【習作】恋人以上で友達未満な二人 (言語嫌い)
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プロローグ
【習作・短編】恋人以上で友達未満な二人


 

 

 

 

 

あの日、私と彼は出会ったんだと思う。

 

「かぶってろ」

「え? なんで?」

「見られたくないなら、かぶってろ。そうすれば、俺からも見えない」

「うん……ありがとう」

 

この日よりも前に、すでに彼とは何回もあってたし、一緒にもいた。

 

けれど、

 

きっと、

 

この日が始まりだった。

 

「どうした?」

「あの、これ、いつまで借りてていいんですか?」

「お前が必要ないと感じるまで」

「……じゃあ、その時まで借ります」

「ああ」

「その時まで……」

「大丈夫だ」

「……はい」

 

私と彼の不思議な関係は、きっと、ここから始まったんだと思う。

ふわり、と吹いた風に飛ばされないように、反射的に帽子を押さえた。

 

 

 

 

俺は画面から目を逸らすと、踵を返しその場を後にした。

 

「届かないな……」

 

俺は目の前に広がっていた絶望を思い返すと、そうつぶやいた。

 

「はは……ああ、だめだ。まったく、届かねえや」

 

俺には戦う力がない。

――力があった

 

誰かを守るための意思もない。

――誓いと決意があった

 

すでに、その刃は完全に砕かれてしまったから。

――研ぎ澄まされた鋭い矛先はすべてを穿つ

 

そう、最初の出会いで……

 

「       !」

 

遠くで、

近くで……彼女たちが必死に戦っている。

絶望を打ち砕くために、希望の光をともすために。

 

皆、見知った顔だった。

皆、知らなかった顔だった。

 

――――ただ一人を除いて、誰も知らなかったはずだった。俺にとっては……

 

けど、出会ってしまった。何の因果か、俺たちは一つの奇跡に吸い寄せられて、この町に集まり、そして出会った。

 

「何で、だろうな……」

 

そう、魔法という奇跡が、縁もゆかりもない俺達の心を繋いだ。

そして、壊した。俺と、あいつの関係を……

 

いや、そんなたいそうな関係ではなかった。

 

ただの知り合いだった。

――友達ではなかった

 

名前も知らなかった。

――教えなかったから

 

年もわからなかった。

――知ろうとしなかったから

 

なんで、一人なのかもわからなかった。

――わからなくても問題がなかったから

 

どうして、俺たちは静かに泣いていたのかも聞けなかった。

――言わずとも、語らずとも、何故か通じ合えていたから

 

だから、気が付いたら一緒にいた。誰とも遊ばず、公園の片隅で、いつも静かに二人並んで座っていた。

 

遊ぼうと声をかけることも出来ず、みんなの輪の中に入ることもできず、かといって、二人で何かしようとさえしなかった。日が暮れるまで、いつも、二人並んで公園で遊ぶ皆を眺めていた。日が暮れるまで、何も言わず静かに泣き出した彼女をあやしていたこともあった。日が暮れるまで、彼女にあやしてもらったこともあった。

 

俺達は足りないものを互いに求めて、寄り添って、その温もりを、その存在を離さないようにいつも一緒にいた。

 

それは、魔法と出会う前までずっと変わらなかった。互いに学校に通いだして、学年の違いに気付いて、学校も全く違った。

 

だけど――

 

どちらともなく、公園に集まっていた。示し合わせたわけじゃなかった。待ち合わせをしているわけでもなかった。でも、気が付いたら公園の片隅に二人で静かに並んで座っていた。

 

周りのことを全て放り出して互いに互いの姿を見つけるといつものように並んで座って、日が暮れる前にどちらともなく立ち上がると、振り返ることもせずに別々の方角へ歩き出していた。

 

ほとんど言葉も交わしていなかった。でも、なぜか心地よかった。この静かさが、隣から感じる温もりが、いつも傍にいてくれるという信頼が、俺達を繋いでいた。

 

友達じゃない。

 

恋人でもない。

 

家族とも違う。

 

けれど、

 

友達よりも親しくて、

――でも、どこかよそよそしくて

 

恋人よりも愛しくて、

――けれど、どこか冷めていて

 

家族よりも大切な、

――だけど、互いに何も知らない

 

不思議な関係。

 

 

そんな関係は……

 

「これのせいで壊れたんだよな……この、ジュエルシードのせいで」

 

青く透き通った宝石のようなきれいな石。しかし、世界を滅ぼしかねない、とても、とても危険な石。本当ならここにあってはいけない、俺が持っていてはいけないもの。

 

でも、そんなことはどうでもよかった。

 

これが俺達を変えた。いや、俺たちの中に眠っていた魔法の力を呼び覚ました。そして、どちらからともなく、彼の話を聞くと協力を申し出た。そして、彼を通してようやくお互いの名前を知った。

 

それからだった。

 

彼女が俺のことを名前で呼ぶようになったのは。

――俺が彼女のことを名前で呼ぶようになったのは

 

でも、それでも、互いに互いのことを深くは聞かなかった。彼女の持論である名前を呼んだら友達……それも、何故か俺には当てはまらなかった。結局、この時に変わったのはそれだけだった。

 

いや、それだけで終わるはずだった。

でも、そうはならなかった。

 

魔法を知ってから、たくさんの出会いがあった

――別れもあった

 

黒い少女と出会い、力のなさに打ちひしがれた。

使い魔の女性と戦い、2対1だというのに劣勢で、足手まといになったのは俺だった。

ジュエルシードの暴走には成すすべもなく敗れ、彼女の盾にすらなれなかった。

結局、俺はただ眺めていることしかできなかった。

いや、出来なくなった。それ以外の選択肢はすべて、選ぶことが出来なかったから。

俺が出たら足手まといになるから。

俺がいるだけで被害が増えるから。

俺という存在が彼女の心を傷つけてしまうから。

 

優しすぎる彼女の心を。

 

だから、俺は決意した。

もはや、魔法と出会う前の関係には戻れない。

俺達が出会ったことを失くすことも出来ない。

俺達が過ごした時間を消しされはしない。

 

故に、あいつから離れた。

全てが終わって、何もかもきれいに片付いたから、俺はあいつに会うのを止めた。

 

公園にも行かなくなった

――あいつが待ってるから

 

魔法も使用しなくなった

――あいつに気付かれるから

 

退魔の仕事もしなくなった

――力を使うたびに思い出がよぎってしまうから

 

でも、そんな俺たちを、運命はまた巻き込んだ。

 

気まぐれだった

――その依頼を受けたのは

――遠くで感じた魔力に懐かしさを感じたのは

――気になって見に行こうなどと思ったのも

 

何か、よくないことが起こると思ったのも……気のせい、そう終わるはずだった

 

でも

 

気の迷いだった

――あいつが襲われているのを感じて、結界に突入したのも

――無理と知りながらも、目の前の少女に戦いを挑んだのも

――あいつが苦しんでるのを見て無理を承知で引き返したのも

 

そう、きっとそうだった。

あの時の俺は何かがおかしかった。

 

だから、あんな無茶をした。

意識が途絶えるその時まで、腕の中に抱いた彼女を起点に退魔の結界を張り巡らせたのは。

 

自分の安全なんて顧みなかった。

――苦しんでほしくなかったから

 

体が壊れ始めても術の行使を止めなかった

――俺を見て、安堵と笑顔を取り戻した彼女を

 

ただ、守りたかったから

 

だから、

 

その結果、

 

全てを失っても後悔はしなかった。

 

でも、一つだけ辛いことがあった

――チャンスだった

 

それだけは後悔した。

――願いがかなえられるはずだった

 

でも、力はなかった……

 

けれど、諦めきれなかった。

 

なんで、そうなってしまったかは知らない。そんなこと、聞いてないのだから当たり前だ。

でも、教えたかった。伝えたかった。知ってほしかった。

人は一人ではないということを。助け合うことが出来るということを。そしてなにより、助けを求めてもいいということを。

 

「ん? お前は、どうかしたのか? 何か不測の事態でも……っ! い、いきなり、な、に、を……」

 

だから、俺は禁忌に手を出した。

管理局が見逃した、たった一つのロストロギア(願望器)

力を失くし、絶望しかけた俺に希望を与えるジュエルシード(地獄への片道切符)

 

「まて、どこに行くつもりだ!! 魔法を使えないお前が行っても、状況は良くなりはしない。いや、それどころか……」

 

それに、俺は願った。

――願ったわけでもないのに静かに、ゲートが開いた

 

「なあ、聞いているか?」

 

過去にその願いを叶えたモノたちの末路を見ているにもかかわらず、それに願いを託す。

――ゲートの先には先ほど見た光景が広がっていた

 

「俺にはもうあいつを守ってやる力がない」

 

すでに、彼女を助けるための対価として失ってしまったから。

――落下しながら、俺は願いを伝える。ジュエルシード(壊れた願望器)

 

「あいつを助けることが出来ないんだ。だから、聞いてくれ。俺の願いを。叶えてくれ、たった一つの俺の望みを」

 

それでも、なお、助けたかった。

――急に足場が生まれ、それの上に着地する

 

「壊れた願望器だか何だか知らないが、一度だけでいい。奇跡を起こしてくれ」

 

何度も助けられた。きっと、あいつに言ったらそんなことはないと否定してくるだろうが、それでも、俺はあいつに助けられた。だから、今度は俺が……

――みんな、目の前のことで手いっぱいで俺に気付かない

 

「俺はどうなってもいい。もう二度とあいつに会えなくてもいい。だから、あいつを……傷つきながらも、絶望に立ち向かっている、あいつを助けたいんだ」

 

俺があいつを助ける。たった一つの彼女との約束を果たすために。押し付けた約束をかなえるために。

――止めるものは何もなかった

 

「だから、俺に、もう一度だけでいい。闇を切り裂き、光を灯すことのできる、彼女を救うことのできる力をくれ……ジュエルシード」

 

俺の言葉に呼応するかのように強く光りだし、魔力を周囲にまき散らし始めたジュエルシードに、先ほどまで戦いに専念していた彼女たちが気付いてこちらを向いた。振り向いた人たちの中には当然あいつの顔もあった。でも、驚きに満ちていたその顔は、俺が一番見たくない顔に変わっていった。

 

痛みを、悲しみを、つらさを耐えるような、泣く一歩手前の何かをこらえたような表情。

 

「だめ!! お願い、やめて!!」

 

彼女の叫びが聞こえてきた。けれど、もう、止まらなかった。いや、止まることなんてできるはずがなかった。すでに、この願いはジュエルシードによって叶えられようとしているのだから……

 

 

 

「なのは」

 

「なに?」

 

「約束、覚えているか?」

 

「うん」

 

「なら、わかるよな?」

 

「うん」

 

「……」

 

「……たすけて」

 

「ああ」

 

「お願い……私を助けて!!!」

 

「任せろ」

 

彼女の言葉に隠された本当の心を見ないようにして、俺は光りはじめたジュエルシードを握りしめ、一気に振りぬいた。

 

現れたのは槍。

 

俺の最も得意な武器。だが、これの使い方は、たった一つしかない。

 

静かに槍を構えなおすと、足場を強く蹴り、目の前の絶望へと駆ける。

 

「先に言っておくよ、なのは。ごめんけど、本当の願いはかなえられそうにない」

 

その言葉を聞いた彼女がどんな顔をしたのかは知らない。どのように行動したのかも知らない。

 

俺はすべてを投げ捨て、ただ一筋の光となって絶望を貫いた。

 

それ以外のことはもう確かめられなかったから。

 

ふと、あの日渡した帽子を返してもらってないことに気付いた……

 

 

 

 

 

 

「なのは。ずっと聞こうと思ってたんだけど、その帽子どうしたの。もらいもの? いつもかぶってるし、魔法で強化して壊れないようにしてるし」

「……違うよ。これはもらってなんかない」

「え? じゃあ、なのはが自分で買ったの?」

「ううん。違う。これは、借りてるの。いつか、必ず返すその時まで」

「そうなんだ。いつから借りてるの?」

「小学校に上がる前から、ずっと……」

「え? でも、着けてるとこ見たことなかったよ?」

「あの人の前でしか被らなかったから」

「何でかぶるようになったの?」

「遠くに行っちゃったあの人を忘れない様にするために」

「……その人とは仲が良かったの?」

「わからない。不思議な関係だったから」

「不思議な関係?」

「うん。友達みたいだけど、どこか違った。家族みたいに温かかったけど、どこか壁があった。仲間とも違う。でも、それでも、とても親しかったし、大切だった。お互いのこと何も知らないのに、知っていた」

「え、えぇと、矛盾してるよね?」

「うん。でも、そんな関係だよ」

「その帽子、返せるの? 遠くに行っちゃったから返しにくいんじゃないの?」

「うん。でも大丈夫」

「なんで?」

「助けてほしいときにはきっと、助けに来てくれるから。だって、そう約束したもん、――と」

「え!? でも、彼はもう――――」

「ほら、授業が始まるから、行こう!」

「え、え、あ、うん」

 

 

 

 

助けて――――そう言ったら必ず助けるって彼は言っていた。どこにいても、たとえ、どんな状況にあろうとも、必ず、私を助けに来てくれるって……

 

 

 

 

だから、

 

私は、

 

この時、

 

どうしようもないと知りながらも、

 

本当はそんなことは起きないとどこかで感じながらも、

 

それでも、ほんの少しの希望を抱いて、

 

小さく呟いた。

 

「……助けてよ、――――」

 

目をつむって真っ暗になった視界の向こうから、いつも感じていた柔らかな温もりと共に、いつもの声で、いつもの口調で、彼らしい言葉が聞こえてきた。そう思うと、張りつめていた緊張がほぐれ、安堵と共に流れ落ちていく温かなもので彼の服を濡らしながら、彼に抱きついていた。

 

「ああ」

 

結局、帽子はまだ返せそうになかった。次にあったら、返そう。そう思ってたのに。きっと、もうこれがなくても大丈夫だと思っていたのに。

 

――――任せろ

 

もう少し、私たちのこの奇妙な関係は続くみたいだ。

 

 

 

 

だから、

 

私のわがままでしかないけど、

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

そうやって、また、いつもの公園で会いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書いてから思いました。
リリなのである必要性がほとんどないことに。
いや、ないでしょうね……

このような小説でしたが、もし少しでも楽しんでいただけたのなら、作者としてはとてもうれしいです。

時間を無駄に浪費させてしまった場合には申し訳ありません。

何かが足りない(速さが――)。そう思いつつも、わからないので、もう少し精進しようと思います。
最後に、読んでくださったみなさんありがとうございます。


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第1章 「   」のはじまり
第1話 独り


皆さん、あけましておめでとうございます……今更ですな

まだ、まだ、1月だし、大丈夫なはず

さて、新年最初? というにはおそい気もする投稿ですが、リリなのの続編になりました。

たぶんいるであろう、待っておられた読者の皆様……大変遅れました。

プロローグの続きでございます。

それでは、どうぞ


今日も学校が終わる。誰とも話すことなく、そっと教室を出て、家へと向かう。途中で寄り道などはしない。

 

「……ただいま」

 

家に帰ったら当たり前のように口からでる言葉。

 

そして――――

 

『おかえりなさい、――』

 

そんな当たり前の返事は聞こえてこない。俺は静まり返った家に上がると、そのまま一直線に自室へと向かった。途中、いつも通りアレがこちらを見てきたが、それを無視して自室へと入る。

 

学習机とタンス以外に物は全くない俺の部屋。しいて言うなら、押し入れを開ければ布団がたたんで入れてあるくらいだろうか。かつては、もう少し物があった。流行りのゲームや、漫画が置いてあった。でも、それらはもうここには存在しない。すべて、捨ててしまった。

 

そして、何もない自室の机に上にはわかりやすく、達筆な文字で書かれた俺宛の封筒が置かれていた。おそらく、アレが届けられたこれを置いたのだろう。それを無造作に開けると、中には2枚の便箋が入っている。

 

「……仕事か」

 

一枚目には、あの爺さんからの仕事の依頼に関することが書いてあった。それ以外のもう一枚――――こちらのほうは、いつもの小言にすぎなかった。軽く目を通したのち、ごみ箱へと捨てる。一着しかない制服をダメにするわけにはいかないので、俺は普段着に着替えて、必要なものをそろえた。そうしてから、指定された場所へと行くために、家を出る。

 

「いってきます」

 

返事など帰ってくるはずもないのに、俺はそう言ってから家を出た。いつも通りの日常、いつも通りの俺の日々。俺はそれをただ繰り替えした。たった一つの目的をもって、俺はこの日々を続ける。

 

終わらせるために――――

 

 

 

***

 

 

 

「来たか」

 

向かった先では、手紙を出した張本人である爺さんが待っていた。すでに齢70を超えているはずなのだが、背筋はピンと伸びており、服の下からでもわかる筋肉がただものではないと告げている。頭のねじが飛んでいない限り、この見るからに危険でいかつい爺さんを襲おうなどとは思わないだろう。すくなくとも、俺は返り討ちにあっている。

 

「ふん……あいかわらず、不景気な顔をしとるの。そんな調子では、いつまでたっても変わることなどできんよ。せっかく、儂が与えたあれの扱いもぞんざいだしの。それで、どうしたいのじゃ?」

「どうでもいいだろ。んで、何をすればいいんだ」

 

いつものように、小言が始まったので、強引に話を変える。そんな俺の態度に爺さんはため息をつく。ここまでのこのやり取りはあの日から毎回行われている。なにがしたいのか、爺さんは懲りずに、いつも聞いてくる。

 

「着いてこい」

 

爺さんはそのまま目の前にある洞窟へと進む。そして、俺もその後を追った。そして、入り口の前で爺さんは止まると、こちらに向き直る。

 

「さて、お前のことだから、2枚目なんぞには目を通してないだろうが、1枚目はしっかり読み込んでおるよな?」

「……」

 

図星だった。てか、わかっているなら、書かなければいいというのに……紙の無駄ではないだろうか。

 

「ふん。そう思うのなら、少しくらい読んだらどうだ? それと、儂には髭があるから、頭が寂しくても問題はないわい」

「あんたの髪の毛のことなんて考えてない。その洞窟に馬鹿どもがいたずらした結果、中の結界が緩んで、封じられたものが少しだけ漏れた。だから、その漏れた瘴気の処理と、封印の強化、および人払いをするのが今回の仕事。そうだろ?」

「ああ、その通りじゃ」

 

それなら、いつも通りだ。わざわざ、この爺さんが出張ってくる必要はない。この程度のことなら、俺一人でも簡単にこなせるのだから。だが、実際にこの爺さんはここにいる。すなわち、手紙には書いてなかった情報があるということだが。

 

「さて、お前の懸念通り、ここに封じられておるのは少々特殊でな。ゆえに、お前さん一人では厳しい。それで、儂が外で結界の維持をすることになったんじゃよ」

「そんなもの、いらない。結界の維持も浄化も俺一人で……」

「出来んよ。少なくとも、今のお前さんには不可能じゃ」

 

厳かに告げられたその言葉に、俺は何も言い返さない。いや、言い返せなかった。時折ある。この爺さんはどうしても自分の意見を通したいときには、こうして俺に対して静かに威圧する。そして、俺はこうして威圧されるたびに思い知らされる。自分が、この余生を送るだけの爺さんにも勝てない弱者であるということを。

 

「……」

「結界は儂が維持する。だから、お前は内部のことだけに集中しろ」

「……わかったよ」

 

実力不足だと……いまだ、半人前だと目の前の爺さんは告げる。それに俺は反論できない。少なくとも、この爺さんを倒すことが俺にはできなかった。だから、従う。今は、それしか俺にはできないのだから。

 

「…………」

 

洞窟へと入った俺へ、爺さんが何かを言ったが、ちょうど結界を潜り抜ける直後で、うまく聞こえなかった。だが、どうでもいいことなのだろう。重要なことならば、さっき伝えているだろうし。

 

そう考えた俺は、引き返すことをせずにそのまま奥へと進む。そうして、進んだ先には小さな祠が見えた。そして、そこから、かすかに、この世ならざるものがあふれている。一応、爺さんが言った通り、警戒だけはしておく。俺の商売道具であり、相棒である慣れ親しんだ槍を右の手に呼び出し、左の手には持ってきた札を数枚握る。

 

「あれか……」

 

俺はそれらを手早く浄化していく。方法は簡単だ。ただ、前もって作っておいた札に力を込めてそれを対処へと投げればいい。そうして、力を使い果たし、札自体が限界になったら、自身の力で燃やす。そうしければ、形のない者たちに依代を与えることになってしまうから。無形のものは、無形のままでいてくれたほうがいい。意味を持たず、ただ、漂うだけの存在として、消えてくれたほうが間違いなく楽なのだから。

 

「あとは、本体だけだな」

 

俺は投げ飛ばしたすべての札を焼却すると、本体へと近づく。充分すぎるほどに警戒して近づいたが、特に何も起こらず、封印は思ったよりもすんなりと終った。預かった札で封印を施し、その上からさらに自身で封印を上書きしていく。

 

「……終わりか。いったい、何が不安だったんだ? それとも、爺さんの結界が強すぎて出てこれなかったのか?」

 

自分で言っておきながらなんだが、おおいにあり得る。いや、十中八九、そうなのだろう。無駄なぐらいに高スペックな爺さんだ。おそらく、俺と戦わせる予定のものまで無意識のうちに封じ込めていたのだろう。まあ、そのおかげで楽ができるのだが。

 

こうして、俺の仕事は終わるはずだった。

 

そう、終わるはずだったのである……実際には、終わりではなかった。

 

「……っ!?」

 

突如、消えたはずの瘴気の気配が再び、空間を満たす。慌てて、本体を見るが、封印が壊れた様子は無く、むしろその付近は瘴気がない。だが、実際に、この洞窟最奥部の空間に瘴気が充満している。なぜ……その答えはすぐに見つかる。

 

『……誰かと思えば、あなただったのね』

 

振り向きざまに、声がした方向へと札を投げつけつつ、それから距離をとった。あの爺さん……なにが、封じられているだ。こいつが封印されるなんてことがあるわけないだろうが。そう、心の中で爺さんに悪態をつきながら、俺は体制を整える。

 

『あら、府抜けてるかと思えば、力はちっとも落ちてないわね』

 

そして、最大限に警戒しつつ、俺はソレを視界に入れた。対して、目の前のそれはつまらなそうにこちらを見ている。ここまでくれば俺でも爺さんが警戒したわけを理解できる。確かに、これが相手では、俺も不覚を取る可能性がある。いや、違う。俺はこいつに不覚をとるつもりなぞない。だが、そのように判断した爺さんは正しいのかもしれない。

 

「……消す」

『……そう。なら、やってみなさい』

 

短くつぶやいた俺に、ソレはなぜか悲しそうに微笑む。そして、両の手を広げてふわりと浮かびあがり、少しだけ位置を調整する。そう、ずれていた俺の槍の穂先が、自身を貫く位置に来るように微調整した。

 

「…………」

『消す……そうしたいのなら、きちんと狙いなさい。それとも、その程度のことすらできないのかしら?』

「っ! うるさい!」

 

槍を両手で握りしめると、そのまま前へと突っ込む。力を注ぎこめるだけ注ぎ込み、ただ、目の前に浮かぶ、それを消すために……否、すべてを消すために、俺はソレへと向かう。

 

そして――――

 

『……そんなに、必要ないでしょう?』

 

そんな言葉とともに、込められていた力の多くが、周囲へとまき散らされる。それらは、空間を満たしていた瘴気を消すとともに、消滅していく。そして、残ったのは、込めた力のうちのほんの一握り。だが、それでも……

 

『それで、充分よ』

 

目の前のソレを消すには十分だった。

 

『ごくろうさま……それと、本当に、ごめんなさいね。どれだけ言葉を尽くしても、あなたには届かないのでしょうけど、それでも……私は、あなたに……』

「……うるさい! 消えろ!!」

 

わずかに残っていたソレを完全に消し飛ばすと、急激に体全体に疲労が襲い掛かってくる。それも、当然だ。持てる力の多くを先ほどの一瞬で解き放ったのだから。

 

「……戻ろう」

 

俺は槍を杖代わりにして、来た道を引き返す。入り口で待っている爺さんからは確実に何か言われるだろう。それが、すこし、うっとうしく思える。

 

「俺は、戦える。ひとりでも――――」

 

入り口までは遠く、まだ外の光は当分見えそうにない。それでも、歩き続ける。それ以外にすべきことなど、自分にはわからないのだから。

 

 

 

***

 

 

 

「ふん、どうやら倒せたようだな。内部の破壊もなかったようだし、一応、及第点くらいはやれるかの。だが、いささか、力を使いすぎているな。あの程度のものに、それほどの力は不要だろうに」

「…………」

 

正直なところ、言い返す言葉もない。この爺さんの考えは結局正しかった。俺一人であったのなら、あれを倒すことはできても、依頼はすべて失敗していた。むしろ、悪化していただろう。あの最後の攻撃の一瞬で間違いなく結界が壊れ、中に封印されていたものが外に出ていただろう。だからこそ、反論はない。そんな俺の何が気にくわないのか、爺さんはやれやれと言った具合にため息をつく。

 

「ふん。相変わらず、不愛想じゃの。まあ、よいわ。報酬のほうは、お前さんの家に届けさせた。おそらく、アレが受け取っておるじゃろう」

 

爺さんはそれだけ告げると、俺を置いてそのまま帰った。

 

 

そうして、家に帰れば、家に帰ったで、普段は全くと言っていいほどかかわろうとしない、アレが俺を待っていた。ご丁寧なことに、俺が無視できないよう、俺の部屋の前で待機していた。

 

「……何の用だ?」

「お爺様からの預かりものです。必ず、手渡すようにとのことでしたので、こうして待たせていただきました」

 

部屋の前にいたそいつは俺へと封筒を差し出してくる。俺はそれを受け取ると、そいつの前をそのまま通り過ぎて、部屋へと入る。いや、入ろうとした。だが、今日はそのまますんなりと入れなかった。部屋へと入ろうとした際に、そいつは俺を止める。わずかな抵抗を感じて振り返ると、こちらの服を掴んでいるそいつの姿が目に入った。

 

「また、ご迷惑をおかけしたようですね」

「……知らない」

「そう、ですか。それでは、一方的にあなたに感謝することにします」

「…………」

「あなたに――――」

 

それ以上、そいつからの言葉はなかった。いや、聞こうとしなかった。聞きたくなどなかった。俺はそいつの手を乱暴に払うと、部屋へと閉じこもる。気分はあまり良くない。体調は共に最悪の状態だった。倒れこむように敷かれていた布団の上へと寝転がる。

 

「くそっ……!」

 

手渡された封筒を開けると中には万札が数枚と、一枚の手紙が入っていた。手紙のほうは、明らかに、爺さんのものではない。そして――――俺に対して何かを書くやつなど、爺さん以外に思い当たるやつなど特定できる。だから、俺は、それを読まずに放り投げた。内容なんて、見なくてもわかる。いや、だからこそ、見るべきなのだろう。でも、今の俺にそれはできそうになかった。

 

「……なんで、だよ」

 

そう、思わず漏れたが、答えてくれるものなどいない。疲れのためか、意識は徐々に遠くなっていった。

 

————どうして、お前まで……

 

そんな自問自答し続ける答えが出る前に、意識は完全に闇へと落ちた。

 

 

 

***

 

 

 

~あなたはきっと、この手紙に目を通してくれないでしょうね。ですが、それでも、私は、これを書きます。あなたへと伝えたいことがたくさんあったから~

 

そんな、出だしで書き始めた手紙……でも、きっと、彼は読んでくれない。なら、好きに書くことにする。彼に見られることがないのなら、今くらい、素直になってもきっと大丈夫だから。

 

でも、だからこそ、どうか、この手紙を見ないでください……

 

そんな思いで、私はこの手紙を書いた――――

 

 

 

そうして、私の書いた手紙は――――最悪の形で、ある意味で言えば、最高のタイミングで知られることになった。

 

 

 

***

 

 

 

こうして、俺の中でそれは完結する。一つの事件が終息を迎えた。もう、やることなんて、何もなかった。何もしたくはなかった。だが、それでも、明日は来る。いつもの日常が終わることはない。

 

おれは普段通り学校へ行って、帰る。その途中で、少しだけ寄り道をした。いや、するようになっていった。寄り道をするのは決まって、一つの公園。その奥まったところには一本の大きな木が生えている。俺はそれにもたれかかるように座ると、日が暮れるまで、時間をつぶす。日が暮れれば、家に帰って、また、次の日が来る。

 

そんな何もない無意味な日々が続いた。なぜか、仕事の依頼もなかった。

 

そして、ある日、そんな日々に変化が訪れた。

 

今にして思えば―――――その日、俺はこいつに出会ったのだろう。

 

 

 

***

 

 

 

この日のことを忘れることはないだろう。例え、自分を失うことがあるとしても、これだけは手放すことはない。そう、言い切れる。

 

 

 

***

 

 

 

その日、俺はこいつに出会った。

 

その日よりも前に、こいつを見てはいるし、知ってはいた。だが、こいつと出会ったのは、きっとこの日が最初だ。

 

そこは何気なく訪れた公園だった。幸せそうな人たちを見るのがつらくて、家にいるのもつらくて、逃げて、逃げて、逃げた先に――そうして、たどり着いた場所にそいつはいた。

 

人の目を避け、人を見たくなくて、探して見つけた誰もいないこの場所には、どうしてかいつも先客がいた。

 

だから、聞いた。疑問が浮かぶのと同時に、俺は聞いていた。

 

「どうして、泣いてるんだ?」

 

そう聞いたら、そいつは驚いたように顔を上げた。そして、その少女はとめどなくあふれる涙をそのままに答えた。

 

「……寂しいから」

 

俺の問いかけも短ければ、帰ってきた返事も短かった。そして、俺がこの少女を見つけてすぐに聞いたように、少女も俺の問いにすぐ答えた。いや、言葉が零れ落ちたといった感じだろうか。

 

「そうか……」

「うん、そうだよ……」

 

それに対し、俺は気の利いた言葉を返すことはなかった。そもそも、話しかけた理由なんて特にない。でも、あえて言うなら、なんとなく、そうしたかったから。それとも、同類だと思ったからだろうか。どちらにしても、彼女を助けようとか、慰めようなんて高尚なことは考えてなかった。

 

けれど――――俺はこの少女に関わることを選んでいた。

 

「なら、俺も同じかな」

「……そう、なの?」

「ああ、そうだ」

 

そっと少女の隣に腰を下ろした。頬をつたう涙をそのままに、不思議そうにこちらを見てくる少女に対して、俺は気まずさから顔を逸らす。そんな俺の反応を見て、少女は泣いてるところを見られたことが恥ずかしくなったのか、慌てて涙をふく。

 

けれども、涙は止まらない。必死に、こらえようとするけれど、止まることなく涙はあふれだし、拭っても、拭ってもぽたぽたと服を濡らしていく。

 

見ていられない。俺はこんな少女を見ていられなかった。だから、俺は、自分勝手な理由で、自分のために、動いた。

 

「……ほらよ」

「え?」

 

ぽすっと、可愛らしい音とともに少女の頭には俺のかぶっていた少し大きめの帽子がのっかった。サイズを合わせたりもしてないから完全にぶかぶかな状態になっている。でも、これなら、大丈夫だ――そう、思った。こうしていれば、俺から見えることなんてない。いや、俺がこの少女の苦しんでいる姿を見ることはない。

 

そう、思っていた。いや、思ってしまっていた。

 

結局、こいつの傍にいたのも、俺が寂しかったからだろう。こいつに理由を聞いたのも、俺と同じなんじゃないのかと期待してのことで、特にそれ以上のことなんて何もなかった。ただ、同類がいる。そう思いたかった。そして、こいつが泣いているのを見るのは、俺が苦しかった。辛かった。だから、俺は見たくなくて、俺が助かりたくて、こいつに帽子を渡した。そんな、利己的な行動だった。

 

でも、それだっていうのに、こいつは……

 

「かぶってろ」

「なんで……?」

「見られたくないなら、かぶってろ。そうすれば、俺からも見えない」

 

少女は呆然と帽子の下からこちらを見上げていた。やがて、その頬を伝って涙がぽつり、ぽつりとこぼれ落ちはじめた頃に、小さく少女は告げる。こちらの気持ちなんて知らずに、俺がどんなことを考えていたなんて知らずに、こいつは告げた。

 

「うん……ありがとう」

 

その時、ほんの一瞬、顔を伏せる前に見せてくれた顔を俺は忘れることはないと思う。そして、その時の気持ちを俺はきっといつまでも忘れないと思う。

 

――――ありがとう/ごめんなさい

 

こんなありふれた言葉を、この日、俺は初めて知ることになった。

 

こうして、俺はこいつと向き合った。そして、俺たちは互いのことを何も知らなかった。でも、一つだけわかっていた。それがわかっていたから、きっと、一緒にいるのだと思う。

 

そう、俺も、この少女も独りだ……どうしようもなく、ひとりぼっちだ

 

だから、求めた。互いに互いを……

 

「あの……」

「どうした?」

「これ、いつまで借りてていいんですか?」

 

日が落ちてきて、俺も帰ろうとしたとき、隣の少女はそう聞いてきた。涙は……見えなかった。だから、俺は言った。

 

「お前が必要ないと感じるまで」

「……じゃあ、その時まで借ります」

「ああ」

 

俺はそれに相槌を打つと、少女に背中を向けて歩き始める。そんな俺に、少女は少し声を張り上げて聞いてくる。

 

「その時まで……!」

 

だから、俺は安心させるために……安心するために、言った。

 

「大丈夫だ」

 

それに少女は静かにうなずく。

 

「……はい」

 

どこか寂しげな少女の顔が嫌で、俺はもう一言だけ付け足した。

 

「いつでも会える。この場所で。だから、大丈夫だ」

「……はい」

 

すこしだけ、ほんとに、すこしだけ、和らいだ顔で少女は答えた。

 

これが、(わたし)こいつ(かれ)の始まり。

 

独りぼっちだった(わたし)は、少女(かれ)と出会い、独りじゃなくなった。

 

 

 

――――そして、それは私にとって、とても大きなものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……実は主人公の名前決まってない。

今は消しましたが、ガッシュとのクロスを考えた理由の一つに、これもあったりした。

まあ、こちらはちまちまと書いていきます。

第1話はプロローグよりも前のお話。そして、これから、原作を通り、プロローグの最後の場面へと向かいます。sts編に行くかどうかは未定……どころか、そもそも、闇の書に入れるのかなーと少々不安になってます。いや、時間的な意味で、いつになるだろう……と。

なるべく早く、次話を上げたいと思います。

それではみなさん、今年もよろしくお願いします。

2016/2/21 ほんの少しだけ本編修正。展開に変化はないです


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第2話 彼の日々 

ひさしぶりの更新です

すこしでも楽しんでいただけたら嬉しいです



前回から、間が空きすぎて申し訳ないです


 

 

あなたは、ひとりじゃない……きっと、だれかが、あなたを見ててくれるから

 

だから、泣かないで……大丈夫だから、

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

(これは……)

   / 少し前のこと。少年がまだ、幸せを感じていたころ。少年が一人じゃなかった頃。

――た……す……

今にも消えてしまいそうな声で、彼は求めた。

『声が……聞こえる…………懐かしい、声が』

 

 

(夢だ……)

/ ある時、一人の少年は奇跡を願った。

――助けて、くれ……

  奇跡を欲した。そんなことが都合よく起きることなんてない。そう、どこかで思っていても、それでも奇跡を待つ。

『なら、行かないと……私は、そのために……』

 

 

(……これは、夢だ。そう、俺は認識した。)

/ その少年は、今にも倒れそうな体を奮い立たせて、目の前のソレに立ち向かう。逃げることなどで出来ない。まして、負けることもできなかった。だからこそ、奇跡を願った。

――サ…………タ……召か……じ…………た。

『きっと、これは奇跡だと思う』

 

 

(これは過ぎ去った過去。だから、これは、夢だ。)

/ そして、奇跡は起きた。

――……ま……な…………ス………………か? 

『たとえ、にせものだとしても……それでも』

 

 

(だからこそ、俺はこれを忘れたかった。)

/ 奇跡が起きたからこそ、絶望が生れた。

『私は……願ってしまったのだから』

 

 

(これは、そんな俺の忘れられない……いや、

忘れることのできない――思い出(未来)

『だから、もう、戻れない』

 

 

 

「あなたが強くなる――その時まで、そばであなたをお守りします」

「どうして? どうして、俺にそこまで……」

「……それは、あなたが――――」

 

そこで、俺の意識は一気に覚醒した。これ以上、見たくない……そう、拒絶した。

 

 

 

――――どうか、あなたのそばにいさせてください

 

それが、私の最初の願いだった。

 

 

 

***

 

 

 

――目覚めは最悪だった。

 

忘れたはずの / 忘れられない記憶が今になって再び思い出された。

 

それは過去の思い出。まだ、幸せだった頃の思い出。学校には友達がいた。よく遊ぶ友人がいて、休みの日には一緒に出掛けたりもしていた。家には父さんと母さんがいて。優しく、時に厳しい、そんないい両親だった。あたたかな場所だった。そして、あいつがいた――そんな過ぎ去ってしまった思い出。幸せだったと言える、そんな忘れたい記憶。

 

そして、そんな記憶の中でも思い出したくないある出会いについての夢だ。そう、あいつと初めて出会った時の夢。俺にとって姉のような存在であって、師匠であって、俺を守る――――で、――――だった。そして、俺が起こしてしまった罪の証でもある。

 

だからこそ、忘れていたかった。思い出したくなかった。

 

「…………」

 

そうして、気が付けば机の中にしまったあるであろうある霊媒の場所を見ていた。無意識の行動だった。だからこそ、意識した俺は急いで顔をそらし、その場所から視線を外した。あれは捨てるに捨てることのできないもの。持っていても苦しいだけなのに、どうしても捨てられなかったもの。だから、普段から目につかない場所に置いていた。でも、たまに目が行ってしまう。その場所に――――もしかしたらというそんな淡い期待とともに目を向けてしまう。

 

でも、現実はそんなに優しくはない。

 

「くそ」

 

忘れていたかった記憶、捨てることのできない想いを払拭するために俺は学校へと走り出した。本来なら行くことすらしたくない場所だが、たまには机の中に溜まったプリントを取りに行かないとさらにめんどうくさいことになる。具体的にはめんどくさいのが家に来ることになる。だから、たまにだがこうやって学校に荷物を取りに行っている。

 

というより、今日あいつと会うことだけは絶対に避けたい。こんな最悪な日に、最悪なことが重なるなど、あまりにうれしくない。

 

だから、それは避けたい。可能な限りあれとは関わりたくない。それに、この時間なら俺以外の生徒はほとんどいないはずだ。いたとしても、自主的に早めに来ている体育会系の奴らくらいだから、俺の目的を果たす上では問題ないだろう。

 

そう思って、俺は校舎へと足を踏み入れた。しかし、俺の目論見は完全に外れてしまい、最悪なやつが待ち構えていた。人でも待っていたのか、昇降口の壁に体をあずけていたそいつは俺に気づいてしまった。ああ、本当に最悪なことに、俺はそいつに見つかってしまった。

 

「ん? おまえは……」

「…………」

 

ああ、本当にめんどうくさいのに見つかった。泣きっ面に蜂とはこのことだろうか。いや、使い方が微妙に違うな。だが、嫌なこととは重なるものらしい。最悪な夢を見て、最悪な場所に来て、会いたくもない奴に会っている。

 

「どういう風の吹き回しだ? いきなり学校に来るなんて」

「……俺も学生だ。学校に来ちゃいけない理由なんてない」

「無断欠席を重ね、校内外で不祥事を重ねるお前が? むしろ、未だに、学校に来てるのが驚きだな」

 

こいつは……誰だったけ? とにかく、俺がまともに学校に行っていたときからやたらと突っかかってくる奴だ。なにかと理由をつけては、こちらへと接触してきている。正直、あの頃ならともかく、今となっては、それもうっとうしいだけ。いや、めんどくさいのは元からか。

 

とりあえず、未だ言い足りなさそうにしているそいつを無視して、教室へと向かう。誰にも会わないようにと早い時間に来たというのに、こいつに会ったのでは意味がない。

 

「……おまえ、全く聞いてないだろ」

「…………」

 

大正解。まあ、そんなこと言わなくてもさすがに理解しているだろうが。それに腹を立てたのか、さらにまくしたてるように話しかけてくるそいつを無視して、俺は自分の机からたまりにたまったプリントを回収する。それらを無造作に鞄に突っ込むと、俺は教室から出る。

 

「……帰るのか」

「…………」

「全く、何をしに来たのやら。おまえは、学校に来る意味なんてないよ。ここは、学び舎だ。ここにいる学生は何かを学びに来ている。何も学ぶ気のないお前の居場所はない」

「そうか。なら、このまま、卒業するさ」

「……っ!」

 

確実に怒っただろうその人物の次に起こす行動が想像できたため、俺は急いで扉を閉める。すると、閉めた扉に何かが当たり、直後に何やらすさまじい音がする。

 

「あ、やべっ!」

 

おそらくだが、手元にあったものを適当に投げたのだろう。俺の席は窓際。そして、悪ふざけで、机の上に窓際に飾ってある花瓶が置いてあることがあるのだが……今回犠牲になったのはそれだろう。もちろん、そんなものを投げればどうなるかなど、考えるまでもない。

 

そして――

 

「……なんだ、生きていたのか」

「悪かったな」

 

目の前には先ほどのやつとよく一緒にいるでかい野郎がいて、その後ろに隠れるようにいるのは、俺が一番めんどくさいと思っている少女だ。こいつらもあいつと同様にこちらへと何かと突っかかってくる奴らで、めんどくさいことこの上ない。

 

「ふん。そう思うのなら、もう少し取るべき態度を考えるべきじゃないか?」

「おまえこそ、俺にかまうより、あいつの手伝いをしなくていいのか?」

「言われなくても、そうする。そもそも、お前がもう少し……」

「知るか。言ってろ」

 

あからさまに舌打ちをしてから、俺の前に立ちふさがっていたそいつは箒とちりとりを手に教室へと入っていく。その後ろにいた少女が何か言いたそうにこちらを見ていたが、それを無視してその横を通り過ぎた。

 

「あの……」

 

そうして、通り過ぎた俺の背中にそいつは声をかける。いや、かけたが、その先は続かなかった。

 

「やめておけ、どうせあいつは反応なんてしない。話しかけるだけ無駄だ」

 

後ろから勇気を降り絞って出されたであろう声は、教室に入ったはずのやつの声に遮られて途切れた。いつまでも入らないそいつを不審に思って覗いたのだろう。そして、そして、そのまま俺に関わらないようにするために教室の中に入れたのだろうと想像できる。

 

「……帰ろう」

 

教員が来る前に急いで割ってしまった花瓶の処理をしているであろうそいつらに追いかけられる心配がないことにほっとしながら、俺はだれもいない校舎を歩いた。そして、朝練で学校に来て練習している奴らを横目に俺はいつもの場所を目指して歩く。

 

 

 

***

 

 

 

家を出たのも早ければ、学校を出たのも早かった。そのため、公園に着くのもいつもよりも早かった。だから、いつもいる少女はまだ来ていなかった。とりあえず、木の幹に体をあずけて座る。

 

「……一応、プリントには目を通してみるか」

 

どうせここでやることなどない。今まで遅れてしまっていた勉強を少しでもしておくべきだろう。それに、大学とまではいかないまでも、高校生くらいまでの知識はあったほうが便利なことが多いだろう。いや、そもそも中学を出て働くなどということをあの爺さんが許すはずがない。間違いなく高校には通う事になる。通信などではなく、普通の学校に。

 

高校まで行くことに納得はしてはいるけれど、やはり学校というものはめんどくさく、進んでいきたいとは思はない。勉強は大事だとは思うが、それよりも修行をしていたいと強く思う。だが、言ったところで無駄であるのは分かっているので、仕方なしに勉強を始めた。

 

はじめたのだが――

 

「……いや、よく考えれば俺に理解できるわけがなかったな」

 

勉強を開始してから5分も経たないうちに俺は手に持っていたプリントなどをカバンに戻していた。学校をサボるようになってから既に1年以上経っている。それだけ経てば、以前授業で受けたところなんて覚えている訳もなく、また以前の場所から明らかに進んでいる内容についていけるわけもなかった。

 

「卒業するまでには、小学校の内容くらいは頭に入れておくべきだよな」

 

もうじき、小学校も卒業する。そうすれば、中学校にあがるだろう。それまでの間に遅れた分の勉強をするべきか。幸い、数学と理科に関したはほかに比べても得意で、少しばかり予習していたので、そんなに苦労はしないだろう。問題はほかの科目だが……

 

「今、考えても仕方ない。明日からは教科書でも入れてこよう」

 

今後の方針は決まった。けど、やることはない。修行は……今は、する気になれない。それに、俺ひとりでできることも限られているし、あの爺さんがこちらの要望を聞くなどまずない。だから、いつものように俺は木の幹に体を預けて眠ることにした。

 

夢を見るかも知れないという気持ちはもちろんあった。だが――――

 

 

 

**

 

 

――あなたは、優しいですね

 

い、いきなり、なんだよ

 

――だから、どうかいつまでもその気持ちを忘れないでくださいね

 

……? 何が言いたいんだ

 

――いえ、なんでもないです。忘れてください

 

へんなやつ

 

――ええ、そうですね

 

 

そんな風に、あいつは言っていた。どうして、こんなものを今になって夢に見るのかはわからない。でも、どれだけ思い出したくない、忘れたいと願っていても、この出会いは、コイツとの思い出は消えてくれない。それだけは確かなことだと、どこかで気付いた。

 

そして、外からの刺激によって、俺の意識は浮上していく。

 

 

 

***

 

 

 

「……起きて、ください」

 

また、あいつの夢を見ていた。最近、よく見るようになった、あいつの夢だ。俺が見たくない、最悪な夢。

 

「ん……おまえは……」

 

そんな夢を終わらせて俺を起こしたのは目の前にいる小さな少女。少し前に出会って帽子を渡した少女。静かに、隠れるように泣いていた少女は、泣きそうな顔で、こちらを心配するように見ている。

 

「大丈夫……?」

「……うん、大丈夫だ」

 

俺はそう言って彼女に向けて笑顔を作る。でも、少女はさらに悲しそうに、泣きそうになってしまった。そして、一筋の涙が少女の頬をつたう。それから、どんどん少女の瞳からは涙が溢れ出す。

 

「無理、しないで」

「いや、無理をしているのは……」

 

お前じゃないのか――――そんな言葉は俺の口から出ることはなかった。少女は少し俺に近づくと、その小さな体で俺を抱きしめた。言葉は出なかった。思考は止まっていた。理解ができなかった。そんな中、少女は静かに泣いている。俺を抱きしめたまま、少女は涙を流す。

 

「そんな、苦しそうな顔で……」

 

彼女は言った。俺が、苦しそうだったと。

 

「無理に、笑わなくてもいいんだよ」

 

無理して笑っていたと、少女は告げた。自分よりも明らかに年下の小さな少女は俺を慰めるように、そう言ってくる。

 

「え……あ……おまえは、何を」

「あなたは帽子をくれた」

「? そうだな」

「だから、ここで、泣いていいよ」

 

少女はぎゅっと俺を抱きしめながら、泣きながら、俺にそんな事を言ってきた。

 

「わたしは見てないから。だから、あなたも、見ないで」

 

それ以上、言葉はなかった。少女のすすり泣く声が聞こえる。そして、その声が、少女のぬくもりが壊していく。俺の心を……弱くて、負けそうで、壊れそうな俺の心を少女は剥き出しにしていく。

 

「……ありがとう」

 

口から出たのは、そんなありきたりな言葉だった。それに少女は小さく頷いて、より一層その小さな体で俺のことを抱きしめる。そんな少女に縋り付くように、俺は涙を流す。

 

あの日から、一度も流すことがなかった涙……全てを失ってしまったあの日から枯れていた涙は一度こぼれると止まることはなかった。次々に瞳からこぼれ落ちていく。

 

 

 

 

そして、気が付けば俺たちはいつもの木の下で横になって寝ていた。少女は俺の頭を抱えるように、俺はそんな少女に抱きしめられながら。

 

少女を起こさないように体を起こすと、少女の小さな体を抱き抱えて座り直した。

 

「ありがとう」

 

俺はもう一度だけ、そう言った。

 

少女は俺の腕の中で静かに眠る。その頬には涙の跡が残り、その寝顔は穏やかではあっても、幸せそうではない。自身のことさえも解決できないというのに、この少女は俺のことを心配する。

 

「がんばるよ」

 

何に向けてなのか、誰に向けてなのかわからない。でも、そう思った。

 

 




…更新が遅くて申し訳ないです。できる限り早く投稿していきたいと思います。

さて、本編は少女と主人公の物語にプラスで少しだけ要素が増えました。登場人物が増えました。そして、書く人物も増えました。ふ……自分で自分を追い込むことになるとは。


あと、最初の方が絶対に読みにくいだろうと思います……書き直そうと思って、いろいろいじったのですが、思うようにいかず、本文の形になりました。()、『』、//、――等で区別をつけましたが、うーむ。力量不足で申し訳ありません。

それでは、次の投稿で会いましょう。次の投稿を気長に待ってもらえたら嬉しいです



**


それはそうと、主人公はあと数年後に同じことをするとまずいことになります。どうなるかと言うと、目撃者から「ロから始まってンで終わる今世紀最大の謎の生物」という、一部の人にとっては名誉ある称号を授かることになります。



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第3話 小さな一歩 ~変わり始めた日々~

彼は頑張ります

少しずつ、前に進むために……


あの日のことはよく覚えてない。

 

――――いや、違う。

 

覚えている。忘れるはずがない。本当は、覚えている。ただ、思い出したくなくて、忘れていたくて、覚えてないと言っているだけ。

 

「――――!! ……!?」

 

痛かった。辛かった。怖かった。だから、忘れていたい。二度と思い出したくない。でも、時折、ふと思い出してしまう。

 

「……――――! ――――……」

 

彼の声が聞こえるから。彼の姿が見えるから。だから、一つだけしっかりと覚えていることがある。私は彼に助けられた。彼に救われた。彼に助けられたから、ここにいる。すっと、目の前にある玄関を見る。何度も、何度も訪れた家。けれど、一度も迎え入れてもらえたことがない場所。

 

学級委員長だからプリントを持っていくようにと先生が言ってくれた時には少しだけうれしかった。彼に会えるかもしれない。そうしたら、あの時のお礼が言える。そう思っていた。でも、かれこれ一年近く訪れているけど、彼に会えたことはなかった。インターホンを押しても一度も応答はなかった。居留守なのか、それとも本当に居ないのかでさえ、私にはわからない。

 

「今日は……会えるかな……?」

 

ほんのちょっとだけ期待しながら、いつものようにインターホンを押した。

 

「やっぱり、出てなんてくれないよね……」

 

そして、私はいつものように現実を知る。不愛想な彼が出迎えてくれるなんていうような幻想は、いともたやすく崩れ去った。わかっていたことだった。何度も何度も、同じことの繰り返しでしかないことだって知っていた。それでも、期待していた。もしかしたら、今日は会えるかもしれないと。

 

「帰ろう……」

 

それでも、やっぱり、ダメだった……

 

 

 

***

 

 

 

あの日……俺とあの少女が出会った日。その日から、俺の日常は少しだけ変化した。それが良い方向になのか、悪い方向になのかはわからない。でも、俺は良い方向に進んだのだと思いたい。

 

いや、今も変化を続けている。ただ、無意味に時間を消費し続けていた日々に少しだけ意味が表れ始めていた。少女との出会いが、少女との触れ合いが、ともにいる日々が、俺を少しずつ変えていった。そして、そんな少女に――俺を変えてくれた幼い少女に対して小さく決意した。誰にも聞かれることのない決意。どんな意味があるかもわからない決意。あまりに抽象的で、大雑把な決意。それでも、俺はこの少女に告げた。たとえ、聞こえてなくても確かに告げた。

 

――――がんばるよ

 

だから、すこしだけ、前に出てみよう。一歩ずつでいいから進んでみよう。進むことをやめていたことを、やめよう。関わることを拒絶していたことをやめて、少しだけ周りを見てみよう。

 

玄関のインターホンを押しているおとなしそうな雰囲気の少女を見ながら、そう思う。その少女はプリントを抱えたままインターホンからの反応を待っている。反応がないことを知っていながら、どこかで期待しているのだろう。俺が間違えて反応するのを。だが、うちにインターホンを押してまで訪ねてくる奴なんて限られている。押し売りの類か、この少女だけである。だから、俺がインターホンに応じることはない。

 

「やっぱり、出てなんてくれないよね……」

「…………」

 

それはきっと、これからもそうなのかもしれない。俺はインターホンを無視し続ける。そして、少女もどこか悲しそうな顔をしながら、手に持っているプリントをポストに入れるために移動を始める。それが、いつもの光景。少女は四苦八苦しながらなんとかプリントをポストに入れ、少女がいなくなってから、俺はそのプリントを回収する。

 

そんな日々を俺は――良しとしていた。

 

だから、

 

「おい」

「……え!? あ、う、うん。な、なに?」

 

だから、声をかけた。俺はその良しとしていた日常を変えるために、変わりたくない自分が望んだ日々を壊すために、俺は一歩だけ前に進む。目の前の少女のために、公園で泣いていた少女のために、そして俺を護ってくれたアレのために――俺は当たり前だった日々を、新たな日常へと変える。声をかけられた少女は最初に驚き、そして、声の方向を見て戸惑い、そして、少しだけ嬉しそうに笑った。しかし、すぐにその表情は少し前の困惑によって塗りつぶされてしまったが。まあ、いきなり反応があったらそうなるよな。

 

「開けるから待ってろ」

 

俺は二階の自室から玄関先にいる少女へと声をかけると、数枚のプリントをつかんで玄関へと向かった。

 

「…………え? ……うそ…………え?」

 

俺から反応があったのが予想外だったのか、少女はプリントを抱え呆けたままに立ち尽くす。そんな少女の姿は俺が玄関を開けて現れ、声をかけるまで続いていた。

 

「何をぼうっとしている? プリントを持ってきてくれたんだろ?」

「……夢? これは、夢なの? 倉橋くんが声をかけてくれるなんて……え?」

 

未だに現実を受け止められない少女から俺はプリントを受け取ると、とりあえず、玄関まで入ってもらった。

 

「男の子のお家に上がっているんだ……私……」

「聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「え、あ……ええと、なにかな?」

「この問題がわからない。教えてくれ」

「うん……え?」

 

少女は出されたプリントを見て再び呆気にとられる。まあ、当然といえば当然だ。明らかに自分たちの学年で学ぶようなことではないからだ。とはいえ、学校に行ってない、勉強もしていないのだから、ある意味で当然の結果である。馬鹿にされても仕方ないともいえる。だけど、それでも少女は特に何も言わずに教えてくれた。

 

「え、ええと、ここはね……」

 

少女は式台に腰掛けると、次から次へと俺のわからないところへの回答を示してくれた。幸い、少女は勉強ができるようで、俺の質問にはすべて答えてくれていた。時間にして30分ほど、俺の疑問はすべて少女によって解決していた。まだないの? と言いたげに少女がこちらを見てきているが、今のところは皆無だ。

 

「いや、もう大丈夫だ」

「わからないところがあったら言ってね。また教えに来るから……」

 

俺がプリントをまとめて立ち上がると少女もまた立ち上がった。そして、踵を返し玄関の扉に手をかけたまま、少女は優しくこちらに微笑みながら言った。

 

「それじゃあ、また来るね。倉橋くん」

「ああ、そのときは頼む、松原」

「…………うん。またね」

 

そんな小さな約束を交わして、俺は少女と別れた。

 

そう、俺は勉強をするようになっていた。すべてが終わったあの日から一度も目を通していなかった教科書を開くようになった。机の上に積まれていたプリントの山を整理し、それらに目を通し始めた。そして、一つずつ解くようになった。わからなければ、非常に癪だが……ああ、本当に嫌だったが、たまにプリントを届けに来ているうっとうしい少女――松原に尋ねることにした。いや、そいつ以外に頼れるやつがいなかっただけとも言えるのだが。しかし、その少女は俺のそんな気持ちなんて知らない。ただ、少しだけうれしそうに、俺の質問に答えていった。俺にはそれがわからない。あれだけ拒絶されたのに、なぜ、そのように俺に笑いかけてくれるのか。俺と接してくれるのか。

 

「え?」

 

ああ、本当に――――どうして、

 

「どうしてって……私が、そうしたいからだよ……」

 

こいつらは、馬鹿なんだ……

 

 

――――そんなこいつのことを少し知りたいと思った。

 

 

 

 

 

数日後――――

 

 

「あ、あの、プリントを……」

 

今まであれだけ拒絶してきたのに、なぜか、いつまでも俺にかまってくる少女。そんな少女はほぼ毎日のように俺の家にプリントを持ってくるようになった。最近では、プリントだけでなく、過去に彼女が書いたノートまで持参してくるようになった。いらないと断りたいが、非常にわかりやすくまとめられているので、断るに断れない。

 

「……開けるから待ってろ」

「うん」

 

インターホンを不安そうな顔で押すのは変わらなかったが、俺の反応があると小さいけれど、まぶしく笑うようになった。こうして、俺の日常に新たに一人の少女が加わった。

 

「倉橋くん……」

「なんだ?」

「なんでもないよ」

 

二人で勉強をしているときに、ふと名前を呼ばれる。聞き返すと、何でもないと少しうれしそうにこいつは笑う。そんな日々。そんな新たな日常。ほんの少しだけ、こいつのことを知りたいと思ったことを少し後悔しそうな日々が続いている。やはり、この少女のことはよくわからなかった。だが、悪い気はしない。こんな変化をいいと思っている自分がいた。

 

「倉橋くん」

「……今度は、なんだ?」

「ありがとう……」

「うん? なにかしたか?」

「言いたかっただけ。気にしないでいいよ」

 

だけど、やっぱり、俺にはこいつらのことが分からない。いきなりお礼を言われたことに対する意味も、やっぱり分からない。

 

分かる訳もない。分かる気もなかった。

 

「……俺が勝手にしただけだ。礼なんていらない」

「え……」

「なんでもない! 次、これだ! これはどうすればいい!」

「あ、う、うん。これはね……」

 

俺にはこいつらのことがよくわからない。だから、こいつが嬉しそうにしている理由も分かる訳がない。そう、言い聞かせた。

 

 

 

***

 

 

 

少女は、ようやく自分の願いが叶った。だが、そうすると、新たな願いが出てくる。今までは叶うわけがないと思っていた願いが。だが、その願いはすでに叶っている。

 

「ありがとう」

「ふん」

 

きっと、この少年は少女の言葉に込められた意味を知らない。

 

 

 

***

 

 

 

「あの……」

「なんだ?」

 

どこかためらいがちに少女は問いかける。だから、俺は答えた。

 

「ううん、なんでもないです」

「そうか」

 

少女は何も言わない。なら、俺も何も言わない。聞かれたら答えたかもしれない。けれど、少女は沈黙を良しとした。なら、俺もそれにならう。そして、少女はそっとこちらへと体を預けてくる。俺はそれに何も言わない。ただ、静かに時が過ぎていく。帽子の下の彼女の表情は見えない。でも、彼女は泣いていない。そのことだけは理解できた。

 

俺の日々は少しだけ変わった。いや、きっとこれからも変わっていくだろう。そして、これは俺だけじゃない。きっと、この少女の日々も少しずつ変わっていくと思う。だが、変わらないものもある。

 

「……ん」

「…………」

 

俺とこの少女の関係はいつまでもこのままなのだと思う。それが、どこかうれしくて、少しだけ寂しかった。

 

 

 




*用語集*
式台:玄関ホールと土間の段差が大きな場合に設置される板張りのこと(作者はこの名前を思い出せなかった)
倉橋:主人公の名字(ようやく固定)。男のツンデレ誰得……
松原:第2話にて登場した少女の名字。癒し
帽子の少女:高町なのは。癒し
アレ:「アレ」です。アレ

主人公の立ち直りが早いと思われそう……そんな本編です。
まあ、未だ伏せてますが、本編の前に大きな事件を一つ解決した後です。ついでに、そこでトラウマゲットして、しばらく苦しんだ後です。そんな彼を、周りのみんなが救おうとします。そんな第1章はもう少し続きます。

第1章に当たるこの章が終わると、また彼には大変な目にあってもらいます。あげて落とすとはこのことですかね……

それでは、次回でお会いしましょう。



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第4話 前を見るために

彼と少女の関係は変わらない。

どれだけ、周りの関係が変わろうと、二人は今を良しとする。

だけど、彼は変わることを望んだ。少女も変わりたいと思い始めた。

すこしずつ、運命の歯車は回る。

日常のおわりは少しずつ近づいている。


 

俺と少女の関係は変わっていない。だが、変わったものがある。

 

「あ……」

「うん? どうかしたのか?」

「……ううん、なんでもない」

「そうか……」

 

俺と少女の日々は変わらない。今日もまた、こうして静かに一日が過ぎていく。俺とこの少女は互いに深く干渉しない。それでも、少女の言いたいことはわかった。おそらく、少女も俺の変化に気づいているのだろう。そう、少女と同じように、俺もまた学校に行くようになった。そのことを、どこかうれしそうに少女は受け止めている。でも、どこか寂しそうだった。

 

「……大丈夫だ」

 

だから、俺はあのときのように少女に告げる。何が大丈夫なのか、どう大丈夫かなどという必要はない。これだけできっと伝わるから。そして、少女は少しの期待を込めて聞き返してきた。

 

「これからも――――」

「ああ、ここで」

「……うん」

 

少女は帽子を深くかぶると、続く言葉を飲み込んだ。

 

「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

 

俺はいつか、その言葉が少女の口から聞けることを願っている。

 

でも、

 

「……これで」

 

それは――――

 

「…………そう、これで……」

 

できれば、叶わないでほしい願いでもあった。

だから、俺はこんな日々がいつまでも続くことを願っている。そんなこと、絶対にかなわないと知りながらも、こんな日々を俺は望んでいた。

 

 

 

***

 

 

 

――彼は変わった。

 

少しだけ、変わった。

 

以前に比べて、明るくなった。笑うようになった。幸せそうになった。

 

そして、以前にもまして――――

 

「……どうすれば、いいのかな?」

 

ぽつりとつぶやいた。前からこちらに向かって走ってくる幸せそうに笑う彼を見て、私はそう思った。

 

「あの時、私は助けられた。そして、1年前にも助けてもらった。だから、彼はカズやトモに認めてもらえたし、私も彼と友達になれた。お礼も言えた。だから、きっと、これでよかったよね」

 

1年前に起きた事件。その事件はそんなに大きなものでもない。でも、ここで暮らす私たちにとってはとても大きなもので、当事者であった私はとても怖かったことを覚えている。

 

「それでも、彼は助けてくれた」

 

それは、本当に運が良かっただけだったと思う。ほんの少しでも、どこか違っていれば、きっと私は助かってなかった。そして、彼も助かりはしなかったと思う。そんな危険に彼は飛び込んだ。

 

「私は……そのことを感謝してる。だからこそ、言わないといけないこともあるの」

 

いつものようにバカ騒ぎをしている彼とふたりの幼馴染は速度をほとんど緩めずにこちらへと突撃してくる。そんな3人の姿に呆れながら、私はつぶやいた。

 

「……朝から、何をしてるの?」

 

でも、こんな何気ない毎日を壊したくない。だから、この言葉はきっと彼に届くことはない。

 

 

 

***

 

 

 

 

俺の日常は変化し続ける。小学校を卒業し、中学に上がり、学校に行き勉強をするようになる。だが、相変わらず、俺の周りは騒々しく、俺に絡んでくる奴らには変化が見られない。朝の通学路は静かにならず、必ずにぎやかになる定めにあった。その一人が、先ほど合流した二人のうちの細い方……訂正、相方がでかすぎるだけであって、背格好は俺と変わらない。少し意識の高そうな平均的な男子。意識が高い平均って何だ……

 

「まさか、お前が学校に来るようになるとは……」

 

俺にしょっちゅう突っ掛かってきていたバカ――佐藤一樹(さとうかずき)は感慨深そうにそうつぶやくが、中学に上がってからしょっちゅうその言葉を聞いている身としてはそろそろ鬱陶しい。

 

「出てきてるんだから文句はないだろうが……てか、それ何度目だよ」

「13回目だな。まあ、こちらとしても、お前がまじめに出てきているのなら文句はない。むしろ、これであいつの邪魔をしなくてよくなったのだから、良いこと尽くしだ」

「お前はどっちの味方なんだよ」

「ふ、聞きたいのか?」

「いや、い―――」

「俺は彩花の味方であって、お前たちの味方ではない!」

 

バックにザッパーーーン!! と打ち寄せてくる波が見えそうなくらい潔く、漢らしくこのデカブツの阿呆は答える。無駄にでかく、無駄に勢いがあり、無駄なくらいデカイ声で叫んでいるため、無駄に暑苦しい。朝の静かな時間だというのに、無駄に元気な馬鹿に当てられたくないのか、多くの通学中の生徒がこいつを避ける。否、俺たちを避ける。付け加えると、彩花とは松原のことだ。

 

「数えてたのかよ……」

「適当だとも!!!!」

 

いちいち暑苦しくこいつは答える。以前のような少しドライで冷たい態度の方がつきあいやすく感じなくもない。まあ、佐藤に関してはあまり変化がなかったのだが。

 

「……なあ、佐藤」

「なんだよ、倉橋」

「おまえ、こいつの幼なじみやってて疲れないか?」

「……言うな」

 

どうやら、こいつも同様に思っていたらしい。後ろの暑苦しいのを見て、俺たちは同時にため息をついた。それを見てもデカブツ――前野智一(まえのともかず)は特に変化なく、むしろ俺たちの肩に腕を回して引っ付いてくる。もちろん、無駄に勢いがあり、無駄に、暑苦しい。

 

「なるほど、なるほど。これが、ちまたで噂のツンで……」

「違うからな……トモ」

「それは絶対に無いからな、前野」

「ふ、素直になれよ。さあ、友よ! カモン!!」

 

俺と佐藤は互いに顔を見合わせると、同時に頷いた。ああ、わかっているとも。お前のやりたいことは……

俺たちは静かに拳を握ると、無駄にいい笑顔で両手を広げている阿呆に狙いを定める。身長差があるため、放つ拳はどうしてもアッパー気味になるが、そこは下半身のバネを用いて殴れると考えれば、威力を上げる要因になる。

 

「おお! ようやく、すなおにな……ぶべら!」

 

同時に振り抜いた拳は見事にド阿呆の顔に炸裂する。正確には下から殴ったので顎なのだが、まあ、普通はこれでノックアウトだ。

 

「やったか……」

「ああ、やっただろ」

 

仰向けに倒れた阿呆を見て、俺たちはとりあえず当分の脅威が去ったと認識した。さすがに、一度意識を飛ばせば、少しくらいは冷静になっているだろうと思っての行動だったので、罪悪感などは無い。そう、これは友達(・・)を思っての行動なのだ。

 

だが、こいつの耐久は俺たちの予想の遥か上をいっていた。虚ろだった目に光が戻るやいなや、動画を巻き戻すように人体の構造、物理法則を無視しているのではなかろうかという勢いで立ち上がる阿呆。その阿呆は立ち上がったあとに急に両手を広げて空を仰ぐ。

 

「壊れたか?」

「壊れたんだろうな」

 

どことなく嫌な予感がするが、これを放置するのもまずい。逃げたくなる体を必死に抑え、とりあえず、目の前の阿呆の反応を待つ。

 

「なるほど……これが、愛っ!!!」

「逃げるぞ」

「ああ、逃げるか」

 

倒れた拍子にどこかのねじが吹っ飛んだのか、頭の回路が壊れたのか、安全装置が外れたのか、それとも、もともと壊れていたのか……おかしなことを叫び始めた暑苦しい馬鹿が一名。俺たちは再び顔を見合わせるとそそくさと逃げ出した。

 

「ふむ、これが青春の1ページとしてよく描かれる『まてー』『あははーつかまえてごらんー』とか言う状況か!! よかろう! ならば、この前野智一! 全霊を持って」

「「違うからな!!」」

 

ものすごい解釈が出てきた。てか、それは少年漫画というよりは、少女漫画のたぐいなのでは? いや、そもそも、そのような場面が描かれることがあるのだろうか? と思ったが、某フルメタルなアルケミストの漫画で主人公とヒロインがやっていたのを思い出した。あれに影響されたのだろうか? だとしたら、俺たちに待ち受けている結末は……

 

「倉橋、お前もその結論に至ったか」

「と、いうことは、お前も……」

 

とりあえず、掴まるわけにはいかない理由が増えてしまった。こうして、クラスで名物になりかけている馬鹿三人の騒ぎは朝っぱらから絶好調だった。

 

 

途中、松原がいつもの待ち合わせ場所でこちらを不思議そうに見ていた。自宅の玄関前で鞄を持ちながら時計を気にしていたが、こちらに気づくと首を小さく傾げた。

 

「……朝から、何をしてるの?」

「いいから、お前も走れ。倉橋、頼むぞ」

「任されたくないのだが……」

「え、きゃあ!」 

 

松原を俺が回収してあの馬鹿から逃げながら学校へと急いだ。当然、彼女はこの状況についていけず、理解もできない。いや、出来たらすごいのだが。

 

「あ、あの、いったい、どういう状況……?」

「ほう、彩花に手を出すとは……やるな」

「どういう意味なの……?」

 

困惑気味な松原の声は後ろからの暑苦しい声にかき消される。

 

「その挑戦、受けるっ!!!」

「受けるな、ド阿呆!」

「挑戦って、なんだよ! 暑苦しいから、来るな!」

「あの……はぁ…………もう、いいです」

 

残念ながら、彼女の声は届かず、どこか必死でありながらも笑っている俺たちを見て何かを納得したのか、おとなしく俺に掴まっていた。

 

 

 

余談ではあるが、そのときの状況を他のクラスメイトにも見られたため、その日はいろいろと大変だった。何が大変だったのかは、聞かれても、話したくはない。できれば、このときの俺の行動を止めれるのなら止めたい。そう思ったくらいには大変だった。

 

「あなたが楽しそうだから、きっと、これでいい……そうよね?」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ、何でもないです」

そんな、誰かが望んだ日常が俺たちの前には広がっていた。

 

 

 

***

 

 

 

放課後……騒がしいのと別れて、俺はここに来ていた。

 

「あ……? ……??」

 

少女は俺に気づくと顔を上げる。そして、こてんと首を小さく傾げるとこちらに尋ねてくる。

 

「……休む?」

「……そうさせてもらう」

 

一目見ただけでも疲れているということがわかるくらいに疲れているのか。そして、特に考える間もなく、俺はほぼ即答していた。

 

「どうぞ……」

「…………」

「大丈夫だから」

「そうか」

 

俺はいろいろと疲れていたのか、少女の提案を受け止めると少女の隣で横になって休んだ。俺が横になる前に少女は自身の膝をポンポンと叩いていたが、その意味が分からない訳ではないし、理解していたが……その優しさに甘えることにした。

 

「すこしだけ、休む……」

「うん……」

 

眼をつむる前に帽子の下から見た少女の顔はどこかうれしそうだったが、それでも、少しだけ……

 

そう、少しだけ…………

 

「おやすみなさい」

 

すこしだけ、寂しそうだった。夢見はきっとあまり良くはないだろう。そうどこかで思いながら、俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

***

 

 

 

『やっぱり……あなたは、やさしいですね』

『なにを……言って……』

 

夢を見ている。

 

俺の目の前には剣を持った薄い桃色の髪の少女。その少女は白い騎士風の服に身を包み、所々に銀色の鎧を身につけている。俺はそんな少女に敵意を持って相対していた。少女もまた、そうだった。だが、今の俺にはどうしようもない後悔が、対する少女の感情はよくわからないが、どこか安堵しているようではあった。

 

『以前、私が言ったことですよ……覚えておられましたか?』

『でも……俺は……おれは……』

 

夢の中のあいつはやっぱりやさしく俺に微笑んでいる。そして、夢の中の俺はみっともなく泣いていた。突き出した槍をそのままに泣きながら、そいつを見ていた。

 

『それで、いいんですよ。あなたはその優しさを忘れないでください』

『でも、おれが……おれが、しっかりとしていれば……こんなことには』

 

少女は俺の言葉に答えなかった。ただ、どこか困ったように微笑む。

 

『……どうか、忘れないでください。あなたに必要なのは、孤独からくる強さではなく、優しさから得られる温もりなのですから』

 

そのことを、あなたに伝えたかった――――目の前の少女はそう続けた。そして、震える手で槍を握り締めていた俺の手をそっと包み込むとやさしく微笑み、自身(・・)()貫く(・・)槍を気にせずに俺を抱きしめた。

 

『あ……』

『ごめんね……本当は、あなたが強くなる……そのときまで、一緒にいたかった。あなたが、前を向いて進むことができるその日まで、あなたを支えたかった』

 

少女の顔は見えない。そして、声も遠のいていく。ああ、ここで、終わりか。俺はそう理解した。

 

「    」

 

夢から覚める。意識が覚醒しはじめる。だれかの声が聞こえる。どこか、必死そうで、悲しげで、つらそうな、だれかの声が聞こえる。

 

『    !!  』

『     』

 

少女は消えて、青い美しい結晶が砕け散る。砕けたかけらは飛び散り消えた。そして、そのかけらの一つが手元に残る。

 

「『ごめんね』」

 

そんな声とともに俺の夢は終わりを告げた。

 

 

 

***

 

 

 

 

「ごめんなさい。その、大丈夫ですか?」

「…………ああ、大丈夫」

 

目を開ければ、少女が心配そうにこちらを覗き込んでいた。あたりを見れば日も沈みかけており、公園で遊ぶ子供たちも次々と帰路に着いていた。俺は少女にお礼を言うと、立ち上がる。

 

そして、少女も俺もいつものように背を向ける。

 

「また……」

「ああ、また明日」

 

そして、いつものように俺たちは別れる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ごめん……ステラ」

 

苦しそうに、彼はつぶやく。

 

「また、あの夢を……見てるのかな?」

 

あなたはわたしに居場所をくれた。わたしが悪い子になってもいい、自分勝手になってもいい場所をくれた。

 

だから、わたしもあなたにあげる。あなたが、苦しまなくてもいい場所を。あなたが泣くことのできる場所を。あなたが、無理に笑う必要のない場所を。

 

わたしはあなたにあげる。わたしは、あなたにあげたい。

 

「だから、せめて、わたしの前ではむりしないで……」

 

 

――そんな、少女の想い。

夢見が悪いのか、涙を流しながら眠る彼に心を痛めながら、少女はつぶやく。

 

 

「私は弱いよ。でもね、あなたが思うほど、わたしは弱くない。あなた一人の涙を受け止めるくらいなら、きっとできるよ。だから、もっと頼ってもいいんだよ」

 

 

少女は救われている。彼という存在に。

彼は救われている。少女という存在に。

 

だが、その事実を二人とも知らない。だからこそ、求める。少女は求める。求めてしまう。より強いつながりを。

 

でも、少女は求めることができない。これ以上の望み(わがまま)を言うことを少女自身が許さない。この関係を壊したくないと望むから。どこか冷めているようで、暖かいこのつながりを少女は求めている。

 

少女は知らない。

彼は知っている。

 

だからこそ、彼らは求めない。この先を……

 

 

 

 

 




ステラーーーーーーーー!!!!!!(爆発)

ではないです。いえ、その、ね。自爆技は持ち合わせておりませんので、ご了承ください。

次か、その次あたりで、序章(原作前)を終えて、無印に進みます。その予定です。原作に出ないオリキャラについてはあと1話か2話でできる限り触れていく予定です。

そして、予定は未定です。

できるだけ早い投稿ができるように頑張ります。それでは、次の投稿で会いましょう


*もうひとつの方も頑張ります。水面下で頑張ってます……



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第5話 運命の始まり

動き出した、最後の時間
君に伝えたい言葉

でも、私はそのすべてを伝えることが出来ない。
だから、すこしでも、彼に伝えよう。


 

 

最近、俺の周りは変わってきている。もちろん、この爺さんとの関係も少しずつ、変わってきてはいた。

 

だが――――

 

「ふむ、最近はだいぶマシになったようじゃの」

「……爺さんが俺をほめている……だと? 夢でも見ているのか?」

「……訂正じゃ。修行が足りんかったみたいだの。ほれ、もう10セット行くぞ」

「現実か……」

 

余計なことを言った俺に対する対応が変わることは無いようだ。俺は悪態をつきながら修行を続ける。もちろん、その悪態の数だけ俺の修行は増える。だからといって、俺の態度が変わるわけではなく、呆れた爺さんが小休止を挟むまで俺とじいさんのくだらないやりとりは続いた。

 

だが、このようなやり取りでさえ、少し前まではできなかった。いや、俺が拒んでいた。だからだろうか、つい愚痴がこぼれた。

 

「……高校か。まさかほんとに通う事になるとはな。あの時は想像もできなかったのに。いつの間にか、行くのが当然になってたな」

「まあ、お前さんの周りに感謝するんじゃな。あの松原という少女のおかげで、お前は再び社会に復帰できたということを忘れてはいかんぞ」

「はいはい、わかってますよ」

「……やれやれ、まったく誰に似たのやら。もう少し、素直でもバチは当たらんぞ?」

「…………」

「重症じゃのー」

「うるさい」

 

いちいちこちらの心境を見抜いたような発言をする爺さんに苛立ちつつも、この爺さんがいなければ生活すらできなかったので、無下にできない。それに、あんな状態の俺を見捨てずに今の今まで見てくれていたのも爺さんだけだ。だから、感謝はしている。絶対に面と向かって告げる気はないけれど。

 

「ふむ……頃合か。ほれ、今日の分は終了じゃ。あとは好きにするがいい」

 

爺さんはそう言って俺を放ったまま帰っていく。俺はといえば、いつも以上にハードな修行を終えた直後だからというのもあり、仰向けに倒れていた。正直、起きるのも辛い。しゃべるのも辛い。今日は自由にしろとのお達しだ。

 

「好きに……か」

 

呼吸を整えながら考える。何をするか……そう考えた時に友達と遊ぶ――この選択肢が自然と出るようになったことに自分の変化を感じなくもない。だけど、今日は……あの日だ。じいさんが修行を早めに切り上げたのも、これが理由の一つなのかもしれない。そう、思いたい。俺がふざけすぎた結果、動けなくなったからではないと信じたい。

 

「そうか……あれから5年か」

 

時が経つのは早いもので、俺も中学生活を終え、高校へと進学していた。そして、気が付けば、あの事件から既に4年が過ぎ、今日で5年が経とうとしていた。

 

「体が動くようになったら、行くか」

 

なんとも情けない宣言ではあるが、今は体を動かすことすらままならない状況。10分かそこらで動けるようになりたいのだが、果たして回復までにどれだけかかるのやら。

 

「まあ、いっか。特に何かある訳でもない。急ぐ必要もないんだしな……」

 

その時の俺は、そうのんきに考えていた。

 

 

 

***

 

 

 

のんきに考えていた数十分前の自分に言いたい。なぜ、すぐに動かなかったのかと……

 

「体が動くようになったら行くか……そう思っていた時期が私にもありました。俺は自分の腹の上に座り込み読書をしているゴミ屑を見ながら思ったまる、という感じですかね」

「……」

「わかってるならさっさとどけよ、だって? ははは、どいて欲しいかい? まあ、どかないけどね」

「…………」

「おお、なんと嘆かわしい。そのような目を向けないでくれ。興奮してしまうだろう。ん? 興奮するな変態? うんうん、わかっている! ……っと、まあ、冗談は置いといて」

「………………」

「安心しろ。お前が動けるようになったらどいてやるから」

 

そんなことを言いながら、俺の上で本を読んでいるのはあの爺さんの弟子のひとりである人だ。そして、優しくて、思いやりのあるいい人なのだが、同時にとてもめんどくさい人でもある。あの事件の後も爺さんや松原ほどではないが、俺のことを気にかけてくれていた人だ。

 

「その顔は信じていないな? 普段はもう少し遊ぶけど、今日は君が回復したらどくから安心するといい」

「…………」

「安心の定義を知っているのかだって? もちろん! 俺を誰だと思っているんだ?」

「…………」

「ナチュラルに人の心を読んでくるやつなんか信用できんから、安心するのは無理? うーむ、そう言われると辛いな」

「…………」

「俺だって、好き好んで野郎の上に座っているわけじゃあない。それに、お前の邪魔をするつもりもない」

「この状態で言われても説得力はないですよ」

 

弟子さんの声のトーンが変わる。それに合わせて、俺も口を開いた。先程までと違い、その顔は笑ってこそいたが、その瞳はとても優しい色をしていた。弟子さんは仰向けに倒れる俺の顔にそっと手を乗せ、その手で俺の視界を遮る。

 

「聞きなさい。そのままでいいから聞きなさい」

「…………」

「俺のことはある程度わかっているよな? 俺があの人の弟子として名を売らず、最低限の任務しかこなさず、ほかの弟子たちに後を任せている理由をお前は知っている。度々、いなくなる理由もお前は知っている」

「ああ、知ってる」

 

弟子さんがこんなふうに話をしたのは過去に一度だけ。そう、たったの一度だけだった。

 

「お前のこの先は……明るいよ。今よりも、きっと明るくなる。きれいになる。優しくなる。温かになる」

「…………」

「お前には、少ないけれど、とても大きな出会いがあった。この数年で、お前は少しだけ変われた。強くなれた。前に進めた。それは、お前が出会った多くの人びとのおかげだ。幼少の時よりお前を見ていた俺たちの師匠、個人的な理由からお前を嫌いながらも気にかけてくれていた二人の友、お前にもらった恩を返すためにお前を訪ね続けた優しい少女」

 

その時も、こんなふうに突然現れて、訳のわからないことを話し始めて、俺に多くの言葉を残していった。その言葉の意味は全てが終わって、俺が多くの人達に助けられた後になってようやく理解できたものだった。けど、だからこそ、思う。思ってしまう。分かってしまった。

 

「お前にはこれからもたくさんの出会いがある。たくさんの別れがある。たくさんの光を見る。たくさんの闇も見る。沢山の幸せを得るだろうし、沢山の絶望を感じるかも知れない。

その中で、お前は力を求めるだろう。お前は力を手放すだろう。お前は仲間を欲するだろう。お前は仲間を切り捨てるだろう。お前は理を歪めるだろう。お前は理を正すだろう。お前は小さな光にすがるだろう。お前は小さな闇を育てるだろう。

だが、忘れるな。 思い出せ。 取りこぼすな。

あの言葉を。ただ、お前だけを想い、お前の未来を憂い、お前を助けようとしたあの人がお前へと送ったあの言葉を。

そして、お前を救い、静かに隣にあり続ける少女から目を離してはいけない。あの子は、出会う。別れる。手に入れて、手放す。あの子は気づかない。気づけない。失うその時まで、その価値に気付けない。否、手を伸ばせない。あの子は、優しすぎる。あの子は救われすぎている。あの子は助けられすぎた。だから、あの子は助ける。救う。

だから、お前はきっと手放す。そして、手を伸ばしてしまう。

そして、俺はそれを望みはしない」

「弟子さん? あなたは、一体、何を知って……」

 

お腹の上にあった重みが消える。でも、俺の視界を隠す温もりは未だに消えてはいなかった。

 

「だから、最後に一つ。これが、今回……いや、お前へと贈る俺の最後の言葉だ」

 

温もりが消える。最後の言葉が聞こえる。それと同時に俺は目を開ける。

 

「光は……道標たる星はお前のすぐそばにある。光を、ぬくもりを見失ってはいけないよ、私の愛しい、たった一人のバカ弟子」

 

目を開けると、そこにはもう誰もいなかった。そこには何もなかった。確かに俺は師匠の家の庭にいた。だが、家はなくなっていた。庭に植えてある木は消えていた。地面の上に寝ていたはずの俺は、草っぱらの上で寝ていた。そして、そんな俺の目の前にはひとつの墓標。

 

ここは師匠の家の裏庭。庭というには広すぎる私有地である小高い丘。この丘と周辺の畑は師匠の私有地となっている。そして、そんな私有地である小高い丘のてっぺんにそれはある。その墓標はある。

 

『ステラ』

 

立派なものではない。とても小さなものだ。ただ、石柱が一本だけ。それに短く名前が刻まれているだけのお墓。それ以外には何もない。だが、お墓が隠れないように、その周囲の草はお墓の背丈よりも小さくなるように整えられている。

 

「……結局、弟子さんの言っていることはよくわからなかったな。どうして、弟子さんはあいつのことを知っていたのか、どうしてあいつの言葉を知っているのか、とか疑問は尽きないし、あの弟子さんの弟子になった覚えもないけど」

 

俺はお墓の前に座る。お墓をそっとなで、ついている土埃を落とす。

 

「きっと、その答えはまたいつかわかるんだろうな。俺がもう少し大人になって、弟子さんの言うように多くのことを経験して、たくさんの人にであって、きっとまた何かに巻き込まれるんだ。それで、その全てが終わったら、きっと、あの言葉の意味を知るんだと思う」

 

考えても仕方ない。考えてもわからない。あの人は伝える気がない。伝えようとしない。だから、自分の知る範囲で、答えられる範囲で何かを伝える。言葉を残す。その言葉を、残してくれた思いを忘れないでいれば、きっと、この先もどうにかなるのだと思う。

 

「お前もそう思うだろ? ステラ」

 

墓標に背を向けて俺は歩き出した。前へ、前へと。ただ、ひたすらに。

 

いつか、届くと信じて。

 

 

 

***

 

 

 

「……少しだけ、いいですか」

「ああ、構わない」

 

少女は俺を見ると少しだけ嬉しそうに微笑む。どうしてかは、わからない。でも、泣いているよりは、こうして笑ってくれている方がいい。

 

「じゃあ、失礼します」

 

俺が公園に来た時に、少女はすでにいた。そして、少女は俺を見て少し首をかしげたが、何かに納得したのか嬉しそうに微笑んだ。そうして、提案されたのが……今の状況になる。

 

それから、数分後。

 

「まあ、こうなる気はしていた」

 

少女は俺にもたれかかりながら寝ている。あぐらをかいて座っている俺の前に座り込んだ少女は手に持っていた本を読みながら船を漕ぎ始め、そのまま可愛らしく寝息を立てて眠っている。かくいう俺も、少しだけ眠い。まあ、寝てしまってもいいのだけど、気になるものがあった。どことなく、見覚えのある本だ。

 

「それにしても、何を読んでいたのか……」

 

すこしだけ、その本が気になった俺は少女に心の中で謝りながら栞をはさんでその本を手にとった。予想していた通りに、でかく分厚い。小学生が読む分量にしては、少しおかしい気がしなくもないが、挿絵が入っているのでまだ読みやすい方なのかもしれない。そして、予想していた通りの本だった。

 

「運命の夜……ね」

 

松原たちも読んでいた気がする。面白いから、絶対に面白いから、読んでよ!! と珍しく興奮気味に松原から語られたのは記憶に新しい。あの大人しい松原があそこまで熱心に勧めるのだから、きっと面白いのだろう。ちなみに、彼女のお気に入りはランサーらしい。いや、誰だか知らないけど。

 

「少しだけ、読んでみるか」

 

そして、俺は後悔した。そのページを見て、少しだけ後悔した。思い出したくもない出来事を思い出してしまったから。

 

 

 

 

「あ……寝て……」

「気にするな。俺も、勝手にお前の本を読んでいる」

「……面白いですか?」

「ああ、そうだな」

 

彼は、少し困ったように、懐かしむように、寂しげに、どこか嬉しそうに答えた。

 

「面白いよ」

 

ちょっとだけ、彼の前でこの本を読んだことを後悔してしまった。それとともに、嬉しくなった。彼もこれを面白いと言って読んでくれたことに。

 

「よかった」

 

私はそれだけ言うと、彼と一緒に本を読み始める。

 

 

 

***

 

 

 

――――そして、始まる。始まった。始まっていた。

 

 

 

***

 

 

 

運命の歯車は唐突に回りだした。俺の周りを巻き込みながら、強く、そして大きく廻り始めた。

 

大きく変化してしまった日常、二度と戻らない時間の中、

 

「僕はユーノ。ユーノ・スクライア」

「それを渡してください。それは危険なものです」

「そこまでだ! この場は僕が預かる」

「私たちは時空管理局。まあ、わかりやすく言えば全世界の魔法を管理している警察よ」

「私は……強くなりたい。あなたのそばで、戦うために。あなたと一緒にいるために」

「それで、お前はどうしたい? 力を欲するのか? それとも……」

「許せとは言わない。だが、わが主の為にその力もらうぞ」

「懐かしいな、お前の槍さばきは。いや、久しぶり……というべきなのだろうか」

「んなこともわからないのか? だからあいつの思いに気付けないんだよ」

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……ここまでとは」

「倉橋くんは倉橋くんだよ。たとえ、何があってもそれは変わらないよ」

「ふー、いつまでたっても世話が焼けるの……わしはもう若くないのだがな……」

「がんばったね、バカ弟子。だから、少しだけお手伝いしよう」

 

俺は多くの出会いと別れを経験する。

 

そして――――

 

「お、おまえは……」

 

俺は再び出会う。

 

 

 

「お久しぶりです」

 

――――私は再び出会いました。

 

そして、剣と杖がぶつかる。

 

「その程度では、隣にいることなど出来はしない!」

「そんなことないもん! それに、おかしいのはあなただよ!」

 

思いと想いがぶつかる。

 

「私は倉橋くんと一緒にいたい。あなたと違って、知らないことだらけかも知れない。でも、私は、彼とずっと一緒にいたい」

「わたしは、弱いよ。あなたみたいに、彼を救えなかった。彼に助けられただけだった。でも、彼と共にいたいって気持ちは誰にも負けない。もちろん、あなたにも!」

 

様々な人々を巻き込み、多くの運命が繋がり、紡がれます。これはわたしたちと彼の物語。魔法少女リリカルなのは。はじまります。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『昔、ある出会いがあった。

おそらくは一秒すらなかった光景。

されど。

その姿ならば、たとえ地獄に落ちようとも、鮮明に思い返す事ができるだろう。

月の光に濡れた髪。

・・・あの光景は、目を閉じれば今でも遠く胸に残る。

 

~運命の夜より~』

 

「……俺も、だよ。あれは、あの光景は……決して、忘れることなんて……ない」

 

震える手でその少年はその本のページをめくる。見開き1ページを使って描かれたその絵は……どこか、似ていた。

 

『問おう、あなたが……』

 

「ステラ……お前は、何者だったんだ? お前はどうして、俺のところに……」

 

少年の問への答えはない。

 

だが、その答えはずっと近くに有る。そのことに彼は気づく。きっと、最高で最悪のタイミングで。

 




次回から原作に入りたいです。入る予定です。
なお、作中に出てきた「運命の夜」ですが、クロスの予定はありません。クロスではなく、僕らが物語を読むように、たまたま、あの世界にあの物語があっただけです。

なので、いきなりマーボーがでてきたり、レースで交通事故を起こしたり、落雷があったり、バレーボールがロケットを突き破ったり、いきなり巨人の散歩につき合わされたり、ジャイアン(美少女)リサイタルが起きたり、妖怪てけてけ姫が出てきたりはしません。安心してください。

それでは、とうとつに書きたくなった、以下のネタを投下して終わります。次回お会いしましょう。



ネタ:嘘次回予告
俺の運命は……動き出してしまったようだ。

「おじいさん。彼をください!」

目の前で、少女が頭を下げる。俺は隣で正座してる。爺さんも目の前で正座してる。弟子さんも……

そして、この少女……名前は高町なのはというらしい。

「そうか……よいぞ」
「では、準備を始めますか」
「はい?」
「ありがとうございます!!」


こうして、式の準備とともに、波乱(修羅場)の幕開けとなった。


「倉橋くんが……結婚っ!? しかも、お相手が、小学生!!? 法律は!? 法律が仕事してないよ!?」
「落ち着け、いいから落ち着くんだ、アヤ」
「そうだぞ。まずは状況の整理と、情報収集およびあの大馬鹿をしばき倒すことから始めるべきだ!」
「お前も落ち着け!!?」
「うん、そうだね! まずは、彼とお話ししないとね! トモ! とりあえず、これでいいかな!」
「ふ、俺が小太刀を持っている。それを渡そう。軽くて扱いやすい。その辞典よりは威力が出るように改造しておこう」
「お前ら……落ち着け――――――!!!」
「「殿中!! 殿中でござるぞ、姫!!!?」」
「「やるなら、外で! そして、我ら親衛隊にお任せあれ!」」
「トモーーーー!? また変なの作ったのか!?」
「ふふふ、見たか、彩花! これぞ、俺が組織した、親衛隊!! おまえに忠誠を誓う者たちだ!」
「これがあれば……もう、なにもこわ」
「言わせないからな!? 頼む、帰ってきてくれ、倉橋―――――!!!」

学校では清楚、物静かなキャラで通っている松原のご乱心。及び、親衛隊の初任務。

「ほう……うちのなのはを嫁に……と」
「いつの間に、こんな虫がついたのやら」
「あの、あのですね……」
「嫁にほしくば、我らの屍を超えてゆけい!!」
「なのはは嫁にやらん!!」
「頑張って! 応援してるから!」

立ちはだかる戦闘民族TAKAMATI親子の壁。そして、全く関与する気のない女性陣。

「ふむ、ならば、私と手合わせだ! ゆくぞ!!」
「待って!! あなたの出番はまだ先ですよね!?」
「この時空において、常識は通用しない!! 常識にとらわれてはいけないのだ!」
「ちょ……、あなたとの手合わせとか、因縁らしきものって、もっと後半に……」
「さあ、尋常に勝負!!」

突如襲来する、謎の美少女剣士SIGUナム。

「これだけ人数おればできるやろ」
「そうですね、はやて」
「よし! ここに、第1次聖杯戦争を開幕する! セイバーはシグナムやで」
「ありがとうございます。はやて! メインヒロインは私ですね!」
「まあ、彼に召喚されるのは違うクラスみたいやけどね」
「はやてーーーーー!?」

謎時空からの聖杯の到来。強制的にインストールされるクラス。そして、幸運値。

「ランサーが死んだ!?」
「まだ何もやってないどころか、出番すらないのに!?」

ランサーは爆発する。

「マスター。安心してください。あなたは私が守ります」
「ステラ……この状況じゃなければ、すごく安心できるのにな」

レッツお布団。逃げ場のない彼に襲い掛かる、かつての相棒。

「グッジョブ、ステラ。これでよい画が取れる」
「弟子よ……お前は……」

リリカルマジカル? 第一次正妻戦争、たぶん始まりません。



ギャグって難しい。シリアスが書けるわけじゃないけどね by作者


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第2章 桜色の魔法使い
第6話 かつての日常


皆さん、お久しぶりです。
忘れられているであろう言語嫌いです。前回の更新から8ヵ月がたっています。
生存報告もかねて、更新です。

ぼちぼちと更新していきます。
次はできるだけ早く更新したい……とはいつも思っているのですが、遅くなってしまい申し訳ありません。

読んでやるよ――! という、心の広い読者の皆様。今後もどうかお願いします。

ああ、文章力が欲しい……


 

サクラの舞う季節。俺たちはいつもの場所にいた。

 

「……行ってくる」

「うん、私も」

 

「「行ってきます」」

 

俺たちはそれぞれの道を歩き始めようとしていたのかもしれない。

けど、それは違うように見えて、同じ道だった。俺たちの道は必ず交わるのだから。

時を超えて、形を変えて、様々な奇跡とともに。そんな、始まり。

 

『いってらっしゃい』

 

そう、聞こえたような気がした。

 

 

 

***

 

 

 

春が来た。

 

「…………」

 

春。それは、始まりの季節であり、終わりの季節でもある不思議な季節。多くの人々と同じように、俺にとって始まりの季節となる。だが――

 

「どうして、こうなった」

 

高校生活開始。学校における俺の第一声である。

 

「ふふふ、鳴海中学3バカは高校でも健在だ!」

「まあ、死ぬ気で勉強すればここに入れるしなー」

「皆で来ることができたから、私はうれしいよ」

 

上から順に、上野(阿呆)、佐藤、松原である。すなわち、俺の仲の良かったメンバーは全員同じ高校に来ていた。すなわち、鳴海高校。何のひねりもない普通の公立高校であるため、本来なら死ぬ気で勉強する必要はない。入学するために死ぬ気で勉強する必要は皆無な学校だ。

 

「それはそうと、この学校大丈夫か? 公立だよな? どうしてあんな入学式になる……」

 

佐藤の発言に俺たちは黙る。

 

「あれは、さすがに予想外だったな……」

「ああ……」

 

基本的に元気で騒がしい馬鹿も佐藤と同じように遠い目をしている。松原でさえ、困ったように微笑むだけでフォローに回ろうとしない。

 

「良くも悪くも予想を裏切る入学式だった。だが、あれが俺たちに日常になる可能性も……」

「なくていいと思うよ」

 

おそらく、入学してきたすべての生徒にとって衝撃的過ぎた入学式。それについては誰もが深く触れようとしない。正直、俺もさっさと忘れてしまいたい。

だが、俺たちは知らない。いや、知っていたとしてもどうにかできたとは思えない。入学式に続いて、俺たちに新たな脅威が迫っていようとはだれも予想できていなかった。

 

「はーい、お前らちゅーもーく」

 

誰かが教室に入っていた。教壇にいたのはやる気のないおっさん……まあ、お兄さんに見えなくもないがその醸し出している雰囲気は完全におっさんのそれである。そんな死んだ魚の目をしている頭が爆発しているおっさんはけだるげに腕を水平の高さまで上げた。

 

「はい、そこの君。名前は?」

「……私、ですか?」

「ああ、うん。君でいいや。名前は?」

「ま、松原彩花です」

「松原……彩花…………っと、あった。ふむふむ、よし。じゃあ、松原。プリントを配るから手伝ってくれ」

「え、あ、はい」

 

松原は目の前のおっさんに呼ばれるとプリントを受け取るために教壇へと近づく。そんな松原に、おっさんはプリントではなく手に持っていたファイルをいくつか渡す。それには見間違いでなければ、出席簿とHRの手引きと書いてあるように見えた。ついでに自分の着ていた白衣を松原の肩にかける。

 

「あの、これは……」

「松原彩花。君を学級委員長兼担任代理に任命しよう。しっかり励むんだぞ」

「はい、わかりまし……って、あれ? 担任代理って」

「は~い、皆さん聞きましたねー。ここにいる物静かで可憐な少女である松原さんが今日から君たちの学級委員長にして、先生の代わりにHRを進行してくれる担任代理だ。はい、新任の挨拶をどうぞー」

「え、あ、あの、がんばります」

「はい、拍手―」

 

ぱちぱちぱちぱち……っと、どこかまばらに拍手が起きた。がんばると答えてしまった松原は状況が呑み込めないまま、拍手に対するお礼のつもりなのか、小さくお辞儀をする。そして、俺たちの担任らしき人物は満足そうにうなずきながら、折り畳みの椅子に腰かける。

 

「はーい、拍手やめー。さて、松原。HRの手引きに沿って本日のHRを進めてくれ」

「え、は、はい」

「よし、それじゃあ頼んだぞ」

「え、えーと。皆さん、プリントを配るので、後ろに回してください」

 

流されるままに、白衣を羽織った松原によるHRが始まった。先生らしき人物は椅子に腰かけた後、某週刊少年漫画雑誌を読み始める。入学式に続き再び起きたカオスな状況に、誰もが混乱してしまっていた。いや、どうすればいいのかの答えが誰にも出せなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「はい、伝達事項は以上です。これでHRを終わります。次の時間ですが、職員室に教科書が届いているので、どなたか手伝ってくれると助かります」

 

最初こそどうなるかと思ったが、松原のおかげで特に問題なくHRは終わった。急な無茶ぶりに応え、見事に成し遂げた彼女にクラスの皆から温かい拍手が送られた。もちろん、そんな彼女に対して協力してあげたいと思うものは多く、彼女の為に多くのクラスメイトが協力を申し出る。

 

「ん? ああ、終わったか。それじゃ、その調子で次の時間も頼んだぞ」

 

そんな中、俺たちの担任はそう言って再び漫画へと目を落とした。

――――どうして、こうなった

誰かが、そうつぶやいた。それはまさしく、クラスの総意であった。

 

 

その後、終礼を含む3回のHRはともに松原が担当し、見事に担任の代わりを果たした。

 

 

「その、なんだ、お疲れ」

「ああ、お疲れ、彩花」

「……うん、ありがとう。二人とも」

 

中学時代から学級委員長としてなんだかんだ皆を引っ張ってきた松原ではあるが、さすがに担任の代わりをするとは思っていなかったようだ。そのため、その顔には疲れがにじみ出ている。基本、流されるままに動いている俺だが、こんな状態の彼女を見て思うところがないわけではない。。

 

「おいしいケーキ屋を知っている。そこに行くのはどうだ?」

「え! ほんと!!」

 

食いつきは早い。松原もまた甘いものは好きだから、喜ぶだろうと思っての提案だったが、思いのほか嬉しそうな姿を見せる。

 

「翠屋っていう、店だ。以前……師匠が買ってきてくれたことが何度かあった」

「あ、知ってる。何度か食べに行ったことあるけど、本当においしいよね!」

「じゃあ、そこに行こうか。お前らはどうする?」

「賛成だ。甘いものは嫌いじゃないし、特にすることもないからな」

「もちろん、俺も行く。俺にはお前たち二人を温かく見守る使命がある!!」

 

どこか見当違いなことを言っている上野(阿呆)は置いといて、全員で翠屋に向かうことになった。とりあえず、多くは語らないが、翠屋は噂通りであり、かつて俺が食べた時と変わらず、そのケーキはとてもおいしかった。

 

――そして、その帰り道。

 

「疲れた。ほんと、どうしてこうなった」

「うん、私も疲れたよ。今日はもう寝たいかな」

「彩花はさっさと寝て疲れをとれよ……それと、お前の言う通りになったな、倉橋」

「言うな、俺もこんなことになるなんて予想できなかった」

 

ふざけた入学式から始まり、あまりに非常識な担任にそんな状況下でも与えられた仕事を全うしきった松原。正直、もう何も考えたくない。

 

「冗談で言ったつもりだったんだがな。こんな日常はさすがに望んでなかった」

 

ため息交じりに嘆く俺を見て、こいつらは三者三様の反応を見せた。そして、いつものように笑い、いつものようにじゃれ合い、いつものように優しく見守っている。

 

「あなたが笑っていてくれるなら――――」

「ん? どうした、松原?」

「ううん、なんでもないよ」

 

それが、新たに始まったいつもの日常。動き始めた日常(時間)

変わり始めていた日常(世界)

 

――――あなたが笑っていてくれるなら

 

それは、そう、それは……新たな物語の始まり

 

――――そんな日常が目の前にあるというのなら

 

俺の知らなかった少女の決意の物語。

 

――――それを、絶対に守って見せる。今度は、私が……守る

 

少女は知らない間に、決意してしまっていた。彼女は決意を新たにその手を強く握りしめる。そんな彼女の手のひらから、淡い光が漏れていた。

 

「おーーーーい、まーつーばーらーーーー!」

「あ、うん! 今、行くから!」

「さあ、松原! 俺の胸に……ごふぅぶるああ!!」

 

目の前にはいつもの三人が笑いながら少女を待っている。つい、立ち止まってしまっていた少女を待っている。

 

「何かあったのか、松原」

「ちょっと、ぼーっとしてただけだよ」

「春眠暁を覚えず……というやつだな!」

「それは違うだろ、トモ」

「そうだね」

 

そっと、少女は隣を見た。

 

「     」

「うん、やっぱり、そっちの方がいいよ」

 

少女は想ったままに心を伝える。少女は――幸せだった。

 

 

 

そんな、優しくてばかげた入学式から、気が付けば1か月以上がたった。

 

 

 

 




=======

次回予告

「暇だ!!」
「なら、サ店に行こうぜ!」
「すまん、無理だ」

爺さんの修行のためにいつもの三人と遊べなかった俺。
すなおに、向かうのも嫌だった俺が寄るのはいつもの公園。

「いいのか?」
「うん。必要……なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「なら、あげます」



***

学園パート……どう書けばいいのか
だいぶ駆け足になりました。描写がうすい気がする。
………書き直した場合は次回の更新時に伝えようと思います。


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第7話 囚われの魔法使い

書けないことを悩むより、書けたら投稿した方がよいのかもしれない。
悩んでると書けないですし。
でも、推敲は必須。書きながら考えていきたいです。

そんな風に考え始めた作者です。


 

 

「暇だ!!」

 

金曜日の朝。上野の第一声がそれだった。

 

「そうか」

「どっか遊びにでも行くか? この近辺には何もないけど」

「……中間テストの勉強はいいの? 日々の予習復習が大事だよ」

 

素っ気なく返事をした俺に対し、各々の個性が現れた回答。とりあえず、上野の提案に乗っかり、計画を立てようとした佐藤。真面目な学生であり、学級委員長を地で行く松原は近づきつつあるテストへの備えが出来ているのかを心配する。

 

「松原……高校生に必要なことが、何かわかってないようだな……」

 

上野は勉強をしたくないようだ。やれやれと肩をすくめながら、諭すように松原を馬鹿にする。本人はそのようなことにすら気付かずに、首をかしげながら当たり前のことを答える。

 

「え、学生なんだから、勉強することが本分だよ?」

「ノゥ!!! 今、遊ばずしてどうするのかっ!!」

「そうだな、トモ。たまにはいいことを言うじゃないか」

「えぇ!!」

 

後のことは語るまでもないだろう。松原は勢いに飲まれて、反論できずにうなずいてしまい、俺はいつものようにこいつらへの同行が決まっていた。まあ、そもそも、俺に意見はほとんど求められていないのだが。

 

普段なら、このまま流されてこいつらに引きずられるように連れていかれるのだが……今日は放課後に用事があるため、今回は断らなければならない。だが、もしも叶うのなら、こいつらに連れて行ってもらいたいとも思うのだが……

 

「悪いが……今日は無理だぞ」

「なに?」

「どういうことだ、くらはしぃ」

「爺さんに呼ばれてる」

 

場に沈黙が下りた。

 

「死ぬなよ」

「冥福を祈る」

「大丈夫……だよね?」

「上野、勝手に殺すな」

 

誰も俺を遊びに誘おうとしなかった。爺さんの力は偉大すぎる。

 

「いや、だってな……あの爺さんに逆らうとか、死を覚悟するしかないし」

「視線で人を殺せるよな、あの人……絶対に、10人以上ヤッテルと思うんだ」

「そういえば、カツアゲされそうになったときに、カツアゲしてきた人たちを返り討ちにしちゃって、警察の人に怒られたって話もあったよね? なんで怒られたんだろう」

「……暴走して突っ込んできたトラックを片手で受け止めたとかも聞いたことあるぞ」

「住民の救助の為に、建物の壁を素手で砕いたとかもあったよね? 壁にこぶしが当たるとそこからひび割れて、車が通るのに十分な穴が開いたって聞いたことあるよ」

「銃弾を指でそらしたとか、指二本で真剣白羽撮りしたとか、空中でジャンプしたとか、海を割ったとか……」

「最後は絶対にない」

「それ以外は否定しないのかよ……」

「あの爺さんなら、出来たとしてもおかしくない」

 

一応、爺さんの名誉の為に言わせてもらうと、この噂は事実の一部でしかないらしい。もう少し、誇張したくらいが事実に近いと、遠い目をしたお弟子さんは語っていた。そう知った時の俺の心境をわかって欲しい。若いころは海も割れたとのことだが……脳がそれを信じることを拒否している。実演された気もするが、そんな事実はなかったということにしている。自分の精神衛生を保つために。

 

「あ、そろそろHR始めらないと。みんなー、HR始めるから座ってくださーい」

「……松原、先生はどうした」

「今日は出張だよ。だから、私が頑張らないと」

「…………」

 

ちなみに、松原の説明は正しくない。正しくは今日()出張(さぼり)である。松原以外のすべてのクラスメイトがそのことを知っているのだが……先生を信じて健気に頑張り続ける松原に、この事実を伝えようとはだれも思わなかった。これは、非公式クラブ――松原委員長親衛隊の会議でも決められた方針とのことだ。

 

「はい、それではHRを始めます。まず、先生ですが、午前中は出張でおられないとのことです。午後の授業には参加されるそうです。また、本日、欠席者はいません。

伝達事項ですが、中間テストが近づいています。まだ、一か月ある……そう思わずに、日々の勉強を大事にするように、とのことです」

 

そして、HRを放り出して松原に任せ所在不明の先生だが……意外と近くにいたりする。ちょうどこの校舎の真上。すなわち、屋上。先生は、そこを私物化している。普段はそこでゴロゴロしているようだ。なぜ、その行動がとがめられていないのかが、不思議でたまらない。

 

「それでは、HRを終わります」

 

こうして、今日も一日が始まった。

 

「すまん、気が変わった! 今日は俺がHRをしよう!!!」

 

いつも通りの一日は始まりそうになかった。

 

「先生、さきほど……終わりました」

「……よし、帰ろう」

 

ちょっとだけ、先生は寂しそうだった。その背中は誰かに止めて欲しそうだったが、だれも止めようとはしなかった。これが日ごろの行いというもの。

 

誰もがそのことを心に刻んだ。

 

 

 

***

 

 

 

「……どうして」

 

平和な学校生活が終わり、楽しい楽しい修業が始まろうとしている。

そして、気が付けば、いつものように寄り道をしていた。けして、現実逃避ではない。けして、修行からの現実逃避ではない。

だが――――

 

「あ……こんにちは」

 

少女がこちらに気付く。優しく(寂しそうに)微笑んだ。それは、いつもよりもほんの少しだけ違和感のある笑顔。そして、そんな彼女が持つものに気付いてしまった。気付いてしまっていた。

 

「……」

「……あの?」

 

気付かなければよかった。それに、気付かなければよかった。

 

「……それは?」

 

つい、口に出して聞いていた。それは、ありえて欲しくないもの。存在してほしくなかったもの。それは……あってはならないものだった。

 

「…………落ちてたの。とてもきれいだから、拾ったの」

「そうか……」

 

俺は迷った。それをどうするか、どうすべきかを。

素直に話す……その選択肢はもとより無い。この少女に俺の世界に入ってほしくなかったからだ。だから、どうやって、少女からそれを回収するか。少女に違和感を与えず、少女が悲しむことが無いように回収するには、どうすればいいのかを考えた。

 

「あの……」

「なんだ?」

 

だが、解決策は――向こうから、提案された。

 

「……どうぞ」

 

少女は持っていたソレを俺に差し出した。

 

「いいのか?」

「うん。必要……なんですよね?」

「ああ、そうだ」

「なら、あげます」

 

俺の手に渡されたソレ。

青い光を自ら放つそのきれいな石。その名は……

 

「……ルシード」

「…………」

 

そっと、少女が抱き着いてくる。こちらも静かに抱きしめる。

 

「大丈夫……だよ。私が……」

「ああ、そうだな」

「うん」

 

ああ、そうだ……俺は守りたい。このぬくもりをくれる。ぬくもりをくれたこの小さな少女の笑顔を。

 

「……させない」

 

悲劇はもう……繰り返さない。

そんな、俺の決意に呼応するように、それは淡く光った。

 

 

 

***

 

 

 

「渡したのね」

「必要だったろ?」

「ええ……仕事はするのね」

「まあな。大切な仕事だからな」

「それで? その中には彼がいるの?」

「いるぞ。ずっと眠ってるがな。とはいえ、そろそろ、起こさないとまずいだろうが」

「そうね……もう、十分よ」

「なら、計画通りでいいな?」

「ええ、それでお願い」

 

二人は箱の中の生物を見つめる。その生物はフェレットのような見た目をしている不思議な生き物。そして、首にはきれいな赤い宝石を付けている。

 

「さあ、駒はそろい始めている。だから、お願いね、ユーノ」

 

囚われた魔法使いは眠り続ける。

いずれ来る、目覚めを……始まりを待ちながら。

 

 

 

 




次回予告 「青い石 ジュエルシード」

「来たか……本日は、見回りじゃ」
「ああ、わかった」
「見回りか……ここ最近は低級の魔でさえでないな。まあ、平和なのは良いことなのだが」

いつもの見回り。何もなく終わるはずだった。

「これは!? どういうことだ? なぜ、この気配が」

活性化する魔物たち。黒く蠢く怪しい魔物。そして……

青く光る石……その名は


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第8話 青い石 ジュエルシード

「来たか……本日は、見回りじゃ」

「ああ、わかった」

 

爺さんは俺が来ると端的に伝えた。そして、いつものお節介が始まる。

 

「さて、また、寄り道かの?」

「…………」

「図星のようだな。まあ、詳しくは問い詰めん。だが、立ち止まることはしてはならんぞ。お前がしなければならないことは、ひたすら前に進むことだ」

「わかってる」

 

こちらの事情を見透かした様に爺さんは語る。ぶっきらぼうに答える俺に対し、爺さんはため息をつくことはなくなった。だけど、何も言わずに、癪に障るような目を向けてくるようにはなった。

 

「まあよい、学校ではうまくいっておるようだしの。お前さんら3人の馬鹿話はわしの耳にも届いておるぞ。日々愉快に過ごして居るようではないか」

「……うるさい」

「これも図星じゃのー」

「……そんなに、噂になってるのか?」

「自覚があるようで何よりじゃ」

 

いろいろやらかした自覚はあった。だが、それが外にまで伝わるほどだとは思ってもいなかった。すこし、日々の態度を改めるべきだろうか。

 

「無理じゃから諦めるがよい。それに、お前さんくらいの年ならそれくらいでちょうどよい」

「……」

「さて、そろそろ行くか。油断はせん事じゃ」

「とは言っても、ここ最近は低級の魔ですら出ないぞ。まあ、平和なことはいいことだけど」

 

ここ最近、具体的には4月に入ってから魔物にあったことがない。週に2,3回の頻度で見回りをしているが、一度もあったことが無い。高校に上がるまでは結構な頻度で討伐やら封印をしていたのだが……やりすぎたのだろうか? いや、悪いことではないのだが。

 

「平和……と取るのは楽観的過ぎるぞ」

「どうしてだ? 討伐や封印がうまく行ってるから、魔が現れないんだろ?」

「……いや、そうともとれる。だが、ここではそうではない。お前は考えたことが無かったか? どうして、何度も封印、討伐をしているのに魔が消えないのか……と」

「そういえば……」

 

言われてみれば、確かにおかしい。ほかの町ではそもそも魔と遭遇することの方が珍しく、基本は魔になる前の霊への対処が多い。僧侶の真似事……といった感じらしい。見回りも封印が無事かどうかの確認……といった意味合いが多い。そのため、魔との戦いを経験するために、または感覚を忘れないためにここに武者修行にくる人も多い。

 

「じゃあ、なんだ? 何も出ていない。この状況がすでに異常だと?」

「……このようなことは、過去に何度かあったそうじゃ。儂も2回ほど経験しておる。一度目は、わしが若い時……全盛期であった30代のころ。そして、2度目はお前さんも経験したあの事件じゃ」

「……あの事件の前もそうだったのか? 俺にはよくわからなかったんだけど」

「あったんじゃよ。おまえがあやつと出会う前。ちょうどお前が修行に明け暮れておる頃、今と同じように不自然に魔物が出ないことがあった。そして、その後に起きたことは……語るまでもないの」

「今回も、似たようなことがあるとでも?」

「可能性は高いの……」

 

爺さんはその可能性がある……とぼかしていた。だが、あれは確信している。何か起きると。これから、あの事件と同じ……もしかしたら、それ以上の何かが起きると思っている。

 

「気を引き締めろ。けして油断してはならんぞ」

「わかった。それに……」

「悲劇は繰り返さない――じゃろ? 守りたいのだろう、あの少女を」

「爺さん」

「ふん、関わりはせん。あれは、お前の解決すべきことじゃ。だから」

「だから……なんだよ?」

「力ばかり追い求めてはいかんぞ」

「……見回りに行ってくる」

 

俺は、爺さんの言葉に応えなかった。代わりに大きく跳躍して見回りへと向かう。

 

「忠告も聞かん、馬鹿弟子が……」

 

爺さんのその言葉は俺に届くことはなかった。ただ暗い夜の道を俺は一人駆けてゆく。

 

「運命に負けるなよ」

「負けてたまるか」

 

かつて、交わされた言葉は……今の二人の間にはなかった。

 

 

 

***

 

 

 

そして、事件が起きてしまった。

これは、誰も予想しなかった事件。早すぎた始まり。

 

「ユーノは!?」

「知っての通り、寝てるぜ」

「じゃあ、なんで!? どうしてなのよ! 彼がカギなのよ!」

「さあな……だが、カギは一つじゃない。ただ、それだけのことだ」

「……っ! じゃあ、どうするのよ! これじゃあ、私たちの計画は」

「まだだ」

 

その人物は静かに、だが鋭く告げた。

 

「終わってない。ジュエルシードは俺たちがすべて集める。それで、解決できる」

「そうね……それで、私たちの願いが叶う」

「ああ、そうだ。それに、まだ始まっただけだ」

「……たしかに、そうね。ごめんなさい、少し取り乱してしまったみたい」

 

相方の女性が落ち着きを取り戻したのを見た男は修正した計画を告げる。

 

「状況は最高じゃない。だが、十分に修正可能な範囲だ。だから、まずは」

「……ユーノを起こす。そして、地球へと放すでしょ?」

「ああ、そうだ。だが、今すぐは無理だ。明日以降に折を見て解放する」

「それで、次は何をしようとしていたの?」

「ああ、それは――――」

 

誰かが望み、だれも望まない始まりが訪れた。

 

 

 

***

 

 

 

違和感に気付いたのは、偶然ではない。必然だった。

 

「……あれは」

 

それは、かつて封印を施した洞窟。そして、事件の終わりを告げた場所。

そこに、何かがいる。何かがあった。

 

「……」

「……まだ、自我は薄いな」

 

それは、そこにあった。中心にある黒い核を中心として、それは周囲の魔を取り込みながら大きくなっていく。これだけの魔がどこに隠れていたのだろうという疑問はある。だが、それよりも、目の前のソレを今ここで消さなければいけない。消さなければ、取り返しのつかないことになる。そんな予感があった。

 

「……」

「ここで、終わらせる」

 

油断はしない。手早く結界を張る。簡易結界を施した後に、それを強化するために、さらに術を重ねる。そして、周囲からこの洞窟周辺を隠すとともに、爺さんへと異変を知らせるための式神を飛ばす。

 

「確実に、消す」

 

目の前のそれが覚醒する前に……術が完成し、目の前のソレへと突き進む。当たれば確実に消滅させることが出来る。この槍はそういう武器だし、これだけ力があれば可能――

 

「……オソイ」

 

だが、それは当たらない。見覚えのある青い光に阻まれ、俺の槍は届かない。青い光は収まることなく、その光は徐々に形のなかったそれに意味と形を与えていく。かつて、ある事件を引き起こすことになった原因にして、多くの魔に力を与え、あらゆる状況を覆す存在。その名は――

 

「ジュエルシード……どうして、ここにっ!!」

「アト、スコシ……ダッタナ」

「くそっ……まだ、だ!!」

 

攻撃をやめて、結界を強める。今の俺では倒せなくとも、時間を稼げば爺さんと合流できる。爺さんと合流すればこの状況は打破できる。打てる手はまだある。結界もまだ強固にできる。俺は、あの時と違い戦える。

 

「無駄だ。お前は、間に合わなかった」

 

はっきりとした声でそいつは告げた。そして、張っていた結界は強化したにもかかわらず、一瞬で消え去った。力の差は俺の想定をはるかに超えていた。結界で押さえていたのにもかかわらず、力技で突破されてしまった。そして、結界がなくなった以上、勝ち目はない。そんなことは、目の前の魔も理解している。

 

「さて、本来ならお前を消しておくのがいいのだが」

「……」

「時間を稼がれてはかなわん。あれとはさすがに戦いたくない。無駄に力を消費するのも得策ではないからな。ここは素直に撤退させてもらうよ」

 

音もなく、そいつは消える。そのすぐ後に、爺さんがたどり着く。

 

「逃げられたか」

「ああ、俺の結界では止められなかった」

「そうか……厳しいの」

「…………」

「対策は後じゃ。とりあえず、戻るぞ」

「ああ」

「……それと、理解していると思うが、これから忙しくなる。あの事件の再来じゃ。覚悟しておくのじゃぞ」

 

爺さんの言葉にうなずき、この場を後にした。向かう先は爺さんの家。今回消費した道具の補充と体力の回復を早急にしなければならない。

 

「今度こそ――――必ず」

 

あの時とは違う――震える手を握りしめ、俺は自分にそう強く言い聞かせた。

 

 

 

***

 

 

 

某所にて……彼が戦い続ける間も二人は話し合っている。これからの計画について。

 

「正気なの?」

「ああ、正気だ」

「あの子が、勝てると思うの?」

「勝ち負けはどうでもいい。大事なのはそれをあの二人が解決するということ」

 

女性は目の前の男を見つめる。その言葉の真偽を確かめるように。その言葉の裏に何を隠しているのかを見極めるために。

 

そして――――

 

「どうして……なのか、聞いても?」

「願掛け……でもある。そして、彼女がもっとも自由だ。彼女はもっとも運命に縛られていない。だからこそ、その可能性に賭ける」

「……私たちの運命を、それを名にもつあの子に託すというの?」

「ああ、そうだ。彼女なら……そう、俺は信じてる」

 

女性は窓から外を見た。その窓の先にはある一部屋の景色が映し出されている。過酷な訓練に耐え、縋るしかない偽りの希望にすがる少女の姿が。女性はその少女を憐れむ。何も知らぬ少女を。

 

「馬鹿だよ……本当に、何にも知らないんだから」

「……教えないお前が言えることじゃあないな」

「そうだよね」

 

二人の視線の先にいる少女……雷を繰り、ひたすら戦い続ける少女。その少女に更なる試練を二人は与える。

 

「ユーノを地球へと送る。その数日後に、あの子に接触して頂戴。そして」

「ああ、わかってるよ」

「……」

 

男は静かに退出する。おのれの仕事を確実にこなすために。残された女性は先ほどと変わらず、何も知らない少女を憐れむように窓から見下ろす。

 

「私の望みのために犠牲にするかもしれない。けれど、お願いね……フェイト。私の大切な――」

 

こぼれた言葉は誰にも届かない。

 

 

 

 




次回予告「魔法使いとの出会い」

数日後……

「助けて……」

一人の少年の声が、優しい少女に届く。

少女が不思議な少年に出会うとき物語は始まる。

***


次回の更新も頑張ります。 by作者
誤字脱字あればお願いします……自分で見つけるのが一番ですけど


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第9話 魔法使いとの出会い

――走る

 

――走る

 

――ただ、前だけを見て走る

 

後ろは振り向かなかった。先へ、先へと進んでいった。

 

――ちがう、振り向けなかった。先へ、先へと進むしかなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「はぁっ、はぁ……」

 

少年は走る。暗い夜道を。乱雑に立ち並ぶ木々を避けながら、時に身を隠しながら走り続ける。後ろから迫る化け物から逃げるために。

 

「くっ!」

 

緑色の優しい光が彼の前に現れる。そして、ガラス細工のようにあっけなく砕け散った。彼を守るための光は目の前の脅威には全く無意味であった。その攻撃の余波で彼は吹き飛ばされる。不幸中の幸いというべきだろうか。化け物は先ほどの攻撃で地面にめり込んでおり、吹き飛ばされた彼が体勢を立て直すくらいの時間はあった。だが、もう走れない。彼は走ることが出来ない。脅威が襲い来るまでの間に走り出すことは不可能だった。自分の力量を上回る敵、満身創痍で逃げることすらかなわない少年。非常に厳しい状況ではあったが、彼は生きていた。かろうじて……そう言い表すのが正しいくらい絶望的ではあるが、生きてはいた。

 

「ま、まだ……だ!」

 

だから、あきらめなかった。少年の手から複数の緑色の鎖が4本――一直線に化け物へと向かう。化け物はそれを壊すべく暴れだすが、その行動に合わせ4本の鎖は化け物を牽制しつつ、様々な軌道を取りながら化け物へと向かう。

 

その技量は顔に幼さの残る少年が繰り出したものとは思えないほどに洗練されており、並みの相手であれば手玉に取ることすら可能である――そう思わせる技量の高さが少年にはあった。そして、少年もこれこそが自身の強みであるとわかっていた。だから、時間を稼ぐためではなく、これで決めるつもりで最後の攻勢に出ていた。

 

「GAhhAAAAAaaaaaa!!!!!!!!!」

 

だが、それは、敵が並みであれば……の話。今回の敵は少年の手に余るほどの化け物。彼をここまで追い込んだ化け物。

 

「!! あ、しまっ……!!

 

突如、化け物から放たれた大気を大きく震わせる咆哮。それは、周りの木々をなぎ倒し、化け物をとらえようとしていた鎖を弾き飛ばした。そしてその咆哮は対峙していた少年に空気の壁となって直撃し、その衝撃で魔力の鎖は少年の制御下から離れてしまう。制御を失った鎖を作っていた魔力は散り始め、咆哮にかき消された。

 

「……僕の、負けか」

 

最後の力を出し尽くした少年の意識が薄れ始めた。彼は力なく地面に倒れ伏す。あとは化け物に蹂躙されるだけ。運が良ければ命があるだろう。薄れゆく意識の中で化け物はこちらに狙いを定め突進をしてきている。

 

「……たすけて」

 

少年の口からこぼれた最後の言葉。それは、何の力もこもっていないただの言葉だった。それだけを残し少年の意識は完全に消える。

 

「GAhhAAAAaaaaaaaaaa!!!」

 

そして、荒れ狂う化け物は嵐のように過ぎ去った。少年の姿はどこにもなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「お母さん、昨日の夜に変な声聞こえなかった?」

「変な声? ううん、私は何も聞いてないわよ?」

「そうなの……」

「何かあったの?」

「ううん、なんでもない。寝ぼけてたみたい」

 

それは、ある朝の親子のやり取り。物語は必ず紡がれる。そう、たとえ、何があったとしても。

 

 

 

***

 

 

 

「学校は休むものだ。そうは思わないかな、仮病で学校を休んでいる倉橋?」

 

昨日の異変を感じ、爺さんとおれは話し合った。そして、意見は動き出したで一致した。学校に行っている場合ではないと強く爺さんを説得し、何とか許可をもらった俺は昨日の力を感じた付近を歩き回っていた。ちなみに、力を強く感じた場所には爺さんが向かっている。本当はそちらについていきたかったが、何があるかわからない危険な場所に連れていくつもりはないと拒否される。まあ、足手まといと言われたわけだ。

 

「先生こそ、何やってんですか?」

 

そして、異変がないかどうかを探しながら歩き回って今に至る。ビニール袋を片手に片手でゲームをしながら、ゲームから伸びているイヤホンを右の耳だけに入れて死んだ魚のような目をしている先生が気だるげにこちらに語り掛けているという意味の分からない状況に至った。

 

「なあに、パトロールだよ、パトロール。お前のような不良学生がいないかどうか見て回って、補導しないといかんからな。ってなわけで、学校に戻ろうか?」

「言っていることはもっともなんですけど……その手に持っているジャ○プと新発売のゲームソフトさえなければ完璧でしたよ。それと、ゲームしながら見回りってどうなんですか? PTAに訴えますよ」

「よし! 取引をしよう。ちょうどお昼だ。お前においしいご飯をおごってやる。だから、俺たちは何も見なかった。いいな?」

「いいですよ。おいしいご飯、楽しみにしてます」

 

相変わらず、すさまじい速さの手のひら返し。とりあえず、降ってわいた幸運に喜びながら、先生のおごりだから遠慮せずに食べることを決意した。くだらない決意だと思うか? だが、これは日ごろから純粋な松原を扱き使っている罰である。ついでだから、お土産もゲットできるように頑張らなければ。

 

「何を考えているか大体わかるが……お手柔らかに頼むよ」

「お土産も欲しいですよ、先生」

「……足元見やがって。俺の財布を空にするつもりだな? いいだろう、ならばその挑戦に受けてたとう。俺の財布をお前ひとりで空にできると思うなよ!」

「行くぞ! 先生! お金の備蓄は十分か!」

 

 

 

一時間後……

 

 

 

「高校生の食欲には勝てなかったよ……」

「いや、まだあるでしょ、お金」

 

しっかり食べたおれは机に突っ伏してうなだれている先生にふと思ったことを問いかけた。

 

「てか、先生、なんで首にならないんですか?」

 

この先生はあまりに自由奔放すぎる。HRは平然とさぼるし、入学式では恐ろしいことをやらかしたし、いきなり体育に乱入したこともあれば、校庭に落とし穴が彫ってあったり、授業中に突然消えたりとやりたい放題。もはや、学校でゲームしてたり、漫画を読んでいるのを見ても何も言わない。だって、その方が安全だから。

普通の先生はこんなことしたら何かしら罰があるはず。もしくはクビ。だが、この先生には何もない、おとがめなしである。

それに対する先生の回答は――

 

「権力ってやつよ」

「……」

 

あまりにもふざけた答えが、かえってきました。

 

「ははは、これ以上は言えんなー。ま、真面目に生きるがよい、少年」

「警察……いや、教育委員会か?」

「さて、デザートは何がいい? 好きなだけ選ぶといい」

「では、お言葉に甘えて」

 

権力のおかげ……そんなことを言っておきながら、先生は権力におびえまくっている。相変わらず、訳の分からない先生だと思う。まあ、とは言っても遠慮するつもりはないので好きなだけ頼む。

 

「それじゃあ、このケーキとパフェとジュースを」

「てめえ!! もう少し遠慮というものをだな!!!!」

「110は魔法の数字~」

「さあ、好きに頼むがいい雑種よ」

 

結局、さらに30分ほど延長した。少し寂しそうに、財布の中身を確認した先生は、大きく伸びをする。

 

「さて、先生は行くかな」

 

あくびをしながら伸びをして立ち上がる。そんな、いつものようにマイペースな先生につい言ってしまう。

 

「たまには教師として働いてくださいね」

「そうか、なら、少しくらい教師らしいことをするかな?」

「うん?」

「少し、昔話をしよう」

「先生?」

 

真面目な返事が返ってくるとは思っていなかっただけに、面食らってしまう。だが、それもすぐに呆れに変わった。

 

「俺はね……むかし、正義の味方に、なりたかったん……っておい!! 帰るな! はええよ! もう少しくらい聞いていったらどうだ!!」

「語る気のない先生の話を聞くつもりはないです」

「ひっでえなー。ここから、ヒーローに憧れた俺ががむしゃらに頑張って諦めたところまでつながるというのに……」

「あきらめたのかよ!!!」

「ああ、ヒーローってのはね……」

「帰る」

「待て待て、そう慌てなさんな。魔法の力は侮れんのだぞ」

「…………ふざけてるのなら、本当に帰りますよ」

「やれやれ、せっかちなお前に合わせて、仕方ないから結論だけ言ってやる。諦めはゴールじゃない。敗北は終わりじゃない」

「…………だから、なんだよ」

 

急に真面目に話し出した先生に、うまく返すことはできなかった。言われたことはとても普通なことだった。でも、どこか引っかかるような言葉。何かを見透かしているような、知りうるはずのないことを知っているが故に出てくるような言葉に聞こえる。

 

先生は何者なのか。そんな疑問が当然生まれる。そして、顔に出ていたのか、先生はいつものようにふざけた調子でこちらを茶化す。

 

「ははは、悩め少年。命は短く、青春はさらに短いぞ」

「うるさい、先生こそ遊んでばかりいちゃだめですよ」

「言われるまでもない。だがあえて言おう。断る! と。俺は失われた青春を最高の形で満喫しているのだ!!!! そう、現在進行形で!!」

「はいはい、じゃあね、先生。俺は行くよ」

「ああ、行ってらっしゃい。明日は学校に来いよ」

「わかってますよ、先生」

 

 

 

 

少年は走り出した。

少年は走っている。

何かを追って、何かを目指して、いつだって少年は走っている。

その先に何があろうと、彼らは走り続ける。なぜなら――

 

「俺たちは馬鹿だからな。それしか知らねえんだよ。そうだろ……倉橋」

 

 

 

***

 

 

 

その日の夕方――――

 

優しい少女は耳に届いた声を頼りに、導かれるようにそこにたどり着いた。どうやって、たどり着いたのかなんてわからない。どうして、ここだと思ったのかわからない。でも、確かな確信をもってたどり着いた。木の幹に体を預けて眠る少年のいるその場所に。

 

「あなたが、私を呼んだの?」

 

眠る少年がその声に反応し、うっすらと目を開けた。

 

「大丈夫?」

「……生きてる? 僕は……」

 

少年はうつろな表情のまま、ぼそぼそと言葉を紡いでいく。少女は彼が助けを求めた声の主だと確信するが、どうしてこんなところにいたのか、なぜ助けを求めたのかがわからなかった。それに、どうやって少女に声が届いたのかさえ分からない。だが、その答えはすぐにわかる。

 

「あの、私がわかりますか?」

「!? ご、ごめんなさい」

「よかった。一つだけ聞きたいことがあるの?」

「え、ええと、なにか……って、え!!」

 

少年は突然大声を上げる。それは、ありえないものだったから。あまりのも大きすぎる存在が目の前にあったから。

 

「あ、あの、なに?」

「……ごめん、なんでもないよ。ごめんね、突然大きな声を上げて」

「ううん、いいの」

 

気を取り直して、少女は尋ねようとした。少年もまた目の前の少女の言葉を聞こうとしていた。そして、日が山の向こうへと沈んでいく、逢魔が時。厄災は訪れる。

 

「GAAHhhhAAAAAaaaaaAAA!!!」

 

その咆哮は突如として響き渡る。

 

「っ!? な、なに……なんなの?」

「くっ!! こんな時に!!!」

 

少年は立ち上がると、目の前の少女の手を引いて走り出す。

 

「え! あ、あの」

「走って!! あとから話す。だから、今は僕と一緒に走って!!」

「う、うん。わかっ……」

 

少年は慌てて力から逃げ出す。少女にろくに説明せず、ひとまず逃げることを最優先して。あの脅威に勝てない。そのことは前回の戦いで十分にわかっている。だから、目の前にいる少女をとりあえず逃がすことを考えている。たとえ、どれだけの可能性があっても、この戦いにこの地域の人々を巻き込むわけにはいかない。そう、彼は考えていた。

 

 

――――だが、少年は知らない。出会いは必然であることを。彼と彼女は必ず出会う。出会ってしまう。出会うからこそ、少年はこの場所にたどり着けるのだから。

 

 

目の前の木が揺れる。そして、幹が折れ、目の前に化け物が襲い掛かってくる。彼のすべてを圧倒し、徹底的な敗北を与えた化け物が。彼はこの化け物を目にして、自分の甘い考えのままではすべてを失うと悟ってしまった。少女の持つあまりに大きすぎる力があの化け物を呼ぶ。どこまで逃げても、必ず、化け物はこの少女を追うだろう。そして、今の彼ではどう頑張っても、倒せない。

 

「すみません、頼みがあります」

「な、なんですか?」

 

ひどいお願いだとわかっている。それでも、少年はそうするしかなかった。

 

「お願いします。僕ではあれを倒せない。だから、ひどいことを言っているのはわかってます。それでも、あなたの力が……あなたの中に眠る力が必要なんです!!!」

「え……力? ……何を言って」

「くっ!! 伏せて!!」

 

言われるがままに、慌てて少女は伏せる。それと同時に大きな音とともにすさまじい衝撃が周りに広がったのが少女の目に映った。

 

「え……あ、あああ、なに? なんなの?」

 

少女の問いに少年は答えない。ただ歯を強く食いしばり、必死に魔力で編んだ盾を維持する。そして、絞り出すように紡いだ言葉は何も知らない少女にはあまりに酷であった。

 

「時間がないんです。無理強いするようで申し訳ないと思います。でも、ここで生き残るためには、無理だとしても力を使ってもらわないといけないんです!!」

「力? 力って、なんなの?」

「この宝石をつかんでください。僕の右手の宝石を」

 

今まさに化け物を食い止めている光の壁を作り出している右手に触れて欲しいと頼む少年。だが、何も知らず、平和に生きてきた少女が見たこともない黒く蠢く化け物に近づけというのは無理な話である。もちろん、少年とて理解している。でも、無理無茶を通さねば生き残れない。

 

「お願い! 少しでいい。だから!!」

「いや、あ、ああ!!」

 

今の今まで恐怖に耐えていた少女はついに折れてしまう。地面にぺたりと座り込み、小さな震える体を両の手で抱きしめる。少年はそれでも叫ぶ。お願い、力を貸して、と。そして、決定的な瞬間が訪れてしまう。

 

「あ」

 

盾が砕ける。化け物の体が地面に当たり、その衝撃で少年は弾き飛ばされてしまう。少女は一人。目の前には自信を脅かす化け物が一体。唯一、少女を守っていた盾はもう近くにいない。化け物はその場で一度、足踏みをすると、しっかりと狙いを定め少女へと駆け出す。

 

 

――そして、少年がここにたどり着いたのなら、少女をこの舞台へと連れてきたのなら

 

 

「あ……」

 

少女にできることはない。いかに、巨大な力を持つ少女でも、何も知らない今はどこにでもいる平凡な小学生に過ぎないのだから。だから、彼女は誰にでもできる。彼女に残されたたった一つの手を打つ。

 

「助けて!!」

 

それは願うこと。誰かに、何かにすがるように少女は求めた。

 

 

 

――二人は出会う。必ず、どんなことがあっても、二人は出会う。それが、運命だから

 

 

 

***

 

 

 

助けて、私はそう叫んでいた。誰に求めたかなんてわからない。そもそも、助かるなんて思ってなかった。でも、私の声は確かに届いた。

 

「ああ、任せろ」

 

白く輝く槍を携えた彼は化け物と私の間に割り込む。槍を持っていない方の手を前に突き出すと、化け物の突進が止まる。彼の手を中心に、化け物との間に光が波打ち広がっていた。それは奇しくも、先ほどの少年と同じように見えた。

 

「え……」

「黙ってて、悪かった。出来れば、知らないでほしかった」

「あなたは、何を知ってるの?」

「いろいろと。すべて話せないと思うけど。でも」

「でも……?」

 

いつもと変わらぬ彼の瞳。私を落ち着かせてくれる穏やかな声。そして、白い光を放つ槍を片手に、もう片方の手から放たれる光の波動で化け物を抑えている彼の姿。それは物語に出てくる、一つの場面に似ていた。

 

「でも、お前は俺が必ず守る」

「……うん、お願い」

 

その日、私は優しい魔法使いに出会いました。

 

 




次回予告

「あなたは?」
「僕はユーノ。ユーノ・スクライア」

少女は一歩踏み出す。少女にとっては小さな一歩を。でも、世界にとってこの上なく大きすぎる一歩を少女は踏み出した。

「あのままだと、良くないんだよね」

少女はだから求めた。彼が決意していたように、少女だって決めていたのだから。

「あの人を一人にはしないよ」

少女は不屈の心を胸に力を解き放つ

次回、「桜色の魔法使い」

「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」


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第10話 桜色の魔法使い 前編

PC復活

それでは、どうぞ


「……なんだ、結局見てるのか」

 

男は女性に語り掛ける。

 

「結果は変わらんぞ。前に確認しただろ?」

「そうね。でも、この目で見ておきたいの。あの子の関わる大切な女の子のことを。そして、その女の子を助ける彼のことも」

「そうか……」

 

男は女性の隣まで移動すると、女性がのぞき込んでいる窓を同じように見る。その先では槍を持った少年と桜色の光を放つ少女の姿があった。

 

『…………セットアップ!』

 

男は静かに立ち去る。女性はいつものように窓から外を眺める。

 

「結局、彼の言う通りに進むのね。それなら、あの子の運命も、すでに……」

 

今見ていたのとは別の窓に移る光景をちらりと見る。そこでは、金色の髪の少女がいつものように厳しい修業に耐えていた。

 

「私たちに……何ができるというのよ……」

 

その答えを知る男はすでに女性のそばにはいない。彼女の言葉はいつかのように暗い空間にむなしく響いて、消えた。

 

 

 

***

 

 

 

もうじき、日が暮れる。そんな時間に俺は爺さんと合流するために町はずれの建物を目指した。目的地である屋上には爺さんが腕組をして待っていた。考え事をしているのか、俺に気付いていながらも何の反応も示さない。俺はわかりきった結果を確かめるべく、爺さんに声をかける。

 

「どうだった、爺さん」

「うむ、まあ、予想通りだった」

「ってことは、やっぱり、あれが関わっているのか?」

「そうとみて間違いないじゃろうな」

 

爺さんは最悪の予想が当たったと告げる。すなわち、あの事件の再来だということを意味している。俺を中心にこの町に起きたある事件……それと同規模かそれ以上のものが起きることを意味する。いや、俺の時は俺の周りのみだったから、被害は俺の周囲だけで済んだ。被害の元凶がアレになったこともあり、事件の規模自体は小さかったことを考えると、確実に俺の時以上のものになるだろう。

 

「それで、どうする爺さん。この時間帯が一番危ないのは知ってるだろ?」

 

夕方……それは昼と夜が入れ替わる狭間の時。もっとも境界があいまいになり、魔が活性化しやすい時間。昔の人々はこの時間のことを逢魔が時と呼んでいた。

そして、それは俺たちのようなものにとっては、今でも重要で警戒を強めなければならない時間。

 

「知っておるよ。だからこそ合流した。お前さん一人ではどうせ解決できんからの。ここからは場所を移して、ここら一帯を索敵する。儂が町中心から全体に索敵網を広げるからその網の中をお前さんが探る。つまり、儂の補助でお前さんが索敵する形じゃ」

「なるほど。それなら、俺の消費は少なくて済むな」

「ああ、そうじゃ。さて、移動を……」

 

爺さんの提案でおれたちは移動しようとした……だが、言葉に反して爺さんは動こうとはしなかった。爺さんはある方角をじっと見つめている。そこをおれも見てみるが、そこには何もない。何もないはずだった。

 

「おい、爺さん……動かなくて」

「いや、その必要はないようじゃの」

 

どういうことだ? と俺は聞くことが出来なかった。俺がたずねるより早く爺さんの視線の先に変化が起こる。その先の空間に亀裂が走り、そこから黒い何かが浮かび上がる。ノイズをまとっていたそいつはゆっくりと体を生成していく。そして、黒いフード付きのコートを目深にかぶり、黒く染まった槍を片手にもつ人型の魔物になった。

 

「……いや、気付くのが早くないかい、あんた」

 

人型となった目の前の魔物はおどけた様子で爺さんへと話しかける。それは数日前に俺の前に現れた時と同じ姿の魔物。あのジュエルシードに憑依した魔物と同一のものとみて間違いはないだろう。ただ、前回、俺と対峙した時と決定的に違うことは、完全に逃げ腰だということぐらいだろうか。

 

「ふん、貴様の鍛えようが足らんだけじゃ。お前さんに戦う気があるのなら、この場で仕留めるのじゃがの」

「やっぱ、おっかねえじじいだな。あの時は逃げて正解だったか」

「んで、何の用じゃ? わしは、お前さんのせいで忙しくなったから、動きたいのじゃがの?」

「は! そっちも気づいてんのかよ」

「当然じゃよ――さて、馬鹿弟子」

 

俺を完全に置いてけぼりにした状態で話していた爺さんは、急にこっちに話を振ってくる。とりあえず、聞きたいことはたくさんある。だが、俺がすべきことはこれから爺さんが教えてくれることになるだろう。いや、おれにとっての最優先事項になると考えた方がいい。

 

なぜって?

 

「なんだよ」

「お前さんの大切な子が襲われておる。急いであの場所へと向かえ。なに、正確な場所は近づけばわかる」

 

あの時の経験から、そうとわかるからだ。大切な場面で爺さんの言うことは、絶対に俺の無視できないことだったから。そして、それを聞き逃したとき、俺は痛い目を見ることになる。あいつが消えた、あの日のように……

 

「……爺さん、そいつは任せた」

 

だから、俺は他のすべてを放り出して駆け出す。もう二度と後悔しないために。あの時のように……全力で……まえ、に……?

 

『……めん、な…………け……まえ………ない』

 

そう、あの時のように……?

――どこかで、何かが砕けるような音がする。

 

止まりそうになった足を無理やり前に出し、揺れる心を無理やり保ちながらそのすべてを胸の中へと押し込めて前へと駆ける。

 

「今度こそ……助けるんだ」

 

強く握りしめられた槍が淡く光る。呼応するように胸元に忍ばせているジュエルシードが光を放つ。それは夕焼けに消えてしまうような弱い光。

 

「今度こそ、助けよう。あの時の約束を果たすために」

 

――受け継がれた誓いを胸に彼は赤い空を駆ける。

 

 

 

***

 

 

 

その場に残された者たちは穏やかに語らう。

 

「さて、任せたといわれたが……お前さん逃げることしか考えておらんじゃろ?」

 

その名を広く知られている英雄は目の前の愚かな悪魔に静かに問いかけた。そんな問いかけに悪魔は自然体で答える。

 

「まあな。勝ち目がない戦いに挑む気はない。あんたの足止めが目的だし、これでいいんだよ。俺がここにいれば、あんたは向こうに行けない。今回は、俺の方が早くあの場所にたどり着けるからな」

「たしかに、この状況ではお前さんの方が早いの。こればっかりは準備の差じゃから、どうしようも出来んが」

「それに、あいつが頑張ったところで最悪な結末しか待っていない。だから、俺はここであんたを抑えることに徹するさ」

「やれやれ、お前さんもかい。あまり年寄りをなめるんじゃないぞ」

「…………」

 

悪魔は沈黙を返す。年老いた英雄は呆れた様子でその悪魔を見る。そして、ため息とともに力を抜いた。

 

「はー。まあ、勝手にせい。わしからは何も言わん。好きなだけ、足止めをするといい」

「なら、そうさせてもらおうか」

 

悪魔は英雄と未熟な弟子の間に立ち、英雄はその悪魔を見張る。悪魔がもしも英雄の弟子を狙えば、彼は英雄に消されるだろう。だが、ここで悪魔が逃げれば、彼の思惑はすべて無駄になってしまう。そして、英雄が弟子を助けようとすれば悪魔が先に到達する。逆に、英雄が彼を倒そうとすれば、弟子を助けるのは困難。

ゆえに、両者は動かない。

 

「さて、未熟な馬鹿弟子がどんな結末を持ってくるか、ここで楽しみに待つとするかの」

 

悪魔は何も答えない。ただ、その馬鹿弟子が向かった場所を静かに見ていた。

 

 

 

***

 

 

 

俺があいつを見つけた時、あいつの前にいた少年が吹き飛ばされた直後だった。その少年はどこか見覚えのある術を使っていたが、今はそれどころではなかった。

 

「助けて!!!」

 

だって、そんな彼女の声が聞こえたから。だから、俺はあの時と同じように答えた。

 

「ああ、任せろ」 

 

間一髪。

おそらく、その言葉が正しい。少女の体に化け物がぶつかる瞬間に何とか間に合った。槍で化け物の突撃をいなしつつ、持っていた札で簡易結界を作った。それだけで、あの化け物の突撃は止まった。

 

「え……」

 

驚きを隠せない少女を見て少しだけ心が痛む。普通の生活を送っていた少女からすれば、俺は間違いなく異端なのだから。だから、嫌われてしまうのではないかと、関係が壊れてしまうんじゃないかと考えると少しだけ怖い。

だが、そんな不安な気持ちと同時に、俺は安堵していた。

 

俺は少女の危機に間に合えた。俺は助けることが出来た。それは、きっと、俺の見ている世界の中で何よりも価値のあることだから。

 

「黙ってて、悪かった。出来れば、知らないでほしかった」

「あなたは、何を知ってるの?」

「いろいろと。すべて話せないと思うけど。でも」

「でも……?」

 

だから、これからも――――

たとえ、少女に嫌われたとしても――傍にいることが出来なくなっても。

 

「でも、お前は俺が必ず守る」

 

そんな俺の決意に。

 

「……うん、お願い」

 

帽子で涙を隠さない少女は初めて笑顔で答えてくれた。

 

 

 

***

 

 

 

帽子で涙を隠さない少女は初めて笑顔で答えた。

 

だから、決意した。

戦うことを……

 

 

 




後編に続く……(できる限り、早めに投稿します)


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第11話 桜色の魔法使い 後編

―― 聞こえますか、私の声が




「下がっていてくれ。あいつは俺がなんとかする」

「うん。お願いします」

「ああ、任された」

 

槍を持った少年は少女を下がらせると、少し離れたところで戦闘を開始した。そして、その様子を心配そうに眺める少女に、彼女を導いた少年――ユーノが話しかける。

 

「すみません、少しだけいいですか」

「あなたは?」

 

こうして二人はやっと出会った。化け物は槍持ちの少年が抑えているためか、先ほどに比べ少女は落ち着いていた。ユーノはそのことにほっとしながら、本題を切り出すために、話し始める。

 

「僕はユーノ。ユーノ・スクライア。さっきは無理を言ってごめんなさい」

「あ、ううん、気にしないで。それだけ大変だったんですよね」

「はい、そうです。そして、そのうえで僕はもう一度あなたにひどいことを頼まないといけない」

「…………」

 

ユーノは戸惑う少女の顔を見て、決意を固める。先ほどのように断られたとしても、頼まなければいけない。これが少女の身を守る上で重要なことで、そして、ここから助かる上でもしなければならないことだから。

 

「どうか、僕に力を貸してほしい」

「どうして、あの人に任せてれば大丈夫そうだよ?」

 

少女の言うことはもっともだ。だが、それではダメだった。

 

「いえ、倒すだけじゃダメなんです。あれは封印しなければ、また暴走します」

 

ただ倒すだけでは、ダメだ。それは一時的におとなしくなるだけで外からの刺激があればすぐにでも暴走を始める。

 

「暴走すると、また今回みたいになるの?」

「最悪な場合、彼があれに飲み込まれる可能性もあります」

「…………」

 

俯いてしまった少女の表情は帽子に隠れてしまって伺うことはできない。だが、ユーノはお願いをやめない。これは少女のためでもある。少女は今後もこのようなことに巻き込まれる可能性が高いだろう。少女が望まぬとも、その身に秘めた力はそれだけで様々なものを寄せ付ける。それだけの力を持っている。ならば自衛はできるべきだ。少年は自身にそう言い聞かせながら、少女にお願いする。

 

「脅してるようで、申し訳ないです。でも、僕にはあなたの力が必要です。だから、お願いします。あなたの力を……」

「……うん」

 

だが、それは言い訳だ。少年は自分が最低な奴だと思っていた。彼は様々な言い訳を並べているだけだ。結局は自分が助かりたいから、見ず知らずの少女をこの事件に巻き込もうとしている。そして、力を使わねば生き残れないと脅している。

 

そんな最低なことを頼んでいる少年のお願いを、目の前の少女は引き受けた。

 

「―― そう、わかった」

「……いいんですか? 僕は自分が言っていることがどれだけひどいか」

「でも、断ることはできないよ」

 

顔を上げた少女の目には確かな意思が宿っている。二人の目の前で槍を持った少年と戦う化け物を前におびえこそすれどまっすぐに見つめていた。

 

「だって、あのままだと良くないんだよね」

「はい、あのままでは最悪の事態もありえます」

 

戸惑いつつも少年は答える。

 

「私がどうにかできるんだよね?」

「はい、あなたの力なら」

 

少女は少年の答えにうなずく。何かを確かめるように。

 

「なら、私の答えは一つだよ」

 

少年は不思議だった。どうして、そんなまっすぐに前を向けるのだろうか、と。開き直ったような感じではない。諦めたようにも見えない。自分の意志で、自分の気持ちで少女は前を向いている。そんな少女の決意の理由が、彼には理解できなかった。

 

「あの人を一人にはしないよ」

 

少女の導き出した答えは彼の理解を超えていた。だけど、少女は少女なりに考えてその答えを出した。なら、少年のすることは一つだった。

 

「……わかりました。それじゃあ、これを」

 

持っていた赤い宝石を手渡す。少女はそれを受け取ると、両手で祈るように握りしめる。

 

「僕の後に……」

「ううん、必要ないよ」

 

少年は力を使うための呪文を教えようとしたが、それは祈るように宝石を握りしめていた少女の言葉にさえぎられた。

 

「魔法は……もう、私の中にあるよ」

 

少女の手の中にある宝石が赤く光る。指の隙間から漏れる桜色の光は少女を囲むように魔法陣を幾重にも描いていく。驚くユーノを他所に、少女は静かに魔法を唱える。

 

「我、使命を受けし者なり」

 

それは、かつて見た光景。

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

繰り返し、何度も唱えられた呪文。

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に」

 

これは普通の少女だった彼女が桜色の魔法使いと称されるようになる出来事。

定められた運命。覆せなかった世界の理。

 

「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」

 

ここに定められた奇跡は起きる。誰も書き換えることが出来なかった神の奇跡はここになった。白い制服に身を包み、赤い宝石を先端に付けた機械仕掛けの杖を手に、少女は戦場に立つ。

 

 

「ああ、そうだ。彼女はこうなってしまう。だれが、どうしようとこれも変えることができなかったことだ。どんなことがあっても、たとえ、彼女がユーノに出会わなくても、彼女は桜色の魔法を使う」

 

一部始終を眺める男は寂しげにつぶやく。その目線の先では少女は運命の定めるままに魔法に触れた。

 

 

「レイジングハート」

『なんでしょうか、マスター』

「私は、ずっと彼に助けられてきた。そして、彼からたくさんのものをもらった」

 

それは、少女がずっと抱えてきた想い。少女がどうしても一歩踏み出せなかった理由。だから、彼女は手にした力と共に、一歩だけ前に進む。

 

「だから、今度は彼を助けたい。彼の力になりたい。彼の隣に立ちたい」

『マスター、指示を』

「うん。私に力を貸して。彼と一緒にいることのできる力を……私に貸して」

『イエス、マイマスター』

 

少女の魔力があふれる。それをデバイスであるレイジングハートが意味のある魔法として練り上げていく。

 

「対象、ジュエルシード――お願い、レイジングハート」

 

少女が杖を構える。

 

『リンカーコア、一次解放。魔力パスをつなぎます』

 

杖の先には、少年により倒された魔物がいる。倒された魔物は核となるジュエルシードを吐き出し、その体は崩れていく。

 

『封印――開始します』        

 

少女は焦る。あのままでは最悪の結末が待っているのだとユーノから聞かされていたのだから。その気持ちをレイジングハートにも伝えた。彼女にとってここで救えないことは、終わりと同じだから……

 

「お願い! 急いで!」

『魔法陣生成。対象ジュエルシード、補足しました』

「うん、いくよ! リリカルマジカル! ジュエルシード封印!」

 

杖の先より放たれた桜色の光は対象のジュエルシードを包み込み封印を施していく。そして、今まさにそのジュエルシードに触れようとしていた少年は、魔法を使う少女をどこか寂しそうに見つめていた。

 

「っ! やったぁ!!」

『ジュエルシード、封印。対象を収納します』

「え? 収納?」

 

桜色の光に包まれたジュエルシードはそのままレイジングハートに取り込まれた。少女は危険な宝石を杖の中にしまって大丈夫なのかと疑問を持つ。そして、何が何だか全く理解できない槍持ちの少年。

 

「……」

「……」

「……うん、これで無事解決だよ!」

 

状況がいまいち呑み込めていない二人の代わりに、少年が締めるように告げる。

こうして、始まりの事件は悪魔の予想に反して、少しだけ優しい結末になった。

そして、そんな優しい結末を男は寂しそうに見ていた。

 

「やっぱり、なのははこうなるか」

 

彼の視線の先では初めて力を使った反動で疲れ、槍を持った少年によりかかるようにして立つ少女と、その二人から質問攻めにあっているユーノがいる。

 

「高町なのは――彼と同じ、この世界の鍵」

 

ここから紡がれていく物語は……どうなるか、彼には分らない。

 

「結局、何も変わってないじゃない」

「それでも、変わらなかったということを知ることが出来た。それだけでも十分だ」

「そう、まあ、いいわ」

 

クスクスと少女は笑う。そして、少女はもう一つ気になっていたことを聞く。

 

「それで、あれもあなたの予想通りだったのかしら?」

「……あれは、違う」

「へぇ、そうなの。あれは決まってないの?」

「あれは、誰も触れてない。何の理も関わっていない」

 

少女は男の言葉を正しく理解していた。

 

「あら、そうなの? もし、それが本当なら――」

 

ゴシックロリータの服を着たとても美しい少女は先ほどと変わらずクスクスと笑っている。その少女の見ていた先には、見慣れた金色の髪の少女と、中心に穴の開いた歪な大剣を手にした黒い青年がいる。

 

「それはこの世界で起きたたった一つの奇跡になるわね」

 

金色の少女は、黒い青年の手の中で静かに眠っていた。

 

 

 

 

男は……何も、言えなかった――

 

 

 




~次回予告~

少女は一人だった。

「ねえ」

大切だった人には裏切られていた。少女にはもう何も残されていない。

「もし……本当に願いが叶うなら」

もう何も無くなった少女はあきらめていた。目の前の脅威に抗うことに。

「わたしは……」

終わりを望んだのは……必然だった。

「サーヴァント、セイバー。……召喚に応じた」

だが、出会った。

「お前が、俺のマスターだな」

この歪な世界に零れ落ちた最初で最後の奇跡


次回 「たった一つの奇跡」


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第12話 幕間 たった一つの奇跡

私の目の前にいる少女の話をしたいと思う。

 

その少女はまさに奇跡といえる存在だった。

間違いなく少女は望まれて生まれてきた。

 

人の身では出来ないとされていた禁忌の先で出会えた、

ある女性にとっての希望だった。

 

でも、その程度の奇跡では足りなかった。

彼女の望みのためにはまだ足りないものがあった。

いや、その足りないものこそが、彼女が何よりも求めたものだった。

 

そして、それは生まれてきた少女ではどう頑張っても、

どれだけ努力しても解決できないものだった。

 

でも、少女はそれを知らない。

知らないから、頑張れる。頑張れてしまう。

ほんとに、馬鹿だと思う。

頑張り続ける少女も、手を差し伸べることをせず、

少女を地獄へと突き落とそうとしている私も、

ほんとに、馬鹿だと思う。

 

「お見事」

 

顔を隠していなければ、きっと私は少女とまともに話せないだろう。

自分のすべきことを彼から示されていなければ、私はきっと少女の前に立つことすらできない。

 

「これを君にあげよう」

 

警戒する少女へとジュエルシードを見せる。

少女は安易に近寄らず、武器は構えたままだ。

武器を向ける少女の目には確かな敵意が見えた。

何度も、何度もむけられたその敵意に、私はいつまでたっても慣れることができない。

 

「ふふ。まあ、君の考える通り、ただあげるなんてことはしないよ」

 

振るえる手は、長く大きなローブのおかげで彼女に見えることはない。

だから、彼に与えられたストーリーに沿って、私は演じる。

ジュエルシードを暴走させ、彼女へと危害を加える存在になるために。

彼女は私たちの……最後の希望だから。

 

「さあ、起きろ」

「……!?」

 

だから、どうしても自分で会いたかった。

彼には無理を言った。

でも、この状況を私に用意してくれた。

だから、私情は捨てて役に徹しなければならない。

 

「今の君は一人だ。さて、この脅威にどう立ち向かう?」

 

渡された箱の封印を解き、ジュエルシードへと触れさせた。

聞いていた通りのことが起こる。

封じられていた魔物にジュエルシードが反応し、凶悪な姿をとる。

 

「さあ、君はどうする?」

 

私は少女の前から消える。

でも、どうしても、伝えたくて。

言わなくてもいいことを、言ってはいけない言葉を少女へと伝えた。

 

「光は……きっと近くにあるわ」

 

日が沈む。

昼と夜が入れ替わるわずかな時。

桜色の少女へと奇跡が訪れたとき――

金色の少女へ絶望が襲い掛かる。

 

「あなたは奇跡を求めてもいいのよ」

 

少女にその言葉が届いたかはわからない。

でも、小さくうなずいた気がした。

 

そんな風に私には見えて欲しかった。

 

 

 

***

 

 

 

男はそんな一部始終を静かに見ていた。

ただ、ただ、見ていた。

何をするでもなく、ただ、見ていた。

 

「ひどいことをするのね」

 

クスクスと笑いながら少女は現れた。

何もできない男を嗤うために彼女は現れ、

運命に翻弄され、神に呪われた男をただ嘲笑う。

 

「あいつが望んだことだ。俺はそれを叶えただけに過ぎない」

「ふふふ、そういうことにしてあげるわ」

 

男は何も答えない。

少女もただ笑うだけ。

 

そして、物語が動き出した。

 

「動いたな」

「ええ、桜色の少女は緑色の魔法使いに出会ったわ」

「そうだな。この調子ならあいつも間に合うだろうさ」

「ふふ、予定通りになりそうね」

 

少女はクスクスと笑う。

男はそんな少女から目をそらした。

そんな男を少女は後ろからそっと抱きしめる。

耳のそばまで、顔を寄せても男は何の反応も示さない。

それでも、少女は笑う。

ただ、嬉しそうに笑う。

 

「しばらく、一人にしてあげる」

 

空を漂う少女は、空気に溶けるように夕暮れの中へと消えた。

現れた時と同じように、音もなく、気配もなく、少女はいなくなった。

 

「……礼は言わないからな」

 

男の握りしめられた手は、最後まで開かれることはなかった。

 

 

 

***

 

 

 

少女は……一人だった。

 

一人になってしまった。

本来いるはずの使い魔は、少女に与えられなかった。

少女は一人でも十分すぎるほど戦えると、少女の母は判断した。

だから、少女の母は、少女へと使命を与えて遠ざけた。

 

これは、ほんのちょっとした物語のずれ。

だけど、その少しのずれが、彼女の勝敗を分けたのは明らかだった。

もしも、その使い魔がいたのなら、彼女はここで負けることはなかった。

 

だから、迫りくる脅威に対して、少女は逃げるために敵の攻撃を防ぎ続ける。

だが、金色の魔法使いにできることはもうほとんど残されていない。

 

――放った魔法は化け物にほとんど効果がなかった。

 

少女は理解していた。

あの化け物に勝てないことを。

一人であるがゆえに、

あの化け物を倒すための魔法を少女は唱えることができない。

 

――魔法で作り上げた盾が砕け散る。

 

少女は理解していた。

もう逃げることもできないことを。

魔力は時期に尽きる。

いずれ、化け物の攻撃で倒される。

 

――化け物の攻撃が少女へと届いた。

――少女の手から武器が落ちる。

 

少女は理解していた。

もう母の願いを叶えることができないことを。

 

少女は理解してしまった。

もう自分の望みが叶うことがないことを。

 

「おわり……」

 

少女は終わりを知る。

少女は終わりを理解した。

 

だが。

 

でも。

 

「プロテクション」

 

少女は化け物の攻撃を防いだ。

当然、盾は砕け、少女の体は宙を舞う。

 

「どうして……」

 

少女は疑問を持った。

叶わない願いをどうしても捨てきれないことに。

 

「……ても、いい」

 

耳に残るかすかな言葉が、少女の背中を押す。

だから、少女は諦めるたくないと思った。

 

「ねえ」

 

少女は願った。

意識したわけではない。

でも、こうだったらいいのにと……

終わりを前にすこしだけ、意識した。

 

「もし……本当に奇跡が起こるなら」

 

昔のように、優しく名前を呼んでほしかった……と。

 

 

そんな、透明な願いを願望気が叶えた。

ただ、叶えた。

 

 

ありとあらゆる次元。

無数に広がる並行世界。

様々な過去と未来と現在。

すべての縁の中から、あり得ない可能性の中から。

 

本人すら意識してない、知らないはずの縁をたどり、

いつか起こり得たかもしれない未来、過去を今へとつなげて、

本来なら結ばれるはずのない縁を拾い上げた。

 

――その強く純粋な願い。****が叶えましょう。

 

 

そして、奇跡が起きた。

 

 

「無事だな」

 

ぶっきらぼうだけど、どこか暖かい声だった。

そっと、壊れ物を扱うように優しく少女を抱きかかえた。

 

「あなたは?」

 

少女は尋ねる。

 

「先に、あれを封印してくれ」

「あ……」

 

男が拾い上げた杖に少女はそっと手を添える。

少女は残る力を振り絞って、ジュエルシードを封印する。

そして、抱きかかえられたままジュエルシードへ近づき、杖へと収納した。

 

「よく頑張ったな、フェイト」

 

男は告げていない少女の名前を呼ぶ。

少女の記憶におぼろげに残る、優しくて暖かな声で。

 

「セイバー」

 

安心したからなのか、少女の瞼がゆっくりと落ちる。

そんな少女を安心させるために、優しく抱きかかえ直しながら。

 

「お前を守るために、ここに来た」

 

黒い青年はそう告げた。

 

 

 

***

 

 

 

「どうして、助けたの?」

「約束だからだ」

 

短いがはっきりとした言葉。

 

「……なら、フェイトをお願いね」

 

それだけを残し、女性はその場を後にする。

 




……書けないよ?

まったく、書けないよ??

以上、愚痴でした。

Supercellの「告白」を聞きながら小説を書くのはあまりよくないですね。
涙腺が緩んでよろしくない。
うむ、よろしくない。


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