強面男が幻想入り (疾風迅雷の如く)
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日常編1
1話
俺は
「常識は敵だ…」
若くして雄大(長兄)は大企業の社長である親父の後を継いで…その襲名披露宴に俺は夏休みなので司会者として呼ばれた。俺は車でその会場に着いたはずなんだが…随分ボロっちい神社だった…いやいやそんなはずはない。いくら雄大が26歳(ちなみに俺は今年18になったばかりの四男坊の某私立の高校3年生なのにかなりの老け顔で40代のヤとザがつく職業のお偉いさんみたいに見られる)の青臭い若造とはいえ大企業の社長襲名披露宴会場がこんなボロっちいはずがない。そうだとしたら社員の奴ら頭可笑しいだろ。もっと豪華客船みたいな会場とか! 高級レストラン貸切とか! そんなものだろ!?
絶対に親戚一同に嵌められたな。とりあえず兄貴達に電話…って電波状態最悪かよ…世界に羽ばたいている機械オタクの裕二(次兄)に山奥でも電波状態MAXになる契約をして貰っているんだがな…
このままだったら絶縁させられるな。それはまあいいか。どうせ俺がいなくとも問題ないし。地方でしか活躍出来ない俺じゃ、兄貴達に比較されるのがオチだ…
「…いっそのこと車で乱入するか!」
いくらボロいとはいえ神社でそんなことをしたらバチあたりだが仕方ねえよな。…親戚一同が悪いんだもの☆
それにギリギリのところで止めればバチあたりにはならない! そもそもバチあたりになっているから迷っているからやり返すだけだ!
「ヒャッハーッ、行くぜ!」
俺の頭の構想だと車で階段を登ってジャンプして神社の前で見事に着地する…親戚一同がいてもあいつらは車で轢かれた程度じゃ死なないし、軽傷で済むチート軍団だ…なんで格闘技やらないんだ? あいつらがやれば世界とれるだろ…
そんなことは置いてだ。俺は車で階段を登って、特別製の車の機能を使ってジャンプをした。そこまでは良かった…
「ぶべらっ!!」
なんか30近い若作りに焦っている20代の女の声が聞こえた。それはジャンプしている時にだ…つまりジャンプしている時に人を轢いたってことになる…が、まずそんなことはあり得ないので声のことは考えずに無事に着地するように調整した。
ダンッ! バキッ! メリメリ…
「到着~っ!」
車が着地すると俺は顔を出した。するとさっきのボロい神社は何処へやら…普通の神社が建てられていた。
「「……」」
周りにはちょっと変わったデザインの巫女服を着た巫女さんと白黒のフリルドレスを着ている金髪の女の子がこっちを見て絶句していた。どっからどう考えても親戚一同の奴らでもなければ、雄大の社員達でもないな。雄大がこんなコスプレイヤーを呼ぶわけがない!
「すみません、間違えました」
俺は車をUターンさせて階段を降りようとしたが…
「こら! 待ちなさい!」
すると巫女さんが俺に話しかけ止めてきた。
「どうしました?」
ちなみに言い忘れたが俺は強面の為出来るだけ紳士に話すタイプだ。そのため、こんな喋り方になる。
「あんたのせいで私の賽銭箱が壊れちゃったじゃないの!?どうしてくれるの?!」
さっきのメリメリ…って音、賽銭箱が壊れる音だったのか。賽銭泥棒なんて言葉があるくらいだし、結構正月はあそこに金入るんだよな…それ以外はどうか知らんけど。
「それは元々その賽銭箱には金入って無いだろ…それにその賽銭箱は霊夢の賽銭箱でもないぜ…」
金髪の女の子がそう言って水をさすが…巫女さんの機嫌を悪くさせるだけだぞ?
「魔理沙うっさい! と・に・か・く、その賽銭箱を弁償して貰うわよ!」
よく俺の面を見てそんなことを言えるよな…見慣れているのか? それとも神様の加護があるとかいう頭がお花畑なのか?
「そういうことですか…」
とはいえ俺がやったことって巫女さんのATMを壊したような事だしな…神社の賽銭箱ってなると木の材質がどうのこうのってうっさいし…これくらいで足りるか?
「ではこれだけですが…弁償金と賽銭です。ご納めください」
俺が一億の入ったケースを渡すと巫女さんはそれを開いた。すると巫女さんは目の中に金という文字が現れた…守銭奴だな。
「…お、お札が一枚、二枚、三枚…」
お札って…野口さんですらもらえないなんてどんだけ貧乏なんだ?普通は福沢さんが一人、二人とかだろう?株をやる時は万券になるけどな
「あんた名前はなんて言うんだ? 私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
金髪の女の子こと霧雨魔理沙が俺に自己紹介してきた。
「大和勇姿です。以後御見知りおきを…霧雨魔理沙さん」
「出来れば魔理沙で呼び捨てで呼んでくれ…でないと背中が痒くなる…」
…中学の時の職場体験は警察署だったんだがマル暴(マル暴には某特選隊シリーズのイケメンヒーローを2、3人墓場送りにしている強面の人たちが多い)の年配のベテランと間違われて、普通4日くらいの体験だったんだがそのまま俺だけ1ヶ月仕事をさせられた…学校側は俺がいない方が良いという理由でどうやったか謎だが隠し通したらしい。そのくらい俺の顔はかなり強面だ。…ちなみにその学校関係者は親父の手によって社会的に殺されたのは言うまでもない。
その強面の俺にフレンドリーに話しかけるのは見慣れているのか、そういう性格なのかは知らないけど感心するぜ…人を見た目で判断してはいけないよな。ホント。
「では魔理沙。私もあなたに質問します…ここはどこですか?」
こっちとしては会場に行きたいんだよな…司会者としての務めもあるし。
「へえ、あんたもうここが外の世界じゃないのに気がついたのか?」
外の世界…別の世界だってことだから嫌な予感がする…
「ここは幻想郷。忘れ去られた者が住む場所だぜ」
忘れ去られた者が住む場所…幻想郷…道理で兄貴達に連絡が着かないわけだ。
「なるほど…それで魔理沙、外に戻るにはどうしたら良いのですか?」
なんでこんな冷静なんだろうな…あそこで金勘定している巫女さんを見ているせいだろうか?
「それはあそこで金勘定している巫女…博麗霊夢に聞いてくれ。私は専門外だ」
魔理沙は霊夢を呆れた顔で見て説明した。コスプレじみた服装の割には常識人なんだな。題名が焼き鳥のメニューの漫画に出てくる常識人もコスプレイヤーだということを考慮すると見た目と常識は反比例するってことか。
「わかりました。では失礼します魔理沙」
そう言って俺は霊夢に近づいた。
「うへうへ…お札が一杯…これだけ有れば小銭でお風呂ができるわ…」
どんだけしょぼい夢だよ?少し俺は引いたが気を取り直した。
「すみませんが少しよろしいでしょうか?」
「神様! 何の御用ですか?!」
うわ…神様って凄え態度の違い…まあ人から一億貰ったらそうなるのか…?貧乏だったら逆にビビって使えなくなるのがオチだよな。こいつは異常だ…うん。
「博麗霊夢さん、魔理沙から聞きましたが、あなたは私の世界…所謂外の世界に戻る方法をご存知のようですがその方法を教えてくれませんか?」
「あー…ちょっと待って。今外に帰れる準備をす…しますから!」
どうやらとっとと帰れるようだな…まああれだけサービスしたんだし当然か。多少素が出ているけどそこは気にしないでおこう。
「わかりました。」
その間俺は車の整備をして待った…そしてしばらくすると霊夢が近づいて来て準備が終わったことを報告した。
「これが帰る道ですか?」
その道とは、なんか黄色に光る道でいかにもなにかあるような思わせぶりをするような感じだった。長ったらしいが気にするな。
「ええ、私としては神様をおもてなししたいのですがあなたも忙しい身…せめて私はこうして準備をした訳です。では良いお旅を…」
霊夢はそれだけ言うとお辞儀をしてビジネススマイルをした。
「霊夢がいつもの霊夢じゃない…」
魔理沙がボソッと声に出したが俺と霊夢はスルーした。
「では失礼します…」
そう言って俺は車のエンジンをかけて車を発進させ、その道を辿った…
数分後…
「ようやく見えてきた…」
車を運転すること数分…光輝いていた景色が木の家らしき景色に変わり、その地点に車を置いた。
「さて、連絡しないとな…」
そう言って携帯を出すが電波状態が最悪だったことを思い出した。
「はあ…そうだった」
そんなことを呟くと誰かが近づいて来た。
「も~うっさいわね…」
その人影とは先程の巫女こと博麗霊夢だった…
「…博麗霊夢さん。お久しぶりですね。わずか数分でしたが…」
俺がそういうと霊夢は口を開けて唖然としていた。
「え?どういうこと?」
どうやらいつもなら成功してそのまま帰れたけど今回は失敗したパターンか…あれだな、異世界トリップ物のテンプレだ。それじゃ俺は何か? 強面の勇者にでもなれってか? …俺を呼び寄せるくらいなら親戚一同にでもやれよ…現時点じゃ俺の方が強いけどあいつらは鍛えたらめちゃくちゃ強くなる。…言わないけど。
「それは私のセリフです…まっすぐ行ったはずですが、またここに来たみたいですね」
俺は冷静にそう言って…事態を整理する。
「…もう一度!」
霊夢は再び道を開いた…最初からそれをやれよ。
「何か?」
霊夢…心読んでいるのか? まあいい…俺は車を使って再びやって見たが結果は同じだった。
「フフフ…」
そこには鬼のような顔をした霊夢がいた…俺の面よりも怖ぇよ!
「これは私に対する挑戦状と見てもいいわね…!!」
それから何回も試して見たがどれもダメだった。車から降りて歩いてもダメ、全速力で行ってもダメ…ナメクジよりも遅く歩いてもダメ…そんなこんなで日が暮れた。
「はあ…仕方ないわ。それじゃ勇姿さん、今日は神社に泊まって。晩御飯も作るから」
ちなみに何回かやっているうちに俺と霊夢共に諦めの色が見えた時に自己紹介しあって、互いにギクシャクしないように敬語を使わないようにした…
「わかった」
そうして俺は博麗神社に泊まることになった。
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2話
####
暇ね…私は幻想郷で何も出来事がなく暇になっていた。今、月に行っても負けるのがオチでしょうし、たまには外の世界の人間でも見てみましょう。外の博麗神社のすぐそばに隙間を使って見て見た。
「常識は敵だ…」
私はそう呟く男を見つけた。…かなりヤバそうな男だ。目はギラギラとしており、下手な小妖怪…いや中級妖怪すらも凌ぐ威圧感がある。そんな男が何故常識は敵と言い出すのだろうか? まさかこんなところに迷った…などというアホなことはないだろう。
「…いっそのこと車で乱入するか!」
男はこちらに気づいているのか、わからないがこっちを見てそう呟き、車にエンジンをかけた…まさかこんな小さな隙間、しかもかなり遠くにあるのだから気づく訳がないだろう。そう思ったのが私の間違いだった。
「ヒャッハーッ、行くぜ!」
え?マジで気づいているの?ちょっと待っ…
「ぶべらっ!!」
私は情けなく車にぶつかり、弾かれた…まさか人間の男如きに私のいる場所を特定されてしまい、しかも隙間の侵入方法まで計算されるとは思いもしなかった。もしや常識は敵と呟いたのは私を見たから気づいたのではないのだろうか。しかも車に弾かれて死なないと考慮したあたり監視した私への警告だろう…はじめからそのことに気づくとは恐ろしい男だ。幻想郷は様々な危険に陥ったが今回は史上最悪の出来事が起きるかもしれない…そんな予感がした。何にしても顔の傷を治さないと藍に心配されるわね…私は顔の傷を治してその場を後にした。
####
私は今親友とも言える霊夢の住む博麗神社に来てお茶を飲んでいた…相変わらず霊夢の入れるお茶ってうまいよな。私にはそんな真似はできないぜ。
ダンッ! バキッ! メリメリ…
突然不思議な乗り物が現れ、そのまま着地したのは良いが…勢い余って賽銭箱に突っ込んだ…
「到着~っ!」
その不思議な乗り物から妖怪らしき男がそう大声を出して降りてきた…やっちまったな…
「「……」」
私と霊夢が唖然してその妖怪を見ると妖怪は失敗したと思ったのか乗り物に乗り込んだ。
「すみません、間違えました」
その妖怪は乗り物をUターンさせて階段を降りようとしたが、当然霊夢の手から逃れられる訳もなく…
「こら! 待ちなさい!」
霊夢が回り込んでその妖怪を止めた。
「どうしました?」
妖怪はかなり紳士そうな声を出して敬語で話した…この妖怪声を操る程度の能力持ちか?
「あんたのせいで私の賽銭箱が壊れちゃったじゃないの!? どうしてくれるの?!」
おいおい…霊夢の奴神社を私物化してやがるぜ。
「それは元々その賽銭箱には金入って無いだろ。それにその賽銭箱は霊夢の賽銭箱でもないぜ…」
私はそうつっこんでやると霊夢は怒鳴った。
「魔理沙うっさい! と・に・か・く、その賽銭箱を弁償して貰うわよ!」
妖怪はようやく納得がいったように頷いた。
「そういうことですか…」
男はそれだけ言うと乗り物の後ろからケースをだした…まさか…な?
「ではこれだけですが…弁償金と賽銭です。ご納めください」
やっぱりだ。この妖怪かなり金持ちだったんだ。それはどういう意味かと言うと人との立ち回りが上手いということになる。妖怪ってのは強くなればなるほど立ち回りも上手くなる傾向も強い。現にUSC(アルティメットサデスティククリーチャー)の風見幽香なんかは危害を加えなければ花屋として金を稼いでいる…私か? 私は妖怪じゃないから問題ないぜ。
「…お、お札が一枚、二枚、三枚…」
霊夢はそのケースを開けてすっかりトリップしてしまったのでその妖怪の名前を聞いてみることにした。
「あんた名前はなんて言うんだ? 私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ。」
できるだけフレンドリーに話しかけて警戒心を解いた。
「大和勇姿です。以後御見知りおきを…霧雨魔理沙さん」
妖怪こと勇姿はお辞儀の基本とも言えることがパーフェクトで私は照れ臭くなった。
「出来れば魔理沙で呼び捨てで呼んでくれ…でないと背中が痒くなる…」
その照れ臭さと慣れない『さん』付けから魔理沙と呼び捨てるようにしてもらった。
「では魔理沙。私もあなたに質問します…ここはどこですか?」
呼び捨てても勇姿は敬語で話し、私に質問してきた。…意外と洞察力と冷静さがあるな。
「へえ、あんたもうここが外の世界じゃないのに気がついたのか?」
勇姿は私のセリフを遮らずに黙って聞いていた。
「ここは幻想郷。忘れ去られた者が住む場所だぜ。」
「なるほど…それで魔理沙、外に戻るにはどうしたら良いのですか?」
勇姿は他の外来人とは違い発狂(とはいっても人間だけで妖怪はそんなに動揺しない)せず冷静にどう戻るか私に聞いてきた。
「それはあそこで金勘定している巫女…博麗霊夢に聞いてくれ。私は専門外だ」
だけど私に聞いても専門外…とはいえ今は気は引けるが霊夢に頼ることにした。
「わかりました。では失礼します魔理沙」
勇姿はそういって霊夢の元へ近づいた…
####
「うへうへ…お札が一杯…これだけ有れば小銭でお風呂ができるわ…」
怪我の功名ね…あのボロ賽銭箱元々壊れそうだったから助かったわ~。
「すみませんが少しよろしいでしょうか?」
おっと、私の人生を変えてくれた恩人が呼んでいる…
「神様! 何の御用ですか?!」
私はできるだけ愛想よく振る舞った…博麗の巫女として当然のことよね。
「博麗霊夢さん、魔理沙から聞きましたが、あなたは私の世界…所謂外の世界に戻る方法をご存知のようですがその方法を教えてくれませんか?」
もしかして外来人? そうだとしたらちょっと面倒ね。
「あー…ちょっと待って。今外に帰れる準備をす…しますから!」
少し素が出てしまったけどそんな程度で怒らないのは彼を見てわかる…彼は妖怪のように悪人顔だが中身はかなりの善人だとわかるわ。
「わかりました」
うん、やっぱり善人ね。
「これが帰る道ですか?」
そして帰る道を開いて案内した。
「ええ、私としては神様をおもてなししたいのですがあなたも忙しい身…せめて私はこうして準備をした訳です。では良いお旅を…」
こんな善人は幻想郷にぜひいてもらいたいものだけれど、彼にも帰る場所があるし、私はそれを止める権利はない。だからせめて彼が笑って帰れるように準備をしてあげた。
「霊夢がいつもの霊夢じゃない…」
魔理沙が何か言っているが無視だ。彼もそうしているし。
「では失礼します…」
彼は乗り物に乗るとそのまま道を通って帰っていった。
「それじゃ霊夢、私はそろそろ他の用事があるから行くぜ…」
魔理沙がそんなことを言い、箒を持った。
「ん? まああんたも一応気をつけなさいよ。死にかけの人間がここにいます…なんてことになったら嫌だから。」
「さっきと対応違いすぎないか?」
「そりゃ彼は私の恩人だもの…対するあんたは貴重なお茶を飲んでいるしねぇ…」
私が全力で嫌味を言うと魔理沙は渋い顔をした。
「あ~もうわかったよ。今度良いもん持ってくるから!」
…勝った!
にしてもゴトゴトうるさいわね…
「も~うっさいわね…」
そこに向かうと…あり得ないことが起きていた。
「…博麗霊夢さん。お久しぶりですね。わずか数分でしたが」
先ほどの彼が神社の裏にいた。
「え? どういうこと?」
私は思わずそういってしまった。
「それは私のセリフです…まっすぐ行ったはずですがまたここに来たみたいですね」
「…もう一度!」
私がすぐに道を開くと彼が変なことを考えていそうな感じがした。
「何か?」
そういって私は彼に尋ねるが言葉を濁された。
そしてやはりというか案の定、彼がまた戻ってきた。
「フフフ…」
私は笑うしかないわよ…二回も失敗するなんてことはなかったし。
「これは私に対する挑戦状と見てもいいわね…!!」
そう、誰かが意図的にやっているとしか思えない。彼にも協力して貰ったけど結局わからずじまい…すごいムカつく。
「はあ…仕方ないわ。それじゃ勇姿さん、今日は神社に泊まって。晩御飯も作るから」
とはいえ、良いことがないわけでもないのよね。私と勇姿さんの距離が縮まったのは良いことよね。
「わかった」
勇姿さん…その笑顔やめて欲しいなんて言えないよね…理由が私が罪悪感にとらわれるからなんて言えないじゃない。
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3話
「晩飯美味かったな。霊夢美人なだけでなく料理も出来んのかよ。誰かが霊夢を嫁さんにしたらそいつは幸せな生活が送れるだろうな…」
おっと…どうしても一人暮らしが長かったせいか独り言が出てしまうよな…まあ仕方ないちゃ仕方ないけど。それよりも風呂だ。暑くてしょうがないけど汗を流さないと不衛生だし。
「勇姿さん、お風呂沸いたわ。早く入って」
この急かさない感じは良いよな。まあ俺は客人だし、当然と言われれば当然なんだが…だいたいは俺の面を見ると遠回しに親族含めて風呂入れヤ9ザ顔! とか言われる…例外と言えば親父や兄貴達くらいのもんだ。
「それじゃ失礼しますよ…」
俺は風呂に入り、ゆっくりと浸かった…結構温いけどまあこのくらいが人間にとって一番良い温度なんだよな。俺の入る風呂の温度って50度くらいでイカれているし。
そんなこんなで20分くらい湯船に浸かった…
「ふう~っ…良い湯だったぜ」
しかしこの顔のナイフの傷跡、どうにかなんないかね…なんで傷ついたかって?職場体験のマル暴の時にマフィア達に襲われて傷つけられたんだよ。まあそのマフィア達は下っ端も良いところで弱かったから気絶させてなんとかなったけど本当に中学生がやるところじゃないと実感したね。
「あ…」
モタモタと着替えていると霊夢が現れた…なんとか下はセーフだったけど上はまあ上半身露出は水泳とかで慣れたし、今更って感じだけど一応着替えるか。
「それじゃごゆっくり。」
俺はそれだけいうと霊夢はボケーッとしていた。しかしよくよく見てみると守ってあげたいくらい華奢だよな霊夢って…
「今日の筋トレのメニューは…」
俺がそうつぶやくと景色がいきなり灰色になりなんか現れた。時計は止まっているな…
『メインコマンドが作動しました。チュートリアルをはじめますか?』
どこからともなくそんな声が聞こえ、その言葉と選択肢が表示された。
…おいおいゲームの世界じゃあるまいし…とはいえ暇だし暇潰しにチュートリアルはやっておくか?
Yesと答えると『それではチュートリアルをはじめます』と表示された。
『まず最初にメインコマンドの説明をします。メインコマンドは貴方のサポートをする物です。コマンドまたはメニューと呟くか心の中で念じれば開くことができます』
それで開いたのか…なるほど。
『次にメインコマンドの使い方です。セーブとロードについてお話しします。セーブはその場の状況、時間を記録し、ロードはセーブした場所からやり直す物です。上手く状況などを見て判断して下さい』
まんまゲームだな…これ。てか異世界トリップしたんだしチートの一つや二つは貰えて当たり前か?
『では次に倉庫と袋の説明です。袋は16種類の道具を99個持ち歩くことが出来、イベント進行時にも使えます。倉庫は無制限に収納できますがイベント進行時に使うことは出来ません。袋が一杯になった時には自動的に倉庫に収納されます。また倉庫から袋へ道具を移したい場合は倉庫内の道具を選択し、移動するを押してください。逆に袋から倉庫へ移したい場合も同様にできます。それでは試しに倉庫にある栄養剤を一つ袋に移してください』
なるほどね。栄養剤を移してと…
『栄養剤が袋に移されました』
『次はコードの説明です。コードはとあるイベントをこなすことによって習得して行きます。ではコードを選択し、現在あるコードの中からオート武器1セットを選んで下さい』
うわっ結構あるな…えーと…オート武器1セットを選択だったな。
『オート武器1セットを装備しました』
装備!?なんも変わらないけど…
『このままでは素手の状態の変わりませんがメインコマンドの武器変更を使って現在持っている武器と交換することができます。武器を変更して下さい』
武器変更を選択すると10種類くらいの武器があった。
まあシンプルにメリケンサックで良いか。銃やロケットランチャーなんかも(銃以外の武器はメリケンサックとバットしかなかった)あったがスルーだ。そんなものをこの神社で取り出してみろ…えらいことになる。
『武器変更が終わりました』
『またメインコマンドを閉じて武器変更と念じればメインコマンドを開くことなく武器を変更することができます』
セーブとかロードとかある時点でチートくさいけどもう突っ込まないことにした。
『それではマップの見方について入ります。マップを開いて下さい』
マップを開くといろいろと出てきた。青点が俺か?
『マップの青い点が貴方の位置、白い線は障害物、黄色の点は主要人物、赤の点は敵となります。』
障害物って…壁すらも障害物に入るのか?何にしても自由度が高いこったな。
『マップをある程度縮小すると障害物は映らなくなるので注意して下さい。またメインコマンドを開かずにマップを開きたい場合はマップ表示と念じれば開きます』
『次にヘルプの使い方です。ヘルプを選択するとこれまで説明したことが書いてあり、またこれまで出会った人物も記録されており、イベントをこなすにはどうするかと言ったアドバイスもありますので是非活用して下さい』
関係のある人物まで書いてあるのか…恐ろしいシステムだ。まあ便利なことに変わりないのでわからなくなったら開いてみるか。
『最後にメインコマンドの閉じ方について説明します。一番下にあるコマンドを閉じるを押せばメインコマンドを閉じることができます』
これで一通り終わったか…良い暇つぶしだった。
『ではチュートリアルを終了します』
そしてその声は消えると、俺はメインコマンドを閉じる前にセーブをしてメインコマンドを閉じた。
すごい能力だよな…これ。だけどこんなチート能力だと…
「しばらくは帰れないな…」
下手に使ったらマスコミがウザくてしょうがない。いやそれ以上に国だな。もしこんな能力がバレたら即、研究所行きだ。そんな事態は避けたい。
「ちょっと良い?勇姿さん?」
おっと…霊夢か。考え事はやっぱりコマンドを使用したままの方が良いな。
「どうした?」
「勇姿さん。さっきのことだけど」
さっきのこと…あれか?
「ああ、風呂のことなら俺が悪かった。すまない…今度からはもっと早く着替える」
俺がモタモタ着替えていたからそうなったんだよな。非はこっちにあるし、謝るのは当然のことだよな。
「勇姿さんが謝ることはないわよ…私が勇姿さんがいることに気がつかずに入ったのが原因だし…それよりも勇姿さん、もしこれから帰れなくなったらどうするの?」
霊夢…お前が謝るとこっちが悪者に見えるじゃないか…少しは楽に生きろよ。
「その心配はないぞ。その頃にはもうこっちにも親しみが湧くし、その時はこっちに住んで暮らすさ」
「本当にそれで良いの?」
「まあ向こうに未練がなかったと言えば嘘になるが、行けないものは仕方ない。それよりもやるべき事を見つけるのが一番良いんだよ」
「やることって?」
やることってイベントこなすしか無いよな…こういうのってゲームの定番だし。
「幻想郷でやれるだけの事をやらなきゃ後悔するだろ? だから帰れなくなっても幻想郷でやれるだけのことはやっておく」
何しろメインコマンドがせっかく使えるんだ。使わないのは損だ!
「そういう考え方もあるのね…」
「まあこっちは娯楽は少ないがちょっと面白そうな展開になりそうだからな」
勘違いしているようだが俺はゲームが嫌いというわけではない。むしろ好きな方だ。ただ裕二(次兄)がチート過ぎてやらないだけだ。どのくらいチートかと言うとFPSなんかは一時期世界ランク一位を獲得して動画投稿して金を稼いだくらいだ。裕二の篭りながら突っ込むという変則的なプレイスタイルを真似ようと猛者達が挑んでも無理だった…俺?俺は猛者の領域まで行っていないからどんなに頑張ってもオンラインで一回につき60キルの3デスが平均だ。
「そう…それじゃおやすみなさい。勇姿さん」
霊夢はそういうと部屋から立ち去った。
「それじゃおやすみ…」
俺は筋トレをやってから寝ることにした。
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4話
私は勇姿さんを外の世界に送ることが出来ずに迷惑をかけて博麗神社に泊めることにした。勇姿さんは今、夕飯を食べ終わって部屋で待機している。私はお風呂を沸かし終わって勇姿さんを呼びに行く最中…
「晩飯美味かったな。霊夢美人なだけでなく料理も出来んのかよ。誰かが霊夢を嫁さんにしたらそいつは幸せな生活が送れるだろうな…」
部屋で待機している勇姿さんがそんなことを呟いていたので私は照れ臭くなった。
私の評判…堕落巫女や貧乏巫女などの二つ名を勇姿さんが聞いたら鼻で笑う姿が目に浮かんだ…今まではその評価を覆す努力もしなかったのになんで今更覆す努力をしようなんて思ったのかしら? やっぱりあれね…勇姿さんを向こうに送ることが出来なかった自分の無力さを感じたから…これが一番の理由ね。
「勇姿さん、お風呂沸いたわ。早く入って」
私は普通の声で声をかけて勇姿さんにお風呂が沸いたことを行って早く入るように促す。
「それじゃ失礼しますよ…」
勇姿さんは立ち上がってお風呂に向かった。
そして20分程が経過して勇姿さんがようやく上がった。
「ふう~っ…良い湯だったぜ」
私はその声を聞き取り、着替えとかタオルとかの準備をしてお風呂へと向かった…
そして私は勇姿さんがもう洗面所にいないと思い扉を開けると勇姿さんが上半身裸の姿でまだそこにいた。
「あ…」
私は勇姿さんの上半身裸の姿を見て思ったことは…天才の努力家。見事なまでに鍛え上げられた筋肉とそのバランスの良さ…ここまで維持するのは血を流す努力が必要…恵まれた体格なら尚更。私は幼き頃から歴代の巫女のなかでも史上最高の素質があると言われ続けた。だが私はその素質に溺れていた…全てのことが努力せずとも何でも出来るからだ。だがそれは違った…勇姿さんのようなあんな美しさは努力がなければ出せない…私は勇姿さんの芸術とも言える美しさに惹かれていた。
「それじゃごゆっくり」
私はそんな勇姿さんの声も聞き流し、ボケーッと考えていた…
「勇姿さん…一体どんなことを考えているのかしら?」
私はお風呂で勇姿さんの考えているについて考えた。
やっぱり帰りたいとか思っているのが当たり前よね…帰れると思ったらイレギュラーが発生して帰れないと言うのはやはりショックでしょうし、勇姿さんにも帰るべき場所がある。そんなことを考えていると既に私はお風呂を上がって勇姿さんのいる部屋の前に立っていた。
「今日の筋トレのメニューは…」
やっぱり努力はしているのね…恵まれた素質があるのにそれに溺れず自らを鍛え上げる。今までの私には理解出来なかったけど今なら理解出来る。
「しばらくは帰れないな…」
やっぱりショックなんでしょうね…私の努力不足のせいで帰れないと言う事態が発生した。八つ当たりされる覚悟は出来ている。私は勇気を出して扉を開いた。
「ちょっと良い? 勇姿さん?」
私がそう言うと勇姿さんは筋トレをやめてこっちを向いた。
「どうした?」
「勇姿さん。さっきのことだけど」
私が勇気を出して言うと勇姿さんは途中で遮った。
「ああ、風呂のことなら俺が悪かった。すまない…今度からはもっと早く着替える」
確かに普通の男ならぶん殴っていたわよ…だけど勇姿さんの場合は不快な気分にはならなかったから問題はないわよ!
「勇姿さんが謝ることはないわよ。私が勇姿さんがいることに気がつかずに入ったのが原因だし…それよりも勇姿さん、もしこれから帰れなくなったらどうするの?」
って私は何を言っているのよ…そこは謝るべきでしょうが!私の努力不足のせいで帰れるものも帰れなくしてしまってごめんなさいって!
「その心配はないぞ。その頃にはもうこっちにも親しみが湧くし、その時はこっちに住んで暮らすさ。」
ああ…もうこの人は優しいよね…
「本当にそれで良いの?」
私は思わず勇姿さんにそう尋ねていた。何しろそれは向こうに帰れないと判断したらこっちに住む覚悟は出来ているという意味だからだ。
「まあ向こうに未練がなかったと言えば嘘になるが、行けないものは仕方ない。それよりもやるべき事を見つけるのが一番良いんだよ」
やるべきこと…勇姿さんのやるべきことって少し気になるわね…
「やることって?」
私はある程度予想を立てた。その予想は努力をし続けることなのかあるいは妖怪退治することなのか…恐らくどちらかね…
「幻想郷でやれるだけの事をやらなきゃ後悔するだろ? だから帰れなくなっても幻想郷でやれるだけのことはやっておく」
私の勘が外れるなんて…そんなこともあるのね…でもこの勇姿さんという人が私の想像を超えた人だということがわかった。
「そういう考え方もあるのね…」
私はいつの間にかそう呟いており、頷いていた。
「まあこっちは娯楽は少ないがちょっと面白そうな展開になりそうだからな」
外の世界には娯楽は幻想郷よりもあったみたいだけど勇姿さんが娯楽に打ち込む姿って想像出来ないのよね…むしろ修行しているイメージしか湧かない。あえて言うなら頭を動かす将棋とかのイメージが強そうだし、勇姿さんに将棋で勝てる想像も出来ない…
「そう…それじゃおやすみなさい。勇姿さん」
私はそう言って部屋から退出した。
「それじゃおやすみ…」
勇姿さんは2時間程筋トレを続け、ようやく寝た。
私もやろうかしら…
~翌日~
それから私は筋トレを始めたのは良いけど…
「痛たたた…」
もの凄い筋肉痛が来ている…とにかく痛い。どのくらいかと言うと筋肉が引き裂かれるくらい痛い…やっぱり素質だけに頼って努力もしないとダメね…
「おはよう霊夢…ってどうした?」
勇姿さんが私に声をかけて来てくれた。
「筋肉痛よ。ちょっと無理をしたらこんな目に…」
私は勇姿さんに嘘をついても仕方ないので本当のことを言うことにした。
「なるほどな…まあ身体を鍛えるのは良いことだけど今日は身体を休んでおけ。俺が代わりに仕事をしてやるよ。」
「えっ!? でも…」
そんなことを許すわけにはいかない。何故なら博麗の巫女の仕事は異変解決という仕事がある。
「どうしても出来ない場合は霊夢に頼むさ。ほとんどのことは俺が片付ける! だから一泊の恩も返したいから頼む!」
勇姿さん…優しくて努力家で、そして義理堅い性格ね…幻想郷じゃまず見られない性格ね。
「そこまで言うならわかったわ。とりあえず、神社の掃除お願いするわ」
私は勇姿さんに御子としての仕事ではなく、誰にでも出来るような雑用を任せた。
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5話
霊夢が筋トレをして筋肉痛になった。筋トレの大切なところって筋肉痛になったらその日は一日休ませることが大切なんだよな。もし休ませなければ逆効果になるし、精神的にも辛い…そういうわけで俺は霊夢を休ませて家事をしている…第三者からみれば幹部級のヤ9ザが下っ端の仕事をしているように見えてシュールだ。
それにしてもあれだな…朝起きてメインコマンドを開いてコードの中身を詳しく調べたらヤバイのが入ってた…パラシュートやハングライダーはまだわかる…だけどなジェットパックとか戦闘ヘリとか挙句の果てには戦闘ジェット機まであったんだぞ? 博麗神社を見るに江戸時代から明治時代くらいの世界で一体何をしろと?…幻想郷でも滅ぼせというのか?いや…そんなもんじゃねえな…
「幻想郷を征服するか…」
多分そのくらいのことをしないとイベントが進まないんじゃね?
メニュー!
『メインコマンドが開きました』
ヘルプを選択だ!
『ヘルプです。どうなされましたか?』
イベントの進行について知りたいを選んでと…
『イベントの進行は自動で発生して貴方自身の選択でイベントが変わります。なお現在イベントは起きていません』
なるほど…行動次第で結末が変わる方式か…現実じみているがセーブ&ロードがある以上どんなルートでも行けそうだ。それはそうと銃の弾や車とかの燃料がない時はどうすればいい?
『コードで装備した銃や車などは既に弾や燃料があり、無限ですので問題はありません』
リロード不要の弾無限に燃料無限って…チートかよ。やっぱチートだな…ん?銃弾から弾幕への切り替え方?
『弾幕への切り替え方は武器装備で銃弾から弾幕に切り替えると弾幕が出るようになります。ただし弾幕はどんなに当たっても非殺傷なので生死をかけた戦いは弾幕から銃弾に切り替えて下さい』
それを早く言ってくれよ!? 武器装備! 全ての武器から銃弾から弾幕に切り替え!
『銃弾は全て弾幕に切り替わりました』
ふう~これで俺が持っている銃も鉄砲もどきだと誤魔化すことができる…
これでメインコマンドを閉じてと…
「勇姿さん、ちょっと人里に行ってくれない?」
「ん? 別に構わないが…どうした?」
「ん~…実は今日、妖怪退治の日だったのをすっかり忘れてたのよ…勇姿さんは外の世界の人だけど、かなり弱いし大丈夫よ。博麗の巫女の代行と言っておけば問題ないわ」
「妖怪とは…一体?」
「そう言えばその説明して無かったわね…この幻想郷は忘れ去った者達が集まる場所だから、妖怪も例外じゃないのよ…」
「そういうことか…しかし大丈夫なのか?筋肉痛…」
筋肉痛って相当痛いよな…俺も筋肉痛になった時は動けなかったし。
「そりゃ痛いけどあらかたの家事は終わったみたいだし、多少動く程度なら問題ないわ。それとリストはそこにあるから頼むわよ」
結構タフだな…霊夢。
「そうか…それじゃ行って来る」
「行ってらっしゃい」
俺は霊夢の見えないところでこっそりとメインコマンドを開いてヘルプで操作を覚えてジェットパックを使いこなして、低空飛行して楽をした…おもろいな、これ。
…とはいえいつまでも遊んでいる訳にもいかないし、とっととやるか。
「博麗の巫女の代行の者ですが妖怪退治を依頼したのはこちらの方でしょうか?」
「そ、そうです!」
俺の顔見て完全にビビっているよ…こいつ…まあ俺の顔ってかなり凶悪、強面の顔だしな…
「それでその妖怪はどこに…?」
自分がいかに強面の顔か思い出しながらも依頼の内容を聞いた。
「いつも私のいない間に私の畑に荒らしにくるんです…なんとかしてください…」
猪と同じくらいのレベルかよ…でも素手で倒したことあるけど猪って結構厄介なんだよな…まあいざとなったら銃使えばいいし。
「そういうことですか…では畑に案内して下さい」
「へえ…わかりました」
俺は畑に着き、様子を見た。こりゃひでえ…
『イベントのチュートリアルを始めますがよろしいですか?』
ぬおっ!? いきなりメインコマンド出てくるなよ…あ~まあ一応聞いておくか。なんか道具とか貰えそうだしな。答えはイエスと…
『それではチュートリアルを始めます。イベントは今回のような妖怪退治などの小さいイベント、もう一つは幻想郷を揺るがしかねない異変の大きなイベントの二つに分かれています。』
なるほど…それでどうするんだ?
『小さなイベントでは妖怪を退治する所謂、妖怪退治がメインとなります。それでお金を稼いだり道具を貰ったりすることが出来ます。小さなイベントの中にはコードを習得するイベントもありますので是非積極的に参加しましょう』
ふ~ん…なるほどな。
『それではメインコマンドに依頼の項目が追加されたので今回の依頼を見てみましょう!』
依頼と…
『ここには貴方がどのような依頼を何件受けているか、そして題名のみですが依頼が表記されます。またその表記された依頼を選ぶと詳しく見ることが出来ます』
まあ何にせよ新しい項目が増えたということだな…
『それでは依頼をこなしましょう』
自動でメインコマンドが閉じ、俺は作物に近づいた。
「この辺ですか?」
俺は依頼主にそう尋ね、荒らされた跡を指差す。
「ええ…そこら辺です」
「なるほど…」
『それでは今回のように妖怪を探す場合はマップを見て確認しましょう』
もう俺は突っ込まんぞ。このメインコマンドの勝手さに…と思いつつも俺はマップを開いた。
『マップに赤い点が近くにあればそれは敵と見なしています。今回はその赤い点が点滅しているので地面に潜っていたり上にいたりします。それでは地面に攻撃して妖怪を地上に追い出しましょう』
Pistolに武器を変更する! そして…妖怪が潜っているところに撃つべし!!
バン! バン!
「シャギャァァァッ!」
『妖怪が出てきましたね。妖怪の弱点は人間同様に心臓、頭が急所となっています。心臓は狙うのは実質無理ですので頭をなるべく狙いましょう。では貴方の武器を駆使して妖怪を倒して下さい』
頭か…ゾンビみたいなものか。いろいろと世界観が混ざってやがるなこれは…
「おらぁぁぁっ!」
強引に俺は出てきた妖怪の首を引っ張り頭に銃を撃つ…妖怪ってもっと恐ろしいイメージがあったんだが霊夢の言った通りめちゃくちゃ弱い…たかが一介の人間に引っ張られるって妖怪って…
「なんの為に生きているんだ…」
俺はあまりのこの妖怪の弱さに思わずそう呟いた…
「凄え…流石博麗の巫女の代行だ…」
マップに映らないってことはもう妖怪はいないよな…あの一体だけだったのか?
「それでは私は次の用件がありますので失礼しますよ…」
俺はそう言って畑を後にした。
「ありがとうございます!」
それから妖怪退治は順調に終わり、最後の一件となっていた。
「ヴォォォォッ!!」
今までの奴に比べてデカイな…これぞ妖怪って奴だ。
『中級妖怪が現れました。中級妖怪は先ほどの妖怪…下級妖怪よりも動きが速く、強いので注意しましょう。また中には頭を撃ち抜かれても死ななかったり、中級妖怪の格上とされている大妖怪を上回る力の持ち主もいます。油断していると死ぬので油断はしないようにしましょう』
またもやメインコマンドが現れ、それだけ警告すると消えた…これで最後になるのか?
「ガァァァッ!!」
うるせえっ!面倒だが仕方ねえ…RPGを使うか?…いやダメだな。RPGは危険だ…Shotgunだな。よし!武器変更!
「ァァァァァァッ!!」
今相手してやっから少し黙ってろ! そらよっ!!
ドガッ!!
「う…ォォ…」
トドメはメリケンでいいだろ…
「おらぁぁあっ!」
バキバキッ!!
「グァオォォォォッ!」
そして中級妖怪が悶え苦しむと…気絶した。…今まで言ってなかったが俺がやった妖怪は銃弾が弾幕になっているから全て殺してはおらず気絶した。そのあと妖怪たちは縄で絶対に逃げられないように緊縛してやったから問題ない。
『それでは妖怪退治が終わりましたのでメインコマンドの依頼からご褒美をみてください』
ご褒美か…ってめちゃくちゃ多いな…
『ご褒美は所謂妖怪を退治したボーナスみたいなものです。ご褒美の中には様々な道具やコードが含まれます。ご褒美を多く貰いたければ妖怪をなるべく生け捕りにして殺さないようにしましょう。』
なるほど…ご褒美がチュートリアルにしては量が多いと思った…
『それでは妖怪退治のチュートリアルを終了します。お疲れ様でした』
ようやく終わったか…とりあえずセーブと…
「霊夢、終わらして来たぞ!」
俺はその後依頼主から感謝され、色々と報酬も貰って博麗神社へ帰り依頼主達から貰った穀物、野菜、肉類…とにかくいろんな食材を全て置いた…
「ごめんなさいね…勇姿さん。私が動けずこんな仕事をする羽目になって…」
そのことか…まあ俺は気にしていないし、チュートリアルがある以上はむしろ必然だったと思うぜ…
「いや俺が頼んだことだ。そう気にするな…」
とは言えそんなことは言わずに霊夢を罪悪感を消すためにそう言ってやった…
「ところで妖怪退治の報酬はそれ?」
「そうだ」
「これ結構多いわね…勇姿さん…料理できる?」
料理か…まあ一人暮らしの時も小さい飲食店のバイトで料理したことあるし大丈夫だろ…なんでそんな大役が出来たかって?実を言うと俺の顔があまりの厳つさにウェイターとか皿洗いとかやるとお客がビビって減るんだよ…まだキッチンで働いていた方がマシなのと俺が普通の従業員よりも有能だったのが原因だ…おかげでその店は一時的に話題になりTVの取材も入ったがまたもや俺の顔のせいでなしとなった。どんだけ顔に呪われているんだよ…俺の人生…
「出来る方だな…」
そう言うと霊夢は何かを決意した顔になった。
「それじゃちょっとした宴会をやるからこの材料を使って夜までに料理しておいて。私は人を集めるから…」
…って飛んだ!?おいおいあいつもチートかよ…何だろうこの敗北感は。
「仕方ない奴だ…」
そう言いながらも俺は料理をすることになった…
包丁はと…あっ、やべっ! 手滑った!! 包丁を拾って洗わないとな…
「やはり生ものだな…」
包丁を洗いながら俺はそう呟いて肉類から仕込むことにした。
どうでもいい話ですがこの主人公の外見イメージは作者的には黒髪にしたガノンドロフをイメージしています…
顔が厳ついキャラっているにはいるけどイメージに合わないことが多いんですよね…
例えばエンジェル伝説の北野誠一郎は顔のみで言えばヤ9ザよりも不気味な悪魔的なイメージが強いですし、なんとも言えませんしね…
ちなみに今回の元ネタはあるにはありますが…微妙なので載せません。
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6話
私は幻想郷でスキマから覗いて彼の様子を見ていた…誰のことかというと私を車で弾いた人間…大和勇姿のことだ。私に勘付いた挙句コケにした彼が幻想郷をどのようにして乗っ取るか行動パターンをみる必要があった…
「幻想郷を征服するか…」
何故いきなりそんなことを言い出す!? もしかして私に勘付いている…わね…スキマ越しに私と目が合うと彼は「お前のことは気づいているぞ?」と言いたげに見ていた。おそらく私を挑発して目の前に出てきたら掌の上で踊らせるのが目的…全く厄介極まりないわね。
「勇姿さん、ちょっと人里に行ってくれない?」
霊夢…ナイスよ!
「ん? 別に構わないが…どうした?」
「ん~…実は今日、妖怪退治の日だったのをすっかり忘れてたのよ…勇姿さんは外の世界の人だけど、かなり弱いし大丈夫よ。博麗の巫女の代行と言っておけば問題ないわ」
「妖怪とは…一体?」
トボけやがって…実際わかっているんでしょ?
「そう言えばその説明して無かったわね…この幻想郷は忘れ去った者達が集まる場所だから、妖怪も例外じゃないのよ…」
霊夢の説明に彼は私の顔を見て納得したように頷いた…大妖怪が暇でこんなことをする訳ないでしょう…?仕事よ! 仕事!
「そういうことか…しかし大丈夫なのか? 筋肉痛…」
内心ではこう思っているでしょうね…「俺の監視は無駄だから暇つぶしにしかならない。諦めて他の仕事をしな!」…と。でも絶対に諦める訳にはいかない。ここで諦めて見ないうちに幻想郷を征服されたらたまったもんじゃない…
「そりゃ痛いけどあらかたの家事は終わったみたいだし、多少動く程度なら問題ないわ。それとリストはそこにあるから頼むわよ」
「そうか…それじゃ行って来る」
「行ってらっしゃい」
それから彼はどこからともなく外の世界にあるジェットパックを取り出し周りの様子を見ていた…しばらくするとつまらないと思ったのかジェットパックをしまい、人里へと向かった。
「博麗の巫女の代行の者ですが妖怪退治を依頼したのはこちらの方でしょうか?」
彼は敬語で話すが依頼主はビビってしまう一方…当然と言えば当然ね。霊夢などはともかく普通の一般人ならその威圧感に押されてもおかしくはない…
「そ、そうです!」
依頼主が返事をすると彼はどの妖怪を狩ればいいと言いたげに話しかけた。
「それでその妖怪はどこに…?」
すると彼の目がもう妖怪という名の獲物を狩る狩り人となっていた…
「いつも私のいない間に私の畑に荒らしにくるんです…なんとかしてください…」
依頼主も彼の威圧感が他の方向に向けられるとわかると少しずつ話し始めた。
「そういうことですか…では畑に案内して下さい」
彼の機嫌は良くなり威圧感もほぼなくなった…
「へえ…わかりました」
そして依頼主が畑に案内すると…彼の目つきが畑の作物の地面に向けられた。
「この辺ですか?」
彼の「この辺ですか?」はおそらく被害があったことを確認しているのだろう…わざわざ聞くのは彼なりの礼儀かもしれない。
「ええ…そこら辺です」
「なるほど…」
いきなり彼の手からピストル型の銃が出て来て地面に向けて…狙撃した。
バン! バン!
「シャギャァァァッ!」
やはり下級妖怪は地面に潜っており彼の目からは誤魔化せない…私ですら気づいているのにこの男が見破れないと思うの?
「おらぁぁぁっ!」
え…?! 無理やり妖怪の首を掴んで銃頭を頭に向けて撃った!? …通常なら人間は下級妖怪と言えども純粋な力のみなら全く叶わない。ところが彼はほぼ力任せに首を掴んで自分の元へ寄せたのだ…全く持ってやった意味がわからない…というか幻想郷にも常識があるのに彼はそれを次から次へと破壊していく。私の手に負えるかしら…いや負える負えないの問題じゃなく、やるしかない。彼は幻想郷の乗っ取り計画を立てているのだから。
「なんの為に生きているんだ…」
おそらく彼は試した。下級妖怪がどこまで足掻け、どこまで抵抗できるかを…だけどそれは本当に強者だけが出来る物。こんな化け物は人間の中じゃ初めてじゃないかしら…
「凄え…流石博麗の巫女の代行だ…」
私もそう思うわ…ただし霊夢と代行という意味でなく、下級妖怪を生け捕りにしたという意味でだけど…
「それでは私は次の用件がありますので失礼しますよ…」
とんでもない化け物ね…彼。博麗の巫女、つまり霊夢ですら妖怪を退治するとなれば霊力を使って追い払うのが常。その方が力も使わないし楽…しかし彼は霊力、魔力、妖力、神力などのありとあらゆる力の源を使わないどころか出さずに妖怪を捕まえた…これを化け物と言わずして何といえばいいのかしら? 力のみなら妖怪トップクラスの鬼も妖怪である以上は妖力を使って力を増している。ますます化け物だと思わざるを得なかった。
「ありがとうございます!」
その後も彼は人里の下級妖怪を倒して行き…ついに最後の一件を見ることになった。
「ヴォォォォッ!!」
あれは確かパワーのみなら普通の鬼に匹敵する中級妖怪だったわね…何でこんなところに? という疑問は…まあ管理不足によるものかしら? 後で藍にお仕置きしないといけないわね。
「ガァァァァァァァァァッ!!」
彼はピストル型の銃をショットガンらしきものに変えてその中級妖怪に向かって撃った。
その瞬間、ショットガンの爆音が私の耳に届く。
「う…ォォ…」
中級妖怪がその玉の数に耐えきれず、呻き、動きが止まった…もう確定ね。この妖怪の末路は…
「おらぁぁあっ!」
彼はショットガンをしまい、手にメリケンサックをつけて右ストレートを放った…
骨が折れ、肉が破壊される音がその場に響く。
「グァオォォォォッ!」
その中級妖怪は断末魔を上げると吹っ飛び転んだ。そして彼は縄を取り出して中級妖怪を器用に結んだ…
「代行様!これを持って行ってくだせえ!」
そして彼は報酬の食料を持って行き、博麗神社へと向かって行った。彼に会う時は彼のことを代行様と呼ぶことにしよう…うん、それがいいわね。
「霊夢、終わらして来たぞ!」
彼がそう言って霊夢に帰ったことを告げた。
「ごめんなさいね…勇姿さん。私が動けずこんな仕事をする羽目になって…」
霊夢…貴方が謝る必要はないわよ。もし謝ったら彼のペースに乗せられるだけよ!
「いや俺が頼んだことだ。そう気にするな…」
ほら言わんこっちゃない…霊夢もまだまだ未熟ね。
「ところで妖怪退治の報酬はそれ?」
霊夢は話しを切り替えて、依頼主から貰って来た食料を指差した。
「そうだ」
彼は肯定して頷いた。
「これ結構多いわね…勇姿さん…料理できる?」
霊夢は間接的に「料理作ってくれない?」と言っているのだ…
彼の返事は「俺に料理をさせる気かぁぁっ!?」とどこからともなく持ってきたちゃぶ台をひっくり返してそういうと思った…今のは冗談にしても言葉を濁して無理というだろうと私は思ったがそれを彼は裏切った。
「出来る方だな…」
彼は意外にもそう言った。普通は料理が趣味と考えるだろうが…料理を自分でせざる得ない状況が出来るほど外の世界で暗殺されかけたのかしら?となれば彼の妖怪を上回る力も納得がいく。
「それじゃちょっとした宴会をやるからこの材料を使って夜までに料理しておいて。私は人を集めるから…」
彼は納得がいき、霊夢が飛んだのを見ると「仕方ない奴だ…」と行って台所へと向かった。
彼は包丁を取り出そうとして手が滑った振りをして私のいる方向に包丁を落とした…
「やはり生ものだな…」
つまり彼はこう言っているのだ…「今のは警告だ。これ以上俺のことを監視するならお前をいたぶり殺してやるから覚悟しておけ。」と。はぁ…仕方ないわね。ここで争っても多くの犠牲が出るだけでしょうし撤退させて貰うわ。
今のところ勘違いしているのは紫だけという悲しい状況に味方はいるのか!?
そんな時は旧作キャラを使ってしまえ!という理由で次回は旧作キャラの登場です。ではまた次回…
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7話
博麗神社で宴会の準備をするために俺は料理…と言ってももう盛り付けて終わるけどな。
「勇姿さん。終わった?…って結構豪華ね…」
霊夢か…そっちは紹介し終わったみたいだな。
「あと盛りつけて終わるだけだ。豪華に見えるのは肉や野菜を上手く使って体積を増やしたからな…」
バイトの時に色々な食材と調味料を組み合わせるのにどれだけ苦労したか…俺のバイト先ではコックが怒られるとコックが客に謝ることになっていたんだが…俺の場合強面過ぎて逆に謝られた記憶がある。それで客が減ったのを見かねてオーナーはそれをやめて俺をコックとして雇ってくれた…ホントあの人には感謝の一言だよな。
「想像以上ね…ここまで上手くできるなんて。」
まあそうだよな…こんな強面の顔が料理しているなんてのは常識から離れているしな…
「色々と訳ありでな…」
ホント訳ありだよ…俺の顔が少し若ければこうは上手く行かなかっただろうな…顔の傷も無ければなおさらよかったんだが…仕方ないことだ。油断した俺が悪いんだし。
「そう…それよりもそろそろ一人目が来るから早く準備しておいてね。」
「わかった。」
一人目と言うと…箒に乗ってやって来るあれか?多分あの金髪といい、帽子や格好といい…魔理沙だろうな。
「よう久しぶりだな、勇姿!」
そう言って魔理沙が箒から降りて俺に挨拶をした。
「魔理沙…お久しぶりですね。」
俺は丁寧に魔理沙に挨拶をした。
「そういえばさ勇姿、霊夢から聞いたんだが…帰れなくて博麗神社に住まわせて貰っているんだって?」
「ええ…その通りですが。それがどうかしましたか?」
「私の師匠がこの神社に住んでいるんだよ。悪霊だけどさ。魅魔っていうんだけど知らないか?最近どっか行っちゃってさ…」
悪霊…悪霊といえば前に超胡散臭い退魔師がニュースで捕まってたな…詐欺罪とかで。しかもその金額がやばかったから良く覚えている…たしか被害総額1億9000万円だったはずだ。一回につき1000万くらいぼったくっていたらしく俺の友達もその被害にあったらしい。世の中って狭いよな。
「少なくとも私は知りませんね…ですが…」
マップ起動!博麗神社付近に魔理沙や霊夢以外の主要人物は…うん?物置か?
マップを解除して俺は物置に近づいた。
「私の勘だとここにいると思いますよ。」
そう言って物置の中に入り、マップを再び起動させた…すると目の前の…陰陽師のマークを球にした物が主要人物と同じ点にいることが分かった。それがわかれば後はマップを解除して俺はその球を手にした。
「この球ですね…」
「これは霊夢の陰陽玉か…?」
魔理沙はその球…陰陽玉を見て目を開く…俺だってこんなのか主要人物なんて信じたくはないけどね。
「この陰陽玉におそらく魅魔という方がいるのでしょう…」
だから言ってやったよ…俺の感想の一部を。
「全くこんなにあっさりバレちゃしょうがないね。」
第三者の声が響き渡るがその場所は陰陽玉から出ているとわかっているので俺と魔理沙は陰陽玉を見た。
「貴方が魅魔さん…という訳ですか?」
俺がそう言うと緑髪の女性(と言っても足はなく幽霊みたいな感じ)がドヤ顔で現れた。
「そ~さ…私が魅魔様さ。」
それを魅魔が言った途端俺の空気が凍った…いや何ね?まさか自分で様をつける奴なんていないと思っていたからさ…
「あ~…とは言っても勇姿…あんたは私のことを魅魔と呼んでおくれ。それと弟子でもないのに敬語はやめておくれよ?霊夢と同じように普通に話してくれれば構わないから…」
俺の凍った空気を溶かそうと魅魔は呼び捨てで呼ぶように命令した…ん?なんで俺のことを知っているんだ?聞いてみるか。
「何故私の名前をご存知なのですか?」
「そりゃ、博麗神社が私の領域だからさ。だからあんたのことはよく知っているしあんたは自己紹介もしなくていい…それよりも敬語やめなって…それとも私の弟子になりたいのかい?」
なるほど俺のマップを弄ったものか…
「いや…それはない。」
「それでいいのさ…あんたには魔力が感じられない。魔法使いとは縁がない体質なのさ…あんたは。」
魔力?幻想郷には忘れさられた奴らがいるっていうけどモノホンの魔法使いか?それとも30歳童貞のあれか?後者だったら魔理沙が30歳…嫌すぎる。
「まあ、魔法使いになる気にはサラサラないけどな。」
もちろん30歳童貞の方だが…前者にもなりたくはないな。前者になっても精神的に疲れそうだしな。ほら王道とかでよくあるじゃん?魔力を使うと疲れるって…精神的に疲れると身体を動かすしかないんだよな。
「まあ、魔法使いの対策くらいは教えてやることは出来るからいつでも話しかけな!」
そう言って魅魔は陰陽玉に入って行った…勝手な奴。
『陰陽玉を手に入れてください。』
ぬおっ!?まだチュートリアルがあったのかよ!まあいい…後で霊夢に渡すという口実で手に取るか。
『陰陽玉は魅魔が眠っており陰陽玉を使うと戦闘では補助、それ以外では特訓の相手や話し相手になってくれますので是非活用しましょう。』
便利だが…特訓とかの方に使うだろうな俺。
「あっ!?魅魔様!カムバーック!!」
魔理沙がそう言って呼び戻そうとするが無駄だよ…あん?なんで無駄なんだ?魔理沙は魅魔に師事していた感じだったし…別に戻ってもおかしくないよな?まさかとは思うけど試してみるか?
「おい?勇姿?」
魔理沙がそう言って俺に声をかけるがちょっと黙ってくれ。メインコマンドの道具にある陰陽玉を使うと…
「よっ…!」
魅魔が再び出てきた…
「魅魔様!さっきは酷いぜ!」
当然魔理沙は師匠である魅魔に抗議した。まあ俺もそうするしな。
「もしかして魔理沙かい?」
魅魔は魔理沙に気がついたけど…しばらく会っていなかったみたいだな。
「そうだ!私は霧雨魔理沙!魅魔様の弟子だぜ!」
魔理沙がそう言うと魅魔は目を丸くした
「いや~成長ってのは怖いもんだね。てっきり別人かと思ったよ…」
上手いこと誤魔化そうとしているけど実際にはあれだろ?気がつかなかった言い訳だろ?
「へへ…」
魔理沙は褒められて照れ笑いをしていた…全くどいつもこいつもダメだこりゃ。
「ところで…早速私の講座を聞きたいのかい?」
そう言って魅魔が俺に尋ねるが…俺はこう答えた。
「いや、俺が呼んだのは魔理沙に会わせる為でそれ以外に理由はないぜ。」
とはいえ、流石に講座を受けるほどKYではない。
「そうかい。それじゃ勇姿、魔理沙に会わせてくれてありがとうよ。」
そう言って魅魔は陰陽玉に入っていった…
「それじゃ魔理沙。宴会の続きでもしましょう。」
俺はそう言って魔理沙を促すと魔理沙は照れ臭そうに言った。
「勇姿、ちょっとその…敬語は止めてくれ。なんか恥ずかしいぜ…」
魔理沙はそう言って俺に敬語を止めるように言ってきた。
「では魔理沙。宴会の続きだ…ぱーっと騒ごう!」
俺は微笑んだ後、そう言って魔理沙の背中を軽く叩いた。
「おうよ!」
魔理沙は満面の笑みでそう答えた。
しばらくして…魔理沙とは別行動していたら二人の女性を目に見えたのでそれを眺めていた。
「ん~…どれにしようかな~…」
そう言って銀髪の髪をサイドテールにした小柄な女性が結んだ髪で選んでいた…それしか言いようがないから表現に困る…
「神綺様…アホ毛をぶん回して選ばないで下さい。」
もう一人は金髪の女性だがメイド服を着ており、その小柄な女性のことを様づけしていたことからモノホンのメイドだとわかった。
「夢子ちゃん、箸じゃないからオーケーよ!」
そういう問題ではないと俺は思う…え~と確かにあの銀髪は神綺で、メイドの方が…夢子だよな?ちょっと面白そうだし、話しかけてみるか。
「そういう問題ではなくですね…ほら止めて下さい。」
夢子は俺が近づくにつれて冷や汗をかいているが神綺の方は俺が近づくことに気づいていないため全くあせる様子もない…まあ二人の反応は普通の反応だな。俺って顔かなり怖いしな…
どのくらいかと言われれば親父狩りしているチンピラが俺の顔を見ると顔を真っ青にして逃げて警察に駆け込んでそのまま逮捕…なんてことはよくあった。他にも他校の女子高校生に告白しようとしたら脅迫罪の容疑で逮捕されかけた…誤解は解けたものの顔が怖すぎると言う理由で振られたのは記憶に新しい…というか似たような説明をしたような気がする…
「よし!これに決めた!」
そう言って神綺は皿に手を伸ばそうとして顔をわずかに動かすと俺と目が合い硬直した。
「…」
そして神綺は手を引っ込めて夢子を連れて、そーっと俺から離れようとした。
「神綺さん…でよろしいですか?」
俺がそう言うと神綺はビクッと反応した。
「な、な、な、何かしら?」
めちゃくちゃ動揺しているが俺は挫けない…
「先ほど手に取ろうとした食べ物は食べないんですか?」
自分のコミュニケーション能力のなさにうんざりする…
「ちょっとお腹壊しちゃって…あ~お腹痛いわ~…夢子ちゃん。私ちょっとお腹治してくるから頑張って!」
そう言って神綺は腹を下したことを理由に去っていった…
「ええと…私は神綺様の看病があるので失礼します。」
優秀だな…このメイドは。もう冷や汗をかかずに俺に冷静に対応してきた…
「では二人ともお気をつけて…」
俺は自分の立場上そうしか言えないのでその場で立ち尽くした…はぁ…この強面の顔が恨めしい…
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8話
「よう久しぶりだな、勇姿!」
私はそう言って博麗神社に居候している妖怪、大和勇姿に挨拶した。
「魔理沙…お久しぶりですね。」
勇姿は丁寧に礼をして私に挨拶し返した。
「そういえばさ勇姿、霊夢から聞いたんだが…帰れなくて博麗神社に住まわせて貰っているんだって?」
私が来た時、勇姿はたまたまいなかったけど霊夢の代行をやっていると聞いて少し驚いた…霊夢は譲らないし、そうなったらどうしようもないからな…
「ええ…その通りですが。それがどうかしましたか?」
「私の師匠がこの神社に住んでいるんだよ。悪霊だけどさ。魅魔っていうんだけど知らないか?最近どっか行っちゃってさ…」
私の師匠の魅魔様は何故か行方不明になり魔界にいっても見つからない…霊夢は面倒くさがって探してくれないし…だから私は勇姿に頼んだ。
「少なくとも私は知りませんね…ですが…」
勇姿は物置に近づいで…扉を開けた。
「私の勘だとここにいると思いますよ。」
そう言って物置の中に入ると目の前の陰陽玉を手にした。
「この球ですね…」
「これは霊夢の陰陽玉か…?」
私は陰陽玉を見て目を開く…何しろそれは霊夢の陰陽玉…前までの霊夢の武器と言っていいものだ。
「この陰陽玉におそらく魅魔という方がいるのでしょう…」
「全くこんなにあっさりバレちゃしょうがないね。」
第三者の声が響き渡り、私と勇姿は陰陽玉を見た。
「貴方が魅魔さん…という訳ですか?」
勇姿がそう言うと魅魔様がドヤ顔で現れた。
「そ~さ…私が魅魔様さ。」
魅魔様はそう言って勇姿を見ると少し気まずい顔をした。
「あ~…とは言っても勇姿…あんたは私のことを魅魔と呼んでおくれ。それと弟子でもないのに敬語はやめておくれよ?霊夢と同じように普通に話してくれれば構わないから…」
魅魔様は勇姿を呼び捨てで呼ぶように命令した…
「何故私の名前をご存知なのですか?」
勇姿は魅魔様とは初対面なのかそう言って魅魔様に何故自分の名前を知っているのか尋ねた。
「そりゃ、博麗神社が私の領域だからさ。だからあんたのことはよく知っているしあんたは自己紹介もしなくていい…それよりも敬語やめなって…それとも私の弟子になりたいのかい?」
博麗神社が魅魔様の領域…魅魔様、博麗神社を乗っ取ったのか?いやそれよりも勇姿が魅魔様の弟子になったら私の弟弟子になる。これはこれでいいかもしれないな。
「いや…それはない。」
しかし魅魔様の勧誘を断って勇姿はそう言った。
「それでいいのさ…あんたには魔力が感じられない。魔法使いとは縁がない体質なのさ…あんたは。」
魔力がない?私もはじめはそうだったけど魅魔様に魔法使いになれないと言われるほど酷いのか?
「まあ、魔法使いになる気にはサラサラないけどな。」
勇姿は外の妖怪だし、もしかしたらその必要もないのかも…
「まあ、魔法使いの対策くらいは教えてやることは出来るからいつでも話しかけな!」
私が考え事をしている間に魅魔様は陰陽玉に入っていった。
「あっ!?魅魔様!カムバーック!!」
私は陰陽玉にそう叫ぶが何の反応もなかった…可愛い弟子の顔を見て何も思わないって…そう考えていると勇姿が陰陽玉をかざした。
「おい?勇姿?」
私は勇姿の行動が理解出来ずに勇姿に話しかけるが勇姿は集中しており無視された。
「よっ…!」
いきなり魅魔様が再び出てきた…
「魅魔様!さっきは酷いぜ!」
当然私は師匠である魅魔様に抗議した。
「もしかして魔理沙かい?」
魅魔様はようやく私に気がついた…何で可愛い弟子に気がつかないのか疑問に思う。
「そうだ!私は霧雨魔理沙!魅魔様の弟子だぜ!」
私がそう言うと魅魔は目を丸くした。
「いや~成長ってのは怖いもんだね。てっきり別人かと思ったよ…」
魅魔様がそう言って私の姿を見て頷いていた。
「へへ…」
私は久しぶりに会って褒められて照れ笑いをした。こうやって褒められるのはいつ以来だろう…
「ところで…早速私の講座を聞きたいのかい?」
そう言って魅魔様が勇姿に尋ねるが…勇姿はこう答えた。
「いや、俺が呼んだのは魔理沙に会わせる為でそれ以外に理由はないぜ。」
勇姿は私のことを心配していたのかそう魅魔様に言った。
「そうかい。それじゃ勇姿、魔理沙に会わせてくれてありがとうよ。」
魅魔様は陰陽玉に入っていった…
「それじゃ魔理沙。宴会の続きでもしましょう。」
勇姿は私を宴会を楽しむように促すが私はちょっと不満だった。
「勇姿、ちょっとその…敬語は止めてくれ。なんか恥ずかしいぜ…」
魅魔様や霊夢に対して勇姿は敬語じゃないし、それに敬語はなんか恥ずかしくなった。
「では魔理沙。宴会の続きだ…ぱーっと騒ごう!」
勇姿は微笑んだ後、そう言って私の背中を軽く叩いた。
「おうよ!」
私は満面の笑みでそう答え…気分が良くなった…
####
博麗の巫女に宴会を誘われ神綺様と私は博麗神社に来ていた、
「ん~…どれにしようかな~…」
そう言って神綺様はアホ毛で皿を選んでいた…
「神綺様…アホ毛をぶん回して選ばないで下さい。」
私は呆れた声を出して注意するが神綺様はテンションが上がっており無駄だった。
「夢子ちゃん、箸じゃないからオーケーよ!」
と言って神綺様は私の注意を受け流した…
「そういう問題ではなくですね…ほら止めて下さい。」
しかし、私が止めようとしたのはそんなのが理由ではない…神綺様の死角に怪物が私の視界に映っているからだ。その怪物は魔力や妖力などの力を感じさせないがあれと戦って勝てるか?と言われたら無理と答える。その怪物は人間の皮を被った別次元の生き物だ…神綺様もそう思うだろう。
「よし!これに決めた!」
そう言って神綺様は皿に手を伸ばそうとして顔をわずかに動かすとその怪物と目が合い硬直した。
「…」
そして神綺様は手を引っ込めて私の手を取った。
「神綺さん…でよろしいですか?」
怪物が地を這うような低い声で神綺様を呼んだ。
「な、な、な、何かしら?」
神綺様が珍しく怯えてそう答えた。神綺様は母性が強く、私達のような魔界出身の者であれば子供みたいなものだと言ってくれる…だから神綺様は通常であれば何が何でも私を守る為に威嚇するが…今回は怪物が相手だ。怪物は魔界神である神綺様の威嚇すらも許さなかった。
「先ほど手に取ろうとした食べ物は食べないんですか?」
そう言って怪物は先ほど神綺様が取ろうとした皿を取った。
「ちょっとお腹壊しちゃって…あ~お腹痛いわ~…夢子ちゃん。私ちょっとお腹治してくるから頑張って!」
そう言って神綺様はわざとらしい演技で怪物から立ち去った…神綺様は本来こういった外交には向いていない。なので私に任せたというところだろう。
「ええと…私は神綺様の看病があるので失礼します。」
これまで生きてきたなかで最も冷静に対応し、怪物から私は立ち去った…二度と関わりたくない。
「では二人ともお気をつけて…」
怪物は全くといいほど心配そうな顔はしておらず漆黒の髪を揺らしてそう言った…
「何よ…あの化け物は!」
魔界に帰り、神綺様は身体を震えさせた…神綺様は魔界を作った創造神というだけあって強さは半端ではない。それこそ幻想郷にいる神なぞ虫ケラ扱いしてしまうくらいには…敗戦は霊夢くらいだろう。
「神綺様、落ち着いてください。私もあの怪物を見てみましたがそこまで怯える程なのですか?」
しかしそれでは納得がいかない。あの怪物は霊夢程ではなかったはずだ。霊夢程の力を持った怪物なら既に魔界に侵攻しているし、名前も知っているはずだ。
「夢子ちゃん…あれは化け物よ。なまじ強いが故に力の差を感じてしまう…まさしくその通りだったわ。私以上の実力者なら感じているでしょうね。おそらく霊夢も…」
その力を少ししか感じ取れなかった私は神綺様と同じ舞台に立てないということか…
「アリスちゃんが心配だわ…急いで手紙書かないと!」
そう言って神綺様はアリスに手紙を書いた…
まあ普通なら幻想郷に行って連れ戻すのが手っ取り早いけど神綺様はあれがトラウマになり幻想郷には行けなかったということがよくわかった。
恐ろしい化け物が幻想郷にいたものね…
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紅魔郷編
9話
色々おかしい部分があったのでセリフの追加をしました。
レミリア・スカーレット。その名前は成金趣味丸出しの赤い絨毯…どころか館が真っ赤という悪趣味全開の紅魔館の主であり、異変の原因の赤い雲を出した張本人である。赤だらけなのは気にしてはいけない。
「なんかめちゃくちゃボロクソに言われた気がするわ…」
そう呟いたのはピンクのロリ服を着た銀髪ロリ…彼女こそがレミリア・スカーレットである。
そんな彼女の能力は『運命を操る程度の能力』…見た目も能力もかなり胡散臭いとか言ってはいけない。
「にしても何なんだ?この運命は…」
彼女は能力を使い、運命を見ていたが…どうにも見えない部分があった。その部分が運命の大半を占めていたのでそれを見ようと視点を変えてみたが結果は同じ…諦めて他の運命を見ることにした。
ババババッ!
すると外から風を切るような音が連続して聞こえた…
「やかましいな…咲夜!」
そして彼女は自分の最も信頼する従者を呼んだ。
「お呼びですか?お嬢様?」
そう言って現れたのはメイド服を着た銀髪の少女…十六夜咲夜だった。彼女はメイド服を着ていることとレミリアの従者であることからレミリアのメイドであり、また唯一紅魔館の中では人間である。
「外の馬鹿を殺せ。そして…」
BAGOOON!!
レミリアが咲夜に命令しようとした時いきなり紅魔館の壁が壊れ、埃が舞い散り煙のようになった…
「…私をここまでコケにするとはいい度胸だ。」
レミリアはその被害を受けギャグのようにタンコブが出来ており、少し涙眼になっていた。言っている事の割には情けない姿だった。
「(ああ…お嬢様…こんな状態でも凛々しくあられようとするのですね…)」
咲夜は自らの能力『時を操る程度の能力』で時を止め、涙眼になったレミリアを見て忠誠心を出し…ティッシュで抑えると能力を解除した。
「貴様が異変を起こした野郎か?」
地を這うどころか地獄の底よりも低く、決して大きくはないが透き通る声が紅魔館を響かせた。
「どこにいる!?出てこい!!」
レミリアがそう言って周りを見回すが人影らしきものはなかった。
「ここだ。」
そして煙から現れたのは軍用ヘリに乗っており、RPGやrifle、ライトマシンガンなどを担いでいた大和勇姿だった。
「(ひっ!?化け物!!)」
レミリアが見たものは今までにない程凶悪な面で狂気状態のレミリアの妹がペット用の子犬だとするなら、その雰囲気は怪獣である…
「博麗の代行、大和勇姿だ。異変を止めにきた。」
「(イヤイヤ…まだ私を殺すとは言っていないし、生きる可能性はあるわ!)」
レミリアは本能で勇姿が核爆弾並に危険だと判断し、慎重に交渉しようかと思っていた。
「まあ、止めにきたと言ってもどんな奴であろうと異変の犯人は殺すのみだ。」
しかしレミリアは絶望のどん底に落とされた…
「(ここで私が出れば殺される…なら出なければいい…)」
そう考えていると勇姿は何か気づいたかのように手を叩いた。
「そうそう、言い忘れたがここらにいるのはわかっている。もし出てこない場合はこの場にいる者は皆殺しだ。」
どん底どころか地球の核まで落とされた…そんな声がレミリアの中で聞こえた。
「(私には咲夜やフランを守る義務がある。やむを得ないか…)」
レミリアは自分の最高の従者の咲夜や妹のフランドールを守る為に覚悟を決めた。
「私だ!私が異変を起こしたっ!」
そしてレミリアは勇姿に言った。
「そうか貴様か。では死ね。」
パンッ!
そして…勇姿は表情一つ変えずに銃を撃ち、銃弾が咲夜の頭にあたり咲夜は死んだ。
「貴様!話が違うぞ!」
レミリアは勇姿が咲夜を殺したことに激怒した。
「馬鹿をいえ…確かに俺は出なければ皆殺しとは言ったが、出てきたらどうするかは言ってはいない。それに…貴様は妖怪だ。肉体的に殺すよりも精神的に殺した方が効率的だと思ってな…」
あまりに冷徹な言葉にレミリアは身体を震わせた。
「貴様ぁぁぁっ!」
レミリアは遂にキレ、それまであった恐怖など御構い無しに勇姿に襲いかかった。
「所詮この程度か…」
そして勇姿は形状が現代にあるものとは違う水色のマシンガンを取り出し…それを撃った。
ピピピピピピ!
「がぁぁぁっ!?」
レミリアはそれをまともに喰らって最後には脳天をやられた。激怒して攻撃が直線的になったこともあるがその武器の威力、そしてスピードが現代の武器とは桁違いに性能が上で吸血鬼といえども敵わない程であった…
「さて…行くか。」
そして勇姿が去ると…その景色は真っ白になった。
~現実~
ガバッ!
レミリアは目を覚め、勢い良く起きた。
「はぁーっ…はぁーっ!」
しかしレミリアの頭からは汗がダラダラと垂らしており、死んだ魚のような目をしていた。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
咲夜がレミリアを心配し、駆け寄る。
「咲夜…よかった…」
レミリアは咲夜を見たとき目が生き返り、まるで本当の幼子のように咲夜に抱きついた。
「お、お嬢様!?」
咲夜はこれに焦った…何故なら…
「(お嬢様から抱きついて貰えるなんて…私は果報者っ!)」
夢と同様に咲夜は変態であった。
「う~…」
レミリアのロリ声が咲夜にトドメを刺し咲夜を凍らせた。
「咲夜…よかったよぉ…」
その声は咲夜には聞こえず、周りにも聞こえずカリスマブレイクはある程度で済んだ。
しばらくしてレミリアは事情を話した。
「ではお嬢様…異変はどうするのですか?」
咲夜はそう言ってレミリアに尋ねる。レミリアは異変を起こすように八雲紫に言われている。レミリアはその時暇つぶしにはちょうど良いと思い引き受けた。だが今日の夢のような怪物が出てきたら…おそらく死ぬだろう。咲夜はそれが心配だった。
「やるさ…もちろん。」
レミリアは悪巧みを考えついた顔でそう答えた。
〜博麗神社〜
その頃…レミリアの夢の中で外道となった勇姿は…
「霊夢、また妖怪退治してくるぜ。」
新たなコードや道具の入手、金稼ぎの為に妖怪退治をしていた。
「いってらっしゃい。」
霊夢はそっけなくそう返事をして神社の掃除をした…
これが二人の日常である。霊夢も妖怪退治をしていたのだが異変に関連しない弱小妖怪を倒すのが面倒になってきたのと、勇姿が引き受けた方が何故か収入が良いので勇姿に任せることにした。
「勇姿さんがいて助かるわ…」
勇姿の見た目は霊夢から見ても恐ろしいものだ。だが霊夢は勇姿は無害で人間だと勘が言っているのでそれを信じることにした。
すると実際その通りで勇姿を神社に済ませても問題はなかった…
「お茶も濃くすることが出来たし、饅頭は食べられるようになったし…何一つ言うことないわ…」
霊夢はそれまでお茶はお湯当然のものだったし、饅頭どころか菓子も食えない…どれだけ彼女が貧乏だったかわかるだろうか?勇姿が来てくれたことによって霊夢は救われた。霊夢にとって勇姿は恩人である。
「うん?」
霊夢が掃除をしていると赤い雲が幻想郷を覆った。
「異変なら仕方ないわね…」
勇姿が来て初めての異変が始まり、霊夢は神社を離れた。
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10話
俺はいつものように妖怪退治をし終わり、神社に帰ろうとすると赤い雲が幻想郷を覆った。
「おいおい…なんだこりゃ?」
俺は思わずそう呟いた。赤い雲なんてものは元の世界にはなかったし、何しろ妖怪や魔法使いなどなど生物に関する機会はあっても無生物と触れ合う機会はなかった…
『異変が発生しました。』
どこからともなく声が聞こえ、イベントが発生したことを教えてくれた。…仕事早いな。
『異変は首謀者を倒すことにより、解決します。首謀者の位置はマップの紫の点の位置にいます。移動する際に、妨害を受けることが数多くありますので妨害を受けたらその妨害者を倒して進みましょう。』
何気にずいぶん物騒なことを言うな…
『なお、異変の際に銃弾を撃つことは出来ません。弾幕のみで対処してください。』
それなら大丈夫だ。どんな時でも非殺傷の弾幕にしているし。
『それでは異変の首謀者の所に向かってください。』
マップを見ると結構遠いな…湖もあるから多分大丈夫だろう。
そういえば最近コードの中身見ていなかったな…見てみるか。
コード一覧
・体力、防具全回復
・オート武器セット1
・オート武器セット2
・オート武器セット3
・戦車召喚
・戦闘ジェット機召喚
・戦闘ヘリ召喚
・スポーツカー召喚
・ジェットパック装備
・車が空を飛ぶ
・水上で車が走れるようになる
・視界に入っている乗り物爆発する
・気候変更(快晴、晴れ、曇り、雨、雷雨、大雪、砂嵐の順に変更可能)
なんだこのチートは…てか異変解決なら気候変更使えばいいじゃん。
「ん?変わらないな…」
使ってみたはいいが全く変わらなかった。
そしてその後何回か試したが途中雨になったり雷雨、大雪、砂嵐と続いたことからコード自体に問題はないと判断した。
「なるほど…あの雲は首謀者が倒さないといけないということか。」
ジェットパックのコードを入れ…それに使って首謀者の元へと向かった。なんで戦車とか乗り物を使わないかだと?もし使ったら面倒事になるからな。
「待ちなさい!」
湖の上を通ると青髪にやや緑がかったリボンをつけ、青と白のワンピースを着た幼女が現れた。
「何のご用ですか?」
「あんたこのチルノ様に無断で湖の上を通っているの?」
話を合わせたほうが良さそうだな…
「許可を得る為に探したんですがいないから無断で通った…それだけのことです。」
「ここはあたいの縄張りよ!ここを通るには私の許可が必要!無許可で私の縄張りに入ってきたからには覚悟は出来ているんでしょうね!?」
「覚悟ならこの幻想郷に来た時からしていますよ。」
『チルノが妨害して来ました。妖怪退治の要領で銃の弾幕でチルノを倒しましょう。』
弾幕で倒しましょうってことは次はおそらく格闘戦が待っているってことか…
「くらいなさい!パーフェクトフリーズ!」
そんなことを考えているとチルノが弾幕を出してきた…
『妨害者や首謀者達は特有の技を持っています。その技は特殊な動きをするので注意しましょう…』
なるほど…ここが妖怪退治とは違うところだな。妖怪退治の妖怪に技はないが妨害者や首謀者にはあるってことか。
「しかしまあ…相当雑だな。」
俺はFPSゲームの裕二の動きをみているせいかチルノの技が相当雑だと思わざるを得なかった。ちなみに裕二の戦う相手はほとんど世界ランク1桁の奴らなので比べる相手が悪いとしか言えないけど…
「終わりだ。」
俺はそう言ってrifleを手にしてチルノの頭に放った。
「⑨~」
チルノは頭を回し、ヒヨコが飛んでいた。
『妨害者を倒しましたのでボーナスが入りました。ボーナスは異変解決すれば手に入ります。』
ボーナスね…ボーナスか…そういえば雄大はどうしているだろうか?今頃会社経営者として頑張っているんだろうな。
「さて…行くか。」
とにかく俺はこの場を後にした。
そしてだんだん首謀者の元に近づくにつれて悪趣味全開の紅い館が見えた…親戚どもでもこんな趣味悪くないぞ…
「zzz…」
この門の前で寝ている赤髪の女性はどうする?マップから見ても首謀者はこの館にいるのは確かだし、おそらく首謀者の部下…妨害者となる可能性が高い。
「…」
不意打ちしたら俺の人間性が疑われるし起こしてやるか?マップで敵かどうか確かめるか…ん?黄色い点が近づいて来るな。
「勇姿さん!」
そう言って現れたのは霊夢だった。
「霊夢か…」
「妖怪退治はどうしたの?」
「一応終わった。ただな…こんな天気じゃ霊夢の負担になるだろうと思ってな…文句を言いに来たんだよ。」
全く…こんな天気だと洗濯物干しもまともに出来やしねえ…
「偶然ね…私も異変の首謀者に用があるの。さ、行きましょう。」
そう言って霊夢は門を飛び越えて行った。
「そうだな。」
俺も自力でジャンプしてバカデカい門を飛び越えようとしたが…
「っ!」
下から殺気を浴び、飛び越えることは止めた。
「何の真似だ…?」
その殺気を向けた奴…先ほどまで寝ていた門番が俺を睨みつけていた。
「貴方をお嬢様の所には行かせません!」
おいおい…どんだけ俺の顔って恐れられているんだ?めっちゃ睨んでいるし…
「…ならば貴方を倒せば良いだけのこと。霊夢!先行ってくれ!」
そこにはすでに霊夢の姿はなく言った俺がバカみたいだった…
『紅美鈴が現れました。今回は弾幕ではなく格闘戦でねじ伏せましょう。』
メインコマンドからそう聞こえてきたので銃は収納した。にしてもやっぱりか…よりによって武闘家タイプの妨害者をチュートリアルの相手にするなんて聞いたことないぜ…
兎にも角にも、俺はメインコマンドを開き、セーブを行った。
「覚悟っ!」
そして美鈴が気合を入れ、雰囲気を更に変えた。
しかし美鈴の構えは俺の師匠であり父方の祖母である婆さんを思い出すな。
婆さんは69歳という年齢なのに関わらずむちゃくちゃ元気で数年前に亡くなった父の父の父…つまり曽祖父の遺産相続の時に大暴れして車に轢かれても軽傷済む親戚一同を全治半年の大怪我をさせて黙らせたというエピソードがある。
とはいえ流石の彼女も年齢には勝てず俺に土をつけられるようになってしまったがそれでも親戚一同を大怪我をさせる程度には強いので油断は出来ない…
何が言いたいかと言うとおそらく美鈴は全盛期の婆さんクラスの強さを持っているはずだ。
「…」
しかし俺を警戒しているのか全く動こうとはせず、ただ構えていた。そして俺はあえて攻撃を誘うように身体の動きを見せた。
「っ!」
そして美鈴は動いてようやく戦闘らしい戦闘は始まった。
「よっ!」
俺は婆さん対策と同様に無駄な力を使うことなくむしろ相手の力を吸い取るかのような戦い方に切り替えた。本来の戦闘スタイルは力尽くで行くタイプなのだが初見となれば別だ。
特に美鈴のような婆さんに似たタイプはそうしなければ勝つのは厳しい。力尽くでも勝てなくはないがそれで婆さん相手に出来たのはつい最近のことだ。
「っ!」
美鈴はしてやられたかのような顔をして腕を引っ込めようとするが俺に腕を握られてしまいそれを解こうとするが逆にその力を利用して美鈴を投げた。
ドンッ!!
地面が少々陥没したがこれは俺の純粋な力ではなく美鈴の力と俺の力を合わせた結果そうなった。どれだけ美鈴の力が強いかよくわかる。
「ガハッ…!」
美鈴は自分の力を利用され、血を吐いた。
「立て、紅美鈴。その程度で終わるのか?」
俺は挑発していた。今まで婆さんを相手に戦って来たからなんかイマイチ物足りない気がしていた。
「何故私の名前を…!?」
美鈴が驚いた顔をして立ち上がり俺を睨む…
「さあな。聞きたければこの勝負に勝つことだ。」
教えたとしても信じられる訳がないし、とりあえずそう言っておいた。
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11話
私の名前は紅美鈴。紅魔館の門番です。いつもは寝ているが今回ばかりは違った。お嬢様曰く妹様がペットに見えるくらいの化け物がやってくると聞いて寝るに寝れない…そしてその化け物は着地音で来たことがわかりました。
「zzz…」
もちろんこのいびきも演技だ。この程度で騙されるようなら大したことはなかったということ…
「…」
化け物は考え込んでいた。するともう一人、来訪者が来たようですね。
「勇姿さん!」
声からして10代前後の女性…おそらく博麗の巫女…異変解決に駆けつけたというところでしょうか?
「霊夢か…」
その化け物…勇姿さんの声は人間年齢に換算すると40代あたりの男性で低く渋い声だった…
「妖怪退治はどうしたの?」
女性こと霊夢さんは化け物に妖怪退治を依頼していたようで、そう尋ねました。
「一応終わった。ただな…こんな天気じゃ霊夢の負担になるだろうと思ってな…文句を言いに来たんだよ。」
化け物が妖怪退治はシュールだけど、霊夢さんは効率が良ければなんでもいいのか妖怪退治はその男の方に任せているらしい…
「偶然ね…私も異変の首謀者に用があるの。さ、行きましょう。」
そう言って霊夢さんは門を飛び越えて行った。
「そうだな。」
そいつも自力でジャンプしてバカデカい門を飛び越えようとしたが…
「っ!」
私は目を開き、私の殺気を浴びさせて勇姿は飛び越えることは止めさせた…
「何の真似だ…?」
なるほど…気配を感じなかったのでどんな人物かわからなかったんですが改めて見ると確かに妹様よりもヤバい雰囲気を持っていますね…レミリア様が警告する訳です。
「貴方をお嬢様の所には行かせません!」
私はその化け物を引き止める。少しでもお嬢様や咲夜さん達の負担を減らす為に…
「…ならば貴方を倒せば良いだけのこと。霊夢!先行ってくれ!」
そこにはすでに霊夢さんの姿はなく霊夢さんは紅魔館の中に入っていった。
「覚悟っ!」
私の目的は時間稼ぎしつつもこの男…勇姿さんに対して一矢報いること。勇姿さんを殺すなんてことはまず不可能と言っていい。
私の能力は『気を使う程度の能力』
…そもそも気とは何かと聞かれたら私はこう答えるでしょう…体内にあるエネルギーを変化させて自分の力にしたりすることができる物。しかしそれができるのはごく一部…何故なら皆気は持っているのですが残念なことにそれを自在に変化させることが出来ない。
しかし勇姿さんには気が限りなくゼロと言っていいくらいにない。気は必ず誰でもあるにも関わらず勇姿さんのみ感じない。
私は一つの結論に達した。勇姿さんは私以上に気を使うことが出来るではないか?ということだ。
「…」
彼は…危険だ。それ故に手が出せない。
「っ!」
そう思っていると勇姿さんに隙ができた。僅かな隙だが逃すわけには行かない。ここで逃してしまえば勝ち目はない!
「よっ!」
そして私は腕を掴まれていた。それは罠だったということに気がつき顔を歪ませる…
「っ!」
私は腕を引っ込めようとするが勇姿さんに腕を握られてしまいそれを解こうとするが…
ドンッ!!
いつの間にか私は受け身を取らせる間も無く投げられ、世界が反転した。
「ガハッ…!」
その勢いの強さに私は血を吐いてしまい、動けなくなった。
「立て、紅美鈴。その程度で終わるのか?」
彼は追撃せず、私を立ち上がらせようと挑発していた。
「何故私の名前を…!?」
しかし私はそれ以上に、彼が何故私の名前を知っているか聞いておく必要があった。私は寝たふりをして聞いていたからわかるが…私の名前は出てこなかった。
「さあな。聞きたければこの勝負に勝つことだ。」
人間のくせに舐めるのもいい加減にしろ…といいたいところだが彼の私の差はそれだけの力の差がある。
ビュンッ!!
白黒の弾丸が私達の上を通過した。
「勇姿~っ!先行っているぜーっ!」
そう言って金髪の少女は紅魔館内部へと侵入していった…
「あっ!魔理沙てめえっ!」
あの白黒は魔理沙さんと言うらしく勇姿さんと知り合いらしい。
…これは不味い。あの白黒は魔力を感じたことからおそらく魔法使い。魔法使いはここにもいますが室内戦を得意とする魔法使いにとっては喘息という致命的な弱点を持っています。何故致命的な弱点かと言うと喘息は埃に敏感に反応します。室内戦となれば埃が舞い散るとは当然のこと…それ故に長期戦は無理…
だから私は勇姿さんをなるべくここで足止めしてスタミナ切れをさせようとしていたんですが…詰みましたね。あの白黒が博麗の巫女の足止めをしている咲夜さんのいる方向にいっても咲夜さんが厳しくなる。だからといって図書館の方にいってもダメ…たった一人のイレギュラーがここまで紅魔館をピンチに変えたのは歴史上初めてですね。
「仕方ありませんね…」
私はそう呟いていた。何故なら傷付いているこの身体では勝ち目はない。となればやるべきことは一つ…たとえ大怪我を負ってでも一矢報いるのみ。
「…」
私の様子が変わり彼は初めて構えた。
「っ!!」
私は気を使い、一気に彼の懐に潜り込み…そして拳に最大限の気を溜めて…
「はあぁぁぁっ!」
ドゴンッ!!
その風圧で煙が舞い散り、あたりは煙だらけになってしまった。
彼の腹を殴った…彼の場合、身体を鍛えて敵を圧倒する剛の型とは違い、できるだけ身体の力を抜き受け流す柔の型。柔の型には長所もありますが短所も目立ちます。柔の型を使う者は最低限の力しか使わない為に押し切られると一般人よりも少し鍛えている程度になるという弱点を持っています。今回はそれを利用して私は彼を倒しに行きました。
そして煙がなくなると…影が見えてきた。
「…いいパンチだ。」
彼は無傷で現れて私は唖然としてしまった。手ごたえは感じたはずなのに何故無傷なのか…それが私の疑問だった。
「後一瞬反応遅かったら死ぬかと思った…」
このセリフを聞いて私は一つの推測が出来た。彼はあの一瞬の間に力をほとんど無力化していた。あの手ごたえもフェイクだと思うのも無理なかった。
「ぐっ…!」
私は倒れた。無理もない…あの一撃にほぼ全部の気を使ってしまった。私は力尽きてもう起き上がることすらも出来なくなってしまった。
「俺の勝ちだな?」
悔しい…私はかつてとある女性と戦い、完敗した。その女性に師事して私は今の武道の型を手に入れた。免許皆伝までして貰ったのに負けたということは彼女に泥を塗ることだ…私は最後に右手を振って抵抗したが彼に腕を掴まれ止められた。
「これを受け取れ。」
そう言って彼が渡してきたのは液体が入っている瓶だった。
「これは栄養剤だ。飲めば回復する…もう一度俺と戦いたいなら今飲め。」
…今戦ったところで勝ち目はない。私は首を横に振った。
「そうか…それじゃ俺はもう行く。」
勇姿さんはジャンプして紅魔館内部へと入って行った…
「また完敗しちゃったなぁ…」
もっとも今回は武術だけでなく、心も負けてしまいました。二度の敗北申し訳ありません、お嬢様…
感想バンバンお待ちしております!
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12話
俺は紅美鈴を倒し、館を探索していた。
美鈴の最後のパンチマジでやばかったな…身代わりを使ってなきゃ危なかった。
「にしてもここまで真っ赤だと目が悪くならないのか?」
この館は目に悪い…広さは問題ないが赤が多くて目が充血してしまう。
「まあいい…」
俺の目的はただ一つ…ボーナス獲得だ!
異変解決は霊夢達がするだろうし、俺はゆっくりと妨害者を倒しておくか…俺はメインコマンドには出てきた設定を押すとうざったいチュートリアルの説明をOFFにして妨害者を倒すように向かった。
「だからお姉様っ!なんで妨害するの!?」
妨害者を探して上に上ると幼女の声が聞こえたのでその部屋に向かった。
「これは異変なのよ。貴方が出る幕じゃない…」
もう一人幼女がいたらしく、どうやら口論していたらしい。
「ぶーっ!お姉様のケチ!」
金髪の幼女妹はそういって銀髪の幼女姉にそっぽを向いた。
…これはチャンスじゃないか?幼女二人が妨害者だった場合めちゃくちゃ楽にボーナス獲得出来そうし、大体こういう幼女って首謀者の娘だったりするから首謀者も呼び寄せることも出来る…一石二鳥だ。そして俺は扉を蹴った。
バンっ!
扉を蹴るとロリ二人は俺の方に注目していた。妹の方はワクワクした目で、姉の方は怯えているような目で…
「さて…異変を起こしたのは誰ですか?」
俺はこう言って首謀者を呼ばせようとしていた。間違いなく逃げるか時間を稼ぐかのどちらかに選択される。
「私よ。」
姉の方がそういって首謀者を名乗りでた。どうやら時間を稼ぐことにしたようだ。逃げた場合は…絵的には俺が100%犯罪者にしか見えないようになるが追いかける。なにがなんでも追いかける。
「そうか…では邪魔者から消えて貰います。」
俺はそう言って妹の方に銃を向けた…うわ~今の俺って悪役街道一直線だな。首謀者の娘とはいえこんなことやったら間違いなく批判されるな。
「あははっ!私と遊んでくれるの?」
妹の方はなんか狂ったように笑い始めた。
「こらフラン!私の獲物に手を出すんじゃないの!」
そう言って姉が妹フランを嗜めるが…無駄だった。
「私は二人ともかかってきても構いませんよ。もっとも二人とも私に敵う訳がありませんがね。」
「このレミリア・スカーレットをバカにしているの?」
姉…レミリアはそう言って俺をキッと睨んできた。
「お姉様!私達の力を見せよっ!」
フランもレミリアの怒りを利用してレミリアと共に戦うことを望んだ。
「そうだな。私達の力を見くびってもらって困る…月がこんなにも紅いから…殺すわよ?」
どうやら戦闘が始まったみたいだしセーブするか…
『セーブが終わりました。』
セーブし終わり、俺はフランの方に向いた。妹の方が弱いというのは偏見だが今回はそう感じたからフランの方を先に叩き潰しておく…
「アハハハ!オジサン壊れないでね?」
フランの言葉に俺はキレた。
「オジサンって…俺はまだ18だ!」
ガンッ!
俺は幼女相手に容赦なく拳骨を食らわせた…なんか幼女相手にムキになる俺ってダサくないか?
「痛い…」
案の定フランは涙目になり、泣きそうになったが関係ない。
「というか貴方…18はサバ読みしすぎじゃない?」
ブルータス、お前もか。
「お前までそう言うか…説諭っ!」
俺はどこぞの暴力スパルタ教師のように顔を殴った。
「グヘッ!?」
レミリアの首は306度回転(360度回転でないのが俺の優しさだ)し、面白い程に骨の鳴る音が聞こえた。
…流石に不味いな。初めてだがロードしよう。
『ロードが終わりました。』
「アハハハ!オジサン壊れないでね?」
先ほどの場面となり、俺がキレるセリフを吐いたフランをどうするか俺は考えた。
「ほ、ほほう…どこまでついていけるか試してあげましょう。」
イカンイカン…わかってはいてもめちゃくちゃ怒りを抑えるのに苦労する…
「びびったの?」
ブチッ!
俺の頭の血管がキレた音が聞こえ…理性は失った。
「もはやこれまで…」
「えっ!?ちょっ…ゲゲッ!?」
ドガメキャグシャ(あまりにもグロいので以下省略…)
10分程度経過して気がつくとフランもレミリアも目が死んでおり、頭にはたんこぶだらけになっていた。罪悪感が出る…ロード!
「アハハハ!オジサン壊れないでね?」
もう慣れたし、罪悪感があったとはいえさっきフルボッコにしてきたから大丈夫だ。
「壊れるのはお前達の異変だ。」
そう言って俺はレミリア達を指差し、ニヤリと笑った。
「上手いこと言ったつもり?」
レミリアが挑発してくるがもう関係ない。何回でもロード出来るしな。
「いや。それはない。」
バッサリと否定して俺は銃を構えた。
「スピア・ザ・グングニル!」
レミリアがどっから出したのかわからないがおもちゃの槍を取り出し俺に投げた…人に尖ったもの投げちゃダメだろ?と思いつつも俺はそれを両手で掴んだ。まあいくら早くとも所詮幼女だし投げるスピードが遅いのは無理ないよな…
「なっ…私のグングニルを掴んだ?!」
おいおい…掴まれたことないのか?多分全盛期の婆さんなら煎餅食いながら片手で掴んでたぞ?
「よっ!」
俺はレミリアに一瞬で迫り、槍を縦に振って頭を振動させた。
「グオオォォ…」
レミリアは頭を抱え、座り、次第にうーうー言いながら涙目になっていった。
「お姉様の仇ィィ!」
後ろからフランがそう言って赤く染まった棒を振ってきた。…だからここの教育はどうなっているんだ?
「チェスト!」
俺は持っていた槍をフランに投げ、対処した。
「グエッ!?」
結果槍がフランの腹に入り、くの字になって咳き込んだ。
「これで終わりだ!」
そして、俺はレミリアとフランに弾幕をぶっ放って二人は気絶…ボーナス獲得は…
『首謀者レミリア・スカーレットとextraフランドール・スカーレットを倒しました。おめでとうございます。』
って…おい!extraってなんだよ!?こんな時はヘルプだ!
『extraとはボーナス獲得が通常の妨害者よりも多い妨害者です。その代わり大変強く異変にはほとんど関わりがないので無視しても構いません。』
…マジかよ。首謀者とextra同時に戦っていたのか?にしては…
「うー☆」
…首謀者にカリスマが全くないのはなんでだ?見た目以前の問題か?
『首謀者を倒しましたので異変終了です。ボーナスを獲得しました。獲得した道具はすべて倉庫に送られました。コードを獲得しました。』
邪魔くせえ!チュートリアルOFFに設定したのにこんなのか表示されるってことはこれからもそうなのか?…面倒だがそうだろうな。
俺は諦めて空を見ると赤い雲は無くなっていた。
「お嬢さ…ブハッ!?」
すると後ろから声が聞こえ、そっちをみると銀髪貧乳メイドが鼻血を大量に出してぶっ倒れていた…
「おいおい…」
俺はそれをみて呆れた声しか出なかった。
「全く…嫌になるぜ。まさか霊夢と戦うことになるなんて…」
「本当よ…なんであんたと戦わなくちゃいけないのよ。」
魔理沙と霊夢が部屋の中に入り、二人は俺と目があった。
「どうした?二人とも…」
先ほどの言葉で想像がつくが…一応聞いてみた。
「いや霊夢がな、首謀者を倒すのは私だ!って意地張って私と戦うことになったんだよ。」
「私に突っかかって来たはあんたの方でしょ?」
魔理沙と霊夢意外と仲悪いのか?…いや違うな。あれはじゃれあいみたいな感覚だろう…
「何おう!」
「またやられたいの!?」
このまま見ても雰囲気が悪くなるだけだし助け船を出すか…
「二人ともよせ…もう異変は解決し終わっているんだ。今更どうこう言ったところでどうしようもないだろ?」
終わっているというのが肝心なポイントだ。終わったというと俺に飛び火がくる可能性がある。
「う…確かに。」
「それもそうね…」
案の定二人は納得し、赤面した。
「それじゃ俺は宴会の準備をしておくから先に帰るぞ。」
俺はそう言ってジェットパックを使って博麗神社に帰った。
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13話
####
「だからお姉様っ!なんで妨害するの!?」
私はこの姉、レミリア・スカーレットに猛抗議していた。その理由は単純…こいつが異変を手伝わせないからだ。姉をこいつ呼ばわりするのはどうかと思うがこいつのやり方は一々荒っぽい。しかも本人にその自覚はなく「スカーレット家なる者は優雅に。」などとほざきやがるのだ。それが私のストレスの元となり、毎日が続いた。そして次第にストレスが溜まり私は発狂しざるを得なかった…その結果495年もの間幽閉されることになった。
「これは異変なのよ。貴方が出る幕じゃない…」
こんなことを言っているがだいぶ霧は荒々しくなりコントロールもままならなくなって私はこっそりと霧を出した。
「ぶーっ!お姉様のケチ!」
このセリフは私本来の人格ではない。私は…
バンっ!
などと考えているとメッチャ怖そうなおっさん…ではなく魔王が私の前に現れた…この愚姉もビビっている!
「さて…異変を起こしたのは誰ですか?」
「私よ。」
レミリアはこう言っているがかなり足がガタガタ震えているし目が涙目…どんだけビビりなのよ…そりゃこの男が恐怖の大魔王と同じような顔をしているとは言えビビりすぎ…でもないね。ごめんチビったわお姉様。
「そうか…では邪魔者から消えて貰います。」
「あははっ!私と遊んでくれるの?」
私は狂気に呑まれたフリをして笑った。そうでもなきゃチビったことを誤魔化せないから!
「こらフラン!私の獲物に手を出すんじゃないの!」
だから涙目になってもね…?いくら紅魔館の当主の面子を保つとは言えそんなにビビっていちゃ面子もクソもないよ…
「私は二人ともかかってきても構いませんよ。もっとも二人とも私に敵う訳がありませんがね。」
この言葉一言一言に重みがあって決してハッタリではないと私の本能が言っている…恐ろしい。しかも実力差が自覚出来るからこそ私は怯えた。
「このレミリア・スカーレットをバカにしているの?」
馬鹿レミリアはあまりの実力差に気づいていないのかこの男にそういった…ここまで来たら止むを得ない!
「お姉様!私達の力を見せよっ!」
私はごく普通の状態に戻りそう言い放った。
「そうだな。私達の力を見くびってもらって困る…月がこんなにも紅いから…殺すわよ?」
…出たそのセリフ。私はそのセリフを聞いて呆れたがそうも言ってられない。
「アハハハ!オジサン壊れないでね?」
オジサン…などと私はよくほざけるものね。もうヤケだから?
「壊れるのはお前達の異変だ。」
「上手いこと言ったつもり?」
「いや。それはない。」
「スピア・ザ・グングニル!」
レミリアの必殺技スピア・ザ・グングニル…この技で仕留められなかった奴は未だかつていないらしい。それもそのはず。レミリアの能力は運命を操る程度の能力。目標に確実に当たるように運命を操作しているから仕留められなかったということはない。だがこの男はそれを両手で掴んだ。
「なっ…私のグングニルを掴んだ?!」
私もそれに驚いたよ…グングニルの対策は色々あるがそれを阻止した例は一度もない。私もやろうとしたが無理だった。私の破壊する程度の能力で運命を破壊しようともその前にグングニルが当たり負ける…
「よっ!」
そして男は一瞬でレミリアに迫り、槍を縦に振ってレミリアの頭を振動させた。
「グオオォォ…」
我が愚姉は頭を抱え、座り、次第にうーうー言いながら涙目になっていった
「お姉様の仇ィィ!」
後ろから私がそう言ってレーヴァテインを振り、確実に仕留めたと思った矢先に…
「チェスト!」
などと言ってそいつは持っていた槍を私に投げ、対処した。
「グエッ!?」
結果グングニルが私の腹に入り、くの字になって咳き込んだ。
「これで終わりだ!」
そして私は意識を失った…
####
私は魔理沙と戦っていたがこの館で唯一とも言える人間のメイドが駆けつけているのをみて中断して追いかけていた。
「うー☆」
などと可愛らしい声が聞こえたのでその部屋に向かうと…
「お嬢さ…ブハッ!?」
メイドが鼻血を大量に出してぶっ倒れた音が聞こえ私達は急いでその部屋に駆けつけた。
「おいおい…」
勇姿さんの声が聞こえる…?何故そんなに速くここに着いたの?という疑問はあったが取り敢えず私達はドアを開けた。
「全く…嫌になるぜ。まさか霊夢と戦うことになるなんて…」
「本当よ…なんであんたと戦わなくちゃいけないのよ。」
魔理沙と私が部屋の中に入り、勇姿さんと目があった。
「どうした?二人とも…」
勇姿さんは私達の様子を見てそういった。
「いや霊夢がな、首謀者を倒すのは私だ!って意地張って私と戦うことになったんだよ。」
ちょっと!違うでしょ!?
「私に突っかかって来たはあんたの方でしょ?」
魔理沙は図書館の主人を倒すと地下に誰もいなかったので私に突っかかってきた…迷惑な話しよね。
「何おう!」
「またやられたいの!?」
私がそういった瞬間勇姿さんはため息を吐いた。
「二人ともよせ…もう異変は解決し終わっているんだ。今更どうこう言ったところでどうしようもないだろ?」
その通り、異変は既に終わっていた。勇姿さんが終わらせたのだろう…
「う…確かに。」
「それもそうね…」
私は勇姿さんの前でくだらないことで喧嘩していたことに赤面した。
「それじゃ俺は宴会の準備をしておくから先に帰るぞ。」
勇姿さんはそう言って博麗神社に帰った。
~博麗神社~
「参った…」
勇姿さんが弱音を吐いていた…らしくないわね。
「どうしたのよ?」
「いや、俺の顔を見たレミリア…今回の首謀者がな?怖がっているんだよ。俺が近寄れば涙目になって逃げるし、だからと言って遠ざける訳にもいかないしどうしようもないんだよ。」
涙目って…ああ、確かに10歳児くらいにしか見えないけど蝙蝠っぽい翼も生えているし強い妖怪であることは間違いないわね。それを装飾品に見える程勇姿さんが強面なのが原因だけど…
「とはいえ所詮俺は博麗の代行だ。俺が無理に行っても筋違いだし、面倒だ…料理を作ってくる。」
勇姿さん…少し寂しそうね。
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妖々夢編
14話
異変からしばらくして依頼をこなしている毎日を過ごし、5月となった。しかし何故か毎日、日本海側の県…とまでは行かずとも山部地方の冬のように大雪だ。俺は関東平野…それも太平洋側に住んでいた為この天気に耐えられない…
当然俺はコードで4月から大雪から晴れにしていた。結果雪は溶けたが異常に気温が低く、まだ冬のような寒さだった…
「迷惑な話だ…」
おかげで妖怪退治するときも寒い思いしなきゃいけないし、気温上昇のコードもないからどうしようもない。
「なんだこれは?」
依頼を終えた俺は桜の花びららしき物を見つけそれを拾った。これはあり得ないことである。この幻想郷…それも俺が見回った中では冬桜は見かけなかった。冬桜はその名の通り冬の間に咲く桜のことで、春には咲かないという一般人からしてみれば奇妙な桜だ。ちなみに春に咲く十月桜も冬桜の中に入ると言われているが春に咲くので俺はそう呼んでいないし、幻想郷にはなかったので省略させてもらう。
…何でこんなことを知っているかって?親戚一同と共に冬桜の花見に行かされ、そのうんちくをダラダラと聞かされて覚えてしまった…という訳だ。
『異変が起きました。すぐに解決しましょう。』
…って遅えよ!!コマンド!
「冬桜の場所?」
俺は早速、冬桜の場所を探すことにした。その冬桜の場所付近に今回の首謀者がいる可能性が高い。
宴会で美鈴から聞いた話だがレミリアも自分達が行動しやすいようにあの赤い霧を発生させたらしく意外にも自分勝手な理由で異変を引き起こした。
となれば今回首謀者は冬桜がある場所の付近に住んでおり、それを毎日見続けたいとかそんな理由で今回の異変を引き起こしたと俺は考えた。
「そうです。何かわかりませんか?」
現在俺がいるのは花屋であり花屋なら桜の情報があると踏んだからだ。
「冬桜ねぇ…冬桜、冬桜…ないね。でも多分冬桜の場所を知っている妖怪なら知っていますよ。」
「誰ですか?」
「風見幽香。通称フラワーマスターの妖怪です。」
「風見幽香…」
「彼女はここの常連なので少し待っていれば来ますよ。」
「では待ちますがよろしい…」
ガチャ…ギィィ…
俺の言葉を遮るかのように入って来たのは顔は上の上…髪は緑色に染まっており、服装は長いロングスカートに、ワイシャツに赤いベストを着た女性だった。この幻想郷の奴らってどうしてコスプレじみた服装が好きなんだ?こいつはまだマシだが霊夢とかになると酷いからな…
「店主、そちらは?」
その女性は俺の方を見て良い意味で笑い、店主に尋ねた。
「彼は冬桜を見たいというんでここに尋ねてきたんですが…幽香さんご存知ありませんか?」
なるほどこいつが風見幽香…
「冬桜ね…もしかしてこの花びらの元を尋ねているの?」
幽香がそう言って取り出したのはまさしく俺が拾った冬桜の花びらだった。
「やっぱり…これはよく似ているけど冬桜の花びらじゃないのよ。これは春度よ。」
「春度?」
「春度は春の元よ。これが幻想郷になきゃ永遠に春は来ない…つまりどういうことかわかるわね?」
「これが幻想郷からなくなっているから気温は低いまま…春も訪れないということでしょうか?」
「その通り。本来春が来ないなら大雪になっておかしくないんだけど…どうも最近は晴れ続きでそれは防がれたみたいね。」
俺の天気変更コードのおかげだ…俺の天気変更コードを使わなきゃ大雪に見舞われて大変な思いをしなきゃなんなかっただろうな。
「でもこれを盗んでいる犯人まではわからないわ。そこは自分で探しなさいな。」
少なくとも幽香のセリフからして幻想郷の住民ではないことは確かだ。それじゃ手当たりしだいに探すしかないか?
いやいやマップを見て赤い点を見つければいいだけの話じゃねえか。そう思ってマップを開くと黄色の点こそあったが赤い点が表示されていなかった。
「なんだと…!?」
俺はそれに驚いたがよくよく考えたらそれは幻想郷内のマップだったので幻想郷外にいたら意味がないということになる…マップ機能がここまで無能なのは初めてだが仕方ない。前回も天気コードで解決しようとして失敗に終わったんだ。このくらいのことは想定範囲内だ。逆に言えば幻想郷とその場所から出入り出来る奴が犯人だと思っていい。博麗の巫女こと霊夢曰くそんな奴らは限られてくるので特定するのは簡単だ。
人里の阿礼邸…だったけか?確かそこに行って調べてみたところ幻想郷以外の人外がいたことがわかった。
だがその肝心の本は貸し出しをしており調査を諦めたところ、当主の阿求が詳しく教えてくれたのでとりあえず幻想郷から出入りするのが簡単な冥界白玉楼に行くことにした。
とはいえジェットパックで冥界に行くにはかなり時間がかかる…そこで俺は考えた。
ギュゥゥゥン…!
「俺は天才だ。」
俺はコードでジェット機を出して操縦していた。操作方法はジェット機の中にあった説明書に書いてあったのでわかった。
「春でゲフゥッ!」
…今なんか弾いたか?まあ弾いたとしてもここは幻想郷。空を飛んで妖精を弾いてはいけないというルールはない…多分。そして最高速度に達した瞬間…
ガンッ!
「ぐぇっ!?…なんだ!?」
空中…ではないな。何か訳のわからない空間で何もない場所でジェット機がぶつかり、そんな音がした。
「緊急脱出!」
もたもたしていると爆発するので俺は急いで緊急脱出ボタンを押した。
しかし何も起こらなかった!
何~っ!?このままじゃ…死ぬ!
「ちょこざいな…!」
ここで体力回復のコードを使ってジェット機を回復させる。前に一度俺の車の中でやってみたら新品のようになっていたので体力回復は車も回復すると推測した。結果ジェット機はぶっ壊れる前に戻ったがついた火までは消せずそのまま炎上し始めた。今度は緊急脱出が出来るはず!ポチッとなぁぁぁっ!
ボンッ!
そして俺は見事脱出に成功し、ジェットパックのコードを使って飛んだ。ちなみに炎上したジェット機の末路は…DOGAN!と一発爆発してガラスが割れる音と共に短い寿命を終えた。ありがとうジェット機!6日くらいはお前のことは忘れないぞ!
…などとおふざけはここまでにして階段のところに一旦降り、マップを確認するとマップが冥界のマップになっていた。
「どうやら今回の首謀者はここにいるようだな。」
マップを見ると赤い点が幾つかあり、俺は最も近い点の方向へと向かった。
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15話
「あと少しね…」
冥界の白玉楼に住む亡霊、西行寺幽々子は巨大な木に向けて正座して待っていた。
幽々子は八雲紫から「博麗の代行、大和勇姿を敵に回してはいけない。」と言われていた。何故博麗の巫女よりも代行の方を恐れるのか?という疑問はあり、気になったが紫が真面目な顔で警告していたのだ。流石に手を出す訳にはいかなかった…だがそれを上回る好奇心が幽々子にあった…西行妖である。
西行妖の花が満開になったことはない。それもそのはず…西行妖の下には幽々子の遺体があり満開になったら亡霊である幽々子が成仏するようになっているのだ。その事を知らない幽々子は何が眠っているのかという疑問が湧き、部下である魂魄妖夢に春の元である春度を集めるように命じた。春度は花を咲かせる効果もある。それ故に幽々子は命じた…
「幽々子様、春度を集めました。」
そして二刀を持つ半人半霊の少女、妖夢が再び幽々子に春度を提出した。
「ご苦労様、妖夢。」
それを幽々子は上機嫌で迎え、妖夢に励ましの言葉を与えると西行妖に春を与えた。
「では再び行って参ります。」
妖夢は生真面目であり、それを見た直後にそう言って立ち去る…
「待ちなさい妖夢。」
しかし幽々子はシリアスな顔でそれを許さず妖夢を引き止めた。
「はい。何でしょうか?」
妖夢はまさかと思い、恐る恐る聞く…そして幽々子の口が開いた。
「お腹減ったわ~…御飯作って!」
妖夢が恐れていたこととは幽々子の腹が減ったことだ…
「い、今からですか?」
妖夢は聞き直す、幽々子の腹が減ったということは地獄を見ることに繋がるからだ。
「今すぐよ!」
しかし現実からは逃げられない!妖夢の頭にそんな言葉が浮かび、ガックシと肩を落とした。
「わかりました…トホホ…」
トボトボと歩き、妖夢は料理を作り始めた。
何故妖夢が地獄を見ることになるのか説明しよう。妖夢の料理の腕は決して悪くない。それこそ料理店が出来る程度には…だから幽々子に味が悪くて文句を言われることはない。むしろ称賛されるくらいだ。では何故地獄を見ることになるのか?それは…
「妖夢~!お代わり~!」
「今作っていますから待ってて下さいーっ!!」
そう、幽々子が大食らいなのだ。それこそ某ピンクボールや某野菜人達並に食欲がある…そのせいか食べるスピードも速く、もたもたしているとすぐにお代わりを要求してくるのだ。
1時間後…ようやく幽々子の食欲が止まり、その被害は180人前である。幽々子にしてはこれでも抑えた方だ。
「やっと終わった…」
ゼェゼェと息を荒くし、妖夢はその場でへたり込んだ。
「妖夢、休憩が終わったら春度を集めてね~」
幽々子はそう言って再び西行妖を見始めた。
「(それにしても何故幻想郷に雪が降らない?)」
妖夢は階段を降りていると不審に思った…何故春度を集めているにもかかわらず4月からずっと晴れているのか?雪どころか雨すらも降らないのは異常だ。そう思っていると階段の先に人影が見えてきた。
「何奴!」
妖夢は二刀で構える。その人影は徐々に近づき、正体がわかり始めた。大柄な男性でかなりゴツい体格をしている。だが何よりも妖夢の警戒心を促したのはその雰囲気だ。雰囲気はまるで魔王。フランドールが感じたように妖夢も恐怖の大魔王のように見えた。
「(こんな…ことって…!!)」
妖夢はその雰囲気から実力差を感じ取っていた。妖夢は前回異変の首謀者だったレミリアとは違い卑屈だ。レミリアは少し子供っぽいところと吸血鬼であることから傲慢な部分があった。しかし妖夢はレミリアとは逆で周りから半人前扱いされ続けたせいか卑屈になっているのだ。その為実力差を感じ取りやすかった…
「私の名前は大和勇姿。」
「大和勇姿…?」
妖夢はその名前を聞いて思い出した…幽々子に会ったら逃げろと言われた男の名前だ。その名前を聞いた途端身体が動かない…いや動けないのだ。あまりの恐怖に妖夢は足が震え過ぎて麻痺して金縛りと同じようになっていたのだ。
「さて、一つ聞きたいことがあります。」
勇姿はそれを見ても全く動じず聞きやすい声で尋ねた。それが妖夢をなお怖がらせた。
「この先に今回の異変の首謀者はいますか?」
異変…それは4月から降水量を0にさせた犯人のことを言っているのだろうか?だとしたらお門違いだ。あくまで自分達は春度を集めていただけなのでそんな異変に関わった覚えはない。当然答えはNOだった。
「ではそこを通して貰えますか?」
ここで勇姿を通したら幽々子や祖父が残した白玉楼はどうなる?その答えは決まっている。幽々子を奴隷のように働かせ、白玉楼は地獄よりも悲惨なことになるのは目に見えていた。
「いいえ…それはできません!」
妖夢は首を振らずに口で答えた。
「何故?」
「貴様のような悪に幽々子様に、白玉楼に一歩も近づけん!」
そして妖夢は動けなくなった身体を無理やり動かし、勇姿に斬りかかった。
「ふっ…!」
勇姿は最低限避けると妖夢の両腕を自分の脇に挟む。
「なっ…!?」
妖夢は必死で抜け出そうとするが無駄だった。まるで万力で挟まれたかのように固定されていたのだ。もちろんそれだけが理由でない。妖夢の筋肉は刀を振る為にあるものだ。刀の切れ味は「斬れないものなどあんまりない!」と断言する程なので素早く振ることに特化している。その為通常の人外達に比べ力の方はあまりないのだ。
「おらっどうした?」
ヤ9ザボイスで勇姿はそう言い妖夢に頭突きをする。
「がっ…!」
その痛みは絶妙な手加減で痛みを与える程度に済ましており、逃れようとするが腕が脇に挟まれているので逃れられない。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
それを何回か繰り返す内に妖夢の目は死んでいった。
「もう…止めて…」
そして妖夢は解放され、勇姿は階段を上がっていった。それを確認した妖夢は刀を使い立ち上がり…勇姿の背後に立ち背中を斬り付けようとした。腹を刺そうとしなかったのは彼女なりの自尊心かもしれない…
「甘いな。」
勇姿はすぐさま振り向き、それを右手で持っていたMagnumで防ぎ、もう片方の手に持っていたMagnumを妖夢に撃ち、気絶させた。
「サムライガールであるお前は知らないだろうが…世の中にはこんな武器もあるんだぜ。」
勇姿はそう言って階段を上がっていった。
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16話
「貴方が大和勇姿ね…」
のほほんとしていたピンク髪の女性が正座をして巨大な木を見ながら俺に話しかけた…こいつなんか怪しいし、セーブするか。
『セーブが終わりました。』
「そうです。貴女は?」
「私は西行寺幽々子。この白玉楼を任されている亡霊よ。」
吸血鬼の次は亡霊か?今度は宇宙人とか異世界人とか未来人とかありそうだな…全部人じゃなくて妖怪でもありそうだけど。
「…そうですか。階段であった少女の言っていた方ですね。」
そういえばあの少女の名前を聞き忘れていた。チュートリアルもないので名前は知らない。阿求も外見的な特徴を教えてくれなかったのでわからない。
「彼女はなんて?」
そう言って幽々子は団子を食べる…てか亡霊のくせに団子食えるのか?
「貴様のような悪に幽々子様、白玉楼に一歩も近づけん!…でしたね。私としては春を返してくれれば何も害を与えません。」
まあ俺は異変を解決したいからジェット機を誰もいないところで踊って召喚し、そのまま乗って来たのだが…返さないようならやることは決まっている。なんで踊ったのかというといきなり現れたところを見かけられたら面倒事になるのは違いないからだ。
「ダメ。私はこの西行妖の花を満開にするためにここまで来たんだから。」
なるほどね…そんなことの為に幻想郷の春を奪ったって訳か。
「仕方ない…それじゃ力づくで返して貰う!」
俺は銃を構えた。だが幽々子は笑っていた。
「何がおかしい?」
俺は不審に思い、尋ねると幽々子はクスリと笑い扇子を広げた。
「貴方はもう死んでいるわ…」
幽々子の言葉を発した途端周りを見るとそこには七色の蝶が俺を囲っていた。
「なんだこれは!?」
「これは死の蝶…触れれば即死するわ…さあ死んで私の部下になりなさい。」
幽々子がそう言って蝶を放つと俺にびっしりと少しの隙間もなく襲いかかって来た。ここはファンタジーな世界だからあながち死の蝶がいてもおかしくはない…この状態だと詰んだか?…諦めてたまるかこの野郎!あいつらが…春を、春を持ち帰って来る俺を待っているんだ!
俺はギリギリまで距離を離れ、踊り始めた。
「な、なんの踊り?」
幽々子が不気味なものを見る目でそう尋ねるが俺は無視して踊る…そして踊り終わると訳のわからない言葉でブツブツと呟き、コマンドを開いてコードの戦車召喚を押すと…
「えっ!?」
ドシャッ!
幽々子の上に戦車が現れ、そのまま落ち、幽々子は戦車の下敷きになった…異変を解決したと表示されなかったので倒してないとわかったが確実に妨害は出来たので蝶が乱れ始め、中には消えていくものもあった。結果隙間が生まれたがまだまだ小さいので道具にある陰陽玉を使って魅魔を召喚した。
「…勇姿どうやらピンチみたいだね?」
魅魔が現れ、この状況を把握して弾幕を撃った…銃もなしに撃つなんてやっぱりファンタジーだ。
「そうだ。お前に負担をかけるからあまりお前を呼び出したくはないが緊急時だ。力を貸せ。」
「わかった力を貸してやるよ!離れてな!」
俺はその場から逃げると魅魔が太っいレーザーを放ち蝶は全滅し、戦車に当たる寸前、俺はあるコードを使った。
DOGAAAAAANNN!!
そのコードとは視界にある車を爆発するコードだ。あのレーザーの威力を抑える為に爆発させた。幽々子は亡霊と言っていることから死んでいることはわかっているから問題はない。むしろあそこで爆発させなければレーザーが戦車を爆発させてもっと酷いことになっていた。もちろん魅魔は気づいているだろうがその時はその時だ…誤魔化せば良い。まあこのやり方は色々と反省点があるしこの経験を生かして次に繋げるか…
それはともかく戦車が大爆発して地面が抉れ西行妖の一部が焦げ、西行妖に溜まっていた春が幻想郷に帰っていき異変が『首謀者西行寺幽々子を倒しました。異変が終わりました。』…とにかく異変が終わった。
『妨害者リリーホワイト、妨害者魂魄妖夢を倒したので報酬が追加されました。』
幽々子以外に倒したのってあの銀髪の少女一人だけだよな?もしかしてあの時弾いたのが妨害者だったり…?偶然の賜物だなぁ!これには俺も同情する。
同情したのはマル暴の職場体験が終わった時に起こった事件以来だ。俺の顔を傷をつけたマフィアは俺自身の手によってボッコボッコにしたがマフィアの組織は海外だったので本部そのものに影響はなかった。
ナイフの傷跡の件を聞いた雄山(三男で親戚の中では戦闘に関しては俺、婆さんに次いで強い)はその日すぐに出かけ3日程いなくなった。
数日後マフィアの組織に正体不明の幽霊によるナニカの襲撃があり幹部達全員重傷を負うという結果になり日本支部は潰れたと聞いて海外マフィア達に同情した。
雄山の顔は普通よりも顔は整っている。…ただし雰囲気は不気味、目が逝っているのでホラー極まりない。どのくらいホラーかというと近所で集会をやっていた族達がいたんだが…夜に俺の顔を見ても逃げず黙り込んだ族達が雄山の顔を見た途端、顔面蒼白にして「出たーっ!!」と言って逃げたくらいだ。その後族達が二度とくることはなかった。雄山が幻想郷に来たら真っ先に退治され…されるイメージがねえ!むしろ暗黙の了解で手を出してはいけない妖怪とかそんな扱いになりそうだ。
話しを戻すが雄山はマフィアの日本支部が潰れたその日、やたら金回りが良くなり上機嫌だった…笑うだけでもホラーだから家族以外怖がっていたことは覚えている。
「しかし危ない賭けだった…」
幽々子を倒す時に起こした行動はかなり危ない賭けであったことは事実だ。もしもあそこで幽々子が潰れず隙間が生まれなかったら死んでいただろうし、爆発に巻き込まれた可能性も否定出来ない。それに幽々子が亡霊でなければ本当に詰んでいたかもしれない…割とSな方だが殺すことに抵抗はあるしな。
『無傷で異変を解決しましたのでボーナスステージに入ります。』
ボーナスステージってなんだそりゃ!?もう異変イベントはたくさんだぞ!
『このステージはextraを倒すステージです。このステージを攻略すればボーナスがさらに入ります。』
…マジでか?そういえば前回の異変はフランがextraなのに気づかずにレミリア諸共纏めて倒したこともあったが、これはこれでいいかもしれない。やる気が出てきたぜ…
早速マップを見ると後ろから赤い点があるな…メニューを解除して一気に前に出るか。
「っ!」
その不意打ちをしようとした人物から舌打ちの音が聞こえた。
「不意打ちとは中々やるな。」
俺は素直に褒め、後ろを振り返るとそこにいたのは実際年齢40代半ばだというのに何人もの男性を魅惑しそうな魔性の金髪女性がいた…こういうのは怖いね。本当。
「貴方が言っても嫌味にしか聞こえませんわ。」
どっかで聞いたことのある声だな?…ダメだ思い出せん。
「さて、お名前は?」
俺は名前を聞いて思い出そうとしていた…当然だな。目で見てわからないなら名前を聞いて思い出すのは鉄則だ。
「八雲紫と申します。以後お見知りを。」
阿求の言っていた八雲紫はこいつか…どっかで聞いたことのある声なんだがな…まあいい幽々子も倒したことだしセーブだ!
『セーブが終わりました。』
「さて貴方好みの1対2の対戦方法といきましょうか。」
俺は1対2の対戦はほとんどない。一番マトモにやったのはレミリアとフランのタッグくらいのものでそれ以外は全然やっていない。だからそれを指摘してやろうとしたが…もう一人を出す様子がなかったのでそっちを指摘した。
「…もう一人は?」
「もういますからご安心なさいな。」
マップを確認すると俺の左斜め後ろに赤い点があったので回し蹴りをして対処した。
「!?」
そいつは吹っ飛び、紫がキャッチする…よくよくみると狐のような尻尾を9本生やしており、信じられないと言わんばかりに驚いていた。
「紫様、こいつ…かなり強いです。」
強いって…言われてもな。頭脳派の奴らはそれすらも利用するからな。ゲームの話しだが裕司なんかは強行突破して来た相手をハメ技でボコボコにするからな。俺もその手でやられた。
「ね?だからあの侵入者を放っておいてまでここに来させた理由がわかったでしょう?藍…」
侵入者?多分霊夢達だろうが一応この二人から聞く必要があるな…
「さて、大和勇姿さん。貴方が幻想郷にいる価値があるのか私の手で確かめてもらいますわ。」
いきなり紫がシリアスな顔で俺にそう言った。
「判定はどうあれ出して貰いたいものだ。今の時代どいつもこいつも役立たずだしな。」
体力テストで満点だして、それに加えてその種目が全国で何位かはっきりしないもんな…一桁だとは思うが。
「ご心配なく。判定は出してあげますよ。」
「そうか。なら安心してやれる。」
まあなんにしてもextraが二人もいるんだ…ボーナスはたっぷりともらうぜ!
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17話
「貴方が大和勇姿ね…」
幽々子は彼が来たと同時に話しかけた。
「そうです。貴女は?」
彼は確認の為に幽々子に名前を尋ねた。
「私は西行寺幽々子。この白玉楼を任されている亡霊よ。」
幽々子はドヤ顔で彼に自己紹介をした。何故ドヤ顔…?
「…そうですか。階段であった少女の言っていた方ですね。」
「彼女はなんて?」
幽々子は団子を食べる…あんたまだ食べるの?私なんかダイエットしているのに…って太ったとかそんなんじゃないから!
「貴様のような悪に幽々子様、白玉楼に一歩も近づけん!…でしたね。私としては春を返してくれれば何も害を与えません。」
彼は妖夢の真似をした後シリアスな顔で春の返還を求めた。当然ね…この意見は私も賛成するわ。
「ダメ。私はこの西行妖の花を満開にするためにここまで来たんだから。」
はぁ…完全にこっちのミスだわ。まさか幽々子がそんなことに好奇心を持つなんて…
「仕方ない…それじゃ力づくで返して貰う!」
彼は特製の銃を構えたが幽々子は笑っていた。流石ね…無知の力もそして幽々子の実力も。
「何がおかしい?」
彼は不審に思い、尋ねると幽々子はクスリと笑い私のように扇子を広げた。
「貴方はもう死んでいるわ…」
幽々子の言葉を発した途端周りを見るとそこには幽々子の能力…死に誘う程度の能力で生まれた七色の蝶が彼を囲んでいた。
「なんだこれは!?」
私は彼が狼狽える様子を初めて見て逆に私が狼狽えた。彼は狼狽えるとかそう言ったことに全く縁がなさそうだし…
「これは死の蝶…触れれば即死するわ…さあ死んで私の部下になりなさい。」
幽々子がそう言って蝶を放ち、少しの隙間もなく襲いかかって来た。これは弾幕ごっこじゃ反則だけど彼を葬るなら仕方ない。彼は不気味過ぎる。葬って閻魔様か幽々子の元で監視するしかない…そう考えていると彼はギリギリまで距離を離れ、踊り始めた。
「な、なんの踊り?」
幽々子は不気味なものを見る目で彼に尋ねるが彼は無視して踊る…そして踊り終わると訳のわからない言葉でブツブツと呟いた。その瞬間彼は笑った気がし、瞬時に狼狽えたことが演技だと気付かされた。
「幽々子!上!」
私は彼が規則性のない踊りでジェット機を呼びだしここまで来たことを思い出し、幽々子に注意したが…
「えっ!?」
幽々子は私が注意にしたことに驚いたのかわからないが硬直してしまいそのまま…
ドシャッ!
幽々子の上に戦車が現れ、そのまま落ち、幽々子は戦車の下敷きになり蝶が乱れ始め、その隙を見て彼は魅魔を召喚した。
「…勇姿どうやらピンチみたいだね?」
どこからともなく魅魔が現れ、この状況を把握して弾幕を撃った。
「そうだ。お前に負担をかけるからあまりお前を呼び出したくはないが緊急時だ。力を貸せ。」
負担をかける?契約でもしているの?…少なくとも魔術という契約の意味では魅魔の方が有利になるはずしかし彼の方が有利に契約を交わしている…彼には魔力もなければ霊力すらもない。
「わかった力を貸してやるよ!離れてな!」
そんな私の疑問は解けぬまま魅魔の必殺技が放たれて蝶を消し去り、戦車へと向かった…
DOGAAAAAANNN!!
当然、戦車は大爆発して幽々子は気絶した。幽々子が気絶で済んだのは亡霊だったから…人間だった死んでいたわ。それにしても魅魔…貴女、彼にパワーアップのために自分を売ったの?
「しかし危ない賭けだった…」
彼がそうボヤいた途端スキマを使って後ろから不意打ちをしたが一気に前に出てそれを回避した…
「っ!」
私は不意打ちに失敗し舌打ちをしてしまった故に全身を出して藍に連絡をした。
「不意打ちとは中々やるな。」
彼の嫌味が私を苛立たせるが我慢し、嫌味で返した。…え?侵入者?放っておきなさい。それよりも大変な事が起きているわ。いいわね!
「貴方が言っても嫌味にしか聞こえませんわ。」
彼の言葉を嫌味で返すと有能な藍は戻っており、私と藍はアイコンタクトで指示を受け渡しをした。
「さて、お名前は?」
「八雲紫と申します。以後お見知りを。」
私は少しでも藍が準備する時間を稼ぐ為に長々しい自己紹介をした。
「さて貴方好みの1対2の対戦方法といきましょうか。」
彼は紅魔館の吸血鬼姉妹を相手にしても全くの無傷だった。霊夢ですら無傷でいられるかと言えば無理。それに加え門番を倒す時間と比べたら彼女達が倒れる方が速かった。ということは彼は1対2の勝負は得意だが短期決戦で挑まなければならなかったということ。つまり1対2で長期戦となれば私たちにも勝ち目はある。幽々子のように短期戦で決めようとしたら間違いなく死ぬ。
「…もう一人は?」
彼は不審に思い私にそう尋ねた。
「もういますからご安心なさいな。」
藍の殺気は彼からみて右の真横から出ていて普通なら…というよりも私達ですらその右に振り向き対処する。しかし彼は左斜め後ろに回し蹴りをして対処した。そこには藍がスキマを使って不意打ちした場所があった。
「!?」
藍は吹っ飛び、私がキャッチする…藍…油断しすぎよ。あれに用心しすぎるなんてことはないわよ。
「紫様、こいつ…かなり強いです。」
想像以上ね…彼。不意打ちすらも許さないなんて…短期戦でもないのに不意打ちするのは正解だったわね。不意打ちするのは普通は短期戦でやることであって長期戦は無理…しかし彼の場合は違う。彼は不意打ちをしないと相手にすらして貰えない。いやという程実力差があるとわかってしまう…
「ね?だからあの侵入者を放っておいてまでここに来させた理由がわかったでしょう?藍…」
藍は頷き、私の意見に肯定した。無理もないわよね…私の式になったとは言え藍は九尾の妖怪。むしろ式になったことでよくも悪くも賢くなりこれまで身体能力任せだったのが頭脳戦に持ち込み勝つようになった。身体能力でも頭脳でも完璧をほこっている藍に勝てるのは私を含めごくわずか…
「さて、大和勇姿さん。貴方が幻想郷にいる価値があるのか私の手で確かめてもらいますわ。」
悔しいが彼はまだ戦闘ですらないと思っている節があるので私は逆にそれを利用し、話しかけた。弾幕ごっこで不意打ちは禁止されているけど幽々子も反則しているから問題ないわよね…
「判定はどうあれ出して貰いたいものだ。今の時代どいつもこいつも役立たずだしな。」
役立たず…つまり外の世界で彼と戦って人間も妖怪も関係なく無事でいられたのはいなかったということ…つくづく恐ろしい奴ね。
「ご心配なく。判定は出してあげますよ。」
だけど私はそんなに甘くない。私にも幻想郷を守る者としての意地がある。彼は幻想郷を乗っ取る気である以上…私はやらねばならない!
「そうか。なら安心してやれる。」
彼は笑ってそう言った。この戦闘狂…!
「中々良いじゃねえか。」
私は何も言わない。そして技名も告げない。それだけ彼との戦いは油断は出来ないのだ。私がやることはせいぜい藍にアイコンタクトで指示するかこうやって殺気も込めず弾幕を撃つことだけ…
「ベラベラと喋るのは俺の趣味じゃねえが…俺ばかり見てないでちっとは周りを警戒したらどうなんだ?」
周り?…スキマを通して全体を見てみるが何一つなかっ…!
「ぐっ!」
藍が私を庇い、私を助け戦線離脱をした。
「藍!」
今何が起きたかというと私がスキマを覗いているうちに彼はその開いたスキマに弾幕を撃ち、私はそれを避けようとした。しかしそれこそが彼の狙いでその避けたところに弾幕があり、藍はそれを受けた…ということだ。私らしくもないわね…彼の言葉に操られるなんて。
「やはりな…」
やはり?一から藍を狙っていたの…?!
「貴方…これが狙いだったの?」
私は思わずそう呟いて尋ねた。
「大方な。お前達が筋書き通り動いてくれて助かった。」
この化物が!幻想郷の中でも頭脳派である私をここまで出し抜くなんて信じられない…月に攻めた時以来ね…この屈辱は。
「ふむ…もう時間だな。」
彼はそう言って構えを解いた。
「時間?」
私には彼が構えを解いたのを見て不意打ちをしようとしたが無駄だと諦め、何を企んでいるのか尋ねた。
「そう、彼女達がやって来た以上お遊びはここまで…ということだ。」
…藍が言っていた侵入者ね。まさか霊夢が来るなんてね。
「ふんっ!」
わっ!?これは消火器の粉!?目くらましの積もり…!?しまった!!!やられた!!!!これが通常の相手なら霊力や魔力、妖力等を感知して戦えるが彼はなぜかそう言ったものは感知出来ない。その上あの銃から出る弾幕は殺気がまるでないので殺気を感じ取り避けることも出来ない。肉体派の妖怪は音とか空気を感じ取り避けることも出来るだろうが私にはそんなことは出来ない。そんなことをやる機会がないからだ。つまり今の私はただジタバタと暴れることしか出来ない。
「うっ!?」
そして、私は弾幕に頭をぶつけ気絶した…強すぎる…!!
…NOWLOADING…
「はっ!?」
私は気がつくと博麗神社の布団で寝ていた。
「起きた?紫。」
丁度良く霊夢が襖を開けてそう呼びかけた。
「霊夢…」
霊夢が来てくれたことに私は感謝した。これで彼が来たら私は錯乱していたでしょうね…
「もうそろそろ宴会の時間よ。あまり寝ていると遅れるわよ。」
「うん…ありがとう。」
「それと隣にいた…え〜と…幽々子だっけ?」
「幽々子がどうしたの?」
「幽々子がつまみ食いをしているから止めて。私の話しは終わり。」
…はい?幽々子がつまみ食い?…まさかね…私は恐る恐る尋ねた。
「幽々子がつまみ食いしている料理って…もしかして…」
これで藍や妖夢の料理じゃなかったらもう一度冬眠しようかしら…
「勇姿さん…大和勇姿の料理よ。勇姿さんは甘いから叱るだけにしているけど…」
ガバッ!!
私は耳を閉じて冬眠しようとしたが…
「夢想封印!」
あっけなくやられました(雑魚)
「幽々子…今回ばかりは恨むわよ。」
私は呪いの言葉をかけながらブツブツと幽々子の居る部屋へと向かって言った。
「幽々子ぉーっ!!」
気合を入れて私はその部屋に入った。
「ん〜っ?」
そこには小さな皿を持った幽々子、藍、妖夢、あとメイド…そしてせっせと料理を作っている彼の姿が見えた。
「起きたか…」
彼に話しかけられ私は思わず硬直するが取り直した。
「これは何?」
「いやあまりにもつまみ食いをするからな…新しい料理の実験台になって貰っているんだよ。今までのメニューじゃ物足りないしな。」
彼がそう返事をしても私は放心状態にあった…
「紫〜っ、貴方も来なさいよ。うまいわよ〜…」
「遠慮しておくわ。」
確かに前の宴会の時、彼の料理を食べてうまかったけど…そういう訳にもいかないわよね…
「まさか紫様…また太りましたか?」
「うっ!?」
藍が確信をつき、私の心にダメージを与え、私は狼狽え言い訳をした。
「し、仕方ないでしょう!?胸がまた大きくなっちゃったんだから!」
それを聞いた銀髪二人がゆらりと立ち上がった…
「紫様…」
「八雲紫…」
そして二人はまるで姉妹のように息があった。
「それは私への嫌味ですか!?」
「それは私への嫌味でしょうか!?」
そして私は再び気絶した…彼が来てからこんなんばっかり。
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萃夢想編
18話
依頼を終え、数日間の間休暇を取ったはいいが暇になり俺は博麗神社で料理教室の準備をしていた。結局意味なくね?
「ちょっと勇姿さん。ここでやらないでよ。」
霊夢が文句を言って来たので俺は影に霊夢を連れて内緒話をした。
「お前の気持ちもよくわかる…だがなこれはいい機会なんだぞ?」
「いい機会?どこが?」
「博麗神社に来ることで信者が増える可能性がある。」
「へ?」
「お前は美人かそうでないかと言われたらかなり美人だ。お前の顔目当てに来る人間もいる。俺はすでに人里に顔見知りとして知られているから恐れられる心配はねえ…ってどうした?」
霊夢の顔は赤くなり、ボーっとしていた。
「…」
「おい、大丈夫か?」
風邪でもひいたのか?全く霊夢らしくないな…
「えっ!?うん、大丈夫よ…」
「そうか。それじゃ俺の助手を頼む。」
「わかったわ。」
そして料理教室の時間となり…集まったのは人里の主婦達は当然、料理人を目指す男達、何故か銀髪従者コンビの十六夜咲夜と魂魄妖夢が来ていた。
「それでは料理教室を開催します。私の名前はご存知かもしれませんが大和勇姿、この料理教室の先生です。よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします!」」」
「いい元気ですね。では今日はオムライスを作ります。」
「お、オムライス?」
オムライスの情報は里人の話を盗み聞きして得たが、どれもこれも俺の知っているオムライスとは違いまるでかなり昔のオムライスの様だった。
「おそらくここにいる皆さんはなんでそんなものを…と考えているんでしょうが私の作るオムライスはちょっと違いますよ。」
俺はそう言って霊夢に卵を持って来させ、火をつけ材料を炒め…とにかく調理を始めた。
数分後…
「これが本当のオムライスです!」
ちょこんと卵が乗っているように見えるがこれでいい。何故なら…
「そしてこの卵をナイフで切るとどうなるか御見せしましょう。」
卵を切るとふんわりと半熟の卵がご飯を包み込み、そこにケチャップをかけると見事にオムライスとなった。
「う、美味そう…」
それを見た霊夢達はそう呟いていた。意外だな、この世界じゃ半熟なんて受け入れられないと思っていたんだが…
「これが本当のオムライスです。もちろん技術もあるのでそう簡単には出来ないでしょうが私が教えますのでご安心ください。」
そして人々は俺の指導を受け、半分くらいの人は出来るようになった。一番出来が良かったのは咲夜で次は妖夢だったな。やはり主人が主人だしな。レミリアと幽々子の我儘に対応する為にできたんだろうな。
「それでは今日はこの辺で終わりにします。ありがとうございました。もし要望があればこれからも日にちを伝えて料理教室を開催しますのでよろしくお願いします。気をつけて帰ってくださいね。では解散です!」
人里の人々は最後に博麗神社にお賽銭を入れて帰った…当然といえば当然だ。普段博麗神社に行かない分ここで寄付をしておこうという考えとせっかくここまで来たのに寄付をしないなんてもったいないと考えがある。幻想郷の人々が現代よりも信心深いからこそ尚更効果はあった。
「こんなにお賽銭が…」
霊夢はそれをみて驚き過ぎて呆れていた。俺の依頼の金だけで過ごしてきたし博麗神社に通ってお賽銭を入れる人間なんて正月を除けば魔理沙と咲夜くらいしかいなかったしな…それ以外では人外しか来ないから妖怪神社と呼ばれているらしい。レミリアも通っているんだが俺とは神社で一度も会っていない…どんだけ俺のことが嫌いなんだ?
「勇姿さん。少しお話が…」
レミリアの従者である咲夜に話かけられ俺は少し戸惑った。
「話?」
ちなみに俺と咲夜と妖夢は従者という共通点がある故に仲は良い。その為普通の口調で話している。妖夢は最初こそ怯えていたが主人の幽々子の為に俺と話しかけて常識人だと知り仲良くなった。ただ二人とも敬語で接しているから近々直して貰おうと思う。
「ええ、もしよろしければ私の職場…紅魔館の料理人として働きませんか?給料は出します。」
なるほどな…だけどそれだけじゃダメなんだよ。金は腐るほどあるしな。
「残念だが断る。」
俺が断った理由はコードの習得ができる依頼を少しでも受けたいからだ。それにレミリアが俺が料理していると知ったらどうなる?決まっているだろうに…
「そうですか…では手が空いている時に来てくださいね。」
咲夜は俺が来るとは思っていなかったのかあっさりと引いた。
「そうさせて貰うよ。」
「それでは失礼します。」
咲夜の反応からして俺は歓迎されているんだろうが…咲夜本人が歓迎してレミリアは歓迎していない可能性がある。長い休日が取れた時にでも行くか。
…にしても霧が出てきたな。少々片付けをするには邪魔臭いし、前回の異変を終えてパワーアップしたシステムの力を見せてやる!霧は風が吹いている場所じゃ使えない…となればコードを使って最大瞬間風速32mにして霧を吹き飛ばすのが正解だ!
「きゃっ!?」
霊夢のスカートがめくれたらしく悲鳴が聞こえたが後ろを向いていた俺には関係ない。
「何…?」
しかしまた霧が出てきたのでもう一度吹き飛ばそうとしたがそれは止めてマップを見た…大抵、この場合は人工的にやっているので調べたほうが良い。
ちなみにだが八雲藍と八雲紫を倒した後、めちゃくちゃボーナスを貰ってコードだけでなく、システムそのものもパワーアップしている。当然マップもパワーアップしており検索機能や名前、顔、能力、状態などがわかるようになった。他にもパワーアップした部分はあるがその時に説明する。
そしてマップを使い、敵だと認知した奴がいたのでそいつを早速調べた。
『伊吹萃香
性別 女性
種族 鬼
能力 密と疎を操る程度の能力
状態 霧』
…おいおい見た目は角が生えているだけの幼女じゃねえか。レミリアと同類か?レミリアも吸血鬼という種族の鬼だがこっちのは純粋な鬼か…全く厄介なことだ。
「勇姿さん、宴会の準備をするわよ。」
俺が思考していると霊夢が宴会をすると言って来た…別に今日は料理教室を開いただけで他はほとんどやっていない。
「何故だ?」
霊夢は萃香が何か仕掛けようとしていると気付いていないのか?…だとしたらちょっと面倒だな。
「なんかね…宴会しなきゃいけないと思って…それに勇姿さんはレミリアと仲良くした方が良いと思うわ。」
咲夜といい霊夢といい何でレミリアと俺を仲良くさせたいのかわからない…
「…まあ確かに嫌われるよりかマシだがあいつの方から避けられているしな。あいつの方から歩み寄ってくれなきゃ何一つ出来ない。」
むしろレミリアの反応はまだマシな方だ。八雲紫なんかは完全に俺を敵視している癖に何も対策をしてこない…妖怪の賢者を名乗っている癖にヘタレだなあいつは。
「そういうことで紅魔館によろしくね。勇姿さん。私は他の連中を呼びに行くから!」
霊夢はそう言ってさっさと行ってしまったので俺も紅魔館へと向かうか…前回正攻法で行ってもレミリアには会えなかったし今回は別の方法で行くか。
ババババババ!
「俺は天才だ。」
俺はいつものように踊り、戦闘ヘリを召喚して紅魔館へと向かった。むしろ天災と言われかねないがそんなことはどうでもいい。良いイメージを与えてレミリアとコミュニケーションをとることが大切なんだよ。
「レミリア発見~っ!」
俺はまるで人格が変わったかのようにノリノリでそう言ってレミリアを見つけた。レミリアは屋上で優雅に日傘を咲夜にもたせて紅茶を飲んでいた…
「大和勇姿、これからターゲットに近づく!」
そしてレミリアに近づこうとするが…レミリアはそれに気づき逃げ去ってしまった…
「おいっ!待て!」
俺はお得意の収納でヘリを収納すると今度はジェットパックでレミリアが逃げようとした場所に着地した。
「何のようかしら?」
レミリアは顔を引きつらせて俺に用件を聞きに来た…どんだけ俺が嫌なんだ?とはいえその場で冷静に尋ねたのは良いことだ。
「紅魔館の皆さんにお知らせをするべくここに来ました。博麗神社で宴会を開くことになりましたので是非来てください。」
「そ、それだけ?」
まるでレミリアは小動物のように脅え、俺を見つめていた…可愛らしいなコンチクショウ!はっ!?ロリコンにドSと言われた気がする…
「それとそちらのメイド…咲夜から料理人としてスカウトされたのですが…時間が空いた時に来ますのでよろしくお願いします。では失礼。」
俺はそう告げ、食料調達のために人里へと向かった…
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19話
「ちょっと勇姿さん。ここでやらないでよ。」
私は抗議していた。その理由は勇姿さんが料理教室を開くとかいう理由で神社を占領してしまったからだ。
「お前の気持ちもよくわかる…だがなこれはいい機会なんだぞ?」
「いい機会?どこが?」
「博麗神社に来ることで信者が増える可能性がある。」
「へ?」
「お前は美人かそうでないかと言われたらかなり美人だ。お前の顔目当てに来る人間もいる。俺はすでに人里に顔見知りとして知られているから恐れられる心配はねえ…ってどうした?」
「…」
この人なんでこうも簡単に口説くんだろう…私が美人…?勇姿さんからみてそう思われていると顔が真っ赤になったわ…
「おい、大丈夫か?」
気がつくと勇姿さんの顔が目の前にあり、私はそれを見て動揺した。
「えっ!?うん、大丈夫よ…」
顔はイカツイけれど彼の本心は間違いなく私を心配していた。
「そうか。それじゃ俺の助手を頼む。」
「わかったわ。」
私はその後準備をしてオムライスとやらを食べてみた…見た目通り美味く、舌がとろけるような感じだった。
料理教室が終わりお賽銭を確認するといきなり風が強く吹き、私のスカートがめくれ上がった。
「きゃっ!?」
私はそれを抑え、勇姿さんの方を向くと彼は全く別の方向へ向いており、何かを気にしていた。
…そういえば気にしていたで思い出したけれど勇姿さんはレミリアとほとんど話していないというか異変以来話していないらしい。その理由は勇姿さんのいないところを見計らってレミリアは私のところに来ており、勇姿さんが近づくと消える。宴会を通してレミリアと勇姿さん仲を取り持ってみようかしら…勇姿さんへと恩返ししましょう…
「勇姿さん、宴会の準備をするわよ。」
「何故だ?」
「なんかね…宴会しなきゃいけないと思って…それに勇姿さんはレミリアと仲良くした方が良いと思うわ。」
「…まあ確かに嫌われるよりかマシだがあいつの方から避けられているしな。あいつの方から歩み寄ってくれなきゃ何一つ出来ない。」
「そういうことで紅魔館によろしくね。勇姿さん。私は他の連中を呼びに行くから!」
私はそう言って魔理沙達に呼びかけに向かった…
####
「それでは料理教室を開催します。私の名前はご存知かもしれませんが大和勇姿、この料理教室の先生です。よろしくお願いします。」
私は勇姿さんの開く料理教室に通っていた。前々回と前回の宴会の時…彼の料理を食べてみたけど美味かった…
「「「よろしくお願いします!」」」
「いい元気ですね。では今日はオムライスを作ります。」
「お、オムライス?」
オムライスくらいなら私も作ったことはある…というか私の職場は洋食中心なのでオムライスは作れるのはメイド長として当たり前。
「おそらくここにいる皆さんはなんでそんなものを…と考えているんでしょうが私の作るオムライスはちょっと違いますよ。」
まあ前に人里に言ってオムライスを食べた時はちょっと形に問題があったくらいだし、味は問題なかった…彼の作るのは見た目だけとは思えない…
数分後…
「これが本当のオムライスです!」
一見、ちょこんと卵が乗っているように見えるが私にはわかる。美鈴が唯一得意としていた洋食が今のオムライスだった。私はそれが好きで一生懸命頑張ったけど卵を包み込むことくらいまでしか教われなかった。独学でやっても出来ない…私はそれを見ることを諦めていた。
「そしてこの卵をナイフで切るとどうなるか御見せしましょう。」
彼が卵を切るとふんわりと半熟の卵がご飯を包み込み、そこにケチャップをかけると見事にオムライスとなった。…間違いない。なんで美鈴が作ったオムライスが彼にできる?いや…彼はそれ以上。思い出補正があっても美鈴はあそこまでは出来ない…
「う、美味そう…」
霊夢…あれは美味そうなんじゃなく美味いのよ。私の鼻が告げている。
「これが本当のオムライスです。もちろん技術もあるのでそう簡単には出来ないでしょうが私が教えますのでご安心ください。」
私は勇姿さんに教わり、それを初めて出来た。
「それでは今日はこの辺で終わりにします。ありがとうございました。もし要望があればこれからも日にちを伝えて料理教室を開催しますのでよろしくお願いします。気をつけて帰ってくださいね。では解散です!」
こんな有意義な時間がまた出来るとなると私は胸が踊った。美鈴のオムライスが私にもできるようになるなんて…
「こんなにお賽銭が…」
そういえば霊夢は勇姿さんが来る前まではお賽銭を頼りに生活していたんだった。今もお賽銭の量は変わらなかったらしいけど今回は別。私も奮発してちょくちょく集めた小銭を全て入れておいた。
「勇姿さん。少しお話が…」
私は何故美鈴以上のオムライスを作ることができたのか気になり、話しかけた。
「話?」
「ええ、もしよろしければ私の職場…紅魔館の料理人として働きませんか?給料は出します。」
私とあろうものがいつの間にか仕事のスカウトになり、勇姿さんにそう言っていた。
「残念だが断る。」
まあ当然よね…彼は霊夢の為にいるようなものだし、自覚している…霊夢がお嬢様と触れ合う為に、彼が席を外している時、切ない顔をしていたのをよく覚えている。
「そうですか…では手が空いている時に来てくださいね。」
私はせめて力になるようにそう言っておいた。
「そうさせて貰うよ。」
「それでは失礼します。」
私は紅魔館へと戻り、美鈴に尋ねた。
「美鈴…貴方が作るオムライス、誰から教わったの?」
「あれですか?あれはちょっと前にとある女性を師事した時に教えて貰ったものですよ。」
「とある女性?」
「その人は私が体術で初めて敗北した人間でしたね。」
「弾幕を交えての勝負じゃなくて?」
「はい体術です。ボロボロにやられてしまいましたよ。あの時は誰も体術じゃ私に敵う敵はいないという感じで傲慢でしたからね…それが原因で敗北。」
紅魔館をあの異変と白黒以外の侵入者から守ってきた美鈴が負けるなんて…信じられないわ。
「そういえばオムライスの話でしたね。オムライスは師匠が作ってくれて教わりましたよ。お前は中華しか作れないんだからたまにはこういうのも作れって感じで。」
「その人と勇姿さんの気って似ていたの?」
「それがわかりません。」
…は?美鈴の性格ならはっきりと答えるのにわからないとはどういうこと?
「彼は不思議なことに気を感じないんです。それだけでなく霊力、パチュリー様やお嬢様からの報告によると魔力や妖力も感じないらしく感知が出来ないらしいんです。」
「普段は抑えているとかは?」
「それも考えたんですが私と戦った時全く開放していなかったんです。」
「彼は一体…?」
「それよりも咲夜さん。お嬢様が不機嫌にならないようにもう行った方がいいのでは?」
「それもそうね。ありがとう、美鈴。」
私は時を止め、お嬢様のところへと駆けつけた。
「遅いぞ。咲夜。」
屋上でお嬢様が不機嫌そうに肘をついていた。
「申し訳ありません。お嬢様。」
「まあいいさ。それよりも紅茶を淹れてくれ。」
お嬢様の要望に応えるべく私は紅茶を入れ、お嬢様の優雅なティータイムが始まった。
ババババババ!
そしてお嬢様の優雅なティータイムをぶち壊したのはカブト虫のツノがなくなったような鉄の塊…
「ブーッ!!」
お嬢様汚いです…もしかしてあれがお嬢様を数日間の間不眠にさせたトラウマですか?
「ゲホッゲホッ…おい咲夜!逃げるぞ!」
お嬢様はカリスマを保ちながら逃げるという器用なことをこなし走った…おっと忠誠心が出てしまいましたね。ティッシュ、ティッシュ…
「おいっ!待て!」
お嬢様が逃げようとした場所に彼…勇姿さんは着地した。
「何のようかしら?」
お嬢様は顔を引きつらせ、勇姿さんに尋ねた。私も気になるし、聞いておいて損はないわね…
「紅魔館の皆さんにお知らせをするべくここに来ました。博麗神社で宴会を開くことになりましたので是非来てください。」
なるほど…確かに宴会なら会う理由はある。
「そ、それだけ?」
お嬢様はまるで親にイタズラがバレた子供のようにふるふると震え、そう尋ねた。お嬢様…反則です!上目遣いにその行動はぁぁっ!!
「おぜう様ぁぁぁっ!」
私は時間を止め、忠誠心を全力で出し、対応した。流石にお客様の前でこんな失態を見せる訳にはいかないからね…
しばらくして溢れる忠誠心を再び止め、能力を解除した。
「それとそちらのメイド…咲夜から料理人としてスカウトされたのですが…時間が空いた時に来ますのでよろしくお願いします。では失礼。」
ああ、完全に断られた訳じゃないんだ…良かった。
「咲夜ぁ~っ!!どうしよ~っ!?」
ああ、お嬢様の幼児退行が始まった…どんだけトラウマなんですか?たかが夢でしょうに…いやお嬢様の能力は運命を操る程度の能力。そのせいかお嬢様は正夢を見やすい…つまりお嬢様は誰に殺されるかはわかっているけどいつ自分が殺されるかわからない状態でいる。しかも彼は霊夢に慕われている上、彼のパターンを徹底的に分析した筈の妖怪の賢者八雲紫ですらも匙を投げる程の強さ…そんな相手から狙われているお嬢様からしてみれば恐怖でしかない。
「大丈夫ですよ。お嬢様…いざとなったら私がついていますから。」
私はいざとなったら勇姿さんを殺す覚悟はしている。彼もまた同じ…
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20話
宴会の前にあいつのところへ行くか。甘味でも土産にしておけばいいだろう…
「お久~!勇姿!」
…どうやら行くまでもなかったようだ。俺の目的の人物…というか妖怪は俺に軽い挨拶を交わした。
「久しぶりって程じゃねえだろ?フウ…」
俺とこいつ…フウが出会ったのはつい最近のことだ。
「懐かしいね…最初にあった時は敵だったし、今じゃこんなに話せるなんて信じられないよね。」
「まあ、そうだろうな。俺は依頼でお前達全員敵に回したんだしな…」
俺とフウは今でこそ友達だが最初に出会った時、敵同士だった。
~異変解決直後~
俺は妖怪の山に来て依頼をこなしていた。
「やれやれ…縛ってくれるじゃねえか…」
俺は愚痴っていた…その理由は依頼を受けた瞬間エラーが発生してしまい、コマンドのほとんどが使えずにいたからだ。幸いなことにマップとセーブ&ロード、道具の出し入れ、装備の機能は使えるが他は使えないという縛りプレイだ。早い話がコードやヘルプ機能が使えないってことだ。その為ジェットパックが道具に入っているものしか使えないから使い捨ても出来ない…頭痛いぜ。
「待て!」
頭を抱えていると白い犬っぽいの妖怪に絡まれた…
「ここは妖怪の山…お前のような人間が入っていい場所じゃない!」
「博麗の代行、大和勇姿。話は聞いているだろう…通してくれ。」
「博麗の代行…?!敵しゅ」
ドガッ!
「てめえは何をやっている…そこで寝てろボケ。」
敵襲!などとほざきそうだったから俺は殴って気絶させ、その場に寝かせた。
「しかし話が通ってねえな…もう少し先へ進んでみるか。」
俺は何故奴が俺のことを敵扱いしたのかわからず、それを突き止める為にも先へと向かった。
「待て!ここから先は通さん!」
俺の前に鴉天狗の女が立ちはだかるが俺は無視した。
「うるせえ!」
と一言とパンチで奴を気絶させた。
「…このまま頂上まで行くか。」
さっきの白犬と鴉女の行動からして俺は敵として扱われている。ブン屋かつ鴉天狗の射命丸文に取材させる代わりに話は通すようにあるんだがな…
「博麗の代行、大和勇姿。我々は歓迎しよう…」
やっと話が通っている奴に会えたか…全く
「ただし我々の弾幕でな!」
歓迎は随分と過激なもんだった。
「全く…なんでこんなことになっているのか理解出来ん。」
俺はそう愚痴って新しく追加した銃を取り出した。
「全員退避!あれに当たると一撃で気絶するぞ!」
こいつらなんで知ってやがる?確かに妖怪を退治した時に撃ったけれどマップで見ても誰もいない場所だったぞ?だから文が情報を流したというのはあり得ない…
「はっ!」
流石の俺といえども避けることを専念されちゃ当てるのは難しい…となれば…
「ではこうしよう。」
俺はその場を離れ、頂上へと向かっていった。
「そうはさせん!」
案の定バカ達が追いかけ弾幕を放った。
「あらよっ!」
俺は追いかけてきた天狗達を的確に撃ち、沈めた…バカ丸出しだな。
「よくも私の部下をやってくれたな…博麗の代行…」
そいつは見た目は俺よりも1つ下の女子高校生に見えるが雰囲気はまさしく頭領といった感じだ。
「お前は?」
「天魔。お前にやられた天狗達のトップだ。」
おいおい…これが中級妖怪か?中級妖怪だったら神経疑うぜ…
「そうか。じゃ聞くが」
俺の言葉を遮り、天魔は俺を攻撃してきた。
「死ね。小僧。」
「小僧扱いされるのは久しぶりだな。」
いや全く…俺の顔は老けているから40代に見えてもおかしくないしな。小僧と言われたのは10年くらい前の事だ。
「…っ!」
奴が起こしたカマイタチが俺を襲い、俺は避けるがその先に天魔がおり、蹴飛ばされた。
「ぐっ…あの吸血鬼どもよりもやるじゃねえか。」
少なくとも美鈴の全力よりも強かったし、何よりも俺が反応出来なかった…
「紅魔館の吸血鬼と一緒にするな。あいつらはたった500年前後しか生きていない。私の5分の1どころか文の半分にも入っておらんわ!」
どんだけ生きているんだ…こいつは?つーかあいつらの年齢初めて知ったわ。
「俺が対応出来ないほどのスピードでフェイントを織り交ぜるのは初めて見たぜ…」
妖夢の場合は直線的だったから反応出来たがこいつは違う。こいつは妖夢の瞬時的に出るスピードで攻撃とフェイントを織り交ぜる事が出来る…しかもその威力は親戚の中で一番脆いとはいえ相当頑丈な俺に膝を付かせ、血塗れにするレベル…恐ろしい奴だ。今まで戦ってきた奴らとは桁が違う…天魔って裏ボスなんじゃねえか?と思ったのは当たり前だ。それでコードが使えないって難易度地獄なんじゃないか?
「確かに貴様はレミリア・スカーレットや八雲紫を相手にほぼ無傷で勝った…だが上には上がいるということを覚えておけ。」
天魔は持っていた剣で俺に斬りかかった…俺は反応は出来ずその場で首を落とされた…
「ならば俺はその上を超えるだけのことだ!」
首が落とされたと思うのはこれまでの俺だったらの話だ。俺は剣をmachine-gunで防ぎ、はじき返した。
「…博麗の代行は伊達ではないということか。」
天魔は俺を賞賛し、剣を捨てた…
「当たり前だ…何故俺を襲うのかてめえらから事情を聞かなきゃならねえしな。」
俺もmachine-gunを捨て、素手となった。
「ほざけ。幻想郷に害を成す者が…」
幻想郷に害を成すって…俺は単純にイベントをこなしているだけだ。それが幻想郷を滅ぼすことになっているなら仕方ないのか?
「行くぞ…天魔ぁぁぁぁっ!」
「こい!代行ぅぁぁぁぁっ!」
それが殴り合いの開始の合図だった
3日後…未だに殴り合いは続いていた。俺はスタミナとパワーが売りだからそこまで持つが…こいつも相当タフだ…
「はぁーっ…はぁーっ…」
互いに満身創痍となり身体は言うことを聞かず、もはや気合と根性の勝負となっていた。
「ぬぅぅぁぁぁぁっ!!」
天魔は吠え、俺に向かって走り、突っ込んだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
満身創痍の身で出来ることは捨て身のカウンターが一番良い。もしもここで避けてカウンターを放っても天魔は倒れない…そう考えた俺はいつの間にか突っ込んでいた。
ドンッ!!!
互いの拳が当たり、顔にぶつかった…
「ぬっ…!」
俺は膝をつき、負けた…と思った。
「代行も大したことない…ね…大したこと…」
バタッ!
天魔が倒れ、俺の勝利が確定した。勝因は体格差だろうな。俺の体格は世界でも稀に見るほど大柄だが天魔は女性の平均くらいといった感じだ。その代償に身体はボロボロ…あざだらけの酷い状態だった。
『依頼を終えました。コマンドの機能を回復します…回復が終わりました。ご褒美として新しいコードと道具を入手しました。』
…これで良かったようだな。なんにせよコードで体力を回復しておこう。…ん?後ろにマップに敵のマークが?
「らぁっ!」
俺はとりあえず全快となったのでそいつを蹴っとばして置いた…
「そんな…」
などと聞こえたが無視して俺は天魔を担いだ。
「頂上にでも行くか。」
そして天魔が目を覚ますと天魔は素の話し方になり、事情を話した。敵対している時の口調は天魔としての権威を示すらしい…
「それじゃてめえは紫に言われてやったってことか?」
あの女…それでエラーが発生したのか。
「そうなるよ。それに噂の博麗の代行…つまり勇姿がどれだけやれるかって気になったしね。」
「俺が勝ったとはいえ期待はずれだっただろう?」
「期待はずれとは大違い…まるで勝てる要素はなかったね。よくあそこまで善戦出来たと思うよ。」
おいおい…冗談いうなよ。
「よく言うぜ…俺を散々あざだらけにした癖によ。」
俺がそう言うと天魔は乾いた笑い声を上げる。
「…いきなりで悪いけと友達にならない?」
「何を言ってやがる…てめえはとっくに俺の友達であり、ライバルだよ。」
「本当?」
「ああ…そうだ。」
「ありがとう…実は友達なんて鬼しかいなかったんだ。」
「いなかった?」
それから天魔は友達がいない理由を話した…天魔は妖力が生まれつき中級妖怪クラスしかなく、馬鹿にされ続けた。天魔曰く妖力に頼らず自らの努力のみで実力をつけ、ここまで成り上がったらしい。当然妖力が少ないのに実力はある為嫉妬、侮蔑などの目で見られていた。天魔になったらなったで媚びを売る天狗達が増え、現在友達と呼べるのは自分と同等の実力を持つ鬼の四天王と呼ばれる四人だけらしい。
「そうか…それじゃ俺が鬼以外で初めての友達ってことになるな。え〜と?」
「…フウって呼んで。本名は嫌いだから…」
「それじゃフウ。よろしく。」
「よろしくね。」
そして冒頭に戻る…萃香が霧状になっていた時に風が使えるようになったのはこの天魔と戦ったおかげだ。
「おばちゃん!もう一本!」
…こいつの正体は天魔なんだが普段は甘い物が好きな女子高校生みたいなことをしているから一般人から見れば全然わからない。むしろその親しみやすさから人間と間違われるくらいだ。…俺なんか時に妖怪と間違われたからちょっと羨ましいもんだよ。
「フウ、ちょっと聞きたいことがあるんだが…伊吹萃香って知っているか?」
俺は萃香について尋ねた…
「萃香ね〜…萃香は鬼の四天王の内の一人で技の萃香なんて呼ばれていたよ。密と疎を操る程度の能力持ちで簡単に言えば密度を操ることが出来るって言えばいいかな?対処する能力がなきゃ勝てない相手だけど…その萃香に喧嘩でも売るの?」
鬼の四天王…つまりフウの友達か。
「似たようなもんだな。」
実際には喧嘩じゃなく異変の時に戦うんだけどな。
「…じゃあ勇姿が勝ったらとっておきのお菓子をあげる!」
「お菓子か…もし負けたら?」
「妖怪の山で天魔の仕事を手伝ってもらうよ!」
「そりゃ酷え。絶対に勝たないとな。」
俺は苦笑して代金を支払ってその場を去った…
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21話
さてと…宴会を抜け出したはいいがあいつの姿がないな。マップで検索する方が早いな。…あそこか?
「ようやく見つけましたよ…伊吹萃香さん。」
俺は萃香を呼ぶと出てきたのは角が生えた幼女だった。
「なんのようだい?この萃香様を呼ぶなんて…」
「惚けても無駄ですよ。貴方は私の料理教室を終えた時、妙な霧になっていましたね?何をしたんです?」
俺も霊夢もおかしくなっていないが一応訪ねた。
「いや~春が短かったからさ、宴会の数も少ないじゃん?宴会が少なきゃお酒も飲めない…そこで私は宴会を促すようにしたのさ。もっとも突風が吹いてあんたには効いてないようだけど…」
経済的に圧迫する気か?こいつは…通りで霊夢が宴会を開く訳だ。
「…では単刀直入に申しましょう。宴会をアホみたいにやったらそれこそ普段酒が飲めなくなります。」
「それよりもあんた、その口調止めないか?偽り過ぎだ。」
…どうしてここの住民は敬語よりもタメ口の方が良いと思っているんだ?もう次から異変の首謀者や妨害者に対してはタメ口で接してやるか?
「わかった。だが覚えておけ…酒とはたまに飲むから良いのであって年がら年中飲むのはただのアホだ!」
『異変が発生しました。』
だからこいつ無能だな…良い加減にしろよ!最初の頃は仕事早いかと思ったのに…今回は悪口で始まるってどんだけ無能なんだ?
「ふぅん…それじゃ賭けをしないかい?」
「賭け?」
「そうさ。あんたが私との勝負に勝ったら私は宴会を促すのを止める。ただし、私が勝ったらそれはなしだ。」
「そうかよ…それじゃその賭け乗った!」
「いいね~最近の若者はヘタレばっかりで…」
「御託はいい。どんな勝負なんだ?」
ゲームだったらもう一つ選択肢が出てきそうなもんだが面倒くさいからそういった。
「そうだね…あんたは天魔よりも強いからこのくらいでいいか。」
萃香は足で円を描いた…てかなんで俺とフウが戦ったことを知っているんだ?フウが漏らしたのか…?
「なんの真似だ?」
「さっきのを聞いて私もあんたの言うように酒飲みたくなったけれど勝負となれば別だ。この円から私を出したら私の負けってことでいいよ。」
「そうか…そこまで言うなら仕方ない。」
俺は依頼をこなしたことで新しくコードに加わったメガトンパンチのコードを入れた…とはいえこのコードの強さは余りわかっていない。まあ…弾幕でやるよりかはマシだとは思う。
そして俺は先制攻撃としてジャブを放った。
「グエッ!?」
蛙が潰れたような声が聞こえた途端萃香は消えた…またあの鬼、霧になったのか?マップで付近を調べるか…いないな?いないなら宴会に戻ろう…
ドゴッ!ゴゴゴ…
「ぬおっ!?」
急に地震が起き、宴会の会場はぐちゃぐちゃになった。
「おいおい…ついてねえな。婆さんが居れば地震も止められたのにな。」
婆さんは文字通り拳で地震を打ち消したことがある。前に震度6弱と思われる地震があった時に婆さんはそれを瓦割りの要領で地面にパンチを入れて止めやがった…地震の原因である波の運動は普通打ち消すことは出来ないんだが…それをやったということは化け物としか言いようがない。俺?流石にそんな芸当は無理だ。
『異変が解決しました。』
…史上最速の解決スピードだな。今回は。俺と互角のフウよりも格上だと思ってみたら弱かったな…いや違うな。メガトンパンチが強すぎたのか。それで幻想郷英雄記(幻想郷で活躍した人間達が書かれている書類)に過大表現される訳だ…確か前見た時は【本当に人間なのか怪しいくらいだ。事実霧雨魔理沙氏から人間だと聞いて驚いており、またレミリア・スカーレット氏からは妹のフランドール氏を差し置いて怪獣と言わしめた】と書かれていたしな。
そう言ったことは霊力を出して妖怪退治が出来る霊夢や魔法が使える魔理沙、時を操る咲夜の方が適任だと思っていたがコードが異常過ぎてそう見えるだけだな…うん。俺はコード使わなかったらフウと互角に戦えるだけの人間だぜ?…それでも人間離れしている?おいおい、馬鹿言っちゃいけねえよ。フウと戦った時は気合で耐えてただけで何本…いや数え切れないほど骨が折れていたし、依頼終了後、体力回復コードが出来なかったら死んでいた。もしもフウが能力を持っていたら、俺を本気で殺しにかかったら…と思うと間違いなく救われたのは事実だ。
「勇姿さん?貴方がやったの?」
霊夢が不機嫌そうに俺に尋ねる。
「心外な…俺は異変を解決しただけのことだ。」
まあ萃香を倒したしコマンドにも異変が解決したって表示されたし大丈夫だろ。
「異変?どこに異変があったのよ?」
「じきにわかる…」
俺は片付けをし始め、食べ物を生ゴミ用の袋に入れて土に還した…
「勇姿、ヘルプミー!」
…フウが俺の前に現れると萃香も現れた。
「天魔ぁっ…よくも騙したな?」
萃香がジリジリとフウを追い詰め、俺を盾にした。
「嘘じゃないって!私と戦った時は少なくとも互角だった…ね?そうでしょ?」
俺に同意を求め、フウは上目遣いになる…確かに言っていることは間違いではない。
「…まあ少なくとも俺がフウ…天魔とほぼ互角だったのは間違いではない。」
小物っぽいがやむを得ないか…?
「だが俺はもうあの時の俺じゃねえ…いつまでも昔の俺だと思うなよ?」
あれ?本当は「あの時は紫に能力を制限されたからそうなっただけのこと…」と言いたかったのにどうしてそうなった?
「こ…」
こ?
「こいつは良い!はーっはっはっは!!!」
萃香が壊れた…
「確かにそれなら嘘はついていない!勇姿…今度地底に来いよ!そこに鬼がいるから歓迎してやる!」
「地底って…まあそこに行く用があれば行こう。…とりあえず今日は飲め。」
「おう!」
萃香に酒を注ぐとフウが近づき、俺の隣に座った。
「勇姿、妖怪の山も顔パスで通れるようにしたからいつでも来て大丈夫だよ。」
「すまんな。」
それから霊夢達に事情を説明し、異変を解決したことを伝えた。
「じゃあ、勇姿さんは初めから気づいていたの?」
「お前が異変も解決せずいきなり宴会をやろうなんていうからな。その時点でおかしいって思ったんだよ。だから俺は徹底的に調べ…今回の異変の首謀者伊吹萃香を倒した。」
最初の宴会は俺を祝う為のもんだし、魅魔と出会ったことから必然に起こる宴会だと思ったしな。
「…つくづく規格外ね。勇姿さんは。」
「それじゃ宴会の続きだ!乾杯!」
「乾杯!!」
こうして今回の異変は解決した…一応18歳(正確には18歳と11ヶ月)だから酒は飲まなかったけどな。
ちなみにレミリアの異変が前年の秋あたり…幽々子の異変が今年の春の終盤、そして今回の異変は夏の始めに解決していることになる。残る季節は冬だけだが…なんか冬には起こらない気がする。
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永夜抄編
22話
萃香の異変が終わり、19歳となった俺は里人からの依頼を終え、妖怪の山で夜のランニングをしていた。
『異変が起こりました。』
早すぎだボケッ!!俺への嫌がらせか!?萃香の異変からほんの少ししか経ってねえぞ!!!
「にしてもどうしろと言うんだ…?」
とりあえず景色を見てみると森、森、森…山道そのものだった。地上に異変は見られないとなると空か?今の季節と時間帯なら月の高さは秋分の日を迎えていないので低い…
高さに異常はなかったが形に異常があった。今日は満月のはずだが正確な円でなく、どの月の月齢にも当てはまらないような形だった。
「これが異変の元か…なるほど確かにそうだな。」
確かに今仕事しなきゃ異変解決は無理だな。とりあえず聞き込みだ。
某鴉天狗
「え?それよりも霊夢さんの半裸写真買いませドホゥッ!?」
とりあえず殴っておいた。
某常闇の妖怪の場合
「そーなのかー…でもお兄さん良い肉付きしてグフッ!?」
喰われそうになったので沈めた。次だ。
某虫妖怪の場合
「知りたいなら僕を倒しゲフゥっ!?」
秒殺したが気絶した為情報はなし…次だ。
某鳥妖怪の場合
「燃えて~せィシュフゥッ!!?」
幻想入りすんなボケ!お気に入りの曲なんだぞ!!
某騒霊三人組
「あなただけが使え…キャアアァッ!!」
「なっ姉さん!?よくも姉さん…ゲホォッ!?」
「ならせめて私の歌だけで…ガホッ!?」
とりあえず三人とも歌おうとしたので〆ておいた。宴会はまだまだ先だ…
以下略…
そして人里…それまでここに来るまで戦ってきたのはいいが全員無関係だったのでここで情報を集めることにした。
「博麗の代行か…今は貴方でもここを通す訳にはいかん。」
警戒心MAXの人里の守護者、上白沢慧音が俺を睨み付ける…
「そこを通りたいんじゃありませんよ。少し尋ね…」
「問答無用!」
慧音がジャンプして頭を振り下げた。角度、勢いからしてこのままでは確実に頭突きをもらうのは目に見えている。となれば俺は首を動かし、少しでも自分がダメージを負わず、相手に反動を大きくする角度に変えた。
ゴスッ!
「~っ!!」
案の定、慧音はめちゃくちゃ痛そうに転げ回り、タンコブが出来た。逆に俺は無傷だった。
「なんて石頭だ…この私が頭突きをしてここまで痛かったのは初めてだ…だがここは通さん!」
人の話を聞かない典型的なパターンだ…仕方ないか。
「話を聞いて欲しいっ!」
俺は慧音に怒鳴り、黙らせた。
「っ!!」
慧音はビクッと反応し、動きを止めた。
「…私は別に人里に危害を与える気はない。」
俺は強く目と口でそう訴えた。
「じゃあ何の用だ…?」
警戒心は少しは解いてくれたのか俺にそう尋ねた…良かった良かった。警戒心を解かなかったら先ほどのように「嘘だ!」とか言われかねない。
「私の用件は至って単純…この異変の首謀者に心当たりはないか?」
愚策と思うかもしれないがこれで良い…人里には能力持ちはほとんどいない…それも俺みたいな強い能力の持ち主は絶対といって良いほどいない。いたとしても今回の活動とは無縁の可能性が高い。里人のメリットはあるだろうがそんな大袈裟にやるくらいだったら事前に妖怪殲滅の依頼が来てもおかしくないからな。
「一応あるが私の友人の方が詳しいぞ?その友人は迷いの竹林にいるから気をつけて欲しい。」
迷いの竹林…マップで検索と…おっ?あったあった。
「ありがとうございます。では私はこの辺で失礼しますよ。」
俺はそう言って立ち去った。
そして新たに追加されたシステム…飛行の項目で飛ぶと現れたのは、俺が解決した首謀者達と八雲紫にフウ、そして霊夢に魔理沙…あとは謎の金髪の短髪少女だ。
「随分と大勢でわらわらと…」
しかしそんなことはどうでもいい。問題は何故こいつらが二人一組になっているかということだ。霊夢と紫ペア、魔理沙と短髪少女ペア、咲夜とレミリアペア、妖夢と幽々子ペア、最後にフウと萃香ペア…面倒だな。
「お前達も異変を解決しに来たのか?」
俺はシンプルにそう言い放つと全員が頷いた。
「勇姿さん…貴方に恨みはないけれどこの異変は私達が解決するわ。」
霊夢が立ちはだかり…紫は笑う。
「いやこの魔理沙のチームだ!前回も前々回も前々々回も勇姿にやられちゃ面目ってもんが丸つぶれだぜ。」
魔理沙はそう言っているが短髪少女は怯えている…まあ初対面じゃそうだろうな。
「勇姿さん…お嬢様のカリスマの糧となってください。」
遠回しに言いやがるな…咲夜は。要するに一番に解決するって言っているのと同じだ。
「勇姿さんより速く貴方達が解決するのなら、この魂魄妖夢がとっくにしている!!」
そう言って妖夢は構える…
「私…天魔と鬼の四天王の一人、伊吹萃香を相手にどこまで相手に出来るのか…試させて貰おう!!」
…全くこのままじゃ俺対全員と凄く面倒なことになる。戦闘は避けるか…
「そう言えば迷いの竹林に異変解決の糸口が」
俺がそう言った途端全員が迷いの竹林に向かって行った。せっかちな奴らだ。それがいいところでもあるがな。しかし迷いの竹林というだけあってマップも使えないだろう…そう考えると頭痛いがとりあえず竹林の方面に向かっていった。
~迷いの竹林~
「着いてしまった…」
俺は慧音に言われた人物を探すために迷いの竹林に入った…はずなのだがいかにも和風っぽい屋敷に着いてしまった。この中に慧音の友人もいる可能性もあるし試してみるか…?
「お邪魔します!」
俺はその屋敷の中へと入って行った。
「待ちなさい!」
そして俺は声がした方向へと目を向けた。
####
その頃…
「あ~っも~っ!!罠がうざったいわね!!!」
霊夢達は単純な罠に引っかかっていた。その理由は単純で紫が修行するように誘導したのだ。おかげで霊夢から紫の信頼度は下降中である。
「くそ~っ!!ここどこだ!?」
魔理沙達は迷っていた。
「だから急ぐとろくな目に遭わないっていったのに…」
短髪少女ことアリス・マーガトロイドはそう言って魔理沙を批判する。ここでアリスについて説明しよう。アリスは魔界の神神綺から生まれた存在であり、神綺からしてみれば子供である。それ故に過保護に育てられ慎重になりすぎるのだ。
「なんだと!?」
「事実でしょ!?」
二人は喧嘩を始めてしまった…
「雑魚がわらわらとうるさいわね…」
咲夜達は妖精が大勢出る地域に遭遇してしまった。咲夜達にとって集団戦はあまり得意でない…レミリアのグングニルくらいしか対処法はなく、それ故に不運だった。
そして…
「う~ん…おいし~っ!」
幽々子はそう言って兎達を褒める…現在幽々子は兎のついた餅で足止めをされていた。
「ほら行きますよ!幽々子様~!!」
そう言って妖夢が幽々子を引っ張るがテコでも動かない…
「もうちょっと~!」
妖夢は諦めて座った。
「フジヤマヴォルケイノーォ!!」
そして萃香達は慧音の友人、藤原妹紅に出会って戦っていた。
「あの姿…まさしく不死鳥その物だが…」
フウはそう言って巨大な団扇を持ち、妹紅の不死鳥を消し去る…
「所詮は人間の作り出した偽物でしかないわ!」
再び風を吹かし、妹紅を吹っ飛ばした…
「天魔…邪魔もいなくなった事だし、そろそろ私との決着をつけようじゃないか?」
萃香は妹紅が吹っ飛ばされたのを見て天魔に向かってそう言った…
「それもいいね…」
フウ…天魔は構えようとしたが…妹紅が飛んできた方向に注意を向けた。
「まだまだぁっ!」
そこには妹紅がおり、弾幕をぶっ放し、萃香達の注意を向けた。
「誰がいなくなったって…?」
「面白い…」
「そう来ないとつまらないね〜…」
そして三人は黙り…三つ巴の戦いが始まった。
次回は第三者視点です。
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23話
鈴仙・優曇華院・イナバこと鈴仙は自分の住む永遠亭に現れた侵入者と目を合わせた。彼女と目があうと狂気に呑まれ、彼女の思うがままになってしまう…それが常識だった。
「面白えことするじゃねえか?うさ耳女…」
その侵入者はまるで効いておらず、笑っていた。
「なっ…あんた化け物!?」
鈴仙はそれに驚き怯んでしまう…というのも彼女の目を合わせて無事でいられたのは皆無である。自身の師である八意永琳とて僅かだが影響はあった。だがこの男には全くと言っていいほど効いていない。鈴仙はとにかく震えていた。
「俺は博麗の代行、大和勇姿。異変を解決しにきた。」
勇姿はそう言って一歩、一歩と歩み寄り加虐的な笑みで鈴仙に向けて笑った。
「(ひっ!?)」
鈴仙が怯えると勇姿はさらに笑う…
「その怯えた姿…実に最高じゃねえか。ククク…」
…さてそろそろ解説しよう。勇姿は鈴仙の目を合わせて狂気に呑まれ加虐的な性格となってしまったのだ。
通常と違うのは勇姿は完全に理性は失っていないということだ。勇姿は本能で危険を察知して心臓を一瞬止め血液の流れをあえて狂わせて理性が失わないようにしたのだ。言ってみれば気合で鈴仙の能力をほぼ無効化したのだ。この時点で人間なのか怪しいが彼の周りにはそう言うことが出来る人間がいたのでまだ人間と言えるだろう。
閑話休題…
ただ勇姿は中途半端に効いてしまったために加虐的な性格となってしまった…それだけのことなのだ。それに加え、パニックになった鈴仙は狂気を操るということが出来ずにいた。
「止めて…!来ないでよ…!!」
鈴仙は遂には腰を抜かし、四つん這いで逃げようとした。
「逃がさん…」
勇姿は鈴仙の足を掴み、再び笑った。
「いや…!お願いだから…止めて…ください…!!」
鈴仙は怯え、震え、涙目になるがそれは今の勇姿には最高のご褒美だ。
「では異変の首謀者は何処にいる…?」
勇姿は邪悪な笑みで笑い、その姿はまさしく魔王そのものだった。
「それは言えな…っ!!」
鈴仙がそれを拒否するととんでもない威圧感が襲い、今まで鈴仙が生きてきた中で受けた尋問…いや拷問がまるで子供のいたずらのように感じてしまった。
「どうやら俺は耳が遠くなったようだ。もう一度聞く、首謀者は誰だ?そしてそいつは何処にいる?」
勇姿はそう言って短小のshotgunを構えた。聞くことが増えているがそれを突っ込むほど鈴仙はバカではない。
「5秒以内に答えろ。はい1!」
バンッ!!
そしてカウントダウンが始まった瞬間、勇姿は躊躇いもなく撃った。
「まだ1秒しかたってない!!」
鈴仙が突っ込み、抵抗するが無駄だった。今の彼は狂気状態である上に5秒以内に答えなければ撃つとも言っていない。
「2!」
ババンッ!
鈴仙の言葉を無視して勇姿はさらに躊躇いをなくして撃ってきたのだ。しかも鈴仙が避けなければ確実に撃たれていた。それだけ本気なのだ。
「3!!」
バババッ!!
さらに勇姿は過激になり、鈴仙をどんどん脅して行った。
「よ」
「言うから待って下さい!」
4の時に鈴仙がそう言って勇姿を止めようと説得した。
「…………………………まあ良いだろう。」
矢鱈と間が長かったがそれは横に置いて、鈴仙が口を開くのを少しだけだが待った。
「この奥に私達のトップがいます…名前は蓬莱山輝夜。」
そして白状してしまった。だが鈴仙にとってそれが一番良い選択肢だと思えるほど勇姿は怖かったのだ。
「そうか…ならば貴様は楽に殺してやる。何、痛みすらも感じないから安心しろ。」
勇姿は目撃者という名の鈴仙を殺す為、鈴仙の耳を鷲掴みにして鈴仙の米神に銃を突きつけ、引き金を引こうとした瞬間…
ドスッ!!!
「このド外道が!!」
鈴仙の師匠、赤青という服のセンス最悪の八意永琳は、鈴仙が輝夜の名前を出しても割り込んだりせずにただひたすらに勇姿を仕留める事だけに集中し、その心臓を貫いた。
「…で?これがどうした?」
しかし何故か勇姿は生きており、鈴仙を投げてその矢を引っこ抜き何でもなかったかのように涼しい顔をした。
「(まさかこの男、蓬莱人…?いえ、違うわね。地球での蓬莱人は藤原妹紅のみ…薬も処分したと聞いた以上蓬莱人が生まれるはずがない。妹紅がそんな嘘をついても意味はないはず…じゃあ一体何故彼は生きているの?)」
永琳はそう考えたがそれは間違いだ。永琳の矢が微妙に急所からズレていたのだ。勇姿の刺さった位置は心臓の中では最も動かない部分だった。そこに刺さり、勇姿は無事だったのだ。それを抜きしても生きていられるのは人間を辞めているのは確かだ。
勇姿は矢を引っこ抜いた部分をコードで回復し、元の状態に戻った。
「…面白い。どのくらいの力があるか試してやろう。」
そして勇姿はメガトンパンチのコードを入れ、永琳に軽くパンチをした。常人の感覚ならぽこっと殴る程度である。
ドカバキバキメキャグキッ!!
永琳は横の部屋はおろか、鈴仙も巻き添えにして永遠亭の柱をぶっ壊しながら吹っ飛んで行った。
「…まだ何かありそうだな。」
そして勇姿が一歩踏み出すと…
ガラガラドガシャッ!!
先ほどのメガトンパンチの二次災害により永遠亭が崩れ、鈴仙や永琳及び今回の異変の首謀者、蓬莱山輝夜はその下敷きとなった。なお勇姿はその際に頭をぶつけ正気に戻り、無事(一部大惨事)に異変が終了…
「このままで終わると思っているの…?大和勇姿ぃぃいっ!!」
…終了するはずもなく、輝夜は薙刀を持ち、勇姿に襲いかかっていた。彼女が勇姿の名前を知っているのは当たり前だ。あれだけ騒げば誰だってわかる。
「ふんっ!」
それを短小型のshotgun防ぎ、勇姿はマップで輝夜の情報を手に入れた。
「ようやく出てきたなぁぁぁっ!輝夜ぁぁぁっ!!」
そこに現れたのはextraの藤原妹紅だった。彼女はフウと萃香と戦っていたが吹っ飛ばされここにきてしまったのだ。
「邪魔だ!」
メガトンパンチのコードが入った状態で気が立っていた勇姿は妹紅を殴り、彼女の弾幕を置いてきぼりにして飛んできた方向に吹っ飛ばした。
「はじめからこうすれば良かった…」
そして妹紅の弾幕が永遠亭だった物に被弾し、炎上した永遠亭を背景にした銃を持たない勇姿の姿はまさしく某ゲルト族出身の魔王そのものだった。
「くたばれ…!」
そして輝夜の頭を上から殴り、地面に叩きつけた。
「痛いじゃない!!」
しかしそこにいたのは全くと言っていいほどの無傷の輝夜だった。
「!?」
勇姿はそれを見て驚いていた。あの力で殴れば必ずと言っていいほど大怪我をする…感覚もバッチリだった。だが輝夜は怪我を負うどころか全くの無傷だ。コマンドを開き、輝夜の情報を読み取るとそこには種族蓬莱人と書かれていた。
蓬莱人について少し調べてみると死んだら完全に復活する不老不死の人間のことと書かれてあり、そこで勇姿は輝夜が一度死んだと判断し、今度は優しく撫でるようにすれば問題ないと思った。
「このくそ力!!」
しかしそれでも輝夜が死んでしまうのでメガトンパンチのコードは切り、セーブしてまともに戦うことにした。
「こんなことはやりたくないが…どうだ?ゲームで勝負しないか?」
勇姿はそういって輝夜に提案し、勝負を決めようとした。
「ゲーム…ってどこにあんのよ!?あんたのせいで私のゲーム機全部壊れちゃったのよ!!」
輝夜は幻想郷にはないはずのゲーム機を持っており、暇な時はそれをして退屈を凌いでいた。だがそれが勇姿を一番驚かせた…
「!まさかゲーム機がここにもあるとは思わなかった…」
そう、勇姿が驚いたのは幻想郷が明治時代あたりの文化なのに関わらず、輝夜がゲーム機を持っていたことに驚いていた。
「…そういうことね…だけどあんたのようなトチ狂った狂人の言うことなんて誰が聞くと思う?」
輝夜から狂人と認められてしまい、勇姿は何一つ言えなくなった。先程の記憶があるからだ。あの時は自分の思うがままに従い、そうあるべきだと確信していたが正気に戻りそれが間違いだったことに気づいたからだ。
「…くっくっくっ…それもそうだな。」
だが輝夜から狂人扱いをされたからと言ってめげる訳ではない。寧ろ勇姿は先程の性格を思い出し、笑った。
「ならば貴様の心を折れば良いだけの話だ。」
勇姿は一瞬で輝夜を縛り上げると身体の部分を固定させた。
「まさか…」
輝夜はここで18禁行為をするかと思ったがそれは違った。
ダンダンッ!!
勇姿は先程のshotgunを黄金銃に変え、輝夜の頭に撃った。
「これで異変終了だ。」
勇姿のコマンドから『異変を解決しました。』と表示され、異変が終わったことを証明した。
「しかし…後始末が大変だな。」
勇姿がそう呟き、周りを見ると『ボーナスステージに突入します。』と表示された。これはextraの妹紅を倒していないことになる…その理由は言わなくともわかるが輝夜と同様に勇姿のメガトンパンチがあまりにも強すぎて死んでしまったのだ。その後妹紅は蓬莱人としての力を発揮して復活し、倒したとカウントされなかった。先程飛ばした相手を探さなくてはならなくなったことに勇姿はため息を吐いた。
永夜抄編はこれで終わりではありません。あと2回くらいは続きます。
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24話
俺はextraがどこにいるのか探していた。おそらくあの時割り込んできた白髪女だろうが…マップを見なかったのはミスだな。
「あ~…頭痛え~」
つかあのうさ耳女の目を見てからめちゃくちゃ頭痛えし、それを気合でなんとかしても永遠亭が崩れて頭ぶつけるし、自分がぶっ飛ばした奴を探すと思うと頭痛がする…
「仕方ないか。」
俺はその痛みを少しでも和らげる為に薬を使った。
「って全然効かねえ!?」
大半はこれを飲むと効くんだが今回はそうでもなく、俺は薬の瓶を思い切り投げた。後悔はしていない。
ドガッ!バキッ!
「…ん?」
変な音が聞こえ、俺はそちらに向かうと…
「おらっ!天魔とあろう奴がそんなものか!?」
「まだまだじゃ!我の力を舐めるな!」
フウと萃香が殴り合いをしてました。本当に面倒事ありがとうございます。
「つーかなんで喧嘩しているんだ…?」
あいつらは確かペアだったはずだろ?喧嘩してていいのか?
「おっ!?勇姿か!?」
「よく来たの!これで我らがどっちが強いか判別出来る…覚悟!」
2人は同時に俺に襲いかかって来た。
「やかましいわ!」
俺はメガトンパンチで地面に叩きつけ、地面を陥没させた。
「全く…油断も隙もない。」
そう言って俺はマップを開くと色々な敵がぞろぞろと表示されていたのでそれを調べると先ほど会った連中だとわかった。
「しかし霊夢まで敵になるとはな…」
一応霊夢は俺の上司にあたるが霊夢は堅苦しいのは面倒なのでタメ口である程度の無礼は許される…まあ親しき中にも礼儀ありというがそれの逆だな。
「勇姿さん…貴方には感謝しても仕切れない…だけど貴方は少々やり過ぎよ。」
霊夢が現れ、構えた。
「やり過ぎだと?」
「そう…私個人は勇姿さんをほったらかしにしてもいいんだけれどね…仕事だから。」
俺はこの時点でセーブしておいた…何か嫌な予感がする…が霊夢との戦いを楽しみにしていた自分がいたせいかハイになっていた。当然殺す訳にはいかないのでメガトンパンチは解除だ。
「そうか。なら俺を倒して見せろぉぉっ!博麗霊夢!」
俺はmachine-gunを撃ち、霊夢はそれを躱す…
「はっ!」
霊夢は札と針を使って俺に攻撃をするが俺には無駄だ。針はともかく札ごときで俺をどうにかするには物理的に斬るしかない。その針もmachine-gunの餌食になって消えた。
「夢想転生!」
なんだ…?霊夢がスカスカになった…?あれはマ○オのスカスカ帽子(スケスケ帽子かカスカス帽子だった気もする)か?ゲームであれを被ると如何なる攻撃も通さなくなり、自分だけが攻撃出来るという反則な奴だ。
となれば俺は戦闘スタイルを変えるしかない。これまでの俺は速攻でケリをつけるタイプだ。だが今回は美鈴戦のような戦い方に少しアレンジを加えたスタイルにする…
「…」
俺は構えを解き、ただ立った状態にした。今回は受け流すことだけに特化した完全回避型だ。
「私を舐めすぎよ!勇姿さん!!」
霊夢は俺に突っ込み、格闘戦に持ち込む。霊夢が格闘戦に持ち込むのかはおそらく霊夢が傷がつかないという確信か格闘戦の方が得意としているからか…それとも両方か…
「…」
俺は空気の流れを読み、霊夢の攻撃を受け流すように避ける。空気の流れを読み取ることが出来るのは武術の達人などと言われているがそんなことはない。射命丸なんかがいい例だ。射命丸は能力を使って空気を操ることも出来、ある程度どこに来るのか誘導させることも出来る。俺もコードとは言え風を操ることが出来るので空気を読み取ることが出来る。
「はぁぁぁっ!」
おっと、霊夢が疲れて来たか?無理もないだろうな…夢想転生は無敵になれかつ攻撃することも出来る。だがそんなメリットだらけの技があってたまるか。
俺のメガトンパンチだってそうだ。メガトンパンチは生物にしか効かないようになっている。それに気づいたのはつい先程…萃香とフウの服が破けていなかったという事実だ。あれだけの衝撃にもかかわらず、服が全く破れなかった。これは幾ら何でもおかしい…地面が陥没するほどの衝撃を受けてなお服は無事って…生物しか効かないということがこれでわかった。
話を戻す…夢想転生の弱点についてだがあれは燃費が悪い。マ○オの中で時間制限が一番短いんだぞ?それを無制限にしたらどうなるかわかるよな?ゲームバランスが崩壊する…夢想転生とて同じ…あれは本来は瞬時にやるべきものであって、延々と続けると霊夢が使う霊力とやらが尽きてしまう。それが尽きたら体力を喰う。当然スタミナも減り、霊夢はバテバテの状態だ。
「当たりさえすれば…勇姿さんなんて…」
霊夢が汗をダラダラと流しながら俺を睨みつける…無駄にエロいな。
「時間を止める相手を攻撃出来ても、たった一人の人間には当てられないのか?」
咲夜に聞いたが俺が美鈴と戦っていたの時、霊夢と戦っていたらしく、敗北したとも聞く。その敗因は…投げ終わったはずの札や針を背後からやられたらしい。
メニューを開き、俺は後ろを見ると後ろの足場に紫のスキマが開いており、背後にはぴったり霊夢の放った弾幕(札や針)があることから俺をそこに誘導していたことがよくわかる…当然イラッと来たので俺は弾幕を全て収納してスキマの中にいる紫の近くにピンを抜いた手榴弾を投げておいた。なおメニューが開いている間は時間が止まっており、化学反応も起きない為爆発することはない。
「ちょっ!?なんでこんな物がぎゃーっ!?」
BOM!
メニューを解除するとスキマの中で手榴弾が爆発して紫をボロボロにした。
「紫!ぐっ…!!?」
その瞬間、霊夢の体力が尽きて夢想転生が解けた。
「終わりだ。」
俺は黄金銃で霊夢を撃つとマップの敵マークが一つだけ残して消えた。
「やれやれ…」
俺はrifleに持ち替え、そこに狙撃した。
「うっ!?」
狙撃されたのは白髪アルビノの女『妨害者伊吹萃香を倒しました。妨害者フウを倒しました。妨害者博麗霊夢を倒しました。妨害者八雲紫を倒しました。extra藤原妹紅を倒しました。』…また邪魔されたし…
『ボーナスを獲得しました。獲得した道具は倉庫に入れられました。コードを獲得しました。』
UZEEEE!!毎回思うがウザい!輝夜を倒した時もそうだがどうしてこんな面倒なことを見なきゃなんないんだ!?
はぁ…とりあえず、宴会の準備って…霊夢が気絶しては意味がねえ!…明日にするか。面倒くさい。
~翌日~
そこにはいつものメンバーに加えうさ耳女に医者もどき、輝夜がいた。しかしいつもと違うのはそれだけが理由じゃない…霊夢が不機嫌だ。そのせいか宴会もお通夜みたいに暗い雰囲気になっている。
「ねえ、勇姿。やたらと紅白が不機嫌だけど何かあったの?」
最悪な雰囲気の中フランが博麗神社の裏にいた俺に話しかけ、尋ねる。ちなみにフランもいつものメンバーに含まれており、レミリアが俺と接することが出来ないのでフランを身代わりにしている。その為フランと俺との仲は良い。
「スキマ妖怪が原因だとしか言えん。」
紫が霊夢に嘘を吹き込んで霊夢は俺を襲った。その嘘がバレ紫は部下の藍にお仕置きされてボロボロの状態でここにいる。自業自得としか言いようがない…とにかく霊夢は俺を襲った罪悪感に囚われ、機嫌が悪かった。今、俺が慰めた所で霊夢は逆に傷つくだけだし、宴会が終わるまでそっとしておくのが一番良い。
「なるほどー…そう言えば最近私に友達が出来たんだ。」
友達か…珍しいな。フランは余り外へ出たがらないからフランと友になるには直接会いにいって話すしかない。咲夜がいるからフランに友達が出来たこととかはうわさ話程度には情報が届くはずなんだがな。
「俺と魔理沙以外にか?」
俺はフランの機嫌が悪くならない程度に茶化し、苦笑した。
「ぶう…そんなこと言うんじゃ教えない!」
フランは機嫌を悪くして拗ねた。
「あ~ちょっと待て。」
「何よ。機嫌を取るならちゃんと…」
「…霊夢のこと頼んだ。」
俺はそう言って真顔になった。
「…わかった。」
やったぜ!これで霊夢の機嫌が直る!俺はそうと決まれば早速霊夢の機嫌が直る前に徹夜で準備をしたが
「いってらっしゃい…三国時代の後漢へ。」
紫の手によって訳のわからない場所へ俺は連れて行かれた…マジでか…
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25話
私は今までの異変を裏で糸を引いていた黒幕、勇姿さんの様子を見ていた。
「あ~…頭痛え~」
勇姿さんがそう言って頭を抱える…珍しいわね。勇姿さんが頭を抱えるなんて…
「仕方ないか。」
勇姿さんはどこからともなく瓶を取り出し、その中身を飲んだ…薬なのかしら?
「って全然効かねえ!?」
勇姿さんが八つ当たり気味に瓶を投げ捨てた…本当に黒幕なのか怪しくなってきた…
ドガッ!バキッ!
「…ん?」
「おらっ!天魔とあろう奴がそんなものか!?」
「まだまだじゃ!我の力を舐めるな!」
あの脳筋コンビのことを忘れていた…
「つーかなんで喧嘩しているんだ…?」
勇姿さんもそう思っていたのか口に出すと2人が気がついた。
「おっ!?勇姿か!?」
「よく来たの!これで我らがどっちが強いか判別出来る…覚悟!」
脳筋コンビは勇姿さんに襲いかかってきた。
「やかましいわ!」
勇姿さんは2人を一撃で文字通り沈めた。あの攻撃が当たったらヤバい…
「全く…油断も隙もない。」
そう言って勇姿さんは考え込んだ…
「しかし霊夢まで敵になるとはな…」
私が敵になっていることに気づいていたの!?このまま放っておかれれば勇姿さんは必ず手を打ってくる…やるなら今しかない…!紫に合図を送った。他の連中は…どうやら出る気はなさそうね。大方弱った所を奪い取る気でしょうが…私達が決着をつける。
私は勇姿さんの前に立った。
「勇姿さん…貴方には感謝しても仕切れない…だけど貴方は少々やり過ぎよ。」
お賽銭箱を壊したことを理由に過剰のお金を渡してくれたこと、私が動けない代わりに家事や仕事をやってくれたこと、そして宴会の準備を手伝ってくれたこと…感謝してもしきれない…だけどそれが幻想郷を乗っとろうとした理由なら全て納得がいく。
「やり過ぎだと?」
勇姿さんが不思議そうな顔をして私を見る…そうでしょうね…私がそんなことで動く訳がないんだから。
「そう…私個人は勇姿さんをほったらかしにしてもいいんだけれどね…仕事だから。」
幻想郷が誰のものかなんてのはどうでもいい。でも勇姿さんが異変の黒幕である以上そうはいかないのよ。そうだと信じたくないけれど…
「そうか。なら俺を倒して見せろぉぉっ!博麗霊夢!」
勇姿さんは開き直り、私に叫ぶと鉄砲を取り出した。本当にそうだったんだ…何でなのかは後で聞いておかないとね。
「はっ!」
私は私特有の弾幕…霊力を纏ったお札や針を使って攻撃するが勇姿さんの鉄砲にあっけなくやられてしまう。
「夢想転生!」
勇姿さんが一瞬驚いた顔になるけれど元に戻し、笑うと構えが解け、無防備状態になった。
「…」
その余裕はなんなの?私を挑発しているの…?裏があるかもしれない。と普通は思うでしょうね…
「私を舐めすぎよ!勇姿さん!!」
私はあえてその挑発に乗り逆に挑発した。
歴代の博麗の巫女は霊力を使って夢想○○という技を使う。その技はその代の巫女によって様々…私の場合は二つある。一つは攻撃用の技『夢想封印』…これは紫曰く歴代の博麗の巫女の中でも最強クラスの技らしいけれど今回は使わない。いや使えないと言った方が良いわね。その理由は二つ目の技であり現在発動している技『夢想転生』がどんな攻撃も受け付けないという効果があるが霊力の消費が激しい上に発動している間は霊力を使い続ける。勇姿さんが夢想封印程度でピチュるとは思えないから無駄に使いたくはない。いつまでも夢想転生を続けるのは勇姿さんのパンチが当たらないようにする為…勇姿さんが時折予想外の動きに出たら私はすぐに負ける…その保証だった。
「…」
勇姿さんは私の攻撃を避け躱す…その連続をする内に私の攻撃が雑になってきた。もしかしたら私の夢想転生を見破っているのかもしれない…だけど夢想転生を止めた瞬間、私は瞬殺される。それだけは避けなければならない。一瞬だけ夢想転生を解いて勇姿さんの攻撃する瞬間を狙って夢想転生をするのもあるけれども一か八かの勝負に出るなんて真似は勇姿さんの前では通用しない…いいえ修業不足ね。
「はぁぁぁっ!」
雑になってきた以上正面から挑んでも勝てないと判断して私は殴るフリをして遅行性の弾幕を放ち、紫に合図を送った。
「当たりさえすれば…勇姿さんなんて…」
私はそう言って悔しがるフリをすると勇姿さんの背後に私の弾幕が迫り、紫も勇姿さんの足を掴もうと足の真下からスキマを出していた…そして私は「勝った!」と思った。それがいけなかった…
「時間を止める相手を攻撃出来ても、たった一人の人間には当てられないのか?」
勇姿さんがそう言った瞬間、私の弾幕が消えた。まさか勇姿さんも能力者だったの!?咲夜は時間を操る程度の能力だけど…勇姿さんのは一体…?
「ちょっ!?なんでこんな物がぎゃーっ!?」
BOM!
紫が何故かダメージを受け、ボロボロになり戦闘不能となった。元々紫は戦闘タイプの妖怪じゃないから無理もないけれど…それでも勇姿さんに勝つには紫のサポートが必要だった。それを失った今、私に勝機は完全になくなった。
「紫!ぐっ…!!?」
勇姿さんの攻撃を受けないために夢想転生をし続けていたけれど流石にもう無理ね…
「終わりだ。」
勇姿さんの鉄砲から弾幕が放たれて私に直撃し、私は気絶した。…強過ぎる…!
~翌日~
「はあっ!?あれは嘘!?」
目が覚めると勇姿さんが今までの異変を裏で糸を引いていた黒幕だということが紫から嘘だと告げられた。
「黒幕って証拠は無いけれども幻想郷を乗っ取るという考えは本当よ!私の目の前でそう言っていたんだから!」
紫の前で宣言するような勇姿さんは勇姿さんじゃない。これも嘘ね…
「問答無用!」
私はこれまでの人生の中で最も濃い弾幕を放った。
「ちょっ、止めなさい!霊夢!!」
それを紫はスキマに入れて対処するが返って私の怒りを爆発させた。
「いっぺん死んでこい!」
「本当よ!!お願いだから聞いて霊夢!!」
紫が何か言っているけど私には関係ない。
私は霊力を纏ったお祓い棒で思い切り何回も叩き潰した。
それでも私の怒りは収まらず宴会もつまらないものになっていた。
「本当に苛立つわね…」
私の霊力が私の体から歪み出て私を中心に回っていた。
「なあ…霊夢。」
「あぁっ?」
勇姿さんがキレた時以上に低く、冷たい声で返事をすると魔理沙がそこにいた。
「っ…!霊夢…あいつはそんなことで傷つく奴じゃないのは知っているだろう?」
魔理沙が私を励まそうとするけどこの湧き上がる感情を私は抑えきれなかった。
「うるさい!あの人が良くても…私は…私は…」
私はポロポロと涙を流していた…何で…?私がこんなに感情を表すなんてあり得ないのに…
「…霊夢、無理をするな。」
「無理なんかしてないわよ!」
そもそもの原因はあのスキマ妖怪!あいつがいなければこんなことにはならなかった!!
「あのな…霊夢は勇姿に謝りたいんだろ?」
「…そうよ。でも合わす顔がないわ。」
「ウジウジし過ぎじゃないのか?少なくとも霊夢…お前は今まで戦ってきた相手と宴会を通して仲直りしてきたんだろ?勇姿だってそのことは知っているはずだぜ。」
「…もういいわ。私は寝る。」
「おい!逃げるな!」
私は弾幕を放ち、魔理沙を黙らせた。
明日になれば私の心も落ち着く…私はそう考えて寝ようと神社の中へと入ろうとしたけど勇姿さんの話し声が神社の裏から聞こえ、そっちに向かった。
「…機嫌を取るならちゃんと…」
あの声は吸血鬼の妹…?機嫌を取るならって…私の機嫌取りでも考えているの?
「…霊夢のこと任せた。」
…え?なんでそんな真剣な表情なの?なんでそいつに私を任せるの?私は様々な疑問が浮かび上がって一つの結論に達した。それは勇姿さんが博麗神社からいなくなるということ。勇姿さんがいなくなるだけでも私は顔を青くした…それだけ私が勇姿さんのことを好きだったってことね…
私は気がつくと既に布団の中にいた。
「…勇姿さん…」
私は1人寂しく呟いて、枕元を湿らせて寝てしまった…明日何がなんでも謝らないと…
~翌日~
博麗神社には勇姿さんの姿がなくなっており、私のために作ったであろう冷たい朝食だけが残っていた。
「冷たい…」
私はあの時謝るべきだった。あの時紫の言うことを聞かなければ良かった。そう言った後悔が私をより惨めにさせる…
「会いたい…!勇姿さんに会いたい!」
私は立ち上がり、勘でどこにいるのか探そうとした。え…?目の前?
「いや~スマンスマン。今帰ったぞ。」
そこには顔の傷が増えた勇姿さんが中国風の服を着てお酒を持ってスキマから出てきた。
「え…?!どういうこと?」
「本当ならお前を励ますために徹夜で準備していたんだが紫が俺を抹殺しようと漢に送ったんだよ。」
漢…まさかね…でも一応聞いてみよう。
「漢って…もしかして呂布っていう奴と戦わなかった?」
呂布…その名前は地球史上最強の男と知られている。紫曰くその強さは正面から立ち向かったら歴代の博麗の巫女が束になっても全滅すると言われる程…まさか勇姿さんとも言えどそんな化物を相手に戦える訳が…
「よくわかったな。あいつと戦って何度死にかけたことか…」
嘘でしょ!?呂布を相手に生きて帰って来られるなんて…
「まあ最後の最後でなんとか白星を挙げたけどな。」
…私はそれに唖然としてしまった。勇姿さん、本当に人間?
「それじゃ向こうで馬鹿騒ぎして少し疲れたから寝る。」
私はそれを聞いて焦った。このままじゃ私が謝ろうとしたことが無駄になる。
「待って勇姿さん!」
私は勇姿さんを引き止めた。
「ん?」
「誤解してごめんなさい!」
「ああ…こっちこそすまないな。心配させてな…」
私はその言葉に救われた。
呂布はチートです。それでも勝てた理由は次回明らか?にします。
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日常編2
26話
あの呂布という奴マジでチートだった。何しろ今まで滅多に使わなかったロードを100回以上使ったくらいだ。戻る度に霊夢を励まそうとしたり、その場に残っても呂布に負けたままじゃ納得いかなかったから…20回死にかけてロードした頃から予め霊夢の朝飯を作ってから漢に行くことにした。
メガトンパンチは使わなかったのかだと?もちろん使ったとも。しかしあいつはどういうことか全く通じなかった。フウと萃香ですら大ダメージを受けるのにあいつは「これだけか?」とかいって無傷なんだぜ?弾幕モードを解除した殺傷力有りのmachine-gunでヘッドショットを何回もやっても同じ…化物としか言いようがねえ。
「いや呂布を前にして生きている方がおかしいですよ。」
などと突っ込むのは稗田阿求。幻想郷英雄録の作者だ。能力の事は伝えてないのでロードとかは呂布が手加減したから助かったということで話した。
「そうか?」
「そもそも勇姿さん…呂布って何者か知っているんですか?」
「…知らん。」
俺は漢とかの時代に詳しくないし、興味もない。それ故に俺はそう答えた。
「…やっぱりそうですか。」
「溜息なんか吐くもんじゃねえよ。幸せが逃げるぞ?」
「誰のせいだと思っているんですか?…呂布というのはですね…」
それから長い長い講座が始まり一時間に及んだ。
「…という訳なんですよ?」
「確かに紫からすれば呂布しか頼れる相手はいねえか。」
実際死にかけたしな。というかロード機能がなきゃ死んでた。
「八雲紫と仲悪いんですか?」
「俺自身はそんなには気にしていないが…紫が誤解しているせいで嫌われているんだよ。」
実際は誤解じゃない。思えば紫を弾いて幻想入りをしたり、前のように紫に殺傷力がないとはいえ爆弾を目の前にやったりしたことが紫の怒りを買ったんだろうな。
「まあこれで紫も俺を抹殺しようなんてことは考えないだろうな。」
「そう言えば…どうやって帰ってきたんですか?霊夢さんによるとあのスキマから帰ったようですが…」
それか…
「呂布と戦い終わった後、紫が俺の死体を見るべく来たらしいんだがまさか俺が勝つとは思ってもなかったのか驚いていたな。そして俺はその隙を突いて紫を脅して元に戻った。」
ヘタレの癖して下手に行動するからああなるんだよ。
「はぁ…なるほど。そう言えば呂布と言えば赤兎馬が有名ですが…実際にいたんですか?」
「赤兎馬?ああ…なんか栗毛の馬がいたな。ただあの時代の馬とは違って外の世界の競走馬のようなサラブレッドらしい馬だったぞ。」
確か1日で千里走るとか抜かしてたな…ちなみに何故そんなことがわかるのかというと俺自身は中国語わからないのに翻訳機能がコマンドについているおかげか赤兎馬が千里走るのを理解してしまった。
「サラブレッド?」
「まあ…速く走れるように品種改良した馬の名称だ。」
それにしても1日で千里か…千里は確か412Kmくらいじゃなかったか?時速40Km/hのスピードで走れば10時間より少し時間がかかる程度で済む。…ちなみに俺のジェット機はマッハを超えているので1時間程度だ。
「はぁ…」
阿求が感心していると少し違和感を感じ、マップを開くと射命丸が盗み聞きをしていたのがわかった。
「ところで…そこで盗聴している奴はお前が呼び寄せたのか?」
「えっ!?」
「あやや…バレてしまいましたか。」
射命丸が悪びれもなく出てくると阿求は射命丸を睨む…当然だな。
「射命丸…俺の記事を書きたければ盗み聞きしないで俺に取材したらどうなんだ?」
「いやいや阿求さんの方が勇姿さんも答えやすいのではないかと思いまして。」
「その心配はいらねえよ。似たような答えを返すからな。」
「では質問よろしいでしょうか?」
「言ってみろ。三つだけなら答えてやる。」
「では『運命の吸血鬼(笑)の妹』様からの質問です。紅魔館のメンバーの中で一番好感度が高いのは?」
間違いなくフランだ…ここは無難に答えておくか。
「そうだな。一番話しやすいという意味ではフランドールだな。咲夜は趣味が合う趣味友みたいなものだ。」
フランは幻想郷の連中の中で聞き上手だからな。それに俺以外の人だと幼女らしい仕草を振舞う一方、俺と接する時はフランの本当の性格を出してくれるからな…今なら萃香の気持ちが良くわかるぜ。
「ふむふむ…それでは『魅魔の弟子!』様からの質問です。魅魔様とはどんな関係なんですか?」
参ったな…多分魔理沙か?
「表現が難しいから例えていうなら大家と下宿人の関係だ。」
袋あるいは倉庫の中=陰陽玉の家で魅魔=陰陽玉だからそんなに間違いではないはず…
「では次は…『二刀の半霊少女』様からの質問です。外の世界で何をしていたんですか?」
妖夢だな。しかし外の世界となると…漢のことじゃないよな?あいつは紫と繋がっているし、何より射命丸が呂布と戦った時のことを盗聴していたから同じ答えを出すよりも違う答えを出してやるか。
「外の世界の俺は…波乱万丈だった。」
あん時は本当に大変だったぞ…職場体験の時中国系マフィアを潰す為に横浜に行くこともあれば勢力拡大してきたヤ9ザの組を全員検挙するために本部にある長野に行くこともあり、マル暴の課長が豚骨ラーメン好きで福岡限定で発売している袋麺とカップ麺を買ってこいとか言われて福岡にいくこともあった。
「波乱万丈?具体的には?」
「お前達…下野会は知っているよな?」
「ええ…突如消えたあの集団ですか?」
下野会…かつて人里を守っていた集団の名称だ。今となってはその名前も荒くれ者の集団となった…何故ならその下野会の態度が悪すぎたからだ。例えば平気でツケにして踏み倒すなんかは当たり前で酷い時には妖怪が取り付いていると嘘をついて人を殴ることもあった。
当然下野会を結成させた慧音が黙っているはずもなく解散させようとしたが腐っても妖怪から人を守ったというだけあって慧音は妖怪特有の弱点を突かれて返り討ちにあった。
その後、慧音は一番信頼できる妹紅にも頼んだが妹紅の弱点も知り尽くしている下野会は妹紅も撃退した後、宴会をやって謎の消息不明となった。ここまでは射命丸の新聞にも載ってあることだ。
「あれは八雲紫が外の世界に追放した説が有力ですが…勇姿さんが関わっているんですか?」
阿求がそう聞く理由は紫以外の人間がどうやって証拠もなく人間を消したかわからないからだ。紫はスキマを使えばなんとでもなるが俺にその力はない…
「そうだ。」
だが奴らを行方不明にさせることは出来る。それは収納のシステムだ。無生物の場合はほぼ無条件で収納出来るが生物の場合、収納するに物として認識している時しか出来ない。要するに意識の有無によって物か生物かを判断するようだ。
そのことに気づいたのは生きている川魚だけを収納しようとした時だ。何回やっても収納できなかったので川魚をいれたバケツごと収納したら成功し、収納が出来た。その後色々試した結果、川魚を収納するには気絶、睡眠、仮死状態、死亡の時、生物は無生物として認識し収納が出来るようになるとわかった。
俺は実験台として宴会の最中に下野会の連中を不意打ちをして気絶させると倉庫に収納して近日妖怪の山で素っ裸で放り出す予定だ。
「一体彼らをどうやって消息させたんですか?」
「阿求、射命丸…質問は3つまでだ。それ以上は答えないと言ったはずだ。」
阿求にも最初質問は3つまでと言っておいて正解だったぜ…
「ぐっ…」
「それよりも話を戻す。かつて俺は下野会と似たような組織と敵対していた。」
「はあ…別におかしくはなさそうですが…」
「馬鹿をいうな。俺の傷跡はほとんどが呂布によって傷つけられたものだが中にはその組織によって傷つけられたものもあるんだぞ?」
「えっ!?」
「あやや…」
2人が驚くのは無理ねえよな。何しろこっちに来てからは怪我をしてもコードですぐ治せるし、跡も残らない。それ故に俺が傷跡を残すのは敵対した奴らが異常なまでに強いということだ。…実際は当時俺は婆さんを倒せる程強くはなかったし、この顔の傷跡はヘマやらかしたようなものだからな。
「外の世界の妖怪が弱くなったんじゃなくて人間がめちゃくちゃパワーアップしていたんですね…」
「まあ一部の人間はそうだな。」
俺の親戚とか…あいつらマジで頑丈さだけなら俺を凌いでやがるからな。10tトラックに轢かれても平気って…どんだけ頑丈なんだ?
「では私はこれにて失礼します。」
射命丸が物凄い勢いで飛び出し、新聞の原稿を書きに行ったのを見送ると俺も帰ることにした。
「それじゃ俺も帰るぞ。英雄録の件頑張れよ。」
俺はそう言って阿求の家から出ると博麗神社へと戻った。
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27話
俺は下野会の連中を妖怪の山に捨てたり、ルーミア等の人食い妖怪のところで生け贄にしたり等の処分をして帰ると霊夢が少し困惑した顔で待っていた。
「勇姿さん。」
「どうした?」
「大和雄山って名前聞いたことない?紫から外の世界でそんな陰陽師の名前がいるって聞いたんだけれど…」
大和雄山…その名前は3つ年上の俺の兄の名前である。俺が19となっている以上雄山は大学の4年生になっているはずだ…4年ともなれば拘束時間こそ短いが外の世界で陰陽師なんてものはあったとしてもやらないだろう。そもそも陰陽師は妖怪退治や封印等の仕事。妖怪だらけの幻想郷ならともかく外の世界に需要があるとは思えないし、儲からないだろう。
「俺の知る雄山なら兄貴だ。だが兄貴の方の雄山は陰陽師ではない。」
第一、陰陽師なんて仕事よりもヤ9ザ狩りやチンピラ狩り、ギャング狩りの方が雄山は喜びそうだ。顔つきからして成れもしねえ高校の国語教師目指しているくせにな!
「そう…でも勇姿さんの名前を呟いていたから心当たりあると思ったんだけど…」
霊夢もそこにいたのか?…わからん。後で事情を聞くか。
「俺の名前を?」
「ええ、今雄山さんは紫にやられてこの神社で寝ているけど勇姿さんのことを寝言で言っていたわ。」
やられて…?
「どの部屋にいる?一応確認したい。」
「奥の部屋よ。」
~奥~
…どういうことだ?雄山と言えば雄山なのだが昔からあったはずの胸の傷が最近刻まれたかのように包帯で巻かれている。そして何よりも…幼すぎる。確かに身長170を超えていて顔も普通だ。だからこそおかしい。俺が知る雄山は目を合わせただけで人を殺しそうな目付き、ヤクザすらもドン引きする顔の彫り…つまりこいつは俺の知る雄山ではない。別人だ。
「うう…」
「起きたか。」
俺が声をかけると目が合い、雄山は飛び起きた。
「よ、妖怪か!?」
雄山は俺に向けて霊夢と同じような札を取り出して放つがそれを収納して対処した。…って雷破魔札(破魔札の雷属性が付加したもの)じゃねえか…本気で俺を殺しに来ているのか?!
「っ!?」
雄山は驚き、目を開くがそれは表情だけ。身体は俺に攻撃しようと動いていた。この反応は滅多に見られないが頭よりも身体で戦うことを覚えているが故に起きることだ。俺の場合は脳で身体を無理矢理動かして対処するがこいつは本能でやった。そう…兄貴の方の雄山と同じようにな。
「痛えじゃねえか…」
だが如何に速く動こうとも力を込めて対処すればどうということはないが親戚共は力を込めずにトラックに轢かれても平気だ。逆に俺はそんな頑丈な身体を持っていないから力を込めなくては対処出来ない。…あいつらマジで何なんだ?
「寝てろ。小僧。」
そして一発殴って気絶させた…
「ちょっと何なのよ…って!勇姿さん!何この有り様は!?」
霊夢は戦いによって部屋を荒らしたことに激怒し、暴れたから取り押さえるのにこうせざるを得なかったと答えると買い物に行かされて、霊夢はその後始末をした。
買い物に行って帰ってくるとすっかり元通りになっており、霊夢はそこにはおらず代わりに雄山は胡座をかいてそこにいた。
「…」
「目が覚めたか?大和雄山。」
「何で俺の名前を知っている!?」
明らかに動揺したのを見て俺は雄山と目を合わせた。
「お前に襲われた八雲紫から間接的に聞いた。」
「そうだ!あの女はどうした!?」
「知らん。奴の住む場所は知っていても行き方は知らん。行けたとしてもほとんど偶然に近いものだ。会う方法も向こうから干渉しないと出会えん。」
もっともそれは一般論だ。幻想郷内ならば奴がどこにいるかなんてわかる。流石に幻想郷の外…魔界とか月とかは無理だ。多分レベルアップすれば出来るだろうが…今は少なくとも無理だ。
「くそ!」
「…それよりもお前に聞きたいことがある。どうやって幻想郷…ここへ来たんだ?」
紫がこんな奴を放っておく訳ねえし、幻想郷から追放するだろう。
「あの女が弱っていたからな…隙を見計らって不意討ちしたらいつの間にかここに来た。」
「紫を不意討ちか…形はどうあれ俺の例と似ているな。だが何故紫を不意討ちした?」
俺の場合は車でヒャッハーして轢いて幻想郷に飛び込んだっていうのが事実だけどな。
「とある団体のお偉いさんに頼まれたんだよ。もう東京湾の魚のエサになっているだろうし、話しても問題ねえか…中国系マフィア団体の修羅って組織だ。」
俺はその組織を知っている。かつて職場体験で捜査四課の刑事として働いていた時、資料にその組織の名前があったがすでに解決済と書かれていた。
「10年以上も前に滅んだ組織がお前に依頼したのか?」
そう、既に修羅は滅びている。修羅は横浜に拠点に置いていた組織で海外系マフィアの中では関東で最も勢力のあった組織だったが、とある日を境に構成員全員が行方不明になっていた。それから修羅の本部関係者から刺客が何人も送られてきたが必ず3日以内に行方不明になることから修羅は恐れて日本を諦めた…と当時の上司に聞いた。しかし紫って妖怪からもマフィアからも嫌われているんだな。
「何言ってやがる。今はどうだか知らねえが数日前まで修羅は日本に普通にいたぞ。」
…まさかな。少し試してみるか。
「西暦何年だ?平成でもいい。」
「2004年、平成に直すと16年だな。」
やはりそうだったのか。こいつは俺の兄の雄山だ。俺が幻想入りしたのは2014年、ところがこの雄山は10年以上も前の世界からやって来た。逆に俺が未来から過去の世界に行って幻想入りしたという考えもある…言われてみれば会場に辿り着けなかったのもナビが故障していたのではなく、会場その物がなかったと考えられる。そして俺が幻想郷から出れない理由も霊夢が元の場所…つまり10年以上後の外の世界に繋ごうとして失敗したと考えられる。
「そうか…なら雄山、元の場所に帰りたいか?」
「当然だ。勇姿…弟がアメリカに留学する迎えをしなきゃいけないしな。」
そう言えばそうだった。俺はアメリカに留学して生まれてから別居している雄山が迎えに来なくて雄山の顔だけ知らずに帰国して会ったときは驚いたぜ…
「なら陰陽師の仕事を止めろ。陰陽師はもう裏の世界でしか活躍出来ないのはわかっている。そういった奴らが集まるところなんだよ…ここは。」
俺は忘れ去られてもいないのに何故か幻想入りして幻想郷から抜け出せないけどな。これが親戚共の罠だったら恐ろしい。…もしかしたら大和一族は陰陽師の家系なのか?だとしたらあいつらが身体が丈夫なのも頷けるし、俺はその家系でも落ちこぼれだったから疎まれていたという説明がつく。
「…わかった。元々この依頼を引き受けたのは弟の為だ。弟にお土産でも買って上げようと思ったんだが仕方ないか。」
「それなら少し待て。良いものを作ってやる。」
そう言って俺は小豆ともち米、そして専用の道具を使ってとあるものを作り始めた。
そしてそれを作り終え、それを雄山に1つ食べさせた。
「これは…餅のたい焼きか!?」
「そうだ。お前はたい焼きと餅が好きだったんだろう?だけどお前は相性が悪いからと理由でどちらか片方しか食わない…違うか?」
「何で俺の好きなものを…?そして何でそれを知っているんだ?」
「俺は…未来の…十数年後のお前の弟、大和勇姿だ。」
「はあっ!?お前が未来の勇姿なのか…?!」
「そうだ…驚いたか?別れくらいにそのくらいの土産は欲しいだろう?」
「…確かにな。いい土産だが…このたい焼き以外は要らねえよ。もうお腹一杯だ。」
「そうか。それじゃ専門家にお前を元の世界に戻すように言ってくるから少し待て。」
「わかった。」
~~
「霊夢、話は終わったぞ。」
「そう…ところで勇姿さんのお兄さんだったの?あの人。」
「…そうだ。あいつは陰陽師を引退して元の世界に帰りたいらしいから帰らせてやれないか?」
「ええ。それが私の仕事だから…」
「すまない…」
「それじゃ勇姿さん、あの人を呼んで来て。」
「わかった。」
こうして、俺は過去の雄山と出会って別れた。その後、無想転生のコードが追加された。
無想転生…ネタは北斗の拳です。
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28話
森
「無想転生…!」
新しく習得したコード、無想転生を森の中で試してみたが何一つ変化はない…名前からして霊夢の夢想転生に似ていなくもないが…こういう時はヘルプだ!
『無想転生は一定時間内無敵になれるコードです。ただし自分が攻撃している間は無敵でなくなり、また同じ無敵系統の技を相手が使った場合お互いに打ち消し合います。なお、このコードは依頼をこなす度に継続時間が延長されます。』
…もしかしてこれから戦う敵はこれを使わないと勝てない相手なのか?いや異変で得たコードじゃなく今回のコードは過去の雄山と戦って得たコードだ。異変を解決するには問題はないが…依頼をこなした先にいる裏ボスを倒すには必要不可欠な物だ。だがバランスがおかしい…天魔があれだけ強かったのに、過去の雄山相手ではどう考えてもこのコードは…っ!?
「そういうことか。雄山の奴…とんでもない野郎だ。」
俺は前言撤回した。その理由は胸に異変を感じ、それをみると筋肉が凹んでいた。雄山が何をしたかというと婆さんが得意とした空気を突いて、圧縮された空気による攻撃…空掌だ。空掌はただ空気を突くだけでは出来ず、ピストルのようにまっすぐに突く必要がある上スピードもパワーもなければできない技だ。
アレが原因で婆さんに剛の拳を振るえなかったし、近づくこともままならなかった。だが俺は身体に力を込め攻撃を無効化してようやく勝てるようになった。つまりこの技によって婆さんに長年苦戦したと言っても過言ではない。俺もそれを習得しようとしているが図体がデカすぎてそれにあったスピードを出さないといけないので無理だ。婆さんや雄山がピストルだとすると理論上俺のはショットガンくらいの威力になるがその分スピードも速くないと空掌は使えない。今度の課題はそれの克服だな…
それはともかく…何故俺が気づかなかったかというと盲点だ。盲点は目の神経が視界を遮る場所でその場所に何かものがあっても何もない状態になる。つまり雄山は俺に悟られないように片方の手で破魔札を投げ、盲点の場所を広くさせてもう片方の手で空掌を放ち、俺に傷をつけた…という訳だ。雄山にとって誤算だったのは破魔札が消えたことではなく俺が傷を受けなかったことだ。
しかし…あの時が雄山の全盛期だったのか。俺にコマンドの力を与えた奴は何がしたいのかわからないが…全盛期の頃の雄山を俺と戦わせた。となると全盛期の婆さんが裏ボスになりうる可能性が高いな。
…となると次は誰だ?今までの異変以外での強敵は天魔と雄山の2人のみだ。天魔はコマンドがない状態だから強く見えたが実際には雄山に劣る。雄山に楽勝したのは相性が良かったと言っても間違いではない。他の連中だったら天魔を撃破しても雄山の時点で脱落しただろう…特にスピードは空掌が出来るだけあって素早かったし、パワーもある。間違いなく雄山は天魔と戦って勝てる相手だ。となるとだ…今度出てくる相手は雄山よりも強いことは確かだ。それに備えてやるしかない。
「…練習あるのみか。」
俺は構えて…空掌を放ったが、ボ!という少量の水素が酸素と結合して爆発するような音がしか聞こえず周りの木々には何一つ傷跡は残せなかった。確かに突きとしてはいいが空掌を放てなかったのでは意味がない。
「やはり構えか…?」
構えを試行錯誤を繰り返し変え続けて実証するしかないか…
それよりも依頼をこなしてゲームのような世界観にした奴の手がかりを少しでも見つけないとな…人里なら依頼はあるだろう。
〜人里〜
さて…とりあえず依頼人でも探してみるか。一番依頼が多いのはここだしな。
「あ、魔人様だ!」
「ホンマや!魔人様や!」
魔人…?どこにいるんだ?って何だ!?何でガキどもがこっちに集まって来るんだ!?
「魔人様〜っ!願い叶えて!」
わ、わからん…一体どうなっているんだ?それに願いを叶えるって…『依頼が発生しました。受けますか?』…これも依頼かよ!?まあいい受けよう。少しでも情報が欲しいからな。内容は『子供達の願いを叶えよう』か。まあやるだけやってみるか。
「それで何を叶えたいんだ?叶える願いは3つまでだぞ。」
「一万円欲しい!」
…一万円か、それくらいならあるだろう。
「ほらこれで一万円だ。」
俺はコマンドを使って福沢さんを渡し、願いを叶えた。
「何これ?」
「これは外の世界で使う一万円だ。願いを叶えた以上返品不可だ。」
幻想郷内で使う金と外の世界の通貨は大きく違い、こちらの一万円は100万円くらいの価値がある。つまり俺は実質100円しか渡していない。
「まあこれでも一万円だしいいか…」
諦め早いな…突っかかってくるかと思っていたんだがな。
「次の願いは?」
「慧音先生の授業を面白くして!」
面白くか…国語教師目指している雄山曰くつまらない授業ってのは『教師が教えるのが下手なのか、生徒の成績が悪いのかの二つのパターンが多い』とのことで授業を見てみないとわからないが俺に出来ることは…
「これを解いていけば慧音先生の授業が面白く感じる。」
そう言って渡したのは『幼稚園でもわかりやすく解けるセンター試験問題集』の本だ。俺の年はまだセンター試験だが確か20年あたりに変わるんだよな。
「あ…ありがとうございます。」
顔が引きつっていたな…まあそうだよな。自分が何もしなくても出来ると思っていたら目の前に課題を出されたらそうなる。
「これで最後だ。」
「お母さんの病気治して!!」
…やたらヘビーだな。しかし医学は専門外だ。一番いいのは専門機関である永遠亭に連れて行くことだが…聞いてみるか。
「永遠亭には行ったのか?」
「永遠亭に行けるほどお母さんは元気じゃないし、お金もないの…」
「…そうか。ではお母さんの場所に案内出来ないか?」
「わかった!」
まあ無理っぽいけどな。
〜民家〜
「ゴホッゲホッ!」
…さて出来ることと言えば、この母親をどうやって助けるかだな。…システムを使うか。この前俺が萃香をシステムで調べた時の応用で目の前の母親を調べ、体調はどんなものか、そしてどこが悪いのかということまで調べた。その結果がこれだ…!!
『弥生
性別 女性
種族 人間
能力 なし
状態 鳥型インフルエンザ』
鳥インフルは感染しづらいがその分インフルエンザの中でも病状が重く、死に至りやすい病気だ。豚はその逆…病状こそ軽いが脅威とも言える感染力がある。これくらいは一般常識だが明治時代の文化圏内である幻想郷にそんな常識はない。とうとう鳥インフルエンザまで幻想入りしてきやがったのか…早い所永遠亭に連れて行かないと母親だけでなくこの娘が犠牲になりうる可能性もある。
「治せますか?魔人様…」
「至急、永遠亭に連れていく。お母さんは風邪をかなり強くした病気にかかっている。このままでは里の皆も感染する恐れがある。」
「でもお金が…」
「安心しろ。俺は魔人だ。金なんぞいくらでも出してやる。里の皆が危険になるよりかはマシだ。」
「ありがとうございます!」
そして車を召喚し、俺は母親を乗せて永遠亭に直行した。
〜迷いの竹林〜
「オラオラオラーッ!車に落とし穴なんぞ関係ねえーっ!!」
車で飛ばして俺は竹林の中を走っていた。その理由は落とし穴に落ちないようにするためだ。この竹林には悪戯好きな兎が住んでおり、車でノロノロ走ろうものなら落とし穴の餌食になりかねない。
「急患だ!誰かいるか!?」
「うるさいわね〜永琳はいないわよ〜。」
俺が怒鳴り声を上げて言うと障子から輝夜が出てきて永琳がいないことを告げた。
「こんな時にか…!」
「一体何なの?一応聞いておくけど…」
「インフルエンザという感染症だ。それも死に至りかねない病状のな。」
感染症で間違いではないよな?だから医学って好きじゃねえんだ。
「…それじゃ永琳が来るまでこの先のベッドで寝かしておきなさい。永琳には私が言っておくわ。」
輝夜はそう言って奥の方へ指を差した。
「感謝する。」
母親を奥へ連れていき、寝かせてしばらくすると永琳がやってきて治療して入院させることになった。その後金を払い、母親と娘が再会して依頼が終わるとシステムのレベルが上がり、渾名も博麗の代行から博麗の魔人へと変わった。最後のは嬉しくねえ…!
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花映塚編
29話
〜博麗神社〜
俺は精神統一をする前に少し考えていた。八雲紫が俺を漢に連れて行った行動はイレギュラーだったのか?ということだ。何故なら呂布と戦って勝ってもコードの習得やシステムのパワーアップがなかった。ここで二つの説が考えられる。一つ目は本当に紫の取った行動がイレギュラーであり、本来ならそのまま終わりのはずだった説と呂布との戦いは負けイベントで絶対に勝てないが勝ってしまった説が考えられる。…前者も十分考えられるが紫がそこまで抗えるとは思えない。となれば後者だな。後者ならば勝っても負けても俺を見に紫が覗きに来るのでその隙を突いて帰れたのは違いない。それに認めたくないがシステムを使える時点で俺が特別だということもある。
さて心の靄がなくなったことだし精神統一をするか…精神統一は心が乱れては元も子もないので俺は基本的に疑問をなくしてから精神統一に入る。心拍数を40から20前後に抑え、思考することによって発生する脳波を無にして何もない状態に近づける。そして俺はスッ…と精神統一をした。
「勇姿さん、ちょっと外見てよ。」
「外がどうした?」
霊夢が話しかけてきたので中断して外を見ると桜や秋桜を始めとした全ての花が咲ききっていた。
「見てのとおりよ。違う季節の花が全部咲いているのよ!?これは異変に決まっているわ!」
「そうでもねえよ。詳しいことは知らねえが60年に一度花が咲き乱れる時期があるらしい。歴代の博麗の巫女の日記にもその記録がある。」
そのあと何も変化起きないから詳しくは記載されていないし、霊夢も実際に知らなかったから幻想郷からしてみればどうでもよかったんだろう。ちなみに日記を内容を知っているのは幻想郷から戻る方法を探しているとそんな物が見つかった。
「えっ!?そうなの…?」
「そういうことだ。それでも調べるっていうなら…俺も行こう。」
「ええええーっ!?」
「何だ?不満か?」
「勇姿さんがそんなことを言うなんて意外過ぎたから…それに一緒にいったら…誰もいない状況になるわ。」
普通はそう考えるけどよ…霊夢。その心配はねえよ。
「…霊夢、後ろを見ろ。」
霊夢が振り向くとそこには霊夢と同じデザインの巫女服を着た2人の鬼…萃香とフランがいた。
「え…?どういうこと?」
「見てのとおりさ。ここは私たちが何とかするから霊夢、あんたは………に行ってきな!」
あん?何か一部聞こえなかったな?「「解決し」に行ってきな」って言ったのか?
「ば、ば、馬鹿なこと言っているんじゃないわよ!大体鬼がいる神社なんて縁起が悪すぎるわよ!」
霊夢は何故か顔を紅潮させながら萃香に反論するとフランが更に反論した。
「それを言ったら紅魔館なんて人間(咲夜)や妖精がメイドやっているし、美鈴なんて頭にナイフ刺されても生きている妖怪だよ?別に問題なんてどこにもないと思うなぁ。」
「頭にナイフってよく生きてられるな…」
俺がボソッと呟いても全員はそれを聞いておらず話しは続いていた。
「それにさ、勇姿と約束しているんだよ?霊夢の面倒を見てくれって。」
こいつ…まあ俺としては都合が良いし、文句は言わない。
「勇姿さん!」
「まあそういうことだ。流石にお祓いは無理でもそれ以外の雑務は出来るから問題はないだろ?」
いや2人ならお祓いも出来かねないな。能力が能力だしな。萃香の能力で悪霊を散らして、フランがそれを破壊する…普通に出来るな。
「「もちろん!」」
「まあ偶にはこういうのも悪くないぜ。」
「うー…わかったわよ。」
そして俺達は空を飛んで空の散歩を楽しんだ。
その後、萃香とフランの活躍により何故か神社に参拝者という名前のロリコンが大勢来たのは俺ですらも予想がつかなかった。悪霊は退治出来てもロリコンまでは退治出来なかったか…
『異変が起きました。』
異変ね…どうせストーリーイベントだろ?
『今回の異変は特別な異変で時間制限があります。首謀者は妨害者を倒した数によって変化します。』
…面倒だな。スコア制のルールか。ストーリーには直接関与しないがやっておいた方が良いかもな。
「まず準備運動してから行こうか。」
言っていることはアレだが動機を知ったら激怒するであろう言葉を吐いた…ゲスだな。俺。
「準備運動…っていうと弾幕ごっこで良い?」
弾幕ごっこか。俺は弾幕が打てないから銃や格闘で補っているんだが…今回はチルノと戦った時と同じく銃オンリーで行ってみるか。
「そうだな。スペルカードは5枚で構わねえよな?」
俺は霊力や魔力なんかの不可思議な力を持っていないのでスペルカードを作れない。だが弾幕ごっこは技を宣言してしまえば例えカードに不可思議な力がなくとも非殺傷であればスペルカード宣言となる。俺の場合どんな銃でもこの条件を満たせる為、特殊な銃を使うときに宣言すればいい訳だ。
「ええ…それじゃ行くわよ!」
俺と霊夢は距離をとり…弾幕ごっこが始まった。
「秘術-無想転生」
俺は雄山との戦いで得たコード無想転生を発動させ、霊夢の弾幕を無効化した。
「なっ…!?私の夢想転生!?」
霊夢はそれに驚き、動揺するが流石に弾幕を止めるような真似はしなかった。
「大和一族に伝わる伝説の奥義…それが無想転生。如何なる技もこの技に屈するのみ。」
実際は嘘だがそうでも言わないとこの幻想郷ではやっていけない。submachine-gun銃を取り出し、弾幕をばら撒き、攻撃する。ばら撒く必要はないが弾幕ごっこには美しさが必要だ。言わば弾幕をばら撒くことは暗黙のルールで決まっている。
「なら…こうするしかないわね!」
霊夢は攻撃することを止めて弾幕を避けて躱すことに専念した。あんなチンケな弾幕は霊夢からしてみれば何でもないのはわかっている。となれば…
「散弾-WWⅠの米軍の主力」
カッコよく言ってみたが実際はただのshotgunだ。ドンッッ!と音が響き、shotgunから放たれた弾が霊夢に襲いかかるが難なくクリアか…後3つはどの武器にするか…いや使わない方が良いかもな。霊夢はスペルカード使っていないし。霊夢がスペルカードを使うまで待つか。
〜数分後〜
結局あれから霊夢がスペルカードを使うどころか弾幕を撃ってこないので時間制限もあるし、俺がとある銃を取り出し決着をつけることにした。
「一撃必殺-対物ライフル」
その銃は対物ライフル…システム曰く『連射こそ出来ないがそれを帳消しにする程の威力を持つ銃で黄金銃ですら仕留められなかった敵も倒すことが出来る最強の銃』らしく、一撃必殺にはちょうど良い銃だと判断した。
ズドンッッ!!!!ピチュン!
…とんでもない威力だな。これで非殺傷にするシステムってなんだよ?ゲームかよ?と突っ込むのは後にしてだ…霊夢がピチュり、弾幕ごっこは終わった。
「〜っ!!」
と思ったら霊夢が頭を抱えながら涙目になっていた。非殺傷でも痛みはあるのか…非殺傷モードで火炎放射器を使ったら拷問以外の何物でもないな。
「霊夢…大丈夫か?」
「平気…」
霊夢は蚊のなくような声でそう言うが頭を抑えていて全然平気そうには見えない…涙目になった霊夢も可愛いが流石に倫理的にマズイから傷薬でもやろう。
「霊夢…傷薬を塗るから少し我慢してくれよ。」
「!い、良いわよ!自分でやるわ!」
霊夢は顔を真っ赤にして薬を取り上げて自分で塗り、終わるとすぐさま言い訳をしながら俺の元へと離れていってしまった。…俺りゃ霊夢に嫌われているのか?そうでもなきゃ霊夢があんな態度を取るはずがない…仕方ない。案外ナイーブな心を持つあいつの場所に移動するか。
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30話
####
〜太陽の花畑〜
そこは極悪非道のドS妖怪、風見幽香が向日葵を育てている場所だ。もっともその本性は無害な妖怪なのだが…勇姿同様に勘違いされていた。
「ここって風見幽香のところじゃない…勇姿さん、なんでこんなところに用があるのよ。」
勇姿と霊夢は様々な敵を撃退し、順調に進んでいた。
「西行寺幽々子が起こした異変の際に礼になってから付き合いがあってな…意気投合した訳だ。」
勇姿も幽香も近親憎悪するタイプではなく逆のタイプである。特に性格や環境が似ていると謎の意気投合をして仲が良くなる。名前も同じ『ゆう』の字が使われている。
「あのUSCと!?」
勇姿を美化している霊夢は思わず叫び声を上げてしまった。何故悪名高い幽香と仲良くなったのかがわからない。
「誰がUSCですって?」
そして幽香が背後から現れ、霊夢はビクッと反応してしまった。
「幽香、久しぶりだな。」
「ええ。ところでこないだ試食したパン結構美味かったわ。カレーパンだったけ?パンを焼かずに油で揚げて調理するなんて思いつかないわ。」
「まあ歴史上カレーパンは当初はあんぱんと同様に普通に焼いていたんだがそれだと上手くなかったから揚げて試したら成功したって話だ。意外にも日本で作られたパンがここにない時は驚いたぜ…」
勇姿と幽香が話をしていると霊夢がブルブルと震えだした。
「勇姿さん…ちょっといい?」
「ん?」
「上司である私になんでそのパンを渡さないのかしら…?!」
霊夢は嫉妬していた。何故幽香にはパンを食べさせているのに自分には食べさせないのか…その思いが霊夢の怒りのボルテージを上げた。
「おいおい、馬鹿いうんじゃねえよ。幽香の家には神社とは違ってオーブンがあるから出来立てのものが食べられるし、ここから博麗神社に帰るまで結構時間がかかって不味いパンを食うことになるぞ。お前にそんな不味いパンを食わせるわけにはいかねえよ。」
「そ、そういうことなら良いけど…勇姿さんの作ったものなら何でも食べるわよ!だから今度から出来立てじゃなくても私に渡しなさい!」
「…幽香。オーブンと小麦粉を使わせて貰うぞ。霊夢に度肝を抜かせるようなものを焼く。」
「良いけど私にも食べさせなさいよ。」
「承知した。」
〜勇姿料理中〜
「そういえば霊夢、勇姿の得意料理って何なの?」
「ん?どうしたのよ?いきなり…」
勇姿が料理している最中、霊夢と幽香は雑談していた。霊夢は嫉妬を抑えながら、幽香は本を読みながら…という風なカオスな状況だった。
「貴女の所にいるとなると和食も出来るし、洋食も紅魔館のメイドに師事させているって噂も聞いたし…中華料理も出来るって話じゃない?だから気になったのよ…」
「確かに…勇姿さんはどんな料理が得意なの?」
「強いていうなら洋だな。だがどれも似たようなものだ。アメリカ…メリケンと言った方がいいか?俺はそこで様々な料理を食べていくうちに自分で作っていった。その結果、和洋中の三つが出来るようになった。」
「へえ〜…勇姿さんにそんな過去があったんですね。」
勇姿が解説していると第三者の声が聞こえ、幽香と霊夢の2人はそちらを向くと紅魔館の門番、紅美鈴がいた。
「あんたは…紅魔館の門番じゃない。」
霊夢がさらに不機嫌になり、ブスっとしていると幽香はそれを見て多少母性が芽生えたが某フリーダムなドSの神の如く美鈴に挨拶した。
「あら中国。久しぶりね。」
「紅美鈴です!名前くらい覚えてくださいよ!それに幽香さんとは花壇のことで2日に一回のペースで会ってますよ!?」
美鈴と幽香の繋がりは意外にも趣味だ。2人は花を育てるという趣味があり、その腕前はどちらも優れたものだ。それゆえに2人が話し合うのは当たり前のことだった。
「そうかしら?中国。」
「うう…やっぱり幽香さんは幽香だ。」
「ところで今日は矢鱈早いじゃない?仕事はお休み?」
「いや〜幽香さんの家からいい匂いがするから飛んで来ちゃいましたよ。」
「ふぅん…つまり私の料理をつまみに来たってことね?」
瞬間、ドス黒い何かが幽香の周りに纏わりつき、目も逝っていた。
「違います!違いますよ!どんな料理を作っているのか気になっただけですよ!」
「そう…ならいいけど。ところで貴女…勇姿と戦ったことあるんでしょ?どうだった?」
そして2人の共通点…どちらも格闘戦を得意としており戦闘狂だった。
「…強いですよ。かつての師匠の技をようやく習得した私でも勝てるかどうか怪しいですね。」
そして料理が運ばれた。それは普通のピザではなく、照り焼き、麻婆、ハムの三種類に分けられたピザだった。
「なら試してみるか?美鈴。」
勇姿がピザカッターで種類ごとに三等分し、更にそれを四等分しながら美鈴に挑戦状を叩きつけた。
「勇姿さん…いいんですか?」
「手洗ってくるから少し外で待ってろ。」
「わかりました。」
そんなやり取りをしている間、霊夢はというと…
「ハムハム…」
1人ピザを食べていた。
〜外〜
「さてと…どんな技なのか見せてもらおうか。」
勇姿は構え、美鈴の攻撃に耐えられるように全身に力を込める。
「行きます…」
そして美鈴は拳を前に出し、ゆっくりと弓を引くように腕を引いた。
「…!」
「大和空掌砲!」
ドスンっ!大砲のような一撃が響きわたり、偶々周りにいたリグルやルーミアなどの小妖怪は太陽の花畑から森奥まで吹っ飛ばされ、チルノに至っては一回休みの状態になっていた。幽香はなんとか大妖怪の意地で耐えていたが傘を突き立て、ようやく無事だった…
ルーミア達がいくら幼い格好とはいえ人間の数倍は少なくとも生きている妖怪であり力もある。大妖怪同士の攻撃の余波で森奥まで吹っ飛ばされたりはしない。しかし現に吹っ飛ばされた。それだけ美鈴の攻撃力が高かったということだ。
「まさか空掌の使い手が雄山や婆さん以外で現れるとは思わなかったぜ。」
しかし勇姿は無事だった。あの余波だけでも幽香が姿勢を崩すのに一歩たりとも動いていない。
「全く冗談じゃないですよ…あの技を直撃したのに傷一つどころか一歩も動かないなんて…前よりも強くなってませんか?」
「そうかもな…あの時の俺は弱かった。呂布を相手に挑み続けて力も技も全てパワーアップして今の俺がいる。」
「…呂布ってあの呂布ですか?」
「そうだ。あいつ程理不尽な存在はいない…この空掌も奴の前ではそよ風みたいなものだ。だが今のでようやく習得できそうだ。」
「え…?」
「お前の師匠とやらに感謝する。俺はようやく銃を使わずに弾幕を放つことが出来る。」
勇姿は美鈴と同様に弓を引くように腕前を引いた。
「まさか…今の技を?」
「お前は空掌を誤解しているようだが本来空掌は空気を圧縮し、圧力で攻撃するものだ。気や妖力なんかの力は不要だ。」
「その言葉は!?」
「行くぞ!」
そして美鈴は慌てて防御を固めようとするが…遅すぎた。
「大和空掌砲!!」
勇姿の放った正拳突きはまっすぐ空気を圧縮し、空掌が放たれ…美鈴の腹に直撃し、勇姿のコマンドに『紅美鈴を倒しました』と表示された。
「流石は博麗の魔人ってところかしらね。美鈴を一撃で倒すなんて。」
「魔人は止めろ。せめて代行にしてくれ。俺は気や魔力を持たない人間だからな。」
「そう?でもその実力にふさわしい二つ名じゃない。」
「お前はフラワーマスターよりもUSCと呼ばれたいのか?」
「ええ。妖怪は恐れられてなんぼだからね。」
「女としては?」
「もちろんフラワーマスター!」
「「………」」
そして幽香と勇姿に長い沈黙が続き、2人とも口元が緩み始めた。
「「ふっ…はははは!!」」
「やはりお前らしい答えだ…」
「そういう貴方もね…」
「だからこそ俺達は恋愛感情にこそ達しないが相性が良いのかもしれない…」
「そうね…これで恋愛感情があったら大変なことになっていたわ。」
「確かにな。」
その後勇姿達は雑談してしばらく経ち美鈴を背負って紅魔館へと向かった。
〜紅魔館〜
「う…?ここは?」
美鈴が起きるとそこは知っている天井だった。そう、美鈴が所属している紅魔館だ。
「イダだだ!?」
美鈴が身体を起こそうとすると肋骨が折れ、まともに起きることが出来なかった。
「起きたか?美鈴。」
勇姿がやってくると美鈴は首だけ動かし、頷いて口を開いた。
「勇姿さん…貴方天才ですか?私の技を呆気なくコピーした上、威力を上げてしまうなんて。」
美鈴はそれが気になって仕方なかった。何故勇姿が自分の師匠の技を真似出来たのか、そして威力も自分よりも段違いに上だということに…
「元から下地は出来ていたんだよ。今回は美鈴の技を見て天啓を得ただけだ。」
「下地があった…?」
「多分だが俺の師匠であり、父方の祖母が美鈴の師匠だ。途中咲夜に会って美鈴の師匠がどんなのかってのを聞かせて貰ったからな。」
ちなみに咲夜から事情を聴く際、美鈴に罰を受けさせるかどうかで弾幕ごっこをしており勇姿が勝って美鈴の罰は今回に限りなくなった。
「それじゃ勇姿さんは弟弟子ってことになるじゃないですか!?」
「そうなるな…それよりもこれ飲んでおけ。寝ている間は飲ませられなかったからな。」
「…はい。」
「明日には復帰しろよ…じゃあな。」
勇姿はそのまま立ち去った。
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31話
さて…どうしたものか。
「聴いているんですか!?大和勇姿!貴方は存在そのものが理不尽です!」
俺は今、緑髪幼女に叱られていた。決してそういう趣味はない。
事の始まりは一時間前に及ぶ…
〜〜
「勇姿さん、ここから先は行かない方が良いわ。」
「何故だ?」
「…何かわからないけどそんな予感がする。私は御暇…」
「どこへ行くと言うのですか?博麗霊夢。」
そこに現れたのは緑髪幼女の姿をした人外だった。
「…貴方は?」
おお…久しぶりに敬語使ったから違和感を感じるぜ。
「これは失礼。私は四季映姫・ヤマザナドゥ。ここ幻想郷を担当する閻魔です。」
「その閻魔様が何用で?」
四季映姫-面倒いから映姫でいいか-は鏡を取り出し、俺にそれを向けた。
「大和勇姿…貴方の善行を確かめに来まし…キャァッ!?」
鏡がいきなり割れ、ポロポロと崩れてガラクタとなった縁だけを映姫は地面に叩きつけた。
「ええい!!こうなったらもう一度!」
それから3つ程、その鏡は犠牲になり…映姫はキレた。
「浄玻璃の鏡が壊れるって何をしたんですか!?貴方は!?」
知らんがな。
「ええい!こうなったら報告書に書いてある事だけで判断させてもらいます!博麗の代行と自称し居候している!これは黒です!」
「私が許可しているわ。代行の名前を騙るのも居候するのも。」
霊夢が口を挟み、映姫は怯むが続けた。
「幻想郷を支配する野望があり、人里の人間の信頼を寄せて妖怪達を無闇矢鱈と殺している…」
紫からの情報か?…あり得そうだ。
「困っている者を必要最低限の程度で助けて何が悪いので?それに妖怪は殺してはいない。」
「料理に毒を盛ったり…」
「毒?確かに盛ったかもしれません。ただし毒は毒でも美味すぎて料理が恋しくなるスパイスという名前の毒です。」
「ええと…」
「もう終わりですか?」
「お黙りなさい!私の判決が覆されるなんてことはありません!」
そしてそれから説教され続けて一時間が経ち冒頭に戻る。
「黙れ!だいたい説教が長すぎるから聞く耳持たぬのだ!説諭っ!」
ゴスッ!
俺は敬語を止めて手刀で映姫をぶっ叩いた。
「あうぁ〜…ヒヨコが私の周りを飛んでいますぅ〜」
映姫は目を回して倒れると『四季映姫・ヤマザナドゥが倒されました』と表示され妨害者を10人撃破した。結構いい加減なものだな…
「さて帰るか。霊夢。」
「そうね…」
「待ちな。」
俺と霊夢が帰ろうとすると背後から声が聞こえ振り向くと長身の女がそこにいた。
「誰だ?」
「あたいは小野塚小町。そこでピヨっている映姫様の部下の死神さ。」
「死神…」
死神っていうとあれか?某ノートに出て来るような死神か?
「っていってもあたいは三途の川を渡る船の船頭だけどね。あんた達が想像しているような死神、お迎え担当じゃない。」
寿命が縮んだ時に見える幻覚のようなものか…
「けれど流石に上司やられて黙っていられるほど私はお人好しじゃない…三途の川に沈めてやるよ。」
言っていることがヤ9ザと変わらない。恐ろしい奴だ。
「流石死神だな…」
俺は対物ライフルを取り出し瞬時に撃つ。
「おっと危ないねぇ…」
だが奴は無事だった。…この距離からじゃ絶対に逃れられるはずがない。
「ならこれでどうだ!」
submachine-gunで攻撃しても、黄金銃で攻撃しても全ての銃が届かない…一体こいつはなんなんだ?
「何をした?」
「あたいの能力さ。」
能力…?奴を検索してと…『距離を操る程度の能力』…?まさかこいつ…全ての銃の射程距離を極限までに縮めてガラクタにしたのか?
「なるほどどうやらお前の能力前では俺は玩具を手にしているようだな。」
銃をしまい、俺は素手の状態となった。
「そんな能力じゃないけど似たようなものかね。」
「と、なればこれしかあるまい。」
俺は構え、指を鳴らす。
「あたいはそっちは不得意なもんだから弾幕で挑ませてもらうよ。」
…天魔や鬼、美鈴とは違うな。奴らは自分の格闘に自信があるから格闘戦に持ち込めたが今回は厳しいかもな。
「だからどうした?その程度で俺を封じたと思ったら大間違いだ。」
俺は先ほど習得した大和空掌砲を放ち、小町が放った弾幕を消し去った。
「こりゃ参るねぇ…あたいの能力の範囲外だ。」
小町は弾幕を消されたことに頭を掻いていたが全くの無傷で今度は俺の空掌を封じて無効化した。…本当に厄介な奴だ。一対一なら間違いなく最強クラスだな。
「だがこれならどうだ?」
久しぶりに陰陽玉を取り出し、魅魔を召喚すると予想通り小町は顔を顰めた。奴の弱点は一対一でなければその威力を発揮できない。つまり俺の銃や大和空掌砲の射程距離を極限までに縮めることは出来ても他のことに関しては疎かになりがちだということだ。魅魔は俺の武器ではなく独立した魔法使いだ。あくまで俺は魅魔を呼び出す道具を使ったにしか過ぎない。
「呼んだかい?勇姿。」
「戦闘を任せたぞ…魅魔。」
「了解!」
魅魔が戦闘している間に、俺は小町が能力を解除するのを待つ。それが今回の作戦だ。あそこまでかい潜って行くことも出来なくもないが…愚策だ。わざわざ効率の悪い方法を選んでも仕方ない。
「くそっ!ならこれで…!」
小町が俺に向けて魅魔の隙間から弾幕を放ち、攻撃してきた…銃や大和空掌砲も使えない今、婆さんが使っていた空掌を使うしかない。
「大和空掌弾!」
俺は10本の指を使い弾幕を打ち消した。
「まだ切り札があったなんて…!」
小町は俺が空掌を使ったことに驚き、一瞬だが硬直してしまう。
「よそ見は禁物だよ!ファイナルスパーク!!」
『小野塚小町を倒しました。』…決着が着いたようだ。まあ偶には俺ではなく魅魔に任せるのも悪くないか。
…それにしても今回の異変はまるで空掌を使えるきっかけを作らせ、俺に習得させようとした感じだ。…いったい何なんだ?
『これからボーナスステージに入ります。至急、冥界に行ってください。』
冥界…と言ったら幽々子の所だよな?そこに行って何があるんだ?…とりあえず行くのがベストだ。
「霊夢、冥界へ行くぞ。」
「わかったわ。」
俺はセーブして霊夢と共に冥界へと向かった…
最近になって思うこと。
感想カモォォぉーン!!2件だけなんて少なすぎるぜぇぇえ!!!
とハッチャケて思うようになりました。
それはそうと次回予告しておきます。次回はあいつがやってきます。今回のextraの代わりです。
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32話
冥界のとある場所にて…2人が話し合っていた。
「それでは思い切り殺っても構いませぬな?」
片や妖夢の服を男性用にしたような服を着た老人。その正体は妖夢の祖父であり師匠でもある魂魄妖忌。二刀術の達人だ。
「ああ。思う存分に切ってこい。」
もう片や勇姿と同じくらいの剛体を持つ猛者…
「では…失礼します。」
妖忌が立ち去り、その場からいなくなると猛者は既に消えていた…
〜冥界〜
勇姿と霊夢は四季映姫と小野塚小町を倒した後冥界に来ていた。
「勇姿さん…ここになんの用よ?」
「敵が俺を呼んでいる。」
「嘘…ではなさそうね。」
霊夢は自らの勘で勇姿の言葉が嘘でないと信じると勇姿が一歩前へと歩み寄った。
「あんたか。俺をここに呼んだのは。」
その先には妖忌が仁王立ちをして待機していた。
「うむ…待っていたぞ。大和勇姿よ。儂の名前は魂魄妖忌。早速だがその実力試させてもらう。」
妖忌は二本の刀を抜き、流れるように構えた。
「…話しが早い。霊夢…下がっていろ。これは俺の戦いだ。手ェ出したらお前が考えに考えて煮詰め出した最悪の結果の10倍は酷い目に合わせてやるから覚悟しておけ。」
勇姿のコマンドから『コードやロード等の一部のコマンドが何者かによって実行不可になりました。只今処理しています。』と表示され、勇姿は前言撤回したくなったが霊夢にそんなことを言った以上、妖忌を素手で倒すことを決意した。
「勇姿さんの戦いに手を出しても今の私がどうこうなるレベルじゃないわ。」
「…そうか。そいつは安心した。…行くぞ!魂魄妖忌!」
「来い!」
勇姿は素手で突っ込み、妖忌に拳を喰らわせようとするが妖忌の二本の刀によって止められた。
「ヌゥゥゥ!!」
「はぁぁぁっ…!」
2人の力が拮抗し、勇姿は拳で、妖忌は剣で鍔迫り合いを始めた。
「…流石だな。その身体で二本の刀を持っているとはいえ俺の攻撃を防御するとは俺を呼んだだけのことはある。だがこれはどうだ?」
勇姿は指をまっすぐに伸ばし、曲げた…再び伸ばした。
「大和空掌弾!」
10もの空気の銃撃が妖忌に向かって襲いかかり、妖忌は受け止める戦闘スタイルから受け流す戦闘スタイルに変えて勇姿の拳を受け流し勇姿の腕を盾代わりにした。
「勇姿さん!」
霊夢はそれを見て思わず声をあげる。霊夢の勘ではあの大和空掌弾は殺傷力のある銃撃と何ら変わりがない。それを受けたら霊夢と言えども倒れ最悪死ぬだろう。
「どうやら一筋縄ではいかなさそうだな。」
だが勇姿の腕は多少凹んだだけで血は流れておらず、少し力を入れると元に戻った。
「お主、本当に人間か?あれを受けても無傷だとは…」
「そういうあんたこそ俺の腕を利用して盾代わりにするなんて相当なものだ。」
妖忌と勇姿は互いに言うだけ言って2人の時は止まった。
「「…」」
そして霊夢が唾を飲んだ時、動いた。
「…はあっ!」
先に仕掛けたのは妖忌で一瞬の切れ…つまり瞬発力のみならば幻想郷最速と言われている妖夢を上回るスピードで勇姿に刀を振り、勇姿を身体を捻り避けさせた。
「この時を待っていた!」
絶好のチャンスと言わんばかりに妖忌は声をあげた。
「はぁぁぁっ!」
妖忌はもう片方の刀を体勢が取れなくなった勇姿を斬ろうとして刀を振り落とした。
「甘い!甘過ぎる!」
逆に勇姿はその体勢を利用し、右足を軸にして二本の刀を回し蹴りを放ち、妖忌の体勢が崩れた瞬間に刀を左足で踏みつけ…根元から折った。
「対刀術奥義 竜虎崩れ…これは相手が二刀の時に使う奥義。テコの原理と崩れた体勢を最大限に利用し、剣士の刀と心を折る…これで戦闘の相棒とも呼べるものを失った貴様は戦えまい。」
「…確かにその通りだ。だが相棒がいなくなったとしても戦えぬわけではー」
「そこまでだ!」
突如第三者の声が響き、そちらを見ると勇姿にも劣らない程の体格とそれ以上の威圧感を持った男がそこにいた。
「…だれだ?」
勇姿はそれに怯まず、名前を尋ねた。
「俺はかつてお前と同じ大和一族だった者…そうだな…一(はじめ)とでも名乗って置こう。」
「その一が一体何のようだ?」
「この勝負…俺が預かる。」
「何だと?」
「貴様は知りたいのではないのか?貴様の一族が貴様に隠し事をしていることを…そしてその内容を。」
「…お前にメリットはあるのか?」
「弟子…妖忌を失わないというメリットだ。お前がこのまま戦えば妖忌は死ぬだろう…」
「確かにな。」
「そういう事だ…博麗の代行。今回はお暇させてもらう。」
一と妖忌はその場から消え、勇姿が慌てて目的を尋ねようとするがもういなかった。
「逃したか…霊夢帰るぞ。」
勇姿はそう言って霊夢の方に振り向くと霊夢が吐き気を抑えていた。
「…どうした?霊夢?」
「勇姿さん…よくあんな化物と対等に話せたわね…」
霊夢は一の威圧感に呑まれてしまい、これまでにない程の吐き気に襲われただけでなく、腰すらも抜かしていた。
「対等か…対等なら目的をすぐに尋ねていたよ。」
勇姿は「ふぅーっ…」と息を吐いて霊夢を両手で…所謂お姫様抱っこをした。
「ゆ、勇姿さん!?お、降ろして!!」
霊夢は青ざめた顔を真っ赤にして暴れて降りようとするが勇姿から逃れられない。
「霊夢…我慢しろ。少しでも楽な体勢を取るにはこれが一番いいんだ。」
「そ、そんなこと言ったって…」
霊夢の顔はもはや林檎のように真っ赤になり、目もクルクルと回っていた。
「それに…俺だって恥ずかしい。霊夢をこんな目に合わせた俺自身が情けなくてな…」
勇姿は泣いていた。それは自分の過信によって霊夢を守れなかった自分の慢心や傲慢な心に蝕れていた己の情けなさに涙を流していたのだ。
「…勇姿さん。」
「俺なりのケジメだ。霊夢…受け止めてくれないか。」
「わかったわ…」
そして勇姿の目の前に『魂魄妖忌を倒しました。異変が終了しました。コマンドのシステムが回復し、全て実行可能になりました。システムがパワーアップしました。コードが追加されました。』と表示され異変が終わったことを告げた。
こうして自分の小説を読み返すと、確かに続きは読みたくなるんですが訳が分からなくなって読めなくなる…という欠点がありますね。
どうでもいいですがこれを題材にした三次創作活動は私の許可を取らずとも勝手に作っても構いません。
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風神録編
33話
今回早めに出来たのはある程度仕上がってちょっと補正する程度で済みました。
「橋野ーっ!!いるんなら出てきやがれ!!!」
俺は当時数え年で12歳、日本生まれだがアメリカで飛び級して中3(に相当する学年)となり交換留学で日本にやってきた。交換留学の時の職場体験で日本の警察になったがその中でも一番ヤバいと言われているマル暴の仕事をすることになった。それだけならまだいい…マル暴の仕事は本来権力などで暴力団を抑えることだが…俺は長野県で勢力を拡大していた過激派ヤ9ザの三次団体の組、橋野組の事務所に殴り込みに行っていた。これ後で給料請求しないと割りに合わないぞ…ちなみに橋野は現在(当時)の組長の名前だ。
「親父に何のようだ!」
ヤ9ザの1人が俺に掴みかかるが俺はあっさりと対処して逆に取り押さえた。
「公務執行妨害で逮捕だ!島、田辺、こいつをパトカーの中に入れとけ!」
一時的とはいえ俺の部下である島と田辺を使い、掴みかかったヤ9ザを豚小屋行きの無料タクシーへと乗せて橋野の部屋へズカズカと入っていった。
「んーっ!!むーっ!!」
そこには緑髪とセーラー服が特徴の女子高校生(以下少女)が縛られて呻き声を上げ、涙を流していた。
「動くんじゃねえ…こいつがどうなっても良いのか?」
橋野が低い声で銃口をその少女に向けて脅した。
「舐めるな!」
俺は橋野の銃に向けて銃を撃ち、弾かせ、橋野がその少女を離した隙を見計らって奴の手首を撃った。…幸いにも俺は銃の才能があり、銃の射程距離の限界までミクロ単位で百発百中というあり得ないチートぶりだった。そのおかげで飛び級が出来たと言っても過言ではない。
「覚えてやがれ…!」
橋野は窓から飛び降り、その場を脱出した。
「いってらっしゃい、豚小屋行きの無料タクシー乗り場に。」
俺はいい笑顔で笑い、橋野を見送った…何故なら俺の部下達がそこで待機していたからだ。橋野はそれに気づいて慌てて逃げるがあっけなく捕まり、豚小屋行きの無料タクシーことパトカーで警察署へと送られた。
「大丈夫ですか?私はこういうものです。」
強面である俺が話しかけるべきではないが、強面でない他の課の奴らはいないのでその場にいた俺が話しかけるべきだと判断し、警察手帳を見せた。ちなみに今の俺は捜査四課の巡査部長である。…功績が過大評価されすぎたんだろうと思いたい。決して学校側の陰謀だと考えたくない。1日署長ならぬ1ヶ月部長ってどんだけ…
「あ、ありがとうございます。」
俺は少女を拘束していた道具を壊し、解放すると少女は俺に礼を言ったがまだ涙目で座っていた。
「立てますか?」
「ごめんなさい、少し手を貸して貰えませんか?」
珍しいな…こいつが高校生とはいえ学校の連中なんかは凶悪な俺の顔とこの年で既に190cm強という大柄な体格から生まれる筋肉にビビってしまって俺が手を貸そうものなら日本の中学生達がビビって逃げてしまうか、謝るかのどっちかだったから新鮮だ。
「どうぞ。」
「よっ…あれ?」
俺の手を引っ張り、少女が立ち上がろうとするも地面に腰を落としてしまった。
「…もしかして腰を抜かしました?」
「言わないでください!」
少女がプンスカと怒り、赤面した。
結局、パトカーまで少女をおぶっていき、警察署で色々と事情聴取してからパトカーで彼女の自宅である……神社まで送っていくことにした。
「では……さん、お気をつけてくださいね。」
「ありがとうございました、刑事さん。もし良ければ……神社へ参拝しませんか?」
「悪いんですが仕事中なので遠慮しておきます。今度来る機会があればプライベートで行きます。」
「絶対ですよ!」
「ええ。絶対に…」
~現実~
「夢か…」
懐かしい夢だったな…職場体験の時の夢だ。ちなみにあの後、俺は約束を果たす為にアメリカから日本に帰国したがその神社に来ることはなかった。理由は単純であの後すぐに福岡に行くことになったのと、中学校に戻っても今までの授業を取り戻すために夏休みの休日が無くなり、その事を完全に忘れていた。あれは死ぬかと思った…冬休みは裕二の会社の秘書に裕二の会社の経営方針を教えるバイトしていたので無理だった。
幻想入りする前…つまり雄大の社長襲名披露式に行く前にようやく休暇が取れた。その際に車の運転免許も取得している。
しかし前回の異変からもう2年も経つのか…時間というのは早いものだ。そんなに経っても一という奴の手かがりは掴めず、一の謀略かは知らないが依頼も激減してしまいどうしようもなかった。
「あ、勇姿さん。お早う!」
「お早う、霊夢。」
俺が挨拶すると霊夢は上機嫌に洗濯物を干しに向かった。
「しかしどうしても思い出せないな…」
あの時の神社の名前と少女の名前がパッと浮かばない。霊夢は黒髪だし、悪い言い方になるがあの少女よりも胸の成長が乏しい。それにこの神社とは全く別の神社だった。似たような神社だったらとっくに思い出している。
長野県…昔の名称なら信濃の国にある神社を魂魄妖忌と一の情報と共に探してみるか…って出来るのか?いや先日射命丸と阿求に情報を与えたんだから情報は得られる可能性はある。
「霊夢、少し出かけてくる。」
「いってらっしゃい。」
俺はセーブをして出かけた。その理由は情報だけを集めてロードすれば情報収集の時間を無駄にすることはなくなるからだ。
射命丸は妖怪の山に住んでいるが昼間は取材でどこにいるかわからねえし、夜行けばスキャンダルのネタになりかねん…となれば最初は阿求のところだな。あそこなら資料も多いし、自分の目で確かめることも出来る。
そんな訳で阿求の所に来た訳だが…
「では勇姿さん…私の質問に答えてくれますね?」
質問攻めにあい、ベラベラと喋ったが資料は見つからずにロードして妖怪の山へと向かった。どんなに都合が悪いことを話してもロードしてしまえばこちらのものだ。
「う~ん…信濃の国の神社ねぇ。」
射命丸はいなかったが仕事をサボっているフウを見つけたのでフウから聞くことにした。
「心当たりはあるか?」
レミリア達よりもずっと長く生きているからわかるはずなんだかな。
「多すぎてわからないし、まず手がかりが少なすぎる。」
「そうか…」
フウがこれじゃ射命丸も似たようなものだろう…ロードするか…
「だけど妖怪の山には紅葉の神と豊穣の神がいる。」
訂正、ロードする必要はなかった。
「そいつらの名前は?」
「秋静葉と秋穣子…二人とも姉妹だよ。」
「姉妹…」
「今度紹介してあげるからちょっと匿ってくれない?」
「わかった。」
しかし人里は駄目だ…あそこにフウが通う甘味の店があり天狗達が駆けつけるのも時間の問題だ。博麗神社はもっと駄目だ…霊夢に何て言われるかわかったものではない。紅魔館はフランはともかく当主のレミリアがフウを嫌っている節があり、匿う以前の問題だ。となれば…行く場所は決まった。
「すまないな。いきなり来訪してしまって。」
俺はフライパンを使ってチャーハンを作っていた。
「いえ、お手伝いしていただき助かりました。勇姿さん。」
そう答えるのは二刀の半霊少女こと妖夢だ。…そう俺は冥界に来ていた。ここならば料理を作れば歓迎されるので今の状況なら最適の場所だった。強いて問題をあげるとするならば紫が幽々子の友達らしいが俺にちょっかいかけるほど勇敢じゃねえし、逆に俺の見た目で判断するようなヘタレだ。こうして料理を作っている間は問題は起きないだろう。
「それにしてもよく食べられたな…」
幽々子は軽々と俺と妖夢が作った料理を平らげてしまった。
「まあ幽々子様はそういうお方ですから…」
「これでも腹五分目よ~。」
まだ半分しか満たしていないのか…ありえん…
「ところで…2人とも。魂魄妖忌というご老体について知らないか?」
これが冥界に来た本当の目的だ。魂魄と名前がつくからにはおそらく妖夢の関係者である可能性が高い。それを何故今頃になって尋ねられなかったのかは様々な理由がある。冥界は紅魔館や永遠亭等の他の幻想郷とは違い、イベントの場所になっておりイベントでしか来れないように設定されている。故にそれまで冥界に行けなかったのは冥界に行く依頼が全くないという状況で今ようやくフウの依頼でここに来れたという訳だ。
「えっ!?何故その名前を!?」
「先日…お前たちがいない間、ここで拳と剣を交えた。」
「お祖父様と勇姿さんが…?」
動揺こそしている…いやしているからこそ妖夢は剣を抜かずに俺に尋ねた。
「お祖父様…?やはり妖夢…お前の関係者か。」
「はい。お祖父様…祖父は私に剣を教えてくれた師であり尊敬の対象でした。今、私の仕事である庭師の仕事もしていたんですよ。」
なるほど…俺でいう婆さんみたいなものか。
「でもね〜妖忌ったら儂はこれから旅へ出ます!とか言っちゃって妖夢を置いていっちゃったのよ!」
未熟な孫娘を私情で置いていくとは案外酷いもんだな。婆さんなら俺達が子供の時、ゲームにハマりすぎた俺と裕二を崖から落として「登ってこなければゲームは返さない」とかいって登るのを待っていてくれたのに…その後俺は怪我して登れなくなった裕二を左脇に抱えて片腕で登り、ゲームを返してもらった。
「つまり、お前達は妖忌が何処にいるかわからないのか?」
「はい。残念な事に…でも何故祖父を探しているのですか?」
「妖忌は一と名乗る男に師事している。俺は妖忌よりもその一を探しているだけのことだ。」
「なるほど…その信濃の神社を探しているのもそれが理由か?」
フウが首を突っ込み、尋ねると俺は首を横に振って否定した。
「いや…それは関係ない。だが2年前から夢を見ていなかったからな。いきなり夢をみるようになった以上何かがあるはずだ。」
俺がそういうと『異変が発生しました。』と表示されて異変が発生したことがわかった。…こんな時に面倒なことをしてくれる。今度はどんな異変だ?
名前こそ出ていませんが勇姿に助けられた緑髪の彼女はこの小説にしても他の小説にしても外の世界での不遇率(虐めにあったり、絡まれたりする確率)が高いですよね…今回はヤ9ザに誘拐というありえんてぃな展開でしたがどうでしたでしょうか?感想お待ちしております。
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34話
私はあの人をずっと待っていました。だけど1日経っても日曜になってもお盆になっても来ませんでした。私はその時から私の力を使ってその人が来るように祈り続けました。
「早苗。もう来ないと思うよ…」
「いいえ来ます!私は誰に言われようとも待ちます!」
その人は私を助けてくれた人。あの人は私に約束してくれました。個人で神社にお参りしに行くと。だから今まで来ないのはきっと彼にも事情があるはずです…
「早苗の気持ちもわからんでもない。だがな、早苗…私達はもう幻想郷に行かなきゃいけないんだ。」
神奈子様の言い分もわかります。諏訪子様が調べた結果によると博麗の代行なる男の人の所為で幻想郷の勢力が多いに変わり始めているらしくこのまま放っておいたら幻想郷にも居場所がなくなるとのことで予定よりも早く移動することになりました。
「わかっています!だけどあの人は私の恩人で…!何一つ恩を返していません!」
もちろん私は神奈子様や諏訪子様にも感謝しています。お二人はこれから恩を返すことはできますが…あの人は一回きり…例えそれが仕事だとわかっていても私にとっては恩であることには違いありません!
「…早苗。あんたの力は確かにすごい。でも幻想郷に行けばその力は増す。…少しでも会いたいならいっそのこと幻想郷で会ったらどうだい?早苗の力が通用しないってことは神隠しにあったのかもしれない…」
諏訪子様の言う通り、向こうに行けば私の能力も増してあの人に会える可能性もあるでしょう。むしろそうした方が良いと思います。
「それでも私はあの人を信じます!」
ですがそれをやったらあの人を信頼していないみたいじゃないですか!
「すまん…早苗。」
突如、私は睡魔に襲われてしまい、視界がボヤけ始め、2人が睡魔をけしかけたと理解し、深い眠りについて起きた時には既に幻想郷に入ってしまいました。
〜幻想郷〜
「神奈子様、諏訪子様…本気ですか?」
幻想入りして2人の神様である神奈子様と諏訪子様は妖怪の山の勢力に対等以上の立場を得る為に天狗達に戦争を仕掛けようとしていました。
だけど私は戦争というのは世界大戦しかり、暴力団関係の戦争しかり…必ずしも第三者が被害を受けることになるのを身をもって知ってしまいました。
「やるなら今しかない。早苗…前のような目に遭いたくはないだろう?」
その被害は誘拐…私の能力「奇跡を起こす程度の能力」が目当てでした。
世間一般的に私は裏の世界の人間です。裏の世界の人間と表の世界の人間の違いは魔法や呪術、妖怪や怨霊などの未知の存在を認識しているかどうかの違いです。認識していれば前者、しなければ後者になります。
「しかし彼らは暴力団関係者だからあんな方法しか取れなかっただけで他にも方法があるのではないのですか?」
暴力団-つまりヤクザ-の幹部や組長などは当然、構成員も下っ端でない限りはほとんどが裏の世界の住民です。
しかし私のように超常現象とも言える力を引き出せるかは別です。そういった力を引き出せるのは本当にごく一部の人間で、世界最大の西智学園都市でも数十人程度しかいません。
「なあ早苗、お前の気持ちもわからんでもない。しかし私達には早苗…お前が付いている。その能力のおかげで私達は生き永らえたといっても良いだろう…しかし橋野組のように天狗がそこに目をつけたらどうする?」
「私を誘拐する…でしょうか?」
橋野組はその力を引き出せる元陰陽師が集まった組で過激なやり方を好みます。橋野組は私の能力を目当てに私を誘拐し、あわよくば戦争に持ち込み私の力で奇跡を起こして利益を得ようとしました。
「そうだ。あの時ほど私達の無力を感じた時はない。すでに私達の対策をされ、何も出来なかったのだからな。」
それを阻止しようと諏訪子様が呪いをかけても対応され、神奈子様に呪いが行き渡るようにしてしまい諏訪子様も身動きが取れなくなり、私は絶望しました。
「この幻想郷は外の世界とは違って警察…ましてやマル暴なんてものはないんだ…だから前みたいに早苗が誘拐されても私達が助けられない場合もある。」
そんな時、彼が現れ私達を助けてくれました。橋野組は彼のおかげで解散し戦争も無くなりました。だからあの人には感謝しているんです。
「天魔が不在の今こそが好機。我々が生きる為に多少の犠牲は止むを得ん。」
どういうことか今、天魔…つまり天狗達のトップが行方不明となっていて天狗達は混乱しています。今しかチャンスはないのはわかります。ですが…多少の犠牲も私は出したくありません。
「前みたいに後手を打つわけにもいかないしね。この幻想郷は弱肉強食の世界…殺られる前に殺るしかないんだよ早苗。やってくれるね?」
「…はい。」
いつもとは違い、諏訪子様の言葉に私は小さく返事しました。
そして出会えた…かつての恩人、大和勇姿さんに。
「ようやく会えましたね…勇姿さん。」
勇姿さんはあれから傷跡や体格など一目見ただけでは判断できないくらい風貌が変化していました。だけど私にはわかる…霊力も気も全く感じないあの恩人だと。
「久しぶりだな。お嬢ちゃん。」
勇姿さんの包み込むような優しい声が私の頭の中に響きわたり、安らぎを与えた。
「お嬢ちゃんはやめてください!」
だからお嬢ちゃんではなく名前で呼んでほしかった。
「はっはっは。そうでしたな東風谷さん。」
東風谷は苗字ですよ!
「東風谷じゃなくて早苗って呼んでください!」
「では早苗さん…」
「敬語なんて使わないてください。どうせ勇姿さんの方が私よりも年上ですし、何より敬語使われたら逆に怖いですよ。」
他の刑事さんが言うには勇姿さんには超能力や魔法なんかの力は使えない代わりにあの敬語のおかげで数々の犯罪者の口を割らせたりしたことで有名みたいです。
「怖い…ってそうなのか?」
そんなに驚くことじゃないですよ…
「その顔付きで敬語なんて使われたら怒っているって言っているのと同じようなものですよ。」
「通りで取り調べ室で俺が呼ばれる訳だ…」
勇姿さんの噂は本当だったんですね…
「それはともかく、早苗…もう俺の前にいるということはわかってるな?」
敬語だった言葉遣いも本来の言葉遣いに戻して私に語る勇姿さんは爽やかさを感じ、新鮮でした。
「はい…ですが私は恩人である勇姿さんとは戦えません。それに戦ったとしても勝てるかどうかも怪しすぎます。」
今の勇姿さんは橋野組を解散させた時よりも強くなっています。そんな彼が私と戦ったら間違いなく瞬殺…いくら自惚れているとはいえそこまでではないです。
「…そうか。」
「勇姿さん…恩人である貴方にお願いがあります。」
「言ってみろ。」
「この先にいる二神…神奈子様と諏訪子様を止めてください。お二人は妖怪の山の勢力に戦争するつもりです…そんなことをすれば必ず犠牲者が出ます!だから…絶対に止めてください!」
「安心しろ、俺が止めてやる。その代わりここに来た奴らを止めろ。そしてあいつらにこう言っておけ。」
「お前達に心配させる程、俺を信用していないのか?…だそうです。」
今代の博麗の巫女である霊夢さんがやってきて私はそう言った。
「勇姿さんが言いそうなことね…だけど私は博麗の巫女として、上司として行かなきゃいけないのよ!」
上司として…勇姿さんが博麗の代行だったのですか。噂とは違いますね…あの人が野望を持つ人には見えません。
「霊夢さん…その顔を隠した方が良いですよ?」
「はあ?なんでよ?」
「だって寂しそうですよ?」
霊夢さんもあの時の私みたいに勇姿さんの被害を受けたみたいですね…こんな顔を見せさせる人が野望を持つなんて考えられません。
「うるさいわね!邪魔をするなら力づくでも行くわよ!2Pカラー!」
…勇姿さんならあの2人をやってくれますから一勝負くらいならやりましょう。
「その寂しさを私が埋めてあげましょう…霊夢さん。」
私と霊夢さんの弾幕ごっこは私が負けそこを通すことになりましたが負けても楽しかった。何故かというと私も霊夢さんも弾幕ごっこを通して友達になれたからですよ。もっとも強敵とも読む場合もありますけどね…ふふふっ!
そういえば東方に北斗の拳のタグはあってもクロスオーバーって見たことないですよね…作ってみようかな…と思った矢先、レミリアとサウザー(イチゴ味)がタブって見えました。
美鈴「お嬢様〜休暇ください〜!」
レミリア「文句があるなら髪を切ってからにしろ!」
咲夜「お嬢様、本日の御夕食はRH-のO型の血液です。」
レミリア「B型がいい!」
食卓ドカーン
…あれ?ダブって見えるどころか まんまイチゴ味のサウザーじゃん(笑)
まあそんな訳で今年中にはクロスオーバーかイチゴ味風のコメディかを決めておいて投稿したいと思います。
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35話
多分二度とこんなに書けないと思います。
皮肉にも異変を起こしたのは守矢神社…つまり俺が調べようとした神社だった。おそらくだがあの夢が関係していると見ていい。事実それまで思い出せなかったあの時の被害者…東風谷早苗に出会い守矢神社のことも思い出せた。
今更だがこの世界はゲームの世界のようなものと考えて良い。現にイベントに関する記憶が欠如している。これまで断言出来なかったのは幻想郷に「〜程度の能力」が存在するからだ。俺の場合は「コマンドを入力し実行させる程度の能力」だろうと考えていた。
しかし今まで起こってきた異変に直接関わることに関しては妨害される。
例えばレミリアが起こした異変は天候変更のコードを使ってもボス戦で逃げるを選択するように無効化された。幽々子の起こした異変では直接解決出来るようなコードがそもそも存在しなかった。萃香の異変は表示に遅れがあったものの行動したのはほぼ一瞬。そして永遠亭一同の異変では迷いの竹林で何かが誘導して無理やり早めに解決させようとしたとしか思えない。前回に至ってはもはや異変ではなくただのイベントだ。
そして今回…守矢神社に関する記憶の欠如が何よりの証拠だ。何か都合が悪ければそれが無効化される。あるいは捏造された記憶なのか…どちらにしてもこの幻想郷は謎が多い。
「常識は敵だ…」
幻想入りする前に呟いた言葉を再び呟き、階段を登って行くとその先には早苗に頼まれた相手が2人…いや二神がいた。
「来たな博麗の代行。」
1人は紺色の髪の女神。その性格は幽々子と紫を足して二で割ったような奴だ。厳格かつ威厳がある…と言えばいいだろうが俺から言わせれば鬱陶しい。
「ようこそ、守矢神社へ。」
そしてもう片方は見た目は金髪少女だがその中身はドス黒いものを抱えているのがよくわかる。神は神でも邪神と言えばわかりやすいか。
「…お前達は神か?」
「不敬が過ぎるぞ。屈せよ。」
前言撤回。紫すらも大物に見えるくらい小物だ。
「だが断る。俺はお前達を敬ってもいなければ味方ですらもない。」
「我は建御名方神!軍神と呼ばれ崇められ、恐れられた神!それを敵と見なすものは勝利を捨てることと同義なり!」
なるほど日本版勝利の女神って訳か。どんな能力か調べてみるか。
『名前 八坂神奈子
性別 女
種族 神
能力 乾を創造する程度の能力』
乾(いぬい)を創造…なんだそりゃ?某テニヌマンガの某汁でも作るのか…?これだけだとわからんし、もう片方でも見てみるか…
『名前 洩矢諏訪子
性別 女
種族 祟り神
能力 坤を創造する程度の能力』
2人合わせて乾坤…神奈子の方は乾(いぬい)ではなく乾(けん)か。
『乾を創造するということは天を操るに等しい。坤を創造することは地を操る。これ創造する神現世に有り…とは博麗の巫女の日記の談で語られている』
うるせえ!どうせ兄貴達とは違って学はねえし、留学したのも米国で殴り合いする為だ!
『ちなみに建御名方神は日本の創造神のイザナギの子孫である。』
どうでも良いわ!
「過去の栄光を持ち込むんじゃねえよ。そんなんだからこの幻想郷に来ざるを得なかったんじゃないのか?八坂神奈子。」
そんな俺の心情とは別に俺は神奈子を挑発していた。
「何故私の名を…!?」
神奈子はしまったと言わんばかりに口を手でふさいだがもう遅い。
「ようやくボロ表したな。俺の前で威厳を保つのは止めておけ。返って滑稽だ。」
俺が威厳を保つ奴を小物扱いする理由ってあれなんだよな…親父と親父と同期の元専務が原因だ。親父は穏やかな性格で威厳を剥き出しにするというよりは勝手に滲み出ると言った感じだが専務は威厳を出そうとムキになって社員から嫌われて失敗する…ってパターンだ。株主総会(といっても形式上なだけで実際には株は親父や親戚共が所有している)でその専務は首になって路頭を彷徨うことになったのは余談だ。
「…そういうなら仕方ないねぇ。だけどあんたはここに来た以上私達を妨害しに来たってことだろう?」
「今回は博麗の代行ではなく動けないダチの代わりだ。」
「ダチ?」
「そうだ…てめえら妖怪の山の勢力とドンパチするらしいじゃねえか。」
ドンパチ…ようするに早苗の言う戦争だ。このまま放っておけば必ず混乱する。こいつらが妖怪の山を制覇した後何をするかだいたい想像がつく。
人里だ。幻想郷の人口の9割以上が人里に住む。当然奴らは神という種族である以上信仰心が必要だ。その信仰心を生み出しやすいのが…人だ。つまり人里の人をターゲットにしてしまえば信仰心を得ることが出来、力も得る。
現代の日本においては無宗教が多く、一つの宗教に集中することはないが昔の日本や外国は違う。その理由は周りの環境が大きい。
例えば戦前の大日本帝國憲法は天皇は現人神であり、神であるから崇めなさい…といった内容が書かれており戦前の日本は天皇を崇める宗教団体となっていた。つまり国教となっていた。
しかしこの幻想郷は娯楽が多くあり豊かな江戸時代のイメージをベースとしたところで宗教に頼る必要もなくなってしまった。
つまり幻想郷の連中は影響されていないので宗教に無関心…という訳ではないが外とそんなに変わらないのが現状であり誰につくかはそいつ自身の判断に委ねることになる。
だが妖怪の山の勢力とドンパチやれば話しは別だ。
話は変わるが選挙に勝つには三つのバンが必要とされている。看板(血統)、地盤(コネ)、鞄(金)だ。よくよく考えてみればわかることだが親父や雄大ならともかく、そこらへんにいる普通のリーマンが選挙をしても大物議員の息子に勝つのは不可能に等しい。選挙をするにも金がかかるし、知名度がなきゃ話にならない。そして何よりも日本人に限らずとも人は血統に拘る。それは信仰心も同じだ。
建御名方神がイザナギの子孫なんて初めて知ったがイザナギの知名度は高い。俺でも知っているくらいだからな…それを利用すればあっという間に広まり信仰心が得られる…これが看板の力だ。
鞄…金についてだがそれに相当する物が信仰を得るには後々のことだから今は不必要なのでスルー。
地盤はコネだが奴らは新人。だがらこそ後押しをする団体を作ろうとしている。それこそが妖怪の山の勢力だ。
人々は俺や霊夢、魔理沙、咲夜のような例外は除いて妖怪を恐れる。それは妖怪よりも人間が圧倒的に弱いからだ。故に人々は夜に人里から出ない規則がある。それを破ったら腕一本もげる程度ならまだマシな方かもな…とにかく妖怪達の手によって自分の身体の一部、あるいは全てがなくなると言っていい。実際下野会もそれで処刑された…というかしたしな。
そんな妖怪達の代表格の住む妖怪の山の連中を押さえることが出来る勢力が出てきたら…人々はそっちを支持するだろう。そうなれば畏怖であれ何であろうとも人々が信仰するのは幻想郷の背景から考えて間違いない。
「…まさか天魔か!?」
そう思ってしまうのは無理はない。俺だって同じ立場ならそう考える。
「合っているが違う。あいつもダチで現時点で動けないが下手な鬼よりも真っ向勝負を好む性格だ。不在を狙ってドンパチを仕掛けるお前達相手に逃げる程弱くはない。」
フウ…天魔はヤムチャ化しないライバルだ。正々堂々として何者でも逃げない相手だ。まあもっとも事務処理相手では逃げるけどな。
「一体誰なんだい?」
今まで空気だった諏訪子が辛抱出来ずに口を開き、そう尋ねた。
「お前達がよく知る人物だ。」
俺は上着を脱ぎ収納し、上半身裸となった。
「「!?」」
俺が上半身裸となったことか、それとも身体の剛体か、あるいは呂布やマフィアからつけられた傷に驚いたのかわからないが二神は目を開いた。
「俺の身体の傷は何が原因かわかるか?…茨の道を突き進んだ結果がこれだ。俺のダチもお前達の起こそうとしている戦争のせいでその茨の道へと突き進まなければならない。茨の道へと進ませる覚悟があるかどうか…俺がしっかりと確認しなきゃいけねえ。」
「博麗の代行…何故そこまでする?」
「俺のダチだからだ。それ以上に理由なんざいらねえ!もうお喋りはなしだ…行くぞぉぉおっ!」
「鉄の輪!」
おっと…諏訪子が仕掛けたか…それにしてもうざったい。こういう時は…
「ほらよ!返すぜ!」
俺は諏訪子の放った輪を掴み、それを投げ返した。
「投げ返すなんてそんなのあり!?」
そんな彼女の言葉は虚しく、脱落した。そうだよ…これが俺らしさだ。今まであーだのこーだのと考えていたが何も考えないレミリア&フランの時の戦い方が一番充実していた。今回はその戦い方に戻しただけのことだ。
「諏訪子!」
神奈子が諏訪子を心配したのを見て俺はすかさず、神奈子の後ろに回り込み銃を持ち神奈子の頭に銃を向けた。
「仲間の心配するよりも自分の心配をしたらどうだ?」
「何っ!?」
「Go to hell.(地獄へ行け。)」
俺は弾幕モードの銃の引き金を引き、撃ったがそこに神奈子の姿はなかった。
「王手。」
おいおいマジか?相手が神とはいえ俺の後ろを取るなんて幻想郷じゃ初めてだ。だけど後ろ取っただけじゃ…意味ねえんだよ。
「大和空掌弾!」
俺は隙を見つけ神奈子の足を目がけ、空掌を放つと神奈子は苦しそうに体勢を崩した。
「もう終わり…という訳ではあるまい。神…それも戦争を起こそうとしたのならば立て。」
まだ戦闘は終わっていない。コマンドが異変が解決したとは表示されないのが何よりの証拠で神奈子と諏訪子はまだマップに敵表示のままだ。
「いくら私達が弱っているとはいえ、ここまで理不尽にやられると少し落ち込むよ…」
諏訪子は立ち上がり口の中の血を吐いた。
「そうか。なら今度からはその理不尽さを感じる間も無く倒してやる。今は眠っておけ。」
「そういう、訳にもいかないんだよ。一応私も神だ。いくらあんたがすごいからといって人間は人間…それは事実。だから私は奥の手を使わせて貰うよ。まさかこんなところで…しかも人間相手に使うとは思わなかったけど死んでも恨まないでよ?」
諏訪子がそう言って目を光らせると先ほど諏訪子が血を吐いた場所から白蛇らしきモノが出てきて「キシャー!!」と威嚇し俺に睨みつける。
「ああ?何ガンつけてやがる?」
俺は睨み返し冷たくドスの効いた低い声で脅すと「助けて〜諏訪えもん〜」と言わんばかりに眼鏡のダメ少年の如く白蛇達は諏訪子の後ろへと隠れてしまった。…俺はジャイアンか?
「…ミシャグジを脅し、しかもそれが通用する人間なんてのはもはや人間じゃないよ。」
「俺はれっきとした人間だ。だがちょっと違うだけで他は同じだ。」
同じ…だよな?呂布とかの方が余程人外だぞ?…うん。あいつと比べたらそうなるか。
「どこがだ!?某世紀末覇者のような体格に威圧感!どっからどう見ても人間辞めているだろ!!」
諏訪子がキャラ崩壊してキレ俺に突っかかた…それにしてもミシャグジに続いて世紀末覇者?またわからん用語が…さっきから聞いてればなんだ?ヘルプ!
『ミシャグジ…道祖神、性神、蛇神、守屋神、農耕神、風水神、等の信仰形態を持つ自然神。』
『世紀末覇者は外の世界の漫画に出てくる登場人物の称号。行けるものなら外の世界でご調べください(笑)』
ミシャグジについてはわかったが世紀末覇者については俺を完全にバカにしてやがる…いいだろう。絶対に行ってやるからな。その言葉覚えてろ。
「俺が人間を辞めているなら俺の親戚はどうなる?あいつらは水中で酸素ボンベや空気ボンベ等の道具がない状態で10時間連続で潜ることが出来るぞ?」
俺の実家には縦25m、横25m、高さ12mの巨大なプールがある。そこで俺は特技の一つの水泳をしているのだが…その下には何時間も潜っている奴らがいる。
奴らによると「水の中に溶けている酸素を取り込んでいるから平気」らしく中には水中ダイバーや海底調査委員会の現場職員になっている奴もいた。
もちろん雄山も婆さんも例外でなく水に沈む程度の重りをつけてそれを実行し、そのまま7時間連続で戦いやがった。…潜水ですらないと突っ込みを入れたいのだが突っ込んだら負けだ。
「…そいつらは人間辞めているよ!人間が10時間も水の中で呼吸もしないで生きられるか!」
こいつはまともだ。うん。
「そうだよな?普通は5時間くらいしか潜れない筈だ。」
婆さんに重りをつけられてプールに突き落とされ、無呼吸の状態で雄山と戦わされた。危うく負けかけて死にかけた時もあったしな。
「それもおかしい!世界ギネスでも1時間も潜れないって!!」
「いや可能だ。肺活量を極限まで増やし、無駄に酸素を使わなければ5時間くらいは出来る。」
そのおかげで無駄なく動くことや水の動きの感知と同様に風の動きも感知出来るようになった。…本当に辛かった。
「ま…そっちの方も回復したことだし。第二ラウンド行こうか。」
雑談をしている間に神奈子が復帰して弾幕を張ろうとしていたのが見え、そちらを見ると神奈子がため息を吐いた。
「バレていたんじゃもう勝ち目はないよ。これ以上やったところでヘトヘトになるだけだ。」
「同感。そうなったらお祭りも楽しめないし止めておくよ。」
このままじゃ…面倒だな。適当なことを言って黄金銃でトドメを刺すか。
「汝等それでも神…それも戦闘に特化した者なのか!?ジリ貧を恐れる神など未来が見えたわ!せめて俺の手で逝けぃ!」
俺は神奈子と諏訪子にメガトンパンチのコードを入れパンチでトドメを刺す。
『妨害者チルノ、妨害者鍵山雛、妨害者河城にとり、妨害者射命丸文、首謀者八坂神奈子、extra洩矢諏訪子を倒しました。異変を解決しました。』
…それにしても妙だな。
普段の俺なら「それじゃお望み通りさくっとトドメをさして終わろう」くらいだが…今回は違った。前にもこんなことがあり、その時は挑発する為に小物臭いセリフを吐こうとしたが口が勝手に動いた。…いや今回は口だけじゃない。黄金銃を取り出そうとしたらメガトンパンチのコードを入れてパンチでトドメを刺した。これもコマンドの影響か?それとも…
「勇姿さん!」
考えるのは後だ。霊夢がやって来た以上ゴタゴタ考えても仕方ない。
「霊夢か…」
俺が脱いだ上着を再び着ると霊夢が降り、駆けつけ…俺の胸を叩いた。
「勇姿さんのバカァッ!バカバカバカ!」
「おいどうした?」
「早苗から聞いたわよ!…何で私を除け者にしたの?」
除け者か…確かに除け者だよな。どう言い訳するか。
「早苗を利用して試したかった。霊夢の愛がどれほどなのかをな…」
また勝手に喋っている…よくもまあこんな小っ恥ずかしいセリフが出てくるものだ。
「…」
ん?とりあえず黙らせるには成功したか。でも霊夢の顔が赤いし、とっとと帰って様子を見るか。
「帰るぞ霊夢。」
俺はそう言って階段を下り、人里へ食材などを調達した。
皆様年末はどうでしたか?私は不調の一言でしたね…来年からより良い小説を書いていこうと思います。ではよいお年をお迎えください。
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36話
〜数日後〜
博麗神社にて三つの勢力の話し合いが行われていた。
一つ目は天狗を始めとした妖怪の山の勢力。天魔の他に射命丸や大天狗達を集めてこの場にいた。
もう一つ目は守矢神社。守矢神社の二神がこの場におり、風祝の東風谷早苗はこの場にはいない。その理由は割愛させてもらう。
最後に二つの勢力の中立の立場であり司会を進行する博麗神社。この勢力の敷地内で話し合いが行われるのは博麗神社の勢力が戦争を止めたという理由と常に中立という立場にあるからだ。
「他に妖怪の山と守矢神社の条約に関して何か意見はあるか?」
魔王のような威圧感のある声で話を進めるのは博麗の魔人こと大和勇姿。皮肉にも天魔を匿ったことが幸いし、天狗達の統率がバラバラになり天狗達は守矢神社へと侵攻できなかっただけでなく、勇姿が守矢神社の二神を抑えたことから戦争を止めたという形になっており、現在この場において発言力が最もあると言っていい。
「なければ天魔から報告したいことがあるらしい。」
勇姿はそれだけ告げ、天魔と目を合わせると天魔は口を開けた。
「我は今日まで天魔として行動してきた。だが皆も知っての通り、我は弱小天狗と言われたところから成り上がった。精々よくて中堅とまで言われ続けた我は努力してここまで来られた…」
大天狗達は天魔の境遇を思い出す…当時、天狗社会においては血統は外の世界でいう学歴みたいなものであり、天魔という役職は総理大臣…いや縦社会の例なら警視総監のようなものだ。しかしこの天魔には優れた血統というものがなかった。学歴で例えるなら高卒だ…それがこの天魔の境遇だった。だが幸いにも努力と才能はあった。その努力と才能を駆使してノンキャリでありながら天狗社会の警視総監、つまり天魔という役職まで成り上がることが出来た。
「しかしだ。無駄な犠牲を出すことなく守矢神社との衝突を避けれたのは妖怪の山、諸君らの力であり我の力ではない。」
その言葉は嘘ではない。しかし天狗達はむしろ侵攻しようとした立場であり天魔がいなかったからこそ侵攻が出来ずにいた。天魔の言葉を聞いて称賛されたのに思惑とは違うという複雑な気持ちにならざるを得なかった。
「故に我は天魔を引退する。」
だがそれ以上に天狗達はその言葉を聞いて騒然とした。
「我一人の力なくとも皆がやって来れた以上、我には天魔という役職は重過ぎたようだ。」
それから天魔は引退する理由を語り始めた。
「(そういうことね…)」
その中で霊夢は冷静だった。もしここで天狗達が天魔を引き止めるために過激な発言をしようものなら守矢神社が黙っていないがそれ以外に説得する材料はない。そして勇姿から天魔はどういう訳か天魔を引退したがっていたのを聞いていた。つまり予め守矢神社を利用して自らの引退をしようとしていたのでないのかと霊夢は考える。
「(流石は努力と才能で天魔まで成り上がっただけのことはあるわ…)」
霊夢は天狗の言い分をのらりくらりと躱す天魔を見ると目があった。
「(勇姿さんすらも利用するその胆力と行動力は紫とは大違い。何故紫が妖怪の賢者なんて呼ばれるのか不思議なくらい…)」
紫は確かに妖怪の賢者と呼ばれるだけの頭脳を持ち合わせている。それは月との大戦で証明済みだ。しかし最近は勇姿に対する妨害などの失敗が続き、霊夢を始めとした周囲の評価は急降下している。
「(勇姿さんに敵対したのが一番の間違いだったわね…紫。あんたらしく利用するなり何なりすればよかったはず。私を利用したように。)」
そしてパンパンと手の叩く音が鳴り、全員そちらに注目した。
「愚痴るのもそこまでだ。もし不満があるようだったらこの場ではなく、妖怪の山でして貰う。天魔が引退する話し自体がこの場ですることじゃないしな。」
「なら何故この場で話させた!!」
大天狗が怒鳴り、立ち上がる。彼は天狗の中でも激情家…つまりかなり感情的な性格だった。故に勇姿の言う事に反発した。
「天魔はこの場で話したいことがあるとしか言ってなかったものでな。この場で話すべきことくらい脇構えていると認識していたようだが…どうやらそれすらもわからないダメ天狗だったようだ。」
もちろん嘘である。勇姿とて黙って天魔に利用される形では終わらない。毒を吐くことでそれを抑えていた。
「な、何をっ!?」
そしてその大天狗が勇姿に飛び掛かり襲うが勇姿は大天狗の高い鼻を捻り、折った。全員はそれを見て戦慄する…勇姿に逆らったらこうなるのだと。
「少なくとも今やるべきことは妖怪の山と守矢神社の関係を深めることだ。まさか妖怪の山と守矢神社の仲をよくするために天魔の座を守矢神社の風祝、東風谷早苗に渡す訳でもないだろう?」
「当たり前だ!」
大天狗のうち一人がそういった瞬間、銃声が鳴り響き、大天狗は目を回して気絶していた。
「…てめえには聞いてねえ。天魔に聞いているんだ。雑魚は黙ってろ。」
そして勇姿の殺気が大天狗達を襲い、天魔を除いた天狗達は青ざめてしまった。
「確かに我がこの場で引退する事を話したのは間違いだった。皆の者、時間を取らせて申し訳なかった。」
天魔は頭を下げ、謝る。すると大天狗の顔色が少しずつ回復していき冷や汗も出るようになった。その冷や汗の原因は天魔の一言で勇姿の機嫌を損ねないか?という不安から来ているものだ。だが天魔に矛先が向かうため直接被害を受けるよりもまだマシなために安心していた。
「わかればいいんだ。そんなことも分からなきゃ迷惑だろうが…部下達がよ。…さて博麗の役割も果たしたことだし、これから博麗神社で宴会の準備をしよう。な?霊夢。」
勇姿の殺気が収まると大天狗達は汗の量が少なくなるのを感じ、一息ついていた。
「そうね…じゃあ皆に知らせてくるわ。」
霊夢が飛び立ち、天魔達が気絶した大天狗達を回収してその場を立ち去った。
「それでは我等も行くとしよう。」
そして神奈子と諏訪子も立ち上がり、守矢神社へと帰っていく。
〜数時間後〜
すっかり夜となり、博麗神社には多くの人妖が集まっていた。だがその中で浮かない顔をしていたのはアリス・マーガトロイドという人形使いだった。
「どうしたアリス?」
魔理沙が近づき、話しかける。それだけでもアリスはホッとする。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
アリスは元々は幻想郷の住民ではない。魔界の住民だ。だが幻想郷には魔界にはないものが多く、幻想郷に憧れた…しかし自らの母である神綺は猛反対した。数多くのワガママを言っても許してくれた親バカ全開の母親がだ。いや親バカだからこそ許さなかったのかもしれない。
「勇姿のことか?」
勇姿の顔はまさしく魔王といったような顔であり、見る者を威圧する。
「ええ…」
そうアリスが頷くと魔理沙は苦笑する…そしてある日神綺は幻想郷にいるアリスに勇姿の事を伝えた。というのも彼女は勇姿の威圧に呑まれてしまい、遂には化け物扱いする程だ。
その話をアリスは半分程度に聞いていたが…悪魔の姉妹、妖怪の賢者、伊吹鬼、月の頭脳、そして神綺すらも叶わなかった霊夢が勇姿に敗北し、神綺の話は本当だったと認識させられ…そして前回の異変では説教の長い閻魔を逆に説教したということもあり、アリスもまた勇姿を恐れていた。
「大丈夫だって!こんな美味い飯作ったの誰だかわかるか?勇姿なんだぜ。こんなに美味い飯を作れるのは歪んだ心を持つ奴じゃ無理だ。んっ…美味い…!」
魔理沙は手に持っていたフランクフルトをかじると口の中がホクホクとし、暖かくなる。そして程よい塩分が酒を促し顔を赤くする。
「ま、話してみればわかるさ。とって食われるようなことはされないから安心しな。実際負けた女を性的に食っているなんて噂、微塵もないだろ?」
確かにその通りだった。それどころか同居人の霊夢にも手を出したという噂は流れておらず、もしかしたら紳士なのでは?と思い始めた。
「そういうならそうさせて貰うわ…」
そしてアリスは勇気を出し、勇姿に近づく。だが背中を見るだけでも物凄いプレッシャーがかかる…そして声をかけた。
「勇姿さん…?」
最後こそ疑問形になったがそれでも声をかけた。それだけでもアリスは一安心する。
「何でしょうか?」
低い声ではあるが言葉遣いは丁寧。そしてアリスはこの男は紳士だと感じた。
「ちょっと貴方の話を聞いてもいいかしら?」
何も考えずに話しかけておいてよくここまで頭が回ったものだ。とアリスは感心しながら勇姿を見る。
「私のですか?」
「ええ。貴方の噂は聞いているわ。だけど怪物とか魔人とか言われているのに黒い噂が一切流れない…だから気になったのよ。本当はどんな人なのかって。」
「ではどんな人に見えましたか?」
「見た目は噂通りだけど中身は爽やかかつ紳士な青年…そんな感じね。」
「爽やかかつ紳士な青年ですか…そんなことは初めて言われましたね。」
勇姿は苦笑気味にそう答え口に手を添えて口元を隠す。
「私は思ったことを言っただけよ?」
「今までが今まででしたからね…私は見ての通り老け顔で顔も強面。それ故に私は爽やかとは程遠い生活をしていたんですよ。」
「そう…でも貴方は貴方。貴方らしく生きるのが一番良いと思うわ。」
「貴方らしくか…そういえば貴女の名前を聞いていませんでしたね。教えて頂けませんか?」
「アリス・マーガトロイドよ。」
「アリスさん…また御会いしましょう。」
「ええ…それじゃ勇姿さん。」
アリスは勇姿と別れを告げ、見かけによらずかなり紳士だと神綺に報告したが誤解は解けずしばらくの間頭を悩ませた。
その数日後、天魔が正式に引退を発表し、【文々。新聞】を始めとした多くの天狗の新聞にその事が報道された。
今回は天狗から見た勇姿とアリスから見た勇姿の姿を第三者視点で書きました。
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日常編3
37話
俺は現在進行形で困っている。
俺の楽しみ、それは風呂だ。と言ってもただの風呂ではない。風呂の中でも俺は特に他の連中が逃げ出す程の熱い風呂が好きだ。というかそのくらいの温度でなければ逆にぬる過ぎる。
故に俺は霊夢が入った後に入らなきゃいけない。そうしなければ霊夢が風呂に入れないまま寝ることになる。流石にそれは可哀想だ。だから気を使って俺は後にした。
「勇姿さん、背中流しに来たわよ!」
そう、霊夢が裸で風呂に入ってきたからだ。
霊夢が裸で入ってきたということはこれから風呂に入るということだ。霊夢は(俺にとっては適温の)風呂に入れない。いやそれどころか風呂の湯を使って背中を流すから背中を流すことすらも出来ずに終わる…霊夢は表には出さないが気にするだろうな。
「いや必要ない。俺の背中は俺で洗うからな。」
そう言って俺は霊夢の額を見えない速度でデコピンで気絶させる…しかしこのままじゃ風邪をひくので俺は霊夢をシステムの袋の中に収納した。
『裸霊夢が収納されました。』
霊夢の身体にかなりモザイクがかかった状態で収納が終わった…すまん。
…まあ過ぎたことを言っても仕方ない。俺は霊夢の服を収納すると『脇巫女服』がシステム袋の中に入り、それを選ぶとシステム袋の中の道具がほとんど黒くなり元の色のままであるのはモザイクがかかっている『裸霊夢』だけだ。
『裸霊夢』を選ぶと『裸霊夢を着せ替えますか?』と表情され俺はYesと答えた。すると『脇巫女服』と『裸霊夢』がなくなり変わりに『脇巫女霊夢』がシステム袋の中に表示されている。…待てよ?裸霊夢を選択しなかったらどうなっていたんだ?システム袋の中に裸魔理沙が存在したら着せ替えることも出来たのか?こういう時はヘルプだ!
『服飾の道具に対象となる人物を選択すると着せ替えることができます。ただし服飾の道具の中には、男性のみを着せ替える男性用、女性のみを着せ替える女性用、そしてそれぞれその職業に就かなければ着せ替えられないものや種族によって着せ替えられないものがあります。その人物に適したものを着せ替えましょう。』
最初適応してなかった癖になんて無駄な能力…今回は助かったかもしれないがこんなのマジックしか使えねー…あん?そういえば服を脱がすことは出来るのか?
『出来ます。対象となる人物を選択して脱がすを選択すれば裸○○○と表記され、袋に服が移され成功となります。』
ちなみにこの『脇巫女霊夢』を脱がさずここに魔理沙の服があってそれをさらに着せたらどうなる?
『重ね着を選択すれば脇巫女霊夢が魔理沙の服をその上から着た状態になります。重ね着の状態で脱がすを選択すると対象者の服を選択して脱がすことができます。また重ね着を選択しなければ脇巫女霊夢が魔理沙コス霊夢となり脇巫女服が魔理沙の服の場所に移動します。』
…今度実験してみよう。霊夢ではない他の誰かに。
そんなこんなで風呂から上がり、袋から『脇巫女霊夢』を取り出し布団に寝かせた。するとマップに三人ほど俺に近づいてきたので廊下に出た。そしてそこにいたのは萃香、フラン、フウの三人だ。
「いたいた!」
「勇姿〜もっと飲もうよ〜!」
「でなきゃ既成事実作っちゃうぞ〜?」
…寄生事実?はっ!?まさかこいつら俺が博麗神社に寄生しているってことをバレているのか!?いやいや寄生じゃないよな?むしろ共存、いや逆に貢献しているはずだ。寄生ってのは一方的に住み込み、害を与えるだけの存在だ。パラサイトとかニート(稼ぐ奴は別)なんかよくそんな扱いをされている。俺はきちんと金を稼いでいる上に家事もやっているからその点心配ない…はず。
となれば寄生事実ってのはもしかしたら俺が寄生しているって噂を流すことなのかもしれない…こんな時に辞書がないのが痛いな。何にせよ無闇にそんな噂が流れても困るので俺は付き合うことにした。
「お前達に比べたら酒は飲めないと思うが勘弁しろよ?」
俺はこれまで酒を飲んだことすらないがこの三人が酒に異常なまでに強いのは知っている。特に萃香は幻想郷随一とも言われるほどの酒豪だ。しかも萃香によれば「東西問わずみんな鬼は酒に強い。」らしく、西洋の鬼であるフランも強い…フウは天魔という職業柄か喧嘩も酒も強い。
「わかってるって!」
「じゃあ乾杯!」
「「「乾杯!」」」
数時間後
幻想郷の皆さん、おはよう御座います。さて本日の博麗神社はカオスな状況になっています。三人(見た目幼女二人と見た目女子高生一人)が顔を真っ赤にして酔っ払ったあげく爆睡しています。
…ねえよ。この状況を冷静に解説出来るしどんだけ俺酒強いんだ?しかし俺が飲んだ酒がノンアルコールって可能性も否定できない…そう思って新しく導入されたシステム、物質調査を使って酒を調べた。
『この周りにある飲料水は全てアルコールが含まれています。』
じゃあアルコール度数が低かったとか…
『貴方の周りにある飲料水はアルコール度数60を超えています。尚見た目幼女二人と見た目JKの周りの飲料水はアルコール度数50以下です。』
嘘だろ?俺すでに萃香達三人全員分の飲んだ酒よりも多く飲んでいるんだが。確かにアルコールが分解される様子が飲んだ一瞬だけ強く感じたけどそれだけで全てアルコール分解し終わったのか…永遠亭で調べて貰おう。それがいいな。
とにかくこの三人を運ぼう。システム袋がこんな形で役立つとは…幸いにも萃香とフランは小柄だし、フウも普通より少し小柄だ。この三人を特注で作った俺用の布団に寝かせてやると気持ち良さそうに寝ていた。
翌朝
「「「頭痛い…」」」
当然というかなんというか三人は二日酔いして頭を抱えていた。
「勇姿さん、アレどうする?」
アレ扱いかよ…酷えな。
「確か前に買った酔い止めが残っていたはずだからそれを出しておく。」
流石にほっとけと言うほど鬼でも悪魔でもない。…その前に霊夢に命令するような立場ですらないしな。
「そう。ところで昨日お風呂で勇姿さんの背中を見たことだけは覚えているんだけど…気がついたら布団で寝ていたわ。何か知らない?」
説明が凄え面倒くさい…どう説明するか。
「貧血で倒れたから俺はタオルで身体が冷えないように霊夢を運んで後はあの三人に任せた…詳しくはあの三人に聞いてみるといい。」
まさか俺の能力で着せ替えましたなんて言えないしな…
「でも勇姿さんに聞く方が良いって勘が言っているのよね…」
鋭い奴!これが咲夜だったらすぐに聞きにいくんだが。誰とはいわないが。
「そうは言ってもな…俺がやったことは霊夢の軽い身体を運んだことくらいだ。」
「う〜ん…そこまで言うならそうなのね。じゃあ勇姿さん。これにサインしておいて。」
霊夢はそう言って俺の前に霊夢の名前が書いてある婚姻届けを差し出した。…何故に?
そう思い、霊夢の顔を見ると上目遣いで顔を赤くし、モジモジと腿を動かしていた。これが俗に言う修羅場って奴か…
「ダメよ霊夢!」
「紫、それを返しなさい。」
ソプラノの声なのに何故か低く、冷たい声だ。俺はこの声を聞いたことがある。
そう、あれは去年のことだ。去年、俺が作った苺大福を霊夢が楽しみに取っておいた…しかし偶々魔理沙が見つけて苺大福を食べてしまった。そしてそれをちょうど見かけた霊夢の第一声が「…吐け。」だ。シンプルだが下手な脅迫よりも恐ろしい。魔理沙が戸惑っている間に霊夢は魔理沙に腹パンをしてそれを吐かせた…慌てて俺が止めようとするがその間にも霊夢は狂気に取り憑かれたかのように魔理沙の尻を蹴っ飛ばし、やりたい放題していた。
その後俺が仲裁して二人は和解したが魔理沙が人里の最高級の大福を用意することになったのは言うまでもない。それ以降、霊夢を怒らせないようにしようと決意した。
…その時に言った声のトーンが今と全く同じで霊夢が何をするか全くわからない状態だ。紫、お前は霊夢の封印を解いてしまったんだよ。
「流石にそれは出来な…グヘェ!?」
一瞬だった。霊夢の右ジャブが紫に直撃し、紫の顔が歪んだ。てか車に轢かれて無事な奴が霊夢の拳程度で顔を歪ませるなよ…
「じゃあ、隙間妖怪を退治するわ。それで問題解決ね。」
何の解決方法にもなってねえ!霊夢は御札とかそんなの出し始め、紫を退治しようと準備していた。これはやばいな…
俺はメニューを開き、システムを作動させる。半径300m以内の物ならばシステム袋やシステム倉庫にぶち込むことも出来るので霊夢の御札や針、とにかく武器になる物を倉庫に入れ没収し、ついでに紫のスキマの中にあった婚姻届も袋に入れて没収する。
そして現実に戻ると霊夢が御札や針を投げようとするも手元にはない為、紫も霊夢も唖然とする。
「霊夢、そこまでにしておけ。婚姻届はこっちにある。」
そう言ってシステム袋の中の婚姻届を取り出し霊夢を振り向かせる。すると紫は信じられないと言った顔になっていた。
「そんな…!?確かにスキマの中に入れたはず…!!」
紫はスキマの中を慌てて探すがそこにはなく、あるのはくたびれ儲けだけだ。
「霊夢、紫、よく聞け。俺はとある事情から結婚が出来ない。」
「え?」
「勝手に結婚しようものなら親戚どもや親兄弟から狙われる。そうなれば俺はともかく幻想郷の危機になる。」
あいつらマジでしつこいからな…執着心の塊みたいなやつらだ。時間を越えて幻想入りしかねない。
「何言っているの?そんなこと普通の人間に出来るわけないでしょう?」
紫…その認識改めた方がいいぞ…あいつらでも素手で妖怪退治出来かねないスペックを持っているからな。
「そう思うの勝手だが向こうには震度6の地震を瓦割りの要領で止めた上に幻想郷に来てから無敗の俺を何度も負かした
だが敢えて親戚どものことは言わず、婆さんのことを言った。婆さんマジで何者かわからないよな…ホント。
「…ごめんなさい。」
よし、紫の認識は改めた。となれば後は霊夢か。秘術を使うか…その名も話を逸らしまくって結婚の話を後回しにしよう作戦!…名前の通りだが注意するのは結婚、婚姻などのNGワードだ。それいったら作戦は失敗なのでNGワードを言った時の保障としてセーブしてと。
『セーブ処理が終わりました。』
「霊夢、俺はお前のことを家族のように思っている。だからお前のことも大切にしたいし、
「そうなの…?」
ここでメニューを開き、俺は考える。メニューを開いた時、時間が止まるポーズ画面の導入は有難いよな。おかげでゆっくり考えられる。
「だから俺はお前に支えてもらいたい。」
…ん?プロポーズになってるぅぅぅっ!?ロードだ!ロード!!ロォォォーーード!!!
『ただいまエラー発生によりコードの一部やロードは出来ません。』
何だよエラーって!?今までにないほど役立たずのヘボシステムだな?!セーブが出来てロードが出来ないシステムなんて糞の役にも立たねえ!!!俺は怒りに任せポーズ画面を解く。
「勇姿さん…有難う!!」
イカンイカン…ココで怒りを露わにしちゃダメだ。霊夢に八つ当たりするのは一番良くない。そう思い俺は笑顔にする…出来ているのか怪しいが大丈夫だろう。
「…わかったわ。私も貴方のことを誤解していたみたい。」
…あん?俺、何か言ってたのか?
「幼い頃、霊夢は私が拾って娘のように育ててきた…だから霊夢が貴方に夢中になって嫉妬していたんだわ。」
「紫…」
「貴方の幻想郷を支配するって言葉も貴方なりに幻想郷を守ろうとしていたのにそれに気づかないなんてバカみたい…」
いや普通そう思うからな?戦国時代なんてその典型例じゃねえか。
「紫がどう思おうと同じ事だ。状況は大して変わらん。」
人間は自己満足の為に動く。目的を達成した後のことを考えられる奴はそうはいない。妖怪は人間よりもひどいもんだ…
「私は貴方からすれば取るに足らない小物なのね…」
紫はショボンとしていつもの威勢がなくなっていた。
「小物から大物になるにはある程度の量の餌と時期が大切だ。今こそその時だ。今までのことは水に流して協力しよう。」
臭え…かなり臭すぎて鼻が捻じ曲がりそうなくらい臭いセリフを吐いて俺は紫を説得する。これしか結婚についてあやふやにする手段はない!
「そうしましょうか…では改めて言うわ。」
そして紫が咳を払って笑顔でいった。
「ようこそ幻想郷へ。幻想郷は全てを受け入れますわ。」
…ようやく歓迎された気になったな。いつの間にかあの三人組も復活して笑顔で迎えているし。
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38話
突然だが勇姿の寝相はかなり悪い。どのくらい悪いかというと、ついこないだ萃香が部屋を間違い、座禅したまま寝ている(曰くこの方が寝やすいとのこと)勇姿に体重をかけた途端、萃香は関節技をかけられていた。勇姿と萃香の体格差はかなり開いており、本来関節技をかけにくいはずなのだが鮮やかとも言えるほど素早くかつ綺麗に勇姿は萃香に関節技をかけた。その後はフランドール、霊夢、フウと続いて以降、博麗神社の中で勇姿の布団に近づく者はいなくなった。
「ギャース!!」
そして寝ている勇姿に関節技をかけられている女性がそこにいた。
彼女の名前は幻月。一見すると天使のように見えるがレミリアやフランドールと同じく悪魔であり、性格も極悪であるのだが…勇姿の関節技により、現在幻月は涙目でキャラブレイクしていた。さて何故こんなことになってしまったのかは数分前に遡る。
〜数分前〜
ここは夢幻世界という場所で幻月とその双子の妹である夢月が住んでいる。ここに来る方法は通常、現実世界で眠り夢を見るか、あるいは博麗神社の裏山にある湖の内部から潜り込むかのどちらかだ。大半の者は前者であり、勇姿もその例だ。ただしその場合は勇姿のように部屋で眠った状態でつく為、幻月や夢月のおもちゃとなる。
「いいもの見つけちゃった♡」
今回も幻月は寝ている勇姿を見つけ、女装させようと企んだ。見た目ガノンド○フの男が女装したら悪夢である。
夢月のメイド服…はどう考えても着せられないので仕方なくサイズを合わせドレスにした。そして勇姿の服を脱がせようとした瞬間…腕が引っ張られた。
「えっ!?」
幻月が驚いている間にも体勢は整い、ギュウギュウと締め付けられ、痛みが増していった。
「夢月ー!!助けてー!!!」
幻月は妹である夢月に助けを求めるが現在買い出しへ行ったことを思い出し、幻月は青ざめる。
「これ詰んだ…?」
勇姿が起きていたならば「テンプレ乙」とか思っただろうが、現在勇姿は起きていない。どちらにせよ関節技をかけるだろうが。そして幻月が叫び声を上げ現在に至る。
〜現在〜
「起きて!起きてってば!!」
「違うぞ、咲夜。カレーはもっとこう!スパイスを加えてだな…」
幻月の叫びも虚しく、勇姿は咲夜に料理を教えている夢でも見ているのかそう寝言を言って更にキツく締める。
「こんの〜っ!!」
幻月は遂に怒り、勇姿の顔面に向けて弾幕を放つ…が無駄だった。勇姿は何故かそれを避けてしまった。夢遊病ではないのか?この男。
「…チルノ、料理の最中に弾幕を放つとは何事だ…説諭…!」
そして勇姿が寝て関節技をかけたまま器用に幻月を殴ると、関節技から解放された代わりに吹っ飛ばされた。その原因はメガトンパンチのコードである。勇姿はあろう事かメガトンパンチのコードを消し忘れた状態で眠りについてしまったのだ。これまでメガトンパンチのコードを入れた状態で眠ったことはあるが幸いにも被害はなかったので消し忘れても勇姿は問題はないと思っていた。だが今回に限っては違った…幻月という悪魔が犠牲となってしまったのだ。
勇姿の手により幻月がいなくなる。すると勇姿の身体が今まで抱いていた枕がなくなったと認識して目覚め、あたりを野獣のようにギラギラと見渡し起きる。
「ここは…どこだ?」
そして勇姿がコマンドを使い、マップ機能を広げると『夢幻世界』と表示されマップが記されていた。
「(…ん?人が来るな。)」
ここは部屋の内部であるが何故か一部壁が抜けている。もしこのまま誰かが来れば面倒なことになるのは違いない。しかし時間を考えてももう間に合わないのでせめて修理しようと材料をシステム倉庫から取り出した。
「姉さん、今帰ったわ…っていない?」
そこに現れたのはメイド姿の金髪少女、夢月だった。
「どうも。」
そして二人のファーストコンタクトが取れ、互いに見つめ合う。
「「…」」
そして二人は動いた。
その一時間後、夢月の姉、幻月がようやく帰ってきた。
「ただいま…」
幻月はげっそりとしており、服もボロボロだ。こんなにボロボロになったのは靈夢にやられた時以来だ。
「あ、おかえりなさい。姉さん。」
そしてそれを迎える夢月に幻月はホロリと涙を流す。いやポロポロと涙が溢れた。
「むげづ〜っ!!」
それから幻月はワンワンと泣き続けた。彼女だって女の子だ。歳はそうでもないが。
「(姉さん、溜まったもの出してね…)」
夢月が母性を発揮し、撫で続ける。しばらくすると幻月が泣き止んだ。
「姉さん、すっきりした?」
「うん…ありがと。」
「ところで姉さん。私に友達ができたから紹介するよ。」
「友達…?」
「そう、とっても気がきいて、私の悩みも相談してくれたいい人よ。」
「へぇ〜…面白そうね。苛め甲斐がありそうじゃない。」
幻月は悪い笑顔になり、夢月に案内される。そして夢月の友達のいる部屋の扉を開いた。
「(げぇっ!?)」
そして幻月は固まる。口にこそ出さないで済んだが幻月はこの男には関節技を掛けられたり、ここから飛んで一時間もかかる場所まで吹っ飛ばされたりと散々な目にあわされた…
「紹介するわ。」
そんな幻月の心境とは裏腹に夢月は機嫌がよさそうに紹介する。
「私の友達、大和勇姿よ。」
そう、夢月の友達とは勇姿だ。
何故か勇姿と夢月はあれから敵対することはなかった。むしろ逆に共感したのだ。夢月は姉の趣味…所謂メイドフェチでこんな格好をしているが夢月はそれを悪く思っていない。家事が得意で戦闘にも自信がある。それは勇姿も同じだ。服装に関しては別にしても料理は得意で戦闘も出来る。まさしく夢月が性転換したような男だ。
しかも勇姿曰く「自分に近いほど仲良くなる」ので夢月と仲良くなるのは最初のファーストコンタクトで済んだ。更に幻月はここに来た客を脅す為にかなりの確率で壁を壊す。その為夢月は勇姿が幻月の手によって壊された壁を直そうとしていると思いこんでいた。夢月は勇姿の負担を減らす為に手伝っていたらいつの間にか二人とも友と呼べる仲になっていた。
「初めまして幻月。大和勇姿だ。」
手を伸ばし、握手を求めるが幻月は反応しなかった。いやプルプルと震えていたのだ。
「夢月!こいつよ!こいつ!こいつにやられたのよ!」
ビシッ!と幻月は勇姿に向かって指をさして言うが二人は訳がわからないと言いたげだ。
「こいつが寝ていたもんだから、女装させる為にこいつの服を脱がそうとしたらいきなり関節技をかけられたのよ!?」
「それ、姉さんが悪いと思う…」
夢月の言う悪いとは勇姿を女装させる為に服を脱がしたことではない。今までそうやって来たから今更だ。では何が悪いかというと幻月が反応出来なかったという点だ。仮にも悪魔なのだから寝ている相手に関節技をかけられるとは情けない…そんな心境だった。
「確かにな…」
勇姿は夢月の言葉に頷く。もし自分が幻月に女装させられていたらぞっとする。多分黒歴史を通り越してホラーとなっていただろう。
「どこが悪いのよ!?」
「全部。因果応報という奴だ…自分もそれなりに覚悟したらどうだ?夢月。」
「はい。」
勇姿の言葉と共に、夢月は縄で縛り、幻月を拘束した。
「ちょっと、夢月!?何のつもり!?」
幻月は夢月に裏切られ、夢月が裏切った理由を尋ねるが夢月の答えは淡白なものだった。
「寝た状態で関節技をかけられる訳ないのにあの言い訳はないでしょ?」
そう、普通ありえないのだ。寝ている人間が器用に…それも幻月相手に関節技をかけるなんて。
「いやだから本当…!」
しかしそれをやらかすのが大和勇姿という男だ。幻月は夢月に説明しようとするも夢月の次の言葉でばっさりと切られた。
「まあ姉さんのそういう姿もたまには見てみたいのが本音だけど。」
「ちょっと!?」
幻月が反論しようとするが勇姿が幻月の前に立ったことによりそれは失敗に終わった。
「さて…話は終わったようだし、落とし前つけて貰おうか。」
勇姿が指をムカデよりも気色悪い動きを幻月に見せじわりじわりと詰め寄る。
「これからすることはわかっているよな?」
幻月に尋ねると幻月は勇姿を睨み一言。
「いっそのこと殺して…!」
あんな目に遭うくらいならば殺して欲しい。幻月はそう思った。
「ああ、殺してやるよ。呼吸困難でな。」
そして勇姿が笑い、刑が実行された。勇姿はこの時Sの心を宿し、幻月の言葉は勇姿の行動に拍車をかけた。
「くひひひひひ!やめ、やめ、ひひ、ひひひひ!!」
その刑とは擽り5分間の刑だ。実をいうと幻月は擽りに弱く、それを夢月からポロっと聞いていた勇姿はこの刑を考えていた。
「勇姿、姉さんはうなじの部分が特に弱いからそこも攻めるといいわ。」
「あ、はは、む、ははは、むげ、夢月!後、ひひ、で、覚え、くひひ、てなさ、はは、い!」
「おお、そうか。」
そして勇姿はうなじの部分を攻める。夢月の言ったことをすぐに実行するあたり勇姿もかなりのSの心を宿しており性格が悪くなっていた。だからこそ夢月と仲が良いのだが。
「あ〜っ!ひゃはははは!」
それから5分…ではなく延長され10分間の拷問に幻月は涙とヨダレで顔が汚れてしまった。
「うう…お嫁に行けない…」
シクシクと幻月は泣き、顔の涙跡とヨダレの跡を拭く。その姿は誰がどう見ても悪魔に汚された天使のようだった。悪魔は幻月なのだが。
「姉さんに結婚願望があったなんて驚きだわ。」
「全くだ。」
それを棒読みで言う悪魔と魔王。まだまだ二人にはSの心が宿っていた。
「というかあんたら何でそんなに仲がいいのよ!?」
幻月は思わず突っ込んだ。彼女はツッコミ属性などなかったのだが勇姿の手によって目覚めてしまったのだ。もし夢月が幻月の立場であったなら夢月も同じようになっていただろう。
「夢月とは何か共感を覚えたから。」
「勇姿とは何か共感を覚えたから。」
二人はまるで打ち合わせたかのように答え、ハイタッチをする。その様子を見て幻月は「こいつらはこういう奴らなんだ。」と諦めてしまった。
「ところで二人とも、どうやったら俺は元に戻れる?」
「あら、もうおかえり?せっかくこの夢幻世界に来たんだからもうちょっとゆっくりしていきなさい。ね?勇姿…」
夢月は甘い空気を出し、勇姿に迫る。
「夢月…俺だってお前のことは忘れたくないんだ。だが俺にも帰る場所がある。」
勇姿はその空気を読んで悪ふざけで対応する。
「帰れぇぇっ!お前ら二人とも幻想郷に行ってしまえ!」
それにキレた幻月は塩を撒くように勇姿をキ○ラの翼っぽいものでこの世界から追放した。…ついでに夢月も巻き込んでしまったのは余談である。女の嫉妬って怖い。
〜博麗神社〜
「…ん?元に戻れたか。」
座禅の状態から立ち上がり、周りを見渡すと何やら唸り声が聞こえた。
「うぐ〜…」
何とも特徴的な唸り声だ…勇姿はそう思いながらもその唸り声の元を探す。するとメイド服が目に付いた。
「夢月…か?何でここにいるんだ?」
そう呟いた瞬間、襖が開いた。
「おはよう勇姿さん…」
そして霊夢が目に付いたのは勇姿の関節技の犠牲になったであろう夢月の姿だった。何故ここにいるのかはともかく霊夢は同情した。彼女も勇姿の関節技の被害者なのだ。
「おはよう霊夢。ところでこいつどうすればいい?」
「しばらく放っておきなさい。」
とはいえ勇姿に近づく者には容赦はしない。それ故の態度だった。
「まあそれもそうか。」
勇姿は非情な物言いで言うが夢月を布団に移動させた。それから夢月が起きて一騒動起こすがそれはまた別の話である。
今回は旧作キャラの幻月と夢月登場の話でした。幻月と夢月はこれからも多分出ると思います。
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39話
『コード機能とロード機能が回復しました。』
紫と和解してから数日、幻月と夢月と会ったおかげか、ようやくエラーが直り、そんな表示がされた。しかしロードを使ったところでメリットよりもデメリットの方が目立つのでロードはしなかった。
朝食(今日は和食)の支度をして配膳すると霊夢、フウ、フラン、萃香と左回りにちゃぶ台に並ぶ。ちなみに夢月はまだ寝たままだ。「うぐー」って可愛らしい寝言だな…
「「「「「いただきます。」」」」」
そして全員が声をかけ、箸を取る。
フランは箸をうまく扱えないが両隣にいるフウと萃香が箸を上手く使えるように指導している。利き手が出来上がるまでには2年くらいかかり、もうそろそろ出来てもおかしくないが外国の妖怪故か中々上手くいかない。
ちなみに霊夢には利き手という概念がない。器用過ぎて何でもそつなくこなせてしまうからだ。
どうでもいいが俺は普段右利きだが食事に関しては左利きでスプーンやフォーク、ナイフなどは左右対称同じように使えるが箸は別だ。右手で箸を使うと豆100粒のうち95粒しか運べない。
「勇姿、朝食が終わったらちょっと私に付き合ってくれない?」
フランがいきなりそんなことを言い始め、味噌汁飲んでいた霊夢が吹いた。
「ゲボゲボ…何言いだすのよあんたは!」
「まあまあ霊夢。落ち着いてよ、ね?」
霊夢がフランに掴みかかろうとするも間にいるフウが割って入ってそれを止めた。
「というか何であんたらがここにいるのよ!?」
…それは俺も気になった。こいつらは別に帰る場所がある。ないにしても居場所はあるという矛盾だがとにかく博麗神社にいなくてもいいはずだ。
萃香の答え
「楽しいから。」
…率直だな!おい!!この後萃香は霊夢にボコされた。
フウの答え
「天魔を引退したこともあって妖怪の山にもいるわけにもいかないし、どの勢力にも中立な博麗神社が一番住みやすいから。」
まともであってまともでない答えだな…霊夢のアッパーがヒットして伸びる。
フランの答え
「紅魔館にいても退屈だし、勇姿の作る料理が上手いから。」
褒められるのは嬉しいが咲夜のことも認めてやれよ…霊夢は複雑な表情で米神にデコピンを一発。それを見た二人は「贔屓だ!」と叫んだが俺達は無視した。
「それでフラン、俺に付き合ってて言われても何の用なんだ?それを聞かないと話にならん。」
「…アイツがまたバカなことを考えているのよ。」
「アイツ…ってレミリア?また異変でも起こすつもり?」
霊夢が袖を捲ると立ち上がり、肩の骨を鳴らした。
「それが…月へ行くみたい。」
…月って地球の衛星のあの月だよな?文明的に無理じゃないか?人類が宇宙に初めて行ったのが確か昭和の後だ。江戸時代や明治時代の人間が月に行こうなんて無謀にも程がある。…まあ河童の力を借りれば出来なくはないがそれでも材料とかで相当費用がかかるぞ。具体的には1ヶ月に一回親父から貰っていた俺の小遣いが半分程度なくなるくらい。
「月に行こうなんて無謀な事考えたね…」
フウがボソリと呟き俺はそれを聞き逃さなかった。
「フウ、まさかとは思うが月に行ったことあるのか?」
「当時の上司達に無理やりつれて一度だけね。妖怪の全盛期の時、紫を総大将に過激な妖怪達が月に戦争したんだ。」
「戦争って…月に人でもいるのか?」
俺が冗談交じりにそう質問するとフウ達は何を言っている?と言わんばかりに俺を見つめた。
「あぁ、そういえば勇姿は知らないんだっけ?月人の話。」
萃香がポンと手を合わせ、納得していた。
「恐竜時代が終わった理由は何だと思う?」
萃香が突然そんなことを聞き始めた…おそらく何か関係ある…
「火山噴火説、氷河期説、隕石追突説…そんなものか?」
他にもあるだろうが俺が知っている中ではそんなものだ。
「妖怪達の間じゃ恐竜が滅びたのは当時優れた文明を使って恐竜達から隠れ、住んでいた人間が妖怪達を殺すために巻き添えにした、巻き添え説が主流だ。」
「巻き添え説…」
むちゃくちゃだな。婆さんなら…地割れを起こして妖怪全部狩りそうだ。原始的なのにこっちの方が効率が良いと思ってしまうのは何故だろうか?
「その人間達は恐竜を巻き添えにして妖怪達を滅ぼした後は穢れ、つまり妖怪が生まれる瘴気を恐れて穢れのない月に行って月の住民になった…って話し。月人ってのは月の住民の略称みたいなものさ。」
「なるほどな…でどうだったんだ?」
「妖怪側はボロ負け。でもある程度は善戦したよ?あのポニーテール娘が現れなかったら私達の班に死亡者なんていないくらいに…」
ポニーテール娘か…幻想郷は立場が高いとそれに比例するように戦闘力が高くなる傾向がある。おそらくそのポニーテール娘も相当偉い立場だろうな。
「出来ればもう二度と行きたくない。それだけ強かった。」
しかし紫も紫でよく無事で居られたな。総大将なら普通首飛んでもおかしくない。
関ヶ原では一般人の知識では三成が大将みたいに誤解されているが少し調べるとそれは違うことがわかる。西軍の総大将は毛利輝元だ。しかし実際に戦ったのは三成が中心だった…それも間違いではない。その為三成は関ヶ原の戦いの直後打ち首。逆に西軍総大将である輝元は不戦を貫き、打ち首にならずに済んだ。
紫も似たようなことをやったんだろう。いやそれ以上か?まあどっちにしても妖怪の賢者と呼ばれるのは多分ここにあるんだろうな。
「…だいぶ話しが逸れたがフラン、それで俺に何をしろと?」
「アイツを止めてくれない?流石にアイツが死んだら紅魔館管理するの私になって勇姿の御飯が食べられなくなるから…」
「俺は咲夜に料理を教えているから咲夜にお前の好みそうな味付けを教えて実行させればどうとでもなる。」
「そういうことじゃないよ…勇姿のバカーっ!!」
日陰をうまく利用してフランは博麗神社から逃げ出してしまった。
「勇姿、デリカシーなさ過ぎ。」
「今のはひどいねえ…」
「俺にデリカシーという言葉を期待するなっ!説諭っ!!」
妖怪二匹が文句を言ってきたので俺は逆ギレして殴っておいた。
「霊夢、フラン探してくるからこのバカと夢月の相手頼む。」
「いってらっしゃい。勇姿さん。」
バカ二人と夢月を霊夢に預けると俺はメニューを開きシステムを作動させた。マップの検索コマンドを利用してフランを探すというものだ。これなら幻想郷のどこにいても探すことができる。美鈴あたりは気の感知ができるのでこんなものは必要ないが例外として俺はどういうことか気が感知できない不可思議人間らしいのでどうしようもないらしい。
俺の検索機能は名前さえわかればどうにでもなるのでそっちの方が便利と言えば便利だろう。…逆に言えば名前が分からなきゃ検索できないのでどうしようもない。そのため
そして俺はフランの姿を見つけた。そこは紅魔館の近くの湖だった。
「フラン。」
「…何よ。」
「すまなかったな。いきなりあんなこと言って。」
「…別に気にしてないよ。」
不機嫌そうな声で言っても説得力ねえよ。だがそれを言ったところでフランがさらに不機嫌になるのは見えている。となれば…甘味の力だな。システム倉庫から饅頭を取り出し、それをフランに見せた。
「饅頭食うか?」
「うん…」
饅頭が俺の手からフランの手に渡り、口の中へと入っていった。フランはハムハムと可愛らしく饅頭を頬張り、俺はそれを見てほんのりと心を安らげていた。
「あんた達!ここが誰の縄張りだと思っているの?」
チルノが突如現れ、フランと俺を威嚇する…チュートリアルだが最初に幻想郷の異変で戦った相手だ。その後何度も戦ってくるがその度に返り討ちにしている。
「誰?」
「あいつはここを拠点に活動している最強の氷の妖精、チルノだ。俺に何度も絡んでボコされている。」
フランはそういえばチルノのことを知らないのか?博麗神社にいるからそのくらいわかっていそうな感じはしたんだが。
「あんたとは戦ったことなんてないし。そんなことも分からないなんてバカなんじゃないの?」
チルノが何度も俺と戦う理由は俺のことをしょっちゅう忘れるからだ。チルノが俺の存在に気づくと戦うが俺はその度に倒している。しかし自分が最強だと思っているせいか負けたことを忘れ、俺の存在も忘れてしまうということだ。
「てめえには言われたくねえよ。むしろ前回なんか新聞にも四面くらいに載っただろうが。」
そのループに流石にイラっと来た俺は自重を投げ飛ばしメガトンパンチでぶっ飛ばした。その結果かつて萃香が妖怪の山まで吹っ飛ばされたようにチルノも冥界まで飛んでいった…らしい。らしいというのはフウに聞いただけなので本当かどうかは分からないが新聞にも載った。
【博麗の魔人、氷精にブチ切れ!?】
なんて書かれて大変だったんだぞ。確かに邪悪なるドSの神の
「門番不要!覚悟しなさい!!」
「それをいうなら問答無用だ。」
門番不要だったら美鈴がリストラされるだろうが。俺は対物ライフルを取り出し、構え引き金を引こうとした。
「勇姿、ちょっと待って。ストレス発散に私がやる!」
フランが前に立って四人に分身し、指をポキポキと鳴らしていた。
「まあ…お前が良いんなら譲るぞ。」
フランに譲ったのは【今日もマジギレ、大和勇姿!】とか【博麗の魔人、氷精を滅ぼす!?】とか報道されるのを恐れた訳でない。断じてないっ!!
「ありがとーっ!勇姿!」
分身の一人が俺に抱きつき、喜びを表現すると他の分身がその分身を殴った。もしかして分身に自我でも芽生えているのか?
などと考えているのチルノの弾幕がフラン達の目の前まで来ていた。
「禁忌-禁じられた遊び」
四人のフランは十字の弾幕を全方向に放ち、チルノの弾幕を消していく。しかもフランの弾幕は消えないというふざけた弾幕だ…まあ俺ならその弾幕を蹴っ飛ばしてフラン全員に返すけど。
「禁弾-フォービドゥンフルーツ」
二連発!?しかもスペルカードルールガン無視の弾幕かよ…えげつないな。本当。霊夢の場合なら夢想天生で避けるだろうが相手はチルノだぞ…弾幕を凍らせて弾幕の動きを止めることが出来るなら互角に戦えるだろうがチルノはまだ成長途中だ。切り札を使う間もなくチルノは砕け散るのだ…思っていても寒い親父ギャグだ。これで言葉にしてフランだけが硬直して負けたら俺のせいにされるな。むしろそれしか理由が思い浮かばない。
チルノが硬直するイメージがないのは超が3つも4つもつく簡単な計算…繰り上がりなしの一桁(例 1+1、2+3等)の四則演算の加法すらもできないからだ。そんな奴に親父ギャグを理解出来るかと言われれば無理だろう。第一何度も顔を合わしている俺のことを覚えていない時点で頭が相当悪い。
ちなみに長兄と次兄である雄大と裕二は5歳で大学受験用の試験問題(書き込み式)を全問正解しやがった。しかもその試験問題はパーフェクトが二人を除いて皆無…という超難問だ。あの二人に関しては俺と血が繋がっている以前に人間かどうかすらも怪しくなってきた。
「⑨〜…」
そんなことを思っているとチルノがピチュリ決着が着いた。
「やったーっ!」
分身を解いて一人になったフランの顔はすっきりしていた。
「フラン、よく頑張ったな。」
俺はそういって褒めて頭を撫でる。するとフランは気持ちよさそうにしていた。その仕草はまるで子供だ…フランらしくもない。いや猫被っているんだからそれもそうか。フランは普段は幼女らしく振舞っている。だが俺の前では猫被りを止めている。フランが言うには女の前で猫をかぶるのは当たり前らしい。
「だけどフラン…あの二つは霊夢とかそんな奴らに使う切り札級のスペルカードだぞ。」
「そうかな?勇姿が最強っていうから思わずやっちゃった。」
フランは舌を出し頭を自分の手でコツンと叩いてウインクする。その仕草は可愛らしいが中身を知っている俺からすれば道化そのものである。
「…まあチルノはいずれ強くなるからまた使う機会もあるだろう。それまでの間に手加減用のスペルカードを用意しておけ。」
俺がチルノを評価しているのは身体で覚えるタイプだからだ。チルノは頭は悪いがセンスに関しては天才だ。今日の弾幕ごっこもフラン相手に二つもスペルカードを使わせた。落ちたあの弾幕も反則級のスペルカードだしな。チルノは無自覚だが確実に成長している。
…しかしバカ故に自覚もなく振り回され、翻弄される。それがあいつの一番の欠点だ。それさえなければ今頃本当に幻想郷最強クラスに食い込めた。それだけに残念だ。
「わかった。…でもここまで来たんだし紅魔館まで寄らない?」
紅魔館か…レミリアの偏見をどうにかする為にも行く必要はあるか。霊夢に連絡したいのは山々だが今断れば絶対ゴネる。ゴネてかなり面倒なことになる。
「…まあ少しだけだぞ?俺はすぐ帰るからな。」
「先っちょだけって奴だね。それでもいいよ!」
フランのセリフが下ネタっぽく聞こえるのは何故だ?兎にも角にも俺達は紅魔館へ行くことになった。
よかったら感想書いて下さい!私のモチベーションが高まります!
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40話
レミリアは勇姿が紅魔館を襲撃する夢を見てから怯えていた。開き直って運命を操り、間接的に勇姿を殺そうとした。だが無駄だった。どのくらい無駄かというならば永久脱毛したところに市販の育毛剤を使って毛を生やそうとするくらい無駄だった。
通常、運命を操るには対象者の運命の分岐点を見てどうなるか予測する。そしてそこから運命の分岐点をなくし都合のいいように操る…この方法で当時吸血鬼狩りをしていたハンターを抑え、部下にし、そして妹も抑えてきた。
しかし分岐する運命をガン無視してしまう例外がいる…霊夢だ。運命は道路のようなものだ。そこから外れたら脱路してしまう…つまり死を迎えるのと同じことだ。
だが霊夢はその運命の道路の上を飛んでいる。霊夢の能力は【空を飛ぶ程度の能力】であり、幻想郷の住民の中では平凡な能力のように聞こえる。しかしそれはとんでもない思い違いであり実際には幻想郷の中でも相当強い能力である。その能力の特徴はRPGでボスに即死魔法が効かないのと同じように、霊夢は何にも影響されないということだ。
では勇姿の場合はどうなのかと言われれば霊夢のような例外ではない。魔理沙や咲夜等、普通の人間と同じように運命そのものは見える。しかし運命の分岐点がないのだ。
普通の人間が人一人歩けるくらい狭い道だとするなら勇姿の運命の道筋はアスファルトが限りなく続く平野のようなものだ。そんなところで通行止めの標識を一つ置いたとしてもその横を通られたら意味がない。常識は投げ捨てるものである。
しかしそんな力技で屈するほどレミリアは
敗因は勇姿が強すぎた。この一言に尽きる。謀略戦に持ち込もうとしても妖怪の賢者と呼ばれる紫を嵌めた相手では勝てる訳もない。
しかし紅魔館の当主のメンツという物もあり、勇姿から戦略的撤退することはあっても逃げることはない。そこで考えたのが月に遠征して成果を上げるという考えに至った。月の住民はどうも過大評価されている。紫の指揮の下、鬼や天狗等の当時最強クラスの妖怪達がほぼ全滅したと言われているがそんな話あってたまるか。
紫が無傷だったということは紫に嵌められたと考えるべきだろう。嵌められさえしなければ何一つ問題はない。それよりもあの怪獣の方が恐ろしい。レミリアの評価はそんなものだった。
「発射!」
そして遂にロケット(パチュリー作)を使いレミリアは月へと向かった。まだ勇姿は来ていない。フランドールの口からレミリア達が月へ行くことを漏らしたのは誤算だったがそれでも間に合った。
「はっはっはっ!これで恐れるものはないっ!見ろっ!この美しき青空を!」
カリスマックスなレミリアがハイになりロケットの窓を見る。そこには幻想郷の景色と青空が映し出されていた。
「さらば博麗の代行!大人しく指でも咥えて私達の吉報を待っていろ!」
そしてレミリアは振り返り、連れてきた咲夜と妖精メイドに演説しようと振り向く。
「諸君!」
そして演説が始まり、妖精メイドも静まり返った。するとこのロケットとは別の音が聞こえ、妖精メイド達の方向にある窓を見る。
その数秒後、戦闘ジェット機に乗った勇姿と目が合い、勇姿は獲物を見つけ動物のように笑った。
「なっ…!?」
レミリアが声を出そうとした瞬間、勇姿はとっくに動き、ミサイルを発射していた。
ジリリリ!バンッ!
「また碌でもない夢を見てしまったわね。」
そしてレミリアは河童から洗濯機を購入する際にオマケで貰った目覚まし時計を叩き、身体を起こす。ここのところレミリアはこんな夢ばかり見る。特に勇姿と接触する時間が迫るほどその時の夢をはっきりと見る為、どうしようもないのだ。
「月へ行くの止めよう…」
レミリアは即判断し、パチュリーの元へ急ぐ。だが足を止めた。
「お嬢様。妹様と勇姿様がお見えになりました。」
その理由がこれだ。夢…特に勇姿がレミリアを攻撃する夢を見る時は勇姿がやって来る時であり、絶対に逃がれられない。
「ふむ…」
咲夜の伝言を受け取り、レミリアは考える。どうせ勇姿を除け者にしても咲夜の攻撃を物ともせず勝手に入ってくる。
「熟睡していると言っておけ。」
「畏まりました。」
となれば顔を合わせないのが一番良い。レミリアは咲夜に伝えると自分の部屋へ狸寝入りしに向かった。
数分後
「あれれ?お姉様本当に寝ちゃっているの?」
妹、フランドールが何故かレミリアの部屋にやって来て顔を近づけるがレミリアは当然無視した。今の自分は寝ているのだから…
「起きなきゃ擽って起こしちゃうよ?それでもいいの?」
その後、レミリアはすぐに起きた。
「はぁ…で?私に何か用?フラン。まだ昼間だし寝たいんだけど。」
ため息を吐き、レミリアはうんざりした顔でベッドから降りる。
「お姉様、どうせそんなこと言ってまた勇姿にビビっていたんでしょ?」
「うるさい。あの代行は危険極まりないのは初見で分かっているでしょ?」
レミリアのいう通り、フランドールは勇姿を見た途端パニックになった。その結果があのザマである。そうでなくともあのザマになっていたが細かいことは気にしない。
「確かに敵になった時は怖いけど、案外優しいし、参拝客の人も勇姿のことを良く思っているよ?」
しかしフランドールはそれを悪く思っていなかった。大和勇姿という人物がどんな人物かよく知ることが出来、幸せな生活を送ることが出来た。
「フラン、そんな人間の言葉なんかアテにするのは間違っているわ。」
「もちろん人間だけじゃないよ。萃香だって、フウだって皆勇姿のことを信頼しているよ。」
「フラン、どちらにせよ私の意見は変わらないわ。諦めなさい。」
「むぅ…」
レミリアがバッサリとフランドールの意見を切り捨て、フランドールは拗ねた顔になった。
「それで他に用は?」
「お姉様、月に行くって話あったでしょ?」
「まさかそこに代行を乗せろ…なんて言わないでしょうね?」
「言わないよ…私が言いたいのはお姉様が月に行かないように勇姿に説得しにもらいに来たの。」
「…そういうことね。」
もしかしたらこの事を伝える為にあの夢を見たのか…そう思うと馬鹿馬鹿しい。レミリアはクツクツと笑い始めた。
「お姉様?」
「いや何でもない。私は月に行かないわ。フラン、代行やパチェにもそう伝えておいてくれないかしら?」
「直接自分の口で言ったらどうなんだ?」
そしてレミリアのトラウマとも言えるその低い声が鼓膜に響き渡り、汗がダラダラと流れ出てきた。
「あら、代行…レディの部屋に勝手に入ってくるなんて礼儀がなってないんじゃない?」
だがレミリアは動じていないように見せた。レミリアはプライドが高く見栄を張ることも多い。それがレミリアの長所でもあり短所でもある。
「何分経ってもフランが戻ってこないからな。不安になって様子を見に来ただけだ。」
「随分過保護ね。私も人のこと言えないけれども。」
「俺が不安なのはお前たちがまた姉妹喧嘩を始めてしまわないかということだ。」
勇姿はレミリアとフランドールの姉妹喧嘩を何度も見ており、姉妹仲が悪いことを知っていた。それ故に不安でここに入ってきたのだ。
「勇姿、私達の姉妹仲を心配しているの?」
「そういうことだ。俺は俺の兄貴達と仲良くやっていたおかげで何度も助かり、兄貴達も成績や就活…ありとあらゆる事が上手くいって成功している。良い環境は成功をもたらすってことだ。」
「…代行、貴方にも兄弟がいたのね。」
「…俺に兄弟がいておかしいか?」
「いいえ。なんにせよパチェには私が伝えておくわ。それとフラン、貴女がいつ帰ってくるかわからないから定期的に手紙を送りなさい。」
「はーい♡」
こうしてレミリアの月侵略は終わった…
〜月〜
レミリアが行く予定だった月は世紀末となっていた。
「ふははははは!その程度でこの呂布を止められるとでも思ったのか!!」
その原因は勇姿を子供あつかい…いやそれ以上にボロクソにした呂布である。
「雑魚が…どけいっ!」
呂布の拳圧で月人が扇風機に飛ばされた紙吹雪のように舞い飛ぶ。
さて何故呂布が月にいるのかと言われるとまたしても紫のせいである。
紫はかつて勇姿を抹殺する為に平行世界の後漢へと飛ばした。しかし勇姿の能力によって呂布が倒され失敗した。しかも紫が唖然としている間に勇姿は隙間の中に潜り込み、見事幻想郷に戻った。
…もうおわかりいただけた推理力豊かな人の為に答え合わせをしていく。
そう、答えは勇姿が隙間の中に潜り込んだ際に呂布も潜り込んだのだ。
勇姿のことだけで頭がいっぱいになっていた紫に呂布を確認する余裕もなく、そのまま放置しており、呂布も呂布でその中で過ごしていた。しかしそんなある日、呂布は生活に飽きて隙間の中から出てしまったのだ。着いたその先が月である。
そして呂布が食料を調達に出歩くがその異様な服装から月の民は呂布を攻撃してしまった。しかもあの伊吹萃香を吹っ飛ばした勇姿の攻撃すらも効かない相手だ。いくら進んだ文明の月の民とはいえ所詮は一介の兵士。対生物用の武器しか持っておらず呂布を倒すにはそんな武器では通用しない。そして冒頭のシーンへと移る。
「この俺をもっと楽しませろ…!」
「そこまでだ!」
世紀末救世主…ではなく、月人救世主が呂布の前に現れた。そう、その正体とはかつて元天魔をボッコボコにしただけでなく数多くの妖怪達相手を倒してきた伝説の姫…綿月依姫だ。
「…ほう、これまた面白そうな奴だ。あいつ以来の楽しみだ。」
呂布は笑みを浮かべ、胸を高ぶらせる。
「貴様に問う、何故我等月人を襲った。」
「食料の調達以外の何物でもない。聞き分けが悪かったのでな…少々お仕置きしたら向こうから襲ってきただけのこと。」
「食料強奪か…この外道が。」
どちらも人の話を聞かず、二人の拳が交じる。体重の軽い依姫が吹っ飛ばされ、地面に根伏せてしまい呂布が月の民から奪ったハルバードを使い依姫の頭を狙う。
ダンッダンッダンッ!!
しかし依姫はそれを避けて対処するが自慢のポニーテールが切られてしまった。
「(あ、危なかった…!!一瞬でも反応が遅ければ間違いなくミンチにされて死んでいた!)」
依姫は内心そう感じていた。呂布の攻撃は拳圧だけでも月の民を吹き飛ばす為に、ハルバードを持ったらどうなるか想像がつくだろう。鬼に金棒というがそのレベルではない。鬼に金棒、勇姿に対物ライフル、呂布にハルバードである。
「小娘、面白い!面白いぞぉぉぉっ!」
そして呂布が依姫に向かってハルバードを振る。依姫は体勢を整え、剣を構える。
「えっ?!」
次の瞬間、呂布はどこにもいなくなっていた。そしてそれを引き起こした犯人…もとい、もう一人の
「姉上!!」
そう、依姫の姉である綿月豊姫だった。彼女は依姫のような戦闘能力こそないが交渉や内政能力に長け、紫と交渉したのも彼女である。
「依姫、もうあいつはいないわ。」
豊姫がそう宣言すると依姫は剣を杖のように扱い、体を支える。
豊姫の能力、それは瞬間移動だ。非戦闘能力のように見えるがとてつもなく強力な能力で対象をどんな場所にも移動させることができるというものであり、それを使って月を滅ぼしかねない呂布を移動させたのだ。
「…それでどこに行かせたんですか?」
「幻想郷。本当なら三途の川の中に移動させて溺れさせたかったけどそれは流石に無理だったわ…あの男は。」
「…あそこには策士もいますし、多分大丈夫でしょう。」
こうして月で起こった異変は幻想郷に擦りつける形で終わった。
もちろん紫の隙間によって呂布は無事後漢へと帰っていった。なお引き起こした紫は「幻想郷にはもっと化物がいるのでその相手をしていた。」や「妖怪達相手に無双した月の皆様に警告するまでもなかった。」などと供述しており全く反省していなかった。
また月の最高戦力である依姫がバカにしていた地上の人間に負けかけたことによって月の民の意識が変わり、これまで以上に軍隊訓練がキツくなったのはいうまでもない。
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41話
妖怪の賢者とも呼ばれる八雲紫が恐れる相手は幻想郷において片手位しかいない。人里で会える人物達を紹介しよう。
一人目は風見幽香
風見幽香は加虐趣味であり、大変危険な妖怪である。会ったらジャスタウェイ。さもなければ死ぬか玩具にされるかのどちらかしかないので気をつけなければならない。著者である私、稗田阿求もその餌食となった。
二人目は四季映姫・ヤマザナドゥ
元地蔵、現幻想郷の閻魔なだけあって大変ありがたい話をしてくれるお方である。著者である私はこの人のおかげによって何度も転生を繰り返すことが出来るので悪口を書きづらいがあえて書かせてもらう。一度説教をしたら3日は説教し続けるとも言われ、八雲紫ですらもそれを恐れて何処かへと消え去ってしまうという。しかも浄玻璃の鏡を所持している為過去を覗くことが出来るので悪さをしたことがあるとそれをネチネチ…もとい何度もくどく繰り返して説教をするので八雲紫だけでなく例外を除き人妖問わず誰もが苦手としている。
三人目は大和勇姿
八雲紫の天敵にして幻想郷で最も発言力を持つ男。普段は温厚かつ紳士であり人里の子供達も慕っており、風見幽香や伊吹萃香、フウ氏などの幻想郷トップクラスの実力を持つ者とも仲が良く友好関係も築きやすい。しかし一度キレたら内に眠る魔王が覚醒してしまい博麗神社の賽銭箱を壊したり、永遠亭を一撃で壊したり、前述した四季映姫・ヤマザナドゥを逆に説教したりと大暴走してしまう。しかも八雲紫によると彼女自身の能力に所属する妨害・干渉系の能力は全く効かないらしく、まさしく天敵と言えるだろう。
その三人について詳しく知りたければ、それぞれ妖怪図鑑と英雄伝の項目をご覧になればわかる。
幻想郷縁起項目『妖怪の賢者 八雲紫』一部抜粋
〜図書館〜
「…これを見てどう思う?」
パチュリーにそう言われ、顔が引きつっているのが自分でもよくわかる。
「随分ボロクソに言われてるね。勇姿。」
「ほとんどが真実だから何も言えん。」
「真実って…過大表現されているってことでしょ?」
「まあな…っつてもどっちみち同じことだ。」
「…?っつても?」
フランが不思議そうに俺を見つめる…俺の言った言葉に原因がありそうだがさっぱりわからん。
「今のは〜と言っても、という意味でしょ?違う?」
「ああ…そうだが…」
俺がそう答えるとパチュリーは少し考える素振りをして、口を開けた。
「それじゃやっこいは?」
「柔らかい。」
「
「大丈夫か?の省略系だな…」
一体なんなんだ?別におかしなことじゃないだろう?
「ふぅん…やっぱりね。」
「何がやっぱりなの?パチュリー?」
「ええ…彼の出身地というか育った環境がわかったわ。」
…今のでわかるのか?
「そこってどこ…?」
「北関東の県…とでも言っておきましょうか。食べ物でトラウマになりかねないものもあるしね。そうでしょ?勇姿…」
「そうだな…」
俺は頭から血が引き、顔面蒼白になっていく感覚に見舞われた。
突然だが諸君。学校の給食で残したものはあったか?…まあ「ない」と答える方もいるだろう。しかしだ。地元県民の9割弱の小・中学生からかなり…いやGと名のつく虫以上に嫌われ、残す食べ物がある。
何度かそれを学校の給食で食したことがあるが一言でいうとトラウマものだ。何せ見た目、味、食感3コンボで最悪だった。その後そいつが出てきたらマヨラー以上にマヨネーズをぶっかけてそいつもろともマヨネーズを飲み込むという力技で攻略しなければならないくらいマズイ。…攻略して何の得になるのかだと?必ずと言っていいほど同時に出てくる給食の品がある…それは和牛ステーキ。ゲロみたいなアレを食う代わりにステーキを貰うという条件で俺と一部の奴らはステーキ等を貰っていた。本家本元のそいつはマズイとは思いたくないがそれでも給食で出てきたのはアレなので二度と小・中学生には戻りたくない…一度食えばわかる。
「どんな食べ物なの…?それ。」
「トラウマになるものだけ言っておく。フラン…並大抵の精神力じゃ食えないことだけは覚えておけ。」
「…うん。」
わかって貰えて何よりだ。何しろあれは文字どおり地元で生まれ育った地元県民ですら食べられないようなゲテモノだ。欧州の妖怪であるフランドールが手をつけたら泡吹いて倒れるだろうな。
「それはともかく、勇姿の住んでいた県はスキーのゲレンデも数多くあって有名らしいわ。」
…そういえばゲレンデといえば雪山でも酷い目に遭ったもんだ。
俺が帰国した後、「マフィア如きに傷つけられるなんて軟弱な育て方をした覚えはない。そのぶっ弛んだ精神を叩き直してやる。」という訳のわからない理由で婆さんに無理矢理雪山に連れていかれると「これから大声出して雪崩を起こすからその場から一歩も動かずに耐えてみろ。もし動いたらやり直し。」という無茶苦茶にも程があるスパルタ指導で冬休みの二週間ずっとそれをやっていた…おかげで冬休みの宿題なんぞ終わらせることも出来ず、守矢神社にも行くことが出来なかった。結局冬休み最後の日にやり遂げたけどあれは拷問以外の何物でもない…
「他には…世界最大級の大企業…大和財閥の本社の地点で有名ね。」
「俺の親父の会社だ。それ。」
「そう、貴方のお父さんの会社…お父さん?」
そういえば公言してなかったけか?まあ俺が御曹司だとバレても幻想郷じゃ何の意味もない。親戚共からは不良品扱いされているしな…人ですらねえ!
「…確かに面影はあるわね。」
そしてパチュリーがそれをおくと親父の名前と写真が見えた。
「これが勇姿のお父様なの?」
…そりゃそうだろうな。片やヤ9ザ扱いされそうな雰囲気のある俺。もう片や柔和な笑顔で誰からも慕われそうな親父。どう見ても親子じゃないように見える。…雄大の見た目は親父そっくりなんだけどな。裕二は母親似の女顔で強面である雄山や俺とも似ていない。しかも裕二は華奢だから女に間違われることも多く、親戚の女共からは羨ましがられている。…何で兄弟なのにこんなに違うんだろうな。雄山と俺は婆さんの性格が顔に出たような顔つきだしな。
「ああ…優しそうだろ?」
「うん…お姉様とは違ってカリスマが滲み出ているわ。」
フランがあまりにもレミリアを気の毒に思ったのか苦笑いしていた。
「お嬢様にはお嬢様のカリスマというものがありますわ。妹様。」
いつの間にかやって来た咲夜がフランに反論して俺達に紅茶を渡す。
「Oh…thank you.Sakuya.」
「何で英語…?」
おっと…やっぱり米国へ留学するとこんな風になってしまうもんだな。幻想入りする前に京都・奈良、略してキョナラに修学旅行にいった友達が帰ってくると方言が移って元に戻すのが大変だったらしい。日本国内であるキョナラでもそんなに移るから日本語で「おぉ…サンキュ。咲夜。」というつもりがあんな英語になるのは必然とも言える。
「昔の訛りだ。あんまり気にするな。」
「…今の訛りからしてアメリカ英語ね。」
「何でわかるの?」
「レミィやフランの喋る英語はヨーロッパの訛りの英語でそれとは違うのよ。まあ…オーストラリアの英語もいくらか特徴的な訛りがあったし、発音もわかりやすかったわ。」
へぇ…そう言うもんなのか。ちなみに雄大は英語だけじゃなくロシア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、ポルトガル語…とにかくいろんな言語を扱えるので通訳必要なしだ。羨ましいもんだ。…俺?俺は英語オンリーでしかもかなり微妙な知識だ。比べることすらできない。
「ところでレミリアの良さって何だ?」
話を俺の方に持っていっても仕方ない。俺の話をしたら咲夜はハブられることになるからな。
「お嬢様の良さは何をしても様になる…ということですわ。」
「お姉様が…?」
「ええ。お嬢様は締める時は締め、可愛らしくなる時は可愛らしくなり、私はそれを見て胸がキュンとときめくのです。」
なるほどな…そういうのは…
「そう言うのをギャップ萌えっていうらしいわ。」
…言われた。何でパチュリーはそんなことを知っているんだ?ギャップ萌えの概念が幻想入りしたっていうのか…
「ギャップ萌え…ですか?」
「例えば…そうね。チンピラが人の前じゃツンツンしているけど、猫の前じゃデレデレになっているのを見て貴方達はどう思うかしら?」
「信じられないわ。」
「今時不良がそんなことをするかよ。」
今の不良ってのは無気力な奴らばかりだしな。そんな奴らは昭和に帰りやがれ。雄大は1988年生まれとギリ昭和生まれだけど。
「フランも勇姿も似たようなものね…じゃあ咲夜は?」
「ドキドキしますね…そんなありえないことに出くわしたら忠誠心が溢れ出そうです…」
忠誠心?なんで忠誠心が出てくるんだ?咲夜の鼻から忠誠心という漢字で書かれた文字の塊が鼻くそとして出るところを想像するとかなりシュールだ…
「そう、普段とは違うことにときめく…それがギャップ萌えって奴らしいわ。まあこれに関する情報が少ないから私の推測でしか言っていないけれどもね。」
そういう情報は少ないのか…無茶苦茶だな。
「それじゃパチュリー。ここら辺でお暇させてもらう。伝言も伝えたしな。」
夢月も博麗神社においてきたしな。いい加減帰らないと面倒なことになる。
「じゃあね。パチュリー、咲夜。」
「騒いだり、本を盗んだりしなければいつでも来なさい。」
珍しく歓迎されたな…
「ああ。ここの本は色々とあるようだし、資料を集めたい時は来る。そん時はパチュリー…お前にも協力を求めるかもしれないから頼む。」
「私が出来ることは本の場所や中身の解説くらいしかないけど。」
「それで充分だ。」
しかし俺から見て10年以上前…つまり外の世界の最新の資料があったことや早苗が最初に会った時からほぼ年を取っていないということは普通幻想入りする時はタイムラグはほとんど生じないってことか…?そんな考察は後にしよう。今は博麗神社に帰ることを考えないとな。
感想よければ書いていってください!
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42話
それにしても、感想が来ないのに評価(しかも何気に高評価)が来るとは思いませんでした(驚愕)
評価よりも感想が欲しい作者の最近の驚愕した出来事でした。
「何だこりゃ…」
勇姿達は唖然としていた。その理由は普段のどこか寂れた雰囲気の博麗神社からは考えられないほど雰囲気が大きく変わっていたからだ。
「なんかもの凄い悪趣味だね。」
フランドールは悪魔故に普通の美的センスから外れていており、意味も違うとはいえ勇姿もそう言いたげに首を縦に振った。
「…悪趣味はどうかはともかく神々過ぎる。」
そう、博麗神社が余りにも神々過ぎた。普通の人間であれば有り難みがあるのだが、悪魔であるフランドールからしてみれば悪趣味極まりなく目を向けるだけでも体調が悪くなるようなものだった。
「霊夢!霊夢はどこへ行った!?」
ここまで神々しく出来るのは勇姿の中では霊夢くらいのものであり、勇姿が霊夢を呼び出すのは無理なかった。
そして一つの影が見えた。
霊夢のトレードマークであるリボンが見えず、その正体が霊夢ではないとわかる。代わりに左の髪に何か巻きつけるようなアクセサリーを付けており、その人物の正体が分かった。
「霊夢さんなら守矢神社に行っていますよ。」
そこへ現れたのは東風谷早苗。前回の異変で霊夢を足止めした風祝である。
「早苗…これはお前がやったのか?」
「そうですよ。こんな寂れた雰囲気の神社じゃ参拝客なんて来ませんから…恩返しというのも何ですが…少し神力を与えました。」
「神力…?」
「神様だけが持つ力の源のことですよ。そうですね…霊力よりもはるかに強力な力とでも言えばいいんでしょうか?とにかくその力を博麗神社に与えて人々が博麗神社に寄った時に信仰心が上がるようにしたんです。」
「その前に何故その神様の力の源を扱える?お前は人間だろう?」
「私、現人神なんですよ。人でありながら神でもあるが故に霊力と神力の両方が扱えるんです。」
早苗は現人神であり、守矢神社のもう一人の神として知られている。その為に神の力の源である神力が扱えるのだ。
「お前が神力を扱えるのはよくわかった…だが神力が与えられた割にはフランが悪趣味と言っているんだが?」
「それはそうでしょう。博麗神社は人々が祀る神社で妖怪が寄る所じゃないんですよ。妖怪が寄らないようにしてその妖怪達は必然的に守矢神社へ…ふふふっ。」
「黒い奴め…しかし俺が聞いた噂だとお前は妖怪を通り魔のように片っ端から倒しているらしいじゃないか。」
「失礼ですね!私は良い妖怪か悪い妖怪か聞いてから倒しているんですよ!何も目的がない通り魔と一緒にしないでください!」
ちなみに通り魔は何も目的がないという訳ではなく人殺しをするという目的がある。あえていうなら通り魔は理由が曖昧過ぎるか幼稚なものであり、計画犯罪とは近くて遠いものである。
「…まあそれについてはまた後で追及するとしてだ。お前は立場ってものが分かってないな。」
「立場って…私は私の責務を果たしただけですよ。何か問題でもあるんでしょうか?」
「大有りだ馬鹿野郎。博麗神社ってのは中立の立場だ。だからこそ異変を解決した後ここで宴会をする…そして幻想郷の中核となれる。それを人間寄りにしてみろ。妖怪達は快く思わねえ…特に八雲紫なんかはそうだ。すぐにでも元に戻す。そうだろう?紫。」
勇姿がそういい、静まり返るがフランドールがとんでもないことを言い出した。
「あのスキマBBA出ないね。」
その一言によってフランドールの頭に弾幕が直撃し、額に手を当ててゴロゴロ転がった。いつもの紫であればさらに追い討ちをかけるのだが相手がフランドールなので止めた。もし表向き幼女であるフランドールを追い討ちした姿を新聞記者達に撮られたら間違いなく評判はただ下がりである。
「流石は大和勇姿。頭の回転が早いわね。」
フランドールに追い討ちをかけられなかったせいでまだ怒りが収まらないのか半ギレの状態で紫が現れた。
「皮肉か?これくらいは馬鹿な俺でも予想は出来る。」
「それこそ皮肉ね。そこの風祝は予想していなかったみたいよ?」
「まだこの子は世間知らずだ。幻想郷に住んで早々理解しろというのが無理な話だ。社長である雄大や裕二ならわからないでもないが…」
「この子、なんていっているけど年齢差そんなにないでしょう?」
「妖怪からすればそうだろうな。俺と早苗の年齢差は俺の兄、雄山よりも年の差はある。だが年なんてものは関係ない。年などを気にしていたら自分の本当の誇りすらも見失う。本当に大切なのは自らが貫き通すということだ。」
「…臭いセリフね。」
「元より武人であるこの身でセリフが臭かろうが泥臭かろうが水臭かろうと言われようと関係ない。」
「勇姿さんってこんな人でしたっけ?前会った時はもう少し過激だったような気がするんですが…」
「あの時は若かったということだ。」
「あの時?それにその巫女は誰なの?」
ようやく立ち直ったフランドールが口を挟んだ。
「ああ、すまん紹介するのを忘れていた。こいつは東風谷早苗。妖怪の山に新しく設立された守矢神社の風祝だ。」
「早苗お姉ちゃんよろしく!私のお名前はフランドール・スカーレット。フランって呼んでね!」
「か、可愛い…フランちゃん。頭撫でていい?」
「うんっ!」
早苗はふらふらとフランドールに近づき、頭を撫でるとフランドールはくすぐったそうにしていた。
しかしそれに水を差す者がいた。
「早苗、こう見えてフランは俺の数十倍は年上だぞ。」
勇姿である。勇姿はフランドールが猫被りしていると知っている数少ない存在だ。
勇姿の一言によって早苗は激怒した。
「嘘を言わないでください!こんな可愛い娘が勇姿さんよりも年上なはずがないじゃないですか!」
勇姿の言葉に早苗は反論しフランドールを抱きしめる。その際に早苗の胸の脂肪がフランドールの口元に当たりこのままでは窒息しかねない。
「早苗お姉ちゃん苦しい…」
「ほら!私のことをお姉ちゃんなんていうからには私よりも年下なんですよ!第一、勇姿さんの根拠は何ですか?」
「フランがフランの姉レミリアに幽閉された年数が根拠だ。レミリアは495年もの間フランを幽閉していた。これはレミリアが公言している…」
「えっ!?」
早苗が驚く間に、勇姿はさらに衝撃の言葉を放った。
「ついでに言うならお前が橋野組に誘拐された時は早苗よりも俺の方が年下だった。」
「あんな外見で年下だったんですか!?というか年下なのになんで刑事なんてやっていたんですか!?」
「俺の親戚の陰謀。」
「いくらなんでも波乱万丈過ぎますよ…まずその前に一つ尋ねたいんですが勇姿さんって大和財閥の御曹司か何かですか?そうでもなければそのくらい波乱万丈な生活を送れるわけありませんよ。」
「ビンゴ…当たりだ。親父は大和財閥取締役社長で俺はその四男坊だ。」
「勇姿さん、今すぐ結婚しましょう!」
まるでコントのように早苗はフランドールを離し、勇姿の手を取って握ると紫がそれを離した。
「止めなさい。勇姿が言うには結婚すると貴方の信仰する神…それも全盛期の頃ですら手がつけられないような人物が妨害してくるわ。そうなったら守矢神社は当然、幻想郷も危機に陥るわ。」
「デスヨネー…」
早苗は玉の輿に乗れずがっくりと項垂れるとフランドールが猫を被りながら励ましていた。一応やるところはやる幼女である。
「それに…いえ今言うのは止めておきましょう。下手に口にしたら幻想郷そのものが本当に幻想になりかねない事態になるわ。」
紫はそう言って扇子を口元に当てる。これだけでもかなり胡散臭く見え、勇姿は顔を顰めた。
「話が大分それたが今日中に博麗神社を元に戻せ。フランも萃香もフウも帰る場所はここなんだ。ここで受け入れなければどこにも住めない。」
「その時は皆さんが守矢神社に住めばいいだけですよ!」
「守矢神社は中立の勢力じゃない。だから紅魔館の主の妹や伊吹鬼、ましてや元天魔が守矢神社に住めば、守矢神社が各勢力から滅多打ちにされる。そうなれば戦争が始まる。それがわからないのか?」
勇姿はかつてないほどにドスの効いた声で語ると早苗が顔が青ざめた。
「勇姿!早苗お姉ちゃんをイジメちゃダメ!」
「やれやれ。フランに免じて許してやるが、これだけは覚えておけ。次からは警告はしない。Do you understand?(わかったな?)」
「は、はい!」
「OK.(よろしい。)次の仕事だ。紫、霊夢に伝えておいてくれ。苺大福を一杯作っておくから早く帰ってこい。とな。」
「あら…早苗の手伝いしないでいいのかしら?」
「自分の尻拭きくらい自分でやらせた方が良い。それにお前にやらせたら意味がなくなる。」
「…ふ〜ん。そういうことね。わかったわ。霊夢に伝えておくわね。」
「頼んだぞ。」
紫がその場から消えると勇姿は台所に入り苺大福を作り始めた。ちなみにフランドールは早苗にずっとくっついていた。
「あれ?勇姿何を作っているの?」
「夢月、お前いたのか?」
「いたのかって…いちゃ悪いのかしら?」
「身体に悪い。」
「身体に…って、ああ。そういうこと。私は悪魔だけど夢幻世界を管理している立場だからこのくらいの神力なら平気よ。他の連中はどうかは知らないけど。」
「納得…っと。出来たか。作りたての苺大福味見するか?」
「それじゃ頂きます…っ!美味い!」
「だろう?後は霊夢が帰ってきたらみんなで食べるぞ。」
「(こんなに美味いものを食べたらやみつきになりそうね…いざとなったら勇姿を攫って夢幻世界の魔王に仕立てましょうか。魔王ならそれっぽいし。)」
中々黒いことを考える夢月であった。
次回からは再び本編です。
感想よろしくお願いします!
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緋想天編
43話
博麗神社が早苗の手によって魔改造されたが早苗(と霊夢)が元に戻し、どうにか妖怪達が来れるようになった。
そんな博麗神社の役割はというと妖怪や人間などの仲裁だ。俺が守矢神社と妖怪の山の二つの勢力を仲裁したのが一番わかりやすい例だ。他にも中立の立場が揺るがない程度であれば妖怪や人間の子供の保護なども当てはまるな。
霊夢の役割は誤って幻想入りしてしまった人物を元の世界に戻したり、博麗大結界の点検もする。早い話が霊力や摩訶不思議な力を使う仕事が霊夢の仕事だ。
俺は霊力がないからそれは出来ん。
博麗神社において俺の役割は宣伝だ。霊夢は暗躍しすぎて全くと言っていいほど宣伝をしておらず、参拝者も来なかった。しかし俺がその役割つまり代行として務めることで宣伝になる。
人々は博麗神社を信仰することによって力が宿る。現在そう言われている。何故なら日頃妖怪退治をしまくっているせいか評判が高くなり、博麗神社の評判も高まっている。
さらにフランや萃香、フウが巫女代行として来てからは「信仰すれば妖魔も関係なしに心さえあれば正なる力を宿すことが出来る」などという噂が流れ、ますます信者が増えた。まるでゲームだ…ちなみに夢月は幻月の様子を見に夢幻世界に帰った。いずれまた来るらしい。
閑話休題。
博麗神社の欠点は立地条件(階段が急で狭い等)が悪く、博麗神社の麓から神社に着くまでが大変だ。それこそが(物理的に)力が宿る要因だが、そこまで行ける人間は多くなく特に老人などは参拝に行きたくともいけない状態なのでその対策を打っていた。
「準備出来たか?霊夢。」
向こうにいる霊夢に電話(正確には通信道具)をかけ、確認すると霊夢の鈴のような声が聞こえてきた。
「もちろん!いつでもどうぞ!」
「それじゃテストするぞ。」
そして俺は元の世界でいう時給2500円相当で募集したバイトに指示して霊夢が達筆な文字で書いた所へ移動させる。次の瞬間、目の前にいたバイトがいなくなっていた。
「霊夢、こっちはうまくいった。そっちはどうだ?」
「来たわよ。大成功よ!」
俺達がやっていたのは博麗神社の麓と神社の前まで移動するワープ装置の設置だ。俺は霊力やらなんやらそんなことはわからんがSFのロマンとも言えるワープ装置が擬似的に作れるんじゃないのかと思い、霊夢に作らせた。
「それじゃバイトにそれを使って元に戻るように指示してくれないか?」
「…」
「どうした!?霊夢!?」
だが電話からは返事は返って来なかった。電話から聞こえるのは「ガー」や「ピー」などそんな無機質な音と激しい地鳴りの音だけだ。
地鳴りの音は大震災の時と酷似している。米国から帰国してから数年後、どでかい地震があったんだよ。
俺は婆さんに師事するために北関東の実家の近くにある山小屋-といっても紅魔館の中身と同じくらいの大きさだが実家の近くにある俺の家(俺達四兄弟は高級マンションなどの部屋ではなく家が与えられる)の体積よりも小さいので小屋とする-に来ていたが突如、今までに経験したことのない地鳴りが聞こえ、その後大きく揺れて動揺した。何しろこっちは帰国子女だ。当然地震の経験も浅く、パニックになりかけた。
しかしそれをぶち壊すのが婆さんである。婆さんは「男なら狼狽えるんじゃないよ!この馬鹿たれ!!」などとほざき地面を殴って震度6弱の地震を打ち消した後、俺に説諭を加えた。スパルタすぎんだろ。
ちなみに流石の婆さんでも隣の県から先を震度0にすることは不可能だったが実家の周りだけ無事に済み、親戚共から俺が酷い目にならなかったことに舌打ちされたのは懐かしい思い出だ。
何にせよ、この地震を止めるには婆さんの血を継いでいる俺しか止められないということだ。自分しかできないと思うとだいぶ厨二臭く感じるがそれはどうでもいい。選択肢は一つ、やるしかない。
「デリャァッ!!」
一番振動が響き易い石の階段を殴り、その地震を止めさせる。すると電話の向こうから聞こえる地鳴りの音が止んだ。
うまく行ったか。やっぱ幻想郷に常識は通用しねえな。空掌は百歩譲って出来るようになるのはいい。あれは雄山でも出来るしな。しかし地震止めが出来るようになるのは流石におかしい。あれは波の動きだ。なので打ち消すことは不可能なはずなんだが幻想郷では常識は通用しない。地震止めをすることすらも容易くなっている。
そういえば早苗も常識は投げ捨てるものとか言い始めたな。あれは頭打ったんだろう。俺が関わっているはずがない。
だいぶパニックになって地震止め云々を解説してしまったが『異変が発生しました。』…何の異変だよ?人が考察している時に邪魔する相変わらずKYなシステムだ。
まあいい。異変を解決する方が先だ。俺が考察しても無駄なことは学がないことからよくわかる。しかし矛盾点をついていけば良い訳だ。
裁判で弁護士や検事は矛盾点を探して犯罪者を庇ったり、追い詰めたりする職業で学がなくとも法律を暗記してしまえば馬鹿でも出来る…なんて馬鹿にしていたのは長兄雄大であり、俺ではない。「丸暗記してしまえば問題ないってどういうことだよ。丸暗記が難しいからそういう職業があるんだろうが。」と突っ込んだが雄大には届かない。奴は天才だからそういうことも出来るんだろうが身体はどうあれ頭が凡人たる俺は無理だ。
とにかく異変を解決するには、腹ただしいことだがコマンドシステムを使って言いなりになるしかない。
まず異変である以上、首謀者と妨害者、ボーナスにextraがいる。extraは妨害者と同じ表示で現れるのでどんな奴かわからないが首謀者は妨害者と見分けがつくようになっている。
しかし現時点ではマップは俺が行った場所のみしか表示されない為、首謀者が行っていない場所にいるとどこにいるのかわからない。
幸いにも目的地が表示されるのでそこに向かえば妨害者と出くわしてヒントが得られるという訳だ。
この方角は守矢神社の方か?そういえばあそこには地を操るスペシャリストがいたな。行ってみるか。
「霊、夢?」
そして一言声をかけようとしたら霊夢があの時のように怒り狂っていた。
「あら、勇姿さん。これから地震起こした馬鹿の始末しに行くけど、いく?」
「奇遇だな。俺もその準備をしていたところだ。」
こういう時の霊夢はできるだけ同調しておくことだ。でなければ魔理沙のように首を絞められる。いくら霊夢にやられるとは言ってもそれは勘弁して欲しい。
「それじゃあ行きましょう!」
つい最近ようやく手に入れた空飛ぶコードを使い、俺と霊夢は空へと飛んだ。
「だから何で守矢神社にいくのよ!?」
「あそこには手がかりがある可能性が高い。何せ地を操るスペシャリストがいるからだ。」
しかしすぐに言い争いになった。これから言うことは男女差別をする訳ではない。れっきとした事実だ。男は理屈攻めでどうにかするが女は勘や直感でどうにかする傾向が強い。そのため弊害が起きて俺と霊夢の言い争いが始まったという訳だ。
もっとも本当の理由は二手に分かれて効率良く異変の首謀者を探す訳ではない。異変の首謀者を俺自身が懲らしめないと俺が生きられない可能性も出てくるからだ。
これまで俺は異変の首謀者を確実に仕留めてきた。もし俺が仕留めず霊夢や魔理沙、あるいは他の連中が首謀者を仕留めたらどうなっていた?俺の最悪の仮説だとゲームオーバーになり、セーブした箇所からやり直せずにそのまま死ぬ…もしかしたらそれ以上に最悪な事態もあり得る。だから俺がやるしかない。
「なあ霊夢。このままじゃキリがない…とりあえずこうしよう。二手に分かれてどっちかが異変の首謀者を見つけたら懲らしめる。それでいいか?」
俺としてはベストな提案をしたつもりだ。だが霊夢は首を振った。
「嫌よ。」
「何故だ?」
「偶には勇姿さんにも私の活躍を見てもらいたいもの。二手に分かれたら勇姿さんに私の活躍する姿を見せられないじゃない。」
霊夢はいじらしく、俺に抱きついてそう言い放った。…ならこうするか。
「霊夢。俺にその姿を見せたいなら俺と戦え。それでお前の見せたい姿が俺に伝わる。」
作戦その一。
この作戦は勝負に勝たなくとも二手に分かれるように誘導する作戦だ。霊夢を満足させたら後はオサラバ!異変の首謀者を探すだけだ!
「私は二度と勇姿さんと戦いたくない!」
「何故だ?」
「私は勇姿さんがいなくなった時、寂しかった!もう二度と離れないで!」
霊夢が依存しすぎているな。似たような経験がある…
雄大の悪友の息子であり、俺の舎弟分だった堂島時光ことトキと同じだ。俺とトキが出会ったのはトキがまだ6歳の頃だった。表向きは暴れん坊でそれを止められる相手が俺と雄山、そして婆さんくらいのもので俺たち三人が面倒を見ることになったというのが表向きの理由だ。
本当の理由は父親があまりにも若く、トキと父親の関係が世間に広まったらスキャンダルの嵐になる為父親の家から依頼され預かることになった。だから父親との関係を少しでも悟られないようにトキは母親の姓である堂島を名乗っている。
しかし雄山はマフィア狩りという悪趣味を持っており、トキと会う機会は滅多になく、実質俺と婆さんだけが面倒をするようになった。
婆さんは練習というよりもしごき、特訓というよりも相撲部屋的な可愛がり、しごきというよりも拷問といった具合にやるためトキから恐れられた。トキの味方は俺しかいなかった為に俺も必然的に少しでもトキの心が折れないようにトキの前では弱音を吐くことはなかった…そのためトキは俺のことを慕ってくれた。
しかしそれがいけなかった。
俺が別のトレーニングをしているとトキが無気力になっていつもよりも婆さんにボコボコにされる姿を見かけた。トキによると俺がいないと気力を奮い立たせられないようになってしまい、婆さんにボコボコにされたらしい。
そしてトキが今の霊夢と同様に俺に依存しているとわかり、そこから治療して依存せず慕う程度になった。
問題はトキと同じように治療すれば良いのか、あるいは他の方法で治療するべきか…どちらにせよ今セーブしておこう。
『セーブ処理が終了しました。』
「霊夢。俺は記憶が失っていることを自覚している。」
俺はこれまで異常に感じたことを話すことにした。
「どういうこと…?勇姿さんって記憶喪失なの?」
「おそらくだがな。守矢神社の異変のことを覚えているか?」
「あれがどうしたの?」
「守矢神社が異変を起こす直前まで俺が守矢神社のことを思い出そうとしたら神社の名前や強烈な印象を残していたはずの早苗のことも思い出せなかった。しかし異変が起き、俺が対面すると思い出せた。」
「それは普通なんじゃないの?早苗も覚えていたし…」
「確かに普通かもしれない。しかし俺は部下だった奴等の名前は全員はっきりと覚えている。強烈な印象を残してもいないのにな。」
俺は苦笑気味に笑った。
「でも考えすぎなんじゃないの?」
「無論、それだけではない。かつて兄のところで働いていた女が一人だけ思い出せん。そいつも幻想郷の異変に関わり得る妖怪なのかもな。」
前に裕二の秘書に裕二のスケジュールなどを教えるバイトをしていたがその秘書のことだ。当時の大和財閥の専務とかの名前とかは覚えているのにも関わらずその女を思い出せんのはおかしい。一番会社で関わった奴を覚えていないのはむしろ何か脳に障害があると考えられる。
「つまり誰かが意図的にそう仕組んでいると考えられる。その為には霊夢の協力が必要だ。」
だが俺は脳に障害があるとは思えない。脳に障害がなければ誰かに洗脳-この時洗脳という言葉は正しくないが面倒なので洗脳とさせてもらう-されている可能性もある…それを解くには霊夢の協力が必要だ。しかし依存しすぎていたら元も子もない。過度な依存は弊害となり得る。親父からの教えだ。
「だから二手に分かれようって訳なの?」
「俺の為だと思ってくれ。」
依存しつつも依存から離す。これが俺の思いついた作戦だ。
「嘘ではないようね…わかったわ。でも理解はしても納得はしてないわよ。」
マップの霊夢が赤く染まり、敵になったと認識した。
「ならやはりこれだろう?」
霊夢は札と針を指と指の間に挟み、俺は銃を構えた。
「「いざ勝負!!」」
俺と霊夢は弾幕ごっこを始めた。
俺はすぐにメインコマンドを開き、時間を停止させ霊夢の攻略法を考える。
霊夢攻略法は札や針を使う為、コマンドを使用し、全て収納してしまえば問題ない…それは守矢神社の異変までの話だ。
俺は霊夢に一度だけ収納システムを見せたことがあり、俺の能力の一部である収納システムを霊夢は警戒している。現にこれまでの霊夢とは違い、札や針の投げる量がかなり少なくなっている。
霊夢はいくつか俺を倒す方法を思いついている。
収納システムを使わせない、あるいは使ったとしても無駄にさせる。
これがシンプルかつベストな手段だ。だかこれをするにはかなり難しく、力任せに俺を攻略しようとする奴は無理だが搦め手の得意な霊夢のことだ。これをやってくる可能性が高い。
俺の自滅を狙ってくる。
十分にあり得ることだ。合気道などでは相手の力を利用して敵から身を守る…言ってみれば霊夢は俺の力を使って自分の力に変える。
敢えて接近戦で挑む。
これもあり得る。紫曰く霊夢の戦闘センスは抜群らしく歴代の博麗の巫女の中でも最高クラス、とのことだ。戦闘センスが優れているということは真似をするのも上手い為、俺の武術も真似してその長所や短所も見分けることも容易い。それだけならいいがそれを昇華して…いや戦闘中に進化する可能性もある。そうなったら流石の俺でも勝つのは厳しくなる。しかしこれはごり押しに近く俺がさらに化けたら搦め手を得意とする霊夢が勝つ可能性はほとんどないだろう。
だが全て混合すれば俺の攻略は出来る。俺の弱点はシステムに依存していることだ。システムがなければ戦えないという訳ではないがだいぶ弱体化する。システムに異常さえ起これば霊夢の勝機はさらに増え、俺に勝てる。
だがシステムに異常が起きたのは異変以外の時だ。少なくとも異変の時に異常は起きていない。異変以外のシステムはポンコツになってしまうが異変の時は作動する。
システムに異常が起こる理由として考えられるのは異変以外のイベントは異変イベントよりも難易度が高く設定されているからシステムに異常を起こさないと難易度が高くならないという事態がある。実際にフウの時もシステムに異常が起きなければリンチに出来たと断言できる。
つまり異変イベントの最中である以上、霊夢に勝ち目はない。
「変幻自在の自動銃-オートキルガン」
オートキルガン。こいつは壁や床に設置すると自動で標的を高速射撃してくれるという非常にありがたい武器だ。しかも魅魔がいらない子になってしまうくらい正確に狙撃するため重宝している。捨てないが。
「夢想天生」
霊夢の夢想天生は俺の無双転生と同じ系統の技。つまり無敵属性だ。オートキルガンで狙撃しても攻撃は効かない。そうなると接近戦しか勝利はない。…此れ迄の俺であればな。
コードで無双転生(時間制限なし)をし、すぐに対物ライフルに持ち変える。
「一撃必殺-対物ライフル」
あれから依頼を数こなしてコードのパワーアップをしてきた。そしていつの間にかチートと呼ぶには生易しいくらいのシステムに変わった。
「ぎゃふっ!?」
そう、今のように無双転生の状態で銃を撃てば相手が無敵属性の状態でも狙撃が可能になったり、マップで弾幕を表記出来るようになったりと多彩なシステムへと変わった。
今の俺を相手にするならそれ以上のチートでなければ出来ない。ここまで食らいついた霊夢が異常なだけ。具体的にはソーシャルゲームで非課金者が課金勢が上位を占める総合ランキングで3位を獲得するくらい異常なことだ。
「これで納得したか?」
「いつっっ…仕方ないわね。ここまでされちゃ流石に従うしかないわよ。」
「従うしかないと言っても俺の記憶に刺激を与えるものを探してくれればいい。」
「それじゃあ勇姿さん。またね…」
霊夢は寂しげに別れを告げる。その様子は幼い頃のトキと酷似しており、まるで幼い頃のトキが霊夢に乗り移ったかのように見え、俺は霊夢の依存をどうにかして治そうと考えながら守矢神社へと向かった。
ちなみにトキこと堂島時光の名前の由来ですが北斗の拳のトキが由来ではなく、執権時代の北条家が名前を受け継ぐ際に使われた時の一文字が由来です。そこから一気にトキ、時光、堂島時光と繋がってきました。
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44話
黒い帽子に長い青髪が特徴の少女は勇姿と霊夢の弾幕ごっこの様子を覗いていた。
「へえ…面白いことやっているじゃない。」
彼女の名前は比那名居天子。地を操る程度の能力を持つ天人であり、博麗神社に地震を起こさせた張本人である。
何故彼女が地震を起こしたのかと言うならば、退屈だったから。この一言に尽きる。
彼女は超がつくほどの不良であり、暇であれば他の者の迷惑など知ったことではないと言わんばかりにやりたい放題。しかも親がかなりの親バカであったため誰も叱ることが出来ず我儘に育ってしまった。
我儘に育ってしまった彼女や彼女の家を良く思わない天人達は彼女や比那名居一族のことを不良天人と陰口を叩き、彼女は捻くれてしまい本当に不良のような行動を取るようになってしまった。
「そんなに面白いならば俺とやってみるか?」
後ろから聞こえた声に対し、天子は舌打ちした。
「(どこの誰だか知らないけど私の後ろに立ってんじゃないわよ!)」
彼女の心境は概ねそんなものであり、腰にある剣を抜き、話しかけてきた人物に斬りかかる。
「なんだその屁っ放り腰は?そんな屁っ放り腰で俺を倒すところがかゆみを与えることすらも出来ないぞ。」
しかしこの人物は指一本でそれを止めてしまった。
「あんた…死にたいようね。」
天子は剣を構え、その大男を睨む。その目は完全に座っており、殺人犯のような目つきだ。
「止めておけ。その剣を捨てることになるぞ。」
「それはないわよ。この剣は緋想の剣。気質を集めたり、確実に相手の弱点をついたりできる剣よ。そんな剣をわざわざ捨てると思う?」
「面白くもなんともない剣だな。だから捨てることになる。」
「この剣の恐ろしさを今わからせてやるわ!」
天子は先ほどの振りよりも速く、しかも滑らかに振りその男を斬りかかった。天子は不良ではあるが座学が嫌いなだけで身体能力の高さは天人の中でも優れている。その上的確に弱点を突くことの出来る緋想の剣だ。通常であれば天子の剣の餌食となりその男は死んでいただろう。
「ふんっ!」
しかし男はまるでハエを叩くかのように緋想の剣を叩くと天子の手や腕が痺れ、剣を落とした。
「なっ…!?」
天子はそれを見て目を見開く。確かに剣の腕前は匠とは言わないがそれでも相当な自信があった。妖夢同様に軽く素早く切るという剣術の形ではあるものの、天子の場合妖夢とは違い天人である。天人は人間よりもはるかに身体能力が高い。勇姿の親族並(勇姿曰くその気になれば勇姿を差し置いて格闘で世界が狙える)と言えば話が早いだろう。天子はその天人の中でも身体能力が高い方なのだ。剣を握る力、即ち握力も相当なものであり、軽く素早く切るスタイルであっても力で押し切るのと同じようなものだ。
「だから言っただろう。その剣を捨てることになると。」
男はそう言って剣を持つと剣がボロボロの錆び付いた剣へと変わった。
「馬鹿ね。緋想の剣は天人にしか扱えない剣。つまりあんたのような亡霊に扱えるわけがないのよ。」
「柄を持つと使えないゴミクズになるが柄を離して刃を持つと元に戻る、となれば話は簡単だ。」
男は剣の刃の部分を持ち、驚愕の行動を起こした。
「返してやる!ただし受け取れたらの話だがな。」
男は刃先を天子に向けたまま投げた。確かにこれならば元の状態のままで天子を傷つけることが出来る。
「うぐっ!?」
案の定、天子は腹に剣が突き刺さり、腹をくの字に曲げた。
「この程度では傷をつけることも出来ないあたり、腐っても天人だな。」
先ほども記述した通り天人は身体がかなり丈夫に出来ている。故にナイフなどでは傷を負わない。天子もその例に当てはまり、剣が突き刺さったかのように見えたがそれは男が投げた緋想の剣が天子の身体を曲がらせるほどのスピードを持っており、突き刺さったように見えたのだ。
実際に天子は血を流していない。
「っ…!よくもやってくれたわね!」
天子は怒りに任せ緋想の剣を握る。
だが、カラン…という音が天子の耳に響き、天子は気がついた。己の手がまだ痺れて続けていることに。
「どうした?いらないのか?あんなに価値があると言っておきながら床に捨てるのか?まあもっとも塵が塵を持ったところで何の意味もないとは思うがな。」
「殺す…!!!」
天子の殺意はこれまでにないほど高まった。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
天子は痺れていない方の手で拳を作り、殴りかかる。
「この時点で実力差を理解して貰いたいものだ。」
「がっ…!?」
しかし男の拳が天子の腹に突き刺さると天子の口から血が飛び出した。内臓が破裂したのだ。天子は天人であり身体も鋼のように出来ており外からの衝撃で内臓が破裂するということは滅多にない。だがこの男は拳一つで鋼の内臓を破裂させたのだ。どれだけの力が込められているかご理解出来るだろうか?少なくとも日本刀を力づくで壊すだけの力を込めているのだ。
「まだまだ行くぞ。」
そして天子の顔に蹴りが入る…かと思われた。天子はどこにもおらず、代わりにいたのは壮年の男だった。
「…次郎。何の真似だ。」
男はそういって次郎と呼ばれた壮年の男を睨む。
「何の真似もくそもやり過ぎですよ。
天子と戦っていた男の正体は勇姿が探している男、
「時間が経つにつれ、穏やかな性格にでもなるのか?お前は?」
「そんなことはないですよ。」
「我が父に聞いた話によると平安時代の聖白蓮封印の時、一番過激だったのは次郎だと聞くが?」
「あの時はああでもしなければ士気が下がって、逆に貴方のご先祖様以外全滅という事態にもなりかねませんでしたから。」
「…それで何の用だ?」
「
「無論だ。」
「それは良かった。それでは準備した甲斐がありました。」
「準備だと?」
「
「生身の身体か。」
「ええ。もし生身の身体が手に入れば食べること、寝ること、そして女の身体も味わえるだけでなく、ありとあらゆることができるようになるんですよ?亡霊となった兄貴ならわかるでしょう?生身の身体がどれほどいいものなのか。」
「そのためにあいつの身体を乗っ取るというのか?くだらん…」
「勇姿が貴方の弟の生まれ変わりだとしても戦いたくないんですか?」
「…なに?」
「勇姿は貴方の弟が生まれ変わった姿です。ここで戦わなければ逃げたということと一緒ですよ。もう二度も負けているのにこれ以上負けたらなんて言われるか想像出来るでしょう?」
「次郎、そこまでいうなら良いだろう…あの男と戦ってやる。だが俺はあの男が本当に俺の弟なのかを確かめるだけのこと。それ以外に興味はない。」
「流石兄貴。それでは勇姿が来る守矢神社へ行きましょう。」
「任せた。」
次郎と
〜守矢神社〜
守矢神社の階段の麓に着いた
「相変わらず便利な能力よな。次郎。」
次郎は何故、守矢神社に直接移動せず階段の麓に移動したのか。
「それほどでも。ですが兄貴達のようなイレギュラーだと俺に負担がめちゃくちゃくるんですよね。」
「ここの幻想郷風に例えるならば、ありとあらゆるものを移動させる程度の能力といったところか?」
「本当は、全てのものを移動させる程度の能力としたいんですが兄貴達のようなイレギュラーがあってはそんな感じでしょうね。兄貴達のようなイレギュラーには触れないと効果がありませんし。」
「それでも強力な能力であることには変わりあるまい。少なくとも幻想郷の住民共が全員次郎を襲ったとしても返り討ちにすることくらいは容易かろう。」
「それはそうですが兄貴には勝てませんよ。」
「生前ならば弱点も少なかったが今は亡霊の身。亡霊を倒す術などいくらでもある。」
「兄貴を成仏させられる人間が何人いることやら…では俺はこのへんで失礼しますよ。勇姿とはまだ会う時ではありませんので。」
次郎が消え、
「次郎、少なくともこの幻想郷に一人いるぞ。」
そして階段を上った先にあったのは金髪の幼女が大男に対物ライフルを頭に突きつけられ、尋問をされている様子だった。
「でも本当に知らないんだって。私は確かに坤を操る程度の能力を持っているけど博麗神社に地震を起こすなんてことはしないし、それにそんなことをするくらいなら畑でも作って秋姉妹と連携した方が良いに決まっているよ。」
「嘘をつくな。」
それを聞いた大男は幼女の言っていることを信じず対物ライフルの引き金を引こうとした。
しかし
「その娘の言っていることは本当だ。大和勇姿。」
「お前は…
「地震を起こした犯人を知っているからとしか言いようがないからだ。」
「わざわざ俺にそいつの場所を教えに来たのか?」
「それでなくて何だというのだ?奴は天界にいる。」
「天界…?地震とは縁がないような奴が引き起こしたのか?」
「そうだ。お喋りはここまでだ。天界まで行きたければ俺と戦って勝て。」
そして
「そのようだな。」
そして勇姿も同じく早脱ぎをして上半身裸となった。
「この二人なんで上半身裸になっているの?」
「男の意地って奴かね?」
「私は女だからわからないよ…」
「安心しな諏訪子。私もだ。」
そんな二柱の戯言はさておき、勇姿と
「その前に一つ聞いていいか?」
「言ってみろ。」
「幻想入りした俺に能力を付け足したのはお前か?」
「違うな。だがその人物に心当たりはある。いずれ会うことになるだろう。」
「いずれか。なら今聞くことでもなかったな…行くぞ
そして勇姿は異変を解決する為に、
「大和空掌砲!」
勇姿が放つ圧力による大砲は目に見えない。それもそのはず空掌は空気を素手で素早く押し込み圧力をかける技だ。早い話が空気による衝撃波を利用したものである。
「甘い!」
しかし
「変幻自在の自動銃-オートキルガン」
勇姿は霊夢との戦いに使った自動銃を取り出し、それを鳥居に向かって投げる。
すると自動銃が鳥居にくっつき
「ふむ。これほど未来だとそのような武器もあるのか。だがその弱点見切った!!大和空掌砲!!!」
「流石だな。
勇姿の内心はそうではなかった。勇姿の内心は「
守矢神社の鳥居は丈夫かつ硬く出来ている。かつて勇姿が守矢神社の異変の際に何度も鳥居に弾幕がぶつかったがそれでも無傷だった。しかしそれを一発で壊すということは一体どれだけの力を込めているのだろうか?故に勇姿が驚愕し、想像してしまうのは無理なかった。
だが勇姿の言葉は嘘でもない。勇姿はそれまで無双、いわゆる敵なしの状態だった。確かに制限をつければ勇姿も危うくなるだろう。暇な時に天魔や萃香などの強者相手に制限付きで戦ったこともある。しかしセーブとロードを繰り返し使って何度も戦っていくうちに、相手の動きが本能でわかるようになり、もはや勇姿は天魔や萃香すらも敵ですらなくなってしまった。
しかし能力をフルに使って本当の本気で戦ってみたい。そう思うようになり、勇姿は寂しくも思っていた。このような強者が相手となり、歓喜もしていたのだ。
だが勇姿は銃を棄てた。このような相手に銃が通じるとは思えないからだ。ましてや遠距離攻撃で守矢神社の鳥居をぶっ壊すような相手に遠距離で挑むとは無謀というものだ。
「戦闘狂め。」
勇姿と戦えないことから暇つぶしに洗脳して妖忌を弟子にし、幻想郷最強クラスと話題となっていた勇姿とも対決させ強くさせた。その後
妖忌の洗脳を解いた後、
そして今度は天界の天人達を一網打尽にしたところで、次郎に誘われ勇姿と戦うことを決めたのだ。
結論で言えば
「それはお互い様だっ!」
勇姿は
「…っ!互いに戦闘狂、結構だ!」
今度は
「ヌァァァッ!!」
勇姿は一瞬、目眩を起こし前が見えなくなるが気合で持ちこたえ、
「オォォォーッ!!」
そして二人の拳と拳が顔に直撃する。
「くっ…」
「流石だ…」
互いに膝を付き、その場に倒れ仰向けになった。
「楽しかったぞ。大和勇姿。」
「いきなりなんだ?」
勇姿が
「天に昇る時が来た、それだけのことだ。」
「成仏するのか…だが約束通り教えろよ。異変を引き起こしたのは誰だ?」
勇姿が問い詰めると
「俺の素性は聞かないのか。まあいい。異変を起こしたのは比那名居天子。天界に住む天人だ。」
「天界だと?」
「天界はこの地上よりもはるか上にある場所だ。」
「霊夢の勘もあながち間違いじゃないってことか。」
勇姿が頭を掻くと
「勇姿、一つ言っておく。金銭に関わること以外であれば博麗の巫女の勘は十中八九当たる。もし博麗の巫女と結婚するのであれば浮気はせんことだな。」
「霊夢と俺が結婚か。夢のようだな。」
「…やはりお前は弟の生まれ変わりではないか。我が弟であれば浮気しても幸せにしてみせるくらいのことを言うのだがな。」
「ならその弟と会ってこいよ。そして俺のことを話してくれよ?」
「残念ながらそれは出来ん…弟の場所とは別の場所に行くことになるからな。」
そして
「あれじゃ鳥居を壊したことに関して請求できないじゃないか。大馬鹿者め。」
「全くだよ。でも勇姿に請求するのも筋違いだし、勇姿にそのお金があるとは思えないよ。いっそのこと早苗の婿になってもらう?」
「やめておけ。こんな空気でそんなことを言えばぶっ飛ばされる。触らぬ神に祟りなし。邪魔者はおとなしく去ろう…」
「祟り神は私なんだけどね。」
「諏訪子、あいつの渾名知らないのか?博麗の魔神だ。だからあながち間違いでもないのさ。」
「それもそうだね。でも魔力も霊力も妖力も持っていないから案外すぐに神様になっちゃうかもね。」
そんな漫才をしながら、二柱が去って行くと勇姿は立ち上がり、天界へ向かった。
あと2回…あと2回で緋想天編が終わる。そんなことを考えていたらこんな内容になってしまいました。
では感想・お気に入り登録お待ちしております。
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45話
あれほど探していた
俺を幻想郷まで連れてきたあげく、能力までつけた奴はいい-というかだいぶマシな-奴なんだろうが、何故俺をここに連れてきたのかがわからない。俺を直接幻想入りさせた紫は基本的に人間を食料として幻想入りさせている。もちろん例外もあるがそれは能力持ちの人間だ。それもごく少数しかいない。その理由は幻想入りする際に大半が妖怪の住処とも言える場所に着いてしまうからだ。
だから能力持ちでない人間は確実に妖怪の食料にされていると言っていいくらい妖怪に殺られ、能力持ちであっても覚醒していなければ妖怪達に殺られる。例外と言えばよほど運の良い人間かよほどの実力者かのどちらかだ。もちろん幻想入りした先が博麗神社に着いた俺も例外のうちの一人だ。
それはともかく俺は戦闘機で天界に来ていた。その理由は自分の力で空を飛ぶよりも戦闘機の方が速いからだ。普段通りの異変であればのんびりとしても問題はない。
しかし今回はそうじゃない。
そんな訳で
そしてその場所に近づくと屋敷が見え、首謀者はそこにいると確信した。
「あいつの仲間がやってきたぞ!」
天界にいる住民だから天人と呼ぶべきだろうか、そいつらは俺に向かって数百の弾幕を放ってきた。
…どうやら歓迎されていないようだな。それにしても
「じゃかましいっ!そこを退かないならばお前ら全員叩き潰す!」
ドスの効いた声でそう告げると俺は目の前に戦車を久々に召喚し、盾にして弾幕の雨から逃れた。
「さらばだ!」
俺は盾にした戦車を持ち上げ、ハンマー投げの応用で投げる。すると戦車が次々と建築物を破壊し向こう側がパニックになる。…頃合いだな。
DOGAN!!
天子がいるところで戦車をコードを使って爆発させ、奴に挨拶する。物騒かもしれないが向こうが先に喧嘩売ってきた以上お互い様という奴だ。
ちなみに戦車を投げられたのは俺にも謎だ。少なくとも幻想入りする前の俺はそこまでの力はなかった。精々あったとしても車を持ち上げるくらいが限界だった。だが依頼をこなしていくにつれ無自覚のうちに力が増していった。ゲームでいうなら隠しパラメータに相当するかもしれない。
『首謀者 比那名居天子を倒しました。』
…おいおい終わりか?あれだけ引っ張っておいてもう終わりか!?戦車の爆発くらいで伸びるなよ…普通あの展開なら絶体絶命の危機のところで奇跡が起こるものだろうが!まるで俺が悪役みたいな感じだ…
『妨害者 博麗霊夢、妨害者 守矢諏訪子、妨害者 永江衣玖、extra 一、妨害者 その他大勢を倒した為ボーナスが与えられます』
extraが一なのはわかるが妨害者 その他大勢って何だよ?今なら高校の時隣にいた究極のバカの気持ちがよくわかる。
究極のバカは「因数分解ってなんだよ?勝手に分解するなよ。自然のままにしておけよ。」という風に常に疑問に持っていた。
要するに理解不可能ということだ。
『その他大勢をリストに載せますか?』
そんな親切はいらん!とっとと今回のボーナスの説明をしろ!
『今回のボーナスは従来のシステムやコードのパワーアップ及び新規システムやコードの追加となります。』
何だ…いつも通りか。とりあえず変わったところだけ見てみるか。
最初はコマンドだな。一番に確認しないとわからなくなる。
『マップ検索機能(up↑)』
検索機能がパワーアップしたことによって無機物が検索できるだけでなく無機物に限ってその成分の名前を検索すれば同じ成分を含んでいる無機物を検索出来る…例えばコンクリートなら粘土や石灰を含んでいるから粘土と検索すればコンクリートを含めた粘土の場所を検索することが出来るってわけだな。
『袋・倉庫の収納機能(up↑)』
袋や倉庫に入れられる種類と個数が無限になっただけでなく、半径500m以内のものであれば収納出来るようになった。
『各場所へのワープ(new!)』
…これが一番使えるんじゃないのか!?もっと詳しく説明しろ!
『このコマンドは幻想入りしてから貴方自身が行ったことのある場所へ瞬間移動するコマンドです。貴方自身が行きたい場所を選択すればすぐにでも瞬間移動が可能となります。ただしまだまだ制限がございますので注意してください』
便利すぎる…だが『幻想入りしてから』という条件である以上幻想郷から抜け出せないか。何にせよかなり重要なコマンドだということはわかった。
次はコードか…これも重要なんだよな。異変イベントよりも依頼イベントではコマンドよりも重要になる。
『無想転生(up↑)』
無想転生の使用時間増幅がメインか。このコードは依頼イベントで手にしたコードだから異変イベントとは無縁なはず…現時点で無想転生習得していなかったらどうなっていたんだ?
『天候操作(up↑)』
天候操作は決まった天気を周回して変えたが今回になってそれは変わった。今回からは天候操作は周回せずとも任意のコードを入れればその天気に変化するというものだ。本当に天候を自在に操れるようになったわけだな。
『市民の服装変更(new!)』
…これは何というかカオスなコードだ。人間、あるいは妖怪の私服を変えるコードだな。服の流行を操るコードとも言える。…今度実証してみるか。
主に変わったものはこんなものだろうか。細かいところはほとんど無視だ。それよりも異変を起こした阿呆をとっ捕まえて白状させるか。今回の異変は何が原因だったんだ?天子の事を少し調べるか…
『比那名居天子
性別 女
種族 天人
能力 地面を操る程度の能力
状態 気絶』
地面を操る程度の能力…確かに神社で起きた地震はこいつが原因だな。つまり天子は神社を破壊しようと地震を起こし異変イベントに繋がったということか。しかし妙だな。それだったら異変イベントでなくとも依頼イベントでも良さそうなものだが…引っかかるな。袋に入れて紫に引き渡すか。
あいつは暇人なくせして仕事を少ししかしない-その少しが紫にしかできないのだが-奴だが幻想郷の国士、言ってみれば幻想郷第一主義者だ。その幻想郷の要である博麗神社をぶっ壊そうと企んだ天子に対しては容赦しねえだろうな。幻想郷を支配しようと企んでいた-実際には企んでもいないが-俺に対しては目の敵にしていた。ぶっ壊す云々は推測でしかないが天子にキツイお仕置きが待っているのは確実だ。
「あれ勇姿さん?どうしてここにいるの?」
そんなことを考えていると霊夢が話しかけて来たので一旦思考を止め、霊夢と話しをすることにした。
「どうしたもこうしたも異変の犯人を倒してきたんだよ。」
「じゃあ、異変の犯人はここにいたのね!?」
「そうだ。お前の言う通りだったぞ。今度からお前の勘を信じてみよう」
「うん…!」
…霊夢の様子が変だな?この場合何か一つ言い返しそうなものだがただ返事をするだけなんて珍しい。じっと見つめると霊夢の顔が赤くなっていることに気づき、霊夢に尋ねた。
「霊夢、熱でもあるのか?」
俺は自分の額と霊夢の額をくっつけて熱を測るために霊夢に近づこうとした。
「な、何でもないわ!それじゃ博麗神社に戻るから勇姿さんも早く来て宴会の準備手伝って!」
しかし霊夢はさらに顔を紅潮させるほど物凄い勢いで離れ、その場を去ってしまった。…本当に大丈夫なんだろうな?あいつは俺を良く言えば尊敬、悪く言えば依存をしているが恋はしていない。
だが霊夢はその尊敬が恋だと勘違いしている可能性がある。何せ俺と霊夢は3つ年下だ。つまり出会った時の数え年で換算すると俺の年齢は19なのに霊夢は16だ。早期恋愛や早期結婚が目立つ幻想郷とは言え巫女、それも幻想郷の要の博麗神社の巫女となれば青春のせの字も知りえないし恋が何たるかもわからない。…もっとも俺もわからないが尊敬と恋と同一視している霊夢よりかマシな方だ。
だからこそ俺はその尊敬、否依存をなくしてから霊夢の意見を聞きたい。そうと決まれば博麗神社に戻って霊夢の依存を取り除く方法を考えよう。
〜博麗神社〜
…霊夢の依存を取り除く方法を考えてみたが何も思いつかない。親戚共が俺を認めるキッカケとなった焼き餃子を作り終え、俺はそう決断を下す。随分決断するのが早いとか思うが何も思いつかないのは事実だ。霊夢を人里に住まわせて人里のバカップルを見せてやろうとも考えたが霊夢が神社にいないのは論外だし、それまでの首謀者やextraに相談してもほとんどが恋愛経験皆無だ。藍は恋愛経験豊富だったがろくな思いをしていないし、輝夜は弄んだたげで恋愛とはいえん。参考になったのは諏訪子くらいか…?あいつの子孫が早苗だしな。ちなみに萃香が何をトチ狂ったのか「喧嘩と酒には恋しているよ!」などほざきやがり、その後色々と他の連中も騒ぎ出したので無視した。
「それにしても勇姿、そんなことを言うなんて珍しいじゃないか」
そんな中、神奈子が俺に話しかけてきた。
「八坂の神…」
「普通に神奈子でいいさ。それよりも何でいきなり恋愛なんて言い出したんだ?」
「俺に対する霊夢の依存を治したくてな」
「あの紅白巫女があんたに依存ね…」
「そうだ」
「しかし別にそれなら良いんじゃないのかい。あの博麗の巫女に慕われるんならそれで良いじゃないか」
「慕う程度ならいい…だが霊夢は俺と結婚しようとするくらい依存している。あいつは恋をせずに生きてきた。だから尊敬と恋を一緒にしている。少しでもその恋に触れさせて尊敬と恋は別物だと教えてやりたいんだ」
「そうか…なら心理学のスペシャリストと会ってみないかい?」
「そんな奴どこにいる?」
俺は咄嗟に頭が良い二人組である紫と八意永琳を思いついた。紫は妖怪の賢者と呼ばれるほどの謀略家であるものの心理学のスペシャリストって訳ではない。八意永琳も普段は医者染みたことをしているが本業は薬師だ。心理学が特別得意という訳でもない。
「そいつは地底にいる。」
神奈子の言葉を聞いて俺は戦慄した。
地底。萃香と同じ鬼を始め凶暴な妖怪達が住むところでその個性は様々だ。だが確実に言えるのは幻想郷の妖怪よりも恐ろしく危険極まりない。その為紫は幻想郷の妖怪と地底の妖怪との交流を基本的に禁じている。
とはいえ、幻想郷のロリ閻魔には敵わないらしく誰もが避けるらしい。その事から俺の世界で使われる諺は泣く子と地頭には敵わないだが、幻想郷の場合だと泣く子と地蔵には敵わないとなる。何で閻魔ではなく地蔵なのかというとその閻魔が地蔵だったからだ。以上豆知識だ。
「その地底にね、私も用があるんだ。良かったら一緒に行かないかい?あんたがダメなら他の奴に頼むさ」
「いや行こう。どうせ博麗神社に居ても仕事の毎日だ。息抜きにはちょうど良いだろう」
それにワープ場所に地底も加えたいしな。
「地底に行くのが息抜きか。大したもんだよ。明日の昼、地底に入ったところで待っている。霊夢に見られたら色々マズイだろう?」
確かにな…神奈子は俺の好みではないがそれでも女としては魅力的だ。下手したらデートにも見えかねない。それを面白おかしく書くような天狗に見つかったらその天狗が霊夢に殺されるな。
「わかった」
「ま、先に地底に来ても良いし昼に来なかったら私は目的の場所に行くだけだから問題ない」
「そうか。じゃあまた明日…」
そう言って俺は神奈子と離れると他の奴に話しかけに向かった。
「紫、話がある」
「あら、勇姿…どうしたの?さっきの恋バナの続き?」
「今回の異変の首謀者…比那名居天子についてのケジメはどうした?」
紫が不機嫌そうに顔を歪め、俺の問いに答える。
「本来であれば万死に値するわ。何せ博麗神社を壊そうとしたんですもの…」
「俺が地震止めをしなければ奴は死んでいたか?」
「ええ。もし本当に壊していたら殺さざるを得なかった。今回は未遂行為でまだ弁解余地もあったわ」
「あいつに弁解余地なんてあったのか?」
「何でもあの薬師が言うには
また
「何故記憶が戻るまでなんだ?」
「罪は償ってこそ意味がある。記憶もないのに悪行を償うのは筋違いというものよ。それに彼女から色々と聞きたいこともあるしね」
だから紫の機嫌が悪いのか。このまま紫が天子にケジメをつけさせてもポリシーに反するし、つけさせずとも怒りは収まらないということか。
「それもそうか」
だが妙だな…天子と戦う前に
となれば陰陽術ではない可能性が高い。だが八意永琳がそんな診断ミスはしないし紫もそれに気づくだろう。天子だけでなく八意永琳、そして紫すらも記憶操作されている。
俺が操作されている可能性もあると言うのも考えたが俺の場合は幻想郷に来てからの記憶がはっきりしているし、何よりも記憶操作をされたのは幻想入りする前の俺の過去についてだ。それ以外は弄られていない。
やはり俺をここに呼び寄せた黒幕はいるか…
「それと勇姿、その薬師とそのお姫様が貴方を呼んでいたわよ」
「あいつらが…?わかった」
俺は八意永琳と輝夜の場所へと駆けていく。
「あ、来た来た」
輝夜の笑顔は霊夢の上位互換だと思えるくらいに眩しい。流石帝をも虜にした女だ…
「それで宴会の時間に何の用だ?」
それはさて置き、俺は用件を尋ねた。輝夜が美しいのはわかるがそれでしどろもどろになっても意味がない。
「貴方の血を調べたいから献血に協力してくれないかしら?」
俺の血か…そう言えば今まで献血したのは16の時に一回しただけだな。たまにはいいか。
「あー!ズルい!私だって勇姿の血を吸ったことも見たこともないんだよ!」
俺が口を開けようとしたらフランがそこにいて口出しして来た。何が悲しゅうてお前に血をやらなくちゃいけないんだ?第一吸血鬼の好む血液型はRH+のBであって俺はそれとは違う。
「あら可愛らしいお嬢さんね。お名前は?」
ここで丁寧な対応する輝夜は端から見れば間違いなく美人だと思うだろう。
「フランドール・スカーレット。勇姿の友達よ!」
「それじゃフランちゃんって呼ぶわね。フランちゃんはどうしてこのお兄さんの血が欲しいのかな?」
「吸血鬼だから!」
「フランちゃんは吸血鬼なのね。でも後でこのお兄さんの血をたっぷり分けてあげるから最初にこのお兄さんから血を貰っていい?」
輝夜がここまでするのは理由がある。俺の血を求める理由そのものはわからんが献血を一度してしまうと何ヶ月か献血は出来なくなるからだ。その為フランに交渉している。
「ダ〜メ〜っ!勇姿の初めては私が貰うの!注射器に先を取られるのは嫌!」
そもそも献血しているから初めてじゃねえよ。
「まさしく男の取り合いをする2人の女ね…」
ボソッと八意永琳が呟くが2人の口論の声に掻き消された。…それにしても過激になってきたな。時々性悪ビッチとか淫乱とかそんな言葉が聞こえる以上この場を去ろう。
「八意永琳…他の場所で話そう」
「あら三股?いえ霊夢も入れると4股ね」
「アホなことを言っていると今度から援助金減らすぞ」
永遠亭は医療機関なだけあり、膨大な金が必要だ。俺の世界では親父が国をはじめとした様々な機関に寄付していたからほとんどが無料で使えるが幻想郷では違う。幻想郷には機関に影響を与えられるほど寄付出来る人物はいない。
しかし援助金なら話は別だ。援助金は寄付とは訳が違う。寄付は善意の寄贈-流石に年収6000万以上の家庭ならば賄賂の意味になる-だが援助金は言ってみれば善意の借金だ。つまり援助金は回収可能あるいは見返りが求められるような金だ。それなら普通に出せるという訳だ。もちろん寄付金も援助金も一番出しているのは俺だ。特に援助金に関しては過剰なくらいで奴らが贅沢出来るのは俺のおかげとも言っていい。
「それは勘弁ね。…本題に入るわ」
「本題?」
「どうも最近虫歯になる患者が多いのよ。治療費を貰えるこっちとしては嬉しいんだけど、仕事が多すぎて…どうにか出来ないかしら?」
「月の頭脳も金の稼ぎ方に関しては下手くそだな」
「だいたいそんなものよ。人の評価なんて」
下手くそなのは認めるのか…
「金の稼ぎ方云々はともかく、虫歯になる原因は人里で歯磨きの文化が進んでいないからじゃないか?」
「それはそうね…」
「一度人里で歯磨きの講演会を開いて歯ブラシと歯磨き粉を支給するのはどうだ?」
「なるほど…その手があったわね。虫歯のことを教えるついでに歯周病についても話せるし、宣伝にもなるわ」
「それだけじゃない。歯ブラシや歯磨き粉も商品として売り出せば楽してぼろ儲けだ。まさか薬師であるお前が歯磨き粉を作れないというわけではあるまい」
「流石は大和財閥の四男坊ね。そこまで計算出来るとは…」
これくらいのことは当たり前だぞ。むしろこれだけのことを計算しないでどうしろと言うんだ?だがそれ以上に気になるのは…
「四男坊って誰から聞いたんだ?」
俺は八意永琳にはそのことを話していない。話したのはごく少人数だ。
「あそこの緑の巫女よ」
「早苗か…口が軽い奴だ」
「まあ私が貴方の正体を知る為に無理やり聞き出したんだけれども」
前言撤回、早苗の口が軽い訳じゃないな…自白剤とかそんなものを飲まされて話してしまったのか。薬のせいで自白させられるのは仕方ない…ただし婆さんがこの話を聞いたら「麻薬どころか自白剤に負けるなんて精神力が足りさなすぎる!」と怒って稽古するだろうな。…婆さんは麻薬吸ったことあんのかよ?そしてそれを自力で克服したのかよ?というツッコミはしない。ああいう人間だからな。
「…これからも患者を連れてきた時はよろしく頼むぞ」
「もちろんそのつもりよ」
これで一安心だな。地底に行く準備でもしておくか。
よろしければ感想の方もよろしくお願いします!!!!
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46話
今回はなんと8000文字オーバーです!どんどん増やしていって、調子に乗った結果半年に一回しか投稿できない未来が見えてしまう…それでも目標一万文字オーバーしたいものです。
比那名居天子、本来であれば彼女は博麗神社を崩壊させただけでなく博麗神社を乗っ取ろうとして紫からの制裁を受けていたであろう人物である。
しかし勇姿が地震止めを行ったことにより博麗神社は崩壊せず、神社乗っ取り計画も白紙へと戻る。そのおかげで天子は紫に警戒こそされたがお咎めなし。結局この異変で起きた変化は天子に対する紫の疑惑とそれによる天子の行動の制限だけであった。
そして宴会の日から翌日、紫はその天子をスキマの中に入れて博麗神社に来ていた。
「なんであんたなんかと一緒に行かなきゃいけないのよ…」
天子は何故態々こちらから出向かなければならないのか。その理由がわからずにぶつくさ言いながら博麗神社の土を踏んだ。
「それはこっちのセリフよ。感情だけで行動出来るなら今すぐ殺したいくらいだわ。だけど貴女を殺してもデメリットしかないから殺さないだけよ」
紫は天子に対し、現時点では殺さないがあくまでも理由さえあれば殺すように伝えておく。
「そんなこと言って殺せないだけじゃないの? オ・バ・サ・マ?」
女性、それもよりによって歳を気にしている紫の目の前でオバ様などという天子は間違いなく紫が歳を気にしていることを確実に理解していた。第三者が見たならば間違いなく自殺行為だと思っただろう。
「挑発のつもり? 悪いけど今の私は感情と理性の境界を操っているから貴女がどう挑発しても怒ることはないわ」
しかし天子の予想に反して紫が鼻で笑い、天子にそれを告げた。
「それって境界を操らなければこの程度の挑発に乗っちゃうってことでしょ? この程度の挑発に乗って私を殺されることを心配するなんて妖怪の賢者と呼ぶには余りにもヘタレね」
それでも諦めずに天子は挑発し続ける。何故彼女が挑発を続けるのかは彼女が紫をからかうのが楽しいからにしか過ぎない。天子は典型的なお嬢様であり、その我儘も父親も受け入れてきた。故に人をからかうという行為は彼女の刺激になり楽しみとなるのだ。
「何度でも言うけど今回は感情と理性の境界線を操って怒らないようにしているから挑発は無駄よ」
紫が冷静に対処し、天子から目を離すとスキマを呼び出しその中に入った。
「少し待っていなさい」
スキマが閉じると紫の姿が完全に見えなくなり、天子は「初めから博麗神社の中に入ればいいんじゃないの?」と思いながらもただ一人で待っていた。ズカズカと博麗神社の中に入らないあたり天子は幻想郷の中では律儀である。某白黒魔法使いであれば問答無用で入り込む。親しき仲にも礼儀ありというがこの幻想郷にそんな言葉は無用の長物である。ちなみに外来人である早苗もその幻想郷の常識に染まり、「常識とは投げ捨てるものです!」などと言って二柱を困らせていたのは余談である。
「しかしボロそうな風体の割には中々良い物を使っているわね…」
しかし元々不良、もといお転婆で知られる天子がおとなしく待っているはずもなく、博麗神社に近づき博麗神社の柱を鑑定していた。もちろんその評価は客観的な評価ではなくアテにもならない。
「その価値がわかりますか?」
「うわっ!?」
後ろから魔王のような風貌の持ち主が話しかけ、天子は思わずその男から引いて戦闘態勢をとってしまった。
「おっと、驚かせてしまったようだ。すまないねお嬢さん」
それを見た男は意外にも紳士的な態度で天子に近づく。天子は黙ってそれを見ていた。
「…………貴方はどちら様で?」
しばらくの間、沈黙したが天子は戦闘態勢を解いてこの男と話をすることにした。ただ退屈な時間を過ごすよりもこの男と話した方が良いと感じたからだ。
「どこにでもいる博麗神社の助手です」
お前のような奴がどこにでもいてたまるか! と天子はツッコミたかったがそんなことを言えば間違いなくミンチにされるだろう。万全の状態ならともかく、異変の時に爆発に巻き込まれ怪我を負っている状態ではこの大男には勝てないだろう。
ちなみに天子はこの男のことを異変の際に一度だけ見たことはあるが覚えていない。これは何も天子が不良だから覚えられないのではなく、人間を見下す天人であるが故の弊害だった。
「その柱は見ての通り御神木で出来ていましてね…もし博麗神社が先日の異変で壊れていてもこの柱だけは残っていたでしょう」
その男は柱を触り、ノックをするようにそれを叩く。すると木と木がただぶつかるような音ではなく樫の木同士がぶつかり合うような乾いた音が響く。
「他はどうなるの?」
天子の疑問にその男が振り向き、口を開いた。
「他? 何を仰っているんですか? 博麗神社は全てが御神木で出来ています。尤も全て柱の霊力にムラがあるようで今回の地震で壊れる可能性は充分にありましたが」
普通、犯人がそれを聞かされたら罪悪感に襲われるが地震を起こした犯人である天子はそれを聞いても、まるで罪悪感など捨ててしまったかのように動じていない。
「それなら一つくらい持って帰ってもいいのかしら?」
天子は柱を触り尋ねる。
「仮に持ち帰ったとしてもその時は貴女が被害を受けるだけですので自己責任でお願いします」
「…貴方は止めないの?」
「幻想郷では止めたところで持っていく輩が大勢いますからね。もっともそれは妖精や悪党などですので拷問をすればすぐに吐いてくれますよ」
天子は顔を自分の髪のように青く染め、冷や汗をかく。ただでさえ物騒極まりない幻想郷だがその中でも恐怖の対象である魔王のような男が拷問すると言っているのだ。しかもそれまで受けてきた全員が殺しても問題ない妖精や悪党だ。後者の中には死んだ例もあるだろうと天子は考えていた。
「なら止めておくわ…それにこんな柱を持ち帰ってもどこにも置けないしね」
「それが妥当ですよ。貴女はこれからある妖怪を救い、英雄となるのですから、そんな理由で捕まっては情けないですからね」
「え?」
何のことだかさっぱりわからず、天子は困惑する。
「それでは私にもやらねばならない事があるので失礼します」
そう言ってその男は軽くお辞儀をして階段を下り、それを見送った天子は男が見えなくなるまで唖然としていた。
「それにしてもあの男、どこかで見たような気がするんだけど…どこだったかしら?」
天子は手を顎に添え、思考するが全くわからない。だがこれだけは言える。あの大男が何故最後にそんな事を言ったのかは、恐らく天子自身が認められるチャンスがあることを教えたかったのではないのか? ということだ。
「はぁい」
天子がそんな感情を抱えている中、現れたのは先ほど消え、胡散臭い笑みを浮かべた紫だった。
「天子、貴女に質問があるわ」
だがその笑みがすぐに消え、紫と目が合う。
「勇姿を見かけなかった?」
「雄雌?」
「大和勇姿。人間かどうか怪しいけれど間違いなく言えるのは身長2m超えの大男よ」
「そいつならさっきそこの階段を降りて行ったけど」
天子のその言葉を聞き、紫は眉を顰めた。
「もう階段を降りたの? それじゃあ追いかけても間に合いそうにないわね…」
「どうしてよ? あんたの能力なら十分に間に合うはずでしょ?」
紫の能力、それは《境界を操る程度の能力》である。これだけ聞くと弱い能力と思われがちだが違う。彼女の能力はありとあらゆることに干渉しその境界を操ることができるのだ。
話は変わるが霊夢は女である。それは巫女である以上事実であるし、どんなに霊夢が男だと言っても変わらない。しかしそれが紫によって変化出来ると言ったら? …つまりそういうことだ。紫は性別の境界を弄り、霊夢を男へと変化させることが出来るのだ。無論性別だけでなく、体格等の容姿、感情や理性などの中身、そして一部とはいえ物体の性質すらも操れることが出来るのだ。
「天子、貴女に一つ言っておくわ。彼に能力は効かない。特に私のような応用の利く能力は無効化されてしまうわ」
だが勇姿にそれが効かない。勇姿に効く能力と言えば勇姿に直接干渉しない能力か、あるいは特化したものでなくては無効化されてしまう。鈴仙の能力が多少とは言え効いたのは気を狂わせることに特化した為である。
「だから階段の麓で待機していればいいじゃない! その勇姿は階段を降りたんだから麓で待っていれば会えるんじゃないの?」
「いいえ。彼は階段の途中で道から逸れて行く癖があるわ。だから麓で待機していても来るはずもないのよ」
「それだったら飛んでいく瞬間を見計らって行けば?」
「彼、異変以外で移動する時は9割の確率で徒歩。残りの1割ですらジェット機…鉄の飛竜に乗って移動するのよ?あれを見かけてもすぐに目の前から消えてしまうわ」
「結局追いかけられないことをなにかと言い訳しているだけじゃない。激ダサね」
「私が激ダサかともかく外の世界じゃこれが普通よ。不可能を何かと理由付ける天才…それが幻想郷のある国人だから」
天子はそれに対して、ただどうでもいいように鼻で笑った。
「それでその勇姿に何の用だったの?」
「貴女の処分を含めた天人達との交渉よ」
「交渉?」
「そう、幻想郷と異変を起こした勢力の今後の関わりを話し合うのが彼の仕事。でも彼がいないとなれば霊夢がやるしかない…」
「ちょっと待って、それじゃあ私は天人の代表として連れて来られたの?」
「そうよ。これは貴女が起こした異変…交渉はそのケジメみたいなものね」
「ケジメね…本当は交渉を失敗させて私を処刑しようとしていたんじゃないの?」
「そんな手段を取るくらいならもっと別のやり方で確実に仕留めるわ。例えば交渉の前に勇姿を怒らせておくとかね…」
それを聞いた天子は思わず頷きかけた。目の前にいる妖怪はそういう事をやりかねない。
「それだと逆に貴女にとばっちりを喰らわない?」
だがとばっちりを喰らうリスクに気がついた天子がそう指摘すると紫は目を泳がせ、扇子を口元を隠すように開く。
「そんな事はどうでもいいわ。とにかくこの中へ入りなさい」
誤魔化すように紫が天子に博麗神社の中に繋がっているスキマに入るように誘導する。
「ったく、わかったわよ…やればいいんでしょ?」
天子がスキマに入ると無数の目線が天子に突き刺さり、不機嫌になる。
「相変わらず悪趣味ね…」
などとほざきながら天子はスキマの出口に出ようとした。
「やっと見つけたぞ!」
だがハルバートを持った中華服を着た大男がスキマに無理やり入り込み、天子をガン無視して紫を捕らえる。
「へっ?」
天子はいきなりの出来事に頭が追いつかず、混乱する。大男が中華服を着ていることはまだわかる。大男がハルバートを持っていることもわかる。だが中華服を着ているのにもかかわらずハルバートを持っているのは訳がわからない。戦闘機や戦車に鎧や刀を取り付けるようなものだ。
「何で、貴方がここに…!?」
紫はその大男を知っているようで、怯えや恐怖などの感情が露わになっていた。
「勇姿という小僧に負けて以来、俺は貴様を探していた。勇姿のいる国とやらに行けるのはお前だけだからな…さあ言え、言わねば貴様の穴に俺の息子が炸裂するぞ」
それを聞いた天子はピンときた。勇姿は恐らくこの事を言っていたのではないのか? そう判断した天子の行動は速かった。
「し、知らないわよ! 大体彼は貴方を相手にしないって言っていたわ!」
紫が首が千切れそうなくらい横に振ると大男がハルバートを持っていない方の片手の拳を握りしめ…次の瞬間、鉄が割れる音がスキマ内に響く。
「…よもや俺に喧嘩を売る女がいるとはな。驚いたぞ青髪」
その石を呂布にぶつけた本人、それは天子だった。
「て、天子…? どうして?」
紫は困惑していた。助けてとも言っていないし、アイコンタクトもとっていない。どちらにしても紫を助ける義理は天子にはない。
「勘違いしないで。私はあんたよりもこの下衆が気にくわないだけよ」
天子は思わずそう答えてしまった。勇姿ならば「女性が苦しんでいるのに助ける動機などありますか?」と答えるだろうと思い、天子もそう答えるべきであったと後悔した。
「フハハハハ! 気に入ったぞ! この呂布に喧嘩を売るだけでなく下衆と言う程気が強い女は初めてだ」
大男、呂布が笑い歓喜する。それまで女と言えば男の言いなり、偶に逆らう者がいても下衆だの何だのとは言わない。それ故に天子の気が強いと錯覚するのは無理なかった。
「青髪、貴様の名前は何だ?」
呂布が真顔になり尋ねると天子は答えるべきか迷ったが、素直に答えることにした。
「天子、比那名居天子よ」
「そうか、ならば今回は天子の顔に免じて引っ込むとしよう。だが天子、勇姿という小僧に伝えておけ。貴様の勝ち逃げは許さんとな!」
呂布がスキマから外へ出て元の世界に戻る。そして次の瞬間、安堵の溜息が紫から吐き出された。
「助かったわ…」
「ふん…これに懲りたら少しは自分の行動を顧みることね」
「…そうね。あんなのがいつ出てくるかわからない以上は自重するわ」
そして天子達は博麗神社の中へ入った。
「遅かったわね。紫」
博麗神社に着くと霊夢がそこに座り待ち構えていた。
「相変わらず博麗の巫女の勘は衰えていないわね、霊夢」
紫がそう言って部屋の中に入り、座布団に座る。
「そんなことはないわ。何せ勇姿さん相手じゃ私の勘も通用しないわ」
「彼は仕方ないわ…あれは《霊長類ヒト科》じゃなく《霊長類ヒトか?》だから」
紫と霊夢が雑談していると天子が手を挙げ、質問をした。
「…ねえ、その勇姿って奴の事をよく知らないんだけど、どんな人なの?」
天子は勇姿という男と一度だけしか話をしていない。その為、どんな人物かまだはっきり言ってわかっていないのだ。
「ああ、あんたは勇姿さんと余り話していないのね? 私の目線から話すよりも紫から聞いた方がいいわよ。その方が客観的な意見が多いしね」
紫に目配りすると紫は扇子を取り出し、口元を隠した。
「そうかしら? 私こそ主観的な意見が多いわよ?」
「とまあ、こんな風に勇姿さんの評価はバラバラね」
霊夢がそう溜息を吐いた。
「…具体的にはどんな人なの?」
「彼は博麗の代行、あるいは博麗の魔人という二つ名を持っているわ」
「魔人? 人じゃないの?」
「異変を超スピードで解決する勇姿の姿を見た天狗の新聞記者が新聞記事にしようとしたけれど二つ名が博麗の代行ではインパクトが薄い。そこで彼の新しい二つ名…博麗の魔人という二つ名が生まれたのが原因よ」
その新聞記者は自称《幻想郷最速》の射命丸文である。彼女は「清く正しく」をモットーとしている為、嘘は書かないが真実かと言えばそうではない。勇姿に言わせれば「(射命丸の新聞は)嘘を書かないから捏造だらけのクソッタレなマスゴミよりもマシ」らしい。
ちなみに何故自称幻想郷最速なのかというと、霧雨魔理沙が射命丸文を抜いて最速の座を奪い取った…という訳ではない。勇姿が異変を解決する際に射命丸を速度でも戦闘でもボコボコにした為である。
「…それだけ?」
「それだけよ。どーせインパクト重視で書いたからいい加減なものよ。あの人に魔力はおろか妖力も霊力もありゃしないから魔人とは程遠いわよ」
霊夢の言う通り、勇姿にはそのような力は全くと言っていいほどない。それにもかかわらず、霊夢をはじめ多くの幻想郷の住民達と戦い勝利している。普通であればそのような力がなければ勝利するどころか文字通り死んでもおかしくない。紫が勇姿の事を《霊長類ヒトか?》と分類するのもその為である。
「…うーん、確かにそう言う意味では納得したけど中身の方を知りたいよのね」
天子が腕を組んで、霊夢達に尋ねると霊夢は少し考えて口を開けた。
「そうね…勇姿さんを一言でいうと努力の天才ね」
霊夢は風鈴のように安らぎを与えるような声でそう告げた。
「努力の天才?」
「そう、勇姿さんは練習、訓練、特訓、修行の毎日を送っているわ。どんなに時間がなくとも必ずと言っていいほどそれらを行っているわ。紫、あんたも幻想入りした当初の勇姿さんの事を観察していたから知っているでしょう?」
「…今でも想像するだけで嫌になるわ。私の前ではほとんど見せなかったけど一度だけ見たら丁度彼の裏拳の練習をしている時に当たって歯が折れたわ…多分わざとなんでしょうけど」
「なんでわざと?」
「当時、私は勇姿を敵視していたのよ。彼を観察している時に幻想郷を支配するとか言っていたから…結局誤解だったんだけど」
紫が昔の頃を懐かしむように頷いた。
「話を戻すわ。勇姿さんは紫の妨害にも負けず、ただただ自分を磨いて言ったわ…私はそれが羨ましかった」
「そうなの霊夢?」
その質問は天子ではなく、紫から出たものだった。
「そうよ。私には努力する才能がない…というより勇姿さんのようにかなり長い目で見れないわ。努力して苦しい思いしても大して成果は上がらない上に何もしなくても素質と勘のみでどうにかなる。恵まれた素質故の弊害って奴なんでしょうね…」
「なるほど隣の芝生は青いって奴ね。自分が持っていないことに憧れる…霊夢の場合は努力の素質がなかったって訳ね」
「そうよ。だから勇姿さんに惹かれたし、今の生活を崩したくない…なのに!」
霊夢は机を叩き、あるものを二人に見せた。
「こんなのないわよ、勇姿さん…」
「これは手紙みたいね…え〜と我が愛しき霊夢へ…」
【我が愛しき霊夢へ
俺はお前の愛を受けてから、お前に恋をしていた…だからお前を嫁にするべきなのだろう。だがお前は俺に対して依存し過ぎている節があり、このままでは俺も霊夢の事を依存することになるだろう。故に少しの間冷却期間が必要だと感じ、とある場所に移住することにした。部下であるにもかかわらず、黙ってここを出て行ってしまった馬鹿な俺を許してくれ。
大和勇姿より】
「何でよ、何で、勝手に出て行っちゃったのよ…!」
紫の声で再生された手紙を聞いた霊夢は泣いていた。
「だからこそじゃない?」
天子がそんな事を言い出し、霊夢の泣く声が止んだ。
「…まさか、私の依存を治す為って言いたいの?」
「出かける前に勇姿と会ったんだけどその時の顔つきは策を打ったような顔つきじゃなく、これから何かをするような感じだったわ。少なくとも霊夢を放置してお終いって訳じゃないと思うの」
「ちょっと!? 勇姿さんと出会ったって本当!?」
霊夢が天子の首元を掴み、額と額がくっつきそうになるくらい近づく。
「グェッ……! 本当よ、本当!だから離しなさい、霊夢」
天子の言葉に従い、霊夢は手を離す。
「全く、確かに依存しているわ。これじゃ勇姿が心配する訳ね」
「そんな話はどうでも良いわ。私の事とか、どこへ行くとかそんな情報はないの!?」
「ないわ。神社の柱云々の世間話よ。これからやらねばならないことがあるって言って立ち去ったわ」
天子がそう告げ、霊夢は項垂れる。
「とにかく霊夢、勇姿が戻って来るまで時間はあるから嫁入り修行しましょう? 少しでも勇姿の期待に応えて、笑顔を見せてくれる為にも…ね?」
流石に霊夢を哀れに思った紫がそう声をかけると、霊夢は凛とした顔つきになり決意した。
「紫の言葉に従うのはちょっと癪だけど、勇姿さんの笑顔を見る為なら仕方ないわね。やってやろうじゃないの!」
気合の入った霊夢の声が博麗神社に響くと隣の部屋で爆睡していた人外達の体が飛び上がり、横のままジャンプするという器用なことをしていた。
「そうよ、霊夢。私も手伝」
手伝うわ。そう言おうとしたが霊夢の次の言葉によって遮られた。
「あ、紫はいいわ。藍に教えて貰うから」
「酷くない!?」
当然と言えば当然である。紫がポンコツ…という訳ではない。幻想郷を管理するという立場から普通に考えて紫は多忙な立場であり、家事などの雑用をする間はない。故に式である藍の方が雑用をする場合が必然的に多い。多忙でなくとも主人が従者の雑用をするなど、従者がペットか子供などの雑用能力皆無なものでない限りあり得ないのだ。以上のことから紫の雑用能力よりも藍の雑用能力の方が期待出来る。
「私もいつか嫁入り修行することになるのかしら…」
それを見ていた天子は溜息を吐いた。
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地霊殿編
47話
それだけでなくキャラ崩壊もかなり激しいです!
そんな今回のお話しですがもし気に入っていただければブックマーク登録や感想よろしくお願いします!
【この先地底により地上の者立ち入り禁止】
俺はその看板を見てうんざりしている。その理由はこれから起こる出来事をエンドレスしているからだ。看板から先に行くと起こる出来事は異変イベントなのだが、選択肢を一歩間違えると地底に封印されてしまい所持金などが半分ほど剥奪されセーブした場所からやり直す。言わばRPGのゲームオーバーの繰り返しだ。だがゲームオーバーをしたのは10回(それでも単純計算で1/1024まで減らされた)限りで、看板を見てもうんざりはしない。何せ呂布に負けた時の回数ですらそれの約10倍だ。 …そういえば留学していた頃のテニス部の同級生に「1+1=2は俺達黄金コンビには似合わねえ。1+1=200だ! 10倍だぞ! 10倍!」などとほざきやがった馬鹿コンビがいたな。「仮に1+1=200だとしても10倍じゃなく100倍だろうが!」と突っ込んでおいた。
それはともかく何故看板を見てうんざりするのかというと、ロードを繰り返し行うと戦闘も会話もただの作業になってしまうからだ。例えるなら育成ゲームで納得のいくステータス値のモンスターを捕まえられない…そんな状況が何回も続いている。つまり俺の状況はそう言うことだ。ゲームですらうんざりする状況だというのに現実でそれをやられたら溜まったもんじゃない。
選択肢を間違えたらゲームオーバーになるのでミスったと思ったら宴会の時からやり直しをしざるを得ない。自分の本能のままに答えることが出来ないからまるで自分が自分でなくなる虚脱感が看板を見るたびに出てしまい、うんざりしてしまう。呂布との戦闘は戦えば戦うほど実感が湧くからまだマシだがこっちのは一つの選択肢次第でゲームオーバーだから実感もクソもありゃしねえ。
「…行くか」
俺は気合を入れ、地底の入り口へと入った。
『異変が発生しました。』
そして異変イベントがスタートし、少し気が滅入る…その理由はすぐにわかる。
『一部のシステムやコード及びアイテムが使用不可能になりました』
そう、異変イベント中ではなかった能力の制限が今回の異変イベントではかかり、使えなくなる。前回よりも難しくなっていることからもしかして異変イベントも解決していく度に難易度が高くなるんじゃないのか? と思ったりするが真実は次回次第だな。
ちなみに今回封じられたシステムはマップの検索機能だ。とはいえごく一部の妨害者の居場所を突き止められないだけで他は問題ない…
問題はコードの方だ。コードはメガトンパンチに体力回復、無双転生、あとは乗り物関係のコードだ。幸いなことに銃のコードに影響がなくてよかったとは思うがそれでも主に移動とかでキツイものがある。
そして封じられたアイテムは陰陽玉、つまり魅魔を召喚して妨害者を倒すことが出来なくなったって訳だ。最近の異変イベントでは使わなくなったがそれでもかなり頼りにしていたからな…
俺は真っ先に門番ともいうべき二人組に会いにいく。その二人組はキスメと黒谷ヤマメ。妨害者でもある。
キスメはシャイな少女でヤマメ曰く釣瓶落としの妖怪らしいがこの先にいる鬼と比べたら全然弱い。むしろホラー系担当の妖怪だ。大体幻想郷に住む妖怪でホラー系担当の妖怪はルーミアにしてもそうだが弱い。
ヤマメの方は土蜘蛛という妖怪で今から900年以上も前に人間に殺られたらしい。妖怪の中でも上位のパワーを誇りながら実際は《病気を操る程度の能力》を扱う卑劣極まりない妖怪だ。しかし性格の方はむしろ良心的であり、能力さえなければ誰とでも仲良くなれる大阪のおばちゃんのような存在だ。だが能力のせいで体力が削られてしまう…というか今も削られている為に速攻でカタをつけなければいけない。
何故そんな奴らと会いにいくんだ? と思うかもしれないが、この二人を倒すか倒さないかでゲームオーバーになるかならないかが決まる。ヤマメを倒す理由はさっきも言ったが体力が削られるからで、キスメを倒すのは倒さないと付きまとわれ戦闘に支障が出る。一度だけ「キスメガード!」などとほざいてキスメを掴み、この先に出てくる鬼の攻撃を凌ごうとしたが失敗に終わり、以降倒してからその鬼に挑んでいる。
「ぐえっ!?」
「ぎゃっ!?」
二人組が射程圏内に入ると俺は対物ライフルの引き金を引き、その二人組の始末をした。これにより体力が削られることはなくなり、キスメも気絶しているので付きまとわれることもない…ということはない。
「…収納」
二人を収納し、所持品の中に入れることで初めて付きまとわれることがなくなる。ヤマメを収納したのはついでだ。
「次だ」
ロードを繰り返していくうちにいつの間にか機械的になってしまったものだ。いや歳をとったせいか? どちらにしても俺は二人を収納したことによって前へと進まなければならない。どのみち、こうなる事は知っていた。そして次に出てくる妨害者も知っている。
しばらく歩くと橋が見え、俺はその妨害者のことを思い出した。その妨害者は…
「あら、おじさま…これからどちらへいくのかしら?」
そいつは女子高生くらいのエルフ耳美少女の見た目をしており、ナンパの一つや二つくらいはされそうな雰囲気を醸し出している。
「はっはっは、お嬢さん。こう見えて私はまだ20代ですよ」
俺はそいつに対して紳士的に対応し、年齢の部分を否定する。…これだけは譲れないからな。
「あら失礼しました。ところでお兄様の御名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「大和勇姿と申します。失礼ですがお嬢さんの御名前は?」
「水橋パルスィですわ。パルスィとお呼びくださいませ」
そう、お嬢様口調のこいつの名前は水橋パルスィ。橋を渡る者を見守る橋姫という妖怪だ。だからって水橋って名字はねえだろ? と思うがこれから出てくる妨害者に比べれば数倍はマシだ。
「ふむ、ではパルスィさん。私はこの先に用事があるのでそこを退いてくれませんか?」
「あら…勇姿さん、私と一緒にお食事でもやろうかと思っていましたが…残念ですわ」
来た! これだ、これ! この甘美な声だよ! パルスィは俺と食事がしたいなんて言っているが実際は違う。実際は食事の時に別の妖怪が割り込んで来て嫉妬させて、嫉妬の感情を食べるのが目的だ。修羅場を作る極悪なビッチとでも言っておこうか。パルスィについていくと如何なる行動してもゲームオーバーになるからこいつにはついていかないという結論が出ている。ちなみにゲームオーバーの10回のうち8回はこいつが原因だ。
「今は訳あってここにいますが普段私は地上にある博麗神社にいますのでそこでお待ちしていますよ。パルスィさん」
「ふふふ…ありがとうございます。ですが私はこの橋を守る橋姫故に地上へとは出られませんのでいつかこの地底で御食事を取りましょうね」
そう言ってパルスィは諦めたのかそこを退いてくれた。これだけ聞くとパルスィがぐう聖なんだがなぁ…中身を知っている俺としては複雑な気分だよ。
橋を渡り終え、振り返るとパルスィが笑顔で手を振っていた。
「そうそう、パルスィさん。プレゼントがあるので御受け取りください」
「何かしら?」
パルスィがそう言った瞬間、俺は目にも止まらない早さで黄金銃を抜き、パルスィの額に撃つ。するとパルスィの額に弾幕が当たり、パルスィは気絶した。
「…許せパルスィ、これもお前の為だ。収納」
何度やっても罪悪感に押しつぶされそうだ。こいつは文字どおり嫉妬の塊の妖怪で嫉妬は食事だ。それを一日一回どこかで補給しなくては死んでしまう。これから出会う鬼から聞いた話によるとパルスィは地底でも嫌われ者でこの手に引っかかるのは噂に疎い奴らだけで後は皆知っていてまともな食事が出来ない状態が続いているらしい。その為わざわざ地霊殿の主が書いた本見て主人公に対して自ら嫉妬して、その嫉妬を食事とすることで生き延びている…らしい。人間でいうなら70円の食パンと40円の豆腐と水だけで生きているようなもんだな。俺はせめて彼女の苦しみをなくすよう、とある場所まで連れて行くことにした。
そして俺はある場所まで移動すると、どんちゃん騒ぎが起きているのを見かけそこに駆けつける。
「おい、これは何の騒ぎだ?」
俺は目の前にいる鬼の肩を掴み、そう尋ねると興奮した表情で答えてくれた。
「何っておめえ、勇儀の姐さんと地上の神が戦っているんだよ!」
まあわかりきっていたことだがな。その地上の神ってのは神奈子のことだ。ちなみに勇儀とは星熊勇儀という鬼のことで、肉体を使った純粋なパワーならば地底最強で鬼の誰もが認めている。
「いいぞーっ! 姐さん地上の神なんかやっちまえ!」
「そこだ! 今だ行け! 姐さん!」
やっぱ戦っている場所が鬼のホームの地底であるのと、神奈子の信仰心が薄いせいもあって勇儀の方が優勢だ。神奈子が弱いと言えばそうではなく、むしろ逆に強い方だろう。だが勇儀のプラス要素の方が圧倒的に大きく働いているからそうなっているだけで本来であれば互角以上に戦える。しかし俺はそう理解しても納得はしていない。何故なら異変イベントが後ほど敵が強くなる傾向があるからだ。
「…ん? あ、あんたもしかして…萃香の姐さんに勝った大和勇姿か?」
肩を掴んだ鬼が俺の顔をじっと見つめ、そう尋ねてきたので頷いた。
「俺に負けた萃香の姐さんとやらが伊吹萃香ならばそうだな」
「ひゃぁぁぁぁぁーっはぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
その鬼が奇声を上げ、右腕を上に突き刺すことで喜びを表現すると神奈子や勇儀を含め全員が俺の方へと振り向いた。これはどういうことかというとロード前の勇儀曰く「萃香が無自覚に勇姿を美化し、それを地底の鬼達に話したらいつの間にか憧れの存在になっていたのとあんたの見かけが鬼達の理想の姿で憧れている…といったところだろうね」とのことだ。
「勇姿さん握手をしてくれませんか!?」
「頑張るんだぞ」
俺は即座に対応すると鬼達は人里の子供のように群がって俺を囲んだ。
「それじゃ俺はサインお願いします!」
「甘いな! 俺は手形だ! 勇姿さんお願いします!」
「これだから素人は…俺は足形です!」
「バッカ! 勇姿さんがせっかく来てくれたんだ! ここで髪を貰ってお守りにするんだ…!」
どんどんエスカレートしていき、俺は「握手とサインならOKだがそれ以上は受け付けん」と答えると俺はパルスィを取り出し叩き起こす。
「ぐえっ!? …な、何!?」
「起きましたか? パルスィさん」
「え?勇姿…さん?」
若干「さん」をつけるのが遅れたな…やっぱり心の中じゃ勇姿と呼んでいたんだろう。
「この状況を見てどう思うかね?」
「え…? は…?」
パルスィの頭の中が混乱してやがる…もうちょい早く起こすべきだったか。
「これから私は握手会とサイン会を行う。そこでパルスィさんは私の傍にいてほしい」
俺としてはパルスィが所持品にあっては邪魔なのでここで出して追っ払う。それが一番理想的だ。作戦としては
パルスィが傍にいる
↓
鬼が憧れの存在である俺の近くにいるパルスィに嫉妬
↓
パルスィはその嫉妬を食べる
というものだ。実に短略的な作戦だ。ここでパルスィが煽って鬼達を怒らせたら俺はそれを止める義務がある。なにせ言い出しっぺだからな。
「わかりましたわ」
流石パルスィ。嫉妬のことになれば敏感で頭の回転も速くなる。
鬼達は椅子と机を用意し、準備が終わると俺はその椅子に座りパルスィはその左で胸を当てるかのように抱きついた。
「勇姿さん…私とっても幸せですわ」
色っぽい声でパルスィがそう呟き、抱きしめる力を増す。お前は俺がいて幸せなんじゃなく鬼達の嫉妬を食べて幸せなんだろうが!
「パルスィさん、ところでお守りは欲しくありませんか?」
「お守り…?」
俺はそう言って髪の毛を一本抜いてお守りの中に入れた。
「そう、貴女ほどの聖女は幻想郷でもそうはいないでしょう。しかしそれ故に嫉妬され、様々な妨害を受けるでしょう」
「…」
多分パルスィは「嫉妬される訳ないじゃないの!バーカ!」と思っているだろうがそんなことはどうでもいい。むしろ嫉妬されるために俺はこのお守りを渡すんだからな。
「故に、貴女にこれをお渡ししましょう」
「ありがとうございます、勇姿さん」
そしてパルスィがそれを受け取り、パルスィに対する鬼達の嫉妬はマックスになる。
「勇姿さん! あんたはそいつに騙されている!」
だからわざとだって。こうでもしなきゃゲームオーバーになるからな。
「鬼とあろうものが嫉妬か? みっともねえことを言うんじゃねえ」
「だけどそいつは!」
「不満があるならかかって来い。俺が相手をしてやる! 俺は例え彼女に騙されていたとしてもただ己の道を貫くのみよ!」
確かに俺は自分の道を歩いているよ。だけどそれはルームランナーのように無理やり歩かされているだけで自分の意思ではない。俺を幻想入りさせた真犯人がそうさせているだけでしかないからな。
俺は机を蹴っ飛ばし、鬼達と敵対すると鬼達は笑みを浮かべ「やっぱり勇姿さんは勇姿さんだ…」などとほざきながら構えた。
「勇儀、神奈子。お前達もかかって来ても構わないぞ?」
俺が二人にそう尋ねると二人が首を横に振って同時に答えた。
「遠慮させてもらうさ」
「何故だ?」
「あの時の借りを返すにはこんな集団の中に混じって戦っても返せるものじゃない。戦うとしたら一対一の勝負さね」
「その通りさ。だけどあんたが5分以内にこいつらを片付けたらあたしが相手をしてやろうじゃないか」
「そうかよ…残された時間で体力回復に専念しておくことだな、勇儀」
俺はそう言って鬼達に突撃する。
「らぁっ!」
殴り!
「ぎゃぁっ!?」
蹴り!
「うらぁっ!」
そして吹っ飛ばす! 鬼達を一秒一匹のペースで倒しているがこの光景はロードによって何度も見ている。しかし最初に見た時もデジャヴを感じた。この光景は無双系ゲームに酷似しており、俺はそれを思い出していたからだ。俺が操作キャラで鬼達はモブキャラ、勇儀はボスキャラってところか?
「雑魚は引っ込んでいろ!」
その鬼の腰を掴んでぶん回して投げると鬼達を薙ぎ倒す。これにより大半の鬼達がノックアウト。残っているのは一匹だけだ。
「最後だ!」
そして最後の鬼を勇儀に目掛けて吹っ飛ばすと、勇儀は鬼を受け止めて口角を上げて笑った。
「流石だね…噂以上の強さだ」
「わりーな、思ったよりも数が少なかったから1分で終わっちまったぜ。勇儀、体力は大丈夫か?」
「問題ない…それじゃあ始めようか」
「星熊童子、萃香から聞いているぜ。肉体を使った純粋な勝負なら萃香よりも上だってな。俺はいつの日かお前と戦うことを楽しみにしていた」
「おお、そいつは嬉しいね」
「だがそれは過去の物となった…何故だかわかるか? …神奈子も聞いておけ。それは俺の能力による弊害だ」
「能力による弊害…?」
「俺の能力は使いこなせば無敵と化する能力…だが普段その力は使えない。使ったところで全く無意味だからな」
「つまり今のあんたは無敵ってことかい?」
「そういう事だ。なんなら手も足も使わずに倒してやろうか?」
俺が敢えてこのように挑発するのは勇儀の行動パターンを封じる為である事とこの先にある地霊殿のイベントフラグの回収をする為だ。
「いや、その必要もないよ」
珍しく怒らなかったな…この挑発で怒る確率は87.5%を超えていたんだが、今回は12.5%の確率のルートか。その場合、星熊勇儀が三歩必殺を繰り出す確率100%
「一歩!」
無数の弾幕が押し寄せ、俺に襲いかかるが何度もこの技を見てきた俺からしてみれば穴だらけの弾幕だ。
「二歩!」
そしてその穴を埋めるかのように弾幕が押し寄せ、俺の逃げ場をなくし俺を誘導する。
「三歩ぉっ!」
そして勇儀の三歩必殺が完成し、弾幕が俺を襲う…だが残念だったな。俺はすでにその場にはいねえよ。
「がっ!?」
俺は某龍球に出てくる殺し屋の如く舌で勇儀の頭を揺らす。これが人間であれば舌が頭を貫いて死んでいるが、勇儀は鬼というだけあり生命力がタフで脳震盪による気絶で済む。…イベントを進める度に人間から人外へと変わっていくのはどうにかならないのだろうか? 多分無理だろうな。そういうシステムだし。
「なっ!?」
「姐さんが、一撃で…!?」
「しかも宣言通り手も足も使わずに勝っちまった…」
「…ウソでしょ」
神奈子と鬼達、そしてパルスィがその結果に唖然とし、目を丸くしていた。確かに第三者からしてみれば地底最強とも呼び声高い勇儀が地上の人間に、それも舐めプで倒されたら驚愕以外の何物でもなく、唖然とするしかねえだろ。しかし実際には無限ループの中で勇儀の行動パターンや攻撃パターンを把握し、脳震盪の起こし方を熟知しているから出来ることだ。セーブ&ロードを何度も使って一番役に立ったと思う瞬間はこの時だよな…
「神奈子、例の心理学のスペシャリストのところまで案内してくれ」
「え、あぁ…わかった」
全員が唖然とする中、俺と神奈子はこの先の地霊殿にいる地底の主の場所へと移動した。
「逃げられたぁぁぁっ!!」
パルスィの叫び声がこだまするが知ったこっちゃない。俺が敢えてあのようなパフォーマンスをしたのはパルスィを引き離す為だ。ああでもしないと金ヅルを見つけた汚ねえ政治家のように離れないからな。そんなパルスィにふさわしい諺がある。「人を呪わば穴二つ」…要するに悪事をすると自分に返ってくるからそれなりに覚悟を決めておけよということだ。類似の四字熟語に因果応報、自業自得。…ちなみにかつての同級生だった究極のバカがこの諺の意味を「女が男二人に強姦される」と覚えていたので、すぐに強制させた…そんな下品な諺はねえよ!
何にせよこの異変イベントも折り返し地点だ。ここからが勝負とも言ってもいい。そして俺は地霊殿の扉を開けた。
宣伝
同作者が小説家になろうでも投稿してかつ、この作品の元ネタとなっている『大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜』をハーメルンの方でも投稿したいと思います!2月1日の6時00分から1日一話ずつ投稿しますのでよろしくお願い致します。なお投稿されたらあらすじにページのURLを載せます
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48話
ついでに言っておくとパルスィ視点です。
####
「ぐえっ!?」
「ぎゃっ!?」
あの悲鳴はヤマメと…キスメ? ヤマメが嬉しさのあまり叫ぶのは珍しくもないけどキスメが悲鳴をあげるのは滅多にないわね。普段キスメは悲鳴をあげないけれどヤマメは「降参や〜!降参〜!」って言って道を開けていたけどね。…全く、地上の妖怪でも地底に来たら少しでも足止めして勇儀に連絡するように伝えておいたでしょ?
ヤマメ達の悲鳴が聞こえてからしばらくすると、大柄な男がやって来た。その男の特徴は何よりも私は愚か、勇儀ですらも倒してしまいそうなくらい絶大なオーラを醸し出している。
「あら、おじさま…これからどちらへいくのかしら?」
そしてもう一つ、そいつの特徴を挙げるとしたら、矛盾そのもの。存在自体が私達妖怪を不快にさせる霊力が全くと言っていいほど感じないのに人間の匂いが染み付いている。私は鼻が効く方じゃない。むしろ嫉妬を操る妖怪故に霊力や妖力を感知して人間や妖怪の居場所を探すのが得意なはず…
「はっはっは、お嬢さん。こう見えて私はまだ20代ですよ」
その見かけで20代…!? 危うくボロが出そうになったわ…危ない危ない。初対面の相手にはこう接することで私が高貴な存在だというアピールをしないと嫉妬を食べることが出来なくなるわ。
「あら失礼しました。ところでお兄様の御名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「大和勇姿と申します。失礼ですがお嬢さんの御名前は?」
なるほど勇姿ね…
「水橋パルスィですわ。パルスィとお呼びくださいませ」
私はスカートを摘み、頭を下げる。…それにしても解せないわ。ここまでやったなら少しくらいは感心したり、劣等感を感じるはずなんだけど勇姿からは全く感じない。もしかして勇姿はこう言ったことに慣れているのかしら?
「ふむ、ではパルスィさん。私はこの先に用事があるのでそこを退いてくれませんか?」
「あら…勇姿さん、私と一緒にお食事でもやろうかと思っていましたが…残念ですわ」
なら少し勝負にでよう。私は嫉妬を操る為に美貌を磨き続けた。だからそれなりに自信はある。確かに胸はヤマメや勇儀にはかなわないけれどその分メイクで顔を、仕草で優雅さを補ったわ。ヤマメはフレンドリーさがウリだけどその分下品で男から女として見られない、勇儀は化粧のけも知らないような戦闘バカ。食事デートに誘おうというアピールで目の前にいる勇姿の気を向かせる。
「今は訳あってここにいますが普段私は地上にある博麗神社にいますのでそこでお待ちしていますよ。パルスィさん」
「ふふふ…ありがとうございます。ですが私はこの橋を守る橋姫故に地上へとは出られませんのでいつかこの地底で御食事を取りましょうね」
今じゃないとダメなのよ! と声に出すわけにもいかない。もしそんな声を出そうものなら一気にイメージが崩れる。イメージが崩れたら私のことを嫉妬する者がいなくなる…それならばこの後こっそりとついていき、彼が私のことを高く評価し、他の女達が嫉妬をするのを見た方がいい。
「そうそう、パルスィさん。プレゼントがあるので御受け取りください」
えっ、いきなり何よ!? びっくりするじゃない。でもそれを受け取っておいた方がいいわね。ガールズトークの時にプレゼントを貰ったって言っておけば多少でも嫉妬心が湧き、私の糧となる。
「何かしら?」
その瞬間、私は一瞬だけ外の世界にある鉄砲らしき物から弾幕が出てくるのを見て直撃し気絶した。
「ぐえっ!? …な、何!?」
だけどそれはほんの一瞬だった。かなりの衝撃が私を襲い私の目を覚ます。そして目の前にいる大男が私を見つめていた。
「起きましたか? パルスィさん」
「え?勇姿…さん?」
い、今のは本当にヤバかった!同様しすぎて目を丸くしすぎた!私のイメージが崩れかけたわ!
「この状況を見てどう思うかね?」
どう思う…って何よこれ! なんで鬼達がここ…いやそれ以前にここは旧都なの!? もしかして一瞬だけ気絶したかと思っていたらかなりの時間が経っていたってことなの?
「え…? は…?」
まるでわけがわからない。
「これから私は握手会とサイン会を行う。そこでパルスィさんは私の傍にいてほしい」
握手会とサイン会って…もしかしてこの男、鬼達のスーパーアイドル? でも大和勇姿なんて名前は地底じゃ聞いたこともないわ。一体どういうことなの…?
「わかりましたわ」
私は勇姿の言葉に頷き、彼の正体を見極めることに専念することにした。もはや謎すぎて嫉妬よりも彼の正体の方が気になる。
鬼達は椅子と机を用意し、準備が終わると私は椅子に座っている勇姿さんに抱きついた。
「勇姿さん…私とっても幸せですわ」
私が抱きついているこの男は謎すぎる。地底にいる妖怪ならばその過去は探るものじゃないと言われているが私は嫉妬を食べる為にそれを容赦なく探り、嫉妬の元凶となるものを探す。だけどそんなものは抜きに彼の正体が知りたいが故にこのような大胆な行動も取れる。
「パルスィさん、ところでお守りは欲しくありませんか?」
「お守り…?」
勇姿が髪の毛を一本抜いてお守りの中に入れた。
「そう、貴女ほどの聖女は幻想郷でもそうはいないでしょう。しかしそれ故に嫉妬され、様々な妨害を受けるでしょう」
「…」
私としては嫉妬された方が物凄くありがたいんだけど。
「故に、貴女にこれをお渡ししましょう」
「ありがとうございます、勇姿さん」
うっ!? 一気に嫉妬の感情が私に注がれている…!?これって一体…?
「勇姿さん! あんたはそいつに騙されている!」
「鬼とあろうものが嫉妬か? みっともねえことを言うんじゃねえ」
そうか、勇姿は鬼達の憧れの存在。一人だけ優遇されたらそりゃ嫉妬するわね。勇姿の正体を探る為だけに行動してたら嫉妬された…普通の妖怪であれば災難でしかないけれど私からすればご褒美以外の何物でもない。
「だけどそいつは!」
「不満があるならかかって来い。俺が相手をしてやる! 俺は例え彼女に騙されていたとしてもただ己の道を貫くのみよ!」
勇姿が机を蹴っ飛ばすと鬼達は笑みを浮かべた。
「やっぱり勇姿さんは勇姿さんだ…」
鬼達は戦闘バカに惹かれた戦闘バカだったってことね。
「勇儀、神奈子。お前達もかかって来ても構わないぞ?」
「遠慮させてもらうさ」
勇儀のその言葉に私は声を出したかった。だけど嫉妬の感情が入り込みすぎてこのまま口を開けるとせっかく取り込んだ嫉妬が私の口から漏れてしまう。なんとか処理しないと…!
「何故だ?」
「あの時の借りを返すにはこんな集団の中に混じって戦っても返せるものじゃない。戦うとしたら一対一の勝負さね」
あの時の借り…? あの神奈子って奴は霊力でもなければ妖力でもない別の力を感じる。そんな奴は魔法使いか神かのどちらか。だけどあの見かけからして魔法使いということはない。となれば神…? この大男はそんな奴と闘って勝ったというの?
「その通りさ。だけどあんたが5分以内にこいつらを片付けたらあたしが相手をしてやろうじゃないか」
「そうかよ…残された時間で体力回復に専念しておくことだな、勇儀」
勇姿がそう告げた瞬間、消えた。
「らぁっ!」
「ぎゃぁっ!?」
「うらぁっ!」
は、速い!? しかもそれだけじゃないわ…しっかりと急所を捉えている。まさしく化け物ね。鬼達が普通の人間相手にそれが出来るか? と言われればまず不可能。鬼達は己の身体能力に任せ、剛力で仕留める。彼らを表す用語は荒々しさと猛々しさであって急所を捉える必要はない。そんなことに拘ったら鬼が鬼らしくないと言われる
「雑魚は引っ込んでいろ!」
あ、こいつが倒されて残り一人だけね。あまりにも速いから見逃してしまったわ…
「最後だ!」
そして勇姿は最後の鬼を殴り飛ばす。その場所には笑みを浮かべた勇儀が仁王立ちしていた。
「流石だね…噂以上の強さだ」
「わりーな、思ったよりも数が少なかったから1分で終わっちまったぜ。勇儀、体力は大丈夫か?」
…一分? 僅か一分でそんなに倒したの!?
「問題ない…それじゃあ始めようか」
「星熊童子、萃香から聞いているぜ。肉体を使った純粋な勝負なら萃香よりも上だってな。俺はいつの日かお前と戦うことを楽しみにしていた」
萃香…あの鬼ね。地底の中で勇儀と唯一タメを張れる鬼の四天王の一人。これで勇姿の名前が地底に知られていた理由がよくわかったわ。勇姿の名前が知られたのはいつの時かは知らないけれど萃香が鬼達の宴会の時にその名前が挙げて、話題になって鬼達は勇姿の虜になった…そんな感じでしょうね。
「おお、そいつは嬉しいね」
やっぱり戦闘バカは戦闘バカ。全く、どうしてこうも呑気でいられるのかしら…
「だがそれは過去の物となった…何故だかわかるか? …神奈子も聞いておけ。それは俺の能力による弊害だ」
「能力による弊害…?」
そう言えば勇姿の能力って何なのかしら…私の能力は《嫉妬を操る程度の能力》で嫉妬をある程度操れる。この『程度』というのは応用が利くという意味で使う輩もいればそれしか使えないという意味で使わない者もいる。大体が前者だけども私は後者。本当に嫉妬を操ることしか出来ないのよね…嫉妬を食べる私からすればありがたいけれど、贅沢を言えばもう少し応用を効かせたい…あぁぁぁ! 妬ましくなってくる! その妬みを食べたくとも、もうお腹は一杯で食べられないから腹が立つ!
「俺の能力は使いこなせば無敵と化する能力…だが普段その力は使えない。使ったところで全く無意味だからな」
なるほど、勇姿の能力は特別な状況下において発動するタイプね。能力の発動方法は色々とある。私は3つ程のパターンにそれを分けている。
まず一つ目が常時発動型。名前の通り否応なしに能力が発動し続けるタイプね。否応なしに発動し続けるから覚姉妹の妹の方が心を読む…というよりも心の声を聞くのが嫌になって心を閉ざしちゃったって話は聞いたことがあるわ。主な例としてはその覚姉妹の姉の古明地さとりの《心を読む程度の能力》、ヤマメの《病気を操る程度の能力》。
二つ目は任意で能力を発動する任意発動型。任意で発動することもあってかこの型が能力者の中で最も多く、最も扱いやすいタイプね。私の能力である《嫉妬を操る程度の能力》もこの型に当てはまるわね。
そして最後のタイプ。特殊な状況下において発動する条件発動型。この能力はほとんどの者が使い熟すことは出来ていない。しかし一度発動すれば上記の二つのタイプの能力よりもはるかに上回る力を持っており、予め対策しておかないと対処出来ないようなものが多い。事実、覚姉妹の妹の古明地こいしは《無意識を操る程度の能力》という能力で、自分を無意識にして本能に従わせる代わりに他人の認識を自分からズラす…つまり、誰にも気づかないでいたずらをしまくるようになるわ。
勇姿が一番最後のタイプの能力であるとしてするならば、かなり強力な能力なの? そのリスクや条件は何なの? 私の疑問を他所に勇儀が口を開けた。
「つまり今のあんたは無敵ってことかい?」
「そういう事だ。なんなら手も足も使わずに倒してやろうか?」
まさか、それが条件? いや流石に相手は豪傑無双で知られている勇儀よ? そんな相手にその条件を満たすのは不可能よ! それに目的と手段が逆になっているからパフォーマンスのはず…
「いや、その必要もないよ」
あ、あれは…三歩必殺!? 冗談じゃないわよ! このままじゃ巻き込まれ…
「一歩!」
ぎゃーっ!! 勇儀!少しは周りのことも考えなさいよ!
「二歩!」
あ、危なかった。ようやく避難し終えた私はほっと一息ついて勇儀の三歩必殺の弾幕を見る。いつ見てもどこに空きがあるのかわからない。あの場にいたら比較的小柄な私でも一歩目で間違いなくピチュるわ。それをあんな大柄な男がスレスレのところで避けているのだからそれだけでも感心してしまう。
「三歩ぉっ!」
そして最後の三歩目が放たれた。弾幕の壁が勇姿を襲い、鈍い音が聞こえた。
「がっ!?」
…これは勇姿の声じゃない? 弾幕の壁の隙間から僅かに見える光景は勇儀に頭突き…いえ、違うわね。あれは…舌!? 舌で勇儀を倒した大和勇姿の姿だった。
「なっ!?」
「姐さんが、一撃で…!?」
「しかも宣言通り手も足も使わずに勝っちまった…」
あんたらあの姿がはっきりと見えていたの? 私は少なくともその直撃した光景は見えてなかったわ。こういう時本当に妬ましく思える。
「…ウソでしょ」
本当にやってしまった…手も足も使わずに地底最強の勇儀を倒してしまうなんて。これは…利用できるわ。彼に近づけば永遠に嫉妬の感情を食べ放題! まずその為には仲良くなって…って居ない!?
「そこの貴方達、勇姿さんはどちらに参られましたか?」
すぐ近くに居た鬼に尋ねると素直に答えてきた。こういう時鬼達は素直に答えてくれるから助かるわ。
「さあ…? なんかのスペシャリストの場所にいくとか言っていたな」
なんかのスペシャリストってなによ…
「そのスペシャリストとは?」
「何だっけ? ほら…あれだ、真・リー・クッキン?」
「確かもっと賢そうな感じじゃなかったか?」
この鬼達が悪いというわけでないにしてもイラッとくる。本当にファンならそういう場所くらい覚えておきなさいよ。
「そう言えばあの神もいないぞ?」
…まさか、勇姿とあの神はここで出会う予定だった? さっき言っていた用事ってのはあの神にそのスペシャリストとやらの場所を案内させる為? 理由はわからないけれどとにかく私は叫んだ。
「逃げられたぁぁぁっ!!」
その叫び声は地底中に響いた。
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49話
「ここだよ。心理学のスペシャリストがいる場所は」
神奈子がそう言って地霊殿の扉を開けようとするが…
「待った」
俺はそれを止めた。
「…いきなりなんだい?」
「俺にその扉を開けさせてくれ」
「別に良いけれど…何故?」
「俺が開けないと嫌な予感がするからだ」
「博麗の代行の勘って奴かい?」
「そんなところだ…行くぞ」
これでフラグ二つ目回収完了。そして三つ目は…
「にゃーん」
三つ目はこの猫だ。この猫の正体は火焔猫燐。通称お燐。正確には猫ではなく火車という妖怪だが見た目が尾が二つあること以外は黒猫そのものであり、この姿で初見の客には鳴き声しか出さない。その為、神奈子が開けると猫をスルーしてそのまま神奈子に案内されることになる。また俺が無言で開けた場合は二つ目のフラグが無くなってしまうので神奈子に声をかけた訳だ。
「ここから先はお前が案内してくれるようだな」
「…猫の言葉がわかるのかい?」
「わかる訳がない。だがこの猫がただの猫でないことくらいはわかる。おそらくここに住んでいる妖怪が化けた姿だ」
「よくわかったわね、流石は大和一族の末裔って訳かい」
また大和一族の名前か…その名前を聞いてうんざりしているんだよ。兎にも角にも目の前のお燐が人型に化け話しかけてきた。
「ほう、大和一族とな?」
「かつて私ら地底に住む妖怪達の大半を封じた陰陽師の一族のことだよ」
うちの家系が陰陽師ってそんな訳ねえだろ? とは言えないのが婆さんの存在だ。普段は家にいる婆さんは時折、ふらっと出かける時があるのだが出かける度に出かけた先の都市伝説が無くなったり自殺の名所が名所で無くなったりしている。初めは噂話だろ? などと思って婆さんの出掛けた先を調べてみると本当に無くなっていて俺の中で婆さんの存在そのものが都市伝説みたいなものになってしまった。
「俺が大和一族かどうかはどうでもいい…この先にいるんだろう?」
「ああ、この地霊殿の主であるあたいのご主人様がお待ちになっているところだよ」
「さっさと案内してくれ、火焔猫燐」
「! …あたいの名前を知っているなんて誰から聞いたんだい?」
「俺の能力によるものだ。そう気にするな。これからの交渉事でそれくらいのことは最早戯れでしかないからな」
「…少し待ってな。さとり様と相談してくる」
「さとりを使って俺の能力を調べようなんてことは止めておけ。閻魔が浄玻璃の鏡を使っても俺の過去は覗けず実力行使に出たくらいだ」
「あんた一体何をしたのさ?」
それを聞いた神奈子からも呆れられ、ため息を吐かれた。
「いや別に大したことはないぞ?」
俺が覚えている限りで俺がやったことといえば、早苗を誘拐した橋野組などの暴力団組織を潰したこととか、海外マフィアに喧嘩を売られたから300人ボコしたとか、留学で米国に行った時に銀行強盗に遭遇したので強盗に石を当てたらヘッドショットして死んだとかそんな程度だな。もっとも幻想入りする前の俺の記憶なんてものほどアテにならないものはないが。
「それよりも、約束通り勇姿を連れてきたから私はこの地下の方に行かせてもらうよ。そこに目的があるんからね」
「お空に会いたいなんて珍しい神様もいるもんだね…まあさとり様の命令だし、この旧地獄を害するって訳でもなさそうだからどうぞご好きなように」
その言葉と共にお燐は奥へ消え、神奈子も地下へと向かった。そして俺は無言で近くにあった頭を掴んだ。
「わっ!? な、何!?」
帽子を被った緑髪の幼女が頭を掴まれたことに驚き声を上げた。
「それはこっちのセリフだ。古明地こいし」
その幼女の頭を解放し、下ろす。こいつこそが一つ目のフラグの存在…古明地こいしだ。勇儀とのバトルで圧勝すると俺に着いて行くがそれ以外の時はどこかフラフラと出かけてしまう。圧勝する定義は特に決まっていないが確実にわかったのは時間ではないということだ。今回のextraの出現条件に『○○を使わないで倒す』というヒントから得たのが手足を使わずに倒すという方法を実践してみたところ、こいしが現れるようになった。
「俺の後をつけて何の用だ?」
「なんとなくだよ?」
「なんとなくか。お前ならあり得る話だな」
古明地こいしという少女は『無意識を操る程度の能力』と言う能力を持っている。その能力は誰にも気づかれずに行動できる能力と言って良い。ただしその間はオート操縦だからベストな行動を取るとは限らない。その為なんとなくでもまかり通ってしまう。
「でもあの勇儀さんを手も足も使わず倒しちゃうなんて凄いね!」
「なら弾幕ごっこで勝負するか?」
「弾幕ごっこ?」
「弾幕ごっこってのはだな…」
それから俺はこいしに弾幕ごっこの定義とルールを説明した。
「それじゃやろー!」
「よし、今回はお試しということで1分で終わりだ」
「それじゃ行っくよー!」
こいしの弾幕が俺を襲うがそれをサブマシンガンで打ち消す。勇儀の通常の弾幕よりも多く、いちいち処理するのが面倒だ。左手にサブマシンガンを持ち変え処理を続けると右手に対物ライフルを持って、引き金を放つ。
瞬間、轟音が響き、こいしの頭にヘッドショットが決まりこいしが気絶するとある本を落とす。その本は二つ目のフラグで立てることによってこいしが落とす本であり、後々重要になってくる。何故神奈子に声をかけて扉を開けなければフラグが立たないのかは謎だが俺の知ったことではない。俺はその本をすぐに回収し、コマンドの袋の中へ入れた。
「何ですか、今の音は…ってこいし!?」
その轟音に反応し、奥からやってきたピンク色の髪の幼女がこいしに駆けつける。
「安心しろ、気絶しているだけだ」
「さとり様ではなく、こいし様に危害を加えるとは…この地霊殿に喧嘩を売っているのかい?」
そしてもう一人、先ほどさとりのところへいったお燐が爪を立て、敵意を露わにする。そう、このピンク色の髪の幼女こそがこいしの姉であり、この地霊殿の主でもある覚妖怪の古明地さとり。こいしはパチモンというか心を読めない覚妖怪であるのに対し、さとりは普通に心を読む覚妖怪。その為戦闘の際にはトラウマを読み、相手の心を折るというえげつないやり方をする。
「地霊殿という勢力そのものに興味はない。あるとしたら古明地さとりそのものに興味がある」
「私ですか?」
「お前じゃない」
「…なにを訳のわからないことを言ってんだ!」
お燐が混乱し、俺にその爪で心臓を一突きし殺そうとする。だが俺は人差し指と親指でお燐の鼻をつまみ、コンロを回すかの如くお燐の鼻を回す。するとお燐の鼻が曲がり、その場に転がりながら鼻血をダラダラと垂らした。
「わからねえ奴だな。お前は古明地さとりじゃねえって言ってんだよ」
俺はそれを視界に入れながらもさとりに指差す。言葉が足りないと言ってはいけないそれが婆さんの教え…じゃないにしても精神的に追い詰めるには良いからだ。
「私は正真正銘、古明地さとりですよ」
「なら証明して見せろよ。本当に古明地さとりなら俺の心を読めるはずだぜ?」
「読めないんですよ、貴方とこいしに限って…」
「いくら惚けたって無駄だ。こいしがこれを持っていたからな」
俺は袋の中に入れたその本を取り出すとさとりがそれを見て目を丸くした。
「そ、それは!?」
「お前が探していた日記帳だ」
その本の正体は日記帳。それもここ一年くらい書かれた日記帳だ。この中身は目の前の幼女が見せたく無いものが書かれているから奪いに来るが俺はそれ避けた。
「か、返して下さい! それは私の日記帳です!」
「誰がお前の日記帳って言ったんだ? この日記帳はこいしの日記帳だ」
「! …失礼、見間違えました」
「この中にはとんでもない秘密が隠されている。1ページずつを読むぜ」
【☆月*日
今日は私の無意識を少しでも制御する為にお姉ちゃんと一緒に日記帳を買ったよー! 私の日記帳とお姉ちゃんの日記帳はデザインがかなり違うけどそれでもお姉ちゃんと一緒にやれるだけ幸せ♡】
「そう、つまりだ…さとりの日記帳とこいしの日記帳は違うから見間違えることなんてことはないっ!」
「いえ、後でこいしと同じものに買ったんですよ」
「果たしてその言い訳がどこまで通るかな?」
【$月@日
この日記帳をつけてから数ヶ月経ったけれどちょっとお姉ちゃんの様子が変。あのひらひらデザインの日記帳をつけるのも数日前から止めちゃったし、趣味の小説も書かなくなっちゃったみたいで不安だな〜】
ちなみにこの日記帳はいかにもDiaryという古臭そうな日記帳であり、外の世界にありがちな可愛らしいデザインの日記帳とは訳が違う。
「で? さっきの言い訳は通用しないよな? この日記帳はこいしが何ヶ月も使っている以上、後で同じものをさとりが買ったとしても使いつづけているはずなんだ。だがここに記述されているさとりの日記帳はひらひらしたデザインだ。てめえが言っていることは矛盾しているんだよ」
「ぐっ!」
「さらにもう一つ行くぜ」
【£月¢日
そして私は見てはいけないものを見てしまった。お姉ちゃんの後をこっそりついていくとそこにはお姉ちゃんがもう一人いた。もう一人の方のお姉ちゃんはやつれている上に、痣痕が強く目立ち暴力を振るわれていることがわかった。そんな観察をしているとここに来たお姉ちゃんが徐々に姿を変え、影のように黒い人型になるのを間近で見た私は逃げてしまった…もしかしたら日記帳や小説を書かなくなった時からお姉ちゃんはこの影に成り代わられてたのかも。】
「これが最後の証拠だ。お前がさとりに成り代わっていることはすでにわかっているんだよ」
「ざ、ざどり様?」
鼻血をまだ垂れ流しているせいか濁点をつけながらお燐がさとりに話しかける。
「…くくく、あははは、はーっはっはっはっ!」
さとりが大笑いし、この場にいる全員がドン引きした。
「流石は大和優一の甥なだけありますね…」
優一? …確か食中毒で死んだ親父の兄貴だよな? 外の世界では優一よりも親父の名前の方が知られているからそんな奴の名前が出るなんて珍しいこともあるもんだ、と感心していた。
「お燐、下がってろ!」
俺はそう言って無理やりお燐の首を掴み、下げさせる。その瞬間、お燐のいたところに爆風が飛ぶ。
「死ね、大和勇姿!」
お燐が殺せなかったことに苛立ったのかあるいは元からなのか、殺気丸出しで俺に弾幕を放つ。わかりやすすぎて草。
「それがどうした?」
「…っ!」
それを冷静に対処していくとさとり(偽)が苦い顔をする。ちなみにさとり(偽)の本名は異変イベント中ではわからないままなのでこう表記させて貰った。
「やはりこの身体では無理ですか…なら、搦め手を取るまでよ!」
さとり(偽)が徐々に姿を変え、ある人物の姿へと変えていく。その人物の姿は俺や雄山、或いは親戚達の天敵とも言える人物でもあった。
「婆さんに化けるとはいい度胸しているじゃねえか」
そう、俺の祖母にして師匠でもある婆さんだ。
「行くぞい、勇姿…!」
わざわざ口調まで変えたことからあの姿は不完全だということが推測される。もし不完全でなければ口調を変えずとも婆さんの動きを真似ればいいだけのことだ。そうすれば俺を少しは動揺させることも出来ただろうが…何度も対戦してりゃ怖くもねえよ。
「ふんっ!」
二発ほど腹にカウンターするように当て、腹をくの字にさせると頭を両拳で挟み、ともにジャンプする。そしてそこから右膝を顔面に当てた。
「がはっ!」
「所詮紛い物は紛い物でしかない、いくら婆さんに化けても俺からしてみれば婆さんには見えない」
【ふん…やはりドッペルゲンガー事件の真犯人にこの程度の刺客を送ったところで無駄だったか】
さとり(偽)が宙に浮き、廊下の丁度真ん中あたりまでいくとそこに穴が開き、何者かの声が響く。
「だ、誰だい!?」
お燐がそう言って声を出すと律儀にもその声は答えてくれた。
【我が名は月影。大和一族に濡れ衣を着せられ地底に封印された同族ドッペルゲンガーの無念を晴らす者也】
「濡れ衣?」
【我が同族達を貶めた罪は貴様で償ってもらうぞ。さとりが殺されたくなければ地下の灼熱地獄跡にて待つ。それにしても我が影ながらああも一方的に殺られるとは不甲斐なき奴め…時空の狭間に消え去れいっ!】
「ぐぁぁぁっ!」
月影の言葉によりさとり(偽)がバラバラになりながらその穴へと吸い込まれていった。
「…濡れ衣ってあんた何したのさ?」
「ものごころ着く前にやったことだから俺の知ったことではない。だがお燐、お前の主人を助ける為にも俺はそこに行く。お前はそこでおとなしく待っていろ」
「あたいも行くよ!」
「止めておけ。お前は俺に片手でねじ伏せられるほどの実力しかない。足手まといは不要だ! 説諭っ!」
俺はお燐の腹を殴り気絶させ、こいしとともに収納した。
それにしてもようやく
まず最初にコードの制限。これだけでもかなり嫌がらせ染みたものだ。確かにレミリアが起こした異変や幽々子が起こした異変も一部コードが使えなかったがその時は表示されなかった。それに比べれば親切なんだろうがいくらなんでも制限が大きい。もう少し制限する量を減らして貰いたいもんだ。
次はヤマメ&キスメ。この二人はただでさえ体力が回復出来ないと言うのに体力をゴリゴリと削っていく。だから会話の余地もなしに悪党と呼ばれても不意打ちをするしかない。…そういえばまだその二人を解放してなかったな。異変イベントが終わったらすぐに戻そう。
その次が初めてゲームオーバーになった初見殺しの水橋パルスィ。こいつは選択肢を一つでも間違えるとゲームオーバーになってしまいセーブした場所から所持金を減らされてやり直させられるというまさしく嫌がらせの為に生まれてきたような妨害者だ。ただ戦闘力は俺からしてみれば皆無に等しい為にやりやすいと言えばやりやすい。
その次は地底最強と評価高い星熊勇儀。これだけでも難易度高すぎと言えるがさらにその上を目指すなら手足を使わずに勝つという条件が加わる。おそらくセーブ&ロードの能力が使えなければ攻略不能となっていただろうな。もっとも何度も繰り返しやっていくうちに作業染みたものになってしまった。
そして古明地こいし。こいしはextraの出現条件を満たさないと出現しないことからextraと考えられる。しかも『こいしの日記帳』を持ってくるので如何に彼女がこの異変イベントで重要人物かわかるだろう。『こいしの日記帳』そのものは探索すれば見つかるがどこにあるかはランダムでありマップの検索機能も使えない状態で探すのは困難だ。ゲームでいう乱数調整も考えたがあまりにも手間すぎるので、それならいっその事こいしに持ってもらったほうが楽だ。この異変イベントをTAS動画にするなら真っ先に日記帳を拾うだろうがな。
火焔猫燐は俺があまりにも簡単に片付けたせいで雑魚のように感じるが弾幕戦となれば幻想入りした当初の早苗があっさり沈むんじゃねえか? と思わせるくらいには実力はある。勇儀を何回も繰り返し倒したからその分、こいつが弱く見えるだけなんだよな…
そして古明地さとりこと、さとり(偽)。こいつはまさしく戦闘面では
ようやくここまで来れたと思うと胸が高鳴る。
そして、俺は灼熱地獄跡の奥へと進むとその瞬間、またしても噴火したかのような轟音が響き、その音が大地を揺らした。
「なんだ?」
嫌な予感がする…落ち着け、大和勇姿。どんなに速くその現場に向かってもおそらくこの世界、特に異変イベントの場合は間に合わせないようになっている。だから焦る必要はないんだ。自分にそう言い聞かせ、俺はコマンドを開いて冷静になるまで落ち着かせた。
…ふぅ、こんなものか。さて、ここでクリア出来たらとっととセーブしよう。流石に何回も繰り返し同じ異変イベントに参加するのは面倒だ。
「行くか」
コマンドを閉じ、そう呟くと俺の横に赤色のナニカが通り過ぎた。
「つーっ…」
それはよくよく見るとボロボロになった神奈子だった。
「よう、神奈子。その有様だとこの先にいるドッペルゲンガーに騙されたみたいだな」
「…よくわかったわね」
苦い表情で神奈子が答え、俺の推測があっていたことにホッとする。ここから先は何が起こるか俺にも予測不能だ。
「当たり前だ。俺を誰だと思っている? 博麗の代行、大和勇姿だ」
「言うと思ったよ、そのセリフ」
「これから俺が言うセリフもわかっているんだろう?」
「まあね。という事であんたに任せるわ。私は見ての通りあいつにボロクソにやられたから体力回復に専念するわ」
「何ならここから帰っても良いんだぞ? お前が体力を回復する前に決着は着く」
「期待して待っているよ」
俺は神奈子に背を向け、これから起きることに不安を感じていた。もし、一発でこの異変イベントを終わらせたら何が起こるのだろうとか、無茶をして霊夢を怒らせたらどうしようとか、そんな事ばかりだ。だが俺は霊夢の為にも絶対に一発で終わらせる。いくらセーブ&ロードで巻き戻せるとはいえ、霊夢達にその巻き戻される実感がないとはいえ、霊夢を待たせている罪悪感というものがある。だからその罪悪感を消す為にも一発で異変イベントを終わらせる。
それに霊夢の笑顔を早く見たいというのもある。それを見るのに一発で終わらせたいのか? などと思うかもしれないが、案外その力は馬鹿には出来ない。そうやって物語に出てくる英雄達はみんな頑張ってこれた。俺は断じて英雄と呼べるような面じゃなく、むしろ魔王とか魔人とか呼ばれるほどの悪人面だが守りたい者の為に頑張るのに顔は関係ないということを証明してやる。
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50話
遂に、遂にレンガ…いや念願の1万文字オーバーだ!それどころか11000文字を超えました!
勇姿が灼熱地獄跡の奥地に行くとそこには巨大な黒翼を持った人型の妖怪が宙に浮いていた。
「お前が月影か?」
「そうだ。もっとも姿はここにいた地獄烏のものだがな」
「ほう、それがお空の外見か。こいしの日記帳に書いてあったとおりだな。それでさとりとお空はどこにいる?」
「さて、どこにいるだろうな? この八咫烏の力を身に纏った私に勝てば教えてやろう…」
その結果、月影は神奈子から『太陽の化身 八咫烏』の力を空から横取りする形で授かった。
「八咫烏だが矢田だが何だが知らねえがお前如きが俺に勝てるのか?」
だが勇姿はその脅威を知らない。八咫烏の力は現在でいう原子力であり、その力は核兵器などにも使われることか非常に強大かつ強力なものであるとうかがえる。故に月影が傲慢になるのは普通のことである。
「我が同族達の積年の恨み、今こそ晴らしてくれん!」
「よろしい、ならば決着をつけよう」
勇姿は対物ライフルを装備し、月影に向かって放つが月影は右手の多角柱の制御棒から弾幕を放ち、打ち消す。それを見た勇姿は一瞬だけ動揺する。
「それがてめえが俺を倒せるって根拠か。だが攻略出来ねえって訳じゃねえ」
「ならばどう攻略する!」
「こうするんだよ!」
勇姿は一瞬で月影の制御棒を掴み、それを腕を引き千切ることで制御棒をなくすがそれは愚策だった。
「馬鹿め」
引き千切ったはずの右腕が一瞬で生え、勇姿に制御棒の攻撃が炸裂する。
「くっ!」
勇姿がその場から一歩下がり、攻撃を受け流すがダメージが大きく完全には受け流せなかった。
「忘れたのか? この姿は仮の姿だ。故に右腕を引き千切ったとしてもそれは幻影でしかない」
「ふざけた能力だ」
勇姿がそう呟き、幻想入りして初めて敵に対して愚痴る。
「そっちこそふざけた身体だ。ドッペルゲンガーの私が取り込んだとは言え仮にも八咫烏の攻撃を受けてその程度で済むとはどういう身体の構造をしている?」
「世の中大体気合でどうにかなるんだよ。そうでなきゃ俺はとっくに死んでいる!」
勇姿が対物ライフルをしまい、submachine-gunとshotgunをそれぞれ片手に持ち、弾幕をばら撒いた。勇姿の銃の腕前は射程距離内であれば百発百中。その上に人外染みた腕力で銃の反動を抑えているお陰で反動によって連射が出来ない銃が連射も可能となる。実際対物ライフルを二つ持って連射していたことからそれは可能であると証明されている。まさしく銃を撃つ為に生まれてきたような男である。
だがその彼が敢えて命中率を捨ててまで弾幕をばら撒いたのは目の前の少女の姿をしたドッペルゲンガーの逃げ場をなくす為である。普段勇姿はこのような戦法を取らず、待ち伏せてカウンターを仕掛ける戦法を取る。勇姿曰く「それは鉄則であり美学でもある」とのことだ。
しかし皮肉にも月影もその戦法の持ち主だった。互いが互いにパワーがぶつかり合う。そうなれば弾幕のパワーが上である方が優勢であり、八咫烏の力を所持している月影の方が有利となる。それを先ほどのやりとりで感じた勇姿は咄嗟に戦法を変えたのだ。
「流石に貴様と言えども八咫烏の力には敵わぬか」
「おしゃべりな奴だ。まるで射命丸みたいな野郎だ」
ちなみに射命丸は相手を挑発する為に喋るが、無意味に語るようなことはしない。
「貴様に言っておくが私は野郎ではなく女だ」
「英語でもguyは女を指す時もある。だからそんなに気にする必要はない」
そんなことを言いながらも勇姿は弾幕をばら撒き続け、月影はそれを避ける。
「…!!」
「(よし、貰った!)」
そして月影は勇姿のミスを見逃さず僅かな隙を突き、巨大な弾幕を作り出す。
「させると思うか!」
勇姿の銃がsubmachine-gunとshotgunがそれぞれ対物ライフルに切り替わり、月影に目掛け放つ。
「無駄だぁっ!」
勇姿の弾幕はブラックホールに吸い込まれていくかの如く打ち消され、次第に月影の弾幕が5m、10m、15mと巨大になり続けていく。
「万事休すだな…大和勇姿」
そしてついには勇姿が確実に逃げられないほど巨大になり、月影は笑みを浮かべた。
「我が同族達の無念を晴らす時まで一日千秋の思いで10数年間もの間私は待ち侘びていた」
「…」
勇姿は何も言わずに無表情でそれを聞いていた。挑発は当然のこと、反論もしていない。
「辛かった。鵺などという者に頭を下げねばならない時もあればさとりに気に入られる為にドッペルゲンガーの本能である自分を偽るのことを止めなければならない時もあった。だが大和勇姿、貴様さえ死ねばその辛い思いも過去の物となる…大和勇姿、灼熱地獄跡にて死すと墓標に書いておこう」
そして月影の制御棒から弾幕が放たれ、勇姿の身を焦がす。
「ガァァァッ!」
男の断末魔の叫び声がこだまし、灼熱地獄跡に響く。
「あっはっはっはーっ!」
そしてそれに続くように月影も高笑いをした。だがこの時、あることに月影は気づかなかった。
ところで幻想郷では様々な二つ名持ちがいるがその中でも有名なのが【博麗の魔人】こと大和勇姿である。本人はその二つ名を嫌い、肩書きである【博麗の代行】と名乗っているが勇姿の二つ名を幻想郷の住民に尋ねると6割以上が【博麗の魔人】と答えが返ってくる。そして残りの4割の内【博麗の代行】と答えたのは勇姿ただ一人であった。その理由は射命丸が勇姿のことをそのように紹介したことと、博麗の巫女である博麗霊夢が同等の存在、つまり勇姿が霊夢の夫であることを周囲に認めさせるために【博麗の魔人】と呼ばれるのだ。
しかし勇姿は霊力などが全くと言っていいほど無い為に魔法や陰陽術に適性がない。故に魔人とは程遠い存在であるのだ。勇姿が魔人と呼ばれるのを嫌うのはそれが原因でもある。
だが射命丸が勇姿を新聞で紹介するときに語呂が良いからと言って【博麗の魔人】などと紹介をするだろうか? 他人に無関心な霊夢が勇姿の妻であることを周囲に認めさせたがるだろうか?
答えは否。射命丸は幻想郷トップクラスの大妖怪であり、霊夢に至っては勇姿さえいなければ幻想郷最強の座を獲得していた程の実力者達である。しかもどちらも仕事柄、人を見る目が磨かれており、そんな彼女達が過小評価も過大評価し過ぎることはない。
「ーっ!!」
「よう…」
無傷で現れた勇姿が月影の頭を殴り、月影は声にならない悲鳴をあげる。月影の頭から一つのことに疑問が浮かぶ。何故あそこから火達磨になるとわかっているにもかかわらずここにいるのか? それが今になって気付き、そして疑問に浮かぶ。彼女の頭の中はそのことで一杯になった。
「(化け物め…この八咫烏の力を持ってしても敵わないとは)」
そして月影はある推測に辿り着いた。それは先ほど聞こえた断末魔は自分の理想の幻聴であり、勇姿があの密度の弾幕を避けたということだ。言葉にすると単純であるが実行するのは非常に難しい。何故ならあの弾幕は弾幕ごっこであれば反則である避ける余地すらもない弾幕であるからだ。FPSに例えると自分の投げた爆弾の範囲が爆弾の周囲ではなくステージ全てに判定されるのと同じようなものであり、避けようがない。だが勇姿はそれをバグで避けてしまったということであり、それが出来るのは偶然か正真正銘の化け物であるかのどちらかでしかない。
「これが最後だ」
再び勇姿に全力で殴られた月影は脳震盪を引き起こす。それにより月影は気絶した。
勇姿が何故無傷で居られたのか? それには深い理由がある。勇姿はコマンドの能力によってロードをしようとするも『エラーによりロードが実行されませんでした』という事態が発生した。
その為勇姿はロードを諦めて、次の行動を取ることに決めた。その行動とはまず自分の服を勇姿のコマンド『袋』に収納し、悪党の一人に自分の服を着させダミーにした。その後前回の異変の報酬で新規登録された機能であり幸いにも無事であった機能、『各場所へのワープ』を使用し、予備の服を装備して地底の入り口へと移動し数秒後、再び灼熱地獄跡に戻り月影の背後をついた。それが真相である。
要約すると月影の聞いた断末魔は幻聴ではなかったが勇姿のものではなく別人であり、勇姿本人は月影の背後に瞬間移動をしたということだ。
案の定、異変イベントが終了し目の前に様々なものが映るが勇姿はそれを無視し、真っ先に勇姿が実行したのはセーブだった。
「ようやく終わったか…セーブしないとな」
勇姿は一息つくとセーブし、マップを開いて検索機能を作動させ、さとり達のいる場所を見つけた。
「…その前にこいつを収納しないとな」
勇姿が目を回している異変イベントの首謀者『霊烏路空』と表記された月影を収納すると灼熱地獄跡を去った。
さとり達の場所へと移動するとそこには『こいしの日記帳』に書かれていた通り、ボロボロになっていたさとりの姿が発見されただけでなく霊烏路空ことお空の姿もあった。
「おい、大丈夫か?!」
「さとり様、お空!」
「お姉ちゃん、お空!」
さとりのペットであるお燐、それにさとりの妹のこいしが勇姿の隣で、さとりとさとりのもう一匹のペットであるお空を呼びかける。
「うう…お燐? それにこいし?」
「お姉ちゃん良かったよーっ!」
さとりが目を覚ますとこいしが抱きつき、さとりを押し倒してしまう。
「こ、こら!」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
その様子はまるで子供のようで、何度も何度も繰り返し同じことを叫んだ。その様子を見たら勇姿は微笑ましくなりつい笑ってしまう。
「お空、お空うっ!」
だがそれとは対照的にお空が目を覚めず、身体は冷たいままである。
「まさか死んだ…のか?」
「そんな筈はない! まだ心臓は動いている!」
お燐が心臓マッサージで蘇らせようとするもお空に反応がなく、お燐は次の手段を取る。これがお燐の普段の姿を見ている者であれば「あり得ない」と呟いてしまうだろう。その理由はお燐は死体募集家であるからだ。死体があればどこにでもいく守銭奴ならぬ守死体奴だ。だがお燐とお空はさとりと同じペット仲間でありながら対等の友であり特別な存在である。故にそう簡単には諦めない。だからこそ勇姿はロードし、やり直す。
「お燐、退きな。ここからは神様のお仕事だ」
勇姿がやり直したことは神奈子をこの場に連れてきたことだ。神奈子は気絶している月影とお空に手をかざし詠唱を唱えた。
「はぁぁぁっ!」
月影から何かが出て行き、代わりにお空にそれが宿る。曖昧にも勇姿がそれを感じ、お空を見てみるとお空の肌の色が明るくなり始めた。
「…お燐?」
そしてお空が目を開け、言葉を発するとお燐の目から涙が溢れ出てしまった。
「お空ぅぅぅっ!!」
この時、神奈子は信仰心が上がるのを感じ取り、笑みを浮かべた。
「全く、対価に合わないことをやっちまったねぇ」
言葉とは裏腹に神奈子は満足げに笑みを浮かべていた。
「そのようだな。ところでこれからお前はどうするんだ?」
「私は帰るよ。早苗達に日帰りで帰るって言ってしまったしね」
「俺はまだ用事が終わっていないから終わり次第帰る」
「そうかい。それじゃお暇させてもらうよ」
神奈子と別れを告げ、さとり達と勇姿は行動を共にした。
「勇姿さん、私達一同を助けて頂きありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」
その夜、地霊殿にて本物のさとりと空達が勇姿に向かって頭を下げ、勇姿は首を振った。
「俺は俺のやるべきことをやっただけだ。それにメッセンジャーのこいしがいなければ俺とて気づかなかったかもしれない」
「えへへ〜」
褒められたこいしは照れ、顔を赤くしながらも満更でもなさそうに頭をかいた。
「それよりもさとりさん。あんたに幾つか頼みがある」
「何でしょうか? …ああ、なるほど。元々貴方は貴方の妻になる霊夢さんの依存を治す為に私に会いに来たんですね。わかりましたすぐにでもそちらの方へ出向きましょう」
「…! どうやら覚妖怪の力は本物のようだな」
「ええ。ですが何故か貴方の場合、普通よりも物凄く心が読みづらいんですよ。お燐やお空は普通に読めるから能力が鈍ったという訳ではないんですけどね」
「それなら俺の口から言った方が早いな…二つ目は鵺だ。こいつの口から鵺が出てきたからな。何らかの関係があるんじゃないのか?」
勇姿は横でつた巻きにされている月影を見る。彼女は八咫烏を神奈子に没収されたせいか顔を青白く染めていた。
「…ふむ、別に大したことではありませんね。このドッペルゲンガーと鵺の関係は大手企業の会社員とその下請けの社長のような関係です」
「微妙な関係だな。どっちがどっちなんだ?」
「会社員の方が鵺で下請けの方がドッペルゲンガーですね」
「なるほどよくわかった。鵺はこの事件に関与していないって訳か」
そう言って勇姿は月影を視界から外し、腕を組んだ。
「そして最後だ。これは無茶はしなくても良い。出来る限りのお願い程度で良い」
「何でしょうか? …え? 幻想入りする前の貴方の過去を知りたい?」
「さとりさんなら出来る筈だ」
「し、しかし私は貴方の心の声がほとんど聞こえないんですよ? 先ほども偶然読めたものですし…」
「その事について推測があるから聞いてくれないか?」
「どのような推測でしょうか?」
「俺はどういう事だかわからないが能力が干渉されにくい体質だ。だからさとりさんの能力も俺に対してはほとんど効かなくなっている。干渉する方法としてはその能力に特化しているか、或いは限定させるかのどっちかで出来る。つまりさとりさんがさっき俺の心を読めたのは『俺がさとりさんに対して頼みたい事』を読もうとしていたからだ。同様に『俺の幻想入りする前の過去』を読もうとすれば読めるはずなんだ」
「なるほどつまり私が勇姿さんの心を読めないのは勇姿さんの感情や必要な情報を曖昧にして読もうとしていたから…ということですね」
「そういうことだ。頼めるか?」
「わかりました。やってみましょう」
さとりの第三の眼が見開き、血走る。その事に「わぉっ!」などと無意識で言ってしまう少女がいたがお燐が黙らせた。確かに目が見開いてかつ血走っていたらそう言ってしまう気持ちはわからなくもないがやはり空気の読めない少女はいるのだ。
「…申し訳ありませんが幻想入りする前の勇姿さんの記憶を読むことはできませんでした。幻想入りした後ならば多少は読み込めたのですがそれも大して有用なものではありません。そう、今貴方が思っているように霊夢さんの事とか、先ほどの戦いとかそんなものです」
さとりがそう告げると勇姿はある程度予測していたのか「そうか」とだけ答え口を開いた。
「なら今日はこいつが起こしたこと、全て忘れてパーッと宴会だ!」
「地底の鬼達みたいなことを言うんですね…まあ貴方がそういうなら忘れて宴会をしましょう。お空に至っては既にこの方にやられたことを忘れていますしね」
「うにゅ?」
お空が首を傾げ、さとりを見つめる。その姿を見て勇姿達はお空が忘れていると確信した。
「さとり様がそういうなら私も忘れましょう。ただし今日限りですよ?」
「私もー!」
それに便乗し、お燐はため息を吐きながら、こいしは意味を理解していないのかあるいはただ楽しければ良いのか笑顔で答え、月影のことを忘れて宴会を楽しむことにした。
「よし、俺は地底の連中を掻き集めて来るからさとりさん達は酒や料理の材料の調達をしてくれ」
「ええわかりました」
さとりの返事を聞くや否や勇姿は地霊殿から飛び出し、顰めっ面で考え始めた。
「(勇姿さんの幻想入りする前の過去を覗けなかった理由は一体…?)」
そう、さとりはそのことを考えていた。勇姿の記憶によればどのような人間でも幻想入りする前の記憶は所持しており、勇姿も例外ではなくその記憶がある。だがさとりは肝心の幻想入りする前の記憶を読めなかった。八雲紫あたりが妨害でもして来たのかと思えば能力によって弄った痕はなく、勇姿の心は自然体そのものであり誰も妨害している訳ではない。
「(何かが引っかかる…)」
だからこそさとりは違和感を感じる。自然過ぎるが故に不自然さを感じてしまい、不快感も生まれストレスを溜める。これが勇姿単体の被害ならばまだ良いがもし自分達に降りかかる災害の予兆だと考えると歯痒くなり、顰めっ面になる。
「…ん、お姉ちゃん!」
さとりが思考の住民となっていると妹のこいしの声が聞こえ返事を返す。
「どうしたの? こいし」
「勇姿さんが帰ってきたよ」
「…もうですか?」
「勇姿さんが言うには地霊殿の連中と一緒に酒を飲みたくない奴らが多すぎて妖怪達を集めるのが早く終わっちゃったんだって」
さとりは自分の悪名が知れ渡っていることを勇姿に伝え忘れるのを後悔した。
「お燐、お空、こいし、貴女達にも迷惑をかけてごめんなさいね。私の悪名の高さのせいで一緒にいろんな妖怪達と馴染めなくて」
「良いんですよ。どうせさとり様に仕えている時点でこういうことになるのは予測してましたし」
お燐が建前上そう告げるが心の中では「どうせオフの時にこっそりと飲みに行けば交流出来るし」などと思っており、さとりをハブいて飲みに行ったことが伺える。
「(お燐は後でお仕置きね)」
仲間外れにされたさとりの心はどこまでも狭かった。
「私はさとり様と一緒に飲むのが好きだから別に何でもないよ!」
「私もお姉ちゃんと飲むのが好きー」
こいしはともかくお空の心はお燐とは違いどこまでも真っ直ぐでその言葉に嘘はなかった。
「(ふふっ、お空はそういう素直なところが好きよ)」
さとりの機嫌が良くなり、笑顔になる。すると勇姿に招待された妖怪達が現れた。
「うわぁ、ウチ初めて地霊殿の中に入ったけど中はこんなんなっていたんやなぁ」
「…凄い」
「貴女達、少しはお喋りを慎みなさいな」
「おーっす、さとり久しぶりだな。宴会と聞いて参上してきたぞ!」
集まった妖怪達は上から順にヤマメ、キスメ、パルスィ、勇儀の4名であった。いずれも異変イベントの妨害者達であり、勇姿達にやられた者である。
「ようこそ地霊殿へ。私達の悪名に怯えなかった貴女達を歓迎するわ」
「挨拶もいいけれど早く宴会を始めましょう?」
「ウチはよう料理食べたいんや!」
「同じく…」
「その肝心の料理はどこだい!?」
さとりの歓迎の挨拶も野次馬根性全開の四人の前では無駄に終わってしまった。。
「ここにあるぞ、皆の衆!」
後ろから勇姿が現れ、料理と酒が並べられた長机と空の皿とコップが勇儀達の視線を独占する。
「これは外の世界のバイキングちゅうやっちゃな! ウチこういうのめっちゃ好きやねん!」
ヤマメがギャグ漫画の如くヨダレを垂らし目を輝かせると勇姿が笑みを浮かべ、口を開いた。
「そうだ。各自好きな食べ物を取って好きなだけ喰らえ」
勇姿のその言葉を聞いた全員が長机に群がり食事を取る。かくして自由に取るバイキング形式の宴会が始まった。
「ヤマメ、勇儀、箸が進んでいないようだけどどうした?」
「いやぁ、美味いんやけど結構この味濃くて仰山喰えんわ」
「私もだね」
「お前ら近畿地方よりも西の料理を食べているのか?」
「せやねん。ウチも勇儀も関西の生まれやから関西の食いもんしか口にしとらんわ」
「お前達が盛った料理は全て関東味だから当たり前と言えば当たり前だ…」
「これが関東の味なんか? 意外に喰えるもんやなぁ。もっと不味い思うたわ」
「まあ関東と言っても味が日本一濃いことで有名な俺の地元じゃなく関東の中じゃ薄い方の南関東の味付けだ。ちなみに今さとり達が微妙な顔で喰っているのが関西風だ」
「そういえばさとりは伊勢よりも東の生まれだったんだ。通りで微妙な顔をするわけだね」
「伊勢…ああ三重県か。確かに彼処あたりが大体の東と西の文化の境界線になっていたな」
「しかし何故ここで宴会なんぞ開いたんだい? 地上に戻って巫女んとこに戻って宴会でも開けば良いのに」
勇儀の疑問は最もである。勇姿は異変をさっさと終わらせ、すぐにでも地上へ帰ろうとしていた。だからこそ何故宴会の幹事をしているのかがわからない。
「さとりさんの心の傷はまだ負ったままだ。そんな状況でさとりさんを地上に出してみろ。絶対に気味悪がられる。さとりさんとて妖怪である前に一人の女性である以上化け物扱いされたりしたら傷つくだろう。そうなったらさとりさんの心の傷を更に抉ることになる」
「その心の傷を治す為に地底で宴会を開いたっていうのかい? でもそれは地底の住民でも同じだろう?」
「地底の住民よりも地上の方がえげつないから地底の住民達とコミュニケーションを取ることでさとりさんが地上に出た時少しでも傷つかないように練習してさせているんだ」
「確かに、私達からすればさとりの能力は地上の奴らよりもまだマシだね」
「それに今回は地底で起きた事件だ。地上に異変が起きていない以上地底だけで盛り上がるのが筋というものだ。更にいうならどさくさ紛れに地底から地上に逃げる奴も出てくる以上できないんだよ」
「私は何にも関与してないけど、まあ飲めればいいか」
酒の酔いが回ってきた勇儀は思考するのを止めて食事を再開した。
そのやり取りを聞いていたさとりはというと…
「う…まさかこんなに心配して貰えるなんて生まれて初めてよ」
顔を紅潮させながらブツブツ繰り返し、指を弄りながら照れていた。
「お姉ちゃん」
「ひいっ!?」
さとりは心臓が飛び上がるくらい驚き、席を立つ。そのせいでワイングラスが倒れ、中に入れていたワインが溢れてしまう。
「そんなに挙動不審だとせっかくの宴会も台無しよ?」
「そ、そ、そうね! それよりもワインが溢れちゃったからこいし、布巾を取ってくれないかしら?!」
「はいはい」
「はいは一回!」
「でもお姉ちゃんよかったねー。無愛想なお姉ちゃんにも春が来たんだから」
「な、な、な、な、な、何を馬鹿なことを! 勇姿さんには婚約者がいるのよ!」
「だからさ。その婚約者が寿命とかでも死んだらお姉ちゃんが勇姿を慰めればいいんだよ。そうすればコロっと堕ちちゃうよ」
「そんな寝取るようなことはできません! 寝取ったら古明地ねどりなんて変な渾名をつけられるのは必須よ!」
さとりは顔を紅魔館のように染め上げ、腕で×を作り首を振る。
「でもさ、お姉ちゃんをあそこまで心配する人なんて2度と現れないかもしれないよ? そんな人を逃してお姉ちゃんは後悔しないの?」
「………………………………………………………………………………………………………しないわよ」
「物凄い間があった上に目が個人メドレーしてたわ」
それだけさとりは葛藤しており、勇姿がどれだけ優良物件かわかってしまう。
「あの人の心を読んだ限りでは勝ち目はないわ。片や無愛想で身体もちんちくりんな覚妖怪。もう片や胸も身体も成長しているナイスバディな博麗の巫女。どちらを選ぶかなんて決まりきっていることよ…ぅ、なんで目から汗が流れるのかしら? 不思議ね…」
さとりは目から溢れる液体をタオルで止めようとするもタオルが水浸しになってしまう。それを見たこいしは溜息を吐きながらさとりに誘惑する。
「それなら私がお姉ちゃんの為に一肌脱ぐから地上に出ていい?」
「…どうせNOと答えたところで今更だし、良いわよ」
「やった! 念願のお姉ちゃん公認の地上パスが出来たわ!」
「こいし、それは死亡フラグだから止めなさい」
「はーいはーい!」
「こいし、返事は短くそして一回よ」
こうして地霊殿で行われた宴会は終了した。
宴会が終わり、翌日
「霊夢帰ったぞ!」
勇姿の叫び声が博麗神社に響き、軽く地面を揺らす。
「勇姿さん…ちょっと頭痛いからうるさくしないで…」
二日酔いで頭を抱えた霊夢が出てくると「俺自身二日酔いしたことねえがあんまり無茶はするなよ? 肝臓やられたら洒落にならねえからな」と勇姿が声をかけて心配するとさとりは勇姿の足を踏んだ。その表情は機嫌が悪そうで今にも爆発しそうな感情を持っている。
「勇姿さんに何をしてんの?」
霊夢がお祓い杖を取りだし、さとりに構える。まさしく一触即発の状態だった。
「いえ、私達を紹介しなかったのでつい」
さとりの動機はそんなものではない。ここにパルスィがいたなら泣いて喜ぶくらいの嫉妬だった。それだけさとりは勇姿に入れ込んでいた。
「その長い腕といい管の眼といい、見たところあんた達は覚妖怪ね。その覚妖怪か何の用よ? 喧嘩なら買うわよ?」
「はっ、そうやってすぐ暴力ですか? そんな人が結婚出来るのですか?」
強すぎる嫉妬故にさとりは抑えることは出来ず鼻で笑い、挑発してしまう。
「…っ!」
霊夢はその言葉にキレ、霊力を込めたお祓い棒がさとりに襲いかかる。
「やめろ霊夢」
だが寸でのところで勇姿が止めると勇姿はこいしにアイコンタクトを送った。
「お姉ちゃん!」
それを受け取ったこいしは即実行。さとりの耳を引っ張り、離れた場所へ移動した。
「ちょっ…痛い痛い痛い! 耳はダメぇぇっ!」
さとりの叫び声もむなしく響き、こいしは離れた場所に着くと耳打ちをした。
「お姉ちゃん、勇姿の前でそんなみっともないことをしたらダメだよ…評価下がるから」
「勇姿さんに嫉妬したら、ついやっちゃったわ…ごめんなさい」
「これからはやらない?」
その言葉にさとりが小さく頷くとこいしが笑顔になり、耳元から離れ、元の場所へと戻る。
「…ごめんなさい、お姉ちゃんいつも人前に出るとああだから余り気にしないであげて」
こいしが謝ると霊夢の怒りも収まり、顔も憤怒の表示からジト目になる。
「そう。勇姿さんが一番被害を受けたんだから勇姿さんが許したら私も許すわ」
「許す」
即答で勇姿は許した。
「だそうよ、勇姿さんに感謝しなさい」
「ありがとうございます!」
謝ったさとりと謝われた勇姿は同時に霊夢が依存していることを確信し、アイコンタクトを取った。
「さて紹介が遅れたな。このピンク髪の方は古明地さとり、緑髪の方は古明地こいし。それでこっちは博麗霊夢。見てのとおり博麗の巫女だ」
「現代の巫女さんって脇が開いている上に袴じゃなくスカートなんだね」
「昔はもっと清楚なものでしたが、時の流れというのは残酷ですね」
さとり達がそんな冗談の語り合いをすると霊夢が口を挟んだ。
「まさかあんたらは懐かしむ為にここに来たって訳じゃないでしょう?」
本題に入る為に霊夢がそう問いかけるとさとりが口を開いた。
「ええ。私は貴女の依存を治す為に勇姿さんにお願いされて来たのです」
「依存って私が何に依存しているのよ?」
霊夢は全くと言っていいほど気づいておらず、不機嫌にさとり達に尋ねる。
「そう邪見にするなって霊夢。お前の様子を見る為にさとりさんは俺の足を踏んだんだよ。その時お前は俺に怒ってくれた。その反応は嬉しい。それだけ俺のことを心配に思っているんだからな」
「勇姿さんも勇姿さんで甘やかさないで下さい」
さとりがそう突っ込むと勇姿が手で抑えるような仕草をする。それを見たさとりはそれ以上何も言わなかった。
「まあ待て。だがな霊夢、その後お前は誰に許してもらえるようにさとりさんに言った?」
「勇姿さんだけど」
「無自覚の内、それも俺も意識してようやく気づけるほどだがお前は俺に強く依存している」
「私が勇姿さんに依存?」
「確かにあの流れで俺に謝らせるのは筋が通っている。だが自分の意見を少し持て。それだけでも十分に変わる」
「うん…」
「その為にさとりさんを連れてきたんだ。変わってくれるよな?」
「……………………頑張るわ」
さとりの葛藤ほどにないにせよ、霊夢は間を空け、そう答えた。
「よく言った。それじゃあ俺はお邪魔ようだし、しばらくの間別の場所に泊まる。さとりさん、後の事は任せた」
「ええ。終わり次第こいしを通して伝えます」
かくして勇姿の代わりに博麗神社に滞在することになったさとりとこいし。果たして霊夢は依存を治すことが出来るのだろうか。そのことを頭に入れながら勇姿は博麗神社から立ち去った。
次回からしばらくの間日常回のターンです。
この話を書いていたらヒロインがまた誕生してしまうという有様。しかも当初の設定では主人公のことを憎しむはずがどうしてこうなったんでしょうね?
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