タツミ無双 (聖獅)
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昔語り

もしもエスデスを仲間にするには~の設定を踏襲しています。
ですのでタツミもエスデスもオリジナルの彼らではありませんので・・・プラス彼の設定が更にぶっとんでいますのでどうか悪しからず。
タツミの回想ですが、彼本人が見ていない話も含まれますのはご愛敬で。

エスデスが仮にタツミと夫婦になってああいう呼び方するかは筆者の想像でしかありません。貴方とかも余りそぐわないでしょうし、たぶんそのままタツミだと思いますがそれだと夫婦以前と後で差別化が図れないので・・・。

これを書いてますと、人が人を裁く事の難しさを考えさせられます。

書き溜め次第、アップしていく予定です。


17/11/26

一応、この話が完結しまして、その記念・・・という程ではありませんが、1話のみ書きなおしてみました。


「なあ、ダーリンよ」

 

 

そう呼ばれた彼は何やら顧客名簿とその土地の歴史に関するものや言い伝えを読み比べていた。

 

「なんだ?」

 

エスデスは覗き込むように彼、タツミのしている事を見ているが・・・今はそちらの方に興味を示している訳では無く、

 

 

「帝国で私と共に居た時でも、時折居なくなっていたが何処に行っていたんだ?」

 

 

彼らが住んでいるのは帝国から見て西の地域であり、砂漠が点在する土地でその中でも比較的緑が多い場所の一軒家である。この辺りに人が居ないのは、危険種が強かった為であるが、彼らにとっては敵では無く、そこに居を構えたのは立地条件が良かったからだ。

 

 

「そんな以前の事はどうでもいいだろ?」

 

タツミは、その土地で散見している文献を精査し、そこから全体像を掴んで今後のこの土地に置ける行動に生かそうと考えていた・・・が、片手間に受け答える夫に妻は疑念を抱き・・・。

 

 

「・・・まさか、浮気していたのではないだろうな?」

 

 

「まだその時は所帯を持っていなかったんだ、仮にそうでも関係ないだろう」

 

「うむ・・・、確かにそうだな・・・、例え浮気していたとしても、私は寛容だからな!・・・今、私のタツミになっていれば全く問題は無いな!・・・うむ!」

 

理屈はそうであり、感情でも一応納得しているのだが、話してくれない夫にエスデスは構って欲しい故の怒りの炎を静かにチラチラ燃やしている。それを横目にタツミは気付かぬふりをするつもりであるが・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

中々鬱陶しい・・・なので嘆息しながら、

 

「・・・そうだな、良い機会だから話しても良いか」

 

「うむ♪」

 

エスデスは直ぐに上機嫌になった。

 

 

記憶を辿り、昔を思い出しながらタツミは

 

「・・・三獣士はお前の部下だったよな」

 

「・・・ああ、そうだ。あいつらがどうなったかを知っているのか?」

 

エスデスも意外な話になり、別の興味が湧いてきた。だが、

 

「そうだ・・・それともう一つ思い出したぞ、お前!!どうせオネストの野郎と取引きしやがって殺し屋まがいな事したんだろ!ナイトレイドを嫌ってたお前が三獣士共に似たような暗殺命令たぁどういう事だ!?ああ?俺が知らねぇとでも思ったか!!大体軍人が非軍人を殺すたぁどういう事だ?あ?・・・ま、お前に軍人の格あるべきなんてある訳ないよな?なぁ、エスデス元将軍さんよぉ!」

 

厳密に言えば、軍人は戦闘時軍人しか殺してはならないが、あくまでルールを厳守すればであり、基本色々な言い訳を作って守られていないのが現状である。

 

・・・それはともかく、藪をつついて大龍を出す事になったエスデスは、

 

「うっ・・・タ、タツミ?昔の事は悪かった・・・だから、その、な?話を続けてくれ?」

 

 

 

 

 

タツミ、ブラートは大臣に命を狙われた良識派の文官を人知れず警護する為、巨大客船に乗船していた。

そして、その大臣に文官暗殺依頼をされたエスデスは自軍で最も重宝している三獣士に命令し、首尾よく客船へ侵入、その一人ニャウの帝具の笛の音により全客員が眠らされた。

 

 

その船の広場・・・上甲板でも大勢が眠らされている中、その男も寝息を立てて寝ていた。

 

同じくその一人、ダイダラが首を鳴らしながらそこに出て来る。

 

 

「ああー隠れてるのだるかった・・・ん?」

 

 

その男、タツミが布団を敷いて気持ちよさそうに寝ている、それが目に入る。

・・・当然の事だが、誰もが地面の上に倒れるように寝ている中で。

 

「・・・・、全員寝てるんだ、なんの問題もねえよな・・・」

 

ダイダラは気にせず、仕事に取りかかろうとする・・・。

 

 

だが、しかし、やはり、おかしい・・・。

 

 

「・・・・・・・いや、やっぱ気になる。なんだあいつ、なんで布団敷いて寝てんだよ!?」

 

タツミを足で小突いてみる。

 

 

「けっ、やっぱ寝てんのか?紛らわしい寝方しやがって!」

 

だが、その時!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・おい」

 

 

 

 

 

 

 

地底から響いて来るような恐怖を感じさせるその声に思わず振り返り・・・

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

ダイダラは少し背中、首に触られたかと思ったら、次に瞬間地面に倒されていた。

 

やった男が仁王立ちで見下ろしてくる。

 

 

「人が気持よく寝てたら、なにするんだあんたは一体?」

 

 

直ぐには起き上がれないものの、かろうじて問いかける。

 

「げほっ、ごほ、だ、誰だお前は!」

 

「人に名を聞くなら、まず自分から名乗れ」

 

「ぐっ・・・とりあえずこの手を離してくれ」

 

 

タツミは、相手が応戦するなら直ぐにでも息の根を止めれるようにその首に刃物の如き気を込めた手刀を押し当てていた。

 

 

 

「ぜぇぜぇ、お、俺はエスデス様直属、三獣士が一人、ダイダラだ」

 

「ご丁寧にどうも。俺はある地方貴族のヒスイ家長男、シグレだ」

 

 

タツミは白スーツに中は黒シャツ、赤ネクタイを・・・しているが、煩わしいのか若干着崩している。とはいえ、足運びは胴に入っているので判る者が見れば判る為、

 

「・・・・・、本当か?」

 

「本当だとも、それにしても軍人さんがなんでこんな所に?」

 

「え、ああ。俺は・・・」

 

 

その様子を同じくリーダー格の一人、リヴァが忌々しげに見ていた。

 

『なにをしているんだ、あの馬鹿は』

 

 

ダイダラはやっと取り繕う理由を思いつき、

 

「ああ・・・、そうだ!ここに乗っている要人警護だ!」

 

「あ、なるほど。・・・ところで皆眠っているのはなんで?」

 

タツミは口元を僅かに歪ませながら聞いている。

 

 

「いや、えーああ、それはだな。全員眠らせれば警護もしやすいからだ。」

 

 

影で見ているリヴァの血圧が上昇し始めていた。医者からも塩分は控えめにと言われている。

 

 

「あーなるほど、なるほどーけど、ボディーガードの人や本人も眠らせたら意味無いんじゃない?」

 

 

「・・・いや、あ、く・・・・」

 

 

「ふぅ・・・本当は判っているよ。お兄さん、あんた本当は怪盗ルパンだろ?この竜船の秘宝を盗みに来たな?」

 

「んな訳あるかぁ!?しかも誰だよそいつ!?俺はここの要人を始末しに来たんだ!」

 

タツミはニヤニヤしながら

 

「・・・あーそー」

 

 

 

ダイダラはこの時、心の中で悔恨の雄叫びおよび、エスデスに懺悔し、祈った。

 

 

 

『あんの馬鹿がががああ!!!!!』

 

この時、リヴァの血圧は過去最高を記録した。

 

 

 

『間抜け!』

 

隠れて見ているニャウも思わず心の中で落胆する。

 

 

 

それでも気にせず、会話を続けるタツミ。

 

「ところでそのエスデス様ってどんな人?」

 

「そりゃあなお前、美人で強くて気高くてドSで最高だぜ」

 

「なるほどーお兄さん、その人に惚れてんだな?」

 

「い、いや俺が恐れ多い。そんな訳無いだろ」

 

「いやいや絶対そうに違」

 

タツミはこの時ニヤリとほくそ笑み、

 

 

ズドン!!

 

 

 

背後からリヴァが文字通り首を刈る手刀を浴びせに奇襲を掛ける。

だが、タツミへのその強烈な一撃を瞬時に出て来たブラートがいなす。

二人は弾き合って間合いを測る。

 

ブラートはタツミと背中合わせに構えながら、

 

「タツミ、お前さっきから何やってんだ!」

 

隙を作って誘っていたタツミだったが、

 

「あー兄貴すまない。どうもこの人と話が盛り上がっちゃって」

 

「お前は・・・変な所で妙な度胸のある奴だな?」

 

そして、タツミはブラートの怪我に気が付いた。

ニャウの帝具で船全体の者達に無気力化の効果を与えているのだが、どうやら彼は自身で傷付け、それに抗ったのだと確信しタツミは感心の意味で僅かに口角を上げた。

 

ブラートもタツミの様子をそれとなく見たが、

 

『タツミの奴・・・、敵の帝具の影響を受けてないのか?本当にこいつは一体・・・?』

 

 

 

ブラートにいなされたものの、動じた風も無いリヴァは

 

「ダイダラ、お前、なに敵とのんびり話しこんでいる?」

 

「え?こいつ」

 

「こいつらはナイトレイドだ!!」

 

「くっ・・・騙しやがったな・・・」

 

 

緊迫した空気に乗ってタツミも不敵に笑い、、

 

「兄さん、悪い事は言わない。話には聞いているぜ?そんな悪い女に惚れるのやめとけ」

 

「う・・・うるせえ!!」

 

 

オオオオオオオオオオ・・・、

 

辺りは静まり返り、波の音も耳に入らず、空気中の分子の擦れ合う音のみが聞こえてきそうな・・・そんな静けさの中、口火を切ったのは

 

 

「・・・お前・・・やはり、ブラートか?」

 

「・・・!リヴァ将軍、何故貴方がここに?」

 

「知り合いか、兄貴?」

 

タツミの問いかけに答えたのは、

 

「私の部下だった兵士時代、呼ばれ名は100人斬りのブラート・・・、正確には128人斬ったな・・・あの時は特殊工作員相手に大活躍・・・私も鼻が高かった・・・」

 

「へぇ~・・・兄貴も随分斬ってるじゃないか?成程、あんたが兄貴の昔話に出て来た将軍殿か・・・」

 

「ふっ・・・もう将軍ではない・・・エスデス様に救われ、今はあの方のしもべだ」

 

 

 

そこで笑いだしたのは

 

「くはは・・・面白くなってきたな、どうだ、ここは一対一でそれぞれ勝負しない

か?」

 

ダイダラの提案にその場の全員が同意する。

 

「じゃあ、俺がそこの恥ずかしくも無く、若い女好みのおっさんと勝負すっかな?」

 

「・・・小僧が・・・私を挑発するつもりか?」

 

タツミの暴言にギリっと歯噛みするリヴァが睨みつけている所、タツミはブラートに頷く。

 

タツミの言葉に一瞬言い掛けた言葉を呑みこみ、その意を悟ったブラートはインクルシオを出現させ、身に纏い臨戦態勢を取る。

 

 

「あ?なんだよ、別に帝具使う猶予くらいやったぜ?」

 

ダイダラはそう言うが

 

『帝具を使う時間を作った・・・この小僧・・・、まさか只の小僧ではないのか・・・?』

 

 

 

そこでブラートはインクルシオに備わっている武器の槍を振りまわし、

 

「悪いな、タツミ・・・やっぱりこの人とは俺が決着をつけたい・・・。残念だ、味方として再会できたんだったら酒でも共に呑みたかったが・・・、敵なら、攻めて俺の手で斬るのみ・・・そして、任務も完遂する」

 

リヴァも白手袋を脱ぎ、指輪の帝具を表に出す。

 

「こちらの台詞だ・・・私には感傷等は無い・・・ただ絶対に任務を完遂する、主より授かったこの帝具でな・・・」

 

 

タツミはそれを横で聞きながら、

 

「二人とも、仕事が大好きなんだな~、俺はそこそこにしておくぜ」

 

 

リヴァの帝具が発動し、上甲板の広場に有る酒樽から、重力に逆らって水柱が起き

る。

 

「お前達と闘う場所がここである事が幸運だ!」

 

「水使いか?氷使いの部下らしい帝具だ!」

 

「私は水が無いと無力だが・・・エスデス様は無から氷を生成出来る・・・同格にはするなよ、恐れ多い!」

 

リヴァは無数の水柱を槍状にし、ブラートを襲う。

 

「しゃらくせえぇ!!」

 

ブラートは槍を高速回転させ、それをいなし続ける。

 

 

「あ、なるほど。じゃあ、おっさんの主は、水の無いとこじゃあ役立たずな、そんな欠陥帝具を渡した訳だ、可哀想になー」

 

リヴァは再びタツミを睨みつけるが、気を反らす魂胆かと合点した。

 

 

「おい、お前・・・エスデス様を余り馬鹿にするなよ?さっきは油断したが、今度はそうはいかねぇぜ」

 

ダイダラがタツミと対峙し始める。

 

「なんだ?自分の盲信する相手を馬鹿にされて、そんなに頭に来たか?思想の自立が出来てねぇ、ガキ共が・・・」

 

 

「ああ?お前だってガキだろ?」

 

タツミは気にせず不敵に笑い、さっさと掛かって来いと促す。

 

 

「ほらよ!」

 

ダイダラは地面で寝ている警護の持ち武器であるソードを取り、タツミに投げてよこす。

 

「なんで得物をくれるんだ?」

 

「あ・・・?何となくお前は刀使いに見えたんでな・・・それに、俺は強い奴に勝って経験値を得てえんだ、最強になる為に。ここからなら人がいねぇ、闘いやすいだろ?」

 

「あんた、最低限の武人のプライドは持っているみたいだな」

 

 

 

 

 

タツミはそのソードを後方目掛けて一瞬で飛ばす。

 

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

 

ニャウは絶叫を上げ、その武器は右肺を貫き、壁に縫われる事となった。

 

『がはっ・・・、援護しようと思った矢先に・・・、・・・あいつ・・・何者・・・』

 

 

「なっ、ニャウ・・・!?」

 

「勝負に水を差して来そうな、野暮野郎には大人しくして貰った・・・」

 

「くっ・・・」

 

「そして、俺はあんたの武人魂に敬意を表して、これで闘う!」

 

タツミは首の赤ネクタイをほどく。

 

「へっ・・・俺の好意が無駄になってもしらねぇぜ!!」

 

 

タツミはその辺が水び出しになっている為、そのネクタイに水を含ませる。

 

 

「じゃあ行くぜ!!」

 

ダイダラは帝具の斧を大上段に振りかぶり、タツミの間合いに一気に詰め、

 

 

ドガン!!

 

 

地面は割れ、穴が出来る・・・が、タツミは最小限で半身にかわし、のほほんとしている。その気になればその場でダイダラの首を絞め落とすなり、手刀か、掌底で始末するなり可能であった。

 

「てめぇ・・・」

 

侮られていると感じたダイダラは焦りの色を浮かべ、

 

「お次はどうするんだ?」

 

 

ダイダラは後方に大きく飛びし去り、斧を中心から分離しその片方をタツミへ投げつける。

 

「おお!!」

 

触れる物は切り裂くその円の如く回転するその斧に、思わず感嘆しながらもタツミ

は、

 

「あらよっと!!」

 

「な・・・にぃ・・・!?」

 

何とネクタイで持ち手を絡め取り、タツミ自身がそれに合わせ数度回転して斧の回転力を殺した後、

 

斬!!

 

一気に距離を詰められ、ダイダラは顔の表面のみを斬られる。

 

「くっ・・・」

 

驚き数歩下がってしまう。

 

「惜しいなあ、あんたの技が泣いてるぞ。最強になってなにをやりたいんだ?良い年したおっさんがまるでガキ大将みたいなもんだな」

 

「ぐ・・・俺はまだおっさんじゃねえ」

 

「これ以上闘うなら死んで貰う事になるが、どうする?ここで死んでは最強になれねえぞ」

 

タツミはそれまでのおどけた雰囲気を排し、相手を恐怖させるオーラを放つ。

それはダイダラが畏怖するには十分だった。

 

 

『・・・まさか、こいつエスデス様よりも強い?馬鹿な、そんな人間居る訳ねえ』

だがダイダラは観念し、その場で膝をついた。

 

 

「さてと、向こうはどうかな」

 

タツミが彼らを見やると、

 

リヴァは海上で蛇の如き水柱を作り、その上から自身の優位性を示すべくブラートを見下ろしていた。

 

「水圧で潰れろブラート!!」

 

 

大蛇の如き大水がブラートを襲う。

 

それを気合い声と共に、ブラートは切り裂き貫く!

 

 

『不味いな・・・』

 

タツミは彼らが空中に居る状況に顔を歪める。

 

 

「避けずに蛇を潰しに来ると信じていた・・・船が壊れたら大量の死者が出るから

な・・・だが、船上ならともかく、動きのとれぬ空の上でこれはかわせまい!!」

 

海の中から幾本もの海の槍が大柱となってブラートを穿つ。

 

その時、全ての力を防御に回し、辛くも耐え抜く。

 

 

 

「水を掛けられたぐらいで・・・俺の情熱は消えねぇ!!」

 

 

先に着地したリヴァは

 

「そう・・・あれではまだお前は倒せない・・・判っているつもりだ」

 

ブラートは空中だが再び身構える。

 

 

リヴァはかつてに思いを馳せ、

 

「お前とは数々の戦場を共にして来た、その強さも、勇猛さも、私が一番よく知っている。だからこそ、最大最強の奥義を馳走してやる!!」

 

それまでより更に大きな海の大蛇というべき水の怪物がブラートの息の根を今度こそ止めるべく、喰らう・・・。雄叫びが上がり苦悶の声が聞こえる・・・。

 

 

タツミはその様子も只黙って静かに見据えている。

 

 

「やったか・・・」

勝ちを確信したリヴァに対し、タツミは視線を上に向ける。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

ブラートが叫びと共にリヴァの上から特攻を掛け、彼も驚きを隠せない。

 

 

 

「な・にぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにブラート目掛けてソードが飛んでくる。

 

「!?」

 

ブラートが弾こうとする前に、帝具の斧で迎撃される。

 

『タツミ・・・あいつが・・・』

 

「ちっ・・・あの阿呆が・・・」

 

タツミはソードを投げたニャウを静かに睨みつける。

 

「くくく・・・げほごほ・・・残念だったね、折角リヴァを倒すチャンスだったの

に」

 

地面に降り立ったブラートだが、インクルシオは解除されてしまう。

 

「すまなかったな、ブラートさん・・・。勝負に邪魔を許してしまって・・・」

 

「いや・・・本当は礼の一つでも言いたい所なんだが、・・・お前・・・実はとんでもない奴なのか?・・・この闘いが終わったらじっくりその辺も聞かせて貰うぜ」

 

 

 

タツミは二人は互いに満身創痍、そろそろ決着が付くと考えていた時に、リヴァが駆け引きし始めたのを感じた。

 

「一定以上のダメージで解除されるようだな・・・勝負は見えた・・・」

 

「強がるなよ、耳の穴から血が出てるぜリヴァ・・・あれだけの大技を連発したん

だ、体の中はボロボロ。お前も帝具を使える状態じゃねぇだろ」

 

「・・・バレては仕方ない・・・交渉を有利に進めたかったのだが・・・問おう、ブラート。エスデス様の軍に入れ、お前なら副将になれるだろう」

 

「もうこの国に使える気はねえよ」

 

「国では無く、エスデス様に仕えるのだ。・・・私もそれで救われた。思うがままに暴れ回れ、他者から恐れられる。そう、いつも汚い政略を撒き散らす官僚たちですら媚を売ってくる力を・・・私と来い。あの方ならお前の罪すら消せるぞ!!」

 

タツミは白けた顔でそれを聞き流している、そしてブラートは、

 

「断る・・・官僚達に絶望したあんたには今の立位置が心地いいかもしれないが、俺はこれでも民の味方のつもりなんだ。大臣と組んでるエスデス軍じゃそれは気取れねえな」

 

 

そこにタツミが嘆息しながら、

「はぁ・・・元将軍、あんたもそのエスデス様に余程執心なんだな」

 

「・・・・・・」

 

「大体あんた、汚い官僚に正義の怒りを覚えている割には良識派の文官殺してナイトレイドに罪着せたり、なにやってんだ?よく人の事を言えるな?」

 

「・・・小僧に何が判る?私にとっては命の恩人であるあの方の命(めい)は絶対。生きるとは尊いお方に忠節を誓う事なのだ!」

 

「もう好い加減面倒だから言うが・・・たかだか数十年しか生きてねぇ癖に。小僧だぁ?その言葉そっくりお前さんに返すぜ!良いか?・・・てめぇみてぇなガキに何が

判る!?」

 

タツミの叱咤に不思議な箇所があるものの、その迫力にリヴァも慄く。

 

「・・・粋がりやがって、お前のは忠節じゃねぇ・・・盲信・・・依存って言うん

だ!判ったか!!」

 

年齢については疑問が残ったが、ブラートはその他のタツミの発言には納得した。そして、普段のタツミの雰囲気に戻り

 

 

「・・・はぁ・・・、本当惚れる相手は選ばないとな、なあ兄貴」

 

「お?・・・おお、そうだな、だから俺は女を好きになるのを我慢する事にしたん

だ」

 

「・・兄貴、それ本当か・・・?」

 

 

リヴァは歯を軋ませしながら、

 

「殺し屋が・・・、判った風な事を・・・」

 

「あんただって殺し屋な事しやがっただろ?昔から政府とつるむような殺し屋は腰抜けだって相場が決まってんだ!」

 

タツミは更なる言葉で追い打ちを掛ける。

 

 

 

「・・・下がってろ、タツミ」

 

「判った!・・・盲信者を説得するには時間が無いしな・・・それに、そいつの言う

通り、どうしてもやるなら力でねじ伏せるしか無さそうだな・・・あんたに媚を売ってくる官僚をねじ伏せたように・・・」

 

タツミは後方に下がり、

 

 

「互いに帝具が使えないなら」

 

「剣で決着をつける・・・」

 

リヴァはドーピングして底力を上げる。

 

そして、互いの命を賭けた一騎打ちが始まる。

何度も撃ち合い、鎬を削っている後ろで

 

 

「ダイダラさん、あんたどうする?」

 

「・・・今の俺じゃあ、悔しいがお前に勝てそうにねえな。」

 

「エスデス軍に戻るなら今ここで死んで貰う。・・・或いは死んだ事にして名を捨てて一市民に戻るならまた再戦を受け付ける。だが帝具は没収だ。それともう二度と人は殺すな。殺しはゲームじゃねえんだ・・・判ってくれるな?・・・」

 

タツミは剣の技量は僅かにリヴァよりブラートの方が上だと見ている。

 

 

斬!!・・・

 

隙を見つけ、一気に間合いを詰めリヴァの胴を斬り裂く!

 

 

「不味い!ブラート後ろへ飛べ!!」

 

 

タツミは叫ぶが、その猶予はもう無い。

リヴァは体の傷口から幾数もの血の伸びた刃を飛ばす。

 

ブラートはそれを数刃撃ち落とすが、何刃かは突き刺さる。

 

「大丈夫か!?」

 

「致命傷は受けてねぇ・・・安心しな」

 

 

 

リヴァは力尽き倒れる中、

 

「命を振り絞った攻撃、対応するとは・・・見事・・・」

 

 

「血飛沫を見た瞬間、これも一種の水だと思ってな」

 

「・・・流石だ・・・」

とは言ったが、言葉とは裏腹にタツミは嫌な予感がしていた。

 

 

リヴァはエスデス軍の証、十字の紋章に手をやりながら、

 

「ブラート、一つだけ言っておく・・・私がエスデス様の軍にいる真の理由は・・・

 

 

ーーーーーーーー

 

牢屋の鍵を開け、牢内のリヴァの前に立つエスデス。

 

「お前はこのまま消えるには勿体無い人材だ。戦上手の副官を探していた、我が軍に入れ」

 

「そうしたくても私は罪人だ、軍には戻れん」

 

「ウジウジするな!」

 

エスデスに頭を踏まれ、

 

「戻れるさ・・・私がそう欲したからだ・・・ということは誰にも反対なぞさせん」

 

「大臣が・・・」

 

エスデスは手を差し伸べ、

 

「私の武力のお陰で大臣も助かっている。武力が増すのならば・・・歓迎すべき事だろう・・・私の元へ来いリヴァ。まだ何か懸念が有ればすべて取り払ってやる」

 

 

ーーーーーーーーー

 

・・・ただ、あのお方を慕っていた・・・それだけだ」

 

ブラートは同情も込めて彼の名を言うが

 

「・・・リヴァ・・・」

 

「はっ・・・馬鹿馬鹿しい・・・お前もエスデスも大馬鹿者共だ」

 

タツミは吐き捨てるように言い捨てる。

 

それをリヴァはほくそ笑みながら

 

「ふん・・・、もう良い・・・私の望みは達した、何とでも好きに言え・・・代わりにエスデス様に仕える者の意地としてお前の命だけは貰って逝く」

 

 

「ブラートさん!」

 

ブラートは膝をつき、タツミは彼を片腕で体を支える。

 

「先程の注射はドーピングだけでなく、猛毒を仕込んでいたのか・・・」

 

「耐性の無いお前には速攻で毒がまわる・・・助かるまい・・・先に逝っている・・・ぞ・・・」

 

リヴァは絶命した。

 

 

 

「流石、俺の元上官だ・・・相討ちかよ・・」

 

「・・・・・・」

 

タツミはブラートはもう持たないと悟っていたが、敢えて何も言わずに居た。

 

「タツミ・・・最期に聞きたい。お前一体何者だ?・・帝具使いを一蹴してたろ・・・今まで力隠してたな・・・」

 

「・・・ブラートさん、もう喋るな。ひょっとしたら助かるかもしれない」

 

「俺の命は持ってあと数分。自分で判っている・・・」

 

「・・・・・・俺はある小国の・・・」

 

 

だがその時、帝具の奥の手で自身の肉体を強化したニャウが襲いかかって来る。それをブラートを担ぎながらかわす。

 

 

「タツミ・・・俺にかまうな・・・生き延びろ・・・」

 

タツミはニャウと対峙し、

 

「リヴァの仇だ、取らせて貰う!!」

 

「仇?互いに納得ずくの一騎打ちに遺恨を持ち出すなんて野暮ってもんだぞ?・・・それに肺の傷はどうした?」

 

「うるさい!」

 

敵に心配されたのも侮辱と受け取った。帝具でニャウのその怪我も一時的には問題なくなる。

タツミはブラートを避難させ、ニャウの攻撃を最小限の力でいなし続ける。

 

 

「な!?帝具無しでこの強さ?なんなんだ一体?」

 

「流石に素手じゃきついさ、それにこっちは一撃貰ったらアウトだ」

 

そして、タツミは大柱に追い詰められ、怯えの色が僅かに見て取れニャウは優勢を感じ取る。

 

 

「死ねぇええええ!!」

 

一撃さえ当たれば自分の勝利!!そう彼の言葉をそのまま信じ込み、渾身の一撃を当てに行った

 

 

・・・が、そこをカウンターでタツミは無表情に首を刈る。

 

 

 

「ばっ・・・ぐっ・・・」

 

ニャウの首の骨が折れ掛かる所で加減し、かろうじて息が出来るその状態。

 

タツミは殺し屋の事を余り良くは思ってはいない・・・だが、

 

「お前、調査報告に因ると、確か女の顔の皮を剥いでったっけな・・・例えて言うなら人を殺す奴は殺される覚悟も持たないとなあ・・・それと・・・お前、ちょっと深入りし過ぎたようだな・・・深入りした者は消される、殺し屋の掟って奴を親切に教えてやろう・・・」

 

 

 

「・・や、やめ!・・ぎゃあああああああああああああああ・・・ぁぁぁぁ・・・あああああああああ」

 

辺りに断末魔が響き渡る。

 

タツミはダイダラの斧の帝具でニャウの胴と両手を斬り落とし、最後に顔をゆっくりと剥ぐ。

ダイダラはその恐ろしさに僅かに震えが生じた・・・自分も残虐な光景は目にしてきたが、同じ残虐でもタツミのそれはまた違う何かを感じたからだった。

それは、相手がどのタイミングでどうすれば最も恐怖するかのツボを心得ているからだと思われる。

 

 

「何人顔のコレクション集めたか知らねえが、最期は自分自身で決まりだな」

 

 

ブラートもタツミの今まで知らなかったその一面に驚愕し、それと

「・・・今の時点でもうこの強さか・・・俺を超えてやがる・・・大した奴だ・・・・・はは・・・後の事は頼んだ・・・ぜ・・・」

 

安心したのか、ゆっくりと地面に倒れていく。

 

タツミはその名を呼び、側に駆け寄る。

 

 

「・・・・ブラートさん・・・あんた良い殺し屋・・・いや、良い武人だったぜ・・・」

 

そこに海上全体・・・船を覆う雨が静かに降り注ぐ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、ダイダラあんたどうする?」

 

「負けは負けだ・・・仲間が殺されたって今の俺にはどうしようもねえ・・・」

 

「帝具は没収だが、こいつら二人の死体はあんたに預ける」

 

「俺は必ず強くなってまたお前に勝負を挑みにいく、それまで死ぬんじゃねえぞ」

 

「さぁな・・・」

 

ダイダラは仲間二人の死体を小舟に乗せ、竜船から離れていく。

 

タツミはブラートの死体を荷物に紛れ込ませ、ナイトレイドの基地へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と、大体こんな所だった訳だが・・・おい、エスデス?」

 

その時の話を一旦語り終えたタツミは、部屋の隅っこでこちらに背を向け、膝小僧抱えて座るエスデスに呼びかける。

 

「・・・・・・」

 

「エスデスお前、何拗ねてるんだ?」

 

「どうせ私は大馬鹿者だ・・・」

 

「ああ、そうだ・・・もう一つ言おうと思った事が有った!!おいお前!!オネストの野郎と自分は同格か、武力が有る分自分の方が少しばかり立場は上だとか思ってなかっただろうな?リヴァの野郎を無罪放免に出来たのも、オネストの野郎が目こぼししたからで、お前がもしオネストと対立してりゃあ、んな事出来なかったぞ?お前政治方面じゃ何もしてねぇだろ・・・お前も処刑されそうになったから判ってんだろうがな、武力よりも時には厄介な力が有るんだ。オネストがその気になりゃあお前は帝都に居場所は無かったぞ・・・最もお前なら帝都民皆殺しにするつもりなら話は別だけどな」

 

エスデスはジト目でタツミを見る。

 

「なんだ?何か文句でもあるのか?・・・それと、奴らの仇討ちならいつでも受けるぞ・・・」

 

「・・・ふっ、私は話が聞きたかっただけだ・・・、ダイダラは来るだろうか?」

 

「さあねぇ、ここを探し当てれたら勝負を受けても良いさ・・・それまで俺が生きてたらな・・・」

 

この時、エスデスは彼のその発言を特に気にして無かったが、後で気に掛けなかった事を大きく後悔する事となる。

 



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帰還

タツミが帰還して数日後、

ナジェンダがタツミが持ち帰った帝具を本部に届ける為、その間の話をする。

 

タツ「すまない。俺が足手まといで、兄貴はたった一人で三獣士相手に相討ちになっちまった・・・」

 

ナジェ「帝具使いがいる中で生き残っただけでもまだ良い。それにインクルシオだけでなく、他3つの帝具も持って帰還したんだ。・・・上出来だ」

 

タツ「すまない、兄貴のおかげだ」

 

マイン「あんた本当弱いわねー」

 

タツ「面目ない」

 

ラバ「けどよーこいつ、のらりくらり生き延びてるよなー」

 

タツ「うるせえよ」

 

マイン「ま、殺し屋に必要なのは強いよりも生き延びる事かもねー」

 

タツ「俺、まだ殺し屋になったつもりは無いんだけど」

 

マイン「そーよねーあんたに人殺しなんて無理だわ、あはは」

 

タツ「あーあーそうだよ、俺は臆病者だよ、悪かったな」

 

 

ナジェ「ところで留守は頼むぞ、アカメ。作戦名は“みんながんばれ”だ」

 

アカ「大体判った」

 

タツ「いやそこは“いろいろやろうぜ”で」

 

ラバ「じゃ俺は“ぜんぶタツミにまかせろ”で」

 

タツ「おいぃ、こらぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都町周辺のとある本屋

 

タツ「よお」

 

ラバ「おお」

 

ラバ「山」

 

タツ「川」

 

ラバ「ボスは?」

 

タツ「・・・可愛いツンデレお姉さん」

 

ラバ「よし通れ」

 

タツ「お前こんな合言葉意味あんのかよ」

 

ラバ「敵に悟られにくいだろ?」

 

タツ「悟られたら恥ずかしくて死ぬぞ」

 

地下1階

 

レオーネ「やっほー?・・・ーーひっく」

 

タツ「姐さん、また昼間から呑んでんのか?」

 

ラバ「マインちゃんの手配書回ってっからな、これで帝都を堂々と歩けるの俺達3人だけだな」

 

タツ「船の時の事があるからな、不味いと思ったが俺は大丈夫だったな」

 

ラバ「誰もお前の間の抜けた面覚えてねえって」

 

タツ「お前一々腹立つんだよ」

 

レオ「うーそれで町の様子はどうだった?」

 

タツ「なんか特殊警察イェーガーズで持ちきりだったな」

 

ラバ「エスデスが隊長だからな、そりゃ話題になるさ・・・あんな危険人物」

 

タツ「どんな奴なんだ?」

 

ラバ「そうだな、じゃエピソードを一つ・・・」

 

タツ「あ、面倒臭いからやっぱいい」

 

ラバ「このやろ、てめぇ」

 

レオ「けどあいつは本当にヤバい。何百万人殺したらあんなハクがつくんだか」

 

タツ「ほぉ・・・」

 

ラバ「気になるんなら、エスデス主催都民武芸試合に出てみろ。ま、お前なら一回戦落ちだろうけどな」

 

タツ「いや、腹痛くなって棄権だ」

 

 

 

 

わーわー

 

審判は特殊警察イェーガーズの一員ウェイブ。

 

ウェ「勝者、ノブナガ」

 

 

エス「ふあぁああ」

 

タツ『あの欠伸している女がエスデスか・・・』

 

 

 

 

(現在)

 

エス「ぎゃああああああああ」

 

タツ「ど、どうした!」

 

エス「だ、ダーリンにあの時、欠伸していたのを見られていたのか・・・は、はずかしー」

 

タツ「・・・話に戻るぞ」

 

 

 

 

 

 

ラン「どうですか、隊長?」

 

同じく一員のラン。

 

エス「つまらん素材らしくつまらん闘いだな」

 

 

 

ウェ「次、東方、肉屋カルビ。西方、鍛冶屋タツミ」

 

 

 

レオ「面白い仮の職業だなあ。鍛冶出来んのかー」

 

ラバ「さあ、適当に付けたんじゃねえのー」

 

 

 

ラン「片方はまだ成人していないようですね」

 

エス「・・・・・・」

 

 

カル「俺は破門・・」

 

タツ『エスデスの事は大体判ったからな、此処に用は無い。さて・・・どうやって負けよう。』

 

カル「皇拳寺9段でだな・・・」

 

ウェ『話なげぇ・・「初め!」

 

カル「行くぜ!爆砕鉄拳直火フルコース!」

 

 

ポィ

 

 

ウェ「?」

 

カル「?」

 

エス「?」

 

レオ「?」

 

ラバ「?」

 

ラン「・・・何か果物の皮ですかね?」

 

 

タツ『よし、走って滑ってみんなの笑いを取って・・・華麗に退場すると!』行くぞ!」

 

カル「なにか仕込んでるのか・・・ふざけやがって、こんなの踏み潰してやる」

 

タツ「な!?」

 

タツミが皆の笑いの妄想をしている間にカルビは空高く舞い上がり、強力な蹴りを「それ」にお見舞いする・・・、

 

だがその時、奇跡が起こる。

 

カル「ぐへぇ」

 

カルビが“それ”を踏み潰したはずなのに綺麗に円を描きながら後転し頭を強打する。

 

カル「・・・ぐ・・・・」

 

 

エス「ぶほっ」

 

ラン「うぐ・・・」

 

エス「・・・・・・ううん」

 

ラン「・・・あはは、意外な事が起こりましたね」

 

 

観客達から失笑が漏れる

 

 

レオ「ぎゃははっはは、なにやってんだあいつ!!」

 

ラバ「あいつおもしれえ」

 

 

ウェ「ぷくくくく・・・ううん!ワン、ツー、」

 

 

タツ『おーのーれー・・・・こいつだけは絶対に許さん。皆の笑いを横取りしやがって・・・』

 

ウェ「ナイン!」

 

カル「ぜーぜー・・・畜生!・・・やりやがったな!審判今のは卑怯じゃねえのか?」

 

ウェ『何言ってんだこのおっさん?「今のは武器としてもカウントしない。よって試合続行」

 

カル「てめぇ・・・アバラの2,3本覚悟しろ」

 

タツ「・・・そっちこそ、俺はお前を許さねえ・・・」

 

カルビの強拳をそのままいなして地面に叩きつけ、同時に首の喉仏に指を喰い込ませるタツミ。

 

カル「ぐはあ・・・・」

 

ウェ「止め!・・・勝者タツミ!」

 

カル「ぐ・・・こんな奴に・・・」

 

タツ「お前が俺に何故負けたのか・・たった一つの実にシンプルな答えだ。お前は俺を怒らせた!」

 

カル「・・・怒らせる?何言ってんだお前?」

 

 

その後、カルビがひょんな事でお笑い芸人の道に入り、有名になったのはまた別の話である。

 

 

ラン「・・・彼は中々の逸材ですね」

 

エス「・・・・・ああ・・・」

 

湧きあがる観客

 

照れてはにかむタツミ。

 

それを見てときめくエスデス・・・そんな彼女と彼は視線が絡み・・・彼もまた鼓動の高鳴りが隠せない・・・これは・・・

 

 

 

 

 

 

タツ「お前!勝手に人の話に横槍入れて捏造すんな!」

 

エス「私は当時の夫の気持ちをただ代弁しただけだが?」

 

タツ「一切してねえ!大体あの時、俺は照れてはにかんでねえ!」

 

エス「む?違ったのか?」

 

タツ「恋は勘違いでも始まるもんだな・・・話戻すぞ」

 

 

 

 

 

 

タツ『皆が俺に声援を・・・勝てば官軍、負ければ賊軍か・・・そういう場といえばそういう場だが・・・観客は無責任だな。敗者への労りは無しか・・・』

複雑な思いで苦笑するタツミ。

 

レオ「おお!タツミ勝っちゃたよ」

 

ラバ「変だなあ・・・俺は負ける方に賭けてたのに。相手調子悪かったんじゃない?」

 

 

 

 

エス「・・・見付けたぞ・・・」

 

ラン「帝具遣いの候補ですか?」

 

エス「それもあるが・・・・」

 

 

タツ『・・・・本人が直接闘技場に来るか・・・』

 

エス「タツミと言ったな・・良い名前だ。今の勝負見事だったぞ・・・褒美をやろう」

 

タツ「有難う御座います・・・『うぬぬ、勝負に勝って試合に負けたような気分だ・・・しまったなあ・・・一時の感情で・・・』

 

エスデスはタツミに首輪を掛ける。

 

エス「今から・・・私のモノにしてやろう///」

 

タツ「・・・・・気高き和国男に対しどういう仕打ちだこれは・・・俺は今、物凄く機嫌が悪いんだ・・・」

 

エス「・・・ほぉ・・ここは邪魔が多い。宮殿でゆっくり語り合おう」

 

タツ「宮殿か・・・良いだろう」

 

エス「な・・・」

 

タツミに引きずられるエスデス。

 

タツ「何をしている早く行くぞ」

 

エス「む!!支配するのは私だ!」

 

タツ「うるさい女だ、少し黙っていろ!」

 

エスデスを気絶させて担いで宮殿へ向かうタツミ。

 

タツ『・・・し、しまったーーーまたやってしまったーーーええいもうしょうがない、後であいつらには適当になんとか取り繕う!』

 

 

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

肩に担ぐが、エスデスの長い髪が地面を磨るので両腕前に持ち替える。

それと彼女の帽子も持っていく。

 

 

レオ「え・・・ど、どういう事?」

 

ラバ「なあ・・・姐さん。エスデスって本当は弱いのか?・・・」

 

レオ「いや、そんな事は絶対無い・・・それもあるがそれよりも・・・」

 

ラバ「なんであいつ自分から宮殿入ってたんだ・・・」

 

レオ・ラバ『なんじゃそりゃああああああ』

 

 

 

 

 

ナイトレイドアジト

二人から報告を聞くアカメとマイン

 

アカ「タツミがエスデスにさらわれた?・・・・・」

 

マイ「ナイトレイドの一員ってばれたの?」

 

ラバ「ばれたっていうか、さわられたっていうか・・・」

 

レオ「タツミがエスデスを連れてったって言うか・・・」

 

アカ「・・・ん?どういう事だ?」

 

レオ「いや、なんかタツミが連れてかれそうになった、それは間違いないんだ。ただタツミがエスデスを倒して担いで宮殿に行ったように見えたんだよね・・・」

 

マイ「は!?何言ってんの?あいつにそんな度胸ある訳ないでしょ。レオーネもラバックも夢でも見たんじゃないの?」

 

ラバ「う・・・う~ん、そう言われるとなんだか自信が無くなってきた。」

 

レオ「やっぱあれはエスデスがタツミを拉致ったんだよ、うん」

 

ラバ「そ、そうだよな、最近俺達疲れてるからちょっと幻覚みたんだよ、うん」

 

レオ「・・・とにかくさ、どうするボス代行?」

 

マイ「助けに行くなんて、馬鹿な事言わないでよ、アカメ。宮殿は猛者がうようよいるのよ、無策で突っ込んでも生き残れないわ。タツミの素性がばれた訳じゃないかもしれないし・・・]

 

アカ「・・・・・・・・・」

 

マイ「・・・それに、私達組織の事を考えるなら・・・もしタツミが私達の事を吐くようなら・・・宮殿の兵と闘う被害を考えるなら助けるよりも・・・」

 

ラバ「・・・・・」

 

レオ「・・・・・」

 

マイ「も、もしもの時の話よ・・・私だってあのうるさいのが居無いよりは居た方がまだましよ・・・」

 

ラバ「確かに、あいつ俺らと一緒には闘えねえけど、居なくなるとちと静かだもんなあ」

 

レオ「だな♪」

 

 

アカ「・・・・・・よし、タツミは私達の仲間だ。見殺しにしたくはない。出来る限りの範囲で手を尽くそう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予告

 

 

 

タツ「マイン、お前血相変えてどこへいく?」

 

マイ「レオーネ、ズタズタにされて、アカメ両腕斬られたのよ・・・」

 

タツ「なにぃ!」

 

マイ「あたし、これからあいつら殺しに行ってくる・・・」

 

マインを止めるタツミ。

 

マイ「何すんのよ!」

 

タツ「馬鹿野郎!」

 

タツミはマインを張り倒す。

 

タツ「てめぇみてえな女に何が出来る!?返り討ちに遭うのが関の山だ・・・」

 

マイ「・・・・・・」

 

タツ「俺がしくじってからでも遅くはねえ・・・うん?」

 

マインの頭を撫でるタツミ

 

マイ「ううううぅぅううぅぅ・・・・」

 

タツミはその場から去っていく

 

 

 

(嘘です!)



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理不尽

 

苦悩しているタツミ

 

エス「という訳で、イェーガーズの補欠となったタツミだ」

 

巨体の持ち主ボルスが気を遣う。

 

ボル「民間人を連れて来ちゃったんですか?」

 

ラン「・・・彼、なんだか頭抱えてますけど・・・」

 

エス「暮らしに不自由はさせない、それに直きに慣れるだろう。私の恋人としてもな・・・///・・・『とはいえ、油断したか?この私を気絶させた手並みは只者では無い』

 

タツ『うぐぐぐぐ・・・、師匠にもお前は頭に血が上りやすいから戒めろと言われていたのに俺は・・・やらかしてしまった・・・、これで俺の計画が・・・』

 

小柄な女性、セリューがタツミに気を遣う

 

セリ「まあまあ、彼もいきなり過ぎて混乱しているんですよ」

 

タツ「・・・どうも・・・『・・・シェーレを殺した女か・・・』

 

セリ「大丈夫ですよ、私達は正義の味方ですから。・・・安心して、一度会ったの覚えてますか?」

 

 

(回想)

タツ「そうか、死んだのか・・・」

 

マイ「・・・・・うう・・・」

 

タツ「殺したのはどこのどいつだ?」

 

マイ「帝都警備隊、セリュー・ユビキタス・・・」

 

タツ「どんな殺され方だった?」

 

マイ「・・・巨大な獣型帝具にあたしを庇って喰い殺・・・されたわ・・」

 

タツ「・・・判った。・・・すまないな、辛い事話させてしまって」

 

マイ「・・・・・・・、フン、あんたに出来る事は聞き役だけよ」

 

 

タツ『・・・・この女どうしてくれようか・・・・』

 

 

兵士「失礼します!エスデス様!ご命令にあったギョガン湖周辺の調査が終わりました」

 

エス「・・・このタイミング丁度良いな・・・お前達、初の大きな仕事だぞ」

 

エス「最近、ギョガン湖周辺に山賊が砦を作ったのは知っているな?」

 

セリ「勿論です。帝都近郊に於ける悪人達の駆け込み寺になっていて苦々しく思っていました」

 

エス「うむ、ナイトレイドのように見えにくい賊は後回し、まずは目先の賊から潰していく」

 

ボル「敵が降伏してきたらどうします隊長?」

 

エス「降伏は弱者の行為・・・そして弱者は淘汰されるのが世の常だ」

 

タツ「ちょっと待った!『もう良い、毒を食らわば皿までだ』降伏した捕虜にも一定の人権が保障される・・・国際法を知らんのか、貴女は?」

 

エス「なに?・・・人権?」

 

セリ「・・・タツミ君。悪を生かす事なんて必要ないですよ。全員皆殺しにしましょう」

 

タツ「悪たってなあ、ひょっとしたらこれから変わるかもしれないだろ?・・・セリューさん、あんた今日朝何食べた?」

 

セリ「・・・いきなり何を・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

セリ「・・・んー、卵と鳥の唐揚げ・・・」

 

タツ「あんたは悪だな・・・ここで死んでも貰うぞ!」

 

エス「!!?」

 

ラン「!?」

 

ウェ「おい?」

 

ボル「タツミ君!?」

 

女子高生風の格好のクロメとおネエな博士スタイリッシュは静観している。

 

クロ「・・・・・・」

 

スタ「・・・・・」

 

 

セリ「は?・・・な!?なぜこの私が?ば、馬鹿じゃない?正義であるこの私が?」

 

タツ「あんたの言う、悪ってなんだよ?他人に迷惑を掛ける事だよなあ?一応。なら俺は鳥の立場で考えたらお前は同胞を殺された憎い相手だ。そうなると、お前は悪になるな・・・」

 

セリ「な・・・、あんた鳥じゃ無いでしょ?」

 

タツ「実は俺が帝具で鳥から人間に化けてたらどうする?」

 

セリ「・・・・くっ・・・・」

 

エス「タツミ、もうその辺にしておけ・・・」

 

タツミはエスデスの襟首を掴みぐっと顔を寄せ小声で話す。

 

タツ「なあ、エスデスさん?あんた俺より弱いよな?さっきの事で判ったよな?弱い奴は何されても文句が言えないなら、俺がお前をここで殺しても良いんだぞ?・・・」

 

エス「・・・・・!『・・・本気になれば・・・だが・・・この殺気は・・・』

 

ボル「・・・・ああ、まあまあタツミ君も、その辺で・・・」

 

ウェ「ああ、そうだよ、三人ともちょっとは冷静になって」

 

セリ「・・・・・・・」

 

タツ「・・・なら指揮は俺が取る、良いな?」

 

ウェ「あ・・・?はぁーーーー?」

 

ボル「・・・隊長、宜しいんですか?・・・」

 

エス「・・・う、うむ。タツミの好きにさせろ・・・」

 

タツ「・・・と言う訳でだ、この俺がエスデス様の代わりに一時的に隊長を仰せつかった。ではみんな支度次第出陣だ!良いな!・・・セリューあんたもだ」

 

セリ「あ、あんたの指揮下になんか・・・」

 

タツ「お前も警察、軍人なら上官の命令従え・・・従わない時はどうなるか・・・判っているだろうな?」

 

セリ「・・・隊長・・・」

 

エス「・・・今言った通りだ。とりあえず好きにさせとけ」

 

タツ「理解ある上官に恵まれて俺は幸せだな・・・では行くぞ!」

 

ラン「・・・・・・・・『これは面白くなってきましたね』

 

クロ『・・・・変わった奴・・・・』

 

スタ『強引な男・・・けど中々スタイリッシュね・・・』

 

ウェ「な、何がなんだか判んねえ・・・」

 

ボル「・・・あー、とりあえずタツミ君、いや隊長代理・・・」

 

タツ「呼び方はタツミでどうぞ。・・・あーボルスさん。さっきの話、降伏した敵は牢屋に入れるという事で。」

 

ボル「了解!」

 

 

 

 



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山賊砦

 

 

ラン「タツミ君、地形や敵の配置は頭に叩き込みましたが作戦はどうしますか?」

 

タツ「ちょっと下がっていて下さい」

 

タツミは帝国にあった誰も遣い手が見つからなかった帝具『闇よりの巨砲』を構える。大砲型のそれを腕に装着する形となる。

 

エス「・・・タツミ、それが使えるのか・・・?」

 

タツ「ああ、さっきちょっと試してな・・・『たくっ、あいつめ、この星の過去の人間につまらん技術を伝えやがって』

 

ウェ「凄えな、おお・・・」

 

タツ「ランさん、奴らに3秒で降伏しないと撃つと言伝して下さい」

 

ラン「了解!」

 

 

賊「な、なんだと・・・ふざけやがって」

 

賊の頭目(以下、頭目)「うろたえるな、ただの虚仮脅しだ!」

 

 

 

タツ「良いかーお前ら聞こえるかーじゃあ今から3秒で降伏しないと撃つぞー」

 

頭目「・・・・・・・」

 

タツ「いーち!」

 

 

 

 

 

ズドぉおぉぉぉぉおおおンんんん!!!

 

 

 

 

 

 

 

頭目「・・・・・!・・・な、・・なんだあいつは!?直ぐに撃ちやがった!」

 

賊「あ、あわわわ、砦が半壊・・・・・た、たすけてくれーーー!」

 

 

 

タツ「男ってのはなあ、1だけ数えりゃ生きてけんだよ・・・!」

 

ラン「・・・・・・・・」

 

ウェ「・・・・・・・・」

 

ボル「・・・・・・・・」

 

エス「・・・タ、タツミ、私もそこまではしないぞ、恐らくはな」

 

クロ「・・・凄い・・・んぐんぐ・・・」

 

クロメはお菓子をもぐもぐ食べている。

 

スタ「おおースタイリッシュ!んなーんて素晴らしい破壊力なの!」

 

セリ「・・・貴方、言っている事が無茶苦茶じゃないの?私には皆殺しにするなと言っといて・・・」

 

タツ「馬鹿!よく見てみろ、誰も居ない所を狙ったんだ・・・今のは警告だ。次は本当に殺しにいくぞ」

 

 

次々と投降する賊が出てくる。

 

タツ「じゃあ、隊長、氷での手錠を頼む」

 

エス「判った」

 

ボル「さぁ、君達大人しくするんだよ・・・」ゴゴゴゴゴゴ!!

 

賊『ひいいいいい』

 

ウェ「いやしかし凄いな、その帝具どうなってんだ?」

 

タツ「これはブラックホールと相互次元で繋がっていてそこからの反物質を・・・あ、いやなんでもない。忘れてくれ。『この道具は本当使うと骨が折れる・・・』

 

ウェ「なんだか良く判らねえが俺もその帝具良いな・・・」

 

タツ「下手に使わない方が良い。これでも抑えて撃っているんだ。生体エネルギーをごっそりもっていかれて死んでしまう恐れもあるからさ。」

 

セリ「・・・で、隊長代理殿。残った悪はどうするんです?」

 

タツ「これでも投降してこないなら、それこそ“戦士としての死”をお望みなんだろう?叶えてやれ。・・・後は皆さんに任せます」

 

セリ「ふふふ、了解!行くよコロ!」

 

タツ「あーあとなるべく楽に死なせてやってくれ・・・」

 

 

 

それぞれのメンバーが賊を葬り去っていく。

 

 

 

頭目「ち、ちきしょう・・・俺は生き延びてやるぞ・・・!・・あ・・・」

 

刀を携えているタツミ。

 

タツ「よお・・、仲間達を置いて何処に行くんだい?」

 

頭目「た、頼む・・・助けてくれ。・・・後生だ・・・な?」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

タツミは居合で一閃、頭目の首数センチを斬り刀を納める。

 

頭目「・・・う・・・な、な・・・ん・・・で・・・」

 

首から少し血が流れ倒れる。

 

タツ「・・・助けてくれ?調べはついているんだぜ・・・今まで何人の人間がお前に命乞いして殺されたろうな?」

 

 

セリ「・・・・・・・」

 

タツ「そっちは終わったのか?」

 

セリ「・・・甘いんですね。そんな悪、もっと苦しめれば良いのに・・・」

 

タツ「俺は面倒臭がり屋なんだ、わざわざ首を刎ね飛ばす必要も無い・・・ただ、あんたを殺す時は惨く殺す事にするさ・・・フフフハハ」

 

セリ「・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

帝都に帰り夜となる。

諸々の事後処理を終え、

 

タツ「さーて、今日は疲れた。家に帰るとするか、ではさらばだ」

 

エス「待て!タツミ、お前は私と一緒に来るんだ」

 

タツ「いやまた明日と言う事で・・・、家で魚焼いていたんだが今頃焦げてエライ事に・・・」

 

エス「・・・タツミ、私は今日一日タツミの好きなようにさせてたのだが?」

 

タツ「その借りは返せってか?・・・判ったよ。どこででもついて行きゃあ良いんだろう?」

 

エス「ふふふ♪」

 

その後、タツミはエスデスの部屋に行き、説得を試みるも面倒臭くなり別れようとするが・・・以下はもしもエスデスを仲間するには・・・?前篇 に繋がります。

そして・・・

 

 

(現在)

 

エス「ダーリンは会った時から気の向くまま好きなように行動してたな」

 

タツ「・・・エスデスさん、よくこんな俺と一緒になりたいと思ったな?」

 

エス「惚れたのは理屈では無い!」

 

タツ「・・・そういえば、俺がお前に首輪されたで思い出したが、エスデスさん、あんた北の民族の勇者の心折って犬みたいにしたようだな?」

 

エス「・・・!・・・流石によく知っているな・・・」

 

タツ「・・・今更そんな事する訳無いと思っているから言うが今度誰かにそんな事しようものなら、エスデス、その時はどうなるか・・・判っているだろうな・・?」

 

エス「無論だ、わ、判っている」

 

タツ「判ってりゃ良いんだ。判ってりゃあな・・・最もお前がその気になればその勇者を見世物として帝都に持ち帰れたろうな。・・・あっさり殺してせめてそんな事をしなかった点だけは褒めてやる」

 

エス「・・・・・・・」

 

 

 



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謀略

これ以降のタツミの話は「もしもエスデスを仲間にするには・・?」の話と所々でリンクしたり、エスデスが心配している通り彼女の目を盗んでそこから離れてイェーガーズに行ったり、ナイトレイドに行ったりと忙しく動いています。
その為、その時の事を話す羽目になるタツミ。


帝都に一人で戻るタツミ。

 

門番「何かようか・・・あ、君は・・・」

 

タツ「イェーガーズのランさんに会わせてくれませんか?」

 

 

 

 

 

ラン「・・・タツミ君、君は隊長とフェイクマウンテンに行ったのでは?・・・それと隊長はどうしたんです?」

 

タツ「実はエスデスさんからこの手紙をランさんに渡すようにと」

 

ラン「ほぉ・・・どれどれ見せて下さい」

 

ラン「・・・・『私は今、100人斬りのブラートに遭遇し奴を倒す為、帝都を離れる。今なんとしても仕留めておかねばならない。繋ぎ(連絡の意)はタツミを通して行う・・・私不在の間はラン、お前に私のイェーガーズの権限を委ねる、以上だ』

 

ラン「・・・・・・・・・」

 

タツ「では俺はこれで失礼します・・・」

 

ラン「ああ、待って下さい。タツミ君、君はこれからどうするんですか?」

 

タツ「・・・ははは、俺は宮仕えに向いてないんで、自分の暮らしに戻ってほそぼそと生きていきます」

 

ラン「・・・この手紙には私が隊長の代わりをしろと書いています。それにタツミ君、君は隊長と連絡を取って貰いたいんです。」

 

タツ「俺がですか?何故です?」

 

手紙をタツミに見せる

 

タツ「はぁ・・・、繋ぎたって・・・、う~む、別れたあの場所でって事かな?」

 

ラン「隊長と最後に別れたのは君ですから、連絡の場所も君にしか判りません」

 

タツ「・・・あの人も強引な人ですねえ」

 

ラン「君は隊長に全て聞いたのではないのですか?」

 

タツ「いいえ、凶悪な賊を見付けたから私は後を追う。この手紙をランに渡せ・・・とそれだけ言ってさっさと行ってしまいましたよ」

 

ラン「ふ~む・・・・・・・・」

 

タツ「しかしランさん、変ですねえ、エスデスさんなら普通に帝都に戻って連絡すれば良いのに・・・」

 

ラン「百人斬りのブラートの事は私も聞いた事があります。なんでも元帝国軍人でかなり厄介な相手だと・・・」

 

タツ「へえ~そうなんですか・・・」

 

ラン「・・・恐らく、隊長は強敵相手に自分もどうなるか判らない・・・それで下手に帝都に報告するよりはまずは君を通して情報を伝え、その上で私にそれを帝都に流すべきか伏せるべきか考えろという事かもしれませんね・・・隊長がもし死んだら確かに反乱軍にとって有利ですからねえ」

 

タツ「はぁ~なるほどー、そういうもんですか・・・」

 

ラン「・・・ふふふ、・・・君という男は・・・」

 

タツ「ん?なんの事でしょう?」

 

ラン「・・・いいえなんでもありません・・・ではすみませんが君しか頼める人がいないのでもう少しイェーガーズに居て下さい・・・私からもお願いします」

 

タツ「いー?勘弁して下さいよ」

 

ラン「まあまあ、これはタツミ君にとってもきっと良い事なんですから」

 

タツ「・・・はぁー判りました」

 

ラン『・・・面白い青年だ』

 

 

 

 

(現在)

 

エス「あの時、ダーリンが手紙を書いてくれと言ったのはそういう事だったのか」

 

タツ「そういう事だったのだ!」

 

エス「それで私が帝都に居ない間、どうなったんだ?」

 

 

 

 

 

ラン「・・・と言う訳でエスデス隊長は悪名高いナイトレイドの一人ブラートを追っていき、現場離脱。恥ずかしながら私が隊長代理となりました。」

 

スタ「あら?エスデス様が離脱なんて残念。いつ頃戻られるのかしら・・・?」

 

ラン「それはまだ判りません・・・何か変化があれば私に伝えるとの事です」

 

タツ「・・・・・・・」

 

ウェ「了解!・・・隊長の事だ、必ず帰って来るさ『戻って来ては欲しいが・・・この人の方がまだまともそうだからな、内心ほっとするぜ』

 

ボル「そうだね、隊長はきっと良い報告を持って帰って来るよね」

 

クロ「・・・・もぐもぐ・・」お菓子ポリポリ。

 

セリ「・・・・・・、これ以上悪を倒せる人を失いたくありません。隊長はどちらの方に?」

 

ラン「私も伝書鳩で知っただけなのでなんとも・・・大丈夫ですよ、隊長は必ず帰ってきますから・・・」

 

タツ「・・・!?・・・」

 

ラン「ああ、それとタツミ君は隊長の抜けた穴を、臨時ではありますが埋める為に私が引きとめました」

 

タツ「・・ど、どうも・・」

 

ウェ「おお、これから宜しく頼むぜ。どうしたよ、この間の勢いは?」

 

タツ「いやぁ・・・あの時は頭に血が上ってて・・・つい・・」

 

ボル「いやでも凄かったよね、あの時はちょっと胸がすいたよ」

 

セリ「・・・・・・」

 

ボル「ああ、ごめんね」

 

セリ「隊長がいなくなって、あんたが居る・・・私は認めませんから・・・」

 

セリューは出て行こうとする

 

ラン「セリューさんどちらへ?」

 

セリ「ちょっと、パトロールに・・・大丈夫ですよ、ランさんには従いますから」

 

スタ「ふぅ・・・やれやれ、あの子ったら、隊長代理、私もちょっと行ってくるわ」

 

クロ「・・・タツミ、私は貴方が何を考えているか判らない・・・」

 

タツ「?俺は特に何も考えて無いが?」

 

クロ「・・・そう・・・」

 

 

 

皆から離れ・・・

 

 

タツ「ランさん、何故あのような嘘を?」

 

ラン「ああ言った方が、君がここに居やすいと思いましてね」

 

タツ「・・・あはは、別に一時的なものですから俺なんか居無くても良いですのに」

 

ラン「・・・タツミ君、私は君を敵に回したく無いですね」

 

タツ「それはどういう意味でしょう?」

 

ラン「・・・いずれ腹を割って話して下さい」

 

ランはその場を去っていく。

 

 

 

タツ「・・・・・・フッ・・・・」

 

 

 

 

(現在)

 

エス「上手くイェーガーズに潜りこめた訳だな」

 

タツ「一種の賭けだったがな」

 

エス「ランを選んだのは慧眼だったな。だが思い通りに事が運ばなかった時はどうしていた?」

 

タツ「・・・さあな」

 

 

 



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暗闇仕留人

 

ある河原

 

セリ「・・・・・・・」

 

コロ「・・・・きゅいー・・・」

 

 

スタ「探したわよ、セリュー」

 

セリ「・・・ドクター・・・」

 

スタ「・・・彼の事気にしてたの?らしくないわね。」

 

セリ「ドクター、私間違って無いですよね?」

 

スタ「あんたは間違って無いわ・・・あんたは深く考えないで自分の信じた道をそのまま進みなさい」

 

セリ「・・・はい!有難う御座います!」

 

スタ「ふふふ・・・・『本当使い勝手の良い香車よねえ・・・』

 

セリ「では私、パトロールに行ってきます!行くよコロ!」

 

コロ「きゅい!」

 

 

 

人里離れた場所

 

 

スタ「くくく、エスデス隊長がいなくなった?ちょっと残念だけどこれはこれで私の実験がやりやすいかもね」

 

 

タツ「あ、ドクター?」

 

スタ「・・・!・・・あら?タツミ君、どうしたのこんな所で・・・」

 

タツ「いやあ、ランさんから君のせいでセリューさんを困らせたんだから謝って来るように言われたんですよ・・・」

 

スタ「あら?貴方意外と素直なのね」

 

タツ「それでセリューさんは何処に?」

 

スタ「あの子なら町でパトロールでもしてるんじゃないの?」

 

タツ「あ、そうですか・・・ところでドクター、俺にもちょっと改造して貰えませんか?」

 

スタ「改造?」

 

タツ「惚けないでくださいよ?セリューさんから聞きましたよ。あの手とかについてた秘密兵器は貴方が作ったって?いやあ凄いですね」

 

スタ「・・・まあ良いわよ。でもただでとはいかないわねえ・・・。」

 

タツ「あはは、そうですか・・・、あの帝都周辺をおびやかしている危険種達にはただで改造したんですか、人間から・・・」

 

スタ「・・・なんの話かしら?・・・」

 

タツ「またまたぁ?人が連れ込まれたの見たんですよ」

 

スタ「あ、あの研究室には人を連れ込んだ覚えなんか無いわ、なに言ってんのよあんた!?」

 

タツ「研究室?俺は一言も研究室なんて言った覚えは無いぞ。しかもなんで“あの研究室”なんだ?」

 

スタ「・・・・・・・!」

 

タツ「てめぇのせいで何人の人間を人喰らいの危険種にしやがった!?」

 

スタ「・・・あたしの実験の邪魔はさせないわ!」

 

スタイリッシュの攻撃の前にタツミは彼の喉笛を小刀で裂く。

 

スタ「・・・うぐぐ・・・ぐ・・・」

 

タツ「スタイリッシュ・・・少し命を弄び過ぎたな・・・過ぎた者はどうなるか・・・この世の掟ってのを教えてやろう」

 

スタイリッシュの髪を掴み引きずる。

 

スタ「・・・・・ま・・ま・・・・」

 

タツ「てめぇみてえな汚ねえ野郎は簡単には殺さねえ・・・」

 

タツミはスタイリッシュの両腕両足を斬り落とす。

 

スタ「ぎゃああああああああああああ」

 

タツ「これはお前の所にあった薬だが・・・これはひょっとしてあの危険種になる薬かねえ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タツ「セリュー!」

 

セリ「・・・なに?何か用?」

 

タツ「はぁはぁ・・・、危険種が出たんだ・・・俺の手に負えないだ・・・頼む、助けてくれ・・・」

 

セリ「・・・はぁ・・・仕方ないわね・・・どこ?コロ、気が進まないけど行くよ」

 

タツ「ああ、ありがとう」

 

 

 

 

スタイリッシュの面影が僅かに残り危険種に変わり果てた姿がそこにはあった。

両腕両足が無い為、咆哮を上げながら、のたうちまわっている。

 

セリ「・・・これは・・・まさか・・・コロ・・・」

 

コロ「・・・・・・・・、・・・・・・・」

 

セリ「やっぱり、ドクター?なんで?なんでこの姿に?」

 

タツ「この危険種よう・・・、どっかで見た事ないか?」

 

セリ「最近、人を襲っていた危険種と同じ・・・」

 

タツ『あいつめ・・・エスデスがいなくなったからこれ幸いとデータを取る為にわざと元人間危険種達を適当な数で解き放したのか?』

 

セリ「まさか・・・ドクターもその悪に・・・こんな姿に?・・・」

 

タツミはスタイリッシュの研究資料をセリューの前に放る。

 

セリ「・・・・?」

 

タツ「それは奴の人体実験のデータが載っている、良く見てみろ・・・」

 

セリ「・・・・・A-c54を投与した場合の人間の発狂度・・・これにより・・・・この調整が最も獰猛な共食いに・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

セリ「・・・・・嘘だ・・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ・・・・・あああああ!!!!」

 

タツ「その字、スタイリッシュの筆跡だろう」

 

セリ「うわああああぁあぁあっぁっぁぁぁぁぁっぁっぁあ!!!!!!!!!!あああああああ・・・・!!!!!」

 

タツ「・・・・・・」

 

セリ「嘘だ・・・私は認めない・・・こんな、こんなこんな・・・」

 

タツ「こいつは・・・この危険種は人間の時より回復能力が早い・・・早い所始末しないと人を襲うぞ」

 

セリ「・・・・・・ううううううぅうううっぅぅぅぅぅ」

 

タツ「良いのか?こいつこのままにして?」

 

セリ「・・・・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

タツミは有無を言わさず危険種と化したスタイリッシュの息の音を止める。

 

セリ「・・・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

タツミは項垂れるセリューを後に残し去っていく。

 

 



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罪と・・・

セリ「・・・・・・・・」

 

タツ「俺に何か用か・・?」

 

重い沈黙がしばらく支配する。

 

セリ「・・・私には大好きだった父が賊に殺されて、師匠も賊に殺されて・・・そして恩人もまた、危険種になって殺された・・・でもその恩人が悪だった・・・」

 

タツ「・・・・・・・」

 

セリ「悪は死んで当然・・・殺されて当然・・・だからドクターも死んで当然・・・そう・・死んで当然・・・ふふふふ・・・うううう・・・」

 

笑いそして、涙を流すセリュー

 

タツ「・・・お前があいつを恩人と思うか悪と思うかはお前の勝手だ・・・だがな、良いように利用されている事もあるの覚えとけ」

 

セリ「・・・・・・」

 

タツ「そうそう、良い事教えてやる。お前の師匠な、裏で暴利貪ってあこぎな事してたんだ。あのスタイリッシュとつるんでな。金と引き替えに無実の人間を罪人とでっち上げて実験にな・・・それとお前の父親も似たような事やって怨みを買って殺されたみたいだな・・・ついでにお前のつるんでいるヘカトンケイルな、適合しなかった・・・相性合わなかった人間喰い殺してるぞ。お前も合わなかったらそうなっていた」

 

コロ「・・・・・・・・・・」

 

セリ「・・・う、嘘に決まっている・・・」

 

タツ「だったらお前自身でくまなく調べてみろ」

 

セリ「・・・あ、ははは、もしも本当にあんたの言う事が本当だったとしたら、え?あたし今まで何を信じて生きてきたの?悪がどうして優しい事や親切にしてくれたの?ねえ、あんた答えてよ?」

 

タツ「はぁ・・・気まぐれとか利用する目的とか我が子だけには甘いとかあるだろ?お前典型的に詐欺師に引っかかるタイプだな」

 

セリ「あたしはもうどう生きて良いか判らない・・・」

 

タツ「正義に生きたいんだろ?例え信頼した人が実は許せない人であったとしても・・・それが自分の生き方に関わる人であったとしてもそこから苦しくても自立して正義とは何かを考え突き詰め生きる・・・正義に生きるってのは本当にいつもつらく厳しいもんなんだ・・・お前はそれが全然判っていなかった」

 

セリ「・・・・・・あんたは正義なのよね?」

 

タツ「俺は自分が正義なんて言った覚えは無いぞ?自分のしている事が本当に正しいかどうか常に不安との闘いだ。俺が今まで手にかけた連中だってひょっとしたら俺が上手く説得出来てたら殺さずに済んだかもしれないってな」

 

セリ「・・・・・・・・」

 

タツ「そうそう、お前命を奪うのは正義だと思うか?」

 

セリ「悪なら殺すべきでしょう?」

 

タツ「じゃあ俺達喰う為に他の生物殺すのは正義か?」

 

セリ「あ・・・う・・・」

 

タツ「はっきり言やあ生きる事自体が悪なんだ」

 

セリ「・・・あんた、あたしに死ねって言いたいの?それとも生きている奴皆殺しにしろって言いたいの?」

 

タツ「・・・さあな・・・」

 

セリ「・・・じゃあさ・・・、まず手始めにあんたから殺して良い?・・・」

 

タツ「ご自由に?ただ抵抗はするがな」

 

セリ「なんでよ?生きるのは悪なら大人しく殺されなさいよ」

 

タツ「別に人間の存在自体が・・・、俺の存在自体が悪でもいいさ・・・」

 

セリ「・・・・・」

 

タツ「だがな、存在自体が悪でもその罪滅ぼしに少しでもマシな生き方をする・・・それが人間ってもんだと思うがな」

 

セリ「・・・・・」

 

タツ「自分の悪に罪悪感を感じて自ら死ぬ・・・それも良いだろう、だが俺は臆病でな、自分で自分を殺せない・・・だからいつか報いを受ける日が来るその日まで生きざるを得ないんだ・・・最も本当にどうしようもない罪を感じたら自分で死ぬかもな」

 

セリ「今がその時と言ったら?」

 

タツ「俺は感じて無いから抵抗するぜ・・・自分の死に時は自分で決める」

 

セリ「傲慢な奴ね」

 

タツ「気が合うな・・俺もそう思っている」

 

セリ「うふふふ、あはっはは」

 

タツ「ははははっは」

 

二人して気持ちよく笑う。

 

セリ「あーははは、はは・・・、なんだか馬鹿らしくなってきたわ」

 

タツ「ふっ・・・・」

 

セリ「・・・ありがとう・・・」

 

タツ「礼を言われる覚えは無いがな」

 

 

 

翌朝

 

 

 

ラン「な?イェーガーズを辞める?」

 

セリ「はい。」

 

ラン「なんでまた?帝都からも何故離れると?」

 

セリ「はい、田舎に行って一人・・・いえ、コロと一緒に自分を見つめ直してみたくなりまして・・・そう、自分なりの正義を見付けたいと思います」

 

ラン「・・・・・・」

 

クロ「・・・・・・」

 

ボル「・・・そっか、良かったねセリューちゃん」

 

セリ「はい、今まで有難う御座いました」

 

ウェ「しかし・・・ちょっと残念だな。でもまあ帝都離れても元気でやってくれよ」

 

セリ「うん♪」

 

ウェ「だけどよ、ドクター何処に行ったんだ?折角、セリューの門出なのによ」

 

セリ「・・・・、きっとあの人の事ですから・・・、自分の好きな研究の為に遠方に行ったんだと思います」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

ウェ「けどよ短い付き合いだったけど俺達に挨拶の一つくらいさ・・・」

 

ボル「ウェイブ君!」

 

ウェ「あ・・・すまない」

 

セリ「ううん、私にはそう書き置きがあって・・・、ドクターの優しさは私の心の支えでもありますから・・・平気です」

 

ラン「・・・・・・・」

 

ウェ「そっか、そうだな。オネぇな所はちょっとびっくりしたけど、面白い人でもあったな」

 

ボル「そうだね」

 

クロ「・・・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

セリ「では皆さんお元気で!」

 

 

 

セリューとタツミの視線が一瞬絡む、だが二人とも何事も無かったように別れる。

 

 

 

 

その後、スタイリッシュの私兵団に要約するとこんな内容の手紙が届いた。

 

『あたしはこれからもっと別の研究がしたくなったからこの地から離れるわ。・・・と言う訳であんた達はもう用無しよ。強化された部分の削除も出来る薬を置いたから好きに使うと良いわ。それともう晴れて自由の身よ、どこへでも行きなさい。そうそう希望する奴は仕事先の斡旋も書いたから使いさない、でもあんた達みたいのが雇ってくれるところがあるか判らないけどせいぜい頑張る事ね!』

 

但しスタイリッシュ本人の筆跡と違う点は代筆だろうと側近達は考えた。

 

 

ナイトレイドアジト

 

 

 

レオ「・・・はぁ・・・あいつ死んじゃったのかね?」

 

ラバ「・・・かもな・・・」

 

マイ「!?ば、馬鹿言ってんじゃないわよ!あいつは妙にしぶといんだから、そう簡単に死ぬ訳無いじゃない!」

 

アカ「・・・・・・」

 

ラバ「おや?場合によってはあいつ殺すって言った人の台詞とは思えないな」

 

マイ「ケースバイケースよ、うるさいわね!」

 

 

 

タツ「皆さま、長らくお待たせ致しました・・・帝都一番の人気者、タツミと申します。嗚呼、巷々に風情ありけり・・・なあ、みんなどうしたの?」

 

レオ「タツミ!?」

 

アカ「・・・良かった・・・」

 

ラバ「お前お化けか?気持ち悪いんだよ!・・・マインちゃんお前が帰って来ないから泣いてたぞ」

 

マイ「!!??ラバっ!あんた、なにばっかな事言ってるのよ!、ほんとばっかじゃない!」

 

 

 

 

 

 

(現在)

 

エス「私も聞いててハラハラしてるぞ」

 

タツ「?特に血湧き肉躍る話をした覚えは無いが?」

 

エス「・・・ダーリンは判っててわざと惚ける所があるな」

 

タツ「・・・・・・」

 



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正情報を斬る

ナイトレイドアジト

 

 

ラバ『・・・妙だな、タツミがアジトに帰ってきた時に糸は反応しなかった・・・何故だ?』

 

レオ「それで、イェーガーズの連中は誰々がいるんだ?」

 

タツ「隊長のエスデス、ウェイブ、ラン、ボルス、クロメ、セリュー、スタイリッシュの全員で7人だ」

 

タツミは彼らの実力を皆に説明する。

 

レオ「本当に全員が帝具遣いか・・・きっついなー」

 

アカ「クロメもメンバーに入っていたとは・・・」

 

タツ「・・・帝国を抜ける時、誘わなかったのか?」

 

アカ「勿論誘ったが、妹は残る道を選んだ・・・」

 

タツ「何故残る道を?」

 

アカ「・・・クロメは仲間を見捨てられなかったんだと思う・・・」

 

タツ「仲間・・・か・・・」

 

アカ「妹からすればまさに・・・私は裏切り者という事だな」

 

タツ『ザンクと対決した時に見た幻影はさてはクロメか・・・』

 

アカ「タツミ、クロメは何かを繰り返し食べていなかったか?」

 

タツ「・・・ああ、観戦客がポリポリ食べるように菓子を食ってたな、それに何かあるのか?」

 

アカ「・・・あれには肉体強化の薬が混ぜられている。但し切れた時に体への負担も大きく麻薬のような中毒性もある・・・クロメ、お前はもう・・・」

 

タツ「なるほど、だからあいつウェイブとかに食わせ無いように自分のだと言い張ったのか」

 

マイ「・・・あー、まーとにかく相手が誰であろうと標的になるなら撃つからね、アカメ」

 

アカ「・・・ああ、クロメも覚悟は出来ているだろう」

 

タツ「・・・・・」

 

ラバ「んー敵の帝具の情報がもっと欲しいな」

 

そう言ってラバックはイェーガーズの帝具の能力を確認しノートにしたため、それぞれの帝具の特性を皆で知る限り情報を共有する。

 

ラバ「クロメの死体操る八房も厄介だが、パーフェクターも色々応用が利きそうだから」

 

マイ「こっちのものにしたいわよね」

 

レオ「でもこれで敵の事は少しは把握出来たな、タツミ偉いぞ」

 

タツ「俺は見た事をそのまま伝えているだけさ」

 

レオ「いやいや、イェーガーズから脱走してくるだけでもすご・・・ん?ところでタツミはどうやって脱け出してきたんだ?」

 

タツ「ん?あーー、あ!親が門限7時ってしばりがあるから、帰らせてくれと言って帰って来た」

 

ラバ「・・・・・・・、要は適当な理由付けて脱け出したんだろ。だけどお前、後付けられてねえだろうな?」

 

タツ「その点は大丈夫だ・・・と思う」

 

ラバ「だーーーー、アジト見つかったら全責任お前がかぶれ!」

 

タツ「おいおい、一人はみんなの為に、皆は一人の為にっていうだろ?」

 

ラバ「俺達殺し屋にそんな話は通じません」

 

タツ「お前良い死に方出来ないぞ!」

 

マイ「・・・・・・」

 

タツ「・・・どうしたマイン?・・・もしかしてシェーレの事か」

 

マイ「あいつもイェーガーズにいるなんてね」

 

ラバ「シェーレの仇だな、隙見て全員で掛るか?」

 

マイ「そうね・・・でも止めは私にやらせて・・・シェーレをあんな風に殺して・・・絶対に許さない!」

 

レオ「ああ、シェーレも覚悟はしてた、そしてそいつも仕事だった・・・けど殺し方がちょいと・・死んでいく者への扱いの度が過ぎてたな」

 

ラバ「姐さんの殺し方もエグイ時あるぞ」

 

レオ「あたしは良いの!」

 

アカ「・・・・・ふふふ」

 

タツ「・・・・・・・」

 

マイ「ところで、間近で見たあいつらの直接の強さはどうだった?」

 

タツ「エスデス、・・・奴は強い。恐らくおたくら全員で掛っても勝てるかどうか・・・」

 

ラバ「そういや、聞いた話だとこないだそいつらが山賊討伐で砦を半壊、隕石が落ちたように地面にも大穴空けたとか聞いたがエスデスの仕業か?」

 

タツ「ああ、そうだ。『なにかあったら全部あいつがやっと事にしよう・・・くくく』

 

 

(現在)

 

エス「ダーリン、ひどいぞ」

 

タツ「うるさい、話の腰折るな」

 

 

 

マイ「本当に厄介な相手ね、帝具の底もしれないし」

 

アカ「・・・エスデスは私が葬る、例え帝国最強であろうと弱点がある・・・生きている限り心臓がある、と言う事だ」

 

マイ「言うじゃない?有言実行しなさいよ」

 

ラバ「流石俺達の切り札」

 

レオ「ま、確かに作戦次第じゃなんとかいけるかな、村雨で一かすりすりゃ良いんだから」

 

タツ「・・・おお、格好良い・・・けどあいつ冷血女だから心臓じゃなくきっとそこにあるのは氷臓だろ、ああやっぱ無理無理」

 

アカ「・・・・ぷっ・・・」

 

マイ「久々にあんたの下らない冗談聞いたわね」

 

ラバ「お前、シリアスな雰囲気に水差すなよ」

 

タツ「お前だけには言われたくねえ」

 

 

その晩、タツミの生還をネタにして夜通し騒ぎ皆がそれぞれ眠りにつく。

 

だがナイトレイドアジトから走る一つの影。

 

 

 

タツ『・・・・・・ラバの馬鹿め、お前の糸はお見通しなんだよ。だからナジェンダの裸も見れないんだ』

 



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不信感を斬る

宮殿の朝

 

オネスト「エスデス将軍が行き方知れず・・・ですか?」

 

皇帝「それは本当か?ラン?」

 

ラン「はっ!申し訳ありません」

 

オネ「うぬぬ・・・、何故将軍は現場を離れたのです?」

 

ラン「エスデス隊長は難敵、ナイトレイドのブラートを追いかけそのまま交戦し追撃した模様です」

 

オネ「・・・まったく・・・、深い入りなどでせずに退けば良いものを・・・闘い好きのあの将軍らしい・・・しかし今まで余り無かった事ですがねえ・・・」

 

ラン「・・・隊長は連絡を伝書鳩で私宛に送ると言われました」

 

オネ「はぁ・・・まあ良いでしょう。将軍には賊狩りもほどほどに、なるべく早く帝都に戻るように伝えて下さい」

 

皇帝「・・・大臣・・・」

 

オネ「ご安心を陛下。エスデス将軍は常勝不敗の方、必ず直ぐにでも戻って参りますよ」

 

ラン「では失礼致します」

 

 

 

 

誰も居ない通路、朝日が照らす。

そしてそこに

 

ラン「おや?タツミ君」

 

タツ「おや?ランさん」

 

ラン「・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

ラン「・・・礼を言いますよ。こんなに早くあの下衆な大臣に近付けて」

 

タツ「・・・なんの事でしょうかね?」

 

ラン「・・・フッ・・・、私はある地方で教師をしていたんです。そこで子供達が皆殺しにあった」

 

タツ「・・・・」

 

ラン「聞こえは良いですが仇討ちの為に、その相手を探し・・・それとこの国の腐敗を正そうと帝都に来たんです。・・・私のその田舎では其の事件をもみ消しましたからね

 

 

タツ「・・・・そうだったんですか」

 

ラン「取引という訳ではありませんが、どうですか、君も話してくれませんか?」

 

タツ「・・・良いでしょう。何から話せば良いですか?」

 

ラン「隊長は・・・いやエスデスは今どこに?」

 

タツ「あいつなら俺が軟禁している・・・もっともある家に住まわせてて行動自由にさせているが帝都に絶対来るなと厳命している。もし来たら・・・或いは判ったらその場

 

で斬ると」

 

ラン『あのエスデスを・・・?やはり闘技場での力量は見間違いでは無かったか・・・恐ろしい男だ・・・』 では君の目的はなんです?」

 

タツ「ランさんと大体同じですよ・・・ただ、帝具は後で戻して貰いたんですよね」

 

ラン「何故です」

 

タツ「私は東のとある小国から来ましてね。実はこの国からも内戦を納めるのに手を貸してほしいと使者が来たんですが、我が国は他国の戦乱に干渉してはならない・・・た

 

だ、こちらもこの国の帝具は脅威に感じてましてね。・・・我が国から流出してしまった技術も帝具にはあります。それでこの国が良い方に代わるのと帝具破壊の条件で私が

 

来ました」

 

ラン「君は革命軍とも通じているのですか?」

 

タツ「・・・・・・」

 

ラン「・・・まあ良いでしょうそれは。つまり、君はその国からの隠密特使と言う訳ですか?」

 

タツ「難しい表現をご存知ですね、そう解釈して頂いて結構です」

 

ラン「ドクターの旅立ちやセリューさんの辞退にも君が一枚噛んでませんか?」

 

タツ「・・・・・・・」

 

ラン「・・・・やはり、あのエスデスをいなす程の実力、その狡猾さ、やはり君は敵に回したくない」

 

タツ「こちらこそ、貴方のような理解者・・・或いは志を同じくする人を敵に回したくは無いですね」

 

ラン「志を・・・?ふふふ、そうかもしれませんね、良いでしょう。貴方の背後に革命軍があるかもしれませんがどうやら君自身は信用できそうだ。共同戦線と行きますか」

 

タツ「どうぞ、これからも宜しく」

 

ラン「こちらこそ」

 

二人は拳を突き合わせる。

 

 

タツ「それでランさん、早速なんですがお願いが」

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

ナジ「やあ、皆、留守中何も無かったか?」

 

アカ「ああ、大丈夫だ」

 

ラバ「問題無いですよ、俺が作戦“ぜんぶタツミにせきにんおしつける”でいきましたから」

 

レオ「そうそうタツミが家出してしばらくして帰って来た事以外はなあー」

 

ナジ「ん?そのタツミがいないがどうした?」

 

 

タツ「ぜーぜーはーはー『あー帝都とアジトの往復は流石にきつい、今度から危険種でも使うか・・・・』お、おはよう・・・・・」

 

ナジ「・・・どうしたんだお前、朝から特訓か?」

 

タツ「そ、そんな所だ・・・み、みず」バタッ

 

マイ「はいこれ」

 

タツ「そ、そんなベタなギャグはいらない」

 

マイ「あんたこういうの好きでしょ」

 

 

 

アカメから報告を受けるナジェンダ

 

ナジ「あはは、そうかそうか、家出先が特殊警察イェーガーズとはある意味一番怖い所に家出したものだなタツミ?」

 

タツ「あーもう二度とあんな所行きたく無いですよ」

 

ナジ「そりゃそうだろうな。よりにもよって敵の本拠地にな」

 

チェ「あはは、面白いねタツミって」

 

マイ「そうそう、ボス、後ろの人達だれ?」

 

ナジ「ああすまん、紹介が遅れたな。本部から即戦力になる人材を連れてきた。チェルシーと生物型帝具スサノオだ、みんな宜しく頼むぞ」

 

チェ「どうも、こんにちは!」ニコッ

 

レオ「あいよ」

 

アカ「宜しく」

 

マイ「ま、あたしの足引っ張るんじゃないわよ」

 

スサ「・・・・・・・」

 

ラバ「あ?なんだよ何、俺睨んでんだよ?」

 

スサ「パンツのチャックが空いている。気になるから閉めろ」

 

ナジ「・・・とまあ、スサノオは元々主に使える帝具でな、相手の細かい変化を見逃さないように特化していて且つ几帳面なんだ。」

 

女性陣は失笑している。

 

ラバ「ナ、ジェーンダさん!!こういうデリケートな問題は皆の前ではっきり言わないきめ細やかさも大事だと教えてやって下さい!!!」

 

タツ「ふぐぐぐぐぐぐぐくくく・・・、ラバ、お前本当はオイシイと思っているんだろ」

 

ラバ「タツミてめぇぶっ殺すぞ!」

 

タツ「殺し屋だけに洒落にならない・・・ふぐくくく」

 

ギャーギャーワーワー



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甘さを斬る

その後、1ヶ月程メンバーは体力温存や鍛錬をしていた。

(その間、タツミはエスデス、ナイトレイド、イェーガーズの間を疲労困憊の体で行き来していた)

 

 

 

ナジ「チェルシーどうだ?ナイトレイドの皆を一ケ月見て?」

 

チェ「・・・うん、強いね、あたしが昔いたチームよりも」

 

タツ「・・・・・」

 

チェ「・・・でも強いからって生き残れる訳じゃない。ボスの報告書(後で証拠隠滅の為破棄されている)を読ませて貰ったけどブラートとシェーレの殉職・・・人間としては好感持てるけど殺し屋としては失格だね・・・皆もその甘さを捨てないと次の殉職者になっちゃうよ」

 

そう言い捨てて立ち去る。

 

マイ「あいつ・・・むかつく」

 

タツ「・・・・『言っている事は確かにそうだな』

 

ナジ「相変わらずズバズバものを言うなあ」

 

 

一人アジト裏で夕暮れを見つめるチェルシー

 

タツ「沈む夕日見つめ貴方を偲ぶ、あかね色の雲に貴方だけ見える、貴方だけがってな」

 

チェ「・・・!・・・タツミ・・・気付かなかった、・・・凄いね」

 

タツ「ん?」

 

チェ「・・・前から聞こうと思ってたんだけど貴方は皆と同じナイトレイドなの?」

 

タツ「あー俺はひょんな事であいつらの殺しの現場を見ちまって、口封じに殺される代わりに小間使いとして置いてやるってなったんだ」

 

チェ「あーなるほど、なんかあんたからは血の匂いが感じないから『ただ・・・得体の知れなさは感じるけどもね』

 

タツ「だから俺は皆のアシストや見張り・・・或いは雑用しかしてないんだ。でも酷いよな、別に俺はただその現場見ただけなのに殺されそうになったってな」

 

チェ「ふふふ、仕方ないじゃない。だって見られたんだから」

 

タツ「けどよ、帝国が公開処刑したって別にお咎めは誰からも受けないのに、ナイトレイドの殺しは見られちゃいけないなんて本来変な理屈だよな」

 

チェ「・・・・・・・『タツミ、本当は・・・?』

 

タツ「まあ良いやとりあえずそれは・・俺はこんな事話に来たんじゃない」

 

チェ「なに?」

 

タツ「あんた優しいなあと思ってさ」

 

チェ「どういう事?」

 

タツ「皆の前での憎まれ口は注意を促す為にわざとだったんだろ」

 

チェ「・・・買被り過ぎだよ」

 

タツ「そうかい」

 

チェ「・・・タツミも本当は猫被って無い?」

 

タツ「なんの事かな・・・?大体本当に猫被っている人間に聞いたって素直に応えるか?」

 

チェ「あはは、そうだね、あたしもドジだね・・・でもそれはお互い様」

 

タツ「ははは」

 

チェ「・・・タツミ、もしもあたしに何かあった時はあとの事はお願いね」

 

タツ「いー?俺はただの小間使いだぞ」

 

チェ「ふふふ、じゃあね、ありがとう」

 

タツ「・・・・・・」

 

夕日を見ながら呟く

 

タツ「表の法では裁けない悪を葬る闇の殺し屋達も顔を見られたら殺さなくてはならない、それが闇の正義の限界だ」

 

 

 

 

 




タツミが話し途中で語る沈む夕日を見つめ~は新・必殺仕置人の主題歌あかね雲です。ご興味ある方は検索されて下さい。


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因縁を斬る

この間、マインは修行しながら独自にセリューを追跡していた。

 

そして・・・、ナイトレイドとしての仕事の依頼が帝都民から入り、仕事の下調べをし終え帰り際・・・。

 

マイ「あーやだやだ、こんな森ばっかな所。・・・ん?」

 

 

山小屋の前に一人の女性と犬らしき動物が焚き火で話をしている。

 

セリ「はい、コロ魚焼けたよ」

 

コロ「・・・きゅいきゅいきゅい!」

 

セリ「え?この間まで見たく死刑囚でもなんでも良いからたまに人間を食べたい?駄目よ、コロ!」

 

コロ「いいい!」

 

セリ「何故って・・・駄目なものは駄目よ!」

 

コロ「きゅきゅきゅい!」

 

セリ「人間は結構色んな生物食べているから、一人でもいなくなればそれだけ、多くの生物も助かるって?・・・コロ、なんか良い事言ってるけど本当はただ食べたいからそんな事言うでしょう!あんまり我がまま言うと閉じ込めるよ!」

 

コロ「きゅいー・・・」

 

セリ「なんで人間は駄目で他の生き物は食べても良いかって?・・・同じ人間は食べない方が良いに決まっている・・・て、あいつなら言うわ。なんとなくだけど」

 

コロ「・・・きゅきゅきゅい」

 

セリ「自分は帝具だから人間じゃない。だから、共食いにならないからOK!だって?・・・あんたも人間から作られたのよ」

 

コロ「・・・・・・」

 

セリ「とにかく、もう二度と人間食べちゃ駄目、でなけりゃあいつがコロ、あんたをどんな目に遭わすか・・・」

 

コロ「・・・・・・」

 

 

 

マイ『・・・・、ふ、ふふふ、とうとう見付けたわ。シェーレの仇、セリューユビキタス!絶対に仕留める!』

 

 

そのマインをタツミは離れた位置で木に隠れて、手裏剣片手にマインの様子を窺う。

 

マイ「・・・・・・」

 

彼女の銃型帝具パンプキンの引き金に指の力を入れる。

 

タツ「・・・・・・・」

 

タツミはいつでも手裏剣を放つ体勢でいる。

 

 

セリューは食事を終え、本を読んでいる。

 

セリ「ふ~む、アクニンショウキ説か、悪こそ救われる・・・?どういう意味だろ?」

 

コロ「・・・・・・?」

 

 

マイ「・・・・・・はぁ・・・、シェーレもこんな方法での仇討ちは喜ばないわよね、きっと。せめて遺言くらいは聞いてやるか、・・・あたしも甘いわね」

 

 

タツ「・・・・・・」

 

手裏剣を納めるタツミ。

 

 

 

セリ「ふむふむ・・・・ん!!」

 

コロ「!!!」

 

 

マイ「久しぶりね、セリューユビキタス・・・」

 

セリ「あ、あんたは・・・ナイトレイドの一味・・・、よくここが判ったわね」

 

マイ「あたしの仲間を殺したあんたへの憎しみ、片時も忘れた事が無かったわ、覚悟しなさい!!」

 

コロ「グルルルルル!!」

 

セリ「・・・・・タツミ『自分の死に時は自分で決める』・・・『とうとうその時が来たって事かな、タツミ』・・・死ぬ前に一つ聞かせてくれない?」

 

マイ「・・・・?・・・あんた・・・以前に戦った時と比べて随分しおらしくなったじゃない?『これは、油断を誘う為の作戦?』

 

セリ「あんた達ナイトレイドは、帝都の治安を乱す、金を貰って人殺しをする殺人集団じゃない?」

 

マイ「・・・帝都の治安ってなに?私腹肥やす大臣やその配下の奴らが安全に暮らせるのが治安って言うの?市民は重税や圧政で苦しんでいるのに・・・」

 

セリ「私達、警備隊は反乱軍なんて革命軍とか聞こえの良い呼び方もされるが、国に仇なす犯罪者集団と教えられたわ、ナイトレイドも」

 

マイ「・・・・・・」

 

セリ「あんた達は国に反逆してまで、見つかったら処刑されるかもしれないのに国に反旗を翻すの?」

 

マイ「・・・私はね、今のこの国が大嫌いなのよ!!もともと私は西の異民族とのハーフで・・・そりゃもう酷い差別を受けたわ。あんたなんかに判るもんか!人ってね、自分と毛色の違う奴には・・・弱い奴には、もしくは集団から外れている奴には攻撃して排除しようとするのよ。今の帝国の西の領土はもともとその異民族のものだったのよ。この革命が成功したら、その土地は彼らに返還・・・そしたら、双方の交流が盛んになって私みたいなハーフで苦しむ人間を減らせるわ!」

 

セリ「・・・・!」

 

マイ「あんたが信じる国ってなによ?あんたが信じる正義ってなによ?」

 

セリ「・・・今まで私は自分の行動を振り返るなんて事無かった・・・、人から受けた優しさもそのまま信じてた。けどある人間に会ってから私も考えるようになった。今の目の前にある現実は本当に見える通りなのかって・・・、目に見えない何かがあるんじゃないかって」

 

マイ「ふ~ん、少しは言うようになったじゃない・・・」

 

セリ「確かにあたしも任務で何人か殺してきた・・・けど、殺す事自体が悪じゃないかって・・・そう思うとあんたがいくら人の為って言ったって、殺している事には代わりは無いじゃない!」

 

マイ「・・・確かにあんたの言う通りよ。でもね、あたしは自分が正義だと思って無いわ。・・・そう正義じゃない・・けどね、一人の許せない奴の為に他の十人の良い人が苦しむ姿を黙って見過ごせないわ。・・・人ってね、話して判る奴と判らない奴がいるのよ。・・・権力とか身分で分けられたら尚の事、下の者の意見なんて耳に入らないわ。あんた・・・あたし達と闘った時、こちらの言い分聞く気あった?」

 

セリ「・・・・うっ・・・けど、こんな私でも変われた。だからもう・・・」

 

マイ「甘いわね、今言った通り、身分も権力も無くして対等に話せる・・・或いはいつでも対等な立場になれる環境にでもならない限り、話合いにはならないわ・・・人ってね、自分がその立場にならないと判らない事もあるのよ・・・だからその立場に・・・虐げられる立場に一生立たないと保証される所に居たら相手の意見なんか聞かないわ・・・あたし達革命軍がいるのも帝国が耳を貸さないからよ・・・だから元将軍が革命軍にもいるのよ、この事実判る?」

 

セリ「・・・・・・・そういう事・・・、けどそれって他人のせいにしてない?自分が変われば帝国だって自然に変わるんじゃあ」

 

マイ「そう思うならあんた帝国を内部から変えてよ、・・・でもね、悪いけどあんたにそれは出来ないわ!」

 

セリ「今は無理でもいつか必ず!」

 

マイ「違うわ、あんたには今ここで死んで貰うわ・・・、例えあんたが改心しても、いえ改心したフリかもね、どっちにしても仲間の仇をここで討たせて貰うわ。」

 

コロ「ガルルルルルル!!!!」

 

コロは巨大化し戦闘態勢に入る。

 

セリ「コロ!やめて!」

 

コロ「・・・・・・?」

 

セリ「・・・判ったわ。確かに私の言った事を信じろと言っても無理かもね。それに私も・・・ひょっとしたら無実だったかもしれない人を殺したかも・・・そういえば、あんた達、「すみません」とか「正体がばれた以上、来て貰うか・・・」とか言ってたなあ、それを聞いた時は賊の戯言だと気にとめなかった、けどひょっとして本当は話し合う余地が・・・もっとよくあんた達の事調べてたら別の行動も取れてたかもね・・・けど、どのみちあの時の私の立場なら良くてあんたら生かして捕縛だけどね」

 

マイ「・・・・・・」

 

セリ「・・・・・・」

 

マイ「・・・私達も殺し屋、いつか報いを受ける日が来ると覚悟してる、けどね死んだ者を・・・相手を必要以上に辱しめてきた事はないわ。あんたの帝具のその犬はシェーレを食べ殺した・・・綺麗な死に方じゃないわ・・・あたしはそれも許せないのよ」

 

セリ「・・・あたし達だって他の動物を焼いたり煮たり、人間に置き換えたら酷い方法で殺しているじゃない?それと何が違うの!そういう意味ではあんた権力で胡坐を掻いている奴らは下の者の気持ちが判らないと言ってたけど、人間とモノを言わない動物も似たものかもね」

 

マイ「・・・ええそうね、私もこれから行動を改めるわ。けどねとりあえずあたしとあんたは同じ人間同士、シェーレへの行動は許しておけないわ」

 

セリ「・・・・・・私も納得してすっきりしたわ」

 

マインはパンプキンの引き金に指を当てる。

 

セリ「・・・最期にお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

マイ「・・・良いわ、言いなさい・・・」

 

セリ「このヘカトンケイル・・・コロを引き取ってくれる?」

 

コロ「・・・・・!」

 

マイ「その帝具を?・・・そいつも仇だから・・・核ごと破壊するわ」

 

セリ「お願い!コロは帝具だから私に命令されただけ、使う人間が違えばコロも変わるわ」

 

コロ「・・・・きゅ・・・・・い・・・」

 

マイ「・・・約束はしないわ、けど話だけは聞いたわ・・・」

 

セリ「・・・ありがとう。コロ・・・元気でね、私がなしえなかった正義、叶えてね・・・」

 

コロ「・・・・・きゅいきゅい」

 

首を横にふり、必死にセリューに縋るコロ。

 

セリ「コロ、あんたは帝具だから人間よりも長生きするの、お願い、いつか必ず本当の意味での正義の役にたって、・・・良いから言う事聞きなさい・・コロ!!」

 

マイ「・・・・・くっ・・・」

 

マインの照準がぶれる。

 

セリ「・・・なにやってんのよあんた!はやく!はやく撃ってぇぇぇぇぇええええ!!!!」

 

必死にセリューに縋りつくコロ。

 

マイ「・・・・・、・・・・・・」

 

セリ「コロ・・・・コロ・・・・・コロォォォォ・・・・」

 

 

涙を流しながらマインに背を向けて・・・せめてマインの銃撃から少しでもコロを庇うようにうずくまるセリュー。

 

 

 

マイ「・・・・・はぁ・・・・・馬鹿じゃないの・・・下らない三文芝居・・・興醒めだわ・・・、今日の所は見逃してやるわ。けど次会った時は必ず殺すから、いつまでも怯えて暮らしなさい・・」

 

セリ「・・・・・・・・」

 

コロ「・・・・・・・・」

 

 

 

マインはそう言い捨てて、森の闇へと走り去っていく。

 

 

セリ「・・・・・・コロ・・・コロ・・・うわぁああああああああ」

 

コロ「きゅーーーーーーいーーーーー!」

 

一人と一匹は互いを抱き締めながらいつまでも泣いていた。

 

 

 

タツ「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

 

ラバ「よぉ、マインちゃん遅かったな、仕事の下調べは終わったのか・・・、・・・どうした?」

 

マイ「・・・、なんでもないわよ・・・いや、なんでもあったわ・・・」

 

ラバ「・・・・・・」

 

マイ「シェーレの仇は討ったわ・・・」

 

ラバ「・・・!セリューを仕留めたのか・・・、けど一人で仕掛けたのか、危ねえな。まあ、マインちゃんなら大丈夫か。単独行動は控えてくれよ」

 

マイ「ごめん・・・・・」

 

ラバ「・・・・・んん、ああ、まあ、なんだ、みんなには俺から上手い事伝えておくわ。じゃあ今日はもう疲れたろ、お休み」

 

 

 

シェーレの墓の前、月明かりに照らされている。

 

 

マイ「・・・・・・・・、シェーレ、これで良かったのかな?あたしの行動間違って無かったのかな?・・・良いよねこれで、良かったよねこれで?うう・・・うわああああああああああああ!!!!」

 

タツミはそんな彼女の姿を見届け去っていく。

 

 

 

 

 

(現在)

 

エス「・・・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

エス「・・・・・・・・」

 

タツ「一旦これで話は中断だ、少し休むぞ。・・・どうした?」

 

エス「・・・ダーリン!!」

 

有無を言わさずエスデスはタツミを後から抱き締め、顔を寄せる。

 

タツ「な、な?どうした一体?」

 

何も答えずそのまま抱き締め続けるエスデス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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あんたこの無法をどう思う

サブタイトルのあんた~でピンと来た方は必殺仕業人をご存知の方ですw或いはあんたあの子のなんなのさ~

お気に入りに登録して頂いた方、誠に有難うございます。執筆のエネルギーとなります。


※下記のものは回想であり過去の出来事です。

 

 

エスデスを住まわせている家に出向くタツミ。

 

 

タツ「よぉ!」

 

エス「タツミ、帰って来たか?ナイトレイドやイェーガーズに行ったり来たりで一体、タツミは何を考えているんだ?」

 

タツ「そろそろ、あんたにも働いて貰うか・・・」

 

エス「帝都に戻って良いのか?」

 

タツ「ああ、だが俺の言う通りに動いて貰うぞ。」

 

 

 

 

宮殿

 

皇帝と大臣オネストに報告するラン。

 

皇帝「おお!エスデスが戻ったか!?」

 

オネ「本当に、・・・死んだかと思い私も痩せてしまいましたよ」

 

ラン「はっ!明日帰還されるとの事です」

 

皇帝「これで帝都の治安も安心出来るな」

 

オネ「それで・・・賊のブラートは仕留めたのですかな?」

 

ラン「はい、首級を持って帰参しようとしましたが、相手も自爆したらしく遺憾ながら・・・」

 

 

 

 

市民を圧政で苦しめ、一人悦に入っている財政官ゲバゼ宅

 

ゲバ「家畜共め・・・くくく、搾取されるだけの能無しの豚共め。市民共の税金で飲む酒は美味いのう。来月はもっと増税するか・・・くくく」

 

チェ「旦那様、マッサージのお時間ですよ。」

 

ゲバ「おー!今日は爽やかファイト一発コースじゃ!」

 

使用人に化けたチェルシーが口から仕掛け針を出し、油断しているゲバゼの心臓に突き刺す。・・・的確に刺し、数秒呻いた後、ゲバゼは息絶える。

 

チェ「仕事完了。しかしそのコース、おかしなネーミング・・・」

 

 

 

1階から戸を開ける音がする。

 

タツ「はいはい、ちょっと通して貰うよ。」

 

チェ『この声は・・・!?』

 

ウェ「イェーガーズだ!この家にナイトレイドが現れるという情報が入った。緊急案件に付き中に入る!」

 

2階へ赴く3人。

 

クロ「ウェイブ・・・」

 

ウェ「・・・遅かったか・・・」

 

タツ「・・・ああ、こりゃ心の臓の発作だな・・・」

 

クロ「・・・・?」

 

タツミの判断に顔を顰めるクロメ

 

ウェ「胸に血の跡がある。こいつは何か細いもので刺されたものだろ?」

 

タツ「つまり、ナイトレイドという殺し屋がやったと?」

 

ウェ「そうに決まっているだろ!」

 

タツ「ひょっとしたらナイトレイドを騙る別の奴かもしれねえし、表向きこいつの身内に対する世間の風評も考えりゃ、自然死で良いんじゃねえか?」

 

ウェ「だがお前・・・」

 

タツ「ウェイブ、こいつのやってきた事調べたか?」

 

ウェ「そ、そりゃ俺だって判っているが、やっぱよ真実を明かした方が・・・」

 

タツ「お前誰の為に治安守ろうとしているんだ?国民か?それともこんな汚れた権力者の為か?大体、こういう奴はナイトレイドの標的になりそうだから罠はったんだよな?こいつのせいで何人の人間が首を括ったか知ってるか?俺にとっちゃこんな奴が死のうがどうでも良い事だ」

 

ウェ「くっ・・・」

 

タツ「まぁ、俺はやる気ねえからやるならあんたらでやってくれ・・・」

 

何度か逡巡した後、ウェイブは、

 

ウェ「・・・クロメ、処理班に後は任せてここはもう引き上げるぞ。」

 

クロ「・・・判った」

 

タツミは去り際、飼い猫の一匹に目を走らせる。

 

タツ「・・・・ふっ・・・」

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

 

チェ「-って訳で罠だったって話。危なかったー」

 

マイ「その状況で無事とかアンタしぶといわね~」

 

チェ「飼い猫が2,3匹いて化けて混じってやり過ごしたのよ」

 

マイ「アタシじゃ切り抜けるのわ難しいそうだわ・・・」

 

チェ『あそこに居たのはタツミ・・・?どうして?』

 

アカ「どうやらイェーガーズは私達に的を絞って来ているようだな」

 

 

タツ「よっ!只今、はぁ・・・これアカメの漫画的骨付き肉とマインの髪留めと後他は・・・」

 

レオ「お、タツミ!あたしの芋焼酎は?」

 

タツ「あ、忘れた、いけね!」

 

ナジェ「タツミ、私のワイルドセブンは?」

 

タツ「ボスは禁煙して下さい。その綺麗な肌が台無しになってしまいますよ」

 

レオ「がーーーーー!あたしの酒ー!」

 

ナジェ「ふぐぐぐぐぬぬぬぬぬ・・・・ワイルドセブンが私を呼んでいるーーー!」

 

ラバ『ナジェンダさん・・・・』

 

複雑な表情で見つめるラバック。

 

タツ『ここには呑んだくれとニコ中と四次元胃袋しかおらんのか?』

 

ギャーギャーと、ナジェンダとレオーネはタツミにからむ。

 

チェ「・・・・・・」

 

 

 

 

アジト外に呼び出すチェルシー。

 

タツ「俺になんか用か?おお、もしかして告白か?」

 

チェ「・・・・、どうして“あそこ”に居たの?」

 

タツ「・・・・・、特殊警察にか?」

 

チェ「ええ」

 

タツ「どうやら皆には言わないでいてくれたようだな?何故言わなかった?」

 

チェ「訳を聞きたかったの、裏切ったのか、それとも表切っているだけなのか」

 

タツ「裏切っているとしたら?」

 

チェ「あの時、タツミは私の変装を見抜いていて見逃したわ・・・だから自然と何か訳があってイェーガーズに居ると判断したわ」

 

タツ「有難う、理解が早くて助かる」

 

チェ「でも他のメンバーにそのまま話したら疑うわ。二足わらじなんてね」

 

タツ「俺には俺の目的がある・・・それは誰の邪魔はさせん」

 

チェ「そう・・・、この事はとりあえずあたしの胸の内にしまっといて上げる」

 

タツ「・・・そりゃどうも、・・・何が望みだ?」

 

チェ「ふふふ、困った時には必ず助けに来て?それが条件!」

 

タツ「俺はスーパーマンや白馬の王子様じゃないぞ」

 

 

 

 

 

馬寅劇場にて

 

タツ「おい、この芝居は帝国への批判じゃないのか?え?帝国警察の目節穴だと思っているじゃ無いだろうな?」

 

興行主「いえいえとんでもない、よくご覧下さい、私どもはただお客様に楽しんで頂く事を目的にした・・・」彼はそっと金貨数枚をタツミの手に握らせる。

 

タツ「おっと、どうやら俺の勘違いみたいだな。あんまり勘違いされるような演目にするなよ?」

 

興行主「お役目ご苦労様に存じます」

 

 

タツミが劇場から去ろうとした時に、

 

ウェ「おい!」

 

ウェイブはタツミの手を掴む。

 

タツ「・・・お?どうした」

 

ウェ「お前何、袖の下取ってるんだ!イェーガーズとして恥ずかしくねえのか?」

 

タツ「・・・へぇ・・じゃ、あいつらそのまま逮捕すりゃ良かったのか?」

 

ウェ「・・・、帝国批判しているからって、別に逮捕する事はねえけどよ・・・」

 

タツ「あのな、あんた田舎からここに来て余り日も経ってねえから判らねえだろうが、帝国批判しているような言論、書物は弾圧されているんだ・・・そんな中でも帝国批判しているようなしてないようなどちらでも取れるようなギリギリであいつらは闘っているんだ」

 

ウェ「・・・・・・」

 

タツ「お前のあのバカデ・・・エスデスが一枚噛んでいる拷問広場知らないのか?」

 

ウェ「・・・そこは俺だって知ってるさ・・・けど隊長も!?」

 

タツ「あそこにはなあ、ちょっと帝国批判したような奴も送られているんだ」

 

ウェ「・・・・・・帝国が腐敗していると薄々判ってたが、そこまでかよ・・・」

 

タツ「エスデスは部下には優しい面もあるが、オネスト・・・あの大臣に歯向かう奴には二人の利害の一致で弾圧してるんだ」

 

ウェ「あの隊長が・・・?嘘だろ?」

 

タツ「信じるか信じないかはあんたの勝手だ」

 

ウェ「・・・・・・」

 

タツ「ああそれと、そういう事があるから俺ら警察がとりあえずあいつらを検閲した事にすりゃ、他から何も言われんで済むだろ?」

 

ウェ「そうか、それでお前・・・ん?けどよ、別に袖の下貰う事も無いよな?」

 

タツ「俺だって見逃すのに多少危ない橋渡ってるんだ、これでも少ないくらいだ・・・」

 

ウェ「・・・・・・・チッ・・・!・・・俺はここに来た時、栄転だと田舎の親達も喜んでくれた・・・」

 

タツ「・・・・・」

 

ウェ「・・・田舎は良かった、人間と危険種・・・守るべき者と倒すべき者がきっちり分かれてて俺は港の皆を守ってりゃそれで良かった・・・」

 

タツ「ここに来たら、倒すべきは危険種だけじゃ無くなった訳か・・・」

 

ウェ「だけどよ、それでも俺には恩人に報いる為に・・・その人は国の為になってくれりゃそれで良いと言ってくれた、だから俺はこの国の為に頑張りてぇんだ」

 

タツ「・・・、その恩人は国の民の為に働けと言ったのか?それとも悪政を守る為に働けと言ったのか?」

 

ウェ「・・・・・・・」

 

タツ「まあ・・・、なんだ。こういうややこしい問題は直ぐに答えは出無いだろ・・・とりあえず俺はまた見廻りに行ってくる、じゃあな」

 

ウェ「待て・・・俺も行く・・・」

 

タツ「来るのは良いが・・・、あんたが嫌う袖の下取りにも行くんだぞ俺は」

 

ウェ「・・・・・・、・・・俺もとにかく着いて行く」

 

タツ「・・・・・・」

 

 

 

 

夜、居酒屋

 

ウェ「俺だってな・・ヒクッ・・・こんな帝都だとは思って無かったんだ・・・」

 

タツ「ああああ、そうだな」

 

ウェ「田舎のかぁーちゃんがな、都会でも立派に頑張れってな、他の港の人達も俺がここに来る時に送迎会を開いてくれたんだ・・」

 

タツミは無言で空になったウェイブのコップに酒を注ぐ。

 

ウェ「ゴクゴク、・・・はぁーー俺だってなこんな帝都の為に働くのもどうかと思うだ・・・だけどな、田舎の皆の為にも・・・うぐぐぐ・・・」

 

むせび泣くウェイブ。

 

タツ「・・・・・」

 

居酒屋主「お客さん・・・そろそろ悪いんだけど・・・」

 

タツ「ああ、ごめんごめん。ほらウェイブさん行くぞ・・・」

 

ウェ「ちきしょう・・・、こんな仕事やってられっかーばかやろーーー・・・」

 

タツミは酔いどれのウェイブを担いで店を後にする。

 

ウェ「・・・・・ひっく・・・かあーちゃん、とうちゃーん、みんな・・・ZZZzzzzzz・・・」

 

タツ「・・・全く世話の掛る同僚だ・・・、・・・幸せな生活してた、正義を正義と信じられて理想に燃えてた男にとってはここの現状は苦しいだろうな」

 

 

 

翌朝

 

 

イェーガーズが集まる。

 

エス「皆、私が居ない間、帝都治安に当たりご苦労だった・・・」

 

ラン「隊長、無事の御帰還なによりです!」

 

ボル・ウェ「ご無事でなによりです!」

 

クロ「うん良かった」

 

タツ「心配で夜も中々寝れませんでしたよ(万一無断で帝都に来ないかでな)」

 

エス「・・・・・」

 

ウェ「頭いてー・・・なぁタツミ、俺昨日呑んだ後の記憶が無いんだか、どうだった?」(小声)

 

タツ「ん?ああ・・・、往来で裸踊りをして婦女子が逃げてって、危うく他の警察に捕まる所だったぞ」(小声)

 

エス「メンバーがセリュー、ドクターがいなくなったのは残念だが・・・む!?」

 

ウェ「ええ!?マジで?」

 

タツ「ああ、マジで・・だからお前は酒呑むのもうやめろ」

 

エス「こら!お前ら、何をそこで話をしている!!罰として宮殿外で立ってろ!」

 

タツ「はーーい、先生・・・」

 

ウェ「げっ!!『でもまあ、ソフト拷問に比べればまだマシか』

 

 

 

 

 

 

宮殿外でウェイブは別の場所で、タツミも一人門番の代わりをしている。

 

タツ「えーこういう立ち仕事で同じ姿勢でずーっといると、足の血流が悪くなって早死にしやすくなる。だからこういう仕事でも足を組みかえるなりして、少し動いて血流を良くするように・・・で良かったよなアケ子先生?」

 

物陰から姿を現すエスデス。

 

エス「・・・気付いていたか・・・はぁ・・誰だアケコとは?」

 

タツ「お前に似て、美人で聡明で美声で偉大なる人物だ!(馬寅劇場に居た似た声の奴だったが人格はよう知らん)」

 

エス「・・・!・・・はぁ・・・私とてからかわれている事くらい判るぞ。・・・それでタツミが望むように二人で密談出来る状況を作った訳だが次はどうする?」

 

タツ「・・・そうだな・・ナイトレイドと一戦交えてみるか」

 

エス「・・・ほぉ・・・」(ニヤリ)

 

タツ「ところでお前ってさ、タバコも酒もやらんだろ?」

 

エス「ん?そうだな、酒はたまに飲むぐらいだな。」

 

タツ「趣味以外は割と真面目な生活しているよな、金有っても散財したり博打する訳でもないよなエスデスは」

 

エス「どうしたんだ急に///」

 

タツ「はぁーそれに比べナイトの連中は、酒、タバコの匂いが充満するわ。呑めないと言っても無理矢理勧めてくるわで・・・まぁ俺も男臭いとマインに叱られるがな。たまにあいつらにお灸を据えるのも面白いな」

 

エス「・・・ナイトレイドにはナジェンダを初め女の賊が多いな・・・」

 

タツ「何故か知らんがそうだな・・・」

 

エス「ふふふ、タツミのお墨付きだ・・・暴れさせて貰うぞ!」

 

タツ「いやお前は駄目だ!!」

 



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出不精男を斬る

ナイトレイドアジト

 

 

 

ナジェ「今回の案件は安寧道という広く民衆に信仰されている宗教だ」

 

チェ「善行の積み重ねが幸せや長寿に繋がるってアレね」

 

タツ「・・・信者と書いて繋げて読むと“儲かる”って言うの知っているか?それとラバックと書いて“チャック全開男”って言うの知っているか?」

 

ラバ「タツミィィィ!!てめえ張っ倒すぞ!」

 

スサ「大丈夫だ、今日は開いていない!」

 

ナジェ「ああ・・・そこ静かにするように・・・全く・・とにかく安寧道はこの10年で信者を増やし帝都の東側で大きな勢力になっている。近々この安寧道が武装蜂起・・・つまり宗教反乱を起こす・・・私達はこれを利用する考えだ」

 

ラバ「タツミ、てめぇのせいで俺のクールキャラが崩壊してるじゃねえか!」(小声)

 

タツ「安心しろ!誰も思ってない!」(小声)「んでどんな風に利用するんで?」

 

ナジェ「革命軍は安寧道の武装蜂起が始まった瞬間、私達と同盟関係にある西の異民族に攻め入って貰う。これで帝国は内外に敵を抱えてしまった状態になる。だがそれでも持ちこたえるだろう。そこで止めとして革命軍が南側で蜂起開始、帝都へ向けて進軍し打倒する」

 

タツ「おお凄いな」

 

ナジェ「帝国は革命軍を舐めているのさ。反乱分子という膿を一点に集めているから有難いとすら思っている。拠点は帝国の辺境、ここから帝都に辿り着くにはいくつもの関や城を突破しなくてはならない。だが私達は既に何人もの城の太守と内応を取りつけてある。中央で真面目にやってた連中が左遷されたケースが多いからな。驚くぞ無血開城で驚異的速度で進軍するのだからな」

 

タツ「流石、(カンコーヒーの)ボス!下手すりゃ太守達と内応取り付けるのも危なかったでしょう。やっぱ対交渉事に置いてボスの右に出る奴はいないな、出来る女は違う!エスデスみたいに闘う事しか頭に無い奴とは違うなあ」

 

マイ「・・・・・・」ムスッとしている

 

ラバ「ぐぎぎぎ」タツミを睨む

 

(現在)エス「・・・・・・」イラッ

 

 

 

ナジェ「ふっ・・・褒めても何も出んぞ『しかし初めに何か変なフレーズが聞こえたような』とにかく、それでも帝国の切り札であるブドーと近衛隊が迎撃してくるだろう。しかし宮殿の警護力は激減する訳だ」

 

アカ「・・・その時こそ大臣暗殺の好機、私達は宮殿に突入し大臣を葬る!帝都を中から切り崩すんだ!」

 

ラバ「・・・だが奴も2重3重に手は考えているだろうから気引き締めねえとな」

 

レオ「どんなに罠を張っても突破して見せる!・・・元凶なんだ。きっちり死んでも貰うさ」

 

タツ「おおー格好良いなあ。俺は家で留守番してるわ」

 

ナジェ「いや、タツミも今回は来て貰うぞ!」

 

タツ「い!?」

 

チェ「・・・・・・」

 

ナジェ「今回は大仕事だ。先に少し話すとイェーガーズとぶつかるだろうからな・・・、奴らを直接見ているのはタツミだ。その時にアシストして貰いたい」

 

タツ「・・・・・」

 

ナジェ「余談だが西の異民族には協力の見返りとして領土返還で話が付いている」

 

タツ「ああ、あれか」

 

マイ「・・・そう、元々帝国の西にある一部の地域は異民族のモノだったのよ。領土奪還が彼らの悲願みたい・・・」

 

タツ「『マインはその異民族とのハーフだったな』・・・いつの時代でも領土争いは終わらないものだな。・・・どうせ帝国側からすりゃ元々俺達の土地だとか言うんだろうな。」

 

スサ「計画が出来ているなら後は実行する・・・だがそれが出来ない問題が今回の仕事に繋がる訳か」

 

タツ「なるほどな」

 

ナジェ「おお、スサノオ、流石私の帝具!その通りだ。全ての鍵を握る安寧道だが・・・内部は揺れているらしい・・・」

 

 

 

安寧道本拠地 虚六

 

多くの信者達が「教主様」と仰ぐ。

 

教主「この世界は今・・・大いなる悲しみに満ちています。皆も飢餓や貧困に苦しんでいる事でしょう・・・しかしこんな時だからこそ心を乱してはいけないのです。善行を積みなさい。それは自分に返ってきます。」

 

信者「で、でも教主様!必死に善行を積んでも・・死んだら、死んだら何にもならないのでは?」

 

教主「もし命を落としてもそれは只の肉体の終わりに過ぎません。魂は死にません。神の国でその者は幸せであるでしょう・・・昨日獣に追われた弟を庇った兄が神の国に旅立ちました。彼はヨアヒムと言います。私はその英雄の名を一生忘れません。彼も神の国で俺は弟を救った男だと胸を張って言えるでしょう」

 

信者「教主様・・・兄貴の名を・・・」

 

信者「教主様はあたしの死んだ旦那の事までよく覚えて下さって・・・勿体無い」

 

教主「ラクルは私の64568人目の同志・・・日焼け姿が逞しい気風の良い漁師でありましたな」

 

信者「はい教主様」

 

教主「名や記憶は残ります。それはある意味、神の国だけでなく現世でも生き続けていると言えるでしょう。死んだら終わりでは無いのです」

 

信者達「「教主様!」」

 

わぁぁぁ!!

 

ナジェ「・・・とまあ、密偵達の報告だ」

 

タツ「因果律の話か、良い話だな。だが俺はあの世はあると思って無いけどな。」

 

ナジェ「ほお、タツミはそう思っているのか?」

 

タツ「あの世が無いと悪さをする可能性があるから地獄を創ったとか言うが、う~む。逆にあの世があると困る思想もあるんだがな」

 

ナジェ「例えば?」

 

タツ「例えば今、苦しんでいるのは前世で惨い行いをしたから、とか。そういう言い方したら体不自由な人が前世で悪人だったから当然だとか、理不尽な差別も出来るだろう?」

 

ナジェ「そうだな、面白い事を考えるなタツミは」

 

タツ「だから“あの世がある”と考えるのも良し悪しだよなあ」

 

ナジェ「タツミは実際どう思っているんだ?」

 

タツ「・・・俺の国に伝わった宗教にシキソクゼクウ、クウソクゼシキという考えがある。意味は・・・俺なりの解釈だが思った事が現実化するというものだ・・・つまり死んで魂消滅を望む者はそうなり、そうでない者はあの世に行くとな・・・」

 

ナジェ「ほぉ・・・タツミ。お前教主になったらどうだ(笑)」

 

ラバ「ナジェンダさん。こいつはただ変な理屈が言えるだけですよ」

 

タツ「教主?俺はあの教主様みたく何人者、人の名前なんて覚えられない。ただでさえ昨日の夕飯何食べたか忘れているのに」

 

マイ「そうよ、そうよ。あんた私の食べかけのパフェ食べたでしょう?返しなさい!」

 

タツ「食べてねえよ!」

 

アカ「そうだ・・・私の食べかけの骨付き肉返して・・・」

 

タツ「お前昨日、数分でたえらげてただろ!」

 

レオ「そうそう、お姉さんの呑んでた酒返してよ」

 

タツ「俺下戸だって!」

 

ナジェ「そうだな、私の吸ってたワイルドセブン、ワンカートンで返すんだ!」(ニコッ)

 

タツ「しまいにゃ本気で怒るぞ!」

 

チェ「あたしが舐めてる飴ちゃん、タツミ貴方こっそり舐めて元あった状態に戻しているでしょう?このヘンタイ!」

 

タツ「俺の全存在に掛けて過去未来現在、どの時間軸に置いてもしとらんわぁぁああ!!!」

 

 

(現在・エス)「そうそう、私が保管していたダーリンのシャツ(3日着用)返してくれ」

 

(現在・タツ)「やかましいわ!!お前に至っては最早食べ物でもなんでも無いだろ!!」

 

 

 

笑っている女性陣。

 

 

タツ『つ・・・疲れた・・・』

 

ラバ「タツミこの野郎、お姉さん達にいじられてオイシイと思っているだろこの野郎!」

 

タツ「思ってねえよ!」

 

ナジェ「ははは、とりあえず話を戻すがその教主は絶大なカリスマを誇るが・・・其の補佐で信任の厚いボリック。こいつが大臣の送り込んだスパイだったんだ。奴の目的は安寧道を掌握し武装蜂起をさせない事。いつか教主を殺して本当の神にしてしまい自分が頂点に立つ気なんだ」

 

タツ「内部に情報を渡して粛清する事は出来ないのか?」

 

ナジェ「ボリック派と言われる連中が大きな権力を握っている。それに帝国が背後にいるからな」

 

チェ「ここら辺が大臣の嫌らしい所だよね。表立って弾圧せず内部を掌握しようってんだから」

 

タツ「古今東西、有る程度出来る権力者なら使ってきた手法だ。腐敗しているとはいえ、オネスト(大臣)は狡猾だな」

 

チェ「あら?大臣の肩持つの?」

 

タツ「その権謀術数の手腕だけはな」

 

ナジェ「それで今回の任務はその本部まで行き、ボリックを討つ!・・・奴は一部の信者には食物に少しずつ薬を混ぜて中毒にし忠実な人形にしている外道という事が密偵の報告で確認している。遠慮はいらんぞ」

 

ラバ「どうせ信者の女の子はべらせてるんだろうな・・・リア充・・・爆発して死ね!文字通り死ね!!」

 

スサ「食材に薬を盛るとは食材に対する侮辱でしかない・・・」

 

ラバ・スサ「「絶対に許さねえ・許せん!」」

 

レオ「・・・放っておいたら信者達はどんどん薬漬けか・・・そりゃあ止めないとね」

 

ナジェ「最後に先程少し触れたイェーガーズについて・・エスデスもどうやら帰還したようだ。あいつらは今全力で私達を狩ろうとしている。このままではいずれ捕まるだろう。だから今回は帝都の外までおびき出してそこで仕掛けようと思う」

 

マイ「いよいよ全面対決って訳ね。腕がなるわ!」

 

タツ「マイン格好良いのー。」

 

マイ「ふふ、もしあんたが結婚出来てたら奥さんの影に隠れてそうね」

 

タツ「影どころか穴掘って地下にいよう」

 

ナジェ「・・・イェーガーズの中でもクロメとボルスは機会があれば消してくれと本部から依頼が来ている」

 

アカ「・・・・・・・」

 

タツ「クロメは国の為・・・帝国に操られているとはいえ暗殺者だからなあ・・・ボルスは」

 

チェ「革命軍を支援してくれた村を一つ焼きつくしたからね・・ボルスの部隊は・・・本人の火力も脅威って事もあるけど」

 

ナジェ「イェーガーズはエスデスが率いている以上、大臣の私兵である事には変わらん・・見知った顔でも戦えるなタツミ?」

 

タツ「ああ・・・んん??俺は現場でアシストするだけじゃないのか?」

 

ナジェ「勿論そのつもりだが、いざとなったら・・・」

 

タツ「いやいや俺みんなの足引っ張るから、無理ですよボス」

 

ナジェ「・・・タツミ、お前とは結構な時間を過ごした。その間、ごまかしているが最低限私達を戦闘面でフォロー出来るだけの力は持っていると私は見たぞ。隠しても立居振舞いで判る」

 

タツ「・・・・・・」

 

マイ「ああああ、ボス駄目ですよ、タツミは。臆病者ですから」

 

アカ「戦闘が出来ても殺しには向き不向きがある・・・タツミには荷が重いと思う」

 

ラバ「ふっ、やっぱこの中で頼れる男は俺一人だな」

 

スサ「では次から家事もお前に任せた」

 

ラバ「なっ!!」

 

レオ「ま、もしもの時には加勢して貰うで良いじゃないの、ねえボス」

 

ナジェ「・・とまあ、そんな所だ。もしもの時はお前の潜在能力に期待しているぞ」

 

タツ「・・・ん、ああ、判った・・・みんな、どうも・・・」

 

チェ『・・・ふぅ、意気消沈に見せかけている、か・・・』

 

 

 

帝都、雑踏。

 

タツ「はぁ・・・面倒な事になったな・・・しゃーない。あれを使うか」

 

タツミは帝具の一つ、帝具探知する“千里眼”を使う。

 

タツ「確か空間転移のあれは、ああこっちか・・・」

 

 

 

帝都外れ

 

 

フードを被った長身痩躯の男が顔を歪めている。

 

シュラ「チッ・・・スタイリッシュの奴、何やっているんだ・・・全然玩具がいねえじゃねえか・・・まぁ良い・・・仲間は集めたんだ。親父に挨拶しに行くか・・・」

 

 

タツ「よぉ、兄さん。景気良い顔してんなあ」

 

シュ「ああ!?なんだおめえ?」

 

タツ「初めまして、俺はただの帝具遣いさ」

 

シュ「へぇ・・・、お前がね・・・で、俺に何の用だ?」

 

タツ「兄さん、悪いけどあんたが持っている帝具、俺に渡してくれないかな?」

 

シュ「あ!!??何昼間から寝言言ってんだ?・・・欲しけりゃ腕づくでとってみやがれ『なんでこいつ俺が帝具持ってんの知ってんだ・・・?』

 

タツ「はぁ・・・じゃあそうさせて貰うわ」

 

シュ「おい!俺があのオネスト大臣の息子だって知ってんだろうな!?」

 

タツ「・・・今知った・・・」

 



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逢いか死か

予告?

 

 

タツ「なあなあ、マインちゃん?」

 

マイ「はいはい!」

 

タツ「コロっていう犬型帝具いるよな」

 

マイ「ああ、あのゆるキャラ目指したような犬ねえ。犬型がいるなら未来から来た猫型帝具がいてもおかしくないわよねえ」

 

タツ「そうだな、それで話の一本でも出来そうだな。それはそうとあいつに予告の一つでもやらせてみるかあ」

 

マイ「そうねえ、やってもらいましょ」

 

 

コロ「きゅいきゅいきゅういいいいきゅううきゅい」

 

タツ「・・・全然予告になってないじゃんかよ」

 

マイ「何言っているかさっぱりだわ♪」

 

タツ「きゅうしか言えねえのか」

 

コロ「きゅうい!」

 

マイ「そりゃ犬だもん」

 

タツ「これで給料一緒なんてやってらんねえよ」

 

コロ「ぎゅい!!!」

 

 

 

エス「・・・・・」

 

 

・・・ご覧頂けたであろうか?

 

ではもう一度ご覧頂こう・・・、そう、二人(と一匹)で楽しそうに次回予告をしているその後ろの木の陰で禍々しく恨めしそうに睨む妙齢の女性の姿が・・・。

 

タツ「・・・エスデスの声が妙に艶めかしいと思う」(小声)

 

エス「タタタ、ダダダ!!!///」

 

タツ「なんで聞こえるんだ!」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

とある世界

 

タツミはどういう理由か彼が居る世界から別世界へと来ていた。

 

帝具シャンバラは空間転移だけでなく、奥の手として時空移動の他に・・・本来ありえない平行世界への移動も可能だと言うが・・・?

 

その世界には“タツミ”はおらず・・・。

 

 

 

※ここから以下は残酷描写がいつもより強めなのでご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安寧道郊外

 

 

 

セリューの爆撃からインクルシオに身を包んだタツミがマインを助けだす。

 

マイ「あ、貴方は!?」

 

タツ「俺は革命軍のナイトレイド支援部隊の者だ・・・ここは俺に任せてもう一人の羅刹4鬼を仕留めてくれ!」

 

マイ「・・・判ったわ・・・そいつは仲間の仇なの、絶対倒して!!」

 

タツ「判った・・・」

 

マインが去った後、

 

セリューとコロがタツミの所へ辿り着く。

 

セリ「ほぉ・・・よくあれだけの砲撃をいなしたな・・・お前もナイトレイドの仲間か・・・悪は断罪する!」

 

タツミはインクルシオの武装を解く。

 

タツ「セリューユビキタス・・・お前が“あの時”において何も変わらなければ当然こうなるよな・・・」

 

セリ「・・・?何を言っている。ふっ、やはり悪は頭もおかしい・・・お前も仲間達のように捕食してやる」

 

タツ「・・・・・」

 

セリ「ロマリーの町で首を晒されていた女は仲間だろう?死体はコロが喰ったぞ・・・あのメガネの女と同じだ・・・二人仲良くおやつになった・・・お前達もそうな・・・ぐっ」

 

タツミは怒りのこもった眼で睨みつける・・・ただ睨みつけた訳ではない。

 

 

セリ「が・・・っぐ・・・『い、息が…』

 

タツミは一瞬で間合いを詰め、セリューの肋骨下から右の素手で肉を貫き中の心臓をえぐり出す。間髪いれずにセリューの顎下から左手で貫き、顎を外す。

 

セリューは音もなく崩れる。

 

コロは巨体化する間も無く、タツミに核を抉りだされ絶命する。

 

 

タツ「・・・・・・・」

 

その場を去っていく。

 

 

そしてまた別の場所、時間で。

 

 

 

エスデスは暴れ回っていた。

 

エス「ははは、戦闘とはやはりこうでなくてはな!!」

 

エスデスは西の異民族の兵士の胴体を刀で薙ぎ払い、首を刎ね、嬉々として殺戮を楽しんでいく。

 

西異民族「こ・・・ここまで強いとは・・・!これが帝国最強のエスデス隊・・・!退け退け!」

 

エス「北の異民族は生き埋めにした。西のお前達は趣向を変えて火薬満載の火刑で責めてやろう」猟奇的に笑みを浮かべる。

 

 

「おお・・・、流石エスデス将軍・・・お前本当、良い趣味しているなあ・・・」

 

 

エス「む!!?」

 

そこに一人、大きな巨砲を右手に携える一人の青年が立っていた。

 

 

タツ「よぉ・・・」

 

エス「誰だ貴様は・・・?」

 

タツ「・・・・・・・・・・・」

 

エス『・・・何者だ・・・?』「近隣集落の小僧か・・・?さっさと道を開けんと踏み殺すぞ」

エスデス後方にも大量の騎馬隊がいる。

 

タツ『警告射撃をするか・・・?いや、この兵達も勝ったら敗者を蹂躙、略奪、奴隷にしているんだ・・・逃げん奴はそのまま・・・』今から逃げる奴は殺さん・・・だが向かって来る者は容赦無く・・・さあどうする?」

 

兵士達から大失笑が漏れる。

 

兵「将軍、あいつ頭おかしいですぜ・・・ははっはっは」

 

エス「・・・・・・・・」

 

タツ「・・・忠告はしたぞ・・・」

 

 

 

 

 

1分後、一面焦土と化しエスデス以外の兵達は一瞬で焼け焦げ全滅している。

エスデスは自身の帝具で作った幾重にも重ねた氷でかろうじて耐えていた。

 

タツ「・・・・・・お前はこの火力では耐えるのは判っていた。」

 

エス「ふ・・ふふふ・・・・、貴様は何者だ?ここまで強い相手に出会ったのは初めてだ・・・名乗れ!」

 

タツ「・・・・・・、名無しの権兵衛」

 

エス「ふっ・・・お前のそのふざけた名前、戦士として私の胸に刻んで置くぞ・・・行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

2分後・・・、

 

 

エスデスの顎がもげ、首だけとなり、片目が落ちている生首を槍の穂先に刺し高く兵士達の死体の真ん中に掲げられていた・・・早くも死体の異臭を嗅ぎカラス達が啄みに来ている。

 

タツ「惨めだな・・・、・・・・・・・」

 

 

タツミは何事も無かったように去っていき、帝具シャンバラを使う。

 

 

 

 

 

 

 

元の世界(革命後の現在)

 

帝都郊外、森の教室

 

セリ「はい、みんな、今日はあの山に登りに行くよ!大丈夫最近、危険種もいなくなっているから」

 

生徒達「「はーい、セリュー先生」」

 

コロ「きゅーい!!」

 

女生徒「コロちゃんはあたしといくー」

 

男生徒「こいつどこまで顔のびるか試してみようぜー」

 

女生徒「ばか、男子!!」

 

セリ「はい、こらこらそこ遊ばない。生物も大切にするーー」

 

 

木陰で見守り、自身の血汚れた手を見るタツミ。

 

タツ「・・・・・・・」

 

 

 

エスデス達二人が住む山小屋

 

タツ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エス「おお、ダーリンお帰り・・・どうした怖い顔をして?」

 

タツ「・・・・・・・」

 

エス「・・・・・・何かあったのか?」

 

タツ「・・・・・お前はもう昔のお前に戻らないでくれよ・・・」

 

エス「・・・?そうなったら、ダーリンは躊躇無く私を殺すと言ってたろ?はは、タツミ様らしくないな?どうしたんだ」

 

タツ「あ、・・・ああそうだったな・・・」

 

タツミはエスデスの頭を右手で抱え・・・自身の右手に僅かながら血が付いていると気がつき自身の服で拭いた後、彼女の頭を撫でる。

 

エス「・・・ん?ん?///どうしたダーリン一体?///」

 

戸惑うエスデスだがまんざらでもない。

 

タツミはしばらくの間、エスデスの頭を抱え撫で続けた。

 

 

 

 

 



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乙女心を斬る

エスデスとオネストはテーブルで食卓を囲み、会談している。

 

オネ「エスデス将軍・・・一つ聞きたい事が」

 

エス「なんだ?」

 

オネ「前に恋をしたいと・・・その相手も見つかったと聞きましたがその後どうですかな?」

 

エス「ふっ・・・、あれは一時の気の迷いだ・・・。やはり私の生きる理由は闘争と蹂躙だ」

 

オネ「ほぉ・・・そうですか、それはなにより・・・ですが最近妙な噂を聞きましてな」

 

エス「ふん、なにか問題でもあったか?」

 

オネ「エスデス将軍が最近腑抜けになったと・・・ああいやお優しくなったと、それで少し心配になりましてねえ」

 

エス「大臣、それは愚問だ。今ちょっと甘い顔しておき後で奈落へ落とす・・・その方が面白いだろう?」

 

オネ「ははは、成程、これは一本取られましたな。そういう事でしたら最後に見せる絶望の顔はさぞ楽しみですな」

 

エス「そういう事だ。今しばらく私のやる事を大人しく見ていろ」

 

オネ「ええええ、これは失礼しましたな・・・私は政治、貴女は闘い、お互いの利益の為にこれからも協力していきたいですな」

 

エス「ふっ無論だ。今までもそうであったろう?」

 

 

二人は別れ・・・。

 

オネ『・・・どうも気になりますね・・・、あの小娘、まさか心変わりしたのか?・・・あいつに限ってそんな事は無いと思うが・・・今まで通り私の掌で踊っていればいいものを・・・さて・・・』

 

 

 

 

 

 

 

イェーガーズ休憩室

 

エス「タツミ♪こんな感じだったがこれで良かったのか?///」

 

タツ「ああ、上出来だ。お前案外演技上手いな」

 

エス「ふふふふ・・・余り私はこういう騙し合いは好まんがタツミの頼みだからな!」

 

タツ「ああ、有難う」

 

エス「タツミの頼みだからな!!大切な事だからな、2度言うぞ!」

 

タツ「・・・何が望みだ?まぁ、礼の話は後でするとしてお前達も安寧道に行くんだろ?」

 

エス「ああ、ボリックの護衛を大臣から頼まれている・・・ナイトレイドが暗殺を企んでいるのだろう?」

 

タツ「そうだ、ナジェンダがお前らを帝都外で待ち構えて迎え撃つ算段だ」

 

エス「ほぉ・・・馬鹿なナジェンダだ。私のタツミが密告しているとも知らずに、くくく」

 

タツ「言っとくがエスデス、俺が脚本を描きお前はその通りに動いて貰うぞ」

 

エス「・・・、それはナイトレイドに被害を出すなと言う事か?」

 

タツ「・・・いや、場合によってはナイトレイド全員俺が仕留める・・・」

 

エス「タツミ、私も混ぜてくれ」

 

タツ「お前は駄目だ、加減を知らん」

 

エス「・・・・・」

 

タツ「それと、ボルスさんとクロメがナイトの標的になっている・・・」

 

エス「ふっ・・・ドクターはタツミが倒したと聞いたが、セリューを田舎に帰らせたのもタツミだな?」

 

タツ「セリューも場合によっては殺していた・・・」

 

エス「ドクターは確かに思ったより狂っていた男だったからな、仕方ないと思うがその二人もか?」

 

タツ「ああ、ボルスにも・・・クロメにもいずれ死んで貰う・・・」

 

エス「・・・タツミ、私とてイェーガーズを率いているのだ。これ以上人員を減らしたくは無いぞ・・・」

 

タツ「まぁ、お前の顔も立つようにするから見ていろ」

 

 

 

 

 

安寧道へ行く為の準備を進めているナイトレイド、

穏やかな天気の昼下がり

 

タツ「はぁ~~いつになったら俺は自由になるんだ・・・」

 

ナジェ「まあ、そうぼやくな。革命が成功したらタツミも晴れて自由の身だ」

 

タツ「殺しの際、関係無い人間でも顔を見られたから殺すって、闇の正義も大概ですねえ・・・なぁボス?」

 

ナジェ「・・・・・・」

 

タツ「へえ~え、俺って運の無い奴~」

 

ナジェ「・・・逆に今の状況を楽しんだらどうだ?」

 

タツ「例えば?」

 

ナジェ「タツミだって良い年だろ?好きな女の一人や二人いないのか?・・・ここは大体女の方が多いだろ?」

 

タツ「う~~~む・・・」

 

ナジェ「ふふふ、なんなら試しに私なんてどうだ?」

 

タツ「・・・・あ~年も10年くらい離れていて年増な人は駄目かな」

 

※注・原作よりそれぞれのメンバーは3~5歳くらい上。ナジェは30前後。エスデスは25前後の設定でタツミは18or19歳、マインは19or20くらいで。

 

 

 

ズドドッドドドッドオドドドドオッドドド・・・・・・!!!!

 

タツミは加速装置並みの速さで走る。

 

そこでマインがやってきて・・・

 

マイ「あ~~~れ~~~~」

 

巻き込まれ回転する。

 

マイ「ちょっと、タツミ!!!廊下走るんじゃないわよ!!」

 

その後、ナジェンダが猛スピードで追いかける。

 

マイ「ま~~~~た~~~~・・・ってボス??」

 

1時間後、ナジェンダの部屋で正座させられているタツミ、無傷ではある。

 

彼女は椅子に座って背中を向けている。

 

マイ「全く、タツミは女の子への配慮が足りないのよ!!」

 

チェ「・・・タツミはそういう所もしっかりしていると思ってたのに、悪いけどちょっと見損なったよ」

 

どうやら逃げ切ったタツミだが、ナジェから事の次第を聞いた他の女性陣が憤慨し立場上これ以上悪くならないようにする為、タツミは出頭(?)したようだ。

 

マイ「全く、女ってねえ、永遠の17才なのよ、判る?タツミ?」

 

タツ「・・・・・・?」

 

チェ「ああ・・・まあ、そうだね・・・」

 

アカ「タツミ、女性に年齢の事でとやかく言うのは失礼だ・・・」

 

タツ「うるせー、知った事か!」

 

マイ「ムカッ!!あんたちょっと可愛い所はあると思ってたのに・・・あたまくるわ」

 

タツ「けっ!」

 

チェ「ねえ・・・タツミ、とりあえずボスに謝りなよ」

 

タツ「・・・んん、すみませんボス、俺も言い過ぎました・・・」

 

ナジェ「・・・・・・・」

 

マイ「あんたもっとちゃんと謝りなさいよ!」

 

タツ「どう謝りゃ良いんだよ!」

 

 

其の時、扉が開く。

 

レオ「話は全て聞かせて貰った!」

 

アカ「レオーネ?」

 

レオ「ふっふっふ、歩が三つ・・・。このメイブギョウ、ナイトのレオさんに掛かればこんな揉め事もいちころってもんよぉ!あっ、全てはこの桜吹雪が、お、み、と、お、し、よ~!『決まった・・・』」

レオーネが見得を斬る。

 

アカ「おお、レオーネ格好良い」

 

タツ「・・・・・・・」

 

マイ『メイブギョウ?どういう意味かしら?』

 

レオ「ウォホン!・・・まずタツミ、其の方、ボスに戯れとはいえ自分と付き合うのはどうか?と聞かれた時に年増云々と言った事、相違無いな?」

 

タツ「相違御座いません」

 

アカ『ん?付き合う?』

 

マイ『ちょっと!!!ボスそんな事言ったのおお!?』

 

チェ『それはあたしも聞いて無い・・・』

 

ナジェ『うっ・・・・・・』

 

 

レオ「ふむふむ、嘘偽りなく、宜しい。タツミ、其の方、男の身でありながら女人に年の事を言うのはまことに許し難し・・・だが格別のお慈悲を持って名誉挽回の機会を与える」

 

タツ「?」

 

レオ「・・・これは、タツミの部屋にあった・・・戯れ本・・・まぁ、ぶっちゃけて言えばエロ本だな・・・いひひひひ」

 

タツ「お、おおおいいい!!」

 

アカ「!!??」

 

マイ「え?ちょっと!」

 

チェ「へえ・・・タツミも健全な男の子だもんね」

 

タツミは立って取り戻そうとするが、

 

素晴らしい速さでアカメとマインに両脇から抑えられる。

 

アカ「・・・タツミ、時には諦めが肝心だ」

 

マイ「・・・ふふふふうふふうふ、観念なさい」

 

タツ「お・ま・え・ら・・・・・ん?」

 

タツミの右腕をマインは両腕で絡んでいる。アカメも彼の左腕に同様に。

 

タツ『・・・?腕を極めるにはこのような事では無理なのは二人とも判っているはず・・・?おいマイン、なんでお前手に沿わせてくるんだよ?・・・ふ、振り払おうと思えば出来るが・・・そんな事しようものなら、余計ここでの立場が悪くなるような・・・何故かそんな気がする・・・くっ・・・駄目だ思考がまとまらねえ・・・』

 

レオ「ふふふふふ、え~まず、お姉さん系統のそれが・・・いひひひひ、黒髪長髪美人の姉系ね・・・ああ、中には10歳離れた姉系彼女のものもあるな・・夕暮乙女・・・?身体的には2つ上、中身は50年も離れていると・・・ふむふむ、タツミは自分から積極的に行くものよりも・・・お姉さんに迫られる方が好みか・・・ふぐぐぐぐ・・・おお・・・へえ・・・なるほど・・・」

 

ナジェ「・・・・・・」

 

アカ「・・黒髪長髪・・・」

 

マイ「・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・」

 

タツ「・・・うぐぐぐぐ・・・もう良いだろう!返しやがれ!『頭がボーっとしてきやがった好い加減二人とも離せ!』

 

マイ「レオーネパス」

 

レオ「あいよ」

 

マインとチェルシーが入れ替わってタツミの片腕を抑える。

 

チェ「うふふふ、ごめんねタツミ」

 

タツ「くっ・・・・・『おいい、お前もか!』」

 

タツミは敢えて屈辱を受け入れたのであった。

 

マイ「え・・・・へえ・・・・ふ~~~~~ん」

 

アカ「マイン・・・次私にも・・・」

 

マイ「あら?あんたもこういうの興味あるの?」

 

アカ「・・・仲間の事は知っておきたい」

 

タツ「んな所まで知る必要無い!」

 

マイ「判ったわ、はい交代」

 

ナジェ「待て!!先に私が観る」

 

タツ『こういうのも一種の公開処刑だよな・・・』

 

ナジェ「オホン!私はこういうものに興味は無いが・・・その・・、アカメの言う通り、部下達の事も把握しなければならないからな・・・うむ、あくまでこれは仕事の一環だ!」

 

レオ「はいはい、そうですね、早くボス見ちゃって下さい」

 

ナジェ「・・・・・・・・・・・うむ」

 

タツ「・・・・・・・」

 

ナジェ「ふっ・・・・・」

 

菩薩のような暖かい目でタツミを見るナジェンダ。

 

この時、タツミは怒りとも恥とも何ともつかぬ複雑な思いをしたという。

 

 

その後、入れ替わって全員見た後、タツミへの束縛が解ける。

 

タツ「・・・・・・・・」(怒)

 

マイ「うふふふ、まあ私達もちょっと大人気無かったわね」

 

チェ「タツミって・・・うふふふふふ・・・実はちょっと心配だったの女の子に興味無いのかなって」

 

アカ「・・・タツミ、純情///」

 

ナジェ「まあ・・・なんだ、マインの言う通り、私も大人気無かった。だから今後は・・・・あれ?」

 

 

 

ズドドドドドドド!!!!!

 

タツ「貴様ーーーーーー!!!何が俺の名誉挽回だ!!!」

 

レオ「挽回してあげたじゃない!!」

 

タツ「別の名誉が地に落ちたわ!!!」

 

レオ「もう!そう照れるなって!」

 

タツ「今日が貴様の命日だーーー明日を拝めると思うな!!!」

 

レオ「ははははは!!獣化した私の足に追いつけると思うの?」

 

タツ「ならばこちらも(帝具を)!」

 

レオ「面白くなってきた・・・タツミ私を捕まえてごらん!!」

 

タツ「言われんでも!!!」

 

その後、30分続き・・・結果はタツミが面倒臭くなってやめたか、レオーネの企みに気付いたか、ようとして知れない。

 

そして時折、女性陣からタツミは妙に生温かい目で見られたりいじられたり、逆に親切にされ、ラバックが僻んだとか・・・・。

 

 

イェーガーズ詰所

 

再び打ち合わせの為、エスデスと会うタツミ。

 

 

タツ「・・・とりあえずこんな所か、ところで話は変わるがエスデス!」

 

エス「な、なんだ?」

 

タツ「前からずっと思っていたんだが・・・」

 

エス「ああ、なんだ!?///」

 

タツ「言おう言おうと思っていたんだ・・・今言うぞ!」

 

エス「ああ!!///」

 

タツ「・・・お前の胸元・・・強調し過ぎだ。はしたないぞ、もっとそこは隠して慎みを持て!」

 

エス「・・・・・・・・・・・タツミ、私の先程までの胸の高鳴りを返してくれ・・・」

 

 

 

 



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公開処刑を斬る

マイ「見た目は青年、中身はおっさん、その名はタァァツミィィィィイイ!!!」

 

タツ「うるさいわぁぁぁあああ!!!この永遠の17歳(笑)がぁぁぁあああ!!!」

 

マイ「乙女に向かってなんて言い草よ、このおっさん!」

 

タツ「おっさんで結構、俺はいぶし銀のタカクラマコトを尊敬してんだよ!」

 

マイ「誰よそれ!?知らないわよ!」

 

タツ「お前は婆さんになっても17歳とか言ってろ!気持ち悪いんだよ!」

 

マイ「言ったわね、あんた!ムカつく!17歳教を知らないの?うちら信者全員敵に回してるわよ!」

 

タツ「なんだその宗教!?知らねえよ。そもそも宗教なんか無い方が世の中平和になるんだぞお、こらあ!」

 

マイ「じゃあ、あんたいっそ安寧道無くしてきなさいよ!」

 

タツ「上等だ、やってやるぜ!見てろよ!」

 

 

 

タツミはアジトから出ていく。

 

 

食卓の方では

 

スサ「タツミの奴、俺の料理に手を付けずに出て行ったな・・・晩飯抜きだ!」

 

ナジェ「全く、・・・やれやれ」

 

レオ「朝から元気だねえ・・・」

 

アカ「もぐもぐもぐ」

 

ラバ「喧嘩するほど仲が良いってか?なんか今日はヤケにエキサイトしてたけど原因なに?」

 

チェ「・・・う~ん、恐らくタツミが余りマインを構わないからそれに対して遠回しに怒ったんじゃない?」

 

ラバ「本人にそれ聞いたら更に怒るな」

 

アカ「もぐもぐばくばく」

 

ナジェ「まあ、お前達も出発の日取りは近付いている。準備を怠らんように、良いな」

 

帝都雑踏

 

 

タツ「上手くあの桃色ツインテールを焚付けてアジトから出ていく口実が出来たが・・・しかしあの野郎、いや女郎。今度あいつを芸名・終音(おわりね)マインとして売り出してコンサートで大恥かかせてやるぞ、こんちくしょう」

 

 

ウェ「お?タツミ!」

 

クロ「どうしたの?プリプリ怒っている」

 

タツ「あ?なんでもない、別に大して怒ってねえよ」

 

ウェ「・・・ところでお前またさぼっているじゃないだろうな?」

 

タツ「ちゃんと巡回してるって・・・それよりもおたくらはパトロールデートか?」

 

クロ「!!?///ええ、いやその・・・」

 

ウェ「お前、何言ってんだよ、仕事中だぞ!なあ、クロメ」

 

クロ「・・・・・そうだね」

 

タツ『・・・馬鹿な奴』・・・じゃあとりあえず俺は東を見るから、じゃあな」

 

ウェ「おいおい、お前また袖の下取ったりしねえだろうな?俺が監視してやる」

 

タツ「・・・・・・・『俺の気遣い無駄にすんな!』

 

クロ『・・・こういう旦那だから諦めている』

 

タツ『・・・お前も大変だな』

 

 

見廻り途中・・・立札に。

 

ウェ「ん?なんだ?」

 

タツ「あーなになに?ロマリー湖にて皇帝陛下に仇なす賊の処刑を行う・・・との事か・・・皇帝へ?あんな幼い操り人形・・・大臣に立ち向かう勇敢な者達の間違いだろ?」

 

ウェ「おい、声に出すなよ!俺達警察だぞ」

 

タツ「今まで隠してたが実は俺は不良警官だったんだ」

 

クロ「・・・・ぷっ」

 

ウェ「全然隠してねえよ!・・ああいや、下らねえ事言ってねえで見に行くぞ!」

 

タツ「そうだな・・・悪い、不謹慎だった」

 

 

 

 

 

 

※残酷描写が続きます事、お詫びします。ですが今現在も某国で似た事が行われています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロマリー湖に臨時で処刑場が設けられている。

 

タツミ、ウェイブ、クロメが来ている。

 

 

処刑人「良いか、お前ら皇帝陛下に仇なし民衆を惑わす反逆の徒がどうなるか良く見ていろ!!」

 

縄で縛られ処刑される人達がおり、数人は顔面蒼白、また一人は静かに毅然とした者、そして中には子供の姿もあった。

 

銃を携え、崖に死刑者を連れて行き、泣き叫ぶ暇もなく次々と撃ち断崖から落としていく。

 

ウェ「・・・・・・くっ・・・・」

 

 

その後、残った死刑者達を一列に並べ座らせ・・・その後ろに処刑者達が一人一人並びナイフで首を捌いていく。

 

 

阿鼻叫喚・・・、

 

子供(女)「助けて・・・誰かぁぁぁ!!!父ちゃん・・・母ちゃん・・・!!!」

 

ウェ「畜生・・・見てらんねえ・・・!!」

 

クロ「抑えて、ウェイブ・・・今出て行ったらウェイブも反逆罪として処刑される・・・!」

 

ウェ「くっ・・・けどよ・・・」

 

クロ「・・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

 

子供(女)「いいいやあああああ・・・ぎゃああああああ・・・・・・・・」

 

 

処刑が終わり、見物者は散って行く。

 

 

ウェ「ちきしょう・・・ちきしょう・・・ちきしょう・・・」

涙を流しながら悔やむ。

 

クロ「ウェイブ・・・・・・・・・」

 

タツ「・・・あいつら人間とはいえ・・・あんな風に・・・、流れ作業でまるで気にも留めずに殺しやがって・・・あいつらに本当の殺しの重みってやつを教えてやる・・・」

 

ウェ「・・・『とはいえ?』・・・タツミ、お前・・・」

 

クロ「・・・・・・・」

 

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

 

タツ「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

タツミは椅子に腰かけたまま強大な殺気を放っている。

 

ラバ『・・・なんだ、こいつ本当にタツミか?』

 

チェ『タ・・・タツミ?・・・これが本当のタツミなの・・・?』

 

アカ『・・・、恐ろしい・・・なんて殺気だ・・・、だが心地良い・・・』

 

アカメは恐怖を覚えつつも、自身に向けられていないからだけでなく殺気の種類が自身のそれと似たものを感じている為、彼の殺気にあてられ恐怖と共感が入り混じった武者奮いをしている。

 

レオ『・・・今まであたしはなんで気付かなかったんだ?・・・こんな化け物が傍にいたなんて・・・獣化していない今でも判る・・・エスデスとは違う・・・あいつは何百万人も殺した・・・だが重みが違う。タツミの方が殺しの数は少ないだろうが・・・殺した命をそのまま背負っている・・・その重みがあの女とは断然違う・・・そうか、だから・・・・』

 

メンバーそれぞれタツミの迫力に気圧されていて、どう対処したら良いか掴みあぐねていた。

ナジェンダとスサノオは用事で出ていた。

 

マイ「タツミーー!帰って来てたの?帰って来てたなら、まず私に挨拶しなさい、それが常し・・・!!??」

 

タツ「・・・・・・・・・」ギロ

 

マイ「・・・・・・・」ゾワッ

 

タツ「・・・・・・・」

 

マイ「・・・うっ・・・うっ・・・馬鹿ああああ、そんな睨まなくたって良いじゃない・・・わあああああああ」

 

タツ「・・・・・・・・、・・・ああ・・・、はぁ・・・何も泣く事ないだろ?」

 

マイ「バカ!!泣いてなんかいないわよ・・・うう・・・えぐ・・・」

 

タツ「ああ・・・、判った判った・・・よしよし」

 

マインの頭を撫でるタツミ。

 

マイ「もうばか・・・、脅かすんじゃないわよ」

 

タツ「・・・お前も殺し屋の端くれならこんな事で泣くなよ」

 

マイ「・・・だから泣いて無い!」

 

タツ「判った判った」

 

ラバ「・・・・・・・」

 

チェ「・・・・ほっ・・・」

 

アカ「・・・・・・・」

 

レオ「・・・・はぁ・・・マインのKYのおかげで助かったな」

 

緊張が解け、ラバックとレオーネは思う所が互いにあり、顔を見合わせる。

 

ラバ「・・・・・」

 

レオ「・・・・・」

 

 

マイ「・・・もう、タツミ、あんたらしくない怖い顔して、何があったのよ?」

 

タツ「・・・うん・・、ああ、まあ・・・、ちょっと公開処刑見て来てな・・・それで・・・」

 

マイ「・・・・・・・・そう」

 

タツ「今までも処刑死体は見たさ・・・公開処刑も時折見た・・・だが、今回はあんな流れ作業で人殺しやがって・・・年端もいかない子供もな・・・」

 

ラバ「ああ・・・・、そりゃ後味悪いけどよ・・・そんな事無くす為に、俺達は闘っているんだぜ」

 

レオ「そうそう、タツミ。」

 

タツ「・・・・・あんたら民の為に闘っているんだよな・・・?」

 

アカ「うん」

 

タツ「・・・その民の中にその公開処刑を見て楽しそうに喜んで見ている奴もいやがった・・・運が良かったのか判らんが今まで俺はそういう民衆を見た事無かった・・・処刑を楽しんでいた連中は大概権力者だった・・・」

 

アカ「・・・・・・・」

 

タツ「この国も権力者も病んでいるが、ひょっとしたら民も病んでいるのかもな・・・つまり全部病んでいて・・・本当は全部一掃した方が良いんじゃないのか?」

 

ラバ「・・・・・・」

 

チェ「・・・・うん、そうかもしれないね」

 

マイ「・・・確かにろくでもない奴らもいるわよ・・・でも、中には良い人もいる・・・まともな人が、そんな人達の力に少しでもなれたらと思うわ・・・」

 

アカ「・・・タツミ、私は元々帝国の暗殺部隊の人間だった。そんな私でもボスは説得してくれた。私も平気で人を殺せる暗殺者だ・・・ひょっとしたらその公開処刑を見て喜んでいた奴らとそう大差は無いかもしれない・・・」

 

タツ「・・・この厳しい生活ん中で政府に対する怒りを公開処刑に目を向けさせて民衆のストレスを発散させるのと自分達政府に逆らわさせないとので二重の意味があるのかもな」

 

ラバ「・・・、お前、そこまで深刻に考えるなって・・・らしくねえぞ」

 

タツ「・・・昔、誰だったけかな、大衆は豚だと言ってた奴がいたな」

 

ラバ「豚ねえ・・・じゃあ俺は孤高の狼だな!」

 

レオ「ラバが狼??あんたなんてせいぜい送り狼が関の山でしょうに」

 

ラバ「おい、姐さん!俺はこう見えても惚れた女に一途なんだぜ」

 

レオ「昨日チェルシーの風呂覗こうとしてたの、内緒にしてあげようと思ってたのになー」

 

ラバ「んが!?そ、それは・・・」

 

チェ「へえ~~~~・・・後でどうなるか覚えておいてね♪」

 

ラバ「あ、あわわわわわ」

 

タツ「はは、はははははっはははは・・・・はは・・・はぁ・・・ああ、悪い外の空気吸って来る」

 

アジトを後にするタツミ。

 

レオ「・・・・・・」

 

ラバ「・・・・・・」

 

マイ「・・・・・・」

 

アカ「・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・」

 

 

イェーガーズ詰所

 

ウェ「・・・・・・・・」

 

クロ「・・・・・・・・」

 

ラン「・・・そうでしたか、そんな事が」

 

ボル「・・・私も似た事をしてきたからね、余りとやかくは言えないよ・・・」

 

タツ「・・・・・・ボルスさん、あんたは無実の罪と叫んでた人でも処刑したんだったな・・・」

 

ボル「う、うん・・・」

 

タツ「それは調べがしっかりと着いてたいたのかい?」

 

ボル「・・・私は処刑係だったから取り調べは別の人達だったから・・・」

 

タツ「・・・もし、あんたの奥さん娘が無実の罪で処刑されそうになったらどうする?」

 

ボル「・・・そ、それは勿論、必死になって助命嘆願するよ・・・無実の証明しようと必死になるよ」

 

タツ「・・・つまりはそういう事さ、誰かがやらなきゃならない、誰かが責任を被らなきゃならない・・・だから自分が引き受けた。そりゃ自己犠牲で涙出そうな結構な話だな・・・だがな、あんた一体誰の為に仕事してんだ?」

 

ボル「・・・・・・」

 

タツ「家族の為か?国の為か?こんな国の・・・裁きを満足にせず罪もでっち上げるような国の為に働いているなら・・・今日処刑された彼らだってただ帝国の事を批判した記事を書いただけさ・・・それぐらいで罪になるって言うのか?・・・妻娘が無実で処刑されたって、あんた文句言えねえぞ。自分の家族だけは助けてくれ?傍から見たらお笑い草だぜ?・・・あんたみたいのを偽善者って言うんだ」

 

ボル「・・・・・・・・・」

 

クロ「・・・・・・・」

 

ウェ「おい、タツミ言い過ぎだぞ!」

 

ラン「・・・タツミ君、もうその辺で」

 

タツ「・・・・・・」

 

ボル「・・・いや、ウェイブ君、ラン君、タツミ君の言う通り私は偽善者だよ。殺してきた人達にも家族が居たんだろうけど、心の中で自分の家族を守る為なら国の為なら・・・とどこかで考えないように・・・それを言い訳にしていたのかもしれないね・・・」

 

タツ「・・・あんた、火炙りの刑って見た事あるかい?あんたの使う帝具、ルビカンテはかなりの火力で一気に相手を焼き殺すから少しだけマシかもしれんが、そのやり方は弱火の火力でじわじわと・・・焼け焦げた人の匂い、目が溶けて・・絶叫する・・・それでも簡単には死なねえんだ・・・」

 

ボル「・・・・・・」

 

タツ「そういや、この国は自分達の政権を守る為に歯向かう奴を抹殺する暗殺部隊を作ってんの知ってるか?」

 

クロ「・・・!!!」

 

ラン「・・・・・」

 

ウェ「話には聞いた事あったが、そんなの本当にあったのか?」

 

タツ「奴隷として売られてきた奴やみなし子だとかとにかく訳ありの奴を連れて来て子供の時から過酷な・・・危険種がうようよいる所に離して生き延びた奴らに殺しの手口を仕込むんだ・・・」

 

ウェ「・・・そんな事してんのかよ?」

 

クロ「・・・・・・」

 

タツ「多くの子供が命落したろうな・・・、こんな帝国、アホな国でも忠義立てして国の為に働こうなんて・・・逆に同情するぜ」

 

クロ「・・・・・・うるさい・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

ウェ「・・・クロメ?」

 

クロ「・・・あんたに何が判るの?・・・確かにつらかった・・・暗殺部隊ならではの厳しい掟もある・・けどあたし達は必死に国を支えようと・・・それが死んでいった仲間達もそうだったから・・・今ここで逃げたらあの世で皆に合わす顔なんてない・・・あたしも戦って死ぬ覚悟はとうに出来てる!例え多少国が間違ってても、平和な方が人々が安心出来る・・・だからお姉ちゃんは間違っている・・・自分から治安を乱すなんて事・・・」

 

ウェ「クロメ・・・お前・・・」

 

タツ「・・・お前あの世なんて信じるの?馬鹿だねえ・・・一つ言っておく、お前が行くのは皆が待つあの世じゃねえ・・・地獄だ。そこで100年に及ぶありとあらゆる責め苦を受けた後、最後に待ち受けるのは魂の死だ」

 

ラン『ん?あの世も地獄も広義であの世に変わりませんが・・・まあここは黙っておく事にしますか、彼なりに何か考えでもありでそうですし』

 

タツ「大体、平和ってなんだよ?言っとくがな、俺達がエスデス隊長から支給されたり、軍団に渡している金や報酬、あれ、相手から奪い取ったり、市民への重税で賄われているんだぜ。大体税金上がっている理由が帝都国民の福利厚生や環境整備なんて言われているが・・・実際どうだ?本当にされているか?税金を上げる為の口実で、其の実は・・・軍備増強や暗殺部隊育成とかに使われているんだろうな?本当に俺達の隊長様は敵や市民には厳しく、俺達警察、軍人にはお優しいよな・・・エスデス様万歳!ははははは!!」

 

クロ「・・・くっ・・・」

 

ウェ「・・・・・・・」

 

ボル「・・・・・・・」

 

ラン「・・・・・・・」

 

 

タツ「ま、あんたらエスデス・・・オネストの狗共はせいぜい互いの傷でも舐め合って自己満足の正義感でも満たしているんだな・・・ふふあははっははは!」

 

 

ウェ「おい、どこ行くんだお前?」

 

タツ「パトロールの時間だ・・・こんな俺でも最低限仕事しないとな?じゃあな」

 

 

 

物陰で聞いていたエスデス。

 

エス「・・・・・・」

 

 

 

宮殿外

 

 

エス「・・・・・・」

 

タツ「盗み聞きは感心しないぞ・・・お姉さん?」

 

エス「・・・はぁ、私をあそこまで何度も悪し様に言えるのはタツミぐらいなものだぞ」

 

タツ「事実を言っただけだ。この馬鹿が、大体お前だって帝都の治安を守るだとか美辞麗句並べているが、自分の拷問趣味を満たせるから守るだけで、そうで無ければ守らんかったろう」

 

エス「惚れた男に・・・今までもそうだが、そこまで非難されると多少落ち込むぞ」

 

タツ「落ち込んでいる暇は無いぞ。新たな仕事が出来た・・・今回はお前にも手伝って貰うぞ、ナイトレイド共と闘う前の一仕事だ」

 



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エスデスと斬る

イェーガーズ召集

 

エス「ナイトレイドが安寧道の幹部、ボリックを狙っているという情報が入った。日程は○日に帝都を出立する。各自武具、帝具の管理は怠らんように良いな!」

 

一同「「はっ!!」」

 

エスデスが各自の帝具の確認をし、クロメの八房も見る。

 

エス「クロメ・・・刃こぼれがあるな・・・」

 

クロ「はい、出発の日取りまでには何とかしようと思います」

 

エス「私の知り合いに良い砥ぎ師がいる。そいつに見せてやろう・・・なにそれぐらいの費用は持ってやる」

 

クロ「有難う御座います!」

 

ウェ「良かったなクロメ、流石隊長面倒見が良い」

 

ラン「・・・・・・・『この手の人心掌握は上手い人だ』」

 

タツ「いや本当、俺エスデス隊長にずっとついていきますよ」

 

ウェ「お前隊長の居ない所で言いたい放題言ってるだろ!」

 

タツ「馬鹿、ウェイブ!嘘言うな!」

 

エス「・・・ウェイブ、タツミの言う事は放っておけ。クロメ、それまでの間、別の刀で代用していろ。お前なら問題無く使えるだろ」

 

 

 

 

 

夜月明かり下

 

タツ「ズズズ・・・ズルズル・・・」

 

屋台でうどんを啜るタツミ、腰には愛用の刀と八房を差している。

 

タツ「ああ・・・、鼻紙、鼻紙はと・・・ふぅ・・・、親父さん、代金ここ置いとくぜ・・・」

 

店主「はい、どうも。毎度ありがとさん」

 

屋台を後にし、眼光が変わる。

 

タツ「・・・・・・・・」

 

 

帝都雑踏

 

道歩く人に労われる。

 

「あ、エスデス様、夜分までお役目ご苦労様です」

※本来、お疲れ様ですよりも公的な役目で目上、上司にも御苦労さまですと使われていました。

 

エス「うむ・・・、戸締りはしっかりしておけ」

 

「おお、これはエスデス将軍・・・いえ隊長、夜の帝都でも安心していられるのも貴女様のおかげです」

 

エス「ふん、世辞はいらん・・・つまらん揉め事は起こすなよ」

 

 

 

裁判官ホアーク屋敷

 

エス「夜分まで御苦労だな、お前達」

 

門番「お、これはエスデス将軍・・・お役目ご苦労様です・・・何か御座いましたでしょうか?」

 

エス「・・・実はホアークが狙われているという情報が入ってな・・・、仕事柄つまらん怨みでも買いもするだろう・・・その為に念の為の巡回だ」

 

門番「いや、これは・・・将軍、いえエスデス隊長が居て下されれば一騎当千です」

 

エス「大臣ともこいつは懇意だからな・・・これは私からへ差し入れだ・・・警護の者もここに呼べ、その間、私がホアークを見といてやる」

 

門番「有難う御座います、では早速。」

広場に集まる警護一同。

そして闇から人影が。

 

タツ「・・・・・・」

 

エス「・・・・・『ふっ』」

 

互いに目配せした後、タツミは屋敷へと侵入していく。

 

エス「ではお前達、ゆっくり食べていろ。」

 

「「有難う御座います」」

 

 

ホアーク部屋

 

ホア「くっくっく、大臣からの命令とあれば従わざるを得ないな・・・あれぐらいの理由でも重罪に見せかける裁判書類をつくるなどお手の物、馬鹿な市民共め・・・これで出世の道が開かれた・・・今に俺は・・・くくく・・・ん?」

 

“裁判官ホアーク、右の者、自分の立場を悪用し無実の人間を死刑に追いやるたる段、誠に許し難くここに極刑を処すもの也”

 

ホア「な?なんだこの紙は?誰がこんな事を・・・」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

ホア「?だ、誰だ貴様は?」

 

タツ「ははは、さ、誰だろうな?」

 

ホア「だ、誰かおらんか?・・・!?」

 

そして扉が開く

 

エス「入らせて貰ったぞ。なんだ、どうした?」

 

ホア「あ、貴女はエスデス将軍!!おお、ここに、賊が、賊を捕えて下され!」

 

タツ「・・・・・・、こいつは参ったな。帝国最強の女じゃ分が悪い・・・」

 

エス「ふふふ、貴様のような奴とは拷問部屋でじっくり話し合ってみたいものだ?」

 

ホア「さあ、将軍、こやつを・・・頼みましたぞ!」

 

エス「・・・ああ、だが私はお前に言ったのだ?」

 

ホア「・・・は?と申しま・・・っぐっっ・・・」

 

エスデスの刀がホアークの心臓横を貫き、その後、手足を斬り落とす。

 

ホア「うあ・・・あああ・あああああああ・・・・」

 

タツ「・・・・・・後は俺がやる」

 

エス「・・・む、判った・・・私の夫は情け深いんだ、感謝しろ」

 

タツミは八房でホアークの頸動脈を斬って絶命させる。

 

 

タツ「俺はお前の夫になった覚えは無いぞ?」

 

エス「ふふふ、いずれそうなる♪」

 

 

 

 

扉が開き、

警護「エスデス隊長!有難う御座いました!」

 

エス「うむ、・・・ではホアーク、身辺には気をつけろよ」

 

ホアークは深々をお辞儀をし礼をしている。

 

エス「では私から大臣にお前の事を伝えておく・・・ではお前達、後の警備はしっかりしておけ!」

 

警護達「「はっ!!」」

 

扉を閉め、ホアーク一人となる。

 

 

屋敷天井裏

 

タツ『八房解除・・・土は土に帰る・・・』

 

 

 

 

 

処刑人達用宿舎

 

 

外で夜中、朝の処刑に関わった者達が酒を呑んでいる。

 

「ひっく・・・うぃ・・・、けっ、死刑がなんぼのもんじゃい!」

 

「そうだそうだ、俺達がいねえと帝都の平和は守れねえんだ」

 

「そうそう、俺達のやっている事は正義なんだ、市民を守る為なんだ・・・うぃ・・・」

 

「だけどよ、今日、最後に殺したガキ、うるせえったりゃありゃしなかったぜ・・・怨むなら大臣に逆らったお前の親父を恨めってな・・・」

 

「いやいやだけどよ、良い声して、た、たまらなかったぜ・・いひひ」

 

「お前ロリコンかよ?」

 

「いやいやちげえよ・・・ははは」

 

 

そこに一人の女がやってくる。

 

「お?なんだこんな所に?おおー姉ちゃん、酌してくれ」

 

エス「ほぉ・・お前達、上機嫌だな。良いだろう酌してやる」

 

「・・・・ば、馬鹿、お前、この方はエスデス将軍・・・エスデス様だぞ!」

 

「・・・げげ・・・す、すみませんでした・・・酔っ払っているものでつい・・・申し訳御座いません!」

 

エス「構わん・・・、ところであの朝の処刑、都民への・・・いや反乱しようと企む者への見せしめとして見事だったぞ・・・あれでつまらない事を起こす者は少なくなるだろう」

 

「へ?・・・へいへい、大臣のオネスト様から皇帝に仇なす輩は早めに駆除すべしと、そう言い使っておりまして」

 

エス「ところでお前達に褒美を取らせたいが、関わった者達はこれで全員か?」

 

「へい、そうです。それでどんな褒美を頂けるんで?・・・ひひひ・・・ひ?」

 

 

タツミは刀で処刑人の一人の首を半分斬る・・。

 

「な、なんだてめえは!!!?」

 

周りに居た数人を瞬時に斬り捨てる。

 

エス「タツミ、私にも残りの二人を斬り捨てさせろ!」

 

タツ「判った、そっちは頼んだぞ」

 

 

 

「え?え?エ、エスデス将軍、こ、これは一体なんの余興で?」

 

「ち、ちきしょう、裏切りやがったんだこの女!」

 

一人の処刑人が刀で突いてくるが、そのまま最小限でかわしてエスデスが斬る。

 

「く、くそーくそーな、なんで将軍のあんたが帝国を裏切った?反乱軍に入ったのか?ちきしょう!!」

 

エス「反乱軍?帝国を裏切った?はは、何を馬鹿な・・・」

 

「じゃあ、何故?」

 

エス「私は一人の男に従っているまで、最早、帝国軍も反乱軍も関係無い」

 

タツ「エスデス、喋り過ぎだ」

 

エス「おっとすまん」

 

エスデスがタツミの方に振り向いた隙を見逃さない。

 

「・・・・・・・」

 

処刑人の最後の一人が有無を言わずに斧で突っ込んでくる。

 

エスデスの喉寸前で止まる斧。

 

タツミの刀がエスデスの脇腹を擦れ擦れで掠めながら処刑人の心臓を突く

 

「ぐ・・・・・・・」倒れる

 

 

タツ「・・・なんで自分で倒さなかった?」

 

エス「ふふふ、タツミの私への愛を確かめたかったのだ!」

 

タツ「アホな事言ってないで引き上げるぞ!」

 

エス「うむ♪」

 

処刑人達の死体を見てタツミは、

 

「いずれ我が身か・・・」

 

エス「・・・・・・・」

 

 

 

 

 

エスデスを住まわせていたかつての家へ向かう。

 

エス「タツミ?ひょっとしてあそこに向かうのか?ふふふ///」

 

タツ「・・・エスデス・・・あんたの力を持ってしてもあの裁判官はどうにも出来なかったよな?」

 

エス「・・・、大臣の息が掛っていたらな、私でもどうにもならん。タツミが言った通り殺さざるを得なかったと思うぞ。大臣と全面対決する覚悟があるなら奴を牢獄に閉じ込める事も出来たかもな」

 

タツ「・・・今はまだ其の時じゃない・・・どんな奴にも良心があるだろうが・・・な」

 

エス「あの処刑人共も始末したのを後悔しているのか?」

 

タツ「・・・奴らも無実の人間と判っていようが処刑してきたような奴らだ。殺される理由は十分にある・・・だが俺は怒りに任せて事に及んだ・・・ひょっとしたら殺さずに改心させられた方法があったかもな・・・今の俺には無理だが・・・俺は初めここまで人間達のする事に介入するつもりは無かったが・・・この国そのものを変えないとここまで腐敗した構造を叩かんと人が変われる余地も無いのかもな・・・あの処刑人共もあの裁判官もただ単に今の国に適応しただけに過ぎんのかもしれん・・・あいつらが仮に正義感を出して命令に背けば今度は自分達が処罰されただろうからな・・・」

 

エス「・・・タツミ・・・」

 

タツ「・・・話が過ぎたな、着いたぞ」

 

エス「タツミ?///ここでするのか?私は構わないぞ?」

 

タツ「・・・判ってて言っているから始末が悪いなあんたは。」

 

エス「・・・そうだな、二人で愛を語るには邪魔者がいるな」

 

エスデスは物置の戸を斬り裂く。戸が倒れ、中から縛られた一人の男が現れる。

 

タツ「こいつに見覚えないか?」

 

エス「・・・ああ、確か大臣の息子・・・シュラだったな?」

 

タツ「やはり嘘では無かったのか?両腕両足の関節を外しておいた・・・無駄に暴れるからだ」

 

タツミはシュラの猿ぐつわを刀で斬り解く。

 

シュ「て、てめぇ・・・く、くそ・・・」

 

タツ「お前は本当に救いようの無い奴だな・・・やろうと思えば両手足の骨を折れたんだぞ」

 

エス「タツミ、こんな奴にタツミの情けなど通じない。」

 

シュ「おい、てめぇエスデスの姉ーちゃんだろ?なんでこんな奴と一緒にいる?こいつは俺をこんな目に遭わせたんだぞ?早くこいつを殺せ!」

 

エス「シュラ・・・貴様、誰に向かって命令している?」

 

タツ「最近、婦女暴行死体遺棄事件があったが・・・まだ犯人が捕まって無かったな・・・こいつがこの辺に現れた時期と同じなんだよな・・・」

 

エス「ほぉ・・・」

 

シュ「・・・・・・・」

 

タツ「シュラさんよ・・・あんた思い当たる節がありそうだな・・・」

 

シュ「お前ら・・・こんな事してタダで済むと思うなよ・・・俺はオネストの息子だ・・・親父はな、息子の俺にも教えてねえ、とっておきの帝具持ってんだ・・・エスデス、お前だって目じゃねえはずだぜ・・・ざまあみやがれ・・・ははは!!」

 

タツ「はぁ・・・エスデス、こいつを広場に明日晒す・・・死なん程度に痛めつけてやれ・・・俺はもう疲れたから今日は帰る」

 

エス「ああ、判ったタツミ、明日遅刻しないでくれよ。部下達の手前もあるからな」

 

タツ「おお、じゃあお休み」

 

エス「ふふふ、お休み♪」

 

タツミは去っていく。

 

エス「・・・さて、シュラ久しぶりだな・・・すまないな、こんなしっかりとした拷問部屋では無く物置小屋で・・・」

 

シュ「エスデス・・・おめぇ裏切ったな・・・あんな小僧と一緒につるみやがって・・・」

 

エス「裏切っただと?まあそうかもしれないな・・・だが私はより面白い、刺激のある方に着いたまでだ!」

 

シュ「・・・なんだと?反乱軍に着いたんじゃねえのか?」

 

エス「私は最早帝国軍でも、ましてや反乱軍にも着かん!」

 

シュ「けっ、あんな小便臭えガキに惚れて腑抜けになったのかよ!」

 

エスデスはシュラの片目を刀で突く。

 

シュ「ぎゃあああああああああああああ」

 

エス「貴様・・・私の夫を愚弄すると手加減せんぞ・・・夫の指示があるから手心加えるつもりだが、今ここには居ない。お前を生かしてさえいればそれで良いという条件だからな・・・」

 

シュ「ぎゃ・・・がが・・・てめぇ、・・・あんた、闘いが生き甲斐だったんだろ、拷問狂だったんだろ?あんなつまねえ奴について良いのかよ!?」

 

エスデスは今度はシュラの片耳を削ぐ

 

シュ「ぐぎぎぎぎぎ・・・」

 

エス「同じ事を二度言わせるな・・・夫、タツミはな・・・帝国軍に着いていながらも帝国軍では無い。・・・反乱軍に身を置いても反乱軍では無い・・・そういう男だ・・・」

 

シュ「ぜぇぜぇ・・・どういう事だ・・・そりゃ?」

 

エス「貴様如きには判るまい・・・あの夫は妻である私にすら心を完全に許していない・・・それに私が夫の意にそぐわぬ事をすれば問答無用で殺すと言っている・・・ふふふ・・・面白い夫だ」

 

シュ「お前も・・・あの野郎も狂ってやがる・・・」

 

エス「貴様には言われたくは無いな・・・女を犯しただけではなく、殺すとはな・・・夫は自らの欲望に負けたりはせんぞ・・・何人殺したとしても自分で自分を支配している恐ろしい男だ・・・」

 

シュ「・・・・・・・」

 

エス「さて、楽しいお喋りの後は・・・楽しい拷問の時間だ、いくぞ・・・」

 

シュ「ま、待て・・・エスデスのねえーちゃん俺と取引しねえか?・・・俺が親父に取り成して、もっと刺激のある楽しい思いをさせてやるって、な、な?」

 

 

ナイトレイドアジト

 

 

マイ「タツミ?あんたこんな時間までどこ行ってたのよ?」

 

タツ「お前は俺のかーちゃんか?ちょっと気晴らしに歩いてたら落とし穴に落ちて、気が付いたら夜になってたんだよ!」

 

ラバ「・・・・・・」

 

レオ「・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・」

 

アカ「・・・・・・」

 

タツ「あーそれで俺の晩飯は・・・?」

 

アカ「タツミ・・・スーさんが怒っている」

 

タツ「なんで?」

 

スサ「・・・タツミ、今朝お前よくも俺の作った料理を食わずに出かけて行ったな?」

 

タツ「い?あ、あれは、その急用で・・・」

 

スサ「折角作った料理を食べずに行くのは料理人への冒涜だ・・・お前には今後、一食も作らん!」

 

その後、タツミはスサノオに平謝りして何とか機嫌を直して貰ったという。

 

 

 

 

 

翌朝

 

マイ「あれ、タツミは?」

 

スサ「朝飯食べたら直ぐに出て行ったぞ」

 

マイ「なによ、あいつ・・・」

 

 

イェーガーズ詰所

 

エス「タツミ、ギリギリだぞ!」

 

タツ「すみません、隊長・・・ふあ~あ」

 

ミーティングが終わり・・・そこに、

 

兵「エスデス隊長!処刑人の宿舎と裁判官宅で殺害が・・・至急現場に向かわれて下さい!」

 

エス「・・・全く、朝から騒々しい・・・またナイトレイドの仕業か?・・・ランは私と来い!残りの者は通常業務にあたれ、以上!解散!」

 

 

ウェ「はぁ・・・最近、物騒だよな・・・」

 

タツ「はぁ~~ねむ・・・」

 

ウェ「お前は呑気だよな・・・」

 

タツ「あ・・・ボルスさん、クロメ、昨日はすまなかった・・・」

 

クロ「・・・・・・」

 

ボル「タツミ君・・・」

 

タツ「いや~つい俺も昨日頭に血が上っちまって・・・あの後、絵草子(漫画の事)読んで気持ち晴れてたらどうでも良くなりましたわ」

 

ウェ「お前こらぁ!!昨日確かにお前も言いたい事言ってたけどよ・・・、俺はちょっと良い事言ってんなあ・・・と思って見直してたんだぞ!」

 

タツ「いや~俺もあんな事言うのやっぱ性に合わないなって・・ほら、俺ってぐーたらキャラだろ?やっぱり自分のキャラに合わない事するもんじゃないよな、あははは」

 

クロ「・・・・・・」

 

ボル「・・・・・・」

 

ウェ「・・・だー!お前って奴はアホかー!」

 

タツ「んじゃ俺、パトロールに行ってくるぜ!」

 

ウェ「おい、待てよお前!」

 

二人は出ていく。

 

ボル「・・・・・・」

 

クロ「ボルスさん、・・・私達も行きますか?」

 

 

ロマリー広場

 

ウェ「おい、お前、本当は何か隠してるっつーか、何か考えでもあんだろ?」

 

タツ「俺が何か考えがあって行動しているように見えるか?」

 

ウェ「・・・・あー・・・だー!質問しているのは俺だぞ!」

 

タツ「ん?」

 

 

人だかりの中、

広場中央に戸板に縛られ壊れた笑いをしている男がいた・・・。

 

ウェ「な、なんだこれ?」

 

タツ「・・・・・・・」

 

その男の横に“大臣オネストの息子、シュラ。このたび数々の婦女暴行殺人事件の犯人であり、ここに晒すものとする”と紙に書いてある。

 

ウェ「だ、誰だよ・・・う~~む?」

 

タツ「そーいやあ、未解決殺人事件の犯人こいつか・・・?」

 

ウェ「まだそうと決まった訳じゃねえって・・・けど、こいつ大臣の息子か・・・、とにかく早い所、解放しないと・・・タツミは周りの人だかり散らしてくれよ」

 

タツ「アイアイサー。はいはい、みんな行った行ったー」

 

 

ウェ「おいあんた、しっかりしろ・・・おい、大丈夫か?」

 

シュ「うははははは、・・・とーちゃん・・・あははははは・・・」

 

ウェ「駄目だ・・・誰がこんな事を・・・」

 

タツ『エスデスもここまでしなくても・・・まぁ、俺の監督不行き届きか?確かに生きてはいるが・・・』

 

ウェ「俺は警察の者だ、判るか?」

 

シュ「・・・にーちゃん、けーさつ・・・わぁ、かっこういい・・・とーちゃんどこ・・・?」

 

ウェ「くっ・・・・見てらんねえ・・・」

 

タツ「・・・ウェイブこいつ連れてくぞ」

 

ウェ「どこにだよ?」

 

タツ「大臣の所だ」

 

 

 

宮殿

 

 

エス「・・・・・・」

 

オネ「・・・・・・・ああ、シュラ・・・なんて変わり果てた姿に・・・ううう・・」

 

エス「私の部下達が見付けた時にはこの有様だ・・・気の毒にな・・・」

 

シュ「あ・・・とうちゃん・・・あえてうれしい・・・」

 

エス「・・・失礼する」

 

エスデスは出ていく。

 

オネ「・・・・・、はぁ・・・愚かな・・・こんな無様を晒すとは・・・私の息子に値しない・・・。近衛兵!」

 

兵「は!」

 

オネ「こいつを死体置き場にでも捨ててきなさい・・・こんな私の名を貶める奴は必要ありませんからね・・・」

 

シュ「と、とーちゃん・・・うわーん、いやだーーーーーー」

 

一人になるオネスト。

 

オネ「・・・・ふぅ・・・、あの五体が満足に動かず・・・そして心を砕く拷問・・・まさか・・・」

 

 

 

イェーガーズ詰所外れ

 

タツ「ランさん、お疲れ様です」

 

ラン「お、タツミ君。・・・君もお疲れ様です」

 

タツ「ええまあ・・・」

 

ラン「しかし流石タツミ君、昨日は耳が痛い限りでしたよ」

 

タツ「ああ、ランさん・・・ちょっときつく言い過ぎましたかね?」

 

ラン「あれぐらいで良いと思いますよ。・・・しかしなるほど、やはりクロメさんは暗殺部隊の人でしたか・・・」

 

タツ「あいつはあの部隊を抜けれた訳じゃありません・・・秘密を知り過ぎているでしょうからね」

 

ラン「ふ~~む、昨日の件といいナイトレイドの仕業ですかね?犯行が似ていますから・・・」

 

タツ「さあ、どうでしょう、自分にはさっぱりですよ・・・」

 

ラン「タツミ君、私がもし何か事を起こす時は信頼出来るのは君だけなので、手を貸して下さい・・・」

 

タツ「お茶汲みでしたらいつでも・・・」

 

ラン「ふふふ、ではまた・・・」

 

 

その後・・・。

 

 

エス「タツミ、ランの奴も上手く丸めこんで例の事件はナイトレイドの仕業にしておいたぞ!」

 

タツ「ランさんは俺の味方だからな・・・まぁあの人なら薄々気付くだろうな」

 

エス「む?ランも味方につけていたのか?」

 

タツ「言わなかったか?」

 

エス「聞いて無いぞ!」

 

タツ「まぁそれは良いとして・・・シュラの事はちょっとやり過ぎじゃないのか?」

 

エス「あいつは私のタツミを馬鹿にしたからだ・・・当然だ!」

 

タツ「はぁ・・・まぁ良い。それでシュラはどうなった?」

 

エス「・・・ああ、あいつは死体置き場に捨てられた・・・、あそこは五体満足で無ければカラス共の餌食だ」

 

タツ「・・・馬鹿な親だ・・・最後にチャンスを与えたものを・・・」

 

エス「タツミ、次は大臣を仕留めるのか?」

 

タツ「・・・俺はただ帝具を集めて壊すだけで良いんだが・・・いずれぶつかる事になるな・・・」

 

 

エス「・・・ところでタツミ、八房の砥ぎは終わりそうか?」

 

タツ「俺も付け焼刃な砥ぎ術だが、とりあえずやっている。こいつは何人者人間の血を吸っているな・・・荒っぽい使い方もしている・・・いくら業物で帝具でも、よく千年も持ったもんだ・・・」

 

タツミはいくつもの砥ぎ石を置き、その最中である。

 

タツ「ああ、あと数日は掛るが、出発前には出来る」

 

エス「・・・前に言っていたが、本当にボルスとクロメを殺すのか?」

 

タツ「・・・ああ・・・、俺が殺さなくともナイトレイドと革命軍からも狙われているからな・・・」

 

エス「・・・そうか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(現在)

 

エス「ダーリンよ」

 

タツ「なんだ」

 

エス「・・・ああ、ダーリンは私より年下なのにまるで中年男みたいだな♪」

 

タツ「・・・・・・ああああ、そうだよ。」

 

エス「・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

エス『む?何故だ、あのナイトレイドの小娘と同じ事(?)を言ったはずなのに、何故話が弾まん?』

 

エス「・・・あ、ああそれと、話にあった17歳教とはなんだ?」

 

タツ「あれか?よくは知らんが確か永遠の17歳になれる宗教だったかな?」

 

エス「な・に!?いつまでも若くいれるそんな秘術がその宗教にあるのか?」

 

タツ「あ、いや、そうではなく単純に17歳と思いこむものであって、単なる冗談みたいなものだぞ」

 

エス「・・・なんだ、余興の一つか」

 

タツ「まあ、俺もそんな遊びみたいな宗教なら可愛いもんだと思うがな、ははは」

 

エス「・・・・・・」

 

タツ「・・・まさかお前がそんな余興じみた永遠の17歳に興味なんかないよな?」

 

エス「無論だ、ある訳が無い!」

 

タツ「そうだよな、あはは・・・」

 

エス「・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

エス「・・・ところでダーリン、その・・・17歳教とやらを他に知っていたら教えてくれ・・・ん、いやその私も世情を知りたいから、他意は無いぞ、うん」

 

タツ「やっぱお前も興味あるんだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パロディネタ)

 

エス「タ~~~ツ~~~ミ~~~」

 

エスデスがタツミに迫る。

 

選択肢→1.抱いて下さい 2.抱いて下さい  3.抱いて下さい

  

 

タツ「・・・今まで俺を脅かしていた問題に答えが出た・・未来は不動にあらず、選択は我が手の内のある・・・だが皮肉な事に今の俺には選択の余地など何処にもないようだ・・・」

 

 



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執着・犠牲心・正夢を斬る

アニメ23,24話を観まして、前者はタツミの死闘が圧巻。彼は殺し屋としてではなく英雄的な死を遂げ、
そして後者はアカメが真の意味での正道殺し屋となり、死んでいった仲間と今まで斬った命も背負う覚悟を見せ、ここまでの境地に達した彼女にエスデスが勝てる訳も無い。彼女は革命の英雄としてではなく、汚名を背負って殺し屋として生き続ける、命が尽きるか、誰かの手に掛る其の日まで。
この終わり方は必殺必中仕事屋稼業の知らぬ顔の半兵衛を連想しました。
そしてレオーネは自分の死に顔をこれからも生き続けるアカメや他の者達に見せるべきでは無いと判断したのか誰にも知られずひっそりと退場。仕置人・念仏の鉄の最期のオマージュですね。
ラストはどうなるのかと思ってましたが、最後は殺し屋としての因果応報の業をしっかり描かれ溜飲が下がりました。自分がもし殺し屋だったらアカメと組んで仕事をしたいものです。


クロ「刻んで、ナタラ、ドーヤ!」

 

クロメが帝具八房で出した死体達がチェルシーの右腕を薙ぎ払わい、銃弾が胸を貫通する・・・。

 

ナタラに首を抑え込まれ、今正に得物が振り下ろされる。

 

チェ『・・・報いを受ける時が来たんだ・・・、でも悔いは無いかな・・・だけど憧れてたな・・・ピンチの時に助けてくれる人・・・タツミ・・・』

 

斬っ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェ「・・・・・はぁはぁはぁ・・・・夢・・・・?・・・うっ・・・うぐぐぐおえ・・・はぁはぁ・・・」

 

 

アジト朝

 

タツ「はぁ~あ、眠ぃ・・・よぉ、お早う!」

 

チェ「・・・・・お早う」

 

タツ「どうした?朝から景気良い顔して?」

 

チェ「・・・ふふ、そう見える?」

 

タツ「素直に死相が出てる・・・と言やぁ良いのか?」

 

チェ「・・・!?・・・」

 

タツ「まぁ、良いや。えっと確か今日はフェクマへ皆で遠足だったっけ?」

 

チェ「もう、ベタなボケしないでよ!今日はいよいよ安寧道へ向けて・・・その前にイェーガーズの奴らと激突直前の出立日でしょう!」

 

タツ「あっ、そっかー、俺の好きなヨーグルトはおやつに入りますか?先生?」

 

チェ「だからそれはおやつに・・・って違うわよ!・・・はぁ・・・本当タツミは良い度胸してるわ・・貴方だって場合によっては戦闘に参加するのに・・・」

 

タツ「そりゃ大変だー」

 

チェ「・・・タツミは死ぬのが怖くないの?」

 

タツ「怖いっちゃ怖いな・・・」

 

チェ「けどタツミ本当は強いんでしょ?だから余り動じて無いんだよね?」

 

タツ「俺が強い?そう見せている・・・或いはチェルシーがそう勘違いしているだけさ」

 

チェ「そう・・・、貴方ならまだ完全な殺し屋じゃ無いから死んであの世があっても笑って三途の川渡れるね・・・」

 

タツ「俺、泳げないから三途の川で溺れたらどうなるんだろ?」

 

チェ「ははっ・・・知らないわよ・・・・・・ねぇ、タツミ、ちゃかさず真面目に答えて」

 

タツ「・・・・・」

 

チェ「あたし死んだらどうなるんだろ?地獄、天国?それとも?」

 

タツ「俺だって死んだ事無いから知らんが、あんたは死んだら無になる事を望むか?それとも魂は存続し人殺しの罪を償う為に地獄へと行きたいか?或いは栄光の革命の戦士としてヴァルハラ・・・天国にでも行きたいか?もしくはまたこの世界に生まれたいか?」

 

チェ「・・・・・・・」

 

タツ「その人間が望む死後が待っているかもな?」

 

チェ「タツミはどうなりたいの?」

 

タツ「俺はこの世の中が大嫌いだから、もう二度と生まれたく無いね」

 

チェ「そんなに嫌い?気持ちは判らなくもないけど・・・」

 

タツ「ああ、死んで無になりたいね、だから俺はいつ死んでも気にしない」

 

チェ「・・・なんかあたし達より肝が据わっている理由が判ったわ」

 

タツ「いやまあ、実際殺されたくはないけどさ・・・人生は一回こっきりやり直しなんて効かない再び転生なんて出来ない、そう思うぞ・・いや俺はそれを望んでいるなあ。他の人がそれを望もうが望まなかろうが俺にはどうでも良いことだ」

 

チェ「そっか・・・もしあたしが今回の仕事で死んでももう一回生まれて来たいと望んで・・・今度は真っ当な平和な世の中になってたとして誰か良い男と一緒になりたいと思ったら叶うかもね・・・」

 

タツ「・・・そうだな、だけどチェルシー、男に生まれてきたらどうすんだ?」

 

チェ「・・・ふふふ、その時はあたしとタツミ、おホモ達にならない?」

 

タツ「・・・ああ・・・、急用を思い出した、また後でな」

 

チェ「あはは、ごめんごめん。・・・でもタツミ、私も約束守っているんだから、貴方も守ってよね」

 

タツ「ん~、俺、約束は破るものだと思っているから」

 

チェ「な!?じゃ、今でもイェーガーズに居る事ばらすわよ・・・でもタツミ、今でも何故いるの?」

 

タツ「・・・色々都合が良いんだよ。それに、エスデスを倒す機会を伺っている」

 

チェ「え?あのエスデスを!?」

 

タツ「あいつの権力や信用を徐々に落しているんだ・・・、俺の目的の為にも奴はこのままだと邪魔だ」

 

チェ「皆にもその事内緒にしているのは何故?」

 

タツ「言う必要も無いだろ?それに俺は殺し屋になる気は無い」

 

チェ「・・・そ、そうだよね」

 

タツ「・・・それじゃ先生、おやつは300オンまででヨーグルトは含まれんと・・・」

 

チェ「・・・タツミ君、食べ過ぎるんじゃないわよー・・・」

 

そして時は経過し、

 

 

 

 

 

帝都門からイェーガーズが出陣する。

 

 

 

 

密偵「エスデス達、イェーガーズだ。5人とも東へ向かっている。」

 

密偵「ナジェンダさんの作戦はズバリ的中だな」

 

密偵「よし、頼むぜ。マーグホーク、この情報をナイトレイドへ!」

 

 

 

帝都郊外山林、ナイトレイド待機中場所

 

ナジェ「・・・5人か、イェーガーズ全員で出動してきたな・・・『エスデスの進行速度を考えれば私達の足跡があったとしても明日の午後にはここに来るはず・・・よし!』

 

ナジェ「密偵チームから情報が入った。お前達今日はさり気無く人目についてくれ」

 

アカメ・マイン「了解!」

 

 

翌日・ロマリー街道

 

広場で休憩を取るイェーガーズ

 

エス「ナジェンダはそのまま東へアカメは南へ。ここに来て一行は町を出た所を目撃されている」

 

ボル「東へ行けば安寧道の本部である虚六へ南へずっと行けば反乱軍の息が掛っているであろう都市へ・・・キナ臭いですね」

 

ウェ「急げば追いつけますよ!」

 

エス「まぁ待て。ナイトレイドは帝都の賊、地方では手配書が回っておらず油断したか・・・あげく二手に別れた所を目撃されている・・・都合が良過ぎるな」

 

ラン「ええ、罠の確率が高いですね」

 

エス「わざと人目についたか・・・

 

『回想、出立前

 

タツ「ナジェンダとアカメは二手に別れる・・・と見せかける算段だ」

 

エス「ほぉ・・・それでどうする?」

 

タツ「お前とランさんは東へ行け・・・そこでナジェンダが罠として盗賊共が待ち構えている」

 

エス「私に盗賊の掃除をさせる気か・・?」

 

タツ「そうだ、頭数はざっと100、あんたら二人で十分だろ?殺すか生かすかは・・・まぁ初めに降伏するなら生かしとけ。クロメ、ボルス、ウェイブで南へ行かせろ、そこで俺達が迎え撃つ」

 

エス「・・・・・・」

 

タツ「不服か?」

 

エス「タツミ、そろそろ私にもタツミの真意を教えてくれても良いだろ?」

 

タツ「俺の正体は実は危険種だと言えば信じるか?」

 

エス「・・・・・・・」

 

タツ「俺のやる事を黙ってみておけ、それでどう解釈するかは後はお前の勝手だ」

 

 

エス『・・・タツミ、私はお前の事を信じているぞ・・・』

 

ラン「・・・隊長、どうかされましたか?」

 

エス「・・・いや、なんでもない」

 

ウェ「ところで隊長、タツミの奴置いてきて良かったんですか?」

 

エス「ん?ああ・・・、誰か一人帝都に置いといた方が何か遭った時対応出来るだろ?」

 

ウェ「あいつちゃんと真面目にやりますかね?」

 

エス「奴とて最低限の事はするだろ?」

 

ウェ「そうっすね、最低限は」

 

エス「そんな事より、ご丁寧に折角姿を現したナイトレイドだ、この機を逃さん。私とランでナジェンダを、クロメ、ボルス、ウェイブでアカメを追え!良いか、周囲には常に警戒しろ、多勢に無勢なら撤退も構わん。ガンガン攻めるが、特攻しろと言っている訳ではない。帝都に仇なす最後の鼠だ。着実に追い詰め仕留めろ!」

 

「「了解!」」

 

エス『・・・タツミ、お前は本当にナイトレイドを倒す気はあるのか?・・・』

 

 

アカメを追って馬で駆けるクロメ、ボルス、ウェイブ。

 

ボル「帝都最強のナイトレイドか・・・、私なんかで勝てるのかな・・・」

 

ウェ「大丈夫ですよ、こないだ危険種を素手で一蹴してたじゃないですか?力合わせれば勝てますって。それにボルスさんの帝具は多人数向けですし寧ろ心強いです」

 

ボル「・・・そうかなあ・・・そういえば多人数と言えば私の帝具よりもタツミ君の帝具の方が圧倒的だったね・・」

 

ウェ「あいつの事ですか?ああ・・・、確かに強いかもしれませんが、皆の和を乱すから逆に不味いですって、こないだだって・・・」

 

ボル「いやあれは、私も薄々感じていた事を言われたまでで、彼は悪くないよ」

 

ウェ「・・・やっぱボルスさんは人が良いですね」

 

クロ「・・・ウェイブ、お喋りするだけ余裕あるんだね」

 

ウェ「おう、俺は場数は結構踏んできてるぜ」

 

クロ「・・・どうだか?ウェイブはここぞって時に弱そう」

 

ウェ「お前時々嫌味言ってくるけど、俺なんかしたかよ?」

 

クロ「・・・知らない」

 

ボル「二人とも喧嘩しちゃ駄目だよ!」

 

ウェ「!・・・おい、前方になんかあるぜ。かかし・・・?」

 

ボル「本当だこれ以上無いってくらい怪しいね」

 

クロ「・・・胸に池面・・・?なにこれ?」

 

ボル「罠だったら大変、用心して調べよう」

 

 

はるか遠方

 

マイ『標的確認!人数から見てエスデスは戦力を分け、ボスの名に釣られて東に行ったと判断・・・計画通り』

 

マインのパンプキンスコープにクロメが写る

 

マイ『・・・!・・・似てるわね・・流石は姉妹って訳ね・・・だからこそアカメにはやらせたくない、こっちで仕留める。せめて一撃で楽にしてあげる』

 

ズドォ!!

 

クロ「!!!」

 

寸でかわすクロメ

 

マイ「・・・!!!!・・・かわされた!何今の人間を超えた反応速度は!」

 

 

 

 

 

タツ『・・・へぇ、やるな、フォローするまでも無かったな』

 

 

 

 

池面かかしから・・・。

 

ウェ「クロメ・・・危ねえ!」

 

現れたスサノオが用いる先端円筒型棍棒の武器での薙ぎ払いをクロメを庇ってふっとばされるウェイブ。

 

ウェ「うわああああああ」

 

ボル「ウェイブ君!」

 

ナジェ「狙撃にはしくじったが戦力を一つ・・・かつ標的で無いのを退場させられたのは大きいな」

 

ナジェンダ、レオーネ、アカメが現れる。

 

ボル「・・・ナイトレイド?しかも全員?東は全くのフェイクだったんだね」

 

ナジェ「クロメにボルス、イェーガーズの中でもお前達は標的だ。覚悟して貰うぞ!」

 

ボル『標的・・・、』「数え切れないほど焼いて来たから刺客に狙われても仕方ないと思っている・・・でも、私は『妻娘の為にも』死ぬわけには行かない」

 

対峙するクロメ、アカメ。

 

クロ「お姉ちゃん・・・」

 

アカ「クロメ・・・」

 

クロ「凄く会いたかったよ、良かったぁ・・・私の手で斬ればお姉ちゃんも八房のコレクションに入れて上げれるものね」

 

クロメは帝具八房をかざす。

 

ナジェ「!?」

 

レオ「!」

 

アカ「・・・・・・」

 

しかし何も起こらない・・・。

 

ナジェ「・・・・」

 

レオ「・・・・」

 

アカ「・・・・」

 

クロ「・・・・?・・・ええ、どうして?」

 

アカ「どうした?・・・八房と他の刀を間違えたか?」

 

クロ「くっ・・・馬鹿な、こないまではちゃんと・・・そんな!!!畜生!!!嘘だぁあぁああ!」

 

 

スサノオは有無も言わさず攻撃を仕掛ける。

 

ボル「クロメちゃん!!」

 

ボルスはスサノオの攻撃を受け止め帝具で弾き返す。

 

ボル「くっ・・・!クロメちゃん、今は闘いに集中して!」

 

クロ「・・・は、はい!『・・・でもなんで?なんで八房が・・・?隊長に砥ぎに出して貰ってからあの時から・・・?』

 

レオ「へっ、どうやら帝具も賞味期限が切れたんじゃないの?」

 

ナジェ「この機を逃すな!一気に畳込む!」

 

アカ「クロメは私が倒す、任せてくれ!」

 

ナジェ「ああ」

 

レオ「じゃあ、あたしらはボルスだな、行くぜスーさん」

 

スサノオ「判った」

 

 

スサノオの武器での攻撃を今度は素手で受け止め抑えるボルス

 

ボル「くっ・・・・・ふん!」

 

スサノオごと投げ飛ばす。空中回転し着地した後、追撃するスサノオ、続いてレオーネが仕掛ける。

 

ボル「マグマドライブ!」

 

文字通りマグマの塊が二人を襲う。

 

スサ「!?」

 

レオ「ちっ!」

 

二人とも距離を置いて間合いを測る。

 

ナジェ「ボルス単体でも少し手こずるな・・・」

 

 

 

アカメの薙ぎ払いをクロメがはじき返す。続けざまクロメの蹴りをアカメは両腕でガードし飛びし去る。

 

クロ「くっ・・・、今まで苦労して得た玩具が・・・仲間が・・ナタラが出て来ない・・・ちくしょう・・・お姉ちゃんに判る?あたしの苦しみ!?」

 

アカ「・・・、これで良かったんだクロメ、死んだ者はもう帰らない。お前のその子供じみた心はもう終わらせろ!」

 

クロ「仲間だからこそ、死んだ後でもずっと一緒に居たかった・・・それが判らないお姉ちゃんは薄情だ!」

 

アカ「・・・お前の都合で自分の意思ででなく死んだ後も勝手に使われる身にもなれ!!」

 

アカメがクロメの腕を斬り落としに掛るが、寸でかわしクロメの髪が数本斬られる。

 

クロ「ちっ・・・!」

 

アカ「クロメ・・・、今楽にしてやる・・・」

 

帝具村雨を納刀し、居合の構えを取る。

 

クロ「お姉ちゃんにあたしが斬れるの?・・・この裏切り者!・・・仲間もみんな帝国の為に死んでいった。そんなみんなの死を見捨ててナイトレイドに付いたなんて許せない!」

 

アカ「・・・クロメ、その帝国が仲間のみんなを良い様に手駒に使い、使えなくなれば殺処分されてきた・・・。民の為の帝国ではなく、一部の為政者の為にあるだけの国なんて、それで騙されて死んでいった皆が浮かばれない!」

 

クロ「くっ・・・!」

 

アカ「本当に民の為の国だったなら私達姉妹を無理矢理引き離し、そして、初めに投げ込まれた危険種の巣窟で他の者達が無残に死んでいくのを見殺しにするような国か!?」

 

クロ「う・・・うるさい、うるさい!!あんたはただ、そうやって国のせいにしているだけなんだ!弱虫!!」

 

アカ「・・・これ以上はもう、語れる言葉は私には無い。すまない、私の力不足だ・・・。クロメ、せめて姉としての責任は取る・・・」

 

クロ「来てみろ!まけるもんかぁぁぁ!!」

 

 

アカメの姿勢が少し前傾になったと思った瞬間・・・!

 

 

 

 

 

マイ『・・・よく判らないけど八房は発動してないみたいね・・・アカメとクロメの姉妹対決か・・・、あっちはボス達でボルスと応戦中・・・、中々やるけど時間の問題ね・・・う~む、ここで私が出たら卑怯かな?』

 

 

 

別の離れた森林

 

ラバ「どうやら、始まったみたいだな・・・

 

アジト出立前・・・

 

ナジェ「今回の闘いでチェルシーは遊撃を命じる。お前は暗殺の達人だが直接戦闘には向いていない。仕掛けるタイミングも全て任せたぞ」

 

チェ「あいよ!効率的に動いて見せますって」

 

ナジェ「ラバックお前は見張りだ、結界を張りつつ空にも目を配れ、且つもしエスデス達がこちらに来た場合クローステールの奥の手で足止めしろ」

 

ラバ「!」

 

ナジェ「重要な任務だ。エスデス達がこちらに来ないよう作戦を立ててはいるが実戦では何が起こるか判らん。柔軟な思考を持つお前に任せたい。」

 

ラバ「判りました!期待に応えてみせます!」

 

 

・・・・・・

 

 

ラバ『それでこの旅から帰ったらそろそろ告白とかしてみようかな・・・と、いけね、今は気を緩めちゃなんねえな』

 

 

クロメ達イェーガーズ対決前・・・・・・

 

 

タツ「・・・スーさんなんだそれ?」

 

スサ「ナジェンダの命令だ。昨日で作り上げた」

 

タツ「なんか妙なもん作っているなあと思ってが」

 

ナジェ「ふふふ、この上なく怪しいだろ?」

 

タツ「そうっすね」

 

ナジェ「そしてこの中にスサノオが入り奴らを待ち伏せる!」

 

タツ「・・・・・・・、んじゃ俺は・・・あ、いたたたた」

 

ナジェ「どうした?」

 

タツ「昨日ヨーグルト食べ過ぎたみたいで・・・、ちょっと行ってきます」

 

ナジェ「はぁ~~~~~~~・・・お前は何をやっているんだ!!!」

 

タツ「いやあ・・・、最後の晩餐かもと思ったらつい・・・」

 

ナジェ「縁起でも無い事言うな!!」

 

タツ「んじゃそういう事で失敬!」

 

 

 

ナジェ「・・・・・・・全くあいつは・・・、少しでも期待した私が浅はかだった・・・」

 

スサ『・・・妙だな?昨日調達にした食材にヨーグルトなど無かったはずだが・・・?』

 

アカ「・・・・・・・」

 

レオ「・・・・・・・」

 

 

・・・・・・

 

 

クロ『くっ・・・避けきれない・・・』

 

アカ『終わりだクロメ・・・安らかに眠れ・・・』

 

アカメの最速必殺の一撃が入る・・・。

 

 

 

 

 

だがクロメを斬るはずだったアカメの村雨がクロメを斬らずにただ宙を斬る。

 

アカ「・・・!!!?」

 

クロ「・・・?」

 

その場に次第に姿が現れる一人の鎧をまとった者・・・。

 

アカ「誰だ・・・?『透明化していて現れた?・・・インクルシオ・・・?いや何か違う・・・』

 

その鎧はアカメが知っているそれとは若干異なり、全身の節々にその帝具の素材となった危険種の体毛が現れていた。

 

そして武器は全体が鱗で覆われた薙刀であった。

 

クロ「・・・あ、貴方は?」

 

「・・・・・・・・・」

 

アカ「・・・イェーガーズの補欠か?・・・邪魔立てするなら葬る!」

 

「・・・・・・」

 

アカメの村雨をその薙刀で沿わせるようにいなし、薙刀の逆の先端、石突でアカメの鳩尾を打つ。

 

アカ「ちっ・・・・・」

 

クロ「あ、はははは、凄いよ・・!助けてくれて有難う。私達二人掛りならお姉ちゃん・・・アカメを倒せるよ!」

 

「・・・・・・・」

 

鎧の男は薙刀をクロメに向けて振り上げる・・・。

 

クロ「・・・・・え?」

 

だが投げた先は、ボルスに攻撃を仕掛けていたナジェンダの伸びた右手義手に対してである。

 

ナジェ「なに!?」

 

ボル「!?」

 

鎧の男は直ぐにナジェンダの伸びた義手を捕え即座に投げた得物を回収し斬って捨てた。

 

ナジェ「なに!?馬鹿な・・・ちっ・・・新手か・・・!?」

 

ボル「君は・・・?もしかして隊長の要請で?」

 

「・・・・・・・」

 

レオ「なんだか知らないが邪魔するならお前も倒すぞ」

 

レオーネの鋭い右蹴りが顔面に来るが、かわしながらそのまま自身の右方向へいなした後、背中を向けた状態の彼女に体重を乗せた体側面で弾き飛ばす。

 

レオ「くっ・・・こいつ・・・油断するな、弱く無いぞ!」

 

スサ「・・・・・・」

 

その間にもボルスはマグマドライブで援護し、クロメもアカメに応戦し始める。

 

アカ『くっ・・・闘いの空気の流れが変わった・・・』

 

クロ「どうやら、まだあたしは死なないみたいだね・・・、大好きなお姉ちゃん、八房が発動しないのは残念だけどお姉ちゃんの死体、腐らないようにしてあげるよ!!!」

 

アカ「ほざけぇぇぇ、クロメ!!」

 

 

 

ナジェ「不味いな・・・、スサノオ、奥の手の使用を許可する!!」

 

スサ「了解した!」

 

「・・・・・・・」

 

鎧の男はスサノオの命である核目掛けて得物を投げ刺さり、奥の手発動を遅らせた後ナジェンダを投げ飛ばす。

 

ナジェ「ぐっ・・・」

 

レオ「ボス!!」

 

 

 

 

マイ「・・・何?新手?なんかちょっとこっちが押されているみたい・・・援護するか!」

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

鎧の男は闘っているクロメとアカメの間に入り、クロメを担いで逃走する。

 

アカ「!?」

 

クロ「ちょっと、何するの離して!!」

 

その男はボルスの方を見て頷く。

 

ボル『・・・成程、何もかもお見通しという訳だね・・・奥の手連続使用でこの帝具ももう・・今まで有難う・・・』「奥の手発動!」

 

レオ「!?」

 

スサ「・・・・」

 

ナジェ「なに!?」

 

アカ「・・・・」

 

ボル『奥の手はマグマドライブだから嘘・・・警戒されている今のうちに・・・破壊する』

 

ボルスの帝具、ルビカンテを上空へ投げ、自爆させる・・・。

 

大轟音と共に周りの空気が爆ぜる。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

スサ「ナジェンダ大丈夫か?」

 

ナジェ「ああ・・・、お前は?核が!?」

 

スサ「ひびが入っているからな、当分戦闘は無理だがしばらくすれば修復する」

 

 

 

 

アカ「・・・レオーネ私を庇って・・・」

 

レオ「なーに、アカメにはこれからも働いてもらわなきゃ・・・・な・・・」

 

アカ「レオーネ?・・・レオーネ!!」

 

 

 

遠くに離れた場所で・・

 

クロ「・・・凄い爆発・・・ボルスさん・・・」

 

「・・・・・・・」

 

クロ「もう大丈夫、降ろして」

 

クロ「・・・貴方、誰?」

 

何も言わずに鎧の男は去っていく。

 

クロ「・・・・・・・有難う」

 

 

 

 

 

ボル「ふう・・・ふう・・・逃げ切ったみたい・・・あの場合他に選択肢は無かったかな・・・クロメちゃん、大丈夫だよね?あの人が連れて行ってくれたし」

 

ボル「・・・・・

 

イェーガーズ詰所、エスデス室

 

エス「おいボルス、料理を作るだけ作ってなんで食べる時だけ席を外すんだ?」

 

ボル「・・・だって私の顔酷いから、ご飯が不味くなっちゃいますよ」

 

エス「ほお・・・顔を見せたくないのか、ならば逆に見たくなるというもの」

 

ボル「ちょ・・隊長、やめ・・・」

 

エス「・・・!!・・・なんだ全然大した事無いな、お前にはがっかりだぞボルス」

 

ボル「え?」

 

エス「その程度の顔では誰も気にせん。皆で食事にするぞ」

 

 

・・・・・」

 

 

ボル「また・・・皆で・・・一緒にご飯食べたいな・・・」

 

少女「・・・ぐす・・・ぐす・・・ぐす・・・」

 

そこに一人の少女が木の傍で泣いていた。

 

 

ボル「ややっ・・・これは大変!どうしたの君?」

 

少女「・・・・うわああああ、お化けえええ!」

 

ボル「お、お化けじゃないよ、大丈夫安心して・・・おや?ケガしてるね」

 

少女「わあああああああ」

 

ボル「良いから大人しくして」

 

ボルスは少女を包帯で手当てする

 

ボル「大丈夫、直ぐ痛みも無くなるし良くなるからね」

 

少女「有難う、オジサン」

 

ボル「いいのいいの・・・でも・・・おじさんが燃やした所はもう・・・」

 

少女は大き目の仕掛け針をボルスの心臓目掛け肋骨下より突き刺す・・・。

 

タツ「はい、そこまで!」

 

少女からチェルシーへと正体を現し、彼女の手を掴み円を描きながら放る。

 

その仕掛け針はボルスの胸を浅く裂いたに留まった。

 

ボル「!!?」

 

チェ「タツミ!?」

 

タツ「やっ!ボルスさん。こんにちは、奇遇ですね」

 

チェ「な・・・タタ・・・タツミ・・・ああ・・・」

 

ボル「タツミ君!?君は・・・帝都に残ったはずじゃ・・・まさか、私達の援護で来てくれたの・・・?」

 

タツ「まぁ・・・そんな所でさぁ」

 

ボル「そうか!じゃあさっきの鎧の人も!」

 

チェ「・・タ・・ツ・・・ミ・・・、許せない・・・あんた・・・私達を裏切って・・・あんただけは絶対に・・・!」

 

タツ「言ったろ?俺は殺し屋になんかなる気は無いと・・・」

 

ボル「・・・そうか、彼女もナイトレイド?・・・悪いけど君もこのまま只で済ます訳にはいかないよ」

 

じりじりと間合いを詰めるボルス、それに合わせ後退するチェルシー。

 

タツ「ええ・・・その通りです・・・ボルスさん、あんたにはここで死んで貰います・・・」

 

チェ「え・・・?」

 

ボル「タ、タツミ君!!??」

 

タツ「貴方はどの道、ここを斬りぬけても革命軍にも狙われている・・・それに多くの怨みを背負っているでしょうからね」

 

チェ「・・・・・・」

 

タツ「チェルシー、さっきあんたが化けた少女、ただ単に油断を誘う為に化けたのか?それとも・・・」

 

ボル「・・・・・・・」

 

チェ「・・・貴方が燃やした村の子供よ・・・革命軍に加担した疑いって事でね。まとめて燃やしているから一人一人の事なんて覚えていないだろうけどさ・・・」

 

タツ「・・・だそうだ。さてボルスさん、どうする?・・・この後、イェーガーズにまだ居たい、帝国に仕えて居たいというなら今ここで本当に死んで貰う」

 

ボル「くっ・・・、例え勝ち目が無くても最期まで抵抗させて貰うよ・・・」

 

タツ「そうかい・・・、滅私奉公でなによりだ・・・」

 

タツミは帝具の闇より巨砲をボルスに向ける。

 

タツ「こいつの威力は前に見せたと思う」

 

ボル「・・・・『確かにこの帝具の威力は・・・だけど懐に踏みこめば勝算はまだある!』

 

タツ「・・・ボルスさん、今あんたは帝具はもう無い・・・だが俺がこの帝具を撃った後、近距離戦闘に持ち込めば勝てる確率もあると思ってるな?」

 

ボル『・・・ぐっ・・・見抜かれている』

 

タツ「まぁ、仮に万が一俺を切り抜けたとしてもいつか必ず報いを受ける日が来ると思うぞ・・・遅かれ早かれな・・・」

 

ボル「・・・判っているよ、判っているさ・・・でもその日が来るまで私は・・・」

 

タツ「そうそう、あと今ここであんたが死んだら、残った奥さん娘はどうなるだろうな・・?俺を倒せたとしてもいずれ報いを受けてあんたが死んだ後、残った家族は惨い目に遭う・・・俺、予知能力も実はあるんだよね」

 

ボル「・・・!?」

 

タツ「とりあえずあんたが殺された場合、俺が未亡人の妻とその娘をあらん限りの凌辱をして最後は八つ裂きにしたらさぞ楽しいだろうな・・・、いや殺す前に俺の事をこの世で一番愛していますと言わせたからの方が良いかな・・・くひゃあはは、いひひひあはははは」

 

チェ「タツミ・・・・」

 

ボル「・・・そんな事させるものか!」

 

タツ「・・・されたくなきゃ、あんたはもう今の名前を捨てて家族と何処か遠くへ行けぇ!・・・殺しに手を染めるような仕事裏表問わずもうするな・・・。自分は勿論の事、家族も殺される覚悟が無い者が殺しを稼業とするな!!」

 

ボル「!!!」

 

チェ「タツミ・・・」

 

ボル「・・・・、・・・・どうやら選択の余地は何処にも無い様だね・・・」

 

タツ「俺としては最初の案を受けて入れて貰いたけどね」

 

ボル「・・・はは・・・ははは・・・」

 

タツ「決まったなら、その火炎耐性の覆面取りな」

 

チェ「・・・!!・・・へえ・・・」

 

ボル「・・・・・・」

 

タツ「で、その代わりにこれだ・・・」

 

スサノオが作った池面かかしの面を被らせる。

 

チェ『・・・ぷっ・・・』

 

タツ「仲間が結界を張っている、他の者達に気付かれないように家まで便利な帝具で送りましょう」

 

ボル「う・・・うう・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・」

 

ボル「チェルシーさん?で良いかな。・・・さっきの女の子の事、ごめん・・・謝っても済まないと問題だと思う・・・だけど、私なりの償いをいつか必ず・・・」

 

チェ『・・・・・・

 

(回想)

 

少女「はいお姉ちゃんこれ上げる」

 

チェ「わぁ、可愛いお花さんだね。ありがとう!・・・じゃあお姉ちゃんはこのブローチあげるね」

 

少女「ありがとー」

 

数日後

 

チェ『今度の仕事も上手く行ったなあ。そういえばあの村の子供、確かハンナちゃん元気にしてるかな?そうだ、これお土産に持って行こう』

 

少女の居た村は焼けた後でそこかしこに焼死体が転がっている。

 

チェ「・・・え・・・・嘘・・・・・ハンナちゃん!・・・ハンナ!・・・何処?」

 

少女くらいの大きさで木炭のような人の形をし、その胸と思われる辺りにはブローチがあった。

 

チェ「あ・・・、あああ・・・・、うううううう・・・・・・・どうして?ひょっとして、あたしのせい?あたしがこの村の子と関わったから」

 

 

・・・・・・・・』

 

 

タツ「さあ、俺からエスデスには上手く言っておく・・・、早く帝国の目が届かない遠くまで落ちのびた方が良い。ボルスさんなら料理人でも職はあるだろ?」

 

 

タツミは帝具シャンバラでボルスを送る。

 

ボル「・・・タツミ君、君って人は・・・この恩はいつか必ず返すよ・・・」

 

 

 

 

チェ「・・・あーあ、行っちゃったか・・・」

 

タツ「あの子の怨みも晴らせずじまいで・・・あいつを仕留め損ねて残念だったな。」

 

チェ「・・・良いよ、ボルスは死んだ。彼なら新しい人生を、今度はあの子と同じ境遇の人も助けてくれるかもしれない」

 

タツ「・・・・・・」

 

チェ「それよりも、なにさっきの?奥さんだけじゃなく、娘さんも?ええ?まだ確か年端もいかないんだっけ?・・・うわぁ・・・」

 

タツ「ああそうだ、残念だったなあ・・・ボルスを殺せなくて」

 

チェ「ぷっ・・・、それとなんであんな面被せたの?」

 

タツ「男の泣き顔なんて見たく無いからだ!」

 

チェ「そうそうタツミって、予知能力もあるの?」

 

タツ「あれは、あの石頭を説得する為の方便だ」

 

チェ「あと一つ・・・本当に裏切られたと思って、心底さっきは怨んだよ」

 

タツ「ん?あんたらの仲間になったつもりは無いのは本当だけどな?」

 

チェ「・・・それはあたしとも?」

 

タツ「さっ、どうだろうな?」

 

 

 

チェ「あ・・・、思い出した。クロメはどうするの?・・・『そういえば夢で・・・』

 

タツ「あいつか・・・、あいつはとりあえずほっとけ。帝具遣いとしてはもう死人同然だ」

 



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閑話休題

アジト露天風呂

 

タツ「はぁ~~~・・・、良い湯だ。これでこの体が酒も呑めりゃ月見酒と洒落こめるんだが、残念だ・・まっ、佳景寂寞、この風情を楽しむか・・」

 

ラバ「な~~に、言ってんだお前?」

 

タツ「お?ラバ来たのか?」

 

ラバ「お前時々良く言えば渋い事言うよな・・・、それよりもだ、ぐふふ、お前うちの女子連中なら誰が一番好みだ?」

 

タツ「・・・ん?」

 

ラバ「アカメちゃんは素直でクールで肉食女子!」

 

タツ「ああ文字通りの意味での肉食だな」

 

ラバ「マインちゃんは絵に描いたようなツンツン娘、お前結構仲良いじゃないのか?」

 

タツ「あいつとはただ罵りあっているだけだ」

 

ラバ「レオーネ姐さんは大人の色気、サバサバした性格も素敵だね」

 

タツ「あの姐さんのせいで今俺はここ居るんだ」

 

ラバ「はぁ・・・お前ねぇ、じゃシェーレさんはどうだ。一番優しいおっとり眼鏡!」

 

タツ「シェーレさんねえ・・・、あの人は良い人だな。殺しでしかその才能を発揮できなかったのは残念だな。もっと良い国なら別の人生も歩めたかもな・・・例えばお笑いとか?」

 

ラバ「・・・ああ、ああそうだな」

 

タツ「ところでラバ、ボスの名前が出て来ないのはなんでだ?」

 

ラバ「!?お、おま、まさかナジェンダさん狙いか!?」

 

タツ「そうだと言ったらどうする?」

 

ラバ「・・・どうやらお前とは決着を付けなきゃならねえようだな?」

 

タツ「ははは・・・、冗談だ。狙ってねえから安心しろ!」

 

ラバ「・・・本当だろうな?」

 

タツ「本当だとも、あんな年増」

 

ラバ「てめぇぶっ殺すぞ!」

 

タツ「じゃどうフォローしたら良いんだよ、この野郎!」

 

 

 

ブラート(以下ブラ)「これだけ女が揃っていながら誰にも興味を示さない・・・つまり!隠された選択肢が出てくる訳だな!」

 

タツ「・・・・・」

 

ブラ「俺もさ、初めは興味無かったんだけど。従軍中に色々あってな」

 

タツ『ラバの奴・・・逃げたか』

 

タツ「従軍中ねぇ・・・、それで男を好きになったと?」

 

ブラ「ん?んん・・・まぁ、ああそうだな・・・」

 

タツ「軍隊じゃそういう話も時には聞くが・・他にも色々な理由があるかもしれないけど。嫌だねえ闘いって、適度な攻撃性は男らしさになるが過ぎた攻撃性は変な方向に向かうのかな、なぁ兄貴?」

 

ブラ「いや、ああ・・・うん・・・?」

 

タツ「俺は人間の・・・この世界の生物のそういう所が嫌いでね・・・じゃあ俺はもう温まったからごゆっくり」

 

ブラ「あ、ああ・・・」

 

 

 

 

 

脱衣所

 

マイ「キャ---------!」

 

タツ「あんたら何やってんだこんな所で」

 

アカ「マインが旨い肉があると言うから来た・・・///」

 

レオ「いひひひ、まぁ面白いもんは見れたな///」

 

マイ「タ、タタ、タツミ、あ、あんた前ぐらい隠しなさいよ!///」

 

タツ「あ・・ああ、そうか」

 

マイ「デリカシー無さ過ぎ、ばっかじゃない?」

 

タツ「馬鹿なのはお前だろ?なんで男が入る風呂の時間にこんな所にいるんだ?」

 

マイ「そ、それは・・・時間、そう時間を間違えたのよ!」

 

タツ「・・・まぁ良いや。例えば俺が女でお前ら男だったら今頃ブッ飛ばされても文句言えないぞ」

 

マイ「うっさいわね、時間間違えたって言ってるでしょ」

 

タツ「判った判った、おお寒、そんじゃお休み」

 

 

マイ「・・・・・・」

 

アカ「・・・・レオーネどう見る?」

 

レオ「ふ~~む、タツミはちょっと謎だね」

 

 

 

 

 

 

タツ『はぁ~あ、昔の下らない夢見たなあ・・・なんで今頃・・・ブラートさんの相討ちは悔いは無いだろう。シェーレは・・・安らかに眠ってくれ』

 



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偶像無用

安寧道本拠地、虚六

 

イェーガーズメンバーがそれぞれよそ行きの服で整えている。

 

ウェ「う~む、やっぱこういう服は落ち着かねぇな」

 

クロ「・・・・・・」

 

ラン「いえいえ、皆さん似合ってますよ」

 

エス「折角の歓迎会だ。開き直って楽しめ。何か余興でもあるかもしれないからな」

 

 

 

離れた場所で・・・

 

アカ「あれが今回の標的、教主補佐ボリックの屋敷か」

 

レオ「でかい家だな・・。汚い金貯め込みやがって」

 

マイ「実際の地形を頭に入れとかないとね」

 

ナジェ「イェーガーズもこの町に入っているという・・・焦らず作戦を立てて仕留めるぞ」

 

一同「「了解」」

 

タツ「ところで姐さん、こないだの傷は治ったのか?」

 

レオ「当たり前よ、あたしの帝具の回復力は並みじゃない!」

 

背中を叩くタツミ

 

レオ「いてぇ・・・なにすんだ?」

 

タツ「やっぱやせ我慢だな。あの爆風をまともに喰らったんだ・・・今のままじゃ強敵相手は無理だ」

 

アカ「レオーネ・・・」

 

タツ「ボス・・・姐さんはもう少し傷の回復に専念した方が」

 

ナジェ「・・・そうだな、レオーネはもう少し大人しくしてろ。その間に私達で行動を進める」

 

レオ「・・・了解」

 

 

翌日

 

イェーガーズと教主補佐ボリックが謁見している

 

ボリ「いやぁ・・・最近身の危険を感じて大臣に戦力の補強を要求しましたが・・・これはこれはまさか最強将軍、エスデス殿が来て下されるとは心強い。」

 

ボリックに従者の女達が近付こうとする。

 

ボリ「お前達は下がっておれ・・・好きにしていろ。・・・ああ失礼。この祝いの席には私の忠実な部下しか居りませんので安心して楽しんで下さい」

 

エス「大臣に受けた指令はお前の護衛だ・・・部屋をいくつか借りるぞ」

 

ボリ「お好きなように」

 

エス「・・・ところで先程から天井裏から私達を覗いている奴らとは会ってみたいな」

 

ウェ「!?」

 

ボリ「流石、お気付きでしたか」

 

指を鳴らし天井から4人が降りてくる。

 

ボリ「こやつらは教団を牛耳る為に帝国から預かった暴力の化身、皇拳寺羅刹四鬼!・・・(妄想中)『イバラでーす。メズでーす。スズカでぇーーす!羅刹四鬼!・・・・シュテンでーす。「「遅いわおっさん!」」』・・・・ふ・・ぐぐぐぐぐくくく」

 

四鬼・エス「・・・?」

 

エス「・・・ああ、帝都に居ないと思えばここに居たのか」

 

ボリ「うぉほん、失礼。エスデス殿が来て下さったおかげで護衛に専念させていた彼らを攻撃に使う事が出来ます」

 

 

 

 

・・・時間は遡り、イェーガーズが虚六に着いた当日。

 

エス『全く、タツミは人使いが荒い・・・後でたっぷり礼をして貰わねばな・・・フフフ』

 

エスデスはボリックの部屋を探し当て

 

エス『確かこの帝具でポイントすれば良いんだな』

 

・・・・・・・

 

 

ボリ「ふふふ、さぁ夜は長い今日はお前をたっぷり可愛がってやるぞ」

 

女「あん、ちょっとお待ちを・・・」

 

ボリ「早く戻って来るんだぞ、ふふふ」

 

女が出て行った後、

 

タツ「チェル太君、この帝具を使えばチェル香ちゃんのお風呂場は覗き放題さ(ドラ声)」

 

チェ「・・・・・・・」

 

ボリ「・・・・???」

 

タツ「ってそんな事に帝具を使っては駄目だ!・・・あ、やぁどうも、こんばんわ」

 

ボリ「な!?なんだ貴様らは!」

 

タツ「なんだチミはってか?・・・そうです、この人が変なお姉さんです!」

 

チェ「えっ!!あたし?」

 

ボリ「あ、怪し過ぎる奴らめ!だ、誰かおらぬか!?」

 

タツ「まあまあボリックさん、俺達はエスデス将軍の命で参上致しました」

 

ボリ「なに?エスデス将軍の?・・・それを早く言わんか・・・しかしこんな夜分にしかも寝室に失礼ですぞ」

 

タツ「いやぁ、実はですねボリック様に早くお伝えしたき儀が御座いまして・・・、この栄転の書状で御座います」

 

ボリ「どれどれ・・・な、なんだこれは!?」

 

 

更に遡り数日前・・・

 

 

ロマリーの町

 

ランとクロメが居る所にウェイブが合流する。

 

ウェ「クロメ!無事だったか!?」

 

クロ「ウェイブも無事だったんだね・・・良かった・・・」

 

ウェ「ボルスさんは?」

 

クロ「ボルスさんは・・・私を庇って自爆・・・」

 

ウェ「な・・・なんだって・・・ちくしょう・・・ナイトレイドの奴らぁぁぁあああ・・・奥さんや子供さんになんて言やあ良いんだ!!」

 

ラン「・・・ウェイブ、君が吹き飛ばされ戦線離脱してしまったのはクロメさんを守ったからでしょう、この件は隊長もその責を問いませんよ」

 

ウェ「そんな事ぁどうだって良い!ちきしょう・・・ボルスさん・・・」

 

ラン「ウェイブ、君はこれからもこの仕事を続けたいならこういう仲間の死も覚悟しなくてはならない・・・もう二度とこんな感情を味わいたくないなら、今直ぐにイェーガーズを出なさい。君みたいな甘い男に居られてはこちらも困るんだ!」

 

ウェ「ラン・・・」

 

エス「その通りだ・・・ラン」

 

ウェ「隊長」

 

エス「ボルスが死んだ・・・クロメを庇っての死だ・・・止むを得んが私達はこれからもナイトレイドなどの賊を追う。ウェイブ、覚悟が無いなら付いてくるな!」

 

ウェ「いえ・・・、すみません・・・ボルスさんの分も俺、頑張ります!・・・」

 

 

休憩後

 

 

エス「なに?帝具が使えない?」

 

クロ「はい、いつからかははっきり判りませんが八房が発動しません・・・」

 

エス「う~む、まさか私が研ぎ師に頼んだあの時からか・・・?」

 

クロ「・・・今までそんな事ありませんでした・・・けど・・・」

 

エス「判った、私の紹介だからな。私にも責任はある、帝都に帰ったら研ぎ師にあらぬ事でもしたのか吐かせてやる」

 

クロ「お願いします」

 

エス「だが帝具が使いものにならない以上、お前を前線から外さなくてはならないが・・・それでも闘うか?」

 

クロ「はい!体は大丈夫です!」

 

ウェ「・・・、クロメの帝具使えないのかよ・・・」

 

エス『タツミの言っていたクロメを殺すとは帝具遣いとしてのクロメを“殺す”という意味だったのか・・・?ならボルスは・・・いやあいつはクロメの言う通り自爆したか・・・』

 

 

クロメの部屋

 

ウェ「おい、クロメ起きてるか?おーい、遅刻すると隊長のソフト拷問ファイナルドリームが待ってるぞ・・・開けるぞ。・・・ファイナルドリームはきつ・・・」

 

クロ「う・・・うわああああああ・・・ああああ」

 

ウェ「おい・・・どうした?大丈夫か?」

 

クロ「もう・・・もう・・・ナタラに会えない・・・うわあああああんんあああ」

 

ウェ「クロメ・・・お前」

 

クロ「今まで・・・今まで・・・死んだ後もずっとずっと一緒だった・・・大切な仲間だった・・・もう会えない・・・悔しい・・・」

 

クロメを抱き締めるウェイブ

 

クロ「・・・!!///」

 

ウェ「大丈夫だって、安心しろ。俺がずっと付いててやる・・・、ナタラって奴は大事な仲間だったかもしれねえが、もうとうの昔に死んだんだ。だからこれで良かったんだ・・・もうゆっくり眠らせてやれ・・・な?俺がそのナタラの代わりにかけがえのない仲間になってやるからよ・・・」

 

クロ「・・・、ふふふ、ウェイブはいざって時は頼りにならなさそうなのに・・・」

 

ウェ「お前酷いな」

 

クロ「うそうそ、ごめん。あの時庇ってくれて有難う・・・///」

 

ウェ「お、おお・・・」

 

クロ「・・・うん、もう大丈夫・・・先行ってて、後で直ぐ行くから」

 

部屋を出た後

 

ウェ『・・・・・・、やべえ、思わずクロメを抱き締めちまったけど、不味い恥ずい、後でクロメ怒らないだろうな?』

 

 

 

そして時は戻る。

 

イバ「俺達の腕信用出来ないなら試してみるかい?」

 

スズ「私達が回収し大臣に送り届けた帝具は」

 

ボリ「お前達の話なんぞどうでも良いわい!!」

 

四鬼「「!!」」

 

スズ『え?ええ?ボリック変わった?・・・なんか良い・・・///』

 

エス「・・・ま、お前達も過信しない事だな・・・『大事な持ち駒であるこいつらが来ているのに私まで出向かせるとは、大臣め余程この宗教団体を重く見ているな』

 

 

虚六―――

帝都の遥か東に位置するこの街は豊富な地下資源により経済的な躍進を遂げる。近年は安寧道の宗教施設が数多く建設され独自の文化を形成する巨大都市と化していた――

 

 

タツ「なぁ、俺もうアジトへ帰って良いか?飼っている兜虫に餌やるの忘れてた!」

 

マイ「なにおバカな事言ってるのよ!こないだの闘いではまるで役に立たなかったんだからせめて諜報で役に立ちなさい!大体唯一手配書の心配がほとんど無いのはあんたぐらいでしょ、でも油断は禁物。何処で誰が・・・って言ってる傍から何してるのよアンタは!」

 

タツ「え~とこれとこれのアイス2つと・・・マイン、今のは中々良いツッコミだったな。俺が日頃鍛えている成果が出たな・・・うんうん」

目頭が熱くなるタツミ。

 

マイ「アホタツミ!鍛えてるってなにがよ!?・・・ん!」

 

タツ「まぁまぁアイスでも食って落ち付け、腹が減っては戦は出来ぬと言うだろ?『・・・そもそもこんな往来でそういう話をするのは不味いと思うんだがな・・まあ良いや』

 

マイ「もう・・あんたは全然闘ってくれないじゃない・・・『本当は強いんでしょうねあんた・・・だとしたらどうして一緒に戦ってくれないのよ・・・』

 

タツ「なんか最後の方聞こえなかったぞ?」

 

マイ「なんでも無いわよ・・・あっこれ美味しい。」

 

タツ「だな、帝都には無いな『・・・それにしても帝都より皆が生き生きしてるな・・・宗教のおかげか・・・?』

 

マイ「とりあえず街をもっと把握しないとね。」

 

タツ「マイン隊長、次は東の外側を回ってみようであります。デスデス達が警護してる中心部には近付かず」

 

マイ「誰よ?デスデスって!」

 

タツ「確かあいつには生き別れの・・・」

 

マイ「いないわよ!いや知らないけど・・・あーもう、聖堂付近は張り切って志願したラバに任せるわ・・」

 

 

ラバ「ったく迷路のような街並みだな・・・まぁこれだけ人が多いと紛れ込めるから探りやすくて助かるぜ・・・『幸い俺は名前も顔もばれてないしとことん調べてナジェンダさんのポイントアップだぜ』

 

 

時は前後して・・・。

 

 

ボリ「え~、今日はお前達の個人面談を行う」

 

四鬼「「??」」

 

イバ「・・・ボリックさんよぉ、どうしたんだ一体?」

 

ボリ「五月蠅い(うるさい)!お前達がこれからの教団運営にとって本当にかけがえない人材かどうか改めて審査する・・・覚悟しろ!」

 

イバ「・・・・・・」

 

ボリ「とりあえず、イバラお前からだ」

 

別室

 

ボリ「えーまずイバラ、お前は皇拳寺でも五本の指に入る使い手と」

 

イバ「今更そんなこたぁ確認するまでも無いだろ?」

 

ボリ「静かにしろ、それでだ。相手の技量の高さを素直に評価するという潔さは大したものだ」

 

イバ「・・・・・・」

 

ボリ「だが報告によると、気に入った相手を殺して楽しむというのはどういう事だ?」

 

イバ「へっ・・・、別に良いだろ?俺の趣味にとやかく言うなよ!俺は相手の良い所を見付けて好きになる・・・それでそいつを殺す・・・死ねばいつまでもそいつは俺の好きなままの状態で居てくれるだろ」

 

ボリ「アホか!・・・あー頭が痛くなってくる・・・全くこの星の連中は本当に・・・、良いか!この臆病者!」

 

イバ「!?」

 

ボリ「人とは常に変わっていくものだ・・・その変わっていく所とそれでもいつまでも変わらぬ所を見据えて好きになるものだろ?・・・お前は変化を恐れるただの弱虫だ!」

 

イバ「俺が・・・弱い・・・だと!?」

 

ボリ「ああ、弱い弱い・・・、弱過ぎて話にならん!」

 

イバ「てめぇ・・・大臣の命令で大人しく従っていると思えば付け上がりやがって・・・」

 

ボリ「はっ!別に俺は構わんぞ?とっと大臣の所に帰っても。・・・だがお前は帝都に帰った所で今のままではナイトレイドのアカメにすら勝てんさ・・。」

 

イバ「なっ!まさか・・・アカメと俺が昔馴染みだって知ってんのか?」

 

ボリ「俺の情報収集を甘く見るなよ。貴様の今の強さでは無理だ・・・そいつは何故か・・・今言った通りだ・・・話は以上だ・・・次!」

 

イバ「・・・・・・」

 

 

シュ「改めて・・・儂に何か用か?」

 

ボリ「シュテン・・・、お前は話に因ると殺す事で魂を解放し救済していると言っているそうだな・・・」

 

シュ「うむ、現世は地獄・・・この世からの解放こそが救い・・・」

 

ボリ「その考え方判らんでも無い・・・確かに現世は地獄だ・・・」

 

シュ「ほぉ・・・余り今まで話す機会が無かったが、ボリック殿判って下されるか?」

 

ボリ「ああ、判る判る。だが何故その辺りの民を解放しない?」

 

シュ「・・・出来る事ならしたい所だが我々の大恩ある帝国、援助を受けている・・・大臣の命をまず優先せねばな・・・それはボリック殿も判っていると思われるが?」

 

ボリ「なら手始めに大恩ある大臣を解放したらどうかね?」

 

シュ「・・・!?む・・・ボリック殿、儂をからかっておるのか?」

 

ボリ「いや私は真面目だ」

 

シュ「・・・・・・」

 

ボリ「大恩ある方だからこそ、救わねばならぬのでは?」

 

シュ「う・・・む・・・・、うぬ・・・」

 

ボリ「悩んでいるな・・・、そもそもお主の言う救いが死なら、生物は何の為に産まれて来た?」

 

シュ「それは・・・過去世で罪を負い、その為この地獄で苦しむ為・・・それで儂はその苦しみから解放しようと・・・」

 

ボリ「はっ・・・罪を償う為にこの世に生を受けたのなら、最期まで全うさせたらどうだ?」

 

シュ「ぬ・・・・う・・・ぬ・・・」

 

ボリ「もう良い・・・今日の所は、次!」

 

 

 

スズ「はーい、ボリック」

 

ボリ「えーと、お前はドMと・・・以上だな」

 

スズ「あん、ちょっと、もっと何か他に言う事無いの?」

 

ボリ「それじゃ、痛みの快楽の為なら平気で闘い殺すアホだという事も付け加えるか」

 

スズ「ふふふ、・・・貴方本当にボリック?こないだからなんかおかしいけど、どうしたの?」

 

ボリ「今までの自分に飽きたからキャラチェンジだ・・・、良いだろ?」

 

スズ「良いわ、もっと攻めて・・・///」

 

ボリ『皮肉で言ったのに・・・』・・・お前の感情なんぞどうでも良い。お前に命じる・・・これ以上闘うな、以上だ、次!」

 

スズ「ああ・・・私に闘うななんて、なんて酷い!///」

 

 

メズ「ふぅ、やっとあたしの番?ちゃっちゃっと済ませてよ?」

 

ボリ「お前ねえ・・・、そんな肌露出して、余程素肌に自信あるんだな?」

 

メズ「?なによ?今まであんただってそういう娘侍らせてたじゃない?」

 

ボリ「五月蠅い!黙れ!これから教団をまとめていくのにそういうのも我慢しなければならないんだ・・・」

 

メズ「はぁーあ辛気臭い、もう帰って良い?」

 

ボリ「・・・お前、自分の強さを過信してるとそのうち死ぬぞ・・・」

 

メズ「・・・!?あたしが?羅刹四鬼のあたし達が?馬鹿じゃない?」

 

ボリ「お前四人の中で一番弱いだろ」

 

メズ「・・・・っ・・・」

 

ボリ「自分の強さに溺れて、相手を甘く見てるとそのうち足元救われるぞ・・・以上だ、去れ」

 

 

 

虚六郊外 墓地 夜

 

革命軍密偵と行動するアカメ

 

密偵「調べでは聖堂からボリックの屋敷を経由してこの墓地の何処かに地下通路が通っていると思われます」

 

アカ「もぐもぐ」

 

密偵「・・・アカメさん、よく食べますね」

 

アカ「昔の偉い人が言っていた・・・武士は食べて高楊枝と!」

 

密偵「・・・なるほどですね・・・『どういう意味だろ?』まぁとりあえず暗殺決行の際には念の為ここにも人員を配置してた方が良いかと」

 

アカ「もぐもぐ、通路の入り口が判れば逆にそこからボリックの屋敷地下に行けるな」

 

密偵「見付けるのは困難です。この広さ、それに地下通路には罠を張っている可能性も!」

 

アカ「う~~ん」

 

 

そして遠く離れた位置で。

 

ラン『あれは・・・!ナイトレイドのアカメ!?それと革命軍とおぼしき者・・・ふむ、様子だけ探って・・・退散しますかな。ナイトレイドが到着している裏付けを隊長に報告するだけで良いでしょう』

 

 

一方別の郊外。

 

タツ「ふうー色々回ったなー」

 

マイ「もうタツミ、いきなり居なくなってたけど何処ほっつき歩いてたのよ!」

 

タツ「ん?あーこの地域にしか居ない兜虫が売られてたからついつい・・・」

 

マイ「全く、少年の心を持ったオジサマね」

 

タツ「・・・・・・」

 

マイ「にしても雑多で面白い所よね。全て終わったらショッピングを楽しみたいわ」

 

タツ「行ってらっしゃい」

 

マイ「タツミ、あんたも付き合うのよ」

 

タツ「なんで俺が?」

 

マイ「へえ~、断るの?あんたの部屋にあったHな本、他にあったの見付けたの皆に教えようか・・・?」

 

タツ「お前・・・!なんで俺の部屋に勝手に入んだよ!」

 

マイ「あたし達の中で一番下っ端のあんたにプライバシーなんてある訳無いでしょ!」

 

タツ「マイン、流石に俺も本気で怒るぞ・・・」

 

マイ「・・・・っ・・・そ、そんな睨まなくても良いでしょ?ちょっとぐらい付き合ったって良いじゃない?」

 

タツ「俺が居ない時にもう二度と人の部屋に入るな!」

 

マイ「判ったわよ。だけどレオーネやアカメも入ってたわよ」

 

タツ「あいつら・・・後で仕置きに掛けてやる!」

 

 

 

「どうか怒りを鎮めて下さい・・・その怒りは自身に返ります」

 

タツ「・・・・」

 

マイ「?」

 

教主「すみません、差し出がましいとは思ったのですが、つい・・・」

 

マイ「もしかして安寧道の・・・」

 

タツ「・・・教主様ですね?」

 

教主「はい。時々こうして町周辺の様子を見て回るのです」

 

タツ『供の者を連れているが・・・こうして自ら街の様子を見て回るのか・・・』

 

 

 

 

教団本部ボリック自室

 

ボリ「えー選考の結果、君は教主様の従者に選ばれたと・・・、まぁ頑張ってくれ」

女性の信者にそう告げる

 

女「ほ、本当ですか?教主様の起こす奇跡が間近で見られるなんて夢のようです」

 

ボリ『奇跡ねえ・・・そういやスタイリッシュの研究室後を調べたら、たまたま教主は危険種とのハーフというデータを見付けれたな・・・本人は知っているのか・・・?だからこそ未来予知や手をかざすだけで治癒したりの超常の力を使う事が出来たのか』

 

女「・・・ボリック様?」

 

ボリ「あーすまない。ちょっと考え事を・・・ってエスデス殿、何故こちらを睨む?」

 

エス「・・・気にするな、私に構わず話を続けてくれ」

 

ボリ「しかし健気だな貴女は。・・・どうだ、人生は人それぞれにある・・・一度こんな安寧道など離れて、自分を見つめ直してみるのは?」

 

女「ボリック様・・・?」

 

ボリ「なに、宗教が其の人の人生の全てでは無いだろう・・・、今一度考えてみなさい」

 

女「ボリック様・・・有難う御座います・・・私を試されているのですね・・・、私の父母が教主様の御力で御救いして頂けました・・・ですので私の身命は教団の為にあり、その意志は変わりません!」

 

ボリ「ええ?ああ、うんそう・・・?じゃあそこまで意志が堅いなら、うん明日から頑張ってくれ給え」

 

女「はい、明日からより一層励まさせて頂きます。失礼いたしました!」

 

 

 

ボリ「・・・・・・」

 

エス「・・・・・・」

 

ボリ「エスデス、お前は宗教についてどう思う?」

 

エス「宗教か?ボリック護衛が任務だから私情を挟まんようにしてたが、私から見れば弱者だから宗教なんぞに頼るのだろう?」

 

ボリ「お前らしい回答だな・・・例え教義に矛盾がどこかであったとしてもあんな風に命を救われる・・・或いはそれに匹敵する衝撃を受ければその矛盾もその人間にとっては些細な問題なのだろうな、だからさっきの娘のように熱心にもなるんだろうな」

 

エス「ふっ、弱いから何かに頼りたくなるのだろ」

 

ボリ「存外人間も含めた動物なんて弱いものだ」

 

エス「私は弱く無いつもりだが」

 

ボリ「前にも似た事言ったが、お前今から呼吸も無しで断食な」

 

エス「無茶な事を言うな!」

 

ボリ「ほら何かに頼ってるだろうが!」

 

エス「いやこれは頼っていると・・・」

 

ボリ「同じ事だ・・・何者にも依存しない絶対の存在なんぞおらんよ」

 

エス「・・・タ、・・ボリックも何かを頼りとしているのか?」

 

ボリ「まあな、ただそれが宗教では無いがな・・・。文明途上の知的生命体には絶対の存在を夢想してそれを心の拠り所にしたがる傾向はあるものだ・・・成長する過程で誰でも多かれ少なかれ通る道・・・致仕方無いか・・・いずれそこから自立して欲しいが・・・流石にそこまでは俺が介入する事では無いな、俺はただ帝具を壊すだけだ・・・」

 

エス「・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

タツ「オッス!おらタツミ!・・・ちきしょう・・・スーさんがエスデスって奴に殺されちまった・・・」

 

エス「ふっ、中々だったが私の命に届くまでには至らん!」

 

アカ「・・・スーさんの仇は私が取る!」

 

タツ「次回、エンペラードラゴン!"破れ!摩訶鉢特摩(マカハドマ)の恐怖"絶対見てくれよな!」

 

 

マイ「なんの予告よ?なんの!?一体誰の真似よ!!」

 



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悪夢を斬る

マイ「タツミ~~♪」

マインはタツミの左腕を掴んで甘え、

 

レオ「ごろにゃ~~ん」

レオーネは彼の右腕に、

 

アカメはタツミの後から抱き締めている

 

チェルシ―は彼の胸で甘えている。

 

エス「・・・・・・・・、タ、タツミ・・・。こ、これはどういう事だ!?」

 

タツ「エスデスか?見ての通りだ・・・お前には色々働いて貰ったがもう用は無い・・・何処へでも好きな所に行け!」

 

マイ「え~?良いの?こいつほっといて?」

 

レオ「生かしておくのか?」

 

アカ「葬るか?」

 

チェ「ねぇ、タツミ~?後々面倒になりそうだよ・・・」

 

タツ「お前達がそこまで言うなら・・・」

 

エス「タ、タツミ・・・私は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドからはね起きるエスデス。

エス「・・・・・・・夢・・・?は、ははは・・・ふふふ、そうだ夢に決まっている・・・そうとも・・・」

 

 

聖堂出入口付近、管理された水面があり朝日を美しく反射している。

 

ボリ「ふ~~む、良い朝だな・・・血生臭い出来事が所々で起きているのが嘘のようだ・・・」

 

エス「・・・・・・・・お早う」

 

ボリ「よぉ、お早う!良い朝だな!」

 

エス「・・・・・・・」

 

ボリ『面倒臭い事に巻き込まれる予感がする・・・ここは早々に退散しよう』「ではまた後ほど、将軍」

 

エス「・・・タツミ~~~!!」

姿はボリックの男にエスデスは抱きつく

 

ボリ「おっ、こらお前、今その名前を呼ぶな・・・ああコホン、どうしました将軍?お戯れを」

 

以下彼らは小声で話している。

エス「ううう・・・、タツミ・・・、タツミは何処ぞの馬の骨みたいに女を何人も侍らせるような男では無いよな?」

 

ボリ「なんで今そんな話をするんだ・・・?」

 

エス「答えてくれ・・私は不安でしょうがない・・・今もナイトレイドで過ごしているのだろう?寛容な私でも限界があるぞ。」

 

ボリ「俺が人族に関心ある訳無いだろ!」

 

エス「・・・ん?」

 

ボリ「ああいや、・・・あいつらは俺の目的の為に利用しているだけだ」

 

エス「本当だな?」

 

ボリ「ああ・・・本当だとも」

 

エス「ならもう一つ質問だ。タツミは複数の女に好かれた場合、どうする?」

 

ボリ「複数か、全員と付き合ってみるのも面白いな・・」

 

エス「!!??・・・何故そんな事を言う・・・?」

 

ボリ「自分に合う奴なんてそれぞれ確かめてみないと判らんだろ?色んな娘と付き合えばそれだけ視野も広がるだろう」

 

エス「うぬぬぬぬ、私はそんな行為許さん」

 

ボリ「まぁ・・・最後は一人に絞るだろうがな」

 

エス「む!?・・・どうしてだ?///」

 

ボリ「複数の女を相手するのが面倒臭いのと、これは自分らしさだ」

 

エス「自分らしさ?」

 

ボリ「複数の女と付き合うのが自分らしいという男はそうすれば良い・・・最も周りが許すかどうかは知らんがな。俺は最終的に一人の女のみにするのが自分らしいと判断したからそうするだけだ・・・女が可哀想だからとか言うより自分らしさに拘った結果だ」

 

エス「・・・そうか・・・ふふふ///」

 

ボリ「だから、もしその女と付き合っていても、他の女の方が良いと判断したら浮気するというよりも今付き合っている女と別れてそっちの女に行くがな・・・」

 

エス「・・・!?・・・私は生涯タツミ一人だ・・・他の男に用は無い・・・」

 

ボリ「・・・そういう所は殊勝な奴だなお前は・・・他の男と色々比べた後でも良いと思うがな・・・視野が狭いとも言うか・・・そういう信条も良いだろう。ただ実際一緒になってみて俺とお前、やっぱり合わなかったらどうするんだ?」

 

エス「・・・そんな事は考えた事も無い・・・私にはタツミだけというのは今まで私が野生で研ぎ澄ませてきた勘だ」

 

ボリ「その勘・・・、間違って無いと良いな・・・初恋の奴は生涯この人だけだ・・と思うものだ・・・」

 

エス「・・・・・・」

 

ボリ「そうそう、ところでエスデス、お前の兵達に勝った後の褒美でその土地の女達の蹂躙を許可した事あったな?」

 

エス「・・・・・・」

 

ボリ「いっそお前の目の前で俺とナイトレイドの女とそのあらぬ行為を見せつけるのも一興かもな・・フフフ、くくく・・・」

 

エス「タツミ!!」

エスデスは自身の刀を抜き、ボリックの姿のタツミに突き付け・・・た訳ではなく持ち手の部分を彼に預ける。

 

エス「そんな所を見るぐらいならいっそ今ここで私を殺してくれ!」

 

ボリ「・・・・・」

 

エス「・・・・・」

 

エスデスの頸動脈に刀の先端を突き付ける。

 

エス「・・・・・・・」

目を閉じるエスデス

 

ボリ「ふっ、まぁ良いだろ・・・仮にナイトの女と付き合う事になってもそれは止めてやる」

エスデスの刀を鞘に納める。

 

エス「タツミ・・・早く元の姿に戻ってくれ・・・」

 

ボリ「一連の流れが終わったらな・・・ううん、ではまたな将軍」

 

エス「・・・・・・」

 

「ああ、ボリック様お早うございます!」

 

「あーこないだ来た姉ちゃんとケンカー?」

 

「うわっーしゅらばー?」

 

ボリ「お早う、ははは、子供達は元気だな・・・ああそうだ、このお姉さんがお前達と遊んでくれるぞ!」

 

「「わーい」」

 

エス「な!?」

 

エスデスの足にくっついたり、手にぶら下がったり、よじ登ったり、髪の毛ひっぱたりとやりたい放題である。

 

エス「こら、お前ら離れろ!」

 

「ねえちゃーん、ボリック様となかいいの?」

 

「だめだよ、きいちゃー。いまちわげんかしてるんだからー」

 

「ちわげんかってなんだー?」

 

ボリ「ではまたな、将軍・・・はははは」

 

エス『・・・先程はこの私が自ら殺してくれとタツミに頼むとはな・・・私らしからぬ事を・・。自殺など弱者のする事・・・だが、タツミがもし他の女と睦みあう姿など見るくらいなら・・・』「あ、いた!髪引っ張るな!」

 



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東奔西走

虚六における

ナイトレイドの仮アジト

 

アカ「朝か・・・腹減った・・・ふっ、良い夢見てそうだな」

 

マイ「zzzzz」

 

 

 

ラバ「んじゃ行ってくるぜ・・・っと、タツミおせーぞ!」

 

タツ「はぁはぁ、わりぃわりぃ、ちょっと朝のジョギングしてた」

 

スサ「食事の時は戻って来るがそれ以外はいつも諜報と鍛錬か?感心だな」

 

タツ「なぁに、それくらいしか役に立てないからな・・・『ああ疲れた』

 

ラバ「だけど・・・なーんにも危ない事起きねえよな。良い事だけどよ・・・逆に薄気味悪いぜ」

 

アカ「ラバも心配症だな、ふふふ」

 

ラバ「当たり前っしょ。俺達なんせ・・・」

 

スサ「昼飯の分だ。持って行け」

 

タツ「あんがとさん!」

 

ラバ「サンクス!」

 

スサ「・・・但し、タツミのはアカメに10分の9、喰われているがな・・・」

 

タツ「おいこらお前!」

 

アカ「すまない。つい美味しそうで・・・そ、その代わりタツミの分は後で私が作って持っていく!」

 

マイ「いいよ別に、アカメ・・・あたしの分持っていくから」

 

アカ「マイン?」

 

マイ「アカメ、あんたはたっぷり食べてエネルギーでも蓄えといたら?」

 

アカ「む・・・・・」

 

マイ「ラバはあたしと交代ね?スーさん、レオーネと一緒に地下のトンネルでも掘ってたら?」

 

ラバ「いや交代って・・・なんで俺がんな汚れ仕事・・・」

 

マイ「そういえばボスは、筋トレで作られた体よりも仕事の肉体労働で出来た体の方が好みだとか言ってたわよ・・・ふふふ」

 

ラバ「おっしゃあ、任せとけ!トンネルの一つや二つ?はっ、今日中に終わらせてやるぜ!」

 

マイ「んじゃ決まりね!あんたら二人だけじゃ頼りないんだから、非戦闘員のタツミとあたしで丁度つり合いが取れるわ!・・・はい、そうと決まったら行くわよ情報収集!なにぐずぐずしてるの!?」

 

タツ「あ、ああ・・・」

 

二人で出掛けて行く

 

アカ「マイン・・・お前・・・」

 

ラバ「・・・さてと、俺は穴掘りでも手伝うか。スーさん、場所何処だ?」

 

スサ「こっちだ」

 

トンネル掘りに向かう道中

 

ラバ「やれやれタツミの奴、何気に女の子達の気ぃ惹いてるな、あんなズッコケ野郎・・・なんでだろうな?」

 

スサ「俺は帝具人間だ・・・恋愛事を聞かれても判らん・・・」

 

ラバ「ああ、だよな・・・なぁスーさん、タツミの事どう思う?」

 

スサ「・・・?仲間の一人だと思うがそれがどうした?」

 

ラバ「仲間・・・ねぇ?・・・」

 

スサ「む?・・・・・」

 

 

 

タツミとマインは偵察を終え見晴らしの良い丘で休憩している

 

タツ『不味い・・そろそろ戻らねえと・・・』

 

マイ「なに?そわそわしてるのよ・・こないだもいきなりいなくなって私をびっくりさせたんだから・・・今度は逃がさないわよ」

 

タツ「いやぁ、二手に別れた方が情報得やすくないか?」

 

マイ「もしも何か遭った時、二人の方が有利でしょう?」

 

タツ「と、とりあえず今は何事も無いだろ。そろそろ帰ろうぜ?なべてこの世は事も無しってよ・・あははは・・」

 

マイ「・・・・・」じーーーーー

 

タツ『・・・・・気不味い!なんでこっち凝視してんだよ?』

 

マイ「タツミ、あんた実は・・・」

 

「こんにちは、また会う事が出来ましたね」

 

タツ「・・・・・・」

 

マイ「教主様・・・」

 

教主「お取り込み中すみませんが、折角の御縁です。少し談笑させて頂けませんか?・・・私はクラミルと言います」

 

 

 

教主「そうですか、貴方達は旅の商人の方々・・・」

 

タツ「はい、その地方の珍しい品々を買ってそれを別の地方でという・・・クラミルさん、珍しい兜虫でもいたら教えて頂きませんか?」

 

マイ「ちょっと、タツミ!」

 

教主「ははは、すみません。私は余り虫には興味が無くて・・・ですが良いですね。色んな所を旅されて」

 

タツ「貴方はどちらのご出身で?」

 

教主「・・・余り小さい頃の事は覚えていません。物心付いた時にこの地方に住んでいまして、生まれながら人の傷を治したり予知したりと、そうしているうちに私を奇跡の人と崇めてくれる方々が増えて来て・・・」

 

タツ「それでこの安寧道もここまでの規模になったと?貴方一代で凄いですねえ」

 

教主「皆様のおかげですよ」

 

タツ「・・・ですが中には良からぬ事を考えている人もいませんか?」

 

マイ「ちょっとあんた!すみません、教主様・・・気の利かない者でして、あはは」

 

教主「いいえ、良いんですよ。確かに数人の幹部からは良からぬ噂も耳にします。ですが大きな教団を運営するには時には大人の判断も必要でしょう・・・。私一人では限られた人しか救えませんでした。それをここまでの教団にしてくれた幹部の皆を私は信じる事にしています・・・」

 

タツ『・・・間抜けな教主だな・・・俺達の闇までは見抜けんか・・・』

 

マイ「・・・・・・」

 

教主「ところで、お二人は以前と比べて仲が良くなられたようですね何よりです」

 

マイ「あ、あはは///こいつは最近入ったばかりの新米であたしが一から教えてるんですよ」

 

教主「そうでしたか・・・、タツミさんと言いましたね?貴方からは何やら、他の方とは違う・・・生きとし生ける者はそれぞれ使命を背負っていますが・・・貴方の場合その、大きな使命を背負っているように見受けられますがいかがでしょうか?」

 

タツ「・・・ああ・・・、教主様それは買被りです、あはは・・・」

 

マイ「・・・・・・・」

 

 

大聖堂中

 

 

ボリ「はぁ・・・やっと解放された」

 

エス「タ・・・・ツ・・・・・ミィイイイイイ・・・・・」

 

ボリ「うぉぉおぉおお、出たああああ!!!」

 

エス「一体いつまでトイレに籠っていた・・・」

 

ボリ「い?あ?ん?・・・は、腹の調子が悪くてだな・・・」

 

エス「こんなに長い時間いる訳無いだろ!・・・どうせまたナイトレイドの所にシャンバラでも使って行っていたのだろうおおお?」

 

ボリ「ナイトレイド側の情報収集の為だ!仕方が無いだろうが!」

 

エス「うぬぬぬぬぬ、ふぐぐぐぐぬぬぬ」

 

ボリ「・・・・・・・・」冷汗ダラダラ。

 

エス「・・・私は慈悲深く寛大だ・・・」

 

ボリ「そ、そうだな」

 

エス「タツミは」

 

ボリ「好い加減その名を呼ぶな、終いには本気で怒るぞ!」

 

ボリックの姿をしたタツミは手でエスデスの口を抑えるのだが・・・。

エス「ちゅーーー///」

 

ボリ「おい、こらお前吸うな・・・!ぐっ・・・『うう・・体の力が抜ける・・・』 顔が上気している

 

エス「ちゅぱ、んん・・///・・・ふふふ、姿がそれでもタツミの味がするな・・・良かった///」

 

ボリ「お前、どんだけ味覚発達してんだよ!そして少し自重しろ!」

 

エス「ふん、今朝の事もあるのだ!心が海の如く広い私でも限界があるぞ!」

 

ボリ「・・・・・・」

 

エス「だからな///・・・タツミ?今日の夜は一緒に寝ような?///」

 

ボリ「おい!面倒臭い噂が立ったらどうすんだ!」

 

エス「・・・・・・・」ムスッ

 

ボリ「・・・あー判った、判った。(言う事)聞けば良いんだろ、聞けば!」

 

エス「タ、タツミ///その・・・私は心の準備は既に出来てるぞ!だがその姿ではちょっと・・・やはり元の姿に戻ってからだな・・・だが我慢出来なくなったら、うむ!止むをえんぞ///」

 

ボリ「なんもしねーよ!!」

 

ナイトレイド仮アジト

 

昼の事をナジェンダに話しているタツミ。

タツ『マインの目を逃れ、エスデスの監視を掻い(かい)潜って・・・俺なんでこんな苦労してんだろ?』

 

ナジェ「そんな事があったのか・・・善人な教主だな」

 

タツ「お人好しは“馬鹿”の別の言い方だって言葉もあるけどな」

 

ナジェ「ふっ・・・タツミも中々辛辣だな」

ナジェンダは苦笑している

 

タツ「まぁ・・・あの教主は死なせたくは無い・・・それでこれからどうすんで?」

 

ナジェ「まぁそう焦るな・・・下手に動けばエスデスとぶつかる。奴と戦うには戦力不足だ」

 

タツ「倒すにはどれくらいの力が必要なんで?」

 

ナジェ「・・・5万の精兵とアカメを含む帝具遣い10人以上」

 

タツ「そいつは、脅威だなあ」

 

ナジェ「あいつとブドー大将軍だけは別格だ。私の体をこんな風にしたのもエスデスだ・・・丁度良いその話をしよう」

 

タツ「長くなりそうなんで良いです!」

 

ナジェ「おい、こらお前!!・・・っく、ついでに私がモテてた頃の話もだな・・・」

 

タツ「益々もって良いです!」

 

ナジェ「タツミ・・・少しはだな、人の話を聞くのも大事だぞ・・」

 

タツ「大方、エスデスにその腕、目をやられたんでしょう?」

 

ナジェ「・・・ああ、帝国に離反した時、革命軍に一緒に加わってくれた部下が何人も其の時に死んだ・・・」

 

タツ「・・・・・・、それとその右腕の義手の替え早く見つかると良いですね・・・」

 

ナジェ「ああ・・・、帝都から離れると調達が出来ん。なんとかしたいものだ・・・、そうだタツミ、うっかりしてたが、こないだイェーガーズと一戦交えた時に向こうに鎧の男・・・インクルシオとは少し違うんだが、そいつが加勢に入ってそいつに私の義手を落とされた・・・何かその男について知らないか?」

 

タツ「・・・う~む、いいえ。エスデスが新たに雇ったんじゃないですかね?」

 

ナジェ「ふ~~~む、そうか・・・」

 

タツ「ナジェンダさん・・いつか、その腕、目が元に戻ると良いですね」

 

ナジェ「ん?・・・ああ、その頃の私を見せてやりたいな。美人だぞ!タツミ、こないだ年増と言った事後悔させてやるぐらいにな」

 

タツ「あー、あの時の事はもう勘弁して下さいよ」

 

ナジェ「はははは」

 

タツ『・・・スタイリッシュの研究室でもいじって死体からこの女に適合する腕と目とあとパーフェクターを使えばなんとかなるかな・・・?』



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敵か味方か味方が敵か

大聖堂内部

 

クロ「はっ・・・たぁ・・・とお!!」

 

ウェ「クロメ、精が出るな!」

 

クロ「ウェイブ・・・帝具が使えないからその分、自分が強くならなきゃ・・・」

 

ウェ『よく考えたらタツミの言う事もあながち間違って無いよな・・・、俺よりも少し年下・・・いやこいつは幼い頃から無茶な訓練や以前から暗殺をしてたんだ・・・こんな少女にそんな事させるのは間違っている』

 

クロ「ウェイブ・・・?」

 

ウェ「お?いや今度はお前の分まできっちり仕事してやるぜ、今回はクロメは大人しくしてなって」

 

クロ「ふふふ、頼りにしてるよ///」

 

大聖堂前庭

 

ラバ「やった、やったぞ、俺は勝った、俺は勝ったんだ、待っててナジェンダさん!!!!!」

 

スサ「・・・・・どうしたんだあいつは?」

 

レオ「あー、トンネル貫通出来た嬉しさにきっと気分がハイになってんだよ・・・はは」

 

ボリック室

 

ボリ「将軍、あと1週間だけ私の護衛を頼みます」

 

エス「1週間後か・・・教団の設立日・・・大きな祭りがあるな」

 

ボリ「ええ、ようやく根回しが出来ました。教主様に入滅して頂き、真の神になって頂きます。そして集まった信者の前で・・・私という・・・次なる教主の発表を行うのです・・・う、ラン殿・・・そこはちょっと待ったで・・・」

 

ラン「これは・・・いえ、ボリック様の優勢かと思いますが・・・」

 

ボリ「いえ、そこは貴方の差し方の流れを見ると、どうも妙ですな」

 

二人は将棋を差している

 

ラン「・・・・・考えすぎでは?」

 

ボリ「ラン殿・・・私の目は節穴ではありませんぞ・・・。貴方が後半わざと手加減されているのは百も承知・・・本気で来られたい」

 

ラン『・・・隊長』

エスデスに目で訴える

 

エス『全く・・・ラン、本気で行け』

それを受けて頷く。

 

ラン「失礼致しました・・・では・・・」

 

2時間後

 

エス『・・・ラン・・・私とタツミの時間が無くなるではないか・・・』

 

ラン「むむむむむ・・・・」

 

ボリ「うぬぬぬぬぬぬ・・・」

 

二人の勝敗は一進一退を極めていた

 

エス「夜も更けてきた・・・もう遅い。二人ともその辺で・・・」

 

ボリ・ラン「「黙っとれ!!・黙ってて下さい!」」

 

エス「う、うむ・・・」

 

1時間後

 

エス『タツミタツミタツミタツミ・・・早く終われ早く終われ早く終われ・・・』イライライライラ

 

ボリ『ふぬぬぬ・・この手は不味いか・・・ん?エスデスが・・不味い・・・』「いやー参りましたラン殿・・・私も年ですな・・・若い方の持久力には叶わない・・・もう今日はこの辺にしましょう。」

 

ラン「ああ・・・、あ!いやこれはボリック様、大変失礼致しました・・・自分とした事が・・・ついついボリック様との対戦が久しぶりに楽しく血が騒いだものでして・・・いや失礼しました」

 

ボリ「いやいや、また一手ご指南して下され」

 

ラン「いえいえこちらこそお願い致します」

 

エス『や・・・やっと終わったか・・・』

 

二人は部屋から退室する。

 

エス「・・・・・・・・・」

 

ラン「隊長!失礼致しました!」

 

エス「ラン・・・お前らしく無いな・・・闘いに熱くなる・・・まぁ私も判らなくも無いが」

 

ラン「・・・・・・」

 

エス「ところでタイムリミットが近い事はナジェンダも判っているはずだ・・・そろそろ来るぞ。」

 

ラン「判りました。更に警戒を強化します」

 

エス「いや・・・ボリックの命令で特に強化せず通常通りで良い」

 

ラン「?・・・隊長?」

 

エス「ボリック自身に何か考えがあるのだろう・・・」

 

ラン「・・・ボリックという方、話に聞いていたのよりもなんだか違いますね・・・ただ、教主を殺す計画とは・・・宜しいのですか?このまま教主を見殺しにして?」

 

エス「私もオネストの命令通りに動いている・・・私も奴に意見を通しているからな・・・誰がその中で殺されようと私の預かり知らぬ事だ」

 

ラン「・・・判りました『やはりこういう所は下衆な女か・・・』

 

 

 

ボリ「・・・・スズカ!」

 

スズ「あいよ、ボリック様!」

 

ボリ「・・・盗み聞きしていた私の部下を見張って来い」

 

スズ「・・・貴方の部下でしょ?」

 

ボリ「いや、あれはオネスト寄りの部下だ・・・これから変わる教団に順応しないようであれば死んで貰う・・」

 

スズ「ふふふ、了解・・・貴方あのエスデスを自分の女にするつもり?」

 

ボリ「誰があんなドS女!?」

 

スズ「そう、じゃあまたね」

 

 

ボリ「・・・・さて、流石にもう寝るか」

 

ボリック寝室

 

エス「タ~~~~~~~ツ~~~~~~~ミ~~~~~~~~~」

寝室ドアから青髪の貞○さん的な何かが・・・。

 

ボリ「うぉおおおおおおお、出たぁあああああああ!!・・・・・あーびっくりした」

 

エス「タツミ・・・なんださっきの女は?確か羅刹四鬼の一人だったな・・・」

 

ボリ「見てたのかよ・・・」

 

エス「まさかとは思うが、・・・まさかそんな事は無いな?」

 

ボリ「当たり前だ、あんなドM女!」

 

エス「そ、そうだよな、タツミは私一人だけ見ているよな・・・では、その寝るとしよう・・・あ、さっきシャワーも浴びてるからな///」

 

ボリ『何故だろう・・・俺の目的が達成した後でも、何かとてつもない不安を感じるのだが・・・気のせいか・・・いやきっと気のせいだ、うむ』

 

 

 

 

 

エス「・・・・・・・」

 

ボリ『・・・例によってこいつの我儘ボディが色々当たっている・・・、前は縛ってほったらかしにも出来たが・・・今したら本気で怒ってくるなぁ・・・駄目だ・・・いくら人族に関心無いとはいえ、この人族のタツミの肉体が俺の思考感情に影響を及ぼして・・・くっ、頭がボーッと熱くなってきやがった・・・こ、こういう時は素数を数えて・・・』

 

 

 

ボリ「・・・お早う・・・」

 

エス「ああ・・・、お早う・・・『何故だ、何故タツミ、手を出してこない!・・・くっ・・・私に魅力が無いのか・・・、元のタツミの姿なら問答無用で襲ったものを・・・くぅうぅうう・・・おのれ・・・』

 

ボリ『・・・ああ・・・、寝たんだか、起きてたんだか・・・なんだか判らんようになってきた・・・』

 

 

決行日を控えナイトレイド各々が鋭気を養い、今はスサノオの料理に舌鼓を打っている

 

レオ「はい、タツミ?お姉さんの盃が空いたらどうするんだっけ?」

 

タツ「将来の事を考えて呑み過ぎ厳禁、酒はボッシュートだね?」

 

レオ「ちがーーーう!」

 

マイ「・・・・・・」ムスッ

 

チェ「タツミ、この地方の色々な飴買って来てくれてありがとね♪」

 

タツ「ああ、どう致しまー・・・『なんで今言うんだ!』

 

アカ「・・・・・」ムスッ

 

ナジェ『・・・・ふっ・・・ある意味微笑ましいな』

 

皆が一息付きデザートと番茶を食しながら・・・

 

ナジェ「トンネルが大聖堂手前まで貫通した。いよいよボリック暗殺ミッションだ」

 

タツ「屋敷では無く敢えて大聖堂でやるんですね」

 

マイ「ボリックの屋敷はこの数カ月で罠満載になったって話じゃない。そこよりはマシでしょ」

 

ラバ「見取り図を見ると大聖堂は遮蔽物も多いからな。隠れ安くて俺達向きのステージだぜ」

 

ナジェ「内部の協力者に因る情報では標的が大聖堂で夜通し祈りを捧げる日が月に一度あるという・・・明後日だ。密偵の報告とも一致している」

 

タツ『面倒臭え・・・俺には無理だ。それに付き合う信者の人達凄ぇな』

 

アカ「その夜決行という訳だな」

 

マイ「だけどボス、地中からの侵攻は相手も読んでるんじゃない?」

 

タツ「い?マジで?」

 

スサ「正確に言えば攻め込んでくる手段の一つと認識してるはずだ」

 

ナジェ「勿論だ。だからここはチームを二つに分ける。一つは地底からの陽動チーム。突入し騒ぎを大きくしつつ敵の目を引き付ける。ここは私、スサノオ、レオーネで当たる」

 

レオ「被弾覚悟だけあって回復力や防御力が高いチームだな」

 

ナジェ「イェーガーズが迎撃に来るだろうが相手にするな。引っかき回して生き残る・・・そして、時間差で残りのメンバーはエアマンタを使い空から大聖堂に突入、騒ぎに乗じてボリックを討つ・・・アカメ、マイン、ラバック、頼んだぞ!・・・チェルシーは空から行くにしても万一の事がある・・・私達がもし失敗した時に後の事は頼む」

 

チェ「縁起でも無い・・・祝いの用意して待ってますって♪」

 

タツ「ボス、俺は?」

 

ナジェ「・・・タツミも留守番だ!」

 

タツ「よし!」

 

ラバ「お前、“よし”じゃねえよ!」

 

タツ「俺もみんなの無事の帰還を祈ってるぜ・・・ラバ死んでくれラバ死んでくれラバ死んでくれ・・・」

 

ラバ「うるさいよ、お前は!」

 

マイ「・・・あーとりあえず了解、今回の標的はボリックのみね」

 

ナジェ「ああ、狙いを絞る。討ち取るのが目的で無いなら今の戦力でもエスデスと相対出来る」

 

アカ「ボリック・・・必ず葬る!」

 

 

 

風呂場

 

ナジェ「出張先でもアジトに風呂があるって良いよな」

 

マイ「決戦に備えて体を休めるのに丁度いいわ」

 

ナジェ「なぁマイン。私達は大聖堂に突入する訳だが・・・」

 

マイ「何よ改まって?」

 

ナジェ「いつにもましてどうなるか分からんミッションだ。心残りは無いようにな?ふふふ」

 

マイ「・・・・?・・・ど、どどどどどう意味よ!?」

 

ナジェ「私ほどの人間になると部下の心情が判る訳だ」

 

マイ「だ、誰があんな弱い奴」

 

ナジェ「おや?私は一言もタツミと言った覚えは無いが・・」

 

マイ「え?ああいや・・あ・・・」

 

にやつくナジェンダ。

 

マイ「・・・・・・・」

 

ナジェ「どうした?」

 

マイ「ボス・・・タツミって本当にあの通りなのかしら?」

 

ナジェ「・・・ん?どういう意味だ?」

 

マイ「そうよね・・・あの時、ボスは居なかったものね・・・前ね、タツミが本気で怒った時があるのよ。その時のあいつを見た時、あたし震え上がったわ」

 

ナジェ「!!」

 

マイ「あたしだってそれなりに窮地を潜りぬけて来たつもりよ・・・あたしもあの時軽い気持ちだったとはいえ、心底震え上がったわ」

 

ナジェ「マインを怯えさせたのか・・・」

 

マイ「・・・・・・・」

 

ナジェ「・・・今まで特に気に止めて無かったが、タツミは確かに僅かながら妙な所がある・・・お前の言う通り何か隠している可能性があるな・・・」

 

マイ「それとタツミは本当は物凄く強いんじゃないかって・・・あの時、ボスとスーさん以外はその片鱗を目の当たりにしてるのよ・・・見た皆は今の所、決定打が無いから様子見してるんだろうけど」

 

ナジェ「そうか・・・、判った。今回のミッションが無事終わったらちょっとタツミを監視してみよう」

 

マイ「ボス・・・、あんたの言う通りわたしはタツミが好き・・・なんだと思う。けど本当にわたし達の味方なのか・・判らない。だからそこがはっきりするまでは・・・」

 

 

休憩室

 

船の模型を作っているアカメ。

 

タツ「へえ~、アカメ器用だな」

 

アカ「仲間に教わったんだ」

 

レオ「知らなかったっけ?まぁ基本部屋で作ってるからな」

 

タツ『思い出した!こいつら人の部屋に勝手に入ってたな』「ところで・・・姐さんとアカメ、俺になんか言う事ないのか?」

 

レオ「・・・ん?」

 

アカ「・・・レオーネに誘われてタツミが居ない時に部屋に入った事?」

 

タツ「そうだよ、なんで入るんだこのやろー」

 

レオ「いや、良いじゃない、ねえ?」

 

アカ「ねえ?」

 

タツ「ねえ?じゃねえよ!!今度無断で入ったらただじゃおかねえぞ!」

 

レオ「はーい、もう怖いなータツミ君は?」

 

アカ「怖いな―」

 

タツ「ムカつくな!お前ら姉妹か!」

 

レオ「大体、タツミ、暇あればどっか行ってるんだから、そんなに無断で入って欲しくなきゃ部屋にいなよ」

 

タツ「ぐっ・・・」

 

チェ「まぁまぁ、タツミも色々どこかに行きたいお年頃なんだよ・・・むふふふふ」

 

レオ「あー?あ!そういう事?全く言ってくれればお姉さんが触らせて上げるのに」

 

タツ「ぐはっげほごほげほ」

 

マイ「まだボスが居るけどお風呂空いたわよ」

 

レオ「おっ、じゃああたし達3人で背中流しッこするか?タツミも一緒に入るか?」

 

タツ「さっさと入れ!///」

 

レオ「あははは、可愛いなー」

 

 

タツ「全く、もぉ・・・」

 

マイ「あら、そう言いながらも嬉しそうじゃない」

 

タツ「・・・・・・」

 

マイ「タツミ・・・、あたしあんたの事、信じてるから・・・」

 

タツ「どういう意味だ?・・・」

 

マイ「な、なんでもないわよ・・・お休み!」

マインは休憩室から出ていく。

 

タツ「・・・・・・・・・・ふっ」

 

 

影で聞いていた二人

スサ「・・・・・・・」

 

ラバ「・・・・・・・」

 

 

誰も居ない暗がりに

 

タツ「・・・・・・・」

 

チェ「まだ起きてたのタツミ・・・ふっ、皆少しずつ貴方の事疑いだしてきたみたいね」

 

タツ「風呂場であの三人何か言ってたか?」

 

チェ「特に言って無いわ・・・表立ってはね」

 

タツ「ふふふはは、この爆ぜる前のビリビリした緊張感良いものだな」

 

チェ「そう」

苦笑するチェルシー

 

チェ「ねぇ、皆無事帰って来れるかな?」

 

タツ「俺の範疇でどうにかなる事はするが・・それ以外となると無理だな」

 

チェ「タツミ・・・、私、ひょっとしてあの時、貴方が来なかったら殺されてたんじゃないかな?」

 

タツ「・・・さあな」

 

チェ「だから貴方なら誰も死なずに革命を成功させてくれるんじゃないかって思うんだけど・・・お願い」

 

タツ「俺は神様じゃないんだ。いや神が本当にいるか知らんが・・。過剰な期待は困る・・・じゃあなお休み」



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仕組まれた罠・其の壱

深夜一時

大聖堂前

 

警備兵「うっ!」「う・・・」

 

ナジェンダは睡眠薬を仕込んだ吹き矢で警備兵を眠らせる

 

レオ「ボス、こんな事も出来たんだ・・知らなかった」

 

ナジェ「よし中庭まで侵入だ」

 

中庭

 

レオ「さてと!!」

 

警備兵が勢ぞろいしている。

 

ナジェ「レオーネ、前の闘いの傷はもう平気だな」

 

レオ「あんな傷、此処ん所戦闘無いから全快さ」

 

スサ「行くぞ!」

 

大聖堂中

 

兵「た、大変です。賊が数名、突然中庭に!」

 

エス「やはり今晩を選んだか、ナイトレイド」

 

ボリ「は~ああ、眠い・・もっと早く来てくれ」

 

エス「クロメは聖堂逆側からの攻撃に備えてそこで待機だ」

 

クロ「了解!・・・隊長は?」

 

エス「私が直にボリックを護衛する!」

 

ボリ「いえいえ、将軍もクロメさんと一緒の場所で待機で良いですよ」

 

エス「私が直にボリックの護衛をする!」

 

クロ「・・・・・?『何故ボリックさんは一人でいたがるんだろう?自分を囮にして控えている羅刹四鬼に迎撃させる為?』

 

ボリ「いや、そうですか。お気遣い感謝致します。・・・『ちっ、エスデスの目が光ってたらやりづらくなるな・・・ここに居ないランとウェイブは別働隊への迎撃か・・・』

 

上空

エアマンタで飛行中

 

ラバ「よし!このまま大聖堂の天井へ突っ込む!マインちゃんはパンプキンでイイ感じの穴を頼むぜ!」

 

マイ「OK!任せといて!」

 

ラバ「良い自信だぜ」

 

マイ「ふふ、あたしは射撃の・・・」

 

だが其の時!

 

ヒューーーーーン!

風切り音と共に飛行型帝具のマスティマを操るランが現れる

 

アカ「な!?」

 

ラン「やはり空からの別働隊・・・今度はこちらの読み勝ちのようですね。・・・ふふふ、やはりあの時アカメに仕掛けず、こちらの手を見せないで正解でした。」

 

マスティマの強力な一撃がエアマンタに放たれる。

 

ラバ「ゲッ!!!」

 

エアマンタが地上へ落ちていくのを見据える男が居た。

 

ウェ「・・・ナイトレイド。ボルスさんの仇、絶対討ってやるぜ!」

 

大聖堂中庭

 

警備兵達の倒れる山々。全員気絶している。

 

ナジェ「これだけ暴れても中から出て来ないとはな」

 

スサ「逃げた可能性は?」

 

レオ「いやいるよ。このおぞましい殺気・・・エスデス。中で待ち構えている」

 

スサ「そろそろアカメ達が空から突入してくる時間だぞ、ナジェンダ」

 

ナジェ『暗殺成功の為にはエスデスの注意を引き付けねばならないが・・・已む(やむ)を得ん!』「こちらから大聖堂に乗り込む!」

 

レオ「了解」

 

スサ「ナジェンダ、こいつら生きているがそのままで良いか?」

 

ナジェ「ああ、標的以外はなるべく殺したくない」

 

スサ『・・・顔を見られているのに殺し屋らしからぬ事を・・・ふっ・・・』

 

ナジェ「それよりスサノオ、奥の手の準備は良いか?」

 

スサ「ああ、問題無い」

 

再び上空

 

ラバ「ちぃ・・・、今のでこいつ(エアマンタ)即死した!墜ちるぞ!」

 

ラン「このチャンスを逃さない・・・」

 

ランは自身の帝具から羽状の鋭い刃を無数に飛ばす。

 

マイ「このピンチを逃さない!」

 

マインのパンプキンの銃口が火を噴く

 

ラン「!?」

ランの脇腹を掠め、火傷を負う。

 

ラン「くっ・・・・・」

 

マイ『掠っただけ・・・、銃線薙ぎ払いの練習もっとしとけば良かった、いつでも出せるように』

 

更にランは追撃してくる

 

アカ「破っ!!」

アカメは村雨でそれを全て撃ち落とす

 

アカ「流石の射撃だ。マイン、追い払ったぞ」

 

マイ「ふん、あんたのフォローもね」

 

ラバ「やれやれ、呑気な二人だ・・・しっかり掴まってな」

ラバックは帝具の糸で自分達を大きく囲む。

 

ラバ「即席のマットだ」

 

地上に墜落する

ドオオオオオン!!

 

ラバ「流石・・・、衝撃はエアマンタの体が全て吸ってくれたぜ」

 

アカ「今までありがとう」

 

マイ「最後まで助かったわ」

 

アカ「・・・手前で落とされてしまった。大聖堂へ急ごう」

 

ザッザッ・・

 

「いかせねーよ・・・」

 

 

 

ウェ「お前ら相手はこの俺だ」

 

アカ「・・・・!」村雨の鯉口を切る

 

ラバ「ひゅー兄さん、たった一人で格好良いな。・・・イェーガーズだな」

 

マイ「やる気ね?標的で無くても三対一で容赦なくいくわよ」

 

ウェ「・・・来いよ、殺し屋ども・・・闘うからにはどちらかが死ぬ覚悟はもう出来ている・・・だけどよ、理屈じゃねえんだよ。これ以上仲間を失うのは御免だ。もうこれ以上、誰一人傷つけさせやしねぇ・・・!!」

 

ウェ「グランシャリオオオオオオ!!!」

 

マインはその隙を逃さずパンプキンを撃つ

だが・・・、帝具の鎧に身を包んでいる間でも弾き返されてしまう。

 

マイ「嘘!!・・・、この火力じゃ駄目か・・」

 

完全に身を包んだウェイブはマインに狙いを絞り特攻する

 

マイ「ちっ・・・」

 

アカメが間に入り応戦する。

アカメの村雨を四,五回入れるが鎧の手甲でいなされる。

 

アカ『この鎧の硬度・・刃が肌まで通らない。・・・鎧の隙間も無い』

 

ウェ「いかに人数差があろうが!!」

ウェイブの渾身の一撃がアカメの鳩尾に入る。それをアカメは両腕でガードするが・・・後方大木まで吹っ飛ばされる。

 

アカ「がはっ・・・ぐっ・・・」

 

ラバ「・・・・・・・」

ラバックはウェイブの首に帝具の糸を巻きつける

 

ウェ「ふんっ!!」

それをウェイブは強引に糸を解く。

 

ラバ「ちっ!!やるな!」

 

ウェイブは次はラバックに標的を変え、突進する。

 

ラバ『さあ来い。罠に掛りな』

 

だが、ウェイブは一直線に伸びた糸を見抜き、それを越えて飛ぶ!

 

ラバ「!!??」

 

ウェ「てめぇらまとめて撃滅してやる!」

 

ラバ「はぁぁぁぁああ」

ラバックは幾重にも重ねた糸の束を槍状にし、ウェイブに投げつける

 

ウェ「ちっ!!」

ウェイブはそれを空中で弾いた後、地面に着地し体勢を整える

 

マイ「今度はさっきと違うわよ!」

 

ウェイブはそれを避けて回避する

 

マイ『・・・!!割と冷静なのね・・・鎧の耐久性を過信してない・・・そして強い』

 

アカ『凄まじい気迫だ・・・早く駆け着かなければ陽動隊は全滅してしまう』

 

 

大聖堂中

 

エス「久しぶりだな・・・ナジェンダ」

 

ナジェ「エスデス・・・」

 

エス「折角来たんだ。私の帝具を馳走してやろう!その後色々話そうではないか、拷問室でな」

 

ナジェ「遠慮しよう、お前とは余り口を聞きたくない」

 

エス「つれない奴だな。奥の手も用意したんだぞ」

 

ナジェ「・・・?お前の帝具デモンズエキスには奥の手が無いと昔聞いたが?」

 

エス「そう、本来無いから自力で編み出したんだ。凄いだろ?」

 

ナジェ「・・・・・」

 

ボリ「・・・さて、昔懐かしの同窓会的話は終わりましたかな?」

 

エス「・・・ボリック!?」

 

ボリ「お初お目に掛りますなあ・・・ナイトレイドの諸君」

 

ナジェ「・・・随分、強気だな・・・良いのかエスデスの後ろに控えて居無くて・・・」

 

エス『羅刹四鬼の気配も無いな・・・タツミ、私達二人で闘うつもりか///』

 

ボリ「エスデス将軍はこれからの帝国に必要な方・・・、ですので不肖このボリック一人でお相手します」

 

エス『むっ、私が必要?・・・私の身を案じてくれているのか///』

 

レオ「・・・は?」

 

スサ「・・・・・・」

 

ナジェ「これは良い・・・標的自ら闘うとは・・・」

 

ボリ「ところで、外の兵士達・・・、一体何人殺しましたかな?」

 

ナジェ「認識している限りでは誰一人殺していない!」

 

ボリ「顔が見られているのに?殺し屋らしくありませんな?」

 

ナジェ「私達は殺し屋ナイトレイドである前に革命軍だ!」

 

ボリ「・・・ふふははははは・・・結構・・・。では来るが良い・・・、体制側、革命側とほざいているが・・・、やがて全ては無に帰る。ナイトレイドよ、何故もがき生きるのか?滅びこそ我が喜び!死にゆく者こそ美しい・・・さぁ我が腕の中で息絶えるが良い!!」

 

エス『・・・タツミ、楽しんでいるな』

 

レオ「はっ!?気持ち悪いおっさんだな、あたしの足元で息絶えな!」

 

ボリ「ぬん!!」

ボリックは右手を振り上げる。

 

ナジェ「ん!?なんだ一体??」

 

スサ「気を付けろ・・・周囲の空気がおかしい」

 

レオ「熱いのと冷たい空気が渦巻いている・・・それになんだか息苦しい・・・どういう事だ?」

 

ナジェ「な!?上に雲が・・・馬鹿な!帝具の力か?」

 

ボリ「行くぞ!」

ボリックは雷を落とす

 

ナジェ「散れ!」

 

スサ「うおおおおおお!!」

スサノオは武器を手に特攻を掛ける!

 

ボリ「ふっ・・・ふん!!」

ボリックは両手を交差しその腕を開くと同時に突風が巻き起こる!

 

スサ「なっ・・・!!」

スサノオは飛ばされないよう必死に堪えている中、両脇からレオーネ、ナジェンダが攻撃を仕掛ける。

 

レオ「たぁ!!」

 

ボリックは半身でかわした後、地中からマグマを噴出させる!

レオーネはかろうじてかわし、飛びし去る。

レオ「にぃ・・!!?」

 

次にナジェンダが右義手を失ったものの残った鋼の綱部分を鞭のようにしならせ攻撃を仕掛ける。

ボリックはそれをかわした後、片手で抑える。

 

ナジェ「ぐっ・・・」

 

ボリ「おや、そんなに欲しけりゃお返ししよう」

 

ナジェ「な?」

体勢を崩した所へ突風を送り込み、ナジェンダは後方へ吹っ飛ばされる。

 

その時、スサノオの武器で突かれるボリック。

 

ボリ「ぐっ!!」右手でガードする。

だが、同時に雷で撃たれる。

 

スサ「ぐわっ!!」

 

ナジェ「スサノオ!」『・・・ちっ誤算だ・・・エスデスだけに気を配れば良いと思っていたが、まさかボリックがこれ程とはしかも帝具遣いだと?・・・今までそんな報告無かったぞ』

 

エスデスは不敵な笑みを浮かべる

 

ナジェ「已むを得ん!スサノオ奥の手発動だ!」

 

ボリ「むっ!!」

ボリックはナジェンダ付近でマグマを噴出させる。

そして目にも止まらぬ速さで肉薄し、彼女を気絶させる。

 

ナジェ「ぐっ・・・・」

 

レオ「ボス!」

 

スサ「ちっ、ナジェンダ!」

 

ボリ『スサノオの奥の手はマスターの命を削るからな・・・』

 

ボリ「エスデス!スサノオを氷漬けで捕獲しろ!」

 

エス「ふふふ、了解!」

 

レオ「な!?・・・一人で相手するんじゃ無かったのか!」

 

ボリ「気が変わった・・・ははは、悪党の言う事を真に受けるな!」

 

レオ「ちっ・・・おっさんとはある意味気が合いそうだな!」

 

ボリ「少しの間、眠ってろ!」

 

ボリックは幾重にも重ねた雷をレオーネ周辺に穿つ。

 

レオ「ああああああああ!!!」

レオーネは気絶し、スサノオもエスデスに氷に閉じ込められる。

 

エス「ふふふ、呆気無かったな。私とタツミに掛かればこんなものだ」

 

ボリ「・・・・・・」

 

エス「では、拷問室にご案内しよう」

 

ボリ「いーや、駄目だ」

 

エス「何故だ?ナイトレイドを捕えて革命軍の情報や見せしめにするのが目的では無かったのか?」

 

ボリ「今回は奴らの暗殺を阻止するのが目的だ。それで十分だ」

 

エス「タツミ!私にも立場があるぞ」

 

ボリ「だからお前の手柄にすれば良いだろ・・・ボリックは無事生還。そして、ナイトレイドは逃走したと」

 

エス「タツミ・・・私にナイトレイドは自分が始末すると言っているが、本当は私を騙しているのではないか?」

 

ボリ「・・・・・・・」



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仕組まれた罠・其の弐

ウェ「はぁぁ!!」

ウェイブの拳打をかわすが、

ラバ「おっと」

足を掬われ、蹴り技を食らう。

 

ラバ「ぐわっ」

 

そして、アカメが応戦する。

 

マインが隙を見て撃とうとするが・・・

マイ『ちっ・・・この敵、常にこっちの射線にも気を配っている』

 

アカ「うっ・・・」

アカメは先程の一撃に痛みが走り、空中後転を数度繰り返し間合いを取る。

 

ウェ「どうした?避けてばっかりか、寝てて良いんだぜ・・・そのままずっとな!・・・むっ!」

 

ラバ「げほっ・・・ただ・・・攻撃を避けてた・・・だけじゃないぜ。お前の体に糸を巻き付け・・・この大木と結び付けておいた」

 

ウェ「こんな糸さっきみたいに・・・『ちぎれねえ・・・この強度さっきとは別物』

 

ラバ「界断糸・・・とっておきの一本だ・・・先に行け!アカメ!」

 

アカ「!?・・・」

一瞬躊躇するが頷き、大聖堂に向かうアカメとマイン。

 

ラバ「ふっ・・・・」

そのまま倒れる

 

ウェ「ちっ・・・!」

 

 

 

 

 

ボリ「・・・ナジェンダ達がいれば、お前はこれからも闘い続けられるんだ?良いだろ?」

 

エス「確かにそうだが・・・ナイトレイドのリーダーともなればもう逃がす訳には行かない!」

 

ボリ「エスデス・・・、俺の言う事が聞けないのか?」

 

エス「・・・判った。だが見逃す代償はタツミにして貰うぞ!」

 

ボリ「良いだろう・・・」

 

エス「タツミよ、前に一戦交えた時は帝具を遣う暇(いとま)も無かったが今度は遣わせて貰うぞ!」

 

 

 

 

ウェイブは力技で大木ごと引っこ抜き、絡みついた糸を外す。

 

ウェ「よし・・・動けるな!」『急げば追い付くはずだ!クロメ達の所には行かせねえ!」

 

 

 

ウェ『いた、仕留める!』

 

ウェイブは飛び上がり、蹴り技をアカメに。

 

ウェ「グランフォー・・・」

 

その時、マインのパンプキンの一撃がクリーンヒットする。

 

ウェ『こいつらまさか・・・』

 

マイ「急げば回れってやつよ。どうせ邪魔してくるだろうしね」

 

ウェ「う・・・うおおおおおおおおおおおお」

 

 

 

マイ「あの鎧じゃ死んで無いでしょうけど、大きく位置は離したわ」

 

アカ「急ごう、大聖堂へ」

 

 

 

 

 

 

エス「では初めよう・・・タツミ。夜の相手をしてくれない分、今ここで私を再び楽しませてくれ」

 

ボリ『はぁ・・・また、腕を上げたな・・・こいつは』

 

エスデスは強大な氷を上から降らせる

 

ボリ『う~む、マグマを噴出させてカタをつけるのも良いが、そうなるとあいつらが不味いな・・・』

幾重もの雷鳴を浴びせ、氷を粉砕する。

 

ボリ「今度はこっちの番だ」

エスデスに向け、数多もの雹(ひょう)を降らせ集中させる。

 

エス「くっ・・・なんだこの攻撃は!?」

エスデスは氷の楯を作り防ぐ。

 

そこに集中豪雨を降り注ぐ。

 

ボリ「ふくくくく・・・あははは、ずぶ濡れだな」

 

エス「タツミ・・・真面目に相手してくれ・・・」

 

エスデスは今度は横一直線に無数の氷の刃を飛ばす

 

ボリックの姿のタツミは指を鳴らす

そうすると、地表からマグマが壁となり防ぐ。

 

エス「むっ!?」

続けざま強風を当てる

 

エス「くっ・・・」

 

ボリ「後がガラ空きだぞ」

 

エスデスを吹っ飛ばす。

 

ボリ「・・・はぁ・・・そろそろ、アカメ達が来る・・・そうなる前に撤退したいんだがな」

 

エス「ふふふ・・・ははは・・・」

 

ボリ「・・・・・」

 

エス「摩訶鉢特・・・ぐっ・・・」

 

エスデスの頸椎に手刀が当たる。

ボリ「・・・なんで奥の手遣わせるまで悠長に待つ必要がある・・・?」

 

エス「ふっ・・・」

エスデスは気絶した。

 

だが其の時!

 

ボリ「げっ!!来た!」

 

アカメとマインが天井からガラスを割って乗り込んでくる。

 

アカメは周囲を見て瞬時に混乱した。

 

ナジェンダ達が戦闘不能になっている・・・だけでなくエスデスもそうなっていて、その彼女をボリックが担いでいる事に・・・。

 

ボリ『うぬぬぬ、ここで人の部屋荒らす三馬鹿トリオ(アカメ、レオーネ、マイン)のうち二人にも仕置きしたかった所だが、また次にするか・・・』

 

アカ『ボス達とエスデスは相討ちになったのか?いや、ボリックがエスデスを倒したようにも見えたが・・・?とにかく今はボリックを討つ』

 

アカ「ボリック、覚悟!」

 

ボリ「残念だが、また会おう!さらばだナイトレイド諸君!」

アカメ達に局地的豪雨をぶつける。

 

ボリックはエスデスを担いで逃走する。

 

 

アカ「ちっ・・・くそ・・・」

 

マイ「悔しいわ・・・、パンプキンも濡れちゃって下手に撃てないわ・・・ああもうびしょびしょ・・・」

 

ナジェ「うう・・・」

 

レオ「う・・・・」

 

アカ「大丈夫か、ボス?」

 

ナジェ「ああ・・・、ボリックは?」

 

アカ「すまない・・・」

 

ナジェ「作戦は失敗か・・・スサノオは?」

 

レオ「くっ・・・あたしがなんとか上手く氷を砕くよ」

 

マイ「早く、逃げるわよ・・・」

 

アカ「私も手伝う」

 

 

 

・・・その物陰で気配を殺し様子を窺っていた一人の男が居た。

ラン「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

逃走経路

 

ボリ「えっほえっほえっほ!」

 

チェ「はーい、タツミ」

 

ボリ「よっ、チェルシー」

 

チェ「げっ!エスデス!」

 

ボリ「大丈夫だって、気絶してっから」

エスデスを降ろし、「さっ・・・好い加減この姿ともおさらばだ・・・せいせいするぜ」

 

チェ「えー?どうしよっかな?」

 

ボリ「おい!?」

 

チェ「うふふふ・・・、元のタツミの姿に戻ったら一つなんでも言う事聞くなら戻したげる」

 

ボリ「おい!約束が違うだろ!」

 

チェ「ええー?だって約束は破るものなんでしょ?」

 

ボリ「ふぐぬぬぬぬぬ・・・判った、言う事聞こう」

 

チェ「そうこなくっちゃ♪」

 

チェルシーの帝具でボリックの姿が元のタツミへと変わる。

其の時、タツミの口に触れるものが・・・。

 

タツ「・・・・・!!///」

 

チェ「うふふふ///」

 

タツ「こらお前!///」

 

チェ「良いじゃない別に///」

 

そして其の時!

 

エス「・・・・・・・・・・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴ・・・・

 

タツ『不味い・・・エスデスの戦闘力が上がっている・・・・・』

 

チェ「・・・・・・・・・あちゃー・・」

 

エス「・・・タツミよ・・・いや我が夫よ・・・誰だそのメス豚は?」

 

チェ「酷い言い草ね」

 

タツ「・・・ああ、紹介しよう。帝国秘密警察、チェルシー将校だ」

 

チェ「?」

 

エス「なに?・・・本当か?」

 

タツ「嘘だ」

 

こけるチェルシー。

 

エス「タァァァツゥゥゥゥミィィィィィ」

 

タツ「うるさい、俺だって不意を突かれたんだ・・・『俺もまだまだ未熟者だな』」

 

チェ『ふふふ、まさか相手の心の隙を突く訓練がこんな所で役に立つなんて///」

 

エス「ふふふ・・・そうか、そうか・・・そういう事か・・・私は理解したぞ。おい、そこのメス豚」

 

チェ「なによ、拷問狂女!」

 

エス「お前は我が夫の情けに甘えただけだ・・・決してお前に心が向いている訳ではない」

 

チェ「はっ?その言葉、そっくり返すわ」

 

タツ「・・・・・・・」

 

エス「ふっ・・・大方お前もナイトレイドの一味だろう・・・タツミに利用されているとも知らずに無様な事だな・・・」

 

チェ「あら?それは貴女方の事で無くって?」

 

エス「・・・・・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・・・・・」

 

タツ「・・・・・」

 

エス「お前とはいずれ決着を付けてやる・・・覚悟しておけ」

 

チェ「そうね。だけど、あんたを取り巻く全てに警戒なさいね・・・じゃタツミ、帰りましょ♪」

 

エス「馬鹿を言うな。私と帰るんだ」

 

タツ「あー二人とも腕引っ張んな・・・千切れる・・・あ、千切れた」

 

二人とも後ろに尻もちを突く

エス「うっ・・・」

 

チェ「ふぎゃ・・・いてて」

 

エス『なんだ、この腕は?造りモノ』

 

タツ「エスデス、お前は帰ってボリックはナイトレイドの目を逃れる為に遠方へ身を隠したと伝えろ。俺は一旦、ナイトへ戻る」

 

エス「・・・判った。だが、直ぐに帰って来るんだぞ。半日会えなければ八つ当たりに誰かを拷問に掛けるからな!」

 

タツ「あー・・・判った。」

 

チェ「暴力に訴えたり脅迫する女って女子力低っ、タツミも利用する為とはいえ、こんな女の機嫌取るなんて大変だね」

 

エス「小娘ぇぇぇぇ・・・」

 

タツ「お前も煽んな!」

チェルシ―の頭を小突く

 

チェ「いて」

 

 

 

別の逃走経路にて

 

オネスト派の教団幹部達が逃げている。

 

「はぁはぁ・・・どうして、ボリックはここ最近、変わったんだ・・・」

 

「知るかよ・・・、麻薬の販売、女達を侍らすのも禁止にしやがって、あの野郎・・・」

 

「とにかく、大臣にこの事を報告して対策練ろうぜ・・・」

 

「伝書鳩も使えなくしやがって・・・ちきしょう・・・この機に乗じて逃げるしか無かったな・・・」

 

 

 

「おお、現世を彷徨う迷い子達よ、我々が救ってしんぜようか?」

 

「な!?」

 

 

スズ「うふふふ、ボリック様からあんた達の殺人許可は降りてんのよね・・・」

 

シュ「殺人?まぁ、そうとも言うか・・・」

 

イバ「へっへっへ、ボリックの旦那を裏切るような悪い子にはお仕置きが必要だな」

 

メズ「そうね・・・、お尻ペンペンしようか・・・ふふふ」

 

「お、お前ら羅刹四鬼・・・裏切るのか?オネスト様を裏切るのか・・・!」

 

イバ「あー・・・俺達はな、より貢献してくれる・・・俺達をより強くしてくれる方に着いたんだよ」

 

メズ「ま、大臣に従ってただけじゃ強くなるの無理そうだもんねー」

 

シュ「そういう事だ・・・、それにこの地獄の現世を救う手段の一つに“笑い”というのも教えて下さったボリック殿に儂は感謝している・・・だが、今のお主らには”殺す”という方が救済になるかのう?」

 

スズ「うふふふ、ま、そういう事だから、貴方がた、教団に戻る?それとも・・・」

 

 

 

一方本物のボリックは・・・。

 

東の小国、和国。サドガ島金山。

 

ボリ『ちくしょう・・・なんでこんな所で儂が金の採掘など・・・』

 

看守「おい、ボリック何さぼっている?さっさと手を動かせ!」

 

ボリ「儂は無実だ・・・!裁判しろ」

 

看守「馬鹿者、何度も同じ事言うな!聞く耳持たん!」

 

ボリ「くそーーあの小僧覚えておれ、いつか必ず・・・」

 

・・・・・・・・

 

タツミとチェルシーがボリック寝室突入後、

 

タツ「・・・・・・・この栄転の書状で御座います」

 

ボリ「どれどれ・・・な、なんだこれは!?」

 

“安寧道教主補佐ボリック、右の者、教主補佐の身で有りながら己の立場を悪用し阿片の売買、信者を堕落せし事並びに教主暗殺企みたる段、誠に許し難し。ここにサドガ島にて金堀人足の刑に処する者也”

 

ボリ「がっ!!」

 

ボリックがその書状を読んでいる隙にタツミは鳩尾に掌底を叩きこんだ後、首に手刀を当て気絶させる。

その後、シャンバラを使ってタツミはチェルシーを引き連れボリックを連行する。

 

サドガ島

 

看守「・・・?誰だそこに居る者は?」

 

タツ「やぁ・・・お久しぶりです。」

 

看守「・・・!タツミ殿、ご無沙汰しております」

 

タツ「いえいえ、御貴殿も御変りなく・・・」

 

チェ『・・・?何言っているかちょっと判らない・・・』

 

看守「それで本日は如何(いかが)なご用件で・・・?」

 

タツ「ここにいるボリックという新しい囚人をひっ捕らえましたので性根を叩き直してやって下さい」

 

看守「ほぉ・・・、どのような罪状で・・・うむ、成程、判りました・・・では囚人帳に記載しましょう」

 

タツ「ただ気を付けられて下さい。こやつは西の大国の者ですので」

 

看守「ご安心を、いかな国の者であろうと、ここに置いては只の囚人です」

 

タツ「ではお願い致します」

 

看守「タツミ殿もお役目ご苦労様に存じます」

 

タツミは彼と別れ、チェルシーを連れて満月の下、島を散策している。

 

チェ「・・・タツミ、ここは何処?」

 

タツ「俺の祖国だ・・・一応はな・・・」

 

チェ「さっきの人、お友達の方?」

 

タツ「昔の御同役だ」

 

チェ「えっと・・・、友達で良いんだね」

 

タツ「まぁ、それでも良いや」

 

チェ「そっか・・・ここが元々のタツミの国なんだ・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

チェ「ふふふふふ」

 

タツ「どうした?」

 

チェ「ううん、なんでもない♪」

 

タツ「はは、変な奴だ」

 

そして一しきり話を終えた後、チェルシーの帝具でボリックの姿にして貰うよう頼み、シャンバラでボリック部屋に戻った後、チェルシーは猫に化け、それぞれ別れる。

 

・・・・・・・・

 

 

看守「だから、手を動かせ!」

 

ボリ「いたーーーー!」

 

 

余談として羅刹四鬼、彼らはタ○ミに唆されお笑い漫才カルテットを結成し革命後の帝都で一旗上げ、その頃既に有名になっていたお笑い芸人カルビと人気を二分したという。

 



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過去を騙る

いつの間にかお気に入り100件超え・・・有難う御座います。


 

 

虚六郊外

 

ナイトレイドのメンバーは郊外に身を隠している。

 

ナジェ「すまん、私の作戦ミスだ」

 

レオ「くっ、あいつがあんなに腕が立ったなんて聞いてないよ」

 

スサ「・・・・・・・」

 

アカ「追手は巻いたようだな・・・」

 

マイ「はぁ・・・、早くこの服かわかしたいわ」

 

 

ラバ「よぉ!みんな無事だったか?」

 

アカ「ラバ!生きてたか?」

 

ラバ「俺の超必殺技は擬死形態だぜ」

 

マイ「格好付けて言ってるけど、それただの死んだふりだから、しかも全然殺して無いから必殺技じゃないし」

 

ラバ「帝具の糸、体内に入れて脈を縛ったり結構難しいんだぞ!しかも変に縛ったらそれこそ死」

 

マイ「はいはい、講釈はもう良いから」

 

ラバ「それで、仕事は無事済んだのかい?」

 

ナジェ「すまん、ボリックは仕留め損ねた・・・」

 

ラバ「!?・・・あー、エスデスが邪魔したんですか?」

 

ナジェ「いや・・・、ボリックは帝具遣いで私達3人でも歯が立たなかった・・・誤算だ」

 

ラバ「まぁ・・・済んだ事はしようが無いですよ。また作戦を練って次こそ仕留めましょうや」

 

ナジェ「・・・・・・アカメ、マイン、お前達が駆け付けた時ボリックはどうした?」

 

マイ「逃げて行ったわ、天候を操る帝具?追掛けられなかった」

 

アカ「ボス、其の事で妙な事があった・・・見間違いかもしれないがボリックとエスデスが仲間割れしていたような気がする・・・」

 

マイ「んー?あれ見間違いじゃない?私も見たけど・・・だってエスデス担いで逃げてったし・・・ん?でもよく考えたら誰がエスデスを倒したの?そうなるとやっぱり・・・」

 

アカ「ボス達ではないんだな?」

 

ナジェ「ああ、私達はボリックだけで精一杯だった。」

 

スサ「すまん、俺もエスデスには歯が立たなかった」

 

ナジェ『スサノオの奥の手を最大限に使えばエスデスにも・・・だが、使う暇すら無かった・・・ボリック、あいつ・・・』

 

ラバ「えーと、俺は現場を見て無いけど、つまり、エスデスはボリックに倒された可能性が高いって訳だな・・・なんでだ?」

 

ナジェ「・・・恐らくエスデスの事だ、ボリックと闘いたくなったんだろう」

 

マイ「それで返り討ちなんて笑えるわね」

 

アカ「マイン、楽観したい所だがあのエスデスよりも厄介な相手がいるという事が判ったんだ・・・」

 

マイ「・・・冗談よ」

 

 

「にゃーお・・・」

 

マイ「猫?」

 

「チェルシー・・変身!・・・ってね♪」

 

ナジェ「チェルシー・・・無事だったか?」

 

チェ「ええ、今の所は。アジトには帝国軍は来てないけど時間の問題だと思うわ」

 

ナジェ「タツミはどうした?」

 

チェ「みんなの荷物持ってもうすぐで来ると思うわ・・・それよりもマイン、いつも冴えないけど今はいつにも増して不細工な顔してるわね、うふふ」

 

マイ「むきぃー!前線に出て仕事してない癖によく言うわ!あんたロクな死に方しないわよ!」

 

チェ「その顔見てるとどうやら失敗したみたいね・・・」

 

ナジェ「・・・・・・ああ、面目ない」

 

チェ「・・・・・・」

 

荷車を引っ張って、ガラゴロガラゴロ・・・

 

タツ「ふぅ・・・やっと辿り着いた・・一応みんなの荷物持って来たぞーどうだ首尾の方は・・・って聞くまでもないか・・・」

 

アカ「タツミは私達の経緯を何故知っているんだ?」

 

タツ「チェルシーが化けて外で様子を探ってくれていたんだ・・・それでみんなアジトに来ないで(逃げるように)ここに向かったと聞いたからな」

 

ナジェ「是が非でもボリックを殺さなければ・・・我々に失敗は許されない・・・。教主をみすみす殺さす訳にもいかない」

 

タツ「・・・・・・それで、帝国軍が来るかもしれないというのは顔を見られたんですか?」

 

ナジェ「・・・ああ、流石にあれだけ多人数が相手でしかも殺すのも気が引けた」

 

タツ「俺の時はそうしなかったくせにぃ」

 

ナジェ「・・・ふっ、タツミに前に言われたのもあるんだぞ。確かに私達は殺し屋だが、革命軍でもあるんだってな」

 

タツ「甘いんですね・・・そういうの嫌いじゃないですけど、殺し屋としてならもっと静かに誰にも気付かれずに暗殺を遂行すべきだったんではないですか?」

 

チェ「・・・・・・」

 

タツ「そうすれば無駄に顔を見られる事も、そう・・・俺が姐さんやアカメと会った時ももう少し周りに人がいるかどうか気を配るべきでしたね・・・」

 

ナジェ「タツミ・・・『お前・・・?』

 

ラバ「あのな、お前そういう事は実際やってから言え!外野からならいくらでも言えんだよ!」

 

タツ「・・・そうだな・・・、外野な俺は、じゃあ偵察でもしてくるさ、・・・ボス、行って来て良いな?」

 

ナジェ「ああ・・・頼む」

 

タツミはその場から去っていく。

 

ナジェ「・・・、チェルシー、一つ頼みがあるんだが」

 

チェ「はい、なんです?」

 

 

 

大聖堂内外では

 

エスデスが陣頭指揮を取って兵達の負傷の治療の手配や、諸々の雑事を行っている。

 

ラン「隊長、目下逃げたナイトレイドは捜索中です」

 

ウェ「申し訳ありません!逃がしてしまって」

 

エス「言い訳は後だ。今は乱れた足並みを揃えるぞ・・・救護班をこちらに回せ!『・・・ふん、死人は居ないか・・・甘いナジェンダだ』

 

クロ『私の所には誰も敵は来なかった・・・?』

 

エス「クロメ、お前も手伝ってこい」

 

 

祈りの間

 

教主・クラミルが黙祷を捧げている

 

「・・・・・・」

 

教主「・・・どなたですか?」

 

「・・・そのまま、どうかこちらを見ずに話を聞いて下さい」

 

教主「その声は・・・、そうですか・・・この騒動の一端は貴方が・・・やはりそうでしたか・・・」

 

「・・・!・・・貴方は会った時から俺達の事を知っておいでで?」

 

教主「なんとなくではありましたがね・・・」

 

「我々の正体も?」

 

教主「はい・・・、ただ貴方の事だけは今一つでしたが・・・」

 

「クラミルさん・・・、貴方は我々が来なければ、ボリックに殺されていた・・・その未来も予知されていたのでは?」

 

教主「ふふふ、やはりボリックさんと入れ替わられていたのは貴方ですね・・・そうですね、ですがそこで殺されるのであればそれもまた神の御意志と思い従うまでです」

 

「・・・・・・・、そういうものですか。つかぬ事を聞きますが貴方は御自身の出生について御存知なのですか?」

 

教主「・・・余り人には言えないものですね」

 

「もし、信者達が知ったら迫害の種になるかもしれません」

 

教主「そうですね・・・実は幼い頃、それで石をぶつけられ酷い目に遭ったものでした・・・」

 

「やはり・・・そのような貴方が何故人助けなんかを?」

 

教主「幼い頃は世を憎みもしました・・・ですが私は全ては大いなる意志の元に動いていると考えています。ですので私の出生も今こうしているのも、これもその意志の元にただ私は従っているだけなのだと」

 

「・・・・・・・・」

 

教主「・・・我々安寧道もいずれは解体になるかもしれませんが今はまだ必要なのだと私は思っています。・・・何故ならこの地方もそれまで人と人との繋がりが希薄でしたが良くも悪くも恥ずかしながらこの安寧道で皆さんが交流を持つきっかけともなりました」

 

「・・・クラミルさん、貴方はボリックを初めとした悪行を黙って見過ごしていたのではないですか?」

 

教主「その点については申し訳ありません。薄々気付いておりましたが私にはどうにも出来ませんでした」

 

「・・・・・・・『力無き正義だな』

 

教主「逆に私からも尋ねさせて下さい。・・・貴方は何処のどなたですか?勿論仮の身分を聞いている訳ではありません」

 

「・・・、遠い昔、竜族という種族がおりまして、・・・かつて自主的に滅んだ者達です・・・」

 

教主「竜族の・・・?あの伝説の?話ではある日突然その場に居た一族は忽然と姿を消し、消息不明になったと言い伝えにはありましたが・・・?」

 

「・・・肉体を持つ事と文明の限界を感じ・・・いえこれ以上は止めましょう」

 

教主「なるほど・・・では貴方がここに来ている真の目的は・・・?」

 

「この世界は法則が妙な事になってますのでそれの調整に・・・、いや、喋りすぎました」

 

教主「・・・!もしや貴方様は神の使い、或いは神々の列席に名を連ねる方ですか?」

 

「・・・貴方がたの想像する神など・・・人間に都合の良い神などいるのかどうか私には判りません」

 

教主「・・・・・・」

 

「・・・もう、お会いする事も無いでしょうが、随分とお達者で・・・」

 

教主「お待ち下さい。是非貴方様に教団に居て頂き我々を導いて下さい!」

 

もう気配が無い

 

教主「私は・・・今までの私のままで良いのだろうか・・・」

 

 

 

 

(現在)

 

エス「ダーリン」

 

タツ「なんだ?」

 

エス「今の話の半分しか判らんぞ、私にも判るように説明してくれ」

 

タツ「仕方無いなぁ・・・つまりだ、今は昔、竹取りの翁と言う者ありけり、野山に混じりて竹を取りつつ、」

 

エス「?」

 

タツ「諸行無常の響きを得たり、只ひとえに風の前の塵に同じ・・・という事だ。」

 

エス「・・・???・・・んん?むむ?」

 

タツ「判らないか?判る訳無いよな?くくく」

 

エス「・・・いや、判ったぞ」

 

タツ「な!?判ったのか?」

 

エス「・・・つまり、ダーリンは私をまたからかっているという事をだ」

 

タツ「げっ!ばれたか!・・・逃ぃげろ―!」

 

エス「逃さんぞ!・・・タツミ!大人しく捕まるなら褒美に一日中口付けだ・・・このまま逃げるなら罰として一日掛けて口付けだ!」

 

タツ「どの道かわんねー!」

 

エス「さぁ、タツミ!大人しくチュかまれー!」

 



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逢瀬

 

 

 

虚六路地裏

 

人のいない通りを一人歩くタツミ

タツ「・・・誰だ?」

 

 

チェ「・・・あはは、ばれちゃった?」

 

タツ「なんだお前か、どうした?」

 

チェ「ボスがあんたを見張れってさ」

 

タツ「やっぱりか・・・」

 

チェ「どうするの、大将?」

 

 

 

虚六郊外

 

他のメンバーは見張り等で離れている。

 

ナジェ「・・・・・・」

 

ラバ「・・・・、・・・・はぁ・・・、ああ、ナジェンダさん、あいつ一応は信用しても良いと思いますよ」

 

ナジェ「・・・!・・・胸の内を読まれるとは、ラバには叶わないな。・・・どうしてそう思う?」

 

ラバ「同じ男の勘ってやつですよ。ただ本当に何を考えているかは判りませんがね」

 

ナジェ「・・・タツミと初めて会った時の事をアカメはこう言っていた。現場を見られて口封じに殺そうとしたら、村雨突き付けられてあいつはアカメの目を見据えて不敵に微笑んでたとな・・・、それでレオーネがとりあえず何かに使えそうだと思って連れて来たという訳だ」

 

ラバ「あー・・・そういえばそんな事言ってましたね」

 

ナジェ「他にもアカメはこうも言っていた・・・殺す気が湧かなくなったというよりも、殺せなかった。何か得体の知れなさに恐怖を感じたと・・・ただその後の行動で気のせいだったかもしれないと首を傾げていたがな」

 

ラバ「・・・ひょっとして今回の仕事しくじったのもあいつが裏で糸を引いているとか?」

 

ナジェ「・・・確証はまだ無いがな」

ナジェンダはタバコの煙を溜息のように吐く

 

ラバ「・・・どうやら噂をすればなんとやらで」

 

チェ「たーだいま!」

 

ナジェ「チェルシー」

 

チェ「・・・・・ボス、話があります」

 

 

大聖堂外

 

一連の処理を終え、イェーガーズを召集する。

エス「皆よくやった。今回の任務は成功だ」

 

ウェ「やりましたね!ですがすみません、俺はナイトレイドを誰も倒せませんでした。・・・けど凄いですね隊長、一人で奴らを撃退したなんて」

 

エス「・・・ああ、私も捕獲出来ず残念だったがな・・・」

 

ラン「・・・、とりあえずボリック様は無事・・・、彼は今どちらに?」

 

エス「奴なら私達にも教えず身を隠した。もうその後の事まで面倒など見切れん」

 

ラン「・・・・・」

 

ウェ「ですがまたナイトレイドが襲ってくるかもしれませんよ・・・どうします?」

 

エス「後はもう、羅刹四鬼に任せておけ。帝都に戻り大臣とも其の事で相談するとしよう。援軍をよこすかどうか」

 

クロ「・・・、隊長私に残らせて下さい!ひょっとしたら再びナイトレイドが新たな人員で再度来るかも知れません!」

 

エス「クロメ、お前は帝具が使えないんだ・・・帝都に戻って新たな帝具を探してからでどうだ?」

 

クロ「・・・多分、八房以外に私に合う帝具はありません。この八房だって力を発動させられないだけであって、普通に刀としては使えますから、一番手に馴染んでますし・・・ひょっとしたら何かの方法で元の力が復活するかもしれません。」

 

エス「判った、ならクロメはこのまま残れ。教団には私から話を付けておく。」

 

ウェ「・・・隊長、俺も残らせて下さい!今は帝具が使えないクロメをこのままにしておけません」

 

クロ「ウェイブ!?」

 

エス「全く・・・判った良いだろう。だが期限を決めておく。それまでに帝都に帰って来い、良いな?」

 

ウェ「有難う御座います!」

 

ラン「ふふふ、良かったですねウェイブ、クロメさん」

 

クロ「べ、別に私は・・・///」

 

ウェ「あ、・・・ラン!俺はそんな浮かれた理由じゃねえよ!あくまでだな・・」

 

ラン「はいはい」

 

ウェ「あーもう、とにかく帝都に帰ったらタツミにちゃんとやってたか、お前?と伝えといてくれ」

 

ラン「・・・そうですね、彼ならちゃんとやってましたね・・・」

 

ウェ「・・・ん?」

 

エス「・・・むっ!お前達、ではこれで解散だ。私とランは明日帝都へ出発する、良いな、ではな!」

 

ウェ「・・・・・・?隊長何急いでいたんだ?」

 

ラン「きっと男の我々では判らない事でしょう、くくく」

 

ウェ「なんだそれ?クロメ、何か判るか?」

 

クロ「・・・ウェイブなんて知らない!」

 

聖堂内

 

スズ「・・・ボリック様、何処行ったんだろ?」

 

メズ「まー、そのうち戻って来るっしょ」

 

シュ「うむ、ボリック殿が戻って来るまで我々の手で教団を支えるのだ」

 

イバ「へっ、まぁしょうがねえな」

 

 

 

聖堂外れ空き地

 

大急ぎで走って来た為か珍しく息をきらしている

エス「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

タツ「・・・・・よく、ここが判ったな」

 

エス「・・・ああ・・・当然だ、タツミの匂いがしたからな」

 

タツ「最早帝具並みの性能だな、その鼻は」

 

エス「うふふ、タツミはやはり私のモノだな♪こうしてこっちに帰って来てくれたのだからな、あのメスブタな泥棒猫が悔しがる顔が目に浮かぶぞ」

 

タツ「『豚と猫どっちだよ?』いや・・・、もう少ししたら直ぐに戻らねばならない」

 

エス「!?何故だ!もうナイトレイドになんか戻らず、ずっと私の傍にいてくれ・・・あの後、事後処理もあったが悔しくて私は一睡もせず働いていたんだ」

 

タツ「・・・・・・」

 

エス「タツミ、私はこれでもお前に言われた通り動き、自分を少しでも・・・本来なら嫌だったが変えてきたんだぞ・・・だがこれも私の傲慢か」

 

タツ『・・・ほぉ・・・』

 

エス「もうあんなものを見るのも耐えられん。あれは中々きつい拷問だったぞ。だから、タツミお前をもう離したくない!」

 

タツ「・・・・・・俺には俺の目的がある・・・それを果たすまではな」

 

エス「なら!?それを果たせたら一緒にずっといてくれるんだな?」

 

タツ「・・・俺が今から言う事を守れたらな・・・」

 

エス「なんだ?」

 

タツ「俺の許可が出るまで人は絶対殺すな、だ・・・」

 

エス「!!・・・私はこれから帝都に戻り、場合によっては反乱軍とも闘わねばならん・・・そいつらも殺すなというのか?」

 

タツ「・・・ああ、お前の力なら殺さずに生け捕りも出来るだろ?」

 

エス「何故だタツミ・・・、何故タツミはそこまで私を苦しめる?」

 

タツ「・・・俺はお前を利用しているにしか過ぎない」

 

エス「・・・あれは、あの小娘が私とタツミの仲をかき乱す為に言った事だろ?」

 

タツ「いいや、本当だ」

 

エス「・・・くっ、タツミと私の何が違うというのだ?同じく人を殺しているだろ?」

 

タツ「お前の場合、ただ楽しそうに殺したり自分と殺される側の者は別だと考えている・・・だが俺は少なくとも相手も自分も元は同じ・・・だと考えていて、殺す際も表には特に出さんが慈悲の心を持って殺しているつもりだがな」

 

エス「まさかタツミも殺すことで相手を救うを思っているのか?」

 

タツ「別にそういう訳じゃない・・・、とにかくお前には殺しそのものを楽しみ、相手を慈しむ心が無い・・・だからだ。更に言えば・・・いや今のお前にはまだ早いな」

 

エス「殺す相手を慈しむ・・・判らん・・・私よりも弱い相手は死ぬ・・それだけの事ではないのか?」

 

タツ「そう思っているうちはお前は今まで多くの命を奪ってはいても、本当の意味で誰も殺せない。・・・だからお前には殺人の許可も出さない」

 

エス「・・・・っつ・・・、誰も殺せない?どういう意味だ、そんな禅のような話など・・・」

 

タツ「判らないのなら自分なりに考えろ・・・判りたくないと言うなら・・・そして出来ないというなら、もうお前に会いに来る事も無い・・・次会う時はそれこそ敵同士でだ」

 

エス「くっ・・・・・・判った、タツミ。乗り越えてやろうではないか、この試練を・・・そして乗り越えた暁にはもう二度と私から離れるなよ!」

 

タツ「俺とお前一緒になったとしても・・・後悔する事になると思うぞ」

 

エス「構わん!」

 

タツ「ではその時になったらこの事についてまた話そう・・・ではまたな」

 

エス「ああ・・・、む?まだだ待て、タツミ!・・・このまま・・・そうだ、このまま帰れると思うな///」

 

タツ「・・・・・それはどういう意味だ」

 

エス「も、文字通りの意味だ。・・・あの女があんな事したのだ、それ以上の事をしなければ帰したりはしないぞ///」

 

タツ「・・・!・・・な、何をすれば良い・・・?」

 

エス「まず抱き締めると良いぞ」

 

 

タツ『・・・こんな女でも流石に良い匂いがするな』

 

エス『はわわわわわわ///』

 

タツ「・・・・・・」

 

エス『あ、頭を撫でられている!!・・・こ、これは良い・・・///』

 

タツ『・・・///・・・そろそろ、戻るか・・・』

 

エス「?・・・タツミ、もう止めるのか」

 

タツ「もう帰ら・・・」

 

エスデスの唇がタツミのそれを覆い、彼女の舌が口内を泳ぐ。

 

タツ『・・・!・・・///』

 

エス『はぁ・・・んんん///・・・んん・・・///』

 

 

タツ「はぁ・・・///・・・はぁ・・・も、もう止せよ、エスデス・・・///」

 

エス「あん・・・もっとだ///」

 

タツ『・・・うっ・・・抗えない・・・性格さえ良ければ普通に美人だしな、こいつ』

 

エスデスは次にタツミの頬、首と少しずつ下へ吸い進め、タツミは膝が地に着く。

 

エス「んん、んちゅ・・・んん///」

 

タツ『はぁ・・・はぁ・・・駄目だ・・・これは強烈だ///・・・ええい、理性の力、フルパワーだ!』

 

タツミはエスデスを両肩を両腕で剥がす。

エス「あん・・・タツミ・・・」

 

タツ「はぁ・・・はぁ・・、エスデス、と、とりあえず俺は戻ら・・、なくては・・なくては・・・」

 

エス「次はいつ逢える?」

 

タツ「しばらくは無理だ・・・」

 

エス「なら・・なら今日は帰したくは無い・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

エス「・・・・・・、判った、我慢するとしよう・・・だが、私を一人にするなよ・・・必ずまた来るんだぞ」

 

そう言ってエスデスはタツミに口付ける。

 

タツ「!!///・・・わ、判った」

 

 

 

 

 

 

向かう道中

 

タツ「・・・危なかった・・・、まだあいつの感触が・・・、あれで中身が俺好みだったら間違いなく危なかった・・・ん?あ、あいつ思いっきり吸ってたからな・・・隠しておかないと死ぬ程恥ずかしい」

 

 

 

 

そして遅れてくる事

 

チェ『・・・タツミ、遅い・・・あ、来た!』

 

タツ「今戻りました・・・ボス、今の所こっちまでは追手は来ていません。それにボリックは当分の間、安寧道を離れて身を隠すという話を聞きました」

 

ナジェ「そうか!・・・、とりあえず私達も体勢を立て直す為に已むを得んが一旦帝都に戻るぞ。だがボリックはいずれ必ず討ち果たす。・・・タツミ、ご苦労だったな」

 

タツ「いえいえ」

 

ナジェ『・・・妙だな。あのボリックが私達を警戒して身を隠す?・・・あの強さでか、或いは用心を重ねてか?・・・』

 

チェ「・・・タツミ、どうしたの?・・・マフラーなんかして?」

 

タツ「・・・ああ、ちょっと風邪ひいたみたいでな」

 

チェ「ふ~~~~~~ん・・・・」

 

タツ『不味い・・・思いっきり疑われている』

 

 

スサ「おい、ナジェンダ!馬車の手配が出来たぞ。皆早く乗り込め!」

 

 



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思いを斬る

 

アカメ達は帰還時の襲撃を警戒し大きく迂回して南側から帝都に戻るルートを選択、帝都から南200キロ地点という旅の途中であった。

 

比較的傷が浅く、食料調達に動けるメンバー、スサノオ、チェルシー、タツミ、マインがそれぞれ二人一組になって行動した。後のメンバーはテントを張りその中で安静にしている。

 

 

タツ「ふぁ~~~~あ・・・」

 

マイ「・・・・・・・」

 

タツ「・・・なんだ?なんか俺の顔についてっか?」

 

マイ「別に・・・」

 

タツ「・・・・・・・あー、なんか食料になりそうなもの生えてねえかな?」

 

マイ「生えてる訳で無いでしょ、こんな雪原で」

 

タツ「木の皮でも食べるか、それとも雪掘って何か根で漁るか」

 

マイ「あんた意外と野生児ね」

 

タツ「アカメ程じゃないさ」

 

マイ「でも多少動物性たんぱく質も取りたいわよ」

 

タツ「簡単に見つかる訳無いだろ!そうだ・・・俺の干し餅でも食べるか?」

 

マイ「固っ!!」

 

タツ「ゆっくりよく噛め」

 

ズザズサ

 

マイ「!!」

 

タツ「熊か?」

 

マイ「熊よ!」

 

タツ「これはクマった・・・ああいうのは穴持たずっつって、冬眠出来ず凶暴だから近付かないようにな?」

 

マイ「なに、呑気に解説してんのよ!こっち向かってるわよ」

 

タツ「マイン、パンプキンを!・・・『不味い!』

 

マイ「・・・しまった、指が(かじかんで引き金が)・・・」

 

マインに向かって来る熊に対しタツミは跳躍し抜いた刀ごと熊の心臓に体当たりし抉る。熊も反撃しようとするが、タツミは胸に密着して居る為、決定打の攻撃にならない。

 

そのまま重なるように熊はタツミの上に倒れる。

 

マイ「タツミ!!・・・くっ、重い・・・」

 

タツ「ふんっ!!」

 

マイ「タツミ!!・・・良かった・・・」

 

タツ「やれやれ、どうやら命拾いしたな、死ぬかと思ったぞ」

 

マイ「有難う・・・」

 

タツ「お互い様だ・・・・・・、何の真似だ、これは?」

 

パンプキンをタツミの後ろ背中から突き立てるマイン

 

マイ「タツミ・・・お願い・・・あんたを信じさせて・・・抵抗しないなら何もしないから大人しくしてて」

 

タツ「・・・・・・・」

 

 

 

アカ「・・・・・・」

 

ナジェ「・・・帰って来たか」

 

レオ「・・・・・・」

 

ラバ「・・・・・・」

 

スサ「・・・・・・・・」

 

チェ『・・・タツミ』

 

 

タツ「よぉ、みんなお揃いで・・・何かあったのか?」

変わらずマインにパンプキンを突き付けられている。

 

ナジェ「タツミ、もう取り繕う気も無い様だな?」

 

タツ「一体何の話で?」

 

ナジェ「惚けるな!お前の不審な行動は色々挙がっているんだ・・・その一つにお前秘かにいまだにイェーガーズとも行動を共にしていたそうだな!」

 

タツ「・・・・・・」

 

ナジェ「証拠ならある、密偵から数件の目撃例・・・他にエスデスとも会っていたらしいな」

 

タツ「・・・それで?」

 

ナジェ「!?・・・言い訳する気も無いのか?・・・ふてぶてしい奴だ」

 

タツ「だとしたら俺をどうするおつもりで?」

 

マイ「・・・くっ・・・」

 

ナジェ「お前は一体何者だ?・・・帝国側のスパイか?それともエスデスの部下か?初め、アカメ達に連れて来られたのも我々革命軍の情報を探る為か!?」

 

タツ「俺がエスデスの部下?そいつは戯れが過ぎる・・・。生憎俺は誰にも従わない・・・唯一従うならば自分に課した掟だけだ」

 

ナジェ「・・・ならば聞こう、お前は私達の味方か敵か?」

 

タツ「・・・・・・」

 

長い沈黙が訪れる。

 

アカ「・・・私達の敵ならばとうにアジトが襲われてもおかしくない」

 

ラバ「だけどよ、体制が整う最後まで待っているとしたら」

 

マイ「その時に一気に潰す考えだから今までアジトを襲わなかったって事?」

 

レオ「でもイェーガーズは常にあたし達を倒す機会を窺ってたぞ」

 

スサ「・・・そうなると、タツミは敵である可能性は余り高くは無いな・・・」

 

タツ「・・・・・」

 

マイ「でもあたし達の本当に味方なのあんた?・・・さっきだってあたしを助けてくれた腕前は只者じゃなかったわ・・・前から薄々思ってたけどあんた本当は自分の腕隠してたんじゃないの?・・・」

 

ラバ「・・・そうだな、この際だから言うが、お前やっぱりあの武闘会の時、エスデス倒してたろ?」

 

レオ「やっぱあれ見間違いじゃないよな?」

 

アカ「・・・・・・」

 

ナジェ「なに?エスデスを!?タツミ、それは本当なのか?」

 

タツ「・・・・・・」

 

マイ「あんた、何か喋ったらどうなの?少しは自分の事、弁護したらどうなの?」

 

タツ「俺はあんたらの味方だから信じてくれ?と言ったら素直に信じるのか?」

 

ナジェ「ならタツミ、お前の目的はなんだ?」

 

タツ「俺の目的は全ての帝具を破壊する事・・・」

 

スサ「むっ・・・」

 

ナジェ「なに?帝具を全て・・・」

 

タツ「ああ、俺は元々別の国の出身だ・・・そして、この国の帝具の力は脅威なんでな、それの破壊命令を受けてここに来ている・・・」

 

ナジェ「成程・・・そういう事か・・・まさか、クロメの帝具が使えなくなったのは・・・まさかタツミの仕業か・・・!?」

 

アカ「なに!?」

 

タツ「何故そう思う?」

 

ナジェ「本部で何者かにインクルシオが盗まれたという報告・・・それにお前は以前からどうも意図的に戦闘を避けていた節があるようにも見えた・・・そしてエスデスをも倒す実力ならあの時の私達を殺さずに撃退くらい出来ただろうからな・・・そうか・・・それなら今までのお前の不審な行動に全て納得がいく・・・」

 

レオ「だけどボス、あの時のあれがインクルシオなら見た目が違ったはず」

 

ナジェ「タツミなら、インクルシオの更なる力も引き出せるだろう・・・どうだ?」

 

タツ「引き出した・・・というよりもインクルシオの本来の力を好きに解放出来るように自由にさせて、そこに少し俺自身の力を乗せたにしか過ぎないがな」

 

ナジェ『・・・簡単に言ってくれるな』

 

アカ「タツミはあの時、イェーガーズのクロメ達を庇った・・・だが私達も殺さなかった・・・やはり帝具を破壊する事が目的なら何故あの時に私達の帝具も壊さなかった?」

 

タツ「・・・・・・・」

 

チェ「・・・それは彼が出来ればあたし達の革命が成功するまで待っていたいんじゃないかな?」

 

ナジェ「成功まで?」

 

チェ「全ての帝具を壊したい・・・けど、無理矢理は好まないからいずれ所持者が納得のいく形で自分に渡して貰いたかったから様子見をしてたんじゃないのタツミ?」

 

タツ「・・・別に今この場で全員を倒してでも持って行っても良いんだがな」

 

ラバ「面白え、やれるもんならやってみろ」

 

ナジェ「ラバック!・・・タツミの目的は判った・・・帝具は脅威だが何も壊す事は無いだろ?」

 

タツ「今この世界で帝具程の破壊力を持った武器は存在しない・・・そうなると帝具を持った者がこの世界を支配する事になる・・・そういう事態を避ける為にだ。それに我が国から流出した技術もあって、こんな悪しき事に使われたくも無いからだ」

 

ナジェ「成程、帝具は他の国も製作に携わったと聞いたが、そういう事か」

 

タツ「納得してくれたら、全ての帝具を渡して欲しい」

 

ナジェ「待て、話は判ったがそうなるとスサノオもか!」

 

タツ「勿論だ・・・スサノオのマスターが悪人になったらその命令に従う事になる」

 

スサ「・・・・・・」

 

ナジェ「くっ・・・、判った私達が持つ帝具を渡そう・・・」

 

アカ「ボス!?」

 

ラバ「ナジェンダさん!?」

 

ナジェ「その代わり・・・革命に手を貸してくれ・・・それが条件だ」

 

タツ「・・・俺にとってはこの国がどうなろうと知った事では無い・・・」

 

ナジェ「む・・・!!」

 

マイ「嘘よ!あんたそう言って今まで踏みにじられた人達を助けようとしてたじゃない・・・そんな悪ぶったって私にはあんたの下手な芝居なんてちゃんと判ってるんだからね!」

 

タツ「・・・・・・・」

 

レオ「タツミはさ・・・、前々から私達とバカやったりもしてたけどさ、何処か一線引いて私達といるような感じがしてたんだよね、どうして?」

 

タツ「殺し屋になんかなりたくないからだ・・・」

 

ナジェ「気持ちは判らなくもないが、これでも私達は民の為に闘っているつもりだ・・・その辺りでエスデス達と違って共感出来ている所も無かったか?」

 

タツ「・・・あくまで俺自身の目的の為だけに動いているだけで、民の事などどうでも良い」

 

マインはタツミに突き付けていたパンプキンを降ろし、彼の背中に寄り掛る。

 

タツ「・・・!!」

 

チェ『むっ・・・!』

 

マイ「もう・・・、またそんな事言って・・・、シェーレが殺された時、あんたかなり怒ってて悲しんでたじゃない?」

タツミの顔を覗き込む。

 

タツ「・・・・・・」

 

アカ「・・・タツミの言動には何処か何かを隠しているような、そんな気がする」

 

ナジェ「・・・んー・・・、タツミ、ひょっとして昔私達と同業だったのか?」

 

ラバ「・・・・・」

 

チェ「あー、それあたしも聞きたいな・・・」

 

マイ「ねえ、タツミ?」

 

タツ「うっ・・・、・・・昔色々有ってな。別にそんな長く居た訳じゃないんだが、仲間はみーんな死んでいきやがった・・・、綺麗な死に方した奴なんて誰もいない、夫婦諸共ズタズタに斬られた奴や、捕まる前に自決した奴・・・皆闇の中に消えていった・・・俺はそんな仲間の死に様なんてもう金輪際見たくない・・・」

 

レオ「そっか・・・だからタツミ、あたし達と一緒に仕事しようとしなかったんだ・・・」

 

マイ「タツミ・・・」

 

チェ「そう・・だったんだ・・・それで・・・」

 

アカ「・・・・・・タツミ」

 

マイ「・・・あはは、・・・何バカな事言ってんのよ!あたし達が誰も死ぬ訳無いじゃない!タツミのクセに何下らない心配してんのよ!」

 

タツ「・・・・・・・」

 

スサ「・・・タツミ、ちょっと良いか?」

 

タツ「?」

 

スサ「俺は帝具人間だ・・・だから人間の心というものを完全に把握している訳では無い・・・だがこれでも千年は生きてきた・・・今までのマスターには確かに邪な者もいた・・・だが立派な者も居た・・・あの世という者がどんな所か俺は判らないが、もし明日死ぬ事になったとしても俺は自分の今まで歩いた道に誇りを持てる・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

スサ「それはお前達も褒めてくれた、俺の料理の腕だ・・・お前達やもし革命が成功した暁には人間達の舌をこの手で楽しませるのも悪く無いと思っている・・・」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

スサ「タツミお前は可哀想な奴だ、何もかも失ったような顔だが・・・お前は何が出来る?帝具を破壊する事だが、それは俺も含めてなのだろうが、それならそれで良い・・・だが一人で背負ってやるよりも仲間と共にやる方が実りはないか?」

 

タツ「・・・・・・・・・・・・」

 

ナジェ「タツミ、私からも頼む・・・約束は守る必ず」

 

アカ「・・・・・」

 

レオ「・・・・・」

 

マイ「・・・・・」

 

チェ「・・・・・」

 

ラバ「・・・あーもう・・・辛気臭えな・・・、ナジェンダさん、こいつが俺達のアジトばらす気なら疾う(とう)の昔に言ってるでしょう・・・ですから一か八かこいつ信じて、もう何処へでも好きな所に行かせりゃ良いんじゃないですか?元々俺達から抜けたがってたんですから・・・」

 

ナジェ「ラバ・・・」

 

ラバ「大丈夫ですよ、こんな腑抜け野郎居なくたって!・・・俺がもうちょっと頑張りまさぁ!」

 

タツ「・・・言ってくれるなラバック・・・お前みたいな軟派野郎がエスデスやブドーそれに皇帝の隠し帝具に太刀打ちなんか出来る訳ねぇだろ!」

 

ラバ「んなのやってみなきゃ判らねぇだろ!?諦めなきゃ試合は終わんないぜ!」

 

タツ「馬鹿だな・・・お前は本当バカだな・・・、おい、ナジェンダさん、しょうがねぇからもう少し付き合ってやる・・・だが今までのような安月給じゃ俺は動かねぇぞ、下手な値付けたら俺は降りる・・・どうだ?」

 

ラバ「てめぇこの野郎!」

 

ナジェ「ラバ!・・・判った、それ相応に払おう・・・私の報酬三ケ月分でどうだ?」

 

タツ「良いだろう」

 

ラバ「ナジェンダさん!?何もこいつの為に・・・甘やかす事なんか無いですよ!」

 

ナジェ「ああ・・・、だから出来高払いでどうだ?・・・そうだな、まずエスデスを無力化してくれ!」

 

チェ「くくく・・・」

 

タツ「・・・判った・・・ならもう、その報酬受け取ろうか・・・」

 

ナジェ「なに!?」

 

タツ「あの女なら恥ずかしながら俺の言う事を聞くようにした・・・問題無いだろ?・・・だが奴にも立場があるからな、それを保てる範囲でなら可能だ」

 

ナジェ「・・・、くくく・・・あははは・・・、判った明日にでも渡そう」

 

ラバ「タツミ・・・お前良い気になんなよ・・・!」(ニヤリ)

 

タツ「お前が余計な事言わなきゃ大人しく出て言ったのになぁ・・・」(ニヤリ)

 

アカ「・・・くくく」

 

レオ「にひひひ」

 

マイ「ふぅ・・・、手間かけさすんだから」

 

スサ「ふふふ」

 

 

 

虚六近郊

 

ウェ「クロメ、体の方は大丈夫か?」

 

クロ「うん、今は平気・・・」

 

ウェ「しかしあのクロメが食べてた菓子がまさか肉体強化の薬だとは思わなかったぜ」

 

クロ「・・・あれは確かに強化されるけど、麻薬みたいなものだから危険なの・・・」

 

ウェ「そうだな・・・『こないだ髪の抜けも多かった・・・それに吐血もしていた・・・当然薬の副作用だよな・・・クロメにこれ以上そんな薬飲ませる訳にはいかねえ・・・帝具使える使えない以前の問題だよな』

 

クロ「・・・どうしたのウェイブ?」

 

ウェ「あ?いやなんでもない・・・あー、それにしてもナイトレイドの連中、全然襲って来ないな・・・それにボリックも何処行ったんだ?」

 

クロ「お姉ちゃん達はまた必ず来ると思う・・・けど変だね?ボリックは何処かに行っちゃったし・・・そっちの方に行ったのかな?」

 

ウェ「俺達にも行き先告げずにな・・・これじゃあ守りようがねえな」

 

クロ「・・・でも、たまにはこんな風に何もなく過ごすのも良いかな///」

 

ウェ「お?おお///・・・そうだな悪くないよな・・・」

 

クロ「・・・・・・///」

 

ウェ「・・・・・・///」

 

スズ「やっほー」

 

クロ「!!?」

 

ウェ「う?スズカさん?」

 

スズ「ごめんねーお邪魔だったねー・・・うふふ」

 

クロ「・・・・・・」

 

ウェ「あー、どうしてこんな所に?」

 

スズ「一応パトロールねー怪しい人がいないかねー・・・怪しいバカップルはいたけどねーくくく」

 

ウェ「か、からかうなよ!俺達そんなじゃないって、なぁクロメ!」

 

クロ「・・・・・・」

 

スズ「うふふ、まぁ冗談はこれぐらいにして・・・どうも最近、安寧道も変わってさ、いよいよ武装蜂起するんだってさ・・・」

 

ウェ「なんだって!?」

 

スズ「悪徳商人の蔵壊すとか・・・まっあたしにとっちゃ面白い方の味方するだけなんだけどさ」

 

ウェ「あんたら羅刹は大臣オネストのお抱えじゃ無かったのか?」

 

スズ「いやあ、それがね、ボリック様が俺側に付けって無理やり・・・///・・・」

 

ウェ『なにされたんだよ・・・まぁ想像するほどの事はされてないよな、たぶん』

 

スズ「それに、大臣よりも皇拳寺に寄付してくれるって話も付いてねー」

 

ウェ「じゃあ、あんたらボリックの味方するのか?」

 

スズ「まぁねー、ボリック様の言伝で教主様の味方してくれってさ・・・だけど変なんだよねー、ここだけの話、一部の噂じゃ以前のボリックは教主殺して自分がその座に就こうとしてたなんて話あったわー、今の彼はそんな気は無いようだけどー・・・んじゃお二人さんごゆっくりー」

 

クロ「・・・・・・」

 

ウェ「・・・、教主を殺す?ボリックが?なんだそれ?・・・」

 

クロ「・・・ウェイブには黙ってたけど初めボリックは教主を殺そうと企んでた・・・どうしてそれを途中で止めたか判らないけど・・・」

 

ウェ「おいおい、ちょっと待ってくれよ!じゃあ何か?俺はそんな奴を護衛してた訳か?・・・なんだよそれ!!」

 

クロ「落ち着いて・・・、今まで帝国はそういう自分達にとって不利益になりそうな・・・戦争の火種を起こしそうな者達を消して来た」

 

ウェ「・・・戦争の火種、か。あの教主さん普通の良い人だったぜ。・・・なんで殺されなきゃなんねえんだよ?」

 

クロ「ボリックは教主を殺して武装蜂起・・・帝国に反逆するのを止めさせようとしてた」

 

ウェ「武装蜂起は穏やかじゃないが・・・何も殺す事ないだろ?」

 

クロ「・・・その他にボリックは自分の利益の為に薬の密輸売買を宗教を隠れ蓑にして私腹を肥やそうとしてた」

 

ウェ「な!?許せねえ野郎だな・・・だけどよ、なんでクロメそんな事まで知ってんだ?」

 

クロ「ランが教えてくれたの」

 

ウェ「ラン・・・俺にも言ってくれりゃ良いのに・・・まぁそれはともかく、ここに居て俺も段々判って来たが圧政に苦しむのを何とかするのに、正当な手段で訴えてもどうにもなんないから武力で訴えるのは必ずしも間違っていると言えるのか?」

 

クロ「・・・闘いに、戦争になれば、多かれ少なかれ関係の無い人も巻き込まれる。例えそれが大義のある戦争でも・・・だから私は反乱軍を野放しに出来ない」

 

ウェ「クロメの気持ちも判るが・・・俺は今回、安寧道側に肩を持ちたい」

 

クロ「彼らに加わるの?」

 

ウェ「う~ん、様子見してからだな・・・クロメの言う通り戦争はどさくさに紛れて略奪とかするような奴いるからなぁ・・・そんな事しないような人達なら味方しても良いかな」

 



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悪狗

時は前後してボリック逃走から3ヶ月後ー、心変わりした彼の教団内での風紀取り締まりなどで派閥が変更され安寧道は武装蜂起に踏み切る。

民を苦しめる国と闘う事こそが善行であるとし、重税を強いてきた官庁や悪徳地主の蔵を襲って行った。

血を流す事は教主の望む所では無かったが膨大な数の信者達を養っていく為にも土地や食料は必要であるという幹部達の意見を聞き入れる事となった。

 

 

この騒動に対し帝国に虐げられてきた多くの民が呼応、反乱の規模は帝国全土へと広がった。そして時同じくして待っていたかのように西の異民族が大軍で侵攻してきた。兵の練度が低い帝国側は敗戦を重ね帝国領に異民族の侵入を許した。

帝国は国の内外に大きな悩みを抱えるようになった。

 

 

帝都宮殿

 

皇帝「なぁ大臣・・・余の軍がまた西の異民族に負けたそうだが・・・大丈夫なのか?敵は大勢いるそうではないか」

 

オネ「おやおや?誰が陛下のお耳にそのような事を?」

 

皇帝「セイギ内政官だ」

 

オネ「・・・・・・・・・なるほど・・・、どうやらセイギ内政官は責任逃れをしていますな」

 

皇帝「どういうことだ」

 

オネ「現在 帝国各地で起きている反乱は内政官の責任です。異民族の話を出してこちらを煙に巻こうとしてますな・・・ですが外敵の件は御安心を、エスデス将軍の部隊を向かわせました」

 

皇帝「おお、では!」

 

オネ「はい、エスデス将軍なら必ずや侵攻してきた敵を撃退してくれるでしょう。兵士の数などは問題になりません・・・帝国も千年続けばこの様な事も起こります。ですが御心配なく、陛下はいつものように皆の支えとして悠然として居て下さい。」

 

皇帝「判った。確かに皇帝である余が弱気では国が立ち行かぬな、ありがとう大臣。いつもお前には救われるぞ」

 

オネ「・・・・」

 

帝都宮殿内大臣室

 

オネ「はぁ・・・、やれやれ最近反乱だ侵攻だと面倒臭いですなぁ・・・エスデスはボリックを助けたとはいえ、結局安寧道は武装蜂起・・・全く意味が無い・・・それにあの馬鹿息子ももうちょっとマシなら、・・・まぁ良いでしょう・・・」

 

兵「オネスト様、面会したいという者達が来ました」

 

オネ「はい、とおして下さい」

 

細目で口に楊枝を加え刀を差した侍風の男が入って来る、他4名。

「この度は貴殿の御子息、シュラ殿が不慮の厄災に遭い・・・誠に悔み申し上げの程・・・」

 

オネ「・・・これはどうもご丁寧に、残念ですが死んだ者は帰りませんから致し方ありません・・・その代わり息子は貴方がたという得難い人達を連れて来てくれました・・・それがせめてもの救いです」

 

「貴方は立派な御仁でござる。拙者達がもう少し早くシュラ殿と合流していれば・・・」

 

オネ「息子もそこまで慕われて・・・いやいや父親冥利に尽きます・・・さて、早速ですがイゾウさん、貴方がたで秘密警察を組織し帝都の治安に当たって頂きます」

 

イゾ「承った。では各々方それぞれ挨拶を・・」

 

オネ「どうでしょう?ここは一つ自己紹介に死刑囚相手に腕をみたいのですが・・・」

 

 

帝都練兵場 見物室

 

オネ「さて・・・、貴方がた、そこの4人を倒せば晴れて無罪放免、賞金も出すので頑張って下さい・・・『暗殺者育成に持って来いのテストですね・・くくく』

 

イゾ「ほぉ・・・、これだけ多くの死刑囚が・・・犯罪が絶えないのでござるな?」

 

オネ「ええ・・・困ったものです・・・」

 

場内

 

「なんだって?無罪放免!」

 

「どうする?」

 

「よし、全員で掛かれば・・・行くぞ!」

 

数十人の死刑囚がそれぞれ武器を手に4人に向かって行く。

 

「んじゃまずあたしから・・・死に逝く貴方がたに哀切のレクエイムを・・・」

 

マイクのような帝具を使った凄まじい音波が死刑囚数十人の内臓、骨格を破壊し絶命させる。

 

 

イゾ「あの少々破廉恥で面妖なナリをしている彼女はコスミナ殿、西の国の魔女裁判とやらで有罪になった所、シュラ殿がスカウトしたようでござるな」

 

コス「一網打尽!・・・キャア!」

蹴飛ばされるコスミナ

 

「一網打尽!じゃねえよアマ!てめぇいきなり皆殺しにしてどうするんだ!俺の分は」

 

コス「まぁまぁ後でお相手して差し上げますから・・・はぁはぁ」

 

「お前じゃ身が持たねえよ!」

 

 

イゾ「・・・あそこで夫婦漫才をしている相方の御仁がエンシン殿、なんでも南方で暴れ回っていた海の賊でござったが、その腕を見込まれシュラ殿が連れて来たと」

 

 

エン「あー殺したくてムラムラしてきやがった」

 

「しょうがない奴らじゃのう・・・!」

 

「う・・・う・・・」

 

「ん?こいつまだ息がある・・・」

 

「う、うわあああああ」

 

小柄な体躯の少女のような女がその大の男を空中へ放り投げる

 

「大人しくせんか!お前幸運に思うがよいぞ」

そう言って空中に飛び上がり、男の肩に噛みつく

 

「妾に殺されるのが一番マシじゃ」

 

「おああああああああ」

血を抜かれミイラのようになる絶命する

 

「ふむ」

 

 

イゾ「あの童のようなおなごはドロテア殿、体をからくりのように改造している奇術・・・確かレンキンジュツ師というそうでござる・・・拙者も余り把握はしておらぬので」

 

オネ「・・・・・・」

 

イゾ「あちらの息苦しそうな恰幅の良い御仁がチャンプ殿、童子を犯し殺す事を好む少々変わった嗜好の持ち主でござる・・・だがあのような者でも腕が立つからシュラ殿が身柄を引き取ったと・・・もっとも拙者も殺しを慈しむ点では変わりはござらんがな」

 

オネ「ほぉ・・・貴方の腕前をみたいのですがね」

 

イゾ「うむ、拙者はこの愛刀江雪を抜いてしまうと、この江雪の気が済むまで血を欲してしまう故、なるべく敵しかおらぬ所でしか刀が抜けないのでござる。許して下され」

 

オネ「・・・ふっ、それは頼もしい・・・ところで彼らはそれぞれ帝具をお持ちのようですね・・」

 

イゾ「シュラ殿が与えたようでござる」

 

オネ『・・・全く勝手に』

 

イゾ「ではこれで御披露は宜しいかな?」

 

オネ「ええ、結構です」

 

イゾ「我々は何をすれば宜しいか?オネスト殿に謀反を起こしそうな輩を一人目星を付けておいたがいかがされるか?」

 

オネ「・・・ああー、これはこれは、まだ今は良いです。国に異変が起こった今こそ忠臣ぶった奴をあぶり出すチャンス。この機に私に反対する輩は連座制でどんどん処刑していきます・・・罪などいくらでもでっち上げられますからなぁ・・・ぬふふ」

 

イゾ『ふっ・・・中々の御仁でござるな』

 

 

 

帝都 馬寅劇場

 

座長「ああ、そこもう少し刃筋を整えて・・・そうそう・・・そこは少し抑え気味で」

 

イゾ「御免!・・・我々は秘密警察ワイルドハント、御用の筋があって参った」

 

座長『・・・ワイルドハント、人数が減ったイェーガーズに代わりに新しく出来た組織か・・・』「は、はいどのような御用件でしょうか?」

 

エン「お前らが帝国批判するような劇をしていると聞いたんでな、それで来たんだ。大人しくしな」

 

座長「そ、その様な事実は一切御座いません!・・・それに、前にイェーガーズの方が取り調べに来て何も無かったと判断されました」

 

イゾ「ふむ・・・・」

 

エン「あーうるせえな・・・以前はそうでも今もう一度改めてやんよ!」

 

座長「あの、これはほんの・・・」

 

イゾウに袖の下を渡す

だがそれをはねつける。

イゾ「・・・汚らわしい・・・拙者を愚弄するか!・・・ドロテア殿!」

 

ドロ「うむ!」

ドロテアは座長に噛みつきミイラ化させる

 

「なっ!」

 

「ざっ座長!・・・貴様よくも!」

 

エン「おいおい、良いのか?俺達は大臣の直接命令で作られたワイルドハントなんだぜ?イェーガーズとは一味違うぜ」

 

「!?」

 

イゾ「エンシン殿・・・権力を盾にするのは拙者の好むところでは無い・・・、お主ら異議申し立て有る者は外に出られい!拙者が相手する・・・」

外に出ていくイゾウ

 

「くっ・・・」

 

エン「へっ・・・誰も外へ行かねえのか?」

 

コス「やーい腰抜け、腰抜け」

 

エン「さぁてー調べっか・・・おほっ流石劇団、可愛い娘揃っているじゃねえか・・・全員頂きだぜ」

 

コス「じゃあイケメン男子はコスミナちゃんが貰いまーす」

 

「きゃああああああ」「うわあああああ」

 

チャ「ああーだりいなー・・・!?・・・あああああああ小さい子だあ!小さい子がいたあ!!」

 

「ひっ」

 

チャ「ああ・・・不純物がねえ天使だ、たまらねえ」

 

その子供を突き飛ばす

 

「ぐっ・・・がはっ・・・」

 

チャ「ひへへへ・・痛いかい?・・・ペロペロして癒してあげようね」

 

「お、おやめ下さい・・・あんまりです」

中年の女性が助けに入る

 

チャ「腐った汚物が俺に意見すんな・・・近付くな・・・臭えんだよ!・・・あー!手が汚れちまったじゃねえかこのクソ女が!ざけんなカス!カス!」

執拗に殴り殺してしまう

 

チャ「ふう・・・ふう・・・もうここじゃあ邪魔が入って仕方無いね・・・おじさんと二人きりの国へ行・・・ぐっ」

 

チャンプが後を振り返る刹那にその子供が傍に落ちていた鋏をチャンプの首元に突き刺す

 

チャ「ぐっ・・・いてえなあ!!!」

 

子供を跳ね飛ばし、刺さった鋏を引きぬく。

 

チャ「てめぇ・・・天使だと思ってたのによ・・・大人しくしてたら可愛がってあげたのに・・・てめぇはもう中身は腐った大人になってやがんだな!ぶっ殺してやる!」

 

 

 

彼らの殺戮尋問から逃れ劇場外に逃げ出す劇場員達

 

イゾ「ふむ・・・お主ら調べはしっかり受けたでござるか・・・?」

 

「何が取り調べだ!あんなのまともじゃねえ!」

 

イゾ「ふむ、ならばお主らは自らの非を・・・帝国批判の罪を認めるでござるな・・・帝国批判は極刑でござる・・・江雪、共に舞おう」

 

そう言ってイゾウは江雪を抜く

 

座座座座座座座・・・斬っ!!

 

イゾウ以外そこにはもう誰も立っていない。

 

イゾ「ふふふ・・・もう誰もおらぬな・・・、江雪、どうであった?・・・なに?まだ血が欲しい?・・・焦るな、まだまだこれからだ・・・しかしシュラ殿には感謝したりぬ・・・ここまで殺し放題とは・・・」

 

 

影から見据える一人の男

ラン『・・・今は中へ入って行ったピエロ・・・見付けた・・・』

 

 

 

 



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悪寒

今月号、中々熱い話でしたね。マインが美人。失礼ですがエスデスの華奢な体躯、あの心の位なのにあの強さは最早説得力が皆無。彼女の心の隙を突くタツミの一撃が秀逸、ただあそこで溜めを作らず、無拍子の一撃ならば・・・。感想を一言にしましたら、行けえええ、タァツミィィイイ、奴らを撃ち砕けえええ!!!

余談ですが最近起こった或いは去年からですが・・・人質の方、イスラム国の件・・・、何を語るべきか・・・言わずもがなです・・・。


帝国西部 異民族との国境付近

 

エス「ははは、戦闘とはやはりこうでなくてはな!!」

 

エスデスは幾人者敵を斬り倒していく・・・

 

退却していく異民族

 

「将軍!敵が狙い通りの位置に逃げていきます!」

 

エス「よし・・・谷に入りきった所で・・・む!?」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

エス「タツミ!?何故ここに?・・・そうか私に会いに来てくれたのか?」

 

タツミは無言のまま大砲型の帝具の銃口をエスデス軍に向け砲撃する

 

エス「・・・!!タツミ・・・――――――」

 

 

 

「将軍?将軍!どうなさいましたか?」

 

エス「・・・はぁ・・・はぁ・・・ああ・・・タツミ・・夢か・・・いやなんでもない・・・」

 

「うなされていたようですが・・・」

 

エス「なんでもない!!」

 

「失礼しました・・・将軍、いつまでも異民族と睨みあっていても埒が明きません・・・どうでしょう、ここはいつものように突撃されては・・・将軍が行けと御命令されれば誰もが従います、奴ら一網打尽ですよ」

 

エス「う、うむ・・・『タツミ「俺の許可が出るまで人は絶対殺すな」』・・・どうも具合が芳しく無くてな・・・私は後方で援護する、お前達が突撃しろ」

 

「・・・、了解しました・・・」

 

エス「・・・少し外の空気を吸って来る・・・私が帰ったら戦闘用意だ」

 

「畏まりました!」

 

馬に駆って遠出するエスデス。

 

兵達の会話

 

「この頃、エスデス様おかしいよな?」

「確かに前みたいに先陣切らないっつーか、大人しくなられたというか・・・」

「俺は何か考えがあっての事だと思うぞ」

「う~ん、俺は前みたいに自由にやらせてくれたエスデス様の方が良かったけどな・・・」

「まぁな、最近は略奪とかするなと五月蠅いからな・・・」

「うるせえぞ、お前ら、俺はエスデス様がどうなろうと付いていくぞ」

「いや・・・俺だってそうだけどよ・・・、残った家族にもちゃんと手当出してくれるしさ・・・」

 

 

 

 

エス「・・・・・・・あの夢はなんだったのだ・・・」

 

ここにはタツミは居ない・・・だから何人殺そうがタツミには白を切りとおせる・・・だが、もしばれた時には・・・それ以外にエスデスはタツミとの約束を、自分にも課した事を例えばれずとも、守ろうとする心が芽生えていた。

 

エス「大分遠くまで来たか・・・ここは・・・?ん?こんな所に民家か・・・茶でも貰うとするか・・・」

 

 

エス「おい、すまないが何か飲む物はないか?」

 

ボル「はいはい・・・あ・・・!隊長!!!」

 

エス「ボルスか!!・・・お前生きていたのか?」

 

ボル「・・・その節は・・・、隊長有難う御座いました・・・」

 

エス「う、うむ?」

 

ボル「タツミ君から聞きましたよ・・・かなりの手当てを頂き・・・それに、ナイトレイドから狙われているのを考慮し死亡扱いにもして頂き、お計らい本当に・・・」

 

エス『手当・・・何も知らんぞ私は・・・そうかタツミが・・・』

 

ボル「隊長・・・?」

 

エス「・・・んん・・・ああー、妻娘は息災か?」

 

ボル「はい・・・おーい、お前達」

 

妻「どうしました・・・あら、エスデス隊長さん?」

 

娘「たいちょーさん」

 

ボル「この人がパパ達を色々助けてくれたんだよ」

 

娘「えーほんとーありがとうございますー」

 

妻「本当にその節は・・・、主人も・・・人から怨まれる仕事をしていたので・・・実は内心、穏やかじゃありませんでしたが・・・今ここでこうしてほそぼそと生活も出来ています・・・本当にお心遣いありがとうございました」

 

エス「ああ・・・良かったな・・・ではまだ私は用があるのでな、これで失礼しよう」

 

娘「またねーばいばい」

 

妻「またいつでも、今度はゆっくりなさっていって下さい」

 

エス「あーボルス、ちょっとこっちに・・・」

 

ボル「はい?」

 

エス「タツミとその・・・まだ正式な付き合いになっていないのだが・・・どうすればいい?」

 

ボル「あー・・・、やっぱり秘かに仲を深めようとされてたんですね・・・、初め会った時以外のそれ以降みんなの前ではお互い素っ気無くされてましたが・・・」

 

エス「タ、タツミはあー見えて照れ屋だ・・・それで後一歩なのだがどうすればいい・・・」

それまでの経緯を話すエスデス。

 

ボル「なるほど・・・、これは隊長、押して駄目なら押し倒せですよ」

 

エス「なに?そうなのか!・・・今度は引いてみるではなく押し倒すなのだな?」

 

ボル「はい、隊長が変わられてタツミ君も段々気を許されているのでしょう・・・そうなると後はもう・・・」

 

エス「ふふふ、そうか。ふふふ・・・」

 

 

 

 

ナイトレイドのテント

 

タツ「寒い時は番茶だよなーずずず」

 

マイ「むっ!タツミに危険が近付いてるわ・・・」

 

アカ「そうだな・・・」

 

チェ「・・・嫌な予感がする」

 

タツ「何言ってんだ?考えすぎだって」

 

マイ「あんたはほんっとに呑気よねー」

 

アカ「タツミ、もう少し自覚を持った方が良い・・・」

 

チェ「はぁ・・・」

 

タツ「なんだよ一体!」

 

 

 

 

 

 

エス「よし、判った。ボルス礼を言うぞ!ではまたな!」

 

ボル「はい隊長、成就を陰ながら応援しております」

 

 

 

妻「・・・貴方?エスデスさんと一体何を楽しそうに話をされていたんですか?」ニコニコ・・・ゴゴゴゴ・・・

 

ボル「ん?・・・『なぜだろ・・・物凄く怒っている・・・』

 

娘「ママーこわーい」

 

その後、ボルスが奥さんを説得するのにちょっと時間が掛った。

 

 

 

帝都宮殿内部

 

イゾ「首尾はこのような形でござる・・・他にも数件、逆賊を処罰したがいかがか?」

 

オネ「ええ・・・まぁ・・・良いでしょう・・・次はナイトレイドを殲滅して下さい・・・」

 

イゾ「ナイトレイド・・・?殺しを稼業とし帝都市民を無用に煽る者達でござるか?」

 

オネ「ええ、もう一つ気になる案件が・・・エスデス将軍が西の異民族を逃げる者は追わず見逃したとか・・・更に捕えた者も生け捕りとか」

 

イゾ「ほぉ・・・それは情け深い事でござるな・・・」

 

オネ「イゾウさん、エスデス将軍がどうも謀反の心があるような気がしてなりません」

 

イゾ「獅子身中の虫でござるか・・・しかし南端でも賊軍が進んでいると聞くがいかがされる?」

 

オネ「なぁに、そこは心配いりません。あの堅物に近衛兵を率いて表舞台に出て貰います。」

 

イゾ「むっ!!!」

 

「堅物とは誰の事だ!」

 

イゾ『只者では無い・・・』

 

オネ「おやおや・・・貴方程の人が練兵場から出てくるとは珍しい。それだけ事態は急という事ですかな?・・・帝国軍最上位、ブドー大将軍殿?」

 

ブドー「黙れ大臣!・・・賊軍は必ず打ち破るが、それが終われば帝都の大掃除だ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋愛ゲーム(?)

 

 

タツミ「But I won't let you get in Esdeath's way!」

 

エスデス「タ、タツミ!///そ、そんな事を言われると流石の私も照れるぞ///」

 

タツミ「・・いや、ふざけて言ったんだが・・・なんて言ったか判ったのか?」

 

エスデス「ふっ、無論だ!世界中の誰よりも私を愛していると言ったんだろ?」

 

タツミ「言ってねえよ、一言も!」

 

エスデス「私への思いを素直に言うのが恥ずかしいからそんな言葉を使っているんだな?可愛いなタツミは」

 

タツミ「お前の超前向き思考だけは尊敬出来る」

 

エスデス「ふふふ、当然だ。タツミが私に何か貶める事を言えば照れていると思い、褒める事を言えば額面通りに受け取るぞ♪」

 

タツミ『・・・駄目だ、何を言おうとこいつの思った方に解釈されてしまう』

 

 

エスデス「ところで・・・タツミは私の事をどう思っているんだ?///」

 

 

タツミ

 

→1「知るかボケェェエェェエエエ!!」

 

 2「俺がお前に抱く感情は以前も今も只一つ・・・即ち、悪!即!斬!」

 

 3「俺のお前への忠誠は不動のものだ!(笑)」

 

 

選択肢1ルート エスデス「全くタツミは・・照れてしまって、しょうがない奴だな///」

 

選択肢2ルート エスデス「灰汁、即、残?・・・煮炊きの灰汁は残した方が良いのか?そうだ、タツミ♪今日も私が手料理を作るぞ、ふふふ///」

 

選択肢3ルート エスデス「タァツゥミィィィィィイイイイ~~~!///・・・あ、あとはゆっくり二人だけで寝室で語り合おう、な?///」タツミ「今のは悪ふざけで言っただけで、おい、人の話を!」18禁ルートへ 

 

 



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謀略のマイン(番外編)

時系列的にはまだ書いてませんが、無双其の9辺りと考えています。
ま、あくまで番外編ですので、どうぞ良しなにw

コメント下さっている方からの要望と会話から思いついた話です。



マイ「そこの照れ屋なキューティーボーイ!!おーまたせーいたしましたー!あんな事やこんな事出来たら良いなの夢を叶える、48の殺人帝具の1つ!その名もガンガンジョーカールーレット!!」

 

その名の通りそれぞれの世界がルーレットの円の中に割り当てられ、矢印を回して止まった所の世界に行けるという代物である。

 

タツ「・・・・・・・」

 

マイ「はい、拍手!」

 

タツ「あ、ああ・・・・・」パチパチ「にしてもよくこれ見付けたな?」

 

マイ「ふふん、伊達にあたしだって中の人繋がりで超えられない6月の惨劇の世界を何度もル―プしたりと苦労してた訳じゃないのよ」

 

タツ「なるほどな、そういうお前だからこそ、こういう帝具とも相性が良くて見付けれたか・・・次からメタマインと呼ぼう・・・おお、なんかメタルマインみたいで格好良いな!」

 

マイ「全然良くないわよ!!何言ってんのよあんた?まるであたしがメタボみたいじゃない!・・・ううん、とにかく・・・さて?タツミ君?貴方はどこか行きたい所ある?」

 

タツ「行きたい所か・・・そうだなあ、俺も黄昏乙女に出てくる貞一になって夕子さんに甘えられたいなぁ・・・」

 

マイ「はいっ!!その枠削除ォォォオオオオオ!!!」

 

タツ「おいいいい!!!お前何やってんだゴラァ!!」

 

マイ「あんた眼科行ったら?何が姉系黒髪長髪萌えよ、ふざけた事ぬかしてんじゃないわよ!目の前にあたしがいるじゃない!」

 

タツ「人それぞれの好みだろうが!」

 

マイ「あたしだって一応、あんたよりお姉さんじゃない?髪だってピンクでも良いじゃない!胸だって・・・そ、それなりに・・・う、ううう」

 

タツ「ああもう、判った泣くな!今のお前でも十分魅力的だ!」

 

マイ「・・・!・・・ふふふふふふ『言質を取ったわ・・・』・・・ま、判ってくれれば良いのよ」

 

タツ『・・・疲れた』

 

マイ「・・・もぉお!あたしと二人きりだからって緊張してるのね、タツミは本当しょうがないわねーでもまだ、駄・目・よ♪」

 

タツ「・・・・・・、話があるから来てほしいと言うから来てみれば、成程、俺にこの帝具を差し出して壊してほしいと・・・殊勝だな、他に隠している帝具はないか?」

 

マイ「ち、違うわよ、まだ駄目よ!」

 

タツ「いや、俺の目的は以前話したろ?」

 

マイ「だ、だって革命成功するまで待つって言ったじゃない?」

 

タツ「ああ、だが革命に必要無さそうな帝具は・・・面倒だ、今の内に壊す!」

 

マイ「ちょっとちょっと待って!あたしだってね、こんなつらい稼業で時には癒しも欲しいのよ、いつ殺されるか判らないストレス・・・そんなあたしにだって安らぎがあったって良いじゃない―――!」

 

タツ「まぁそうだが・・・なら一人でこれで遊んでれば良いだろ?」

 

マイ「もう遊び尽くしたのよ・・だ・か・ら、お願い!・・・あんたの力でこの帝具の奥の手を発動させて、ね?」

 

タツ「いや、ね?って言われても、この帝具の奥の手なんてあるのか知らないぞ、俺」

 

マイ「もぅーダメ元で良いからやってよ!」

 

タツ「あーもう判った。泣く子と泣く娘には勝てないな」

 

マイ「泣く娘って誰よ?」

 

タツ「お前だよ・・・、とりあえずちょっと離れてろ」

 

タツミはその帝具に手を付け、目を閉じ精神を集中している・・・

 

タツ「破っ!!」

 

マイ「!?・・・・・・、凄い!一気に行ける世界が増えてる・・・わぁお、え、なになに?ジョジョの普通な冒険※1?え?ドラドラボール※2?」

 

※1・この物語はいくつもの奇怪な出来事が起こるが主人公にとっては全て想定の範囲内という事で事件解決後「俺にとっては只の日常だ」と言い、タフガイな主人公を描いたバトル知恵比べ漫画。

 

※2・7つの伝説のドラ焼きを集め調理道具のボールの中に入れるとたった777つだけ願いを叶えてくれるという・・・だが集めるのは非常に困難で、普通のどら焼きと間違えて食べたり、見つけた時には腐ってたりと、そこからまた1年待つという・・・人の欲望の際限が無いカルマを描いた王道バトル漫画。

 

タツ「満足かこれで?」

 

マイ「ありがと!!」

 

タツミに抱き付くマイン

 

マイ『抱き付く口実が出来たから・・・このまま・・・///』

 

タツ「お、おいマイン・・・おい・・・マインさん、も、餅付け!落ち着け!オチも付けろ!///」

 

マイ「・・・もう、良いじゃない?」

 

タツ「と、とにかく、これで気が済んだろ?『危なかった・・・』」

 

マイ「・・・・・、ま、まぁね」

 

タツ「じゃあ俺はもう帰るから、・・・あと一度中に入ったら一定時間内に出てこないともう帰ってこれなくなるからな、気を付けろよ」

 

マイ「大丈夫任せて」

 

タツ「じゃあ、スサノオがうるさいから夕飯までには帰ってこいよ?」

 

マイ「ああ、ごめんスーさんには用事があるから今日は帰れないって言っといて?」

 

タツ「・・・判った、気を付けろよ」

 

マイ「イエッサー、マスタータツミ!」ビシッ!

 

タツ「・・・あー、じゃあな・・・」

 

マイ「・・・・・・・、行ったわね・・・・ふふふふうううあははははっはははははは・・・フェイズ2へ移行!」

 

罠を張るマイン

 

マイ「タツミ・・・あいつ、私の誘惑に靡(なび)かなかったのもどうせ、あのポンコツS女に何か負い目か約束させられたからだは、絶対。ふふふ、タツミ、あたしがそんな傍迷惑な負い目を拭いさってあげる。・・・あの女を亡き者にすれば、あとは年中腹ぺっ娘(こ)と年中飴っ娘なんて目じゃないわ・・・うふふ、あははははははは・・はが、げほごほ」

 

 

 

ドラゴンタイプの危険種の乗って飛行するエスデス

 

エス「夜のパトロールという目的があるとはいえ月明かりが綺麗だから散歩とは・・・我ながららしくない行動だな・・・『こんな風におかしくなったのも全てお前のせいだぞ・・・タツミ・・・』・・・ん?なんだあれは・・・まさか!」

 

何かを見付けたエスデスはそこから急降下する。

 

エス「・・・こ、これは・・・タツミの“ー閲覧禁止ー”や“ー放送禁止用語ー”・・・はわわわわ・・・///」

 

エス「おお、まだある・・・私のコレクションに加えよう・・・」

 

どんどん奥へ進むエスデス

 

エス「ふふふ、ぐふふふふふ・・・、む?なんだこれは?」

 

その時、帝具ガンガンジョーカールーレット改め、どこでもルーレットが回り出す。

 

エス「・・・なっ!!!タツミ!!」

 

エスデスは消えていなくなった・・・。

 

 

マイ「うふふふふ、こうも簡単に引っかかるなんて、私の秘蔵のコレクションだから当然よね・・・くっ・・・ちょっとそれを手離したのは痛かったけど・・・でも、まぁ肉を斬らせて骨を断つって言うし・・・、はぁ・・・・・・とにかく、これで邪魔者はいなくなったわ・・・、エスデスって実は結構チョロイわね・・・、次からはチョロイデスに改名すべきよ・・・略してチョリィース、・・・間違えた、チョロスね・・・ふふふ、えーと、どうやったら出られなくなるんだっけ?う~ん、布でも上から被せたら良いのかな?・・・これで良しと。まぁ・・・あいつに出れる方法なんて判るわけ無いし・・・さぁて帰ろう!」

 

 

ナイトレイドアジト

 

タツ「・・・・・・・・」

 

ナジェ「タツミ、マインは今日帰って来ないと言ってたが、山に籠って訓練でもするのか?珍しい・・・街は手配書が回っているから行かないと思うんだが・・・」

 

タツ「う~ん、多分大丈夫だと思うが・・・ちょっと見てくる」

 

ナジェ「ああ、頼んだぞ」



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エスデスの異世界探訪・第?話(番外編)

姉ログとのクロスオーバーです


どこでもルーレットで飛ばされた世界

 

「輝(あきら)―、何やってのよ?」

 

「靄姉(もやねえ)・・・あれ・・・」

 

「ん?」

 

彼らの学校からの帰り道に一人の女性が周りを不思議そうに眺め立っていた

 

「・・・コスプレ?そういえばカスミが前にあんな格好してバイトしてたっけ?」

 

「そうねー、カスミの知り合いの人かしら?」

 

「う~~む、靄姉とカスミの居たバイトの人かもしれない・・・目立つからとりあえず声掛けてみようか?」

 

「そうね・・・、ひょっとしたらあの店の新しいバイトさんかもしれないわね」

 

『私の先程まで持っていたコレクションが無い・・・それに剣も・・・だがこの世界は一体なんだ?』

 

輝と呼ばれた高校生がかの怪しい女性に声を掛ける

 

「すみませんー何かお困りですか?」

 

「む?」

 

「おわっ!」

 

輝は躓いた拍子に相手の女性の胸を掴んでしまう

 

「・・・・・・・、す、すみません!!!」

 

「・・・・・・・、き、さ、ま・・・・・!タツミの方からまだ触られていない私の胸を・・・絶対に許さん!」

 

「わわわわわ・・・すみませんでした!」

 

「殺す!」

 

言うや、怪しい女性、エスデスは強力な中段蹴りを繰り出す、それを

 

「どわっ、イナバウア!!」

の要領でかわし、飛びしさる輝。

 

「ごごごごご、ごめんなさい!」

 

「ほぉ・・・私の攻撃をかわすとは・・・だが許さん、そこに直れ!」

 

『いつも靄姉に鍛えられているからなあ・・・』

 

「ちょっと・・・貴女?弟の不始末は姉の私がお詫びします・・・どうか許して下さい」頭を下げる靄子

 

「弟の不始末?・・・良いだろう・・・ならお前も蹂躙してやる・・・二人とも拷問室に案内してやろう」

 

「はっ?何言ってんだこの人?」

 

「貴女、黒瀬香澄(クロセカスミ)の知り合いの方じゃないんですか?・・・」

 

「カスミ?知らんなそんな奴」

 

「輝・・・下がってなさい・・・」

 

「ほぉ・・・この私と闘う気か・・・面白い、その方が屈服させ甲斐がある」

 

靄子は持ってた鞄を落とし呼吸を整える

 

『おいおい、人が集まって来たぞ・・・なんなんだよ、この変なコスプレイヤーは?』

焦る輝。

 

靄子は落した鞄をエスデスに向けて蹴り上げる。

 

「ふん!」

エスデスは造作も無くそれを避ける。

 

だが目にも止まらぬ速さでエスデスの背後に回り込み、一撃与えようとする。

 

「なに!?」

 

それを寸ででかわしエスデスは靄子に手をかざして

 

「氷れ!」

 

だが氷は一切出ない・・・。

 

『な、なぜだ?・・・なぜ帝具が使えん?』

 

『隙あり!』

 

その機を靄子は逃さず回し蹴りをお見舞いする・・・それを片腕で受け飛ばされるエスデス。

 

「ふっ・・・帝具も使えん・・・武器も無いが・・・良いだろう、お前如きは素手で十分だ・・・」

 

「・・・輝は姉に欲情する変態だけど・・・だからと言って見殺しにするのは姉の沽券に関わるわ!」

 

「いや欲情してねえって!」

 

「ふふふ、ここの街はどこか知らんが帝都と同じく妙な奴がいるんだな」

 

「おいい、だから違うって言ってるだろ!」

 

その後、二人は互いの攻撃をいなしては反撃、反撃してはいなしての一進一退の攻防を繰り返した。

 

『・・・、ちっ、この程度の相手、帝具が使えれば・・・それに何故かいつもより力が出無い・・・何故だ?』

 

『この人・・・出来る・・・、只者じゃないわ・・・』

 

「うわっ・・・不味い、写メ取りだした奴がいる・・・おい二人とも、もう好い加減ここを離れて!」

 

「・・・確かにつまらん奴らが観ているな・・・まぁ、私はこいつらの前でお前らが地べたを這うのを見せるのも悪くは無いが・・・ふふふ」

 

「あんたねぇ・・・」

 

「おい、お前・・・お前の本気とやらを見せてみろ・・・その方が面白い・・・それともここまでなのか?」

 

『うわーこいつ・・・バトルフリークのドSかよ・・・漫画でそういうの見ると違和感ないけど実際いたらなんかひくなー』

 

「・・・良いわ、こちらも本気でいくわ・・・どうなっても知らないわよ・・・コォォォォォ・・・」息を吐き体内の瞬発力を高める靄子

 

「おお!・・・殺す気で来い・・・こちらも殺しにいくぞ・・・」

 

「おいい!!二人とも何やってんだよ!」

 

「輝・・・集中力を乱さないで・・・手加減出来る相手じゃない・・・」

 

「貴様は黙って姉が殺される様を大人しく見ていろ」

 

ざわざわ

「JK対コスプレイヤーか面白ぇなぁ」

 

「これ警察呼んだ方がよくね?」

周りの人だかりから声が漏れる

 

 

 

「ま、不味い騒ぎが大きくなる・・・」

 

靄子が瞬動でエスデスの心臓を狙う

 

エスデスは猟奇的な笑みを浮かべ、こちらも相手の体を貫くつもりの蹴りを靄子に向ける

 

その時、輝が二人の間に割って入りエスデスの蹴りをいなし、靄子の拳をいなして止める。

 

「二人とも落ち着けよ・・・!本当これ以上はマジでやばいって!」

 

『なに?私の攻撃を止めただと?』

 

「輝・・・仕方ないわね・・・弟にそこまで言われたら・・・一時中断してあげる」

 

「ふっ・・・、死なずに済んだな・・・だがお前みたいのを確か近親相姦・・・というんだったな?・・・そういえば帝都の市民共の中にもその案件で問題になった奴がいたな・・・、まさかこんな辺境の街でもあるとはな・・・」

 

「は?はぁぁぁあああああ!?輝と私は別に疚しい事は何もないわよ!それに弟がちょっと変態なだけで、いつもそれに困っているくらいなんだから!」

 

「ふふふ、私にはお見通しだぞ。お前が無駄にでかい胸をしているからその弟やらも他の女に目がいかないのだ・・・」

 

「おいこら!ちょっと待てー!」

 

「え?輝?そうなの?///馬鹿!あんたいつも私のどこ見てんのよ!」

 

「いや、違うって、大体俺、靄姉の事そんな風に見た覚え無いって」

 

「ああ言っているが・・・、我が夫もそうだ・・・照れて本音を隠しているに決まっている」

 

「はぁ・・・そこは本当同意するわ・・・輝はいつも私を付け狙う変態なのよ、いつもどれだけ私が苦労している事か・・・」

 

「おい、二人とも!俺の意見は無視かよ!」

 

二人のトンカチな会話は続き、そして・・・。

 

「という訳でだ・・・、お前の弟がお前に欲情していないか調べるには・・・お前の胸に顔を埋めて確かめる事だ!!」

 

「・・・は?・・・はぁぁぁぁぁぁあああああ??ど、どうしてそういう結論になったぁぁああ!!」

 

「・・・なるほど、一理あるわね・・・」

 

「いやいや、待てって靄姉?・・・なに納得してんだよ?」

 

「輝!」

 

「はい?」

 

「あんたがあたしに欲情してないか確かめるにはこうするしか無さそうね・・・今日、ここで輝の忌まわしき変態と決着を付けるわ!」

 

『駄目だ・・・次の言葉が見つからねえ・・・』

 

「私がその審判をしてやろう・・・有り難く思え」

 

「ありがた迷惑以外の何物でもねぇよ!!」

 

「さぁ輝!来なさい!私の・・・姉の胸に飛び込むのよ!」

 

「なに、自然に馬鹿な事言ってんだ!・・・それにこんな街中で出来る訳ないだろう!」

 

「ほぉ・・・、人目を気にするとは、やはり姉を特別視していて欲情していそうだな・・・」

 

「あんたは黙っててくれ!」

 

「ふっ・・・良いわ、家の中で誰もいない所なら良いでしょ?」

 

 

そして靄子、輝の家に行く3人

 

「ふ~む、少し変わった家だな・・・」

 

「言いたい事ズバズバ言う人だな・・・、でもまぁ、色々有ったけどとりあえず、はい、お茶どうぞ・・・」

 

「うむ、頂こう・・・ずずず」

 

 

「ふぅ・・・一息付いた所で・・・さぁ輝、勝負よ!」

 

「おいおい、本当にやるのかよ・・・?」

 

「勿論よ、一度口にした事を撤回するのは姉の威厳に関わるわ!」

 

「ずずず・・・これは!・・・良い苦みだな」

 

「はぁ・・・判ったよ、やれば良いんだろ、やれば・・・」

 

『ふふふ・・・、これで今まで私を欺き続けた輝に引導を渡せるわ・・・私の胸で欲情したら即、別居なんだから・・・、あれ?待って・・・まさか・・・?実は輝は・・・姉の胸を堪能する機会を窺っていた・・・?そそ、そうか・・・このエスデスさんも実は本当は輝の刺客・・・そうか、そう考えれば全てに辻褄が合う・・・孔明タイプの輝なら赤の他人を装って道端で接触するなど造作も無い・・・、全てはやはりいつもの輝の謀略・・・、名付けて『お姉ちゃんの胸モミモミ作戦』・・・くうう、危うく輝の策に嵌まる所だったわ!・・・絶対に許さない!』

 

「たくっ・・・」

 

そして輝の手が靄子の胸へ伸びたその時!

 

輝の手首を握り、地面へ向かって体バランスを崩させた後に・・・

 

「ふん!」

 

「シャルケ!」

 

『ん?なんだ今の叫び声は?』

 

靄子のいきなりの頭突きを食らう輝

 

「ふぅ・・・助かったわ・・・」

 

「・・・・・・、私が言うのもなんだが、お前の弟倒れているぞ」

 

「・・・・・・・・・いってぇ・・靄姉、なにすんだよ!」

 

「輝が悪いんでしょ!また私を罠に嵌めて!」

 

「胸揉めって言ったのは靄姉だろ!」

 

ぎゃーぎゃー

 

「これが姉弟喧嘩というものか・・・」

 

「大体、そこのエスデスさんだって、輝が雇ったんでしょ?」

 

「なんだよそれ!」

 

「姉である私には全て判ってるのよ!・・・そのコスプレと言い、声だってなんか作ってるけどカスミ・・・そうよ!・・・そうやってメイクもしてるけど、中身は・・・その正体は実はカスミでしょお!」

 

「訳分かんねえって、なんだよそれ!!」

 

「胸だって盛ってカスミだとばれないように変装しているのはもぉバレバレよ!」

 

「いやいや、この人、カスミな訳無いだろ、どう見たって違うだろ!」

 

「ん?・・・霞?・・・中身が霞、胸も盛っているだと?・・・面白い侮辱だな」

 

「あんたは黙っててくれ!」

 

ピンポーン

 

「アキ―、借りてたゲームを返しに来たぞー」

 

「あれ?ゲーム?・・・カスミ?」

 

「え?カスミ?」

 

 

「お邪魔―・・・って、えーとどちらさん?・・・あーなんか取り込み中みたいね・・じゃあな、アキ―、靄子―」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・、今のがカスミという奴か?」

 

「いや――――――――!」

 

「落ち着け靄姉!」

 

「ははははは、恥ずかしー!輝!!!この人カスミじゃないなら、初めからそう言いなさいよ!」

 

「だから初めっからそう言ってるだろ!」

 

「すすすすみません!てっきり弟の策略かと・・・」

 

「・・・ああ、まぁ良い・・・なるほど、姉弟喧嘩というものはこういうものか・・・中々滑稽なものを見せて貰ったぞ」

 

「くううううう~~~恥ずかしい・・・」

 

「・・・あー・・・靄姉、俺ちょっと夕飯の買い出しに行ってくるわ」

 

「え?・・・ああうん、お願い・・・」

 

外に出ていく輝

 

「・・・・・・・」

 

「・・・ふっ、姉を気遣う良い弟ではないか?」

 

「へっ?・・・ええ、そうですね・・・」

 

「・・・・・・・、私には兄弟というものはいなくてな・・・父ももういない・・・今までその事に対し気に留めなかったが・・・このような騒ぎを見たら家族というものも悪くはないと思えて来たな・・・『ふっ、我ながら・・・やはりタツミのせいだな・・・』

 

「ご兄弟もお父さんも居ないんですね・・・」

 

「ああ・・・、母も私が物心付く前に死んだ・・・、弱い者は死んでいく、当然の事だ、だから気にしてはいなかった・・・気にしてはいなかったのだがな・・・」

 

「・・・・・・」

 

「家族とはどういうものだ・・・そうだな、弟の話をもっと聞かせろ」

 

「輝の・・・う~ん、別に取り立てて・・・」

 

「先程まで言いだけ策略だのどうのこうのと騒いでいただろう?」

 

「え?ええ、まぁ・・・」

 

「・・・お前自身はあの輝という弟の事をどう思っているんだ?」

 

「あ、あたしは別に・・・そ、それよりも貴女には、弟・・・いえ、弟みたいな人とかいないんですか?」

 

「私にか・・・」

 

 

 

 

「とりあえず、これだけ買えば良いか・・・そろそろ、靄姉も頭冷えってかなー?只今ー」

 

 

 

 

 

「なるほど、いや中々お前は・・・靄子は話が判るやつだな・・・ふむふむ」

 

「ええ、きっとその彼も貴女を実の姉のように見立てて、慕っているに決まっています!」

 

「そう思うか?・・・うんうん、私もそう思う!」

 

「でも、輝もそうだけど、本性を中々出さ無いものだから、内心貴女を困らせたりして自分に興味がいくように独占しようとしているのよ!」

 

「なに?そうなのか!」

 

「私には判ります・・・貴女とその彼・・・『あれ?この人確か我が夫って言ってたような・・・?』とにかく、その関係はまるで姉弟のよう・・・つまり、まず100%貴女の事が好きなのは間違い無いわ・・・けど照れ屋だから、素直に言えない・・・」

 

「そ・・・そうだ、その通りだ・・・だがどうやれば素直になるかだ・・・それがなかなか難しい・・・」

 

「大丈夫!安心して、さっき私が言った通りにすれば上手いくはずですから・・・」

 

「ほぉ・・・お前はボルスに負けない良き助言者だな・・・」

 

 

「あのー・・・・」

 

「あら?輝お帰り」

 

「え~と、なんか打ち解けてる所悪いんだけど、エスデスさん?うちで夕飯食べてく?どうする?」

 

「あ・・・もうこんな時間か・・・、あっちでは夜だったがここは夕方か・・・、タツミが心配しているかもしれないからな、そろそろ帰ろう」

 

「では気を付けて」

 

「それじゃあ、今度はコスプレなんてしないで来てくれよー」

 

「ん?『コスプレ?』ああ、ではな」

 

 

 

「とはいえ・・・、一体どうやって帰れば良いのだ?とりあえず来た場所に戻るか・・・」

 

 

 

タツ「マイン―?・・・あいつ、まだこん中にいるのか?・・・上から布・・・?誰だ被せたのは?・・・これじゃあ中から出られないだろう!」

 

どこでもルーレットに被せられた布を取る。

 

タツ「ん?」

 

その時、エスデスがそこから飛び出してきて、タツミは咄嗟に両腕に抱きかかえる。

 

エス「タツミ!///」

 

タツ「エスデス!?なんでお前こんな所にいるんだ・・・?」

 

エス「ふふふ・・・タツミ♪そんな事よりも私には全ての謎が解けたぞ・・・」

 

タツ「どうした?頭でも打ったか?」

 

エス「ふっふっふ、それはタツミは“年上の胸の大きい女にグイグイ引っ張られたら拒否できない性分だ”と言う事・・・つまり私の事だ!」

 

タツ「は・・・、はぁあぁああああ??」

 

エス「タツミ、遠慮せずに自分の思いの丈をぶつけて良いんだぞ?・・・私にはもう全てが判っているからな、・・・タツミの私への反発は好きな女への愛の裏返しだというのもな///」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

タツミはぱっと両腕を離し、エスデスが地面に落ちる・・だが見事に着地する。

 

タツ「前からおかしいと思ってたが余計におかしくなったな・・・やっぱり慣れない人間が別世界に行くとおかしくなるな・・・これはもう回収だ・・・ん?なんだこれ?」

 

エス「タ、タツミ、それは私の!」

 

タツ「な、な、な、お前、なんで俺の“ー機密事項ー”や“-モザイクー”を持ってんだよ!!これも没収だ!」

 

エス「ま、待てタツミ、わ、私はそれが無いと・・・それが無いとタツミが居ない夜をどう過ごせば良いんだ!」

 

タツ「枕でも濡らしてろ!」

 

エス「タツミ~~~!後生だ――!」

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

マイ「ふ~んふふふ~~ん♪」

 

スサ「どうした?ヤケに機嫌が良いな?」

 

マイ「ちょっとね・・・ふふふ」

 

タツ「ふふふふふ・・・・」

 

マイ「タ、タツミ!・・・どこ行ってたの?」

 

タツ「・・・お前が心配であの場所へ行ったんだ・・・」

 

マイ「え?私を心配して・・・タツミ///」

 

タツ「そこで、面白いものを見つけたぞ・・・なんでエスデスが居たんだ・・・?」

 

マイ「え?・・・・・どうしてかしらね―――・・・それよりもなんでエスデスを助けたのよ?」

 

タツ「・・・、俺はエスデスを助けたなんて一言も言ってないぞ・・・。つまり、そこから導き出せるのはエスデスを罠に嵌めたな、お前・・・」

 

マイ「べ、別に良いじゃない?私たちの敵じゃない?」

 

タツ「・・・まぁ、あいつが相手だからそういう闇討ちみたいな方法も悪いとは言わんが・・・何故あいつが俺の“―モザイクー”を持っていた・・・あれは、俺のここでの部屋に置いてたものでいつの間にか無くなっていたものだ・・・」

 

マイ「・・・へ、へぇ・・・物が神隠しにでも遭ったんじゃない?」

 

タツ「あくまで白(しら)を斬るか・・・、だが証拠は挙がってんだ・・・犯人はマイン、お前だゴララララアア!!!」

 

マイ「ひっ!・・・タ、タツミ?女のわがままやちょっとした悪さを黙って受け流すのも男の甲斐性なのよ!」

 

タツ「・・・なるほどな」ニコッ

 

マイ『ほっ・・・』

 

タツ「だがな・・・マイン、俺は今怒っているのだ!」ギロッ!

 

マイ「ひいいいいいいいい!!!」

ムンクの叫びマイン。

 

そして、タツミの雷が落ちる

 

 

 

その時の事を関係者各位がのちにこう語る

 

Nさん「あの時はブドーが攻めて来たと勘違いしたぞ・・・」

 

Cさん「馬鹿だね・・ばれないようにやらないと・・・」

 

Aさん「恐ろしかった・・・もぐもぐ」

 

Lさん「それよりも最近、私目立ってない!」

 

スーさん「マインはその日帰らないと聞いていたからな、飯は作ってなかったぞ」

 

ラバさん「俺は寝てたから知らないって」

 

 

マインは燃え尽きたように真っ白となり、復帰するまでに三日掛かったという・・・。

 



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エスデス「悪いなドクターこのユニットは3人用だ」(番外編)

この世界では、帝都の北をナイトレイドが南はイェーガーズという名の警察機構が治安に当たっていた。

 

街をパトロールしている二人

 

タツ「あーたまには俺も気晴らししないとな・・・」

 

アカ「仕事中に何を言っているんだタツミ?」

 

タツ「悪い悪い、ところでここでは犯人を尋問する際、拷問を許可されてたっけ?」

 

アカ「はっ?何を言っているんだ?そんな事許されている訳無いだろ・・・私が知る限り何処の警察機関もしていないぞ!」

 

タツ「それは戦争での捕虜へもか?」

 

アカ「ああ、そんな話聞いた事ないぞ!」

 

タツ「エスデスもか?」

 

アカ「イェーガーズのか?あの隊長がそんな事する訳無いだろ・・・どうしたんだタツミ、いつも変だが今日は余計におかしいぞお前?」

 

タツ「・・・あーまーだ、寝起きでさぁ、頭混乱してるんだわ、ごめんごめん」

 

アカ「はぁ・・・しっかりしてくれよ全く」

 

タツ『・・・俺この世界にずっといようかな』

 

影から見守るストーカーが一人

 

エス『おお――――のぉぉぉ―――れぇええ・・・、近い・・・もっと離れろ、アカメ!』

 

 

 

タツ「ところで、ボスが今朝なんか言ってたがあれ、何?」

 

アカ「ん?あー、市民への啓発活動でうちから見栄えの良くて出たいという人間がアイドルまがいをするという話か?確かナイトレディーズとか言ったかな?」

 

タツ「ははは、何やってんだか・・・馬鹿だなあ」

 

アカ「そうか・・・、・・・私はちょっと出たいぞ・・・」

 

タツ「んん??」

 

アカ「そ、そんな驚かなくても良いだろ・・・私だってちょっと目立ちたいと・・・///・・・良いだろ別に!!」

 

タツ「え?ああ、うん・・・まぁ良いんだけど・・・」

 

 

エス『なんだとぉ!?ナイトレイドがそんな事を・・・』

 

 

 

 

イェーガーズ作戦室

 

エス「イェーガーズの女性陣よ・・・集まって貰ったのは他でもない!」

 

セリ「・・・こら、コロ!これは後で上げるから今は大人しくしてなさい・・・すみません、隊長」

 

クロ「ぽりぽり・・・隊長、急用というのは何?」

 

エス「あのナイトレイドが事もあろうにナイトレディーズなどというユニットを作り、私のタツミを誑かし・・・ああ、いや帝都市民に治安啓発活動をするという情報が入った・・・そこで我々も対抗してレディーイェーガーズを結成するぞ!」

 

セリ「・・・・・・・・」

 

コロ「・・・・・・・・」

 

クロ「・・・・・・・・」

 

 

セリ『はああ~まーたこの人、公私混同してるよ・・・疲れるなぁ・・・』

 

クロ『・・・セリューさん・・・』

 

セリ『・・・まさか!駄目よ、クロメちゃん!ツッコンじゃダメ、ゼッタイ!・・・年齢からしておかしいとか、そんな事ダメ、ゼッタイ!』

 

エス「で・・・という事で・・・」

 

クロ『ああ、駄目、もう限界・・・もう喉元まで』

 

セリ『耐えて、耐えるのよ!』

 

クロ『私先に逝きます・・・』

 

エス「・・・という訳でこの方針で行こうと思うが二人ともどうだ?」

 

セリ「だめー!」

 

エス「ん?何がだ?」

 

クロ「隊長・・・そもそもねんれ・・」

 

エス「ん?」

 

セリ「ふんっ!!」

 

クロ「んががごご・・・」

 

セリューはクロメの口の中に大量のお菓子をつっこむ

 

セリ「ふぅ・・・、今日も人ひとりの命を救えたわ・・・」

 

コロ「きゅー」

 

エス「・・・何を遊んでいるんだ、お前たちは?・・・とにかく、そういう訳で明日から準備にかかるぞ、判ったな!」

 

セリ「はい!『全然聞いてなかったけど』

 

クロ「・・・・・・ふごふがご」

 

勢いよく扉が開く!

バンッ!

スタ「話は聞いたわ!・・・エスデス様、面白そうね・・私も混ぜて下さる!」

 

セリ「・・・・・・」

 

クロ「・・・・・・」

 

コロ「・・・・・・」

 

エス「・・・・・・、すまないがドクター、このユニットは3人用だ・・・」(背後にスネ○の影)

 

 

休憩室

 

ボル「よし!・・・掃除も一段落した事だし・・・私の至福の一時・・・さてお茶でも、・・・ずずず、はぁ旨い」

 

スタ「ボルえーも~~~~~~○!」

 

ボル「うぉ!ど、どうされたんですか?ドクター!」

 

スタ「えばば、ああうえ、えおえお、いろはにほへと・・・ひでぶあらららっららら、なのよ!」

 

ボル「はぁ・・・なるほど、隊長がアイドルグループを作るのに自分を入れてくれないと・・・そういう訳ですか・・・」

 

スタ「・・・今のでよく判ったわね?」

 

ボル「ええまぁ、なんとなく」

 

スタ「という訳で、なんとかしてよ!」

 

ボル「いやなんとかしてよ、と言われましても・・・、ドクターが男だからいれてくれないんですかね?」

 

スタ「うっ、そんな事言われなくても判ってるわよ!」

 

ボル「じゃあ、いっその事、女の人になったらどうです?」

 

スタ「いくら私でもそんな事出来る訳ないでしょ!」

 

ボル「んーまぁ、そうですよね。ダメ元で言ってみました」

 

スタ「はぁ・・・」

 

ボル「あ、じゃ、じゃあ、いっそ隊長と心を交換してみるのはどうです・・・」

 

スタ「・・・・・・・。そ、それよ!!!」

 

ボル「え!?」

 

スタ「その手があったわね!よしそうと決まれば・・・、あなた上手くいったら後で改造してあげる!」

 

ボル「遠慮しておきます!・・・・・行っちゃった・・・あんな事言ってたけど、そんなの出来ないよね、多分・・・た、例え出来たとしても私のせいじゃあ・・・せいじゃあ・・・」

 

 

 

エス「さてと、これで私のタツミを惑わす奴らへの対抗策は講じれた訳だが・・・あとは・・・ん?」

 

エス「・・・こ、これはタツミの・・・!・・・ああ、ここにも・・・!・・・!」

 

エス「ふふふ・・・、今日は大収穫だ・・・私のタツミコレクションに加えよう・・・ん?なんだこれは・・・」

 

エスデスは透明の縦に伸びた楕円型の空間にいつの間にか入ってしまう。

 

 

スタ「行くわよ!」

 

スタイリッシュが何やらボタンを押し、エスデスは気を失う。

 

スタ「ふふふ・・・、エスデス様も馬鹿よね・・・、こんな手に引っかかるなんて、ま、良いけど・・・これであたしが・・・ふふふ」

 

 

 

 

 

ウェ「ああ、今日も仕事終わった・・・帰るとすっか・・・」

 

エス「ちょっと、ウェイブ!」

 

ウェ「あ、隊長お疲れ様です」

 

エス「お願いがあるんだ・け・ど♪」

 

ウェ「・・・・・・・、は、はい、なんでしょう?『どうしたんだ隊長?』

 

エス「あんた、今からあたしの下僕にしてあげる♪・・・うふん」

 

ウェ「・・・・・・・・・・・、『それお願いじゃねーよ!』隊長、明日朝早いんで、ではお疲れ様でしたー!」

 

エス「ちょっと待ちなさいよー!」

 

ウェ「うお!?」

 

エスデスの胸に強引に顔を埋められるウェイブ

 

エス「どぉう?///」

 

ウェ「うが、うご、たい・・・///」

 



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元凶はボルスさん(番外編)

翌日

イェーガーズ詰所

 

2人と1匹に淹れたての珈琲を配るボルス。

セリ「ああ・・・ボルスさんいつも有難う御座いますー」

 

クロ「どうも!」

 

コロ「きゅい」

 

ボル「いえいえ、珈琲はやっぱり手間暇掛けて作ると美味しいからね」

 

その時ドアが開き、バラを周囲に巻くウェイブ

 

ウェ「・・・隊長、ど、どうぞ・・・」

 

エス「ふっ、常に身だしなみや周囲の演出にも気を使う・・・それが出来る女のあ・か・し♪・・・」

 

セリ「ぶはっ・・・!?」ゾワワワワ

豪快に吹くセリュー

 

コロ「!!??」ゾワッ

 

クロ「もぐもぐ・・・!?・・・んぐんぐ、げほげほ、・・・『寒気が!』」

 

悪寒に震える一同

 

セリ「お、・・・オハヨーゴザイマス・・・」

汚れた顔を拭いている

 

クロ「っごほごほ、おはよーございます」

 

コロ「きゅいきゅい・・・」

セリューの汚れた顔を拭いている

 

ボル「た、隊長・・・おはようございます・・・『・・・まさか・・・まさかまさかまさかまさか・・・』

 

エス「なに?どうしたの?あんた達・・・まぁ良いわ・・・昨日の打ち合わせ通りいくわよ!」

 

セリ「・・・・・・???」

 

クロ「・・・・・・・、ウェイブなにしてんの?」

 

ウェ「・・・聞かないでくれ・・・『クロメに昨日隊長に何をされたかばれたら殺される・・・』

 

エス『くくく・・・、いいわいいわ、この体・・・、このEカップ並みのボディはあたしにこそ相応しい・・・ほんとスタイリッシュな体・・・!』

 

エス「さて、あんた達!昨日の話通りユニットを組むわよ?良いわね?」

 

セリ「ええ・・・、はい・・・でも、それよりも今月の交通事故(馬車や大八車等の衝突などなど)削減に向けての啓発の方が良いんではないでしょうか?」

 

クロ「もぐもぐ・・・別に私達警察はそんなに市民に親しまれなくても影ながら安全な町作りに貢献出来れば良いだけで、アイドルの真似事なんて・・・」

 

エス「お黙り!あんた達若いくせに頭が古いのよ、良い!!・・・今は・・・」

 

中身スタイリッシュの演説が続く

 

エス「・・・という訳なのよ!」

 

セリ『疲れた・・・』

 

クロ『もう帰りたい』

 

エス「・・・ところで、ボルス!」

 

ボル「はいぃい!」

 

外見エスデスはボルスに近づき

 

エス「・・・判っていると思うけど・・・あたしの事バラシタラ、あんたに今抱き付いてあーんな事やこーんな事して、あんたの奥さんに密告するわよ・・・良いわね?」

 

ボル「は、はい!私はなんにも知りません!」

 

エス「うふふ、おりこうさん♪」

 

帝都雑踏

 

タツ「はぁ~~マインじゃないけど、俺もたまには休暇を取らないとな・・・いやぁ楽だ・・・」

感涙に咽ぶタツミ。

 

アカ「何を言っているんだタツミ?パトロールは遊びじゃないんだぞ!」

 

タツ「ううう・・・ああごめんごめん、でもこんな風に国家のイデオロギーになんの疑いもなく信じられる幸福・・・ううう・・・」

 

アカ「何を泣いているんだ?」

 

タツ「あー、アカメは帝国に反旗を翻したいと思うか?」

 

アカ「何を馬鹿な事言っているんだ?・・・今の帝都政府に不満でもあるのか?タツミ?」

 

タツ「いや、無い・・・」

 

アカ「千年も続いているのは、それだけ統治者の方々がしっかりしているからだ・・・私たち帝都の治安に当たる者たちはそれをしっかり行えるよう支える事・・・」

 

タツ「うんうん、そうだよな、そうだよな」

 

アカ「昨日と言いタツミ変だぞ?どうした、風邪でもひいたのか?」

 

タツ「あー大丈夫、明日には元に戻るから・・・あー戻らずにこの世界にずっといてえなぁ・・・」

 

アカ「???・・・む?誰かこっちに向かって走ってきている!」

 

タツ「ん?どうした一体・・・何が来たって大丈夫だって、あはは」

 

スタイリッシュが猛然とこちらに走ってくる・・・

 

スタ「ターツ――――ミ―――――――!!!!」

 

アカ「イェーガーズのスタイリッシュ博士?どうしたんだ一体?」

 

タツ「・・・・・・・、なんだこのとてつもない悪寒は・・・」

 

スタ「タツミ―――(涙)」

 

今まさに襲い掛かられる

 

タツ「うぉおおおお、中の人繋がりの技!――がぁとつ、ぜぇろしぃきぃぃぃいいい!!!」

 

スタ「がっ!!」

零距離射程の素手牙突でタツミは外見スタイリッシュを後方に気持ち良く吹っ飛ばす

 

タツ「い、今までで五本の指に入る恐怖を感じたぞ・・・」

 

アカ「・・・、タツミ、ちょっとやりすぎだと思うぞ。」

 

タツ「うるせぇ!」

 

アカ「・・・とにかく、助けに行こう」

 

タツ「俺は帰る!」

 

アカ「タツミ!」

 

タツ「あーもう判ったよ、行けば良いだろ?行けば?だがまた襲い掛かってきたら今度は半殺しにするからな」

 

 

 

スタ「う・・・うう・・・」

 

アカ「気が付いたか?」

 

スタ「タツミ!それにアカメか・・・」

 

アカ「申し訳無い、うちのタツミが・・・」

 

タツ「あんたがいきなり襲い掛かってくるから悪いんだろ!」

 

スタ「私が・・・私が・・・こんな・・・くうううう・・・」

 

アカ「泣いているのか?」

 

スタ「タツミ・・・聞いてくれ・・・スタイリッシュがな・・・あわわ、ふがふが・・・やれやれだ」

 

タツ「なにぃ?奴と自分の心が入れ替わったみたいだと?」

 

スタ「・・・タツミ、よく判ったな?」

 

アカ「本当だな」

 

タツ「いや、なんとなく」

 

スタ「ふっ、やはり私とタツミは心と心で通じあっているんだな・・・///」

 

アカ「・・・・・・・」

 

タツ「やめろ、やめてくれ、その恰好でそういう事言われると、問答無用で殺意が湧く!」

 

スタ「タツミ・・・」しゅん・・・

落ち込む中身エスデス。

 

アカ「・・・だ、大体の事情は判った・・・つまり、今あんたの中身はエスデス隊長なんだな?」

 

スタ「そうだ」

 

タツ「どうしてこんな事になったんだ?」

 

スタ「私がパトロールしてると、その・・・ううん、いつの間にか罠に嵌まっていて、気が付いたらこの姿になっていた」

 

タツ「・・・人格交換か・・・、たくっ、本当に・・・、この世界に帝具なんて無いから気分転換になると思ったのに・・・やってくれるなあのマッドサインティスオネェは、ええ!?」

 

アカ「テイグ?」

 

スタ「天狗?」

 

タツ「とにかく、エスデス!・・・中身変態オネェを見つけて元に戻すぞ!」

 

スタ「タツミ・・・私の為に・・・タツミイィイィ!!!・・・ぐはっ!」

 

タツ「だから近づくな!」

 

アカ「・・・・・・」

 

 

 

 

イェーガーズ休憩室の扉の横

 

そこで震えているボルス

 

ボル『わ、わたしがドクターにあんな事言ったから悪いんだ・・・、私のせいで・・・』

 

 

エス「うふん・・・、ふふふ・・・どう?」

 

ラン「あはは・・・、良いんじゃないですかね?」

 

外見エスデスがギリギリ水着でランを誘惑?している

 

エス「ラン・・・、このまま私達二人でバカンスにいかない?」

 

ラン「ご冗談を?私にはまだ仕事があるので・・・」

 

エス「なによ!これも仕事の一環よ、アイドルになるには男の一人も誘惑出来ないと、その練習よ!」

 

セリ「・・・、本当にどうしちゃったんだろ隊長?」

 

クロ「・・・いつもおかしな隊長が更にこじらせた感じ?」

 

 

そこに3人が走って来る。

ボル『あれ?ドクター・・・隊長だよね、たぶん?・・・それにナイトレイドの人達も?』

 

扉が勢いよく開く!

そして影で見守るボルス・・・。

 

スタ「そこまでだ!」

 

アカ「不正な人格交換は許さないぞ!」

 

タツ「正規な人格交換なんてあるんだろうか?」

 

セリ「あ?ナイトレイドの・・・こないだはコロがお世話になり、有難う御座いました」ぺこり

 

アカ「あ・・・これはご丁寧に、いえいえうちの愚妹がいつもお世話になっております」ぺこり

 

クロ「あーお姉ちゃん?どうしたの?」

 

アカ「かくかくしかじか、かくかくうまうま、という訳だ」

 

クロ「なるほどねー、お菓子食べる?」

 

アカ「うむ!」

 

セリ「え?今のでお姉さんの言った事判ったの?」

 

クロ「ううん、さっぱり!」

 

セリ「じゃあ、なんで頷いたの!」

 

クロ「ノリ!」

 

タツ『・・・やっぱ俺この世界にこのままいようかなぁ』

 

スタ「ええい!とにかく、スタイリッシュ!私の体を返せ!タツミにいつもしている頬スリスリや口づけの嵐が・・・この体では拒絶されて全く出来ないではないか!」

 

アカ「タツミ、そんな事されていたのか?」

 

タツ「・・・ん?あ?いや?ここの(世界の)俺に聞いてくれ」

 

アカ「?」

 

エス「全く、あそこから抜け出すなんて大したものね・・・、でも隊長が悪いのよ、あたしだけ除け者にして・・・」

 

スタ「お前、男だろ!」

 

エス「心は乙女よ!」

 

セリ「え?え?・・・どういう事?」

 

タツ「深く考えるな・・・頭痛がすらぁ・・・」

 

面倒臭くなったタツミは中身スタイリッシュを取り押さえて、彼に原因を吐かせ無事二人を元に戻した。

 

エス「ふふふ、やった、やったぞ・・・これでタツミと・・・///」

 

タツ『この世界のタツミはエスデスと何をしてたんだ?・・・ただエスデスの妄言の可能性も高いが・・・』

 

スタ「きーーーーくやしーーーー!」

 

セリ「もうドクター、何やってんですか?」

 

クロ「もぐもぐ、なべてこの世は事も無し・・・もぐもぐ」

 

アカ「そうだな、ぱくぱく」

 

ウェ「・・・はぁ・・・なんだあれ、中身ドクターだったのか・・・ちょっと残念だったな」

 

クロ「ん!?ウェイブ!」

 

ウェ「んん!ああ、なんでもない・・・」

 

ラン「あはは・・・」

 

スタ「・・・このあたしがこのままで済むと思ったら大間違いよ! 必ず戻ってくるんだからね!!覚えてなさい!」

 

エス「判ったから、命令した仕事終わらせて来い!」

 

スタ「I will be back Yo!!おほほほほほ・・・・」

定番な負け惜しみを言いながら出ていくスタイリッシュ

 

 

セリ「はぁ・・・懲りない人だなあ」

 

クロ「・・・前にも有ったよね、似たような事」

 

アカ「前にも有ったのか?・・・大変だなイェーガーズも」

 

ウェ「そうだよなぁ・・・、確かこないだはランに羽生えさせたり」

 

ラン「あはは、あれは中々面白かったですが・・・寝る時ちょっと邪魔でしたね」

 

クロ「体臭を研究して、超磯の香が漂う香水をウェイブにかけたり・・・」

 

ウェ「海の男の俺でもあん時は流石に参ったぜ」

 

クロ「・・・でもいつもと匂い大して変わらなかったよ、くすくす『ま、嘘だけどね』」

 

ウェ「え?まじかよ!」

 

セリ「まぁ、そんな感じでドクターはいっつも変な研究しては私達を困らせるんですよ・・・あはは、はぁ・・・」

 

アカ「イェーガーズも大変だな・・・」

 

セリ「でもあれで仕事はしっかりこなすんですよ・・・ですからある意味余計タチが悪いというかなんというか・・・」

 

タツ『う~ん、やはりこのままここに居るべきか、それとも帰るべきか・・・それが問題だ!』

 

セリ「ですけど・・・元々隊長が悪いんですよ・・・アイドルの真似なんてしたいなんて言うから・・・」

 

エス「そ、それはナイトレイド達が先にユニットを作ると言い出すからだ!」

 

アカ「うちが?ああ・・・ボスが確かナイトレディーズを作るとか言ってましたが、それをブドー警視総監に言ったらこっぴどく怒られてました。確か・・・公僕が何をたわけた事をとか、そもそも年を考えろとも・・・」

 

エス「ぐっ・・・」

 

クロ『お姉ちゃん、グッジョブ!』

 

エス「タ、タツミはその・・・、私達の舞台での勇姿、見たかったよな?」

 

タツ「は?俺はアイドルに興味なんて無い」

 

エス「何故だ?」

 

タツ「夢や希望を与える仕事は良い事だし・・アイドルも大変だとは思うが、それを仕事にして無理になろうとするから色々ドロドロした事になるだろ?俺はそういうの嫌いでな、アイドル、もしくはヒーローなんて鍛錬してたら気が付いたら自然になってたが理想だな」

 

エス「そうだな、その通りだな・・・私も気が乗らなかったのだがこいつらがどうしてもと言うからな仕方なく・・・それに付き合ったまでだ!」

 

セリ『うわー・・・』

 

クロ『駄目だ、この人・・・早くなんとかしないと・・・』

 

タツ「上司が・・・残念ドSと感じた時は・・・スタッフサービス、フリーダイヤル、O-人事、Оー人事!」

 

セリ・クロ「?」

 

アカ「・・・??『なんという事だ・・・?タツミがいつにも増して何を言っているか判らない・・・こ、これは先輩としての管理責任が・・・一体私はどうすれば・・・』

 

タツ「・・・深く考えるな・・・頭痛にならぁ・・・」

 

アカ「!!??」

 

エス「・・・あーおほん、ところでタツミはどんなアイドルが理想だ・・・ああ、あくまで参考にだぞ!」

 

タツ「そうだな・・・戦闘力、政治力、指導力、カリスマ、高潔さ、深い見識、善悪を見極める判断、不利な状況もひっくり返す胆力を備えている事かな?この場合はヒーローと呼ぶのかもしれないが・・・まぁそんな奴いるわけないな、ははは」

 

エス「タツミは我儘だな・・・だが安心しろ!そんな完璧人間は直ぐ傍に・・・ひょっとしたら目の前にいるかもしれないぞ///」

 

ガツン!!

 

アカ「・・・どうしたタツミ?いきなり壁に頭を打ち付けて・・・頭突きの練習ならここでは迷惑だぞ・・・申し訳無い、うちのタツミが・・・」

 

ボル『どどど、どうしよう・・・ドクターのやらかした事、ほとんどが私の発言がきっかけで・・・え、え~と、とりあえず黙っておこう・・・』

 

 

 

 

 

何かの某的予告

 

タツミ「逢い・・・そして、別れ、苦しいとは思わぬでも何故生き続けなければならないのか判らぬまま・・・秘かに死を願っていたのであろう・・・今終わりの時!次週、“過去に斬られる”に御期待下さい」

 

マイン「・・・タツミ、あんた革命後は朗読の仕事でも狙ってんの?」

 

チェルシー「殺し屋に待ち受ける運命(さだめ)は所詮は地獄道か・・・、ならばいっそ冷たく突き放し関わらなければいい・・・次回、思いを斬る!この次はあたしの飴ちゃんサービスゥ、サービスゥ!」

 

マイン「誰もあんたの舐めた飴なんていらないわよ!しかもその話もうやったから!」

 

チェルシ―「え?マジ?」

 



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タツミの過去

冒頭のは必殺シリーズの新仕置人、最終回の一場面です・・・大好きなもので(苦笑)

今回、今まで一番構成に頭を痛め時間が掛りました。これで良かったかなと不安との闘いです(苦笑)
タツミ以外の他の人物も回りの影響や筆者の独断でアレンジしてますのでご了承の程を!


「正八、己代松の事頼んだぜ・・・」

 

「まっつあんも連れてってやってよ・・・仕置人なんだからさ・・・」

植物人間となった己代松を大八車に乗せて歩く正八と一人の同心

 

 

 

戸を叩く音

 

「誰だー?」

 

「南町の者だ・・・やぁ、夜分にどうも、こちらへ諸岡様がお見えになっているはずだが・・・、火急の用が有ってお迎えに来たとそう伝えてくれませんか?・・・や、どうも」

 

 

 

「なんだ?あ、中村か・・・火急の用とはなんだ?」

 

「はい・・・その、・・・申し訳御座いません・・・」

 

「・・・どうしたんだ?」

 

「はっ、私が川屋へ行っている間に・・・己代松めに逃げられまして・・・」

 

「己代松が逃げた・・・?ふっ馬鹿な・・・貴様、夢でも見てるんじゃないのかい?あいつは死人同然だ・・・逃げ出せる訳がねぇ・・・ふふははは」

 

「もしかすると・・・例の三人目の・・・」

諸岡の後ろから耳打ちする仲間

 

「・・・とにかく・・・行ってみるか・・・」

 

 

家屋から諸岡が出た後に扉を閉め、辺りが闇に包まれる

 

 

「待て待て、中村・・・、お前どうして俺がここに居る事が判ったんだ・・・?」

 

「・・・さぁ・・・どうしてですかな・・・?」

 

「貴様・・・まさか・・・」

 

「・・・そう・・・・・・、あんたの思った通りだよ・・・諸岡さん・・・」

 

 

 

レオ「へい、毎度!獅子飯店どぅえす!ラーメン一丁お待ち!」

 

タツミの部屋の戸を豪快に開けてレオーネが登場する。

彼女はチャイナドレス姿でポーズを決めている。

 

タツ「うおわああああああ!!」

本を読んでいたタツミが豪快にすっころぶ。

 

レオ「よっ、タツミ!夜食にラーメンどう?」

 

タツ「レオーネか・・・、驚かさないでくれ!・・・ノックぐらいしてくれよ」

 

レオ「ふっふっふ、タツミ君はまだまだだなぁ・・・いついかなる時でも用心してないと・・・ぐふふふ、腕鈍ったんじゃない?」

 

タツ「はいはい、そうだよ」

 

レオ「それとも、こんな夜更けに一人で・・・うわぁ・・・ごめんね、タツミ、次からはノックと同時に入るね♪」

 

タツ「おい!返事は待たないのかよ!」

 

レオ「全く、またスケベな本でも読んでたんだろ?どれどれお姐さんに見せなさい!・・・って、シオキニン?なんだつまんない・・・」

 

タツ「結構面白いぞ、あんたも読むか?」

 

レオ「う~ん・・・、こないだのメイブギョウ、金山のトオさんある?」

 

タツ「あーあれは、迷奉行レオさんが勝手に読んだのだけだ」

 

レオ「何?まだあの時の事、根に持ってんの?」

 

タツ「忘れてたが思い出したら腹が立ってきた・・・まぁそれは置いといて、これ面白いから読んでみてくれよ」

 

レオ「え~~もうしょうがないな、タツミは、ちょっとだけだぞ!」

 

タツ「・・・・・・・・・『言ったら負けだ』

 

レオ「・・・・・・・・・」

 

タツ「『・・・だがこのまま放置したらたぶん機嫌が悪くなる・・・ここは敢えて負けよう』・・・あー、その格好似合っているなぁ」

 

レオ「ん?///・・・もぅタツミはスケベだなぁ!これだから男は・・・!」

 

タツ『・・・面倒臭い・・・』

 

 

その二人を影から見守る永遠の17歳(自称)

 

マイ『ふぎぎぎぎぎぎ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた今タツミって名前なの面白いわねー」

 

「へぇ~え、なに?竜人で竜身に掛けてタツミか?かっこわりぃ!」

 

「サヨ、イエヤス、お前ら生きてたのか?・・・」

 

「はぁ・・・いつまでも竜人だった頃の事引きづっているあんたに活入れに来たのよ」

 

「そうそう、俺達は自分達の意志で敢えて死地に向かったんだ、・・・お前のせいじゃないさ・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

「あんた前の任務でもう終わりにするじゃ無かったの?」

 

「そのつもりだったんだがな・・・」

 

「じゃあ、これで最後になるんだな・・・」

 

「なぁ、今回の件が片付いたらお前らとまた会えるか・・・」

 

「・・・もう会えないのはお前が一番よく判っているだろ?」

 

「・・・そうだな」

 

「もう好い加減夢から覚めなさい、じゃあねー」

 

「あばよ」

 

「ああ・・・、お前ら・・・――」

 

目を覚ますタツミ。

 

タツミの寝室に忍び込む一つの影

布団に手を掛ける

「・・・・・・・・・・!!」

 

タツ「誰だ・・・寝込みを襲うたぁ色っぽい事するじゃねえか?」

タツミはその影の後ろから首に刀を突きつける

 

「・・・・・・・、やるわね・・・」

 

タツ「マイン・・・なんだお前か?」

刀を外す。

 

マイ「あんたの実力ちょっと試しただけよ・・・あたし達は寝てる時も隙を見せる訳にはいかないからね・・・」

 

タツ「そうかい?それじゃあ俺はとりあえず合格かい、教官殿?」

刀を自身の肩にやり何度か叩く

 

マイ「ま・・・まぁね・・・、いついかなる時も気を付けなさい・・・判っているとは思うけどあたしから見たらあんたはまだまだなんだからね?」

 

タツ「へいへい、肝に銘じとくよ」

 

部屋から出て

マイ「・・・全くあいつ・・・なんでレオーネの時は隙だらけだったのに・・なんで?『まさか演技?』・・・少しは空気読みなさいよ!大人しく寝たふりでもしてればいいのよ・・・っとにー!『そ、そしたらあんたの寝顔に・・・イャー///』」

 

 

マインが去った後同じく部屋から出てきた鼠が・・・

チェ「・・・・・ラットォ、変身っと・・・うふふ、そこは同感だね、マイン・・・」

 

 

再び一人になったタツミ。

 

タツ「・・・相変わらず可愛い奴らだ・・・フフフ・・・、『

 

「――――君、君を呼んだのは他でもない・・・今度はこの星に行って貰いたい」

 

「統括長・・・前の件でもう私は降りると・・・全ての件から手を引かせて頂きますと申し伝えたはずですが・・・」

 

「・・・そうだったな、だがこの案件は君が一番適任と判断された・・・、この件が終われば君の望み通りにしよう・・・。肉体を持っていた・・・一生命体として生きていた頃の苦しみがまだ自分を苛むかね?」

 

「・・・もう自分は十分存在しました・・・やるべき事は果たしたつもりです・・・存在する事そのものからもう手を引かせて下さい」

 

「魂の消滅・・・もう一切の無を望むか・・・良いだろう。だが、今回の件は我々の先達の一存在が犯した罪の清算だ・・・かの事件を知ってはいるだろう?」

 

「・・・あやつが我々の技術を不当に盗み出し、ある一つの・・・宇宙の生命を混乱させた・・・」

 

「そうだ、あらかた我々の手で片付いたがあと一つ残っている、それが君がこれから行く星だ・・・」

 

「あの星をですか?・・・データで見ましたがとても・・・綜合的に判断しまして生かしても良いと思えるような生命達とは・・・」

 

「かつてのお前も他生命の事を言えるのかね?」

 

「うっ・・・選択の余地は無さそうですね・・・、では手筈は・・・こないだのようにその星の妊娠中のメスの個体の胎児に宿るのは・・・自我が生まれて無いとはいえ結果としてはその胎児の精神を殺して肉体を奪った事になりました・・・それを何とかして下さい」

 

「判った・・・、不自然にならないようその者達から生まれても不思議ではない肉体を創りそこに君が入るとしよう」

 

「・・・、元々その者が生まれる予定だったのを私が出てくる事で障害は起きませんか?」

 

「う~む、そうだな。その辺の時空調整は・・・その彼は数百年後に産まれるように調節しよう・・・それでどうだ?」

 

「判りました・・・」

 

 

「君なら造作も無いだろうが、並行世界へのアクセスも許可する。我々の技術で混乱したその並行世界の修正も頼む」

 

「一つでは無くですか・・・疲れますね」

 

「お前がかつて暴れ回った頃の罪の清算と思い給え・・・」

 

「ぐっ・・・あの時の御恩は忘れていません・・・」

 

「ふっ、もし君が不慮の事故で作戦遂行不可になった場合、評議の末ともなろうが、最悪の場合その星を壊滅させる手段も考えている・・・その星の生命の存亡は君に託す・・・頑張ってくれたまえ」

 

「はぁ・・・面倒なのでいっそ自分が小惑星を激突させて星諸共全滅させますか?」

 

「ははは、存亡の処断はまず君が行って判断してくれたまえ・・・ははは」

 

・・・・』

 

 

 

アカ「・・・どうしたんだ、タツミ。眠れないのか?」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

タツミは丘から遠くを一望出来るシェーレとブラートの墓の前でじっと立っていた。

 

タツ「昔の事を思い出していた・・・」

 

アカ「タツミの昔か・・・聞かせてくれないか?」

 

タツ「・・・若い時、暴れた事での被害を免除してくれる代わりに・・・罰として一人で廊下の掃除をさせられた時の事をな・・・今もだが・・・」

 

アカ「・・・今も?・・・『自分の国の密命の事だろうか?』・・・あはは、タツミもそんな時があったんだな?」

 

タツ「あー・・・まぁ・・・思いだすと恥ずかしいけどな、だが罪を負う・・・もしくは意識する事は悪い事では無いと思う。生き方に対して謙虚になるからな。罪を犯しているのに気付かない事があるのが怖い」

 

アカ「ふふふ、偉いなタツミは・・・私と年も余り変わらないだろう?」

 

タツ「アカメはマインと同い年だったか?」

 

アカ「そうだ」(※原作と異なるかもしれません)

 

タツ「じゃあ俺より一つ年上か・・・(この肉体ではな)」

 

アカ「・・・確かタツミは黒髪長髪お姉さんが好きだったよな?」

 

タツ「ぶはっ、げほごほ・・・いってぇ何の話か・・・、俺にはさっぱり判らねぇなあ」

 

 

 

ナイトレイドは長い遠回りを経て帝都近くのアジトに既に帰還していた。

 



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恋か死か・・・正義という名の自己弁護

帝都宮殿 会議の間

 

オネ「反乱軍がエンの関も無血で突破したそうです。この脅威にどう対するか・・・何か妙案はありますかねぇ」

 

「くそっ、今回も無血降伏とは・・・どいつもこいつもなんと不甲斐無い太守どもだ」

 

「地方軍は何をしている?一揆の鎮圧よりも反乱軍に当たらせろ!」

 

「・・・既に何回か地方軍と反乱軍はぶつかっている・・・しかし反乱軍には戦上手の元将軍達が帝具付きで身を置いている・・・そこでどうだろう?我々も正面では無く懐柔策を用いては?」

 

オネ「ほぉ・・・懐柔策とは?」

 

「帝都市民の不満も燻って来ています・・・ここは鞭ばかりではなく飴も必要はではないかと・・・」

 

「!?今、甘い顔をすれば余計に市民共は付け上がり、引いては帝国の威信が下がるぞ!何を言う!」

 

「いや現にエスデス将軍も以前と比べ温情な手段を取られ始めている・・・そうする事で反乱の芽を少しでも失くそうと・・・」

 

オネ「・・・おやおや・・・」

 

 

 

「何を腑抜けた事を言っておるのだ!!・・・それでも民の上に立つ者か!」

 

 

 

 

「・・・ブドー大将軍」

 

「おお!」

 

 

 

ブドー「・・・エスデスに如何な考えがあるか知らんが、今ここで引き締めを緩めれば賊軍やそれに準じる者達を伍する事になる・・・」

 

「将軍・・・」

 

ブドー「このような変事であるからこそ上に立つ者の規範として襟を正し引き締めなばならん!」

 

オネ「いや全く、ブドー大将軍の仰る通りですな・・・貴方がたにも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいですねぇ」

 

ブドー「・・・本来武官は政事(まつりごと)に口を出すべからず・・・、大将軍の家系に生まれ代々その家訓を遵守してきたが・・・この状況とあらば私も黙ってはおれんぞ貴様ら・・・そして反乱軍を撃滅した後は、国家の安泰を乱す歪みを元から断ってくれよう・・・それが何者であろうとも、な・・・」

 

オネ「・・・おぉ~~怖い怖い。誰か知りませんがその者は覚悟しておく必要がありそうですな」

 

ブドー「・・・・・・・」

 

オネ「・・・・・・・」

 

周りの一同は固唾を飲む

 

そして、その様子を影で盗聴しているラン

 

 

 

 

 

 

 

 

アジト朝

ナジェンダ室

 

ナジェ「二人に来て貰ったのは他でもない・・・例の私達がしくじった仕事・・・ボリック暗殺を依頼したい・・・二人の面は割れていないだろうからな」

 

タツ「ん?んん・・・ああ、了解した」

 

チェ「ふ・・・くすくすくす・・・・」

 

ナジェ「?・・・お前な・・・私達が失敗した事がおかしいか?」

 

チェ「・・・いえいえ、すみませんボス、タツミが呑気なのが可笑しくて・・・」

 

タツ「悪かったな・・・『くくくく・・・』

 

ナジェ「チェルシー、タツミはそういう男だ・・・余り気にするな・・・とにかく、そういう訳だ。やってくれるな?」

 

タツ「う~む、確か5人掛かって逃がした相手でしょう?倒せるかなあ?」

 

ナジェ「エスデスをも従えさせる事が出来るお前だ・・・やってくれると信じているぞ」

 

タツ「はい・・・判りました、なんとかやってみましょう・・・ところでナジェンダさん、一つ条件が」

 

ナジェ「なんだ?報酬の上乗せか?」

 

タツ「いえ、そうじゃなくナジェンダ・・・」

ナジェンダに近づく

 

ナジェ「な、なんだタツミ・・・///・・・まさか・・・///」

 

チェ『・・・・むっ!!』

 

タツ「・・・このアジト至る所で煙草の匂いが充満しているんで吸う時は室外でお願いしたい・・・それが条件だ」

 

ナジェ「な!!///・・・お前・・・くううう・・・」

 

チェ「いひひひひ・・・くすくす」

 

ナジェ「チェルシー!!お前笑い過ぎだ!」

 

チェ「けどボス・・・確かに煙たいですよ・・・マインやアカメちゃんも言ってましたよ?」

 

ナジェ「な!?・・・ふぐぐぐぐ・・・判った、私は部下思いなんだ・・・こ、これくらい我慢してやる・・・」

 

タツ「う~~む、やっぱり条件変更であんたの禁煙にしようかなぁ・・・」

 

ナジェ「オニぃいい!アクマぁぁああああ!煙草は私の唯一の生きがいなんだぁぁぁあああ!!!」

 

タツ「鬼?悪魔?・・・そう・・・、あんたの思った通りだよ、ナジェンダさん・・・くくく」

 

ナジェ「・・・いやあそれ程でも・・・とか照れるか、ボケるか何かしろぉぉおおお!!!話そこで終了だろうがああ!!」

 

チェ「くくくく」

 

タツ「別にふざけてはいないんだがなぁ」

 

ナジェ「タツミの冗談に付き合っている暇などないわ!」

 

タツ「・・・判ったよ・・・、ではアジト外での喫煙に譲歩しよう」

 

ナジェ「うう・・・有難う・・・って!!なんで礼を言うんだ私ぃぃ!?しかも初めより条件悪くなっているだろそれ!」

 

顔を見合わせ失笑するタツミとチェルシー

 

 

ナジェンダの部屋から出た二人が廊下で

 

チェ「あーおかしー・・・くくく、くすくす、うふふふふふ・・・」

腹を抱えて蹲る

 

タツ「そんなに可笑しかったか?」

 

チェ「だって、だって・・・ボリック暗殺を本人に・・・くくく、あーお腹痛い・・・」

 

タツ「まぁ・・彼女も責任感じてたんだ・・・別に良いんじゃないか?」

 

チェ「で、旦那?どうするの?」

 

タツ「あいつの被ってた帽子でも渡せば暗殺成功したと思うだろ?」

 

チェ「・・・うふふ、タツミはなんだかんだで甘いんだね・・・そういう所好きよ・・・」

 

タツ「・・・甘いモノは好きだが、取り過ぎは控えてんだ・・・虫歯が怖いからな・・・」

 

チェ「・・・そう・・・、ここって笑う所?それともやっぱり何かの例え・・・?」

 

タツ「・・・・・・」

 

チェ「あたしってさ、結構甘いモノ食べても虫歯にならないんだよねー、どう?あたし達の相性良くない?」

 

タツ「・・・さぁな・・・」

 

チェ「タツミ、飴舐める?」

 

タツ「いや、別に良いよ」

 

チェ「タツミ・・飴、舐めなよ?」

 

タツ「はぁ・・・他の選択肢は無さそうだな・・・判ったよ」

 

チェ「そう、選択は一択のみ、はい♪・・・あ、噛み砕いちゃ駄目だよ」

 

タツ「注文が多いなぁ」

 

チェ「はい、今度はあーんして」

 

タツ「?」

チェルシーは自身が舐めた飴をタツミの口の中に入れ、彼のそれを取って今度は自分の口の中に入れる

 

タツ「・・・・・・・あんたなぁ・・・///」

 

チェ「良いじゃない、別に?あたし達キスした仲じゃない?///」

 

タツ「あれは・・・・・・、そうだ、・・・チェルシーに聞きたい事があったんだった」

 

チェ「え・・・///なに?なんでも聞いて・・・ス、スリーサイズでも教えるよ///」

 

タツ「・・・・・、あんたなんでこの稼業に入ったんだ?」

 

チェ「・・・おっと!意外な事聞いて来たね・・・でも良いよ、タツミになら教えてあげる」

 

チェルシーは過去、要領よく立ち回り領内の役所に勤めた。だが、そこの太守は賄賂や人間狩りを楽しむ外道であり、女一人ではどうする事も出来ずその惨状をただ黙って見過ごす事しか出来なかった。何も出来ない自分へのやるせなさと虚無感に襲われ魂が死に掛けていた、そんな時、城の宝物庫に今の自身が持つ帝具を見付け・・・そして、時間を掛けてそれを盗み出しその変身能力を利用して太守を殺害。皆は暴君の死に安堵し新しい太守は領内をそれなりによく治めた事を語った。

 

チェ「―――という事があってね、あの時、私は世直しをした・・・そう実感すると朽ちかけていた魂が・・・甦ったような・・・そんな感覚だったわ・・・」

 

タツミは飴を噛み砕き、遠い昔に思いを馳せた

タツ「・・・・『

 

土砂降りの中、道場の門の前まで殴り飛ばされて蹲る竜人が一人。

 

「師匠!・・・自分は誰もが見て見ぬふりをする、あの者を他から頼まれ始末したにしか過ぎません!・・・何故ですか、何故他の者達のように黙って見過ごさねばならないのです!」

 

「この愚か者が!!!いつ儂がお前にそのような事する為に武の術を、道を説いた!・・・今まで何を聞いていた!・・・その術を使って良いのは已むを得ず戦(いくさ)に巻き込まれ自衛の時のみと教えたはずだ!」

 

「これもある種の戦争では無いのですか!目の前で苦しむ人を黙って見過ごす・・・そんな事せずに手を差し伸べるのが力ある者の務めでは無いのですか!?」

 

「力がある?自惚れおって!!儂がお前に伝えたかったのは戦すらも止めさせ治める力だ・・・今のお前なぞまだまだひよっこ・・・まだまだ伝えとらん事が山ほどあるわ!・・・だが今日もって貴様は破門だ!・・・儂が教えた武をそんな事に使いおって・・・本来なら引導を渡す所だが、温情を持って破門程度で許してやる・・・もう二度とこの門を潜るな!!」

 

数日後

 

道場の門には看板はもう既に無かった。

 

「・・・?何かあったんですか?」

 

「いえね、なんでもここのお弟子さんが先生の教えに反したとかで・・・他のお弟子さんが全員辞めさせられたんだって・・・」

 

「そうですか・・・」

 

「しかもよ・・・そこの先生、責任感じたのか判らないけど、お腹を召されてお亡くなりになったんだって・・・可哀想にねえ・・・」

 

「・・・!・・・・・・・どうも・・・『・・・俺が・・・俺が師匠を殺したんだ・・・俺のせいで・・・ううううううわあああああ』」

 

・・・・・・・』」

 

 

チェ「この能力を使えば、今度は腐敗した世界そのものを変えられるかもしれない・・・そして私は一度汚した手ならばとここ(革命軍暗殺部隊)に入ったの・・・」

 

タツ「『・・・今なら師匠の言う事も判るな・・・』チェルシー・・・、そりゃ結構な話だな・・・あんたの正義感にも共感はする・・・その惨状を黙って見過ごせない心意気もな・・・」

 

チェ「・・・うふふ、タツミ、貴方ならそう言ってくれると思ってたわ」

 

タツ「だがな・・・その太守を殺して止めておけば良かったな。確かに悪徳な権力者を、正当な方法や法では裁けない悪党を暗殺という手段で葬る・・・そりゃ俺も成敗もまた已む無しと思うさ。だがあんたの場合、その正義の名のもとに殺しに快感を見出してしまったように見えるがな・・・」

 

チェ「・・・!・・・別に私はそんな事・・・」

 

タツ「あんたは、その惨状を打破する形で暗殺をした・・・その事で自分は世直し人(びと)になった気でいる。・・・確かに暗殺で時代の流れが変わる事もあり、悪い奴が死ねば一時的に良くもなろうだろう・・・しかしな、そう言って誰もが暗殺は世直しだと言って殺ってたら、世の中正義の名の元の暗殺が横行して毎日血の雨が降るぞ・・・」

 

チェ「・・・タツミ・・・!!!・・・私はそんな・・・それでも・・・そういう奴を殺す事で平和な世の中になるなら・・・汚名を被っても構わない・・・」

 

タツ「・・・チェルシー、あんた殺しに快楽を見出していないと・・・本当に言えるのか?正義という理性の名のもとに・・・本当は殺しが本能的に楽しいがそれを口に出すのは憚られると無意識に思って、正義の名で自身の快楽をごまかしていないと本当に言えるか?」

 

チェ「・・・も、勿論よ!」

 

タツ「じゃあ、何故・・・その太守を始末した後、それ限りにしないで暗殺を続けた?」

 

チェ「それは・・・帝国の腐敗を・・・根本の原因を正す為に・・・」

 

タツ「確かに帝国は腐敗しているし・・・俺もそう思う・・・だがお前、原因云々言ってたら人間皆殺しにしなければならないぞ?」

 

チェ「・・・・何もそこまで・・・」

 

タツ「・・・なぁチェルシー、あんた仮に革命が成功した後どうするんだ?」

 

チェ「そうなったら、平和に暮らすわ・・・」

 

タツ「本当にこの稼業から足洗って、すっぱりと止められるんだな?」

 

チェ「ええ・・・・『・・・ケド、ホントウニ・・・?』」

 

タツ「・・・もうこの際だから隠さず言うが・・・俺があの時、根回しして無かったらあんた・・・、クロメ追掛けてって死んでたぜ・・・」

 

チェ「・・・、ええ、それは何と無く私も判る・・・『あれが正夢になってたんだろうね・・・』」

 

タツ「だから・・・、次はもう無いと思ってくれ・・・あんたがもし革命後も暗殺を続けていたら・・・俺があんたの首を刎ねる・・・」

 

チェ「・・・うっ・・・タツミ・・・!!!」

 

タツ「・・・ここのナイトレイドの連中は性格的には誰もかれも良い奴らさ・・・ただな、この稼業しているから仕方ないのかもしれないが、レオーネを初め多かれ少なかれ・・・表には出さないが殺しに快楽を見出している・・・、死んだブラートもシェーレも。この仕事をしている以上、適応する為の許容範囲内とも言えるが・・・、自身の殺しへの快楽を世直しとか正義という言葉で隠し始めたら・・・厄介極まりないぞ・・・」

 

チェ「・・・今いるメンバーで一番それなのが・・・私だって言いたいの?・・・」

 

タツ「・・・シェーレは生粋の殺人者だった・・・だから暗殺以外に自分の居場所は無いと思っていたようだが、そんな彼女でももっと別の生き甲斐、働き甲斐を見付けて穏やかに暮らして欲しかった・・・」

 

チェ「・・・・・・・」

 

タツ「・・・エスデスは、残虐な愚か者でその罪状を上げたら奴に多くの罵詈雑言を浴びせられる・・・そしてあいつも闘いに快楽を見出しているが・・・そんな奴でも自分の嗜虐性を正義の名でごまかしたりしない点ではまだマシだ・・・う~む、だが帝都の治安を守る云々言う時があるから・・・五十歩百歩かもな・・・ははは」

 

チェ「・・・あはは・・・、タツミって白馬の王子様?・・・それともやっぱり死神・・・」

 

タツ「・・・そう・・・あんたの思った通りだよ・・・チェルシー・・・」

光を背に、逆光気味で不敵な笑みを浮かべる

 

チェ「なにそれ?・・・ボスにも似た事言ってたね・・・それタツミのマイブーム?」

 

タツ「・・・・・・・ふっ」

 

チェ「あーあ、やっぱりあたしみたいな女なんかに王子様は現れないか・・・」

 

タツ「・・・理想の異性なんて幻想の中にしか居ないと思うぞ・・・」

 

チェ「王子様な死神なんて・・・正に、恋か死か・・・ね?」

 

タツ「・・・なんだそれは?」

 

チェ「あたしが読んでる本にそんなフレーズが載ってたのよ・・・」

 

タツ「・・・・・・なぁチェルシー、もう暗殺止めたらどうだ?」

 

チェ「・・・え?・・・」

 

タツ「まさか・・・自分でもう修正出来ない程、殺しが止められないと言うなら・・・その時は・・・判っているだろうな・・・」

タツミは殺気を放つ。

 

チェ「・・・!・・・・・・・良いの止めても?ボスから別件で依頼受けたらどうするの?」

 

タツ「・・・そいつは俺が引き受けよう・・・ナジェンダには俺から話を付ける」

 

チェ「・・・タツミ・・・」

 

タツ「ただ、条件として俺の仕事の手伝いだ・・・」

 

チェ「・・・判ったわ・・・その条件呑むわ・・・うん・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

チェ「・・・じゃあ明日からタツミ専属のメイドね?・・・どんな格好しようかな・・・きわどいのでもタツミが望むなら良いよ?」

 

タツ「ふざけた事言ってると叩ッ殺すぞ!///」

 

チェ「いつも冗談飛ばしているタツミには言われたくないわ!」右手でビシッ、会心のツッコミ!

 

タツ「・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・」

 

タツ「ま、せいぜい生き延びてくれ・・・じゃあな・・・」

タツミはそう言って、チェルシ―頭を撫でて去って行った。

 

タツミが舐めていた飴を彼女は舐めながら

チェ「・・・タツミの味、・・・苦くて甘いな・・・」



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復讐という名の・・・

イェーガーズ詰所

 

ラン「おや?タツミ君・・・今まで何処にいたんですか?」

 

タツ『し、しまった・・・ちょっとここを空けすぎたか!・・・』「あ、ちょーっとエスデス隊長の言い付けで遠方に行っていたんです・・・」

 

ラン「あーそうだったんですね、それはそれは、ご苦労様です・・・」

 

タツ「いえいえ・・・」

 

ラン「それはそうと、今度、また将棋でも一局どうです?」

 

タツ「い?将棋なんかランさんと打ちましたっけ?」

 

ラン「・・・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

ラン「まぁ、そういう事にしておきましょう・・・ところでタツミ君、君がいない間に良い報せと悪い報せが出来ました・・・どちらから聞きたいですか?」

 

タツ「へぇ・・・、良い報せというのは?」

 

ラン「隊長は西の異民族の制圧に、ウェイブ、クロメさんは虚六に残っていますので今イェーガーズに私達だけなのでその権限の行使がやりたい放題という事です」

 

タツ「それは、良い話ですね・・・」

 

ラン「そしてもう一つは、君が担当していた地区の・・・彼らは反逆者リストとして処刑されています・・・これがその内訳です」

 

書類を手渡される

 

タツ「・・・・・!!!『これは俺が巡回した・・・馬寅劇場も・・・他にも・・・これは・・・!』

タツミはランを見て目で誰がこんな事をと訴える

 

ラン「ワイルドハント・・・先頃死んだシュラ、大臣オネストの息子が集めた外道集団ですよ・・・我々イェーガーズが弱体化した為、オネスト直々に作った秘密警察ですね」

 

タツ「・・・・・・・『俺が・・・俺が・・・いなかったばっかりに・・・』

 

ラン「恐らくエスデス隊長が最近甘くなり始めた・・・それも手伝ってオネストは我々に見切りをつけ始めてます・・・その為イェーガーズはワイルドハントの下部組織ともなりましたよ」

 

タツ「・・・・・・・、そんな事はどうだって良い・・・これによると犯された者や殺された者もいるとか・・・」

 

ラン「・・・ええ、年端のいかない子供も・・・」

 

タツミは持っていた書類を握り潰した

 

ラン「タツミ君・・・私にとっての良いニュースはもう体裁を取り繕らずに腹を割って話せるという事ですよ・・・、以前に話した私の教え子達を殺した奴がその一味に居ましてね・・・やっと付きとめた・・・長かった・・・、只私一人で全員相手にするにはきついので、貴方が協力してくれれば心強いんですがね?」

 

タツ「・・・・・・・」

 

ラン「・・・、君はイェーガーズとして戦いますか?それともナイトレイドとして?」

 

タツ「ナイトレイド・・・?一体何の話ですかね・・・」

 

ラン「・・・タツミ君、・・・私も今悩んでいます・・・腐った国を変えるのに外側から変えるべきかそれとも中からか・・・私は中からを選択しました・・・暴力で革命などしたくは無いですから・・・ただ・・・こないだのボリック護衛の際、教主暗殺を企む輩の護衛は一体何の為か・・・とはいえあの時の彼は貴方でしたでしょうから口だけでしょうがね。」

 

タツ「・・・本物のボリックは教主暗殺をやはり企んでいましたよ」

 

ラン「ふっ・・・そう思うと二つの勢力の間を行き来する貴方が羨ましく思います・・・」

 

タツ「判りました・・・そこまで言われるならもう良いでしょう・・・ランさん、革命軍のナイトレイドのナジェンダやブラート、そしてアカメも元々帝国将軍や政府お抱えの殺し屋だった。内側から変えるのはそれは良い事です・・・でもそれが出来る限界もあるでしょう・・・だから彼らは外から変えようと帝国を抜けたんでしょうね」

 

ラン「・・・・・・」

 

タツ「貴方の考えも判るので、良いと思います・・・ただ、目的の為に国を変える為のその間に貴方は理不尽な・・・例えば教主を見殺しするような、理不尽な暗殺も黙って見過ごさねばらなら無い・・・」

 

ラン「・・・くっ・・・」

 

タツ「勝てる算段あるんですか?」

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

ナジェ「次の標的はワイルドハント・・・今イェーガーズに代わって大手で振って暴れている連中だ・・・依頼の数も過去最多だ・・・皆やってくれるな?」

 

マイ「なるほどね・・・、タツミ?改めてあんたの腕前見せて貰うわ!」

 

タツ「見せるような腕なんて無いぞ・・・」

 

ナジェ「残念だが今回タツミは降りて貰う」

 

アカ「何故だ、ボス?」

 

ナジェ「タツミとチェルシーには別の依頼を頼んでいるからだ」

 

マイ「はっ?なんで二人なのよ?」

 

ナジェ「はぁ・・・、こないだ私達が仕損じたボリック暗殺を頼んだ・・・」

 

マイ「あっ・・・判ったわよ・・・」

 

チェ「ま、マインはワイルドなんとかの相手でもしてなさい?“私とタツミで”マインが失敗した仕事を終わらせてくるから♪」

 

マイ「むっきーーー!・・・あんた、覚えておきなさいよ!」

 

ナジェ「そこ、静かにしろ!」

 

タツ「ナジェンダ・・・先にそいつらを始末したい・・・」

 

ナジェ「む?先にか、タツミ?」

 

タツ「ああ・・・」

 

チェ「・・・・・・」

 

ナジェ「・・・判った・・・」

 

タツ「直ぐに片を付けて、ボリックを仕留めにいくさ・・・そして1つ条件を飲んで貰いたい」

 

ナジェ『まさか・・・!!・・・全室禁煙とか言うんじゃないだろうな・・・』ナジェンダはかつてない程、戦慄した。

 

タツ「そいつらを倒すのにメンバーを編成したい・・・」

 

 

 

ある研ぎ師を始末してその仕事場を乗っ取ったイゾウ

 

その日は朝から雨が降り、夜半からは雷雨が鳴り響く。

 

イゾ「・・・ふふふ、江雪・・・やはりそなたは何者にも益して美しい・・・あの者も素直にそなたを綺麗にすれば死なずに済んだものを愚かな奴であったな・・・」

 

イゾウは刀の江雪を熱心に研いでいる。

 

イゾ「・・・・・・・・、どうやらそなたとの逢瀬に邪魔する無粋者がいるようだ・・・二人でそやつを懲らしめに・・・むっ?喉が渇いたか?それは気が付かず相済まぬ・・・」

 

雷雨に照らされ室内に浮かび上がる一つの影

 

 

 

ワイルドハント詰所

 

ラン「こんばんわ、お邪魔します」

 

コス「あっ、ランちゃんまた来てくれた!ヤッホー」

コスミナはそう言ってランの腕に自身の胸を押し当てる

 

コス「そろそろコスミナの相手して下さいな♪」

 

ラン「・・・ワイルドハントに入れて下さるなら、、必ず・・・」

 

エン「・・・・・・へらへら愛想笑い浮かべやがって・・・、取り入るのに必死だな・・・」

 

ラン「他の方々は・・・?」

 

コス「イゾーっちはどっかに行ってます、ドロッちは宮殿へなんか用事があるって」

 

ラン「そうですか・・・、あ、そうそうチャンプさん・・・」

 

チャ「・・・ん?」

チャンプは子供の笑顔等が描かれた本を熱心に読んでいる。

 

ラン「実は・・・」

 

チャ「マジ?」

 

ラン「はい・・・」

 

雨の中、傘を差し歩くランとその後をのたのたと苦しそうに歩くチャンプ、雨に濡れても気にしてはいない。

 

チャ「まだか?・・・とびきり可愛い子達がいる小屋ってのは」

 

ラン「もう少しですよ、チャンプさん」

 

チャ「お前本当に媚びるのが上手ぇな。金品を献上したと思ったら今度は獲物まで見つけてきてくれるなんてよ」

 

ラン「出世のチャンスですからね・・・早く出世して左手団扇で暮らしたいですから・・・」

 

チャ「ああ・・・どんな子だろう・・・たっぷり愛でて上げたいぜ」

 

ラン「・・・・・・・・・・愛でた後、何故殺すのですか?」

 

チャ「そりゃあお前、天使達を汚い大人にしない為さ・・・はぁ・・・大人は駄目だ・・・カスしかいねぇからよ!天使には永遠に天使のままでいてほしいんだ」

 

ラン「・・・・・・・・・・」

 

そして今は使われていないかつては宮殿だった廃墟に辿り着く。

 

チャ「おい!!こんな所に本当にいるのかよ?」

 

ラン「・・・ほら、怖がらずに出ておいで・・・」

 

一人の幼い少年が影から現れる。

 

「オジサン・・・、ランにいちゃんにきいたけど、オジサンのところではたらかせてくれるの?」

 

チャ「・・・!!・・・おお、そうだよ・・・、オジサンのところでずっとずっと働かせてあげるよ・・・はぁはぁ・・・」

 

ラン「・・・・・・・」

 

「・・・あ、ありがと・・・」

 

ラン「それじゃ、チャンプさん、私はこれで・・・」

 

チャ「お、おう・・・後で礼は弾むぜ」

 

ラン「・・・どうも・・・」

 

ランは廃墟を出て行き

 

 

チャ「さ、さぁまず、オジサンの所で一緒に働けるか・・・テストをしようね・・・ま、まず裸になって・・・へっへっへ」

 

「え?裸に?なんで?」

 

チャ「き、君が穢れない子供かどうかす、隅々まで調べて上げるんだよ・・・さ、さぁ・・・」

 

「え?・・・わ、わかったよ・・・」

 

チャ「脱がすの手伝ってあげるね・・・」

そう言って強引に剥ぎ取ろうとする

 

「わ!?」

 

チャ「さぁさぁ・・はぁはぁ・・・!?」

 

その少年は、着ていた服を即座に脱ぎ、チャンプの視界を遮る。

 

チャ「・・!??・・・!!?・・・ぎゃあぐわあああ!!!」

 

少年の両手から放たれた針がチャンプの両頬を貫く・・・彼の目がギラリと光った後、チェルシーが正体を現す。

 

チェ「・・・あんた、ロリでショタなんだ・・・話には聞いてたけど・・・ふ~ん、人の趣味にとやかく言う気はないけど・・・」

 

チャ「て、てめえがごごっごご・・・く・・・ふん!」

チャンプは強引に刺さった針を抜く

 

チャ「ぢ・・・ぢくしょう・・・、可愛い子供だと思ったら、こんなババアか・・・おえぇ・・・汚ねぇ汚物が・・・」

 

チェ「・・・・・・、・・・はぁぁぁあああ??彼に止められているけど、・・・・・・本気で殺したくなってきたわ・・・」

 

 

そこにタツミが影から現れる。

タツ「・・・チェルシー、下がってろ・・・」

 

チェ「タツミ!」

 

チャ「ちっ!?てめぇら、さては騙しやがったな・・・だから大人は汚ねえんだ・・・ちくしょう!」

 

タツ「馬鹿野郎・・・鏡で自分を見てみろ」

 

タツミは何かの帝具を使って、チャンプ周囲の空間を小刻みに爆発させる。

 

チャ「・・・!?げ、な、なんだこりゃ!!!」

 

本来ならありえない技術を用いて、空気中の分子を任意の場所のみ局地反転し反物質と変え、物質と反物質をぶつけ空中爆発を起こさせる。

だがチャンプには何が起こったか理解出来ない。

 

タツ「・・・・・・・」

タツミは徐々にその爆発が近づくように仕向けている。

 

チャ「・・・く、くそ、俺がこんな奴に・・・」

 

腕、足がもげ、片手だけとなる。

 

タツ「・・・どうだ?苦しいか・・・簡単に死なねぇように狙ったんだ・・・」

 

チャ「・・・、ちくしょうちくしょうちきしょう・・・・・ちきしょううううう・・・俺の、俺の夢が・・・この世から汚い大人を失くすために、全ての子供を天国へ導く俺の夢が・・・」

 

タツ「俺は・・・お前の過去なんて知らねえ・・・だから、お前がどういう経緯(いきさつ)でこうなったかなんて判らねぇ・・・だがな一つ言えんのは大人より力が無いだけで子供も汚ってぇ事だ・・・」

 

チャ「はぁあ?んな訳ねぇだろ!!・・・ぐあぁぁ!!」

 

タツ「・・・お前は子供の汚さが知らねえ・・・判らないだけだ・・・、非力だからこそ自分に負けて周りに染まって汚くならざるを得なかったガキだっている・・・それを恥じて強くなって大人になって自分に負けなくなって、お前の言う綺麗な生き方した奴だっているぞ・・・」

 

チャ「ふざけた事言ってんじゃねえよ・・・!」

 

チャンプは残った腕で帝具の反撃をしようとするが・・・

 

タツ「往生際が悪いな・・・」

その腕も消し飛ばす・・・凍った目で見据える。

 

チャ「こ、この俺を殺すお前は・・・悪魔か・・・!」

 

タツ「悪魔・・・?・・・確かに昔、似た名で呼ばれたな・・・よく知っているなお前・・・ははは・・・だがそろそろ話すのも飽きてきた・・・今から俺が汚い大人なお前をこれ以上罪を犯させない為に葬りさってくれる・・・どうだ?喜べ?俺もこれ以上お前が汚れてほしくないんでな・・・目には目をといきたい所だが生憎俺には愛という感情は無いんでな・・・お前のように愛でた後、殺すという事はしない・・・愛ゆえに殺すか・・・愛とは醜いものだな・・・だが俺はただ殺す・・・それだけだ・・・ふふははは!」

 

タツミはそう言って目に見えない特大の空気爆発を起こさせる為に周囲の空気中の物質を圧縮し初め、彼を中心に大風が巻き起こる。

 

タツ「ただ死んで無に帰れると思うな?我が名のもとにその程度で許しはせん!・・・聞こえているか・・・かつてのしもべ、番人、死神よ、今からそこへ送る汚れし魂をその者が行った罪と等しき悪夢を見せ、100年重ねろ・・・その後に安寧の一切の無を与えてくれる・・・」

 

チェ「・・・?・・・タ・・・タ・・ツミ?」

 

ラン「・・・タツミ君・・・」

物陰から様子を見ていたランが姿を現す。

 

タツ「・・・・・・おっと、つい忘れていた・・・」

巨大な空気の塊が霧散霧消する。

 

タツ「そうだった・・・どうしても仇を取りたい人間が居たのだった・・・後はそなたに任せよう・・・では我は外の邪魔者を排除してくる・・・チェルシー!」

 

チェ「ええ?・・・ああ、はい!」

 

タツ「・・・、自分の身を守る程度の事ならば許可を与える!」

 

チェ「お、・・・オーケー、マスター!」

 

 

タツミはそう言って廃墟から出ていく。



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・・・終曲を奏でよう

イゾ「・・・・・・・」

イゾウは江雪を戸板越しに刺す。

 

アカ「・・・・!」

アカメはそれを擦れ擦れでかわし、村雨を戸板越しに刺す。

それをかわしたイゾウは村雨ごと戸板を倒す。

アカメは瞬時に村雨を抜き、二人は庭で対峙する・・・雷雨が鳴り、二人ともずぶ濡れとなる。

 

イゾ「・・・・・・、ナイトレイドの・・・アカメとやらか・・・」

 

アカ「・・・・・・、刀狂いのイゾウか・・・これ以上の凶行は許さん・・・」

 

イゾ「刀狂い?・・・さて?珍妙な物言い・・・拙者はただ我が江雪に食事を与えているだけ・・・、お主らも仲間や伴侶に時には生きた食事を与えるであろう・・・いや常人は理解しずらいか・・・お主らも愛玩動物に生きた餌を与えるであろう・・・それと同じ事・・・『例えが悪く、済まぬ江雪、お主は拙者にとってかけがえないの無い存在だ』」

 

アカ「・・・同じ人間を人間とも思わない・・・お前は人を名乗る資格など無い・・・葬る!」

 

イゾ「江雪、今日の獲物は活きが良いぞ!」

イゾウは燕返しの要領で下から垂直に切り上げるのをアカメは空中後転でかわしながら棒手裏剣を投げつける。

それが刺さるが気にも留めずイゾウはアカメに肉薄し鍔迫り合いを行い、互いに足蹴りか刃でそのまま押し斬るか駆け引きの読み合いをしている。

 

更に後ろから一つの影がイゾウを羽交い絞めにする。帝具で獣化したレオーネだ。

イゾ「・・・・・ふっ・・・」

だがイゾウは羽交い絞めにされる瞬間にアカメを蹴り飛ばしていた。

 

アカ「・・・!?避けろ!レオーネ!」

 

レオ「!?」

 

イゾウは江雪を逆手に握り、自身の首に掛るレオーネの右腕を寸分たがわずに薙ぎ払い切断する。

飛びし去るレオーネ。

 

レオ「ちっ・・・」

 

アカ「こいつの持つのは帝具ではないが・・・甘く見るな・・・レオーネ」

 

イゾ「ふっ・・・またしてもナイトレイドか・・・江雪の食事が増えるだけの事・・・、だが、そなたらはなんと醜い・・・この江雪に叶う美しい者は居ない・・・その醜い姿のまま生きるのはつらかろう、ナイトレイドのおなごよ・・・今楽にしてくれる」

 

レオ「なるほど・・・やっぱネジのぶっ飛んだ似非侍だ!」

 

レオーネは自身の切断された右腕を投げ飛ばす。イゾウは事もなげにかわし迫るレオーネを突きにかかる。

レオ「ぐぁぁあああああ」

 

レオーネの左掌を貫き、そのまま斬り下げようとする。それをレオーネはその腕に反転して体ごと絡みつき動かないように封じる。

 

イゾ「ぬっ!貴様!」

 

アカメは跳躍し一刀両断に村雨を振り下ろす!

「葬る!!」

 

イゾウの額に村雨が振れる・・・だがアカメの顎に強烈な震動が脳にも浸透する。イゾウの鞘は鉄拵えであり、その一撃を加えた後隙を逃さず、今度はアカメの腹部にイゾウは小柄(長さ18㎝前後の小刀)を刺す。たまらずアカメは飛び退き、同時に振り上げた右足と共に渾身の力でレオーネを地面へ踏み叩き落とす。

 

レオ「ぎゃああああああ、うああああ」

レオーネの左掌は裂け、骨が剥き出しの状態になっている。振り上げられた江雪をかわし辛くも間合いを取る。

 

レオ「はぁはぁ・・・ぐっ・・・アカメ・・・」

 

アカ「ぐっ・・・、うっ・・・」

アカメも脳へのダメージで足元がおぼつかず、腹部から出血している。

 

イゾ「ふっ・・・いかな一斬必殺の村雨と言えど、触れても斬れなければ恐るる事も無し・・・村雨も中々美しいがやはり我が江雪には及ばぬ・・・」

 

 

 

 

いつの間にか雨は止み、夜空は晴れわたっている。

 

コス「今聞こえた不気味な声、チャンプちゃんの?」

 

エン「やっぱりな・・・尾行してきて正解だったろ?ああいう顔の奴は信用ならねぇんだ」

 

コス「嫉妬しているだけじゃないですか~?男の僻みはみっともないですよ」

 

エン「うるせぇ、とにかくイゾウに知らせ・・・」

 

 

タツ「・・・話が合うな・・・若造、確かにああいう顔の者は信用できんな・・・くくく・・・」

 

コス「・・・確かイェーガーズの・・・?・・・うふふ、どう?君もコスミナとちょっと遊ばない?」

 

エン「おい!コスミナ、馬鹿も休み休み言え!」

 

タツ「有り難い話だが、またにしよう・・・こっから先は地獄への入口だ・・・」

 

エン「へぇ・・・って事はだ、チームぐるみで喧嘩売る気か・・・上等じゃねぇか、おっ・・・よっしゃ!満月の日を選んでくるとはな・・・帝具のノリが一番良い時じゃねえか!」

 

タツ「・・・冥土の土産に教えてくれないか?何故お前達はこんな凶行に及んだ?」

 

エン「凶行だぁ?・・・へっ、人生ってやつぁ一度きりだ!やりたい事やって何が悪ぃ?」

 

タツ「そうだな・・・その通りだな・・・、なら俺も一度きりの人生・・・という事で・・・このように殺しても文句は言われないな?」

 

エン「!?・・・がっ!」

 

タツミはエンシンの五体を端から少しずつ空中爆発させ、肉片が飛び散る。

 

エン「え?あ?ぎゃあああああ!!!」

 

腕、足が無くなり、次は胴体、最後に頭だけとなり、それも爆発させ、エンシンと名乗った男の欠片をもう探すのは困難となった。

 

タツ「・・・苦しむ時間を短縮したんだ・・・礼には及ばんさ・・・ははは・・・!」

 

コス「エンシンちゃん!・・・くっ!」

 

タツ「・・・・・・・」

タツミはコスミナを睨みつける、湧いた闘志が一瞬で消えコスミナは逃走をはかる。

 

コス「ば、化け物・・・」

 

 

だがコスミナの胸をパンプキンが射抜く

 

コス「え?・・・がはっ・・・」

 

マイ「よしっ!ナイスアタシ!」

 

 

 

 

 

 

 

四肢の無いチャンプの体を刃物で串刺しにするラン、そして・・・、

 

ラン「・・・僅かな目撃証言からお前を捜して・・・ここに来るまで長かった・・・そして相手がどんなに強くても・・最強であろうと倒す算段も出来た・・・子供達が受けた苦痛に比べればこんなモノは大した事は無いだろうが・・・」

 

ランはその傷口に劇薬の葉を塗る。

 

チャ「ぐぎゃあああああ!!いでぇぇよおおおおおお!!」

 

ラン「傷口を塗ると成分により激痛を引き出す・・・、あの残虐女もたまには役に立つ事を言う・・・さて・・・私の教え子は30人いました・・・なので30回、一寸刻みにするとしよう・・・ふふふ」

 

チャ「ぎゃ・・・ぎゃめろ!!・・・お、おでを殺したらデメェらがやったってバレバレだぞ!いいのがぁ!!!」

 

ドスン!!

ランが再び刻む

 

ラン「ご心配なく・・・ナイトレイドと取引したので・・・お前達に信用されるのに少し時間が掛かりました・・・その間にも随分と沢山人を殺したようだが・・・だがそれも今夜限りだ!」

 

 

 

 

 

マイ「・・・タツミ?・・・あんたどんな帝具使ったのよ・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

そこにラバックが駆けつける。

ラバ「・・・どうやら無事片付いたか?」

 

タツ「・・・ラバ、周囲で目撃者の有無はあったか?」

 

ラバ「大丈夫だ・・・けど、お前・・・ふ~~~ん、俺の次ぐらいに中々やるじゃねえか・・・」

 

マイ「そうそう、チェルシーの方は済んだの?」

 

 

 

 

 

チャンプは出血性ショック死で既に絶命している。それを冷酷な眼差しで見下すラン。

 

ラン「・・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・・」

 

ラン「・・・確か貴女はナイトレイドの・・・」

 

チェ「・・・タツミに聞いてたけど、貴方がイェーガーズの・・・」

 

3人が中に駆けつけてくる。

マイ「どうやらそっちも無事済んだようねーって、あんた・・・」

 

ラバ「・・・あんたがタツミが言ってたイェーガーズの優男さんかい?」

 

タツ「ラバ!マイン!それ以上入るな!」

 

マイ「え!?」

 

ラバ「!?」

 

タツ「・・・ランさん・・・どういう事だ、悪い冗談はよしてくれないか・・・」

 

ラン「・・・やれやれ・・・、場合によってはナイトレイド全員仕留めて、貴方がたにワイルドハントと相討ちのシナリオを用意していたんですがね・・・」

 

タツ「・・・そいつは残念ですが、周囲や地面に巡らせた鋼鉄の羽を解いてくれませんか?」

 

ランは指を鳴らし、全てのその武器が帝具、マスティマへ収まる。

 

ラバ「・・・あんた、俺達を殺すつもりだったのかよ・・・」

 

ラン「・・・ええ、組むだけの相手で無いと見れば・・・」

 

マイ「・・・あんた、なんて奴なの・・・!」

 

タツ「止めろ!・・・この人は腕隠しているが、その気になればエスデスより1枚上だ!」

 

ラン「・・・・・・・、最強の称号などという井の中の一番争いなんか興味はありませんよ・・・、私は教え子達の仇が取れた・・それで十分・・・」

 

チェ「・・・・・・・」

 

ラン「・・・ただ、教え子達の死を隠した国の体制には怒りを覚えていますがね・・・そんな国を内側から変えようとしています・・・ですが何故貴方がたは外から暴力で変えようとするのです?テロリストと変わりないのでは?」

 

マイ「・・・ならあんた、大臣の暴力の圧政を今無くせるの?」

 

ラバ「・・・元帝国軍人や将軍で大臣に意見して殺されそうになって反旗を翻したのが悪いって言えるのか?」

 

チェ「・・・・・・・」

 

ラン「・・・暴力に暴力で立ち向かう・・・それではいつまで経っても負の連鎖は断てないと思いますが」

 

マイ「教え子の仇を取ったあんたには言われたくないわ・・・」

 

ラン「・・・あはは!・・・そうですね、その通りです・・・良いでしょう・・・貴方がたと私も所詮は同じ穴のムジナ・・・今後何か有益な情報があればタツミ君を通して伝えましょう・・・ただ、この国が変わるまでの共同戦線ですよ」

 

ラバ「変わったら俺達をどうするってぇんだ?」

 

ラン「・・・、いつまでも暗殺稼業などをしていたら、そのうち断頭台に立って貰う事になるという事ですよ・・・。そうそう、ドロテアは宮殿でまだ殺せそうにありませんが、イゾウはどうしました?」

 

タツ「アカメとレオーネに任せているから、そろそろ戻ってくるだろう・・・」

 

ラン「・・・そうですか、では私はこれで」

ランは帝具を使って飛び去っていく。

 

チェ「・・・・・・・、侮れない人だね・・・」

 

タツ「ああ・・・俺も場合によっては殺すつもりだったんだろうな・・・ふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

イゾ「さぁ・・・最期くらいは潔く斬られるでござるよ・・・では参る・・・」

 

レオ「アカメ!!」

 

アカ「・・・・・・」

アカメは朦朧とした意識の中で観念した・・・

 

アカ「・・・うっ・・・・・??」

 

イゾ「むっ・・・新手か!」

 

イゾウの斬りを鞘ごとの刀で防ぎ、直ぐに振り上げようとするがタツミの眼光がイゾウを貫く。

 

イゾ「・・・『なっ・・・なに・・・体が・・・?』

一瞬の隙が出来、イゾウの胴を薙ぎ払う。

 

イゾ「ぐっ・・・ぐはっ・・・」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

イゾ「・・・馬鹿な・・・拙者が・・・お主、その技は・・・」

 

アカ「タツミ・・・!」

 

レオ「・・・あはは・・・はぁ・・・」

 

イゾウは片膝を付き息が喘ぐ。

 

タツ「・・・昔、人斬りハンジという凶行に及んだ輩がいてな・・・、そいつは脱藩して国を捨てたんだが・・・まさか、こんな所にいたとはな・・・」

 

イゾ「・・・、ふっ・・・、刀を持つ者が・・・刀を愛する者が・・・いずれは行き着くなれの果て・・・、剣を極めれば極めるほど、刀が拙者に語り掛け、血を求めうるのに応じたまでの事・・・」

 

タツ「・・・あんたは人殺しの術に魅入られたんだ・・・結局その術に自分が呑み込まれただけだ・・・、刀が血が欲しいと語り掛ける?それは自分の中の幻聴だぜ」

 

イゾ「・・・この拙者を倒すとは見事・・・、お主なら拙者の心が解せると感じたのだがな・・・」

 

タツ「・・・人を殺す術を究めれば極めるほど、俺は人を殺す事が空しくなる・・・、殺人術をただ殺人の為に使いやぁただの殺人鬼だ・・・殺人術も活人術もその先に見えなければならないのは、無敵の位・・・誰とも争わず、争いすら起こさないようにする事だ・・・そういう意味では俺もまだまだそこまでに到達していないが・・・」

 

イゾ「ふっ・・・、江雪・・・そなたは最後まで生きよ・・・、タツミと申したな・・・お主に江雪の・・・後の事を頼む・・・」

 

イゾウは姿勢を正し座禅を組む。タツミは江雪を取り、その刀でイゾウの首を一刀の元に刎ねる。その首はイゾウの両手に入るように収まった。

そして、タツミはその刀を鞘に納める。

 

タツ「・・・、立てるか二人とも?」

 

レオ「・・・ははは・・・、タツミやっぱ強いじゃん?」

 

アカ「・・・なんで私と初めて会った時、私を倒そうとしなかった?やろうと思えば出来ただろうに?」

 

タツ「・・・減らず口が叩けるなら大丈夫だな・・・、いやレオーネ、腕が・・・それにアカメも血が出てるだろ!」

タツミは二人に肩をかし、レオーネの腕も納めて外へ出る。

 

スサ「・・・済んだか、・・・大丈夫か二人とも!」

 

タツ「スーさん、誰も見られていないな?」

 

スサ「・・・ああ、タツミがここに来た以外誰も見てはいな」

 

タツ「よし、撤収だ!」

 



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反逆の旋律が聞こえる・・・

翌日、ナイトレイドアジトにて

 

タツミはナジェンダへ昨日の事を報告している。

ナジェ「全く・・・初め聞いた時は驚いたが・・・タツミには驚かされる・・・」

 

タツ「ランは使える男だ・・・敵に回さない方が良いだろう?」

 

ナジェ「・・・国を内側から変えるか・・・そんな事出来るだけの余地があるなら・・・大臣達が下々の意見に耳を傾ける心があったなら私も初めからそうしていた・・・」

 

タツ「・・・・・・・」

 

ナジェ「残るワイルドハントは?」

 

タツ「ドロテアだけだ」

 

ナジェ「判った・・・レオーネとアカメの容態は?」

 

タツ「レオーネの腕はラバックが付けてくれている・・・二人ともたぶん大丈夫だ」

 

ナジェ「・・・タツミも二人が心配か?」

 

タツ「・・・ん?いや別に。じゃあ俺はこれで」

 

タツミが部屋から去り見送った後

ナジェ「・・・・ふっ・・・ん?来たか・・・」

 

ラバ「ナジェンダさん・・・」

 

マイ「ボス、来たわよ」

 

ナジェ「来て貰ったのは他でも無い・・・タツミの闘いの様子はどうだった?」

 

ラバ「・・・正直恐ろしい奴でしたよ・・・目に見えない爆弾を連鎖させてましたからね・・・成程でかい口叩くだけはありましたよ・・・」

 

ナジェ「う~~~む、マイン?」

 

マイ「・・・・・、ラバの言う通りね。確かあいつインクルシオだけじゃなく今回の帝具も使いこなしてたわ・・・帝具を集めて壊しているのは伊達じゃないみたいね・・・」

 

ナジェ「タツミはその時、奴らの帝具を壊してしまったのか?」

 

ラバ「はい・・・」

 

ナジェ「まぁ良い・・・先程タツミから聞いた通りだな・・・」

 

ラバ「ナジェンダさんは・・・あいつをまだ信用しきれないんで・・・?」

 

ナジェ「信用していない訳では無いんだが・・・恐ろしくてな・・・」

 

ラバ「・・・・・」

 

ナジェ「本来帝具を使える人間は体力・精神力が長けている者に限られている・・・それに一人が使える帝具なんてせいぜい一つ、二つ使えれば良い方だ。しかも相性もあるからな・・・それをその時の状況や場合によって使い分ける器用さ・・・他にもタツミは強力な帝具を使っていたという話も密偵から聞いているからな・・・今まで私はエスデスを最も脅威に感じていたが・・・一番警戒しなければならなかったのはタツミではないか?・・・あれだけの力を持ちながら普段飄々と馬鹿をやっているあいつが今更ながら恐ろしい・・・。・・・あいつはその気になればこの国一人で壊滅させられるのではないだろうか・・・?」

 

マイ「・・・ボス、考え過ぎよ・・・タツミがその気ならとっくにあたし達全滅してるわよ・・・。それに革命成功したってあたし達は報い受けて死ぬかもしれないじゃない?そんな明日の無いあたし達が今更じたばた騒いだって・・・ねぇ、ラバ?」

 

ラバ「・・・・・ぷっあははははは、マインちゃんらしいや、そうですよ。俺達はもうサイコロ振ってとうの昔に動きだしてんですから・・・一緒に帝国抜けた時点でもう後戻りは出来ないって判ってるじゃないですか?」

 

ナジェ「・・・・・・!・・・そうだな、私も弱気になっていたな・・・。もうタツミの事はほっておく事にしよう・・・恐らくあいつが本気出したらもうどうにもならないだろうからな・・・」

 

ラバ「ったく・・・なんであいつあんな化け物じみた強さなんだ・・・癪に障るぜ」

 

マイ「・・・他の女の風呂覗くの我慢すればなれるんじゃない?いししし」

 

ラバ「おい!こら!ばっ・・・ナジェンダさん誤解ですよ!」

 

ナジェ「・・・・・・・・・・・」

 

ラバ「俺の高潔なイメージどうしてくれんだよ!?・・・大体マインだってタツミをそんなに信頼してるってのはあいつに惚れてるんだろ!激ラブなんだろ!」

 

マイ「・・・はっ?ううううっさいわね?あんた今すぐ死にたいの?」

 

二人の罵り合いを微笑ましく眺めるナジェンダ。

 

 

 

レオーネの部屋

 

レオ「いやぁ・・・悪いねタツミ」

 

タツ「ん?あー・・・暇潰しに来ただけさ・・・そのー、怪我は痛まないか・・・」

タツミはリンゴの皮を剥きレオーネに持って来ている。

 

レオ「あれぇあれぇ?どうしてあたしの事そんなに心配してくれるの?」

 

タツ「・・・・・、どうだこの辺痛まねえか?」

タツミはレオーネの腕の接合部分を握りしめる。

 

レオ「痛い痛い痛い・・・いたったたたたた・・・タンマタンマ!」

 

タツ「ほれみろ?心配じゃなくて、本当に痛いだろうが」

 

レオ「誰が痛くしたんだよ!・・・けどさ、この怪我自分の責任とか感じてんの・・・?」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

レオ「ふぅ・・・あたし達殺すとか言ってた人とは思えないねぇ・・・」

 

タツ「・・・革命成功した後でも暗殺稼業続けるというなら・・・そうするかもしれないな・・・」

 

レオ「ふ~~ん、・・・ならあたしこのまま続けようかな~~~~」

 

タツ「・・・・・・」睨みつけている

 

レオ「おお~~~怖・・・でもタツミに殺されるならいっかな?」

タツミは怪訝で複雑な顔になる。

 

レオ「あたしさぁ結構ロクデナシだから・・・たまたまここに居るけど、もし帝国にスカウトされてたらどうなってたろ?」

 

タツ「・・・あんたならいずれ帝国と袂分かってたろうさ・・・」

 

レオ「・・・そうかなぁ・・・買被りじゃない?・・・それはそうと、やっぱタツミやるねぇ・・・あたしとアカメ二人掛りでも無理だったのに・・・あんな一撃で・・・」

 

タツ「・・・俺は最後に出て来て弱った所を斬っただけだ・・・」

 

レオ「・・・・・・・、そういう事にしとくよ・・・それじゃあそろそろあたし休むね」

 

タツ「ん?ああ・・・ゆっくり休んでくれ」

 

レオ「アカメの所にも行くんだろ?・・・エッチな事したら全部筒抜けだかんねー!」

 

タツ「する訳ないだろ!」

 

ぷんすか怒りながら出ていくタツミ。

 

レオ「・・・・・・責任感、強いんだ・・・」

 

 

 

タツ「アカメ・・・あれこんな時間にも部屋にもいない・・・?」

 

 

 

 

アカ「・・・・・・・・」

 

タツ「アカメェ!こんな所に居たのか・・・」

 

二人の墓のある丘で佇むアカメ。

 

アカ「タツミ・・・月が綺麗だな・・・」

 

タツ「・・・そうだな」

 

アカ「・・・あの時、もう最期かと思った・・・」

 

タツ「すまない・・・俺の人選ミスだ・・・俺が初めから奴と闘っていれば良かった・・・」

 

アカ「ううん・・・言い方が悪かった、すまない・・・そうじゃないんだ・・・、こうして生き延びて嬉しかったなと思って・・・」

 

タツ「・・・・ん?」

 

アカ「いつ殺されてもおかしくない私でも・・・覚悟は常にしているが・・・それでもこうして安らぎを得られると、やっぱり生き延びれて良かったと・・・手に掛けた者達には悪いけどな・・・」

 

タツ「・・・傷はまだ治る訳ないんだ・・・部屋で休みな」

 

アカ「・・・タツミ、お願いがある!」

 

タツ「?なんだ急に改まって」

 

アカ「私をもっと強くしてくれ!」

 

タツ「・・・・・・」

 

アカ「私はもっと強くなって自分や仲間を守りたい・・・」

 

タツ「・・・アカメは今のままで十分強いさ・・・そのままで良い」

 

アカ「私も強くなって、タツミと同じ・・・いやそれに少しでも近付いて、タツミがどんな風に世の中を見ているか知りたい!」

 

タツ「・・・・・別に何も見えて無いさ」

 

アカ「少なくとも私よりは強い・・・頼む」

 

タツ「・・・何の為に強くなりたいんだ?」

 

アカ「守りたい仲間とタツミと同じ立位置にまで行きたいから」

 

タツ「・・・仮に俺と同じぐらい強くなったとしても、見えるのは人それぞれ違うさ・・・それに仲間を守りたいなら作戦次第でアカメならなんとかなる」

 

アカ「・・・タツミ」

 

タツ「今のままのお前だったら教える事は何も無い」

 

アカ『・・・なぜだ・・・』

 

タツ「夜風は傷に堪えるぞ・・・早く寝な、じゃあな」

 

 

 

 

 

帝都、宮殿内会食場

 

オネ「おお、おお、これはエスデス将軍・・・ご苦労様でした!」

 

エス「大臣・・・、急に戻って来いとはな・・・西の異民族達へはあれで良いのか?」

テーブルに付き、グラスに口を付ける。

 

オネ「ええ、ええ・・・宜しいですよ。それに捕虜も大量に、・・・殺さず連れて来たのは少々コストも掛りましたがまぁ良いですよ・・・これで『彼女の実験体の食材に、くくく』・・・これで、奴隷として働かせられますなぁ」

 

エス「・・・余り手荒な事はするなよ?」

 

オネ「おやおや、人は恋すると気持ちも変わるモノですかな?それとも・・・彼の影響ですかな?」

 

エス「何を馬鹿な事を・・・あくまで人心掌握の為のみだ・・・前にも同じような事を言っただろうが」

 

オネ「・・・はて?そうでしたかな・・・最近物忘れが酷くて・・・イェーガーズという警察があったのも忘れそうですねぇ」

 

エス「・・・・、どういう意味だ?」

 

オネ「言葉通りの意味ですよ・・・エスデス隊長・・・」

 

エス「なに?・・・ぐっ・・・これは・・・オネスト・・・貴様・・・」

エスデスは苦しく喘ぎ、膝を付く。

 

オネ「流石のじゃじゃ馬も彼女特製のしびれ薬の前では片無しですね・・・では皆さん将軍を・・・元将軍を丁重に牢屋へお連れしなさい・・・」

近衛兵が捕まえに来るが・・・

 

「・・!」

 

「ちっ!!」

 

エスデスは渾身の力を込めて立ち上がり帝具の氷の刃で応戦の構えをとる・・・だが足元はおぼつかない。

 

オネ「はぁ・・・やれやれ、情けない・・・」

オネストは指輪型の帝具を使う。

その帝具が一瞬光った後、エスデスの氷の刃は消えてなくなる。そしてオネストの帝具も砕け散る。

 

エス「!!??・・・な?これは・・・」

 

オネ「これで・・・もう貴女は帝具を使えませんよ・・・とはいえ私の帝具もほれ、この通りもう使えませんがね」

 

エス「・・・死ぬ前にお前だけは・・・」

オネストを素手でも葬ろうとするエスデスだが、もう前後不覚で倒れてしまう。

 

エス「・・・くっ・・・タツ・・・・・」

 

オネ「おや・・・一体誰を呼ぼうと・・・まぁ良いでしょう」

オネストは倒れたエスデスの顔を踏む付ける。

 

オネ「エスデス元将軍・・・私は非常に残念です。今まで共に帝国に・・・陛下に影日向にお仕えして来たのに・・・此処に来て変節させるとは・・・でもご安心を・・・これから貴女のような不心得者が二度と出ない国作りをして参りますので・・・ふふふはははは・・・・は―――はっはっはっはっは!」

 

物陰からその様子を不敵な笑みを浮かべて見ているラン。

 

オネストの哄笑が宮殿内にこだました。

 



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彼が何を言っているか判らない件

トントン!

 

タツ「はい、どうぞ」

 

タツミの部屋の戸を開け入るアカメ

 

アカ「邪魔をする!・・・タツミ・・・その刀、どうするつもりだ?」

 

タツ「・・・・・・」

タツミは先頃仕留めたイゾウの刀、江雪の柄の部分を取り、銘を見ている。

 

タツ「あいつか・・・」

 

アカ「誰がその刀打ったのか判るのか?」

 

タツ「今から100年程前の人間でな、刀鍛冶としての腕は一流だったと聞いたんだが・・・」

 

アカ「・・・・・・」

 

タツ「刀が血を求めるんじゃない・・・刀の狂気の面にその人間が魅入られるだけだ・・・剣は凶器か・・・、よくぞ言ったものだな・・・」

 

アカ「そうだな・・・私にとって村雨は自分が暗殺を遂行し生き延びる為のパートナーだ。それ以上でもそれ以下でも無い。」

 

タツ「相棒か・・・言い得て妙だな。確かに刀は殺人の道具だが・・・その道具は精神の修養にも使える・・・例えば己の心を・・・刀を振り修練の中で己の慢心等を斬るのに使うとかな・・・それに道具ではなく、体の一部として見るんだ・・・或いはアカメの言う通りパートナーか、そして稽古出来る環境、土地、刀に感謝を捧げたりな。」

 

アカ「・・・良い話だ・・・タツミは今まで余りそういう話をして来なかったが色々考えているんだな・・・ふふっ」

 

タツ「半分以上は師匠の受け売りだけどな・・・」

 

アカ「師匠か・・・」

思う所があるのか少し感慨深げになる。

 

戸の影でこっそり覗く人

マイ『・・・タツミの言っている事が半分しか判らない・・・』

 

 

アカ「・・・それでタツミ、その刀をどうする?・・・まさか自分が使うのか?」

 

タツ「・・・いや、狂気の念がたっぷり染み込んだこの刀を使う気にはなれない。刀そのものには罪は無いが・・・外道に堕ちた者の頼みとはいえ、頼みは頼みだからな・・・さて、どうしたものか・・・」

 

アカ「タツミは剣客なのか?」

 

タツ「さぁ、どうかな・・・俺は何者でもないさ・・・アカメは?」

 

アカ「私は剣士ではない・・・、しがない只の暗殺者さ」

肩を竦めおどけるアカメ。

 

タツ「ふっ・・・、それは良い」

 

その刀、江雪はその後高温で溶かした後、小さい仏像に造り変えられワイルドハントに殺された者達の供養塔の傍に安置されたという。

 

 

タツミが廊下を歩いている、その後ろから・・・。

 

チェ「うふふふふ・・・ま・す・た・あ♪」

 

タツ「・・・・・・どうしたんだよ?気持ち悪い」

 

チェ「・・・ぐふふふふふ、こないださぁ、なんか自分の事、我はどうのとか、魔界の帝王とか言って無かった?」

 

タツ「・・・言ってないぞ、そんな事は・・・」

 

チェ「えー?でもぉ似た事は言ってたよね?・・・確か番人、死神とか・・・」

 

タツミは脂汗をかいている。

 

チェ「なんであんな事言ったの?・・・まさか本当の事?・・・くすくす」

 

タツ「ああ・・・あれは・・・、闘いに興じて気持ちが昂ぶってついつい戯れであんな事言ったんだ・・・うん・・・そう、ついな」

 

チェ「へぇーそうだったんだぁ・・・ふふふうっふ、皆にその事教えてあげよっかな?きっと笑ってくれるよ、うん♪」

 

タツ「い、言えば良いだろ・・・べ、別に俺はそんな事気にしないぞ・・・」

 

チェ「あ、良いんだー・・・、じゃあまずマインから教えよう!・・・我は魔界大帝だ・・・あっはっはっはっは・・・なんてね♪」嫌らしい目でニタリと笑いタツミを見るチェルシー

 

タツ「・・・・・・・」(イラッ)

 

チェ「じゃあねー!」

 

チェルシーの肩を掴んで

タツ「・・・待て・・・あのな、その・・・俺の事は別に言ってもイイだがな・・・うん、俺は別に気にしないんだが・・・その、余りそういう事を濫りに人に言うモノじゃないぞ!・・あ、あくまで人としてだ・・・うん」

 

チェ「・・・(ニヤァ)えー!?良いじゃん別にぃ」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・・」

 

タツ「・・・何が望みだ?」

 

チェ「・・・うふふふふふふ・・、買い物に付き合って♪」

 

タツ「それ以上は望まないな?」

 

チェ「良いよ!『・・・なんてね』」

 



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凸凹コンビ

タツミとチェルシーはナジェンダに頼まれていたボリック暗殺の命を受け、虚六に向かったのだが・・・当のボリックは既に別の国で重労働させられていて、もうこの国にはいない・・・。

帝具シャンバラを使い虚六にあるかつてのボリックの部屋で帽子でも取って帰ってナジェンダに出せば暗殺成功したと納得させて済むという簡単な仕事であった。

その為、その帝具で街に着いた後、買い物をしながらブラブラしようとなった。

 

チェ「ねぇねぇ、タツミ?前にマインとここでデートしたんでしょ?」

 

タツ「しとらんわ!あいつとなんぞ!」

 

チェ「そっかぁ・・・////・・・じゃあさ、あそこのアイス買ってよ?」

 

タツ「なんで俺が?自分で買え!」

 

チェ「良いじゃん、別に。ケチな男はモてないよ?それにぃ・・・タツミのこないだの闇歴史、尾ひれ羽ひれ付けてみんなに語っちゃうよ、良いの?」

 

タツ「え~と、そこのアイスクリーム一つ・・・」

 

チェ「いぇーい、やったー!えーとねぇ・・・特サイズでそれに紅茶味トッピングで♪」

 

タツ「あるのかよ、そんなの!?」

 

店主「あいよ、お嬢ちゃん」

 

チェ「ありがとー、うん、美味しい」

 

タツ「チェルシーは意外に渋い趣味しているよな・・・」

 

チェ「!?・・・どういう意味かな、それ?」

 

タツ「ん?ヨガとかこないだやってたよな?健康に気を使ってたり、良いと思うぞ、うん」

 

チェ「・・・他の意味とか無い?」

 

タツ「他とは?」

 

チェ「・・・なんでもない」

 

タツ「ああ・・・、マインみたいに永遠の39歳とかそういう意味か?」

 

チェ「ちょ!!あたしまだそんな年じゃないから、年下のマインよりも若く見えるから!」

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

マイ「誰が、39歳よ!!アンタもね、そんな風にからかってたら直ぐにその年になんのよ!・・・ぐー・・・」

・・・寝言である。

 

 

露天商を通りを過ぎ、郊外へと歩く二人。

 

タツ「おい・・・腕に絡んでくるの止めてくれ・・・///」

 

チェ「良いじゃない・・・別に、誰も見て無いんだから・・・///」

 

・・・だが、その時!

 

 

ウェ「・・・おい、クロメ・・・その、ひっつくなよ・・・///」

 

クロ「ウェイブはもっと、慣れた方が良い・・・///」

 

そしてばったり出会う二組・・・。

 

タツ「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ウェ「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

二人して見られてはならないものを見られてしまった感が拭えない。

 

タツ『・・・・なんでこんな最悪のタイミングに・・・』

 

ウェ『・・・タツミ、お前なんでここにいんだよ?・・・そもそもその女と付き合ってんのかよ・・・』

 

二人とも相手の出方を伺っている・・・、

 

チェ『・・・確かイェーガーズの・・・、ふっ・・・』

 

チェ「・・・ねぇ?知り合いの人?」

 

タツ「い、いや・・・」

 

チェ「そう、じゃあ・・・」

会釈して離れていく二人

 

クロ「・・・・・・・」

 

ウェ「・・・なんだ、タツミ?・・・あいつ・・・確か元々隊長と・・・でも冷めたのか・・・う~む・・・クロメ、どうした?」

 

クロ「・・・ちょっと・・・ううん、なんでもない」

 

大分離れた場所にて

 

 

タツ「・・・そうか、ウェイブの奴、クロメと付き合う事になったのか・・・そうか」

 

チェ「イェーガーズの二人?ふふっ、確かにそんな雰囲気だったね・・・でもなんで素知らぬ振りをしたの?」

 

タツ「いや・・・恥ずかしかったから」

 

チェ「もうぉ良いじゃない、公然の仲になろうよ?」

 

タツ「チェルシー!お前の面があの二人に割れてたらどうすんだ!」

 

チェ「あはは、そりゃそうだね。けどあちこちで活動してたから直ぐには判んないと思うよ」

 

タツ「だと良いがな」

 

チェ「タツミは心配症だよ・・・」

 

二人は会話に華を咲かせながら宿を取り、別々の部屋を取った。

 

タツ「じゃあチェルシー、俺は奴の・・・まぁなんでも良いや、ナジェンダが見て納得しそうなものを持って来る」

 

チェ「うん、じゃあ気を付けて」

 

タツ「ああ」

そう言ってタツミは帝具シャンバラを使って消える。

 



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自戒

 

 

 

チェ「ふぅ・・・なんでタツミってあんなに色んな帝具を使いこなせるんだろ?反則だよ・・・」

 

タツミの消えた部屋のベッドで寝転がり手持無沙汰なチェルシー、そこに窓から蛾が入って来る。

 

その時、反射的に髪に隠した仕掛け針を抜いて、蛾へと投げつける。蛾は両羽を貫かれ壁に縫われる。

一瞬彼女の目が光り、仕留める恍惚に浸るが・・・直ぐにそんな自分に気付き軽く自己嫌悪する。

チェ「あ・・・、ごめんね・・・」

 

蛾を針から解放し、よたよたしながら飛び去って行ったが、やがて落ちて行った。恐らく長くはもつまい。

 

チェ「長年染みついた(殺しの)習性は・・・そう簡単に落ちないか・・・」

哀しげに針を回す。

 

 

 

安寧道、ボリックの部屋

 

タツ「さてと、これを持っていけば良いか・・・しかし、あいつ帽子一体いくつ持ってんだよ?それも同じやつを・・・誰だ!?」

 

物陰から現れるスズカ

スズ「・・・誰だとはご挨拶ね・・・それはこっちの台詞じゃ無い?」

 

タツ『スズカか・・・』「ああ・・・俺はボリックさんの使いの者で彼に頼まれて衣類を持ち運びに来たんだ・・・」

 

スズ「本当・・・?・・・ふ~~ん」

 

スズカはタツミの周りを回りいぶかしんでいる。

 

タツ「・・・・・・それでは俺はこれで・・・」

会釈して立ち去ろうとするが・・・

 

スズ「待って!くんくん」

 

タツミは後ろから羽交い絞めにされ、匂いを嗅がれる。

 

スズ「う~~ん、どうも君からボリック様本人の匂いがするんだけど・・・どうしてかな?」

 

タツ『!?・・・女は男より嗅覚鋭いと聞くが・・・お前ら(エスデス含む)鋭過ぎだろ!!』

 

スズ「ねぇ・・・どうも妙なんだよね・・・皆余り気にして無かったけど、ある時を境にボリックは変わったんだよね・・・君何か知っているでしょ・・・洗いざらい吐きなよ・・・優しくするからさ・・・」

そう言ってスズカは後ろからタツミの頬を舌で舐める・・・そして・・・

 

ズドン!!

 

スズ「ぐっ・・・」

スズカはいつの間にか地面に叩きつけられ、首を抑えられる。

 

タツ「・・・ここで見た事聞いた事、全て忘れて貰おうか・・・」

 

スズ「ぐ・・・『・・・どうやらビンゴみたいね・・・ふふふ』

 

 

虚六郊外

 

人通りの無い、路地を歩くチェルシー

チェ「はぁ~あ、タツミ何やってんだろ?早く帰って来ないかな・・・」

何ともなしに気晴らしに外を出歩いていた。

 

チェ「・・・誰?」

 

クロ「・・・流石、殺し屋の一味、察しが良い・・・」

 

クロメが物陰から八房を片手に姿を現す。

 

クロ「どうも怪しいと思って手配書類を調べたら、反乱軍の手先、チェルシー・・・、お前一人くらいならあたし一人で十分!治安を乱す輩はイェーガーズが狩る!」

 

チェ『・・・アカメの妹・・・』

 

クロ「それに・・・あんなでもタツミは私達の仲間・・・、お前、タツミに近付いて何をする気だ!」

 

チェ『ははー・・・そういう事・・・』

チェルシーは満面な悪女面で、

「・・・馬鹿なイェーガーズの男・・・くくく、あいつあたしに首ったけさ、だけどあいつはもう用済み・・・聞けるだけの事は聞いたからね・・・後で始末するさ!?」

 

クロメはチェルシーが言い終わるや否や抜刀し袈裟斬りに来る。それを寸でかわし、チェルシーは針をクロメの右肩に刺した後、素早く逃走を図る。クロメはそれでも片手で八房を薙ぎ払い、チェルシーの首の皮を裂き、一筋の血が流れる・・・。

 

チェ「じゃあね、間抜けなお菓子っ娘ちゃん!」

 

クロ「くっ!逃がさない!・・・ん!?」

 

クロメの靴の先端と地面を縫いつけるように針が刺さっている。チェルシーはもう何かに化けたのか姿が見えない。

 

クロ「・・・、ちっ・・・八房が発動出来てれば・・・あの飴BBA・・・恐ろしい女・・・」

 

 

 

逃走中のチェルシー

 

『ふぅ・・・危なかったぁ・・・、タツミと特訓しといて良かったぁ・・・』

 

二人の泊まっている宿に戻ると、タツミは既に帰っていた。

 

タツ「チェルシー、あんた何処行ってたんだ・・・、どうしたその首の怪我?」

 

チェ「ちょっとねぇ・・・、ドジっちゃった・・・ま、大した事は無いよ・・・あはは、実はクロメに見つかってさ、あたしの事ばれてた!」

 

タツ「なんだと!?・・・クロメはどうした?」

 

チェ「とりあえず足止めしただけだよ」

 

タツ「う~~~む、とりあえずあいつらに顔を見せてくる・・・」

 

チェ「タツミはあたしに誑かされているって、クロメは思ってたよ・・・意外に仲間思いなんだね、アカメちゃんの妹は・・・」

 

タツ「・・・ははは、あいつの仲間意識は歪んでんだがな・・・それでも少しはマシになったか・・・だが誑かせているのは的を得てるな・・・」

 

チェ「何言ってんさ!ひどー!」

 

タツ「とにかく、俺はあいつらの所へ行ってくる、一人になっても気を付けてな」

 

 

 

安寧道休憩室

 

シュ「観念して、死を受け入れろ!もはやお主に道は無い!」

 

ウェ「くっ・・・まだだ、まだ俺は負けちゃいねえ!」

 

シュ「ほぉ・・・?どれそれでは飛車取り、その二手後は王手じゃな」

 

ウェ「だ――――――!」

 

シュテンとウェイブは将棋の最中でたった今、勝負が着いたようだ。

 

シュ「はっはっは!何度やっても同じじゃ!」

 

ウェ「かーーーー、勝てねえ・・・ああ、もう一回!」

 

シュ「良かろう、何度でも相手してしんぜよう」

 

そこにクロメが帰って来る。

 

シュ「うむ?おお、お嬢ちゃんお帰り・・・ぬしの妻が帰って来たぞ・・・くくく」

 

ウェ「う~む、今度はこの手で・・・ん?おお、クロメお帰り・・・って、べべべべ、別に俺達はそんなじゃ・・・///」

 

クロ「ウェイブ・・・」

 

ウェ「んん?いや、違う、違うぞ、クロメ!そういう意味でも無い訳では無い様な・・・いやえーと」

 

クロ「・・・・・・」

 

ウェ「悪い、シュテンさん・・・ちょっと席外すわ・・・また今度な?」

 

シュ「む?ああ・・・判った、では儂もそろそろイバラとメズと交代してくるか・・・ではな、お二人さん」

 

クロメが使っている部屋に行き、そして

 

ウェ「どうした、クロメ?怪我でもしたのか?」

 

クロ「・・・流石だね、ウェイブ、やっぱり判っちゃう?」

 

ウェ「当たり前だろ!動きが微妙におかしいぞ、何があったんだ?」

 

クロ「・・・あたし一人で片付けようと思ったんだけど、あたし達がさっき会ったタツミと一緒に居た女、反乱軍の暗殺者・・・」

 

ウェ「あの女がか?・・・なんで一人で行ったんだよ!」

 

クロ「ウェイブには人を・・・しかも女を殺させたくないよ・・・ふふふ」

 

ウェ「・・・っつ、馬鹿だな・・・クロメ、お前・・・」

 

 

 

タツ『・・・どうしたものか・・・中に入りづらい・・・』

 

 

 

クロ「タツミはあの女に騙されている・・・一応仲間だから・・・なんとかしなくちゃ・・・」

 

ウェ「そうだ・・・タツミ、なんであそこに居たんだ・・・?あいつ確か帝都にいるはずじゃあ・・・」

 

クロ「隊長に言われて、ウェイブを監視に来たとか・・・?くすくす」

 

ウェ「な!?・・・ああ、そういえば!・・・たたた、隊長が決めた、帝都に帰って来るよう言われてた期限が過ぎてやがる・・・ま、不味い・・・!こ、今度はソフト拷問エヴォリューションどころじゃすまねえぞ!・・・まままま、まずいー!!まだ俺は死にたくねェ・・・!」

 

クロ「大丈夫だよ、ウェイブ・・・あたしに任せて!」

 

ウェ「クロメ!」

 

クロ「あたしから隊長にせめてソフト拷問レヴォリューションで留めて貰うように言うから」

 

ウェ「・・・・・・・、あ、ありがとなクロメ、お前の優しさに涙が出るぜ・・・」

勿論皮肉である。

 

タツ『やっと中に入れる・・・』「よぉ、お二人さん久しぶりだな」

 

ウェ「な!タツミ!」

 

クロ「タツミ・・・」

 

二人はぱっと離れる。

 

ウェ「お、お前・・・えーとな、聞く事が多いな、まずはだな・・・」

 

クロ「・・・あの女とはどこまですすんでるの?」

 

ウェ「そうそう、それは俺も気になってた事・・・って違うだろ!・・・あいつ、お前と一緒に居た女な、反乱軍の暗殺者だぞ!」

 

タツ「なに!?本当かそれ!?」

 

クロ「うん・・・間違い無い・・・」

 

タツ「ん?いや、だけど・・・、俺達は愛し合っているんだ・・・彼女も説得すればきっと判ってくれる・・・」

 

クロ「タツミ・・・悪いけど、あの女はタツミを利用する事しか考えて無い・・・それに、情報を聞き出し終えたから貴方を始末するって言ってた・・・」

 

タツ「なんだと・・・、ちっ・・・ちきしょう・・・・・」

悔し涙を浮かべて見せる。

 

ウェ「タツミ・・・」

 

タツ「判った・・・有難なクロメ・・・あの女は俺が始末付けとく・・・俺一人にやらせてくれ!」

 

クロ「気を付けて・・・、並みの相手じゃないから」

 

タツ「ああ・・・」

 

ウェ「・・・よし、その件はタツミに任せるとして、・・・タツミお前どうして虚六に来たんだ?」

 

タツ「・・・隊長がウェイブ早く帰って来いと、それを伝えに来たんだ・・・ボリックの件はクロメに任せてと、あと確か“ウェイブの奴め・・・ソフト拷問ファイナルアンサーだけでは済まんぞ”とか言ってたような・・・」

 

クロ「ファ、ファイナルアンサー・・・あ、あの・・・」

 

ウェ「あ、あばばばばば・・・ク、クロメ・・・そ、そんなきついのかそれ?」

 

クロ「あたしも噂にしか聞いた事無いんだけど・・・確か生きて帰って来れた者はいないとか・・・『くすくす・・・ウェイブかわいい』

 

ウェ「おい、それ半分死刑だろ!いやそれもう死刑だろそれ!・・・ち、ちくしょう!こうなったら隊長と刺し違えるまでだぁああああ!」

 

タツ『くくくくく・・・』「じゃあ用件だけ伝えたからな・・・俺は別に宿を取っているから明日にはもう帰る・・・ウェイブも早く帰れよ・・・じゃあ最期の夜を過ごしてくれよお二人さん」

 

 

 

ウェ「・・・ちくしょう・・・笑えねェよ・・・」

 

クロ「大丈夫、どんな事があってもあたしはウェイブの味方だから・・・」

 

ウェ「クロメェ・・・」

 

 

 

タツミは宿に向かう道すがら

「・・・愛し合っているか・・・フッ、嘘とは言え我ながららしく無い事を・・・」

 

そして宿にて

 

タツ「・・・くくく・・・ウェイブは本当良い奴だ、面白い奴だ・・・そして良い奴だ・・・くくく・・・いひひひ」

 

チェ「・・・どうしたの?帰って来るなり思いだし笑い?いやらしー」

 

タツ「いや、あいつ本当面白いんだこれが、今時あんな帝都には似合わない純朴な奴でさぁ・・・ああ、面白ぇ・・・」

 

チェ「へぇ・・・そんな人なら一度話してみたいな・・・うふふ」

 

タツ「ああ、・・・何読んでんだ?」

 

チェ「ん?地方紙・・・なんか面白い記事書いてないかなぁって」

 

タツ「おお、じゃあ俺も見せてくれよ」

 

チェ「はいよ♪」

 

タツ「なになに、“安寧道立ちあがる!?民衆救済の為、対決辞さず”か・・・」

 

チェ「あと特にこれといって目立つ記事は無いよ」

 

タツ「そうだな、・・・“帝国将軍、反乱軍と内通か!?政府、許し難き所業と断罪、明後日処刑”・・・んん!?」

 

チェ「・・・どうしたの?」

 

タツ「いや・・・なんでもない・・・」

 

チェ「もぅ、貴方がそんなに驚くなんて余程の事でしょ?見せてよ・・・え~と、政府関係筋に因ると若くして功績名高いエスデス将軍と思われる。何故彼女が変節したのか未だ詳細は不明で追って調査中との事・・・」

 

タツ「・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・」

 

しばらく長い沈黙が訪れた後、

 

チェ「・・・助けるの?」

 

タツ「・・・まさか・・・」

 

チェ「そうよねぇ・・・、あたし達の仲間もあいつの部下や軍に殺されたは・・・エスデスなんて処刑されて良い気味よ・・・」

 

タツ「ああ・・・、全くその通りだ・・・」

 

チェ「・・・・・・、あたしなんか疲れたからもう寝るわ・・・お休み・・・」

 

タツ「・・・ああ、お休み・・・」

 

チェルシーはタツミの部屋から出ていき、自分の部屋に入り扉を閉め、

 

チェ「・・・ばか・・・」

 



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誰が為に明日の鐘は鳴る

 

 

 

 

 

帝都宮殿地下牢屋

 

エスデスは鎖に繋がれ、身動きが取れない状態にある。その牢屋前にブドーがやってくる。

 

ブド「・・・・・・・」

 

エス「・・・フン、ブドーか、練兵場での稽古は良いのか・・・お前も暇な事だな・・・」

 

ブド「エスデス・・・、お前は陛下に、帝国にもっと忠誠を誓っていたと私は思っていたのだが・・・見込み違いだったか・・・」

 

エス「ふっ・・・だからお前は堅物なのだ・・・、この私が、あの皇帝に?帝国に?ははは!私の生きる理由は闘争と蹂躙だ・・・それ以外には無い・・・それを行うに将軍が適していたというだけの事・・・ふふふ、こんな私が将軍になれたのだ・・・成程、(タツミの言う通り)この帝国も長くは持たんと言う訳だ・・・」

 

ブド「貴様・・・、事もあろうに反乱軍の者と内通していたらしいな・・・、敵に寝返るほど落ちぶれたとは・・・、楽には死なせんぞ!」

 

エス「望むところだ・・・だが私は反乱軍の者と内通した覚えは無いぞ」

 

ブド「・・・証言がある・・・今更偽りを言ったところで有利にはならんぞ」

 

エス「その男はその気になれば反乱軍も我々帝国も壊滅させられるだろうな・・・」

 

ブド「・・・何を馬鹿な・・・、エスデス貴様狂ったか、そんな奴など居はしない、夢でも見たか?・・・千年続いたこの帝国、この私が居る限り滅ぼす等不可能だ!」

 

エス「・・・、ふっ・・・」

 

そこに拷問官が数名やってくる・・・。彼らは全員、顔が判らぬよう拷問官専用の仮面を被っている。

 

「ブドー様、エスデス将・・・この女を俺達で拷問に掛けて宜しいですか?」

 

エス「・・・・・・・・」

 

「この女から教わった事を実践させてやりたいんで、いっひっひ」

 

ブド「馬鹿者!!」

 

「「!!??」」

 

ブド「裏切り者ではあるが、卑しくも元は帝国将軍・・・例えこやつとて武人の誇りぐらいはあろう・・・せめてもの情けだ・・・明日まで心静かに死を受け入れさせる準備でもさせておけ・・・」

 

「しかしオネスト様が・・・」

 

ブド「私の言う事が聞けんのか!!貴様らぁああ!!!」

 

「「は、はい、失礼致しました!!!」」

 

とっとと逃げていく拷問官達

 

 

 

『・・・ふ~む、ブドーはこういう男か・・・』

 

 

 

 

エス「・・・ブドー、どういう風の吹き回しだ・・・」

 

ブド「フンッ、・・・明日の処刑は簡単には終わらん・・・万全の状態のお前が何処まで耐えられるか・・・それの為だけだ・・・あっさり死なれては公開処刑の意味が無くなるからな・・・」

 

エス「・・・・・・・」

 

ブド「しかし貴様は部下には好かれているようだな・・・見ろ、これだけもの貴様の助命嘆願書が来ていたぞ・・・」

 

エス「・・・・・・・」

 

だがブドーはそれを破り捨てる・・・

 

ブド「今後はもう二度と反乱分子が生まれんよう、大臣めが話を誇張するだろうが、まぁ良い・・・もう貴様のような不心得者が出無ければそれでいい・・・反乱軍を討伐した後は次は大臣を手始めに内部の大掃除だ」

 

エス「内部の大掃除か・・・お前如きに出来るのか?ブドー」

 

ブド「口の減らん小娘だ・・・その状態で用は足せるか・・・?お前も栄えある帝国将軍、粗相などされたらこちらも叶わん、抵抗せずに大人しく従うならばその鎖、ほどいても良いぞ・・・だが妙な動きをすればこの場で殺す!」

 

エス「見くびるな!・・・貴様らの体面などでは無く私自身のプライドに掛けてせん!」

 

ブド「ふっ、その言葉忘れるな・・・、せいぜい明日は最期まで足掻け・・・ではな」

 

ブドーが去って行き、一人になるエスデス。

 

エス「・・・タツミ・・・・」

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

ナジェ「なんだと!?あのエスデスが?・・・本当なのか?」

 

ラバ「はい・・・、確かな筋からの情報です・・・密偵からも報告はありませんでしたか?ナジェンダさん」

 

ナジェ「確かにあるにはあったが、俄かに信じ難かったからな、そうか・・・、ラバ、お前が掴んできた話なら本当のようだな・・・これで・・・これでこの目と腕の仇が取れる・・・」

 

ラバ「良かったですね、ナジェンダさん・・・」

 

ナジェ「ああ・・・、しかしタツミはエスデスを自分の言いなりにしたと言っていたが・・・、用済みになったから処刑されるよう仕向けたのか・・・?」

 

ラバ「さぁ・・・そこまでは・・・俺も流石に、う~む?」

 

ナジェ「まぁ良い・・・、タツミが帰って来たら聞くとしよう・・・よし、明日変装して私一人で見に行く!」

 

ラバ「ナジェンダさん、俺を護衛に付けて下さい!」

 

ナジェ「・・・判った、良いだろう・・・他のメンバーにはアジトで待機と伝えてくれ」

 

ラバ「了解」

 

ナジェ『しかし・・・今までそういう情報も流れず・・・緘口令でも敷いたか?処刑への流れが急過ぎる』

 

 

 

宮殿皇帝専用会食の間

 

皇帝「大臣!どういう事だこれは、余は聞いていないぞ!」

 

オネ「・・・陛下・・、まずはお静まり下さい・・・」

肉を食べながらのんびり応えるオネスト

 

オネ「全く・・・非情に残念で御座いますが・・・エスデス元将軍に反乱の兆候が見受けられました・・・その為、陛下に置かれましては・・・今まで陛下の為に働いて来たエスデス将軍の処断を決められるのは心痛余りあると察し、不肖このオネスト、私の独断で判断させて頂きました・・・どうかお許し下さい」

 

皇帝「くっ・・・エスデスが・・・あのエスデスが・・・余を欺くなど・・・なにか間違いだ!」

席を立ち、テーブルを叩く

 

オネ「・・・そちらに添付した書類に御座います通り、証言や(ランによる)報告等、どう見ても疑いきれず、更に敵軍を見せしめに殺さず、多数生け捕りにしてくるなど・・・帝国の威信を貶める反逆も御座います・・・」

 

皇帝「余はそこまで命令した覚えは無いぞ・・・、余の国が安泰ならば敵を追い返せればそれで十分だ・・・」

 

オネ「・・・おお、陛下はなんと慈悲深い・・・、ですが、民を守るには時には非情な手段を・・・見せしめも必要です・・・私も陛下同様出来る事なら、そのような残虐な行為など・・・とてもとても・・・それに陛下・・・エスデスは実は生け捕りにした捕虜を人体実験に使い、新たに開発した危険種の餌にし、力を増させ、やがて陛下に取って変わろうと企んでいたのです・・・」

 

皇帝「・・・馬鹿な!・・・」

 

オネ「いやいや・・・本当に嘆かわしい・・・、その為、私も苦渋の決断でエスデスの処刑を決断しました・・・ですがご安心を、もうこのような不心得者が出ぬよう私がしっかりと国を変え支えて参ります・・・、その危険種の討伐も行います故、陛下は何もご心配なされずに、どうか国民の安寧の為、毅然とされていて下さい!」

 

皇帝「・・・、判った大臣・・・余はお前を信じたぞ・・・」

 

オネ「ははっ!例えこの国が滅ぼうとも私の陛下への忠心は絶対のもので御座います・・・」

 

皇帝「余は少し疲れた・・・少し休むぞ」

 

オネ「ははっ!」

頭を下げ、皇帝が去った後、にやりとほくそ笑む。

 

 

ドロテア研究室

 

ドロ「おお・・・大臣、話は進んでおるようじゃな・・・」

 

オネ「ええ・・・、あの小僧の相手は疲れます・・・いくら皇帝と言ってもまだまだ子供ですからねぇ・・・」

 

ドロ「はははっ!確かに妾からみれば、子供も子供・・・、大臣よ、いずれあの小童、カライを亡き者にするのであろう・・・先代皇帝をも事故死させたように・・・」

 

オネ『外見だけで見ればあの小僧も貴女もお似合いですがねぇ・・・』「先代様も中々偉大な方でしたが・・・、あのような志半ばで崩御されるとは・・・、いやいや全く持ってお可哀想に・・・」

 

ドロ「くくく・・・、とんだ策士じゃな、お主も・・・」

 

オネ「しかしドロテアさん・・・何故、私の過去に気付かれたんで・・・?」

 

ドロ「・・・お主の息子、シュラが教えてくれたのじゃ・・・酒の相手をしたらベラベラ喋ってくれたぞ・・・ああ見えて親父さん思いじゃたのーあやつも・・・」

 

オネ「・・・・・・、まぁ良いでしょう・・・それよりもお仲間はその後の事は判りましたので?」

 

ドロ「はぁ・・・困ったものじゃ・・・、チャンプは無惨にも殺され、エンシンは行き方知れず、そして、あのイゾウも首を斬られて死んでおった・・・あれは相当の手練の仕業じゃな・・・」

 

オネ「ほぉ・・・それ程の、ですがエスデス程では無いでしょう・・・?」

 

ドロ「判らぬ!あやつも妾の居た国のどの猛者よりも強かろうが、ひょっとしたら奴をも超えるかもしれん・・・」

 

オネ「・・・、エスデスが内通していたと思われる男は私の部下が始末したと報告を受けてますから・・・ひょっとしたらその者の仕業かとも思いましたが違うようですね・・・やはりナイトレイドですかね・・・、どちらにせよ、貴女という最後の切り札に期待しておりますよ」

 

ドロ「うむ、妾に任せよ・・・勝算はある」

 

オネ「さて死んでいった無能には興味ありません・・・ところでコスミナさんは?」

 

ドロ『割り切りの良さは息子以上じゃな・・・』「コスミナも銃弾で撃たれ生死の境じゃったが一命は取りとめた・・・大した生命力じゃ、もっともただ復活させる訳では無い・・・」

 

コスミナは楕円形の球体の中におり特殊な液体で満たされ、生命維持装置を付けられながら、肉体を再構築強化手術を施され、徐々に元の彼女とは違うものへと変化している。

 

ドロ「妾の手駒が全ていなくなった以上、こやつを使って最強の帝具を超える危険種を造って見せるぞ!・・・最強をこの手で造り妾の世とする、それが妾の悲願じゃ・・・その為に長寿術を自分に施し生き永らえて来たのじゃ・・・ははは!」

 

オネ「それは頼もしい・・・、工房それに研究室提供をした私にもいくらか恩恵を下さいよ・・・」

 

ドロ「勿論じゃ、そなたの私兵として人型危険種を数十体控えさせておるぞ」

 

オネ「いや、あっはっは、これは仕事が早い・・・」

 

ドロ「じゃがな・・・コスミナをもっと強くする為には栄養がまだ足りん」

 

オネ「そこは抜かりなく、エスデスが連れて来た捕虜を餌にしましょう・・・エスデスを信じて連れて来られた捕虜共もさぞ彼女を恨むでしょうね・・・くくく」

 

ドロ「ふふふ、愚かな民や兵隊共にはお似合いな末路じゃ・・・とはいえ、こやつも哀れな女じゃ、自分の歌声が人心を惑わせるという罪で魔女裁判で家族を焼き殺されるとはな・・・」

 

オネ「・・・・・・」

 

ドロ「自分一人生き延び、壊れてしまった・・・ふっ、愚民共が特異な能力を恐れ、恐怖を抱くのは万国共通じゃな」

 

オネ「・・・貴女も特異な能力をお持ちだから、愚民達に復讐しようと?」

 

ドロ「ふっ・・・大臣そなたの夢はなんじゃ?」

 

オネ「聞きたいですか?・・・私は・・・」

 



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中立

 

 

 

 

 

タツミは宮殿内廊下を疾る!だが急に立ち止まる。

 

タツ「・・・・・・・」

 

ランが物陰から姿を現す。

 

ラン「・・・よく判りましたね」

 

タツ「ランさん、貴方・・・気配を隠すのが上手いですね・・・」

 

ラン「・・・懐かしい話です・・・昔はよく生徒達とかくれんぼをして見付けて貰うのに苦労しました。・・・もう遠い話ですね・・・」

しばしランは遠い過去に思いを馳せる。

 

タツ「つかぬ事を聞きますが・・・・・・あんた、只の人間じゃないな!」

 

ラン「それはこっちの台詞ですよ?君こそ何者なんです?」

 

タツ「・・・・・・」

 

ラン「・・・・・・」

 

タツ「その話はまたいずれ・・・」

 

ラン「そうですね・・・ですが・・・これから貴方は何処に行くんですか?」

 

タツ「・・・ちょっと忘れ物を取りに・・・」

 

ラン「それでしたら代わりに私が取りに行きますか?・・・エスデスの命を・・・」

 

タツ「・・・!・・・・・・」

 

ラン「・・・何故彼女を助けに?君だって憎んでいたのではないのですか?あの女の事を・・・」

 

タツ「ええ、勿論ですとも・・・あの女の処刑される様を一等席で見たくて急いでいるんです」

 

ラン「・・・ならその席はあっちではなくて、こちらの道ですよ」

 

タツ「あーそうだったんですね・・・すみません、方向音痴なもんで」

 

ラン「ははは・・・・、猿芝居はお互い止めにしませんか?」

 

タツ「・・・・・・エスデスは殺す時が来たら、俺が殺す・・・だから誰の手も借りん!」

 

ラン「ふっ・・・、元々エスデスを罠に嵌めたのは私ですが・・・やはり君が助けに来ましたか・・・」

 

タツ「やっぱりあんたがあいつを罠に嵌めたんだな?」

 

ラン「ええ、そうです・・・彼女は例え大臣の命令だったとはいえ、10の指で数えらない程の戦争犯罪を犯してますからね・・・とはいえこの国では裁かなかったので歯痒ゆかった。だからそうなるように・・・そうそう、彼女が内通していた男は私が始末したと報告しておきましたよ・・・あの下衆大臣に・・・」

タツミは次に何を言えば良いか逡巡した。そして、

 

タツ「・・・・・・まさか、貴方の縁者か誰かエスデスの手に掛って?」

 

ラン「・・・・・・、エスデス本人かどうか判りませんが、エスデス軍の誰かに殺されたのは判っています・・・出来る事ならタツミ君・・・このまま奴の処刑を見届けてくれませんか?」

 

タツ「くっ・・・・・・」

 

ラン「・・・・・・・・殺されたのは私の妻なんですよ・・・」

 

タツ「・・・・・!!!」

 

ラン「・・・・・・それでも助けに行くのですか?」

 

タツ「・・・・・・ぐっ・・・ランさん・・・申し訳ない・・・もしまた今度あいつが殺人を犯そうものなら・・・俺の手で八つ裂きにする!」

 

ラン「・・・・・そんなにあの女の事が好きなんですか?」

 

タツ「・・・いや、これは俺があいつを今まで利用してきた・・・その責任を負う為だけだ・・・」

 

ラン「・・・そうですか・・・もう何も見無かった事にしておきます・・・」

 

タツ「恩に着ます!」

 

タツミは疾走していく・・・。

 

ラン「・・・ふっ・・・私も甘くなったものだ・・・」

 

 

エスデス処刑当日、天候は晴れ、風も無く穏やかな日であった。

 

宮殿地下牢屋

 

ブド「・・・エスデス、今日で最期だな・・・何か言い残す事は無いか・・・」

 

エス「・・・無い・・・」

 

ブド「最期に聞いてやる・・・、私の次の位の将軍として毅然とした最期を迎えろ・・・見苦しく泣き叫ぶなよ・・・」

 

エス「ふっ・・・それがどうした?」

 

ブド「判らぬか?・・・ならば判り易く言ってやろう・・・、今ここで自分で首を吊れ、痛みもさほど長く無かろう・・・貴様が泣き叫ぶ様を見て喜ぶ輩など見苦しい、私の独断で公開処刑はお前の死体で構わんからな」

 

エス「余計な気遣いだ・・・私は最期まで生きてみせるぞ・・・」

 

ブド「・・・ほぉ、良い心意気だ・・・その心もっと帝国に陛下に向けられていれば良かったものを・・・何処で道を間違えた・・・残念だ・・・」

 

エス「フンッ!余計な御世話だ・・・」

 

ブド「・・・連れて行け!」

 

「はっ!!」

部下達がエスデスを拘束したまま処刑場へと連行して行く。

 

エスデスは暗く長い長い道のりを歩き、そしてとうとう外気に触れる。

 

「エスデスだー!」

 

「この裏切り者ー!」

 

公開処刑場には観衆が詰め寄り、罵声、怒声が飛び交う。その中には変装した二人も居た。

 

ラバ「・・・やっぱりエスデスですよ」

 

ナジェ「この目で確かめるまでは半信半疑だったが、本当に・・・」

 

 

ブド「良いかお前ら・・・、エスデスを救い出そう等と企む輩がいるかもしれん・・・、外にも気を配れ、良いな!」

 

「はっ!!」

ブドーの部下達は頷き持ち場に散らばる。

 

 

そこに一際豪華な観覧席に皇帝カライとオネストが訪れる。そして演説を始める。

 

オネ「あー静粛に・・・、皇帝は気分が優れず、お言葉を賜れず、私が代わりに・・・」

 

 

観客席でも思い思いの事を話している。

「そうだよなーエスデス将軍が裏切るなんてなー」

 

「皇帝陛下も可哀想に・・・」

 

ナジェ「・・・・・・」

 

 

オネストはエスデスの罪状を読み上げ、重税の原因等、罪の半分以上は彼女が直接行ったものとして擦り付けを行い、それを美辞麗句で並べ立てた。

 

 

ブド「・・・ちっ・・・大臣め・・・」

 

 

 

エスデスは中央の広場へと連行されその場所には十字架型の処刑台が設置され回りには拷問と死刑を同時に行うような凶器の数々が置かれていた・・・。

 

エス『ふっ・・・、まさか、この私がこのような場に立つ日が来る事になるとはな・・・、私が弱かった・・・それだけの事・・・・・・、今まで処刑して来た者達もこのような心境だったのか・・・、まぁ良い・・・』「おいブドー!・・・世話になったな・・・」

 

ブド「・・・来世で今度こそ忠臣になれ・・・」

 

エス「ふっ・・・だが断る!」

 

ブド「ふっ・・・ならば最期までその威勢貫いてみせよ・・・」

 

エス「・・・おい、お前、私がかつて教えた通りにやれ・・・、上手くいかなければ死んだ後私が貴様を呪い殺すぞ・・・ふあはははは!」

 

「・・・・・・・」

その拷問官は黙ってそれを聞いている

 

音楽隊がセレモニーを流し・・・、それが終わると処刑の合図であった。

 

ブド「・・・ふんっ、つまらぬ事を・・・勿体ぶらせおって・・・これから死に逝く者への不敬だ・・・構わん・・・おい、お前もう始めろ!」

 

「・・・・・・」無言で本当に良いのかと尋ねる

 

ブド「私の権限で許す」

 

「・・・・・・」頷き、そして始める。

 

 

エス『・・・ふっ・・・、これが最後の景色か・・・こうも雲一つ無いとは・・・タツミ、最期に一目会いたかったぞ・・・、次の世で結ばれたい・・・さらばだタツミ・・・』

 

拷問官はまずは手裏剣を取り、エスデスに投げつける。

そして、彼女の軍帽に刺さり、処刑台板に縫い付け、続けざま、顔面直ぐ横に何本か投げて刺す。

 

ブド「・・・ほぉ・・・だが余り楽しむな・・・おい、お前名を聞いておこう・・・」

 

「・・・・・・」首を振り、頭を下げる・・・。

 

ブド「いや許す、話せ」

 

「・・・・・・」

 



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体面を斬る!

 

 

 

 

 

ズドガシャン!!!

 

その時、爆音が鳴り響く、

 

ブド「何事だ!」

 

ブドー直属の部下達が急を知らせに来る。

「将軍!何者かが外で暴れております!」

 

ブド「うろたえるな!精鋭部隊で鎮圧に当たれ!刑はそのまま私が責任を持って続行にあたる、行け!者共!」

 

「「はっ!!」」

 

 

 

そこでは、セリューとコロが暴れていた。彼女は覆面をして応戦している。

 

セリ「コロ、大勢来たよ!じゃあ奥の手!」

 

コロ「きゅい!!」

 

コロは巨大化した状態で、周囲に三半規管を狂わせるような、咆哮を浴びせる。

 

「ぐっ・・・なんだこれは・・!」

 

「ちっ・・・進め!賊は一人と生物型帝具だけだ!」

 

 

セリ「よし、この辺で良いっか!コロ、行くよ!」

 

コロ「きゅい!」

 

飛行型危険種に乗り、彼女達は空へと逃げる。

 

「くっ・・・逃がすな!」

 

「今、飛行型を連れてくる!」

 

「絶対逃がすな!」

 

 

 

それを遠くから望遠鏡で眺めるラン

「おやおや、・・・セリュー・・・、成程・・・無事逃げ切れると良いですね」

 

 

見物人達もざわつき始めている・・・

 

ナジェ「なんだ一体・・・?」

 

ラバ「まさかエスデスを助けに来た連中ですかね?」

 

 

 

 

ブド「・・・陛下に万が一の事があっては事だ・・・、良いか直ぐに戻って来る、お前は持ち場を離れるな、良いな!」

そう言って、場を離れる。

 

 

エス「・・・おい、そこの拷問官、何をぼーっとしている・・・さっさと始めんか?この私が怖いのか」

 

「・・・・・・」

 

その者はエスデスの鳩尾へ強烈な一撃を加える

 

エス「がはっ・・・・ぐふ・・・が・・・、はぁはぁ・・・くっ・・・『これは骨が折れたか・・・』・・・ははは、どうしたそんなものか・・・素手で私を殺すつもりか・・・甘く見られたものだな・・・くくく・・・うぐ・・・」

 

「減らず口はそこまでだ・・・別世界のお前を素手でも殺したんだがな・・・」

 

エス「・・・・・・・・・・・・・、その声は・・・タ・・・ッ・・・・・ミ・・・、嘘だ・・・これは夢か・・・?」

 

「なんなら、もう一発いくか?」

 

エス「・・・いや、もう良い・・・、本当に死んでしまいそうだ・・・だけど、タツミ・・・うううう・・・くああああ・・・・」

 

「お前でも泣く事有るんだな・・・見直したぞ」

 

エス「タツミ、いつから紛れ込んでいたんだ?匂いも判らなかったぞ」

 

「その匂いをごまかすのは苦労した・・・お喋りはここまでだ、逃げるぞ!」

 

エスデスの拘束を解き、自由になったが胸を苦しそうに抑える。

 

「・・・お前が何処まで拷問に耐えられるか試して見たかったんだが・・・残念だな」

 

エス「・・・タツミに攻められたら直ぐに根を上げてしまうぞ、私は」

 

「ドSは打たれ弱いもんだな・・・」

 

 

 

 

セリ「いやっほーいぃ!!」

 

コロ「きゅーーい!」

 

 

 

飛行する危険種を操りセリューとコロが近くまで来る。

 

エス「・・・セリューか・・・」

 

セリ「隊長・・・いえ、エスデスさん、お久しぶりです!」

 

「セリュー流石だな、予定通りだ!・・・さぁエスデス、早く乗れ!」

 

セリ「えへへ///・・・さぁ早く乗って下さい!」

 

エス「タツミ!お前はどうするんだ!」

 

「俺は後から行く・・・セリュー、エスデスを頼む!」

 

セリ「了解・・・!タツミ君も気を付けて・・・あ!?」

 

 

ブド「・・・・・・・・・・・・」

 

 

「行け!!」

 

セリューは頷き、エスデスを連れて、空へ飛び立ち離れていく。

 

 

 

ナジェ「・・・どういう事だ?エスデスが逃げたぞ・・・」

 

ラバ「・・・まさか、あいつ・・・」

 

 

 

 

ブド「先程は名を聞きそびれていたな・・・名乗れ・・・」

 

タツミは拷問官の面を被ったまま応える。

「あいつらを追撃しないのか?」

 

ブド「ふっ・・・お前を倒してからでないと、無駄撃ちになりそうなんでな・・・」

 

タツミは指を鳴らす。すると・・・、公開処刑場の地面の至る所で・・・マグマが噴出し、見物人から悲鳴が上がり、大勢が逃げだしていく。

 

ブド「・・・ほぉ・・・大した帝具だ・・・聞こう、何故お前達は帝国に逆らう・・・」

 

「俺もあんたのように・・・国や所属する組織に疑いも無く、仕えれるのが羨ましい・・・」

 

ブド「私の家系は代々この国に皇帝陛下に仕えて来た・・・行き違いで誤解もあろう・・だが時には非情な手段を持って統治にあたるのも已むを得ん・・・それが武官というもの」

 

「・・・真の忠臣とは・・・ただ主の命令をこなしその主の地位や命を後生大事に守る事では無い・・・。主君が間違った方に進めば己の命を捨ててでも諌めるのが真の忠臣というもの・・・」

 

ブド「この私が・・・代々皇帝に仕えて来た家のこの私が、真の忠臣では無いというのか・・・!」

 

「武官だから政治に口を出さない・・・その理屈も最もだが・・・だからこそ、オネストのような逆臣に皇帝カライは良い様に利用されている・・・」

 

ブド「陛下を愚弄するとは・・・ただでは済まんぞ!」

 

「政治の世界を甘く見るな・・・駆け引きに置いてはあのオネストの方があんたよりも一枚も二枚も上手だ。真の忠臣になり皇帝を支えたくば、その方面も学んで見る事です・・・ではまた相まみえよう・・・御免!」

 

ブド「・・・・・・・・・」

ブドーはタツミが去って行くのを追撃せずに無言のまま見送った。

 

 

一方、

 

「どうした、・・・畜生!こいつら寝てやがる・・・」

 

「こっちもだ、どういう事だ!」

 

「早く叩き起こせ!」

 

飛行型の危険種達は眠らされていた。その物陰で

 

ラン『・・・エスデスを救う気は更々ありませんが・・・さて、セリューはどう変わりましたかねぇ・・・、久しぶりに彼女に会って見るのも楽しみだ・・・』

 

 

 

飛行する危険種の背中の上で

 

セリ「・・・あれれ?追手が来ない・・・タツミ君が上手くやってくれたのかな?」

 

コロの頭を撫でるエスデス

 

コロ「きゅいきゅい!///」

 

エス「・・・セリュー、お前達は田舎で暮らしていたのでは無かったのか?」

 

セリ「ええと、実は・・・」

 

 

(回想)『郊外の森に一軒の粗末な家屋の外でのんびり過ごす一人の一匹。

 

セリ「・・・今頃、皆どうしてるかなー」

 

コロ「きゅいきゅいきゅきゅい!」

 

セリ「そうだね、きっと元気だよね」

 

ザッザッ・・・

 

セリ「!?」

 

ザッ・・・

 

タツ「久しぶりだな・・・セリューさん」

 

セリ「タツミ・・・、どうしてここに?・・・何しに来たの?まさか!」

 

コロ「・・・・・・」

 

タツ「そう身構えるな・・・良い話と悪い話を持って来た」

 

セリ「良い話って」

 

タツ「人助けだ・・・」

 

セリ「・・・?悪い話って言うのは・・・?」

 

タツ「・・・エスデスが明後日処刑される・・・」

 

セリ「ええ!!??・・・隊長が?・・・はぁぁ!!嘘でしょ・・・そんなの!!」

 

タツ「・・・・・・」

 

セリ「嘘・・・どうして・・・?」

 

タツ「判らないのか・・・?」

 

セリ「・・・・・・・・・・『考えろあたし、思考を停止させちゃ駄目!』」

 

タツ「判らないなら・・・お前を誘う気は無い・・・、俺の期待外れだったな・・・すまない、忘れてくれ・・・俺一人でなんとかする」

 

セリ「・・・待って・・・あたしにも判るように教えて、お願い!」

 

タツ「・・・あんたなりの正義は見つかったのか?」

 

セリ「・・・、正義?・・・正義ってなんだっけ・・・あたしもう忘れちゃった・・・ふふ」

自嘲気味な笑みを浮かべる。それを受け一瞬驚くタツミ。

 

タツ「・・・・・・、判った。事の経緯を伝えよう」

 

 

セリ「・・・という事がありまして・・・、まぁあたしだってエスデスさんの立場に居て、帝国に反逆してたら処刑されてたでしょうね、ふふふ」

 

エス「・・・そうか・・・、だがお前、ヤケに楽しそうだな?」

 

セリ「え?・・・えー、そうですね・・・やっと自分らしく・・・っていうのも変ですけど・・・すっきりしてきました」

追手が来ないと安心したのか、覆面を取るセリュー、その横顔は清々しさに帯びていた。

 

エス「・・・・・・、成程、良かったな・・・」

 

二人と一匹は、タツミとの合流地点へと向かった。

 



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ある暇な日におけるかなり暇な人達。

冒頭の話はアメコミ・トランスフォーマーの一節です

ひとまず休憩話です


「オートボット諸君、再び正義が方位ビーコンを発している・・・詳細はまだ不明だが長く苦しく危険な闘いになるだろう・・・だがそれでも共に来てくれるか?正義の為に・・・ジャズ!」

 

「ご一緒します、プライム」

 

「ミラージュ!」

 

「私もです」

 

「トレイルブレイカー」

 

「進行方向を示して下さい」

 

他メンバーも同様であり、

 

「ではオートボット、ロールアウト!」

 

 

 

“メガトロン・・・レーザービークヨリ報告、オートボット接近中、闘イハ避ケラレナイ模様”

 

 

タツミは秘密の隠れ家で、別の場所から取り寄せた漫画をのんびり寝転がって読んでいた。異星人同士の戦いの話のようだ。

 

 

 

 

ナジェンダが廊下を歩いていると・・・

「・・・・・・?」

 

 

 

レオ「それでは点呼を取る、番号!」

 

アカ「壱!」

 

マイ「弐!」

 

チェ「満!」(※全員居るの意)

 

 

レオ「・・・ナイトレディの諸君・・・、再び正義が方位ビーコンを発している・・・詳細はまだ不明だが、命の危険も伴いそして長く苦しい闘いになるだろう・・・だがそれでも共に来てくれるか、正義の為に!・・・アカメ!」

 

「・・・隊長、進行方向を示してくれ」

真面目に答えるアカメ

 

レオ「マイン」

 

「・・・しょうがないわねぇ、骨は拾ってあげるわよ」

やれやれという風体のマイン

 

レオ「チェルシー」

 

「まぁ、乗りかかった船だからねぇ・・・」

肩をすくめおどけるチェルシー

 

レオ「ではナイトレディーズ、出撃!」

 

アカ・マイ・チェ「おー!」

 

そう言って、彼女達は今はもぬけの殻のタツミの部屋に乱入していく。

 

 

ナジェ「・・・あいつら、また人の部屋に勝手に入って行って・・・ま、私は何も見なかった事にしよう・・・、今は鬼(主にタツミ)が居ぬ間に存分に喫煙ライフを楽しもう、いやぁ誰気兼ねなく至る所で吸う煙草は旨いなあ・・・」

 

 

タツミの部屋

 

マイ「・・・隊長・・・面白いものは何もないわよ」

 

レオ「探すんだ、お前たち!・・・きっとあの手のモノがあるはずだぁ!」

 

アカ「レオーネ・・・木を隠すなら森・・・だから、本のカバーで偽装している可能性が考えられる」

 

レオ「お!?さっすがアカメ、よし、みんなしらみつぶしにカバーを捲るんだ!」

 

チェ「・・・えーとなになに、慣性物理学の法則?なにこれ?」

 

マイ「どーせ、あいつの事だから、読めもしないのに格好つけて持ってるだけよ」

 

チェ「そーゆーマインは判るのー?」

 

マイ「そ、そんなの判るに決まってんじゃない!」

 

アカ「ふ~む、近代の刀剣の歴史・・・ふむふむ・・・」

 

レオ「アカメ、そういうの興味あんの?」

 

アカ「出来れば、今日の料理の献立のような本が読みたい・・・特に肉料理のカラーで!」

 

レオ「はぁ~あ・・・お前ら!私達の崇高な目的を忘れたのか!」

 

アカ「!?」マイ「はっ!」チェ「ん!?」

 

レオ「あの何考えているか判らない、タツミの嬉し恥ずかしの内面を探し当てて、私達が優位に立つ為に弱みを握り・・・今こうして危険を承知でブツ探ししているんじゃないかー!」

 

アカ「・・・すまない、レオーネ、いや隊長・・・私が間違っていた・・・」

 

マイ「ふぅ・・・まさか、あんたに諭されるなんてね・・・やっぱりあんたがリーダーよ」

 

チェ「そうだね・・・あたし達死ぬ時は一緒だね」

 

4人は改めて自分達が運命共同体なのだと心に誓う。

 

マイ「・・・ところで、アカメ?なんであんた、タオルを懐に入れてんの?」

 

アカ「・・・ん?・・・その辺に放り投げていたからな・・・、タツミが帰ってくるまでに洗って返してやろうと思ったんだ」

 

マイ「へぇ~、優しいのね・・・じゃあ、あたしもこれ持ってって洗って返そう♪」

 

チェ「・・・・・・・」

 

レオ「チェルシー・・・あんたなんか胸大きくなってない?」

 

チェ「え?やだなー、気のせいだよ・・・そういうリーダーこそ」

 

レオ「あ、あたしは元からこれだけのナイスバディさ!」

 

 

 

夕方、タツミが帰ってきて部屋に戻るなり・・・

 

タツ「・・・?何故か良い匂いがする・・・まさか・・・」

 

そしてばれた4人に雷が落ちる。

 

 

ナジェ「・・・・・おーい、生きているかお前ら?」

 

4人仲良く、たんこぶが出来て地面につっぷしている。

 

その後、タツミは八つ当たりにボスの監督不行き届きという名目でアジト全館禁煙にしたという・・・。

 



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八方美人を斬る

「むぁぁぁあああたぁぁっくくく!!あんたぁああああ、ぶぁぁかああああ???」

 

大声でマインから罵声を浴びるタツミ。

 

「信じられない事するわね、あんた本当に!・・・はっ?なんでエスデスを助けちゃう訳ぇ??」

 

タツミはただ黙って聞いている。

 

ナイトレイドのアジト広間にて全員集合し、チェルシーも虚六から帰って来ていた。

 

ラバ「・・・あの時、エスデスを処刑から連れだしたのはほぼ間違いなくお前だと俺は睨んでいる・・・タツミ、言い分があるなら聞くぞ?」

 

タツ「どうして俺だと思うんだ?」

 

ラバ「あんな衆人環視の中、堂々とブドーを相手に公開処刑をぶち壊す奴なんてお前以外誰が居るんだよ?まっ、他にも居たが・・・主犯はお前だろ?」

 

マイ「そうよ!あんた以外誰がいんのよ?」

 

タツ「なんだ?証拠も固まっていなかったのに、俺を犯人と決めつけてたのか?怖いなー」

 

ナジェ「・・・・・・、証拠という訳じゃないが、状況証拠ならあるぞ・・・タツミ・・・お前、虚六でボリックを仕留める仕事を終えた後、チェルシーを置いて何処に行った?」

 

タツミはチェルシーを見ると、彼女はそっぽ向く。

 

ナジェ「つまり、エスデスを助け出した時、誰も他にお前を見ていない・・・となると実力的に考えてお前がやった可能性が限りなく高い・・・どうだ?もし他にあんな事しでかす奴が居るなら教えてくれ?」

 

タツ「・・・余り話を遅らせるのも面倒だ・・・そうだ、俺がやった・・・」

 

チェルシーは複雑な顔でタツミを少し睨む

 

マイ「ほら、やっぱりあんたがやったんじゃない!」

 

タツ「犯人を挙げる上で自白主義は感心しないな・・・やはり証拠主義でないとな」

 

マイ「もう!自分で言っといてなんなのよ!」

 

「マイン!タツミは犯人だと名乗った相手の話をそのまま鵜呑みにするなと言いたいだけだ」

そう言ってスサノオが助け舟を出す。

 

マイ「わわ、判っているわよそんなの!」

 

ナジェ「・・・、マイン少し落ち着け、気持ちは判るが・・・茶化すの無しでタツミが主犯なんだな・・・」

 

タツ「ああ・・・」

 

ナジェンダは頭が痛そうに少し考えた後、

「エスデスを助けたのは・・・何故だ?」

 

「タツミ、エスデスを何処かに幽閉しているなら、あたしが始末つけるぞ!」

レオーネは拳を手のひらにぶつける。

 

アカ「ああ・・・、タツミもエスデスに情が湧いてやりにくいのなら、私もレオーネに手を貸す」

 

チェルシーは何も言わないが目で賛同している。

 

ラバックは頭をかきながら

「ふ~む、・・・皆、こいつエスデスはたぶん渡さないって言うと思うぞ?」

 

マイ「はっ?どういう事よ、それ?」

 

ラバ「本人に聞いたらどうだ、なぁタツミ?」

 

顔をしかめながら

タツ「ああ・・・、エスデスにはまだ利用価値がある・・・まだ殺す必要は無いだろう?」

 

マイ「じゃあいつ始末する訳?」

 

ナジェ「タツミ、エスデスは私達に・・・革命軍に協力するとでも言っているのか?」

 

今まで黙っていたチェルシーも口を挟む

「・・・エスデスが?・・・冗談じゃないわ、あんな奴!あたしの仲間だって殺されたのよ、手を組むのなんか御免よ」

 

マイ「あたしだって同じよ!」

 

アカ「・・・私も革命軍側の人間を何人も殺したが、ボスは迎えてくれた・・・」

 

レオ「・・・う~む、やり直す機会があっても良いけどさ、流石にエスデスじゃあ・・・例えあたしらの味方になっても、あいつのしてきた事考えるとな・・・タツミも殺された人達がどんな惨い目に遭わされたか知ってるだろ?」

 

タツ「・・・・・」

 

ナジェ「確かに・・・エスデスがこちら側に着けば大きな戦力になるが・・・、革命軍の中にもあいつに怨みを持つ者もいる、もし味方になったとしても組織の統制の乱れの元になるかもしれない・・・それにあいつは戦争の火種を起こしたい奴だからな・・・、革命が成功してもまた、戦争をしたがるんじゃないのか?」

 

タツ「・・・あいつ一人にしてほっといたら、そうなるだろうな」

 

マイ「じゃあ、決まりじゃ無い!?今のうちに殺しなさいよ?あんたが出来ないならあたしが!」

 

タツ「その時がもし来るなら、あいつは俺が殺る・・・もしあと一度でも殺人をすれば、俺があいつを殺す・・・そう、ある奴と約束したんだ」

 

マイ「・・・・・・」

 

ナジェ「・・・成程、あいつはもう戦力にはさせないと言う事か・・・タツミが責任もってエスデスを監禁するなり、コントロール出来るなら私からはもう何も言わない・・・、革命軍側としては公開処刑をぶち壊してくれたんだ・・・、帝国の威信が下がって、更にやりやすくはなったな・・・この一件はこれでお終いだ、皆も良いな?」

 

スサ「異論は無い」

 

ラバ「ナジェンダさんがそう言うなら俺もそうだ・・・タツミ、お前エスデスを何処に閉じ込めてるか知らねぇけど、そこで“よろしく”やってるなよ?」

 

タツ「ばっ!!やんねぇよそんな事!」

 

アカ・レオ・マイ・チェ「・・・・・・・」

 

 

ナジェンダの部屋

 

ドアのノック音の後、

ナジェ「誰だ?入れ・・・タツミか」

 

タツ「先程は有難う・・・」

 

ナジェ「・・・なんの事だ?・・・と言いたい所だが・・・、まぁ百歩譲って私の奴に対する個人的感情は置いといても・・・」

 

タツ「すまない・・・」

 

ナジェ「うん?まぁ・・・大将、皆の前ではああ言ったが、これでもボスだからな、皆を鎮める為我慢しなければならないが・・・私とて奴にこの目、腕や一緒に居た部下も殺されたからな、怨みはあるにはある・・・」

 

タツ「・・・それで話なんだが・・・死んだ部下は蘇らせれないが、あんたの傷ついた腕、目なら治せるぞ」

 

ナジェ「・・・本当か!?・・・それなら、それなら、全盛期の力に戻れる・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

ナジェ「・・・だが、それは嬉しい話なんだが、タツミ?あんたも判っていると思うが、ラバ、スサノオはともかく、他の4人は・・・」

 

ナジェンダの部屋を出た後

 

 

廊下に居たマインと相対するタツミ

 

マインが腕を組んで不満そうにタツミを見ている・・・彼女は無言なので黙って通り過ぎようとすると、

 

「・・・エスデスってさ、中身あんな奴だけど、外見はちょっと綺麗じゃない?大抵の男だったら直ぐ鼻の下伸ばすんじゃ無い?どうせ、あんたもそういうのと同じでしょ?」そう言って走り去って行く・・・何も言わずにタツミは黙って見送った。

 

 

タツミの部屋の前でチェルシーが待っていた。

 

チェ「・・・・・・」

 

タツ「・・・どうした?」

 

チェ「ボスと何話してたの?」

 

タツミは一瞬、本当の事を言うか適当に言うか逡巡し

「ナジェンダのエスデスにやられた目と腕、治せるかもしれないと話してただけだ」

 

チェ「ふ~~ん、じゃあついでにあたしの傷ついた心も治してくれない?」

 

タツミはどう言えば良いか返答に窮していると

 

チェ「あはは、うそうそ・・・ごめんね、重い事言って?・・・エスデス助けないとか嘘ついたのは見逃してあげる・・・でも、あたし虚六から一人で帰って来て、とっても寂しかったなぁ・・・」

彼女の目はもう笑っていない

 

タツ「・・・悪かった、迎えにあの宿に行った時はもう、出て行ったと聞いた・・・」

 

チェ「・・・良いよ、もう気にして無いから・・・気にして無いから・・・」

言った言葉とは真逆に冷めた表情で彼女は暗がりの中、消えていった。

 

タツミは溜息を付きながら戸に手をやると、

 

「タツミ・・・」

そう言ってアカメが声を掛けて来た

 

「どうした?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

手には村雨を握りしめているアカメ

 

「悪い、夜分遅く・・・なんでもない・・・」

そう言ってアカメは去って行った。

 

タツミはやっと部屋に入り、大きく溜息をつき、布団に横たわろうとすると、

 

「じゃじゃじゃーん!!」

 

「どわぁあああああ」

 

レオーネが布団の中から現れた。

 

タツミは後方にひっくり返り頭をぶつける。

 

「いてて・・・、何してんだ一体!」

 

「タツミ・・・、アカメ達に怒られたでしょ?」

 

「ああ・・・」

 

「はぁ・・・あたしは他のメンバーと違って心広いから大目に見てるけど、あたしだってね、怒ってんだ・か・ら・ね!」

 

「いででででで」

 

そう言ってタツミのこめかみに両拳でグリグリ攻撃を加える。

 

「まったく、なんであんなドS女がそんな、お姫様みたいなオイシイ助けられ方される訳?・・・タツミ、あんた、あたしがそんなピンチに陥ったら必ず助けに来なさい!」

 

「あーたぶん、行かずに寝てるなぁ」

 

「ふぎぎぎぎぎぎぎぎ、グリグリ攻撃フルパワー!!」

 

「あーーあだだだだだだだだ!」

 

 

「ふん!・・・そうやって寝てな、タツミ、もうお休み!」

 

 

『・・・俺はもう死んでいる・・・』



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策士を斬る

帝都宮殿会議の間

 

「ブドォ・・・大将軍殿・・・?全くこれは一体・・・どういう事ですかなぁあ?貴方程の方がついていながら、逆賊エスデスをまんまと取り逃すとは・・・こんな事、帝国建国以来の大不祥事ですぞ!」

オネストはこめかみに青筋を立ててまくしたてる。

 

他の幹部達は固唾を呑んで見守り誰も口を挟まない。

 

ブドーは目を瞑りオネストの罵声を甘んじて受けている

「・・・・・・・・・」

 

「全く・・・陛下がどれだけ心を痛めておられるか・・・その責任の重大さが貴方にはお判りか?・・・今も床に伏せっておられますぞ!」

 

「・・・それは妙だな、大臣?・・・私は先程、陛下とお言葉をかわしたのだが?」

 

「ぐっ・・・」

 

ブドーの回想『

 

「ブドーよ、余はもう何を信じて良いか判らなくなった・・・あのエスデスが、余を裏切る等・・・そんな事が・・・」

 

「陛下・・・どうかお気を確かに・・・『エスデス「この私が帝国に心の底から仕えていたと本気で思っていたのか?」』・・・エスデスにも何かあやつなりの深い事情があったのでしょう・・・」

 

「・・・エスデスが何者かに連れていかれたそうだな・・・、余は大臣の言う通りならばエスデスを憎む気持ちと今までの働きを思うと、処刑を執行出来ず内心良かったと思う心が二つある・・・ブドー、余は上に立つ身としてこのように、心が定まらないのはどうしたものか・・・」

 

「陛下の深いその御心、きっとあのエスデスにも届いておりましょう・・・」

 

「・・・ブドー、エスデスの処置はそなたらに任せる・・・余は少し考えたい・・・」

 

「陛下、恐れながら今はどうか休息を・・・陛下は尊き御方、時が経てばまた気持ちも固まりましょう」

 

 

「・・・とにかく、大将軍として・・・どう責任を取られるおつもりか!!」

 

「ふっ・・・エスデスを・・・ここに引きづり出してくれる・・・陛下はまだ奴に真意を問いたいようであるからな・・・」

 

「何を馬鹿な事を・・・陛下を惑わすような事は慎んで頂きたい!」

 

 

 

「この痴れ者(しれもの)!!」

 

 

 

びくっ!

一瞬、その場が凍りつく、オネストも冷や汗をかく

 

「大臣・・・貴様、満足な詮議もせずに、エスデスに奴の罪以上のものを着せていたようだな・・・重税の話やその他余罪の話もエスデスは軍人だ・・・あやつにそんな権限があったと思えんぞ」

 

「あー・・・いやぁですから、エスデスは自分の特権を悪用してですな・・・」

 

鋭い眼光でオネストを威嚇する

「その余罪が本物かどうか・・・奴をここに引っ立てて改めて吐かせるまでだ・・・」

 

「そ、そのような必要はありませんぞ!・・・私がしっかりと調べました故!」

 

「・・・大臣、話を誇張するくらいならばまだ良い・・・と私も見逃したが・・・やってもいない罪をなすりつけるのは許せんぞ・・・」

 

「大将軍?何を仰せか!・・・逆賊を庇うのですか?」

 

「庇う気は無い・・・ただ、奴に本当の事を吐かせ、その後一体誰が何をしたかをはっきりさせる・・・その上で改めて陛下に判断を仰ぎ、やはり処刑が妥当とならば今度は私が必ず刑を執行する」

 

「馬鹿な・・・ブドー将軍は一体何を・・・皆さんもそう思いませんか?」

 

他の一同は容易に賛成しかねる様子で、結論を出すような素振りは見せない・・・。

 

「くっ・・・もう良い判りました・・・ブドー大将軍、必ずやエスデスを連れて来て下さいよ・・・但し日にちを決める故、それまでに大将軍の威信に掛けて連れて来て下さいよ!」

 

そう言ってオネストは席を離れ、会議の場から出て行った。

 

 

オネ『全く・・・、あのブドーめ・・・今に見ていろ・・・エスデスも忌々しい・・・』

 

 

ドロテア研究室

 

「おお、大臣・・・何やら楽しそうな顔をしておるのじゃ・・・くくく・・・」

 

「ドロテアさん・・・、からかうのは止して下さい・・・ちょっと不味い事になりましてね・・・」

 

「ほぉ・・・あのドS姫を助け出した・・・白馬の王子様の正体は一体誰かの・・・中々妬けるのじゃ」

 

「・・・今、目下探索中ですよ・・・全く、おのれ・・・、必ずや捕まえありとあらゆる責め苦で苦しみ殺してやりますよ・・・この私をここまで虚仮にするとは・・・」

 

「ふっ・・・大臣殿もヤキが回ったのじゃ・・・くくく」

 

「・・・そういう貴女こそ、白馬の王子?・・・かなりのご高齢なのにいつまで夢見る乙女なのですか?」

 

「なっ!?・・・妾はただ、ふざけて言っただけで、そんなものに憧れてなどおらん!」

 

「ふっ、どうだか・・・・・・ああ、すみません・・・私とした事がつい頭に血が上り・・・」

 

「・・・うむ、お主らしくないのぉ」

 

「とにかく、腹いせにエスデスを助命嘆願していた兵士共をどうするか・・・皆殺しか、それとも温情で全員解雇と・・・見せかけますかねぇ・・・ぐふふ」

 

「あの女を慕っていた兵どもはそれなりに多いと聞くぞ・・・良いのか、そんな事して・・・」

 

「大丈夫ですよ・・・、貴女という強大な戦力・・・それに、奥の手がありますからね・・・」

 

「まぁ安心じゃな」

 

「ですので兵の数などモノの数ではありません・・・」

 

そこにドアのノック音が・・・

 

ドロ「誰じゃ!」

 

ドアを開けると・・・

 

「どうもー、羅刹四鬼のスズカどぅえす!」

 

ドロ「・・・なんじゃ、こやつは?」

 

オネ「ああ・・・、安寧道にボリック護衛に行かせていた者ですよ・・・スズカさん、何故貴女がここに?」

 

スズ「お手紙でも書きました通り、ボリック様が大臣の護衛を頼むとの事です・・・どうぞ、よしなにー♪」

 

オネ「・・・・・・はぁ・・・、まぁ良いでしょう・・・ですがボリックにもきつく言っといて下さい・・・ナイトレイドを返り討ちにしたのは良いですが、安寧道の反乱を抑えられなかったのは許しませんぞと・・・」

 

スズ「いやぁ・・・その件には関してはボリック様も深く反省しております・・・ですので、最近何かと物騒になっておりますので私がオネスト様の護衛にと」

 

オネ「・・・一丁前にご機嫌取りですか・・・まぁ良いでしょう、しっかり頼みますよ」

 

スズ「はーい、頑張りまぁーす♪」

 

ドロ『・・・なんじゃ、この頭にヤシの木が生えたような能天気さは?』

 



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出社拒否男を斬る

昼間、帝都路地・・・そこに二人の若い男女が、

 

「おーえす、おーえす!」

 

 

 

「ママー、あの人達何してるの?」

 

「しっ、見ちゃいけません!」

 

 

 

ウェイブは道のガス灯にしがみついて離れない・・・それをクロメが引っ張っている。道行く人は見無かった事にしたり物珍しげに見たりさまざまである。

 

「クロメェ、おーえす・・・じゃねぇよお!!・・・後生だぁああああ、やっぱ行きたくねええええええ」

 

「ウェイブ・・・あたしも一緒に来たんだから、隊長に(拷問を)少し軽めにして貰う為にわざわざ来たんだよ・・・羅刹の人達だってボリックさんの件は自分達に任せろって・・・だからほら早く!・・・ふぎぎぎぎぎ」

 

「いやだ――――!隊長の、ちょっとハードだよ拷問ビッグバンテラ、なんて絶対嫌だ―――!」

 

「違うよウェイブ、ちょっとハードだもん拷問ぷんぷんドリーム・・・あれなんか違う・・・?とにかく、虚六出た時はあんなに、勇ましかったのにどうして此処に来ておびえるの!」

 

「クロメ!それはあれだ!休み明けは仕事となると、エンジンが入って無くて憂鬱になるのと同じだ!俺は出勤拒否・・・この場合は罰受けっから出頭拒否児童なんだ!」

 

「もう、なに大の男が偉そうに言ってんの!・・・ウェイブは海の強い男なんでしょ!・・・見損なったよ!」

 

「はっ!!」

ウェイブは急に手を離して立ち上がる、クロメは反動で後に転がる

 

「きゃっ!」

 

「クロメ・・・俺が間違っていた・・・隊長がなんだってんだ!・・・よし行くぞ!」

 

ウェイブはさっさと足を進める

 

「ウェイブ待ってよー!」

 

そして・・・イェーガーズ隊長室

 

ウェイブはその部屋の前でドアを開けるか躊躇している・・・。

 

「どうしたのウェイブ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ウェイブ?」

 

「・・・どうも今日は腹の調子が悪い・・・また明日に」

 

「ウェイブ!」

 

「わわわわ・・・判っているって・・・クロメ!」

 

「なに?」

 

「押すなよ・・・俺自身で開けるからな・・・押すなよ・・・ぜーーーったい押すなよ!」

 

「判っているから・・・早く開けてよ」

 

「ああ、判っている・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

クロメは後ろで大声を出す!

 

「わっ!!!」

 

「どわわあああああああ」

ウェイブは驚き、勢いで部屋の中に転がり込み・・・

 

「いてて・・・クロメ、押すなって言っただろ!」

 

「押してないよ」

 

「はっ!!・・・あばばばばば・・・たたったたたた隊長・・・申し訳ありません・・・、このウェイブ海より深く反省しております!」

 

「・・・・・あれ?ウェイブ、隊長じゃないよ?」

 

「へ?」

 

窓を背に逆光気味だった為、顔が判りにくかったのか・・・その机の椅子に腰かけていたのはランだった。

 

ラン「やぁ・・・二人ともそろそろ来る頃だと思ってましたよ・・・」

 

ウェ「ラン・・・なんでお前が隊長室にいるんだ?」

 

ラン「さぁ・・・どうしてですかねぇ・・・それにしてもこの椅子なかなか座り心地良いですよ、君たちも座ってみます?」

 

クロ「エスデス隊長は・・・何処にいるの・・・?」

 

ランは今までの事をかいつまんで話した。

 

 

 

 

ウェ「なにーーーーーー!隊長が・・・おい、一体どういう事だよ!」

 

ラン「言葉通りですよ、エスデスは反乱軍と通じていたので、処刑が決まりました・・・ですが何者かが彼女を連れ去りました・・・めでたし、めでたし・・・という訳です」

 

ウェ「わ、訳判んねえよ・・・隊長が・・・どうしてだよ・・・なんでだよ・・・畜生・・・」

 

クロ「・・・ウェイブ、あたしも俄かに信じたくないけど・・・エスデスさんが敵と内通してたなんて・・・」

 

ウェ「ああ・・・俺だって信じたくねぇよ・・・」

 

ラン「まぁ・・・そういう訳で不肖、私が臨時ではありますが将軍職に就きました・・・おめでとうの一言でも言って下さい?そうそう、イェーガーズは解散し、君たちは私の直属の部下になりました・・・ああ、でも今まで通りに接してくれて良いですよ、気にしませんから」

 

ウェ「おい、ラン・・・とりあえず隊長は生きているかもしれねぇけど、お前、隊長が死ぬかもしれないのに黙って見てたのかよ!」

 

ラン「・・・・・・、ええ、黙って見てました・・・」

 

ウェ「てめぇそれでも一緒に過ごした仲間かよ!」

 

クロ「ウェイブ抑えて」

 

ラン「・・・政府の命令に逆らうんですか?」

 

ウェ「ぐっ・・・・・・・・」

 

ラン「まぁ・・・私もそこまで日和見主義者じゃありませんよ・・・」

 

クロ「じゃあ何故?」

 

ラン「・・・・・・私の親しい人がエスデスか・・・或いはその部下に殺されているんですよ・・・」

 

クロメは少し悲しそうな顔になり、

 

ウェ「!!!それ本当かよ・・・」

 

ラン「はい」

 

ウェ「じゃ、じゃあなんで今まで隊長に従って来たんだ・・・」

 

ラン「・・・エスデスに会う為にここまで辿り着いた時は、本当は内心穏やかではありませんでしたよ・・・、倒すつもりでしたが、彼女の実力がはっきり判りませんでしたので・・・それで今まで様子見してたんです・・・、いよいよ倒す算段もついて、どうするかとなった時、悩み初めましてね・・・エスデスはある青年と出会って変わり始めた・・・だから殺すかどうか悩みました」

 

ウェ「誰だそいつは・・・?」

 

ラン「誰でしょうねぇ、彼女も名前は教えてはくれませんでしたが」

 

クロ「とにかくランは、変わり始めたエスデスさんを殺すかどうか悩んだ・・・その間に処刑が決まった、そういう事?」

 

ラン「そういう事です・・・『流石に君たちに彼に話した程の本音はまだまだ言えませんね・・・』・・・ところで、君たちは安寧道の武装蜂起に手も貸したそうですね?」

 

ウェ「!?・・・なんで知ってるんだ?」

 

ラン「ランイヤーは地獄耳なんですよ・・・ふふふ」

 

クロ「手を貸したと言っても、大した事はしてない・・・」

 

ラン「別に咎めようと言う訳じゃありません・・・、ただ私達が守ろうとしたボリックは今の教主の暗殺を企んでいました・・・、エスデスはそれも承知の上で護衛を引き受けたんですよ?」

 

ウェ「な!?あの教主様を?・・・良い人だったぞ・・・なんで・・・」

 

クロ「あたし達も何度かお会いして話したけど・・・悪い人じゃなかった・・・」

 

ラン「帝都政府からすれば治安の乱れ・・・武装蜂起を阻止する為に・・・でもまぁはっきり言うと、ボリックは自分が権力を掌握したかっただけですよ。裏で麻薬密売、人身売買してましたからね」

 

ウェ「なんだって?じゃあ俺達はそんな奴の護衛を・・・待てよ、ボリックがこのまま生きてたら・・・」

 

ラン「ああ、その辺は大丈夫です・・・ボリックと取引したので、彼の隠れ場所は判ってます・・・、命を助ける代わりに教主暗殺や諸々の犯罪行為から手を引かせました」

 

ウェ「ラン・・・人が悪いな・・・俺達の知らない所でそんな事してたのかよ」

 

ラン「敵を欺くからにはまず味方から・・・これぐらい出来ないと将軍にはなれませんよ」

 

ウェ「・・・・・、クロメ?」

 

クロ「・・・・・・・・、もう何を信じて闘えば良いだろう?」

 

ラン「クロメさんは、今まで物事の本質を見極める事を放棄してきましたからね・・・何が正しく間違っているか自分なりに考えて下さい・・・」

 

クロ「帝都の治安を乱す事が悪い事だ・・・、どんな理由があろうと・・・、治安は乱しちゃいけない・・・そう思って来た・・・」

 

ウェ「そりゃそうだって・・・、クロメの言う通りだって・・・だけどよ、安寧道もそうだったが、正当な手段でどうにもならない時ってあるよな・・・」

 

ラン「・・・時と場合によりけりというやつですかね・・・二人とも長旅で疲れたでしょう・・・部屋はそちらにあるのでゆっくり休んで下さい・・・」

 

 

 

廊下に出ると、

「ウェイブ、クロメ、帰ってたのか!」

 

ウェ「タツミ・・・」

 

クロ「・・・・・・」

 

 

ウェ「タツミ、お前隊長の件、知ってんのかよ?」

 

タツ「ああ、知ってる・・・一体誰がエスデスを連れ去ったか、血眼になってブドーの近衛兵やオネストの部下が探し回っているぞ・・・当然、エスデスと懇意にしていた奴らも尋問を受けている・・・助命嘆願した奴らはもう全員解雇になった・・・」

 

ブドーに届けた嘆願は彼が破り捨てた為、その者達は免れたが・・・オネストに提出した者達は・・・。

 

クロ「タツミ、それ本当?」

 

タツ「ああ・・・、お前達はランさんが庇ったから尋問の必要ないと、彼の部下という形で何も無いが・・・他の怪しい奴らはオネストの部下がそいつらを拷問で自白強要させているぞ・・・お前らも念の為、気を付けろよ・・・『エスデス一人捕えるのに・・・被害が拡大しているな・・・そろそろ決着を付けるしかないな・・・』」

 



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思い込みを斬る

時間は前後して、エスデス救出後、以前彼女に使わせていた小屋にセリュー含めた一行は向い、タツミと合流した。

 

飛行型の危険種は小屋近くの木に繋いでいる。

 

コロ「きゅきゅきゅいいい、(タツミが帰って来た)」

 

セリ「やぁタツミくーん、お帰りー大丈夫だった?」

 

タツ「ああ、とりあえずな・・・あのブドーは侮れない相手だな・・・」

 

セリ「あたしも警備隊に入隊した時にしか見た事無かったけど、改めて凄い威圧感だったね・・・」

 

そんな二人の会話にエスデスはつまらなさそうに

「・・・セリュー、随分とタツミと仲が良さそうだな・・・以前はそうでも無かったと思うが・・・」

 

セリ「え?・・・ああー・・・、まぁ色々と・・・、大丈夫ですよ、エスデスさん。タツミ君を取るなんてそんな事しませんから、あはは」

 

エス「む?判っているなら良いが」

 

タツ「セリュー・・・そんな事はどうでも良い・・・俺やセリューを探して帝国の追手が来るだろう・・・家まで送るぞ、だがまた何かあったら力を貸してくれ」

 

セリ「了解・・・ところで家はこっから遠いよ」

 

タツ「大丈夫だ」

そう言ってタツミはシャンバラでセリューとコロ、そしてその危険種も送った。

 

 

「ふふふうふふうふふ・・・・・・タァツゥミィ・・・やっと二人きりになれたな・・・///」

 

そう言って後ろから彼を羽交い絞めにする。

 

「タツミタツミタツミ・・・んーんーんーん///」

 

「お前ちょっと離れろ!・・・怪我してる割には無駄に元気だな!」

 

「そうだぞ、“誰かが”私の胸を怪我させたのだ・・・その代償は体で払っても貰うぞ・・・うふふふ・・・ぐっ・・・げほごほ」

 

「・・・言わんこっちゃない・・・大人しく寝てろ・・・」

 

「むぅ・・・、ならばタツミ、私を怪我させた張本人なんだ、治るまで看病するんだ、私の口に食べ物を運ぶんだ・・・、そうだ、箸やスプーンを使うのが嫌ならしょうがないな・・・口うつしで良いぞ///」

 

「何処もしょうがなくないだろ、それ!」

 

「うぬぬ、何故タツミは素直になってくれないんだ?流石の私も我慢の限界だぞ・・・はっ!これがボルスの言っていた焦らしプレイなのだな!」

 

「『あの人は本当に何を言ってんだ!?』・・・言っとくがな、場合によってはお前を見殺しにしても良かったんだぞ」

 

「全くタツミはキツツキだな」

 

「???」

 

「・・・違ったな・・・そう確かあれは、デレツンと言ったな・・・、流石の私も死を覚悟したが・・・タツミが迎えに来てくれた時は、今までの人生で最高の瞬間だったぞ♪」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「ランさんの奥さんはお前か・・・お前の部下に殺されたらしいぞ・・・」

 

「な・・・に・・・?ランの妻がか・・・?馬鹿な・・・そんな話一言も・・・」

 

「言う訳無いだろ・・・目指す仇を前に・・・彼なりに悩んだようだ・・・お前、これこれこういう特徴の人らしいが、殺した覚えは無いか・・・」

 

「すまん・・・覚えが無い・・・」

 

「戦争中に死んだと言ってたからな・・・流石に一人一人誰を殺したかは覚えてないだろうな・・・だけどな・・・、彼は俺がお前を助けに行くのを見逃してくれたんだ・・・、最後まで見逃すかどうか悩んではいたがな・・・助かったお前にはそういう人の怨みも背負っているのを忘れるな!」

 

「・・・・・・・・・・・・、ふっ」

他への嘲りか自嘲か判らない笑みを浮かべるエスデス。

 

「お前を助けに行くのを見逃す条件として、お前には二度と殺人をさせないという事だ・・・」

 

「!?・・・タツミ、それはもう二度と私に闘うな・・・という事か?」

 

「・・・そうだ」

 

「・・・・・・・・くっ・・・何故だ、何故私が・・・我が生き甲斐を奪われなければならない・・・、全ては弱い私が悪いと言う事か・・・?」

 

「・・・エスデス、前から聞きたかったが、今でもこの世は弱肉強食だと思っているのか・・・?・・・取り繕わず本心で良い・・・」

 

「ああ・・・、タツミは怒るかもしれないが・・・まだそう思う部分はある・・・」

 

「その割には・・・何故、部下達にはそれなりに優しかった?」

 

「それはタツミも判っている通り、その方が私に心服して命知らずの最強の軍隊になるからだ・・・」

 

「・・・お前は父親からこの世は弱肉強食だから仕方ねえよな・・・みたいな事を教わったそうだが・・・、そして、父親や仲間の死もその理屈で割り切ったようだが、本当にそれで良かったのか?」

 

「・・・?・・・勿論だ・・・父の言う通り、弱い者は滅びる・・・、悔やんだが、それも当然、仕方ない・・・」

 

「じゃあ、もし父親が弱肉強食じゃなく、この世は自他共存と教えていたらどうした?」

 

「・・・・・・?一体何を?・・・例えそう教えられたとしても・・・・教えられたとしても・・・・」

 

「お前は本当は仲間の死を、父親の死を弱肉強食の言葉で抑え込んで自分の悲しみを納得させたんじゃないのか?・・・そう納得しなければ自身の悲しみに押し潰されそうだった・・・だから、その理屈を今でも心の支えにしているだろう!」

 

「・・・ははは、タツミ、何を馬鹿な・・・、私が・・・違う・・・これが自然の摂理だ・・・『・・・ホントウニソウカ・・・』

 

「お前は何故、弱者は滅んで当然なら・・・どうして、死んだ兵士の遺族へ手厚い援助をする・・・?その理屈でいけば死んだ兵士の家族もそんな死んだ弱い奴の片割れなのだから、ほっておいても良いはずだぞ」

 

「いや・・・だからタツミ・・・それはだな・・・」

 

「エスデス・・・お前は本当は肉親や仲間の死を普通に悲しめる・・・普通の女の感性ももっていたんじゃないのか?・・・それを父親の言葉を今でも後生大事に信じ続けている・・・、逆にその事がその裏返しだろ!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「言っとくがな・・・恋をするのは、弱者のする事だと思うぞ・・・惚れたが負けって言葉もあるんだ」

 

「う・・・・・・『ホントウハチチノシハカナシカッタ・・・ダガ、チチガコノヨハジャクニクキョウショクナノダカラ、コロサレテモシカタナイ・・・ソウオシエテクレタ・・・クレタ・・・タ・・・』・・・・うわあああああああああ」

 

タツミは黙って彼女の動向を見ている。

 

エスデスの頬に一筋の水が流れる

 

「・・・ははは・・・ふふふ・・・、ああ・・・タツミの言う通りかもしれん・・・、タツミ以外の者に言われたら何を愚かなと思う所だが・・・、成程、流石私が惚れただけの事はある・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「タツミ・・・悪いが一人にさせてくれ・・・ゆっくり一人で気持ちの整理をしたい・・・」

 

「ああ・・・またな」

 



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新たな火種?

ナイトレイドアジト広間

 

ナジェ「皆、聞いてくれ・・・帝国の威信も地に落ち始めた・・・ここで進軍している我が軍と共に一気に帝国政府中枢部を叩く!」

 

ラバ「とうとう・・・ここまで来たか・・・思えば長い道のりだったなぁ・・・」

 

ナジェ「総力戦になる事も予想される・・・、標的は今日の帝国の腐敗の元凶・・・大臣のオネスト・・・奴だけ暗殺出来たらそれで良いが、困難な場合はそれを守る者達も殺して構わん・・・殉職した、シェーレ、ブラートの為にも是が非でも革命を成功させる・・・願わくば此処に居る全員生き残ってこの国の夜明けを迎えるぞ!」

 

スサ「・・・『タツミ「革命が成功したら全ての帝具を壊す」』・・・ふっ、ああ、そうだな!」

 

マイ「ボス・・・ちょっと良い?」

 

ナジェ「どうした?」

 

マイ「良い話の中、悪いんだけどあたしはタツミに任せてのんびりしてたいわね」

 

ナジェ「何を言っているだ、マイン!」

 

マイ「だってそうじゃない?あのエスデスをどうにか出来るタツミ様なのよ?前の話でいくらエスデスにもう前線には出さないと言ったって、あいつを連れて帝国の元部下達に呼びかけてこっち側に来させれば、兵力も半減するんじゃない?全部タツミに任せりゃ良いのよ!」

 

アカ「・・・・・・」

 

レオ「マイン・・・お前なぁ・・・」

 

チェ「あたしはマインの気持ちも判るよ・・・」

 

ラバ「いやマインちゃん・・・おいタツミ、お前なんとかしろ!」

 

タツ「・・・マインの言う事も判るが、エスデスの元部下達は今、冷飯を食わされる境遇になっている、それならまだマシな方だ・・・あいつの助命嘆願した奴らは拷問受けたり、秘密裏に殺されたりもしている・・・」

 

ナジェ「・・・タツミの言う事は本当だ・・・私もその話は密偵から聞いている」

 

マイ「・・・ふん、じゃああの女もう使えないじゃない」

 

タツ「マインの言う通り・・・エスデスを生かしているのは俺の我儘だ・・・、あいつを殺したい気持ちも判る・・・マインが俺と一緒に最後の仕事をしたくないんなら俺がその分なんとかしよう」

 

マイ「・・・・・・・」

 

ナジェ「タツミの言う通りだ・・・私だってあのエスデスを始末したい気持ちはヤマヤマだ・・・、だがタツミが居なかったらひょっとしたらあいつと直接闘って私達の此処に居る誰かが欠けてもおかしく無かったはずだ・・・そう考えればタツミの我儘を少し聞いても良いだろう?」

 

スサ「・・・・・・・・・」

 

チェ「・・・・・・・・・」

 

マイ「あーもう・・・判ったわよ、まるであたしが悪者みたいじゃない?・・・良いわ、とりあえずこの件は保留にして上げる。それであたしも最後の仕事に参加するわよ・・・良いわね、チェルシー、アカメ、レオーネ?」

 

チェ「まぁね、マインが我慢するならあたしもしなきゃ駄目か・・・」

 

アカ「わ、私は任務をただ、す、遂行しようと思っているだけだ・・・」

 

レオ「あ、あたしだって別に初めから異論は無いよ・・・」

 

タツ「・・・?・・・マイン、この件ってどの件だ?どうしてお前はそんなにまでつっかかるんだ?」

 

マイ「あんた・・・、はぁ・・・この際だからはっきり言うけど、エスデスとは何も無いんでしょうねぇ?」

 

タツ「・・・・・・・、何も無いがどうした?」

 

マイ「『本当に判ってないのかしら?・・・』 じゃあ言うけど、あたしはあんたをエスデスなんかに取られたくないのよ!」

 

タツ「俺は」マイ「はい、あんたの話は聞いてないわ、今までの行動見てたら少なくともあの女を悪くは思って無い事くらいはちゃーんと判ってんだから・・・だから尚更、エスデスが邪魔なのよ・・・恋仇としてね」

 

タツ「マイン・・・」

 

マイ「あんた鈍いんだか、鈍くないんだか今一つ掴みどころ無いから、直接言うけどあたしはあんたの事、好き!・・・///・・・ば、ばかこんな事、女の方から言わせんじゃないわよ!」

 

タツ「ああ、いや・・・ええ、ああ・・・『直接来たか・・・まさか・・・ここまでは予想外だった・・・』」

 

マイ「だから・・・この闘いが終わったら改めて、あたしの旦那になりなさい!良いわね、これはもう決定事項よ!」

 

タツミは余りものマインの話に度肝を抜き、二の句を告げれなかった・・・。

 

チェ「・・・ちょっとマイン、流石に抜け駆けは許さないよ・・・」

 

レオ「あ・・・あっはっはっは・・・ここまで皆の前で宣戦布告とは・・・マインやるじゃん・・・面白い、受けて立つよ・・・」

 

アカ「・・・・・・、マインの大胆さが眩しい・・・」

 

 

ナジェ『はぁ・・・、ナイトレイドは女が多いからな・・・危惧はしてたが・・・現実となったか・・・、まぁとりあえず共通の敵を倒す目的で結束は固まったが・・・後は・・・全部タツミに丸投げしよう・・・私の預かりしらぬ事だからな・・・』

 

ラバ「・・・へぇ・・・なぁ4人供、なんでこんな奴が良い訳・・・?」

 

タツ「ラバック、今はそんな話どうでも良いだろ!」

 

ラバ「全く・・・モテる男は全員死ね!」

 

スサ「・・・?人間とは不便だな・・・何故そんな事で争ったり感情的になる・・・?」

 

タツ「・・・スーさん、そいつは俺も同感だ・・・」

 

 

タツミは会議の後、ナジェンダを呼び、決戦に備えて彼女の目と腕を治す為に故・スタイリッシュの専用ラボに呼んだ。

 

「ここは・・・?タツミはこんな隠れ家も持っていたのか?」

 

「・・・ああ・・・、そんな事より、そこに横になってくれ」

 

「タツミ・・・本当に、私は元の体に戻るのか・・・?」

 

「初めは死体からそれに見合うモノを探して移植しようと思ったが・・・、やはり本人のモノを使うのが一番だと思ってな・・・悪いがあんたの知らない間にDNAを採取して目と腕を復元した・・・そこを見てくれ」

 

指さした方向の大きめな容器の中に目と腕が浮かんでいる

 

「・・・でぃえぬえー?なんだそれは?」

 

「判らなくていい・・・、今は元の体に戻れる幸福だけ噛みしめてればいい・・・」

 

「そうだな・・・、その通りだ・・・」

 

「麻酔をかける・・・次目を覚ました時はかつての自分だ・・・元は同じ自分の細胞だからな・・・、拒否反応は起きないだろう・・・何かあったら言ってくれ・・・」

 

「タツミ・・・何故ここまでの事をしてくれる?・・・私が仲間だからか?・・・それとも私のエスデスへの怨みを無くしたいからか・・・?」

 

「・・・・・・、報酬はあんたの給料半年分で手を打とう・・・」

 

「ま、待て、タツミ!・・・き、聞いてないぞそんな話は!」

 

有無を言わさず、タツミは睡眠投与の麻酔でナジェンダを眠らせ手術を行った。

 

かつての姿に戻ったナジェンダを見て喜んだラバックが抱きつき、皆もその容姿に感嘆し、照れた彼女がラバックを殴り飛ばした。

 

タツミが呆れて声をかける

「・・・大丈夫か、ラバ?」

 

「ぐふふふふふ・・・、ナジェンダさんに・・・、これは俺にとってご褒美だ・・・」

 

「・・・お前の病気は俺にも治せないな・・・」

 

「・・・ところでだ、タツミ」

 

「なんだ?」

 

「・・・お前・・・ナジェンダさんの裸見ただろ?」

 

「・・・・・・・・・・・いや、見て無いぞ・・・」

 

「うそつけ、この野郎!ナジェンダさんのあの豊満な・・・てめぇぜってぇ見ただろ!ぶっ殺してやる!」

 

「おいこら!お前の彼女の恩人に向かってなんて言い草だ、おめぇは!」

 

「革命の前に、お前のそのハーレムリア充体質をぶっつぶしてやる!」

 

「望むところだ・・・俺もお前のその破廉恥な軟弱精神を叩き直してやる!」

 



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偽りの支えを斬る

その後、ナジェンダは革命軍との最終調整に入り、帝国側で無血開城出来る所はあらかた話を付け・・・エスデスの処刑は温情で取りやめになったと政府は伝聞したが実際の目撃者は多く、政府の威信は地に落ち、それに乗じて革命軍は進軍、あと一歩まで帝国へ入り込んでいた。

そして、最後の要害シスイカン。

ブドーの近衛兵が守るそれは鉄壁の要塞と化し、革命軍の進軍を完全に防いでいたのだが・・・。

 

 

ドロテアの工房

 

「いよいよ、反乱軍が迫って来とるのう・・・」

ドロテアはのんびりと菓子をつまんでいる。

 

「呑気な事を言っている場合ではありませんよ・・・」

そう言ってオネストも大量に菓子をほおばる

 

「まぁ良いわ・・・こちらはエスデスが捕えた捕虜を喰わせて、かなり強くなったのじゃ・・・、コスミナは」

 

「・・・まだ“食料”が必要ならいくらでもエスデスを助命嘆願した者達を渡しますよ?」

 

「・・・大臣、お主も悪党じゃのー・・・あれだけ手駒に使った女やそれに類する者達をこうも慈悲無く斬り捨てられるとは・・・くくく、妾も気を付けるのじゃ」

 

「・・・・・・私の目的は世界の全ての富を我が手に納める事・・・、その為には泥水を啜ろうが、同胞だろうが、なんでも斬り捨てますよ・・・」

 

「前にも言っとったが、そこまでして富が欲しいかの?流石の妾もそこまで欲しいとは思わんのじゃ」

 

「・・・・・・、もう二度とあの貧しい日は送りたくありませんからね・・・、私は自分より富める者は許せない・・・あの貧しかった頃の金持ち共の蔑んで私を見た目は今でも忘れない・・・もっとも、その時の怒りがバネになってここまで来たのですからね・・・そういう意味では感謝しなければなりませんかね・・・」

 

「・・・・・・・『劣等感の塊のような男じゃの』

 

「最近、陛下も私の言葉を余り耳を貸さなくなってきてしまいました・・・これだけの忠臣は他に居ないと言うのに・・・致し方ありません・・・、色々なご心痛が重なったのでしょう・・・これでは政務も満足に行えず・・・そのうち病死してしまわれるかもしれませんね・・・おっと、これは滅多な事いうものじゃありませんね・・・ぐふふ」

 

「『・・・ふっ、妾に毒を盛れと言いたいのかのぅ?・・・まぁ良いのじゃ』・・・そうじゃのー、若くして病死する事もあるかもじゃのー」

 

「ええ、悲しい事ですが病死はお若くてもある事です・・・ふふふ」

 

トントン

 

「むっ!誰じゃ?」

 

 

「オネスト様・・・こちらに居られましたか・・・反乱軍を如何に防ぐかの会議が開かれます・・・お早く・・」

スズカが呼びに来た。

 

「はぁ・・・、まぁ良いでしょう・・・それでは、ドロテアさんまた後ほど・・・」

 

「おお・・・またなのじゃ」

 

オネストを先行させ出て行こうとするスズカがふと立ち止まり

「ドロテアさん・・・でしたね?・・・今度貴女の国の話を・・・錬金術とか色々聞かせて下さいね・・・」

 

「?・・・まぁ良いがの、興味でもあるのじゃ?・・・それにしてもここに来て随分しおらしくなったのじゃ・・・どういう風の吹き回しじゃ?」

 

「ええ・・・郷に入れば郷に従えと・・・ふふふ」

笑みを浮かべて去って行くスズカ。

 

『・・・?妙な女じゃ・・・』

 

 

要塞シスイカン

 

ブドーは革命軍との膠着状態の中、敵が見える城壁で静かに不動の姿勢で瞑想をしていた。そこに部下が伝令に来る。

 

「大将軍!・・・申し訳御座いません・・・逆賊エスデスは今尚見つかりません!・・・明日には必ず!」

 

ブドーは微動だにせず

「・・・構わん・・・今は反乱軍を撃滅させる事が先決・・・この闘いを鎮圧した後にエスデスは、この俺が直々に探し出す・・・」

 

 

 

エスデスの居る小屋

 

タツミは小屋の戸を叩き、即座に体を横にする。

 

「タツミーーーーー///」

 

エスデスが猛突進してドアを開け、当然そこには誰も居ないので勢い余って転び受け身を取る。

 

「・・・なにやってんだ?」

 

「酷いぞ、タツミ!妻の出迎えを拒むとは!」

 

「どうして、ノック音だけで俺だと判った・・・?」

 

「ふっふっふ、タツミの匂いは100メートル先からでも判るぞ!」

 

「『・・・この無駄力何かに使えないかな?』・・・そんな事よりもエスデス、お前と懇意にしてた奴やお前の助命嘆願した奴らが拷問に遭ったり、殺されてるぞ・・・」

 

「・・・!・・・本当か!」

 

「ああ・・・」

 

「誰だ・・・そんな事した奴は・・・私が蹂躙して・・・死ぬより辛い目に遭わせてくれる・・・」

 

「オネストとドロテアだ・・・」

 

「ちっ・・・やはり奴が噛んでいたか・・・タツミ、止めるな、私は行くぞ!」

 

「まだ傷も治って無いだろ・・・」

 

「これぐらいどうという事は無い・・・いや、タツミの一撃は効いているぞ・・・」

 

「・・・どうしても行きたきゃ俺を倒していくんだな・・・」

 

「タツミ!!??」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

エスデスに緊張が走る・・・先に口を開いたのはタツミだった。

 

「俺はもうお前に人殺しはさせないと約束させられたんだ・・・」

そう言ってエスデスの頭を抱えて撫でた

 

「心配するな・・・お前の気が済むように、ちゃーんとしてやる・・・だからここで大人しくしてろ・・・」

 

「・・・・・・・///」

 

「じゃあな・・・」

そう言ってエスデスから離れる。

 

 

「待てタツミ!」

 

「ん?」

 

「こないだの話だが・・・、確かに私は父の言葉に固執していたかもしれん・・・、だから、これからは私なりの答えを求める・・・それで良いな!」

 

「ああ・・・お前なりの答えを探せ!」

 

「だから・・・だから・・・タツミ・・・私はもうかつて、仲間が・・・父が死んだように・・・弱いからといって死んでいくのを当然と受け入れるのはもう嫌だ・・・、頼む・・・、今まで散々な事をしてきた私だが・・・、まだ生き残っている部下がいたら・・・頼む・・・助け出してやってくれ!!」

エスデスは顔一杯泣き濡らしていた・・・。

 

 

 

タツミはセリューの居る小屋へと出向いた。

 

 

コロ「きゅい!」

 

セリ「・・・タツミ君、いつでも準備は出来てるよ!」

 

そう言って一人と一匹はタツミに敬礼をした。

 

「・・・軍人でも警備隊でも無いんだから、敬礼は止めてくれ」

苦笑するタツミ。

 

「へへへ、もう癖だよ、これは」

 

「・・・セリュー、今回はこないだのようにエスデスといった人間の救出じゃない・・・いわば本格的に帝国に牙を剥く事になるが・・・それでも来てくれるか?」

 

「うん・・・、良い国になるんなら・・・、もうかつてのあたしみたいに歪んだ人を生み出して欲しくない・・・」

 

「主に囚われている人命救助・・・、民衆の保護を優先的にして貰いたい・・・その上で時には自分達を守る程度の火力で行ってくれ!」

 

「了解!」

 

「きゅい!」

 

「・・・時にコロのエネルギーはどうしてる?人間を喰ってた頃よりはパワーダウンしてるだろ?・・・・・・」

 

「う~~~~~ん、まぁ・・・、この辺に出てくる人喰い熊や人喰い危険種を狩って食べさせてるからから・・・あはは」

 

「そりゃ結構だな・・・セリューあんたの体内の銃火器のメンテは大丈夫か?」

 

「う・・・、うん、大丈夫だよ・・・」

 

「最近スタイリッシュのある資料を見付けたんだが・・・、自爆用の小型爆弾を脳に仕込まれているだろ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「この闘いが終わったら・・・、そんなもの全部外して、普通の女として生活してってくれ・・・、いつ間違って暴発されたら敵わないからな・・・」

 

「・・・・・・・・・・、ありがとう・・・、ううう・・・う・・・」

セリューは号泣した・・・やはり彼女なりにいつ暴発するか判らない恐怖に怯えていたのだろう・・・それを今までどうにか正義の為にという言葉で抑えていたようだ。

 



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夜明け前

元イェーガーズ詰所・・・今はランの書庫や会議室となっている。

 

ラン「さて・・・、ウェイブ、クロメさん・・・、反乱軍がもうそこまで来ています・・・」

 

ウェ「・・・・・・・・」

 

クロ「・・・・・・・・」

 

二人とも顔見合せ、固唾を飲んでランの次の言葉を待つ。

 

ラン「・・・・・・どうしましょうかねえ?」

笑って答える。

 

つっぷするウェイブ

「・・・おい!頼りないな!」

 

クロ「ランは将軍なんでしょ?兵達の指揮はどうするの?」

 

ラン「ああ・・・それなら、部下に任せてます・・・私は闘いがメインというよりも情報専門ですからね・・・」

 

ウェ「はぁ・・・俺達どうなるんだよ・・・、エスデス隊長も何処に行ったか判らねえし・・・ああ、俺はどうすればあの人に俺なりに恩を返せるんだ!!」

 

ラン「まぁ・・・ウェイブは勉強が足りないですからね・・・どうです、判らないなら私の本をいくらでも貸しますよ」

 

ウェ「・・・そうだよな・・・俺も士官学校の座学の点数はそりゃもう・・・って、んなこたぁ今どうでも良いんだよ!うるせぇよお!」

 

クロメは腹を抱え声を堪えて笑っている。

 

「どうでもよくは無いですよ・・・」

ランは静かだが、凄みを帯びた声で言った。

 

ウェ「うっ・・・・・」

 

ラン「・・・この闘いで帝国側が勝っても、仮に反乱軍側が勝っても・・・、過去の歴史に学ばずにいけば、またいずれ同じ過ちの繰り返しです・・・、人間は忘れて良い事と悪い事があります・・・ウェイブ・・・君は人間の悪い歴史をもう二度と繰り返さないようにして下さい・・・」

 

ウェ「あ、ああ・・・判った」

 

クロ『・・・過ちを繰り返さない、か・・・』

 

ウェ「・・・とにかくだ・・・それじゃあ、俺達はどうすりゃ良いんだよ、ラン将軍よぉ」

 

ラン「好きにしてて下さい、私と一緒に行動するもよし、ブドー大将軍と共に反乱軍と闘うもよし、この闘いが終わるまで何処か遠くに・・・そうです、クロメさんと二人旅もどうです?ははは」

 

クロ「ラン・・・///」

 

ウェ「茶化すなよ、こんな時に・・・ランはどうすんだ?」

 

ラン「そうですねぇ・・・私はここを攻め込まれたら・・・とっとと逃げますかね(笑)」

 

ウェ「だーーーーーー!!・・・お前どっかの誰かに似た事言うな!」

 

ラン『どっかの誰か・・・、さて、“彼女”の話だとそろそろナイトレイドの彼らも攻め込んでくる頃ですね・・・、帝国側が勝つか・・・反乱軍が勝つか・・・一等席で鑑賞しますかね』

 

ウェ「・・・そうだよ、タツミはあの野郎、こんな時に何処行ったんだ?」

 

ラン「・・・ああ・・・、彼なら腹痛が危険だとかよく判らない事言って、今日は休み取りましたよ」

 

ウェ「あんにゃろーどおせ、ズル休みに決まってやがる・・・許せねェ奴だ!」

 

クロ「・・・ウェイブ、人の事言えるの?・・・“後生だぁああ、行きたくねえええ”って言ったの何処の誰だっけ?・・・くすくす」

 

ウェ「ええ?ああ!あれは・・・海の男は細けぇ事気にしないんだ!」

 

ランとクロメは失笑する。

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

ラバックが自室で自身の帝具、クローステールに入念に専用の油を塗り、一本一本、綻びが無いか確認している。

「お前とは長い付き合いだったな・・・終わりの時は俺の手で・・・」

 

 

アカメは愛刀、村雨の手入れを今まで以上入念に行った、それはどちらに転んでもこれが互いにとって最後になる事を判った上であり、後は静かにその時を待つ。

 

 

マインは愛銃パンプキンの手入れを行い、

「・・・やっとここまで来た・・・、もう・・・ハーフだからとかそんな理由で差別されない世の中を創って見せるんだから・・・、シェーレ、ブラート見てて・・・」

 

 

レオーネは馴染みの賭博場に行き、豪勢に大枚をはたき、遊んだ後、自身の仕事のマッサージを1日無料で行った後、部屋で大酒を呑みそのまま泥のように眠った。

 

 

ナジェンダは自身の体を万全の状態で働けるよう、スサノオと組み手を行っていた。

 

『よし・・・かつてのようにもう動ける・・・』

 

「調子が良いな、ナジェンダ・・・この分なら大丈夫だろう」

 

「ああ、そうだな有難う・・・・・・、う・・・」

 

「どうした?」

 

「・・・スサノオ・・・その・・・タツミの話なんだが・・・」

 

「・・・今は目の前の事だけに集中しろ・・・俺は主に仕える帝具だ・・・主が帝具の心配などされたら、俺の立場が無い・・・」

 

「・・・ふふ・・・わかった・・・」

少し哀しげに笑うナジェンダ。ラバックはその様子を影で見守り、その話を聞いた後去って行った。

 

 

 

チェルシーは仕掛け針を念の為研ぎ、髪の中や自身の秘密の隠し場所へ忍ばせた。

『この闘いが終わったら・・・本当に平和な世の中になるのかな・・・それとも、また何年後かに・・・動乱が・・・、ううん、今はそんな事考えるの止めよう・・・』

 

そして・・・

 

「タツミ、あたしは何をすればいいの?」



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未熟者を斬る・邂逅(番外編)

この話1話以前の話で、アカメが斬る1・5巻の剣鬼を斬るを元にした話です・・・例によって色々改変(改悪)していますので、原作通りのゲンセイさんをお望みの方は戦略的撤退をお勧めします。
皆さんお忘れかもしれませんので(自分も忘れている)
初めの頃の無双のタツミはナイトレイドに対して今よりもドライな距離ですw


帝都近郊の山奥

 

アカメ、ブラート、タツミの3人は山に山菜と薬草を取りに来ていた。

 

タツ「んー見つからないもんだな、メーイ草ってやつ」

 

「かなりのレアものだからな、その分他の薬草より強力だ」というアカメはどこか楽しそうであった。

 

タツ『・・・この女、山が好きなのか?』

 

アカ「む!」

 

ブラ「お?発見したか?」

 

アカメは足で垂直の木を登って行った。そして、

 

アカ「この実は旨い。少し腹にものを入れておく」

 

ブラ「・・・くいもんかよ」

 

タツ「アカメー、あんた山慣れしているなー」

 

アカ「ああ!もともと私は山の民だ!」

 

ブラ「へぇ・・・俺も今まであんまり聞いた事無かったな・・・とはいえ、このままいけば今日はこの辺で野営かな・・・アカメー、なんだったら先帰って良いぞー腹減るだろー」

 

アカ「いや食べ物はこうして現地調達すればいい、付いて行くぞ!」

 

ブラ「はぁ・・・、二人きりじゃないのか・・・?」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

ブラ『おい、タツミ!何か言えよ、このままだと俺が完全にスベッた人みたいじゃねえかよ!』

 

タツ「・・・・・・・」

 

ブラ『まさか!これが放置ツッコミというやつか!?』

 

アカ「・・・・・・・・」

 

ブラ『こいつは何も考えて無いだろうな・・・たぶん』

 

タツ「・・・・・・」

 

アカ「・・・・・・」

 

『変えろ・・・変えるんだ、ブラート!この空気を!・・・俺なら出来る!よし、インクルシ・・・』ブラートはお笑いに関して少しだけ錯乱していた。

 

 

アカ「・・・ん?寺・・・?」

アカメは木の上から遠方の寺を発見した。

 

 

3人はその寺へと向かった。

 

ブラ「マジだ。こんな山奥に寺があったとはな」

 

アカ「ここら辺に住んでいる人ならメーイ草の事知ってるかもな」

 

タツ「じゃあ俺ちょっと聞いてこよう」

 

 

「おや珍しいのう・・・客人とは」

 

タツ「・・・・・」

 

そこに身のこなしに隙の無い老人数人が出迎える。

 

ブラ「・・・・?・・・・・ゲッ!ゲンセイ師範!」

 

ゲン「ん?儂を知っとるのか?教え子か?・・・・・・・・・・・・・・・・・よもやお主、ブラートか!?・・・・・・いやはやなんと変わり果てた姿に・・・」

 

ブラ「ハンサムになったと言って下さい!」

 

タツ『・・・以前は髪を下ろして、今みたいな大砲のような髪型では無かったらしいが・・・この人いつから美意識変わったんだ?』

 

ゲンセイは3人を寺内の囲炉裏へ招き、それぞれに茶を振舞う。

 

ゲン「そうかい・・・メーイ草を摘みにのう。この寺にはたっぷり備蓄してある。好きなだけ持って行きなさい」

 

タツ『人里離れた所に住んでいる為か、帝国からブラート、アカメの手配が回っているのは知らないんだな。・・・それにしても瞑想転じてメーイ草・・・なんなんだこの国の名前の付け方は・・・面白いだろうが!!』「・・・兄貴、この方は?」

 

ブラ「元帝国軍武術師範、ゲンセイ・・・インクルシオの前任者で全盛期は帝国最強って呼ばれてた御方だぜ」

 

タツ「・・・うお!?・・・凄いですね」

 

ゲン「何十年も前の話じゃよ。あの時はブドーもおらんかったしの・・・あと確かおなごの、エムデスじゃったかのう・・・あやつらがまだ表に出ておらんかったからな。今はもう年でお役御免になり満足に動けん只のボケ老人じゃよ。はっはっは」

 

 

「・・・・・・・・」

タツミの目付きが心なしか僅かに鋭くなる。

 

ゲン『・・・・・・・・ふむ』

 

 

 

ブラ「・・・師範・・・エムデスではなくエスデスです」

 

「ん?・・・そうじゃったか・・・たかが一文字違い大した事はないわい。かっかっか!」

気持ち良さそうに笑うゲンセイ。

 

ブラ「いやまぁただ、人の名前を間違うのは失礼かと・・・『エスデスが間違われるのは別に構わないが』」

 

ゲン「うるさい!師匠の間違いを黙って見過ごすのが弟子の務めぞ!」

 

アカ「・・・・・・」

 

タツ「・・・・・・」

 

ブラ「ええ・・・ああ、はい、判りました・・・」

 

ゲン「全く、最近の若い者は・・・儂とてもう寄る年波なのじゃ・・・だから最近物忘れが酷くなって、うっかりブラートが男好きの気があるのを忘れそうになるわい・・・そこの君、気を付けた方が良いぞ」

 

乾いた笑みで

タツ「ははは・・・気を付けます」

 

ブラ「んがっ!師範!あれはネタだって言ったじゃないですか!?」

 

ゲン「はて・・・?そうだったかのう・・・?」

 

ブラ「全く、ボケないでください!」

 

ゲン「ん!?ブラート、貴様!師匠に向かってなんという・・・、失敬な!儂はまだボケとらんぞ!」

 

ブラ「いやそっちのボケでは無くてですね・・・」

 

アカ『・・・先程、自身でボケ老人と言っていたような・・・』

 

タツミはアカメの表情を見て何を思ったか悟り『・・・アカメが何言いたいか判るがそこは敢えて流すのが流儀だ』

目でアカメに返答した。

 

二人を置き去りに師弟の口論は続く。

 

 

 

ゲン「ブラート、あの時もそうじゃっただろうが!!儂が残しておいた饅頭を貴様勝手にぃぃぃ・・・この愚か者がぁああ!!」

 

ブラ「あの時は師範が、「取れるものならいつでも取って良いぞ!」と言ったじゃないですか!?」

 

ゲン「はっ!!あの時とはいつじゃ!!帝国歴何年何月何日の話だ!!」

 

ブラ「ああ・・・もうこのクソじじい!」

 

「ブラートぉお、お前は・・・ほんっ」ゲンセイはここで上を向いて溜めを作り、「とにっ!」そして下を向いた後、前へ向けて・・・

「昔から師匠への敬いの無い奴じゃったな!!」と言い放った。

 

「あんたが悪いんだろうがぁああ!」負けじと応戦するブラート。

 

尚も二人の昔話は続き、アカメとタツミはメーイ草を持って静かに去って行った。

 

 

ブラ「とっととくたばりやがれぇ、この70超えの耄碌じじいいいい!!!」

 

ゲン「貴様!人として言ってはならん事を!!お前がそう来るなら、お前の訓練時代のあの女士官に宛てた恋文の内容を広場に晒すぞ!」

 

ブラ「なっ!!なんで知って・・・正に公開処刑だろ、それ!!二人とも好い加減なんとか言ってくれ・・・っ!?居ねぇ!」

 

 

 

 

アジトへ変える道中の二人

 

 

アカ「ふふふ・・・」

 

タツ「・・・仲の良い師弟だったな」

 

アカ「そうだな、ふふふ・・・師範か・・・懐かしい響きだ」

 

タツ『・・・確かにな』

 



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未熟者を斬る・疑い

帝都、メインストリートでは・・・複数の老若男女の斬られた遺体が散らばっており、帝国警察が調べに当たっていた。

 

その殺害現場周辺を枠で囲み、その外にラバック、そしてマインが駆け付けた。

 

マイ「何?また・・・?」

 

ラバ「ああ・・・被害者がいきなり血を噴き出して倒れたってさ・・・目撃者はゼロだ」

 

「ここ最近起きている手口と全く同じじゃない・・・、・・・・・・・!子供まで・・・」

顔を歪めるマイン

 

ラバ「眉刹会(びせつかい)の仕業だ。あいつら最近、ナイトレイドよりもよっぽど暴れてるぜ」

 

そこに能天気な声が聞こえてくる

 

「うーっす!二人とも金貸してくれない?」

レオーネだ。

 

マイ「・・・夢一杯、詰め込めれそうな頭が来たわ」(訳・頭からっぽ)

 

ラバ「貸して欲しいなら先に今までの分返してよ!」

 

マイ「どーせまた、賭博でスったんでしょ」

 

レオ「にひひ」

 

レオーネは二人の顔を両脇に抱え

 

ラバ『うぉぉ!!///』ラバックの顔に豊満な胸が当たっている。

 

レオ「今回はちゃんと調査費に使ったよ」

 

マイ「!?・・・つまり・・・」

 

ラバ「・・・普段は飲み食い博打に使ってるって事だね・・・」

 

レオ「あー・・・、とにかく!!依頼が入った・・・」

 

 

ナイトレイドアジト広間、ナジェンダ、ブラート、アカメ、レオーネ、シェーレ、ラバック、マイン、そしてタツミを含めた全員が集合している。

 

ナジェンダは煙草の煙をくゆらせながら、

「今回の標的は眉刹会・・・最近帝都を賑わせている有名な殺し屋だ・・・」

 

タツ『・・・いつも体にわりぃものを・・・壁についたヤニ落すのも大変なんだぞ!・・・いつか全館禁煙にしてやる』(タツミは下っ端な為、雑用をやらされている)

そして、後になってそれが本当に実行されるのをこの時のナジェンダはまだ知らない・・・。

 

シェ「ご同業なんですね」

 

レオ「私達との違いは眉刹会は金を貰えれば誰でも殺すって事。相当怨みを買ってるよ」

 

タツ「・・・・・・・・・」

 

レオ「ふふん、シリアスな顔してんね」

 

タツ「ん?いや別に」

 

レオ「だいじょーぶ!おねーさんはちゃんと居場所も突き止めて来たんだよ。帝都近くに住んでいる老人達・・・そう、確か4人、それが正体さ」

 

ブラ・アカ「!?」

 

タツ「・・・・・・」

 

レオ「用心深い私達と違って奴らは派手に動き過ぎたよ・・・全てが雑だ。スラムの居酒屋で彼らに依頼したって自慢してる馬鹿が居たから問い詰めたんだ。更に賭場にいる情報屋が持っているネタも同じようなモンだった」

 

マイ「今回は抜けは無さそうね・・・1回に1回の確率でレオーネの下調べには抜けがあるから怖いのよねぇ・・・」

 

レオ「それ毎回失敗してるって事じゃん!万に一つもしくじってないでしょ、あたしは!!」

 

シェ「マイン!・・・でも確かにそうですよねぇ」

 

レオ「むきー!あたしだってやる時はやるって、文句言うなら自分達で調べて来なって!」

 

アカ「いや・・・恐らくレオーネの言う事に間違いは無い・・・その老人達には私達も一度会っている。山寺で会った時の老人達の隙の無い立ち居振る舞い、それに僅かながら血の匂いもした」

 

タツ『・・・気付いていたか・・・』

 

ブラ「ああ・・・だがありゃあ、山暮らしで獣か危険種狩っての返り血じゃねえのか?」

 

アカ「本当はブラートも気付いているんじゃないのか?妙な気迫を・・・あれは只の武の鍛錬した者の気じゃない・・・暗殺者のそれだ」

 

ブラ「・・・・・・・」

 

アカ「それに達人が犯人だと言うなら奇怪な殺し方にも説明が付く・・・余りに速く斬られると人はそれに気付かず何歩も進んでいくと言う・・・これなら斬っている時他人には判らないし、被害者が倒れた時に犯人が隣に居ない・・・目撃者がゼロな訳だ」

 

タツ『・・・百歩討ちか・・・人間共の中にも器用な奴らがいたもんだなぁ・・・』

 

マイ「恐ろしい相手ね・・・」

 

ブラ「・・・確かに昔っから人を喰ったような底の知れなさはあったが見境なく殺すような人じゃねぇぞ・・・師範時代だってお偉方を影で意見してたのを俺は知ってんだ・・・なのに・・・何故・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

ブラ「ナジェンダ・・・頼む、念の為、本当に俺の師範、ゲンセイが犯人なのか確かめさせてくれ!」

 

ナジェ「ブラート・・・気持ちは判るがこれだけの証言・・・、状況証拠が揃っているんだ・・・それに、もしそこで話に行ってブラートから私達の事がばれたらどうするつもりだ?」

 

ブラ「・・・・・・・」

 

ナジェ「私達は誰かがヘマをすれば芋吊る式で全員が危なくなる・・・それぐらいお前も判っているだろう!」

 

ブラ「くっ・・・」

 

シェ「ボス・・・どうでしょう、ブラートには今までの功績があります。1回くらいは彼の好きにさせて上げては・・・」

 

ナジェ「・・・・・・・」

 

ブラ「・・・・・・・・」

 

ナジェ「はぁ~・・・判った、良いだろう・・・だがもし私達全体が危機に晒されるような失敗をした時は・・・判っているだろうな?」

 

ブラ「ああ・・・それ相応の覚悟は出来ているぜ」

 

タツ『・・・ゲンセイは只者じゃ無い・・・返り討ちに遭えばブラートのインクルシオが取られてしまうな・・・』

タツミには最終的に全ての帝具を壊すという目的があった。

 

 

月の照る夜、ゲンセイの住む寺。

併設している道場には彼は一人で居り、仏像と蝋燭の光が静かに瞑想を行うゲンセイを照らしている。

そこに一人の男が上がり込む。

 

ゲン「・・・ブラートか・・・」

 

ブラ「・・・・・・・」

 

ゲン「なんじゃ?またお前の昔の恥話を聞きたくてきたのか?」

 

ブラ「・・・・・・・・」

 

ゲン「はぁ~・・・、全くお前は本当に殺気を隠すのがド下手くそだのう・・・。そんなんでは誰も斬れんぞ」

 

ブラ「師範・・・、今帝都を騒がせている眉刹会をご存じですか?」

 

ゲン「ブラートよ、お主今は軍人を辞め、猟師で生計を立てていると言っておったが・・・」

 

ブラ「答えて下さい!!」

 

ゲン「ふぅ・・・やれやれ・・・知っておる・・・なんでも恐ろしい使い手らしいのう・・・」

 

ブラ「師範も実はそれに一枚関わっていませんか?」

 

ゲン「・・・関わっておる・・・」

 

「・・・・・・・・・!」ブラートの顔が怒りに歪む。

 

ゲン「・・・また殺気が膨れ上がったのう・・・全く、もう少し隠したらどうじゃ?」

 

ブラ「・・・ゲンセイ師範、貴方はそんな人では無かった・・・何故、そんな真似を・・・」

 

ゲン「・・・良いじゃろう、儂の昔を話してやろう・・・儂は小さい頃から生きるか死ぬか、相手を殺すか殺されるかの二つに一つの剣を習い、そして異民族と闘って育ってきた・・・。そんな時、儂は今まででもっとも強い師匠に出会い教えを乞うた。数年で儂に叶う兄弟弟子はもうおらず、師匠とも互角という自負があった・・・そのような時に儂は師匠に呼び出されいきなり斬りつけられた・・・。その時の傷がこの片目のそれじゃ・・・」

彼の顔の右目が縦に斬られていてその傷跡の事である。

 

ゲン「その時、師匠が何故儂に斬りかかって来たか判らんかった・・・だが、儂の心眼は師匠以上であった・・・だから、師匠の剣を捌き、儂は圧倒した・・・。あれだけ強かった師匠がまさかと・・・な・・・そして、師匠も観念したのか、剣を置き、正座した。儂も安心し、刀を納め、斬りかかった訳を聞こうと近付いたのだが・・・」

そこでゲンセイは一呼吸置いてから

 

「いきなり抜刀してきおった・・・危うく斬られかかったが、儂もそれに瞬時に反応する事が辛うじて出来、師匠を斬った・・・。」

 

ブラートは黙ってそれを聞き、いつの間にか正座していた。

 

ゲン「・・・その時は儂は師匠が乱心したのかと思った・・・もうそこには居られぬ・・・最も師匠が斬りかかって来たと弁明した所で他の証言者も居ない・・・その頃の儂は余り弟子仲間で好かれておらんかったしのう・・・それに、斬りかかって来た師匠にも怒りはあった・・・だから儂はそのままその地を離れた・・・その後、儂は強い相手を求め、次々に斬っていった・・・そうしているうちに儂は気付いた・・・」

 

「何故師匠が儂に斬りかかって来たかを・・・儂は剣に溺れていたのだ・・・、自分の腕で相手を倒し、命を奪う快楽に酔いしれておったのだ。そして、儂はそれに気付いた時に初めて師匠を斬った事を後悔した・・・あの時、師匠に斬られるべきだったのだ・・・確かに今思い起こすと師匠は儂を正す事を言っておった・・・だがその時の儂には理解出来ず、聞き流しておった・・・」

 

ブラートは神妙な顔で聞き入っている・・・。

 

ゲン「そして、儂はそのうち死に場所を求めるようになった・・・誰か儂を斬ってくれる者はおらぬかと・・・だが誰も殺してくれる者はおらんかった。儂を斬りに来る者もおったが・・・幼少期より相手を殺すか殺されるかの技が身にしみた儂は無意識に体が動いてしまう・・・これはなブラート、剣を持つ者がいずれは行き着く業苦の世界じゃ・・・

そんな時に儂の腕を何処で嗅ぎつけて来たのか・・・帝都政府のお偉方が儂を武術師範として招きたいと来た・・・儂はそれに応じた・・・少しでも罪滅ぼしを、儂のような過ちをこれ以上増やしたくないと・・・その頃の事はブラートもしっておろう・・・」

 

ブラ「・・・・・・・・・・」

 

ゲン「そのように教え子達に教えておっても、持って生まれた宿業が儂を苛む・・・、一時期は剣を持つのも嫌になったくらいだ・・・。生きている事自体が苦痛じゃよ・・・、お主ら教え子達に武の技を教えている時にふと、殺したくなる時があった・・・儂はそんな自分に嫌悪したぞ。だから儂は生きながら死ぬ道を選ぼうと考えたり、仏に縋ったりもしたが・・・駄目じゃった・・・。所詮、己の中の悪鬼を殺すには己を殺す以外に無い・・・人を一人でも殺し

た者には未来永劫救いの道など無い・・・だから儂は年だから引退したのもあったが・・・かような自分を抑える為に人里離れた地に住むようにしたのじゃ」

 

ブラートは自身にも突き刺さる言葉として複雑な顔になる。

 

ブラ「・・・ですが師範・・・貴方が教えた・・・俺も含めた訓練生達は厳しかったがあの稽古の日々を楽しんだ奴らも多かった・・・それは間違いねえよ・・・」

 

ゲン「ブラート・・・お前、最近も人を殺したようだな・・・その気を感じる・・・やはり猟師では無い・・・帝都の秘密警察か・・・それとも・・・」

 

ブラ「・・・・・・」

 

ゲン「・・・・・・言いたくは無いか、はっはっは・・・まぁ良いわ。しかし人生の表街道を歩いているような感じは無いのう・・・お前は先程の殺気同様隠し事が下手だからのう・・・」

 

ブラ「あはは・・・、やっぱ師範には叶わねえな・・・」

 

ゲン「はっはっは、当たり前じゃ!」

 

二人で気持ち良さそうに笑い合う・・・

 

ゲン「それで・・・儂を倒しに来たんじゃろ・・・?」

 

ブラ「ああ・・・本当にあんたが・・・あの街の彼らを殺したのか・・・?・・・何故だ、何故、あんな見境も無く・・・子供までいたそうじゃねぇか」

 

ゲン「何故か・・・、良いじゃろう・・・その答えを明日教えてやる・・・、明日再びこの時間に来い・・・その時に教えよう」

 

ブラ「今じゃ駄目なのか!」

 

ゲン「同じ事を何度も言わせるな!儂は逃げも隠れもせん・・・」

 

 

ブラートは悩んだ末、ゲンセイを信じ寺を後にした。

 

 

その外で蹲っている人影、『・・・大した爺さんだ・・・』タツミはゲンセイに気付かれないようにしばらくはそこに止まっていた。

 

 

ゲンセイは道場から離れ、仲間達の居る部屋へと向かった。そこではその3人がそれぞれ鍛錬を行っていた。

 

「おお?ゲンセイ殿、どなたか客人が来られていたようだが・・・?」

 

ゲン「うむ・・・昔の教え子でのう・・・実は貴殿らに折り言って頼みがあるのだが・・・」

 

「頼み・・・?」

 



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未熟者を斬る

翌日夜

 

寺に向かう道、ブラート、アカメ、タツミの3人が向かう。

 

ブラ「・・・・・・・・・・・・」

 

アカ「ブラート・・・私が殺ろうか?」

 

ブラ「いや、俺が殺る・・・アカメは他の眉刹会の奴らを頼む・・・」

 

タツ「それだけ強い相手なんだね・・・今回は」『無理だ!・・・お前ら二人でも帝具使った所で勝てる相手じゃ無え・・・』

 

アカ「珍しいな、タツミが後学の為に一緒に来るなんて?」

 

タツ「ははは・・・」『お前らが殺されようがしったこっちゃないが・・・帝具があいつらの手に渡ったら厄介だ・・・。俺は慢心してた、ナイトレイドや帝国最強の奴らを倒せる技量が備わっとけばそれで良いと思ってたが・・・まさかあんな奴が居たとは・・・今の俺が勝てるかどうか・・・、ちっ、この体じゃ俺の思う通りに動くにはまだ動きの刷り込みが足りなかったな・・・帝具を使わない相手になるべく帝具を使いたくないが・・・仮に使った所で今の手持ちので勝てるか?』

 

3人供それぞれ無言となる。標的の居る場へ辿り着き、必要以上に距離をまだ空けている。

 

ブラ「・・・アカメは手を出さないでくれ・・・俺がしくじった後に頼む・・・」

 

アカ「判った・・・」

 

ブラ「タツミは・・・お前やっぱりもう帰れ・・・巻き添えをくうぞ・・・誰かを庇いながら闘える相手じゃねぇ」

 

タツ「え?ああ・・・それじゃあ『そう言われても仕方ないか・・・ここは一旦引いて・・・そして』ん?周りに誰かいるみたいだ・・・」

 

アカ「・・・そうだな・・・」

 

ブラ「・・・どうやらマイン達か・・・、他の眉刹会の奴らもあの寺ん中に全員居るみたいだな・・・こりゃ総力戦になるかな・・・」

 

その時何を思ったのかタツミが寺の道場へ歩いて行く・・・

 

ブラ「ばっ!お前!」

 

アカ「何を考えている!」

 

タツ「・・・標的が全員固まっててやりにくいなら、ゲンセイだけでも呼び出すのはどうだろう?」

 

ブラ「・・・・・・・・・」

 

アカ「・・・確かにそういう手もあるが・・・」

 

ブラ「タツミ、下手したら危ねぇぞ!」

 

タツミは笑って応える「いやぁ大丈夫だよ兄貴!・・・ただ呼びに行くだけだから・・・」

 

ブラートとアカメはタツミの大胆さを愚かだと或いは何も知らないから出来る芸当だと思った。

 

タツミは再び歩き始め・・・その顔には汗が滲んでいた・・・手持ちの帝具には戦闘用のモノは無く、更に建前は只付いて来ただけだったので身に付けても判らない短めの隠し武器を持っているだけであった。

 

タツミは音を消し気配も消して道場の扉に辿り着き、そこに手を当て全神経を集中して中の様子を探った。

 

タツ「・・・・・・・・・・・・ん?・・・『誰かいる・・・いや、誰も居ない?・・・妙だ』

 

タツミは手招きで二人を呼んだ。

 

二人とも無言で互いの意図を計ろうとする。

 

ブラ『どうした?』

 

タツミは扉を差した後、自分の鼻を差す。

 

アカ『・・・ん?血の匂い?』

 

ブラ『・・・確かに・・・、何故だ?』

 

これ以上思案しても仕方がないと判断し、頷いてタツミが扉を開ける。

 

その道場の真ん中には、ゲンセイが刀を突いて立っていた・・・満身創痍で片目は斬られていてそこには眼球が無く、体にも無数の傷が出来ていた。そして3人の存在に気付いたゲンセイは・・・

 

ブラ「ぐっ!」

 

アカ「うっ!」

 

タツ「!?・・・破ッ!!!」

 

3人に眼力で金縛りを掛けた・・・タツミだけはそれを弾き返した。

 

タツ『・・・危なかった、今の技は・・・面白い技だ・・・』

タツミは冷や汗をかきながらも、フッと笑った。

 

だが二人に掛けられた金縛りも直ぐに解けた・・・ゲンセイがブラートとアカメだと認めたからだ。

 

ゲンセイはふっと満足気に顔を俯け目を閉じた。

 

ブラ「師範!!」

 

ブラートはゲンセイに駆け寄った。

 

アカメは周りを観察し、良く見ると建物の所々が破損し、眉刹会の一人が死体となって横たわっているのを確認した。

 

ブラ「し、師範・・・これは一体・・・?」

 

ゲン「・・・全く、五月蠅い奴じゃ・・・満足に休みも出来ん・・・昨日お前が帰った後から・・・動き続けたから・・・流石に疲れたぞ・・・」

 

タツ『・・・他のメンバーの生きている気配も感じない・・・まさか一人で三人を相手に1日、死闘を行っていたのか・・?あの三人の一人一人だって、今のブラート達じゃ勝ち目は無いはずだ・・・』

 

ブラ「ゲンセイ師範・・・あそこに横たわってますのは・・・」

 

ゲン「見ての通りじゃ・・・、まぁ・・・儂の負けじゃよ・・・元来悪い者達では無かったと思っておったが・・・或いはそれを見抜けなんだ儂が未熟じゃったか・・・、とにかく、お前に言われた後、こやつらが眉刹会の者達だと知った・・・思えば不審な点もあったな・・・儂はこの年になって共に鍛錬できる仲間が出来たと、初めは素直に喜んどったのだが・・・、だから儂はお前が帰った後、彼らに事の真偽を問いただし、真相が明らかとなった・・・だから儂はもうこのような事から手を引けと諌めたのだが・・・、ふっ・・・説得できなんだ儂の負けじゃ・・・人の出会いとはなんらかの意味があるのだろう・・・かような者達を呼びよせるとは・・・儂も自分の業からは逃れられんのう・・・ぐっ・・・」

 

ブラ「師範!!・・・、貴方も眉刹会では無かったのですか・・・?」

 

「・・・ふっ、・・・だからブラートお前は間抜けなのだ・・・彼らが眉刹会だとしたら、成程、確かにこうして場所を提供している儂も言いようによっては一枚噛んでいるとな・・・そう思ったからお前の話に合わせたのだ、はっはっは・・・がはっ・・・」ゲンセイは血を吐いた。

 

ブラ「師範・・・早く手当てを!」

 

ゲン「馬鹿め・・・お前如きが儂の心配なんぞ・・・弟子が師の心配なんぞ10年早いわ・・・、儂も久しびりにちと動き過ぎて疲れただけじゃ・・・儂は少し眠るぞ・・・」

 

ブラートはやりきれなさにどう言葉を掛ければ良いか迷っている「・・・くっ・・・」

 

ゲン「・・・そうじゃ・・・一眠りする前に一つ言う忘れておった・・・、お前・・・どうせナイトレイドとかいう殺し屋の一味じゃろう・・・」

 

ブラ「・・・はい・・・」

 

ゲン「数十年前の帝都はまだ今のような・・・あのオネストとかぬかす奴もおらず、まだ今よりはマシじゃった・・・。儂は帝国政府に居た頃にもっとしっかりしとれば・・・お前のような闇に手を染めるような愚か者を出さずに済んだかもな・・・すまなかったな、ブラートよ・・・」

 

「・・・・・・いえ・・・」ブラートの目から自然に溢れ出てくるものが見え始めた。

 

ゲン「・・・そこの御二方・・・アカメさんに・・・タツミ君と言うたか・・・儂の弟子の中でも最も悪いほうじゃったが、こんな奴でも後の面倒を頼みましたぞ・・・はぁ・・・喋り過ぎたわい・・・もう好い加減眠くなって来た・・・儂が起きた時はブラート、少しは進歩しておれよ・・・・・・・・・・・」

 

ブラートの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 

そして、ゲンセイは刀を地面に突いたまま、立ったまま絶命した。

 

 

「い、・・・今まで・・・自分が悪くたって・・・棚に上げてたような人だったんだ・・・いつか頭下げさせてやる・・・そう思っていたんだが・・・なんで最後の最後で謝んだよ・・・」

 

ブラートは彼の側で何度も地面を叩き・・・人目憚らず泣きに泣いた・・・、その姿を道場の状態に気付き中に入って来たマイン、シェーレ、レオーネ、ラバック、そしてアカメとタツミは彼の気の済むまで見守った。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイドアジト

 

報告を聞いたナジェンダは・・・「そうか・・・そういう事だったのか・・・」

 

ブラ「・・・・・・・・・・・」

 

ナジェ「今回の報酬は・・・さて、どうしたものか・・・」

 

シェ「・・・そうですねー、実際仕事・・・と言いますか、行ったのはブラートの御師匠さんですし・・・」

 

ナジェ「ゲンセイ武術師範か・・・、私も帝国軍人だった頃は任地も違い面識は無かった・・・ブラートの話で外道に堕ちたものと思ったが・・・ふふふ、喰えない方だな」

 

マイ「・・・こんな時に悪いけど・・・ひょっとしてタダ働き?」

 

ラバ「う~~~~ん、時間手当程度は欲しいかな?」

 

レオ「え?それぐらいしか出ないなら、あたしの今回の借金返せないー!」

 

タツ「姐さんはもう少し生活態度改めた方が良いよな」

 

アカ「うんうん」

 

レオ「んがっ!!二人とも出来ているじゃないのかぁ!!」

 

アカ「出来てる?」

 

 

ブラ「・・・ナジェンダ、皆には悪(わり)ぃがその金は依頼人に戻してくれないか・・・」

 

ナジェ「・・・判った、タツミ以外には最低限の時間手当のみ出そう・・・タツミは今回、任務でも無く自分で付いて行きたい言いだしたのだから構わないな?そして、ブラートには特例で元々の報酬を渡す・・・それで良いな、皆!」

 

タツ『ああ・・・、まぁ俺は表向き何もしてないからな・・・とほほ・・・』

 

レオ「ええーーーーー・・・まままままずいーーーー!」

 

マイ「まぁ仕方ないじゃない?・・・だから言ったのよ・・・レオーネは100%の確率で調査に抜けがあるって・・・いしししし」

 

シェ「まぁまぁ、マイン。今回は仕方がないですよ」

 

「そうだよね・・・あたしだっててっきりあの爺さんも・・・」レオーネも流石にそれ以上の言葉は呑んだ・・・。

 

ブラ「ナジェンダ・・・恩に着る・・・」

 

皆は解散し、廊下でブラートが自室に戻る途中、

 

ブラ「?」

 

タツ「兄貴・・・これ、ゲンセイさんの供養に使ってくれ・・・余り多くは無いけど・・・」

タツミはブラートに弔い金を渡す。

 

ブラ「タツミ・・・」

 

タツ『面白い技を教えて貰った・・・その礼代わりだ・・・』

 

「ブラート、私も・・・」アカメがそう言った時・・・ぐーきゅるきゅる・・・ぐー・・・、アカメのお腹から空腹を告げる合図がなる。

 

アカ「・・・・・・・・・・・・・すまない」

 

ブラ「あー・・・アカメ、気持ちだけで十分だ・・・」

 

 

数日後

 

ゲンセイの居た寺は清掃され、その傍には彼の墓が安置された。そしてその前で手を合わせるブラートの姿が見て取れた。

 

その後ろにはアカメとタツミが見守り、その日は穏やかな天気に心地よい微風が流れていた。



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この世を斬る・前篇(番外編)

タツミのアカメ・レオーネとの初対面話です。原作1話目通りあの人も出て来ますw

政治な話で恐縮ですが、
民は忘れやすい(どんな法案を通しても初めは喚くがそのうち忘れるから大丈夫)と、与党幹部はよくぞ言ったもの。
戦争をするなら殺す覚悟と殺される覚悟…楽に死なせてくれるとは限らず惨い殺され方の覚悟を持たない者に従う気は毛頭無いので安保法案通す前にその時の首相とその息子を戦の最前線に送り込む法案を先に可決して欲しいですね。

オネストのように正義を騙り悪を成すのはいつの世でもいるもので…、エスデスのように最前線で闘おうとする者の方がまだ良い。

もし、軍人訓練を受けて無いから無理だと言うならば、勝ち戦であろうが負け戦で終わろうが、どちらにせよ開戦時の最高責任者は処刑されるべき。
勝っても負けても多くの人が死ぬでしょう・・・その責任と重みを感じて今まで為政者は戦争を起こしたものか?これは聖戦であり、止むにやまれずという事情があるなら、その人は憂国の士、ならば死の覚悟もあるはず。
そもそも戦争は外交における失敗でしかなく、誰もが血を流さずに相手を説得、味方に出来れば異論は無い事でしょう。

右翼、左翼、亡国、憂国、国粋、保守、革命、今日本は以前よりも色々蠢いていますが、これもいきなり噴出した問題では無く、その芽は戦後から芽生えていました。
所謂平和ボケ、戦後、日本文化は結構否定されました。良い面もありましたのに、憂国の人は歯痒い思いだった事でしょう。

それがここ最近、美しい日本を取り戻せと言う事で戦前回帰を目指す動きがあります。
誰にとっての美しい日本なのか?

自分の国は自分で守る、それは立派な理念なものの、他国は劣等だから戦争も止む無しというのは本当に正しい選択なのでしょうか?
世の中、表に出ている事が真実では無くその裏側に陰謀が隠されている事があります。
いざ戦争になれば勝つに越した事は無いものの、戦争になる事自体が負けだと思うのです。
その戦争は本当に自衛なのか、聖戦なのか、ひょっとしたら裏で糸を引いて戦争で金儲けを企む者の陰謀ではないのか?・・・常に、それが本当に正しい事か自己再確認を忘れない、それが大事な事だと思います。
私も微力ながら2次創作とはいえ、読んで頂けている方々に世の中の仕組みについて考えるきっかけになればと思い書いており、他山の石とも言いますのでその礎となれれば幸いです。


人が次第に朽ちゆくように、国もいずれ滅びゆく、千年栄えた帝都すらも今や賄賂が横行し、富や権力のある者はその力故に、罪を免れる事が多かった。その罪は弱き者に押し付けられてゆく・・・所詮この世は生き地獄・・・一体いつになれば終わるのか・・・

 

 

其の日は朝から雨であった。

 

一向に晴れる気配は無く、その国の中心部に位置する広場周辺も人はまばらで皆一様に顔も明るくは無く、用が無ければ足早に歩いていた。

 

その広場の一角にゴザを敷き、雨の中でも物乞いとおぼしき男がフードを被って正座していた。顔は影になって窺えない。傍に置いてある空き缶には今日はまだ一銭も入っていないようだ。普段はここは物乞いの人間が何人もいるのだが、生憎の天気で彼一人であった。

 

そこに一人の黄色がかった髪のスタイルの良い女性が傘をさして歩いて来た。

『あ~あ、早く止まねえかな・・・、でもまぁ久しぶりに勝ってあたしの懐は・・・うっしっし、ん?』

その女は物乞いの男に目が止まった。

『この雨ん中、ぴしっと座って・・・でも物好きだねぇ、こんな日は止めときゃ良いのに・・・』

そう思って彼女はそのまま通り過ぎようとした。

『ん~・・・、はぁ・・・次の仕事も近いし、ゲン担ぎに少しくらい恵みますか?』

そう思った彼女は懐から小銭をその空き缶へ入れた。

 

「有難う御座います・・・」

そう言った彼は彼女の方へ顔を向けた。

その女性は一瞬ぞっとした、端正な顔立ちなのだがその男の死んだような目に恐れを抱いた。だが気を取り直し、

 

「お兄さん、最近ここへ来たの?」

 

「はい」

 

「まだ若いんだから仕事先あると思うんだけど・・・あ~・・・、まぁこの帝都じゃろくな仕事先も無いか・・・風邪ひかないようにもう引き上げたら?それじゃ」

 

「はい、お心遣い痛み入ります・・・」

 

そう言ってその女性は足早に去って行った。

『・・・意外に礼儀正しかったなぁ・・・、元は良い所のぼっちゃんかな?でもまぁ誰かの罠に嵌められて家財道具没収で没落かな?ここじゃよくある話だねぇ・・・』

 

彼はその女性が見えなくなるまでそのまま見守った。

 

 

夜になってようやく雨が止んだ。

この日、数日前に広場で処刑された者達を近くの野に打ち捨てる日であった。野犬があさりに来たり、衣服をその日暮らしの者達がはぎ取って少しでも生活の足しにと持って行ったりという光景が見て取れた。その数日前の処刑日は自分達が直接手を下すのを嫌がった帝国兵士がその辺りに巣食う浮浪者達に安い金で処刑執行をさせたりもしていた。

 

そして、昼間ただ一人物乞いしていた男は少し離れた場所で壁を背に眠っていた。

 

「あら?ちょっと止めて!」

そこに馬車に乗った裕福そうな一人の女性が降りたち、従者に声をかけた。

 

「お嬢様、またですか・・・?その辺りの只の物乞いですよ?」

従者にしては武装しており、ボディガードも兼ねているようだ。

 

「お気の毒に・・・良いじゃない?あたしの性分なんだから、たまたまこうやって見かけたのが何かのご縁よ・・・濡れているじゃない?あのままだと風邪ひいちゃうわ」

従者はお嬢様と呼ばれた女が馬車から降りる介添えをした。

 

その女性は彼へ近づき、声をかけた。残った従者二人は複雑な顔になっている。

 

「ねぇ?お兄さん・・・?」

 

「自分の事で?」

彼は顔を上げ、その女性を見る。

 

「あら?あはは、髭が生えっぱなしね・・・今晩の泊まる所は?」

 

「自分はただの物乞いで・・・いつ死んでもおかしくない、野たれ死にが性に合う者なんで・・・どうかお気になさらずに・・・」

 

「そう言われて、はい判りました♪って言えると思う?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「こうしてお近づきになれたのも何かの縁ですから、ね?」

 

従者二人が

「アリアお嬢様はお前の様な奴を放っておけないんだ」

 

「お言葉に甘えておけよ」

 

「・・・自分のようなみすぼらしい身なりの者なんざ、お嬢様の家を汚してしまいます・・・臭いだって・・・ですのでお気持ちだけで十分です。有難う御座います」

 

アリアと呼ばれた女性は何を思ったか、彼の空き缶の中の小銭を取り

「じゃあこれだけ宿賃を頂くは、それでどう?」

その小銭では普通の民宿に泊まる事はまだ足りない。

 

「・・・困ったお嬢さんだ、後悔してもしりませんぜ」

 

「後悔?例えば?」

 

「いえ・・・、では一宿だけ御厄介になります」

 

「じゃあ決まりね、はい乗って♪・・・そうそう、お兄さんお名前は?」

 

「・・・、タ・・・イエヤスと言います」

 

そう言って、男も馬車に乗り、帝都の少し外れの森にその豪邸はあった。

 

 

家の中には鹿の剥製や高価な壺が置かれてあった。

 

アリアの父母が居間で食後のコーヒーを楽しんでいたようで

「おお、アリアがまた誰か連れて来たぞ」

 

「クセよねぇ、これで何人目かしら」

 

「ねぇお父さん、お母さん、彼に先にお風呂にいれたいんだけど、あと・・・男の人の服ある?」

 

 

イエヤスは風呂に入り、こざっぱりとして出て来た。

 

「ああ、結構格好良いんだね、その服も似合うよ」

アリアが楽しそうに笑う。

 

「有難う御座います・・・何から何まで」

だがそのイエヤスの目には余り生気が感じられない。

 

「いいよ、いいよ遠慮なく泊まってって」

 

「恩に着ます」

 

「あんまり固くならないで良いよ」

 

そこで母親が口を挟む

 

「人助けをすればいずれ私達にも幸せが帰って来るものね」

 

「お母さん!私はそんなつもりじゃないよ!!」

 

「冗談よ冗談・・・でも未来のお婿さん候補になる方じゃ無いの?」

 

「お母さん!!!」

父母が笑い、アリアはむくれる。イエヤスはその状況を無表情な顔で見つめていた。

 

「ではイエヤス君も疲れているだろう?もう今日はこの辺でおひらきにしよう」

 

「・・・自分は明日何かお手伝い出来る事はありませんか?それが終わればお暇させて頂きたく・・・」

 

「ううん、しばらく泊まってて良いよ?・・・そうねぇとりあえずアリアの護衛をしてよ、他の人と一緒に」

 

「それは良い・・・ガウリ君頼んだよ!」

 

「・・・分かりました」

 

イエヤスはアリア親子に頭を下げ「今日は何から何まで有難う御座いました・・・」

 

「助け合いよ。貴方も誰かに良い事してね」

母親は笑顔でそう答えた。

 

翌日

帝都商店街

 

アリアはエネルギッシュに買い物を行う。

「次はあの店行くわよ!」

 

従者二人は手に余る荷物でてんやわんやであった「お待ち下さいお嬢様!」

 

 

馬車でガウリとイエヤスは待機していた。ガウリはほっと一息ついたように喋った。

「次は俺達が留守番の様だな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「なぁお前、物乞いは何をするんだ?」

 

「文字通り人様から恵んで貰ったり、後は・・・処刑死体の処理をして役人からいくらか頂きましたり・・・」

 

「・・・大変だな・・・役人か、昔はそんなに処刑も多くなかったんだがな・・・上を見てみろ」

 

「はい」

 

「あれが帝都の中心、宮殿だ・・・流石にそれぐらいは判るか?・・・お前は田舎から来たんだったな?ここに来て何年だ」

 

「まだ1年も・・・あそこに国を動かす皇帝がいるんで・・・?」

 

「いや・・・少し違う。皇帝はいるが、まだ成人してない。その皇帝を影で動かす大臣こそがこの国を腐らせる元凶だ」

 

「・・・どこにでも悪い奴はいるもんで、それが世の習いでしょう・・・」

 

「・・・達観してるな、結構。ただこんな話滅多にするなよ、お前もたぶん判っているだろう?聞かれれば打ち首だ・・・そうだ、他にあんな連中いるのも知っているよな?

 

路上の塀にナイトレイドと書かれた人相書きが貼られている。

 

「ナイトレイド・・・名前だけは・・・余り世の中の事には疎いもんで」

 

「ここ、帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ。名前の通り標的に夜襲を仕掛けてきやがる。帝都の重役達や富裕層の人間が主に狙われている。・・・一応覚悟しとけよ」

 

「・・・へい」

 

「あと・・・とりあえずアレなんとかしてこい」

 

アリアは大量の買い物荷物を別の従者に運ばせて来る。

 

「・・・凄いもんで、一体どうやって稼いでいるんですかね?」

 



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この世を斬る・後篇

アリア屋敷

 

 

今日も泊まるように勧められイエヤスは与えられた部屋で眠っていた・・・のだが、

 

「・・・・・・・・・」

起き上がり目を覚ます。

 

夜中に屋敷の廊下を一人歩く女性、アリア母親だ。

 

「さぁて・・・今日も日記を付けようかしら・・・ふふっ止められないわねこの趣味は」無垢な子供のような笑顔である。

 

月夜が彼女を照らして影が出来ており、その背後にもう一つの影が浮かぶ。

 

斬・・・!!

母親の胴体は真っ二つになり、本人は何が起こったか判らぬまま、出血多量で直ぐに絶命した。

 

斬った・・・いや、切った得物は巨大な鋏であった。殺したのは眼鏡を掛けた紫色の長髪の女性であり、その綺麗な服には返り血を浴びるもその表情には感情は無かった・・・のだが。

「すみません」と呟き、その女は殺した母親に頭を下げた。

 

 

イエヤスは部屋を出て廊下を歩き、窓越しに空を見た、すると5つ人影が宙に浮いて・・・いるように見えた。

 

「糸の帝具・・・か?成程・・・来たか・・・、ナイトレイド・・・、周りに誰もいないとはいえ、目立ちたがり屋な奴らだな、ふふふ」

 

 

糸の帝具を操っている緑髪の男が「護衛三人、標的だぜアカメちゃん」

 

言われた黒髪長髪の女性は「葬る!」と呟いた後、鎧らしきものをまとった男とそこから飛び降りる。

 

アカメと呼ばれた女からは何を考えているか判らない表情なものの氷のような殺気が溢れ出ていた。彼女は刀を携え近付く。

 

護衛の従者達はそれぞれ武器を構えており、その中のガウリが助言する「・・・いいか、あの刀に少しでも触れるなよ」

 

そう言って3人は向かって行く、が。

 

ガウリはアカメの瞬時の抜刀で首の皮一枚を斬られる。そして鎧男は槍のような武器で一人の従者の胸を射抜く。

 

「!・・・心根も・・・腐っていた自分には・・・当然の報いかー」ガウリは斬られた箇所から梵字の呪詛が流れ心臓停止し絶命した。

 

最後の残った従者は怯えて逃げ出した。

「な・・・なんなんだよこいつ等化け物過ぎる!」

 

だが、彼の後頭部を銃撃し仲間の後を追わせる。

 

「・・・情けないわね、敵前逃亡なんて・・・」

桃色髪のツインテールの女が呆れて呟く。

 

それを聞いた緑髪の男は同意、或いはそれは無茶だととも取れる苦笑をした。

 

 

その様子を見ていたイエヤスは「・・・へぇ・・・やるなぁ・・・」

 

 

一方、屋敷内の別廊下にて

 

「ぐ・・・う・・・た・・・助けて・・・娘が、娘が居るんだ・・・」

アリアの父親は黄金色の髪と獣の耳が生えた半獣人のような女に片腕で持ち上げられていた。

 

「安心しろ、直ぐ向こうで会える」

 

「娘まで・・・情けは無いのか!」

 

「情け?・・・悪党ってのは他人に厳しく自分達に甘くがモットーだよな・・・くくく、意味不明だな」

 

首の骨が折れる音がした。

 

 

 

 

「お嬢様早くこちらに!」

この家の従者の最後の一人がアリアを連れて逃げていく。

 

「どうなっているの?」

 

「とにかく離れの倉庫へあそこなら安心です」

 

だがそこにアカメと呼ばれた殺し屋が迫る。

 

「クソっ!もうここまで!」

 

手持ちの銃を乱射するが・・・アカメの頬を掠った程度だ。

 

「標的・・・葬る」

 

横一線薙ぎ払いで最後の従者を文字通り葬る。

 

 

「ひぃっ」

 

アリアは腰を抜かし怯えてただ死を待つのみとなった。

 

アカメは躊躇無く迫り、先程も呟いた言葉を言う「葬る」

その言葉は彼女にとって命を奪う事が出来るようになる為の自己への暗示なのだろう。

 

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 

 

 

「!?」アカメは虚を突かれた気持ちとなり飛びし去った。

 

イエヤスは不敵な笑みを浮かべ「わりぃな、綺麗な姉さん。このアリアさんには一宿一飯の恩義があるんだ・・・見逃しちゃくれないか?」

 

「お前は標的では無い・・・斬る必要は無い。・・・が、顔を見られた以上葬るしかない・・・」

 

「あー・・・そりゃ大変だ・・・」

 

アリアは半泣きの状態でただオロオロしているのみであった。

 

 

 

「あーばっちぃばっちぃ」

腕を振りながら、こちらに歩いてくる一つの影。

 

「!・・・アカメの奴、珍しいな。まだ仕留めて無いのか・・・あれ?あれは確か・・・」

 

イエヤスは微動だにせず、ただ両手を前気味に下げているだけであるが・・・、アカメは攻めあぐねていた。

 

『・・・・・・こんな感覚は初めてだ・・・何者だ?・・・』

 

イエヤスから放つ気迫に圧され、戸惑っていると、なんと彼の方からするすると近づいてくる。

 

『!?・・・何か帝具でも持っているのか?・・・』

アカメは余計な事を考えるのを止め、無心の最速で斬りかかる

 

『ああ・・・速いな』

 

だがアカメの予想に反してあっさりとイエヤスの首へ刀を突き付けられた。

 

「どうした?・・・何故刀を止めた?」

 

『・・・何故だ、何故私は刀を止めた?』

 

アカメは標的でも無い人間を殺す罪悪感で止めたか或いは・・・

 

イエヤスはアカメの刀を指で掴む。もう彼の眼は生気のないものでは無く力のこもったものに変わっていた。

 

「この刀で何人斬ってきたんだお前は?」

 

「・・・・・・・・」

 

「まぁ良いだろう・・・、どうした?俺の首に当ててそのまま引けば斬れるだけの・・・簡単なお仕事だろう?」

 

アカメは脂汗をかいていた・・・もしここで自分が先に動けば・・・倒されるのは自分ではないかと・・・アカメの長年の殺し屋としての勘がそう告げていた。

 

『アカメが緊張してる・・・あの男一体・・・』

その二人のやりとりを見ていたレオーネもその者が只者では無い事だけは悟り・・・それにこのまま膠着状態が続けば仕事に支障をきたすと判断した。

 

 

「さぁ・・・俺を殺してみろ!・・・俺も死にたくて仕方がねぇんだ!・・・『ばっさり俺をやってみな・・・そうなれば、俺の代わりに別の奴がこの星に派遣される・・・

 

或いは俺があの場へ戻って、議会に貴様らの愚かさを・・・例え多少歪曲したとしても、提言して俺の手で全てを皆殺しにするまでだがな・・・』

※タツミの過去、参照

 

アカメは僅かながら肩で息をし始め、暗殺者となってから久しく忘れていた恐怖の感情を思いだしていた。

 

「兄さん、ここは引いてくれないか!!・・・アカメ、あんたもやめな!」

 

レオーネが割って入った。

 

アカメは刀の村雨を降ろし、ほっとしている。

 

 

「・・・ん?・・・あんたはあの時の・・・変わった衣装だな・・・『帝具か?』」

 

「兄さん、覚えててくれたかい?ひゅー、あんたアカメ相手に一歩も引かないなんて大したもんだねー」

 

「・・・おっかなくて動けなかっただけさ」

 

レオーネはふっと笑い、アリアに近づく・・・

 

「兄さん、あんたには貸しがあるはずだ。違うかい?・・・ここはお互い見て見ぬふりであんたもあたし達も何も見なかったって事で良いかい?」

 

アリアは怯えながらも少しずつ後ずさりする。

 

「・・・レオーネ、良いのか!?」

 

「ボスには内緒な?・・・兄さん、あんたの事信じてるよ・・・じゃあもうどっか行っておくれ」

 

「・・すまないな、レオーネさん。俺はこの女に一宿一飯の義理があるんだ・・・」

 

「あたしの恩より上って事かい?」

 

アリアが喚きだす

「そ、そうよ!イエヤス、この女達を追い払って!!その為にあんたみたいなみすぼらしい男拾ったんだから!」

 

「・・・流石お嬢様・・・言う事が違うな・・・」

イエヤスは淡々と返す

 

「兄さん・・・イエヤスさんかい?・・・それでもこの女かばおうってのかい?」

 

「・・・・・・・」

イエヤスは懐から日記帳を取りだす

「○月×日、天候雨、感染させた伝染病は思いの外、進行速度が速く、若い程その傾向はある・・・。その為の薬を求め、許しを乞い、苦しむさまを見るのは心地いい。人間騙される方が悪く、拷問か病気かの2択となると後者を選ぶ者の方が多い。どちらにせよ死が待っているのに馬鹿な奴らだ・・・・、と面倒臭ぇからこれ以上は止めるが・・・嬢ちゃん、これあんたの母親ん所から出て来た日記だな」

 

「え?お母さんが?知らないわよ、そんなの!」

 

『あたし達と同じ事を知っている!・・・一体・・・?』

 

「・・・その伝染病はルボラ病だな。掛かれば余程の効果な薬で無いと治らない・・・」

レオーネが内心驚き、アカメが病気の説明をする。

 

「おい、お前知らないってんならあの倉庫に一緒に行ってみるか!」

そう言ってレオーネはアリアを引きずって倉庫の扉を開ける。

 

中には、逆さ吊りにされ、激しく損傷した遺体が複数ぶら下がり、ホルマリン漬けの人間の首や赤ん坊が並び、ギロチンや腸を引きづり出す道具、溺死させる水槽、針が無数に生えた椅子や内部に刃物がびっしり生えた棺桶のようなものまであった。

 

「兄さん・・・どうだい?これが帝都の闇だ」

 

「全く・・・良い趣味してんな、おたくら家族は・・・」

 

「地方から来た身元不明の者達を甘い言葉で誘い込み、己の趣味の拷問に掛けて死ぬまで弄ぶ。兄さんの思った通り、それがこの家の人間の本性だ・・・」

 

「・・・人族って奴らは何処に行っても同じだな・・・、何年経っても変わらねぇみたいだな・・・なぁ・・・いっそ全てを皆殺しにしてぇんだが・・・良いか?」

 

「ん?・・・皆殺し?」

 

イエヤスは冷たい眼光で頷くが・・・目の端にある女性の遺体が写る。

「ああ・・・・ん?・・・サヨ?・・・馬鹿な・・・」

 

「知り合いがいるのかい?」

 

「・・・いや、ただの気のせいだった・・・少し似ていただけだった・・・『俺は何を馬鹿な事を・・・あいつは・・・イエヤスと一緒にとうの昔に・・・』

 

 

「おっと、逃げようたって虫が良過ぎだぜ嬢ちゃん」

レオーネは咄嗟にアリアを抑え込む。

 

「念の為に聞くが、この家の人間、・・・護衛の奴らも加担してたのか?」

 

「加担したまでははっきり判らないが、黙って見殺しにしていたからな、同罪だ・・・」

 

 

「う・・・嘘よ!私はこんな場所があるなんて知らなかったわ!イエヤスは助けた私とこいつらをどっちを信じるのよ!」

 

 

その時、拷問されていた途中で身体が破損していながらも息のある男が声を掛けて来た。

「・・・あ・・・が・・・、そ・・・その女が俺達に声を掛け・・・飯を食ったら意識が遠くなって・・・ここにい・・・た・・・俺の・・・恋人も・・・そこの・・・ころ・・・た・・・・・たのむ・・・そのおんなを・・・こ、ころ・・・・・・・・・」

もう声は聞こえてこない

 

「・・・・・・・・・」

イエヤスの表情は暗がりな為窺えない。

 

アリアはレオーネから離れ叫び出す

「何が悪いってんのよ!お前達はなんの役にも立たない地方の田舎者でしょ!?家畜と同じ!!それをどう扱おうとアタシの勝手じゃ無い!!大体、そこの女、家畜のクセに髪サラサラで生意気過ぎ!私がこんっなにクセっ気で悩んでいるのに!・・・ああ、そうよ、だから念入りに責めて上げたのよ!寧ろこんなに目を掛けて貰って感謝すべきだわ!」

 

「善人の皮を被ったサド家族か・・・邪魔して悪かったな、アカメ・・・」

 

「葬る・・・」

 

だがその時・・・

「・・・確かに家畜だな・・・ごもっともだな・・・良い事言うなぁ・・・」

 

「!?」

 

「あんた、何を言って!!」

 

「そ、そうでしょ!イエヤス、あんたとは気が合いそうね、さぁそこの家畜共を蹴散らして・・・そう、そいつらもこいつらに加えて楽しんでやるわ!」

 

イエヤスはニコニコしながらアリアに近づいてく。

 

「判った・・・あの女共は俺が綺麗に片づけてやるからな・・・アリアお嬢様・・・あんたには恩があるからな・・・」

 

「そ、そうでしょ?だったら早く・・・」

 

だが次の瞬間、アリアは軽い脳震盪を起こし頸椎に痛みを感じた後、もう地面に顔をめり込まされていた。彼はそのアリアの後頭部に片足を置いていた。

アリアはわめきちらすが、その度に足で抑え込む。

 

「・・・・・・ひゅー・・・、兄さん、そいつそのまま殺しちゃいな?」

 

「・・・出来ないなら私が葬ろう・・・」

 

「さっきも言ったが、この“家畜”には一宿一飯の義理がある・・・、だから悪いがこいつの生殺与奪を俺にくれないか?」

 

アリアはそれを聞き、顔を上げる。

 

「あ・・・あん・・・たぁあああああ、げほげほ・・・ごほ・・・、ば・・・ば・・・ばにをいって・・・」

 

「アリア、お前、このお姉さん達に殺されるのと俺の家畜になってとりあえず殺されないのとどっちが良い?」

 

「そ・・・ぞんな・・・あた・・・あんたに・・・」

 

「あー、そうだ・・・、お前もやってて知っているかもしれないがな、人間ってのは舌切っても簡単には死なねぇんだ・・・それなりに深く斬らないと出血多量で死なないんだ・・・だから、そのうるせぇのを黙らせるのにちょっとだけ切っておくか?な?・・・それとも歯ぁ全部へし折るか・・・目ん玉くりぬくのも悪くねェな」

 

「あああああああ・・・・・いやあああああ・・・・・・・おおおおおおねがいします・・・・いうことききますから・・・・」

 

「ああー・・・良いとも・・・お前は良い家畜になりそうだ・・・ははは」

気持ちよさそうに笑う。

 

 

レオーネとアカメはそれを聞き、目には目をのカタルシスと標的を見逃す事についてどうするか苦笑した。

 

「・・・どうする?レオーネ?」

 

「う~~~~~ん、弱ったなぁ・・・こいつが生きてるのばれたらボスにこっぴどく叱られるなぁ・・・」

 

「叱られるのは私も同じだ」

 

「兄さん、あたし達が見逃したって生きているばれたら、他のメンバーが殺しにいくって」

 

「姉さん達の事情はわかった・・・こいつはもう二度と世間には出さねぇ・・・それで手ぇ打ってくんねぇかな?」

 

「「う~~~~~~~~ん」」

二人して悩んだ・・・。

 

「止めたのはレオーネだ・・・レオーネに任せる!」

 

「あたし・・・ん?・・・ええ、あたしぃいい、やっぱり!・・・アカメあんた、あたしに任せて後でばれた時の責任、あたしに擦り付けようとしてるだろ?」

 

「・・・うん!」

アカメは気持ち良く頷いた。

 

「うん!・・・じゃないよー!」

 

「ははは、悪いがそういう事でこいつ連れてくぜ・・・あばよ、美人なお姉さん方・・・、おい、アリア!お前も礼を言え!」

 

「あ、ありがと・・・ご・・・」

 

「頭がたけぇ!!!!」

そう言って彼はアリアの後頭部を足で抑えつけ、豪快に地面にめり込ませた。

 

アカメはぷっと笑い、レオーネは腹を抱えて笑った。

 

「あははははは、こいつ本当はここでアカメに殺された方が幸せだったんじゃない?・・・あははははは!」

 

「くくく・・・」

 

「あー、久しぶりに仕事でこんなに笑った・・・ところで兄さん、そいつ連れてってどうすんの、まさか・・・くくく・・・Hな事するの・・・?」

 

「生憎、俺は家畜とそんな事する気は無いんでね・・・くくく」

 

そう言って、アリアが逃げないように再度痛めつけた後、彼は彼女を担いで闇の中に消えていった・・・。

 

彼の姿を消えたのを確認した二人は

「・・・アカメ・・・彼は仕えそうか?」

 

「ああ・・・」

 

 

彼はアリアをある洞窟に監禁しそこから出られないようにしていた。その後エスデスが仲間になった後、彼女にアリアの教育を依頼したのはまた別の話となる。

 

数日後、帝都広場から外れた人通りもまばらな所で、ゴザを敷き、正座している物乞いの男がいた。

 

「探したよ兄さん・・・、うちさー、人手不足なんだ・・・だからうち来ない?」

レオーネが声を掛けている。

 

「レオーネさんか・・・、俺は殺し屋になる気は無いよ・・・」

 

「う~ん、今はそれでもいーや、あの時のクソ生意気な外道女、痛い目に遭わせた手並み、スカッとしたよ、うん、君は十分殺し屋の素質がある、お姉さんが保証しよう!」

 

「・・・嫌な保証だな・・・、大体、俺が強いんじゃない・・・、あの女が弱過ぎただけだ・・・あの女を生かしたのも殺すのがおっかなかっただけだ・・・そんな俺は殺し屋に向いてないさ・・・それとあんた方のは事は他言しない、安心してくれ」

 

「殺すのが怖いの?・・・へぇ~びっくり、あれだけの事したあんたなら、平気だと思ったのに・・・まぁ良いや・・・そのうちに、ね♪・・・それに本当に口堅そうだね・・・あたし、兄さんに個人的に興味持ったのもあるんだよねー、だから一緒に来て・・・それにまだ・・・お金上げた貸しを返して貰って無かったかなぁー、いつも借金でひ

ぃひぃいってるあたしが人様に恵むなんて・・・雨でも降るような事なんだよ、あ、だからあの時、雨だったんだ!」

 

「ぷっ・・・くくく・・・判った、姉さん、付いて行こう」

 

「うふふ、そうこなくっちゃ、そうやって笑ったら良い男だね~」

 

『・・・本当は全て消し去るつもりだったが・・・良いだろう・・・もう少し様子を見るか・・・』

 

「・・・えっと~、兄さんの名前は・・・ヒデヨシだったっけ・・・?」

 

 

 

「・・・違う・・・リュウジンノカミ・タツミだ・・・」

 



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殺し屋を斬る

この世界のタツミがナイトレイドの全メンバーと初顔合わせの話です。


ラバックの糸型帝具がアジト周辺の土地へ侵入した間諜の女に絡みつく。近くの木々に絡ませての拘束の為、宙に浮かんだ形になっている。

 

「くっ・・・・」

 

糸が絡まり身動きが取れず、体や首を圧迫している

 

「お願い・・・なんでもするから・・・助けて・・・」

 

「なんでも・・・?へぇ・・・具体的に何をしてくれるんだい・・・?」

 

ラバックはそう言って近づいていく。

 

「ええ、勿論・・貴方が望むならなんだって・・・」

その女はニヤリと怪しい笑みを浮かべる。

 

ラバックは無言で糸を締め上げ、その女は虫の息となり痙攣を起こす。そしてその女を糸から解放する。

 

「がっ・・・なんで・・・・?」

 

「・・・・・・」

ラバックはニヤリと笑みを小さく浮かべそのまま立ち去ろうとする。

 

だがそれでも女は話しかける・・・「ねぇ・・・なんで・・・あたし殺されなきゃ・・・、ただていこく・・・やとわれた・・・だけ・・・いきるために・・・、・・・・」

 

遂に女は事切れた、目を見開いたまま。

 

そして、ラバックは彼女の目をつぶらせて、「・・・あんたみたいに死んでった女・・・今まで何人か見てきたんだ・・・」

 

ナイトレイドアジト館内広場

 

レオーネとアカメがタツミをナジェンダの前に連れてくる。

 

レオ「ボス、彼が前に話してた・・・えーっと、タツミですよ」

 

ナジェ「タツミ?・・・前に聞いていた名前と違うな、偽名か?・・・まぁ良い。どれくらい腕が立つんだ」

 

レオ「そりゃもう、アカメを前にしても一歩も引かずで・・・」

 

ナジェンダは有無を言わずにタツミを回し蹴りを入れる・・・タツミは成すがままそのままふっ飛ばされ倒れる。

 

レオ「・・・あちゃー・・・」

 

アカ「・・・・・・・・」

 

ナジェ「・・・本当に腕が立つのか?」

 

ようやく起き上がり

 

タツ「・・・いてて、いきなり何するんですか?」

 

アカ「タツミ・・・、何故かわなさかった?」

 

タツ「いや、かわせなかったからかわさなかったんだけど・・・」

 

レオ「・・・下手な芝居はやめなよ?」

 

ナジェ「・・・報告によればアカメ相手に対等に渡り合ったと聞いたが?」

 

タツ「・・・彼女と闘ってなんかいないですよ?あれはおっかなくて動けなかっただけで」

 

レオ「・・・えっ!?」

 

タツ「いや本当」

 

ナジェ「・・・・・・・、どうなんだアカメ?」

 

アカ「・・・、・・・一歩も引かなかったのは間違いない・・・私もタツミが嘘ついているように思える」

 

ナジェ「・・・だ、そうだが・・・『う~ん、確かにまるで覇気が感じられない・・・』・・あんた元々、何をしてたんだ?」

 

タツ「・・・天涯孤独で家も無いんで日々の生活を乞食や日雇い仕事で食いつないでいるただの浮浪者ですが・・・?」

 

ナジェ「はぁ~~~~・・・・・・・」

ナジェンダは煙草の煙を溜息と共に豪快に吐き出した。

 

ナジェ「・・・お前ら二人ちょっとこっちへ来い・・・」

そう言ってアカメとレオーネを隣の別室に連れて行き・・・

 

ガスン!!ゴツン!!

ナジェンダの義手が二人の頭に炸裂しタンコブが出来る。

 

ナジェ「お前ら!!只の一般人連れて来てどうすんだ!このド阿呆!!」

 

レオ「いてて・・・ボス!そっちの腕で殴らないてくださいよ!!」

 

アカ「・・・・・痛い・・・」

 

レオ「だけどアカメ、あいつ本当に中々大したものだったよな?」

 

アカ「ああ・・・」

 

ナジェ「何がどう大したものだったんだ!?」

 

レオ「だってこないだの標的の一人をボコボコ・・・『ああ、殺した事にしたんだった・・・』・・・見事に殺して見せたんですよ?なぁアカメ?」

 

アカ「ああ・・・」

 

ナジェ「確かアリアとかいう普通の女だったよな、そいつは?・・・ただの普通の一般の女殺すのは普通の男でもやろうと思えば出来るわぁ!!このボケぇ!!」

 

レオ「ボケだってさ、アカメ」

 

アカ「・・・レオーネの事だろう?」

 

ナジェ「お前ら、真面目に聞けぃ!!・・・全く私の悩みの種を増やす奴らだ・・・」

 

レオ「もぅお、ボスぅ!そんなに怒ってたら小皺が増えますよ?」

 

ナジェ「ああ・・・ここ最近な・・・って何!?」

 

ガスン、ゴスン、ガツン!!!

アカメは倒れたレオーネを突つき、

「・・・レオーネから返事が無い・・・、ただのしかばねのようだ・・・」

 

ナジェ「全く・・・お前らは罰として1週間トイレ掃除だ!」

 

再びタツミの居る部屋に戻るナジェンダ

 

ナジェ「はぁ・・・、タツミと言ったな・・・、君は何故ここに・・・あのレオーネに付いてきたんだ?」

 

タツ「え?・・・え~と、付いてこいと言われたからです・・・」

 

ナジェ「・・・それで付いてきたのか?」

 

タツ「はい・・・、去る者は追わず、来るものは拒まずなんで・・・」

 

ナジェ「はぁ~・・・・・、『なんて呑気な・・・よくこれでこの帝都で今まで生きてこれたものだ・・・』

 

タツ「あの~・・・俺はこれからどうすればいいんですか?」

 

ナジェ「・・・・・、不本意だが我々のアジトを見られてしまった・・・まぁ悪いようにはしない・・・その辺で乞食をするよりはマシな生活を保障しよう、その代わり革命が成功するまでここから出ていく事を禁じる・・・と言っても必要があって外に出る事もあるだろう、その時は監視の目を付ける」

 

タツ「・・・判りました。差し当たって何をすれば良いですか?」

 

ナジェ「そうだなぁ・・・雑用だな『・・・やけにあっさり受け入れるなぁ・・・』

 

そこにラバックが入って来る。

 

ラバ「ナジェンダさん、侵入者の掃討終わりました!『ふっ、決まったぜ・・・これでナジェンダさんの中の俺の株が・・・ぐふふ』

 

ナジェ「ああ・・・、御苦労だったな、ラバック・・・」

 

ラバ「いえいえ、ナジェンダさん俺に掛かればこれくらい・・・ん?誰ですかこいつ?」

 

ナジェ「ああ・・・アホーネとバカメが連れてきた一般人だ・・・全く」

 

ラバ「あ~・・・前に連れてきたあいつもこないだ死にましたからねぇ・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

ナジェ「まぁ、ここナイトレイドで男はラバックとブラートだけで、他は女だからな。まぁタツミは雑用として居て貰う・・・ラバック、仲良くしてやってくれ」

 

ラバ「判りましたナジェンダさん!・・・ところで新人君・・・ちょっとこっちに」

 

タツ「?」

 

ラバックはタツミを掴みナジェンダに聞こえないように・・・「おい!新入り!このナイトレイドには女性が複数いる・・・お前誰が好みだ・・・」

 

タツ「いや俺は別に・・・」

 

ラバ「いいか・・・、銀髪のショートカットの似合う女の人に少しでも近づいたらお前は翌日湖に浮かぶ事になるからな・・・」

 

 

ナジェ「・・・?・・・ラバックどうしたんだ?」

 

ラバ「いやぁなんでもないですよ・・・これから仲良くしていこうな、タツミ君!」

 

タツ「あ、ああ・・・」

 

そこにレオーネとアカメが入って来る。

 

レオ「あ~・・・いてて、もぉボス!ちょっとは手加減して下さいよ・・・あたた」

 

アカ「あれはレオーネも悪いと思う・・・女性に肌の事を言うのは失礼だ・・・」

 

レオ「そーだよなーアカメだって仕事で夜更かしばっかしてるから・・・」

 

アカ「!?」

 

ナジェ「レオーネか、丁度良い。他のメンバーにタツミの事紹介して来い」

 

レオ「ラジャー、アカメも行こう」

 

 

 

会議室

 

そこに眼鏡を掛けた女性が椅子に座り本を読んでいる。

 

タツ『・・・知的そうな女だな・・・』

 

レオ「よっ、シェーレ、こいつが新しく仲間・・・まぁ下働きで入ったタツミだ」

 

タツ「宜しくお願いします」

 

シェ「ああ・・・貴方が・・・くれぐれも長生きして下さいね・・・でも私達みたいに殺しに行かないなら大丈夫ですかね・・・」

そう言って再び本を読み始める

 

タツ『何を読んでいるんだ・・・?』

 

天然ボケを治す100の方法・・・象も判るゾウ、と表紙に書かれいてる

 

タツ『・・・なんだこの本?・・・まさかあの表紙でさり気無く笑いを取りに!?・・・ひょっとしたら心の友になれるかもしれない・・・』

 

アカ「こう見えて、シェーレは腕が立つ・・・」

 

レオ「色んな意味でもな、くくく」

 

タツ「?」

 

 

「ちょっとぉお!!シェーレあんた昨日よくもあたしも一緒に洗濯槽の中に!!何考えてんのよ!!」

ツインテールのキンキン声の女性がズカズカ入って来る。

 

アカ「マインだ・・・」

 

シェ「マイン!?ご、誤解です・・・ああ、あれはその・・・え~・・・ピンク色の服と間違えてうっかり・・・」

 

マイ「うっかりで、人間を洗濯ってどういう事よ!!・・・ってあんた誰よ!?」

 

タツ「ええ・・・いや、ああ・・・『なんだこの爆裂弾みたいな女は・・・』

 

アカ「・・・彼の名はタツミ・・・、私とレオーネが仲間に推薦したんだが・・・とりあえず下働きだ」

 

タツ「ど、どうもよろしく・・・」

 

マインはタツミの顔を凝視する。

 

タツ「?」

 

マイ「不合格ね!とてもプロフェッショナルなあたし達と仕事できる雰囲気ないわ・・・あんたなんて一生下働きがお似合いね・・・顔立ちからして!」

 

タツ『・・・プロフェッショナル・・・だと?・・・ふぐぐっくくく・・・』

タツミは笑いを堪えた。

 

マイ「あんた何がおかしいのよ!?笑ってんじゃないわよ!」

 

タツ「ああ、いやいや何でもないごめんごめん、言い回しが面白くてついつい・・・あんたの言う通り、一生下働きでもしてるのがお似合いだな俺は・・・」

 

マイ「・・・妙に素直ね・・・張り合いの無い奴・・・、まぁ精々頑張りなさい」

マインは嵐のように去って行った。

 

レオ「・・・あいつは誰にでもこうなんだよ・・・けどタツミ凄いな、大抵の奴は初対面であの毒舌に怒るのに」

 

タツ「・・・・・・」

 

 

訓練所

 

「どぉりやあああああ、でやでやでやあああああ!!!!」

 

 

レオ「ここは訓練所という名のストレス発散所だ・・・んで、あそこにいて見るからに汗臭そうなのがブラートだ」

 

ブラ「ぬおおおおおおおおお」

ブラートは高速で槍を捌いている。

 

タツ『・・・出来るな』

 

 

ブラ「ふぅー・・・おっ、何だレオーネとアカメ・・・と、そこの男は?・・・ああ、レオーネが惚れているとか言ってた男か?」

 

レオ「昼間から酔っぱらってんじゃ無いよ、ブラート!」

 

ブラ「ブラートだ、宜しくな!」

そう言って握手を求める

 

タツ「・・・どうも」

 

レオ「気をつけろ、こいつホモだぞ」

 

タツ「ホモ?なんですかそれ?」

 

アカ「・・・男が男を好きになるという事だ・・・、・・・しかし男が男を好きになって何するんだレオーネ?」

 

レオ「アカメェ!あんたよく判って無いなら話に入って来るんじゃないよ!!!」

 

ブラ「ははは、まぁとにかく歓迎するぜ・・・もし何か困った事があったら相談に乗るぞ・・・二人きりでな!」

 

タツ『・・・戯れか本気か判らねぇな・・・』

 

レオ「とにかく、これで全員紹介したな」

 

 

会議室

タツミ以外のナジェンダ、ラバック、ブラート、シェーレ、マイン、レオーネ、そ

 

してアカメのメンバーが集まっている。

 

ナジェ「・・・皆、新しく入ったタツミをどう思う?」

 

マイ「レオーネとアカメがあいつは腕が立ちそうで信用出来そうだってんで連れてきたんでしょ?・・・っで見たけど大した事無さそうじゃない?・・・まったく、あんたら責任取りなさいよねー」

 

レオ「はぁ~・・・っかしいな~・・・う~~む、う~~ん」

 

アカ「私だって勘違いしたんだ・・・レオーネも思い違いしたのはしょうがない」

 

ラバ「俺達を実は探りに来た帝国のスパイっていう線は無いのかい?」

 

アカ「・・・異民族の傭兵か・・・その線もあるが・・・」

 

レオ「いや流石にそれは無いだろう。元々乞食だったんだ・・・あたし達に探りいれる為にって言うなら話が出来すぎてる・・・こないだの仕事の現場に居たんだからな・・・」

 

マイ「え?・・・はぁ?何?じゃあ、あいつ一旦野放しにしてた訳ぇ!?」

 

レオ「だからそういう意味もあってあいつを連れてきたんじゃん?」

 

ナジェ「全く・・・私が居ない時に勝手なことを・・・」

 

レオ「いやだって・・・標的のアリアをつれ・・・いや殺したのもタツミだったし・・・なんか信用できるかなって・・・なぁアカメ?」

 

アカ「・・・・・・ああ」

 

マイ「女一人殺すくらいの腕はあるのねぇ・・・って!それくらいの事で連れて来たの?馬鹿なの!?・・・シェーレもなんか言いなさいよ!」

 

シェ「・・・そうですねぇ・・・ふぅ・・・、良いんじゃないですか?お仲間が増えて、それに彼も私達のしている事を理解してくれれば本当に仲間になってくれるかもしれませんし」

 

ナジェ「腕が立つといっていきなり私達のように前線に出て前のように死なれても困るからな・・・ブラートはどうだ?」

 

ブラ「俺かい?・・・そうだな・・・良い男が入って来て嬉しいぜ!」

親指立ててグッドポーズをする。

 

ナジェ「はぁ・・・真面目に答えてくれ」

 

ブラ「・・・アカメとレオーネが戦力になると勘違いして連れて来たらしいがどっちにしろ俺達の仕事見られたんだろ?・・・とりあえずはここに居させて、様子見で良いじゃないのか?」

 

ナジェ「ラバックは?」

 

ラバ「・・・俺は一刻も早くあんな得たいの知れないあいつを始末したいですね・・・」

 

アカ・レオ「!?」

 

ナジェ「ほぉ~・・・、何故?」

 

ラバ「・・・だってそうじゃないですか!?俺のだけのハーレムの園がぁああああ!!!」

 

ナジェ「・・・・・・・・」

 

ブラ「・・・お前・・・俺も対象に・・・お前にそういう趣味があったなんて・・・大丈夫だ、俺はそういうのにも理解がある方だからな、これからも仲間として今まで通りに接してやるぞ!」

 

ラバ「言葉のアヤだよ!あんたには言われたくないわ!!」

 

ナジェ「どーしてお前らは揃いに揃って緊張感が無いんだ・・・頭が痛い・・・」

 

ブラートとラバックの漫才(?)が終えたのを見計らってナジェンダはレオーネにタツミにここに来るように促した。

 

 

タツ「いやもう、こんなに洗濯物が溜まってて、どうしてこんなに溜めてんですか・・・ところで何かありました?『・・・ひぃふぅみぃ・・・全員で7人か・・・まぁなんとかなるか・・・、さて、たかが殺し屋風情が一体何を考えているのか楽しみだ。場合によっては・・・・・・

 

タツ「ああ、ちょっとアカメさん・・・洗い物の中でちょっと言っておきたい事が・・・」

 

アカ「なんだ?」

 

タツ「いや実は・・・」

そう言ってタツミはアカメに耳打ちした時にアカメの持つ刀の村雨を抜き、同時にアカメの鳩尾に肘鉄を食らわせ、アカメは苦しみながら後ろに下がる。

間髪いれずにインクルシオに身に纏う段階のブラートの首を致命傷になる所まで斬った後、返す刀でマインを逆袈裟で刎ね上げ、流れるようにシェーレを袈裟斬りを行う。タツミは他のメンバーの攻撃を意識しており、ラバックが帝具の糸を投げつけるがタツミは絶命寸前の二人を盾にして、ラバックに斬りかかる、瞬時に糸を槍状にしてうけ止めるがタツミはそのまま刀に体幹の重みを載せ、圧し斬る。後ろからレオーネが拳を繰り出すのを逆背負い投げで腕を折りながらレオーネを地面に叩きつけ、彼女の首を足で踏みつけ折りながら後ろ手に向かってきたアカメの心臓を刺し、そこに飛んできたナジェンダの義手をかわしながらその繋ぎのロープを掴んで引き、ナジェンダが体勢を崩した所で村雨を彼女の首目がけて投げて命中させた。

そして、タツミはナジェンダに刺さった村雨を抜こうとした瞬間、ブラートがインクルシオに身に纏い最後の力を振り絞って槍を振り上げ降ろす、タツミはそれをギリギリまで待ってかわしインクルシオの装甲ごとブラートを渾身の力で斬り捨てた・・・・・・』・・・・」

 

ナジェ「・・・改めて聞きたい。タツミは何処から来たんだ?」

 

タツ「ええ?・・・ああ~、この国じゃない別の所から来まして、親も兄弟も戦で死んで逃れ逃れてこの国に来て満足な仕事もありつけず、食うや食わずの生活してたらレオーネさんに拾われて・・・あんた方が殺し屋だろうがなんだろうがとりあえず満足に暮らせれたら俺は特に口外も何もしないですよ」

 

ブラ「・・・お前も苦労してるんだな」

 

タツ「ははは・・・」

 

ナジェ「殺し屋か・・・確かにそうなんだが、改めて私達が一体何をしているか説明しよう・・・帝都の遥か南に反抵抗勢力である革命軍のアジトがある」

 

タツ「・・・革命軍」

 

ナジェ「ああ・・・初めは小さかった革命軍も今や大規模な組織に成長してきた。すると必然的に情報の収集や暗殺など日の当らない部隊が作られた。それが我々ナイトレイドだ・・・今は帝都のダニを退治しているが軍が決起の際は混乱に乗じて腐敗の根源である大臣をー・・・この手で討つ!」

 

タツ「・・・腐敗の根源の大臣を?そいつを倒したらその後どうするんですか?」

 

ナジェ「ん?これでこの国も落ち着き、私達ナイトレイドも解散だ」

 

タツ「なるほど・・・『簡単に足を洗えると良いがな・・・それに・・・』仮に大臣を始末してもまた似たような悪党が出てやきませんかね?・・・」

 

ナジェ「あの大臣さえ倒せば良い国になるはずだ・・・いや、必ずよくして見せる」

 

タツ「成程・・・、ならまた大臣みたいな悪党が出たらまた始末するんですね?」

 

一同に微妙な空気が流れる。

 

ナジェ「あの大臣以外にそこまで根の腐った奴はいないさ・・・だからもう暗殺なんて後ろ暗い事をする事なんかない・・・、『恐らくな・・・』

とにかく、それが我々の目標だ、他にもあるが今は置いておく・・・決起の時期については詳しく言えんが・・・勝つ為の策は用意してある、その時が来れば確実にこの国は変わる・・・お前のようにその日暮らしで処刑の片棒を担がされたりするような事も無くして見せる・・・」

 

タツ「・・・そりゃ良い事で・・・」

 

ナジェ「タツミは別の国の人間かもしれないが、この国は他の国に戦争を仕掛け捕虜を奴隷としてこき使っている・・・表向きは労働者として取り扱っているがな、それで使えなくなった人間は通称、“地獄への近道”と呼ばれる拷問広場で人体実験や帝具の性能を試している」

 

タツ「・・・成程、無事革命が成功すれば良いですが、仮に成功してもこういう暗部の組織は後で消される事はありませんか?」

 

一同その発言に驚く。

 

マイ「は・・・ははは、馬鹿言ってんじゃないわよ?帝国側ならともかく革命軍がなんであたし達を始末する必要があるのよ!?」

 

タツ「・・・ん?ああ・・・、革命軍のリーダーが誰かは知らないが革命を成した後、自分達はやむを得ず武力を使いましたー・・・、汚い手は一切使っていないと・・・後で自分達の暗部がばらされたら民衆に不味いって事で、闇に葬られるっていう話な」

 

マイ「・・・・・・・ぐっ」

 

ナジェ「・・・マインの言う通りだ・・・私も革命軍のリーダーや幹部達と何度も話すがそんな人間なら初めから組まないさ・・・」

 

タツ「・・・今はともかく・・・後から変わらなきゃ良いですがね」

 

ブラ「タツミ・・・俺達がやっている仕事は帝都の悪人を始末する事だからな・・・俺達はそんな帝国政府に虐げられている人達の願いを聞いてそういう奴らを闇に葬っているんだ・・・そういった人々は判ってくれるさ」

 

タツ「・・・判ってくれるかもしれませんが、俺もナイトレイドの噂は耳にするんですよ、帝都市民を震え上がられせる悪人だって・・・、何も知らない民衆がそういう風聞に踊らされなきゃ良いですがね・・・だから後でトカゲのしっぽ切りみたいにナイトレイドが仲間の革命軍に始末されなきゃいいなと・・・」

 

ナジェ『・・・この男・・・!?』

 

レオ「へぇ~・・・そんな事考えた事無かったよ、どうだマインあたしが連れて来ただけはあるだろ?参ったか!!」

 

アカ「・・・参ったか!」

 

マイ「うっさいわよ、あんたら!!はん!・・・現場知らない外野はなんとでも言えるわよ!」

 

タツ「・・・ああ、ごめん・・・出過ぎた事を・・・」

 

マイ「ふん!!」

 

シェ「まぁまぁ、マイン・・・彼は私達の事を心配してくれているんですよ」

 

ナジェ「・・・はは、ああそうだな。忠告感謝しよう」

 

タツ「・・・ところでさっき民の為みたいな事を言ってましたが・・・つまりナイトレイドは正義の殺し屋って事ですか・・・?」

 

ナイトレイド「・・・・・・・・ぷっ、ぷあははははっはっはっは」

 

タツ「・・・な、何がおかしいんだよ?」

 

レオ「タツミ、どんなお題目を唱えようがやってる事は殺しなんだよ・・・」

 

シェ「そこに正義なんてある訳ないですよ・・・」

 

ブラ「ここにいる全員・・・いつ報いを受けて死んでもおかしくないんだぜ・・・」

 

ナジェ「闘う理由は人それぞれだが皆覚悟は出来ている・・・という感じだが我々事を理解してくれたか?」

 

タツ「ああ・・・、いや俺が浅はかでした・・・」

 

マイ「ふっ・・・所詮どうーせ辺境の国の田舎者よねぇ・・・、ちょーと驚いたけどやっぱその程度よ!」

 

レオ「マイン・・・」

 

アカ「・・・・・・」

 

シェ「流石に言い過ぎです・・・」

 

マイ「・・・あーもう、判ったわよ、ちょっと言い過ぎたわ!」

 

タツ「・・・いやいや、じゃあ俺はまだ仕事が残ってんでこれで・・・」

 

ナジェ「ああ、途中で呼び出してすまないが頼む」

 

タツミはその会議室から出た後、

 

『・・・最低限の自制心くらいは持っているか・・・あそこで我々は正義の殺し屋だ・・・この殺しは正義なんだ・・・などと言っていたら・・・』

タツミは不敵な笑みを浮かべて洗い場へ戻った。

 



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記録にも残らぬ女の最期

話を遡ってのシェーレ退場回です


天然ボケを治す100の方法、前書き

 

「“あなたは周りの人から天然だね~と言われた事がありませんか?その意味は天然素材や無着色、無添加食品の天然物・・・という意味ではありません!では天然とはどういう意味か!?その事を本書を読んでいけば段々と判って参ります”・・・という訳なんですがシェーレさん?」

 

「はい?」

 

タツミは今はシェーレの下で諸々の事を教わっている。

 

タツ「えーとですね、シェーレさんはこの本何処まで読んだんです?」

 

シェ「はい・・・えーとですねぇ・・・忘れてしまいました・・・」

 

ドボーン!!・・・タツミは鎧を着たまま川へ落ちる。

二人は川辺でタツミの稽古も兼ねて来ている。

 

川面へ浮き上がり、

タツ「いや忘れたって・・・」

 

シェ「え、えーとでも、大体の内容は頭に入ってますよ!」

 

タツ「・・・じゃあ天然の意味は?」

 

シェ「・・・そ、それは天然由来成分の・・・」

 

タツ「そっからして違いますから!もうちゃんと読んでないんかい!!」

 

シェ「す、すみません・・・忘れっぽくて・・・」

 

タツ「・・・じゃあ因みに何故俺が鎧なんか来ているんですかね、教官殿」

 

シェ「わ、私だってそこまで忘れっぽくありません!タツミは今回私が暗殺者養成カリキュラムに則って鍛えているんです!私はアジトでは役割がありませんので集中して鍛えられます」

 

タツ「・・・何故役割が無いんで?」

 

シェ「・・・料理は焦がしてアカメをクールに怒らせました・・・掃除は逆に散らかってブラートを困らせました・・・笑って済ませてくれましたが・・・買い出しは塩と砂糖を間違えてレオーネに笑われました・・・・洗濯はこないだうっかりマイン本人も・・・くすん・・・」

 

タツ『性格は良いよなここの連中・・・但し約1名は除く!』「ところで俺はボスから“タツミも最低限の自分の身を守る強さだけは身につけておいた方が良い”と言われたから鍛錬を受けてたんだが・・・、暗殺者養成カリキュラムたぁどういう事だ!?」

 

シェ「!?・・・あ、あわわわ、ボスからそれは秘密だと言われてましたのに・・・私は・・・、タ、タツミ!この事は内緒ですよ!」

 

タツ「ああ・・・判った・・・『呆れて苛める気も起きん!』

 

シェ「あ、ありがとうございます!・・・あっ」

 

シェーレは頭を下げた為、掛けてた眼鏡が落ちる。

 

タツ『・・・美人だな・・・』

 

シェ「眼鏡眼鏡・・・」

 

タツミはこっそり傍に落ちた眼鏡を隠してしまう「・・・ところでシェーレは何故この稼業に?」

 

シェ「・・・遡って説明しますと・・・、

 

私は帝都の下町で育ちました。いつもぼっーとしてましたから、幼い頃から何をやってもドジばかりで私には一つとして誇れるものがありませんでした。“アイツは何処か頭のネジが外れている”そんな風によくかわかわれていました・・・

ですがそんな私にも仲良くしてくれる友達がいたんです。

私がどんなにドジをしても彼女は決して私の事を馬鹿にしませんでした。彼女といる時間だけが私にとって唯一の幸福でした。

その日まではー

彼女の家で遊んでいると男が殴り込んできました。友達の元彼氏で振られた事を逆恨みして家で暴れ始めたんです。とうとう私の目の前で彼女の首を締め始めました。

男は麻薬でおかしくなっている・・・私は彼女を助けなきゃと思いました。驚く程冷静でした・・・台所から刃物を持って来て隙だらけの男の首筋・・・急所に刺し込みました。・・・男は呆気なく死に、彼女はその様に震えていましたが逆に私の頭はクリアでした。

結局その一件は正当防衛として片が付きましたが私が彼女と会う事は二度とありませんでした・・・」

 

タツ『・・・、その友人もシェーレの常人離れした感性には付いていけなかったか・・・無理もないかな・・・』

 

シェ「――そして、後日・・・道を歩いていると男達がいきなり襲いかかってきました。殺された仲間の復讐だと・・・どうやらあの男はギャングの下っ端だったようです。“お前の親はさっき殺しておいた・・・次はお前だ”と4人は猛りきっていました・・・そんな事を言われたのに私は驚く程平常心でした・・・男の単純な一撃をかわし護身用のナイフで急所を刺す。その男を盾に他の男達も次々と殺して行きましたー男達全員を殺した時ー私は確信したんです。ネジが外れているからこそ殺しの才能がある、

社会のゴミが掃除出来る役に立てる事が一つある・・・と、以後帝都で暗殺稼業をやっていた所を革命軍にスカウトされました」

 

タツ「・・・その4人の死を警察はどう扱ったんだい?」

 

シェ「これもギャング同士の抗争という事で処理してました・・・まさか私みたいな女が4人の男を殺したと思わなかったんですね・・・」

 

タツ「親が殺された事については・・・」

 

シェ「私も彼らを殺したので結果的に敵討ちは出来ました・・・ですが両親もこんな私を持て余した所がありましたからー・・・」

 

タツ『親が殺された事に対して悲しみはないか、なるほど』「今の帝都中心街ならともかく、その頃はその下町なら警察機構も上手く機能してたんじゃないのか?その社会のゴミを掃除するのに法と警察に任せようと思わなかったのか?」

 

シェ「あー・・・確かにそうですねー・・・」

 

タツ「・・・・・・・、社会正義に駆られるのは結構な話だが、あんた自分の居場所が・・・役立てる場所が欲しかったんだな・・・」

 

シェ「・・・・・・・・」

 

タツ「シェーレさん、あんた可哀想な人だ・・・」そう言ってタツミは彼女の頭を撫でる

 

シェ「・・・・!!・・・タツミ///・・・と、ところで私の眼鏡知りませんか?」

 

タツ「・・・何言っているんだ?シェーレの頭の上にあるだろ?」

 

シェ「え?・・・あれ?・・・どうして?え?え?」

 

タツ「じゃあまた後で」笑いながら去っていく。『・・・、同情はするが別の真っ当な道も選べたと思うが・・・仕方も無いか・・・暴力的な事に特技を見出す・・・嫌な話だな』

 

会議室

 

ナジェ「う~~~~む・・・」

 

レオ「どうしたんですか、ボス?便秘ですか?」

 

ナジェ「違う!!・・・こないだの件・・・何者かに私達の標的だった警備隊のオーガと首斬りザンクが既に殺された話だ・・・」

 

レオ「あ~・・・あたしがオーガ担当で、ザンクはアカメが対峙したんでしたね?」

 

ナジェ「一体誰が・・・?」

 

レオ「全くですよ、おかげであたしの報酬はパー!ザンクはアカメに敵わないと見て逃げた所、誰かに一突きで殺されてたって・・・それに帝具も持ち去られて立って・・・ボス、あたし達の他に同業がいるんですかね?」

 

ナジェ「・・・ラバック、私達以外にも同業がいるか、何か情報があったら教えてくれ」

 

ラバ「アイアイサー」

 

 

タツミの部屋

 

タツ「さて・・・この帝具どうすっかな・・・壊す前に遊んでみるか・・・」

 

再び会議室で全員が集まる

 

マイ「・・・あんたなんでバンダナしてる訳?・・・格好つけてるつもり?」

 

タツ「良いだろ別に」

 

ナジェ「皆に聞いてもらいたい事がある、今、北の方にエスデスが・・・」

 

タツ『さて、額に付けたこの帝具ばれてないな・・・よし発動させてみるか・・・』

 

タツミはその場に7体の骸骨が喋り話しているように映っている。

 

タツ「・・・くくく・・・ふぐぐくくくく・・・・」

 

マイ「?・・・あんた何笑ってんのよ・・・」

そう言ってタツミには骸骨顔がアップで話しかけているように見える。

 

タツ「な、なんでもない・・・『こ、怖面白い・・・!くくく・・・』

 

マイ「?」

 

ラバ「お前、今の話ん中に何処に笑う要素あんだよ?」

 

タツ『こ・・・この帝具は当分の間、このまま持っておこう・・・ぶはははは』

 

マイ『・・・変な奴・・・』

 

会議が終わり、

 

タツミは外に出て、呼吸を整えている。

 

タツ「あー、おかしかった・・・不味いなこの帝具は・・・しまっておこう・・・ん?」

 

シェ「・・・タツミ?」

 

タツ「あー・・・シェーレさんか、どうしました?」

 

シェ「・・・呼び捨てで良いですよ・・・ところでタツミ、貴方が来てからマインや他の皆も少し穏やかになってきました・・・ありがとうございますね・・」

 

タツ「・・・元からあーじゃないんですか?」

 

シェ「確かにそうなんですが・・・以前は無理に明るく振舞っていた所があるんですよね。けど今は・・・」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

シェ「そうそう、タツミは色々言いながら私達の心配してくれているじゃないですか?」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

シェ「ですから、余り隠し事して欲しくは無いですね、ふふふ」

 

タツミの目に一瞬闘志が宿る

 

タツ「隠し事・・・?何の事で?」

 

シェ「そうですねぇ・・・例えば、敢えて皆の神経逆撫でして、意見をまとめたり憎まれ役買ってストレス発散させたりとかですかね?」

 

タツミは一瞬驚くが、

「・・・あはははは、ばれたか・・・実はマインの洗濯物洗うの面倒臭かったんでそのまま戻したんだ、でもあいつ全然気づかなくて」『しかしここの女連中は大らかというか・・・男の俺に自分達の洗濯させれるなんて・・・殺し屋だから神経図太いのか?・・・いつか自分達の物ぐらい自分で洗えと言おう』

 

シェ「あらぁ?そうだったんですか、それは知りませんでした・・・この事はマインに言っておきますね♪」

 

タツ「ちょっと待ってくれぇ!!」

 

シェ「うふふ、ではお休みなさい」

 

シェーレが去っていく後ろ姿を見送るタツミの目は険しいものではなかった。

 

 

数日後

 

レオーネとタツミは次の標的の周辺調べに帝都に来ている

 

タツ「なぁ姐さん」

 

レオ「なんだタツミ?」

 

タツ「なんで俺まで下調べに来なきゃならないんだ?」

 

レオ「言って無かったっけ?今度タツミはあたしの仕事の補佐するって?」

 

タツ「聞いてねぇよ!」

 

レオ「大丈夫だって!タツミはただ外を見張って、逃げた奴を教えてくれるだけで良いんだから」

 

タツ「判ったよ・・・『さてはナジェンダの奴ら俺の様子探ってるな・・・誰がお前らに協力するか』

 

その間にレオーネは道行く人に声をたびたび掛けられている。

 

タツ「姐さん凄い人気だな」

 

レオ「この辺のスラムはあたしの育った場所だかんねー、ホームだホーム。タツミが居た所も似たようなもんじゃなかった?」

 

タツ「俺が居た所はここよりももっとひど・・・」

 

レオ「あ~・・・そうだったね・・・でもさぁとにかく、あたしはこれでもマッサージ屋として腕が良いと評判・・・」

 

タツ「なるほど、後ろから尾けて来てる熱いファンもいる訳だ」

 

レオ「へっ?」

 

「ちっ!見つかっちまった」

 

「構うもんか、行くぞ!」

 

「レオーネ!溜まったツケ払ってくれ!」

 

「博打で負けた金、清算しろ!」

 

「兄貴からちょろまかした金返せごらぁ!」

借金の取り立てがレオーネを追いかける。

 

そして、二人は逃げ出した

 

レオ「どーだ、面白い所だろ?・・・って、あれぇ!?タツミ居ない!!」

 

 

レオーネと分かれたタツミは・・・、

 

タツ「さてと・・・久しぶりに一人でブラブラするか。外に出るにも俺に誰か彼か監視が付いてたからなぁ・・・一人で自由行動の許可が出るくらいの信用は得ておくか・・・」

 

 

「ややっ!私の正義センサーに反応あり!そこな君!何かお困りですかな?」

 

小さいが直立歩行する謎の犬らしきペットと警備隊の制服に身を包み長髪を後ろに縛った、ぱっと見可愛い女性がタツミに声を掛ける。

 

タツ「ん?・・・『いや全く困って無いんだが・・・それよりも正義センサーってなんだ!?』・・・貴女は?」

 

セリ「帝都警備隊セリュー、正義の味方です」と言って敬礼を行う。

 

タツ『警備隊・・・ひょっとするとオーガの部下か・・・』

 

コロ「きゅううん・・・きゅうううんん」

 

タツ「あの・・・その動物は?」

 

セリ「帝具“ヘカトンケイル”ご心配なく悪以外には無害ですから」

 

タツ『・・・ヘカトンケイル・・・あの人食も行う帝具か・・・』

 

セリ「ところで何に困ってたんです?」

 

タツ『だから困ってねぇって!!』「・・・あ~・・・いや、道に迷ってしまって。え~と、ああ!元いた酒場の名前は判るんですが・・・」

頭をかきながら理由を思いついたタツミ。

 

セリ「それは大変!パトロールがてらにお送りしますよ!こっちです」

そう言ってセリューはタツミの手を握って引っ張っていく

 

タツ「・・・・・・・」

 

コロ「・・・・・・・きゅう、きゅううううう!!!」

 

タツ「帝都警備隊は全員この生き物を飼っているんですか?『なんか怒っているなこいつ』」

 

セリ「まさかこの帝具を持っているのは私だけですよ」

 

タツ『やっぱり量産出来る訳ないよな』

 

セリ「コロちゃん・・・あ・・・私がつけた名前なんですけど・・・この子は相性が良くない使い手だと動こうとしないらしいんです。上層部には使える人間がいなくて私達ヒラまで適正検査を受けまして、その時私の正義の心にこの子が応じてくれたんです。・・・だから、今では私の相棒なんですよ。ね、コロちゃん」

 

コロ「きゅうう!」

 

タツ「・・・噂じゃあ、生物型帝具は合わない相手は食い殺すっていう話を聞いた事あるが・・・そのコロは大丈夫だったのかい・・・?」

 

セリ「え・・・・?」

 

タツ「・・・・・・・・」

 

セリ「・・・い、言いがかりです・・・コロがそんな事・・・」

 

タツ「間違ってたら悪い・・・俺は帝具を調べるのが仕事の学者なんだ・・・その酒場で仲間と落ち合う予定だったんだ・・・」

 

セリ「コロちゃん・・・そんな事無いよね?」

 

コロ「・・・・・・・・」

 

タツ「あ~・・・あの店だ・・・どうも、ありがとうございました」

 

セリ「ええ・・・では・・・」

 

そう言ってタツミはセリューと別れる。

 

セリ「行こう、コロちゃんお腹すいたでしょ・・・死刑囚五人でどうですか?」

 

コロ「きゅう!!」

 

セリ『・・・、相性の合わなかった人は食い殺された・・・でもその人はきっと心の底に悪の心が有ったからだよね、きっと・・・そうだよね、コロ・・・?』

 

 

 

 

タツ「・・・正義馬鹿か・・・、しかしあの帝具の声どっかで聞いた事あるような・・・そうか、ナジェンダか!?・・・いや気のせいかな・・・?」

 

 

 

セリューは駆けながら思う・・・『人助けも重要ですが早くナイトレイドを見つけないと・・・オーガ隊長・・・』

かつてセリューはオーガに稽古を付けて貰い、

 

セリ「せいっやぁっ!」

 

オーガ「ハハハ、良い打撃だ!!セリューお前また強くなったんじゃねのか?」

 

セリ「折角帝具が選んでくれたんです。私自身もっと強くならないと・・・正義は悪に屈してはならない!殉職したパパが言ってました!」

 

オーガ「・・・くくく・・・そうか・・・そこまで強くなりたいなら切り札を授けるぜ?」

 

セリ「本当ですか?」

 

オーガ「知り合いの医師が実験をしたいって言っててな。ただ身につけるには死ぬほど痛えぞ?」

 

セリ「構いません!悪が倒せる可能性が上がるならなんだって!」・・・・

 

『私の恩師オーガ隊長を殺した悪・・・!ナイトレイド絶対に許さない!!』

 

 

 

 

待ち合わせの酒場

 

レオ「もうタツミ!?急にいなくなってあの後何処に行ってたのさ!?」

 

タツ「・・・観光」

 

レオーネはぶつくさ文句言いながらタツミを次の標的の居る場所まで連れていく。

 

 

色街の屋根

 

めかし込んだ娼婦達が往来や建物の中から見えかくれしている。

 

タツ「・・・・・・・・」

 

レオ「なぁタツミ、何考えてんの?」

 

タツ「・・・別に?」

 

レオ「どうせスケベな事考えてたんだろ?このむっつり!」

 

タツ「・・・んな事より早く行こうぜ!!」

 

レオ「そうそう、お仕事して借金返さないと・・・変身・ライオネル!」

 

レオーネは変身する上で獣化する為、着ている服は半ば溶けていく・・・

 

タツ「ぶはっ!!///」

 

そして獣化が完了し再び着ていた衣服は修復されていく・・・。

 

レオ「よしっこの格好になると昂ぶる、昂ぶる!・・・っと、タツミ?さっき何か反応してなかった?」

 

タツ「いいや、何も!!」

 

レオ「本当?」

 

タツ「ほんと」

 

レオ「・・・まぁいいや、さ、潜入するよタツミ」

 

タツミを抱えてレオーネは屋根を何度も飛び越え標的の居る屋敷の屋根裏へ向かう。

 

レオ「ふいーっ到着!」

 

タツ「・・・これ潜入って言うのか?・・・まぁ結果オーライか」

 

レオ「それよりもタツミ、下!」

 

その下への部屋では娼婦達が麻薬漬けになり自堕落と化している。

 

タツ「・・・・・・」

 

 

そこに標的の男達がやってくる。

「お前達、ちゃんと稼げばもっと薬を回してやるからな!」

 

「はぁーい!」

 

「ん?親分・・・こいつ見て下さいよ」

 

「あーだめだなこりゃ、魚臭いし壊れてるわ」

 

「ああ・・・もっと薬を・・・」

 

「廃棄処分、新しいのと取り替えろ」

 

子分の男はその女を無造作に殴り飛ばす

 

「またスラムのアホ女達に声かけましょうよ」

 

「おう、あそこのろくでなし共は金の為になんでもするからな」

 

 

 

 

タツ「・・・・・・・・・・」

 

レオ「今殴られた子・・・スラムの顔馴染みだ・・・最近見かけなかったと思ってたらこんな所で・・・」

 

「・・・・・・・」

タツミは同情を匂わせる目をレオーネに向ける

 

レオ「むかつく・・・さっさとあいつらを始末しよう!」

 

タツ「・・・判った・・・」

 

 

その男達は別室で部下達と酒飲みをしている。

 

「親分・・・そろそろ薬の販売ルートも拡充しましょうよ」

 

「そうだな、チブル様の所へ相談に行ってみるか」

 

その時、轟音と共に壁が破壊され、レオーネが現れる。

 

レオ「お前達が行く所は・・・地獄だろ!」

 

「し、侵入者だ。始末しろ!」

 

レオ「標的は密売組織一味・・・お前達も同罪だ、まとめて逝かせる!」

 

レオーネは部下達を次々に撲殺していく。

 

「ざ、ざけんな!俺は殺されるほど・・・」

 

部下の一人が銃を構えるがレオーネは倒した部下の一人を投げつける。そして、相手の体勢が崩れた所を首の骨を折り、最後の標的の首根っこを掴み持ち上げる。

 

「ぐっ、何が目的だ・・・金か・・・薬か?なんでもやるからその手を離せ!」

 

レオ「いらないな、欲しいのはお前の命だけだ・・・」

 

「な・・・なにもんだ・・・てめぇら・・・」

 

レオ「ろくでなしだよ」そう言って強力な一撃がその男の肋骨を折り、その骨が心臓へと突き刺さり、即死する。

 

レオ「だからこそ、世の中のどぶさらいに適しているのさ」

 

 

 

レオーネから逃れた部下達が部屋から逃走していく。あらかじめ細工している為逃走経路は一つしかない。

 

「ち、ちきしょ・・・う・・・?」

 

その一人の首に小刀が掛かり・・・頸動脈を斬られる。

 

「ど、どうした!?」

 

続けざま、片手に小刀を持ったまま瞬時に相手の顎と後頭部を抑え首を折る。そして、流れるように逃げた最後の一人の腹部を刺し抉る。

「だ・・・誰だ、てめぇらは・・・」

 

タツ「・・・誰が殺ったか地獄で閻魔に聞いてみろ・・・」そう言ってタツミは相手の血の気が引いたのを見計らって小刀を抜く。

 

 

 

そして、レオーネと合流する。

レオ「よぉ、タツミ・・・他に逃げた奴いなかった?」

 

タツ「いいや、誰も」

 

レオ「本当?」

 

タツ「ほんと」

 

レオ「・・・あれで全員だったかなぁ?・・・まぁいいや、じゃあ早いとこずらかろう!」

 

タツ「おお」

 

 

アジトへ向かう二人を月が照らす。

 

タツ「壊れた女達はこれから一体どうなるんだ?」

 

レオ「そこは私達の領分じゃないだろ?」

 

タツ「・・・そうだな」

 

レオ「・・・・・・、スラムの元医者にじいさんがいるんだが・・・これがまだまだ腕が良い。事情を話して診て貰うさ。若い女大好きだから喜ぶだろう」

 

タツ「姐さん・・・あんた」

 

レオ「助かる可能性があるに越した事はないからな・・・」

 

タツ「・・・ふっ」

 

レオ「わ、私の顔馴染みがいたからだよ」

 

タツ『・・・俺はあんた方の事、少し見直したぞ』

 

レオ「・・・ん?タツミなんか言った?」

 

タツ「いやなにも」

 

レオ「・・・さて、別動隊の皆も無事かな?」

 

 

マインとシェーレは疾走している。

 

マイ「チブルって標的用心深いにも程があったわ」

 

シェ「でも無事に片付いてなによりです」

 

マイ「・・・・?」

 

シェ「!?」

 

木の上に身を潜めていたセリューが二人の間に割って入る。

 

マイ「敵!?」

マインは後ろへ大きく下がる

『何こいつ気付かなかったわ・・・』

 

シェ「気配丸出しの警備隊員とは違うようですね」

 

セリ「・・・やはり、顔が手配書と一致・・・ナイトレイド、シェーレと断定!所持している帝具から連れの女もナイトレイドと断定!・・・ふふふ、夜ごと身を潜め待っていた甲斐があった・・・やっと・・・やっつっつっつっと巡り会えたなナイトレイド!・・・帝都警備隊ーセリュー・ユビキタス、絶対正義の名の下に悪をここで断罪する!!」

 

マインとシェーレは身構える。彼女達がいる広場の大時計は1時25分をさしていた。

 

マイ「・・・正体がばれた以上、来て貰うか死んで貰うしかないわけだけど・・・」

 

セリ「・・・、賊の生死は問わず・・・そうお触れが出ている・・・ならば正義(わたし)が処刑する!!・・・パパはお前達のような凶族と闘い殉職した。そしてお前たちは師である隊長を殺した・・・絶対に許さない!」

 

マイ「オーガの事?あたし達は知らないわよ、そんなの!」

 

セリ「お前達がやったに決まっている!!」

 

マイ「・・・話には聞いているわよ、あのオーガは罪をでっち上げて無罪の人を処刑したり、賄賂も貰っているって!!」

 

セリ「ほざくな!!・・・全く、悪はそうやってよく嘘を言う・・・命乞いのつもりならその手はにはのらないぞ!!」

 

シェ「マイン!」

 

マイ「ええ・・・、人の話聞く気0ね・・・仕方ない、なら!」

マインは帝具パンプキンで衝撃弾を連発してセリュー達に撃ち込む。

 

「・・・・・・・」

セリューは悠然と構え、その前に生物型帝具ヘカトンケイル・・・コロが立ちはだかり、大型化する。

 

弾が見事に当たり、煙が包む。

 

マイ「・・・・・やったか・・・?」

 

コロはその巨体でマインの衝撃弾を全て防いでいる。

 

シェ「!?・・・マインやはりあれは帝具です!!」

 

マイ「みたいね。しかも生物型ってやつか・・・」

 

 

セリ「・・・“旋棍銃化”(トンファガン)」

 

セリューはトンファ―型の銃で乱射する。

 

二人はそれを易々とかわし、マインは再びパンプキンを身構え、シェーレは鋏型の帝具、エクスタスを皮の鞘から取り出し、応戦の構えを取る。

 

セリ『この距離で銃撃しても効果は薄いか…』「コロ!捕食!」

 

コロは飛び上がり、凶悪な牙でシェーレを襲う。

 

ズシャアアアアアア・・・

 

 

シェーレは相手を冷静に見据え苦もなく、コロのその牙や首を切断する。

 

シェ「すみません・・・」

 

シェーレはそのままセリューに向かう・・・が、コロは既に修復し、彼女を睨みつける

 

シェ「!?」

 

ズドン!!

マインのパンプキンが火を噴き、コロを後退させる。

 

マイ「文献に書いてあったでしょシェーレ、生物型の帝具は体の何処かにある核を砕かない限り再生し続けるって、心臓無いんじゃアカメの村雨も効かないだろうし」

 

シェ「中々面倒な相手ですね」

 

セリ「・・・コロ、腕」

 

コロ「ぐるるるるるうる・・・・」

コロは腕のみ筋肉で強化する。

 

マイ「・・・なにあれ?こうなったらアレしかないわシェーレ」

 

シェ「分かりました」

 

 

セリ「粉砕!」

 

コロは乱打でマインを狙う。

 

マイ「何よこれ!!逃げ場ないじゃない!!」

 

シェ「マイン!私の後ろへ」

 

シェーレは何発もの乱打を帝具のエクスタスを盾にしているとはいえその細身で受け止める。

 

シェ「ぐっ、重い」

 

 

ピイイイイイイイイイ、セリューが呼子を鳴らす

 

マイ「!!」

 

セリューはニヤァと醜悪な笑みを浮かべる

 

マイ「嵐のような攻撃、援軍も呼ばれた・・・これはまさにピンチ!!」

 

マインはコロの頭上へと飛び上がり、パンプキンをぶっぱなす!!

マイ「だからこそ行けえええええ!!!」

 

コロのその火力に溶け始め、骨も見えてくる。

 

セリ「火力が上がった!!??でも・・・!」

 

 

マイ「くっ・・・もう修復をはじめてる。なんて生命力・・・」

 

セリ「ふふ・・・あはは、帝具の耐久性をなめるな・・・」

 

「帝具は道具、使い手さえ仕留めれば直ぐに止まります!」

シェーレが隙をついてセリューに肉迫する。

 

セリ『初めから私狙いか!』

 

シェ『奥の手で一気に』

 

シェーレの帝具が辺りにまばゆい閃光を放つ。

 

セリ「金属の発光!?こんな技が・・・!!」

 

シェ「終わりです」

 

セリ「・・・う・・・うわああああああ」

 

セリューはまだ目が完全に見える状態で無い中、シェーレの乱撃を旋

棍銃化で防ぎきる。

 

シェ『!?・・・彼女自身も強い・・・』

 

コロはセリューが応戦しているのに気付き、向かおうとするが・・・衝撃波が脇腹を掠めていく。

 

マイ「おっとアンタは私!行かせないわ!」『ピンチが薄くなった分、倒しきれないか・・・でも足止めには十分・・・核の場所も消去法で見当はついてきた』

 

シェーレとセリューは激しい攻防を繰り返し、シェーレは徐々にセリューを追い詰める。セリューは足を取られ、

「あ・・・」

武器を落としてしまう。

 

その隙を逃さずシェーレのエクスタスがセリューの両腕を切断する。

セリューは咄嗟に自身の両腕でガードした。

 

シェ『腕を捨てて致命傷を防いだ!?でも次の攻撃で・・・』

 

セリ「正義は必ずかぁあああつううう!!」

 

シェ『人体改造!?』

 

セリ「隊長から授かった切り札だ!くらええええ!!!」

セリューは剥き出しになった両腕から飛び出した銃でシェーレを撃つ。

 

ガアアアアアンンン・・・

 

シェーレはそれを帝具で捌ききっている。

 

セリ『防いだ!?』

 

そしてシェーレはセリューのその両腕の銃も刎ね飛ばす。

 

セリ「ぐっ・・・まだまだ!!」『使うとオーバーヒートで数カ月コロが動けなくなるけど仕方がない・・・』「コロ、奥の手(狂化)!!」

 

コロは筋肉強化し首輪が切れ、犬から狼型へと変貌し、猛る咆哮を放つ。

 

ギョアアアアアアアア!!!!

マイ「うああああ」

 

シェ「ぐっ・・・」

二人とも耳を押さえ、一時動けなくなる。

 

マイ『あっちにもあんな奥の手が・・・、「・・・しまっ」

 

マインのその隙を逃さずコロの剛腕がマインを捕える。

 

シェ「マイン!」

 

セリ「握りつぶせぇ!!」

 

バキバキミシシ、

 

マイ「う・・・う・・・うああああああ・・・」

マインの腕が折れてしまい・・・更に・・・

 

ドッ!!

マインを捕えたコロの腕が両断される。

 

マイ「・・・?・・・シェーレ!」

 

「間に合いました!」ほっとするシェーレ・・・

 

その時、シェーレの心臓付近を銃弾が貫く

 

マインは一瞬何が起こったか判らない。

 

その弾を撃った張本人はセリューであり、口の中にも銃を仕込んでいた。

 

セリ『くくく・・・正義執行!!』

 

シェ「体が・・・動か・・・」

 

コロがシェーレに向かって大口を開けて、上半身から上を噛み千切っていく・・・

 

シェーレの目は呆気に取られ、マインは彼女の名を呼び泣き叫んだ

「シェエレエエエエエエエエ・・・・」

 

マインは直ぐに気持ちを切り替え、怒りで己を奮い立たせる。

 

セリューは歪んだ笑みで満足そうに眺めている。

 

マイ「よくも、よくもシェーレを・・・、う、腕の一本くらい折られたぐらいでぇえ!!」

 

 

「あれだ!」「交戦してるぞ!」「応援をもっと呼べえ」

そこにセリューが先ほど呼んだ他の警備隊が駆け付ける。

 

マイ「くっ・・・・!!」

 

その時、広場一体を覆う閃光が放たれる。

 

 

セリ「何!?」

 

「なんだこの眩しさは!」「用心しろ、何が起こるか判らん!」

 

 

 

 

シェ「エクス・・・タス・・・」

 

 

 

この時、マインは全てを理解した・・・。

「シェーレ!!」

 

シェ「今のうちに逃げて下さい・・・マイン・・・」

 

 

セリ「あいつ・・・あの状態でまだ・・・」

 

 

 

マイ「でも・・・」

 

シェーレは一つの悔いは無いという、笑顔を向ける。

 

それを見たマインは全てを呑みこみ、その場から離脱した。

 

 

 

『最後に・・・お役に立てて良かったです・・・』

 

 

 

「コロ!早くそいつにとどめを!!」

セリューは恐れをなして顔面蒼白になりながらも叫んだ。

 

 

 

 

『ナイトレイド・・・、私の居場所・・・楽しかったなぁ・・・』

『すみません、タツミ・・・、貴方の事をもっと理解したかった・・・』

 

シェーレの思考はそこで途切れた・・・。

 

グシャ、バキゴキ、ゴリゴリ・・・

 

主の手からエクスタスが地面に落ちた。

 

 

「な・・・なんだったんだ今の光は・・・」「おいセリュー大丈夫だったんか?」

他の警備隊が声を掛ける。

 

セリ「あは、あはは・・・やったぁ・・・、悪らしく仲間を見捨てれば私と良い勝負だったのに・・・中途半端な奴・・・パパ・・・私、凶賊を一人倒したよ!正義の光が世界を照らしたよ!あは・・・あはははは・・・ははははは・・・・・、

・・・・・・・・・・・

 

 

ナイトレイドアジトの外広場

 

全員集結している、1名は除いて・・・。

 

マインから事の顛末を聞き、

 

「シェーレが・・・」

アカメは愕然となり肩を落とす。

 

ブラートはやるせなさで俯き、ラバックは涙を流し悔しがる。レオーネも呆然となり、ナジェンダからは表情が窺えない。タツミはそれぞれの思いを黙って見ていた、そして・・・

タツ「・・・いつかはこういう日が来る・・・あんた方もそれは覚悟してたんだろ?・・・話はこれで終わりか?じゃあ、俺は仕事に戻るわ、まだ洗い物が残っているからな」

 

「あんたぁ!!」

マインがタツミにつっかかろうとする前に、ブラートは有無も言わずタツミを殴りふっ飛ばす!

「タツミぃてめぇ!!シェーレの死よりもそんなに皿洗いが大事かよ!!」

 

タツミは起き上がり「・・・俺はあんたらのような殺し屋じゃないんだ、おたくらの敵討ちや抗争の巻き添えくうのはごめんだね・・・自分だって言ってただろ?“いつかは報いを受ける日が来るって”」

 

「それとこれとは話は別だ!シェーレはお前の事をな・・・」

ブラートは尚もタツミを殴ろうと首根っこを掴む。

 

「ブラート、止めてくれ」

アカメはブラートを止めに入る。

 

ブラ「あ、ああ・・・ちっ・・・」

 

ナジェ「二人とももう止めろ!!・・・タツミ、お前は持ち場に戻れ・・・」

 

タツ「・・・ああ、そうさせて貰う」

 

タツミはそのまま建物へと入っていく。

 

皆からはタツミの背中に対して多かれ少なかれ非難めいた視線を送る。

 

ラバ「けっ・・・あの野郎・・・」

 

マイ「くっ・・・、あたしもあいつひっぱ叩かないと気が済まない・・・」

 

マインはタツミの後を追った

 

 

厨房

 

ズドガン!!!

 

轟音が聞こえた。そして、厨房の壁に大穴が開いている・・・

 

マイ「なっ!?今の音何!?・・・そこにいるの、タツミ?」

 

タツ「・・・マインか・・・シェーレはどんな殺され方をした・・・?」

 

マイ「は・・・?・・・あんた・・・」

 

タツ「・・・良いから、言え!!」

 

マインは呆然となった後、我に返り彼の言葉に従った。

 



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孤独を背に・・・時は虚しく流れる

やっと正規時間に戻ります・・・寄り道し過ぎました(苦笑)
原作のラストが伸びたのでこちらもと・・・。

気が付けばお気に入り170以上と・・・こんな拙文にお付き合い下さり有難う御座います、とりあえず後、4,5話出来次第アップしていきます。


ある要塞で二つの勢力が激しい攻防、銃撃戦を展開している・・・そんな中、相手

方の首領に単騎で乗り込んでくる影があった。

 

「貴様は・・・!?」

 

「生憎・・・昔からつるむのは嫌いでな・・・」

 

「・・・たった一人で!?・・・そうか貴様があの・・・だがここをお前の墓場にしてくれる!!」

 

だが次の瞬間、彼は巨大な大爆発を起こし要塞そのものを吹き飛ばし、爆炎から一人出てくる姿がそこにはあった。

 

そして時が経ち再び、

 

「あの要塞での借りは返させて貰うぞ・・・」

 

「・・・生きていたか・・・」

 

二人は闘いの一間に、敵方から問う

 

「貴様の事は調べた・・・家族とやらも信じず、属する組織も信じぬ貴様が一体何の為に闘うのか!?」

 

天変地異が起き、決着がつかずじまい・・・その後に、彼はひとり呟いた。

 

「何の為に戦うか・・・」

 

 

そして・・・今、彼らを生みだすきっかけを作った神・・・ともいうべき存在が後々自分の為に利用しようと…エネルギーとして吸収しようと立ちはだかっていた・・・。

 

その存在からの強力な一撃で死に体となった奴は彼に言う。

「・・・ぐっ・・・貴様とは長い付き合いだったな・・・お前の手で奴を倒せ・・・だがその前にお前の手で俺を殺せ・・・俺に武人(もののふ)としての最期をよこせ・・・」

彼の望みを叶え、辛くも共通の敵を倒すもののそやつからアメーバ状の本体が彼に飛びつく。

 

「・・・くくく、よくも余の計画を台無しにしてくれたな、だが貴様の身体を使ってまたやり直しだ・・・もう遅い貴様と融合し始めている・・・自殺も出来ないぞ、・・・だが良いだろう?今まで孤独で虚しかった生と別れられるのだ」

 

確かに引き剥がす事は出来ない・・・しかし、

「ふん、自殺が出来ないと言ったな?・・・面白い」

 

「むっ!?」

 

「・・・・!!?」

彼に駆けよろうとする部下達、

「来るな!・・・お前らよくこの俺に付いて来たな・・・ふっ、とんだ間抜け共だったな・・・、だが・・・、あばよ・・・」

 

「なに・・・そんな馬鹿な・・・ぐああああああああぁぁぁぁ・・・」

 

彼は手持ちの超小型爆弾を相手に悟られないように起動させた後、それを飲みこみ

自爆した。

二つの存在は霧散霧消していった・・・

 

 

 

そして、それから長い刻が経ち・・・

 

「ふふははは!!殺し屋といえど女どものお守とはな、無様に存在(いき)永らえた貴様にはお似合いだな、ふあははははは!!」

 

 

そして・・・

「・・・っ、夢か・・・ふん、つまらない奴の事を思い出したな・・・」

タツミは直立不動で眠っていた。・・・それは身体が直ぐに戦闘態勢に移行出来るよう適度に緊張しそして、体力を維持する為だった。だがどうやら独白と共に目を覚ましたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

ブドーは立ち膝をついた状態で瞑想している。部下達は戦場で彼が完全に座った所を見たことが無い。

ここ帝都の前哨要塞シスイカンでブドーと近衛兵、他兵達が革命軍と睨み合っていた。

そこに伝令がやってくる。

「ブドー閣下!反乱軍の別働隊に動きがありました!如何致しましょうか」

 

「・・・判った・・・、ここは私が直々に片をつけ、直ぐに陛下の元に引き返し、

反乱軍共を撃滅するぞ」

そしてブドーは全兵に通達する。

「良いか、お前らは後方に下がり手を出すな。目の前の反乱軍を殲滅し後、別働隊の者どもを始末する為の力を蓄えておけ!!」

 

兵達は歓声を上げ、雄叫びを轟かす。

 

ブドーは目を閉じ、念を集中し始める。

 

そうすると要塞外に地面から土の巨人兵・・・ゴーレムが現れる・・・一体だけではなく無数に現れ見上げる程の身の丈を誇っている。

 

革命軍は驚き、動揺を隠せない。そこで将兵が

「火矢を放て―!!」

 

だがまるで利かず、次々に革命軍の前線基地を破壊し革命兵士達を踏み殺していく。

 

「逃げろー、散れぇ散れぇ!!」悲鳴、怒声が響き、何人かの帝具持ちが応戦するも焼け石に水であった。

 

「よし、ここは俺が!」

と革命軍側、指揮官の一人が帝具の一つ、遠距離操作が可能なボーガンの矢でブドーを狙う。

 

ゴーレム達の間をすり抜け、標的目指して突き進む。

 

「・・・ふっ・・・」

ブドーは不敵の笑みを浮かべ、両手を交差させるとそこに砂塵が舞い、その複数の矢を砂で固め、無効化してしまう。

 

 

 

「どうだ、やったか!?」

 

「・・・いえ、ブドーの奴・・・、帝具で砂の塊にしまして防いでしまいました!」革命軍の部下が双眼鏡ごしにそう告げる。

 

「ば・・・、そんな馬鹿な・・・くっ・・・退避、総員退避だ!」

 

 

 

 

 

その光景に喜ぶブドーの配下達、めいめいに褒め称える。

 

「流石大将軍、どうかこのまま奴らを皆殺しに!!勝利はもう既に我々のものです

!」

だがブドーは、

「この愚か者共!黙って見ておれ、見苦しいぞ!」

彼に一喝され誰もが押し黙った。

 

 

最早撤退を余儀なくされた革命軍、ゴーレムの巨大な一踏みが眼前に迫りもう風前の灯の兵士が

「・・・くっ・・・、今度は俺の番か・・」

 

 

ズドオオオォォォォンンン!!!!!

 

 

ゴーレムの足が砕け、驚いた彼は頭上に目線を向ける。

 

 

マインはパンプキンでゴーレムの足を狙い命中させていた。

「なんなのよ、あれぇえ??」

 

「・・・あれは土の帝具・・・トラソルテオトルか!?・・・まさかあいつが持っていたのか・・・ナジェンダの話じゃブドーの帝具はアドラメレクだと言っていた

が・・・ちっ・・・」

タツミとマインは飛行型危険種に乗り、マインは高所が怖い為タツミの後ろにしがみついている。

 

 

「・・・・・・」

ブドーも頭上を見上げ様子を伺っている。

 

 

ドカン!ズドン!ガァァアアアン!!

 

 

マインは再度パンプキンでゴーレム達を狙い、腕や足を破壊していく。

 

「よしっ!!どんなものよ!」

 

 

 

「・・・ふっ小賢しい・・・」

ブドーは笑みを浮かべるとゴーレム達は再生していく。

 

 

「げっ、再生すんのあれ!?・・・ちっ、じゃあ使い手をやるしかないわね!」

 

マインは照準をブドーに移す。

 

「むっ・・・?・・・ほぉ・・・俺を狙ってくるか?・・・同じ事だ・・・」

 

 

マインが叫ぶ!

「いけぇぇえぇええええええ!!!」

 

だがゴーレム達が手から大量の土を作り、それが幾重物、防御壁となる。

 

「くっ・・・やるわね・・・あの将軍・・・」

 

 

「・・・マイン、上昇するぞ!!」

 

「え?なんで?射程距離が・・・って、にゃあああああああ~~~~」

 

タツミの命令で危険種は急上昇を行い、マインは震え上がっている。

 

「ううううう~・・・・『あわあわあ・・・怖い怖い怖い』

 

「マイン!俺が撃ち終えるまで、下に降りてくるな!!」

 

「はっ、どういう事!?」

 

タツミは右腕に帝具の闇よりの巨砲を携え、飛び降りる。

 

「ちょ、あんた!?」

 

タツミはそのままゴーレム達の居る上空目がけて降下していく。

 

 

 

 

「閣下、なんでしょうかあいつは?自殺行為ですな」

 

「・・・・・・・・、・・・・まさか!?」

ブドーは嫌な予感がしていた。・・・だがもう遅い。

 

次の瞬間、巨大な大爆発が起きる。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・その後に衝撃波と音が廻りを覆う。

 

 

 

 

 

 

「な、何が起こったんだ一体・・・」

それは両軍の兵士の感想だった。

 

 

全てのゴーレムが消滅し、そこに立っているのはたったの一人だった・・・。

 

 

 

「ふっ・・・やはり、来たか・・・」ブドーは要塞から彼を見下ろした。

 

タツミもまた、不敵な笑みでブドーを見返した。

 

 

 

 

 

「タツミー!」

マインが降下してきて傍に寄りそう。

 

「・・・あいつがブドーなのね・・・『間違いなく強い…』」

 

「・・・マイン、お前は皆と合流しろ、俺が一人で片を付ける!」

 

「いくらあんただって、一人じゃ・・・」

 

「良いから行け!!足手まといだ!」

 

数秒、睨み合ったが・・・

 

「判ったわよ・・・でも必ず生き延びなさいね、死んだら化けてでてやんだから!!」

 

そう言ってマインは他メンバーの元へ向かった。

タツミは苦笑し、

「・・・あいつ、何支離滅裂な事言ってんだ?」

 

 

そうこうしているうちに、ブドーが要塞扉からゆっくりと現れた。

 

部下達が後方に控えている。

 

 

「来るとは思っていたぞ・・・、大した破壊力だな・・・、我々の味方であれば、どれほど心強かった事か・・・」

 

「あんたこそ、まだ本気じゃないんだろ・・・?」

 

「・・・ふっ・・・」

 

タツミには判っていた・・・ブドーが本気で帝具を使えばこの辺りを焦土に還す事

を・・・それはブドーの配下も巻き添えにしかねない・・・無論、本気になればその代償として数日間帝具が使えない状態になる恐れがある、だからそういう事態にならないように、そして並みの闘いならば部下を連れてくる。

 

ブドーの部下達が呟く。

「あの若僧・・・ブドー大将軍と一騎討ちで勝負とは蛮勇な奴め・・・」

 

「馬鹿が!・・・下を見てみろ!」

 

要塞付近にブドーのゴーレム達を滅すべくタツミが空けた巨大な穴がある。

 

「奴は我々を狙わず、ゴーレムだけを狙った・・・恐ろしい帝具の使い手だ・・・」

 

「まさか・・・そんな・・・大将軍が負けるなんてありえないですが・・・いやしかし・・・」

 

「うろたえるな!・・・かのエスデス元将軍が帝国最強ならば・・・ブドー閣下はこの世界最強だ」

 

 

 

 

「・・・エスデスがそれ程大事だったか?・・・まぁ良い、あの時の借りをここで返すぞ・・・」

 

「別にあの女の事は大事じゃ無いさ・・・ただ、国の命令やなんだかんだあろうが、あれだけの生き物を殺したり苦しめておいて、そう簡単に死ねないという事を教えてやりたかったから生かしただけだ・・・」

 

ズシン・・・

 

そう言ってタツミは持っていた帝具を地面に落とす・・・かなりの重さだ。

 

「・・・帝具を使わない気か・・・?・・・大した自信だな・・・」

 

「あんた、本気出したら・・・味方にまで被害が出るんじゃないのか?」

 

「・・・この私を本気にさせる程の力があるのか・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

タツミとブドーは数秒睨み合う。

 

「・・・良かろう・・・」

ブドーは両腕に付いたリングを外し、脇へ落とした。

 

「お前の得物は・・・その剣か・・・?・・・そういえば、アカメの帝具と似たものだな・・・」

 

「安心してくれ、これは帝具ではない・・・」

 

「ふっ・・・、誰か私にも剣を寄越せ!」

 

「閣下!?・・・槍か小銃でも宜しいのでは!?」

 

「黙れ!!」

 

ブドーは剣を受け取り、

 

「・・・帝都皇帝直属将軍・・・16代目当主、キンジホウブ・ブドー!」

 

「・・・リュウジンノカミ、タツミだ・・・」

 

互いに名乗り上げ身構える・・・刃を交えずとももう既に闘いは初まっていた・・・



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八房を斬る

革命軍の密偵達はあらかじめ帝都内の住人達に前もって内戦が本格化する事をそれとなく触れまわり・・・

 

「とうとうあの帝国の圧政を打ち砕いてくれるんだ・・・」

 

「どっちにしたって、闘いになりゃ人死にが出る・・・勘弁してほしいぜ」

 

「な~に、帝国にはいざとなったら、ブドーや帝具があるだろ、どうせまた直ぐに鎮圧されるさ」

 

『・・・この話を帝国に垂れ込んだら、いくらくれっかな・・・くくく』

 

避難する者や只の噂だと取り合わない者、革命軍に参加する者や逆に帝国軍に伝える者とさまざまであった。

 

タツミがブドーを引きつけている間にナジェンダは別方向から帝都に侵入し、大軍で押し寄せていた。今日に至るまでこの暗黒時代を終わらせてくれると、物質を献上され、進軍に当たって他の拠点の城も抗戦すれば内部で民の暴動を誘発するという事で控え、寧ろ革命軍に志願兵として参加するくらいであった。

 

そして・・・帝都を囲む城壁で遂に闘いの火蓋が切って落とされた。

飛び交う銃弾、火矢、大砲・・・その間に・・・

 

アカメ、レオーネは帝都城壁を突破し、城下に入り宮殿へと目指す。

それに呼応して帝都内でも民衆が暴動を起こし始めた。

公開処刑場は取り壊され始め、その暴動を受け帝国軍が内部にも出動し始める。

アカメとレオーネが疾走する中、暴動鎮圧に赴いたクロメと出くわす。

 

 

 

 

 

「・・・!?」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

 

 

 

レオーネはアカメが立ち止った事に気が付いて後ろを振り返り、

 

「え?クロメ!?」

 

 

二人とも廻りの喧騒を他所に対峙し、その間だけに静寂が流れる。其の時風が流れアカメの美しく流れるような黒い髪を揺らし、クロメの黒曜石のような瞳も僅かながら妖しい光が漂い笑みを浮かべている。

 

「お姉ちゃん、結局・・・革命なんて、血を流す為じゃない・・・?」

 

「クロメ・・・これが皆の思いだ・・・、民を威圧していた処刑場があの有様だ・・・クロメ、お前はそれでもまだ、民の為に今の帝国政府は必要だ、などと言えるのか?」

 

「皆・・・?本当に皆かな・・・?一部の困ったさんを抑える為には悪い人はこうなるんだよって、アピールする事も必要なんじゃないかな・・・?」

 

「・・・くっ・・・この判らずや!!」

 

「判らずやなのはお姉ちゃんだよ!!」

 

 

クロメはゆらりと動き、徐々に近づき「・・・とうとう決着を付けられるね・・・、今度は以前のようにはいかないよ・・・だってもう時間が無いから・・・是が非でも今ここで終わらせる!!」

 

クロメは八房を抜き放つ。

 

「クロメ・・・、八房の力は戻ったのか?」

 

「そんな事関係無いよ・・・」

 

アカメも村雨を抜き、両逆手で構える。

 

そして・・・二人は真っ向からぶつかり、火花が飛び散る。

アカメはそのまま、クロメを押し斬ろうと圧を掛ける。クロメもそれに対し後退しながらも対抗する。

 

「へぇ~・・・お姉ちゃん・・・前より腕を上げたね・・・、くっ、『ウェイブと特訓して無かったら・・・これで斬られてた・・・』

 

アカメはクロメと鍔釣り合いをしながら

「レオーネ、先に行け!!」

 

「・・・!?」レオーネも助けに入るか一瞬悩んだが、直ぐに「判った!!後で絶対会おうな!!」

 

レオーネは宮殿へ向かった。

 

クロメはアカメの村雨をいなして、距離をとった。

 

「優しいね・・・二人掛かりの方があたしを殺れたんじゃないの?」

 

「お前くらい・・・私一人で十分だ・・・」

 

 

姉妹は死闘を開始した。

 

 

城壁では両軍が激突し、激しい攻防が続いていた。ラバックが何度か手を交差し終えた後にクローステールで網状の防波堤を造り飛んでくる、火矢、銃弾を防ぎ、そしてそのまま敵へと送り返す・・・それは同時にナジェンダを護衛する事であった。

革命軍の突撃隊の先陣をスサノオが勤め、彼の武器である先端に長筒状の槌が付いた槍で突進していき、迫りくる帝国兵士を次々に薙ぎ倒していく・・・。

 

「な・・・なんだあいつは!?・・・銃撃隊、奴を迎撃しろ!!」

 

・・・だが、スサノオは被弾しても、直ぐに修復し・・・修復する暇も気にせず突き進んでいく。

 

「隊長!?奴は恐らく帝具人間、コアを壊さなければ・・・うわわああ・・」

帝国兵士は圧されていき、スサノオに続いて革命軍兵士達が城壁内への流れこんでいった。

 

「ナジェンダさん!」

 

「ああ、我々も行くぞ!」

 

ナジェンダ達もそのまま突入していった。

 

 

宮殿内では、

 

「申し上げます!反乱軍の者達が城壁を突破して来ました!」

 

斥候からの報告を聞き、皇帝カライと大臣オネストは・・・

 

「だ、大臣・・・」

 

「やれやれ、まさか根も葉もない噂が現実になるとは・・・ですがご安心を、陛下・・・貴方様にはあの帝具があるではありませんか?・・・いよいよとなれば、陛下ご自身の手で逆賊共に罰をお与えください!」

 

「し、しかし大臣・・・余の民達はどうなる?巻き添えになるのではないか?」

 

「・・・あ~・・・」

オネストは面倒そうに逡巡した後、

「な、何を仰います陛下!?・・・我々栄えある帝都民!!逆賊共を撃つ為なら喜んでその命を捧げるでしょう・・・」

 

「こ、こんな時にブドーが・・・、せめてエスデスがいてくれたならば・・・」

 

「陛下!?何を弱気な事を・・・エスデスは裏切り者ですぞ!・・・ああなんと嘆かわしい・・・陛下にこれだけ信頼されていながら・・・全くあの裏切り者が・・・ですが陛下、私オネストだけは何があろうとも陛下をお守りしますぞ!・・・そうです、この難局を乗り切れば、そこには安寧な未来が待っていますぞ!?・・・『ちっ・・・まだエスデスを・・・踏ん切りの悪い若造だ。それにブドーも何をしている・・・あのウスノロ!』」

 

 

姉妹の攻防は続いていた。周りの喧騒、闘いは何処吹く風で、逃げ惑う市民や革命兵士、帝国兵士の間を擦りぬけながら軒下、露天商を突き破り、互いに隙を窺う。

 

「どりゃああああ、アカメの首は俺が貰ったぁあああ!!!」

斧を振り上げ帝国軍兵士がアカメの頭上から振り下ろす・・・だがアカメは寸で交わしつつ相手の両腕を斬り落とし、其の武器をクロメに投げつける。

クロメは走行に邪魔だった革命兵士を蹴飛ばし、投げられた武器はその兵士に向かい・・・辛くも凌ぎ倒れる・・・その兵士を呼吸困難にさせる踏み抜きクロメは行い、

反動で跳躍しアカメに強烈一撃を見舞うおうとする・・・、

クロメの上段からの一撃をアカメは下から斬り上げ、僅かに軌道を逸らしそのままクロメの頭上を斬りにかかる。しかしそれを寸で半身でかわし肘打ちをアカメに喰らわせる、アカメもそれを片腕でいなし、その反動で回転斬りを行うがクロメもそれに反応し受け止め彼女も回転しながら弾き、互いに再び距離をとる。

 

二人は人々の網間を走り抜けながら、アカメは村雨の鞘をクロメに投げつけ、負けじとクロメも八房の鞘を投げつけ空中でぶつかり合う。その間にアカメは下を掻い潜りクロメの足元を薙ぎ払いに掛かる。クロメはそれを空中後転でかわす・・・だがそれを見逃さずアカメは追撃する。

 

ガキン!!

 

アカメの突きをクロメは刀を沿わせた形で空中でもいなし僅かな接点を支点に、足蹴をアカメの顔面に入れる。

 

「ぐっ・・・『クロメ・・・限界まで薬を使っているな・・・』

 

アカメも直撃だけは避け、素早く後方へ回転しながら飛びし去る。

 

ニヤァ・・・クロメは笑みを浮かべ、追撃しようと肉迫する。

だが、そこに逃げる子供が転び恐怖に引きつっている・・・

 

「くっ・・・あんた、邪魔!!」

 

クロメは怒鳴り子供を押し退け、アカメに迫る。

 

「・・・・・・・・」

 

アカメは一旦、構えを解き目を閉じる。

 

クロメはその瞬間を見逃さず横薙ぎの一撃をアカメに加えようと・・・その時、アカメは目開き、今まで抑えていたモノが弾けるようにクロメの八房を薙ぎ払う!

 

 

 

「・・・・・!?」

 

 

 

 

クロメは驚愕した、八房が根元を幾分だけ残し刀身が折れたからだ・・・。

 

 

 

 

「・・・勝負あったな・・・クロメ・・・」

 

 

「・・・凄いよ、お姉ちゃん・・・正直言ってずるいよ・・・あたしなんてあれだけ薬・・・超強化薬飲んでここまでが限界なんて・・・うぐっ・・・げほごほ」

薬の副作用が出始めていた・・・

 

「・・・今までの私では、全力のクロメが相手ならよくて相討ちだったさ・・・だが今の私には・・・」

 

「・・・なに?ナイトレイドの仲間がいたから・・・?」

 

「・・・・・・」

 

「今までのお姉ちゃんの太刀筋とは違うもの感じたけど・・・自分で編み出したの?それとも誰かに教わったの・・・?」

 

「・・・クロメ、大人しく敗北を認めろ・・・そうすればクロメの身柄は私が預かる事になっている・・・悪いようにはしない」

 

「・・・へぇ・・・?ナイトレイドに入った時の何かの条件?・・・優しいね・・・でもあたし、まだ負けたと思ってないよ・・・ふふふ、だって・・・」

 

バリン・・・

 

 

アカメの村雨の刃の部分、崩れていく・・・

 

「な・・・!?」

 

 

「村雨のかすり傷での一撃死が怖かったからね・・・ずっと、どうにか出来ないかなと思ってたんだよ?これでやっと怖くないね・・・まさか峰打ちでも一撃死なんて事ないよね?・・・うふふ」

クロメはまだまだ余裕の笑みを浮かべる・・・だが、目下には焦燥の色が浮かぶ。

 

 

『村雨・・・今まで有難う・・・そして、すまなかった・・・だが最期の一働きをしてくれ・・・』

村雨には所々ヒビが入り、いつ折れてもおかしくない状態であった・・・

 

 

 

 



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村雨を斬る

一方ドロテア研究室ラボでは

 

「おーおー、大軍でお出ましのようじゃなぁ・・・」

 

「へぇ~・・・反乱軍が・・・とうとう来たんだねぇ~・・・」

ドロテアとスズカがのんびり茶を飲んでいる。

 

「・・・スズカ、お主も共に反乱軍を迎え撃つんじゃろうな?」

 

「勿論・・・どうして?」

 

「いや・・・では妾はコスミナと共に行くとするか・・・」

 

「あ~・・・あの変わり果てたお友達?」

 

「ふっ・・・寧ろ光栄に思うべきじゃ・・・では、また後でのう・・・」

 

「ええ・・・また後で・・・あたしはあっちの方の守りが大丈夫か見てくるから・・・」

 

別れた後、互いにニヤリと笑みを浮かべた。

 

ドロテアは研究所から離れた場所にある巨大な牢に来た。

 

「くくく・・・女狐め・・・妾が見抜けぬと思うたか・・・さて、コスミナ、大暴れしようかの・・・妾と組んで天下を取るのじゃ!!」

 

 

 

「キシャアアアアアア!!!!」

かつての姿を想像出来ない有り様となったコスミナは獣な咆哮を上げた。

 

「くくく・・・はははははは・・・ここまで喰らったのじゃ、もう相手が誰であれ勝てる者はおらんぞ・・・くははははは!!!」

 

 

 

 

大きく見上げる程の巨大な蟷螂のような化物と成り果て6本の後脚と2本の前脚は刃物のように尖っている、コスミナは餌を求め、帝都の混戦場へ向かう。

 

 

 

宮殿内では・・・

 

近衛兵達が守りを固める為、巡回、指示、手の空いた者の中には外への応援の為出撃しようとする者もいた。

 

其の時、コッコッコッコッ・・・

ハイヒールの音が響き、白の軍服を身に纏った・・・兵なら誰もが見知った・・・逆行を背にしたシルエットが浮かぶ・・・

 

「エ、エスデス将軍・・・!?」

「馬鹿な・・・何故こんな所に・・・?」

 

驚く兵士達にエスデスと呼ばれた女は・・・長い碧髪をたなびかせ流し目を送った後に投げキスをして見下すように彼らを見た後、再び歩を進め姿を消す。

 

呆気に取られた兵士達は・・・「・・・エスデスだぁ・・・追ぇえええ!!!」

「・・・・・ううっ・・・」

数名うろたえ、戸惑っている「何をしている?幾らエスデスでももう帝具は使えない・・・今度こそ捕えて俺達の手柄にするぞぉ!!」

 

その言葉に奮いたった者達が次々に追いかける・・・「何処に行ったぁあ?」

「あっちだぁ・・・」「追ええええ」

 

だがそんな中、一人途中で追うのを止め、ほくそ笑む兵士がいた。

「・・・じゃあねぇ~~~、さーて、今度はあっちの兵達を、と・・・」

 

 

 

 

 

「始まったか・・・」

エスデスは帝都が見える小高い丘でその様子を見ていた・・・

彼女は眼を閉じ・・・数秒、意を決し再び走り出した・・・

『捕えられた部下達の事はタツミを信じよう・・・だが・・・これまでの事態に至ったその責任は私にもある・・・、せめてその決着だけは私の手で着ける・・・許してくれタツミ・・・』

エスデスは木々の間を縫うように疾走した。

 

 

 

一方、スズカはのほほんと宮殿内を歩いていると・・・ゴキブリと人間が合わさったような改造人間が数体現れ、彼女の前に立ちはだかる。

 

「どうも~こんちわ~・・・ねぇ、貴方達、外の敵、倒しに行かなくて良いのぉ?」

 

 

 

「グルルルルル・・・・」

その改造人間達はスズカを取り囲むようにじりじりと間合いを詰める。

 

「あら~・・・これってひょっとして、あたしのやっている事ばれてたって事?・・・やっぱお婆さん騙せなかったかぁ・・・あ、ははははは、やっぱあたしこういう駆け引きとか向いてないわぁ~・・・あたし、ピ~ンチ!!」と頭を掻きながら笑うスズカに彼らは襲いかかる。

 

 

 

 

 

「皆さん下がって・・・コロ、7番!・・・泰山砲!!」

セリューはコロの口に手を入れ、かつてスタイリッシュが造った武器の対戦車用の砲撃を行う。

 

エスデスの部下達で、彼女の助命嘆願した者達が囚われている強固な牢を粉砕する。

「さ、早く!!」

 

それぞれ脱走していく、その中には・・・

「セリュー!?」

「あ・・・、」かつて警備隊の同僚も交じっていた。

 

「セリューお前も生きてたのか・・・助かったぜ、俺達秘密裏に始末されるって話だったんだが・・・やっぱり本当だったのか?」

「ええ・・・、とにかく今は早く逃げて!!」

 

「おい、だけどよ・・・なんか宮殿付近が騒がしいが何があったんだ?」

 

「・・・今革命軍が攻めて来てる・・・」

 

「な!?・・・それ早く言えよ、じゃあ俺達も行って加勢しないと!」

それを聞き、まだ闘う気力の残っている者達は賛同する。

 

「闘うって、どっちの側?」

 

「俺達は・・・ああいやでも、エスデス将軍助けようとしただけで、反逆者として殺しに掛かったからな・・・やっぱり・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ・・・」

ランはセリュー達の様子を空中で影ながら見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「何あれ?」

 

アカメとクロメが振り返ると、そこに革命兵、帝国兵、民間人問わず食い荒らすコスミナが迫っていた・・・。

 

「はーははははは、やれコスミナ!!全ての愚民共を喰らい尽くせ!!・・・妾達の力を見せつける良い機会じゃ、誰が最強か教えてやろうぞ!!」

 

『・・・あれはワイルドハントのドロテアと・・・コスミナ?・・・妙だ、マインがコスミナは仕留めたと・・・』

アカメは心の中で思い、そしてクロメに問い質す

 

「クロメ、あれはワイルドハントのドロテア達だな?」

 

「うん・・・、どうしてあんな事を・・・」

 

「大臣達は・・・帝国政府の者達には、最後はああやって味方をも切り捨てていくんだ・・・お前の守る民間人も殺されていっているぞ!!」

 

クロメはガクガクと震えだした・・・「そんな・・・帝国は間違っていない・・・、裏切るのは駄目・・・うう、頭が・・・」頭を抑え蹲る。

 

 

もう眼前まで迫り・・・「む?なんじゃ、クロメか?・・・それにアカメ・・・?くくく・・・喰らって力を増させるのじゃ・・・コスミナの強さは天井知らずじゃ・・・やれ、コスミナ!」

 

 

コスミナがクロメを喰おうと迫る。

 

「違う違う違う・・・、帝国は帝国を裏切らない・・・違う違う・・・」

 

クロメがぶつぶつ呟き、周りへの注意が途切れている中

「クロメ!?」

アカメは叫び、コスミナは獲物を斬る刃が振り下ろされる・・・だが、それを村雨で傷を負わせる。

 

「キシャアアアアアア!!」

コスミナは退き、アカメを睨みつける。

 

「グギャアアアア!!!!」

 

斬り口から村雨の呪詛の梵字が流れていきコスミナは苦しみながら倒れる・・・やがて心臓まで達し息が途絶える・・・

 

其の時、村雨が刃と柄の部分も含め木端微塵に砕け散る・・・

 

『村雨・・・今まで有難う・・・』アカメは村雨へ黙祷を捧げた。

 

 

 

「ふっ・・・アカメか・・・妹を庇うとは麗しい姉妹愛じゃ・・・だがな・・・」

ドロテアが指を鳴らすとコスミナは立ち上がり、彼女・・・の心臓付近に嵌められた宝石が呪詛の梵字を受け砕け散る。

 

「キシャアアアアアアアア!!!」

コスミナは咆哮を上げる。

 

「!?・・・身代わり・・・」

 

「賢者の石・・・と言っても判らんじゃろうな、かなり万能なスーパーアイテムと思え。貴様らの帝具の材料にも使われておる・・・貴重ゆえ一個しか無かったが村雨を一度凌げば十分・・・それに、破壊も出来た・・・さぁアカメ、大人しく殺されるのじゃ!」

 

ドロテアが喋っている間にもコスミナはアカメに執拗に攻撃を加えていた。

 

「・・・成程、そう言う事に詳しい仲間が居る・・・或いは師匠と呼んでも良い存在かな?ふふ、後で聞いてみよう・・・」

アカメは村雨が無くなりながらも敢えて余裕を見せる。

 

 

「アカメの師匠・・・?面白いのう・・・、だが、ここから生きて帰れると思うておるのか?・・・コスミナ!」

 

標的をアカメからクロメに変え・・・クロメも自身の命を危険に晒されていると気付くが精神的ショックが大きく反応が遅れる・・・

 

「クロメェエ!!」

アカメは間に合わないと判っていてもクロメの元へ駆けつけようとした。

 



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限界を斬る

ズゥゥ・・・・ン・・・・・

 

倒れたのはコスミナだった・・・

 

「ちっ・・・誰じゃ・・・」

 

砂煙舞う中現れたのはグランシャリオを纏ったウェイブだった・・・彼はクロメを

 

抱えていた。

 

「クロメ・・・」

アカメは安堵し膝をついた。

 

 

「ウェイブ・・・」

クロメはウェイブの顔を撫でた

「すまねぇ・・・遅くなった・・・、あいつら、ワイルドハントの・・・てめぇら誰が敵か判ってんのかぁああああ!?」

 

 

「・・・また煩いのがきたのー、おいそこの小僧、見逃してやるから・・・とっととそこの餌を置いてゆけ!」

 

「・・・・・・・」

ウェイブはクロメを少し離れた場所へ避難させ、

 

コスミナに対峙する・・・アカメもウェイブを見守る。

 

ウェイブはランに教えられた事を思い出していた

「ウェイブ・・・君は有り余るパワーをお持ちですね・・・エスデスさんが君の強さは完成されていると・・・言ったのも頷けます」

「へへ・・・けどよ、完成されているなら俺は誰にも負けないのかよ・・・どうも違う気がする・・・」

 

「ええ・・・完成されているという事は、これ以上強くはならないという事です・・・とはいえ今のままでも十分なんですがね」

 

「俺は・・・帝国最強と言われた隊長に勝てるのか?」

 

「・・・まぁまず無理ですね」

 

ウェイブはずっこけ

「おい、はっきり言うなよ!!・・・はぁ・・・俺って所詮ここまでが限界の男なのかよ・・・」

 

ランは溜息を付き、「・・・エスデスが言ったのはあくまで今のままの君でならと言う事です。」

 

「どう言う事だ?」

 

「つまり君自身が一皮剥ければ限界突破もありうるという事です・・・」

 

「ラン・・・いや先生よ、どうすればいいんだ!?」

 

 

『・・・ランは言っていた・・・俺は力を無駄に外に発散している所があると・・・それを内に溜めて使えば・・・紅く燃える炎よりも青白い炎の方が熱い・・・』

 

ウェイブは砂煙舞う中ゆっくりと歩いていき、

 

「・・・全く死にたがりな若造じゃ、コスミナやれ」

 

ズン・・・

 

「ギッ!?」

攻撃した位置にはもう居らず、次の瞬間・・・コスミナは音を立て倒れた。

 

ウェイブは強烈な肘打ちを彼女の鳩尾に叩きこんでいた。

 

『疾い・・・』

アカメの頬に思わず汗が流れた。

 

 

 

ウェイブは強烈な乱れ打ちをランに向けたが、全てそれをいなされる。

 

「くっ・・・つぇえ・・・、お前こんなに強かったのかよ・・・」

 

「同僚ではありますが私は年上・・・ああいえ、もう上司なんです、少しは敬って下さい、ウェイブ?・・・出世して内部から帝国を変えたいのでしたら今のままでは駄目ですよ」

 

「ああ・・・悪い・・・ところで隊長とあんたはどっちが強いんだ?」

 

「・・・・・・・、それはウェイブが強くなったら判りますよ」

 

「・・・なんだよそれ、教えてくれないのか?」

 

「そもそも強さというのは何も一方向のみではありません・・・もっとも今ウェイブが欲しい強さは純粋な戦闘の方でしょうがね」

 

「そうだよ・・・頼む、教えてほしい!!」

 

「ウェイブ・・・、貴方は先ほどの拳を何度も打っている時、心も猛々しかった・・・外で激しく燃えている時ほど内を静かに、そしてその逆も行ってください」

 

「うっ・・・難しい事言うなぁ・・・」

 

「無理だと思うなら・・・とっとと諦めて下さい」

 

「・・・すまない、先生、俺は強くなりたい・・・」

 

 

 

『ああ・・・激しい攻防の時ほど・・・内は静かに・・・だ・・・』

 

 

コスミナは高周波の巨大な音波を浴びせてくる。それは周囲に影響を及ぼし、遠巻きで様子を窺っている兵士やアカメ、クロメにも被害が出る。

 

「くっ・・・耳が・・・」

 

「うっ・・・体が・・・ぐっ・・・なんとか動く・・・」

 

「クロメ、大丈夫か!?」

クロメは洗脳ショックによる身体不自由が皮肉にも緩和され、アカメも気遣う。

 

 

 

「コスミナ、奴のグランシャリオの固定周波数に合わせよ・・・そして、殺せ!!」

 

ウェイブはクロメ達の動向を背中で聞きながら、その音波の最も芯となる部分は避けながら、手近な物を投げつける。それは共振動を起こし粉々になる。

 

「ぬ!?」

ドロテアは驚いた・・・ウェイブが自らコスミナの口の中へと突っ込み、食べられたからだ・・・

 

「ウェイブ!!!」

 

「くっ・・・『駄目だ、今のままでは歯が立たない・・・クロメとの闘いで体力を使いすぎたか・・・』

 

 

 

「ふ・・・ふははははは・・・、奥の手を出すまでも無かったの・・・、全く自爆にもならん・・・とんだ無駄死にじゃ・・・悲しいか?・・・だが安心しろ、直ぐに会わせてやるからのぉ・・・」

 

 

「クロメ、逃げろ!!」

 

「嫌ぁああ!!ウェイブ!!!」

クロメは泣き叫ぶが・・・其の時、薙刀状の臣具を持った男が地中から現れ、コスミナに攻撃を加える。

 

「え・・・ナタラ!!」

 

「ナタラ・・・?『馬鹿な・・・八房はタツミが封じたはず・・・何故・・・?』

クロメもアカメも動揺を隠せず、ナタラは二人を一瞬見た後コスミナに挑む。

 

 

「なんじゃ、新手か?・・・クロメの骸人形か・・・?ふん、コスミナ!人形如き喰ろうてやれ!!」

 

ナタラは巧みにかわし、コスミナの攻撃を右に左に弾いていく。だがその時、彼女は再び巨大音波をぶつけてくる。

 

ナタラは避けきれず、左上半身が半壊する。

 

「ナタラぁああ!!!」

 

「馬鹿、クロメ、抑えろ!!」

 

「だって、ナタラが死んじゃううぅううう!!!」

 

「クロメ!!ナタラはもう死んでいるんだ!!」

 

「・・・・!?」

クロメは多少気が動転していた。

 

それにアカメも只手をこまねいて見ている訳では無かった、流石に素手で太刀打ち出来ない為、普通の剣でもあればと探したが近場には無く、ドロテアもまだ闘えるアカメを目で牽制しているのが判っていた。

 

 

 

「ぐっ・・・・グギャアアアアあああアアああアアあああああああああぁぁぁぁ・・・」

いきなりコスミナが周りをぞっとさせる悲鳴を上げ、喉元から鮮血が迸り、ゆっくりと倒れた・・・

 

「な・・・なんじゃ・・・どうしたのじゃ、コスミナ・・・?」

ドロテアは顔面蒼白となり、慌てふためいた。

 

ギリギリギリ・・・・・

 

コスミナの喉がぱっくり割られ、中からウェイブがグランシャリオを纏った状態で現れた。

 

「な・・・な・・・な・・・」

ドロテアは唖然とし

 

「ウェイブ!!!」

クロメはウェイブに抱きついた。

 

アカメも安堵し、直ぐにウェイブが持っている物に気が付いた。

 

「バカぁ、死んじゃったかと思ったよ・・・ううう・・・」

 

「わりぃ、わりぃ・・・咄嗟に中からぶち破れないかなって思ってさ・・・お前の八房が役に立ってぜ・・・、けどなんで体がヤケに痛いんだ・・・、ク、クロメ・・・お前あんまり強く抱きしめんな!!」

 

「・・・心配させた罰・・・」

ウェイブの片手には半分に折れた八房が握られており、それでコスミナの内部から斬り裂いた。

だがもう八房は刃こぼれが酷くもう斬れそうにも無い。

 

 

 

「体が通常より痛むのは・・・恐らく帝具を二つも使った代償だろう・・・」

 

「アカメ・・・」

ウェイブの問いかけにアカメは頷く。

「・・・俺、ただ八房を刀として使ったはずなんだが、帝具として発動させてたのか・・・?」

 

ナタラがゆっくりとクロメの側に来る。

 

「あ・・・こいつがクロメの言っていた・・・」

 

「ナタラも・・・ありがとう・・・」

 

彼はふっと微笑んだ・・・だがその優しげな瞳は突如腐り初め、溶け、髪もやつれ抜け落ち、肉はドロドロとなり、地面へ落ちていき・・・骨となった・・・だがその骨もやがては粉末と成り果てた・・・

1分とも満たない出来事だっただけに、3人は呆気に取られた・・・

 

「え?・・・ナタラ・・・、ナタラ・・・・・・」

 

アカメは唇を噛み締め目を閉じた・・・『ナタラ・・・』

 

ウェイブは泣きじゃくるクロメの肩にそっと手を置いた。

 

 

「ナタラァ・・・・ごめんね・・・今までごめんね・・・うわぁああああ・・・」

 

八房はもう二度と帝具として力を発揮する事は無かった。

 

 

 

 

 

 



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馴れ合いを斬る

アカメは周りに警戒し、ドロテアが居ない事に気付いた。・・・奴を野放しには出来ない、そう考えたアカメはそこから離れようとした。

 

 

「待てアカメ!」

 

ウェイブの言葉にアカメは立ち止り

 

「・・・クロメを・・・妹を頼む・・・」

 

「大臣を・・・皇帝も殺しに行くのか?」

 

アカメは一瞬言葉に詰まるが

「大臣は長年の標的だ・・・皇帝は・・・」

 

 

「お姉ちゃん待って・・・ぐっ・・・駄目、行って・・・いや行かせない・・・ぐぐぐ・・・ああ、頭が・・・」

 

「クロメ!?」

 

アカメは心配そうに駆け寄るが、

 

「駄目、お姉ちゃん早く行って!!・・・でないとあたしの中の別の何かがお姉ちゃんを・・・止めたく・・・殺したく・・・」

 

「そいつはランが教えてくれた!!アカメお前ら暗殺部隊の先鋭になれなかった奴らは薬物投与の他に無理矢理帝国への洗脳処置をしてたってな・・・他にもそんな奴らがいるかもしれねぇ・・・ちっ」

 

「そうか・・・それで、それなら今までの事も納得がいく・・・」

 

「アカメ・・・、ここは俺に任せて早く行ってくれ!!」

 

「ああ・・・妹を頼む!!・・・だが良いのか・・・?ウェイブは帝国に反旗を翻すのか?」

 

「・・・俺の恩人は帝国の為になる事をしてくれと言った・・・けどよ、俺の女をここまでおかしくする政府に一泡吹かせてやりてぇ・・・あの人だってきっと判ってくれる」

 

「・・・・・!?」

クロメは彼の発言に驚いた・・・そしてウェイブは後で自身の発言に激しく恥ずかしい思いをする事になる。

 

「フッ・・・・」

アカメはその場から疾走した。

 

 

 

スズカが10指の爪から相手の首を抉り尽き刺し抜く・・・細い刃状の線を出す。

だがそれをかわし、或いは素手で弾き、迫りくる。

 

「おお!?やるぅ!」

 

改造人間がスズカを殴り飛ばす。

 

『ああ~ん・・・良い~・・・深爪の痛みも~』

吹き飛ばされながらスズカは感じている。

 

2体が共に追いつき一撃で沈めようと迫る。

 

「け~どぉ・・・ま~だ、だ~め~」

スズカは瞬時に1体の腕に捕まり関節技を極め折った後、もう1体の首を捻り絶命させる。

 

「はい、一丁上が・・・がっ・・・」

 

スズカの後ろから一刀を浴びせる別の数体。すぐさま飛びし去るスズカは

「今の一撃も中々良かったわ・・・ああ~ん、けど物足りない・・・駄目ね・・・全然駄目ね~・・・やっぱ彼に着いて良かったわ~・・・この任務終わらせたらどんな苦痛をくれるんだろうぉ・・・うふふ・・・」

 

スズカは俊足で残りの数体の間に突進する、前の2体が刀をスズカに当てる・・・が、避けて仲間に当たり、その隙に彼女は2体の首根っこを片手づつ掴み、地面に叩きつける。

「まだまだだねぇ・・・ふふふ」

 

だが、彼女が油断したその時、相手は自身の喉ごと刀でスズカの両の手を貫く。

 

「うう~・・・ん・・・あらぁやるじゃない・・・えっと、これって万事休すってやつ?」

 

生き残っている4体が息の根を止めようと肉迫する。

 

「あら~ふふふ・・・、華の命は短いってねぇ・・・あんたらじゃあ物足りないけど・・・ちょっとはマシな痛み頂戴よぉ・・・」

 

 

 

ドロテアは自身の研究所に戻るべく走っていた。

 

『おのれ・・・おのれ・・・妾の悲願が・・・、おのれぇえええええ、小便臭い小僧と小娘共が・・・だが、あの研究所の資材さえ持ち出して再び再起せてみせる・・・・む?』

 

 

 

「はぁああああああああああ!!!!!」

 

ナジェンダがラバックの帝具の糸を掴み彼が目標の位置目がけてぶん回し、多くの帝国兵士の頭や胴体を蹴り飛ばしていく。

 

 

ナジェンダが敵兵の間を走り抜けながら、頃合いを見計らってラバックが引っ張り、多くの兵の足を絡ませ、倒れさせこちらの優勢に変え味方を攻撃を捗らせる。

 

『よし、全盛期以上に動けている』

ナジェンダは自身の動きに満足し、

「ナジェンダさんが自ら闘っている!!我々も遅れを取るなぁあ!!」

彼女の奮戦は味方の兵の鼓舞にも繋がった。

 

 

其の時、黒い液体状の怪物が兵士達を襲う・・・

「・・・な、なんだこれ・・・ぎゃああああああ、ナ、ナジェ・・・」

飲みこまれた兵は溶けていき、吸収されていく・・・

ナジェンダは咄嗟に助けに行くが、助けた兵は手を残すのみとなり・・・

 

「あぶねぇ!!」

 

ラバックは咄嗟にナジェンダの手に糸を絡ませ、離脱させる。

ナジェンダは残った手を握り、

「くっ・・・あいつはワイルドハントのドロテア・・・」

 

ナジェンダとドロテアは対峙し

 

「ふん・・・、話ではお前、エスデスに片目、片腕をやられたそうじゃが・・・、ようも治ったな・・・誰のお陰じゃ?スタイリッシュか・・・くくく、奴と裏取引でもしたか・・・?おい、反乱軍共、このナジェンダは敵と内通し、元の体を取り戻したのじゃ」

 

兵達の間に動揺が走る・・・

 

 

「馬鹿野郎!!ナジェンダさんがそんな事、する訳ねぇだろおおお!!これは・・・タツミって奴がスタイリッシュを殺して奪ったパーフェクターで治しんたんだ!!」

 

「ラバ・・・おまえ・・・」

ナジェンダが嗜めようとしたが、ラバック自身も判りすぎる程判っていた・・・、タツミはイェーガーズに身を置く、だからその存在は伏せれるなら伏せておくべきだと、偽名も使えただろうが、説得力を持たせる意味でもつい、本名が出てしまった。

 

「なに!?タツミじゃと・・・、そうか・・・、まさか・・・今までの一連の・・・そうか・・・、判ったのじゃ・・・あのエスデスを連れ去ったのも・・・、ワイルドハントを壊滅に追い込んだのも・・・そうか・・・誰か背後におると思っとったのじゃ・・・あのタツミが裏で糸を引いておったか・・・あのウスノロの下っ端警官が・・・ふん・・・能ある鷹はなんとやらじゃな・・・」

だがドロテアはこれは使えると考え、

 

「よぉ聞け反乱軍兵士共!!・・・このナジェンダは、タツミを使いエスデスを手駒にした・・・だが、あのエスデスが本当に貴様らに寝返ると思うか?こやつらは反乱の後、主導権を我が物にする為画策し今の政府と変わらぬ圧政を敷き、自らが取って替わろうとしているだけじゃ!!」

 

平静で聞けば何を世迷言を言っている?となるが・・・戦闘の高揚や全員に知れ渡っている訳ではないタツミの情報や誤情報で混乱が起き始める。

 

ドロテアはその様子をニタリと眺める。

「むっ!?」

 

ナイフをかわし、ラバックを睨みつける。

 

「・・・・・・、俺の責任だよな・・・俺もタツミの事、そんな良い奴だと思ってねぇし、本当は何企んでるんだって疑っているけどよ・・・お前よりは1・5倍マシだって事くらいは判るぜ・・・」

 

「・・・・・・」

ナジェンダはこんな時だったので何も言わなかった。

 

「ナジェンダさん・・・、他の奴ら連れて先行って下さい・・・お前ら、こんな妄言に惑わされんな!!」

 

動揺が収まりつつあるが、それでも1,2割は不信感に囚われた。

「・・・皆、色々情報が流れていると思うが、今は私達を信じて欲しい・・・来たい者だけで良い、後に続いてくれ!!」

 

ナジェンダは走り出し、先頭のスサノオの元へと向かった。

 

その間でもドロテアの召喚した怪物が革命兵士を捕えていき、ラバックが応戦、助かった者もいれば・・・、やがて廻りも人数が減り、

 

「ふん・・・、一人残るとは・・・、お前が死ぬ前に聞いておくのじゃ・・・タツミとはどんな奴じゃ・・・?」

 

ラバックは面倒そうに返答する

「タツミ?・・・しらねぇよ・・・一つ判ってんのは、あの野郎、女なんか興味ねぇみたいな嘘スタイルを貫いているって所だ・・・気にいらねぇ奴だ」

 

「・・・お前はそんな奴とよう共に闘っておるのぅ・・・?」

 

「ああ!?一緒に闘った覚えなんてねぇよ・・・ただ、敵がたまたま同じだっただけだ・・・」

 

「ふん・・・悪ガキ共が・・・」

 

ドロテアの怪物が膨れ上がり、ラバックを覆うように迫る。

 

「あ、やべ!!」

ラバックは唖然とし

「ふふふははは・・・そのまま吸収されるのじゃ!!」

 

だが・・・その怪物はラバックの寸前で止まる・・・

 

「なっ!?・・・な!?馬鹿な?」

 

ドロテアは合点がいった・・・位置を少し変えると見えにくいが銀色に輝く袋状のものが怪物を覆い・・・「うぉおおおおお、りゃあああああああ!!!」

ラバックの気合い声と共に、彼は作用点になる糸を引き、そのままその怪物をドロテアに送り返す。

 

「『喋っている間にまさか・・・罠を・・・』な・・・くるなぁああああああ!!!」

 

ドロテアはその怪物に呑まれ絶叫をあげ溶けていく・・・其の正体が見えてくる。

 

「ふっ・・・、なんだ少女じゃなくてババアか・・・俺ってこんな役回りばっかだよな、本当・・・さてこんな奴にいつまでも構ってないでナジェンダさんの所に行くか」

 

ラバックは後ろを振り向いた・・・其の時、彼の両脚、両腕が貫かれる・・・

 

「うがっ・・・」

ラバックは倒れ後ろを見る。

貫いたのは先ほどの黒い液状の怪物が刃物となって攻撃したからだが、もうそこには存在しない。

居たのは所々、溶かされたドロテアが本性を現し近付いてきた。

 

「許さぬぞ・・・許さぬぞ・・・小僧・・・、妾をここまで虚仮にしたのは・・・お前が初めてじゃ・・・貴様・・・楽には死なせんぞ・・・」

 

「う・・・うわぁああああああ・・・やめろ、やめてくれええええ」

ラバックは五体を這いずらせながら、少しでも距離を取る。

「ふっ・・・さっきまでの威勢はどうした?・・・まぁとりあえず血を吸わせろ・・・安心しろ、まだ殺さぬぞ・・・、この後、両腕両脚引っこ抜き、両眼と歯を抉り抜き、樽に入れ、最後の一滴まで啜ってやるわ・・・」

 

「ひっ・・・ひぃいいいいいい・・・・やめて、やめてくれええええ、頼むうううう!!」

 

「・・・本当に何じゃお前・・・興醒めじゃ・・・」

ドロテアはラバックの肩に噛みつき、血を吸い始める・・・

 

「ふっ・・・」

 

ラバックはガクガク震え、

「く・・・暗い・・・周りが・・・」

 

 



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馴れ合いを斬る・弐

次話更新は一ケ月前後掛かるかもしれません。
今でも見て下さる方がいらっしゃって感謝です。



 

 

 

 

 

「・・・ん?なんじゃ・・・?」

 

ドロテアの体から糸が無数に飛び出してくる!

「ぐ・・・ななななな・・なんじゃ・・・こっれっは・・・ぎゃあああああああ」

 

 

ラバックは半身を起こす

「おおーいて・・・だから、止めろって言ったろ・・・?」

 

 

「きききき・・・貴様ぁああああああ」

 

ラバックは冷たく見据えている。

 

「なあなななななぜしゃああああ」

 

ラバックは自身の体に糸を張り巡らせ、ドロテアが吸っている間に口から気付かれないように送り込んでいた。それでも細い糸が口から出ていたが、ただ血か毛が垂れていると思っただけであった。

 

「ちょっ・・・ちょっ待つのしゃああ・・・妾を殺すなど人類の損失じゃぞ・・・そうじゃ、仲間になってやろ・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「妾はある研究をしておる、人間を不老不死は無理でも他人からエナジーを奪っていけばかなり長い年月生きていける!お前もそうなりたかろ、な?なんならハーレムも付けてやるぞ!!妾特製の媚薬で小娘共をお前のいいなりに!!」

 

「・・・・・・・・・あ~わりいな婆さん・・・タツミって野郎さ・・・場合によっちゃ人類、皆殺しにするとかなんか言ってたの聞いた事あるんだわ・・・損失言うんならあの世でタツミ殺してくれよ・・・」

 

「い・・・いやじゃああああ、死にたくない!!妾は知識を究めて美しく咲き続けていいたいのじゃああああ」

 

「・・・だーかーらー、さっき俺、殺すのやめてくれって言ったっしょ?」

 

ラバックは目を閉じふっと笑みを浮かべる。

 

「やめろおおおおお、人間の寿命は短いと思わぬか!!長く生きてみたいとー・・・」

 

ラバックは指を鳴らすと、

 

 

 

 

ブシュ、ズシャ・・・ズザザザザザザ・・・

 

 

 

ドロテアの体中から糸が針状に飛び出し、完全に息の根を止めた。

 

 

 

「あっ・・・痛っ・・・・、しばらくは戦闘は無理だな・・・はぁ油断した・・・、ああ、けどしまったぁ、媚薬だけ貰いや良かったなぁ・・・へへへ、おっと言い忘れてた・・・、あいつなぁ、2、300年なんて生きるもんじゃないぞ、心が折れるからなって、長生きしたい奴は世の中の事しらねぇ奴だっていつだったか言ってたぜ・・・あいついくつだよってな?・・・あーもう聞こえてないか・・・」

 

 

 

 

宮殿付近までスサノオは突き進み、ナジェンダも後方より来ている。

 

空から攻撃を仕掛けてくる無数の危険種に対し

「スサノオ、奥の手だ!!」

ナジェンダは叫び、スサノオは・・・『禍魂顕現』

 

胸の禍魂からマスターの生命力を吸い、その力を得る・・・

 

「ぐっ・・・『だが大丈夫だ・・・私はまだ闘える・・・』

 

飛躍的にスサノオの戦闘力は上がり、「ナジェンダ大丈夫か!?」

 

「私に構うな、危険種をやれ!!」

 

 

スサノオは手に巨大な長刀を発現させた『天叢雲剣』

襲い来る危険種達を一度に薙ぎ払う。

その衝撃も凄まじく、余波で宮殿の内部からの射撃手達にも被害を与え、

スサノオはそのまま堀を飛び越え、宮殿内に入り閉じていた橋を下ろし、ナジェンダ達兵士達を導く。

 

「入られたぞ!!」

 

「一歩もこれ以上進軍させるなぁ!!」

 

「誰だぁ、別門から攻めて来ていると言った奴はぁ!」

 

宮殿内の兵士達が怒号や誤情報で錯綜する・・・

 

 

「さ~て、あたしはそろそろ安全な所で高みの見物としますか・・・後は任せたよ、レオーネ・・・」

 

兵士の一人が喧騒から離れ姿を消す。

 

 

 

スズカは殺されると諦め、死の快感を今か今かと待っていた所・・・

周囲に無数の羽が舞う。

 

「あれ?・・・」

 

スズカを殺そうとした改造人間達も一瞬呆気に取られる。

 

ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザ・・・

 

羽舞う中、鋭利なモノで頸動脈を斬り裂かれた改造人間達・・・最後の1体の首に彼は羽が刃状に変化したものをあて、

 

「あら、ラン兄さん?」

 

そして最後の1体を斬り、スズカを見る。

 

「スズカさん・・・」

 

ランは彼女に刺さった刀を抜き、起き上がらせる。

 

「上手く夜のネズミ1匹、宮殿に引き入れてくれたようですね。」

 

「ええ~飴が好きなネズミだったけど・・・、このままじゃ帝国軍負けるんじゃない?良いの?」

 

「良いんです、あの大臣を始末したかったので革命軍の手で始末出来れば万々歳です」

 

「でも、貴方帝国軍でしょ?革命軍が勝ったら立場危うくならない?」

 

「だからタツミ君やナイトレイドにも恩を売ったんです」

 

タツミはチェルシーに宮殿内の兵士撹乱を依頼、スズカの手引きで彼女は宮殿内に侵入して・・・。

 

「さて・・・私も行くとしますかね・・・」

 

「ランさん?何処に?」

 

「スズカさんは怪我でも治してて下さい」

 

「うふふ・・・大丈夫よあたしは・・・この痛みもカ・イ・カ・ン!!」

 

「・・・・・・・・・・・・、さっきから両手から血が流れてますが?」

 

「大丈夫、これくらいの出血量なんて・・・うふふ・・・」

 

ランは頭痛を覚えながら「スズカさんがこれ以上現場にいると私のSAN値が下がるので避難していて下さい」

 

「え~~~~~~」

 

レオーネはチェルシーの誘導で守りが薄くなった箇所を攻め、皇帝、大臣の居る場所目掛け突き進む。

 

皇帝達が居ると思しき付近ではやはり、ブドーの近衛兵が固めていた。

 

「馬鹿な!?賊軍がここまで!?」

 

「他の兵共は何をしている!?」

 

レオーネは不敵な笑みを浮かべながら両拳を合わせ音を鳴らす、帝具ライオネルで既に変身している状態である。

 

「あんたら、そこ退け無いと死んで貰うぜ!!」

 

 

「笑止、殺す前に聞いてやる、名乗れ!!」

 

 

「あたしは・・・、帝都のドブさらい、闇のナイトレイド、レオーネだあ!!」

 

近衛兵はそれぞれ得物を握りしめ、中には投擲する者も居る。

 

数本の手裏剣がレオーネの体に刺さるが

「・・・お返しだぁ!!」

 

自身に刺さった手裏剣を抜き、投げ返す。

近衛兵達はレオーネには大した有効打にもならずに回復した事にも驚いていた。

 

彼らも鎧で覆われている為ダメージとはならないが、隙を作るには十分だった。

 

疾走からの飛び膝蹴りで一人を倒れさせ、他の者が上段から刃を降ろすのを両足白刃取りで捩じり、その相手を倒れさせその首を掴み盾にする。

 

「・・・っ・・・」

 

「さぁさぁ、近づいたらお仲間の首の骨折るよ!」

 

仲間の近衛兵達も一瞬躊躇するが、レオーネに囚われた兵は目で自分事やれと促す。

一人がそのまま刺突を行う。レオーネは捕らえた兵ごと倒れ、その相手を巴投げの要領で壁へ叩きつける。

 

『仲間ごと敵を殺そうとはねぇ~』

 

レオーネは捕らえた兵の胸部を鎧ごと踏み抜き、気絶させる。

 

再び、残った兵達に取り囲まれ、じりじりと間合いを詰めてくる。

 

「おっさんら・・・手加減してたらこっちが殺られるから・・・死んでも恨むなよ!!」

 

其の時・・・

 

天井が壊され、危険種に乗ったマインが突っ込んでくる。その危険種はマインを旋回して降ろすと、

「え?ちょっとぉおおおお」

そのまま空いた穴から飛び去って行った・・・。

 

「あのすっとこどっこい!!もっと優しく降ろせないの・・・あーいてててて・・・」

 

「マイン!?」

 

「レオーネ!!・・・ふふふ、主人公は遅れて登場する者なのよ!!」

 

「タツミはどうした?」

 

「あいつは・・・「マイン、この闘いが終わったら結婚しよう」だって・・・あいつ好みじゃないけど、どうーしてもってせがむから・・・モてる女はつらいわねぇ・・・」

 

「は・・・・?」

 

近衛兵の1人が無言でレオーネの後ろから攻撃するのを、それを彼女は背負い投げでマイン向かって投げ飛ばし、マインはパンプキンで撃つ。

 

「ぐわああああああ!!」

戦闘不能となるが、息はある・・・

 

「マイン・・・流石に今のは酷くない?」

 

「あんたが味方に向かって攻撃してくるからでしょうが!!」

 

「え?あたしが?ごめーぬ、手元が狂っちゃって・・・」

 

ビキッ!

マインは青筋を立てながら

「・・・良いわ・・・あんたタツミに対して気はないよ~みたいなフリしてちょっかり横からかっさらいそうな気がするから・・・決着つけてあげる!」

 

「やだなぁ~、ネコ科は淡白だから本妻狙いじゃないからいいじゃん~」

 

 

近衛兵達は二人の隙を窺いながら内心呆れていた。

 

「はいはい、ナイトレイドの皆さんも仲が良いんですねぇ・・・」

 

ランがいつの間にか歩いてくる。

 

「将軍?」

 

「・・・貴方がたはここは退いて下さい・・・、皇帝陛下は私が守りますので、別の東方面でナジェンダ達別働隊が大勢で大臣に奇襲を掛けています、そちらに向かって下さい」

 

「・・・・・・・」

近衛兵達は新参者とはいえ上司であるランの言葉に内心渋々従い、一人が皇帝の居る間へ状況を報告に向かった後、別の者たちは負傷した者を背負いながら離れて行った。

その間もランは手を出さないものの二人を無言で牽制していた。

 

「・・・マインさん、久しぶりですね・・・」

 

「あんた・・・そこ退いて頂戴・・・」

 

「こいつがラン・・・?」

 

「レオーネさんでしたか・・・いやぁ~ネコ耳ですか・・・良いものですねぇ~」

ランは笑顔で答えるが目は笑っていない。

 

「貴女がたの標的は大臣でしょう?大臣なら・・・ナジェンダ達が向かっている別の部屋ですよ、そちらに向かわれたらどうです?」

 

「・・・皇帝も場合によっては始末すべしと北の異民族から依頼されているのよ」

 

「ほぉ~成程・・・、確かにエスデスが大勢を生き埋めにしたあの件ですか・・・、成程確かに、其の親玉の皇帝が恨まれても仕方ありませんね・・・」

 

「じゃあ判ったらお兄さん?そこ退いてくれないか?」

レオーネが唸り殺気をぶつける。

 

「・・・残念ですがあの操り人形はまだまだ利用価値があるんです、貴方がた革命軍にとってもあると思いますよ、だから殺させる訳にいきません、大臣暗殺ならどうぞ遠慮なく・・・」

 

「『操り人形って・・・』・・・だからって、はいそうですかと依頼主が納得すると思う?」

 

「ここは一つ政治的取引というやつでして見逃してもらえませんか?」

 

「・・・兄さん?あたしゃそんな小難しい話は苦手なんだ・・・遠慮なくいかせて貰うよ!!」

 

レオーネは拳を繰り出し寸でかわすラン、そこから追撃で裏拳をお見舞いするも彼は両手で乗っかり、その力を利用して後方へ大きく飛ぶ。

 

『・・・まるで利いてない!!』

レオーネは驚きマインも戦闘態勢に入る。

 

「はぁ~、ですから貴方がたナイトレイドとは話が合わない気もしてたんです・・・」

 

ランは指を鳴らすと同時に「やばい!!レオーネ、あんた自分の身だけ守りなさい!!」

「!?」

 

ランはその場に全体に仕掛けておいた鋼鉄鋭利な羽をマイン、レオーネに向けて一斉に放つ。

 

 

 

 

「はぁああああああああ!!!」

マインはパンプキンの火を噴かせそのまま薙ぎ払い、その空間中に向けて360度に撃ちまくる。

 

レオーネも防御に徹し、銃撃を避ける。その間に無数の羽は撃ち落とされていく。

 

ランも銃撃を受けるが羽の幾重もの盾で防ぎきる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

マインは肩で息をし、終えてみると辺りは土埃で舞い、所々破壊されている。

 

「やるぅ、マイン!!」

 

ランも「・・・・・・、まさかあの時に見せた技をもう対策取られるとは・・・いやぁお見事です」拍手で称える。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・、タツミからあんたは敵に回るかもしれないから気を付けろって聞いているのよ・・・呑気にしてられるのは今のうちよ・・・」

 

「ああ・・・タツミ君に・・・はっはっは、抜け目無いですね。これは参りました、つくづく彼を敵に回したくないですね、ははは」

ランは肩をすくめ苦笑いする。

 

「・・・退かないならあんたはここで始末するわ」

 

「ああ・・・タツミを待つまでも無いな!」

マインとレオーネも闘志を燃やし攻撃の隙を窺う。

 

「タツミ君を待つ・・・?さぁ彼の目的は帝具の回収ですから・・・それが叶うならば何も貴女方を助けに来ないのではないですか?」

 

「どういう事だ!?」

 

「・・・生きている人間から回収するよりも死体から回収した方が楽だと言う事です・・・タツミ君も貴女がたみたいなおバカな人達と組んでて大変ですねぇ~」

 

「てめぇ!!」

 

だがレオーネもマインも思い当たる点がある為、心の片隅でちりっと不安を覚えた。それを悟っているランは内心ほくそ笑んだ。

 

『さて・・・この二人を殺してもこのどさくさ、タツミにはなんとでも言い繕える・・・さて、タツミを始末するのは骨が折れそうですが、ブドーと相討ちになってくれればいいですが・・・そこまでは楽観し過ぎか・・・』

 

 

近衛兵の1人が皇帝カライに

 

「陛下、もうこの城は賊共の手で・・・誠に遺憾ながら・・・お逃げ下さい!」

 

 

『・・・ブドーも・・・大臣も・・・いない・・・余はどうすればいいのだ・・・』

先刻のやり取りを思い出している。

『「陛下、私は準備があります故、ここで一旦お別れです」

「大臣、何故余から離れる!もうこの城まで賊が来たと・・・」

「ご安心ください、私には奥の手があります・・・その為です・・・それに陛下には至高の帝具があるではないですか?ご安心を、西の錬金術師ドロテアが性能を向上させています。いざとなれば陛下自身の手で賊軍に鉄槌を!!」』

 

 

 

「・・・大臣はどうしておる?」

 

「は!・・・恐らくは賊共と交戦中かと・・・」

 

「判った・・・」

カライは決意をし、その場から離れた。

 

 

 

アカメは敵の刀を奪って、スサノオ達の後を追っていた。

 

 

 

 

スサノオとナジェンダ達は遂に大臣・オネストの居る間に辿り着く。

 

オネストの近衛兵や改造人間達と辿り着いた革命兵と激突し交戦している。

 

「おやおや、よくここまで辿り着きましたね・・・」

 

ナジェンダは対峙しスサノオは迫る敵兵を牽制する。

 

「オネスト・・・」

 

「我々を裏切った、ナジェンダ将軍・・・、結局は自分達が政権に付きたいが為の反逆・・・私と同じ穴のむじなですな・・・やれやれ」

 

「貴様と一緒にするな・・・絶対に良い国を作って見せる!!」

 

「・・・簡単に言いますが・・・果たして、私一人が悪いのでしょうか?私を倒しても、私のような者を望んだのは民・・・国民ですから・・・私を倒すという事は、国民も・・・それに、私を倒せても、仮に貴女が政権を握ってもまた貴女を倒そうとする者が出てくるはずですよ・・・」

 

「デタラメを言うな!!それにいつ民がお前を選んだ!?」

 

「おや?元々我が国は投票制度があったのはご存じで無い?・・・若い貴女なら知らないでしょうな・・・過去を知らない貴女が政権を握っても長続きしなさそうですなぁ・・・」

 

スサノオは攻撃を仕掛ける。

 

「ナジェンダこれ以上惑わされるな!!」

 

オネストはひょいとかわし、「暴力に頼るとは野蛮ですなぁ・・・くっくっく」

 

ナジェンダは飛び上がり、回し蹴りをオネストに喰らわす。

 

ガシン!!

相手の首をそのまま捩じり切る、必殺の一撃だが・・・、オネストは片手で受け止めそのままナジェンダを地面に叩きつける。

 

オネストはスサノオに目を向け、彼は天叢雲剣でオネストを一刀両断に真っ二つにする。その衝撃波が空間を揺るがす。

 

「やったか!!」

ナジェンダは勝利を確信し、スサノオもふっと笑みを浮かべる。

 

だが・・・、真っ二つになったオネストは動き出し、そのままくっついてしまう。

 

「はぁ~・・・危なく死ぬかと思いましたよ・・・」

 

ナジェンダは驚愕し、「な・・・、な・・・オネスト・・・お前は人間か・・・?」

 

「失敬な・・・さぁ何をしているのです?さっさと賊軍を捻り潰しなさい!!」

 

オネストの兵達も驚くも鼓舞し、革命兵士達も劣勢になっていく。

 

「くっ・・・『不味い・・・スサノオの奥の手を持続するのもきつい・・・』」

 

 

 

 




ある日のタツミとエスデス。

「なぁエスデス、あんたは女子力低いよな?」
「なんだタツミ?ジョシリョクとは?」
「読んで字の如く女らしさの高さの事だ」
「私の女らしさが低い・・・だと?」
「だってお前、闘いが好きだとか拷問好きだとか言っている時点で女子力たったの5、ゴミめ…だろ、寧ろ男子力の方が高めだろ」
「・・・タツミは私の真の力を理解していないようだな?ふふふ、私の女子力とやらの真の数値を思い知るが良いぞ、タツミ!」
「例えば?」

「例えば、タツミの顔を私の胸でうずめさせただろ?///それに私が何故このように胸を強調する服にしているのか気付かないのかぁ?夫!!更に私のこの闘いで鍛えた無駄な贅肉の無い、脚の滑らかさ細さを強調させる白ブーツに膝上スカートで幾らか見える私の生足を見ろ!!」

「・・・本来お前くらい脚力あったらもっと筋肉付いて太いはずなんだがな」
「タツミそれは言わない約束だ!!」
「・・・いやそれよりも、お前そんな事考えて服を着こなしてたのか?」
「ふふふ、やっと私の女子力の高さに気付いたか、因みにこの軍帽も将軍クラスともなればせずとも良いのだが、男は軍服好きな者もおるからな、私専用のものを作らせた、そういう男心をくすぐる為にも用いていたぞ♪」
「・・・あざとい・・・そこまで考えてたのか、本当に!?」
「フッ、普段そういうのは言葉にも出さぬがな、普通に考えてみろ夫よ、このように胸の谷間を惜しげもなく見せているのが、ただ蒸すからだからな!・・・な訳がないだろうが!」
「・・・・・・・」
「私もこれでも女のはしくれだぞ♪・・・意識して無いようでいて実はしっかり計算しているのだ、男ばかりの軍隊だ、兵達を束ねるのに普段は勇猛な所を見せつつも女としての武器をさり気無く忍ばせる・・・それが私が身に付けた兵達の束ね方の一つ、これは今まで誰にも言わなかった事だぞ、タツミ」
「た・・・大したものだな」
「ふふふ・・・能ある鷹は、だろタツミ?」
「お前も女だったんだな・・・見直した」
「さぁ夫/// もっと褒めても良いんだぞ?///」
「・・・女狐」
「!?」


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明日の自分を創る為に疾る

標的目指して疾るアカメ・・・だが影に隠れた強大な殺気を察知して、瞬時に抜刀しその者への喉元へ突きつける。

 

「・・・・・・・・」

だがアカメの首にも得物が巻きつく・・・互いに膠着し動かないが、

 

「・・・!?・・・何だアカメちゃんか・・・脅かすなよ・・・」

そう言ってラバックは帝具の糸からアカメを解放する。

 

「ラバックこそ・・・流石だな・・・」

アカメも剣を降ろして安堵し微笑みかける。

 

「あ?俺がアカメちゃんに叶う訳無いだろ?・・・それよりも殺気剥き出しでどうしたよ、なんかあったか・・・ああ、村雨じゃなく剣か・・・」

平常時のアカメなら殺気も隠したであろうが、今は隠す気も無い…それはラバックも同じであった。

 

「・・・・・・、ああ、村雨は役目を果たしてくれた・・・」

 

「そうか・・・『村雨無しで何処までやれるか・・・まぁ良いか俺がなんとかすりゃ』・・・それで一体何があった?」

 

「そうだ!?確かドロテア・・・奴を葬らなければならない!あの女何処に行ったかラバ判るか?」

 

「ああ、あいつか・・・なぁにそう急がなくたっていずれ嫌でも“また”会うだろうさ・・・へっへへ」

 

アカメはラバックの怪我の具合で難敵と闘った事を察し、それが誰であったか得心した。

 

「流石ラバックだな・・・」

 

「いやぁ俺婆さん萌えじゃねぇんだけどな・・・婆さん萌えはタツミの奴で・・・参ったな、アカメちゃん俺に惚れた?いやでも俺にはナジェンダさんが・・・いやでもアカメちゃんがそこまで言うなら一晩だけなら・・・って居ねぇ!!」

 

アカメは既に走り去っていた・・・

 

 

 

 

帝都の街では

民衆が逃げ惑い、帝国軍兵士が劣勢で逃げていく・・・だがそんな時に少しでも金目の物やこのどさくさで子供を狙い売り飛ばそうと連れて行こうとする者がいる。

「キャーーーーー・・・や、止めて下さい・・・、だ、だれかー!」

 

「静かにしやがれ!もうこうなりゃ破れかぶれだ!奪える物奪って何が悪い!!」

そう言ってその兵士は母親を蹴り飛ばし、金品を懐に少女を抱えて逃走を図る。

 

「おかぁさーん、たすけてー!」

 

 

其の時、

 

ぬっと巨体が立ちはだかり「・・・逃げるのは別に良いです・・・ただその女の子は置いて上げて下さい・・・」

 

「な!?・・・どきやがれてめぇ!!」

 

後ろからも数人の帝国兵士が迫り、「・・・聞いてくれませんか・・・仕方がない・・・」

 

その男は相手の腕を捻りあげ少女を助けて片手に持ち、もう片方の手で兵士を掴んでぶん回し、その仲間達に投げつける。

 

少女は彼を見上げ「おじさん・・・ありがとう・・・」

 

「・・・いいやお嬢ちゃん、もう手遅れなんだよ・・・」

『・・・初任務の時だって疑問に感じ無かった訳じゃなかった・・・でもこれは仕事だと自分に言い聞かせて、他の人が出来ない事をしたんだと・・・それで多くを焼却して来た・・・もっと早くに気が付いていれば・・・こんな汚れた手には・・・もう手遅れだって事は十分に判っている・・・けど私は・・・』

 

少女には彼が一体何を云っているか判らなかった・・・だが一つ判っている事は再びその兵士達が襲ってきているという事だった

 

「おじさん危ない!?」

 

彼は後ろから攻撃してくる数人を見ずに木棒を力任せに投げつけた。

 

 

「コロ!!頭突き!!」

 

セリューが巨大化したコロに命令し、コロは飛び上がって回転しながらその兵士達に追撃し蹴散らす。

 

 

「やぁ・・・有難う、助かったよ・・・ってセリューちゃん!?」

 

「ボルスさん!?」

 

二人はしばし驚いたが・・・

「ボルスさん・・・やっぱりあの帝具脱いでた方が良いですよ♪奥さん面食いなんじゃないですか?」セリューはウィンクを飛ばし「・・・ですけど、イェーガーズに・・・ああ、そういえば死んだ事にされたんでしたよね・・・なのに何故ここに?」

 

軽口を叩くようになったセリューにボルスも驚いたが、今はそれを気にしている場合では無い。

「タツミ君に聞いたのかい?・・・私もこの国が変わる様を見届けたくて来たんだけど・・・その他にもやり残した事があってね」

 

「やり残した事・・・ですか?」

 

「うん・・・罪滅ぼしなんて出来ない・・・判っている・・・それでも、少しでも自己満足と判っていても・・・やらなきゃ明日も私の妻や・・・娘にも胸を張って合わす顔が無い・・・とんだお笑い草だよね・・・今まで多くの人を焼却して来た中には私の娘と同じくらいの子や奥さんもいたんだろうと・・・一片に燃やしてたから気付かなかった・・・折角、チャンスをくれたタツミ君への借りを返す意味でも!!」

ボルスの顔には迷いが吹っきれ、決意を燃やしていた。

 

セリューはボルスを暖かい微笑みで見たが直ぐに悲しみのそれに変わった

「ボルスさん・・・あたしも同じです・・・あたしも自分の正義で何人もの人を・・・・・・・・、ボルスさん、あたしも一緒にその自己満足に付き合います!」

 

「セリューちゃん・・・」

 

「あたしも今自分がやっている事が・・・正しいか判りませんが・・・ただ常に正しいとは何だろう?と追い求めていたらいつか辿り着くんじゃないかって思います・・・」

 

「・・・強くなったねセリューちゃん・・・ははは、私じゃ叶わないよ・・・」

 

「ふふふ・・・、何言ってるんですか?・・・さぁ行きましょう。この戦乱のどさくさにまた何か良からぬ事をする人達がいるかもしれません!!」

 

 

ボルスは少女に怪我が無いか確認した後、彼女はセリューの仲間の元警備兵に誘導され親と共に逃れて行く。

 

「帝国軍・・・反乱軍、どっちが勝つんでしょうね、ボルスさん・・・」

 

「どっちが勝っても・・・戦争はもうこれきりにしたいね・・・弱い人があんな風に被害が出るんだから・・・、それでも虐げられたら闘わざるを得ない・・・そんな酷い国にはもう成ってほしく無いね・・・」

 

「はい・・・」

 

「ところでエスデス隊長は?あの人が闘ってたら厄介だなぁ・・・叶う気がしないよ・・・それにあの人、弱者は虐げられて当然と言いそうだし・・・」

 

「あ~・・・エスデスさんですか?それならこないだ処刑されそうに・・・」

 

「え!?」

 

「それをタツミ君とあたしで助けて・・・なのであの人はこの場に居ないですよ」

 

「はぁ~・・・あの隊長が・・・私が知らない間に帝都でそんな事が・・・」

 

「さぁボルスさん!」

 

「ああ、ごめんね。話長くなっちゃて・・・セリューちゃん後で私が知らない事教えて!・・・けど隊長が敵に回らなくて良かったよ・・・」

 

「ふふ・・・そうですね」

二人と一匹は戦火の渦に駆けだして行った。

 

 

 

 

宮殿秘密通路

 

 

ガス灯が所々に散りばめられたその通路に・・・コツコツコツ・・・重い足音を響かせながらオネストは悠然とその通路を歩いていた。

 

『くくく・・・愚か者共め・・・せいぜい足掻いていろ・・・この私さえ生きていれば国など再び・・・くくく』

 

その先に・・・

 

「むっ・・・誰だ!?」

 

うっすらと正体が見え始め、

 

「こ・・・これはエスデス将軍・・・一体なんの御用で・・・?」

 

エスデスは怒りとも嘲笑とも自嘲ともつかない笑みを浮かべ、

 

「オネスト・・・貴様・・・ここで会ったが100年目だな・・・お前にはたっぷり礼をしたいからな・・・私が使っていた拷問室はまだ残っているだろう?・・・そこでゆっくり語ろうではないか」

 

「・・・ぐふふ・・・折角の御招待ですが、この後、国を建て直すという大仕事が残っているのでまた次の機会と言う事で・・・では失礼を」

 

オネストは逃げ出すが、エスデスのサーベルが飛んでくる

 

「ひっ!?」

 

寸でかわすが、怖気付き土下座するオネスト。

 

「エ・・・エスデス将軍・・・申し訳ない・・・あ、あの時は魔が差した・・・どうか許してくれ・・・この通りだ・・・あ、貴女と私が組めば今まで通り、民を蹂躙し続ける事が・・・」

 

「はぁ・・・やはり貴様はその程度か・・・死ね・・・」

 

エスデスの凶悪な必殺の蹴りがオネストの首を狩りに行く。

 

 

 

 

 

「ッ痛・・・!」

 

エスデスは素早く飛びし去った。

その足からは鮮血が流れた。

 

「おやおや・・・失敗しましたねぇ・・・脚一本頂こうと思ったのですが・・・いや流石はエスデス将軍・・・一筋縄ではいきませんか・・・」

 

オネストの左腕にはナイフが仕込まれていた。

 

「この私を欺くとはな・・・どうやら、貴様の事をみくびっていたようだな・・・『ふっ・・・私も慢心していたか・・・』」

エスデスは薄く自嘲した。

 

 

 

 

「あ~・・・、あのシュラに闘いの基本を教えたのも私ですから・・・最低限の戦闘くらいは私だって出来ますよ・・・、ふぅ・・・本当は今の一撃で決めたかったのですが・・・やっぱり無駄でしたか・・・、・・・エスデス、貴女に最後に聞きたいのですがね、何故貴女のような生粋の狩人が、善悪など眼中になくただただ弱い者を蹂躙するのを好んだが貴女が・・・一体どういう風の吹き回しで・・・?」

 

「・・・私は何も変わっていない・・・ただ、より強い男に負かされその強者に従っているだけだ・・・何も変わっていないだろ?」

 

「ほぉ~お、貴女を負かす程の強い男が?・・・成程、それで弱者は弱者らしく強者に従って、弱者を虐げるのは止めろとでも命令されたのですか?・・・いやいや御立派な強者ですな?」

 

「・・・何が言いたい?」

 

「どうです、エスデス?・・・そいつを倒しませんか?私にも研究している帝具がありましてね・・・、それに強化手術も可能です。再び私と貴女が手を組めば、きっとそいつを倒す事も可能でしょう・・・エスデス、お前は本当にそれで良いのですか?自身の本性から目を逸らし、弱者を守る等と言う偽りの強者に従い自分らしさを損なう・・・エスデスらしくはない・・・どうですか?」

 

「・・・ふふふ、くくく・・・ああははははは・・・」

エスデスは声を高らかに気持ちよさそうに笑う・・・

 

 

「ぐふふふふふ・・・、あははははは、さぁ共に・・・」

 

エスデスは自身の上着をオネストに投げ、視界を遮った後に先端が特注鉄製の鞘で刺突する。

 

「ちぃ!!」

オネストは右手に隠したナイフで弾き、後退する。

 

 

 

「エスデス!?そこまで心も弱者に・・・弱い者に成り下がってしまったか?・・・おお、なんと嘆かわしい・・・」

 

「弱者か強者かはその者の得意分野でも変わる・・・私を負かした夫とて全ての面で私を凌駕している訳では無い・・・・・だから今は戦士として戦うぞ・・・帝国の将軍としてではなく・・・『パルタス族での皆との連帯が確かに今の私を形成する一つにもなったな・・・だから部下達にも知らず知らず目を掛けていたのはその為か・・・?』

 

エスデスは一瞬の間だけ目を閉じ、父親やかつて共に居た部族の事を思い出した後軍帽に手をやり、

 「…ただ、一人の戦士…エスデスとしてなっ!!」

 

被っていた軍帽を脱ぎ捨て、今日の帝国の惨状を招いた元凶とかつての元凶の闘いの火蓋が斬られた。

 

 



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瞞し(まやかし)

前話から1カ月空いてしまいましたが(苦笑)、帝都動乱決着まで1週間単位で更新予定ですのでお付き合い頂けましたら幸いです


斬ッッン!!!

タツミの首が皮一枚となり・・・やがて、ゆっくりと落ちる・・・

 

ブドーは苦い顔をし、再び・・・次は胴を薙ぎ払いに掛かる・・・タツミの体が胴ごと真っ二つになる・・・それでもブドーは得心出来なかった・・・。

 

 

 

宮殿内部ではレオーネ・マイン二人とランの攻防は続いていた。

 

ズン・・・!

 

ランはレオーネの拳をすれすれでかわしながら左手で腕を掴み、空いた右手で腹に手を当て脚に掛かる圧力も全て一点に…掌に集中させ圧を掛け彼女を上へ持ち上げ、そのまま天井に飛ばす。

 

「うっ・・・ぐっ!!」

 

「おっと、これは失礼・・・」

 

マインがすかさずパンプキンの衝撃弾を放つ・・・が、レオーネは直ぐ様体勢を立て直して反転し天井を蹴ってランに襲いかかる。

 

ドゥワン!!

「きゃーー!」

 

マインはパンプキンが暴発した為、後ろに吹っ飛ぶ。その為ランへの狙いが逸れ、レオーネの攻撃をかわして彼は彼女を地面に足で踏みつける。

 

「お怪我はありませんか?」

 

ランは執事がするような片手を胸に礼をする。

 

マインが立ちあがり、

「あ・・・いったった・・・あんたなんて事してくれんのよ!」

 

パンプキンの所々にランが羽を忍ばせた為、それが原因となった。

 

レオーネも怒りに震え、

「うぉうおおおお、人をおちょくりやがって・・・お前性格悪いな・・・あたしも本気であったまきた・・・こうなりゃ本気だぁああ!!」

 

「おや?今まで本気じゃ無かったんですか?これは有難い・・・、ではこのまま本気出さずにやられて貰えませんか?あはははは」

 

楽しそうに笑うのと好対照に二人は怒る。だがランはそろそろ決着をつけようと目が僅かに険しくなる。

 

だがその時・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「破ァァアアアアアア!!!」

 

ナジェンダは勢いよく疾走し、

 

『ふっ・・・、馬鹿の一つ覚えが・・・』

オネストは身構えるが・・・だが更にそこから加速し空中で一転し全体重を右足底に集中させる・・・。

 

「ちっ、疾い!!」

 

オネストは右掌で受け止め・・・『終ったぁああ!!!』内心舌打ちしたがもう遅い、右腕の骨は外れ・・・体から剥き出しになる。「小癪なァ小娘がぁああ!!」

右腕が使え無かろうが…「ぬっ!?」「スサノオやれぇ!!」オネストは判断が一瞬遅れ、ナジェンダは背後から羽交締めにした。

「愚かですねぇ・・・私は腕が使えなくなろうが、再び再生も出来る。先ほど真っ二つにしても、平気だったでしょう、学習能力が無い・・・ふぅやれやれ・・・」

 

「・・・スサノオ、こいつは帝具人間かもしれん、ならば核があるはずだ、一かバチか心臓・・・の逆位置を狙え!!」

 

「・・・っ・・・、『お、おのれぇえええ』・・・ナジェンダ、貴女も巻き添えになる・・・よ、止すんです!!」

そう言いながらも必死に左手や体を振ってナジェンダが振りほどこうとするが…

 

「やれぇスサノオ!!」

ナジェンダは悠長に軽口を叩く気も無かった。

 

スサノオはオネストの心臓の逆位置を狙い、天叢雲剣を振り下ろす。

オネストは苦悶の表情を浮かべながら右にある弱点を斬られる・・・「っ・・・」

ナジェンダも暴れるオネストを抑えるのにぶれた為、斬られる。

 

「こ・・・これで勝ったと・・・思わな・・・」

オネストは煙を上げながら、崩れていき、後には土と右半分が切れた人型の紙が残された。

 

「大丈夫か、ナジェンダ!」

 

彼女の右腕が切れて、動かなくなっている。

 

「だ・・・大丈夫だ。だがこれで、元凶のオネストを・・・や・・・やっと倒せた・・・ふふふ・・・くくく・・・あはは・・・やった、やったぞ、スサノオ!」

 

「ああ・・・」

力強い笑みを浮かべるスサノオはマスターである彼女にこれ以上負担を掛けないよう既に強化を解いている。

 

 

「おお!!遂にあのオネストを・・・!!!」

 

「このまま一気に追い込むぞ!!」

同じ場で闘っていた他の革命軍兵士が勢いづき、帝国軍兵士を蹴散らしていく。

 

 

「後は、アカメ達に任せた・・・他の部下共を片づけてくれているかだ・・・」

 

スサノオはナジェンダの右腕に応急処置を施した。

 

「むっ・・・ナジェンダ、何か音が聞こえないか・・・?」

 

 

 



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朽ち果てるように燃ゆる月・・・

 

 

 

 

 

 

 

「貧乏人共が・・・無知な者は黙って搾取されておればいいものを、図に乗りおって・・・」

太ったその男は金銀等の価値あるものを詰めれるだけ懐やバッグに入れ逃走しようと準備を行う。

 

「いひひ・・・、この辺が潮時だ、我々もここから出て新たな新天地で再び妊婦の・・・あの悲鳴は耳の御馳走だ・・・まだまだこんな所で死ねんわい・・・ひひひ」

痩せた老人は不気味に笑い、彼に倣って逃走資金をかき集める。

 

 

 

ヒュッ!!

 

二つの鋼の糸が二人の首に巻きつく。

 

ラバックは帝具の糸で痩せた老人と太った男二人一編に三つ程支点を作って吊り上げる。

 

アカメに依頼された標的を二人分請負っていた。

 

 

 

 

 

「がはっ・・・ぐるじ・・・、助け・・・」

 

「な・・・何が・・・のぞ・・・ちい・・・かね・・・」

 

 

ラバックは敢えて直ぐに死なない重量に調節し吊り上げていた。

 

「・・・じゃあさ・・・、右のあんたは・・・妊婦の腹割て楽しんでたって話じゃねぇか・・・俺も一片腹割くのみてぇからさ・・・あんた自分でやってくれないか?左のあんたは・・・、重税で首がまわねぇで文字通り死んでった奴らが大勢いっから・・・そうだな・・・美味しい思いはたっぷりしてきただろうが、こういう事はしてねぇだろ?便所を口で汚れ全部取ってくれたら良いかな?」

笑いながら語る。

 

 

 

「・・・!?」

 

ラバックは直ぐ様、飛びし去ってバク転を繰り返しながら、飛んできたナイフを連続でかわしながら一気にその二人を吊り上げ絶命させる。

『うっ・・・くっ・・・あの婆に付けられた傷が・・・』

 

 

「げへぇ・・・」

 

「ぐはあああ・・・」

 

二人は顔から舌や目玉が飛び出し、失禁も起こしていた・・・

 

 

「あ~ああ・・・あんまり、こういうやり方俺の好みじゃないんだよな・・・、みっともない・・・けどまぁエスデスの拷問死よりはまだ楽な死に方だと思うぜ・・・おっさんら幸せだったな・・・もうちょっと苦しませったかんたのにな・・・ちっ」

ラバックは溜息まじりに軽口を叩いていると、ナイフを投げた一見気さくの良さそうな若い男が姿を現す。

 

「よくこの場所を知ってたな・・・宮殿の秘密経路なんて一部の奴らしか知らないのにな・・・」

 

「おっさん・・・邪魔した事高くつくぜ?」

 

「俺がおっさん?俺はこう見えてもまだ・・・まぁ良ぃやガキよりは年上だしな」

 

「あ?俺はガキじゃねぇ、イケテルお兄さんだ・・・って野郎に言ってもしょうがねぇ・・・で、あんたなんでこんな所にいんだ?武官がこんな所で油売ってて良いのか?」

 

「ああ?他の奴らみてぇに何も命張って闘う事なんかねぇって、ブドーやエスデス・・ああ、あの将軍は裏切ったんだったな・・・エスデスみてぇな闘い以外無能な奴や、ブドーみたいな仙人のような野郎は周りに疎くて助かるぜ・・・はははは!」

 

「つまり、おっさんみたいに軍需物資を横流しして私腹肥やせるもんな・・・そりゃ間抜けな上司の方が助かるよなぁ・・・」

ラバックは不敵な笑みで相手を見据える。

 

「まぁそういうこった・・・どうだ、俺を見逃してくれたら・・・隠し財産の1部は恵んでやるぜ・・・どうだ悪い取引じゃないだろ?」

 

「そうだな・・・だが俺は現金主義なんだ、手持ちの有り金全部で良いや・・・」

 

「・・・・・・」

 

その武官は財布は懐から取り出し、それを床に置き遠ざかる

 

「これで良いだろ?・・・それ相応に入ってるからな、まぁ数日は豪遊出来るぜ、じゃあな・・・」

背を見せ去っていく・・・

 

「・・・・・・・」

 

ラバックはそれを取ろうと近付き、ゆっくりと手を伸ばす。

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュ!!

次の瞬間、ラバックは右掌にナイフが貫かれ、

 

その武官・・・コウケイの喉元をラバックから放たれた帝具の糸を細い槍状に飛ばしたもので貫いている。

 

「ぐっ・・・馬鹿が・・・」

 

ラバックは睨みつけながら「おっさんも簡単に死なせねぇぞ・・・」

ラバックは貫いた部分からコウケイの体中に糸を巡らし、内部をミンチにしていく

 

・・・。

 

「ぐっ・・・ぎゃあああ・・・・やめ・・・やめ・・・やめ・・・ちょ・・・まっ・・・」

 

白目を剥き出させ、絶命させた。

 

「何人もの将軍を無実で処刑しやがって・・・」

 

ナジェンダから事の経緯を聞いていてラバックはより詳しく知っていた。そして左手で床の財布の中身を確認し「・・・なんだこれ・・・大して無いだろ・・・まっ治療費として貰っとくか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ・・・確か貴様はナンバーゼロゼロナイン・・・」

 

「あんたは・・・私達の名など覚えてはいまい・・・」

 

「・・・いいや、よく覚えているとも・・・この私が精根込めて造った組織を裏切った出来そこないが・・・妹も処分手前品なら姉も所詮は欠陥品だったか・・・全く、あやつらめ、だから精鋭組も(洗脳)教育ではなく、(洗脳)処置を施せと・・・」

 

「・・・・・・・」

アカメは宮殿内の隠し通路で怒りのこもった眼でその男、サイキュウを睨みつける。眼鏡を掛けインテリ風であるが目が険しく淀んでいる。

 

「・・・この戦乱のドサクサで私の命を狙いに来たか・・・、甘く見られたものだな・・・ナイトレイドのアカメ・・・」

 

「・・・今まで私達を良いように利用し、使えなくなれば無惨に処分してきた・・・今まで良いように利用され使われた妹だけでなく、私の散って逝ったかつての仲間の分までまとめてここで清算する・・・是が非でも葬る!!」

 

アカメは抜刀し突進する。

 

「葬るか・・・、そういえば、そう言わなくては自身に暗示が掛けられないという・・・ひよっ子が居たと聞いていたが・・・そうかお前か!」

 

 

サイキュウは懐からリボルバー式拳銃を抜き出し、ぶっ放す。

アカメは弾道を読み、近くにあった物を蹴飛ばして牽制する。

 

アカメの疾った後に銃弾が撃たれていき、物や大き目の道具が乱雑に置かれ、素早く物影に隠れる。

 

「ちっ・・・『すばしっこい奴め・・・』」

 

『リボルバー式は6発・・・、今ので3発・・・残り3発か・・・』

 

アカメは近くにあった物を投擲する。

それを寸分違わず撃ち抜き、アカメを狙い頬をかすめ一滴の血が流れる。

 

「・・・貴様は、残りの玉が後2発とふんでいるのだろう?・・・くくく、良かろう・・・」

 

ダン・・・、上に向かって放つ。

 

「これで、私の残りも一発だ・・・、どうだ、お互い最後の一勝負といこうじゃないか?アカメ・・・」

 

「・・・・・・・」

アカメは考えていた・・・まさか他に一丁隠して持っているのではないかと・・・

 

だがその前に斬り込めば良いだけであり、余りここで長い時間を費やしている場合ではない・・・、・・・アカメは動きを読まれないようランダムに動きながらサイキュウに迫る。

 

サイキュウもニヤリと笑みを浮かべながら、その一発を必殺にする為、十分に引き付けて狙う。

 

ドンッ!!・・・アカメをその銃弾が狙う・・・だがアカメは正中線にまっすぐに剣を立てその紅の手甲を自分側の刃に付けそのまま突き進み・・・なんと、銃弾を真っ二つにする・・・アカメの両頬を二つとなった銃弾がかすめ、血が流れる。

 

「なに!?」

 

驚きを隠せずサイキュウは呆気に取られていると、アカメは振り下ろした剣を脇構えから・・・、

 

「葬る!!」

 

 

ズダン!!!

 

・・・・・・・・

 

 

 

アカメは倒れ、血を吐き、驚愕する。

 

 

 

「くくく・・・出来そこないが、どうやら急所は外したか・・・、まぁ良い。四肢を撃ち抜き、再調整してくれる・・・もう二度と私に反旗を翻さないようにな・・・くはは・・・どうやらその帝具・・・でも無さそうだな、もうお前など恐れるまでもない・・・ははは」

 

アカメは熱と痛みに耐えながら考えた・・・、サイキュウの持っている拳銃は帝具かと、となると弾数を気にせず撃てるものなのかと・・・。

 

「何故だ?といった顔だな・・・くくく、後でたっぷりと教えてくれる、だがその前にしばらくは床で寝ろ!」

 

 

ヒュン・・・

 

「なっ、誰だ・・・!!」

 

鋼の糸がサイキュウの帝具を持つ手を縛りあげ、自由を奪う。ラバックは左手のみで操る。

 

「・・・・・・、今まで貴様のせいで死んでいった・・・帝国暗殺部隊の仲間達の全ての恨みを晴らす為に・・・葬る!!!」

 

「くっ・・・おのれぇえええ!!」

 

サイキュウは懐から別の拳銃を出す・・・がもう遅い。

 

それより早くアカメは胴を斬り・・・怒りを込めて、背中から一太刀・・・、そして突き刺し・・・内臓を引っかくように、引きずり

 

「ま・・・・・・ま・・・・・・・」

慈悲を乞うかのよに手を出すが、

 

「終わりだ・・・、あの世で侘びろ・・・」

そのまま思いっきり、剣を薙ぎ払った・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

アカメの手当てを終え、

「どうやらナジェンダさんが依頼した大臣以外の標的は全部始末出来たようだな・・・」

 

「大丈夫か、ラバ!!」

 

「へへ・・・そいつはお互い様だ・・・」

 

アカメもラバックも所々軽傷、重傷を負い、満足に動けそうにもない・・・だがそれでも、

 

「いくか?」

 

「ああ・・・大臣を始末出来たかどうか・・・見届けたい・・・」

 

「俺もだ・・・いっ痛・・・『糸で傷を縫合するのも一時しのぎにしかならないか』アカメちゃんは銃弾で撃たれたろ?ここにいろよ」

 

「・・・大丈夫だこれくらい・・・ぐっ・・・」

 

アカメは片膝をつき、肩で喘ぐ。

 

 

「ほれみろよ、言わんこっちゃない・・・俺の背中に乗れよ」

 

「すまない・・・」

 

ラバックはアカメを背負い、走る。

 

『くくく・・・、俺の時代キター!・・・タツミばっかりにもうオイシイ思いはさせねぇぞ。これでアカメの俺のへの好感度アーーーップ!!・・・あ、結構胸ある・・・ぐふふ・・・』ぐはっ!!」

 

ラバックは傷の痛みで倒れる・・・

 

「・・・ラバ、やっぱり私も歩こう・・・」

 

『俺格好悪ぃ・・・』

 

 

二人は互いに肩を貸しながら歩く。

 

「ん?なんか揺れているな・・・なんだ?」

 



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暁に沈みゆく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう・・・、ブドーは何度イメージしても己が相手を殺せるイメージしか湧かない・・・。

 

だが対手のタツミは刀を納めて、即抜刀出来る状態…鍔を丹田前にしているのみで、後は脱力して、一見ぼっーとしか見えない・・・。

 

ブドーは焦っていた・・・一刻も早く主の元に馳せ参じなくてはならない・・・だが目の前の相手は若輩とはいえ容易ならざる強敵、迂闊に飛び込めば命は無い・・・だがどう計算しても己が勝つイメージしか湧かない・・・だが、だからこそ妙に感じていた・・・。

 

変わらずタツミは・・・不動の如く能面に何を考えているか判らない・・・いや本当に何も考えていないのかもしれない・・・。

 

「・・・?」

 

 

 

ズシャアアアアアアア・・・ドォォォォォォオオオンンンン・・・

 

 

 

其の時、皇帝のシコウテイザ―の波動砲が二人の側まで貫き、革命軍、ブドーの部下達の何割かが死滅する。

 

「これは一体・・・まさか・・・陛下・・・!?」

 

タツミも驚愕し、

「・・・!?・・・あれは・・・、あの破壊力・・・恐らく代々の皇帝にしか使えない帝具・・・」

 

「貴様・・・何故そこまで知って・・・くっ・・・何故・・・私の部下達にまで・・・?」

 

「・・・あの若さだ・・・本人も制御しきれる程の能力が無いんだろ?それに・・・操り人形風情に満足に扱えるほど、あの帝具は甘くない・・・」

 

「陛下を愚弄するとは許さんぞ!・・・ちっ!・・・俺がお傍にいれば・・・、タツミとやら・・・もう好い加減腹の探り合いは終わりだ・・・そろそろ終わりにするぞ・・・」

 

「・・・結局、自分は武官だと言って、世の中の流れに無関心だった・・・それが今日の結果を招いた・・・何もせず自分がせずとも、誰かが世の中を丸く収めてくれると信じている・・・他人任せで安易な生き方だな・・・あんたは」

 

「知った口を聞くな!!武官には武官の立場がある、分をわきまえたまでだ!」

 

「ああ・・・軍人は闘い専門だからな、政治が専門ではない・・・だがその立場を捨てて大臣に付く可能性もあっただろ?」

 

「・・・その減らず口もこれで終わらせてやる・・・」

 

・・・それまでブドーは構えを少し変えてはタツミを斬り倒すイメージを何度も行っていた・・・その度にタツミも構えを微細に変え、傍目には二人がただじっと相手の様子を伺っているようにしか見えなかったが・・・実際は激しい駆け引きを行っていた・・・だがそれも終わる・・・。

 

「・・・むっ・・・」

 

先に動いたのはブドーだった。そしてその後にタツミも動いた。

 

『後の先を狙うつもりだろうが、そうはいかん!!』

 

ブドーは先にタツミに攻撃させた・・・ブドーの首が斬られる・・・だが浅い。

 

そして、ブドーは間髪いれずにタツミの胸を斬った・・・致命傷では無くてもこちらは深い・・・。

 

 

互いに離れ・・・、双方睨み合う。

 

タツミは苦しそうに肩で息をしていた。

 

『流石に一撃では仕留め損ねたか・・・?』「もう立っているのもやっとだろう?・・・未来が楽しみな中々の腕だったが・・・このまま生かしておく訳にはいかん・・・せめて、これ以上苦しまんように一瞬で片をつけてやろう・・・最期に何か言い残す事はあるか?」

 

「・・・あんたもそう死に急ぐ事は無いだろ・・・?」

 

「何・・?」

 

気が付くとブドーの首に少し長めの針が刺さっていた。

 

『・・・なんだと・・・まさか・・・あの攻防の中でだと・・・、あれは俺の必殺の一撃だった・・・なのに仕留め損ねたのは妙だとは思っていたが・・・この針で力を出しきれなんだか・・・くっ・・・』

 

「・・・・・・・」

 

『確かにこの状態で動くのは満足には出来ん・・・、だがここで針を抜けばその隙に奴は乗じる・・・何故だ・・・何故敗れた・・・』

 

タツミの駆け引き勝ちだった。帝具戦であればタツミに分があった・・・だがその代わりこの一帯を・・・下手すればアカメ達が戦っている場所も含めこの帝都一帯全てを焦土と化す程の火力を持ってしなければブドーには勝てなかった。だからタツミは本気の帝具戦を避けた。

そして、純粋な白兵戦ならば・・・若い身体のタツミでは強いと言ってもまだ武の練度が達人なブドーには一歩及ばなかった。タツミはそれが判っていたので、心理戦に持ち込み、ブドーの焦りを誘った。そう・・・身体は若く、武の動作の染み込みがブドーよりも例え劣っても、中身の老錬さは・・・。

 

「純粋な真っ向勝負ならあんたの勝ちだったさ・・・」

 

「・・・肉を斬らせて骨を断ったか・・・、或いは焦った私が他の動作には目がいかなかった・・・くくく、成程その盲点を付いたか・・・エスデスでは叶わん訳だ・・・ははは」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

ブドーはこの戦場で初めて座り、肩を落とし呟く。

「お前の勝ちだ・・・さぁ殺せ・・・」

 

「生憎・・・あんたの言った通り俺も立っているのがやっとだ・・・」

 

「ふっ・・・『それも本当かどうか・・・』・・・頼む・・・暴走した陛下を止めてくれ・・・お前に・・・いや貴殿に頼みたい・・・」

 

「俺の役目はブドーさん、あんたを足止めする事だ・・・それ以上は関わるつもりは無い」

 

「なに!?・・・お前は革命軍、それにナイトレイドの仲間では無かったのか?」

 

「俺の目的は全ての帝具を回収し破壊する事・・・これら武器は人間達には過ぎた代物だからな・・・」

 

「なに・・・?全ての帝具を・・・?」

 

「だから革命軍やナイトレイドが死のうと俺の知った事ではない・・・」

 

「ならば陛下の暴走を止めてはくれぬのか!?」

 

「・・・ナイトレイド達が止められなければ・・・どの道、あの陛下とやらはあのままなら敵味方を選別して攻撃も出来ず、辺り構わず廻りを滅ぼしてやがて力を使い果たして自滅・・・文字通り自分自身も死ぬだろうな。あの帝具も負担が大きい・・・自滅さえすれば俺は労せずあの帝具を壊せる」

 

「・・・外部のお前が何故そこまで知っている・・・それまでに仲間が死んでもいいのか?」

 

「・・・俺はこの国の人間ではない・・・自分達の国の不始末は自分達でつけたらどうだ?」

 

ブドーはそれを受け苦笑しながらも

「・・・ふっ、そうか・・・お前は別の国の・・・成程、確かに貴殿の言う通りだな・・・」

 

 

 

 

 

「閣下!!」

 

ブドーの部下達が彼の元へ集い、タツミを睨みつける。

このまま生かす気等無い・・・全員で掛かれば或いは・・・と。

 

「やめんかぁ!!!・・・我々の負けだ・・・」

 

将たるブドーが負けを認めた・・・ならば彼らもそれに従う・・・部下から彼への信頼が伺える。

 

ブドーは立ち上がり、

「だが私はこれから陛下を御止めする為、宮殿へ向かう・・・再びあの砲撃が来るかもしれぬが、お前達は己の身を守れ。そしてタツミとやらの指示に従え!!」

 

そして部下が「閣下に至急、飛行危険種を連れて来い!早くだ!!」

 

 

ブドーはそれに跨り、「タツミ、そなたの国はどのような国だ・・・?」

 

「・・・どの国にも長所短所はある、他人の芝生は青く見えるものさ・・・」

 

「ふっ・・・」

 

ブドーは飛行を促し、勢いよく飛んで行った。

 

 

日は傾き掛け・・・タツミはその向こうに見える宮殿を見据えていた・・・。

 

 

 

 



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力に溺れる心を斬る

其の広間を波動砲による破壊が覆い、一気に灰塵と化す。

 

「あ・・・危なかった・・・」

 

「なにあれ・・・」

 

「え~~?でけぇ・・・」

 

ランはレオーネとマインを両脇に抱え、上空へ飛行していた。

 

眼下には、巨大な帝王・・・皇帝の意匠をした家一軒を軽々と見下ろす程の超巨大な帝具が宮殿内部から現れ、周りを威圧していた。人間で言う口に当たる部分から先の波動砲を放ったようだ。

 

 

「ねぇ、あんた・・・なんであたし達助けたの?あんたが勝手にやった事なんだから、お礼なんて言わないわよ・・・」

 

「おい、マイン」

 

「・・・別に礼なんか要りませんよ・・・ただ、あの帝具を止めるには貴女がたの力が必要だと思ったまでです・・・」

 

「なぁ兄さん、ありゃ一体なんだ?」

 

「あれは・・・皇帝陛下代々に伝わる帝具・・・シコウテイザ―。くっ・・・陛下・・・まだ使いこなせていないのに・・・大臣め、さては焚き付けたな・・・」

 

「シコウテイザ―・・・ですって?・・・あれが・・・、・・・千年前の皇帝のネーミングセンスだっさー」

 

「・・・マインさん呆れている場合じゃないですよ!貴女には一緒にあの帝具を止めるのを手伝って貰います!」

 

「はあっ!?なんであたしがあんたと一緒に?」

 

「民を守るのがナイトレイドの仕事じゃ無かったんですか?」

 

「ぐっ・・・仕方ないわね・・・ここは共同戦線という訳ね・・・」

 

「私は何をすればいい?」

 

「レオーネさんは地上に降ろすので他の方々の避難、或いは闘える人達と地上から援護して下さい・・・私とマインさんでこのまま上空から攻撃を加えます・・・ですが最後に説得を試みてみます!」

 

「判った!」

 

ランはレオーネを降ろし、背中にマインを乗せ上空からシコウテイザ―に話しかける。

 

「陛下、聞こえますか?陛下?」

 

 

シコウテイザ―を操る皇帝・カライは

「なっ・・・おのれ・・・誰だ・・・余を呼び付けるのは・・・!?」

 

内部のコクピットに座った彼はこの帝具が自分の感覚と同化し、シコウテイザ―の目が耳がそのまま彼が外部を知覚する手段となる・・・だが、当然その原理は本人も把握している訳ではない。シコウテイザ―に乗り込んだ時に頭に流れた操作方法等の情報を教えられたままに鵜呑みにしているだけである。

 

「どうか、このまま怒りを御鎮め下さい!このようなやり方では、味方も殲滅してしまいます!どうか御制御の程を!」

 

 

 

 

「・・・ランか?・・・あれは・・・誰だ?まさか、敵方か?・・・許さんぞ・・・余を裏切りおって・・・もう誰も信じんぞ・・・エスデスも大臣もブドーも肝心な時には余を置いていく・・・だがそれは余が力及ばぬかった故・・・もう、他の者の手は借りん、全ての者を灰塵と化し、新たに国を造り上げるのだ・・・ははは、何故今までそうしなかったのだ・・・もっと早くに気が付いていれば・・・ははは!」

 

その声は外のラン達にも聞こえ、彼は顔をしかめる。

 

「くっ・・・、あの帝具の闇に呑まれたか・・・もうああなっては、止まらない・・・」

 

「どうすんのよ!?」

 

「力づくでも止める!」

 

 

「・・・たくっ・・・レオーネも物判り早すぎよね!・・・良い、あんた少しでも妙な真似したらあんたから先に撃ち落とすわよ!」

 

「判りましたよ・・・では落ちないようにしっかり掴まって下さい!」

 

「ええ?・・・って、ふぎゃああああああああ!!!」

 

ランはマインを背中に回転を加えながら急上昇を行う。

 

その間にシコウテイザ―はラン達に連続で波動砲を放つがすれすれでかわしていく。

 

 

 

 

「さむっ、耳も痛っ・・・は・・・うっ・・・吐きそう・・・しかもあたしのツインテールのかたっぽがぁあああ!!あんの馬鹿皇帝ぜぇぇったぁぁああいいゆるさないー!!」

 

「・・・髪ぐらいなんですか?・・・それに人の背中で吐いたら、ヒロインならぬゲロインとして、皆に言い触らしますので覚悟して下さい!」

 

「髪は女の命よ!それと、元はと言えばあんたが悪いんでしょう!!・・・くっ・・・とりあえずあんた止まってなさい!」

 

マインはパンプキンを構え、シコウテイザ―に狙いを定める・・・マインは精神を最大限まで研ぎ澄ませる・・・

 

地上では別働隊がシコウテイザ―牽制していた・・・

 

 

 

 

時間は少し遡る。

 

「こ・・・これは・・・」

 

大臣…の替え玉を倒したその部屋は・・・スサノオはナジェンダを脇へ抱え、奥へ隠れていた・・・元いた場所はごっそり消滅し、ナジェンダ達と共に来た兵士達や帝国兵も大半が消滅していた・・・そう、シコウテイザ―の波動砲により。

 

空を見上げると、シコウテイザ―が次の標的に向けて波動砲を撃っていた・・・

 

「あれか・・・あれがあの・・・くっ・・・なんとしても止めないと・・・スサノオ、なんとしても止めるぞ!再度奥の手だ!!あの攻撃をなんとか出来るか?」

 

 

「ああ・・・だがナジェンダ・・・」

端目にはぱっと見判らない悲しげな顔するスサノオに

「構わない!・・・どの道このままでは共倒れだ!」

 

「判った・・・」

 

ナジェンダはスサノオに手をやり、目眩と血を抜かれたような立ちくらみが起きる。彼のマスターである彼女は、そうする事で自身の生命エネルギーのほとんどを渡すつもりだった・・・だが、

 

「もう良い、ナジェンダ!!」

 

「黙れ!・・・ぐっ・・・」

 

スサノオはナジェンダに首に手刀を行い気絶させ、生き残っていた革命兵に彼女を渡す。

 

「もし、ナジェンダが生き延びたら・・・伝えてくれ、この千年で最高のマスターだったと・・・」

 

スサノオはそういって、飛んで行った。

 

 

その影で…『な・・・なにあれ・・・あんな化物聞いてないよー・・・、スーさんだって叶う訳・・・ど、どうすんのあれ・・・タツミも居ないし・・・、これ以上の事はタツミから依頼されてないし・・・あたしじゃあ居ても邪魔になって足手まといになるだけだよね・・・』

チェルシーはその場から去って行った。

 

 

 

 

 

『かつてない程の強力な敵・・・敵すらも共同戦線を張るような相手・・・正にピンチね・・・』

 

「いいいぃぃぃぃけぇぇぇえええええ!!!」

 

マインのパンプキンがかつて無いほどの衝撃を放ち、シコウテイザ―の外壁を穿ち、怯ませる。

 

「よしっ!」

 

「・・・いえ、あの程度では決定打にならない・・・もっと急所を狙って近くで撃たなければ・・・」

 

「もっと近くで!?・・・あれに当たったらどうなるのよ・・・?」

 

「・・・最悪、塵も残らず消滅します・・・」

 

「はぁ~・・・痛みを感じるまでもなく死ねて、案外幸せかもね?」

 

「生憎・・・俺は殺し屋と心中する気は毛頭ありません!」

 

「なっ!?あたしをただの殺し屋と一緒にするんじゃないわよ!!」

 

ランはシコウテイザ―に近付いて行き、牽制しながら波動砲をすれすれでかわしていく。・・・だがその余波で他の者を巻き込み消滅させていく。

 

 

『しまった・・・くっ・・・』

ランの顔から苦渋が滲みでる。

 

「あんた!?・・・なんとかしなさいよ!」

 

「・・・こうなれば一かバチが正面からいき、マインさんの帝具であの波動砲を撃ち終わった後にその砲口を間髪入れずに撃って下さい・・・そうすれば・・・」

 

「成程ね・・・確かに内部破壊を起こしそうね・・・」

 

「では行きます!!」

 

「オーケー!!」

 

放たれる波動を螺旋状にかわしながら、ランはその砲口目掛けて突き進む。

だが・・・

 

「え?きゃあああああ!!」

 

「しまった・・・!?」

シコウテイザ―は薙ぎ払いを覚え、ランの帝具、マスティマの片翼を機能不全に陥れる。

 

「・・・このまま強行します!」

ランは落下しながらも残った片翼で調整しながら、砲口に向かう。

 

「あんたと心中だけは御免なんだから!!!」

 

 

マインはパンプキンを撃つのをギリギリまで待った・・・そう、シコウテイザ―が撃つ直前、コンマ1秒の間を狙って・・・

 

 

 

ズォオオオオオオオオオオンンンンン・・・・・・・

 

 

ランはふっと安堵し、マインははしゃぐ。

 

「やったぁああああ、どうよ、あたしが本気出せばざっとこんなものよ?」

 

 

 

明らかに体勢を崩しその砲口からは煙を出し、戦闘不能に見えた。

 

 

「・・・!?」

 

「え・・・?」

 

トゥィン・・・・・、

 

一筋の光線がマインを狙った。

 

ランは咄嗟にマインを放り、片翼でガードして弾くが耐えきれずそのまま落下していく。ランが彼女を放ったのはこのマスティマでもガードしきれる保障が無かったからだ。

 

『なっ・・・!』

 

マインはランが取った行動に驚き、ランはどうにか着地しようと足掻いた。

『くっ・・・上手く制御が出来ない・・・』

 

 

シコウテイザ―は波動砲が撃てなくなった分、別の攻撃手段を用い、目に当たる部分から光線を放っていた。

 

マインはパンプキンを撃ち、落下速度を殺して地上に先に降りた。

 

「!?」

 

今正に空中制御不能なランを撃とうとするシコウテイザ―に、

 

「あたしはこう見えても借りは返す主義なんだから!!」

 

ズドン!!

マインはその攻撃を牽制し、軌道を逸らせる。

 

 

 

 

ランは着地した後、その衝撃を和らげるため転がり体を痛めながらも無事である。

 

「・・・・・まさか、助けられるとは・・・」

 

「良い?お礼は終わってからたっぷりして貰うんだからね?」

 

 

そして・・・シコウテイザ―の目が爆発する。

 

「え?自爆・・・」

 

「・・・いいえ、マスティマの最後の力で目を封じました・・・ですが、他の攻撃手段もあるかもしれません・・・それに先ほど貴女が撃った外壁も修復されている・・・自己修復機能か・・・ちっ・・・厄介な・・・ひょっとすると、あの破壊光線も修復されるかもしれません・・・今のうちに・・・」

 

ランは歩きだす。

 

「あんた・・・帝具も無しでどうするの?」

 

「・・・内部に潜り込んで、聞き分けのない皇帝陛下にお灸を据えにいくんです・・・これは、宮殿内部の問題なので、マインさんは好きな所へ行って良いですよ?」

 

「・・・言ったでしょ?北の異民族から依頼されてるって?・・・例え皇帝を殺せなくても、彼らに納得いく懺悔をさせないと・・・、まずあたしの髪をこんなにした罪で土下座ね・・・」

 

「・・・あの陛下が土下座ですか?・・・くくく、それは見物ですね・・・」

 

「・・・あんたやっぱり性格悪いわね・・・」

 

「いえいえ、マインさんほどじゃ・・・」

 

マインも歩きだした。

 

「その帝具・・・あとどれぐらい持ちそうです?」

 

「さぁ・・・?大分さっきもガタが来てたわ・・・。最悪あと一回で終わりかもね・・・」

 

「間違ってもさっきの波動や光線攻撃には迎え撃とうとしないで下さい・・・その火力でも競負けますから・・・」

 

「あたし、昔から教師の言う事は余り聞かなかった方よ・・・」

 

「・・・どうやら貴女には、後で廊下にバケツ持って立って貰う事になりますね・・・」

 

「・・・その廊下が残ってればね・・・」

 

二人は声を揃えて笑った・・・勝算は無い、死を覚悟した開き直りであった。

 

『・・・妻よ・・・俺はまだ君の側に行く訳にはいかない・・・』

 

『タツミの奴・・・なにしてんのよ・・・こういう強敵はあんたが担当なんだから・・・さっさと来なさい・・・まさか・・・ブドーにやられた・・・それとも・・・こいつの言う通りあたし達を見捨てた・・・?ううん、今はそんな事どうだって良い・・・今は目の前の敵を・・・、・・・あぁもうあんた、本当は只のツンデレなんでしょ?さっさと来なさい!何もたもたしてんのよ!』

 

「・・・どうしました?」

マインの様子がおかしいので尋ねるラン。

 

「なんでもないわよ!!」

 

 

 

 



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・・・の為に

 

 

 

 

ランとマインが空中でシコウテイザ―に攻撃を加えて居た頃、地上ではスサノオが応戦していた。

 

『あれは・・・マイン・・・飛んでいる奴は・・・敵では無いのか・・・?』

 

シコウテイザ―の注意がマイン達にいっている隙にスサノオは下部を狙う。

 

 

『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)!!』

スサノオは印を結び、本来マスターであるナジェンダの命令で発動する自身の限界以上の能力の底上げを行う・・・そして、

 

『天叢雲剣・・・二刀!!』

 

スサノオはナジェンダの生命エネルギーだけではなく、自身の核となるエネルギーも用いて闘う・・・それは文字通り自身の生命を・・・活動時間を削る。

 

 

スサノオは一刀を投げ飛ばし、シコウテイザ―の片足を刺し足止めする。

 

シコウテイザ―内部では皇帝カライが

「・・・っつ・・・、よくもこの余に・・・小癪な真似をぉおおおおおお!!!」

 

シコウテイザ―が刺さった天叢雲剣を抜きに手を掛けた時にはもうスサノオは肉薄し、上段から斬りに掛かる。・・・腕に傷を負わすが・・・切断する前に、別の手から攻撃を避け、空中のマイン達が一端距離を置いた隙に、シコウテイザ―はスサノオに向け、波動砲を放つ!!

 

『八咫鏡(やたのかがみ)』

 

スサノオは自分の前に、巨大な八咫鏡を出し・・・

 

「自らの破滅の力を身持って知れぇえ!!!!」

 

その波動砲を弾き返し、シコウテイザ―の腹部へ穴を開ける・・・だが貫通まではいかない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

秘密通路に大穴が開き、地上が見える・・・ラバックは咄嗟にアカメを抱え、天井に帝具の糸を飛ばし、波動砲の難を逃れる・・・。

 

「・・・やばかった・・・何だ今の・・・底が見えねぇ・・・」

 

地下へその破壊の痕が残っている。

 

アカメの手を借り、地上へと現れるラバック。

 

「お・・・おい・・・なんだありゃ・・・」

 

「・・・・・・、ボスが皇帝しか使えない帝具があると言っていたが・・・まさか・・・あれが・・・」

 

「なぁ・・・あの空中で闘っているの、マインちゃんか・・・あとあれひょっとしてランか?」

 

「それに地上ではスーさんが闘っている・・・私達も・・・ぐっ・・・」

 

「おい、大丈夫か?アカメちゃんはもう限界だ・・・俺に任せとけって!」

 

ラバックは笑って歯を輝かせる。

 

「・・・ラバック、その言葉そっくり返すぞ、限界なのはラバックもだろ?」

 

「・・・今まで隠してたが実は(レオーネ)姐さんのライオネルの効果を薬として開発出来ないか、革命軍のチームが研究しててさ、それの一つの試作が出来てて、俺それ飲んでるからボロボロでも平気だったんだって・・・さっきの傷だってもう治ってきてるぜ!」

 

「・・・・・、そうか・・・判った、なら頼む・・・すまない・・・私はこれ以上はもう足手まといだな・・・」

 

「ああ、ここで俺の格好良い勇姿を見ててくれ!」

 

・・・嘘である、ラバックの体はもうボロボロで帝具の糸で応急処置の傷の縫い合わせや止血をしている・・・或いは動かない体の部分を別の動く部分で糸を操って動いているように見せているだけであった。

 

『はは・・・ちっ・・・ちょいと血を流したか・・・目が霞んでやがる・・・男って損だよな・・・変に強がんなきゃならねぇよな・・・はは、ナジェンダさん生きてるだろうな・・・?』

 

 

『・・・頼む・・・今までの私達の苦労を・・・、もう私のような国に良いように利用されて最後は捨てられる・・・そんな暗殺者の悲劇を終わらせてくれ・・・』

 

 

 

 

 

 

「スーさん!?やるぅ!!」

 

レオーネは地上で応戦している、スサノオや生き残っている革命軍の兵士が補佐しているのを見た。

 

 

「ぐっ・・・くっ・・・」

 

他の兵士に守られていたナジェンダは目を覚まし、レオーネはその姿を認める。

 

「ボス!生きてんたんですね!」

 

「レオーネか・・・、スサノオは・・・あいつ・・・無茶な・・・あれだけのパワーアップ一体どうやって・・・?」

 

「スーさん、凄いですよ!・・・あれなら・・・」

 

「・・・・・・レオーネ、私達は大臣を倒した・・・」

 

「おお!・・・くぅ、一発ぶちのめしかったのにーー!」

 

「・・・安心しろ・・・あれは偽物だった・・・、レオーネ、大臣オネストを絶対に始末しろ!」

 

「え・・・でも、先にあの目の前相手を・・・」

 

「ここは私達だけで十分だ・・・、こんな事している間にもオネストは逃走し、より一層力を蓄え、誰も歯が立たない程の脅威になるかもしれない・・・、レオーネ、これは命令だ、是が非でも奴を仕留めろ!」

 

「了解!!・・・ボスも気を付けて・・・」

 

「ああ・・・・・」

 

レオーネは駆け出し、匂いでオネストの居所を探りはじめていた。

 

 

・・・ナジェンダは戦況を把握する事に長けている・・・だから、このままでは自分達が負けるのは判っていた・・・その為、もしもの時の為に自分達の誰か生き延びれば・・・自分達の意思を共有する誰かが生きていれば、仮にこの闘いで負けても再び覆せる日が来ると考えていた・・・。だから難敵では無いであろうオネストの所へレオーネを・・・。

 

『ラバックやアカメはどうしただろうか・・・タツミ・・・お前が来ないと・・・、だがタツミが来てもどうなるか・・・ブドーにやられたか・・・。どちらにせよ、このままでは私達はやられる・・・くっ・・・まさかこれ程の強さだったとは・・・』

 

 



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・・・の為に・弐

 

 

 

 

「あの巨大な化物は・・・一体・・・」

 

「・・・・・・・判らない・・・」

 

帝都城壁からも離れ、グランシャリオに身を包んだウェイブとクロメは戦線から離脱し遠くを見渡せる丘へと避難していた。

 

「・・・おい、見てりゃあれ、敵味方区別なく辺りかわまず、なんか大砲か・・・?ぶっ放してるな・・・」

 

「あれも帝具・・・あんなのあったなんて・・・聞いた事無い・・・」

 

「ちっ・・・、あんな見境も無い事しやがって・・・俺は行って来る!クロメはここで待っててくれ!」

 

「うん・・・気を付けて・・・うっ・・・」

 

クロメは蹲り、頭を抱える。

 

「大丈夫か!?」

 

「へ・・・平気・・・これくらい・・・、ちょっと洗脳・・・なのかな?・・・その影響が・・・残っていて・・・それに薬飲み過ぎた反動・・・てへへ・・」

力無く笑うクロメにウェイブは悩んだ。

その時、シコウテイザ―の波動砲が二人の横を掠める。

 

「あぶねぇえ!!」

 

咄嗟にウェイブはクロメを抱えて転がっていく。

 

「危なかった・・・」

 

「・・・・・・・・」

クロメは顔が紅くなり、ウェイブに抱きつく。

 

「お・・・おい・・・」

 

だがウェイブは抱き返し、クロメを落ち付かせようと…、彼女が普通に動ける程に回復するまでこの場に止まる事にした。

 

『・・・なんとか俺も加勢しないと・・・、だけどクロメをほおっておくわけにはいかねぇ・・・アカメ達がなんとかしてくれれば・・・ランもいるし大丈夫か・・・ん?そういえば誰か忘れてたような・・・う~ん・・・』

 

「ウェイブ?」

 

「ああ!?思いだした、タツミだ・・・あいつ、何処に行った!?」

 

「ウェイブ・・・」

 

「あの野郎・・・さては、このドサクサに紛れて逃げたんじゃないのか・・・あんにゃろう~・・・」

 

「・・・ウェイブ・・・タツミは・・・きっと、お姉ちゃんに剣を教えてたんだよ・・・」

 

「・・・ん?クロメ・・・どう言う事だ・・・俺にも判るように説明してくれ・・・」

 

「・・・ナイトレイドのメンバーでお姉ちゃんと対等に渡り合えるのはそうそういない・・・、反乱・・・革命軍全部でもそうだと思う・・・、そんなお姉ちゃんに教えれるぐらい腕が立つとなると・・・」

 

「あのタツミがか・・・?う~ん、まぁ弱くは無いと思うが・・・いやそれでも・・・」

 

「あたし・・・会った時から・・・本当は警戒してたんだ・・・敵に回せばあたしはただじゃすまないって・・・何となくそう思ってた・・・それに聞いた話じゃ、エスデス隊長主催のいつだったかの武術大会だっけ?・・・あれでタツミ、隊長倒したって・・・」

 

「ああ・・・あれか?あれは・・・隊長がわざと負けたんだと思ってた・・・」

 

「・・・処刑されかかった隊長を助けたのも誰か判らないんだよね・・・」

 

「・・・まさかそれがあいつだって言いたい訳か・・・?」

 

「・・・今までタツミへの不可解な点をそう考えると・・・色々納得いく所がでてくるんだよ・・・ひょっとして、八房を封じたのも・・・彼?」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ、クロメ・・・じゃああいつは一体・・・」

 

「たぶん、ナイトレイドに居たんだろうね・・・」

 

「八房が・・・そういや隊長が鍛冶屋に出すとかなんとか・・・あれひょっとしてタツミが何か細工したのか・・・」

 

「それに・・・隊長を、裏で操ってたのも・・・きっと・・・・」

 

「いやそんな・・・まさか・・・クロメの考え過ぎだろう?」

 

「もうちょっとちゃんと考えれば、タツミの正体が判りそうなんだけど・・・うう、もうこれ以上はやめとく・・・」

 

「クロメ、お前は十分闘ってきたんだ、今は休んでくれ・・・『しかし、タツミが裏で暗躍していた・・・そう言われてみりゃたまに変な事あったな・・・あいつが・・・』

 

 

 

 

 

逃げ惑う市民を補佐したりや暴行を働く兵士を倒しているボルス、セリュー、コロは・・・

 

「ん?セリューちゃんあれは・・・?」

 

「え?・・・、ああ・・・!?」

 

「!?」

 

二人と一匹はシコウテイザ―を見て驚く。

 

「ひょっとして・・・ドクターが言ってました・・・、最強にして最高の帝具・・・皇帝陛下が使うとかって・・・、まさかあれじゃあ・・・」

 

「あれが・・・なんて規格外な・・・けどどうするつもりなんだろ・・・?」

 

その時、ボルス達がいる方に向けて破壊光線が射出される

 

「「「!!??」」」

 

 

彼らの後方が一瞬で燃え盛り、ボルス達が助けた人や傍に居た兵士達が紅蓮の炎に焼かれていく・・・、

 

「・・・こ・・・これは・・・」

 

『 たす・・・けて・・・』『・・・お・・・おれたちが・・・、』『お・・・おかぁ・・・』

 

 

 

 

 

 

「う・・・うわぁ――――!!!」

 

「ど?どうしたんですか?ボルスさん!?」

 

ボルスは頭を抱え蹲る。

 

「私が・・・私がやったんだ・・・これと同じ事を・・・皆に・・・」

 

「・・・!?」

セリューはボルスがかつて焼却部隊に居た事は知っている。彼女は複雑な・・・同情とも怒りともつかぬ苦渋に満ちた顔を浮かべた後、

 

「今は懺悔している時じゃありません、ボルスさん!同じ過ちを繰り返しても良いですか?」

 

「!?・・・セリューちゃん・・・」

 

「殺した人はもう帰って来ないんです・・・」

そう言った自身の言葉が彼女自身にも刺さる。

 

「今はそんな事より、目の前の人を助ける事の方が先決でしょう!」

 

「・・・・・・・、そうだね、そうだよね・・・」

 

「・・・だけど・・・、一体どうすれば・・・あたしの持っている銃火器は火力だけだし・・・」

 

「・・・何処か家の水を・・・そうだ、コロ君に大量に飲ませてそれを浴びせれば・・・」

 

「それです!!コロ、消火活動!」

 

コロはまだ壊れていない民家へ走り出し、ボルス達も燃えている人に砂を掛けたりと、自分に出来る事を行った・・・だが、それでも幾人も焼け死んでいく・・・。

 

「・・・・・・・『あの光線がまた来たら・・・、神よ・・・いや、こんな私が神頼みなんて・・・おかしい・・・』

ボルスはもう考える事は止め、セリューは過去の自分の行動…悪と断定し断罪して来た者達が火炙りや惨たらしく死んでいく様を見て愉悦していた自分を思いだしていて感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 



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・・・の為に・参

 

 

 

 

 

「おやおや、外が騒がしいようですね・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

エスデスはサーベルを横薙ぎに当てに行く・・・が、オネストは両手のナイフで受け止め、そのまま滑らせ鍔元に行くと同時に

 

「な!?」

 

歯でエスデスの刃を噛み砕く!!

 

「ふぅ~~、沢山の血が混じった味ですね~・・・そういえば私、色んなものを食べてきましたが・・・まだ人間は食べた事ないんですよね・・・」

嫌な笑みを浮かべてエスデスを見る。

 

 

「ふん・・・貴様如きは素手で蹂躙してくれる!」

 

エスデスは折れたサーベルをオネストに投げつける。

 

「ふんっ!」

 

それを弾き、その間にエスデスは飛び膝蹴りをオネストの額に喰らわせ、続けざまに回転蹴りを行う・・・「ぐっ・・・」

エスデスの足にナイフが刺さるが、そのまま押し切ってオネストを地面に叩きつけ、片方の足で踏み殺そうと突く。

 

そこは素早く逃げて間合いを測るオネスト・・・片方のナイフはエスデスの脚に刺さったままだ。

 

 

「どうやら・・・初めの足への一撃が応えてるようですね・・・くくく、お前にデモンズエキスを使われていたら、とうに負けてましたよ・・・、しかし何故使わないのですか?・・・ああ、私が封じたんでしたっけ?・・・ぐはははははは」

 

オネストの言う通りだった・・・エスデスが油断していなければいくら意外に彼が強かったとしても、純粋な戦闘では彼女の方が上手で勝っていたであろう。だが、これは初めの時点でオネストの計略勝ちであった。

 

『すまぬ・・・タツミ、もう会えぬかもしれない・・・だが、私がこいつと組んで犯した過ちはせめて、こいつと刺し違える事で少しでも清算する・・・、タツミ・・・またいつか会おう・・・』「・・・オネスト・・・念仏を唱えるなら今のうちだぞ?」

 

「ふ・・・まだそんな空元気が・・・良いでしょう・・・決着を付けるとしますか・・・」

 

二人とも必殺の一撃を互いにお見舞いしようと・・・

 

その時地面が破裂する。

 

「どりゃあああああああ!!!」

 

「なに!?」

 

「!?」

 

二人ともその場から飛びし去り、様子を伺う。

 

「いやぁ、やっと辿り着いた・・・ふぅ・・・」

 

レオーネは地面から飛び出し回転して着地し「とうとういやがったな、大臣!ここで会ったが100年目、今までの悪行の清算、耳を揃えて返してもらうぜ!!」

 

 

「・・・何やら色々誤解しているようですな・・・まぁこういう政務を司っておりますと誤解は付き物ですね・・・くくく」

 

 

「貴様は・・・ナイトレイドの・・・そうか・・・、邪魔をするな!こいつは私が片を付ける、退いていろ!」

 

「はっ?よく言うぜ?・・・こんなメタボな相手に手間取っているエスデスなんざもう怖くないね」

 

「貴様・・・私の腕が落ちたと思っているのか・・・、お前如き等帝具を使うまでも無い・・・」

 

『・・・、流石にこのままでは不味い・・・。エスデスだけならともかく・・・、ちっ・・・、ここは撤退せねば・・・』

 

オネストは身を翻して逃走を図る。

 

「あ?逃げた!?」

 

「逃がさん!!」

 

エスデスは脚からナイフを抜き、血が出る痛みを堪えながら走りだす。

 

通路を曲がった所で、姿を無くなる・・・

 

「ぬ?何処行った・・・」

 

「判らんのか?・・・少しは腕を上げたようだが、やはり間抜けな獣だ・・・」

 

「お前のくっさい匂いが混ざって奴の居場所が判り難いんだよ!!」

 

「・・・貴様とは後で決着付けてくれる・・・」

エスデスの投げたナイフが壁に刺さる。

そうすると、壁は倒れ隠し通路が見える。

 

「にゃろ~」

レオーネは逃げるオネストに飛び蹴りを喰らわせる。

 

それを逃げながらかわしたオネストが反転して、レオーネの腹部にナイフを立てる。

 

「ぐっ・・やるじゃないか・・・メタボの癖に・・・」

 

オネストはほくそ笑む鬼の形相で中を抉る・・・。

 

レオーネは脂汗かきながらも

「ああああああああああああああああああああ!!!!」

 

渾身の力でオネストを殴り飛ばす。

 

ふっとばされた彼にレオーネの後ろから飛び上がったエスデスが踵落としを行う。

 

オネストはそれを交差した両手で受け止め、着地したエスデスは素早く回し蹴りを入れる。

だがそれも両手で受け止め、その脚を食い千切ろうと凶悪な牙を見せた・・・、

 

そして、その口にエスデスは拳を叩き込む。

 

『愚かな・・・その腕も喰らってやります・・・ん?・・・』「ぎぎゃああああああああああ!!!」

 

エスデスは拳に隠したサーベルの刃の破片でオネストの舌を斬り裂く。

 

怯んだ隙に腹に強力な前蹴りを叩き込む。

 

「げげ・・・ががは・・・し、舌が・・・おのれーーー」

 

それに乗じてレオーネは傷に痛みを感じるもオネストの右腕をへし折り、続けざま右足の関節を外す。

 

「うぎゃああああああああ」

 

・・・オネストは他に策は無いか・・・、後ずさりながら思考を巡らす。

 

 

レオーネはオネストへゆっくり肉迫する。

 

「ま・・・待て・・・私を殺せば・・・帝国の夜明けが遅れますぞ!?・・・私は兼ねてより、もっと国が潤うよう、これからは世界に乗り出そうと、貿易でもっと国が潤うに・・・そうすれば、今までの貴女方の苦労も報われ・・・」

 

「・・・あたしは、頭の良い連中と違って、そんな事はさっぱりさ・・・けどな・・・一つだけ判っているのは・・・こういう時に四の五ぬかすのは大抵、言い逃れでしかないって自分の経験が頼りなんだ!!」

 

「ま、待つんです・・・愚者は経験に学び・・・賢者は歴史にまな・・・ぎゃあああ」

 

レオーネの鉄拳が炸裂した。

 



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犠牲

シコウテイザ―は思い切り飛び上がり、そして着地し地震と見間違うほどの地割れや震動を起こす。

 

スサノオや他の兵士達も体勢を崩し、攻撃防御への一手が遅くなる、その機を逃さず、

 

「余に逆らう者共がぁ死ねぇえええええ!!」

 

スサノオに向け、その巨大な拳が振り下ろされる。

「くっ・・・」

 

単純な物理攻撃となると…それが強大となれば八咫鏡では跳ね返しきれない為、使わずに迎撃の体勢を取るが…潰される覚悟で待ちうける。

 

・・・・・・・・・、

 

 

 

 

スサノオは目を大きく見開いた。

 

 

寸前で拳が止まっているのを、

 

「・・・・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あんた・・・なんか止まっているけど、どういう事?」

 

「判りません・・・ただ今がチャンスと言う事です。

 

「OK・・・スーさん、今助けるわ!」

 

 

マインのパンプキンが火を噴き、シコウテイザ―にダメージを与え、よろかめかせる。

 

ドガン!!

 

 

だがパンプキンは使用オーバーで暴発する

 

「きゃあああ!!!」

 

吹っ飛んだマインをランが受け止める。

 

「・・・上出来です・・・」

 

「うっ・・・、でもあれじゃあまだ倒せない・・・あんた、何か良い手ないの・・・」

 

 

 

内部のコクピットでは、

 

「くっ・・・何故だ・・・おおのれぇえ・・・何故だ・・・ちっ・・・早く動け!!」

 

 

 

 

 

「きゃあああああああ・・・くっ・・・皆も外から頑張って攻撃してる・・・あたしも早くしないと、巻き添えね・・・何とかこれの動き止めないと・・・」

 

シコウテイザ―の中の動力部分にチェルシーはかなり小さい動物に化けて忍びこみ、所々に針を刺したり手持ちの道具で動きを止めれないか悪戦苦闘していた。

 

「全く・・・これは後でタツミから割り増し料金貰わないと・・・、普通の人間ならこの辺の神経系刺したら、もう体動かなくなるのに・・・くぅぅーー!」

 

 

・・・内部侵入者発見・・・殲滅セヨ・・・

 

「え?何?この声?」

 

すると、チェルシーに無数の機械人形達が不気味に目らしき部分を光らせ、迫りくる・・・。

 

「えーーー!!ちょ、ちょっとタンマ!!聞いてないよー!!だ、誰かああ!!戦闘タイプの誰か来てぇえ!!タツミーー!!」

 

 

 

ズドガァアアアンンンン!!!!

 

シコウテイザ―が大きく揺れ、内部の機械人形達も体勢を崩し、足場から滑り落ちて行く機体もあり・・・勢いよく目の前にある障害を突き破っていく何者かが、チェルシーを襲おうとした機体を瞬時に蹴散らしていく。

 

「こ、ここここ今度はなにーーー!?」

 

とはいえ、彼女も安定を崩し落ちて行く・・・。

 

 

外では・・・

 

 

「あ・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

「なんだあれは・・・?」

 

 

 

「・・・あれは・・・ひょっとして、インクルシオに似ている・・・?」

 

「・・・な?まさか・・・タツミか?」

 

 

 

シコウテイザ―の強固な外壁を突き破り、そのまま逆側まで突き抜ける程の貫通力を見せたのは空中に浮かぶ、元のインクルシオに翼が生え、全身が刺々しく黒炎の如く・・・その廻りが陽炎のように揺れる・・・悪魔のそれに近い、だが堂々とした姿形であった。右腕には大きめな刃が備え付けられ、左腕には帝具の闇よりの巨砲を備え付けていた。

 

 

 

「きっと・・・そうよ・・・タツミよ・・・インクルシオをあんな悪趣味に変えるなんてあいつくらいなもんよ・・・タツミー!遅れた分きっちり始末つけなさいー!」

 

『・・・まさか・・・、話に聞いたあの帝具をあんな風に・・・、かつて魔帝だったのは伊達では無かったと・・・』

 

 

 

 

 

「くっ・・・雑兵がいくら集まろうと・・・千年続いた我が一族の前では霞みも同然・・・死ねぇえええ!!」

 

自己修復を終え、機能が回復した波動砲を放つ。

 

 

タツミは左腕のそれを撃つ!

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!

 

双方の威力は拮抗している・・・

 

 

「タツミィイイ!!そのままいっちゃいなさい!!」

 

「・・・不味いですね・・・僅かながら圧されている・・・」

 

 

 

 

 

「くっ・・・、何とか持ち堪えてくれ・・・」

 

「いや・・・」

 

 

 

 

 

 

タツミは圧されながらもそのまま捻じ込むように、突き進む・・・、

 

 

「よっしゃあああ、あの野郎、悔しいがそのまま倒しちまえ!!」

 

「・・・駄目だ、ラバック・・・倒せたとしても・・・」

 

 

 

 

その時、巨大な爆発が起こり、シコウテイザ―はよろめく・・・双方の攻撃は相殺された。

 

 

 

「ああ~惜しい。あのまま圧し込んでれば・・・」

 

「いえ・・・出来たでしょうが・・・敢えて彼はしなかったのでしょう・・・」

 

「どうしてよ?」

 

 

 

 

 

「どういう事だ、アカメちゃん?」

 

「ああ・・・あの巨体だ・・・あれが倒れたらどうなると思う?」

 

 

 

 

 

「ナジェンダ、ここを離れろ」

 

「くっ・・・我々は足手まといなのか・・・」

 

 

 

 

タツミは空中で止まったまま、次の攻撃を考えあぐねていた・・・。

 

「おのれおのれ・・・余を見降ろしおって・・・貴様、何様だぁ!!」

 

回復した目から破壊光線をタツミに飛ばす・・・が、右腕で弾き飛ばしてしまう。

 

 

皇帝カライは必死に思案していた…どうすれば、こいつを倒せるかを・・・歴代皇帝が代々受け継いだこの帝具は最強では無かったのか・・・、誰にも負けないのでは無かったのか・・・もう彼は混乱し始めていた・・・。

 

タツミも攻撃しあぐねていた・・・倒すのはそれ程困難では無かった・・・だが、倒すにはそれ相応の火力が・・・この周囲にまだいる人間達の犠牲を・・・仲間達の犠牲も払わなければならない・・・、それにこの後の事を考え、皇帝は生かしておきたかった・・・とはいえ、帝具の闇に心を囚われたカライをこのままにして置く訳にはいかない・・・。タツミは最悪の選択を選ばなければならない時間が刻一刻と迫っている事に焦燥感を抱いていた・・・。

 

 

「タツミも・・・両方とも動かない・・・」

 

「・・・きっと、タツミ君は・・・」

ランは険しい顔になる・・・どういう結果になろうとも受け入れる覚悟を・・・。『俺一人だけでも逃げ切れるか・・・、出来るかもしれない・・・、・・・ですが・・・まぁ良いでしょう・・・ここで果てるとも・・・』

ランは諦観じみた笑みを浮かべた。

 

 

 

「スサノオ・・・動けるなら、廻りの兵達背負えるだけ背負って逃げろ・・・」

 

「ナジェンダ・・・お前はどうする?」

 

「私は・・・将軍だ・・・、最後まで見届ける責務がある・・・」

 

スサノオは逡巡した後、「・・・ここに居る兵達は誰もがお前を置いて逃げるという選択肢などない・・・逃がしたいのなら、自分の脚で逃げろと命令しろ・・・俺はこれ以上マスターであるお前の命令を聞く気など無い・・・」

 

ナジェンダは苦笑いし、彼の言う通りに生き残った兵達に通達した・・・だが、スサノオの言う通りとなった・・・。

 

 

 

 

「ラバ・・・さっき言った事・・・」

 

「ん?何?」

アカメはラバックの新薬の嘘に気付いていたが・・・敢えて触れるのは止めた。

 

「なんとか、ボスの所に連れて行こうか?」

 

「いや、良いって・・・アカメちゃんだってボロボロだろ?」

 

「・・・・・・・」

 

「確か船で世界を見たいって言ってたっけ?」

 

「ああ・・・」

 

「あともう少しで叶うな・・・」

 

「ああ・・・その時は船上でラバとボスの結婚式を披露してくれな・・・」

 

「・・・ははは・・・、ああ、任せてくれ!」

 

 

 

タツミは決断した・・・これ以上、シコウテイザ―をほっておく訳にはいかない・・・他のその他多数の民衆を生かすにはこの周囲に居る仲間や兵達を見殺しにするしかない・・・。タツミはその圧倒的な巨体である相手を消滅させうる火力までパワーを上げ、その帝具の反動に備え右手を添え照準を定めた。

 

 

 

その時・・・、タツミが突き破ったシコウテイザ―の穴から人が出てくるのを確認した・・・。

チェルシーに捕獲され、首に針を突きつけられた皇帝だった・・・。

 

 

「あ・・・あれ?」

 

「ん?・・・・んん?あれは皇帝と・・・まさか・・・」

 

 

 

 

「チェルシー!?宮殿で内部撹乱すると聞いていたが・・・あんな所にいつの間に・・・スサノオ、二人を回収しろ!!」

 

「了解した!!」

 

 

 

 

「あれはチェルシー・・・」

 

「嘘?よく見えるなぁ・・・?」

 

 

 

タツミは安堵し、照準を降ろす・・・だが、操縦者を失ったシコウテイザ―はゆっくりと傾き始める・・・。

 

「・・・えええ?きゃあああああ!!」

 

「うわぁああああああ」

 

スサノオは飛んで行き、二人を回収し両脇に抱える。

 

 

タツミは焦った・・・次は多くの人家のある方向へその巨体が倒れ始めたからだ・・・、直ぐ様それを抑えようと、飛んで行く。

 

 

 

マインもそれを見て驚き、

「え?いやいやあんた無茶よ?逃げなさいよ!!」

 

「無理でしょう・・・あそこには民家が密集しています・・・。避難した人達もいるでしょうが・・・まだ残っている人も・・・」

 

「ど、どうするのよ?あんた、何とかしてよ!!」

 

「無理ですよ!!・・・私の帝具はもう無い・・・」

 

「嘘よ・・・あたし達は助かるかもしれないけど・・・ねぇ?」

 

「仮に私の帝具があったとしても、あれを受け止める程のパワーは無い・・・」

 

「でもタツミなら・・・」

 

「彼の帝具だって、破壊に特化している・・・いくらインクルシオを最大限まで強化・・・いやあれは自身の力も更に上乗せしている・・・、それでも・・・あの巨体を貫けても、受け止めるは無理だ!」

 

「なら粉々にすれば・・・」

 

「しても・・・小さくても人位の大きさにはなる・・・、それが空から降ってきたらどうなります?」

 

「じゃ・・・じゃあ、塵も残さない程、消滅させれば!」

 

「それだけの膨大な火力ならば私達だってただでは済みませんよ・・・」

 

「・・・・・・!?じゃあ、見殺しにするしかないの・・・?」

 

「・・・・・・・・、あなた方が殺してきたような、悪人だってあの中に居るかもしれないのだから良いのではないですか?・・・・」

 

「あんた何言ってんのよ!?・・・いや・・・なんでもないわ・・・」

マインは直ぐに自己矛盾に気が付いた・・・、悪人とはいえ人を殺してきた自分に言える筋合いは無いと・・・ランもそれ以上何も言わず、地面を殴った。

 

 

「・・・・・・・」

スサノオは二人を解放し、後ろからこれから起こる事態を只・・・静観するしかないと思い定めていた。

 

 

「あの帝具が・・・民家へ倒れていく・・・」

 

「おい・・・女、そうなると、どうなる?」

 

判り切った事を・・・敢えてカライは震えながらチェルシーに問う。

 

「当然・・・あの辺りに居る人達は・・・下敷きになって圧死だろうね・・・」

 

カライは帝具・シコウテイザ―を操っていた時は気持ちも大きくなっていたが・・・今、そこから解き放たれ、普段の彼へ徐々に戻っていっていた・・・。

 

「余に・・・余に・・・歯向かう民など・・・死んでしまえば・・・しかし・・・いや・・・」

 

チェルシーは冷めた目で彼を見据え、「・・・あんたは今殺さずに、断頭台で皆が見ている中、公開処刑がお似合いかもね・・・」

 

ぎょっとチェルシーを見るが・・・そのまま俯き、その後倒れいく先祖伝来の帝具を苦い顔で見つめた。

 

 

「タツミでも・・・くっ・・・これ以上は無理か・・・タツミ・・・もういい、撤退してくれ・・・」

ナジェンダはこれ以上見ていられないと、目線を背けた・・・。

 

 

「アカメちゃん・・・悪い・・・何とか俺をあの丘まで連れて行ってくれ・・・」

 

「何をするつもりだ!?・・・これ以上動いたら、ラバックでも・・・」

 

「俺のこれで何とか、少しでも倒れるのを食い止める!!」

 

「・・・諦めろ、ラバック!!・・・私だって気持は同じだ・・・くっ・・・」

 

ラバックはそれがアカメなりの自身への優しさと気付き、それ以上何も言わず、せめて目を背けまいと、しっかりと行く末を目に焼き付けようとした。

 

 

 

 

 

倒れて行く地点にある民家からまだ残っている人や兵士達が逃げ出していく。

 

「セリューちゃん、私達もそろそろ逃げないと!」

 

「はい・・・しかし・・・、まだ残っている人達がいるかもしれません!!」

 

「たぶん・・・大丈夫だよ・・・後は逃げた事を信じよう・・・」

 

「はい・・・」

 

二人とも・・・人助けの心と自身の生存本能の狭間で揺れ動いていた・・・、全員逃げたと思うのは・・・自身ももう逃げたいという考えに対する方便なのかもしれない・・・だが、それは致し方無い事だった・・・。

 

『何が・・・正義だ・・・何が・・・あたしは・・・』

 

「セリューちゃん?」

 

「ボルスさん・・・コロを連れて逃げて下さい・・・あたしは、まだ残っている人がいないか探してきます・・・」

 

「セリューちゃん、何を馬鹿な!?」

 

「・・・それに、あれきっとタツミ君です・・・あの人が必死に抑えようとしているのに・・・あたしはまだ逃げれません・・・」

 

「・・・判ったよ・・・女の子1人残して、私だけ逃げれないよ・・・」

 

「・・・もう、女の子って年じゃないですけどね・・・」

 

コロは頷き、

 

「・・・コロ?今のどういう意味?」

 

「・・・?・・・・きゅ!?」

 

コロは誤解だと、必死に首を振った。

 

 

 

「よくぞ言った!お前達は下がっているが良い・・・」

 

 

 

 

 

 

タツミは少しでも倒れを抑えようと必死の形相だった・・・インクルシオも限界まで来ており、許容以上のパワー出している為、所々で破損が生じていた・・・当然、タツミ本人への負担も大きい・・・

 

『体が・・・これ以上・・・』

その負担は骨に亀裂が入り、肉の筋は切れ始め・・・生命の保障も無くなっていく・・・。

 

 

 

その時、セリュー、ボルス、コロの間に高く見上げるほどの土の壁が出来、そびえ立つ。

 

「い、今のは・・・まさかブドー大将軍?」

 

「大将軍ですか?・・・あれ?タツミ君はあそこに居るのに・・・確か大将軍と闘って・・・あれ?」

 

ボルスとセリューは首を傾げるが、

 

 

地面の土をごっそり使い、巨大なゴーレム達を出現させていく・・・そして、シコウテイザ―が倒れる方向に向かって巨大な穴が出来るように、ゴーレム達を生成していく・・・その過程では、民家の下の土が盛り上がる・・・その為、家の中にまだ居た者たちは驚いて・・・出て行く・・・。それでも怖がって中に止まる者たちも家ごと脇へと押しやっていく。その過程で何かしらの形で圧死した者もいたかもしれないが・・・。

 

 

「借りは返すぞ・・・ぬおおおおおおおおおお!!!!」

 

雄叫びと共に全身全霊で無数のゴーレムを操り、シコウテイザ―を止め、穴の中に沈みこませようと試みる・・・。

 

 

 

「・・・おい、アカメちゃん・・・今度はなんだあれ?」

 

「・・・?」

 

 

 

「スーさん、あれ何か判る・・・?」

 

「・・・判らんが・・・あれも帝具か何かだろう」

 

 

「・・・まさか・・・ブドーか・・・そうか、ブドーか!?」

 

 

 

 

 

「あれは・・・ブドー?・・・そうか・・・あの規模の帝具を操れるのはあいつくらいか・・・しかし・・・何故・・・」

 

 

 

「まさか・・・ブドー閣下が・・・これは参りました・・・タツミ君・・・殺さなかったんですね・・・」

 

「そう・・・タツミ・・・、生かしたんだ・・・」

 

マインはふっと微笑んだ。

 

 

 

ゴーレム達のおかげでタツミへの負担は軽減し・・・

 

 

「タツミ・・・もう良い・・・離れろ!!」

 

 

タツミは遠くのブドーが言っている言葉は聞こえなかったが・・・何を言わんとしているか悟り、離れる。

 

 

その後、ゴーレム達が倒れる速度を殺しながら、自分達も土に戻りながらシコウテイザ―を穴の中に埋めて行く・・・

 

 

ズシャァアァアアアアア!!!!

 

巨大な土飛沫が起きた後、空は一瞬暗くなったが・・・再び、光が辺りを照らす・・・。

 

 



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まだ見ぬ明日を探す為に・・・

 

 

 

エスデスのかつての拷問部屋

 

レオーネはオネストの両手両足を折り、引き摺って連れて行く。

 

「さっすが~ドS将軍・・・、悪趣味な部屋だ事~」

 

「貴様のその減らず口を縫いつけてやろうか?」

 

 

「ぐっ・・・わ・・・私をこのような目に遭わせて、た・・・ただで済むと思っているのか!?」

 

「なぁ大臣?あんた、牛裂きの刑や皮剥いだとか、色々そこのドS将軍と変わらない事したそうじゃない?一片それを自分で味わうってのどう?」

 

オネストを部屋地べたに投げつけ、

 

「ま・・・待て・・・どうか慈悲を・・・私に慈悲を・・・そうすれば、隠し財産の在り処をお教えしましょう!」

 

「おい、黄色女退け!・・・そうだな、私が味わった屈辱を同じく味あわせてやろう・・・帝都広場に縛り付け、民衆共から好きなように袋叩きにしてやるのも良いな・・・さて、目とその薄汚い口を縫うか、歯を一本ずつ引っこ抜いてやろうか・・・大臣よ、せめてもの情けだ・・・好きな拷問死を選べ・・・」

 

『ぐっ・・・おのれ・・・おのれ・・・小娘共がぁ・・・』

オネストはこういう状況でも何とか口八丁手八丁で丸込めれないか、想定しうる限りのシナリオを描き、それぞれの選択した場合の結末も睨み、必死になって考えていた。

 

 

その時、ぬっと影が差す。

 

「・・・いいや、そいつを殺すのに相応しい奴が居る・・・」

 

「タツミ!?」

 

「おお、タツミ・・・って事はブドーは倒したのか?それとあのデカブツもか?うほっ、やるぅ!」

 

タツミは二つの帝具を外して現れた。

 

 

オネストは何者かとみじろぐ。

「・・・!?」

 

 

「貴様・・・タツミと気安く呼ぶな!」

 

「はっ?・・・お前よりもあたしの方がタツミと長い付き合いだしー!それに元々タツミをナイトレイドに連れてきたのはあたしだから感謝しな!」

 

「そうか・・・全ての元凶は貴様か・・・私が最初に巡り合っていれば・・・おのれ・・・貴様も一緒に晒してやろうか?」

 

「帝具が使えない割には威勢だけは良いんだから・・・」

 

 

 

「そ・・・そうか・・・全ての黒幕はお前か!?」

 

タツミは何も言わずに黙って、オネストを見下ろした。

 

「た、頼む・・・、私はあの皇帝に言われて仕方なく・・・こ、こんな事を・・・私は実は無実だ・・・どうか、改めて調べ直してくれ・・・そうすれば、きっと私の潔白は証明される・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「私の才覚を持ってすれば直ぐに国は立ち治る・・・なっ?頼む・・・君ほどの人物なら判ってくれるはず・・・」

 

「・・・・・・・」

 

オネストは何を言っても無駄だと悟り、矛先を変えた。

 

「っ・・・、エスデス将軍、そこのナイトレイドも・・・こ、この男は国家転覆を企んでいる目をしている・・・貴女方はただ、利用されているだけだ!!・・・は、早くこの男を取り押さえた方が貴女方の為だ!!」

 

エスデスとレオーネは白けた目で見下し、

 

「大臣・・・オネストさんと言ったな・・・、ははは、あんたの言う通り、俺は確かに・・・こいつらを利用しているだけさ・・・」

 

「な・・・な・・・!?」

 

 

「まぁそんな事はどうでも良い・・・あんたを処罰するのに最も適した相手を連れて来た・・・入って来てくれ」

 

 

所々に包帯がまかれ、まだ体が完全に回復していないが、目は異様にギラギラした男が来た・・・。

 

「シュラ!?・・・おお、シュラでは無いですか?・・・よくぞ無事で!・・・『な、何故シュラが・・・確か死んだはず・・?』

 

 

「シュラ・・・話に聞いていた大臣の息子か?」

 

「タツミ・・・一体、これはどういう事だ?何故シュラを匿っていた?」

 

「・・・エスデスが壊したあの精神を元の状態まで戻すのに苦労したぞ・・・」

 

 

「おやじぃ・・・会いたかったぜ・・・」

 

「おお、シュラ・・・なんと・・・」

オネストは涙を流し、息子との再会を・・・、グサ・・・、

 

「シュ・・・シュラ・・・?」

 

オネストの胸部に深々とナイフが突き刺さる。

 

「・・・へへへ・・・流石親父だぜぇええ、息を吸うように息子の俺にも平気で嘘つきやがってよぉ・・・そんの涙もすげぇよな・・・とんだ名俳優だぜ・・・流石俺の親父だよな・・・ははは」

 

シュラはそのナイフで抉り・・・「ぎゃあああああああ」

滅多刺しでオネストを突き刺した・・・。

 

 

後に残ったのは、眼球が飛び出し内臓も所々見え隠れする、死体だった。

・・・これが先代皇帝を事故死させ、現皇帝を裏から操り、一国の裏と表に人々を苦しめた男の惨めな末路であった・・・。

 

 

「へへへ・・・あはは・・・やったぜ、とうとう俺は親父を超えた・・・へっへっへあははは!!」

 

他3人はこの状況はそれぞれ思い思いの感情を抱きながら見ていた。

 

「・・・おっと・・・まだやる事はあったぜ・・・そういやエスデスのねーちゃんにはまだ礼をしてなかったな・・・、けどよ、そういう指図してたのも・・・タツミ、てめーだよなぁあ!!ああ!?」

 

シュラがナイフ片手にタツミに襲いかかる。

 

レオーネもエスデスも驚くが・・・

 

タツミはシュラが振りかざしたナイフを手首を返させそのまま奪って、その流れで頸動脈を切断した。

 

タツミは斬った後、後ろを振り向かなかった。

 

シュラは斬られた箇所を抑えながら

「・・・ぐっ・・・、これで・・・これで・・・良い・・・へへっ・・・」

 

そして、どっと倒れ絶命した。

 

エスデスとレオーネは死んだ彼を見ながら

 

「愚かな奴だ・・・、わざわざ死にに行くような真似を」

 

「・・・たぶん、死にたかったんだろ?」

 

「何故だ?」

以前のエスデスなら弱いから死を選ぶと言って切り捨てていただろう。

 

「親父に裏切られて・・・生きる支えが無くなったんだろ?こいつの事よくしらないけどさ」

 

「父親か・・・」

感慨深げに遠くを見るエスデス。

 

何故シュラは自ら死を選んだか・・・、

彼自身もう自分を変えられない、変えたくもない、良い方向に変わるなんて今更自分らしくない…タツミに治療を受けている間に僅かに芽生えた良心…例え良心が芽生えても犯した罪は消えない…それで、わざとタツミに殺されるという選択をしたのだろうか・・・とはいえそれも憶測である。

 

「なぁタツミ、これでこの国のドブは綺麗に出来たんだよな?・・・これで良かったんだよな・・・けどさ大臣の奴、息子に殺されるなんて良い気味だった・・・あたしの手で殺したかったけど、これはこれで胸がすーっとした!」

 

レオーネの頭の中では大臣を血祭りに上げた時の爽快感を今まで思い描いていた。最後の標的をやっと始末出来た、その安堵感があるとはいえ彼女自身が呟いた事とは裏腹に何処か言葉では言い表せない虚しさも感じていた・・・それが何なのか、今のレオーネにははっきりと判ってはいない・・・そんな彼女をタツミは何も言わずに見つめた。

 

 

レオーネが地上に出てきた時は、その有様に驚いたが・・・無事済んだとナジェンダに報告した。それを聞き、一息ついて一服しようと煙草を取り出す・・・だが何を思ったか、吸うのを止めた・・・その代わりに自身の三つ編みを揺らして、流れる心地い風を肌で感じる事にした。

 

 

 

アカメも全てが終わったと悟り、沈みゆく夕陽を微笑みながら見送った。

その頬にはひとすじの涙が流れていた。




次回更新は2カ月前後かと思われます。

※ 本業が忙しくもう少し遅れます、待っていらしゃる方がいましたら申し訳ありません。


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ささやかな余韻

待って頂いている方がおられましたら、お待たせ致しました。
やっと更新出来ます。
今現在書きためている残り5話を遅れた分、連日で投稿しようと思います。
(最終話まではあと10話前後が予定です)


 

闘い終わって日が暮れて・・・、それぞれ動ける者は動けない者の介添えに廻ったり生き残った帝国軍兵士を捕虜にしたりと革命軍は指示をそれぞれ出していた。皇帝も捕らえられ連行されていた。

 

「ナジェンダさん・・・あいつはどうします?」

 

「ランか・・・今はほぉっておけ・・・後で判断する」

 

ランもそれが聞こえ、微かに笑みを浮かべながら・・・後々事を考え恩を売るつもりか、ここは高く買っておくか、と彼もそう考えた。

 

 

とりあえず自分が今出来る事をし始め、瓦礫の山を歩いているとふと女性の手が地面から出ているのを見つけ・・・

 

「・・・可哀想に・・・せめて、供養だけでも」

地面を掘り起こしていると・・・

 

両手が突き出し、頭が出たかと思うと・・・

 

「こんにちは、スズカどぅえす」

 

ランは無表情で土を埋めに掛かった・・・

 

「え?ちょ・・・、そんな、げほっ、酷ーい!また埋めないで?良い・・・げほ、けど、だーめ~~」

 

「・・・いや~、全く惜しい人を亡くしました・・・」

 

「ふんっ!!!」

 

スズカは周りの土を弾き飛ばして現れた。

 

「・・・スズカさん、てっきりお亡くなりになってたと思ってましたが、渋とい人ですね」

 

「今現在進行形で殺されそうになったんだけど・・・?う~~~~ん、中々良い感じ

気持ち良かったけど、まだまだ駄目ね、もっと・・・そうもっと、タツミが、彼が

言ってたわ。言う事聞いて生き延びたら最高の痛みをくれるって~あたしはその為

だけに何が何でも生きようとしてるの・・・あ~、考えただけでゾクゾクしちゃう

・・・」

 

涎を垂らし恍惚の表情のスズカにランは呆れ、

 

「・・・貴女だけは長生きしますね」

 

 

他、レオーネ達もナジェンダの補佐をして動き始める。

 

医療班が彼らを担架に乗せている時、

 

「親友?ボロボロだな?」

 

「・・・こういう時にはレオーネの帝具が羨ましい、だが何とか生き延びたな・・・」

 

「ああ・・・」

 

レオーネは涙ぐみ、ラバックに

 

「お前もよくアカメを守ってくれたな!?ほらサービスだぁ!」

 

「おお!良い…いてー!!良い・・・いててててて・・もっと・・・・やっぱいてー!でもこのまま死んでも!」

 

所々ボロボロの半死半生のラバックはレオーネの胸に抱かれ喜んだり痛がったり、

 

「いてええええ!!」

 

ラバックに小石がヒットし「すまんな、ラバ。元気なら私達の事後処理を手伝ってくれないか?」

 

「すすすすすみませんでしたー!は、早く連れてってくれ!」

 

 

レオーネはナジェンダの側に笑いを堪えながら

 

「くくく、大丈夫ですよボス?あいつはまだ死にそうにないですよ」

 

「ふん、知るか!・・・ところでエスデスを見たと言ったろ、それとタツミはどうした?」

 

「そういえば、後から行くから先に行っててくれと言われましたけど・・・ああ~まさかタツミ、エスデスと!?」

 

「・・・レオーネ、お前が考えるような事をしている訳無いだろ?」

 

「ですよね~♪」

 

 

「まぁ大方、エスデスをシャンバラで何処か送った後にタツミも帰ったんだろ?」

 

「ぶー!だったらタツミも薄情な奴だな―、オイシイ所だけもってって、雑用はあたし達に押し付けるなんてさー」

 

「いや、あれだけの帝具の使用だ、いくらタツミでも体はボロボロだろ・・・治るまで何処か私達の知らない場所へ行ったのかも知れない・・・」

 

「あたし達そんな信用されてませんかねー」

 

「自分の弱った所を見せたくないと思うぞ・・・さぁ無駄口を叩いている暇があったら手を動かせ!」

 

「へ~~~い」

 

 

日が暮れ、夜の帳が降りる頃にはそれぞれ引き上げ、帝国居城で一夜を過ごし勝利の美酒に酔いしれる者や皆思い思いに過ごしていた。

 

ナジェンダ、スサノオ、アカメ、ラバックを除く手当を受け動けるナイトレイドのメンバーは何となくアジトへ向かった。

 

「ん?」

 

レオーネは前方を歩いているマインを見かけ

 

「よぉマイン!・・・あれまーお前も体ボロボロなのに、なんでアジトに?城で皆でどんちゃん騒ぎしてくれば良いのに、どうした?」

 

「ボロボロでどんちゃん騒ぎって何よそれ!・・・あたしは普通の他の連中みたいに勝ったからって馬鹿騒ぎする気にはなれないのよ!」

 

「なんでさ・・・あ~マイン、ハーフだって事で白い目で見られないか気にしてんのー馬鹿だな~」

 

一瞬怒ろうとしたが、声を落とし

「・・・馬鹿はあんたよ・・・今までは強大な敵を相手に共闘したけど、それがいなくなったら今度は身内のアラを探し始めるのよ・・・」

 

「マイン、お前は・・・折角勝ったのに何言ってんだよ!」

 

レオーネはマインの首根っこ抑え頭をグリグリ、

 

「鬱陶しいのよ、あんた!それよりあんたこそなんで城に残らなかったのよ!」

 

「ふぇ?あたしは・・・あ~ただ何となくぅ?」

 

「判ったわ!あんたタツミが何処に行ったか気になるんでしょ?はは~ん、成程そういう事ね~」

 

「は!?あたしが?そんな事無いね~猫的女はさばさばしてるし~。あたしはただ秘蔵の酒忘れて来たから取りに戻っただけだし~、取ったらさっさと城に戻るもんね~」

 

「え!?そのお酒、最期のお酒かもってこないだ全部呑んで無かった?」

いきなりチェルシーが現れ、

 

 

「そうそう、そうなんだ本当は生き残れるか判らなかったから未練が残らないように・・・って、何言わせんのさ!」

 

「は~い、冴えない顔のお二人さん♪」

 

チェルシーは軽くポーズを決めながらウインクし・・・二人をいらつかせる。

 

「あんた・・・よく生き延びてたわね」

 

「確か皇帝の・・・シケイダ―だっけ?あん中で暴れてたみたいじゃない?案外チェルシーも大胆だな」

 

「シケイダ―じゃないわよ!まぁどうでも良いけど・・・ちっ、あんたが中に居たの知ってたら本気で撃てば良かった」

 

「全く外からバカスカやってくれるから死ぬかと思ったよ・・・え?マイン、あれ本気じゃ無かったの?ねぇねぇなんで本気出さなかったの?ぷぷぷ、負け板はよく吠えるね~」

 

「あ!?誰が負け犬・・・ん?負け板って何よ!板って何よ!板って!どういう意味よ!」

 

「え~アタシ、イミワカンナイ~」

 

「ふ~ん、てことはあたしは勝ち牛って事か、チェルシー?うししししし」

 

 

「もーーーーーーー!」

 

マインは怒りで爆発した。

 

 

 

・・・とりあえず言いあいながら3人の姦し娘達はアジトに入口に付き、

 

「ただいま・・・」

 

「・・・だね」

 

「ふんっ・・・まぁあたしが居たんだから生還出来て当然よ」

 

レオーネ、チェルシー、マインはそれぞれ帰還した感慨を述べ、その足でシェーレとブラートの墓に華を添えに向かった。

 

「・・・無事戻って来たわよ・・・シェーレ、ブラート」

 

マインの後ろにレオーネとチェルシーが控えて見守っている。

 

「あ!そういえばチェルシー、お前以前このままだとあたし達、次の殉職者になるとか言って無かったっけ?くくく、どーだあたし達無事生き残っただろうがーふふーん」

 

「はぁ~・・・幸せな人だね」

 

「むっ!?・・・判ってるよそれくらい、・・・けどシェーレもブラートも生き残ってくれてたらなぁ」

レオーネも悲しげに言うも

 

「仕方ないでしょ・・・嘆いたって?生き残ったあたし達がこの国をよくしていくのに少しでも出来る事をする、それがあいつらへの供養になるんじゃない?」

マインは向き直り清々しい顔で言い放つ。

 

「ひゅー」

 

「マインにしてはたまには良い事いうね」

 

「たまにはって何よ?たまにはって?あたしはいつも良い事しか言わないわよ!」

 

「いよーし、そうと決まればあたし達だけでささやかに戦勝会だ!呑むぞー!」

 

「だからあんた昨日たっぷり呑んでたでしょうが!」

 

居間に付いた彼女らは一息ついて

 

「あーあたし良い事思いついた!」

 

「なによ?ボスの酒全部飲み干して煙草も吸いつくすとか?こないだも酷い目に遭ったのに懲りないわねー」

 

「勿論!それは後でやるとして・・・タツミいないじゃん?この隙に・・・いししししし」

 

レオーネは玩具を見つけた猫のように駆け出し、二人もそれに続く。

 

タツミの部屋の前に行き

 

「・・・いぃよぉおし!では点呼を取る!番号!」

 

「1!」

 

「2…3.1415926535・・・」

 

「何あんた?それが限界?あたしならもっと」

 

「こらチェルシー、マイン!・・・おほん、我々はこれから凶悪な魔物が棲むと言われる巣窟へ」

 

「レオーネあんたも、んな事良いから早く入れば良いじゃない!」

 

「ふぅ、マインは遊び心の無い奴だな・・・じゃ行くぞ」

 

そして勢いよく戸を開け・・・

 

 

 

「いらっしゃ~~い・・・」

 

3人とも豪快にずっこける・・・

 

「あ、あああああんた居なくなったと思ってたらなんでいんのよ!」

 

タツミは布団に横たわりながら、

 

「・・・俺が俺の部屋に居て何か問題あるか?」

 

「・・・ふんふん、やっぱりタツミもボロボロみたいだな。ボスから聞いたけど、タツミお前どっか別の所にでも行ったのかと思ったよ」

 

「・・・別の所で養生したかったんだが、おたくらに俺の部屋何されるか判ったんもんじゃないからな・・・だから戻ってきた」

 

「うふふ、全くタツミは素直じゃないなぁ。弱ってて心細いから僕チェルシーと一緒に居たいって言えば良いのに!」

 

「・・・そういえばチェルシーとレオーネの帝具まだ回収して無かったな。マインは・・・」

 

「!?・・・あ・・・え~とぉ・・・」

 

「あ・・・ははは、タツミ色んなサービスするからあたしだけもっとくの・・・」

 

タツミに睨まれるレオーネ・・・。

 

「あたしのはものの見事壊れたわ・・・最後までよく闘ってくれたわ、あたしの相

棒・・・パンプキンは」

 

 

 

 

 



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不穏の調べ

アカメとラバックは急遽作られた負傷者収容のベッドで休んでいた。

 

「あ~元気な奴らは騒ぎまくってんな~、ああ・・・俺もお仲間のお姉さん達と・・・」

 

アカメは宙の一点を凝視し黙っている。

 

「・・・なぁアカメちゃん?なんで黙ってんだ?俺達は勝ったんだ、嬉しくないの

か?」

 

「勿論嬉しい・・・だが・・・」

 

「・・・俺達の今後の事か?なぁにそこはナジェンダさんが上手くやってくれるさ」

 

「・・・そうだな」

 

「・・・、ひょっとしてお払い箱になって消されるかもとか心配してんのかい?」

 

「いや・・・まさか革命軍がそんな事・・・ただ、シェーレやブラート、そしてラバック達も知らない私の死んでいった仲間達はどう思っているだろうか・・・とな」

 

「・・・・・・・・」

 

「私達は…いや私はこのまま日の当たる世界で暮らしていけるんだろか・・・」

 

「・・・ははは、何言ってんだよ?アカメらしくない事で悩むなよ?元気になったら皆で船で世界を旅するって言ってたろ?あともう少しだろうが、そんでここに帰って来たらさ、アカメは俺の本屋の店員にしてやるよ、ああでもお客さんにちゃんと愛想よくしなきゃ駄目だぜ」

 

「私が本屋の店員・・・?ふふふ、それも良いな」

 

「そうそう、じゃあ早い所傷を治そうぜ。俺も眠くなってきたから、じゃあお休み」

 

「ああ、ラバお休み」

 

だがラバックは寝なかった、アカメにはああ云ったが彼も彼女の心配する所が理解出来ていたからだ。

 

ナジェンダはそれぞれの兵達や将軍に労わりや報告等を行い、スサノオはその補佐に付いていた。

 

数日後…、臨時革命軍本部会議が宮殿に設けられ、その席にはナジェンダの姿もあった。

 

革命軍の将軍やそのトップも集まり、今後の事を決めようと話となる。

 

「まずは皆よく闘ってくれた・・・今までの帝国の圧政に虐げられた人達を解放する事が出来、これからはよりよい国作りに力を貸していってほしい」

 

一同から拍手が起こり、皆賛同する。

 

「それで・・・まずは戦犯者の処分について決めたいのだが、国をここまで腐らせた元凶の大臣のオネストは・・・ナジェンダ将軍の配下のナイトレイドが始末したと聞いたが間違いないかね?」

 

「はい、私の部下が始末し…損傷も激しかったのでその死体は既に火で燃やしまし

た」

 

革命軍トップの男…初老のコウカツは顔をしかめ、他数人の将軍も顔を見合わせた。

 

「・・・何かありましたでしょうか?」

 

「はぁ・・・ナジェンダ君、帝都の民衆に真の意味で安心して貰うには奴の死体を晒すべきだった・・・少々軽率だったな」

 

「も・・・申し訳ありません」

 

他の将軍が進言する。

 

「コウカツ殿、如何でしょうか?捕らえた者に皇帝のカライと大将軍のブドーがいます」

 

「うむ、そうだな・・・」

 

「彼らの処分をどのようにするおつもりで?」

ナジェンダが嫌な予感を隠しながら尋ねる。

 

「・・・決まっているだろう?二人とも公開処刑だ・・・そういえばあのエスデスも行方知れずか、ナジェンダ将軍何か知らないかね?」

 

「いえ・・・」

 

「ふむ」

コウカツは思いだすように考えを巡らせ、

「確かあの皇帝の帝具を一蹴したのも君の部下だったな・・・」

 

ナジェンダは内心動揺した。馬鹿な、正体を明かした後のタツミから自分の行動は口止めするように言われていたので目立った報告をした覚えは無いと・・・。

 

「はい・・・」

 

「そう・・・確かタツミ君だったかな?」

 

「そうですが・・・」

 

「ナジェンダ将軍、気を悪くしないでほしい・・・君の事を信用していない訳では無いが、我々も独自に調べさせて貰っていた・・・彼はかなりの戦力だな、是非これからの国作りの国防に力を貸して欲しいと・・・私も是非一度会って話して見たいんだ、どうかね?」

 

「は・・・」

不安げな彼女を察して彼は

 

「なんなら他のメンバーも、そうアカメ達も連れて来てくれまいか?正式に表彰し彼女達も軍か・・・警官としてでも重要なポストに付いて貰いたい、どうかな将軍」

 

「あ・・・有難いお話です、部下達も喜ぶと思います」

 

「そうだろうそうだろう、もう君達は暗殺などという影の仕事はしなくて済む、これからは大手を振って帝都を歩けるんだ、聞けばまだ若い子達じゃないか?今まで帝国の手配書も回って動けなかったんだ、きっと喜ぶだろう」

 

コウカツは気持ち良く笑うのに反比例してナジェンダは心の青ざめを悟られないようにするのが精一杯だった。

 

「はっはっは、そうだ・・・君が進言していたあのランという男、大臣の片腕だったそうだが、本当は君が送り込んだスパイというのは正しいのかね?」

 

「・・・ええ、そうです」

 

「何故その案件を報告しなかった?」

 

「て・・・敵を欺くからにはまず味方からだと思いますので」

 

コウカツは内心舌打ちしながら

「成程な・・・まぁ良いだろう、君がそういうならそうなのだろう。だが、彼が何か不穏な動きをすれば君の責任問題にもなるからそれだけは肝に銘じるように」

 

「はい、ご安心ください」

ナジェンダは内心冷や汗をかいている。

 

そこに別の者が

「コウカツ閣下、そのランの配下にはウェイブという者の他に、例の帝国の暗殺部隊のクロメとやらが・・・」

 

「何?あの暗殺部隊は先の闘いでこちらの被害も遭ったがその場で始末、或いは全員捕縛したと聞いていたが?」

 

「それがクロメはまだそのウェイブと某所で身を潜めております」

 

「成程・・・ナジェンダ将軍、聞いての通りだ、ランの身柄は君が責任持つのなら不問にしよう・・・だが、クロメは君も知っての通り我々の標的だ、始末依頼が有ったのは知っているだろう?」

 

「はい・・・心得ています」

 

「では次に来る時にそのクロメの死体と共に来てくれないか?これが君達ナイトレイドの最後の仕事だ、期待しているよ」

 

そして彼らは次の議題に移っていく・・・だがナジェンダはその内容が半分しか頭に入らなかった。

 

 

アカメとラバックは歩けるほどに回復しスサノオの助けでナイトレイドアジトに帰還した。

アカメはシェーレとブラートの墓の前で気が済むまで時間を過ごし、ラバックは動ける範囲でナジェンダの事務処理を手伝い、スサノオは皆の雑用を行い、タツミは部屋で寝たきりのまま、・・・再び彼らの日常が戻ってきたようではあった・・・。

 

「あたし次何の仕事しよっかな~」

 

「ふっ、あたしは決まってるわ!」

 

「何マイン?」

 

「決まってるじゃない!革命を成し遂げた英雄を謳い文句にアイドルとして売り出すのよ!」

 

「へ~そ~」

 

「僻むんじゃないわよ、あたしの荷物持ちくらいにはしてあげるから」

 

「う~~ん、あたしはマッサージ屋このまま続けるかな・・・でもあん時派手に暴れて、顔大勢の奴らに見られてるからな~、革命戦士がマッサージ屋って事で商売繁盛するかな~う~~~ん、それともほとぼり冷めるまで遠くに行くかな・・・」

 

全員ナジェンダから今はアジトで大人しくしているように待機命令が出ていた。

 

「なぁ・・・おたくら何で俺の部屋で騒ぐんだよ?」

 

「良いじゃない?無力な今のあんたの護衛も兼ねてんだから」

 

「そうそう、タツミはもっとこのハーレム状態を楽しむと良いよ?」

 

マイン、チェルシーが言いたい事を言うのに対し

 

「殺し屋の女でか?」

 

「タツミ・・・もう革命も終わったんだからあたしは晴れて闇の世界の人間じゃないよ?大体タツミに言われてからもう誰も殺してないもんねー」

 

「・・・そうえいばさータツミ?なんでチェルシーだけ庇うような、殺しをさせないような真似してたのさ?今だから言うけどそれってえこひいきじゃん?」

 

「そうよ、一度言おうと思ってたのよ、あんたなんでんな事してたのよ!まさかチェルシーに!?」

 

「タツミ・・・そろそろ本当の事言って良いんだよ?」

 

レオーネとマインが抗議しチェルシーは顔を紅くしながら熱視線をタツミに向ける・・・彼は目を泳がせながら

 

「そ・・・それは、チェルシーがあのままほっておいたら殺しの快楽に溺れそうに見えたから・・・これは不味いと思って止めさせたんだ・・・」

 

「うん、それは表向きの理由だよね」

ニコニコしながら言う彼女にイラっときたタツミは

 

「お前はふざけんじゃねぇぞ!場合によっちゃお前はとっくの昔に死んでたんだからな!」

 

「もうタツミ~本当はあたしみたいな可愛い子がこんな事してるなんて、タツミの良心が痛んだよね、だからそこから手引かせようと思ったんだよね?同情から愛情に変わったんだよね~」

 

「ふん!」

タツミは傍のボタンを押し、上からタライが落ちてくる・・・10tと書かれたそれが・・・。

 

「いったーーい、タツミ何すんの!?しかも何処から出てきたの!?」

恐らくシャンバラを応用したのだろう・・・

 

「チェルシーがそういう快楽に溺れそうだったってのはあたしも思うわ~ま、あたしはどっちにしても生き延びたに決まってるけどね~」

 

「ぶーぶー、タツミやっぱえこひいきだー!・・・『けど・・・殺す快楽ねぇ・・

・あたしも人の事言えないか・・・』

レオーネは軽口叩くとは裏腹に引っ掛かる所が自身にあった。

 

そして戸をたたく音がし、

 

「お前達・・・タツミはもてるな、そろそろ一人の女に絞ったらどうだ?」

 

入ってきたナジェンダがニヤニヤしながらからかうのに対し、タツミも

 

「そうだよな~そろそろ一人に決めないとな~じゃあボス、あんただ」

 

「・・・!?・・・ふっ、全くああ言えばこう言う」

 

それを聞き、レオーネは苦笑しマインとチェルシーは心なしかタツミを睨みつけた。

 

「・・・悪いがお前達、席を外してくれ・・・タツミと話したい事がある・・・」

3人とも一瞬冷やかしの言葉が出たが、ナジェンダがそういう気配では無いのが判り部屋を後にした。

 

そして対面しタツミは

 

「寝ている姿勢で悪いな・・・」

 

「いや・・・」

 

「ナジェンダ・・・本部で何かあったか?」

 

「よく判ったな・・・」

 

「あんたとももう短くない付き合いだからな・・・、ナイトレイドを処分しろとでも命令して来たか?」

 

「・・・!?・・・はっきりとそう言われた訳じゃない・・・ただ、革命軍本部はナイトレイドの生き残り全員に勲章や報酬を与えたいから来るように・・・タツミ、あんたもだ」

 

「俺もか・・・流石に派手に動き過ぎたか、ブドーと闘った時に面晒してるからな革命軍にも俺(の力が)ばれたか・・・しまったな・・・」

 

「ああ・・・以前ならタツミの存在は本部も気にしてもいなかったが、ブドー相手にあそこまでしたらな・・・」

 

「それで・・・ナジェンダ、あんたはのこのこ俺達を引き連れて行く気か?」

 

「・・・、我々は革命軍だ・・・騙し討ちなんてするものか・・・」

 

「なぁボス・・・俺は最初っから人間の組織は信用しちゃいねぇ。仲間裏切るなんざ朝飯前だからな」

 

「タツミ・・・」

 

「あんたも危惧している通り、罠だな・・・」

 

「・・・!?・・・何故そう思う?」

 

「帝国の圧政から民を救うで立ちあがった正義の革命軍だ・・・それがデマでも帝都を震え上がらせた殺し屋集団が実は革命軍の手先だと公になったらどうする?」

 

「・・・・・・・・」

ナジェンダもそれに対し考えない訳でも無かった・・・

 

「それで、報酬名声目当てでのこのこ行ってみろ、表向きは歓迎してくれるだろうが、毒殺されるのがオチだろうな」

 

「馬鹿な!・・・くっ」

そういうのとは裏腹にナジェンダも思い当たる節がある。

 

「だからここは俺達は辞退してあんただけ行けば良い・・・本部もあんたは利用価値があるだろうし、顔も多くに知れているから殺す真似はしないだろう・・・もしナイトレイドが暗殺を依頼されたのを手札に革命軍のお偉方を脅迫してくる可能性も考えているんだろ?だから今回のはその踏み絵だな」

 

「折角生き残って・・・あいつらも大手を振って歩けると思っていたのに・・・私

は・・・」

 

「殺し屋が曲がりなりにも五体満足で生き延びただけ、良いんじゃないのか?・・・俺も逆の立場なら強大な力を持っている相手が邪魔になるだろうな・・・」

 

「・・・、判った」

 

「そうだ・・・ランやエスデスの処遇はどうなった?」

 

「ランの身柄は私が後見人になった・・・安心してくれ、エスデスは本部も所在がつかめていないがそれ程気にはしていない・・・それよりも皇帝やブドーの処刑方法について議論していたな・・・」

 

「なんだと!?・・・ぐっ」

驚き身を起こすタツミに

 

「タツミ、無理をするな!」

 

「何のために俺が皇帝を生かしたと思ってんだ・・・それにブドーは無期懲役にでもしとけ・・・その方が良い・・・」

 

「どういう事だタツミ?いくら皇帝もブドーもあのオネスト程では無いにしろ・・・」

 

「それを今から言う・・・」

 

タツミはそれを語り、これからの国の運用の助言を行った。

 

「成程な・・・そうだタツミ、言いそびれていたがウェイブとクロメの所在は知らないか?」

 

「いや知らないが・・・まさか?」

 

「ああ・・・ウェイブはともかくクロメを連れて来いと言われている・・・生死は問わない」

 

「クロメか・・・もしそうならウェイブは黙っていないな」

 

「話はアカメから聞いている・・・もうクロメは闘う気は無いようだな」

 

「例えそうでも今までしてきた事は変えられないだろ?・・・それに以前のアカメに殺された革命軍であいつに恨みを持つ奴がまだ居て殺したがっているかもしれないぞ・・・今までは共通の敵が居て利害が一致していたから我慢してたとかな」

 

「くっ・・・革命が成功すれば全て丸く収まると思っていた・・・私が甘かった」

 

「じゃあとにかく、これからする事は・・・ん?」

 

 



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招かざる客

「どうしたタツミ?」

 

「どうも玄関先に招かざる客が居ないか・・・?結構腕が立ちそうだな、まさか革命軍の刺客か」

 

「そんなまさか・・・とにかく私が行こう」

 

部屋を出、階下の玄関先には・・・

 

「エスデス・・・」

 

 

 

「くっくっく・・・、例え国が許そうとこの私は許さんぞ、私のタツミを出せ、さもなくば皆殺しにするぞ!」

 

外にいて異変を察知したアカメはエスデスの背後に居る。

 

タツミを除く他のメンバーも集結している。

 

「ナジェンダ共、ナイトレイド!・・・、覚悟しろ」

 

ナジェンダは舌打ちをした『こんな時にエスデスが来るとは…タツミは満足に動けない…アカメも、それに皆まだ完全に傷が治った訳では無い・・・』

 

 

「・・・おのれナジェンダ…その目と腕はタツミに治して貰ったのか・・・益々持って許せん・・・ふふふ、今まで判らなかった答えがやっと解けたぞ、お前達が私のタツミをたぶらかしていたのだな・・・おのれ・・・私のタツミを洗脳し・・・そして、そして・・・年寄りの雌好きに変えてしまったのだな!!」

 

 

「「「「!?」」」」

 

その時、この場に居た者の心が一つになった・・・但しエスデスは除く。

 

「そうでなければタツミがいつまでもナジェンダの元に居る説明がつかん!だから私に気が有るような無いような素振りを・・・、だがタツミ安心してくれ。直ぐにそのような洗脳は私が三日三晩掛けて解いてやるからな!」

 

「・・・エスデス、誰が年寄りだ、誰がだ!私を年寄り扱いするならお前だってそれ程人の事言えんだろ!!」

 

ナジェンダは怒気を荒げ、猛然と抗議した。

 

「ふん、ハエが五月蠅いな・・・さぁタツミを出せ!隠すと皆殺しにするぞ、くくく」

 

エスデスは辺りに無数の氷を纏わせ、いつでもそこから幾多の刃のように尖ったそれをぶつけるつもりだった。

 

 

『くっ・・・、帝具も無くこの状態ではまだ満足に動けない、やられる・・・』

アカメは焦燥感に駆られ、覚悟を決めた。

他の皆も同じで満足に戦えるのはスサノオ、レオーネぐらいであった。

 

『不味い・・・闘えないメンバーを守りながらエスデスとの戦闘はきつい・・・く

っ・・・ここまで来たのに・・・』

 

『本当不味いね・・・帝具が使えないならともかく、エスデスの奴いつの間に・・

・こんな事なら博打のツケ気前よく払っとけば良かった』

 

ナジェンダもレオーネも何とか死中に活を見出せないか模索していた。

 

 

 

そして当然ながらエスデスは背後のアカメの存在にも気付いていた。

 

 

 

「止めろ!!」

 

タツミが両手に松葉杖を付きながら階段を降りて来た。

 

 

 

「タツミ!?」

 

エスデスは彼を呼び、

 

「今助けるからな♪・・・さぁ退け、ナイトレイド共!」

 

タツミもそれに対しうんざりしながら

「ああ・・・俺も助けて欲しい、現在進行形で誰かさんからな・・・」

 

「ああ勿論だ!ナジェンダ共殺されたく無ければ道を開けろ・・・最もこのまま殺されたいのなら話は別だがな・・・良い機会だ・・・部下達の件もある、それにタツミを今まで洗脳し良いように利用していた罪も含め、ここで清算してくれる」

 

 

「何を馬鹿な・・・だがエスデス、貴様何故ここの場所が判った・・・まさかタツミが手引きしたのか!」

 

ラバックも帝具の糸を使い過ぎたのもあり、アジト周辺に張る程の結界は残っていなかった。

 

 

他のメンバーからもタツミへの疑惑の目が向けられたが・・・、

タツミもナジェンダの問いに無言だった・・・弁解しても無意味の可能性と自分がここに居る事で結果としてエスデスを招いた事実には変わりなかったからだ。

 

 

 

「ふっ・・・馬鹿が、タツミは貴様ら如きでも最低限の筋は通す男だ。だから私が自らの五感、第六感を駆使し居場所を見つけた、私に掛かれば最早造作も無い!」

 

「・・・キモイね」

チェルシーはぼそりと呟いた。

 

ナジェンダも

『ん?・・・私がタツミを洗脳してたのならお前に益する事を言う訳無いだろ・・・都合のいい頭な女だな』

 

刹那、皆が沈黙した瞬間

 

「エスデスここは一旦、退け!!」

 

タツミは一喝し、皆が彼に注視した。

 

「なっ・・・タツミ・・・何故だ・・・私が今までどれだけ一人寝を耐え忍んで来たか判らないのか!?・・・代わりにタツミの画を書き、人形を造り・・・」

 

 

『・・・キモイね・・・でも判る自分もなんだかな~』

チェルシーが同族嫌悪していた所、

 

「あんたやっぱり馬鹿なの!!」

マインも吠えた。

 

「私とタツミの会話に入って来るな、下衆の醜女が!」

 

タツミは軽い頭痛を覚えながら

「ああ・・・エスデスお前の言う通りだ・・・だがナジェンダの洗脳から俺は半分ぐらいは解けかかっている、だからあと一月以内にエスデスお前を迎えに行く!」

 

それを聞いた一部の人達は・・・

 

「はっ?・・・・・はああああああ!?あんたとうとう頭おかしくなったわね」

 

「タツミ・・・葬る・・・」

 

「ふ、ふ~~~ん、タ、タツミも冗談が上手いね~私達を守ろうと思って、わ、わざと嘘ついただよね、うんうん勿論私は判ってるよ・・・」

 

3人娘がそれぞれ非難する中、

レオーネは静かにタツミを睨んでいた・・・タツミは内心冷や汗をかいたが彼の話を聞いて安心したエスデスは、

 

「ふっ・・・負け犬の遠吠えが心地良いな、良いだろう・・・私はひじょーに我慢強い。夫を困らせぬのも良き妻の務めだからな・・・それまで私達の愛の巣で待っているからなタツミ♪・・・だが余り焦らすなよ、ではな」

そう言って彼に投げキスをして去っていく。

 

『良いのか、それで!!・・・洗脳されている奴が自分で洗脳されていると言うのもありといえばありだが、無いといえば無いだろう!まぁそれで納得するならそれでも良いが・・・』とナジェンダは心の中でつっこんだ。

 

 

アカメは何もせず、エスデスを通した・・・が、

「タツミ葬るタツミ葬るタツミ葬るタツミ葬るタツミ葬る・・・・」と、何やらぶつぶつ呟いている。

 

「ねぇタツミ?さっきあいつが言ってた、「愛の巣」ってどういう意味?アタシイミワカンナーイ・・・」

マインはにっこり笑って聞いていた・・・

 

とりあえずナジェンダは危機が去ったと実感した・・・タツミへの新たなる危機はほっておく事にして、

 

「とりあえず・・・次の居住地を探すか或いは、これも良い機会だ。皆好きな所に行くでも良い・・・、・・・ん?」

 

 

「うね~~んタツミ?オ・ネ・エ・サ・ン怒らないから・・・どういう意味だったのか詳しく教えて欲しいんだけど・・・」

レオーネはタツミの肩を抱き、松葉杖を抑えて聞いてくる。

 

マインもチェルシーも笑みを浮かべながら近づいてくる。

アカメも先ほどの言葉を言いながらゆっくり黒髪長髪垂らしながら迫ってきた・・・。

 

その日は夜には怪談がよく似合う暑さだった。

 

 

その後1週間程、タツミはナジェンダ除く女性陣とまともに会話が出来なかった。

 

その間、某日ラバックはタツミに今までで一番慈愛に満ちた表情で「墓穴掘ったなタツミ」と彼の苦労を皮肉・・・ねぎらった。

 

そして「ん?・・・タツミの奴、そろそろ元気になったか?二人とも血気盛んだな」

 

通りかかったナジェンダは彼が松葉杖を器用に使いこなしがらラバックと喧嘩しているのを見かけた。

 

 

 

 

 



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もう戻らない西陽の当たる二人の部屋で

 

 

 

 

 

帝国の街では戦後の傷跡が当然ながら残り、それの建て直しを行う革命軍や町の人、その中にはセリューやボルス、彼の妻娘も炊き出し等の手伝いを行っていた。

 

ある山小屋を仮の住まいにしているウェイブとクロメ。

 

体が余り満足に動かずベッドで休むクロメに、ウェイブは粥を食べさせていた。

「旨いか、クロメ?出汁に煮干しと昆布醤油を少量使ってみたんだ」

 

「うん♪美味しいよ!・・・でもウェイブそんなに料理上手かったっけ?」

 

「前にボルスさんに教えて貰ったんだ・・・あの人生きてたらなぁ・・・」

 

 

「・・・あたしも直接ボルスさんが死んだ所見てないよ?」

 

「ああ、まぁとにかくお前が元気になる事が先決だ、もっと食えよ」

 

「・・・いらない」

 

「なんでだよ?」

 

「別の方法で食べさせて♪」

 

「別の方法?」

 

そう言ってクロメは目を閉じ口を付きだす。

 

「ん」

 

「ん?」

 

「・・・んーん!」

 

「???」

 

 

「ウェイブ・・・ちゅーう!」

 

やっと判ったウェイブは「ばっ…お前!」

 

「もう・・・誰も居ないんだし良いじゃない、はぁ~あウェイブは肝心な時に・・・」

 

「なんだよ?俺は別に・・・ってそんな睨むなよ!」

 

「ウェイブ・・・」

 

「・・・ん?あ・・・誰か居るな・・・」

 

「うん・・・」

 

「クロメ、お前はここに居ろ!」

そう言って帝具である刃型のグランシャリオを握り、戸に手を掛け次の瞬間思いきり開け放つ!

そこには不敵な笑みを浮かべからかい半分の表情のタツミが立ち

「悪いな、邪魔して」

 

ウェイブはほっとし「タツミ・・・なんだお前は無事だったのかよ・・・俺はてっきり刺客でも来たかと思ったぜ」

 

「・・・実は俺がその刺客だと言ったらどうする?」

 

クロメはタツミを警戒し体が動かなくても何か出来ないか思案する。

 

「お前が刺客だぁ?馬鹿だなぁ、タツミ(?)も休み休み・・・、話に聞いたがま

さか皇帝の帝具ぶっ倒したのはお前か・・・?」

 

タツミは無言で何も言わず、それが却って彼には肯定と受け止めた。

 

「そうだ・・・お前に会ったら一つ確かめたい事が有った・・・クロメも言ってたがお前・・・革命軍に内通してたな、どうなんだ!?」

 

これもまたタツミは無言のままで、やはり肯定と受け取られた。

 

 

「やっぱり・・・てめぇ初めっから俺たちの事騙してやがったんだな!」

 

ウェイブは激昂しタツミの胸倉を掴む。

 

「待ってウェイブ!・・・あたしもタツミに聞きたい事が有る・・・」

 

ウェイブは手を離し、タツミも視線をクロメに移して次の言葉を促す。

 

「タツミは・・・初めて会った時にエスデス隊長を倒してたって本当?」

 

「・・・ああ」

 

あれはやはり見間違いじゃ無かったのか?とウェイブは戦慄した。

 

「た、隊長が油断して、もしくはわざとやられたんじゃなかったのか?」

 

「ウェイブ・・・あの隊長がわざとやられたふりだとか・・・性格上考えにくいよ」

 

「隊長よりも強いタツミが・・・どうして、部下になったりあたし達と行動を共にしたの?」

 

「俺は全ての帝具を壊す目的があってこの国へ来た・・・グランシャリオも渡して貰うぞ、ウェイブ」

 

「な・・・どういう事だ一体!」

 

「やっぱり・・・、ウェイブ、あたしも疑問が確信に変わったよ、タツミが八房を使えなくしたんだ・・・」

 

「タツミお前本当なのか!?」

 

「ああ・・・」

 

なんでそんな事した・・・と怒りそうになったウェイブだが・・・八房の帝具としての能力は死者を操り人形にする・・・その命への冒涜に言う事も出来なかった。

 

「以前ならあたしもタツミを殺したいくらい憎んだろうけど・・・最後にナタラに会えたし・・・もうその事は良いよ・・・」

 

「物判りが良くなったなクロメ・・・」

タツミが感心するもクロメは一つの疑問がわいた。

 

「でも、なんで今まで使え無かったのに最後の最後でナタラが・・・」

 

タツミには理由が思い当たる節が有ったが・・・だが敢えて何も言わなかった。

 

 

 

「・・・それでタツミ?ウェイブの帝具だけ取りに来たの?」

 

「お前の八房はもう壊れたのはアカメからも聞いている・・・」

 

「・・・!?そう・・・お姉ちゃんも生きてるの・・・」

 

俺を呪い殺しかねないくらいだがな・・・と小声で呟くタツミに

 

「え?なに?」

 

「いや独り言だ・・・」

 

そこでウェイブが

「・・・ん?まさかタツミ、クロメに気を使ってアカメが生きてるって伝えに来たのか?」

 

「・・・俺がそんな事の為だけにここまで来る訳ないだろ!」

 

『ふふふ、否定はしないんだ』とクロメは少しだけ微笑んだ。

 

「あ・・・あの時、ボルスさんがいて・・・お姉ちゃん達と一緒に闘った時に助けに来たのはタツミ?」

 

「ん?それが本当ならなんでお前そんな事したんだ?」

 

タツミも面倒臭げに

「そんな事はどうでも良い・・・、良い話を伝える代わりにとっととグランシャリオを寄越してくれ」

 

「お前、全ての帝具壊すなんて言ってるが、本当は全部の帝具使って自分が国を乗っ取りたくてんな事言ってるんじゃないだろうな!?」

 

「クロメ、お前よくこんな頭ん中海産物しか詰まって無い奴と一緒にいるな?」

タツミが毒舌を吐く中、

 

「え?・・・え~と・・・」

 

「クロメ、お前なんでそこ否定しねぇんだよ!それとお前、海産物に謝れ!」

 

「ウェイブ・・・お前みたいな下等な奴に判るように言ってやる!」

タツミも甘く見られたと思った為、イライラしていた。

 

「誰が下等だ!・・・お前、なんだか隊長とちょっと口調が似てきたな・・・ああ、そうか夫婦は似るって言うもんな・・・くくく」

 

「なっ!?」

 

・・・・・・・・・・・・・タツミは精神に深刻なダメージを受けた。

 

「と、とにかく帝具はこの世界の自然か生物を元にして造ってるだろ?」

 

「それがどうした?」

 

「俺は帝具を形成する核となる成分を取り出し、それを使ってこの世界の自然律を

元の状態に戻すのに使う・・・本来、今の生体系もこの帝具も有ってはならない・・・いやありえる訳無い物なんだ・・・」

 

「お前・・・」

 

一瞬重い沈黙が訪れ・・・

 

「何言ってんだお前?」

 

「あたしも今一つ何言っているのか・・・」

 

『はぁ~~~だから、話したくなかったんだ・・・』と心で愚痴り、

「この世界しか知らないお前らには…これが普通だもんな、無理も無いか・・・」

 

「お前・・・何言っているか良く判らねぇが・・・病院行って来いよ」

 

「うるせぇよ!とにかく、さっさと帝具寄越せ!」

 

「ちょっと待てよ、良い話はなんだよ、まさか今のか?」

 

「・・・いや・・・すっごい良い話だ、革命軍がクロメを始末しようと狙ってるぞ」

 

 

 

ウェイブは一瞬頭が真っ白になり、

 

 

「・・・な?・・・おい、ちょっと待てよ!戦争は終わったんだ・・・何で今更クロメが・・・?」

 

「元々、クロメは革命軍とナイトレイドの標的だった、戦争が終わって、はいめでたし、帝国軍の暗殺部隊もお咎めなしとはそう簡単にいかねぇ・・・そいつらだって戦闘中に殺されたか或いは数人捕縛されたとは聞いてるぞ」

 

「クロメ!?」

 

彼女は黙って俯き、無言で先を促す。

 

「ウェイブ、お前は特に探されるような事になってねぇ・・・お前国の為に・・・人の為になる事したいんだったらそのまま復職出来るぞ?」

 

「何言ってやがる!クロメを置いて行けるかよ?大体俺が復職したらどうなる?クロメの居場所を吐かされるだろ!」

 

「・・・だろうな、お前とクロメの繋がりは何人かに目撃されているからな」

 

怒りを込めて地面を叩くウェイブ!

「ちっ、どうすりゃいいんだ!!」

 

ウェイブの脳裏には恩人の言葉が掠めているだろう事はクロメにも判っていた・・・国の為になる事をしてくれればいいという・・・。

 

「ウェイブ・・・あたしは大丈夫!一人で何とかするから・・・それに、革命軍じゃ無くたって帝国軍が勝っててもどの道あたしは処分の対象になってたよ・・・」

 

「満足に動けないからかよ・・・タツミ、革命軍は帝国軍よりはマシな軍じゃ無かったのかよ!?」

 

「帝国軍よりはマシだろ・・・だがクロメが恨まれているのは事実だ・・・」

 

クロメは俯きに何も言えず、タツミがそれを代弁した。

 

「クロメが始末した奴らの中にはお前らのような恋人の片割れを殺した事もあるだろうよ・・・まぁ国の為なら仕方ないと割り切って洗脳されてたかもしれないが・・・それでもやった事には変わりない」

 

「・・・・・・、タツミは何が言いてぇんだ?クロメを黙って見殺しにしろって言いてぇのか!?・・・こいつは変わったんだ、帝国のふざけた洗脳だって解けかかってんだ・・・確かにこいつは罪のない人間も殺しただろうが、それでも俺は・・・」

 

 

 

 

しばらく重い沈黙が続いたが、・・・初めにタツミが口を開いた。

 

「クロメが取れる選択は俺が考えるに一つだな・・・、出頭して裁判を申し立ててその上で刑に服せば・・・遺族達も納得するだろう・・・最も極刑の可能性は高いがな」

 

「いや・・・もう一つある、俺がクロメを連れて別の国まで逃げる事だ・・・」

 

「ウェイブ!?そんなことしたらウェイブまで追われちゃう」

 

「うるせーよ!俺は母ちゃんから困っている女が居たら助けるように言われてんだ!」

 

「え?前にお母さんは「都会の女の子には気を付けろ」とか言われたって?ふふふ・・・それ初めて聞いたけど?」

 

「ど、どうでもいいだろそんな事!」

 

 

クロメとウェイブが騒いでいる横でタツミも考えていた・・・そして、

 

「おい・・・お前ら俺がこのまま黙って見逃すと思っているのか・・・?」

 

ゾワッ・・・・・

 

その瞬間、その場を強大な殺気が支配した。

 

クロメも息を飲み、ウェイブも戦慄した・・・

 

『こいつ・・・これが本当の・・・こいつが本当のタツミ・・・』

 

『確かに・・・これならお姉ちゃんや隊長も敵わない・・・』

 

 

 

 

 

後日タツミはナジェンダの部屋へ行き、

 

「タツミか?どうした?」

 

彼はナジェンダに折れた八房を渡す・・・それには血が付いていた・・・。

 

「タツミ・・・これは!?」

それを渡された彼女もこれがクロメの帝具だと把握しており、タツミを見返す・・・その表情を見て

「判った・・・成程な、これで本部へ話せる・・・」

 

そしてタツミはグランシャリオを叩き折った・・・。



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ナジェンダの憂鬱

 

カッカッカ・・・・

 

ランは地下にある元帝国軍の兵士が捕らえられている牢屋の内のその一角、光がほとんど差さない懲罰房に足を運んだ。

 

その重い黒の金属の扉に小さい開閉式の窓が有りそこを開け中の人間の様子を覗く。

 

「ご気分は如何ですか、ドM女帝スズカさん?」

 

ランは中のその人に話しかける。

 

「まぁまぁかな・・・拷問係は誰?タッ君じゃないの?」

 

常人なら何日も真っ暗な場所へ入られれば気分が滅入り悪ければ発狂もするが、スズカも少々体力が落ちているなと思うも、精神的には余り堪えてないとランはその時は判断した。

 

「たっくん?・・・ああ、彼の事ですか?残念ながらあれから彼は姿を現してはいないですよ」

 

「もぉ、話が違うじゃない!?最高の痛みをくれるって言うからタツミの言う事聞いたのに!彼を連れて来てよ!」

 

スズカが身を乗り出し、彼女の手が小さい窓に掛かるのを見た時一瞬ランは驚いたが平静を努めた。

 

「はぁ・・・スズカさん、少しは自分の立場を考えて下さい、元々貴女がた羅刹四鬼は先の大臣のお抱え暗殺者…だったんですから、私はナジェンダやタツミ君が背後にいるんでお咎め無しになりましたが、貴女はそうはいきません」

 

「そんな事は良いから、はーやーくぅー!!」

 

「他の羅刹の方々にも革命軍の追手が掛かっていると聞いてます・・・」

 

「・・・・・・」

 

「余り驚かないようですね」

 

「まぁね・・・私だって今まで何して来たかの自覚は多少あるし、それにあいつらとだってそんなに仲が良かった訳じゃないからねー・・・」

 

「・・・とにかく、判りました。タツミ君と連絡を取ってみましょう。それまで耐えて下さい」

 

「耐える?私は全然へーきだよ?」

 

それを聞いてランはその場を後にしたが・・・『あんな事言っているが、彼女の爪は剥がれていた・・・恐らく自分でやって痛みで多少なりとも自我を保とうと強がっている・・・あのまま何も無い暗い部屋で話もせず、置いておけば、やがては・・・話好きな彼女がいつまでも耐えれるものではないな・・・』

 

革命軍の間でも捕虜を拷問に掛けるか…或いは見せしめに行うか、それとも何もせず処刑するか、拷問と合わせた公開処刑を行うかもめていた・・・。

 

ナジェンダは革命軍会議に参加し、先のクロメの八房を提出した。

それを見た幹部達やコウカツは・・・

 

「ナジェンダ将軍・・・これは例の帝具の・・・かね?」

 

「はい、部下のタツミがクロメの居場所を突き止め始末してきました・・・。それが証拠です」

 

袋から取り出され、半分に折れた八房は刃こぼれや血糊が付いている。

 

「・・・何故クロメの首なり遺体を持ちかえらなかったのかね?」

 

「クロメは・・・思った以上に手強くバラバラにしなれけば殺せなかったとの事でした・・・」

 

コウカツもそれを聞き、いぶかしむがどちらにせよクロメは無力化したのだろうと、仮に万に一つ虚言であったとしても、彼女に対し恨みを持つ部下達へ溜飲を下げる材料にはなり、この件はこれでいいかげん終わらせたいのも有りナジェンダの言う事を聞き入れた。

 

「ナジェンダ将軍、この件は了承した。ご苦労だったな」

 

「いえ・・・」

 

「それで礼もしたいのだが、前に触れたナイトレイドの皆はどうした?」

 

「彼らは・・・あくまで自分達は闇の人間、革命にその身を捧げたものの標的の遺族から多くの恨みも買っているでしょうから、地位も名誉も入らぬと・・・、革命軍の新しい新政府の足は引っ張りたくない・・・そして早晩この国を離れ辺境の地で余生を過ごすと言っております・・・」

 

一同からどよめきが起き、感嘆する者もいれば苦虫を潰すものや・・・コウカツは一瞬目を光らせるが直ぐに平常を装った。

 

だがナジェンダはそれを見逃さなかった。

 

「そうか・・・地位も名誉もいらないか・・・殊勝な事だな、ならばせめてそれ相応の報酬を渡そう・・・餞別だ、彼らに渡してくれ」

 

「はい、有難う御座います!」

ナジェンダは深々と頭を下げたが顔には冷や汗が流れていた・・・ああ、タツミの言う通り、のこのこ皆で来ていたら今度は自分達が暗殺されていた可能性があると・・・コウカツ・・・良くも悪くも流石革命軍のトップにだけはあるなと。

 

「ではナジェンダ将軍の件はこれで終わりだ・・・次は最重要事項の一つ皇帝の処分だが・・・」

 

「コウカツ殿!」

 

「なんだね将軍?」

 

「ナジェンダさん、少しは控えられたらどうか?」

他の将軍が窘めるのに対し、

 

「いや構わない、皇帝の処分で何か妙案でもあるのかね?」

 

「はい・・・」ナジェンダは胃が痛くなったが言葉を繋げた「僭越ながら、皇帝は生かされた方が宜しいと・・・」

 

 

今度は皆が非難の声を上げた!

何を言っている?ナジェンダ将軍はまさか帝国軍のスパイか!?気でも狂われたか!?、と。

 

コウカツは彼女をギロリと睨みつけた後

「皆静かに・・・ナジェンダ君何故か、理由を聞こうではないか・・・」

 

『タツミ・・・恨むぞ・・・』ナジェンダは心の中で愚痴をこぼし、彼に聞いた話を思い出してた・・・皇帝を生かした理由を。

 

 

 

 

 

 

「タツミ、どういう事だ!?皇帝を生かすだと?・・・タツミは奴を生かしたのは皆の前で公開処刑に掛けて、旧体制は終わったと皆に知らしめる為では無かったの

か!?」

ナジェンダも皇帝を生かすのに反対だった。

 

「・・・この国の皇帝は千年は続いているんだろ?」

 

「それがどうしたというんだ?」

 

「どう軽く見積もったって、50代以上は続いている家系だろう?その実績はこれからこの国が世界の国々と渡り合っていく事を考えたら外交面で幾らかプラスになる。それをお前たちの代で終わらせてみろ・・・俺が別の国のトップならひよっこ新政府と侮るか・・・どうせまた権力争いで別の政府が台頭するな・・・と考えるだろうな」

 

「むっ・・・タツミの言う事にも一理あるが、皇帝を恨んでいる民や民族も居る・・・それに対する配慮はどうすればいい・・・、・・・そうかあのオネストに全てその罪を被せるのか?」

 

「死人に口無しだからな・・・オネストが色々企んで、それにカライの奴は大体それに従っていたのは知っている。思考停止責任と言う意味では皇帝カライにも罪はあるが…この際、目を瞑った方が何かとおたくらにとって都合が良いと、後々の事を考えたら俺は思うがな」

 

「だがタツミ・・・それだけで済むと思うか?」

 

「・・・皇帝をシンボリックな存在にしてしまえば良い・・・政治に一切介入しない・・・まぁこの国の象徴、国民の代表者のような、な・・・」

 

「しかしそうは言っても・・・」

 

「それに・・・ナジェンダ、元々誰かを頂点にした政府が千年も持つなんて歴史上でも中々無い事だぞ。あんたら革命軍が千年も腐敗せず体制を維持できるかな?」

 

「そ、それは・・・先の事は・・・」

 

「じゃあ千年後か知らんがまた革命を起こすような腐敗の因子を残しておくのか?」

 

「むっ・・・」

 

「・・・絶対の体制なんか無いがある程度はその因子は摘んでおきたい。だから皇帝を生かしておけ・・・それと、独裁はその者が良い政治家なら一番良いが悪い時は最悪だ・・・だからある程度入れ札で誰でも政治の頂点に立てる制度も取り入れて欲しい・・・最もそれも謀略やプロパカンダもあるから真に良い奴が選ばれるとは限らないが、それでも暴走の幾らかの歯止めになるだろう・・・」

 

「タツミ・・・言いたい事は判った・・・仮に政治の長を入れ札制に出来たとして、そいつが自分が失脚しないように制度を変えたり独裁しだしたらどうする・・・」

 

「一かバチかだが・・・政治に介入させていない皇帝を歯止め役にする!」

 

「そうか、二重権力構造か!?」

 

「表向きは皇帝には政治に介入出来ないで良い・・・だが千年以上も続く家系に、そこに神聖や信頼を置く民衆も出てくるだろう・・・その彼らの支持が場合によっては無視出来なくなる筈だ・・・政治に介入せずとも政治の一番傍に居る人物が何を思うか、これは本当に賭けだが醜い権力闘争に嫌気がさして良心的な事を言って諫めてくれる可能性に掛ける・・・とりあえず俺が思いつくのはこれくらいだ、細かい所はナジェンダが決めるなり、もっと良い案があるならあんたに任せる・・・」

 

ナジェンダは驚嘆し

「タツミ・・・貴方はそこまで考えて皇帝を生かそうと、この国の未来も考えて・・・」

 

・・・と、その話を聞いた時はナジェンダも心躍ったが・・・現実はそう甘くは無

い。

 

 

タツミとの話の概要を語り終えたナジェンダに、そんなのはただ推測だ!民の中から政治の長を決める?馬鹿馬鹿しい!皇帝を生かすのは愚の骨頂だと非難が起き、中には千年後の事まで考えられるか!?という暴言も出た。

 

 

そしてコウカツは

「ナジェンダ将軍・・・中々面白い考えだが・・・、君一人の考えかね?」

 

「いえ・・・部下のタツミの発案です」

 

「君もそれに賛成しているのか?」

 

「はい・・・概ねは・・・」

 

他の幹部達も黙考する者やタツミに助けられた幹部も居る為、判断に悩む者達も出てきた。

 

そして・・・ナジェンダが今まで一番頭を悩ませる煙草の本数がいつもの10倍になる事案を言わねばならない時が来た・・・対エスデス戦や宮殿突入時よりも頭の痛

い・・・革命の功労者のタツミが彼女にとって最も疫病神になる話を・・・

 

 

 

 

一同それを聞いた時は・・・皇帝を助命云々より更に非難が挙がった・・・内心はどうであれ今まで大人な対応をしたコウカツも激昂した。

 

 

「ナジェンダ、貴様は大馬鹿者だ!!」

 

流石の彼女もその迫力に震え上がった・・・。

 

だが・・・その様子に思わず娘を叱った父親の気分となったコウカツも何とか平静を取り戻し、ナジェンダの次の言葉を促した。

 

「・・・はい・・・、部下のタツミが言うには、帝具は元々…人げ…いえ、必要以上の強大な武器は自らの身を滅ぼすと・・・全ての帝具を壊すべくこの国に来たと言っています・・・ここに居る皆が苦労して手に入れた帝具を手離すのは・・・心痛察しますが・・・どうか革命の一端を担った彼の我儘に付き合って頂きたいと・・・」

 

タツミ恨むぞ!! ナジェンダは頭を下げ脂汗をかきながら心の中で叫んだ。

 

 

「はぁ~・・・」コウカツは軽い頭痛を覚えながら「タツミはこの国の人間では無かったのか・・・ならば、壊すという虚言を用い帝具を国へ持って帰り、我が国を攻めに来る・・・という事は無いのかね?」

 

 

「それは有り得ません!私も立ちあいの元、帝具の破壊を見届けます・・・」

 

そこに別の幹部が

「コウカツ様、私も立ちあいましょう。・・・彼にはブドーとの一戦で借りがあります。先の話も夢物語りのような妄想とはいえ中々面白いではないですか?」

 

他の者たちもタツミがシコウテイザ―を単騎で抑えた事も知っている・・・そんな人間を敵に回したくない。・・・無論それはナジェンダを余り困らせるとタツミがどう出るか・・・十分警戒の材料にもなった。

 

 

「・・・ですので、もし帝具を隠しだてしないようお願いします・・・もし、隠した場合・・・私もタツミを説得できる保証はありませんので・・・」

 

そう言っておずおずとナジェンダは皆の顔色を伺ったが誰も異論を唱える者はいなかった・・・、

タツミは今まで闇に動いていた・・・彼の実力を考えれば場合によってはブドーを闇討ちしたり皇帝を帝具を使わせる前に生け捕りも可能だったのではないか?だがそれでは革命後自分の意見が通らない可能性を考えた、だからあのように派手に動いて見せたのか・・・?口では大勢の前で顔を晒して不味いと言っておきながらと・・・ナジェンダはそう考えた。

 

 

数週間後、結果としてタツミの意見は概ね通り、皇帝は処刑は免れ以後政務は一切行わずシンボリックの存在として、民衆には逆賊オネストによって操られたと広められた。そして捕虜の処分はその罪の度合いで公開せずの処刑されたものや懲役で済む者と分かれた・・・公開処刑の取りやめはタツミが民衆にこれ以上血に慣れさせたくないという理由だった、下手に慣れればそれが殺傷に慣れ、その類の犯罪率が上げるきっかけに繋がりかねないという考えだった・・・。

 

ブドーの処分は・・・、議論は平行線を辿ったが結果として終身刑となった。

最後にシコウテイザ―の被害を抑えるのに尽力した事と彼を崇拝する者達の数と実力を考えると新政府の味方寄りにするのは利になると判断した為であった…それを告げる役をナジェンダは担った。

 

「そうか・・・陛下は生かされたのか・・・生きていて下さればそれで良い・・・私もこれで今まで続いてきた我が一族の先代方へ顔向けが出来る」

 

牢屋の中のブドーは佇みながら満足そうに答えた。

 

「そしてブドー、貴方の処分が決まった・・・」

 

「・・・そうか、私も生かされるのか・・・くくく、終身刑ではもう二度と陛下一族にお仕え出来ないな・・・それでは私は死人も同じだ・・・」

自嘲気味答えた彼に

 

「いや・・・貴方の部下で比較的罪の軽い者は貴方の命を救う条件にこの国を支える約束をしてくれた・・・それは間接的でも皇帝を支えることにもなる」

 

「もう二度と外の世界出られんのなら・・・最後に私の願いを聞いてくれんか?」

 

 

 

一方、羅刹四鬼は虚六の教祖とランの嘆願やタツミの圧力も少々あり、大臣の命令による暗殺等の罪状の全てを告げる事と帝国に二度と足を踏み入れない条件で見逃された。甘い処分の理由は諸々の大臣の罪状を民衆に伝える事で新政府の正当性を高めるのに役立つからだった。

 

帝国地下牢屋へと向かう一つの影。

 

懲罰房の中に居るスズカは気配に気付き、外を伺う。

 

「スズカさん・・・まだ生きていたんですか?しぶとい人ですね・・・」

 

「ランさん・・・ねぇ、好い加減トイレも代えてよ、自分自身の臭いで窒息しそうなんですけど・・・ははは」

この懲罰房のそれは水洗では無い。

 

「この程度の仕打ちで済んだだけまだマシだと思って下さい・・・貴方がた暗殺者風情が・・・」

 

「あたし達別にそればっかりじゃなくて、護衛だけの時もあっただけど・・・」

 

「言い訳は聞きたくないで無いですね、スズカさん貴女も情状で帝国からの追放だけで済ませようと思っていましたが…罰として一生私の元で奴隷同然にタダ働きして貰います」

 

「え?・・・タッ君は?」

 

「彼はスズカさんとは面倒臭いから会いたくない・・・貴女の身柄は私に一任するとの事でした・・・いやぁ良かったですね」

 

え?何?その放置プレイと隷属プレイのバーゲンプレイ(?)は・・・と彼女は思うも「あ、あたしがそ、その程度の事で満足すると思ったら大間違いなんだからね!」

 

「そういえばエスデスさんの資料を見て知り得た拷問もありますが、これでも私は元教師ですから研究熱心なんですよね・・・エスデスさんは主に肉体への痛みでしたがその他にも精神への痛みや人間としての尊厳を傷つけるものから各種取り添えろえています・・・さてスズカさん、どのジャンルがご希望で?」

 

ああ、良い上司・・・いえご主人様になりそう、とスズカはときめいた。

 

そして・・・ランは別室に連れて行き、スズカを早速拷問(?)に掛ける事にした。

 

「はい、スズカさん口を大きく開けて下さい・・・ふふふ」

 

「え?何それ・・・そんな、そんな大きい物あたしの口には入らない・・・い、いやぁーー!」

 

「どうしたんですか?これぐらい入るでしょう・・・無理でも無理矢理入れますがね・・・」

 

「あーーーーーーん!!!」

 

ランはそう言って回転式のドリルをスズカの口の中の虫歯に当てる。

スズカはスズカで、言葉に反して喜んでいるようだが・・・

 

「あんぎゃあああああああああ!!!!」

 

歯の神経にクリティカルヒットし絶叫している。

 

「おや?どんな痛みも好きじゃ無かったですか?あ~これは根元までいってますね・・・それではガンガン削りますね」

 

も、物凄く痛いと暴れるもランは肘鉄を入れて黙らせたりと…中々荒っぽい治療(?)をしている。

 

彼女は激痛とドSな対応のランに恍惚を覚えると言うややこしい感情を抱き悶えていた。

 

その後、彼らの行為はこの国の歯科技術や外科の発展に大きく寄与したという・・・。

 

 

 

「ねぇ、あんた?」

 

「なに?」

 

ナイトレイドアジトでマインは菓子を食べ、チェルシーは自身のネイルアートに勤しみ、退屈しのぎに会話し始めた。

 

「いっつも飴舐めてるけど、よく虫歯にならないわね・・・それとも実は飴業者の回し者なの?」

 

「出来たらそういう人達の宣伝マンになって売り子するのも良いかもね・・・あたしがやったら結構売れて評判になるかも、なんたって可愛いから♪」

 

「・・・あんた今まで鏡見た事無いのね?幸せねぇ~」

 

「負け板の遠吠えは心地良い~・・・えっと虫歯?あたしも昔1回か2回だったかな?虫歯になったの」

 

「ならない方がおかしいわ!で、どうやって治したのよ」

 

「う~ん、確か自分の針で虫歯を削りとったんだったかな?」

 

「はっ?自分で?」

 

「うん、それが中々良い感じの痛さで…癖になりそうだったね・・・マインもやってみたら?」

 

「いーやーーーー!」

 

マインは悶絶し転がりながら耳をふさいだ。



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水先人

ナジェンダから事の次第を聞いたタツミは宮殿のブドーの元鍛錬場へ向かった。

 

立ち合いする人数はナジェンダ含む少数でその中には革命軍の腕に覚えのある幹部が後学の為に見たいと希望した。

 

「うむ・・・この鍛錬場もこれで見納めか・・・」

 

ブドーは感慨深げに辺りを見回した。

 

もしもの時の為に銃を用意し控える幹部がいるものの、彼はそれを気にせず・・・彼がその気になれば、そのような武装は意味の無いものだった。

 

「来たか・・・」

 

ナジェンダに連れられたタツミが入ってきた。それを認めたブドーは、

 

「よく来てくれた礼を言うぞ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

タツミは無言でブドーを見、

 

「果たし合いを望んでいる訳ではない・・・ただ、先の勝負は勝負として今度は互いに策を弄さず、陛下の事も考えず、純粋にぶつかりたい・・・女々しいと思われようが・・・そなたほどの相手にはこれから先会えそうにも無いんでな・・・この後私は生涯堀の中の生活だ。・・・せめて冥土の土産が欲しい故、許せ」

 

タツミは数ある武器が置いてある中、何も言わず近くの木剣を握った。

彼は素手でも良いと考えていたが、この方がより判り易く相手に伝わると判断したからだった。

 

ブドーもナジェンダに同じ物を促した。

 

 

タツミはだらんとそれを右手に提げ、ブドーは数メートル離れた位置で構えた。

その静かな気迫に周りに居た者達は息を飲み、ナジェンダも『これが・・・あのブドーか・・・』

木剣だけで床を割り、いともたやすく命を奪える技量が見て取れ、彼の間合いに入れば即死に繋がる事は容易に想像できた・・・。

 

だがブドーは気付いていた・・・この前に闘った時と様子が・・・いや2,3枚腕を上げたか…或いはあの時わざと力量を同等に見せたのかと疑いたくなるくらいのタ

ツミの技量を・・・。

目に前に奴がいるのに・・・居無いかのような・・・それでいて隙が有ると踏み込めば即座に斬られるような・・・何を考えているか丸でつかめない・・・。

 

タツミはそれを両手で持ち下段に構えたまま、するすると近付いてきた。他の者達には自らブドーに打たれようとしている見えたが・・・実際の彼自身は追い詰められている気分だった・・・。

ブドーは目にも止まらぬ早業で剣を振りおろせる・・・が、その起こりが心に僅かでも浮かんだ瞬間、タツミに斬られるなと判ってきた・・・、如何にブドーと言えどもするべき時に・・・あるべき時に自然に体が動く・・・その境地にまで達してはいなかった・・・。

もうブドーには勝てる要素は無かった・・・それまでの修練、日頃の心の持ちよう、柔も硬も知る相手にこれ以上向かい合っても時間の無駄だと…今更ながら自らの皇帝一族への盲信というその心の固さを彼に諫められているような気がして、ブドーは恥の感情が湧いて出・・・そして、

 

「参った・・・私の負けだ・・・有難い立ち合いだった、この恩は生涯忘れん・・・」

 

ブドーは深々と頭を下げ、タツミも一礼し何も言わず去っていた・・・ナジェンダ

は…はっきりとは判らないが、何かブドーに会得して貰いが為にタツミは来たのだろうと考え、その後ろ姿を見送った。

 

その後、ブドーは20年後恩赦で解き放ちになり、残りの人生を民と皇帝一族の為に捧げた。

 

 

 

死亡扱いになっているボルスは一段落した後、帝都から姿を消した。再び生きていると思われたら革命軍から狙われるのでその辺りの工作は、セリューから聞いたタツミの依頼でナジェンダも協力した・・・そのセリューは元同僚達の警備隊達に軽度の処分で済むよう奔走しランやタツミに掛け合ったり、タツミの斡旋で彼女は新政府下の警察官になれるようにと・・・その話はまた別となります。

 

 

タツミはこの間、壊せる帝具は全て壊しその中から賢者の石と呼ばれたもの等を取り出してシャンバラや飛行帝具を使って一気にその成分をこの世界中に撒いた・・・それは本来この空気濃度ではありえない巨体の危険種達は弱体化し、縮小・・・人間も含めた全生物の強さが本来あるべき姿に・・・弱る事を意味していた。それは徐々に反映されていく。

 

「これでやっと先達が犯した過ちを無効化出来る・・・この星の住人が混乱するのを拍車を掛けるような事して面白がりやがって・・・もうこんなおかしな帝具などという兵器は持たせる訳にいかない・・・これで本来の生物バランスになるはずだ・・・後はお前達の力次第だな・・・」

 

タツミの顔には一つの仕事をやり遂げた安堵感がにじみ出ていた。

 

そして・・・

 

ナイトレイド・・・元ナイトレイドのアジトでは、彼らは次の生活に向けて少しずつ準備をしていた。ナジェンダ除く他の者達はほとぼりが冷めるまで帝国を離れ暮らす事となった・・・その前にアカメが以前希望していた皆で世界を回ろうとなり、

 

「羨ましいなお前達・・・私は革命後の処理が色々山積みなんだ。・・・頭が痛い、こんな事なら革命なんかしなければ良かった」

 

とナジェンダのギャグに珍しく皆が笑った

 

「ナジェンダさん、俺絶対週一でこっそり来ますからね!」

 

「ああラバ、だがもう私も今までのように女癖の悪さは大目に見ないからな」

 

「ナジェンダさんそれって・・・」

 

「・・・皆まで言わせるな・・・」

ナジェンダは照れてそっぽ向き、ラバックはいぇーい、やったーと、大きく喜ぶ。

 

それを聞き、周りからヤジや黄色い声が飛び交い、

 

「・・・ラバックにとってこの時が人生の最高の日であった・・・だがしかし、その後、彼の殺した者達から命を狙われ、あのような結果になる事を・・・この時は奴はまだ知らない・・・」

タツミがそう語ると

「お前!なんでそんな不吉なナレーション入れるんだ、この野郎!」

 

「ボス・・・お土産楽しみにしててくれ。あと他に誰か良い男が居たら連れてくる・・・」

 

「あ?ああ・・・」

アカメが言うに対しナジェンダも苦笑いしながら、それにラバックは激昂し

 

「うぁかめつぁん!!どうしてそんな事言うんだよ!!」

 

「・・・私なりに“ふふっ”と笑って貰おうと思ったがつまらなかったか?」

 

「つまるつまらない以前の問題だ!!あーもう、タツミィ!!お前アカメちゃんの教育係だろうが、どういう事だこれは!!」

 

「んん??いつから俺がアカメの教育係になった!?」

 

「そうだぞ、ラバ・・・タツミは私と、教師と生徒の禁断の関係なんだ!」

タツミが複雑な顔でアカメを見、レオーネ、チェルシーも

 

「あー・・・アカメ?ちょっと後であたしと勉強しようか?」

 

「そうそう、あんまり人の心凍らせる事言うのはよくないよ?」

顔をひきつらせながら作り笑顔で言い、

 

「む?そんなにつまらなかったか?・・・人を笑わせるのは難しいな・・・」

アカメは首を捻り、連れされていく・・・その後皆でスサノオの料理に舌鼓みを打ち、一しきり騒いだ後床に付いた。

 

そして彼が皆の後片付けをし終えるのを待っている姿が有った。

 

「・・・タツミか」

 

「最後の晩餐はどうだった、楽しめたか?」

 

「ああ・・・俺もマスターの仕事完遂に付き合えた、これから先は俺が居なくとも何とかなるだろう・・・帝国も変わっていく、俺のような帝具人間も前時代の遺物だ・・・もし次のマスターが悪しき奴なら俺はそれでもそいつに従わなくてはならない・・・」

 

「帝具人間の哀しい定めだな」

 

「・・・・・・、もう俺は十分生き続けた・・・悔いはない」

 

「結構だ・・・ここでは無理だな、付いてきてくれ・・・」

 

スサノオはタツミに連れられ屋敷から外の暗闇へ消えていった。

いつの間にか雨が降り出し雷鳴が轟く、ゲリラ豪雨となった。

 

 

深夜、帝都から離れた山小屋のそのベッドにセリューと帝具生物のコロは眠ってい

た・・・彼女は連日の疲労でぐっすり寝入っていたが、相棒のコロは窓ガラスを叩く音に目を覚ましていた。

 

「・・・・・・」

 

コロは起き上がり、じっと女主人の顔を見ていたが・・・彼女が寝返りをうち布団の乱れを整え、その場を離れる。・・・そしてドアの所で一度振り返り一礼をした後、そのまま外へ出ていった。

 

そこには土砂降りの中、フードを羽織ったタツミが立っており全く表情が掴めない。

 

「・・・悪いが例外は認めない・・・帝具は全て壊す、殺さなくてはならないんだ・・・」

コロは雨に濡れながら黙ってタツミを見上げている。

 

「主人の影響で物判りが良くなったか?・・・では行くか・・・」

 

タツミは大き目の傘をさしてコロはその中に入り、後に続いた・・・。

 

 

 

 

 

 

夜明けの~晩に~つ~る~とか~め~がす~べった・・・うしろの正面だぁ~れ・・・

 

エスデスは夢を見ていた。何処かで聞いたような童歌を・・・。そういえば私もこんな事を子供の頃、狩りが出来ない間の暇つぶしに同じパルタス族の子供達と遊んだ覚えがあったような・・・あれはどういう意味だったか・・・父に聞こうと思ったが、聞き忘れていたな・・・そうだ、今度一緒になる男が出来たと報告しなければ、ふふふ、父は何と言うか?“お前のような奴に男が出来た?それは相手の男が可哀想だ、同情するぜ”と憎まれ口でも叩かれるか?母は・・・ああ死んでいたな。弱かったから仕方ない・・・自然の摂理に抗う事など私には・・・だが彼は抗う・・・いや、自然に逆らわずともそれに屈せず、上手くその手綱をひいている・・・?或いは・・・しかし、私の父は生きていたか・・・?私が殺した・・・?もしあの時直ぐにでも手当てをしていたら、今の帝都の技術が有れば・・・いやまぁ良い・・・。

 

エスデスは夢の中で記憶が前後し混濁していた、目を覚ませばその記憶の誤差も直ぐに修正され現実に気が付く・・・目を覚ませばではあるが・・・。

 

 

 

 

 

 

残る最後の帝具を滅すべくタツミは・・・エスデスの直ぐ傍までもう迫っていた・・・。

 




これにて連日投稿は一旦終了です。
お目通し有難う御座いました。

次回で最終章となり、更新は1ヶ月先か2ヶ月先か未定です(苦笑)
その前にセリュー主役編を差し挟もうか検討中です。

また気が向かれた際にでも読んで頂ければ幸いです。


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ある日のナジェンダ

骨休めな話です。

今セリュー話を考え中でして…私事ですがその前に部屋の片づけをしてからと…待って下さる酔狂な方、居られましたらもうしばしお待ちください・・・


「ふっ、日頃部下達が私の事をどう思っているか、聞いてみるか・・・」

 

ナジェンダは窓際で煙草を燻らせながら、ふと遊び心が湧いてきた・・・まず初めに。

 

「・・・どう思っているか?」

 

「ああ、遠慮しなくて構わんぞ?」

 

 

 

「・・・お前また禁煙所で煙草吸いやがって!!」

 

「なっ!?」

 

ナジェンダは藪をつついて、蛇ならぬ竜を…タツミを出した。

 

「自分の部屋で吸うのは見逃してたが・・・俺が居ない時にその辺徘徊しながら吸っているのを知らないとでも思ったかぁあ!!」

 

タツミは激昂し、それに怯んだナジェンダは

 

「うぐっ・・・、タツミ、そもそもこのアジトは私が依頼し作りだしたものだ!後から来たお前に本来あれこれ言われる筋合いは無い!」

 

「ナジェンダ…俺がお前との共闘の条件に喫煙はアジト外でやれと約束したはずだが・・・?」

 

「そ・・・そんな昔の話、だ、誰も覚えている訳無いだろ・・・ぴーぴー」

 

ナジェンダは吹けない口笛でごまかそうとするが、

 

「判った・・・煙草の元をエスデス使って殲滅してくる・・・」

 

 

・・・・・・・

 

『エスデス!この国の全てのタバコ畑を凍り付けにし根絶やせ!全ての喫煙者を苦しませてやれ!・・・逆らう奴は叩きのめせ!』

 

『ふふふ、ナジェンダの苦しむ姿が目に浮かぶ・・・こういう事ならば大歓迎だぞ、タツミ!』

 

・・・・・・・

 

 

 

 

ナジェンダは容易に想像のつくその光景に戦慄し、何とか平謝りして事を納めた。

 

「わ、私はこの国(の喫煙者)を救った・・・つ、疲れた・・・そうだ!?そもそもタツミは私の部下なのかどうかも判らん立場だからな・・・聞いた私が馬鹿だった・・・よし!」

 

 

 

「え?ボスの事?」

 

「・・・・・・」

 

歩いていたマインとアカメをつかまえ、

 

「ボスは・・・ボスだ・・・」

 

「アカメはっきり言うのよ、こういう時は!・・・仕方ないわね、じゃあ言うけどボスが言う、あのギャグって寒いのよ!」

 

「ん?・・・・」

 

ナジェンダは笑顔で聞いているが、

 

「つまんない事を聞かされるあたし達の身にもなって欲しいのよね・・・まぁ上司だし、別に本人に悪気が有る訳じゃないしー、これくらいと思っているけど塵も積もればストレスも…って何よアカメ?」

 

「ボス…もういないぞマイン」

 

「あら?」

 

 

 

ナジェンダはドスドスを音を立てながら歩き、

 

「全く、あいつらめ私が日頃どれだけ心を砕いているか知らんのか!お前達の不始末を本部に掛けあったり、潤沢な給金が廻るようにしてやっているのは誰のおかげだと思っているんだ!・・・あの二人の給金下げてやる!私の真の力を思い知るが良い・・・だ、誰のギャグが寒いだ・・・判る奴にしか判らないんだ!」

 

そこに・・・

 

「あ~ボス~どうしたの~^^」

 

「レオーネ・・・また呑んでいるのか?お前アル中になるなよ?」

 

「・・・ボスも肺ガンとか気を付けなよ?にゃはは」

 

こめかみに青筋を立てながら努めて冷静に、

 

「丁度良かったレオーネ、お前は・・・」

 

そう言って聞くと

 

「あたしがボスの事をどう思っているか?そんなの当たり前じゃないですか?」

 

「レオーネ、お前・・・」

 

感動しかけるナジェンダに

 

「ボスの酒は私の物、私の酒は私の物!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

えっへんとふんぞり返るレオーネに・・・

 

 

数秒後、たんこぶ3つの彼女の死体(?)が廊下に横たわる。

 

 

 

「全く、あんな奴らだとは思わなかった・・・もうやだ!もうやだ!仲よしナイトレイド組、解散!!・・・私は普通の乙女(?)に戻るぞ!」

 

 

そこに、

 

「あれ?ナジェンダさんどうしたんですか?」

 

「ん?ラバ?・・・」

 

ラバックは本当に信用できるんだろうか?とナジェンダは猜疑心の塊になっていた。

 

「そういえばお前とも長い付き合いだったな・・・ラバックはナイトレイドを解散しても共に私と生きてくれるか・・・?」

 

「・・・?」

一瞬言葉の意味が判らなかったが

 

「勿論ですよ!・・・ナジェンダさん今日はその・・・どうしたんですか?」

 

「ラバー!!」

 

涙を流しながら抱きつく彼女に困惑するも鼻の下をのばす彼・・・。

 

 

そして、その物影から

 

「全く・・・世話の掛かるお姉さんだ・・・」

 

「ほんと、あたし達が背中押さないと進展しないんだからねー」

 

「ふっふっふ、これでボスの機嫌がよくなれば、秘蔵の鬼殺しや国士無双のあれやこれも・・・ぐふふ」

 

タツミ、マイン、レオーネがそれぞれ、肩を竦める気分なのに対してアカメも

 

「ボスは…うん、頑張っていると思う…」

ハンカチを沿えて涙をぬぐった。

 



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エスデス無双・・・(前編)

最新原作を土台にしています・・・自己満足です後悔はしていません(苦笑)

この無双話の中では、時系列では以前の話となります。

この話の後編投稿は明日予定です。



セリュー話はまだ・・・2週間後くらいに投稿出来たら・・・良いなと・・・。



幻覚、音波、炎…あらゆる帝具使いが挑んでもその効果は薄く、エスデスの前では児戯同然だった・・・。

 

残る帝国軍側の難敵はエスデス一人。

 

皇帝の至高の帝具を倒したタツミだが、インクルシオが体を蝕み竜化した・・・それでも意識がある内にエスデスと闘うが、タツミも小回りが利かなくなった分、エスデスの敵では無く傷を負わすのも能わず…彼の意識もインクルシオに呑まていった。

 

そんな中、革命兵が十重二十重とエスデスに攻撃し殺される乱戦の中、隙を突き腕にアカメの村雨で傷を負わせた!

 

だがタツミの意識は既に限界となりアカメに、自分の心が無くなりインクルシオとして暴走する前に自らの始末の頼んだ・・・それにより村雨に妖刀として認められたアカメは奥の手を引出し、エスデスに最後の闘いを挑むが・・・。

 

 

 

そして、そのアカメに斬られた部分から必滅の呪詛がエスデスの心臓に向かうも、

 

 

「ふっ、妖刀村雨か・・・小賢しい」

 

エスデスは斬り口に手を当て、そこから呪詛の部分のみ凍らせ解法し事を無きを得た。

 

「例え村雨であろうが、今の私には何も通じん・・・くくく、はははは!」

 

 

 

 

 

アカメは村雨を握りしめながら歯噛みするが、それでもエスデスを倒さなければこの国の未来は無い。

 

「アカメ、何としてでもエスデスを倒せ!例え一撃必殺が通じずとも、必ず突け入る隙があるはずだ!」

 

ナジェンダはそう言うも、自身でも絶望的だと言う事は痛い程判っていた。

 

『あれだけの兵で圧し込み、数ある帝具持ちでも歯が立たなかった・・・アカメ・・・頼む、お前だけが頼りだ』

 

 

 

「ふふふ・・・この闘いで私に傷を負わせたのはアカメ、お前だけだ・・・少しは楽しませろ・・・はっはっは」

 

見下し楽しそうに笑うエスデスに

 

「・・・是が非でも葬る!」

 

アカメは単身挑む。

 

何度も撃ち合い、互いの刃に無数の刃こぼれが生じる。

 

「ハハハハハ楽しいぞ、アカメまさかここまで強くなるとはな!」

 

「くっ・・・沈め!」

 

アカメは足斬りを狙う・・・そこをエスデスは後転し空中に氷を作りそこを足場に突きに掛かる。

 

咄嗟の事に反応が遅れ、アカメに掠り傷がつく。だがそれでも追撃は終わらず、エスデスの鉄の刃と氷の刃が幾星霜と降り注ぐ・・・強い帝具持ちでも防ぎきれない攻撃をギリギリでかわし続け、アカメの攻撃が止むと同時に他の仲間達がエスデスに攻撃を仕掛けるが、斬り殺されるか、撃退されるのが関の山だった。

 

『駄目か・・・奥の手を使ってもエスデスにまだ一歩及ばない・・・例え刺し違える覚悟でも・・・ここまで来て・・・』

 

 

エスデスが周りの革命兵を斬り殺し、一瞬静寂が包む中

 

「どうした?このまま仲間達を見殺しにするつもりか?これだけの兵を相手だ、私も少し疲れているぞ、殺しに来るなら今だぞアカメ、もっともここに居る兵達全て殺した後でも良いがな・・・くくく」

 

 

ナジェンダはアカメの奥の手が長くは持たないと判断していた、だがこのままではただ悪戯に兵を死なすだけである・・・とはいえここでエスデスを始末しなければもう後が無い・・・例え兵達にただ殺されるだけに向かう怯えがあっても特攻を命じなくてはならない、その残酷さに口から血を流した。

 

「最後の1人になってもエスデスと闘え、必ず倒せる・・・皆ゆけえええ!」

 

だがそれはエスデスにとって思うつぼだった、まだエスデス相手に多少戦えるアカメが暗殺スタイルから直接戦闘スタイルに変われば、仲間の革命兵を盾にアカメの隙を付ける・・・つくづくナジェンダは甘いな・・・とほくそ笑みながらエスデスは、

 

「弱者が何百、何万来ようが無意味だ!その事を身を持って教えてやる、来い!」

 

 

 

 

 

「・・・ああ、その通りだ・・・弱者は引っ込んでな」

 

 

 

「!?」

 

エスデスは驚き警戒し、咄嗟に飛びし去った。

 

それはアカメも同様で、

 

「タツミ!?・・・そんな嘘だ・・・さっき私がこの手で・・・」

 

タツミ・・・らしき男が面倒そうに

 

「おたくら邪魔だから退いてくれ・・・後は俺が何とかするから」

 

 

「タツミか・・・?お前はアカメに刺され死んだ・・・いや、生きていたのか・・・?インクルシオが死にそこから分離でもしたか?・・・まぁ良い、生きているならなら歓迎だ!さぁタツミ、死の淵から甦ったお前の力見せてみろ!」

 

エスデスがそう言うも無視し

 

「タツミ・・・タツミなのか・・・?インクルシオは・・・?だが今それよりも、二人掛かりでエスデスを倒すぞ!」

 

「・・・いや、こいつは俺が何とかすらぁ。流石にここまで強くなってるとはな・・・負けるかもしれないが、エスデスがここまでになったのも俺の責任でもあるからな、自分の不始末くらいは自分でするさ・・・といっても気が付くのが大分遅くなったのは許してくれ・・・」

 

アカメには何を言っているのか・・・?

「何を言っているか判らないがタツミ、エスデスは以前の奴より格段に強くなっている、いくらタツミでも一人じゃ無理だ!」

 

タツミはニカっと笑いながら

 

「な~に、いざとなったら自爆でもして刺し違えるさ・・・それにアカメやナジェンダに死なれちゃこの世界の帝国の立て直しが出来なくなる・・・俺もそこまで面倒みたくは無いぜ?」

 

そういって肩を竦めおどけてみせる!

 

 

 

「・・・・・・・・・」

アカメも呆気に取られ、もう何を言って良いか判らない。

 

「――と、言う訳でだ、ナジェンダ!全軍撤収してくれ!」

 

 

「むっ?ああ・・・?ああ・・・」

 

ナジェンダもタツミが自分を呼び捨てにしている違和感も去る事ながら、先程までの絶望感が霧散霧消していた。

 

 

「ボス、ここはタツミの言う通り退いた方が良い!私でも足手まといになる!」

 

 

アカメもこのタツミの只ならぬ気配を感知し、即座に現状判断した。

 

「・・・アカメがそこまで言うなら・・・判った・・・全軍、怪我している者は肩を貸して、撤退だ!後はタツミに任せる!」

 

 

 

「くくく・・・タツミ、このまま私があっさり逃すと思うか、甘いぞ」

 

エスデスは無数の氷の槍を周囲に撒き散らす。

 

そして、タツミは意識を集中させた。

 

 

 

 

ドガ―――――・・・

 

 

 

 

 

タツミとエスデスを囲むように、土の下からマグマが噴出し彼女の氷の槍を次々に溶かしていく!

「なに!?・・・タツミ・・・くくく」

 

だがその中でも幾数はマグマの壁を突破し外の革命兵に被害を与える。

 

「なっ・・・、・・・ちっ・・・、エスデスが・・・よくここまで本当に腕を上げたな・・・あの世界を変えた反動がこの世界のお前に来たか・・・」

 

エスデスも違和感を感じ初めており

 

「タツミ・・・お前本当にタツミか・・・?何を言っているか判らないのもあるが・・・タツミの帝具はインクルシオだけでは無かったのか?・・・まぁ良い、お前がタツミ自身だろうが、影武者であろうが、殺して体をくまなく調べるまでだ・・・くっくっく、死んだ後なら永遠に一緒だぞ、タツミ!」

 

「ははは・・・そいつは勘弁してほしいな」

 

タツミも笑って軽く受け流した。

 

「その余裕・・・お前が只者では無い事だけは判った・・・せいぜい私を楽しませてみろ!その余裕がいつまで持つか楽しみだぞ」

 

タツミも刀を抜き、エスデスの剣技に応じる。

 

エスデスの上段から来る剣を下段から掬いあげ、ツバメ返しで来るのをタツミは合っし撃ちで弾き即座に手元に斬りこまれるのをエスデスは右手を離して回転しながら横薙ぎにタツミを狙う・・・が、寸前で止まる。

 

 

 

タツミが片手でエスデスの鍔元を抑えている、片方の刀を持った手はそのままだった。

 

「くっ・・・・・・、私の腕が上がっただと?・・・タツミ、お前こそこの短期間でどれ程・・・」

 

「エスデス・・・あんたの剣には相手を殺したくて仕方がない欲がよく出ている・・・そんな欲が出ているうちは、剣も鈍る・・・出直してくるんだな・・・」

 

 

「ほぉ・・・、私に説教とは恐ろしく腕を上げたようだな?つまらん禅とやらの考えなど私には意味がないぞ!強い者が強い、それだけの事だ!」

 

タツミはやはり“エスデスなら”そう答えるか、と僅かながら悲しそうに苦笑した。

 

「そうか・・・なら生憎俺は、何度も撃ち合うようなチャンバラは苦手なんだ・・・」

 

そう言ってタツミは頭突きをエスデスに喰らわせ、彼女を後退させる…その場で腕を極めて沈めるなり一気に決着をつけれたかもしれないが、エスデスに帝具で凍らせられる危険性もあった・・・。

 

 

「ぐっ・・・、流石だ・・・この私ですらまともにやり合っては分が悪そうだ、遠慮なく帝具でいくぞ!」

 

「・・・帝具無しで片を着ける気は無いか?」

 

 

「何を今更だな、生物は己の持てる力を全て出し切って闘うものだ!」

 

「そうかい・・・」

 

 

エスデスは無数の氷の槍を幾重にもタツミに向ける。

 

 

「無っ!」

 

タツミは先程よりも更に集中し、マグマの壁を自分の手前に作りだす。

 

「くっくっく・・・」

 

エスデスは猟奇的な笑みを浮かべより一層鬼のように降りそそがさせる。

それは一本の巨大の氷の槍のようになり、遂にマグマの壁を突き破る!

 

「なっ!?」

 

タツミも驚き、かわして退き、

 

「・・・今度はこっちから行くぞ!」

 

噴出したマグマを地上高く舞い上がらせ、エスデスに向けて巨大な弾として落とす。

 

「!?」

 

エスデスはそれに呑みこまれ、大量の湯気が噴出する。

 

「・・・・・・・・」

タツミが様子を見ていると、一気に弾のマグマは弾かれ、中から氷を周囲に纏い、それを弾いたエスデスの姿があった。

 

「・・・やるな」

 

「今のは中々楽しかったぞ?」

 

「・・・お前は俺の知っているエスデスよりもやはり数段強いな・・・」

 

「ふっ、それはこっちの台詞だぞ、そしてその問答も飽きたぞタツミ!」

 

エスデスは地面に手を付け、自分達の周囲や上空を巨大な氷壁で覆い・・・

 

 

「タツミ、これがかわしきれるか?」

 

 

その氷壁から無数の刃がタツミに向かう。

 

「ちっ・・・」

 

 

タツミは刀で弾き、かわしながらエスデスに向かう。

 

「距離は詰めさせん!」

 

四方八方からだけではなく、エスデスの方向からも巨大な氷槍が襲いかかる。

 

 

 

 

 

「タツミ!?・・・一体中で何が・・・くっ・・・」

 

それを外で見ていたアカメは、ただ見守る事しか出来なかった・・・

 

 

 

 

 

ズドン!ガシャン!バリン!

 

 

 

 

タツミの周囲に迫った氷槍が大きな音共に霧散霧消していく。

 

 

 

「むっ!?何をした、タツミ!?」

 

 

 

「なんで敵にタネを明かさなきゃならないんだ?」

 

「・・・、つれないなタツミは」

 

彼は先程の帝具を持ちかえ、空気中の分子を任意の場所のみ局地反転し反物質と変え、物質と反物質をぶつけ空中爆発を起こさせて、氷槍を防いだ。

 

タツミは右腕を出し、エスデス周辺の空気を変える。

 

「つっ!?」

 

エスデスは辛くもよけ、直撃は防ぐ。

 

『タツミは何をした?・・・だが』

 

 

「あれをかわすか・・・大したものだな・・・」

 

 

 

 

    ダイヤモンドダスト!!

 

 

 

エスデスはそう言い放ち、周囲の気温が急激に冷え・・・一面銀世界に、空気中も凍てつきキラキラ輝く美しくも生物にとっては長く生きられない死の世界となる。

 

 

「ふふふ、タツミ、私達に似合いの世界と思わないか?」

 

「くっ・・・」

 

タツミも寒さに動きが鈍くなり始めた・・・マグマの帝具を使えば寒さは凌げるが、それだとエスデスの氷に対応しきれない。

 

「タツミ寒いだろ?私に屈すれば暖めてやらん事も無いぞ、ふはははは」

 

寒波や氷槍が降り注ぎ、タツミも何とか凌ぐ有り様だ・・・

 

 

 

「はああああああ!!」

 

 

タツミは自身の周りで空中の物質を連鎖反転させ、より巨大な暴発となりエスデスに迫る!

 

「むっ!?来るか!」

 

タツミはエスデスを塵も残さぬつもりで爆発させる。

 

 

 

     摩訶鉢特摩!!

 

 

エスデスはそう唱え、周囲の時間を停止させる。

 

そして、タツミも停止している・・・。

 

 

「楽しかったぞタツミ、やはりお前は最高だ・・・どうやら帝具戦では私の方が分があったようだな・・・」

 

 

ゆっくりとエスデスはタツミに迫り、頭上から刃を振り下ろす。

 

 

その時、凍った時間が動き出す!

『ちっ・・・消耗し過ぎたか、停止出来る時間も短かかったな・・・』

 

 

だが、もう既にタツミの首に刃が突きつけられ・・・



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エスデス無双・・・(後編)

タイトル変更しました。


 

 

 

 

 

 

 

 

タツミも自身の置かれた状況も把握し

 

「・・・いつの間にこの間合いに?・・・時間でも止めたか、それとも瞬間移動か?」

 

「ふっ、タツミなら以前の闘いの時に既に判っていたと思っていたが・・・お前何者だ?」

 

「・・・言いたくないな」

 

「ならば・・・このまま五体不能にし拷問に掛けるまでだ・・・くくく」

 

 

「エスデス・・・俺はお前のそんな狂気に歪んだ顔を、支配欲に溺れたお前の顔を見たく無かった・・・」

 

「ふんっ・・・、遺言として聞いておくぞ」

 

 

タツミは観念したのか、目を閉じ

 

「助けてくれないか?」

と言った。

 

 

「何・・・?・・・今なんと言った?」

 

 

「だから、助けてくれと言ったんだ、降参だ・・・」

 

 

エスデスは初め彼が何を言っているか判らなかった、意外する言葉だったからだ・・・だが段々と怒りに顔を歪ませ、

 

「貴様・・・、本当のタツミならこの程度の事で屈せん!タツミの名を騙る愚か者がぁ!!楽には死なせん、恥を知れ!」

 

エスデスが刃に力を入れ首を死なない程度に斬ろうとした瞬間、タツミはニッと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「・・・・ん!?」

 

カタカタカタ・・・

 

持っていた刃が小刻みに震え、エスデスは自身の体が言う事を効かないのを覚え始めた。

 

 

「ぐわああああああああ・・・な!?」

 

殺せ殺せ殺せ・・・焼き殺せ・・・蹂躙・・・殺殺殺殺殺、滅滅滅

・蹂躙・・・殺殺殺殺殺、滅滅滅・・・蹂躙・・・殺殺殺殺殺、滅滅滅

 

 

エスデスの中で自身の帝具、氷を操る危険種であり破滅のデモンズエキスが暴れだし、制御不能となる・・・

 

「なっ・・・今まで抑えてきた・・・それが何故・・・ぐはあああああああ、ああああああああああああああああああああああ」

 

エスデスが絶叫しのたうち回る・・・、

 

「・・・だから言っただろ、助けてくれって・・・お前が俺を殺そうと思わなければ、お前はこうならずに済んだ・・・」

 

エスデスは苦しみながら

 

「タ、タツミ・・・お前は・・・ま、まさか私自身の命乞いを・・・ぐううううああああ」

 

タツミはエスデスを見下ろしながら

 

「どうだ、苦しいか?簡単には死ねねぇだろ?」

 

 

エスデスはやつれ、肩で息をしながら

 

「はぁはぁ・・・今まで私はこれを抑えてきた・・・それが・・・」

 

 

「お前自身が知らない間に、少しずつ精神を侵食されてきたんだろ?そうでなければここまで能力が上がった理由も判らない・・・“お前がお前のままでいる限りはな”」

 

 

「心が・・・乱され・・・私が私で無くな・・・」

 

 

「外からの痛みには強いお前も内からの痛みには弱かったようだな・・・あれだけ闘い、俺とも闘わなければこうならずに済んだものを・・・闘いだろうが何であろうが物事に執着し溺れた者の行く末は哀れだな」

 

 

タツミは既に姿勢を整え刀を鞘に納め、立ち去ろうとする。このまま放っておいても自滅するのが判っていたからだ。

 

 

 

 

エスデスは満身創痍の態で立ちあがり、

 

「ま・・・まて・・・う・・・ま、まだ闘いは終わっていない・・・」

 

タツミはエスデスの意を悟った顔で振り返った。

 

そして、来る刃をかわしタツミはエスデスの心臓に手を当て・・・

 

「お前はもう・・・斬るまでも無い」

 

そう言って、無拍子で激烈な震動を当て心停止にする。

 

 

エスデスは心なしか安らかな顔で絶命しタツミの肩にもたれ、それまで覆っていた氷壁も全て砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「タツミ!!」

 

アカメが安堵し駆け寄ってきた。

 

 

「エスデスを・・・やったなタツミ!」

 

タツミはエスデスの死体を地面に置き、

 

「・・・こいつの埋葬は・・・いやどんな方法で埋葬されたって何も言えた義理じゃないよな?こいつのやって来た事考えれば・・・あと済まなかったな・・・」

 

「?・・・誰に謝っているんだ?」

 

「俺が・・・あの青猫に余計な更生をさせなければ、ひょっとしたらこいつもここまで強くならずお前達にこれ程まで迷惑を掛けずに済んだかもしれない・・・」

 

「・・・?タツミが何言っているか判らないが・・・お前のお陰で帝国は救われた・・・ありがとう」

 

アカメが笑顔で言うに対し、タツミも心がドキッと悪い気はしないが気を取り直し

 

「お前達のタツミはまだあっちに居るぞ」

 

「・・・?タツミはインクルシオ化した後、何とか分かれてここに居るんじゃないのか?」

 

タツミは首をふり、

 

「俺の事は幻だと思ってくれ・・・お前達の知っているタツミはあの中でまだ生きている、早くあのインクルシオの中から助け出してやってくれ・・・」

 

「???・・・わ、判った・・・」

 

アカメは半信半疑ながらもそう言って駆け出した。

 

タツミには判っていた、この世界のタツミがインクルシオにのまれた後も・・・辛くもインクルシオがその術者のタツミを最後の最後で守った事を。

 

 

アカメは何を思ったか駆け出しながらふと振り返ると、そこにはもう彼の姿は無く・・・、

 

その一帯は雪も氷も解け始め、暖かい日差しが舞い込んでいた。

 

 

 

 

 

ナイトレイドアジトの玄関先に陰陽太極印が突如出現し光を放つ中で、そこにタツミが出現した。

 

「あれがエスデスの限界か・・・どんなに強くなろうと、あいつがあいつのままじゃな・・・、もし心入れ替えられていたら・・・ふっ、俺もどうなっていたか判らないな・・・少しは鍛え直すか・・・それよりも・・・」

 

 

流石に疲れたタツミは、食堂の食品庫を漁る。

 

「・・・タツミ!!」

 

厳かで凄みのある声が聞こえ、その先にはスサノオが仁王立ちしていた。

 

 

「うぉ!・・・なんだスズキさんか、脅かすなよ・・・」

 

「誰だそいつは!・・・とにかくタツミ、前にも俺は言ったはずだな?帰れん時は前もって言えと!」

 

「ん?んん・・・そうだったな・・・」

 

「全くお前と言う奴は・・・お前の分はアカメがたいらげたぞ」

 

 

 

「いや、まぁ別に良いけど・・・俺は俺で勝手に作って食うから」

 

「駄目だ!俺にも作る上での材料もちゃんと計算してるんだ、食うなら自分で買ってこい!」

 

 

『しまったな・・・今月金が余り無いんだった・・・』

 

 

 

「・・・それはそうと、タツミは俺の釣り竿知らんか?」

 

「いいや・・・そういやぁこないだラバックが、アカメ達が風呂に入っていた時に釣り竿持って脱衣場に向かって何かしてたな・・・」

 

 

「恐らくそれだ!おのれラバックめ・・・うむ、とりあえず話を戻すが俺にも情けはある、ここにお前の為に夜食を置いておいた・・・食べたら食器は洗って自分で片付けておいてくれ」

 

「ス、スズキ社長・・・」

 

 

 

そう言ってスサノオは姿を消し、タツミは僅かに感動しながら置かれた食膳の前で箸を取る、そこには・・・

 

 

 

 

玄米一膳

 

たくあん二切れ

 

 

 

「・・・・・・、・・・・・・いただきます」

 

そういってタツミは涙交じりにたくあんをバリボリと噛みしめた・・・。

 




余談ですが、
この無双のタツミはこの闘いでエスデスの摩訶鉢特摩を行うタイミングを悟り、
以前に書きました、タツミが居ない世界のエスデスを仕留める際に応用し一気に片を着けるのに役立たせました。

只今風邪をひき、書く作業が滞っております。もうしばらくお待ち頂けましたら幸いです・・・。


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セリュー・ユビキタスが駆ける!(その1)

セリューに重点を置いた話です。
この話に置けますイェーガーズから離れた後の生活やタツミに協力を求められた後、
帝都の職へ復帰するまで描こうと思います。


木を切り薪とし、コロを使って食べれる野草を見極めたりとセリューは素朴な生活を山小屋の中で送っていた。

汗を拭き、ふと我が手を見つめた・・・、

かつてドクターと呼んで慕ったスタイリッシュが施した自身の鋼鉄の手を。

 

『悪は何がなんでも滅ぼさなくてはならない・・・くくく、正義執行!!』

 

それによって幾人もの人間を葬った返り血が染み込んでいる、例え綺麗にメンテナンスしようが・・・。

 

「きゅ・・・」

 

コロが心配そうに彼女を見上げるが、

 

「あ・・・ううん、なんでもないよコロ・・・でもあたしのこの手、きっと冷たいんだろうな・・・もうその冷たさも判らないや・・・あはは・・・」

 

セリューは鋼鉄と化した両腕を抱くように呟く。

 

 

 

ガサガサ・・・、・・・ごふごふ・・・

 

 

「!?」

 

「コロ・・・何か近付いている・・・」

 

小屋の傍まで3m程の危険種の熊が近付き・・・そしてグルグル徘徊し始めた。

 

コロが巨大化し戦闘体型になったのに対し、セリューも臨戦態勢を取った。

 

このままやり過ごすか、或いは討って出て片付けるか・・・以前の彼女なら躊躇なく殲滅に臨んだが。彼女の心の中は直ぐにでも殺したい欲求と頼むから退いて欲しい気持ちが拮抗していた。

 

だが、

 

「ごがあああああああ!!」

 

その熊は窓を破り室内に乱入した

 

 

「ちぃっ!」

 

セリューは直ぐ様、その鋼鉄の義手から散弾銃を放つ!・・・だが急所を外れている為致命所にならず、

 

「があああ!!」

 

咆哮を上げながら、彼女の両腕を抉り取り直後片腕の爪を振り下ろす。

 

『しまった!』

 

死を覚悟するセリュー、だがコロが横から体当たりを喰らわせそのまま頭から噛みつく。

だが熊も暴れ、コロの口の中、顔と強靭な腕力と爪で引き裂き抵抗する。

 

「があああああ!」

 

「ぐるるうるるるううがあ」

 

二匹は揉み合う中、セリューは口に仕込んだ銃を・・・冷静に見極めながら

 

『まだ撃つな・・・最後の一発・・・力を抜いて・・・』

 

ここだ!と決めた瞬間にセリューは熊の脳天に向けて放つ。

 

「ぐ・・・ぐがああああああ」

 

一瞬、暴れるも・・・力を失い、その機を見逃さずコロは熊の鼻を食い千切り、そのまま頭を噛んだ・・・人間を違い強固な肉体と骨と為、食べるのは容易では無いが、辛くも命を奪う事には成功した・・・。

 

相手の息の根を完全に止めたのを確認したコロは、セリューに駆け寄る。

 

「コロ、あたし・・・腕鈍ったかな・・・『今までこんな事無かった・・・タツミに言われなければ考えもしなかった・・・余計な事を・・・心の中で迷っていたらいざという時に生き残れない・・・罪なんてどうでもいい、あんな死ぬ思いは嫌だ・・・』

 

「きゅい・・・?」

 

「コロ・・・あたし生きたいよ・・・」

 

破壊された義手の変わりはまだあるが・・・先程の恐怖はまだ消えなかった。

 

数日後、襲ってきた熊はコロが食い切り、セリューも機械化した破損の部分や怪我の治療もある程度完了した。

 

『ドクターが作った腕の予備はあと3つか・・・、またあんなのが襲ってきたり・・・いや、以前のあたしならそこまで苦戦なんか・・・でももっと強い強敵と闘ったら・・・』

 

ぼんやりとそんな事を小屋の外で考えていると、そこに銃で武装した人間が複数訪ねてきた。

 

 

「お嬢さん・・・君はここの家の人かい?」

 

セリューはこの周辺に人が居らず、廃屋になったこの山小屋を住めるように改装していた為、まさか持ち主が戻って来たのか?と気まずくなった

 

「はい、そうです・・・えっと何かありましたか?」

 

「なら早くここから立ち去った方が良い!」

 

やはりか、と思い

 

「あの、ここでの暮らしにやっと慣れてきたんです・・・特にもう使って無さそうでしたし、このままここで居させてくれませんか?」

 

「何を言っているんだ?この辺には凶暴な危険種が現れて、もう10人以上が殺されているんだ・・・悪い事は言わない、早くここから立ち去った方が良い」

 

「危険種・・・ひょっとして熊みたいなのですか?」

 

「ああ、そうだ・・・まさかもう見かけたのかい?」

 

「えっと・・・、はい・・・」

 

「なんだって!?何処で?」

 

セリューは素直に本当の事を言うか、それともはぐらかすか逡巡したが

 

「・・・もうその危険種は現れないと思いますよ・・・」

 

そのうちの1人が激昂し

 

「何が現れないだ!!・・・あんのやろう・・・うちのかかぁを食い殺しやがって絶対に俺の手でぶち殺しやる!」

 

セリューも一瞬呑まれる迫力に驚くが・・・ひょっとしたら自分も傍から見ればこんな風に他人を委縮させたりもしたのかと思った・・・とはいえ気持ちは判るが。

 

「すみません・・・えっと、元は私、帝都警備隊の者でしてエスデス将軍の元にもいました」

 

「なんだって!?あのエスデス将軍の?」

 

彼らは互いに顔を見合わせ、そのうちの1人が

 

「・・・あんた、こんな所で一人で何を・・・まさか、危険種討伐に?」

 

「いえ・・・私は訳あって隊を離れまして・・・それでここで暮らしていたら貴方がたに言われている危険種に遭遇しました・・・」

 

「そうか・・・、それで・・・そうか!・・・あんたが殺してくれたのか!?」

 

「はい・・・」

 

彼らは大いに喜び、セリューの手を取った

 

「いや本当によくやってくれた・・・なんとお礼を言って良いか・・・」

 

「さっきはちょっとばかし酷い事言って済まなかった・・・これでこれで仇が・・・うわあああああ」

 

その男は号泣し、仲間達も肩を抱いて泣いた。

 

セリューもその時は自分がした事に価値があったと、何やら暖かな気持ちになっていた。

 

 

 

そして、セリューは彼らの村落に呼ばれ、もてなしを受けた。

 

コロも久しぶりの御馳走に舌鼓を打ち、喜んでいる。

 

皆からも歓迎されセリューも楽しんでいた。そこに、

 

「あのにっくたらしい危険種にはうちの飼ってた家畜達が何匹食われたか・・・でも貴女のおかげです。おかげで家畜達の数を気にする事もありません。さっき絞めたばかりの新鮮な鳥肉です!どうぞ召し上がってください!」

 

「有難う御座います!」

セリューも喜んで箸を伸ばすが・・・いつぞやのタツミの言葉が突き刺さり、

自分達の安全の祝いに生き物を殺す矛盾を感覚的に感じ、一瞬止まる。

 

「どうかされましたか?」

 

「い、いいえ!なんでもないです、美味しそうですね、頂きます!」

 

その傍に10歳程の少年がやってきて、

 

「ねえちゃんがあのオレのかあちゃん食った熊殺してくれてのか、ありがとう!」

 

「んん?・・・んん、そこのコロと二人がかりで何とか倒しただけだよ・・・」

 

「やっぱ、そうかすげぇ!かっこういいなぁねえちゃん・・・」

 

「あはは・・・」

 

少年の羨望の眼差しを受け、照れるやら自分はそれに値しない思いも僅かに生まれていた為、曖昧に笑ってこたえた。

 

セリューとコロはその村で泊って行き、翌日お礼の品を貰って帰った。だがその前に例の少年から

 

「ねえちゃん、オレにも格闘を教えてくれよ!」

父親がそれに対し

「おい、テンモウ!すみません、セリューさん息子が厚かましい事を・・・」

 

「とうちゃん、オレがもしねえちゃんぐらい強かったらあん時、かあちゃ・・・母さんまもれたかもしれねぇんだ!」

 

「テンモウ、お前・・・」

 

「だからねえちゃ・・・いや先生!おねがいします!」

 

彼は頭を下げ懇願する。

 

「う~~~ん・・・」

セリューも悩んだが、気晴らしにこの少年に稽古を付けるのも悪くないかと思い、

 

「じゃあ3日に1回、この時間に…そうだね、こっちからこの村に迎えに来るから、それでどう?」

 

「ありがとう、先生!」

 

「すまんな、セリューさん。月謝は・・・」

 

「お気持ち程度で良いですよ」

 

本当は少年からセリューの家へ来させようと思ったが、まだ獰猛な危険種が居ないとも限らず、この村とはそれなりに離れてもいる。それに村の集団そのものとも交流を持ちたいのもあった。

 

『あたしが先生か・・・ふふふ』

 

くすぐったい気持が湧き上がりながらもセリューは約束通りコロと共に村へ通った。

 

「そう、そこで一瞬だけ拳に力を込めて、後はお腹の下辺りに気を入れて!」

 

「でりゃあああ!!」

 

荒削りなセリューらしい教え方をしていた、無理も無い人に教えるのは難しい。

 

「そう、一回一回に相手を確実に仕留めるつもりで気合いを込めて!」

 

その時、セリューが嬉々として悪と断じた相手を殴って殺した事に脳裏を掠めた。

 

その為、それ以上は何も言わなかったのでテンモウも

 

「・・・?どうしたの先生?」

 

「ん?・・・んん?なんでもない・・・じゃあ稽古続けよう」

 

休憩を取りながら稽古を続け、爽やかな汗に微風が心地良い。

セリューも1ヶ月以上教え、中々筋が良い彼に満足していた。

 

 

「先生、前から気になってたんですが・・・両腕共、作り物ですか?」

彼も好奇心ではっきり言う。

 

「ん?うん、そう・・・義手なんだ・・・」

 

「きっと、先生は今まで強い危険種と戦って来て・・・かっこういい・・・オレもこの腕、先生みたく変えてもらおうかな?」

 

セリューはそれを聞き、過去に思いをはせた。

 

『・・・オーガ隊長はどういうつもりで、私に格闘技を教えてくれたんだろう・・・それに、どういうつもりでドクターに私の体の改造を・・・、確かに私はあの時悪を倒す為の力を身につけるならと言った・・・』

 

 

「・・・?先生どうしたの?」

 

「あ・・・ううん、なんでもないの・・・うん、なんでも」

 

「?」

 

 

そうこうしている内に、時にはテンモウの方からセリューの家に出稽古に行くと言う事になった。初めは危険だと反対したがここ最近脅威になりうる危険種の気配も

なく、気も緩んでいった。

 

そんなある日、時間通りに来るテンモウが中々来ない・・・。

 

「どうしたんだろ?」

 

「きゅう・・・」

 

「そうだねコロ、ちょっと探しに行ってみようか」

 

 

セリューとコロは森の中を探し初め、

 

「きゅきゅきゅう!」

 

「え?あっち?」

 

コロが駆け出しセリューが続く、そしてそこには。

 

 

 

危険種の子熊を嬉々として殺したテンモウの姿があった。

 

「これで、これで・・・母ちゃんの仇が討てた・・・やったやった・・・」

 

肩で息をし、彼も傷を負ってたが手にはナイフを携えていた。

 

「ん?ああ!?先生!」

 

「テンモウ君・・・」

 

血まみれになった彼はセリューに駆け寄り

 

「やったぜ、先生!オレ一人で母ちゃんの仇の子熊を討ったぜ、ははは、ざまぁみやがれ!」

 

「・・・そ、そう・・・うん、良かった、良かったね・・・」

 

笑顔の彼に対しセリューも笑って対応するしか無かったが・・・そこにかつての自分を見ていた・・・。

 

三日後

 

テンモウの容態が悪化し、ベッドに横たわっていた。

 

「テンモウしっかりしろ・・・」

 

「うう・・・父ちゃん、大丈夫だ・・・オレ先生の弟子だぜ・・・これぐらい、直ぐよくなるって・・・」

 

時折痙攣をおこし、息苦しそうにも健気に強気を見せる。

 

セリューとコロも後ろで心配そうに見つめ、父親は

 

「先生ちょっと頼みたい事があるんだ」

 

そう言って部屋から出て

 

「・・・あいつは破傷風だ・・・前に俺の仲間で危険種を倒したは良いがその時闘った傷が元で苦しんで死んで行きやがった・・・だから頼む先生、俺は何としてでも息子を助けたい、帝都の名医を連れて来てくれないか・・・お金はいくらでも出す・・・頼む」

 

深々と頭を下げる父親にセリューも涙ぐみ、

 

「判りました、大急ぎで医者を連れて来ます。それまでお父さんはテンモウ君の側に居て上げて下さい、コロ行くよ!」

 

「きゅい!」

 

 

外を出たセリューは

 

「コロ、最速化!全力で駆けて!」

 

コロは巨大化したが、戦闘形態ではなく走るに特化した細身の姿になり、森を駆けていく。

 

途中休ませながらも数時間後、ようやく帝都に着き医者を探す。

 

「あ?そんな辺鄙な村の病気誰が見る?いくら出す・・・それだけじゃ足らんな・・・金持ちになってから出直して来るんだな」

 

当然ながら帝国には相互互助の保険制度や老後の手当も無く、全額自己負担でありお金の無い人達は病気になれば医者にかかれず、治らなければ容赦無く死んでいき、貧しい暮らしで高齢で生き延びている老人は少ない。

 

「こちらの先生は訪問診療は行っておりません、お引き取りを」

 

・・・と、けんもほろろに門前払いをくらい、セリューも焦燥感に駆られ、いっそ力づくで引き連れようかとも考えた・・・自分が警備隊やイェーガーズの時はここまでの対応されなかった・・・それが地位も名声も無ければこの扱いなのかと。

 

「くっ・・・、どうすれば・・・いっそ隊長や皆に頼ろうか・・・タツミは・・・、駄目だ、何処に居るか判らない」

 

セリューはイェーガーズの詰所へ訪ねた、そこには・・・

 

「おや、セリューさん・・・どうしたんですか?」

 

「ランさん!すみませんがお願いが有りまして・・・」

 

事の次第を聞き、

 

「はぁ、成程・・・判りました。私が書面にその旨したためまして渡します。隊長名義でこれを持って行けば誰も嫌とは言わないでしょう」

 

「有難う御座います!それはそうと皆元気ですか?隊長は?」

 

「・・・ええ、皆元気にやってます・・・隊長は所用で居ません・・・」

 

ランは何処かものを含んだ言い方をしたが、セリューもそこまでは気付かない。

 

「そうですか、では宜しく伝えて下さい、では!じゃあコロ大急ぎで!」

 

セリュー達の後ろ姿を見送ったランは、彼女も少し変わったなと印象に抱いた。

 

 

その書面を見せられた医者も流石に嫌とは言えず、コロの後ろに乗り彼の居る家へ向かった。深夜となり日をまたいでいた。

 

「コロ、ありがと!休んでて」

 

「ぎゅ・・・ぎゅい・・・」

 

医者を連れて、ドアを叩き

 

「夜中すみません、お医者さんを連れてきました」

 

「・・・ちょっと待ってくれ・・・ああ、セリューさん!・・・医者の先生を連れて来てくれたのか・・・すまねぇ・・・」

 

「いえ、そんな事より早く!」

 

「・・・・・・・・・・・判った、先生こっちだ、せめて見てやってくれ」

 

「ああ・・・、『全く何故わしがこんな所まで・・・』」

 

彼の部屋の戸を開け、

 

そこにはベッドで静かに横たわっていたテンモウの姿だった。

 

「・・・・・・・」

医者は何も言わず脈を計ったが、首を振った。

 

「え・・・待って下さい、彼は今朝までまだ生きていたんです・・・どうして・・・」

 

「セリューさん・・・うう・・・あんたはよくやってくれた、こいつもあんたの名前を最後まで呼んでた・・・もっと稽古を付けて貰いたかったと・・・うううう」

 

「けど・・・そんなこんな早くに」

 

泣くのを必死に堪える父親にセリューも呆然自失し

 

「・・・確か破傷風と言っておったか、普通なら発症からこんなに早く死ぬ事も無い・・・危険種から移されたものなら、より菌の毒素が強いものになる可能性はある、子供なら持って1,2日じゃ・・・だがあっさり死ぬるならまだ、苦しみ抜いて死ぬ普通の破傷風よりはましじゃろ・・・」

 

医者の言い分にセリューも頭に血が上り、掴みかかる。

 

「あっさりって、あんた!!」

 

それを父親が制し、

「良いんだ、セリューさん・・・もう良いんだ・・・」

 

「お父さん・・・」

 

「こいつが途中から痙攣し息するのもつらくなってきて・・・俺は見ているのもつらくなってきたんだ・・・こんなにこいつが苦しむならいっそ・・・だからセリューさん、もう良いんだ・・・」

 

セリューも何も言えず、父親を残し医者と部屋を後にした。

 

「・・・あんたらも感染する可能性もある、念の為これは予防薬じゃ、ま、飲まんよりは良いだろう。あの父親にも渡してくれ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「さっ、一眠りさせて貰うぞ。そして儂を朝一番で帝都に帰してくれ」

 

 

 

一連の事を終えた後、

 

セリューは自分を責めていた、

 

「あたしがもっと早く連れて来れば・・・死なせずに済んだ」

 

コロが心配そうに見上げていた。

 

その後、その村との交流は続いたがセリューの心の中では時折自らの生き方を問い直す機会が増えていった。

 

 

ある日、寝ていたセリューをコロが起こす。

 

「きゅいきゅい!」

 

「・・・どうしたの、コロ・・・ふぁ~あ・・・、・・・わぁあ!!」

 

見るとアリが行列を成して、家の中を歩き食べ物へと続いていた。

 

「きゅいきゅいきゅい!」

 

「え?早くやっつけなくちゃって?」

 

セリューは砂糖を取り出し、家の周りに撒き始めた。

 

「きゅい?」

 

「こうすれば、家にも入って来なくなると思うよ」

 

確かに入って来ないのもいれば・・・

 

「きゅい!」

 

「・・・確かに入って来るアリもいるね・・・ははは・・・」

 

セリューはチリトリでアリを取って庭に放した・・・だが、

 

「あ・・・」

 

セリューは逃げるアリの一匹を指でつまんで殺さずに庭に放そうとしたが、その鋼鉄の手では上手く加減が出来ず、つまみ殺してしまった。

 

「きゅい・・・」

 

「・・・・・・・・、生身の手だった時と比べて微妙な加減がもう出来ないよ、コロ・・・」

 

セリューは何を失ったのかはっきりと自覚し始めていた。

 

「きゅいきゅい!」

 

「え?そういう細かい事は自分がやるから任せろって・・・あはは、じゃあコロにお願いしようかな、そうだ!じゃあお裁縫もお願い♪」

 

「ぎゅっ!?」

 




只の風邪だと思ったらインフルエンザでした(苦笑)
次回更新は1週間前後か…まだ不明です、はい。


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セリュー・ユビキタスが駆ける!(その2)

かなり遅くなりすみません。
ひょっとしたら今年の投稿はこれで最後になるかもしれません。

私の思いを書きますと、
来年以降も世の中、大方こうなるだろうと予想していて、楽観はありません。
ただこうなっているのも本当の意味での課題を過去に終わらせておらず、現在に至っていると、今このような世の中も止むを得ないと覚悟を決めるに至った一年でした。

せめて、実社会で関わる周りの人達には本気で生きる事への熱い意思などが僅かでも伝わればなぁと思います。



そんな生活を送っていたある日再びタツミが彼女達の元へ訪れ、エスデスを助ける為に手を貸して欲しいと頼まれセリュー、コロは再び帝都へ戻る。

 

その後、セリュー達は帝国体制への革命戦も生き延び…その復興にも姿を現していた。

 

戦いの傷跡から早くも立ちあがろうと人々が動いている中、タツミはセリューとコロと共に歩いていた。

 

「タツミ君・・・最近、この辺で寝泊まりしているみたいですが余り帰りたくないんですか?」

 

エスデスはタツミが居るアジトに突如現れ…余計な事をしてくれたお陰でこの1週間ナイトレイドの女性陣と剣呑な雰囲気となり、帰りづらくなっていた・・・。

 

「・・・戦火に巻き込まれた人達を間近に見たくてここに居るんだ・・・」

 

「なるほど!良い心掛けですね♪・・・確かに皇帝の使った帝具でどれだけの人や家屋が無くなった事か・・・生き延びても家を無くして困っている人達がいますからね・・・」

 

「ああ・・・」

 

「まだ体の方痛むんですか?」

 

「・・・大丈夫だ、気にしないでくれ」

 

タツミにとっては、心が針のむしろのアジトより、多少体が痛くても今はセリュー達と居る方が良かった。

 

「そういえば、ボルスさんも来ていたと言ってたが、どうしてるんだ?」

 

「ボルスさんは、奥さんと娘さんと炊き出しの手伝いをしたりと頑張ってましたよ、一度家に帰ってまた来るって言ってましたね」

 

「不味いな・・・、革命軍から暗殺依頼が来てたんだ・・・今はまだこのゴタゴタだからごまかせるかもしれないが、落ち着いて来て革命軍が本腰入れて目を光らせたら不味いぞ・・・」

 

「え!?そんな・・・、ボルスさんが一体何を!?」

 

「忘れたのか?彼は焼却部隊で多くの人間を火炙りにしてきたんだ・・・火炙りは死刑の中でもつらい部類だ・・・、それに後で調べたがどう見ても無実の奴らも居たからな・・・」

 

「くっ・・・」

 

セリューは唇を噛みしめ、悩んだ・・・どうすれば良いのかと。

 

「・・・あれは俺が依頼を請け負って、暗殺した事にして見逃したんだ・・・たくっ、ボルスも人助けだからって余計な事を・・・」

 

タツミは喜びとも着かぬ顔で苦虫を潰した。

 

「そうだったんですか・・・」

 

「そうだったんですか・・・じゃないぞ!もしこの事がばれてみろ、俺だけじゃない、他の奴ら(ナジェンダ達)にも責任が及ぶ・・・そうなりゃ折角助けたのに今度こそ殺さなきゃならないぞ!」

 

「人一人助けるって簡単じゃないですね・・・」

 

「一人だけじゃねぇ・・・合わせて三人だ・・・」

 

「そ、そうですね!」

 

「何とかナジェンダに駆け合って、辻褄合わせするか・・・偽名を使わせるか・・・よし、ナジェンダに嫌とは言わせねぇぞ!煙草の件も含めてあいつにはたっぷり借りがあるんだ」

 

「・・・な、なんだかよく判りませんが頼もしいです!」

 

 

後日

 

「なぁあああああにぃいいいい!!ボルスを暗殺してなかっただあああああ!?」

 

「ああ」

 

ナジェンダは卒倒し、タツミは軽く答えた。

 

「ちょっ・・・おっ、おまっ・・・ふ・・・ふざけるなああああ!」

 

部屋のガラスはガタガタ揺れ、

流石にナジェンダも激怒したが、タツミは何処吹く風で

 

「確かに無実の人間を火炙りにしたボルスは許せねェよ・・・でも帝国の命令でもあったしな・・・まぁ、実行責任はあるとは思うがな・・・因みに奴は今改心して、一民間人として、革命の被害を少しでも食い止めようと尽力してたぞ」

 

「・・・・・、話は判るが見逃すわけにはいかないぞ・・・」

 

「なぁナジェンダさん・・・あんたが昔、帝国から出た時もラバが死亡の偽造書作ったんだろ?それに上にはもう、ボルス暗殺成功と報告してるだろ?それ今更覆せるか?」

 

「・・・・・ふぎぎぎぎぎ・・・タツミ、お前はどっちの味方だ!?」

 

「いや、それにな・・・小耳に挟んだんだがボルスがあの革命の戦で火事場泥棒ならぬ戦泥棒した奴らの中に帝国軍だけでなく、革命軍の奴らも何人か居たって・・・」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「これだけ大きな革命軍だ、中にはそう言う奴もいるだろ?なぁボス・・・どうだ?ボルスは他にも冤罪かもしれないが処刑した人達の名簿や村とかの資料を贖罪の気持ちもあったのか未だに持っているんだ・・・革命政府の正当性を更に際立たせるのに役立つと思わないか?・・・取引してみないか?」

 

「ぐぐぐぐ・・・タツミは悪魔か!?私の胃を殺すつもりか!」

 

タツミとナジェンダは互いに沈黙するが、

 

「・・・仕方ない、判ったよ。ボルスの事は諦めなるかな・・・その代わりナジェンダも我慢しなきゃならない事もあるよな」

 

「何の話だ一体?」

 

「何だ知らないのか?革命政府の閣議で麻薬は勿論、国に使える者はプライベートだろうが煙草も酒も全て禁止という話が通りそうだぞ」

 

「ちょっ・・・おっ、おまっ・・・ふ・・・ふざけるなああああ!」

 

部屋のガラスはガタガタ揺れ、

再びナジェンダは激怒したが、タツミは何処吹く風で

 

「いや、俺に怒ったってしょうがないだろ?政府でそういう方向性でいくとか聞いたからな」

 

「わ、私は何一つ聞いて無いぞ!ま、まさかタツミが裏で焚きつけて!」

 

「いや俺はそんな意地悪な事はしないぞ」

 

そう言いながら邪悪な笑みを浮かべる。

 

(う、嘘だ・・・タツミは何か関わっている・・・間違い無い・・・そもそも何故私も知らない情報を知っているんだ)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

革命後の新政府宮殿、

急拵えの政務室で椅子に座り、コーヒーを飲んでいるコウカツ。

 

「ふっ・・・とうとうここまで来たか、後は・・・」

 

ドアをノックする音がし、

 

「失礼致します、お飲み物の代わりをお持ちしました」

 

「ああ、頼む・・・しかしアリア、君が煎れてくれたものはいつも旨いな、以前はさる貴族の御令嬢だったとか・・・?」

 

「いえ…只の噂ですよ、ある方に行儀見習いを“しっかり”仕込まれた程度です…では冷めないうちに」

 

「そうだな」

 

「・・・あ、そうです、先日の一件はどのような形でされようと」

 

「あれはだな」

 

コウカツは今後の政治の方針を諸々語り、

 

「ふぅ・・・君のような若い娘にはこのような話つまらんだろう」

 

「いぇ、私は人の話を聞くのが好きなんです、またお教えくださいね」

 

「ふふふ、変わった娘だな君も」

 

彼女は一礼し部屋を後にし、誰もいない事を確認してニヤリとほくそ笑む。

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

ナジェンダは戦慄しおたおたする。

 

「・・・言っておくが、本当に俺は何も裏で手はまわしてないぞ、ただそういう話があると聞いてだけだ・・・確か決定が5日後の午後だから、止めるなり変えるなら早く行った方が良いと思うぞ・・・皆への根回しとか」

 

「そ・・・そもそも、なんでそんな無茶な案を通そうと考える奴が居るんだ・・?」

 

「まぁ俺にとっては煙草が無くなればスカッとするが、政府の中にじわりじわりと全てを統制したい奴がいるんだろ?そいつが今度は前政府に代わって自分達が権力を手に入れて、国民を自分達に従わせる足ががりとしたいんだろ?恐らくそれが通れば他にも縛る法を出してくるだろうな」

 

「うぐっ」

 

歯軋りするナジェンダに

 

「まぁ俺は徐々に退くから、後はあんたが頑張ってくれ、それじゃさっきの話を上手く活用してその法案を廃案にしてくれ、じゃあ」

 

 

・・・という事が有り、

 

「・・・と言う訳でボルスさんの一件は何とかなりそうだ、俺のボスは話が判るからな、丁寧に説明したら二つ返事で納得してくれた・・・」

 

しれっと騙るタツミに

 

「良かった・・・」

知らぬが仏のセリューは安堵し

 

「それと、彼には目立つ事すんなと俺も言っておいたが、セリューからも言っておいてくれ」

 

「了解!・・・あ!」

 

歩き煙草している男二人が、その辺に吸殻を捨てて去って行った。

 

「ちょっと待って下さい」

 

「あ?」

 

セリューが呼び止め、怪訝な顔で二人の男は振り返る。

 

「子供が真似したらどうするんです?良い大人が自分の出したゴミくらい、自分で片付けたらどうです?」

 

「あ?なんだ、ねーちゃん!」

 

苛立つ男にセリューも睨み返す。無論、セリューにとって敵では無い・・・その後ろでタツミは何も言わずその吸殻を拾って紙に包んで服のポケットに中に入れている。そしてセリューの背後からじっと二人の男を見据える。

 

「・・・・・・・、ちっ、行こうぜ」

 

「あ、貴方達!」

 

尚も呼びとめようとするセリューをタツミは制し、

 

「もう良い、ほぉっておけ」

 

「ですが・・・ああいう小悪も見逃したくありません」

 

「そりゃその通りだが、俺がセリューと初めて会った時、俺の言う事そのまま素直に聞いたか?」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

「それと同じだ、もし本気であいつらを改心させたいなら、あいつらと知人になるか、それが無理ならその友人の友人になれるよう努力して、徐々に話を付けていくか・・・人の考え変えるなんてそんな簡単な事じゃ無い・・・のはあんたが一番よく判ったと思うがな」

 

「・・・ですが、時には周りが注意する事も必要では?」

 

「なぁセリューあんたは紛れも無くあの男達よりも強い、より強大な力を持った人間はその時が来るまで、只黙って静かに過ごすべきだと俺は思う」

 

「・・・彼らの行為も見過ごして、黙って後始末をするという事ですか?」

 

「ああ・・・」

 

セリューはタツミの言っている意味が余り理解しかねていると、街中で何やら演説しているまだ二十歳にならないであろう若い女性の声が聞こえてきた。

 

「今、我が国は偉大なる帝都千年の繁栄が哀しいかな、終焉に向かわんとしている!逆賊オネストの手により、国は腐敗の一途を辿ったが、皇帝陛下がおわせられたからこそ、この程度で済み、例え新しい政府が樹立されようと、陛下の政務を奪うなど言語道断!もってのほかである。今一度陛下に政務を戻さねば再び逆賊が現れ・・・」と彼女の話は続き、

周りの人間達もさほど気に留めず通り過ぎていく。

 

それを遠目で眺める二人と一匹は、

 

「タツミ君、何ですかあれ?」

 

溜息をつきながら

「・・・さぁな」

 

「きゅ」

コロも首を振りふり、やれやれと、ジェスチャーする。

 

「・・・コロ、判らないでやってるでしょ?」

 

「ぎゅ!?」

 

セリューはその女性を見ていたタツミに気が付き、悪戯心が…

 

「ぷぷぷ、タツミ君?ひょっとしてああいう黒髪ロングの子に惹かれるんですか?

あ、だからアカメの居るナイトレイドに?」

 

「・・・何を意味不明な」

 

「はぁ~あ、タツミ君になら隊長を任せても良いっかと思ってたけど、これじゃあ先が思いやられるなぁ、後でこの事報告しておきますね♪」

 

「言うようになったな、全く・・・言っとくがエスデスとはなんにも無いからな?」

 

彼の答えなど無視して、

「そういえば隊長は何処行ったんです?革命の闘いで負傷したと聞きましたが、お元気ですか?」

 

「ん?・・・うん、あいつはもう元気になって用があって飛び歩いてるぞ、うん」

 

「そうですか?それなら良いですが・・・」

 

彼の言動が少々不審だったが、まぁいっかとセリューは気にするのを止めた。根はお人よしなのかもしれない。

 

この間、タツミは他に残った帝具が無いか探したり、セリューの人助けに付き合ってもいた。ただもう一つの思惑もあって彼は彼女と行動を共にしていたのではあるが…。

 

そして、雨の中

 

「早く仮設の小屋や大きな雨宿り出来る場所を確保しないと・・・まだ住居も無い人達が大勢いますから」

 

「そうだな・・・」

 

タツミとセリュー、コロは合羽をしながら街中を歩いていた。

 

「あれ?」

 

先日、街頭で演説していた彼女が今日も行っている。

 

「タツミ君あれ、へぇ~傘も差さずによく頑張りますね、あれ?コロ?」

 

コロは駆けて行き、傘に代わりになる程大きな草の葉を渡しに行く。

 

「今こそ、悪しき平等主義等は排し、皇帝陛下の元で万民が・・・?」

 

コロからそれを受け取った女性は、

 

「お前、これを私にくれるのか?ありがとう、ふふふ」

 

「きゅきゅきゅ」

 

コロも頭を撫でられ鼻の下を伸ばしている。

 

「こら、コロ!あ~あ、全く誰に似たんですかね~可愛い娘みたら直ぐデレデレするんですから、ねぇ・・・?」

 

「なんで俺の方見んだよ!?」

 

 

「すみませーん、うちのコロがー!」

 

セリューも彼らの所へ駆けていき、

 

「そうか、貴女の犬だったか・・・頭も良いのに可愛いな」

 

「きゅきゅきゅ~」

 

その女性はコロをセリューに返し、

 

「コロ!そんなにこの人の所が良いならこの人に飼って貰うんだから!」

 

「ぎゅぎゅ!?」

 

その時、二人の新政府の兵士が来る。

 

「おい、お前!前にもこれ以上我々を非難する話をすれば、逮捕すると再三警告したはずだぞ!もう二度目は無いぞ」

 

セリューは身構えるが、

 

(そう言えばあたしも前に警備兵だった時、彼らと同じ事したっけ・・・)

 

「お前達は直ぐそうやって暴力に訴える、ただ権力の座が欲しかっただけだろう!この新政府の狗共が!」

 

「お前・・・前のオネストの政府がどれだけ我々を虐げてきたか知らんのか!取調室でみっちり教えてやる、来い!」

 

「離せ―」

 

揉み合う彼らに、セリューも止めるか考えていたが、

 

「・・・以前のあんただったら直ぐに行動に移ってたな、考えるようになっただけ上出来だ」

 

タツミが後ろから兵の肩を掴み、制した。

 

「何だお前は!?お前もこの娘の仲間か!?」

 

「俺は・・・ナジェンダ様直属、影の別働隊の者だ、こうして市井を巡回している。不穏分子は我々が引き取ろう・・・貴公らの上官・・・確かこの区域担当はカイカツ殿だったな?上官殿には僭越ながら自分から話をつけてさせて頂く、なのでこの場はお納め願いたい」

 

「うっ・・・、しかしそんな話は・・・」

 

もう一人の兵士が耳打ちする

「おい、あのナイトレイドの生き残りの方かもしれないぞ?」

 

「な?彼らは全員死んだと聞いたぞ、いや行方不明だったか・・・?」

 

「どちらにしてもそれは噂だ・・・本当は別任務が与えられたのかも・・・もしそれが本当なら俺達が敵う相手じゃ・・・それにこんな面倒な娘引き取ってくれるなら手間も省けるだろ?」

 

小声で話す二人に

 

「話合いは済みましたかな?」

 

「りょ、了解しました!ナジェンダ将軍には宜しくお伝えください!」

敬礼して去って行く兵士二人。

 

 

ほっと胸を撫で下ろすセリューに、

 

「ふん、やはり権力の狗だな!上の者の名前が出た途端これだ、正義の信念があるなら気にせず、任務遂行するべきだっただろうが!」

 

タツミがじっと睨み、セリュー、コロが呆れ・・・

 

「あのな、ねぇちゃん・・・」

 

「あ・・・すまない、私とした事がつい・・・、前にあの者達と論戦にもなって、その時にあらぬ嘘をいうものだからつい、いやそれよりも助けて頂いて申し訳ない。大変かたじけなく存じます!」

 

深々お辞儀し、タツミもとりあえず

 

 

「あ~、まぁとりあえず雨宿りしようぜ」

 

辛くも先の戦いで全壊は免れた居酒屋で飲み物を注文した、所々店には破損が見られ痛々しい。

 

タツミ達はそれぞれ名乗った後、

 

「改めて先程は助けて頂き感謝にたえない、申し遅れたが私はキンジホウブ・カゲリだ、以後宜しくお願いします」

 

 

(キンジ・・・どっかで聞いた事あるような)

タツミが頭を捻っていると

 

「カゲリさん?あなたは何故街頭でああいう事を?」

セリューが当然の事を聞いたのに対し

 

「何故?貴公は今の現状を何とも思わないのか!?」

 

「え?ええ?」

 

カゲリはすっと立ち上がり

 

「恐れ多くも偉大な皇帝陛下はインクルシオを纏う悪鬼共に討たれ、千年の歴史が無に帰されようとしている・・・ブドー叔父上さ…ううん、ブドー大将軍も卑劣な罠に嵌められ、捕らえられた・・・くっ、もっと私に力があれば、陛下も大将軍もお救い出せるのに・・・」

 

セリューとコロはタツミをちら見したが、何処吹く風で彼は甘酒を飲んでいる。

 

「・・・そうか、カゲリさん・・・あんたはブドーの姪か・・・?」

 

「ばれてしまった・・・つい先程は失言してしまったが、はい、私は本家のブドー叔父上様の分家の者です。・・・小さい頃はよく遊んで貰いました」

 

「成程」

 

「それが最近こちらにも顔を出す機会がめっきり減り、まさか今ここまで事が進んでいたとは・・・私がお傍に居たら少しでもお力に」

 

「・・・分家の人間は帝都におらず、地方で暮らしていたんだな」

 

「ええ、余り外の事には惑わされるなと、私もいずれ何処か殿方の元へ嫁ぐまではと、教育を施されてきました。ですが耳を塞いでも話は入ってきます・・・だから」

 

「だから、我慢出来ずに家を飛び出して帝都の現状を見たら、こうなったと」

セリューも幾分同情している。

 

「はい、だからあの憎き新政府の輩を排除し再びこの国の安寧の為、恐れ多くも陛下の手に天下の采配を御戻しせねば・・・今ならまだ御戻し出来ると思われます、だからタツミ殿、セリューさん是非とも力をお貸しいただきたい!」

 

「ぶほぉ!!」

タツミは飲んでた甘酒を盛大に噴いた。

 

(あ、やっぱり噴いたね・・・)

 

(きゅ)

 

セリューとコロは予感して少し離れており、念の為、周囲に注意を払ったが、周りはそれなりに談笑、酔っ払いの喧騒でこちらに気を留める者はいなかった。

 

 

「判っている・・・確かに敵は強大だ、しかし先程の応対ぶりでタツミ殿、貴殿も本当は今の政府に不満があるとお見受けしました。どうか、この非力な私にご尽力

を!」

と頭を下げるに対し、

 

(あ、やっぱりタツミ君、頭痛めている)

 

(きゅ!)

 

「はぁぁ~・・・え~とだな、カゲリ殿?う~ん、つまりだ・・・何というか・・・」

 

(あ、やっぱりタツミ君かなり悩んでる)

 

(きゅ!)

 

「会ったばかりの貴殿に突然かような申し出をするのも気が引けますが、事態は一刻を有するものです!このような大事今いきなり決めて欲しいとは言いません、どうか一晩だけでも考えて頂きたい・・・例え首を縦に振ってくれなくても助けて頂いた恩はお忘れしません」

 

(なんだろ?この人はあたしと方向性違うだけど、同じ匂いが・・・)

 

(きゅ・・・)

 

「・・・ところで、あんた何処に宿を取っているんだ?帝都とその地方じゃ離れているだろ」

 

「この辺りにも親の知り合いがいます。その人達の所に住まわせて貰っていますが・・・先のあの戦いで親戚の子が・・・」

 

唇を噛みしめるカゲリ。

 

「まぁ戦争はしないに越した事は無いんだが、安全な場所でそれで儲ける奴らもいりゃ、純粋に戦争したくて仕方ない奴もいるんだよな」

 

(・・・・・・・・)

 

「他国からの攻撃の防衛の為ならいざ知らず・・・そ、そのような下衆共がいるのですか!?」

 

カゲリはテーブルを叩き激昂するが、

 

「言っとくが、オネスト達は他民族が我々を攻めようと動いているから、”積極的防衛”の為、エスデス将軍に攻めて貰った、と言う話もあるからな?」

 

「な・・・それは・・・」

 

「まぁとりあえず、話は判った・・・明日この場所でこの時間に落ち合おう、その時に返答するでどうだろう、カゲリ殿?」

 

「はい、どうか熟慮の程、よろしくお願いいたします」

 

頭を下げ、彼女は店から出て行った。

 

「行きましたね・・・」

 

「ああ・・・」

 

「どうするんです?」

 

「セリューさん、あんたはどう思う?」

 

「私ですか?その、こういう時なんていうんですかね・・・え~と、ビジュアルですか?前にも似たような光景を見たような、誰かがそう思って先走ってたような・・・あはは」

自嘲気味に答えるセリューに

タツミは敢えて間違った語彙には触れず、

 

「箱入り娘なんだろうな」

 

「そうですね、世間知らずなお嬢さんなんですね・・・私も余り他人の事言えませんが・・・でも良いんですか?彼女、狙う相手は本当はタツミ君達でしょう?」

 

「・・・そういう事になるな」

 

「それに結構間違って伝わってますよね?一体誰にあんな話聞いたんだか・・・ふぅ」

 

「・・・自分にとって耳触りの良い話を選択したんだろ?同じ話でも受け取り方次第で見方も変わってくる、彼女にとっちゃそれが真実なんだろ」

 

「難しいんですね、物事を正確に見るって・・・私にはどうすれば良いか判りません」

 

タツミはそれについて何も言わず、

 

「ここの勘定、払っておくぜ・・・」

 

 

 

 

翌日も雨が激しく、タツミ達は指定の時間に例の居酒屋で待っていた。

 

「来ないですね、時間にきっちりしてそうな人でしたのに」

 

「そうだな」

 

タツミは甘酒もう三杯程のんでいる。コロは紙皿に入れたそれをチビチビ舐めている。

 

「セリューも何か頼んだらどうだ?おじさん、枝豆皿3つ、え~と他には」

 

「・・・大丈夫なんですか?あんな事・・・どうやって説得するんですか?」

 

「まぁ、なるようになるって?」

 

「だー、何も考えて無いんですか・・・もう良いですよ、私も熱燗一本!」

 

小一時間程待ったが、カゲリはまだ姿を現さない。

 

「はぁ~ああ・・・ふぐぐ、眠くなってきた、あんな若い女の子だ。自分の言った事に怖くなって逃げたんだろうな、その方が賢明だ・・・今日はものこの辺でお開きにしようぜ!」

 

「うふふふふ、もうこれ以上食べられませんって・・・ぐふふ・・・」

 

「おい、起きろセリュー!たくっ、大して呑めない癖に・・・ねえさん、感情!」

 

タツミはセリューを抱えて店を出、コロに泊まっている安宿に送り届けるように頼み、彼も傘をさして雨の中別れた。

 

そして、辺りに火縄の匂いが微かに立ちこめた・・・。

 

 

 

 



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セリュー・ユビキタスが駆ける!(その3)

やっと次話更新です(汗)
その4でセリュー編は終了予定です。


タツミの後ろから、同じく傘を差した女が手に火縄銃を片手に間合いを詰めている。そして、辻を曲がって同時に狙いを定めようとした時

 

 

 

 

 

・・・居ない。

 

「な・・・何処に!?」

 

その時、鎖分銅がうねりながらその女の右手に絡みつき、

 

ダァン!

 

虚しく銃声が鳴り響き、ぬかるんだ土の上を引きずられる。

 

「くっ・・・」

 

その女も応戦し鎖を手繰り寄せ、懐から小刀を出すが・・・後ろからコロが奪っていく。その隙に首に巻き付け、窒息させようとする。

 

「その辺にしておけ!」

 

タツミが現れ止めに入る。

 

セリューは手を止め、それでも歯向かうならいつでも殺せると無言の圧力を掛ける。タツミはその女が被っていた覆面を剥ぎ取る。

 

「カゲリさん!」

 

「やっぱりあんただったか・・・」

 

セリュー、タツミがそれぞれ驚きや予測を述べたに対し、

 

「くっ・・・殺さば殺せ!」

 

セリューがタツミにどうするか目で促すに対し、

 

「・・・とりあえず、その辺の廃屋にでも行くか」

 

鎖で縛られたカゲリを床に座らせ、二人は彼女を見下ろし、一匹は見上げる。

 

「この逆臣共が!・・・私の叔父上様だけでなく、陛下まで・・・帝国民として恥を知れ!」

 

タツミは立ち膝で、カゲリと同じ目線となり

 

「そういう話を誰かから吹き込まれたか?それとも、自分の足で調べたのか?」

 

「・・・聞いたぞ、タツミとやらが陛下を陥れ、叔父上も罠に嵌めた、と!・・・卑劣な奴め!」

 

「それは・・・」

 

セリューが庇おうとするのを制し、

 

「そうかい、自分で確かめず人の言う事をただ鵜呑みにしたんだな・・・」

 

タツミがそう言い終えた後一瞬間があり、セリューはその刹那戦慄を覚えた。

 

「甘ったれるな!!」

 

タツミは平手打ちにカゲリを、数メートル飛ばした。

 

「うぐっ・・・何を・・・」

 

「何をだと・・・?下衆女が、お前が俺を恨む・・・それはまぁ良いだろう、だがな、お前も良い年なら今の周りの状況を良く見てみろ!誰がどうして、こうなったのか、お前のその節穴な目でよく考えろ。・・・次会った時、俺の納得いく答えを持ってきたら大人しくお前に殺されてやる。だがな、そうでなかったらナマス斬りにギリギリまで死なねぇ範囲で何十回と刻んでやる、覚悟しろ!」

 

気丈に耐えようとするが震えを抑えれないカゲリを尻目に、タツミは立ち上がりその場から去って行く。

 

「タツミ君!」

 

「セリュー・・・どうやら、あの女に誰かがわざと嘘半分で吹き込んだ野郎がいる、どうも妙な奴らがつきまとってたからな、大体の見当はついてんだ、(コウカツの配下だろうな)俺はこれから片をつけにいく、その間あいつの面倒をみてやってくれ」

 

タツミが顔を晒して市中を回った理由の一つに、革命軍の上層部が自分にどういう行動を取るか、自らを囮に探る為だった。

 

「はい・・・気を付けて」

 

「・・・ああ、そうだ・・・悪いがコロを借してくれないか?」

 

「コロを?」

 

「きゅ?」

 

タツミはコロと共に雨の中の暗闇に消えて行った。

 

そして、

 

「・・・・・・」

 

セリューはカゲリの鎖をほどいた。

 

 

 

翌日

 

二人は安宿の個室で目を覚まし、セリューは窓を開ける。

 

「う~~ん、昨日の雨が嘘のように快晴ですね~」

 

押し黙っていたカゲリも口を開き、

 

「・・・何故だ・・・何故私を助けた」

 

「・・・・・・」

 

「あんたもタツミの一味だろ!」

 

セリューは苦く笑いながら話始める。

 

「・・・以前、帝都警備隊にある女性がいましてね、その人は父親を亡くした後、そこの警備隊の隊長が格闘の師匠になってくれました・・・小さい頃から正義は悪に屈してはならない、より強い悪に勝つには自分もより強くならなければならないと・・・そんな時、賊を追っていき、とうとう追い詰め何やら命乞いをしてましたが、容赦なく武器を使って殺したんです」

 

「・・・・・・」

 

「それにそこは街中で他にも人がいて、その賊を殺した余波で他の人も巻き添えにして、2人殺してしまったんです。」

 

「酷い巻き添えだな、それでその女はどうしたんだ?」

 

「ええ、その女は“悪人の側に居たお前らが悪い、ひょっとしたらその悪人を庇おうとした可能性もある。だから殺されても文句は言えない”と言ってその場を後にしたんです。・・・他の人達はその行為に相手が帝都警備隊と言う事で泣き寝入りしたんでしょうね、きっと・・・」

 

「許せない女だな・・・」

 

「はい・・・許せない女ですよね?その後も強くなる為になりふり構わずに人体を改造したり、脳にも小型爆弾を埋め込みました・・・」

 

「改造・・・?まさか・・・」

 

セリューの義手を見て、カゲリは気が付く。

 

「そんな時にタツミと会いました。初め、無茶苦茶してなんだこの人は?と思いました、けれど判ったんです・・・今まで私の身の周りに居た人は結局自分を利用してただけなんだって、どうしてそういう人しかいなかったんだろうと・・・でも、そんな酷い人間の私でしたからね、ひょっとしたら本当は私の事を思って言ってくれてた人も居たのかもしれません、ただそれが気が付かなかっただけで・・・それを多少強引でも気付かせてくれるきっかけをくれたのが彼なんですよ」

 

「・・・・・・」

 

「ですから私にように、曇った目で世の中を見て欲しく無いんです。自分の意見を持つのは勿論大事ですが、他人の話にも耳を傾ける心の余裕も持って下さいね」

 

それをカゲリは黙って聞くが、

 

「・・・そういう貴女だが、先の罪のない人を殺した件はどうするんだ?」

 

一瞬、杭で打たれた顔をするセリュー、だが

 

「私も怖いです・・・まだ正式に謝罪に行ってませんから・・・もしその関係者の人が怒って私を殺す・・・それでも構いません・・・構いませんが、怖い・・・」

 

溜息をつきながらカゲリは、

 

「それだけの人間を殺しておいて、怖いとは恐れ入る・・・」

 

その皮肉に対し

 

「ええ、・・・でも貴女はそうならないで下さいね、もし仮にタツミ君を殺せてたら、今度は貴女がいずれ悪夢にうなされる番ですから・・・」

 

「いや、それはちが!」

 

「違いません!」ピシャリと言い放ち「きっと貴女に都合のいい耳触りの良い話を誰かから吹き込まれたんですよね?・・・はっきり言いますが、ブドー大将軍と皇帝を助けたのは、間を省いて結論を言えばタツミ君ですよ」

 

「なっ・・・嘘だ!」

 

「嘘だ・・・と思うなら直接ご本人達に聞いたらどうですか?最も今の貴女がそのまま行っても簡単に面会出来ないと思います」

 

「なら無理だろうが!確かめようが・・・」

 

「じゃあ諦めるんですか!?貴女の真実を追い求める姿勢はそんなものですか!」

 

正論を言われ、何も言えないカゲリに

 

「貴女はひょっとしたら、自分の親しい人を助けた人を殺そうとした、恩を仇で返そうとしてた・・・いえ、したのかもしれませんよ・・・人を殺すって、そう言う事です・・・貴女がそれでも彼を殺そうとするなら私ももう何も言いません、ですが今度は私が本気で相手をします」

 

「くっ・・・」

 

カゲリが沈痛の表情に対し、

 

セリューは外を鳥達が群れで飛んでいくのを眺めながら、

 

「タツミ君、コロ連れて何処に行ったんでしょうね~?」

 

今のカゲリの想像力では判らなかった。



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セリュー・ユビキタスが駆ける!(その4)

セリュー編、あと1話だけ続きます。
次話更新は2日後予定です。


生物型帝具・ヘカトンケイルことコロは術者であるマスターの影響を多少なりとも受ける。

基本は性格のみであるが、彼の手により能力の底上げもされ

 

 

「ぎしゃああああああ!!!」

 

巨体の犬でなく、狼へと変形したコロは新政府の拠点と化した宮殿入口で奥の手の狂振動を行い、数多の兵の三半規管を狂わせる・・・タツミが術者となっている今、耳をふさいだ程度で防げるものでは無くほとんどの兵が、

 

「だ、駄目だ・・・立てない。」

 

「気分が・・・ぐわあああ」

 

満足に武器も握れず、嘔吐するものも現れる。

 

何とか立ち向かってくる者もコロの敵では無く、腕をかまれ投げ飛ばされる。

 

 

タツミは中心部に向かって周りの者も気にせずただ歩いていく。

 

中には、銃を構える者や武器を手に向かおうとする者には

 

「・・・・・・」

 

ギラリと睨みつけると・・・竦んで何も出来ずに見過ごすしかなかった。

 

 

それでも将軍クラス数名がそれぞれ武器を手に立ち向かってくる。

 

 

タツミは先程奪っていた刀を引っ提げ、事もなげに・・・、前方から上段から斬り込んでくるのをギリギリまで待って胴を薙ぎ払い、次に諸刃になっている十文字槍で突かれるも寸でかわす・・・相手はニヤリとほくそ笑み、直ぐに縦から横に返してタツミの胴を後ろから斬ろうと思い描くが・・・、かわされた時点でタツミに斬られ、単なる妄想で終わる。

 

他の腕に覚えのある者達も次々に斬っていく・・・しかし斬る瞬間に峰を返している為、その実、斬られた側は気付かずに倒れていく・・・それだけ斬られたと思わせる殺気が有った為だった・・・つまり、全く死人を出さずに無力化していった。

 

そして、タツミが向かう先は・・・。

 

 

「オネストは愚かだったな・・・だが私はお前の失敗を生かし教訓にさせて貰うとしよう・・・ふふふ」

 

政務室で一人、コウカツは書類を作成している。

 

「成程な・・・、今後このような戦乱を起こさない為に、平和を維持し積極的に平和に貢献していく為には、皆の協力が必要であると・・・、その為情報は政府が判断したものは帝国民に開示はせず、政府への・・・否、平和への反乱分子を警戒する為、二人以上長い間集まる会合は監視の対象となる・・・これに異議を唱えし者は処罰とする・・・原則、公開処刑等は行わず刑罰は秘密裏に行い、表向き帝国民を安心させる事も忘れぬように配慮・・・時には道化なパフォーマンスも行い、帝国民の人気取りも怠らぬよう・・・国民に理解を得にくい発言等も、休暇を減らし仕事に忙殺させ、時が経てば忘れるであろうから、目くらましの政策も忘れずに、国民は生かさぬよう殺さぬよう・・・領土拡張の為の軍備も平和維持、自衛の為と訴え、強化・・・帝具が無き今、より強兵は必須である。

法律名もストレートなものではなく、治安(等)推進法にする等、言葉巧みに安心感を与えるものとし、いざ緊急事態の際は全権を時の総裁に委ねる事と・・・成程、他に

は・・・」

 

コウカツはぎょっとなり、机から振り返ると・・・暗がりでタツミが機密書類を斜め読みしていた。

 

「お・・・おま・・・き、君はひょっとすると、タツミ君か・・・?」

 

「・・・初めまして、コウカツさん」

 

コウカツは狼狽したが、必死に動揺を表に出さぬよう平静を努めた。

 

「君はここまで、どうやって・・・?」

 

「ええ、“皆さんお勤め御苦労さまです”と・・・言ってここまで通して頂きまし

た」

 

「くっ・・・」

 

ば、馬鹿な・・・先の革命戦を生き延びた屈強な猛者達だ、生き残った先の帝国兵の反逆も全く無いとは言えぬから、警護も強くしていたと言うのに・・・この男は、とコウカツは戦慄した。

 

「いや、しかし成程、帝国民を欺く為に色々策を弄されているようで、愚かな帝国

民・・・いや、人間達だ・・・貴方、ひょっとしたらオネストよりも上手く自分の都合の良いように統治出来るかもしれないな・・・本当、御立派だ・・・」

 

コウカツは話をしながら、机の中の拳銃を探った。

 

「私からも聞こう、君は帝具を全て回収してどうするつもりだ・・・まさか我々相手に反乱を起こすか、或いは他の国の王にでもなるつもりか・・・?」

 

「・・・・・・・」

 

「強大な力は平和を脅かす、だから我々が管理しようとしていたが、君は不穏な動きをしてい・・・ぐっ・・・」

 

取り出した拳銃の持つその手に、瞬時にタツミは隠し持っていた小柄を投げ、落ちた拳銃を通常の大きさになって隠れていたコロが口で掴み、タツミの手元に渡す。

 

タツミがコウカツに向け、拳銃を向ける。

 

「くっ・・・」

 

「あんな世間知らずな娘に色々吹き込んで利用し指図を出したのはお前だな・・・」

 

銃声が鳴り響き、相手の頭上すれすれを弾が飛ぶ。

 

「下手に腕の良い相手なら俺に感づかれる可能性があると踏んだんだろうが、生憎だったな・・・。俺はお前らが大人しく何もしなければ、このままここを離れるつもりだったが・・・余計な仕事増やしやがって、先に動いたお前らの負けだ・・・」

 

再び2発鳴り響き、両耳端すれすれを銃弾が飛び。

 

「な・・・何が望みだ・・・」

 

「何が望み?・・・だから初めからナジェンダから言わせているだろう?全ての帝具を寄越せとな、別にそれ以上何もしねぇ・・・それを変に勘繰りやがって・・・まぁ貴様らの思考パターンを考えれば何か下心が有ると思っても・・・仕方ねぇか、そこまでは配慮しなかったのは悪かったな、愚かな人間共!」

 

次第にタツミの形相が怒りで禍々しく変わる。そして、持っていた銃をコウカツの足元に投げる。それを見、まだ銃弾が残っていると判断したコウカツは震えながらも即座に拾い上げ、タツミに照準を向けるが・・・思うようには・・・、タツミの迫力に気圧され、引き金が引けない。

 

「・・・・・・」

 

それを3秒待っていたタツミは。

 

「ぐっ・・・が・・・・」

 

その後、顎下から斬り上げ、即座に首後ろから刀を当て、地面に叩き伏せる。ズン!と、背中に片足で踏みつけ、アバラ骨も数本折れたであろう、コウカツは呼吸困難に陥る。

 

「折角この俺が、貴様の言う“平和的”に帝具を譲渡して貰おうと革命に協力してやったのものを、その気になれば革命軍であろうが帝国軍であろうがこの国一体焦土に化して、死体から取るという簡単な選択もあったのだ、その事覚えておけ!」

 

コウカツは斬られたと思った、その自分が生きていると実感したのはこの後となるが、それよりも

「くっ・・・、ならば・・・そこにいる生物帝具はどうするつもりだ・・・話によれば全ての帝具は壊すはずではなかったのか・・・」

 

「約束違えるお前如きが、意見など甚だおこがましいが・・・良いだろう。そこにいるヘカトンケイルも俺に破壊される事は承知済みだ」

 

「な・・・馬鹿な・・・い、良いのかそれでお前は!」

 

とコウカツに呼びかけられるが、コロはあくびで応じる。

 

「く・・・狂った主従関係だ・・・」

 

「言い忘れたが、ナジェンダは俺の部下だ。そして、他にも俺の手の者がそこかしこに潜ませている・・・もし、そいつらに何かあったら・・・今度はこの程度の挨拶では済まんからな・・・貴様達のような輩に軍隊を作らせる訳にはいかないが、今だけ様子見しとてやる、いいな!」

 

タツミは更に踏みつけ、もう一本コウカツのアバラ骨を折った後、その場を後にした。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

「エスデス将軍!?あの帝国最強と言われた?」

 

 

「ええ、そういえばあの時・・・、隊長が何か言うたんびに、タツミ君が怒ったりしてましたね~、確か・・・“お前少し黙ってろ”だとか“だからお前はエスデスなんだ”とか・・・」

 

「あ、あの将軍相手に・・・?」

 

「はい、他にも“俺がお前に抱く感情は悪・即・斬、以外は無い”とか“どう思っているか?そんなの知るかぁボケぇええ!”とか・・・なんだかんだ言ってあの二人仲良いんですよ、それをタツミ君に言ったら、物凄く嫌な顔してましたが、ふふふ」

 

 

「ふ~~~む・・・話に聞くあの将軍もそんなやり取りが出来る一面があったとは、意外だったな・・・以前巡回で私の居る地域に来た時に見かけたが、あの人は身のこなしもスタイルも良いからな、憧れる・・・」

 

「そうですよね、憧れますよね~私もあれだけスタイル良ければ・・・だからタツミ君も色々言いながら鼻の下伸ばしているんです・・・まったく・・・」

 

「そうなのか?・・・ふふふ」

 

セリューとカゲリはいつの間にか雑談で盛り上がっていた。

 

「・・・ところで、カゲリさんは何故あんな街頭で呼びかけていたんです?」

 

セリューは自分達が出会うきっかけとなった事にふと思いを巡らせた。

 

「・・・噂では聞いていた。帝都が今、大変な事になり闘いが初まっていると・・・家族は“お前は外の事を気にせず自分磨きに精進しろ”と言われたが・・・」

 

ご家族の方々は賢明かもしれないと、セリューは思った。

 

「ただ、私は居ても立ってもいられず、叔父上様の居る帝国軍に微力でも加勢しようと思ったが、そうこうしている内に戦は終わってしまった・・・」

 

「・・・・・・(寧ろ、来なくて良かったかと)」

 

「気が付けば体制は決してしまったが、それでも何かをしたい、そう思って街頭で呼びかけていたのだが、余り反応は無かった・・・くっ、私の国に対する思いは他人には理解されないのか・・・」

 

セリューは少し考え、別の角度から質問をしてみた。

 

「その年で帝国に付いて結構考えたり、私じゃ判らない事も知っているみたいで凄いですね。ですが、貴女がそこまで行動を起こそうとしたのはなんでです?ブドー将軍の影響ですか?」

 

「それもあるにはあるが・・・、私の住んでいる直ぐ隣の区域は為政者が別の者で、そいつも私の前では良い顔をしていたが、そこに住む者達の生活は良いとは言えるものでは無かった・・・」

 

「・・・・・・」

 

「数年前から私の地域の奉仕活動を行っていたが、そこは特にそれほど酷い生活を送っていた者は居無かった・・・今思えば叔父上様の庇護があったからかもしれな

い・・・だが、その影響が及ばない区域は・・・。私も次第に活動範囲を広めていき、身寄りのない子供達もいて、勉強を教えたり一緒に遊んであげたりした・・・」

 

「うんうん、良い事ですね。子供達が真っすぐ育つようにサポートするのは・・・(今の私に出来るかどうか・・・以前出来ると思っていた私が恥ずかしい・・・それでも少しくらいは・・・)」

 

「私の活動も次第にそういう親が居ない子供の施設に向かうようになった・・・、セリューさん、貴女はどのような子供が施設に送られると思う?」

 

「え?え~・・・危険種に親が殺されたとか、戦争でですか?」

 

「確かに、そういう子もいるが、私の周辺はさほど戦闘は起こらなかった・・・だから一番の原因は親の虐待だ・・・しかも親は世間体を気にし、子供も親に余程まで追いつめられないと逆らえない為、ギリギリまでになってやっと施設に来る・・・目がすっかり死んだ状態で・・・」

 

「ろくでもない親が増えているって事ですか?」

 

「・・・そんな単純な話でも無い、子供たちから聞いたり、放棄した親を調べたら大体が貧しさだった、そこから弱い子供に八つ当たりして・・・」

 

「・・・・・・」

 

「エスデス将軍の軍隊は、兵に潤沢な給与を与えると聞くが、他の帝国軍では下の人間は雀の涙程度のものしか行きわたらないと聞く。それでは略奪するのも・・・人心が荒廃するのも仕方がない・・・。仕事も不安定、精神的にも経済面でも追い詰められた親がふとしたきっかけで虐待を行う・・・だから、私は悟った。帝国の富の分配は歪んでいる、オネスト一味やそれにおもねった者達がいるせいで・・・」

 

「結構考えている所は考えてたんですね、見直しました」

 

「だから、私はこのまま奉仕活動をしていても駄目だと、社会を変革し皇帝陛下を中心に根底から変えなくては駄目だと、そうでなくてはあの子達のような者達が増え続ける一方だ!」

 

「草の根の活動も大事だと思いますが、気持は判ります」

 

一しきり言い終えた時、

 

「虐待された子供は、今度は虐待する親になって負の連鎖は続くか・・・以前、帝都秘密警察の1人に親に虐待された奴がいてな、そいつは癒しを子供に求めて、そのうち性的対象も子供に移っただけじゃなく、殺して回った腐った奴がいたな」

 

カゲリは声の方へ振り返り、

「なっ!?そんな奴が居るのか?」

 

「人間も獣と変わらねぇ、どいつもこいつも獣の本性を抱えているんだ、それに気付くか気付くかないかの違いだ」

 

セリューも彼らに気付き、

 

「あ、タツミ君、コロお帰りなさい」

 

「ただいま」

 

「きゅい!」

 

「どうでした?」

 

セリューは心配そうに聞いたが、

 

「まぁ、後はなるようになるだろう?」

 

「そうでしたか」

 

その答えに安堵したが、タツミは

 

「ところでセリュー、お前他に余計な事話してたな!?」

 

「え~まさか、女二人の会話を盗み聞きしてたんですか?気持ち悪いですよ?」

 

「ああ、セリューさんから聞いたがあのエスデス将軍とタツミ殿は恋仲なのは本当

か!?」

 

カゲリの言葉に物凄い顔でタツミが睨むが、神の速さで顔を背けるセリュー。

 

「・・・あいつは利用できそうだから利用した、それだけだ。」

 

「な?・・・タツミ殿は悪い男だな!」

 

「悪いのはお互い様だ、あんたにはどういう風に伝わっているか知らんが、確かにエスデスは金銭欲がないからな、部下達にそれ相応の給金は払っているが強ければ何をしても良いと考えている奴だ、戦に勝利後、兵達に好きなように略奪行為等をさせてたぞ」

 

「うっ・・・」

 

「あんたはその人間が自分が見た面だけでなく、別の面も持っている可能性も考えるべきだな」

 

セリューは笑いを堪えながら

 

「ぷーくすくす・・・、風の噂で聞いてますよ?エスデス隊長は私がイェーガーズ抜けた後、結構まともな戦い方して、負けた側の領民の方々もそれほどエスデス軍恨んで無いって・・・タツミ君が隊長に何かしたんでしょう?」

 

「ほぉ・・・」

 

カゲリがタツミを感心の眼差しで見、タツミはセリューを見、

 

「セリューお前ちょっとこっち来い!」

 

「さ、触らないで下さい!きゃー!変態、痴漢!隊長に浮気だって言いますよ!本気にしちゃいますよ?(どちらが?)・・・いやー!」

 

タツミはセリューを引きづって外に出ていき、コロはハンカチを振って見送った。

 

カゲリもふっと笑いながら、

「むっ・・・そういえばもうこんな時間か・・・」

 

ぐ~・・・コロも大仕事を終えた後の為。

 

「きゅきゅ!」

 

そして、ついでに3人と一匹は遅い夕飯を取りに部屋を出た。

 

 

 

 



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セリュー・ユビキタスが駆ける!(最終)

次話はアリアの頑張り物語(仮)です。更新日はまだ未定です・・・




その後、カゲリも反省し自分の身の丈にあった事から、自分に出来る事を少しずつ行っていきたいと話し、実家に戻って行った。

その姿を見送っている時に、

 

「タツミ君は優しいですね、命狙われたのに何もせず見逃すなんて」

 

「なに、あのガキが不細工だったから何もしなかっただけだ」

 

「そうですか?」

 

ドサドサ・・・

 

その後ろで薬草の束を落とす音がした・・・その落とした主は・・・

 

タツミは顔面蒼白になり、今の今まで油断していた事を激しく後悔した、

 

「タ・・・ツ・・・ミ・・・?」

 

「あれ?隊長、今までどちらへ・・・どうしたんですか?」

セリューもエスデスの存在に気付いたが、どうやらいつにも増して様子がおかしい。

 

 

話は以前に遡る、エスデスが今まで姿を見せていなかったのは・・・。

 

 

「エスデス・・・お前を呼んだのは他でもない」

 

タツミは某所にエスデスを呼びだし待っていた。

 

「うむ、私達二人の愛の巣となる新居の相談だな♪任せろ、タツミも満足する家を探し出して見せるぞ!」

 

「・・・ああいや、そうじゃなくてだな・・・薬草や他にこれこれとこれを少し遠いが取りに行ってくれないか?」

 

「ああ判った・・・だが私一人でか?」

 

エスデスはじっとタツミを見るが

 

「ああ、これはお前にしか頼めない事なんだ、頼む!」

 

エスデスもタツミにじっと見られ悪い気がしなかったのか

 

「・・・仕方ないな、だが帰って来たら判っているな、タツミ?」

 

「ん?・・・んん・・・判っている・・・」

 

そう言ってエスデスは旅立って行った・・・

 

「これで厄介払いが出来た・・・当分の時間稼ぎは出来るな・・・」

 

ナイトレイドアジトでの一件もあり、エスデスが居るとまとまる話もややこしくなる可能性を憂慮しての事であった。

 

 

・・・そして、タツミの予想よりも早目に帰って来てしまった。

 

セリューとコロは二人の間に流れる只ならぬ雰囲気を察知し、少しずつ距離を取り始める。

 

「うふふふふ・・・ワタシノ夫、タツミ?・・・アノメスイヌハイッタイダレダ・・・?よくはきこえなかったが・・・タツミのナニヲネラッテイタンダ?ソレニ、ブサイクダカラテヲダサナカッタのは私が居るのだからトウゼンダガ、ソノホカニイミガアレバオシエテくれ?」

 

「あ・・・あれは、最近知り合っただけで全く何も無いぞ、うん」

 

「ソウカ、マッタクナニも無いんだな?それで安心したぞ♪・・・ナラバコロしてもカマワナイナ・・・?」

 

ドカン、バキン!

 

カゲリを標的に向かおうとするエスデスを止めるタツミの攻防が始まる。

 

離れた所で流れ行く雲を眺め、のんびりお茶を飲むセリューとコロは、

 

「この平和がいつもまでも続くと良いね、コロ?」

 

「きゅい!」

 

 

ズドン、べキン!

 

 

後日、

ナジェンダの部屋に呼び出されたタツミに、

 

「先程、会議があって今後の政府の方針について再度話をしていたのだが・・・今日のが一旦終わった後、コウカツ殿がタツミに“くれぐれもよろしくと伝えて欲しい”と言っていたのだが・・・はて?それに以前と比べ多少まともな法案に変わって来てたな・・・不思議だ・・・」

 

※ コウカツはタツミの報復を恐れ、抜き打ち訓練と称し…部下達に不問に付すように伝えた。

 

「・・・何も不思議な事なんか無いぞ?こないだコウカツさんに頼み事があって、山吹色のお菓子を献上したんだ、それで二つ返事で良い返答をくれた」

 

「何?まさか賄賂でも贈ったのか?何をやっているんだ!?」

 

「ああ、だから今後“ナジェンダだけ”酒煙草24時間全面禁止、それを皆にも強要するのは可哀想だから、自らの身を挺して・・・ううっ、自己犠牲の鑑だ。そして、ついでに“ナジェンダだけ”給与削減も提案したんだ。そのうち案が通ると思うぞ、やったぜ!」

 

ナジェンダは怒号を発し、その勢いにタツミはずっこけ、そして部屋中の窓も揺れ

た。

 

 

そしてまた後日、復興が少しずつ進み、活気が出てきた帝国の広場で

 

「タツミく~ん~~あの後、隊長をどう説得したんですか?まさに鬼女の如く荒れ狂ってましたよね?あれをどうやってお鎮めされたんですか?何かあったんですか?それとも、ナニかしましたか?・・・くすくすくす」

 

「きゅきゅきゅ」

 

セリューとコロがイヤミな笑みでタツミをいじっていた。

 

「うるさい!丁寧に説明したら判ってくれた!」

 

「・・・どう丁寧に説明したんですか?じっくり教えてください・・・くくく」

 

「お前嫌な性格だな!?元々、そんな性格じゃ無かっただろ!」

 

「ふ~ん、誰かさんに似たからです!・・・ところでタツミのおやぶ~ん~、どうして首に包帯巻いているですか~」

 

タツミは冷や汗をかいたが素知らぬ顔で

 

「ちょっと怪我したんだ、別に大した事無い」

 

キラン☆

セリューの目が光り、いじりネタを見逃さない。

 

「ぷぷぷ、まさかエスデス隊長の唇で吸われた後が残っているとか・・・そんな事無いですよね?」

 

セリューは時間を掛けて攻めるのを止め、一気に本丸に攻撃を仕掛けた。

 

タツミは悟られぬよう、いつも以上に心を無に明鏡止水の境地で臨んだ。

 

「モチロン、ソンナコトハナイ・・・」

 

「あ~そうですか、ま、別に良いですけど・・・コロ、そろそろ可哀想だからこの辺でやめてあげよっか?」

 

「きゅ!」

 

タツミも汗をぬぐい、

 

「言っとくがこんな話をしに来て貰った訳じゃないぞ!」

 

「!?・・・まさか、タツミ君、私を愛人にしようと!だ、駄目ですよ!ああ見えて隊長、心広そうで狭いですから、殺されますよ!・・・で、でも二人だけの秘密も悪くないですね・・・」

 

セリューが顔を赤らめ、タツミも顔を赤くした・・・別の理由で。

 

「セリュー、お前の頭のネジ全部外すぞ!!」

 

「んも~冗談ですよ~」

 

「ったく・・・それだけ心の余裕が出て来れば良い方だ・・・話と言うのは、あんたまた新帝都の警察に戻る気はないか?」

 

「え?・・・」

セリューも先ほどまでの気分は吹っ飛んだ。

 

「新しい政府の奴らはまだどうにも信用出来ねェ、そして俺もそろそろこの国を出なきゃならない・・・正直ここまでこの国に世話焼くのも面倒だが、乗りかかった船だからな、だが俺がこの国に目を掛けるのはこれで最後だ・・・」

 

「え・・・えっと、タツミ君、帝国を出るんですか?」

 

「ああ・・・」

 

「どうしてです?」

 

「・・・俺はこの国の者じゃない」

 

「そうだったんですか・・・なるほど、言われてみれば確かに・・・ふ~む・・・また戻って来てくれますよね?」

 

「ああ・・・また戻って来る・・・」

 

タツミは敢えて嘘を言った。

 

「それならタツミ君が戻って来るまでに、この国を良い国にしてみますから!」

 

「へぇ~・・・本当に出来るのか?」

 

「言うだけは“ただ”ですから♪」

 

苦笑いしながらタツミは、

 

「じゃあさっきの件は引き受けてくれるな?」

 

セリューは一瞬息がつまり、

 

「・・・私にその資格はありません・・・」

 

タツミもそれを受け、真顔になり

 

「・・・・そういう自覚があるのは良い事だ。そして、その断る理由はなんだ?」

 

セリューは膝を降ろし、

 

「私の手には無実の人の血も染み込んでます・・・、それに私の頭には小型爆弾があります・・・誤作動はしないとドクターには言われてましたが・・・たまに夢に出るんです。今住んでいる小屋から近い村の親しい人達を巻き込んで壊滅するのを・・・、なんで私・・・こんなになっちゃったんだろ・・・、どうして、もっと早く気付かなかったんだろ・・・」

 

嗚咽を堪え、語る。

 

「セリュー・・・帝都警察は、建前は市民の平和と安全、正義の為に居ると言っているが・・・実際は現政府の安全と、現政府の掲げる正義を守る為に、居るだけだ・・・だから本当の意味では市民側の安全と正義を守る為じゃない・・・何も無い時は利害の一致で市民のそれを守りはするだろう・・・例えば、政府の要人でもなんでもない、ただの凶悪犯人なら政府にも市民にも害だから警察は捕らえるだろう・・・だがな、これが警察上部や政府要人なら話は別だ・・・見逃される事がある」

 

「・・・・・・」

 

「だが、確かに本来の意味は現政府の維持の為、現政府の都合のいい正義の為に居るだろう警察だが、結局は組織を造るのも人だからな・・・その政府の介入にも屈しないで、本当の正義を行える・・・弱い者の立場になって考えられる警察組織になっていって欲しい・・・」

 

「タツミ君・・・前に正義は無いとか・・・言ってましたが?」

 

「時と場合による!以前のセリューには正義なんか無いと言った方が、効果があっただろうし、今なら敢えて正義の言葉を使っても判断を間違わないかもなと思ってな」

 

「ふふふ・・・他にも“セリューお前が命令すればこのほし、でしたか?・・・の人間だけ・・・或いは生物だけ皆殺しに出来るぞ?・・・生きている事そのものが悪だ・・・だから、お前の正義執行を、俺が叶えるぞ!”・・・とか言ってましたよね?」

 

「よく覚えてたな・・・」

 

「もしあの時、私が頼んでましたら・・・どうなってました?」

 

「さぁな・・・」

 

「きっと、私がまず一番初めにタツミ君に殺されてたと思います・・・タツミ君、貴方は私を試したんですよね?」

 

 

「・・・どう思おうが、あんたの自由だ・・・なぁセリュー、この星・・・ああいや

、この大地に取って人間は悪そのものかもしれないぞ?。」

 

「人間が?」

 

「土地は占めるわ、戦争をして森は燃やすわ・・・こんな生物居ない方が良いとは思わないか?」

 

「それは・・・」

 

タツミは何も言わず、セリューは黙考している間待った後、

 

 

 

 

 

「それでも私は、・・・私も貴方のおかげで変われましたから、人が変わっていける事を信じたい!・・・少しでも他の生きている動物・植物たちに迷惑が及ばないよう・・・食べるのは仕方ありませんが・・・闘う事もあるでしょうが出来うる限り共存していきたいです!・・・そして、いつか人々そのものが最期の時が来るかも知れませんが、その時は・・・良い生き方をされたねと、大地に言われるような、そんな生き方をしたいです!」

 

 

 

 

 

タツミは溜息をついた後、

 

「そうか・・・判った・・・」

 

セリューは冷静になり

 

「ええ、ああ・・・つい・・・タツミ君にこんな事、既に判ってますよね?」

 

「いや・・・」

 

そして、

 

「有難いお話ですが、村の子供に今、読み書き教えてるんですよ。それもありまし

て、警察のお仕事までは・・・」

 

「罪滅ぼしだと思って、二つ仕事こなせ」

 

「鬼ですね!」

 

「それに・・・さっきの話だが、もし子供たちに教えている時に脳の爆弾が誤爆したらどうする・・・?」

 

「そ、それは・・・、ドクターから私の意思で作動すると言われてますから・・・大丈夫です・・・たぶん・・・」

 

「あのスタイリッシュが言う事だからなぁ・・・前に俺が奴の研究資料を漁った時

に、例のそれを内蔵している者の生命活動停止時にも起爆する可能性ありと書いてたぞ?」

 

「え?それは聞いてません!・・・まぁ今更、ドクターの事で驚きませんが」

 

「で、どうするんだ?」

 

「・・・もし、死が近付いた時は、人里離れた所に行きます・・・」

 

「きゅ・・・」

コロもその時は一緒だ、という意思を示す。

 

「そうかい?判った・・・じゃあ先払いしておくか・・・」

 

「え?」

 

タツミは瞬時に手刀をセリューの首筋に当て、

 

「な・・・なにを・・・」

 

気絶した彼女を担ぎ、コロと共にその場を後にした、一瞬の出来事で周りの通行人達も特に気に留めなかった。

 

 

 

「うっ・・・ここは・・・」

 

セリューはタツミが改良も施したスタイリッシュの元・ラボで目を覚ました。

 

「きゅきゅきゅ!」

 

コロは目を覚ました主人に駆け寄り、手紙を渡した。

 

そこには、セリューの配属先と訪ねる場所が書かれていた。

そして、寝ていた直ぐ横には、本来脳に有ったであろう、小型爆弾が銀皿に上に置かれていた。

 

「タツミ君・・・私の手も・・・ありがとうございます・・・」

 

彼女の毛の中の身体情報を用い超技術で手等を複製し、体の機械部分を取り除き、全て生身の体へと変えたのだろう・・・セリューは涙を流し、喜びを噛みしめた・・・が、

 

手紙の続きには

 

“服の着せ方判らんかったから、自分で着てくれ”

 

とあり、

 

「え・・・・・?きゃあああああああ」

 

「きゅ!?」

 

セリューの雄叫びにコロも驚き、

 

「わああああ・・・男の人に裸見られた・・・タタタッタ、タツミ君責任取ってえええええ!!」

 

もう、そこに彼はいない。

 



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タツミを斬る!(番外編)

時には気晴らしにこんな馬鹿話を・・・。


ナイトレイドアジトの居間で

 

「タツミ・・・お前を呼んだのは他でも無い」

 

タツミは新政府新聞を読みながらソファーに腰掛け、アカメの話を聞いていた。

 

「・・・呼ばれたんじゃなくて、初めから俺はここに居て、後から来たのはアカメだろ」

 

「ふっ・・・、そんな口答えが出来るのも今のうちだぞ、タツミ!」

 

「あっそ・・・」

 

「革命も一段落し、タツミとの預けておいた勝負に決着を付ける時が来たぞ」

 

「いや、そんな話は今初めて聞いたんだが!」

 

「負けた後の言い訳はそれで済んだか?」

 

アカメはじーっとタツミを見る。

 

タツミは新聞を読んでいる。

 

アカメは更に近づいてくる。

 

「近い近い近い!うっとしいんだよ!」

 

アカメは尚、目で訴えかけてくる。

 

「あーもう、判った、勝負でも何でもしてやる、一体なんだ!」

 

とうとうタツミも新聞を置き、アカメにイラつき始める。

 

「タツミ、勝負はどちらかが降参するか、戦闘不能になったと認めた時点で終わりとする。良いか?」

 

「ああ、判った!」

 

「では行くぞ!」

 

「!!」

 

タツミも体は無構えでも心で身構え、アカメは顔前で手を交差させ・・・

 

 

「ムラサメ・アカメ 17才だぞ♪」きゃぴ♪・・・という文字が出てきそうな雰囲気を醸し出し、しかも敬礼した上で、顔を45度曲げ、ウインクしてきた・・・・。

 

「・・・?・・・?・・・・?」

 

タツミは激しく混乱していた。

 

(う~ん、今朝何を食べたか・・・、何も食べなかったか・・・昼飯は何にすべきか・・・)

 

余りの事に思考が追い付いていない。

 

「フッ・・・、まだまだだな、タツミは…思った通り私の勝ちだ!」

 

アカメは勝利宣言し、

 

(な、なんだ今のは?何が勝利条件だったんだ?・・・誰か教えてくれ!)

 

そこに、

 

「あら?あんたら何をやってんのよ?」

 

マインが声を掛けてきた。

 

「あ?ああ、マイン・・・」

 

「マイン、丁度良い所に来てくれた!タツミが負けを認めようとしなくて困っているんだ」

 

「はい?」

 

 

アカメはマインに事に経緯を話し始め、タツミは内心安堵していた、アカメの奇行を聞いてマインが「アカメ、あんた馬鹿じゃない?」と言ってくれるだろと。

 

「はぁ全く・・・タツミ、あんた馬鹿じゃない?」

 

「そうそう、そうだろ?マイン、アカメに言ってや・・・、なにィ!?」

 

「あんたねー、素直に負けを認めないなんて男らしくないわよ!」

 

「そうだタツミ、男の意地を張る所では無いぞ?」

 

(な、何がどうなっているんだ、さっぱりわからん・・・)

 

タツミは戦慄し始めた。

 

「アカメ・・・あんたもあんたよ、そのレベルで負けを認めさせるなんて、ちょっと実力不足よ!」

 

「むっ!?・・・なら、マインもやってみせろ!」

 

「ふっ・・・、あんたとあたしの実力の差を思い知らせてやるわ!良い?見てなさい!」

 

マインはくるっと一回転すると、

「みんな~、きょうもあつまってくれてありがと~~!きょうはね~みんなにおしらせがありま~す~。マインはきょうでぇ、じゅうななさいになりました~、でも~これいじょうはとしはとりませ~ん~やったね♪」

 

 

 

「なっ・・・、マイン・・・まさか、観客を造りだす(演出)とは・・・やるな!」

 

「ぐはっ!」

 

アカメは驚嘆し、・・・タツミは吐血した。

 

「ふっ、どうアカメ?あたしとの差は判ったかしら?タツミも完全に負けを認めたようね」

 

アカメは膝をついたタツミに駆け寄り、

 

「タツミー、しっかりしろぉ!」

 

「うっ・・・(いや、元々はアカメ、お前が事の発端だろうが!)」

 

「くっ・・・いたいけなタツミになんて事を、ここまでやるなんて・・・マイン、・・・私はお前を許さないぞ!」

 

アカメがタツミの為に・・・激昂したのに対し、不敵な笑みで受けるマイン。

 

「へぇ~どう許さないの?」

 

そこに、

 

「ふっふっふ、話は聞かせて貰ったわ!」

 

 

 

「なにやつ!?」

 

「だれだ?」

 

「・・・・・・」

 

マイン、アカメは呼びかけ、タツミはこの場から逃げたくなっていた。

 

 

壁にもたれながら腕組みし、不敵な笑みを浮かべたチェルシーが現れる。

 

「二人とも中々良い線いってるけど、経験が足りないね」キラン☆と挑発的に目を輝かせる…(うざい)

 

 

「ふっ、言うじゃない?じゃあ、あんたはタツミを瞬殺出来るの?」

 

「チェルシー、口だけならいくらでも言えるが・・・相当の自信があるみたいだな?」

 

 

(さぁ、俺よ、心を無にするんだ・・・このアホ空間から逃れるには、色即是空、空即是色、全ては無・・・気配も何もかも断ち、存在そのものも悟られないように・・・)

 

 

「ええ、見せてあげる!じゃあいくよ!・・・ふぅ・・・、“あ~しぃ~、もうじゅうななじゃん?まじやべぇっしょ!え?じゅうななだよ?じゅうなな?もうおばさんじゃん?もうすぐではたち?うぅわ!さいあく、もうばばあになるじゃん?そんなばばあになってまで生きるのむなしくね?あ~しぃ、ぜってぇそんまえにそっこうでしぬわ!”」

 

チェルシーが言い終えると・・・

 

「げふっ!」

 

「ぐはっ!」

 

「・・・・・・」

 

マインとアカメは吐血し、タツミはただ白けていた。

 

「くっ・・・、チェルシー・・・ここまで内角(?)を的確に抉ってくるとは・・・やるな・・・」

 

アカメが瀕死に対し、

 

「チェルシー・・・あんた、・・・ぜぇぜぇ・・・あたし達を攻撃してどうすんのよ!・・・あ、危なかったわ、自分にかけた魔法(?)が危うく解ける所だった・・・」

 

※ここに居るメンバー全員、二十歳未満は居ない!

 

「あ、あれ?タツミ・・・平気なの?」

 

チェルシーが信じられないと尋ねるに対し、

 

「うん?ああ、まぁ、別に・・・(実際、俺自身はチェルシー達の年に比べれば爺だしなぁ・・・)」

 

「くっ・・・私より年下でもほぼ変わりないタツミだ、何故ダメージを受けないんだ!」

 

「判ったわ!男は年齢以上に見られた方が貫録が有るとか、好意的に受け止める時期があるのよ、きっとその為よ!」

 

「成程・・・」

 

「え?タツミが変わってるだけじゃないの?」

 

「うるせぇな、チェルシー!」

 

一しきり言いあった後、

 

「う~ん、タツミには通じないか・・・じゃあ攻め手を変えよう!」

 

チェルシーが何やら作戦変更を考えたのに対し、一部・・・大部分から非難が続出。

 

「チェルシー、今度は狙いを外すんじゃないわよ!」

 

「全くだ!タツミにはかすりもしなかったぞ、寧ろ私達が大惨事だ!」

 

「う~ん・・・あたしはこれでもフルパワーでやったのに・・・」

 

「くっくっく・・・遊びはここまでだ、お望み通り・・・って違ぇよ!フルパワーって、なんだそれ!もう俺帰って良いだろ!」

 

 

そして、その時、

 

 

「ハーッハッハッハ!」

 

天井の梁の上から笑い声が聞こえ、

 

「なにやつ!」

 

「誰だ!」

 

「上?え?誰?あの変な人!?」

 

3人娘がそれぞれ喚くに対し、ふわりと降り立った仮面を付けた碧髪の女性。

 

 

「ふっ、ナイトレイドのメスカス虫共!そこの可愛い少年(?)をいたぶる所業は例え天が許しても、このエスティー仮面が許さんぞ!」

 

ビシッと指差し決めポーズに対し、

 

マインは頭痛を覚えながら、

「・・・あんた、頭大丈夫!?」

 

「誰だお前は、何者だ!?」

 

「・・・アカメちゃん?判ってて言ってるよね?判ってて言ってるんだよね?」

 

チェルシーがアカメに疑問を呈している中、タツミは少しずつ気付かないように遠くに離れようとしている。

 

 

「ふっふっふ、歩が三つで雑兵三人組共が!私が真の強さを見せてくれる!」

 

「歩を馬鹿にすんじゃないわよ!」

 

「ふ、とはなんだ?」

 

「・・・とりあえず今は気にしなくて良いよ」

 

 

エスティー仮面・・・は仮面を外し、

 

「うふ♪ねぇタツミおにいちゃんいっしょにかえろ?」

 

謎過ぎる…その女性は自身の長身スタイルには似合わない、片足を曲げ柔らかく握った両手を自身の両頬につけ、上目づかいのウィンクでタツミを見る。

 

 

・・・当の彼はかなりの悪寒が走ったが、少しずつこの空間から逃れられるよう辛くも堪える。

 

 

「な!?」

 

「む?」

 

「ええ?」

 

瞬時に彼女は仮面を付けて、ドヤ顔で勝ち誇っていた。

 

3人は顔面蒼白で驚愕し

 

「う・・・うそ・・・、あ、あそこまで自分を捨てされるなんて・・・呆れを通り越して・・・ちょっとでも尊敬しそうになった・・・じ、自分が怖いわ・・・」

 

「・・・、な、何者かは知らないが・・・くっ・・・か、かなりの手練だ・・・」

 

「う・・・うん、まぁ・・・誰あんた?って、レベルではある事は間違いないね・・・、て、帝国最強の通り名は伊達じゃなかったんだね・・・くっ・・・」

 

 

「ふふふ・・・いい加減負けを認めろ、これ程の実力差を見せつけられてもまだ堪えてられるその気概だけは認めてやる・・・なぁタツミ・・・ん?」

 

 

(あと一歩・・・あと一歩だ・・・)

 

タツミはこの空間から逃れる為のドアに手を掛けたその時、

 

「ふふふ、何処に行くんだ夫?」

 

彼の背中に何やら二つの弾力が伝わり、甘い吐息が掛かる。

 

「の・が・さ・な・い・ぞ♪」

 

タツミは汗びっしょりになり、

 

 

「そうよ、タツミあんた何処に行こうとしてんのよ!?まだ勝負はついてないのよ!」

 

「そうだ・・・まだ私は負けを認めてないぞ・・・まだ奥の手がある!」

 

「言うねぇアカメちゃん?そうそう、タツミが判定してくれないとね?私もこのままじゃまだ終われない!」

 

 

 

お前ら好い加減にしろーー!

 

 

タツミの絶叫が木霊した・・・。

 

 

 

 

帝都某居酒屋

 

気心の知れた居酒屋であり、彼女達が安心して飲める所でもある。

 

「ああ~あいつら、人のアジトで何をやっているんだ・・・」

 

ナジェンダがビールを一気飲みし、愚痴る。

彼女達は、アジトの居間での出来事を見て、呆れて退散していた。

 

 

「おじさん、もう一杯!まぁまぁ良いじゃないですか、ボス?」

 

レオーネは注文し、ナジェンダにビールを渡す。

 

「あいつら若いよな・・・」

 

「え?・・・ええ~ボスだって十分若いですって・・・」

 

「いや・・・そういう若さではなく、ああいう・・・なんて言えば良いかな?」

 

「あ~、何となく言いたい事は判ります・・・」

 

「確かお前はチェルシーと・・・エスデスともほぼ同じ年だったか?」

 

「はい、そうです・・・ま、でもあんな事は出来ませんけどね~あはは」

 

「ふっ・・・そうだよな?私達“大人な女”はあんな事はしないよな?」

 

「全くです!大人の女は黙ってワイングラスを傾けるですよ!」

 

「ふふふ、その通りだな・・・どれ、ちょっと席を外す」

 

「はい、どうぞ!」

 

ナジェンダは化粧室の鏡の前へ行き、

 

「全くあいつら・・・もういい年なのだ・・・あんな事をして・・・」

 

そう言いながらナジェンダは上目づかいを試してみたり、

 

「きゅ?きゅきゅきゅきゅ~・・・うん、今のは我ながらうまく・・・はぅわ!」

 

鏡に後ろでレオーネがニタぁ~と笑っていたのが見えた・・・。

 

 

―――――――

 

 

 

「うっ・・・くっ・・・お、お前らもう好い加減に・・・はっ?・・・はぁはぁ、ゆ、夢か・・・なんて馬鹿な夢を・・・俺も疲れが溜まっていたか・・・?」

 

タツミはいつの間にか居間で新聞片手に寝ていたようだ。

 

その時、ドアが開き

 

「タツミ・・・お前を呼んだのは他でも無い」

アカメがそう言って入って来た・・・。

 

 

 

「!?」

 

・・・悪夢はまだ終わっていない・・・いない・・・。

 



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報酬はスイス銀行へ・・・セリューと愉快な仲間達 (番外編)

時系列的には先のセリュー話の後になります。番外編的な話はもう1話だけ続く予定です。


いつもセリューとコロは一緒で、彼女はコロとは意思の疎通は常に計れていると思っている。なので、ふと何気なく彼女は相方に聞いてみた。

 

「ねぇ、コロ?コロは私の事どう思っているの?」

 

「きゅ?・・・・・・」

 

少し間が空いた後、

 

「きゅきゅきゅwww」

 

1人と1匹の間に一瞬冷たい風が吹きぬけて行った・・・。

 

「え?コロ?・・・」

 

「きゅーきゅ?きゅきゅ・・・」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

ナイトレイドアジトの居間でタツミは“アオメが着る!”という主人公のアオメが服飾関係で失敗と挫折を経て成功していくという漫画をチェルシーに強引に勧められ読んでいた。

 

 

 

「タ、タタタタタ・・・タツ~~~えも~んん~~~~!」

 

セリューが眼鏡をかけて泣きながら、アジトの居間へダイブしてきた。

 

「どぅわあああああ、誰かこっちに来てると思ったら・・・おまぇかぁあ!!」

 

「アワウアオアオワウ~~キュキュキュ~」

 

セリューが意味不明な言語を発するに対し、当然タツミは

 

 

 

「何言ってるか判る訳無いだろ!!!」

 

 

 

タツミは頭痛を覚えながら、セリューを落ち着かせ

 

「・・・まず一つずつ言うぞ?・・・なんで、ここに来た?来るなと言っただろう

が!?そして、その眼鏡なんだ?いやまぁ良いが・・・それと、さっきの意味不明な言葉は何だ?そして、最後にリュウヅカ・タツキチってんのは、いったぁああい、だれだそいつはあああ!?」

 

セリューはタツミを落ち着かせ、

 

「まぁまぁタツミ君、落ち着いて!まず一つずつ言いますと、ここへ来るなとはいってませんよね?眼鏡は・・・何故か知りませんけど、空から落ちてきたんです、別に付ける必要ないですね。・・・意味不明な事言ったのはなんとなくでして・・・あはは。それとタツキチって誰ですか?そんな事言って無いですよ?」

 

小首かしげながら、私判りませんとあどけなく聞くセリューに対し、

 

「ボケたんだよぉお!真顔でツッコムなぁ!それとここへは言わなくても来たりしないだろが、普通!!!・・・元々、敵の本拠地の一つだぞ!」

 

そして、セリューも真顔になり

 

「虎穴に入らずんば竜を得ず(?)です!・・・実は・・・急を要する案件が出来ました!」

 

「・・・なんだ、何があった・・・まさか、ボルスさん達に新政府軍から何かあったのか?」

 

キョトンとしたセリューが少し間がおいたあと、

 

「・・・いぇ、コロの言っている事が判らず困っていたんです!」

 

「・・・・・・」

 

 

 

アジトの空を小鳥がさえずり、気持ち良く飛んで行った・・・。

 

 

 

 

 

そんなことでいちいちここにくんなーーーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

タツミは大地を揺るがす怒号を発し、セリューのバランス値を大きく奪う!

 

 

「ええええええええ???~~~ああ~~~びっくりした~~~、いやぁ~~藪をつついて、雷竜をだしてしまいました~~」

 

「とっととでてけ!」

 

「あ~すみません、ごめんなさい、ちょっとふざけ過ぎました!・・・こんな事頼めるのタツミ君しかいませんから・・・」

 

「そりゃそんなどうでも良い事他に頼める奴・・・いや俺だって頼まれないからな!」

 

「え~~?お願いしますよ、このとーり!」

 

「断る!俺は今忙しいんだ!」

 

「は?ただ漫画読んでるだけじゃないですか?」

 

「本日の営業はもう終了したんだ、とっとと帰れ!!」

 

話は平行線を辿り、妥協点が見えない中・・・、

 

 

「仕方が有りません・・・、余りこういう手は使いたくなかったんですが・・・」

 

「・・・・・・」

 

「処刑されそうな隊長を助け出した時ありましたよね?・・・あの時、タツミ君なんていってましたっけ?」

 

「は?何も言ってる訳無いだろ・・?」

 

タツミは微かに嫌な予感を感じ始めた。

 

「確か・・・“あいつに死なれたら、俺はもう生きていけない”って言ってましたよね?」

 

「言う訳ないだろうがーーーー!!」

 

タツミは持っていた漫画の本を真っ二つに切り裂いた・・・後でチェルシーに怒られる。

 

 

「“言う訳は無い”・・・と言う事は、心の中では思ったと言う事・・・ですよね!?」

 

「・・・お前は明らかに一つの方向に意思を誘導しようとしている、その手には乗らんぞ」

 

「ふ~~~ん?じゃあ、隊長が帝具、使用不能になってました時、一時期タツミ君は隊長にも悟られないように気配を消して・・・匂いもごまかして、距離置いて警護してたの・・・私、コロから教えて貰って知ってるんですよ?」

 

セリューはニッコリ天使の如く?微笑んだ。

タツミは直ぐに、あれはまだ利用価値が有ったから死なれると不味いと言う事は出来たが、それに輪を掛けてセリューは詰んでくる予感が有ったので、被害を最小限に抑える為にタツミは・・・

 

「・・・報酬はスイス銀行に振り込んでくれ・・・」

 

「フフフッ・・・交渉成立ですね・・・ところで、スイスってなんですか?」

 

二人はとりあえずアジトを離れ、適当な野原で・・・。

 

 

「仕方ない、あれを出すか・・・」

 

「何か出すんですか?」

 

タツミはおもむろに犬のマスコットの形をした平板を取り出し、

 

「デレッデッデ~、テイグジャアアコリャアア~~!!(ドラ声)」

 

「はい?」

 

「これはその帝具がどう思っているか聞きだす帝具なんだ~(ドラ声)」

 

「な、なんですか・・・そんな帝具があったんですか?」

 

「昨日酒場で隣に座ってたお姉さんがくれたんだ~(ドラ声)」

 

「え?タツミ君お酒呑めましたっけ?誰かとの付き合いでですか?・・・それよりもさっきから何ですかその声は?」

 

「まっ、とにかくやってみせよう」

 

「はい、楽しみです!」

 

タツミはおもむろにセリューを凝視する。

 

「え・・・?」

 

セリューはじっと見つめられ、

(な・・・なんですか、そんな熱視線を・・・)

 

「セリュー・・・」

 

「は、はい!!」

 

タツミはセリューの頬に手をやり、

 

「タ・・・タタッタタタタツミ君?えええええ・・・貴方には隊長が~・・・あわわあわあわ」

 

そして、タツミはセリューの髪の毛を一気にぐしゃぐしゃにした・・・。

 

「なぁあああああ!?・・・ななななあなな、なにするんですかぁあ!セ、セクハラですよ?事案の発生です!今のは二重の意味で罪ですよ!!・・・ああ、もう、折角綺麗にセットしてたのに・・・もう!どうしてくれるんですか!?」

 

「来たな・・・」

 

「え?」

 

ドドドドドド・・・、大きな足音と砂塵と共に、スサノオがやってきた!

 

「え?えええええええ!」

 

スサノオがセリューの前まで来たかと思うと、

 

「え?あの?」

 

「・・・・・・」

 

スサノオは電光石火の速さで乱れたセリューの髪を整えていく。

 

「うむ、こんなものか!」

 

「はぁ~・・・ありがとうございます・・・」

 

そして、タツミは

 

「社長よく来てくれた」

 

「タツミが呼んだのか・・・?」

 

「え?この人社長なんですか?でも・・・(角生えてますね)」

 

「そうだ、セリューは社長と初対面だったな?この人は社長型帝具だ」

 

「そ、そんな帝具あったんですか?」

 

「タツミ・・・俺はシャチョウとやらでは無いぞ?」

 

「ま、そんな事どーでもいいんだ・・・社長、今どう思っている?」

 

(タツミ君、ひどい・・・)

 

タツミは先程の帝具をスサノオに向け、その平板には文字が浮かび上がる。

 

「特に何も思っていないぞ」

 

それと同時に、

 

“特に何も思っていないぞ”

 

と浮かび上がる。

 

「これで判ったろ?」

 

「これで判ったろ?・・・と言われても・・・」

 

「なんだ?ただ相手の声を拾っただけだと思ってるのか?」

 

「ええ・・・まぁ」

 

そうしている内にスサノオが、

 

「むっ!?あの方角からレオーネが二日酔いで寝過ぎて髪を乱している気を感じる

ぞ!」

 

タツミは驚いてみせ、

 

「な!?そこまで判るのか?」

 

「今度こそ、奴の乱れを俺が始末付ける!」

 

「気を付けるんだぞ、スサノオ・・・死ぬでないぞ?」

 

「ああ・・・いってくる!」

 

そう言ってスサノオは浮かび上がり、体の周りから透明のオーラを発し、空へと飛んで行った。

 

「え?・・・ええええええ!!??」

 

「・・・それにしても、スサノオのやつ、あれ程の力を秘めておったとはのう・・・もしかしたら勝てるかもしれん」

 

セリューは驚きと呆れを隠せず、

 

「・・・あの・・・一体何に勝つんですか?しかも、空飛ぶ人?なんて初めて見ましたよ・・・どうなってるんですか?・・・それとタツミ君、さっきから微妙に口調が変ですよ?」

 

「細かい事気にする奴だなぁ・・・どうでも良いだろ、そんな事」

 

「いやいやいやいや、普通に気になるでしょ!」

 

「空飛べたのは体の内の気を放出してだな・・・」

 

「もう良いです、判らないという事が判りました・・・」

 

とりあえず、一息ついた後、

 

「じゃあセリュー、これを持ってコロに聞いてみれば良い」

 

「・・・ええ~、信用出来ませんよ・・・」

 

「疑り深い奴だな、全く・・・仕方ない、別の奴を呼ぶか・・・」

 

「今度は誰を呼ぶんですか?」

 

タツミはいきなり、

 

「あー!あそこにフライング・ヒューマノイドがぁあ!!」

 

と指差し、

 

「えー!?フライング、ヒューマノイドがぁ・・・?って何ですかそれ!」

 

そう言って、セリューがタツミの方に振り返ると、

 

「あれ?タツミ君・・・それ?」

 

そこには火を起こして骨付き肉を焼いているタツミの姿があった。

 

「い、いつの間に!?そもそも何処にそんな肉隠してたんですか?」

 

「なんだ?そんなに腹すいてたのか?食いしん坊だなぁ」

 

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて・・・ああ、もう・・・」

 

ズドドドドドド・・・

 

「え?」

 

「来たか・・・」

 

 

アカメが凄い勢いで血相変えて激走してくる。

 

 

そして、

 

「タタタタタタ、タツミ?そ、そそそそその肉どうしたんだ?」

 

アカメは今にも喰いつかん勢いで迫る。

 

「ああ、丁度腹減ってたから食べようと思ってな・・・」

 

「そ、そのタツミ・・・良かったら私にも一口だけ・・・」

 

 

セリューは緊張し始め、

 

(ナイトレイドのアカメ・・・)

 

アカメもセリューに気付き、

 

「タツミ、後生だ・・・む?お前は・・・確か・・・」

 

アカメもかつての敵、イェーガーズの1人にこの顔があったような・・・と記憶を思

い出してきた。

 

(あの殺し屋の・・・確かに、おどけているとはいえ、出来る・・・)

 

二人の間に互いの出方を探る緊張感が流れ、火花が爆ぜるような空気が出来る。

 

 

「アカメ、村雨を少し貸してくれ。それならこの肉やるから」

 

「なっ!?本当か!!」

 

セリューとのにらみ合いは緩和され、

 

(ええ~・・・?)

 

 

 

「ほらよ」

 

「タツミはやはり、良い奴だな、はぐはぐ」

 

「じゃあ村雨借りるぞ」

 

アカメは凄い勢いで肉にかぶりつく。

 

 

「じゃあセリュー試してみようぜ」

 

「え?・・・ええ、はい・・・(なんかアカメの事、どうでもよくなりました)」

 

 

 

タツミは例のブツを村雨にかざす、すると・・・。

 

“我二何カ用カ?”

 

「どうだセリュー?」

 

「おお~!いやでも・・・帝具が人間の言葉を話すのはなぜですか?」

 

「それは、その帝具の意思の波長を感じて、人間の言語のそれに最も近い雰囲気を現す単語を抽出してだな・・・」

 

「なるほど!中々科学的ですね!」

 

 

「では2,3質問しよう!」

 

「はい!」

 

「村雨、何故お前はアカメを使い手に選んだ?」

 

“・・・貴奴ハ、中々ノ業ヲ背負ッテオッタ・・・、我ガ退屈凌ギニ貴奴ノ行末ヲ見トウナッタ・・・其レダケノ事ヨ!”

 

セリューは唸り、

 

「う~ん・・・さすが妖刀らしい答えですね」

 

タツミはふと何かを思い立ち、食べるのに夢中のアカメに、

 

「アカメ、お前は寝る時や風呂に入る時、村雨を何処に置いているんだ?」

 

「もぐもぐ、ぱくぱく・・・ん?いつもそばに置いているぞ?用心の為に抱いて寝る事もあるぞ・・・もぐもぐ、はぐはぐ」

 

「あ~成程な、有難うな、食べてて良いぞ・・・と言う訳でだセリュー」

 

「はい・・・?」

 

「村雨・・・お前、アカメが寝ている時に抱かれているのはどんな心持だ?」

 

“・・・・・・・”

 

「おい、こら答えろ!」

 

“・・・、ソ、ソレハ・・・我ガコメントスル立場二・・・ナイ・・・”

 

「え~・・・」

 

セリューも呆れ、

 

「何言ってんだお前!?思いっきり答える立場に有るだろうが!?叩き折ったろか、この野郎!」

 

タツミは怒り、

 

「もう良いですよタツミ君・・・この帝具がムッツリさんなのは判りましたから・・・でも帝具にも性別が有るんですか?」

 

「あるのかもな」

 

「・・・非科学的ですね」

 

“・・・・・・・・・・・・・・・”

 

 

「アカメ、もう帰って良いぞ?」

 

タツミは村雨をアカメに返したが、彼女は切な気にこちらを見て来る。

 

「タツミ・・・」

 

「あ?あ~・・・その肉も持って帰って良いぞ?」

 

「♪」

 

アカメは嬉しそうに肉を持って、アジトへ帰って行った。

 

 

一方、スサノオ達は

 

ラバックが瀕死(?)の状態で倒れ、レオーネが怒っていた。

 

「あ~もう、ラバ。あたしが頭痛くて寝ている時に何しようとした!」

 

「お、俺は・・・ただ・・・姐さんの着替えを手伝おうと・・・ぐふっ」

 

そこに、

 

「ス、スーさん!」

 

「え?スーさん、どったの?」

 

彼の乱入にラバックとレオーネも気付き、髪が乱れた彼女の前にやってくる。

 

「逃げろ、スーさん!!!すぐに逃げるんだ!!!」

 

「そうはいかん・・・死んだラバックの為にも俺はここで退く訳にはいかない」

 

「ふん・・・直ぐにでもあいつの元に送ってやるよ・・・、あ、頭痛ぁ・・・」

 

レオーネとスサノオが対峙し、ラバックは

 

「なぁ俺生きてるよね?・・・これっていじめだよな?お前ら訴えてやる!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「・・・と言う訳でセリューこれで納得してくれたか?」

 

「そうですね・・・じゃあ最後にもう一回だけ試させて下さい!」

 

「疑り深い奴だな・・・まぁ良いだろう」

 

その時、タツミは空に向かって叫ぶ愛の言葉・・・

 

「あ~・・・俺はエスデスを世界の誰よりも愛している・・・」

 

但し棒読みで。

 

「・・・タツミ君、何言ってんですか?・・・でも今までの経緯を考えますと嫌な予感しかしませんね・・・」

 

ズドドドドドド・・・

 

 

「ええーーー・・・!!!本当に来るんですか?最早怪異現象ですよ!」

 

 

エスデスがスカートの裾をたくし上げ、ウェディングドレス姿で猛烈な勢いでこちらに向かってくる・・・。

 

「タ・・・タツミ?式はいつにするんだ?明日か?うむ、勿論予約済みだぞ♪」

 

「エ、エスデス隊長・・・も、もう何も言う気も湧きません・・・」

 

「セリュー、もうエスデスは隊長じゃないだろ?」

 

「そうではあるんですが・・・まぁなんとなく、私はそう呼ぶ方がしっくり来まし

て・・・」

 

エスデスもセリューに気付き、

 

「セリューか・・・何故我が夫と共にいるんだ・・・まさか・・・?」

 

エスデスは誰もが震え上がる恐怖の波動の目付きで睨む。

 

「い、えええええーーいえ違うんです、これは!」

 

「エスデス、・・・セリューは自分の夢をどうやらこの辺に落としてしまって一緒に探して欲しいと頼まれただけだ」

 

タツミがフォロー(?)するが、

 

「え?」

 

「・・・何だそんな事か・・・それならば仕方がないな。セリュー、私の夫を連れ出す時は次からはしっかりと私の許可を得ろ!」

 

「は、はい、すみませんでした!(・・・こんな事で納得する隊長・・・可愛いと言うか何と言いますか・・・)・・・えええ?タツミ君な、なにやってんですかああああ!!!」

 

セリューはエスデスに内心苦笑しながら、次のタツミの行動に驚き、

 

「そ、そんなタツミ・・・だ、だめだぞ・・・他の者がいる前で・・・」

 

エスデスが顔を紅潮するのにお構いなしに、タツミは彼女の胸元を押し広げた・・・帝具のデモンズエキスのマークが見えるように。

 

「タツミ・・・何故そこで止まるんだ・・・???」

 

「エスデス・・・ちょっと黙ってろ!」

 

タツミは例のモノを振りかざした。

 

「タツミ君、何やるかと思ってビックリドッキリしましたよ・・・そういう事だったんですね?」

 

「下らない事いってねぇでさっさと質問するぞ」

 

「はいはい・・・じゃあ隊長は一昨日の晩何を食べたんですか?」

 

 

“そんなことあーしにきかれてもしんないしー”

 

 

「おお、でましたね!・・・な、なんか少し軽い気もしますが・・・」

 

「・・・まぁいいや、他にはお前幾つだ?」

 

 

“は?女にとし聞くなんてマジデリカシ―なさげ?だれあんた?”

 

 

「タツミ君・・・何か怒ってますけど・・・でも実際、帝具の年齢って・・・」

 

「ああ、それは・・・うっ」

 

エスデスは暇を持て余していたので、タツミの空いている手の指を吸い始めた・・・。

 

「(ナ、ナニやってんだお前ー!と怒鳴りたいところだが、セリューは気付いてな

い・・・ここは我慢だ)・・・くっ・・・確か千年だな・・・」

 

セリューは例の帝具に見入っている為、エスデスのやらかしに気付いていない。

 

「そういえば、千年前のこの国皇帝が造ったと言われてましたね・・・じゃあコロも千才!おお~・・・」

 

「確かに・・・、くっ・・・、普通に考えたら千才だが、活動時間を考えたら、必ずしもその年には当てはまらないな・・・」

 

タツミは男の性としての快感と理性の歯止めで闘っていたが、セリューは全く気付かず、さっぱり判らない。

 

「あれ?タツミ君?具合悪そうですが、何かありました?」

 

「ナニも無い!・・・とにかく、他の質問を」

 

 

“・・・あー、あんたがタツミ?このエスデスが毎日のように花占いしたり、あんたの事、ひとりでのろけてるから超絶うざいんですけどー!・・・けど、よく見たら結構あんたかわいーからゆるしたげる!”

 

「タツミ君・・・」

 

「この帝具ぶっとばしたろか・・・」

 

“そーいうテレカクシもワルぶっててかわいー!でもまーいつか、こいつの心ぶっこわして、こいつんからだのっとって、あーしがあんたをおそうんからね♪・・・げんにいまも・・・ん~・・・”

 

「タツミ君・・・この帝具さらっと怖い事言ってますが・・・あれ?最後の方・・・」

 

「わーーーーー!!!」

 

タツミは一瞬でエスデスに吸われていた指を解放し、

 

「ンはぁ…、・・・あん、ダーリン・・・」

 

エスデスは甘い吐息を吐いて、うっとりしているが・・・ほおっておいて、タツミは

 

「こ、これでもう充分判ったろ?」

 

「え?ええ、はい!」

 

 

「よし、これでもう解散だ!」

 

タツミはセリューにそれを渡し、

 

「確かこの帝具の名前は、“テイグなんじゃわれぇえええ”・・・でしたよね?」

 

「いや違う!“なんじゃこりゃあああ”だ!」

 

タツミの何処まで本気で嘘か判らない対応にセリューも

 

「え?そうでしたっけ?う~ん、まぁいいですけど」

 

 

「じゃあエスデス、ご苦労だったな、もう帰って良いぞ?」

 

「うむ♪・・・そういう訳だセリュー、今直ぐ帰るんだぞ!」

 

エスデスはタツミに対する声色とは対照にセリューには凄みを利かせ

 

「え?あ、はい。もう帰りますけど・・・」

 

「いや、エスデスお前も・・・」

 

「ん?全く・・・何を言っているんだ、マイダーリンよ・・・」

 

タツミを後ろから羽交い絞めにし、エスデスの唇から長・・・かなり伸びた舌が彼の顔を舐めまわす。

 

「うわーーー!隊長!人間離れしていると思ってましたが、そういう所も人間離れしてらっしゃるんですねーーーお化けーーー!!」

 

「おおおおい、エスデス落ち付け!」

 

「ふふふふ、何故か先程からいつも以上に我慢出来なくなってきたぞ・・・その責任は取って貰うぞ、ダーリン・・・ん~~~」

 

エスデスはタツミを押し倒し、その間にセリューは全力で逃げて行った!

 

 

セリューは走った・・・なんだかよく判らないが、とにかく走った・・・愛する友の為に、だったような・・・なんだったような・・・、

 

「うわ!?いたぁ・・・」

 

セリューは石に躓き起き上がろうとした時、傍にコロが寄り添っていた

 

「きゅきゅきゅ!」

 

「あ・・・あれ?コロ?・・・ここは?」

 

セリューは自身の住んでいる小屋のベッドである事に気が付いた。

 

「あ、あれ?夢・・・?ねぇ、コロ、“なんじゃああこりゃああ”は?」

 

「きゅ?・・・?」

 

「何だ夢だったのか・・・そうだよね・・・人が空飛んだり、隊長の舌があんなに長い訳ないもんね・・・我ながらなんて独創的な夢だったんだろ・・・あはは」

 

「きゅきゅきゅ」

 

コロも笑っているようであり、

 

「そうだよね・・・コロが何を本当に言っているかは判らないけど、一緒に闘ってくれたり、生活してくれたり、今まで色んな苦労があったけど・・・コロにも不満があったかもしれないけど・・・一緒に行動してくれた事だけで十分だよね?・・・これ

からも宜しくね、コロ!」

 

「きゅ!!」

 

セリューはコロの頭を撫で、コロも気持ちよさそうにしているが・・・彼女の夢が果たして何処まで夢で何処まで現実に起こりうる事かは・・・誰にも判らない・・・。

 

 



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悪い奴 (番外編)

次回は漸くアリア編予定です。

17/3/19 ラスト加筆修正


タツミは現段階で回収した帝具に漏れが無いか資料を見ながらチェックしながら、もう不要と思った帝具を壊したり、その後に必要な物資を取りだしたりと、その作業をナイトレイドアジトの自身の部屋で行っていた。

 

その時、彼の文机の引出しの中から・・・

 

 

 

 

「ボク、アカえもん・・・」

 

 

 

 

 

 

・・・アカメが普段の抑揚のない話し方で突如現れた。

 

タツミは一瞬アカメの方を見たが気にせず作業に戻った。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

二人の間にしばしの沈黙が流れ、

 

 

「・・・ボク、アカえもん・・・」

 

 

アカメは切なげに再度呟いたが、タツミはそれでも気にせず作業を続けていると、

 

 

「タツミは冷たいな・・・」

 

 

アカメがぼそっと呟いたが、彼女の例の一言でタツミの(この世界に無い)機密書籍(?)を勝手に読んだ事が判り、以前なら、

 

“くぉらぁアカメぇ!お前また人の部屋に勝手に入って俺の本漁りやがったな!”

 

と軽くたしなめもしたが、もう面倒臭くなったのだ!

 

「タツミ・・・会話は大事だぞ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

それでもタツミは返事を返さない。

 

「タツミ・・・私も後学の為に読みたいと思っていた本があったのだが、いつの間にか無くなっていた・・・確か“黒髪乙女幼馴染の誘惑”だったかな?」

 

タツミの手が止まる・・・。

 

「何故か他の本と違って戸棚の裏に有ったり、他の本のカバーが掛かってあったりする本があったが・・・何故なんだタツミ?」

 

アカメは判ってて言っているのか天然で聞いているのか掴みかねているタツミではあるが、

 

 

「アカメ・・・人の物見る時、許しを得るのも大事だぞ?」

 

「やっと、口を開いてくれたな。ひょっとしたら私はもう既に死んで幽霊になってしまったのかと不安になったぞ♪」

 

 

引出しから這い寄って来たアカメが、

 

「改めて聞くが、タツミは何故帝具を集めて壊すんだ?」

 

「・・・帝具は元々、お前達発展途上の生命体・・・人間達に使わせて良い代物じゃなかった。今から・・・お前達の時間間隔で千年前に俺達の先達に、簡単にいえば犯罪者がいてな。そいつはそういう未開の星の者達にそいつらにとっちゃ未知の技術を教えて、混乱、自滅するように誘導し嘲笑うのが趣味の奴だった・・・。そいつはもう始末したんだが・・・今度は一体何処にその技術を伝えたのか・・・色々な星にばらまきやがったからなぁ・・・」

 

「待ってくれ、タツミ!言っている事が半分くらいしか判らないが・・・タツミは元々東の国の出身じゃなかったのか?」

 

「そうではあるんだが・・・本当はそうじゃない・・・」

 

「・・・ん?」

 

「別にわかんなくて良い・・・独り言だと思ってくれ」

 

「いや、その・・・技術がどうと言ってたが、帝具は危険種から取り出したものも多いぞ?まさかその危険種達も・・・その犯罪者のせいなのか?」

 

「簡単にいえばそうだ」

 

「つまり、そういう危険種達を造ったと言う事か?」

 

「一から造った訳じゃないが・・・そういう方向に仕向けた進化・・・いや、余計な事をしたのは確かだ。それでそいつは当時の皇帝とやらに直接か遠まわしでかそういう造る技術を伝えたんだ・・・ちっ・・・その皇帝も甘言に乗せられたのか?余計な事を・・・」

 

「ん?んん・・・う~~む、わ、判らないな私には・・・まるで神か或いは悪魔か・・・?」

 

「神か悪魔ねぇ・・・ま、どちらにせよ俺達の責任でお前達に多かれ少なかれ余計な混乱を招いたのは事実だからな、それは謝罪する・・・」

 

「あ?ああ・・・私に謝られても」

 

「謝罪の意味もあったから俺は本来、お前達から殺してでも奪う所を穏便な方法で回収しようとしたんだ・・・時間は結構掛かったがな・・・」

 

「なぁタツミ?帝具はそれほどまでに悪い物だったのだろうか・・・?」

 

「お前だってシコウテイザ―を見ただろ?そもそも帝具を使える人間は限られている・・・今は共通の敵がいたからまとまってたが、帝具を使える人間と使えない人間の色々な面での差は大きい・・・ほっておいたら、そのうちそいつは暴走して強権的になるかもしれない・・・力に溺れてな。・・・エスデスなんて良い例だろ?もし俺がいなかったらどうしてた?・・・あいつが帝具使えず、アカメが村雨持って挑めば1対1でも決着付けれたんじゃないのか?」

 

「確かに・・・そうかもしれないな・・・ところでタツミ、エスデスのデモンズエキスはどうするんだ?」

 

「あれは、使い手の体の中だからな・・・一応分離させる方法も探ってるが、もし見つからなければ・・・」

 

「見つからなければ・・・?」

 

「・・・・・・言わなくても判るだろ?」

 

全ての帝具を壊す・・・この時、アカメはスサノオの事を人間の仲間同然と無意識で思い、聞くのを忘れていた・・・タツミも内心それを心配し聞かれずほっとしていた。

 

とりあえず、タツミは一区切り付けて、

 

「さぁ~て、何か少し腹に入れるかな?」

 

「腹に入れる・・・ああ、タツミ大事な事を思い出したぞ!」

 

アカメがはっとなり、タツミも“どうした?”と尋ねると

 

 

「マインが・・・、私がちょっとマインの朝食を食べたら、あいつ激怒してここ2日間口も利いてくれないんだ・・・。」

 

「・・・・・・、いやアカメが悪いだろそれ」

 

「た、確かに私が悪いが、今までだって・・・マインが朝起きてこないから私がその代わりに毒見した事は何度もあるというのに・・・」

 

「人の飯食べて“毒見”なんて、お前も悪い奴だな・・・、ま、そのうちマインも機嫌治すだろ?それまで大人しくしてろよ」

 

「まぁ、そうだな・・・だが、私達がこうしてこのアジトに居られる日数も少なくなってきている・・・お互いそれぞれの道を歩んで当分会えなくなるかもしれない・・・だから、残りの日を少しでも楽しく過ごしたいんだ!」

 

「アカメ・・・」

 

タツミは少し感動したが、

 

「それでアカメ、お前は今朝のマインの朝食はどうしたんだ?」

 

「ああ♪美味しく毒見したぞ!」

 

タツミは近くに有ったハリセン型帝具でアカメを引っ張叩いた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

アカメが引出しから自分の部屋に戻った後、しばらくしてマインがタツミの部屋の押入れから出てきた。

 

 

「タツミ!ちょっとあんた聞きなさいよ!」

 

マインが遠慮無しに侵入して来たに対し

 

「お前は・・・会った時から全然変わらないな・・・」

 

「当り前よ、あたしを誰だと思ってるの?ちょっとやそっとで変わるやわな生き方なんかしてないわ!」

 

タツミは作業をしながら耳を傾けている。

 

「それよりももう何よ、この部屋・・・帝具散らかしてるんじゃないわよ!」

 

「あ~・・・それで何の用だ?」

 

「そうそう、聞きなさいよ!アカメの奴信じられないわよ、全く!」

 

先程のアカメに関連する話となり

 

「アカメ、あいつに今までずっと朝食取られてたの。あたしも起きるの遅かったから大目に見てたけど、もう我慢できないわ!」

 

「まぁそりゃアカメが悪いよな」

 

「でしょ?んんもうーーー!今まであいつに食べられた朝食代金、耳を揃えて全額請求してやるわ!」

 

「いやまぁそれは当事者同士で話し合ってくれ・・・」

 

「は!?何言ってんのよ?あんたも協力するのよ?」

 

「何で俺が?」

 

「あたしの話聞いたでしょ?じゃあ協力しなさいよ!」

 

タツミは頭痛を覚えながら

 

「お前はガキ大将か・・・」

 

「何それ?こんな可愛いガキ大将いる訳無いじゃない?とにかく、後で一緒にアカメに不当朝食摂取反対運動するのよ!」

 

「強大な敵を相手にお前ら今まで共闘して苦労も分かち合った戦友なんだろ?飯ぐらい大目に見てやれよ・・・」

 

「だからよ!今まで革命に目がいってたから、アカメの違法行為に目をつぶってたけど、もう許さないんだから!」

 

「・・・・・・」

 

「それだけじゃないのよ!アカメの奴、去年のあの作戦の時、自分でつっぱしって、あたしがそこは慎重に行こうっていったのよ、全くあたしのフォローがなけりゃあねぇ・・・」と、過去の鬱憤まで掘り返してくる。

 

30分経過・・・

 

「つまり、アカメはそういう奴なのよ!」

 

「うん、うん・・・まぁそうだな、アカメもそういう所あるよな・・・」

 

とりあえずタツミはマインをなだめる為に彼女の意見に同調する。

 

「うん!じゃ明日アカメに言うわよ」

 

「判った判った・・・」

 

一しきり言い終えたマインは満足したのか押入れから自分の部屋へ帰って行った。

 

残されたタツミは

「はぁ…疲れた」

とぼやいた。

 

そこに戸を叩く音がして

 

「・・・チェルシーか?」

 

彼女が部屋に入り、

 

「ご名答~~♪さっすがタツミ~~私の事判ってるね~」

 

タツミは叩く加減と気配で恐らくチェルシーだろうと見当をつけたが、人によってはそれを当てた場合・・・「え?きもい」と言われる。

 

そして、チェルシーはその辺に座り、

 

「うんうん、前に言ってた通り帝具を壊しているんだね?私の帝具はまだ残ってる?最後にあたし、タツミに化けてタツミ自身とあんな事やこんな事してみようかな?」

 

嫌な顔でタツミは彼女を見る。

 

「嘘々、本気にしないでよ~もうやだな~タツミは~♪」

 

カラカラ笑うチェルシーに、とりあえずほっておいて作業を続けるタツミに、

 

「ねぇ・・・男の人で何でこうも違うのかな・・・」

とぼそっと呟くチェルシーに、タツミは手が止まる。

 

「・・・何かあったのか?」

 

「え?ああ・・・ごめん、そのまま手動かして貰って構わないから・・・」

 

そう言うも、構って欲しいオーラを出しているチェルシーを捨て置けないので、

 

「ラバックがさ・・・、あたしの風呂覗きに来るんだよね・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「タツミがさ・・・もう殺しはするなって、あたしに言うから・・・あたしもそれ守ろうと自分を抑えてるんだよ・・・今言われてみればタツミの言う通り、あたし(相手を)殺すの心の底のどっかで楽しんでた面も・・・ちょっとはあったかなっ

て・・・」

 

タツミは何も言わずに黙って耳を傾けている。

 

「だからね、ラバの奴、調子に乗ってる所もあると思うんだよね・・・ねぇどう思うタツミ?」

 

「いやぁ・・・ラバックなら殺しても構わないぞ?」

 

「ぷっ・・・お許しが出たね?本気で頭に来たら・・・うんうん、今度覗きに来たらラバの男な所、こーろそ♪」

 

 

タツミは何も言わずに聞いていたが、ふと有る事を思い出した。

 

「ところでチェルシー・・・俺が前に風呂入ってた時、お前あとから来たよな・・・」

 

「え?何の事?そんな事あたししないよ?もうやだー痴女でしょそれー?」

 

タツミは何も言わずに黙ってチェルシーをじぃーっと見る。

 

「え?タツミ・・・そんな見つめられると照れちゃうよ・・・」

 

と、ごまかそうとするが、言い逃れ出来そうにない眼光に怯み、

 

「・・・はい、すみませんでした・・・」

 

話は以前に遡る。

 

タツミは男が入る時間帯に一人で露天風呂に浸かっていた。

 

揺れも無い湯に月が浮かび、独りだけの静けさに浸っていた所・・・

 

「よぉタツミ~、なに絵になるような真似してんだ?このやろー!」

 

ラバックが腰にタオルを巻き、そのまま同じく風呂に入って来た。

 

「・・・・・・?」

 

タツミはこの時に小さな違和感を感じたが、少しからかった。

 

「どうしたラバ?今は男湯の時間だぞ、来る所間違えたんじゃねぇのか?」

 

「ばっ!?俺だって野郎の体なんか見たくねェよ、けどまぁたまにはお前と裸の付き合いも悪くねェと思ってな」

 

「裸の付き合いねぇ・・・何か話でもあるのか?」

 

「お前さー、実際誰が好みなんだよ?」

 

「・・・?前にも聞かなかったか?」

 

「・・・あ、そうだったか?いやまぁあん時と比べて気も変わっているかもしれないだろ?だから改めて聞くぜ」

 

「・・・、・・・いや俺は別にナジェンダ狙ってないから安心しろ」

 

「いやそんな事良いんだよ・・・、いやよくねぇな・・・うん、ナジェンダさんを狙ってないのは判ってるから良いんだ。他に誰に興味があるか、そこが大事なんだ!」

 

「なんでだよ?別に俺が誰に関心持ってようが無いだろうがお前にどーでも良い事だろ?」

 

「いやあるって?俺達仲間だろ!仲間ならそーいう事に関心持ったっていいだろ!」

 

「・・・お前は女子か!」

 

「女子だ俺は!・・・いやいやそうじゃなくて、男だって可愛いモノ好きな奴いたり、乙女な所もあるだろ?」

 

タツミはいよいよもっていぶかし始めた。

 

「なぁ誰が好きなんだ?いえよ!アカメか、マインか?姐さんか・・・まさかエスデスとか・・・言わねぇよな・・・?」

 

「・・・・・・あー・・・、お前だと言ったら?」

 

ラバック・・・は一瞬きょとんとし、

 

「え?あた・・・ええ、ああいや俺?・・・、・・・いやちょっと待てよ俺って・・・ええ・・・、何タツミあんた・・・そっちの気が、もう信じらんない・・・いや信じらねぇよ、こここ、これ以上いいい・・・」

 

「じゃあ俺が先に出るぜ」

 

タツミは笑いながら風呂から脱衣場に行き、そこでラバックの服が置かれていない事を確かめた。

 

 

 

「・・・なんて事が以前あったよな?あれはチェルシーだったよな?」

 

「はい・・・あたしです」

 

「お前だって人の事言えるか、この馬鹿!

チェルシーの話でいくと、見られた俺はお前の胸のその二つ抉る事になるぞ?」

 

「酷い!鬼!・・・男と女は違うんだから!!ラバがあたしの体見たら犯罪だけど、女のあたしがタツミの裸見たく・・・見てあげたんだから、寧ろタツミはもっと感謝すべきだよ、うん!!」

 

壱!

弐!

参!

死!

悟!

碌!

奈!

鉢!

 

チェルシーにタツミはハリセン型帝具で、奥義の八連撃を当てた後、

 

 

苦!!

 

 

額に最後の一撃を当て・・・

 

「きゃあああああああ!!!タツミのばかーーーー!!!」

 

チェルシーは後ろにひっくり返りながら部屋の外まで吹っ飛ばされた。

 

再び部屋で一人になったタツミ。

 

「た・・・大して作業が捗らねぇ・・・たくっ・・・」

 

 

その時、天井裏の板が一枚開き、

 

「よっと!」

 

レオーネが部屋に入って来る。

 

「よっ!タツミ元気?あっちも元気?」

 

酒一升瓶とグラスを片手に陽気に話しかける。

 

「・・・・・・、どうして普通に入って来れないんだ」

 

「まぁまぁ固い事言いなさんな、呑も?あ・・・呑めなかったね、じゃあ酌して?」

 

「俺忙しいだが?」

 

「良いじゃない?帝具なんてちょちょいのちょいでぶっ壊せば、ねー?・・・あたしのライオネルまだある?・・・それだけこっそり持っといてもいい?」」

 

タツミにギラリと凄まれる。

 

「冗談が通じないなー、もう、良いよ良いよお姉さんは一人寂しく呑むからさー、ちぇー、・・・ねぇタツミ注いで?」

 

「一人で呑むんじゃ無かったのかよ・・・」

仕方なくタツミはレオーネのグラスに注ぐ。

 

「ふぅ・・・これ無いと生きてるって実感無いなー・・・はぁ~あ・・・タツミ、これからあんたどうするの・・・?」

 

「・・・さぁな・・・」

 

「お姉さんさー、心配なんだよねー、このままタツミが一生独りで生きて行くのかと思うとさー」

 

「ふっ・・・」

タツミは鼻で笑い、そんな事はどうでもいいという感じであった。

 

「俺の事よりもあんたはどうするんだ?」

 

「あたし?あたしはまぁこんな奴だから・・・、どうにか運良く生き残れただけでも良かったかなー、それとありがとなタツミ!特訓にも付き合ってくれて」

 

レオーネは革命戦前にタツミから手ほどきを受けた事を言っている。

 

「ん?ああ~・・・そういえばそんな事もあったかな・・・とにかく、自分がロクデナシな自覚があるのは良い事だ、後は少しでもマシになるようにすりゃいいだろ?」

 

レオーネは側に近付き、いきなりタツミの頬に熱いキスをした・・・。

 

「!?」

 

タツミは顔を赤くし、驚いてレオーネを見たが、

 

「くふふふふ・・・」

 

レオーネは嬉しそうにニヤニヤ彼を見ている。

 

「・・・・・・・」

 

タツミは照れながらも苦い顔をしながら作業に戻る。

 

「ねぇ、タツミともなんだかんだ言ってあたし達長い付き合いだったよね・・・」

 

「・・・俺にあん時、よく恵んだな・・・」

 

二人は初めて会った雨の日の事を思い出していた。

 

「あたしには何となく、ぴーんと来たんだよね、こいつならってね♪」

 

「そうかい・・・それにしちゃ、いっつも博打で負けてアカメに借りているとか、聞いたんだがな?」

 

「んがっ!!アカメの奴う~~皆には内緒にって言ったのに~~~」

 

一しきり昔話に華を咲かせた後、

 

 

「ねぇタツミは、この後どうするの・・・?」

 

タツミは何も言わず只黙って作業をこなしている。

 

「あ、そー、何も言いたくないんだ・・・じゃあ、あたしも勝手に喋るから!・・・今まで我慢してたけどボスってばちょっとあたしに冷たくない?そりゃ時間オーバーしたり、調査費くすねたり、博打にのめり込み過ぎたり、ボスの酒勝手に呑んで売ったりしたのは悪かったけどなー」

 

タツミは内心、十分すぎるだろ!・・・と言いたかったが、黙って聞いていた。

 

「それにさー、これでもアカメ達とボスの間に入ってこーみえてもあたし、気ぃ使ってたんだよ?どう?判ってたタツミ?タツミの事だってね、影でフォローしてたんだよ、あたし?」

 

はて?自分のフォローをされていただろうか?と疑問に思いつつも、一応素直に礼を言うタツミ。

 

「そうそう、ボスなんてさー。たーだ好き勝手上層部から言われた事をあたし達に言うだけだから楽でいいよなー、あ~あ、あたしも頑張ってどこかで出世して偉くなって下の人間こき使ってラクしたいな~」

 

その後、タツミは適当に相槌を打ってレオーネの機嫌を取り、気持ち良く酔っ払った彼女は部屋へと戻って行った。

 

その後、

戸を叩く音が聞こえ

 

「タツミ居るか?」

 

「ナジェンダか・・・どうした?」

 

戸が開き

 

「すまないがちょっと話がある・・・来てくれないか?」

 

「判った・・・」

 

タツミは作業を中断し、ナジェンダの部屋へと赴いた。

 

「まぁ座ってくれ・・・」

 

ナジェンダは自分の席に腰掛け、タツミも言葉に従い椅子に座った。

 

「へぇ…俺に気を使ってくれるんだな」

 

ナジェンダはいつもの煙草ではなく、ガムを噛んで我慢している。

 

「ふっ・・・今までタツミには我々革命軍改め新政府軍の益になる働きをしてくれ、感謝している・・・改めて礼を言う・・・」

 

頭を下げるナジェンダにいぶかしんだタツミは

 

「どうしたんだいきなり?いつものあんたらしくないな・・・俺がいて迷惑も被ってたんじゃないのか?」

 

ナジェンダは愛想笑いを引きつらせながら

 

「た、確かに私に対するストレートな物言いや時にはマイナスな行動もあったが総合で見て、やはりタツミは我々にとってよくしてくれた、本当にそう思うぞ!」

 

タツミは悪寒が走り、

 

「おい、ナジェンダさん?本題を言ってくれ、一体何があった?」

 

「あ・・・ああ・・・まぁ、そうだな・・・コホン・・・その、だな・・・。こないだ見たアカメ達の奇行は・・・あれは、あいつら何か悩みでもあるのか・・・?」

 

ナジェンダの言うこないだとは(91話)タツミの悪夢が半分以上は現実となり、その凶行(?)に彼女も不安を感じたのだ。

 

「あ・・・あれは、きっと一過性のもので直ぐに黒歴史として彼女達のその胸に深く刻まれる事になると思うぞ、うん」

 

「そ、そうか・・・なら安心(?)だ。他にも今後の参考に聞いてみたいのだが・・・」

 

「他に何かあるのか?」

 

「あ、ああ・・・この際だから聞くが、アカメ達は私の事をどう思っているんだ?」

 

「ん?・・・」

 

タツミは先程のレオーネの言葉を、そして、時々ボスの批判をしていたマイン達の言葉を思い出していた。

 

「・・・、上司部下とお互いの立場の違いで誤解も時にはあると思うが、よくやってくれていると言っているぞ、皆・・・・・・」

 

タツミは敢えて“そう”述べた。

 

「そ、そうか?・・・そうか、私にはっきりと言うタツミが言う事だからな安心だ、ふふふ、私に何の気兼ねなく無神経にズケズケものを言うのは大将くらいだからな♪」

 

「悪かったな、無神経で!!」

 

「ははは、すまんすまん、そうかなら安心だな。これから私も政務を取り行う事になる、別に人気を得たい訳ではないが、ある程度は人の意見にも気を配らなければな・・・。うむ、そうか・・・私が陰で皆の後始末をしている事も・・・言わずとも伝わっていたか・・・」

 

ナジェンダは感慨に耽っているが・・・、当然彼女達も判っている所では判っているが・・・そうでない所も・・・。

 

「そうだな・・・」

 

タツミの目が泳いでいたが、心なし機嫌のいい彼女には気が付いていない。

 

「どうしたんだタツミ?今日はやけに素直だが、・・・ふふふ、タツミの方こそなんだか気持ち悪いぞ?腹の調子でも悪いのか?」

 

「いや・・・、ああ・・・」

 

柔らかい言葉でも言おうかと思ったが、やはり普段の悪態をついた。

 

「うるさいな、俺にだって仕事があるんだ、もう用は済んだら帰って良いだろ?」

 

「ああ、すまなかった、ではまたな」

 

タツミはナジェンダの部屋を出て、再び自室で一人になり、

 

「はぁ~~~~~・・・文句言ったり、陰口叩くのは、適当な憂さ晴らしで、そこまで思いつめるレベルじゃ無いだろ?それを判ってて言ってんだろあいつらは・・・だから、これで良かったんだこれで・・・だが、この俺の二枚舌・・・悪い奴だな俺も・・・」

 

タツミは自分なりに理由があれば、かなりの悪事行為も平気で行うであろう・・・だが、彼女達の会話で無意識に玉虫色な・・・自らの保身に走った言葉を吐いた為、

彼もまた自分を嫌悪した。

 



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ドS、時々、超S(前編)

副題は「アリアの頑張り物語」です。

58話、アリアの後日談となります。


「ふふふふふ・・・くくく・・・♪」

 

 

タツミは人手の居なくなった山小屋を家の体裁を整えて使い、そこにエスデスを住まわせ、彼女が帝都に来ない限りは本人の好きにさせていた。

 

そして、タツミはエスデスに退屈凌ぎの為、諸々の本を置いていっており、そのうちの“だれでもかんたん、山でとれて作れるおいしいレシピ!”を片手にエスデスは上機嫌で料理を作って、夫(?)の帰りを待っていた。

 

「むっ?帰って来たか・・・ふふ、ここは熱く出迎えるか・・・ふふふ」

 

タツミの気配を察し、出入り口に向かうエスデス…

 

「タツミ――!・・・・・・・、んん?」

 

だがもう一人の・・・女の気配も察知し、

 

 

「あんた、いい加減縄ほどきなさいよ!跡が残ったらどうすんのよ!」

 

タツミはわめくその女の事など意に介さず、中へと入れる。

 

 

エスデスは上がっていたテンションが一気に下がり・・・死んだ目をしながら

 

「タツミ・・・なんだ、そいつは?そうか・・・家畜のえさにでもするのか・・・?勿論そうだよな・・・間違い無くそうだよな・・・そうだと言ってくれ・・・タツミ?」

 

深いため息をついた後、

 

「・・・落ち着けエスデス。こいつはアリアって言う雌豚だ、同じ家畜に与えたら腹壊すだろ?」

 

エスデスに負けじ劣らじの暴言を吐かれ、怒るアリア。

 

「タツミ!?あんた、何様よ!やっとあんな洞窟から解放されたと思ったら今度は

何?ここどこよ!?」

 

タツミは初め、死体置き場として使われ、今は全く使用されていない洞窟の牢にアリアを監禁していた。

 

そして、呆れながら

「お前は本当良い根性してるな・・・あそこで大人しく寝転がしときゃあ、多少の奴なら察して、“恐れ入りました”と、こうくるんだがなぁ・・・お前は筋金入りの悪だな」

 

タツミの言う、相手の“恐れ入りました”は本来拷問などを行い厳しくする所を、敢えて何もせず放置するだけという・・・余裕を見せて、その相手に得体の知れない恐れを抱かせる手法ではあるが・・・。

 

「あんたあたしから受けた恩忘れたの?ふざけた事言ってんじゃないわよ!」

 

当然アリアには判っていない。

 

「・・・お前また張り倒すぞ?良いのか?」

 

先日の件をようやく思い出し、戦慄するアリア。・・・だが

 

「くっ・・・、やれるものならやってみなさいよ!殺したければ殺せば良いじゃない!」

 

「・・・お前変な度胸だけはついたんだな・・・見直したぞ」

 

それまで黙っていたエスデスが口を開き、

 

「貴様・・・さっきから聞いていれば・・・誰に向かって何を言っているんだ・・・?タツミ、こいつの始末は私に任せろ・・・」

 

エスデスが色々な感情が絡んだ闘気を発揮し、

 

「あんた・・・ああ!?エスデス・・・エスデス将軍!?た、たすけて!?善良な一市民がこうして悪党に良いように慰みものにされているのよ、お願い、助けてよ!」

 

アリアもエスデスの存在を認識したが、当然ながら

 

「鬼(き)殺(さ)魔(ま)ー・・・、ナグサミモノだと・・・ワタシのタツミカラ・・・イッタイナニヲサレタ・・・・・・・・・・・・」

 

エスデスは目を充血させ、怒りで髪が逆立っている。

 

 

「ひぃいいいいいい、何どういう事、えええええ?」

 

「だから落ち着けエスデス!こんな畜生に俺が手なんて出す訳ないだろが」

 

 

それを聞き、

 

「うむ♪もちろん信じてるぞ、タツミ♪」

 

 

乙女ハートを体から全開している…その雰囲気でタツミに抱きつき、匂いを嗅いで

いる…エスデスさん。

 

(な・・・なにこいつ、さっきと打ってかわって、まるで違う・・・サイコパス?自分がもう一人いるの?・・・帝国将軍ってこんなヤバい奴らばっかなの、え?)

 

自分の事は棚に上げ、呆れるアリアにエスデスは、

 

「・・・という訳でだ・・・貴様が私をたばかったという事だな・・・?この私を一瞬でも不安にさせた・・・その事は褒めてやるが、償いはさせるぞ・・・覚悟は良いか?」

 

アリアはその迫力に恐れおののき、後ずさる。

 

「落ち着け、エスデス!」

 

そう言ってタツミはエスデスの頭を胸に抱き抑えた・・・為、

 

「タ、タツミ!?こ、こんな事くらいでわ、私の怒りが収まると思ったら・・・大間違いだぞ・・・も、もっと強く抱きしめると良いぞ・・・むふふふ」

 

タツミとアリアは半ば呆れたが、落ち着いたエスデスにアリアが何をしてきたか説

明するタツミ。

 

 

「・・・簡単に言えばだな、俺が路上生活していた時、こいつが俺を拾って屋敷に住まわせ、隙見せたら俺を眠らせて、拷問死させようとしたって事だな。他の奴らはそれで皆死んでいった」

 

あっさりざっくり言うタツミに、

 

「ちょよよよぉおおっと!!あ、あたしはあんたをただ警護の人間としていずれ雇おうと思っただけで!」

 

それを聞き、明後日の方向を見ながら白けるタツミに、

 

「ほぉ・・・貴様、拷問が好きなのか・・・くくく、気が合うではないか?だが選んだ相手が悪かったようだな・・・」

 

 

舌打ちを鳴らし苦い顔で下を向くアリアに、

 

「そういう訳でだ、こいつの曲がった根性叩きのめせ」

 

「つまり、私がこいつを再教育をするという事か、タツミ?」

 

「そういう事だ、頼んだぜ!」

 

気軽に言うタツミにエスデスは若干不貞腐れる。

 

 

「むぅ~・・・タツミ・・・私達の愛の巣にこのような汚物を置いておきたくはないぞ?」

 

「だ、誰が汚物よ!?」

 

わめくアリアの事など意に介さず、

 

「死んでも良いから殺して良いぞ」

 

タツミが平気な顔でしれっと言い、

 

「あんた言葉も使えないの?今のなんかおかしいでしょ!!」

 

エスデスにしては軽めにハイヒールの踵をアリアの後頭部に直撃させ、地面と追突させる。

 

「貴様、頭が高いぞ・・・中身の無い頭なら陥没させた方がいいだろう?」

 

「すすす・・・ずみません・・・」

 

タツミはふと何かを思いついたのか、

 

 

「そうだ、エスデスお前が北の勇者の心を砕いて、惨めな姿になった様を話してくれ」

 

「む?ああ、あの時の事か?・・・ふふふ、槍の名手と聞いて期待したが大した事は無かったな・・・。まず先陣切って挑んできたそいつを倒した後、弱い癖に向かって来る部下共を血祭りに上げ、闘う気力を失せた者達だろうが、容赦なく全員皆殺しだ・・・くくく、串刺し、目も鼻も口も縫いつけ、中には見苦しく命乞いする者もいたな・・・そうこうしているうちに、北のその勇者・・・?とやらは気でも触れたか、首輪をしても犬のように慕ってきたぞ・・・くくく、あのようなつまらん奴、用が済めば蹴り殺して打ち捨ててきた、がな・・・他には・・・」

 

エスデスは悪びれもせず嬉々として語り、それをアリアは話の中の残虐行為に恐怖したというよりも、これから自身に振りかかって来る可能性に蒼ざめた・・・もし、状況が違って二人で会談だったのであれば、アリアはその話を楽しげに聞いていただろう。

そして、タツミは静かにエスデスを睨んでいたが、二人ともそれに気付いてはいない・・・。

 

「もう良い判ったエスデス、やめろ!」

 

「タツミ?・・・タツミが聞いてきたのに何故止める?」

 

「判らねぇのか?まぁ良い・・・ただな、お前が今度は“そうされる”可能性も考えた事は無いのか?」

 

「私が・・・?」

 

エスデスはそんな事起こりうる訳が無いと笑った後、

 

「・・・・・・」

 

タツミは何も言わずに去って行った。

 

「どうしたのだタツミは・・・?弱ければ何をされても文句など言えない、ふっ・・・私をそのように貶めれる者がいればお目に掛かりたいものだな?幾らタツミが私より強くとも、そこまでは出来んだろう」

 

 

それまで黙って聞いていたアリアも驚き、

 

「は!?あいつ、あんた・・・ああいえ、エスデス将軍、貴女よりも強いの?」

 

エスデスは一睨みした後、

 

「口に気を付けろ、私のタツミを侮辱するのは許さんぞ、小バエが・・・。ふふ、確かにタツミは私よりも強いが・・・いつまでも、そのままという訳では無いぞ?・・・くくく」

 

エスデスが挑戦的な笑みを浮かべているのを見たアリアは薄ら寒いものを感じた。

そうして夜が更けていき、日はまた昇る。

 

 

「貴様起きろ、この豚が!」

 

エスデスはアリアを蹴飛ばし、彼女はダメージで苦しそうに嘔吐する。

アリアは地下の一室に足鎖を柱に付けられた状態で布団で寝ていた。

 

「豚・・・いや、ウジ虫レベルだな・・・」

 

「ぐっ・・・がはっ・・・エスデス・・・」

 

「ほぉ・・・何だその目は?反抗するのは構わんが、手加減している事を知れ。でなくばお前如きの腹など刺すなぞ造作も無いぞ?」

 

エスデスの履く白ブーツの踵が鋭利な凶器に映る。

アリアもとりあえず従う事にするが、

 

「良いか!起床はこの時刻だ!私がここに来る前にまだ寝ていれば死なん程度に蹴り飛ばしてやるから有難く思え!」

 

アリアは不貞腐れ返事をしないでいると、・・・再びエスデスの蹴りが横っ面に飛んでくる。

 

「どうした?上官の言う事が聞こえんのか?貴様に許可するのは“はい”という肯定の返事のみだ!それと、上官に“指導”して貰っていて礼の一つも無いのはどういう事だ!!」

 

「はぁ?あんた何言ってるのよ?殴られて、礼を言う?頭おかしいじゃないの?」

 

再び蹴り飛ばされ、アリアの奥歯が欠ける。

 

「ん?なんだ?よく聞こえんかったが・・・今貴様何と言った?」

 

「あ・・・、ありがと・・・ございまふ・・・」

 

その後、エスデスによる指導が初まる・・・。

 

 

貴様、何だこの茶は!!これくらい満足に入れれんのか!?

掃除の基本は上からだ、この下等生物が!?

何?その皮を捨てるだと・・・この無能が!貴様の頭にはウジでも沸いているのか!!

それは窓を拭くのに使えるものを、貴様より使えるという事が判らんのか!

なんだ貴様は・・・私を怒らす事が趣味なのか?このウジ虫が!

 

・・・等々、家事等ロクにした事のないアリアは一挙手一投足、怒鳴られる。

 

こ、この女絶対殺す・・・!

そうアリアは心に誓い、エスデスの隙を窺った。

 

エスデスが優雅にコーヒーを飲み、椅子に腰かけ窓の流れる雲を眺めている。その後ろでアリアが包丁を後ろ手に隠し、

 

「エスデス様、替えのコーヒーをお持ちしました・・・」

 

「ふっ・・・ウジ虫でも少しは気が利くようになったようだな・・・」

 

徐々に間合いを詰め、

 

「貴様のその殺気、全く隠せていないぞ?そんな事で私を討ちとるつもりか?この私も甘く見られたものだな・・・ふふふ」

 

エスデスは横目でちらりと視線を送り、アリアは顔面蒼白となり、慌てふためき取り繕うとするが

 

「まだ逆らう気概が残っていた事だけは少し褒めてやる・・・だが、相手の力量を見誤っているな・・・」

 

エスデスは静かにカップを置き、アリアは小さく悲鳴を上げ

 

「ゆ、ゆるして下さい!」

 

「さて・・・どうしたものか・・・そうだ、一つ面白い話をしてやろう。私のタツミがこんな事を言っていた・・・。

 

“俺が知っている牢屋じゃ、そこに自然に牢内の規律が出来て、入りたての奴はそこのボスに金を渡さないと殺される事になっている。衛生面も悪くて大の男でも半年持つか判らない。更にそこの囚人連中から嫌われた奴は夜にこっそり殺される事もある。もしそこに警察等をしていた奴が入りゃ、シャバでの意趣返しの為か、排泄物を碗に持って無理矢理喰わされるんだ・・・喰わされ過ぎた奴は腹壊して死んだがな・・・エスデスお前間違ってもこんな拷問すんなよ!”

 

という話だったな・・・くくく、私は将軍だからな、余り牢内の事に詳しい訳ではないが、そのような拷問もあるとはな・・・ふっ、囚人共が行う下品な拷問は私の趣味ではないが、どれ一つお前に試してみるか・・・」

 

アリアは必死になって土下座し、

 

「ゆ・・・ゆるして、ゆるして下さい!お願いします、ほ、ほんの出来心だったんです!どうか・・・」

 

エスデスは足を組みながらアリアを見下ろし、

 

「ならばソフトにしてやる・・・」

 

「え・・?」

 

「貴様のその薄汚い手で、これから毎日便器を磨け・・・それで許してやる」

 

アリアは呆気に取られ、

 

「は・・・はぁあああ???そんなの、道具使って磨くで良いじゃない!」

 

エスデスは怒りの目で凄んでみせると

 

「い・・・いえ、その、道具を使ってでよろしいんじゃ、ありません、でしょうか?」

 

「・・・・・・、それでは罰にならんだろう?なんだ?それならその醜い舌で綺麗にしたいか?それならそれで構わんぞ?」

 

アリアも顔を真っ赤にし、

 

「いやあ・・・あああ、は・・・はい、わたしの汚い手で綺麗にいたします・・・どうか舌で行うのはゆ、ゆるして下さい・・・」

 

「まぁ良い・・・私は優しい・・・今回はそれで勘弁してやる・・・だが、次に私の機嫌を損なえば・・・タツミの許可を取り次第・・・考えずともお前の足りぬ脳でも判るだろうな?」

 

エスデスは一応タツミに自分のやっている事を報告している…そして、アリアにも何をされたか聞いている・・・もし嘘をついた場合は、その者には相応の罰が待っている。

 

 

そして、アリアは必死に頭を下げた。

 

「今までは甘くしていたが、次からは貴様の好きな歯から何かあれば一本ごと抜いてやる・・・歯が無くならなければ良いな?・・・くくく」

 

意地の悪い姑などまだ可愛く思えるぐらい、酷い女だとアリアは思った。

 

 

そして、その時・・・。

 

エスデスはいきなり、立ちあがり外と繋がる戸の方へ向かった。

 

「???」

 

アリアは首を傾げ、エスデスを見ているとその理由が直ぐに判った。

 

 

「タァ~~ツゥ~~~ミィ~~~!!!」

 

彼が戸を開ける前に彼女が戸を開け、その彼に思いっきり抱きついている。

 

「エ、エエエエスデス!!」

 

「う~~ん、照れるタツミも可愛いぞ、うふふふ。とっても寂しかったんだぞ!私を一人にして、寂しがらせて困らせる魂胆か?その手には乗らないぞ!うふふふ」

 

エスデスはタツミの匂いを堪能したり、顔をくっけたり、色々やらかしてる。

その離れた後ろでアリアは呆れ、

 

「誰・・・あれ?・・・帝国最強の将軍?は?前から思ってたけど、聞いて呆れるわ」

 

但し、聞こえないよう小さい声で。

 

 

「おい、エスデス!いい加減にしろ。見られているだろうが!」

 

「ん?・・・全くタツミもあれは家畜だと言っていただろうが?」

 

「いや、まぁそれはそうだが・・・もう好い加減離れろ」

 

「ん~~~、全くタツミはいけずだな~~~」

 

やっとエスデスから解放されたタツミは、アリアを見る。

 

「うっ・・・」

 

アリアも一瞬たじろぐ。

 

そして、その間にエスデスが割り込んでくる。

 

「おい・・・」

 

「タツミ!何故あの家畜を見る?見るなら私を見ろ!」

 

溜息を漏らしながら

 

「あのな、エスデスさん?・・・」

 

「むぅ・・・」

 

エスデスはキス出来るくらいの距離まで顔近付けてくる。

 

「判った・・・ちょっと外で話そうぜ」

 

 

 

少し離れた山小屋を見下ろせる丘に二人は行き、

 

「エスデスお前、何訳のわからないヤキモチ妬いてんだ!」

 

「タツミが悪いのだぞ!“私達”の住まいにあのような者を置くとは、あんな家畜、その気になればいつでも殺せるものを・・・タツミが殺すなと言うから我慢しているだけだぞ!」

 

「あのな、人間が家畜に惚れる訳無いだろうが!」

 

「む・・・それはそうだが・・・」

 

エスデスもアリアを家畜と罵りつつも、当たり前だが人間の女として認めている。

 

「とにかくタツミ、私も我慢の限界というものがあるぞ!あの雌豚が・・・私の命を狙って来たのだぞ!」

 

「・・・エスデス、お前なら別に平気だろ?」

 

「!?」

 

タツミは事もなげに言う・・・。

エスデスは驚いて見せるが、確かに彼女にとってそれは平気な話であり、別にどうという事は無い・・・ただ、タツミにわざと甘えてみせた。

 

「ふぅ・・・タツミが・・・私のタツミが・・・こうまで薄情だとは・・・、別に構わないがな・・・」

 

エスデスは両手を胸に憂いを含んだ表情で溜息を吐き、タツミを時折チラ見する。

 

「・・・・・(鬱陶しい)・・・判った、とにかくアリアの奴は全然懲りてねぇって事だな?」

 

「奴を殺すのも簡単だ、そして心を砕くのもな・・・、だがタツミは奴を自分の言いなりにさせたいのだろう?つまり奴隷か?・・・・・ん?だ、駄目だぞタツミ!例え奴隷だろうと、あのような雌豚を傍には置かせんからな!」

 

「お前勝手に自分で話ややこしくすんな!!・・・まぁ確かに奴を使えるのなら使ってみたい気はある・・・一応あんなんでも一宿一飯の恩があるにはある・・・」

 

タツミはそう言い、確かに言葉通りの意味があるが・・・別の考えもある。

 

「ならタツミは私に十宿十飯くらいの恩が有るな♪・・・そ、そんなタツミ、恩を10倍にして返したいだと?・・・ふふふ、3倍くらいで構わないぞ?」

 

  

お前は少し黙ってろ!!!

 

 

・・・タツミは怒った。

 

 

 



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ドS、時々、超S(後編)

「全くタツミは・・・怒れば良いと言う訳で無いぞ?大体私ほど慈悲のある女が何処に居る?その証拠にナイトレイド共の所に戻るタツミを何も言わず見送っているではないか、私の心は海の如き広さだぞ。」

 

エスデスはウィンクしながらの、ドヤ顔でタツミを見る。

 

「だから、その憂さ晴らしにアリアを連れてきただろ?」

 

「・・・確かに奴をいたぶるのは少しの気晴らしになってはいるな。」

 

「ほれ、みろ!やっぱり不満があったんだろうが!」

 

タツミは誘導尋問を行った。

 

「ん!?そ、それは不満が有るに決まっているだろう、タツミ!!ナイトレイドの雌豚共が私のタツミをいつ襲っているか、とそう思うと夜も眠れなくなる日が有るぞ!」

 

「だから、ナイトレイドの奴らはただ利用しているだけだって言ってるだろ!」

 

「・・・本当か?」

 

「本当だ・・・」

 

エスデスは顔近付けてタツミの目を覗きこむが、タツミも悟られないように無の境地の目をしている。

 

「ふぅ・・・判った、それとタツミ、いつになったら私は帝都へ戻って良いのだ?」

 

 

 

タツミはそれには適当に答え、今後のアリアへの対応に付いて話し合った。

 

それから数日時が経ち、アリアも表面上は大人しくしており、エスデスを怒らせる事が少なくなったが、彼女の内なる残虐性や怒りは消えてはいない。

 

ある日、タツミはエスデスと代わり、アリアを監督する事にした。

 

「よぉ、少しは懲りたか?」

 

アリアはタツミを一瞥した後、

 

「・・・あんた、一体なんなのよ?何者なのよ?あたしを閉じ込めて何が目的なのよ?」

 

「質問が多過ぎるな」

 

「じゃあ、聞くけどあの日あそこに居たのは何が目的なのよ?・・・まさか、あたしみたいな、か弱い子の家に同情を誘って入って、拉致監禁して拷問する事が目的・・・?この卑怯者、人でなし!」

 

アリアは毒づくが、タツミは皮肉な笑みを浮かべ

 

「他人のフリ見て我がフリ直せって言葉知ってるか?しかしまぁ・・・あのエスデスの指導を、手加減しているとはいえ、お前大して堪えて無いな・・・その根性だけは見上げたものだ、直ぐ根を上げると思ったんだがな・・・」

 

「そうよ・・・あんた、あのエスデスをどうやって連れて来たのよ?あいつ、将軍じゃないの?なんでこんな所で油売ってんのよ!」

 

そんな事はどうでも良い・・・と言って、タツミはアリアの目の奥を覗き込む。

 

 

「お前を変えるには生半可な手段じゃ駄目だな・・・」

 

アリアは小さく悲鳴を上げ、

 

「な、なによ・・・もっと酷い事する気・・・こ、ここを出た後、け、警察に訴えるわよ・・・」

 

「いや・・・残念だが、エスデスは(特殊)警察も兼務しているんだ、・・・ははは、世も末だよな」

 

進退極まったアリアは顔面蒼白となるが、タツミには見えていた。殺すのは訳も無い、そして、エスデスのように拷問を行えば、根を上げ、“その時は改心する、心を入れ替える”と言っても時が経てば、元のアリアに戻るだろう事を・・・。

 

「俺も暇じゃ無いんでな・・・手っとり早く済ませるぜ」

 

 

タツミはそう言って、懐から黒手袋を取り出し右手に嵌める。

 

「な、なにをするつもりよ!」

 

逃げ出すアリアの肩を捕まえ、即座にこちらに向き返させた後、タツミのその手が彼女の頭を捉える。

 

 

「お前に生きる喜び等与えん!!せいぜい苦しめ・・・」

 

やはりこれも帝具か、彼女は苦しみ始める。

 

タツミを誘惑するものなら、アリアを即殺そうと企んでいた・・・屋根裏に潜むエスデスは、様子を見に降りて来た。

 

アリアの頭の中は正に混沌と化し、彼女の視界は大きく回転し、吐き気を催す。

それが治まると次は、周りの物に恐怖を感じ、怯え始める。

 

 

 

「タツミ・・・それは帝具か・・・?」

 

「・・・本当は明かしたくないんだが、まぁ良いだろう・・・こいつはある意味で最強にして最凶の帝具でな。相手の脳内物質のバランスを撹乱・・・簡単に言えば相手に、恐怖を自在に与えられる・・・という代物だ。今俺はこいつに常に死にたくて仕方ない状態にした・・・つまり、自己破壊願望をそこそこ強化させたんだ」

 

そう言っている間にタツミはそれでも自殺出来ないようにアリアの両手を縛りあげる。

 

「そんな帝具があるのか・・・?」

 

「いきなり、目の前に召喚されたり、空気中の水分を一気に氷結させて氷の層を作り出す帝具があるんだ、こういう帝具が有っても不思議ではないだろう?・・・とはいえ革命軍と帝国軍の文献にも乗っていない、他に知る奴は居ない幻の帝具だがな」

 

その間、アリアは苦しみもがいている。それを気にせずエスデスは

 

「くくく・・・面白い帝具だな、タツミ。だが私は自らの手で行う拷問が好きだがな」

 

アリアは小さく蹲り、助けてお願い、と何度も唱え震えている。

 

 

「・・・奴は何に怯えているんだ?」

 

「こいつは、周りの物全てに怯えているんだ・・・」

 

「どういう事だ?私達以外のその辺の物にもか?」

 

「ああ・・・、机がいきなり襲いかかって来るとか、そういうありもしない被害妄想に今、囚われているんだ、こいつは・・・そして、生きている事への虚しさや大きな不安、自分自身への否定を強くして常に死にたくなる」

 

タツミはエスデスに矛先を向け、

 

「エスデス、お前もこの帝具を試してみるか?絶望が味わえるぞ」

 

「私が?ふふふ、面白い!・・・デモンズエキスの時もそうだったが、私は常に屈服させる側だ・・・何者であろうともな、くくく、試させて貰うぞ!」

 

 

 

タツミはエスデスの頭に手をやると・・・

 

・・・・・・!

 

彼女はいきなり途方も無い脱力感とそこに居るだけで何もしていないのに、軽い目眩や気持ちの悪さ、大きな不安が重くのしかかる。

 

エスデスはよろめき、

 

「く・・・こ、これは・・・」

 

遂に膝を付き、荒々しく呼吸をしている。

 

「エスデス・・・お前が屈服させたデモンズエキスは破壊衝動という攻撃的なものだ、だから相性が合ってお前の得意分野でもあったんだろ?」

 

「ぐ・・・うぐ・・・く・・・」

 

エスデスは泣きだしたくなるような、死への誘いに駆られている。

 

「言っとくが、これは攻撃的なものじゃない・・・もっと“静かで暗い”ものだ」

 

 

タツミは再びエスデスの頭に手をやり、帝具の効果を解除した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・これが・・・、馬鹿な・・・こんな死に駆られたくなるような・・・このような弱者の感情など・・・この私が・・・くっ・・・」

 

エスデスは顔に手をやり、苦々しく呻いた。

 

「お前は得意分野に特化している・・・それだけの事だ・・・」

 

タツミが事もなげに言ってのけた事を、今のエスデスにはぼんやりとしか理解できなかった。

そして、未だ苦しんでいるアリアとその様子を黙って見据えているタツミを・・・エスデスはその様子を眺め、改めて戦慄した。

 

そして考えた・・・何故自分はタツミに惚れたのかを、単に闘いの実力が自分よりもはるかに上だからか?いやそれだけでない、本来の彼は自分の上をいくドS性・・・残虐性を秘めていた・・・それを日頃隠しているが、彼を一度本気で怒らせればその面が発露し容赦しなくなるのを・・・彼女が持つ野生の勘が教えてくれた・・・そして、今でもまだ本気を出し切っていない事も・・・。

 

今までは何となくだったが、ここに来て漸くエスデスは頭でも理解し始めていた。

自分は周りから帝国最強、そしてドSと恐れられ親われもしたが、何故タツミは自分のそんな面にまるで関心を示さなかったのか・・・、それはそうだろう、タツミは自分を凌ぐ力、ドS性・・・残虐性を普段は隠しているだけだ、それなのに私は日頃臆面も無く、その力をいつでも必要であろうがなかろうが自分がしたいから行いたい時に現している・・・。タツミから見れば私などは・・・小娘の如く映っているのかもな・・・、と。

 

神妙な顔つきになっているエスデスにタツミは

 

「・・・どうしたんだ」

 

「いや・・・なんでもない」

 

 

アリアをタツミは地下の部屋へと連れて行った。

 

それから数日後、再びタツミは様子見に山小屋に来て

 

 

「エスデス、どうだ奴の様子は?」

 

「ああ、全く持ってつまらん、私の言う事に反抗の色がない上に、終始怯えてばかりでな・・・言われた通り手の縛りはそのままで、足の鎖を解いても逃げ出す気配も無い・・・流石にここまで来ると私ですら哀れに思う・・・それでどうする、タツミ?」

 

 

それを聞き、タツミは例の帝具でアリアの恐怖の度合いを多少弱めた。

 

 

「タツミ、その帝具は本当に不思議だな・・・脳の錯乱と言ってたが、他に何か出来るのか?」

 

「・・・そうだな、その気になれば相手の人格もまるで変えれるぞ。だからエスデスお前も拷問好きから、・・・誰かに拷問を行うだけで自己嫌悪になって吐き気を催す、そんなお前にも変えれるぞ?」

 

 

「ふっ・・・正に最凶の帝具だな、そんな私を想像するだけで気分が悪いな」

 

 

 

またしばらく経ち、

 

アリアも以前と比べ大人しくなった、そんな時タツミは

 

「お前を解放してやる、・・・好きな所に行け」

 

アリアは特にこれといった感情も抱かずに答えた。

 

「貴方も悪い人ね・・・もしわたしが誰かに喋ったら殺すつもりなんでしょ?どう?」

 

「さぁな・・・、お前次第だな」

 

 

 

「・・・わたしは・・・親から世の中には何をしてもいい人種と何をされても良い人種がいて、私達はその何をしてもいい人種なんだと教わってきた・・・だから、捕まえてきた田舎の人達だって、殺したり惨い仕打ちをしたって別に何とも思わなかった・・・わたしが逆にそんな仕打ちを受けるなんて考えたりもしなかった」

 

 

タツミはそれに対しただ黙って聞いていた。アリアは半ば投げやりに彼に尋ねる。

 

「ねぇ、こんな娘っ子一人、ここ出てって、この帝都で生きていけるの・・・?」

 

「さぁな・・・、後ろ盾も親も居ないお前だ、悪い男の慰み者になるか、それこそどっかの悪党みたいに上手い事騙されて、屋敷に連れられ拷問死するか・・・運が良けりゃその辺で楽に餓死じゃないのか?」

 

タツミは餓死なんてまだ良い死に方だと言わんばかりに言ってのける。

 

 

「ふっ・・・でしょうね・・・タツミ・・・貴方、ナイトレイド・・・だっけ?その殺し屋達からあたしを庇ったけどなんで?」

 

タツミはへぇと驚き、

 

「少しは知恵が回るようになったみたいだな・・・だが庇った訳じゃなくて試そうと思っただけだがな」

 

「試す?・・・ああ、私が変わるかどうか・・・?あの帝具・・・最悪だったわ・・・早く死にたくなったもの・・・それから解放されて・・・ええ、以前と比べて同じ景色もなんだか、綺麗に見えたわ・・・元の気持ちに戻るに連れて、あんな地獄な思いはもうこりごり・・・私に殺されていった人達もこんな風に死にたくない、生きたいと思ったって事・・・それを貴方は教えてたくて?」

 

アリアはとりあえずあの地獄から解放され、生物としての生存欲求が満たされている状態になったので、ただ日々生きて行く事を良しとしようと、無意識に思っていた。

 

「・・・・・・、そんな事はどうでもいい、お前が死にたい無いならもう止めはしない」

 

タツミは今のアリアならそう簡単に死のうとはしないと判っていたから、敢えてそう言ってのけた。

 

 

「・・・・・・、私は改心なんてしないわよ?だけど、外で生きて行くのも、もういや・・・この家の掃除さえしてれば、最低限の食事にはありつけるでしょ?今更外で仕事して生きてく自信は無いわ・・・もし、追い出すんなら・・・一思いに殺して・・・」

 

「・・・じゃあ、死んだつもりで本丸で働いてみるか?俺の狗として・・・」

 

「本丸・・・?」

 

 

 

 

帝都中心、宮殿の応接室でエスデスは一人の女性を連れて来て、雑務を取りまとめる長にアリアを引き合わせる。

 

「こいつは・・・アリ・・・アリスという、何でも良いからとりあえず使ってやってくれ」

 

そういうエスデスは苦虫を潰してアリアを見ている。

 

(・・・何故私がこやつの紹介を・・・myタツミ、この代償は高くつくぞ!)

 

アリスと名乗った女は恭しく頭を下げ

 

「どうか、よろしくお願いいたします・・・」

 

「ふむ・・・これは可愛いお嬢さんだ・・・、良いでしょう。エスデス将軍の紹介ならお断りする訳にも参りません」

 

「・・・こいつの事は死なせるくらい働かせて良いからな!むしろ死なせろ!」

 

「ははは、また御冗談を・・・エスデス将軍の紹介者を無碍には致しません」

 

 

(ふぐぐぐぐ・・・・!!私の紹介となれば、悪いようにはしない・・・タツミは恐らくそこまで計算して、私にこの小娘を紹介させたか・・・く~~~~タツミ~~~~~~~)

 

「・・・どうかされましたか?将軍?」

 

「なんでもない!!」

 

 

それからアリアは必死になって働き、時折オネスト達の情報等をランを経由してタツミに伝えたりと、間接的に革命の助力をした。

 

そして、革命も成功しアリアは混乱の中で上手く立ち回り、革命軍改め新政府の長であるコウカツの話し相手を務める程にもなった・・・。

 

今のアリアは組織の中で自分の実力を発揮し居場所も作り出し、充実感を覚えて始めていた。

 

 

ある日、先の戦争で破損も見られる宮殿付近の人目の付かない場所で、タツミは空を眺め、時間を潰していた。

 

「待った?」

 

「いや、そんなに待っちゃいない・・・」

 

アリアはそう言って近づいてくる。

 

「お前も出世したみたいだな、言うの遅くなったが、おめでとう」

 

「ふふん・・・元々あたしは器量も良いし、その気になれば頭も良いんだから、あんな鼻の下伸ばしたオジサマ方に取り入られるなんて、訳もないわ?お尻を撫でられるくらいなら我慢も出来るしね」

 

「へっ・・・」

 

タツミは逞しくなったアリアの様子に苦笑いをした。

 

「それで、はい、これ、彼らの情報」

 

渡されたメモを見て、タツミも唸る。

 

「ふ~~む、よく調べたな・・・」

 

タツミは情報料をアリアに渡す。

 

「?・・・いつもより多くない?」

 

「そいつは今までの御苦労賃も兼ねてだ」

 

首を傾げるアリアに

 

「後の事はナジェンダ将軍に・・・、前に話したその将軍の事は判っているだろう?」

 

「もちろん知っているけど、・・・ちょっと待って、その将軍にはなるべく近づくなって、あたしを昔、殺そうとした殺し屋のボスだったんでしょ?・・・え?」

 

「そうだ・・・だから、この手紙を渡しておく、その中には俺がナジェンダに向けてお前の事を説明している」

 

「これを持って、これ以降はその人と仕事しろって事?」

 

「ああ・・・、ただナジェンダにも立場が有る、一応革命成功してお前を狙っていたナイトレイドは解散したが、・・・元々お前は人から恨まれて、殺すよう依頼されていたんだ」

 

アリアは以前の事を思い出し、顔が苦しく歪む。

 

「・・・お前も小金が溜まったんだろ?俺はお前がこれから何処に行こうが、もう気にしない。暇を貰って、何処かの田舎に行くも良い、それとも・・・」

 

アリアは少し間を置いた後、

 

「そのナジェンダと言う人と話した場合・・・、あたしはひょっとしたら殺される?」

 

「・・・いくら俺が手紙でお前の事書いていても、相手はどう判断するかな?」

 

アリアは長い間沈黙し、タツミも答えが出るまで待った。

 

「その時はその時ね、人間、自分がしでかした過去からは逃げたくないわ・・・」

 

タツミもふっと笑い、

 

「そうかい、じゃあ武運を祈ってるぜ」

 

「・・・?そういえば、貴方はこれからどうするの?」

 

「ん・・・?ああ・・・、俺はもうこの国から離れるさ」

 

アリアは目を見開いて驚く。そして、タツミはニヤッと笑い

 

「どうした?鳩がパンプキン喰らった顔しやがって」

 

 

「え?・・・あ・・・」

 

「まぁ、そういう訳だ・・・せいぜい、元気でな・・・あばよ」

 

タツミは後ろ手に片手をひらひら、そのまま去って行った。

 

 

 

 

 

「あ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

アリアは何かを言おうとしたが、その言葉を呑みこみ、彼の姿が消えるまで・・・消えた後もしばらくは見送った・・・。

 



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彼らのある日常(番外編)

時間軸は革命後、皆が落ち着き始めた辺りです。

そして、次回更新はまだ一ヶ月先か未定ですが、最終章となります。



タツミは白装束に身を包み、ナイトレイドアジトの敷地内にある滝に打たれ禊をする為、アジト内通路を歩いていた、すると・・・。

 

 

「セクスィーダイナマィーッツ!!!」

 

チェルシーが紅の水着でウィンクと投げキスを飛ばしてくる。

 

「・・・・・・」

 

タツミは一瞥した後、そのまま歩いていく。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

しばらく沈黙していたチェルシーも

 

「・・・タツミ、私、余り放置プレイは好きじゃないんだよ?」

 

 

 

ここは帝都中心から少し離れた街、その広場の一角でタツミはここ数日、旅の路銀を稼ぐ為鍛冶仕事で主婦達相手に、包丁を売ったり研いだり・・・等々行っていた。

 

「タ―君、これお願い」

 

「はい、どうも」

 

タツミはその主婦と雑談した後、

 

「そーいえば、宮殿で大暴れした革命軍が居たって聞いたけど、その人の名前タツミだって・・・まさか・・・」

 

「いやぁ・・・奥さん、タツミ何て名前探せば幾らでもいますって」

 

そうよねぇと笑いながら、その主婦は後でその包丁届けてねと言って去った。

 

そしてそこに、一人のまだ10歳にもならないであろう少女が包丁を研いでいるタツミの所に興味深げに近づいてくる。

 

「・・・どうした?お嬢ちゃん、・・・この辺に住んでなさそうだな?」

 

「うん!」

 

「誰と来たか当ててやろうか・・・父さんとだろ?」

 

「当たった!ふふふ」

 

 

 

「それで、何処から来たんだ?」

 

「きょろく、だよ!」

 

「虚六・・・か、そうかい、結構長旅だったんだな・・・」

 

 

そんな2人を影からこっそり見守るのは、

 

「はは~~ん、タツミはさてはロリコンかぁ~~~」

 

「れんこん?レオーネ、タツミは“れんこん”じゃないぞ?」

 

「違ーう!ロリコンだロリコン!」

 

「なんだそれは?」

 

「けど、あれはロリコンよりももっと年下・・・ん?ロリコンってのは要はタツミの事を言うんだ。」

 

レオーネは説明がめんどくさく、アカメに適当にこたえる。

 

「ふ~む、良く判らないがタツミは“ろりこん”という病気なんだな?」

 

「全くタツミは、あたしらに何も言わずにここんところ、こそこそ出かけて・・・水臭いな」

 

「全くだ!」

 

「と言う訳でだ、アカメ・・・これはタツミをロリコンから覚まさせる為に、私達がしなくちゃならない事は一つだ!」

 

 

アカメとレオーネが何やら企んでいる中、タツミはその少女に頼み事をしている。

 

「悪いけどな、嬢ちゃん。こいつをそこに届けに行かなきゃならないんだ。ちょいと番頼むぜ、良いかい?」

 

「うん、わかったよ!」

 

元気よく返事する少女を背にタツミは研いだ包丁を袋に入れて、駆けて行く。

 

そして、そこにアカメが何気なく歩いて来て、少女の目線が外れたその瞬間にタツミの道具箱に中に入っていたお金を掴み、立ち去ろうとする。

 

「どろぼー」

 

だが、直ぐに異変を察知した少女はアカメを追いかけ捕まえ、「どろぼー」とわめきちらす。

 

そこにタツミが戻って来る。

 

「あ、アカメ!お前になにやってんだ!!・・・さては俺の金取ったな!!」

 

「ち、違うんだ。タツミ!!これはタツミの目を覚まさせる為に仕方なく・・・」

 

「何訳わかんねぇ事言ってやがんだ!!」

 

 

その辺に居る主婦たちが何事かと集まって来る。

 

「おい、ねぇーちゃん方、この女、泥棒だぞ!」

 

タツミが言うのに反応し、彼女達は箒を手にアカメを叩きまくる。

 

その間にタツミは、アカメから金を取り戻し、少女を連れてその場から離れる。

アカメは更に叩かれ続け、とうとう怒って一人の相手から箒を奪い取り、反撃し倒して、

 

「タツミ、おぼえてろーー!」

 

と言って逃げて行く。

 

「たくっ、アホメが・・・良いか?帝都にはなぁ、ああいう悪い奴が居るから、嬢ちゃんも気を付けるんだぞ・・・いやぁよくやってくれた」

 

タツミは元の位置に戻って金を数えていると

 

「ひぃふぅみぃ・・・ん?壱銀足りねぇ?アカメの奴待ちやがれ、この野郎!!」

 

タツミはアカメを猛追していった・・・

 

 

「おとーさん!」

 

「どうした?何か面白い事でもあったか?」

 

「ていとーには、わるい人がいるから、おにーちゃんが気をつけろって、どろぼーのおねーちゃんおいかけってった!」

 

「そうかそうか、じゃあ父さんから離れるなよ?」

 

少女は戻って来た父親と手をつないで仲良く去って行き、そして・・・。

 

 

「くっくっく・・・油断はいけないよなー」

 

レオーネはニヤニヤしながらやってきて、タツミの道具箱に手を伸ばす。

 

「全くねぇ、親友も人が良いねぇ、なんでお金取るのが、タツミの為になるなんて意味不明な理由をそのまま信じちゃうかね?~

 

(回想)

「タツミはここで幼い少女が居ないか仕事を装って品定めしてるんだ!」

 

「な、なんだと!?それは本当かレオーネ!」

 

「ああ、間違いない!ああやって、お金を集めて少女を拉致って家で育てつつ、あんな事やそんな事やこんな事もするつもりなんだ、アカメ、何としてでも止めるんだ!」

 

「判った、じゃあタツミに言ってくる!」

 

「待てアカメ!犯罪を行う資金源を断つんだ!つまり、タツミのお金を盗めば、タツミはああやって働かなくちゃならないから、ロリコってる場合じゃなくなる!」

 

「そうか・・・これもタツミを・・・間違った道に歩ませない為に必要な事なんだ

な・・・ではタツミの金を盗って来る!!」

 

「そうだアカメ、頑張ってタツミの犯罪資金源を盗って来るんだ!!!」

 

(回想終了)

 

~アカメも暗殺の時は頭の回転速いのに、どうしてこういう時はアンポンタンなんだろうね・・・くくく、それもこれもね、お姉さんの姉心なんだよ?アカメには身を持って人の言う事を鵜呑みにしちゃいけないとね・・・そして、タツミにはお金の管理はしっかりしなきゃいけないってね♪・・・そう、これは授業料なのだよ・・・うふふ、タツミ小金溜めてるなぁ・・・むふふ、博打のツケ払おうかな?いややっぱり、呑みにいこっと♪」

 

レオーネが何やらブツブツ言いながら、タツミの金を漁っていると、

 

「お、これは何かツヤツヤしてる・・・何だろ?金ぴかだから・・・はは~ん」

 

手を伸ばしたレオーネは・・・

 

「いだぁあああああああああああああああああああああああああああ」

 

黄金色の強力な顎をした虫がレオーネの指を挟み、血がにじむ。

 

「いだだだ、何これ痛い、タツミ、馬鹿、本当バカ、なんでこんなの入れてる・・・あだだだだ」

 

転がり痛がり、

 

「こいつぅーーーー、殺してやる!!」

 

レオーネが握りつぶそうとすると、それに反応した虫は120%の力を出す。

 

「いだあああああああああ・・・よ、よく考えたら、この虫殺したらタツミ200%怒る・・・ど、どどどどうすればぁあああああ」

 

そこにアカメを抱えて帰って来たタツミが、転がっているレオーネを見て・・・、

・・・・・・。

 

 

 

 

ナイトレイドアジトのタツミの部屋

その押入れから、

 

「暑いわねー、あー、暑い」

 

と、マインは白の水着姿で部屋に入って来る。

 

「あれ、タツミ?・・・あんた、まだ寝てんの?」

 

タツミの布団が盛り上がった状態になっている。

 

 

(回想)

 

「タツミ、あんたなんで虫なんか置いとくのよ!何アレ、虫?土の匂い?とにかく臭いのよ!」

 

「俺が俺の部屋で何飼おうが、俺の勝手だろうが!!」

 

「はっ?馬鹿言ってんじゃないわよ!あたしの通り道(タツミの押し入れ)に虫何て置くんじゃないわよ!」

 

「お前、俺に用あるなら前から言ってだろ、普通に戸から入って来い!!」

 

「あんたの部屋はあたしのもの。あたしの部屋はあたしのものなのよ!!」

 

「お前、ぶっとばすぞ!!」

 

(・・・回想終了。)

 

 

そして、時間はマインがタツミの部屋に来る前に遡る。

 

タツミの部屋の窓の鍵は中心部に有り、簡単に上から掛けるだけの簡易な物の為・・・

 

「ふふふ、全くタツミはぁ、こんな鍵では私に入って来てくれと誘っているようなもの・・・いや、事実誘っているんだな♪」

 

エスデスは薄く伸ばした氷の層を窓中に入れ、あっさりと鍵を外してしまう。

 

「タァーツゥーミィーーー!!!寂しかったぞ!」

 

そう言って、彼の布団にダイブするが

 

「むっ・・・なんだこれは?ああ、これは・・・」

 

布団を開けると××があり、エスデスは横にずらし、タツミを呼び掛ける。

 

「全くタツミは、私を置いて何処に行ったのだ?はっ、そうか・・・これは私に“俺が帰って来るまでに布団を温めておけ”という合図だな・・・全くタツミは・・・可愛い夫だな・・・ふふふ」

 

しばらく布団の中で、自分の匂いを付けたり、タツミの匂いを堪能していたエスデスだが流石に退屈となり、部屋の主を探しに帰って行った。

 

 

そして時は元に戻る。

 

 

「まったぁく・・・あんたは、いつまで寝てんの・・・仕方ないから起こしてあげる・・・本当あたしは我ながら良い嫁になると思うわ・・・」

 

そう言ってマインはタツミの布団の中へと入り・・・

 

 

 

 

「ひにゃああああああああああああああああああああ」

 

マインの絶叫が布団の中から聞こえる。

 

そこにはエスデスが邪魔だからとずらしたが、意外な事に再び律儀に布団の中に戻した木箱から脱走した虫達が・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

“タツミ――あんた、覚えておきなさーーーい!!!”

 

 

アジト内で何やら恨み節の大声が聞こえるも、外は平和でのどかであり、良い洗濯日よりだった。

 

 



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自己犠牲を斬る

待って頂けている方、今まで遅くなりすみません。

先の82話、水先人からの続きでこれ以降は最終話まで番外編無しでいきます。

この後は1,2週間に一回の割合で投稿出来れば…とは思っております。


 

「う~~ん・・・くぅ~~、よく寝た・・・あれ?コロ?」

 

外の日差しを受けて心地良い目覚めのセリュー、普段いるはずの相棒が見当たらず、一瞬で不安になる。

 

「コロ・・・コロ何処に行ったの?」

 

「きゅー!」

 

コロは戸を開け主人の元へ駆けて来る、四足で。

 

「なんだ脅かさないでよ、心配させないで・・・」

 

「・・・・・・」

 

「あれ?コロ、この縫い傷どうしたの?」

 

セリューが帝具としてのコロに有った核が無くなり普通の犬になったと気付くのはそう時間は掛からず、タツミの意図もその時把握した。

 

 

 

 

 

 

「どうしたスサノオ・・・」

 

「・・・特に問題は無い・・・」

 

スサノオは今朝アジトに戻り、偶然ナジェンダに出迎えられた。

そして彼自身、体の違和感にも慣れ始めていた。

 

「スサノオ・・・お前、角はどうした?」

 

彼の頭には牛の如く両脇から出ていた角が無くなっていた。

 

『ふっ・・・そうか、そういう事か・・・』

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「そこに横になってくれ、余り痛まずに楽になれる」

 

「タツミ、後の事は頼んだ・・・お前達と出会えて良かった、・・・悔いは無い」

 

それに対し、何も答えずタツミは初めた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

何時間を経たのか、スサノオはあの場所で目を覚まし、自分はまだ生きていると気付き不思議に思っていた。

 

そして、意を察したスサノオの満足気な笑みに理解が追いついていないナジェンダは、再度問うも返答は

 

「タツミは何処に居る?」

 

 

 

 

 

 

ウェイブはクロメを背負い、彼の故郷に向かって歩いている。

 

「ウェイブ、ちょっと男前になったね?ふふふ」

 

彼の額には刀傷が付いていた。

 

「けっ、タツミのヤロー・・・、クロメの血が必要だから斬らせろって言いやがって・・・脅かしやがって・・・俺はあいつの事は、はなっから気に食わなかったんだ!!」

 

クロメはくくっ、と笑いを噛み殺していた。

 

彼女は彼がタツミに対し、言葉とは裏腹にどう思っているか判っていたので余計に。そして、彼の腰にはタツミの刀が差さっていた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

タツミと対峙する形でウェイブとクロメは身構える。

 

「グランシャ…とウェイブは帝具を発動させようと思ったが、

 

『駄目だ・・・そんな事している暇にやられる・・・』

 

ウェイブは冷や汗を垂らし、タツミはニッと笑った。

 

「腕を上げたな、ウェイブ。大分ランからしごかれたな?思った通り帝具を発動させたって無駄だぜ」

 

クロメは意を決し、

 

「ねぇタツミ、ウェイブに危害を加えないなら、あたしはどうなっても構わない!それでどう?」

 

「馬鹿野郎!お前を見捨てて俺だけ生き延びられるかよ!」

 

「ウェイブ!」

 

互いに二人は睨み合う形となるが、

 

「あ~・・・うるせえぇ!!」

 

タツミが一喝し

 

「ウェイブ、お前はとっとと帝具を寄越せ!そしてクロメは折れた八房を俺に渡せ!」

 

「言う通りにしよう、ウェイブ」

 

「ちっ・・・」

 

二人から受け取り、

 

「クロメ、俺が折角研いでやったのに刃こぼれが多いな・・・やっぱりアカメと激しく闘り合ったな」

 

「・・・一度聞いておきたかったんだけど、お姉ちゃんに他の技教えたのはタツミ?」

 

タツミはそれについて黙として語らないが、

 

「でも良かった・・・そうでなかったら、以前のままのお姉ちゃんならたぶん・・・あの時勝ってたのはあたしだったから・・・」

 

「さぁな、アカメなら例え以前のままでも何とかしただろ?」

 

「やっぱり教えたんだね?ふふ、本当は優しいんだね?」

 

タツミは折れた八房を事もなげにクロメの首に突きつける。

それが余りにも自然な動作で虚を突かれた為、二人とも抵抗する間もない。

 

「・・・お!おいタツミ!」

 

「クロメ、お前の血が欲しいんだ」

 

「・・・あたしの命でウェイブにはもう何もしない?」

 

タツミはそこから一閃、ウェイブの額を斬った。

その血を八房に付け、袋にしまった。

 

「ぐっ・・・タツミ、お前・・・」

 

「ウェイブ!!・・・タツミ、ウェイブを!」

 

「・・・どうせ結果としてこうなっただろ?」

 

「俺がクロメを庇うに決まって、と判ってたからか・・・けど、俺の血でも大丈夫なのかよ?」

 

流れる血を抑えながら尋ねる。

 

「たぶんばれないだろ?」

 

クロメはウェイブの止血をし、用が済んだタツミは去ろうとする。

 

「ありがとうタツミ、それとお姉ちゃんにまたいつか絶対会おうって伝えといて・・・」

 

タツミは振り向きざまにあるモノを投げる。

 

「こいつは・・・」

 

ウェイブも瞬時に受け止め

 

「そいつは無銘だが、お前とクロメを守るくらいは出来るだろう・・・じゃ、俺の餞別がせいぜい冥土の土産にならないようにするんだな、あばよ」

 

 



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嘘を斬る

前話が予想外に好感触だった気がしまして…ありがとうございます。
このまま1週間ごとに投稿出来ればとは思ってはおりますが…(苦笑)


ランは帝都宮殿近くの瓦礫がまだ撤去されていない廃屋で尋ね人を待っていた。

 

「やぁランさん、お待たせしました」

 

その声の主に顔を向ける。

 

「タツミ君・・・シコウテイザ―相手にあれだけ大暴れしましたのに、もう平気なんですか?あれだけの帝具を同時なら、並みの帝具使いで良くて1年以上ベッド生活ですよ?タフな人ですね~」

 

呆れと称賛の含んだその言葉には答えず、彼は手紙を投げる。

 

「おや、これはスズカさんに宛てて・・・ひょっとしてラブレターですか?ふふふ、ほぉ・・・これはお熱いもので・・・」

 

それには“今日から1人で出来る拷問集”とある。

 

「つまり、1人で放置拷問させるんですね?くくく、これは喜びそうですね・・・ん、これは!?」

 

他にも今の帝都政府トップ含めた幹部達のスキャンダルや弱みが書かれている。

 

「良いんですか・・・?こんな情報、私にくれて・・・」

 

「ああ・・・、あんたなら上手くやってくれるだろうと思ってな・・・」

 

「大したものです・・・これをどうやって?」

 

「まぁ色々と・・・ナジェンダと上手くやってくれ、後はアリアの事も頼む」

 

「アリア・・・ああ、彼女の事ですか、成程。判りました、何かありましたら守りましょう」

 

「じゃあランさん、随分と達者で・・・」

 

彼はそう言って去ろうとするに対し、

 

「待って下さい、君はこれから何処へ?」

 

問われてふと立ち止まり、

 

「これから西へ・・・」

 

「西・・・?君の国は東じゃなかったのですか?」

 

そして、少しずつ砕けた口調になり初め

 

「実は本当の祖国はあそこじゃなく・・・遠い昔に滅んでいるんだ」

 

ランは一瞬怪訝な顔になるも、

 

「ひょっとしましたら・・・貴方はこの世界の人じゃありませんね・・・」

 

「何故そう思う?」

 

「何故って・・・実は私も元々この世界の人間じゃないからです」

 

互いに顔を見合わせ一瞬間があった後、気持ちよさそうに大声で笑う。

 

「はっはっは、そいつはとんだ“妄想”を・・・ははは」

 

「ええ、勿論、ただの“作り話”です。なので“冗談”で聞きます。貴方は本当はこの世界とは違う全く別の次元から来たエージェントでは?・・・帝具を壊す事が目的なのは本当だったのでしょうが、もう一つは・・・場合によってはこの世界そのもの全てを無に帰すつもりだったのでは?」

 

「何故そう思う?」

 

「今まで見た帝具使い等子供同然に見える強さに加え、時折見えました凄まじい殺気と諦観を・・・」

 

彼は苦笑と的を得られた事への苦虫を少々潰し、

 

「・・・じゃあ俺も冗談で聞くとしよう。ラン、あんたは本当は未来から来た住人

か?もう二度と元の時代に戻れないのを覚悟の上で歴史改変しに来た・・・」

 

「何故そう思うんですか?」

 

「あんたの身体操作は今までの時代のこの世界には無い洗練されたものだからだ!」

 

ランは目を瞑り、動揺した気持ちを悟られないよう努めた。

 

「・・・・・・中々面白い冗談です・・・よく調べてますね、面白い話を」

 

「いや本当に・・・」

 

二人とも少々薄気味悪く笑い、ランは笑うのを止め、

 

「貴方とは最後まで一応敵同士にならず、ほっとしています」

 

「俺ももう、この国に用は無い・・・後はあんた方で上手い事やってくれ」

 

「用は無い・・・?本当にそう思っているんですか?・・・まだ何か奥の手でも残しているんでは無いのですか?本当はまだ試そうとしている・・・そう、あの女の事を・・・」

 

 

 

 

 

 

「タツミ―――――!あんた好い加減に起き・・・あれ?・・・何よ・・・妙に部屋ん中、小ざっぱりにして・・・」

 

マインが早朝、例の如くタツミの部屋の押し入れから侵入し、目覚ましに…もとい、つまらない文句を言いに来たのだが・・・。彼の部屋は布団も畳まれ、置かれていた本も何も無く、最低限の物しかない。

 

「あいつ、全くせっかくあたしが来てやったのに、何処ほっつき歩いているのよ!」

 

「どうしたんだマイン?」

 

アカメがタツミの文机の棚から顔を出す。

 

「アカメ!タツミが居ないのよ、あんた知らない?」

 

首を振り、

 

「ふむ・・・タツミが匂いが薄くなっている・・・13時間は経過しているな」

 

「え?アカメ、あんたそんな事も判るの?・・・ちょっと退くわ・・・」

 

「冗談だ・・・」

 

「あんたの場合、冗談に聞こえないのよ」

 

 

 

彼らはスサノオの変化とタツミの不在の話も兼ねてアジト内広場に集まった。

 

「へぇ~~~スーさん、本当に人間になったのかよ~~~ほぉ~~」

 

レオーネは興味津津でスサノオを眺め、

 

「ああ、どうやらな・・・人間は核が壊されなくとも体が斬られれば、そのままなのだろう?」

 

「そーゆ―事、今までみたいに平気で自分の身斬らせるなよ、スーさん?」

 

「それは帝具を失ったお前にも言える事だろう?レオーネ」

 

「たはっ!言うようになったな、だってさラバ?」

 

「いや、俺関係無いから!」

 

「だけどタツミの奴、“帝具は全て消毒する”とか言って」

「言ってないわよ」

とマインのツッコミも気にせず

 

「あたしの帝具くらい良いよね~って、タツミが“居ない時”に、返してよ、ってちゃんと言って、それで持ってたら後でばれてゲンコツ喰らったんだよ?タツミあいつひどくない?」

「こういうのはスルーするのよ、アカメ」

アカメもコクコクと頷く。・・・が、

 

「・・・スル―とはなんだ?」

 

「流すって意味よ」

 

『流す・・・!?』(どんぶらこ、どんぶらこ)

 

「あんた、別の事想像してるわね?」

 

 

ナジェンダが溜息交じりに

 

「お前ら放っておいたら話が進まんから言うが、タツミの事誰も知らないのか?」

 

一同首を振る。

 

「ナジェンダさんは何もあいつの事聞いてないんですか?」

 

口火を切ったラバックの尋ねに、

 

「政務に関して打ち合わせなどしたが・・・、今後についての詳しい事は聞いてはいないな・・・う~む、いつもなら数日経てば戻って来るだろうと思うが・・・どうやらタツミはスサノオを人間化させたようだが・・・つまりその時まで一緒に居たのに、共に戻ってもいない・・・それに自分の部屋も綺麗に片づけてタツミに関する情報の類が全て無くなっている・・・」

 

「何よ!あたしが虫を部屋から出しなさいって少し言ったけど・・・、・・・」

 

「あ、あたし判った!マインにそんなふ~~うにいびられるのが嫌で家出したんだね♪・・・可哀想なタツミ・・・帰って来たらあたしが慰めてあげるのに・・・しくしく」

 

ハンカチ片手に嘘泣きするチェルシーにマインの罵声が飛ぶ。

 

 

「ふむ、恐らくこれは、立つ鳥疲れて後で座ると言う事だな・・・」

 

「ああ、そうだな~」

 

「ええ、そうよね・・・って?いや、全然違うじゃないのよアカメ!」

 

マインのツッコミが冴える。

 

「レオーネ、あんたもアカメの暴走止めなさいよ!あんた親友なんでしょ!」

 

「え~あたし?~自主性を重んじる主義だし~~」

 

「全くなんであたしがこんな面倒を・・・アカメのお守はタツミの役目でしょ?仕事放棄してんじゃないわよ!」

 

「噂で聞いた事がある・・・実は帝都には闇の笑い四天王がいて、その1人がマインだと・・・」

 

「アカメぇ――!!!あんた、あたしまで巻き込むじゃないわよ!!!」

 

「これが二次被害と言う奴だな☆」

 

「だな☆じゃないってーの!!!あーもぅ、こいつの暴走止めんのは、タツミでしょ?あいつほんとどこいったのよ!もしこれで逆上がりの練習してて遅くなったなんて言ったら、お仕置きよ!きぃー!!」

 

「んも~マインなにそんなにはしゃいでるの?」

 

「違うぞマイン、きっとタツミは大車輪の特訓を」

 

チェルシーが呆れ、アカメに負けじ劣らず、マインもうるさい。

 

ナジェンダは再びこめかみを抑えながら、

 

「お前達、少しは大人しく出来ないのか!?今年で幾つだ!!」

 

 

一瞬静まった後、

 

「17歳だぞ!」「17歳よ!」「17歳かな?」

 

約三名の自称女子がそうのたまう。

 

 

「とにかく・・・お前達の話からすると、ここももうすぐ引き払わないとダメなのだろ?」

 

スサノオが助け舟を出し、

 

「よしっ!博打のツケの請求先はここってしたからな、これで逃げ切れる!」

 

「レオーネ、お前は何故そんな事をするんだ?」

 

「もうスーさん、固い事言うなよって。これで見逃してくれよ!」

 

そう言って、レオーネはスサノオの手を自身の胸に押し当てる。

 

「ねぇ・・・どう?スーさん?」

 

「や・・・やわらか・・・くっ・・・止めないかレオーネ!?『な、なんだこの感覚は・・・』」

 

 

ゴツン!!

 

「ふふふ、全くレオーネは冗談が好きだな・・・なぁ皆?」

 

ナジェンダの肘鉄が彼女の頭に炸裂し、一同やっと静かになる。

 

「いったー、ボス!ちょっと過保護じゃないですか?スーさんだってそのうち」

 

「・・・・・・」

 

「はい!ボス、なんでもありません!」

 

 

「とにかくだ、ナイトレイドとして使ってきたこのアジトもひと月以内に爆破する、皆必要な物は全て持って行け、後はお前達も前にも言った通り当分遠くに居て貰うぞ・・・タツミの事も気に掛かるが、あいつの事だ!そう簡単に死ぬような奴じゃない。私の方でも時間を見つけて人を使って探して見る・・・アカメ、船旅に出るのだろ?準備は進んでいるのか?」

 

「・・・タツミに計画だとかの全て任せようと思っていた・・・」

 

「・・・笑えないな、ここ最近アカメ、お前も丸くなったというか、あ~、まぁ良

い。タツミに頼り切ったフリをするような悪ふざけも程々にしろ、姦しくて敵わないからな・・・話は以上だ、立つ鳥跡を濁すなよ、では解散!」

 

その時、ラバックが心の中でぼやく。

 

『あ~あ、アカメちゃん達、わざとテンション爆上げしちゃって・・・あいつが居ないのが寂しいのかねぇ~だがあいつ何で急に・・・あ、』

 

ひょっとしたら、あいつ俺らに自分の死に顔を見せたくなかったんじゃあ・・・

 

 

「ん?何だラバ、何か言ったか?」

 

「・・・いいえ、何でもないですナジェンダさん」

 



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甘言を斬る!

帝都よりも気温が次第に上昇している。

彼は白のロングコートを背中に担ぎ、青の長袖上着も肩まで捲っている。

襷がけの荷物入れに、腰には水筒の旅仕度で西へ向かう街道を歩いていた。

 

人もまばらで街も無く、自然に囲まれ場合によってはいつ、危険種や山賊が現れるか判らない。

 

「・・・・・・・・」

 

周りに人は誰も居ない中、彼は立ち止り

 

「・・・いい加減出て来い!」

 

木陰から白軍服を軽装にした女性が現れ、

 

「タツミ・・・全く我が夫は、妻を忘れて行くとは、かなりの物忘れだな?ふぅ・・・そんな事では先が思いやられるぞ?」

 

「エスデス・・・」

 

「む?まさか、新たな私達の居が出来るまで待ってくれと言う意味だったのか?む

ぅ、そういう事ならばつい先走ってしまって、すまないな♪」

 

「・・・・・・」

 

 

 

あの大雨の夜、エスデスの寝ている家屋へと一つの黒い影がゆらりと寝所側の大き目の窓へと立った。

 

殺気を察知し、目を覚ましたエスデスは

 

『・・・何故、即座に襲って来ない?・・・まるで待ち構えているようだな・・・ふっ、面白い』

 

突然その窓が勢いよく開け放たれ、エスデスは寝巻姿のまま愛用していた同じもののサーベルをその影に叩きつける・・・同時に、影は半身になりながら右手で彼女の持ち手を掴み、エスデスをしても体勢を一瞬崩させられ同時に、庭へと放る。

距離を取ったものの、直ぐ様体勢を立て直し身構える。

 

『何者だ・・・先の至近距離なら、私をあのまま素手で殺す事も出来たはず・・・いや考え過ぎか?』

 

エスデスのネグリジェは直ぐに濡れ、肌がうっすらと見えている。

二人は土砂降りの中、対峙し、その全身黒服で覆った影も腰の刀をゆっくり抜き始める。

 

そして影はだらんと刀を下げ隙を作る。エスデスは横薙ぎからの袈裟斬りに振り下ろすと同時に影も刀で受け止め、その刹那、片手でエスデスのサーベルをぬかるんだ地面に深ぶかと突き刺す。隙が生まれ死を意識したエスデスは、

 

「貴様、顔でも見せろ!」

 

その覆面に手を掛け、脱がすと

 

「タツミ!?・・・何故だ・・・」

 

彼は横殴りにエスデスを吹っ飛ばす。

 

「ぐっ・・・この雨でタツミの匂いもかき消されたか・・・」

 

「エスデス・・・帝具を使っても構わないぞ?」

 

「何故だタツミ・・・何故だ・・・」

 

タツミは何も言わずに、何故か僅かづつだけ距離を詰めて行く。

 

「まさか・・・前に言っていた全ての帝具を・・・そうか・・・デモンズエキスを体に入れている私を・・・私ごと・・・」

 

「俺は帝具がもう無いからな、ひょっとしたら俺を殺せるかもしれないぞ?」

 

「くっ・・・」

 

彼の言う通り、帝具を使えばエスデスにも分がある・・・が、その言葉を鵜呑みにしていいのか、実はエスデスも知らない帝具無しの奥の手をタツミは持っている可能性も・・・いや、それよりも・・・

 

「夫よ・・・妙だな?私を本気で殺すつもりなら、何故完全に私の不意を突かない?それに今の立ち回りで少なくとも2回は私を殺せていたぞ?・・・何故だ?」

 

土砂降りと暗さでタツミの表情は判らないが、

 

「・・・不意を突いてもお前には見抜かれたろう?・・・2回は殺せた?お前が強く

なってて殺せなかっただけだ・・・だが次は逃がさん、本気で行くぞ」

 

「・・・くくく・・・あははははははーははははーーー!」

 

エスデスは、彼は嘘をついている悟り、それが溜まらず笑い始めた。

 

「やはりタツミは・・・夫は私を愛しているのだな・・・ふふふ、くくく」

 

「き、気でも触れたか・・・」

流石に気押され気味のタツミに

 

「さぁいつでも構わないぞ?」

 

エスデスは両手を出し、目を閉じ隙だらけとなる。

 

「さぁ早く?待ちくたびれてしまうぞ?」

 

「・・・・・・・」

 

タツミは気付かれぬよう静かに刀を鞘に納め、そして数分後そこに居たのはエスデスだけだった。

 

 

 

 

「・・・あの時、折角拾った命を無駄に捨てに来たのか、エスデス!」

 

彼があの時の事を苦々しげに言うに対し、

 

「全く・・・何故ダーリンはそう意固地なのだ?」

 

「だー・・・りん?」

 

「前に言った事は無かったか?つまり、愛する夫と意味でだな」

 

「いや、そんな事じゃねぇ!前から一度言おうと思ったが、俺はお前の夫でも無い

し、大体夫婦盃も交わした事も無ぇのに、どうしてそんな話に」

 

「ふむ、ダーリンの居た国ではそういう習わしなのか?ならば手頃の街でその手続きでも」

 

「その呼び方止めろ!あと、そういう話がしたい訳じゃねぇ!お前はもう自由だ、何故俺の後を着いて来る?」

 

「・・・ならば、こちらからも聞きたいぞ?ナイトレイドの残党共を何故あのまま放置している?流石に利用価値があるから生かしている等と言うのは通じんぞ?」

 

「・・・だったらエスデス、お前がナイトレイド達を蹂躙しに行ったらどうだ?」

 

「む?」

 

エスデスも一瞬真意を量りかね、

 

「なぁ、エスデス・・・帝具を持っているのは後はお前だけだ・・・、ナイトレイドの連中もお前らに殺されたのも居るが、その逆もだ。お互い様なのは置いておいて、お前が仇討ちする絶好の機会だぞ?最も俺もお前の部下を殺した事があったが

な・・・」

 

「タツミが私の部下を・・・?スタイリッシュの他にもか?」

 

「ああ・・・」

 

「誰だそいつは?」

 

「・・・誰にしろ、俺はお前の部下を殺した事には変わりは無い・・・」

 

エスデスと彼の間に沈黙が流れ、

 

「どうする?仇討ちをするか?・・・だが、俺も受けて立つ、そいつを俺が殺したのも訳があるからな・・・」

 

 

かつてエスデスは死んだとある部下の墓前で、

「全く情けない奴らだ・・・お前らは負けた。つまり弱かったという事・・・仕方のない部下共め・・・仕方ないから、私が仇をとってやろう・・・」

 

その事を述懐した。

 

エスデスは目を閉じ唇を噛みしめる。

 

「どうしたエスデス?さっさと決めろ!」

 

「・・・この世は弱肉強食・・・死んだ部下の仇討ちをしようにも、無駄死にで終わるな・・・ふふ」

 

エスデスは諦めの微笑を浮かべ、

 

「・・・お前は例え死んでも無駄死にだろうと貫こうと思う事はないのか?」

 

「・・・私を今まで何度も殺せたのに、それでも生かした者の台詞ではないな?ふふふ」

 

「なら帝都にいるナイトレイドの奴らはどうだ?今ならまだ帝都に居る・・・大暴れしてきたらどうだ?帝具なんて無い、今ならお前に敵う奴は居ないだろう?」

 

「・・・・・・」

 

「どうだエスデス?俺はお前が今まで手足となって働いてくれた褒美に、奴らを蹂躙する許可を出したんだ・・・、もうお前の残虐さ、戦闘欲を阻害する奴なんていない・・・思うさまに自分の欲望を満たせば良い・・・ふふふはは」

 

その彼の言葉はまるで悪魔の囁き・・・エスデスの心にも迷いが生じる。

 

何故だ・・・何故タツミは、今になって逆の事を言い始めた?以前は私の有り様を否定し、今になって肯定する・・・?

 

「ふふ、そうだな・・・」

 

「ああ、そうだ・・・」

 

彼は悪魔な笑みを浮かべるが、エスデスは別の笑みを浮かべている。

 

「この世は弱肉強食だ・・・その強い者がタツミで良かった・・・」

 

「ん?」

 

「私が・・・踵を返して帝都で暴れたら・・・きっと、タツミはその時こそ本当に、狂言抜きに私を殺すのだろう?」

 

「・・・、無理に決まっているだろう?俺だってもう帝具は無いんだ・・・だから、お前に敵う奴はこの星はもういない」

 

嘘だ・・・

 

「全く我が夫は・・・一体何度私を試せば気が済むんだ・・・?」

 

「・・・何の事かな?」

 

「ふぅ・・・もうダーリンとは短くは無い付き合いだぞ?好い加減私でも判るぞ?」

 

二人とも少しの間何も言わずにいたあと、

 

「なぁ、タツミ・・・改めて尋ねたい。これより先もずっと私を試し続けて欲しい・・・」

 

「俺と共に・・・?物好きな奴だな?今まで通り遠慮なく罵声が飛ぶぞ?」

 

「うむ♪」

 

「お前はいつからエムデスになったんだ?名が泣くぞ」

 

「ああ!但し、夫限定だがな!」

 

「・・・これから俺と共に居て、お前は必ず後悔する事になるぞ、それでも良いの

か?」

 

「ふふふっ、何を今更だな?私が夫と共に居られないくらいなら死んだ方がましだ

ぞ?」

 

「・・・判った・・・、妻の罪も共に背負うのも夫の務めだ・・・面倒な重荷を背負う事になったな・・・全くよォ・・・」

 

「う~~~~~ん・・・マイダーリン~~~♡」

 

そう言ってエスデスは彼に抱きつき、キスの雨嵐を降らせ、その後強引に彼から引き剥がされ、

 

「離れろお前!」「断るぞ、ダーリン!」

 

の応酬を何度もした後、妥協案で彼の腕にエスデスが絡みつくという条件で、街道を歩いた。

 

エスデスにとってはこの頃が一番幸せだったのかもしれない・・・彼の言葉通り後々後悔する事となる・・・自らのせいで。



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理不尽を斬る

西へ向かう街道に杖を使い、日差しの強さを防ぐ為に手拭を頭から被った長身痩躯、40歳程の一人の男が歩いていた。

その横を、

 

「とうさん、どれくらいあるいたら、おじいちゃんおばあちゃんのところなの?」

 

「そうだな、あと1時間くらいかな?」

 

「えー、もっとはやくー!」

 

「これ我儘言わないの!あなたはお父さんにおんぶされてるんだから」

 

3人の親子が談笑しながら通り過ぎるのを、その男は僅かに笑いながら和む思いを胸に納めた。

 

そしてしばらく経つと、

 

『はて・・・?私よりも早く歩いて行ったはずが・・・さっきの親子の気配・・・匂いがまだ残っている・・・ふむ?』

 

 

街道から横に逸れ離れた所で、

 

武装した山賊が先の親子を縄で縛り、木に括りつけていた。

 

「どうします?こいつら?」

 

「そうだな、娘は売っぱらって来い!母親はまぁ…言うまでも無いな、父親は斬る練習にでもしろ!」

 

「おお!」

 

頭目が命令すると手下達もそれに従う。

 

猿轡もされ、親子は必死になって逃れようとするがどうにもならない。

 

 

「お前さん方、元は帝国軍兵士じゃないのかい?・・・革命で職を失ったのかい?嫌だねぇ、貧するのは・・・人間こうはなりたくないものだねぇ」

 

山賊一味がぎょっとして振り返ると、杖をついた男が立っていた。

 

「なんだ貴様!」

 

「・・・何故俺達が元兵士だと判った?」

 

「私も帝国に居た時は、あんた方兵隊さんの足音や動きを聞いてたからね、否応なしにでも隠し切れてねぇのさ」

 

頭目は舌打ちを鳴らし、

 

「見られたからには、お前も生かしておく訳にはいかん・・・無駄に命を散らすとは、つまらん好奇心に悔い、そして死ね!」

 

 

部下達が周りを取り囲む。

 

「やれやれ・・・、親切丁寧に私の実力を聞かせてやったのに、判らないか・・・だからお前らは三下風情なんだよ」

 

そう言い終えた後、後ろの敵が斬りかかる。

 

事もなげにかわすと同時に、後ろを見ずに杖を相手の鳩尾に叩きこみ、気を失わせる。

 

「ちっ、野郎!」

 

槍で突きかかる右手の敵と刀で斬って来る左手の敵をギリギリでかわすと、その槍は味方に突き刺さり、その瞬間彼は杖を槍の男の首に当て瞬時に地面に叩き伏ると同時に気絶させ、しばらくは動けなくなる程の苦痛も加える。

 

残り一人の部下は恐れおののき、逃げ腰の所を頭目に顎を砕かれるほど殴られ、失神する。

 

「おい、お前少しは出来るようだな・・・これでも俺はエスデス軍の教官だった」

 

「エスデス・・・だと」

 

男はその言葉に反応し、僅かに顔を顰めた。

 

「ああ、そうだ。帝国最強の軍隊のな。だが、くだらねぇ反乱軍が帝国変えやがったおかげで俺はお役御免だ・・・ちっ、エスデス様も腑抜けになりやがって、何処行きやがった・・・まぁそんな事はどうでもいいが、どれだけ俺が前の大臣共に貢献したと思っているんだ・・・世の中間違ってるよな?ああ?・・・こんな腐った世の中を楽しんでるような奴らは狂ってやがるんだ、だから俺達は悪くねェ!」

 

「そうかい?やれやれ・・・」

 

「お前俺の部下にしてるやるぞ、こいつらよりは役に立ちそうだ」

 

「・・・おい、ハナタレ小僧!死にたくなかったら、消えろ・・・」

 

それまでよりもぞっとする声色で言うと、相手も一瞬怯んだが、

 

「てめぇ・・・」

 

そう言って、重い得物を振り回し次第にその速度を上げていくとなんと、風圧による空気の刃を発生させ、触れる物を斬り裂く。

 

だが・・・

 

「なっいねえぇ・・・どこに?どこだ!隠れてねぇで出て来い!」

 

その瞬間に首下に杖が刺さり、苦しく息も出来ず倒れる。

 

そして彼は親子の縄をほどく。

3人が涙を流しながら礼を述べるに対し、

 

「なぁに、袖振り合うも何とやらってね・・・」

 

「あ!おじちゃん!」

 

娘が声を上げ、起き上がろうとする頭目が懐から銃を抜き出すと、

 

瞬時に反転し杖から目にも止まらぬ速さで居合を行い、

 

「ぐっああ・・・」

 

銃声と同時に苦悶の声を上げたのは撃った本人だった。

 

切っ先で銃口が相手に向くよう反転させたのだ。

 

 

「ふふふ、いやいやお嬢ちゃん助かったよ」

 

彼はそれと気付いていたが、娘の親切心に礼を述べた。

 

「何とお礼を言っていいやら、あの宜しければお名前は・・・?」

 

「名乗る程のものじゃありません・・・ではこの後の道中お気をつけて・・・」

 

母親に聞かれるも去ろうとする彼を、娘が呼び止める。

 

「あたしサキっていうの、だからおじちゃんもなのって!」

 

「んん?んん」

 

「これサキ!」

 

父親が娘を窘めるも、彼もその真意を判り始める。

 

「ああ、そうか・・・そうだね、名乗られたからにはおじちゃんも名乗らなきゃな」

 

彼は“二”と名乗り、礼をしたいという親に対し、

 

「じゃあ、お言葉に甘えて私は人を探しているんで、この人を見かけませんでしたかね?」

 

彼は懐から、一枚の紙を出す。

 

そこには白い軍服で水色髪の女性が描かれていた。

 

「この人は確か・・・エスデス元将軍ですか・・・?」

 

「ええ・・・実は私はその人に・・・恩がありましてね・・・」

 

「ああ、成程、それはそれは」

 

先程から彼の顔を見ていた、娘が

 

「にぃおじちゃん、目痛いの?」

 

「これ、サキ!」

 

「いやいや、良いんです・・・そうなんだ、おじちゃんは前はちょっと目が痛かったけど、今は見えなくても全然平気なんだよ」

 

そういう彼の目は針で縫われた痛々しい跡があった。

 

 

 

 

一方、彼らはあの後、簡素でも式を挙げたいというエスデスに対し、頑なに拒否するタツミに、駄々をこねまくる彼女の脅迫(?)まがいの要求、

 

「タツミ、あくまで式を拒むなら私にも考えがあるぞ!・・・ふっふっふ、これからは場所等も弁えず、タツミに口付けるからな♪」

 

などと言われ、彼も渋々式を挙げるのだが、そこでまた一悶着があり・・・。

 

それを終えた後、西の集落で部族間の抗争の仲裁をしたり、エスデスが元帝国将軍ということで嫌悪される等、彼女にとっても因果な目に遭った。

そんな中、比較的発展した西の町に流れ着き、そのはずれで廃屋を買い、修繕した後そこを二人の拠点として、彼はエスデスに氷の彫像などを造らせる仕事をさせ始めた。

それも軌道に乗り、ある夜、エスデスは彼に自分が居ない時にナイトレイド共と何をしていたのか?と聞いてきて・・・

 

「大体、こんな所か・・・もう良いだろう、これで十分話しただろ!・・・(まだ話してない事もあるがもう疲れた)」

 

「ああ、判ったぞ!つまり、タツミは私に初めから一目ぼれとやらをしていたのだな、だからナイトレイドの雌共にも目をくれず・・・、ふふふ、全く仕様の無いダーリンだな♪」

 

「何処をどう聞けば、そう聞こえるんだお前は!!・・・もう良い・・・疲れた」

 

「そうだな、そろそろ寝るとするか?・・・その、・・・だな、今日は子を作れそうな日だぞ・・・」

 

エスデスがもじもじ照れながら、顔を預けている彼の胸板からチラチラ彼の顔を窺う。

 

「ん?・・・いや、子供は作りたくない・・・」

 

「ふふふ、まだその気分じゃないのか?大丈夫だ、必ず子供を作りたくなるように、その困った可愛い心を変えて見せるからな!」

 

「こまったかわいい・・・、前にも作りたくない理由を話さなかったか?」

 

「そんな事は忘れたぞ!子供は何人が良いか・・・まず一人目は男が良いな、うむ、ダーリン似できっと可愛いだろうな・・・ふふふ、思わず沢山、口付けたくなるな・・・」

 

「おい!」

 

「ん?ものの例えだぞ?・・・はっ!?やっぱり本当は私を独占したいのだな!ふふふ、大丈夫だぞ、私のこの唇はダーリンだけの物だからな!例えダーリン似の可愛い息子でもとてつもなく我慢して、口付けはしないからな♪ただ、頬が擦り切れるくらいは頬ずりするぞ♪」

 

「いや・・・まぁ・・・うん・・・もう良い、寝てくれ!」

 

「仕方が無いな・・・では今日は我慢するか」

 

エスデスは彼に口付けた後、彼の胸を枕に寝始めた。

 

そして、

 

『やはり、判っていないか・・・エスデスは自分に向いている応報の流れが・・・』

 

ベッドの中、暗闇の一点をじっと見つめ、エスデスが完全に寝るまでその頭を撫でていた。



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・・・を斬る

摩 訶 鉢 特 摩!

 

エスデスは彼女特有の大技を使い、逃げようとする彼を捕まえ、再びベッドに戻し、彼の上に乗っかる。

 

そして時は動きだす。

 

「なっ・・・、使う訳無いと思ってたが、まさか本当に使うとは・・・お前こんな事に時間停止使うな!!」

 

「全く、ふぅ・・・ダーリンが悪いのだぞ?まだ朝の×時間しか愛し合っていないのに、逃げようとするからだぞ?はぁ・・・先が思いやられる」

 

「いや十分だろうが、どれだけすれば気が済むんだお前は!」

 

「うむ、今までナイトレイド共と居た時間が帳消しになるくらいだぞ♪」

 

「とにかく、摩訶鉢特摩は滅多に使うな!」

 

「逃げなければ使わないぞ?元々はダーリンを逃がさない為に編み出した技だから

な!」

 

ドヤッ!という顔で見下ろすエスデス。それに対し

 

「・・・・・・お前なぁ、時間停止は本来時の流れに干渉して、この天体の運行状況や・・・まぁ、その技の今の範囲はせいぜいこの国ぐらいか・・・いやそれでもだ、それに関わる生物の運の流れを狂わす事になるから、その資格がある奴が本来・・・と、説明しても判らんか・・・」

 

エスデスは顔を近付けて彼の鼻頭にくっつけ、

 

「ダーリンは時々不思議な事を言うな?・・・だが、そんな事よりも、んーーー」

 

エスデスはキスしようと顔を更に近付ける。

 

「お、思いだした!!」

 

彼はエスデスの肩を掴んで体勢を立てる。

 

「ん、むぅ・・・まったく・・・これからという時に何を思い出しのだ、ダーリン?余り大事な用で無ければ、私の気が済むまで最低1日は熱い口づけの刑だからな?・・・む?妻である私の口づけが刑とは!?酷い言い草だぞ!!」

 

ぷんぷん怒るエスデスに、

 

「・・・お前は1人で何を勝手に盛り上がってるんだ!?確か今日、少し離れた隣村で祭りがあったのを思い出したんだ・・・それに今から行かないか?」

 

「祭り?そういえば、そんな話があったな・・・祭りか・・・ふ~む・・・」

祭りでの彼と自分との逢瀬を妄想している。

 

夜、祭りの熱気が冷めやらず、火照った二人は木陰を見つけ

 

『エスデス・・・今日のお前は一段と綺麗だな・・・』

 

タツミはエスデスを大木背にさせ、吐息が掛かる距離で話す。彼女も顔を紅くし伏

し目がちに、

 

『今日はど、どうしたんだ?・・・今までそんな事を言ってくれた事も無いだろ・・・』

 

『俺だってたまには雰囲気に酔いたくなるさ・・・だから・・・な?』

 

『う、うむ・・・だが他の者の目が・・・』

 

『何?気付きはしない、それに声を出さないよう・・・』

 

 

 

「おーい、エスデス・・・おい、何寝ぼけてんだ!起きろ!」

 

「ん?んん・・・ああ・・・、ふっ・・・私とした事が、つい現実化する未来に想いを馳せてしまっていた、ふふふ」

 

彼の呼びかけにエスデスは戻って来た。

 

 

「・・・お前の妄想が現実化したら世の中大混乱だ」

 

「くくく・・・そのようなひねた言動も可愛いぞ、そして・・・うふふふ」

 

「なんだ?気持ち悪い奴だな・・・とにかく行くんだな?」

 

「うむ、イクぞ!」

 

「・・・・・・、なんか引っかかるが、まぁ良いか・・・、・・・これで俺の仕事もやっと終わる・・・・・・」

 

「?こないだの納期はもう済んだのだろ?」

 

「こっちの話だ・・・」

 

 

彼とエスデスは住まいを出て、祭りを催している村へと向かう・・・その数百メートル置いた場に杖を地面に突き刺しながら様子を窺っている、二が動きだした。

 

 

 

陽は南中を過ぎ、村の祭り会場は露店が立ち並び、暑い中でも人がごっがえしてい

る。

エスデスは地元の村でもなるべく顔を出さぬようにしている為、水色の大きいベールを被っている。

 

「ダーリン・・・このように顔を隠すのは余り良いものではないぞ?まるで私が賊みたいではないか?」

 

「実際、お前そうだろうが・・・言っとくがな、今の帝国新政府もお前を許してないからな」

 

「ふ・・・、弱い私が悪いのか、くっ・・・強ければ賊の汚名等握りつぶしてやるものを!」

 

「お前・・・前に改心したような事言ってたと思うが・・・?」

 

「それはそれだぞ、ダーリン」

 

「・・・まぁ・・・確かに強ければ罪もひっくり返して、胡坐かいてふんぞり返ってる奴もいるからな・・・だがな、そのつぇえ奴が逃れた罪は別の誰かに、弱い奴に流れていくもんだ」

 

「それが世の習いだな・・・私も・・・あのオネストも弱かった、だから私の場合は今こうしてここに居る訳だな・・・」

 

「オネストは結構強かったぞ・・・あいつ自身の力も面倒だったが、おこぼれに預かろうと群がって来る連中が奴の欲を忖度しやがってたからな、余計事態はややこしかったな・・・」

 

「ふっ、もっと私も腕を磨かなければな!」

 

「お前はこれ以上戦闘面で強くなる必要はねぇ!」

 

「何故だ!」

 

「お前がもっと磨くべきは・・・まぁ良い、後は自分で考えろ・・・ただ一つ言うならば、本当に強い奴は自分に掟を課しているもんだ・・・」

 

「掟・・・?」

 

「強い奴には強い奴が果たさなければならない、曲げちゃならねぇ掟があるんだ・・・それが無い奴はただ、強いだけだ・・・そんなただ強い奴だけしかいなけりゃ、弱い奴がそれを見習うだろ?・・・だから帝国は腐ったから革命が起きたんだが

な」

 

「判らんな・・・他の者が言うなら、くだらんとしか思わんが・・・」

 

「今はまだ判らなくても良い・・・今は」

 

彼とエスデスはあーだこーだ言いながら、露店で射的や果物をつまんだり、冷やかしたりと楽しんでいた。

 

「・・・・・・」

 

「どうしたんだ、調子でも悪いのかダーリン?」

 

ふと物憂げな表情になった彼をエスデスは見逃さなかった。

 

「・・・驚いたな、まさかそこまで読めるようになったのか?」

 

「当然だ、私はタツミの妻だぞ?」

 

「ふっ、タツミか・・・悔いは無い、あいつらも無事だろうしな・・・」

 

彼が自嘲気味に言ったに対し、その時エスデスは烈火の如く怒り出す。

 

「ダ―・・・リー・・・、・・・」

 

「ど、どどどどうした?」

 

「今、雌豚共の事を考えたな・・・???」

 

実際、その時の彼の脳裏にはアカメ達の事があった。

 

「むーーーー!!!許さん、許さんぞ、もう既にダーリンの身も心も私のものだ、今までどれ程寂しき時間に耐えた事か・・・それなのに、ふぅーーーまだ、あの豚共の事が脳裏によぎるのか・・・くくく・・・、仕方が無いな・・・やはり、あの豚共を肉塊に戻さねば・・・まだ、我が夫を誑かすとは万死に値するぞ・・・そうだ、思い出したぞ・・・ふふふ、いつぞや、ダーリンに口づけた雌豚が居たな・・・待っていてくれ、直ぐにダーリンを惑わす肉塊を元の肉塊に戻してくるからな・・・な、ダーリン♪」

 

エスデスは紅蓮炎の如き嫉妬心と彼への熱すぎる愛情が交互に交差し、異様な雰囲気を醸し出し・・・往来の人達は何事か?痴話喧嘩か?と怪訝そうに見ていた。

 

「と、とりあえず落ち着けエスデス!!」

 

もう往来であろうと構っておられず彼はエスデスを抱きしめた。

 

「!?・・・そそそそ、そんな事をしてもわわわわ私の怒りははははははは・・・む!?」

 

抱きしめられていたエスデスは、小さいが鋭利な殺気に反応した。

 

その方向を見たが・・・雑踏の人だかりに消えてしまっている。

 

「ダーリン・・・」

 

「エスデス・・・どうかしたのか?」

 

エスデスは彼に、当然自分が殺気に感づいたのだ、ならばと見たが

 

「いや・・・殺気が・・・」

 

「殺気・・・ああ・・・、・・・きっとイチャついてるように見えてる俺達にいらついた誰かだろ?」

 

「いや、そんな感じでは・・・」

 

「まぁそんな事より、あっちで派手な踊りをしてるぞ、見に行こうぜ?」

 

「う・・・うむ、う~む・・・」

 

エスデスは不審に思いながらも彼に連れられ大広場へ向かった。

 

 

 

 

 

罪人(つみびと)を斬る

 

 

 

 

 

 

楽器を鳴らし、民族衣装を着た男女が踊り、旗を振り、華麗に舞う。その周りを人々が見物している。その中に、ひょっとこの面をした二が、杖を付きながらのらりくらりと歩いていた。

 

「ほぉ・・・私の知る祭りとは少々異なるな・・・ふっ、だが動きがまだまだだな」

 

「いや踊りだからな?闘いの動きとは違うからな?」

 

「私ならばもっと巧みに踊って見せるぞ!・・・まさか、ダーリンよ・・・あの雌共の扇情的な服や踊りを見たさに・・・」

 

「お前全方位に嫉妬すんな!本当・・・嫉妬深くなったよな」

 

「・・・私とて自覚はあるが・・・元々は夫の帰りを長く待てる女だったんだぞ・・・だがな、あの・・・あのナイトレイド共と長く居られれば・・・おのれ・・・あの、飴豚が・・・、はっ!?まさかナジェンダとそのような間柄にはなっては勿論いないだろうな・・・ダーリン?」

 

エスデスが再び怒りの炎を燃やすに対し、

 

「エスデス・・・終いには俺も本気で怒るぞ?」

 

「タ・・・タツミが、もっと私を労わらないからだぞ!全くベッドの中だけ優しくされても・・・もう満足しないぞ!」

 

エスデスは顔を紅潮させ、自分の髪をくるくるいじりながら夫をチラ見し、なじる。

 

「いや・・・特に優しくなんかした覚えないが?」

 

「む!?ならば・・・今ここで、私の髪を撫でながら愛する言葉を言ってくれた・・・あの言葉を大声で叫ぶぞ?」

 

「ぐはっ!?いやあれは・・・愛の言葉とか、そういう意味で無くてだな・・・」

 

心の吐血をし、滝汗をかくタツミ。

 

「そうか?そんなに言って欲しいのか?全く困ったダーリンだな、ふふふ、では私も極めて恥ずかしいが大声で叫ぶからな♪」

 

照れながらニッコリほほ笑むエスデスに、

 

「おいこら!お前本当Sデスだな!!」

 

彼が罵声を飛ばしたその時、

 

 

 

 

 

突ッ!!

 

 

短めの刃がエスデスの背中を突き刺す。

 

「くっ・・・ふっ・・・」

 

突かれたエスデスだが、瞬時に氷の刃で薙ぎ払い牽制する。

 

 

「ちっ・・・一撃で仕留めそこなったか・・・」

 

歯噛みするも二は杖の刃に持ち替え片手逆手持ちで身構える。

 

「貴様・・・中々やるな、念の為、背中に仕込んだ氷の盾が真っ二つとはな・・・。殺気の出所はやはり貴様か?・・・くくく、夫とのデートの邪魔をするとは・・・楽に死ねると思うな!!」

 

「それはこっちの台詞さね」

 

エスデスは顔のベールを捨て去り、指を鳴らすと地表を大蛇の如き氷の波が二へと迫る。

 

「ふん・・・」

 

それをその刃で細切れにすると今度はエスデスに向けて砕いた氷塊を撃ち返す。

 

「な?・・・そうではなくてはな・・・面白い少し甘く見たか!?」

 

突如頭上から巨大な氷塊が出現させ、二を圧殺に掛かる。

 

「・・・俺が言えた義理じゃないが・・・他の人様を巻き込む気か?」

 

「ふん・・・私は今、・・・極めて怒っているのだ」

 

周りの人々は巻き込まれまいと逃げ出し、腕に覚えのある者達も手を出しあぐねていた。仮にエスデスが氷の壁で周りを覆った所で、二は斬撃で突破するであろうし、彼もエスデスに有利な氷壁内で闘うのは拒む。

 

 

そして、瞬足でそれをかわし、一気にエスデスへ肉迫する。

 

「!?」

 

一度刃を収め次の瞬間居合で真っ二つにエスデスを斬り裂いた・・・が、手応えがなく

 

「む!?」

 

二は直ぐ様後ろ手に右片手突きを入れる。

 

「ほぉ・・・よくぞ見破ったな・・・だがこれで終いだ!」

 

エスデスは二の刃を持った腕を掴み、彼の首へと押し当てる。

 

「凍れ!」

 

その腕は凍り始め、エスデスは彼の懐から短刀を取り出す。二はもう観念したように空いた片手もままならず怯える・・・改めて間近で顔を見た事で、

 

「貴様、目が見えて無かったのか・・・それでここまで・・・くくく、褒めてやる

ぞ」

 

エスデスが短刀を二の胸へ突き刺す瞬間、

 

「なにぃ!?」

 

二は腕に付いた氷を粉砕し、首へ当てられた刃を両手で奪い返す。そのままエスデスの腹を薙ぎ払い、続けざま背中に一太刀浴びせる。

 

「くはぁ・・・が・・・こ、今度は氷の鎧も斬り裂いただと・・・」

 

エスデスは服の下に再度防御を忍ばせていたが、それも砕き、腹や背中から血が滴

る。直ぐに距離を取り、氷で止血に当てる。

 

「おのれ・・・つまらん芝居を・・・弱者は弱者らしくただ怯えていろ!」

 

「弱者・・・?ああ、確かに俺は弱者さね・・・だが、今からそんな弱者に殺されるお前さんは一体なんだろうねぇ?」

 

エスデスも二の並みならぬ怒りの波動を感じ取り、

 

「そうか・・・貴様は・・・まさか以前私の軍に負けた奴らの1人か?成程な、その

時の怨みでも晴らす為にここまで強くなったのか・・・くくく、あははは」

 

「ああ、お前は覚えちゃいないだろうがな・・・」

 

二は大切な仲間達がエスデス軍に無惨にも殺され、拷問死していく様を黙って見る事しか出来ず・・・その時にこれ以上そのような惨状見たくないと言った事で、目を縫われ・・・失明した。

 

「いや・・・思い出したぞ、くくく、まさかここまで強くなるとはな・・・私は嬉しいぞ・・・私はここまで楽しめる闘いをする為に弱いお前のような奴でも生かしたのだ」

 

「そうかい・・・生憎俺はあんたに娯楽じゃ無く絶望を味わせに来たんだがね・・・それはそうと、お前の旦那は怖くて逃げだしたんじゃないのかい?」

 

「・・・見くびるなよ?夫は私を信じて高みの見物をしているだけだ」

 

「だったら、贈り物にあんたの首でも渡したらさぞ喜ぶだろうな・・・」

 

「・・・お前とは楽しい闘いだが・・・、私と夫とのデートを邪魔した分を差し引けば、マイナスでしかない・・・今度は耳も手足も消してくれる・・・それで今度は何処まで強くなれるか見物だな!」

 

「エスデス、お前に明日は来させねェ!!」

 

両者が再び激突し、

 

周りに被害が出始める。

 

氷塊群が飛び散るのを、

 

「はああああああ!!!」

 

タツミは一軒すら覆う旗を濡らし、それを鞭の如く使いこなし、氷塊を被害の出ない場所へと撃ち返している。

 

「あいつ、最後の最後まで面倒掛けやがって・・・帝具使うんじゃねぇ!」

 

人が逃げたりと混乱する中、

 

「おとーちゃん・・・おかぁちゃーんどこー?サキをおいてかないでよー・・・きゃーーー」

 

路地裏で迷子になっているサキの頭上に氷の槍の破片が降って来る。

 

「ふんぬ!!」

 

その男は斧を使い、一瞬でその破片を霧散霧消させる。

頭を抱え、自分が無事だと知り、助けてくれた相手に気が付くと

 

「・・・あ・・・ありがとう・・・、え・・・あのときのさんぞくのおじちゃん・・・ケーサツの人につかまったんじゃ・・・どうして・・・」

 

「ああ・・・サキちゃんか?・・・おじさんはなー、あの目の見えねぇおじさんにお礼を言いたくて来たんだよ・・・だから・・・お前を人質に奴をなぶり殺してやる!!」

 

左腕でサキの首を圧迫するように抱え上げ、右手で斧を振りまわし二人が闘っている広場へ向かおうとする。

 

「たすけてーー、にぃおじちゃんにげてーー!」

 

「うるせぇガキだ、静かにしろ!あんの野郎・・・銃口弾くなんざスカした真似しやがって・・・俺に止めを刺さなかった事後悔させてやるぜ・・・それにエスデス様も、相変わらずの美人だったな・・・加勢すれば何か褒美に・・・くくく」

 

「・・・そいつは止めた方が良いな?人質とって闘いに水差したらお前逆にエスデスに殺されるかもな、あいつは今気が立ってるんだ」

 

「な!?」

 

ぎょっとして振り返るとタツミが立っていた。

 

「てんめぇ・・・まさか、エスデス様の横に居た・・・?・・・おおかた下男だろ

う?ちっ・・・身の回りの世話を・・・」

 

有らぬ妄想でもしているのか、嫉妬と羨望で怒りだす元エスデス軍教官で元山賊頭、イブルス。

 

「馬鹿野郎、何で俺がそんな事しなくちゃならねぇんだ?自分の衣服ぐらい自分で洗わせた・・・最も、あいつ勝手に俺の服洗おうとするんだがな・・・それと、俺のを洗わずに保管してる事があるんだが・・・何故だ?」

 

 

 

「知るかあァァあボケけええええ、死にやがれれえええええ!!!・・・・・・・うわぎゃあああああああ」

 

タツミはイブルスを挑発し逆上させ、相手が襲いかかって来たその瞬間右腕を切断、タツミの手には斧を握った右腕があった。

 

「いてぇか?やっぱり素手よりも刀使って斬った方がまだ痛みは少なかったか?」

 

「ててててててめぇ・・・・・・、こいつがどうなっても構わない・・・・ぎゃあああああああああ」

 

 

 

今度はタツミ、有無も言わずにサキの首を拘束していた左腕を斧で落とす。

 

「おにいちゃん!」

 

サキは直ぐに逃げ出し、タツミの後ろに控える。

 

「早く、別の所に逃げろ」

 

「で、でも・・・あたしのしりあいのおじちゃんがいま、おっかないおねえちゃんとケンカしてて・・・」

 

「大丈夫だ・・・おにいさんが何とかするから、さ、早く!」

 

「う・・・うん、しなないでね!」

 

サキが足早く逃げた後、タツミは彼女の最後の発言に思わず苦笑した。

 

 

「くくくそーーーー、俺はあの・・・エスデス軍の教官だったんだ・・・こんな若造に・・・こんな奴に負けるわけが・・・」

 

タツミは何か思っても何も言わなかった。

 

「うおおおおお」

 

それをひょいとかわし、イブルスは突進の勢いで壁に激突する。

 

「くっ・・・ちょこまかと・・・俺はまだ闘える!」

 

「言っとくが早く止血した方が良いぞ?そうだ、お前に選ばせてやろう・・・ここで死ぬか、それとも目を失って生きるか・・・」

 

「そんなの決まっている・・・貴様を殺して生き延びるだ!」

 

イブルスは疾走し飛び蹴りを当てに掛かる。

 

瞬間、その右足を切断と同時に、目を斬り裂かれる。

 

「ぎゃああてててて・・・てめぇ約束がちが・・・俺の足があああああ」

 

「お前が変な選択肢を増やしたペナルティだ・・・これから運が悪けりゃ、出血死・・・良けりゃ生きるが、集団から偏見か迫害されるか、僅かな慈悲を受けるか・・・最も法の裁きから逃げ続けるならお尋ね者だがな」

 

痛がるイブルスを後に、タツミは適当な所で斧を捨て、再び彼らの闘いの二次被害をくい止めに戻った。

 

 

 

「エスデス・・・このまま悪戯に闘っていちゃあ周りに迷惑だ・・・場所を変えねぇか?」

 

「貴様が私に命令だと?ふざけるな・・・別に私は周りの者共に攻撃する気は無い、それでも怪我し死ぬ奴は弱いだけの事、そこまで面倒見切れるか?・・・それに、今の帝国では賊扱いなどされているが、私の強さを知らしめ、ここで新しい体制を作れば私を賊扱いなどもう出来んだろう?・・・ゆくゆくは今の帝国政府を従えるのも悪くはないな、ふふふ」

 

「やはり、お前さんは長生きしない方が世の為、人の為になりそうだな・・・」

 

「ふふふっ・・・貴様とて知らずに地面の虫を踏み潰し、弱い動植物を喰らって生きているだろうが!」

 

「・・・・・・」

 

エスデスの言う通りだとも思ったが、お前とは違う・・・だが二も咄嗟に何が違うのか言葉では出なかった。

 

 

「久しぶりに楽しめたが・・・夫とのデートがまだ残っているのでな、遊びはもう終わりだ」

 

「旦那とのデート?お前は今まで何人ものその幸せを奪ってきたと思っているんだ」

 

「弱者の戯言など聞かん!!」

 

互いに次の一撃で決めようと精神を集中させる。

 

先に動いたのはエスデスだった。

 

氷の剣で脇構えから突進し、上段からの斬りか下段からの斬りか・・・

 

だが、二にとってはどちらでも同じ事!

彼はその剣線を逸らし、互いが刃を弾いた後、二はその仕込み杖の柄にも刃を忍ばせていたのでエスデスが斬り返してくる前に心臓目掛けて突きに掛かる。

 

エスデスはニヤリとし、

 

摩 訶 鉢 特 摩!

 

 

 

 

 

・・・だが、

 

『しまった・・・もう使ってしまっていた・・・ふっ・・・私とした事が愚かな失態を・・・あの世で待っているぞ、ダーリン・・・』

 

それでも相討ちには持ち込もうとエスデスも抗う。

 

 

 

ドン!!

 

 

その時、エスデスは後ろへ弾かれ一瞬何が起こったか判らずも前を見ると、

 

「お・・・お前さん・・・」

 

二もエスデスとの闘いに気を取られ、彼の介入に直前まで気付いていなかった。

 

その刃は心臓付近を貫いていた。

 

「ダー・・・タツミ・・・!!!」

 

エスデスは悲鳴に近い声を上げ、直ぐ様、二を殺そうと向かうが、

 

「止めろ、エスデス!!」

 

びくっ、となり立ち止まるが

 

「な・・・何故だ、何故止める!」

 

「そうか・・・エスデスの旦那はお前さんか・・・」

 

刃を抜こうとするが、彼はそれを手で止める。

 

『!?・・・俺の力で持ってしても・・・この男出来る・・・』

 

二の額に冷や汗が落ちる。

 

「なぁ・・・あんた・・・こいつに相当の怨みがあるんだよな・・・判るぜ・・・俺も(別世界の)こいつを殺した事はある・・・んだ」

 

「ん?・・・んん・・・」

 

彼が重症に瀕し、何かの妄言か例え話なのだろうと二は解釈した。

 

「妻の罪は夫でもある俺の罪だ・・・だから、俺の命で今回は目ぇつぶってくれねぇかな・・・、ぐ・・・」

 

彼の胸から血が落ち始め、柄まで染まる。

 

「タ・・・タタタツ・・・」

 

彼は『動くな!エスデス』と目で牽制する。

 

「俺はこいつが変わって行く事に掛けてるんだ・・・1年後でもそれでも変わらなき

ゃ・・・後はどうとでもしてくれ・・・それに・・・こいつが愛する俺を失えば少しくれぇは失望し、苦しむ・・・生かしてその苦しみを味あわせてみようと思わわねぇか・・・?」

 

「お前さん・・・さては・・・わざと・・・」

 

 

二から殺気が消えたのを感じ、彼は柄から手を離す。

 

そして、胸から刃を抜いた二は

 

「エスデス・・・お前さんには過ぎた旦那だな・・・次もしあんたに会う時が来たらその時は・・・」

 

そう言って素早く去って行った。

 

 

「タツミ・・・くっ・・・奴め逃がさん!!」

 

地面に膝をついた彼は、

 

「馬鹿野郎!!・・・がはっ・・・ぐ・・・話を聞いていただろ・・・」

 

エスデスは駆け寄り、直ぐに手当てをしようと手を彼の胸へ当て、止血の為に凍らせようとするが、

 

「止めろ・・・しなくていい・・・もう手遅れだ、・・・それにした所で何れはまたこうなる・・・ぐ・・・」

 

「な・・・何故だ・・・何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ・・・何故

だ、タツミがあの男に何故負けた!?」

 

「いや十分強かったぜ・・・」

 

「嘘をつくな!例え怪我を負ってもタツミなら致命傷など受ける相手では無いはず

だ・・・今までずっとタツミを見てきた私ならそれが判るぞ!!」

 

「・・・・・・、それが判る癖に・・・お前は・・・人の痛みが判らない奴だな・・・がっげほっ・・・」

 

「くっ・・・死なないでくれ・・・私のせいだ・・・私の油断が・・・」

 

「・・・どうした・・・お前でも涙目になるんだな・・・見直した・・・」

 

「タツミが・・・タツミが・・・死ぬわけが無い・・・きっと何か奥の手があるんだろ、な?」

 

「エスデス・・・だから言っただろ・・・俺と本当に一緒になりたいのか、後悔してもしらないぞ、と・・・」

 

「・・・!?まさか、初めからこうなる事を見越して・・・」

 

「あの男の練られた殺気は朝から気付いたぜ・・・もっと言えば数日前から俺達の場所も気付いてただろうな・・・」

 

「く・・・うっ・・・」

 

「エスデス・・・これが俺からの最後の試練だ・・・以前よりもマシになったお前でもまだまだ不安定だったからな・・・俺の死んだ後、自分がどう生きるべきかじっくり考えるんだな・・・」

 

「私の・・・私のせいでタツミは・・・タツミは死んでしまうのか・・・?」

 

「もう一つ最期に言っておかなきゃな・・・俺だって無実じゃねぇ・・・それに本来死んでた奴をその運命をネジ曲げてまで生かしたからな・・・その反動を誰かが背負わなきゃならねぇんだ・・・この世界がこんな風になったのも“俺達”の責任が零でもねぇ・・・」

 

「俺達・・・?」

 

「・・・とにかく、お前自身への俺の罪は俺はお前を今まで騙し続けた事だ・・・すまなかったな・・・」

 

「騙す?今まで嘘はつかれたが・・・一体なんの事を・・・」

 

「俺は本当はお前と出会っただろうタツミじゃない・・・」

 

「タツミがタツミじゃない・・・?」

 

「それだけは悪かったな・・・もうお前の顔も見えなくなってきた・・・」

 

「な・・・何を言うんだ?これだけ喋れるんだ?タツミが死ぬ訳が無い!又そうやって私に嘘を」

 

「・・・これぐらい喋れるようには・・・刺された位置を逸らしたんだ・・・ふふふ、長い間存在し生き恥晒し続けて・・・最後は人族の女を庇ってとはな・・・まぁ良い・・・もうこれで俺もやっと・・・、・・・・・・」

 

「タツミ・・・、そ・・・その手には乗ら・・・」

 

 

だがエスデスが彼の心臓に手を当てても、もう二度と再び動く事は無かった・・・。

 



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挽歌を斬る

 

 

 

「!?・・・うっ・・・」

 

「どうした、チェルシー?」

 

アカメとチェルシーは長旅にも耐え得るよう、ナジェンダ紹介の舟大工に指導を受けながら人が使わなくなった舟の補修に勤しんでいた・・・そんな時のチェルシーの頭痛だった。

 

「ううん、何でもないよ・・・ただ、ちょっと・・・」

 

チェルシーには嫌な予感がしていた、それは

 

「タツミは・・・私達の前から姿を消して、もう何ヶ月経ったか・・・全く何処に行ったんだ・・・?」

 

「本当だよね・・・『タツミ・・・』」

 

チェルシーは曇り空を仰いで心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、時間のある奴らはどうか見てってくれ!」

 

牛の皮を被った男、カルビが帝都の広場で路上芸を披露していた。

 

まずは手始めに、林檎数玉使ってジャグリングをし、終えた後に欲しそうな子供には渡し、次はパントマイムを行い・・・そのラストは黄色の長い果物の皮を食べて捨てた所作をした後、それを今度は別の役としてその皮を踏み潰そうと思いっきり走って飛び上がった後、それに躓き豪快に転ぶ・・・というものであった。

 

観客からは爆笑の渦が巻き起こり、おひねりが飛び交い、それを拾い集め生計に当てている。

 

「くぅ・・・け、結構面白かったじゃない・・・ふ、ふん、でもあたしはアイドル目指すんだから、・・・そうよ、もっと有名になってあたしを見下してきた連中を逆に見下して・・・ハーフとか肌の色の違いで虐めてきた奴らを逆に虐げてやるんだから・・・、ってぇ!それするにもお払い箱になったあたし達じゃひっそり生きていくしかないじゃない?なんでよぉー!革命成功したのもあたし達が頑張ったからなのに―!あたしの勝ち組計画―!これもなにもかも全部あいつのせいよー、あいつ、変に力があるんだから、あんたが居たらナイトレイドの事を単なる噂で処理して、・・・そしたらそしたらあたしは・・・大舞台に立ってたのに・・・むきー!・・・全くあたしが有名になったらタツミはマネージャーくらいにはしてやったのに・・・うふふふ」

 

マインは変装してカルビの芸を見ていたようだが、色々と妄想と独り言を呟いてい

る。そこに、

 

 

「はーい、おじさん!あたしもやらせて?」

 

「ん!?」

 

カルビが何事かと振り返ると、

 

 

「じゃあ、2番スズカぁでぇーす、うぃき、まーす!!・・・ひでぶぅーー!!」

 

勢いよく芸を披露とする彼女を

 

「はい、スズカさん遊びに来たんじゃありません!」

 

ランはスズカの首根っこを即座にひっ掴み、広場外へと引き連れて行く。

 

「さて、スズカさんここで問題です・・・私達は一体何しにここへ来たのでしょう

か?」

 

「げほっ・・・えー、帝都観光?」

 

ランが笑顔でビンタを・・・、ビシビシビシ×10hit ROUND1 スズカKO!

 

 

「ぶふっ・・・え、え~と、帝都の民衆の活気を調べるだったかな・・・」

 

「はい、正解です・・・元々の観光の意味は民衆の生活状況を調べる意味があったんですがね」

 

「じゃあ、あたし合ってた」

 

「スズカさんがそういう意味で言ったのではないと判ってましたので×です」

 

「ぶー!!」

 

少々理不尽なやり取りをするランだが、スズカにはそういう対応が一番だと把握している。そして、そこに

 

 

「久しぶりね・・・」

 

「あ、貴女は・・・、・・・誰ですか?」

 

 

 

ランの?にずっこけるマイン。彼女は被っていた青髪長髪のカツラとマスクとサングラスを取る。

 

「あんた忘れたの?痴呆でも始ってるの?馬鹿じゃないの?」

 

「ああ・・・やっぱりマインさんでしたか・・・変装の為とはいえ、極めて怪しかったので知らない人を装おうと思いましたのに・・・残念です」

 

「・・・あんた、タツミと何となく似てるとこあるわよね!」

 

「そうですか?まぁそれは良いとしまして、貴女がた元ナイトレイドの方々が何故まだ帝都にいるんですか?・・・まさか・・・まだ暗殺稼業を続けてたくて、ここに居るんですか?」

 

ランが静かに殺気を沸き立たせるに対し、

 

「違うわよ!あたし達はほとぼり冷めるまで旅に出るつもりなのよ。今はそれまでの資金集めの小銭稼ぎと・・・あと、タツミも探してるのよ」

 

殺気を納め、

 

「そうでしたか・・・タツミ君を・・・」

 

彼は以前タツミと会った事を話す。

 

「なに?あんたら密かに会ってたの?・・・まったくあいつ、その事あたしには一言も言わなかった癖に・・・しかもあたし達には何も言わずにどっか行って、・・・もぉーばかーーー!!」

 

「・・・それだけ」

 

「そうなのよ♪タックンはあたしに会わずに一人で拷問出来るもん(注・タイトル詐称)だけマスター(ラン)に渡して・・・お預けを永遠に・・・あ~~ん♪」

 

ランの発言を遮ってスズカが喘ぎだし、

 

 

 

 

「ぶべら!!」

 

「・・・それだけ貴女方は彼から信用されてなかったんじゃないですか?」

 

 

にっこり語るランは裏拳をスズカ顔面にかまし、そして、こけるマイン。

 

 

「な~んで、あんたにはそんな事言える訳ぇ!!」

 

「半分冗談ですが」

「半分なの!?」

 

足を上げたまま気絶しているスズカ。

 

「・・・私も彼では無いですから、全て判る訳じゃありませんが・・・何となく貴女方を信用しきれてない事もあったんじゃないですか?」

 

「はぁ!?あんた、タツミとあたし達の何が判るって言うのよ?良い?あたしはね

ぇ、時には皆で怪談話で盛り上がったり、・・・もう~あの時タツミ怖がってあたしに抱きついたり・・・そして無人島で二人きりになって・・・んふふ、全くあいつったら~~」

 

 

 

「あ~・・・大体判りました。つまり、エスデスさんと良い勝負の妄想癖がおありなんですね?」

 

「う、ううう嘘じゃないわよ、本当の事よ!!しかもあいつと一緒にするんじゃないわよ・・・ん?」

本当の事だと言うが、マインは明らかに動揺している!

 

「・・・はいはい・・・まぁ、彼の場合、意識して距離を敢えて置いたのかもしれませんがね・・・」

 

「どういう事?」

 

ランはそれに対しては答えず・・・、だがマインは・・・引き続き、足を上げたまま気絶しているスズカ。

 

 

「エスデス・・・そういえば、あいつあれから見かけないけどあんた知らない?」

 

「さぁ知りません!・・・、・・・と言いたい所ですが、大方彼でも追ぃ~かけて~雪国~・・・」

 

「・・・滑ったわね?」

 

「・・・おほん、ではなく乾燥した西の方じゃありませんかね」

 

「うわっ!?あいつ何やってんのよ!?信じられない!あたしの帝都で有名女優計画がぁあああ!!」

 

「・・・貴女方は帝都を離れるんじゃなかったんですか?・・・それに、暗殺稼業されるよりはいいですが・・・マインさんが女優さんですか?・・・ぶふっ、あ、失礼」

ランの失笑に、

 

「あんたぁ何笑って・・・、ふっ・・・まぁいいわ。そうやって笑っていられるのは今のうちなんだから!・・・ほとぼり冷めたら帰って来て、あたしとタツミのタッグで吠え面かかせてやるんだら、おーほっほっほ!」

 

 

うざっ・・・と、心の中で思うラン。

 

 

「とにかく、こうしちゃいられないわよ。タツミは西に行ったのね?待ってなさいタツミー!あんな拷問年増女から、仕方なく・・・助けてあげるんだから!!」

 

マインはそう言って駆け出し行った・・・が、ランは

 

「・・・・・・何故彼が、“乾燥した地に行く”と言わず、“西へ行く”と言った

か・・・マインさん、貴女は西方浄土という言葉をご存じなかったのですね・・・タツミ君は、一概には言えませんが・・・彼は死ぬつもりだったから、西へ行くと言った・・・自分の悲しみが理解できないであろう貴女方に彼は、ならば何も言わないのがせめてもの優しさ・・・とでも思ったんですかねぇ・・・ふ~む・・・」

 

 

「え?何?タックンどうしたって?」

 

気が付いたスズカが起き上がり、

 

「何でも無いですよ、・・・生きてたら彼ともまた会えるでしょう・・・仮に死んでも、こうして貴女の為に残したものがあるんです・・・人は死んでも、生きている人の記憶の中に残り続けれれば・・・私はそれで十分だと思います・・・ただ、こんな形で残るのもどうかとは思いますが・・・」

 

ランはスズカの胸元にしまってあった、タツミのスズカ向け拷問冊子を取り出し手に取る・・・本気で書かれたものがあるが、中には冗談だったり、拷問とは何か?を考えさせられる内容もある。

 

「あ、マスター?」

 

子供のように取り戻そうとするスズカの頭をランは撫で、それを彼女に返し、

 

「さて・・・まだ仕事は残ってます、行きますか」

 

「アイアイサ―」

 

ランの後をスズカは追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後年、カルビ氏は雑誌記者にこう語っている。

 

「いや、どうも・・・いえいえお構いなく・・・そうですねぇ僕がこの道を志したのは今から10年前だったかな?丁度その頃、皇拳寺って所を破門にされましてね。結構良い所までいったつもりだったんですが、なんで破門にされたんだっけかな?すみません、忘れました。たぶん俺が一番強いとか思ってたんだと思います。そんな時に・・・確かエスデス将軍と言ったかな?え?覚えてますよね?帝都で一番強い女将軍と言われたあの・・・それで彼女主催の武道大会がありまして、俺の腕を見せる良い機会だと・・・で、初戦で確か・・・え~と、タツオ・・・ああ、確かカツオ君と言ったなぁ。彼と当たったんですよ、そしたら何を思ったのかいきなり黄色い果物の皮を地面に放り投げてきましてね・・・あの時は馬鹿にしていると本気で頭にきましてね・・・そう、挑発行為だと。はい、実は昔やってました芸の原点がそこでして・・・(笑)で試合の結果は何処をどうされたか訳が判らないまま、あっさり倒されたんですよ・・・しかも彼、エスデス将軍とその後話をしてて何か気に入らない事でもあったのか、これまたなんか倒しちゃって、そのまま担いで室内に・・・いえ、その後の事は知りませんよ(笑)でもびっくりしましたね、あんな無名の青年があの将軍もあっさり倒すんなんて・・・後からじわじわと自分の未熟さを思い知りました・・・え?カツオ君今何処に居ますかって?・・・さぁ何処でしょう?もし会えたら、お礼の一つでしたら今なら言えますね(笑)・・・でも、負けた直ぐ後の時は当時やってました仕事も手ぇつかず、武道・・・というよりも闘う事もいやになって・・・これから何していこうかと思っていた時に、近所の子供たちに、“おじさん、あの時の試合面白かったね~”って言われまして、その時は子供にも馬鹿にされてイラっときたんですけども、そこで・・・」



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殺欲を斬る

「さぁタツミ、あたしの足をその舌で綺麗になさい!」

 

チェルシーは椅子に座り、跪くタツミに素足を差し出す。

 

そして・・・

 

 

 

「いたたたたたたったたたったたた!!!痛いタツミ!やめてとめてやめて許してやめてーーー!!!・・・ううう・・・これはこれで・・・ああ、やっぱりいたい!」

 

タツミは両手でチェルシーの足の裏のツボを的確に圧していく。

 

「これぐらいで痛がってるようじゃなぁ・・・、たぶん胃の調子が悪いな」

 

「だ、誰のせいで胃の調子が悪いとおも」

 

「ところでさっきなんて言った?」

 

足の指にも圧を掛け、

 

「あーーいたーい、すみません、調子にのりましたーー!!・・・あ・・・でももっと強く・・・、・・・・・・・」

 

個室のベッドで目を覚ましたチェルシーは

 

「なんだ・・・夢か・・・って、いたーーー!」

余りなれない舟修繕仕事で足をつってしまい、自分で揉みほぐして痛みを和らげる。

 

「ふぅ・・・痛かった、でもあたしにもあんな一面が有る・・・いやいや、そんな事・・・だけどタツミと会えて・・・今度こそ既成事実作って・・・そしたら・・・、うん、きっと夢みたいに逆襲される・・・でもそれも良いかも・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・と言う訳で、西に向かうのよ、判ったわね!?」

 

「ああ~判ったよ、マインがあたしを超える脳筋だって」

 

 

マインの怒号がレオーネに向け、誰も居ない路地裏で鳴り響いた。

 

 

「あんた少し頭使いなさいよ!!」

 

「はぁ!?西!?アバウト過ぎんだよ!この広い世界のどの西探すんだよ!!」

 

流石にレオーネもキレてしまう。

 

「良いから聞きなさい!幾ら帝国が安定してきたからって、まだまだ国境付近は不安定よ。今回の革命で協力してくれた民族や西の国があるわ、でもそうでもない地域もあるでしょう?」

 

マインの説明にとりあえず耳を傾けるレオーネ。

 

「ふ~ん、それで?」

 

「ふ~やれやれね~、あんたなんて所詮はただ無駄に大きい二つの脂肪が、やがて死亡になるだけの哀れな運命の女よね~」

 

マインが大げさに頭が痛いわ~な身振りをすると余計にレオーネの・・・

 

「あ!?もう一編言ってみな!!これでタツミも喜んでたんだよ!」

 

今度はマインの堪忍袋を斬れさせ、

 

あんたのその髪、その黄色前から気に入らなかったのよ!!

 

お前こそ、ピンク?何?お人形さん?ド―セ可愛いと思って染めてんだろ?あざといんだよ!

 

あんた前にも言ったでしょうが?記憶力あんの?これは地毛よ!

 

二人とも一しきり言い合いをした後、

 

「良い?とにかく、タツミは多かれ少なかれ、革命軍やそれの協力者に多少でも名が知れたわ。そんなタツミは今回の革命にほとんど関わらなかった・・・つまり、自分の事を知らない地域に行った可能性が極めて高いわ!」

 

「あ~マインにしちゃ良くそこまで考えたな」

 

「アカメとあいつは舟で忙しいし、ラバ、スーさんは資金集め・・・で、あんたは今までなにやってたのよ!!」

 

マインが再び怒り出したに対し、

 

「ふん!あたしだって、舟の手伝いしたり、資金集めしたり、賭場で情報収集したり・・・」

 

「あんたの場合、大半が博打で金使って遊んでただけでしょうが!!」

 

「全く、タツミだって子供じゃないんだから、お腹が空けばアジトに帰って来るって!」

 

「それもそうね・・・って、そのアジトはもう無くなったでしょうが!!それにあいつの腹もちどんなに良いのよ?・・・何それ羨ましすぎるんだけど!!・・・って全部につっこんでたら疲れるのよ!!」

 

「はいはい、マインどうどう」

 

レオーネがマインを宥めるのに対して、その手を振り払い、

 

「あんたタツミが居なくなっても平気なの!!」

 

抑えていたモノが爆発したのか今までと雰囲気を変え、真面目に質すマイン。

 

流石にレオーネも神妙になり、ふと以前の事を思い出した。

 

 

 

 

タツミが帝都郊外の路上で包丁などの研ぎ仕事をしていた時に、レオーネとアカメが一計を案じて(?)タツミの金銭をくすね、大目玉を喰らった・・・

 

アカメを捕まえた後、タツミは金を入れていた箱の中に用心に忍ばせたその虫に挟まれ、苦しんでいるレオーネを見つけ

 

「ぬわぁああにやってんだあああおまえはああああ」

 

タツミは中指の第二関節を立てて、レオーネこめかみの両側から適切な位置に圧を加える。

 

「はんぎゃああああああ!!」

 

「どうせお前がアカメにアホな事吹き込んで下らない事させたんだろう!」

 

その後、復讐を誓ったレオーネはタツミが仕事を終えるまで離れた所で監視し、アジトに戻るとは別方向に行く事に不審を抱き後を尾けた。

 

人里から離れ、生い茂る林の中へと入り、野中の掘っ立て小屋にタツミは入って行った。続いてレオーネも入り地下へと続く扉を見つけ、その階段を下へと進んだ。

 

 

 

 

「とうとう・・・来ちまったな・・・」

 

地下はそこそこ広く、蝋燭が無数に灯されタツミは後ろを向き、胡坐の状態で何やら木彫りしながら、レオーネに話しかけた。

 

「あ~・・・はは、やっぱりばれてた・・・」

 

バツが悪そうに頬をかくレオーネに対し、

 

「ああ・・・来るだろうと思って、敢えてここまで誘いこんだ」

 

「え?タツミ・・・本当はあたしの事を・・・も、もう~しょうがないな~、ちょっとここじゃあ雰囲気ないけどさ~」

 

タツミはそのまま後ろのまま気配で苦顔している事をレオーネに悟らせた。

 

「・・・と、そんな雰囲気じゃないか・・・」

 

「俺はあんたに話しておきたい事がある・・・」

 

「なぁに?・・・聞くよ」

 

「この国へ来て、一番長い付き合いはレオーネ、あんただな・・・覚えているか?俺がアカメと初めて会って対峙した時の事を・・・」

 

「そういえば~、懐かしいな・・・1,2年前だっけ?そんなに前でも無いけど・・・色々有ったからな・・・結構昔な気がしてきた・・・」

 

頭をかきながら、記憶を辿るレオーネ。

 

「俺はもし、あの時、アカメが俺を斬ったならば・・・、・・・あんた達全員始末するつもりだった・・・。あんた達だけじゃない・・・この国の奴らも他の国の連中もな全てな・・・」

 

語りながら木彫りするタツミに、レオーネも「はっ!?」となる。

 

「え?アカメに斬られたらって・・・?ああ、え?実際に斬られそうになったらって事?いや確かにあの時、アカメは村雨タツミに突けたけど、それ以上は何も出来なかったって言ってたな・・・はぁ~・・・でもタツミ?あたし達だけじゃなく・・・この国の人も?自分の生まれた国も?そりゃ無理でしょう~幾らあんたが強くたって・・・あ~」

 

レオーネも先の革命で皇帝の帝具の殲滅力をも超えるだけタツミの実力を思い出す

と、あながち全くの絵空事にも聞こえなかった。

 

「でもなんで、アカメに斬られそうになったからって・・・大量虐殺なんてしようと思ったんだ、タツミ?」

 

「俺は元々、この星・・・この国に訳あって派遣された・・・だが、俺は正直面倒だった・・・言い方は悪いが、民度の低いこの星の住人を結果として助ける事に繋がる行為はしたくなかった・・・。だから、俺はアカメがもし、俺を斬っていたら、ああやはり、その程度かと・・・呆れ、皆殺しを決定していた・・・」

 

ごくりと唾を飲み込むレオーネは

 

「・・・つまり、あたし達はアカメに助けられたって事?はは、でもタツミ、たったそれだけの事であたし達を見捨てるなんて、早過ぎない?」

 

タツミはそこでレオーネに顔を向け、その問いに対し

 

「なぁレオーネさん、あんた虫を殺した事あるだろ?」

 

「あん?そりゃまぁ・・・ねぇ」

 

「そん時、部屋に入って来て鬱陶しいとか、道歩いててただちょっと目障りだから何となく殺した事もあるよな・・・」

 

「・・・・・・・まぁ」

 

「部屋に居る虫を殺さずに外に逃がすなんて、案外難しいもんでな・・・小さく脆い体の虫なら余計に骨が折れるんだよな・・・、だったら殺した方が手間が掛からない・・・、・・・と思う事も・・・あるにはある・・・」

 

しばらくの間、互いに喋らずレオーネの頭を抱える呻き声が数度有った後、

 

「つまりタツミは・・・あたし達が虫みたいなもんで、目障りだったり、何となく殺す事にも躊躇はない・・・?革命に手を貸したのも本当は面倒臭かったって事?」

 

タツミはそれに対してはっきりとは返答せず、別の話をし始めた。

 

 

「・・・実はな、俺は元々“先達の不始末”をつける為、本来存在するはずが無かった帝具の破壊を命じられた・・・だが、同時にこの星の生殺与奪の権利も任され

た。・・・もし、このままこの住人をほおっておいたら・・・後々大きな火種が外宇宙に飛び火しかねない危惧もあったからな・・・」

 

「え・・・と、判らない所あるから、もう一回言って?」

 

「判らない所は判らなくても良い、確かに俺を怒らせなかったアカメにはこの星の住人全員感謝した方がいいかもな、ふふふ」

 

「え?あたし、乞食だったタツミに施したじゃん?それ感謝にならないの?」

 

「あんたのあれは、博打で大勝ちしたからだろ?ま・・・分け与えないよりは良いが」

 

「ば、ばれてた・・・けどさーお姉さんには話が大きすぎて・・・よく判らないけ

ど、タツミってつまり、神様?・・・聞いた事あるけど、破壊の神様みたいなもの?」

 

「・・・・・・、あんたらから見たらそう言うのかな?」

 

「ふぅ~・・・でもさータツミの言う事が何処まで本当か判らないけど、とにかく、革命成功してこれでめでたしめでたし、だろ?」

 

「・・・俺にとっての“本当の目出度し”はこれからだ」

 

「・・・?・・・ところで、タツミさっきから何彫ってんのさ?神様かなんかの像?」

 

「まぁそんな所だ・・・、俺は今までに、上の命令で・・・殺さなくても良かった奴や時には間違って殺してしまった奴も居た・・・この星ではそんなヘマな事したつもりはなかったんだが・・・俺もしくじっちまった・・・あの馬鹿な皇帝カライの奴と闘った時、後で調べて判ったんだが・・・、俺のせいで巻き添え食って死んだ奴も居たようだ・・・」

 

「そりゃ・・・あれだけ大規模なら・・・けど、悪いのはタツミじゃないって」

 

「慰めてくれるのは嬉しいが・・・、俺はそんなヘマをした自分にうんざりだ・・・」

 

「でもタツミ?そう言うけど、さっきアカメに斬られたら皆殺しだって・・・」

 

タツミはそれに対してはきっぱりと言った。

 

「俺は自分で判断してやった事は、例え悪事でも気にしないが、意図せずにやった事は・・・、・・・」

 

最後の台詞は苦虫を潰しながら吐いた。

 

 

レオーネもそれを聞き溜息をつきながら

 

「あたしもさ、この仕事する前とか、入ってからも初めの頃・・・標的以外の奴も殺しちゃった事もあったんだよね~・・・あたしも根はロクデナシだから・・・ま、しゃーないと思ったけど・・・」

あの時の事をレオーネは思いだした、その事でやけ酒を呑んだ日々を。

 

タツミと視線が絡み、気まずそうにレオーネは視線を反らす。

 

「殺人を生業にしている奴らは、誰だって多かれ少なかれ、そうだろうな・・・あんな標的だけ始末出来るような運の良い奴は絵空事の中だけだ」

 

タツミの言葉にレオーネも沈黙で肯定する。

 

「そうだレオーネ、あんたにはもう一つ伝えておこうと思った事が有った」

 

「他にまだ・・・あたしに?」

 

「ランからも頼まれているんだが・・・あんた方にはもう二度とこの仕事はして欲しくない・・・その辺はナジェンダも判ってくれただろう、俺も最低限の事はした・・・殺す事やその仕事そのものから心のどこかで、もう抜け出せないと思っている奴も居るだろうが、そうならないようナイトレイドの生き残った者達の事を・・・レオーネ、あなたに頼みたい・・・」

 

タツミが静かながらも凄味がある言い方で話し、レオーネも一瞬ここに居るタツミは誰か別人ではないかと疑った。

 

「よ・・・よりによってあたしに・・・?」

 

その後、タツミは何も話さずに彫り終えた一体を陳列されている棚に置いた。

 

 

 

 

 

そして・・・、

 

「・・・っと、あんた聞いてんの?」

 

「ん?ああ、ああ~・・・もう酒は良いって?〆はビールで!」

 

「昼間っからボケてんじゃないわよ!!良い?今、手空いてんのはあんたなんだか

ら、とっととタツミを探しに行きなさい!!」

 

「へーへい、わーったよ、ほんとおねーさん使い荒いなぁー、マインこそ、タツミ連れて帰って来たら、告白する準備しときなよ?」

 

「にゃ?にゃにゃにゃに、馬鹿にゃ事言ってんのよ!!あたしはあいつの事」

 

マインの罵声(?)を尻目にレオーネは背を向け歩きだす。

 

『そうだよな・・・もうそろそろ、あいつ等3人も心の準備は出来ているよなぁ・・・もう頃合いかぁ・・・。あたしがもしタツミだったら、死ぬ時が来たら・・・皆に笑顔で別れて・・・その後は1人で・・・ふふふ、あたしもタツミも案外ちょっと似てるのかな・・・けど、もしエスデスの奴なんかと寝てる所だったら・・・うん、殺そう!』

 

レオーネはアカメ、マイン、チェルシーの3人が羨ましかった・・・本当はタツミの事を異性として見ていたが、彼女らが積極的に行く為、実はそこまで積極的になれない本人は戸惑い、日頃は笑ってごまかし、中々本当の意味での行動に出られなかった。

その為その3人よりもタツミに対し、多少冷静に見る事が出来た。タツミが失踪して間もない頃も、彼の頼みを聞いていた事もある為最悪のケースも想定していた。

レオーネはタツミを本格的に探すのは彼女らにそれを受け入れる準備が出来るのを待っていたからだった。

 

 

「あ~あ・・・おねえさんはつらいねぇ~~~」

 

独り言をぼやきながら、

レオーネは時には小銭を掴ませて聞き込んだり、胸を揉ませてくれたら教えるというスケベには張り倒して聞いたり・・・と、数日後とうとう、タツミが居ると聞いた住まいに辿りついた。

 



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その殻を斬る

「やれやれ・・・、全く・・・ダーリンはそのようにして、また私を困らせようとするのだな・・・ふふふ、もうその手には乗らないぞ?」

 

エスデスを憎む相手から庇って刃を刺されてから、タツミの心臓はもう既に止まっている・・・のではあるが、

 

「心臓を止める技でもあるのだろ?そして、私が諦めた後にでもおどかすつもりなのだろ?手の内はばれているぞ?」

 

そう言ってタツミの口にキスをするエスデス。そして、それをしながら

 

「ん~ん・・・いつまで・・・んん・・・我慢できる・・・んん・・・他の者達も見てるぞ?・・・んん」

 

普段の彼なら、その状況でなら1秒と掛からず、引き剥がしにかかるが・・・

 

幾らキスを重ねても一向に反応はなく、次第に彼の唇が冷えていく事をエスデスも実感せざるを得なかった。

 

口付けた跡が多くなった為、エスデスは手で彼の顔を拭き、数秒も間が有った後エスデスは彼を背負い、何も言わずにただ黙々と住まいへと歩いた。

 

 

 

 

 

 

エスデスは自分に母が居ない事に違和感は余り無かった、父が良く育ててくれ、同じ集団に当然女の同胞もおり、彼女らから最低限の女らしさは学んだ。それ以上は父達と共に狩りを楽しみ、生きるか死ぬかの命のやり取りも楽しんだ。

父から弱い者は死んでも仕方が無い、それが当然の事と教わり、それに従った結果、母が死んで居ない事も、同胞達の大半が死んだ事も、そして父の死にも・・・落胆するほど動ずる事はなかった・・・だが、それはある意味父の教えに忠実だったからとも言え、命の危険は有る場に身を置いていたとしても、信頼やそれなりに愛情も受けて育った。

 

エスデスの父も死に対して悼む人情が有る、その上で弱き者が死ぬのはその者の責任でもあり、致し方なしという諦観をもっていたが、その娘であるエスデスは父の弱肉強食に対して、致し方なしの人情含みの諦観ではなく、それが自然の摂理として受け止め、そこに情が入りこむ余地は父と比べ薄くなった。その為、今まで弱者・・・或いは弱いままの者に対し、理解は示さずに居た・・・だが、

 

そんな彼女の考えを揺るがしたのが、彼だった。

一見普通の青年かと思えば、時にはへりくだり、時には横柄に、豪放磊落かと思え

ば、計算されたしたたかさを発揮する。エスデスは自分よりも戦闘で勝るその彼に否応なしにでも従わざるを得なかった。

 

彼女の弱肉強食の考えでは弱い者が強い者に従うのも当然であり、初め彼を自分色に染めようとしたが、返り討ちに遭った形だった。

 

とはいえ彼も自分に対し、所々で絶対命令を下すも、それ以外は適当にしていた。

それに、自分の反論も多少は聞いていた・・・ただ、意に沿わぬ時など問答無用で張り倒される時もあったが・・・、だが、それも手加減している事も判っており、自分よりも強い相手が、弱いはずの自分に対して、多少なりとも自由意思を認めている・・・その事がエスデスに表だって・・・もしくは内面の無意識に変化を起こしていた。

 

(余談として、エスデスの自我に帝具が発動出来た時と封じ込まれ、出来なかった時とでは、本人も自覚していなかったが、実は多少差異が生まれていた。それは物事に対する立ち向かう闘争心・・・タツミはエスデスが、自分の影響で心に葛藤が少なからず生まれ、今までとは異なり、脆さが露呈するのも判っていた・・・その為、敢えて彼女の帝具だけ残し、自分が死んだ時にそこまで落ち込まないよう・・・。)

 

 

 

その為・・・。

 

エスデスは、彼との住まいに辿りつき、その間何も考えなかった・・・。

何を失い、何を無くしたのか・・・或いは何をしなければならないのか・・・未だはっきりと掴めなかった。

彼が目を覚ます可能性はもう0なのだと・・・次第に自覚し、床に寝かせた彼に口付ながら、ゆっくりとその体を氷付けにした。

それから丸一日、その傍で何もせず・・・ただひたすら時が経った。

二日目、何も口にせず・・・その日もその場所で過ごした。

三日目、エスデスの片目から一筋の滴が零れた。

 

「・・・?これは・・・?」

 

この時になって判った事は、かつて革命の際自分の助命嘆願で部下達の命の危機に瀕した際に流した涙では無く、自分の生き方に一つの可能性を示した・・・恩人とも言うべき彼を失った大きな喪失感だという事を。

 

そこからは堰を切ったように涙を流した。

 

 

 

 

そんな時、戸が放たれたが・・・その正面には誰も居ない。

 

涙を拭いたエスデスは、

「・・・そこに隠れているのは判っているぞ、この無粋な下衆がぁ!!」

 

 

「どうやらここがビンゴだったみたいだなぁ・・・あ~あ、エスデスお前がここに居るって事は・・・タツミと・・・まさか、そんな事・・・なぁ?」

 

逆光気味に現れたのはレオーネであり、おどけた口調ではあるが、内心嫉妬の怒りを燃やす。

 

「貴様は・・・!?ここまで何をしに来た?・・・」

 

「勿論、お前からタツミを取り戻す為に決まってるだろうが!!」

 

「・・・この・・・雌猫風情がぁああ!!」

 

エスデスは住まいの破壊も気にせずに、無数の氷の刃をぶつけにいく。

それをすんででかわし、逃れるレオーネ。

 

・・・?タツミの奴、全部の帝具壊すって言ってたのに?なんであいつ帝具使えるんだ?しくじったのか、タツミは?・・・と余裕があれば、レオーネは考えただろうが、帝具無しの状態の自分と、帝具が今でもあるエスデスとでは分が悪すぎる。

 

室内外での闘いの中、建物も半壊する中、エスデスもこれ以上彼との想いがある家屋を壊すのは気が咎め、帝具を極力使わずに始末しようと切り替えた。

 

 

 

 

「ん?タツミ?」

 

「な、に!?」

 

その瞬間、レオーネは強烈な蹴りをエスデスに喰らわせ、ふっ飛ばす。

 

・・・作戦ではなく、本当にタツミが居る事に気が付いたので、言った瞬間、エスデスに隙が生まれたので、そこに付けこんだだけであった。

 

 

「くっ・・・私とした事が・・・、タツミが生き返ったと思い、油断したか・・・おのれ・・・もう許さんぞ」

 

レオーネも氷漬けにされたタツミに気が付き、

 

「タツミ!?・・・ちっ・・・まさか、エスデスにやられたのか?ちくしょう・・・、あのタツミだ、エスデスなんかにそう簡単にやられる訳はねぇ・・・そうか、お前の事だ、騙し討ちでもしたんだろ?それとも毒でも盛ったのか!」

 

「この醜女が・・・、貴様にタツミの何が判る・・・貴様らが居無ければ・・・そうだ、貴様らさえいなければタツミは死なずに・・・ええい、雑種が、塵となれ!!」

 

「本当の醜女ってのはお前の事だぁ!!大体、タツミが死んだのがあたし達のせい?寝言ほざくな!」

 

レオーネは首に巻いたマフラーを咄嗟に見つけた水桶に入れ、それを鞭のようにしならせ、エスデスの氷の刃に応戦する。

 

「!?」

 

「捕らえた!」

 

刃を絡め捕らえ、その隙に縦一回転の強烈な蹴りをエスデス顎に目掛けて放つ。

 

 

『どうだ!?・・・』

 

 

 

「ふん、小賢しい・・・私には通じん・・・」

 

エスデスは防御に片手で氷の盾を使い防いでいた。

 

『くっ・・・やっぱり、帝具が使えると無いとの差はあるか・・・』

 

「!?」

 

だが、その盾も割れて散る、

 

「ふふふ、貴様1人だけで帝具も無しにここまで持つとはな・・・、大方タツミに底上げでもして貰ったのだろう・・・くくく・・・、く、おのれ・・・、何故私にでなく、こんな奴らに・・・、何故私には何も・・・」

 

レオーネもこの時とばかりに舌戦する。

 

「はっ、お前がタツミから嫌われてるからに決まってるだろう?」

 

「私が嫌われているだと・・・?ふふふ、あはははは、そうか、貴様らは知らぬのだったな、良いだろう、冥土の土産に教えてやる。・・・ふふふ、私とタツミは夫婦になったのだ!」

 

レオーネはしばし絶句した後・・・場の支配をこちらにする為、敢えて

 

 

「イタいイタい・・・あたたたた、イタ過ぎる!」

 

「痛む・・・?とうとう気でも触れたか?」

 

「あ~あ、タツミ可哀想に・・・したくもない奴と所帯なんかもって・・・そっか、タツミは犠牲になったんだな・・・ある意味タツミらしいや・・・」

 

「・・・?負け猫の遠吠えか、見苦しい・・・、タツミが犠牲になっただと?ふっ、世迷言を・・・、・・・っ・・・」

 

エスデスは強がりを言ったが、実際、自分を庇った為と・・・そう思われる節が一応あるにはある。

 

「ば、馬鹿な・・・タツミは、タツミは、・・・私の事を愛していたから、あれだけ熱い日々を・・・」

 

「・・・嘘だな、タツミはいつだったか、『俺には愛なんて感情はない』って言ってたぞ?」

 

「ぬぅっ!?」

 

エスデスも聞いた事があったが、彼の事だ、単なる照れ隠しだろと思ったが、まさか他の者まで知っていた事に驚いた。

 

この時レオーネは確信した、主導権は我にありと。

 

「なぁエスデス、お前がタツミを殺したんじゃなきゃ一体、誰が殺したんだ?」

 

「ふん、私が殺した訳ではない!私を狙ったかつての負け犬が・・・、・・・くっ・・・」

 

「・・・なるほどな・・・、つまり、どうせお前が勝った戦争で捕虜でも惨たらしく殺したんだろ?それの生き残った奴の仇討ちで・・・それで、タツミはお前を庇って・・・それで・・・」

 

「黙れ!!!」

 

レオーネは後ろに飛びしさり、元いた場所には無数の氷の槍が刺さる。

 

「くっ・・・うっ・・・っ・・・」

 

エスデスは片手で顔を抑え、改めて自らのせいでタツミが死んだ事を自覚させられ、その罪悪感に苦しんだ。

 

レオーネもこれ以上ここに居ても、タツミの情報は得られそうにも無い、そして、生きて帰るのはこの時がその時だと、悟りその場から素早く立ち去った。

 

 

 

エスデスは追う気力も失せ、もしこの時タツミが居たなら、追撃しようとしても「放っておけ!・・・ナイトレイドを殺る時は俺が殺る」・・・と恐らくそう言うだろうとエスデスは思ったが、そう言って止めるタツミは、もういない。

 



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良し悪しを斬る

 

 

 

 

 

「タツミの事で良いニュースと悪いニュースがあるけど、どっちから聞きたい?」

 

そうおどけて語るレオーネはある廃屋に、政務で多忙なナジェンダを除くメンバー全員を集めた。

 

 

「もったいつけるんじゃないわよ!大体タツミ見つけたんでしょ?なんであいついないのよ?」

 

「なに?つまり、結局見つからず、探す資金尽きてお金貸して~~って、オチじゃ無いよね?ダメだよ、アカメちゃん、お金貸しちゃ?」

 

「・・・そういえば、半年前に貸したの、まだ戻ってきてない・・・」

 

「ぐふっ・・・、このまま忘れ去られると思ってたのに・・・、アカメ?あたし達親友だよな?」

 

マイン、チェルシー、アカメにやいのやいの言われる中、イタイ所を突かれたレオーネは吐血した。

 

「それで・・・姐さん?タツミの事で悪いニュースってのはなんだ?」

 

彼女達をほおっておくと話が脱線して長くなるので、ラバックが先を促した。

 

 

「いやぁ~タツミな、実はあいつ、とんでもない奴だったんだよ?」

 

「何よ?あいつが変わってんのは初めっから判ってるけど、とんでもないってどういう事よ?」

 

マインも少なからずイライラしていた。

 

「うん、アカメ・・・お前が初めてタツミと会った時有っただろう?」

 

「あの時か・・・、標的・・・確かアリアを始末しようとした時、タツミが間に入ったな・・・勿論、忘れてはいない・・・もし、あの時、斬ってたら・・・逆に私がどうなっていたか判らない・・・そんな恐れがあったな・・・」

 

「へぇ~・・・アカメちゃんにそこまで言わせるなんてね~、といってもタツミの事だから今更驚かないけど・・・その件って、あたしがここに来る前だよね~」

 

アカメの感想にチェルシーも驚き、マインも驚いたが・・・

 

「アカメ・・・、ま、確かにあいつ初めはあたし達騙して腕を隠してたみたいだけど~、でもこのあたしには初めっからお見通しよ、あたしもあいつの騙しに乗っかってやってたんだから!」

 

ドヤッと得意げに言うマインに対し、

 

「んも~、マインったら~、嘘つくのは胸だけにしといた方が良いよ?」

 

ニコニコ語るチェルシーに怒号が飛ぶ。

 

「あ~、とにかく、あの時アカメがタツミを斬らなくて正解だったんだよ。アカメの感覚は正しかった・・・もし、斬ってたら・・・斬ろうとしてたら、タツミが言うにはあたし達、全員皆殺しだったんだってさ・・・」

 

「「!!??」」

 

 

 

「はっ!?あいつ、大きく出やがったな」

 

ラバックが毒付くに対し、他メンバーも

 

「私達全員か・・・」

 

「・・・、なにあいつ・・・、そんな物騒な事考えてたの・・・?ま、まぁ、そういった事も見越してあたしは、あいつが使えると思ったから仲間入りを許可したんだけど?」

 

「・・・物騒ねぇ~、あたし達が言えた義理も無いとは思うけど・・・、でも全員・・・とはね~」

 

「あながち見栄っ張りとも言えないだろう?あいつの実力考えたら・・・」

 

皆もエスデス1人に全員でも手を焼くのに対し、それを彼単体でも彼女を制してしま

うのであれば、確かに・・・全くのウソでは無いと改めて自覚する。

 

「更におまけで悪い話をいうとな?タツミはあたし達だけじゃなく、腹いせ・・・じゃなくて、失望だったっけ?」

 

レオーネも記憶が曖昧なので、

 

「いや、あんたが聞いたんでしょ!思い出しなさいよ!」

 

「う、ああ、うん、そうそう、アカメに斬られてたら、あたし達全員始末するに飽きたらず、この国や他の国も皆殺しって言ってなぁ~。ああ~怖い、そんな事されたら、もう二日酔いにもなれないじゃん?ねぇ?」

 

二日酔い!?なんなくて良いのよ、そんなもの!!と普段ならツッこむマインも、

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

聞いた一同は一瞬呆然となり、

 

「・・・ど、どういう意味かな、・・・それ・・・何か別の意味があるとか?」

 

「さぁね・・・、言葉通りの意味じゃん?初めあたしが聞いた時も、何を言ってんだタツミ?って思ったけどさ・・・あいつ、この国だって壊滅しかねなかったあの皇帝が使ったでっかい帝具も圧してたしさー、その気になれば・・・出来たんだろうな~・・・あいつなら・・・」

 

「何よそれ・・・、あいつ、じゃ、オネストやエスデスやあの狂って暴走したカライなんかよりもよっぽど酷いじゃない?」

 

「・・・私達はそんな事を考えてた・・・そんな事を考えてた、恐ろしい男とずっと一緒に居たのか・・・?あの時、もし私が恐怖を抑えてタツミを斬っていたら・・・、・・・しかし何故だ?何故タツミがそんな事を?」

 

「あいつ確かこんな感じで言ってたな・・・、お前達は虫を殺すのに、そんなに気にするかって・・・」

 

「あ?あたし達を虫と一緒にすんじゃないわよ!・・・、・・・」

 

マインは人を殺すのに慣れた自分に、そんな資格が有るか・・・非難するのを躊躇し初めた。ただ、

 

「けど・・・あたしはそんな無差別に殺そうなんて思わないわよ!」

 

それは他メンバーも同じであり・・・その中で今まで黙っていたスサノオが発言し

た。

 

「俺もタツミの考えが判る訳ではないが・・・、最近、帝具としての自分が終わり、人間・・・で良いのか?とりあえず帝具では無くなった俺が言うのもなんだが・・・お前達は中々争いが・・・闘う事が好きなのだな」

 

「ん?・・・どういう意味だ、スーさん?」

 

ラバックが怪訝そうに聞くに対し、

 

「俺が帝具だった時はとりあえずマスターの指示に従うのみで、必要以上に考える事をやめていた・・・いや、それすらも思いつかなかった。・・・その枷が無くなった今、俺もこの1000年・・・眠っていた時期もあるからな、正確な年数ではないが・・・今までを振り返り思い起こし感じた事は・・・歴史では葬りさられもしたが、帝都千年といえど内乱は何度か有った・・・俺もその時、当時のマスターに駆り出され暴動を鎮圧もした・・・だが、ひょっとしたらその時の相手は今のお前達のような人間だったかもしれない・・・」

 

彼らもスサノオの話に黙って耳を傾ける。チェルシーはそれに対し、

 

「う~ん・・・えっと、スーさんはあたし達に対して、人間そのものに対してタツミは呆れてたって事を言いたいの?」

 

「・・・確かタツミはあの時、アリアに拾われた・・・だがあいつは・・・そういえばボスが話してたな・・・また頭痛の種が出来た・・・何故標的が生きてるんだ!と・・・あとでボスに怒られそうになった・・・、ぶるぶる(震え)、革命成功でうやむやになって良かったが・・・タツミ、内緒にするって言っていたのに・・・恨むぞ!・・・すまん、つまり私が言いたかったのは、タツミはあのアリアだけでなく、私達人間にも失望していたが、私が斬れずに居た事で、気紛れでも起きた・・・?だから、アリアを更生出来るか試したり、私達にも試して・・・気が変わったと言う事か・・・?」

 

「ああ・・・じゃあなに?あたし達試すなんてエラそーだけど、タツミの奴、良い奴に変わったって事?まぁあたしが居るから人間見る目変わるのは当然よね~」

 

「うん、マインうるさいから黙っててね♪」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ?あいつだって俺達と同じ人間だろう?それとも何か、あいつ本当は人型危険種か何かか?まさか・・・あいつ自身が帝具じゃないだろうな?」

 

「・・・う~ん、その辺りはあたしもさっぱりだが・・・でもタツミ全部の帝具壊すって言ってたのに、エスデスの帝具だけ残したのなんでだと思う?・・・あ!?そんな事よりもあたし1人で帝具も無しにエスデスの奴と渡りあったんだぞ!・・・危うく死ぬ所であぶなかったー・・・あたし凄いだろ!もっと褒めてくれてもいいんだぞ!・・・と言う訳で、さっきの借金帳消しな!」

 

「レオーネ・・・大変だったと思うが、それとこれとは話が別だ・・・」

 

「ぐはっ・・・、アカメ・・・最近あたしに冷たくない?」

 

「・・・1年前の絶対返すと言った金も返ってきてない・・・」

 

「・・・うう、アカメの言葉が村雨並みに痛い・・・そうだ、大体マインお前だっ

て、一緒に来てくれても良かっただろ!」

 

レオーネもヤケ気味に彼女の心を判った上で怒った。

 

「え?あたし・・・それはもしタツミが・・・そ、そうじゃなくてあたしだって色々忙しかったのよ!!そ、それよりもちょっと待ちなさいよ!!あいつ全部の帝具出せって言っといて、なんであんな奴の帝具だけ残すのよ!!ふざけんじゃないわよ!?最も危険な奴の帝具だけのこしてどーすんのよ!!」

 

「・・・ふ~ん・・・タツミ、全然怖くないあたしの帝具も壊したのに、それって、えこひいきだよね?もー、タツミったら、後でオシオキが必要だね♪」

 

「・・・怖いぞチェルシ―・・・」

 

アカメが震えだすが、

 

「あいつ・・・嘘ついたり、本当謎な事するよな?なんでエスデスのだけ・・・あ、判った・・・確かデモンズエキスがそいつと一緒になってるから、引き剥がせなかったからか?」

 

「ちょっとラバ?スーさんを人間に変えれたんだから、タツミの奴ならなんか方法でもあったんじゃない?」

 

「或いは・・・出来なかったんじゃ無く、したくなかったと考えられるか?」

 

「何アカメ?それもっと性質悪いじゃない?あいつに帝具持たしといて、良い事何てある訳ないじゃない?」

 

マインとアカメが、あーだこーだと思案する中、答えをレオーネが示す。

 

「そーいえば、あたしがタツミ探してて、その途中のある村でなんかでっかい氷溶かして、飲み水代わりにしたり、珍しい氷像があったなぁ・・・あの時はこんな乾燥した所で珍しいなー、って思ってたんだけどさー、・・・」

 

皆が一瞬黙って何も言わない中、気にせずスサノオが

 

「成程・・・、エスデスの帝具を使った可能性が高い訳だな・・・」

 

「っ・・・、あいつがそんな事を・・・?なにそれ?らしくないわね~んじゃなに?ひょっとしてタツミがエスデスに命令して、困った人に渡したり、仕事にしてやってる可能性があるって訳?」

 

「う~ん・・・、皆殺しにするとか言ったり、人助けみたいな事したり・・・?」

 

「さっきのスーさんの話だが、私達人間が・・・今までもこれからも争いが無くならない、無くす気が無い・・・と思ったからタツミは皆を殺そうと考えた・・・という訳か?・・・しかし、気紛れか?・・・私達は殺されなかった?それに私もタツミから手ほどきを受けている・・・殺そうと思う相手にそんな事をするか?」

 

「エスデスみたいに、手強くなる方が面白いから、敢えて教えたって考え方もあるぜ」

 

「タツミねぇ・・・言われてみれば何度かあたしも場合によっちゃ斬るとか、脅されたな~」

 

「・・・このような事をお前達に言うのもなんだが・・・人間達は懲りずに、また千年後、今回のような革命を起こすような・・・腐敗を招くかもしれんな・・・」

 

スサノオの正論にマインも溜息をつき、

 

「もぉ・・・いいわ、とりあえず、エスデスがまだ帝具を持ってる事は判ったわ、それでタツミは?あいつは帝具まだ隠し持ってたの?」

 

「そうだ、レオーネ?エスデスと出くわしたんだ・・・タツミは傍に居たのか?」

 

「そうそう、衝撃な発言でうっかりしてたけど、あのストーカー、タツミ追っかけてった可能性あるよね?・・・最近大人しいと思ったら・・・でもまぁきっと、「お前帰れ!!」ってタツミにボコボコにされて追い返されるよね♪」

 

「ん・・・ん~・・・そ、そう・・・」

 

「ん?なに、歯切れ悪いわね?まだ聞いて無かったけど、タツミの良いニュースって何よ?」

 

「え、えっとね~・・・タツミさぁ~し、死んじゃった!」

 

 

 

 

 

エスデスが1人家屋の破損を修繕している中、そこに1人の男が訪ねて来た。

 



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再会を斬る

ちょっと失礼致しまして、
この国もこのままの体制で良いのだろうかと、正邪を見抜くには前言撤回が無いか、発言が一貫しているか等があると思います。狼少年が格好良い事を言っても信用出来ないかと。
私は不利な方に付く方が面白いと考える性質です。



 

 

 

 

「えええ、エスデスさまぁあああ、ごごご、ごぶさたしておりましたあああ!!」

 

所々ほつれた白の上下道着に紅帯を締めた大男がエスデスの前に跪いた。

 

エスデスも修繕の手を止め、

 

「ダイダラ・・・お前か、よくここが判ったな・・・」

 

「おおおおかわりなく・・・ううっ・・・よくご無事で・・・・・・」

 

ダイダラはエスデスの前で男泣きする。

 

「ふふっ・・・みっともない奴だな・・・なんだ私の悪い噂でも聞いたか?」

 

「は・・・はい、風の噂でエスデス様が処刑されると聞きました・・・そんな事ある訳が無いと、俺は帝都に急いで戻ってみたら、・・・なんだか反乱軍共が勝って、あの大臣を倒したと聞きました・・・俺にはもう何が何やら・・・それで、エスデス様が無事かどうか色んな奴から話を聞いたら、最近出来た珍しい氷の彫像があると・・・ひょっとしてこれはと思い・・・やっとやっと・・・」

 

そして、再びむせび泣く。

 

「全く変わらん奴だな・・・ふふふ、好い加減見苦しいぞ?」

 

そう言うエスデスだが微笑を浮かべ、ダイダラの肩に手を置く。

 

「も、申し訳ありません・・・でも良かった・・・エスデス様ご無事で本当に良かった!!」

 

「・・・無事・・・か、」

 

エスデスが切な気に言うに対し、

 

「・・・?どうかされましたか?」

 

「・・・ダイダラ、お前は今まで何処に居た?」

 

ダイダラはすっくと立ち上がり、

 

「よくぞ聞いて下さいました!己を鍛える為、帝国の辺境を東西南北と周り・・・くっ・・・あの野郎・・・」

 

「あの野郎・・・?」

 

「そうです、あのナイトレイドの片割れ・・・ええ、タツミとかいう奴と再戦する

為、俺は・・・」

 

タツミ・・・心の中で呟くエスデス。

 

そして、ダイダラは一瞬言葉に詰まったが、次の言葉が出るまでエスデスは待った。

 

「申し訳御座いません・・・リヴァはナイトレイドの1人と相討ちに・・・ニャウは

そのタツミに殺されました・・・お、俺がもっと強ければ・・・こんな事には・・・」

 

「そうか・・・」

 

エスデスは生前のタツミからその経緯は既に聞いているが、敢えて何も言わず寂しげだが労わりの微笑を浮かべた。

 

「本当はもっと早くお伝えに戻らねばと思っていたのですが・・・何分奴との約束がありました・・・俺があのままエスデス様の所に、エスデス様の軍に戻れば今度こそ奴は俺を殺すと・・・、俺の命はエスデス様に捧げているのでどうなろうと構いませんが、・・・負けて生かされた俺がおめおめ帰るのも・・・笑って下さい、男のつまらん意地ってやつです」

 

「別に笑わん・・・」

 

「エスデス様・・・?こういってはなんですが、以前と比べて変わられたような・・・」

 

「・・・そうか?そんな事よりも、それでその後はどうした?」

 

「はい、タツミを倒す為徹底的に鍛えました!帝具は無いですが・・・次は必ず奴を倒して見せます・・・エスデス様、・・・ナイトレイドの、タツミの奴の居場所を何かご存知ですか?」

 

一瞬キョトンとしたエスデスは、

 

「ふふふ、くくくくっくっくっくっく、・・・あははっはははは」

 

腹を抑え、大声で笑った。

 

「え?え?あ、あはははは・・・?」

 

ダイダラも釣られて判らずも笑ったが、

 

「お前は・・・ふふふ、数日ぶりに笑ったぞ・・・お前がタツミを・・・?あはははは、余り私を笑わせるな?」

 

「い、いえ、しかし・・・さすがにエスデス様と言えど・・・俺も」

 

「ふっ・・・ならば貴様、この私を倒せるか?」

 

エスデスは胸に手を当て、挑発して来た。

 

「そ・・・そんな、お、恐れ多い」

 

「ふっ・・・初めてお前と遊んだ時の威勢はどうした?」

 

「あ、いや、あの時は・・・まだまだ俺も自分の分が判らず・・・」

 

「ならば、今のお前もあの時と大して変わらん」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「ふっ・・・私でもダ―リ・・・おほん、タツミには敵わなかった・・・」

 

ダイダラは驚愕で、思わず座り込み

 

「え・・・?エスデス様が?・・・馬鹿な・・・ありえない・・・」

 

「お前は何を修行してきたのだ?・・・タツミなら先程、この私を倒せるか?と聞いた場合、躊躇なく仕掛けてくるか・・・もしくは、そうだな、平然と受け流すかだろうな・・・ふふふ」

 

「え・・・エスデス様はタツミの奴と・・・会った事があるんで・・?」

 

「あ・・・ああ、あれは帝具が使える人間を探す為に行った武道大会だった・・・ふっ、懐かしいな」

 

一瞬エスデスもタツミと会った事を話すか躊躇したが、そのまま話の流れに任せる事にした。

 

「あの時初めてタツミと会った時、ふふふ、私も油断はあったが・・・自惚れるつもりはないが、この私を一瞬で倒した・・・ふふふ」

 

「いや、え?はぁ・・・」

 

ダイダラもエスデスがそう言う以上、そうなのだと納得するしかなかった・・・それと同時に気付いた事は、今までダイダラは見た事が無い、タツミを語った時に見せた元上司の恥らう乙女顔を。

 

「ああ、はぁ~・・・あいつはそれは・・・確かにちょっとは腕が立ちそうだと思いましたが、そんな馬鹿な・・・」

 

「今の私でも、タツミの足元くらいだろうと・・・思っているがな」

 

「足元?そ・・・それは幾らなんでもご謙遜が過ぎるんじゃ・・・」

 

「ふぅ・・・お前、反乱軍との戦いを何もしらんのか?」

 

「ええ・・・はい、面目なく・・・」

 

「まぁ良い・・・知らんのなら、別の言い方で教えてやる。先程の私を倒せるか?の質問だが、タツミは何かに頼ったりはしない・・・」

 

「頼ったりしない・・・?」

 

「弱者は、己の欲望やら、正義とやらや、・・・他は宗教や国家か?そのような者に頼るが・・・お前とて・・・私に崇拝とやらをしているから、手を出せぬのだろ

う?」

 

「そ、それは・・・」

 

「タツミも頼ったりする事はあったが・・・それは一部のみだ、全てに置いて何かに頼るような・・・そんな男では一切無かった・・・ふふ」

 

「・・・・・・」

 

「つまりだ、私を崇拝しそこから脱却出来ぬのなら、お前はそれまでの男だったという訳だ・・・その程度では私のダ―リ・・・」

 

「エスデス様?」

 

「ごほ、ごほん・・・ううん、タツミにはまるで敵わんぞ?」

 

「エ、エスデス様にそこまで言わせるとは・・・、そこまでも見抜けない俺が浅はかでした・・・」

 

「ふっ・・・本当は私もタツミの身も心もその奥の芯まで、支配したかったのだが・・・叶わなかったな・・・」

 

物憂げに語るエスデスに、ダイダラは気にせずに聞く。

 

「・・・エスデス様はタツミと・・・どういうご関係で?」

 

 

「タツミは・・・ふふふ、我が夫だぞ♪」

・・・と、以前なら普通に気にせず話しただろうが今は、

 

「・・・き、気にするな・・・お前には関係ない!」

と答えた。

 

「ええ・・・?はい、判りましたが・・・タツミの居場所は何処でしょうか?せめ

て、それだけでも教えて頂けましたら・・・」

 

「・・・あ・・・、うっ・・・タツミは・・・タツミは死んだ・・・」

 

改めて苦々しい顔になりながら吐く。

 

 

「!?死んだ・・・あいつ・・・俺との再戦を受けると言っておきながら・・・、何故です?何故奴は死んだんですか?」

 

その言葉がエスデスには心を刃で何度も刺されたような気分にさせる。

 

「・・・や・・・そう、病だ・・・、タツミも病には勝てなかった・・・」

 

エスデスは久方ぶりに大きな嘘を吐いた。

 

一瞬呆気に取られたダイダラは、

 

「病にですか?・・・ははは、自慢じゃありませんがね、俺は生まれてこの方、風邪なんてひいたことがありませんぜ!」

 

「・・・・・・」

 

「じゃあ・・・これは俺の不戦勝って奴かな?・・・呆気ねぇ幕引きだったな・・・」

ダイダラがタツミに対し、再戦出来なかったもどかしさと、そんな事で死んだのか?という嘲笑が入り混じった笑みを浮かべると

 

 

 

「この愚か者!!」

 

 

 

 

エスデスは一喝し、ダイダラも震える。

 

「ん?ああ・・・、いや、すまん・・・私も少し苛立っていた・・・」

 

「いえ・・・え、ああ・・・そうですね、エスデス様は・・・そんな不甲斐無い勝ちに拘らず、もっと精進しろと・・・仰りたいんですね?」

 

「・・・・・・」

 

「いや、仰る通り、このダイダラ・・・もっと強くなる所存です・・・あの時のタツミの闘い方を思い出してイメージトレーニングもして、俺の勝ちのつもりでした

が・・・、どうやら改めて言われますと・・・本当に勝っていたのかどうか・・・、それと精神面でも鍛えなくては・・・ですが、エスデス様をお慕いからの脱却・・・こいつは・・・確かにかなり難問だ・・・、ふっ・・・認めまさぁ、エスデス様を前にして、あのタツミの野郎、慕わねぇなんざ、そこだけは確かに大したもんでさぁ」

 

 

「黙れ!!タツミと私は相思相愛、互いの相性も抜群だったぞ!!」

と大声で怒鳴りたかったが、その発言をエスデスはぐっと堪えた。

 

 

「・・・と、いつまでも長居してご迷惑かける訳には参りません・・・突然押し掛け申し訳ありません・・・」

 

「ん?いや・・・別に構わんが、こっちこそ茶も出していなかったな・・・」

 

「いえ、失礼ですが何やらこちらの家も傷んで・・・?何かお手伝いしましょうか?」

 

「いや構わん・・・1人で行う・・・」

 

エスデスは視線を逸らし、気不味そうな顔をダイダラも見てとり、

 

「そうですか・・・いや、判りました!エスデス様、どうかお元気で・・・」

 

「あ、また来るのは構わんぞ?土産話でも聞かせろ」

 

「・・・へい、その時はでっかい肉も持ってきますぜ!」

 

「うむ、楽しみにしているぞ」

 

 

ダイダラはエスデスと気分良く別れ、家を後にしたが

 

「エスデス様・・・申し訳ありません・・・俺はもう貴女にお会いする事は・・・あんたは、俺に小さいな嘘を吐いた・・・あんた、タツミと良い仲だったんじゃ・・・だからお互いさまって事で勘弁してくだせぇ・・・思ったより、早くに脱却出来るかなぁ・・・いや、まだ掛かりそうか・・・?エスデス様、あんたから受けた恩は忘れはしやせんが・・・あ~・・・俺も良い嫁さん探すか~・・・」

 

 

再び1人になったエスデス、布で隠し、氷漬けにしたタツミの遺体を撫でながら

 

「ダーリンよ・・・今何処に居るんだ?・・・巷の者が言う、霊とやらになっているのなら、姿を見せて欲しいぞ・・・それとも、無になってしまったのか・・・ならば、悲しいものだな・・・、・・・この感情・・・確かに全て無になって、消えれば・・・このような思いもせずに済む・・・、私も後を追おうか・・・ふっ、私らしからぬ事だな・・・」

 

 

 

今もう一人別の男がそこに向かっていた、タツミが仲介に立って取り次ぎしていた氷の彫像等の販売を手掛けた大店主人であり、生前タツミは自分にもしもの事があった場合、その場所に直接尋ねるよう地図を渡していた。

 

 

彼は、未だ打ち合わせにも来ないタツミに不安を覚え、“先生”と称されたエスデスの元へと向かう。

 

だが、彼は浮かぬ顔で別の意味でも不安だった・・・。何故なら前帝国時代のエスデスの悪行をこの地でも噂で流れ、近隣で被害に遭った話も聞いている。

タツミはそれまでエスデスの事を隠して偽名を伝えていたが、亡くなる数日前に本当の事を打ち明け、その主人に土下座して謝った。

初め、主人は怒り契約を打ち切ると言いだしたが、エスデスはこの仕事を通じて変わっていくはずだと言うタツミの懇願と、一度冷静になると主人もその利益を馬鹿には出来なかったのもあった。

 

・・・そして、主人が帝国政府にエスデスが居ると密告するのも可能だったが、タツミは死ぬ前に伝書鳩でナジェンダ宛てにエスデスは死んだ事にしてくれと伝えた上で、“まだ奴は帝具を持っている、悪しからず”と、遠回しに彼女の事は放っておいてくれの意味と、

もし、それでもナジェンダが・・・或いは現帝国政府がエスデスを討伐するなら・・・、仮に討ちとれても大半の帝国国民は死滅、最悪全滅の恐れもある。

 

タツミにとってはどちらでも良かった、互いに争うならエスデスにもナジェンダ達にも失望し滅べば良いと、そうでないなら互いが生き延びる機会も作った。

 

そして、タツミは信じていた。今のエスデスの戦士としての心を考えれば自分しか帝具を持たぬ状況ならば、余程の強敵で無い限り、1対1・・・1対10万だろうとつまらない闘いにしかならないだろうと、だからエスデスからは帝国には仕掛けないであろうと。

 

主人はとりあえず密告はしなかった、どうしても不安ならエスデスの所へは行かなければ良いとタツミに言われてもいた。

 

その彼の心の中はエスデスという恐ろしい者見たさと、そんな犯罪者を更生させる機会をこのまま続けて欲しいというタツミの願いと商売の打算がない混ぜで、足を向かわせた。

 

「・・・エスデ・・・、先生~・・・いらっしゃいますか~」

 

後に彼らはその社会に置いてインフラ整備等の資金面で貢献していく事となる。



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決別を斬る

レオーネはタツミの死をさらっと軽くメンバーに語ったら・・・、

 

 

「な~んだタツミ死んだんだね~」

 

「全くドジよね~あいつ~」

 

「・・・タツミは私のように毎朝肉を食べなかったからな・・・仕方が無いな・・・」

 

「そうなんだよ~仕方ないよな~あははは」

 

「・・・・・・」

 

それぞれ女性陣は笑い飛ばし、ラバックとスサノオが呆れている中、

 

「んも~レオーネ、今のは最近聞いた中で一番面白かったギャグだったね?でも、冗談は顔と胸だけにしてね~~♪それでタツミは何処に居るの?」

 

「そうよ、あんた?話の前座はもう済んだんだから、タツミ早く出しなさいよ?」

 

「タツミはコアが無い帝具と言われているからな・・・」

 

「え?それ初耳なんだけど?なにつまり、不死身って言いたいの?」

 

「ダメねアカメ~捻り過ぎよ~」

 

レオーネは引き続き笑っているのに対し、

 

「いや~あたしの胸は純度100%でしかも、エスデスよりもあるんだけどね~ってラバが言ってました~」

 

「・・・変態」

 

「ラバ、もうあんたあたしを見るんじゃないわよ」

 

「・・・・・・」

 

二人は汚物を見るような目でラバックを見下し、アカメは心なしか胸を隠すように抑える。

 

「うぉい!姐さん、今はそんな話どーでもいいだろうー!!・・・ふ、二人ともそ、そんな目で見ないでくれよ・・・ちょ、ちょっと興奮するだろ?」

 

そしてさらに二人をドン引かせる。

 

「・・・人間とは難しく、業の深い生き物だな・・・」

 

スサノオは素直な感想を述べた。

 

 

「ま、と・に・か・く~タツミは死んだんだってば~ギャグじゃ無く~現実受け止めてくれよな~」

 

「成程ね~う~ん~そうなんだ・・・」

 

チェルシーがニコニコ笑いながら、、レオーネに近付き、

 

「成程ね~あいつ死んだの~じゃあしょうがないわよね~」

 

マインも近づいて・・・

 

「!?ふ、ふたりとも!!」

 

アカメが驚くのも束の間、

 

チェルシーはレオーネの首の頸動脈に仕掛け針を当て、片方からはマインが女性用の小銃を当てている。

 

「ねぇ・・・レオーネ?冗談でも言って良い事と悪い事が有るよ・・・」

 

「あいつが死んだ?あんたの与太話は酔ってる時にしてくれる?」

 

 

ラバックとスサノオが二人と止めようと、動こうとするのをレオーネは目でそれを制する。

 

「ラバック何故止まる!?」

 

「スーさん・・・とりあえず、姐さんに任せよう」

 

 

 

「さぁレオーネ?何でタツミが死んだの?まさか・・・タツミを死んだ事にしたと

か、言わないよね?大体何でそんな話を軽く言うの?」

 

「・・・だから、タツミは下手したらあたし達の敵に廻って帝国民も酷いことになってたかもしれないんだ!結果として協力関係で助かったけど、あたし達が全滅してた事もありえるの、そう考えれば危険な奴が居なくなって良かったじゃん?」

 

「・・・あんた、まさか本気で言ってるのそれ?」

 

マインの持つ銃の引き金に力が入る。

 

 

「そんな事はどうだって良い!!」

 

 

チェルシーがかつてないほど怒り激昂する。

 

「タツミが、あの人が、どう思ってたって関係無い!どっちにしたってあたしはあの人に助けられた、さぁ教えて!?彼は本当に死んだの!?その証拠は!?」

 

レオーネも突きつけられながら、

 

「何?あたしの言う事が信じられないの?お茶らけて言ったのは悪かったよ・・・、だけどさ、タツミは本当に死んだ・・・あたしはこの目で氷漬けでその中で眠っているタツミを見たんだ・・・」

 

マインは銃口を降ろし

 

「氷漬け?タツミが?あいつがそんなドジ踏む訳ないじゃない?なにそれ、エスデスにまさか殺されたのあいつ?」

 

その目には復讐の炎がありありと浮かび、

 

「仇討ち?良いよ、死んでもあいつを殺す・・・」

 

チェルシーもその針をレオーネから逸らすが、先端を指でなぞる。

 

 

「落ち着きなって・・・、あんたら二人で帝具持ったエスデスに敵うと思ってるのかよ?大体、タツミを殺したのはエスデスの線は薄い。どうやらあいつを仇って狙った奴が居たそうだ、それでタツミはエスデス庇って死んだ・・・そんな所だろ?」

 

それまで緊張しながら様子を見ていたアカメも、二人がレオーネへの怒りを抑えたので安堵したものの、今度は

 

「待ってくれレオーネ、じゃあタツミは・・・あのタツミが例え庇ったとはいえ、誰かの手によって殺されたのか・・・くっ・・・一体何者だそいつは・・・」

 

アカメもそんな馬鹿なと言う思いが渦巻き、にわかに信じられなかった。

それにラバックが補足した。

 

「・・・確かに言えるなそいつは・・・あいつ叩ッ殺したって死にそうにないからな・・・あいつを殺るなんざ相当な奴だぜ?そんな奴が居りゃ、それこそ俺達にとっても脅威になるんじゃねぇのか?」

 

「それは大丈夫だと思うぞ?さっきも言った通りだ。エスデスを狙った奴らしいからな、そんな悪い奴じゃないと思う。・・・それと、これはあたしの勘だが、・・・タツミはたぶん、・・・わざと死んだんだと・・・あたしは思う・・・」

 

「・・・いい加減にしなさいよ?・・・何言ってんのよ?タツミがわざと死ぬ理由なんて何処にあんのよ?」

 

マインが再び怒りのこもった目でレオーネを見るが、

 

「ラバの言う通り、タツミ殺せる奴なんてあたしが知りたいくらいさ・・・、けど、もしあたしがタツミだったら、皆に何も言わずに黙って死ぬ場所見つけて1人で死んでいくさ・・・」

 

アカメはそれを聞き、驚愕するが敢えて何も言わなかった。

 

「・・・タツミがあたし達に何も言わずに黙ってアジトからいなくなったのは死ぬつもりだったって事・・・?」

 

「馬鹿じゃないあいつ?せっかく革命終わってこれからって時になんであいつが死ななきゃならないのよ?」

 

マインは暴言とは裏腹に酷く悲しい顔をした。

 

「タツミは今までに、関係無い奴を殺した事もあったって言ってたからさ・・・それかねぇ」

 

「・・・皆殺しにしようと思ってた割には、あいつ・・・」

 

レオーネの返答にラバックも神妙に呟いた。

 

「タツミは自分がやろうと思ってやった事には悪事だって気にしなかったみたいだが、本人の意思に反してやった事は嫌だったみたいだな」

 

「じゃあ、タツミは・・・色々終わってその責任を取る為に・・・そして、エスデス庇うついでに死んだって事?」

 

「・・・・・・なんでエスデス何かの為に・・・」

 

チェルシーが片手で腕を抑え、吐き捨てるように言うに対し、レオーネは後ろに腕を組みながら宙を見つめ、

 

「あたしはその為にエスデスと一緒になったと思うけどね~」

 

「・・・どういう事?」

 

 

「あたしさ~さっきも言ったけど、死ぬ時は・・・そんな自分の死んだ顔何て恥ずいから見せたく無いんだよね~タツミも本当はそのつもりだったと思うよ?けどエスデスは知っての通り、ストーカーだからたぶん、タツミ追っかけてって・・・で、タツミも来るなって言ったと思うけど、それでも無理矢理着いていった・・・で、エスデスは大好きなタツミが自分のせいで死んだ・・・これは結構あいつにとって堪えたんじゃない?けっ・・・ざまあみな」

 

レオーネは口調は怒っていたが表情は諦観していた。

 

「あたし・・・今だからはっきり言うけど、タツミの事異性として好きだったんだ・・・もし、この中の誰かと、アカメちゃんか・・・例えマインでも・・・もしタ

ツミと一緒になっても・・・悔しいけど祝福しようとは思ってたんだ・・・だけどよりによってエスデスと・・・、もしあたしがタツミとあいつが一緒にイチャついてる現場見たら・・・タツミと刺し違えてでも彼を自分の物にしたかった・・・」

 

「あんた・・・」

 

チェルシーの告白にマインも少し唖然となった。

 

「でもレオーネの話で判ったよ?タツミってば本当は優しいから、きっと売れ残るエスデスに同情したんでしょ・・・でも、彼が死んで・・・あいつには自業自得な結果になったんだね・・・それが判っただけで十分・・・あいつは生きて苦しむ方がお似合いだね・・・あ~あ、タツミよりももっと良い人さ~がそ、・・・確かタツミ東の国から来たんだよね・・・あたしも一回連れられて行った事あるからさ、初めにそこに行こう?・・・じゃあ、もっと舟頑丈にして、あたしの部屋改装しようっと・・・、・・・もうこの話これで良いよね・・・じゃあお先に」

 

チェルシーは自分の顔を皆に見せずに、足早と去って行った。

 

「レオーネ・・・済まない・・・私もチェルシーの気持ちと大差は無い・・・。つらい役を押し付けて悪かった・・・貸した金はもう少し待っても良い・・・」

 

アカメはレオーネの肩を叩き、チェルシーの後を追う。

 

ラバックは首を鳴らし、

 

「あ~あ・・・死んだ奴は返って来ねぇんだからさ・・・ただ、なんだかブラートの兄貴やシェーレ姉さんが死んだ時より俺は悲しくねぇな、場合によっちゃ俺達の敵に回ってたような奴だ・・・そりゃそうだって・・・けどよ、あいつとバカやってた時

は・・・、・・・つまらなくもなかったぜ」

 

「まぁ?それはあたしも同じかな~」

 

レオーネと視線が合い互いにフッと笑った後、ラバックも廃屋から姿を消す。

 

「俺はタツミという奴が、例え敵でもそれなりに筋は通していただろうと思う・・・だから、俺はもしあいつと闘って敗れる事となっても悔いは無かっただろう・・・」

 

「スーさんらしい~」

 

「ラバック一人では肉体労働はきついからな、俺が居ないと奴はサボって困る、では行って来る」

 

「いってら~」

 

レオーネはスサノオを見送り、最後に残ったのは

 

「チェルシーあいつ・・・どんだけ尻軽なのよ?」

 

「いやいや、死んだんだし、死んだ男に操立てたって仕方ないじゃん?」

 

「・・・あたしはあいつよりももっとタツミの事・・・」

 

レオーネは黙っていようと思ったが敢えて意地悪をした。

 

「マインさーそんなにタツミの事好きならなんで、あたしと一緒に行かなかったん

だ?」

 

「あ、あたしだって必死に探したんだから!?」

 

「いやいや、西のあっちの方に・・・本当は怖かったんだろ?薄々判ってた・・・タツミが死んでいるかもしれないって事に・・・、いやそれよりももっと怖かったのが別の女と一緒に・・・」

 

「うるさいわよ!!」

 

 

肩で息をし、激昂するマインに

 

「マイン・・・あたしだって本当はな・・・」

 

「あっ・・・くっ・・・悪かったわ・・・あんたのタツミへの気持ちも考えないで・・・ええ、あんたの言う通り、怖かったのよ・・・もし・・・もし、タツミが別の女と・・・よりによって、エスデスと一緒に・・・一緒に仲良くしてる所なんて見たら・・・あたしも正気でいられる自信何か無い・・・」

 

二人ともしばらく黙りあった後、

 

「あたし・・・こうして無事生き残ったのに・・・なんでこんな悲しいのよ・・・こんな事ならいっそ・・・」

 

「・・・なぁマイン?あたし達さー下手したら全滅してたかもしれないよな?でもこうして生きてるんだから、タツミも結果としてあたし達を殺す事も無かった・・・でも時々言ってたな?“殺し屋のお前達には幸せな未来なんてない”って・・・、今こうして足洗っても、幸せな未来なんかなくたって・・・生きてればそれで良いだろ、な?」

 

「・・・いや、よくないわよ。タツミがそう言っても、あたしはぜーったい幸せな未来を勝ち取ってみせるんだから・・・そりゃ何人も殺したし、あたしだって・・・間違った相手を殺した事も・・・けど、これからはその分周りが良くなるよう精一杯努力して・・・何が何でも幸せになってやるんだから!!」

 

レオーネは心の中で肩を竦め、やれやれと安堵した。

 

「・・・全く・・・しょうがないわね~レオーネ、あんたは出立するまで適当に遊んでて良いわよ・・・けど、船出したらしっかり働きさない!良いわね!」

 

マインが出て行き・・・その廃屋もレオーネ一人やっと静かになった・・・。

 

 

 

 

「ご苦労だったなレオーネ」

 

そう言ってナジェンダがやって来た。

 

「ボス?いつからそこに~?」

 

「話の始めからだ」

 

「もう~・・・気配消すの上手くなりましたね~」

 

「ふふふ、皆が集合する前から隠れていたからな~・・・アカメ達に感づかれないか少々冷や冷やしたぞ・・・色々騒いでくれたおかげでお前達の気もそぞろだったからな」

 

「ありゃ~・・・油断大敵ですね、気をつけようっと」

 

「それよりもどうだレオーネ?ほとぼり冷めて戻って来たら・・・お前さえ良ければ私の右腕として改めて働かないか?その時はナイトレイドも噂だったと処理して、前時代のお前達の手配書も無くし、大手を振って帝都を歩けるようにして見せる」

 

「あたしですか?・・・うふふ、いやぁ難しい世界なんて無理です、ロクデナシなんですよ?あたしは下町でくだ巻いている方が性に合ってますよ」

 

「いや謙遜するな。お前のここ最近の働きはちゃんと見ているぞ・・・気が変わったら言ってくれ・・・それはそうと、しかしタツミがな・・・エスデスと・・・それよりも私が一番驚いたのはこれだ・・・」

 

レオーネはナジェンダから分厚い書類を渡される。

 

「ランも後で気が付いて私に寄越してきたのが・・・このタツミの書いた物だと渡されたのが・・・いやはや、私も半分位しかまだ理解できていない・・・」

 

「・・・あたしにはさっぱりです・・・ボス説明して下さい」

 

「そうだな・・・どうやらまとめると、タツミが人間を観察して思った事を書いているな、今後政務に役立てて欲しいのだろう・・・まず一つに人間の思考感情は脳の成分の働きによって起こる・・・初め読んだ時はさっぱりだった」

 

要約すると、脳の働きを変えるとその人間の意志人格も変える事が出来、それを操れる帝具もあった、その為、国家に従順な人間を作り出す事も可能な半面、反逆的な人間を多く増やす事も可能ではあるが、もうそれは無い。但し、意図的に多少であればそれらを作りだす環境を整えるのも可能ではある・・・だが、遺伝に起因する人格形成も大きく、その本質を良く踏まえた上で対処を行う事。お前達も暗殺部隊で薬物等、それらを行おうとしたが、それよりももっと強力な・・・いや、それは不要だ。とりあえず、

多様性もまた強みなのだから・・・、他には人間はチームを作って外敵と闘う性質を持つ為、外に敵が有るうちは良いが、無くなった場合新たな敵を設定して闘うようにプログラムされている為、その本能を自覚し、理性で持ってコントロールするか、平和的な代替案を提示する事とある。

その後、事細かに色んな示唆が書かれている。

 

「はぁ~・・・外敵が居なくなったら、ですか・・・?」

 

「まぁ・・・レオーネ、私達はこの先、敵にはならないようにな?これからもずっと戦友だ」

 

ナジェンダは政治の世界、レオーネは庶民の世界で二人とも一瞬、敵対する未来が頭をよぎったが、

 

「もちろんですよ、ボス!アジト壊す前にボスが無くなったと騒いで半泣きしてた50年物の酒もぜーんぶあたしが内緒で保護してますからね♪」

 

その後、レオーネは地面に自分の顔の型をつけるハメになった。

 




あと2話で最終予定です。


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最期を斬る!(前)

元ナイトレイドのメンバー達は自分の生き方を見定め歩き、その後の人生を送った。

帝都も安定していき、いつしか過去の暴政も風化しナイトレイドの存在も人々から忘れさられようとしていた。

そんな革命から幾年月が経った時の事だった。

 

エスデスはその名を伏せ、大勢の人前には出ず、対渉外関係は初めの頃からの専属出入り商人、ナウド・・・彼に任せた。

 

そして、エスデスの居る地域も発展していき、水道等のインフラも行き届き人々の生活も向上しつつあり・・・そんなある日その噂を聞き付けたという理由で帝都の大臣が是非面会したいと尋ねてきた。

その事を相談しに、その彼がエスデスの所に来た。

 

「先生どうするね・・・まさか、帝都のお偉いさんが来ちまったよ・・・俺も先生は人前に出る事を憚る方だと何度も言ったんだが・・・いやぁ参った、“会えば判る”の一点張りでね~先生・・・いや、エスデスさん、まさかあんたの昔の知り合いじゃ・・・」

 

「・・・その方のお名前は?」

 

「ああ、それは・・・」

 

エスデスはその名を聞き、

 

「判りました・・・その人を連れて来て下さい・・・但し、その方御一人とだけ」

 

「・・・本当に良いんですかい?まさか、過去のあんたの所業を裁く為に・・・気をつけて下さいよ、俺ももうあんたには死なれちゃ困るんで」

 

エスデスは微笑みながら、その言葉を受け流し・・・そして、その日が来る。

 

其の大臣は、屈強な従者数名を引き連れ・・・そして大臣のその直ぐ傍には顔を目以外は隠した男が一人、ぴったりと警護していた。そして彼のその隙間からは僅かに緑色の髪が覗いている。

 

エスデスの住んでいる家は元のままから増改築し、今ではちょっとした大きな庭園に囲まれた少々洒落た雰囲気の空間を醸し出していた。

 

ナウドが彼らを迎え、

「お待ちしておりました・・・大臣どうぞ御一人で中へ」

 

それを聞き、傍の1人が前に出て暗黙の牽制をすると、

 

「ラ・・・あ~、大事無い。私一人で大丈夫だ、他の者たちもここで待機してくれ」

 

止められたその警護の男は目で大臣に問うが、改めてそれに頷き返す。

 

「ささっ、お付きの方々はこちらへ、遠路はるばるこのような所まで・・・冷たいものを用意しておりますので、どうぞおくつろぎくださいませ」

 

ナウドに先導され、従者達は離れるが、後ろ髪を引かれるように大臣を見るその警護の1人。

その彼に苦笑しつつも、大臣は若干緊張の汗をかき、彼女の所へ向かう。

 

ここが西の砂漠の地域だと忘れてしまうような・・・庭には川が流れ、小鳥たちも水浴びしに来る。

そんな庭に作られた東屋にエスデスは紅茶を呑みながら、本を読んでいた。

そこから数メートル間を取った所から

 

「・・・済まないな、先生・・・忙しい所、無理を言って会って頂いて・・・」

 

「いえ・・・こちらこそ、本来ならば大臣のお呼びでしたら・・・こちらから出向かねばならない所を・・・どうぞ、こちらへ・・・程良く冷えたのがありますので」

 

そう言った後、二人にしばし沈黙が訪れる。

 

先に口を開いたのは大臣の方だった。

 

「ふっ・・・ふふふ、エスデス・・・やはりお前だったか・・・、お前にもそんな言葉が使えたとはな・・・見直した、を通り越して、デモンズエキスを使われずとも背筋が寒くなるぞ」

 

呑みかけの紅茶を置き、笑いを堪えられず

 

「くくく・・・、ナジェンダ・・・まさか貴様が大臣とはな・・・やはり老いたな」

 

「老いた、だと?お前ほどでは無いさ・・・」

 

「ふっ、私はあの頃からほとんど老いてはいないがな」

 

「私とて周りの者から20代と勘違いされ」

 

「それはお前の腰巾着共の世辞だろう?そんな事も見抜けぬほど衰えたか?」

 

 

 

「おほん・・・こんな下らん事を言いに来た訳ではないぞ」

 

「そうか、帝都はどうやら人材不足のようだな。それとも、オネストのように暴利を貪っているのか?」

 

「・・・私が権力の座に着きたいが為に、革命の言葉を弄んだと思っているのか?」

 

「ふっ・・・、今更私が関わる話では無かったな・・・」

 

「答えろエスデス、どういう風の吹き回しだ?戦闘狂だったお前がよく今まで大人しくしていたな・・・」

 

「・・・帝具はどうやら私一人だけしか持っていないようだからな、お前達に帝具が無ければ、つまらん闘いしか出来ぬ・・・興が削がれただけだ」

 

「・・・本当にそれだけか?」

 

「帝具が無い者で少しは私と闘えるのはブドーやランくらいだろう?そんなお前達が束になって掛かって来た所で・・・」

 

「話を逸らすつもりか・・・、私は本当にそれだけか?と聞いているんだ」

 

「なんだ?それ程までに自滅願望でもあるのか?ならば望みを叶えてやらんでもないぞ?」

 

エスデスは人差し指から空中に無数の小さい氷塊を顕現させて、それを回転させる。

 

「確かにお前にとって大した相手が居ない事も理由だろうが、本当はタツミが影響していたのだろう・・・お前が慈善事業の片棒を担ぐなど似合わない真似だからな」

 

「ふん、お前らしいな。やはり事前に私らの事を調べてきたか・・・」

 

「初めはお前が氷の中に何か人々を操る新たな技を仕込んだのか?と冷や冷やしたぞ・・・」

 

遠くを見つめ、空中で回転させていた氷塊を指を鳴らしたと同時に、霧散させる。

 

「ダ―・・・タツミを・・・、死んだ者を甦らせる秘術は無いのか・・・ナジェンダ?」

 

「生憎、そんな話は聞いた事が無いな・・・らしくないな、お前が私に助け舟を求めるとは」

 

「ふっ・・・私も腑抜けになったか・・・?・・・、・・・良いだろう折角ここまで来たのだ一つ話をしてやろう・・・あれはまだ彼と会って間も無い頃だったか・・・」

 

「ん?・・・」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「エスデスお前、自分の事を強いと思ってんだろ?」

 

「・・・弱くは無いとは思っているが」

 

「帝国最強と言われてるもんなぁ~」

 

「タツミ・・・何が言いたいんだ?」

 

「お前は自分が強いから何をしても良い、のような事をぬかしてるが傍から見たら他の奴より少しだけ強い程度なんだがな」

 

「私が他の者共よりも・・・少し強い程度・・・だと?・・・タツミは一体どれ程のレベルの者達の中で修業してきたのだ?」

 

「・・・とにかく、お前はもっと強くなれば・・・そう更なる高みに辿り着けば、今度は逆に自らに枷を掛ける必要が出てくる。」

 

「ん?・・・強い者であるのに、制限が生じるのか?」

 

「そうだ、弱い奴よりも強い方が出来る事が大きくなる・・・だがな、強い奴は今度は弱い奴よりも数倍自分を律する必要が出てくるんだ!」

 

「・・・判らん・・・強い者が弱い者よりも・・・」

 

「大体お前が強いのは運が良かっただけだぞ?」

 

「?私なりに研鑽を積み、ここまで腕を磨いたのだ・・・それが運が良いだと?」

 

「ああ・・・五体満足で生まれた事や心も安定して生まれた事、闘いの才能を持って生まれた事や今まで自分よりも弱い相手としか出会わなかった事とかな・・・もしお前が、この中のどれか一つでも欠けてたらここまで強くはなれなかっただろう?」

 

「む・・・?」

 

「運も実力の内、何て言うがな・・・その運のおかげでお前はここまで強くなっただけだ、ってなると運そのものが最強って事になるな・・・そいつの努力でどうにかなったと思ってたって、せいぜい1割くらいなものだ」

 

「タツミ・・・」

 

「少しは判ってくれたか?」

 

「もっと面白い話をしないか?」

 

 

 

「お前、ぶっとばすぞ!!!・・・とにかくお前だってあの皇帝操ってるオネストだって運が良かったからその立場になれただけだ・・・全て自分の力でやったとなんざ、思って自惚れているから、そうやってふんぞり返っていられるんだ!」

 

「・・・・・・」

 

「今は判らなくても良い、その足りない頭の中にでも忘れねぇよう叩きこんどけ!」

 

そして、しばらく経って所帯を持った時にも彼は似たような話をした。

 

「うむ・・・ダーリンよ、・・・以前にも同じ話をしていたな♪」

 

「う・・・お、お前が今一つ飲み込めて無いから、同じ事を言うんだろうーが!!そ、それに、同じ事も時間が経って聞けば別の見方も出来る場合もあるだろ・・・大体お前、闘いの面じゃほっといても勝手に成長してやがるだろ、こういう面でも進歩しろ」

 

「ふぅ・・・我が夫も理解力が乏しいなぁ、私にそのような話をしても今一つだぞ♪だから真面目に語る夫の顔しか目に入ってないぞ♪」

 

タツミの堪忍袋が切れる。

 

そして・・・

 

「う・・・くっ・・・これはなかなか・・・うっ、ああ・・・・・・!!」

 

タツミはエスデスの胸を両側から拳で的確な位置に高速回転を加える。

 

『な、なんだ・・・この痛みと快楽は・・・』「くっ・・・・はぁはぁ・・・」

 

エスデスは息をしながら膝を着き、タツミそのまま放置して出て行こうとする。

 

「少しはそこで反省してろ!」

 

「ふふふ・・・、タ、・・・タツミはしてはならない事を私にしてしまった・・・ふふふ、今朝したばかりだというのに・・・ふふふ、また火が付いてしまったぞ!うふふふふ」

 

「ん!?何を言っているんだお前は!」

 

エスデスが顔を紅潮させ肩で息を荒くしながら、タツミに迫る。

 

「ふふふ、ダーリンはほとんど最後までいかないのだからな・・・私はその間に何度も・・・心地良い事は心地よいのだが・・・それだけでは寂しいぞ?やはりダーリンも一緒に、な?ふふふ」

 

「お、落ち着くんだエスデス、今朝したばかりだろ?大体俺は子は作りたくないと言っただろ?お前ここ数日は大丈夫な日だ・・・とか言ってたが、本当にそうなんか!?」

 

「うふふふ、くくくくく、あはははは・・・大丈夫だぞ、出来てしまえば、きっとダーリンも父性とやらが目覚め、そのような瑣末な事は・・・くくく」

 

エスデスは逃げられないよう、部屋周囲を氷漬けにする。

 

 

 

「いい加減にしろ!!それ以上お前の惚気話なんぞ聞きたくはない!!」

 

「む!?・・・ふぅ・・・折角の良い所を・・・よくもナジェンダ台無しにしてくれたな・・・」

 

エスデスが過去の話にトリップして帰って来ない事に業を煮やし、そして頭を抱えながら、

 

「あ~まったく、何かと思えば途中までは真面目な話だったのに・・・聞いてはいたが、まさか本当にお前と所帯を持ったとはな・・・だが、タツミのそんな話は知りたくは無かった・・・」

 

「私は貴様らが知らんタツミの色々な面を知っているぞ!!・・・あの時のタツミはもう帝具を持っていなかったからな・・・もう私の勝ちだと思って押し倒したが、ふふふ・・・あんな技を持っていたとはな、見事に返り討ちにされてしまった・・・ますます惚れてしまったぞ・・・ふふふ」

 

ナジェンダは出された紅茶を何杯も自分で注いだ。

 

「もう、どうでも良いそんな事は!」

 

「ふむ・・・しかし、元々は・・・そうだナジェンダ貴様がタツミと私との甘き生活を聞きたいと言い出したのだろうが?・・・ふぅ全く、だから私は嫌嫌ながらだが、特別に語ったのだ、感謝しろ!」

 

そして、怒りを溜めて・・・

 

ふ・ざ・け・る・なぁああああああ!!!!!!私がいつ聞きたいといったああああああ!!!!!!!

 

 

ナジェンダは息を荒げ、怒りながらそのまま退出して行った。

 

1人残されたエスデスは遠くを再び見つめ

 

「ふっ・・・、ダーリンの言う事が今なら・・・幾らかでも判ったのか、私は・・・?」

 

 

ナジェンダが外で部下達と合流し、帰る際にその内の1人が聞いてくる。

 

「大臣、あやつはやはりエスデスでしたか?」

 

「・・・、ああ・・・、いや、他人の空似だった・・・恐らくエスデスは噂通り、体内の帝具が暴走し、もう、とうの昔に死んでいたのだろう・・・あの女は特に問題は無さそうだ」

 

傍に控えた警護の男はナジェンダの顔を窺ったが、それに対し、自信のある笑みを返した。傍から見たら判り難いが、互いはそれで通じ、その男もやれやれと安堵したようだ。

 

 

そして再び時は過ぎ・・・、年に比べれば若く見えるが老年の域に達したエスデスは自分の死期を感じ取っていた。

 

「せ・・・先生い、今なんと言われましたか・・・!?」

 

「ふふふ・・・まだ、耳が遠くなるようなお年ではないでしょうに」

 

「いやしかし・・・あと3日後にお亡くなりになるなんて・・・そんな御冗談を・・・」

 

「貴方のお父さんにも・・・随分お世話になったわね・・・、親子二代で今まで有難うね・・・」

 

「義父・・・先代が一代であそこまでの財を成せたのは貴女のおかげです・・・先生は私にとっても・・・」

 

ナウドはこれと目を付けた男を養子にして、仕事の後を引き継がせ、その彼も数年前に既に他界している。

 

「本当、貴方がまだ10歳位だったかしら?元気良かったわね~そんなあの子がまさか今はこんなになるなんてね~くすくす」

 

彼は昔を話をされ、冷や汗をかきながら

 

「いやその節はガキの頃のお・・・私を叱ってくれたり、本当に若気の至りだったとはいえ、本当に・・・」

 

「もう良いのよ・・・でも私の家に盗みに入るなんて・・・可愛い男の子だったわねぇ・・・うふふ」

 

「どどどどど、どうかもうそれ以上はご勘弁下さい!!」

 

「あらら、改めて思うとあの頃から本当にお行儀も良くなって・・・うふふ、でも・・・私も人の事言えないわね・・・」

 

「?先生もお若いこ・・・いえ、以前は今のような振る舞いでは無かったのですか?」

 

「貴方とおんなじよ・・・昔の私を・・・貴方にはとても見せられないわ・・・これはおこがましいかしらね?私を貴方の中の良いイメージのままで居させて頂戴」

 

「え?ああ・・・はい・・・」

 

それから二人は昔話に華を咲かせ、そして・・・

 

「出来れば今直ぐにでも行いたいのだけれど・・・、貴方にも心の準備が必要よね?」

 

「え?はい?何の事で」

 

「ご免なさいね・・・貴方には私があの人の所へ旅立つ立会人になって欲しいの・・・遺体もきっと残らないだろうから・・・」

 

彼は一瞬杭で打たれたような衝撃が走り・・・微動だに出来なかった。

 

「ま、待って下さい・・・まさか、何かの爆薬でも使われるおつもりですか?そんな・・・」

 

「いいえ・・・もうちょっとスマートよ、けども私も今まで殺してきた相手の遺体を骨も粉々にして、バラバラにして来たと思うと・・・今更ながら申し訳なかったわね・・・」

 

「え?まさか・・・先生が・・・それはきっと止むにやまれずですよね?・・・先生がそんな・・・俺にはとても、虫も殺せなさそうですのに・・・いや、お強いのは確かですが・・・はぁ・・・そんな昔が」

 

「あら、うふふ、そう見えるんなら私も人を騙す取り繕いが上手になったのね・・・ふふふ」

 

そして、夜遅く彼がエスデスの元を離れ、あと3日の命などと言うのはきっと本人がそう思い込んでいるだけであり、何とか説得すれば、自殺紛いな事はすまいと押し留める方法を必死で考えていた。

そして2日後、

 

「よく来てくれたわね・・・本当は明日にしようかと思ったけど、万が一理想の死に方をする前に力尽きたら・・・それこそ死んでも死にきれないからね?ふふふ」

 

「先生・・・」

 

彼は何処でどう説得しようかとその話の隙間を見つけようとしたが・・・どうにもその隙が中々見出せない。

 

エスデスは彼を地下室への階段へと誘った。

 

「せ、先生こんな地下室が・・・」

 

「ええ・・・今まで誰にも秘密にしてたんだけどね・・・貴方には立ち合って貰うから特別よ・・・」

 

そして、地下室は広く、家財道具や寝室など普通に暮らせるものが一式揃っている。

 

「これは・・・誰か住んでいそうな・・・」

 

「ふふ・・・女の子がおままごとで玩具の家で人形使って遊ぶわよね?それと大差ないわ・・・」

 

「はぁ・・・先生が女の子ですか?私には大人な方にしか・・・」

 

「それはね、隠してるだけ・・・正直この場所を教えるのはとっても恥ずかしいんだからね!」

 

「え?は?・・・ああ、ありがとうございます?・・・」

 

そう言って片目瞑って、秘密だぞ?との意味で人差し指を唇にあてるエスデスに、年が離れているとはいえ、一瞬彼はドキッとした・・・彼女が一瞬自分と同じ位の年の若い女性に見えたからだ。

 

「本当・・・等身大のお人形さんよね・・・あなた」

 

「!!??」

 

エスデスは昨日一日かけて慎重に作業をし、氷漬けにしていたタツミの遺体を取り出した。そして、その彼をベッドに寝かせていたのを起こし床に下ろす。

 

「昨日は苦労したわ・・・本当に壊すのは簡単だけど・・・壊さずに行うって、本当大変・・・あなたの言った通りね・・・」

 

「こ・・・これは先生一体・・・この若い男は・・・??」

 

彼の中で悪い想像が浮かぶが、

 

「ち、違うのよ・・・彼は私の夫なの・・・もう私が若い時に亡くなったのだけどね」

 

「先生貴女は一体・・・?」

 

「・・・昔ね、帝具っていう今のあなた達から見たら魔法みたいな、そんな道具があったの・・・そして隣のあの帝国には昔、氷の帝具を操った悪い女の将軍がいたの・・・」

 

「え?いや、御伽話で聞いた事はありますが・・・それはちょっとした噂が大きくなっただけと・・・それと氷を操る女将軍?一体誰ですか?」

 

「そうね・・・そういう話にしたみたいね・・・大臣が・・・いえ、夫の入れ知恵もあったのかもしれないわね・・・」

 

そう言ってエスデスは彼に腕章を渡す。

 

「これは・・・?」

 

「これは昔、私が帝国で警察の真似事をしてた時に使ってたものなの・・・これを形見にして、皆に私が死んだ証にして・・・」

 

「な・・・ま、俺の話も」

 

彼の言葉を無視し、エスデスはタツミの遺体に寄り添い目を閉じる。

 

「夫はね全ての帝具を無くす事を目的にしていた・・・これでやっと、願いを叶えられる・・・うう・・・今まで私一人でとっても寂しかったぞ・・・今度こそ嫌がらずもう離れて行かずに出迎えてくれるよな・・・タツミ・・・ダーリン」

 

「せ・・・先生!!」

 

彼が止める間もなく、

 

エスデスは一気にタツミと自身も含め、氷漬けにし、

 

「先生―!!」

 

 

 

 

 

 

 

跡かたも無く氷塊は砕け散り・・・髪も骨も細かくなり・・・どれがエスデスの遺体なのか判らなくなっている・・・

 

「ううっ・・・ああ・・・、なんで・・・本当はそんなにおつらかったのですか?・・・い、いいいままでありがとう・・・ございまし・・・」

 

彼はその場で号泣し続けた・・・

 

 

 

 

そして・・・

更に月日は流れ・・・、

ここは通常の世界では認識されない、不可視な次元。

そこでは物質は存在せず精神体のみなのだが、そこに住まう存在達は任意でその姿を変化させられる・・・ある者は霧状のまま、ある者は然程多くは居ないが・・・生前の姿のままの者も・・・そして、かつて・・・。

 

 

殺気を察知し、その男は目覚めた。

 

寝ていた所から直ぐ様飛びおり、体勢を整える。

一瞬でも遅ければ串刺しになっていた。

 

「ふん・・・起きおったか・・・変わらず勘の良い奴め・・・」

 

だが直ぐに横薙ぎに刃風を喰らわせ、男は防御していても壁に叩きつけられる。

相手の体躯は何倍もあり、恐竜のような姿形をしている。

 

「なんだ?その脆弱な姿は・・・かつての宿敵の堕落した姿など見るに堪えん・・・再び無へと帰り、消え去れ!!!」

 

男の自身の2倍はあるであろう、その刃をすり抜け、手首に体を入れ無刀取りを行う。

 

「ぬぅ・・・弱くなったと甘く見たか・・・」

 

「相変わらずだな・・・貴様に遅れを取るようなら、殺される前に死んでおくさ・・・」

 

彼はその大剣を肩に担いだ後、その感触を確かめる為に振りまわす。

 

「そのニンゲンとやらの体でも、伝説の一騎当千と言われた腕は鈍ってはいなかったか・・・挨拶程度で死なれても困るからな・・・」

 

「挨拶代わりな・・・。あのまま目覚めなければ殺すつもりだったのだろう?ふん、まぁ良いだろう。まさか貴様もこの場に居たとはな・・・あの時死んでそのまま無になったと思ったがな・・・」

 

かつてのやり取りを思い出していた。

“・・・ぐっ・・・貴様とは長い付き合いだったな・・・お前の手で奴を倒せ・・・だがその前にお前の手で俺を殺せ・・・俺に武人(もののふ)としての最期をよこせ・・・”

 

 

「・・・ふん、あの時は世話になったがな・・・だから、先程は手加減したのだ」

 

「答えろ、ファングロン。大抵の生命体は死した後、無になるだけだ。稀にお前のように、ここに来る者が居る・・・無論、面倒な仕事を押し付けられる事になるがな・・・」

 

「明察通りだ・・・、俺が何故あのような者に従わねばならんのだ・・・ちっ・・・」

 

「ふっ・・・貴様にはお似合いだな」

 

「お前も俺の事が言えるか!!聞いているぞ、あの統括と呼ばれている者に本来は、お前はあの世界で死し後、無に返る事を強く望んだらしいが・・・こうして存在している・・・無様だな・・・くくく」

 

「そうだ・・・お前との下らん話で失念していたが・・・何故だ、何故俺はここに居る?・・・俺を復活させれるなんぞ本来もう出来ないはずだ・・・あの統括を除いて・・・いや、彼ですら本来難しいはずだ・・・」

 

「約束反故か?知らんが本当は貴様が目覚めるまで自分が居たかったようだが・・・他用が出来て戻ったぞ・・・俺は貴様の望みを叶えてやろうと思ったから、まだ目覚めぬうちに殺そうと思ったまでだがな・・・」

 

「ふん・・・余計な気遣い感謝する・・・だが、一度復活したからには統括権限が発動している・・・その内は再度復活させられてしまうはずだ・・・おのれ、俺との約束を破りやがって・・・許せん・・・」

 

「そんなに文句が言いたければ行ってこい、その扉を右に真っすぐ行った所が奴の執務室だ」

 

「ああ・・・判っている。もうお前とは会わんとは思っていたがな・・・これで本当にさらばだ・・・」

 

そう言って、彼は扉を開け出ていく。その界域は全て霊的物質だが、それらの物質や霊体同士だと触れることが基本は可能である。

 

「もう会わんか・・・くくく、だと良いがな・・・ビッグガバン・・・いや、今はタツミと言うべきか・・・・くくく」



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最期を斬る!(後) 完

その執務室は広大であり、色々な宇宙や星の情景が浮かんでいる。

それを見て判断し、それぞれの部下に統括長と呼ばれた者が指示を出している。

 

『やれやれ・・・私がこのような事を・・・昔が懐かしい・・・だがこれも全て・・・』

 

「長(おさ)、この案件はこれで宜しいでしょうか?」

 

部下の一人に尋ねられ、思考を中断し

 

「ええ・・・そのようにして下さい・・・ですが、ここの座標内のレベルはまだ途上です。流れが安定するよう再調整し、その後の推移を観察・・・今後に影響をおよぼさないようにして下さい」

 

「畏まりました」

 

一礼した後、その彼は姿を消し現場へと向かう。

 

他の一つ一つの案件も片付け、その場には統括1人となる。その時にこの部屋出入口の扉で何やら口論している声が聞こえてくる。

 

『来たか!?・・・ふふふ、・・・くぅ~・・・本当は私が目覚めの瞬間に立ち合いたかったああああああ・・・』

 

 

 

「久しぶりだな、ガーディアン・・・まだ居たとはな」

 

「・・・!?貴方は・・・復活したとは聞いてはおりましたが・・・随分、貧弱・・・ゴホン、耐久性に問題ありそうな風体を・・・何故以前のような姿では無い

ですか?」

 

タツミは執務室の物々しい扉の前に立ちはだかる自身の3倍はある体躯を誇る鎧の男に話しかけている。

体躯や見かけは本人の技量が有れば余り関係はない・・・とはいえ、並みはずれていれば例外もあり、ガーディアンはその事を言っている。

他の点では外見は個人の好みに因る為、拘らない者で有れば霧状になっており、それではつまらないと思う者は基本生前の姿のままでいる。

 

「俺もこの格好でいるのは不本意なんだが、統括権限なのかこんななりのままでいる・・・それと、約束反故の疑いで統括殿に会いに来たんだ、そこを退いてくれ」

 

「はぁ~あ・・・成程・・・」

 

ガーディアンは見た目に反し、気さくな口調である。彼は顎に手をやり、何か思案をして、

 

「残念ですが・・・アギト殿、統括様とはお会いになれません」

 

「アギト・・・か、俺が生を受けての初めの名だったな・・・いや、そんな事はどうでも良い、どういう訳だ?統括には会えないとは?」

 

「言葉通りの意味です。貴方様がお会いしたいと思っている統括様とは会えないと言う意味です」

 

「・・・どういう意味だ?」

 

「さぁ・・・どういう意味でしょうかねぇ・・・」

 

タツミから怒りが膨れ上がり始める・・・

 

「ガーディアン・・・誰が右も左も判らんお前に手ほどきしたか覚えているか?」

 

警護を任されている彼をして、たじろがせるその迫力はかつて誰もが震えがったその存在だと言う事を思い出させるのには十分だった。

 

 

「はぁ~・・・判りました、判りました・・・統括様は、アギト先輩が知る統括様はもう既に入滅されています」

 

「な!?・・・長が、マスターゼノは無くなられたのか・・・」

 

「はい、先代・長はもうご自分のやるべき事は全て終わったと・・・先輩には申し訳ないが後進に託したと言っておられていました・・・」

 

「そうか・・・マスターは無くなられたか・・・」

 

この世界でも寿命・・・というよりも、後継者が見つかった場合等で自身の役割が済んだと判断した場合、それを申請し統括長の許可が下り次第、消滅・・・一切の無に還る事が出来る。統括の場合は重役との協議もあるが、基本は本人自身でそれが決められる。

 

タツミも彼には恩も感じてはいたものの

 

「だがそれも致し方ない・・・今は俺自身の問題だ、約束に反故があった。それを招いたのは誰だ?先代か?今の奴か?」

 

「・・・では、それは先輩ご自身の目で確かめられてください・・・どうぞ」

 

その重い扉を開け、タツミは中へと入って行く。

 

 

 

中は先程と変わって、静まり返り全体が氷のように青み掛かった景色で、遠くの方は靄で何処までが境になっているか判らなくなっている。

 

「相変わらず広い場所だな・・・ここは・・・で、あんたが俺の疑問に答えてくれるんだな・・・現、統括長!」

 

タツミが中央を通り過ぎて振り返った時に、先程まで誰も居なかったその場所に髪の長い女性を思わせる霧状の青いシルエットが椅子で腰掛け後ろを向けている。

 

「ふふふ・・・、そうお怒りになられずに・・・どうです?一緒にお茶でも?」

 

ここの住人達は当然飲食をする必要はない。あくまでその雰囲気を楽しんでいるだけに過ぎず、味は感じても消化されたり等々は無く、体(?)の中に入っても消えるだけである。

 

彼女は指を鳴らし、

 

タツミの前に地面からテーブルと紅茶を顕現させる。

 

「・・・おめぇは誰だ?」

 

顔も判らないその長がニヤッと笑ったように見えた。

 

 

手に取ったその熱い紅茶の中には、一欠けらの氷が浮かんでいる。

 

「お前・・・まさか・・・」

 

 

 

「くくく・・・うふふふ・・・そうだ・・・ダーリンに愛された私だぞ♪」

 

そのシルエットが次第に人間の姿形に変わり、衣服を纏ってその姿を現す。

 

 

「エスデスか!?」

 

彼女は、生前のタツミと共に居た時の年齢の姿を現し、衣服は自身がかつて居たパルタス族の民族衣装となっている。

 

「ば、馬鹿なバカなばかな、・・・俺はまだ夢でも見ているのか?死ぬ前の一瞬の夢でも幻想でも見ているのか?」

 

「うふ、そんなに私に会えてうれしいのか?私も嬉しいぞ?・・・ふふふ、タツミと会うのにかなりの苦労をしたぞ?」

 

「くっ・・・誰が嬉しがるか?そうか・・・死んで無になった俺を呼び戻したのはお前か・・・余計な事を・・・だが、統括権限でも無になって時間が経った者を復活させるのは、ほぼ無理な話なはずだ・・・それなのに何故・・・」

 

「うむ、先代殿から話は聞いているぞ。そして、中々話の判る男だったな、私が亡き夫を追って来たと説明したら二つ返事で許可してくれたぞ♪」

 

「あんの爺がぁあああ・・・俺との約束をどうしたあああ!!」

 

「全く・・・そんなに私との再会を喜んでくれるとは、照れてしまうぞ♪」

 

タツミの怒号を無視してエスデスは普通に話を続ける。

 

「タツミの精神を紡ぎだすのにかなり難航したが・・・ふっ流石私だな、自分で自分に褒めてやりたい・・・タツミ・・・ダーリンがし・・・死んでしまったあの日を覚えているか?」

 

「あの時か・・・あの時がどうした?」

 

「ふふふ、覚えてくれていたか?あの熱く愛しあ」

 

「そうか、まさか摩訶鉢特摩か!?」

 

「・・・・・・むぅ~折角私達が愛し合った記憶を共に思いだそうとしたものを・・・ふふふ、過去の事よりこれからの事が大事だと言いたいんだな?」

 

「うるせぇ!!ちぃ・・・あの技か・・・あれのせいか・・・」

 

「ふふふ、流石私のタツミ、察しが良い。明察通り、過去の精神を呼び戻す手掛かりを掴むのは容易ではない・・・だが、あの時、時を凍らせたからな♪その時の残滓を辿り・・・結構な昔でも呼び戻せたぞ、ダーリンが死んだ直後の精神を再構築したんだぞ・・・私の愛の力だな!」

 

タツミは怒りに肩を震わせ

 

「お前という奴は・・・俺が死んだあとでも・・・余計な事ばっかりしやがってぇ・・・おい、エスデス!!」

 

「うむ!礼に及ばんぞ!・・・ぐふふ、当然の事をしたまでだからな」

 

「余計なことの間違いだ、ドアホ!!・・・下らんお喋りは終わりだ、とっとと俺を無に還らせろ!」

 

タツミとエスデスは睨み合うが、彼女は顔を横にぷいっと背け、

 

「断る!!」

 

「お前の統括権限さえ、無くせば俺は消えれる!・・・大体俺がこの(タツミの)格好のままもお前の趣味だろう!」

 

「全く、私がどれだけ苦労してここまで辿り着いたと思っているんだ?私も大抵の他の者達同様・・・死んで消え去ると聞かされたが・・・タツミに再び会いたい一心で・・・気が付けばこの世界に居た・・・それからが色々有ったな・・・何やら地獄という場所でそこを取り仕切っている者から、酷い目に遭ったぞ・・・タツミの名を出したらやけに驚いていたがな・・・確かタツミの後進の者だったのか?」

 

「あいつか・・・あいつは元気だったか?いやそれよりも、お前馬鹿だな・・・無理に消えずにいようとするから・・・この世界に来るから、そんな酷い目に遭うんだぞ?大人しく消えてりゃ地獄何ぞに行かずに済んだものを・・・言っとくがな、お前が居た星や物質世界に居る住人は死んであの世に行く場合はほぼ100%地獄に行くからな」

 

「そうだ・・・何故だ、私は死んで幽霊とやらになれると思っていたのに、死んだタツミと会えると思っていたのに・・・かなり回り道になってしまったぞ・・・何故この私が地獄何ぞに行かねばならなかったんだ?」

 

「お前な・・・統括の癖に・・・判ってて聞いてるのか?ああいう物資世界の動物達は基本他の生命を殺して喰っていかなきゃ生けていけないだろ?だから、そういう風に生まれた時点で罪が有るんだ、だから、死んで無になりゃ良いものを・・・たまにお前みたいな奴がこの世界に来た時は当然地獄行きになるのは当たり前だろ」

 

「・・・強さ弱さに関係なく、そう生まれた時点で・・・地獄行きが決定とはな・・・理不尽なものだな・・・」

 

「生まれた・・・その時点で生まれてこない者よりも強者という・・・見方も出来るかもな・・・理不尽な事をまずは受け入れて、それからどうするかだと思うがな・・・・・・」

 

「ふふふ、やはりタツミだな、この私相手に気にせず意見するのはこの空域でも数える者しかいないぞ?やはりタツミには私が必要なのだな♪」

 

 

「逆だろうが!!この野郎!!」

 

 

「ふふふ、そう愛の言葉を囁かれると照れてしまうぞ?」

 

「お前、本気でぶっとばすぞ!!お前、前より頭のネジが緩みやがったな!」

 

 

 

「私はタツミの本心を読心しただけだぞ?・・・うふふ、とにかく、私はタツミに会いたくて来たんだ!・・・まぁタツミから受けた仕打ちをもう少し酷くした感じだったからな・・・何とか乗り越えられたぞ、それも全てタツミへの愛ゆえだからな!・・・タツミへの愛ゆえだからな!重要事項だから二度言うぞ!」

 

「知るかボケえ!!・・・、・・・それでその後どうした」

 

 

「ああ、地獄を終えた後、タツミの後進の者がここを紹介してくれてな・・・それから長い年月をかけ、修行したぞ・・・そして、先代殿に抜擢され今に至る訳だ・・・」

 

「お前・・・」

 

「ふふふ・・・我ながらなんて出来た妻なのだ!自惚れてしまうな?」

 

タツミは頭痛を感じながらも、深いため息を付いた後、

 

「ああ・・・とにかく、話は判った・・・さっさと、お前の権限を解除しろ・・・」

 

「ん?つまり、私と消滅する日まで共に居ようと言う意味だな?全く直球過ぎて悶えてしまうぞ♪」

 

タツミの周りの空気が刃の如く、禍々しさを帯びる。

 

「・・・いい加減にしろ・・・俺はもう役目は終えたんだ・・・エスデス・・・お前も腕をかなり上げたかもしれないが・・・そんな事はどうでもいい・・・俺の消滅許可を出さなければ、お前には死んで貰うぞ・・・」

 

タツミは一歩踏み出し、エスデスとの間合いを詰め始める。

 

それはエスデスが久しく忘れていた恐怖の感情を思い出すのに十分だった。

 

「っ・・・!?タツミ・・・タツミが私に罪を、罪の自覚を教えてくれただろう?そして、罪を背負ってでも贖罪に生きる事を・・・この私にそれを教えてくれたのはタツミ、貴方だけだ!!」

 

それを聞き、一瞬黙考したが

 

「俺は・・・俺は仕事をしただけだ・・・そこから何を自覚したかはお前の勝手だ・・・俺は教えたつもりもない・・・」

 

「嘘だ!!」

 

一瞬タツミも止まったが、しかし再び距離を縮め始める。

 

 

「今度は私がタツミに教える番だ!」

 

「お前が俺に教える?偉くなったもんだな・・・」

 

「ああ・・・私もタツミの過去を調べたぞ?そして、今は私の方が年が上だぞ!!」

 

「それがどうした!!」

 

タツミは右手を振りかざし、空間を切り裂く。

 

斬・斬・斬!!!

 

それが無数の見えない刃と化し、エスデスを3つに斬り捨てる。

 

それは霧となり空間に溶けて消えていく。

そしてタツミは後ろを振り返ると、そこにはエスデスが居る。

 

「分身でも覚えたか?白旗降るなら今のうちだぞ?」

 

「ふふふ・・・タツミ、この闘いでは私が勝って今度こそ身も心も屈服・・・支配させて貰うぞ!」

 

「遺言はそれで良いのか・・・」

 

タツミは何かを念じ、エスデスの周囲が空中爆発を起こす・・・はずだったが、氷の玉が無数に現れ、地面に落下する。

 

「・・・大したもんだな・・・爆発の位置を悟って、氷結させるとは・・・」

 

「ふふふ・・・タツミこそ何故私の体を狙わなかった?」

 

それには返答せず、

タツミは空間に右手固定させ、スライドすると炎を纏った刀を顕現させる。

 

エスデスは両手を振り、氷の刀を二刀顕現させる。

 

「今の私ならば・・・タツミの本気を引き出せると思うぞ?ふふふ」

 

タツミは何も言わずに、闘う気が有るのかどうか判らない目をしながら、静かに近づいていく。

 

エスデスは後方へ飛びし去り、上東西南北方向から巨大な氷の槍を5つタツミに向けて飛ばし、その間に無数に分裂しタツミの全方位から襲いかかる。

 

 

「!?・・・、・・・ふっ・・・タツミ・・・」

 

 

タツミは炎の刃を地面に突き立て、その周囲を灼熱で覆い、全ての氷の槍を防ぎきる。

 

その間にエスデスは念を込め、次々に氷の天馬とそれを操る氷の騎士を作りだし、空中から自身の10倍以上はゆうにある巨大な氷槍を顕現させ、1000騎以上氷騎士が1000以上の巨大な氷槍をタツミに向けて一斉に放つ。

 

ドガシャアアアアアアンンン!!!

 

ザバアアリリリリリンンンン!!!

 

 

 

だがその時、この一帯を覆う巨大な爆音が起き、氷騎士達と氷槍が壊滅する。

 

「・・・な!?なに?タツミ・・・」

 

 

 

タツミは地面下に帝具の闇よりの巨砲を弐砲顕現させていた。

その為、地は巨大な大穴が生じている。

 

 

「ふふふ・・・くくく・・・ははは・・・まさか、こうもあっさりと・・・一騎当千とはよくぞ言ったものだな!タツミ!・・・タツミは私をどれだけ惚れさせれば気が済むんだ?」

 

エスデスは喜びに頬を紅潮させている。

 

「・・・・・・」

 

その帝具をそれ以上顕現させるのは体力を消耗する為に、消し去った。

 

タツミはモノ言わずにエスデスの間合いに一瞬で詰め寄り、エスデスも応戦しようと身構えるが・・・

 

斬ッ・・・

 

 

氷刀二刀で防いだ所で、一気に斬り倒されるのを予見したエスデスは巨大な氷壁を幾重に重ねて後方へと大きく飛びし去る。

 

「・・・エスデス腕を上げたな・・・本当に」

 

タツミはエスデスなら誘いに乗って真っ向勝負に来ると思っていたが・・・

エスデスは手を交差させ、

 

摩 訶 鉢 特 摩!

 

 

その一帯の全ての時空は凍結する・・・

 

だが・・・

 

バリン!

 

空気を切り裂く音と共に、

タツミは凍った時空をその炎の刃で斬り裂いた。

 

 

「エスデス・・・昔のように、手加減はしないぞ?」

 

眼前の氷壁も一気に砕き、砕いた細かい無数の氷粒が織りなす一瞬幻想的な景色の中、エスデスが居ると思っていたタツミは、

 

「ちっ・・・時間稼ぎだったか・・・」

 

 

目の前には氷の城がそびえ立つ。

 

そして、エスデスはタツミの心に直接話しかける。

 

“タツミ、私は最上階に居る・・・私の所まで辿りつけるかな?素直に降参するなら優しくするぞ?”

 

「・・・まだ余裕か・・・ふざけやがって・・・ぶっ殺してやる・・・」

 

タツミは怒りに燃え、城の扉を蹴倒して中に突入する。

 

 

大広間の階段を登ろうとした所で、何かを感じ後ろを振り返ると、

 

「・・・アカメ・・・」

 

地面から氷の人形が現れ、それがアカメの姿形となる。

 

手には村雨を持ち、ヌンチャクのように振り回した後、霞構えで対峙してくる。

 

“タツミ、そいつはアカメの精神を移して顕現させたぞ。さぁどうするタツミ?”

 

「ほぉ~お・・・」

 

そのアカメの目は精神の宿った者の目はしていない。

 

「・・・そうかい・・・だったら、お前如きに操られた哀れな精神を解放する為に・・・葬る!」

 

タツミは階段から滑るようにアカメに肉薄し、唐竹斬りを行う。

それを最小限でかわしたアカメは横薙ぎを繰り出す。

 

それを瞬時にタツミは刀を捨てた後、刀の峰とアカメの握っている間の柄をてこの原理で無刀取りを行う。アカメはタツミが落とした炎の刀を取ろうとする間に袈裟斬りで真っ二つにされる。

 

斬られたアカメは元の氷塊へと変わり、村雨も崩れ去る。

 

“流石タツミだな・・・アカメをあっさりと・・・くくく”

 

「・・・そうでもねぇさ・・・、まごまごしてりゃ、殺られてたのは俺の方だ・・・で、エスデス・・・幾らなんでもアカメはとうの昔に死んでるだろう?よくその精神を今まで保管出来たな?本人の意思がありゃ無理な話だが?」

 

“・・・・・・”

 

「・・・返答拒否か・・・、なら後で体に聞くまでだ」

 

 

“・・・・・・”

 

『エスデスの奴め・・・どうせ、偽者を用意して俺を動揺させるつもりだろうが・・・例え本物だろうが向かって来るなら斬り倒すだけだ・・・』

 

“・・・・・・・・・・・・”

 

 

タツミが先へと進むと・・・、

 

「次はマインとチェルシーか・・・」

 

 

氷柱の影から長針をくるくる回転させてチェルシ―現れ、片方からはパンプキンを構えたマインが姿を出す。

 

「久しぶりね、タツミ・・・」

 

「あんたあれからどうしたのよ、何あたしの許しも無しにどっか行くのよ?」

 

その目は精神の宿った者の目をしている・・・。

 

「お・・・お前ら・・・」

 

タツミは僅かに動揺し、動きが止まる。

 

「本当だよ・・・タツミはあたしの気も知らないでさー。心が切り裂かれる位だったよ・・・?」

 

「ぐっ・・・」

 

「そうよ・・・あんた・・・あたしがどれだけ・・・うっ・・・くっ・・・」

 

マインは涙目になり、滴が頬を伝っている。

 

タツミは持っていた炎の刀を宙の見えぬ鞘に納めるようにし、空中にそれは消える。

 

マインはパンプキンを置き、チェルシーも針を懐にしまってタツミに駆け寄る。

 

「どうしてお前らここに・・・?」

 

「あんたが居なくなってからあたしら・・・え~と・・・何処行ったっけ?」

 

「もうマイン~、生きてた頃なんて結構昔なんだから覚えてる訳ないよ~気が付いたら、エスデスに捕まってて閉じ込められてたの!それで今解放されて・・・早く逃げよう!」

 

「・・・逃げる?・・・そうだな、エスデスなんてほおっておいて逃げるか・・・」

 

「え?本当にあんた逃げ・・・ううん、そうよ、こんな所からさっさと出ましょう!」

 

マインが先導して前へ進もうとしたが・・・

 

 

 

 

 

「・・・タツミ、あんた・・・なんで・・・」

 

見ると、マインの腹部から心臓まで炎の刀が貫いている。

 

「・・・俺はエスデス初め、誰も信用しない事にしてんだ・・・」

 

タツミは右手でそれを持ち、左逆手持ちに

 

「ひ・・・酷いよ、タツミ・・・」

 

そのチェルシーは両手で長針をタツミの後ろ首寸前で刺そうにも刺せず、震えていた。その腹部にも別の炎の小刀が貫かれている。

 

それを瞬時に抜いて、二人から間合いを取ると、

 

倒れて崩れゆくマイン、そしてチェルシーの口から

 

「・・・くくく・・・、この手も通じんとはな・・・、ある程度上手くやった・・・つもりだったが・・・ふふふ・・・タツミの手で、こいつらが始末されるは・・・溜飲が下がる・・・だが私も信用していない・・・だと・・・?」

 

タツミは見下ろしながら、

 

「エスデス・・・お前も器用な事をするな・・・あいつらと別れた後は・・・その後の事は・・・、・・・もう俺の知った事じゃないが、・・・本当に、死んだ奴の精神を使って、操っているんだったら・・・その時はエスデス・・・お前どうなるか、判ってんだろうな?」

 

「タツミはやはり・・・」

 

言い終える前に、タツミは二人を消滅させた。

 

「ちっ・・・あいつ心の中まで読めるようになったか・・・」

 

 

その後、タツミは他のナイトレイドやかつての敵達を模した氷人形を次々に撃破していき、最上階へと辿り着く。

 

エスデスはそこで、玉座に座り脚を組んで悠然と構えていた。

 

 

「あれだけの敵達を・・・大した傷も負わずに・・・本当に大したものだな・・・強さは生前のあいつらを私なりに再現したのだが・・・ふふふ、そうまでして私に逢いに来てくれて嬉しいぞ」

 

タツミは何も言わずに静かに近づいてくる・・・その目は微かに怒りが宿っている。

 

「・・・怒っているのか、タツミ?だがそれを言うなら、私も怒っているんだぞ?・・・さぁ行け、アギト!」

 

 

「!!??」

 

 

エスデスの背後から、タツミの2倍はある背丈の全身が鱗で覆われた竜が人間の姿をした者が現れた。

 

「お前・・・」

 

「ふふふ・・・先代から話には聞いていたが、これがタツミの初めの姿とはな・・・成程、元は竜人・・・そこから転生を3回重ね、私のタツミになった訳か・・・中々妙な話だな・・・だが、タツミが眠っている間に私の方が年が上になったぞ?重要事項だからな再度言」

 

「そんな事はどうでも良い!!・・・ちっ・・・」

 

「どうでも良くはないぞ!?・・・まぁ、かつての自分を倒せれば、改めて話をしようタツミ?・・・物凄い力だったからな・・・顕現するのに苦労したぞ?」

 

タツミは明らかに恐れを抱き、動揺した。

自身の体躯の倍あるのはともかくとして、耐久力も力もスピードも人間姿の自分よりも段違いであり、それはかつての自分であるだけに良く判っていた。

 

タツミは持っていた二刀の内、小刀を捨て、一刀専念する事にした。

 

アギトは斧を担いで、一気に間合いを詰め、タツミの居る場所に振り下ろす。

エスデスが作った頑強な城もその一撃で地震の如き揺れを見せ、その場所に大穴が開く。

 

背後に回ったタツミは背中から断ち斬る・・・が、余り傷も付かず片手でアギトは回転肘撃ちを喰らわす。

 

 

辛くも防御は間に合うが、下の階へと打たれる。

 

 

 

そして起き上がるタツミは

「ちぃ・・・、我ながらなんてパワーだ・・・!?」

 

同じく階下へと降りたアギトは右手から放電し、その溢れ出る電撃を集中させてタツミに向ける。他の強力な破壊力を持つ武器を顕現させる余力は無い・・・あったとしても、アギトには通じない可能性が高い。

 

今の状態で防御しても殺される。

 

 

まばゆい閃光と強力な焦げ跡が残った後には・・・

 

 

 

 

インクルシオを顕現させ、それを纏った竜人のような姿のタツミが居た。

 

「全力を出したとしても・・・勝てる相手じゃねぇな、これは・・・」

 

 

グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

それは周りの空間を震撼させ、ほぼ全ての者達が恐怖する咆哮だった。聴覚のみならず、その生物が持つ本能的恐怖を抉る業であり、エスデスすらも数秒は動けなくなる、その咆哮をタツミは用い反撃した。

 

アギトは一瞬止まった。

 

 

だが、その一瞬で十分。

 

特化したその槍を手に心臓目掛け一気に突きいれる。

 

 

 

 

 

 

そして、胸に突きささる、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間倒されたのはタツミだった。

 

胸に傷は付けれたが、アギトは体を半身になった瞬間の後の先で掌底による反撃をタツミに与え、地面へとひれ伏させた。

そして、インクルシオも顕現出来なくなる程のダメージを負い、元の姿にタツミは戻る。

 

「後の先か・・・俺が得意にしてた・・・な・・・ふふふ・・・」

 

タツミはそれでも右腕だけは部分的にインクルシオを顕現維持し、その槍で震えながらせめてもの抵抗に構える。

 

アギトもつまらない抵抗に関心は無く、ゴミを捨てるような感覚でその槍を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、アギトは地面に膝つき、倒れ伏す。

 

どうにか起き上がったタツミは、止めの一撃に渾身の力を込めて心臓を貫き、アギトは崩れ氷塊となり、消えていく。

 

 

 

 

 

 

満身創痍ながらもタツミは振り返ると、そこにはエスデスが立っていた。

 

「タツミ・・・い、今の技はなんだ・・・?それに震えていたのは・・・油断を誘う演技だったのか?・・・自分よりも上を行く技量の者を・・・け、経験の勝利か・・・」

 

 

 

 

タツミは大技で禁忌の技でもある法則転換を行った・・・それを使えば、対象を自分の知る世界の法則が適用出来る・・・つまり例で挙げると、恐竜に地球の重力の数十倍の所に移動させた事になり、自重で潰れる・・・但し、その技は相手に触れないと、もしくは自身の技を込めたモノで触れないと出来ない。

 

 

 

「お前は心が読めるようになったんだ、盗み見したらどうだ?」

 

「・・・・・・まさか、先の闘いで悟られた上に、もう防御策を打たれているんだ、私ですらもうタツミの心は読めない・・・」

 

「敵であるお前に言う必要も無ければ・・・俺は最初っからお前を信用しちゃいねぇ・・・」

 

「タツミ!!」

悲しげに叫び、思わずエスデスは近寄ろうとする。

 

 

「・・・もう後に残るのはお前だけだな・・・?早い所勝負付けるぞ」

 

「・・・かつてのタツミですら今のタツミに敵わなかったのだ・・・もう、私に勝てる道理は無い・・・」

 

首を振り、降参するエスデス。

 

 

 

「・・・・・だったら、俺に掛けたお前の権限を解除しろ・・・もう二度と俺を起こすな・・・」

 

自身の完全消滅を示すタツミにエスデスは、

 

「タツミ、別・・・れる前に一つだけ言わせてくれ・・・」

 

「もうその名で呼ぶな・・・俺の名は」

 

「いいや、タツミはタツミだ!!」

 

切なげに訴えるエスデスにタツミも面倒となり、聞き流す事にした。

 

「タツミは何故ここに居るんだ・・・?」

 

「・・・?どういう意味だ?」

 

「私と会う前に消滅する機会は無かったのか?」

 

「・・・・・・義理やつまらない情の絡みや罪滅ぼしでここまで居ざるを得なかったんだ・・・やっと終えられる、その機会になったものを、お前のせいで台無しだ・・・・・・」

 

「・・・私はタツミに逢えて良かったぞ・・・?改めて言うが、タツミは私に罪を自覚する事を教えてくれた・・・」

 

「・・・・・・」

 

「だから・・・今度は私がタツミに恩を返したい!!」

 

エスデスは右手を差し伸べ、左手を自身の胸に伝えてくる。

タツミは怪訝な顔をし、

 

「恩?だったらさっさと俺を」

 

「違う!!」

 

エスデスが一喝し、辺りは一瞬静まり返り

 

絞り出すような声で、

 

 

 

 

 

 

「タツミは・・・今まで消滅もせず・・・来たのは本当は・・・私の愛が・・・欲しかったからだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・タツミは・・・物凄く嫌な顔をし、

 

「・・・お前は・・・ここに来て、何を言ってるんだ・・・?・・・?」

 

 

「すまなかったタツミ・・・生前の私は・・・自分が十分タツミに見合う者だと自惚れていた・・・」

 

タツミも真面目な話になるだろうと黙って耳を傾ける。

 

「だが本当はタツミは中々年が上だったのだな、三回も転生していれば当然だな。だから、私は・・・タツミの嗜好に沿うように頑張ったんだぞ!」

 

 

「んん・・・、・・・!!??」

 

「タツミは、生前心の底からは私に気を許していなかった・・・それは、私が年上の女では無かったからだな!!」

 

「んんななぁあああ???」

 

思わず変な声を出している。

 

「皆まで言わずとも判っているぞ、マイダーリンよ?本当に済まなかったな・・・私はタツミの嗜好が判っておらず・・・、だが私はタツミより年上になったぞ、だから私はタツミを復活させたんだ・・・本当はもっと早くに復活させられる方法は確立出来ていたのだが・・・とっても我慢したんだぞ、タツミ?」

 

タツミは余りの事に目眩を覚え、その間にエスデスは至近距離もまで近づいてくる。

 

「じゃ、じゃあお前の年は少なくとも・・・!?」

 

エスデスの唇でタツミの次の言葉は塞がれる。

 

そして離した後、

 

「ふふふ・・・ダーリン?幾ら私と言えど、年齢を言われるのは少々恥ずかしいぞ?」

 

タツミは後方へ大きく飛びし去り、

 

「お・・・お前まさか、俺は相手が年上の女じゃないから心を許して無かった・・・などと意味不明な事を本気で思っているんじゃないだろうな・・・?」

 

 

「ん?違うのか?・・・それに、もう結構過去だが・・・懐かしいな・・・タツミの部屋の整理をしていた時に・・・何やらその手の本が隠してあったな!!全く・・・タツミも男だからな、構わんが、もう私が居たからな、必要無いと思って処分しといたぞ!」

 

 

どうりで・・・あの時幾ら探しても見つからなかったのは、お前のせいだったのか!!と怒鳴りたかったその声を喉元でぐっと堪えるタツミ。

 

 

「だ・・・大体だな、俺はこの体になってから・・・そういう嗜好になっただけでだな・・・元は、ち、違うからな?」

 

「本当にそうなのか?」

 

エスデスは再び距離を縮めてくる、かなり。

 

「ほ・・・本当だとも!!」

 

「では今は認めるんだな?」

 

「いや・・・ああ、くっ・・・」

 

 

「もう、その話はどうでも良いだろう!!さっさと俺の要求を呑め!!」

 

 

 

エスデスはニンマリしながら、悪戯っぽく

 

「タツミ♪一つ条件が有るぞ♪」

 

 

 

「とてつもなく嫌な予感がするが・・・なんだ?」

 

「うむ♪そんなに難しい事では無い!タツミを消滅許可を出す前に、皆にタツミは年上女好きだと振れ回りたいのだ!それに、さっきの話だが、証拠として私が処分した本を顕現させて、回覧させたい、それが済んだ後なら良いぞ♪」

 

 

「お・・・おのれぇえええ!!!こんのドアホのどえすがぁあああ!!」

 

「ふふふ・・・そう褒められると照れてしまうぞ?・・・さぁどうするマイダーリン?ふふふふふ」

 

 

 

タツミは想像した。

 

“ククク・・・貴様がなぁ・・・ククク、ハハハ、愉快愉快”

 

“先輩・・・いやぁ・・・、今度良い娘居たら紹介しますか?”

 

彼らの嘲笑や生温かい対応に寒気を覚えた。

 

 

 

 

しばらく…かなり悩んだ・・・消滅を取るか名誉を取るか・・・、その気になればエスデスを始末し・・・つまり統括長を消せば、その権限も消滅する。その後自刃すれば消滅出来る・・・そして、タツミは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エスデス・・・俺の負けだ・・・」

 

「ん?良く聞こえなかったぞ♪」

 

「うるせぇんだよ、お前は!」

 

 

 

「ふっ、やはり私のタツミはこうではなくてな・・・」

 

エスデスはタツミに近づき、頬摺りをする。

 

「おい・・・せめて、俺の体の顕現を自由にさせろ・・・かつての姿に戻りたい」

 

「駄目だぞ♪もうタツミは私のダーリンに戻ったんだからな♪かつての姿も良いが、やはり馴染深いこの体で居て貰いたいぞ♪」

 

「はぁ~・・・」

 

タツミは深いため息をつき、自分の行く末に思いを馳せていた。

 

「安心しろダーリン?いずれ私も役目を終え消滅する、その時に共に無くなる日までの我慢だからな♪」

 

 

 

















今まで読んで下さった方々有難う御座いました。これにて完結です・・・。ただ、番外編として何らかの話を書く事もあるかもしれませんが、とりあえずは、これにて。


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悪党が斬る!(壱)

明けましておめでとうございます。
もう少しだけこの話の続きを書く予定です。



 

 

 

 

「くくく・・・あたしってなーーんんて、天才なのかしら?今はまだ無理だけーど

ー、いずれは必ず帝具をも超えて、さいきききよよよおおの、兵器を創り出してみせるわああ!!」

 

スタイリッシュは帝都の教育機関研究所で1人叫んでいる。

 

そこにはホルマリン漬けされている危険種や解体されてるもの等が散乱している。

 

「・・・?」

 

振り返るとそこに白のロングコートを羽織り、その中にベルトで締めた黒パンツ、青の上着を覗かせた茶髪の男が立っていた。

 

「あら、あなた・・・ううん、誰だ?私の研究所に何か用か?」

 

「やっぱりあの頃よりも若いな・・・周囲には男色家なのはまだ隠しているのか?スタイリッシュ・・・」

 

「何者なのあなた・・・?取り繕う必要は無さそう、けど・・・告白ならもっとスマートでエレガントに来てほしいわね?最もいきなり来るっていうのも案外・・・」

 

その時一気に研究資料が破裂し、四散する。

 

「な?なななな・・・何したのあなた!?臣具?帝具?あたしすらも知らないのを使ったの!!」

 

「・・・こんな下らない研究よりも更にエレガントな研究でもしないか?なぁスタイリッシュさんよぉ、もし断ったら・・・命の保証は出来ないけどな?」

 

彼は不敵に笑い、スタイリッシュの額に汗が滲む。

 

 

 

 

 

ここ南方諸島のある砂浜で徒党を組んだ若者たちが酒盛りをしている。

それぞれが盗品や酒を片手に呑み明かしてる。

 

「エンシン、初の大仕事上手く行ったな?うぃ~ああうめぇ」

 

「ああ、間抜けな警備兵や、あんな善人共何ぞ俺らの敵じゃねぇ」

 

「おいエンシンよぉ、次からは、見せしめに殺した方が良いじゃねぇのか?その方がそいつらもびびるだろ、な?」

 

「そうだな・・・ちっ・・・そういや、若い女が居無かったな・・・次はそう言う奴が居る所襲うぞ、いいな!」

 

「だけどよぉ・・・俺達ガキの頃はもっと故郷を金持ちにして村の皆で幸せになろうと考えたもんだったよな・・・」

 

と言った仲間をエンシンはぶん殴った・・・

 

「てめぇ、何湿気た事ぬかしてやがるんだ、飯不味くなる事言うな?ああ!俺達みたいな奴らはどんな事したって金持ちの連中が作ったルールに敵わねぇ、貧しい奴らはどんなに足掻いたって貧しいまんま・・・んなルールを作った金持ち連中、そいつらから奪って何が悪いんだ?下らねぇ事言ってんじゃねぇ!・・・一つだけ金持ちでもしけねぇルールはな・・・死んだらそれで終わりって事だ、だから俺達は好きなようにやりてぇようにやる、そう決めたばかりだろうが、俺何か間違っているか!?」

 

一同賛同する中、他にももう一人同意する白のロングコートを着た男が居た。

 

「ああ・・・確かにお前らの場合死んだら無に還るからな・・・生きてるうちにやりたい事をやっておくのは賢明だな・・・天罰なんて言葉あるがな、あんなのこの世界じゃ迷信だ。だからあんたらがどんなに悪事働いたって死ねばチャラだ。良かったなぁ~ある意味で慈悲深い世で・・・」

 

そう言って隣の者の肩を叩き、

 

「他の世界じゃな、あの世が有る所もあってな。死んだ後、例えば自分が喰った分、殺した数だけその報復が待ってるんだ。火炙り串刺し、何百回する事になるんだろうな~生きてる奴ら全員死んだ後、まずはその苦しみを味わうんだ・・・おお!この野菜苦旨いな・・・何処にあったんだこれ?」

 

全員が警戒し身構える中、エンシンが

 

「だ・・・だだだ誰だてめぇ!?自警団の一味か!?」

 

「俺もあんたの意見に賛成だ・・・だから、俺もやりたい事やっても文句は無いよ

な・・・」

 

数秒内でそこにいる全員、その男に叩きのめされた。

 

エンシンは倒れたまま

 

「くっ・・・どうしてだ・・・俺は、運がねぇのか・・・俺達よりももっと悪い奴らはいるだろうが・・・そいつらを・・・」

 

「何故か?あのバカの命令なんでな・・・運が無いと思って諦めな、世の中は不公平だよな・・・ふふふ、ははは!」

 

 

 

 

ここは帝国より離れた某地方、その屋敷で

 

「くそーくそー、俺だけあんな犬にやるような飯だなんて・・・今日こそあいつらを殺してやるぜ・・・見てろ・・・」

 

物置きの一室で顔に殴られた痕が残るその若者はナイフを見つめ独りごちる。

 

「親含めた兄姉達も殺すつもりか?許せねェ奴らを殺すのは確かに復讐し甲斐があるよな」

 

振り返ると白のコートを着た男が立っている。

 

「だ、だれだてめぇ!・・・まさか、お前はあいつらに雇われた・・・!?ち、ちきしょう、汚ねぇ、卑怯な奴らだ、大人はどいつも皆殺しだ、畜生!!」

 

「お前の親共が外道なのはその通りだが、お前も人の事言えるか?」

 

その若者の攻撃をいとも容易くいなし、数発殴り倒す。

 

「げほ、ごほっ・・・ちきしょうーーー!!!殺すなら殺しやがれー!!!」

 

倒れて睨みつける若者に、男もしゃがんで同じ目線で

 

「おい、お前チャンプで間違いないな?」

 

「・・・・・・」

 

「そうか、じゃあ面白いもの見せてやるから一緒に来な?」

 

チャンプは男に連れられ、公園の広場で遊んでいる子供達の近く・・・茂みまでやってくる。

 

 

「・・・・・・」

 

「あの子らはお前が普段、親しくしている奴らだな?」

 

「やっぱり子供達は良いな・・・汚い大人達とは大違いだ、だがなんで俺があの子達と仲を良いのを知ってるんだ?・・・てめぇまさか、あの子達に危害を!?許さねぇぞ!そんな事してみろ、お前と刺し違えてでも・・・」

 

チャンプは凄んでみせるが、男は軽く受け流す。

 

「お前がか・・・?寝言は寝て言いな?」

 

「ああ?」

 

「良いもの見せてやる・・・」

 

彼が指を鳴らすと、何かの帝具でも使ったのか子供達はふと別の話題をし始めた。

 

 

「そういやさ、あのピエロのにいちゃんきょうは来ないなー」

 

「ああ・・・いっつもおかしくれるけど、どうしたんだろうなー」

 

 

 

「ううっ・・・やっぱり俺の事を・・・おい、お前いつまでここに居りゃいいんだ?」

 

 

 

「でもあのにいちゃん、ちょっときもちわるいよね」

 

「まぁな?でもおれたちにおかねもくれるからいいじゃん?」

 

「でもさー、しかたなくあそんであげてるあたしたちのみにもなってほしいよねー」

 

「いえてるー!」

 

「あのにいちゃんだって、きっとともだちいなくて、かわいそうなんだって!おれたちがおとなのつもりになってあそんでもらってるふりしてりゃいいんだって!」

 

「あはは、うける~」

 

 

 

再び指を鳴らすと、子供達は別の話題に移行し、そして遊びに興じ始めた。

 

 

「く・・・うっ・・・嘘だ・・・今のは・・・お前が何かやったんだろ!!」

 

「いいや・・・俺はあの子らがどう思っているかを話させただけだ・・・」

 

「嘘だ嘘だ・・・子供たちが・・・そんな・・・俺は・・・常にあの子達の事を思って・・・」

 

「金や物で繋ぎとめた関係だろう?大体、その金何処から持ってきた?子供達も初めはお前の道芸に喜んだろうが、そのうち飽きたんだろう。」

 

「て、てめぇ・・・今まで俺を監視してやがったのか!?」

 

「そこまで見ずとも大体察しはつく・・・で、どうする?子供もお前が考えてる程甘くねェぞ?親に怒られたく無くて、嘘もつく。お前だってそうだったんじゃないのか?」

 

「・・・くっ・・・俺は・・・」

 

「言っとくがこの世にはお前が考えるような癒しも救いもないぞ?お前がこのまま進めばそこにあるのは地獄だ・・・そして、お前が他人に地獄を創り出す事となる・・・」

 

「・・・な、何が言いたいんだお前・・・」

 

「お前がこのままあの腐った家庭に戻りたいんだったら敢えて止めはしないが、俺はお前がその後どういう生き方をしていくか大体は判っている・・・そん時は文字通りお前に地獄への片道切符を売ってやる」

 

「へっ・・・なんだよ?そりゃ俺に選択の余地はねぇって事かよ?・・・それで、俺があんたに着いてって何か得でもあんのか?」

 

 

「癒しや救いなんか必要のねぇ生き方を教えてやる、来な!」

 

 

 



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悪党が斬る!(弐)

ぎにゃあああああ!!

 

人目の付かぬ河原で断末魔を上げ、胴が二つに割れた猫や犬が散乱し血みどろな図がそこに広がる。

 

陽は沈みかけ、逢魔ヶ時が差し迫る・・・

 

 

「くくく・・・やはり、木太刀ではつまらん・・・真剣を持ってこそ・・・この美しさ、命とは儚く、綺麗なものだな・・・犬猫でもそうなのだ・・・人は・・・、やはり、業深き人間こそその罪色は幾重にも輝こう・・・くくく、ははは」

 

其の刀を彩る血の色に恍惚な笑みを浮かべる・・・その男の名はイゾウ。

道場では最早彼に勝てる者はおらず、次第に周囲の人間からも疎んじられていた。

 

「・・・むっ・・・面妖な・・・、風の色が変わった・・・ふむ、これは拙者を試すと見た・・・ふふふ、今宵が新たな自分と成る門出となるやもしれぬな・・・ふふふ」

 

 

気配を感じて、引かれるように向かった先には白の引き回し外套に目深に被った三度笠、咥えた長楊枝が目立つその男が岩に腰掛け、杖のように白木拵えを地面に突き差していた。

 

侍なのか、地廻りなのか不明な妙ないでたちである。

男はイゾウを一瞥した後、それ以上は見なかった。

 

傍で無数のススキが静かにたなびく。

 

 

 

イゾウは咥えていた笹を投げ捨て、

 

『妙な男な・・・拙者を見て笑った?・・・ように見えたが・・・ふふふ、斬り応えがありそうな・・・』

 

イゾウは武者震いを覚え、一歩、また一歩と・・・少しずつ間合いを詰めていく。

 

ザ・・・・・・

 

ザ・・・

 

ザ…

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

無ッ!!

 

イゾウは素早い抜刀でその男に斬りかかる。

 

 

外套がぱっと、閃いた瞬間、

その白木の鞘ごと、凄まじい力で弾く。

 

 

ぬっ!?こやつ?

 

 

即座に体勢を整え、上段からの斬りも弾かれ、

 

くっ・・・

 

よろめいたイゾウだが男は背を向け、そのまま数歩歩き立ち止まる。

 

つっ・・・、何処まで拙者を愚弄する・・・!?

 

 

イゾウは脇や額から汗が滝のように流れ、刹那が無限に感じられる時間を感じたその直後、

 

 

 

 

突ッ!!

 

 

 

 

 

 

白外套に穴が空く・・・同時にイゾウの鳩尾は白鞘で突かれ、

 

「ぐっ・・・がは・・・」

 

痛みで動きもままならず、呼吸困難に陥る。

 

男はそこから静かに白拵えの真剣を引き抜く・・・が、イゾウはどうにも抵抗出来

ず、白鞘を握ったまま・・・

 

 

 

男は右片手上段に振りあげた後、そのまま後ろ首目掛け振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都より南へと行ったある地方において

 

 

「貴様!ベア様の御前だぞ、道を開けんか!?」

 

「ああ!?」

 

街の往来をそう怒鳴られたその男シュラが、ベアとその一味の横を素通りしようとしていた。

 

「ベア様は、この地方を潤わす為に、必死に働かれ、他民族の脅威を仰られ、警備や軍装備を拡充されている方だ、その働きが判らず挨拶も無しに素通りとは・・・さては田舎者だな?」

 

「田舎者だぁ・・・?てんめぇ誰に向かってその口聞いてんだ?たかが地方の役人風情がよぉ・・・」

 

シュラも怒りに任せ睨みつける。

 

「ふぅ・・・仕方ありませんね、この方にも公平性というものを教えてあげなさい」

 

「はっ!!ベア様畏まりました!」

 

「ああ?公平性だぁ?面しれぇ・・・教えて貰おうじゃねぇか?」

 

 

シュラはその部下達を全員のした後、

 

 

「ま・・・まて・・・私は、・・・私に危害を加えれば、た、ただでは済まないぞ!」

 

「お前さっき公平性がどうのこうの言ってたよな?お前もぶん殴らなきゃ、公平じゃねぇよな?おお?」

 

「私はあのオネスト大臣と親しい間柄だぞ!こ、こんな事して只で済むと」

 

「オネスト大臣だぁ?・・・へへへ、ははは・・・お前と親しいなんて聞いた事ねぇぜ?ハハハ、こりゃいいや。どうせ大方親父に貢いで、2つ3つばかし耳触りのいい言葉でも言われただけじゃねぇのか、・・・お前は死刑な、親父に言っとくわ」

 

「え?あ?親父・・・貴方まさか、大臣の・・・が、あががが・・・」

 

恐怖とストレスでベアは嘔吐し、

 

「げっ、きたねぇ奴だな・・・もういいわ、俺が直々に死刑にしてやるわ」

 

 

そこに見物している観衆の中から白い外套で茶髪の男がやって来る。

 

「・・・そいつを死刑にするのは別に構わねぇが、手順を踏まねぇと親父さんもちぃと面倒だと思うじゃねぇのかい?なぁシュラさんよぉ・・・」

 

「あ・・・?なんだ、俺に喧嘩売ってのかお前?・・・俺は今、機嫌がわりぃんだ・・・殺されてぇか?」

 

「・・・なんだ?じゃあ小僧?親に喧嘩売っちゃいけねぇ相手を教わらなかったのか?ならば俺が親切に教えてやろうか?」

 

「・・・ああ・・・。判った、お前も死刑確定だわ」

 

 

1分後、街の水飲み場に連れられ、

 

 

 

「ぶはっ、何処だここ・・・お、お前!」

 

気絶したシュラは白外套の男に気付けの水を浴びせられた。

 

「どうだ?喧嘩売っちゃいけねぇ相手が少しは判ったか?」

 

「くっ・・・この野郎、さっきは油断しただけだ、俺が本気になりゃお前なんざ!」

 

「お前の下らねぇプライドなんざどうでもいんだ!お前・・・大臣を、親父を超えてぇんだろ、なら教えてやるさ・・・」

 

「な、なんで知ってやがんだ?いや、んな事どうでも良い・・・お、俺が何処の野郎ともわからんねぇ奴に聞くと思うか?俺一人の力でのし上がってやるに決まってんだろ!」

 

「さっき、親父の名ぁ出して、その力を少しでも頼ろうとした奴がか?ナマ言ってんじゃねぇ!!」

 

彼はシュラを壁際にふっ飛ばし、

 

「良いか?もうお前に選択肢なんざねぇんだ?俺に従わねぇなら、死んで貰うぜ?・・・安心しろ、俺はエスデスよりは優しい・・・・だけどな、時には奴よりも厳しいぞ」

 

「て、てめぇ・・・、ちきしょう・・・、(エスデス?誰だそいつ・・・)」




UA130,000突破有難う御座います。


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悪党が斬る!(事の発端)

今次話執筆中ですのでしばらくお待ち頂けましたら、幸いです


ここは通常の世界では認識されない、不可視な次元。

そこでは物質は存在せず精神体、或いはそれに類する存在のみなのだが、そこに住まう者達は任意でその姿を変化させられる・・・ある者は霧状のまま、ある者は然程多くは居ないが・・・

 

生前の姿のままの者も・・・。

 

その一空間を占める執務室、そこの主に呼ばれた白のロングコートを羽織った茶髪の男が入って来る。

 

「統括長お呼びですか?」

 

「・・・・・・」

 

そう呼ばれた彼女は後ろを向けたまま黙っている。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「エスデス統括長殿、お呼びでしょうか?」

 

「・・・・・・」

 

とうとう業を煮やした彼は、

 

「おい、こら!!アホデス!!人を呼び付けといて無視とはなんだ!!」

 

やっと振り返った彼女は

 

「全く二人きりの時は、他人行儀な真似はしないでくれと言ってるだろう・・・まったく~」

 

「それで、エスデスさん何の用だ?」

 

「うむ、来て貰ったのは他でも無い!・・・今朝私達が愛し合った時間がいつもより短」

 

「判った、話し相手が欲しけりゃ別の奴を連れてくる」

 

そう言って彼はさっさと去ろうとする。

 

「ま、待つんだダーリン!!・・・そんなに早くイ、っては駄目だぞ?仕方ない、副題に入ろう」

 

「本題の間違いだろが!!」

 

彼、タツミは彼女の一部変な言い方は敢えて無視した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

ここは何も無いが、星々の光を照明代わりに会議を開く場とした空間となっている。

そこには7つの存在が居り、霧状の者や生前の姿の者と好きな姿形でその場で話を聞いている。

 

「今日、皆様方に集まって貰ったのは他でも無い・・・実は、私の担当区域で異変がありましてね・・・」

 

 

『はぁ~・・・このような会議等早く終わらせ、帰ってダーリンの胸を吸ったり、嗅ぎたい・・・』

 

 

「第一統括、それは一大事ですな・・・しかし一体何故?」

 

 

『全く・・・怒った顔も可愛かったぞ・・・ふふふ、次はどのような事で怒らせようか♪』

 

 

「私が思うに、あの禁忌の技を使った者が居たと思われます」

 

「あの技を・・・?しかしあれを使える者はもう居ないはずでは・・・?」

 

 

『やはりここは押してダメなら、押しまくるだな♪ではこの作戦で』

 

 

「それで調査した所、どうやら第七殿が統括されている区域で・・・第七殿?」

 

 

『怒る顔と照れる顔も同時にみたいな♪さて、プランBは先日失敗したからな・・う

~む』

 

 

「第七殿!!」

 

「む!?・・・ああ、これは失礼致しました・・・少々、厄介な案件を思索しておりました、ご無礼お許しを」

 

「・・・・・・、ともあれ、第七殿。私が調査した限りでは、禁忌の技を使った波長の出所は貴方の所属する者と出ておりましたが・・・」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・という事があってだな、ダーリンがいつぞや使った技があったな、・・・全くあれがどういう技か知りたくて、どれだけ口付けたか、もっとしても良かったぞ♪」

 

「・・・・・・、く・・・ふぐぐぐぐ、ベッドん中で無理矢理聞きだしにきやがっ

て・・・で、あの法則転換でその第一統括の区域に被害が出たって事か・・・」

 

タツミは頭を痛め溜息をつく。

 

「そう言う事だな・・・だから、その責任を取ってくれという事だ!どうやらその星の歴史が捻じれ、壊滅してしまったようだ。しかもそこから連鎖的にその区域の宇宙も被害が出ているとの事だ。だから、壊滅する前に戻り、修正してくれとの事だぞ」

 

「・・・何で俺がまたそんな面倒臭い事を・・・大体、俺だって別の仕事で忙しいんだ!そもそも、エスデスお前が俺の言う事大人しく聞いてれば、そんな被害を出さずに済んだんだ!!」

 

「何を言う!タツミが大人しく私のものにならずに、ごねるからだぞ!」

 

「お前が昔の俺を顕現させるから、あの技使わざるを得なかったんだろーが、この大馬鹿野郎!!」

 

 

二人は10分ほど口喧嘩をし、エスデスが彼に口付けた事で止まった。

 

 

「くっ・・・わーかった、判った・・・行けば良いんだろ、行けば・・・ったく本当に・・・」

 

「うむ!本当は私だって、離れ離れになるのは身が引き裂くほどつらいんだぞ、でもな、私もこれでも統括だからな・・・くんくん」

 

エスデスはタツミの匂いをかなり嗅いでいる。

 

「・・・・・・考えようによっちゃ羽伸ばせるとも言えるか・・・」

 

「むっ!?・・・マイダーリンよ・・・もし、もし・・・万が一浮気なぞしたら・・・皆が・・・全員居る前で熱い口づけの刑だからな?例えダーリンが羞恥で逃げようと、絶対に逃がさず、し続けるからな!」

 

「・・・、わ、わかった・・・」

 

「それでだな、どうやらその星は私達が元々居たあの帝都と似た世界みたいだぞ・・・平行世界という事になるか?だが安心してくれ、タツミに当たる存在や私に類する存在も居ないからな・・・いくら私一筋のタツミでも、私と瓜二つなら・・・その、魔が差してしまう心配が1%だけあったからな、これで安心だな!!」

 

「どーでも良いや、んな事」

 

「そうだ、あと一つ些細な事を伝えるぞ♪・・・・・・あのナイトレイドの雌ブ・・・」

 

エスデスは口調を変えて・・・、

 

「うっほん、・・・あー、ナイトレイドの女性の方々もいます・・・くれぐれも近づいてはなりませんよ」

 

「なんでだよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・、もし近づいて、親しくでもなられたら、私はとっても悲しいです・・・そうなったら、やもすれば、・・・“何か突如不幸や偶発的事象が起こり”心臓発作や脳溢血で倒れるかもしれません・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・その方達が・・・」

 

「・・・・・・」

 

「私も無駄に命が散る所は見たくありません・・・なので、お分かり頂けましたね?」

 

「・・・・・、あ~・・・判ったよエスデスさん・・・」

 

深いため息をつくタツミの頬にエスデスはキスをした。

 



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悪党が斬る!(参)

お待ち頂けている方、ありがとうございます。


ここは帝都、表通りの賑やかな一角とは裏腹に路地裏はあからさまに治安も悪く、暴行が後を絶たない。

 

「お・・・おねがい、たすけて・・・だれか・・・」

 

「そう逃げるなって、可愛がるだけだって、大丈夫直ぐ気持ち良くなるから、な?」

 

恐怖に声も掠れ大声も出ず、年端もいかない少女に男がそう言って近づいて来る。

 

そこに肩を叩かれ

 

「ああ?なんだ、今良い所?」

 

次の瞬間、男は殴り飛ばされゴミ溜めに突っ込む。

 

「げほ、ごほ、な、なんだてめぇ!」

 

その殴った男は全身浅黒く頭は剃りあげ、しなやかな筋肉を持っていた。

 

「ここは俺達のシマだ・・・下らねぇ事してんじゃねぇよ」

 

「あ・・・?俺を誰だと思ってやがんだ?良い気にな・・・」

 

その後ろにおどろおどろしい雰囲気を纏ったもう一人の男が立って壁に寄り掛かっているのに気付き、こいつは不味い・・・と、その男の本能に告げていた。

 

「お・・・覚えてやがれ、必ずこの礼はしてやるからな」

 

 

 

「けっ、口程にもねぇ・・・げっ?兄貴?・・・タツ兄ぃ・・・あ~・・・なんだ睨み利かせてくれてたのかよ・・・待っててくれよって、言ってたのに・・・ひょっとして俺の事信用して無かったのかよ?」

 

「そうじゃねぇ・・・もうお前は昔のお前じゃねぇよな・・・俺はただ暇つぶしにどう喧嘩するか見物に来ただけだ」

 

「あ~オレかっこうわりぃ・・・俺も早くタツミの兄ィみてぇに一睨みであんなチンピラ追い払いてぇぜ・・・」

 

「そのうちお前も出来るようになるさ、チャンプ」

 

二人のやり取りを呆然と見ていた少女は自分がどうやら助かったのだと把握し、

 

「あ、あの・・・ありがとうございます・・・」

 

「お・・・?おお・・・」

 

チャンプは気不味そうに視線を泳がせ、それを見ていたタツミは

 

「・・・嬢ちゃん、おまえさんなんでこんな所にいるんだ?」

 

「あたし・・・よくわからないんですが、エライひとに逆らったつみとかでお父さんとお母さんが・・・それで、親戚のおばさんの家にこないだまでいたんですけど・・・いじわるされて、もう家に帰りたくなくて・・・それで・・・」

 

少女は唇を噛みしめ、必死に悲しみを堪える。

 

チャンプは哀れに思い、手を差し伸べ頭を撫でた瞬間、ドス黒い欲望が脳裏を掠め、

 

「うっ・・・」

直ぐに手を縮めた。

 

 

「大方、大臣かそいつらに連なる奴らに・・・それで、親戚連中もそんな彼らの子供を引き取ってたら上の連中の目の敵にされると・・・そんなとこだろうな」

 

「・・・・・・お、俺は・・・あいつとはちが・・・」

 

「おい、チャンプ!何ブツクサ言ってんだ」

 

「え?あ・・・いや・・・」

 

「・・・さて、どうするか・・・お前、何処か他に知り合いが・・・居る訳ないよ

な・・・」

 

コクンと頷く少女に、

 

「なぁ兄貴、・・・こないだの子みたいにあの先生の所にまた連れていかねぇか?」

 

「あのなぁ・・・お前、子供一人増えりゃそれだけ金もかかるんだぞ!あ?そんな、この界隈の悲惨な子供の面倒見てりゃな、金が幾らあったって足りねぇんだ、お前これ以上自腹切れんのか!」

 

「あ・・・う・・・もっと俺頑張るからよ!頼み兄貴、この通りだ!」

 

タツミは怒るか呆れるか逡巡し歯噛みしていた。

 

「・・・あ、あの・・・おにいさんたち・・・、あたしならなんとかがんばってここで生きていきますんで・・・さっきのことはどうも・・・ありがとうございました」

 

去ろうとする少女・・・だが、腹の虫が聞こえ、タツミは少女の肩を掴み、

 

「・・・一晩だけなら面倒見る・・・あとは自分で何とかするんだぞ、いいな?」

 

「タツ兄・・・」

 

 

 

 

数日後、チャンプは彼らが従えた飛行型危険種に少女を乗せて、ジョヨウと呼ばれる地方都市に向かった。

 

農村のその小高い丘に小さい施設が有り、そこの責任者にチャンプは会いに来た。

 

 

「おおーでっけー、こないだきたドラゴンだぜドラゴンー」

 

「のせてのせてー」

 

「あんたらこどもねー」

 

その施設の子供達が飛び出して騒ぎだしている。

 

「こら、お前達!まだ勉強も終わっていないだろ!終わったら、農作業もあるんだ、早く戻りなさい!・・・あ~チャンプさん、こんにちは、すみませんね、私の躾が至らずに・・・こら早く戻れ!」

 

「あはは・・・いえいえ、ラン先生、気になさらずに・・・それで今日はその、この子の・・・」

 

チャンプの後ろからランを覗き見る少女は、好奇心と不安な目でいた。

 

「話はタツミさんから直接伺ってます・・・あ、すみませんこの事は内緒にしてくれと言われたんでした・・・」

 

『ふっ・・・兄貴の奴』

 

「と、とにかくこの子の面倒は任せて下さい・・・さぁ可愛いお嬢さん、君の名前

は?」

 

とりあえず教室へ連れて行き、自己紹介を済ませ、一旦子供達にその子の事は任せた後、客室で茶を呑んで控えているチャンプの応対の為、ランは再び訪れた。

 

「お待たせしました・・・話には伺ってましたが、あの子も可哀想に・・・ただ、あの様子だと、貴方がたのケアがしっかりなされたおかげじゃないのですか?普通、程度の差はあれ、トラウマが残るんですが・・・その兆候もほとんど無さそうなので安心しました。きっとあの調子なら周りの子達とも直ぐに打ち解けるでしょう・・・」

 

チャンプは湯呑を眺めながら、安堵した。

 

「チャンプさん、立ち入った事を聞いても宜しいでしょうか・・・たまに、子供達と一緒に遊ばれては?今まで何処か一線引かれて・・・子供達と距離を取られてるような・・・本当は子供たちが好きそうですのに・・・あはは、思い違いだったらすみません」

 

少し沈黙した後、チャンプは

 

「先生・・・俺は・・・言われた通り、子供が好きなんです・・・ただ、昔子供達に酷い事を言われて・・・ああ、俺も悪かったんでしょうけど、その頃家も飛び出しましてね・・・兄・・・ああ、タツミに拾われて・・・まぁ色んな仕事をしてきました・・・けど、俺やっぱり子供が心のどっかで好きなんですよね・・・で、いつだったか、タツミに聞いたんですが、“子供なんざ白い紙の上にいろんな絵具が置いてある状態で、混沌としてやがる、どの色に統一されるかは、自分自身と周りの大人次第だ!”って・・・」

 

「面白い例え方されますね・・・・ふむ、なるほど」

 

「それで、大人になったら子供の時より綺麗な絵にもなりゃ、その逆にドス黒くなるっと・・・で、俺、兄貴に聞いてみたんでさぁ・・・兄貴はどんな絵なんだって・・・そしたら・・・」

 

「そしたら・・・?」

 

「俺の絵は、黒さを極めて、逆に綺麗に輝いているんだって・・・まぁ呆れましたけど・・・ははは」

 

「あははは・・・そりゃ傑作ですね~」

 

そこでチャンプは声のトーンを落とし、

 

「俺は・・・子供たちに関わると・・・子供たちという絵を壊してしまいかねない・・・そんな感情が・・・だから・・・俺もあの子を襲ったあの野郎と・・・大差

なんて・・・ぐっ・・・」

 

「チャ、チャンプさん、・・・そ、そうでしたか・・・これは立ち入った事を聞いてすみませんでした・・・」

 

「いえ・・・聞いて貰って少しすっとしました・・・ですんで先生・・・俺は子供たちに余り関わる訳にはいかないんです・・・」

 

「チャンプさん・・・」

 

 

ランはそれ以上、言葉を掛ける術も無かった・・・

 

 

そして、帰り際

 

「チャンプさん、貴方のその心の葛藤が克服されるのを祈っています・・・どうかご自分に負けないように!」

 

「すみません、先生・・・もし、俺が自分に負けてしまった時は・・・そん時はタツミの兄ぃにぶっ殺される事になってますんで・・・」

 

チャンプは軽く笑いながら、危険種に乗って帰って行った。

 

1人になったランは、

 

「一体帝都には何人の不幸な子供が居るんだろう・・・今この時にも悲惨な目に遭う子がいるのかもしれない・・・全員を救うなんて・・・今の帝都では無理だ・・・私には私に出来る事しか出来ない・・・、・・・私もチャンプさんを非難出来るのか?この施設だって・・・太守の彼女を利用して資金を裏から回して貰っているじゃないか・・・、私だって本当は子供達に教える資格なんかあるのか・・・」

 



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悪党が斬る!(四)

チャンプが孤児をランの居る教育施設に届けていたその頃、タツミは諸々の所用を済ませ、気晴らしに勝手知った場所へと足を伸ばした。

 

『さて、この世界のあいつもあの場所で店開いているだろうか・・・』

 

賑やかな表通りから少し入った入り組んだ道の中にその店、本屋はあった。

タツミは若干建物も道も自分の知るそれとは違うな、と改めて不思議な感心をしていた。

 

「お?お客さん、そんな店の外のものより中へ入って物色してかない?」

 

タツミは目を僅かに見開き、その緑色の髪をした、かつての喧しい悪友と姿形も同じ彼に反応した。

 

「・・・ああ、そうさせて貰う」

 

中は普通の書籍もあれば、18禁のコーナー等が有り、その中のタイトルに『姉より優れた妹は存在しませんわ!』『エスタス様の調教授業』等、ここの店長の嗜好が窺い知れるラインナップになっていて、タツミはそれらを眺め苦笑した。

 

「お、にいさんその辺に目がいくとは・・・さては同志だな?」

 

「あ、いや・・・」

 

「わかってるわかってる、皆まで言うな!俺のお勧めはだな、これと、ああ、これも良いな、にいさんも知っての通り、帝都は色々せちがらいんだよな~、リアルにもこのエスタス様みたいな美人な軍人ねーちゃんがいりゃ、少しは俺も別のシゴトにやる気が湧くんだけどな~」

 

「別のシゴト・・・?」

 

「ん?ああ~ああ!そう、この帝都じゃ本屋だけじゃあ喰ってけないのよ~だから、ちょーと副業もしてんだよね~、にいさん、興味ある?」

 

「ああ、いや別にとりあえず俺はこれで・・・」

 

タツミには彼が言う副業が何か等痛いほど良く判っている。

 

「はい、毎度!じゃあ、このエスタス様と二人だけの放課後授業と、アネライブと

はい、これ特典、おまけにこれも付けるから・・・にいさん、また来てよね~ありがとうございました~」

 

『こんのアホラバがぁああ!!!誰がいると言ったぁああああ!!!』

 

心の中で絶叫するタツミだが、勢いに押され渋々購入してしまった。

 

入口入れ違いで顔を布で隠し、マントで体を覆った大男が入って来た。

 

タツミは驚き振り返ると、

 

「て・・・店長・・・れ、例の物・・・入っているか・・・」

 

声色を変えているが、タツミは男の正体に気付き、さっきよりも更に目を見開いた。

 

「おお!心のお客さん!!いつもありがとうございます!!いやね、ここの所、帝国警察の取り締まりも厳しいんだよね~でもさ、俺は仁義に厚い漢なんだよ?だからちゃんと一冊取り置いといたよ?ただ・・・値段は定価どおりとは・・・」

 

「判っている!!」

 

そう言って何と5倍の金額を出した。

 

その本のタイトルは『××なお姉さんが少年に××する話』とあり、タツミは目玉が飛び出るほど見開いた。

 

「さっすが~お客さん、きっと社長か偉い方なんだよね~どこのおエライさんか判らないけど、これからも帝都発展の為に頑張ってくださいね~」

 

そして、足早に去っていくその男をタツミは呆然と見送った。

 

 

ここは帝都宮殿、皇帝がおわす場所であり、警備も厳重それを束ねる威圧感溢れるその男が戻って来た。

 

「ブドー閣下、いつも御苦労様で御座います!」

 

「うむ、お前達も御苦労・・・変わった事はないか?」

 

「はっ!!異常は御座いません!」

 

「陛下のおわす宮殿だ!一瞬たりとも気を緩めるな!!」

 

このブドーと言う男が居るだけで、その場の空気が引き締まる。

彼が去った後、警備兵達は小声で話す。

 

「流石大将軍だな」

 

「俺もいつかああなりてぇ~」

 

「ところで大将軍は日頃なにやってんだろうな」

 

「確か瞑想のはずだ、・・・後は己の鍛錬に余念がないはずだ!」

 

「すげぇな~俺なら・・・」

 

「お前なんか言わなくたってわかってんだよ」

 

卑猥な話になり、しばしその話に華を咲かせる。

 

 

鍛錬場の一室に、ブドー専用の部屋が有る。

 

そこには多種の武具や武器が並べられ、古今東西の武術や戦争に関する本が書棚に敷き詰められている。

 

ランプを灯した中、ブドーは文机の前に正座し懐から・・・取り出す前に改めて周りを警戒し、

 

「ふっ・・・」

 

誰も居ないと確認し勝ち誇った笑みを浮かべながら、先程の本を懐から取り出した。

 

 

「やはり・・・、年上の姉は良いものだな・・・ふふふ」

 

 

中身を開き、当然タイトル通り年上のお姉さんが成人以下の少年にあれこれするものなのだが・・・

 

「・・・」ブドーは汗を流した。

 

「・・・・・・・」ブドーは大汗を流した。

 

「・・・・・・・・・・・・」ブドーは滝汗を流した。

 

 

誰も居ないと思っていたが、改めて気配に気づいたからだ。

それはタツミであり、不法侵入をやらかしていた。

 

 

「き・・・きさ・・・・!!」

 

怒鳴りたくても怒鳴れない、部下を呼べば、・・・もし見つかれば今まで自分が築きあげたイメージが炸裂してしまう。

 

ブドーは咄嗟に帝具のアドラメレクを放とうとするが、タツミは床板を踏み抜き、視界が散乱それを目くらましにし、その隙に乗じ一瞬の間に、ブドーが攻撃の為置きっぱなしになったその本を取り上げる。

 

「なっ・・・貴様ぁあああああ、ここから生きては帰さんぞおおおおお!!!」

 

「この人質(?)がどうなってもいいのか?」

 

「くっ・・・人質(?)とは・・・生きているからこそ意味が有る・・・貴様ごと滅すればそれで済む事だ!!!」

 

そして、血涙を流すブドー。

 

「これがもし、味方の軍や反乱軍に知られたら、明日からのあんたの地位は明らかに失墜する・・・どうだここは取引しねぇか?」

 

荒れ狂うブドーを一旦落ち着かせ、タツミは邪悪な笑みを浮かべながら言った。



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悪党が斬る!(五)

ここは反乱軍の・・・帝都に巣食う暗殺部隊、ナイトレイドの隠れ家。

その根城の屋敷内広場に、メンバーのブラート、シェーレ、レオーネ、マイン、そして、アカメが集まり、彼らを召集したボス、ナジェンダと、その横にはラバックが控えている。

そして、その彼女が口火を切る。

 

「今日・・・集まって貰ったのは他でも無い・・・本日を持ってナイトレイドを、解散する!」

 

「「解散!?」」

 

一同にどよめきが走り、

 

「ボス!こないだ喫煙仲間を増やそうとして全員に断られたもんだから、気が弱くなってるだけじゃない?」

 

レオーネがすかさずツッコミ、続けざまアカメが

 

「ブス!・・・じゃなかった、ボス!・・・私の食べ掛けの骨付き肉が昨日から無くなっている・・・そう、骨が付いているのが重要なんだ!その周辺はカルシウムが豊富で足腰増強にも良い・・・考えただけで・・・じゅるる・・・つまり!その落とし前はどうしてくれるんだ?」

 

ナジェンダは険しい顔で宙を睨む。

 

「アカメの言う通りよ!解散?ま、別にあたしはいーけど?革命だって終わってないんだから、後腐れの無いように綺麗にケジメをつけるのがボスの立場ってもんよ

ね!」

 

マインが言いたい放題言うに対し、ラバックも窘める。

 

「そのケジメはちゃんとつける!」

 

「つけるってどうつけるの?実は生ゴミに間違って捨てたってオチはなしよ!」

 

「私の肉・・・」

 

 

「え~と・・・確かあれは~、夜中に起きたアカメがお腹すいて眠れなくて、お肉を食べてた気がするんですよね~」

 

シェーレがのほほんと回想しブラートがフォローする。

 

「シェーレ、特に聞いてないな、こいつら」

 

 

「ま、いーわ、とにかくボス?あんたがナイトレイドを辞めるって言うなら誰が後を継いでも良いわよね?」

 

「ナイトレイドは私の代限りにしたい!」

 

「肉・・・」

 

「じゃあ、あたしがナイトレイドから名前変えて新しい組織立ち上げたって構わないわよね?」

 

「・・・マインが、ボスですか?不安ですね~」

 

「シェーレ、あんたに言われたくないのよ!!」

 

「はっはっは、参ったなこれは!」

 

「ブラートあんたまで、むきーーー!!」

 

 

「マインちゃん・・・ナジェンダさんはあんたが何を企んでいるか何もかもお見通しなんだ」

 

「集めた金で将来、アイドルになろうとか、そんな浮ついた考えを許すわけにはいかない・・・その事は良く判ってくれマイン・・・」

 

マインは顔を歪め、そして・・・

 

「で、ボス?前フリは良いから、早く本題入ってよ?」

 

「待て、マイン!私の肉は!」

 

「あんたは生ゴミでも漁ってなさい!!」

 

ナジェンダは深いため息をつきながら

 

「確かに解散は冗談だが・・・、下手すればそうせざるを得ないぞ・・・」

 

「もぉ~ボス~革命も成功してないのに、冗談はいつものオヤジギャグだけにして下さいよ~」

 

レオーネが軽口を叩くが、一睨みされる。

 

「良いかお前ら!!これだけの給金や屋敷を維持するのにどれだけ費用が掛かっていると思っているんだ!!ここ最近、シゴトが無いんだぞ!!」

 

一同はきょとんとし、

 

「そーですねーシゴトが無いのは困りましたが、私達のシゴトが必要とされていないのは寧ろ良い事ですよねー・・・ちょっとそれはそれで退屈で寂しいですが・・・」

 

シェーレが良心的な見解と純粋な暗殺者としての意見を吐露し、多かれ少なかれ似た意見を皆が述べる。

 

「今の帝都が良くなりつつあるから・・・と、言う訳じゃない!!お前達は聞いていないか?先日大臣の息の掛かった将軍が一人左遷されたのを」

 

「へぇ~珍しい~あの大臣と喧嘩でもしたか?」

 

「いやレオーネ、どうやら誰かの罠に掛かったようだ・・・他にも私達の標的になった者が姿を消したり・・・我々革命軍にも加わっていない同業者の可能性もある・・・アカメは何か心当たりは無いか?」

 

かつて帝都の暗殺部隊に居たアカメでも首を傾げ、ナジェンダはラバックに調査を頼み、改めてナイトレイドのエンゲル係数が高い・・・端的にお金が無いとを訴える。

 

「ふっ、大丈夫だぞボス!私がその辺りの危険種を狩って食料の足しにするぞ!」

 

「あんたが狩りまくるから、食料になる危険種逃げ出して少なくなってきてるじゃない?」

 

「ぐふっ・・・、レオーネ・・・後の事はたの・・・」

 

「アカメぇええ―――!!」

 

アカメは吐血し凶言に倒れたに対し、レオーネは号泣す・・・

 

「くっ・・・ああ、アカメ死んでしまうとはなんと情けない、復活の呪文を唱えよう!ザオリク!!」

 

そう言ってレオーネは薄切りポテトをアカメの口に中に突っ込む。

 

「旨い!!」

 

アカメは甦った。

 

「・・・まっ、あたしはアカメみたいに大食いじゃないし、ナイトレイドの経費には何の負担にもなってないわね!!」

 

マインは髪をたなびかせ、ふんぞり返っている。

 

「マイン・・・お前のコスメ代99%カットな?」

 

「がふっ・・・、・・・い、いつか報いを受ける日が来るのはわかってたのよ・・・」

 

マインも吐血し凶言に倒れる。

 

 

「・・・と言う訳でだ!お前達働きに出ろ!」

 

そうは言っても、と・・・ラバック以外は手配書が回り面が割れている。

 

 

「・・・ねぇ、あたし死んでいるんだけど?」

 

 

「そう言うと思ったから、今日はゲストとして彼女に来て貰った・・・入って来てくれ?」

 

だがドアからは何の反応も無い。

 

「ん?おかしいな・・・」

 

「・・・誰も助けてくれないの?良いわよ、もう!」

 

マインは一人で復活した。

 

「そんな事よりもバス!・・・でなくてボス、夕飯の相談なんだが」

 

「アカメあんた、食べること以外にもっと・・・って、ええええええ!!??」

 

マインは二人を指差し、

 

「あ、アカメが二人・・・!?」

 

一同が敵の変装かと身構えた、・・・が

 

アカメはもう一人のアカメをじーっと見、

 

パントマイムをやり始め、そのうちアルプス一万尺をしだす。

 

「「ランラランランランランランラン...ヘイ!」」

 

二人は息ぴったりに片手を合わせ、扇状に二人でポーズを決める!

 

おお~と皆が拍手する中、ナジェンダはこめかみを抑えながら、

 

「チェルシ―、遊ぶのはその辺にしてくれないか・・・自己紹介はもういいだろ?」

 

アカメの変装を解き、彼女本来の姿を現す。ニコニコ愛想よく笑いながら

 

「どうも~、今回は皆の表向きの仕事のサポートに来ました~、戦闘は余り向いてないからそっちでは期待しないでね~」

 

「・・・と、言ってるが暗殺の成功率と仕留めた人数はトップクラスの腕前だぞ」

 

「いやぁ~ボス、たまたまですよ~」

 

 

『確かに・・・皆で騒いでいたから気付きにくかったが、それでも・・・俺に悟られずにここまで侵入してくるなんざ、大した女だ・・・油断してたらやられるな・・・』

ブラートは彼女の真価を見抜き戦慄していた。

 

 

「ふぅ~~ん、暗殺率トップ?そりゃあ、田舎の警備の手薄な所じゃそうよね~だけど、帝都じゃそうはいかないわよ、仕方ないからあたしが先輩として指導してあげるわ?」

 

「へぇ~・・・腕はそれぞれ立つみたいだけど・・・世間知らずのお子様もいるんだね・・・皆大丈夫なの?」

 

「・・・あら~お年の方には、子供と見間違えられるの?若く見られるのも大変よね~」

 

早速マインとチェルシ―が非科学的な火花を起こす中、アカメは揚げた薄皮ポテトを猛烈に食べながら心配そうにそして、熱心に観戦した。

 



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悪党が斬る!(六)

再び投稿日が空いてしまいまして・・・。

次話、1日、2日前後に投稿予定です。


 

 

 

 

 

 

ある・・・晴れた昼下がり、帝都へと続く道、

荷馬車がゴトゴト、三人の少女を乗せて行く。

 

「いよいよ帝都だねぇ。旦那様ってどんな人だろうねルナ?」

 

「多分おじさんでしょう、私達の体を獣のように狙っているかもしれません」

 

「はっ!!そうなったらピー潰して逃げるまでよ!」

 

それぞれエア、ルナ、ファルと言う名の10歳過ぎであろう少女達がこれからの帝都に期待と不安が入り混じった話をしており、それを背中で聞いている馬車の運転手…御者は冷めた感情で聞き流していた。

 

「ピー??」

 

「と、とにかく。いいエア?私達はそこらの村娘と違って帝都でのご奉公に選ばれた出世頭よ!」

 

 

それは御者が、親達から子供を売る際になるべく良い言葉で言い含めて欲しいと願われ、親達のせめてもの労わりか、或いは子供達が素直に言う事を聞く為にか、単なる方便にしか過ぎなかった。

帝国はその政府の圧政により重税での貧困、子供を売りに出す地方の村は後を絶たないの現状だった。

 

「頑張って働いて良い男見つけて、夢の帝都暮らしを始めるのよ!」

 

「ファルはポジティブすぎると思うのです・・・」

 

 

馬車は帝都入口の指定の場所まで思ったより早く着いた。

 

「おじさんー、ありがとー!」

 

「・・・ああ、くれぐれも体は大事にな・・・」

 

それ以上少女達の姿を見るに忍びなかった彼は早々に立ち去った。

 

 

 

そこに・・・

裏地が黒の白コートを羽織った男が歩いてきた。

隙だらけで実際はそうは見えない歩き方にぼっーとしているようで、その実、鋭い眼光を放っているようにも見える・・・その彼が少女達の前を通り過ぎようとした。

 

「あ、お兄さんですよね?あたし達の雇い主様は?」

 

エアが愛想よく聞いたに対し、男は一瞥しただけだった。

 

「エ、エア・・・この人、何だか怖そうです・・・」

 

「だ、だめだよルナちゃんそんな事いっちゃ・・・すみません」

 

「怖そう?あたしにはそうは見えないけど、お兄さんがあたし達の雇い主さんでいいの?」

 

男は面倒臭そうに踵を返してその場を離れようとした瞬間、少女の蹴りが男の顔面に届く。

 

「ファルちゃん!!」

 

「なんの挨拶も無しに着いて来いって?それはちょっと、ひどくないですか、雇い主様?」

 

だが、ファルの足を一本指で止め、次の瞬間その指で男は触れたまま円を描き、

 

「きゃああ」

 

ファルは一回転させられて、地面に打ち付けられる。

 

 

「くっ・・・強い・・・」

 

「ファルちゃん!!すみません雇い主様」

 

「ファル、なにやってるんですか!?けど、雇い主様、何も言わずに着いて来いとうのもどうかと思うのです」

 

「お・・・」

 

仕方なく声を掛けようとした時、

 

「兄貴ー!」

 

チャンプが菓子を持って駆け付けてくる。

 

「わっ、なんか他にも怖そうな人きたよ!」

 

エア初め3人は怯え始めた。

 

「チャンプ、お前何しに行ってたんだ?」

 

その男、タツミがしかめっ面で不平を言う。

 

「いや、兄ぃがな、じーっと菓子を眺めてからな、欲しいと思って買って来たんだ

ぜ」

 

「いらん事せんでいい!!」

 

3人は二人のやり取りを唖然として見ているしかなかったが、

 

「あれ、兄貴よぉ、何だこの女の子達は?・・・まさか、兄ぃこの子達を拉致監禁する気じゃ」

 

「お前じゃないんだ!?やる訳ねぇだろ!」

 

「お、おおお俺だってやらねぇょ・・・じゃあいったい?」

 

「ああ、何か知らんがからまれていた所だ」

 

「タツ兄、・・・そういうのつまらないジョークって言うんだぜ?」

 

 

エアが恐る恐る

 

「あの・・・貴方がたはバックさんじゃないんですか?」

 

二人とも何の事だ?と否定し、そこに

 

「ごめん、遅くなって・・・君達だね?僕が旦那様になる。バックだよー!」

 

「ああ、良かった・・・やっと会えました。はじめまして」

 

少女達がそれぞれ挨拶し、こっそり小さい声で会話する

 

「よかったね、ルナちゃん若いお兄さんで優しそうな人で」

 

「確かに先程の方達と比べれば怖くないですね」

 

「う~ん、あたしはなんとも」

 

 

「ところで、そこの御二方は?」

 

バックはタツミとチャンプを気にかけ、

 

エアが割って入り、

 

「ここ、この人達はバックさんが来るまであたし達のあいてをしてくれてたんです。ありがとうございましたー!」

 

エアは隣の二人にも頭を下げさせる。

 

「・・・そうでしたか、僕の居ない間この子達の面倒を見て下さり、有難う御座います。じゃあ行こうか」

 

「ちょっと待ちな」

 

タツミが呼び止め、バックも少女達も何事かと緊張が走る。

 

「長旅で腹も少し空いてるだろ?後で食いな」

 

タツミは菓子を3人に渡し、彼らは礼もそこそこにバックに連れられ帝都へと入って

いった。

 

それを見送った二人は

 

「なぁ兄貴・・・ありゃ売られてきたんじゃ・・・」

 

タツミは一点を見据え黙として、それに返答しなかった。

 

 

 

少女達は帝都の中に入り、純度の高い透明のガラスに覆われた彼女らの地方では目にした事のない高く豪華な建物に目を奪われた。

 

「ふえええええ、これが帝都、大都会だなぁ・・・」

 

「私達の村、宿屋と道具屋しかないもんね。冒険者に“武器屋もないのかよ”と言われたのウマトラだわ」

 

エアとファルがそれぞれ感嘆しているのに笑ってバックは応える。

 

「どうせなら見て回ろうか?服を買ってあげよう」

 

お洒落に敏感になる年頃であり、エアは直ぐに飛びつく。

 

「い?いいんですか?」

 

「僕は優しい旦那様だからね」

 

 

感激したエアはルナに同意を求め、

 

「は、話しやすくて良い人そうだねっ・・・さっきの人達には悪いけど、あの人達より良い人そう、あたし帝都にはああいう人ばっかりなのかと初め思ったから、びっくりしちゃった」

 

「たしかにそうですね、けど油断はまだ出来ません。男は皆狼というのを忘れたのですか?」

 

「そ・・・そうね、ウルフは危険だよね」

 

「やばかったら逃げよう?いざとなれば任せて!一角ウサギを仕留めたこの武道で・・・って、あたしさっきの人に指一本で返された・・・帝都にはあんな強い人がひょっとして沢山いるんじゃ・・・」

 

 

落ち込むファルにどうフォローしていいか困っているエアに、バックは苦笑しなが

ら、

 

「あのーなんだか警戒しているみたいだけど、正直に言うとね、服を買ってあげるのは僕の使用人が余りにも田舎くさくても・・・さ」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

「というわけで予算を上げるから効率的に衣類を買ってごらん、働く為のトレーニングだよ」

 

少女達は元気よく返事をし、楽しそうに服屋を巡り、それぞれにあった物を何着か購入した。

 

その様子をバックとたまたま居合わせたある調査の為に訪れたナイトレイドの男もニヤケながら見ていた。

 

 

そして、一息つく為に小洒落たレストランへ赴く。

 

「さぁ食べて食べて」

 

「は・・・はい」

 

「これおいしいね!」

 

「ファルお行儀が悪い・・・」

 

ファルが焼き立ての小さく切った肉を頬張り、ルナはそれを窘める。

 

「ははは、楽しそうで何よりだよ」

 

「ありがとうございます!」

 

エアが満面の笑顔で礼を言うと、バックもニッコリほほ笑み頷く。

 

「うん、じゃあメインディッシュといこうか!!」

 

 

いつの間にか現れた黒服に身を包む、男達が彼女らを羽交い絞めにする。

 

「えっ・・・えっ・・・」

 

驚くエアは混乱し、さっきまでの雰囲気と違う事にいち早く気付いたファルは

 

「てめっ、放しやがれ!」

 

掴まれた腕はそのままに後ろ回転し、渾身の蹴りを男にお見舞いする。

だが・・・、

 

「なんだこれ、田舎もんの拳法かよ!」

 

まるで通じず、ファルの腹部に一撃を与え大人しくさせる。

苦しげに呻き、もうどうする事も出来ない。

 

「ファルちゃん!!」

 

 

ルナも小刻みに震え、抗う意識も湧かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい兄貴、ちょっとミルク入れ過ぎじゃねぇか?」

 

「お前アホか!?まだ一つしか入れてねぇぞ、ぶっ殺すぞ?そういうお前こそ砂糖4つもいれてんじゃねぇ!」

 

「いや、あ、俺にとってはこれが適量なんだよ!」

 

「だから太り易いんだぞ、お前は!動いてねぇとぜってぇまた直ぐ太るからな!」

 

 

何を騒いでいる?と一同が後ろの席を見やると、二人の男がコーヒーを呑みながら何やら喚いていた。

 

「はぁ・・・まだ追い出して無い客が居たのか?おい」

 

「へい」

 

「ああ、店長あなたはな~んにも見ていない、良いですね?」

 

バックは店長を牽制し、部下に後ろの客の排除に当たらせた。

 

 

「おい、にいちゃん達・・・この店はさっきから貸し切りなんだ、とっとと出てってもらおうか?」

 

男二人は彼らを一瞥し、

 

「おい、チャンプ!このお兄さん、今なんて言った?」

 

「いや、俺には“シャル ウィ― ダンス?”って聞こえたんぜ」

 

「おぉ、成程な・・・じゃあ踊ってあげな」

 

「へ~い」

 

すっくと立ち上がったチャンプ。

 

「てめぇ、やろうってんのか」

 

黒服の男が殴りかかると、それをギリギリで避けて腕を掴み、壁に投げ飛ばした。

他の者達も同じように倒し、殴り、鎮圧していく。

 

タツミはその間、コーヒーを飲み続けている。

 

その強さに他の部下達も手をこまねき、バックも苛立ち始める。

 

「何しているさっさと、取り押さえろ!」

 

そこでエアが気付き、助けを求めた。

 

「さっき帝都の外で会ったお兄さん、お願い、助けて下さい!」

 

 

それと判ったバックも舌打ちを鳴らし、近づいて来る。

 

チャンプもタツミの側に立ち、睨みを利かせている。

 

「おい、貧乏人。とっとと・・・!?・・・まさか、貴方タツミさんじゃないです

か・・・?」

 

それを聞き、黙っているがバックは話し続ける。

 

「いやぁ~・・・やっぱりそうですか、先程は気付かなかったとはいえ、申し訳ありません。ろくに挨拶もせず、すみませんでした・・・けど、なんでこんな安いレストランに居るんですか?」

 

そこでタツミはバックをぞっとさせるような目で見てから

 

「そりゃあ、俺も貧乏人だからだ・・・」

 

「あ、ははは。冗談がお好きで、最近大臣とも懇意で、この帝都の遊所で羽振りのいい貴方が・・・」

 

「・・・・・・で、バックさん。俺はここでゆっくりコーヒー飲んでたんだが一体何の騒ぎなんだ?」

 

「いえいえ、単なる行き違いです。まさかタツミさんがこんな所にいらっしゃたとは知らずに・・・おい、お前ら何やってんだ、お詫びしろ!」

 

部下達一同、頭を下げ始める。

 

「おいおい、イケメンなお兄さんよぉ、こんな事で収まるとでも思ってんのか?ああ?」

 

チャンプが凄むが、

 

「止せ・・・もういい、チャンプ帰るぞ」

 

「いやしかし、あの子達」

 

タツミは彼女らを見て、

 

「おい、バックさんこの子らは親から買ったのか?」

 

「ええ、勿論。ちゃんとしたビジネスでの取引です」

 

「で、奥の方で怯えている御三方に売るって寸法かい?」

 

バックが所属する人身売買の競りで今回の三人の少女を落札した客が何やら遠くから文句を言っている。

 

「ちゃんと契約書だってあります、“お引き取り後、如何様成りとも当方より異議申し立ては行いません”という一文も書いてありますから、親御さんも承諾の上ですよ・・・なんせそれだけの高いお金も払っているんですから、当然ですよね」

 

「そうかい・・・それじゃあ、どうしようもないな・・・」

 

 

それを聞いていた、彼女達は親に捨てられたと呆然とし、絶望に打ちひしがれた。

 

「うそ・・・おとうさんとおかあさんが・・・」

 

「・・・・・・あたし達は、いったいなんのために」

 

「ううっ・・・ちくしょう・・・とうさん・・・しんじてたのに」

 

 

バックは場の空気を仕切り直す為に両手を鳴らし、

 

「まっ、タツミさんへのお詫びは後ほどさせて頂きます。私達は契約と法律に乗っ取って取引しているだけなんです、何もやましい事なんてありません。どうかお引き取りを、おい、お帰りだ・・・出口までお送りしろ」

 

姿勢だけは低く、ここから出るよう促す部下達をチャンプは睨みつける。

 

「おい、タツミの兄ぃよぉ、このまま引き下がるのか?あの子達置いて」

 

「しょうがねぇだろ、親も認めた上での取引だ、俺達が口挟むなんて出来る訳無いだろ」

 

「・・・見損なったぜ!!」

 

「・・・へぇ、お前に言われるなんてな・・・」

 

タツミは昔を思い出し、感慨深げであった。

 

 

「くっくっく・・・、とんだ邪魔・・・ああ、余興が起きたが、そこの威勢の良かった娘、バックさんや、もう少し痛めつけてくれんか?」

 

状況に安心し、少女を買った客の一人が彼の所へ近づき、注文し始める。

 

「ああ、その子落札したのスカさんでしたね」

 

「こういう娘を少しずつ刻んでいくのが面白いんですよ。」

 

「了解、それじゃあ両足おっちゃってよ」

 

ファルはもう、抵抗する気力も無く・・・

 

「あ・・・や・・・」

 

命じられた部下は躊躇なく、両足を素手でへし折る。

 

あらん限りの絶叫が店中になり響き、それを聞くスカは悦に入っている。

 

チャンプは立ち止り、部下達に出るように言われても震えだしている。

 

 

「良い悲鳴じゃ、今まで聞いた中で五本の指に入るのう・・・逃げれない子をじわじわと壊す・・・くくく」

 

「スカさんも変わらず良い趣味ですね~いやね、ここにいる人達は所謂帝都のマニア層ってやつでねーもう普通の女の子じゃ満足できないんだって、みんな、最高に幸せな笑顔を見ておいてから壊していくのが好き・・・っていう全く呆れた変態だよ」

 

「その変態のお陰でお前は潤ってんじゃろ。おい、わしはあの子だぞ、あの子!」

 

別の客がルナも指差し、

 

「目をやれ、そういう子をペロペロするのが萌え萌えなんじゃ」

 

 

タツミは出口付近で立ち止まっており、

 

「ペロペロ・・・ねぇ・・・そういやどっかの誰かが似た事言ってやがったと聞いたっけなぁ・・・」

 

 

バックは部下に指示し、アイスピックを片手にルナに詰め寄る。

 

「う・・・嘘でしょ・・・や・・・やめてください!や・・・いや、やめて・・・お・・・お願いやめ・・・いやあああ・・・・・・・ああああああああああ」

 

チャンプは口から血が流れ出すほど口内を噛み潰していた。

 

そして、残った三人目の客が

 

「最後の娘は儂の大事な子供にプレゼントしよう・・・おいっ」

 

バックはその意図に呆れつつも

 

「はいはい、あーあ折角買ったのに勿体ないなぁ」

 

エアを取り押さえた部下がその衣服を破り捨てる。

 

「ほれ紹介するぞ、儂が子供のように可愛がっているドグちゃんじゃ」

 

いかにも獰猛そうな大型犬のオスが鼻息荒く、エアを見ている。

 

「ドグは今発情期じゃからのう・・・おお、そうじゃ!今からその契りを皆に見て貰い祝福して貰うのはどうじゃ!」

 

バックは終始乾いた笑みを絶やさず、エアを少しばかり慰める。

 

「良かったね、ドコモ壊されないで。ま、人間の尊厳は壊れるけどね」

 

「な・・・なんでこんな酷い事を・・・信じてたのに・・・おとうさんもおかあさんも・・・おとなは・・・なんで・・・」

 

「親を怨むかい?気持は判るよ、僕も母さんに奴隷として売られたからね・・・けどね今じゃ母さんに感謝してるよ、母を怨む気持ちのお陰でここまでのし上がれたからね、だからお礼に後で残酷に殺してあげたよ。母さんもきっと僕の事誇りに思ってくれただろうな、親孝行出来て満足だよ」

 

言っている事が支離滅裂であったとしても、エアには何かが判った。

 

「あたしも・・・」

 

「あたしも?何かな?ま、もし生き延びれたらお金貯めると良いよ?けども、君みたいな田舎もんはゴロゴロいるから、今度はそんな人達をカモにすると良いかもね~金持ちになるには貧乏人から少しずつ取るのがコツだよ、あはは」

 

その話の中、客が犬のドグを鎖から外し、勢いよくエアへと迫りつつあった。

 



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悪党が斬る!(七)

周りの手下達を跳ね飛ばし、機関車の如くそれは突進し、その獣を蹴り飛ばした。

 

 

「ギャワワワ・・・キャウン、キャウン・・・グルルルル・・・・・・・」

 

 

チャンプはドグを蹴り飛ばしたが、

 

『ちっ・・・浅かったか・・・』

 

相手は一瞬怯んだものの、逆に闘争心に火をつけてしまった。

ドグの主人は怒りと恐怖の感情でない交ぜとなり、オタオタしている。

 

こうなればもう殺すしかない・・・だがそうなると、

 

 

 

「・・・タツミさん、これは一体どういうつもりですかね・・・?」

 

バックは怒りを抑えた静かな声色で問いかけた。

 

タツミはこうなる事を計算に入れていたが、さも偶発的なものだったという顔で

 

「うちの奴が申し訳ない・・・」

 

「どうけじめをつけるつもりなんですか?」

 

互いに静かに睨み合い周りが固唾を呑んで見守る中、ドグと睨み合っていたチャンプの前にタツミは出て行き、相手の実力が判らぬ獣は牙を剥き襲いかかった。

 

 

「キャ・・・、ガアガガッガ・・・」

 

 

ドグは後ろでのたうちまわり、声を思うように出ず口から血を垂れ流す。

タツミは半身ですれ違った瞬間、その舌を引っこ抜き、更に顎も外していた。

 

「・・・・・・!?」

 

一瞬の早業にバック初め周りは戦慄し、チャンプさえも改めて恐怖した。

 

「地獄の閻魔は舌を引っこ抜くモノと相場が決まってんだ・・・お客さんあんたの犬、躾が悪いんじゃないのか?」

 

主人のスゲは震え上がり、陰に隠れてしまう。

 

バックも敵に回せば極めて厄介な相手が目の前に居ると再認識している、だがこのままでは今後の商売に差し障る、何か妙案は無いか必死に計算し始めた。

 

「タ、タツミさん、先に手を出してきたのはそっちだ。これ以上邪魔をするならこちらも考えが有る!」

 

精一杯の虚勢を張り、恐怖を隠す。曲がりなりにもどん底から這い上がり荒事もこなしきて自負があるが今はそれも霧散霧消している。その考えもブラフでしかない。

 

タツミは右手に付いた血を刀の血振りのように振り落とし、それでも残った痕は懐の紙で拭い、更にそれをバックの座るテーブルの前に突きだした。

 

「な、これは・・・」

 

それは少々厚みのある札束だった。

 

「なぁバックさん、うちの奴があんたの客の可愛い犬に暴行を働いたのは詫びる、だが俺に手荒な挨拶した分は差し引いて・・・これでどうだ?」

 

「あ・・・ぐっ・・・ま・・・まぁ、これで手打ちにするつもりなら・・・今回だけは大目に見ましょう」

 

バックは止むを得ないと・・・この辺が妥協のし所かと納得しようとしたが、タツミは相手の落とし所の結論を察し

 

「・・・ん?ちょっと待った、俺にあんな真似させた原因を作ったのはそこの小娘共だ・・・人に迷惑掛けたらどうなるか、叩き込む為にこいつらも貰ってくぜ、良いな?」

 

「な?何を馬鹿な!?ふざけるのもいいかげんに!」

 

「なぁあんたの持ってた契約書を見せてくれねぇか?俺も後学の為に良く見ときてぇんだ・・・」

 

バックは内心の動揺を必死に隠した・・・改竄が見透かされる可能性を、本来は親達には休みは年一の数年奉公という名目で取り交わしただけだったのだ。とはいえ、力の無い者が契約違反と判って訴えてもこの帝都では通らない。・・・が、そうでは無い者なら

 

「ぐ・・・うっ・・・そ、その必要はありません・・・ええ、判りました。貴方にはいずれ先のお詫びをと思っていた所なんです・・・これでチャラで良いですか?・・・・・・」

 

タツミなら・・・この男なら・・・徹底的に調べ上げる恐れがある・・・親達の契約控えを見た日には・・・自分達の縄張りを取られる・・・最悪殺される大義名分を与えてしまう・・・。タツミはニヤリと笑みを浮かべ

 

「あんた、若いのに話が判るな・・・じゃあ、邪魔したな」

 

チャンプがそのやり取りをただ唖然として見守っているだけだった為、タツミはどやしつけ三人の少女達を連れてくるよう促す。

 

事態の推移をただ静観するしかなかった彼女達は、この場の地獄から別に地獄に行くのかもしれない・・・そんな諦観もあったが、今はその場の強者に従わざるを得なかった。

 

足の折れたファルにチャンプは声を掛けた。一瞬体を強張らせたが、もうどうにでもなれと素直に背中に乗り、ルナは片目を失った状態で心のダメージも強かったが、どうにか歩きだし、エアには上着を着せ5人はやっとその場を後にした。

 

その後ろ姿をバックは恨みのこもった眼球でいつまでも睨みつけていた。

 

 

 

「・・・ふむ、帰って来たでござるか・・・タツミ殿とチャンプ殿の足音の他に」

 

帝都の裏通りにある人家から少し離れた目立ちにくい場所に彼らの根城は有った。外観は普通の民家だが地下には武器や抜け道も作られている。

 

「イゾウ、頼んだ仕事は片づけてくれたのか?」

 

「・・・いずれタツミ殿の耳に入るで御座ろうて、風のうわさとやらでな」

 

タツミはそれを受け、片側の口角を僅かに上げた。

 

 

「ところでその童達は?ククク、紅雪の良い贄になってくれそうな・・・」

 

「おい、イゾウさん。この子達が怖がるだろうが!!」

 

3人の少女は感覚が麻痺し始めたのもあるのか、僅かに恐れただけだった。

 

「ククク、いやいや済まんで御座るな。この帝都では犬猫同様に命は簡単に消えていく故な、童達もせいぜい気をつけるでござるよ」

 

イゾウの悪ふざけをチャンプが窘める。

 

タツミはファルを背中から降ろさせ、無言で足を触り

 

「うっ・・・つ・・・いたああああああ」

 

骨接ぎの要領で折れた足を繋ぎ合わせる。それを包帯で縛り上げ仮処置を施す。

 

「とりあえず、このまま数週間骨同士が付くまで安静にしてろ」

 

その間チャンプはルナの傷付いた片目を消毒し包帯を巻く。

ただ、彼の脳裏に一瞬邪な感情が芽生えた・・・“俺はあいつ等とは違う・・・あんな外道共とは違う・・・下らねぇ事考える、俺は消えろぉお”

それまで圧し黙っていたエアが口を開き

 

「どうして・・・あんな大金を出してまであたし達をあの場から助けてくれたんですか・・・それとも、あいつらみたいに、似た事をするつもりで・・・」

 

彼女同様他の二人の少女も疑心暗鬼に駆られている。

 

「あ、いや、俺達は・・・」

 

「・・・・・・・」

 

チャンプが戸惑っているに反しタツミは何も言わずにその場を離れ、これからの身の振りの判断を仰ごうと彼を追った。

追った先で立ち止まっているタツミにチャンプは近づこうとすると・・・

 

「ぐ・・・・・・げほごほ・・・」

 

殴り飛ばされ、数メートル吹っ飛びチャンプは驚愕した。

 

「てめぇ、勝手な事しやがって!あの場に俺が居なかったらどうしてたんだ?おお?」

 

「つぅ・・・、そ、そりゃあ勝手に動いたのは悪かったけどよ、あの場はああするしかなかっただろう!」

 

「それで無駄金使っちまったわけだ・・・、大体俺があの痩せ男にカマかけて、その通り契約書偽造してやがったから、あれで納まったが・・・本当にあいつの言う通りだったなら、逆襲されて大恥かくとこだったんだぞ!・・・下手したら俺達のこの帝都での立場も悪くなるところだ、判ってんのかぁあ!」

 

「わ、悪かったよ・・・だけどな、俺はあの時に止めに入ったのは間違ってたとは思って無いぜ」

 

「・・・じゃあ、お前は丸腰であいつら全員相手に出来たのか?仮に倒せたとしてもだ・・・目の敵にされて付け狙われるのがオチだぞ」

 

「・・・・・・」

 

チャンプは言い返せずに黙りこんだ。そんな彼に対し、タツミは懐の紙を取り出し投げ渡した。踵を返して去った後、チャンプはその紙で口から出た血を拭った。

 

その様子を少し離れた影から覗いていた少女達は、

 

「あたし達・・・助けられたの・・・?つぅ・・・いたぁ・・・」

 

「ファル、足が折れてるのですから無理しない方が良いのです」

 

ルナの肩を借りているファルも

 

「ルナも、あんた目はもう大丈夫なの?」

 

「まだかなり痛みますが、平気です。私はこう見えても我慢強いのです」

 

「・・・・・・」

 

エアは口が重くなっている。

 

「エア?どうしたの?」

 

「無理も無いのです・・・エア、私達は何とか大丈夫なのですから、気にしないで下さい」

 

「ねぇ・・・どうして二人ともそんな呑気でいられるの?あの人達だって安心させといてまた、あたし達に酷い事するかもしれないのに?あたし、怖い・・・」

 

「・・・あたしは信じるよ」

 

「ファルちゃん!?」

 

「あのまま、あそこにいれば、あたしはどうなってたか・・・とりあえず、あたしはこの状態じゃ逃げる事も出来ないよ。だから不安だったら二人で逃げなよ」

 

「・・・ファル、あなただけ格好付けようたってそうはいきません。私だって頭がジンジンしてますし、少なくとも今は彼らは私達に危害を加えようという気はなさそうです・・・それに、ここを出て行って、またバック達に捕まれば今度こそアウトですよ・・・最悪と、幾らか悪いのどちらか選べと言われましたら・・・考えるまでも有りません・・・うっ・・・すみません・・・私も少し休みたいですね」

 

「ルナちゃん・・・、わかったよ、ここから逃げるにしてももう少し様子を見てからだね・・・」

 

 

その時、イゾウが居間に入って来て皿に盛った先程蒸したふかし芋を頬ぼっている。三人はその物音にビクつき、後ろを見るとランプの灯ったその居間のテーブルで美味しそうに食べる彼の姿が目に入った。

 

「はむはむ、我ながら上出来で御座るな・・・しかし、ちと作り過ぎてしもうたな・・・うむ、仕方ない。これは、一人では食べ切れん・・・だから、誰かが食べて

も仕方ないでござるな・・・もうこんな時間か、歯を磨きさっさと寝ると致すか!」

 

“チャンプ殿、拙者の房楊枝知らぬで御座るか?”

“いやイゾウさん知らねぇって!”

 

その場から離れたイゾウが何やら軽口を叩き合っているのが聞こえ、三人は顔を見合わせた。

 

居間には湯気の立ったふかし芋が目に入り、

 

「ねぇ・・・お腹へったね」

 

「ファルは食いしん坊ですからね・・・けど、お腹が空いたのは事実です」

 

「・・・あたし食べてみるよ、3人の中で怪我してないのあたしだけだから、ね?」

弱々しい笑顔を二人に向けたエアは止める暇もなく、食べた。

 

「んぐんぐ・・・、たぶん毒は入って無いと思うよ・・・でも食べて数時間したら出る毒もあるかもしれないから・・・朝まで二人は待った方が・・・って、えええ?」

 

今度は止める間もなく二人がぱくつき始めた。

 

「ばくばく・・・、なにを、ばく、水臭い事言って・・・ばく、ここまできたら死ぬ時は一緒です・・・あ、意外においしいですね」

 

「エアあんた!そっちの大きいのあたしもらうから!もぐもぐ・・・ウうっ・・・み、みず!」

 

エアは呆気に取られながらも二人に負けじと食べ続けた・・・そのうちどういう訳か理由が判らずも涙がこみ上げ、泣きながら食べ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

それから幾週後、朝から天気は悪く帝都郊外の墓地にはひと気等無いと思われていたが・・・

 

フードを被った男が大金を握りしめ、ぬかるんだ地べたに膝をついている。

 

「どうか・・・この恨みを・・・」

 

対手の男は革命軍の密偵であり、ナイトレイドのサポートもしている。

顔半分を隠し、周囲に気を配り罠では無いかと警戒もしている。

 

「事の次第をお聞き致しましょう・・・バックレさん」

 

「う・・・嬉しいです。まさか、噂のナイトレイドの方と会えるなんて・・・」

 

「私はナイトレイドではありません・・・」

 

帝都にある宗教的施設の建造物に手紙や願い事を書くスペースが有り、そこに暗号で書かれた内容を読み解くと、彼らと接触できるというものである。

帝都に複数潜む密偵達が革命仕事の片手間にそれを望んでいるであろう人を見つけた時、それとなく方法を伝える。

その気になれば、金だけ受け取り懐に納めれるが、そんな事をすればナイトレイドから反感を買うだけでなく、ナイトレイドは実は革命軍の仲間と密かに民衆に思われている為、自分達の評判を下げる真似をする訳にもいかない。

 

 

 

「それで、頼みの筋とは・・・」

 

その男は涙を流しながら

 

「はい・・・先日、私の可愛い姪達が・・・田舎から私を頼って、出稼ぎに来たんです・・・ですが・・・ある日、彼女らは私の目の前で・・・くっ・・・乱暴をさ

れ・・・、足を折られ目を潰され・・・それに、犯され・・・純潔も・・・くそ・・・私に力があれば・・・殺しても殺したり無い・・・くぅぅぅぅ・・・」

 

「・・・それは、何処の誰ですか・・・?」

 

「・・・それは・・・最近、この帝都で密かに幅を利かせている、ちょっとした顔役のタツミ、という奴です・・・こいつが私の姪達を・・・ちくしょう、ちくしょうおおおお」

 

バックレと名乗った男は地面を何度も叩いた。

 

「事情は判りました・・・その姪御さん達は?」

 

「殺されました・・・ですから、どうかこの恨みを・・・晴らして下さいぃぃぃ・・・」

 

「・・・裏を取り次第、お引き受け致します・・・但し、もし依頼に嘘偽りが有った場合は・・・、」

 

「有った場合は・・・?」

 

「貴方の命・・・頂戴致します」

 

「は、はい・・・それはもう・・・どうぞ」

 

そして、その男はお金を渡し、頭を深々と下げている。

雷鳴が轟き辺りが一瞬明るくなったその時に、陰湿にほくそ笑んだその男の笑みが泥水に映ったが、その密偵は気付けなかった。
























「ファル!」謎のポーズを取っている。
「ルナ!」謎なポーズを取っている。
「エア!」謎々なポーズを取っている。
「チャンプ!」不可思議なポーズを取っている。

「み」
「ん」
「な」
「揃って!」
「「ワイルド特選隊!!」」

彼ら後方が謎の爆発を起こし、決め顔で悦に入る。
そして、彼らは仲間になって欲しそうにタツミを見ているが・・・彼は新聞を読んで一切を無視した。


「師匠!一緒にやってよー」
「そうです、タツミさん、私達と活動を共有すべきです!」
「そうですよ、あたしも恥ずかしいですが、頑張りました!」
「タツ兄ぃ、ノリ悪いぜ!」

・・・彼は新聞を読んで一切を無視した。




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悪党が斬る!(八)

「博士~伝書鳩ですよ~」

 

「なぁ~にぃ~?アタシへのラブレターかしら~うふふふ・・・何々この娘の髪の毛から目を一つ生成しろ、一か月以内な、以上・・・・・・んもぅ~ドぅえす~~」

 

セリューが博士と呼ぶスタイリッシュに手紙を渡し、彼(?)が何やら悶え蠢めいている。

 

「も~ぅ、タツミ様ってばいっつも無理難題ばっかり~~~いけず~~そのクセ全然アタシの相手してくれないんだから~くやし~い~わ~」

 

「博士、前から気になってたんですがそのタツミってどういう人なんですか?」

 

ここはスタイリッシュの個人研究室であり、セリュー・ユビキタスはその助手を務めている。

 

「あん?あんたみたいな小娘が知る必要無いのよ!」

 

「・・・の割にはたまにタツミさんの話題が出ますよね?」

 

「むっ・・・言うようになったじゃない?・・・仕方ないわねぇ、耳の穴かっぽじって良く聞きなさい・・・あれは忘れもしない、華の学生時代・・・」

 

スタイリッシュはその回想に入り、セリューは茶菓子に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

ナジェンダはナイトレイドアジト広間に皆を集めた。

 

 

「集まって貰ったのは他でも無い・・・みんなシゴトだ・・・」

 

一同の目が光り、それぞれ最近の近況を言い合う。

 

「メイドの仕事も楽じゃないわよね~誰かさんが店長のお陰で?」

 

「あたしのお陰で変装完璧に出来るのに、上司の苦労、部下知らずよね~」

 

「誰が上司よ!!!」

 

「けど嬉しいです。ナイトレイド以外でまともに仕事が出来たのは初めてなので・・・」

 

「まともねぇ・・・シェーレはドジしててもそれが受けてたからね~」

 

「・・・レオーネは接客も上手くて凄かった」

 

「マッサージ屋で慣れてたからね~アカメももう少し愛想よくすれば人気出るって」

 

「ああ、俺も行きてぇな~・・・チャルシ―ちゃん達のメイド喫茶」

 

「ほぉ、ラバ?じゃあ俺が代わりにメイドしてやろうか?」

 

ブラートの親切(?)にラバックは顔面蒼白となり、

 

「それでボス、今回の相手は?」

 

アカメが先を促す。

 

「標的はタツミという奴だ、そいつの仕事は今一つ不明だが恐らくロクでもないものだろう。帝都で親を失った子供達をさらって売買しているという噂だ。つい先日、この帝都の叔父を頼って来た少女達がそいつに犯された上、無惨に殺されたそう

だ・・・そいつの居場所は・・・」

 

一同の目が表に出さないようにしていても僅かながら鋭さが増す。

 

「それで依頼料は500万・・・から密偵への手数料を引いて450万だ」

 

ここ帝国に置ける金銭価値として中々の高額の依頼だと皆もどよめく。

 

「これが奴の似顔絵だ・・・表社会では余り目立つ事をしていないからな、間違えるなよ・・・あと腕も立つとの事だ、油断するな!」

 

それを見て、ラバックの表情が固まる。

 

「全くちょっと良い男っぽいけど・・・腕が立とうが狙撃で一発よ!下衆な奴一人なんてあたし一人で十分だわ、450!」

 

「あはは、はりきっちゃて~・・・マインが450なら、あたしは440!」

 

「むっ?430よ!」「42じゅう~5!」「・・・415!」「413!」

チェルシ―と二人で細かく競り合っている中、

 

「なぁアカメ、今回のシゴトあたし達二人で一緒にしないか?」(410.5!)

 

「レオーネ、こないだ私が残していた肉が消えていた・・・」(はぁ?410.4!)

 

「ああ、あれね~・・・酒のつまみが無かったから、ちょっとねぇ~・・・」(もうあほらしー400.9!)

 

「・・・400!私一人で十分だ」 (あんた、細かく競り過ぎなのよ!)

 

「なっ!?くぅ~・・・390!」 (ブーメラン事案発生!)

 

「じゃあ~・・・私は~370です」

 

「ハッハッハ、シェーレ?最近俺も腕が鈍っててなぁ、腕が立つなら面白い、330だ!」

 

ブラートがこの中で最安値を叩きだす。

 

「330万・・・どうだ、他にはいないか?皆、ブラートに任せるか?」

 

ナジェンダが問うが、マインが待ったを掛ける。

 

「もぅ、ブラート!果たし合いとかじゃないのよ!そういう男の勝負は他でやって

よ、モノにはモノの相場ってものがあるじゃない?・・・だから、あたしは280!」

 

「あ~あムキになっちゃって・・・あたしは店長の仕事も忙しいから~降りるよ」

チェルシーも肩を竦め呆れていた、これ以上張りあうと当初の半値以下になってしまうと。

 

「・・・おい、マイン・・・フッフッフ、お前は実は男だったんだな!ならば俺も応えよう!250だ!」

 

「誰が男よ?違うし!!」

 

「250・・・、良いのかブラート?その分、差額は私に入るから構わんが・・・」

 

 

「・・・・・・10」

 

 

「10?じゃあ、あたしは・・・って、えええ?誰よ言ったの?」

 

「10万だ・・・ナジェンダさん」

 

「ラバ・・・あんた、正気・・・?」

 

マインもいぶかしみ一同ラバックに注目する、ナジェンダも念の為に聞き直す。

 

「ラバック良いのか?まさか、このタツミに個人的な恨みでもあるのか・・・?」

 

「あ・・・いや、別にそんなんじゃ無いですよ・・・ただ、少しでも金が欲しいだけでさぁ・・・」

 

ナジェンダも不審に思い、改めて問い直す。

 

「ラバック、判っているとは思うが私達のシゴトは個人の感情を剥き出しにすれば・・・感情で動けば仕損じる確率が高くなる。だから、本来なら標的の名前、顔形等しか言えないのが決まりなのだが・・・お前達とは寝食も共にしているからな、サービスで話していると思ってくれ・・・ラバック、感情に流されて命を落とすな

よ?」

 

ラバックは皆に見えないように一瞬険しい顔になるが、努めて明るく

 

「いえ、別に大丈夫ですって、タツミ何て奴と面識無いですし本当に10万でも欲しいだけですって、本の仕入れがここん所嵩んでるんですよね~あっはは」

 

「・・・いつも通り期限は2週間以内だ、仕留め損なえばラバを抜かして仕切り直しだ」

 

それを聞いたチェルシーは驚いて目を剥く。

 

「え!?ラバックを抜かしてって・・・彼が生きてた場合は、そのままですか?」

つまり仕留め損ねてもお咎めなしか、と彼女は聞いている。

 

「ああ、それがどうかしたか?」

 

「いえ・・・別に」

 

「何よはっきり言いなさいよ?」

 

「・・・あたしが居た所じゃ、期限内に標的を始末出来なかった時は同じ仲間に殺される事になってたの・・・」

 

一同それを聞き僅かに驚くが、

 

「我々の真の敵は帝国政府だ、仲間内で争っても仕方ないだろう。チェルシーが居た所はともかく、私達の所は私達なりのやり方が有る」

 

「そうですよね・・・その私が居た所の仲間達は全滅しましたからね・・・」

 

「あんた・・・本当は結構苦労してるのね・・・」

 

「・・・別に・・・それが普通だって思ってたし、恨みを持つ人から見たら早く相手を殺して欲しいって思うだろうし、厳しい決まりだったけど仕方ないかなって・・・」

 

チェルシーの相手の命だけでなく自分の命も重く感じていないようなその表情の横顔に、改めてマインは戦慄と憐れみを感じた。

 

「んん~・・・まぁ、チェルシーちゃんの身の上話は今度ゆっくり聞かせてくれよ・・・じゃあ、ナジェンダさん?」

 

前金の5万をナジェンダから受け取り、後金は済んだ後で貰う。ラバックは片手をひらひら去っていった。

 

 

 

タツミはここ数週間、アジトへ余り帰らず帝都の繁華街をうろついていた。

 

「オヤジィ、酒粕まんじゅうあるかい?」

 

甘味処の店軒下の長椅子に腰かけ、注文をしている。

腰の低そうな主人が愛想笑いを浮かべながら現れ、

 

「へいへい、どうぞどうぞ。最近甘いモノの物価も上がりましてねぇ・・・以前の3倍になりました・・・どうかご勘弁を・・・へへへ」

 

「あ?こないだ上がったばかりだろ?冗談じゃねぇや!何やってんだ政府の連中は?」

 

「あんまり大きな声で言うのは止めた方が・・・何処で特殊警察やらが見てるか・・・」

 

「特警や政府が怖くて道歩けるかってんだ・・・このままじゃいずれ終わりだな・・・なぁ?」

 

「勘弁して下さいよ・・・こっちに話振るなんて」

 

「・・・で、何か変な動きはあったか・・・?」

タツミはそれまでの声の調子を変えて低くドスを利かせる。

 

「いえ・・・今の所は・・・ただここ数日、反乱軍らしき密偵が動いているとか、例の先日の一件が何か絡んでるんじゃ・・・」

 

「だからあいつは、動くなっつったのに余計な尻拭いさせやがって・・・まぁ仕方ないか、ああいう目に遭いそうじゃなぁ・・・」

 

「・・・・・・」

 

他の情報交換をしている内に、女性の店員が注文の品を持ってくる。

タツミはそれを平らげた後、

 

「じゃあここに置いとくぜ」

 

「へい、またどうぞ、御贔屓に!」

 

タツミは品代よりも多めの金額を盆に置いていった。

 

 

 

 

ファルは気合い声と共に蹴り技をチャンプに叩きこむ。

それを片手で弾き、張り手の要領でファルを吹っ飛ばす。

 

「いったぁあああーい!!もっと手加減してよ―――!!」

 

彼らのアジトの物や木箱やらが散乱している置き場所に突っ込んだ為、酷い有り様である。

 

「あはっはっは、まだ骨だって完全にくっついて無いだろうに、その辺にしとかねぇと、また折れるぜ?」

 

「くぅ~~~~、ゼッタイおじさんをぎゃふんと言わせて見せるー!!」

 

「お?おいおい?俺はまだおじさんって年齢じゃねえぞ?」

 

エアとルナは傍で見物している。

 

「ファルちゃん元気になって良かったね」

 

「ファルから元気を取ったら何も残りませんよ?」

 

それに対し、二人は談笑し出す。

 

「しかし・・・エア、バック達から何かの仕返しが来ると思ってましたが今の所なにもありませんねぇ・・・」

 

「諦めてくれたのかな?」

 

「だと良いんですけどねぇ・・・って、のわあああああああ!!」

 

勢いよく吹っ飛ばされたファルが二人に直撃する。

三人は口喧嘩を初め、しまったなぁ・・・と頭をかきながら苦笑したチャンプが倒れているエアに手を伸ばす。

 

「うっ・・・」

 

一瞬邪な感情が湧きあがり、エアを押し倒す自分を想起してしまう。

 

「あはは、すみません・・・?チャンプさんどうかしました?」

 

「あ・・・いや、何でも無いんだ・・・あはは、ちょっと下痢気味でよ・・・稽古はまた今度な?あはは・・・」

 

3人の少女の苦笑いの声を聞きながら、家屋に入りチャンプは鏡の前で険しい顔をした自分と対峙する。そこにイゾウの姿も入る。

 

「チャンプ殿、己が持つ業からは容易には逃げられるもので御座るなぁ・・・」

 

「・・・イゾウさん、判るのか・・・?」

 

「拙者もお主の詳しい事までは判らねど、何やら己が己の思うように成れていない事だけは判るので御座るよ」

 

「丁度良い、イゾウさんはなんでタツの兄と一緒に来たんだ?」

 

「はて・・・懐かしいで御座るな・・・あれは拙者がまだ祖国に居た頃、数年前・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・長くなるので止めるで御座る!」

 

「・・・っておいいいい!!」

 

チャンプは壮大に突っ込みを入れた。

 

「くっくっく・・・まぁかいつまんで言うで御座れば、以前の拙者はあの時タツミ殿に首を刎ねられ、死んだ・・・ようなものであったな・・・拙者には斬る事の喜び、相手を殺す事の喜びが渦巻いていた・・・自ら斬られる事も然程苦ではないと思ったが・・・タツミ殿は恐ろしい御仁だ・・・相手の心の弱い面を突き、剛の者でも命乞いしたくなるような状態にしてしまう・・・それから拙者は己の業と向き合うようになったで御座るな・・・」

 

「・・・・・・」

 

「参考になったかは判らぬで御座るが・・・くくく、成程、タツミ殿は敢えてお主にあの童達を任せたであるか・・・これもまた修行で御座るな・・・では拙者も仕事に行くで御座るよ」

 

チャンプはイゾウの後ろ姿を見送り、

 

「修行か・・・何故俺は・・・あんな子供に・・・、俺自身がひょっとしてガキだからか・・・?」

 

そしてチャンプはふと気が付く。

 

「あれ・・・あのおっさん、なんの仕事してたっけか?」

 

 

 

タツミは帝都の門から出て付近にある森の中を歩いていた。

月が出て、微風が流れ心地良い。

 

・・・・・・月以外は漆黒の闇で塗られたその空間に居るものは・・・タツミは僅かに指を動かした。

その時、風の向きが変わる。

 

「よぉ、そっちは風下だぜ?姿隠して殺気隠そうが匂いで判るぜ?」

 

初めは微動だにしなかったが、この状態では埒が明かないと見て、

 

「いつから気付いてたんだ?お客さん?」

 

タツミはそれには答えず、

「・・・やっぱり本屋の店長か・・・こんな時間にお勧めの本の押し売りか?本日の営業はもう終了だろ、明日にしてくれよ」

 

「良いや、別のシゴトの営業は今からだ、おにいさんよぉ・・・」

 

ラバックは身構え、殺気を出し始める。

 

「正面切って闘うなんざ、あんたらしくないな」

 

「・・・まるで俺の事知ってるような口ぶりだな・・・ある程度はこっちの事も調査済みってか?流石ちょいと帝都の暗黒街で名が知れてるだけあんな・・・まさかあん時、店に来たのも・・・」

 

「どういう理由で殺しに来た?」

 

ラバックは何も言わずにタツミの隙を窺っている。

 

「そうか・・・それじゃあ仕方ないな・・・お前にはここで死んで貰うぜ、ラバック」

 

その時、空気が切り裂かれた。

 


















タツミは怪我が有る程度治って、元気になったファルにせがまれ稽古をつける事になった。
「タツミさん・・・いえ、師匠お願いします!」

面倒な顔はしながらも内心悪い気はしないタツミは相手をしていた。
初めは指一本で行い、そのうち空気投げのように手も使わずに投げ飛ばしたように見せた。
ファルは驚き、尊敬のまなざしで見るようになった、が一つ心配事があった。

『エスデスに見られてないだろうな・・・だけど子供に嫉妬なんか・・・』

彼らの世界の住人から見れば彼女は神のような立場になる。タツミでもこの世界の住人をしている以上、何処で見られているかまでは判らない。

数日は杞憂で終わったが、その日・・・。

「す、すみません・・・・ちょっとお腹が・・・あはは・・・」

その日一日、ファルはトイレと友人になった。
翌日も治ったと思って、タツミに稽古を付けて貰おうとすると・・・。

『ま、まさか・・・!?』

「おかしいね、ファルちゃんお腹そんなに緩かったっけ?」

「触らぬお腹に祟りなしですよ、エア」

疑心暗鬼のタツミは念の為にエアとルナと興味の引く話をして、1,2日親しく過ごした・・・そして、

「エ、エア、あ・・・あの本当に申し上げにくいんですが、く、口から臭いが・・・」

「え?いつもちゃんと歯磨きしているのに・・・でも、歯は良いほうだったのに、なんだか痛いような・・・けど、ルナちゃんもなんか・・・ごめん、臭うよ・・・」

「そ、そんな、昨日お風呂に・・・う・・・確かに・・・な、なぜでしょう?」

こ、これはアカン・・・疑念が確信に変わったタツミは少女達と余り関わらないようにした・・・。その後、案の定三人の症状は無くなった。




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悪党が斬る!(九)

墨で塗られたかのような空間に一瞬、一筋の光を反射した。

ラバックの帝具クローステールが針の如く細長く、タツミの喉目掛けて飛ばされた。

 

次の瞬間、飛ばされたのはラバックだった。

 

「ぐ・・・が・・・」

 

飛ばされながら反転し、何度かその衝撃を反転で緩和した後、強打を受けた顎に手をやり、タツミを警戒し始める。

 

『何て奴だ・・・最速で打ったはずが、かわされた上に一撃当ててきやがった・・・もう少し俺が首を反らすのが遅かったなら・・・』

 

タツミは何も言わずに、離れたラバックを見ているだけだった。

 

『ちっ・・・楽に倒せる相手じゃないか・・・』

 

ラバックは手を素早く何度も交差させる。

 

『話に聞いてた以上だな、本気でいくしかねぇな・・・』

 

槍状に変えたそれで突進してくる相手を標的者はいぶかしむ。

突かれたそれを90度反転、一重の身でかわすと同時に一撃入れようと、

 

「おらぁ!!」

 

「!?」

 

周囲に張り巡らしたクローステールがタツミを襲い、標的を縛り上げるように絡め取る。

 

「・・・へっ・・・」

 

そこに有ったのは白外套のみ。

 

『今のは決まったと思ったのによぉ・・・接近戦は避けた方が良いな』

 

タツミはラバックの背後に回っていて、互いに膠着状態が続く。

 

「・・・どうした??あ?俺は背中ガラ空きなんだぜ、何故こねぇ?」

 

「仕掛けて来たのはそっちだぜ?」

 

「あんた、さっき俺を殺すって言って無かったか?・・・まさか、俺に惚れてか?生憎そっちの趣味は無いぜ?」

 

「殺す前に聞いておく、お前ら何故俺を狙ってやがる?」

 

「そんな事言うと思ったか?」

 

「・・・大方、最近失踪した少女達が惨い目に遭って・・・だのと与太話か?」

 

タツミは敢えて探りを入れてみた。

 

「・・・、しらねぇな。俺はあんまり話し好きじゃねぇんだよ」

 

やはりな・・・ラバックの緊張具合や間で十中八九その件だろうと彼は考えた。

そしてその間、落ちた白外套に手をやった。

 

「『舐めやがって・・・』 おらぁああああ!!」

 

ラバックは地中に潜ませたそのテールでタツミを空中に跳ね飛ばす。

身動きが取れないであろう、その相手にラバックは渾身の槍と化したそれを無数に穿つ。

それを外套で包むように払いのけ、

 

「!?」

 

滑るようにラバックに肉薄し、手を鋭利にさせ、脇腹から突き差し肋骨をも外すような一撃を加える。

 

「ぐがぁああああ」

 

だが、その一撃はラバックを後方に反らせたが、致命傷までには至らない。

 

「・・・・・・」

 

やはりテールで防御していたか・・・ならば、とタツミは一気に間合いを詰め、手をラバックの心臓に当て

 

「零式・・・」

 

鎧のようにクローステールで覆っていようとも、タツミ体内の動き及び体幹を用いた全身からの発動により、内部振動を相手に与え・・・骨にヒビが入り、内臓系統も大

きな損傷が起き、目眩と吐き気にも襲われ、立っている事もままならない。

 

「ぐぅ・・・が・・・」

 

ラバックは膝を付き、精神力でギリギリ持ち堪えている。

タツミは背を向け、去ろうとする。

 

「て・・・てめぇ・・・逃げるんじゃねぇ・・・俺を殺すん・・・じゃなかっ・・・ぐは・・・」

 

その場で胃の物を吐いてします。

 

「逃げる・・・?アホは相手が逃げているかどうかの区別もつかねぇようだな?・・・まぁいい。・・・気が変わった、もうお前なんざ殺す必要もねぇ」

 

「・・・なんだ?情けでも掛けたつもりか?へ・・・へへっ、お前のその甘さ必ず命取りになるぜ?」

 

「・・・使い古された負け惜しみは聞き飽きた・・・次はもっとマシな負け惜しみを考えときな・・・」

 

「お前・・・俺はこう見えても、天才なんだ、く・・・お前の動きは把握した・・・次会った時がお前の命日だかん・・・うぐ・・・げほごほ・・・うぐ・・・」

 

「はっ・・・、ああ、楽しみにしてるぜ。・・・次が有ったらな?」

 

だが、

 

 

 

「そこまでだ、若人達よ!!」

 

 

 

「・・・あ?」

上から声が聞こえ、ラバックは怪訝に声の主を探し

 

「・・・いつ出て来るのか待ちくたびれたぞ・・・」

タツミはニヤリとほくそ笑んだに対し、

 

 

 

「とぉお!!」

 

いつの間にか月が辺りを照らし、複数の人間がそこへ颯爽と降り立つ。

 

 

「ブラート!」ハンサムなポーズを決めている。

 

「アカメだ!」格好悪良いポーズを決める。

 

「シェーレです!」雅なポーズになりかかっている。

 

「レオーネ!」艶なポーズを・・・・・・決めた。

 

 

それぞれがそれぞれに珍妙なポーズを決め、

 

「み」

 

「ん」

 

「な」

 

「揃って」

 

「「「「ナイトレイド特選隊!!」」」」

 

その後、何故か後方で謎のカラフルな爆発が起こる。

そして4人と2人の間を木枯らしのような冷たい風が吹き、木の枝等で丸まったゴミが転がっていった。

 

「「・・・・・・!?・・!?!??」」

 

この時、タツミとラバックの心は敵味方の違いを乗り越え偶然一つになった。

 

 

「フッ・・・決まったな!」

ブラートは満足そうに微笑む。

 

「本番では初めてだから、少し緊張した」

 

「ちゃんと出来てましたよ、アカメ」

 

「あたしもサポートしたから大丈夫っしょ!」

 

3人の女性陣も互いの健闘(?)を称え合う。そこに、

 

 

「おおおおいいいいい!!あんんたらぁあああなにてきのまえでなのってんだああああ!!」

 

謎の体内沈痛ホルモンでも分泌されたのか、ラバックは痛みと具合の悪さを失念し大声でツッコム。

 

 

「ど、どうしたんだラバ?荒ぶっているな・・・」

 

「アカメ、そういう年頃なんですよ」

 

「うんうん判る判る」

 

 

「ち、がーーーう!!」

 

 

 

「勘違いするな、ラバ?この男は強敵と書いて友、と呼ぶ!だから問題ない!・・・それにだ、我々4人がポーズを決めている時に攻撃もせず、見惚れている奴に悪い奴等居ない!!」

 

「ふがふご、がるうううるるるる!」

 

ブラートの粋な返答に筆舌に尽くしがたい怒りを覚えるラバック。

その時、呆れたタツミとブラートの視線が勝ち合い、

 

「上から見させて貰ったぞ、タツミと言ったな?手加減していたのだろう?殺せれば殺せたものを・・・お前も中々熱い男のようだな!」

 

「・・・いや別に」

 

「ああ、判っているぞ!君も我々と共に来たいのだろう?」

 

「いや別に・・・『ナイトレイドに行ったらエスデスが激怒するだろうな』」

 

「全く若人は素直になれないものだな・・・今なら特別に我々特選隊の一員として迎えるぞ」

 

嫌な顔するタツミにお構いなしに

 

「ああ、腕も申し分ない。歓迎するぞ!」

 

「そうですよね、どうやらこの人が依頼された通りの人じゃなさそうですしね」

 

「まぁ、あたし達の仲間になってくれなきゃこの場でタツミは4人相手に闘って貰う

けど、ねぇちょっと可愛いおにいさん?それでもいい?」

 

タツミは可愛いの基準に心の中で首を傾げながらも、4人相手でも闘う気を出していた。

 

「うむ・・・この男はまだ実力を隠している。お前達、油断するなよ・・・だが大したものだな。俺達相手でも怯まないとは・・・」

 

 

「いやぁ~・・・おねえさん、そんな可愛い目で不敵に睨まれたら・・・滾っちゃうぞ!」とレオーネは頬を紅潮させている。

 

タツミはやり難さを感じながら、場の流れに乗ろうとした。このまま戦闘に突入するもよし・・・

 

「おい・・・お前、タツミ・・・忠告してやる。この人達は一人一人がかなり強いからな?」

ラバックの言葉にタツミは一瞥しただけだった。

 

「お前、まさか信用してないのか?・・・いいか、これは俺の為に言ってるんじゃなくて・・・お前の為に言ってるんだぜ?・・・決して、食事中や人が風呂入ってる時にも熱心にブラートさんが特選隊に加入を勧めてくるからじゃないぜ?」

 

「ハッハッハ、ラバックお前ももう少し経てば自分に素直になれるぞ!」

 

話に割り込んでくるブラートを無視し

 

「良いか?俺があんなダサいガキみたいな真似事したら、俺の美学に反するんだよ!だからお前を生贄に・・・じゃなくて、だな・・・この場を生き延びるには俺達の仲間になるしかないんだよ!・・・良いかこれは絶対、あんたの事を思って言ってるんだからな!さっき止めを差さなかった恩を返す為だからな!間違っても俺の為じゃないからな!だから頼む、おにいさん!同じ本の趣味を持つ心の友だろ?な?だからお願いします!クソ恥ずかしい特選隊になって下さい!」

 

ラバックは土下座してまで頼みだす。

余程、ブラートの勧誘が嫌だったのだろう。

 

「ハッハッハ、ラバも中々言うじゃないか?ところで、同じ本の趣味とはなんだ?俺も聞いてみたいな」

 

「ぐっふっふ、え~なになに?ラバと共通の趣味?なんだろ?おねえさんに教えて?」

 

「趣味か?私も世界の肉図巻が・・・あれは見てるだけで涎が・・・」

 

「アカメ、案外近いかもよ~くっくっく」

 

「なに?ならば二人とも後で語りあえるな!」

 

含みのある笑みのレオーネと純粋なアカメのやり取り・・・

ラバックはその場の潮の流れの変わり目を逃さない・・・目が怪しく光り出す。

 

「そうそう、そーなんだよ、このおにいさんは、そういう本買ってたんだよ、な?」

 

ラバックはタツミの肩に手をやりながら目で暗黙に伝える。

判ってるよな?ばらされたくないよな?

 

タツミはこの時ほどラバックを殺しておけば良かったと思った事は無かった。

 

「そうか!・・・タツミ、済まない・・・ある依頼主がお前の殺しを頼んだのだが、きっと何かの間違いだろう・・・話が所々で食い違っていたからな。ラバには悪かったが、私達も独自に調べていたんだ」

 

「そうなんです、間違った相手を殺したなんてなりましたら、目も当てられませんからね・・・決して暇だったからじゃないですよ」

 

シェーレの本音は不明だが、アカメは喜び

 

「ブラート、やったぞ!共通の趣味と特選隊の仲間が増えて5人になったな!」

 

「おい、待て「正に一石二鳥だな!4人では今一つフォーメーションに盛り上がりが欠けていた・・・だがこれで、あの幻のファイティングポーズを完成させられるぞ!」

 

「ううっ・・・良かったですね」

 

「にゃはは、鍋でこの世は事も無しだったっけ?あはは」

 

タツミの反対意見を無視し、アカメとブラートは燃え上がり、シェーレは涙を流して喜んだ。

固まっているタツミの肩をラバックは頷きながら静かに手を乗せた。

 

(この後、謎の沈痛ホルモンが切れたラバックは痛みを思い出し、1ヶ月以上完治に時間を要した。)

 

そんな彼らを離れた場所から見ていた人影が・・・

 

「へぇ~・・・もし、彼ら(密偵)の下調べがお粗末だったんなら・・・月に代わってオシオキしてあげなくちゃ・・・駄目だよね?」

 

そう言って、自身の唇に二本指を当て、口から出した針を一回転させた。

 








アジトに帰って来たシュラが目にしたものは、それは・・・


「「「「みんな、揃ってワイルド特選隊!!」」」」

大の男1人と少女達3人が互いにどこを改善したら良いかディスカッションしていた。


「てめぇら何やってんだ!!!」

呆れたシュラの説教が始まり、一時間後・・・


「良いかお前ら、そんなクソダサいポーズじゃ今時、ガキどもだって見向きもしねぇからな、おいチャンプ、お前は手の角度は45度だ!視線はもっと2時の方向でだな・・・そしてお前は」

彼らに心強い新しい仲間が加わった。












※本当は10話位でまとめるつつもりだったのですが・・・(苦笑)


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悪党が斬る!(十)

「ようこそ・・・と言いたい所だが、お互い胸の内は複雑なものだろう?」

 

「そりゃ、まぁ色々とな・・・」

 

ナジェンダは気遣いを装いつつも相手・・・タツミの出方を窺っていた。

彼もまたそんな相手の警戒に何処吹く風と、視線を流した。

 

此処はナイトレイドアジト、広間には向かい合った2人の他、特選隊の4人とマインが囲んでいた。

 

「部下達からの報告だと、どうやら間違って狙ってしまったようだ・・・本来このような事は有ってならない、本当に申し訳ない・・・この償いは必ずしよう」

深々と頭を下げ、ナジェンダは誠意を見せた。

 

「俺は特に気にしていない、ただ下調べが杜撰だな」

 

「うっ・・・返す言葉も無い」

 

タツミはそう言いながらも嫌味をシニカルな笑みで話し、足元を見られないよう牽制も兼ねていた。タツミの知るナジェンダと似てはいても別人であり、この世界の彼女とは互いに利害が異なる立場である。そして、それで大人しく引き下がるナジェンダでは無い。

 

「こちらの不始末は、しっかり行う。その手はもう進めてある。依頼主には当然の報いがな・・・」

 

「それはちょっと待って貰おうか?頼んだ奴は凡そ見当は付いてるが、何処のどいつだ?このまま大人しく引き下がると思ったら大間違いだ」

 

「・・・私の配下の命まで取らなかったのは感謝しているが、ここは我々に任せて貰えないか?」

 

互いに一瞬、他の者達からは判らないよう睨み合う。帝都の暗黒街に置ける影響力を考えた時、タツミもその者達の始末を譲りたくは無かった。ナジェンダもまた、筋を通したい気持ちの他にもナイトレイドを欺けばどうなるかを知らしめる意味もあり、それは革命軍上層部へ仕事の尻拭いもしっかり行っているという今回の失態を取り返し信頼を得る意味も合った。

 

「・・・なぁタツミさん、あんたも非合法な事もしているだろう?我々がターゲットにした者の中には、社会的に抹殺された奴や行方不明になったのもいた。1人1人名前を挙げていこうか?」

 

「もしそれが俺達の仕事だったら何か不満か?」

 

「勿論、許せない悪党を誰が葬ろうと構わない・・・が、あんたらが本当に信用できる同業者なのか、とな?」

 

ナジェンダはこの世界にエスデスが居なかった為か、怪我はしておらず髪型は将軍時代のおさげを切り、眼帯と義手をしていない以外はタツミの知る彼女そのものだったが、彼にはその事に何か感慨に耽る気は全く無かった。

 

「もういい・・・言いたくなければ、俺達で勝手に依頼したドブネズミを探す、だが次俺の邪魔したら死ぬ事になっても知らねぇからな・・・これは脅しじゃねぇぞ?」

 

そう言って互いに視線を静かな火花を散らしぶつけ合う。

 

 

 

 

「・・・うむ、ただの脅しだな♪」

 

タツミは・・・能天気な発言をした相手に鋭い視線をぶつけると、そこに居たのは

 

「アカメ、失礼ですよはっきり言っちゃあ!」

 

「シェーレもそう思うだろ?私には縄張り等と言った複雑な話は詳しくは無いが、タツミが本音を言っているか嘘を言っているかぐらいは判るぞ、なぁレオーネ?」

 

「もう駄目だってアカメ、ボスと二人で盛り上がっている所水差しちゃあ・・・あはは、確かこういうのなんて言うんだっけ?」

 

「ツン・・・あ、うん!ツユダクだ!」

 

「うんうん、それそれ・・・普段は素っ気なくて、ツユツユしてるけど、仲良くなったらダクるって奴だな♪」

 

「2人とも物知りですね~うふふ、的を得てますね」

 

3人の会話に舐めるな!と怒るべきか、無視すべきか迷っていた所に

 

「ハッハッハ、全く何を難しい事を言っているんだお前達は!タツミ、お前はもう特選隊の一員なんだ、事の張本人を探すのは問題ないだろ!」

 

流石にナジェンダもそれには呆れ、

 

「いや、あのな・・・ブラート・・・」

 

この男は物事は単純に考え過ぎている、タツミが実は帝都政府と裏で繋がっている可能性等を考慮にいれないのか・・・例えそうで無くとも利害関係等の調整が・・・

 

「ふっ・・・ナジェンダ、熱い心を持った特選隊同志は例え生まれた場所や国や組織が違おうとも・・・常に皆一つだ!」

 

 

「「・・・・・」」

 

この時、牽制し合うタツミとナジェンダの心は偶然一つになった・・・「唖然」

 

 

「そうですよ、ボス?いっつも考え過ぎなんですよ?」

 

「レェオーネ!!お前らが考え無さ過ぎるから、私がその分考えなきゃならないんだろうが!!」

 

「ボスも大変ですね・・・」

 

「私がしっかりしなくては!」

 

シェーレとアカメの優しさに

 

「この原因の種共が・・・絶対、理解していないだろう?・・・・ふぐぐぐぐぐ・・・はぁ・・・、もう良い、何だか疲れた・・・タツミ、あんたが特選隊(?)の1人として行動するのなら止める理由も・・・恐らくない?・・・とりあえず、この件はブラート、お前に任せた・・・結果の報告だけは欠かさずにな、・・・タツミ、これは今回の侘び料だ」

 

投げて寄越した袋にはずっしりと金が入っている。

 

「あ・・・ああ」

 

 

「・・・全くお前達はいつも話をややこしくする!・・・それはそうと今日の当番は・・・アカメぇお前はさっさと風呂の汚れを綺麗にぶっ飛バスてこい!」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「ん?・・・どうし・・・はっ!?」

 

 

その時、特選隊とマインが固まってしまった。

 

しししっしっししまったぁあああああああ、ついいつものノリで言ってしまったぁあああああ・・・外部の者が居たのにぃいいいいいいい、これも一重に私の才能が豊か過ぎるゆえにぃいいいいい、・・・と心の中で叫ぶ。

 

「なじぇんだぁあああああ、貴様言って良い事と、悪い事の区別が出来んのかぁあああ!!外部の者がいるのに、そんな禁忌な言葉を!!!!・・・今までそのおかげで、俺の熱いウルトラソウルがどれだけ冷えた事かぁあ!!」

 

「し、ししし失礼な!!何処が禁忌だ!?ブラートには言われる筋合いは無いぞ!それに、特選隊の一員なら熱い魂がどうのこうの、と長い付き合い同然の仲間じゃ無かったのかああ!」

 

「それとこれとは話が別だぁああああ!!」

 

「おんなじだぁああああああああああ!!」

 

彼らの言いあいをよそに

 

「あ~あ・・・ボスやっちゃった!」

 

「日頃の行いのせいですね~」

 

「ま・・・不味いぞ、2人とも・・・あの男の怒りのオーラが増している・・・」

 

タツミは震えだしていた。

 

「くっ・・・確かに凄い・・・気分的に立ってるのがやっとな気がして来た・・・」

 

「ごめんなさい、って謝るしかないですかね~」

 

「へ、部屋の空気が震えている・・・」

 

「本当だ、あたしの胸も揺れている!」

 

「・・・レオーネ!!」

 

「も、もう手遅れだ・・・皆衝撃に備えろ!」

 

アカメが恐れ戦き、戦慄していると・・・

 

 

「ぶふっ・・・」

 

 

「「「「「・・・・・・???」」」」」

 

その場の皆が首を傾げた。

タツミは、堪えられず一瞬吹き出してしまった。思えば彼がこの世界に来てからは基本睨みを利かせる態度をとり、荒れくれ共束ねていた。場合によっては寝首をかかれる恐れのある関係に気を緩ませない為にも戯言等は必要ない。そこに相手を挑発する意味や皮肉な笑みは有っても、純粋な笑いは基本無かった。・・・その為以前よりもその沸点が低くなっている。

 

「な・・・何だ今のは?」

 

「・・・今のは肺に異物が入りそうだったから、むせただけだ、気、気にしないでくれ」

 

「そ、そうだな。ナジェンダのギャグで笑った奴なんて今までいないからな・・・ふぅ~驚いたぜ」

 

「ブラート・・・貴様・・・」

 

ナジェンダは帝国将軍時代から才覚が有り若くしてそこまで出世した。部下達からも評判も上々だったが、一つだけ迷惑だったのが、

 

「・・・そ、そっか。むせただけなんだな」

 

「そうだ、ありえない。ボスのあれについていける者等居る訳がない・・・」

 

「私も初めは愛想笑いもしてましたが・・・それに乗って頻繁に言ってきますから・・・人間下手な優しさは返ってその人の為になりませんね」

 

「・・・シェーレも中々言うね」

 

彼女らの話は聞き流し、

 

「ふっ・・・今のはどう見ても私の才能への称賛だろう?」

 

「ナジェンダ、馬鹿も休み休み言え。彼はむせたと言ったんだ?人の話を曲解するな?」

 

「ふっ・・・相手の意思も尊重せずに勝手に仲間に引きこもうともうとする輩に言われたくは無いぞ?」

 

「俺は相手の未来を見据えて言っているんだ、ふざけているだけのお前には言われる筋は無いぞ?」

 

「未来だと?ペテンも物は言様だな。その言葉そっくり返すぞ?」

 

互いに睨み合い・・・

 

「じょうーとぉおだああああ!!良いだろう、私の真の力を見せてやる!!」

 

「それだけはやめろおおおおおおお!!周りが気を使いまくって、大惨事だ!!」

 

「うるさい!!お前達みたいな凡人には私の才能が理解出来ないだけだ!!」

 

「ナジェンダ、お前もっと自分が何者なのか自覚しろ!!」

 

タツミはいつ逃げるか考え、少しずつ距離を離した。

 

「いくぞぉおお!!」「や、やめろおおお」

 

ブラートの制止を振り切り、

 

「ふとんがふっとんだああああああああああああああああああああ!!」

 

 

その場の空気が三度ほど下がり、皆が一瞬固まった後

 

「・・・お、終わった・・・」

 

「・・・あたしは今回はノーコメントで」

 

「不味いですねこれは・・・帝都の顔役と全面戦争ですかね?」

 

タツミは片膝を突き、右手で顔を抑えた。

 

ブラートもナジェンダも緊張して見守る中、

 

「・・・くっ・・・あんな下らないフレーズだけで・・・勢いで笑わせるなんて・・・さては、元はプロだったのか?」

 

一堂、彼を異世界の住人でも見るような目で見る中、1人だけ違ったのは

 

「う、ふふふ、あははは、どうだ見たか・・・?やはり判る奴には判るんだ!やはり世界は広く帝国は狭いんだ!」

 

他の者達も違う意味で世界の広さを感じた。

 

ナジェンダは笑いを必死に堪え膝を付いているタツミに近づき、手を取る。

 

「タツミ・・・相手の見た目や立場で判断するものではないな?志を同じくする者が同じ国に居たとは・・・これも運命だな」

 

「・・・?・・・?あ、ああ・・・俺にあんまり近付かない方が良いぞ?」

 

「ふっ・・・照れ隠しか?なるほど、異体同心というからな」

 

その状況を恐れで慄くブラートは

 

「い、いいか?ナジェンダ、この男は熱いだけでなく人が良いだけだ、間違ってもお前の同志では無いかなな・・・ぐ・・・おっと忘れていた。け、稽古の時間だ!!」

 

ブラートはそう言って広間を去ろうと歩きだし、

 

「隊長!」

アカメの呼びかけにも応じず去っていく。

 

「アカメ・・・今はそっとしてあげるのが一番ですよ。リーダーにはリーダーなりのつらさがあるのです。ブラートもそれを乗り越える機会が来たんです」

 

レオーネは何も言わずにアカメの肩に手を乗せ、頷いた。

 

「ブラート・・・隊長・・・」

 

その状況を終始蚊帳の外のマインが、生温かくシニカルな目で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

逢ゥ魔ヶ刻、人々が大勢いる帝都から外れた墓地、そこにチェルシーは居た。

 

「間違った相手を仕掛けさせようとするなんて・・・貴方ひょっとして帝国の秘密警察スパイ?」

 

「ち、違う!調べが甘かったのは謝るが、俺はスパイなんかじゃない!」

 

「・・・じゃあ、責任取ってここで死んでみせてよ?」

 

「な・・・、ナジェンダさんも納得済みなのか!?」

 

チェルシーはそれには答えず、

 

「自分で死ぬのとあたしの手に掛かるのどっちが良い?あたし、苦しんで殺せるやり方も知ってるよ?」

 

「ぐ・・・く・・・」

 

その密偵の男は肩を震わせ、長いとも短いとも言えない時間の中、意を決し

 

「俺も革命軍の1人だ、・・・必ずこの革命を成し遂げてくれ・・・・・・」

 

「もちろん・・・全力を尽くすよ?あたしなりのやり方でね・・・」

 

「嘘だったら、後で呪い殺すぞ?・・・これが依頼した奴の顔と名前だ・・・。じゃあな、カナエ・・・」

 

チェルシーにその紙を渡した後、男は刃物を取り出し首をかっ捌き、見事に果てた。

 

「カナエ・・・?サービスで言伝ぐらいはしてあげるよ・・・。でもね革命が成功したって、あたし達みたいな仕事は無くならないと思うよ?うふふふふふ、革命後はあたしがしっかりまとめなきゃね・・・あのラバック達を退けた相手かぁ・・・タツミ、面白そうだね・・・あたしの右腕に・・・もしくは場合によっちゃ・・・たべちゃおうっと♪」

 

そう言って、飴に仕込んだ針を一舐めした。



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悪党が斬る!(十一)

北海道胆振東部地震により、お亡くなりになられた方々、ご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げますとともに、被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
私も停電を味わい同じ道民の1人として、今回の地震を教訓に今後の備えにしたいと考えております。他、その地震の報道で関西の災害報道が霞んだり、他地域の方の被害が治まった訳でなく、忘れずに向きあいたいと思います。












男が一人、吹き飛ばされ壁を壊し向こう側へと叩きつけられる。

 

「げほっ・・・ごほっ・・・てめぇ・・・」

 

人気の無い廃墟で殴った方の男は瓦礫の上に座り、相手が向かってくるのを待っている。

衣服が所々破け、血も流れているが殺気丸出しで立ちあがり拳に力を込め

 

「そこ動くんじゃねぇぞ」

 

瞬時に足で屑物を蹴りあげ、相手に無数にぶつけ視界を遮る。

 

「死ねやぁ!!」

 

だが、殴る相手を見失いその後ろに

 

「なっ・・・!?」

 

思いきり脇腹に肘撃ちを喰らい、数メートル転がっていく。胃の残留物が逆流し嘔吐し苦悶の声を挙げている。

 

「よぉ、楽しいなこの世は?暴力と恐怖に支配されてな・・・」

 

「げほがほ・・・ぐ」

ダメージで思うように喋れていないが、もし言語化したなら「意味も無く殴ってきやがって、ぜってぇぶっ殺してやる・・・」

 

その意味を理解した相手は、

「追加だ、理不尽にも支配されてな」

 

そう言って抵抗出来なくなったその男を放置し、その場を去っていった。

 

数日後、再び彼らは廃屋で接触した。

「てめぇ・・・こないだはよくも上等決めてくれたな?死ぬ覚悟は出来てるだろうな」

 

男は意に介さず、商売女を前に連れてきている。

 

「その女、お前のこれか?面白ぇてめぇ殺してお前の女の具合を見てやるぜ」

下卑た笑いを浮かべ、挑発するが・・・

 

「勘違いするな、今から俺の前でこの女を抱け」

 

「あ?・・・何訳わかんねぇ事言ってんだお前」

 

「頭の悪い単細胞だ、俺はお前がやりたい事を叶えようとしているんだ、優しいだろ?」

 

「なに・・・?」

 

「さぁ俺の前でこの女を犯しながら殺して見ろ、具合も良い筈だ・・・お前はそれがしたくて溜まらない筈だ・・・さぁやってみろ?」

 

「あ・・・?」

 

確かにその通りだが、男は相手の真意を掴みかねていた・・・一体何が目的なのかと、

「なんだ?獣のお前が交尾を見られるのが恥ずかしいのか?」

 

「ああ、判った・・・てめぇを殺してからその女も八つ裂きにしてやるぜ!」

数秒後、

 

「ち・・・ちきぎぎしょ・・・」

 

地面に顔を相手の手で半分めり込まされ、呻き抵抗しようともがくがどうにもならない。

 

「屑な父親の影響から未だ抜け切れてねぇお前が俺に勝とうなんざ、100転生位早ぇんだよ・・・もっともお前は転生なんざ出来ないがな・・・んな事ぁどうでもいい!今度レイプ殺人が有った時は真っ先にお前を疑うからな?それでお前じゃねぇと言うなら犯人を連れて来い、連れてこれねぇ時はてめぇを・・・言わなくてもお前の足りない脳でも判るよな?」

 

大人になってから初めての悔し涙に、他の色々な感情を蠢くが・・・それも向かうは只一つ、

 

 

「タツミィ!!てめぇ今日こそ殺す!!!」

 

 

拳が宙を空振り、その男、シュラが目を覚ます。

 

 

 

 

「たくっ・・・、昔の胸糞わりぃ事を思い出しちまったろうが・・・あの野郎」

 

シュラは時折寝起きに戻るアジトで朝を迎え、身支度を整えると外に出かけようとした。そこに、

「おいシュラ、お前うるせぇんだよ。寝ながらぶっ殺すとか、寝言は上品に大人しく言いやがれ!」

 

「けっ・・・お前が上品ってツラかよ?ところであの下衆野郎何処に行った?今日こそ命日にしてやろうと思ったのによ、・・・さては逃げやがったな?」

 

「・・・タツミの奴か?知らねぇな・・・だがあいつ殺す時は俺も一緒にやらせろ」

 

「あ?お前の力なんざ借りねぇよ、殺してぇならお前一人でやれ!」

 

「んだと?あいつに半殺し喰らって、手貸してやった恩忘れたのか?」

 

「あ・・・あれはお前が勝手にやった事だ、俺は知られねぇぞ」

 

エンシンが話しかけて来、そのまま二人は罵りあいながら帝都繁華街へと足を伸ばした。

 

「あの時お前が俺の足を引っ張りやがった、俺一人なら奴をぶち殺せたぞ」

「抜かしやがる、俺のサポートが有ったから、あの程度の怪我で済んだんだろ?」

 

(よぉ、クロメ。あのナイトレイド、アカメの妹だってな?)

「ああ!?タツミ殺る前にまずてめぇから血祭りに挙げるか?あ?」

「上等だァエンシン様の靴の裏舐めやがれ!」

(売国奴ナイトレイドの身内とあっちゃあ、ちぃと教育しなきゃな)

「お前なんざ秒だ秒!」

「秒だぁ?俺が本気だしゃあその半分だ!!」

(他の奴らには俺達が言いくるめとくからよ、だから判ってるよな?)

 

「俺はその半分だ・・・ってぇ、うるせねぇな!!誰だ!?」

 

シュラは大通りからの細い路地から聞こえる話声に怒りをぶつける。

そこには車椅子に座ったクロメと呼ばれた女と帝都警察が二人囲んでいた。

 

『くっ・・・薬の後遺症さえ無ければこんな奴ら・・・』

 

「さ、不自由なお前でも出来る事ぁあるよな?」

その1人が体を近付けると、

 

「てめぇら、うるせぇんだ!!」

 

エンシンが1人を蹴り飛ばし、先を越された事に腹を立てたシュラがもう1人を殴り飛ばす。

 

「っつ・・・貴様ら我ら警官を侮辱して只で済むと思うなよ?」

 

「あ?知らねぇよ。やるんなら俺の居ない所でやれ・・・俺は今機嫌が悪ぃんだ・・・へっ、世の理不尽って奴を親切にお前らに教えてやるぜ」

 

シュラとエンシンが身構え、警官達も武器を片手に臨戦態勢になる。

 

「待て!!お前達動くな!」

 

そこにもう一人の帝都警察官も助勢にやって来る。

 

「おお、ウェイブ加勢しろ!こいつらを我ら警官に逆らった罪で逮捕しろ!」

 

シュラとエンシンも横目でウェイブと呼ばれた男の技量を計ると、厄介な相手だと直ぐに見抜いた。

 

「おい・・・エンシン、雑魚はお前に任せた、俺は後ろの野郎を殺すぜ」

 

「あ?お前が俺の露払いだろ?お前が雑魚二人やれよ」

 

「んだと?」「お前から先に殺すぞ!?」

 

言い合いを始める二人に周りは呆気に取られるが、

 

「貴様ら~・・・」

 

警官二人は歯噛みするが、ウェイブは油断出来ない相手だと推察し生きて捕まえるのは困難だと考えた。

 

「先輩、一体どういう事でこんな事に?」

 

「ああ?・・・そいつらがこのクロメを襲おうとしたから助けに入ったまでだ」

 

クロメがそれに反論しようとした時に手で塞がれその後、喉もウェイブに判らないように締める。

 

「てめぇ・・・決めた、お前ら処刑な・・・」

 

「ああ・・・人に罪をなすりつけんのは良いが俺がなすりつけられるのは、心底腹立つぜ・・・」

 

シュラとエンシンは殺気立ち、飛び上がった後両手を1人の警官首筋脇に叩きこみ、

怯んだ所を円月を描くような蹴りを顎に強打させ、相手は宙を舞いあがり肩、顎の骨が折れながら気を失う。続いてシュラは自分も負けじと貫手で連打し、一打ごとに相手の骨にヒビが入り、膝を付いた所に両掌底を叩きこむ・・・鳩尾が骨折し絶する苦しみを味わう。

 

「面倒だ、殺しておくか?」

 

「指示なしで殺したら、奴がうるせぇぞ」

 

「エンシンお前びびってんのか?あ?」

 

「あいつに半殺し喰らって涙流した奴の台詞じゃねぇな?」

 

「やっぱお前はここで殺す!」

 

「上等だ、走馬灯見させてやるぜ!よく見えるようレンズ目に抉り込んでやらぁ!」

 

 

「・・・あ、ありがとう・・・」

二人の再び始まった言い争いに水を差したのはクロメだった。

 

「大丈夫かクロメ」

ウェイブは駆け寄り、彼女の身を気遣う。

 

「うん・・・ウェイブ、こいつらがお姉ちゃんはナイトレイドだからってあたしに嫌な事しようとしたんだよ・・・だからこの人達は只の通りすがりの人達だよ・・・柄は悪そうだけどね」

 

クロメの屈託の無い笑みに二人は毒気を抜かれ、とりあえず大人しくなる。

 

「すまなかった、俺は帝都警察第七地区のウェイブ。この区間を担当している者だ。」

 

「んな話は良いんだよ。お前のスケか?礼代わりに少し味見・・・ごふっ!」

 

エンシンの脇腹にシュラの肘鉄が入る。

 

「てめぇ何しやがる!」

 

「・・・お前自分の女1人満足に守れねぇのか?そんな警官でこの帝都守れるのか?」

 

「ぐっ・・・返す言葉も無い」

 

「・・・ちっ、次こんな事遭った時ぁその女、俺の物にして遊んだ後ボロ屑のように捨ててやるからな、覚悟しておけ・・・行くぞ」

 

「・・・・・・」

 

二人を置き去りにシュラとエンシンは再び大通りの雑踏に姿を消した。

 

「おい、シュラ。どういう風の吹き回しだ?」

 

「あ?あいつ(タツミ)が怖ぇとか、んなヌルい理由じゃねぇよ・・・だがな、俺はあいつ殺すまで自分を抑える事に決めてんだ・・・あの化け物に勝つには限界の限界を超えなきゃならねぇ・・・あの野郎俺が親父に甘えるしか能がねぇだと・・・?上等だ、親父が居なくたって、とっくの昔に俺が親父を超えている事を証明してやるぜ」

 

「・・・・・・へっ、そういう事にしといてやるぜ」

 

 

帝都の中心街から離れた人もまばらな広場の一角に定食屋があり、そこの靴を脱いでの卓に麦飯とスープに南瓜とキャベツを煮込んだ汁物を静かに食べている男が居た。

 

「いらっしゃ~い、お客さんお1人ですか?はい、じゃあA定食ですね、お婆さん杖こちらで預かります?別に良いですか?ではどうぞそこへ置いて下さい」

 

その男の後ろの卓に老婆は座り、咳払いを一つすると

 

「すまんねぇお兄さん・・・あたしは顔ばれしてるからこういう格好なんだよ」

 

「・・・・・・」

 

「うふフ・・・そんな怖い顔しないで、取って喰おうとかそんなじゃありませんか

ら」

 

老婆は見ずとも彼の僅かな挙動や気配の違いで感情を読み取った。

 

「ごめんなさいねぇ、内の者が早とちりして・・・とりあえず間違った裏を取ったのはあたしの方で処理しましたから・・・ね?」

 

険しい視線をぶつけると、それも察知したのか

 

「おや・・・?憐れんでいるんですか?優しいんですね・・・」

 

漸く男は口を開き、

 

「よく喋る婆さんだ、誰か別の奴と勘違いしていないか?」

 

「勘違い・・・?貴方タツミさん・・・でしょ?」

 

「・・・知らねぇな、そんな奴・・・」

 

「そんな奴・・・?うふふふふ、あははは、変装すら全くしていないのに・・・うふふ、あはは・・・内のボスの悪い癖に付き合える奇特な人と聞いてましたが、成程、うふふふ」

 

はい、お待ちどうさま。A定食です・・・お婆さん何か面白い事でもありました?

ああ、この年になると些細な事でも面白くてねぇ、ごめんなさいね。

ふふふ、ごゆっくり~

 

「あ~おかしい~貴方って本当は面白い人なんだね・・・くくく」

 

「笑い話がしたいなら、お前の所のボスとでもしてくれ・・・じゃあな」

 

「悪ふざけが過ぎたのならごめんなさい?・・・本題はここから・・・ああ、名乗りが後になっちゃいましたね、あたしの名は」

 

「言わなくても判ってらぁ、ジェラシーだろ?」

 

「そう・・・嫉妬は女を輝かせ・・・って、誰それ!?」

 

思わず出た大声に周りの客達も注目するが、彼女は笑ってごまかす。

 

「ェとシ―しか合ってないから、何となく合ってそうで、全然違うから!」

 

「そうかい、じゃあまた今度な?」

 

「うん、じゃあ、また・・・って話終わって無いから!あたしこんなキャラじゃ無いのに何やらせるの!!」

 

タツミはお代を置いて去ろうとすると、

 

「心臓発作って事で死にたい・・・?」

 

彼女の仕込み杖の針が伸び、タツミの背中に服一枚に刺さっている。

 

「チェルシー・・・お前もそう死に急ぐ事は無いだろ・・・」

 

彼女も気付かなかった間に長めの爪楊枝が髪の間を通り、首の皮膚に僅かに刺さっている。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「ねぇ、あたしと組まない?」

 

周りの客達は雑談したりと、二人の動向に気付いていない。

 

「ナジェンダには話を通しているのか?」

 

「・・・いいえ、ボスには通して無いわ」

 

「あいつらを裏切るつもりか」

 

「彼らとは・・・途中まで方向性が同じだろうけど、あたしはこの国の未来を見据えているの・・・うふふ、あのナジェンダさんもとんだ喰わせ者よね?表向きには革命が終わったらあたし達はもう日影を歩かなくて良い・・・なんて言ってるけど、何人かは今までのようなシゴトを続けるよう依頼されると思うよ・・・ええ、そこはあたしも同感なんだけど、あたし達みたいなシゴトはどんなに世の中が変わっても無くならない・・・無くさせはしない!・・・だって、暗殺が無ければ独裁者や絶対的な権力者は図に乗ってやりたい放題するよね・・・だから、抑止力の為にも今後ずっとあたし達みたいなシゴトが必要なんだよ」

 

「・・・・・・」

 

「あたし、何かおかしな事言ってる?」

 

「さぁな・・・・・・」

 

「貴方は信頼出来そう・・・あたしはナイトレイドの他にこの帝都にも居るでしょう暗殺者達を束ねて秩序ある集団を作りたいの」

 

「・・・悪いが俺は女とは組まない事にしている・・・他を当たれ」

 

チェルシーは何か言いかけたが、お勘定ですか?またどうぞ~と、タツミの食事代を受け取りに店員が来た為、話は中断された。

その後ろ姿を見据えながら、

 

「うふふ・・・手強い相手ほど燃えるタイプなの・・・・絶対に落としてやる・・・」

 



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悪党が斬る!(十二)

帝都から離れた人気の無い荒れ地、2人を襲うとしたであろう危険種達は一撃で仕留められ、後には骸のみをその周辺に晒していた。

 

凶暴な女王蜂を想起させる強力な一撃がタツミの後方の岩を粉々に打ち砕く。

たった一針を投擲しそれに因り四散する中、邪悪な笑みを浮かべている。

 

「大した女だ・・・俺の知っている女と同等以上だな」

 

「・・・・・・」

 

「死ぬ前に聞いておくぞ、並みの体でよくここまで鍛えこんだな?」

 

「へぇ・・・判るんだ、地獄の2つ3つを超えて来たからね・・・ところで遺言はそれで良いの?・・・貴方は本心を隠しているから、何を考えているのかはっきり判らないし、後々脅威になりそうだしね・・・もう一度最後に聞いておくよ、あたしの右腕にならない?暗殺こそ世界を変える手段、どんなに綺麗事を並べた所でそれが世界の裏常識、為政者は皆知っている・・・でも体制維持の防波堤として人殺しはいけないと教えてるだけ・・・でもおかしいよね?戦争で敵兵100人殺せば英雄で、平時で1人殺せば犯罪者なんてね・・・」

 

「馬鹿野郎、チェルシーお前喋り過ぎなんだ!」

 

 

綺麗な細足が空を斬り、右斜め左上下から襲いかかり、寸前でかわし続ける。

 

『足技か・・・!?』

 

タツミの胸が裂け、一筋の血が流れる。

 

「・・・・・・」

 

彼女の足先にいつの間にか針が突出している。

 

その時、タツミは何処から取り出したのか巨大な鋼鉄製とおぼしき大筒を右手に構

え、即座に一撃放つ。

 

「なっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺り一帯は焦土と化し、死体の危険種達も消え去り地面は隕石が抉ったような跡が残る。

 

『・・・・な、なんて威力・・・』

 

 

「よくかわしたな・・・」

 

「それが貴方の帝具・・・?中々エグイのね」

 

「お前ほどじゃないさ?」

 

「じゃあ・・・あたしも本気出した方が良さそうだね・・・あたし相手にもう一つの帝具使わせるなんて凄いよ?」

 

 

手を交差させ、辺りの温度が低下し始める・・・唇に指を当て離して、息を吐くと同時に放つ氷の針が無数に飛んでくる。

タツミはそれをかわしきれず、頬を掠める。

 

「降参してあたしに忠誠を誓うなら、その傷ペロペロ舐めてあげるよ?」

 

ニヤリと笑いながら、断ると返す。

 

「うふふふ・・・じゃあ仕方ないね・・・」

 

嗜虐な笑みを晒しチェルシーは優雅に右手を斜めに振ると、無数の氷針が幾重にもタツミに降り注ぐ。

それを先の帝具で振りはらい、全て払いのける。

艶美で見下ろす視線をした後、指を弾く。そうすると、振り払った無数の氷針が追尾しタツミの帝具にまとわりつき、中にまで入りこみ覆う。

 

「これで、もう使えないんじゃないかな?」

 

「・・・・・・」

 

その帝具を地面に放り、白外套内から刀を取り出す。

 

『!?あの中の一体何処に?・・・村雨・・・じゃなく普通のソード?』

 

刀を外套のベルト腰に差し、ゆっくりとチェルシーの方へ歩いていく。

 

『・・・馬鹿なの?』

 

彼女は前に氷針を無数に造り、それが集まり、彼女がいつも咥えている飴の形を為

す。

 

「冥土の土産に上げるよ!十分に喰らってね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その巨大な氷菓子が霧散して行く。

タツミは周りを幾重にも振るい、全てを切り刻む。

 

『嘘・・・あれだけ砕かれたら追尾攻撃出来ない・・・』

 

刀をだらんと下げ、距離を徐々に縮めて行く。

 

「チェルシー、最期に良い残す事は無いのか?」

 

「ごめんなさ~い~悪いけど、あたしは革命の為に散っていった同志やその中で掟に外れて手に掛けてしまった人達の為にもまだ生きなきゃいけないの・・・だ・か・ら」

 

「!?」

 

刀にこびりついた氷針がタツミの首目掛けて襲い、咄嗟に左手で受け止めたが貫通する。

 

「・・・嘘、良い反応だね・・・でも、もう終わりだよ?」

 

「ぐっ・・・まさか・・・」

 

「そう~致命傷にならなくても、あたしのデモンズエキスの氷は傷から体の中にも侵入して凍らせれるの・・・この帝具ってあたし以外全部敵になっちゃった時の為の奥の手で、国家や軍隊を相手にする時用のだよ。この帝具の本質を隠しておこうと思ったけども・・・」

 

耐えられず膝を付き、苦しむタツミに近寄る。

 

「あたしが一つの到達点に達してから、ここまで手強かったのは貴方だけだよ・・・生まれ変わったらあたしと組んでね?じゃね、さよなら・・・」

 

 

 

 

 

止めを刺さんとした瞬間、タツミの目が見開き体内の氷結を粉砕、片手突きで相手の喉を突く!チェルシーは声にならない声を上げ、驚愕し慄き僅かに喉に刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

“刹那スィートティータイム”

 

・・・・・・・危なかった・・・本当に一かバチか・・・後少し遅かったら・・・本当殺すのに惜しいなぁ・・・うん、気が変わった。ちょっと休める所行こう♪

 

その周辺は時間が氷結し彼女以外の動きは止まっていた。

 

 

 

タツミの時間が動いた時には、そこは今は誰も居ない廃屋だった。家財道具はまだそこまで古くない。自身の体を確認した時には両手は上に上げられ、手の付け根、両足と首にも鋼鉄の鎖で縛られ、身動きが取れないようにされていた。縛り付けれているその壁も鉄製で、とても逃げ出せるような造りでは無かった。

 

「くっ・・・」

 

「あら・・・気が付いた?貴方だけに技を絞ったから動けるようになるまでもっと時間が掛かると思ったのに?ふふふ、耐性でもあるのかな」

 

チェルシーはいつも咥えている飴は今は無く、黒レースの下着のみで彼に近づいた。タツミは地面に向かって唾を吐き、

 

「・・・俺を殺そうと思えば、殺せたはずだ・・・何故しなかった?」

 

「うん、そうしようと思ったんだけど。別の興味が湧いてきちゃって・・・でも、あたしも運が良いよね?貴方を殺さなかったら、返り討ちに遭ったかもだけど、直ぐ近くにこんな風に人を拘束するのに良い場所が有ったなんて・・・此処の人達何処行ったんだろうね?」

 

「・・・それでどうするつもりだ?」

 

「あたし達もっと判りあった方が良いと思うんだよね?」

 

そう言ってタツミの上着のボタンを外し、上半身の体に唇を付ける。

 

「おぃ・・・ぐっ・・・やめねぇか・・・」

 

「え?・・・んふぅ・・・ちゅ・・・きこえな~い・・・だいじょうぶ・・・きっとあたしたちわかりあえるからぁ・・・んん・・・ちゅ・・・」

 

「おぃ・・・いい加減にしろ・・・」

 

徐々に上へと這っていく

 

「んぁ・・・んん・・・ん?だぁれ・・・」

 

「おい・・・いい加減にしろ!」

 

「んん?・・・だぁれ?今良い所・・・いたたた!!」

 

「いい加減目を覚ませ!!!」

 

 

タツミはチェルシーの頬を抓って引っ張り続けている。

 

「もう邪魔するとただじゃおかな・・・?あれ・・・?」

 

 

とある一室のベッドで彼女は起き上がり、タツミは抓って目を覚まさせた後に椅子に腰かけた。

 

「ご気分はどうだ?女殺し屋殿」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「鳩が飴玉喰らったような顔してるな」

 

タツミは手に目玉のような玉を持ち、くるくる回して見せた。

 

『・・・!?あれは、確か幻覚を見せる帝具・・・でも、いつの間に・・・それにあそこまで手の込んだ事を出来るんなんて・・・』

 

「判りあうってのは難しいもんだな」

 

「・・・完敗・・・いつの間にその帝具の術中に嵌まってたんだろ?相手の心の隙を突く・・・暗殺者失格だなぁ・・・」

 

「並みの帝具使いが使ってたなら、チェルシーなら見破れただろな・・・だが、相手が悪かったな」

 

タツミのシニカルな笑みに、彼女は白けた視線を送る。

 

「はっず~・・・・・・・ああ、もう一思いに止め刺して・・・」

 

「俺の邪魔を二度としなければ、水に流す」

 

「・・・じゃあ、一つだけ教えて?付き合っている女の人いるの?」

 

 

タツミは椅子に深く座り直し、視線を泳がせた。

 

「・・・質問に応える筋合いは無い」

 

「じゃあ、あたしの持てる人材全て動員して邪魔するから!」

 

彼女の鬱陶しい眼差しに根負けし、深い溜息を付いた後に、

 

 

「元々色々遭った後に・・・大きな借りを作ってしまった爺さんに最後の仕事を頼まれた・・・そこであいつと知り合った・・・初めは利用するだけのつもりだったんだが・・・・・・変に懐かれてな。俺は一度死んだんだが・・・正確には仮死だったとしとこう、あいつは強引に俺を甦らせた」

 

「・・・凄いね、その人。・・・一歩間違えれば危ない人だけど」

 

「・・・・・・(チェルシーの顔を無言で見た後)、話を続けるぞ。俺は元々死ぬつもりだった・・・それをあいつが勝手に生き返らせやがったんだ」

 

「・・・死にたかったんだなんて、タツミも大変だったんだね」

 

「とにかく、腹を立ててあいつに怒って喧嘩したが・・・それでも上手く丸め込まれた・・・だが俺がこうして生きているのも悪くは無いと思っている」

 

「なんでなんで?」

 

チェルシーが目を輝かせ先を催促するのにタツミは心底鬱陶しいと思った。

 

「確かにあいつが居る事で、俺も充実した事は知らずに有った・・・いや、あいつという女が居なけりゃ俺という男は生きていけない・・・自分がそんな弱い奴だと言う事を心底思い知らされた・・・だから、あいつが裏切らない限り俺は絶対の忠誠を誓う事に決めた・・・あいつにはそれを絶対に言わないけどな・・・」

 

しばらく黙った後に、

 

「その人、今何処に居るの?」

 

「遠い国にだ・・・」

 

「そう、何だ・・・タツミは別の国から来たんだ・・・判った、これからは遠くから生暖かい目で見守って上げるからね!」

 

どういう意味だそれは?という顔で見る間もなく、チェルシーはコロコロ笑ってその場を後にした。

 

 

 

その後タツミは一息つこうと食事をしに店に入り、奥の部屋で一人舌鼓を打った。

そんな時、窓の外から視線を感じる。見ると誰かが木陰に隠れた。ヒットマンか誰かか・・・?まぁ良い、どちらにせよ気にする事は無い、と。

だが、徐々に迫って来ている・・・スパイか?それにしては明ら様だ・・・そんな事を考えているいると、もう至近距離、窓枠に来ている事を察し、顔向けた。

 

互いに視線がかち合い、相手は照れ臭そうに一瞬顔を引っ込めたが・・・再び覗かせた。

 

 

 

 

 

 

「き・・・来ちゃったぞ、タツミ♡」

 

彼は持っていた食器を落とし、即座に会計を済ませその相手を見つけ首根っこを引きづり近場の空き家へと押し込んだ。

 

 

 

 

「全く~タツミは強引だな~そんなに私と二人っきりになりたかったのか?ふふ

ふふふ」

 

「ウェスゥゥデェス!!!お前なんでこんな所居るんだ!!」

 

怒り心頭の彼はエスデスに怒鳴り散らした。

 

「一体いつになったら戻って来るんだ?寂しかったぞ!それに、どうだ?この服はタツミと初めて会った時のものだぞ!ふふふ、まだまだ着ても問題無いな?」

 

かつて彼女特製の白軍服を着こなし、華麗にターンしてみせるが・・・タツミは相手の額に二本指当て

 

「・・・ん?」

 

噴ッ!!と気合い声と共に体内で起こした全振動を一点に集め、対象に与える。被っていた帽子は落ち、エスデスは後方へと吹っ飛んだ。

 

「・・・外見何ぞお前ならどうにでもなるだろ?幾ら若い体でも中身の加齢臭が隠しきれないぞ」

 

「ふふふ、そんなに闘いたいのか?しょうがないな~我が夫は~」

 

タツミは即座にエスデスににじり寄り、

 

「良いか、統括であるお前が勝手に抜けだしたら大問題だぞ。お前の権限は星雲の運命すら簡単に変えれるんだ。そんな奴が勝手に別の管轄に来たら・・・そうだ、此処の統括に許可は得たのか?」

 

「勿論だぞ!」

 

タツミはエスデスの瞳を覗きこみ読心を使う、

 

「そ、そんなまじまじと見られると照れてしまう・・・///」

 

「お前は!!許可取って無いな!ガーディアンにさては権限を押し付けたな!」

 

「タ・・・タツミが悪いんだぞ!私というものが有りながら、いつまでもこんな所で油を売り速く片づければ良いものを・・・・あまつさえ、あのような年端もいかぬ小娘に現をぬかしおって・・・」

 

「やっぱりあの子達の謎の腹痛や症状はお前が原因か・・・段取りがあるんだ時間が掛かっても仕方ないだろうが!」

 

「全くタツミは!!私とこの星どっちが大事なんだ!!」

 

「知るカァアアアアアア!!!」

 

「フッ・・・まぁ良い・・・あの飴女は私の夫の周りにうろちょろと・・・やはりどの世界でもあの雌は本質は変わらぬな・・・タツミに会うついでに私直々に始末してやろうと思ったが・・・」

 

「・・・む?」

 

「ダーリンよ?私は今とっても機嫌が良いぞ?」

 

「・・・??そんな事よりも早く帰れ、此処の統括に気付かれ、む」

 

エスデスは意味ありげに含み笑いをし、自身の指でタツミの唇を抑える。

 

「ふふふふふふふ、此処の統括殿は今昼寝中で1時間は大丈夫だ、それまでに戻れば問題無いぞ」

 

タツミは呆れながらその指を払いのけると、エスデスに抱きつかれる。

 

「私は今とっても機嫌が良いぞ!」

 

「な・・・なんでだよ?」

 

「あの飴女を八つ裂きにする気が失せるくらいな・・・まぁ奴の働きでもあるから、今回特別に許してやる、私はとっても慈悲深いからな!」

 

「・・・何で先代の爺さんはこいつを後継に選んだんだ?」

 

そして、彼女は彼の耳元で囁いた。

 

「あ・の・時・の話・す・べ・て・き・こ・え・た・ぞ♪」

 

タツミは全身から汗が噴出した。

 

「な、んのことかな?」

 

「んむぅ~まったく、普段は私に本音は言わず・・・勿論本心は判っているが~あそこまで赤裸々に語ってくれたのは~とっても嬉しかったぞ!」

 

「あ・・・~あれは、あいつを納得させる為に適当な嘘を言った・・・うぐ」

 

エスデスは体の至る所を彼に押し当て、心地よいツボも心得ている。

 

「さ、タツミ。まだ時間は有るからな?時を遅らせて・・・うふふふふ」

 

エスデスは甘い吐息を吐きながら、顔を近付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

タツミはアジトへ帰って来た。

 

「おぅ!タツの兄ぃお帰りなせい・・・え?どうしたんだ兄ぃ!」

 

チャンプは全身包帯だらけになった彼に驚き、うるさい黙れ何でも無い!と静かにさせられた。

 

 



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悪党が斬る!(十二・五)※エロ描写注意

前話、十二話のタツミがラストであのようになっている理由の補完的話です。
エロ描写が強いので、お気を付けを。

※11/26/ 後半一部修正しました。

12/29 ここ二ヶ月家に出産の為に帰省していた妹の子供の相手を仕事終わってからしておりましたら…投稿は年明け予定です。
どうぞ皆様良いお年を!


 

 

 

 

 

 

 

その空き家のベッドの代わりに、適当な緩衝材の所に押し倒し、相手の両頬を自身の両指で添えエスデスは目を閉じ、タツミは迫って来る彼女の長い睫毛と艶美な唇に見取れた。

彼はその唇に触れられ、何度も離されては口付けられた。その快感に声を出さずに少し仰け反ったのを彼女も満足し、本人もまた触れた事での心地よさにうっとりし、その感触を久方ぶりに楽しんだ後、次は唇を大きく開け、舌と両方で吸い取る。

 

「うぐっ・・・うっ・・・」

 

「んふぅ~んん~・・・ちゅ~」

 

彼は口も含めた顎も吸われ、その後も両頬や額、鼻頭等を満遍なく吸われた。彼女の舌使いや唇の柔らかくてしなやかで時には強い愛撫に小さくも低く声が出ざるを得なかった。

「あ・・・余り音を出すな・・・」

 

「そん・・・ちゅ、事気にしては・・・んゆ、だめら・ちゅ~・・んん」

 

その間も細い指は彼の上着を脱がしかかり、吸いながら肌をなぞっている。

彼女の白軍服の上着を脱がそうかどうか特に考えも無く、彼は相手のその大きな胸を片手で揉むと、その手を掴んでエスデスはニッコリほほ笑み、目を閉じ指を一本ずつねぶり始めた。より視覚的に彼女の唇の綺麗さが見て取れた為、

 

「こ・・・この辺で終わりにしないか?」

 

「んん~んんん??んむぅ~何を言っているんだ?マイダーリン?これからだぞ?こんな事位で止めるなんてゼッタイ、だ・め・だ・ぞ♡」

 

そう言って彼の胸の突起を吸い始める。相変わらずそんな所を吸って何が楽しいのかと心の中で首を傾げていると、心読まれたのか。

 

「んふぅ~気持ち良くは無いのか?」

 

「ああ・・・」

 

「ふふふ、私はしたいからするんだぞ!」

 

「・・・・・・」

 

タツミは余り気持ち良くは無いが、本人がしたいなら別に良いかと我慢し・・・それを読心している彼女は心の中でニヤニヤしていた。夫が嫌がる事をするのは私の特権だという事を考えているのを読心し返した彼は呆れていたが・・・次第に腹部へと移り、下着越しに足の付け根や股に唇が這い寄る。

 

「あ~ん、うふふふふ、久方ぶりだな~とっても大きくなってるぞ、マイダーリン、タツミ?」

 

言うな!と言いつつ前に仰け反りエスデスの頭を力を入れずに手を置く。彼女の動きは激しさを増し、服を全て脱がされる。大きく隆起したそれの先端を何度もキスされた後、舌でなぞられ

 

「うふふ~ん、い・た・だ・く・ぞ♡」

 

エスデスと目が逢い、自分のそれが濡れた唇と淫らな唾液を纏った舌に食べられる様を悪くは無いと思いつつ、貪られるのに任せた。

強く丹念に吸われ、袋の方も口で覆われ中の玉も舌と唇で愛撫され、思わず体を後退させると、決して逃さないように追って来る。そして、彼女は上着を脱ぎ捨て、豊満な胸を押し当てその両方で包み込み、再び吸い出す。

 

「も・・・よせ・・・ぐ・・・」

 

「んんんんんんんん♡♡」

 

エスデスはそれを最後まで飲み干し、出し切った後も吸い取り続け、タツミはたまらず彼女の唇を離させた。

 

「そ・・・それ以上されると別の物が出る・・・」

 

「ふふふん、別に構わないぞ!」

 

「・・・・・・そんな事よりももう帰れ!」

 

「まったく・・・私がこれで帰らない事は良く判っているだろうに?判ってて敢えて言うのは可愛いぞ!」

 

「うるさいんだ!エスデスさん、お前は!」

 

「フフ、やっと素直になってくれ始めているな?これからが本番だぞ、ダーリン?」

 

下着も全て脱ぎ、再び覆いかぶされ下の口で彼の物に擦りつける。愛液が混じり寄りよく擦れ、エスデスの声は高まり彼を抱きしめ、タツミも声は出さず堪えるもののその快感に抗えない。

 

一旦動きを止め、エスデスは彼に何度か口付けた後、後ろを向ける。彼女の綺麗な美尻が目の前に出され

 

「うう~ん、余り焦らさないでくれ~?」

 

タツミは顔の赤みを隠す為明後日方向を向いて止まっていると、彼女はそれを彼のへと押し付け小刻みに動かし出す。

 

「ぐっ・・・」

 

下の濡れた唇で愛撫され、彼もそれに応え入れると双方快感に酔いしれた。上の唇とはまた違った感触に全体が包みこまれ吸い付かれるその感覚に・・・。エスデスは彼の口を求め、仰け反りキスをしだし、彼もまた彼女の胸を揉みしだいた。

 

「も・・・もうこれで充分だろ・・・エスデスさん・・・」

 

「ああん~まだ・だ・・めぇ・・・」

 

エスデスは繋がったまま自然な流れで向きを変え、相対し上となって腰を振り口付けの雨を彼の顔に降らし後、しっかりと彼の口を唇で覆い、舌は喉の奥まで届くかのように入れた。タツミは両頬をエスデスの両手で優しく抑えられ、彼女の閉じた綺麗な目を上と下の両唇で受ける快感に身を委ねながらずっと見取れていた。

 

 

 

タツミの胸を枕にしてエスデスは頭を預け、両脚は彼の片足に巻き付けている。彼は彼女の髪を撫で続けていた。そして気持ち良さそうに目を細め、時折頭を彼の胸などにこすりつけた。

 

ふとエスデスは微笑んで、タツミの顔を見つめ「?」となっている彼にキスをし、「久しぶりに昔の話を聞きたいぞ?」

と言って再びキスをしてきた。

タツミは事後という事もあって幾分落ち付いている為、照れて顔を背けた。

 

「あん~だめだぞ、逃げては~」と言って頬にキスをしだし、逃がそうとしない。

 

「わ~わわ、判ったエスデスさん・・・いつの話すりゃ良いんだよ?」

 

「うむ・・・♪」

 

 

昔、タツミになる前に彼は魂が審判を受けに来る場・・・そこで裁判官を行っていた。生前の罪の軽重で判決を言い渡し不服とする者には再考と協議の後、再度刑を言い渡し、尚不服の者あれば、説き伏せ・・・或いは強制的に、時には暴力に物を言わせた。幾多の者達を裁き、数十年・・・後進の者に譲る時が来、引退した彼は有る星へと興味本位で訪れた。そこで目にしたものは・・・

 

「我々は祖国の為、蛮国共に我々の崇高な理念を説く為に、今まで多大な説得に時間を浪費した!だがそれでも聞かぬ石頭共、此れより蛮民共を力による説得を開始する!これは決して単純な侵略行為ではない、謂わば聖戦なのだ!そして、貴様らのやりたい事を言ってみろ!」

 

「祖国の為に、救済を!」

 

「誰をだ!」

 

「蛮民共を殺す事で魂の救済を!」

 

「他は?」

 

「物の価値の判らぬ蛮民共の所有物を我らが有効に活用する為にその物を我らへ明け渡すべき!」

 

「他には?」

 

「あの者共の汚れたその体を浄化させるものと!」

 

その内の1人が舌打ちしながら内心で呟いた。持って回った言い方を、要は犯すと言う事だろうと。

 

「何を浄化させたい?」

 

「お高い娘を!!」「処女を!」「幼女を!」「人妻を夫の前で!」「少年を!」「男を!」

 

「そうだ、蛮民共には思い知らせてやらねばならない!全てを許可する!存分に我が聖軍の力を発揮し、土地も資源も我らの物とし、その他、全ては貴様らへの褒美だ。気の向くままに我が物とし、戦果を上げて来いつわもの共!」・・・大多数のバカな国民は気づいていない。俺が軍事を掌握し政権を握った暁には独裁が永久に確定するとも知らずに。束の間の愉悦でも楽しんでおくんだな・・・

 

そういう心の声を読み、その者達の蛮行に及ぶ内容に彼は逆上した。今まで数多の魂を裁き更生させ、それなりに存在世界への貢献に尽力した自負も有った・・・だが彼には判っていた。此処に居る者達のほとんどが死後は魂は残らず消えて行くだけだと、それでは犯した罪は清算されず、加害者得で終わる・・・一体誰がそれを裁くのか・・・。

 

次の瞬間、熱狂していた軍人達や演説していた総司令官達全て含め業火に焼き尽くされ、それまでの獲物を喰らえるという彼らの喜びが一転阿鼻叫喚への地獄絵図と変わった。数分後苦しみ悶えた後には骨も残らず後は地面だけが残った。

 

彼はそれだけに留まらず、その星の核も一瞬にして圧縮し爆発させてこの星の全ての生命を瞬間で散らした。

 

後にはその星を照らしていた恒星や生命が生きるのをサポートしていた衛星のみが残り、彼はほぼ暗闇の宇宙の中呆然としていた。

 

『お前・・・そこで何をしている?』

 

振り返ると、宙に銀色の霧状の物質らしき存在がテレパシーで話しかけてきた。

 

『ゴミを掃除した・・・これ以上此処には用は無い、さらばだ』

 

『そうはいかんな、此処は私の領域だ。勝手な事をされては困るでな・・・』

 

相手は彼の心の中を読んだ。

 

『ほぉ・・・成程、この星の遭遇した者達に失望したか、ならば何故その者達だけ始末して去らなかった?他の罪の無い者達も何故巻き込んだ?』

 

『・・・・・・』

 

『連帯責任か?いづれその悪党共に蹂躙されるぐらいならば一思いにか?それとも再び善良な者達の中から悪党共になっていくのであれば、今のうちにか?』

 

『良く喋る御仁だな?私に何を求める?』

 

『確かにその星はいづれ消滅する予定で有った・・・その星の住人のレベルも低く、後100年後には自ら招いた事柄で自滅、その500年後、住人の残した負の遺産で星の生物は全滅する事にはなっておったが・・・他の善良な住民の居る星に隕石から守る意味もあり、この星は最後の役目として盾となる・・・その予定通りに事を進めるつもりだった・・・だが計画が狂ったその責任は負って貰うぞ』

 

照らしていた恒星と衛星を操り、衝突させてくるのを彼は粉砕し・・・その後、次元を捻じ曲げたり時間を歪ませたりする等の激闘の後・・・

 

『ふふふ、闘い方でお主の本性が凡そ察しは着いたぞ。良かろう、責任を取る機会を与えよう!』

 

『責任を取るだと?存在など初めからせぬものこそ誇り高い。全ての物を無に帰すことこそ真の正義だ!』

 

『・・・お前にその資格が有るのかどうか儂には判らぬが、少なくとも人の縄張りで勝手を働いた分の事はして貰うぞ?己に贖罪の意識が有るのならな?』

 

『・・・・・・』

 

 

 

「・・・と言う事が有って、それがマスターゼノ、先代統轄の爺さんとのきっかけだ・・・」

 

「ふふふ・・・我が夫も中々多くを殺してきたのだな?・・・だが、そいつらを滅して後悔しているのか?」

 

「・・・良いや、別に・・・ただ、あいつらも進化の過程で生き延びる為に色々悪どくなければ生きてこれなかったとは思っている・・・生きるとは醜いものだな」

 

「ならば私も醜いな」

 

ああ、その通りだな!と言おうとする前にエスデスはタツミの頬に口付け、機先を制された彼は驚き一本取られたと、彼女の髪を撫でた。

 

 

「後で判った事だが、マスターと俺の大喧嘩は他の統括区域にも被害を及ぼしたらしいな・・・彼は他の統括長達に平謝りしたらしい」

 

「タツミ?再会した時の私達のあれは?」

 

「あれは喧嘩だ」

 

「・・・もっと具体的にどんな大喧嘩だったんだ?」

 

「平気で恒星衛星の類をぶつけてきたり、一部だけ時間の感覚を遅らせ歪ませ知覚をおかしくする術を行ったり、変な奴を召喚したり、ブラックホールや空間そのものの法則も書き換えたり・・・色々やってくれたなぁ・・・」

 

「あの先代殿が・・・温厚な御仁だった記憶しかないが」

 

「あの爺さん、エスデスさんの前じゃ好々爺のふりをしていたな?本当は好戦的なマスターだったぞ・・・という訳で、爺さんは何とかさんに後進を委ねて心置きなく入滅されたましたとさ、めでたしめでたし」

 

「・・・ダーリン、寂しいのか?」

 

「そんな訳無いだろ?」

 

「私が居るぞ!」

 

面倒そうにこの話題を終わらせようとするが尚も喰い下がる。

 

「ふふふ、私はタツミ本人よりもタツミの事を愛しているのだからな!!」

 

「・・・・・・」

 

「何処を触って吸えば快楽に堕とせるか・・・日々研究し、ダーリンの氷人形を用いて・・・ふふふ・・・」

 

タツミは壮大にエスデスにツッコミを入れ、帰らせようと促すが腰が重い。

 

「私達があの地で会い通常の肉体を持っていた頃、愛し合う時間が足り無すぎたとか、ただ肉欲に溺れていたりしている等の訳ではないぞ?こうして愛するマイタツミと触れあう事で隠している心に触れて・・・うふふ、私の愛の支配下に置けている実感が伴うんだぞ♡」

 

「いや、エスデスさん。俺はもうあんたのモノだと言っただろう?だから必要以上にする事もないだろうが!」

 

「むぅ~~、やはりまだ私が望むまで支配し切れてないんだぞ!普段はダーリンが私を支配しているが・・・うふふふふふふふ」

 

「不気味極まりないな・・・」

 

そして不服そうな顔で訴えてくる。

 

「それでなダーリン?まだ私にはやり残した事が有るぞ?」

 

「いや、好い加減帰らんとこの管轄の統括殿が昼寝から覚めるだろう?さっきも言ったがばれたら面倒だ」

 

「少しなら問題ないぞ!私も時空を外部から認識しずらくなる歪ませを僅かだが出来るからな!」

 

「ちっ・・・、あの爺め、教えてはならん奴に下らない技を・・・」

 

「今まで私には師らしい師はいなかった。強いて言うならば父がそれに近かったが・・・先代殿はそう呼んでも構わないな♪・・・・・・・・くくくくくふふふふふ」

 

「だから不気味に微笑むな!一体なんだよ、これ以上やり残した事は?」

 

「くくくく・・・これ以上悪い虫が近付かんように・・・」

 

エスデスは彼を再び押し倒し、至る所を吸いまくり、彼にキスの雨嵐台風が襲った。

彼は、いい加減にしろ、心臓破裂する!と反発するが、

 

「んんちゅ~私が、ちゅ~今までどれ、ちゅ~だけ、さびしい思いをしたか、ちゅ~思い、ちゅ、知らせて、ぶっちゅ~~~♡」

 

 

彼女のおかげ(せい)でタツミは心臓の脈が勢いよく波打ち爆発寸前で頭もくらくら、顔も沸騰している…

 

「んふふ~もっとしたかったが、これ以上すると流石のダーリンも本当に破裂してしまうかもしれないな・・・こういう所は肉体を持つ不便さか・・・ふふふ、早く帰って来て欲しいからな、油を売らずに早目に終わらせて欲しいぞ、マイダーリン♡」

 

・・・エスデスさんは漸く…ある程度満足し、自身の仮の肉体が足元から徐々に霧散していく、茹で上がったタツミに最後まで口付けながら…やがて、顔も跡方も無く霧となり、居なくなった。

 

 

・・・・・・そして、落ち着きを取り戻した彼は

 

「はぁ~・・・・・・、やっと帰ったかエスデスさんめぇ・・・体中キスマークが付いているなぁ・・・鏡・・・ああ、有った。・・・顔中もだ・・・まぁ数時間経てば・・・消えるか・・・ん?・・・待てよこれは・・・術が掛けられている・・・・・だと!?」

 

つまり、エスデスはタツミが顔や体を晒さないように、付けたキスマークが半永久的に消えない術を掛けた・・・

 

 

『くくく・・・先代殿は賢い方であったな、あのような助言を賜れたとは・・・まさか摩訶鉢特摩を部分的にのみに絞れば、私がダーリンに付けた愛の跡も長く保ち続けられる事になるとは・・・うふふふふふ』

 

 

 

やっと統括室へ戻って来たエスデスにガーディアンがどうされましたか?と尋ねると涼しげな顔で何でもありませんよと流した・・・。

 

 

そして、タツミは調達した包帯を体中に巻きつけながら

 

「ああああんんのぉ、アホォデェェスがぁあああああ、帰ったら許しては置かねぇぞおおおおお」

怒りの炎で燃えていた。



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悪党が斬る!(十三)

皆様明けましておめでとうございます。

これまでお付き合い頂き有難う御座います。
今年で完結させますので、どうか奇特な方は最後までお付き合い下さいw


チャンプはタツミの身に一体何が起こったのか気が気でなかった。

苛立ち紛れの彼はそのまま自室に向かうと・・・

 

「・・・なんだこれは?」

 

「んあ?どうし・・・何だこりゃあ一体!!」

 

タツミの部屋に布が被さった人程サイズの物体が置かれており、それに付いてチャンプに尋ねると何も知らないと返されるが、彼はその布に良く知る相手の顔がデフォルトされた似顔絵が所狭しとあり、嫌な予感が初めから的中した。

 

「な・・・なんじゃこりゃあああああ!!!」

 

布を取り外すと同時に素っ頓狂な声を上げた彼を尻目にタツミはうんざりしていた、それに付着していた手紙を読むと“愛するマイダーリン、私が居なくて寂しい思うが、これを私の分身だと思って愛でてくれ・・・も、勿論そういう意味で使っても構わないぞ・・・と最後まで読み終える前に一瞬にして塵に返した。

うんざりしたその視線の先はポーズを決め、気持ちタツミに向けて投げキスしているような某女性を象った氷像があった。

 

「こ・・・こりゃ一体・・・兄ぃ何処かの奴らが挑発目的で・・・一体いつの間に?勝手に俺達のアジトに乗りこんでふざけた真似しやがってぇ・・・ただじゃおかねぇ、なぁ?」

 

タツミはその氷像の胸に手を当てると、強震動で一瞬で粉々に返した。

 

「おお!?おぉ・・・流石・・・」

 

「チャンプこの事はぜつつつつつつたああああいい、誰にも漏らすなよ!!!」

 

「いや、え、ああ・・・」

 

「判ったら早く行けえええええ!!!!!」

 

「りょりょりょ了解!!」

 

その凄味に思わず敬礼をしてしまい、去って行った・・・残ったタツミの部屋には再び違うポーズをしたその氷像が新たに顕現し、壁に文字が現れた。

“ふふふ、照れ屋な我が愛しのマイベイビータツミの事、きっと恥ずかしくて破壊すると思っていたぞ?だが安心してくれ?幾らでも替えは有るからな・・・その後彼女の近況や愛の言葉がうざいほど書きつられられ、

 

「いつから此処は怪奇現象物件になったんだ・・・・・?」

 

頭を抱えながら今後部屋には自分以外決して立ち入らせない事と、この妙な格好では行動に制限が掛かり、隠密裏に動くしかないと対策を練り始めた。

 

 

 

「とにかくだぁ!!あいつらが上等極めやがったのは間違いねえんだ!これは俺らへの宣戦布告だ!ぶっ殺してやるぜ!!」

 

「おい、てめぇ!まちがぇんじゃねぇよ!俺らじゃねぇ、お前らだろが!」

 

「兄貴の世話になって此処を好き勝手に使ってやがる癖に、何ぬかしやがる!」

 

「あ?タツミより先にてめぇを血祭りに挙げてやろうか?嗚呼!?」

 

「あ?上等だァ、大臣の息子だか何だか知らねぇが、親の尻にへばりついてるお前が俺に勝てると思ってんのか?」

 

「タツミの金魚のフンの癖にナマ言いやがって先にお前から処刑確定だ!」

 

タツミの部屋に誰にも知られずに謎の氷人形を置かれ、恐らく中に爆薬か毒煙などの危険物が有ったと推察したチャンプはそれをタツミが一瞬で破壊し事無きを得た、そして彼はこれ以上被害を拡大させない為に自分達を遠ざけ、何やらタツミ一人で解決するのでは?と解釈したチャンプは詳細は省き、内緒と言われたものの大まかな内容を広間で皆に告げた。

 

そこでシュラと言い争いになり・・・

 

「へいへいへいへい!待て待て!そりゃあお前らの殺し合いは見てぇぜ?けどよ、偉大な俺様の生誕祭にやってくれよ?今はんな事よりもそのバックレルって奴を締めりゃ良いんだろ?」

 

「バックだ!ボケぇ!!」

 

「こまけぇ事は良いんだよ!」

 

エンシンが止めに入り、シュラのツッコミが入る。

 

「おい、エンシンお前いつからんな日和になった、ああ?」

 

「おいおいおい、ブラザー?喧嘩売る相手間違ってやがるぜ?あん時気に入らねぇ帝国将軍潰すのにお前誰に助けて貰った?」

 

「ああ・・・あれはタツミの野郎が殺すななんざ日和った命令しなけりゃなぁ!!」

 

二人の話は放り投げておき、チャンプはイゾウに助言を求めた。

 

「ふむ・・・拙者も朝から此処に居たで御座るからな・・・確かに珍妙な出来事と察するが果たして気配も無くタツミ殿の部屋に・・・?余程腕の立つ者の仕業か・・・どちらにせよ確かに拙者もバックとやらの噂は聞こえは良くないで御座るな・・・うむ、異存は御座らぬ!」

 

「よぉし!こないだの落とし前もある!それにタツ兄の命を殺し屋使って狙わせた裏も取れてんだ・・・あいつらブッ潰して、そいつらのシマも奪っちまおうぜ!」

 

「・・・そういやチャンプ、タツミの野郎全身包帯巻きだってか?へっへっへ、何処のどいつだ?あいつにそこまで大怪我させてくれた奴は、歓迎してぇぜ!」

 

「馬鹿野郎!兄ぃの事だ、そんな奴きっちり返り討ちにしたに決まってんだろ!火傷負ったって流石だ、動きに乱れがねぇ・・・お前がまた喧嘩売ったって秒で終わりだぜ」

 

「けっ・・・まぁいい。全快したら今度こそ締めてやる。タツミはそれまで命拾いしたな」

 

「とにかくだ。今回の件では兄ぃにこれ以上手を煩わせる訳にゃいかねぇ!」

 

それでも不満げなシュラにイゾウは問い掛けた。

 

「シュラ殿は余程タツミ殿を始末したいので御座るな?・・・成程、では拙者が一つ更に強くなるきっかけを教示してしんぜよう」

 

「ああ?」

 

「昔、有る国にその御仁は居った。その者は罪人の処刑役を担い幾百の首を斬った・・・だが、検分する役人達に罪人の血が飛んで触れれば、不浄の至りとその処刑執行者も腹を斬って詫びねばならない・・・その恐怖を物ともせずに彼は斬り続け首の皮一枚を残して斬る事で血が飛ばない技量も持ち合わせておった・・・だが、有る時その者達の中には無罪の者が居るのも知った・・・上の者は取りあわず、その後も無罪の者が刑場に運ばれる事もままあった。それでも少しでも相手を楽に殺せるのは自分しかいないと悟り、その役を続け罪人の首を一度で落とせなかった時は腹を斬る覚悟で続けた・・・やがてその体制も瓦解し、そのような処刑方法も無くなり、彼も役を解かれ、自費で罪人の慰霊碑を建てた・・・で御座る」

 

「・・・あ?それとタツミと何の関係があんだ?今の何処に俺が強くなる要素があんだ?イゾウさんよ?」

 

イゾウは相手を凍らせるような眼光で見据え、一瞬シュラも体が固まった。

 

「今のを聞いて判らぬようであれば・・・更なる精進なされよ」

 

シュラはイゾウに尚喰い下がるが、それを止め、この後自分達がどう闘うか計画や彼らのアジトの場所等を確認している時、エア達三人の少女が話を聞いていたのか、やってくる。

 

「あの・・・チャンプさん・・・」

 

「ああ?お前達か・・・ええ、ああ~どうした、腹でも減ったのか?」

 

チャンプはバツが悪そうに話を逸らそうとするが、イゾウは彼女らの意思を汲み制する。

 

「やはり今の話聞いていたで御座るな?わっぱ達よ、お主らが敵う相手では無いから此処で寝てるが良い」

 

静かに一睨みされ、一瞬怖じ気づき掛かる三人だがファルとエアが開口する。

 

「あたし達ここにお世話になって恩返しがしたいんです!それに、もう故郷にも帰りたくない・・・」

 

「オジサン達が居なかったら今頃あたし達は・・・それにあの人達をそのままにしてたら、あたし達みたいに酷い目に遭う子が・・・だから出来る事はしたいんです!」

 

 

「ふむ・・・一宿一飯の恩義・・・それにお主ら親に捨てられたであったか・・・」

 

「おいイゾウさん!」

 

「失言で御座ったな・・・しかしどうしたものか・・・」

 

自分ですら感知できずに侵入した相手が居ると思っているイゾウはバック一味の実力は未知数で最悪自分達の身しか守れない事も考えていた。

そこに、ルナが入り込む。

 

「まったく・・・エアもファルも交渉がお下手なのです。オジサマ方良いですか?ここにご厄介になってた間、掃除洗濯炊事などなど私達でがんばったのですよ?年頃の私達が少々臭う大人の男性の衣類を洗濯するなんて・・・それはもう・・・」

 

「ルナちゃん、それは今言う事じゃあ・・・」

 

「良いんですよ、エア!この方たちは、面倒臭がってそういう事をおろそかにして・・・シュラさん、その服は何日着てますか?横で笑っているエンシンさんもですよ!」

 

チャンプとイゾウは顔を見合わせ笑いだし、

 

「クックック・・・これは結構、成程、取引で御座るな・・・」

 

「ひっひひひーーー、ああ、そういや、悪いと思って黙ってたんだが、シュラお前焦げた臭い、ありゃ汗かきまくった後のあれだな、その臭いが前からしてたが・・・この子達が来てから余り臭わなくなったぜ・・・ってくくくく」

 

「交渉成立ですね!私達も自分の身は自分で守ります!・・・が念の為お願いします!」

 

ルナが頭を下げ、エアとファルもそれに倣う。

 

男二人は苦笑いしながら同意したが、シュラは吠えた。

 

「おいおいおいおい、待ちやがれ俺は許可なんざ出してねぇぞ!?大体、チャンプお前仕切んじゃねぇ!良いか・・・着いてくんのは勝手だがな足手まといになったら、俺は躊躇なくお前らを見捨てるからな・・・それでも良いならかまわねぇぜ!」

 

三人の少女は顔を見合わせ固く頷き、エアが代表して話す。

 

「一度は無くしかけたのを拾った命です、あの人達に少しでもわかってもらえるなら・・・例え死んでもかまいません!」

 

 

シュラはそれを見せつけられ、忌々しげな顔でエンシンに同意を求めると、彼は肩を竦め“好きにさせりゃいいだろ?“と言う意味で返した。

 

「あ~~わかった、クソガキども!良いか、相手は俺様にかかりゃ雑魚ばっかだろうが、中には少しは使える奴もいるかもしれねぇ。そん時、奴らをブッ倒す為ならお前ら盾にするかもしれねぇぜ、良いんだな!?」

 

三人の少女の決意はそれでも揺るがないと見て取り、

 

「ちっ・・・いっぱしの面しやがって、誰だこんなになるように仕込んだ奴は?・・・まぁいい、気が変わったぜ。お前ら3人共死ぬんじゃねぇぞ?数年経ったら俺が味見してやるからな!」

三人に指差してシュラはアジトを出て行き、エンシンも笑いを噛み殺しながら後に続いていった。

チャンプは一瞬見直した顔をした後再び、軽蔑の視線を送った。

 

当の三人は味見の意味はあれではないか、これでは無いかと騒ぎ始め、イゾウはそれにニヤリとほくそ笑んだ後に

 

「では拙者も野暮用が有る故、これで失礼する・・・後の詳細はまたその日で御座るな・・・ではいざ参らん!」

 

「え・・おお・・・いってらっしゃ~」

 

 

 

その後チャンプは心残りの無いように3人の少女に変装させ、行きたい店や食べたい物等の買い物に出かけた。

 

商店街の通りにあるの某店の二階にメイド服を着た店員がガラス越しに働いているのを見かけ、エアが羨望の眼差しを向けていた。

 

「エア、ああいうのが良いのですか?・・・まぁ判らなくも無いですが」

 

「え?ああ?・・・あたしも本当はああいう格好してメイドさんしたかったなぁ~」

 

「いや、あそこはな・・・なんていうか、あ~もっと別の所に行こうぜ?な?」

 

チャンプが先を促すが、ふと立ち止ったファルは客席に見知った姿が見えた気がした。

「あ・・・・あれ?あの人・・・まさかね・・・」

 

思い違いだろうと考え直し皆の後を楽しそうに追った。

 



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悪党が斬る!(十四)※(裏)

帝都の一角にそびえる大きな屋敷の中に並みの兵士よりも数段装備の良い兵隊が所々に配置され、その周辺は黒服の男達が巡回していた。

 

フードを被った少年の側を離れずに帝具の上からマントを纏った男が内心を悟られぬように僅かに舌打ちを鳴らした。

 

『大臣め・・・陛下をかような所に・・・』

 

時間は数日前に遡る。

 

「陛下、国王たるもの民の暮らしぶりを見ておく必要があります」

 

宮殿の食事の間で大臣のオネストと皇帝陛下のカライが今後の政治などについて話す中で突如その話と成った。

 

「そういうものなのか?大臣」

 

「はい、下々の生活の中に溶け込み、善政を行った為政者がおります。陛下も是非今後の国政にお役に立てて頂きたく・・・」

 

後はオネストの話に感化され、彼の斡旋で孤児を養っている施設に行幸する事と相成り、カライが喜んでいる様子とは裏腹にオネストは邪悪な笑みを僅かに浮かべていた。その話の前日に

 

「私の側近が是非にもと言うので心優しい私はわざわざ多忙の合間を縫って会ってあげたのですよ?それ相応のお土産が・・・この程度の金貨ですか?」

 

宮殿の余り使用されていない薄暗い客間で、オネストは椅子に腰かけ肉を頬ぼりながら尊大な態度で相対し、バックは立ったまま頭を下げていた。

提出された金貨は庶民の生活3年は楽々暮らせる程の大金だった。

 

「いえ、これはほんのご挨拶代わりです・・・付きましては小耳に挟んだのですがオネスト大臣は皇帝陛下に御隠居して頂きたいと願われているのではと・・・」

 

その際に、客間の裏側に隠れているオネスト配下の暗殺者が身体を動かすが、それには合図を出さずに話を続けさせた。

 

「滅多な事を言うものではありませんよ?バックさんでしたか、私は“陛下の為に身命を賭して働いているのです。そこに野心など一切ありませんよ?”」

 

「これは大変失礼いたしました。“訂正いたします・・・ですがお言葉ながら陛下もまだお若い、同じ年頃の子供達と時には遊ばれるのも宜しいかと”」

 

二人はそれから婉曲表現を用いた密談を交わした後、互いに笑いながら別れた。

 

宮殿から出て行く姿を部屋から眺めるオネストに先の暗殺者がどうするか問い掛け

る。

 

「まぁ良いでしょう・・・野心家の若造は私も嫌いではありません・・・ですが、生き残るかどうかは別ですがね、ふふふ」

 

宮殿を後にするバックは黒服達を従え、帰路の途中呟く。

 

「狸爺め、皇帝を暗殺して自分が頂点に君臨してぇくせに・・・まぁいいよ。僕がそれ手伝ってやるよ・・・くくく」

 

 

そして、バックが居を構える“孤児院と思われる”その大部屋に通されその主が来るのを待っていた。少し間が有った後、頑強な両扉を配下の黒服達が開け放ち、登場した彼は深々と頭を下げ

 

「お待たせして大変申し訳ありません。皇帝陛下並びにブドー大将軍、このような所にわざわざお越しいただき誠に恐れ多く・・・」

 

ブドーは一睨みをし、

 

「挨拶はその辺で良い、だがな陛下並びに我々の名はみだりに呼ぶな!」

 

「失礼致しました・・・では早速、さぁみんな、見学に来たお兄さんと一緒にここを案内しなさい」

 

控えていた男女それぞれ数人の10歳前後の子達がカライに前に集まり、わぁわぁ騒ぎ始める。

 

『うむ・・・身なりも悪くは無い、小奇麗にもしている。孤児だと聞いていたがそれなりに福祉は行き届いているか・・・?大臣の言葉を信用してよいな』

 

カライは彼なりに子供達を観察していると、その内の元気な子が彼の袖をひっぱり施設内を回り行こうと喋りながら連れて行った。

 

ブドーは配下の1人に目で合図を送り、影ながら護衛を促した。

 

「・・・大将軍、ご安心下さい。ここは僕の仲間(黒服)も居りますので。この帝都にも子供をさらって売買する奴隷商人が居ますから、そんな者達から守る為にボディガードも居るんです」

 

それに対しブドーは無言でバックを睨み返した。

 

「差しでがましかったですか?失礼致しました・・・将軍の部隊は精鋭を聞いておりますから・・・あはは、その方がご安心ですね・・・」

 

ちっ・・・扱いづらい奴だ・・・とバックは内心の思いとは裏腹ににこやかに愛想笑いを浮かべた。

 

ブドーは宙を見据えながら、以前某本を購入した後に自室へ侵入した相手との話を思い出していた。

 

「貴様・・・、大臣のオネストが陛下の御命を狙っているだと・・・狂言で私を誑かすつもりなら許さんぞ!」

 

「それだけじゃない。先代の皇帝の命を奪ったのも奴だ・・・俺の言う事を信じるかどうかはあんた次第だ」

 

確かにオネストには不審な行動も散見される。彼からの帝都民の生活状況報告も改竄や捏造が多いと文官からの訴えもある。だがブドー自身、余り政治経済には明るくない・・・、だからこそ政務は文官達に任せ、その立場は守る後見人的役割は果た

していた。・・・それに、例えオネストであろうと、同じ皇帝に仕える者だ、自分懇意の文官達とは単なる意見の相違や誤解の範疇であろうと甘い見立てをしてしまっていた。

ここに来て、彼の心は揺さぶられ始め相手の意見を参考にするか悩んだ。

 

「タツミと言ったな・・・我々の内での同士討ちを狙ってでは無いだろうな?」

 

「そう思うならそう思うが良い・・・後になって取り返しが付かずとも、俺は知らないぞ。俺は革命軍でもナイトレイドでも無いが、オネストは後々この星の住人とって負の遺産を残し過ぎる・・・」

 

「ホシの住人・・・負の遺産だと?」

 

「奴はこの後、戦争の火種を各国に撒き散らして帝具をアレンジした劣化版兵器を売って莫大な富を得る。その余波で自然にも汚染物質を残し数万年消えない事になり、その土地には生物は住めなくなった・・・そして、それを受け継いだ奴らが今度は住めなくなったこの星を離れ、別の星で再び同じ事を繰り返し・・・」

 

ブドーは段々理解の範疇を超え、一旦話を制止した。

 

あ~エスデスとの喧嘩であの技本当に使わなきゃ良かった・・・そうすりゃ救世主な奴がこの星に生まれて・・・俺の仕事が増えずに済んだ・・・はぁ・・・、とタツミは心の中で、後ろ向きな愚痴をこぼし・・・とりあえず、話を締めくくった。

 

「とにかく、今回は俺が直接関与せずにあいつらに方を付けさせたいんだがな・・・だからこういう回りくどい事してんだ」

 

「・・・良く意味が判らん!もっと判り易く述べろ!」

 

後はお前さんで判断しろと言い残し、タツミは姿を消した。

 

ブドーは口の堅い仲間達でオネストの先代皇帝の暗殺関与の証拠を探した。決定的な証拠は無い物の、状況証拠とそれに携わったと思われる人間の不審死・・・この事からもオネストに対する不信感は否応にも増した。

 

 

 

夜霧に混じり月を背に、四つの孤影が地を刺す。

 

ナジェンダ、アカメ、マイン、レオーネのナイトレイドの4人がバックの屋敷向かいの離れた屋根で警護の様子を窺っていた。

 

「どうやら密偵の情報通りだったな、バックを始末するだけならともかく、皇帝やブドーまで来ているとはな・・・配下の数もそういない。千載一遇のチャンスだ!今居る我々の総出で仕留めるぞ」

 

「・・・ブドーか・・・」

 

アカメは元々ブドーと帝国軍時代に面識があり、多少稽古を付けて貰った間柄でもある。

 

「チェルシーの奴あいつ、傷心の旅に出るとか意味不明よ!?あたし達の仕事舐めてんの、本当!」

 

「ま、ブラートもシェーレも残念だよな?地方の仕事競り落としていないしな~ラバはまだ傷完治して無いし、でもさボスの言う通りここであの野郎だけじゃなく、大物二人なんて・・・く~おねーさんゾクゾクして来た!」

 

 

「良いか、お前達!他にも不審な気配が有る。標的はバック、皇帝、ブドーだが他の部下達に顔を見られたら・・・判っているな?困難だがなるべく標的のみを始末しろ!ここであの二人を葬れば我々革命軍は一気に優勢になる!」

 

 

さて、今回はどう忍び込むか思案していた。ブドーの腕はナジェンダもアカメも熟知しており、下手に侵入しても気配に気づかれ皇帝を逃がされる恐れがある・・・その時、

 

「おいエンシン!なんで昼間に乗りこまねぇんだ?面倒くせぇ!」

 

「良いだろう?お前だって知ってんだろ、俺の帝具は」

 

「けっ?何弱い事言ってんだ、だからお前は雑魚なんだ、あ?」

 

屋敷門前に堂々とシュラとエンシンが文句を垂れながら・・・近付き、警護の者達に威嚇される。

 

「あ?うるせぇな、雑魚キャラは引っ込んでろ!!」

 

二人は彼らを叩きのめし、頑丈な扉も蹴飛ばし易々と屋敷内に入り込んで行く。

 

「へっ、主役そのものだな、俺!」

 

「エンシン!てめぇ目立つんじゃねぇよ、主役は俺だ!」

 

 

 

・・・・・・やり取りを見ていたナジェンダ達は

 

「な・・・なんだあいつらは?我々(革命軍)の陽動部隊か?いや・・・本部に支援は要請していない・・・よな?」

 

帝具で獣化しているレオーネは視力も格段に上がり夜目も利き、

 

「ボス、ありゃたぶん大臣の息子だな?・・・何でこんな所居るんだ、殴り込みか・・・ん?」

 

アカメも首を傾げ思案しているがマインの威勢の良い声が発破を掛ける。

 

「どっちにしたって良いわ?あいつらがあたし達の邪魔するなら・・・ね?とにかくこれであたし達も侵入し易くなったわ!」

 

「ああ・・・、そうだな、好機と捉えるぞ!皆ここの屋敷見取り図は頭に入れているな?では行くぞ!!」

 

ナジェンダの声に皆は行動開始した。





筆者の考えで
ここからルート裏となります。今までと流れが異なる雰囲気ですのでご注意ください。
それで完結に向かいます。

ルート表は・・・未定です。そちらの方の希望が御座いましたら書かせて頂くかも・・・?


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閑話休題・明日から使える(?)タツミの武術講座

 

 

エスデスがタツミに向かって首輪をさせようと迫って来る。

 

「え~このように、有る層にとってはご褒美かもしれませんが、ここではされないようにしましょう」

 

タツミはエスデスの首輪を持つ右手を親指で手の甲を、残りの指で柔らかく掌を掴み、自身の小指から徐々に相手の手を返す、小手返しを行う。(実際には目にも止まらぬ速さで行っている)

 

「むっ!?タツミ!」

 

エスデスは返された手を極められないように自ら身体を空中で回転させて着地しようとする。

 

「手練な相手ならば関節技を極められないように、自分から投げられにいってダメージを受けないようにする人居ます・・・ですが」

 

タツミは即座に鳩尾に一撃を入れる

 

「ぐ・・・」

 

「それでも空中で防がれた場合、体幹を乗せた強力なものにしましょう」

 

タツミは全身の力を動員した一撃を掌底に乗せ、相手の防御も崩して叩き込み、エスデスは倒れ込む。

 

「タツミ!大人しくお縄に付け!・・・違った、私の物になれ!」

 

「このように相手はまだ懲りていません・・・ここは大人しく首輪に繋がれます」

 

「ふぅ・・・やっと素直になったか」

 

「それで首輪に繋がれ、相手は引っ張ります・・・引っ張られた反動で、その勢いに乗って脇腹に肘撃ちを叩きこみます」

 

「ぶほっ!」

 

「急所の一つでもあります」

 

「タツミ、さっきから何をする!」

 

「相手は怒ってますね、因みに引っ張る鎖は相手の手の内、ですが、相手と体を密着させるとこちらの間合いにもなります」

 

「タ、タツミ?そんなに体を密着させるとは・・・ふふふ」

 

「そして、相手の顎下に掌底を叩きこみます」

 

「ぐはっ!!」

 

「やり過ぎると首の骨が折れるので手加減しましょう」

 

「ぐ・・・くくく、全くタツミは先程から・・・しかも一体誰と話しているのだ!」

 

エスデスは軽い脳震盪を起こし、前後不覚になる。

 

「この密着した状態ならば相手の手も足もこちらの武器として使えます、捥ぐも良し、関節技を極めるもよし、零距離で振動を与えるも良し、勿論相手も同じ間合いなので気をつけましょう。相手は鎖を持っているという心理的有利の隙を付きます。これだけ至近距離ならば逆に鎖を掴んでいる事が不利になります。これは武器を持っている時も同様です。試しにここは相手が鞘に納めた剣を腰に差しているので、鞘を掴んで背中に回して地に倒します。足払いを掛けたり、相手の体軸を崩すと良いでしょう」

 

タツミはエスデスを地べたにつかせ、首輪も彼女の首に付ける。

 

「く・・・マカハド・・・」

 

「そして、相手の攻撃の気配を感知して、心の後の先で制圧します」

 

タツミは彼女の背中を踏み倒して、奥の手発動を無効化した。

 

「以上、自分が不利な状況を如何にやり方次第で有利に持って行くかでした・・・お目通し有難う御座いました」

 

「・・・・・・」

 

「どうしたエスデスさん?・・・なんで首輪付けたままなんだ?取って良いんだぞ、生憎俺は人を鎖で繋いで連れ回すなんて事、興味無いからな?・・・何でそっちの鎖の端にもう一つ首輪付けるんだ・・・おい!また俺に付けるなよ!・・・うっ・・・今度はそっちからくっ付いて・・・また別の技でも掛けられたいのか?」

 

「うふふふふふふふ・・・」

 

「おい、どことどこ、くっつけてんだ!!こするな!ぐっ・・・」

 

「うふふ、タ・ツ・ミ♡とっても・・・ふふふ、なっているな♡」

 

以下省略



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悪党が斬る!(十五)※(裏)

アカメは屋敷への潜入を試みる。

 

 

 

「アカメちゃん!貴女、美人なんだからもっと髪のケアした方が良いよ!」

 

先日チェルシーにメイドでの仕事の指導の際にアドバイスを受けた事を思い出していた。

 

「髪の質が良いんだからさ、それにもう少し化粧もした方が良いよ?・・・昔、好きな人が死んで女としての自分を捨てたのかもしれないけどさ」

 

アカメは髪を彼女に梳かされながら、はっとし、僅かに振り返る。

 

「あ・・・と、ごめんね。立ち入った事言っちゃって・・・帝国軍時代のそういう話もたまに耳に入って来るんだよね~殺し屋である前に1人の女性として自分らしさをもっと開放しても良いと思うんだよね、・・・と、これはあたしの一意見としてね?」

 

「・・・・・」

 

「はい、おわりっと!あ~あと、その綺麗な長い髪・・・闘う時にちょっと邪魔だと思うよ?あたしなら、嫉妬で髪ひっぱちゃうかな~って、あははは。アカメちゃん程腕が立てば、そんな事されないよね?あたしの腕じゃ無理に決まってるか~ふふふ、凄腕の人って羨ましいーそれじゃあね~」

 

カラカラ笑って仕事場に戻る彼女の背を見やり、改めてアカメは戦慄を覚えた。その情報網と何か隠している油断無さに。

とはいえ、忠告は忠告として聞く柔軟性はアカメには有る。

 

「ふふふ、アカメ・・・・貴女にはまだ死んで貰っちゃ困るんだ・・・、だってその腕、裏でまだまだ使えるから・・・・って、はぁい♪今日も来てくれたんですか~」

 

 

 

 

アカメは唇に薄い口紅を差し、水面で映え具合を確認し華柄のマフラーで顔下半分を覆う。髪も頭後ろに束ねて盛り上げる。

 

「いつ死んでも構わぬように身なりにも心掛けるか・・・、ふっ」

 

前後からの気配に気づき、アカメは警備の黒服達を村雨の柄頭で彼らの鳩尾に下から上へ付き上げる形で強打し、その周辺の骨がひび割れその痛みで悶絶を打ち、意識を混濁させる。

 

アカメは周囲の気配の有無を確認した後、窓ガラスを斬る。だが、有刺鉄線が掛けられていて、斬り損ねる。斬り難い場所な為、時間が掛かる。

 

「・・・・・・・」

 

近くの複数の窓にはそのようなものは掛けられておらず、そこから侵入する。

 

『恐らく、ブドー達が来るから見栄えの悪い物は取り払ったな・・・侵入するだけなら問題ないな・・・む?』

 

アカメは咄嗟に物影に隠れる。

 

「てめぇ、何処から入りやがった!」

 

「ただで帰すと思うな!」

 

黒服達が喚き散らし、ゆっくりと人影がその廊下の中心を事もなげに進んでくる。

 

「やれやれ、拙者はバック殿がいずこにお出でか・・・それを尋ねているのみで御座るのに、困った方々であるな」

 

数人の彼らが武器を構え、そのうち1人が銃を構える。

 

「ふざけやがって!挨拶も無しに土足で踏み込みやがって、舐めてんのか!?死にやがれ!」

 

発砲するその刹那、その男は腰の太刀を瞬時に抜き付け切っ先で銃口を発砲者に向ける・・・その破裂音の後には信じられないという表情で絶命しその黒服は崩れる・・・その間に彼はゆっくりと縦納刀を行う。

 

「人に銃口は向けるものでは御座らんな・・・ぬしらも以後気を付けた方が良いで御座るな」

 

 

それを挑発と受け止め、鉄棒や刃物等の武器で次々に襲いかかる・・・男は愛用の太刀は使わず、短めの白木拵えで縦横無尽に薙ぎ払い、相手の武器は掠りもせず体捌きで見事にかわし、同時に片手に持ったそれで斬り倒していく。

まだ生きている者達は逃げ出し、直ぐに死にきれ無い者達は彼らにとって身近な宗教の経文を唱え、死への恐怖を和らげようとしていた。

 

「・・・即死させられずにかたじけない・・・だが、その前にそこの御仁はいつまでかくれんぼしているつもりで御座るかな?」

 

隠れていたアカメに緊張感が走る。・・・先刻の動きで出来る相手なのは判っていた。このまま逃げるか?いや、どうやらバックの居る方向に進むには、この男を避けて通れない。・・・ひょっとすると、共闘出来るか?脳裏をよぎったが・・・駄目だ、何処の誰とも判らぬ相手だ・・・例え今共闘出来たとしても、後で弱味を握られる可能性もある。そう考えている内に相手は近付いてきた。

 

「む・・・?おなごであったか・・・」

 

アカメは村雨を鞘に納めたままでありつつもいつでも抜刀出来る姿勢で対峙した。

彼女は逡巡していた。仲間にするか、だが下手に引き入れて裏切られた過去が有り、その者を始末せざるを得なかった苦い記憶もある。

 

「・・・お主、何用で此処に・・・?バック殿の部下で御座るか・・・?」

 

この男は得体が知れない。バックの敵に見えるが・・・実は、用心棒になりたくて敢えて腕を見せつける為に・・・?判らない。

駄目だ、こんな所でまごまごしている訳にはいかない。

 

「・・・退いてくれ」

 

アカメは声色を変えて呟いた。

 

「む!?その声は・・・そうか、お主はあの店の・・・くくく、これは恐悦。隠しきれぬ殺気、居心地がよく、つい入り浸ってしまったが・・・かような所で会うとは、なるほどなるほど・・・運命で御座るな」

 

「!?」

 

アカメも自分が表の仕事で店員をしているその喫茶店に来ていた客だと気が付いた・・・不味い、このまま彼を逃がせば、表の仕事が出来なくなる。それに、仲間にするにもまず、こちらが上である事を知らしめないと、以前のように裏切られる可能性が残る。

 

「・・・葬らせて貰う・・・」

 

とはいえ、気迫だけは本気を出した。

 

「ふむ・・・、心地良い殺気だ・・・アカダ・イゾウ、参る!」

 

イゾウは太刀である愛刀、江雪を抜き相手にそれが見えないように脇構えにして、左周りに足を進める。アカメはこの時、改めて手加減できる相手でないと知り、全力でぶつかる覚悟で居た。

 

 

 

アカメが左脇から抜刀した刹那、そのままイゾウが脇構えの下からの斬り上げで村雨を弾かれそのまま斬られる・・・

 

 

 

そう近未来の透視が出来、アカメは同じく左に回りながら村雨を静かに抜いた。今度は下段に構えたアカメに対し、イゾウは脇構えで上から斬りかかる。それをアカメは村雨の鎬で回転を加えて弾き、イゾウを斬り倒す・・・

 

 

 

「ふっ・・・」

 

 

イゾウはそうなる事を察し、下段に構えそれ以上動かなかった・・・

アカメは功に転じづらくなり、短い・・・が、二人には永遠とも思える時間の感覚にアカメは焦りを感じた。

 

『いつまでもここで膠着している訳にはいかない・・・』

 

とはいえ、焦りを振り払うように一度呼吸を整えた。

 

イゾウがカッと目を見開き攻撃に出ようとした瞬間、アカメは斬り込んだ。

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

イゾウは愛刀を地面に突き立て、帝具である村雨の呪毒が傷口から心臓へと向かいつつある。

 

「ふっ・・・敢えて隙を作ろうとこちらから仕掛けて、迎撃するつもりであったが・・・、御見事・・・タツミ殿に生かされ・・・この地でお主のような可憐な武士(もののふ)に出会え・・・悔いは無い・・・」

 

拙者は人を斬る悦楽から脱し得たか・・・判らぬ・・・本当は何を拙者は斬りたかったのか・・・悔いは御座らぬ・・・御座らぬが・・・願わくばその深奥を極めてから・・・

 

イゾウの意識は薄れ、片膝をつきながら両手は地面から垂直にした江雪の柄頭に当てていた。

 

「・・・タツミ?まさかお前はタツミの仲間・・・くっ・・・」

 

アカメは振り返るが気配でイゾウが絶命したのを悟った・・・。

 

「もののふ?・・・買い被りだ・・・私はただの暗殺者にしか過ぎない・・・それに・・・村雨で無ければ・・・ぐっ・・・先に倒れたのは私の方・・・」

 

手にした村雨は地に落ち、彼女の胴体から血飛沫が飛ぶ・・・

傷口を手で抑えるも、もう目が霞み始め立つ事も叶わず・・・仰向けに崩れる。

結っていた髪は解かれ、その周囲を紅く染め上げる。

アカメは一筋の涙を流しながらも微笑みながら瞼が閉じられていった。

 

 

クロメ・・・彼と幸せに生きてくれ・・・そして、皆すまない・・・私はここまでのようだ・・・とうとう私の番か・・・先に行った皆に会えるだろうか?・・・苦しかったが・・・皆と出会えて楽しかった・・・ありがとう。後の事は頼んだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むっ・・・、二つの強い闘気が消えたか・・・」

 

ブドーは屋敷に不審者が入らぬか、この屋敷全体の気配に気を配っており・・・不審な気配を感じ取っていた。

バックはそれを怪訝な様子で見ていたが、その時部下がやって来て耳打ちする。

 

「なに!?侵入者・・・もう何人か殺され・・・くっ・・・役立たずが・・・は?」

 

ブドーに見られている事に気付き取り繕う。

「いえ・・・大将軍、これは町のゴロツキが金欲しさに難癖を付けて来ただけで、直ぐに追い払いますのでご安心を!」

 

ブドーは睨みつけ

 

「・・・この私を怒らせるつもりか?」

 

「も・・・申し訳御座いません!!不審な輩が屋敷に侵入したらしく、直ぐにでも迎撃に向かいます。大将軍はここでお待ちを!」

 

ちっ・・・見た目に反し鋭い奴だ。バックは内心舌打ちを鳴らし、自分も出張ろうとした。

 

・・・陛下は子供達とこの先地下の食堂に居る・・・この大広間を通らなければ例え侵入者といえど通過は出来まい・・・俺はここで待ち構えるか、とブドーは考え、後の事は部下とバック達に任せた。

 

「・・・待て、バック。貴様今日陛下と我々が来るのを知って、賊共を手引きしたのではないだろうな?」

 

「え・・・なにをおおせで?」

 

「・・・もういい、行け・・・」

 

嘘は付いているようにも見えなかったが、信用ならぬ若造だとブドーは見ている。

 

なんだ、あのオッサン?と悪態を心で付きながら、バックはまさか侵入者はオネストが自分を陥れる為の刺客じゃないだろうな?と怒りを露わにし始めた。

 

「バックさん・・・えっと、こっちです」

 

考え事をしてついうっかり、黒服達の先導方向と間違えたバックは

 

「てめぇらがもっと役に立たてねぇから、こんな事になるんだぞ、判ってんのか、ああ!?」

 

1人を片手で締めあげ、地面に叩きつける。

 

 

「くっくっく・・・俺様登場、ってか?大した奴らはいねぇな。満月の夜の俺は無敵だぜ・・・へっ」

 

エンシンはシュラとどっちが先にバックを始末するか、競う為別行動をしていた。

 

大広間に繋がる扉を勢いよく蹴飛ばして入ると、そこには・・・怒りのオーラが判る者には見える、その凄味を湛えたブドーが悠然と待ち構えていた。

 

な・・・なんだこいつ、何者だ・・・とんでもない奴だ・・・まぁ、本気の俺の相手じゃない筈だ・・・

「おい、オッサン。誰だか知らねぇが、バックってふざけた野郎しらねぇか?素直に教えりゃ、見逃してやるぜ」

 

ブドーは一睨みで並みの者なら本能で動きが固まってしまう眼光を放った。

 

「貴様、少しは出来るようだが、何者だ・・・貴様こそ大人しく引き下がるのならば、見逃してやる・・・と言いたい所だが、今ここに陛下が居られるのを知っての狼藉か?」

 

「陛下・・・しらねぇな。」

 

狂言か?ならば・・・

 

「まさか・・・タツミの仲間か?」

 

「タツミだァ?・・・あんたなんで知ってんだ・・・知り合いか?あいつも顔広いな」

 

適当にカマを掛けただけのつもりだったが、まさかその名が引っ掛かるとは思っていなかった・・・タツミは俺に協力する素振りを見せて、その実は陛下もオネストも我々も一網打尽にする腹積もりではないのか?判らん・・・仲間と思しきこ奴を捕らえて吐かせてみるか・・・

 

 

「貴様、名は・・・?」

 

「エンシン様だ!・・・んな事よりバックの居場所言いやがれ」

 

「タツミの命令か?」

 

「ああ?うるせぇよ!何でお前に言わなきゃならねぇんだ!」

 

「口の利き方を知らん若造だ・・・その礼儀を弁えぬ態度も含め、叩き直してやる。取り調べてやるから我々と共に来い」

 

「ああ?何で俺様がお前と一緒に行かなきゃならねぇんだ?バックの居場所いわねぇなら、先ずはてめぇから締めあげるぞ!」

 

 

エンシンはサーベルを構え、ブドーはマントを脱ぎ去った。

 



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悪党が斬る!(十六)※(裏)

ある日のタツミとエスデスさん



「どんなにお前が腕をあげようと、お前がお前である限り絶対に俺には勝てん!」

「くっ・・・」



「ふふふ、タツミがどんなに腕を磨こうが、タツミがタツミである限り、私の愛の前に屈服する定めだぞ!・・・だからこないだの事でそんなに怒ってはダメダゾ、マイタツミ♪」

「ふぐぐぐぐぐ・・・」





 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンシンはそのサーベル…帝具の円月刀で次々にかまいたち状の真空波の技を繰り出すが、ブドーには通じない。ブドーは微弱の電気を増幅させて、それを見えない防御壁の層と化し無効化している。

 

『ちっ・・・どうなってやがる?だったらこれならどうだ?』

 

ブドーの頭上に真空波を飛ばし、室内の外壁が崩れ諸々の塊が崩れ始める。だが、その落下も音も無くかわす。

 

 

「にぃ!??最小限の動きでかわしやがった・・・見ねぇで、か・・・」

 

仏心でも起きたのか、ブドーは説明した。

 

「空気の揺れ・・・それを感知したまで・・・雨粒をかわすよりも楽なものだ、雨にも空気の微細な押し退けが有るからな」

 

「ぐっ・・・」

 

何を言ってやがるんだ、こいつは・・・?化物だ・・・まさか、タツミよりも強いんじゃねぇだろうなぁ・・・ちっ、化物には化物でいくしかねぇ、か・・・。

 

「けっ・・・まさか、政府の腰抜け連中相手に使うなんざな、シュラやタツミを瞬殺出来る技なのによ・・・」

 

「む・・・?ほぉ、乱れた気を集中させ始めたか・・・」

 

ブドーは余裕から相手が何をするか見定めようとしていた。

エンシンは、帝具の其の刀を横にし、窓から入る月の光を自身の目に反射させ、次第に筋肉質な体が更に隆起し、衣服は破け、顔も変貌し狼のような獣人へと変貌した。

 

「ほぉ?その帝具にそのような奥の手があったとはな、実に興味深い」

 

一度発動してしまうと、効力が切れて元の人間に戻るまで暴れ続け、目に映る者を破壊し続ける禁じ手でもある。

 

完全に変身し、その刀をブドーに目掛け投げつけた。

 

「・・・!?」

 

それをかわし、そのまま背後の壁に真っ直ぐ突き刺さる。ブレもほんどんとなくその威力の程が知れた。

 

『掴み取ってやろうと思ったが、かなりの早さだった。理性を失った只の獣だと思うは早計か?・・・!?』

 

ブドーの2秒程の思考の間にエンシンは獲物目掛け一気に距離をつめ、長く尖った爪で刺し殺しに掛かる。

 

流水の如くそれをいなし、カウンターを叩き込もうと鳩尾に目掛ける。

 

ブドーの外を覆う防御壁は並みの打撃ならば、その打ち込んだ者が逆にダメージを受けるが、それを超える打撃はカバー出来ない。それでもその者に痛みは残るが、エンシンにはもう通じない・・・或いは痛みを感じていないだけやもしれない。

 

ぐがぁ、ぐぐぐぐあああ!!!

言語発声は人間のそれと違い出来なくなりダメージを受けているようだが、

 

『今、奴から飛びし去った・・・成る程・・・』

 

次はブドーから間合いを詰め、それに呼応するようにエンシンも殴りに掛かる。

だが、互いに両腕を封じ力の勝負となる。

 

「ぐぐぐ・・・流石は獣だな、大した力だ・・・この俺に力勝負とは・・・」

 

その間にエンシンは伸びた牙でブドーの頭を噛み砕こうと喰いちぎりに掛かる。

 

 

馬鹿め!!との発声と同時にブドーは後方に倒れ込みながら、エンシンの鳩尾に強力な蹴りを叩き込み、上空へ飛ばす。その反動を利用し、辛くも空中で回転し天井に着地した後、猛然と爪を尖らせブドーに落下する。

 

・・・愚かだ。

 

最小限の動きで、かわした後に鉄山靠でエンシンを吹っ飛ばす。

だが、ブドーの顔にも一筋の血が流れる。

怒りに燃えた唸り声を上げながら、エンシンは再び立ち上がる。

 

 

「・・・中々大したものだ、その耐久力、回復力、私の技を2,3度受けているのにな・・・ふっ・・・このままでは埒が明かんか。捕獲するのは止めにするか・・・死体でも何か判るだろう」

 

エンシンは相手の言葉が理解出来なくなっている、だが、本能的に侮られている事を悟り、闘志を再び剥き出しにする。

 

「良いだろう・・・引導を渡してくれる、来い!」

 

 

 

其のとき、二人の間に強力な衝撃弾が近づき、咄嗟に避ける・・・避けた後には地面を抉る穴が開いた。

 

 

「ぬぅ・・・、此奴との戦いで接近を気付かなかったか・・・」

 

 

後方の扉を見ると、パンプキンを構えたマインが立っていた。

 

「ちっ・・・、狙撃は完璧だと思ったのに、流石ね・・・ブドー」

 

「・・・・・・、賊か、そうかお前はナイトレイドの一味か・・・風変わりな体だ

が、そうか・・・ハーフか・・・成る程、大方世に逆恨みをし、賊になったか」

 

有無を言わさぬ薙ぎ払われた衝撃波が辺りを覆い、室内の内壁は崩れ、受けたブドーも後方へ飛ばされる・・・

 

「・・・・!?」

 

 

ブドーは防御に徹し、余りダメージは受けていないようだ。

彼を覆うアドラメレクにもだ。

 

なんて奴・・・あのパンプキンを受けて、大してダメージを受けてないなんて・・・。

 

「うむ・・・今のは中々良い一撃だった、その帝具は怒りで攻撃力が増すものだっ

たか?」

 

そうしている内に、エンシンがマインに牙を立て襲い掛かる。

一気に間合いを詰められ、予想外からの攻撃にマインも寸ででパンプキンで防ぎ、反動を利用して彼の顎にその帝具の銃床で一撃を加える、並みの相手ならダウンするほどの攻撃だ。

 

やったか・・・

 

エンシンは顔を仰け反らせるも、ギロリとマインを睨み再び蹴り飛ばす。

 

「きゃあああ!!!」

 

何とか防御するも吹き飛ばされ、追撃しにエンシンが迫る。

 

「くっ・・・何よこいつ?ブドーと闘ってたんじゃないの・・・?」

 

不味い・・・やられる・・・

 

 

「ふんっ・・・賊は賊同士で潰し合え・・・ん?」

 

ブドーは手を出さずに見ていると、何かが乱入しエンシンが吹っ飛んだ・・・

 

 

 

 

「いやぁ、おっさん共の相手してたら、遅くなっちゃった!モてる女はつらいね~あたしは本当は年下好み「緊張感ないの、あんたはああ!!」

 

「おお!?さっすがマイン、食い気味のツッコミ、冴えてるー!!」

 

帝具で獣化したレオーネが壁を破りそのまま相手を蹴り飛ばし、マインを救った。

 

 

瓦礫を払いのけながらエンシンが唸り声を上げ、マイン達を睨みつける。

 

「へぇ~結構本気で蹴ったのに・・・あんまり効いてないかな~」

 

「みたいね、けど何こいつ?」

 

「さぁね、アカメの村雨なら、こいつみたいなのでも即殺だろうけど、帝具の相性かぁ~アカメもまだ、他の奴に手こづってんのかな?」

 

「とにかく、今は目の前の相手よ。あんたはこの化け物をお願い、あたしはブドーを相手するわ」

 

それを聞いていた彼は、この自分相手に一人で挑むとは、と内心の失笑を隠した。

 

 

 

 

 

「うらぁああああ!!!」

 

何度か傷を負った後に、レオーネは相手の腕で腹を貫かれながらもエンシンの口中に手を入れ、舌を引っこ抜く。

 

「ぐがぐが・・・ぎゃああああああ」

 

更に毒を塗った手で口中を引っ掻き回した為、エンシンは苦しみだす。

 

 

レオーネは彼を蹴り飛ばし、佇んで帝具による回復に専念する。

 

 

「へっ、一丁上がりっと。マイン、そっちは頼んだぞ!」

 

 

 

「ほぉ、成る程。そういう倒し方もあったか・・・獣には獣なりの闘い方か」

 

ブドーが感心している中、パンプキンの衝撃弾が襲うが、片手で防がれる。

 

「なんて奴・・・」

 

 

「諦めろ・・・、お前達たかが殺し屋風情が、道から外れた外法者共が、武の高みを、闘うとは何かの高みを目指す我とは、そもそも重みが違うのだ。世を恨み、国を恨み、自らの生き方を省みない・・・貴様らとは背負う物が違うのだ!」

 

マインはパンプキンを降ろし、黙っていると

 

「・・・どうした?納得したか・・・一つ良い事を教えてやる、先程、賊の侵入時に大きな闘気を感じ、そして二つ消えた・・・かなり手練だろう・・・恐らくお前らの仲間、ナジェンダ、アカメ・・・かもしれんな。他の賊は知らんが、元々陛下の為に働く身でありながら、裏切り牙を向くとは天に仇なす大罪・・・全ては他の責にし、己の責とせぬからだ」

 

 

「ボスやアカメが死んだ・・・?マイン、そいつの口車に乗せられるな!」

 

「あれだけの気の強さ、お前らには判らぬか・・・ふっ」

 

 

マインはブドーを真っ直ぐ見据え、

 

「あたしはあんたがどういう生き方をしてきたかなんて、見てないから判らない。あんたみたいに、武を極めようとか、そんな殊勝な心掛けも無い・・・ええ、認めるわ。あたしは革命に成功して勝ち組になって優雅に暮らしたいって・・・だけどね、目の前の弱い人達が苦しんでいる現状をほっておいて、それが全部、自分の責任?生き方を省みない自分が悪い?あんたみたいに明日の食事の心配する事もなく、余裕があって武の鍛錬出来る人とは違うのよ、生きる事だけで精一杯な奴にはね、あんた一度あたし達庶民の生活してみなさいな!それでもまだ、自分の責任だっていえるなら、それであんたは本物だって認めてあげるわ!!」

 

 

「ちぃ・・・知った風な口を・・・」

 

 

マインはパンプキンを持ちながら空中へ高く飛び上がり、照準を定める。

 

 

「愚かな・・・回避が出来ない空中へと」

 

 

ブドーはアドラメレクから放たれる電撃球で撃ち落そうと力を溜める。

 

 

仲間の死、強力無比な相手、逃げ場はない・・・ええ、ピンチよ、話しても判らない相手なら尚更ね・・・、・・・いっけけえええええええ!!!!

 

 

 

 

なにっ!?さっきとは威力が・・・

 

 

 

だが、ブドーもその衝撃弾の威力を負けじと電撃球で寸前で耐え、徐々にだが圧し帰そうとしている。

 

 

ぐぐぐぐぐふぐぐ・・・く・・・・

 

 

マインもパンプキン自体が射撃の反動を吸収しているが、長くは持たない。

 

 

 

 

 

「ぐあああ!!・・・おのれ・・・」

 

ブドーの横面に円月刀が矢の如く飛び、寸で気がつき、弾いたものの傷を負い注意が逸れてしまう。

 

 

「な・・・お前・・・」

 

レオーネはダメージがまだ治っておらず、マインに加勢出来ない中振り返ると、そこには獣人が倒れていたと思っていた所に一人の男の姿を認めた。

 

効力が切れ、元の姿に戻ったエンシンは反動でもう体はボロボロであり半死半生で最後の力を振り絞ってのブドーへの一撃だった。

 

 

ぬあああああああぁあ!!!

 

ブドーは衝撃弾に巻き込まれ、そのまま後方の壁へと突き破り吹き飛ばされる。

 

 

マインは撃った反動で天井の地面を蹴り、一回転しながら辛うじて着地する。

 

「うっ・・・」

 

かなり体力も精神も消耗しているようだ。

 

「ははっ・・・やったな、ところであんた、助かったぜ・・・あ・・・」

 

レオーネは安堵し、エンシンに振り返るが・・・彼は既に絶命しゆっくりと倒れ、そのまま物言わぬ骸となった・・・だがその顔はどこか満足そうであった。

 

 

「・・・さっきのあの狼の化け物は何処居ったの?」

 

「まさか・・・この兄ちゃんが・・・?」

 

レオーネはも確証はないが、匂いが似ていたのでそう感じた・・・

 

 

其のとき・・・アドラメレクの電撃球がマインを襲う。

 

 

悲鳴を上げながら、直撃したダメージは致命傷に至る。

 

 

 

 

「ああ・・・・・うっ・・・そんな・・・」

 

マインは立てなくなり、内臓は出血し骨もひび割れている。

レオーネは彼女が無事か気遣い、ブドーを睨む。

 

彼はゆっくりとした足取りで一歩一歩彼女らに死が近づいている事を想起させるように距離を詰める。

 

「大した精神力だ・・・このアドラメレクに傷付け、私もそれなりのダメージを負った・・・先刻の若者は・・・ふむ、死んだか・・・私もそれなりに腕のある者達の稽古をつけているが・・・ここまで気合を見せたものは滅多に居なかったぞ・・・ナジェンダめ・・・狂ってしまったのがつくづく惜しいが、骨のある部下をもったな」

 

「くっ・・・しぶとい奴」

 

レオーネもある程度回復し、戦闘態勢を取る。

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。こないだはお世話になりました」

 

エアは黒服の一人が他の仲間と離れて行動していた所を見つけ、廊下の真ん中で丁寧にお辞儀した。内心の恐怖を抑えながら・・・

 

「お前・・・あん時の・・・なんだ、意趣返しか?あいつらが邪魔に入りさえしなけりゃ・・・良い度胸だ。腕足全部へし折ってやるぜ」

 

拳の関節を鳴らしながら近づいてくる。

 

「相変わらず悪い人なのです、天罰を与えます!」

 

影に隠れていたルナがゴムパチンコで硬球を連弾する。

一撃目は見事にそのサングラスを割るが、後は防がれてしまう。

 

「ガキ共が・・・ふざけた事しやがって・・・てめぇ・・・ああ、片目になった小娘か・・・もうは片方も抉り取ってやるから覚悟しろ!」

 

 

その時天井裏に潜んでいたファルが男が視線を下に向け、首がやや倒れた形のところに強烈な踵落としを行う。

 

「うううりゃああああ!!!」

 

思わず苦しんだ相手に間髪いれずに着地後鳩尾目掛けて勢いよく蹴り上げ、そして、ファルは間合いを置いて身構える。

 

「どうだ!!」

 

「っ・・・今度はあん時の田舎拳法娘か・・・へっ・・・ちょっとだけ頭に来たぜ・・・てめぇら三匹とも楽に死ねると思うな!・・・・・・がっ」

 

以前よりは打撃力は上がったが致命傷までは至っていない事にファルは苦虫を潰し

た。その瞬間に針金を輪にして首に巻きつけ地蔵背負いの形でルナが男の背中合わ

せに両手で締め上げる。身長差で宙に浮いてはいる。

 

「ぐ・・が・・・ガキが舐めた真似を・・・」

 

振りほどくのは細くて困難と察してそのまま壁に体当たりして振りほどこうとした時、「黒服のおじさん!気をつけて危ないよ!」とエアが咄嗟に声を掛ける

 

???敵に何を意味不明なと思いながらもまずはエアを始末しようとした時に、後ろから肩を叩かれる。

振り向いたそこにはチャンプが立っており、無言で殴り飛ばした。

 

「ぐふっ!!!」

 

2,3mふっとび、その時にはエアはもう手を離していた。

相手の意識がふらついている間にチャンプは、髪を掴み上げ

 

「よぉ、また会ったな・・・気合入れてやるぜ!耐えな!」

 

鳩尾に強烈な拳が入りその周辺の骨は砕けてしまう。

もう男は激痛で自分では立てず、目もうつろに涎を垂らす始末。

 

「ルナの片目を奪ったのはお前だったよな・・・同じ事させて貰うぜ」

 

「ぐ・・・が・・・」

 

違う、俺はただ命令されてやっただけだ・・・俺は悪くないと、言いたかったが言葉にならない。

 

「安心しろ、お前に命令した奴もついでに同じ目に遭わせてやるからな!」

 

チャンプは人差し指で相手の片目を抉り取り、絶叫を気にせずに地面に叩き付けた。激痛で気絶し当分の間はもう動けない。

 

 

 

それを見ていた三人の少女達は、

 

「や・・・やったね・・・」

 

「天罰です・・・片目も慣れたら大丈夫なのですよ、おじさん?・・・もう聞こえてはいませんね」

 

「あ~あ・・・、あたしの磨いた一撃で仕留めたかったんだけどなぁ~く~やしい!」

 

以前の悲惨な目に遭ったせいか心なしか度胸も以前より皆備わっている。

だがチャンプからは、

 

「バカヤロウ!俺は心配で心配でそっちのほうが冷や冷やしてたんだぞ!どうしても一発殴らないと気がすまねぇって言うから・・・見てて心臓止まるかと思ってぜ」

 

「まぁまぁ、結果オーライじゃん!」

 

「ファルの言うとおりです!ですが仲間が来るかもしれません。もうここから離れて次はバックのお兄さんを探しましょう!」

 

「うん!いこう!」

 

「・・・・・・嬢ちゃん達、頼むからもう無茶な事はしないでくれよ・・・」

 

それに対し三人の少女達はチャンプは良いお父さんになれそうと笑い、それを受けた彼はその言葉に僅かながら居心地の悪さを感じていた。

 

とにかく、チャンプはその後も襲い掛かってきた黒服達を倒し、三人の少女達と共にバックの居場所を探すべく周りを警戒しながら歩を進めた。

そのうち偶然ルナが隠し通路を発見し、それを潜ると大きな部屋の中に何やら大量の試験管や髑髏印が散見し、普通の事を行っている様子には見えなかった。

 

「こ・・・これは一体・・・なんだ?」

 

「ちょっと嫌な匂いもしてるね・・・」

 

「ルナ、何か判らない?」

 

「う~ん・・・ちょっと調べてみますね」

 

ルナが書類やらに目を通している時に・・・チャンプはもう一人近づいてくる気配を感じた・・・

 

 




大分間が置いてしまいまして、お待ち頂いて方すみません。
仕事も好調なり、世の中も良くなればぁと精進しております(笑)


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悪党が斬る!(十七)※(裏)

お待ち頂いた方、本当に有難う御座います!


「くっ・・・あたしは・・・こんな所で・・・死ぬ訳にはいかないのよおおぉぉおお!!」

 

倒れた状態でマインは絶叫し、レオーネに助勢を求めた。

 

「あと・・・あと一撃で。もうこれっきり・・・あいつを倒すわ・・・手を貸しなさい・・・」

 

触って外部だけでなく内部も出血している匂いを感じ取り、

 

「無茶だ、マイン!ここは一旦引くぞ!」

 

「・・・・・・」

 

ブドーは静かにこちらに近づいてくる。

生け捕りにして、アジトや反乱軍の情報を吐かせようと考えている。

 

この状態じゃ上手く当てられない・・・撃っても避けられる可能性が高い、もっと隙が生じた時に狙わないと・・・撃った瞬間こちらも隙が生じる、外せばブドーはこちら側に決定打を与えてくる・・・逃げるなら今しかない、マインの勘がそれを告げた為考え直し、

 

 

「・・・あたしが・・・あいつを足止めするから・・・先に、行きなさい・・・」

 

渾身の力で上体を起こし、パンプキンの引き金に手を添えるマイン・・・ブドーへの照準が震えて、狙いが定まらない。

 

くっ・・・どうすればいい・・・あたし独りでも逃げるか、ブドーのあの強さ・・・独りで無策に突っ込んでいってもきっと殺られる・・・このまま二人で闘っても・・・

 

「・・・ふふっ、あんたとは色々喧嘩したけど、結構楽しかったわ・・・黙って食べられたプリンは貸しにしてあげるわ・・・さぁ早く」

 

「・・・菓子だけにな、ってな・・・ここで退かないのは、失格かもな。別にあたしは死ぬ気なんか無いさ。煩い奴がいないと退屈するしな」

 

レオーネは両拳を合わせて鳴らし、ブドーと向かい合う。

彼女は殺し屋として一人ででも撤退しない判断が失格だと言い、更に言えば組織を守る為に重傷のマインを殺してから離脱するか・・・もしくは生き延びれないと判断した場合は残った体から相手に情報を与えない為に粉々になる爆死の選択肢もあった。

 

「ふっ・・・」

 

ブドーはその判断に内心苦笑したが、こちらとしては好都合。

 

「お前らのような賊風情でも、仲間意識があったとはな・・・泣かせてくれるなぁ。素直に吐くのならこの場で楽に殺してやっても構わんぞ・・・?」

 

「はっ!?あたしはおっさんに殺されたい趣味は無いんだよ!どうせなら年下の可愛い少年で頼むわ!」

 

「・・・・・・、くくく、貴様らの次の転職先は地獄の道化師だ」

 

多少回復したとはいえ、腹の傷も治りきっていない。万全の状態でも厄介極まりない相手・・・隙を見てマインを担いで逃げる算段は・・・。

 

その守りの姿勢の気配を感じ取ったブドーは

 

「この愚か者!!」

 

「ぐっ!!」

 

一瞬で間合いを詰め、レオーネに肉薄しマインの場所から離れるように、彼女は回転しながら素早く距離を取った。

だが、その回転時の背中を見せた一瞬の隙を見逃さない。肘打ちで強打されてレオーネは嘔吐するも、打たれた反動を利用し横顔面目掛けて蹴りを叩き込む。

それを直ぐ様片手で防御するブドーの次は顎に目掛けて縦回転蹴りを加える。

 

「ほぉ・・・」

 

これは両手で防がれる。

 

「中々の強さだ・・・手が痺れたぞ。ふむ、大したものだな」

 

き・・・効いてない!?怪我してたって本気でいったぞ!?

どんだけ強いんだこいつ!?

 

「筋力は確かに帝具で強化されているが、まるで技がなっていないな・・・ナジェンダはその辺の教授は行っていないか・・・もっともあやつは無意識に出来ていたに過ぎなかったがな・・・」

 

「ちっ・・・!」

 

 

片手を腹に当て、肩で息をしながらレオーネは立ち上がる。

 

「うむ、弄る趣味は無いんでな・・・素直に吐かぬ気が無いのなら、次は少々きつくいくぞ!」

 

「へっ、ご忠告痛み入りや・・・だったっけ・・・ははは」

 

ああ・・・これ駄目だな、あと2,3手で詰みかな・・・マインが何か喚いているけど、うん、まぁいいや・・・

 

 

その時、ブドーの体が宙に浮きそのまま戦いで穴の開いた天井へと引きづられてい

く。

首を掻き毟り、そこには細い輪の針金が絡み更なる締め上げで窒息死を狙う。だがアドラメレクでそれを操る先の天井に目掛け電撃を放つ。

 

「ちっ!?」

 

相手はそれをかわし、支点を天井裏に括り地面へとそのまま落下しブドーを吊り上げる。

 

 

 

 

 

「これは・・・きっとそうです!大体の所ですが、ばい菌か何かでみんなを殺そう

と・・・ああ!!」

 

バックの銃弾をチャンプは左肩で受け、ルナを守りきる。

 

「わ、わたしのせいで・・・」

 

「だ・・・大丈夫だこれくらい・・・」

 

左肩を抑えながらチャンプは立ち上がり相手を睨みつける。

 

「てめぇ・・・!」

 

「お前ら、よく此処が判ったな・・・全員生かして返さないよ・・・死んで貰うぜ!」

 

バックが発砲したと同時にチャンプは走り出し、かわしながら拳を顔面に叩きつけ

る。

 

「ぐわあああ!!」

 

相手が悲鳴を上げたかと思ったがそれは自分もだった。

隠し持っていたナイフで先程負傷した左肩に刺されてしまった。

 

「が・・・ぐぅ・・・いってぇなぁ・・・けどお前だってもうお仕舞だぜ・・・」

 

ちっ・・・たった一撃で頭がぐらぐらするぜ・・・なんだこいつ・・・

 

バックは強がってみせたが、回復の為時間稼ぎを試みた。

 

「ぐ・・・くくく、さっきお前が防いだ銃弾はな、わざと調節して体内に残るぐらいの威力にしてんだよ・・・もっとも射程距離も計算しなきゃならねぇから、俺じゃなきゃ難しいがな・・・あはは!何故こんな事言うかってか?さっきそこのガキが・・・冥土の土産に教えてやるぜ。ばい菌・・・細菌兵器さ。最も他に化け物もついでに研究してるんだがな、中々簡単に上手くいかねぇ・・・お前らガキの中で誰も買取つかねぇやつを何処まで耐えれるか実験したりな・・・くっくく、逸れも良い見世物になったぜ、あはは」

 

 

な、なんだ目が霞んできた・・・こ、こんな所で。

 

チャンプは今の痛みだけでは考えれない症状に困惑し始めた。

 

「・・・効いてきたか?俺の銃弾は特別製でな、細菌入りなんだぜ。結構手間掛かるから金も掛かるんだ、感謝しやがれ!」

 

 

ファルとエアは青ざめ、どうしたら良いか戸惑っている。

ルナは必死の形相でチャンプを心配する。

 

「大丈夫ですか!?私のせいで・・・こんなこんな・・・」

 

「だ、大丈夫だ・・・」

 

「あはは・・・大丈夫なわけないだろ?もうそいつは周りもよく見えてないはずだ。なんせ実験済みだからね?そのうち呼吸困難で死に至るよ・・・でもねぇ寂しくないよ?君達も直ぐに後を追わせてあげるから」

 

ルナ達を庇うように、チャンプは最後の力を振り絞り突進していく

 

「!?」

 

まだ回復しきれていない頭がぐらつく中、バックは咄嗟に全弾放ってしまった。

 

バン!

 

バン!バン!バン!

 

バン・・・

 

カチカチ・・・弾切れし、一瞬恐怖を感じバックは作り笑いで取り繕った。

 

「へ・・・へへ、死に損ないが」

 

 

チャンプは眼球が片方飛び、胸にも穴が複数開きそのまま仰向け倒れた。

 

3人の少女達は名を呼んで駆け寄り涙を流した。それでもチャンプは、

 

「は・・・はやく逃げるんだ・・・」

 

言葉にならない声となり、

 

「あたしのせいで・・・あたあた・・・あああ」

 

「まだ何とか・・・ななな・・・あはは・・・チャンプさん連れてはやくこここ・・・」

 

ルナとエアは動転し、

 

「俺の事は・・・もう良い・・・これも俺の罪なんだ・・・きっと・・・」

 

「え・・・?何の事です?チャンプさんは何も悪い事・・・?」

 

「何と無く・・・だ・・・いや、正直に言うと俺だって・・・がふっ・・・あんたらの事をそういう目で見てしまった時が・・・ありがとよ・・・こんな俺をしたってくれて・・・あんたらには良い奴のままでいれて良かった・・・だからはやくに

げ・・・」

 

もう言葉が出なくなり、目から生気は徐々に薄れていった。

 

三人には最後の言葉の意味がはっきりと判らなかったが、今はそれについて考えているときではない。

 

「み・・・みんな、ここはあたしが何とかするから、チャンプさんもひょっとしたらまだ生きてるかも・・・二人で連れて早く行って!!」

 

ファルがどうにか自分を奮いたたし、震える足を抑え、バックと対峙する。

 

 

やっと死んだか、くっ・・・まだ頭がいてえ・・・

 

「お別れは堪能出来たかい?僕って優しいだろ、ちゃんと待ってあげたんだからさ」

 

「おまえぇえええ!!」

 

ファルは姿勢を低く突進していき、バックは弾切れした銃を投げつける。

それをかわし、舌打ちを軽く鳴らした彼はナイフを取り出すが・・・頭の痛みが酷くなり膝を付く。

 

「なぁ・・・なに!?」

 

「うっぉおおおおおお!!!」

 

渾身の力を込め、踵落としをバックの後頭部に叩き込む。

そのまま互いに倒れ付し、ファルは体が震え興奮冷めやらず数秒座り込む。

 

「え・・・?」

 

「や・・・やりましたよ!ファルがあの男を倒しました!」

 

「あ・・・あはは・・・やったの、か・・・な?」

 

 

「とにかく、チャンプさんを!早く担いで行きましょう!」

 

ルナの呼びかけで、既に死んでいようと少女達はエアとルナが彼を両脇から担ぎ、ファルが護衛しようと後ろに付き、進もうとした。

 

「ううっ・・・」

 

「どうしましたファル?」

 

「ファルちゃん・・・?」

 

 

後首に鋭利なナイフが叩き込まれ、ファルは二人に逃げてとも言えずにそのまま絶命する。

それを抜いた後には鮮血が溢れ、地面へと倒れた。

 

「ぐ・・・つ、詰めが甘かったな・・・ちゃんと止めを刺さないと駄目だろ?く・・・効いたぞ・・・今のは効いたぞおおおお!!」

 

バックは怒り狂い、怒鳴りだす。

 

「あ・・・あわわわわ・・・」

 

ルナは震え声も出ない。

 

「ルナちゃんは武器は!?」

 

エアは度重なる仲間の死・・・恐怖に適応し始めたのか、ルナに促す。

それに気付きルナはパチンコに弾を用意するが上手くいかず、エアが手を添えて補助し、勢いよく飛ばす。

だが、片手で受け止められてしまう。

 

「ガキ共が!!ミンチにされてぇのはお前らか!!・・・俺はなぁ、ババアに売られて地獄の底から此処までのし上がった俺様だ!只の優男だと思うなよ!!・・・てめぇらもう、楽に死ねると思うなよ嬲り殺しだ、覚悟しやがれ!」

 

次の瞬間、ルナの視界が閉ざされる。

 

「ル、ルナちゃ・・・ルナちゃん!!」

 

「な、なんですかこれ・・・目が見えな・・・ああああああ!!」

 

ルナの残ったもう片方の目にアイスピックが刺さり、もがきながら痛みとそのショックで倒れてしまう。

 

「あああ・・・ううあああ・・・」

 

ルナは小刻みにゆれ、次第に動かなくなりエアは彼女を揺さぶるがその目から血だけが流れていく。

 

 

「ちぃ・・・何だ、その程度で死んだのか?ショック死かよ?まぁいい・・・お前で憂さ晴らししてやる、直ぐに死ぬなよ?」

 

 

 

「許さない・・・もう許さない・・・」

 

エアは涙を流しながらルナに刺さったそれを抜き取り、バックに向かって両手で持ち身構える。

 

「へぇ・・・初めて会った時より少しはマシになったな。」

 

「あなたは、少しは同情できる人かと思ってました・・・だけど、親に売られたのを恨んで・・・人のせいばかりにした結果、醜くなったんです・・・あなたは!!」

 

「なに、売られたのに親に怒りは無いのかよ?とんだお人好しだな君は・・・はっ、そんな事知るか、力が強くなれば自分が弱かった時の事なんかどうでも良くなるなんだよ、お前だってそのうち判るさ、もっとももう直ぐ死ぬから無理な話なんだけどな・・・」

 

バックはゆっくりと近づいてくるのに、エアは此処だと思った瞬間に全力で飛び込もうと睨みつけている。

頭の中には他の事は一切無い・・・

 

 

 

 

 

 

部下である一人の黒服男がバック目掛けて投げ飛ばされてきた。

 

「!?」

 

それを弾き飛ばし、唾を飛ばす。

 

「なんだ・・・まだ死に損ないがいたのか」

 

「シュ・・・シュラさん!?」

 

エアは彼の存在を認め、呼びかけた。

 

「ああ・・・?何だお前、他の奴らはどうした?」

 

「ルナもファルも・・・チャンプさんも・・・」

 

エアは顔を歪め、涙を堪えた。

 

シュラはそれぞれの物言わなくなった彼らを見据え、

 

「ちっ・・・チャンプの奴帝具使わなかったんか?」

 

「・・・・はい」

 

エアは余り良く判らなかったが、とりあえず返事をしていた。

 

「油断したのか知らねぇが、馬鹿か?まぁ確かにこの程度の雑魚、帝具無しでも本来ならいけるよな?」

 

その言葉にバックは顔を歪ませ、どうするか思案している。

 

「チャンプさんはあたし達を・・・」

 

「うるせぇ!!てめぇらガキども守り切れねェ奴なんざ雑魚で十分だ!・・・こいつは俺がぶっ殺す、お前はさっさとずらかりな!」

 

エアがどうするか、戸惑っていると。

 

「お前もブッ殺されてぇか!?」

 

シュラに一喝され、エアは素早く返事をした。

極度のストレスと安堵で身体のバランスを失いがらも何とかその場から去ろうとし、去り際

 

「シュラさん、どうか・・・死なないで」

 

それを背中で聞いた彼は舌打ちを鳴らし、バックを睨みつけエアに追撃出来ないように牽制していた。

 

「・・・子供1人助ける為に・・・優しいんだな」

 

「ああ?あいつはまだガキだがな、あと数年経ちゃマシな女になるだろう、それまで楽しみに取っているだけだ」

 

シュラのそれが本心だろうが、偽りだろうがバックは

 

「あんた・・・気に入らねぇな」

 

「俺は気に入った奴なんざいねぇぞ!」

 

互いに笑いを噛み殺しながら睨み合った。

 

 

 

「シュラ・・・ああ、そうか・・・あんたオネスト大臣のまさか、息子か?」

 

「ほぉ、知ってやがったか。・・・で、泣いて土下座したって、全殺し確定だかん

な」

 

バックは一瞬、シュラに取り入ってオネストとの繋がりを強固にしようと考えたが、

 

「いやぁ、死人に口無しってありますよねぇ、シュラさん?」

 

「ああ?」

 

バックの足元に転がっている部下の黒服が、主人に助けを求めようとしていた。

 

「・・・・・・」

 

有無も言わずに、そいつを持ち上げシュラに向かって投げ飛ばした。

 

「ああああああああああああああ、バックさ」

 

シュラは事も無げに顔面を蹴り飛ばし、バックの意図が気に食わず命はとらなかったがその男は半身不随と化した。

 

「成程、俺を殺して親父のところへ連れて行って、一芝居打つ気だな?」

 

「・・・案外賢いんですね?ええ、僕の屋敷に不逞の輩が侵入、御客として招いたシュラさんも居合わせて、僕達は潔く闘ったもののシュラさんは壮絶な戦いの後に死んでしまい、僕はその最期を看取った・・・きっとオネストさんも泣いてくれる良い話ですよ?」

 

 

「へぇ・・・あの親父がねぇ」

 

オネストが自分の為に泣くのか?

 

「シュラさん、あんたも帝具が使えるんだろ?良いですよ、使ったって・・・はは

は、てめぇら帝具持ちは良いよな・・・俺はお前らのようには相性が悪くて使えない

中、そんな奴らとも張り合って来たんだ、道具一つなきゃあ闘えねェ雑魚が!!」

 

これはバックの作戦で、敢えての挑発だった。

 

 

「面白れぇ・・・てめぇなんざ素手で捻り潰してやるぜ!」

 

感情と頭が一致していない為、平静を装いながら眉間に皺を寄せ、シュラは憤る。

 

 

シュラは静かに横に移動したかと思うと・・・

 

「!?」

 

瞬間、強烈な左蹴りをバックの顔面目掛けて叩きつける。

 

 

「ぐっ・・・」

 

幾らか両手でダメージをいなし且つ反動をシュラの足に返しながら後退する、それにニヤリと笑みを浮かべたシュラは、転瞬両手掌底をバックの鳩尾に叩きこむ。

 

「がふっ!!」

 

バックは膝は付かないが距離を取って離れ、明らかにダメージを受けている。

 

「おいおい?その程度か、大した事ねぇな。掛かって来な?」

 

「くくく・・・はっはっは・・・ぷっ!」

 

バックは笑いながら、血に滲んだ唾を地面に飛ばす。

 

「・・・?」

 

「大した大臣の息子だな、運が良いぜあんた・・・甘やかされて育ちやがったな?」

 

「ああ?」

 

「今ので俺を仕留め切れなかったんだ・・・あめぇんだよ?親の金でかしらねぇが、放浪もしてたんだろう?俺のしらねぇ技をつかうんだな?勉強になったぜ・・・はっはっは、お前の心の中は誰かに頼っているガキの心が見え見えだぜ、羨ましいぜ」

 

「・・・なんだお前?」

 

「誰にも頼らねぇ俺と、誰かに頼ってやがるお前が俺に勝てる訳無いって話だ」

 

「ああ・・・?俺がだと、俺は・・・・・・いや、親父なんぞ眼中になんかもうねぇよ!くだらねぇその減らず口を次で沈めてやるぜ」

 

「くくく、負け惜しみだな。素直に認めねぇ何て見苦しいぜ?」

 

 

次の瞬間、シュラは地面に落ちていたパチンコに使われた弾を足で掬いあげ、肘打ちでバックの顔面目掛けて放つ。

それを前に向かいながらかわし、反回転しながらシュラの側頭部狙いで蹴り上げ、迎撃する形でシュラも蹴り込む。

 

「ぐぐぐぐ・・・」

 

「っうぅあああ!!」

 

埒が明かず、互いに反回転しながら互いの蹴りをかわしあい、次の打撃の為にシュラが背を向けたその刹那にバックが片手掌底を背部に喰らわせる。

 

なっ・・・圧が背全体に浸透してやがる、だと・・・

 

内部を破壊する衝撃が襲い、後退しながらシュラは膝を付く。

 

「終わりだ!!」

 

バックはシュラの首を貫く威力の貫手で狙う。

 

 

「ぬぅ!?」

 

「!?」

 

ファルの死体に足を引っ掛けた為・・・

 

くぅ・・・がきぃ・・・小せぇ体で、視界に・・・それを考えている時には既にバックは吹っ飛ばされ、細菌兵器製造の試験管群を粉々に砕いていく。

 

シュラはファルやルナの死体を僅かに悼む気持ちで一瞬だけ見据えた。

 

そしてダメージを抑えながら、バックの生死を確かめようと近づいた。

 

 

「ははははははあはあああああっははははっははっははは!!!」

 

「・・・!?・・・化物かお前は?」

 

バックは細菌まみれとなりながら、出血夥しくふらふらながらも立ちあがる。

 

「・・・こ・・・のさいき・・・くくく、お前も道連れだ・・・俺の・・・命も・・・この帝国で・・・頂点・・・ははは、まぁてめぇを殺せれば・・・少しは、きがはれ・・・」

 

「さいき・・・?ちっ・・・狂いやがったか、こいつ」

 

触れれば・・・バックがシュラの出血した部位に上手く触れれば、何も知らない彼は後に死ぬ事になる、気が付いていない今こそ好機。

 

「なんで・・・俺は・・・運に見放され・・・お前は・・・だがお前の運もここま

で・・・くくく」

 

「あ?何が運だ、知るかんな事!?俺の力で何もかもぶち破ってやるぜ!」

 

さぁ来い・・・そのまま来い!

 

 

だがその時、地面が盛り上がり・・・

 

「なっ・・・!?」

 

「おお・・・くっ!?なんだ!!」

 

バックとシュラが驚くのも束の間、凄まじい衝撃と爆風が辺りを覆い尽くす・・・

 

 

同じ刻、エアは出口を探して走っていた。

途中、気絶していた或いは死んだ手下達に怯えながらも廊下の月明かりが照らす所に、ふと辿り着いた。

 

「あ・・・」

 

女の人が倒れてる・・・!?あ、あそこには、

 

「イ、イゾウさん!?大丈夫ですか!」

 

エアは倒れているイゾウに声を掛けるが、息をしていない事を悟る。

彼を抱きしめながら

 

「みんな・・・みんな・・・このまま・・・ううぅっ・・・だめ、諦めちゃ・・・ルナちゃんやファルちゃんの為にも・・・チャンプさん達の分を何としてでも生きなきゃ!」

 

その時、横方向からの壁が盛り上がり迫って来る。

 

「え・・・?」

 

次の瞬間、衝撃と爆風が辺りを吹き飛ばしその場は跡方も無くなった。

 

 

 

 

それから少し刻が遡る。

 

大広間でブドーは首に絡みついたモノを力を抜く事で外れ易くし、アドラメレクの電撃連弾で支点となる部分を破壊し、相手へと攻撃する。

それらをかわされながらも、その操った者へ迫る事で緩ませ、こちらの攻撃により隙が生じ、手が緩んだ事でそれから解放される。

 

相手は僅かに顔を歪ませながら、距離を置いて対峙する。

 

「・・・・・・」

 

「ナジェンダか・・・」



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悪党が斬る!(十八)※(裏)

明けましておめでとうございます。
本当は昨年に完結させる予定でしたが、すみません。
あと1話位だと思います。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

危険だ・・・この俺相手にここまで気配を断つとは、慢心が油断が・・・あと一歩で危なかった、帝具も用いず些細な道具のみで此処まで追いつめられたとは・・・このブドー一生の不覚・・・やはりナジェンダは侮れんな・・・

 

「・・・・・・」

 

ナジェンダは自身の帝国時代の記憶よりもブドーが数倍以上脅威である事に計算違いをしていた。

千載一遇の勝機を逃し、これでも仕留め切れなかったのであれば作戦を練り直すしかない・・・最もここから逃げ切れるか、死中に活を見出すか・・・。

 

マインはレオーネの顔を見、目で互いに頷きその意図を悟る。

彼女のパンプキンを撃てるように介添えし、ナジェンダもそれを目で確認する。

武器に鎖分銅を隠し持っている彼女がどれだけブドーを引き付け、その間隙にパンプキンの衝撃弾を当てるか・・・勝機があるとすればもうそこしかない。

 

 

「・・・・・・」

 

ナジェンダの事だ、他に策を二重三重に弄している可能性がある・・・これ以上援軍が来れば陛下をお守り切れるか判らぬ・・・俺の部下達はナジェンダにやられたか・・・?已むを得ん、こうなればどのような策を弄そうとも其れ事、灰燼に帰してくれる!

 

 

ブドーは息を吸い込み、その後長く吐き出し始めた・・・・

 

「こぉぉぉぉぉおおおおおおお・・・・」

 

 

 

レオーネは怪訝な様子で見ていたが、

 

「・・・!?ボス、あいつ何かするつもりだ!」

 

「不味い、この場から一旦離れるぞ!」

 

 

ブドーがその動作を行って数秒、長くとも十秒ほど・・・次の瞬間、

 

 

「喝ッッッツアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都宮殿の一室からオネストは外をグラス片手に眺めていた、

 

「ほぉ・・・?なんですかな、あの光は・・・あの方角は確か」

 

空になったグラスに配下の者が酒を注ぐ。

 

「ふふふ、ブドー大将軍も皇帝陛下も賊と渡り合って名誉の戦死・・・なりますかな・・・おっと、今のは失言。酔いが回ってしまったようで・・・世の中そう思い通りにはいきませんからね・・・くくく」

 

オネストが今回の件を裏で糸引き、宮殿内部に潜む革命軍の密偵達に伝わるように情報を流した。

 

「陛下ももう少し操れ・・・聞きわけの良い方でしたら、長生き出来たかもしれませんがねぇ・・・」

 

 

 

大臣、西の異民族を全滅させ、首謀者を公開処刑させる?それは少しやり過ぎではないのか?

 

いいえ、いえ、奴らは極悪非道、婦女子でも殺し金品強奪し、私ども帝国の領土の一部は元々我々の物だったと嘘を流す輩です。前の政府は甘い顔をしていたので、その異民族共をのさばらせていたようですが、陛下は帝民の為にも毅然としていただけなくては!

 

・・・ですので、陛下の名のもとに異民族全滅と処刑執行許可のサインを!

 

そ、そうか・・・やむを得ないか・・・

大臣のサインは?

 

私のものは必要ありますまい・・・

 

 

 

大臣!?お前から聞いていた話と違うぞ!その異民族はお前から聞いていたような悪事は余りしておらず、むしろ我々帝国軍がしていたというではないか?どういうことだ!

 

・・・!?ああ~陛下・・・一体誰が陛下にそのようなデマを流したのか・・・それこそ嘘ですぞ!・・・それに陛下、もし仮に万に一つ間違いだったとしても陛下のご判断で処刑は執り行われました・・・本当に間違いだったとしたら・・・陛下は責任を取らねばなりません・・・最悪、断頭台に・・・ですので陛下、ここは騒がずに賢明なご判断を・・・くくく。(オネストがその気になれば皇帝への判断ミスによる罪の糾弾を握りつぶせるが、その逆もしかり)

 

大臣お前・・・

 

 

 

 

・・・あの若造、あの時は奴も保身に走ってあれ以上騒がなかったが・・・次は厄介だな・・・反乱軍の奴らと相討ちになってくれれば・・・皇帝と言う傀儡の替え玉を用意して・・・そこまではまだ高望みしすぎですかね・・・

 

 

オネストは以前のやり取りに思いを馳せながら再びグラスの中の物を呑みほした。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・ブドーの周囲はほとんどのものは黒炭と化すか衝撃で粉々となり、大広間も屋敷も・・・傍に居た彼女達は・・・やがて、朽ちていった・・・。

 

ブドーは辺りを見回し、払暁になるにはまだ早いが此処に来てから数時間は過ぎていたのかと空を遮る建物が無くなった為、その事を感じ一時安堵の念を禁じえなかった。

 

ほぼ形を残していない先程まで闘っていた者達を確認し、次に周囲を改めて凝視し

た。

 

「範囲を限定したつもりであったが・・・この屋敷のみならずその周囲の家々にも被害が出たか・・・許せ民共よ、陛下の御命さえ無事なれば国家は安泰だ・・・お前達(部下達)もいざとなった場合の覚悟は言っていたはずだな・・・安らかに眠れ」

 

ブドー直属の精鋭達には敵を倒す為なら互いの命を失う事になっても覚悟の上だと教育していた。

そして彼は改めて、気配と勘で巻き込むつもりが無かった周囲の国民達が負傷、或いは死傷した事を感知し、自身の未熟さを内心恥じた。

 

「賊共は粗方居なくなったであろう・・・陛下は・・・?」

 

 

ブドーは地下へと続く階段を瓦礫の中から探し当てたが舌打ちを鳴らした。

 

「しまった・・・陛下達は無事か・・・もしもの事が遭れば俺は・・・」

 

滅多な事では動じないブドーが心なしか顔色を無くし、階下へと向かった。衝撃の為か天井が所々落ちており、

 

 

大丈夫だ・・・地面方向へは余り被害は出んように制御した・・・た、大した事はないはずだ・・・。

 

ブドーは心の中でそう自身へ言い聞かせ、食堂の軋んだ扉を開けた。

 

「うっ・・・!?」

 

堂内の明かりは消え、ブドーは自身の帝具で電撃球を作りそれを明かり代わりに周囲を見回したが、余り耐震性が無いのか天井の壁が抜け落ち、生きている様子の子供たちが見当たらなかった・・・。

 

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああ、へいかぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ブドーは皇帝の名を呼び、絶叫しながら瓦礫を脇へと追いやった。そこには腸が飛び出し、目玉が飛び出た死体や小さい子を庇おうとして年長の子供が覆いかぶさったがまとめて潰れ圧死した子共達・・・だがブドーには皇帝カライの生存確認しか目に入らなかった。

 

「おい、子供らよ誰か生きている者が居たら返事をしろ!陛下は、陛下は無事か・・・・!?」

 

そこに僅かながら呻き声が聞こえ、ブドーは直ぐにその声の元へ駆け寄った。

 

「おじさ・・・?将軍のおじさん?」

 

ブドーは落胆したが、とりあえず状況を聞く事にした。

 

「子供よ、一体何が遭った?」

 

「ううっ・・・みんなで食べてたら上で大きな音がして、明かりも消えちゃうし、・・・いったい上でなにがあったの?・・・とにかくみんなこわくなってひとつにあつまってたんだ。皇帝のおにいちゃんが集めて・・・みんな大丈夫だって・・・」

 

「・・・陛下・・・それで陛下はどうされた?」

 

その小さい少年は泣きだし、

 

「にいちゃんは・・・僕をかばって・・・ううう」

 

ブドーは一瞬で全身の血の気が失せ、傍の瓦礫を恐る恐るどかした・・・そこには見るも無残な皇帝カライの死体が横たわっていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭は真っ白と成り、ブドーはしばらくは固まったまま動けなかった。

 

再び少年は泣きながら

 

「僕が・・・僕がいけなかったんだーーー!!皇帝のにいちゃんに守ってもらったばっかりにーーー!僕が代わりにしんでいれば!!!」

 

ブドーはその言葉で我に帰り、泣いているその子に一瞬殺意が湧いた。

 

そうだ、この小僧さえ助けなければ陛下は無事だったかもしれない・・・この小僧さえいなければ・・・。

 

 

 

それは違うぞ、ブドー!

 

 

ブドーはその方向に顔上げると、そこには皇帝カライが生きたままの姿で立っていた。

 

「陛下・・・良かったご無事だったのですね・・・」

 

ブドーは何も無い空間に話しかけ、それを傍の少年が怪訝な顔で見つめた。

 

「お、おじさん・・・?」

 

 

 

これはブドー一人が見ている心の中の幻想か、それともカライの霊魂か・・・?

 

残念ながらブドーよ、私は死んだ・・・だが悔いは無い。これで少しは罪滅ぼしが出来たかもな・・・

 

「陛下が罪を?・・・一体何をなされ・・・?」

 

言うな!・・・取り返しのつかない事だ、言いたくは無い・・・だがブドー、私は皇帝の役目とは・・・いや、国を統べる者の役目とは何か・・・今になって漸く判った気もする・・・何かあれば自ら進んで民達の盾になる事ではないかとな・・・

 

ブドーはどう返答すればいいか窮していると、

 

これで良かったのだ、これで・・・ブドーよ、お前達一族には世話になった・・・今までありがとう・・・本当に感謝する・・・

 

そう言ってカライは頭を垂れる。

 

「陛下!それは勿体無い、恐れ多い事です、どうか御止めを!」

 

ブドーが何も無い宙に向かって手をつき、頭を下げている姿に少年は只々驚愕した。

 

もう私は何も怨んではいない・・・ブドーも遺恨に囚われるな、私に・・・いや、皇帝というものに囚われず、ブドーは自由に今後生きて行ってもらいたい・・・どうやら迎えが来たようだ・・・今までありがとう、さらばだ・・・

 

 

ブドーは声にもならず、顔をぐしゃぐしゃにして泣き腫らした。

 

傍の少年は大の男が、大将軍とも呼ばれる男のその姿に驚く以外の感情は湧かなかったが、おかげで多少の冷静さを取り戻した。

 

ブドーも落ち着きを取り戻し、

 

「陛下・・・そうだ、私には陛下が守った子供を救いだす最期の務めがある・・・」

 

「・・・・・・」

 

「少年よ、名は?」

 

「ライフ・・・です」

 

「良いか、此処で起こった事を正しく伝えるのだ・・・」

 

ブドーは先の戦闘で・・・自分のせいでこの食堂に被害を招いた事を伝え、ライフに託す事にした。

 

この少年を一体誰に託すか・・・宮殿に向かわせるか・・・いや、駄目だ。私の懇意の者達に匿って貰ってもオネストの手が伸びかねない、この子供が利用されてしまう。

誰に頼るか逡巡した結果、

 

「ふっ・・・信が置けるかどうか一かバチかだ・・・よく聞け、ライフよ。タツミと言う男がいる。何処に居るかは判らぬが、きっと大丈夫だ。そなたは陛下が守って下さった強運の持ち主だ、必ず見つけられる」

 

ライフもよく判らないが、ブドーにそう言われ何となく自信が付いた。

 

「さぁ行け、此処を真っすぐ向かい扉も開けている・・・後の事は頼んだぞ・・・」

 

「大将軍は・・・どうするの?」

 

「その肩書はもういらん、私の事は気にするな・・・良いか、ライフよ。皇帝に救われた・・・カライ殿に救われたその命決して無駄にするな、後ろは振り帰らず、行け!!」

 

「は、はい!!」

 

勢いに呑まれ敬礼をしたライフは走り去って行った。

 

 

この空間で生きている者はブドー以外にはいない。

 

「・・・・・・陛下、いやカライ殿・・・先程は有難いお言葉でしたが、私にも償えない罪が有ります。今まで何人の部下を死なせてきた事か・・・それに我が先代達に私の手で陛下を殺したとあっては、このままでは顔向け出来ません・・・それでも皇帝陛下という概念に囚われている・・・子供如き私めをどうかお笑いください・・・どうかお傍でこの私を幼稚であるとお笑いください!」

 

 

ブドーは自らの手で自身の首を回転させ、その骨を捩じる。

 

「ふっ・・・・・・」

 

僅かな笑みを浮かべ、ブドーは仰向けにその場に倒れ、静かに絶命した・・・

 

 

 

 

 

外は仄かに白んでいき初め・・・そこに一つの影が動いた。

イゾウが動き出し・・・たように見えたが、その下からエアが現れた。

 

「これ・・・これって一体・・・?」

 

エアは辺りに瓦礫が散見し、ある程度の距離を吹っ飛ばされた事を確認した。先程までの屋敷がほぼ跡方もなく無くなっている・・・。

 

一時呆然としたが、死んでいった仲間達の事を思い気を奮い立たせた。所々傷は負ったがイゾウの死体に守られ、命に別条は無かった。

 

「イゾウさん・・・本当に最後までありがとうございました・・・シュラさんは・・・この様子じゃ・・・でもあの人の事だからきっと・・・とにかく今は、あっ!」

 

その時、こちらに掛けてくる1人の少年が目に入り声を掛けた。

 

「!?おねえちゃん・・・だれ?」

 

「え、え・・と」

 

しまった・・・あたし達の事どこまで話していいか・・・

 

「ブドーのおじさんにたのまれているんだ、タツミって言う人に会いに行けって」

 

「え!?おねえちゃんも知っているから一緒に行こう!」

 

エアはバック達の情報はある程度知っていたが、ブドー達が来ていた事までは良く判っていなかった。

 

二人は、何事かと近隣の住人達が集まって来る中、その波間を縫い駆けて行った。

 



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悪党が斬る!(終)※(裏)

以前から世の中諸々起きていますが、
“人生において、その人の性格がその人に相応しい事件を引き起こす”
という話があります。
世界、国、個人に起こる要因の一つ一つは私達自身にあると、そう思いながら過ごす日々です。

2020/3/21 僅かばかり加筆修正しました。

2020/8/27 一旦区切りが着いた後も読んで頂けている方がいらっしゃって嬉しい限りです。

2020/11/20 12月辺りに短編を投稿予定です。


「はぁ~・・・参った・・・」

 

タツミは誰も居ない事を良い事に、1人弱音を吐きながら部屋から出た。

彼が参る事が部屋の中で有った訳だが・・・

 

「・・・!?」

 

直ぐにタツミは周囲の異変に・・・気の流れ具合の違いを察知した、厭な方向での・・・。

 

エアとライフが息を切らしながらこのアジトまでやってくる。彼は気配を察知し二人の所まで向かい、

 

「どうした、エア・・・」

 

「え?この包帯のおじさん・・・?」

 

全身包帯姿の事を見ず知らずの少年に触れられ、タツミは聞き流した。

 

そして事態の顛末を聞き、タツミは愕然とする。

 

「・・・・・・」

 

「ファルちゃん、ルナちゃんも、チャンプさんも・・・イゾウさんも・・・みんな・・・みんな・・・」

 

「エンシンとシュラは・・・?」

 

「エンシンさんの事は・・・すみません、判りません・・・シュラさんは・・・あの人もあたしを庇ってくれたんです・・・だけど生きているかは・・・いいえ、きっと生きてます!」

 

「・・・・・・」

 

タツミは宙を睨み、あのシュラがか・・・と刹那感慨に耽った。

 

「ライフと言ったな、ブドー大将軍はどうなった?」

 

「ブドーさんは、僕に今話した通りのことをタツミさんに話すようにいわれたんで

す・・・あの人がそのあとどうしたかは・・・え~と、ごめんなさい!」

 

「そうか・・・大変だったな、有難な・・・」

 

ブドーは恐らく死んだ、あの男の気配が感じられない・・・念の為後で調べてはみるが・・・。

タツミはカライもブドーも死に、チャンプ達も亡くなった今、本来の予定を大幅に変えなくてはならない事に内心頭を痛めた・・・。

 

「タツミさん・・・?」

 

「エア、この子と一緒に俺が懇意にしている菓子屋に行ってくれ、大丈夫だ悪いようにしない。後で手紙を書くが、ランと言う人の所で世話になって貰え」

 

「タツミさんはこれから一体・・・どうされるんですか?」

 

タツミは深い溜息をつき、

 

「こうなったのも全部俺の責任だ・・・もう手遅れだが・・・それを付けてくる・・・」

 

「あ、あたしにも手伝わさせて下さい!」

 

彼女の頭に手をやり、

 

「いや、後はもう俺の仕事だ・・・もし、俺がやっても上手くいかなかった時は・・・今のお前じゃまだ無理だ、ランと言う人の所で自分を磨いてこの世界を変えていってくれ・・・頼んだぞ、エア!」

 

「は・・・はい」

 

タツミは次にライフの方を見据え、

 

「ライフ、このお姉ちゃんに何かあったら守ってやってくれ。出来るな?」

 

彼から元気のいい返事を聞き、今後の段取りに取りかかった。

次の日までにタツミは情報を集め、エアは彼らとの思い出の品を集め別れを惜しみつつ、タツミはその菓子屋の主人に二人を預けた。

 

タツミは誰も居なくなったアジトを粉々にし、目的地へと向かう・・・おうとした矢先、

 

「・・・なんだ?俺に用かい?」

 

夕暮れ時、荒れ地と化したその場所にタツミは背中で聞いた。

 

覆面をした刺客が無数取り囲み、手にアカメの村雨を持った者や鎖鎌、離れた位置から銃口で狙っている者達が・・・。

 

 

ナイトレイドのアジトを1人留守を守るラバック。

身体はまだ全快でなく、痛み止めをしながら居間で寝そべっていた。

 

「1人でいるとむしょ~~に、広いよなここ・・・これで姐さん辺りがつきっきりで看病してくれてたらな~・・・いや、手出して酷い目に遭わされんな・・・それも一種のコミニュケ―ションって、ナジェンダさんわかってくんねぇかな・・・暇だ・・・町のヤクザ連中始末すんのに、ナジェンダさんも出張るなんて珍しいよな・・・?何か俺に隠してたんかあれ?・・・退屈だ・・・ブラートでも良いから帰って来てくれたら・・・いや、やっぱいいや。しかし、3人はともかく、帝都内のシゴトの4人、遅いよな・・・何もなきゃ良いが・・・ま、あの4人に限って大丈夫だろ」

 

彼は暇潰しに、片手で帝具のクローステールを糸状に飛ばし調度品を近くに手繰り寄せたり戻したりを繰り返した。

 

「お・・・?誰か帰って来たか」

 

窓に人影が写り、そして消える。

 

「ん?・・・」

 

不審に思ったラバックは痛む身体を押して身構えた。

 

 

帝都宮殿の一室、そこにオネストと客人を交え二人で酒を酌み交わしていた。

相手はオネストの空になった盃になみなみと注ぐ。

 

「いやいや、もうこの辺で良いですよ・・・しかしまぁ、貴方には初め何処の馬の骨とも判らん方だと・・・その程度の認識でしたが、今やもう立派な私の右腕ですよ、バックさん」

 

「お褒めに預かり光栄です・・・オネスト大臣」

 

所々傷跡が残っているが、バックは細菌に侵されて死の淵だった所、皮肉な事にブドーの放った電撃爆風でその細菌が死滅しダメージは負ったものの瓦礫がガード代わりになったりで悪運で辛くも乗り切っていた。

 

「バックさん、私は死んだ息子に用は無いんです。碌に私の所に顔も出さずに・・・反抗期でしたらまだ可愛いですが、本格的に盾突き始めてましたからね、全く悪い輩と付き合うから・・・付き合う人は選ばなくてはなりませんね」

 

「もうご心配には及びません、ご子息を誑かしていた輩は私の手の物が始末致しました」

 

バックはその者達が全員半死半生の態で相当手こずった・・・彼らのその報告は伏せた、相手は奴なのであれば殺せただけでも良しとしようと。

 

「いや、本当に貴方を実の息子にしたい位ですよ、仕事も早く・・・それに私が望む事の先手を打てる・・・ブドー大将軍も皇帝陛下も不慮の事故で亡くなり・・・おっと行方不明ですしね」

 

「はい、陛下の安否が気遣われますが此処は帝国民の心の安寧の為にも陛下の代わりをご用意を・・・ふふふ、年背格好も近い少年が居ります・・・私の仕事が役に立ちました、人生何が何処で役に立つか判りませんね」

 

「くくく、ははは・・・ついでにブドー将軍の代わりは?」

 

「流石にその年齢の者は・・・」

 

二人は揃って高笑いをした。

 

 

外は夜の帳が下り、宮殿門番も疲れ気味な所に

 

「よぉ、御苦労。親父に会いに来た・・・ここを通せ!」

 

直ぐに二人の門番は槍を構え、その者の道を遮る。

声を出し、帰れと威嚇するが

 

「まぁ、ゆっくり休めよ」

 

その男は一瞬で自然に槍をいなし、抵抗する気も失せさせる動きでそのまま二人の肩にポンと触った・・・呆気に取られ門番達は男を追おうとした刹那、

 

肩の筋肉の筋が痙攣を起こし、激痛が走って地面で悶える。男は何か気でも送って人体操作でもしたのか・・・。

 

「そこで休んでな。なに、数時間後には治る」

 

部屋で祝宴に興じているオネストの所に配下の者が耳打ちする。

 

「何ですか一体・・・ん?シュラが・・・?」

 

それが聞こえたバックは一瞬顔が強張る。

 

「バックさん、確かシュラは・・・?」

 

「はい、シュラは・・・ああいや、彼は確かに跡方も無く・・・きっと、シュラさんを語る強請り集りの類です、私が確かめて参ります!大臣はどうか此処で寛がれていて下さい」

 

「う~~む、頼みましたよ」

 

 

宮殿には複数の部屋が有り、大臣のそれは一際大きい。

普段なら巡回の兵士が歩いているが、今日は特別だと言う事で周囲に人は居ない。

 

明かりもまばらで暗がりに背を向けて立っているフードを羽織った男をバックは認めた。

 

「ん?・・・シュラ・・・さん?ああ・・・そ、そうですか?その顔とかの包帯は、あの爆発で?・・・ああ、ははは・・・先だっての事怒っているんですか?男はその、拳で語りあうって言うじゃないですか・・・生きてたんでしたら、お互い悪運の強い者同士これからは仲良くやっていきませんか?」

 

「・・・仲良くだぁ?そいつは無理だな、何故なら俺はもう死んでいるからだ」

 

バックの方を振り返った時のその声で

 

「!?お前は、シュラじゃないな!てめぇ・・・生きてやがったのか!ふざけた真似しやがって!」

 

用心の為に咄嗟に持ってきたサーベルを抜き放ち、バックが斬りかかるのをタツミは寸でかわし追撃で横薙ぎに振り斬ったそれを後方にかわしながら、腰の江雪を抜刀した。

 

その互いの得物を振った音が鋭く空を裂いた後は、数瞬その闇に静寂が訪れる。

 

窓から差す月明かりがバックを照らし歪んだ怒りの形相が窺えるが、タツミは逆光で顔の表情も判らない。

 

次の瞬間、バックの頭上に江雪が襲いかかるが、事もなげにサーベルで弾き飛ばす。タツミは弾かれ体勢を崩し両手で持っていられなくなり右手で持って牽制しながら後退し続ける。

 

強い斬撃だったが、話に聞いていたより大した事は無い・・・噂は只の噂か・・・バックは拳同様刃を一回交えれば相手の力量が判る。

上段に振りかぶって一瞬で真っ二つにしてやる。助け何ぞ呼んでオネストに借りは作らない。

自身の最速でタツミをぶった斬る!

 

サーベルが上段から目にも止まらぬ速さで地面に向かい、相手を斬った!

 

転瞬、喜びが苦痛に変わった・・・?

 

斬った・・・はず・・・?

 

実際はバック自身が下から身体を斬り上げられ、それが判った瞬間既に後ろに居るタツミに片手斬りに背をやられた、即死しない加減で。

 

「ぐぐっぐぐぎゃあああああああ!!!」

 

バックは痛みで堪え切れず声を上げる、なんだなんだこの、匙加減の痛みは・・・

 

自分が手を出してはならなかった相手だったと言う事を漸く気付く。

相手がどうされれば最も嫌がり恐怖するか判っている・・・今まで猫を・・・

立っ・・・立っているのがやっと、力がほとんど入らな・・・何をするつもりだ。

 

バックは倒れるように部屋とは反対側の窓の方へ身を預ける。ガキの頃聞いたな、悪い事したらそのうち何かが来るって、ああこれがその死神か・・・

 

タツミは江雪を頭上に上げ、弧を描き、大股開きで振り斬る。

 

バックは鼻が真っ二つに、喉も前側が斬られ、身体前の臓器を覆う骨も斬られてい

く。

声が出ねぇ・・・辛うじて持っていたサーベルも落とし、まだ死ねない・・・慈悲を乞うように震える手をタツミに向け、次の瞬間江雪で腹を貫かれる・・・否、貫かずに内部で留まりそのまま引き摺られ意識が朦朧とする中、オネスト専有部屋のドアをバックをぶつけて開けさせる。

バックは痛みの度を超え・・・ショック死していた。

 

部屋内は幾つもに分かれ先ず玄関と呼べる間があり、その奥にオネスト達はいる。

配下の者達が異変に気付き、駆け付けてくると一瞬絶句する。

 

「むぅ・・・これは・・・」

 

「あら~痛そ~ふふふ」

 

「一体誰が?大臣の息子が?」

 

オネストも後からやってくると、バックの死体を見下した後ドアの向こうを警戒す

る。そこから江雪を片手に下げてタツミがゆっくりと歩いて入って来る。

 

「お前がシュラを騙る、不届き者か?」

 

睨みつけるオネストに、僅かに不敵な笑みを浮かべたタツミは彼の配下、羅刹四鬼・・・かつて見知った別の世界の彼らを一瞬思いだした後、即座に。

 

「がはっ!!」

 

大臣にシュラを騙る存在をいち早く伝え、出来る事なら自分で始末するつもりだったが・・・、ここに来るまでのタツミの行動を監視していた・・・天井裏から奇襲しようと機会を窺っていたイバラの鳩尾を江雪で突き刺した次の瞬間、もう一つ腰に差していた村雨で目の前のメズの顔面を割った。

 

「いやああああああああああああああ」

 

痛みに転んで壁に激突し苦しんでいる間、それ以前にもうタツミは後ろのスズカと目が合うと、

あれだけ惨い事も出来るんだから、どんな痛みを・・・と恍惚な笑みの彼女にタツミは相手が、スズカが嫌がる殺気を飛ばし、違和感を覚えさせる。「!?」考えるか考えないかの僅かな短い間のやり取りを本能で察知し逃げようとする背中に彼女が嫌な痛みしか感じない神経を狙って片手斬りに斬り裂いた。

 

「いや・・・いた・・・死にたくな・・・」

 

生まれてこの方痛みは快楽でしなかく、他人への虐殺行為も苦しんでいるようで実は本人達も少しは快楽を得ていると誤解していたスズカ、死の間際嫌な痛み、死への恐怖に気付き、死んでいった…そして2人ともタツミの斬りに因る痛みと村雨の呪毒の痛みで…。

 

彼女達がまだ死ぬ前にタツミの背後に回ったシュテンがその剛腕で吹き飛ばそうと身構えた瞬間、タツミは村雨で両手持ちにし、少し上段から振り下ろし斬り倒そうとする。

それを瞬時に判断したシュテンは両手を交差し白刃取りを両の甲部分で合わせ更に腕を硬化させ、先ず動かないように抑える。

 

してやったり!と思ったほんの刹那、タツミは自然な流れで村雨を横へずらし思ってもみなかった方向へシュテンは誘導され、村雨を手放し片手で刃の部分を封じたシュテンの両手を抑え、

 

「ぬあああああ!?」

 

叫んでもどうしようもなく、タツミは既に天井に刺さったままの江雪を引き抜き、シュテンの脇腹から心臓手前に目掛けて突き刺し、嫌悪感が伴う神経のみ抉る。

これまでに感じた事が無い痛みに思わずシュテンは、頼む・・・助けてく・・・。

 

この間、タツミはオネストに背を見せ続けていたがこのままではとても敵わぬと判断し、オネストは逃走していた。

 

そして、その主の下で魂の救済の名のもとに多くの人間を理不尽に殺してきた、彼の魂は肉体から解放され、この場に生きている者はただ一人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラバックは痛む身体を堪えながら物影へ隠れ、相手の出方を見る為帝具の糸で窓を開け放つ。

 

「ラバックか?」

 

相手も姿を現さないが、声で主を把握した。

 

「・・・ん?何だお前か・・・妙な事しねぇで表から入って来いよ」

 

アジトの表のドアから入って来たタツミは、

 

「誰か居る事までは判ったが、念の為にな」

 

「この敷地内に俺が(帝具で)結界張ってたのに何の反応も無かった、1人で来たんだろ、潜り抜けてくるなんて嫌な奴だなお前・・・なんだその包帯?ミイラ男の仮装でもすんのかよ?」

 

「・・・聞くな・・・チェルシー達はどうした?」

 

「皆出払って俺一人だ、身体がまだ治らねぇだよ、誰かさんのおかげでな」

 

「・・・じゃあ、俺が言うより密偵達から聞いた方が良さそうだな、あばよ」

 

手をひらひら、帰ろうとするタツミのその手を帝具の糸が絡みつく。

 

「何のつもりだ?」

 

「俺はお前を信用しきってないぞ?何を企んでいるか吐くか、そろそろ誰か帰って来る。それまで居て貰おうか?お前が実は帝国軍の密偵とも限らねぇしな」

 

「・・・・・・はっ、良いニュースと悪いニュースが有る、どっちが良い?」

 

「なんだそりゃ?」ラバックは前者を促すと

 

 

 

 

「ブドーと皇帝が死んだ・・・」

 

一瞬何か判らなかったが、全てを合点したラバックは

 

「町のゴロツキ始末しに行くのに、何でナジェンダさんも出張るのか不思議だったんだ・・・やっぱりな、畜生俺も行きたかった!はは、そうか・・・とうとうやったか!よぉし!後はあのクソな大臣だけだな!」

 

「話したぞ・・・」タツミは絡まったそれを外して去ろうとする。

 

「待ちな!」

後者の方はと。改めてタツミの知る限りを、伝聞や後日の現場検証を伝えた。

 

 

 

それを聞き、ラバックは眼前が真っ暗になった。そして、タツミの肩を大きく揺さぶった。

 

「なんでだよ!何であの人が死ぬんだよ!ホラ吹いてんじゃねぇぞ!姐さんやマインが、アカメもいたんだぞ?あいつらが死ぬ訳ないだろ・・・ナジェンダさ・・・」

 

ラバックは力を失い、涙ながらその場に座り込む。

 

「俺の仲間のほとんども死んだ・・・俺の作戦ミスだ、その後始末を付けてくる」

 

「・・・お前1人でやるつもりかよ。ならなんでわざわざこうして話に来たんだ・・・」

 

「吠える相手を間違えてんぞ?ナジェンダ達は無駄に死ぬ事は望んで無いだろ、お前は此処で大人しくしてな・・・革命終わった後にもやる事はあんだろ」

 

「くっ・・・うるせぇ・・・、・・・ちっ・・・、ああ、そうだな・・・。お前の言う通りだ、この体じゃ足手まといだな・・・タツミ、お前がどんな後始末するか、此処でのんびりと良いニュースが来んのを待たして貰うぜ・・・引きとめて悪かったな、じゃあな・・・」

 

タツミが去った後のラバックの形相は、誰も居ない事で気兼ねなしに殺気と怒りを放っていた。

 

 

オネストは奥の部屋の調度品に隠した扉を開け、隠し部屋の小窓を開き外の様子を窺いながら懐の銃を取り出し、タツミの隙を付いて始末しようと待ちかまえている。

 

その背後でいきなり明かりが灯り、気が付く前にオネストは銃の持ち手を捻り上げられる。

 

「な・・なななな、だ、誰だ!」

 

室内の調度品を支点にして、相手の手を帝具の糸で宙釣りにし、更に首に巻きつかせ窒息死を狙う。

 

「舐めるなぁあ!!」

 

オネストは左手でもう一挺取り出し、相手の心臓に目がけ銃弾を飛ばす。

目標が外れ、右肩に当たるが充分だった。

 

「ぐっ・・・くそ・・・」

 

拘束は解け、オネストは刃物を取り出し

 

「ふん、たかが暗殺者風情が、死ねぇ!」

 

勢いよくぶつかり、腹部を抉りだす。

 

血を吐き、苦痛の声を耐えながら左手で帝具の糸で刃物状の武器を作り、歯に銜えオネストの首に突き刺す。

 

ぐっ・・・だがこの程度、とオネストは致命傷にはならないと判断し息の根を止めようと刺した刃物に力を込めた瞬間、

 

「手が動かな・・・」

 

刺さった刃物状のそれから無数の糸がオネストの体内を張り巡らせ、神経系を次々に破壊していき・・・それはこの世の地獄、激痛の上をいく激痛以外何物でもない。

 

「ま・・ままま・・・ぎゃあああああああああああああああああああああ・・・」

 

断末魔を上げた後しばらく苦痛は続き、身体表面の損傷は少なくとも中身は脳、心臓諸々ぐちゃぐちゃとなった。

 

只の肉塊と化したオネストは倒れ、ラバックはふらふらになりながらも扉を開け、出血を恐れず敢えて刺さった刃物を抜き、止血もそこそこに窓から外へと糸を使って下りて行った。

 

 

駆け付けたタツミは、オネストの死体を認め、開け放たれた窓へと続く血の跡を・・・その後を追わずに只黙って見据えた。

 

 

運良く宮殿内の兵士達と出くわさず、ラバックは中庭の広い外の稽古場にある大樹にもたれ掛かり、月を眺めた。

 

此処でよくナジェンダさんにしごいて貰ったなぁ・・・、あの人と会えて楽しかったなぁ・・・俺こんなんだから、照れ隠しで他の女の子にちょっかい出してんだ・・・いや、本当だって・・・そっち行って会えたら・・・ちゃんと今度は・・・。

 

 

ラバックは顔や首に爆薬を塗り、ナジェンダの吸っていた煙草を取り出し銜えて火を付けた。煙を燻らせ、しばらくした後火種が彼に向って落ちた。

 

 

 

 

翌日、発見された彼の遺体は顔も判別も出来ず、検死した警察ウェイブはそれを記録に残し、勿論オネスト大臣達を殺害した容疑者としても。

 

 

その後、怪情報も飛び交うがオネスト達が用意した影武者の皇帝は意味が無くなり、帝国軍の残った将軍たちは徹底抗戦を望む者も居たが、ブドーが死んだ事も大きく作用し、小競り合いを除けば革命軍の無血勝利で宮殿は明け渡された。

 

皇帝を失った事で不安も広がったが、その後誰かの手により自立した個人で共同体をというスローガンで1人1人が自覚し初め、問題もあったが前進して行った。

 

皆が不安の中にも未来への希望を持ち始めた中、事の顛末を全て正確に知る者は少ないが・・・表面の情報でその裏側も察せられる人物もいる。

 

「・・・親父が・・・、はっ。ざまぁねぇな・・・下手したら俺も親父に殺されてたか・・・まぁ良いや・・・生んでくれた事だけは感謝しといてやるぜ・・・・どこの誰ともしらねぇ奴の仕業か・・・くくく、タツミの奴あいつめ・・・。もうこの国にも飽きたな、面白くはなかったが、つまらなくもなかったぜ。・・・あばよ」

 

傷だらけではあったがシュラは帝具のシャンバラで辛くもあの場を逃れていた。

 

 

 

 

 

 

数年後、

 

「だぁーかぁーらぁー、良い話持ってきたっつってんだろが!この俺がこの国良く

してやんだよ!ありがたくおもえ!」

 

「ですから、どこの誰かも判らない人を通す訳にはいきません!お帰り下さい!」

 

「強情な奴だなお前は、嫌いじゃないが良いから退け!」

 

二人は宮殿の門で押し問答を繰り広げ、他の門番の大人達はのんびりとその様子を眺めていた。

相手している門番はまだ10代前半でいつまでも孤児院で出来る仕事も限界がある為、恩返しの為にも伝手のおかげで就職が出来た。

 

「一体どうされたんですか、ライフ君・・・そちらの方は?」

 

宮殿から出て来た二十歳位の女性が門番の彼に呼びかけた。彼女は若くしてその才能を発揮し今の大臣達の意見調整に一役買っている。

 

「ああ、エアさん?すみません、酔っ払いの方が大臣の方々に会わせろってきかなくて・・・さぁ、ほら。僕ですからこのぐらいで済むんです。怖い人が来る前に帰って下さい!」

 

エアはその彼を見て、呆然とし持っていた物を落としてしまった。

 

「あ・・・あたし、あの後皆さんのお墓参りをずっと・・・でも・・・でも、誰か一人はきっと生きているって・・・シュラさん・・・ですよね?」

 

「あ・・・?ああ・・・お前か・・・なんだ、でかくなったな・・・死なずに生きてやがったか・・・」

 

 

 

 

 

この国の呼び名も以前と変わり、

その町雑踏の露天商でタツミは値段が安い、高いと文句を付けたり、からかいながら楽しみ練り歩いていた。

 

 

 

 

 




とりあえず、一旦これで最終回です。
お付き合い頂き有難う御座いました。

次回は未定ですが、気が向いたら気楽な短編でも書ければなぁと思います。


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魔法少女が斬る!(恥を斬る!) (前編)

ご無沙汰してます。
今でも読んで下さり、有難う御座います。
何とか12月中の投稿を果たせてほっとしてます。

鬼滅の刃が人気で、初めはまるで関心無かったのですが…仏教の色即是空、空即是色…私なりに解釈すると、
他人は自分、自分は他人と思っています。
その主人公がそれを無意識に分かっているからあれだけ優しいのだろうなと。
これを全巻読んで思ったのは、もう自分が小説などの創作を書く必要無いなと(笑)


ここはある空域、物質世界とは異にする別次元の領域。

そして、あらゆるものを広大に管轄しているその執務室は広く、数多の宇宙や星の情景が浮かんでいる。

その荘厳な雰囲気に包まれた部屋で2つの存在が言い争いをしていた。

 

「タァツゥミィイイ!!何故もっと早く帰って来なかった!どれだけ私が心を痛め、何度会いに行こうとしたか!?何故プロテクトを掛けた!おかげであの星に行けなかったではないか!……まさか、浮気か?浮気なんだな?…くうううううう……私は慈悲深い…素直に話せば許してやるぞ!」

 

怒られて詰られている彼は、空を見据え星間の動きや宇宙の中の放射線などを調整、生命に及ぼす影響の強弱を付けてプラスに働くように手心を加える行為をしながら、妻…の話を片手間に聞いていた…初めは大人しく聞いていたが段々腹が立ってきていた。

 

「うるさいぞ!お前が余計な事しなけりゃ、穏やかに事が進んだんだ!それまで俺が計画していた事を水の泡にしやがって。それの手駒になる奴らを育成していたのに、ほとんど死んでしまっただろうが!おかげで俺が直接片を付ける事になったんだぞ、本来宜しく無い事だからな、お前だって分かってるだろ!」

 

「タツミィ!浮気の言い訳なぞ聞きたくは無いぞ!」

 

「してねぇ!」

 

とうとう堪忍袋の緒が切れた彼は、その場から去っていった。

 

1人残された彼女…エスデスは、指を鳴らし紅茶を顕現させた。

更に言うと、諸々必要としないが肉体を持っていた頃の名残で空気や重力なども気分で顕現させている。

そして、飲食も実際に飲んで食べても、体内で消えていき雰囲気を楽しんでいるだけである。

この場合は苛立ちを紛らわす為だが。

タツミは仮の肉体を持たない限り、飲食の動作は滅多に行わない。

 

「ふぅ…全く何をあれ程怒るのだ?だがやはり怒る覇気もそそり、可愛いがな、ふふふ。いや、ここは毅然としなくては!愛する妻とは一刻も離れず居たいものだろう?同衾している時だけ優しければ良いというものでは無いぞ、はぁ…昔はもっと優しかった…」

 

ふと昔に思いを馳せた…

“エスデス、もしもだ…お前が俺の言った事を破ったら…その時は死んで貰うぞ…”

 

「………今の方がまだ優しいか…だが、あの頃のタツミの私を本気で殺しかねない、あの眼光もそそるものがあって良いものだった…ふふふ…険しい目も可愛いかったなぁ…くふふふふ…おっと、駄目だ。真面目に考えねば…何故タツミはあんなに怒るのだ?…そうか!マンネリか!?夫婦の間も同じ事をし続けると苛立ちもつのる…ここは新しい風を吹かせなくては!」

 

エスデスはテレパシーで緊急事態だと飛ばしてタツミを呼び寄せた。

 

執務室である空間の前で、統括であるエスデスの指示を仲間達へ連絡するなどを一手に引き受けているガーディアンがいた。

タツミがその前を通ろうとすると、彼は声を掛けた。

「また喧嘩ですか?」

 

一睨みされ、ガーディアンは目を逸らした。

 

 

今度は一体なんだ?つまらない事だったら承知せんぞ、という顔で中に入った彼を待っていたのは…

 

室内が真っ暗となる、そんな中一点だけ光が当たりその地面から白いドレス姿で、煌びやかなアイマスクをしたエスデスが登場した。

 

彼はこの時点で軽い頭痛を覚えた。

 

「ふふふ、問われて名乗るもおこがましいが、知らずば答えてくれる!何を隠そう…」

 

くるりと一回転し、不思議なステッキを掲げながらポーズ決めて

 

「私は時を駆ける魔法少女、マジカルエスエス…だぞ!」

 

「……………」

 

 

タツミは全ての質問を放棄し、勢いよく空気を吸い込んだ。

 

 

 

「すうううううううううう…………」

 

一拍置いたのち、彼の全てから吐き切る如く、その動作を行った。

 

「はあああああああああああああああああ……………」

 

その後、今までかつて無い程の笑みを浮かべた。

 

「タ、タツミ!そ、そんな満面の笑顔を…今までで一番の…」

 

話終える前にさっさと彼は出て行った。

 

「?………???一体、どういう訳だ。いまだかつてない最高の可愛い笑みだったが…?う〜ん?何故かいまだかつてなく冷ややかな感情を感じたのは…何故だ?……まぁ良い、きっと気のせいだな♪ タツミも忙しかったのだな、もうしょうがないな〜タツミは〜、後でたっぷり構ってやるからな…さて、魔法少女となったからには何か為さねばな、とりあえずここは一つ下々の者を救うか、それできっとタツミも私を見直すな♪うむ、そうと決まれば善は急げだ!」

 

 

「..............?」

 

執務室から不気味な波動を感じた後それが途絶えた為、ガーディアンはエスデスが何をしているか気になり中に居るだろう主にテレパシーを送ったが返答が無い…なので失礼を承知で中を覗くと…

 

「居ない!あの人はまた!」

 

 

エスデスことマジカルエスエスは、気体のような状態となり通常の空間では光の速さでも100年以上掛かる距離を空間の裏側を通り…時と距離の法則を無視した、いわば裏道を通って一気に目的の星へと向かった。

到着した後は、通常の空間に顕現した。

 

宇宙からその星を眺めている。

 

“私達が元いた世界とほぼ同じか…ふふふ、面白い。原点と言うべき場で救ってやろう!”

 

彼女の独り言も空気が無い場では周りには聞こえない、そして聞く者も居ない。

言い終えた後は一気に地上に向けて降下した。

 

成層圏を通過し、雲を突き破り、

そして、エスデスは衝撃で周りの塵を吹き飛ばしながら地面に降り立った。

夜空の星の下、感慨深げに

 

「邪気、臭気が入り混じっているな、久方ぶりに心地よい。先だってマイタツミに会いに行った時は、しっかりとした肉体顕現では無かったが、今は違うぞ。さて、改めて私に惚れ直させ且つ今度はどの角度から怒らせると良いか…待っているんだぞ、タツミ♡」

 

その頃の彼はエスデスが持ち場を勝手に離れた事に、激しく憤っていた。

 

「さて…まずは魔法少女らしく箒が必要だな。む?」

 

前方数キロ先に、お誂え向きの見窄らしい家屋の外にそれは立て掛けてあった。

 

エスデスは駆けていく、かなりの速さで。

 

「では頂くとしよう。これはその代償だ、受け取れ」

 

家人は既に寝ていて、エスデスに気付いてはいない。

側に積み上げられた木炭を彼女はダイヤに変えた。

 

「愛しのタツミの技を私なりにアレンジしてみたぞ、フフフ」

 

法則転換…その技は、例えば引力を反引力にしたり任意で操作が出来る。しかしその反動で色々別の被害を生み出す為、使うべきでは無い。エスデスはそれを少々模倣する事に成功し局地的に且つ他への被害もなるべく抑える事を可能にした。そして、その技を自身の肉体に宿した為自分がこの世界で言う所の超絶な力の帝具とも言える。

 

所変わって此処は国の中枢、腐敗の根源である宮殿の大臣…皇帝を操る実質No.1のオネストが自室でダイヤを数えていた。

 

「くくく、これだけの質の良いものを使えばどれだけの大臣や将軍共を買収出来るか…他には…大半の新聞屋は平伏させた。ですが、まだ私に楯突くあの新聞屋を飴と鞭を使って、必ずや…んが!?」

 

彼が数えてたダイヤが木炭に変わってしまった…。

 

「??????は?ほ?ひ?……ほひーー?」

 

ある肖像画の如く、両頬を両手で抑え奇声を発した。

 

「馬鹿な、これは一体?………だ、だだだ誰の仕業だ!?」

 

 

 

エスデスは箒に跨り、夜空を飛んだ。

 

「うむ、これは悪くない」

 

普段なら空を自由に飛ぶのも造作は無いが、肉体を持つ場合は当然制約が生まれる。

彼女は自身の周りの空気、高圧低圧自在に操った為空を飛び、スピードも変えている。

 

 

その頃、オネストの一室では

 

「き、きっと日頃の激務のせいで疲れているのでしょう…私ほどこの国を愛し、国の為に身を粉にして働く者はいませんからね。寝て目を覚ませばあの忌まわしい木屑も素のダイヤに戻っているはず!さあ善は急げ、さっさと寝ますかね」

 

ベッドが重さで軋むものの気にせず、床につくオネストだったが…

 

「ぶはっ!?なんだこれは!息が苦しい!風が!!なんだ一体!窓も開けていない!ひーおばけー!?」

 

得体の知れない突風や空気の濃淡が彼の周りに渦巻いた。

 

 

「さて、月が綺麗な夜だな…うふふふふふふ」

 

エスデスは不気味に微笑んだ。

 

「この世界のタツミに会うとしよう!たっぷり可愛いがってやるからな!」

 

その頃、この星の本来のタツミは人里を襲う危険種を始末する為、険しい山の中で探索していた。だが、こういう時は一向に現れない。

 

「夜だと襲い易くなって来るかと思ったけど、来ないなぁ…こっちは外れか?ラバと合流するかな…ん?」

 

その時、月を背にエスデスが急降下してきた。

 

「ターーー〜ツミーーーーーー!!!」

 

「どわあああああああああ!!!!??」

 

タツミの近くに激突し、軽いクレーターを作り且つ粉塵を撒き散らす…迷惑の極みをしてのけた。

 

「げほ、ごほ、だ、誰だ一体…?」

 

「う〜ん、タツミ!明らかに初々しいなぁ〜私のタツミも良いがこのタツミも捨てがたい!」

 

いきなり現れた事にも驚いているが、普段の軍服姿では無いエスデスを見て二重の意味で驚きを隠せないでいる。

 

「エ、エスデス…!?…さん。ど、どうして此処に!?」

 

「愛故にだ、ぞ!」

 

「意味がさっぱり分かりません!」

 

「…むぅ〜そうか、この世界では初めましてになるのだな。…という事、この世界にわた…いや、エスデスも居るという事か…」

 

「?…え〜と、さっきから何を?エスデスさんですよね?」

 

一応正体は隠した方が良いので、

 

「私はエスデスというタツミが生涯想い慕う女では無い!」

 

くるくる回転し、無駄にキレのあるポーズを披露しながら

 

「私はタツミの体と心を愛で支配する魔法少女、マジカルエスエスだ、ぞ♡」

 

タツミはかつてない程の困惑と険しい顔つきになった。

 

「ど…どうしたんですか?エスデスさん?…頭でも打ったんですか?」

 

「ああ、その呆れ果てた顔も悪くないぞ!」

 

タツミは心の距離を1m離した。

 

「とにかく、私はエスエスだ。エスデスでは無い!」

 

「いや!どう見たってエスデスでしょ!じゃなけりゃなんで俺の事知ってんですか?」

 

「ふっ、私が魔法少女だからだぞ!お見通しだ。」

 

「だーもう!何からツッコめば良いんだ!そもそも魔法少女って、エスデスさん年幾つだよ!」

 

「ああ、もうよんひゃ…………ごほん!25だぞ!」

 

「ん?初めなんか四百?魔女の設定を作り混んでいるのかな?それでも結構年上だったんですね」

 

「む?タツミは幾つだ?」

 

「俺は17ですよ」

 

エスデスは心の中で吐血した。

 

「タ、タツミ?8歳違いなど、た、大して年の差にはならんからな?」

 

「え?ああ、はぁ…そうですか…うん、まぁ良いや」

 

「全く良くは無いぞ!」

 

「……良く分かりませんが、なんで此処に?」

 

「うむ、魔法少女としてこの国の者達を救いに来てやったのだぞ!」

 

「へぇ〜え。前に弱い奴は死んでも当然みたいなこと言ってましたけど、良い心境の変化ですね(上から目線は変わってないみたいだが)」

 

「む?それはかなり昔の話だぞ」

 

「昔?いや、そんなに経ってないですよ?」

 

「ふっ、私3日逢わざれば刮目して見よ!と言うだろ」

 

「言わないですって、しかも言ってる漢字違う気しますし…ああ、もう話進まねぇ!とにかく俺はこの山の人を襲う危険種を退治しに来たんです。協力してくれませんか?」

 

「そうか…ここの世界ではそのようなイベントがあったのだな、ふふふ」

 

「何ですかイベントって?しかも全然楽しく無いですからね?人が襲れてるんですからね」

 

「まぁ、待て愛しきタツミ。人とて他の生物を殺し喰っているのだ。全くの無罪では無いと思うぞ?」

 

「え……?え、いやまぁそうですけど、貴女本当にエスデスさんですか?本当にどうしたんですか、一体?」

 

「うふふふふ、もっと惚れても良いんだぞ?最も我が夫の影響だがな」

 

「え????エスデスさん結婚してたんですか?」

 

「む?う、うむ、まぁそんな所だ」

 

エスデスは内心、この世界のタツミと恋人以上、夫婦未満な雰囲気のみだけでも作って楽しもうとしたが、それを言うと出来なくなる恐れを憂慮した。

 

「うわーもう、情報過多で頭がパンクする!」

 

「タツミ?私が結婚していたら…残念か?」

 

「え?ああ、いや、どうだろう…?あれ?でも、旦那さんがいるのに…前に部屋で何で俺にキスして来たんですか?確か愛人は作らない。1人だけに絞るみたいな事を…」

 

「だからそれは…」

 

彼らが会話している最中に、遠くから声が聞こえた。

 

「とお!!」

 

竜の危険種に跨っていたこの世界のエスデスが彼らの存在認め、付近の地上へと降り立った…再び砂埃を周囲に撒き散らし、

 

「このような夜更けに何をしているお前ら……ん?タ、タツミ♡」

 

武器のサーベルを構え、睨み付ける顔から一瞬で乙女の顔に変わったエスデス。

 

「え?え?え?エスデス!?こっちの人もエスデスさん?あっちもエスデス?ど、どうなってんだ!?」

 

「やはり…居たか…面倒だからタツミ、私の事はエスエスと呼ぶと良い」

 

「いや、ええあれ?どういう事だ?」

 

この世界のエスデスはエスデス…エスエスを見て、いきり立った。

 

「貴様…私の似た姿と妙なナリをしているが…まぁ良い。大方何かの帝具か変装だろう…捕らえて拷問に掛けてやる。大人しく捕まれば吐かせた後、少しは楽に死なせてやるぞ?…そして、タツミ?この者を直ぐに始末して助けてやるからな♡」

 

 

「え?ええ?ええ〜〜〜」

 

どうすれば良いか分からず困惑する。

 

 

「はぁ…やれやれ…認めたく無いものだな…若さ故の自らの誤ちというものは…こんな事になるなら来なければ良かったか…くくく」

 

自嘲気味に笑ったエスエスは、

 

「未熟者、少しだけ相手をしてやるから掛かって来い!…タツミ、私の後ろに居てくれ」

 

どうしたら良いか分からず、軽い混乱状態の彼は素直に従った。

 

「貴様!タツミから離れろ!」

 

エスデスは氷槍を無数に投げ飛ばす。

 

その時エスエスは周りに見えないバリアを張る。

タツミは幾ら彼女の後ろといえど、迎撃しようと前に出ようとするが

 

「お、おお!」

 

次々にそのバリアに吸い込まれ消えていく。

 

 

「すげー!何かの帝具ですか?」

 

「ん?いや違うぞ。…元は同じだったがな。我々の先達が持っていた技術を私は受け継ぎ、そして帝具はその先達のを部分的に用いた…と言ってたぞ」

 

「?」

 

 

ーーーーーー

 

 

「ひーー!ーーーほーーーはーーー!」

 

 

その頃、宮殿のオネストは自室に大量の氷槍が降り注ぎ、辛くもかわしきり激しく動揺していた。

 

「ななななな、なんだこれは一体、一体私が何をしたというのだ!この氷はまさか…おのれ、あの小娘裏切………ひーーーー!」

 

 

ーーーーーー

 

 

「おのれ、妙な技を使う……貴様も帝具使いか?ではもう少し本気でいくぞ!」

 

「少し本気?くくく、死ぬ気で来い!おっと、タツミが居たら本気は出せぬか?良いだろう。もう少し遊んでやる!…タツミはここにいるんだぞ♪」

 

「エスエスさん俺も一緒に戦か…いや、どっちの味方すれば?」

 

「ふふふ、悩む姿も悩ましいぞ!」

 

エスエスはタツミをそのままにバリアの外に出て、先程よりも激しさが増したそれを手持ちのステッキで弾いていく。

 

「少しは出来るようだが、まだまだいくぞ!」

 

エスデスは氷槍の他更に、頭上に巨大な氷の塊を顕現させる。

 

「逃げ場は無いぞ!ハーゲルシュプルング!!」

 

「くくく……ならば、ダークネス・メガキャノン!!」

 

地上から巨大な大砲が顕現され発射、轟音が鳴り響き空に向かって数十キロ離れた場所からでも分かる程の射線が見えた。

 

エスデスが顕現させた氷は砲の直撃や風圧でほとんど吹き飛ばされてしまった。

 

 

「な………!?」

 

「す………すげーーあなたは一体!?」

 

「んも〜タツミ、そんなに褒めるな?もっと惚れても良いんだぞ♪」

 

エスエスは自分に対する今までにないタツミの素直な反応に照れて喜んでいる。

 

だがエスデスは…

 

「おのれぇ………気が変わった、生捕りなどはもうせん、殺す!」

 

「くくく、ここまで実力差を見せつけられて、まだ分からぬか?未熟者」

 

エスデスは一呼吸置いた後、手を素早く交差させた後に技名を叫び。

 

「摩訶鉢特摩!!!」

 

周囲の時間を凍結させる大技を放つ…だが、

 

「!?…摩訶鉢特摩返し!!」

 

エスエスは素早く手の交差をした後、払う動作を行い術者に跳ね返した。

 

「!?……………」

 

エスデスは固まって動かなくなった。

 

「え?え?何が起こったんだ?」

 

タツミには2人が何やら手をバタバタ動かしたようにしか見えていなかった。

 

「今のは危なかったぞ、タツミ?流石に私でもあれをまともに受けていたら止められていた……」

 

「何だったんですか今のは?」

 

「先程のは、辺り一体の時間を止める技だ。…タツミをもう2度と逃すまいと編み出したわ、ざ……………ぐっ」

 

「どうしたんですか?まさか、今の技が!?」

 

「いや………我ながら自らの恥ずかしさに……物理的に足止めしたからといって、相手の心がどうにかなる訳でもない…自分に惚れさせる自信が無い故に…うっ………ある意味キツイものだな、昔の自分を見るのも……」

 

「……?ええと、その意味は?…ひょっとして、エスエスさんは生き別れのお姉さんですか?」

 

「…ふふふ、まぁ、そんなものかな……」

 

エスデスはまだ固まったまま動けない。

 

「さてとタツミ♪願いを叶えてやるぞ!…は!?私とデートか?もう仕方ないなぁ、特別にしても良いぞ♪」

 

「いえ、そんな事一言も言って無いですから!」

 

「全く釣れないな、そういう所も夫とそっくりだ。ふふふ…だがその前にシュラ、そこに居るのは分かっているぞ!大人しく出てこい!」

 

 

岩陰から渋々その相手は出てきた。

 

「ちっ…てめえは誰だ?どうして俺の名が分かった!あのエスデスを倒すなんざ、お前本当に一体誰だ?」

 

「うるさい奴だ、エスデスを今のうちにさっさと南の島でも北の国からでもシャンバラとやらで送ってしまえ。」

 

「な!?俺の帝具の事まで知ってやがるのか!?益々持って一体てめぇなにもんだ!」

 

「良いだろう…お前如きに問われて名乗る名など無いが、仕方ないので教えてやろう。ふっ、私は魔法少女マジカルエスエスだ!」

 

再び謎の決めポーズを取っている。

 

タツミは少し距離を取った。

シュラはそこで豪快に気持ちの上で吐いた。

 

「ふざけんな!少女だぁ!?ババアの間違いだろうが!?」

 

 

その時、周囲が…主にシュラの周辺が凍てつき始めた。

 

「ほ〜お………よく聞こえなかったな…もう一度……」

 

 

シュラは帝具のシャンバラを即座に発動させ、エスデスを直ぐに何処かに転移させ本人は凄いスピードで走り去っていった。

 

「ふっ、小物が」

 

「な、何だったんだ一体…それよりもエスデスは大丈夫なんですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。しばらくすれば自力で戻って来れる」

 

「そんな事よりもタツミはエスデスの事をどう思っているんだ?」

 

「え?ええ〜……、綺麗な人だとは思いますけど、考え方がちょっと…合わないかな?改めてくれたら女性として…その…見るかもしれないですけども…」

 

「……そうか」

 

 

タツミはエスエスが何やらガッカリしているよう見えた。やはり、エスエスはエスデスの生き別れの姉でエスデス本人も知らないだけではないかと思った。

 

そして彼女は先の戦いで吹き飛んだ箒を探し当て、それに跨りタツミに後ろに乗るよう促す。

 

「えっと…やっぱり箒なんですね…後ろに乗れと…2人乗りで大丈夫なんですか?折れたりしないかな…」

 

「心配するな。しっかり捕まるんだぞ♡」

 

「ええ、それじゃあ…」

 

 

タツミはエスエスの後ろに跨り、ぎこちなさに戸惑っている。

 

「もう〜タツミ〜そんなのでは駄目だぞ。もっと密着し…そうそう、そして両手を私に回すんだ」

 

「え?ええ〜……………」

 

夫のタツミだとこの辺りで罵倒の一つや二つ飛んでくるが、若い彼だと素直な為そういう所が無く、エスエス…はかなり満足していた。

 

「んん、タツミ、何処を触っているんだ?もっと上の方…」

 

「ええ?そこは不味いでしょ!?」

 

「駄目だぞ♪それでは私の魔力(?)が持たなくなる」

 

「魔力なんですか?いや、もう良いやどうでも。ああ、いやいや」

 

「しのごの言わずに掴むんだタツミ!」

 

エスエスはタツミの両手を自身に胸に当てて、直ぐに飛び立った。

 

「え?いや、うわーーーーーー!!!!」

 

 

自分が飛ぶのとは違い、エスエスに委ねなくてはならない為タツミはしっかり彼女にしがみざるを得ない。その為、互いに色んな所が触れている。

 

「うふふふふふふふ、最高だーーー!」

 

エスエスは恍惚の表情で叫びだす。

 

「どわーーーーースゲェーーーー!!!」

 

タツミは彼女とは違う意味で喜んだ。

 

一気に雲の付近まで急上昇したかと思えば、急降下し海へ出向き海面スレスレで爆飛行し、急に止まったかと思えばエスエスはステッキを振るい、数キロ程海を割り地表面が現れ、横にして数百メートルぐらいとなっている。

 

「おおおおおお!!!」

 

タツミが驚いているのに気を良くし、割った海の地表スレスレを飛び、再び戻ろうと迫る海の水をかわしながらも、最後は海に飲み込まれるが、気にせず飛び続け刹那海中飛行をする。その間、ステッキで周りを大きく照らし、彼はその状況に目を見張る。

頃合いを見計らい海上に飛び出し、今度はゆっくり飛んでいる。

濡れた体をエスエスは適温で発熱し、タツミもかわかしている。

 

「うおおおおおーーースゲェスゲェスゲェ!面白過ぎるぜ!!」

 

「ふっふっふーーん!!」

 

タツミの興奮にエスエスはかなり気を良くしている。

 

 

「エスエスさんはスゲェ!!やっぱり貴女は魔女なんですね!!」

 

「……………」

 

「ええっと…魔法少女なんですね!」

 

「うむ、そうだぞ!私はこの世界でならば大抵の事は出来るからな!」

 

「おお!じゃあ、じゃあ、死んだ俺の仲間を生き帰えらせれますか?」

 

「ん?………………」

 

 

エスエスはそれまでこの世界のタツミは自身の夫が若い頃はこういう反応をするだろう想像とほぼ一致していたが、今の発言は想定外だった。

 

 

「ど、どうでしょうか……」

 

エスエスの視点からはタツミが仔犬のように哀願する様に見え、心が激しく揺さぶられたが、辛くも踏み止まった。

 

「だ、ダメだぞタツミ、そ、そのように迫ってきても駄目なものはダメなのだからな!」

 

「え?迫る?」

 

「全く無自覚は怖いものだな…確かに条件は厳しいが、出来なくは無い…」

 

「ほ、本当ですか?それじゃあ」

 

「だが駄目だ!」

 

「うっ………」

 

 

「…昔、死んだ者を蘇らせられる星があってだな。そこでは確かに初めは…死んだ親しい者が蘇る事で、喜んだ…だが、そのうち命の重さを軽んじるようになり…結果だけ言えば、その星の者達は全滅した」

 

「な…?」

 

「後で生き返らせれると無能な国のリーダーが愚かな国民達に言い続け、国同士で戦争も終わらず…そして、生き返らせれる者がいなくなってだな…」

 

「私は救うと言ったが、結果として滅ぶ手助けはしないつもりだぞ?」

 

「す、すみません…俺が浅はかでした」

 

「ふふふ、自らの過ちを素直に詫びれる、そういう所は好きだぞ♪」

 

エスエスはタツミの額に口付けた。

 

「あ……」

 

「ふふふ、とりあえずは何処に行けば良い?」

 

「俺の…故郷の隣村に行って下さい」

 

「隣村か?うむ、分かったぞ」

 

エスエスはタツミの額に額を付けて精神感応で場所を探る。

 

顔近い…と彼の心拍数が上がる。

 

「うむ、大体の場所は分かった。では夜明けも間近だな、行くぞ!」

 

 

 



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魔法少女が斬る!(恥を斬る!) (後編)

丁度、朝方となり故郷の隣村付近に降り立つ。

 

「それでタツミ、一体何をして欲しいんだ…はっ?まさか、先ずは隣村に私の事を紹介し…求婚するのだな!だ、駄目だぞ、私には夫が…」

 

「はいはい…この村と俺の村との間に山から流れる川がありましてね、その川の水を生活に使っているんですが、その事で前から揉めてたんです」

 

「んん〜〜〜タツミ、つれないぞ!全く私の夫に少し似てきたぞ!」

 

「…………、それで俺の村の方が下流にあるんで特に飲み水の事で揉めてます」

 

「全くタツミは…そういうつれない態度で私の気を引こうとするのだな?その手には乗らないぞ…ぐふふふ」

 

「それでですね、水の浄水にはかなりお金が掛かってしまって、俺の仕送りでもどうにもならないです。何とか出来ませんか?」

 

「………、私の心は少し寂しいぞ?」

 

「お願いします!!」

 

タツミは頭を下げて頼む。

 

「………先ずは現状を教えてくれ」

 

日が上り、村の人達が川の水で洗濯し飲料水として汲み上げたり、生活排水を捨てている。

それぞれの家近く、村の中まで水は引いているが水の量も弱く設備も不十分な為、川まで来て行うも者が多い。

 

「これでも前よりはマシになったんです。それでも俺達の村に来る水は汚れていて…砂利とかで濾過もしてるんですが、余り上手くいかなくて…病気になる人や寄生虫にも掛かって…だから俺、帝都の水飲んだ時は綺麗で美味いなってびっくりしましたよ」

 

「う〜む〜……さて、どうするか?一時的に解決するならば簡単だが…真の解決にはならん…かと言って介入し過ぎると後で(夫の)タツミに怒られる…」

 

「?」

 

「タツミ、1か月だけなら問題を先送り出来る。」

 

「…と言いますと?」

 

 

「私の魔法でその期間ならば汚れた水を転移出来る。だが、その間に打開策を講じるのだぞ」

 

「1ヶ月!?その間に…出来るか…俺に」

 

「臆するなタツミ!先ずは汚れた川の水を転移させてやろう」

 

然程広くは無い川、確かに汚れが目立つ。

エスエスがステッキを振るい、川を横切った辺りから水が明らかに綺麗になっているのが判る。

 

「おお!流石!」

 

「さぁタツミ、時は待ってくれないぞ。今からでも村の者に話し、妙案を出すのだ。下手をすれば隣村の者達が訝しみ、余計な争いの種になるかもしれないぞ!」

 

「はい!」

 

 

一方帝都宮殿のオネスト一室では、

 

「全く、昨日はとんだ災難…日頃の行いの良い私が何故…?おのれ……」

 

部屋の中を荒らした氷槍は溶けて無くなり、ダイヤは木炭に変わったままだった。

 

「馬鹿な!!」

 

オネストは怒りの余り、それを握り潰す。

 

「ちっ……一体誰の仕業、見つけ次第惨たらしく殺してやる…喉がかわいた…水なんて不味いが、まぁ良いでしょう…」

 

帝都の、特に宮殿の水は皇帝もいる為、浄水がしっかりしているので健康にも良く、味も良い。蛇口を捻り、オネストはコップに注いだ水を確認しないまま、飲み干す。

 

「………ぶっはーーーーまっず!!!」

 

それは例の汚れた川水だった。

 

「なんだ、この不味いのは…………ゲホゲホ、だだ誰だ管理責任者は!?殺してやる!」

 

宮殿内で勤務する者達からも同様の被害が出た。

 

 

タツミは、故郷の村にエスエスの協力で綺麗な大量の水を多くの樽につめ、村長に渡した。

 

「おお!タツミ元気だったか?いやいや、これだけの…おお、おお。これは美味い。飲水として使おう。これだけ有ればしばらくは困らんな。腐らんように密閉もしとかんとな……なになに?早めに隣村と協議して、浄水出来るようにだと?難しいのう…あやつらは頑固者だからなぁ」

 

「頑固者は貴様だ、愚か者!」

 

「な、な?きゃ、客人、一体誰だあんたはいきなり?」

 

それまでタツミの後ろで黙っていたエスエスは叱りつけた。

 

「エスエスさん!?」

 

「聞いていれば、他人に責任転嫁か?自らの無能を他人の責任とするな!」

 

「客人…水の提供は感謝するが、いくら何でも失礼だぞ」

 

「村長すみません、この人は帝都の…将軍なんです」

 

「なっ……。………、すまないがワシらには金も知恵も無い…どうすれば良いかわからん。どうか教えてほしい……」

 

「帝都にはその辺りで優秀な技術者がいる。そいつに頼ませよう。後は隣村との話合いはお前がするのだぞ」

 

「…………」

 

「そうだな、分かった…ワシらに出来る事はワシらがしよう…ところでタツミ、サヨとイエヤスは元気か?一緒におらんようだが?」

 

「あ……、あいつらは帝都での仕事で忙しくて…」

 

「そうかそうか、元気なら良い。いつも3人で村への仕送りありがとうな。将軍、後でせめてものご馳走をさせて頂きたい。それまではタツミ、お前の家は時折清掃しているからな。最低限は大丈夫だろう、お休みさせてやれ」

 

村長はタツミだけ呼び寄せ、

 

「何とか将軍に村が納める税金を安くして欲しいと話してくれんか?こないだも1人薬代も無く死んでしまった……」

 

「……………」

 

タツミの家は丸木で組まれた決して裕福とは言えないものだった。

 

「エスエスさん、どうぞ。村長掃除したって言ってますけど、大して綺麗じゃないな…あはは…」

 

「タツミ、先程の仲間達は……」

 

「ばれちゃいましたか?ええ、3人で帝都で一旗上げようとしたんですが、悪い奴に捕まって2人共、拷問で殺されました……仇はとりましたがね……」

 

怒りと悲哀を込めた表情でタツミは窓に手を当て、外を眺めた。

 

「………そうか、辛かったろうな…その時にナイトレイドと遭遇したのか」

 

「どうしてそこまで!?さすが…魔女なんですね」

 

エスエスは至近距離まで顔近づけ、互いの鼻頭がぶつかる。

 

「タツミ?次そう言ったら、その唇に口付けるぞ、全力で!」

 

「何が違うのかよく分かりませんが、よ、よくわかりました」

 

「まぁ、1厘冗談はともかく」「ほぼ本気じゃないですか!」

 

「タツミの額に付けてこの村の場所が分かった時、過去も見せて貰ったからな」

 

「すっげ……本当何でも出来るんですね………」

 

「ナイトレイドの特に、桃色髪のツインテールの悪女には気をつけるんだぞ!」

 

「ん?ああ、マインの事ですか?あいつは性格悪いですけど、別に悪女という程じゃ……」

 

「いいや、悪女だ!良いか気を付けるんだぞタツミ!」

 

「???は、はい……」

 

「では本題も済んだ事だし、副題へと……」

 

「ええ?ええ…今の本題ですか?とにかく、俺が1ヶ月以内に決着させなければ…しかしどうやって帝都の技術者を…お金だって相当…」

 

「大丈夫だぞ?タツミが帝国の体制を期間内に変えれば済む事だぞ?」

 

「ぐはっ!?1ヶ月?どどどどうやって?ボスに相談、俺に出来る事なんてせいぜい悪い奴を倒すぐらいしか……」

 

「むっ!ナジェンダ…………」

 

「ボスがどうしました?」

 

「何でもない!昔、同じ名前の奴に少しだけ煮湯を飲まされた事があっただけだ」

 

「ええ?ああそうですか」

 

その時、村人が歓待の為呼びに来たので一旦話は中断した。

 

夜寝る為再びタツミの家に戻り、

 

「そういえば昨日から徹夜でしたね、流石に眠いな…エスエスさんはベッドで寝て下さい。俺は別の部屋で適当に寝ますんで」

 

「私は寝なくても……いや、眠いな♪タツミそんな寂しい事を、一緒に寝よう、な?」

 

「いやいやいや、駄目でしょ!」

 

「むぅ〜タツミは奥ゆかしいな、もっと素直になって良いんだぞ?」

 

「いや、人の嫁さんと一緒に寝ませんから」

 

「私の夫は初めの頃、共に部屋で寝た事があったが自分がベッドで寝て、私に床下で寝ろと言ったぞ」

 

…最も、当然ベッドで共に寝たがな、ふふふふ。と言う大事な事はエスエスは目の前の彼には言わず黙っていた。

 

「………旦那さんも結構鬼ですね」

 

「そうだろそうだろ♪だから可哀想な私と一緒に…」

 

「ではお休みなさい!今日は有難う御座いました」

 

「タ、タツミ〜〜〜……」

 

そして、タツミは別の部屋で服を重ねて枕を作って、他の服を布団代わりに寝ていた。そこに、エスエスは気配を消して忍び込む。

 

「ん?どうしました?トイレはあっちですよ?」

 

「あ?そ、そうか?うむ、わかった」

 

く………若くてもさすがタツミ、私の気配に気付くとは……

エスエスは歯噛みし、死んだように深く眠りになるように術をかけ、タツミをベッドに連れ込み抱きしめる。

 

「タ、タツミ…こ、これは浮気では無いからな…はぁはぁ、ただ、匂いを堪能するだけだからな…クンカクンカ」

 

 

翌朝。

 

 

「エェすエェすさん!!!なんで俺がベッドに居るんですか??」

 

「そ、それはタツミが夢遊病だったからだな。それでだな、うむ!」

 

「エスエスさん?俺の目を見てください」

 

「そ、そんな見つめられると照れてしまうぞ……」

 

「やっぱ嘘だ!」

 

「タ、タツミ!?」

 

エスエスは床下に正座させられ、タツミは5分程説教した。

 

エスエスは、若いタツミに怒られる事にも喜びを感じており、全くダメージを受けていない。

 

「はぁ………全然反省してないですね?」

 

「そ、そんな事はないぞ?海より深く反省したからな!」

 

 

「……なんか旦那さんの気持ちが少し分かった気がする…俺、エスエスさんの事尊敬し始めてたのに、………なんだか……ああ」

 

私を尊敬していたのに、失望するタツミ……!それも良い!

 

「何ニヤニヤしてるんですか!?」

 

 

 

その後、タツミとエスエスは村を後にし、他にも解決して欲しい案件…貧富の差、隠れた身分制度、食料問題などタツミは頼んだ。結局それも一時凌ぎにしか過ぎず、数日経ち根本を解決する必要性を彼は改めて感じた。

 

「俺はなんて無力なんだ……」

 

「そうだな、今のタツミではまだ無理だな♪」

 

「笑顔で言わんで下さい」

 

「落ち込むタツミも可愛いから、仕方ないな♪」

 

「……本当色んな意味で強い人ですね」

 

「大丈夫だぞ♪マイダーリ…夫とある程度近い素質はあるからな!その内かなり成長するぞ♪」

 

「……度々出てくる旦那さん、俺と同じ名前でしたよね?どんな人なんですか?」

 

「可愛さは良い勝負だぞ♪」

 

「いや、そんな話どうでも良いですから!」

 

「むぅ〜……大事な事だと思うのだがな?仕方ない、若いタツミが面白がりそうな話をするか……あれは2人である星に調査に行った時だった」

 

ホシ?時々聞くけど、あの空の星の事だろうか?

疑問に思ったタツミだがとりあえず話を最後まで聞く事にした。

 

「そこの住人ではどうする事も出来ない相手がいてな、しかもその時は我々が直接手を下してはならない制約もあった……私も悩んだが、夫はその時何やら眼力でも使ったのか…その相手自ら死んでしまったぞ」

 

「え?それって何かの術?催眠術ですか?…あ!もしかすると遅効性の毒とか?」

 

「後で……夫に激しく聞いたら、ぐふふふふふ」

 

「どうして顔紅くなっているんですか?」

 

「うほん!とにかく、夫は相手の中にある罪悪感を増幅し、その者の中にある良い心…仏心を震わす技…術と言っていたな…」

 

「……………!?」

 

「私にも出来るか?と聞いたら、あんたは余りにも罪を重ね過ぎたから駄目だと言われた…全く…夫の方が殺した数は上なのだがな…それでどうしても使いたければ、全て無になり、記憶も無くなり、一から人生をやり直すしかないとな。最も次も人として生まれてくる保証は無いとも言われた…ふふふ……」

 

「はぁ……………。旦那さん凄い人ですね……」

 

「ん?タツミももしかしたらこの先、使えるようになるかも知れないぞ!」

 

「罪を重ねない…か、帝国の軍隊も警察もそれに連なる奴らも腐敗して無実な人間を殺している…ナイトレイドも悪党だけ殺している…でも……、そんな奴らでも殺さずに改心させられたら…そんな殺さずとも良い世の中を作った方が良いのかも……出来るだろうか俺に……」

 

「うふふふふ、悩むタツミもやはり悩ましいな…ふふふ」

 

「人が真剣に悩んでるのに…無敵ですか!?貴女は!!」

 

「うふふふ、いや…それほどでも〜」

 

「何度も言いますが、褒めてないですからね!」

 

 

 

 

そう言い合う2人は人の目付かない広い場所に居た。

ふとエスエスは喋っていたタツミの口を人差し指で抑えた。

 

「むぐ………」

 

「来たか…………思っていたより遅かったな」

 

エスデスは飛行出来る危険種を操り、上空に現れた。

 

「げっ、エスデス!?」

 

「タツミ…それは私の心にも刺さるから、その……未熟者だが余り邪険にはしないでくれ…」

 

「え?は、はぁ…」

 

エスデスは歯噛みしながら

 

「おのれ……、私のタツミを誑かしたな……」

 

危険種から飛び降り、2人の前に立ちはだかる。

 

「ど…どうしてこの場所が!?」

 

「苦労したぞ♪こうして広い世界で再び巡り会えるとは…私達は運命によりやはり結ばれているのだな♪」

 

「ふっ、未熟者。大方聞き込みでも重ねたのだろう、つまらない虚言だな」

 

「………お前、先だっては不覚を取ったが……こないだのようにはいかんぞ。貴様は若く見せているが本当はかなり年老いているはずだ、虚言は貴様の方だろう!」

 

互いの言う通りである。そこにタツミが割って入る。

 

「エスデス、もう止めてくれ!俺はあんたが味方になってくれたら嬉しいが、前に言ってた通り弱肉強食の考えを変える気は無いんだろう、だったらもう弱い俺に構う事は無いだろう!」

 

「確かにな…だが私も本能で動いている。タツミは今はまだ力不十分でも、私が育て上げれば私に負けぬ強さになると確信している!その時にでも私と結ばれて欲しい…ふふふ、最も今のタツミでも私は結ばれるのは一向に構わんぞ」

 

「くっ…」

 

「タツミ、ラチがあかんな。私に任せろ…おい、未熟者!貴様がそうして五体満足に生まれて来れたのは誰のおかげだ。母のおかげ、父や周りの助けがあっての事であろう」

 

「………それがどうした。私は強いからこの体に生まれ、こうして今の強さを手に入れた!」

 

「愚か者!生まれて間もない頃、非力であったろうにそれも分からず、弱肉強食などと只の他者を殺す言い訳にしか過ぎんぞ。その事も分からぬから、未熟者の貴様は私に叶わんのだ!」

 

「御託は良い、貴様への対策は考えた。私の力を見くびるな!」

 

「お前は弱い、弱い事も分からず周りに生かされている事も気付かぬとは、今この場で消し去ってしまいたいぞ!」

 

「この私が生かされているだと?私の力で生きているのだ、虚言を吐くな!」

 

エスデスは地面に手を当て、周りを囲うように氷柱を出現させ、それで逃げ場が無くなるように覆う。

 

「詰まらない小細工だな」

 

「もうこないだのような逃げ場は無いぞ。全方位から貴様を串刺しにしてやる」

 

「………くくく、一つ面白い事を教えてやる!貴様の拷問癖……元は弱かったからだぞ」

 

「……何を?」

 

「我々…この場合は人間の遠い先達は危険種達に襲われて喰われるだけの非力なものだった。恐怖だったろう、いつ殺されるか分からぬ日々が…だが知恵を付け、他の者と協力し次第に強者へと変わっていった……だがな、殺され続けた日々の恐怖は今も残っているのだ。だから、幾らかでも危険な者は排除…自分達の生存を脅かされないよう…自分達は強いのだと誇示する為により残酷な方法でより戦い好きになったのだ…それも弱さの裏返しだ!」

 

「エスエスさん……」

 

「私が…私の先祖達が元は弱いから…戦いと拷問を好むようになった、だと?……くくくく、ははははは!絵空事にしては少々面白かったぞ?」

 

「…………、全く我が昔の己の方がこれよりも少しは知性があると思いたい………いや、当時の私も大して変わらぬかな?…………ふふふ、ははは…はぁ……」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「…心配してくれるのか、タツミ?…ふふふ、タツミが応援してくれるなら、私は破壊神にもなるぞ♪」

 

「いや、それはならなくて良いですから!」

 

そして、

 

「ふっ…タツミ、どうだ?未熟者…エスデスは強く見えるか?」

 

「え?ああ…こないだより酷く疲れているんじゃ無いですか?寝てないのか?」

 

「いや、以前より少しだけ腕を上げてるぞ。そう見えるのはタツミが強くなっているからだぞ」

 

「え?俺この数日何もしてませんよ?」

 

「まぁまぁ、エスデスと勝負してみるんだ。何かあれば私が援護するからな♪」

 

「うっ……そうだな。いつかエスデスとは必ずぶつかるんだ。やれるだけやってやる!」

 

「うむ、タツミその意気だ!後の事は考えるな!全力でいくんだぞ!」

 

「はい!」

 

 

エスエスの前にタツミは立ち、エスデスと対峙する。

 

「む?どうしたタツミ?私はそこの年詐称の色狂いの老婆に用があるのだぞ?」

 

「タツミ……やはり、私が未熟者を始末しよう……」

 

「いや…エスデス…俺が相手だ。此処で差し違えてでもお前を止める!」

 

「くくく…タツミ?予定が狂ったがまぁ、いいだろう。安心しろ、タツミは私色に染め上げてしっかりと育てるからな?ふふふ」

 

「余裕ぶるな!!はあああああ、インクルシオ!!」

 

タツミは刀…帝具のインクルシオを地面に突き立てて、変身する。

 

「ん?インクルシオ…タツミ……?」

 

危険種インクルシオをタツミのサイズになるように身に纏い、彼が知っている形態からより進化した状態になっている。

 

どうしたんだ……周りがゆっくりだ、そして静かだ。何だか力がより漲って、感覚が今までと違う……

 

「ふふふ、ははは……良いだろうタツミ、タツミも帝具使いだったとはな…以前よりも更に成長しているな、私は嬉しいぞ!さぁ、タツミ!私の実力を見せて、改めて私に惚れさせるぞ…来いタツミ!」

 

「うおおおおおお!!!!」

 

「!?」

 

エスデスは自身が作り出した氷壁を突き破り、その外へと吹っ飛び気絶した。

 

「ん?あれ?んんん???」

 

タツミは自身の最速でエスデスの懐に飛び込み、直前で防がれるだろうと思ったが一向に防御する気配が無い。彼はエスデスが甘く見てるからだと思い、渾身の力をぶつけた。

 

結果、

「エスエスさん!これは一体……エスデスは油断を誘っているんでしょうか?」

 

「違うぞタツミ、奴はダウンしたぞ。タツミの勝ちだ……くくく、タツミの急激な成長を奴は理解出来ず見誤った…自身より10段程上なのにな。ふっ、強過ぎる相手は理解出来ないものかもな…ふふふ」

 

氷壁は崩れ去り、エスデスは暫く目を覚さない。仮に覚ました所で痛みで戦闘不能が続くとエスエスはタツミに伝えた。彼もインクルシオを解き、

 

「し、信じられない…夢でも見てるのか俺は?」

 

「タァツゥミィ!よくやったな、偉いぞ!」

 

「ありが、ふがふご」

 

エスエスはタツミを自身の胸に押し当て、頭を撫でる。

 

「ぷはっ、どういう事ですかこれは一体…」

 

「うむ、説明するぞ!私はタツミの額に口付けた時から、タツミが徐々にだが短期間で数十年分成長するようにしたぞ。だから頭の回転も早いはずだ」

 

「そうか、それで…有難う御座います。だからあの時額に…」

 

「ああ、特にする必要も無かったが…私がしたかったから、したぞ♪」

 

「………やっぱり俺、貴女にはずっと叶わない気がする…」

 

「もうタツミ〜求婚しても駄目だぞ♪」

 

「いや、して無いですから!」

 

 

「……だがな、タツミ?この急成長が維持されるのは1ヶ月位だ。その後は元の今のタツミの実力に戻るからな?」

 

「え!?」

 

「だからその間に色々な事に決着を付けるんだぞ!」

 

「そ、そうか…今の俺は…数十年先の俺はエスデスも簡単に倒せたんだ…そうだな、こんな奇跡本来無いんだ…有難う御座います、この機会を無駄にしません!」

 

深々と頭を下げる。

 

「ああ、今のタツミならこの世界でならば…どんな相手でも殺さずとも無力化出来るぞ…そして、楽しい時間はそろそろ終わりだな…怒られてしまった…そろそろ帰らねば」

 

「え?怒られた?……」

 

「私の方こそ礼を言わなくてはな、ありがとうタツミ。………最後に一つ、あの未熟者…エスデスを気には掛けてくれぬか?奴も本当は寂しがり屋なのだ…今のタツミの言葉なら奴に届く。その……出来たら一緒になって欲しい…」

 

「え?……ええ〜と、それはエスエスさんの頼みでもちょっと……」

 

「うううううう」

 

エスエスは涙を溜めてタツミの手を取り顔で訴える。

 

「ええ、ああ、い、一応善処します!」

 

「げ、言質は取ったからな!タツミは建前で言うような男では無いと、信じてるぞ!」

 

「は、はい…」

 

次第に彼女の体が透けていく………

 

「もう少し話をしたかったが、強制送還か………ふふふ、そんなに私に逢いたいのか?困った夫だ」

 

「エスエスさん!!」

 

エスエス…此処とは別の世界のエスデスは笑顔のまま、完全に消えていった。

 

「………今の俺なら何となく分かる、貴女はきっと遠い未来のエスデスさんなんですね…」

 

 

 

 

再びエスデスは本来自分が居るべき場所へと戻ってきた。

その広大な執務室に彼女1人ではなく、もう1人背を向けて座っていた。

 

「タツミ…?怒っているのか?」

 

「………………」

 

「無断で出掛けたのは悪かったが、途中から覗き見してたのは分かってたぞ♪」

 

「………俺は知っての通り、元々あんたが好きになる予定だった本来のタツミじゃない…今からでも構わないぞ?そいつに鞍替えしたって」

 

「………?それはつまり……、嫉妬しているんだな?うふふふふ」

 

「不気味に微笑むな!」

 

エスデスは一瞬で消えて、タツミの後ろに現れ抱きしめる。

 

「確かに、本来はそうだったかも知れないが…もう貴方と出会って幾星霜、今更変わらないぞ?それにタツミだって私と出会わなければ………先に別の女に手を出されていたら、………その女と一緒になっていただろう?」

 

「……………」

 

「それみろ!そうだろ、そうだろ。ふふふ、これも一つの縁。それで良いだろう?」

 

そう言ってエスデスはタツミの頬に口付けたが、彼はそっぽ向く。

 

「ん?まだ他に怒っているのか?あのタツミと少しだけ良い気持ちになった事か?匂いを心置きなく嗅いだ事か?……うう〜ん…心を強力に閉ざしているから、私でも読心出来ないぞ?」

 

「………………」

 

「……?んん〜……ああ、分かったぞ!一番に怒っているのはあのタツミにキスした事を怒っているのか?」

 

「うるさい!!」

 

「額だったのだから別にそこまで怒らなくても良いだろ?ん?」

 

タツミはそこで初めて、エスデスを少し睨む形で見る。

 

「んんは〜可愛いなぁマイダーリンは〜……くふふふ」

 

「笑うな!!」

 

「いつも口付けてると、”止めろ!”などと言って…そこを無理矢理するのが良いのだが、本当は嫌がっているのか?と少しだけ思う所はあったぞ?」

 

「…………」

 

「んふふふふふふ、そうかそうか私の口付けは例え手であろうと誰にも渡したくはないか?うふふふ。分かったぞ、改めてマイタツミにしかしないからな♡」

 

「うるさいんだお前は!年を考えろ!あんな若い奴の匂いや妙な所触らせて……そんな事よりもサボっていた分、やらなければならない事が溜まっているんだ、早くしろ!」

 

「全く少しは照れるだけでなく、素直になる事も覚えた方がいいぞ?」

 

 

そこから、遠くで一段と輝く2つの星が見えていた。

 



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もしもエスデスを仲間にする気が無かったら・・・(前編)

エスデスとタツミが会った時からの短編です。(焼き直し)


 タツミは夜空の下、街の奥を見据えていた。架けられた十字架、死体、夜中でもここまで微かに聞こえてくる拷問による叫び声。

 

「どうしたんだタツミ?」

 

この部屋の主のエスデスが声を掛けてくる。

 

「夜風に当たっているのか?それとも物想いに耽っているのか?ふふふ、感傷的だな」

 

 タツミはエスデスの住む宮殿でも地位の高い者にだけ許された上階の部屋、そのベランダから戻った。

 

「・・・・・・」

 

「タツミも湯でも浴びると良い、気持ちいいぞ♪」

 

 エスデスは風呂上がりで薄手のシャツと下着だけの欲情的な格好をしているが、タツミは無言で湯船へ向かう。

 入れ替わりにエスデスもベランダへ行き、夜風が火照った頬を撫で気持ち良く感じていた。ただタツミが感じた惨状は目に入っていない。

 

 浴室はシャワーもあり、水の整備が整っている。お湯も出て、この階層まで届くにはこの国の文明レベルではかなりの苦労を他に強いている。冷凍技術も無い時代に山奥で冷やしている氷を夏の暑い時に人力で遠方の権力者まで届けるようなものだ。

 

 タツミは湯船に浸かりながら、そのような事を考え手に残る湯を握りしめた。

 

「タツミ、まだ出ないのか?」

 

 エスデスが顔をのぞかせ、浴室に侵入してくる。

 

「濡れたタツミも可愛いな、ふふふふふ」

 

 エスデスは脱ぎ始め、服を部屋に置いてタツミが入っている湯船に入って来る。

 

「な・・・なんでまた入るんだ!?」

 

 タツミの上に覆うように座り、吐息も近い。

 

「タツミがイケないんだぞ?私を誘うような顔をするからだ」

 

「どんな顔だ!」

 

 そう言うと、エスデスの両腕がタツミの首に絡み、目を閉じ顔を近付けてくる。

咄嗟にタツミは片手でエスデスの唇を防いだ。

 

「ん!?・・・んんんんちゅ~~~~~」

 

 エスデスは気にせずタツミの手を遠慮なく吸い始める。

 

「何してんだ、お前は!?」

 

 堪らずタツミは手を離すと、今度はその隙にエスデスは彼の口を吸おうと迫るが辛くも避けられて頬を吸い始めた。

 

「ぐわーーー!!いい加減にしろ!!」

 

 変に距離を置くと、しつこいのでタツミはいっそエスデスの顔を自身の肩に抱えて抱きしめる形となってしまった。

 

「素直じゃないなタツミ♪次は口にするからな、照れる所もかなり可愛いぞ」

 

「・・・・・・」

 

「タツミ、何やら下腹部辺りがかた」

 

 言うな!と被せ気味に言い放った。

 

「うふふふふ、とっても嬉しいな。タツミも感じてくれたんだな、私も今とても幸せだぞ」

 

「・・・・・・」

 

「勘違いしないでくれ、私はこういう事はタツミにしかしないからな!」

 

「そうか・・・」

 

 許可を得たと思ったのか、エスデスは再びタツミの口に口付けようとする。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

その真面目な言い方に、

 

「ん?どうしたんだ?」

 

エスデスは小首を傾げ、微笑んでいる。

 

「なんであんたは、俺の事好きになったんだ?」

 

「ああ、強い上に私好み・・・はっきりは言い表せないが、恋・・・なのかこういう

気持ちになるのは初めてだからな」

 

「・・・罠だな」

 

「わな?」

 

「あんた、今まで何人殺してきた・・・」

 

「・・・そんな話しは今は良いだろう?もっとお互いの事を」

 

「答えられないか?」

 

「・・・さぁな、多くの敵兵を葬って来たが、数までは覚えていない」

 

「・・・記録によると約42万3千2百人・・・もっともエスデス軍が行った事や数を捏造している可能性が高いが、どう少なく見積もっても20万以上だな、お前個人では恐らく10万人って所か、非戦闘員も含めてな」

 

 エスデスはつまらなさそうに聞いている。

 

「だからお前の後ろにはお前に殺された人達の恨みの念がかなりの数、蠢めいてい

る・・・」

 

「はぁ・・・タツミ?なぜそのような興醒めする事を言う?霊とやらでも見えるのか?」

 

「・・・お前の周りにそれだけの怒りの念が蠢いている、判ってないだろうな、判らないから今でも平気でいられるんだな」

 

 エスデスはタツミを抱きしめ、

 

「なぁタツミ?弱者に同情するのはよせ、油断はしてたがこの私を倒すだけの力を持っているんだ、私達強者同士、仲良くしよう、な?」

 

「・・・そうだな、そういう話しなら強者同士で仲良くしよう、だがあんたは弱者だがな、俺からすれば」

 

「・・・私が・・・弱者だと?」

 

「お前は俺に負けたのだから、弱者だろ?」

 

「た、確かに一度は敗れたがあれは・・・」

 

「俺があの時、殺してたらあんたはもう此処には居ない・・・あんたの考えじゃ弱者は強者に従うんだったか?」

 

「うぐ・・・ぐっ・・・ぐ・・・良いだろうタツミ、今度は本気でいくぞ、タツミに私が強者だと認めさせてやろう」

 

「そうか・・・油断していたのを言い訳に出来るのか、凄いな強者は。まぁ別に話が終わった後なら再戦を受けるがな」

 

 タツミはそう言って、湯船から出て体を拭き着替える。エスデスも後に続き、部屋に戻る。

 

 エスデスはベッドに座るがタツミは距離を取って、椅子に座る。小首を傾げ手でベッドを叩き、こっちに来るように促すがタツミは無視していると、エスデスの方からタツミの足の上に相対して座る。

 

「さっきから距離が近過ぎるぞ!」

 

「何を言う?私達の心の距離はもっと離れているぞ。少しでも近付くにはこれ位の距離で話さないとな、ふふふ」

 

 タツミは溜息を吐きながら、どこまで話したか訊ねると、

 

「私達の将来についてだな」

 

「違うだろ!……あんたは自分一人で今の強さになったと思っているだろうが、本当にそうだと思っているのか?」

 

「……………」

 

 実際にそう思ってはいたが、改めて問われると少しは他人のおかげもあるだろうかと思案していた。

 

「五体満足で心も……異常な所もあるが、とりあえずは普通に話せて他人とも普通に意思疎通が出来る、それを全部一から自分で出来るようになったと、本当に思っているのか!?」

 

 エスデス自身それはほぼほぼ自分のおかげと思っていたが、タツミの凄みに素直にそれを口に出来ないでいた。

 

「自分の心ノ臓止めてみろ、それを自力で動かせたら少しは強いと認めよう」

 

「………ほう、自らの心臓を止めて動かせば良いのだな?」

 

 エスデスは気合を入れて、止めようとするが当然それだけで止まる訳もなく、

 

「………どうやって止めれば良い?」

 

「…さぁな」

 

「む!あれか!」

 

 何かを思いつき、エスデスは思い切り両掌で自身の心臓部辺りの胸を強打する。

そのまま意識を失い、倒れるのをタツミは少し感心ながら支えた。

 

「………このまま放っておいたら死ぬな」

 

 タツミはエスデスの胸を難易度のかなり高い方法で刺激を与え、蘇生させた。

 

「む!?」

 

「起きたか」

 

「タ…タツミ」

 

「?」

 

 顔を紅くし何故か照れているエスデスに問いかけると、

 

「私を人工呼吸とやらで蘇生させたのだな?くふふ」

 

「いや、してないぞ?」

 

「照れなくても良いぞ、では次は私がする番だな…ん〜〜」

 

「だからしてねぇ!!」

 

 タツミはエスデスの顔を押し退け、結局自身の力で蘇生出来なかった事を認めさせる。

 

「これで少しは自分が生かされている事が分かったか?」

 

「………………」

 

「お前の遠い先祖からずっと受け継がれている心の臓の鼓動だ、あんたは強いが、先祖から受け継がれた生命のその鼓動、その肉体が無ければここまで強くならなかったぞ」

 

「そ…それは確かにそうだが、タツミの言う生かされているのは強者も弱者もその点では同じ。この世は強い者が生き延び、弱い者は淘汰されるそれがこの世界の掟だろう…」

 

「お前は誰にも支配される気は無いと思っていながら、この世界の掟に支配される事を受け入れるのだな、都合の良い理屈だな」

 

 そう言われると、言い返せない自分がいる・・・。

 

「その世界…自然、獣達は自分が先祖…代々続く親達の努力のおかげで強くなれたという自覚など無い、長い生命の継なぎの中では本人の努力はそこまで大した割合じゃない。全く自覚していない生き物もいれば少しは分かっている者もいるがな。巨大な力を持つワニが弱い小鳥を食べずに歯の掃除をさせている、そのワニは自分の力では歯を掃除出来ず、虫歯の菌によって歯をボロボロにさせられる。この場面、最強はその菌か、それとも小鳥か?」

 

 エスデスは俯いたまま聞いている。

 

「お前は世界の掟などと言うが、全ての世界、自然を見たのか?…自分の見たい都合の良い一面しか見ていないのだろう?お前がそういう環境で育ったからな」

 

「………ん?タツミは私の過去を知っているのか」

 

 タツミはその事には答えず、

 

「………エスデス、さっきも言ったがお前には多くの恨みが取り憑いている、このまま更に罪を重ねれば大変な事になるぞ…最も今のままでもな…このまま変わらずに生きれば……おおよその未来を話してやろう…」

 

「タツミは占い師か?ふ、未来も私が変えてくれる!」

 

「……信じるかどうかは聞いてから好きにしてくれ、とりあえずあんたはこのままいくと、大勢と戦い、やがてその内の一人に討ち取られる。部下には慕われているだろうが、俺から見たらあんたの人生は大量殺人を行っただけの虚しい人生だ…」

 

「……ふ、タツミ、面白い!そんな未来など今ここで聞いた以上、必ず変えてみせるぞ」

 

「例えそこを生き延びたとしても、いずれ死ぬ時が来る。死んだら無に成れたら良いな…だがお前の場合それは許されない。”この世界を作った者の掟”により因果応報、お前は次の世ではただただ人間に喰われる家畜として生まれる確率が高い、惨たらしく殺されてな…それを何度繰り返すかは知らないが、かなり苦しい目には遭うだろう。そして、今度は人間に生まれる時もあるが、理不尽な人生が待っている…自分は何も悪いことをしていないのに、過酷な目が待っている」

 

 そこで一呼吸置いた後、

 

 「今の内に精算した方が幾らかマシだぞ?次の世で理由も分からず、理不尽な目に遭うのは辛いものだからな……」

 

エスデスはそれを受け、笑い出す。

 

「くくく、この世界を作った者の掟?タツミ、それは神とやらか?タツミは神にでも会ったのか?どこぞの地域で宗教があるが、神に頼る、弱い者がすがる者だ、くくく。」

 

「………ああ、信じるか信じないかはお前次第だ、俺は神に従えと言っている訳じゃない。……あのじいさんも人使いが荒……」

 

「ん?」

 

「いや、こっちの話だ。とにかく、お前がこの世界の掟と言うから、俺はこの世界のお前の知らない掟を語ったまでだ。それを信じるどうかは後はあんた次第だ…じゃあ、俺は用事があるから、あばよ」

 

「ん?ま、待てタツミ?何処に行く?」

 

「俺はこれ以上あんたと話す気が無いからな、次に俺の前に現れたら、容赦無く斬る……嫌ならもう二度と俺の前に現れるな…」

 

「タツミ……」

 

 エスデスはブドーの近衛兵が宮殿内を巡回している、怪しい者は始末されるぞと警告しようとしたが、その気迫に圧され言葉を呑んだ。それにタツミが一体何をするのか気にもなった。

 

 エスデスはいつもの軍服に着替えて、タツミを尾行し始めた。途中、近衛兵が歩いていたがタツミは軽く会釈し、彼らもそれに返した。その殺気がなくも厳かな軽く触れにくい雰囲気を纏っていた為、彼らも勝手に大臣か将軍の知り合いだろうと好意的な解釈してしまい、それは他の者達も同様だった。

 

 エスデスはそれを後ろで観察し、驚愕していた。

 

『殺気とも違う、あれは一体……?』

 

 

 やがてタツミは、オネスト大臣の部屋付近まで来ると布で顔を隠し、周り警護の者達や羅刹四鬼でその場いた彼らを全員気絶させた。

 

 エスデスは尚も驚き、その様子を見守っている。

 

『……………!?』

 

 

 

 

「ふ〜む、次はどうやって搾取するか…、何か適当な名前の税金名、空気税…悪く無い…くくく」

 

 オネストがダイヤや札束を弄り、肉を貪り食べる中、タツミが顔隠さず現れる。

 

「だ、誰だお前は!?け、警備…羅刹は何をしている…く、だ、誰か……!?」

 

 オネストは誰も来ない事に焦り、懐の拳銃をタツミに向ける。

 

だが、タツミの目を見ている内に遠い昔の事が脳裏をよぎる。

 

 この国を良くしようと…苦労して政務を行っても報われない…民衆は私の苦労を何も分かっていない…であれば………皇帝を暗殺し…

 

「ち……違う、悪いのは私ではない、悪いのは私を理解しない帝国民………本当は私は………こんな事をしたかった訳ではな………うわあああああああああ」

 

 現在の自分とかつてのまだ良心があった頃の自分とのはざまで揺れ動き、オネストは銃口を自身に向け、絶叫する。

 脳裏では今の己の所業とかつての自分の心とが交互に交錯し、やがて……。

 

 タツミはその場を去って行った後、

エスデスは部屋に入るとそこには、自身のこめかみを一撃ちし絶命したオネストの姿があった。

 

「……あの大臣が自殺……?あり得ん……催眠術か?」

 

 タツミの服のポケットにはオネストが持っていた指輪型の帝具が納められており、

何事も無かったかのようにそのまま宮殿を後にした。

 

 その後ろ姿をエスデスは呆然と離れた場所から見送った。

 

 

 



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もしもエスデスを仲間にする気が無かったら・・・(中編)

 数日後、

ナイトレイドのアジト。

 

「タツミーー!あんた、起きなさい!!」

 

 マインがタツミの部屋の押し入れの襖を内側から勢いよく開け、朝から怒鳴りつける。

 隠し通路(?)を勝手に作り、通常の部屋の出入り口を使わずにタツミの部屋に侵入出来る。

 

「何だよ、煩いな……まだ早いだろうが、もう少し寝かせてくれよ…」

 

 そう言ってタツミは再び布団を被る。

 

「下っ端の分際で生意気言ってんじゃ無いわよ!緊急会議よ、早く来なさい、のろま!」

 

「何だよ……のろまって言うやつがのろまなんだぞ。大体、人の部屋勝手に出入り出来るように改造するなよな……」

 

 文句を言いながらタツミは広場へと向かい、皆が既に集まりテーブル席に着いている中、全員が集合したのを確認しナジェンダは話し始める。

 

 その間、少し離れた場所でタツミは人数分のお茶を淹れ…る前に自身の湯呑みに注ぎ、飲み始める、そんな事をしながら聞いていた。

 

 そして、タツミ以外全員緊張した面持ちでナジェンダの言葉を待っている。

 

「皆、私自身も実の所まだ…半信半疑ではあるが…密偵達の話によると…大臣のオネストが行方不明…いや…死んだ……との事だ。ある程度の裏取りは……その証拠はあるにはある…」

 

 一同、顔を見合わせ驚きの声を上げる者や喜ぶ声も聞こえる。

タツミは平然と二杯目を飲んでいる。

 

「ちょっと待ってボス、それって本当なの?影武者とか、ガセじゃないの?」

 

「ああ、マイン。私もその事を考えたが政府は必死に隠して体調不良と発表するか、それこそ大臣の偽物を用意するつもりだろう…」

 

 タツミはマインの湯呑みをそばに置く…フリをして少し離れた場所に置く。

その後、各人の場所に湯呑みを置いていく。

 

「あの大臣が………一体誰が……ボス、死因は?」

 

「良い質問だ、アカメ。どうやら発狂して自殺した……との話だ」

 

「自殺?あの大臣が………あははは、大方、今まで殺されていった人達の亡霊でも出たんかね〜良い気味だ…だけど、あの悪党にそんな発狂するなんて可愛い精神があったんかね〜」

 

 レオーネは頭に手を組みながら椅子を揺らす。

 

「だけどナジェンダさん、これで革命もやり易くなりましたね?」

 

「ああ、ラバック。あれでも大臣だったからな小賢しさもあったが、それが居なくなったんだ。無血開城もかなり可能かも知れない……」

 

「そうなると、かなり楽よね!…………あ、こんな事にになるなら、それまでシェーレには生きてて欲しかったわ……」

 

「ああ、そうだよな…ブラートもな……」

 

 マインとレオーネの発言にそれまで気怠げだったタツミの表情が一瞬、険しくなる。

 

 他のメンバーを偲ぶ顔となるが、ナジェンダは話を続ける。

 

「そうだな……、だが皆まだ完全に革命が終わった訳では無いぞ。まだ強敵が残っているからな」

 

「エスデス……それにブドーが厄介だ」

 

「アカメ、それなんだが……エスデスも行方不明になった」

 

 一同は再び目を見開く。

レオーネは正に信じなれない面持ちで聞き出す。

 

「え?え?エスデスが?ボス、ひょっとしてあいつも死んだ?」

 

「いや、それは無いが……どうやら……情報が間違い無ければ…エスデスは将軍を辞めて宮殿から離れたらしい……」

 

「ひぇ〜〜、あの拷問好きの戦闘狂が………何がどうなってるんだろ?……そうだタツミ、こないだの武術大会でエスデスに連れ去られて(?)あいつと居ただろう?何か知らないか?」

 

「そうそう、タツミお前……、あれ、なんかさ、お前がエスデスを倒したように見えたが……」

 

 3杯目を飲んでたタツミは吹き出し、咳き込む。

 

「は?あんた汚いわね、何やってんのよ?」

 

「ゲホゲホ、いや…姐さんもラバもあれ遠くで見てたからそう見えたんだろ…俺、エスデスに手刀浴びて気絶してたんだって…」

 

 2人はそうだったかな?目の錯覚か?と首を傾げているがマインは気にせず質問する。

 

「とにかく、あいつと会って話したんでしょ?何か言ってた?」

 

「ん?ああ…世界の掟は焼肉定食…とか確か言ってたな…」

 

 ナジェンダが「?」を頭上に出し、アカメが涎を少し出しながら立ち上がる。

 

「何?本当かタツミ?‥‥エスデス……話せば分かり合えるかも知れない…」

 

「ウァカメちゃあん!んな訳ねーだろ!!今までエスデスのエピソード聞いてて、そんな事言う訳ねー!…はぁ…どうせ、弱肉強食の間違いだろ?お前もふざける時と場合考えろ!」

 

「そうとも言うな」

 

 タツミはふざけているのか真面目なのか良く判らない、抑揚の無い調子で返し、ラバックは呆れ溜息を吐くが、それ以上話に付き合うのは止めた。

 

「まぁ、とりあえずタツミはエスデスと話したが仲違いしてそのまま別れた…で良いんだな」

 

「ああ、ボス。俺は納豆定食が良いと言ったら喧嘩になった…もう会う事も無いだろうな。」

 

ナジェンダはその比喩に苦笑しながら相槌を打ったが、アカメは…。

 

「タツミ…焼肉定食の素晴らしさについて…後で話がある…」

 

「何でだよ?」

 

 話もとりあえずひと段落し、タツミは4杯目のお茶を呑みながら先程からうろちょろしている気配を感じており…

 離れた窓の方に目をやった。すると、その者はタツミと視線が合った事を悟り、ウィンクを飛ばしてきた。

 

「ぶふおお!!」

 

「あんた、また!!汚いのよ、本当!」

 

「ゲホゲホ…悪い……気管に入った……ゲホゲホ」

 

「ははは、まぁゆっくり飲むんだな。では皆、今日はゆっくりしてくれ。明日指示を出す、では解散だ」

 

 ナジェンダの号令で皆、広場から離れていく。

 

タツミは他には悟られないように、外に出て先程の気配の正体の所へ向かう。

 

「んん〜〜〜タツミ〜〜〜会いたかったぞ!」

 

 相手は素早く抱きつこうとするが、その速さを上回るスピードでタツミは回避する。

 

「え………エスデス!?お前なんでこんな所にいるんだ!?どうして此処が分かった?……ああ良い、とにかくここから離れろ」

 

 何かを言いかけたエスデスの口を手で塞ぎ、アジトから離れた茂みへと連れて行く。

 

「んちゅ〜〜〜〜」

 

 その間、めい一杯タツミの掌をエスデスは吸っている。

 

「だーーー!止めろーーー」

 

 跡も残り、タツミは顔が真っ赤になる。

 

「んむ、美味しかったぞ、ふふふ」

 

「うるせーー!………殺気も感じ無かったから、鳥か何かだと思っていたら、エスデス、あんただったか……」

 

 エスデス程の強さであれば、本人が殺気を消したつもりでも他のナイトレイドのメンバーはその面で長けているので気付くのだが……その上をいく存在が彼らのそばに居るため、気配感知がおかしくなっている。

 

 もし彼がそばに居なければ、エスデスの気配に気付いた事だろう。

 

「ふふふ、積もる話があるが…まずは再会を祝して……んん〜…」

 

 再びエスデスは口付けようとしてくるが、彼女の額へタツミの掌底が飛んできて、

地面にひっくり返される。

 

「お前……、次俺の前に姿を見せたら殺す…と言ったよな?」

 

「ぐふふふふ、タツミまるで力が入って無かったかぞ?どうして殺す気で来ない?」

 

「………先ずは色々聞いてからだ!………どうして此処が分かった?お前が途中まで俺の後を尾けてことは分かってたが、あの宮殿から出た後は、着いて来なかった筈だ……」

 

「流石タツミだな♪尾行を悟られていたか…ふふふ、私もあれから色々考えてだな……、政府を抜けて…将軍を辞める事にした。それで私はタツミを追うべく、捜索を開始した。時間が経ってもタツミの残り香を追ってここまで辿り着いたぞ♪」

 

「どういう嗅覚しているんだ………」

 

「それは愛ゆえにだな……褒めても何も出ないぞタツミ」

 

「……なんで将軍を辞めたんだ、あんたの生き甲斐は戦いと拷問だろう?」

 

「その通りだが、私はタツミに負けたからな。強い者に従おうと思い来たぞ」

 

「……………じゃあ、俺があんたより弱かったら、俺の言う事を聞かなかった訳だな?」

 

「そうだろうな」

 

「じゃあ、まだ本気を出していないと言ったな?……本気で来てみな」

 

エスデスはふっと笑い、

 

「もう良い……。本気を出さずとも……もう……素直に負けを認める……ふふふ」

 

タツミは一体どういう心境の変化か分からず、首を傾げる。

 

「エスデス、本気を出したらあんたの方が俺より強いかも知れないぞ?」

 

タツミは挑発するが、エスデスは動じない。

 

「ふふふ」

 

エスデスはタツミに抱き着き、彼を戸惑わせる。

 

「どういうつもりだ、一体?」

 

「このまま殺すのならば、構わないぞ……」

 

「ぐっ…………」

 

 エスデスの真意を測り兼ねているが、騙し撃ちしようという魂胆は見えない。

 

 正当防衛ならともかく、この状態でエスデスを殺せば、今度はタツミがその負の業を一つ背負う事になる。とはいえ、大量殺人者が目の前にいる、殺されていった多くの人達の恨みの念がエスデスの後ろに……タツミには見えている……そして。

 

「あんたはこれからどうしたいんだ?」

 

「タツミと共に生きていきたいぞ?」

 

「……止めた方が良いと思うぞ……」

 

「何故だ?」

 

 彼には自分の未来がどうなるか分かっている、エスデスが悲しむ結果になる事も。

ただその事には答えず、

 

「罪滅ぼしする手伝いぐらいなら、手を貸すが?」

 

「ふふ、それは生涯を共にする意味だな?もうタツミは、素直では無いな〜」

 

「……………」

 

 通常なら軽口の一つでも返すが、これから先、エスデスの罪の精算が漸く始まる。

その途中でエスデスは身を裂くような悲しい想いもするだろうが、同時に彼自身の罪の清算も意味している。

 

 その彼の遠くを見据えた深刻な顔を、エスデスは彼が何を考えているか分からなかったがその横顔を可愛く感じ、頬に口付けた。

 

「や、止めろよ……」

 

そう言うが、心のガードが崩れ始めたのをエスデスは即座に敏感に感じ、

 

「お、おい!」

 

タツミを押し倒し、顔を近づける。

 

「んぐ……!」

 

 彼の唇をエスデスは満遍なく吸い尽くす。

 

 暫くして離された後、タツミはエスデスの頭を撫でながら

 

「何考えてんだ、全く……」

 

 エスデスは気持ち良さそうに撫でられ続けている。

 

「……………」

 

 段々恥ずかしくなってきたタツミは、エスデスを跳ね除け、

 

「んんもう、タツミ〜〜、もう少し撫でて欲しかったぞ!」

 

「…………………………………、とにかく、今日の所はもう帰れ。これから事は次に話合おう」

 

「?帰る所なんて無いぞ?」

 

「いやまぁ…家を買うとか、部屋を借りるとかあるだろ?」

 

「無いぞ、金は」

 

「………ん?んん?………いや、将軍だろ?かなり貯めてただろ?」

 

「ああ、全て置いてきた。部下達に餞別代わりや政府に寄付したぞ?大体、マイタツミの言う通り、戦争や庶民の重税で得た金だからな、持たない方が良いだろ?」

 

「まいたつみ?」

 

「私のタツミだからだぞ?」

 

「……………、それだったら、その庶民に配れば良かったろ!」

 

「………あ、すまない……」

 

「はぁ………今の外道政府やお前の元部下達に配ったって、その金を生かす事は出来ないだろうが………。うんまぁ、良いや。分かった……1、2日位の宿代は出してやる(更に節約生活か……)」

 

「何を言っているんだ、ダーリン?一緒に住むんだぞ」

 

「だーりん?一緒に住む?何を言っているんだ?」

 

「?」

 

「?」

 

「………ふう、ダーリンとは夫の意味でだな」

 

「そんな事どうでも良い!一緒に住む訳無いだろうが、夫婦じゃ無いんだぞ!」

 

「もう夫婦も同然だろ!後は、役所に籍を届けるだけだぞ」

 

「うるせぇ!変な所だけ真面目か!」

 

「言う気は無かったが…仕方ない…私があのナイトレイドの女共と一つ屋根の下に住んでいると知った時、どれだけ心を痛めたか分かるか!」

 

「安心しろ、あいつらはそんなんじゃない!」

 

「ぐぬぬぬぬ、全く、何も分かっていないぞ!あのいつぞや私を尾行していた黄色髪の女、それに色々喧しかったあいつは危ないぞ!」

 

「レオーネとマインの事か?」

 

 タツミは笑い出す。

 

「ふぬぬぬぬ、ここはやはり、私が夫を守らねば…」

 

「何から守るんだよ?くくく」

 

「…………タツミ?普段、あの女達とどういう生活をしているんだ?」

 

「ん?ああ、例えばマインの奴はいつも俺の部屋に来ては、臭いとか匂うとか言いやがる。だったら来るなってんだ。俺の服も臭い臭い言いながら仕方ないから洗ってやる、感謝しろとか言いやがんだ。別に頼んで無いのに、変な奴だ。なぁそう思うだろ?」

 

エスデスはそれを聞き、前向きに卒倒した。

 

 

 

 

 とりあえず暫定的にエスデスは比較的近くの場所でテントを張り、暮らす事にした。もう将軍では無いからナイトレイドと闘う気もない。

 

 だから、タツミの部屋に一緒に住まわせろと散々揉めたが、エスデスに闘う気は無くとも当然ナイトレイドメンバーと出くわせば、闘いになる。百歩譲って話し合いで停戦出来たとしても一緒に住むとなれば、険悪な空気になるのは絶対。

 

 そうなると彼の計画、全ての帝具を回収し処分する事が穏便な方法では困難となる。

 



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もしもエスデスを仲間にする気が無かったら・・・(中編・2)

今も見てくださっている方々、有難う御座います。
意外にちょっと続けるかもしれません。

昨今の世情不安、戦争、物価高と頭が痛い事が多いものの自分に一体何が出来るのだろう?と出来る事をしていくしかないなと思う日々です。
パンとサーカスという言葉があるように、
食事と娯楽を満たせば、人々は政治に関心無くなるとあるので、気をつけねば。


 真夜中、一つの影がナイトレイドのアジトに向かう。

 満月の明かりを頼りに、それはアジト屋敷の三階に向かって、手を地につけ自身をその高さまで押し上げる程の氷層を顕現させる。

 

 侵入者は笑みを噛み殺しながら、その窓に手を掛けた・・・その瞬間、

 

「な・・・!?」

 

 侵入者は音も無く首を掴まれ、反撃する間もなく傍のベッドに押し倒され、先端が尖った凶器を首元に当たられる。その気になればそこから脳髄まで貫くつもりだ。

 

 月の明かりに照らされ侵入者が誰か判り、迎え撃った者は驚愕した。

 

「エスデス・・・」

 

「うふん、タツミ♡」

 

 彼の手には鋭利な凶器・・・竹串が握られていた。エスデスは頬を紅潮させ、その手を口付けた後、彼の腕の中に入り込み微笑んだ後、彼の口にも口付けた。

 

 タツミはそれをかわそうとはしなかったが、執拗にしてくるそれを抑え込んだ。

 

「ここには来るなと言っただろうが!なんで来た!」

 

「んむぅ、タツミが悪いんだぞ、半日も私を一人にするからだぞ?」

 

 そう言って、エスデスは自身の頭を彼の腹にぐりぐりと押し付ける。

 

 うんざりした顔でタツミは嘆息すると、

 

「良いから、テントに戻るんだ!」

 

「ふふふ、い・や・だ・ぞ♡」

 

 エスデスはタツミを押し倒し、顔を擦り付けまくる。

 

「本当に不味い、良いから帰れ」

 

 この間、二人は小声で話し然程物音を立てるような事はしていないが、ここのメンバーには気付かれる。

 

「・・・ほぉ、私達の逢瀬を邪魔する愚かな輩が来そうだな、くくく」

 

 向かってくる気配に気付いたエスデスは、右手に冷気を作り出し戦闘態勢になろうとするが、タツミは彼女を抱え上げる。

 

「タ、タツミ?こ、これが姫抱っこというものか、ふふふ、悪くないぞ♡」

 

 喜んでいるエスデスをタツミは、窓から放り投げる。

 

 一回転した後に地面に着地した彼女は憤慨し、彼に抗議する。うるさいと黙らされ、文句と先の代償を言い合った挙句、渋々帰っていった。

 

 そして、タツミには次の試練が待っている。

 

「あんた、何騒いでるのよ。あたし、密偵の代わりしてて1日寝ずで働いてたのよ・・・少しは称えなさいよ~ふあ~あ。」

 

 例によって勝手に改造した押し入れから、マインはネグリジェ姿で侵入してくる。

 

「ああ、そうか~大変だったな、お疲れさん」

 

 タツミは何事も無かったように、愛想よく応対する。

 

「今誰かいなかった?」

 

「蝙蝠がうろついてたから、追い払っただけだ」

 

「・・・蝙蝠?それで窓空いてるの?あたしてっきり、誰か来たかと思ったわ・・・」

 

 些細な変化で、しかも取るに足りないものだが、そこから異変を察知する能力にも長けてはいる。それがまた彼には厄介であった。

 

「ん?ああ、月が綺麗だったからな、夜風を入れたかったんだ」

 

「!?」

 

 マインは何やら驚いている、タツミには意図を図りかねた。

 

「・・・あ、あんた、どういう意味で言っているの?」

 

「な、なにがだ?」不味い、何か勘づかれたか?

 

 

 マインはタツミの心を覗き込むように、近づいてくる。

 

・・・まさか、本当に勘づかれたか?どうする・・・?

 

 平静を装っているが、内心はかなり動揺している。誰であろうとアジトに連れてきて隠したとなると、裏切り者となる。であれば、ナイトレイドのメンバーとの関係は悪化する・・・そうなる前にいっそ、マインを・・・。

 

 いや、そんな理由で殺してどうする!とタツミは一瞬沸いた自身の殺意に呆れ、隠してた竹串を折った。

 

 

「なに?今の音?」

 

「ああ、これだ・・・。アカメから焼肉や鶏肉定食が如何に素晴らしいか聞かされて、食べさせられたから、その・・・鶏肉に付いてた串の余りが手元にあったんだ」

 

「ふ~ん?ところで、あんたから女の匂いがするんだけど、なんでかしら?」

 

 “この世界”に来てからタツミは最大級の冷や汗をかき、内心顔面蒼白となった。

 

「そ・・・それはだな・・・ええと、あれだ」

 

「な~~~に?」

 

 時間にしては数十秒だが、永遠にも感じる重い時間の流れだった。そして、マインは嘆息した。

 

「良いわ、許してあげる。でも、これからはそういう店に行くの許さないんだからね?」

 

「んん?おお、ああ・・・」

 

 マインから怒りと殺意にやや近い感情が消えていったのが分かって、タツミは安堵したが、一体何に納得したのかまでは分からなかった。

 

「あんたも男だったって事よね?なぁに?どうせラバに誘われて仕方なくそういう店・・・・・・付き合いで行ったんでしょ?」

 

 タツミには一体なんの話をしているのか・・・少しずつ分かってきたが、何やらまだマインとの齟齬があるような気がするが、とにかく、この場を凌げそうな流れを感じ、とりあえず頷いておいた。

 

「やっぱりねぇ・・・あとでラバにはきつく言っとくわ。あたしの“彼氏”を巻き込むなって」

 

「・・・ん?」

 

 カレシ?どういう意味だ?誰の事を言っているんだ?話の流れから俺・・・?いやいや、そんな事あるわけないな・・・。きっとマインは眠くて支離滅裂な事を言っているんだろう。

 

「マイン、とにかく、もう寝たらどうだ?疲れてるんだろ?」

 

「な!?あんた・・・もう、しょうがないわね~物事には順序があるじゃない?」

 

 そう言って、マインはタツミのベッドの中に入っていく。

 

 タツミにとっては当然の疑問をマインに聞いた、何故俺のベッドに入っていくんだと。

 

「・・・?何言ってるの?これからは、あんたのものもあたしのものじゃない?」

 

 こいつは何を意味不明な事を言っているんだ?ふざけるにも程がある、どれだけ傲慢なんだ?エスデスの方がまだマシに思えてくる。

 

「いや、自分のベッドで休めば良いだろ?なんで俺ので?」

 

「・・・あんたって、変な所で紳士的よね・・・まぁ良いわ。今日の所は・・・そうね、あたしの頭を撫でなさい!ちゃんと丁寧に撫でるのよ?変な撫で方したら朝までやり直しだからね?」

 

 何を言っているんだこいつは?子供じゃあるまいし。何やら先程からマインがおかしいが、とりあえずエスデスが居た疑いを逸らせるなら、まぁ良いと判断した。

 

「えへへ・・・」

 

 普段うるさすぎるマインもこうしてると少し可愛い所もある・・・場合によっては、こいつと付き合う未来もあったのか?いや、まあ良い。今はエスデスの贖罪の方が先決だ。あいつに言う事を聞かせるには、あいつの男でいた方が都合がいいしな・・・。

 

「初めてにしては上出来じゃない?今日はこの辺で勘弁してあげるわ。次はもっと心を込めるのよ、良い?」

 

 何故こいつは、俺にここまで居丈高なんだ?いつもそうだが、今回は特に酷い。やはり、任務疲れの寝不足か?とはいえ、今後のマインとの上下関係を考えて一度こいつを震え上がらせた方が良いか?

 

 タツミは心眼で相手の感情、思考はある程度読めるが、細かい所まで把握するには時間を要し、更に相手が思考を悟られないように、隠していると難易度が高くなる。

 マインも表面の喜怒哀楽は激しいが内面の感情コントロールは天性のものと訓練はしている。

 

 マインはタツミに近づき、目を瞑って唇を突き出してくる。

 

「?」

 

 いつまでもしてこないタツミに業を煮やしたマインは、

 

「・・・なにしてるの?」

 

「なにしてるんだ?」

 

 は?ナニしてるんだ?・・・ですってーーー!!!なに?タツミ?あたしのキス顔見てるだけで・・・満足してるの?ええ?

 

「もう?しなさいよ?」

 

「何をだ?」

 

 全く、タツミ・・・ふふふ、とぼけちゃって・・・。

 

 俺も眠くなってきた・・・いい加減帰ってくれ・・・。

 

「しょうがないわね、あんたはする方じゃなく、されたい方なのね、判ったわ。あたしもそれで良いわ。次にそういう機会があったらしてあげる!」

 

 何をだ?と思ったが、もう良い。早く終わってくれと願い、マインの頭を再び撫でた。

 

「!?・・・もう、子供扱いしないでよ・・・うふふふ。あんたって本当変な所で紳士よね・・・ふふふ」

 

 子供扱いしろとか、するなとか忙しい奴だ。

 

 満足したマインは、タツミに今度は抱き着いた。

 

「お・・・おい?どうした?」

 

「やっと、あたしの魅力に気付いたみたいね・・・遅いのよ」

 

「もう良い、戻れ」

 

 タツミにはどういう訳か分からず、マインはタツミの方を終始微笑みながら見て、押し入れから帰っていった。

 

「なんだあいつ?なんで最後・・・、今まで冷たい態度取った後、偶に優しい態度で接する・・・人心掌握の一つか?」

 

 ただもう、どうでも良い。タツミにとって今までで最も疲労困憊の刻だった。

 

 

 

 マインかく語りき

 

 あたしは、この帝国と西の国境沿いの異民族とのハーフ、国境沿いで偶に小競り合いが起き、小規模の戦闘は何度もあった。

 そんな中、戦闘の略奪の中で強姦されて生まれたのか・・・それがあたしだ。

 父親は知らない。母親は多くを語らず、あたしを5,6歳まで育てた後、望まぬ子として産んだからか我慢出来ずに捨てられた。

 ある意味、気が楽だった。いつも、憎々し気に見てくる母親といるよりは。

 町の親無し子達、浮浪者の一員となった、だけどそんな中でもあたしの立場は悪かった、ハーフという理由で。

 仲間内で喧嘩や死にそうな目にあったけど、一緒に盗みや日銭稼ぎの子供も出来る仕事をして、次第に打ち解けて数年過ごした。

 ある時、警察の取り締まりで腹の居所が悪かった警官に何度も殴られて死んだ仲間がいた。

 

 次第にあたしは、どうして自分がこういう目に遭うのか考えるようになった。

 仲間達で、その警官に復讐しようと立ち上がり、その中でまた仲間達の何人かが死んだ。あたしは偶然落とされた拳銃を握って、その警官を撃ち、仲間達の仇を討った。

 そんな中、町のゴロツキ達があたしを含めた生き残った仲間達に自分たちの配下になれ、悪いようにはしないと持ち掛けてきたが、胡散臭い連中だったから断ったら、殺しに来た。

 だから、応戦し、銃を見様見真似で使って、あたしだけが生き残った。

 

 なんであの重たい銃をまだ子供の自分に使えたのか、今なら分かるけど、当時は必死だった。

 

 仲間はもう要らないと思ったけど、やはり不便だ。生きていく為に、小悪党を脅してお金を取ったりするうちに、大物ヤクザの息子を相手にしてしまい、あたしも危なかった所を、ナジェンダ・・・今のボスと標的が同じだったから偶然共闘した事で、ナイトレイドに誘われた。

 

 何人か殺してきた、仲間も何人も死んでいった、だから、どうせ血塗られた道なら、少しでも国がマシになる道を歩きたかった。

 浮浪児時代、年上の男があたしに悪戯しそうになった。噛みついて事なきを得たけど、不信感は残った。

だけど他に、あたしも興味を持った男の子はいたけど、その子は風邪で死んでいった。薬もない、医者にも掛かれない。あたし達は少しでも風邪になれば、大人しくしているしかない。

 悪化すれば死ぬしかない。

 

 あたしの人生もこんなものだと、勝ち組になってやると周りには虚勢を張っているが、そうでも言わないと悲しみで圧し潰されそうで、独りになったら、苦しくなる、だから煩く賑やかにしてないと平静を保てない。

 

 ナイトレイドでの過ごす日々は、暖かいベッドもある、病気も治せる、痛かった虫歯も治せた、空腹になって苦しむ事も無くなった。いつ殺した奴から敵討ちで自分が殺されるか分からない不安さえ除けば、比較的居心地が良かった。

 ああ、幾らかこんな日々が過ごせたんだ、遅かれ早かれ死んでも良いかなと思っていた。

 

 そんな時に、あいつが来た。

 

 なんでもレオーネが見つけてきて、使えそうだからスカウトしてきたと言ってた。

 

「不合格ね!とてもプロフェッショナルなあたし達と仕事できる雰囲気ないわ・・・あんたなんて一生下働きがお似合いね・・・顔立ちからして!」

 

 つい、あんな事言っちゃたけど、何あいつ・・・超タイプ・・・。どどど、どうしよう・・・。

レオーネもたまには良い仕事するじゃない?

 

 着てる服は野暮ったいけど、あたしがコーディネートすればバッチリじゃない?仕方ないから今度買い物行った時に・・・ああ、ダメ。変な虫が付かないようにこのままで良いかも。 

 

 

 その日から、独りになっても苦しくなくなってきた、だから、ちょっと彼の部屋に出来心で穴をあけて通れるようにした。彼の声が僅かにでも聞こえれば安らぐ。

 当然彼は押し入れに穴開けたの怒ってたけど・・・ごめん、怒る顔も良い、もっと見たい。

 

 こないだあたしのタツミが、帝国の性悪拷問偏執女将軍に拉致された時・・・あの時は、皆に悟られないように平静を装うのが大変だった。

 あと、一秒でも遅かったら、決死の覚悟で帝国宮殿に乗り込むつもりだった。

 

 あの夜、のほほんと可愛い顔して帰ってきて、どれだけ心配した事か・・・。

 これから彼を助けにと、意気込んでた時に玄関で会って・・・帝具のパンプキン片手のあたしを見て、

「これから仕事か?」

 と呑気な事言うから、安心して嬉しかったし、可愛かったし・・・ついまた悪態ついてしまった。

 

 その後の数日間、あたしを心配させた罰として、彼の服や飲み物をより多くこっそりコレクションに加えたのは当然の報いよね?ちゃんと新しいのと取り換えたのだから無問題よ!優しいわ、あたし。

 

 そして、ボスから重要な話として、あのオネスト大臣の死やエスデスが離反したと聞かされた。それは良いんだけど、彼の方が重要で話半分だった。タツミが皆にお茶配るのに、自分が先に率先して飲むなんて…生意気で可愛い。あたしだけ、離した位置に置くなんて・・・好きな子に意地悪するあれね?全く困ったタツミだわ。

 

 しかも、お茶を吹き出すなんて・・・どうして、あたしに向かって掛けなかったの?2回もチャンスがあったのに、瞬間移動が出来てたら・・・。

 そしてあの時、何か知らないけど・・・あなたは平然としてたけどあたしには分かるわ!本当は慌てて、出ていったわね?ふふふ、取り繕うのも可愛い。

 当然、その飲み掛けのあなたの湯飲みはあたしのコレクションに加えたわ・・・うふふふふふふふ。

 

 これ、俺の湯のみかな?ちょっと違う気がみたいな首を少し傾げている所も良いわ。

 

 そして、あの、あの・・・愛の告白・・・心の中で鼻血を大量に流したわ。

 もう、最近あたしが読んだ小説の愛の告白を引用するなんて・・・困った人だわ?

 

 本人は本当はかなり照れ屋だから、惚けてたふりしてたけど、あたしには全てお見通しよ・・・ふふふ。

 

 あたしが一つお姉さんだから、しっかり守って支えてあげるからね、タツミ。

 

 



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