やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 (あべかわもち)
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第1章 邂逅
第1話 いつも通り俺の朝は幼馴染から始まる


はじめまして、あべかわもちです。
気軽に読んでもらえたら嬉しいです。


 

 

比企谷八幡の朝は早い。

 

まだ外は薄暗く仄かな太陽の光が差し込む程度の頃、俺は眼を覚ます。

 

枕元のケータイをみると午前6時。

 

ちなみに着信が50件と表示されている気がするが気のせいだ。

 

最近はなぜかこの時間に目が覚めるのが普通になってきたが、4月とはいえ朝は冷え込みがキツく、眠ってやり過ごしたいのが本音。ただ、一度ついた習慣を崩すのは難しい。

 

俺は掛け布団をかぶり直し、まどろみの中で睡魔との緊張状態を楽しむ。この瞬間が俺にとって最も幸福な時間と言っても差支えない。いや小町と居る時間の方が・・・

 

こんなことを考えながらウトウトしているとコンコンと窓をたたく音が聞こえる。

 

なんだよ、邪魔すんなよ。

 

今は俺の至福の時間であって・・・

 

俺がなんだかよくわからない幸福の科学をしていると、窓がガラガラと音を立て、朝の冷え切った空気が部屋に流れ込む。

 

しまった。

 

なんで窓にカギをかけなかったのか。

 

ふざけんなよ昨日の俺。

 

めちゃくちゃ寒ぃじゃねえか・・・いやまずは窓を開けたことについて文句を言えよ。

 

 

「八幡?入るわね」

 

 

ふいに女子の声が小さく聞こえた。

 

こんな時間に誰かが部屋に入ってくるとか、マジ恐怖しかないわけだが、不幸なことにも俺はその来訪者に心当たりがあった。いや、そいつだと断定できる。小町に誓ってもいい。

 

 

「もう入ってきてるじゃねぇか。てか早く窓閉めてくれよ・・・」

 

「なーんだ、もう起きてるし。せっかくあーしが起こしてやろうと思ったのに」

 

「まだ朝早いんだから寝かせておいてくれよ。おい!なんで布団の中に入ってくんだよ!」

 

「え?」

 

「は?」

 

「だから、あーしがあんたを暖めてあげようって言ってるんじゃん」

 

「いやいや頼んでないし」

 

「頼まれてねーし。あーしがしたいからするんだし」

 

 

なんだよそのジャイア二ズム。

 

 

「あっなにかしてきたら八幡に襲われたって小町に言うし」

 

「やめてくださいお願いします」

 

 

やっぱりジャイア二ズムじゃねぇか。

 

 

「つーか狭いんだよ!てか、俺の至福の時を邪魔すんなよ」

 

「至福ってなんだし。あーしと居る方が嬉しいっしょ?」

 

「いや俺は一人の方が」

 

「ごちゃごちゃうるさいし。ほらもっとこっち来るし」

 

「ちょ、おま・・・」

 

 

そんなに抱きつかないでくれませんかね。

 

なんか色々と柔らかくてやばいんだが。特に背中を中心に。なんだかいい匂いもするし。シャンプーの匂いなんだろうけど、なんでこうも俺の使っているのと違うんだろうね?頼むからなんとか耐えてくれよ俺の理性!

 

横向きで三浦に背を向けてるから良いものの、今顔を見られたらまずい。なにがまずいかわからないがとにかくまずい。

 

いやいやリトルはちまんの出番はないぜ?

 

 

「なんでそんなにくっつくんだよ」

 

「別にくっついてないし!あ、あんたはあーしのカイロなんだからごちゃごちゃ言うなし!」

 

「どんなツンデレだよ・・・」

 

「ツンデレってなんだし?」

 

「別に」

 

「教えないと離れない」

 

「教えたら出てってくれるのか?」

 

「却下」

 

「なんだよそれ・・・」

 

「いいから教えろし」

 

「はいはい」

 

こうやって俺の朝は、三浦へのツンデレ講義から始まったが、ツンデレについてはまったく理解してもらえず、「八幡は変態だし!」と罵られるのだった。

 

 



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第2話 やはり俺の後輩はあざとい

気軽に読んでもらえたら嬉しいです。


 

 

「ごちゃごちゃ言ってないで早く着替えるし!」

 

「お前がもっと早く俺を解放すればよかったじゃねぇか」

 

「そ、それはそうだけど」

 

「はぁ。とにかく三浦は先に下に行ってろ。どうせ一緒に行くんだろ?」

 

「うん。早く来なさいよね」

 

 

そう言い残してあいつは部屋を出ていく。まったく困った幼馴染みだ。俺はいつものようにゆっくりとベッドから這い出るとさっさと学校の制服に着替えてダイニングのある1階に向かう。

 

ちなみに三浦の家は俺の家の隣にあり、俺の部屋は2階なのだが、まったくの偶然ながら、三浦の部屋も2階にあって俺の部屋の真向かい。窓の位置まで同じってどういうことだよ。

 

さらにはベランダまで同じ位置にあるので行き着まで容易のご都合設計である。

 

俺から三浦の部屋に行くことはないがあいつは度々俺の部屋にやってくる。

 

特に最近は朝早くにやって来て、俺のベッドに潜り込んでくるようになった。

 

最初に入ってきた時には驚きすぎて悲鳴を上げてしまったくらいだ。

 

心臓に悪いからやめてくれと言ってるのに、ここんとこ毎朝やってくる。まぁ慣れ始めている俺もどうかとは思うのだが。

 

もやもやと朝の出来事について考えながらダイニングに通じるドアを開ける。

 

 

 

「先輩!おはようございます!」

 

 

 

ドン!と大きな音を立てて開けたばかりのドアを反射的に閉じる。どうやら部屋を間違えたようだ。いや、家を間違えているのだろう。

 

もはや猶予はない。さっさと学校に行かなければ!俺は決意を新たに玄関に向けて歩きだす。

 

 

「ちょっと先輩!なんで閉めるんですか!?ていうかどこ行くんですか?」

 

 

リビングの扉が開いたと同時に後ろから誰かが抱きついてきた。

 

 

「家を間違えていたみたいだから、さっさと学校に行くんだよ。問題になったらあれだろ?えっと、ちなみにどちらさんでしたっけ?」

 

「どこから突っ込んだらいいのかわかりませんけど、あなたの可愛い後輩の名前を忘れるなんて、とってもショックです・・・」

 

「はぁ。全く。あざといんだよお前は。てか、なんで一色がここにいるんだ?」

 

「朝ごはんを食べるためですけど?」

 

「そうじゃなくてだな」

 

「もうお兄ちゃん、昨日話したでしょ。いろは先輩のお母さんが町内会の旅行で出かけているから、しばらくいろは先輩も一緒にごはん食べることになったって」

 

「なんだよその説明口調は・・・とにかく事情はわかった。ただな一色」

 

「はい?」

 

「俺から離れろよ。これじゃなにもできん」

 

「嫌です!」

 

 

そう言って俺を抱きしめる力を強めてくる。なんでこうも女子はいい匂いをしてるんだ?匂いフェチではない俺でも気を抜くとクラっとしてしまう時がある。俺クラスだと気を抜くことはないけどね!

 

それにしても三浦といい、お前といい、なんでこうも俺の意見を無視するんですかね。俺の人権はどこをほっつき歩いているんだよ。早く帰ってきてくれ。

 

 

「いろは、ほらこっち来な」

 

「はーい」

 

 

三浦に呼ばれて一色はリビングのソファに座り、なにやら話し混んでいる。朝からゆるゆり的展開は居心地が悪いからやめてね?というか俺やっぱり先に学校に行ってたほうがよくないですかね。

 

 

「お兄ちゃん、なに考え込んでるのか知らないけど、早く食べないと遅刻するよ?」

 

「あぁ。そうだな」

 

 

小町に促されてダイニングで朝食を食べながら、リビングでゆるゆりを繰り広げているあいつらとのことを思い返す。

 

 

三浦と一色は俺の幼馴染と言っても差し支えはないだろう。近くに住んでいることもあって(三浦は隣だが)、小学校の頃からの付き合いになる。

 

高校生になったらこの関係も変わるだろうと思っていたが、三浦は小町を使って俺の志望校を聞き出していたらしく、いつの間にか同じ高校に行くことになった。

 

一色は『先輩と同じ高校に行きたいので、勉強教えてください』とその辺の男子なら勘違いしてしまうような、あざといことを言ってきた。

 

まったくこいつは仕方ない(決してあざとさに屈したわけではない)ので、去年は一色の勉強を見ていたが、その集中力はたいしたもんで、正直受かると思ってなかった総武高に受かりやがった。

 

『これも愛の力ですね!』なんて満面の笑みで言ってきたものだから、やはりこいつはあざといとその認識を改めたんだっけな。

 

 

「あ!今日、日直当番だったの忘れてた!」

 

「いろは先輩もなんですか?実は小町もなんですよ。一緒ですね!」

 

 

なんで小町はそんなに落ち着いているんだよ。俺なら前日からどうやって当番の相手と喋らないで済むかをシミュレーションしすぎて、いつもより30分は早く行くけどな。なんなら全てを俺がやるまである。

 

 

「ちょっと八幡いつまでのんびり飯食ってんの?もう行くし!」

 

「わかったから、後ろから引っ張るなって!」

 

 

バタバタと玄関に向かうこいつらの後を少し間をあけて追う。今日も慌ただしく学校に向かうことになりそうだ。平穏な日々への郷愁にかられながら、少し楽しくなってる自分に気づく。

 

なんだかんだ言っても、たぶん俺はこいつらのいるこの日常が嫌いではないんだろう。

 

正直、退屈はしないですむからな。

 

 



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第3話 どうやら俺の幼馴染は敵同士らしい

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「姦しい・・・」

 

 

急ぎながらも学校まで一緒に行くことにしたらしい三浦と一色と小町は、横に並んで歩きながらお喋りに花を咲かせている。

 

まるで歩く女子会といった感じだ。女子会に参加したことが無いからよくわからないが、まぁきっとこんな感じだろう。

 

会話の中心は一色と小町で、三浦がそれを聞きながら時々会話に加わる。あいつ、いい姉になれそうだ。いやおかんか。口が裂けても言えないな。

 

それにしても、こいつらにはこの言葉がとてもしっくりくる。

 

どれくらいしっくりくるかと言うと、新しいシャーペンを買ったものの書きづらかったので、結局以前のシャーペンを使ってみて「やっぱお前だ!」というくらいにはしっくりきている。

 

シャーペンが変わると勉強の効率も変わるんだよな。八幡調べで3割くらいは変わるからかなり重要なアイテムだ。

 

ちなみに小町に話したら、シャーペンに違いがあるの?って驚かれたがな。あいつ本当にノートとか取っているのだろうか。我が妹ながら心配になってきた。今年はあいつも受験生だから、今度それとなく探ってみるか。べ、別に小町のことが心配なだけなんだからね!あっこれ八幡的にポイント高い!

 

 

閑話休題

 

 

俺は自転車をカラカラ押しながら3人の後を歩いているので会話には入らない。入れてもらえないのではなくて、入らない。ここ大事。

 

 

「小町ちゃん。今日の放課後って暇?」

 

「はい。夕飯の買い物をお兄ちゃんに任せれば、今日は特に用事ないですよ」

 

 

おい、それ用事あるってことじゃないのか?いや買い物くらい小町の頼みならむしろ喜んで行くけどよ。だいたい俺にだって用事がn(以下略)

 

 

「じゃあ駅前の商店街に新しくできたカフェに一緒に行こうよ!」

 

「もちろんですよ!わー楽しみだなぁ」

 

「そこは東京でも有名なお店で、ケーキセットが美味しくてすっごくお得なんだって。あっ、もちろん三浦先輩も行きますよね?」

 

「行く行く。あーしもそこは気になってたし。・・・それに下見として行くのも悪くないかもだし」

 

「あっ!やっぱり三浦先輩はいいです」

 

「ちょ、なんだし!一度誘ったのに断るとかやめろし!」

 

「だって敵に塩を送るつもりは無いですもん」

 

「へー、あーしとやる気?いろはも言うようになったじゃん?」

 

「うぅ、だって、いろはは一年遅れてるじゃないですか?だから今までより強気で行かないと負けちゃうかもって」

 

「いろは・・・」

 

「三浦先輩、私負けないですからね!」

 

「あーしがいろはに負けるわけないし」

 

 

三浦と一色は立ち止り、俺の眼前で握手をしていた。顔は穏やかなのに、目がマジで怖えーよ。女の友情って戦いなんだな(遠い目)

 

話はよくわからないが、どうやら一色が高校生になったから二人は敵同士(ライバル?)になったようだ。学力考査で勝負でもする気なのだろうか。それなら俺もライバルとして負けるわけにはいかない。国語で学年3位を誇るこの俺を舐めるなよ。

 

こんなことを考えていると(最終的に全国模試で俺が11位になるところまで妄想した。なんで妄想なのに中途半端な順位なんだよ!)、小町があきれ顔で後ろを振り返ってきた。

 

「そんなことで二人が勝負するわけないでしょ?全くこれだからゴミいちゃんは・・・でもでも、小町はそんなゴミいちゃんの味方だからね!あっ、これ小町的にポイント高い!」

 

「ねぇ?エスパーなの?なんで俺の心を読めるんだよ・・・」

 

「先輩、女の子には秘密がいっぱいなんです。詮索するとモテませんよ?あっ、ごめんなさい」

 

「おい。その謝罪の意味はなんだ」

 

「だって、その、えへへ」

 

「・・・あざとい」

 

「ちょ、ひどくないですか!?」

 

「いろは、仕方ないっしょ?八幡に気遣いを期待する方が無駄だって」

 

「そうですよ。なんたってゴミいちゃんですから!」

 

「もう、なんとでもいえよ・・・」

 

 

それから小町と別れた後、学校に着くまでの間、幼馴染改めスイーツ(笑)共によるダメだしを食らい続けた俺の精神的ダメージは限界を突破したので、俺は学校に着くと同時に見事なUターンを決めてマイホームへ帰ろうとした。

 

が、突如現れた白衣を着た独身教師に捕まり、教室までお姫様だっこで強制連行されてしまった。

 

俺の黒歴史にまた一つ新たな1ページが加わった瞬間だった。

 



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第4話 やはり俺はボッチであり、リア充ではない

気軽に読んでもらえたら嬉しいです。


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『高校生になって変わったこと』

                  2-F 比企谷八幡

 

 

 まず高校生について定義しておこう。

 

高校生とはなにか?

 

高校生とは、中学生3年生の次の学年であり、大学生になっていない状態だ。

 

そして教育機関の一つということを考えればその環境は中学校とさほど変わらないだろう。

 

ということは、結局のところ、中学生との違いはその名称だけ。

 

そう、中学生が一つ歳をとっただけで高校生になれるということだ。

 

もちろん、受験という篩いにかかっているので、全く何も変わらないとは言わない。ただそれでも高校生になったからといって変わることなど、本質的には何もないはずなのだ。

 

 高校生ということで世間の見る目も変わる。

 

もう高校生なんだからしっかりしなさい。

 

高校生なんだから・・・

 

 

おわかりだろうか。

 

 

このように、「高校生なんだから」という言葉によって、世間は何かしらのイメージを押しつけている。

 

某高校生の言葉を借りれば、高校生だからって誰もがバラ色の高校生活を送るわけではないのだ。

 

つまり、十人十色、隣の芝生は青いということ、つまりみんな違ってみんないいのだ。

 

それは先ほどの中学生と本質的に変わらないということから考えると、中学生の時の生活と変わらなくても良いのだ。

 

 中学校でリア充だった者は、高校生でもリア充に。ボッチだった者はボッチになるのが自然だろう。

 

もちろん俺はボッチであることに誇りを持っているので、進んでボッチになった。決してボッチになってしまったわけではない。

 

 リア充であることは人間強度が下がることであると俺は思う。人間強度とは某変態ロリシスコン吸血鬼ヒーローの言葉を借りれば、自分らしさと同義である。

 

そのため、他人と過ごす時間が増えることで、他人の影響を受けて「自分らしさ」が揺らいでしまうことが考えられる。

 

これは非常に由々しき問題である。

 

自我の崩壊とも言えよう。

 

一方で、ボッチであることは人間強度を高めることになる。俺のような筆頭ボッチになると、「自分らしさ」で溢れていっぱいになるだろう。

 

むしろ爆発するまである。

 

 そう考えていくと、ボッチであることが正義であることは明白であり、ボッチである俺の生き方は肯定されるべきである。

 

むしろ孤高の存在ですらある。

 

つまり、中学生でボッチであった俺が高校生でもボッチであることは自然なことであり、高校生になってなにも変わっていないことも自然なことである。

 

つまり正義と言っても過言ではない。

 

 最も大切なのは、さっき話した通り、リア充であることによる問題をどうにかすることが問題ではないだろうか。

 

決してこれはリア充に対する嫉妬などではない。

 

リア充が世間的に推奨される高校生において、ボッチは肩身が狭い状態になっている。

 

だからボッチ代表であるこの俺が宣言するのだ。

 

リア充爆発しろ!

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

「さて、思い残すことはないか?」

 

「開口一番生徒を沈める気満々の発言はどうかと思います!」

 

「あのな、比企谷。私が出した国語の課題はなんだ?」

 

「えっと、たしか『高校生になって変わったこと』だった気が」

 

「なぜその課題で、この作文になるのか、10文字以内で説明しろ」

 

「リア充爆発しろ!」

 

「ふん!」

 

「ぐはぁ!!?」

 

 

結論を端的に、かつ10文字と言う制限に収めた俺の国語センスをほめることなく、一瞬で俺を職員室のカベに叩きつけてきた。手加減一切なしとかありえんぞ。あー背中マジいてーよ。

 

先生・・・勘弁してくださいよ。

 

さっきの昼飯が遡上しようとしてるんですけど。

 

俺を教室まで運べるくらいだから、腕力がすげーのは知ってましたけど、ここまでだったとは・・・この人ならデンプシ―ロールも再現できるんじゃねぇか?

 

これだから結婚相手が(以下略)

 

 

「全く。君はなんでそうもリア充を目の敵にするのかね」

 

「ボッチにとってリア充は最も注意すべき危険な存在なんですよ」

 

「見ようによっては君も十分リア充だと思うが」

 

「そう感じるなら、先生は今すぐ眼科に行かれた方がいいと思いますよ。そして俺を解放してくれませんか?」

 

「君の腐った眼よりはマシだと自負しているのだがね。まぁいい。時に比企谷、君はなにか部活をしていたかね?」

 

「無視かよ(いえ特には)」

 

「本音と建前が逆だぞ。では、三浦を除いて友達はいるのか?」

 

「ボッチは、世界はみんな平等という信念に基づいているので、特定の親しい友人を持つことは出来ないんです。ていうか、三浦も俺のオブザーバー的な存在で「もういいわかった・・・三浦も難儀な奴だ」?」

 

「つまり、いないということだな」

 

「・・・まぁ」

 

「そうか!それはよかった!」

 

 

よくねーよ。

 

 

「私の見立ては間違ってなかったようだ。さすがは目が腐っているだけのことはある」

 

「先生も同じ眼科に行くべきですね。あれ?俺が行くの前提じゃね?」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、少しついてきたまえ」

 

「どこへ行くんすか?」

 

「君へ罰を与えるのさ」

 

「罰?」

 

「楽しみにしたまえ。悪いようにはしないさ」

 

 

正直、不安でいっぱいです。帰っていいですかね・・・

 

 

「構わんが、逃げたら平面ガエルと同じ気持ちを味わうことができるぞ?」

 

 

そう言ってポキポキと手を鳴らしている。

 

それを見て俺は気づいてしまった。そのネタが古いことは置いといても、学校でも俺には自由はないようだと。はぁ。

 

諦めにも似た溜息をつきながら、平塚先生の後をついていく俺。

 

 

これは、これから待ち受ける、苦しくも甘美な戦慄に似た青春群像へ至る、プロローグにも満たないような最初の一幕なのかもしれない。

 

この青春群像劇のラストで、俺は自分が奏でた旋律を、どう思うのか。

 

今の俺に知る由もないが、今の俺がこのまま年をとっただけの大学生になったとしたら、きっとこう言うのだろう。

 

 

やはり俺はボッチでリア充ではなかった、と。

 

 




コメントや評価して頂いた方、
そしてご拝読頂いている皆様、ありがとうございます!

手が空いたときに随時更新していきます。

少しでも楽しんで頂けるように精進しますので、
これからもよろしくお願いします。


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第5話 どうやら俺のカーストもボッチのようだ

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ボッチにとって初対面の相手とのやり取りほど煩わしいものはない。

 

もし俺が、我が2-Fのキングたる葉山と同じくらいに立ちまわれたとすれば、きっと俺はボッチではないはずだ。

 

だが逆に言えば、俺が俺であることで、俺はボッチであることができるのだろう。詰まる所、俺は俺であって、葉山ではないということだ。

 

 

葉山隼人。

 

イケメン、成績優秀、そしてサッカー部のエース、さらには誰にでも優しい。

 

 

なんだよこのスペック。

 

神様のパラメタ配分は間違ってるだろ。

 

俺に一つでもくれよ。

 

あれ?サッカー以外、俺もイケてね?

 

 

閑話休題

 

 

このクラスのカーストで言えば、最上位に該当する(八幡調べ)。

 

ちなみに俺の幼馴染である三浦は、歯に衣着せぬ物言いやその見た目の派手さもあって、女子の中心的ポジションを確立している。

 

もちろん最上位カーストで間違いない。

 

ただ、どういうわけか、葉山達のグループに居るにも関わらず、葉山達男子とは距離があるように見える(海老名さんともう一人の女子とつるんでいる感じ)。

 

まぁ俺の主観だけどな。

 

 

「隼人君、マジパネェよ」

 

「いやたまたまだよ」

 

「謙遜するところもマジパネェっしょ」

 

 

お前も相当パネェよ。

 

あれ、誰だったっけ? たしか戸毛?。

 

 

昼休みになり、クラスではそれぞれのカーストに従ったグループに分かれて集まっている。

 

もちろん、ボッチの俺は一人教室の隅で息をひそめ、いざという時に備えているのだ。

 

そんな俺にも、すぐ近くで固まっている最上位カーストの会話は嫌でも耳に入ってくる。なぜ近くかというと、三浦の席は俺の右斜め前だから。

 

 

「でも葉山君がゴール決めたから、その試合勝てたんでしょ?やっぱりすごいんだね。優美子もそう思わない?」

 

「隼人がたまたまって言うなら、そうなんじゃない?」

 

「もう、優美子ったら。素直にほめてあげればいいじゃない」

 

「いやでもさぁ」

 

「海老名さん、いいって、本当たいしたことじゃないんだから」

 

「さすが隼人君!やっさしい!」

 

 

うーん。

 

なにがさすがなんですかね?

 

あいつが優しいキングなことはボッチの俺でもわかるけどよ。

 

それにしても、やっぱり三浦のやつ葉山に対して態度が他と違うな。同じクラスになった時には嬉しそうだった気がするんだが。

 

まぁあいつのことだし、自分でなんとかするか。

 

 

てかなんで俺も聞き耳を立てているんだろ。

 

これがカーストの強制力か。

 

ここのところ、ただでさえ寝不足なんだし、さっきは時間を浪費してしまったから、バカ言ってないでさっさと睡眠をとらなければ。

 

そして俺は自分の机に突っ伏したまま、心を無にし、すぐにでも寝られる態勢をとったところで

 

 

「せんぱーい!」

 

 

うん。

 

よし寝よう。おやすみなさい。

 

 

「あれ?聞こえてないのかな・・・」

 

「比企谷先輩!あなたのいろはですよ!起きてくださいよー」

 

 

誰だか知らないが俺をゆすっている気がする。

 

なんとなく声に聞き覚えがあるが、ここで反応してしまうと後々面倒になるから、ここは意地でも寝たふりを

 

 

「たしか眠っている人を起こすのには、キ、キスをすればいいんだよね・・・恥ずかしいけど、先輩のためなら「あー良く寝た!お、どうした一色。いつのまにそこにいたんだ?俺はこの後行くところがあるから、じゃ!」え?待っ・・・」

 

 

そう言い残し、俺は全力で駆け出し教室を後にする。

 

あいつのおかげで教室中の視線が集まっていた。

 

なぜか三浦の方から視線を感じた気もするが。

 

はぁ、まったく。あいつは自分の行動をわかっているのだろうか。

 

 

「とりあえずここなら大丈夫だろう・・・」

 

 

残りの昼休みを過ごすため、俺は今マイベストプレイスにいる。

 

心地よい風が吹いていて、うたた寝には最高のシチュエーションだが、さっきの光景がチラついているからか、睡魔が昼寝しているためか、眠くならない。

 

仕方なく、さっきのことを考えてみる。

 

 

一色いろは。

俺の幼馴染で後輩。

派手さは三浦ほどでないが、清楚っぽさも併せ持つハイブリッドモデル的な見た目のためか、猫を被っているあのあざとい性格が受けているのか知らないが、男子から圧倒的な人気なようで(先週三浦と小町が話していたのを聞いただけだが)、まだ入学して間もないのにファンクラブ設立の話もあるらしい(ファンクラブって現実にあるのだろうか?)。

 

そんなあいつは、入学してからほぼ毎日のようにこの2-Fにやって来る。

 

それも初めは三浦と会うだけだったから良いものの、最近は俺にも声をかけるようになった(さっきみたいに目立つように俺を呼ぶから基本無視だが)。

 

俺がやめるよう本人に言っても素知らぬ顔で「あぁそうですね。でも私が好きでしたことなので、問題ないです!」とか言ってる。

 

いやいや、俺が気になるんですけど。

 

俺のことはどうでもいんですかね。そうですか。

 

三浦といい、一色といい、一体どういうつもりなのか。

 

そんなに俺のカーストを下げたいのだろうか。いやカーストを考えてるのは俺だけなんだろうけど。

 

 

「あっ、やっと見つけました!」

 

「いっ一色!?どうしてここが?」

 

 

マジで驚く俺を尻目に、すぐ横に一色も座る。

 

なんでピッタリくっついてくるのかは、聞いても答えてくれないんだろうな。

 

 

「三浦先輩に聞いたら、たぶんここだろうって」

 

「あいつ・・・」

 

「あの、迷惑でしたか?」

 

「いや、別に迷惑じゃねぇけどよ。ただ、教室であんな風にされると、困るっつーか」

 

「私を心配してくれたんですよね」

 

「あっあれは俺のボッチとしての存在を守るためであって、別にお前のためなんかじゃねぇよ」

 

「わたし、知ってます」

 

 

そういって頭を俺の方に寄せてくる。

 

 

「先輩が誰よりも優しいこと」

 

「・・・優しくなんかねぇよ」

 

「ふふ、そう言うと思ってました。でも、先輩がどう考えていようが、先輩はあの時もさっきもこれからも、私にとってはただ一人の、とっても優しい、王子様です!」

 

 

一色が、ぎゅっと横から抱きついてきた。

 

今朝とは違って、顔の横に顔、胸の横に胸がある。

 

これはやばい。

 

どれくらいやばいかというと、マジやばい。

 

 

「お、おい!」

 

「しばらくこうしていていいですか」

 

「・・・やっぱりあざといな。お前」

 

「そうですよ。あざとくないと、こんなことできませんよ」

 

 

そういう一色の顔は真っ赤だった。

 

反射的に慌てて眼をそらしてしまう。きっと俺も赤いんだろうが、なにも言ってこないからバレてはいないはずだ。そうだよな?

 

 

「せんぱい?」

 

「い、いやさっき寝違えたようで、悪いがそっち向けない病が」

 

「だったら、こうすれば問題ないですね」

 

 

一色は俺の真正面に体をずらして、俺の顔を下から覗きこんできた。

 

その上目づかいは反則だろ・・・ちょっとドキッとしたじゃねぇか。ちょっとだけ。

 

 

「お、おい、一色!?」

 

 

なんで目を閉じて、徐々に近づいてくるんだ。

 

俺も早く動かないと、ヤバいと頭ではわかっているのだが、体が動こうとしない。

 

くっ、あいつの上目遣いには相手を石にする特殊スキルが。

 

えっ、もう鼻が当たって・・・

 

 

「せんぱい・・・」

 

 

キーンコーンカーンコーン

(予鈴A:ヤラセネェヨ)

 

 

キーンコーンカーンコーン

(予鈴B:ヤッテヤリマシタネアニキ!デモオソカッタヨウナキガ・・・)

 

 

「あーあ残念。今度は先輩からお願いしますね?」

 

いつの間にか立ちあがってた一色は、ウィンクとともにそう言い残して、さっさと教室に戻っていった。こころなしか、彼女の足取りはスキップしているようだった。

 

俺は対照的に茫然としてしまい、しばらくそこから動くことができず、結局授業をさぼることになってしまった。

 




おかしいな。

プロットでは、ここで雪ノ下(雪乃)さんの登場だったのに。しかも前より長いし。。。

これが「あざとい」の力か。

いろはすさんパネェ。



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第6話 やはり俺はなるべくして彼女と出会う

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あれは昼休みの前半のことである(後半は一色に振り回されて終わったので話が前後しているが)。

 

俺は授業終わりに平塚先生に捕まり、とある教室まで連行されてしまった。

 

先生はその教室の扉を豪快に開け、俺を中に放り込む。

 

全く抵抗できないところがなんとも恐ろしい!

 

 

「というわけで紹介しよう。彼女は、雪ノ下雪乃だ」

 

 

これは驚いた。

 

窓際の机に座っている雪ノ下雪乃とはこの学校で最も有名な女子生徒だ。

 

眉目秀麗、才色兼備、深窓の令嬢といった言葉がピッタリで、流れるようなストレートの黒い髪は美しく、どこか儚げな雰囲気も相まって、告白した男の数はつゆ知れず。

 

といっても玉砕も同数であるらしいが。

 

また、噂では彼女の父親は県会議員であるという。

 

まさしく生まれながらの勝ち組ってやつだ。

 

それゆえの悩みもあるのかもしれないが、俺なんかじゃ理解できないだろうな。

 

なぜ俺がこんなに詳しいかというと、三浦が俺に雪ノ下について語ることがよくあるからだ。

 

なぜか毎回「あーしも黒髪にしようかな?似合うかなー」と呟いている。

 

そのままでいいと思うが、一度くらいは黒髪も見てみたいものだ。

 

決して俺の趣味ではない。

 

 

「・・・先生。入る時にはノックをしてくださいとお願いしていたはずですが。それと、『というわけ』では全くわからないのですが」

 

「右に同じく」

 

「・・・誰ですか?この腐った魚みたいな眼をした男は?」

 

 

怖!ちょっと話に乗っかっただけで腐った眼呼ばわりされるとは流石の俺でも初めてだぜ・・・銀色の天パ侍の気持ちが少しわかった気がする。

 

 

「気にするな雪ノ下。彼の眼は元からだ」

 

「あっ、ごめんなさい。私としたことが唯一のコンプレックスを突くようなことをしてしまったわ。私ってこう見えても思ったことを喋る主義だから」

 

 

俺の代わりにこたえてくれたのはありがたいですけど、全くフォローになってませんよ?

 

あと雪ノ下も俺の眼がコンプレックスだとなぜわかったのか。

 

見ればわかる?そうですね!

 

そう言えばあの番組が終わってから、昼休みにTVを見る人は何を見てるのだろう。ちょっと気になる。

 

 

「それでだ雪ノ下。今日から彼、比企谷八幡をこの部活に参加させて、彼の腐った根性を少しでも改善させてほしい。見ての通り、彼は憐れむべき悲しい奴なのだ」

 

たしかにとでも言いたげに頷く雪ノ下。なぜ初対面なのにすぐ同意しているのか、その理由を俺の代わりに作文にまとめてほしい。なにを書かれるのか、八幡気になります!

 

 

「そんな話、寝耳に水なのですけれど」

 

「今初めて言ったからな」

 

「お断りします。彼の腐った眼をみていると、身の危険を感じるので」

 

「安心したまえ。彼はこう見えても小心者でね。犯罪になるようなことは思ってもできない小悪党だ。私が保障しよう」

 

 

信用してくれるのは嬉しいですが、なんで犯罪になるようなことを考えると思われてるんですかね。やっぱり信用されてないじゃないか。

 

 

「そもそも、私が部長ですから彼の入部届けを受理しない限り、ここで活動できないはずですが?」

 

「大丈夫だ。その手間を取らせないために、私が代理で受理しておいた。顧問の許可があるのだから問題あるまい」

 

「・・・」

 

 

うわー。

 

この人笑顔で何言っちゃってんの?

 

それ、ただの職権乱用じゃねえか。

 

というか俺の意志は全く無視ですか。そうですか。

 

あと雪ノ下さんもなんで悔しそうなんですかね?

 

 

「あの、そもそそも俺部活なんてやりたくないんすけど」

 

「ほぉ?あのふざけたリア充へ向けた犯行声明文を理由に停学くらいにはできるのだがな?ほら、私って『生活指導』も担当しているから」

 

 

やっぱり職権乱用じゃねえか!

 

 

「俺に選択肢はないんですね・・・」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

「わかりました。なにを言っても無駄のようなので、彼の入部を認めましょう。じゃあ、すぐに退部届を書いてちょうだい」

 

「私が受理するとでも?」

 

「はぁ」

 

 

雪ノ下は額に手を当て、首を左右に振って、やれやれと言わん顔をしている。

 

そこまで拒否らなくてもとは思うが、俺自身もこの部活に入りたいわけじゃないから別に構わないのだが。

 

 

「よし!話は決まったようだな。では比企谷。早速今日の放課後から活動を始めたまえ。少しはそのふざけた生活態度もマシになるだろう。ここはそういう部活だからな」

 

 

平塚先生はキメ顔でそう言って、颯爽と部屋を出ていった。

 

間違いなく内心してやったりと思っているのだろう。

 

ガッツポーズをしてるまである。

 

平塚先生が出て行ってから、雪ノ下は俺の方に顔だけ向ける。

 

 

「よろしく、比企谷くん」

 

「あ、あぁ」

 

 

彼女、雪ノ下雪乃は、全くの嬉しさの欠片がない表情をしているが、俺も負けず劣らず引きつった顔をしていることだろう。

 

この部活でやっていけるか、不安しかない。

 

逃げたら平塚先生に今度こそ三途の川に放り込まれるだろうし。

 

やれやれ。

 

こうして俺達は出会ってしまった。

 

どこかの脱力系主人公の言葉を拝借することにしよう。

 

しみじみと思う。偶然だと信じたい、と。

 

 



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第7話 俺の幼馴染と彼女は相性が悪い~前編~

前編です。


放課後。

 

それは甘美な響きを持つ、自由の象徴。

 

学生にとっては、一日で最もそのチャイムが待ち遠しいもので、俺もその一人だ。

 

特に孤高のボッチである俺クラスになると、チャイムと同時に教室を出られるように、椅子を机から後ろにずらしておき、いつでも体が脱出できるように準備している。

 

今日もチャイムと同時のスタートダッシュに成功したはずなのに、ドアを開けた先に待ち受けていたのは俺を夜な夜なラーメン屋に連れ出す生徒指導の平塚女史だった・・・

 

そんなこんなで俺は結局昼休みに連れてこられた教室の前にいるわけだ。

 

いつまでもドアの前なのもアレだし、入るか。

 

おっとノックしないと怒られるんだっけか。

 

 

「ちーす」

 

「あら?どなたでしたっけ?」

 

「さっき昼休みに紹介しただろ」

 

「昼休み?あぁ、今すぐ帰りたいや君ね。今すぐに帰ってもらって構わないわ」

 

「俺をそんなやる気ない奴みたいに言うなよ」

 

「やる気あるようには到底見えないのだけど」

 

「・・・正解だ」

 

 

そうでしょうと言わんばかりに頷く雪ノ下。なんでそんなドヤ顔なんですかねぇ。

 

 

「それよりも、いつまでそこに突っ立ってる気?そこにいると他の人の迷惑になるわ。あなたの面倒をみるのは平塚先生の頼みでもあるし、本当に、全くもって遺憾ではあるのだけど、この部屋に入ることを許可します」

 

「俺はこの部屋に入るのにいちいち許可がいるのかよ・・・」

 

「私は部長で、あなたは部員。部長の決定に従うのが、部員の務めなのよ」

 

「どこぞの団長さんだよ」

 

「団長?何を言ってるのかしら。眼だけじゃなく耳まで腐ってしまったのね。なんて可哀想な人」

 

「ちょっとしたボケでもそれだけ罵詈雑言を浴びせることができるのはもはや才能だな」

 

「あらそんなに褒めないでくれる?て、照れてしまうじゃない」

 

「全く褒めてないんだが」

 

 

なぜ本気で照れているのか。

 

 

「まぁいいや。それで俺はここでなにをさせられるんだ?」

 

「平塚先生からなにも聞いていないの?」

 

「あぁ全く」

 

「そう――じゃぁゲームをしましょう」

 

「あん?なんのゲームだよ」

 

「この部活がなんの部活か当てるのよ。質問はしてもいいけど、答えるかは私の気分次第よ」

 

「気分かよ!?・・・この部活の他の部員は?」

 

「いないわ。質問終了ね」

 

「もう終わりかよ!」

 

 

ヒント少なすぎでゲームとして成立しているとは言えないだろこれ。

 

まぁ、とはいえ、なんとなくの目星はついているんだが。

 

これでも国語学年3位の俺を舐めないでもらいたいね。

 

まずこの部活が少人数で出来ること、そしてこいつはずっと一人で読書していることを考えれば、、、真実はいつも一つ!

 

 

「わかったぞ」

 

「どうぞ」

 

「文芸部だ」

 

「その理由は?」

 

 

おれはつらつらとさっきの話をする。

 

決まったな。

 

 

「外れよ」

 

「ばかな!?」

 

「なにかしらその反応。ひどく不愉快なのだけれど。まぁいいわ。それであなたは・・・その眼を持って生まれたことを後悔していないかしら?大丈夫。私が腐ったその眼で生きることを認めてあげるわ」

 

「お前は一体何者なんだよ。認められんでも生きていくわ。というか、その話とこの部活がどう関係するんだ?」

 

「困っている人には救いの手を、自分を許せない人には慈悲の心で接し赦す、モテない男子には女子との会話を。つまり、奉仕、ということよ。それがこの部の活動」

 

 

奉仕部?そんなもんがあったとは驚きだ。というか赦すって、おれの眼は罪なんですか。そうですか。どこぞの竜の人の気持ちがわかる気がする。主夫スキルで言えばいい勝負だろうしな。

 

 

「優れた人間には、哀れな者を救う義務がある。だから、あなたの問題も解決してあげる。感謝なさい」

 

 

すげー上から目線だなおい。こいつさては友達いねぇな?

 

 

「歓迎します。ようこそ奉仕部へ」

 

 

百歩譲っても、到底歓迎されているとは思えんが、どうやら俺は奉仕部なるよくわからない部活に入ってしまったようだ。

 

 



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第8話 俺の幼馴染と彼女は相性が悪い~後編~

後編できました。


「失礼しまーす。ここに八幡いない?あ、いた」

 

「誰かと思えば三浦か。一色とケーキ屋行くんじゃなかったのか?」

 

「いろははもう小町と合流してるし。八幡も行くんだから迎えに来てあげたの。嬉しいっしょ?」

 

「何言ってんだか。あぁ、残念だが、おれは行けないんだ」

 

「はぁ?なんでよ?」

 

「彼がここの部員だからよ」

 

「へ?」

 

 

三浦は驚いたように声の方を向く。入口近くに座っていた俺に話しかけていたから、奥にいた雪ノ下には気づかなかったようだ。

 

 

「・・・雪ノ下、さん」

 

「三浦さんだったかしら。久しぶりね」

 

「覚えてもらえて嬉しいじゃない。ねぇ雪ノ下さん」

 

「・・・どうも」

 

 

あれ?おかしいぞ。なんでこんなに冷たい視線が飛び交っているんだ。まじで部屋の温度が一気に真冬になった気がする。いや言いすぎか。

 

 

「なんだお前ら知り合いなの?」

 

「ちょっと、ねぇ?」

 

「えぇ、ちょっと」

 

 

女子には色々あるのだろう。あれだけ雪ノ下のことを話題に出していたから、会ったことあるとは思っていたけどな。というか言いすぎじゃないかも。やっぱりこの部屋寒くなってるわ。あっドア開いたままだ。

 

 

「まぁいいや。八幡、さっさと帰るよ」

 

「さっきも言ったが俺は行けないっつーの」

 

「あんたのおごりね」

 

「ちょっとは話を聞いてもらえませんかね」

 

 

さすがの俺もこれだけスルーされるとちょっと傷つく。ほんのちょっとだけ。

 

 

「なにか言った?八幡。私、聞き間違えたみたいなの。もう一度言って」

 

「だから、行けないって」

 

「なんでよ?こんなところで油売ってるんだから、暇なんでしょ?」

 

「あー油売ってるのはそうだが、暇と言うわけじゃない。部活だからな。ていうかさっき雪ノ下が言ってただろ」

 

「?ごめん。あーし、まじで聞き間違えてるみたい」

 

「だから部活だって」

 

「部活?誰が」

 

「俺が」

 

「どこで」

 

「ここで」

 

「・・・雪ノ下さん。八幡の言ってること本当なの?」

 

「えぇ、そうよ。今日平塚先生に頼まれたの。面倒を見てくれって。私が却下しても勝手に入部届けをつくって受理していたから、遺憾なことだけれど、彼はこの奉仕部の部員になるわね」

 

「はぁ?なんでそうなるわけ?そんなの八幡が望まなければ無効じゃん!!」

 

「なにむきになってんだよ。お前もあの平塚先生の強引さは知ってるだろ?俺にもどうしようもなかったんだ」

 

 

そう肉体的なダメージを回避するためにはこれしかないんだ。

 

 

「う、そりゃそうだけど。でも、それってさすがに横暴じゃん」

 

 

「私も三浦さんと同じ意見よ。さすがにやり方はどうかと思うわ。でも、手段はどうであれ、彼は入部してしまった。あなた達も知ってると思うけど、一度部活に入ったら、この学校の制度上半年間はそこに在籍しないといけないの」

 

 

そう言えばあったなぁという表情の三浦。

 

俺も一応頷くが、正直そんなの知らないぞ。あれ、俺これから半年もこの得体の知れない部活にいないといけないのか!?なんということだ・・・

 

 

「八幡、知らなかったっしょ」

 

「なぜばれた!?」

 

「そんなの八幡の顔見ればバレバレだし」

 

「な・・・んだと?」

 

「あの、続けても良いかしら?」

 

「ごめんね雪ノ下さん。八幡のせいで」

 

「俺のせいかよ!」

 

「静かになさい煩いや君」

 

 

もう帰りたいよ小町・・・

 

 

「つまり、彼はここで部活動に励まないといけないってことなの。納得してもらえたかしら。三浦さん?」

 

「・・・わかった」

 

「悪いとは思ってるわ」

 

「なんで謝るのよ。これも雪ノ下さんのせいじゃないし」

 

「それもそうね」

 

「ただし条件を出すから」

 

「?」

 

「私もこの部に入るから」

 

「「はぃ?」」

 

 

某刑事さんと同じ口癖がとっさに出てしまった。というか、雪ノ下もじゃないか。こいつドラマとか見るんだな。

 

 

「いいでしょ?雪ノ下さん」

 

「・・・平塚先生に聞いておくわ」

 

「ありがと。じゃぁ、改めてよろしくね。八幡、雪ノ下さん」

 

「えぇ、こちらこそ」

 

「マジか」

 

 

この部活に入部させられたら、なぜか三浦もついてきた。

 

なにを言ってるかわからんだろうが、俺にもわからん。

 

雪ノ下の口の悪さと三浦の俺への扱いの悪さが一度にやってくると思うと、頭が痛くなってくる。

 

これから、俺はうまく学園生活をやっていけるのだろうか。

 

きっと、俺の幼馴染と彼女は相性が悪いのだ。

 

俺にとっては、だが。

 

 



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第9話 やはり幼馴染との食卓も悪くない

気軽に読んでもらえたら嬉しいです。


「えーー!!せんぱい、部活に入ったんですか!?」

 

 

奉仕部初日の活動で心身ともに疲れ果てた俺は、家に帰ってベットにダイブしてから小町の「ご飯だよー」の一言で階下のダイニングに向かった。

 

今日も小町との楽しい夕食のはずだったのだが、うちのダイニングテーブルに、三浦と一色が隣り合って座っており、余っている席は小町の隣なので彼女らと向き合う形で、比企谷家の食卓を4人が囲う構図が出来上がっていた。

 

 実をいうと、今年の4月からなぜかこういう形がデフォルトになっているので、あまり驚きではない。

 

こいつらの両親も、うちの両親も仕事が忙しいことと、そして全員子供達が寂しくなければ全て良し的な考えを持っていること(うちは小町限定だが)もあり、こういう形になっている。

 

もちろん、俺は小町と二人きりがいいと主張したのだが、小町の「大勢で食べた方が嬉しいな」の一言により、このように決定した。なんでこうもうちの両親はここまで小町を溺愛しているのだろうか。

 

八幡も溺愛してくれてもいいと思う。

 

 

「飯くらい静かに食べろよ一色。それに俺が部活するのがそんなに驚きなのか」

 

「あたりまえです!あの引きこもりの、捻くれもののせんぱいが、部活に入るなんて・・・しかも三浦先輩まで・・・ずるいです」

 

「そ、それは、その、成り行きで仕方なかったし」

 

「成り行き、ですかそうですか」

 

「いろは、顔怖いんだけど・・・」

 

 

一色は満面の笑みなのだが、なんだろう、黒いオーラ的な何かが見えるような?さすがあざといの塊、小悪魔いろはだな。

 

 

「せんぱい、なにか失礼なこと考えてませんか?」

 

「べ、べ別になにも考えてねぇよ」

 

「ここまで嘘つくのが下手な人が部活に入ったなんて嘘つけませんよね。はぁ、やっぱり部活に入ったんですね・・・」

 

「そう言えば、いろは先輩って、たしかサッカー部のマネージャーでしたっけ?」

 

「うん。せんぱいも三浦先輩も入らないって言ってたから、一番私が役に立つ部活に入ったの。ほら、一生懸命な人たちってすごくカッコ良くない?誰かさんと違って」

 

 

なぜそこで俺をみるのか。

 

俺ほどカッコイイ奴とか・・・まぁ結構いる気も若干するけどよ。

 

そういえば、一色が部活を探している時には、散々、俺も一緒の部に入りましょうと誘われたっけ。

 

あの時はあれこれ理由つけて入らなかったのに、結局入ってしまったな。

 

物理的に仕方なかったわけだから勘弁してもらうとしよう。

 

 

「そうだ!なぜこんなことに気付かなかったんだろ」

 

 

突然、一色が大きな声を出す。

 

微妙に上目遣いで、目を輝かせている。

 

流石あざとい可愛いなこいつ。

 

ではなくて、これはろくでもないことを思いついた顔だ。

 

 

「私も入ります!掃除部!」

 

 

そうきたか。

 

というか掃除部なんてあるわけないだろ。

 

でも毎日の掃除が無くなるんだから誰かやってくれよ。

 

俺は絶対嫌だけど。

 

 

「盛大な間違いだな。奉仕部だ」

 

「奉仕・・・せんぱい、そういうのが趣味なんですか?メイドですかオタクですか正直キモいですけどそんな先輩が望むなら別にそういうのも悪くないというかまだ早いかも知れなくてやっぱりごめんなさい」

 

「ち、ちげーし!というか何言ってるかわからんがよく噛まずに喋れるな」

 

「あっ、えっと、とにかく!誰に言えば入れるんですか?早く教えてくださいよ!」

 

「そうはいっても、お前はサッカー部のマネージャーなんだろ?」

 

「はいそうですけど」

 

「たしか部活をやめることはできないんじゃなかったか?少なくとも半年は」

 

「え?なんですかそれ。いつもながら全く面白くない冗談ですね」

 

「いろは、八幡が言ってること、珍しく冗談じゃないし、ほら」

 

「!・・・まさかそんなからくりがあったとは・・・うぅ失敗したなぁ」

 

 

三浦にみせられた生徒手帳の裏に載っている校則の抜粋を見て落ち込む一色。

 

というか俺がいつも冗談のようなウソしか言ってないような発言は控えてほしいんだが。

 

「全く落ち込む必要ないぞ。その奉仕部にいるのは、毒舌女部長殿だからな。入らない方がお前のためだ」

 

 

絶対相性が悪いだろうからな。

 

それでも入った三浦は謎だけど。

 

 

「そんなこと気にしないですけどね・・・あれ?もしかして部長さんって女の人なんですか?」

 

「あぁ、雪ノ下雪乃って知らないか」

 

「え・・・雪ノ下さんって、あの?」

 

「そ。あの雪ノ下さん。ただの偶然というか、平塚先生の陰謀というか、まぁそんな感じかな。あっ、でもいろはが考えてることはないから。ね?成り行きって言ったっしょ?」

 

「うーん。でもそれって、うーん・・・」

 

 

うーんと腕を組んで険しい表情の一色。

 

まさか一年のこいつまで知ってるとは。

 

さすが雪ノ下だな。有名人は大変だ。

 

会ったことない奴にも名前を覚えられて、勝手にイメージをつくられてしまうんだから。

 

はぁ、これだから人間ってやつはry)

 

 

「お話の途中、申し訳ないんですけど、せっかくの料理が冷めつつあるので、早く食べてもらえませんか?今日のは自信作なんですよ」

 

「ごめんね小町ちゃん!うん!このハンバーグ美味しい!」

 

「相変わらず美味しいわね。小町、今度作り方教えてくれない?」

 

「はいもちろんいいですよ!いろは先輩もどうですか」

 

「もちろん!よろしくね」

 

 

こいつらは本当に仲が良いな。

 

はたから見てると本物の姉妹に見えないこともない気もする。

 

ただ、あくまでそう見えるだけであって、小町が俺の妹であることは揺るぎないけどな!

 

 

「八幡、ニヤケ顔キモいんだけど」

 

「せんぱいはこれだから」

 

「全く、困ったごみぃちゃんですね」

 

「・・・」

 

 

泣いてもいいですか?

 

 

 

「おい二人とも、飯も食い終わったんだし、そろそろ帰ったらどうだ?」

 

 

夕食を食べ終わった俺達はダラダラと雑談をしたり、リビングでTVを見たりしていたが、そろそろ良い時間になってきた。

 

 

「お兄ちゃん、空気読もうよ。明日お休みだから、別に泊ってもらっても良いんだし。小町にとっては家族が増えたみたいで嬉しいんだよ?お喋りも楽しいし、義妹の手料理を振る舞って、お兄ちゃんのお嫁さん候補に喜んでもらいたいし。あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「・・・なんだそれ」

 

 

お嫁さん候補って、こいつらにとっては拷問でしかないだろ。

 

というほど自分を貶めて考えるわけではないが、ありえないだろ。

 

常識的に考えて。

 

 

「「お嫁さんって・・・」」

 

「ほらみろ。絶句しているじゃないか。」

 

 

二人とも固まってしまって、顔を真っ赤にして俯いているじゃないか。

 

耳まで真っ赤にしてるような?

 

チラチラこっちを見てる気もするが、きっと反応に困っているんだろうな。

 

うん、きっとそうだ。

 

さすがに経験豊かな俺は騙されませんことよ!

 

 

「いやいやあれはそういうことじゃないと思うんだけど・・・」

 

「どういうことだ?」

 

「うーん。ごみぃちゃんにはわからないんじゃないかな」

 

 

たしかにわからんが。

 

というか、ごみぃちゃん呼びに慣れつつある自分がいるんですけど。

 

人間の慣れって怖いな。

 

なんか凹むぞ。

 

 

「そ、そういえば、せんぱいはなんで部活に入ったんですか?あれだけ私が誘っても入ってくれなかったのに」

 

「ばっか、お前、ボッチの俺がリア充(笑)の集団に入るわけないだろうが」

 

「うわーすごい説得力ですね。悪い意味で」

 

「八幡らしいというか、なんというか」

 

「なんと言われようともそれがあの時の理由だ。ただ、今回は一から十まで平塚先生の陰謀のせいだ。入らなければ、物理的に平面ガエルになっていたから、仕方なかったんだ」

 

「かえる?のことはよくわかりませんけど、雪ノ下先輩のことと言い、平塚先生が色々の原因なのはわかりました」

 

「これがジェネレーションギャップか・・・」

 

「?」

 

「なんにせよ平塚先生に聞いてみろよ。どうにかなりませんかって」

 

「そうですね。とりあえず聞いてみます」

 

「あーしも行こうか?」

 

「はい。お願いします」

 

 

自分で勧めといてアレだが、たぶんダメだろう。

 

あの人決まったルールは守るんだよな。

 

決まってないならなんでも自由だとも言ってたけど。

 

・・・いったい教師ってなんだろう?

 

 

正直、こいつらと一緒に部活をするのも悪くないかなと感じる自分もいるんだが、周りのことを考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。

 

これだと臆病と言われても仕方ないかもな。

 

 

「・・・半年、か。長いなぁ」

 

 

ポツリとつぶやいた一色の言葉は、なせだかわからないが、俺の耳に残って、その日眠りにつくまで離れてくれなかった。

 

 

 



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第10話 そしてカノジョも一歩を踏み出す

ついにあの娘の登場です


「へぇー雪ノ下さんもその小説読むんだ?」

 

「あなたも?こういった類のものを読むとは思っていなかったから、正直意外ね」

 

「八幡の部屋にあったから借りたのよ」

 

「そう。仲いいのね」

 

「べ、べつに仲いいわけじゃ・・・あるかも?」

 

「なぜそこで疑問形ですかね。いやわかっていたけども」

 

 

仲いいというか、ただの腐れ縁のようなものだしな。

 

八幡、勘違いしないよ?

 

 

「なにを意識しているのかしら自意識過剰くん。彼女はあなたと幼馴染であることに疑問を持っただけで、生理的に極めて普通の反応よ?」

 

「自意識過剰だったのは昔で、今は自意識不足なくらいなんだが」

 

「・・・もう少し過剰でもいいのに」

 

「過剰になったらどうなるかわかってるだろ?・・・もう、あんな悲劇を起こしたくないんだ」

 

 

俺の悲劇ではなく俺の友人の悲劇だが。

 

 

「はぁ・・・わかってるわよ。これだから八幡は・・・」

 

「三浦さん、諦めた方がいいわ。この男に女心をわかれというのは酷よ」

 

「八幡を悪く言われるのはアレだけど、その通りだから溜息しかでないし。はぁ」

 

 

奉仕部への入部から1週間。

 

初めはどうなるかと思っていたが、不思議なもので、水と油のような関係だと思っていたこの二人はなんだかんだ仲良くやっている。

 

心底意外だ。

 

まぁ俺は空気なんですがね。

 

そんなこんなで、今日の部活も依頼なく、平和に(俺の心のダメージは除いて)終わるのかと思っていたら、急にドアが開き信じられないことに依頼者がやってきた。

 

 

 

「あのーここは奉仕部ですか?」

 

「ええそうよ」

 

「あれ?結衣じゃん」

 

「えーー?なんで優美子がいるの!?わ!ひ、ヒッキ―まで!!??」

 

「うん?ひっきーってまさか俺のことか」

 

 

なんという驚愕のネーミングセンスだ。

 

有吉先生に弟子入りして鍛えてもらえよ。

 

門前払いだろから、それで現実がわかるだろうけど。

 

 

「あなた、すごく素敵なアダ名を持っているのね。とても似合っているわよ?」

 

「これを素敵だなんて言うお前のセンスを疑うんだが」

 

「結衣、八幡に変なアダ名つけんなし。せめてヒキオくらいに」

 

「三浦さんも十分おかしなセンスですね」

 

 

ここには俺しかまともな人間はいないようだ。

 

そのまともな人間が変なアダ名というのも皮肉ではあるが。

 

 

「あはは。みんな仲いいんだね・・・」

 

 

なぜか凹んでいるアホッぽい子(仮)。

 

みんなって誰だよ。

 

うん?そういやどっかでみたような気はするんだよな。

 

 

「それよりも結衣。あんた、この部活に用だったんじゃないの?」

 

「そ、そうなの。でも、ヒッキ―もいるし、別に急ぎってわけでも・・・」

 

「・・・わかりました。比企谷君、出て行きなさい」

 

 

いきなり何を言い出すのかと思ったが、よく考えたら女子だけの方が話しやすいことはあるわな。特にすることもないんだし、お言葉に甘えさせてもらうとするか。

 

 

「・・・小町が待ってるから帰るわ」

 

「は?一人で帰るとか認めるわけないし。30分くらいしたら、ここに戻って来るんだし」

 

「私としては帰ってもらってもいいのだけれど」

 

「いいから。戻ってくること。わかった?」

 

「へいへい」

 

 

こいつの旦那は尻に敷かれるな。可哀そうに。

 

 

 

さて、仕方ないので、時間つぶし。

 

こういう時はマイベストプレイスに行くに限る。

 

と思って意気揚々と向かったのだが、なぜか先客がいた。

 

 

「なんだ来てたのか、一色」

 

「せ、せんぱい!?なんでここに?まだ部活じゃないんですか?」

 

 

そう言いながら、一色の少し横に腰掛ける。

 

一色はジャージ姿だったが、学校指定のものではない、ピンクのストライプの入った紺色のジャージを着ている。

 

 

「そういうお前も部活中だろうが」

 

「さぼりですよ?」

 

「さも当たり前のように言うなよ・・・」

 

 

今頃、サッカー部のやつら探しているんだろうな。

 

噂では、サッカー部の約半分はこいつがマネージャーをすると知ってからの入部希望者だったらしい。

 

どんだけ~。

 

 

「せんぱい、古いです」

 

「古いからこそ良いんだろうが。というか心を読むなよ」

 

「そのネタがいいかは別ですけどね」

 

 

あれ、スルーされたあげくに、論破されてしまった。

 

 

「とにかく、ばれたら大変なので、私を隠してくれませんか?あっでもその運動不足の身体だと私は隠せないですよね。もっと鍛えてくださいよ」

 

「なぜ運動不足だと?」

 

「せんぱいをいつも見てるからですけど?」

 

 

さも当たり前と、キョトンと首をかしげる一色。

 

どうしよう。

 

あざといと知りながらもキュンとしたじゃねぇか。

 

運動不足ってのは締まらないがな。

 

 

「よく恥ずかしげもなくそういうセリフが言えるな。さすがあざとい」

 

「ふふん。そのセリフはもう私には効きませんよ?」

 

「なんでだ?」

 

「だって、せんぱいの『あざとい』は照れ隠しですよね?」

 

「は?何言ってのお前?俺が照れてる?そんなことあるあわけないっしょ。この自意識不足の俺からすればお前のあざとさくらい問題ないし」

 

「せんぱい、口調が三浦先輩になってますよ?」

 

「おほん。つまり、照れてないということだな」

 

「はいはい。そういうことにしておきます」

 

 

そう言って、にやにやしながら俺の肩にもたれ掛かってくる一色。

 

いつの間に接近してきたんだ。

 

 

「おい、そんなにくっつくな。変な噂になったら困るだろうが」

 

「嫌です♪むしろ噂になればいいのに」

 

「おいおい・・・」

 

「どうですか?」

 

「なにがだ?というか顔が近いんだが」

 

「ちょっとは、ドキドキしますか?私のこと、意識してくれていますか?」

 

「それは、その、だな」

 

 

くそ!自意識不足な俺には、こういう時どうするのがいいのかわからない。

 

誰かマニュアルをくれマニュアルを。アマガミのでもいいぞ。

 

 

「あはは。なんか恥ずかしくなってしまいました。答えてくれなくていいです」

 

 

そう言って顔を少しだけ離してくれた。

 

よかった。なんとか持ちこたえた。

 

主に俺の理性が。

 

 

「恥ずかしいならさっさと離れてくれないか?」

 

「嫌です♪せんぱいは私に抱きつかれていればいいんです」

 

「なんだよそのとんでも理論は・・・」

 

 

結局、俺を探しに来た三浦によって強制的に引きはがされるまで、一色は俺にくっついたままだった。

 

やれやれ。

 

 

 

 

 

さて、これで終わりかと思っていたら、そうは問屋が卸さないようだ。

 

 

 

 

 

「で?」

 

「あれは一色が勝手にだな」

 

「あぁん?」

 

「いえ、なんでもないです・・・」

 

 

部室に戻ってから、三浦による尋問が続いている。

 

かれこれ2時間くらい。

 

いや言いすぎか。

 

30分くらいだ。

 

なぜこうなっているのか。さっきの件ですね。わかります。

 

ちなみに、この件の主犯である一色は部活があるとグラウンドに戻っていった。

 

ひきょう者!

 

 

「ね、ねぇ優美子、もういいんじゃないかな?ヒッキ―も反省してるみたいだし・・・」

 

「反省ってなんだ「あ?」・・・はい、反省しています」

 

 

その目はアカンだろ。。。

 

おもわずジャンピング土下座してしまったぞ。

 

 

「あーし達が一生懸命、部活動の責務を果たしている時に、八幡は後輩の女の子と不純異性交遊をしていた。間違いないよね?」

 

「不純異性交遊ってなん「・・・」・・・はい」

 

 

もはや意見すらできないのか。

 

というか不純異性交遊っていまでも使うやついるのか?

 

 

「じゃぁ、覚悟はできてるんだよね?」

 

 

さっきから三浦さんの口調が怖いです。

 

近寄って来る三浦さんのオーラがやばくて体が動かない。

 

メデューサかなにかですか。

 

 

「はいそこまで」

 

 

そんな三浦さんを止めたのは、意外や意外。

 

雪ノ下雪乃。我らが部長だった。

 

 

「盛っているクズガヤくんに時間を割いていたら、由比ヶ浜さんの依頼ができないわ」

 

 

そうだそうだ。

 

依頼が重要だよな。

 

さすがわかっているじゃないか。

 

俺への暴言は聞かなかったことにするから、そのままなんとか有耶無耶に。

 

 

「部活中にやる必要はないのでしょ?」

 

 

ん?

 

あれ雲行きが。

 

 

「・・・わかったわよ。じゃぁ、帰ってからたっぷり、ね?八幡?」

 

「あら、そんなつもりではなかったのだけれど」

 

ニヤつきながら言っても説得力ねぇよ!こいつわかっててやってやがんな。

 

これだから女ってやつは!

 

 

「あはは・・・ヒッキ―どんまい?」

 

 

こいつはこいつで頼れなさそうだしな。

 

やっぱり小町しかいないな。

 

後で助けてもらうとしよう。

 

 

「話はついたようね。では行きましょうか」

 

「行くってどこにだ?帰るんじゃないのか」

 

「話してなかったわね。由比ヶ浜さんの依頼よ」

 

「依頼?」

 

「そう。由比ヶ浜さんの依頼を相談した結果、お菓子をつくることになったの」

 

「そうか。いいじゃないか」

 

 

実に女の子らしい依頼だ。

 

ただなぜ全員で移動する必要が?

 

 

「だから、行くのよあなたの家に」

 

「はい?」

 

「ヒッキ―、よろしくね!」

 

「お菓子作りの会場はあなたの家に決まったから」

 

「えぇぇ!?」

 

 

どうやら今日という日はまだ終わってはくれないようだ。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。
あべかわもちでございます。

久しぶりの投稿です。
おかしいな。昨日初詣に行った気がするのに。
時間は残酷ですね。細々と続けていきます。

これからもよろしくお願いします。


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第11話 やはりカノジョの料理は独創的~前編~

気軽に読んでもらえたら嬉しいです。



 雪ノ下、三浦、由比ヶ浜(ついさっき名前を聞いたが同じクラスで三浦の友達らしい。そう言えば三浦の近くにいたような気もする)の女子の3人と一緒に下校。

 

 なんだこれは。ハーレムではないかこの野郎と揶揄されても仕方ないかもしれない。

 

が、実際そんなことはない。

 

 会話に花を咲かせる女子達の後をついていく高校生男子の姿は、あまり褒められる光景ではないだろう。

 

その証拠に、近所の奥様方の冷たい視線を度々背中に感じたし。

 

あの、ケータイ片手にどこ電話してるんですか!?

 

 

「え?あれ?もしかして・・・お兄ちゃん?」

 

 

 やっと家に着いたと思って安心したのもつかの間、天使が降臨した。もとい、小町だった。

 

 

「なんでそこに疑問を持つんだ・・・」

 

「あら。すごく将来が楽しみな妹さんね」

 

 

雪ノ下さん、なぜあなたはそんなに嬉しそうなんですか。小町は俺に毒を吐くことなんて・・・ないよな?

 

 

「だって、三浦先輩といろは先輩以外の女の子を2人も連れて帰ったら、誰だって驚くよ。それが実の妹なら、なおさらだよ!」

 

「くっ否定できない・・・」

 

「あら?もしかして比企谷くんの妹さん?」

 

「すいません!ご挨拶がまだでしたね。はじめまして!比企谷小町です。兄がいつもお世話になってます」

 

「なんてしっかりした子なのかしら。比企谷君の妹だなんて信じられないわ・・・どこから誘拐してきたの?」

 

「ねーよ」

 

「・・・こんなに可愛くてしっかりしている妹さんがいるなんて思えないよね」

 

「あれ?」

 

「な、なにかな?」

 

「うーん・・・」

 

 

小町がアホの子をまじまじと見つめている。

 

え、まさかのマリみて的な展開ですか。

 

違いますかそうですよね。

 

え?そうじゃないの?

 

いかん!俺の頭がショート寸前だ。

 

とバカな脳内妄想を繰り広げている俺を尻目に、三浦が小町に近寄って耳打ちをしている。

 

 

「小町、ちょっと・・・」

 

「三浦先輩・・・へ?・・・はい・・・はい・・・あぁなるほど、そういうことですか」

 

「わかったでしょ。結局、この子もヘタれなわけ」

 

「ねぇ優美子、そのヘタれって、もしかしなくても私のこと?」

 

「そうっしょ?」

 

「うーたしかにそうなんだけど・・・もうちょっとオブラートに包むとか!」

 

「結衣、あんたオブラートなんて言葉知ってたんだ。ちょっと意外」

 

「さすがに酷くない!?」

 

「冗談だって」

 

「ほんとう?」

 

「さぁ?」

 

「もう!優美子のイジワル!」

 

「へぇお二人は仲がいいんですね」

 

 

いやおれも驚いたぞ。

 

いや結構マジで。

 

それにしても、この3人の間には妙な空気があるような?

 

悪い感じではなくむしろ近いというか。

 

てか、小町もなんでそんなにニコニコしてるんだよ!

 

俺にもその笑顔を分けてくれないかな。

 

「なぁいつまで玄関先で話してるんだよ。近所迷惑だろ」

 

「あら、あなたが、近所迷惑を考えることが出来るなんて知らなかったわ。人でなくても短期間に成長できるものなのね」

 

「あの、せめて人として扱ってくれませんかね」

 

「まぁまぁ、兄のことは置いといて「おい!」そろそろ中に入りませんか?皆さん、家に用事があって来たんですよね?」

 

「お言葉に甘えていいかしら?」

 

「もちろんですよ!さぁどうぞ!ささ、遠慮せず。あ、おにいちゃんは最後ね。鍵も閉めてからリビングに来てね」

 

「ウン」

 

 

無情にも俺の前を過ぎていく女子3名+小町。

 

なんだか俺の扱いが日に日に悪くなっているような気がするのだが。

 

小町さん、僕の気のせいでしょうか。

 

 

「そんで、依頼ってなんなんだ?」

 

 

リビングに集まって、そもそも家に来た理由を尋ねる。さすがにこれくらいは教えてもらわないとな。勝手に家を使って小町に迷惑がかかったら困るし。あっ今の八幡的にポイント高い!

 

 

「あら?言ってなかったかしら。由比ヶ浜さん」

 

「う、うん。じつはね、ある人に感謝の意味を込めて、プレゼントしたいなってずっと考えてて。あたし料理苦手だけど、クッキーならなんとか作れるかなって思ったんだ。どうかな?」

 

「いやなんで俺が聞かれるんだよ。別にいいんじゃねえか」

 

「そ、そう?ヒッキ―もクッキーもらえたら嬉しいの?」

 

「あ?そりゃ女の子から何かもらって嬉しくない男はいないだろ」

 

「そっか!よーし頑張って美味しいクッキー作るぞ!」

 

「「・・・」」

 

「なんでコイツはいきなりテンションあがってるんだ?」

 

「はぁ・・・これだからお兄ちゃんは」

 

 

テンションの高い由比ヶ浜と対照的な小町が気になったが、もう夕方なので、さっそく調理を始めることになった。

 




読んで頂いてありがとうございます。

またもや気付いたら時間が経ってしまいました。

すでに梅雨入りして家で過ごすことが増えそうですし、
地道に更新していきたいと思います。

今後ともよろしくお願い致します。


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第12話 やはりカノジョの料理は独創的~後編~

後編できました。


 

 

料理とは、レシピどおりに作れば、まず間違いなく失敗はしない。

 

手間と言えば手間だが、材料や分量、調理の手順をレシピに従うことが、慣れないうちの鉄則である。法と言ってもいい。

 

にもかかわらず、経験の浅い者はなぜか無駄に自信があるのか目分量で材料を用意したり調理の手順を独自解釈で行う傾向にある。

 

それが失敗の原因なのだ。

 

俺も最初のころは小町と一緒に切磋琢磨して料理の腕を磨いたものだ。

 

思い出すなぁ。

 

あの修行の日々(遠い目)。

 

だが、しかしだ。

 

今日やってきたアホの子、もとい由比ヶ浜はひどい。

 

ひどすぎる。

 

なにが酷いかというと、最高の家庭教師が3人と最適なレシピがあるにも関わらず、出来あがった物体は『焼けた何か』であったからだ。

 

うん。

 

あれは暗黒物質に違いない。

 

NASAの皆さん!宇宙の謎はここにありますよ!

 

 

「由比ヶ浜さん・・・」

 

「結衣・・・あんたって・・・」

 

「たはは・・・なんでこうなるんだろうね?おっかしいな~レシピ通りのはずなんだけど」

 

「お兄ちゃん・・・小町・・・料理教える才能ないみたい。ごめんね。こんな妹で・・・」

 

「ばっかそんなわけないだろ。由比ヶ浜の周りだけ時空が歪んでいるから、俺達の常識が通じないだけだ。小町、お前は最高だ。ミカエル!ガブリエル!小町エル!」

 

「なにそれ・・・語呂悪いしドン引きなんですけど・・・でも小町的にはポイント高いかな。ありがと。お兄ちゃん」

 

「ちょっとそんなに自信無くすほど!?ていうかヒッキ―、キャラ違くない?」

 

「俺の小町への愛情はいつもこんな感じだが」

 

「えぇ・・・」

 

 

ちょっと。なんでガチで引いているんですか、この子は。

 

千葉の兄妹にとってはこれくらい常識だろ?

 

 

「結衣、諦めな。こいつのシスコンは酷すぎて、手の施しようがないんだから」

 

「あの・・・三浦さん、私警察に電話した方がいいのかしら?それとも保健所かしら?」

 

 

ケータイを持ちながら、オロオロと震える雪ノ下。

 

 

「おい!?それは俺を保健所に引き渡すとかそういう話か!?」

 

「違うの?」

 

「違うわ!」

 

 

小首をかしげる仕草が絵になるな。

 

くそ。可愛いじゃないか。

 

いやいや何考えてるの俺?

 

 

「雪ノ下さん、大丈夫ですよ。気持ちはまぁわかりますけど、ちょっとキモいくらいの方が兄らしいですから」

 

 

嬉しいこと行ってくれるじゃないか。

 

でも、気持ちわかっちゃうんだ。喜びたいのに喜びきれないぞ。

 

 

「小町さんがそう言うなら・・・」

 

 

そう言って、しぶしぶといった感じで、とり出したケータイをしまう雪ノ下。

 

納得したのなら、親の仇を見るような目で、こっち見ないでくれませんか。

 

 

その後、小町三浦雪ノ下による指導を受けながら、5、6回の試行錯誤の上、ようやくクッキーと呼べるような代物ができるようになった。

 

まだ形も歪ではあるが、最初の暗黒物質を知っているので、ここまで成長した由比ヶ浜を称えたい。

 

おそらく三浦達もそうだったに違いない。

 

事実、オーブンからクッキーが出てきた時、俺達は打ち合わせしたかのように、無言で拍手していたしな。

 

 

「由比ヶ浜、お前それ渡すのか?」

 

「どうしよう・・・まだ人に渡すにはちょっと抵抗があるかな・・・」

 

「はぁ、仕方ないな」

 

「覚悟を決めたのね。大丈夫よ、年に1回くらいは思い出してあげるわ」

 

「なんで最悪の状況になることが確定なんですかね?」

 

「あら、違うの?」

 

「違うわ!」

 

 

さっきと同じくだりじゃねえか。

 

 

「八幡、なにか思いついたんじゃない?」

 

「まぁ思いつきとは違うんだが、少し整理しようと思ってな。由比ヶ浜は、そのクッキーを渡して喜んでもらって、感謝の気持ちを伝えたいんだよな?」

 

「うん。そうだよ」

 

「なにが言いたいの?比企谷くん」

 

「つまり、クッキーは手段であって、目的は感謝の気持ちを伝えることだろ。うまいクッキーかどうかは問題じゃねぇんだよ」

 

「手段?目的?うーん・・・あっ!うん。そうだ!私喜んでもらうのが目的なんだ!」

 

「えぇ・・・由比ヶ浜、お前・・・」

 

「結衣・・・」

 

 

おいおいこいつ大丈夫か。

 

アホの子認定が正しかったとは。

 

おれの直感も捨てたもんじゃねぇな。

 

 

「・・・由比ヶ浜さんが、アレかは置いといて「ちょ、ひどくない!?」あなたの言うことも一理あるわね。でも、それは現状を整理しただけで、解決してはいないわ」

 

「あぁ、だから、結論から言うと、そのままでいい」

 

「そのまま?」

 

「そのままのクッキーを渡せばいい。一生懸命つくったクッキーを渡せば、それだけで感謝の気持ちは十分伝わるし、もらった側はそれだけで嬉しいってことだよ」

 

「へぇ、八幡、ちゃんとわかってるじゃん」

 

「そりゃ、な」

 

「そっか。そうだよね。うん。私、これを渡すことにするよ。ありがとう!ヒッキ―!お礼に、ここにあるクッキー好きなだけ食べてね」

 

 

由比ヶ浜の笑顔は、直視するのに照れるような、そんな眩しいものだった。クッキーは鈍く光っているが。

 

 

「お、おぅ」

 

「もちろん先生の3人も食べてね。いっぱいあるから」

 

「そうね・・・いっぱいあるものね。頂くわ」

 

「小町、食べよっか」

 

「はい!ゴミいちゃんには勿体ないですもんね」

 

 

比企谷家で開催されたクッキーパーティは、部活帰りにやってきた一色の参加により女子会へとその姿を変え、けっこうな盛り上がりを見せていた。

 

俺は隅っこでおとなしくしているだけだがな。

 

だが、楽しい時間は長く続かないようで、暗黒物質(処分せず残していた俺のミスだが)に手を出してしまった一色の手により、女子会はお開きとなった。

 

一色、お前のことは忘れない。

 

年に1回くらいは思い出してやるからな。

 

 

「人のセリフとらないでちょうだい」

 

 

なにか聞こえるような・・・どうやら自宅ですら、俺の休まる場所は無いようだ。

 

 

 



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第13話 彼と妹は食卓を囲む

ひっそりと更新です。


「お兄ちゃん、結衣さんのこと知ってたの?」

 

由比ヶ浜の依頼が一色の犠牲のもとでお開きとなり、皆が帰宅した後、いつものように(最近ご無沙汰ではあったが)小町と二人で夕飯を食べていたら、いきなり小町から由比ヶ浜のことが話題に出た。

 

 

「知ってたもなにも同じクラスだからな。といってもそのことを知ったのは今日なんだが」

 

「今日まで同じクラスと気づかないお兄ちゃんって…」

 

 

なんかとても残念な子を見る眼をしている。

 

 

「いやいや仕方ないだろ?向こうだって今日まで知らなかったと思うぞ。いや、クラスの連中皆知らないまである。普段ステルス機能を展開しているからな。…まあ三浦は例外だが。あと一色」

 

 

そういえば、由比ヶ浜の暗黒物質(クッキー)によってノックアウトされた一色は、「うぅ~せんぱい謀りましたね…」とうなされながら、三浦に連れられて自宅に帰っていったっけ。

 

ちょっと、なんで俺が悪いようになってるんだ?

 

 

「うーん…三浦先輩といろは先輩が出てくるのは義妹としては嬉しい限りなんだけど…でも結衣さんもきっと…」

 

 

なんかぶつぶつと呟いている。妹の字が違う気もするが気のせいだろう。

 

 

「よくわからんが最初の質問に戻ると、由比ヶ浜のことは今日知ったということになるな。クラス内で見かけた気がしないでもないが話したのは初めてだ」

 

「はぁ…結衣さん…」

 

 

おれの答えに対して頭を抱えてしまった小町。どんな表情でも可愛いのはやはり小町が天使だからだろう。小町愛してるぜ!

 

 

「あぁはいはい小町もアイシテル」

 

「なんで当たり前のように心を読めるんだよ!?というか棒読みはやめてね傷つくから」

 

 

どうしておれの周りには読心術を心得てるやつばかりなんだろ?こえーっての。

 

 

「それで、結局、由比ヶ浜がどうしたんだよ?」

 

「どうもしないよ?ただ、お兄ちゃんはゴミいちゃんだなって」

 

 

あれれ?なんで罵倒されてるの?

 

 

「小町的にはお義姉ちゃんが増えるのはすっごく嬉しいんだけど、まさか一度も話したこと無い人に手を出すとは思わなかったというか」

 

「手を出すってなんだよ?俺が手を出すとかどんな無理ゲーだよ。俺が女子に声をかけるだけで、瞬間的に悲鳴をあげて逃げられるまである」

 

 

言っててなんか悲しくなってきた…

 

 

「いつも自虐に走って凹むのやめてよね。こっちまで凹んじゃうから。でもでも、小町はそんなお兄ちゃんを応援してる!あっ今の小町的にポイント高い!」

 

「はいはいありがとよ」

 

そういって小町の頭に手を伸ばしてぽんぽんと撫でる。こうしてなんだかんだ言って励ましてくれる小町はやっぱり天使だ。ポイントさえなければだが。

 

 

「お兄ちゃん」

 

「どうした?」

 

 

少しトーンを落とした真剣な声色に、こっちも身構える。

 

 

「小町は、どんなときでもお兄ちゃんの味方だからね。だからなにかあったらいつでも相談して」

 

「…」

 

「絶対だよ?」

 

「あぁわかったよ」

 

 

小町の真剣なお願いだ。

 

おれのことをなんだかんだ言いつつも心配してくれてるんだろう。

 

小町、ありがとよ。

 

 

「小町も、その、なんだ。なにか悩みとか、そういうのがあったら相談しろよ。話くらいは聞いてやらんでもないから」

 

 

これだけ小町が心配してくれるのだから、兄として少しでも、力になれるのであればってやつだ。結構恥ずかしいんだからな!こういうセリフ!

 

 

「あっそれは間に合ってます。お義姉ちゃん達に相談するので」

 

「!?」

 

 

幻の左に匹敵するであろう突然の左ストレートなカウンターでノックアウトされた俺は、ガラガラとその場に崩れ落ちる。

 

小町ちゃんそれはないだろう…

燃え尽きたぜ…真っ白にな…

 

 

 

「…いつもこれくらい素直だったら、小町達の苦労は少ないのに」

 

 

 

真っ白に燃え尽きた俺には小町の呟きは届かなかった。

 



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閑話 俺の幼馴染はなかなかどうして乙女である

あーしさん視点の閑話です。あと長いです。


―午前9時43分

 

―京葉線稲毛海岸駅改札

 

 

 

「遅い!」

 

 

改札を次々と出てくる人混みを見つめながら、ついにお目当ての人物が出てこなかったことがわかった瞬間、つい声が漏れてしまった。

 

どうやらあーしの声は思ったより大きかったようで、周りにいた人たちが一斉にこっちを向く。

 

少し罰が悪くなりながらも、ジト目で周りに視線を向けるが、周りの人たちはすでに興味がないようで、こっちを見ている人はいなかった。

 

 

あーしはほっとしながら、さも何事もなかったかのようにスマホに目を落とす。

 

 

そこには昨日の夜に八幡との会話アプリでの履歴が映っている。

 

昨日の八幡とのやりとりを思い出して、ふとつぶやきが漏れる。

 

 

 

「・・・ちゃんと来てくれるよね・・・」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

(注:以下、会話アプリでの会話は『 』で、登録名は『』の前についています)

 

 

 

夕食を食べた後、あーしは自分の部屋に戻ってベッドに横たわりながら、スマホの画面とにらめっこしていた。

 

 

 

あーし『明日、稲毛海岸駅に10時だから』

 

 

 

少し唐突すぎる?でも八幡を動かすにはこれくらい強引な内容の方がいいことを、あーしは経験で知ってる。

 

若干迷いながらも結局文面を変えることもなく送信をタップする。

 

 

そう。これは八幡へのデートのお誘い。

 

 

いつもなら、あーしは直接伝えて誘うところだけど、これは急に降って沸いたチャンス。逃すわけにもいかないし。

 

 

というのも、

 

小町から『明日、友達とららぽに買い物に行くので、お兄ちゃんのことお願いしますね♪』

 

いろはから『三浦先輩!サッカー部の練習試合があるんですけど、人手不足で大変なので、明日一緒にマネージャーやってくれませんか!?』と相次いで連絡が来たのだ。

 

極めつけは、実家がケーキ屋の親戚のお姉さんから『カップル割始めたからよかったら来てね。八幡くんと(ニヤニヤ)』と見透かしたようなお誘いがあったから。カ、カップルに見られているとか、も、もう!八幡には責任とってもらうし!・・・なんのだし。落ち着けあーし。

 

 

ちなみに、いろはの文章は

 

『三浦先輩!!わたし、明日の練習試合に同行しないといけなくなりました・・・ですから、抜け駆けしたら許しませんよ!?わかってますよね!?』

 

と変換したけど、きっと間違ってないっしょ。そんなにフラなくてもわかってるし。あーしはあの芸人を好きじゃないけど、こいうときには使えるから便利だ。

 

それにしても。なんであーしが誘いの一文を送るだけでこんなに悩まないといけないのだろう。

 

どれだけ面倒くさい男なのだろうと改めて実感するも、溜息しか出てこない。

 

毎回八幡を説得するためにどれだけ気をつかっているのか、一度八幡には理解してもらった方がいいのかもしれない。

 

 

その時はいろはにも出張ってもらうから。

 

『傷ついたせんぱいは私が癒しますから!三浦先輩は安心してせんぱいに愚痴ってくださいね?』

 

いろはでてくんなし。

てか絶対呼ばないから。

 

どうやって八幡にあーしの苦労を伝えようかあれこれ考えていると、スマホが振動していることに気付く。

 

 

あ、やっと返信きたし。どれどれ。

 

 

 

だーりん『は?』

 

 

 

ちょっと!!一文字だけってなんだし!?

 

 

このあーしが誘っているのに、よりにもよって『は?』だけ!?

 

いやいや落ち着けし三浦優美子。

 

あいつはこんな風に短文でしか返信してこないじゃん。

 

 

ふーふーはーはー

 

 

よし、落ち着いた。

 

 

あーし『なに?拒否権は認めないし』

 

だーりん『いや明日は予定があるから』

 

あーし『え!?うそっしょ!?』

 

 

あ、つい食いついてしまった。このアプリはついつい反射的に返事してしまうところがやりづらい。逆にいいところでもあるけど。

 

てゆーか、なんで八幡に予定があるし!?

 

小町は友達と出掛けるし、いろはもサッカー部の練習試合に同行するから、明日は久しぶりに二人きりになれるのに!!八幡は嬉しくないし!?

 

 

・・・まさか

 

 

だーりん『なんで驚いてるのか問い詰めたいんだが』

 

あーし『・・・誰と?』

 

だーりん『はい?』

 

あーし『誰と行くんし!?』

 

だーりん『いや・・・別に誰とってわけじゃないが』

 

あーし『本当に?』

 

だーりん『本当だぞ』

 

あーし『奉仕部の二人は?』

 

だーりん『なぜあの二人が出てくるのか知らんが、関係ないぞ。そもそも連絡先すら知らないし』

 

 

その後も追及したけど、どれもシンプル極まりない返信が続く。どうやら本当に誰かとの予定があるわけではないと、やっと信じられたのは10回くらい問答が続いた後だった。

 

 

あーし『わかった。この件はひとまず置いておくし 』

 

だーりん『あれだけ説明させてまだ納得しねーのかよ・・・』

 

あーし『もし明日来なかったら・・・ね?』

 

 

しばらく八幡から返事はなかった。

 

・・・ちょっとしつこかったかも・・・

 

少しナーバスになってゴロゴロしながら返信を待ったが、期待むなしく時間だけが過ぎていく。

 

そろそろ寝ようかと思って部屋の電気を暗くした瞬間、スマホが振動していることに気付く。

 

慌てて画面を確認するが、そこには八幡らしい捻くれた返事がシンプルに表示されていた。

 

 

 

だーりん『気が向いたらな』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

うーん。振り返ってみると、あーし性格悪いかも。というかもしかして嫉妬深いのかな。なんだか自己嫌悪な気分だし・・・はぁ。

 

 

「はぁ」

 

「溜息ついてると不幸を吸い込むらしいぞ」

 

「それをいうなら幸せが逃げるっしょ」

 

「いや、溜息ついたあとはまた空気を吸い込むだろ?そのときに周りに幸せがない人間は必然的に不幸を吸い込むだろうが。だから同じことなんだ」

 

「全く、どんだけ捻くれた解釈をしてんだ・・・し・・・は、八幡!?」

 

「お、おお。そんなに驚かなくてもいいだろ」

 

 

え!?なんで八幡がここに!?いやいや待っていたのは八幡だから、八幡がいるのは至って普通だし!あわてて左手の腕時計を確認すると9時53分。ちょうど電車が到着した後だった。

 

 

「ちゃんと来てくれたことに驚いただけだし」

 

「その反応だと俺が来ると思ってなかったように聞こえるぞ」

 

「そ、そんなわけないし!むしろ来てくれなかったら泣いてたし!」

 

「大げさだっつの・・・女王様が泣いてるのはちょっとみてみたいが」

 

 

八幡がなにかつぶやいた様だけどよく聞こえなかった。まあどうせろくでもないことを考えているに違いない。

 

 

「てか、来るかどうか気にするくらいなら、そもそも家から一緒にいけばよかったじゃねえか」

 

「・・・それじゃあいつもと同じだし」

 

「いつもと同じでいいじゃねぇか」

 

「はぁ、これだから八幡は・・・」

 

「だから溜息をつくと「もう!さっきも聞いたし!」・・・はい」

 

 

まったく八幡はやっぱり八幡だし。デートという自覚がないのだろうか。

 

でもこうしてバカなことを言い合うだけで、あーしの不安な気持ちは一気に晴れていってしまう。

 

 

まいったな。あーしはつくづく単純なようだ。

 

 

「八幡、あーしをみてなにか言うことは?」

 

「・・・よく似合ってるぞ。その服。あと髪型もなんというか、その、いいんじゃないか」

 

「あ、ありがと」

 

 

なんか照れる。今日は気合をいれて最近お気に入りの薄いブルーのシャツワンピを着ているが、季節がら少し肌寒い。それでも褒められればおしゃれを優先してよかったと思える。たとえ誘導的に言わせたとしても、想い人にやっぱり褒められるのは嬉しいものだ。髪型まで気づくとは思わなかったけど。無理言って行きつけの美容院で朝髪型のセットをお願いしてよかった。

 

ただ、八幡が素直に褒めてくるとは思わなかったらちょっとビックリした。やっぱり少しはデートと意識しているのだろうか?でも、もしそうなら待ち合わせのこともわかれし。

 

 

「それでどうすんの?帰るの?」

 

「帰るとかふざけてんの!?・・・いいからついてくるし」

 

 

そういってあーしはさっさと歩き出す。前言撤回。八幡は絶対デートと意識していない。こうなったら徹底的にデートだって意識させてやるから。

 

 

 

 

 

「なあ」

 

「なによ」

 

「いつまで歩けばいいんだ?そろそろ目的地くらい教えてくれよ」

 

「ダメ」

 

「なんでだよ」

 

「着いてからのお楽しみって言ったっしょ」

 

 

さっきからすでに3回目。あーしの隣を歩くアホ毛の少し猫背気味の男はいつもこう。むしろいつもに比べれば少ないくらいだけど。

 

 

あーし達は連れだって駅の北口から北東方向に進んでいる。目的地に対して若干回りくどいルートだけど、少しでも長く一緒に歩きたい気分だから問題ない。

 

かくいうあーしは八幡の左腕に抱きついて、身体を密着させている。

 

普段はいろはが邪魔をしてくるからなかなかこういった行動はとれない。その反動からか、あーしはもっと八幡にくっつきたくてしょうがなかった。といっても、たぶん駅での八幡とのやりとりも大きな理由だけど。

 

 

じつはさっきから、八幡に抱き付きながら、絡ませるように繋いでいる手の指に力をいれてたまに強く握ったりしている。

 

そのたびに八幡はビクッとして、あーしの顔を見てくる。

 

抱き付いている分顔が近くてお互いに見つめあう格好になり、八幡は照れ臭いのかサッと顔をそむける。

 

そりゃあーしも照れ臭いけど八幡の顔ならずっと眺めていられるからいつも顔を背けるのは八幡だ(いつも彼の寝顔を見つめているからだろうけど)。

 

でもそんな八幡は、そっぽを向きながらも、あーしの指をほんの少しだけ強く握ってくれる。

 

・・・素直じゃないとこはマイナスだけど、そんな反応が愛おしくってたまらない。まったくもう可愛いんだから!お返しにもっとぎゅっとしてみる(エンドレスループ突入)

 

 

 

この状態のあーし達は、誰がどうみてもただのバカップル。だよね?

 

住宅街では浮いてるかもしれないけど、あーしにとってはどうでもいいこと。

 

八幡もこの状態を嬉しく思ってくれてたらいいんだけど。

 

 

 

「とはいってもだな。目的なく歩き回れるほどおれの日曜日の休日は暇じゃないんだが」

 

「いつもテレビの前でぷりなんとかってアニメ見てるだけじゃん」

 

「プリキュアな。あの良さがわからないとかマジかよ。横でいつも一緒にみてるじゃねぇか」

 

 

八幡は少し不満そうな顔をする。

 

 

「あーし、別にアニメ興味ないし」

 

「おいおいじゃあなんでいつも家までやってきて俺の隣で見てるんだよ」

 

「べつにあーしの勝手っしょ」

 

「でたよ千葉のエリカ様」

 

「うっさい!」

 

 

本当に理由がわかっていないんだろうか?いいかげんその鈍感具合(時々鋭いときもあるから、本当に振りかどうか判断しづらい)をやめてほしいんだけど。まあ急にわかられてもそれはそれで困るか。

 

 

「わかったよ」

 

「え!?なにを!?」

 

「?どこにいくかはもう聞かないって意味だが」

 

「あ、あぁそういうこと・・・全く紛らわしいし」

 

 

あーしの心の声に被らせるなし。

 

というか八幡には心を読む能力はないんだよね?

 

 

「それはそれとして…あのさ、さっきから左腕にまとわりつくのをやめてくれません?」

 

「なんで?」

 

「なんでって、そりゃ暑苦し「ん?」・・・なんか、は、恥ずかしいし」

 

 

照れてる八幡はなんか可愛い。あっ耳が赤くなってる。でもキョドった態度とその濁り気味の眼はマイナス。なんというか、少し前に流行っていたキモカワってやつ?

 

いやいや八幡はキモくないし!むしろ・・・

 

 

「これくらいで恥ずいとか小学生かっての」

 

 

あーしは頭に浮かんできた素直な感想を頭の端に追いやって、八幡にからかいの眼を向ける。ついでに抱きつきを強くすることを忘れない。

 

 

「ニヤニヤしすぎだろ。どんだけ俺をからかったら気がすむの?」

 

「べつにからかってないし。あーしとこんな風にデートできて、八幡は嬉しいっしょ?」

 

「べつに」

 

「素直じゃないし。てゆーかあーしの真似しないでくれる?」

 

 

誰よりも近くで八幡とあーだこーだ喋りながら一緒に歩く。

 

あーしにとってはこれが最高の時間。あーしが落ち着いて自分らしくいられる時間。こんな時間がずっと続いたらいいなんて思う。

 

でもさすがにいつまでも目的なく歩き続けるのは八幡に悪い。

 

 

「あ、そこ右だから」

 

 

嘘。左に曲がれば目的地にすぐにつく。

 

だからこれはあーしのわがまま。

 

傲慢。

 

少しの罪悪感も大きな期待に負けてしまうあーし。

 

 

ごめんね。

 

 

でもあと少しだけ。

 

 

もう少しだけなら、遠回りしてもいいよね。

 



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閑話 私とせんぱいと天使の策略~出逢い・前編~

いろは視点です。前作より長いです。


 

「せんぱい!こっちですよ!」

 

 

駐輪場にやってきたせんぱいを出迎えながら、大きく手を振る。

 

せんぱいはそんな私を見つけてギョッとした眼で周囲を伺っている。周りに誰かいないか気にしながら呼びかけましたから大丈夫ですよ?正直、私は別に噂になってもいいんですけど(むしろなれよ)、せんぱいはなぜか嫌がるんですよね。

 

 

「なんでいんの?ていうか一色、あんまり大きな声出すなよ。噂になったら社会的に死ぬだろうが。全面的に俺が」

 

「大丈夫ですよ。周りに誰もいないようですし」

 

 

ほらやっぱり。

 

どうやら入学したばかりの私に変な噂が立たないようにと思っているようです。

 

そんなせんぱいの照れ隠し半分、私への心配半分の気遣いに思わず心が躍ります。

 

だから、私もせんぱいの気遣いを無下にしないように配慮しているんですよ。

 

ふふ。こんな後輩はいろは的にポイント高い!

 

 

「それに、もしせんぱいが社会的に生きれなくなっても、私だけはせんぱいの味方ですよ?」

 

 

そういいながら、そっとせんぱいに近づいて、せんぱいの顔を下から覗き込む。せんぱいは顔をさっと逸らしましたけど、眼が泳ぎ気味で頬が若干赤いのは見逃してませんよ?

 

 

「それは大丈夫だ。俺には小町がいるからな。小町さえいればこのクソゲーの世の中でも生きていける」

 

「もう!シスコンはいろは的にポイント低いですよ」

 

 

ちょっと拗ねたように頬を膨らまし気味に抗議する。このあたりはさすがにあざといかな?とも思いつつ。

 

小町ちゃんと過ごすようになってから年々行動が似通ってると、入学したての頃にせんぱいに言われたことがある。

 

じつはちょっと意識しているのでこのせんぱいの発言は私にとって嬉しいものだった。

 

だって小町ちゃんに似てるってことは小町ちゃんと同じように私のことも大事に思ってくれているってことだしね(もちろんただの勝手な解釈です)。まあ妹的なあれというのは少し複雑ですけど。

 

 

「あざとい。つーか、いつからお前もポイント制になったんだよ。そういや小町ポイントいくつ貯まったら景品もらえるんだろ」

 

「たぶん小町ちゃんはそこまで考えてないんじゃないですかね」

 

「だよな。小町だしな」

 

「ふふ。あ、でも私の場合はもちろん景品ありますよ?」

 

「ほう?一体なにをくれるんだ?」

 

「なんで私の身体を嘗め回すように見るんですか・・・は!もしかしてせんぱい私に身体でご奉仕的なことを期待してますか?すいませんもう心の準備はできてますしむしろいつでもウエルカムなんですけど状況というかタイミング的に初めてはもっとロマンティックなのがいいので別の機会に改めて出直してきてくださいごめんなさい!」

 

「嘗め回すってなんだよ。ただお前の方を向いただけだろうが。というかただポイントの景品を聞いただけでも振られるの?」

 

「お前って・・・もしかしてこれは今後私はせんぱいのことをあ、あなたって呼べっていう遠まわしに口説いているんですかそうですよね!?」

 

「おうふ。続けて振られ・・・てない!?あれれ?ちょっと一色落ち着け」

 

「は!すみません。取り乱しました」

 

 

いけないいけない。一瞬我を忘れてしまった。いつもの癖で反射的に断ってしまいました。ちょっと勿体なかったかな。でも続けて私をテンパらせるとはやりますねせんぱい。

 

 

「まあどうでもいいけど。じゃあ帰るか」

 

「そうですね。ふふん。こんなに可愛い後輩と下校できるなんてせんぱいは幸せ者ですね」

 

「あーはいはい嬉しい嬉しい」

 

「せんぱい心がこもってないです。やり直しを要求します」

 

「うっせ」

 

 

そうです。ここでせんぱいを待っていたのは一緒に下校しながら放課後デートにしゃれ込む計画を立てたからでした。

 

というのも、今日は幸運なことに三浦先輩はクラスのお友達と一緒に遊びにいくらしく(せんぱいと違ってクラスメイトとも友好的な関係を築いているようです)、

奉仕部の先輩方(私はクッキーしか印象が、うぅ頭が)も用事があるとかで部活が休みだとせんぱいが昼休みに教えてくれました。

 

これはチャンスです。善は急げと5限の授業中に大急ぎでプランを練って(主に部活をサボる口実)、放課後、せんぱいが必ず現れる駐輪場で待ち伏せしていました。

途中何人か同学年の男子と喋った気がしますけど、校舎出口を見張るのに全神経を使っていたので、あまり内容は覚えてないんですよね。

 

もしかしたら明日噂がたっているかも?気遣ってくれてるのに、せんぱいごめんなさい!

 

 

 

 

想い人と二人きりで下校する。

 

これだけ聞くと青春の甘酸っぱいワンシーンと誰もが言うんじゃないでしょうか。

 

青春を全否定しているせんぱいも、さすがに何か感じるものがあるのか、それとも夕日で茜色に染まっただけなのか、若干顔が赤いような気がします。前者だったら嬉しいな。でもないか。せんぱいだし。

 

 

「それでですね、対戦相手のマネージャーまで葉山先輩を応援しだしまして、もう傍目からみても対戦相手は意気消沈してましたよ」

 

「ほう。葉山はついにあの素敵スマイルで試合を支配できるようになったのか。対戦相手に同情するわ」

 

「もうほんとカオスだったんですよ。シュートを打とうとした葉山先輩を止めた相手校の選手がなぜかそっちのマネージャーからブーイング受けてるんですから」

 

「なにそれ怖い。もはや葉山対その他だな」

 

「ですよね。私なんか対戦相手に同情しちゃって、どっちのマネージャーだったのかわからなくなりました・・・」

 

 

私たちは連れだって歩いて下校しながら、他愛もない会話をしている。

 

ほぼ私から話題を出して、先輩がそれに答えるスタイル。せんぱいはいつも口数は少ないが、話題を出したらしっかり答えてくれるし、たまに饒舌になる。

 

そして私が欲しい言葉を、ほんとに唐突に溢すんですよね。それが憎めないというか、言わしたくなるというか。

 

ちなみに、自転車の二人乗りはポイント高いけど、少しでも長くせんぱいと喋りたいからあえて歩いて帰りましょうとお願いしてみた。

 

最初はわざわざ歩くのは面倒くさいと渋っていたものの、小町ちゃん直伝上目遣いによって折れたのはせんぱいでした。

 

どんだけシスコンなんですかこの人。

 

 

「あ、そうだせんぱい。私この後買い物に寄るんですけど」

 

「そうなのか?じゃあまた」 

 

そう言って自転車に跨がりペダルを漕ぎ出そうとする。

 

「は?」

 

「こえーよ。とうやったらそんなに低い声が出るんだよ一色・・・」

 

いけないいけない。つい意味わからない行動をとるせんぱいに本音が漏れてしまいました。

 

「えーとですね。私は今から買い物にいくじゃないですか?じゃあ荷物が増えてしまいますよね?だから男手がないと困るじゃないですかー」

 

「後日改めてお父さんと来たらいいじゃないですかー」

 

「なんですかそれ。私の真似ですか。は!それはお父さんと呼ばせてくださいという外堀から埋めていくプロポーズですかそうなんですねでも私にも理想のシチュエーションがあるのでやり直しを要求しますごめんなさい、ってそうじゃなくて!」

 

「今日はいつにも増して振られてるなぁ。てか、ノリツッコミとか元気だな」

 

「もう!全く話が進まないのはせんぱいのせいですからね」

 

「なんでそこで俺のせいになるんだよ」

 

「とにかく!可愛い後輩との買い物デートに付き合わせてあげます」

 

「なんで上から目線なんだよ。ああもう。わかっからそんなに引っ付くな!」

 

 

せんぱいの言質をとれたことに嬉しくなる。ふふ。やりました成功です!

 

 

「ありがとうございます!せんぱい!じゃあ行きましょうか」

 

「お、おう」

 

 

私はせんぱいを先導して少し先を行く。

 

溜息をつきながらもカラカラと自転車を押しながらついてきてくれるせんぱい。

 

その事実は私を嬉しくする。

 

やっぱりなんだかんだ構ってくれるせんぱいが私は大好きみたいです。

 

 

 

 

―駅前ショッピングセンター

 

 

 

 

「んで結局なにを買うんだよ?」

 

「もうせんぱい女の子を急かしたらダメですよ?私だから特別に許してあげますけど。この後は本屋に行ってなにか適当な参考書でも見繕ってもらおうかと思っていまして。せんぱいに」

 

「あぁなるほど。それが目的だったのね」

 

「えへへ。ばれちゃいました?今のところ授業がわからないとかはないんですけど、経験者の意見を取り入れて高校デビュー成功した素敵な私演出みたいな」

 

 

小首をかしげながらにこっと先輩に向けてウインクを決める。

 

 

「はいはいあざといあざとい」

 

「なんですとー!」

 

 

モールの中にあるスイーツ屋さんのイートインコーナーでせんぱいと休憩中。 

 

さっきまでアクセサリーショップとか服屋さんとか周っていましたけど、あまりパッとしなかったんですよね。

 

まぁ今日はせんぱいと居られることが重要ですから別にいいんですけど。

 

今度はららぽとか足を延ばして東京までせんぱいを連れ出してみようかな。

 

ふふ。東京の人混みにせんぱいが愚痴をこぼすのが目に浮かぶようです。

 

 

「ん?」

 

 

私がせんぱいとの次のデート(確定)について思いを馳せていると、せんぱいはイートインコーナーから見える通路の方を向きながら、なにかつぶやいている。

 

もう!こんなに可愛い後輩と一緒にいるのにこっちに視線を向けないとかどういう神経しているんでしょう。

 

 

「もう!せんぱい。私というものがありながらよそ見ですか。もうこれはいろは不敬罪によって即逮捕ですよ」

 

「なんで聞いたこともない罪状で逮捕されないといけないんだよ・・・それより、ほら」

 

 

そういってせんぱいは顎をそっちに軽く向けるようにして、私もそっちを見るように促してくる。

 

 

「いったいなんなんですか・・・あれ?あの子」

 

 

せんぱいに促されて通路の方を向くと、そこには今にも泣きだしそうな顔をしながらきょろきょろと辺りを見回す小学生高学年くらいの女の子が立っていた。

 

身長はそんなに高くないけど落ち着いた雰囲気からか若干大人びてみえる。

 

すでに時刻は夕方ということもあり、私たちと同じように女の子をチラッと見る人もいるのだが、急ぎ足で我関せずとすぎ去ってしまう。

 

その女の子は女である私から見てもの凄く可愛かった。肩くらいまで伸びた黒髪を緩くパーマでふんわりさせていて、服装も大人しめながらも可愛らしい白のワンピース。そして今は涙が溢れているくりくりとした大きな瞳をした顔をみていると女の私でも庇護欲をそそられる。

 

将来がとても楽しみであると同時に、いつまでもそこにいるとよからぬことが起きるのではと心配になってくる。

 

 

「・・・ちょっと行ってくるわ」

 

「え?ちょっとせんぱい!?」

 

 

一言行ってくると告げたせんぱいは、私を残して席を立ち、今は俯いている女の子に近づく。

 

せんぱいは膝をついて女の子の目線に合わせて声をかけている。

 

あ、やっぱり女の子がビクッとしている。

 

はぁ、もう全くせんぱいは。

 

私もせんぱいを追いかけて席をたつ。

 

もちろんせんぱいが置いていったカバンも持っていきます。これはポイント高いですよね?せんぱい。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「え、えっと、あの」

 

「ん?」

 

「ひ!」

 

「・・・もうやだおれ帰る」

 

「せんぱい。人にビクつかれるのは得意じゃないですか。なんで喋りかける勇気はあってもそんなに打たれ弱いんですか」

 

「ちげーし。おれはそんな打たれ弱くねーから。ただ小町より年下からビクつかれる経験がなかっただけだ。よって俺のせいじゃない」

 

 

なにわけわかんないこと言ってるんですか・・・

 

 

「なにわけわかんないこと言ってるんですか・・・」

 

 

思わず心の声とシンクロしたじゃないですか。あ、女の子が今にも泣きそう。

 

しまったフォローのつもりがせんぱいに突っ込むのに夢中だった。仕方ないせんぱいですね。

 

 

「ここは頼れる後輩である私にお任せください」

 

「ほう。じゃあお手並み拝見といこうか」

 

 

せんぱいの煽りを背中に受けて、私は女の子と向きあう。もちろん、女の子の前でしゃがんで目線を合わせるのを忘れない。

 

 

「えーと私は一色いろはっていうの。こっちのせんぱ、人は比企谷八幡。あなたが一人なのをみかけて気になって声をかけたんだ。よかったらあなたのお名前を教えてもらってもいいかな?」

 

「あの、その・・・」

 

「?」

 

「ママに知らない人と喋ったらダメだって言われてるの・・・だから・・・」

 

「え」

 

「く、くくく。い、一色、どん、どんまい。ぐふ」

 

 

言われた瞬間。私は顔が真っ赤になってしまう。

 

なんてよく教育された女の子だろう。

 

そういえば私も少し前まで両親からそう教えられてたっけ。

 

あぁだから周りの人たちは我関せずだったのか。というかせんぱい笑いすぎでしょ。しかも堪えながらの笑い方めちゃくちゃキモイんですけど。

 

 

「うー!そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!ていうか笑い方が本当に気持ち悪いんですけど。私の半径1km以内に入らないでくれます?」

 

「それは暗に俺の存在を消したいと言っているのか。というか気持ち悪いっていうなよ。傷つくだろ」

 

「別にそこまで言ってないんですけど。というかどんだけ打たれ弱いんですか」

 

「これが小町に言われてたらやばかった。すでに土下座で謝罪しているまである」

 

「私の認識が正しかったら、その格好は土下座ではないんですか?」

 

「は!?うわまじかよ。身体が勝手に動いてたとか社畜根性ありすぎだろむしろ有り余ってるまである」

 

「社畜って・・・社会でてからも土下座で謝罪することは確定なんですか・・・」

 

「ばっか、お前おれの将来は専業主夫って言ってるだろ。おれが社畜になるとか別の世界線のおれに任せるわ」

 

「別の世界線とかわけわかんないんですけど・・・は!もしかして社畜になった暁には私のことを養ってやるぜっていう気障なプロポーズのつもりですか?さっき出直してきてくださいって言いましたけど何言っているかわけわかんないんでもう一度出直してきてくださいごめんなさい!」

 

「長々と語った挙句結局振られちゃうのかよ!」

 

しまった。ついいつものせんぱいとのやりとりをしてしまった。

 

今はこんな場合じゃないっていいうのに。

 

それもこれもぜーんぶせんぱいのせいですからね!

 

 

「あは、あははは!お姉ちゃんたちおもしろーい!テレビの芸人さんをみてるみたい」

 

 

いつの間にか女の子は泣いていたのが嘘のように笑顔になっていた。

 

つられて私たちも顔を見合わせて苦笑い。

 

結果オーライ。

 

なんとか打ち解けたようだ。

 

 

―というかせんぱいってやっぱり私を小町ちゃんと重ねているのかな?

 

 



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閑話 私とせんぱいと天使の策略~出逢い・後編~

後編です。・・・どうしてこうなった。


 

ショッピングセンターのイートインスペース横の通路で、まるで意味のわからない夫婦漫才を繰り広げた私たちは、またさっきのお店に戻ってイートインスペースのテーブルを囲むことにしました。一番近くでゆっくりできそうでしたしね。

 

改めて注文したとき店員のお姉さんはさっきのやりとりを見ていたようで、私たちの漫才の感想を語りその後女の子への対応を褒めてくれました。

 

手放しで褒めてくれたのは嬉しいですけど、公衆の面前でやられるととても恥ずかしいです。

 

でもお似合いのカップルと言われたので我慢しますけど。うふふ。

 

 

「じゃあ、なんで泣いてたのか教えてくれるかな?」

 

「はい・・・あっママとの約束・・・」

 

 

うーん。本当によくできた娘さんですね。ここまできても約束を大事にするなんて。誰かさんにこの子の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです。

 

 

「さっきからずっと一緒にいる俺たちはもう知らない人じゃないだろ?つまりママとの約束は破っていないぞ」

 

「ほんとう?」

 

「あぁもちろん。小町に誓って」

 

「そっか。ならいいのかな」

 

 

そう言いながら小首をかしげているが(可愛い)どうやら納得したようでしたけど、え?それでいいの?ほんのちょっぴりだけこの子の将来が不安になった。

 

 

「ねぇねぇそれよりこまちって?お米に誓うの?初めて聞いたよ」

 

「米じゃなくて妹な」

 

「へぇ妹がいるの?」

 

「あぁ。天使といってもいいね」

 

「うわでたシスコン」

 

「うるせーよ。天使を天使といってなにが悪い」

 

「ふふ。お兄ちゃんたちは仲いいんだね。恋人さんなの?」

 

「あれ、ばれちゃった?じつはそうなんですよ、ね?」

 

 

私たちが恋人さんとかよくわかっている子です。将来がとても楽しみです。

 

嬉しくなった私は隣に座るせんぱいの右腕にしっかりと抱き付いて、この女の子にみせつけるようにラブラブカップルを演出する。

 

いやいや年下の女の子に見栄を張るとか高1としてどうなんだろう。

 

 

「ね?ってなんだよ。おいおい俺たちが恋人に見えるとか冗談だろ?」

 

「違うの?」

 

「違うっての」

 

「またそんなこと言って照れちゃってもう!せんぱいはまったくもう!」

 

 

照れ隠しなんてしないでいいのにせんぱいったらもう。せんぱいったら。

 

 

「痛!いてーよ。そんなに肩をバシバシ叩くんじゃねえよ」

 

「やっぱり仲良しさんだね」

 

 

そういった女の子は満面の笑顔で私たちをみている。

 

なんかどっちが年上かわからなくなってきた。

 

この子いったい何者なんだろう・・・

 

まったく話が進まないのを見かねてか、先輩が私の代わりに女の子に話しかける。

 

 

「こいつに任せていたら話が進まなそうだから俺から聞くけどよ「なんですかそれ!」名前くらいは教えてくれないか?」

 

「あ、忘れてた。ごめんなさい。えっと私は、城廻栞です。よろしくお願いします」

 

 

ぺこりと頭を下げて挨拶する栞ちゃん。

 

私とせんぱいはお互いをみて改めて自己紹介することを伝え合う。

 

遠回りしたけどやっとこの女の子と向き合うことができたような気がして嬉しくなる。せんぱいと目と目で通じ合うのも嬉しいですけどね。

 

 

「改めて自己紹介するね。私は一色いろはです。よろしくね栞ちゃん」

 

「比企谷八幡だ。よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

「つまり城廻の話を総合すると」

 

 

栞ちゃんの話を聞いていたせんぱいは、話が終わったタイミングを見計らって、話をまとめようとする。

 

が、とうの本人である栞ちゃんはなにか不満があるのかせんぱいの話を遮ってしまう。

 

 

「ねえ栞って呼んでくれないの?」

 

「いや、おれが初対面の年下女子を名前呼びするとかあれだから」

 

「よくわかんないよ。それとも八幡は私のこと嫌いなの?」

 

 

栞ちゃんがまた泣きそうな顔をしている。

 

あ、せんぱいもさすがに焦っていますね。でも困りながらも頭を撫でているせんぱいを見ていると泣いた女の子の扱いは得意だったことを思いだした。主に私の想い出的な意味で。

 

 

「えへへ」

 

 

それよりこの子、いつのまにか涙は消えていてなんだか嬉しそう?というかこのせんぱいはいつまで撫でているのか。

 

少しだけ栞ちゃんへの嫉妬を強くした私は、それでもせんぱいのフォローを優先する。

 

 

「大丈夫だよ栞ちゃん。このせんぱいは栞ちゃんみたいな可愛い子を名前で呼ぶことが照れ臭いヘタレなだけだから」

 

「そうなんだ・・・よかった」

 

「なぁ。なにがよかったの?おれがヘタレというのは初対面女子にとって嬉しいことなの?ちょっと泣きたくなるんだけど」

 

「せんぱいがヘタレなのは世界の常識なんですからあきらめてくださいよ」

 

「だが断る」

 

「ねぇねぇ。八幡も、私がその、か、可愛いって、そう思う?」

 

「あ?えーと、あぁ、そうだな。(小町以外の)小学生女子でお前ほど可愛いやつは見たことないな」

 

 

しどろもどろになりながらもかなり肯定的な言葉をかけるせんぱい。

 

 

「ちょっとせんぱい、なんで若干赤くなりながらそんな羨ま恥ずかしいセリフを言うんですか。いろはにも言ってくれないと不公平です。私への愛の言葉を囁くことを要求します。栞ちゃんへの言葉の10倍の濃さでお願いしますね」

 

「は?なんでそんなことをしないといけないんだ」

 

「・・・どうやらせんぱいとは話し合いが必要みたいですね」

 

「お、落ち着け一色!今日は本当に話があっちこっちに飛んでるぞ」

 

 

今はせんぱいに私への愛の言葉を囁かせることが大事ですから他のことは正直どうでもいいんですよ。

 

さぁどうやってせんぱいを論破!するか考えていると、少し俯いていた栞ちゃんから、ぼそりと、でも強い響きをもった小さな言葉が零れ落ちる。

 

偶然にもその言葉は私たちの耳に届いてしまった。

 

 

「・・・嬉しい」

 

「は?」「へ?」

 

 

え?なんでこの子、こんなに顔を真っ赤にしながらもとても嬉しそうな表情をしているの?

 

この表情はまるで・・・いけない!このままの空気を放置したらとんでもないことになってしまう。私の第六感がそう告げている!

 

 

「あ!えーと!せんぱい!最初に話を戻しますけど、栞ちゃんの話を総合するとなんなんですか?」

 

 

私は必要以上に大きな声をだして場の空気を元に戻そうとする。どうやら今日は早く用事を済ませて帰宅した方がいいようだ。

 

 

「へ?あーその「せんぱい?」あ!えっとだな、つまり城廻の話を総合す「栞」城m「栞」・・・栞の話を総合するとだな」

 

 

ぼけーと栞ちゃんを見つめていたせんぱいを現実に引き戻したと思ったら、栞ちゃんから強い意思をもった口調で自分の名前を呼べと要求している。

 

せんぱいが折れて栞ちゃんを名前で呼んだとたん、栞ちゃんは恥ずかしいようでいて嬉しそうな、私でもドキッとするような表情になって「うふふ」と喜びを表している。

 

もうなんなんですかこの子。

 

 

「お姉ちゃんへのプレゼントを買って帰ろうとしたが、いつの間にか失くしてしまって焦ってモールをうろうろしていたら、自分がどっちから来たかもわからなくなって困っていたというわけか」

 

「ここに来るのは初めてだったの?」

 

「初めてじゃないんだけど、いつもはママかお姉ちゃんと一緒だから」

 

 

なるほど、いつも誰かと一緒にきているからきちんと覚えていなかったんだ。

 

しかも今日は姉へのプレゼントを失くして焦ってしまったと。

 

ここはららぽに比べればかなり小さいが、来ることが少なくて、しかも自分だけで来たことがなく、焦ってウロウロしてしまえば自分がどこにいるのかわからなくなるには十分な広さがある。

 

しかも、あまりメンテナンスが行き届いてないからか、案内表示なども古いままで改装工事していたりするものだから、ちょっとした迷宮化しているんですよね。

 

私も小さい時に何度か迷ったりゲフンゲフン。

 

 

「よしわかった。じゃあ行くか」

 

「行くってどこに?」

「どこかあてでもあるんですかせんぱい?」

 

「さすがにアクセサリーを買った店の名前くらいは覚えてるだろ?というかレシートもってれば早いんだが」

 

「あ!・・・はい!八幡」

 

「おう。あれ?おい一色、この店」

 

「あ」

 

 

渡されたレシートにはさっき私とせんぱいが立ち寄ったアクセサリーショップの名前が印字されていた。

 

 

 

お店まで向かう途中、栞ちゃんと私は仲良く手を繋いでいた。

 

というのも、さっきのスイーツ屋さんを出たところで、栞ちゃんが八幡の手を凝視していることに気付いた私は、先手を打ったのだ。

 

 

「それでね!お姉ちゃんはいつもニコニコしながらお話し聞いてくれるんだ。だから私も嬉しくなっていっぱいお喋りしてたんだけどママがそろそろ寝なさいっていってね。もうママったらきっと私たちが仲良しさんだから羨ましかったんだよ。だからママも一緒にお話ししてたの。それでねそしたら寝ていたはずのパパが起きてきてね・・・」

 

先ほどから、栞ちゃんはずっと自分の家族自慢を続けている。

 

しかも全くの邪心は感じられないのでこっちまで思わず楽しくなってくる。

 

でも初めて話しかけたときの態度を知っているだけにそのギャップは物凄かった。

 

きっとこの姿が本当の彼女なのだろうとまだ出会って1時間程度だけど理解するには十分でした。

 

ちなみにせんぱいは私たちを先導するように数歩前を歩いています。

 

 

「ねぇ栞ちゃんはお姉ちゃんに何を買ったの?」

 

「えーと、めぐちゃんはいつも前髪を留めているから、髪留めのセットを買ったんだ」

 

「めぐちゃん?」

 

「うん。めぐちゃん。私の自慢のお姉ちゃんだよ」

 

「そっか。本当にお姉ちゃんのこと大好きなんだね」

 

「もちろん!あそうそうこの前だってね・・・」

 

 

アクセサリーショップに着くまで私は幸せな姉妹についての物語を楽しんだ。

 

 

 

―アクセサリーショップ

 

 

「えっと、あの、これをさっき買ったんですけど・・・」

 

 

アクセサリーショップに到着した私たちは、レジの店員にレシートの商品について尋ねるよう栞ちゃんを促しました。

 

栞ちゃんは少し恥ずかしそうにしながらも、店員に話しかけています。せんぱい曰く。

 

 

「奉仕部は魚をとってやるんじゃなくて魚の取り方を教える部らしいからな」

 

 

よくわからないけど、せんぱいが部活動にまともに勤しんでいるのは少し意外です。

 

 

「うーん、あ、そうか、さっきの髪留めの子か。ちょっと待っててくれるかな?」

 

 

そう言って店員のお姉さんは店の奥に引っ込んでいった。

 

 

「どうしたのかな?」

 

 

栞ちゃんは不安げにしていたけど、私とせんぱいはあの反応で、ここに来たことは正解だったと確信していました。

 

 

「お待たせしました。お嬢さん、これのことかな?」

 

 

奥から戻ってきた店員はその手にこの店の名前が入った紙袋を持っていた。

 

どうやら、栞ちゃんは商品を受け取ったはいいけど、早く帰って渡したかったのか、ワンピースのポケットに紙袋を浅くしまったまま駆け出したので、店のすぐ近くでポケットから落としてしまっていたようだ。

 

紙袋を受け取った栞ちゃんは中身を確認して、不安そうな表情を一新させ喜びを爆発させる。

 

 

「あ!これです!これです!どうもありがとうございました!本当によかったよぉ」

 

 

店員のお姉さんに向かってお礼を言いながらも嬉しそうにはしゃぐ彼女を、せんぱいも私も店のお客さんまでもが、まるでこの子の親になったような気分で見守っていた。 

 

ここまで天真爛漫に感情をあらわして嬉しそうにはしゃぐ少女に対して、私たちは天使って本当にいるんだなとその存在にあてられていました。ただ一人だけ

 

 

「ここにも天使が・・・まさか2人目がいるとは」

 

 

とかなんとか呟く濁った眼のせんぱいを除いて。

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!」

 

 

栞ちゃんのプレゼントが無事見つかった後、私たちは栞ちゃんを最寄り駅まで送り届けることにしました(ここでもし迷子になられたら後味が悪いですからね)。

 

そして今は改札の前で彼女は私たちに向かってお辞儀してくる。

 

本当にしっかりしているなあ。でもところどころ子供っぽくて、また大人のような落ちついた雰囲気も持っているという末恐ろしい少女。

 

 

「気にしないでいいんだよ。困ったときはお互いさまだからね」

 

「それでもいっぱいお話も聞いてくれて嬉しかったです。いろはお姉ちゃん!」

 

 

・・・おかしいな。

 

胸がドキドキします。どうしよう・・・私お花的な趣味はなかったはずなんですけど。

 

あぁでもこの子の笑顔をみていると・・・

 

 

「あの、それで、は、八幡もありがとね」

 

 

私が一人で身悶えていると、栞ちゃんは八幡にテテテと近づいていく。

 

 

「うん?いやおれは何もしていないぞ。栞が自分で見つけたんだし」

 

「ふふ。そういうことにしとくね。あのさ、ちょっとしゃがんでくれる?」

 

「別にいいけど、なんでだ?」

 

「いいからいいから」

 

 

せんぱいは栞ちゃんの言葉に従って若干身を屈める。

 

栞ちゃんは一度私をチラッとみたかと思うと、そのまませんぱいに近づいていって、彼の右頬に手を添えて、左頬に自分の唇を・・・は?

 

 

「え?は?おい、これ、はどういう・・・」

 

「・・・私のファーストキス、です。ただのお礼ってだけじゃないから。絶対忘れないでね八幡」

 

 

顔を真っ赤にしながら、逃げるようにさっきから固まったままの私に近づいて、彼女は続ける。

 

 

「いろはお姉ちゃん。ごめんね。でも、私も八幡が大好きになちゃったんだ。困っていた私の前に現れたちょっと眼がどんよりしてたけど優しそうな男の人。いろはお姉ちゃんとのやりとりをみて楽しい人だなって思ったし、私が探していたものをあっさり見つけてくれて、もう八幡に夢中になっちゃった」

 

「え、で、でででも、最初に会った時に怖がっていたじゃ・・・?」

 

「あれは・・・後ろでいろはお姉ちゃんがすごく怖い顔していたから・・・」

 

 

栞ちゃんは少し罰が悪そうに俯く。

 

 

「だから・・・そう。うん。一目ぼれだったと思う」

 

 

そういって照れて顔を赤くする彼女は私からみても、いや誰の目からみても明らかに恋する少女だった。

 

彼女になにも返せない私とさっきから固まったままのせんぱいに苦笑しながら彼女は改札に向かって歩き出す。

 

 

「じゃあ、私いくね。またね八幡!いろはお姉ちゃん!」

 

 

足早に去っていった彼女の背が見えなくなっても私たちは茫然とそこに立ち尽くしていた。

 

ただ私の頭の中には、今日のこの創られた状況を幸運とかチャンスだと勘違いした自分に腹が立つ。

 

でも、いったいどうすればこの事態を予測できたというのか。まるで人ならざるものの策略にまんまとしてやられたというか。

 

堂々巡りの私の後悔はグルグル頭の中を巡って、なかなか離れてくれようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―22時30分

 

 

ここに最大の懸案事項がある。

 

駅前のショッピングセンターで全く予想だにしなかった事態が起きてフリーズしてしまった俺と一色は、まるで操り人形のように終始無言のまま帰宅した。 

 

そして部屋に戻って着替えようとしたくらいでさっきの事態を思い返し、顔が沸騰するくらい火照ってしまい、あまりの気恥ずかしさに部屋でブレイクダンスを踊ってしまう。

 

その音はかなり大きかったらしく小町から「お兄ちゃんうるさい!」とお叱りを受けてしまった。

 

だがしかしだ。

 

今日会ったばかりの地上に舞い降りた2人目の天使が去り際にキスして去っていくとかアニメの世界でも類を見ないほどありえない事態が起きたのだから仕方ないだろ!?(注:栞は小学生です)

 

いかん本題からずれた。

 

そう。

 

懸案事項とは、その暴れたときにズボンのポケットからでてきたルーズリーフの切れ端だった。

 

 

『城廻 栞 : ○○○△△△・・・』

 

 

そこには今日会ったばかりの少女の名前と会話アプリのアドレスと思わしきアルファベットの羅列が記されていた。

 

一体いつの間に用意したのかとかそういった疑問は尽きないがひとまずおいておく。

 

そう今の俺が頭を抱えているのは、このアドレスを登録するかどうか、だ。

 

ちょっと待って、まだ通報しないでくださいお願いします。

 

・・・こういったことはこれまでなかったわけじゃない。

 

しかしその度に「あいつまじで連絡してきたぞw」といったことばっかりだったのだ。しばらくそれが続いたので無視していたのだが、そうしたらなんで連絡しないのかと逆に怒られたこともある。一体おれはどうしたらいいのか。

 

信じられない気持ちとあの2人目の天使のことだし信じてみたいという気持ちがバトルをしている・・・どうしたもんかな。

 

 

「お兄ちゃんお風呂空いたよ」

 

「あ、あぁ。わかった」

 

 

小町が声をかけてくれて気づいたが、悩みだしてからもう3時間くらい経っている。まいったな。なんでこんなに悩むんだか。てか早く寝ないと明日の一限目は平塚先生だから寝るわけにはいかない。

 

・・・悩んでいても仕方ないか。

 

これが何者かの策略だとしても、そうでないとしても、ここで何もしなかったら後悔するだけだ。どうせ失うものもないのだし、ここは年上としての余裕を見せるのもありだろう。

 

適当な理由をつけてスマホのアプリを起動して先のアルファベットを打ち込む。

 

あ、ちゃんとアカウントがでてきた。

 

なんかこれだけで嬉しくなってくるな。

 

ん?よくみたら二人の人物が映ったアイコンのようで、一人は栞のようだが、もう一人は誰だろう。

 

この人が話にでていた姉だろうか。

 

なんとなくこの写真からマイナスイオンがでているような気もするが・・・まあいい。

 

よし。文面はこれでいいだろう。

 

送信をタップして、さっさと風呂にいく。

 

もしも本当に策略だというのなら、これから先どっかで会うこともあるだろう。

 

 

 

 

『なんか入ってたから送ってみた。比企谷八幡』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

余談ではあるが、

 

城廻 栞『なんですぐ連絡してくれなかったんですか?ちょっと悲しいです・・・』

 

という返信がきてから、アプリの通知に気づいたらすぐ返すように心がけるようになった。

 

どうやらこのせいで俺の会話アプリの返信スピードが全体的に上がったようで、そのおかげか知らないが他の女子から文句を言われることが少なくなった。

 

 

―やっぱり天使はいるんだな。

 

 

ぼんやりとそんなことを考えることが前よりも多くなったが、天使と聞いてこれまで頭に浮かんでいた人物だけじゃなくなっていることに気付いたのはもっと後になってからのことである。

 

 





最初はオリキャラを出すつもりはなかったのですが、書いてるうちにどうしても必要な気がしてきて、気づいたら彼女のための話になってしまいました。タグに『オリキャラ』いれておきます。いろは好きな方すみません。

ちなみに、城廻と聞いて二人ともある可能性を指摘していないのは、八幡はいつも通りとして、いろはは入学してまだ数週間の設定なので、まだしっかりと覚えていないこともあり「どこかで聞いたことあるような?」程度だからです。


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閑話 私とせんぱいと天使の策略~姉妹の夜更かし~

栞の想いは止まらない。いろは閑話のおまけという名の続きです。


追:閑話が続いてるのでタイトルをちょっと修正しました。


 

 

―19時30分

―城廻家

 

 

 

生徒会の仕事を終えて帰宅した私は、玄関で靴を脱いだあとダイニングに直行する。

 

そこにはソファに座ってリビングのテーブルを凝視している妹の栞を心配そうに見つめるお母さんの姿があった。 

 

お母さんはとても私と栞を産んだとは思えないほど若々しく、いつも笑顔を絶やさない人だ。

 

この前も栞と三人で買い物に行った時、お店の人に「美人3姉妹」と言われて照れまくり、私よりはしゃいでいたくらいだしね。

 

そんなお母さんが珍しく思案顔になっているの。

 

どうも変だなと思いながらも、今は疲れた身体を癒すべく冷蔵庫から大好きな武蔵野牛乳をとりだす。

 

本当ならお風呂上りの一杯がいいんだけどね。

 

まずは一杯でのどを潤した私は、お母さんの向かいの椅子に座り、同じように栞を見つめる。

 

栞は私の5つ下で、その可憐な顔だちも、行動の一つ一つさえも愛おしく、本当に可愛くて仕方ない。この世に天使がいるのならきっとこういう子に違いない。

 

ちょっと大げさ?いやいやそんなことはないよ。だって可愛いもん。

 

うん?でもいつもとなんか様子が違う?

 

 

「ねえお母さん。栞どうかしたの?さっきからずっとスマホと睨めっこしてるよ」

 

 

そんな栞を見ていて、ふと気付いたことがそのまま口をついて出てきた。

 

同じ疑問をお母さんも持っていたようで、すぐに答えてくれた。

 

 

「やっぱり気になるわよね。じつは、それがよくわからないのよ。帰ってきたと思ったら、いきなりソファに寝転んでクッションに顔を埋めて足をバタバタさせて。もうはしたないわよって注意したら足バタバタをやめてくれたの。でもとっても可愛かったからちょっと残念だったわ。あぁ、もう一度足バタバタしてくれないかしら」

 

「へぇいつも栞は大人っぽくしているけど、まだまだ子供なんだね」

 

 

栞がクッションに顔を埋めて足バタバタしている光景を想像してみる。

 

うん。

 

とっても可愛いかも。今度お願いしてみようかな?

 

・・・いやいや

 

 

「話が脱線しちゃってるよお母さん」

 

「あらいやだ。そうだったわね。それが聞いても理由を教えてくれなくて。めぐり、ちょっと聞いておいてくれない?私はさすがにそろそろ夕ご飯を用意しないといけないし」

 

「いいよ。やってみる」

 

 

私は椅子から立ち上がって、ソファに座る栞の横に座って話しかける。

 

 

「ねえ栞?」

 

「めぐちゃんお帰り。どうしたの?」

 

「うんただいま。えっとね。今日学校でなにかいいことあった?」

 

「学校はいつも通りだったよ」

 

 

おかしい。

 

栞は学校であったことを毎日なにかしら楽しそうに話してくれるんだ。なのに「いつも通り」と言う。これは他に大きな出来事があったに違いないよ。

 

名探偵めぐりはそう結論付ける。

 

 

「じゃあ、どこかでなにかあったのかな?」

 

 

私がそういうと、それまでスマホだけ見ていた栞が私のほうをみた。

 

その顔の表情からは伝えたいけどどうしようという彼女の葛藤が見て取れるようだった。

 

 

「どうしたの?」

 

 

私はちょっと意地悪く、先を促す。

 

ごめんね栞。

 

いつもだったら聞き出そうとは思わないんだけど、今日はお母さんも気にしていたし、なぜか私もとても気になるんだ。

 

 

「うん。でも・・・まずはこれあげる。めぐちゃんへのプレゼント!」

 

「え、これって・・・」

 

「めぐちゃんが髪留め変えようかなって言ってたから、いつものお礼に買ってきたの」

 

「し、しおりいぃぃ!!」

 

「あぅ。く、苦しいよめぐちゃん・・・」

 

 

やばいやばいやばいどうしよう。これはもう本当にやばい。どれくらいやばいかと言うと、まるで世界中の幸福が今私の元に集まってきたくらい嬉しい!

 

いや世界中の幸福を集めたらどうなるか全く想像がつかないんだけどね。

 

嬉しさがストップ高してしまった私は栞を全力で抱きしめる。

 

そのおかげでソファに栞を押し倒す格好になっているけど仕方ないよね。もう本当に可愛いんだから!

 

当初の目的をすっかり忘れてしまって、私は栞に感謝の言葉を返す。

 

 

「本当にありがとう!栞、一生大事にするね!」

 

「う、うん。喜んでくれてよかったよ!めぐちゃん」

 

 

若干私を見る目に脅えがあるような気がしないでもないんだけど、たぶん気のせいだよね。

 

だって栞が私にそんな目を向けるとかもう私生きていけないよ。

 

いやさすがに言い過ぎかも。

 

 

「あ、あの、それでね?続きを話してもいいかな?聞きたいこともあるし」

 

「うん?あぁそうだったね。どうぞ」

 

「えーと、実は今日ね・・・」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

夕食後、お風呂上がりにダイニングに来た私は、やっぱり武蔵野牛乳でのどを潤しながら、さっきの栞の話を思い返していた。

 

 

 

『たしか、比企谷八幡って言ってたんだけど、めぐちゃん知っている人?いろはお姉ちゃんの制服がたしかめぐちゃんと一緒だったから同じ学校だと思うんだけど』

 

 

どうやら、栞が今日お世話になった人の名前らしい。

 

ちなみに女の子と一緒に居たようでそっちの子は一色いろはさんと言うみたい。

 

よくよく聞いてみると、栞はその比企谷くんの話をする度にテンション高く顔を赤くしていた。

 

しかも一色さんとの関係について話すときは『やっぱり恋人同士なのかな・・・』とこの世の終わりと言わんばかりに凹んでいた。

 

しかもその比企谷くんには連絡先を教えたらしい。どうやって教えたのかは、なぜか教えてくれなかったけど。

 

 

もうこれだけ状況証拠がそろえば、なんで栞がスマホと睨めっこしていたのか、わからない方がおかしいよね。

 

どうやら栞は比企谷八幡くんという人に好意を抱いたようだった。初めての恋に戸惑ってる栞がとてつもなく可愛い。

 

だから彼から連絡がくるのをその可憐で細い首を長くして待っていたのだ。

 

私は愛くるしい妹の成長が嬉しくて、そう確信した瞬間、栞をまた抱きしめた。『お姉ちゃん苦しいよぉ』もうなんて可愛いの!また抱きしめる。しばらく抱きしめていたが、解放した瞬間、栞に可愛く怒られた『もう!嬉しいけど苦しいんだからね!』また抱きしめたくなったけどさすがに自重する。私ももう高3だもんね。

 

 

 

「いつの間にか栞も恋を覚えるお年頃になったんだなぁ」

 

 

しみじみと妹の成長を噛みしめる。

 

でも飲んでいるのが牛乳なのはちょっと締まらないかも。でもコーヒーとか苦いから苦手だしなぁ。

 

 

―バン!!

 

 

ギョッとして音のした方を向くと、リビングに繋がる扉が乱暴に開けられて壁にぶつかる音だったようだ。

 

その扉の前には、ピンクのふわふわしたパジャマ姿の栞(もう可愛くてどうしよう)が今にも泣きそうな顔をして立っていた。

 

 

「お、お姉ちゃん!どうしよう!本当に連絡がきた!なんて返せばいいのかなぁ」

 

 

私の姿を見つけた栞はトテテテとやってきて私の胸に抱き付いてくる。

 

 

「・・・どうやら今日は長い夜になりそうだね。お姉ちゃんに任せなさい!」

 

「ぐすん。あ、ありがとう」

 

そんな反応を示す栞を微笑ましく思いながら、彼女の髪の毛を撫でる。

 

同じ女の私からみても栞の髪は柔らかくていつまでも撫でていたくなる。あぁなんて(以下略)

 

それにしても我が家の天使である栞をたった半日足らずでここまで魅了した比企谷くんに興味が沸いてきた。あとは一緒にいたという一色いろはさん。

 

明日学校に行ったら生徒会によく顔を出してくれる平塚先生にでも聞いてみようかな。

 

なんだか楽しくなってきた。

 

いつの間にか浮足立っていた私は自分の口から漏れ出た言葉には気づかなかった。

 

 

「・・・比企谷八幡くんか」

 

 

その日、彼女の家のリビングの明かりは朝方までずっと灯っていたという。

 

 




めぐり先輩めぐりっしゅの原点はここにあるのかな


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閑話 私とせんぱいと天使の策略~突然の来訪者~

とりあえず顔合わせ。


「緊急事態です!!」

 

 

授業を終えた私は急いで荷物をまとめて教室を後にする。向かう先は奉仕部の部室。三浦先輩が教えてくれていたので迷うことなくたどり着きました。

 

途中同じサッカー部のマネージャー女子とすれ違った気もするけど今はそれどころじゃないんです。え?私もマネージャー行かないのかって?なんですかそれ知らない子ですね。

 

奉仕部の部室についた私は勢いよくその扉を開け放ち、冒頭の言葉を告げる。

 

部屋の中には三浦先輩が結衣先輩の髪を結んでいる姿があってまるで姉妹のようでした。

 

テーブルを挟んで向かいの椅子には雪ノ下先輩が指をこめかみにあてて、やれやれといった感じです。あとせんぱいは隅の方で読書してるようですね。何読んでいるんでしょう?

 

 

「一色さん・・・だったわよね。あまり大きな声は出さないでもらえるかしら。あとノックを忘れているわよ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「まぁまぁゆきのん。それよりいろはちゃんやっはろー!今日はどうしたの?」

 

「や、やっはろーです?結衣先輩」

 

 

その挨拶はなんですか結衣先輩・・・さすがの天然さんで可愛いですけど。うぅなんでだろ?結衣先輩見てると頭が・・・いやいやそんなことより!

 

「そうでした!緊急事態なんですよ!」

 

「一体どうしたの?あれ?ヒッキーどこ行くの?いろはちゃんがせっかく来てくれたのに」

 

「あ、いや、そのなんだ。急用を思い出してな。悪いがあれがそれだから帰るわ」

 

「全く意味わかんないし!?」「八幡?その反応はいろはの話と関係ありそうだし。座りな」「いや、あの、だから」「座れ」「はい」

 

 

三浦先輩がいてくれてよかった。ただ、最近せんぱいの察しがよくなってきてるような?少しやり方変えないといけないかもですね。

 

 

「なんだかよくわからないのだけど、一色さんも座ったら。いま紅茶を淹れるわ」

 

 

雪ノ下先輩はすっと立ち上がり、この部屋にあって明らかに私物とわかるくらい高級そうな器具を駆使して、お客様用のカップ(ケースにでかでかと書かれてるもしかして結衣先輩が?)に紅茶を注いでくれる。その優しい匂いは私を少しだけ落ち着かせてくれる。

 

 

「雪ノ下先輩。ありがとうございます!頂きます・・・うわめちゃめちゃ美味しいです!」

 

「そう。お口に合ったようでよかったわ。それで、そろそろ本題に入ってはどう?そこに座ってるうちの備品がなにかやらかしたのかしら?」「もしもし雪ノ下さん俺を備品扱いしないでくれます?」「「もう!八幡(ヒッキー)!話が進まないから黙って(てよ)!」」「・・・はい」

 

「まったく比企谷くんは仕方ないわね。じゃあ一色さん?」

 

「はい。じつは昨日・・・」

 

 

そして、私は昨日の顛末を皆さんに話し出しました。

 

まず発端の部分はたまたま、そう!たまたま偶然一緒にショッピングセンターに行ったことを告げた瞬間に-3度。 

 

せんぱいが困ってる女の子を助けに行ったことに+3度。 

 

その女の子が知り合いの女の子の中で一番可愛いと言ってナンパした瞬間に-6度(せんぱいが否定してきましたが三浦先輩の睨みで押し黙ってますちょっと盛りすぎたかな)。

 

女の子の探し物を見つけて駅まで送り届けたところまで話して+6度。

 

私の話に合わせて部屋の温度が変動しているみたいですけど、この人達なんで地球環境まで操作できるんでしょうか。

 

なんか恐いです。せんぱいなんか温度が下がる度に怯えちゃってちょっと可愛い。

 

 

「うーんいろはちゃんの話を聞いてると、ヒッキーが真面目に働いてたってことだよね。たしかに驚きだけどきんきゅうじたい?とは思えないんだけど。むしろいい話なんじゃないかな」

 

「そうね。今のところロリコン疑惑は晴れないけれどそこまで慌てる事態とは思えないわね」

 

「・・・」

 

 

うんここまで聞いただけだと、ただせんぱいが頼りになるいい話なんですよね。

 

でも三浦先輩はなにか気づいたみたいです。さっきからずっとせんぱいを睨んでますし。あ、せんぱいのシャツの端を摘まんでる。

 

 

「えっとですね。話はここからが本番でして・・・じつは」

 

 

私はこの場の全員が共有しなければならない事実を告げる。

 

 

「その栞ちゃんが去り際せんぱいにキスしたんです!!」 

 

 

私の絶叫が室内に響き渡る。

 

皆呆然としているなか三浦先輩は確実にせんぱいの脇腹をつねってますね。せんぱいの顔が苦悶に充ちてます。自業自得です。

 

 

「比企谷くん」

 

「っ!な、なんだよ?」

 

「私の知り合いに優秀な弁護士がいるから執行猶予はつくと思うわ」

 

「有罪確定じゃねえか」

 

「残念だけれどこの腐った眼をしたロリコン野郎を無罪にするには世界改変レベルの力が必要よ。法に従う無力な彼らではあなたを救うことはできない。ごめんなさい」

 

「罵倒したいのか謝りたいのかハッキリしてくれないですかね。反応しづらいだろ」

 

「ひ、ヒッキー!ほんとうに、き、キスしたの?」

 

「ちょっと由比ヶ浜さん?おれからした訳じゃないからね?向こうが勝手に・・・!?」

 

「したんだ」「有罪確定ね」「・・・」

 

 

その後のせんぱいは延々と正座をさせられて、三者三様のお説教を受けていた。

 

雪ノ下先輩はロリコンがどれだけ世の中にとって悪なのか延々と語り、結衣先輩は栞ちゃんをどう思っているのか誰に似ているのか延々と聞いていた(あれ?普通)、三浦先輩は無言で睨み続けてそのうち照れてしまったのか俯きながらチラチラせんぱいを見つめていた(なにそれ可愛いじゃないですか!) 

 

 

「それで、せんぱい。結局のところ、あの子と面識は本当に無かったんですよね?」

 

「当たり前だろ。あんな天使が小町以外にもいたとか、知っていたら可愛いがり過ぎて通報されているまである」

 

「通報されるのは確定なんですね・・・でもそれじゃあ、これから先、あの子に会うことはないですよね?ね?」

 

「・・・あぁ」

 

 

なんですか?その間は。

 

 

「まぁでもまだ小学生のようだし、ちょっと背伸びしたかっただけなのかも?」

 

「由比ヶ浜さんの言う通りかもしれないわね。海外だとキスはスキンシップの範疇ではあるし。頬へ唇をあてるのは日本の文化なのだけれど、ご両親がしているのをみて覚えていた可能性もあるわね」

 

「ふーん。さすが雪ノ下さん」

 

「さすがもなにもないわ。私帰国子女だから。それだけよ」

 

「うへえ!?ゆきのんきこくしじょだったの!というか、きこくしじょって?」

 

「由比ヶ浜まじか」「結衣さすがにあーしもフォローできないし」「結衣先輩・・・」

 

「もう!みんなして酷い!」

 

 

結衣先輩のおかげ?で場が和んだようです。私もあまりのことに少し気にしすぎてたのかもしれませんね。

 

たとえでもありえないですけどあの子がせんぱいに興味を持ったとしても、まだ小学生ですし、私達との繋がりもないんですし。あれ旗が見えるような?

 

 

「あ!そういえばその栞ちゃんって苗字はなんていうの?」

 

 

結衣先輩が突然思い出したように私に尋ねてくる。そういえば、かいつまんで話していたから、栞ちゃんとしか言ってなかったっけ。

 

 

「えっとですね。たしか」

 

「城廻って言うんじゃないかな?」

 

「そうなんですよ!よくわかりました・・・え?」

 

 

私のかわりに栞ちゃんの苗字を当てたのは奉仕部のメンバーではなく、教室の入り口に立つ一人の女生徒でした。

 

ポワポワした雰囲気とふわりとした髪型がマッチしていて、彼女の少し垂れぎみの大きな瞳からとても温和な印象を受ける。なんていうかめぐりっしゅ!とかいって癒してくれそうです。

 

特徴としては前髪を髪留めでまとめているところですかね。この学校には本当に美少女多いですよねえ。あれ?前髪の髪留め?

 

 

「まさか雪ノ下さんの部活にこんなに人がいるとは思わなかったよ。いつの間に部員が増えてたの?」

 

「城廻先輩。お久しぶりです。あの、すみませんがこれからはノックしてから入ってもらえますか?あと部員のことは平塚先生に聞いてください」

 

「あ!ごめんねぇ。つい栞のことが話題になってたから飛び込んじゃった」

 

 

てへへと笑うこの人をみた瞬間、私はこの人は天然物だと確信する。女子はこういったことを察知することに長けているんです。でもだからこそ、この人のことは苦手かもしれません。

 

 

「はじめましての人が多いよね?私は3年の城廻めぐり。さっきまで皆が話していた栞のお姉ちゃんです」 

 

 

えっへん!という効果音がつくように胸を張るポーズをとるめぐり先輩。

 

かくいう私はこの前せんぱいの横で観ていたボクシングの試合でいうところの、鐘が鳴った瞬間にKOされた気分です・・・マジですか

 

 

「補足するとうちの学校の生徒会長よ」

 

「皆これからよろしくね」

 

 

ニコニコと胸の前で手を合わせて挨拶するめぐり先輩と対照的に私の気分は昨日に続いてまたもや沈んでしまう。

 

あぁ!信じられません!またもや誰かの策略にのせられたなんて!

 

これからどういうことが起こるのか検討がつきませんけど、少なくともこの城廻姉妹に振り回されることだけは確信できました。

 

もうなんなんですか一体・・・

 

 

 




どうしよう。本編進めたいのに城廻姉妹が溢れだす。


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第2章 依頼
第14話 彼のお友達は自分を偽りきれない



「わ、私が語り手をしても需要はないんじゃないかしら?えっ?さすがの雪ノ下さんでも俺がいつもやってる語り手は難しいんですねわかります、ですって?・・・最初に言っておくけれど、そんな安っぽい挑発にいったい誰が乗るというのかしら。もしそれで私を煽ってるつもりならその腐った眼だけじゃなくて頭の中も一度精密検査を受けたほうがいいと思うわ。私の親戚に脳科学を先行している研究者がいるから紹介しましょうか?もしかしたらあなたも科学の分野に貢献できるかもしれないわよ?1ミクロンくらいならね。あら?なにかしら由比ヶ浜さん・・・はあ。わかったわ。わかったからそんなに悲しそうな顔をしないでちょうだい。そこまでお願いされてやらないのは雪ノ下の名が廃るわ。あぁもう制服の袖で拭いたらだめよ。このハンカチを使いなさい。ほら。綺麗になったわ。ちょ!ちょっといきなり抱きつかないで。わ、わかったから。ちょっと、そこでニヤニヤ気持ち悪い顔をしているニヤツキ谷くん。決してあなたの煽りを受けたからやるわけではないのよ?そこのところ本当に理解しているの?まあいいわ。どちらにしても覚えていなさいよ・・・こほん。それにしてもどこから話せばいいのかしら・・・そうねこれから話そうかしら。あれは先週の木曜日の放課後、まっすぐ部室に向かったときに・・・」




 

 今日もいつものように何事もなく迎えた放課後。私は机の上の教科書やノートを手早く鞄に仕舞い、とくに立ち止まることもなく教室を後にする。

 教室を出るとき、クラス内のいくつかのグループがさっきの授業の感想や今日の宿題についてなにか語り合っている。おそらく何人かは勉強会にかこつけて街に繰り出すのでしょうね。最近私の周りに現れて一際賑やかな人物が重なり苦笑してしまった。

 それはそれとして、どうしてクラスの皆は放課後に限らずいつでも喋っているのかしら?私にはその感覚がわからない。どうも私は普通の女子とは違う価値観を持っているみたいね。

 そういえば説明していなかったけれど、私が所属しているのは国際教養学科。所属の9割が女子。募集はとくに性別で制限していないのにね。なぜこんなに偏っているのかしら。

 あらいけない。話が逸れたけれど、この学校には普通科とこの国際教養学科があるの。元々学校自体が進学校なのだけれど、その中でもこの国際教養学科はその名の通り世界的に活躍できる人物を育成することを主眼に置いていて、そのカリキュラムもなかなかにハード。だから課題について真剣に取り組む必要があるわ。といってもこのクラスには優秀な生徒が多く、1日中取り組まないと追い付けないような人は少ないので、問題ないのでしょうけどね。

 私がクラスメイトに対していらぬ心配をしているとどこからか女生徒の大きな声が放課後の静かな校舎内に響きわたった。

 

 

「ゆきのーん!」

 

 

全く誰かしらこんな大きな声で。それにゆきのんってなにかしら?なんだか間抜けな名前ね。

 

 

「ねぇねぇゆきのん!あれ?聞こえてないのかな?ゆきのん!ってば」

 

 

 私のすぐ近くでゆきのんと呼び続ける女生徒。ちょっとゆきのんさんとやら。早く反応してあげなさい。この子はきっとずっと呼び続けるわよ?

 

 

「うぅ!ゆきのんの意地悪!」

 

「きゃ!」

 

 

 ガバッと誰かに抱き締められる。え?ちょっと待ってちょうだい。もしかして・・・

 

 

「あの、由比ヶ浜さん?どうして私に抱きついてるのかしら?」

 

「あ!やっと気づいてくれたよ。やっはろー!ゆきのん!一緒に部室行こう?」

 

 

 あぁ。いったいどこから突っ込んだらいいのかしら。

 

 

「あの、由比ヶ浜さん。色々と聞きたいことはあるのだけれど、1つだけ教えてくれるかしら?そのゆきのんってのは私のことかしら?」

 

「そうだよ?」

 

「そんなに可愛らしく首を傾げられても困るのだけれど」

 

「え!か、可愛い?えへへ嬉しいな」

 

 私の言葉に照れる由比ヶ浜さん。とても可愛らしいのはそうなのだけれど、このままでは話が進まない。

 

 

「あの、話を聞いてもらえるかしら?私はなぜ、その、ゆきのん、と呼ばれているの?」

 

「え?だって、ゆきのんはゆきのんだよね?」

 

「はい?」「え?」

 

 

 ・・・頭が痛いわ。これは一度落ち着いて話をする必要がありそうね。

 

 

「・・・とりあえず、部室に行きましょうか」

 

「ねぇゆきのん、もしかしなくても私のこと呆れてない?」

 

「驚いたわね。由比ヶ浜さんが私の考えを読めるなんて。これは認識を改めないといけないわ」

 

「ぶー!なんかまた馬鹿にされた気がする!」

 

「大丈夫よ。汚名返上の方の意味だから」

 

「そうなの?えへへ嬉しいな。そういえば名誉挽回と汚名返上ってなんで同じ意味なのに二つあるのかな?」

 

「・・・」

 

 

 前言撤回ね。

 

 

「あ、あれ?なんで先に行こうとするの?一緒に行こうよゆきのん!」

 

 

 ゆきのんとやら、早くこの子をなんとかしてくれないかしら。でないとこれまで積み上げてきた私の中の何かが崩れてしまいそうだわ。はぁ。

 

 

 

「そんなとこで何してんの?」

 

「「!?」」

 

 

 部室の中の先客(客と呼べるのかは甚だしく疑問だけれど)の様子を由比ヶ浜さんと伺っていたら、急に声をかけられたので、柄にもなく驚いてしまった。まったく勘弁してほしいわ。

 

 

「いや、そんなに驚かれても困るんだけど」

 

「いきなり話しかけないでちょうだい。一体どこのストーカーが現れたかと思ったじゃない」

 

「ストーカーってのは頂けないが、いきなりは悪かったよ。そんで何してんのよ。中、入らねえの?それとも今日は休みか?休みなんだな?よし帰ろうそれ帰ろう」

 

「なんでヒッキー生き生きしてるし!?」

 

「結衣、あきらめな。こいつはこういうやつだから」

 

 

 あら、三浦さんも一緒に来ていたのね。相変わらず彼と仲が良いようで、三浦さんは比企谷くんの右腕に抱き付いている。(ほぼ答えはわかっているのでからかうつもりで)以前彼女になんで彼の腕によく抱き付いてるのか聞いたことがあるのだけれど、彼女の中ではその行動は体面的には彼が逃げ出さないように捕まえているとのこと。

 由比ヶ浜さんがそんな二人をみて悲しそうな顔をしてる。まったく。彼はひどい人ね。

 

 

「私が帰っていないのに休みなわけないでしょう?それよりあなたに聞きたいことがあるのだけど。部室の中の不審者について心当たりはあるかしら」

 

「「不審者?」」

 

 

 私たちは改めて、比企谷くんを先頭にして部屋の中をのぞき込んだのだけれど、そこにいる人物を私はどう説明したらいいのかしら?まだ春先と言えなくもないくらいの時期ではあるのだけれど、その人物は厚手のコートでお世辞にも引き締まっていない重そうな身体を包み込み、四角い縁の厚いメガネをかけて、部屋の窓から校庭を見下ろしている。あら。こっちを振り向いたわね。

 

 

「待ちかねたぞ!比企谷八幡!!ここで会えたことも八幡大菩薩の導きがあってのこと!!我らが出会うはもはや天命である。さぁここにともに我らの誓いを立てようではないか!!」

 

 

 バサッと暑苦しいコートを翻し、顔の前で手をクロスさせて意味不明のポーズをとっている。なんなのかしらあれ。比企谷くんを呼んでるようだし、お任せしましょうか。

 

 

「比企谷君ご指名よ」

 

「あんな奴は知らん」

 

「何を言っておるのだ!!お主は灼熱の舞台で繰り広げられた聖戦を我と共に切り抜けたことを忘れたと申すか!まさか奴らの手にかかっていたというのか!?」

 

「あぁそうだな。昨日の体育は外で熱くて死にそうだったな」

 

 比企谷くんはさも当然といった感じで、彼の言葉に対して返事をしている。なんでわかるのかしら。そういえばこの場にいるはずの由比ヶ浜さんと三浦さんは比企谷くんの後ろに隠れて傍観を決め込んでいるみたいね。ちょっと、二人ともさすがにくっつきすぎじゃないかしら?

 

 

「比企谷くん。申し訳ないのだけれど、彼がなんて言っているのか通訳してくれないかしら?私、日本語を忘れてしまったみたいなの」

 

「安心しろ雪ノ下。それが普通だ。ちなみにあいつは体育の時間一緒にペアを作ったことがあるだけの関係だ。たしか材木座だったかな」

 

「いかにも!!そう!!我こそは剣豪将軍義輝である!!皆の者頭が高い!!」

 

「いきなり食い違っているのだけれど・・・では、剣豪将軍とはなんなの?」

 

「あいつの名前が材木座義輝だから室町幕府第13代征夷大将軍足利義輝とかけてんだろ」

 

「さすがは八幡!我が心の友、いや、親友よ!!「ちげーから」なん、だと!?」

 

 

 どうやら合っているようね。・・・親友、ね。

 

 

「ではなぜあんなにあなたに懐いているの?」

 

「さっきあいつが言っていたように、武運の神として有名な八幡大菩薩と同じ名前だから興味を持たれたんだろうな」

 

「いかにも!こうして我らが巡り合ったことは神の導き!!」

 

「おめでとう。いつの間にかあなたにも同性のお友達ができたのね」

 

「友達じゃねえよ」

 

 

 これだけ話ができるのに友達じゃないって、どういうことかしら?友達については私もあまりどうのこうの言うことはできないのだけどね。

 

 

「それにしても驚いた。あなたこういうのに詳しいのね」

 

「まぁな。中二病の奴とは昔ちょっとあってな」

 

「そう。それにしても中二病という人種は苦労しそうね。彼みたいなのが大勢いるってことなんでしょう?」

 

「いや。あいつは実在のものをベースにしてる分、まだマシだぞ」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。ひどい奴になるとだな・・・」

 

 

 それから彼が中二病について語っていたけれど、全く頭に入ってこなかった。一つわかったことは彼にもああいう時期があって、彼と同じように同士を求めていたということかしら?あら違うの?

 

 

「それで、ざ、材・・・あなたは何のためにここにやってきたの?」

 

「そ、それは・・・八幡!我はお主に戦乱の世を鎮めるための聖典の真偽について「ちょっとあなた。いま話しかけているのは私よ。話しかけられたらその相手の目を見て喋るのが礼儀でしょう」・・・は、はい、でも、あ、あの「なに?言いたいことがあるのならはっきり言ってほしいのだけど」・・・あの、は、八幡ちょっと」

 

「はぁ」

 

 

 私のさも当然の主張に対してまったくもって釈然としない反応しか示さなかった彼は、今にも泣きそうな顔で比企谷くんを呼ぶ。なぜ彼が泣きそうなのか私には皆目見当がつかないのだけれど、比企谷くんが案外友達思いだということに対して私はちょっと驚いている。やっぱり友達なんじゃないの?

 

 

「うん?あぁそういうことか・・・雪ノ下。わかったぞ」

 

「あらそう。それでは、彼は何のためにここにきて、こんなにも中二病を爆発させてたの?」

 

「中二病はデフォルトだから諦めてくれ。どうやら材木座は、俺たちに自分が書いた小説の批評をしてほしいみたいだ」

 

 

 比企谷くんの言葉にぶんぶんとその大きな頭を縦に振る、ざい、ざ、ざいなんとかくん。私は依頼を聞くだけでここまで苦労した事実に頭が痛くなりながらも、彼との勝負の為、この依頼を引き受けることを決めた。

 

 

 

 

「あら、もうこんな時間」

 

 時計をみて腕を上に伸ばして少しだけ手をとめる。ついでにと、今日何杯目かわからなくなったコーヒーを流し込み、もうひと踏ん張りと自分を鼓舞する。

 あの依頼を受けて家に帰ってから、ずっと自室に籠って、彼に渡された原稿のコピーを読んでは直し、読んでは直しの作業を繰り返している。

 時刻は午前2時を過ぎたくらい。原稿はやっと7割目前といったところかしら。ページ数は軽く1,000枚を超えていて、中には設定資料も含まれている。だから文章に出てくる用語を逐一確かめないといけないところが効率を落としているのよね。なんなのかしらこの闇の炎の使い手って、まったくもって理解できないのだけれど。

 最初は原稿の一単語も理解できなかったけど、いまは文章の単語の6割が理解できるようになってきたってところかしら。これでやっと能率があがるかと思いきや、こうなってくると、彼の文章の問題点が芋づる式に見えてきてしまって、余計やるべきことが増えてしまった。

 それでもやるべきことは明確なのだから、黙々と原稿に赤をいれていけばいい。それだけのことよ。またわからない単語が・・・邪王真眼の使い手?・・・単語によって解説の濃さが違うのはなぜかしらね。

 作業中、何度か私の口からでた呟きには、今回の依頼を通して垣間見えた『なにか』が含まれているのかもしれない。

 

 

 

「・・・もうちょっとだけ」

 

 

 

 結局、私が作業を終えたときにはもう朝日が部屋に差し込んでいた。

 

 

 次の日、私は奉仕部の部室で徹夜でチェックした付箋付きの原稿を元に、ざ、ざい、材なんとかくんに対して、物語が物語足りてなく読むことが苦痛でさえあった旨を伝え、そもそもてにをはやルビの使い方から日本語の文法の基本の欠落など指摘し続けた。

 私の指摘のたびに胸を押さえて「うぅう」と唸る彼の姿は不気味ですらあったけれど、ここで情けをかけるのは依頼主に対して失礼だと思い、なるべくストレートに伝えていく。

 まだ1/3くらい伝えた段階で比企谷くんが「おいおいやりすぎだ」と引きつった顔で私を止めに入る。その後、由比ヶ浜さんからの「難しい言葉知ってるね」、三浦さんからの失礼ながらも意外にもきちんと読み込んだ上での酷評を聞いた彼は傍目から見ても風前の灯といったくらいには凹んでいた。

 そして最終的には

 

「で、あれってなんのパクリ?」

「大丈夫だ。大事なのはイラストで中身じゃないから安心しろ」

 

 あなたの方が容赦ないじゃない。比企谷くんのコメントによって、ざ、材なんとかくんはまるで屍のように朽ち果てた。あら、私まで少し毒されたのかしら?

 

 

 





「・・・振り返ってみると、中身はともかくとして、よくあれだけの量の文章を彼は書き上げたものね。その根性だけは認めてあげないといけないかしら。しかも後で聞いた話だと、彼はあれだけ酷評を受けても作家になるのを諦めていないのよね。その情熱には目を見張るものがあるわね。比企谷くん、彼はあれからどんな具合かしら?え?友達じゃないから知らない?というか知りたくもないですって?ちょっと流石にそれはどうなのかしら。少なくとも彼はあなたの依頼人でこれからも読んであげると約束したのでしょう?私としてもあの量の怪文書を・・・失礼文章をいつも読むのは避けたいところではあるわ。でもあなたにはそれをする義務があると思うのだけど。気が向いたら読んでやらんこともない?なんなのかしらその態度は。素直じゃないわね。え?私には言われたくないですって?・・・うふふ。やっぱりあなたの依頼もそろそろ本気で取り組まないといけないのかしらね?あらそんなに怯えることはないじゃない。平塚先生に頼まれたことでもあるし、あなたも周りの人とこれから円滑なコミュニケーションをとれるようになりたいでしょう?そうね。まずは禅寺の修行が良さそうね。あなたの煩悩を全て取り除いてもらって、礼儀作法を叩きこんでもらいましょうか。偶然にも母方の親戚にお寺の住職さんがいらっしゃるからお願いしておくわね。あら?どこにいくの比企谷くん。急用ができたから帰る?しばらくは部活にも来られない?いきなり何を言い出すかと思えば。全くあなたは。あ!ちょっと、どこに!・・・行ってしまったわ・・・あら一色さん。こんにちは。いいところに来てくれたわ。今出ていった比企谷くんを捕まえてきてくれないかしら?もちろんお礼に彼とのデートをサポー・・・え?全力で捕まえてきます?そ、そうありがとう・・・走って行っちゃったわね。そんなに食いつくとは思わなかったけれどきっと彼女なら彼を連れてきてくれるわ。それにしてもあの男のどこがいいのかしらね。まあたしかに誠に遺憾ではあるけれど彼は私の言葉を受けてもちゃんと返してくるのよね。だからというわけではないのだけど彼と話してるとついつい長話を・・・ん?どうかしたの由比ヶ浜さん。え?なんだか楽しそうだね、ですって?ちょっと冗談はやめてもらえるかしら。たしかに彼との会話は肩肘張らないですむから楽というか遠慮しなくてすむというか。でもそれは彼がこの部の部員として相応しくなるよう教育するために仕方なく私も彼に合わせてるだけであって全くもって他意はないのよ?あら?どうしたの由比ヶ浜さん。たしかジト目って言うんだったかしら。そんな目をしてどうしたの?もしかして彼に毒されたの!?まさか比企谷くんがここまで手段を選ばなかったなんて!え?ちょっと落ち着いてちょうだい由比ヶ浜さん。なんで私ポカポカ叩かれてるのかしら?全く痛くも痒くもないから構わないのだけれど。秘密?どうしてかしら由比ヶ浜さん。あ・・・行ってしまったわ。どうしたのかしらね彼女。まったく皆彼のことになると我を忘れてしまうのだから仕方ないわね本当・・・これも彼の魅力なのかしら。そう言えばあの、ざい、材なんとかくんも比企谷くんを親友と呼んで彼とだけ目を合わせて会話していたわね。ふふ。もしかすると彼が気づかない内に彼の交遊関係が広がってるのかもしれないわね・・・あら今日は遅かったわね三浦さん。こんにちは。え、あの、その、いつもより近くないかしら・・・え?一色さんにだけデートのサポートするとかズルい?いえそれはあくまでお互いの合意に基づいた契約の報酬であって・・・はい?三浦さんも比企谷くんを捕まえてくるから私のデートもセッティングしろ?ちょっと待ってちょうだい。それは一色さんとの契約を反故にすることに・・・彼女も行ってしまったわ。どうしたものかしら。なんでこの私があの男のデートをセッティングしないといけなくなったのかしら。これはもう彼に不満をぶつけるしかないかしらね。そうね。デートセッティングの下見を兼ねて彼を連れ出して苦情を訴えましょう。あらなぜかしらとても楽しくなってきたわ。待ってなさい。比企谷くん」



雪ノ下さんが八幡とじゃれあう会話が大好きです。でも照れゆきのんはもっと好きです。



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第15話 幼馴染には頭が上がらない

 

新~しい朝がきた!

希望のあs・・・おや誰か来たようだ。

 

え!ちょっま!・・・嘘やろ・・・

 

 

今日も今日とて朝から喜びに満ち溢れつつ、またしても、まどろみの中での睡魔との熱戦を楽しみながら、至高の朝を満喫する俺である。そのうち、究極の朝と対峙するような日が来るのだろうか。ぜひとも味わいたいものではある。

 

さて、そんな俺の楽しげなバラ色の朝タイムを絶望の色に染めあげる元凶は着実に近づいていたらしい。らしいというのは全くその気配を感じることができなかったからだ。そのため、奴の侵入をやすやすと許してしまったことが全ての敗因であったと言える。

 

 

 

「せんぱーい!朝ですよ!起きてください!」

 

 

バン!という扉が勢いよく開く音に驚きつつ、声の主が誰か判断すると不思議に俺は冷静であった。まぁいつも急に入ってくるやつらの一人なのだから、今さら無断で部屋に入ってきたことにはもう驚かない。あれだ、慣れってやつだ。

 

ただ、今日は困る。今の俺は非常に困る状態なのだ。一色さん早く帰って!という意思表示のため、さらに掛け布団の中に潜り込み、布団の端を強く握りしめる。いや、そっちを握るんじゃない!ちょっと!

 

 

「もう!春眠何とかって言いますけど、さすがにそろそろ起きないと学校に遅刻しちゃいますよ?平塚先生の鉄拳が飛んできますよ~」

 

 

ゆさゆさと掛け布団の上から俺を揺さぶってくる一色。頼むからやめてくれよ・・・

 

 

「むぅ。なんで反応がないんだろ?いつもならさすがに・・・は!まさか!」

 

 

何かを察して布団を捲ろうとする一色に抵抗するため、俺はさらに布団をきつく握りしめる。

 

 

「・・・先輩。その反応でだいたい察しましたけど、今なら私の買い物に一日付き合うだけで許してあげますよ?」

 

「・・・断ると言ったら?」

 

 

すでにはっきりと俺の目にも見えてる未来が、もしかしたら変わってくれるかもしれない、そんな一縷の望みにかけて俺は一色にお伺いを立てる。あぁ神よ!

 

 

「雪ノ下先輩に言いつけます」

 

「はぁ」

 

 

神はいなかった・・・逃げ場はないと観念した俺は、のそりと布団を這い出る。あっさりと出てきた俺に普通に接する一色。その態度が逆に怖いです。一色さん。俺の姿勢だって?もちろん土下座ですよ。身体が勝手に反応してしまった・・・やっぱ静かに怒る女子はこえーわ・・・誰かさんみたいに泣かれるのも困るけど。

 

 

「おはようございます。先輩。朝からこの私に起こしてもらえるなんて、先輩はなんて幸せ者なんでしょうね」

 

「はいわたしはしあわせものです」

 

「あれ?雪ノ下先輩の電話番号はっと」

 

「一色いろはさんみたいな年下の幼馴染に朝から起こしてもらえるなんて、比企谷八幡という男はなんて幸せなんだ!」

 

「美少女が抜けてますよ?」

 

「は?美少女っていうのは性格だっ「雪ノ下先輩の」とんでもない美少女でしたね!いやー俺って世界一幸せ者だわ。いやマジで」

 

 

俺の言葉に満足したのか、大仰に頷いてみせる一色。なんでそんなにドヤ顔なのか気になるがまぁいい。それよりもなんで自分で言わせて顔が赤いのか。表情なんて緩んでるぞこいつ。恥ずかしいなら無理に言わせる必要なんかないだろうに。一色への抗議の声を乗せた俺の視線に気づいたのか、ジトっと俺を睨んでくる。だがその表情には迫力が全くなく、ちょっと強がってる妹みたいで可愛かった。

 

 

「おほん・・・さて、せんぱーい?質問してもいいですか?なんで、せんぱいは起きているのに、布団が盛り上がっているんでしょう?」

 

 

声のトーン自重して!俺の精神力をゴリゴリ削るような低い声はヤバい。具体的にいうとまるで俺を蔑むような・・・あれ?いつも受けてるから大丈夫じゃないのか俺?

 

 

「・・・」

 

 

と、いつもなら華麗な突っ込みを一色に食らわせるところだが、今の一色にそんなことをしたら一発でレッドカードとなり、雪ノ下への通報というおまけ付きで俺をこの世間という枠組みから退場させることは間違いないだろう。いや、もしかするとすでに雪ノ下には伝わっているかもしれない。あいつ、なぜか俺がやってきたこととか、考えていることを知っているんだよな。身体のどこかから漏れてませんか俺の個人情報。

 

 

「茶番は終りですね・・・とりゃあ!!」

 

 

俺のベッドの上の不自然に盛り上がっている掛け布団が一色の手によって捲られる。

 

そしてそこには制服姿で小さくなってる三浦がいた。これが不自然に盛り上がってた布団の正体である。

 

てか、なんで胸元のボタンが開いてるのか。こいつ特盛だよなぁ。しかもスカートの状態がやけに際どいところを突いてくる。彼女の健康そうなすらっとしたその白い脚はとても眩しくて、思春期の男子には色々と刺激が強い。眼福なのだが、このまま見続けるのは危険と八幡のアホ毛に偽装したレーダーが告げている。俺はその警告に従いさっと視線を逸らす。もしこの状態だとさっき知ってたら俺だって・・・げふんげふん

 

 

「あ、あはは」

 

「おはようございます。三浦先輩」

 

 

今日の一色の迫力の前には、さすがの女王様もなす術がないようで、気まずそうにベッドの上に座り込んでいる。俺?引き続き土下座に決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい。

 

 

「どうして、三浦先輩がせんぱいの布団の中にいたんですかぁ?私、気になります」

 

 

どこぞの好奇心旺盛なお嬢様のセリフをとらないであげて。てか、なんでお前知ってんの?そして土下座中の俺とベッドの上で罰が悪そうな三浦にチラチラと視線を送らないで。突っ込みが欲しいなら別の機会にボケてくれよ頼むから。

 

 

「えっと、あーし、寒がりじゃん?」

 

「その格好でよく言えますね」

 

「八幡の部屋に入って声かけたけど返事がなくて」

 

「はい」

 

「・・・布団を触ったら、とっても暖かそうで、その、つい、中に・・・」

 

「”その”とか”つい”で高校生男子の布団に潜り込むんですね。三浦先輩は。さすがの私もびっくりですよぉ」

 

「は、はぁ!?こ、こんなこと八幡だけ!勘違いすんなし」

 

「うふふ。焦った三浦先輩も可愛いですね・・・ごめんない。さすがにからかいすぎました。三浦先輩をからかえるチャンスなんてあまりないものですから、私も、つい」

 

 

そういってテヘって舌を出すこいつはやっぱりあざとい。俺なんかよりお前の方があざといぞ。あざとい5段はあるのではないだろうか。

 

 

「も、もう!いったいなんなんだし!それもこれも、暖かそうな八幡が悪いし!」

 

「は?いやなんだよそれ?」

 

 

なんだよそれ?八つ当たりいくない。

 

 

「そうですよねぇ。まるでせんぱいからは甘い蜜でもでてるんじゃないですか?・・・私も三浦先輩と同じように潜り込もうとしてましたし」

 

「ん?いろは?」

 

「え?いやいや!なんでもないですよ!なんにしても、せんぱいには罪を償ってもらいますからね!」

 

「はいはいわかったよ。どうせ拒否権はないんだろ」

 

 

一色がなにをつぶやいたのかよく聞こえなかったが、三浦のジト目をみるにろくでもないことを言ったらしい。まぁどうでもいいけど。

 

 

「で、せんぱい?三浦先輩の抱き心地はどうでした?」

 

「ちょ!?いろは!?」

 

 

ニヤニヤとした表情で問いかけてくる一色。自分の腹黒さを隠せていないじゃないか。これではまるで黒いろはだ。

 

 

「ほんと勘弁してくれませんか?」

 

 

どうやらこいつに頭があがることはしばらくなさそうだ。

 

 

 




こんな朝を迎えたいものですねぇ


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第16話 3人目の天使の依頼~出逢い~

 

「ねぇねぇせんぱーい!私のお弁当見てくださいよぉ。美味しそうですよね?思いますよね?思わないとか意味わかんないんですけど」

 

「まだ何も言ってないからね?それなのに、なんで否定したことになって怒られないといけないの?」

 

 

俺のマイベストプレイスでの昼食。いつもなら、爽やかな風と静かな空間が暖かく俺を迎えてくれる。さらにテニス部の熱心な練習風景から漂う青春の色は俺を図々しくも彼らの親にでもなったかのような豊かな気持ちにさせてくれる場所。穏やかな時間、マジプライスレス。

 

そんな素敵空間を独り占めするべく、購買で買った焼きそばパンに手をつけようとしたところで声をかけられた。そう。例のごとく一色が現れたのだ。なんでいんの?と聞いた俺の言葉は当然のように無視されて、一色は俺の左側に座りこむ。そしてイソイソと距離を詰めてきて、身体ごと俺にもたれかかって、そのほわほわした甘栗色をした頭を俺の肩にくっつけてくる。甘い柑橘系の香りに少しだけクラッとしながらも、そろりと一色の様子を伺うと鼻歌なんか歌って上機嫌のご様子。楽しそうだからまっいっか。

 

数分にわたって俺の心臓に悪い時間が続いていたが、思い出したかのように小さいバックから弁当箱を取りだし、冒頭の言葉にあるように、パンを食べようとしている俺に向かって己の弁当箱を見せつけてくる。おまけに、「私きれい?」と聞いてくるどこぞの都市伝説ばりに「美味しそうですよね?」と問いかけてくる。一体なんなのなの?

 

 

「うふふ。せんぱい?私のお弁当食べてみたくなりましたよね?」

 

「いや、別に。つーか、購買のパンあるし・・・っ!ちょ、まっ!」

 

 

俺に問いかけてきたときは楽しそうな表情だったのに、俺の言葉に一瞬で無表情になり、無言でポカポカ俺の胸を叩いてくる一色。痛くはないけど意味わからん。なんなんだこいつは。そういやこの前も駅前のショッピングセンターで叩かれたっけ。

 

 

「うふふ。せんぱい?私のお弁当食べてみたくなりましたよね?」

 

「またかよ・・・だから、購買のパンがだな」

 

「そんな、ひどい・・・うふふ。せんぱい?私のお弁当食べてみたくなりましたよね?」

 

「どこぞの囚われてしまった姫かよ!?」

 

 

まさかのループ仕様だと!?一色がまさかの囚われの姫だったとは。そりゃあこいつの容姿なら、初対面でその場所が場所であれば、そうだと言われて信じないでもない。ただ、今朝も一緒に朝食を食べた俺からすれば、その時の所帯じみたこいつからは高貴さとかは感じなかったけどな。つーかこいつ絶対俺のゲームパクってやりこんでるだろ。古いからそろそろ動くかどうかヤバいはずなんだが。

 

それにしても。なんでさっきからこいつは身体をぴったりと俺に寄せてくるんだ。おかげで高校生男子にとっては大変光栄でありますという状態に陥っている。彼女の身体と密着してるってことなんだが、ちとまずい。いや、かなりまずい。こいつ案外着痩せするタイプなのな、とかわかってしまうし。さらに煩悩と脳内で繰り広げられるディスカッションの内容と身体に張り巡らされたセンサーから感じる刺激によって困ったことになりそうだ。誰か助けてくれよ。あ、いやいや神はいないんだっけ。

 

 

「あれ?ヒッキーといろはちゃんだ。やっはろー!こんなところで集まって楽しそうだね!」

 

「あなたが神か」

 

「ふぇ?か、髪?ひ、ヒッキ―よく気付いたね。実は昨日美容院行ってきたの!毛先を整えるだけだったから意外かも・・・案外ちゃんと見てくれてるんだ」

 

 

いけね。頭で考えていたことがつい口から出てたな。てか美容院?いやいやなんか勘違いしてないか。てーか毛先を整えるってそんなに重要なんですか?正直、言われてから見ても全くわからないんですが・・・

 

 

「ちっ」

 

 

いま、この囚われ癖のあるお姫様は舌打ちしませんでした?とても小さかったから、由比ヶ浜には届かなかっただろうけど。

 

 

「それにしても結衣先輩、どうしたんですかぁ?」

 

(私とせんぱいの愛の時間を邪魔するなんてどういう考えをしているんですか!せっかくの甘い時間が台無しですよ。しかもせんぱいは結衣先輩の髪型のちょっとした変化に気づいちゃうし・・・まったくもうせんぱいはナチュラルに女性を口説く節操なしさんですね。やっぱり一度本気で禅寺の修行をしてきたらどうですか。私が時々顔を出して通い妻的ポジションを獲得してあげますからせんぱいも本望ですよね!あっなんかそれでいい気がしてきました。後はどうやって雪ノ下先輩にせんぱいを引き渡すかですね・・・)

 

 

舌打ちした瞬間、彼女に寄りかかられてる俺は一色の身体からどす黒いオーラが噴出しているのを肌で感じるも、一瞬で態度を軟化させ、いつも通りの挨拶を由比ヶ浜に返すこいつに驚かされる。こわっ!女子ってこわっ!てか、一色さん、なんかさっきより近くないですか?あと、なんか本音が漏れてますよ?てか長いし、結局俺を貶める作戦じゃねぇか。

 

 

「えっとね?ゆきのんと一緒にご飯食べてたんだけど、あっ優美子も誘ったんだけど、別クラスの友達と昼ごはん食べるから今日はパスだって言われたから、二人だけだったの」

 

「三浦先輩は人気者ですね。誰かさんと違って」

 

「うるせーよ」

 

「あはは!二人とも相変わらずだね。えっと話続けるけど、私たち二人とも飲み物を用意するの忘れているのに気づいたんだけど、せっかくだからじゃん負けした方が二人分買いにいこうよって言ったんだ」

 

「なるほど。それで結衣先輩が負けて買い出しの途中にここを通りかかったんですか」

 

「そういうこと」

 

「それにしてもよく雪ノ下がそんな勝負に乗ったな。リア充御用達のそんなクソゲーをやるとは思えないんだが」 

 

「ヒッキー、リアじゅう?に対して当たりきつくない?」

 

「結衣先輩。せんぱいは、リア充への嫉妬心から彼らに宣戦布告をして平塚先生にお仕置きされたんです」

 

「ただの八つ当たりだ!?」

 

「なんのことかしら?」

 

「もしかして、雪ノ下先輩の真似ですか?微妙に似てますね・・・でもそのドヤ顔がウザイので腹立たしいです」

 

 

俺の会心の雪ノ下真似は不評なようだ。自信あるんだけどなあ。

 

 

「それで、結局雪ノ下はどうして乗ったんだ?」

 

「えっと、この前ヒッキーが教えてくれたように「ゆきのんも負けるのが怖いんだね。わかります」って言ったら「ちょっと待ちなさい由比ヶ浜さん。誰に言われたかは知らないけれど、そんなんでこの私が勝負を受けるとでも思っているの?そう。そういうこと。わかったわ。この勝負受けてあげます」って。じゃんけんして負けた私が部屋を出る時に小さくガッツポーズしていたゆきのんは可愛かったなあ」

 

「なるほどそれで」

 

「その光景は鮮明に目に浮かぶな」

 

 

きっとあいつのことだから本気で嬉しかったに違いない。ていうかお前のそれ、物真似だとしたら、恐ろしいほど似てないな。

 

 

「あ、そうだ。ヒッキーに伝言もあったんだ。たしか「比企谷くん。今日の部活を楽しみにしてなさい」って」

 

 

「今日、部活休みます」

 

「ダメだよヒッキー。部活はちゃんとやらないと」

 

「そうですよせんぱい。真面目にやらないせんぱいはいろは的にポイント低いです」

 

 

さいですか。雪ノ下のことだから三浦にもすでに手を回して逃げられないようにしているに違いない。といいつつなんとか逃げられないものかと画策する俺だったが、そんな俺の思考を全て消し去るような事態が起きた。それは転がってきた1つのテニスボールと1人の女生徒によってもたらされた。

 

 

「ごめんなさーい!ボールそっちに行きませんでした?」

 

 

来た来た来た来た来たぁああああ!!なんだこの天使は!!破壊力が天元突破しているじゃないか!!そうまるで彼女は神がつくりし芸術作品のような少女であった。華奢なその身体は守ってあげたくなる俺の庇護欲をそそってやまない。さらに、そのボーイッシュな短めの髪は彼女の細い首筋や白い透き通るような肌を我らのような愚民に見せつけるための増幅装置のようでもある。また、可憐な唇やスッと通った鼻筋、そしてパッチリとした瞳や長い睫など、挙げればキリがないくらいに彼女は魅力的だった。すでに八幡による天使認定済みの小町と先日であった城廻妹「もう八幡ったら。栞、でしょ?うふふ」・・・はい。栞の2人に加えて、3人目の天使と認定していいだろう。これだけテンションが上がっていながら、まだ一度も言葉を交わしていないのだから天使もなにもないだろうとは思うのだが、この超絶美少女は間違いなく性格まで天使であることに、一点の曇りもなく俺は信じて疑わなかった。

 

 

「彩ちゃーん!やっはろー!」

 

「あ、由比ヶ浜さん。うん。やっはろー」

 

 

なにあれ可愛い。なぜ彼女がすると、あの変な挨拶があんなにも魅力的になるのか。これも天使の持つ力か。

 

 

「ボールってこれのこと?」

 

 

いつの間にかその手にテニスボールを持っていた由比ヶ浜は、突如現れた天使に見せて確認をとる。

 

 

「あ、やっぱり来てたんだ。どうもありがとう」

 

 

なんだそのニコッとした笑顔は。俺の横でニコッと笑いながら脇腹を思い切り抓っているどこぞの囚われの姫なんかのそれと比べ物にならないくらい魅力てkいたたたたた!!ごめんなさい!調子に乗りました!!

 

俺と一色の無言の攻防戦が繰り広げられる中、由比ヶ浜と3人目の天使の会話は続く。意図的に無視しているのか、俺のステルスヒッキ―が猛威を振るっているのか判断に迷うところだが、彼女が天使なことを思うとやっぱり後者が正しいのではないだろうか。

 

 

「彩ちゃんはなにしてたの?」

 

「昼錬だよ」

 

「あ、そっか。彩ちゃんテニス部だもんね」

 

「うん。えっと、比企谷くんだよね?こんにちは」

 

「お、おお、おぅ。こ、こんにゃちわ」

 

「せんぱいキモいです」

 

「うっせ」

 

 

こんな天使が急に俺に話しかけてきたんだ。キョドっても仕方ないだろ。

 

 

「あの、そっちの君は初めましてだよね?名前を教えてくれるかな?」

 

「あ、えっと、い、1年の一色いろはでしゅ!」 

 

「一色いろはさんだね。僕は2年の戸塚彩加です。よろしく」

 

「は、はい!」

 

 

おぉ。この彼女は戸塚彩加というのか。なんとも本人の容姿と名前がマッチしていること。素晴らしい。さらに同じ2年だと?まだまだ知らないことがたくさんあるようだ、それよりも問題は一色だ。人にキョドってると突っ込んでおいて自分もとはなんなのか。

 

 

「お前もキョドってんじゃねえか」

 

「う、うるさいですね。たまたまタイミングが悪かっただけです。細かいことばっかり言ってるとモテないですよせんぱい」

 

「いろはちゃんの言う通りだよ。ヒッキーったらなんでそんなに細かいの。マジキモい!」

 

「あははは!3人とも仲いいんだね!僕、とっても羨ましいな」

 

「これから俺たちだって仲良くなればいいじゃないか」

 

 

ほぼ反射的に出た俺の言葉は自分でも驚くほどキザな台詞だった。

 

 

「・・・え?それって僕とも仲良くしてくれるってこと?」 

 

「あ、あぁ。初対面から少しずつ言葉を交わして、色々なイベントを共にして、仲を深めていっていつかは・・・」

 

 

いつかは・・・ね?あれ?一色さん、なんでスマホにそんな高速で文字を打ち込んでるの?いったいどこに出そうというのかね?

 

 

「あ、ありがとう!僕の方こそ、仲良くしてくれると、嬉しいな!」

 

 

あらいやだ。やはりこの子天使だわ。

 

 

「あれ?ヒッキー知らないの?」

 

「あん?何をだよ」

 

「彩ちゃんは、私たちと同じクラスだよ」

 

「なんだと!?」

 

 

ばっと戸塚を振り向くと、その表情にはやや困惑気味な薄い笑みが浮かんでいた。

 

 

「う、うん。だから比企谷くんを知ってたんだよ」

 

 

驚愕の事実に驚くばかりだが、なるほど言われてみればなぜ俺の名前を知っていたのか。といっても、俺のような隠れキャラを目敏くも知ってくれているなんて、どんだけ天使なのか。たぶん今のクラスメイトの多くに俺のことを聞いても「比企谷?だれそれ?」ってなるに違いない。

 

 

「ありがてぇありがてぇ」

 

「そのキャラなんだし!?」

 

「ばっか!お前、戸塚に対して頭が高いぞ。俺みたいなボッチを見守ってくれる天使なんたから」

 

「僕は比企谷くんがボッチって思わないけどなぁ。だって、三浦さんとは凄く仲良さそうだし、最近は由比ヶ浜さんともよく喋ってるよね?」

 

「そうなんだよな。なんでだろ?腐れ縁ってやつだからか?由比ヶ浜はわからん」

 

「疑問系!?・・・ちょっと優美子に同情するかも。てか、あたしのことわからんってなんだし!」

 

 

アホのこの子の抗議は長くなりそうだからとりあえず置いておこう。

 

 

「そもそもだが、俺が女子と仲良くできるわけないだろ?」

 

「まぁ先輩が、私以外の、女子と仲良く談笑なんてできると思わないですけど。しかもこんなに可愛い女の子相手なんて話題も合うわけないですもんね!」

 

「ぐ!事実だけに否定しづらい!」

 

「事実なんだ!?」

 

「ね、ねぇ」

 

 

手の指をもじもじとしながら、戸塚は俺たちに向けて声をかけてくる。いけね。仲間外れにしてしまったことに罪悪感を覚えながら彼女の続きの言葉を待ったが、彼女の口をついて出た言葉は驚くべきことだった。

 

 

 

「あの、僕、男の子なんだけど・・・あはは」

 

 

 

「は?」「へ?」

 

 

この戸塚彩加という女生徒は今なにを言った?この世の言葉と思えないようなことを言ったような。

 

 

「あれ?私、言わなかったっけ?戸塚彩加くんって・彩ちゃんは正真正銘、男の子だよ」

 

 

「「ええぇぇえええ!?」」

 

 

俺と一色の絶叫がベストプレイスに響き渡る。この世には大変奇妙なことがあるもんだ。事実は小説よりも奇なり。まさしくその通り。それもこれも、神様の茶目っ気たっぷりな遊び心といったところか。

 

 




おめでとう!ついに3大天使が出揃ったぞ!


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第17話 3人目の天使の依頼~来訪~

 

「せんぱい!私って天使っぽくないですか?」

 

「は?いきなりなに言ってんの?」

 

放課後、奉仕部の部室では部長である雪ノ下と一色、そして俺の3人が部室の真ん中に鎮座する長机の周りで各々それぞれのやりたいことをしていた。つまり暇を持て余しているだけなのだが、誰もそこには突っ込まない。いや暗黙の了解で誰も突っ込まないことになっているといった方がいいな。

 

さて、そんな中、俺はいつものごとく奉仕部の部室で読書に勤しんでいたのだが、一色はそんな俺から小説を取り上げて、俺の目の前でいきなり冒頭の天使宣言をしてきたというわけだ。ついにこの子は電波でも受信したのだろうか。そんなのはどこぞの堕天使アイドルに任せておけばいいのに。

 

そういえばこの間その堕天使アイドルがラジオに出ていたっけな。まぁ、あれくらい堂々としていればむしろ魅力的でさえあるが、一色があざとく宣言してもあざといとしか感じられない。自分で天使っていう女の子ってどうよ?

 

 

「だってぇ、私みたいに可憐で可愛い後輩女子ですよ!これはもう天使と言っても過言ではないと思うんですよね」

 

「いや過言だろ。お前が言ってもただあざといだけだしな」

 

「あざとい?なんですかそれ。私には相応しくない言葉ですね」

 

「いやいや。一色からあざとさをとったら何が残るんだよ・・・うん。なにも残らないな」

 

「しみじみと言わなくてもいいじゃないですか」

 

 

見るに明らかに落ち込んだ風な一色。本気の反応をみると、ちょっとあざとい連呼しすぎたかもと思わなくもない。いや、でもなぁ。一色はいつもあざといことばっかりしてくるし、俺にとって一色の印象はあざと可愛い後輩でしかない。むしろこれ以外の印象は無いまでもある。

 

 

「なんですかその眼は?あまり見つめられると照れちゃうじゃないですか。まぁ、いくらせんぱいが私のことをあざと可愛くて結婚したいくらい想ってくれていても口をついて出てくる言葉があまり嬉しくないですから出直してきてほしいかもなのでやっぱりごめんない!」

 

「なんかもはやよくわからない振られ方になってきたな」

 

 

こいつに振られるのも何度目だろうなと思いながらも、なんで口説いてないのに振られないといけなのかと静かな抗議を込めた視線を一色に送る俺。いやだって言葉で抗議してもどうせ聞いてくれないから。

 

それならいっそ無言の圧力というものを使えるようになっておこうと思っての行動だ。早くも成果が表れたのか、一色はなぜか頬を少し赤くしながら眼を逸らしてきた。なんだそんなに視線を合わせるのも嫌なのか。これじゃ逆効果じゃないか。

 

 

「うぅ・・・雪ノ下先輩!先輩がいじめてきます!」

 

 

一色は俺の視線から逃れるように、長机を介して俺と正反対に座っている雪ノ下の背後に身をひそめて、こっちの様子を伺ってくる。

 

 

「い、一色!雪ノ下に頼るのは卑怯だぞ!」

 

「ふん!せんぱいが悪いんですからね!・・・帰り道とかでしてくれたらよかったのに」

 

 

俺のなにが悪いというのか。最後の言葉はこんな疲れる会話を下校しながら繰り広げろということだろうか。なんてやつだ。ぼっちで省エネ主義の俺にとってそれは苦行でしかないぞ。一色、恐ろしい子!

 

最初は本から視線を外さなかった雪ノ下だが、軽くゆさゆさと揺さぶってくる一色の行動に耐えかねたのか、その視線を上げて一色に反応を返した。

 

 

「あの、一色さん。私、今読書中なのだけれど」

 

 

軽くため息をつきながら、少し不機嫌そうに一色に声をかける雪ノ下。雪ノ下さん、由比ヶ浜だけじゃなく一色にも甘くないですかね?

 

 

「お邪魔してしまってすみません。すべては先輩の責任です」

 

「おいこら。なんで俺の責任になってんの」

 

「まったく。比企谷くん、あなたの後輩なのだからきちんと教育しないとダメじゃない」

 

「お前の後輩でもあるぞ」

 

「たしかに一理あるわね。でも私の後輩である前に、あなたの幼馴染で昔からの後輩でしょう?付き合いの長さからも、年長者としての諸々の責任はあなたにあると思うのだけれど」

 

 

なかなかに正論を並べ立てる雪ノ下。こいつに舌戦で勝つのは面倒くさいことになりそうだな。ここは変化球でいこう。

 

 

「それを言うなら、俺だけの責任じゃないがな。あいつだってその条件に合致するだろ」

 

「八幡、それってあーしのこと?」

 

「おわ!?」

 

 

ぬるっと俺の後ろから現れた三浦に心底驚いてしまう。

 

 

「いつの間にきたんだよ。心臓に悪いじゃねえか」

 

「ごめんごめん。本当は後ろから抱き着いて驚かそうと思ったんだけど、話の途中だったし」

 

「なるほど。たしかに三浦さんも該当するわね」

 

「だろう?」

 

「いったい何の話?」

 

 

さすがに中身までは聞いてなかったようで、俺と雪ノ下は困惑気味の三浦につらつらとこれまでのいきさつを話す。

 

 

「いろはが天使、ねぇ?」

 

「そこは別に食付かなくていいじゃないですか」

 

弱々しい反論を返す一色。きっと自分で天使と言ったことを後悔しているのだろう。

 

「そして八幡はいろはが天使って思ってるわけ?」

 

「なんでそうなるんだよ。全く思ってない。俺の中の天使は小町含めて数人だけだ。あれ?なんで数人もいるんだ?」

 

「天使ってそんなに何人もいるものかしら」

 

「雪ノ下の主張は最もだが、事実、俺の周りにいるのだから仕方ない」

 

「そういうことなら、あーしは?」

 

「は?」

 

「八幡にとって、あーしは、天使じゃない、かな?」

 

なんでしおらしく俺の制服の袖を引きながらそんなことを言うんですかね。ちょっとドキッとしてしまったじゃなねえか。でも、天使ってのはなぁ。

 

「いや、お前が天使って無理があるだろ」

 

「三浦先輩・・・」

 

「天使の定義を話あうところから始めましょうか」

 

「あぅぅ」

 

 

三浦は頭を抱えて机に突っ伏してしまった。自分で言って皆からダメ出しうけて、恥ずかしいことを言ったのだと自覚してしまったのだから、そのダメージには計り知れないものがあるだろう。というか、三浦が天使と想像してみると、コスプレ感というか、違和感というか、そんな何かを感じる。

 

やっぱり、根っからの女王様気質なんだし、しいて言えば女神くらいが妥当のように思える。そう言えばよかったのかもしれないが、事態が好転していたかはわからない。それに、彼女らの反応をみるに、天使って言われる方が嬉しいのだろう。

 

しかし、一色しかり三浦しかり、まだ天使についてよく理解していないようだ。天使っていうのは、小町や戸塚みたいな奴のことを言うんだよ。

 

 

「やっはろー!!今日は依頼人を連れてきたよ」

 

「お、お邪魔します」

 

「あ、天使きた」

 

 

俺の中の3人目の天使こと、戸塚彩加が由比ヶ浜と共にやってきた。噂をすればなんとやらだな。このタイミングの良さは見えざる者の力が働いたとしか思えない。どうやら、ラブコメの神様はきちんと仕事をしているようだ。ありがとう神様!

 

 

「私も奉仕部の部員だし、ちゃんと活動しないとって思ってたら、彩ちゃんが悩んでるっぽかったから連れてきたの」

 

「由比ヶ浜さん」

 

「いやぁ。お礼なんていいよ、ゆきのん。これも部員としての正式な活動っていうか。義務っていうか」

 

「いえ、そうではなくて。その、言いにくいのだけれど」

 

「うんうん」

 

「由比ヶ浜さんは部員ではないのだけれど」

 

「へ?」

 

「だって、入部届もでていないし。平塚先生からも何も聞いていないもの」

 

「えぇ!?私、部員じゃなかったの!?」

 

「そういうことになるわね」

 

「・・・じゃあ書くよ!!入部届くらい、何枚でも書くから!だから、仲間に入れてよゆきのん!」

 

 

まじかよ。由比ヶ浜が部員でないとか、かなりの衝撃なんだが。あれだけここに入り浸っていたというのに。由比ヶ浜のやつ、涙目になりながら、ルーブリーフに何か書き出したぞ。まさかそれが入部届のつもりか!?しかも、入部届を「にゅうぶとどけ」って書く高校2年生って・・・

 

 

「結衣、ここ間違ってるし。次はこう書きな。というか、あーしが使った時の余りがあるから、こっちにきちんと書きな」

 

 

あっ、三浦に訂正くらってる。三浦のやつなんで正式な入部届の用紙を持ってるんだよ。まぁ、どうせ、見かけによらず心配性のあいつのことだから、何枚か余分にもらっていたんだろうけど。改めて思うことだが、三浦はなんだかんだ言って面倒見がいいんだよな。じつは俺もけっこう助かってるし。

 

 

「由比ヶ浜さんは置いてくとして「ひどい!?」・・・戸塚彩加くんだったわね。あなたの要件を聞かせてもらえるかしら?」

 

 

そうだった。由比ヶ浜が一人で盛り上がって自滅していたから、連れられてきた戸塚は一人蚊帳の外状態だったが、依頼があってきていたんだった。一体どんな悩みを抱えているというのか。もし誰かにいじめられてるというのなら、この比企谷八幡がステルスヒッキーを全力で使って相手をストーキングし、ありとあらゆる弱みを握って、そいつを社会的にどうにかしてやるところなのだが。いやいや。我ながらなんて陰湿なやり方なんだよ。

 

 

「う、うん。じつは僕が入っている部活のことなんだ。部活っていうのはテニス部なんたけど、すごく弱くて、人数も少ないんだ。これから3年生が抜けるともっと弱くなると思う。それもあってか、部員のやる気もあまり高くなくて」

 

 

あははと力なく笑う戸塚もとい俺の天使。話を聞いていると戸塚はかなり悩んでいるようだ。テニス部、ね。そういや、マイベストプレイスからテニスコートが見えるから、たまに眺めているが、たしかにあまり活気があるとは言えないかもしれん。戸塚はほぼ毎日昼休みにコートに来ていて、誰かとラリーの練習をしているか、そうでなければ壁打ちしているらしい。ただ、他の部員は日によって参加したりしなかったりだという。

 

 

「状況はある程度理解できたわ。それで、あなたはどうしたいの?」

 

「強くなりたい。強くなって、皆を引っ張れるようになりたいんだ」

 

「要するに、あなたを鍛えればいいのね?」

 

「うん。僕が強くなれば、きっと皆もやる気が出て、練習とか試合とか集中して取り組んでくれて、テニス部として強くなれると思うんだ」

 

 

なるほど。まずは自分が音頭をとって、部員のやる気を引き出そうということか。なんて真面目なやつなんだ。さすがは俺の天使だ。

 

 

「彩ちゃん偉いんだね!そんな風に皆のことを考えられるなんて。私も見習わないと!」

 

「自分が強くなれば、か」

 

 

三浦がブツブツと呟いるのが気になったが、それよりも由比ヶ浜が変なやる気スイッチを出している方が喫緊の問題だ。またいつぞやのクッキーの時のように、別世界の何かを錬金してしまうかもしれん。後で雪ノ下と対策を練らなければ。

 

 

「そう。わかったわ。あなたの依頼、引き受けます」

 

 

俺が由比ヶ浜の言葉に戦慄を覚えていると、いつの間にか、うちの部長はこの依頼を受けることにしたようだ。

 

俺を含めてとくに異論は出なかったので、雪ノ下のこの決断によって、戸塚の依頼が奉仕部の次の案件となった。

 



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