

「セ、セシリア、それに鈴・・」

何とか重い身体を引き起こし、二人を見上げる聡也へ両者が語気を強めた。

「あんたねぇ、ボケッとしてないでとっとと避難しなさいよ!」

 

「あのISのお相手は私達が引き受けますわ!」

 

聡也はそれを聞いて、軋む機体を引きずりながら立ち上がる。

どうやら、クローズ機構まで壊れたようでこの場で待機状態に戻すことは不可能のようだった。

キシキシと軋む音が、身体なのか機体なのか分からないが聡也はとりあえずアリーナのピットの死角へ移動することにした。

移動しながら空を見上げると、“ブラックアウル〟がセシリアと鈴を相手に大立ち回りを演じている。

・・・せめてもう少し、僕に実力があれば。

そんな後悔が頭をよぎる。

でもまぁ大丈夫だろう。

直に増援もやってくるだろうし、それまでセシリアや鈴が落とされるとは考えにくい。

そう大丈・・・・え!?

安堵し、セシリア達から視線を逸らしかけた時、

〝ブラックアウル〟の片方の砲が明らかにセシリア達とは違う方向を向いていることに気がつく。

そしてその先を、目で追うとそこには未だに気を失って倒れているロッソがいた。

まだ〝ペルフェット・エスダーテ〟を展開しては居るが、

聡也の攻撃によってシールドエネルギーはゼロだ。

あんな無防備な状態で、〝ブラックアウル〟の荷電粒子砲を食らったら本当に不味い!

 

『あ・・ね! 笑って・・・ザッザザ・余裕じゃ・・い!』

ギリギリ生きているオープンチャネルから、ノイズ混じりに鈴の声が聞こえる。

どうやら笑っているらしかった。

これは、いよいよ不味い!

聡也の目が〝ブラックアウル〟の荷電粒子砲に光が集まるのを確認する。

このままでは、目の前でロッソが!!

聡也は、機体のステータスをモニターで確認する。

モニターもノイズ混じりで見にくかったが、たった一度分のスラスター噴射は可能のようだ。

だがそれをしてしまうと、いくらロッソの前に入れてもシールドすら展開できない。

しかし聡也はそんな考えをかぶりを振って消し去ると、迷い無くスラスターに火を入れた。

僕の都合で巻き込んで、僕の都合で怪我をさせて、そして今度は僕の所為で死ぬなんて絶対にダメだ!!

聡也がロッソの前に両手を広げて躍り出たのと、〝ブラックアウル〟が砲を撃ったのはほぼ同時。

「しまった!? ってあんた何してんのよッ!!」

 

「下がりなさい! 無茶ですわ!!」

鈴とセシリアの叫び声が聞こえたすぐ後に、聡也は光と超高温の粒子にその体を包まれていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

唐突ではあるが、ロッソ・ミオネッティとはどんな人物なのだろうか。

イタリア生まれ。

代表候補生。

性格は無関心。

無表情で無口。

ISを展開すると性格が変貌する。

・・・・本当にそうだろうか?

 

ロッソは、イタリアの小さな町の出身だ。

幼いころから非常にISとの敵性が高かった彼女は、

早くから親と引き離され、次期代表候補生として

政府の保護観察のもとに置かれていた。

そのため、これと言った友人もおらず、

来る日も来る日も監視と検査の日々。

そんな生活の所為でロッソはどんどんふさぎこんでいってしまい

日常生活では、ほとんど話さなくなってしまったのだ。

そんな彼女が唯一自分を表現出来る場だったのが、ISを操縦している時であった。

そう、聡也との戦いのときに見せた気性の荒さこそ本来の彼女の姿なのである。

だが当時の政府はそれを精神異常と断定して次期候補から外し、

友人の居ない彼女を一方的に地元の学校へ強制編入させてしまう。

ISを使っていない時の彼女は、無口であるため結局卒業時まで

まったく友人ができなかった。

彼女にとって友人が出来ない事は既にもう苦ではなくなっていたが

自分の本当の姿を表現できるISをどうしても諦める事が出来ず、

彼女はその年にイタリアで行われたトーナメント形式の

代表候補選抜試験を受ける事にした。

結果は、断トツで優勝。

しかも中には専用気持ちも含まれていたにも関わらず、

当時のイタリア量産機テンペスタⅠ型を使用しての圧勝。

そのニュースはその日のうちにイタリア全土を駆け巡った。

政府もこの結果を受けて精神異常の断定を取り消し、

彼女を正式に次期代表候補として認定した。

そこからは、日常生活や交友関係に若干の問題を残しつつも

ISの成績は負け知らず。

それなりに順風満帆な生活を送っていた。

だが、ふと彼女は思う。

・・・つまらないと。

いつもいつも、自分は勝ってしまう。

既に当時のイタリアには彼女以上に強いIS操縦者は、

候補生の中にいない状況だったのだ。

だからこそ知りたい。

自分より強い相手を。

自分をより高めてくれる存在を!

彼女はそんな人物に憧れた。

そしてそのモヤモヤした気持ちを抱えながら

IS学園に、ほぼ強制的に入学させられる。

しかし彼女にとっては都合がいいことだらけだった。

周りにはごまんと、世界各国のIS操縦者がいた。

・・・・だが。

そのどれもが、期待はずれだった。

またも彼女は、つまらなさにその身をうずめる。

一体どこにいると言うのか。

自分よりも強い者は。

あたしはそれまで勝ち続けなければならない。

そう・・・勝ち続けなければ。

だってあたしは、強いのだから。

誰よりも。

 

 

それが・・・・このザマとはね。

ロッソは、焦点の合わない目をゆっくりと開く。

身体が重たい。

へへっ、パワーアシスト切れ、おまけにシールドエネルギー切れでガスも無ぇとは・・。

情けねぇ。

本当に情けねぇ。

しかも負けたの男だぜ?

ロッソは動かない身体で、上空の景色を眼だけ動かしてチラッと見やる。

あれ、なんで誰か闘ってやがんだ?

良く見えないが上空で三機ISが闘っているようだ。

その時一機のISが、こちらに向かって何かを撃った。

なんだ・・・何を撃って。

視覚ではとらえきれずとも、撃ったと言う事は何かしら

こちらに攻撃を仕掛けてきたという事だ。

対処したいが、どの道身体は動かない。

くっそ・・・こんな終わり方ってあるか?

ははっ、せっかく自分より強いかもしれないヤツ・・・見つけられたと思ったのにな。

ロッソが諦めて、力なく笑った時、目の前に真っ白い何かが躍り出た。

ドオォォォォォォォォォォンッ!!!

地に伏していたロッソにはそれが、まるで地震のように感じた。

その大きな音と、同時に顔に何か生温かい液体がかかる。

ん? んだこれ・・・。オイル?

ロッソはそれを手でぬぐい視線を向ける。

顔にかかった液体は、生温かくそして・・・・赤かった。

その色が感覚が、一気にロッソの頭を起こしていく。

同時に視力も回復して、ロッソはようやく状況を理解した。

「お前! 何やってんだ!?」

彼女が見たもの、それは彼女の前に前に立ちふさがって

迫りくる閃光から自分を守る一条 聡也の姿だった。

見ると、聡也のISはもう原形をとどめていない。

特徴的な四門の砲をラック出来るバックパックや、手、足、そして顔のバイザーまで

ほとんどが吹き飛びながら、彼はロッソを守っていたのだ。

「・・・なんで、お前」

なんで、あたしを守ってるんだ?

今日知り合ったばかりで、物の数十分模擬戦鹿してない相手を。

なんでお前は、守れるんだよ!

「僕の都合で・・・すいません・・」

聡也は全身の痛みに耐えながら力ない笑みを浮かべる。

「なんだよ、お前の都合って」

「それ、全部話してると・・・流石にきつ・・・いっ・・。

でもっ、一つだけ言えるとすれば・・」

すぐに聡也からその笑みが消え、苦痛に顔がゆがむ。

どうして・・・。

なんで。

ふと、その時。

その答えが分かった気がした。

あぁ、そうか。

そうなんだ。

〝コイツは、あたしよりも強いんだ〟

それが、答えだった。

見つけられたとか、強いかもじゃない。

そして予想は、聡也のたった一言で確信に変わった。

「僕にはっ・・・・くぅッ・・・・責任があります・・からッ」

・・・・責任ね。

そいつがお前の強さってわけかな。

ハハハ、オーケオーケ。

上等だ。

ロッソは、ゆっくりと痛みをこらえて身体を起こす。

そして、言う。

「少し、気張ってろ・・・・。お前は死んじゃいけねぇ」

そう、コイツは死なせるわけにいかない。

やっと見つけた、自分よりも強いやつだ。

それに、ロッソはなぜだかわからないが

それ以外にも彼を守りたいとおもう気持ちが芽生え始めていた。

・・・なんなんだ、この気持ち。

なんか・・初めて感じる。

不思議な感じだな、なんか妙に暖けぇし・・・。

・・・・・・あーもう!

今はそれどこじゃねぇだろ!

ロッソは、一時その気持ちを考えるのをやめ、ズタボロの愛機に視線を落とす。

息をひとつ吐くと、ロッソは心の中で愛機に語りかけた。

さぁて・・・もう少し頑張ってもらうぜ、〝エスダーテ〟?

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――――モード〝スフィーダ〟起動!」




ギリギリからの覚醒って素敵っすw


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第20話~情熱の赤き闘士〝ロッソ・ミオネッティ〟~

モード・スフィーダ。

ロッソが叫んだその声は管制室にも届いていた。

ただそれが何なのか分からず僕は首をひねった。

「スフィーダ・・・?」

イタリア語だろうか。

意味は分からないけど。

つぶやいた声を織斑先生が拾い、腕を組みながら説明してくれた。

「スフィーダ。挑戦を意味するイタリア語だ」

「挑戦?」

何に挑戦するって・・。

そこへ榊原先生がコンソールに“ペルフェット・エスダーテ”の

スペック表を表示させながら会話に入ってくる。

「どうやら、スフィーダとはオーバードライブシステムの一種のようですね。

織斑先生、サウスバード君これを」

榊原先生は、画面を指差して僕たちをコンソール前に呼ぶ。

各種兵装一覧の中に、特殊兵装のタグをつけられて分類される〝スフィーダ〟の文字を見つける。

更に続けて、榊原先生がコンソールのキーを操作するとそのシステムの詳細が表示される。

「イタリアは、このシステムを情報開示してるんですね」

原則、IS学園には新技術の情報開示義務は無い。

だがイタリア製のこのISはご丁寧にも、機構まで図入りで説明がなされている。

気持ち良いぐらいの潔さだ。

それは織斑先生も同じ考えだったようで少し怪訝そうな顔を浮かべる。

「ふむ・・隠す必要がないのか、それとも他に隠したいシステムが有るのか・・・

まぁいずれにしても今はこのシステムだな」

「はい、コレによると“スフィーダ”はシールドエネルギー、

そして本体のエネルギーの二つの残量がゼロになって

初めて起動できるシステムのようですね」

「あぁ、通常のエネルギー回路とは別にもうひとつ独立したエネルギー回路を持つようだな」

織斑先生は言いながら、画面に表示される〝ペルフェット・エスダーテ〟の

左右スカート部に取り付けられた円柱状のパーツを指さす。

話の流れからして、おそらくそれが〝ペルフェット・エスダーテ〟の予備タンクなのだろう。

そしてそれを証拠づけるかのように、アリーナを映すモニターにはその左右のタンクを

スカート内部へ格納する姿が映っていた。

そしてその後すぐに、脚部や腕部ユニットの装甲の一部がはじけ飛び、

〝ペルフェット・エスダーテ〟から凄まじい量の排熱煙が上がる。

「そして・・・あの熱量はおそらく・・」

「ふむ、機体の限界値を一時的に高めているためにおこる各部の熱暴走を

ああして強制冷却しているんだろう」

なるほど。

そういうシステムなのか。

限界を超えて動けなくなったところでさらにその限界を引き上げて無理やり稼働させるシステム。

確かにその名の通り、自分の限界への〝挑戦(スフィーダ)〟ってわけね。

最後の切り札というわけか。

・・・・・でも。

僕はふと不安になる。

あの黒いIS。

前のときもそうだったように、紫色のIS〝紫燕〟と行動を共にしているはず。

なら今回も、タイミングを見計らって介入してくる可能性は大いにありうる。

いくらセシリーと鈴がいるとはいえ、切り札を今切ることに少し危なさを感じた。

まぁたぶんロッソの方は、そういう情報を知らないだけなのだろうけど。

僕はその旨を織斑先生に伝える。

そして織斑先生は頷くとそれをセシリーと鈴に伝えた。

「オルコット、凰」

『はい』

『なんでしょう?』

「前回のように〝紫燕〟の介入も予想される事態だ。

周辺警戒を怠らずに事態に当たれ。いいな?」

鋭い声にセシリーと鈴が、そろって了解と返す。

僕はその声を聞きながら、モニターを睨みつけていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・まだ動けたんですね」

〝ブラックアウル〟は冷たく言い放つ。

聡也は、ようやく終わった砲撃に

そしてロッソを守れたことに安堵しロッソの目の前で倒れている。

ロッソはやさしく聡也を抱きかかえると、そっとアリーナの側壁へもたれ掛けさせた。

・・・・あんがとよ。おかげで助かったぜ、少し待っててくれよな。

ロッソは聡也に向かって心の中でつぶやくと、〝ブラックアウル〟をゆっくりと睨みつける。

そして表情を変えず答えた。

「まぁな・・・」

「まぁ・・・・いいですけどね。どうせ鉄クズどうぜ・・・・・・ッ!!」

〝ブラックアウル〟が、言葉を言い終わる前に、何かに吹き飛ばされる。

「な、何、今の!?」

「ハイパーセンサーですら捕らえきれない攻撃なんて・・・」

鈴とセシリアもいまいち何が起こったのかを、理解できていない。

何せ弾丸の軌道ですら、確認できるハイパーセンサーで何が起きたのか確認できなかったのだ。

とっさに何が起きたのかを理解しろというほうが難しい。

皆が困惑するなか、たった一人。

その攻撃を行ったロッソだけが、不適に笑っている。

ロッソの手には、蛇腹剣“テンポラーレ”が握られていた。

それを見た〝ブラックアウル〟が苛立ちの混ざった声でロッソに叫んだ。

「くぅッ・・・それか!

でも、どうして反応がッ!?」

ロッソは〝ブラックアウル〟と同じ高度に飛び上がると言い返す。

「何をしたかをわかる必要は無ぇぜ・・四分後てめぇはアリーナの地に伏してやがるからなぁ!!」

「っく!」

ロッソは一瞬で間合いをつめると、ブラックアウルに拳を突き出す。

その拳を〝ブラックアウル〟は何とか受け止め一瞬安堵するが、

刹那機体もろとも吹き飛ばされてしまう。

「ありゃ、言ってなかったか? スフィーダにはスフィーダ専用の武器とかがあるんだよ!」

〝ブラックアウル〟を吹き飛ばしたものは、左手に内蔵されている〝ウラガーノ〟と呼ばれる

圧縮した空気を一気に打ち出す近接戦闘用の武装。

ちなみに名前は日本語で暴風を意味するイタリア語である。

急激なGと真正面からの強烈な衝撃に顔をゆがませながら、体勢を立て直そうとするがそこへさらに

ロッソが〝テンポラーレ〟で追い討ちをかける。

〝テンポラーレ〟は〝ブラックアウル〟のバックパックを砲ごと切り裂くとさらに返しの刀で

左側のスラスターをもぎ取る。

「馬鹿な!?」

信じられないという顔と声を上げロッソを見やるが、ロッソは追撃をやめない。

スラスターをもぎ取られ、バランスを崩した〝ブラックアウル〟を〝テンポラーレ〟で払い上げ

一瞬機体が浮いたところへ、回転の遠心力を利用した強烈な回し蹴りが襲う。

「おいおい、歯ごたえなくて困っちまうぜ!!」

こうして軽口をたたいているロッソだが、

その目はしっかり〝スフィーダ〟の残り稼働時間を確認している。

このシステムは、一時的に機体の限界値を無理やり引き上げ、

通常よりもはるかに高い機動力とパワーを引き出しているため

各部に尋常ではない負荷がかかっている。

つまり最大稼動時の、さらに上の出力を多くのパーツに負荷をかけながら

搾り出しているということだ。

そのため、最大稼働時間は戦い方にもよるが四分。

それを過ぎると本当の意味で活動限界を向かえ、今度こそ動けなくなる。

つまりその時間内にこのISを倒さないと、必然的に負ける。

相手が少しでも動けてもだめだ。

完膚なきまでに叩き潰す!

タイムリミットはあと百二十秒余。

まだ少し余裕はあるが、だからといって悠長に構えている時間はない。

「・・・ふざけるなっ!!!」

〝ブラックアウル〟もやられっぱなしというのは気分が悪いようで、

まだ残っている両手の荷電粒子砲でロッソを狙うが

トリガー引く直前思わぬ方向から砲を真っ二つに切断されてしまう。

驚愕の表情で、刃が振り下ろされた方向を見やるとそこには〝双天牙月〟を構えた鈴がいた。

「あたしたちも忘れてもらっちゃ困るわ!」

「この、お前も!!」

自信たっぷりに言う鈴に神経を逆なでされて、いよいよ頭に血が上った〝ブラックアウル〟が

鈴のほうへ、もう片方の荷電粒子砲を向けようとする。

だがそれは、与えてはならない隙を敵に与えてしまう行為でもあった。

「もらいましたわ!」

正確な二発の射撃が、構えかけた荷電粒子砲と残っていたスラスターを吹き飛ばす。

それに重ねるように四機のビットが〝ブラックアウル〟に驟雨のごとく射撃を浴びせ続ける。

「へぇ・・・・やるじゃねぇか。どこの誰だかは知らねぇがね」

思わず感嘆の声を上げるロッソ。

どうやらその声は、二人に聞こえていたらしく

耳がキーンとなるほどおおきな声で通信が飛び込んできた。

「あんたね、あたしを知らないっての!!」

「そうですわ!!鈴さんなどは知らなくても、よろしいですけど

私ぐらいは知っていませんと、お話になりませんわよ!!!」

「なんですってー!」

「なんですの!」

鈴とセシリアは、互いに罵り合いながらも〝ブラックアウル〟に攻撃を加えていく。

まぁなんとも、器用だなとロッソは苦笑いする。

そして残り時間がいつの間にか三十秒を切っていることに気がついた。

「そろそろ、決めるか・・・・!」

ロッソは〝テンポラーレ〟を元の一本の剣に戻す。

そして、〝外部に放出したエネルギーを内部へ取り込みなおした〟。

・・・そう。

これは〝イグニッション・ブースト〟の手順だ。

ロッソは体勢を低くして、〝テンポラーレ〟を構え、

内部で圧縮されたエネルギーを一気に後方へ打ち出した。

ドンッ!!

何かが炸裂したかのような大きな音の後、

爆発的なエネルギーは〝ペルフェット・エスダーテ〟を

一気にトップスピードまで持っていく。

〝ブラックアウル〟に肉薄したとき、ISのパラメータ画面が残り時間を告げた。

Liquida dieci secondi.

Io comincio a contare.

9 8 7 6...

(残り10秒。

カウントを開始します。

 9 8 7 6・・・)

 

Liquida cinque secondi(残り五秒)

「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ロッソは〝テンポラーレ〟を〝ブラックアウル〟の腕部にたたきつける。

手に鋼鉄を切る確かな手ごたえが伝わってきた。

その後ロッソは“ブラックアウル”を宙返りしながら蹴り飛ばす。回転しながら吹き飛ぶ先に鈴が〝双天牙月〟をもって待ち構えていた。

 

Liquida quattro secondi(残り四秒)

「カモーン♪」

鈴は〝双天牙月〟を両手に構え〝ブラックアウル〟の背面に一撃。

回転と逆方向への衝撃で回転の止まった〝ブラックアウル〟に

もう片方の刃で別方向へ弾き飛ばす。

「セシリアッ!」

 

Liquida tre secondi(残り三秒)

「お任せくださいな!」

セシリアは弾き飛ばされた〝ブラックアウル〟へ正確無比な射撃をビットで行う。

「人に挨拶するときは、被り物は脱ぐのがマナーでしてよ!」

セシリアはビットの攻撃で正面を向いた、

〝ブラックアウル〟のバイザーを〝スターライトMKⅢ〟で吹き飛ばす。

バイザーの片方を失った〝ブラックアウル〟の目にはまだ微かに、反抗の意思を感じる。

 

Liquida due secondi(残り二秒)

生きているスラスターで何とか体勢を立て直そうとする〝ブラックアウル。

だがそこへ、両手で〝テンポラーレ〟を構えた〝ペルフェット・エスダーテ〟が突っ込む。

何とか片腕でその突撃を防ぐ〝ブラックアウル〟だったが推力が違いすぎた。

赤き弾丸と化した〝ペルフェット・エスダーテ〟に〝ブラックアウル〟は

なすすべなく押し返されていく。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

「ぐぅッ!!!」

そのままロッソは〝ブラックアウル〟の腕をつかむと急降下して

地面を引きずりながらアリーナの側壁へ一直線に加速していく。

 

Liquida un secondo(残り一秒)

そして、側壁へブラックアウルを叩きつけると至近距離から〝ウラガーノ〟を

時間の許す限り撃ちまくる。

周囲は砂煙で何も見えなくなっていくがそんなことは気にしない。

「これで、終わりだぁッ!!!」

ロッソは一度〝ウラガーノ〟に空気を収縮させてから左手を振り上げると、

一気に腹部めがけて振り下ろす。

バガァァンッ!!!!!!

地鳴りのような音。それが決着の合図だった。

〝ブラックアウル〟はすでにピクリとも動かない。

そして・・・

 

Contando è esagerato

Io sposto ad una maniera di fermata da un

sistema dopo raffreddamento urgente.

Una funzione di Perfetta・Estate completamente le fermate.

(カウントオーバー。緊急冷却後システムを停止モードへ移行。

ペルフェット・エスダーテ機能を完全停止します。)

 

機能停止と共に一気にやってくる疲労感と、完全にパワーアシストの〝死んだ〟ISのズシリと重さ。

ロッソは勝利を確信してISの装甲の重さに任せてゴロンッと、仰向けに倒れこむ。

へへっ・・・・やっぱあたしは強ぇ!

それに・・・あいつも守れた・・・よな?

ロッソは頭だけを動かして聡也の方向を見やる。

聡也はまだアリーナの側壁にもたれかかったまま気を失っていた。

機体も身体もボロボロだったが、さっき抱き上げたときに

確認した外傷以外真新しい怪我は見られなかった。

よかった・・・無事だ。

にしてもなんで、あたしはこんなに嬉しいんだろう・・・。

・・・あたし・・。

ロッソは聡也から目をそらすと、ふと顔が赤くなっていることに気がついた。

うわわわわッ! なんで顔赤くなってんだよ!?

何で顔が赤いのかはわからなかったが、誰が見ているわけでもないのに

とっさに顔を隠したくなった。

なんで?

・・・・なぜだろう?

・・・・あいつに・・・・見られたくないから?

・・・なんで?

そんな考えがグルグルと頭の中で回っているが、当然急な眠気に襲われる。

実際、極度の緊張状態の中、オーバードライブシステムを使用した

無茶の影響で、既にロッソは限界を超えていた。

・・あぁ、まだ・・・答え、出てな・・・。

ゆっくりと薄れていく意識の中。

ロッソは、守りきれたという達成感と

不思議でわけがわからないが、それでいて何処か

あたたかい気持ちを抱きながら深いまどろみの中へ落ちていくのであった。

ここに〝完璧な夏〟と言う名を与えられた情熱の赤き闘士の勝利が確定した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「敵機完全に沈黙!」

「よし、凰、オルコット。先に一条とミオネッティを回収しろ!」

織斑先生が素早く榊原先生に指示を送る。

・・・・終わったのか?

僕は少し拍子抜けしてしまった。

何故なら、何時“紫燕”が介入してくるのか分からなかったからだ。

しかし紫燕は来なかった。

タイミングを逃したのか?いや、入ろうと思えばいくらでも隙はあったはず・・・。

何か、介入できない理由があったのだろうか。

そういえば、彼らとの初邂逅の時。

結局何をしにきたんだろうか。

その時ふと、無人機の存在が頭を過ぎった。

まてよ。

ひょっとして、あの二機はあの無人機を追いかけてきたんじゃ。

確か無人機はこの学園が回収したと言っていた。

――――――――――――ッは!!

「織斑先生!!」

管制室に榊原先生の悲鳴のような声が響く。

「どうした?」

コンソールを覗き込んだ織斑先生の顔が途端に険しくなる。

「第三アリーナへ、急速接近する反応がッ!六.三秒後来ます!!」

もう何が接近しているのか、織斑先生には分かっているようだ。

勿論僕もね・・。

「凰、オルコット、何処でも良い。ピットへ飛び込めッ!!」

織斑先生が怒鳴るように言う。

声に戸惑いながらもセシリーと鈴は一番近いピットへ飛び込んだ。

「榊原先生、第三ピットメインゲートを閉鎖!」

続いてセシリー達が飛び込んだピットのゲートが閉じられる。

これでとりあえず、聡也達を連れたセシリー達の安全は確保された。

「織斑先生! 第三ピットへ行ってきます」

「あ、おい!」

僕は織斑先生の返事を待たずに、管制室を飛び出した。

 

 

 

第三ピットでは既にストレッチャーに乗せられて

聡也とロッソが今まさに運び出されていく所だった。

僕はそれを通路わきに避けて見送ると、二人の元へ急ぐ。

「セシリー」

「アル」

「へへん、どーよ。あたしの華麗な活躍は」

セシリーはほっとしたように笑い、鈴は自慢げに笑う。

ほんと、二人とも全く違う性格なのに、どうしてこうコンビネーションとかが旨く行くんだろうね。

「あぁ、僕が心配する事なんて何もなかったね」

「いえ、そのお気持ちだけでうれしいですわ」

「ってか、何よあんた心配なんてしてたの?」

ほんっと・・・・どうしてねぇ。

僕は二人の性格の違いに少し苦笑いを浮かべつつ、

僕は話を先ほどの戦闘の事に切り替えた。

「いや、まぁね。で、さっきの戦闘の事なんだけど」

「あぁ、って言うかなんであたしたち怒鳴られたわけ?」

「そうですわね、別段ハイパーセンサーにも反応はありませんでしたけれど」

・・・・・え?

いやいやいや、何を言ってるんだい。

管制室のレーダーだって捉えてたんだよ。

それが更に高性能なISのハイパーセンサーでとらえられないわけないじゃないか。

「まさか、何か来てたとか?」

「それなら、反応があるはずですわよ」

キョトンとした顔で、会話を続ける二人。

あぁ、なるほど。

多分これは、余裕を見せつけるために

僕を引っかけようとしてるんだね。

やっぱり、仲良いじゃないか。

「もう、冗談はやめてよ。管制室は大変なんだよ、今」

「だから、何の話だっつーの!」

「あ、アル、本当に私たちのセンサーには何も・・」

鈴とセシリーの困惑する様子を見て、僕は嫌な汗が流れる。

・・・本当に反応が無かったのか!?

でも、榊原先生はあと六.三秒でって・・・。

その時爆発音とともに大きく建物が揺れた。

「きゃっ!」

「うわっと!」

「セシリー、鈴!」

バランスを崩した二人を抱きとめる。

揺れはすぐに収まったが、今の爆発音は一体・・・。

まさか・・。

やっぱりどこかに無人機関係のパーツが保管されて。

考え込む僕に、抱きとめた二人から声をかけられる。

「ちょっ、ちょっと・・・いい加減・・・」

「そ、そのアル・・えぇと・・・」

ん?

そこでようやく二人を抱きかかえるようにしている

自分の姿に気がついてあわてて手を離した。

「あぁぁ、ご、ごめん!」

「ふん、ま、礼ぐらい言っといてあげるわよ」

「いや・・・私は・・そのもう少し・・」

「え? セシリー何か・・」

「いえいえいえ、な、何でもありませんわ!」顔を真っ赤にして、大きなアクションで手を振るセシリー。

なんだろ、今何か言ったような・・・・。

「あんたたちねぇ、二人して見つめあってる場合じゃないでしょうが!」

「別に見つめあってなんて無いよ!?」

「そ、そうですわ、いやですわねぇ鈴さん!?」

そ、そうだ。

確かにそうだね。

いまだに状況がつかめない僕たちへ、織斑先生から通信が入る。

その通信を受けたのは鈴だった。

『そこに全員居るか?』

「はい。セシリアとアルディも」

織斑先生がチラッと僕たちを一瞥し、それにこたえる様に僕たちは頷き返した。

「先ほどの爆発は一体なんですの?」

『ふむ・・・少々厄介な事態になった』

「というと」

『保管してあった、無人機のコアを盗まれた』

やっぱり・・・・。

目的は無人機だった。

でも、じゃあさっきの反応は一体・・・。

デマ情報だとしても、何が目的でそんな事。

織斑先生は頭を数回かきながら、いつも通り淡々とした口調で話す。

『まぁ幸い盗まれたとは言っても、あのコアは既に束でも

直せないぐらい壊れていたから、まぁ盗られてどうだと言うわけではないが・・・』

「とにかく私たちも、もう一度出ますわ! 場所はどこですの!?」

『いや、その必要はない』

言葉をまくしたてるセシリーに織斑先生はピシャリと言った。

その言葉は、鈴にも意外だったようで眼を見開く。

「必要無いってどういう意味ですか!?」

『そう、熱くなるな』

「いやでも!」

『なら凰、聞くがお前のISはすぐに出られるのか?』

「うぐッ」

鈴は思わず口ごもる。

セシリーも同様に下を向いてしまった。

『燃料の補給、各部損傷のチェック、オルコットも

あれだけビットを使った後だ。身体への負担もある』

「で、ですが!」

『それに・・・』

織斑先生は、今の空気に少し不釣り合いな笑みをこぼす。

意図が分からない僕たちに構わず、織斑先生は言葉をつづけた。

『もう、別動隊が対処に当たっている』

「別動隊!?」

鈴が素っ頓狂な声を挙げるが、それは仕方のない事だ。

そんなのいつの間に組織したんだろう。

気になった僕は織斑先生に尋ねる。

「その、別動隊って言うのは・・・」

尋ねた直後、別枠でウィンドウが表示される。

そこには、白式を駆る一夏の姿があった。

他にもラウラとシャルロット達もいる。

その映像に、一同がようやく納得した。

モニター越しの織斑先生も肩目をつむり、こういうことだと言わんばかりの顔をしている。

まぁ、確かにこれならセシリーと鈴が行く必要はなさそうだ。

それはセシリー達も分かったようで、何度か頷いて一つ息を吐いていた。

『お前たちは、お前たちで出来る事をしろ、分かったな』

それだけを言い残し一方的に通信を着る織斑先生。

・・・・やれることね。

僕たちが今やれることは、一つしかない。

「それじゃ、聡也達を見に行こうか」

「ま、仕方ないわ」

「ですわね」

二人の賛同を得られたところで、僕たちは早速医務室へ足を進めた。

まだまだ、今回の事は謎だらけだけど。

それを考えるのは今の僕たちの仕事じゃない。

僕は頭を切り替え、二人と共に足早にピットを後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

さて・・・・。

向こうが本当の紫燕と言うわけか。

千冬は、顎に手を当てて考えていた。

紫燕は、無人機が保管されていた、学園の地下施設付近から姿を現した。

恐らく、今回あの黒いISを助けに来なかったのはあちらを優先していたからだろう。

・・・・なら。

先ほどの反応は一体なんだと言う?

ISのハイパーセンサーに引っかからず、

こちらのセンサーだけに反応したと言うのもおかしな話だ。

無人機が狙いで、戦力を二分させた事は理解できるが、

どうにも先ほどの反応が腑に落ちない。

その時一夏から、通信が入った。

『織斑先生!』

「どうした、何かあったのか?」

『いや、何も・・・無いんですけど』

「何!?」

「確かに、煙は上がってて建物とか

一部壊れてるところはありますけどISの姿は・・」

どういう事だ。

先ほどモニターに入ってきた映像はなんだと。

――――――しまった、そうか!

くそッ! また出し抜かれたと言うのか!!

「織斑!第三アリーナへ向かえ! デュノアとボーデヴィッヒもだ!」

『え!? あ、千冬姉!?』

『ほら、行こう一夏!』

『教官、了解しました!』

シャルロットとラウラがが困惑する一夏を、引っ張って第三アリーナへ向かう。

千冬はその映像を切ると、ダンッと机をたたいた。

やってくれる。

つまりこう言う事だ。

まずはじめに、〝ブラックアウル〟が第三アリーナを襲撃。

それと同時に、学園地下へ紫燕のパイロットが向かう。

そう間違いなく地下施設には入られたのだ。

あの時、センサーに移ったISの影は偽物。フェイク。

あのタイミングで第三アリーナへISが向かっていると言う嘘の事実を作るための。

そして無人機のコア奪取後いまだに周囲の目が向く第三アリーナから

眼をそらすために、地下施設周辺で爆弾か何かで爆発を起こす。

周囲の眼が今度はそちらに向く隙を狙って、本当の〝紫燕〟が第三アリーナへ

進入すると言うわけだ。

管制室に届いた、あの〝紫燕〟と一夏達の戦闘シーンも

恐らくは巧妙に作られた合成映像だろう。

それにしてもなんて回りくどい手を使うんだ。

千冬は舌打ちをする。

だがそんな回りくどい手にまんまと載せられた自分にも腹が立った。

とにかくだ。

もう相手は逃げるだけなので、これ以上回りくどい策を取る必要もないだろう。

今度こそ。大丈夫だ。

大丈夫・・・・だな?

千冬は、これまでに見た事のが無い、何とも自信の無いしぐさでうんうんと頷くのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ふ~ん。

こうなってんのね。

鳥越 聡華はつまらなさそうに、〝ブラック・アウル〟の

破片をつまみ上げると、まじまじと見た後ぽいっと後ろへ放る。

後ろでガシャンっと音がして装甲が砕ける音がするが気にしない。

聡華は今、風紀委員として正式に事後処理をしている所。

人手が足りないっつてもな・・・。

普通生徒一人で行かせるかっての・・・

心の夏中でごちりながら、聡華は目ぼしいものを探す。

ちなみに現在このアリーナには人っ子ひとりいない。

一応千冬達教師陣は監視しているらしいがアリーナ上は聡華一人である。

聡華はまた一つ残骸を拾い上げようとして視線を動かすと、視界の端に何か動く物を発見する。

その人物は誰かに肩を貸して、今まさにアリーナを出ていこうとする所だった。

あん? ・・・・けが人・・?

聡華はその人物を不審になって呼びとめる。

けが人は全員既に医務室へ運ばれたという情報を事前に聞いていたからだ。

「おい、けが人か?」

聡華の呼び掛けに、一瞬ピクリと反応すると顔を少し動かしてこちらを一瞥する。

顔は見えないが目つきは相当鋭いようだ。

聡華は頭をポリポリとかくと、そんなに睨まなくていいだろとぼやいて二人に近づいていく。

「あ~まぁ、睨むのは良いけどな? 医務室はそっちじゃね・・・・・・ッく!?」

気だるそうな聡華の目つきが変わる。

肩を貸していた方の人物が、いきなり飛びかかって来たのだ。

「てめぇ・・・・・・・!?」

聡華は難なく〝紫燕〟の右腕を部分展開させそれを防ぐ。

だが聡華は驚愕していた。

相手もISを部分展開して飛びかかって来たのだが

相手が部分展開した装甲の形状や色が聡華のソレと全く一緒だったからだ。

しかし、それは相手にとっても同じ事だったようで疑問と苛立ちのまじった声が返ってくる。

「・・・・・何もんだお前?」

「そりゃこっちが聞きたいね、いきなり何しやがる」

聡華側からは逆光で顔が良く見えないが、

相手からは自分の顔が確認できているだろう。

聡華は目を凝らすがそれでもその顔を確認する事は出来ない。

ただ、自分以上に驚いた顔をしていると言う事はなんとなくわかった。

「聡也に手ぇ出そうってんなら容赦はしねぇぞ・・・」

ん、聡也?

聡華は、チラッとアリーナの隅で壁に身体を預けている人影を見る。

聡也ってのか・・・。

そういえば、さっきの模擬戦。

一年のヤツが騒いでたな・・・。

確か聡也とロッソが・・・って。

聡也。

聡華の頭の中に、先ほど戦闘を繰り広げていた白いISの操縦者が思い浮かぶ。

あいつも聡也って言うのか。

名前の同意に違和感を覚えながら聡華はキッと相手を睨み返す。

しばらく無言のにらみ合いが続いたが、不意に太陽の光が何かにさえぎられる。

「そこまでだ!」

「大人しくした方が良いよ。いくらなんでも三対一・・・いや四対一は分が悪いでしょ」

「お前、その人から手を離せ!」

どうやら、噂の織斑 一夏ご一行のようだ。

まぁ、でも光を遮ってくれたおかげで、ようやく顔を拝め・・・・・・・・え?

聡華はどうして、相手が自分よりも驚いていたのかその意味をようやく知った。

 

 

 

 

ワインレッドに赤くつり上がった眼。

 

 

 

 

眼の前には、憮然とした顔の自分自信が立っていた。

 

 




同じ人物同士の邂逅も良いなぁ~


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