カメラと棒付きアメと (クロウズ)
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〈本編〉
人物紹介


 登場してきた皆さんを簡単に載せてます。進行していくにつれ人数は増えますので、その都度連絡します。


〈写真部〉

 

火野(ひの)霞黒(かぐろ)

 

  本作の主人公。

 サボり癖があり、1限目や昼休み直後の授業、HRなどにサボっていることがたまにある。

 父はカメラマン、母はプロ雀士であり2人とも家を空けることが多かったため、自炊など一通りの家事は出来る。さらに2人の影響で風景撮影と麻雀が趣味。意外と甘党。がんばるんバーチョコ味は常備。

 もともとは帰宅部を通すつもりだったが、クラスメイトのエレナに引っ張られ、押されるようにして写真部に所属することに。

 中学生の頃は1年と数ヶ月のぼっち経験者であるが、世話焼きなところがある。というかお節介なおかん系男子。ペットのシロと、妹のような幼馴染のお陰で世話焼きスキルを上げていった。

  〈2年生編〉

 怜奈の計らいによって写真部部長となり、そこそこ多忙な日々を過ごすようになった。それでもサボり癖はなかなか直らない。

 五十鈴が入学したことにより、シスコンであることが発覚したが本人はバレたところで気にしていない。

 ついにエレナと付き合いだした。

 中学生の頃ぼっちだったのは不良だったことが理由だと判明。黒狗と呼ばれていたその頃の事は黒歴史らしい。

  〈3年生編〉

 付き合ってから1年経ってもべったりなバカップル。時間と場所は弁えてるつもり。商店街の福引で当てた温泉旅行でエレナとヤった。

 

 

 

望月(もちづき)エレナ

 

  本作のヒロイン。

 霞黒を写真部に(半ば強引に)連れて行き入部させた本人。

 男子よりも女子が好きな残念女子。スタイルが良く、成績優秀な美少女で男子にはモテるが、女子にモテたいと言うものだから残念すぎる。被写体探しに今日も東奔西走。

 それでも普段は一応真面目で、たまに授業をサボっては連絡事項などを聞き逃している霞黒に注意したり、病弱な真衣を気遣ったりと周りをよく見ている。

  〈2年生編〉

 残念女子なのは相変わらずだが、最近では霞黒に気があるかのような態度が多い。ただし無自覚なので、真相は不明。

 女子を撮ることにスランプを感じ、その原因が霞黒への恋心からだと気付く。その事を話し、霞黒から告白されることで付き合いだし、無事スランプが解消された。

  〈3年生編〉

 バカップルの甘え担当。教室だろうと屋上だろうとべったり。時間も場所も弁えたら負け。霞黒と行った温泉旅行で自分から誘い、ヤった。

 

 

 

間宮(まみや)怜奈(れいな)

 

  写真部部長。

 霞黒達の先輩。父が転勤族だった為に、住んでいた景色を残しておこうと撮り始めたことがきっかけで写真部を創設することに。しかし、普段は部員と駄弁ったりしてるだけだったり。

 凛とした雰囲気に堂々とした態度から真面目な印象を与えるが、制服のタイと第二ボタンまでは外し、家では着崩したり休日は昼まで寝ていたりと、意外とだらしない人。

 友人達の吐く嘘にあっさり引っかかり騙されてるとも知らずに実行したりと、冗談は真に受けるタイプ。

  〈2年生編〉

 奈良の大学に進学し、喫茶店でバイト中。霞黒とは今も連絡を取り合う仲で、霞黒に気があるご様子。バイト仲間の鷹宮曰く、完全にお熱とのこと。

 

 

月見原(つくみはら)(かすみ)

 

  写真部副部長。

 霞黒達の先輩。おっとりとした態度で優しく、物事をまとめるタイプと見せかけて気に入った人や後輩をからかうS。赤面や涙目になっているのを見るのが好きで、そうなったところを写真に収めることが多い。というか殆どが赤面や涙目。

 学園内でトップクラスの胸を持ち、それを使ってからかうこともしばしば。

 

 

 

日比野(ひびの)セイ

 

  写真部員その1。

 霞黒達の先輩。写真部員だが撮る側ではなく基本撮られる側。体育会系で運動部の助っ人もしている。週一で必ずどこか擦りむいたりの怪我をしている。

 運動部に入らず写真部に入ったのは、1年生の時に怜奈が勧誘していたのを見て面白そうだと思ったかららしい。

  〈3年生編〉

 菘と同じ大学に通っている。菘との仲は良好なままで、櫻花祭に一緒に来る。実は良家のお嬢様だった。

 

 

 

高町(たかまち)(すずな)

 

  写真部員その2。

 霞黒達の先輩。人見知りというわけではないが異性に対しては怯えがち。初対面では目を合わせず、すぐに縮こまる。よく赤面したり涙目になったり。

 眼鏡がないと何もはっきりと見えないほどに視力が低く、眼鏡がないときは1人では動かないようにと言われている。

  〈3年生編〉

 彼氏ができて髪を切り、コンタクトにしたりと見た目ががらりと変わった。大学内ではわりと有名なカップル。

 

 

 

暮橋(くれはし)ユーキ

 

  写真部員その3。

 霞黒達の後輩。イギリス生まれのハーフで帰国子女、なのに英語が苦手。ユーキという名前だがユーと呼ばれることが多い。部長・副部長があれなので、写真部に入ったことを若干後悔してるとか。

 

 

〈クラスメイツ〉

 

朝田(あさだ)啓介(けいすけ)

 

  霞黒の友人その1。

 高等部に入って初めての友人で本の虫。暇さえあれば何か読んでいる。

 

 

 

(みなみ)雅人(まさと)

 

  霞黒の友人その2。

 サンド系が好きなマイペース型男子。考えるより先に動く脳筋な体力バカ。

 

 

 

小野寺(おのでら)千鶴(ちづる)

 

  漫研部員。

 入学初日から徹夜してた少女。徹夜作業は当たり前で授業中に寝落ちすることも。漫画のスケッチ要員を見つけると、無理やりに捕らえてくる。敵は締め切り。

 

 

 

正岡(まさおか)真衣(まい)

 

  病弱娘。

 体が弱く、保健室にいることが多い。基本的に席の近い霞黒やエレナ辺り(主にエレナ)が、欠席中のノートをとる。体力バカな南が羨ましい。

 

 

 

佐藤(さとう)千尋(ちひろ)

 

  担任。

 1―Aの担任で数学担当。彼氏いない歴=年齢のあらf―――げふんげふん、アラサー。持ち前の明るさと気安さ、公私の切り替えがしっかりしていることなどから生徒には人気。

  〈2年生編〉

 またしても担任。多分来年も担任。イチャついているようにしか見えない霞黒とエレナのやり取りがうらやま死刑な模様。彼氏欲しい。

 

 

 

桐崎(きりさき)剣丞(けんすけ)

 

  剣道部員。

 奈良出身の転校生で風紀委員。不良だった頃の霞黒を知っている人物で、何度か対峙したことがある。目付きが悪く不良によく絡まれる。同じ剣道部の五代律とは従姉弟。

 

 

 

浜風(はまかぜ)

 

  筋肉バカ。

 クラス一がたいのいい男子。野球部所属だが致命的なまでにノーコン。神なるノーコンと名付けよう。

 

 

 

村上(むらかみ)文緒(ふみお)

 

  図書委員。

 エレナの親友で、霞黒とは多分知り合い以上友人未満。普段は図書室で本を読んでいる。人付き合いは苦手。運動も苦手。

 エレナと霞黒の恋路サポート、というか後押しという柄にないことをした。彼女なりに思うところがあったのかもしれないが、ギクシャクしすぎな2人に少しイラついてたのかもしれない。

 

 

〈後輩s〉

 

竹谷(たけたに)サスケ

 

  後輩その1。

 額に某忍者漫画の鉢金を付けている。セリフがどこか中二臭い時がある。

 中二病青春集団・暁というチームのリーダー。メンバーはあと2人いるらしい。真面目に馬鹿騒ぎをしたりボランティア活動をしているくらいなので無害。

 

 

 

戸村(とむら)美知留(みちる)

 

  後輩その2。

 ちょっとした有名なコスプレイヤーで、霞黒とはだいぶ前からの知り合い。ペットのようにじゃれついてくるが、その度に五十鈴に叱られる。スキンシップが地味に激しい。

 

 

 

木林(こばやし)(みやび)

 

  後輩その3。

 風紀委員に所属している為不真面目生徒には厳しく、東雲レイに対しては特に厳しい。だがそれは好きな相手には意地悪するアレみたいなものである。本人は真っ向否定だが。

 特撮好きで、よくそれらのセリフを口にする。ボタンはむしらない。

 

 

 

竜ヶ崎(りゅうがさき)珠里椏(じゅりあ)

 

  後輩その4。

 霞黒達が3年生の時に入学した女子。ただし入学式当日は喧嘩で出なかった不良少女である。3年前他校の不良に絡まれていたところ霞黒に助けられ、以来慕っている。自称1番の舎弟。

 

 

〈家族〉

 

・火野美影(みかげ)

 

  火野母。

 身長140㎝の、自称史上最小のプロ雀士。中学生の頃から伸びていない。

 霞黒が小さい頃は家を空けることが多かったが、今はそうでもない。霞黒といると、妹に間違われる。酒類を買うのも一苦労。雀荘では間違われない。

 趣味は雀荘巡り。その間は基本連絡はつかず、1週間程帰ってこない時も。その所為で一度補導されかけた。

 

 

 

・火野秋斗(ときと)

 

  火野父。

 身長180越えのカメラマン。高校生で一気に伸びた。美影との身長差の所為で、一緒にいるとあらぬ疑いを掛けられる。

 全国各地を回っているため家にいない方が多い。その分家族への定期連絡は欠かさない。

 

 

 

不知火(しらぬい)五十鈴(いすず)

 

  幼馴染その1。

 霞黒の1歳下で、霞黒が1人の時は泊りに来させていた。普段着は着物。

 霞黒の事は「黒兄」と呼んでいたが年頃になって恥ずかしくなり、よそよそしく苗字で呼ぶようになる。ただし小さいと言われて怒った時やテンパったりした時などでは呼び方が戻る。膝上に座らせると落ち着く。

  〈2年生編〉

 入学直後の一件以来、お兄ちゃん大好きっ子(ブラコンではない)とクラスメイト他に認識されてしまった。本人はその時のことを黒歴史にしている。

 

 

 

夢前(ゆめさき)春瑚(はるこ)

 

  幼馴染その2。

 五十鈴と仲良しで、その延長で霞黒とも知り合う。ゆるふわ森ガール。霞黒の最後の癒し。

 霞黒の事を「おにーさん」と呼び、よく膝に座ってそのまま寝てしまう。霞黒曰く、「膝に乗せた時一番しっくりくる」らしい。

  〈2年生編〉

 いつもと変わらない癒し。エレナの事を「おねーさん」と呼び彼女に甘えることが多い。みんなの妹キャラ。

 

 

 

・シロ

 

  ペット。

 野良だったが拾われて火野家のマスコットとなった豆柴。

 人懐っこい良い子だが、伏せとお座りは逆になる。本人(犬)は解ってない。かわいい。



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〈1年生編〉
プロローグ


こちらには

・オリ主
・独自解釈・設定
・不定期更新

などの成分が含まれてます。これらにアレルギーのある方は急ぎブラウザバックをしてください


 4月初旬、この時期にあることといえば始業式や入学式なんかだろう。3月に卒業したのが中学生なら大抵は高校生に、高校生なら大学生と社会人が半々くらい、かな?まあそんな新しい生活への一歩に緊張半分、楽しみ半分ってところだろうか。

 そんな一歩を、幼稚園から大学院までの系属校も存在している、ここ聖櫻(せいおう)学園の高等部で、俺こと火野(ひの)霞黒(かぐろ)も踏み出すことになった。

 

 

 

 

 

 入学式も問題なく終ると教室移動。クラスは事前に連絡が来ていたからまっすぐ向かえばいいんだけど、高等部だけでも生徒数は約1000人。そのうちの1学年である俺たち新入生だけをとっても約300人だ。その300人がほぼ一斉に教室移動中だから廊下が1年生であふれ返ってるような状態。その上男子より女子の方が多いらしく、こういった場面では気まずいというかなんというか。人混みが苦手な俺としては早く教室に逃げたいわけで、隙間ができるや否やそこを縫うように移動していく。 もちろん、なるべく男子のいる隙間をだ。変な誤解とか持たれたくないし。そんなことを考えながら進んでいると、やっぱり限度があったか、途中で1人の女子生徒とぶつかってしまった。

 

 

「きゃっ」

「とっ?」

 

 

 ぶつかったのは肩だったけど、その女子生徒がちょうど振り返った時だったからか相手のバランスを崩してしまうも、とっさに手を掴んで倒れないように支えることに成功。他の生徒たちの邪魔になるし、何より他人に怪我をさせたりでもしたらめんどくさい。……まあ、今この状態も邪魔になってるだろうし、別の意味でめんどくさい状況かもしれないけど。

 

 

「悪い、大丈夫か?」

「え?ええ、大丈夫よ。わざわざありがとう」

「いや、俺がぶつかったんだし。とりあえず、怪我とかないよな?」

 

 

 パッと見5㎝ほど低そうなその子(その人?)は当たり前だけど赤いリボンをしているから同じ1年生。それとなるべく見ないようにしたいけど目が向いてしまう大きな胸。ただ一番気になるのは、肩に提げている一眼レフカメラだ。別にカメラを持ってること自体はおかしくないんだけど、今こうして持ってるってことは入学式の時から持ってたってことになる。どっちかというと、その時は撮る側じゃなくて撮られる側だろうからなぁ。こういう移動中にいい被写体でも見つかったんだろうか?

 

 

「どうかした?」

「え?あ、いや、そのカメラが気になって。写真、好きなんだ?」

「そうねぇ。色んなものを撮るのは好きよ」

「そうなんだ。俺も風景とk「特に可愛い女の子の色んな一面を撮るのが大好きなの!」………はい?」

「女の子よぉ。ほらぁ、女の子って、とっても可愛いじゃない?相手が男の子だとピンとこないけどぉ、女の子だったらインスピレーションがわくでしょう?」

 

 

 どうやら(色んな意味で)俺とは違う人のようだ。というかそういう発言は時と場所を考えような。確か高等部からは校風が結構自由になるとか聞いたけど、これはアウトだろうな。教師や風紀委員辺りに目を付けられそうだし。

 そんな危機感はないのか、いつの間にかさりげなくカメラを構えて真剣な目で被写体になりそうなもの(さっきの会話から、おそらく女子)を探してる。……欲求に忠実、かな。まあなんでか解らないけど、これから深く関わりそうな感じがするし、今のうちに自己紹介でもしとこうかな。

 

 

「っと、そうだ。名前聞いてもいいかな?俺はA組の火野霞黒っていうんだけど」

「あらぁ、奇遇ねぇ。私もA組なのよ。名前は―――」

 

 

 

「―――望月(もちづき)エレナよぉ」

 

 

 

 

 可愛らしくウィンクをして彼女――望月さんはカメラを構えた。後になって、あの時の表情は写真に残したいと思えるくらいに自然な笑顔だった。




 ども初めまして、クロウズです。漢字に直すと→黒水   エッ、キイテナイ?
 サイトで書くのは初めて、のはず…。こんな感じの文章ですが、それでもいいと読んでくだされば幸いです。
 誤字・脱字等を見かけましたら、お近くのコメント欄にご連絡ください。
 所々に何かしらのネタを入れます。もし解ればトモダチ


 今日はこんなところかな……。じゃまた!


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一話目

 廊下で知り合った、クラスメイトの望月さんとは教室に入ってからは会話もそこそこに切り上げ、というよりは望月さんがクラスの女子に目を付けて写真を撮ろうと迫っていったので、黒板に貼られてる名簿から指定された自席に着くことにした。名簿を見た時、ついでに男子がどれくらいいるのかを確認してみたら、それほど少なくなかった。まだ1人も入ってきてないけど。

 席は出席番号順の男女混同、あ行が廊下側から始まって窓側に続いていく。俺の席は窓側に近い列の後ろ側という、微妙な席だ。名前が名前だから仕方ないけど。

 

 

「……けほ、けほっ」

 

 

 話し相手になりそうな男子もいないからぼーっとしてると、後ろ側から少し苦しそうな咳が聞こえてくる。首を後ろに向けると、ちょうど左斜めに座ってる女子が咳の子らしかった。肌がだいぶ白く、見るからに病弱そうな子だ。

 

 

「あー、大丈夫か?」

「え………?」

 

 

 声をかけるとその子は少し驚いた表情をしてたけど、すぐに弱弱しいけども笑顔を見せる。

 

 

「あ、はい…大丈夫です。いつものことですので……けほっ」

「いつものこと、ね。……まあ、辛くなってきたら無理しないようにな?」

「はい。ご心配、おかけしました……」

 

 

 本当なら保健室に行かせた方がいいんだけどな。本人が大丈夫だと言ってるし、様子見ってとこにしとくか。教室も賑やかになってきて前を向くと、ほかの生徒もどんどん入ってきてた。近くの席に座ってるのは大体が男子。見知った男子はいなかったから早めに打ち解けるために話しかけようかと思ったけど、先生も入ってきたからその辺は後回しになった。

 

 

「えー、みんなおはよう!今日から1年間、ここ1年A組の担任をすることになりました佐藤(さとう)千尋(ちひろ)です。担当教科は数学。担任をもつのは初めてだけど、みんなも初めてだからお相子ね。ともかく、今日からよろしくっ」

 

 

 シュッとどこかで見たことのあるポーズを取って自己紹介をする佐藤先生(女性)。担任は初めてとはいえ、人当たりの良さそうな雰囲気だし、クラスのみんなも早い内に馴染めると思う。

 

 

「それじゃあみんなには自己紹介をしてもらいたいから、名前と趣味、それから好きなものとか教えてもらおっか。朝田くんから順番にお願いね」

「はい。朝田(あさだ)啓介(けいすけ)です。趣味は読書で、好きなものは図書館みたいな本で埋まったような部屋です」

 

 

 それは好きなものというよりは好きな場所だ朝田よ。周りも苦笑してるし。

 

 

「う~ん、いいわよね読書。そこまでの本好きなら、今度朝田くんのおすすめでも教えてもらおうかしら?ちなみにあたしは恋愛物が好きよ」

「おすすめですか、また探しておきます」

「ありがとね。さあ自己紹介じゃんじゃん行こっか。次は、小野寺さんかな?」

「あ、私かい?小野寺(おのでら)千鶴(ちづる)です。趣味と好きなものは漫画ですが、実は締切に間に合わせようと徹夜してたから今日は遅刻しました」

 

アハハ オイオイ

 

 

「遅刻はダメだぞ遅刻はー」

 

 

 趣味は趣味でも、描く側なのか……。

 その後もクラスメイトによる自己紹介は続いていき、俺の番に。

 

 

「火野霞黒です。趣味は野鳥や風景の撮影で、好きなものは山です」

「なかなかいい趣味してるねぇ。次は、正岡さん」

「はい…正岡(まさおか)真衣(まい)です。趣味は……こほ、こほっ。すみません…今日は、少し体調が優れなくて………」

「あらま。それなら無理のないようにね。それで次の子は、南くん」

「ども、(みなみ)雅人(まさと)です。趣味は特になくて、好きなものは楽しいものです」

 

 

 大雑把な答えだなぁ。

 

 

「大雑把な答えね。じゃあ最後、望月さん」

「はぁい。望月エレナです。趣味と好きなものはおんn―――撮影と、可愛いものです」

 

 

 今何言いかけた、おい。

 

 

「望月さんは人の方が多いのかな。よし、これで全員覚えたよ。明日から授業や部活勧誘があるから、高校生としての学園ライフは明日からが本格始動だからね。明日も元気に来ること。それじゃ解散」

 

 

 部活勧誘、早い気もするけどこんなものなんだろうか?まあ、部活や授業のことは明日でいいかな。今日は帰って寝よう。




 牛歩更新というよりは不定期更新の方が正しいかもしれません。どうもクロウズです。
 今回はA組の出番が多いだろう人たちに名乗ってもらいましたが、このやっつけ感 ウゴゴ……
 次回は部活勧誘説明会とかになると思いますが、さぼり癖のある霞黒君はいないので多分その描写は皆無の可能性が。わしが無能故のことなんですけどね………。表現力が欲しい。
 書いてる途中で手が止まる時にアメを舐めると速度が上るっぽいので、作品タイトルである棒付きアメ舐めながら更新していこうと考えています。じゃまた!


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二話目

 入学式が済んで、授業や部活勧誘が始まってから一週間経った。一週間あれば購買や食堂、図書室なんかの大まかな位置も把握出来るし高等部になってからの生活も慣れてきた。ただ、部活動説明会はサボってたから知らなかったけど、その放課後のここの部活勧誘は色々とすごい。約1000人の高等部の内、2年と3年の先輩達が約660人辺りで、部活は強制参加ではないもののその過半数が何かしらの部活をやってるから、新入部員獲得の為のパフォーマンスに気合いが入ってた。

 それでも帰宅部を選んだ俺は、登校中にたまたま会った同じく帰宅部を選んだクラスメイトの南と一緒に登校することにした。南は家が遠いらしく自転車に乗ってるけど、わざわざ俺に合わせる為に押して歩いてる。

 

 

「もう一週間経つけどさ、やっぱり佐藤先生って綺麗な人だよな」

「……まあ、否定はしないけどさ。いきなりなんだ?」

「いきなりじゃない。一週間前から思ってはいた」キリッ

 

 

 だからどうしたんだと言いたくなるけど、朝食代わりのがんばるんバーを食べながら聞き流すことにする。どうせ何も言わなくても勝手に喋っていくだろうし。

 

 

「まずこの学園では例に漏れない端正な顔立ちだろ。それにスタイルもいいし、授業中はビシッとしてるけど授業が終った後のあの気安さ。ほんと綺麗で可愛いよなぁ」

「……」

「しかもあの明るさがあるから、他の先生とか生徒とも仲良いらしいし、男子だけじゃなくて女子にも人気なんだぜ」

「……まだ続きそうなら先に行っていいか?」

 

 

 正直これ以上はダルいし、時間も時間だから早めに教室にいたい。

 

 

「え、お、確かにちょっとまずいかもな。じゃあ俺先に行くな!」

「は?おい、南!」

 

 

 自転車にまたがって、俺を置いてさっさと行ってしまう。あの野郎……って今ここで怒ってても無駄だから少しばかり歩く速さを上げる。南には後で何か奢らせてやる。

 

 

 

 

「おーっす」

 

「あ、火野くんおはよう」

「おはよ、火野君……」

 

 

 教室に入ってやる気のない挨拶をいれると、出入り口に一番近い2人から挨拶が返ってくる。1人元気がなかったからそっちを見ると、小野寺が目に酷いクマを作ってた。

 

 

「小野寺、大丈夫か?」

「あはは、結構しんどいかなー。締切が危なくてここ数日徹夜してね……」

「どう考えても、保健室に行くべきだな。朝田」

「あ、うん。ほら、行くよ」

 

 

 今にも寝落ちしそうな小野寺を、朝田に保健室まで連行してもらう。多分、正岡もいるだろうし。

 俺は一仕事終えた気分で席に着いて息を吐く。窓側から少し離れてるとはいえ空は見易いからと、ぼーっと窓の外を見てると、今日は望月の姿がなかった。アレで成績優秀らしいし、遅刻とかはしないと思うけど。

 

 

「火野くんおはよー」

「ん……?あぁ、おはよう望月。今日は意外と遅かったな」

「んー、ちょっとねぇ~」

 

 

 噂をすればなんとやら。いつものようにカメラを持った望月が前の席の奴の椅子に座る。男子にはそれほど興味がないって少し前に言ってたけど、今の俺みたいに挨拶や日常会話なんかは普通にするみたいだ。

 

 

「で、今日遅かった理由は?」

「それがねぇ~聞いてよ。登校中に部長に捕まっちゃて、部員数が少し心もとないから探すのを手伝ってくれって言われちゃったのよぉ………」

「写真部、だっけ?一週間しか経ってないのに部員数で嘆くのはどうなんだ?」

 

 

 まあ確かに2年生や3年生は新しく入ってこないかもしれないけどさ。それでも1年生ならまだ選んでる途中っていう生徒が多いんじゃないか?俺がそう言うと望月もうんうんとうなずくけど、そうなんだけど、とつぶやきながら机に突っ伏す。

 

 

「1年生は私だけだし、他が部長含めて3年生だけなのよ~…」

「あぁ、なるほど」

 

 

 2年生がいないから来年になると望月だけになるのか。いい部長さんだな。

 

 

「それで、どうするんだ?」

「そのことなんだけどね。今日の放課後、火野くんに来てもらいたいの」

「あぁ、なるほ――――――え?」

 

 

 なんだろう、今放課後写真部に来てほしいと言われた気がした。

 

 

「だから、今日の放課後、部室に来てくれない?」

 

 

 聞き間違いじゃなかった。色々問い詰めたかったけど予鈴が鳴って望月は自席に戻ってしまう。席に着いた望月は手を合わせてこちらに謝りながらお願いね、と口パクで言われた。正直勘弁願いたいけど、行くだけ行って、勧誘されたら断ればいいかな。




 これがフラグか……?どうも、クロウズです。
 昨日100円で2~5本手に入る棒付きアメ自販機をやったところ、3本手に入りストックは5本。これでスムーズに書けるはず。
 次回は写真部にお邪魔してもらうつもりですが、部長さん達に名前を付けるべきか否か。考えがまとまるまでは狩りと麻雀とデュエルの逃避三昧かもです←
 明日は別番組のため特撮が観れないという絶望を突き付けられたので逃避三昧をしつつじっくり考えておきます。じゃまた!


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三話目

 その後、休み時間になっても望月はどこかに行ってしまっていなくなるから結局問い詰めることはできなかった。昼休みにはもう問い詰める気力もなくなったから諦めて南、朝田の2人と一緒に昼飯を食べることに。

 

 

「小野寺さん、大丈夫そうだった?」

「ぐっすり寝てたからな。なかなか起きなくて先生は呆れてたけど、午後の授業には出すってさ。それと、正岡の方も大丈夫そうだったよ」

 

 

 3限目の体育、50メートル走で運悪くこけて保健室行きになった時に、保健医の神崎先生に小野寺の様子を聞いてみたらそう教えてくれた。ちなみに、5回くらい横転して膝が結構グロテスクな状態になって4限目は保健室で安静にしてた。……思い出すとこれ以上箸が進まなくなりそうだし、止めとこ。

 今日の昼飯はチョコチップパンにクリームパンが2つずつ。朝は寝坊して弁当を作り忘れたから南に奢らせたものだ。そんな南はたまごサンドにカツサンド、さらにBLTサンド。別にいいんだけど、サンド系ばかりだな。

 

 

「菓子パンばっかの火野くんが言ってもなー」

「弁当作る時間なかったんだよ」

「そういえば料理できるんだよな、火野は」

「簡単なものくらいはな」

「でもいいよな。俺と雅人、全然できないから」

 

 

 そう言って朝田は卵焼きを食べる。南はともかく、朝田は料理できる側だと思っていたから正直意外だった。

 

 

「雅人はどうか知らないけど、俺は包丁握ったことすらないよ」

「俺は去年の調理実習の時くらいだな」

 

 

 授業での調理実習だと、ふざけながらする奴がいるから嫌いだ。切り落としたサンマの頭を口の中に突っ込もうかと思ってたぞ。

 そんな風に去年までの話を交えながら昼休みを過ごし、午後の授業を受けていく。

 

 

 

 

キーン、コーン、カーン、コーン

 

「それじゃあ、今日はここまでね。このままHR始めるから静かにねー」

 

 

 本日最後の授業、担任佐藤先生の担当教科である数学が終って、そのままHRに入って連絡事項なんかを告げる。

 

 

「一週間も過ぎたから、みんなもう慣れたよね?明日もしっかり学校に来ること。それと、部活動は強制じゃないけど、せっかくだから入ってみたらいいと思うよー。特に運動部だと、早めに入らないと大変だし。あ、あたしが顧問やってる天文部はいつでも大歓迎だからね。それじゃあ今日は解散!お疲れ様ー。掃除当番はちゃんとしなさいねー」

 

 

 先生の号令で雑談したりすぐに帰ったり、部活に行ったりとばらばらになる。本当なら俺もここですぐに帰る組になるところだけど、今日は望月の頼みで写真部の部室に行かないといけない。教科書その他を鞄に詰めてると、望月が席の前に来る。

 

 

「さ、行きましょ?」

「あぁ、案内よろしく」

 

 

 文化系の部活は食堂や購買と同じ別棟にあるのは知ってたけど写真部の部室がどこにあるかまでは知らないから、そこはその部員である望月に案内をしてもらう。だが、この案内者が悪かった。

 別棟に向かう途中、すれ違う同級生や先輩方にナンパするかのように話しかけていく望月のせいで、別棟に着くまでに20分近く掛かった感じがした。こいつにはストッパーが必要不可欠だ。

 無駄に時間が掛かったけど、部室前に到着。

 

 

「それじゃあ、どうぞ」

 

 

 部室の前で横にずれ、先に入るよう促される。部員の望月が先に入った方がいいと思うけど、向こうが促してるから先に入らせてもらう。

 

 

「どうぞ」

 

 

 4回ノックをすると中からそう返事がしたので入る。

 部室内はさまざまな機材が置かれてるけど、結構広いみたいで、閉塞感とかはない。

 今いる部員は1人で、ソファに座っていた。望月以外に1年生はいないから、先輩だな。声をかけるとその先輩は俺に気付いたようで、振り向く。目付きは鋭いけど利発そうな人で、今みたいな夕陽が似合ってる。

 

 

「見学かな。それとも新入部員か?どちらにせよ、よく来てくれた。さ、座って座って」

 

 

 手を引かれてさっきまで先輩が座っていた場所に座らされる。先輩は紅茶を淹れると俺の前に置いて対面に座る。

 

 

「わたしは部長の間宮(まみや)怜奈(れいな)。3年D組だ。君は?」

「1年A組の火野霞黒です」

「A組というと、エレナが言ってた子か」

「望月がですか?」

 

 

 後ろを振り返り、後から入ってきた望月に説明してもらいたかったけど望月はどこ吹く風だった。

 

 

「まあいいや……。それで、部員を探してるって」

「そうなんだっ。それで、ぜひ君にも写真部に!」

 

 

 ガタッと嬉々とした表情で身を乗り出してくる。望月とそう変わらない大きな胸で、タイは外してるし第2ボタンまで外してるからこうも身を乗り出されると目のやり場に困る。

 

 

「勝手なお願いだとは思うが、頼む」

「私からもお願いよ~」

 

 

 さらに望月が後ろから耳元で言ってくる。やめろくすぐったい。とにかく、この前門の虎後門の狼状態から抜け出さないと。

 

 

「あの、俺は部活は……」

「………駄目か?」

「うっ……」

 

 

 ……無理だ。身を乗り出したまま潤んだ目で見上げてくる先輩に迫られ、望月には肩を掴まれてる。完全に詰んだな、これ。何を切っても通らない危険牌しかない。断れる雰囲気じゃない。

 

 

「…家のこともあって、出れないときありますけど、それでいいなら」

「本当か!?ありがとう、じゃあ早速これにサインを!」

 

 

 折れて入部を決意すると、また嬉々とした表情になる先輩改め部長。さっきのは嘘泣きだったんだろうか?

 そんなことを考えてると部長が入部届を出してきたから、受け取ってそこにサインする。入部届が少し暖かくて所々しわがあったけど、どこにしまってたんだろうか。気になるけど聞いたらいけない気がするな。

 

 

「部活の方も、これからよろしくね~」

「新手の詐欺にかかった気がするよ………」

 

 

 こうして俺は、半ば強制的に写真部に入部することになった。男子の先輩っているんだろうか?

 

 

 

 

 

 ちなみに、入部届が暖かかったりしてた理由は部長が胸元に入れてたからで、そうした理由は、そうした方がいいと副部長に言われたかららしい。この写真部、大丈夫か?




 1500字の±100辺りを考えてたのに2400字とか考慮しとらんよ……。どうも、クロウズです。
 部長たちには結局名前もちになってもらうことにしました。部長しか出てませんが。うちの部長は部員の提案には真に受けてしまう人ですが普段はしっかりしてます。なんもかんも副部長が悪ふざけするのが悪いだけなんです。オレハワルクネェ!
 ガルフレの方はキュピチケの合計が74枚。SRエレ姉取る為に使おうにも、期間限定エレ姉がいないので使いません。それにしてもSWEETリング欲しい。
 字数を上記の考えでやり通せずオーバーしたので、字数は気にしないことにします。なので一話一話の字数に酷いばらつきがあるかもですが、ご容赦ください。じゃまた!


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四話目

 写真部への入部が決まったけど、今日はカメラを持ってないからとりあえず帰ろうとしたら残りの部員3人とも顔合わせしておいた方がいいと止められたので、集まるまではアプリの麻雀でもしておこうと思ったら初の男子だからということで3人で雑談することに。というか男子の先輩いないのか…………。

 

 

「ところで、家のこともあると言ってたが、何かあるのかい?」

「え?あー、はい。と言っても、夕飯の支度くらいなんですけどね。両親は、忙しいときは朝まで帰ってこないんで」

「あ……そうだったのか」

「兄弟とかいないの?」

「いや、一人っ子だけど。まぁ、ペットの犬もいるし妹みたいな奴もいるし」

 

 

 確かあの子、来年は高校生だったっけ。ただ、最近は俺への対応がきつくなってるんだよなぁ、反抗期かな。

 

 

「ご両親の職業は?」

「父さんはカメラマンで、母さんは麻雀のプロです」

「それなら忙しいわよね〜」

「母さんは最近そうでもないけど」

 

 

 まぁ暇さえあれば雀荘巡りとか言って一週間も家空けてたときあったけど。しかも連絡付かないし。

 

 

「なんて言うか、自由人な感じね~」

「だが、そんなにも家を空けるなら連絡くらい入れるべきだと思うんだが」

「いいんですよ、もう慣れまし「おいっすー」」

「ん、あぁやっと来たか」

 

 

 話の途中で別の誰かが入ってきたようで、部長の反応からして他の部員だと解る。座ったままなのもなんなので立ち上がる。

 真っ先に入ってきたのは体育会系な感じの先輩だった。上着は腰の辺りで巻き付けてるし腕も捲っている。正岡とは正反対の人だな。次に入ってきたのは眼鏡を掛けた物静かそうな人とおっとりとした人だった。眼鏡の先輩は人見知りなのか、俺を見てビクビクしてる。おっとり先輩(多分、副部長だろう)はその様子を微笑ましく見てる。ストッパーとかはこの人の役目じゃないんだろうな。

 

 

「あれ?なんで男子?あ、解った!新入部員だな?あたしは日比野(ひびの)セイって言うんだ、よろしくなっ」

 

 

バシバシと自己紹介をしながら叩いてくる先ぱ――ちょ、痛いです痛いです。加減してください。

 

 

「セイ、そろそろ止めてやれ。すまない、火野君。ただセイに悪気はないんだ。怒らないでやってくれ」

「いや、怒ってませんけど」

「そうか、それはよかった。それじゃあ、改めて自己紹介させてもらおう。写真部部長、3年D組の間宮怜奈だ」

 

 

 あ、はい。よろしくお願いします。

 

 

「え、またやんの?まいいか。日比野セイ、レナと同じD組だ」

 

 

 レナ?………あぁ、部長のことですか、解りました。

 

 

「B組の、たきゃまっ…………うぅ、高町(たかまち)(すずな)、です……。よりょしきゅお願いしましゅっ」

 

 

 噛みすぎです噛みすぎです。あとそんな隅に行きながらしないでくださいどんだけ人見知りなんですか。

 

 

「副部長の月見原(つくみはら)(かすみ)よ。上から101・5じゅ「何を言おうとしてるんだ霞!」男の子だったら、知って嬉しいことよ?」

 

 

 副部長、聞かなかったことにするのでやめてください俺の精神上よくありません。

 

 

「1年A組の望月エレナよ~」

「知ってるよというかクラスメイトだろうがっ。……っと、すみません。望月と同じクラスの火野霞黒です」

「火野か。ヒーノ弟とクロチャー、どっちがいいかな?」

「え、何がですか?」

「あぁ、霞とセイがな、部員にはあだ名を付けると言ってて。わたしはレナで、エレナはモッチー、セイはヒーノで、菘はスズ。それと、霞はカスミンだ」

 

 

 あだ名って……普通に苗字で十分なんですけど。変なの付けられても困りますし。

 

 

「私と同じ字みたいだし、カスミン弟も、アリじゃないかしら?」

「カスミン先輩の弟になっちゃったら、禁断の姉弟愛になっちゃうわぁ~」

「いや、それはないだろさすがに。スズはなんかある?」

「えっと…く、黒りん………とか、どうかな……?」

「ふんふむ。男の子にあえてそんなあだ名を付けることで羞恥心をあおっていくってことね?」

「ち、ちがうよ~……!」

「スズちゃんの涙目!シャッター、チャーーンスっ!!永久保存よぉ!」

 

 

 

 

「部長はどうして写真部に?」

「んー、父が転勤族だったんでね。いつまでいられるか解らないから写真を撮ってたら、いつの間にかこの部を創設してたんだよ」

「あぁ、そうだったんですか」

 

 

 望月たち4人が俺のあだ名決めに熱中しだしたから、部長と2人で会話しておく。ちなみに今まで聞こえたあだ名の中なら、クロチャーが一番まともだ。黒りんはともかく、弟シリーズは論外だ。

 

 

「今までいたとこ、教えてもらっても?」

「あぁ。まずは長野だろ。それから、奈良、大阪、福岡、愛媛、島根、茨城。それで、ここに」

 

 

 なんだろう、別に何もおかしくない筈なのに部長の言った県が何か引っかかる。……いや、気のせいだろ。気のせいだ、うん。

 

 

「それより火野君。君は麻雀は出来るかな?」

「まぁ、出来ますけど。というか、ここ写真部ですよね?」

「ちゃんと活動はしているから、その辺は気にしないでくれ」

「だといいんですけど…」

 

 

 学園のホームページとかの写真は写真部によるものらしいし、機材もあるから一応ちゃんと活動はしてるんだよな。普段の活動は、ただ駄弁ってるだけかもしれないけど。まぁ、堅っ苦しいよりはマシだしいいか。

 

 

 

 

 

 今日の活動は結局下校時間まで駄弁るだけになり、写真部らしい活動は何もなかった。来週、再来週に歓迎会をするって言ってたけど、部活ってこんなものなんだろうか?

 それと、俺の部活内でのあだ名はクロチャーに決まったようだ。他には黒やんとかカグさんとかその他諸々が挙がったらしいけど、多数決でクロチャーになった。俺はカグさんでよかったんだけどな、そう呟いたら副部長に後ろから耳元で「カ・グ・さ・ん♪」って言われたけど…………あれはダメだ。一瞬部室が凍り付いた。他のあだ名にした場合も同じことをされて、唯一クロチャーだけはされなかったから、それに決まったとしか思えないけど。

 

 

「あれはびっくりしたわね~」

「あの人、Sだったんだな……。あの後も俺ばっかりからかってくるし」

「火野くんがいい反応してくれるかじゃない?」

「勘弁してほしいな、それ………。あ、俺こっちだから」

「えぇ、それじゃあ、また明日ぁ~」

 

 

 コンビニ前の交差点で望月と別れる。帰ったら今日のこと、母さんに話しておこうか。…………あ、麻雀部ないから帰宅部にするって言ってたのに写真部に入った理由、どう話そう。




 2週間ほど空きました、どうも、クロウズです。
 先週の日曜から昨日の土曜まで、火・木以外に学校+夜までバイト漬けになってたようで更新が全然でした。レジェジェ・・・・・・
 今回は部員集合みたいな感じになりましたね。部長はともかく、ほかの部員に関してはまたちょくちょく設定を加えたりしていきます。あと、部長が過ごしてきた県の選択には特に共通点はアリマセンヨ?ホントダヨ?
 今回はこの辺で。じゃまた!


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五話目

 写真部に入部してから約1ヶ月。部活内での唯一の男子部員という空気にもようやく慣れてきた。クラスメイトの望月は勿論、部長と日比野先輩とはすぐに打ち解けることが出来たし、高町先輩も最初は目を合わせてくれなかったけど今はそういったことも少なくなってきてる。一度ずっと見てたら涙目+真っ赤で逸らされたけど。あれは俺が悪かったから、反省してるけど。ただ、副部長のからかいだけは慣れない。からかいというか、セクハラに近いものもあるし………。

 

 

「ワン?」

「ん、ごめんシロ」

「ワンッ」

 

 

 散歩の途中だったの忘れてた。寂れた公園の砂場で遊んでいた愛犬のシロ(豆柴)が嬉しそうに尻尾を振って、全身に砂を付けて戻ってきたからその砂を軽く払ってやってからリードを付ける。

 シロは元々野良犬で、俺が小3の時に父さんに拾われた。曰く、「小さいし危険じゃなさそうだったから拾った」らしい。理由はあほらしかったけど、その頃は父さんも母さんも家にいないことが多かったから素直に嬉しかった。

 他の人や犬に吠えたりしない良い子だけど、どうしてか伏せとお座りが出来ない。いや、出来ないというより、伏せと言ったらお座り、お座りと言ったら伏せと逆になる。何とかならないかな…………。

 

 

「ま、とりあえず帰ろっか」

「ワンッ」

 

 

 と、シロは満足してるみたいだから公園を出て帰るだけなんだけど、

 

 

「帰ったら何しようかな…」

 

 

 世間ではゴールデンウィーク(最終日)だけど、連休中何かした記憶全然ないな。朝田をはじめ、男子とは予定つかなかったし、部活もなかったし。チャットで部長に聞いても、「ゴールデンウィークくらいは休みでいいだろう」って言うし。むしろこういう連休だから部活するんじゃないのか?それでモヤモヤしてたら倍満に振り込むし。

 初日は初日で、小野寺の漫画のスケッチ要員として漫研の部室に行けば、いきなり取り押さえられるし。「ちょうど火野君のような背格好をした子が主人公の漫画なんだよ~」とか言ってたから、スケッチされるくらいは別に良かった。でも、執事服を無理やりに着せるのはどうなんだよ、おい。写真を撮られたけど、すぐに奪い取ってデータは消し―――。

 

 

「きゃっ」

「っと?」

 

 

 曲がり角で人とぶつかってしまった。とっさに手を掴んだけど、俺も倒れそうな状態だったからか、俺が下敷きになる形で倒れる。………結構痛い。シロー、大丈夫かー?

 

 

「ワンッ」

 

 

 大丈夫そうだな、よかった。

 

 

「いたた…ありがとうござ―――――あら、火野くん?」

「え?………あ、も、望月?」

 

 

 ぶつかった相手は、まさかの望月だった。なんか、初めて会った時に似てるなこれ。いや、あの時は倒れなかったけど。

 それにしてもこの状況、非常に良くない。主に俺の理性に良くない。俺が下敷きになっているからだし、俺は仰向け、望月はうつ伏せ。これは良くない。こら、シロ。寝転んでるわけじゃないから顔を舐めに来るな。

 

 

「あー、望月。そろそろ退いてくれないか………?重くはないけど、色々と……」

「え?あぁ、そうねぇ」

 

 

 先に起き上った望月に手を引っ張られて俺も起き上る。

 

 

「大丈夫だったぁ?」

「まあ、一応な。望月は、怪我なかったか?」

「えぇ。火野くんのお陰でねぇ。………んー」

「?」

 

 

 急にどうしたんだ、望月?

 

 

「火野くんって、服の趣味変わってるわねぇ」

「…そうか?」

 

 

 今の格好は、シロの散歩用に着てるジャージの上下とTシャツくらいなんだけどな。

 

 

「そうよぉ。高校男子がワンちゃんTシャツなんて、変わってるわよぉ」

「……あー、これか。でもこれ、私服じゃなくて散歩用だからな?」

「そうなの?」

「さすがに私服で着る勇気はないよ。それより、朝からどこに行くんだ?」

 

 

 しかもこの辺通って。さっきの公園くらいしかないぞ。あ、でも望月なら被写体探しとか言いそうだな。でもまだ朝の8時なんだけどな。

 

 

「実はねぇ、火野くんのお家を探してたの」

「………………はい?」

 

 

 俺の家?何故に?

 

 

「ほらぁ、ゴールデンウィーク明けにテストがあるでしょ?その勉強会をしようかなって」

「へ?休み明けテスト?聞いてないぞそんなの」

 

 

 いつ連絡があったんだ?というか佐藤先生の連絡忘れじゃないのか?

 

 

「えー、ちゃんと言ってたわよぉ。もしかして火野くん、屋上に出てたんじゃない?」

「………否定できない」

「ね?それでぇ、どうかな?」

「家に来ることか……」

 

 

 別に見られて困るようなものはないし、断る理由もないんだけど。でもなぁ……母さんいるし、話聞かずに勘違いしそうなんだよなぁ、雀荘に行ってきてくれないかな。

 

 

「火野くん?」

「いや、俺ん家は……」

「…………だめ?」

「だめ…………じゃないです、はい」

 

 

 駄目だ、押しに弱すぎるだろ俺。押しというか上目遣いに。写真部の時もこうだったけど、まさか流されやすい奴なのか、俺は?確か父さんも頼まれたら基本断らない性格だとか言ってたっけ……。

 どうにしろ、望月が来ることを承諾したからには諦めるしかないか……………はぁ。どうにでもなれ。




一ヶ月以上かかった……どうもクロウズです。
バイト・学校・自動車教習所の三種に襲われてなかなか更新できませんでした、ごめんなさい。次回はそこまで間を空けないようにしたいです。


じゃまた!


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六話目

 望月が家に来ることになった。休み明けテスト対策として勉強しに。

 

 

 

 

 ………………どうしよう。

 いや、見られて困るっていうものは部屋に置いてたりしてないけど。それでも、部活で一緒にいるとはいえ、同年代の女子を家に呼んだことなんて一度もない俺としては戸惑いしかない。しかもこいつ、ガード緩いところあるから2人だと気まずいというか、目のやり場にも困る。学校でもボタン開けて若干はだけてるし。

 隣を歩く望月を見てみると、いつの間にかシロを抱っこしてた。人懐っこいいい子だけど、初対面の人に抱っこされるとき、びくびくするんだけどな。引っ張られなかったってことはすんなり抱っこされたんだよな、珍しい。

 

 

「この子かわいいわねぇ~」

「キュ~ン」

「よしよし~」

 

 

 すっごい撫でてる。ここまでされるがままのシロは珍しい。あの2人や俺でも、シロに逃げられずにあそこまで撫でたことないのに。

 

 

「望月って、犬好きなのか?」

 

 

 こんなに撫でてるから、嫌いじゃないのは確かだろ。

 

 

「え?うん、好きよぉ」

「ま、じゃないとそんなに撫でないよな。……っと、望月。着いたぞー」

「あ、うん。あれ、ここって……」

「?どうかしたか?」

 

 

 家を前にして首をかしげている。何の変哲もない、一般的な家だぞ。隣には立派な和風の家あるけど。

 

 

「火野くんの家、ここだったのねぇ~。実はぁ、探してるときにここの前通ってたのよぉ~」

「あぁ、そういうことか。あ、悪いけどシロそのまま抱っこしてもらってていいか?足裏拭くから」

「は~い」

 

 

 家に入る前に、用意してたタオルでシロの足裏を拭いていく。ん、爪伸びて来てるな。また切らないと。

 

 

ガチャッ

「あれ、霞黒君今帰ったのー?」

 

 

 げ。

 

 

「あれ?あれあれあれあれ誰誰誰誰この子彼女?彼女なの!?彼女なんでしょ!このおっぱい星人!!」

「違う違う違うから落ち着け落ち着いてくれあとさらっと変なこと言うなそっちも違うから!」

 

 

 望月もびっくりしてるだろっ。

 

 

「えっと、この子って火野くんの妹さん?」

「いや、母さん」

「………え?」

「ちっこいけど、これ俺の母さん」

「史上最小のプロ雀士、火野美影(みかげ)でーす」

 

 

 いや、確かに母さんの身長140だけどさ、その自己紹介はどうなんだ?

 

 

「あ、望月エレナです」

「エレナちゃんね。で、霞黒君とは付き合ってないの?」

「い、いえ、火野くんとはただのクラスメイトで部活仲間です。付き合うとか、そんな」

「そう?家事は一通りできるし、結構優良物件になるけど」

「あーはいはいもういいから。今日はこいつと勉強しなきゃいけなくなったから、その話は終り終り」

 

 

 このまま放置してたら母さん暴走する危険あるし。というわけで、話が長引く前に望月の背中を押して家に上げる。

 部屋の前に望月を少し待たせて、着替えを済ませる。さっきまで着てたのは散歩用だし、私服はもう少しまともなやつだ。

 

 

「火野くーん、もう終ったぁ~?」

「ん、あぁ。入っていいぞ」

「お邪魔しま~す。…………へぇ~、火野くんの部屋ってこんな感じなのねぇ~」

 

 

 部屋に入ってきた望月は、まぁ予想通りというか、まず部屋の中を見回した。そんなに珍しいものはないと思うけどな。

 

 

「賞とかないの?」

「写真の方も麻雀の方も、結局は趣味だったからな。そういうのはまったく」

「ふぅん」

「そんなことより、勉強だろ?」

 

 

 テストは国数英らしいから、英語を重点的に勉強する。しかも、望月の得意教科は英語らしいからちょうど良かった。国語は簡単だし数学は大体できるけど、英語がどうも弱いんだよな。

 

 

「英語は、翻訳がたまに難しいのよねぇ~。あ、そこのスペル間違えてるわよぉ?」

「たまにどころじゃないんだけど……。で、どこ………あぁ、ここか」

「結構間違えやすいから気を付けてね?」

「うす」

 

 

 授業で出た文法の穴埋めや日本語の英訳を望月が出して俺が解く形で、数時間勉強し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 休憩中。

 

 

「あー………疲れた…………」

 

 

 休みボケのせいで頭が痛い。

 

 

「でも今のうちにしておいて良かったでしょう?今日のこれがなかったら、火野くんテスト中にそうなってるわよ?」

「う………っ」

 

 

 頭だけじゃなくて耳も痛い。実際その通りになることは想像ついたからなんか悔しい。いつもは息荒くしながら女子を追い掛け回してるくせに……。

 

 

コンコン

「失礼するぞ」

 

 

 望月の言葉に傷心中だったら、家の人間ならしないノックをして、着物を着た市松人形みたいな子が入ってきた。お茶を持ってきてるからお茶運び人形みたいだ。

 

 

「むっ……今失礼なこと言わなかったか?」

「言ってない。それより、ありがとう鈴ちゃん」

「そ、その呼び方は止めるよう言っただろ!?」

「まあまあ。あ、望月。この子幼馴染の鈴ちゃん」

「………不知火(しらぬい)五十鈴(いすず)だ。黒に――火野が世話になってるな」

「火野くんのクラスメイトの望月エレナよぉ、よろしくね~」

 

 

 俺と望月の前にお茶を置く鈴ちゃん。そのまま出ていくかと思ったけど、俺の上家に座る。なんか妙にそわそわしてるのは何でだろ?

 

 

「火野くんにこんなかわいい幼馴染がいたなんてねぇ~。ねぇ、写真撮らせてもらってもいい?」

「別に構わないが」

 

 

 鈴ちゃんが頷くや否や、愛用のカメラで色々な角度から撮り始める。望月は相手が市松人形みたいに小さ「小さいって言うな!」痛っ!?

 

 

「わ~お、着物から繰り出される見事なおみ足、もといローキック」

「鈴ちゃ……着物姿で、ローキックは………」

「うるさい、黒兄が小さいって言うからだ!」

 

 

 久しぶりに黒兄って呼んでもらったけど、ローキックの痛みでそれどころじゃない。うっ、足が………正座しっぱなしだったのもあったからいつもより痛い……。

 

 

「ふん、失礼するからなっ」

 

 

 怒って鈴ちゃんは出ていく。……あー、後で謝らなきゃ。

 

 

「いてて……。ごめん望月、騒がしいとこ見せた」

「私は気にしないけど。それにしても、かわいい幼馴染さんだったわねぇ」

「まぁ、妹みたいなもんだし」

「だから黒兄って呼ばれてたのねぇ」

 

 

 最近じゃ苗字で呼ばれることが多くてちょっと寂しいけどな。

 それから昼飯は家で食べて、休憩が終ってからは今度は望月の勉強を俺が見る形になった。けど途中で鈴ちゃんの話になって、アルバムを見せることになったり、勉強会は途中から俺の昔話になってた。写真を見せてるときは、幼い頃の鈴ちゃんともう1人の幼馴染を見て息が荒くなってたことには無視した。もうだめだこいつ。




 勉強……うっ、頭が…………。どうも、クロウズです。
 六話目にて火野母こと美影さん出ました。小さいです。昔からですので、火野父はロリコン(仮)だと思います。
 幼馴染に関しては、四人ほど候補があった中、友人と相談した結果五十鈴こと鈴ちゃんに決まりました。市松人形なお茶運び人形です。いいよね、着物。もう1人の幼馴染は、聖櫻学園生徒の方ならすぐに解るあの子です。



 次は人物紹介とか書いておこうかなと思います。じゃまた!


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七話目

キーンコーンカーンコーン

「はい、テストはこれでおしまいですね。お疲れ様」

 

 

 終業のチャイムが鳴って、休み明けテストが無事終った。問題は難しかったわけじゃないけど、あの時の望月との勉強会がなかったら苦戦してただろうな。

 

 

「ふー、終った………」

「よぉ、だいぶ疲れてるな」

「……あー?なんだ南か」

 

 

 机に突っ伏してたらいつものように南がやってきて、その後に朝田がやってくる。これはいつものこと。2人とも弁当(南はパン)を持ってきて広げる。テストだけだから午前で終りだけど、部活のある生徒は弁当持参が多い。ただ、この2人は帰宅部のはずだよな。

 

 

「なんだってなんだよ。今日テストがあること教えてやっただろ?」

「今朝な。しかもふざけた画像付きでな」

「何やってるのさ雅人……」

 

 

 昨日望月に教えてもらってたからほんと良かったよ。あまり勉強してなかった気もするけど。まあいいか。いただきま「火野くーん」………今度は誰ぞ。

 

 

「君にお客さん来てんよ、お客さん」

 

 

 クラスメイトに呼ばれて席を立って向かう。はて、俺に用事のある物好きな他クラスの知り合いなんていただろうか。それとも母さんか?なんだ、俺は忘れ物はしてないはずだし。

 そう思っていたら、現在知ってる中で一番敵に回したくない月見原先輩だった。俺何かしたっけ?

 

 

「えっと、おはようございます先輩……」

 

 

 警戒しながら話しかけると、先輩は笑顔を見せて

 

 

「えぇ、おはよう。カ・グ・さん♪」

 

 

 教室にいる残り少ないクラスメイトに聞こえる声量で、密着しながら言ってきた。教室は凍り付いた。テロリストに爆弾を投げ込まれた気分だ。

 

 

「………あの、先輩?」

「ん?何かしら?」

 

 

 震え声になりながら先輩を見ると、わざとらしく笑顔で首を傾げる。一瞬でも可愛いと思った自分をとりあえず殴りたい。いや、それよりもと教室を見回す。変な誤解されたら困るっつーか辛い。

 

 

「お前、いつの間にそんな美人さんと」

「部活の先輩だ」

「先輩と部活を通して芽生える恋。いつかのネタに使えるかな」

「止めろ小野寺っ」

「ひどいわ火野くん!私というものがありながら、カスミン先輩にも手を出してるなんて!」

「お前は何を言ってるんだ望月!」

 

 

 変な悪ノリするな!周りの視線が辛いから!

 

 

「あら、カグさん。わたしだけじゃなくてエレナちゃんにまで手を出したの?」

「もう止めてください先輩!!」

 

 

 とっくに俺のライフはゼロです!くそっ、今日は厄日か!

 

 

「……で、何の用ですか先輩」

 

 

 周りはこの際無視して、わざわざ1年の教室に来た理由を聞くことにする。でも本当に何の用だろう。部活の連絡ならメールとかで十分だろうに。

 

 

「カグさんは、お昼もう食べた?」

「いえ、まだですけど」

 

 

 食べようとしたら先輩が来たからまだ手つかずだ。ていうか、俺のあだ名ってクロチャーじゃなかったか?いや、カグさんでも良かったって言ったけどさ。

 

 

「なら良かったわ。今日は部員のみんなで食べないかってレナちゃんがね」

「あぁ、そうでしたか」

「で、どうせならカグさんをからかおうと思ってエレナちゃんに言ったらさっきのように」

「あれお前の所為か望月!」

 

 

 頭を抱えたくなった。というか抱えた。頭が痛ぇ。

 どうして昼食を摂ろうとしただけでここまで疲弊しないといけなかったのか解らない。ともあれ、俺は先輩と望月と一緒に部室へ向かう。南と朝田には悪いけど、昼はまた明日以降になるかな。

 

 

「ごめんねぇ、火野くん」

「謝るなら明日誤解解くの手伝えよ?というか謝るならやるな」

 

 

 幸い、クラスにいたのは少数だし朝田辺りは理解してるだろうからまだマシだと思う。月見原先輩が何もしないのが一番だけど。無理だろうけど。

 

 

「わたしも謝らなきゃね。ごめんなさいカグさん。お詫びに何でも言うこと一つ聞くわ」

「後が怖いんでいいです」

「胸を触るくらいなら、許してあげるわよ?」

「やめてください死んでしまいます」

 

 

 社会的に。廊下で厄介なこと口走るこの人どうにかしてほしい。

 と、(俺の精神を削っていく)会話をしながら部室に着き、早いとこ入る。部長か日比野先輩がいれば、少なくともこの2人しかいない時よりは落ち着ける。高町先輩?あの人は俺以上にいじられるから駄目だろ。というかあの人いまだ俺と目を合わせて会話してくれないし。人見知りでも、もうすぐ1ヶ月経つんだから慣れてほしいもんだ。

 

 

「お疲れ様でーす」

「お、クロチャーおつかれー」

「お…おつかれさま………」

「ただいま。セイちゃん、先に食べ始めたりしてない?」

「してないから」

 

 

 部長の姿は見えないけど、2人の先輩は既にいた。

 

 

「あら、レナちゃんは?」

「ん?レナなら、もう来ると思うぞ」

「おや、もう来てたのか」

 

 

 すぐに、手にカップ焼きそばを持った部長もやってきた。しかしカップ焼きそばですか。学校へ持ってくる人初めて見ましたよ。

 

 

「それじゃあ、食べようか。あ、セイはちゃんと待ってたよな?」

「あたしは犬かなんかか」

 

 

 部長にも言われてるよ………信用ないな、日比野先輩。

 

 

「はは、すまない。それじゃあ、いただきます」

「「「「いただきます」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「クロチャーたまごやき貰うなー」

「あ゛!?ちょ、先輩!たまごやきだけは取らないでください!」

「いーじゃん一個くらい。…お、結構甘いな」

「スズちゃん、それだけで足りるのぉ?よかったら私の唐揚げいかが?」

「じゃあ…一つだけ……」

「カグさん、カグさんの大きなソーセージもらっていい?」

「これウインナーです」

「火野君。キャベツいるかい?」

「芯の部分が美味しくないからって俺に押し付けないで下さ――日比野先輩またたまごやき取りましたね!?」

 

 

 食べ始めてから数分で騒がしくなった。あいつらと食べてるときでもここまで騒がしくないのに。

 しかも俺の弁当からたまごやきが奪われていく。程いい甘さのたまごやきが。日比野先輩に。おかず交換ならいいけど、先輩のは『特盛!スタミナ弁当DX』とかいう、胃にダメージが大きそうな弁当で交換のしようがなかった。どこのスーパーで買ったんだろうか。

 月見原先輩はウインナーを取る代わりにサンドイッチをくれたけど、何故か食べさせようとする。やめてください死んでしまいます。望月、笑ってないで助けてくれ。

 

 

「あぁそうだ。今度の休日、ちょっと遠出しないかい?写真部らしく、春を連想させるものを撮りに」

「いいんじゃない?わたしは賛成よ」

「いいですけど、写真部らしくって………」

 

 

 この昼食会?は、その休日のことを決めるためでもあったらしい。普段の活動が活動だから、確かにたまには写真部らしい活動しないとな。たまにじゃない、普段からするべきだろ。

 最初は、部長の知り合いが経営してる宿に一泊する予定だったらしいけど、いくらなんでも男の俺もいるし、万が一問題が起きたら(そんな気はないけど)迷惑がかかるからと説得して日帰りにしてもらった。ただでさえ月見原先輩はからってくるし、望月と部長はガード緩いし。とにかく日帰りにしてもらうのは確定で、あとはそれぞれの親御さんが許してくれるかどうかで話は一度区切り、食べ終ってからは、いつも通りの部活動をした。

 春を連想させるものか。良さそうなのが撮れたら、鈴ちゃんと春ちゃんにも送ろうかな。




 1ヶ月も間をあけてしまいました、クロウズですごめんなさい。
 最近、なかなかうまくいかず書いては消し書いては消しを繰り返し、ここまで伸びてしまいました。その間、ガールフレンドのDVDを買って何度も観たり特典CDを何度も聴いたりしてました。
 次回はもう少し早く更新したいです。


じゃまた


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八話目

「夏だなぁ」

 

 

 夏といっても、6月の上旬だけど。

 この前(といってももう先月の話になるけど)言ってた写真部らしい活動は、結局全員の予定が合わずに見送りになった。なら次の週でと考えたけど、中間試験の期間になってたから部活は出来ずじまい。そのせいで本来の狙いだった春を連想させるものは夏を連想させるものに変わって、昨日行ってきた。街中じゃつまらないから山のほうにまで行って。なんで山だったのか。

 

 

 

――――――

 

 

「クロチャー、どっちが多くサケを捕れるか勝負だ!」

「いや、確かにこの時期夏っぽいものなかなか見ませんけど、なんでサケっていうかサケは秋ですからちょ、引っ張らないでくださいこの辺苔多いから待ってくださいこれ防水じゃないんでだから引っ張ら―――のわああああ!?」

「あっはっはっは!クロチャーなに足滑らせてんにょわあ!?」

「あわわ……クロチャー君に続いてヒーノちゃんも落ちちゃった………」

「あらあら。2人とも元気ね」

「落ちたところでシャッター切ったら、いい画が撮れたわぁ」

「6月ならまだ水も冷たいだろうに……じゃない!早く2人を引き上げるぞ!」

 

 

――――――

 

 

 

 カメラは無事だったけど全身ずぶ濡れ。替えの服なんかあるわけないし、先輩達がいたから脱ぐに脱げなかったし。それでも風邪を引かなかったのは不幸中の幸いか。

 

 

「今度からは、着替え必須だな………」

「災難でしたね~」

「まぁね。って、春ちゃん起きてたの?」

「はい、ついさっき~」

 

 

 膝に座らせていたもう1人の幼馴染、夢前(ゆめさき)春瑚(はるこ)こと春ちゃんが眠そうに目をこすっている。

 春ちゃんは俺の2歳下で、親父さんは結構有名な植物学者らしく家には色んな植物がある。あれはちょっとした植物園だと思う。その影響か、春ちゃんは植物に対して深い愛情を持ってる。その代わり、人付き合いはそこまでよくない。親以外でとなると、俺や鈴ちゃんとこの家族くらいだ。

 

 

「んぅ…おにーさん、頭撫でてもらっていいですか~?」

「ん、いいよ」

「ん……♪」

 

 

 まだ寝ぼけてる春ちゃんの頭を撫でながら、綺麗な金髪を手櫛で梳いてやる。こういうのは鈴ちゃんの方が上手だけど、あいにく今日はいない。確か、華道の何かだったか。それにしても、春ちゃんはまだ兄呼びしてくれるんだよなぁ。というか鈴ちゃんの反抗期的な態度が最初は結構キてたから、春ちゃんにまであんな態度を取られたら心折れそうてか折れる。だから春ちゃんにはいつまでも素直な子でいてほしい。

 部活もないことだし、今日はこのまま春ちゃんを撫でてようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 数日経ったある日の放課後、いつも通り望月と一緒に部室に向かう。俺は1人で行ってもいいんだけど、一度そうしたら、こいつだけなかなか部室に来なかった。探してみたら、鼻息荒くして女子生徒追ってたっけ……。あれ以来、なるべくこいつから目を離さないようにすることにしてる。部活の時だけだけど。

 

 

「はぁ………」

「あら、ため息なんて吐いてどうしちゃったの?」

「…ん?お前のことでちょっとな……」

「?」

 

 

 小首傾げるな、かわいいなおい。まぁ説明するのもダルいし、適当ににごす。望月も追及してこないし。

 

 

「お疲れ様でーす」

「すみません、掃除当番で遅れました」

 

 

 部室に入ると、先輩達はみんないた。けど、今日はいつもと少し違ってた。いつもならみんなソファに座ってお茶を飲んでるくらいなのに、今日は備品の点検でもしてたのか、何かしら作業中だった。テーブルの上にはお茶の代わりに分解されたカメラがあった。……ん?分解されてる?

 

 

「お?モッチーとクロチャー来てたのか」

「ついさっきですが」

「珍しいですねぇ、備品の点検なんて」

 

 

 俺達に最初に気付いた日比野先輩が作業を止めてこっちに来る。他の先輩達も気付いて挨拶はしてくれたけど、作業したままだ。何で今日に限ってこんなことしてるのか解らないから、日比野先輩に聞いてみた。

 

 

「あぁほら、もうすぐ球技大会あるからさ。一応写真部なんだし、こういった行事の時はこれらちゃんと使わなきゃだろ?」

「そういえば、そうだったわねぇ」

「え、球技大会?俺聞いてないですけど」

「……火野くん、ここ最近の体育サボってたわねぇ?」

「はぁ!?体育サボるとか何考えてんだクロチャー!お前それでも男子か!?」

 

 

 男子ですよいきなり肩掴みかからないでください。それに俺運動そこまで好きじゃありませんし、景色撮りに行く以外は基本麻雀漬けでしたし。

 

 

「だったら、球技大会での主な撮影係はクロチャーな。あ、言っとくけど拒否権はなしだからなっ」

「まぁ、それで構いませんけど」

 

 

 でも、俺体育そんなサボってたっけか?確かにテスト直後のはサボったけど、それ以降はサボってないし、球技大会のこととかの話も、あいつらしなかったし。それとも俺が覚えてないだけなのか?……うーん、まぁいいか。その辺は明日辺りに回して、部長達の手伝いでもするか。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに球技大会のこととかは、テスト前の授業で決めたらしい。その時の俺は風邪で欠席。しかも連絡で電話取ったのは俺じゃなくて春ちゃん。しかも春ちゃんは看病に専念してたから伝えること忘れてたらしかった。春ちゃんらしいけど、せめて書置きしておいてほしかったかも。




 お疲れ様です、クロウズです。
 先月末にDVDのVol.2を買って、妄想♡モーションを聴きながら書いてました。エレナらしい曲でしたよ、はい。結構気に入りました。
 次回はどうしようか。さすがに2年生編に飛ぶのはちょっとアレですかね?




 では今日はこの辺で。じゃまた。


人物紹介に〈夢前春瑚〉を追加します


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九話目

ザザーン ザザーン

 

 聞こえるのは波の音。空には煌々と照り付ける太陽。足元はその太陽で熱せられた砂浜。現在俺がいるのは、誰でも解る通りとある海。8月半ばに、写真部で小旅行としてやってきたのだ。しかも、春ちゃんと鈴ちゃんも一緒で、父さん母さんが引率で。どうも数日間仕事がなくて暇だし、大人同伴じゃないと駄目だとのことで、部長の親が引率の予定だったけど急な用事ができて代わりに母さんが名乗り出た。

 この小旅行の案自体は、宿題はとっくに済んでるし、部活以外やることがまったくなかったから別にいいんだけどさ。なんで海なのかなぁと思うわけですよ、泳げないから。もう着いてるんだから文句を言っても仕方ないけどさ………。

 

 

「……そういえば、やっぱりみんな水着なんだよな」

 

 

 そりゃ俺も健全な男子だし、そういうのには興味あるよ。移動中、先輩達が今日の為に新調したとか言ってたし。なるべく聞かないようにしてたけど、やっぱり気になってしまうものだ。

 と、そんなことより、先に出てきたんだからシートの準備とかしなきゃ。それにしても、そこまで人いないな。シーズン真っ只中だからもっと混んでると思ったけど。

 

 

「おーう、ここにいたか霞黒」

「父さん遅い。何してたんだ?」

 

 

 シートを広げてパラソルを立ててると、片手に2つずつビーチチェアだっけ?を持ってきた父さん。シートが飛ばないようにクーラーボックスを置いて固定して、ビーチチェアを2つ受け取る。

 

 

「いやなに、母さんにサンオイル塗ってたんだよ」

「塗ってたって。こっちに来た時で良かったじゃん」

「俺がここで塗ってるのを、何も知らない人に見られたらな?最悪通報されるだろ」

「あぁ……納得」

 

 

 そうだな、母さん140だし父さん180越えだもんな。

 

 

「それより霞黒。お前、あの中で本命はいるのか?」

「いない」

「隠さなくていいんだぞ?俺とお前しかいないんだ」

「いないって」

 

 

 そんな話をしながら準備を済ませる。と、

 

 

 

 

「おい見ろ、あのグループ」

「すげぇ……レベル高いのばかりじゃんか」

「なにあの胸………分けてほしいわ」

「中々のプロポーション、すばらですねっ」

 

 

 

 

「なんか、向こうの方騒がしいな」

「あの子達が来たんだろ。ほら」

 

 

 父さんに言われて見ると、水着姿の女性陣がやってきた。さっき聞こえた通り、みんなレベルが高いからそれぞれ似合ってる。ただ、一つ気になるのは、

 

 

「なんで母さんはスク水なんだ?」

 

 

 しかも、違和感なし。

 

 

「海とか行く機会少なかったし、トキさんも似合ってるって言ってくれたからね」

「父さん……」

「ん?似合ってるだろ?」

 

 

 そうだけどさ……。でも、せめて別の勧めてやれよ。

 

 

「カ・グ・さん♪」

「はい?…………って!?」

 

 

 振り向いたら、月見原先輩がだいぶ近かった。しかも、布面積の小さいタイプの黒いビキニだった。この人のスタイルでこれはやばいんじゃないだろうか。

 

 

「どうかしら、これ?マイクロビキニっていうんだけど。攻めすぎかしら?」

「ですね………でもまぁ、似合ってますよ。ですが、もうちょっと隠すなりしてください」

「ふふ、そう言うと思ってたから、パレオ巻いてるわよ」

 

 

 距離を取って、その場でくるりと回る。それに合わせてパレオがふわりと浮く。確かに巻いてるけど、腰にじゃないですか。いや、パレオってそういうものだけどさ。

 

 

「霞、そう火野君をいじめてやるな」

「ありがとうございます、部長……」

「ん、どういたしまして。……それで、どうかな?」

 

 

 部長はフェイクボタン付の、シアンのチューブトップだ。部長って黒とか紺みたいな色の方が似合うんじゃないかと思ってたけど、こっちの方が似合うな。

 

 

「そうですね、綺麗ですし、似合ってますよ」

「そ、そうか?実は、霞とエレナに流されて買ってしまったものなんだが、そっか、似合うか……」

 

 

 顔を赤らめつつも、嬉しそうな部長。というか何してんだあの2人。

 部長が離れていくと、今度は春ちゃんと鈴ちゃんが来た。って、これ全員分感想言わないと駄目なのか?2人の格好はワンピース水着だった。春ちゃんは黄緑色で、鈴ちゃんは紺色。さらに2人とも麦わら帽子を被っている。

 

 

「どうですか、おにーさん。似合ってますかね~?」

「うん。春ちゃんも鈴ちゃんも似合ってるよ」

「えへへ、嬉しいですね~」

「ま、まあ、火野からとはいえ、そう言われて悪い気はしないなっ」

 

 

 素直に喜んでくれる春ちゃんと、その逆に素直じゃない鈴ちゃん。昔はもう少し素直だったのにな。

 

 

「こーら、せっかく褒めてもらってんだから、素直に喜びなって」

「うにゃ!?や、やめろ頭を撫でるな!」

「うわっ、びっくりした……」

 

 

 そんな鈴ちゃんを、日比野先輩がいきなり現れてぐりぐりと頭を撫でる。いつの間にそこに。

 日比野先輩は競泳水着という、こういう時に着る類じゃないだろうものだった。まぁ、運動好きな先輩らしいといえばらしいか。後ろに隠れてる高町先輩は、タンキニっていうやつだっけ。

 

 

「日比野先輩は、動きやすさ重視ですか?」

「そりゃ、海に来たら思いっきり泳ぎたいからな。クロチャーはどうなんだ?」

「先輩らしいっすね。あ、俺は泳げないんで」

「へぇ、かなづちなんだ。あ、スズの水着どうだ?可愛いだろ?」

「ひゃっ、ひ、ヒーノちゃん…!」

「そうですね、確かに可愛いですね。高町先輩の性格とは逆の、活発な感じとのギャップになるんですかね?」

「かわ……!」

 

 

 うお、高町先輩が真っ赤になってる。そんなに男に可愛いって言われ慣れてないのか?

 

 

「あ、あわわわわわわ……」

「あー、ごめんクロチャー。ちょっとスズ冷まさせてくる」

「はぁ…」

 

 

 あわあわ言う高町先輩を連れて行くのを見送ってから、泳げない俺は、泳ぐのが苦手な春ちゃん、鈴ちゃんと一緒にシートに座る。そういえば、望月がいないな。

 

 

「どうしました~?」

「望月がいなくてさ。どこ行ったんだろって」

「………黒兄、最近の話はあの人ばかりだな」

「ん?鈴ちゃん何か言った?」

「別に………」

 

 

 なんだ、急に不機嫌になって。俺、何かしたかな?…………駄目だ、解らん。まぁ、こういう時は、

 

 

「よっと」

「うにゃっ!?」

 

 

 膝に乗せたら直るんだけどな、基本的に。

 

 

「何をする、降ろせ!」

「はいはい、暴れない暴れない。あ、春ちゃんも後で座るか?」

「そうですね、ぜひお願いします~」

「いいわねぇ、私も後でいいかしらぁ?」

「いいぞ……って、望月!?」

 

 

 びっくりした……しれっと混ざるなよ心臓に悪いな。どこに行ってたのか聞こうと思ったけど、カメラを持ってることから他の人達を撮りに行ったんだろうな。そんな望月は縞模様のある、紅紫色のビキニだった。髪のリボンもそうだけど、紫好きなのかな。

 

 

「で、座らせてくれるの?」

「そんなわけあるか。とりあえず、似合ってるぞ。色とかも、普段の雰囲気と合ってる感じだし」

「そう?ふふ、ありがと~」

 

 

 そう笑って、隣に座る。そしたら鈴ちゃんがまた不機嫌になった。何故だ。

 

 

「………ふん」

「五十鈴ちゃん、どうしました~?」

「何でもない……」

「はは~ん、そういうこと」

「どうした望月?」

「ん~?ヒ・ミ・ツ♪」

 

 

 何かに気付いた様子だけど、これは教える気ゼロかな。気になるけど、いいか、別に。

 

 

 

 

 

 この後、俺達泳げない組+望月で砂遊びをしたり、何故かその過程で俺が作った麻雀牌と雀卓を使って部長、母さん、近くにいた人と炎天下麻雀(東1局のみ)をしたり、日比野先輩のサーブで雀卓が破壊されてそのままビーチバレーになったり、その時に部長の水着がズレて脱げそうになったり(その瞬間に俺は望月に目隠しされた)、ナンパ男除けに俺を使って、5股と疑われたりと、とりあえず濃い1日となった。今月分の体力全部消費したかもしれない。

 いや、月末はあの戦場で撮影しに行くけどね。また新作コスを作るって言ってたし。あー、それにしても疲れた。帰ったらシロと軽く戯れてから寝るか。




 どんなアングル好き?妄想全開ね。どうも、クロウズです。
 今回はパッと思いついた海ネタでした。エレナの格好はガルフレマガジン#2、他の方はpixiv等を参照してください。
 ポロリ展開を期待された方、もしいらしたらごめんなさい。その辺りも詳しく書いていたら恐らくさらにグダりそうになってしまいそうだったのでカットさせていただきました。おまけ的なのを書くことになれば、そこに書くと思うので今は妄想全開で脳内保管(変換?)してください。
 最後の新作コスの人は、ご存知アスミス声のトムトムなミッチーです。


 次は何にしようか。じゃまた



 人物紹介に〈火野秋斗(ときと)〉を追加します


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十話目

 夏休みも終って、9月の半ば。6日には俺の誕生日があったけど、今更誕生日で喜ぶのは難しかった。これでバイクの免許取りに行けるけど。

 

 

「て言っても、来月からなんだよな……教習所」

「それじゃあ、火野さんも16歳なんですね」

「6日になったばっかりだけどな。正岡はいつなんだ?」

「わたしは9日です。火野さんの3日後ですよ」

「へぇ、意外と近かったんだな」

 

 

 今は家庭科室でミシンを借り、保健室から正岡を拾って教室に戻る途中。もうすぐある櫻花祭での衣装作りに使ってたミシンが一つ不調になったから、ついでに正岡の採寸もしたいからと俺が駆り出された。内装の買い出しが終って戻ろうとした途端にこれだもんなぁ。

 うちのクラスは望月を筆頭に半数(主に男子)がメイド喫茶を提案したようだけど、全員メイドだけだとつまらない、男子が制服のままになりそう、などの理由からコスプレ喫茶になったらしい。らしいの理由は、当然俺はその時教室からばっくれてたからだ。どうせ部活であちこちの写真を撮りにいかないとだろうし。

 

 

「それにしても、コスプレは…恥ずかしいですね……」

「喫茶店だからな、料理担当とかならしなくていいんじゃないか?それより、そっち重くないか?やっぱり俺が持とうか?」

「大丈夫です。今までお手伝いできなかったので、これくらいは………」

 

 

 そうは言ってもな。さっきからちょくちょく揺れてて気が気じゃないんだよな。

 

 

「今日は、体調が良いので大丈夫です…けほっ」

「言ってるそばから咳こんでるし………」

 

 

 でも教室に着いたか。うーん、一応は大丈夫そうか。

 

 

「ミシンと正岡持ってきたぞー」

「あいよー、その辺に置いといてー」

「あの、わたしは物じゃありませんよ………?」

 

 

 悪い悪い、誰もお荷物だとか思ってないから。それじゃ、後は任せた。

 

 

「あー、ちょい待った火野君」

「なんだ小野寺。俺は今から帰って誰もいない家でシロの世話をしないと」

「お前の採寸も残ってるんだよ、ばっくれたり買い出しでいなくなるから」

「1人だけ逃げようったって、そうはいくか」

「いや、どうせ俺部活の方が………うおっ、なんだお前ら!?離せ!俺は火野だぞ!!」

 

 

 クラスメイト数人に拘束されて、抵抗むなしく教室の隅に連れて行かれる。いや、レンタルだけどもコスプレ自体は慣れてる、慣れてるんだけども!

 

 

「小野寺!あの時の執事服はどうした!俺のはあれで十分だろ!?」

「いやぁ、あれ火野君には少し大きかったし。あと、うちの宣伝になるから強制的に執事服だからね」

「どっちの宣伝だ!このクラスのか、それともお前の漫画か!?」

「もち、どっちも」

「はいはぁい、諦めて採寸されてねぇ~」

 

 

 やめろー!〇ョッカー!ぶっ飛ばすぞー!

 と、口ではそう言うものの長引かせたくはないので素直に受ける。それにしてもこいつ、ほんと胸んとこどうにかしてくれないかな……見ないようにするこっちの事も考えてほしい。

 

 

「んー、やっぱり火野くんは細いわねー」

「無駄に太ってるよりマシだろ……」

「それもそうね~。はい、いいわよぉ~」

 

 

 それじゃ、採寸も済んだんだし俺は帰る。部活もないし。

 

 

 

 

 

 

 

―――――それから数日後。

 

 

 櫻花祭当日の今日、準備のため教室で着替えを済ませた俺達男子は、中で着替え中の女子を待つ間廊下で待機している。

 

 

「うーむ………」

「どうしたの、火野くん。さっきから唸って」

「この格好、やっぱり落ち着かないんだよ」

「そうか?オレはこういうのも良いと思うんだけど」

「俺も好きだけどなぁ」

「………」

 

 

 もしあの時、小野寺の生贄が俺じゃなくてこいつらだったら、今と同じ発言はなかっただろうな。ただ執事服を着せられるだけじゃなく、そのまま執事らしいことをやらされまくった。その所為でこの格好だと動いてないと落ち着かない。誰かに仕えたい。そんな衝動に駆られる。そんな俺の衣装は、小野寺が言った通りもちろん執事服だ。

 別の意味でそわそわしてると、男子の何人かがドアに耳を当てて中の様子を知ろうとしてた。一応聞くが、何してんだ?

 

 

「望月さんみたいな人がいるんだから、女同士のアレなことが起きててもおかしくないだろ?」

「今まさにそんな風になってるしね」

 

 

『ぐふふ、いいわいいわぁ~!』

『も、望月さん……』

『あ~、文緒ちゃんの照れ顔いいわぁ~!もう最っ高よ~!』

 

 

「声大きすぎだろ、あいつ……」

「頼む望月……!写真を!」

 

 

『早速一枚………カメラ…ない!……そういえば、火野くんに預けてたんだった!』

 

 

「なに!?」

「こうなるだろうと思ってな」

 

 

 入れ替わる時にちょっと借りて正解だった。

 

 

「なんてことしてくれたんだ火野ぉ!?」

「うるさい。風紀委員会の命令だ」

 

 

 1年の時点で風紀委員にマークされるのはどうかと思うけどな。とにかく、今日はいつも以上にあいつと一緒に行動しなきゃな。やれやれ。

 

 

「火野くーん!カメラ返してー!!」

「ああ、着替え終っ………」

 

 

 勢いよく飛び出してきた望月は、ポニーテールに犬耳を付けた、アニメにありそうな魔女のコスプレをしてた。似合ってはいるんだけど、なんで犬耳と魔女コスなんだろうか。

 

 

「火野くん、早くカメラ!撮りに回る前に文緒ちゃんのメイド姿を収めたいの!」

「お、おう…」

 

 

 急かす望月の後ろで揺れる髪が、玩具を欲しそうにしてる犬の尻尾みたいに見えた。こういうの見ると、無性に頭を撫でたくなるな。

 カメラの入ってる鞄を渡してやると、一瞬でカメラを用意して教室に消えていった。あいつカメラがある時とない時で身体能力違うだろ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 この後、撮りに回る時に望月が例の如く暴走して俺を巻き込んで風紀委員会から逃げ回ったり、冷やかしに来た先輩達にからかわれたり、どこかのクラスが行ったNo.1カップル決定戦に出されそうになることを、俺はまだ知らなかった。




 後編(十一話目)に続きます、どうもクロウズです。
 服装を一々考えるのがめんd・・・・・・むずいっす。助けてNo.39さん!あ、今回量少なくて申し訳ないです。


ガルフレのキューピッドであったエレナのデートガール、2枚は手に入ったんですが3枚目は手に入らず。バッジとかで手に入らぬものか……。



もうすぐ学校が始まる頃になるので、今よりもっと遅れるかもですが、それでもお付き合いくださいましたら幸いです。じゃまた。


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十一話目

「さ~あ、撮って撮って撮りまくるわよ~!!」

「張り切ってるとこ悪いけど、写真部含め他人様に迷惑を掛けないよう行き過ぎた行動はしないこと。風紀委員に目を付けられないこと。この2つは守ってくれよ?」

「大丈夫よ~。迷惑なんて掛けないわぁ」

 

 

 本当に大丈夫か……?この上なく心配なんだが。

 

 

「もう、火野くん。大丈夫って言ってるんだから、少しは信用してくれないかしら?クラスメイトで、部活仲間なんだから」

「クラスメイトで部活仲間だからこそ信用ないんだよ。お前のフォローとかしてたの誰だと思ってる」

「あー、それはごめんねぇ」

 

 

 かわいらしく舌をちろっと出して謝る望月。ちょっとムカついた。どうでもいいけど、犬耳を付けてる所為で舌を出したのが余計に犬っぽい。どうでもいいけど。

 と、これ以上教室の前で漫才擬きを続けても仕方ないからそろそろ行くことにする。ところで、カメラを持った執事と魔女の2人組ってどうなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

「おーい、クロチャー」

 

 

 1、2年の階を大体回り終えて、3年の階を歩いてたら日比野先輩と遭遇した。

 

 

「あ、お疲れ様です先輩」

「お疲れさま〜」

「おわ、誰かと思ったらモッチーか。まあクロチャーと一緒にいる女子ってモッチーくらいか」

 

 

 笑いながら言わないでください。それとどういう意味ですか、それ。風紀委員の命令が無かったらこいつと一緒になんていません。

 

 

「火野くーん、さすがにそれは傷付いちゃうわよぉ?」

「だったら少しは自重してほしいもんだよ……」

「……あーはは、苦労してんのなクロチャー」

「まぁ、はい……。ところで先輩、写真部の方は?」

 

 

 写真部は、今まで撮ったものの中から部員全員で選んだ写真を部室で展示している。確か、何人見に来たのかカウントしていってたと思うけど、果たして何人来てくれたのか。

 

 

「あー、今はカスミンとスズがやってんよ?あたしはああいった作業苦手だから早めに逃げた」

「それはそれでどうかと……」

「まあ、後で差し入れ持ってくからへーきへーき」

 

 

 そういう問題じゃないと思うんだけどな、それは。

 

 

 

 

 

 

 先輩との雑談もそこそこに、一度クラスの様子を見る為に戻ることに。というか、俺達は手伝わなくてよかったんだろうか。

 

 

「おーっす」

「はいやり直しー」

 

 

 今は休憩に入っているようで、準備中の札がかかってる教室の戸を開けたら、いきなり押し返されて閉められた。なんだ一体。望月を見ても首を振るだけ。とりあえず、理由を説明してもらうか。

 

 

「おーい、やり直しって何がだよ」

「はいアウトー」

 

 

 またしても追い出された。まったく解らない。望月に先に入ってもらうか。

 で、その結果、

 

 

「たっだいま~」

「おかー」

「お帰りなさい、望月さん」

「ただいま文緒ちゃ~ん!私がいなくて寂しくなかった~?」

「も、望月さん…そんな引っ付かれたら……!」

 

 

 あっさり入れてもらってる。え、俺いじめられてるのか?でも、前から駄目なら後ろからだ。こっちの窓は装飾の所為で中は確認できない。でもそれは外からこっちを確認できないのと同じ。よって、後ろからこっそり入ろうと移動して、ゆっくり戸を開ける。

 

 

「………」

「………………」

 

 

 すると、中腰なヘラクレスモチーフの某特撮ヒーローがいた。ついでに言うと、イナゴの怪人もいた。あんなコスプレ、聞いてないぞ。誰だお前ら。というかこれ、まさか。

 

 

「な、ナズェミテルンディス!?」

「……………」

 

 

 まさかと思うけど、これの為だけに俺は二回も追い出されたのか?とりあえず、関わるつもりはないから無視して入る。

 

 

「オンドゥルルラギッタンディスカー! アウア」

「あ、やっぱりそっちから入ってきたんだ」

「そりゃな。で、なんで俺は二回も追い出されたんだ?」

「はぁ……火野君、君は今執事なわけ。そんな喋り方でいいと思う?」

「……あー」

「アンダドゥーレハ、ナカマジャナカッタンデ…ウェ!」

「そこ、うっさい。というわけで、今から執事になりきること」

 

 

 そがんこつ言われても………。

 

 

「ほらほら、試しに望月さんをお嬢様って呼んでみ」

「……………」

「いや、そんな嫌そうな顔しないで」

 

 

 してない。けど、あいつをお嬢様呼びは、なぁ……。違和感しかない。

 

 

「いいわいいわ〜!文緒ちゃんのメイド姿、そそるわぁ〜!!」

「も、望月さん……恥ずかしいですから………」

「恥ずかしがらなくていいのよ!こんなにも可愛いんだからー!」

 

 

 

「……あれを、お嬢様って呼べと?」

「言いたいことはなんとなく解るけどね。でもほら、お嬢様キャラって基本めんどくさい性格してるじゃん?」

「架空と現実は違うだろ……」

「いいから行け。でなきゃあそこの虫虫軍団の中に混ぜるよ?」

 

 

 

「ウェイ!」

「ボドボドダ!」

「ムッコロス!」

 

 

 

 虫虫軍団って、あそこの…………なんか増えてる!?あとイナゴ何処行った!?

 

 

「ほら、早く行った」

「………了解」

 

 

 おそらく残り1人のを着せられることに恐れた俺は、今なお興奮状態になってる望月を止めに入る。こうなってると周りに気を配れなくなるらしいから、後ろからカメラを取り上げる。

 あっさり取られて望月はちょっとの間固まってたけど、すぐに後ろの俺に気付く。

 

 

「あら?……あ、なんてことするのー!」

「村上も困ってますから、そろそろお止め下さいお嬢様」

「いくら火野くんでも、私の大切な時間を………あの、今なんて?」

「ですから、村上も困ってますからと」

「うん、そう言うのは解ってた。えっと、そっちじゃなくてね?」

「望月さんをお嬢様って呼んだところじゃないですか?」

「執事服を着ているなら、執事になりきれと言われまして」

 

 

 他の連中にも言えよと言いたい。でも、他はともかく村上は無理か。恥ずかしがって着ること自体拒んでたもんな。

 

 

「そういうわけでして、今日1日は、エレナお嬢様に仕える身となります」

「お、お嬢様って……………それはさすがに恥ずかしいけど、今日1日は火野くんを好きに出来るのよね?」

「違うと思いますけど……?」

「お嬢様のご命令でしたら、可能な限りお聞きします」

「火野さんがいいなら、構いませんが……」

 

 

 どうせ無茶振りはしないだろうし。

 

 

「それじゃあ火野くん、カメラ返して」

「お嬢様はカメラを持っていると興奮して疲れが溜まりやすいでしょうから、今は休憩しておいた方がよろしいかと」

「んー……………火野くんがそう言うなら……」

 

 

 お?珍しく引いたな。まあ、その方がこっちとしても有難いけど。

 

 

「そうなると、ちょっと退屈になるわねぇ」

「ところで、望月さんと火野さんはお昼は食べましたか?」

「あ、そういえばまだだったわ」

「では、僭越ながら私が何か作ってまいります」

 

 

 

 一礼をして、厨房を借りる。さて、何を作ろうか。

 …………ん、卵あるな。これならオムライスでも作ろうかな。

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

 少し時間かかったけど、その分今までの中で一番いいと思える出来になったと思う。

 

 

「わぁ、美味しそう……いただきまーす」

「火野さんって、お料理上手なんですね」

「作る機会が多かったので」

「んー、美味しいっ。火野くん、これ美味しいわぁ」

「そう言っていただけると、こちらとしても作った甲斐があります」

 

 

 望月が食べ終るのを待って、少しの間くつろぐ。この後は、外とかでも見て回ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、午後も撮りまくるわよ~!」

「あまり騒がないでくださいお嬢様。ただでさえ目立つ格好ですので」

「ぐふふふ。午前はそんなに見れなかったけど、かわい子ちゃんがいっぱいいるわぁ~」

 

 

 聞いちゃいねぇよ人の話。

 

 

「それじゃあ火野くん、ちょっと行ってくるわね」

「え?あ、お嬢様?」

 

 

 望月の思考に悩んでたら、軽く言い残して人混みの中に消えていった。あのバカ、勝手に行動するなって言っておいたのに。生肉を目の前にしたハイエナかあいつは!

 

 

「って、そんなことより、早くあいつを見つけないと」

 

 

 誰かに迷惑かけたりしてなきゃいいけど………。幸い、あいつの格好は目立つしあんな性格だから探し出すのはそう難しくないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、いっぱい撮れたわぁ」

「まったく……」

 

 

 結果として、望月は早めに見つかった。一般参加の子を撮りまくってたけど、その子はコスプレをしてたから満更でもなさそうだった。というかトムトムミッチーこと戸村(とむら)美知留(みちる)だった。来年は聖櫻に来るからとその下見を兼ねてたらしい。

 

 

「単独行動はなるべく慎んでください」

「も〜ぅ、火野くんってば固いわねぇ」

「あまり過ぎた行動をなさいますと、風紀委員の方々に「もう手遅れだよ」………ほら」

 

 

 ずかずかと俺達に近付いてくる、3年の先輩。その左腕には風紀委員だと示す腕章。名前は忘れたけど、この学園の風紀を守る風紀委員長だ。

 

 

「写真部の活動だからある程度は見逃したが、今回軽い苦情が来てな」

「…………だから過ぎた行動は慎んでくださいと」

「はーい、反省してまーす……」

「口だけでは何とでも言えるので、2人とも、手を出してもらう」

「「?」」

 

 

 言われた通り、俺は右手、望月は左手を出すと、カチャンと音がする。

 何かと思って見てみると、お互いの手首に黒い手錠が掛けられてる。

 

 

「あの、委員長。これは何ですか?」

「手錠だね」

「それは把握してます」

「大丈夫、君達の部長には許可を得ているから」

 

 

 写真部の活動に支障が出る、そう言いたかったけど先手を取られてた。というか、何で俺まで。

 

 

「君には彼女の監視をね。それと、風紀委員を1人付けるため、不穏な動きをすれば即刻捕らえる」

「だからって、手錠はやり過ぎよぉ〜」

「何なら足枷も加えようか?」

「………手錠だけでお願いします」

「ふん。ああ、鍵は櫻花祭が終れば渡すから」

 

 

 委員長がその鍵を胸ポケットから取り出す。

 それを見た俺は、悪いとは思いつつも手を弾いて鍵を奪い取る。今この場では外すのは難しいから、望月を抱え――所謂お姫様抱っこで――逃走する。

 

 

「ひゃっ!ちょっ、ちょっと火野くん!?」

「申し訳ありませんお姫様、ですが今は私と来てください!」

「う、うん……」

 

 

 人混みに紛れ込むのは得策じゃなさそうだ、適当にどこかのクラスに潜り込むしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだぁーっ!!」

 

 

 風紀委員を全て振り切る為に走り回って、体育館に逃げ込むことに成功した。……ふぅ、疲れた。何はともあれ、後は奪い取った鍵でこれを外すだ『おーっと、飛び入り参加者発見だーっ』……ん?

 薄暗いと思ってたら、いきなり照明を当てられる。

 

 

『しかもこの飛び入り参加者、お姫様抱っこでの参戦だぞこれはすごい。すごいというか恥ずかしい!』

 

 

 

「うわ、しかも魔女と執事だし」

「あれって写真部の1年じゃね?」

「カグさんとエレナちゃんってそういう関係だったかしら?」

「お姫様抱っことは、見せ付けてくれるわね……」

「俺らもやるか?」

「やだキモい」

「うーん、すばらですねっ」

 

 

 

「えーっと、何かしらこれ……?」

「私にも解りません」

 

 

 ステージの上には5組くらいの男女がいて、下には大勢の生徒や一般客がいる。何が何だかさっぱり解らない俺と望月は、何の説明もされないままステージに上がらせられる。

 

 

『さあ、学年とクラス、名前をお願いします』

「え、えっと、1年A組の望月エレナです」

「同じく1年A組の火野霞黒と申します」

『ほほう、クラスメイトですか。では、付き合ってどれくらいですか?』

「「は?」」

 

 

 声を揃えて聞き返した。付き合ってどれくらい?何を言って………まさか、他の人達は全部カップルか?

 

 

『おやおや?まさか知らずに飛び入りですか?これは今年度No.1カップル決定戦ですよ』

「No.1カップル……」

「決定戦?私と火野くんは、そんなんじゃ…」

『今年度までまだ数ヶ月あるのに?細かいことはいいんですよっ。ところでお二人は、何故手錠をしてるので?』

 

 

 

「リザベやろか?」

「リザベですかね?」

「すばらくないですよ、お二人とも」

 

 

 

「風紀委員長って奴の仕業です」

『何だって!それは本当かい!?ま、それはいいとして。それではっ、今年度No.1カップル決定戦始まるよ!!』

「いえ、ですから私達は」

『問答無用だーーっ!!』

 

 

 無茶苦茶だ!?

 俺達のことなんて御構い無しに、司会者はこの謎企画を進行させていく。逃げるに逃げれない状況のため、(付き合ってもないのに)最後まで参加させられることとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「っ、あー……………やっと終った…………」

 

 

 No.1カップル決定戦を何とかやり過ごし、その後観客としていた月海原先輩や部長の誤解を解いたりしたが、櫻花祭は無事に終った。ここまでしんどくなるとは思わなかったけどな……。

 

 

「その後、風紀委員に説教されたけどねぇ〜」

「……まぁ、鍵を奪い取って逃走したからな」

 

 

 

 櫻花祭が終った今、服装も執事服から制服に戻した。これは記念に貰えることになったけど、今のところ年に2回くらいしか着ないんだよな。ま、着る機会はあるからいいけど。

 

 

「いくら何でも、あれはやり過ぎじゃないかしら?」

「今は反省してる……」

 

 

 風紀委員長に対してしたこともそうだし、逃げる時に望月をお姫様抱っこしたこともだ。しかもそのことがクラスに知られて、軽くいじられた。数日は覚悟しとかないと。

 

 

「確かに、ちょっと恥ずかしかったけど……でも、そんなに嫌じゃなかったわよ?」

「そう言ってくれるとありがたいよ………。じゃ、俺はこっちだから」

「えぇ、また明日ね〜」

「明日は休み………って、部活か」

 

 

 いつもの交差点で望月と別れる。さて、今日も疲れたし、帰って寝るか。




 投稿に1ヶ月かかったのは私の責任だ、だが私は謝らない。どうも、クロウズです。
 この回、なんと5000字超えてます。うわぁいいっぱいだぁ(錯乱)。実際エレナをお嬢様呼びしたらどんな反応してくれるんでしょうね?
 次回は内容・執筆開始日・投下予定日すべて未定です。………ちょっと小ネタに走ろうかなぁ(逃避)。



そんな感じですかね、じゃまた


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十二話目

「………3月かぁ」

 

 

 

 色々とごちゃごちゃしたことがあったから、あっという間だったな。というかここ、1年間での行事多すぎだろ。写真部じゃなかったら大半はサボってるぞ。

 写真部といえば、先輩達はもう卒業したから今は俺と望月だけになった。日比野先輩なんかは、暇なときに顔出しに来るって言ってたけど、それはいいんだろうか?もし新入部員と会っても、先輩が写真部員だと信じるのは何人くらいなのか。

 

 

「あまりそんなこと言ったら、ヒーノ先輩に悪いわよ火野くん?それとも、部長って呼んだ方がいいかしら?」

「止めてくれ」

 

 

 しばらく使わなくなるからと、部室の掃除をしていた望月に勘弁してくれの意味を込めて手を振る。そう、望月が言った通り、俺は部長になった。元部長こと間宮先輩いわく、望月を部長にしたらどうなるか解ったものじゃない、というのは建前で、本音は俺のサボり癖を直すためらしい。この場合って、本音の方は本人に言ったら駄目なんじゃないか?

 何にしろ、俺は部長職に就くことになってしまったんだが。

 

 

「正直、俺に部長なんて合ってないと思うんだけどな」

「決まったんだから、文句言っても仕方ないわよぉ?それに、運動系の部長と違ってそこまで忙しくないと思うわよ?」

「まぁ、確かに……」

 

 

 というか普段の活動は活動とは言えないくらいにゆるかったし。その分行事では駆り出されてばっかだけど。

 

 

「さて、掃除も終ったし、そろそろ帰る?」

「ん、そうだな」

 

 

 望月の言葉に、端に寄せておいた鞄を持って部室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、もうすぐで1年経つのよねぇ」

「そうだな。明後日の終業式が済めば、4月まであまり会うことないんだよな」

 

 

 夕暮れ時で人の少ない電車の中、望月のくれたアメを舐めながら他愛のない話をしていた。

 

 

「予定がなかったら、そうなるわねぇ。なぁに火野くん、私と会えなくなるのが寂しいの?」

「そんなわけあるか。お前の世話しなくて済むからむしろ心休まる」

「そこは、嘘でも寂しいって言ってほしかったわ……」

「お前相手に嘘ついてもな………」

「それは喜んでいいのかしら…?」

 

 

 まぁ、微妙だよな。

 その後駅に着いて電車から降りても、いつものコンビニまではまだ一緒に歩く。

 

 

「……ま、火野くんにそういうの期待しても駄目よね」

「おいこらどういう意味だそれ」

「そのままの意味って言っておくわ。ところで火野くんは、入学式どうするの?私は新入生(女の子)をいっぱい撮って……………でゅふふ」

「そりゃ、鈴ちゃんいるから行くけど」

「相変わらず、あの2人には甘いというか何というか。シスコンね火野くんは」

 

 

 シスコン言うな。それに写真部としての活動は、そういう時にしっかりやらないと。ただでさえ部員2人だけなんだし。

 そうこう話してると、いつものコンビニに近付いてきた。放課後からずっと話してたから、何か名残惜しく思う。一応明後日まであるけども。

 

 

「それもそうね~。…あ、もうここまで来ちゃったわねぇ」

「いつの間にかな。それじゃ、また明日」

「えぇ、また明日~」

 

 

 会話も切り上げ、いつも通りここで望月と別れる。それにしても、もう1年か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   4月某日。

 

「今日から1年、みんなの担任を務める佐藤千尋です。って、去年とあまり変わらないねー。いいけど」

 

 

 始業式が終り、移動した教室で簡単な自己紹介を済ませる。クラスは去年同様A組、担任はまた佐藤先生。さらに先生の言う通り、半分近くは去年も同じクラスだったやつら。もちろん、南がいないのと、フランスからの留学生クロエ・ルメールという女子がいることなど、去年と違うところは色々ある。

 

 

「今日はこの後入学式があるから、見ていきたい人は見てっていいよ。ただし、新入生に変なことしないようにねー、特に望月」

「名指しなんて酷いわ~……」

 

 

 いやいや。お前の場合当然だから、と頭を軽く小突く。今年は席が隣だからできるけど、相手が望月とはいえ女子に手を上げるのは気が引ける。ツッコミだからセーフとか、そんな解釈はない。

 そう思っていると、小突かれた頭を押さえた望月は恨めしそうに見上げてくる。………くそ、かわいいなおい。

 

 

「う~………何も叩かなくてもいいじゃない」

「……ごめん。だからその目は止めてくれ」

「はいそこのお2人さーん、イチャつくなら出ていってね見せつけんじゃねーよ」

「「イチャついてません!」」

 

 

 思わずハモったけど、先生の笑顔が無駄に怖かったから口をつぐむ。やっぱり独身なの気にしてたのか…………。

 

 

 

 

 

 

 先生をなだめた後、解散して大半が帰る中俺達は入学式を見に体育館へ到着。名目は写真部としてだけど、俺の本音はもちろん、鈴ちゃんの晴れ姿を見るためだ。シスコン?聞こえない聞こえない。

 

 

「嬉しそうね、火野くん」

「そりゃ、鈴ちゃんが入学するからな」

「学園内ではよそよそしい態度取られそうだけどね」

「それを言うな………」

 

 

 やっぱり今みたいな態度取られるのか…?………いや、なるべく考えないようにしよう。泣けてくる。

 

 

「やっぱりシスコンね………」

「もういいよそれで!……って、なんか機嫌悪そうだな?」

「別に、何でもないわよぉ……」

「??」

 

 

 どうしたんだろうか、こいつは。急に不機嫌になって。

 

 

「じゃあ、私は向こうの方から撮るから。…………ぐふふ、いいわいいわぁ~。今年の新入生はかわいい子ばかりだわぁ~!」

「………やれやれ」

 

 

 いつも通りっぽいな。さて、鈴ちゃんは………っと、いた、けど周りの生徒より小さい所為でメインとして撮りづらいな。おじさんとおばさんにも頼まれてるから、せめてこっちに気付いてくれないものか。

 

 

「…………?…………っ」

 

 

 お、一瞬こっち見た気がしたけど、気付いたか?カメラを構えてもう一度待ってみると、今度ははっきりこっちを向いて小さく手を振ってくれる。即激写!とまではいかないけど何枚も撮っていく。嫌そうな顔してなくてよかった。

 

 

「……」

「……………!?……っ」

 

 

 あ、そっぽ向かれた。………まぁ、一先ずはいいか。後でまた撮らせてもらおう。

 女子の方は望月に任せて、男子をメインに撮るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、いい画がいっぱい撮れたわぁ………ぐふふふふ」

「……望月、よだれ出てるぞ」

「あ、いけないいけない」

「まったく…………。あ、俺は鈴ちゃん来るまで待つけど、お前はどうする?」

 

 

 入学式も終って、1年生たちは教室に向かっていったから望月と合流。しかしこいつ、よく注意されなかったな。

 

 

「んー、せっかくだし私も待つわ。久しぶりにお話ししたいし」

「お前鈴ちゃんと仲良かったっけ?」

「あら、失礼ね。仲悪そうに見えた?」

「いや、お前の話したら拗ねるか「せーん、ぱいっ!」ノヴァマス!!?」

 

 

 いきなり、背後から誰かに跳びつかれる。その際にした、鼻孔をくすぐるような匂いと声からして女子。でも俺に鈴ちゃん以外の1年女子に知り合いは………。

 

 

「お前、戸村かっ?」

「当ったりー。いやー、先輩ってばあたしに気付いてたのか知らないけど、全然見てくれないんだもん」

「あーはいはい、それは俺が悪かったからいきなり跳びかかるな。あとちょっと離れろ」

「火野くん、だらしない顔してる………」

「ひへないはら……ほおおひっはるにゃほお」

 

 

 あーもう、春とはいえまだ暑いんだから離れろ2人とも!

 

 

「む、ここにいたのか火野……………」

「あれ、いっちゃんじゃん。先輩と知り合い?」

 

 

 鈴ちゃんタイミング悪いよ!?今来られても収拾つかなくなるだけ……!ていうか戸村、お前鈴ちゃんと知り合いなの?あ、同じクラスかなるほど。

 

 

「貴様ら……何をしている…………」

「ほぇ?」

「す、鈴ちゃん………?」

「どうしたのかしら…?」

 

 

 鈴ちゃんは鬼気迫るようなオーラをまとってゆっくり近付いてくる。正直怖いです。だから早く離れろ2人とも。

 

 

「………離れろ………………」

「ん?いっちゃんなんて?」

「黒兄から離れろー!!」

「え、ちょ、鈴ちゃ………うぼあっ!?」

 

 

 怒った鈴ちゃんが思い切り飛び込んでく……………ぐはっ!鈴ちゃん……動けない状態にタックルは……一瞬呼吸止まったぜ……。

 

 

「うっわー、綺麗なタックルだったわねー………」

「先輩大丈夫?」

「直前で逃げといて……よく言う………。で、鈴ちゃん……さっきのは…」

「黒兄が悪いんだぞ…春瑚はともかく、高校生になってからは色んな女性とばっかりで………」

 

 

 え、俺そんな女子とばっかいるか?………あ、そういえば望月と勉強会したり写真部の先輩達と海行ったりばかりだ。朝田と南とも遊んではいるけど、多分女子といる方が多い。少なくとも鈴ちゃんはそう思ってる。

 

 

「黒兄は私のだ!誰にも渡さないんだ!!」

 

 

 ガルルル、と鈴ちゃんは俺の後ろにいる2人に対して敵意をあらわにして威嚇している。ていうか、え、これどういう状況なんだ?とりあえず、落ち着いて鈴ちゃん。

 

 

「うー……!」

「あらら、嫌われちゃったかしら……?」

「どうだろ…。とりあえず、今日は鈴ちゃんと帰るよ」

「ああ、うん。気を付けて」

 

 

 ここまでくると、さすがに一緒にしたら大変そうだからな……。

 拗ねてまったく離れる様子のない鈴ちゃんを抱えて帰らせてもらう。明日、いや、今日の夜にでも望月には謝っておかないとな。それにしても、鈴ちゃんが急にあんな風に怒るなんてな………。なんか、中等部の時にも似た感じの事あったような………。鈴ちゃんでも春ちゃんでもなく。誰かに聞くか?………いや、止めよう。あんな黒歴史時代は掘り起こされたら死ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~ぁ、疲れた………」

 

 

 あの後、正気?に戻った鈴ちゃんは解りやすいくらいにうろたえ始めてなだめるのに時間が掛かった。顔は真っ赤だし思い切り頭振った所為で髪の毛ぼさぼさだし、恥ずかしさのあまりクッションに顔うずめて喋るから何言ってるか解らなかったし。今日はもう大丈夫だけど、明日からはどうだろ。戸村とは同じクラスっぽいし。

 ま、明日の事は明日考えるか。今日はもう寝よう。




 あてーんしょーん、はろはろ~。どうも、クロウズです。
 さて、今回から2年生編に突入することになりました。1年生編も混じってる?細かいことはいいんですよ。よって、次回からは章管理も伴い話数が1話目からになります。次いつ投稿するか知らんけど。
 今回、幼馴染その1兼妹1号の鈴ちゃんを出しましたが、意地っ張りな子をあんな風に拗ねさせるのっていいですよね。ちなみにあの醜態(本人談)は大勢の生徒にばっちり見られてます。やったね2人とも、1週間は話題の中心人物だよ。



 さ、今日はこの辺で。はらたま~きよたま~


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〈2年生編〉
1話目


「鈴ちゃーん、行くよー」

「ま、待ってくれ。すぐ出るから」

 

 

 入学式から3日経った今日。この日もまた鈴ちゃんと一緒に登校する。正直言うと、気まずさのあまり1人でさっさと行くんじゃないかと思ってたけど、どうも吹っ切れたみたいだ。

 あの時の鈴ちゃんを思い出していると、準備の済んだ本人が出てくる。何に戸惑ってたのか。

 

 

「おはよう、火野―――あ、いや、黒兄」

「うん、おはよう鈴ちゃん。それじゃあ、行こっか」

「う、うむ……」

 

 

 あの件以降、今みたいにたまに間違えるけど昔みたいに普段から黒兄呼びに戻ってくれた。うん、やっぱりこっちの方がいい。

 

 

 

 

 

「おーっす」

「おはよう火野くん」

「おー、おはよーさん」

 

 

 クラスメイトと軽い挨拶を交わして席に着く。……っくぁ、眠…。

 

 

「ずいぶん眠そうね火野くん」

「……ん、望月か。おはよ」

「おはよ。昨日夜更かしでもしたの?」

「……あー、まぁちょっとな」

 

 

 昨日はネト麻に熱中し過ぎたんだよな。相手は勝ち越した状態で落ちたからリベンジ出来ずじまいで、不完全燃焼だから長々と相手探してたら遅くなった。おそるべしのどっち。

 

 

「で、結局寝たのは1時だった」

「そんなだから、授業中に寝たりするのよ?」

「それは解ってるんだけどさ……」

 

 

 一度熱中するとなかなか抜け出せないんだよ。お前もあるだろ、そういうの。

 

 

「そうだけどぉ。それでも、そんな夜遅くまで起きることはしないわよぉ」

「むしろお前の場合夜遅くまでだったら怖いっつーの」

「むーっ、それってどういう意味?」

「日頃の行いから考えてみろ」

 

 

 額を弾いて、机に突っ伏す。………あーやべ、これ……寝そ………ぅ………ぐぅ……。

 

 

 

 

 

 

 1限目から寝て過ごし、眠気も覚めた頃にはもう昼休みだった。最初は望月や後ろの席のやつが起こそうとしたらしいんだけどまったく起きる気配もなく、先生はいないのがほとんどだからと諦めたらしい。……そんなにばっくれてたのか、俺。少し反省すべきか。

 っと、今日弁当持ってきてないんだった。購買行かなきゃ。

 

 

 

 

 

「おや、火野サン」

「お?」

 

 

 購買まで急いで来てみれば、ルメールに会った。今日はこいつもこっちだったのか。

 

 

「火野サンも購買ですカ?」

「メロンパン買いにな。ここのメロンパン、ビスケットのサクサク感とパンのふんわり感のバランスが取れててさ、結構クセになるんだよ」

「オー、それは美味しそうですネー。ワタシは人気と言われてる焼きサバパンを買おうと思ってまスー」

「あぁ、あれ男子がよく買って…………なんだって?」

 

 

 耳がおかしくなった、という訳じゃないな。単にこいつが間違えたんだろう。

 

 

「焼きサバパンでス」

「いくらここでも、そんなパンはない。焼きそばパンだろ?」

「おー、それでスそれ。ぜひ一度食べてみようと思ってましター」

「まぁ、それはいいけど。次お前だぞ」

 

 

 こっちを向いてた所為で気付いてなかったようだから前を向かせてやる。

 ルメールが頼んでる間、他にどれを買うか考えてるとまた焼きそばと焼きサバを間違えたから訂正してやる。この短時間で二回も間違えるなよ。

 

 

 

 

 

 昼はメロンパンを2つ買ったけど、それがラストだったらしく、俺の次にいた女子が買えずにショックを受けてた。目に見えて落ち込んでたから、その子に1つ譲るとすごく喜んでた。そんなにメロンパン好きだったのかな、あの子。

 それで、俺が今どこにいるかと言うと。

 

 

「ごめんなさいね、少し待たせて」

「……忙しそうだな、新聞部は」

 

 

 放課後、現新聞部部長の神楽坂(かぐらざか)砂夜(さや)に呼ばれて、その部室に来ている。……来ているというか、半ば拉致されたようなものだった。写真部の部室に向かってたらいつの間にかこっちに来てた。どうしてこうなった。

 写真部と新聞部はなんだかんだで交流が多かったから、神楽坂とは顔見知りではあった。だからって拉致するのはどうかと思う。

 

 

「で、今度はどんな無理難題を押し付けるつもりだ?」

「そんな警戒しないで。それに、今回は部長同士の交流のようなものよ」

 

 

 訝しむ俺の前に、無害をアピールするかのように紅茶を置く。だったら普通に連れてくればいいだろうに……。

 

 

「貴方にはあれくらいが丁度いいと思ってね」

「まったくこれっぽっちも嬉しくない評価をありがとよ。……ん、美味いな」

 

 

 欲を言えば角砂糖をあと2つ欲しかったけど。そこは仕方ないか。

 

 

「口に合ってよかったわ。あ、そうそう。少し、貴方に頼みたい事があるのだけれどいいかしら?」

「…………。お前といい月海原先輩といい、差し出した物を口にしてから頼み事をしてくるのは何なんだ?」

 

 

 断りにくくさせる為だとしたら悪どすぎるぞ。

 

 

「気にしないで。新入生の中から、面白そうな子や気になる子を見付けてくれるだけでいいから」

 

 

 ……どんな無理難題が来るかと思ったら、意外とまともだった。一時期何故か新聞部の手伝いをさせられたりもしたからな。

 

 

「それくらいなら別にいいけど。ちなみに、断った場合は?」

「ん?貴方の中等部の頃の写真を新聞に載せるだけ―――」

「そぉい!」

 

 

 そう言って神楽坂が出した写真を見た瞬間に奪い取って破り捨てる。なんか去年も、出された物をすぐに奪い取ったことあったな。って、それよりも!

 

 

「何でお前がこの写真を持ってるんだよ……!?」

 

 

 聖櫻に通ってる生徒で知ってるのは鈴ちゃん以外いないはずだぞ……。それなのにどうしてこんなのがあるんだ……!

 そんな俺の狼狽えてる様子を見てSっ気を含めた笑みを浮かべながら、神楽坂は紅茶を飲んでいる。くそっ、むかつく。

 

 

「まぁ、安心して。引き受けてくれたのだから、新聞に載せるなんてことはしないから」

「最初からしようとしないでくれ……」

「ふふ、火野さんはからかうと楽しいわね」

 

 

 俺はおもちゃかよ。とにかく、言ったからには絶対に載せるなよ、絶対だぞ?

 

 

「そうやって念押しするってことは、実は載せてほしいってことかしら?」

「違うに決まってるだろ!」

 

 

 どこぞの芸人みたいな捉え方すんな!あと、紅茶ごちそうさまでした!

 破り捨てた写真は集めてゴミ箱に捨て直し、新聞部室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 そして、あの日から大体1週間近く経過して。

 

 

「……今日も部員ゼロか」

 

 

 望月以外、他に誰もいない部室にて突っ伏す。この収穫の悪さは由々しき事態だろうか。やっぱり写真部はマイナーな部なのだろうか。

 

 

「賞を取ったり、色々と実績あるのにねぇ」

「それと同じくらい、お前の悪評もあると思うけどな」

「あーあー聞こえなーい」

 

 

 耳をふさいで聞こえないふりをするな。それ聞こえてるからやってるんだろ。

 

 

「まぁでも、部員が来ないなら来ないでいいんじゃない?やりたい人だけが来るんだし」

「去年の今頃、無理矢理入部させられた気がしたんだけど?」

「ごめんなさい」

 

 

 解ればいい。

 

 

「さて、今日は帰ろう」

「そうねぇ」

 

 

 今日は何もなかったな。神楽坂の頼み事、どうしようか。あの時会った、新体操をやってるらしいメロンパン娘こと椎名(しいな)心実(ここみ)や、ハッキング技術を持った東雲(しののめ)レイは確定として、あと1人くらい、出来れば男子は見付けておきたいな。

 

 

「火野くーん、早く帰りましょ」

「あぁ、悪い悪い」

 

 

 望月に言われて部室から出る。この後は鈴ちゃんを迎えに華道部の部室へ行って3人で帰るようになってる。部活がない時は望月はいつの間にかいなくなってることが多いから、鈴ちゃんと2人で帰る。今でこそ普通に帰れてるけど、最初は鈴ちゃんが気まずそうにしてて会話が続かなかった。あれはキツかったな………。

 

 

「火野くんは部員欲しい?」

「まぁ、そりゃあな。幽霊部員なら捕まえたけど、いないに等しいし」

「私は、まだ2人でいいかな………なんて」

「………」

 

 

 リアクションに困る。どう言えばいいんだよこれ。望月も、恥ずかしがるなら言うなよ。

 

 

「うーん、やっぱり私のキャラじゃないわぁ」

「まったく……」

「ごめんごめん。………あら」

「ん?」

 

 

 校門の所で、鈴ちゃんが待ってた。ただ、1人じゃない。隣にいるのは160後半はありそうな身長の、1年生の男子か。鈴ちゃんにナンパーーーじゃなさそうだな。某忍者漫画の鉢金付けてるし。でも、鈴ちゃんに近付こうとしてる奴なら容赦しない。骨を一本残らずへし折って粉々に砕いてやる。

 

 

「火野くーん、帰ってきなさーい」

「はっ」

 

 

 危ない危ない。危うく勘違いで殴るところだった。

 とりあえず、なるべく警戒しないように鈴ちゃんと合流しにいく。

 

 

「あ、黒兄。望月先輩」

「お待たせー、五十鈴ちゃーん」

「ごめん、ちょっと待たせて。………そっちの男子は?」

 

 

 近くで見て解ったけど、こいつ俺より身長高いな。見た目は悪い奴じゃなさそうかな。鉢金がやたら目につくけど。とりあえず、見た目的には面白そうな男子として神楽坂に報告かな。

 

 

「ん?あぁ、彼は単なるクラスメイトだ」

「初めまして、竹谷(たけたに)サスケです」

「火野霞黒。鈴ちゃんの兄みたいなものだ」

「望月エレナよぉ〜。好きなものは女の子よ」

 

 

 望月、その自己紹介二度とするな。

 それで、礼儀正しそうで悪い奴じゃなさそうな単なるクラスメイトの竹谷、鈴ちゃんと一緒にいるのは何でだ?返答によっては半荘(ハンチャン)を5回ほど付き合ってもらうけど。

 

 

「火野くん、脅し入ってない?」

「黒兄……」

「クラスメイトが1人で突っ立ってたから、暁としては心配でね。最近は不審者とか多いし、こんな小さいのが「あ、馬鹿」へ――――あだっ!?」

 

 

 警告する前に、小さいって言われて怒った鈴ちゃんのローキックが炸裂した。鈴ちゃんのあれはほぼ反射で蹴ってるだろなぁ。

 

 

「あ、望月。鈴ちゃんなだめてて」

「はーい。ほら五十鈴ちゃん、落ち着いてー」

 

 

 鈴ちゃんは望月に任せて、と。大丈夫か、竹谷?

 

 

「き、鍛えてるんで…」

「ふむ。で、さっき言ってた暁ってなんだ?」

「正式名称は中二病青春集団・暁で、青春を常に追い求める猛者達によって結成されてます」

 

 

 ……………。……あぁ、つまり頭ん中が春一色な奴らの怪しげな集団ってことか。これは確実に神楽坂に報告だな。とりあえず害はなさそうだから、あいつのネタ提供に貢献してくれるだろ。うん。

 足の痛みが引いた竹谷はその後すぐに「作戦会議があるから失礼します」とか言って帰っていった。ああいったのは櫻花祭とかそういったイベント事になると無駄にうるさく盛り上がるタイプだろうな。しかも鈴ちゃんと同じクラスってことは、戸村とも同じじゃないか?鈴ちゃんが苦労する姿が想像できるよ……。

 

 

「黒兄……?どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ」

 

 

 心配そうな顔をされたから、頭を撫でてごまかす。明日からも頑張って。

 

 

「??」

「ほんと仲いいわねぇ」

「私からすれば、先輩も黒兄と仲いいと思いますよ」

 

 

 俺と望月のアレは、仲がいいって言えるんだろうか。わっかんねー、基準がわっかんねー。とりあえず帰ったらのどっちにリベンジだ。




 あてーんしょーん、はろはろ~。チュートリアル妖s―――クロウズです。
 小ネタから4日ごとに更新できてるという、なんか吃驚な更新速度です。ええ、驚いてます俺が。次どれだけ間が空くのか怖いです。
 今回登場した新キャラの竹谷ですが、モデルは友人を使わせていただきました。もちろん本人には何も言ってません。ちょっとしたsurprisedriveです。……違った、サプライズです。



それではこの辺で。はらたま~きよたま~。



人物紹介に〈竹谷サスケ〉、〈戸村美知留〉、説明文に〈2年生編〉を追加します


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2話目

 4月も下旬、というか月末。24日に春ちゃんは15歳の誕生日を迎えた。これで春ちゃんも大人の仲間入りになった。

 

 

「大人の仲間入りって……成人は20歳からだよね?」

「ですネー。ですが、ゲップ食うと言って、昔は15歳で大人だったんですヨー」

「元服な。もう少し頑張ろうか」

「おー、そうでしタ」

 

 

 日本の知識はあるのに、間違えて覚えてばかりなのか?ルメールは。

 

 

「面目なイ……」

「まぁまぁ。それより、そろそろ出たほうがよくない?次の授業体育だし」

「いいわよねぇ、体育。弾ける汗、飛び交う掛け声、そして、女の子の弾むm「はいストップ」――むぐ」

「お前は相変わらずだなほんと……」

「ま、今日は体力測定だけどね」

「な……なんだと…………」

 

 

 体力測定だと…?なんでそんな、とても面倒なやつなんだよ……強制されるやつじゃんか。サボれないし……。

 

 

「サボろうとしない」

「ダメですヨー?」

「むしろサボった方が大変じゃない?1人居残りでやらされるわよぉ?」

「だよなぁ……」

 

 

 はぁ………仕方ない、行くしかないか。

 

 

 

 

 

 

「用紙、全員に渡ったなー?それじゃ、男子はハンドボール投げからいくぞー」

 

 

 男女分かれて整列した後、ハンドボール投げのため移動する。このハンドボール、投げ辛いと思うのは俺だけかな。

 

 

「出席番号順に行くからなー。朝田から投げろ」

「は、はい」

 

 

 先生に言われて、朝田の第1投。思い切り投げたけど、記録は16メートルと微妙な位置。朝田、ガタイはいい方なのになぁ。本ばっかりで体動かさないからだぞ?

 

 

「極端に低いわけじゃないからいいだろ別に。というか、体動かしてないことには君に言われたくない。その上サボり癖あるし」

「まぁ、確かに俺も筋トレとかしてないけどさ。サボりは関係ないだろ、多分」

「これで君に負けたらちょっとへこむよ……」

 

 

 失礼な奴だな、おい。んー、今が中村だから……もうすぐ俺か。……やっぱり男子の人数少ないなここ。一学年で100:300だっけか。

 

 

「次、浜風」

「っしゃあ!」

 

 

 クラス一ガタイのいい男子の浜風、その第1投は…………遠い。後ろに。前じゃなく、後ろに遠かった。あんなにガタイいいのに、まさかのノーコンだった。

 

 

「…………先生、あれは」

「0だな。次は後ろ向いて投げろ。次、火野……はいないだろうから日村」

「いやいますから!さっき目合ったでしょうが!」

 

 

 それどころか始まる時にも目合ったじゃん!

 

 

「ははは、お前如きが私と目が合ったくらいで射止めれたとでも?よし、今夜家に来い」

「いきなり何ですか!?」

 

 

 もうやだこの体育教師(女)。生徒を家に連れ込もうと考えてるとか、よく教師になれたなおい。

 早くこの先生から離れたいこともあり、さっさとボールを投げる。本当は軽く投げて終らせたいけど、そんなことしたら確実に何かされるから思い切り。

 

 

「36メートルー」

 

 

 あれ、去年と同じか。まぁいいけど。

 で、列に戻ったら案の定朝田がへこんでた。俺に負けたのがそんなにショックか。

 

 

「なんであんなに投げれるんだよ……細いくせに」

「いや、浜風には負けるから。投擲スキル高いんだよ多分」

「あいつノーコンだから無視。ネトゲか何かの話?」

 

 

 浜風の扱い酷いな。確かにあれは南以上の脳筋体力バカだけど。あと誰が廃人ネトゲーマーだって?

 

 

「誰もそこまで言ってない。まったく、ほんとなんであんなに投げれるんだか」

「まぁ、色々あるんだよ。色々」

 

 

 そのまま、もう一度順番が来るまで適当に待ち、二投目もさっさと投げる。一投目よりは短かったけどそれでも30は飛んだ。ちなみに朝田はまた16メートルだった。投げた後睨まれた。何故だ。

 それから残りの種目も済ませていき、体力測定は何とか終る。最後の50メートル走で、走り切った直後に何回も横転して膝と肘が酷いことになったけど。……去年もこんなことあった気がするな………。

 

 

「あー、あったねぇ。ざまぁ」

「……覚えてろよ朝田」

「もう。喧嘩しないでください。はい、これでいいですよ」

「……っ、叩くなよ………」

 

 

 保健室で、手当てをしてくれた後輩の佐伯に傷口をガーゼの上から叩かれる。曲げても多少痛みはなくなっても、叩かれたら痛いんだぞ……?

 

 

「すぐ治るから大丈夫ですよ」

「そういう問題じゃ…………ところで、神崎先生は?」

「先生ですか?それなら」

 

 

 佐伯は1つのベッドを指差す。あぁ、二日酔いで寝てるのか。

 

 

「はい」

「え、それ先生としてどうなのさ」

「よくあるらしいから」

「えー……」

 

 

 信じられないと言いたげな朝田に諦めろと伝える。普段は真面目な人だから。酒さえ飲ませなかったら大丈夫だから。

 

 

「ま、いいや。俺は先に戻るね。火野君はどうせ購買部だろ?」

「どうせとか言うな。そうだけど」

 

 

 購買の水野さんに頼んでメロンパンをいつもより多く仕入れてもらったから楽しみだ。ついでにいちごミルクも買おっと。

 

 

「やっぱりメロンパン先輩ですね」

「メロンパン先輩て……くくっ」

「え、何その呼称。俺のこと?」

「椎名さんが言ってた、メロンパンをくれたって人の特徴が、先輩みたいだったので」

 

 

 いや、確かにそんなことあったけどさ。あの時名乗ったわけでもないしそれ以降まったく会ってないから椎名は名前知らないわけだけどさ。でもそれだいぶ前の話だろ。てか言い始めたの誰だ。

 

 

「あ、それは鈴河さん」

「あの猫娘か……」

 

 

 どうせいつもの場所で昼寝してるだろうからパン渡そうと思ったけど止めた。今日は屋上で鈴ちゃんと食べよっと。ついでに望月辺りも誘うか。

 

 

 

 

 

「あ、火野くんお帰りー」

「遅いぞ、黒兄」

 

 

 財布忘れてたから教室に取りに戻ってみれば、既に鈴ちゃんがいた。何でも、今日は弁当作り忘れてたのを知ってたからわざわざ俺の分を持ってきてくれたとのこと。鈴ちゃん、いい子すぎる……。

 

 

「……で、なんで戸村もいるんだ?」

「まーまー、固いこと言わないでよせんぱーい」

「勝手に着いてきたんだ……」

 

 

 野良犬かよお前は。

 

 

「私は大歓迎だけどねー」

「ああうん、だろうな……戸村も一応美少女だし」

「やだなぁ先輩美少女なんて…………一応?」

「黒兄、そんなことより早く座って座って」

「え、いっちゃん今そんなことよりって言った?」

「あ、ごめんごめん」

 

 

 ねぇねぇと言ってくる戸村をスルーして鈴ちゃんの隣に座る。本当ならパンを買いに行くつもりだったけど、今日は鈴ちゃんお手製の弁当を頂こう。でもこれ、もし俺が弁当作ってたりパンを買ってたらどうするつもりだったんだろ?出されたら食べるけど。

 

 

「黒兄が昨日夜更かししてたの知ってたからな。その場合絶対寝坊するし」

「だから授業寝てたの?早めに寝なきゃ駄目よぉ?」

「私と春瑚も、何度も言ってるんだがな……はぁ」

「まー、気が付いたら夜更かしってしちゃいますからねー」

「女の子の夜更かしは特に駄目よぉ〜?お肌にも良くないし」

「その辺はばっちりですからー」

「授業中は寝てばかりだからとでも言うつもりなのか……?」

「や、やだなーいっちゃん。あたしが居眠りばっかりだなんて」

「してるじゃないか」

 

 

 …………何でだろう、会話に入っていけない。そのせいで1人だけ弁当が空になりそうだ。春菊うまー。

 

 

「うぅ、いやそれはですね、バイトを幾つか掛け持ちしてるからでして……。それに数学って眠くなりやすいじゃん」

「居眠りしてることに変わりないだろうに」

「火野くんも数学はよく寝てるわよねぇ。佐藤先生嘆いてるし」

「数学くらいなら寝ててもいいかなって」

「じゃあ他の授業サボるのは何でかしら?」

「うぐっ……」

 

 

 さ、最近はサボってないし……。去年よりは頻度減ってるから…………。それに体育とか家庭科とかは基本サボってないし……。

 

 

「他はともかく、黒兄数学だけは満点だからな」

「せんぱーい、今度勉強教えてくださーい2人っきりで」

 

 

 確かにその通りだけどだけって言うな。悲しくなる。

 数学ならお前のレベルに合わせてミスがなくなるまで徹底的に説明してやるけど生物と英語は他をあたってくれ。あの二教科は全然だから。特に英語。望月、テスト前はまた勉強会頼む。

 

 

「いいわよぉ〜。でも火野くん、物覚え良いのになんで英語だけ駄目なのかしら?」

「それは俺にも解らん……」

 

 

 

 

 そんなこんなで、今日も過ぎていく。……って、もうすぐゴールデンウィークとその休み明けテストじゃね?あの連休からのテストは苦痛以外のなんでもないと思う。




 あてーんしょーん、はろはろ~。2週間以上空きましたが生きてます、クロウズです。
 今回ちょびっとだけ授業風景入れましたが、微妙でしたかね?霞黒が意外と腕力あること知ってほしかったといいますか。
 次回は修学旅行でも書こうかと思ってます。というか書きます。前編後編に分かれるでしょうね。



それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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3話目

 俺達聖櫻学園の2年生は、今日から修学旅行だ。それで、俺達が今何処にいるかと言うと。

 

 

「奈 良 だぁーーっ!!」

「火野くん静かにねー」

 

 

 思わず叫んだことで、佐藤先生に軽く注意されたけど気にしない。他クラスは何事かといった顔で、クラスメイトが苦笑してるのも気にしない。奈良は行きたかった県の1つだからすごく嬉しいものだ。

 

 

「ほんとうれしそうね火野くんは」

「で、なんでそんなにテンション高いのさ」

 

 

 点呼が済んで、望月と朝田に呆れられる。ちなみにこの2人のほか、女子は村上、正岡、ルメールが、男子は浜風と転校生の桐崎が同じグループだ。

この転校生、桐崎(きりさき)剣丞(けんすけ)は運の悪いことに中等部時代の俺を知ってる奴だ。あの頃を知ってる奴が転校してくるのは予想外だった。しかも奈良出身らしく、1人だけ修学旅行と言う名の里帰りになってる。

 

 

「だって、奈良だぞ?鹿に触れるし、王者がいるし」

「王者、ですか?」

「ワタシ知ってます。凶悪犯が変身する、とても強いライダーですネ」

 

 

 違うルメール、それは王蛇だ。王者は麻雀の県大会で個人優勝した女子生徒の事だ。あの圧倒的な強さと打ち筋はまさに王者だった。観たのはリアルタイムじゃなくて配信動画だけど。

 

 

「あいつも忙しいだろうから、会えないと思うぞ?」

「だよなー……」

 

 

 解ってはいたけど、桐崎の言葉で落胆する。転校前はあの王者と同じ学校でクラスメイトだったから知ってるようだ。でもこいつは剣道部らしい。あそこって、男子も結構強くなかったっけか?いいけど。

 

 

「はいはい、火野くんが意外とミーハーなことが解ったことだし、そろそろ荷物置きに行きましょ」

「おいちょっと待て望月誰がミーハーだ」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「散策って明日だっけ?」

「明日明後日だな。といっても、明後日は京都だが」

「あー、なるほど」

 

 

 京都、は何があったかなぁ……。家と2人へのお土産も考えとかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと見慣れない天井と古臭い匂い。体を起こして辺りを確認してから、朝田と簀巻きにされた浜風を見てようやくどこかを思い出した。

 

 

「…………あぁ、そういえば修学旅行中だったか」

 

 

 道理でシロの鳴き声もないわけだ。それにしても、外観とかロビーその他はホテルなのに、どうしてこの部屋は畳み掛けの和テイストなんだろうか。他の部屋もこうなのか、それともこの部屋だけこうなのか。

 と、そういえば今何時だ?時計、時計っと。なんだ、まだ7時か………ん?

 

 

「あれ、桐崎のやつどこ行ったんだ?」

「ん……ふわぁーあ……おはよ火野くん…」

「あぁ、起きたか朝田。桐崎はって、聞いても無駄か」

「桐崎くん……?どっか行ってんの………?」

「今いねぇからな。おら、起きろ浜風」

「ふげっ」

 

 

 いない奴はひとまず置いといて、簀巻き太郎を転がす。ところで、こいつなんで簀巻きにされてたんだ?

 

 

「火野くん真っ先に寝たから知らないのか。それ、寝相悪くてウザったいからって桐崎くんが」

「あー……あいつなら納得だ」

「くっ……ぁー、よく寝たぜ」

 

 

 簀巻きを解いてたら、浜風も起きる。こいつ、あの状態で安眠出来たのかよ……。しかも簀巻きだったのまったく気付いてなさそうだし。

 まぁこいつはいいとして、そろそろ朝食かな。

 

 

「ふぅ、さっぱりした」

 

 

 行方不明(仮)になってた桐崎が風呂場から出てきた。なんだお前、朝風呂派か?

 

 

「素振りで汗かいたからシャワー浴びてただけだ」

「お前、竹刀持ってきてたのか?」

「雀卓持ってこようとした火野くんが言う?」

「オレもバットなら持ってきてるぞ」

「他には?」

「………あっ」

 

 

 いや、そもそもボールとか持ってきてたとしても俺らはしないぞ?

 そう言うとショックを受けてorzみたいになってる浜風は無視して、朝食を食べに下に降りる。

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

 

 食べ終って少し休憩した後、自由行動なので望月達女子と一緒に奈良散策に。今更思うけど、何で班は男女混ぜたんだろう。

 

 

「奈良の街、ワクワクしますネー」

「とりあえず、最初は大仏とか見てく?」

「賛成デース!」

 

 

 ホテルにあったガイドマップを見て提案した朝田にルメールが乗っかる。大仏なら鎌倉の方にもあるだろうに、って言っても、あっちとこっちで別物だし、興味ある奴は両方に足運びたいんだろうな。俺にはよく解らんけど。

 そんなわけで、途中鹿とエンカウントして時間取られたけど、何とか大仏殿に着いた。

 

 

「オー、立派な大きさですネー」

 

 

 真っ先に大仏像に向かい、1人はしゃいでるルメール。そういえばこいつ、寺社仏閣とか好きだったな。見上げ続けてたら首が痛くなるなこれ……。

 

 

「火野サン火野サン、写真撮ってくださイ!」

「大仏って、原則撮影禁止じゃなかったか?」

「ガーン……出鼻をくじかれマシタ………」

 

 

 まあ、今回は運が悪かったと諦めろ。手続きしたら可能だとしても手続き面倒だし(本音)。

 それでもルメールは諦めきれてないのか、大仏の付近をうろうろしてる。

 

 

 

 あのまま迷子になられたら困るから、地元民の桐崎に付き添ってもらい、そのこともあって、昼頃までそれぞれ別行動をとることにした。ルメールと桐崎、女子3人組、男子2人組、俺1人に分かれる。別に、1人になったのは雀荘に入り浸りたいとか王者を見つけてサイン貰ったり対局してもらいたいとか、そういうんじゃないから。ただ人目をはばからず鹿と戯れたかっただけだから。現在進行形で鹿に囲まれてるけど。こら、服を噛むな。鹿せんべいあげるから。ちょ、待てちゃんとあげるから我先にと来るなお前ら毛皮硬いんだから………うにゃあぁああああああ!?

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇー………ぜぇー…………危なかった……。まさか地元民が止めるまで流されることになるなんて………」

 

 

 鹿せんべいどれだけ人気だよ……あーもうびっくりした…。周りも唖然としてるし、こんなこと今までになかったって言うし。さて、トラブルはあったものの鹿と戯れたし、どこかで先に昼でも食べておこうか「止めてください!」――ん?今の、望月か?

 

 

 

 

 

「いやいやそう言わずにさぁ、ちょっと付き合ってくれりゃいいんだよ」

「おとなしくしてたら悪いようにはせぇへんでー」

「だから、友達を待たせてるから……!」

 

 

 声のする路地裏の方へ行ってみると、高身長のチンピラ3人組に望月が囲まれていた。あれだけ望月の声が響いてるにも関わらず誰も助けようとしないのは、あいつらが手におえない連中だからかな。でも、そんなことは俺には関係ない。昼食前の運動も兼ねて、うちの大事なクラスメイト兼副部長に手出したらどうなるか教えておこう。

 

 

「おい、そこのチンピラ3匹」

 

 

 その為にはこっちに注意を向けさせなきゃだから、この手の奴に有効な言葉をふっかける。

 するとチンピラ共は面白いくらいに釣れて、望月から離れて俺の方へ顔を向ける。

 

 

「あぁん?んだてめぇ?」

「誰がチンピラだゴルァ!」

「口の利き方には気ぃ付けなされよー」

 

 

 口の悪いというか、頭の悪そうな反応だよ。チンピラ共が俺に気を取られてるすきに、望月に軽く手を振って物陰に隠れるよう指示する。この程度のレベルだと、ほんと少しキレさせるだけで周り見えなくなるのな。

 

 

「んだよてめぇコラ。女みてぇな顔しやがぶげっ!?」

「誰が、女みたいだって……?」

 

 

 1番手近にいた、女みたいだと言いやがった奴の顔面に飛び膝蹴りからの踵落としを喰らわせる。残りの2人はそいつが地面に叩きつけられてからようやく反応して鉄パイプを持つ。鈍い奴らだな。

 

 

「兄貴!てめぇ、覚悟出来てんのか!?」

「やっちまうでー」

 

 

 そう言って特攻してくる奴が振り回す鉄パイプを何度か避け、タイミングを合わせて腕を掴み、そのまま腹をコークスクリューで力強くぶん殴り、手を離して壁に蹴飛ばす。

 残りの1人はいつの間にか後ろに回っていたらしく、鉄パイプを振り下ろしてくる音が聞こえたから回し蹴りで払い、その勢いで一回転して、今度はそいつの首に回し蹴りを叩き込む。

 

 

「次俺を女みたいだと言ったら、病院送りだからな雑魚共がっ」

 

 

 

 久々に暴れた所為でボサボサになった髪を軽く戻して、くたばったチンピラ共を壁に退かし望月の様子を見る。

 

 

「望月ー、大丈夫だったか?」

「え、えぇ。火野くんが来てくれたから」

「そっか、良かった。それじゃ、あいつらが起きる前にさっさと出ようか」

 

 

 路地裏から出た俺達は、村上達が待ってるらしい喫茶店に向かう。望月は忘れ物を取りに2人と別れて、そこに向かう途中で絡まれたらしい。ちなみに、その喫茶店で昼を食べることにしようと、村上はそのことをメールで伝えたんだが俺には届かなかった。というのも、俺は村上と連絡先を交換してなかったからだった。

 それと、望月はさっきのことにまだ少し怯えてる様子だから手を繋いで引っ張ってやる。望月は顔を赤くして困惑してるけど、こんな場面に出くわしたら普通はビビるから恥ずかしがる必要ないぞ?

 

 

「そういうのじゃないけど…………ね、ねぇ。火野くんって、もしかして不良だったりする?」

「授業サボってばっかの俺が、真面目に見えるか?」

「そっちじゃなくて……」

 

 

 じゃあどっちだよ。いや、言いたいことは解るけど。ヤンキーとかの意味でなら答えは一応イエスだぞ。中等部ん時はよく喧嘩してたし。

 

 

「そうだったんだ……」

「さっきのお前みたいに、絡まれてる奴のとこ割り込んだらその不良グループにつけ回されたりとかでな。で、鈴ちゃんと春ちゃんにまで手出そうとしたからぶっ潰し回って、その所為で黒狗って呼ばれるわ他の不良共にビビられるわ中2から卒業まで学年間ではぼっちだわと……」

 

 

 しかも当時は黒服ばっかだったから、不良共には黒狗なんて呼ばれるし。あの頃はほんと黒歴史だよ……。あ、この話は誰にも言うなよ?2人以外では、桐崎とどうしてか神楽坂しか知らねぇから。

 

 

「砂夜ちゃんはともかく桐崎くんもって……火野くん、中学の修学旅行でも喧嘩したの?」

「修学旅行ではしてないし、あれは巻き込まれたんだ……」

 

 

 あいつの家族が従姉に会いに来てたらしい時にあいつが絡まれてて、その現場に居合わせた俺が止めようとしたら木刀抜いてねじ伏せ、俺を連中の仲間と勘違いしてやられ、いや、殺られそうになったんだ。

 

 

「貧乏くじ引いたわね……」

「あぁ……。ちなみに、桐崎の従姉は五代らしい。剣道部の」

「律ちゃん?へぇー、そうなんだぁ」

 

 

 と、黒歴史なのに他人に話してることに違和感を覚えながら喫茶店に向かった。昼からどうするかはそこで決めるんだろうな。とりあえず、その喫茶店に雀卓あるといいなぁ。




 あてーんしょーん、はろはろ~。どうも、クロウズです。
 今回と次回は修学旅行編ですが、奈良とか小学校以来行ってねーんですよね。鹿が可愛かったことしか覚えてません。しかも奈良はあまり関係なかったり。
 霞黒を不良っていうのは、サボり癖があるだけじゃつまらないと思って考えてたやつです。たまに口悪いのはそれが理由だったりします。



 それではこの辺で。はらたま~きよたま~。





 人物紹介に〈桐崎剣丞〉、〈浜風〉を追加します。


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4話目

 目的の喫茶店に着くと、他の6人はとっくに集まってた。

 

 

「文緒ちゃ〜ん、麻衣ちゃ〜ん。お待たせ〜」

「あ、望月さん。良かった、心配したんですよ?」

「ごめんねぇ。でも、何もなかったわよぉ」

 

 

 一応、正岡と村上には(望月が)連絡入れておいたけど、2人共やっぱり心配してたみたいだ。何もなくはなかったけどな、言ったら面倒だから言わないけど。と、店の前で8人も集まって駄弁ってたりしたら迷惑だから、早くに入る。

 休日の昼間にも関わらず、店内はそこまで埋まってはなかった。これなら、8人なら大丈夫だろうな。予約されてたりしたらアレだけど。

 

 

「いらっしゃいませ。何名様で……おや、火野君にエレナじゃないか」

「あら、部長?」

「え、間宮先輩?」

 

 

 たまたま入った喫茶店の店員に、まさか先輩がいたとは。そういえば去年、奈良の大学に行くとか何とか言ってた気がするけど、まさかバイト先で遭遇するとか考慮しとらんよ。オカルトかこれ?あと望月、部長は俺だ。

 

 

「あ、そうだったわねぇ」

「それにしても随分と大所帯だな。とりあえず、席に案内しよう」

 

 

 まあ修学旅行ですからね。

 席に案内してもらったけど、当然8人掛けの席はないわけで4人掛けの席2つを使わせてもらう。その際に雀卓を見つけ、注文さえすれば打たせてくれるようだ。といっても、こいつら誰も麻雀出来ないんだけど。

 

 

「ははっ、まあ打ちたくなったら呼んでくれ。私達が相手するよ。こちら、メニューになりますので」

「ありがとうございます」

 

 

 先輩にお礼を言い、メニューを見る。喫茶店だから軽食ばかりかなと思ったら、がっつり系も色々あった。ただ、この『特盛り!激辛ジャンボカレー』は場違いな気がする。写真からして量が多すぎるし、肉もサイズが大きい。これはあれか、30分内に食べ切れればとかの類か。

 

 

「うっわ、何だその胃に大ダメージ与えそうなやつ」

「火野はそのカレーでいいのか?」

「甘党の火野くんには過酷じゃないかしら?」

「むしろ普段甘い物ばかりだからここで辛い物食べるんじゃないかな?」

 

 

 食べないぞ。いや、食べないぞ。辛い物は基本無理だからな?あとブラックも飲めないぞ。

 

 

「火野サンは、意外と子供舌ですネー」

「ほっとけ」

「まあまあ……」

 

 

 その後さっさと決めるとそれぞれ注文して、俺は卓の方に行く。打てるならそりゃ打たせてもらうに決まってる。

 先輩に頼むと、先輩の他に2人の店員、鷹宮さんと霧雨さんに入ってもらう。初めての相手だけど、手加減はいらないよな。

 

 

「こうして火野君と打つのは久しぶりだね」

「ですね。最近はネト麻の方も出来ませんでしたし」

「それは、すまない。ちょっと立て込んでてね…」

「あぁ、レナちゃんのよく話してた好k――「鷹宮さん!!」――おっとっと。それ、ポンね」

「先輩、声大きいです。あとそれ、ロン。跳ね満です」

 

 

 何か誤魔化すように大声を出してやや乱暴に牌を捨てた先輩に和了(ホーラ)宣言。冷静さを失っての打牌には悪いけど、無慈悲に点数申告。

 先輩は鷹宮さんを睨むけど、当人はどこ吹く風。この人、振り込ませる為にわざと言ったんじゃないだろうか。だとしたらだいぶえげつないぞ。

 

 

「ふふん。じゃあ、あたしの親ね」

(絶対に直撃取る……!)

(……なんか、先輩からオーラが)

 

 

 空回りしてまた振り込まなきゃいいんだけど。

 

 

「で、スワローはなんでだんまりなの?」

「その呼び方は止めろ。カン」

「霧雨さん、なんでスワローなんです?」

「彼は、名前が燕だからね。ただ英訳しただけなんだが」

「中学に入ってから呼び始めたのよねー。ポン」

「え、幼馴染なんですか?それ、チーで」

「ええ。幼稚園からの付き合いよ」

「ちなみに大学の方は学部も一緒のようだよ」

 

 

 腐れ縁のレベル遥かに超えてません?霧雨さんものすごいしかめっ面してますし……。縁の太さ、出雲大社の注連縄並ですかそれ?

 

 

「もしそうなら俺は縁の神を呪う。ツモ」

「ドラ6っすか………」

「カンドラが仕事しすぎたね」

「親っ被り……」

 

 

 染め手でも上手い具合に迷彩掛かってたし。さて、さすがに焼き鳥で終る気はないし、本気出す「火野くーん、お料理とどいたわよー?」まじかよ!タイミング悪いな!?

 

 

「あ、だったら止めるかい?」

「いや、最後までやります。それに、ここで止めたら先輩じゃなくて俺がラスになりますし」

「……ほう?なら、結果は変わらないと思い知らせてあげようか」

「あはは、盛り上がってるわね」

「……だな」

 

 

 親の霧雨さんからスタートして、牌を切っていく。ここは、多少低くても早和了りを狙うか。順調に行けば2位、運が良かったらトップで終れる。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 

「ふぅ。さて、次はどうしようか」

「時間はまだあるとはいえ、ねぇ」

「誰かさんの所為でな」

「うぐっ……」

 

 

 喫茶店を出た後、望月と男共に非難じみた目を向けられる。結局あの後は霧雨さんが連荘して俺と先輩が仲良くトビ終了。その時は諦めて料理を食べに戻ったけど、トバされたまま帰るのは雀士として情けない、というかそんな事が母さんの耳に入ったら、また1週間近くの徹麻とかやらされるから同じ面子で何度も打った。最後の最後でトップに立てたけど、霧雨さん強すぎる………。

 とまぁ、そうやって他の7人を放ったらかして何度も打ってた所為で今の俺は居心地悪い。喫茶店での会計は全部俺持ちだったし……。

 

 

「ま、これくらいはな」

「火野サンは太っ腹ですネー」

「あの、やっぱり私の分は……」

「いいんだよ正岡さん。火野君が払うって言ったんだし」

「……………後で覚えてろよ朝田」

 

 

 恨みを込めた目を向けても、朝田は笑っている。くそ、ムカつく。

 

 

 

 

 で、この後時間いっぱいまで全員にあちこち振り回された。途中で正岡の体力が尽きたから俺が背負うことになった。しかも望月の俺を見る目がなんか怖い。何故だ、俺が何をした……。

 

 

「あー、疲れた………。体がきしむ…………」

 

 

 布団を敷いてそこに突っ伏す。うぁー……何もやる気が起きない…。明日筋肉痛になる…………。

 

 

「だらしねぇな、火野は。そんなんで筋肉痛かよ」

「…るせぇお前と一緒にすんな筋肉バカ……プロテインでも摂取してろ達磨野郎…」

「しねぇよ!?」

「うるさいそこ。火野君、ご飯は?」

「寝る……いらない………」

 

 

 今は一刻も早く体を休ませたいから下まで歩きたくない。そんな屍間近みないな俺を置いて部屋を出ていく3人に、顔は向けず手だけ振って見送る。…あー……鍛えるか………今日はしないけど…。このまま寝―――ん?電話か…誰だよこんな時に。

 

 

「ぁい、もしもし……」

『あ、すまない。もしかして寝てたかな?』

「……。……………先輩?どうしたんでー…?」

 

 

 一体何の用だろ。とりあえず眠い…。

 

 

「まあ、寝ようとはしてましたけど…何か用ですか……?」

『ああうん、用って程じゃないんだけど、その…』

「……?」

 

 

 なんだろか。次のネト麻のことかな。

 

 

『ちょっと、君の声が聞きたくて……ダメかな?』

 

 

 乙女か。あ、乙女だ。正直さっさと寝てしまいたいっていうのもあるけど、せっかくだしいいか。腹減った場合は、確かチョコるんバーが余ってたはずだし。

 

 

「大丈夫ですよ。こうして話すの、久し振りですし」

『よ、良かった。そういえば、この前にな』

 

 

それから数分程、お互い最近どんな事があったかを話し合った。ただ、先輩の声がだいぶエコー掛かってたような気がするのはなんだったのか。水の音も聞こえたりしたし……。ま、いっか。さて、今日はもう寝るか。

 

 

 

 

 

 

「火野、起きろ」

「……む、うぅ……ん………」

 

 

眠い……今何時だ…?

 

 

「7時前だね。さっさと起きて、荷物片付けなよ?」

「……ん…」

 

 

のそのそと布団から這い出て、欠伸を噛み殺す。えーっと、確か寝ようとしたら先輩から電話がかかってきて、それが終ってからは……あー……すぐに寝たのか。

今日はこの後ここを出て、半日は京都観光して帰るんだっけ。うーん、せっかくだし京都でも何かお土産買っていこうかなぁ。やっぱり、奈良だけじゃダメだよな。何がいいかなぁ。

 

 

「はいはい。そういうのは後にして、朝ご飯食べに行くよ」

「ん、あぁ、解った」

「食いたいモン食えなかったらお前の所為だからな」

 

 

 桐崎を除いた2人に急かされて、布団を綺麗に畳んで部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後京都ではルメールに忍者探しを手伝わされて東奔西走させられまくったり、朝田の悪ふざけでお化け屋敷に連れ込まれて、ガチ泣きして小動物みたいにしがみついて離れない望月を慰めてやったり、ガラの悪い不良に絡まれてる他クラスの生徒を助けた後で桐崎と一緒になって不良共をぶっ潰して病院送り手前にしてしまったりなんやかんやあることを、俺はまだ知らなかった。




 あてーんしょーん、はろはろ~。最近診断メーカーで女体化モノ作ったクロウズです(姑息なステマ)。
 修学旅行ってなんでしたっけ(本末転倒)?こ、小ネタの方で補完するので許してくださいお願いします(五体投地)!久々に部長を出したかったんです(ぶっちゃけ)!
 次の話は内容も更新日も相変わらず未定、小ネタに走る可能性大です。というか走ります。1年編とかで分けるべきかな。



 それじゃあこの辺で。はらたま~きよたま~。


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5話目

 修学旅行にその後に待ち受けていた中間試験を何とかクリアし、平和な6月に入ったある日。この日も俺はいつも通り屋上に出て授業(数学)をサボってる。この後は昼休みだから、このまま屋上で寝て過ごすつもりだ。ただ今日は、

 

 

「んー?どったのクロチャー。ボクの顔に何か付いてるかい?」

 

 

 先客が1人いるんだけどな。

 この、3限目からサボってるらしい先客は1年生の東雲レイ。去年の俺みたいに授業を抜け出してはこうして屋上に出て来てパソコンを弄っている。4月に出された神楽坂の頼みでこいつを生贄として差し出し、もとい紹介してからというもの、サボりの時間が合ったり廊下ですれ違ったりすれば何かと絡んできてた。言葉遣いも悪く、先輩だというのもお構いなしにタメ口で話してくる。まあ、堅苦しい敬語よりは気楽でいいんだけど。てか、そんなに後輩と関わってないか。

 それにしてもこいつは、危機感というものがないんだろうか。仮にも女子なんだから、寝転んでる男子の隣で胡坐掻いて、スカートの中身見られても平気だとでも言うのか?

 

 

「いや、なんでお前と一緒にサボってるんだろうなって……」

「ボクがいる時にクロチャーが来たからだろ?」

「確かにそうだけど、わざわざ俺の隣に来ることないだろ。ところで今何時だ?」

「だってクロチャーの近くにいたら、何かあった時身代わりに出来そうだからね。今?12時半回ったところだね」

「あと10分か………」

 

 

 そろそろ購買に行く準備でもするか………やっべ、今日財布家に忘れてきた。どうすっか――わぷ。おい東雲、髪が顔にかかって鬱陶しいからちょっと離れろ。

 

 

「やだよめんどくさい。クロチャーが退けばいいだろ?」

「俺だって面倒だよ。あと、いい加減その呼び方止めろよ。火野先輩、せめて火野さんだろ」

「今更先輩呼びとか無理だね。それに、好きに呼べって言ったのクロチャーだろ?」

「言ってない」

「言ったよ」

「言ってない」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 っと、もう終ったのか。昼以降は出るって言っちゃったからなぁ。とりあえず教室に戻るしか「見つけたぞ東雲ぇ!!」あ?

 バーン、と屋上の扉を思い切り1人の男子が入ってくる。走り回ったからなのか息は切らせてるし髪はボサボサだ。ネクタイは青、1年生か。しかも、どうやら東雲の知り合いっぽいな。

 

 

「んー?……うげっ、ミヤビンか」

「登校したならちゃんと授業を受けろ!そもそもちゃんと登校しろよ!」

「あーもーうっさいなーミヤビンはー……どうしようがボクの勝手じゃん」

 

 

 この1年、とりあえず五月蝿い。

 

 

「あ、すんません。つい――って、なんでタイしてないんすか!」

「五月蝿いなぁ。で、お前は一体誰なんだ?」

「通りすがりの風紀委員っす。覚えなくていいっすよ」

「そういうのいいから名乗れよ」

「あ、はい。1年C組の木林(こばやし)(みやび)っす。2年の火野先輩っすよね。桐崎先輩から聞いてるっすよ。昔は喧嘩にあ――――むぐっ」

「それ以上喋ると上顎と下顎が別れることになる。いいな?」

 

 

 喋りきらせる前に口を塞いで脅しを入れる。思い切り掴んでる所為で頷けないから目で頷くと、離してやる。くそ、あの剣道野郎め。後で一発ぶん殴ってやる。

 とりあえず、俺のタイはちゃんとここにあるから俺のことは無視してくれ。代わりに東雲を差し出す。

 

 

「ちょっ、裏切るのかクロチャー!?」

「今回だけっすからね。それと東雲。お前はもう少し先輩への態度考えろ」

「あー木林、もう慣れたからいいよ。そこはほっとけ」

「……それでいいんすか。まあ、東雲。残りの授業には出てもらうからな、ほら、教室に戻るぞ。答えは聞かないけど」

「やめろー、そんなこと言ってボクに乱暴する気だろ」

「しねぇよっ。毎回毎回変なこと言って逃げやがって!」

 

 

 なんかこういうの見てると、微笑ましいな。一枚撮っておこう。それにしても、木林のやつ、いくらなんでも東雲のこと気にかけすぎじゃないか?まさかとは思うけど、

 

 

「なあ木林。お前、東雲が好きなのか?」

「は?…………はあ!?いやいやいやいやそんなんじゃねーっすから!ただの腐れ縁っすから!」

「そこまで慌てると、肯定してるもんじゃね?知らんけど」

「え、好き………え?」

「なんでもない、なんでもないからな東雲!」

「あっはっは、愉快愉快。じゃ、俺は先に失礼するな」

「ナニイテンダ!プジャケルナ!」

 

 

 2人の間に盛大な爆弾を投げつけて、そそくさと屋上から逃げる。いい写真も手に入ったし、あいつ相手ならなんとかなるかな。……お?

 

 

「おっと、確か五十鈴のお兄様の」

「火野だよ。あと、様付けはキモいから止めろ」

 

 

 中二病末期患者が現れた。後ろの2人は、例の暁とかいうやつのメンバーか。

 

 

「あ、すみません。手が滑りました」

「言ってろ」

「冗談っすよ冗談。あ、紹介します。暁の側近の桐生(きりゅう)一馬(かずま)と手下のキョンです」

「なんでそっちで言うんだよこの馬鹿。佐久間(さくま)恭介(きょうすけ)です」

 

 

 この、個人的には近付きたくない集団にいるから面倒なやつばかりかと思ったけど、この佐久間はまともだったか。むしろ苦労人気質なこっち側?こっちの桐生は、側近て言ってるくらいだからあっち側か。

 それにしてもこいつら、屋上に何の用か。って言っても、昼飯か。

 

 

「そうっすよ。先輩もどうすか?」

「遠慮する。それと、今日は屋上に出ない方がいいぞ」

「え、でもさっきまで先輩屋上にいたんだよな?なんでだ?」

「言葉遣いは面倒だからスルーするが、出たら馬に蹴られるとだけ言っておく」

 

 

「馬に蹴られるって、屋上に馬がいるってことか!?」

「そりゃあ大変じゃねぇか!捕まえるぞサスケ!」

「な訳ないだろこの馬鹿共!おいバカズマ、いいからこっち来い!サスケも覗こうとするな!!」

 

 

 教室へ戻る途中、佐久間の大声が届く。大変そうだな、佐久間のやつ。それにしてもバカズマか。漢字に直したら馬鹿馬になるのかな。

 っと、そんなことより今日の昼どうしようか。るんバーも確かストック切れてたと思うし。

 

 

 

 

 

 

 で、教室に戻ってみると、

 

 

「黒兄、今日ちょっと弁当を作りすぎてしまってな。食べるのを手伝ってくれないか?」

 

 

 マイリトルシスター鈴ちゃんからありがたいお言葉が。鈴ちゃんが天使、いや、女神だったか……。

 

 

「馬鹿なこと言ってないで。ほら、黒兄の分だ」

「ありがとう鈴ちゃん。今度何か奢るよ」

「うにゃ、頭を撫でるなぁ~………」

 

 

 そうは言っても、目を細めて喉を鳴らしてると説得力ないな。それにしても、やっぱり癒されるなぁ、鈴ちゃんは。なんか教室のあちらこちらでシスコンだとかロリコンだとか聞こえるけどノーウェイノーウェイ。何言われても神奈川じゃノーカンだから。ただ、約1名からの視線が痛い。痛すぎる。

 

 

「な、なあ……望月?」

「ん?なにかしら?」

「……何でもないです」

 

 

 突き刺すような視線から一転、笑顔を見せてくれるが、その笑顔がどうも怖い。なんであんなに機嫌悪いんだよ、あいつ。この前の誕生日パーティーではあんなに喜んでたのに。あれか、その為の準備で避けてたのを根に持ってるのか?ここ最近よそよそしいのはその所為なのか?

 

 

 

 ――時は少し進んで、放課後。

 

 

「望月、部活行こうぜ」

 

 

 俺以外にはいつも通りだったから原因は俺なんだろう。だから、部活とはいえあまり誘わない方がいいんだろうけど、気になるからな。せめてもう少し会話があれば、原因が解るかもしれない。なのに、

 

 

「あ、火野くん」

「ん?」

「私、しばらく部活休むかもしれないから」

「え、あ、望月?」

 

 

 そう言って、俺が困惑してる間にさっさと教室から出ていってしまった。こ、これはどうするべきなんだろうか。奥さんにほとぼりが冷めるまで実家に帰られる旦那さんもこんな感じなのかな。知らんけど。

 

 

「はぁ……1人じゃ部活にならないし、鈴ちゃんとこに行くか」

 

 

 そうと決まれば、華道部の部室に行くか。それにしても望月のやつ、一体どうしたんだろ。

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁーーっ、また飛んだーー……」

 

 

 あれから数日、休部宣言をした望月とはあまり会話できずのまま過ぎていった。何か悩んでるのは間違いないんだろうけど、俺とは目を合わせてくれないし。それでもやもやしたままネト麻をしてはこうして飛ばされて終局だ。うー、今までなら何かに悩んでてもここまで酷い戦績はなかった、というか好戦績だったんだけどな。

 

 

『ミスト君、今日は調子悪かったね』

 

 

 ん、間宮先輩か。って、なんだ俺のこの打ち筋。そりゃ心配されるわけだ……。

 

 

『はは、すみません…。今日は、もう落ちますね』

『ん、そうかい?何か悩みがあれば聞くが』

『あー、じゃあ少しいいですか?電話の方で』

『うん、解った。じゃあ、わたしの方から掛けるよ』

 

 

 それを合図に落ちて、そのすぐに先輩から電話が掛かる。

 

 

「すみません、わざわざ」

『大事な後輩の悩みだからね、話くらいは聞くよ』

「ありがとうございます。それで、話は望月のことなんですけど」

『エレナの?何があったんだい?』

「実は、最近よそよそしくなったり、妙に機嫌が悪かったりするんですよ。部活も休みがちになってますし、この前なんてしばらく休むって言ってましたし」

『あのエレナが?部活を休むのも気になるが、君への態度も気になるな。具体的にはどうなってるんだい?』

「あー、一応挨拶はしてくれるんですが目を合わせてくれなかったり……」

 

 

 ここ最近の望月とのやり取りなんかを覚えてる限り伝えて、相談に乗ってもらう。鈴ちゃんが拗ねた時とはまた違うから、やっぱり年上の知り合いって必要だな。

 

 

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 ――時、同じくして

 

 

「うぅ、やっちゃったぁ……」

 

 

 今日も今日とて早足で帰ってきた私は、着の身着のままベッドにダイブして絶賛後悔中。ここ最近は写真が上手く撮れなくてスランプ気味だから部活に出るのをためらっちゃうし、火野くんへの態度に棘出ちゃうし……。

 

 

「でも、スランプの原因は、火野くんなのよねぇ…………」

 

 

 そう。上手く撮れなくなってるのは、いつもみたいに女の子を撮ろうとしたら火野くんの顔が出てくる。それでシャッターチャンスは逃しちゃうし、女の子へのときめきもなくなっちゃう。なくなるどころか、そのときめきが火野くんへ向いてる。

 

 

「……私、もしかして…………火野くんのこと……」

 

 

――好き、なのかも……。




 あてーんしょーん、はろはろ~。ここ最近の暑さによって死亡間近に追いやられてるクロウズです。防具なしでも暑さ倍加のスキル発動しますね。
 今回でようやくエレナが自覚してくれました。次回書いてる時はきっと、壁が欲しくなるんだろうなー。誰か壁殴り代行サービスやってませんか?正直、6話目もさっさと書ききってしまいたいのですが、この暑さの所為で筆が乗らない乗らない。感想があれば乗るんだけどなー(チラッ
 まあ、出来る限り頑張りますので続きをお待ちください。いつ更新されるか解りませんがね!




それではこの辺で。はらたま~きよたま~。





人物紹介に〈木林雅〉を追加します


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6話目

 昨日間宮先輩に相談に乗ってもらった結果、まずは話し合いをした方がいいと言われた俺は、最近取り付く島もない望月とどう話せばいいのか、昼休みになっても悩んでいるんだが、

 

 

「はぁ……」

「……」

 

 

 その望月はさっきから俺の顔を見ては憂いを帯びたような表情で溜め息を吐き、俺と目が合いそうになると慌てて窓の外を眺めたり教科書で顔を隠したりする。何なんだよ一体。というか先輩も、望月がこうなった原因は解ってるみたいなのに教えてくれなかったし。ほんと何なんだよ一体。

 

 

「望月さん。さっきから溜め息吐いてますけど、大丈夫ですか?」

「…………」

「望月さん?」

「ふわっ、え、あ、なに、文緒ちゃん?」

 

 

 心配して声を掛ける村上には普通に接するんだよなこいつ。もう村上に原因聞いてもらった方がいいかな。

 と思っていたら、珍しく村上の方から声を掛けてきた。

 

 

「……。あの、火野さん。少しいいですか?」

「ん、あぁ、いいぞ」

 

 

 困ったような、でもどこか怒ったような表情の村上に、箸を置いて向き直るとここで話すのはなんだからと、廊下に連れ出される。その時に望月が何か言いたそうにしてたけど、俺が声を掛けると、目を逸らして小さな声で何でもないとだけ言って不貞寝しだした。なんか、よく考えたら去年の鈴ちゃんみたい。

 まぁ、今は望月はいいとして。どうせ望月とのことについてだろうと思いながら廊下で村上と向き合う。

 

 

「で、話って?まぁ、望月とのことなんだろうけど」

「……はぁ。そういうのは解るのに、望月さんの気持ちは解らないんですね」

「あいつの気持ちって。部活に出れないのはスランプだから、とかだろ?ここ最近、あいつカメラ構えても溜め息吐くだけだし」

 

 

 それと俺を避けることに共通点があるかは知らないけど。俺関係で悩んでるなら、それこそ当人である俺に言えばいいだろうにと思う。そう言ったら今以上に困った表情をされた。困ったというか、むしろ呆れた表情だこれ。そんな顔するな。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。

 

 

「誰の所為ですか、まったく……。それより、今は望月さんです」

「俺避けられてるから、代わりに聞いてほしいんだけど……」

「それじゃあ意味がありませんし。って、そうではなく」

 

 

 望月のことなのに違うのか。じゃあいったい何だ?

 

 

「火野さんは、望月さんのことをどう思ってますか?」

「成績優秀で気配りとかも出来るけどプラス面をマイナスで埋め尽くすほどに女子相手へのテンションが高かったり変態染みてたりで性格が残念すぎるかわいそうなクラスメイト」

「た、確かに、望月さんは女の子には積極的ですけど………わたしが言いたいのはそういうことじゃ」

「解ってるよ。……多分、好きなんだと思う」

 

 

 いや、多分じゃない。俺は本気であいつが、望月が好きだ。

 女好きで、トラブルに巻き込んで、風紀委員に目を付けられて、毎回人を振り回したりと、なにかと迷惑かけられたりしたが、あいつと一緒にいると、今までにない暖かさがある。なんだかんだ言って英語を教えてくれたりするし、いつだったか風邪で寝込んでる時にわざわざ看病しに来てくれたこともあったっけ。去年の櫻花祭では、風紀委員長から逃げるためにお姫様抱っこしたんだよな。あの時はほぼ無意識にやっちまったけど、あいつには恥ずかしい思いさせたな……。

 今までのことを思い出してたら、村上が暖かい目で見てたから誤魔化すように慌てて咳払いをする。……くそっ、顔が熱い。

 

 

「ふふ、顔赤いですよ?」

「う、五月蝿い………!」

 

 

 解ってるから言わないでくれ!

 

 

「……なぁ、村上。少し思ったんだけど、なんでお前がここまでするんだ?」

「望月さんとは友達ですし、それに……」

「それに?」

「…………お2人の今の距離感は、正直見ていられませんから。他の方も、きっと思ってますよ。空気が悪いとか、火野さんは早く謝った方がいいとか」

 

 

 正直、ここまでする理由なんてないと思って聞いてみたら、村上らしい答えが返ってきた。その直後には村上らしくない答えになったけど。お前そんな風に思ってたのか。そんな困り顔で毒付かないでほしい。

 

 

「村上も、言う時は言うんだな……」

「あ、すみません。ですが、こういうことははっきり言わないといけないと思って」

「……ほんとズバッと言うな、いいけど」

「ふふ。わたしは図書室に向かいますが、火野さんはこの後どうしますか?」

「放課後、あいつに告白する」

「ヘタれないでくださいね?火野さん、そういう時ヘタれそうですし」

「誰がヘタレだ、誰が!」

「冗談ですよ。でも、ちゃんと言ってあげてくださいね。そうすれば、望月さんの悩みも、きっと解決されますから」

 

 

 そうはっきりと伝えて、俺は教室に戻る。

 教室内では大半が昼飯を食べたり友人と駄弁ってたり委員会などでいなかったりだが、望月はいまだ不貞寝中なのか、顔を伏せたままだった。こいつ、昼食べ終ったのか?

 

 

「望月、起きてるか?」

「……んぅ…だれぇ………?」

「俺だ、寝ぼけてんのか」

「ん………火野く…………火野くん!?」

「おわ、っと……危ないなおい」

 

 

 寝起きからの頭突きとは、穏やかじゃない。体を引いて頭突きを避けた後は、慌てて顔を伏せようとする望月の肩をつかむ。伏せるならせめて俺の話を聞いてからにしてもらおうか。

 

 

「望月、お前今日って掃除当番だったよな?」

「え、えぇ……ところで火野くん……近い…」

「ああ、悪い。でだ、放課後話があるから、掃除済んだら屋上に来てくれ」

「あ、うん……わ、私も……火野くんに話したいこと、あるし…」

「ん、解った」

 

 

 そういえば、望月は結局何に悩んでるんだろうか…?村上は俺が告白すれば解決できるとか言ってたけど。まぁ、放課後まで待つか。

 

 

 

 

 

 そして、午後の授業も終って放課後。

 授業中は午前同様、いや、もしかしたら午前よりもチラチラと見てきてはすぐに目を逸らし、を繰り返してた望月にもう一度声をかけてから、先に屋上に向かう。

 

 

 

 屋上に出ると、まず人の気配がしないか、人影はないか確認する。……よし、今日は幸い、東雲を含め誰もいないみたいだ。俺は一息ついて、ベンチに座っていちごミルクを飲みながら望月が来るのを待つ。これから、あいつに告白するんだよな……。……………うっわ、口に出して言うとすっげぇ恥ずかしい!やばい、こんなんでちゃんと告白出来るのか!?………いや、落ち着け。とりあえず、卓に着いてる時をイメージしよう。………………………なんで役満に振り込んだ!!……って違う違う。イメージ内で対局してどうする。対局前の方でいいんだよ。………はぁ、何やってんだ俺は。こんなんで大丈夫か………いや、大丈夫だと思わないと、変に滑る。しっかりしろ、腹括れ。

 

 

「……よし、大丈夫だ」

「何が?」

「うぃらうわこすか!?!!」

「ひゃっ、びっくりしたぁ」

 

 

 こ、こっちのセリフだ!心臓が止まるかと思ったじゃんか……!

 思わず飛び上がってしまったけど、息を整えて向かい合う。

 

 

「………ふぅ。悪いな、呼び出して」

「ううん、平気。それより、私もごめんねぇ。ちょっと避けてて」

「あれな。軽く傷付いたんだぞ?」

「ごめんってぇ」

 

 

 顔の前で手を合わせて何度も謝る姿に苦笑して、隣り合わせでベンチに座り、話をする前にといちごミルクを渡してやる。望月がそれを飲んでる間、俺は望月から貰ったアメを舐めておく。…ん、プリン味か。美味い。

 飲み終ってから話し出そうと思ってたら、一息入れた望月が、立ち上がって先に口を開いた。

 

 

「えっと、私から話していい?」

「ん、いいぞ」

「じゃあ……。実は私、最近ね………女の子に全然ときめかないの!!」

「……………………」

 

 

 あまりの衝撃に、口の隙間からアメを落としてしまう。スランプなのは解ってたけど、そんなことがあったのか…。

 

 

「そ、そんな驚かなくていいじゃない」

「あ、あぁ……悪い」

「もう……。それで、そうなったのは、5月の半ばくらいなの。その頃から、いつもみたいに女の子を撮ろうとしたら、女の子に対して昂ってたときめきが、胸の中からするするーって、どこかへ抜けていっちゃうの………。そのまま撮っても、写ってるのは少し恥じらってるだけの女の子。その写真の中に、私が求めてるイマジネーションはないの……」

 

 

 そう言って見せてくれた写真には、確かに普段の望月らしい女子への貪欲さというか、並々ならない意欲が見えない。ここまでだと、一体何が原因なんだろうか。

 

 

「原因?あー……原因は、心当たりがあると言えばあるんだけど……」

「あるけど?」

「………はぁ。本当に鈍いんだから……」

「え?」

「……………火野、くんが………だから」

「え、悪い。よく聞こえなかったんだけど」

「もーっ!だから、火野くんが原因なんだからねっ!!私の中で、キミの存在が大きくなっちゃって、女の子へのときめきが全部キミに変わっちゃうの!今までこんなことなかったのに………どう責任取ってくれるの!?」

「え、あ、俺の所為だったのか…………」

 

 

 ズイッ、と距離がなくなるくらいに詰め寄ってくる。近い近い……。それに、責任って…………。そういえば、俺の話をしたら望月の悩みも解決されるって村上が言ってたな。どういう意味か解らなかったけど、そういうことだったのか。

 

 

「だ、だって、男の子にこんな感情持つのなんて初めてだし………。それにね?火野くんのこと考えると胸の奥があったかくなるの………」

「望月…」

「……私の話は、こんな感じ。火野くんの話って?」

「俺の話は………」

 

 

 正直、こいつの話を聞いてる間は、告白しない方がいいんじゃないかって思いもしたけど、こいつにだけ話させて、俺はだんまりなんて、フェアじゃない。それに、責任も取らなきゃいけないしな。

 俺は立ち上がって、望月の前に立つ。

 

 

「単刀直入に言う。望月、いや、望月エレナ」

「は、はいっ」

「俺は、お前が好きだ。俺と、付き合ってくれ」

 

 

 まっすぐに目を見て、はっきりと告げる。

 

 

「え………」

「本当なら、もう少し早く言うべきだったんだけどな。どうも俺は、結構ヘタレみたいで」

「あ……う、ほ、ほんとよっ。もっと早くにしてくれてたら、スランプに陥ることもなかったのに……。しかも、私の話の後に言うなんて、ずるい、わよ………」

「あの時に言ったら、お前ミルク噴き出してただろ、恥ずかしさで」

「そ、そんなことしないわよ!」

 

 

 思わず普段のやり取りみたいな空気にしてしまったが、こうでもしないと気恥ずかしさで発火しそうだ。顔が特に熱いけど、夕日が背にあるから真っ赤になってるかは、望月からは確認し辛い筈だ。とはいっても、当の望月は顔を手で覆ってるからこっちは見てなかった。

 

 

「う、うぅ………」

「……………」

 

 

 今の内に熱を冷ましたいところなんだけど、この間がさらに緊張させてくる。握り拳から汗が出てきた。やっぱり、しない方が良かったか!?っていやいや。だからヘタれるな、俺!

 

 

「ね、ねぇ……火野くん」

「お、おうっ、なんだ!?」

 

 

 急に話しかけられて、思わず返事が裏返ってしまった。

 望月は両手を後ろに回して、もじもじしながらどこか迷った風に俺を見る。そしてすぐに吹っ切れたのか、今度ははっきりと俺に向き直る。な、なんだ?

 

 

「火野くんの告白、嬉しかった。だから、私の返事は―――これ」

 

 

 そう言って望月は俺に近付くと、寄り掛かる風に背伸びして顔を近付け、

 

 

「―――ん」

 

 

 数秒後、唇に柔らかい感触が押し付けられ、目の前には少しだけ開かれた望月の綺麗な碧い眼が映ってた。理解が遅れて何事かと思ってる間にそれらが離れ、目の前では自身の唇を指でなぞってる望月が微笑んでた。

 

 

「今の、もしかして……」

「………よくファーストキスはレモン味って言うけど、私たちのは、キミがくれたいちご味だったね。………ねぇ、もうちょっとだけ、味わっても…いいかな?」

「あ、あぁ……」

 

 

 さっきのがキスだと理解して望月と目が合うと、彼女は目を閉じて唇を軽く突き出す。俺は彼女の頬に手を触れ、ゆっくりと顔を近付けて唇を重ねる。

 そのまま優しく抱き締めると、向こうも俺の背中に手を回し、さらに舌を入れてきた。いきなり侵入してきた違和感に震えたけど、俺は離すことなく受け入れ、さっきのように解らないまま終らないよう、エレナとのキスを堪能する。

 

 

「ん……っ、ふ………」

「…ちゅ………はぁ…………」

 

 

 数秒か、数分か。時間を忘れてし続けてたけど、名残惜しいけどゆっくり離れる。その時、俺達の間には夕日に照らされた1本の橋が架かり、音を立てて切れる。

 

 

「……うふふ。いっぱい、しちゃったね…………♪」

「あぁ…そうだな……」

 

 

 俺達は笑い合い、しばらくの間そのまま抱き合ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、スランプからは脱出出来たと言うエレナと屋上でツーショットを撮り、いつものように電車に揺られて、いつも通り分かれ道の目印にしてるコンビニの近くにまで歩く。今までと違うのは、その際の距離が縮まったことと、お互いが名前呼びになったことだろう。恋人同士になったから、名前で呼び合おうってことらしい。俺、二度目のキスの時には名前で呼んでたっけ……。そういえば、まだエレナの口から好きだって聞いてないな。もう少しで別れることになるから、別れ際に聞かせてもらおうかな。

 

 

「なぁ、エレナ。まだお前の口からきかせてもらってない言葉があるんだけど」

「ふぇっ!?そ、それは……か、代わりに行動で示したじゃない………」

「そうだけど、それとこれとはまた違うだろ?」

「うぅ………霞黒くんの意地悪……」

 

 

 恨めしそうに言いながらも、手を握って離さないエレナ。やべ、かわいい。

 

 

「むーっ……………んっ」

「……っ」

 

 

 突然のキスに不意を突かれて、油断したところで離れて交差点を渡ってしまう。ちょっとからかいすぎたと反省して信号が変わるのを待ってる。と、エレナは昇りかけの月を背にしてこっちを向くと、

 

 

「霞黒くーん!」

「なんだー?」

「うふふ、大好きよー!」

 

 

 今日一番の笑顔で、そう告げてきた。

 

 

 

 

 

 余談だが、その日の夜、家に来て落ち込んでた鈴ちゃんを春ちゃんと一緒に宥めるのは大変だった。




 あてーんしょーん、はろはろ~。人生初のコミケと、聖櫻学園真夏の音楽祭2015に行ってたクロウズです。コミケは戦場、それを体感しました。熱気すごいです。
 さてさて~、ようやっとくっついてくれましたこの2人。ここまで来るのに長かったのは、遅筆な所為だね!ごめんなさい!書いてる途中は壁を殴りすぎて手が痛いです。誰か壁殴り代行サービスの番号教えてください。
 今回もっとも重要なシーンは、やっぱりディープキスのシーンですかね?最初は入れようか迷ったのですが、メモリーのを聞いた人は知ってると思いますが、あれ、舌入っちゃってますからねぇ。しかもあっち中庭ですよ。放課後とはいえ中庭なんて人目に付きやすそうな場所で何してんでしょうね。まぁこっちのも最後、まだ人の多いコンビニ周辺で愛を叫びましたけど。


 さて、はれて恋人同士になった霞黒とエレナ。ラブラブな学園生活を送れるかと思ったがしかし、屋上での行為を見ていた人影や冷やかす野次馬達、果てには妹や母親、生温かい目で見るクラスメイトにOBOG達まで!?弄る為のネタとなりやすい出来立てカップルの2人は、平和なイチャラブ時間を過ごせるかっ!?次回『愛の逃避行』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)




それではこの辺で。はらたま~きよたま~。





人物紹介に〈村上(むらかみ)文緒(ふみお)〉を追加します(今更?)


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7話目

 翌日、鈴ちゃんと春ちゃんは着替えやら何やらで一旦家に帰り、俺は今日は日直な為、先に行かせてもらうことにした。あー、日直ダルい。朝早くに出なきゃいけないし、帰り遅いし。って、どうせ部活やるから結局遅いんだけど。

 

 

 

 

 

「はい、それじゃあお願いね火野君」

「うっす」

 

 

 職員室で佐藤先生から鍵を貰い、教室に向かう。

 教室の前には誰もいない。まあ、日直でもないのに早くに学校に来るのなんてそうそういないしな。鍵を開けて中に入っても、もちろん誰もいない。むしろいたら怖い。

 鍵は所定の位置に引っ掛け、鞄を机に置いたら教室から出て屋上に行く。この時間じゃすることなんてないし、暇だしな。

 

 

「っく、あー……やっぱり屋上だと風気持ちいいなー」

 

 

 そこまで強いわけでもないし、日差しもいい具合だから、これは眠くなる。授業までまだ時間あるし、ちょっと仮眠を取ろうとベンチに寝転ぶ。枕代わりになるようなものはないけど、別にいらないか。20分ほど………寝る……。

 

 

 

 

 

「霞黒くん、そろそろ起きなさーい」

「んぅ………?」

 

 

 微睡みの中にどっぷり浸かってたけど、頰への違和感と上からかかってきた声で引き戻される。薄目を開けると、髪が掛からないように押さえながら上から覗きこんでたエレナと目が合った。丁度太陽と重なる位置だったから眩しくて目を逸らしたら、視界の端で何かニヤついてた。どう受け取ったんだか。

 

 

「おはよ、霞黒くん」

「ん……おはよ………」

 

 

 前髪を弄るように撫でてくる手を払おうと思ったけど思いの外気持ちいいから、されるがまま。

 それにしても、さっきから後頭部にある柔らかな感触は。

 

 

「……なぁ、これって」

「膝枕よ?」

「………だよな」

 

 

 なんでわざわざ膝枕なんてしてるんだろうか。いや、俺としては嬉しいけどな。

 でも、そろそろ起きなきゃいけないらしいから手を退けて起き上がる。そのまま伸びをすると、背中や首がゴキゴキと音を鳴らす。

 

 

「もういいの?」

「ちょっと寝過ぎてるっぽいしな。じゃ、教室に戻るか」

「えぇ」

 

 

 もう一回伸びをして、エレナと一緒に教室まで向かう。

 

 

 

 

「おーっす」

「おっはよー」

 

 

「ああ、2人とも。おは………ん?」

「おはよ……おぉ」

「おはよーございマース!……おヤ?お2人とも、手を繋いでどうしまシタ?」

「「え?…………あっ」」

 

 

 ルメールに言われて、顔を見合わせてから繋がってる手を見る。そういえば階段降りる時、自然と繋いでたっけ。

 ちなみに繋ぎ方は、互いに指を絡め合う、いわゆる恋人繋ぎだ。付き合ってるから別におかしくないし、こっちの方がはぐれたりすることもないからいいなと思ってたから忘れてた。付き合い始めたのが昨日の放課後だから、こいつらにはまだ知られてなかったんだった。まあ言ってないし、言いふらすものでもないから当然といえば当然か。

 

 

「え、なになに2人共いつの間にそんな関係になったのさ」

「あー、その」

「昨日から付き合い始めたのよ、わたし達」

 

 

 誤魔化すべきかどうか迷ってたら、エレナが堂々と宣言した。しかもどこか誇らしそうに。

 

 

「「えぇええええええええっ!?!!」」

「マジかよ火野爆発しろ!」

「シスコンとレズのカップルか。たまげたなぁ」

「お前ら、佐藤先生が見たらあの人卒倒するぞ」

「くたばれ火野!」

「というかまだ付き合ってなかったのね」

「普段からバカップルっぽかったのにねぇ。去年はNo. 1カップル決定戦に出てたし」

「あー、あれね。手錠したままお姫様抱っこでの飛び入り参加」

「コスプレだったから目立ってたな、あれは」

「その事詳しく」

 

 

 あーもー五月蝿い!!散れ!

 そろそろ授業の予鈴が鳴るからと、全員を無理矢理黙らせて席に着く。とりあえず、くたばれとかシスコンとか言ってた奴らは後でしばくとしよう。

 

 

「おはようございます。お疲れみたいですね」

「文緒ちゃんおはよ〜」

「……見ての通り」

 

 

 他の連中と違いずっと席に着いてた村上に軽く挨拶して突っ伏す。

 

 

「そういえば、お付き合いするようになったんですよね。おめでとうございます」

「ありがとう、告白された時はびっくりしたけどねぇ」

「ちゃんと出来たんですね、火野さん」

「うっさい……」

「?」

「望月さんは、気にしなくていいですよ」

 

 

 エレナは首を傾げて頭に?マークを浮かべるけど、村上はそれ以上何も言わずに授業の用意をし出した。こっちに来られても答えたくはないので、俺もさっさと用意をしておく。そんな俺を見て諦めたのか、エレナは特に何も言わず授業の用意をした。すまんな、エレナ。あれはあまり聞かれたくないんだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで午前の授業が終って昼休みになり、昼飯を食べようと思ってたらエレナが女子数人に捕まってた。

 

 

「望月さん、火野君と付き合い始めたって本当なの?」

「う、うん。まあ」

「最近避けてたのにどうして急に?」

「あ、それは、その……」

「どこでどんな告白されたの?」

「それは……内緒………」

「もうヤった?」

「ふぇっ!?」

 

 

 女子の1人が爆弾発言をかまし、真っ赤になったエレナが慌てふためきながら助けを求める目で俺を見てくる。やめろ、こっちにまで飛び火する。

 で、案の定その女子は視線の先にいる俺に気付き、狙いをエレナから俺へと変更する。

 

 

「で、どうなの彼氏クン。もうヤった?」

「直球すぎやしませんかね……」

 

 

 キスまでしかしてないし、付き合って初日からそこまでは流石にないと思う。というか何故にこういったことを聞きたがるんだろうか?

 

 

「ほら、早く教えてよ。でないと君の彼女の胸鷲掴みすんよ?」

「わわ、わたしの胸は霞黒くん専用よ!?」

「いきなり何を言い出すんだお前は」

「ふむふむ、つまりもうヤるとこまでヤったと」

「ヤってねぇよ」

 

 

 あらぬことをメモに取りだすから、思わず吐き捨てる風に言う。おっかねぇな、まだ事実しか書かない神楽坂の方が安心出来るぞ。………いや、あいつはあいつで安心出来ないな。安心しろって言う方が無理だ。

 

 

「なんだ、つまんない。じゃあ、どこまでいった?」

「言うわけな「き、キスまでなら…したわ……」なんで言ったエレナ!?」

「ほほう?」

「あ、つい……」

 

 

 

 俺の言葉にハッとして口を押さえたけど、時既に遅し。ばっちり聞かれてしまった。

 このままだとさらに突っ込まれるのは明白。ならこの場合取る行動は、

 

 

「三十六計逃げるに如かず!」

「ひゃっ、霞黒くん!?」

 

 

 エレナの手を掴み、全力で走る。

 

 

 

 

「お、駆け落ち?」

「ちげーよ!!」

「廊下を走るな火野」

「今回ばかりは見逃してくれ!」

「青春してるなぁ。………妬ましい」

 

 

 途中すれ違う知り合いに色々言われたりしたけど、走りきって屋上に出る。……あー、しんどっ。

 

 

「もう……急に引っ張って走らないでよぉ………」

「あ、悪い…」

「ま、まあ、わたしもつい口滑らしちゃったし………あんな強引なのも悪くなかったから吝かじゃないけど……」

「?」

 

 

 なんか下向いてぶつぶつと呟き出した。どうしたんだろうか。

 

 

「と、とにかく、今度からはこういう事は控えてよ?」

「解った解った。それじゃ、飯………あ」

 

 

 言い出したところで、弁当を教室に置いてきたことに気付いた。

 

 

「あー、ちょっと購買行ってくるから待っててくれ」

「もう、しょうがないわねぇ霞黒くんは。はい、これ」

「おぅ?」

 

 

 懐が厳しい状態でも背に腹は代えられないかと考えてると、エレナがそこそこの大きさの包みを渡してくれる。この形と重量からして、

 

 

「弁当、わざわざ作ってくれたのか?」

「霞黒くんが引っ張って走るから、崩れちゃってるかもしれないけどねー」

「うっ、ごめん……」

「ふふ、別に怒ってないからいいわよ。さ、食べましょ」

「あ、ああ…」

 

 

 からかうためにああやって拗ねた風に言ったのかこいつ……。素直に謝って損した気分だけど、実際形崩れてる可能性もあるし、俺に非があるし、うーむ………。

 ベンチに座って弁当を開けると、まず形は崩れてなかった。良かった。弁当の半分は白飯で、もう半分に卵焼きやタコウインナー、サラダなどが綺麗に敷き詰められてた。美味そうなんだけど、白飯の上にある、たらこを使って書かれた「大好き」の文字は恥ずかしすぎて直視し辛い。エレナはさっきからニコニコとこっち見てるし。

 

 

「食べないの?」

「いや、食べる食べる。いただきます」

 

 

 まずはアスパラのベーコン巻きを一つ取って口に運ぶ。うん、美味い。美味いけど、少し違和感がある。この違和感の正体を確かめるべく、もう一つ食べる。……む、ん?

 

 

「これ、巻いてるの豚バラか?」

「うん、正解。どう?豚バラも結構いけるでしょ?」

「正直、豚バラの発想はなかったよ。ところで、お前の分は?」

 

 

 そう訊くと、待ってましたと言いたげな目をして、あーん、と可愛らしく口を開ける。

 

 

「一応聞くが、なんのつもりだ?」

「霞黒くんが食べさせて」

 

 

 顔を近付け、目を閉じてもう一度口を開けるエレナ。こういうの見ると少しいたずらしたくなるな。しないけど。

 俺は卵焼きを一つ取ってエレナの口の中に入れてやる。卵焼きが入ると、エレナは口を閉じて咀嚼し始める。その様子を見てから箸を抜いて白飯や他のおかずを食べ、また可愛らしく口が開くと入れてやる。

 

 

 

 そうした食べさせ合い、合いじゃないな。俺が一方的にやってるよな。まあそれを続けながら食べ進めた結果、そこそこあった量もあっという間に平らげる。

 

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまぁ。美味しかった?」

「ああ、すごく美味かったよ」

 

 

 鈴ちゃん達は俺の料理が一番って言ってくれるけど、正直エレナの方が美味いと俺は思う。

 

 

「これなら毎日食べたいかな」

「言い過ぎよぉ。でもそれなら、これから毎週木曜日は、お互いのお弁当を交換するっていうのはどう?」

「お、いいなそれ」

 

 

 エレナの提案は中々に魅力的な内容だった。もちろん俺は二つ返事でOKだ。

 

 

「早速来週からの楽しみが出来たわぁ。あら?霞黒くん、ご飯粒付いてるわよ」

「え、どこだ?ここか?」

「ああ、取ってあげるからじっとして」

 

 

 俺じゃ見えないしその方が確実だから素直に言うことを聞いてエレナの方を向く。エレナは俺の頬に手を伸ばすも、米粒を取るような素振りは見せず手を添えてくる。あれ、なんか変だ―――むぐっ。

 

 

「ん、ちゅ……」

 

 

 気付いた時には遅く、俺はエレナにキスされてた。しかも深い方の。

 

 

「………ぷはっ。はい、取れたわよ」

「……嘘吐け、ただの口実だろ」

 

 

 顔を離したエレナはご満悦といった表情で、熱の籠った目でこっちを見ている。対して俺は不意打ちでされたキスの所為で顔が熱く、直視出来るわけもないので顔をそむけながら口元を手で覆い隠す。あー、くそっ。こんなベタな騙し討ちしてくるとか、反則だろ………。

 こうなったら仕返しでもするかと考えてたら、エレナが視界の端でもぞもぞ動いてたかと思うとベンチに寝転んで俺の太ももに頭を乗せる。

 

 

「ふみゅ…霞黒くぅん………♪」

「……やれやれ」

「ん、えへへ……♪」

 

 

 猫みたいに擦りつけてくる頭を撫でてやると、気持ち良さそうに力の抜けた笑顔を見せる。なんだこの生き物、可愛すぎるだろ。

 それから昼休みが終了する予鈴が鳴るまでの間、可愛い彼女の可愛らしい姿を独占し続けた。




 あてーんしょーん、はろはろ~。壁を殴り過ぎて手が痛いクロウズです。壁殴り代行いません?
 今回は書いてる自分が吐き気催すほどいちゃつかせてみますた。砂糖吐きそうです、げっろ。この日は人のいない屋上だったから良かったですが、これが教室や中庭だったらラブコメの波動を感じさせる砂糖テロです。いずれ起こします。



 付き合ってから1週間。順風満帆な恋人関係なのも束の間、2人の前に現れる謎の美少女。彼女は、既に付き合っていることを知りながらも霞黒を寝取ろうと誘惑する。一体この少女は何者なのか、そして霞黒はこの誘惑を振り切り、エレナとの幸せを勝ち取れるのか!?次回『恋は空模様』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)




それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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8話目

 昼休みの後、エレナが離れなくて困った。あれからすぐに寝たエレナはなかなか起きなかったから仕方なく背負って教室に運び、何度か揺すったりしてようやく起きたと思ったら寝ぼけてずっと引っ付いてた。可愛いんだけど、さすがに場所が悪かった。教室だもん。授業が始まる前には起きてくれたから良かったけど、クラスメイトの目がなぁ……。

 放課後になると案の定昼休みの間何があったか問い詰められたけど、部活があるからと俺とエレナは逃げるようにして教室から出た。

 

 

「あいつら、なんであそこまで食いつくかなぁ」

「さあ?でも、なんだかんだ言ってお祝いしてくれたからいいじゃない」

「そういう問題じゃ……まあいいけどさ」

 

 

 嬉しそうにニコニコしてるから、ぐだぐだ言うのも諦めて代わりに溜め息を吐く。

 

 

「溜め息吐くと、幸せが逃げちゃうわよぉ?」

「実際どうなんだろな、それ。っと、悪い。電話だ」

 

 

 ポケットに入れてたスマホが震えたから、廊下の端に移動してディスプレイを見ると、相手はバイト先からだった。なんだろ、次のシフトの件か?

 

 

「はい、火野ですけど。……は?代打ち出来る奴足りなくなったから来いってそんな無茶苦茶な、いや今すぐ行ったって間に合うわけ………ちょっ、それだけのことで減額ってちょっと!?………くそ、切りやがった」

「どうしたの?」

「バイト先から呼び出しくらった……。今日バイクないってのに………」

「そういえば去年免許取ってたわねぇ。って、霞黒くんバイトしてたの?」

「あれ、言ってなかったっけ?一応、去年の12月から始めてたんだけど」

 

 

 部活中に言ったような気がするんだけどなぁ。気の所為だったか?

 

 

「初耳よぉ。どこでバイトしてるの?」

「隣町の喫茶店。一応雀卓あって代打ちとかも出来るから」

「基準は麻雀が出来るかどうかなんだ………」

「?」

 

 

 あれ、何でか知らないが呆れられたぞ。そんなに変なこと言ったかな?

 

 

「で、今から行かなきゃいけないんだけど、エレナも来るか?」

「うーん。どうせ部活も中止になるし、せっかくだから行くわ」

「じゃあ行こっか」

 

 

 部室に向かうのを止めて、校舎を出てバイト先へ向かうことに。

 ちなみにこの時、エレナがすかさず腕を組もうとしてきたから回避したら窓から落ちかけた。さすがにこの高さから落ちたら洒落にならないって。

 

 

 

 

 

 喫茶『雪月花』。コーヒーと個性的な店員でそこそこ有名な喫茶店だ。でも、俺から言わせてもらうと、店長を始め店員達は個性的というよりは変人だ。それでもというかだからというか、店はなかなかに人気があるらしい。学生から中年まで様々な年齢の人が来てるし、男女どちらも来てる。比率的には男性客の方が多いと思うけど。ついでに言うと、うちの母さんは常連だった。

 店に入ると、2台ある雀卓の内1台には店員2人と客が2人着いてた。客の実力は知らないけど、店員は両方とも麻雀を始めて日が浅い新入りだったはずだ。あの2人、代打ちはまだ早いと思うんだけどなぁ。まあそれよりも、

 

 

「呼び出した本人は何処行ってんだよ……」

「ここだここ」

 

 

 カウンターに座って新聞を読んでいた40代に見える男性が新聞を畳んで手招きする。厳つい顔とどこぞの鉄血宰相みたいな髭を生やしてるから誤解されやすいが、これでまだ30歳になったばかりらしい。父さんより若いんだよな、この人。俺はエレナを連れてその人の前まで歩く。

 

 

「で、なんで俺なんですか」

「捕まったのがお前だけだからだ。それより、来たなら挨拶くらいしろ」

「………火野です」

「見れば解る」

 

 

 イラッとくるぜ。

 

 

「えっと、ここの店長さん?」

「いや、代理」

「代理?」

 

 

 俺との会話から予想したんだろうけど、予想外の答えからエレナは頭に?マークを浮かべる。まあ、そうなるな。俺を含め店員の大半も同じこと思ったし。ここの店長は見た目20代の中身35歳だからなぁ。しかも店長は普段敵情視察とか言って店にいないし。ちなみに、前に代理の名前を訊ねてみたけど、返ってきたのは「代理だ」だった。誰が何度聞いてもそう答えたらしい。ここの変人筆頭だ。

 

 

「で、俺はあいつらの代わりにあの客と打てばいいんですか?」

 

 

 

「お前たちの麻雀は素晴らしかった!打ち筋も運も!だが、しかし、まるで全然!この俺から和了(アガ)るには程遠いんだよねぇ!ツモ、6000オール!!」

 

 

 

 無駄にうるさそうだし、あの手の雀士苦手なんだけどなぁ。

 

 

「なに、半荘1回でいいんだ。コーヒーくらいなら奢るぞ」

「代理のコーヒー苦いんでココアで。あとミルクレープもお願いします」

「いいだろう。時に火野、その子は?」

「ああ、俺の彼女です」

「彼女!?」

「おうっ」

 

 

 俺がそう言ったら驚きの声を上げられた。けど、上げたのは代理じゃなくて常連さんだった。というか母さんだった。なんで今日来てるんだよ。

 窓際の席に座ってた母さんは面白そうなものを見付けた子供みたいな表情でこっちに来る。身長のことも相まってほんと子供にしか見えない。

 

 

「彼女なんていつ出来たのなんでお母さんに報告しないのよ霞黒くんの癖に生意気だよさあ早くお母さんに紹介しなさいハリーハリー!!」

「ちょっ、母さん落ち着いてうるさくて他のお客さんに迷惑だから………」

「口答えなんて霞黒くんの癖に生意気な――ありゃ、エレナちゃん。いらっしゃい」

「あ、どうも」

「ん?……なぁんだ、やっぱりエレナちゃんが彼女だったんだやっぱり霞黒くんのおっぱいせいjいだだだだだ!」

「いくら母さんでも容赦しないからな…?」

 

 

 余計なことを言いかけた母さんにアイアンクロ―で無理やり黙らせる。

 

 

「あうぅ~………」

「じゃあ打ってくるから、母さんのことよろしく」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

 

 さあて、久々に本気で打つか。

 

 

 

 

「カン、ツモ。32000の責任払いで」

「…この俺が、箱割れ………!?」

 

 

 東場でだいぶ稼がれたけど、奪い返せなかった程じゃないから南場で暴れさせてもらった。打ち筋とかはまあまあだったかな。さて、半荘1回って約束だったし、ミルクレープミルクレープっと。

 

 

「……先輩、怖すぎ………」

四槓子(スーカンツ)の責任払いって初めて見ました。先輩怖いです」

 

 

 言いたい放題かよ。東1から動いてないだけマシだと思ってほしいもんだ。

 

 

「おい、貴様……」

「ん?」

「貴様、どうやらここの従業員らしいな」

「そうだけど」

 

 

 さっきまで対局してたファンサービス(仮称)が立ちふさがってくる。対局中は鬼気迫るというかおっかない表情だった気もするけど、今は爽やかだ。なんだ、こいつ対局中は何かが憑いてるのか?

 

 

「なら、またいずれここで貴様と打ち、今度こそ俺のファンサービスを受けてもらう!」

「……いや、別にネト麻でいいんじゃ」

「それじゃあつまんねぇんだよ!首を洗って待ってろ……」

 

 

 ファンサービスはそう言って店から出て行った。………なんなんだ、一体。変なのに目付けられたなぁ……。ま、いっか。

 エレナと母さんがいる席に行くと、既に俺の分のココアとミルクレープがあった。代理仕事速い。

 

 

「霞黒くんお疲れ~」

「お疲れ様」

「別にそこまで疲れてはないけどな」

 

 

 椅子に座ると、すぐにエレナが距離を詰めてきてほとんど密着してくる。近い近い。母さんがいるし外だからさすがに抑えてほしいんだけど……。そう言っても離れることはなく、腕に引っ付いてくる。うーむ、これじゃあ食べにくい。

 

 

「おい、エレナ……」

「だって霞黒くん、放課後からあまり相手してくれなかったもーん」

「あーあー熱いなぁー。暖房掛かってる?」

「昼休みにあれだけべったりいてまだ言うか。あとうるさいそこ」

「霞黒くん分補充~♪」

「俺からそんな妙なエネルギー発生してねぇよ。マジで離れて色々ヤバいから」

「えへへ~」

 

 

 こう言っても密着してくる辺り聞いちゃいねぇよ人の話。さっきから周りが温かい目で見てくるからすっごくむず痒いんだけど。

 

 

「なあ、そろそろ食べたいんだけど」

「エレナちゃんを!?」

「黙ってろロリババア。ミルクレープだよ」

「んー?はい、あーん」

「……まあ、そうくるだろうとは思ったよ」

 

 

 離れたかと思うとフォークでミルクレープを切り、俺に差し出す。何を言っても無駄だろうからそのまま食べることにする。一口食べる度に母さんが茶化してくるからさっきからずっと顔が熱い。エレナも少しは恥ずかしいのか、頬を紅潮させてるけど止める気配はない。結局そのままエレナによる餌付けは続き、帰る時には新入り達にさえからかわれた。あいつら今度まともに打てるようになるまでみっちりしごいてやる。

 いつものコンビニ前に着く頃には結構暗かったから、エレナを家まで送って行った。その帰り際に上がっていくかと訊かれたけど、さすがに相手の親御さんに会う勇気はまだないから断ると、笑いながらヘタレって言われた。悪かったなこの野郎。言われっぱなしは癪だから、肩を抱き寄せてキスしてやった。この不意打ちは予想していなかったエレナは驚いてたから、その表情をスマホのカメラに収めて退散する。一応昼間の仕返し成功ってとこかな。

 

 

 

 

 つーか、よく考えたら俺達恋人関係になってまだ1日しか経ってなかった。……まあいっか、別に。




 あてーんしょーん、はろはろ~。室内プールのエレナが手に入らなくて力尽きそうなクロウズです。物欲センサーはモンハンだけで充分だ!
 今回はなんと、ファンサービスで有名なあの方に来ていただきました。ですがその出番はあまり多くありませんでした、悔しいでしょうねぇ。さらに彼の出番はもうないでしょうねぇ。



 学生の本分は勉強。それ故色恋に現を抜かしている2人に非情な現実が突き付けられる。来たる夏休みを2人で過ごすべく、少し距離を置くべきなのかと考えてしまう2人だが、1日保つかも怪しい状態。2人はこの危機を、どうやって乗り越えるか!?次回、『試験上等』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)



 それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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9話目

 あれからだいぶ日が過ぎ、期末試験も何とか乗り越えることが出来た。一応全教科とも平均点より上にはなってる。数学は例の如く満点で。

 

 

「霞黒くん、あーん」

「あむ。……いきなり突き出さないでくれ怖い」

「だってぇ。霞黒くん上の空ぽかったし」

 

 

 期末試験も終ると授業は午前までとなり、昼になれば帰ったり部活に行ったりで教室にいる生徒の数はわずかだ。で、俺とエレナは昼飯を食べてるそのわずかな数の一部だ。今日は木曜日だからお互いが作った弁当を交換して、たまにエレナはおかずを俺に食べさせてきては俺から食べさせてもらうのを待ってたりする。最初の頃は弁当が甘くなるとかなんとかクラスメイトには色々言われたけど、今では何も言ってこない。さすがに慣れたか。

 

 

「霞黒くーん?」

「ああ、ごめん。はい、あーん」

「あーん。……んっ、美味しい♪」

「そりゃよかった」

「で、どうして上の空だったの?」

「ん、いや、なんでもないよ」

 

 

 考え事って言っても、別に言うほどのことでもないしな。エレナも追及はせず、弁当を食べ始める。って、口元にご飯粒付けてるし。手を伸ばしてそれを取った後、何の気なしに食べる。と、ガタッと音を立ててエレナが立ち上がってた。どうしたんだ、急に?

 

 

「かか、霞黒くん………今…………っ」

「ん?……あ、悪い、いつもの癖で」

 

 

 昔から鈴ちゃんや春ちゃんがご飯粒付けてたら俺が取ってたから、ここでもやってしまった。しかし、今日みたいに食べさせ合いしたり、最近では人目気にせずキスをしてきたりせがんだりしてるのにこれで恥ずかしがるのはどうなんだろうか。

 真っ赤になってあわあわ言ってるエレナを何とか落ち着かせる。こいつテンパると何言い出すか解らないからな。そして、忘れていた。

 

 

 

「やれやれ、まーたいちゃついてるよ」

「今度もまたベタなことしてやがりますね」

「げっろ……マジ爆発しろ」

「見てるこっちが恥ずかしいんだし」

 

 

 

 数人程度とはいえまだ他にも残っていたことを。さすがにさっきまでの全部見られててああ言われると居心地が悪いというかなんというか。今日は部活やらないから、食べ終った弁当を片付けて荷物をまとめるとまだ赤くなってるエレナを連れてそそくさと退散する。途中昇降口の辺りで鈴ちゃんと春ちゃんに会ったから、そのまま4人で帰ることに。まだ中学生の春ちゃんがここにいたのは驚いた。どうやら園芸部の活動の一環で用事があったから来てたらしい。その用事が終ってからはずっと鈴ちゃんと一緒に華道部の部室にいたという。

 

 

「来るなら言ってくれれば良かったのに」

「こっちに来ること、今日思い出したらしいぞ……」

「うっかりしてました〜」

「これで今年受験生なのだから、私としては心配だ……」

「そっか〜、春瑚ちゃんも来年からは高校生なのよねぇ。何かあったら私も力になるからね〜。……ぐふふ」

「エレナ、変な笑い出てるぞ」

 

 

 あと、いくらお前でも春ちゃんに手出しさせないからな。もちろん鈴ちゃんにも。それにしても、さっき2人が言ったように春ちゃんももう受験かぁ。この頃の俺は………確か一番荒れてた時期だったっけ。今思い返すと、あれは酷かったな。学校内では誰とも話さなかったし、誰も近寄って来なかったし。生徒どころか教師すら何も言ってこなかったからなぁ……当時の自分をぶん殴りたい。

 そうやって過去の自分に自己嫌悪した後、いつの間にか来てたいつものコンビニでエレナと別れて、それから少しして鈴ちゃん達とも別れる。

 

 

「ただいま」

「おっ帰りー。あれ、エレナちゃんはー?」

「連れてきてないけど」

 

 

 今日は珍しく家にいる父さんの膝に座ってる母さんに手を振って答えて弁当箱を洗う。つーか、ああしてるとほんと親子にしか見えないなあの2人は。

 

 

「えー、なんでなんでー?」

「なんでって、別に何も約束とかしてないし」

「エレナちゃんって、霞黒と同い年の金髪の子だったか?」

「そうそう。霞黒くんと付き合ってるんだよ」

「ほー。あの霞黒に彼女ねぇ」

「びっくりだよねー。で、もうヤった?」

「なんでそういうの聞き出そうとすんのさ」

 

 

 ヤってないと手を振って答えて2階に上がって部屋に入り、鞄を放ってベッドに寝転ぶ。あー……着替えなきゃいけないんだけどとてもダルい。このまま寝たい。

 でも、そうはさせてくれないのが俺の家族。少し休んでから着替えたりしようと思ってたらドアからカリカリと音が聞こえてくる。そういえば帰ったら散歩に連れていく約束してたんだった。ドアを少し開けると、その隙間から首輪にリードを付けたシロが素早く入ってきては足に擦り寄ってリードを足に巻き付けてくる。これはシロが散歩を急かしてる時にしてくる行動だけど、絶対に俺にしかしない。母さんや父さん、さらには鈴ちゃんや春ちゃんがいる場合でも絶対に俺に来る。シロのこれには困ったもんだ。

 

 

「ワンッ、ワンッ」

「解ってるって。着替えるから待ってろ」

 

 

 足に巻かれたリードを解いてちゃっちゃと着替えを済ませる。着替え終ってリードを持つと、シロはブンブンと尻尾を振って引っ張り始める。そのシロを抱き抱えて外に出る。

 

 

「さて、それじゃ行くか」

「ワンッ」

 

 

 元気に先を急ぐシロに引っ張られながら、いつもの散歩コースである公園まで歩く。相変わらずちっこいのに意外と力あるんだよな。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺はベンチに座ってるから」

「ワンッ」

 

 

 公園に着いてリードを外すといつも通り砂場に一直線。相当気に入ってるんだな、あの砂場。しっかし、相変わらずというかなんというか、子供全然いないな。小学生ならまだ学校だから当然といえば当然なんだけど、ここ数日、ここで遊んでる子供は見てない。数日どころか、数週間見てないって言えるくらいに。俺はよく遊んでたけど、今の子供はそうでもないのかなぁ。

 砂場で遊んでるシロを見る以外することがないからぼーっと空を眺めたりしてると、視界の端で誰かが公園に入ってきた。珍しいと思ってそっちを見ると、春ちゃんと鈴ちゃんだった。

 

 

「あれ、珍しい。どうしたの2人とも?」

「お散歩ですよ~。おにーさんは~?」

「シロの散歩。今はあっちの砂場で遊んでるから」

「あの子はほんと、砂場が好きだな」

「着いた途端に一直線だからなぁ。……で、鈴ちゃん。何してんの?」

 

 

 俺の右隣に座って、こてんと膝上に頭を乗せてくる鈴ちゃん。かわいい。

 

 

「久しぶりに黒兄と日向ぼっこ……」

「じゃあ、わたしもおにーさんと日向ぼっこ〜」

 

 

 そう言って春ちゃんも、俺の左隣に座って俺の膝を枕にする。かわいい。頭を撫でてやると、2人ともくすぐったそうにする。かわいい。さっき鈴ちゃんが言ったけど、こうして日向ぼっこするのは確かに久しぶりだな。そう思いながら撫で続けてると、2人そろって寝たのか、下から寝息が聞こえ始める。

 

 

「すぅ………」

「ふみゅ……」

「あれ、寝ちゃったのか……」

 

 

 まあ、風が気持ちいいしあったかいしな。………ふぁ……なんか、2人見てたら俺も眠くなってきたな…………。ちょっと、寝るか……。

 

 

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

「公園公園っと~」

 

 

 数学のことで霞黒くんに質問があったけど電話に出ず、家に行けば散歩に行ってたとのこと。もしかして霞黒くん、散歩だと携帯持ち歩かないのかしら?それにしてもついでとはいえおばさんとおじさんに挨拶したらあんなにも引き留められるなんて……親公認ねぇ。ママも霞黒くんに会ってみたいって言ってたし。

 

 

「でも霞黒くんは未だに玄関より先には入らないのよねぇ。……あ、いたいた。おーい、霞黒く………おっとぉ」

 

 

 公園に入ってすぐのベンチに霞黒くんの後ろ姿を発見して近付いてみたら、五十鈴ちゃんと春瑚ちゃんの2人と一緒に気持ち良さそうにお昼寝中だった。しかもその足元では遊び疲れたと思えるシロちゃんが丸まってお昼寝してる。ここまで無防備だといたずらしたくなるけど、さすがにそれは悪いからカメラと携帯で写真を撮らせてもらうことにしましょう。携帯で撮る理由?そんなのもちろん、後でおばさんや先輩達に送る為よ。

 

 

「んー………よしっ、綺麗に撮れたわ」

 

 

 そしてこれを送信してっと。これで後は、3人が起きるのを待つだけね。それにしても本当気持ち良さそうに寝てる。今度私も混ぜてもらおうかしら~。

 

 

「すぅ……くしゅっ………」

「んゅ……おにーさーん……」

「…くろにぃ………えへへ……」

「……………」

 

 

 ……………こうやって見てると、私も眠くなってくるわ。……誰もいないし、いいわよね?私も霞黒くんと一緒にお昼寝しても。試しに頬を突いて、起きないことを確認したら春瑚ちゃんを起こさないように抱っこして、霞黒くんの隣に座って膝の上に春瑚ちゃんを乗せる。

 

 

「……槍槓だ…その槓成立せず………むにゃ」

「おねーさーん……くぅ………」

「…えへへ~……」

 

 

 はぁ~、今この状況とてつもなく幸せだわぁ…………ぐふふふ~。それじゃあ……お休みなさ~い。




 あてーんしょーん、はろはろ~。秋刀魚釣りに疲れ果てたクロウズ提督です。磯風はいません。
 今回もいつもと変わらずいちゃついてます。クラスメイトの皆さんはもう慣れました。テスト期間は勉強会という名のデートしてましたがカットしました。だって、見ても壁を殴りたくなるだけですし。最後の方みたいな、いちゃつき無しのほのぼのらしきものもぬるりと入ってきます。この作品に悪男なんていらないんです、多分。



   では、いつものように嘘予告をと言いたいですが今回は告知をば。




 ―――親父が再婚した。それに伴って引っ越しすることになって、相手側の家に住むことになった。急な仕事が入ったからと先に行かされて挨拶に行った俺の前に現れたのは、文字の入った変なTシャツを着た髪の長い人だった。義姉になる人がいることを伝え忘れた親父は後で殴った。Tシャツはいい趣味してると思った。
 ―――母さんが再婚した。それで義理の弟ができるって言われたけど、私としてはどうでもよかった。だから何時来るかも気にしてなかった私は、着の身着のままで文字の入った変わったTシャツを着た義弟となる奴の前を出迎えることになった。シャツはいい趣味してると思った。




    ここまで。
 ↑の内容の小説をここで書いていこうと思います。こちらもガルフレの小説ですので、ヒロイン(義姉)が誰かは想像つくと思います。
 そんなクロウズの新作、『俺達/私達の関係』(近日公開予定)。もし良ければこちらもご閲覧下さい。一応、投稿すれば活動報告にてご報告します。



 ではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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10話目

 夏休み。学生が部活で盛り上がったり青春を謳歌したりという時期の中、俺は逆立ちをしたイヌとウニのイラストと『INUNI』の文字がプリントされたTシャツに短パンという格好でうちわ片手にネト麻に勤しんでる。

 

 

「………暑い………打ち筋が乱れる…………」

 

 

 エアコンを付けたいところだけど、あいにくとそのエアコンは故障中。扇風機も死んでしまってる所為でうちわを使うしかない。業者いつ来るんだっけか。しかも窓を開けても風は一向に吹かないから暑さがまったく和らがない。

 この暑さで打ち筋が適当になりながらも、オーラスで緑一色(リューイーソー)を和了って1位で終局。今日はこの辺で落ちるか。

 

 

「あー……無理だ………暑い………」

 

 

 しかし、これだけ暑いとやる気がなくなる。………水風呂、用意するか。汗かいて気持ち悪いし。

 

 

 

 

 

「っ、はぁあああ……さっぱりした……」

 

 

 やっぱり汗だくは気持ち悪い。無理。しかも服が結構汗吸っててやばかった。

 あれからすぐに水風呂を用意して浸かってたら、途中で寝て死にかけたけど。思いっきり水飲んだし。

 

 

「さて、ちょっくら図書館にでも行ってくるか」

 

 

 家にいたままだと、せっかく水風呂でさっぱりしてもまたすぐに暑さにやられるし宿題が一向に進まないし。

 

 

 

 

 制服に着替えて日差しの強い中歩いて、電車に揺られてまた歩いて、夏休みでも部活やら補習やらで開放されてる聖櫻学園に到着。バイクで来れば良かったかもしれないけど、まあいっか。そもそもバイクは父さんが使ってて家にないし。早く自分用が欲しい。

 まあそんなことは後に回して、図書館に入る。

 

 

「あ、火野さん。おはようございます」

「おっす、村上」

 

 

 図書館には案の定、村上が図書委員の仕事をしていた。本棚の方には朝田もいるみたいだ。

 

 

「珍しいですね、火野さんが図書館に来るなんて」

「エアコンが故障中でな……」

「そうだったんですか。それは大変ですね」

 

 

 俺の話を聞いて苦笑するしかない村上。実際ほんと大変なんだよな、こうも暑いのにエアコン使えないってのは。しかも今日みたいに風が全然だと何もやる気が起きなくなる。

 

 

「まあそういうことだから、こっち来て宿題することにしたんだ。一番近くて涼しそうな場所ここだったし」

「なるほど」

「村上さーん、こっち作業終ったよって、火野君が図書館にいるなんて珍しい」

 

 

 本棚の整理でも終ったであろう朝田も来て、村上と同じことを言う。そんなに俺が来るのが珍しいのか。去年もちょくちょく来てたっての。

 

 

「エアコンが故障したらしくて、今日はこちらに来たみたいですよ」

「うわ、ご愁傷様だね。ところで、今日は1人っぽいけど望月さんは?」

「さあ?今日は会ってないし何も約束とかしてないけど」

「へぇ……いつもべったりなのに珍しい」

「今日の火野さんは珍しいことが多いですね」

 

 

 なんか珍獣扱いされた気がした。

 2人は図書委員としてやる事がまだあるらしいから、話もそこそこにして俺は空いてる席に座って宿題を始める。しかし英語の冊子、分厚くないだろうか。辞書くらいの厚さはあるし、ここの英文なんてまるで意味が解らんぞ……。

 

 

 

 

 

「……あー、もう無理だ」

 

 

 英語に取り組んでから数時間程経って、ついにギブアップ。これ以上は頭が熱暴走を起こしそうだ。

 

 

「でもまだ3分の1も終ってねぇんだよな……」

 

 

 突っ伏して冊子をぱらぱらとめくっていく。まだまだ残ってる問題の英文と空白の解答欄。もうやだ英語したくない。これが数学だったら余裕なのに。まあその数学はとっくに終らせたけど。あと少し休憩したら続きをするか。

 

 

 

 

 

「も……無………理……………」

 

 

 燃え尽きたよ、真っ白に……。もうこれ以上出来ない、頭痛い。あれだけ粘っても半分もいかなかった。はじめは結構いた他の生徒も、今いるのは俺くらい、というか、閉館間際だったから俺しかいなかった。長居しすぎたな。

 戸締りもしないといけないらしい図書委員の2人に軽く挨拶をして図書館を後にする。夕方にもなると、昼間の暑さはなくなって風も出てきたお陰で、少しばかり涼しくなってくる。今日はバイトもないし、このまま帰るか。エアコン使えないままだけど。

 

 

「まあ、何とかなるか」

 

 

そんな楽観視して家に帰り、冷房の効いてない部屋の暑さにやられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで数日経ったある日。今日は朝からバイトの為『雪月花』にて接客中。今日も今日とて暑いからか、中高生が店内で寛いでたり勉強してたりでそこそこ忙しい。その上俺は頻繁に代打ちをさせられるもんだから休む暇もない。

 

 

「すんませーん、黒さん会計お願いしまーす」

「せんぱーい、注文お願ーい」

「おい、決闘(デュエル)しろよ」

「なんで俺ばっか名指しするかなお前らは!?」

 

 

 あと最後の何だ!麻雀で決闘なんて言葉ないぞ!?

 

 

「あはは……。会計と代打ちはやっときますんで、先輩は注文行ってください」

「おう。今度は跳ばされるなよ」

 

 

新人バイトに任せて、注文を聞きに行く。確かこっちの―――なんだ、戸村と小野寺か。

 

 

「せんぱーい、そんな露骨に嫌そうな顔しないでくださいよー」

「してない。てか、お前ら知り合いだったのか?」

「まあね〜。そういう火野くんも美知留ちゃんと仲良いっぽいけど、浮気?」

「注文取らねぇぞ」

「冗談だって冗談」

 

 

 馬鹿なことを小野寺が言うもんだから別のテーブルに向かおうとしたところで引き留められたから仕方なく聞いてやることにする。

 

 

「で、何にするんだ?」

「そんな急かすとエレナにも愛想つかされ――痛っ」

「あたしは先輩のお勧めで~」

「だったらこれになるぞ?」

 

 

 懲りない小野寺に凸ピンをかまして、メニューの中から『チョコクリームパフェ宇治抹茶とイチゴのダブルソフトのせDX』を指差す。大きめのグラスに、下からスポンジケーキ、フレーク、プリンの三層に隙間を埋めるかのようにチョコクリームを加え、抹茶とイチゴのソフトクリームを乗せた、甘いものが好きだという女性客でも、1人で完食した人はまだ見てないほど量が多く、胸焼けを起こすものだ。俺も食べたことはあるけど、そこまできついものじゃなかった。その時代理にはドン引きされたけど。

 ちなみにこのメニュー、例の如く店長がどこかで見付けたものを改良したものらしいんだけど、その改良が、元よりマシになったのか元より酷くなったのかは解らない。出来れば前者であってほしい。

 

 

「うっわ、写真だけで胸焼け起こしそう……」

「あはは、さすがにこれはちょっと……」

「そうか?まあ、高いしな」

 

 

 一つ1,500円で食べ切れる量でもないから、1人で挑むのは無謀だろう。

 結局2人はそれぞれチーズケーキとチョコケーキのバニラ付きを頼み、来るまでの間俺を話し相手にしようとしてきたけど跳ばされた後輩の代わりに打つことになったから卓に着いて相手をしたり他の客の注文を聞きに行ったりと、無駄に忙しい1日になった。




 あてーんしょーん、はろはろ~。ドーモ、クロウズデス。きみと過ごす夏休みをプレイして真っ先にエレナ攻略に向かいました。可愛すぎて悶えました。
 今回は夏休みということで、霞黒くんが勉強したりバイトしたりのお話でした。そして、まさかのヒロイン未登場回になりました。たまたまですよ、たまたま。次回はちゃんと出る、はず。



 夏は祭りに花火、海にキャンプファイヤー等イベント事が目白押し。それらの喧騒の中で場の雰囲気に酔った霞黒とエレナは、2人きりになるとその興奮冷め遣らぬまま、ついに一線を越えてしまう!?2人の夏は、一体どっちか!次回、『一夏の過ち』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)




 それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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11話目

「……はぁ、本当にやるつもりか?」

「当たり前だ」

 

 

 夏も過ぎて気候も穏やかになってきた秋のとある日。聖櫻学園では放課後に体育祭のための練習をしてる中、俺は桐崎を脅し―――使っ―――頼んで風紀委員の手伝いとして見回りをしている。というのも、聖櫻生が利用してるヒトコト内で『カメラを持った不審者が現れた』とか何とかで、エレナが真っ先に疑われたからだ。確かに去年同様あいつは練習に励んでる女子に興奮してるけど、そうなってるのは放課後の練習中くらいだし普段は俺といるから暴走してないし(別の方向で暴走してるかもしれないけど)、そもそもエレナは堂々と撮るだろうし、いくら前科持ちだからって彼女が疑われっぱなしってのは頭に来るからな。その不審者をとっ捕まえてエレナの無実を証明する!その為、この見回りの間は風紀委員の腕章を付けさせてもらっている。

 

 

「それにしても、犯人を捕まえたら全身の皮膚と爪を剥がして市中引き回しの刑はやりすぎだろう?」

「言ってねぇよそんなこと。どういう目で俺を見てんだお前は」

「中学時代この辺一帯で暴れていた不良」

 

 

 桐崎の中の俺はまだその頃のままかよ……。

 あまり知りたくなかったことに頭を抱えて、見回りを再開する。一体どこのどいつなのか。見つけたらさすがに加減は出来ないぞ。

 

 

 

 

 結果として、今日はその不審者は見つからなかった。まあまだ一週間程度だからな。まだ淡照、もとい慌てる時間じゃない。………なんだ淡照って。ともかく、不審者は見つけたら徹底的にぶちのめす。

 腕章を一時風紀委員に返して教室に戻り、鞄その他の荷物を持って部室に行く。鍵はエレナに渡してるから先に入ってるはずだし、開けっ放しにしてどこかに行ってないだろうと思いながらドアを開けると、

 

 

「へ?」

「えっ……」

 

 

 着替え中だったエレナと目が合った。練習終りに着替えてなかったのかこいつ。それにしても、肌白くて綺麗だな……。窓から差し込んでくる夕日もあって、より綺麗に見え…………って、そうじゃなくっ!

 ハッとして急いで部室のドアを閉めて壁にもたれかかる。部室の中からは少しの静寂の後、慌てたようなエレナの声と一緒にガチャガチャとか何か落としたような音が聞こえる。……大丈夫だろうか?それから少ししてドアが開き、慌てっぷりが解るくらいに息を切らしたエレナが顔を覗かせる。あの間に一体どれだけの事があったんだろうか。

 

 

「ど、どうぞ……」

「お、おう」

 

 

 促されて部室に入り、エレナが座ったソファの対面に座る。こうやって向かい合わせに座るっていうのは初めてでもなんでもないんだけども、ついさっきの事でどうにも気まずい。その所為か、色んな方向に視線を泳がせてたエレナと目が合った瞬間にお互い目を逸らしてしまう。

 ただ、さすがにこの気まずいままの空気も辛いからと思って口を開いたら、

 

 

「「あのっ…」」

 

 

 見事にハモった。さらに気まずい。あまりの気まずさにエレナは俯くほどだ。

 

 

「……あー、その、ごめんな。着替え中だとは知らず」

「わ、私の方こそ教室で着替えればいいのに部室で着替えたりして霞黒くんに変なとこ見せちゃったりしかも無地の可愛くない下着だしいや、だからって派手なのだとそれはそれで恥ずかしいしそもそもまだそこまでいくのは早すぎるし初めてが学校の部室っていうのは背徳感あるけどやっぱり初めては霞黒くん家がいいというか……!!」

「…………」

 

 

 テンパってる人見ると冷静になれるな。とりあえず後半口走ってしまってるとこは聞かなかったことにしておこう。

 それからたっぷり十分経って、エレナもだいぶ落ち着きを取り戻して今は紅茶を飲んでる。俺としてはココアが飲みたかったけどパウダーなかったし、紅茶って鎮静効果あるらしいし。

 

 

「霞黒くんは、今日も見回りしてたのよね?」

「ああ。収穫ゼロだったけどな……」

 

 

 いくら尽力しても、何かしらの証拠とかがないと無駄骨以外の何でもない。

 

 

「そろそろ練習に参加しないといけないんだけどなぁ」

「そうよぉ。霞黒くんがいないと、二人三脚の練習出来ないんだからぁ」

「あー?そういえばそうだっけ。というか、俺が出場するやつリレーばっかじゃないか?」

 

 

 エレナとの二人三脚に始まり、障害物競走に借り物競走。これらって確か、勝手に決められた気がするんだよな。あと誰だよ種目内に俵運び入れた奴は。しかも俺これも出なきゃいけないし。ただパン食い競走に入ってるのは良しとしよう。

 

 

「だってぇ、霞黒くん足速いでしょ?だからリレー類は霞黒くんに任せようって男子がね」

「だからってなぁ……」

「あと、その時サボってたのが悪いと思うわよ?」

「ぐっ……」

 

 

 それを言われると辛い。

 

 

「不真面目な彼氏を持つと苦労するわぁ」

「女子相手なら所構わず暴走する彼女に言われたくない」

「もー、ああ言えばこう言う」

「事実だろ。って、ああもう言い過ぎたから拗ねない拗ねない」

「拗ねてなんかないわよーだ」

 

 

 むすっとふくれっ面になるエレナを軽く宥めて今日は備品の手入れをしていく。

 

 

 

 

 

 そして、体育祭当日――。

 

 

「うぁあああ………朝の光がきついー…………」

「しっかりしてよ?リレー類は君頼りなんだからさ」

「お前らも頑張れよ………」

 

 

 開会宣言とかが終ってプログラム通り進んでる中、昨日徹夜で麻雀をさせられてた俺は絶好の体育祭日和と言わんばかりの快晴から隠れるように日陰に潜り込んで休憩中。今すぐ寝てしまいたいけど日陰にいても容赦なく襲ってくる朝の光と朝田によって阻まれる。邪魔なんだけど。

 

 

「ところで、不審者って見付かったの?」

「あー?3日前に木林がとっ捕まえてボコったらしい」

「ボコったって………」

『ただいまから全校生徒対抗玉入れを開始します。皆さん、指定の位置に集合してください』

「おっと、それじゃあ行こうか」

「ダル……浜風に任せる」

「あいつはノーコンだから期待したら駄目だって。ほら、行くよ」

 

 

 ハンドボール投げの記録16メートルしかなかったのにこのやる気とは、真面目かまったく。そう呟いたらすごい形相で睨んできたから睨み返したら引きつられた。先に睨んでおいてその反応は辛いな。そんな怖いかな?

 しっかし今時玉入れって………。まあ、この学校らしいっていえばらしいか。だるいし、そこそこ頑張る程度でいいかな。早く帰って寝たい。




 あてーんしょーん、はろはろ~。1ヶ月以上間が空きましたが生きておりますクロウズデス。あけましておめでとうございます。
 今回は次回へ持ち越し型の体育祭になります。体育祭に良い思い出はありません、主に熱中症で倒れてたので。皆さんはどうでしたかね?



 ほぼ全てのリレーに出る羽目になった霞黒。二人三脚では相方であるエレナと密着してそれどころじゃない、借り物競走では無理難題を引き当て、障害物競走ではまさかの事態が。波乱万丈の体育祭は、一体どうなる!?次回、『一っ走り付き合えよ』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)




 それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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12話目

『続いての競技は、借り物競走です。出場される生徒の皆さんは準備してください』

 

 

 参加することになってる競技の一つ、借り物競走が来てしまった。これ、お題によってはクリア不可だったりするからな。相当変なものが用意されてないならいいんだけど、そうはいかないんだよなここは。確か去年は、ToL〇VEる全巻だったっけ。誰だよあれ用意したの……すっごく恥ずかしかったぞ。

 

 

「あれ、火野先輩も出るんすか?」

「あー?…………ああ、木林か」

「今、完っ全に名前忘れてたっすよね?」

「気のせいだ、気にするな」

 

 

 これだから不良は、とか失礼なこと言ってる後輩を適当にあしらって軽く準備運動。なるべく簡単そうなお題を引き当てて―――。

 

 

『ちなみに今回のお題は、生徒会の皆さんだけでなくボランティア委員会である暁の皆さんに用意していただきました。わざわざありがとうございます』

『いいぜ、これも修行だしな』

『そーそー。結構駄目にされたやつもあったけどな』

『当たり前だ!あんなの通るわけないだろ!』

 

「おい、木林」

「………あとでシメとくっす」

「お前も大概だな」

 

『それでは、選手の皆さん。いちについて、よーい・・・スタート!!』

 

 

 放送委員の声と共に号砲が鳴り響くと、俺は走って落ちてるお題の紙を拾い上げる。さて、お題はっと。

 

 

「『尊敬する先輩』………物じゃないじゃん」

 

 

 まあ、これならすぐにでも…………あれ、これ難しくないか?3年生に顔見知りとかいないんだけど。

 

 

「誰か金棒持ってませんかー!?」

「ロッカー!?絶対借り物競走に使うお題じゃないだろこれ!?」

「東雲どこだー!?」

「彼女なんていねーよ畜生が!!」

 

 

 他の奴らの叫び声からして、俺のはまだマシなのかな。金棒とかロッカーと比べると……。いやそれでも、そんな先輩がいない俺にこれは。……かくなる上は。

 

 

 

 

 

「わざわざすみません、先輩」

「いいのよ別に、カグさんの頼みなら」

 

 

 しらみ潰しに客席を見渡して、運良く来ていた月見原先輩を連れて走る。正直この人にはからかわれたり弄られたり辱められたりと苦い思い出の方が多いんだけど、それでも一応尊敬できる先輩ではある。一応は。

 

 

「ちょっ……ミヤビンっ、速っ……酔う……」

「あと少しだから耐えてくれ!てあれ、先輩!?」

「あー?なんだまた木林か」

 

 

 後ろから誰かが追い上げてきてると思えば、木林が東雲をお姫様抱っこで抱え走ってた。なんでお姫様抱っこなんだろ。東雲真っ赤だし。あ、でも若干青ざめてやがる。

 

 

「あら、お姫様抱っこなんて羨ましい。ねえカグさん」

「しませんよ!?ていうかこの状況で出来るわけないでしょう!」

「カグさんのいけず。それにしても、久しぶりに走るから胸が苦しいわぁ」

「だからって胸元緩めないでくださいよ!?」

「何してるんすかその人!?」

「ミヤビン五月蝿い………」

「のどっ!?」

 

 

 運ばれるがままの東雲が木林を殴ってよろめかせたお陰で、なんとか1位でゴールできた。借り物競走だから、この後先生が許してくれなきゃまた探しなおす羽目になるけど。

 

 

「ん、火野か。引いたお題は?」

「ほい」

「ふむ。……………お前、相手間違えてないか?」

「いくら何でもその発言は酷くないですか?これでも先輩の事は尊敬してますんで」

「ん、ならいいだろう。OKだ」

 

 

 まさかこんなこと言われるとはね。いやまあ、確かに先輩はアレだったけど。

 

 

「ところでカグさん?エレナちゃんと付き合ってるってこと、どうして黙ってたのかしら?」

「えっ?あ、いや、それは………」

 

 

 エレナの奴、結局言い忘れてたのかよ……。間宮先輩には言ってたのになんで月海原先輩には……忘れてた俺も俺だけど。まずい、久々にどれを切っても通らない危険牌しかない状態だこれ。どう言い逃れようか考えてると、

 

 

『今、ロッカーを担いだ先輩もゴール!先輩本当お疲れ様です!!それでは、午前の部はこれで終了となりましたので、お昼休みです。午後の部も頑張ったくださいねー!』

 

「っと、終ったみたいなんで俺弁当食ってきますね!先輩も早く戻った方がいいですよ!それじゃ!」

 

 

 タイミング良く競技終了の放送が入ったから、先輩から逃げるように急いで走る。その後は、1年のテント内にいた鈴ちゃんと、例の如く体操着女子を追い掛け回してたエレナをとっ捕まえて観に来てくれてた春ちゃんのとこに行く。その途中、木林がボランティア委員会の2人をこの炎天下の中正座させてたけど、面倒だからスルーした。

 

 

「はぁ……女の子の可愛い姿がいっぱい撮れて満足だわぁ〜」

「お前は相変わらずか………。あ、鈴ちゃん、ほっぺにソース付いてるよ」

「んむ……すまない黒兄」

「春ちゃんも、お米こぼしてる。てかどうやったのそれ」

「おやぁ、ごめんなさ~い」

「トキさんトキさん、次からあげねー」

「おう、これだな」

 

 

 それにしても、なんで母さん、父さんの膝上に乗ってるかなぁ。俺達みたいに知ってる人ならいいけど、周りの目気にならないのか?

 

 

「あ、そういえばさっき、カスミン先輩に会ったわよぉ」

「げっ……何か言ってたか?」

「んー、付き合ったことに、おめでとうって。あと、霞黒くんによろしくって」

「…………嫌な予感がするな」

 

 

 あの人のよろしくは碌なことがないからなぁ……。まあ、その辺はまた後で考えるか。と、先延ばしにして弁当を平らげる。

 

 

 

 

 

 昼休みも終り午後の競技も滞りなく進み、やってきました部活・委員会対抗二人三脚。他のリレーとかでだと、人数の少ない部や委員会があるからだろうなぁ。と言っても、その場合参加しないでいいとも思うんだけどな。

 

 

「さあ、頑張るわよぉー」

「正直俺走り疲れたんだけど」

「文句言わないの。ほら、足結んで」

「はいはい」

 

 

 事前に渡された紐を俺とエレナの足に巻いて、解けないように少し固く縛る。よし、こんなもんかな。他のペアも準備し始め、指定されたレーンに並ぶ。こうして見ると、結構多いな。

 

 

『皆さん準備はいいですね!?真っ先にゴールイン出来る2人組は―――ああ冗談ですから睨まないで。では、気を取り直して、よーい・・・スタート!!』

 

「行くぞ、エレナ」

「もっちろん」

 

 

 号砲が鳴り響いてから呼吸を合わせて走り始める。他のペアよりは早く出れたと思ったけど、号砲と共に走り出して俺達よりも先を走ってるのがいた。

 

 

『先頭を走るは、剣道部所属の五代・桐崎ペア。2人は従姉弟とのことですから、スタートダッシュの息も合ったんでしょうね』

 

「凄いわねぇあの2人は」

「あいつに負けるってのは癪だし、速度上げるけどいけるか?」

「大丈―――あっ、あんな所に美少女がぁ~!!」

「うおっ、おい!」

 

 

 こいつのセンサーはどうなってるのか、誰のことを言ってるのか解らないけど急停止した所為でバランスを崩して、固く縛ってるからエレナ諸共こける。この馬鹿!せめて競技中は抑えろっての!

 

 

『おーっと、写真部のお2人が転倒したぞー!いちゃつくなら他所でやれや』

 

「黙ってろ放送委員!ったく、大丈夫かエレナ?」

「う、うん。ごめんね」

 

 

 すぐに起き上がったエレナに手を引っ張られて立ち上がり、走る前にエレナを小突く。怪我とかなくて良かったけど、急に止まった事に対しての罰としてな。それで反省した(と思いたい)エレナと肩を組み、もう一度走る。これ以上トラブルがなかったら、さっきの分は取り戻せると、そう思ってたら、

 

――ぷちっ。

 

 と、何かが切れるような音がした。もしやと思って下に視線を向けるも、俺達の靴紐も二人三脚用の紐も切れてはない。じゃあ、一体何の音なんだ?そう思ってエレナを見ると、何故か顔を真っ赤にして肩を震わせてた。え、どないしよっと?

 

 

「か、霞黒くん………棄権していい……?」

「……何があった?」

「じ、実は……」

 

 

 恥ずかしそうに耳打ちするエレナの言い分を聞いて、俺は納得して紐を解こうとして固すぎたから千切った後棄権して、その後はテントに戻って観戦することに。棄権理由はこけた際に俺が足を挫いたってことにしておいた、一応本当のことだし。棄権本来の理由は察してほしい。で、エレナは1日中顔を赤くしてたから熱中症なんじゃないかとか別の心配をされることになってた。南無。それにしても、あんな漫画みたいな事って実際に起きるものなんだな。

 

 

 

 

 

 これ以外には特にトラブルも何も起きず進行して、体育祭は無事終了。明日は振替で休みだし、ゆっくり休むとするかな。




 あてーんしょーん、はろはろ~。基本ぼっちの決闘者クロウズです。俺と決闘しろぉおおおおおお!!
 借り物競走も二人三脚も、体育祭ではやったことありません。そもそもその種目すらぬえ。ムカデ競走はありましたけど。もー体育祭とかやりたくないです。



 2年生もそろそろ終る頃に最後に待ち構える期末テスト、それを乗り越えた先にあるクリスマスに正月。この2大イベントで2人はついに一線を越えるのか!?次回、『冬の寒空と人肌の暖かさ』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(うそです)




 それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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13話目

 時が経つのも早く、もう2月の末にまでなろうとしてた。今年、一応去年になるか。去年の大晦日は毎年恒例の家族麻雀をした。と言っても、父さんはそこまで打てないから鈴ちゃんと春ちゃんの親父さん達なんだけど。まあ、この3家族で年越しも恒例だけど。今回はエレナもいて、酒の入った父さんと親父さん達に長時間からかわれた。挙句母さんは余計なもの渡してきたし、お陰でエレナとは気まずかった。それにしても、

 

 

「もうすぐで、今年も終りね~」

「ですね~」

「今年ではなく、今年度だがな~」

 

 

 この、マイリトルシスターズと副部長はどうして人の部屋のこたつを占領してみかんを食べてるんだろうか。

 

 

「霞黒くんもこっち来たら~?」

「そっち行ったらネト麻出来ないから」

「おにーさんもあったまりましょ~?」

「うん、だからそっち行ったらネト麻出来ないからね?」

「黒兄、背中寒いからあっためて~」

「鈴ちゃんは俺を座椅子にするつもりかな?」

 

 

 いつもはしっかり者の鈴ちゃんでさえもこたつの魔力には勝てないのか、覇気がないというかなんというか。でもここまでになってる鈴ちゃんは初めて見たぞ。

 

 

「霞黒く~ん」

「おにーさ~ん」

「黒兄~」

「………ああもう解ったよ!行くから3人でそんな声出さない!」

 

 

 まったく。入ったら出る気力なくなるから、なるべく入らないようにしてたのに。まあ文句を言っても仕方ないから空いてるとこに入ろうとしたら、鈴ちゃんに服を引っ張られたから鈴ちゃんのとこに入って、そのまま鈴ちゃんを膝に乗せたら猫みたいに後頭部を擦りつけてくる。今日は普段よりも甘えてくるな。かわいいからいいけど。

 

 

「むーっ……」

「何拗ねてんだよ」

「五十鈴ちゃんだけじゃなくて私達も構いなさーい」

「なさーい」

「春ちゃんまで……」

 

 

 しかも春ちゃんはエレナの膝に乗ってるし。そういえば、春ちゃんって最初からエレナの事「おねーさん」って呼んで懐いてたっけ。

 左手で鈴ちゃんの相手をしながら、右手を伸ばして2人の頬を突いたりして相手する。

 

 

「ふにゃ、黒兄のなでなで気持ちいい………」

「それは良かった。2人の頬は柔らかいなー」

「ほんとだ~、おねーさんのほっぺた柔らか~い」

「にゃんっ、2人してつっつかないで………もう、はむっ」

「うおっ?」

 

 

 頬をずっと突いてたら反撃された。がじがじと俺の指を甘噛みしてくるエレナ。凄くくすぐったいけど、小動物みたいでかわいいからこのままでいいかな。と、この日は4人でだらだらと過ごした。

 

 

 

 

 

 あれからさらに日が経ち、終業式の今日。といっても、終業式自体はもう終ったから後は帰るくらいなんだけど。今は教室で、最後のホームルーム中になってる。

 

 

「このクラスのみんなとはお別れかー、色々あったね。ねぇ、お2人さん?」

「なんでこっち見て言うんすか」

 

 

 佐藤先生は何故か、恨みがましそうな目で俺とエレナを見る。いや、見るというよりあれは睨むに近い。

 

 

「けっ、リア充が」

「先生がそんな毒吐かないでください」

「そんなんだから結婚出来ないんじゃ」

「ぐはぁっ!?」

 

 

 クラスの女子の容赦ない一言で撃沈。もう少しオブラートに包んで言ってやれよ。

 

 

「だって……出会いとかないんだもん………飲みに行っても捕まえれないし……」

「……なんか、すみません………」

「謝らないで!余計惨めになる!!」

「はは……。あ、アタシ彼氏と約束あるんですけど」

「ここにもカップル成立者がいた!?今日は帰って自棄酒してやるぅうううう!!」

 

 

 撃沈中からのさらなる追い打ちを受けた先生は泣きながら廊下を走り去っていった。どことなく昭和風に。可哀想に……。

先生がいなくなったことで、これ以上い続けても仕方ないってことで早々に解散することになった。最後の最後まで締まらないなうちのクラスは。

 

 

「そんなクラスから解放されるとなると、俺はありがたいけどね」

「人の心ん中読むな」

「これで来年も同じクラスとか勘弁だからね」

「ワタシは、賑やかで楽しかったですヨー」

「クロエさんはそうだろうけど、俺は主に尻拭いさせられてたからね……」

「去年からよく貧乏くじ引いたよな」

 

 

 解散後、掃除当番の俺は同じく当番の朝田とルメールの2人と会話しながら掃除する。しかし朝田は、さっきフラグを立てたことに気付いてないんだろうな。ちなみにエレナは先に鈴ちゃんを迎えに行っていない。けど、鈴ちゃん今日掃除当番って言ってた気が。

 

 

「よし、掃除終ったし帰る」

「お疲れー。って、もういないし」

「もしや、火野サンはニンジャでハ……」

 

 

 掃除用具を片付けてさっさと教室から出る。その際2人が何か言ってた気がするけど、よく聞こえなかったし別にいいか。

 

 

 

 さて、鈴ちゃんとエレナは、おっ、いたいた。

 

 

「おーい、2人とも」

「あ、霞黒くん」

「遅いぞ黒兄」

「ごめんごめん」

 

 

 俺が来るまでの間、2人は何か話をしてたようだけど俺には内緒とのこと。まあこういう場合は内緒にしてる当人について(主に愚痴)だろうからいいか。

 

 

「黒兄、今日アルバイトは?」

「休みだけど、どうせ暇だし春ちゃんも呼んでみんなで行くか」

「あぁ、いいわねそれ」

「んじゃ、春ちゃん連れてくる」

 

 

 そういえば、バイト代も入ったんだし、今日は奢るか。とか言ったら絶対鈴ちゃんが怒りそうなんだよなぁ。だから黙って会計時に1人で払おう。うん。………それにしても、来年で卒業か。何か、早いな………。




 あてーんしょーん、はろはろ~。なんか最近投稿速度が速くておかしい気配のするクロウズです。
 今回で2年生編はおしまいとなります。なんだろう、話数は1年生編とそう変わらないのに長かった気配。どういうことだろ?てか今回の終り方、違和感あるなぁ。もしかしたら加筆・修正を行うかもです。




 今日はいつものあれはお休みです。ではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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〈3年生編〉
I話目


 時が経つのは早いもので、ついこの間まで2月だったのにいつの間にかもう4月になってる。………って、2月頃にも同じようなこと思った気がするな。

 始業式・入学式の時は、今年は春ちゃんが入学してきたから去年の鈴ちゃんの時みたいに何枚も撮らせて貰った。ニコニコしながらこっちに何度も手を振ってくれたから、いつも以上に気合いを入れて撮った。春ちゃんほんと可愛い。マジ天使。ちなみに、俺のクラスはA組で、担任は安定の佐藤先生だった。

 それから数日後に授業開始となったけど、俺は序盤から風邪を引いて欠席する羽目になってた。今はもう快復したんだけどさ。どうも風邪で欠席してようがサボり疑惑があるんだよなぁ。1年の時サボりまくったツケか。

 

 

「はぁ……今日も入部希望者はゼロか」

「うーん、何がいけないのかしらぁ?」

 

 

 今は部室で、写真部への入部希望者を待っている所だった。一応去年も写真コンテストで入賞したし、エレナに対する苦情とかの悪評もなかったから、問題ないと思うんだけどなぁ。それとも、エレナの悪評はその程度じゃ拭いきれないものだとでも言いたいんだろうか。

 

 

「もしこのままだと、部から同好会に格下げかしらぁ?」

「かもなぁ。ところでエレナ」

「ん?なにかしら?」

「俺はいつまでこうしてればいいんだ?」

 

 

 ソファに座る俺の膝上にエレナを乗せて、そのまま後ろから抱き締める形だ。いや、ね?確かに付き合ってるし、俺としても役得なんだけどさ、場所が部室だからなぁ。先生や生徒会、風紀委員にでも見付かったら面倒なことになりかねない。

 

 

「もうちょっとだけぇ。霞黒くんも、私と密着出来て嬉しいでしょ?」

「ある意味生殺しなんだけどな、これ……」

 

 

 こっちは精神的に死にそうになってるっていうのに、こいつは構わずもたれかかってきて更に密着してくる。あ、いい匂いする。

 どうせ今日は誰も来ないだろう、そう思ってた俺はエレナの相手をして油断していた所為で、部室に近付いてくる足音に気付けずにいた。その結果、

 

 

「すんません、ここに黒先輩がいるって聞いたんスけど」

 

 

 ドアをバンッと開けて入ってきた一昔前の不良みたいな女子生徒と目が合って、互いにフリーズ。エレナは気付いてないのか、いまだ俺にもたれかかってくつろいでる。

 

 

「はっ……あまりの光景に頭ん中真っ白になってました!あのっ、黒先輩っスよね!?」

「お、おう……えっと………」

「ま、まさかアタシのこと忘れたんスか!?」

「ん?どうしたの霞黒く――――もしかして新入部員かしらぁ?」

 

 

 くわっと迫る後輩に気圧され、やっと気付いたエレナをとりあえず下ろす。

 

 

「あ、アタシは1年の竜ヶ崎(りゅうがさき)珠里椏(じゅりあ)って言います」

「そうなんだ。私は望月エレナよ。それで、こっちが」

「ああエレナ。そいつ、俺の事知ってるみたいだぞ」

「まあ、黒先輩の事ならいっぱい知ってるっスから」

 

 

 なんかストーカーみたいな発言だな、今の。どっかで会ったっけ?って、あ………あー……。思い出した。

 

 

「……あー、久しぶりだな竜ヶ崎。入学式にいなかったみたいだけど」

「っ!お久しぶりっス黒先輩!!あ、それは途中めんどくさい奴らに絡まれて」

 

 

 俺が思い出して名前を呼ぶと、飼い犬みたいに嬉しそうにする竜ヶ崎。パタパタと揺れる尻尾が見えるな。頭を撫でてやるとさらに嬉しそうにしてる。というかこいつ入学式の日に何してんだよ。時間と場所にもよるけど、間に合うように潰してから来いよ。

 

 

「ところで先輩、こっちの先輩とさっきくっついてたっスけど」

「あぁ、それは私が霞黒くんの彼女だからで~す」

「へ~、そうなんスか。……って、彼女っスか!?黒先輩パネェっス!」

「なんでだよ………」

「で、霞黒くんはこの子とはどういう関係?」

「怖いから首元に手を添えるな」

 

 

 若干棘のある声だし、死んだような目でのこれは絞められそうで怖い。昔不良に刃物突き付けられたことあるけど、その時より怖いのはなんでだろう。彼女だからか、彼女だからなのか!?

 

 

「中学ん時喧嘩ばっかしてたって話しただろ?」

「あー、確か黒狗って呼ばれてたんだっけ」

「それは止めろ。で、こいつが集団に絡まれてたから全員薙ぎ倒して、始末してたら懐かれた」

「いやぁ、あの時の先輩はほんとカッコ良かったっスからねぇ」

「止めろ。それで竜ヶ崎、わざわざ部室に来てどうした?入部希望か?」

「あ、いえ、先輩と同じシマに来たんで、挨拶に」

 

 

 なんだ、入部希望じゃないのか。1人増えると思ったのに。あと、シマ言うな。縄張りじゃないっての。

 下校時刻も近付いてきて、今日は他に誰も来ないだろうということなので、さっさと閉めて帰ることにした。今日は鈴ちゃんも春ちゃんも家の用事で早めに帰ってるから、華道部には寄らない。一緒に帰りたかった。

 

 

「前も3年の階に行ったんスけど、そん時は先輩風邪だったみたいでしたし」

「あー、あの時ね。てかわざわざ教室まで来たのか」

「舎弟として当然っスよ」

「お前を舎弟にした覚えないんだけど」

 

 

 とりあえず、喧嘩とかはもうやるつもりはないって後で言っておくか。でないと巻き込まれる可能性高いし、桐崎に知られたらまた面倒だし。

 

 

「じゃあ、アタシこっちなんで」

「気を付けて帰れよー」

「またねぇ~」

 

 

 学校から少し離れた所で竜ヶ崎とは別れる。知ってる後輩が入ってくれるのはいいんだけど、あの事を知ってるからなぁ、あいつ。知ってるどころか間近にいたレベルだもんなぁ。まあ、なんとかなるか。

 

 

 

 

 

 喧嘩はやるつもりない、そう思っておきながら、駅前でチンピラ数人がぶつかってきてエレナに手を出そうとしたから全員まとめて潰してしまった。一応、みぞおちと顎に蹴り入れた程度に済ませたつもりだけど、これ正当防衛になるかなぁ。周りに人がまったくいなかったから、逃げるようにチンピラをそこに残して急いで電車に乗った。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。最近寒いっぽいですね。
 今回から3年生編、つまり最終編です。どれくらいかかるかは解りませんが、完結させたいですね。



 高校最後の年となり、進路のことですれ違い、少しばかり距離が開く2人。いつものように甘い雰囲気がない分クラスは平和なものだが、クラスメイト達はそんな2人を見ていられず元通りにしようとあの手この手を尽くす。次回、『隣にいる君』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!




 人物紹介に〈竜ヶ崎珠里椏〉が追加されます。


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II話目

 今日は祝日、という事で朝からシフトを入れられていた。結構忙しくて、普段は接客の俺も厨房に入ることもあった。

 

 

「火野、こっちいいから注文聞いてきてくれっ!」

「はい!」

 

 

 あーもう忙しい。

 先輩に言われて注文待ちのテーブルに向かい、注文を聞くことに。

 

 

「ソーリー、このチーズケーキのブルーベリーソースを」

「私はカツ丼で」

「チーズケーキのブルーベリーソースと、カツ丼ですね。少々お待ち――」

 

 

 注文を聞き終えて厨房に戻ろうとして腕を掴まれ、何事かと思う間もなく自動卓に着かされた。え、え?強制イベント?

 

 

「さて、打とうか」

「リトル本気で行きます」

「え、え?え!?」

「そ、それじゃあよろしくね?」

「えぇえええええ!?」

 

 

 どこかで見た事あるプロ雀士達に捕まった俺の悲鳴が、人の多い店内に木霊した。

 

 

 

 

「…………つ、疲れた……………」

 

 

 客足が遠のき、ようやく休憩することが出来る。今店内にいるのは常連数人の他、塾の帰りらしき学生達だ。

 俺は磨き終えたテーブルに突っ伏して疲れを癒す。これで今日の疲れが取れるとは思えないけど。……あー、今日はバイクここに置いて電車で帰るか。乗ったら事故りそうだし。

 

 

「せんぱーい、3番テーブルいいですかー?」

「ぉーぅ…」

 

 

 他の客の相手をしてた後輩に頼まれて3番テーブルに向かう。そこにいたのはいつも通り文字Tシャツを着た栢嶋義姉弟だった。

 

 

「おっす、とりあえずチョコパフェ頼むね」

「俺もそれで」

「んー?京はそんなに私と同じのがいいのか。よしよし可愛い奴め」

「違うから家の外でも抱き着くなよ撫でるなってば!!」

「照れるな照れるな」

「いちゃつくなら他所でやれ。というか家でやれ」

 

 

 時と場所は選べよな。

 

 

「同じくらい望月といちゃついてるあんたに言われてもね」

「うっせ。………苦労してるな」

「男としては辛いですよこれ……」

 

 

 栢嶋弟に哀れみの目を向けて、厨房に入る。チョコパフェくらいなら俺がやってしまおう。そそくさと入ったように思われたのか、栢嶋弟から恨みがましく見られたけど気にしない。

 

 

 

 

 

 また別の休日。今日はバイトもなかったから街をぶらついてた。ら、

 

 

「さ〜ぁ霞黒くん、行くわよぉ〜!」

 

 

 偶然エレナと会って、何故かメイド喫茶に行くことに。なんでも、いつも通り被写体を探していたらちょうどいいメイドさんがいたらしく、そこのメイド喫茶は今カップルで入ると割引してくれるからと俺を探していたらしい。メイド喫茶でカップル割ってどうなんだろか。ともかく、そのメイド喫茶に呆れて溜め息を吐きながら帽子を被りなおして先を行くエレナの後ろを歩く。すると、急に立ち止まったかと思うとこっちに近付いてきて、腕に抱き着き、

 

 

「おっと、どうした?」

「ん~ん。ただ、その帽子とっても似合ってるわよ♪」

「っ!?ま、まあ、お前が選んで買ってくれたやつだからなっ………!!」

 

 

 不意にそんなことを下から覗き込むように笑顔で言ってくるものだから、思わず声が裏返る。顔も熱くなって、見られないように顔を背ける。

 今日被ってきた帽子は、去年エレナが誕生日プレゼントとしてくれた、白の紐が巻かれた灰色のソフト帽だ。結構気に入ってるから、散歩したりする時には必ず被ってる。そういえば、エレナはよく外に出るみたいだし、今度俺も帽子でもプレゼントするか。

 

 

 

 

 

 メイド喫茶での出来事は、簡単に言えばエレナによるメイドさんの撮影会みたいなことになった。最初はノリノリだったメイドさんだけど、1人2人が困り顔になった頃に、エレナが行き過ぎる前に止めた。最後までノリノリだったのはここでバイトしてた同級生のアイルンこと一色(いっしき)愛瑠(あいる)だった。あまり関わりたくないので他人のふりをしておいた。ただ、その一色が店長らしき人に無理を言ってエレナにメイド服を着させてきた時は思わず拳を握った。

 エレナは撮るのは好きでも、撮られるのは苦手な方だからこういった格好をあまりしない。だからこそ少し嬉しかったのか、何枚か撮らせてもらい、エレナも俺だけにとはいえ接客していった。メイド姿のエレナが接してくれるのは脳に響くものがあったけど、ドリンクバーミックスを出された時は何事かと思った。見た目は物凄く毒々しいのに味は良かったのがちょっとむかついた。

 

 

 

休日なのにまったく休めないっていうのも困りものだな。今日みたいな、結果的に楽しめたらいいけど。




  \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。生きてます。
 3年編第2話です。今回は量が少ないですがご勘弁を………(土下座)。



 霞黒が高熱を出し欠席した。その事を知ったエレナがかいがいしく看病をしようと、何故かナース服を!?普段と違う彼女の姿に、霞黒は一体どうする!?ナニする!?次回、『桃色ナース』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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III話目

「あ゛ぁー………あづい…………」

 

 

 7月に入って暑さが増し、俺の席が窓際の所為でさらに暑く、いくら今日が終業式で後は帰ればいいだけでも、何もやる気が起きない。その上、

 

 

「ほんと、暑いわよねぇ……」

「そう言うなら離れてくれ頼むから………」

 

 

 背中にエレナが引っ付いてきてるから余計に暑い。暑いだけじゃなく、薄着の所為で制服越しでもエレナの胸の柔らかさが伝わって非常によろしくない。普段から時間と場所をなかなか弁えない奴だけど、今日みたいな日まで弁えないのはどうしたものか。

 

 

「霞黒く~ん、扇いでぇ~……」

「扇ぐ力ない……」

「そんなぁ~」

「あらぁ、相変わらず仲良いわねぇ」

「あー……?あぁ、天都(あまつ)か」

「かなたちゃ〜ん………」

 

 

 この、のんびりとした生徒会長はこの暑さでもいつも通りのんびりとしてた。ドのつく天然なのになんで生徒会長になれたのか疑問なんだけど、こいつに頼み事をされたら基本誰も断れない。正確には、何度断っても頼み続けてくるから、頼まれた側が折れるしかない。あの神楽坂ですらそうだったし。あと、こんなに暑いのに汗一つ掻いてないのは凄いと思う。

 

 

「いいなぁ。私なんて京に逃げられたのに」

「あ~、乙女ちゃんも~……」

「あらぁ、そうだったのぉ?」

「栢嶋弟が嫌がる姿が想像できる………エレナは早く離れて…」

「んもぅ~…………」

 

 

 ようやくエレナは離れてくれた。その際に首筋を舐められたから額に凸ピンしたけど悪くないよな。天都や栢嶋もいたんだし。

 

 

「もうっ、痛いじゃない」

「お前が悪い……」

「喧嘩は駄目よ?」

「それにしても、ほんと暑いね。こうも暑いとプール行きたくなる」

「あらぁー、いいわねそれ」

「プールと言えば水着の女の子ね!」

「騒ぐな暑いから……」

 

 

 しかしプールね……俺泳げないんだよな。まあ、この暑さを回避できるならなんだっていいけど。

 

 

 

 で、この他に栢嶋弟や村上、向こうで会ったボランティア委員会の連中なんかが加わって結構大変なことになったのは、言うまでもない。主に俺が溺れたりで。

 

 

「おわー!火野先輩が流された!!」

「えぇ!?霞黒くん泳げないのに!」

「よし、それなら俺らが助けに!」

「いけぇ、キョン!!」

「キバっていくぜ!って言ってる場合か!!」

「火野ー!!」

「いや、春瑚と一緒に浮き輪に乗ってるだけなんだが………」

 

 

 

 

 

 あれは大変だったな。勘違いとかあったみたいだけど。

 それから数日、暑さと課題に追われながら夏休みの最終日を迎えることに。この最終日、8月31日には毎年夏祭りがある。普段は鈴ちゃん、春ちゃんの2人と回って、去年はエレナも一緒。で、今年はエレナと2人きりで回ることになった。祭り会場に浴衣姿で来た俺達は今、

 

 

「あぁ~ん、破れちゃったー……」

 

 

 金魚すくいに興じていた。俺は後ろから見てるだけだけど。どうやらエレナはこれが苦手なようで、1匹もすくえないままポイの紙が破れたらしい。そういえば、このすくうやつがポイって名前なのを知ってる人ってどれくらいいるんだろう?

 

 

「残念だったな」

「うぅ、霞黒くーん………」

「仕方ない、仇とってやるよ」

「お、兄ちゃん。彼女に良いとこ見せてやんのか?」

「そんなとこ」

 

 

 200円払ってボウルとポイをおっちゃんからもらい、水槽を覗き込む。金魚のタイミングを見計らって、せやっ!

 

 

「よし、まず1匹」

「やった、さすが霞黒くん。じゃあ次は、あの大きいのすくってみて」

「あいつか。やってみる」

 

 

 エレナが指差したのは、この中で一番大きい金魚だった。ここは慎重に、と見せかけてポイを一閃させる。

 

 

「わ、すご~い」

「ほー、こりゃやられたなぁ」

「まあ、何度もやりましたからね」

 

 

 小さい頃、鈴ちゃんがどうしてもって言ってたから、その時の小遣い全部を使ってでも取ろうと悪戦苦闘してたからな。ちなみに、その頃は一回も取れたためしがなかった。今日のは運が良かったってことかな。紙はまだ破れてないし、このまま続行するか。

 

 

「がんばれ霞黒くーん」

「うわ、解ったから揺らすな紙が破れ―――あ゛っ」

 

 

言ってるそばから破れた。ちくしょう。

 

 

「あちゃー……」

「はっはっは、残念だったな兄ちゃん」

「くっ、仕方ないか……」

 

 

 取った金魚をもらって、金魚すくいの屋台を後にする。

 

 

 

 

「霞黒くん、こっち向いてー」

「ん?なんだ――なに撮ってんだよ」

「うふふ、わたあめにかぶりつく大きな子供みたいよ、ほら」

「見せなくていいよ」

 

 

 あの後色々と屋台を見て回り、エレナはリンゴ飴を、俺はわたあめを食べながら歩き回る。その最中で、言ったようにエレナは俺がわたあめを食べてるところを小型のデジカメに収めたようだ。人混みの中なんだから落としたりしないようにしてほしい。落としたら最悪壊れる。そういえば、小さい頃は春ちゃんがよく迷子になったっけ。

 それから盆踊り会場に行って一緒に踊り、少しの休憩も兼ねて河原の方へ行く。祭り会場と違ってこっちは相変わらず人が少なく静かだ。

 

 

「っくぁーー、歩き疲れたなぁ」

「そうねぇ。……風が気持ちいいわね」

「だな」

 

 

 向こうは密度もすごかったから夕方とはいえ暑かったけど、夜にもなって風も出てると涼しくて気持ちいい。ふと横を見ると、風で髪を押さえてるエレナが映った。月も出てて、その姿はとても綺麗だった。

 

 

「ん、霞黒くん、どうかした?」

「綺麗だなって」

「綺麗?……あ、ほんとだぁ。綺麗な空ねぇ」

「いや、空じゃなくて」

 

 

 お前が。そう言ったらエレナは少し固まってから顔を赤くして取り乱した。不意打ちに弱いなぁこいつ。1年の頃もそうだったし。あの時は月のことだったけど。

 それからすぐに花火が上がり、空に咲く色とりどりの花を俺もエレナも見上げる。

 

 

「今日で、夏も終りね」

「あぁ。高校最後の夏だ」

「色々あったわよねぇ」

「去年から付き合いだして、ほんと色々あったな」

 

 

 花火を見上げたまま、そんな他愛もない風に言葉を交わす。それも長くは続けず、大きな花火が上がりだすと会話も止まり、花火を眺める。もちろん、写真を撮るのも忘れない。それも一段落着くと土手に座り、お互い顔を見合わせる。

 

 

「今日、来て良かったな」

「うん」

 

 

 笑顔で頷いたエレナはそのまま目を閉じて顔を近付けてきたから、俺は打ち上がる花火を背に、その唇に自分のそれを重ねる。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 今回は夏の一時、後半はきみと過ごす夏休みをなぞったような展開にしました。ちなみに霞黒はわたあめの他に今川焼やリンゴ飴、チョコバナナなど甘味を全制覇する勢いで食べてました。自分も地元の花火大会やどこかのペーロン祭りにはよく行ってます。どうでもいいですけどね。



 2学期に入るとイベントが盛り沢山。中でも一番人気の櫻花祭ではまたしてもNo.1カップル決定戦が。去年は惜しくも敗退した2人だが、今年こそは優勝を目指す。2人は強敵を倒し、No.1カップルになれるのか!?次回、『砂糖テロ勃発!?』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)



 そろそろ嘘予告ネタが尽きてきた……。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅳ話目

『第〜、何回だっけ?まあいいや。聖櫻学園清涼祭〜!』

 

 

 

「ぐふふ、ついにこの日が来たわぁ〜!」

「ああ、来やがったか……また」

 

 

 この、9月初頭に行われる清涼祭。夏が過ぎたとはいえまだ暑い日々を乗り切るために学年・クラス問わず、ただただ水を掛け合うイベントだ。他にルールなんてないから、そうとしか言えない。強いて言うなら制服の下に水着着用と着替えを用意しておくことくらいだし。

 このイベントでは合法的に濡れ透けが見れるからと、男子とエレナにとても人気だ。写真部としてはイベントには参加せざるを得ないし俺も男として嬉しいんだけど、目のやり場に困りすぎて辛い。あと風紀的にどうなんだろう。

 

 

「霞黒くん、ちゃんと防水仕様の持ってきた?」

「ん?ああ、持ってきてるよ」

「良かったぁ。あ、でもぉ、あんまり他の子に目移りしちゃ駄目よ?」

「解ってる解ってる」

 

 

 まったくこいつは……。目移りしまくりなのは自分だろうに。女子にだけど。

 それからすぐに開始の合図が鳴り、俺はエレナと別れて適当にぶらつく。水の掛け合いに参加するより、そうしてる生徒達を撮るのがメインだしな。いい被写体になってくれそうなのは―――っと。

 

 

「いいかお前ら。こういう時に限って女子ばっか狙う奴らが出てくるんだ」

「去年のお前みたいにな」

「してねぇよそんなこと」

「それより先輩、今日はどうしますか?」

 

 

 誰かと思ったらボランティア委員会の奴らか。1年が2人追加されてる、ずるい。写真部には全然来てないのに。まあ、良さそうなの撮れそうだし見ておこう。

 

 

「さっきも言ったように女子ばっか狙う奴らが出てくるし、そういった奴らから女子を守ろうと思う」

「おぉなるほど!」

「俺たちらしいっすね!」

「よし、じゃあさっそく―――冷たっ!」

 

 

 委員会の1人――確か竹谷だっけ――に水風船が直撃した。素肌のとこだから痛いだろうな。その瞬間を撮ってみたらちょうど割れた瞬間だったようで、結構綺麗な水の玉が撮れた。

 投げた本人は、どうやら校舎から歩いてきた木林と東雲ペアのどっちかだろう。ただ、2人とも既にびしょ濡れなのは一戦やり合ったのか2人でやり合ったのか。木林は髪までぐっしょりだし、東雲は黒い水着が透けて見えるし。

 

 

「くっそ、不意打ちとか卑怯だぞ!」

「ルール無用のこれに卑怯も何もないよ。ほらほらっ」

「ぶわっ!くそ、やりやがったな!行くぞお前ら!」

 

 

 なんか5人対2人の水の掛け合いが始まった。あ、木林のやつ盾にされてる。とりあえず撮っておこう。木林の濡れ具合が酷い理由はこれだな。

 ある程度撮って、次の被写体を探しにグラウンドの方へ行ってみると、男女入り混じった大人数が掛け合っていた。どこから引っ張ってきたのか、ホース使ってる奴とか両手にバケツ持ってる奴までいるし。

 

 

「飛び散る水飛沫、美少女たちの笑顔、透ける服とそこから覗く水着!いいわいいわぁ〜!!」

「も、望月さん……そんなに撮らないでください………!」

「あぁん、恥ずかしがってる顔もいいわ文緒ちゃ~ん!!」

 

 

 エレナまでいたよ……。しかも危ない発言しながら。あいつには後で注意なりしておくか。そして、それに気を取られていた俺は、

 

 

「隙ありだ!」

「え――冷たっ!?」

 

 

 バケツをひっくり返したような勢いの水に背中から襲われた。振り返ってみると柄杓を持った笑顔の鈴ちゃんと春ちゃんがいた。

 

 

「油断大敵だぞ黒兄」

「ですよ~」

「2人とも……不意打ちなんてどこで覚えたんだよ」

「ふふん。そらっ」

「え~い」

 

 

 2人は柄杓で水をすくってかけてきても、俺には何もないから逃げるしかない。

 

 

「待てー」

「逃がさないぞ黒兄!」

「ちょっ、俺何も持ってないのに……冷たい!!」

 

 

 2対1では分が悪く、結局俺は清涼祭終了まで2人に水を掛けられまくった。

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

「ぐふふ、いいわいいわぁ〜」

 

 

 部室で今日撮った写真を確認して、思わず涎が出ちゃうわ。

 それにしても、今年の清涼祭も大収穫だわ〜。文緒ちゃんに心美ちゃんのような有名所からこういうのに率先して参加するつぐみちゃんにエミちゃんに乙女ちゃん、そして苗ちゃんや桃子ちゃんみたいに入学したばかりの可愛い1年生も。これは眼福よぉ〜!

 そして何より、

 

 

「やっぱり、あの2人と一緒だと霞黒くんも可愛いわねぇ」

 

 

 こんな時でも、女の子より霞黒くんに意識がいくなんて、前までは考えられなかったわよね。ちなみにその霞黒くんは今、掛けられすぎてくしゃみが止まらなかったから先に帰ることに。明日風邪を引いたりしないといいけど……。

 

 

「帰りに様子でも見に行きましょうかぁ」

 

 

 データをパソコンにコピーして、戸締りもしっかりして部室を後にする。新聞部へ提供する写真は霞黒くんの方のデータも見て一緒に決めなきゃだし、霞黒くんがいないんじゃ部活も出来ないものね。さて、帰ったらこの写真をまたアルバムにして………ぐふふ~。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。生きてます。花札衛作ったけどまだ回してません。
 今回書きましたが、実際清涼祭って楽しいんでしょうか、最近朝夜はともかく昼間は暑いですしやってみたいです。翌日に風邪引きそうですが。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅴ話目

「……参ったなぁ」

 

 

 ある日の放課後、部室で窓の外を眺めながら、俺はどうやって帰ろうか悩んでいた。何故なら今、外は生憎の雨だから。しかも、バケツをひっくり返したって表現がしっくりくるくらいの大雨だ。傘を忘れた俺はどうすることもなく、部室で待機するしかなかった。というか予報で雨なんて言ってなかったから持ってくるわけない。置き傘?そんなものはない。

 まあ、少ししたら上がらなくても弱くなるだろうから、それまでここで待つか。

 

 

「んー……」

 

 

 しかし、人の膝を枕にして寝ているこの眠り姫はどうしようか。起こしてやるべきなんだろうか。というかそろそろ足の感覚なくなってきたから起こしたいんだけど。

 

 

「ふにゅ……」

「……はぁ」

 

 

 頬をつついても起きる気配なし。相当疲れてるのか?このままだと風邪引かせることになりそうなんだよな。上着でも着せてやった方がいいかな。

 

 

「おーい、そろそろ起きろー」

「うぅ……ん」

 

 

 さらに頬をつついてみると、もぞもぞと動かれてくすぐったい。それでも起きる気配はない。そして雨も止む気配なし。あ、でも、少し弱まったかな。このまま帰るのに問題ない程度になってほしい。

 

 

「ん、ふぁ〜あ……おはよー………」

「ああ、ようやく起きぃっ!?」

 

 

 さっきまでの動きではくすぐったいで済んでたけど、体を起こす時に手が足に置かれて力を入れられたから、感覚なくなってきてた足が……!!びりびりする……!

 

 

「んぅ……霞黒くんどうしたの?」

「あし、足がぁ………!」

「あら、大丈夫?」

「お前をずっと乗せてたからぁ!?」

 

 

 解ってて触るなよ……!くそ、腹抱えて笑いやがって………。

 

 

「あ、霞黒くん。今雨弱いし帰れるんじゃない?」

「あー?……あー、だな」

 

 

 窓の外を見て見ると、エレナが言った通りさっきよりも弱くなってて、走れば帰れないこともない。

 

 

「じゃあ、これ以上酷くなる前に帰るか」

「えぇ」

 

 

 それからすぐに部室の戸締まりをして外に出る。雨はまだ降ってはいるものの、パラパラとした小雨程度だから走らなくても平気かな、これは。

 だと思っていたけど、油断した。駅に着くまでは問題なかったんだけど、着いてからはまた急に降り出した。それでも電車に遅延は発生していないものの、これじゃあ帰るに帰れない。迎えを呼ぼうにも、両方とも今日は遅くなるって言うし、鈴ちゃんや春ちゃんに傘を持ってきてもらうなんてパシリみたいなことはしたくないし。

 

 

「まあ、向こうに着いた時には弱くなってるかもしれないんだし、待ちましょ?」

「そうするしかないか」

 

 

 そんなわけで電車に乗り、揺られながら進むこと数分。降車駅に着いた時にもまだ雨は強く降ってた。そりゃそうか。

 

 

「うーん。無理矢理にでも走って帰っちゃう?」

「この雨の中だと、確実に風邪引くぞ。せめてもう少し弱まってからだな」

 

 

 近くにコンビニにでもあれば良かったけど、生憎と距離がある。その為駅内で待つこと十数分。帰るには問題ないくらいに雨も弱まったから、俺達は鞄を頭上に持ち上げてその中を走っていく。傘と比べると鞄じゃ頼りないから、強くなくても降っているのに変わりはない雨に当たって、いつものコンビニに着く頃には結局びしょ濡れに。それで、これ以上は確実に風邪を引きそうだからコンビニで一度雨宿り。

 

 

「うぅ〜、びちょびちょになっちゃったわぁ」

「もう少し待つべきだったかもなぁ」

「そうねぇ。…………美女がびじょびじょ」

 

 

 隣でエレナがボソッと呟いたことは無視してやることにした。言った本人も恥ずかしがってるし。って、びしょ濡れになってる所為でエレナのやつ服が透けて下着見えてる。それにしても、やっぱりでかいな…………じゃなくてっ。

 

 

「ん?霞黒くん、顔赤いけどどうしたの?」

「……いや、服がな。とりあえず、これ着ておけ」

「え……あっ。ありがと……」

 

 

 上着を脱いで、絞ってから渡してやると、エレナはさっきより赤くなって上着を羽織る。雨でもコンビニ内には客がいるし、もし見られたら大変だ。

 

 

「濡れてるけど我慢してくれよ」

「ううん、ありがとう。……霞黒くんの匂いがする」

「嗅ぐなら返せ」

「あぁん、冗談よぉ~」

「どうだか………」

「もう……。……あ、霞黒くん見て、晴れてきたわ」

 

 

 エレナが指差した方を見ると、確かに雨は止んでて、雲の隙間から晴れ間が見える。これなら走ることもなく帰れるな。

 

 

「それじゃあ霞黒くん、また明日ね」

「ああ。あ、それは明日でいいからな」

「洗濯して返すわね」

「そうしてくれ」

 

 

 早く着替えたいからだろうか、走って帰るエレナを見送ってから、俺も帰ることに。シャワー浴びないと風邪引きそうだ。

 

 

 

 

 

『うぅー………霞黒く~ん…………』

「放課後見舞いに行ってやるから、そんな声出すな」

 

 

 不運なことに、エレナは風邪を引いたようだ。その所為か電話越しの声はとても弱弱しい。

 

 

『うぅー………』

「何か欲しいのあるか?」

『霞黒くんが欲しい……』

「プリンだな、解った」

 

 

 軽口言えるくらいは元気か。まあ、最近はこれといって甘やかしたりしてないし、抱き締めるくらいならしてやるか。風邪もらいそうだけどまあいい。明日は休みだし。そんなことを考えながら、学校に向かう。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。最近眠いです。

 (仮)の方でウェディングエレナが出たから300近いキュピチケの全てを突っ込んでも手に入りませんでした。鈴ちゃんは出たけど、エレナの方が欲しいんだよ!まだ期間内なんで諦めませんが。
 そろそろ梅雨の時期ですね。というわけで雨の日の話にしてみました。小ネタでやっても良かったですかねー。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅵ話目

「うーぁー………」

 

 

 喉も頭も痛いし、寒気もするし完全に風邪だなこれは。エレナのが感染(うつ)ったか……?とりあえず風邪で休むって伝えておこう。

 さて、今日も今日とて親はどっちもいないから家には俺1人。……………べ、別に寂しくなんかないし。一応市販の薬はあるし、それ飲んでおけば何とかなる、はず。……あ、飯どうしようか。母さんが何か用意してくれてるといいんだけど、なかった場合は………作るのも面倒だし我慢するしかないか。

 

 

「とりあえず、薬飲んで寝るか……」

 

 

 この前スポーツドリンク買ってたし、寝て起きたら幾分かましになるだろ。それにしても、頭痛い……ごほっ。……あー、そういえば今日は何切る麻雀の発売日だっけ、母さん買ってきてくれないかな。って言っても母さん今日は帰ってこない日だからダメか……………あー……もうダメ、頭と喉痛すぎて意識飛ぶ……………。

 

 

 

 

 

「……うっ」

 

 

 首の痛みで目が覚めたら、いつの間にかベッドからずり落ちてたようだ。寝返り打った際に落ちたのかな?って、そういえば薬飲んでなかったな。今からでも飲むか、ん?

 

 

「……誰だ?」

 

 

 家には俺しかいないはずなのに、下から声が聞こえる。薬ついでに様子見るか。泥棒とかだったら困るけど。

 俺は音を立てないようにゆっくり下に降りて、声のするキッチンに向かう。するとそこには、

 

 

「霞黒くんが風邪で休むなんて、珍しいわよねー」

「黒兄は昔から風邪で休むことはなかったからな」

「その代わりサボったりはしてたけど~」

 

 

 エレナと鈴ちゃん、春ちゃんの3人がいた。キッチンにいるってことは何か作ってるんだろうけど、何なのかはさすがに解らない。鼻詰まってるし。とりあえず薬薬。すると3人ともこちらに気付いて、声をかけてくる。

 

 

「あら?霞黒くん、起きてたのぉ?」

「おお、黒兄。今うどんを作ってるところなんだ」

「もう少しで出来ますよ~」

「そうなんだ、ありが……ふぇっくしゅ!」

「ほらほら、霞黒くんは暖かくして待ってて」

「……そうする、くしゅっ」

 

 

 感染したら悪いから、薬を飲んで部屋に戻る。それから数分もしない内に3人とも部屋に入ってきたけど。

 

 

「おまたせ~」

「ん、ありがと……」

 

 

 春ちゃんが持ってきてくれたうどんをすする。熱い。風邪引いてると味なんて解らないからただただ熱い。

 

 

「さっき下でも話してたが、黒兄が風邪なんて珍しいな」

「霞黒くんサボりが多かったから風邪なのか怪しまれてたわよ?」

「4月にも引いてたし、1年の頃にも何度か引いてたからね?……それは反省してる」

 

 

 ううむ、やっぱり去年までのサボり回数で疑われたか。自業自得だけど。でも去年からサボらなくなってたし、今年は4月と今日以外一度も……中等部での話?あーあー、聞こえない。

 

 

「それより、俺が寝てる間変なこととかしてないよな?」

「おねーさんが家探し?してたよ~」

「ほう……エレナ?」

「し、してない!してないわよ!?着替えを出してただけよぉ!」

 

 

 非難染みた目を向けると、エレナは慌てて否定する。まあ、部屋を漁られたところで見られて困るものなんて何一つないんだけどさ。

 うどんを食べ終えた後はプリンを食べ、他愛ない話をしながら俺はベッドで横になる。ところで、プリンは食べ物と飲み物のどっちになるんだろうか。口の中ですぐバラバラになるから噛む必要もなく飲み込めるから、俺の中では飲み物だけど。

 

 

「じゃ、感染したら悪いからそろそろみんな帰ろうか」

「「「えー」」」

「えー、じゃない。特にエレナ、お前また風邪引いても知らないぞ?」

「うー……そうだけどぉ………」

 

 

 俺の提言に引き下がろうとしない3人。困ったものだけど、なんか嬉しい。でもこのままだと埒が明かないから、仕方なく俺が寝るまでの間は部屋にいていいことにした。

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」

 

 

 あれから少しして霞黒くんも寝ちゃったから、起こさないように静かに部屋を出た私達はそのまま居間で少しお喋りをして、時間も時間だから私はそろそろ帰ることにした。

 

 

「そうか。私と春瑚は泊まっていくことにする」

「おねーさん、またね~」

「えぇ。2人も、風邪引いちゃだめよぉ?」

 

 

 玄関まで見送ってくれる2人に手を振って、霞黒くん家を後にする。本当は私も泊まりたかったけどあの子たちみたいに家が近いってわけじゃないから泣く泣く断念。今度泊まらせてもらおっと。

 家に着いた頃にはだいぶ暗くなってて、連絡を入れ忘れてた所為でお母さんに心配かけて少し怒られちゃった。その後はご飯を食べてお風呂に入って、霞黒くんから電話が来たから話し込んでいつの間にか寝ちゃって気が付いたら朝だった。電話越しの霞黒くんは少し元気そうだったから、今日は学校来るかしら?そう思って準備してたら、念の為もう1日だけ休むって言われちゃった。ちょっとがっかり。

 仕方ないから今日は1人で学校に行き、帰りにまた霞黒くん家に寄ることにしましょうか。その時は………でゅふふ。おっと、変な笑い出ちゃった。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。復活しました。
 俺達/私達の関係でも言いましたが、最近就活で更新出来てませんでした。色々疲れてますが、完結するまで満足できませんので、時間は掛かっても完結させますのでお付き合いください。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅶ話目

「わー、いい景色ねぇー」

 

 

 部屋に荷物を置いたエレナは窓の外を見てそう言う。俺達は今、三連休を利用して温泉宿に来ている。どうしてかというと、それは先週の土曜日のことだった。

 

 

 

――――――

 

 

「はあ、わざわざ商店街の方にまで買い物に行かされるとは……」

 

 

 バイトは休みで、特にすることもなく家でゴロゴロしていたら母さんから買い出し命令だ。それ自体は問題ないんだけど、どうしてかいつものスーパーではなく、商店街の方だった。こっちは家からの距離が遠いからあまり利用することがなかった。たまに散歩で来るくらいだ。

 

 

「ま、この距離と量的に、母さんじゃきついか。……っと?」

 

 

 なんだろ、あの人だかり。来た時はなかったような。とりあえず近付いてみると、

 

 

「残念、ハズレだねぇ」

「Oh,Shit!」

 

 

 そこにあったのは、どうやら福引のようだ。そういえば、買い物した時福引券2枚もらったっけ。2等は、米10㎏か。今の状況じゃ当てたくないな。で、1等は、温泉旅行か。まあ、当たらないだろうし、やってみよう。で、回してみた結果、

 

 

「大ー当たりー!温泉宿ペア宿泊券です!!」

 

 

 赤玉が出てまさかの1等ゲット。4等のプリン2週間分が欲しかった。とりあえずもらいはして、母さんにでも渡そうかな。

 

 

――――――

 

 

 

 父さんと行けばいいのに結局母さんは受け取らず、父さんもエレナと行けと口をそろえて言ってきた。その時父さんがそろそろ一線越えろとか言ってきたから、とりあえず顔面を殴っておいた。これだからおっさんは……。

 俺も荷物を置くと、備え付けの急須にお湯を注いで2人分のお茶を淹れ、一緒にある茶菓子を食べる。エレナにもお茶を渡してやると、まだ熱く湯気の出てるそれをおそるおそる飲む。火傷するなよー。

 そうして少しの間部屋で休んだ後、旅館周辺をぶらぶらする。この辺は温泉街らしく、道行く人は浴衣姿なのが多い。中には外国人もちらほらいて、声をかけられるも答えれずあたふたしてる人も見かける。俺もああなりそう……。

 色々見て回ってると、足湯やら温泉卵専門店、饅頭屋なんかをよく見かける。鈴ちゃんとこと春ちゃんとこにはこの辺で買おうかな。家は適当なのでいいや。

 

 

「何かいいのあった?」

「鈴ちゃん達に買うものはな」

「そっかぁ。あ、私も文緒ちゃんに買ってあげなきゃ」

「俺はどうすっかなぁ……」

 

 

 正直、家族以外はほんと鈴ちゃんとこと春ちゃんとこしか思い浮かばない。あいつらなら別に買わなくてもいいだろうし。

 だいぶ散歩した後、部屋に戻った頃にはいい時間だった。

 

 

「もうすぐご飯ねぇ」

「そうだなぁ」

「失礼します。お食事をお持ちし―――って、火野くん達か」

「あー?ああ、朝田か」

「あらぁ、朝田くんじゃない」

 

 

 料理を運んできてくれた仲居さんは、クラスメイトの朝田だった。何してるんだこいつ、バイトか?気になって聞いてみると

 

 

「ここ、伯父さんが経営してるから。たまに手伝ってるんだ」

「なるほどね」

「そういう2人は?デートするにはちょっと高いよここ」

「霞黒くんが宿泊券を当ててくれたのよぉ」

「まあ、そういうわけだ」

「くじ運強いなぁ君は」

 

 

 話もそこそこに切り上げ、朝田は料理を運び終えると次の仕事に向かった。少し忙しそうだったから、そんなに話し込まない方がよかったかな。

 それはさておき、天ぷらに小さな鍋、刺身に温泉卵など、運ばれてきたものはそこそこ豪華だった。しかし結構量が多いな、食べきれるだろうか。

 

 

「休憩をはさみながらなら、大丈夫じゃない?それじゃあ、いただきまーす」

「それもそうだな、いただきます」

 

 

 鍋の蓋を取ってみると、中身はすき焼き風だった。嫌いじゃない、むしろ好きなんだけど、鍋は2人で1つで良かったと思う。エレナにそう言うと、苦笑気味に頷いた。まあ、そんなこと言っても仕方ないし、食べるか。

 

 

 

 

 

「ふぃ~、いい湯だった……」

 

 

 食事の後は軽く卓球をしてから(なんであそこまで卓球を推したんだろ)温泉を満喫した。効能とかは気にしたことないけど、色んな湯に浸かるのも悪くない。入ってる間は何も考えたくなかったけどエレナが何か粗相してないかだけ心配だった。多分大丈夫だろうけど。それと、俺が入ってた20時ごろは露天風呂の方は混浴になるらしく、その事を知らずに入ってみたら、盛ってるカップルがいたからすぐに出ることになった。部屋でやれよ畜生どもめ。

 

 

「あ~、いいお湯だったわぁ。あ、霞黒く~ん」

「おう、今上がったのか」

「えぇ」

 

 

 エレナにコーヒー牛乳を渡して、部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。まあ、時間も時間だしな。

 

 

「あ、そうだった。ねぇ霞黒くん、ちょっと見てほしいものが」

「?別にいいけど」

「良かった、じゃあ」

 

 

 そう言ってエレナは荷物を漁り、

 

 

「お父さんから渡された、これなんだけど」

「んー?………っ!」

 

 

 取り出したのは、0.03と書かれた箱。なんつーもんを娘に渡してんだ親父さん。

 

 

「で、開けて確認してみたんだけど、これって、あれよね?」

「……………おう」

「ねぇ、霞黒くん」

「………な、なんだ?」

 

 

 エレナが寄ってきたかと思うと、布団の上に押し倒される。そして馬乗りになり、

 

 

「………しよっか?」

 

 

 そう、言ってきた。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 今回は(♪)のイベが温泉だったので便乗してやりました。ネタの為ならなんだってやる勢いですよ自分は。ちなみに(♪)のミラクル勧誘11連を3回回して限定SRエレナ2枚確保したので、あとはラブクリスタルで最終まで運ぼうかと。
 次回もまだ温泉回ですが、今回のラストからして、ついに一線越えるんでしょうねこれ。付き合って1年と数ヶ月でこれは早いのでしょうか?そういった経験ゼロなので解んにゃい。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅷ話目

「………しよっか?」

 

 

 馬乗りになって、あれの箱片手ににじり寄るエレナ。浴衣は肌蹴てるし、湯上がりで頬も上気してるから、その……エロい。

 

 

「って、お前、何言ってるか解って」

「解ってるわよ。霞黒くんに、エッチのお誘い」

「ひぅっ!?」

 

 

 そう言ってエレナは俺の首筋を舐める。それにぞわっとして、思わず変な声が出る。というかこいつなんでこんな、発情してるというか……無駄に積極的になってるんだ………?

 

 

「霞黒くんは、したくない?」

「いや、したくないわけじゃないけど……なんで」

「だって、温泉であんなことしてるの、見ちゃったし……」

 

 

 お前も見てたのかよ!しかも影響受けたのかよ!?

 

 

「ね、霞黒くん……んっ、ちゅぱ」

「ん……む、ちゅ…」

 

 

 俺をその気にさせる為なのか、胸を押し付けてきて、深い方のキスをしてくる。このままだと流されるからと、なんとか押し返す。

 

 

「ぷは……ちょ、ちょっと落ち着け……!」

「我慢しなくていいのに……」

「あ………う……でも………」

 

 

 さっきから頭の中で耐えるべきだと言う声と我慢するなと言う声がせめぎ合ってるけど、エレナはさらに誘惑してくるし、その所為で理性がごりごり削れる。

 

 

「私は、霞黒くんとしたいわ……」

 

 

 その一言で、俺の中の何かが切れる音がした。もう止まる気はないからな。

 俺はエレナを押し倒し、深く口づけながらその豊かな胸を揉みしだいたりする。そして、

 

 

「エレナ、いくぞ」

「うん、きて……」

 

 

 この日、俺達は体を重ねた。

 

 

 

 

 

「ん…朝か………」

 

 

 今まで我慢してた分、それを発散するためだったのか俺達は休むことなく行為をしていた。昨日の露天風呂にいたカップルより盛ってるんじゃないだろうか。

 体を起こして隣を見ると、裸姿のエレナが気持ち良さそうに寝てた。最後の方は激しくしちゃったし、まだ寝かせておいてやるか。俺は部屋風呂にでも入って汗とか流そっと。

 

 

「ふぃ~……」

 

 

 あー、まさかこんな旅行中にやることになるとは思わなかった。というか、本当にしたんだよな。…………。いかんいかん、今はその事を思い出さない方がいい。

 

 

「はぁ~………疲れが取れる……」

「ほんとねぇ」

「うひゃぁ!?」

 

 

 ゆっくり浸かってると、急にエレナが入ってきて首筋を撫でるもんだから、思わず飛び上がる。慌てて振り返ると、タオルで前を隠したりすることなく、全裸のままで入ってきてた。

 

 

「も~。1人でお風呂なんてずるいわよぉ?」

「おま、せめて隠せよ!」

「昨日あんなことしたのに、そんな恥ずかしがる?」

「そういう問題じゃない!」

「それにぃ、その割には霞黒くん見てるじゃない」

「うぐ……っ」

 

 

 仕方ない、俺も男なんだ、見逃してほしい。

 

 

「ふふ、真っ赤になっちゃって」

「うっさい……」

「どうする?ここでもしちゃ痛いっ!?」

 

 

 馬鹿なことを言うから拳骨を落とす。盛りのついた猿かまったく。エレナは仕方ないと言いたそうな表情で湯に浸かり隣に寄ってくる。まったく、可愛いやつめ。そう思いながら抱き寄せると、嬉しそうにもたれかかってくる。……やばい。エレナの体柔らかくて、いい匂いもするし、こっちが我慢できなくなる。その事を知ってか知らずか、エレナはさらに抱き着いてくる。俺はなんとかそれに我慢しながら疲れを癒す。でも精神的には疲れてきてる気がするのは気の所為かな。

 

 

 

 

 

「ん~、いいお湯だったわぁ」

「そうだな」

 

 

 なんとか耐えきれた、危なかった。

 

 

「さて、どうするかな」

「お土産でも買いに行く?」

「あー、それもそうだな」

 

 

 そういえばまだ買ってなかった。そうと決まれば行くか。

 

 

「あ、霞黒くん。これなんてどうかしら?」

「『ゆぶね』って、それ栢嶋にか?」

「うん。乙女ちゃんに似合うかなって」

「あいつなら持ってそうだし、一応聞いてみたらどうだ?」

「あー、それもそうね」

 

 

 土産物屋で色々探してると、目移りするようなものがそこそこ多い。お、温泉に浸かるカピバラのキーホルダーか。可愛いなこれ。2人に買っていこうかな。というかカピバラのぬいぐるみとかクッションとか、カピバラ多くないか?ここカピバラいたりするのかな。たまたま近くを通りかかった朝田に聞いてみたら、

 

 

「え?うん。離れの方で戯れれるよ」

「本当か!?エレナ、後で行こう!」

「あ、うん。いいわよ」

 

 

 カピバラもふれるっていいなこの旅館。お、なんだこれ?……カピバラの着ぐるみパジャマ?よし、これも買おう。あの2人なら絶対似合う。後は、この饅頭とかかな。

 お土産を買った後は部屋に置いてから、離れへ。そこには小さな湯舟と数匹のカピバラが。30分だけとはいえ触ったり餌をあげることが出来た。モフモフしてると思ったら意外と毛が固かった。可愛かったけど、カピバラの相手ばっかりで拗ねてすり寄ってきたエレナはもっと可愛かった。他にもお客さんがいたから頭を撫でるくらいにしたけど、それで満足したようだ。

 それからは足湯に浸かったり温泉卵を食べたりと周辺をぶらり歩き。そして帰る途中、歩き疲れたのかエレナはバスの中でぐっすりと寝ていた。揺すってもなかなか起きないくらいに。その所為でバスから降り損ねるところだった。

 

 

「んー、今日は楽しかったわぁ」

「そりゃ良かった」

 

 

 バスを降りてから、エレナは昨日今日の出来事を楽しそうに話す。両手が荷物で塞がってるから抱き着いてはこないようだ。今はその方がありがたいけど。

 時間の割に辺りは暗かったからエレナを家の前まで送り、俺も家に帰る。あー、明日からまた学校か。久しぶりにサボりたい。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 行為に関してですが、描写なんてありません。これはR-18ではないのです。一応R-15なのです。
 温泉いいですよね、ここ数年行ってませんけど。あと誰かカピバラの着ぐるみパジャマ着た鈴ちゃんと春ちゃんの絵描いてください。自分には絵心なんてありませんゆえ。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅸ話目

「ついに、ついにこの日が来たわよ霞黒くん!」

「そーだな」

 

 

 興奮するエレナとは対照的に、若干冷め気味の俺。エレナのいうこの日とは、櫻花祭のことだ。一昨年は風紀委員に捕まりかけたりNo.1カップル決定戦に参加させられたりと、苦い思い出がある。去年やってたのはお化け屋敷だったしエレナとは付き合ってたからか、一昨年ほど苦い思い出はない。ただ、そのお化け屋敷が本格的すぎたため鈴ちゃんがガチ泣きしたのはすごく焦った。あの後3日は口利いてくれなかったし。

 今は部室で、部員総出でカメラの点検をしている。数人とはいえ部員となってくれる後輩が入ってくれたお陰で、部は何とか存続出来そうだから、さらに増やすためここが頑張り所だ。

 

 

「もう、霞黒くんノリが悪いわよ?」

「今こっち優先したいんだけど……。お前のは?」

「ばっちりよ~。昨日しっかり用意したしね」

 

 

 そう言って抱き着いてくるエレナ。ええい、いちいちくっつくな部員共が見てるだろ。

 

 

「ヘーイ部長、いちゃつくのはイイけどサー、時間と場所を弁えなヨー」

「うるさい似非外国人」

「れっきとしたハーフで帰国子女ネ!」

「どーどー。部長、点検終りましたよ」

「おう」

 

 

 後輩達も点検終了みたいだから、ひとまず解散させて俺達も教室へ戻る。今年のクラスの出し物は、獣耳喫茶とかいう謎のものだった。俺達はもちろん、客側も全員何かしらの獣耳着用を強要され、希望者はコスプレも出来る。なんで客にも強要するんだろうか。

 

 

「霞黒くんは犬耳だっけ?」

「だっけって、お前が決めたんじゃんか」

「あはは、そうだったわね」

 

 

 正直何耳でも良かったんだけど、エレナたっての希望で犬耳になった。俺はそんなに犬っぽいんだろうか。黒狗?狂犬?あーあー聞こえなーい。

 

 

「私はコスプレもするから、楽しみにしててね」

「ああ、コスプレするんだ」

「せっかくだしね。ただいまー」

 

 

 教室に戻ると、いつもと違い喫茶店の様相を呈していた。雀卓はない、当然だけど。そして見渡す限りの獣耳。犬、猫、ウサギはもちろん、たぬきにクマ、果てにはカピバラまでいる。

 

 

「ああ、戻ってきたね。はいこれ、火野君の」

「おう。……ん?」

 

 

 多分、アリスに出てくる白ウサギであろう格好をしたクラスメイト(女子)が渡してきた耳のカチューシャを見て、ちょっと違和感。というかこれは、

 

 

「なあ、これ犬じゃなくて狼じゃ」

「あり?火野君て犬耳希望だった?」

「霞黒くんは犬って言ったわよぉ?」

「あちゃー、どっかでミスったね」

「でも、狼もアリかも……」

「いいのかよ、俺は何でもいいけど」

「んじゃエレナちゃんは着替えて着替えて」

「はいはーい。霞黒くん、覗いちゃ駄目よ?」

「覗かねーよ」

 

 

 備え付けの簡易更衣室に入るエレナに手を振る。まったく、人を何だと思ってるのか。ただ、入る前に一瞬だけ見えたけど、持ってた衣装巫女服っぽかったな。

 それからすぐに、櫻花祭が始まった。けど、一般客はまだ校内に入ったばかりだろうから、まだ暇だ。動いてるのはチラシを配りに行ったルメールくらいなものだろう。ついでに他の学年が何してるかも探ってくれるとありがたい。ちなみにエレナは巫女服に狐耳だった。

 

 

「部室行ってきていいか?」

「休憩時間まで待ちなさいな」

「お客さん来たよー」

 

 

 部室に行こうとしたら止められ、すぐに客が来たから仕方なく動く。と思ったら、マイリトルエンジェルズの鈴ちゃんと春ちゃんだった。鈴ちゃんは黒の猫耳を、春ちゃんは茶色の犬耳を付けてた。

 

 

「春わんですよ~、ワンワン」

「す、鈴にゃんだ……にゃん」

「ぐはっ」

「火野君が倒れた!?」

 

 

 俺の妹可愛すぎかよ、鼻血出たわ。人間て異常な可愛さに当てられると鼻血出すんだな、今日初めて知ったよ。周りに心配されたけど幸い鼻血はすぐ止まったから血の跡を拭いて、2人を席に案内する。その際見えたエレナがむすっとしてたのは、気のせいじゃないだろう。

 

 

「大丈夫か黒兄?」

「平気平気。それより、ご注文は?」

「ああ、私はこのチョコケーキで」

「わたしも同じので〜」

「ん、解った」

 

 

ついでに、紅茶も淹れてあげよう。

 

 

「チョコケーキと紅茶2つなー」

「はいよー」

「すみませーん、注文いいですかー?」

「は〜い、すぐ行きま〜す」

 

 

 客はどんどん増え、徐々に席も埋まっていく。そしてエレナがいつも通り女性客に絡んでいた。表現が悪い?実際に絡んでるようにしか見えないんだから仕方ない。とりあえず、盛況といえば盛況なんだろう。それからというもの、迷惑な客も来ることなく休憩時間になるまで面倒事は特に起きなかった。エレナが若干迷惑かけてた気がしないでもないけど。あいつはずっとああなんだろうな、きっと。

 休憩中は他のとこを見回って写真を撮ったり、部室に行って様子を見たりした。ただ、やっぱりエレナが一般の人や後輩達相手に暴走しかけてた、というかしてたから止めるのに苦労した。

 そして、その休憩中に日比野先輩と高町先輩に会った。

 

 

「やっほークロチャー、モッチー」

「久しぶり~」

「あらぁ、ヒーノ先輩とスズちゃん先輩じゃない」

「お久しぶりです。高町先輩は、イメチェンでもしたんですか?」

 

 

 眼鏡を外して、長い三つ編みだった髪もバッサリ切ってショートになってる。

 

 

「うん、思い切ってね。どうかな?」

「すっごく可愛くなってるわよ~」

「だろー?彼氏が出来たんだってさ」

「へぇ………えぇ!?」

 

 

 あれだけ俺やすれ違う男子に怯えてたあの高町先輩に彼氏とは。

 

 

「びっくりだよなー。あーあたしも彼氏欲しいぜ」

「ヒーノ先輩もそんなこと思うのねぇ」

「お?喧嘩売ってるかモッチー?」

「まあまあ。ヒーノちゃんにはお見合いとかあるじゃない」

「やだよあんな堅っ苦しいの」

「お見合い?」

 

 

 日比野先輩にはしっくりこない単語だけど、どういうことだろう。

 

 

「あぁ、綾小路程じゃないけどあたしん家ってわりと良家なんだよ」

「そうなんですか……意外ですね」

「よく言われる」

 

 

 からからと笑う先輩。本当に良家のお嬢様なんだろうか。

 先輩達は他にも見て回りたいものがあるからとそこで別れ、俺達も教室に戻る。

 

 

 

 

 

 

『櫻花祭、終了の時間となりました。皆さん後片付けをしましょう。繰り返します――』

 

 

「ふぃー、お疲れ様ー!」

「終ったねー、櫻花祭」

 

 

 櫻花祭終了の放送が入る中、クラスではそれぞれ感傷に浸っている。まあ、これが3年生にとって最後の櫻花祭になるからな。行事自体はまだまだあるけど、一大イベントみたいなこの櫻花祭が終るのは、少し寂しいんだろう。

 

 

「はいはい、しんみりしないで。後夜祭あるでしょ?」

「あー、あったなそういえば」

「今年は誰がどんなことするかしらね」

 

 

 片付けも終り、俺達は後夜祭の話に少しばかり盛り上がる。片付けだけでなく、後夜祭も終れば今度こそ櫻花祭は終了。長いようで、短い1日だったかな。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 皆さんは学園祭に思い出ってありますか?自分にはまったくありません。高校では出し物なんてなく、大学では1回生の時以外バイトで行けなかったのです。
 今回はいちゃいちゃ要素がまったくだったので次回は甘くしたいと思います。ネタが思い浮かべばですけど。


 あ、CA体験エレナ3枚手に入りました。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅹ話目

 木曜日。今日は毎週恒例の弁当交換の日だ。俺とエレナはいつも通り用意した弁当を互いに交換して、それを食べる。いつもは屋上か中庭に移動するんだが、今日は俺達にしては珍しく、他の奴らと一緒に教室で食べている。

 

 

「うん、今日も美味い」

「そう?良かったぁ。霞黒くんのも美味しいわよ」

「いいなぁ、弁当交換出来る相手がいるって」

「朝田、お前それ以前に料理しないだろ」

「さ、最近するようになったから………」

「私も京と弁当交換しよっかな」

「二度手間だろそれ」

 

 

 そんな他愛ない話をしながら、弁当をつつく。するとルメールが手を叩き、

 

 

「そういえば皆サン、最近ある噂知ってマスか?」

「噂って、どんなの?」

「それがデスネ、放課後空き教室やとある部室デ女性の切羽詰まったような声らしきモノが聞こえるらしいんデスヨ」

「そ、それは奇妙ですね……」

「は、はははそんなの何かの聞き間違いか空耳じゃないの?」

「ん?朝田って心霊系苦手なの?」

「「………」」

 

 

 瞬間、俺とエレナの箸が止まる。もしかして、アレのことじゃないだろうな。ちらっとエレナを見ると、同じことを思ったのか顔を赤らめてぷるぷると震えている。だけど、まだアレのこととは断定できないしもしかしたら別のことかもしれないし。

 

 

「そして少しシテから入ってみてモ、人の姿はなかったようデスヨー」

「ま、ままままさかそんな……」

「ちなみに、何か匂いとかは?」

「確か、イカ臭いト聞きましたヨ。それが何か?」

「いや、ちょっとね」

 

 

 栢嶋がこちらに意味ありげな視線を送る。こいつ、気付いてやがる。

 そうだよ、その空き教室も部室も俺達の仕業だよ。何やってるんだってナニだよくそが。あの日にヤって以来エレナが病みつきになったのか、2週に一回休日の夜にはヤってて、たまにはいつもと違う場所でヤってみたいっていうエレナの提案に乗って放課後の空き教室や部員を帰した後の部室でヤったんだよ。誰かに見つかるかもしれないとかで逆に燃え上がって興奮してましたすみませんでした!と心の中で謝っておく。しかしそんな変な噂出てるのか。今日からは自重するしかない。

 

 

「火野くん、頭抱えてどうかした?」

「いや……何でも………」

「あ、あはは……でも、噂なんだしあまり気にしないでいいんじゃない?」

「そうだね。犯人は解ったし」

「オー、乙女サン名探偵みたいデスネー」

 

 

 止めろ栢嶋こっちを見るな。

 俺はなるべく栢嶋と目を合わせないようにして弁当を食べ進める。

 

 

 

 

 

 そしてその放課後。部活も終り後輩達を帰らせてから戸締りをしていると、

 

 

「霞黒く~ん♪」

 

 

 どこか甘えてくるようにエレナがすり寄ってくる。しかも体に手を回してくるのだが、その手つきがどこかやらしい。あんな噂流れてるし、栢嶋にも気付かれたんだから自重したいところなんだけどな。発情期を迎えた雌犬かこいつは。

 

 

「戸締りするから一旦離れようか」

「えー、もうちょっとだけぇ……」

「帰ったら存分に甘えていいから」

「ほんと?やったぁ」

 

 

 嬉しそうにしてさらに密着してくるのは構わない。構わないんだけど思い切り胸を押し付けてくるのは勘弁してほしい。元々スキンシップ激しかった奴だけど、最近拍車掛かってる気がする。

 部室の鍵を返して昇降口で靴に履き替える頃には、外は暗くなっていた。そこまで長居してはいなかったはずだけど、冬も近いからだろうか。

 

 

「今日はちょっと寒いわね〜」

「そこまで寒くない、ただくっつきたいだけだろ」

「あら、ばれちゃった?」

「そりゃあな」

 

 

 校門を出るとすぐにくっついてくるエレナに若干呆れるが、剥がすようなことはしない。だってこいつ可愛いし。ただ歩き辛いのはあれだけど。あとこいつの柔らかい胸とかが当たってちょっと、いや、かなりまずい。しかも解ってやってきてるから質が悪い。

 

 

「んー?どうしたの霞黒くん?」

「……明日覚えてろよてめぇ」

「きゃー、霞黒くんのエッチー」

「んだとこのやろっ」

「往来の真ん中でいちゃついてんじゃねーデスヨ」

 

 

 ニヤニヤしながらこっちを見るエレナの頭をわしゃわしゃとしてると背中をどんと誰かに押され、振り向くとうちの部の後輩の1人、暮橋(くれはし)がいた。なんだこいつ、帰ってなかったのか。

 

 

「あらぁ?ユーちゃんじゃない」

「まったく部長達ハ。時間と場所くらい弁えて下サーイ」

「俺は弁えてるんだけどなぁ」

 

 

 そう呟くと、何言ってるんだこいつとでも言いたそうな目で見られた。ので、頭をわしゃわしゃとしてやった。

 

 

「ニャーッ、髪が乱れマース!」

「変な目で見た罰だ」

「ノー!?!」

「はいはい、霞黒くんそこまで」

 

 

 数秒くらい続けてるとエレナに止められたから終了。暮橋は目を回したからか頭をぶんぶんと振る。そうしたら余計に髪は乱れるような気が……と思ってたら案の定ボサボサになった。何がしたいんだこいつは。

 これ以上は相手すると面倒なことになりそうだから暮橋は放っておいてさっさと帰る。多分明日の部活中何かしら文句なり言ってくるだろうけど無視しよう。

 

 

「もう、霞黒くん。あんまり女の子の髪を気軽に触っちゃ駄目よぉ?」

「解った解った。お前も含め今度からはしないようにするよ」

「わ、私にはいいのよ?というかやめないでお願い」

 

 

 髪は女の命って何かで聞いたことあるから、やめようと思ったが止められた。まあ、エレナの髪さらさらで触ってて気持ちいいからやめる気ないんだけど。

 

 

「解ってるよ。俺だってお前の頭撫でれないのは嫌だし」

「霞黒くんのなでなで気持ちいいから好きよ~」

「そりゃどーも」

 

 

 猫みたいにすり寄るエレナの頭を撫でながら家まで送り、別れる。明日は金曜日で、えーと……あの日か。ほんと、あれ以来結構爛れてるよなぁ。これからは学校では控えるとして、この2週に一回の方は……とりあえずはこのままでいっか。ただいまーっと。




 学校で何やってんだこいつら…………。あっ、\(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 前回の更新から年またいで1ヶ月も間が空きましてすみませぬ。前回の後書きで次回は甘くしたいとか言っておいて甘くないです。微糖ですこれ。重ね重ねすみませぬ。次回こそは、甘くできたらいいなぁ(他人事)。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!




 人物紹介に〈暮橋ユーキ〉が追加されます。


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Ⅺ話目

 俺は今、悩んでいる。

 11月某日の放課後。今日は部員達を早く帰して、誰もいない部室で1人ソファに深くもたれ掛かって溜め息を吐く。目の前のテーブルの上には進路希望の紙。一応進学にしようとは考えてるんだけど、それをどこにするか。聖櫻(うち)の系属の大学へ行くか、それとも間宮先輩や月見原先輩みたいに他県に出るか。

 

 

 

 

 

『なるほど、進路で悩んでいるのか』

 

 

 あのまま部室で唸ってても仕方ないから、家に帰って間宮先輩に相談。

 

 

「進学にしようとは、ぼんやりと考えてるんですがね」

『それの内部と外部で迷ってるんだね。私は外部一択だったからね』

「そういえば、先輩はどうして外部を?」

『教師になりたいというのもあったし、1人暮らしに憧れてて』

 

 

 あー、なるほど。確かに1人暮らしなら外部の大学選ぶよな。ただ、1人暮らしだと洗濯も料理も自分でやらなきゃだし、俺の記憶通りなら先輩は高校時代、昼食は購買やら学食やらカップ麺の類やらだった気がする。料理は大丈夫だったのかそれとなく聞いてみると、

 

 

『……ミスト君、世の中には知らなくていいこともあるんだよ』

 

 

 震え声でそう返された。しかもネト麻のハンネで呼ばれた。何があったんだろう。多分炭化したとかそんなのだろうけど、聞かない方がいいのかもしれない。先輩料理とか上手そうなのに。

 

 

『火野君は何を目指してるとかないのかい?』

「目指してるもの、ですか」

『うん。私なら教師だし、セイは親の跡を継ぐって言ってたしね』

 

 

 ふむ、将来のことも含めて考えるのも手か。でもそうするとますます悩むな。

 

 

『霞なんかは……あ、そうそう。霞で思い出したが、あいつ彼氏できたらしいぞ。知ってたかい?』

「月見原先輩にですか?いえ、初耳です」

『菘にもいるし、セイは婚約者いたっていうしね』

「え、日比野先輩にですか」

『らしいよ。……あれ?そうなるとあの写真部で独り身って私だけ?』

「です、ね。俺はエレナと付き合ってますし」

『私だけぼっちなのか………?また1人でクリスマス過ごさなきゃいけないのか?』

「お、落ち着いてください先輩」

 

 

 電話の向こうでやたら不気味に呟いてる先輩怖すぎる。ていうかまたって、去年も1人だったのかクリスマス。

 

 

「い、いつかは先輩にも彼氏できますよ。ほら、先輩美人ですし」

『慰めの言葉とかかけるくらいなら誰か紹介してくれ!』

「こっちで紹介しても遠距離恋愛になりますよ……」

『うぅ、くそうリア充め……爆発しろ』

「先輩の口からそんなセリフ出てくるとは思いませんでしたよ」

 

 

 そのまま先輩はぶつぶつ呟いてるだけになったので、電話を切る。なんか先輩の印象変わったなぁ。しかし、目指してるもの、か。…………そういえば、小学だか中学だかの卒業文集らしきもので何か将来の夢とか書いてた気がする。あれどこにしまったっけ。部屋のあちこちを探してるとゆっくりドアが開いて母さんが入ってくる。

 

 

「やあ、少年。何かお困りのようだね?」

「……何やってんの、母さん」

「ご飯だよ~。で、何探してるの?エロ本?」

「そんな買った覚えのないもの探してない。卒業文集だよ」

「あー、あれね。でもなんで?」

「あれに将来の夢何書いたっけって思って」

「確か何も書いてなかったよ」

 

 

 えー?まじかよ。どうしようか。

 

 

「とりあえず、先にご飯食べなよ」

「ん、そうする」

 

 

 仕方ない、文集の将来の夢は諦めて進路は明日にでも捻り出そう。

 

 

 

 

 

 でもって翌日。

 

 

「進路調査票出してないの、後は火野君だけよ」

「すみません……」

 

 

 昼休みに佐藤先生に呼び出されて職員室へ。内容は予想通りというか、進路調査のことだった。いい加減出さなきゃいけないんだけど、未だどちらにするか悩んでる。

 

 

「進学なのは、決めてるんだっけ?」

「まあ、はい」

「そう。まあ、火野君の成績じゃ内部の方が厳しいかもね」

「そうなんですか?」

「成績というか、授業態度ね。一昨年はどれだけばっくれてたかしら?」

「それに関してはまじすみませんでした」

 

 

 その事を出されたら謝るしかない。そうだった。あの頃の授業態度考えたら難しいか。外部も危うい気がするけど。一昨年はまだ若干荒れてる時期だったからなぁ。

 

 

「ま、今日の放課後まで待ってあげるからしっかり考えて」

「はい。失礼しました」

 

 

 先生に頭を下げてから職員室を後にする。すると、2人分の弁当を持って立っていたエレナと目が合う。わざわざ待っててくれたのか。

 

 

「あ、終った?」

「一応な。とりあえず、昼飯食うか」

「そうねぇ。それじゃあ、屋上に行きましょうか」

 

 

 そう言って腕を組んでくるエレナの頭を撫でながら、校舎内ではなるべくべったりくっつくなと軽く注意して屋上に向かう。こいつはほんと時間と場所を弁える気がないなぁ。可愛いからいいけど、色々抑えるこっちの身にもなってほしいよ。

 ちなみに屋上に来てからは、誰もいないというのをいいことにエレナはやたらと密着してくる。具体的には胸を押し付けてきたり手足を絡めてきたり。すごく、食べづらい。

 

 

「なぁ、エレナ。弁当が食べづらいんだけど」

「もう、こうして可愛い彼女がくっついてきてるんだから少しくらい手を出してもいいんじゃないの?」

「デザートは最後までとっておく方なんだよ。食べ終ったら相手してやるから」

「むー、仕方ないわねぇ」

 

 

 俺から離れると、不満げに弁当を食べ始める。けど、俺がおかずを食べさせてやるとすぐに機嫌が直った。せめてもう少し長続きさせるとか、食べないようにするとかしろよ。

 

 

「あ、そうそう。俺、内部進学にするよ」

「あら、そうなの?じゃあ同じね」

 

 

 なんだ、エレナも内部だったのか、良かった。遠距離になるかもしれないけど自分で決めるまで進路は聞かないようにしてたけど、取り越し苦労?だったかな。

 

 

「さ、霞黒くん。食べ終ったんだから相手して」

「お前なぁ……」

 

 

 両手を広げてカモンと言いたそうな顔の彼女(可愛い)に若干呆れながらも、抱き寄せて昼休みが終るまでの時間いっぱい可愛がってやることに。なお、学校では自重することにしてるから頭や顎下を撫でたりとかだけど。昼休みの屋上とか見つかりやすいし、見つかったら死ねる。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。もう5月です。
 『カメラと棒付きアメと』だけで見ると、3ヶ月ぶりの更新になります。間が空きすぎですね。もう少し更新速度上げていきたいです。
 3年生も終盤になると進路がどうだとかありましたねぇ。当時自分は特にやりたいこととか見つかってなかったのでとりあえず進学してました。まあ、今も特にやりたいことなんて見つかってないんですがね。
 そろそろ最終回に向けて考えていこうと思うのですが、どんな最終回とエピローグにしようか。恐らく卒業式はカットされますが。まあ、エタることだけはしませんので、最後までお付き合いください。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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Ⅻ話目  "準NEW"

 秋も深まって肌寒くなってきた今日この頃。この時期になると急な風が冷たくて手がかじかむから、弁当は屋上じゃなくて教室で食べる日が多くなる。あと、部活がやり辛い。シャッターチャンス逃しやすいし。って話を、久々に一緒に昼飯を食べる朝田と南にしたら、

 

 

「あー、今日みたいに風が強いと大変かもね。俺も本読む時にページめくるのに苦労するよ」

「俺にはよく解らないな。カメラも読書もあまり興味ないし」

「雅人はそもそも勉強ばっかしてるからじゃ」

「いや、野球とかサッカーとかマラソンとかやってるからな?」

「それ全部部活の助っ人だろ」

「そんなだから彼女もいないんだぞー」

「高校時代からそんなんじゃ枯れるぞ?」

「うるせぇ!彼女いないのは朝田も同じだろが!」

 

 

 ギャーギャー言い合う2人を横目に、箸を進める。それにしてもこいつらまだ彼女いなかったのか。てっきりいるのかと思ってたけど。とか言ったら絞められそうだから黙っておこう。キジも鳴かずば何とやらだ。

 と、そう思っていたらふと何かに気付いたように朝田がこっちを向いて、

 

 

「そういえば、火野君って望月さんとはどこまでいったの?」

「あー?」

「やめろ朝田、藪つついても蛇よりやばいのしか出ないぞ」

「でも気にならないか?普段からああだし」

「いや何となく想像つくから」

「じゃあその想像通りか答え合わせするか?」

「やめろ、他人の惚気で腹膨らせたくねぇ」

 

 

 余計な質問はするなと朝田を制して南はパンをかじる。まぁ、ああは言ったけどわざわざ話すものでもないから俺は何も言わないけど。だって恥ずかしいし、他人の惚気話を飯時に聞きたくないっていうのは解らないでもないし。他人が惚気てるの聞いたことないけど。

 

 

「やーでも、恋人がいるって羨ましいな。火野君とか、栢嶋さんとか」

「……栢嶋んとこって弟じゃなかったか?」

「義理なら結婚可能だしセーフだろ。てかそいつらどっちもバカップルじゃねーか」

「んだとコラ」

「まぁ、火野君たち程までいくとアレだけどね」

「アレとか言うな」

 

 

 こいつらの中での俺はどういう認識になってるんだ。バカップルだのアレだのと。確かに最初の頃はひどかったとは思うけど、今は以前ほど四六時中べったりってわけじゃないし、エレナにも自重を覚えさせてるからマシになってるだろ。部室や空き教室で盛ってた?ははは、何を言ってるか解らないな。

 それから昼休みが終るまで、途中から桐崎も混ざって雑談を続けた。風紀委員会では最近俺とエレナに関する議題が上がらなくなったとか、サボりがちな生徒への補習をどうするだとか、俺に対して攻撃してくるような話題ばかり出されたけど。たまにはいいな、こういうの。……一応言っておくと、こいつらとの雑談がいいなってだけで色々言われることがいいわけじゃないからな?

 

 

 

 

 

「霞黒くーん、お風呂空いたわよー」

「おー」

 

 

 今日は用事があるからと先に帰ったエレナに呼ばれ、軽く返事してパソコンを閉じる。最初こそドキドキしたけど何度も泊まりに来てたらさすがに慣れたなこのやり取り。制服にエプロン姿で出迎えられたのは予想外だったから思わず抱き締めてしまったけど。エレナも満更でもなさそうだったから大丈夫だろう。

 下に降りて両親と談笑してるエレナに一言声を掛けてから風呂に入る。一昨年から会ってるからだろうけど、家に馴染みすぎだろ。恋人の両親と談笑は俺にはまだ無理だ、未だに緊張で固まる。そろそろ慣れていかないといけないのは解ってるんだけどなぁ。今度また挨拶に行くか。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 まず謝らせてください、更新遅すぎて本当に申し訳ありません!!思うように筆が乗らず気晴らしという名の現実逃避をしていたらIDとパスワードを忘れてログインできず、そのままずるずると放置して今に至ります。はい、人間の屑です。
 なんとか復活できたので、今月中に向こう作品も更新できるよう頑張ります。6年も放置してたから見てくれてる人いないかもですが。出来なかったら何かしらの罰を設けます。



 それではこの辺で。俺達の満足はこれからだっ!


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〈番外編〉
短編的なもの群 1年編


 ちょっとした息抜きに、小ネタとかでも書こうじゃまいか。





 ここでは地の文なしの台本形式でいきますのであしからず。
 ちょくちょく増えますので、その都度報告します


《1―Aの日常 Ver.M》

 

霞黒「」モグモグ

 

啓介「火野くん、頼まれてたやつだけど………何それ?」

 

霞黒「ドーナツ。いちごチョコバナナ味クリーム増量版の」モグモグ

 

雅人「…甘そうだな。なんだその胃もたれしやすそうなの」

 

霞黒「昨日行きつけのドーナツ店で新発売してたから、いつも買ってるプレーンシュガーと合わせて20個ほど買った」モグモグドサッ

 

雅人「いや多すぎだろ、馬鹿かお前」

 

啓介「よくそんなに食べれるな…」

 

霞黒「甘いものは別腹って言うだろ」モグモグ

 

啓介「女子じゃないん「あ?」何でもない」

 

雅人「お前、たまにキレるよな」

 

啓介「しかも意外と怖いし」

 

霞黒「人を女子呼ばわりするからだ」モグモグ

 

雅人「お前どうでもいいけど顔にクリーム付いてるぞ」

 

啓介「ていうか食べながら喋らない」

 

霞黒「」モグモグモグモグモグモグモグモグ

 

雅人「会話放棄すんな!」

 

啓介「どれだけそれ好きなのさ……。いや、火野くんの場合甘いもの全般か」

 

霞黒「食うか?」

 

啓介「いや、いいや」

 

霞黒「美味いのに」モグモグ

 

雅人「見てるだけで胸焼けするっての。それ食べきれるのか?」

 

霞黒「半分は部活での差し入れも兼ねてるから大丈夫だ。ごちそうさま」

 

啓介「お、おう。あ、そういえばはいこれ」

 

雅人「なんだそれ?」

 

霞黒「知り合いのプロ雀士が出してる本。なかなか見つからなくってさ。じゃあ、午後の授業はばっくれてこれ読むから」

 

雅・啓「「授業はでろこの馬鹿!!」」

 

霞黒「お、おう……」

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《1-Aの日常 Ver.F》

 

エレナ「真衣ちゃーん、調子はどう?」

 

真衣「あ、はい。今は、何ともないです」

 

エレナ「それは良かったわ~。ごめんねぇ、私が被写体を頼んだ所為でぇ」

 

千鶴「私もごめんね。今描いてる登場人物で、ちょうど正岡さんが浮かんできて」

 

真衣「大丈夫ですよ。ところで、その私はどんな役なんですか?」

 

千鶴「あーっとね、簡単に言うと正岡さんモデルの病弱お嬢様と、その世話をする口は悪いけどなんだかんだで世話しちゃう不良執事との恋愛物かな」

 

エレナ「不良執事?」

 

千鶴「そう。普通の執事じゃ面白くないからって、先輩がうるさくてさ」

 

真衣「ちなみに、その執事は……」

 

千鶴「ん?火野君をモデルにしたやつ」

 

エレナ「………あぁ、火野くんなんだ」

 

千鶴「あの子、なんでか執事服着せたくなるんだよね。結構世話焼きっぽいとこあるしさ」

 

真衣「ふふ、そうですね。なんだかんだ言っても、色々と手伝ってくれますし」

 

エレナ「………そーね」

 

真衣「望月さん?」

 

千鶴「んー?ははーん。ほとんど一緒にいるエレナとしてはあれでしょ?いくら本人じゃないとはいえ、火野君が他の女の子に取られて嫉妬してるんでしょ」ニヤニヤ

 

エレナ「嫉妬って、別にそんなのじゃ…………それに、火野くんはただの部活仲間だし…あくまで部活仲間だし……」

 

真衣「火野さんのこと好きなんでしょうか?」

 

千鶴「どうだろ?この様子からして、嫌ってはなさそうだけど」

 

エレナ「私が好きなのは女の子だし…………」

 

千鶴「……ふむ、これも使えそうかな」

 

真衣「いいんでしょうか…?」

 

千鶴「にしし、使えそうなネタがあればなんでも拾うからね」

 

エレナ「うーん………」

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《海でやること》

 

霞黒「砂の雀卓+牌完成ー」

 

春瑚「おー」パチパチ

 

五十鈴「……よくもまあここまでやれたものだな」

 

霞黒「俺もびっくりしてる。で、どうしよっか」

 

五十鈴「打てばいいのではないか?ま、冗だ―――」

 

霞黒「それもそっか。母さーん、部長ー」

 

五十鈴「……………」

 

春瑚「あらあらぁ」

 

エレナ(やってる最中に崩れたりしないかしら……)

 

...@ノ"

 

モブ田「……………」-48000

 

怜奈「……すまない」28000

 

美影「まさかのトリロンだからね!」68000

 

霞黒「えっと、大丈夫か?」32000

 

モブ田「だ、大丈夫だし……」カナチャンナカナインダシ トボトボ

 

美影「あの子、心折れてないといいけど」

 

霞黒「母さんが国士をダブリーしなかったらああはならなかったって」

 

怜奈「裏が乗ることを解ってたみたいに槓した火野君が言うのか?」

 

美影「霞黒君、私のダブリーによく槓するからね~」

 

霞黒「あー、中等部の頃雀荘巡りでよくやったっけ」

 

怜奈(この2人に狙われたら終りだな…)

 

美影「さて、この雀卓どうしよっか?」

 

怜奈「このままにしておくのも――「アタック!」――あ」

 

セイ「クロチャー、ビーチボール来なかっ……あ」

 

雀卓だったもの「」コッパミジンジャア

 

霞黒「雀卓が死んだ!」

 

美影「この人でなしぃ!」

 

セイ「いや、もとから生きてないっしょ…。それより、ビーチバレーしよーぜー」

 

怜奈「セイ、それでもまず謝れ……」

 

霞黒「いいですよ先輩。ちょっと、遊んであげます」

 

美影(あ、これ集中砲火だ)ナムナム

 

 

この後滅茶苦茶ビーチバレーした。

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《月が綺麗》

 

エレナ「ちょっと遅くなっちゃったわねぇ」

 

霞黒「誰の所為だよ」

 

エレナ「階段から転げ落ちて寝たきりだった火野くん」

 

霞黒「その原因お前だぞ!?本来ならお前がそうなってたってのを……」

 

エレナ「冗談よ冗談…。でも、怪我してなくて良かったわ~。何かあったら五十鈴ちゃん怒るし」

 

霞黒「昔から、頑丈さだけが取り柄なとこあるからな。お前は鈴ちゃんと仲良いのか悪いのかどっちだ」

 

エレナ「秘密よ~。あ、見て見て火野くん。満月よー」

 

霞黒「お、本当だ」

 

エレナ「明るいわよねぇ、街灯いらずかしら?」

 

霞黒「ちらほらあるから何とも言えないな」

 

エレナ「あはは。そういえば、満月って、望月って呼び方もあるわよね?」

 

霞黒「あと、十五夜とか盈月(えいげつ)とか。俺は基本、望月って呼んでるな」

 

エレナ「へ、へー…。そ、それより、やっぱり綺麗よねー……」アセアセ

 

霞黒「あー?……まあ、確かに」空を見上げ

 

 

霞黒「望月って、綺麗だよな」

 

エレナ「うn…………うぶぁぇっ!?///」

 

霞黒「え、なに、どうした?すごい声出たぞ?」

 

エレナ「な、何でも……お気になさらず………//」

 

霞黒「?なら、いいけど……」

 

エレナ(火野くんに他意はない火野くんに他意はない火野くんに他意はない火野くんに他意はない火野くんに他意はない)ブツブツ

 

霞黒(変な奴……あ、元からか)

 

 

――次の日――

 

雅人「そういや、昨日満月だったな」

 

啓介「だね。火野くんも見た?」

 

霞黒「昇ってる時間に帰ってたから、まあ」

 

啓介「ふーん。ところで、2人はどの月の形が好き?」

 

雅人「そういうお前はなんだよ。ま、俺は三日月だな。薄っぽいし」

 

啓介「どんな理由だよ。俺は十三夜月かな。あの明るすぎないのが丁度良くて」

 

雅人「ほー。火野は?」

 

霞黒「ん?……あー、俺はやっぱり、望月が好きかな」フッキュ!? モチヅキサン?

 

三人「「?」」

 

エレナ「…………………///////」アワワワワワワ

 

文緒「望月さん?顔、赤いですけど大丈夫ですか?」

 

エレナ「な、何でもないから………あっ」ビクーン

 

霞黒「?」メトメガアウー

 

エレナ「な、なななな………何でもないからァーーーっ!!///」ダッ

 

文緒「望月さん!?授業始まっちゃいますよ!?」

 

雅人「どうしたんだ、あれ?」

 

啓介「何かあった?」

 

霞黒「……さぁ?」

 

 

この日エレナは霞黒と目を合わせれなかったとか

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《不知火五十鈴の受難》

 

五十鈴(春瑚はまた、火野の膝に乗って……)ゴゴゴゴ

 

霞黒(鈴ちゃんの視線が怖い……俺、何かしたかな?)

 

春瑚「おにーさーん、ここなんですけど~」ジュウデン♪ジュウデン♪

 

霞黒「ん、ああごめん。ここは…ほら、この公式使って」

 

五十鈴(それに火野も火野だ。ここ最近は春瑚ばっかり構って…)

 

春瑚「これですか~?……お~、解けました~」

 

霞黒「この辺だとよく使うことになるから、覚えておくといいよ」ナデナデ

 

春瑚「解りました~」ポワ~

 

霞黒「鈴ちゃんはどう?解らないとこは」

 

五十鈴「ふん、このくらい、火野がいなくても出来る」

 

霞黒「ふーん?…………」

 

五十鈴「な、なんだその目は……」

 

霞黒「いや、別に?ただ、そこ間違ってるよ」

 

五十鈴「え?……あっ!」

 

霞黒「鈴ちゃんはおっちょこちょいだな」

 

五十鈴「う、うるさい!火野が悪いんだ!」

 

霞黒「えー……俺の所為か?間違えたのは鈴ちゃんの 五十鈴「言い訳無用!」 理不尽だ」

 

五十鈴「最近はこうしても春瑚ばかり構うし、そうでない時はあの先輩ばかりで!」

 

春瑚「五十鈴ちゃん~、落ち着いて~」

 

霞黒「いや、春ちゃんはともかく望月はないし、そもそも鈴ちゃんから避けてるし。で、構ってほしいの?」

 

五十鈴「うるさい、黒兄の馬鹿!!」

 

霞黒「えー…………」

 

春瑚「とりあえず、ハーブティーでも淹れてきますね~」

 

霞黒「あ、うん。お願い」

 

五十鈴「ふーっ、ふーっ……!」

 

霞黒「(猫みたい…)えーっと、まあ、鈴ちゃんも構えばいいんだよな?」

 

五十鈴「いや、ちが、と、とにかくっ!火野はもう少し節度を持ってだな……!」

 

霞黒「あれ、黒兄って呼んでくれないの?」

 

五十鈴「よ、呼ぶわけないだろっ!?」

 

霞黒「真っ向否定ですか……。まあいいけど」ヒョイ

 

五十鈴「うわぁっ!?な、何をする!」

 

霞黒「素直にならない妹分を膝に乗せてる」ナデナデ

 

五十鈴「こらっ、やめ、撫でるな降ろせ馬鹿!」

 

霞黒「はっはっは、断る」ナデナデ

 

五十鈴「おーろーせーーっ!!」

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《真衣さん+保健室+サボり(大怪我)》

 

ミコト「正岡さん、具合はどうかしら?」

 

真衣「はい、まだ少し眩暈はしますが、大丈夫です……」

 

ミコト「うーん、それじゃあもう少し休んでいった方がいいわね」

 

真衣「す、すみません……」

 

霞黒「すんませーん」ガラッ

 

真衣「あ、火野さ――ど、どうしたんですかその怪我?」

 

ミコト「あら、霞黒君じゃない。先生に会いに来た…ってわけじゃないわね。何があったの?」

 

霞黒「いや、掃除中のバケツひっくり返してずぶ濡れになった挙句、滑って壁に頭ぶつけた後階段から落ちまして……」ハハハ

 

ミコト「笑い事じゃないわよね……それ」

 

真衣「むしろ、病院に行った方がいいのでは」

 

霞黒「大丈夫大丈夫。顔の出血酷いけど、他は痣になってるくらいだし。とりあえず、止血だけでもしに来ました」

 

ミコト「くらいって……骨に異常があったりしたら、困るのはあなたよ?」

 

霞黒「頑丈なんで」

 

真衣「で、でも………」

 

ミコト「はぁ……もういいわよ、正岡さん。この子、言っても聞かないし。頭とか無駄に固いもの」

 

霞黒「無駄に、は余計っす」

 

ミコト「はいはい。ほら、手当てしてあげるからこっち向いて」

 

霞黒「子供じゃないんだからそんな引っ張r――いだだだっ、目っ、目に消毒液入った!!」

 

ミコト「キャンキャン吠えない。困ったワンちゃんね」

 

霞黒「人を犬扱いしないだだだっ!」

 

真衣「………くすっ、火野さん子供みたいですね」

 

ミコト「こう見えて霞黒君、子供っぽいとこあるのよ?コーヒーのブラックが飲めなかったり」

 

霞黒「子供っぽい言うな!」

 

真衣「ふふ、火野さんって面白いですね」

 

ミコト「中学生の頃は、よくケンカしてたみたいだし。はい、おしまい」

 

霞黒「…………酷い辱めを受けた」

 

ミコト「いじけないの。あ、私これから職員会議だから、正岡さんのことお願いしていい?」

 

霞黒「…りょーかい」

 

ミコト「それじゃ、後よろしく~」ガラッ

 

真衣「………。あ、あの…」

 

霞黒「んー?」

 

真衣「前から思ってたんですが、その……火野さんって」

 

霞黒「?」

 

真衣「ドジっ子ですか?」

 

霞黒「……ドジ?俺が?」

 

真衣「はい。今日のもそうですし、前も、よく怪我をして此処に来てましたし」

 

霞黒「あり得ないあり得ないノーウェイノーウェイ何かの間違いだからドジとか笑えないから勘弁してくれSOA……」

 

真衣「……。ぷっ、あはは……」

 

霞黒「わ、笑うなよ……」

 

真衣「すみません…だって火野さん、ドジってだけであんなに焦って……あははは…けほっ」

 

霞黒「おいおい、大丈夫かよ………」

 

真衣「は、はい、大丈夫です」

 

霞黒「ならいいけど……。んじゃ、送ってくから今のうちに帰るか」

 

真衣「はい、ありがとうございます」

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《雨の日ではたまにある》

 

セイ「最近雨ばっかだなぁ……」

 

怜奈「そうだな。こうも雨が長いと、手入れも追いつかなくて部活もし辛いな」

 

霞黒「……普段からまともに活動してない気がするって言うのは」

 

菘「しーっ……」

 

霞「お疲れ様ー」

 

怜奈「ああ、霞か。遅かっ……って!何があった!?」

 

霞「急に風が吹いて、びしょびしょになっちゃった」

 

セイ「なっちゃった、じゃないっしょ……」

 

エレナ「火野くんは見ちゃ駄目!!」

 

霞黒「おうっ!?ちょ、望月力抜け目が痛い!」

 

霞「あら、カグさんになら見てもらってもいいわよ?」

 

怜奈「ここで脱ぐな奥で着替えろ!エレナはそのまま火野君を外に連れ出して!」

 

菘「え、えっちなのはいけないと思いまひゅ……!」

 

霞「ところで、私着替えになるものないのだけれど」

 

怜奈「何で保健室で借りてこなかった!」

 

数分後ーー

 

霞「カグさん、これ借りてるわよ」E.霞黒のジャージ

 

セイ「ごめんクロチャー。今日あたし体育なくてさ」

 

霞黒「……望月のじゃ駄目だったんですか?」

 

エレナ「私今日ジャージは持ってきてないのよ」

 

菘「カスミンちゃん、大きさ大丈夫?」

 

霞「うーん、ちょっと胸が苦しいかしら」

 

セイ「んなデカいのぶら下げてるからでしょ」

 

菘「わたしたちと全然違うよね。……羨ましい」

 

怜奈「大きすぎても、肩が凝るだけなんだがな。ところで霞、何をしてるんだ?」

 

霞「せっかくだから、カグさんの匂いでも嗅いでおこうかなって」

 

霞黒「何してんすか!?」

 

怜奈「羨まーーああいやけしからんぞ!今すぐ止めるんだ!」

 

エレナ「部長、今何か言いかけなかったぁ?」

 

怜奈「気のせいだ、気のせい……」

 

 

 

 

この後、何とか止めさせた

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《ポッキーゲーム》

 

セイ「第一回、写真部ポッキーゲーム大会ー!」

 

霞「いぇ~い」

 

菘「い、いぇ~い……」

 

セイ「負けたらこのくじから罰ゲームが選ばれます。張り切って行くぜ!!」

 

霞黒「……え、本気でやるんですか?」

 

セイ「一回戦はクロチャーVS.レナ!」

 

怜奈「ん、解った」

 

霞黒「解ったって……。部長はいいんですか?」

 

怜奈「何これも部員との交流を深める為のものだああ下心なんてそんなものあるわけないだろうははは」

 

エレナ(すごい早口……)

 

霞「はい、それじゃあこれ」つポッキー

 

怜奈「ああ、ありがとう」

 

霞黒「いや、俺やると言ってなむぐっ」

 

セイ「よし、準備完了だな。Ready,Go!!」

 

霞「無駄にいい発音ね~」

 

怜奈「……///」カリカリカリカリ

 

霞黒(……あーくそっ)カリカリ

 

エレナ「見てるこっちがどきどきするわねぇ」

 

菘「はわわ……///」チラッ

 

セイ「スズには強いか。で、カスミン何してんの」

 

霞「録画中よ♪」

 

霞黒「今すぐ消せ!……あ」

 

セイ「はい、クロチャーの負け。じゃあ罰ゲームいってみよ~」

 

エレナ「何が出るかな♪何が出るかな♪」

 

セイ「罰ゲームは、勝者にキス!」

 

霞黒「…………。……ファッ!?」

 

怜奈「る、ルールはルールだからな恥ずかしいが従わないといけないからな///」メヲトジ

 

霞黒「いやキスって言っても頬とか手の甲とか他にもありますよねちょっ日比野先輩離して下さい望月も見てないで助けてくれ副部長は録画をやめろぉ!!」

 

霞「文句ばっかりねぇ。そんなカグさんには………あら、全員へのキスが出たわ」

 

霞黒「ハッ!?」

 

菘「ふぇ!?」

 

セイ「んじゃあそれいっちゃおー!!」

 

霞黒「HA☆NA☆SE!!」

 

 

 

 

この後どうなったかは、皆様のご想像にお任せします

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《部長と後輩君》

 

怜奈「火野君、この場面なんだが」

 

霞黒「はい?ああ、これならこっち切ればいいですよ」

 

怜奈「こっち?こっちじゃなくて?」

 

霞黒「はい。そっちだと上家(かみちゃ)和了(あが)り牌になりますね」

 

怜奈「そうなのか……通ると思うんだが」

 

霞黒「解りにくいですが、ダマの清一(ちんいつ)ですからね。こっちは既に2枚見えてますし」

 

怜奈「ああ、なるほど。対面と下家が捨てているからそこには通るし、染め手にも関係がないのか」

 

霞黒「はい。ただ、どこも高い手みたいですからここは流しておきましょう」

 

怜奈「そうだな。………お、ツモれた」

 

霞黒「今度牌譜取りながらやってみます?」

 

怜奈「それいいな。色々と勉強になりそうだ」

 

 

 

 

2人だけの時とかはこうして麻雀談義してたりする。

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《副部長と後輩君》

 

霞「カグさんっていい体してるわよね」

 

霞黒「……何ですかいきなり」

 

霞「ほら、この前つまずいた時抱きとめてくれたでしょ?」

 

霞黒「あー、あの時ですか」

 

霞「そ。あの時結構細いのにがっちりしてるなって思って」

 

霞黒「そりゃどーも。でも、特別何かやってたわけではないですけど。……喧嘩はしてたけど」

 

霞「ん?何か言った?」

 

霞黒「いえ、何も」

 

霞「そう?それで、ちょっと触ってみてもいいかしら?」

 

霞黒「くすぐったりしないのなら」

 

霞「じゃあ、お言葉に甘えて」サワサワ

 

霞黒「触って楽しいものでもないでしょう?あと近いです当たってます」

 

霞「あら、私はこういうの好きよ?それはもちろん、わ・ざ・と♪」サワサワ

 

霞黒「やめてくださいしんでしまいます」

 

霞「あらあら、随分と硬くなっちゃって。こっちの方はどうかしら」

 

霞黒「どさくさに紛れてどこ触ろうとしてんですかやめてください!」

 

霞「いいじゃない、私のおっぱい触らせてあげるから」

 

霞黒「社会的に死ぬ!」

 

 

 

 

大体こんな風に弄られる。

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《先輩達と後輩君》

 

セイ「いやー、今日もいい汗かいたー」

 

霞黒「……日比野先輩って、写真部ですよね」

 

菘「よく運動部の助っ人に行ってるけど………うん」

 

セイ「ん?なに?あたしがどうかした?」

 

菘「ヒーノちゃんが写真部らしくないって、クロチャー君が」

 

霞黒「俺そこまで言いました?」

 

セイ「失敬な、れっきとした写真部だぞ。基本被写体だけど」

 

霞黒「まあ、被写体としては優秀ですけど」

 

菘「ヒーノちゃんが写真撮ってるとこあんまり見ないもんね」

 

セイ「いや、スズは一昨年からよく見てんでしょうが」

 

菘「そうだっけ?」

 

霞黒(高町先輩のキャラがよく解らない)

 

セイ「スズー、あたしとクロチャーちょっと走り込み行ってくるから」

 

霞黒「いきなりですね。しかもなんでそうなるんですか」

 

菘「うん、行ってらっしゃい」

 

霞黒「いや、もうすぐ部活の時間」

 

菘「ヒーノちゃん言い出したら聞かないし……お茶菓子用意してるから」

 

セイ「ほら、行くぞー」

 

霞黒「うぁー…………」

 

 

 

 

1週間に1,2回は連れていかれる。

カンッ




 霞が縦に並びすぎてゲシュタルト崩壊しそうになった


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短編的なもの群 2年編

小ネタ集の2年生編です。1年編同様、増えると報告します。


《風紀委員は忙しい》

 

雅「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛………」

 

剣丞「また酷い呻き声だな」

 

典子「今度はどうしたの?」ハイ、コウチャ

 

雅「東雲はいつの間にか教室から消えてサボってるし、竹谷とかは馬鹿騒ぎするし廊下は全力疾走だし………」デキレバリョクチャガ

 

典子「問題児がクラスにいると大変よね。こっちも姫島さんがまた不登校だし……」モンクイワナイ

 

剣丞「お前も苦労してるな」アレ、オレノリョクチャナイゾ

 

雅「先輩は、火野先輩で苦労しないんすか?」オレハシラナイッスヨ?

 

典子「確か、中学の時有名な不良でしたよね?」サッキノミホシテマシタヨ

 

剣丞「あれは最近真面目に授業受けてるし、サボればシバくと伝えてる」スマン、ソウダッタカ

 

雅「鉄拳制裁って、風紀委員としてどうなんだ……?」ヒソヒソ

 

典子「桐崎先輩も先輩で、不良っぽいわよね……」ヒソヒソ

 

剣丞「聞こえてるぞ」

 

雅「ウェッ!?」

 

典子「す、すみません!」

 

雅「地獄耳だった………お?」

 

剣丞「どうした?」

 

  イクゼーッ、スズメバチクジョダー!! オォー! オマエラソレドッカラモッテキタテカチョットマテ!!

 

雅「あの馬鹿共………行ってくるっす」

 

典子「廊下は走っちゃ駄目よ?」

 

雅「大丈夫。クロックアップした俺は常人を遥かに超える速度で活動できるんだ」

 

典子「え、えーっと……」

 

剣丞「…ま、まぁ、行って来い」

 

雅「うっす」

 

  テメェラロウカハシッテンジャネェ! ホラミロ!ダカラマテッテイッタンダ!

 

剣丞「……速いな、あいつ」

 

典子「まぁ、彼に任せれば大丈夫ですね」

 

剣丞「だな。じゃあ、俺は部室に行ってくる」

 

典子「あ、お疲れ様です」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《実は見てた人達》

 

屋上・入口前

 

レイ「せっかく掃除を抜け出してきたのに、なんでこうなってるのさ………」

 

  ヒノクン・・・ン、チュ・・・ ハッ・・・エレナ、ン・・・・・・

 

レイ「……あれってクロチャーと、モッチーだっけ?まったく、人の憩いの場であんなことしてくれちゃって。………うわ、あんなにも舌絡めるんだ…うひゃー」

 

五十鈴「何をしているのだ、東雲?」

 

レイ「…………っ!?って、なんだ不知火か。おどかさないでほしいよ」

 

五十鈴「お前が勝手に驚いたのだろうが…。ところで、私の記憶が正しかったら、お前は掃除当番だった気がするのだが」

 

レイ「え、あー……べ、別にいいじゃん。それより、そっちこそ何しにここに?」

 

五十鈴「黒兄が教室にいなくてな。ここにいると思うのだが」

 

レイ「……あー、それなら帰った方がいいよ。クロチャー、今取り込み中だから」

 

五十鈴「?とにかく、出ないなら退いてもらえないか?」

 

レイ「………一応、忠告はしたからね」スッ

 

五十鈴「さて、黒に――――――っ!?///」ボンッ

 

レイ(爆発した……。もしかしてあの2人、ヤることヤったりしてないだろうな)※ヤってません

 

五十鈴「にゃ、にゃにゃにゃにゃにをしてるにょだあにょ2人はははは……!!//」

 

レイ「だから言ったじゃんか………取り込み中だって」

 

五十鈴「ここここんなことしてると思わないだろう!?」

 

レイ「ちょ、声大きいって。気付かれるだろっ」

 

五十鈴「うぅぅぅぅ……黒兄がぁ……………」

 

レイ「はぁ……。これだからブラコンってやつは……」

 

五十鈴「うぅ、黒兄ぃ……」

 

レイ「はいはい、解ったら今日は帰るよ。オマエん家まで送ってくから」

 

五十鈴「うぅ………」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《実は見てた人達 アフター》

 

霞黒「ただいm―――あれ、鈴ちゃん?」

 

五十鈴「黒兄……ぐろ゛に゛い゛ぃいいいいっ!!」

 

霞黒「え、なんで泣いてるの?」

 

五十鈴「だって…黒兄が……うわぁああああん!!」ダキッ ギュー

 

霞黒「あわわ…どうすれば………」オロオロ

 

春瑚「お邪魔しますよ~」

 

霞黒「あ、春ちゃん……」

 

五十鈴「えぐ、えぐっ……ぐすっ…」

 

春瑚「……おやぁ?おにーさんと五十鈴ちゃん、どうしました~?」

 

霞黒「いや、俺にも何が何だか………」

 

春瑚「五十鈴ちゃーん、どうしたの~?」

 

五十鈴「えぐ………黒兄が……黒兄が、望月、先輩と………うえぇぇぇぇぇんっ!」

 

春瑚「おねーさんと?何かあったのですか~?」

 

霞黒「何かって言っても……あいつと付き合い始めたってことくらいしか」

 

五十鈴「うえぇぇぇん、それだ馬鹿兄ー!!」ポカポカ

 

霞黒「え、なに!?」

 

春瑚「おやぁ~。お付き合い始めたんですね~」

 

霞黒「う、うん。で、もしかして鈴ちゃん………」

 

五十鈴「うわぁぁぁん……黒兄の馬鹿ー………」

 

霞黒「あーもー………とりあえず、部屋に行こっか」

 

春瑚「ですね~」

 

―――――で、数分後

 

霞黒「す、鈴ちゃーん……頼むから出て来てくれないかー?」

 

春瑚「五十鈴ちゃん、そこ埃っぽいよ?」

 

五十鈴「頼む……誰かさっきの私を殺してくれ…………」ズーン

 

霞黒「馬鹿なこと言わない。ほら、おいでおいで」

 

五十鈴「あぁ、私は馬鹿だ……我を忘れて大泣きをするわ、ショックで東雲に送ってもらうわ、今もこうして黒兄と春瑚に心配かけるわ……私は大馬鹿者だぁぁぁ…………」

 

霞黒「そう思うなら出て来て――――うわっ、そこで項垂れちゃ駄目だって髪の毛埃まみれになるよ!?」

 

春瑚「五十鈴ちゃーん、お外は怖くないよー」

 

霞黒「春ちゃんそれ外に出たがらない猫みたいだから止めてあげて」

 

五十鈴「私はこのまま名前のない花になりたいよ……」

 

霞黒「そんなとこじゃ咲く花も咲かないよ。あと、そろそろほんと早く出て来てお願い」※鈴ちゃんはベッドの下にいます

 

五十鈴「黒兄のエロ本は後で燃やすから気にするな……」

 

霞黒「ないよ!?いいから早く出てくる!!」

 

この後引っ張り出して宥めるのに2時間掛かった

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

ヲマケ

 

霞黒「鈴ちゃん、かゆくない?」

 

五十鈴「んっ!」

 

霞黒(まさか、この年になって妹(正確には妹分)と風呂に入るとは……)

 

春瑚「あったかいですよ~………」

 

五十鈴「くろ兄、早く流して!!」

 

霞黒「解った解った。流すから目閉じててね」

 

霞黒(しかも心なしか、精神的に若干幼児退行してるし)ザバー

 

五十鈴「んっ!」

 

霞黒「それじゃあ髪まとめて……」

 

五十鈴「とうっ」ピョン

 

霞黒「こら、飛び込まない」

 

春瑚「五十鈴ちゃーん、こっちだよ~」

 

五十鈴「くろ兄がいい!」

 

春瑚「おやぁ、おにーさんに取られちゃいましたね~」

 

霞黒「あはははは………」

 

霞黒(年頃の女子と一緒に風呂入るのはどうなんだろう。妹だからセーフか?)

 

五十鈴「くろ兄くろ兄!きょう一緒に寝て!」

 

春瑚「じゃあわたしも~」

 

霞黒「ベッドそこまで広くないんだけど……雑魚寝か」

 

春瑚「ですね~」

 

五十鈴「くろ兄くろ兄!」

 

霞黒「はいはい、今度はどうしたの」

 

霞黒(これ、明日が怖いなぁ)

 

 

 

 

モイッコカンッ

 

 

 

 

 

 

 

《キスねだり》

 

エレナ「ね~、霞黒くーん。キスして~」

 

霞黒「あー?」

 

エレナ「だ~か~ら~、キスしてってばー」

 

霞黒「今?」

 

エレナ「うん、今」

 

霞黒「見て解ると思うけど、今ネト麻中だから待ってくれ」

 

エレナ「むぅ、いいじゃない~。キスしてよ~」ガタガタ

 

霞黒「おいこら止めろ椅子を揺らすな」

 

エレナ「ね~、キスして~」

 

霞黒「……あーもう、そんなにしたいなら自分からすればいいだろ」

 

エレナ「(霞黒くんからしてほしいのに……)………んっ」チュ

 

霞黒「ん……」

 

エレナ「…………どう?」

 

霞黒「どうって……。ま、よく出来ました」ナデナデ チュ

 

エレナ「んっ…」チュ

 

霞黒「してほしかったんだろ?」ニヤニヤ

 

エレナ「そうだけど、なんか複雑だわ……。……ねえ、もっとして?」

 

霞黒「甘えん坊め。好きなだけしてやるよ」

 

エレナ「やん♪」

 

クラスメイツ「「家でやれよ!!!」」

 

 

 

 

この後説教された

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《後輩たちの日常》

 

雅「だから、お前らはどうしてそう落ち着きがねぇんだ!」

 

サスケ「修行中の身でして」キリッ

 

一馬「青春してるからな」ドヤァ

 

雅「殴るけどいいよな?答えは聞かないけど」ゴッ

 

サスケ「い、痛いざます……!」

 

一馬「暴力はいけないと思います………!」

 

雅「黙ってろ。大体――ってああこら東雲なに帰ろうとしてんだ!」

 

レイ「げっ、見つかった……」

 

雅「逃がさねぇぞお前のおばさんにも頼まれてんだからな!」

 

レイ「……うっわ、余計なことを」

 

五十鈴「………やれやれ、相変わらず騒がしいな」

 

美知留「だねー。ところでいっちゃん、先輩のとこには行かないの?」

 

五十鈴「あー?今頃望月先輩といちゃついてるのだろう、どうせ」

 

美知留「わーぉ、拗ねちゃってぇ。いっちゃんよしよ~し」

 

五十鈴「ええい撫でるな」

 

美知留「よしよしお姉さんが癒してあげるからね~」

 

五十鈴「同い年だろうがっ!」フシャー!

 

恭介「………なんだこのカオス」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《新刊の為だよ!by千鶴》

 

エレナ「ねぇ、霞黒くん?なんで私、体育館裏に連れて来られてるのかしら?」

 

霞黒「さっきの授業中、ずっと女子ばかり見てただろ」ドンッ

 

エレナ「ひゃっ…(ここ、これって壁ドン……?)」

 

霞黒「お前は俺のなんだ、俺だけを見てろ」

 

エレナ「えっと、霞黒くん…目が、据わってて怖いんだけど……何を、するつもり…?」

 

霞黒「決まってるだろ。俺のものだと解るように、印を付けるんだよ」

 

エレナ「印って、もしかして……や、私今汗かいてるから――――っ、いたっ」

 

霞黒「――ん、これでいいか」

 

エレナ「………強く吸い過ぎよ。まだ授業残ってるのに、こんな、見えやすい位置になんて……」

 

霞黒「その方が、解りやすいだろ?」

 

エレナ「………もう、ばか」

 

 

 

 

 

 

千鶴「はい、カットー。良かったよー、お疲れさん」

 

霞黒「はぁ……やっとか」

 

千鶴「火野くんが何度もテンパるからだよ?」

 

霞黒「誰も聴牌してないっての」

 

エレナ「霞黒くん、そっちじゃないわよぉ」

 

千鶴「いやぁ、でもごめんねぇ。新刊が上手く売れるか心配で」

 

霞黒「だからって俺達にそのシーンをやらせるなよ………」

 

千鶴「人目憚らずいちゃついててよく言う……。それに、彼女さんは満更でもなさそうだし」

 

エレナ「ま、まぁ、霞黒くんがああやって迫ることないし。たまにはいいかな~って」

 

千鶴「でしょでしょ?んじゃあ次はこのシーンなんだけど」

 

霞黒「勘弁してくれ!」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《病弱ちゃんと剣道くん》

 

剣丞「すみません、足首捻ったんで湿布を貰いたいんですが」

 

真衣「はい、少し待ってください。あ、桐崎さん」

 

剣丞「……正岡?神崎先生は」

 

真衣「先生は用事で出かけてまして。えっと、湿布でしたよね」

 

剣丞「ああ、でも正岡は座ってていいんだぞ」

 

真衣「いえ、さっきまで休んでたので大丈夫です。確かこちらに………………あっ」フラッ

 

剣丞「正岡!?」ダッ ガシッ

 

真衣「す、すみません………」

 

剣丞「最悪机の角に頭ぶつけてたからな。だからいいと言ったんd――っ!」ズキ!

 

真衣「え……きゃあ!?」

 

ドターン!!

 

剣丞「いつつ……」

 

真衣「だ、大丈夫ですか桐崎さん……?」

 

剣丞「足が痛いがな……それより、降りてくれるか……?」

 

真衣「す、すみません……さっきので、足を挫いて……」

 

雅「風紀委員の者でーす。備品の点検に来まし―――――オゥ…」

 

剣丞「木林……!?」

 

雅「先輩が保健室で女生徒に馬乗りにされてたっす……」

 

剣丞「おい、木林。変な勘違いするなよ…?」

 

雅「あー、先輩。先輩も風紀委員なんすから節度は守って下さいね。では……失礼しましたー」ガラ、ピシャッ

 

剣丞「……あいつ…………」

 

真衣「す、すみません……わたしのせいで………」

 

剣丞「いや……それよりこれ、どうするか………」

 

 

 

 

この後、戻ってきた神崎先生にからかわれた後助けられた

カンッ




誰か教師陣と同年代もの書いてくれないかな~、ヒロインは畑山先生で


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短編的なもの群 3年編

《霞黒ファンクラブ発足……!?》

 

エレナ「ああ……!それにしても霞黒くんが欲しい…っ!」

 

ざわ・・・ざわ・・・

 

エレナ「ククク……無論…というか…言うまでもなく……会長の私は持っている…っ!ここにいる火野霞黒ファンクラブの誰よりも……持っているっ……!

 霞黒くんの写真をっ……!

 それは笑顔で、寝顔で……!泣き顔で……!困り顔でっ……!持っている…!

 ククク……どこに鼠…風紀委員の連中が潜んでるか解らないから大きな声で言えないけど……それぞれ100枚はくだらない枚数は持っている……!」

 

五十鈴「さすがはエレ姉……!」

 

エレナ「最近では……霞黒くんだけの写真ばかりに集中するのもどうかと思って…家族写真やツーショットも手にした……ほんの50ほどだけど……転ばぬ先のなんとやら…!常にリスクの分散は怠らない……!」

 

ざわ・・・ざわ・・・パチパチパチパチ

 

珠里椏「姐さん……我らが望月姐さん…!」

 

エレナ「ばかがっ…!」ダンッ

 

春瑚「へぅっ」

 

エレナ「足りないわ、まるで…!私はもっと欲しいのよ……!霞黒くんの写真が―――」

 

剣丞「そこまでだ!」

 

雅「これ以上は規制対象っすよ!」

 

エレナ「ちっ、邪魔が入ったわ……。みんな、逃げるわよ!」

 

 

 

霞黒「なんだ、あの芝居……?」

 

千鶴「あはは、何だろねー」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《とある風紀委員の幼馴染世話(くされえん)

 

雅「レイー、入るぞーってうわ、まぁたゴミ溜めてやがんのな」

 

レイ「んー?どうせミヤビンがやってくれるからね」

 

雅「このまま続けてたら、絶対行き遅れになるな……」

 

レイ「そうなったらミヤビンが貰ってくれよな」

 

雅「はあ!?何でそうなるんだよ!」

 

レイ「ボクが行き遅れ=ミヤビンが行き遅れって、母さんが言ってたからね。ミヤビンなら別に文句ないし」

 

雅「こっちが文句言いたい……てか何を言ってんだあの人は……!まあいい……ほら、掃除するからそこ退け」

 

レイ「いつもありがとねー」

 

雅「心こもってねぇ………」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《不良達の密会……?》

 

珠里椏「せんぱーい、黒センパーイ!」

 

霞黒「ん?竜ヶ崎か、どした?」

 

珠里椏「それが、隣町の奴らが、先輩を探してて……!」

 

霞黒「あー?…………あぁー、この前のか。確かしつこいので有名だったような……」

 

珠里椏「そう、そいつっス。先輩にやられたのを根に持ってるらしくて、もうこの辺まで来てるんスよ!ところで先輩、何をやったんスか?」

 

霞黒「いきなり絡んできたから、ついぶっ潰したんだよ……」

 

珠里椏「つい、で潰す先輩パネェっス……。で、どうします?」

 

霞黒「無視したら余計面倒だしな……徹底的に潰す。来るか?」

 

珠里椏「先輩の頼みなら、何処へでも!」

 

霞黒「うし、じゃあ行くか」

 

珠里椏「はいっス!」

 

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《結婚(仮)》

 

エレナ「霞黒くーん、見て見て~」E:ウェディングドレス

 

霞黒「……。どうしたんだ、それ?」

 

エレナ「演劇部の子から借りたのよぉ。どう、似合う?」

 

霞黒「ああ、綺麗だ。けど」

 

エレナ「けど?」

 

霞黒「嫁入り前の花嫁衣裳って、婚期が遅れるって言うんじゃ」

 

エレナ「あら、そうなる前に霞黒くんに貰ってもらうから大丈夫」

 

霞黒「なんだそりゃ。ま、こんな綺麗な花嫁貰えるならいいけど」

 

エレナ「……そ、そう言われると照れちゃうわ………///」

 

霞黒「照れてても綺麗だぞ……?」

 

エレナ「も、もうっ……///」

 

 

 

乙女「誰かブラックくれない?砂糖吐きそう」

 

かなた「あらあら、素敵ねぇ」

 

 

 

 

カンッ




ウェディングエレナ綺麗すぎてゲットした時変な声出た


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Bの計画/望月エレナ編

 5月25日はエレナの誕生日なので、誕生日ネタをば。


 今年は平日ですが、2年生編は2013年なんで土曜日です。だから問題なし!


  5月10日金曜日。

 母の日だったり、語呂合わせで後藤の日とかあるけど、この日は特にそれらとは関係のない日だ。母の日は関係あるかもしれないけど、あいにく母さんは雀荘巡りで昨日から留守。いつも通りだ。

 今日はとある計画のため、まず昼休みに図書館へ移動する。

 

 

「……。ああ、いたいた。村上」

「あ、火野さん。こんにちは」

 

 

 本日の協力者、というかその計画の提案者・村上文緒。

 

 

「すみません、わざわざ来てもらって」

「気にすんな。それで、あいつの誕生日パーティー、だっけ?」

「はい。望月さんのお誕生日に、何かお祝いしようと思って。それで、手伝っていただけたらと」

 

 

 なるほどね。そういえば去年は、そんなことしなかったな。というか誕生日知ったのがその日の1ヶ月後とかだったし。

 

 

「まぁ、どうせすることもないし、手伝うよ。色々と世話にもなってるし」

「ありがとうございます」

「ま、頑張ろうな」

「はい」

 

 

 今日はひとまずここまで。というのも、望月の奴が急に現れてきた所為で中断せざるを得なくなったからだ。場所や飾り付け、その他諸々はまた別の日に決めるしかなさそうだな。

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

 今日は珍しく、火野くんが図書館で文緒ちゃんと何か話してた。そもそも火野くんは図書館に足を運ぶことが少ないから、これは何かあるんじゃないかと思って近付いてみる。やっほー、文緒ちゃ~ん。

 

 

「望月さん。こんにちは」

「……お前、また村上を撮りに来たのか?」

「それじゃあまるで、私が文緒ちゃんばっかり撮ってるみたいじゃない。そんなことより、2人で何を話してたの?」

「何って、本を探してもらってたんだよ。普段なら朝田に頼むけど、あいつ今日いないし」

 

 

 そういえば、朝田くんも図書委員なんだっけ。でも、火野くんが本を借りるなんて珍しくないかしら?何か怪しいわぁ。

 

 

「ふぅん、ちなみにどんな本?」

「豆大福の簡単レシピ。さすがに豆大福は無かったけど」

「本当?文緒ちゃん」

「は、はい。私も驚きましたが。火野さんが料理上手なのは知ってましたけど、お菓子の方も作れるんですね」

 

 

 そうなのよね。火野くんってば、料理スキル高いのよねぇ、正直自信なくすくらいに。

 うーん……2人とも嘘をついているようには思えないし、なんでもないのかしら?それなら別にいいんだけどね、2人とは比較的仲がいいつもりだし。はぁ~あ……それにしても、やっぱり文緒ちゃんは可愛いわぁ~。あの困った顔が特に!もうたまらないわ~!!

 

 

 

 

 

 

 そして、あれから2週間ほど過ぎた土曜日。

 結局この2週間、火野くんと文緒ちゃんは何か企んでみたいで、2人とも私に対してちょっとよそよそしかった。私、もしかして嫌われるようなことしちゃったかしら……?そう思ったけど、火野くんからの電話でそうじゃないと判明したわ。

 

 

「もしもし、火野くん?」

『ああ、望月。今大丈夫か?』

「大丈夫だけど、何かしら?」

 

 

 この2週間での態度が態度だったから、ちょっと拗ねた風に対応してみる。火野くんなら、どう反応するかで色々解るからね。

 

 

『あー、その、さ……今日、何も予定入ってないよな?』

「入れてないわよ。どこかの部長さんが部活休みにしたからね」

『……………なぁ、怒ってる?』

「怒ってないわよぉ、失礼ね」

 

 

 うーん、とりあえず嫌われてはないみたいね。むしろ火野くんから罪悪感が出てるようだわ。

 

 

「それで、なにかしら?デートのお誘い?」

『デートじゃない。でも、今から喫茶コスモスに来てほしいんだ』

「コスモス?いいけど、どうして?」

『それは後で話すから。とにかく来てくれ』

「あ、火野くん?もしもーし。………切れちゃった」

 

 

 何の説明もなしなんて、どうしたのかしら?とりあえず、コスモスに行けばいいみたいだけど。

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

「これでよしっと」

 

 

 飾り付けも終り、望月さんに電話をしてくれた火野さんも戻ってきました。

 

 

「火野さん、どうでした?」

「大丈夫、来てくれるって」

「そうですか。良かった」

 

 

 本当に良かったです。もしかしたら、怒って来てくれないのかと思ってましたから。サプライズでのパーティーとはいえ、望月さんを避けるのは、やっぱり辛いものでした。

 

 

「火野君、これはどこに並べたらいい?」

「それはケーキ出した時に使うから、まだ並べなくていいぞ」

「解ったわー」

 

 

 それにしても、火野さんは先ほどからテキパキとすごいです。もしかしたら、一番張り切ってるのかもしれませんね。そう思ったら、とても微笑ましいです。

 でも、望月さんをお祝いしたい気持ちは私も負けてません。最後まで私もお手伝いします。望月さん、喜んでくれるでしょうか。

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

「久しぶりねぇ~、ここに来るの」

 

 

 火野くんも知ってたのは意外だったけど。さて、それじゃあ入りましょうか。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 

パンッ、パパンッ

 

 

「ひゃっ、な、なに!?」

 

 

 入ったら、急な音と紙テープにびっくりする。な、何事なの?

 

 

「「「「望月(さん)、誕生日おめでとう!」」」」

「へ……?」

 

 

 お店をよく見渡したら、パーティーの為に飾り付けられた店内で、火野くんに文緒ちゃん、野々花ちゃんに真衣ちゃんも一緒に、クラッカーを持ってた。あ、さっきのはそれだったのね。それにしても、これって………。

 

 

「そっか、今日は私の誕生日だっけ」

「そうですよ……けほっ」

「忘れるなよ…。まぁ、サプライズでやるにはよかったけど」

「良かったわね、火野君。村上さん」

 

 

 もしかして、2人が今までしてたのって、これの為だったの?

 

 

「はい。準備の多くは、火野さんがしてくれました」

「元々誕生日を祝いたいって言い出したのは村上だけどな。俺達はそれの手伝いをしただけだ」

「そうだったの……。文緒ちゃん、それにみんなも、ありがとう」

 

 

 こんな風にお祝いしてくれるなんて、嬉しいわ……。文緒ちゃーん!!

 

 

「きゃあ!?も、望月さん……!」

「嬉しいわ文緒ちゃん!もうほんと大好き、愛してるわぁ!」

「望月さ……苦しいです………!」

「望月さん、その辺で……火野さんの作ったお料理も冷めちゃいますし」

「これ、ほとんど火野君が作ったからね」

 

 

 そうね。名残惜しいけど、仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 私のために誕生日パーティーを計画してくれて、こうやってお祝いまでしてくれて、今日は今までで一番嬉しい日になったわ。こんなにしてくれたんだから、次は私がしてあげる番ね。




 はい、以上がBの計画/望月エレナ編でした。クロウズです。Bはもちろん、BirthdayのBです。まぁ、解りますよね……。
 今回はキャラの視点を何度か変更しました。本編が霞黒視点ばかりですし、たまにはこういうのもいいですよね?


 それでは、今日も1日、張り切っていきましょう


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Bの計画/火野霞黒編

なに!?2013年の9月6日は休日ではないのか!?


「誕生日?って、霞黒くんの?」

 

 

 夏休みもそろそろ終る頃、特にすることもないから霞黒くんの家にお邪魔しようと思ったら春瑚ちゃんから電話が掛かり、言われるまま五十鈴ちゃんの家に来て今に至る。

 

 

「ああ。来月の6日が、黒兄の誕生日でな」

「そういえばそうだっけ」

 

 

 確か去年は、写真部のみんなでお祝いしたような。

 

「それで、当日は準備が出来るまでおにーさんを足止めしてほしいんですよー」

「……春瑚、足止めはおかしくないか?いや、言いたいことは解るんだが」

「おやぁ?」

「あはは………。まぁ、霞黒くんを引き留めてたらいいのよね」

「そういうことだ。宜しく頼む」

「お願いしますね~」

「任せてねぇ」

 

 

 う~ん、せっかくだし誕生日デートしながら時間を潰せばいいかしらね。最近は自重してたからねぇ。誰かしらね、砂糖テロって言った人。

 

 

「黒兄に気付かれたくないから、なるべく内緒でな?」

「俺がなんだって?」

「うひゃあ!?」

「あ、おにーさん」

 

 

 襖が開いて、霞黒くんがひょっこりと現れる。急に出てこられるとびっくりするわね。

 

 

「どうしたの霞黒くん?」

「いや、お前が来るって言ってきたのに来なかったから。鈴ちゃんとこにいたのか」

「あ、うん。ちょっとね」

 

 

 そういえば、遊びに行くってメールしてたんだった。ちょっと話が長引いたりですっかり忘れてた。あ、霞黒くんに内緒ってことは、この話は一先ず終りってことかしらね。私の時の霞黒くんも、こんな風に思ってたのかしらね。あの時はただ避けられてると思ってたわ。

 

 

「で、何の話してたんだ?」

「秘密ですよ~」

「絶対に?」

「盗み聞きはしてないみたいだけど、女の子の秘密の会話は詮索しちゃ駄目よ?」

「そういうものなのか?」

「そういうもの。だから霞黒くんあまりモテなかったのよ」

「まったくだ。黒兄はデリカシーがない」

「そこまで言うか……」

 

 

がっくりと肩を落とす霞黒くんには悪いけど、サプライズだからね。春瑚ちゃんがうっかり口滑らしそうな気もするけど。

 

 

「おにーさん、そんなに落ち込まないでください。チョコレートありますよー」

「ありがと……やっぱり春ちゃんナンバーワン………」

 

 

 ……いらない心配かしらね。それにしても、落ち込んでる霞黒くんかわいい。学校とかじゃこういうの見れないのよねぇ。あ、でも、この前部室で真っ白になってる時あったわね。あれ、なんでだっけ?

 そのことを思い出そうとしてたら、五十鈴ちゃんに耳打ちされる。今の霞黒くんなら聞いてなさそうだけど、念の為かしら。

 

 

「では、当日は頼むぞ望月先輩。プレゼントも、忘れないようにな?」

「もちろん。最近出来なかったデートも出来るし」

「夏休みの間、頻繁に家に来たり黒兄と出かけてただろうに…………」

「あれでも抑えてた方よぉ?」

「あ、あれでなのか………」

 

 

 五十鈴ちゃんはちょっと引き気味になってるけど、付き合って1週間はあれ以上にべったりだったわね。主に私が甘える形で。

 その後は霞黒くんが復活してから4人でお喋りをしてお開きに。そして私は、夜も遅いからと五十鈴ちゃんの家に泊まらせてもらうことに。本当は霞黒くんの家に泊まりたかったんだけど、その事を口にしたら霞黒くんには苦笑されて五十鈴ちゃんには睨まれた。霞黒くんも大概だけど、この子も相当なブラコンよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日、霞黒くんに気付かれないように準備を進め、ついに霞黒くんの誕生日当日。の、放課後。

 

 

「霞黒くーん、そろそろ起きなさーい」

「ん……ふぁ」

「もう、また寝てばっかで。ああほら、涎出てる」

「んむぅ………」

 

 

 頬に制服の跡をくっきり付けてる霞黒くんを起こし、その口元に垂れてる涎をティッシュで拭く。こうしてると、弟みたいな感じだわ。こういうとこも可愛いけど。

 

 

「んー……おはよ………」

「おはよ。もう放課後だけどね。さ、帰りましょ」

「おう……」

 

 

 子供みたいに目を擦ってる、可愛い。写真撮っておこ。寝起きの霞黒くんは、結構隙だらけだからね。

 

 

「おやおやー、新学期早々いちゃついてますなー」

「あら、千鶴ちゃん」

「やっほ」

「ん……小野寺、いたのか…」

「いくらなんでもそれは酷くないかなぁ。また執事服着る?」

「どうせ櫻花祭で着せる癖に………」

「もちのろん」

 

 

 あー、そういえば櫻花祭もうすぐねぇ。今年はどんな格好しようかしら。あ、霞黒くんとのペアルックもアリかも。

 

 

「……どうした?」

「あ、ううん。なんでも。さ、それより帰りましょ。それじゃあ千鶴ちゃん、また明日ね~」

「明日は土曜だけどねー」

 

 

 千鶴ちゃんに手を振り、霞黒くんと一緒に教室を出る。前もって言っておいたから、今日は部活はなし。この後は放課後デートしながら五十鈴ちゃんからの連絡を待つだけね。その為の計画を練ってると、

 

 

「なあ、この後暇か?」

「え?うん、大丈夫よ」

「じゃ、じゃあ……せっかくだしどっか行かないか?」

 

 

 先にデートに誘われた。ちょっと照れくさそうに言うのが可愛くて、思わず抱き付いて頭を撫でちゃう。あー、やっぱり霞黒くんと密着してる時っていいわぁ~。ぽかぽかする~。

 

 

「……おい、エレナ」

「そこのバカップルー、邪魔だからいちゃつくなら家でやれー」

「あ、はーい。ごめんなさーい」

 

 

 畑山先生に注意されて、私と霞黒くんは急いで 出ていく。よく考えたら、さっきのは周り見てなかったわ……。うぅ、思い出したら恥ずかしい………。

 

 

「恥ずかしがってるとこ悪いけど、巻き添えくらわされてんだからな?」

「私と密着出来て嬉しかったくせに……」

「時間と場所を弁えろっての」

 

 

 そう言いつつも、校門をくぐってからは霞黒くんの方から抱き寄せてくる辺り、霞黒くんもあまり弁えれてないような、時間はともかく、場所が。ふにゃ………なでなで気持ちいい……。

 

 

「ふにゅう……それで、どこ行くのぉ………?」

「うん、ちょっと気になるゲーセンがあってな」

「へぇ。……あれ、霞黒くんってゲームセンター行くの?」

「たまにな」

 

 

 私もたまには行くけど、霞黒くんは結構意外だったなぁ。霞黒くん、ああいう騒がしいとこ苦手そうなイメージなんだけどなぁ。どっちかというと、公園のベンチで五十鈴ちゃん、春瑚ちゃんの2人と寝てる方がイメージしやすい。…………生で見たいわね、その場面。こう、霞黒くんの両サイドに座って、霞黒くんの服をつまんで気持ち良さそうに眠って、霞黒くんは2人の頭を撫でながら欠伸して…………でゅふふふ、いい、いいわぁ~。かなりありだわ~。

 

 

 

 

 

 

 ゲームセンターで霞黒くんがシロちゃん似のぬいぐるみを取ろうと悪戦苦闘している間に、五十鈴ちゃんから電話が掛かってきた。その為一度霞黒くんから離れて出ると、準備が出来たからいつ帰って来ても大丈夫らしい。私は早い内に戻ると伝えて、霞黒くんの様子を見に行く前にプレゼントを買いに行く。霞黒くんってあまりアクセサリーの類しないから、日用品とかの方がいいかしら。となると、財布とか、ハンカチとか?……うーん………あ、あれとかいいかな。

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

「ふう……やっと取れた」

 

 

 よく考えたら、あいつの誕生日の時プレゼントとか渡してなかったからな。犬好きって言ってたし、かわいいし、喜んでくれるかな。さて、エレナは外で待ってるだろうし、早いとこ出るか。

 

 

「エレナは……っと、いたいた。おーい、エレナー」

「あ、霞黒くーん」

 

 

 外に出ると、すぐそこの自販機の前で待ってたエレナ。その手には包装された何かがあった。さっき出ていった時のついでに買ったのかな。

 

 

「狙ってたワンちゃん取れた?」

「なんとかな。そっちも、何か買ったみたいだけど」

「うん、ちょっとね」

「そっか。って、もしかして退屈させてたか?」

 

 

 すぐにこれ取りにいったからな。エレナにやる為とはいえ、退屈させるのは、な。

 

 

「ううん。取ろうとしてる時の横顔かっこよかったから写真撮らせてもらったし」

「いつの間に。ま、まぁ、帰るか」

「そうねぇ」

 

 

 さらっとかっこよかったとか言われて、めっちゃ恥ずい………。顔熱い。

 恥ずかしさから逃げるように、俺はエレナの手を掴んでさっさと帰宅する。

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

「……ふふ、照れちゃって」

 

 

 霞黒くんに手を引かれながら、赤くなってる横顔を覗かせてもらう。霞黒くんって、不意打ちと直球に弱いわね。

 電車に乗って一緒に揺らされていつもの駅に。さて、五十鈴ちゃんと春瑚ちゃんが霞黒くん家で準備が終ってるはずだから、霞黒くんと一緒に入ればオーケーね。

 

 

「あ、そうだ。先にこれ、渡しとくよ」

「へ?」

 

 

 家の前で急に止まったかと思ったら、さっきのゲームセンターの袋を渡される。中身はあの犬のぬいぐるみ。もしかしてこれ、私の為に?

 

 

「まぁ、な。り、理由は聞くなよ?恥ずいんだから」

「ふふ、ありがと。さ、早く入って入って」

「お、おう」

 

 

 背中を押して、家の中に入れる。

 電気の切ってある廊下を進んで、リビングへ向かわせる。そして、霞黒くんがドアを開けるのに合わせて、

 

 

「黒兄、誕生日おめでとうっ」

「おめでとうですよー」

 

 

 2人が出迎えてクラッカーが鳴―――――あれ?鳴らない?

 

 

「……紐が抜けただけだった」

「えー……」

 

 

 ここでまさかの不良品。大勢が鳴らして1人2人のが鳴らなかったのならともかく、これはむなしいわ。唖然としてる霞黒くんはともかくとして、私たち3人はがっくりと肩を落とす。サプライズ失敗、かしら。

 

 

「あ、これ俺の誕生日か。今年は不発クラッカーなんだ」

「はい~。おば様が用意してくれました~」

 

 

 ポン、と手を叩いて納得した霞黒くん。ていうかあのクラッカー不良品じゃなくてそういうものだったの。

 

 

「今年のアイテムは、まぁマシなやつか」

「マシ?いつもどんなのやってたの?」

「えーっと、爆発するケーキ(模型)とか消えないロウソクとか」

「あの人年の割にお茶目でな……」

 

 

 今までの誕生日を思い返してるのか、遠い目をする2人。まぁ、あの人見た目ロリだもんね。

 

 

「ま、まぁ、今年はそれはないからな。ほら黒兄、座って座って」

「解ったから引っ張らないで」

 

 

 五十鈴ちゃんと春瑚ちゃんに引っ張られる霞黒くん。やっぱりこの3人は、見ていて微笑ましいわねぇ。でも、いくら兄妹同然でも今年は彼女の私もいるから、霞黒くんは独占させないんだからね。

 

 

「霞黒くん」

「ん、なん―――んっ」

「んっ……ふふ、誕生日おめでと♪」

 

 

 用意したプレゼントとは別のプレゼントを渡して、笑いかける。




 投稿3日前に書き終えるとか遅いわ!!どうもクロウズです。
 というか書き始めたのが30日とか遅いわ!危うく書き逃すとこだったわ!!ここんところ夜戦バカとかTラブな帰国子女とかの相手ばっかしてたせいなのか…………。というか筆が乗らない!
 ちなみに、エレナが用意したプレゼントは帽子です。書くタイミングを逃したので、本編でいずれ被らせます。



 今日はこれ以上特に言うことはない!!それではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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黒狗ー群れる事が出来なかった狂犬ー

 中学時代に黒狗と呼ばれ喧嘩していた霞黒の一部を載せます。


「はぁ、退屈だ………」

 

 

 ベッドに寝転がってそう呟くのは、2ヶ月前に中学3年生となった火野霞黒という少年。肩甲骨の辺りまで伸ばした黒髪はボサボサで、紅色の両目は肉食獣の様に鋭い。まだ幼さの残る14歳のその頰には血が滲んだガーゼが貼られ、左の手首には包帯が巻かれている。

 

 

「……つーか、向こうのは高校だから退学食らったっぽいけど、何で俺まで1週間の謹慎受けなきゃいけないんだよ。今回のは俺は巻き込まれただけだっての……」

 

 

 平日であるにも関わらず家にいるのは、登校拒否や怪我の為の自宅療養ではなく、高校生と喧嘩をした所為の謹慎処分によるものらしい。しかもこうした謹慎処分は今回が初めてではなく、去年から何度もされているのだ。

 

 

「こっちは頰切られて利き手骨折までさせられてんのに……。退学じゃないだけマシだけどさ」

 

 

 彼が通っている中学校はそこそこ有名な学校であり、真面目な生徒が多いことが特徴だ。そんな学校の生徒である彼がこのような問題を起こして謹慎処分で済んでいるのは、学校の懐が広いということだろうか。

 だが、それでも腑に落ちないのだろう、霞黒は苛立ちを隠すことなく力は入れずに何度も部屋の壁を殴る。

 

 

「あーもうイライラする。それもこれも巻き込みやがったあいづっ!?〜〜〜っ!!」

 

 

 無意識の内に力が入っていき、さらに左拳で壁を殴ったようで怪我をしている手首に響き、そこを押さえてベッドの上をゴロゴロ転がる。さらにそのまま落ちて頭を強く打ち、悶える。

 

 

「……こ、このくらいじゃ泣かないぞ………っ」

「ただいまー」

「……ぅ?」

 

 

 玄関から聞こえてきた声に、目尻に溜まってる涙を慌てて拭うと部屋を出て玄関に向かう。今はまだ両親が仕事から帰ってくる時間ではないので、向かった玄関にいたのは2人の少女、隣に住んでいる不知火五十鈴と夢前春瑚だった。霞黒と2人は幼い頃から仲が良く、彼にとってこの2人は妹のようなものだ。

 

 

「おにーさん、ただいまー」

「お帰り春ちゃん、鈴ちゃん」

「ほら、黒兄。今日の分のプリント貰ってきたぞ」

「ありがと。わざわざごめんね鈴ちゃん」

「謝るくらいなら、喧嘩は止めて欲しいんだが」

「今回のは巻き込まれただけなんだってば」

「その割には、嬉々として喧嘩したと聞いたが?」

「あはははは……」

 

 

 五十鈴の向けてくるジト目に笑って誤魔化すと、プリントを受け取って適当にめくっていき、その中から謹慎処分を解く旨の書かれたものを見付けるとホッとする。もしかしたら退学を言い渡されるかと内心怯えていたからだ。

 

 

「良かったな、黒兄」

「おめでとうですよ〜」

「うん、ありがと。…………学校ではどうせ独りだけどねうっ!」

 

 

 ボソッと呟いたようだが2人には聞こえたらしく、五十鈴には足を踏まれ、春瑚には脇腹をつねられる。

 

 

「そんなこと言ったら、めっですよー」

「いくら私達でも怒るからな」

「もう怒っていえごめんなさい何でもないです」

 

 

 1週間自宅から出られなかったことを考えれば学校に行けること自体が嬉しい彼にとっては、独りだということなど苦でもないのだが、先程の発言はそういう問題ではないらしいので2人はお怒りのようだった。

 頰を膨らませて怒っていることをアピールする2人に苦笑し、霞黒は宥めながら明日からのことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 そして、霞黒の自宅謹慎が解かれてから数週間が経過したある日。

 

  ざわ・・・   ざわ・・・

 

      ざわ・・・

 

 

 

「……結局、こうなんだよな」

 

 

 窓際の自席で頬杖を突いて窓の外を眺める。昼休みなため教室にいる生徒は少ないが、それでもいる数人の生徒たちは弁当をつつきながら霞黒の方を見てはひそひそと小声で言い合っている。

 

 

「この前の謹慎、また喧嘩してたからだって」

「知ってる知ってる。なんか去年からああなったんだよな」

「今じゃ付近の不良からは黒狗って呼ばれてるらしいよ?」

「あいつの前世、狂犬なんだろな」

 

 

(全部聞こえてるんだよ、言いたいことあるならはっきり言えっての……イライラする)

 

 

 思わず壁を強く殴ると、それだけで全員が押し黙る。その様子にも苛立った霞黒は、舌打ちをすると鞄を持って教室から出て帰宅を始める。廊下を歩いていても、他の生徒はすれ違い様に怯えた声を出し、通り過ぎるとあからさまに安堵の溜め息を吐く。

 

 

(なんでここまで怖がられるかな。お前らには何もしてないだろうが)

 

 

 イライラしたまま校門を出てまっすぐ帰宅はせずに街の方に出て甘いものを買って行きつけの雀荘に向かう。何かの気分転換にはこうして麻雀を打っていた。今日も苛立った気分を卓にぶつけようとしていると、

 

 

「いってーな……どこ見てんだガキ」

「……あぁ、すみません」

 

 

 見るからに柄の悪い2人組の1人とぶつかってしまい、絡まれる始末。ただでさえ機嫌が悪い霞黒にとってこれはさらにストレスが溜まるものだった。謝って通り過ぎようとしても、そうやすやすと行かせてはくれなかった。

 

 

「おいおい、ぶつかってきてそれだけかよ?こっちはすっげーいてーんだぞ?」

「今ので骨に罅が入ってたりしたらどうすんだよ?」

「………うざ」

「ああん?てめぇちょっと来い!」

「……っ」

 

 

 吐き捨てるように呟いた言葉に切れた1人が霞黒の腕を掴み路地裏に連れ込む。どんどん進み袋小路にまで行くと、投げるように手を離し壁際に追い込む。

 霞黒は抜け出せそうな所がないか探すも見当たらず、諦めて不良の2人組に向き直る。

 

 

「さあ、素直に財布出して土下座すりゃあ、許してやるぜ?」

「痛い目に遭いたくなかったらさっさとしな」

「………もし、断ったら?」

「そん時ゃもちろん、痛めつけさせてもらうぜ」

「なら、断ります。お前らみたいな馬鹿に渡す財布なんて持ってなくて」

「っ、このガキぃ………!」

「………っ!」

 

 

 霞黒の言葉に逆上した1人が殴りかかる。殴り飛ばされた霞黒を見て、後ろにいたもう1人が笑う。

 

 

「おいおい、いきなりすぎんだろ」

「クソガキが調子乗りやがって。女みてぇな見た目通り、女みてぇに弱いくせによぉ」

「……がっ、っ…!」

「ぎゃははは、やりすぎんなよ」

 

 

 うずくまる霞黒の背中を踏みつける男にそう言うが、止めることはなく自身も加わる。

 

 

「いった……でも、これで………」

「ああ?何言って…おうっ!?」

「ってぇ…!」

 

 

 2人の足を払ってこかすと、ゆっくり立ち上がって見下ろす。薄暗い路地裏では見え辛いがその目は狂気に満ち、口の端は吊り上がっている。

 

 

「俺が手を出しても、正当防衛になるよな?」

「何ふざけたこどっ!?」

「このガはぐぅ!!」

 

 

 起き上ろうとした男の頭を蹴り上げ、もう1人の男の腹に踵落としを叩きこむ。さらに2人の首を掴むと、爪を突き立てて持ち上げる。片手で持ち上げるには体格差から無理がありそうなものだがやすやすとやってのけ、まとめて壁に叩きつける。

 

 

「こっちはイライラしてんだ、ストレス発散に付き合ってもらうぞ!」

 

 

 新しいおもちゃを前にして喜ぶ子供のように目を輝かせて吠える霞黒に気味悪さを覚えるも、頭に血が上った男2人はそれぞれ鉄パイプとポケットナイフを持ち、襲い掛かる。しかし3人のいる路地裏はそれほど広くないため、2人の持つ得物はどちらも大きく振れば互いを傷つけてしまうため隙が多くなり、もたついているところを突いて、鉄パイプを持った男に体当たりをし、その男を踏み台にしてもう1人に跳びかかり、ポケットナイフを持った腕に噛み付く。

 

 

「いっ、ぎゃぁあああぁぁああ!!?」

「グルルルル……!!」

 

 

 ガリッと音がするほどに犬歯が深く刺さり、あまりの痛みに情けなく悲鳴を上げ必死に振りほどこうとするも、唸りながら食らいついて離さない様は、まさしく狂犬のようだ。

 噛み付いた腕から血がにじみ出てきたところでようやく離すと頭を思い切り殴りつけ、まだ意識があるもう1人へ狙いを変える。噛み付いた時に無理をしたのか、口の端が切れて血が垂れ、僅かに差し込む光に照らされより恐怖を感じさせるものとなった。

 

 

「ひっ、や、やめ……来るな………!」

 

 

 完全に戦意を失くして後退り懇願してくるも、聞く耳持たずと言わんばかりに1歩ずつ距離を詰める。さらに1歩踏み出そうとしたところで動きを止めて振り返り、そのまま止まったかと思うと舌打ちをして路地裏から去って行った。残された2人は数時間後に路地裏から出、数日は黒犬に怯えていたという。

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ……またやっちゃったなー………。これバレたら、さすがに退学かなー」

 

 

 現場から逃げた霞黒は重い足取りで帰宅し、自室のベッドに倒れこむと枕に顔を埋めてそうぼやく。今回は完全にやり過ぎたと自覚しているらしい。もし退学となった場合の事を考えてみるが、何かが思い浮かぶ前に考えることを止め、寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

「で、結局バレたの?」

「いや、バレてはなかったみたいなんだ。意外なことに」

 

 

 当時の話をし終えて、エレナからアルバムを返してもらう。急に中学の頃の俺の話が聞きたいって言ってきたからアルバムも一緒に見せたけど、何でこの話したんだろ俺。まあ他に話せることが何もないから仕方ないんだけど。

 こんな話でも俺の昔話が聞けて嬉しいのか、エレナは満足そうな顔だ。

 

 

「そんな楽しくなかっただろ?」

「んー?霞黒くんの昔のこと知れたし結構楽しかったわよぉ?」

「わわ、解ったからいちいち抱き付くなっ!」

「も~、照れちゃってぇ。かわいいんだから~♪」

「当たってるから止めろって言ってるんだよ!」

「当ててるって言ったらぁ?」

「わざとかよ!?いいからはーなーせー!!」

「よしよ~し」

「ふにゃっ……やめ…………っ」

 

 

 振りほどこうにもしっかり抱き付いて頭を撫でてくる所為で、力が抜ける。うぅ……こいつの撫で方落ち着く………。やべ、気持ちいい……。話しながら思い出してきた黒い感情が霧散して………くぅ…………。

 

 

 

 

 

 この後眠りについた霞黒の寝顔を写真に収めるなどして堪能したエレナが観測されます。

 

 

 

カンッ




 あてーんしょーん、はろはろ~。何故か書いてしまったクロウズです。
 小ネタはどれを書こうか、本編は次どうしようか悩んでたらいつの間にかこんなお話が出来てしまいました。なんでこんなの出てきちゃったんだろう。
 喧嘩の描写はあれだけです。あれ以上多くしてしまえば文字数が大変なことになりますし、そこまで書くとくどいですしね。喧嘩時は殴る蹴るよりは爪を突き立てたり噛み付く方が多いです。



 うん、これ以上言える言葉がないです。
 ではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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俺の妹がこんなにもかわいいのは当然のことだっ!!

 何故か書いてしまったものパート2.完全IF!


篠宮(しのみや)、こっちの作業終ったぞ」

 

 

 生徒会室の机に、書類の山を置く。これだけの量はさすがに肩が凝るな。

 

 

「あ、すみません先輩。本当なら役員である私たちでやるべきなんですが」

「今更だろそれ。それに、丁度いい時間潰しになったし、俺はこれで」

「あらぁ、火野君お疲れ様〜。今、お茶入ったわよ〜」

 

 

 生徒会室を後にしようとしたところで会長の天都(あまつ)かなたのお出ましだ。どが付くほどの天然でどうして会長になれたのか疑問だけど、人望は厚いらしい。こいつから頼み事をされたら、ほとんど全員が断れない。かくいう俺も断れず手伝うことになった1人だ。

 天都は紅茶の入ったティーカップを持ってきてくれたけど、俺にはゆっくりお茶を飲む時間なんてもうないんだ。

 

 

「悪いけど、これから華道部に行かないといけないんだ。淹れてもらって悪いけど」

「あら〜、残念ね。それじゃあ、一杯だけ〜」

「ああ、それなら」

 

 

 紅茶に角砂糖を5個入れてかき混ぜ、飲み干す。なんでこいつの淹れる紅茶は美味いんだろうか。今度聞いてみよう。

 空になったティーカップを返すと、すぐに華道部の部室へ。さて、2人ともいるかなっと。

 

 

「鈴ちゃん、春ちゃん。お待たせー」

「あ、兄様」

 

 

 部室の戸を開けて中に入ると、マイリトルエンジェルズの1人、不知火五十鈴こと鈴ちゃんが笑顔で出迎えてくれる。鈴ちゃんは俺の一つ下の2年生で学年では指折りの成績優秀者で、この華道部に所属してるしっかり者の妹だ。別に実の妹でも義理の妹でもないけど幼い頃からずっと一緒にいたから俺にとっては妹みたいなものだし、向こうも兄様と呼んでくれてる。しっかり者で少し厳しくなった所はあるけど俺や春ちゃんには何だかんだ言って甘えてきたりするから癒される。鈴ちゃんマジ天使。

 

 

「兄様、今日は生徒会の手伝いだったが疲れてないか?」

「うん全然平気だよ。鈴ちゃんこそ部活お疲れ様」

「や、私の場合は自分で決めたことだから、そんな……」

 

 

 ぽんぽんと頭を撫でてやると、鈴ちゃんは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに喉を鳴らす。ほんと癒される。ちなみに鈴ちゃんがこんな口調なのは俺の趣味だったりする。年が経つにつれて鈴ちゃんは凛とした雰囲気になってきたから、口調も変えてみようと提案して、落ち着いたのがこれだ。

 

 

「あれ、そういえば春ちゃんは?」

「春瑚なら、あっちで……」

 

 

 鈴ちゃんの指差した先には、もう1人のマイリトルエンジェル、夢前春瑚こと春ちゃんが壁にもたれて可愛らしく寝息を立ててた。

 春ちゃんは一番下の1年生で、華道部にいるけど実際は園芸部だったりする。春ちゃんは植物が大好きで並々ならない愛情を持って接してる。でもその反面、人と接するのは少し苦手なようで、初対面の人と話したりするときは俺の後ろに隠れてしまう。その時の仕草から何までがまたとても可愛くて抱き締めたくなる。しっかり者の鈴ちゃんと違い、春ちゃんはよくぼーっとしたり今みたいに寝ちゃったりと、森ガールがしっくりきすぎるくらいにゆるふわな子だ。すっごく癒される。

 

 

「春ちゃん、そろそろ起きる時間だよ」

「んぅ……おにーさーん……」

「おっとっと」

 

 

 耳元で声をかけてやると、まだ起ききってないみたいで寝ぼけたまま俺の方に倒れ込む。揺すった方がいいかもしれないけど、そんなことしたら春ちゃんが可哀想だ。春ちゃんはそのまま擦り寄ってきて、また寝始める。鈴ちゃんが猫っぽいところがあるのに対して、春ちゃんのこういったところは犬っぽいな。

 起こすのは可哀想、だからと言ってこのままも駄目だとなると、やっぱりおんぶかな。起こさないようにゆっくり背負って、鞄を持つ。うーん、相変わらず軽いな。春ちゃんって野菜の比率多いんだよなぁ。

 

 

「むぅ、ずるいな春瑚は」

「そんな拗ねなくても、鈴ちゃんも後でしてあげるから」

「ほ、本当か兄様?」

「ロンオブモチ。可愛い妹の頼みは断らないからなっ」

「や、やった……!」

 

 

 小さくガッツポーズ取る鈴ちゃんマジ癒し。そんな鈴ちゃんも春ちゃんもいつかは嫁に行くんだろうな……嫁に…………嫁……。

 

 

「絶対に駄目だぁ!!」

「に、兄様?急に大声出してどうしたんだ?」

「ふぁ……?」

「鈴ちゃんも春ちゃんも嫁には行かせない!むしろ俺がもらう!2人とも俺の嫁!!」

「に、兄様……!そんな大声で叫ばなくても………!」

「おにーさん大胆ですね~」

「法律なんか関係ない!2人とも俺が嫁にもらう!!」

 

 

 この後我を忘れて叫び続けた所為で、何事かと駆け付けた風紀委員に説教食らった。人間誰しも暴走することはあるんだから大目に見てほしいものだ。今回は完全に俺に非があるんだけどな。




 ドーモ、クロウズです。黒狗に引き続き何故か書いてしまったシリーズです。シリーズ化の予定なんてありません。
 これは人間を止めてるであろう例のアネを見てたらパッと頭に思い浮かんだ結果ですね。本編の霞黒のシスコンレベルを2とすれば、この霞黒のシスコンレベルは5ですね(5段階評価)。本編でシスコンっぷりを発揮できないなら番外編で発揮すればいいよね!?(謎理論)
 こんなん書いてしまいましたが、後悔なんてしてません。後悔なんてしてる暇はない。俺は先に進む、そう裕也に誓ったんだ!



 ではこの辺で。はらたま~きよたま~。


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恋する病弱少女

 あの、初めまして。聖櫻学園3年B組の正岡真衣と申します。私は体が弱く、授業を受けていてもすぐに保健室へ、ということが多いので、今までクラスの皆さんに迷惑をかけてしまいました。だからといって、今は元気なのかと言えばそうではなく、今日も授業のほとんどを保健室で過ごすことになりました。

 そうして寝込むことが多かった私ですが、今、

 

 

「あ、桐崎さん。部活終りですか?」

「ん、まあな。正岡は、体調はどうだ?」

「今は何ともありません」

 

 

 彼、桐崎剣丞さんに恋をしています。

 彼は去年こちらに転校してきた方で、剣道部に所属している同級生です。今年はクラスが違うので滅多に会えませんが、部活が終るとわざわざ保健室へ来てくれます。そのほとんどは私と関係ないのですが、こうして会えると、とても嬉しいのです。今日はどうやら竹刀の手入れの最中に手を切ったそうで消毒に来たようです。

 

 

「今から帰るのか?」

「はい」

 

 

 それでも帰る時は途中まで送ってくれます。

 

 

「随分と嬉しそうだな」

「えっ?あ、その……」

 

 

 それは貴方と一緒にいられるから、と言えない自分が恨めしいです。実際に付き合えてあんな風に一緒にいられている火野さんと望月さんが羨ましいです。……あ、でも、あそこまでは恥ずかしくて無理ですね。

 

 

「?変な奴だな。そういえば今日の練習で律がな」

 

 

 そう言って笑う桐崎さんは、どこか楽しそうでした。五代さんが従姉なのは聞いてますが、この笑顔が家族だからだと思うと、胸が苦しいです。

 

 

「あの……」

「ん?」

「桐崎さんは、その……す、すごく、背が高いですね……」

 

 

 好きな人は、いるんですか?そう聞ければ、どれだけ楽でしょう。そんな勇気は私にはなく、思わず変なことを言ってしまいます。すると桐崎さんは目をきょとんとさせて、小さく噴き出して笑いました。

 

 

「180を少し越えてるくらいだが、確かにお前と比べたら高いか」

「あぅ……」

 

 

 私の頭をぽんぽんと叩いて微笑む桐崎さん。その笑顔は、夕日と重なって少しかわいらしかったです。普段はキリッとしてかっこいいから、そのギャップでしょうか?

 その後バス停で別れて、私は先を歩く桐崎さんの背中を眺めながら、バスが来るのを待ちました。

 

 

 

 

 

 あれから数日経った今日の放課後は、体調が良かったので保健室に行くことはありませんでした。なので、同じクラスにいる五代さんから、桐崎さんについていろいろ聞いてみることにしました。

 その結果、五代さんは桐崎さんのことを家族として、剣道の良きライバルとは見ているようでしたけど、恋愛での好きではなさそうでした。少しほっとしました。すると、

 

 

「正岡、いるか?」

「ひゃいっ!?」

 

 

 急に桐崎さんが教室に来て、思わず変な声が出ました。

 

 

「あの、どうしました……?」

「ああいや、律から、今日は部活はいいからお前を送って帰れって言われてな。大丈夫か?」

「は、はい、大丈夫です………」

 

 

 五代さん……もしかして気付いてこんなことを……?

 今日も今日とて、桐崎さんと一緒に下校しますが、五代さんの後押し?の所為か、いつも以上に意識してしまいます。桐崎さんの顔もまともに見れません。で、ですがこれはチャンスというものです。だから、

 

 

「あの、桐崎さん……!」

「ん?」

「その、私……」

 

 

 心臓がドキドキして、今にも息が詰まりそうですが、私は勇気を振り絞って、

 

 

「私は、貴方の事が―――」

 

 

 

 

 

to be continued...




 続き物番外編、《恋する病弱少女》です。主役は小ネタでも人気の正岡真衣ちゃんです。本編と絡めるかは未定です。本編はあくまでも霞黒×エレナですからね。でも真衣ちゃん書いてると結構楽しい。
 本編もありますが、こちらも最後までお付き合い下さると幸いです。


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恋する病弱少女改

「私は、貴方の事が好きです!!私と、付き合ってください!」

 

 

 桐崎さんの目を見てはっきりと、そう告げました。私の顔は今にも火を出しそうなくらい熱くなって、正直逃げ出したくなってしまってます。

 

 

「………」

 

 

 対して桐崎さんは、ただ黙ってました。いつもと違って目を少し見開いてるので、驚いているのは間違いないでしょうか。何か言うべきなのか、そう迷ってるようにも見えます。

 

 

「……そっか」

「はい」

 

 

 口から出たのは、小さく呟くほどの大きさでの言葉でしたが、それでも嬉しくなってしまうのはどうしてでしょうか。桐崎さんはその後、嬉しそうな、困ったような表情で頭を掻いて私の方へ向き直ると、

 

 

「悪い。こういう時、なんて言えばいいか解らなくてな」

 

 

 と、謝ってきました。曰く、昔から剣道一筋だったり風紀委員としていることが多かったから告白されたことは一度もなかったそうです。真面目で、剣道をしている時の桐崎さんはとてもかっこいいと思っていた私は、告白自体はあるんじゃないかと思ってました。同じ部の後輩にも人気あるみたいですし。

 

 

「返事は、待ってもらっていいか?」

「え……あ、はい」

 

 

 今聞いたら、どちらにしても倒れてしまいそうですし。

 

 

「では、お先に失礼します」

「ん、送っていかなくていいのか?」

「はい、今日は大丈夫ですから。返事、お待ちしてます」

 

 

 私は頭を下げて、先に帰らせもらいました。

 

 

 

 

 

 

『ははは、それで先に帰ってしまったのか』

「………笑い事じゃないですよ五代さん」

 

 

 そのことを、枕を抱きしめながら五代さんに電話したら、笑い飛ばされてしまいました。あの時はとても恥ずかしかったんですからねっ!

 

 

『剣丞も帰ってから様子が変だったのも、そのせいかな』

「え、桐崎さんどうかしたんですか?」

『拙者がいくら声をかけても上の空でな。まあ、初めて告白されたからだろうな』

「やっぱり、初めてだったんですね………」

『随分嬉しそうにしていたな。まあそれは、お主もだな』

「ご、五代さん!!」

『はは、すまない。では、またな』

「あ、はい」

 

 

 五代さんとの通話を終え、ベッドに寝転がって今日のことを振り返ります。珍しく朝から体の調子が良くてそのまま授業を受けて、放課後に桐崎さんが教室に来て一緒に帰って、その途中で………。

 

 

「私、告白したんですよね……」

 

 

 恥ずかしさと嬉しさが合わさって口元がだらしなく緩んでしまいますがどうしようもなく、ベッドの上を転がります。えへへ、桐崎さん………はっ!あ、危ない危ない。まだ付き合えたわけじゃないんですから、気を引き締めないと。でも、

 

 

「返事、いつ来るかな……?」

 

 

 やっぱり待ち遠しいです。桐崎さんは真面目な方ですから、そんなに長くはならないでしょうか?いえ、真面目だからこそ長くなるかもしれません。オーケーしてくれるでしょうか、それとも断られるでしょうか。どちらだとしても、私は後悔しません!………嘘です、やっぱりオーケーしてほしいです、はい。

 

 

 

 そうして明日返事されるかもと思ってなかなか眠れずにいた私は、翌日寝不足+風邪で学校に行けず家で療養することになってしまいました。

 

 

 

 

to be continued...




 続き物番外編《恋する病弱少女》の2話目です。タイトルが改なのは、まぁ、ほら、ね?



 もうちっとだけ続くんじゃよ。


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恋する病弱少女改二

 数日かけて風邪を治しやっと登校出来た今日のお昼休みにもまた、いつものように保健室のお世話になってしまいました。ただ、今日は体調は優れていたので大丈夫のはずだったんですが。いつの間に保健室へ?

 

 

「正岡、大丈夫か?」

「は、はいぃっ」

 

 

 横を向くとベッドの近くに椅子を持ってきてそこに座ってた桐崎さんと五代さんがいて、思わず声が裏返ってしまいました。

 

 

「え、あの、桐崎さん……!?どうしてここに………!」

「なんだ、覚えてないのか?」

 

 

 五代さん曰く、お昼休みにたまたま会って、それだけで気が動転した私が壁に頭をぶつけて倒れたらしく、そのまま桐崎さんに運ばれて今に至るらしいです。どうりで頭が痛いと思いました。それにしても、たまたま会っただけでそんなことになるなんて………恥ずかしいです。

 

 

「心配したんだぞ?」

「すみません……」

 

 

 桐崎さんは大げさに溜め息を吐いて、うつむく私の頭を撫でてくれました。桐崎さんの撫で方、優しくて気持ちいいです。

 

 

「昨日まで風邪引いてたと聞いてから、その間剣丞は気が気じゃなかったのだぞ?部活でもそわそわしててな」

「思い出させるな、恥ずかしいから………」

「そ、そうだったんですか」

 

 

 そこまで心配してくれたということは、もしかして、好ましく思っていてくれているってことなのでしょうか?そう思うと嬉しさと恥ずかしさで顔が熱いです。

 

 

「では、真衣殿も起きたことだし拙者は戻る」

「あ、わざわざありがとうございました」

「気にするな。………それと、剣丞。ちゃんとするのだぞ」

「ほっとけ……」

 

 

 最後、お2人で何か言ってたようですが、小声だったので私には聞こえませんでした。

 五代さんは先に教室に戻りましたが、桐崎さんはまだ残ってくれてます。2人きりだと意識すると、頭が沸騰しそうになります。

 

 

「なあ、正岡。あの時の返事なんだが」

「は、はいっ」

 

 

 先程までと違って真剣な表情になりました。ずっと待ってたことなんですが、少し逃げ出したい気持ちもあります。距離は近く、ベッドにいる状況では逃げれるわけもありませんが。

 桐崎さんは私の方をじっと見て、

 

 

「俺も、お前が好きだ」

 

 

 はっきりと、そう告げてくれました。

 

 

「ほ、ほんとですか?」

「ん、ああ」

「どっきりとかじゃないですよね?」

「心配なら、キスでもしようか?」

「キっ!?」

 

 

 桐崎さんの手が私の頬に触れ、それだけで顔が熱くなるのが解ります。

 

 

「あ、あぅぅ……ま、まだ駄目です!」

「おっと…………とおっ!?」

「あぁ、ごめんなさい!!」

 

 

 恥ずかしさのあまり思わず突き飛ばしてしまい、バランスを崩した桐崎さんは椅子から転げ落ちてしまいました。ああ、私はなんてことを……!

 

 

「だだ、大丈夫ですか!?」

「まあ、なんとかな」

「ごめんない、恥ずかしくてつい……」

「いいって。こっちこそ悪かったな」

 

 

 そう言って撫でてくれる桐崎さん。ん……ちょっとくすぐったいです。

 それからは、お互い名前呼び(私はまだ恥ずかしいですが)となり、これまでと同じように、でも距離は近くなって、一緒に帰るようになりました。ちなみに、その日の夜に五代さんに電話でからかわれたりしたのは内緒です。

 

 

 

 

fin.




 というわけで、恋する病弱少女シリーズ終了です。あくまで番外編なので、本編では2人は付き合ってない可能性がございますのでご了承下さい。


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白き獣は砂上に眠る  “NEW”

完全IFパート2。
死ネタを含むので閲覧注意


 瞼が重い。体もうまく動かせない。まるで石みたいに、びくともしない。いつもならご主人を引っ張って走るけど、今日はゆっくりと、ご主人に抱っこされていつもの公園に向かってる。

 

 

 

  ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 僕の名前はシロ。その名前通り真っ白な毛が特徴の犬だよ。小さい頃に大っきいご主人に拾われてこの火野家に住むようになったんだ。大っきいご主人とちっさいご主人は家にいないことが多いから、2人の子供のご主人が僕の遊び相手。この頃から僕は、散歩の時に見つけた公園の砂場が大好きだ。ご主人と一緒に砂まみれになるまで遊んで帰って、ちっさいご主人に叱られた。

 

 

「シロー、砂落とすから大人しくなー」

「ワンッ、ワンッ」

「あ、こら!暴れるなって!」

 

 

 ご主人は僕の毛についた砂を全部払うために体中をわしゃわしゃしてくるからとってもくすぐったい。

 

 

 

 

 

 たまにご主人に会いに、ちっさいのが2人やってくる。2人とも絶対に花か土の匂いがするから、来たらすぐに解るし、ご主人もちょっと嬉しそうにしている。この2人も僕の遊び相手だ。

 

 

「シロちゃーん、よしよし〜」

「相変わらずもちもちしたほっぺだな、お前は」

「ワフン…」

 

 

 2人はよく僕を撫でたりほっぺたを引っ張ったりする。ご主人とは違う手つきで、すぐ力が抜ける。特にご主人から春ちゃんって呼ばれる方は、のんびりしてる子だから僕と一緒にお昼寝をすることが多い。逆に鈴ちゃんって呼ばれる方はしっかりしてて、ご主人が忙しい時は代わりに散歩に連れて行ってくれる。

 

 

 

 

 

 いつからか、ご主人は家にいる日が多くなった。そういう時はいつも怪我をしてたり、血の匂いをつけてたり。散歩の時によく見かける大きい犬みたいに、気が立ってる。この頃のご主人は、ちょっと怖かった。だから僕は、いつもよりもご主人の傍をうろうろする。そうするとご主人は何も言わずに僕をわしゃわしゃしてくれるから。

 

 

「クゥ〜ン……」

「ん、なんでもないから、シロは心配しなくていいよ」

 

 

 ご主人がこういう時は、いっぱい怪我したりした時だ。だから大っきいご主人とちっさいご主人を呼んできて、2人と話し合いさせる。ご主人達の話は解らないけど、最後はいつも笑ってるから大丈夫だと思う。僕がいないとご主人はダメダメみたいだ。

 

 

 

 

 

 ご主人達の家に来てからいっぱい時間が経ったある時、大っきいご主人やちっさいご主人、ちっこい2人とは違う匂いがご主人からするようになった。初めて嗅ぐ、まったく知らない人の匂い。どんな人なのか気になる。

 その人と初めて会ったのは散歩の時。ご主人とぶつかってご主人に乗っかってるのを見た。望月って呼ばれてるその人と話してる時のご主人は、他の4人といる時とはまた違う、困ってそうな、けど楽しそうな顔してた。少なくとも、危険はなさそうだ。でもちっこい2人に興奮してるとこを見ると、ちょっと危険かもしれない。

 この望月って人は、ちっこい2人ほどじゃないけどよく家に来る。鈴ちゃんはその度に警戒してるけど、春ちゃんは懐いてるみたい。あと、ご主人の事で悩んでるみたいで、僕のほっぺをもちもちしながら色々話してくれる。

 

 

「火野くんったら、今日も授業サボってて…困ったご主人様よねぇ」

「ァオン?」

「シロちゃんからも叱ってあげてね」

「ワンッ」

 

 

 何のことかはよく解らないけど、今度ご主人の指をがじがじ噛んじゃお。しっかりしないご主人が悪いことは解ったから。

 

 

 

 

 

 時間がいっぱい経つと、色んなことが変わっていく。例えば、鈴ちゃんがご主人に甘えたり、ご主人から望月って人(今はエレナって呼んでた)の匂いがいっぱいしたり、近所の犬たちが増えて縄張り争いしたり、いつもの公園に人が増えてきたり。

 でも、一番変わってきたのは僕だ。しかも、悪い方に。いつもならいっぱい食べれたご飯も残すようになったし、走り回るような体力もなくなってきた。大っきいご主人に病院に連れて行ってもらうと、もう長くないって言われた。それはそうだ。僕は元々捨てられてて、体は弱かったんだから。ここまで生きれたのは、ご主人達に会えたからだ。

 家に帰ってからの僕は、基本寝たきりになった。たまに家の中を少し歩いて、少しご飯を食べて、ご主人達に撫でられながら寝て。こんな日がいっぱい続いたある日、僕はリードを咥えてご主人にすり寄る。もう、今日が最期だと思ったから、いつもの砂場でご主人と遊びたくて、散歩に行く時のいつもの行動をする。ご主人は悲しそうな顔で、でも解ってくれたのかリードを首輪に付けて、僕を抱っこしてくれた。

 

  ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 「ほら、着いたぞシロ」

「……ヮン」

 

 

 いつもの公園のいつもの砂場に降ろしてもらって、なんとか足を動かして砂を掘る。少し掘ってぺたんと伏せてご主人を見ると、やっぱり悲しそうな顔をして僕の傍に座って撫でてくれる。ご主人、僕がいないとダメダメなのに、これから大丈夫かなぁ……。

 

 

「……おやすみ、シロ」

「ヮン……」

 

 

 いつもよりもゆっくり、優しく撫でてくれるご主人の手を小さく舐めて、僕は目を閉じる。

 

  ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

「……おやすみ、シロ」

「ヮン……」

 

 

 撫でながらそう言うと、シロはか細い声で小さく鳴いてゆっくり目を閉じた。少しの間シロの毛を梳きながらお腹に手を当てる。いつもなら呼吸でゆっくり動くそこは、今はまったく動かない。その事が、シロが息を引き取った事実が、どうしようもなく辛かった。小さい頃からずっと一緒だった家族を抱き締めて、誰もいない公園で1人声を出して泣いた。

 散々泣き疲れて、シロを抱っこして重い足取りで家に帰る。正直、色んな事にやる気が出ない。それくらい、俺にとってシロの存在は大きいものだった。……でも、この事を引きずってばかりだとシロも安心出来ないだろうから、しっかりしないと。ただ、数日は許してほしい。

 

 

 

 

 

 後日、庭に小さいけどお墓も作って、春ちゃんが用意してくれた花を供える。葬儀には俺たち家族だけじゃなく、鈴ちゃんに春ちゃん、それとエレナも来てくれた。3人ともシロのことを可愛がってくれてたから、来てくれたのは嬉しかった。……泣かないように堪えたけど結局号泣した所を見られたのは恥ずかしかったけど。

 来世では、もっと元気に過ごせるように。シロ、いままでありがとう。




 どーも、クロウズです。
 火野家のマスコット、シロとお別れする話です。7月中に向こう2作品の更新が達成出来なかった罰として書きました。
 実は2ヶ月程前にクロウズ宅の愛犬が亡くなりまして。10数年いた子だったので、シロも同じくらい火野家にいたのでうちの子が亡くなったのを忘れないようにとも思いつつ、霞黒くんにも悲しんでもらおうと思って書きました。(ゲスい)
 とはいえ前書きにも書いた通りこちらはIFなので、本編でのシロは今でも元気に走り回ってます。長生きしてます。


 ではでは、今日はこの辺で。はらたま〜きよたま〜


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