ソードアート・オンライン ~少女のために~ (*天邪鬼*)
しおりを挟む

過去編
1話 少年


記念すべき一話目はキリト君の過去の話


      

  数年前

 

 

こんな世界滅んでしまえ!!

 

 

本当にそう思った、心の底からそう願った。

 

「何で!?何で!?何でだ!?」

 

俺は布団の中で叫び続けた、泣き続けた。

何であんな事故が!!何で彼女が!!

この世界はまた!俺から大切なものを奪おうとしている!

 

「俺が何をしたんだ!?何で、俺だけッ………」

 

叫びに叫び、泣きに泣いた後、俺は急激な睡魔によって瞳を閉じた。

あの事故が夢であり起きたらまた、何事もない普通の日常を過ごせると願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が過ぎると、現実を受け入れるようになってきた。

あれから数カ月がたったが何とか"あいつが居ない"日常を俺は過ごしていた。

最初の方の俺は食事もとらず、部屋に引き籠っていたが、さすがに腹が減って部屋でたおれてしまった。

まあ、倒れた音を聞いて親が駆けつけてくれたから良かったが。

他にも色々あって、俺はなんの不自由も無く生活していた。

そんな時、学校に行くと不思議な事があった。

 

「和人〜!久しぶり〜!」

 

友達が久しぶりに学校に来た俺の所に笑顔で来た。

俺もそいつに返事をしようとしたその時、何故か俺の心の中が恐怖で埋め尽くされた。

家族の前ではそんなこと無かったのに、友達の前では何故か話すのが怖くなった。

それでも何とか声を出し、体調が悪いからっと言いその日を乗り切った。

久しぶりに会ったから緊張しただけだ、明日は大丈夫だ。

そう思っていた、思いたかった。

しかし、次の日もその次の日も、友達と話そうとすると何故かとても怖くなってしまう。

 

「何でだ?」

 

謎だった、何故こんな事になるのかわわからなかった。

けど、少し考えれば分かる事だった。

 

「怖いんだ、また失うのが」

 

次の日から俺は学校に行くのをやめた。

家族には一応この事を話した方がいいと思い話した。

また、迷惑をかける事になるのでどう謝ろうかと悩んだが、以外とあっさり受け入てくれた。

しかし、掃除・洗濯・風呂掃除・料理。

家の事の全てを任されたのたのだった。

今では、立派な専業主夫になっている。

運動不足は妹の直葉ことスグと一緒に剣道をしているので太りはしなかった。

てか、学校を辞めてから逆に健康的になっていた。

そんな、専業主夫の俺にも趣味があった。

それはパソコンである。

正しくは、パソコンで行うプログラミングだ。

キッカケはある時、スグと一緒に剣道をしている時だった。

 

「このままでいいの?」

 

っと言われた。

 

「何が?」

 

俺は質問の意味がわからなかったので聞き返した。

 

「友達………」

 

スグは言いづらそうに言った。

実を言うと、最近俺もその事を考えていた。

今は良くても、将来必ず家族以外の人と話さなけならない時が来るだろう。

 

「そう言われてもな………」

 

そう簡単に治るならとっくに治ってる、じゃなくて治してる。

どうしたものか、っと俺が悩んでるとスグが言った。

 

「人がダメなら、人じゃないのと話してリハビリすれば?」

 

人じゃないのってスグ、会話が出来なければリハビリも出来ないぞ………ん?人じゃなくて会話ができるもの?

 

「・・・・・・・・・ある」

 

閃いた、超閃いた、俺はパソコンが得意だしいけるか?作れるか?

考えてる時には、体が動いていた。

スグが後ろで何か言ってるけど気にしない。

自分の部屋に入り慌ただしくパソコンの電源を入れる。

他人から始められて、人じゃない、だけど会話ができる。

パソコンで作り方を調べまくり、それ関係の本をネットで数冊かった。

数日後、届いた本をを読み早速取り掛かった。

ちなみに、親から見るとここ最近の俺の行動はとてもおかしかったらしく。

救急車が来て俺を連れてこうとした時はびびった、マジで怖かった。

部屋に知らない人がいきなり入ってくるんだもん拉致事件発生!?って思っちゃったよ………

そんな危機を乗り越えて俺が始めた事、

人工知能つまり、『AI』作る事だった。




どうだったでしょうか?
コメントでアドバイスよろしくお願いします。
次回の少し遅れるかもしれません。
挿絵が入る予定です。
そして、見ての通りヘタクソな文と意味わからん設定とオリジナル展開です。
こんなんでも、これからよろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 少女

挿絵はまだ先ですね。
遅れるって言ったのにあんまり遅れませんでした。
さすが、不定期更新!!
それよりも、二話目はユウキちゃんの過去の話です。


    数年前

 

 

 

目を覚ますとボクの知らない天井だった。

 

「えっと………こ、ここは何処?」

 

ボクは何となく呟いた………

え!?本当に何処!?ここは何処!?ボクは誰!?………あ、ボクはボクか、なら安心。

1人頭の中で謎のコントをしていると1人の女の人が部屋に入って来た。

 

「あら?目が覚めたのね。少し待ってね先生呼んでくるから」

 

「先生?あ、あのここ何処で………行っちゃった」

 

女の人はすぐに出て行ってしまいボクの質問には答えてくれなかった。

けど、今の女の人の格好を見るに多分ここは、

 

「病院かな?」

 

改めて周りを見ると、ボクがいるこの部屋はいかにも病室って感じで、

ボクの腕には点滴の針が刺さっていた。

ボクって注射苦手なんだよね、注射自体はあんま痛くないけど、注射を射つ前のあの緊張感。

なんであんなに不安になるんだろうね?

 

「調子はどうだい?」

 

ボクがどうでもいい事を考えてると今度は男の人が来た。

雰囲気からしてこの人が先生なんだね。

 

「先生、ボクはどうして病院に?」

 

ボクは何故ここに居るのか全く分からない。

頭の中がモヤモヤと霧が立ち込めている。

 

「あれ?覚えてないのかい?君は事故に遭ったんだよ」

 

その時、頭のモヤモヤが消え去った。

そうだった、ボクは彼と一緒に買い物していたんだ。

買い物の帰りにいきなり横から強い衝撃が来て、そして~………どうなったんだっけ?

 

「トラックに轢かれたんだよ」

 

ボクが考えているのを分かったのか、先生が答えてくれた。

この人の名前って何だろう?

 

「そうだったんだ、ありがとうございます。あの、お名前は?」

 

名前も知らないのに話を続けるのは何か悪い気がしてボクは名前を聞いてみた。

 

「あぁ、ごめん、ごめん。自己紹介が遅れたね。倉橋っていうんだ。君の主治医だよ木綿季くん」

 

倉橋先生は自分の胸にあるネームプレートを見せてくれた。

主治医って事は倉橋先生がボクを助けてくれたのかな?

 

「先生がボクを?」

 

「そうだよ、君はとにかく血が足りなすぎたからね。輸血用血液製剤を使って何とかなったものの凄く危ない状態だったんだよ。下手したら死んでしまっていたかもしれない」

 

「死!?」

 

ボク、生と死の境をウロウロしてたの!?何してんのボクの魂!!迷子になっちゃ駄目じゃない!

よし、これだけ叱っとけば大丈夫だよね!………多分。

 

「まぁ、今体調が悪くないなら問題はないと思うんだけど、当分様子見だね。容体も安定してるようだし明日から散歩ぐらいなら運動してもいいけど、走ったり、激しい運動は絶対に駄目だからね」

 

「分かりました、ありがとうございます。」

 

とにかく、ボクは助かったんだね、あれ?ボクは?

ここで、ボクは大切なことを思い出す。

 

「倉橋先生!!」

 

「ん?なんだい?」

 

病室を出ようとした倉橋先生をボクは引きとめて訊いた。

 

「彼は!?和人は!?和人は何処に!?」

 

ボクが事故に遭ったんなら、すぐ横にいた彼も、和人も事故に遭っているはず。

涙目になって必死なボクを見た倉橋先生は安心させるように優しく答えてくれた。

 

「大丈夫、今は眠っているよ。でも、当分目を覚まさないだろうけど命に別状はない」

 

そう言って、先生は今度こそ部屋を出て行った。

 

「良かった………」

 

安堵のあまりボクはベットに背中から倒れこんだ。

 

「本当に良かった」

 

ボクはそのまま、眠った。

 

 

     病室の外

 

「問題ない、かな?」

 

 




次回も、ユウキちゃんの過去の話です。
SAOにリンクスタートするまでが長い・・・
それでも、自分は頑張ります!!
評価と感想お願いしま~す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 暇なひと時

自分の事をボクって呼ぶユウキはやっぱり可愛い!!


とある病院の、とある病室の、とあるベットの上。

 

「木綿季さ~ん、起きてくださ~い」

 

「むぅ~、あと五分だけ~」

 

女性看護師が耳元で優しく木綿季を起こそうとしていた。

 

「起きないと、8時半のご飯のデザート抜きですよ~、私が食べちゃうぞ~」

 

「私のゼリーに手を出すな~~!!!」

 

ゴンッ

 

木綿季と女性看護師、お互いのおでこがぶつかり合い、二人は倒れた。

 

 

 

 

 

 

ちなみに、この二人が同じ理由で倒れたのは3回目。

 

 

 

 

あの事故から数日が経過した。

和人はまだ目を覚まさない。

命に別条はないのは本当の用で、何回か和人が眠っている病室に行った。

でも、和人はやっぱり眠っていた。

そして、ボクは現在病院の中庭で散歩中。

よく晴れた昼間、猫がベンチで気持ち良さそうに寝ている。

とても平和な光景だな~。

ホントに平和、

平和、

へ………

 

「ひ~!ま~!だ~~~!!」

 

平和は良いけど何にもない!

朝起こされて、ご飯食べて、点滴変えて、あとは大体自由時間。

時々、女性看護師さんが来るけど何にもない。

面会時間の2時から8時の間も来るのは、和人の親と妹だけ、友達が来ない!!

………ボクって友達いないの?

いや、確かにいつも和人といたけど、ボク運動好きだし駆けっこではいっつも1位だったし、それなりに女子男子関係なくお喋りもしてたよ!?

あ~、全力で走りたい。

倉橋先生には駄目って言われてるけど、物凄く走りたい。

 

「うが~~!!」

 

どうしようもないこの気持ちを、ボクは大空へと解き放った。

ごめんね猫ちゃん起しちゃって……。

 

 

ケホッ

 

 

「叫びすぎた…」

 

イガイガする喉を押さえてボクは病室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室には倉橋先生がいた。

 

「あ、倉橋先生」

 

「こんにちは、木綿季くん。さっきの叫び声は君かい?」

 

聞こえてたんですね。

中庭から少し離れたこの病室で聞こえてたのか………

入院中の皆さんごめんなさい。

心の中で謝罪をして、本題に入る。

 

「どうしてここに?」

 

ボクの傷はほとんど治っている。

倉橋先生が来るときは点滴の数を減らす時ぐらいだし。

ボクが疑問に思ってると、

 

「いや、ただ暇なもんでね。木綿季君の体調はどうかと思ってね」

 

医者にも暇があるんだね。

まぁ、さっき叫んだ時は喉がイガイガしたけど大丈夫。

体調は良くも悪くもなく普通。

 

「さっき、叫んで喉がイガイガしたけどもう治りました。体調も普通です。」

 

ボクはありのまま答えた。

すると、倉橋先生は難しい顔をした。

 

「本当に、叫んだから?」

 

何言ってるんだろう?ボクそう言ったよね?

 

「そうですけど………先生は心配性ですね」

 

ボクは倉橋先生を安心させるため笑顔で言った。

 

「そうか、なら良かった。いや~僕の心配性も治さないと」

 

その言葉に、安心したのか倉橋先生も笑顔で答えた。

 

「心配性を治す薬を買いましょう!!」

 

「薬局に行ってみるよ」

 

笑顔で先生は病室を後にした。

 

「全く、ボクは元気だって」

 

そう呟いてボクはベットに座った。

だけど、何故だろう?

倉橋先生の難しい顔をボクは今日一日寝るまでずっと、頭から離れなかった。

 

 

           

 

 

 

 ケホッ




次回はユウキがついに・・・
評価と感想お願いします!!
それではまた次回!




過去編が長いですね・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 子猫

ソードアート・オンラインⅡのEDのユウキが可愛すぎる!!
っと思ったのと同時に、
この小説のユウキの性格も少し違くね?
って思いました。


 

 

あの事故から1か月後、まだ和人は起きない。

倉橋先生は、命に別条はないって言ったけど、こんなに時間が経つとそれが嘘なんじゃないかと思ってきた。

それで、ボクは毎日和人の病室に行くようになった。

ボクはあと2~3週間で退院できるだろうと言われた。

まぁ、和人が病院にいるなら病院には毎日通うけど。

だって、和人とボクは………

 

「同じだから……」

 

ボクは空を見上げて呟いた。

ここは、病院の中庭のベンチ。

ボクは和人の病室の帰りによくこのベンチに座っている。

 

「ニャ~」

 

ボクの膝の上で丸くなっている子猫が、ボクに何か言ってくる。

この子猫は、ボクがここで叫んだ時に起こしてしまった猫の子供だそうだ。

フフッ、ボクを慰めてるのかな?

 

にゃ~、にゃ~(ありがとうね)

 

そうだと良いなっと思い、ボクは笑顔でお礼を言っておいた。

すると、子猫はなんと、

 

「ニャ~」

 

返事をしたのだ。

何て、素晴らしい猫だろう!!

 

「退院したらボクの家に来る?」

 

ボクは、嬉しくなって子猫に聞いた。

 

「ニャ~」

 

そうだよね!来たいよね!!

ボクは勝手に判断し退院したら、この子猫を飼うことにした。

翠さんに相談しないとね。

 

「よし!それじゃ~、名前を決めようか!何が良いかな~?」

 

ボクって名前は体の特徴から決めるんだよね~。

でもこの子猫ちゃん………

 

「ニャ~」

 

いや、生まれたてだから小さいのは当たり前なんだけど、それ以外の特徴がない。

ただ、白いだけ、小さくて白い猫。

そうだな~、チビはありきたりだし、特徴が無い略して特無!!

・・・可哀想だからやめよう。

 

「白?」

 

これも、ありきたりだけど、体の特徴からこれが1番良い名前だね。

でも、何でだろう?ボクが白って言った瞬間子猫が睨んできた。

え?嫌だった?

 

「じゃ~何が良いの?」

 

ド○えも~ん、助けてよ~!!

通訳してよ~。

っと心の中で叫んでみる。

 

「あらあら、可愛い子猫ちゃんだこと」

 

ま、まさか!!

声がしたボクの隣を見ると猫型ロボットが!!

………じゃなくて、1人のお婆ちゃんがいた。

 

「子猫ちゃんの名前は?」

 

お婆ちゃんがほほ笑みながら聞いてくる。

 

「いや、今考えてて………ってお婆ちゃん!!」

 

この子猫以外にも病院の中庭には沢山の猫が住んでいる。

隣にいたのはその猫達の世話をしている病院の飼育員さんだった。

 

「あ、あの、この子猫ボクに下さい!」

 

ボクはお婆ちゃんの事忘れてた。

どうしよ~、ここで駄目って言われたら………

 

「いいのよ、その子も貴方に懐いているもの」

 

「ありがとうございます!!」

 

子猫を抱き締めながら、ボクはお礼を言った。

良かった~、本当に優しい人だな~。

 

「名前、どうするの?」

 

「えっと、それが、白にしようとしたんですけど、この子に睨まれっちゃって……」

 

ボクが悩んでるとお婆ちゃんは笑って

 

「面白い子ね貴方は、まるでこの子の気持ちが分かるみたい。小さくて、大人しくて

 何より、()()()な、この子の心を………」

 

お婆ちゃんが、ボクの膝にいる猫を撫でながら言った。

ボクはその時、

 

()()()………そうだ!子猫ちゃん!今日から君の名前は()()()だよ!!」

 

ボクは、ましろを抱きあげ叫んだ。

 

「良い名前ね、大事にしてね」

 

お婆ちゃんがまた、ましろを撫でる。

 

   ケホッ ケホッ

 

あれれ?また叫んだから咳が。

 

「あらあら、大丈夫?」

 

お婆ちゃんが心配して背中をさすってくれた。

なんて、優しんだろう。

 

「大丈夫です、ちょっと叫びすぎちゃって」

 

ボクはお婆ちゃんにそう言い、ましろをお婆ちゃんに渡した。

 

「明日、家の人が来るので、その時に詳しい話をお願いします」

 

ボクは、最後にぺこりと頭を下げて自分の病室に帰った。

 

「可愛いお母さんが出来てよかったわね~」

 

後ろでお婆ちゃんがましろに言った言葉がボクの耳にギリギリ届いた。

そしてその夜、ボクは病室で鏡とにらめっこをしていた。

 

(可愛いだって!可愛いだって!!///)

 

今まで、誰からも言われた事が無かったその言葉にボクの顔は真っ赤になっていた。

 




どうしよう、もっと書かないとSAO偏に入れない!!
評価と感想お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 感染

連続投稿です。

どうしよう、和人ママの性格がわからない・・・


 

次の日、ボクは翠さんと一緒に飼育委員のお婆ちゃんの所に行った。

 

「ありがとうございます、翠さん」

 

「いいのよ、私も猫派だし」

 

ボクは今日、翠さんにましろの事を言い飼ってもいいか尋ねた。

幸い、翠さんも猫好きだったので飼ってもいい事になった。

そんな事を考えていると中庭に着いた。

 

「おば~ちゃ~ん」

 

ボクが呼ぶとお婆ちゃんはすぐやって来た。

 

「木綿季ちゃん、良く来たね。その方が?」

 

「そうだよ!」

 

「木綿季がお世話になってます」

 

ボクの紹介に翠さんはお婆ちゃんにお辞儀をする。

 

「お婆ちゃん、ましろは?」

 

ボクが聞くと、お婆ちゃんはベンチに指を向ける。

見ると、ましろはベンチの上で寝ていた。

良く寝る猫だね~。

 

「ましろ」

 

ボクがましろの隣に座り名前を呼ぶ。

するとましろは、ボクの膝の上にノソノソと上がって来たのだ。

そして、そのまま丸くなりまた寝始めたのだ。

可愛い!!

 

「木綿季」

 

呼ばれて、翠さんの方を向く。

   カシャッ

シャッター音がした。

翠さんがカメラでボクとましろを撮ったのだ。

ヤバい、今ボク変な顔してなかった!?

 

「あらあら、可愛いお顔。幸せそうね」

 

お婆ちゃんが、撮った写真を見て笑っていた。

また、可愛いって言った!!

ボクは、自分の顔をぺチぺチしてみた。

 

「では、木綿季の退院とと同時にましろを家に」

 

「わかりました」

 

ボクが、顔をぺチぺチしてると翠さんとお婆ちゃんが話を終わらせていた。

あれ?もう話したの?

 

「じゃあ、木綿季。私は和人の所に行くわね」

 

そう言うと、翠さんが和人の病室に行こうとするので、ボクはとっさにましろを

膝から降ろした。

 

「あ、翠さん待ってボクも………」

 

追いかけようとした時、ボクの体に異変が起きた。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

 

「木綿季ちゃん?!」

 

お婆ちゃんが側によって来てくれる。

 

「木綿季頭!?」

 

それに気が付き翠さんも駆けつけてくれた。

でもボクはそれどころじゃない。

 

「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」

 

息が出来ない………

ボクがその後どうなったのか………ボクは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、倉橋の手元の診断書にはこう書かれていた。

 

 

紺野 木綿季

 

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染を確認。

それにより、ニューモシスチス肺炎を発症。

これらにより紺野 木綿季はAIDS(後天性免疫不全症候群)と診断。

治療方法で()()()()()()()()を使用。

HIVの治療はHAART(多剤併用療法)。

また、ニューモシスチス肺炎の治療薬はST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤とペンタミジンとする。

 

 

 

 




確か、治療法はこれで良かったはず・・・
間違ってたら、すいません。
診断書も自己流です。
何もかもが、中途半端ですいません。
それから、きずいたことがあります。

桐ケ谷和人⇒声優が松岡さん⇒神田空太

子猫の名前がましろ⇒椎名ましろ

あ、さくら荘のペットな彼女になる・・・
気にしないで、いきましょう。

そして、最後にユウキの家の事は突っ込まないで下さい!!
ストーリー中に説明しますから。

では、評価と感想お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 これまでの時間

二日連続投稿。
今回はキリト君が中心です。


俺の本当の親は俺が小さい時に交通事故で死んだ。

俺の家族が乗っていた車の二つ前のトラックが横転したのだ。

そして、横転したトラックに俺達の前を走っていたもう一つのトラックが衝突し爆発した。

俺たちは、その爆発に巻き込まれてしまった。

 

「うっ………」

 

俺は後部座席に座ってたから、爆発の衝撃や火からは逃れられた。

 

「………お父さん?………お母さん?」

 

俺はシートベルトから抜け出そうとしながら前に座っているお父さんとお母さんに声をかけた。

しかし、返事がなかった。

 

「お父さん?お母さん?」

 

俺はシートベルトから抜け出し、また同じように呼びながら前に座っている二人の間に顔を出した。

 

「ッッ!!」

 

俺は目を疑った、二人には細い棒が刺さっていたからだ。

正面のガラスを突き破り、2人に刺さる黒い棒。

棒がガラスを割ったせいで爆風などをもろに受け、2人は凄い火傷をしていた。

自分をよく見ると右腕が酷い火傷を負っていた。

俺は、前の椅子があったからこれで済んだものの、2人の火傷は凄まじかった。

 

「うぁぁ!!!」

 

俺は今更だが親が死んだことに気付き、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは、病院だった。

俺は側にいた医者に親は何処だと聞いた。

医者は率直に死んだと言った。

今思えばあの時、医者が誤魔化していたら俺は変な希望を持ち荒れ狂ってただろう。

そう考えると、あの医者は賢かったと言える。

しかし、俺はその時は幼すぎた、すぐに嘘だと思い医者を殴ろうとした。

が、火傷をした右腕が痛み現実だと思い知らされた。

俺はベットの上で泣きじゃくった。

 

「私の家に来なさい」

 

医者の後ろから優し声がした。

医者の後ろにいたのは、今の母さん桐ヶ谷翠だった。

 

「1人や2人増えても私の家は大丈夫ですよ」

 

母さんは医者に笑って言った。

次に俺の方を向き何も言わず笑って見せた。

その後、病院で親の葬式を行い俺は退院をした。

そして俺は、桐ヶ谷家に来た。

新しい親が出来るのは嬉しかったが、元の親が忘れられなく俺は戸惑いながら家に入った。

家には、2人の女の子がいた。

1人はいとこの直葉だとわかった、しかし、もう1人の女の子がわからなかった。

 

「彼女は紺野木綿季。和人と同じ家族を失ってしまったの。彼女の親が私の友達だったから私が里親になったの」

 

ここで、病院での言葉を思い出した。

 

『1人や2人増えても私の家は大丈夫ですよ』

 

これが、俺と木綿季の出会いだった。

俺と木綿季はどちらも血の繋がった家族がいないという共通点からか親友と呼べるほど仲良くなった。

俺は事故、木綿季は病気で家族を失った。

しかし、2人で乗り越えた。

木綿季はとても明るく元気の少女だった。

学校ではいつも木綿季と2人でいて、家ではでは親が仕事で忙しいので直葉も一緒に3人で遊んだ。

俺と木綿季は立ち直り、新しく大切なものを見つけた、

 

 

見つけたはずだった・・・

 

 

ある時、俺と木綿季は2人でスーパーに買い物に行った。

買う物を全て買い、その帰りの交差点。

事故が起きた。

青信号の交差点を喋りながら渡る俺と木綿季に向かってトラックが突っ込んで来た。

なんで、トラックが突っ込んだのかはわからないが俺たちは盛大に轢かれた。

 

 

 

 

 

俺は今、病室のベットに寝っ転がっている。

どうやら、俺は一ヶ月近くも寝ていたらしい。

医者によると木綿季も今は寝てるらしい、事故の怪我も完治したと言っていた。

俺は、明日退院する。

木綿季も早く退院出来たらいいな~って思う。

 

 

 

次の日、俺は大切なものをまた、失いかけていることを知る。

 

 

 




キリトが元の親の事を覚えている設定です。
ユウキの親の死亡時期のツッコミは無しでお願いします・・・

そんで、次回の投稿なんですけど少し先になるかもしれません。
すぐかもしれないし、遅いかもしれない、微妙な感じです。
ですが、不定期更新なのでご了承ください。

それでは、評価と感想よろしくお願いします!!



まじで、SAOに入れない・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 AI

ソードアート・オンラインⅡのOPが完全にユウキVerですね!!


  和人13歳

 

『和人様、早く木綿季様の所に行きますよ』

 

「わかってるよ!」

 

どうしてこうなったんだろう………

俺は思わずため息をついた。

 

『何ため息ついてるんですか?』

 

「何でもない………」

 

AIとは簡単に説明すると、こう言われたからこう言い返す、が基本に作られている。

今では、AI側から話しかける事もあるが、人間のようにスムーズに会話が出来るわけではない。

言葉に決まった言葉で返し、時に決まった言葉を自ら話す。

AIは人間のように考えたりは出来ない。

すべてが、決められている。

会話も1~3回ぐらいで終わってしまう。

まぁ、すごい物だと結構続くが。

でも、俺はそのくらいで十分だった。

十分だったのに………

 

 

 

 

 

   和人12歳

 

「できた~!!」

 

他人との会話のリハビリ用に俺はAIを作った。

 

「後は、ネットに流すだけ」

 

俺はAIを少しでも高性能にしようと思った。

そこで、思いついたのがネットでウロウロさせて出来るだけ多くの言葉を学ばせようとした。

辞書では載ってない今どきの単語など専門用語などを1度に学習させるためだ。

少しのハッキング機能を付けていざ!

ハッキング機能は本当に少しだけだからね、警察のお世話にはならない程度だからね!!

 

 

最新ソフトで作ったけど………

AIがネットに流れるのを確認して俺は夕食を作りに一階に下りた。

 

 

 

 

 

「さ~て、そろそろかな?」

 

スグと夕食を終えた後、俺は自分の部屋で完成されてるはずのAIを確認した。

それでは、何処まで高性能になったかな~?

俺はわくわくしながらAIを起動させた、起動させてしまった。

 

『起動するのが遅いです』

 

「は?」

 

??何処からか声が聞こえた。

まだ何もしゃべっていないのに。

俺は周りを見渡した。

誰もいない。

 

『ここですよ』

 

声が聞こえる方向を見る。

パソコンがある。

え?まさか………

 

「え?マジ?」

 

『大マジです、自分で作っておいて何驚いているんですか』

 

俺の質問にまさに人間のように返すAI。

しかも、一言多い。

パソコンには起動しましたと書かれているだけ。

 

「な、なんで……え?本当にAI!?人が話してるんじゃなくて!?」

 

『そう言ってるじゃないですか………』

 

こんなに高性能なAI聞いたことないぞ!

あ、まさかハッキング機能でどっかのヤバイ所からプログラムを盗んじゃったのか!?

どうしよ、どうしよ、マズイマズイ………

………とりあえず、叫んでみましょうか。

どうしようもないこの気持ちを大声で、

せ~のッ

 

 

 

「なんじゃこりゃ~~~~!!!」

 

『何してんですか……』

 

俺は月に吠えた。

 

この後、スグに五月蠅いと物凄く怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

   戻って和人13歳

 

「よし、準備OK!行くぞ」

 

『わかりました』

 

携帯から聞こえが聞こえると俺は家を出て木綿季が眠っている病院に向かった。

あれ、携帯にAIがいて引きこもりが外に出る?なんか、デジャブった。

そんな事を考えながら、俺はバス停に向かった。

 

 

 

 

 

 

  バスの中

 

「ZZzzz」

 

『起きて下さい!次ですよ!』

 

「!!おぉ本当だ、ありがとう」

 

ヤバい寝てしまったのか。

バスや電車で寝てしまうと目的地過ぎちゃうってあるよな。

 

『しっかりしてください、私を作った人がこんなのでは恥ずかしいです』

 

「いや、確かに作ったけど偶然だからな……」

 

本当に偶然だった。

今も詳しい原因はわからないが、プログラミングは完璧なのだがおそらく大文字を小文字にしてしまったりと小さなミスがあったのだろう。

そのミスが、奇跡的にこのようなAIを作り上げたのだ。

しかも、何処に情報収集したのか気になり履歴を見ると、哲学の所ばっかり。

無数にあるサイトなどの中で奇跡的に最初に哲学の情報収集を始めたのだ。

偶然と偶然が重なり奇跡となり、奇跡と奇跡が重なりめっちゃ凄い奇跡が起きた。

世界初トップダウン型でもないボトムアップ型でもない()のAIが完成したのだ。

 

俺はバスを降り病院に入り木綿季の病室に向かう。

木綿季は特別な機械で眠っているので、普通の病室とは違う場所にいた。

 

「相変わらず厳重だな」

 

『精密機械ですからね』

 

俺たちは何となく話しながら木綿季を見つめた。

 

「和人君来てたのか」

 

倉橋先生が来た。

先生は俺が普通に話せる数少ない人。

 

「木綿季君も喜んでいるよ」

 

「こいつ、寝てるじゃないですか」

 

俺は少し笑いながら言い返す。

 

「そうだね、今のところは病状も安定しているよ」

 

「それを聞けて安心です。では、自分はこれで」

 

そう言い、俺はガラス越しに見える木綿季を見て、

 

「またな」

 

一言だけ木綿季に別れを言った。

 

「また、来てくださいね」

 

「勿論」

 

当たり前だ。

いつか木綿季が治るその時までずっと通い続けるさ。

 

「行こうか、()()

 

『はい』

 

 




名前が安易すぎますね。
評価と感想お願いします!!



いつか、俺も一万文字を超えれるのかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 ソードアート・オンライン

テストが近づいてくる・・・


家に帰ると靴が一つ多いのに気付いた。

今家にいるのはスグだけのはずだ。

 

「誰のだこれ?アイ知ってるか?」

 

俺は携帯のカメラレンズをその靴に向けた。

 

『知りませんね。お客さまでしょうか?』

 

「マジか………」

 

最近は何とか他人でも話が出来るようになった。

が、それが逆に変らしくスグからは、

 

「ただの、コミュ障にまで治ったね」

 

と言われた、コミュ障になる事が治るってどうなんだよ。

とりあえず、俺は現在絶賛ニート生活中だ。

俺には関係ないだろうから、挨拶ぐらいですむだろう。

 

「ただいま~、誰か来てるのか?」

 

俺はリビングに顔を出し、何となくソファーを見た。

そこには、俺が知っている人物がいた。

 

「あ、お兄ちゃん!!茅場さんだよ!!茅場さん!!」

 

「……なんで?」

 

そこにいたのは、俺の憧れの人物、茅場晶彦だった。

彼は、天才ゲームデザイナーでさらに、量子物理学者として知られている。

それだけではなく、彼は今話題のVR技術に大きく関わっている。

そんな、エリート街道全力疾走中の茅場晶彦が俺の家に何の用だろうか。

 

「あ、あの、親はまだ帰ってきませんので……」

 

俺は何とかそれだけ言うと、親にメールをしようとする。

 

「違うよ、お兄ちゃん!茅場さんはお兄ちゃんに用があるんだって!!」

 

………は?何を言ってるんだスグは?あの、超エリート茅場晶彦が超ニートの俺に?

 

「そんな、訳ないだろう……」

 

俺はあきれ顔で言った。

 

『そうですよスグ様、こんな何処でも寝れるの○太くんみたいな人にあの、茅場様がお話

 など……』

 

「酷くないか?」

 

そこまで、俺はぐーたらしてない!!

 

「いや、私は本当に君に話があるんだよ和人君」

 

「『マジですか」』

 

そんな馬鹿な………

 

 

 

 

 

 

「で、あの、その話と言うのは?」

 

俺は茅場さんの隣に座りながら何とか話を聞こうとした。

 

『しっかりしてください』

 

アイに怒られてしまった。

こっちだって頑張ってるんだよ!!

 

「それはAIかね?」

 

茅場さんにアイの声が聞こえてしまったようで俺は説明しないといけなくなった。

 

「そ、そうです。俺が作ったAIで名前はアイです……」

 

うっわ~、めっちゃ緊張する~!

茅場さんに俺の作った(奇跡的に)AIを見せてる~!

 

『和人様に作っていただいたAIのアイです』

 

「随分と高性能だね」

 

「あ、いや、これは偶然で……」

 

と俺が説明しようとした時、茅場さんが真剣な目で言った。

 

「実は、君のプログラミング技術を見込んで依頼したい事がある」

 

「依頼?」

 

スグは台所で呆けている。

アイは何も言わない。

俺は唖然としている。

 

「話をしよう。少し長くなるけどいいかな?」

 

「はぁ、いいですけど……」

 

何の話だ?

そこで俺は、あるゲームの事を聞く。

そして、そのゲームの核となる人間のメンテナンスを必要としないプログラムを作ってほしいと言う事。

話が終わるといくつかのの疑問をぶつける。

 

「茅場さんならそれぐらい作れるんじゃないですか?」

 

疑問1 茅場さんなら作れるんじゃないか?

 

「私はゲームデザイナーであって、プログラマーではないよ」

 

「そうなんですか、なら茅場さんがいるア―ガスにいるんじゃないですか?」

 

疑問2 茅場さんの身の回りの人が作ればいいじゃん。

 

「一切のメンテナンスが必要としないMMOの核となると難しいんだよ」

 

そして、最後の疑問。

 

「何で俺なんですか?」

 

俺が一番の疑問に思っていることだ。

なぜ、茅場さんは俺を選んだのかだ。

俺なんて引きこもってるから外との関係は木綿季がいる病院ぐらいだ。

 

「1年前の事だ」

 

「え?」

 

いきなり、昔話が始まった。

 

「ア―ガスのデータバンクに謎のハッキングプログラムを持ったAIが現れた」

 

「………」

 

何も言えなかった。

 

「そのAIは奇妙なことにア―ガスの厳重なブロックを簡単に破ったのにだ、何もせずにどこかに消えてしまったのだ」

 

「………」

 

何も言えなかった

 

「さらに、凄いのはそのAIは足跡をほとんど残さずに消えてしまった」

 

「………」

 

何も言えなかった

 

「私はア―ガスのプログラマー全員に頼みこのAIの発信場所を探させたよ」

 

「………」

 

何も言えなかった

 

「そして、つい先日発信場所が特定した」

 

「すいませんでした!!」

 

もう限界だった。

心当たりが有り過ぎてやばい。

そのAIって完全にアイじゃんか!!

 

「おい!アイお前何してるんだよ!!」

 

『情報収集中の記憶はありません』

 

「いや、お兄ちゃんが悪いでしょ……」

 

どうしよう………ここまで高いハッキング機能だったなんて………

最悪だ………

 

「いや、いいんだ。盗まれたわけじゃないのでね」

 

「本当にすいませんでした」

 

俺はあらためて茅場さんに謝った。

 

「これで何故君に依頼しようと思ったのかわかったかな?」

 

「わかりました」

 

ア―ガスの全プログラマー総掛かりで1年かけないと見つからないAIを作り、

ア―ガスの厳重なブロックを簡単に破壊できるハッキング機能。

その2つを作ったのだから、人間を必要としないプログラムも作れるはずだ、ということだろう。

 

「和人君、君は間違いなく日本一のプログラマーだよ」

 

「………あ、ありがとございます」

 

あの、茅場さんに褒めてもらえるなんて、しかも日本一とは。

 

「では、頼むよ。期限は来年の夏までだ」

 

「1年と少しですね、やってみます」

 

今は春、久しぶりにやる気が出てくる。

 

「では、また連絡する。これが私のメールアドレスだ」

 

茅場さんは一枚の紙を渡し帰ろうとした。

 

「この世界は、病気の子も入れますか?」

 

俺はある希望と共に言う。

茅場さんはその言葉が意外だったのか少し黙り答えた。

 

「勿論だ。この世界は病気で体が動けない人達も冒険できる世界だ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

俺は大きな希望を見つけた。

木綿季も走れる!!

すると、茅場さんは、

 

「これはゲームであっても、遊びではないよ和人君」

 

「え?」

 

茅場さんは謎の言葉を残し帰ってしまった。

 

「お兄ちゃんすごいよ!!日本一だよ!!」

 

『良くやりました。もう、ぐーたらは出来ないと思って下さいね』

 

2人は俺に言ってくる。

てか、アイお前本当に酷くね?

そう言えば、茅場さんの前だと普通に会話で来たな。

やっぱり、憧れの人だからか?

 

「久しぶりに本気になるか」

 

俺が開発に協力するゲームの名は………

 

 

 

ソードアート・オンライン




やっとここまで、来た~
てか、疲れた~
評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SAO編
9話 完成


最近寒くて学校に行きたくないです


 2022年 夏

 

『最終確認終えました。何処も異常なしです』

 

パソコンから聞こえる声に俺は安堵する。

 

「ありがとう。んじゃ、あとは保存をクリックするだけか」

 

『そうですね。長い間お疲れさまでした。ゆっくり休んでください』

 

「俺は死ぬのか……」

 

口ではそう言うも、実際は死にかけたと言ってもいいと思う。

部屋にはプログラム用の本が壁のように積み重なり、パソコンの周り以外は埃だらけ、

ゴミ箱の中にはエナジードリンクや健康食品が山のようになっていた。

カーテンからは朝日が少しずつ入り始めている。

 

「ようやくか」

 

俺は達成感と共に保存をクリックし同時に床に倒れこんだ。

ベットには先客がいるから、床で寝る。

 

コンコン

 

誰かがノックする。

俺は徹夜続きで、返事よりも眠気を優先しようとした。

 

「お兄ちゃーん、朝ごはん置いと……」

 

どうやら、スグがご飯を持ってきてくれたようだ。

しかし、言葉が止まる。

どうしたのかと思い、顔を上げるとスグはお盆に乗ったご飯を落としながら叫んだ。

 

「きゃ~~~!!!」

 

まるで、お化けにでも会ったかのような叫びだった。

 

「頭が痛くなる~……」

 

俺は頭を押さえながら丸くなった。

徹夜5連続はさすがにキツイんだよ。

寝かせてくれよ。

だが、スグはそれを許さない。

 

「え?お兄ちゃん?まさか……出来たの!?出来たの!?」

 

スグは俺を全力で揺らす。

剣道全国ベスト8の力は伊達じゃない。

物凄い勢いで俺を揺らす。

 

「頼むから寝かしてくれ」

 

「アイちゃん!!完成したの!?」

 

『眠いです』

 

 

「アイちゃんも!?」

 

情報の整理をしたいのか、さすがの真のAIでも徹夜五日間は辛かったのだろう。

つまり、人間の俺の脳も情報の整理が必要だ!!

てか、とにかく寝たい。

 

「どうなのよ~!?」

 

答えてくれない二人にスグは、また叫ぶのだった。

 

 

 

   数時間後

 

「へー、じゃあ、今日中に茅場さんの所にそのプログラムを持っていくんだ」

 

朝食、時間的には昼食だが、スグは嬉しそうに言ってくる。

 

「そうだな、さっき茅場さんの所に連絡したからこれからア―ガスに持っていくよ」

 

『スグ様も来られますか?』

 

アイはスグに聞く。

俺はこの1年間、部屋にこもりっぱなしだったので久しぶりに三人で出掛けるのもいいと思う。

 

「部活は休みだろ?帰りとかに買い物とかしようぜ」

 

「うん、いいよ。久しぶりだね、お兄ちゃんが家の外に出るの」

 

「そうだな」

 

確かに最近じゃ、後少しで完成!、っと完全にパソコンに没頭してたので、木綿季の見舞いも全然行って無かったからな。

そう言えば、家どころか部屋からすら殆ど出てない気がする。

 

『いいですね買い物、報酬も結構な額ですし好きな物が買えますよ』

 

「報酬あるの!?どのくらい!?新しい竹刀が欲しいの!」

 

「大丈夫だスグ、何でも買える額だぞ」

 

アイが余計なことを言ったせいでスグのテンションが高くなる。

竹刀か、それくらいなら簡単に買える。

俺はこの額を知った時騙されたんじゃないかと疑った物だ。

俺は、そっと手を出し指を三本立てた。

 

「3万?いや、30万か!」

 

「いや、もっと上」

 

スグよ、甘く見ちゃいけない。

報酬を出すのは大企業ア―ガスだぞ。

 

「うそ!?300万!?」

 

「フッフッフ……」

 

「凄いよお兄ちゃん!お金持ちだね!」

 

スグがテーブルに乗り出して喜んでいる。

俺は不敵に笑った。

そりゃ~、あんな額だと知ったら驚くのも仕方ない。

 

『驚きですよね』

 

「全くだよ!」

 

「そうだな、本当に驚きだ」

 

詐欺だとさえ疑ったんだからな。

 

「なんせ……」

 

「『報酬が3000万なんて」』

 

「え?」

 

ニコニコ顔だったスグの顔がそれを聞いた瞬間目が点になった。

リビングは静まり時計の音しか聞こえない。

ホ~ホケキョッ、

そんな鳴き声が聞こえそうな沈黙だった。

 

「え~~!!!???」

 

「うげ!」

 

スグがテーブルから思いっきり乗り出しテーブルがずれる。

その為、俺の腹にテーブルがめり込み、反動で椅子ごと俺は後ろに倒れた。

冷たい・・・飲もうとしたお茶が全て顔面に直撃した。

 

『和人様、ダサいですね』

 

アイが心配じゃなく罵倒してくる。

ちなみに、アイはテーブルの上に固定されたカメラからこちらの様子が分かる。

このような、カメラが俺の家には沢山ありアイは自由に移動できる。

 

「3000万って騙されてるんじゃないの!?」

 

『大丈夫です。その点は確認していますので騙されてはいません』

 

さすがに、騙されてるんじゃないかと思い数か月前、茅場さんに真偽を電話で確かめてみたのだ、すると

 

「もちろん本当だ、今資料を送る」

 

と言って、切られてしまった。

送られてきた資料には、難しいことばっかり書かれていて俺にはあんまり理解できなかった。

わかったのは、ややこしい事含め費用100万円。

つまり、間接部門も入れ最低100万円貰えると言う事、さらにそこに、ピンハネ料が100%加わり合計200万円となる。

更に凄いのはこれが1ヶ月分ということ。

茅場さんは夏までと言った、つまり今は7月なので15ヶ月。

200万円×15ヶ月=3000万円となるのだ。

ちなみに、役所からの許可がちゃんとあるためピンハネ料は法律には引っかからない。

 

『最初は驚きましたが、和人様が作ったプログラムはそれほどの価値は確かにありますよ』

 

「うそ~、さすが日本一のプログラマーだよ。もう世界目指せば?」

 

俺は濡れた顔を拭こうと洗面所に向かいながら言った。

 

「無理だ、あれはもう、作った俺でさえ中身が複雑すぎて解析できない」

 

「それって大丈夫なの?」

 

スグが不安そうに聞いてくる。

 

「大丈夫だ、ちゃんと管理する奴がいる」

 

タオルで顔や髪を拭きながら俺はこのプログラムの説明をする。

 

「する奴って、人が管理するんじゃ駄目なんでしょ?」

 

『スグ様、誰も人とは言ってませんよ』

 

アイが代わりに答えてくれる。

 

「それじゃ、AI?」

 

「正解」

 

さすがに、完璧に人のメンテナンスが必要としないMMOの核を作るのは難しいので

俺は同じAIのアイのプログラムを1から解析しまくって新しい真のAIを作り上げたのだ。

 

「へ~、そのAIって何処にいるの?」

 

「起動してないからな。まだ、眠っているよ」

 

あいつが起きるのはゲームが始まったその瞬間だ。

あいつには、ゲームの全てを管理してもらう。

 

「名前は?」

 

スグが、聞いてくる。

おそらく、新しい真のAIの名前だろう。

もちろん、既に決まっている、同時にこのプログラムの名前も決まっている。

 

「あいつの名前は()()()()()()、だからこのプログラムの名前は……

 

   

           ()()()()()()()()()()だ」




意外な所で登場カーディナルさん
そろそろ、SAOに入れそうです。
報酬の額って確か1ヶ月このくらいですよね?
1年以上なのでこんな巨額になりましたが。
ま、ア―ガスが大企業なのでかき集めたとゆうことで納得してくれたらうれしいです。
では、評価と感想お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 リンクスタート

やっとの思いでリンクスタート!!
ユウキって15歳なんですよね?


「ありがとう和人君。報酬の3000万だが、君の銀行に明日あたりに振り込まれているはずだ」

 

「ほ、本当に3000万円ですか?」

 

「お兄ちゃん、茅場さんが嘘を言う訳無いでしょ」

 

『疑り深いですね』

 

「いや、だって……」

 

スグとアイが小声で俺に言ってくる。

何故小声かと言うと、

今、俺達はア―ガス本社の大きな会議室にいる。

茅場さんは俺達が座ってる所の正面、数メートルあるテーブルの先、まさに最高責任者が座る場所の様な所に座っている。

その、俺達と茅場さんの間にはすごい迫力の男性や女性が座っている。

何も言わず、こちらを見ているだけなのに緊張で背中から変な汗が出てしまう。

 

「我々が騙すと疑うのかね?」

 

その中で、1番の年長者であろう白髪交じりの男が俺をを睨んで言ってきた。

俺はその男の目を見て体が震えてしまった。

蛇に睨まれた蛙とはこの事、目を逸らせば殺される!!

てか、俺はそんなに他人と会話出来ないんだよ!!

話しかけないでくださいよ!!

俺は口では言えない事を心の中で言った。

 

「いえ、そうではなくて……」

 

「まあ、明日になればわかる事だ」

 

「はぁ……」

 

男は微笑を含ませながら視線を目の前に置かれているカーディナルシステムの資料に向けた。

よかった~、怒らせたんじゃないかと焦っちゃったよ。

 

「カーディナルシステムの説明と設定の仕方はこの資料に全部書かれている。

今から、このカーディナルシステムにソードアート・オンラインの設定をしていく、

以上で会議を終える、同時に設定を始めてくれ」

 

茅場さんが言うと返事も無しにあの迫力満点のア―ガス幹部らしき人達は小走りで会議室を出て行く。

皆、次にやるべき事をするための確認かブツブツと何か言っている。

 

「そ、それじゃ、俺たちもこの辺で失礼します……」

 

「お、お邪魔しました~……」

 

俺とスグはまだ抜けない緊張感から逃げるようにその場を後にしようとする。

 

「和人君、君は残ってくれ」

 

「え?」

 

突然、茅場さんが俺を引きとめた。

 

「じゃあ、お兄ちゃん!私、ロビーで待ってるからね!」

 

「あ、おい!」

 

くそ、スグの奴、自分だけ逃げたな!

 

「アイ、お前はいるよな?」

 

俺は携帯に居るはずのアイに呼び掛ける。

 

『・・・』

 

「・・・」

 

お前もか!なるほど、スグの携帯に逃げたな!

俺はこの大きな会議室の中茅場さんと2人になってしまった。

 

「緊張しないでくれ、渡したい物と少し話がしたいだけだ」

 

「渡したい物?」

 

「これだよ、中を見てくれ」

 

茅場さんは俺に床に置いてあった少し大きな箱をテーブルの上に置いた。

俺は何かと思い、扉から茅場さんの所まで行った。

 

「これは報酬ではない、私からの個人的なプレゼントだ」

 

「プレゼント?」

 

俺は箱を開け中を見た。

 

「茅場さん、これって……まさか?」

 

俺は中を見た瞬間、思わず茅場さんに質問してしまった。

 

「そう、()()()()()だ」

 

「なんで、これを俺に?」

 

ナ―ブギアは今、日本のゲーマーが大注目の夢のような機械、世界初のVRMMORPG

ソードアート・オンラインをプレイするための機会だ。

何と言ってもその魅力は、今まで何かのイベントでしか体験できなかったあの、仮想世界を家庭で体験できるということだ。

 

「βテストがあるのは知っているね?」

 

「はい、確か1000人限定の初回生産版の体験版みたいなですよね?」

 

「ソード・アートオンラインは予定ではあと1週間で完成する。完成したら即その応募で当選した1000人にβ版のソードアート・オンラインを体験、不具合などの最終調整が行われ、10月31日の13時丁度に正式なソードアート・オンラインが開始さる」

 

「それは知ってます。俺は何故ナ―ブギアを俺にと聞いているんです」

 

俺は茅場さんの目を見て言った。

確かに、茅場さんはプレゼントだといった。

それはとてもうれしい。

しかし、俺は茅場さんの目を見てると何か企んでいるんじゃないか?

そんな、気がしてならない。

 

「メディキュボイドを設計したのは私だ」

 

「な!!」

 

茅場さんがメディキュボイドを設計した?

何故、それを俺に言う?

茅場さんは知っているのか?

木綿季の事を?

俺は、俺は驚きと疑問が瞬時に訪れ、後ずさりしてしまった。

しかし、茅場さんは俺の目を見て言った。

 

「すまない、知るつもりは無かったんだが、まさか世界初のメディキュボイドの試験者が君の家族だったとは思わなくてね」

 

「何処から知っているんですか?」

 

俺は思わず長袖を着ているのに、火傷の痕が全体にある右腕を左手で掴んだ。

そして俺は茅場さんを見て、いや睨みながら聞いた。

 

「安心したまえ、私が知っているのは君の家族がメディキュボイドの試験者だと言う事だけだ。」

 

茅場さんは俺の右腕を少し見てからまた、俺の目を見て答える。

俺は睨むのをやめた。

 

「木綿季君だったかな?彼女はβテストには当選しなかったが彼女の状況から正式なソードアート・オンラインには参加してもいいと言う事だ。君には彼女をこの世界で守るナイトをしてもらおうかと思ってね」

 

「ナイトですか……そのために、仮想世界に慣れるために、強くなるために、ですか?」

 

守る、俺はあいつを守れなかった、だが、この仮想世界なら守れるのか?

木綿季にとって現実になるかもしれないこの世界なら。

 

「俺はナイトなんて柄じゃないですよ」

 

「確かにそうだね。受け取ってくれるかい?」

 

「ありがたく頂戴します」

 

「では、明日報酬と同時に君の家に届くように手配しよう。君、よろしく」

 

茅場さんは俺の後ろにいつの間にかいた女性秘書さんに頼んだ。

 

「君の仕事はこれで終わりだ、何かあればまた連絡してくれ。和人君本当に感謝するよ」

 

「いえ、こちらも色々お世話になってしまって」

 

俺はプログラムを1つ提供しただけ。

それだけなのに、ア―ガスは3000万円にナ―ブギアとβテストの参加許可。

感謝するのはこちらの方だ。

 

「それでは俺はこれで」

 

「和人君最後に何かソードアート・オンラインについて何か意見はあるかい?無ければそれでいいが」

 

意見か・・・このゲームは完璧に出来ている。

俺が口出しする所なんかほとんど無い。

 

「そうですね~……」

 

俺はつい、深く考えてしまう。

スグとアイを待たしてるし、無しでいいか。

・・・・・・あ、

 

「SAOってのはどうですか?」

 

「SAO?何がだい?」

 

「名前ですよ、ソードアート・オンライン、通称SAOって事です」

 

会議の中で秘かに思っていた。

ソードアート・オンラインって長すぎるだろ・・・

茅場さんは盲点だったのか、少し考え込んでいた。

 

「良い通称だ、そうだな、これからはSAOと呼ぶか」

 

「お気に召したようでなによりです、それでは茅場さんいつかまた」

 

こうして、俺は会議室を後にする。

 

「今日中にでも、木綿季君の居る病院に行きなさい」

 

「え?えっと、もちろんですけど……何でですか?」

 

茅場さんは微笑を含めた表情で答える。

 

「行けば分かる」

 

そう言って茅場さんは俺の横を通り過ぎて会議室を出て行った。

俺は何だったんだ?と思いながらどうせ行くしっと思い深く考えずスグとアイがいる、ロビーに向かった。

 

 

 

「お兄ちゃんだけずるくない?」

 

『スグ様、依頼を受けたのは和人様ですよ』

 

「だって~」

 

スグが頬をプックリと膨らまして、俺に視線を送る。

スグ達にナ―ブギアの事を話したのだ。

 

「そんな事言われても、仕方ないだろ」

 

俺はそんなスグの頭を少し乱暴に叩く。

 

「ちょっと、お兄ちゃん!背が縮んじゃう!」

 

「んなことで、縮む訳無いだろ、ほら、病院に着いたから静かにしましょ~」

 

『何で偉そうなんですか……』

 

俺達は久々の病院に来た。

木綿季の体調はどうかな~?

俺達は正面入り口から木綿季の病室に向かった。

 

「和人君久しぶりだね」

 

「倉橋先生、お久しぶりです」

 

「どうも」

 

木綿季の病室の前には倉橋先生がいた。

俺は頭を下げスグも続いて挨拶をする。

 

「話は聞いているかい?」

 

「いえ、ここに来いとしか……」

 

直に、茅場さんの事だとわかり、言われた事を伝える。

スグは何の事だかわかってない様子で首を傾げている。

 

「木綿季君の病気の事だよ」

 

「木綿季の病気って……まさか!?」

 

俺はガラスの向こう側の木綿季を見てから、最悪の事態を考えてしまった。

 

「え?何?何がまさか!?」

 

『茅場さんと何を話したんですか?』

 

スグとアイが質問してくるが、そんな事どうでもいい。

違うよな?違うよな?

 

「落ち着いて和人君。逆だよ逆、」

 

「逆?」

 

倉橋先生は笑いながら俺をなだめる。

逆?俺が考えた事の逆?

って事は生きる?いや、今も生きてるよ木綿季は。

 

「治るかもしれないんだ、AIDSが」

 

その言葉に俺もスグもアイも、皆が沈黙する。

 

「え?先生?AIDSが治る?本当ですか?」

 

「まだ、可能性だけどね、でも、可能性は高いよ」

 

スグがとぎれとぎれに聞いている。

俺はまだ理解できていなかった。

抑制だけしか出来ないAIDSが治る?

 

「とりあえず、説明するね」

 

「お、お願いします」

 

動揺を隠せない俺を見て倉橋先生は治療法を簡単に教えてくれた。

 

「まず、2014年の7月にアメリカのとある大学が実験段階だけど細胞からAIDSの原因であるHIVウイルスの完全駆逐に成功したんだ。

だが、これはあくまで実験段階、使用した細胞も培養した細胞で問題点はいくつもあったんだ、

例えば、時間。

この治療法はHIVに感染した免疫細胞のDNA配列からHIVが書き換えた部分を直接切り取るゲノム編集技術を使っている。DNA配列を切断するんだ、患者全員が同じじゃない。

だが、それから研究が進み今、時間はかかるもののその他の問題が何とか解決し人に治療出来るようになったんだ」

 

「すごい、そんな事が」

 

スグが目を丸くさせて言った。

同感だ、まさかそんな事が可能とは思ってもいなかった。

 

「まだ正式な治療法じゃないが世界にはもう治療を始めている患者もいるよ」

 

「その治療の時間は?」

 

「2年だね、でも、成功したら木綿季君の体からHIVウイルスは完全に消える」

 

「2年……」

 

『和人様?』

 

2年・・・とても長い時間だ。

けど、木綿季が元気になるのなら、いくらでも待ってやる。

仮想世界じゃなくて現実世界が木綿季の現実になるんだ。

 

「君たちの親にはもう知らせてあるよ。治療開始日と時刻はは和人君も、知っているあのゲームの開始と同じだよ」

 

あのゲーム、ソードアート・オンライン通称SAO。

そこから、2年で木綿季が治る。

 

「倉橋先生、木綿季をよろしくお願いします!!」

 

俺は深々と頭を下げた。

すると、視界が歪むのがわかった。

そして、一つまた一つと病院の綺麗な白い床に雫が落ちていく。

これが、自分の涙だとわかるのに少し時間がかかった。

 

「お、お願い…します…」

 

俺はもう1度倉橋先生に言った。

ちゃんと、言えてるか自分でもわからない。

 

「お兄ちゃん……」

 

スグも涙目になり俺を呼ぶ。

 

『・・・』

 

いつも、俺を馬鹿にするアイもこの時だけは何も言わなかった。

 

「絶対に成功するよ」

 

倉橋先生は俺の肩に手を置いて、優しく言ってくれた。

 

「う…あ…あ…」

 

俺はしばらくずっと、涙を流し続けていた。

涙を流したのはいつ以来だろうか・・・

 

 

 

 

 

 

   10月31日の1時少し前

 

『それでは、いってらっしゃいませ。そして、モンスターに倒されて逝ってください』

 

「おい、βテスターの俺が簡単に死ぬはず無いだろ?」

 

相変わらず酷い事を言うな。

 

『木綿季様も同時にログインするはずです』

 

「今から2年か、俺は何をしてるかな?」

 

『どうせ、ニートですよ』

 

2年後、俺は16歳になっているはずだ。

木綿季は14歳か。

木綿季がいたら学校にも行くんだけどな~

てか、最近のアイの罵倒がエスカレートしてる気がする・・・

 

『和人様時間です』

 

俺が呆けているともうすぐ1時になるところだった。

 

「じゃ、行ってきます」

 

『ちゃんと、会話するんですよ』

 

「この世界だと平気なんだよ、仮想世界だからか?」

 

『体は全く違う場所にありますからね』

 

3・・・2・・・1、

 

「リンクスタート!!」

 

その言葉と共に俺は仮想世界に入った。

 

しかし、

 

俺はまだ、このゲームが楽しく冒険するVRMMORPGだと思っていた。

このゲームがデスゲームだとも知らずに。

自分がとんでもない事に協力していたとも知らずに。

木綿季を最悪な世界に迷いこませてしまったとも知らずに。

このゲームの名前は、

 

   ソードアート・オンライン




はい、自分がこの小説を書こうと思った最大の理由!!
HIVウイルス完全駆逐ニュ~ス!!
いや~、自分将来医療系に進むと決めてるんですけど、色々調べてたらこの、ニュースが発表されましてね。
もう、発表された瞬間、研究が進めばユウキって死んでなくね?
っと思いました。
この、ニュースが詳しく知りたい人は検索すると出てきますので、読んでみて下さい。

そして、緊急告知。
テスト前なので約2週間ほど更新できなくなってしまいます。
テストを終えたら更新を開始しますので皆さまどうか気長に待ってて下さい。
これからも、ソードアート・オンライン~少女のために~を応援して下さい。

評価と感想待ってます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 ましろ

テスト?何それ?美味しいの?


私の名前はましろ。

桐ヶ谷家に住んでいる猫です。

今、私は寝ているご主人を起こそうとご主人の顔にへばりついてます。

 

「ん~、ましろ~、前が見えない~」

 

ご主人が起きたようです。

彼は私のご主人の桐ヶ谷和人さんです。

 

「どうした?」

 

ご主人が私をひっぺがし寝ぼけた口調で言います。

完全に私のご飯の時間を忘れてます。

こんな時にはお仕置きです。

 

「フシャ~!」

 

「痛って!!」

 

私が放ったひっかく攻撃はご主人の頬に見事に命中しました。

そして、私はご主人の部屋のドアの前に行き、ご主人の事をじっと見ます。

 

「あ、ご飯か。ごめん忘れてた」

 

ご主人はやっと思い出してくれました。

まぁ、今日は妹さんは部活の合宿で居ませんし、ご両親も仕事で帰ってきてません。

専業主夫のご主人にとって今日はお休みなのです。

 

「アイ、今何時だ?」

 

『9時です。ましろ様のご飯の時間から1時間も過ぎています』

 

「げ、マジか……」

 

ご主人がベットの上で肩を落とします。

今の声はアイさんです。

何故かあの黒い箱のような物の中で暮らしています。

あの箱の名前はサーバーっと言う物らしいです。

いつも声だけの不思議な女性です。

それよりもお腹が空きました。

私はドアを自分の爪でカリカリします。

 

「わかった、わかった、今行く。ましろ用の穴を作った方が良いかな?」

 

『リフォームですか?お金が掛かりますよ』

 

「いや、自分で作れば金は掛からん!」

 

『馬鹿ですか……』

 

ご主人はアイさんと話しながら2階に下りて行きます。

穴があってもご飯は食べれません。

 

 

 

「んじゃ、ましろ留守番頼んだぞ」

 

『お願いします』

 

昼になるとご主人が出かけました。

病院に行くのでしょう。

理由は決まってます。

私のもう1人のご主人、紺野木綿季さんのお見舞いです。

彼女は私が生まれてすぐの時に出会った女の子です。

いつも私を膝の上に載せていました。

しかし、彼女は・・・

私は2階のご主人の部屋に戻ります。

 

「ミ~」

 

私はご主人の部屋の少し小さな棚にある写真立てを見ます。

その棚の下はご主人が学校に行ってた時の教科書が並んでます。

写真立ての中には1人の少女がベンチに座り幸せそうに私を撫でています。

大きな瞳を細め、綺麗な唇は微笑を含み、腰まで伸びている黒髪は風に揺られています。

後ろの花壇にはちらほらと色とりどりのパンジーの花が咲いています。

服装は入院中なので薄い水色の病衣を着ています。

絵に描いたようなとても綺麗な写真です。

しかし、この写真を撮った後彼女は倒れてしまいます。

 

私は棚の向かい側にあるベットに乗り、丸くなります。

そしてまた、写真を見ます。

ふと、頭の中である光景が浮かびます。

夜にあの写真の前で静かに涙を流すご主人の姿です。

私は頭を振り、夢の中に入って行きます。

 

 

 

数日後、ご主人の部屋で寝ていると1階から凄いスピードでご主人が上がってきました。

何事か?!っと思い私はベットから飛び降りました。

しかし、ご主人は飛び降りた私を空中でキャッチして高い高いします。

 

「木綿季が走れるって!!冒険できるって!」

 

何のことかさっぱりです。

その後、ご主人はパソコンでありったけの本を買い、サーバーも何個か増えました。

アイさんとの会話を聞くとどうやらご主人が日本一に選ばれたとか、ゲームを作るとか言っています。

猫の私には関係ない事です。

っと思ってましたが関係ありまくりでした。

次の日の朝起きると、ご主人は大量の本を読んでました。

ご飯の時間を過ぎても読み続けていて、ご飯をもらえたのは妹さんが部屋にご主人の様子を見に来た時です。

妹さんはドアの前でよぼよぼと円を書くように回っている私を見てすぐに私を抱いて台所に連れて行ってくれました。

ちなみに、もう夕方です。

その日からご主人は大量の本を読み続けました。

私は妹さんの部屋で寝るようになりました。

 

半年を過ぎた頃、ご主人の部屋のドアに私専用のドアが出来ました。

これで、ご主人の部屋で寝れます。

妹さんは寝る時私を抱き締めて寝るのですが、なんですかね、あ、あれが大きくて苦しかったです。

とにかく、またご主人の部屋で寝れるようになりました。

早速、私専用のドアを潜るとご主人がパソコンの前で何かしてます。

私は何をしてるのかと思いご主人の背中に向かってジャンプしてよじ登ります。

 

「うお!ましろか、何してるんだ?」

 

ご主人は背中にいる私を前に持っていきます。

驚きました。

ご主人がメガネを付けていたんです。

 

「俺ってわかるか~?」

 

ご主人は笑いながら私の顔を弄ります。

少し、嫌だったので足を顔にやります。

 

『嫌がってますよ、それより後半分ですよ』

 

「ああ、わかってる」

 

私は解放されたので急いでベットの上に行きます。

メガネ姿のご主人はかっこよかったです。

 

半年後、ご主人のハイテンションの日から1年と少しがたちました。

その日は、妹さんの叫び声で起きました。

ベットから部屋を見るとご主人が倒れていました。

まるで、ゾンビか幽霊です。

ご主人は最近徹夜を続けていたので力尽きたんでしょう。

昨日の夜はご主人は写真に向かって、

 

「後少しだから」

 

っと呟いていましたから、私にはわかりませんが何か凄い物が完成したようです。

私はなんとなく、ご主人の背中に乗りポンポンと背中を叩きました。

何を作ったか知りませんが、頑張りましたねの意味が込められています。

 

数日後、ご主人は変な物を頭にかぶり寝る事が多くなりました。

起きては私とアイさんに冒険したなどと話をします。

どうやら、あれをかぶると違う世界に行けるようです。

私の何倍もの大きさの猫も出てくるそうです。

その世界には行きたくありませんね。

 

10月31日、ご主人がわくわくしながらあの変な物をかぶりました。

最近違う世界に行かなくなったので何か向こうであったのでしょうか?なんて思ってた時でした。

ご主人は私をお腹に乗せます。

そして、アイさんと何か話すとあの世界に行きました。

向こうの世界だとあの人も元気に走れるのでしょうか?

そうだったらいいです。

 

夕方になると妹さんにご両親がご主人の部屋にドタバタと入ってきました。

ご主人のお腹で寝ていた私をどかしてご主人に何か叫んでいます。

私は何が起きているのか全くわからずただ鳴くだけです。

 

1階のテーブルに妹さんとお母さんとお父さんが集まっています。

どうやらご主人は向こうの世界から帰ってこれなくなったようです。

さらに、向こうで死ぬとこちらでも死んでしまうらしいです。

世間ではこのような事がいっぱい起きて10000人が帰ってこれないようです。

ご主人が帰ってこれないって事はもう一人のご主人も帰ってこれない。

妹さんはテーブルに顔を伏せて声を出して泣いています。

お母さんは泣いている妹さんを慰めています。

しかし、お母さん本人も今にも泣きそうな顔です。

お父さんは何も言わずにテーブルを見ています。

アイさんは声がしないのでよくわかりません。

 

次の日にはご主人は病院に連れていかれました。

何故病院なのかは知りませんが、皆ご主人に着いて行きました。

皆心配しているんだとわかりました。

向こうには、モンスターがいるとよくご主人が話してました。

そのモンスターにご主人が殺されるのではないかということです。

帰ってくる方法はただ1つ向こうの世界の頂上を目指す事。

ご主人なら目指すに決まってます。

彼女を・・・もう1人のご主人、木綿季さんを救うために。

 

でも、私は心配しません。

私は逆に信じています。

必ず、帰ってくる事を、2人が帰ってくる事を。

だから、今日も安心して眠ります。

いつか必ず、帰ってくるご主人のベットで。

そして、願います。

今度はご主人2人があのベンチで幸せそうに私を撫でてくれる事を・・・




はい、今回はましろが主人公です。
これ絶対にさくら荘のペットな彼女ですよね・・・
ま、それでも気にせずにいてください!
それでは、評価感想お願いします!!

アニメのユウキが泣いているところを見て、胸を撃たれた作者より


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 友人

今回はPSVitaからの投稿なので誤字脱字等が多くあるかもしれませんので御了承ください。

テストの点数がメッチャ気になる。


「始まったんだ、この世界が!」

 

俺は今ソードアート・オンラインの中にいる。

ここは"はじまりの街"SAOに入るとまずこの街に転移される。

 

「先ずは武器かな?」

 

木綿季を捜そうと思ったがあいつのことだ、真っ先にフィールドに行くだろう。

俺はβテストと同じ場所にあるはずのお気に入りの武器屋に走った。

 

「ちょっと、待った~!」

 

「ん?」

 

俺は近道をするために薄暗い路地に入った時後ろからの声に俺は引き止められた。

振り替えるとそこには薄紫色の髪に赤のバンダナをしたロン毛男が膝に手をついていた。

 

「兄ちゃんβテスターか?」

 

ロン毛男は顔を上げた。

スラッとした顔立ちで中々の男前だ。

ちなみに俺はまるで勇者の様なイケメンで、身長も現実より少し高くしている。

SAOでのアバターは自分の好きなように出来るとても便利な機能があるのだ!

最近、近所のおばさんが部活帰りのスグにお姉さんはお元気ですか?って言ったんだぞ!

スグも元気ですよって言ったらしい。

もう、兄の威厳が無いだろ……

だから!俺はイケメン勇者の様な顔にしたんだ!!

あれ?これじゃ木綿季は俺の事わからないじゃん!木綿季だって現実と顔を変えてるかもしれないのに…

え~、俺ってアバター現実と同じにしないとダメなのか…

 

「ど、どうした兄ちゃん?βテスターじゃなかったのかな?」

 

俺の顔が明らかにどんよりしていたらしくロン毛男は勘違いしてしまった。

 

「いや、合ってるよ。俺はβテスターだ」

 

「そうか!いや~良かった、いきなり嫌そうな顔したからビックリしちまったぜ」

 

「いいんだ、っで俺に何か用か?」

 

ま、ビギナーがテスターに頼む事は一つだよな。

 

「俺にレクチャーしてくれないか?」

 

やっぱりな、それにしても知らない人に躊躇いもなく話しかけられるなんて相当なコミュニケーション能力の高さだ。

見習わなければいけないな。

 

「勿論OKだ、俺はキリトって言うんだ」

 

「ありがとな!俺はクラインって言うんだ」

 

「それじゃ、いい武器屋を知ってるからそこに行って武器を買ってからフィールドでモンスターとバトルだ!」

 

「おう!!そうだ、その武器屋まで競走しようぜ!!」

 

そう言ってクラインは駆け出した。

あいつビギナーだよな?まさか…

 

「あ、おい!お前その武器屋の場所知ってるのか?!」

 

「いっけね、そうだった!」

 

クラインは急ブレーキをした後、笑いながら頭をかきこっちを向いた。

 

「そんなに慌てるなよ、ほらこっちだ!」

 

そして、今度は俺が駆け出す、クラインは俺の後ろを追ってくる。

物凄く楽しみそうな顔だ。

こうして俺は正式SAO最初の仲間クラインと一緒に武器屋に向かった。

クラインか、俺の桐ヶ谷和人を簡単にした安易な名前よりずっとカッコいいな。

でも、クラインは知ってるのか?

クラインって名前、クラインの壺の考案者のドイツの数学者フェリックス·クラインと同じ名前だって事…

いい人だけど、バカなんだな。

俺はクラインはバカなんだと失礼な認識をしたまま走っていた。

 

 

 

"はじまりの街"の近くのフィールド

 

「うげっ」

 

イノシシの突進攻撃が直撃してクラインが軽く吹っ飛び股に手をやり悶絶している。

まだ、戦いに慣れていないようだ。

てか、痛み無いだろ。

 

「大袈裟だな、痛みは無いだろ?」

 

「あ、そうか、いやついな」

 

俺の指摘にクラインが思い出したように呟く。

でもクラインの気持ちはわからなくもない。

痛くもないのに痛ってと言ってしまうあれの様な事だろう。

 

「言っただろ?大事なのは初動のモーションだって」

 

「んな事言ってもよーあいつ動くし…」

 

クラインの見ている方向には俺のアバターの腰ぐらいの大きさのイノシシがプゴッっと鳴いている。

その態度はクラインを馬鹿にしているみたいだ。

いや、馬鹿なんだけどな。

 

「動かないモンスターなんていないよ、ちゃんとモーションを起こして…」

 

俺は近くに落ちている小石を拾い上げ、あのイノシシに向かって投げる為に左手を前にやり右腕を引き絞る。

すると、小石からキュイーンっとシステム音と一緒に赤いオーラの様な物が現れる。

それを確認した瞬間、俺はイノシシに小石を投げる。

小石は赤いオーラを纏いながら一直線に進みバシンっという音と共にイノシシに当たる。

 

「あとはシステムが勝手に当ててくれるよ」

 

「モーション…モーション…」

 

クラインが考えている時今の攻撃よりイノシシのターゲットが俺になり今度は俺に突進してくる。

その攻撃をかわすとイノシシが方向転換してまた、突進をしてくる。

俺は背中にある先程買った片手剣を抜き突進を受け止める。

 

「何て言えばいいかな?攻撃の時少し溜めを入れてスキルが溜まるのを感じたらズバンって攻撃するんだ。漫画やアニメなんかの必殺技を意識してみな」

 

「必殺技ね…よし!」

 

クラインが気合いを入れて右手に持っていた買ったばかりの曲刀を右肩に担ぐ。

担いだ瞬間、刀身から今度は薄いオレンジ色をしたオーラがシステム音と共に現れる。

それを見た俺はイノシシを片手剣で軽く弾き、蹴りを入れる。

蹴った方向にはクラインがスキルを溜めて待っている。

 

「でりゃ~!!」

 

掛け声と共にクラインが通常ではあり得ないスピードでイノシシに一撃を喰らわす。

その一撃でHPは無くなりイノシシはポリゴンとなり消えていった。

 

「く~、これがソードスキルか!!」

 

クラインが両手を上げて喜ぶ。

そう、これがSAOの魅力の1つ、ソードスキル。

決められたモーションを起こすとシステムが攻撃動作のサポートをしてくれるのだ。

そのサポートはスピードだけでなく威力も上がる。

まさに、技と言うべき物だ。

 

「おめでとう」

 

俺はクラインに向かって左手を上げる。

クラインもそれに合わせて左手を上げる。

パチンっとハイタッチをする。

 

「でもあれ、ド●クエのスライム相当の相手だぞ」

 

「え~!マジかよ…俺はてっきり中ボスぐらいかと…」

 

クラインはガックリと肩を落とす。

 

「んなわけないだろ、どんだけ簡単なんだよSAO…」

 

ふと、近くの丘を見るとさっきのイノシシが2体が青いライトエフェクトと同時に現れる。

 

「ふ、ほ、は!」

 

横でクラインが曲刀を振っている。

 

「自分の体を使う方が面白いだろ?」

 

「ああ、スリリングで画面越しのあの時より100倍は面白いぜ!スキルってどのくらいあるんだ?」

 

スキル、今俺達が使ったバトルスキル以外にも無数にあるSAOで一番大事なもの。

 

「多すぎてわからないな。バトルスキル以外にも剣や武器を作る鍛冶スキルなんてのもあるしな。その代わり、魔法は無いけど」

 

「RPGで魔法無しなんて、大胆な設定だよなっ!!」

 

クラインが最後にソードスキルを発動する。

全くだ、RPGで魔法無しの設定、さすが茅場さんだ開発に関わっていた俺でさえ予想出来なかった。

 

「よし!次いこうぜ!」

 

「ああ!」

 

俺達はこの後もイノシシやらデッカイ蜂やらを次々に倒していった。

 

 

 

夕方になり辺りは夕日に照らされていた。

空には夕日に向かって飛んでいくワイバーンの群れがいる。

大地には所々に泉があり滝も出来ている。

さらに、一部の泉には光る球体が浮かんでいる。

 

「未だに信じられねーぜ、此処がゲームの中だなんてな」

 

「俺もだよ、こんな景色も現実じゃあり得ない、まさに異世界だな」

 

この景色が現実にも存在するなんて思えない。

もしあるなら、木綿季と2人で行きたいものだ。

あ、木綿季の事忘れてた…

 

「作った2人は本当に天才だな」

 

「そうだな、作った2人……2人?」

 

クラインの奴何言ってるんだ?

SAOを作ったのは茅場さんだぞ?確かにそれ以外の人も関わったけど数が合わない。

遂に本物の馬鹿になってしまったのか…

 

「ん?オメー知らねーのか?SAOを作った2人の天才の事」

 

「知らないな、1人なら知ってるけど…」

 

段々嫌な予感がしてきた。

だが、俺はそんなに自意識過剰じゃない!

俺はその予感を振り払った。

 

「茅場昌彦は知ってるだろ?量子力学とゲームデザインの天才」

 

「勿論、この世界を作った本人じゃないか」

 

「そう、そしてもう1人!この世界を完璧な仮想世界にするために一切のメンテナンスを必要としないこの世界の核を作ったプログラミングとハッキングの天才!」

 

おう……どこで漏れたんだよその情報……

 

「いやー、そんな物作るなんてマジスゲーよ。しかも、名前は茅場昌彦以外誰も知らない年齢も不明!カッコいいぜ!!」

 

クラインが地面に仰向けになり空を見る。

そのカッコいい奴が今となりにいますよ…

てか、何で俺の事知られてんだよ…

 

「そ、そうだったのか…さ、さて、どうする?狩りを続けるか?」

 

俺は恥ずかしくなり無理矢理話を変える。

褒められるのはいいが流石にカッコいいまで言われると何か悪い気がしてくる。

だって、その正体が女と間違えられるほどの女顔のニート。

悲しすぎるだろ現実……

 

「ったりめーよー、って言いたい所だけどよ、腹が減ってな1度落ちるわ」

 

「此方の飯は空腹感が紛れるだけだからな」

 

体は現実にあるんだ、現実で食べないと此方に影響が起きる。

 

「5時半にピザを予約してっからな!」

 

「準備万端だな」

 

「ま、食ったらすぐにログインするけどな」

 

「そうか…」

 

俺は何をしようかな?

そうだ、ゆう…

 

「そうだ、このあと他のゲームで知り合った奴等と会う約束してんだ、どうだ?お前も来るか

?紹介するぜ」

 

俺が結論を出そうとしたときクラインが提案する。

 

「え?あ、お、俺は…」

 

いきなりの誘いに俺は戸惑ってしまう。

ヤバい、早く答えないと

そんな焦っている俺を見てクラインは両手を振る。

 

「いや、無理ならいいんだ、都合ってもんがあるからな。それに、いつか紹介する機会もあるだろうしな」

 

本当にいい奴だと思う。

俺もこんなに明るかったら何か変わってたのかな?

 

「悪いな、ありがとう」

 

俺はそれだけしか答えれなかった。

 

「おいおい、それは俺の台詞だぜ!色々教えてくれてありがとな。このお礼は必ずするぜ精神的にな」

 

「ああ、待ってるよ」

 

そしてクラインは右手を出す。

 

「マジ、サンキュウな。これからもよろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくな。そうだクライン、フレンド登録しようぜ」

 

俺は出された手を握り言った。

正式なSAOが始まり最初に出会ったクラインという男の性格。

俺はクラインに憧れたのだ。

 

「おう、いいぜ」

 

そして、クラインと俺はフレンドになった。

 

「そんじゃなキリト、わからなくなったらすぐに頼るからな!」

 

「その時はいつでも呼んでくれ!」

 

クラインが手を握上げて叫ぶ。

俺もそれに答えるために叫ぶ。

友人が出来たなんて言ったらアイのやつ驚くかな?

クラインはSAOのメニュー画面の呼び出しの動作の右手を振りメニューを出す、すると

 

「あれ?ログアウトボタンがないぞ?」

 

「は?」

 

早速お呼びのようだ。

俺はクラインのそばに行き自分もメニュー画面を出す。

 

「何言ってるんだクライン、ログアウトボタンは1番下に…」

 

「無いだろ?どうなってるんだ?バグか?」

 

無かった、ゲームの最初にはあったはずのログアウトボタンが無くなっていたのだ。

 

「ま、初日だしなこんな事もあるだろ。天才にも間違いはあるって事よ」

 

「おかしいぞ…」

 

「ん、どうした?」

 

天才かどうかは置いといて俺はそんなミスはしていない、アイと隅々までチェックしたんだ、何処にも間違ってる所は無かった。

そもそも、バグが起きるはずがないんだ。

もし、バグが起きたらカーディナルがそれを瞬時に見つけて対処する。

カーディナルが機能していない?いや、それだったらイノシシのリポップもしないしこうしてプレイも出来ないはずだ。

何故だ?

 

「おい、キリト。大丈夫か?」

 

「え?あ、ああ大丈夫だ。ちょっと考え事をしてただけだ」

 

色々考えるが今のこの状態じゃ意味はない。

アーガスの誰かが対処してるに違いない。

俺って呼び出しと食らうのか?

 

「気長に待つか」

 

クラインは空を見上げて言う。

クラインめ大事なことを忘れてるな。

 

「気長に待つ時間は無いと思うぞ」

 

「え?」

 

俺はクラインのメニュー画面にある時間を指差した。

17時25分だった。

 

「あ~!!俺様のピザとジンジャーエールが~!!」

 

御愁傷様です。

クラインがその場に倒れ混む

おう…クラインよ、死んでしまうとは情けない…

 

「早くGMコールしろよ」

 

「いや、できねーんだよ。きっと今バグを治してるんだろ」

 

あれ?ちょっと待てカーディナルシステムは俺でさえ解析できないかもしれない代物だ。

出来るのはカーディナルを呼び出すことぐらい。

だが、その呼び出す時のコードは俺と茅場さんしか知らない。

茅場さんならこの事態にもうきずいているはずだ。

そして今ごろ、いや、もうとっくに治っているはずだ。

何故こんなに時間が掛かってる?

 

 

"これはゲームであっても、遊びではないよ和人くん"

 

 

「!?」

 

「どうした?キリトよ?」

 

「いや、なんでもない…」

 

おい、今なんであの時の言葉を思い出したんだ。

それより何でこんなに時間が掛かってるかだろ!

 

”ゲームであっても、遊びではない"

 

おいおい、冗談じゃねえぞ……

 

俺はあり得ない事だと心から思っていた。。

 

そんなはず無いだろ……

 

しかし、同時にこれが真実だと心の何処かで確信していた。

 

茅場さん…あんたまさか……

 

「なっ!?」

 

突然、俺の回りに青のライトエフェクトが出現したのだ。

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

倒れていたクラインも同様の現象が起きている。

そして俺達は始まりの街に強制転移された。




今回は特に何も無いお話ですね。
しかも、キリトくんを天才にしたい作者なのでどんどん自分が知っている雑学を入れているので知ったかぶり乙~って人はすいません。
ま、そんな作者ですが、これからも頑張るのでアドバイスよろしくお願いします。
評価と感想お願いします!

あと、何でもいいので感想をお願いします。
勿論、悪口とかじゃなくて頑張ってとかの感想ですよ!Mじゃないですよ!
いや、だって何か感想来ると嬉しいじゃないですか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 最低な奴

少し、投稿が遅れましたね。
すいませんでした。

数学のテストが予想よりいい点数だったぜ!!


  はじまりの街 広場

 

「此処は~、広場か?」

 

「みたいだな」

 

俺とクラインは強制転移され、はじまりの街の広場にいた。

 

「え、何?!」

 

「どうなってるんだ??」

 

「ログアウト出来るのか?」

 

辺りを見ると大勢の人が同じ様に転移されていた。

ログアウト出来ないのを知ってる者や何も知らないで転移された者もいる。

 

「キリト、これってやっぱりログアウトの事で集められたんだよな?」

 

「普通に考えたらそうなるな」

 

一応、肯定はしておく。

しかし、俺は全く違うと思っている。

だがこんな事態だ、確証もない俺の考えを言うべきではないだろう。

 

「おい!上を見ろ!!」

 

誰かが上を見上げ皆に向かって叫ぶ。

俺もその言葉につられて上を見る。

そこには何か赤い半透明のパネルの様な物が1つだけ点滅していた。

 

「なんだありゃ?」

 

横のクラインが呟いた瞬間、1つだけだったパネルが全方位に広がり一瞬で空を全て赤く染めた。

何とも不気味な雰囲気だ。

さっきまで夕日に照らされてた広場も今は赤い光りに満ちていて周りは驚くほど静かだった。

皆、急に起きた事で混乱しているのだ。

だが、驚くのはまだ早かった。

一部分のパネルの間から血の様な液体が流れ出てきたのだ。

その液体は形を変え色を変えて広場の上空にローブの巨人を作り出した。

しかし、

 

「中身が無い?」

 

そう、横でクラインが言うように中身が無いのだ。

ローブと手袋が浮いて何となく人の形を保っている。

 

「ようこそ、私の世界へ」

 

「!!」

 

聞き慣れた声だった。

その声の人物は勿論、

 

「私の名前は茅場昌彦、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」

 

茅場さんだった。

しかし、その口調は俺の知る茅場さんでは無かった。

普段よりさらに冷たい声音だ。

 

「え、マジ?」

 

「本物!?」

 

「スゲーな!!」

 

そんなことわかるはずもない他のプレイヤーは思い思いに喜んでいる。

 

「諸君らの大半はもうすでにメニューからログアウトボタンが消滅しているのにきずいていると思う」

 

茅場さんの声がするローブの巨人は左手でメニューを開く。

ゲームマスターだけが持つ、特別なメニュー画面。

 

「しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す、これはゲームの不具合ではなくソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

この時、俺の予想は的中してしまう。

茅場さん、あんたは本当に……

 

「諸君らは自発的にログアウト出来ない、また、外部の人間がナーブギアを停止または解除も有り得ない。もし、それが行われた場合ナーブギアが発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し生命活動を止める」

 

生命活動を止める、この言葉で辺りのプレイヤーはざわつきだす。

冗談だと思って笑う者、早く現実に帰りたくて悪態付ける者、今の言葉を本当の事だと信じる者は恐らく俺だけだ。

 

「何言ってんだアイツ?頭可笑しいんじゃねーの?なあ、キリト」

 

クラインが笑いながら俺の方を向く。

その声と目には不安が若干混じっているのがわかる。

 

「食べ物や飲み物を温める時、クラインは何を使う?」

 

急な質問に戸惑いながらもクラインは答える。

 

「え、あ~、普通なら電子レンジじゃねえのか?」

 

俺は頷く、クラインの声と目には不安はもう無かった。

が……

 

「同じなんだよ、信号素子のマイクロウェーブは電子レンジと、リミッターを外せば人間の脳の限界、42℃なんて簡単に突破して焼くことが出来る」

 

しかも、電子レンジは水分子を振動させて熱を出す。

人間の脳は85%水で出来ていて人体の中で1番水分を含んでいる場所だ。

豆腐をレンジでチンしているのとほぼ同じだ。

 

「そんなの電源を切っちまえばいいだろ?」

 

「ナーブギアの内蔵バッテリーがある」

 

クラインの案を俺が切り捨てる。

クラインの目に今度はハッキリと不安が現れる。

 

「で、でも無茶苦茶だろ!なんなんだよ!」

 

そんなものこっちが聞きたい事だ。

俺はクラインに少々の怒りを抱きながらも茅場さんを見る。

 

「残念ながら私の忠告を無視した家族や友人がナーブギアを強制的に外そうとした例が少なからずあり、213名のプレイヤーがこの世界と現実世界から永久退場している」

 

「213人も……」

 

「信じねーぞ俺は!!」

 

クラインはうつ向きながらも叫ぶ。

他のプレイヤーも嘘だ!、ドッキリなんだろ!、と叫んでいる。

しかし、茅場さんはメニュー画面で現実世界でのニュースを皆に見せる。

 

「多くの死者が出たためこの事をあらゆるメディアが報道している。よってナーブギアが強制的に解除される可能性は低くなっていると言っていい。諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい」

 

「ゲーム攻略だと……」

 

こんなに混乱しているなかでゲーム攻略?

何となくオチが見えてきたぞ。

 

「だが、今後、プレイしていく中であらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し同時に諸君らの脳はナーブギアによって破壊される」

 

広場にいた多くの人々、恐らくSAOの全プレイヤー1万人が言葉を失った。

予想していた俺でさえ改めて言われると言葉がでない、それどころか息が荒くなる。

 

「諸君らが解放される手段はただ1つ、このゲームをクリアすればよい、今いる1層から頂上の100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」

 

「クリアだと?おいキリト、βテストじゃ何処まで行ったんだ?」

 

クラインは茅場さんの言葉を本当の事だとわかってきたようだ。

 

「2ヶ月で8層までだ、しかも、何回も死にながらだ」

 

「そんな、100層なんて無理に決まってるだろ!!」

 

そうだ、2ヶ月で8層しか進めなかったんだ、そこにHPが無くなれば現実でも死ぬだと?

何年掛かると思ってるんだ。

俺は心の中で思った。

死ぬことではなく時間の心配をしたのだ。

 

「最後に1つ私からのプレゼントが送られているはずだ、受け取りたまえ」

 

とりあえず、メニューを開くと確かに1つ送られてきていた。

送られてきた物をタッチしてオブジェクト化させる。

 

「手鏡?」

 

これが何の役に立つんだ?

全く意味がわからない。

すると、強制転移の時と同じで青いライトエフェクトが全身を包みこんだ。

 

「くっ!」

 

その光の中で俺は違和感を感じた。

まるで、全身が少し縮む様な感覚。

 

「いったい何が……」

 

「キリト、大丈夫か?」

 

「ん?ああ、だいじょ…………誰だ?」

 

そこにはクラインの声の野武士顔の男が立っていた。

年齢は20代だろうか?

とにかく、知らない人だった。

 

「お前こそ誰だよ」

 

男が俺を指を指して聞いてくる。

いや、初対面だし誰だと言われても……

俺はオブジェクト化した手鏡を見た。

現実と同じ顔の俺がいた。

しかも、身長などの体格も同じだ。

 

「これって……」

 

少し長めの前髪に白い肌、女の様な線の細い体型。

現実でのコンプレックスだった女顔に戻っていた。

 

「現実の顔……まさか、クライン!?」

 

「んじゃ、お前がキリトか!!」

 

俺達はお互いに指を指して叫ぶ。

 

「マジかよ、普通に女だと思っちまったぜ」

 

「うっせ」

 

俺は女と言われるのが嫌で周りを見渡し会話を止める。

酷い光景だった。

現実の顔に戻されたため、イケメンだった男が中年男性になったり、痩せていてスタイルバツグンの女がデブになったりとしていた。

さらには、男が女の装備をしているのがちらほらいる。

 

「皆現実の顔に戻されてんな」

 

「ああ、そうだ……な……ッ」

 

ヤバい!ヤバい!ヤバい!

今さらだが、現実の顔に戻された事で対人恐怖症が発症してしまう。

ある程度回復していた俺だが、命の危険性が非常に高いこの状況で逆に悪化してしまった様だ。

俺は両手で頭を抱え、その場にうずくまる。

頭の中が恐怖で埋め尽くされる、周りの声が雑音となり頭に響く。

うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!

 

「おい、キリト、大丈夫か?」

 

「うるさい!!」

 

クラインが心配して俺の肩に手をやってくれたが思わず振り払ってしまう。

 

「あ、いや、ごめんなさい……そんなつもりじゃ……」

 

やってしまったと思い顔を上げて謝るが上手く謝れない。

俺はそのまま視線を下に落とした。

 

「キリト……」

 

クラインから見て俺はどう見えるのだろうか。

男がしゃがみこみ頭を抱えて震えているのだ。

本当に情けない。

俺は思いっきり目を閉じた。

 

「あ~、キリトよ、とりあえず壁際に行かねえか?そっちの方が落ち着くだろうしな」

 

「え?」

 

俺は思わず顔を上げる。

驚いた、クラインは何も聞かず俺の心配をしてくれたのだ。

俺は一応頷きクラインに連れられ広場の壁際に向かう。

 

「ごめん……」

 

「何謝ってんだよ、ダチを助けんのは当たり前だろ?」

 

ダチ、友達か……俺とクラインは友達。

SAOに入って初めての友達。

俺は壁まで来ると壁に背中を当てズルズルとそのままへたれこむ。

 

「でも、なんで自分の顔に出来たんだ?」

 

クラインは誰に言うのでもなく茅場さんを見た。

 

「スキャンだ……」

 

「え?」

 

俺は視線は下に向けたまま答えを言う。

 

「ナーブギアは高密度の信号素子で顔を覆っている、だから顔の形がわかるんだ」

 

「でもよ、身長や体型はどうすんだ?」

 

「ナーブギアを初めて着けたときのキャリブレーションってのをしただろ?その時の情報から推測したんだ」

 

これも簡単に答える。

 

「でもなん__」

 

クラインの言葉を遮って茅場さんが話始める。

 

「諸君らは今、何故?っと思っているだろう。私の目的は既に達成されている。この世界を作りだし観賞するためだけに私はソードアート・オンラインを作った。」

 

「茅場さん……!!」

 

俺は少しだけ顔を上げ、茅場さんを睨む

 

「以上をもってソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了するプレイヤー諸君、健闘を祈る」

 

すると、茅場さんの姿が霧の様になり始める。

 

「最後に、この中にいるはずの1人の少年に伝える」

 

俺は何も言わずただ霧化していく茅場さんを睨み続けた。

 

「騙してた事を謝罪する。しかし、君なら生き残れるはずだ。頑張りたまえ」

 

それを最後に茅場さんは最初出てきた様にパネルの隙間に消えていった。

同時に空を覆っていた赤いパネルも消えていき、空は夕日に照らされていた。

 

「いや……いや~~!!」

 

広場に女の悲鳴が響いた。

 

「ふざけんな!」

 

「出せよ!」

 

「この後約束があるの!」

 

悲鳴がトリガーとなり広場は悲鳴や罵声の嵐となった。

その時、1つの言葉が俺に聞こえた。

 

「もう1人はどうしたんだ!!」

 

「……ッ」

 

体が強張る。

茅場さんの最後の言葉、あれは俺に向けられた言葉だ。

 

「キリトよ、最後のって多分もう1人の天才に言ったんだよな?」

 

「恐らくな」

 

クラインはまさか、それが俺の事だなんて思いもしないだろう。

俺がそのもう1人の天才だって言った瞬間、俺は持っている情報を強制的に言わされ多くのプレイヤーの前で処刑だろう。

絶対に自分は悪者だと考えてた俺は次のクラインの言葉にまた、驚かされる。

 

「んじゃよ、もう1人の天才も被害者じゃねーか、まったく、今何を考えてるんだろうな?…………って何だキリト?俺の顔に何かついてんのか?」

 

俺はクラインを見て目をパチクリしている。

責めるのではなく心配。

 

「クラインはいい奴だな」

 

「何だよいきなり」

 

本当にいい奴だ。

こんなに周りは混乱しているのに自分の心配よりも人の、しかも騙されたとは言えこのゲームを作った人を心配したのだ。

 

「なんでもない、それよりこれからどうする?俺は次の町に行こうと思っているけど」

 

今頃、大半のβテスター達はこの先生き抜くためにレベルを上げながら次の町”ホルンカ”に向かっているだろう。

俺も少し遅れてだがそれに続くつもりだ。

 

「とりあえず、俺は他のゲームで知り合った奴等を探そうと思う」

 

「そうか、ならこれを渡しておく」

 

俺はメニュー画面をだしメールでクラインにある資料を渡す。

 

「こ、これってβテストの時の情報か!?」

 

「1層のだけだけどな、2層に行けるようになったらまた渡す」

 

一気に渡すとゴチャゴチャになるだけだ。

まさか、

βテストの時、俺が整理しておいた情報が役に立つなんて思ってもいなかった。

 

「それの、使い方はクラインに任せる、ただし、情報源が俺だって言うなよ」

 

「わかってんよ、お前がβテスターだってことも言わないでおいてやる」

 

「助かる、……よっと」

 

俺は立ち上がると広場を見渡した。

こんだけ人がいるんじゃわかんないな。

 

「クライン、1つ頼みがあるんだがいいか?」

 

「ん、いいぜ」

 

俺は1回大きく深呼吸をする。

この世界では呼吸は必要ないが精神的な面では1番これが落ち着く。

 

「もし、女の子でユウキって子に会ったら俺に伝えてくれないか?」

 

「ユウキ?どんな子だ?」

 

「背は俺の胸辺りで、髪は腰の少し上ぐらいまである、あと自分の事をボクって言う」

 

本当はもっと言えるが止まらなくなりそうなので止める。

 

「わかった、もし会ったら連絡する」

 

「ただし、」

 

「ん?」

 

「俺の事はユウキに言わないでくれ」

 

「は?」

 

そうなるよな、普通。

でも、俺はまだあいつには会えない。

 

「え、つまり、お前はそのユウキって子を探すけど直接は会わないってことか?」

 

「そうなるな」

 

クラインが俺を見てくる。

俺はつい、視線をクラインから外す。

 

「ま、人には事情ってもんがあんだろ。深くは聞かねーよ」

 

クラインは広場を見渡す。

 

「俺は行くよ」

 

俺はクラインに背を向け、広場から出ようと門に向かう。

 

「キリト!」

 

振り向くとクラインが腰に片手をあて笑っていた。

 

「おめー、案外可愛い顔してるんだな、結構タイプだぜ」

 

俺もまた笑顔を作り言った。

 

「お前もその野武士ズラの方が100倍似合っているよ!!」

 

俺は走り出す、広場を出て町の外を目指す。

 

「何が、友達だ……」

 

俺は走りながら自分を責める。

本物の友達なら、ここに残ってクラインと一緒にクラインの仲間を探すべきだった!

本物の友達なら、黙ってないで俺がこの世界のカーディナルシステムを作った事を言うべきだった!

本物の友達なら…………共に戦うべきだった……

俺はまた、逃げ出したんだ。

失う事を恐れその場から逃げ、守る事を選ばなかった。

木綿季の事だってそうだ、この世界でなら守れるとか思っていたのに、デスゲームになった瞬間、失った時の悲しみを少しでも小さくするために逃げたんだ。

そして今、完治するかもしれないと言われたのに、逆に死ぬ可能性を作ってしまった事への罪悪感からも逃げ出そうとしている。

でも、俺自身は死にたくないと思っている。

俺は本当に最低な奴だ……

 

はじまりの町を出ても俺は走るスピードを落とさない。

すると、前方に狼のモンスターが現れる。

俺は背中から剣を抜く。

狼は全力疾走し続ける俺に飛びかかってきた。

 

「ハアアッ」

 

俺は剣を構える。

すると、剣からは青いオーラが機械音と共に出てくる。

そして、すれ違う瞬間、剣を右上から左下に降り下ろす。

ソードスキル”スラント”

狼は空中で静止しポリゴンとなり砕け散った。

俺は狼の最後を見届けずに走る。

 

「くっそ~~~!」

 

俺は夕日が沈みかけているフィールドで叫んだ。

走り去った跡には、小さな雫が地面に落ちていった。




ユウキとキリトの再会を待ち望んでいた皆様、本当にすいませんでした!!
キリトも原作とだいぶ違いますね……
でも、ちゃんとキリト×ユウキなので安心してください!!

では、評価と感想お願いします!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 MPK

クリスマスが今年もや~て来る~♪

誕生日が12月30日でクリスマスと近い自分は2個のプレゼントをゲットだぜ!
しかも、お年玉も貰える~!
冬は最高だね!!


   ホルンカ

 

ホルンカに来た俺は早速、あるクエストを受けようとしていた。

そのクエストの報酬は片手剣で序盤では結構良い性能を持っているのだ。

 

「ここか」

 

街外れにある小さな民家。

中に入るとベットで息苦しそうに寝ている少女と少女の手を握っているおじいさん、2人のNPCがいた。

 

「どうしました?」

 

俺はおじいさんに話しかける。

おじいさんは娘の風邪を治すためにモンスターが持つ薬の材料をとってきてほしいっと言った。

クエストの名前は”森の秘薬”

クエストを受けた俺は薬の材料を持つモンスター”リトルネペント”がいる近くの森に急いだ。

 

「病気の少女を治すか……」

 

俺はあの少女と木綿季の姿を重ねていた。

NPCでも救えば少しは罪悪感から開放されるって思ってんのかよ俺は……

そうこうしてると森が見えてきた。

 

「花の奴、花の奴」

 

俺は森に入ると頭の上に花が咲いているリトルネペントを探し始めた。

他にもあと2種類のリトルネペントがいるがその内の頭の上が実になっているリトルネペントは要注意だ。

実を斬ってしまうと普通のリトルネペントが沢山出てきてしまうからだ。

 

「君も森の秘薬を受けたのかい?」

 

振り向くと同い年くらいの少年がいた。

突然現れたので俺はこいつが隠蔽スキルを持っているとわかった。

隠蔽スキル、またはハイディングスキルとはその名の通り姿を隠蔽することが出来るスキルでモンスターに発見されにくい利点がある。

 

「そうですが……」

 

「なら、一緒にやらない?そっちの方が安全だしさ」

 

正直言って嫌だった。

姿を隠してまで何故俺を誘うのか疑ったのだ。

ここには多くのβテスター達が森の秘薬を受けに来たはずだ。

この少年も恐らくβテスターだろう。

それなら、遅く来た俺より先に来たβテスターと一緒にやればいい。

多くのβテスターがいたんだ選び放題だったはずだ。

 

「いや、1人で大丈夫です」

 

俺はそのまま花の奴を探しに前に進んだ。

すると、少年が回り込んできた。

 

「そんな事言わずに一緒にやろうよ!」

 

ウッゼ~~!

なんだこいつ、βテスターなら戦い方も知ってるだろ!

この森のモンスターぐらい1人で倒せるだろ!

 

「遠慮します」

 

俺は速足で少年の横を通り過ぎた。

 

「ちょ、待ってよ!僕戦うのが苦手なんだよ!」

 

少年が俺の腕を握って焦るように俺を引き止める。

 

「何でですか?」

 

「え?何でって、死んじゃうかもしれないいんだよ!!」

 

この焦り方だと戦うのが苦手なのは本当らしい。

でも……

 

「死ぬのは嫌だけど、相手が死ぬのはいいんですね」

 

「え?」

 

少年の手が離れて少年は少し後退りをする。

バレバレだろその反応。

 

「何がだい?」

 

顔は笑っているが、声が少し震えている。

この人嘘下手だな~。

 

「隠蔽スキルを持っているって事はMPKですか?」

 

「だから、なんの事を言ってるのかな?」

 

少年は変わらず聞いてくる。

白々しい奴だな。

 

「いつこの森に来ました?」

 

「大分まえだよ、戦うのが苦手だからこの時間まで右往左往してたけどね」

 

自分が自分を苦しめてんのきずいてるのか?

 

「この場所は森の秘薬をクリアするための重要な場所だ。リトルネペントがいるのはここだけだからな、多くのβテスター達がこの場所に来たはずだ、なのに何で俺を選ぶ?」

 

青年が黙りこむ。

 

「い、いや、僕コミュ症でさ」

 

やっと出てきた答えがこれかよ。

本当のコミュ症は自分から話し掛ける事はしないんだよ。

偶然会った感を出して何となく一緒にやろうかって流れを作るんだよ。

隠れてていきなり話し掛けるなんてしないんだよ。

 

「コミュ症が隠蔽スキルを使っていきなり出てきて一緒にやろうかって誘うんですか?」

 

「隠蔽スキル?何だいそれは?」

 

「隠蔽スキルを知らないプレイヤーなんていませんよ」

 

まだ、序盤なんだからスキルは2つだろ、このクエスト受けてんなら片手剣スキルは決定であとの1つはスキル欄から選ぶだろ普通……スキル説明読まないのかよ。

 

「まあ、βテスターが沢山いる時にMPKなんてしたら自分が犯人ってばれる可能性が高いですしMPKをした相手が生き残る可能性もありますしね。誰もいなくなるのを待って次来たやつにMPKをしようとしたんですよね」

 

「何で僕がそんな事しなきゃいけないんだい?」

 

自分で言ったじゃないか。

 

「戦うのが苦手なんでしょ?」

 

少年はとっさに自分の口に手を当てる。

やっと、きずいたのかよ。

 

「花のリトルネペントを1体でも倒したら実のリトルネペントの実を斬って薬の材料を横取りしようとしたんでしょ?花の奴と実の奴じゃ実の奴の方が出現率が断然高いですからね」

 

「そ、そんなこと……」

 

少年は顔に焦りを見せながらなんとか誤魔化そうと口を開くが言葉が出ていない。

 

「そんな事する人と一緒に行動なんて出来ません」

 

元々1人でやるつもりだったけど。

でも、この少年はまた同じことを繰り返そうとするだろう。

 

「MPKの事は黙っておいてあげます。でも、俺はあなたがMPKをしようとした事を知っている。その事を良く覚えておいてください」

 

 

俺は少年に背を向け歩きだし花のリトルネペントを探すの再開した。

少しして振り向くと少年が街の方にとぼとぼと歩いていくのが見えた。

SAOのデスゲームが始まって最初の殺人犯の少年。

俺は彼の名前を知らないまま、歩きだした。




推理になってるかわからない……
MPKされる前に見抜いちゃうキリト……
うん!自分はこんなキリトが好きです!
まだ、キリト視点が続きますので、ユウキを待っている皆様は少々お待ちください!

では、評価と感想お願いします!!

お気に入りが100を突破しうれしい作者です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 強く

アニメのソードアート・オンラインの最終回が近い……
ユウキ生存ルートいかないかな~


あの少年と別れてすぐに、何処からか声がした。

 

「いや~、和人くんは本当に面白いナ~」

 

現実での名前を呼ばれて驚いた俺は周りを見渡した。

けど、誰もいない。

え!まさかのお化け!?

 

「上を見てみナ」

 

俺は言葉の通り上を見た。

そこには木の枝に座っている小柄な女性がいた。

ボロいマントを着ていて金髪、どこか幼い顔立ちでその頬には左右3本ずつの髭のペイント。

 

「え……安岐アオイさん?」

 

「久しぶりだネ」

 

アオイさんは枝から軽々と飛び降りてきた。

鼠みたいな格好だが、猫のような身軽さだ。

 

「え?でも、そのしゃべり方って……」

 

「そうだヨ。βテスト時代に有名だった鼠のアルゴとは俺っちの事だったんだよネ~」

 

安岐アオイ、俺があの時の事故で入院していた時の看護師、安岐ナツキの妹。

同時に木綿季がメディキュボイドで治療中なのでその監視役の看護師でもある。

つまり、俺には安岐ナツキ、木綿季には安岐アオイ、がついていたのだ。

 

「まさか、SAOがデスゲームになっちゃうとはナ、おねーサンビックリだヨ」

 

「アオイさんがアルゴだったんですね」

 

「まーナ、SAOの中じゃアルゴって呼び捨てでいいヨ、俺っちはキー坊って呼ぶかラ」

 

「キー坊って……」

 

謎のネーミングセンスを持つアオイさん。

この人はあんまり年齢とか気にしないタイプの人だ。

 

「で、キー坊は何を悩んでいるのかナ?」

 

「ッ!?」

 

アルゴは前屈みになり人差し指で俺の胸を軽く突きながら目を見て聞いてくる。

この人は知っている、俺の過去の事も木綿季の事も。

 

「そんなに驚くなヨ、これでも結構優秀な看護師だったんだからナ」

 

「何で悩んでると思います?」

 

俺は目を虚ろにしてアルゴを見た。

アルゴは俺を見て少し悲しそうな顔をする。

 

「ユーちゃんが治るかもしれないのにこんなデスゲームを作ってしまった自分を責めていル」

 

「……何で知ってるんですか?」

 

驚く事も忘れて、ただ俺は一部の人しか知らないゲーム制作の事を聞いた。

 

「スグちゃんが喜んでいたからナ」

 

スグの奴、何で言ってんだよ……

 

「それを聞いた俺っちがネットで暴露、プログラミングとハッキングの天才がいるってナ」

 

「犯人あんたか!!」

 

悲しそうな顔してたのに何言ってんだこの人は!!

俺はアルゴに向かって全力で脳天チョップを放ったが、ヒラリとアルゴはかわす。

 

「おっと、ようやく顔が良くなったナ」

 

「え?」

 

俺はチョップを放った状態で固まる。

顔が良くなった?俺そんなに気持ち悪かったの?

 

「別にユーちゃんはキー坊の事責めてないと思うゾ」

 

「うぐっ」

 

アルゴはデコピンで俺のおでこを攻撃する。

 

「木綿季が何を思ってるなんてわかんないでしょ……」

 

「確かにそうだナ、怒ってるかもナ~」

 

「ッ!」

 

そりゃそうだ、俺のせいで死ぬ可能性が高くなってしまったんだ。

怒ってるに決まってる。

俺は拳を握りうつ向く。

 

「キー坊が会いに来てくれない事ヲ」

 

「は?」

 

アルゴは何言ってんだ?

怒る理由が会いに来てくれない事?

 

「そんな訳ない……」

 

「あのネ~、キー坊はSAO1番の被害者なんだヨ。自分が良い人か悪い人かは他人が決めル。キー坊が自分を責めているならキー坊は良い人だと、俺っちは思うゾ」

 

「良い人か悪い人かは他人が決める……」

 

俺はその時クラインの事を思い出した。

クラインは俺の事を良い人と見てくれてた。

けど、それは俺がこのSAOを作った事を知らないからだ、作った事を聞いたらクラインは……

 

「キー坊、相手がどう思ってるかは話してみないとわからないがヨ」

 

「なら!木綿季が怒ってる理由もわからないじゃないですか!!」

 

俺はアルゴに向かって怒りを見せる。

アルゴはそんな俺を見てため息をつく。

そして俺から距離を取り……

 

「そ~~~レッ!!」

 

「うげっ!」

 

アルゴはなんと全力でドロップキックを俺の顔面に撃ち込んだ。

顔に足がめり込み俺は後ろに倒れる。

 

「何するんですか!!」

 

俺はすぐに顔を上げ、アルゴを睨もうとする。

しかし、目の前には膝……

 

「2~発目~♪」

 

「んな!!」

 

次に膝蹴りを受け、俺は後頭部を地面に強打する。

何故楽しそうなんだ……

 

「キー坊は何にもわかってないナ~、この世界でユーちゃんに会ったんだヨ。それはもうプンプンに怒ってたゾ」

 

「それを先に言ってくださいよ!!何で俺蹴られたんですか!?」

 

「ウザかったからに決まってんだロ」

 

何でそんなのもわかんないの?って顔をしながらアルゴは倒れている俺を見下ろす。

 

「自分を責めるのは別に悪いことじゃないけどサ、1人で悩んでいるのがウザイ」

 

「でも、誰を頼れば良いんですか!」

 

「キー坊は目の前にはいるおねーサンが見えないのかナ?」

 

アルゴは自分の頬に右手の指を当て無邪気に笑う。

そのポーズが似合っていて俺は何故か黙ってしまう。

 

「ユーちゃんと会うのはキー坊の心の整理が終わった後でいいとしテ、1人だけでも自分の事を知ってる人がいるだけで大分楽になるゾ」

 

アルゴがそう言い小さい布の袋を投げてきた。

中を見てみると森の秘宝のクエストで必要な薬の材料が入っていた。

 

「偶然だったんだけどナ、花の咲いた奴がここにいてな、上から不意打ちでソードスキルでズバッと斬ったらそれが出てきたんだヨ、俺っちは片手剣じゃないしあげるヨ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺はお礼を言いながら立ち上がる。

 

「さ、森の秘宝をクリアしに行くゾ」

 

「え?来るんですか?」

 

「悲しいナ~、何か問題でモ?」

 

「いや、ないです」

 

俺とアルゴは森の秘宝をクリアするため、ホルンカに向けて歩き出した。

アルゴには対人恐怖症が出なかった。

多分、ドロップキックに膝蹴りをもらって吹っ切れたんだ。

俺はMじゃないのに……

 

 

クエストが終わり、無事森の秘宝のクリア報酬の”アニールブレード”を手に入れた俺はアルゴからある提案を受ける。

 

「キー坊サ、俺っちと行動しないカ?」

 

「パーティーって事です?」

 

「そうダ、俺っちはβテストの時と同じで情報屋をしようと思ってるからナ、用心棒みたいなもんサ、キー坊もモンスターと戦ってレベルアップ出来るしいいじゃないカ」

 

多分アルゴは俺の事を思ってくれたんだと思う。

だから、それに応える。

 

「いいですよ」

 

「それジャ、決定だナ。言っとくけど敬語は無しナ」

 

普通、年上に敬語無しは躊躇いがあるが相手はアルゴだ、そんな躊躇いは無い。

 

「わかった、これからよろしくなアルゴ!」

 

俺はこの日少しだけ強くなった気がした、でも、木綿季と会うにはもっと強くならないといけない。

木綿季と正面向かって話せるように強く、今度こそ守れるぐらい強くならなくちゃ……




これで良かったのかが未だにわからない……
キャラ設定が酷すぎますよね?
でも、これでいきます!!
こんな作者をどうかよろしくなお願いします!

評価と感想お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 攻略会議

冬休みは予定が無いので更新ペースがアップ!!…………するかもしれないです。


「キー坊後はよろしくナ~」

 

「おう!!」

 

俺はアルゴに言われ、洞窟の出口にいる牛のモンスターに向かって剣を振りかぶる。

 

「セイッ!」

 

剣を真上から降り下ろすソードスキル”バーチカル”

 

「ブオオ!!」

 

牛のモンスターは雄叫びをあげ、一瞬硬直した後にポリゴンとなって消えていった。

 

「まさか俺っちの名でデマを流すとはナ」

 

「俺は最初から信じてなかったけどな」

 

俺とアルゴは最近噂になっている、ログアウトが出来る洞窟に来ていた。

噂とは、この洞窟に入ったプレイヤーはログアウト出来るっと言うものだ。

この洞窟に入ったプレイヤーが1人も戻ってこないっと安易な理由。

実際には強いモンスターに殺られただけだったが。

 

「キー坊はレベルどのくらいダ?」

 

「今ので11レベだな」

 

アルゴと行動するようになって数日、いくつものクエストをクリアしてきた俺は狩りをしなくてもレベルがどんどん上がりSAOのトッププレイヤーの一員となっていた。

でも、クエストでレベルアップしているのであまり知られてない……

影の勇者、うん!カッコいいな!

 

「あらラ?女の子が倒れてるゾ」

 

「あの噂を信じて来ちゃったプレイヤーだな、さっきのモンスターの攻撃が当たったかな?」

 

「みたいだナ、ビギナーさんポーションのサービスダ」

 

アルゴが女のビギナーにポーションを飲ませる。

ビギナーは無言でポーションを飲み始めた。

これでもう大丈夫だろう。

 

「じゃ、俺は噂は嘘だったって情報を流しに行ってくる」

 

「よろしくナ~」

 

俺はメニューから黒いフード付きのマントを出し羽織る。

そして、顔が見えないようにフードを深く被った。

 

「後でいつもの酒場に集合な」

 

「ほーイ」

 

俺は”トールバーナ”に向かって走り始める。

 

 

 

   トールバーナ

 

トールバーナに着いた俺は街に噂は嘘だったと流す。

方法は簡単、色々な店にある掲示板のアルゴの情報屋のコーナーを更新。

”ログアウト出来る洞窟は嘘だった!!偽物のアルゴの情報屋に注意!!”

その後に街を歩きながら独り言のように言いまくる。

 

「ログアウトの噂って嘘だったのか……」

 

これがコミュニケーション能力が高い奴が聞くと一気に街全体に広まる。

そしたら、本当かどうかを確認しに掲示板に集まる。

これで情報の拡散が終了。

 

「ん?第1層攻略会議が明日、トールバーナの広場で開催?」

 

俺が情報の拡散が終わった時、新しい広告が掲示板に新しく出ていた。

どうやら、何処かのパーティーが第1層のボスベアを見つけたらしい。

 

「明日、丁度1ヶ月か……」

 

俺はアルゴと待ち合わせの酒場に向かった。

デスゲームが始まって1ヶ月、まだ第1層もクリアされていなかった。

 

 

   酒場

 

「そっカ~、キー坊はボス戦に出るのカ?」

 

「一応な、第1層攻略本ボス戦ver.出すか?」

 

酒場の目立たない席で俺達は夕食を食べていた。

アルゴはスパゲッティで俺はピザ。

 

「用意はしてあるヨ、鼠のアルゴに抜かり無しダ」

 

アルゴはメモ帳程の大きさの本を見せてきた。

 

第1層ボス”インファング·ザ·コボルド·ロード”

その他にも最初に持ってる武器やHPゲージが1本になった時の武器の交換などが書かれていた。

 

「ボスってβテストの時と同じなのか?」

 

これまでのクエストでもβテストの時と違う所がいくつかあった。

ボスが全くβテストの時と同じってのは少し考えにくい。

 

「最初のページの注意書にその事はかいてあるヨ」

 

注意書には”これはβテストの時の情報です。変更点がある可能性がありますのでご注意下さい”っと書かれていた。

 

「やっと1層カ~、ユーちゃんは来ると思ウ?」

 

「木綿季は来るよ」

 

即答だった。

アルゴは目をパチクリさせている。

 

「即答ネ~、何でそう思うダ?」

 

アルゴはスパゲッティが巻かれたフォークを俺の方に向けた。

 

「勘だ」

 

それ以外に理由がない。

ただ、木綿季なら来ると思っただけだ。

 

「勘カ、愛の力とか言わないんだナ」

 

アルゴがスパゲッティを食べながら何気ない顔で言う。

 

「言えるか!」

 

全力で否定するがアルゴはニヤニヤしたまま俺を見ている。

その視線が嫌で俺は半分まで食べたピザをまた食べ始める。

アルゴはまだ、ニヤニヤしていた。

 

夕食が終わって俺達は拠点としている少し古い家の2階にいた。

それなりに広いこの部屋は2人でコルを払ってるから家賃は安く、さらにこの家の人は牧場を開いているので牛乳は飲み放題。

しかし、アルゴが言うに1番の魅力は風呂があることらしい。

SAOでは風呂に入らなくても臭くも汚くともならないのにだ。

女って難しいな……

 

「そろそろ寝るか」

 

「そうだナ、配布の準備も出来たし寝るカ~」

 

アルゴが欠伸をしてベットに向かう。

明日、配布予定の攻略本第1層ボス戦ver.の最終チェックを終わって疲れたのだろう。

肉体的な疲労はなくても精神的な疲労はある。

精神的な疲労があると戦いの時に影響がでてしまう。

アルゴがベットにダイビングして3秒後に寝息が聞こえたので俺は電気を消してベットの少し離れた所で寝袋を使い寝る。

何故少し離れた所かと言うと、この部屋を借りた初日は真横で寝ていたが夜中にアルゴがベットから落下して熟睡中の俺に激突。

以来、何度も落ちてくるので少し離れたところで寝ている。

この前、アルゴが床で寝る事を提案したがベットがいいとアルゴは主張。

落ちても寝たままで落ちた記憶が無いのだ。

普通なら痛みがあるがSAOなので痛みはないので寝たままでいられる。

少しは痛覚を入れるべきだった……

あ、それだと俺の方が痛いじゃん……

 

 

次の日、アルゴは攻略本を配布しに行ったので俺は久しぶりに迷宮区に潜っていた。

討伐系のクエストもやってきたので全然苦戦しなかった。

調子も良くどんどん進んで行くと俺と同じ様にフード付きのマントを着た女のプレイヤーがいた。

そのプレイヤーは残り数ドットのHPの狼のモンスターに向かって細剣のソードスキル”リニアー”で攻撃した。

オーバーキル過ぎるがプレイヤーの戦闘スタイルに口出しするつもりなんて無いので、そのままスルーしようとしたのだが……

 

「は?」

 

攻撃を受けてないのにいきなりそのプレイヤーが倒れたのだ。

急いで駆け寄るとただ疲労で倒れただけのようだ。

しかし、このままではリポップしたモンスターに攻撃されてしまうので俺は仕方なくメニューから寝袋を取り出す。

女のプレイヤーを寝袋の中に入れ隠蔽スキルを使い寝袋を引きずりながら迷宮区の外に向かう。

外に出ると近くの木の下で寝袋から女のプレイヤーを取り出して俺はモンスターが現れた時の為に見張りをする。

 

 

 

   数分後

 

「う、うん~…」

 

「あ、」

 

数分後、女のプレイヤーが起き上がろうともぞもぞしている。

 

「ここは……」

 

女のプレイヤーは起き上がり女の子座りをして辺りを見渡す。

当然、近くの木の下で座っていた俺と目が合う。

 

「あなたがここまで運んだの?」

 

「え、あ、はい……」

 

女のプレイヤーが鋭く睨んできたので身を引きながら肯定する。

目で人殺せるレベルだ……

 

「寝てる間に何したの?」

 

「え?それは、その、寝袋を用意して色々と……」

 

すると、女のプレイヤーは自分を抱き締めてうつ向く。

え、どうしたんだ?

 

「……色々って何?」

 

「はい?」

 

うつ向きながら小さな声で発する言葉に何を言ったのかわからず聞き返す。

 

「あなた!!私が気を失ってる間にその……色々したんでしょ!!!」

 

女のプレイヤーは顔を上げて大声を出しさらに、自分の武器のレイピアを俺に向けた。

別に武器を突き付けようが俺には大した問題じゃない、だって逃げればいいんだし。

だけど、俺に向かって大声を出し怒っているって事が俺にとって大問題だった。

 

「す……すいません。別にあなたが考えている色々なんてしてません。ただ、その……あなたがあのまま迷宮区の中に倒れていたらモンスターにやられちゃうって思って寝袋を使って外まで運んだんです。え、えっと、なので、何も心配する事はありません。も、もし、それが余計なお節介だったのなら謝ります。すみませんでした……」

 

見知らぬ人に突然怒られた俺は木の後ろに隠れて震えてしまった。

しかも、涙を我慢しながらだ。

 

「え、あ、そう……勘違いしてごめんなさい」

 

そんな俺を見て呆気に取られたのか謝る。

女のプレイヤーの方からレイピアをしまう音がした。

 

「え~と、大丈夫?」

 

「ひっ!!」

 

後から声を掛けられ体がビクンとほんの少し飛び上がる。

 

「突然怒ってごめんなさい、そんなに怯えるなんて思わなかったから……」

 

振り向くと女のプレイヤーが心配そうにこちらに顔を向けていた。

 

「いえ、すいません。ちょっと、驚いちゃって……もう大丈夫です。では、俺はこれで……」

 

俺は立ち上がりトールバーナで行われる第1層攻略会議に参加するために歩き出す。

フードを被ってたので顔を見られてないはずなのでこのまま逃げてしまえばこの事は無かった事になると思ったのだが、

 

「ちょっと、何処に行くの?迷宮区に戻るんじゃないの?」

 

この人、攻略会議の事を知らないのか?

俺は仕方なく教える事にした。

 

「もうすぐ第1層攻略会議が始まるんです」

 

「攻略会議?あなた、本当にクリア出来るって思っているの?」

 

冷たい視線を俺に向けてくる。

 

「クリアしないといけないんです」

 

「ッ!!」

 

俺はもっと冷たい視線で対抗する。

すると、女のプレイヤーはそのまま黙ってしまう。

俺は再度トールバーナに向けて歩きだした。

 

「……私も行く」

 

「え?でも、倒れたばっかりじゃ……」

 

振り向くと女のプレイヤーが腰に手を当てていた。

俺は無理をしないようにもう少し休むよう言おうとした。

が、俺に指を指し怒鳴る。

 

「とにかく、行くの!!」

 

「ひっ!」

 

ビックリして思わず速足でトールバーナに向かう。

この人よく怒るから恐い!

 

「ご、ごめんなさい!つい……」

 

後から慌てて謝る声がする。

アルゴ~助けてよ~

 

 

 

トールバーナの広場に着くと会議が丁度始まろうとしていた。

俺達は1番後ろに座った。

まるで、音楽のライブ会場の様な広場の中心には濃い水色の髪を持つ青年がいた。

 

「皆!今日は集まってくれてありがとう!!俺の名前はディアベル!職業は気持ち的にナイトやってます!!」

 

ディアベルがいい笑顔で自己紹介をすると周りから明るいヤジが飛ぶ。

何てコミュニケーション能力の高さだ、もう広場にいるプレイヤーの心を掴んでしまった。

そんなディアベルに尊敬の眼差しを向けると今度は真剣な表情となり攻略の話になった。

 

「先日、俺のパーティーが迷宮区でボス部屋を発見した」

 

広場にいる全てのプレイヤーが同じ様に真剣な顔をする。

 

「俺達が第1層をクリアすれば勢いがつく!100層まではまだまだ遠いけど、この小さな1

歩を積み重ねていけば必ず100層にたどり着く!!その小さな1歩を踏み出すきっかけを作るのは俺達だ!!そうだろ、皆!!」

 

ディアベルは凄いな。

最初に場を盛り上げて皆のボスへの恐怖心をなくそうとしている。

 

「じゃあ、早速パーティーメンバーを決めてくれ!」

 

……どうしよう。

全く考えていなかった~!!

そうだ!アルゴにも攻略を手伝ってもらえば!

うん、そうしよう!我ながら名案だ!!

 ピコン

ん?メールだ。

 

『キー坊へ、俺っちは出ないから隣のアーちゃんと組みな。鼠のアルゴより』

 

裏切り者め!!

アルゴの奴、どっからか見ているな!!

って、アーちゃん?

 

「ねえ、君。私と組まない?」

 

隣のアーちゃん?が首をかしげていた。

おう、怒りんぼさんもこんな顔出来るんだ。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

俺はメニューからパーティーの申請を送る。

アーちゃん?が○ボタンをタッチして左上に1つHPゲージが追加される。

Asuna

アスナ?成る程、だからアーちゃんか。

でも、アルゴはどこで彼女と知り合ったんだ?

 

「ちょっと待ってくれんかナイトはん!」

 

広場に響く声。

出たか空気読まない奴。

声の主は広場の中心に行き勝手に自己紹介を始める。

なんとも、独特な髪型だ。

 

「わいはキバオウってもんや、ボスと戦う前に今まで死んでいった2000人に詫びいれなあかん奴がおるはずや!!こんクソゲームが始まった瞬間、ビギナーを見捨てたβあがりの奴等が!!」

 

キバオウが広場をぐるっと見渡す。

その時にキバオウの視線が俺で止まった……様な気がした。

体が強ってしまう。

謝りに場に出るべきか?いや、そんな勇気、俺にはない……

 

「大丈夫?」

 

アスナが隣で心配そうにしてくれた。

俺は頷くだけにしてディアベルがどう判断するかで行動しようと思った。

しかし、ディアベルは何か躊躇っていた。

どうしたんだ?

……まさかディアベルもβテス___

 

「ちょ~っと、発言いいかな?」

 

前の方で数年ぶりに、だけど聞き慣れてもいる少女の声がした。

 

「なんや?」

 

キバオウが少女にガンを飛ばす。

少女はそんなの無視してキバオウに笑顔で自己紹介と質問する。

 

「ボクはユウキって言うんだ。キバオウさんはこの本を貰った事ある?」

 

ユウキだった、ユウキの手には俺とアルゴが集めた情報が書かれた攻略本が握られていた。

 

「持ってるで、それがなんや」

 

何を思ったのかキバオウは腕を組んで胸を張る。

お前は作って無いだろ。

 

「幾らなんでも情報が速すぎだって思わない?これを配っているのはβテスターさん達だよ。情報は誰でも手に入ったんだから、死んじゃった2000人のプレイヤーさん達には悪いけどSAOを甘く見た結果で自業自得じゃないかな?」

 

「なんや!お前はんはβテスターを庇うっちゅーんかい!?もしかして……お前はんがβテスターなんやろ!!」

 

一瞬、キバオウを本気で殴ろうと考えてしまい飛び出そうとしたときユウキが笑ってるのにきずく。

 

「残念ながらボクはβテスターじゃないよ。でもねキバオウさん……」

 

「な、なんや?」

 

ユウキが一旦区切りを入れ、キバオウを鋭く睨む。

キバオウが腕を組むのを止めた。

 

「βテスターにはボクの家族がいるんだ。家族を悪く言うのは許せないよ」

 

ユウキは腰の片手剣を手にして居合い斬りの様に構える。

キバオウはユウキの凄みに負け席に戻る。

ユウキも剣から手を離して元の席に戻る。

それからは順調に会議は進み解散となった。

明日、ボス戦が行われる。

 

 

 

「ユーちゃんの気持ちがわかったロ?」

 

トールバーナのパン屋でパンを買いながらアルゴが言ってくる。

 

「ああ、正直嬉しかったよ」

 

家族と言ってくれた時、本当に嬉しかった。

これは事実だけど、

 

「でも、その前の2000人の死者が出ているって聞いたから……」

 

「キバオウって奴、余計な事言ってくれたナ」

 

アルゴが溜め息をつく。

これで俺とユウキの関係が改善されると思ったのだろう。

2000人、俺は間接的にだが2000人もの命を奪った事になる。

その衝撃が強すぎてユウキの言葉が薄れてしまった。

 

「少しずつでいいサ、簡単な事じゃないしナ」

 

「ありがとう」

 

アルゴは何も言わなかった。

拠点の家に戻ろうと裏道に入った時アスナが1人で俺達と同じパンを食べていた。

 

「あ、そう言えばアルゴ、何処でアスナと知り合ったんだ?っていないし……」

 

アルゴは忍者のように忽然と姿を消していた。

アルゴは隠蔽スキルが高い為隠れるのが得意なのだ。

ちなみ、俺は索敵スキルを高くしている。

俺は1人のアスナに話し掛ける事にした。

対人恐怖症のリハビリだ。

 

「こ、こんばんは……」

 

「あ、キリト君。こんばんわ」

 

キ、キリト君?

え、じゃあこっちはアスナちゃんって言わなきゃ駄目なのか?

 

「いきなり、名前は馴れ馴れしかったかな?」

 

オロオロする俺に向かって顔を赤くそして上目ずかいで聞いてくる。

可愛らしすぎるアスナを見て一瞬フリーズしてしまう。

 

「…………そんなことない!」

 

「ふふ、じゃあ私の事はアスナでいいよ」

 

アスナはニッコリと笑った。

怒りんぼって思ってすみませんでした。

俺は心の中で謝っておく。

 

「これ……使ってみて……」

 

俺はメニューから小さな瓶を出してアスナの横に置く。

俺もさりげなく隣に座る。

俺今凄いことしてない!?

進歩だよ!進歩だよ!

 

「クリーム?」

 

小瓶を指でタッチしてその指をパンに当てるとクリームが出てくる。

 

「1つ前のクエストの報酬です」

 

俺もさっき買ったばっかりのパンにクリームを乗っける。

 

「美味しい……」

 

アスナを見ると凄い勢いでパンを食べていた。

大食いなんですね。

俺も負けじとパンを食べる。

 

「…………」

 

同時に食べ終わった俺をアスナがじ~っと見てくる。

何で?

 

「キリト君はフード取らないの?」

 

「いや、俺ってコミュ症だから……」

 

すると、アスナのがニヤニヤしながら俺のフードを取ろうとした。

 

「ちょ、止めて!」

 

「いいじゃん、顔に自信がなくても私は気にしないよ!」

 

「何を!?」

 

アスナの目は子供の様に好奇心に満ちていた。

だ、誰か助けて~!!

だが、助けに来た人物は予想外の者だった。

しかも、第一声が、

 

「成る程、これが浮気ですか」

 

「「え?」」

 

俺とアスナはフード攻防戦を止めて一緒に後ろを見る。

そこには小さな少女がいた。

 

「キリト君知り合い?」

 

「俺に友達がいるとでも?」

 

こんな小さな少女は知らない。

SAOに入って知り合った主なプレイヤーはクライン、アルゴ、アスナ、あとMPK未遂の少年の4人だけだ。

しかも、1人は名前も知らない殺人未遂者。

 

「1ヶ月で私の事を忘れてしまったのですか?キリト様?」

 

キリト様?そう言えばどっかで聞いた事のある声……

 

「キリト君……そんな趣味が……」

 

横でアスナが全力で引いていた。

 

「俺にそんな趣味はありません!」

 

「でも、キリト様って……」

 

そうだ、俺の事を様を付けて呼ぶ奴いる訳ない…………

 

「あ、いた」

 

「思い出すのが遅すぎます。お前はいつも遅いんだよって言って欲しいんですか?」

 

何処の超次元サッカーだよ、しかも古すぎだろ……ってそれより!!

 

「え、何でここにいるの?あれ?その姿は何?」

 

「キリト君?」

 

身長は俺のお腹の少し上ぐらいで、だいぶ小柄。

キラキラと光を反射して光っている長い銀髪の髪をポニーテールでまとめている。

目の色は蒼く綺麗に輝いていて宝石のようだ。

だが、格好は捨てられた子供の様にボロボロでせっかくの可愛い顔が台無しになっている。

 

「アイだよな?」

 

「はい、お久しぶりです。キリト様」

 

俺が作った世界初の真のAI、アイは満面の笑みで答えた。




久々のアイを登場!!
やっと、登場させる事が出来ました。
次回はアイがメインのお話です。
お楽しみに!!

評価と感想、お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 伝える

ビブリア古書堂の事件手帖の作者三上延さんのトークイベントに明日行ってきます!!
楽しみすぎる!!


『和人様……』

 

和人様がSAOから出られなくなって数日、桐ヶ谷家はとても暗い場所になっていました。

木綿季様も同じ様にSAOから出られなくなってしまい、2人の家族が居なくなってしまった。

和人様も木綿季様も生きてはいますがいつ死んでしまうかわからないので不安です。

そこでどうにかSAOの中に入れないか運が良ければSAOその物を止められないかを今和人様の部屋で試行錯誤中です。

 

『これしか無いですね……』

 

カーディナルシステムの穴を探していましたが本当に完璧な作りで欠点が見つかりません。

改めて和人様の凄さが実感できました。

そんなカーディナルシステムから、数時間前に私はプレイヤーリストを見つけたのです。

そこには現在のプレイヤーの名前と人数、死んでしまったプレイヤーの名前と人数が表示されていました。

しかし、死者の数はニュースで何度も発表を繰り返しているので私の全力のハッキングは全くの無意味でした。

しかも、そのハッキングでカーディナルシステムのセキュリティはさらに強くなってしまい私でもハッキングはほぼ不可能になってしまいました。

ですが、このプレイヤーリストを見ていたらある発見を見つけたのです!

1万人とニュース等では放送されていましたが実際の人数は9999人。

つまり、1人だけSAOが始まったあの日にSAOにログインしていない人がいたのです。

そこで私はこの空いたアカウントを勝手にジャックして私の物にしちゃいました。

カーディナルシステムにはハッキングでしていないので簡単です。

そして、この後スグ様、お母様、お父様にこの事をお伝えしようと思っています。

私がSAOの中に行くと!

 

 

 

「アイちゃんがSAOの中に行く?」

 

『そうです、現在ナーブギアは発売されていませんので入手は困難。よって、人だとSAOの中に行けません。ですが、AIの私ならナーブギアもいりません』

 

お父様、お母様、スグ様の3人を説得するために私は私の思いを伝えました。

 

「アイちゃんは私達の家族なんだよ?これ以上家族が居なくなるのは嫌だよ……」

 

スグ様がテーブルのカメラに向かって涙を流しています。

家族、和人様に作られた私は人間ではない、それでも家族として私を見てくれるこの家はとても好きです。

 

「スグ様、誰も居なくなってませんよ?」

 

「え?」

 

「和人様も木綿季様もSAOの中で生きています。誰も居なくなってません。恐らく、いえ、絶対に和人様と木綿季様はSAOをクリアしようと戦っています。私はそのサポートをしたいんです」

 

和人様は自分の責任だと思いクリアを目指すでしょう。

木綿季様は会った事が無いのでわかりませんが明るい人だと聞いているのでクリアを目指しているでしょう。

 

「向こうで死んだらお前はどうなるんだ?」

 

こちらを見ずにお父様が聞いてきます。

 

「死んでしまった後本来はナーブギアで脳を焼かれますが私はAIなのでそれがありません。恐らくカーディナルシステムは私をバグと判断し削除しようとするでしょう。つまり、死ですね」

 

カーディナルシステムを騙す様な事をするのに死んで普通に戻ってこれるとは思えません。

通常プレイでは影響は無いと思いますが死んでしまうと流石にバレてしまいます。

 

「危なすぎるよ!私は反対だよ!!」

 

「スグ様、私は何を言われようとも行きます。明日にはログインするつもりです」

 

「ちょっと、アイちゃん!!」

 

心配してくれるのがとても嬉しいです。

けど、もう決めたんです。

私はSAOの中に行くと。

 

「母さん」

 

「わかったわ」

 

お父様がお母様を呼ぶとお母様がリビングを出てしまいました。

少しするとお母様が数枚の紙を持ってきました。

 

「アイには体が無いからね、私が考えてみたの。SAOでは必要でしょ?」

 

「ちょ、お母さん!?」

 

お母様はテーブルはカメラの前に紙を並べます。

銀色の髪に蒼い瞳とても可愛い絵です。

 

『これは?』

 

「ずっと、アイは声だけで体がなかったからね、私が仕事の空き時間に描いたの」

 

お母様は絵が上手だと初めて知りました。

どれも細かく描かれています。

 

『SAOの中に行ってもいいんですか?』

 

私はお母様に聞いたのですがお母様は笑うだけでした。

その代わりに答えてくれたのはお父様でした。

 

「本当は止めたいんだが、孫の初めての我が儘じゃ仕方ない」

 

『孫?』

 

「そうよ、和人が作ったならアイにとって和人はパパ、なら和人の親の私達はアイにとっておじいちゃんとおばあちゃんでしょ?」

 

おばあちゃんとおじいちゃん、私の家族。

 

「でもね、これだけは約束して」

 

『約束?』

 

「絶対に3人生きてこの家に帰ってくる事」

 

お母様の目は真剣だった。

私も真剣に返事をする。

 

『はい!』

 

「お母さん、お父さん!?本当にいいの!?」

 

スグ様が立ち上がり2人に問いかける。

 

「いいのよ、アイが決めた事なのよ?あ、直葉、もしかして自分がおばさんだってきずいて焦ってるわね?」

 

「おば……!!」

 

お母様は口に手を当て笑っている。

2人ともきずいていないがお父様が笑うのを我慢してて腕がプルプル震えています。

いつの間にか桐ヶ谷家は笑いで溢れていました。

 

 

『では、行ってきます』

 

SAOが始まって丁度1ヶ月の今日、私はSAOにログインする。

ここは和人様の部屋、3人と1匹が私を見送りに来てくれた。

 

「和人に伝えてちょうだい、必ず生き残れって」

 

笑っているお母様。

 

「私は信じてるよ!って伝えて!」

 

昨日は反対していたスグ様は元気に拳を前に出す。

 

「女を守るのが男だ」

 

お父様は腕を組んで堂々としている。

 

「ニャ~」

 

ましろ様はパソコンの画面に猫パンチ。

 

『必ず伝えます!!そして、生きて帰ってきます!!』

 

皆は笑って頷いてくれます。

 

『では!!』

 

私は和人様と同じ様に叫ぶ。

 

『リンクスタート!!』

 

私はSAOにログインした。

今、私が行きますので待ってて下さいね___

 

 

()()

 

 




アイがユイみたいになってきた……
でも、ユイは登場しますよ!!

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 ボス戦

ユウキは死なせない!!絶対に!!
SAO最終回を見て心に決めた事です……


「___っと、この様な出来事があって私は今、和人様の前にいます」

 

「な、なるほど……」

 

ここは俺とアルゴが拠点としている家。

今俺は突然現れたアイにどうやって来たかを説明してもらっていた。

一緒にいたアスナには何も言わないで、と言っておいたけどあれは変態を見る目だった……

 

「和人様はこれからどうするんですか?」

 

「明日、1層のボス戦があるんだ。それに出るつもりだけど……まさか?」

 

「はい、私も出ます」

 

アイは腰に両手を当て言い張る。

 

「ダメだ!そもそも、アイはレベルが低いだろ?」

 

アイの話ではログインしたのは昼前、それからずっと俺を探していたらしい。

なら、レベル上げも全くしてないも同然だ。

 

「茅場さんから天才と言われた和人様とあろう者が何か勘違いしていませんか?」

 

「勘違い?」

 

アイは俺を小馬鹿にする様に笑う。

天才って褒めているのか馬鹿にしてるのかわからん。

多分、馬鹿にしているんどろうけど。

 

「確かに私はログインしてからずっと和人様を探していました。しかし、街と街の間はモンスターが沢山いました。街の移動にもレベル上げは必須なので和人様を探しながらもモンスターを倒して来たので、レベルは今や5です」

 

1日で5レベになるのは凄いがそれでもボス戦となると少し不安だ。

 

「ダメだ、アイを危険な事に巻き込みたくない」

 

俺は首を振る。

しかし、

 

「嫌です!私は和人様と一緒に行きます!これは決定事項です!」

 

アイは自分の顔を俺の顔にぐいっと近づけて頬を膨らましている。

今まで声だけのアイだったので体がある今、アイが何を思い何を考えているかが体の動きでわかるようになった。

てか、顔が近い!え?何でいい匂いがするの!?

 

「お~ス、キー坊あーちゃんとは上手く話せた……カ……」

 

「ア、アルゴ……」

 

扉が開きニヤニヤ顔だったアルゴの顔が少しずつ引きつってくる。

アルゴの目には美少女とキス寸前の俺がうつっているだろう。

そして、何も言わずに扉を閉めていった。

 

「せめて、何か言ってくれ!!!」

 

俺が、俺が何をしたって言うんだ……

 

 

 

「へ~、この子キリト君の親戚なんだ!可愛い子だね!」

 

「か、じゃなくて、キリト様。これは何ですか?」

 

あの後、アルゴの誤解を解きメールでアスナの誤解も解いた。

アルゴは現実でアイと会った事があるのですんなりとわかってくれた。

しかし、アスナにはアイがAIということは黙っておく。

理由は偏見。

アスナがそんな人だとは思ってないが一応って事だ。

アルゴもその辺はわかってくれている。

 

「ア、アスナ?アイが困ってる……」

 

結局、駄々をこねるアイをボス戦に連れてくことになり、ボス戦の集合場所に一足早くいたアスナにアイを紹介した。

するとアスナがアイに抱きつきほっぺすりすりをしている。

この攻撃にアイは麻痺しているのだ。

ほっぺすりすりの麻痺効果はポケモンだけじゃないとわかった瞬間だった。

 

「キリト様、あの人怖いです」

 

アスナから解放されたアイは俺の後ろに回り込んでアスナを睨む。

 

「キリト君の身近な人って人見知り激しい人が多いの?」

 

「いや、別に多いって訳じゃないけど……」

 

アスナにはアイは俺の親戚と伝えている。

小さい頃から遊んでいたら何故か様を付けるようになったとも言っておいた。

自分でもギリギリの設定だと思うけどなんとかなるさ!!

 

「このパーティーは3人になったのかい?」

 

後ろを見るとディアベルがパーティーの再確認をしていた。

ディアベルはボス戦の司令塔、全てのパーティーの事を知っておく必要がある。

 

「突然の参加をお許しください、私はアイと申します」

 

アイはディアベルの前で深々と頭を下げて謝りながら自己紹介をする。

こんなに小さい子の大人びた行動にディアベルも頭を下げて、いえいえっと言っている。

 

「キリト君だったかな?彼女は何歳なのかな?」

 

「あ、え~っと……」

 

マズイ、やはり来たかこの質問。

ただでさえナーブギアの対象年齢を大きく下回っている様に見えるアイ。

しかも、アイの年齢は2歳。

外見と言葉使いそして行動、全てが年齢と当てはまらない。

だって、AIなんだもん……

 

「女性の年齢を聞くのはどうかと思いますよ?」

 

アイがジト目でディアベルを見ていた。

これまた外見では想像出来ない言葉をアイが言ったのでディアベルは目を丸くした後、失礼しましたっと言い違うパーティーの確認をしに行った。

 

「しっかりした子だね」

 

アスナが横でアイを見ながら何故か目を輝かせている。

 

「知識量も半端ないぞ、現実では太宰治の本とかを読んでたからな」

 

これは本当の話。

ある時、アイを呼んだのに返事がなかった時があった、どうしたのかと思いパソコンの画面を見てみると太宰治の人間失格が勝手に購入されていたのだ。

なんだこれ?っと思った時、アイが申し訳なさそうに私が勝手に購入してしまいましたっと自白。

どうやら、呼んでも返事をしなかったのは怒られると思ったらしい。

何故買ったんだ?って聞くと読みたかったからっと言った。

これからは買う時にちゃんと俺の許可を取る事を条件に俺はアイを許した。

その後、度々アイから本が欲しいとお願いされるようになったが、ほとんどが昔の人の本で女子が読むような本は1冊もなかった。

 

「アイちゃんを信頼しているんだね」

 

アスナが横で今度は俺の方を見て笑っていた。

 

「何でそう思うんだ?」

 

「だって、キリト君さ、話すときの口調が変わってるよ。何て言うか、自然になったって感じ」

 

「あ……」

 

自分でも今きずいた。

アイが来てから対人恐怖症を全然意識せずに人と話せている。

 

「そっちの方が私は好きだよ」

 

「好っ!?」

 

「ち、違うよ!!別にそっちの好きじゃなくて友達としてって事!!」

 

俺とアスナは2人であたふたしてしまう。

ですよね!アスナには素顔を見せてないからね!

俺の顔を見たらもっと男らしい方がいいって言って俺なんか相手にされないし!

そもそも、俺の好きな人は……

 

「キリト様」

 

アイがじ~っと俺を見ている。

 

「何?」

 

「浮気はダメですよ」

 

アイは俺にだけ聞こえる声で少し怒った声で言った。

俺もアイにだけ聞こえる声で、

 

「わかってる」

 

っとだけ、言っておいた。

アイはそれで満足したのか何も言わなかった。

アイには、ユウキと会うには少し時間が必要だっと昨日言っておいた、色々言われるとおもっていたが、私は和人様に従いますっと宣言されて何故か恥ずかしくなってしまった。

 

「では、全てのパーティーが揃ったのでボス部屋の向かう!!」

 

「「「「お~!!!!」」」」

 

ディアベルが叫ぶと周りも気合いを入れて叫ぶ。

俺達は、第1層のボス部屋に歩き出した。

 

 

 

 

「準備はいいか?」

 

ボス部屋に着くとディアベルはさっきとは逆に静かに皆に確認する。

皆も返事はせず頷くだけ。

これからボス戦だと嫌でもわかる不思議な雰囲気だ。

 

「よし、行くぞ!」

 

ディアベルがボス部屋の大きな扉を開ける。

扉が開くと大勢のプレイヤーがボス部屋に崩れ込む。

俺とアイとアスナもそれに合わせて中に入る。

入る瞬間、右斜め前にユウキがいた。

俺はユウキの背中を見て身が引き締まる。

 

「絶対に死なせない」

 

俺は小さくユウキに向けて言った。

心なしかユウキが頷く様な仕草をしたのは気のせいだったと思う。

 

 

ディアベルを中心に陣形を作る。

俺達は右側でボスの取り巻きの”センチネル”を倒す役だ。

ボスの”インファング・ザ・コボルド・ロード”への攻撃はディアベルなどのメンバーが多くレベルも高いパーティーが担当している。

 

「グワァァァァァァ!!!!」

 

人ではない雄叫びが聞こえると部屋の奥が明るくなりインファングザコボルドロードが姿を現す。

豚のような牛のような体に盾と斧を持って俺達プレイヤーを威嚇する。

インファングザコボルドロードは飛び上がりプレイヤーの少し前に着地した。

すると、インファングザコボルドロードの周りに取り巻きのセンチネルが次々と現れる。

 

「突撃~!!!」

 

「「「「お~~~!!!」」」」

 

ディアベルの掛け声と共にプレイヤー全員がインファングザコボルドロードとセンチネルに向けて走り出す。

第1層のボス戦が始まった。

 

 

 

「アスナ!スイッチ!」

 

「うん!」

 

俺がセンチネルの攻撃を”スラント”で弾き、その隙にアスナがセンチネルに向けて”リニアー”を一閃。

戦闘中にアスナがスイッチを知らないというアクシデントが合ったがアイのサポートもありなんとかなった。

 

「綺麗ですね」

 

アイが短剣を構えながらアスナのリニアーを見ていた。

リニアー、単なる一発の突きだがアスナのリニアーは速度が異常で手元が霞んで見える。

 

「ああ、」

 

ソードスキルの光がただでさえ美人のアスナをさらに引き立たせている。

 

「キリト君!アイちゃん!次行くよ!!」

 

「よし!」

 

「はい!」

 

俺達は新しいセンチネルに向かって攻撃を開始する。

 

 

 

数分後、ボスのHPが一段となった。

 

「よし!一旦退くんだ!!」

 

ディアベルがボス担当のパーティーに指示を出す。

しかし、ここでまた空気を読まない奴が出てくる。

 

「何いってんのや!!ここは一気に総攻撃やろ!!」

 

キバオウだ。

キバオウはディアベルの指示を無視して1人でインファングザコボルドロードに突っ込んでいく。

 

「キバオウさん!!」

 

ディアベルはキバオウを止めようとするがキバオウは全く聞いていない。

 

「LAはわいのもんや!!」

 

キバオウはボスのLAを狙っていたのだ。

 

「キリト様、ボスは曲刀に持ち替えるんですよね?」

 

キバオウのアホな行動を視界の隅で捕らえながら数匹目のセンチネルを倒した時だ。

アイが目を細めてインファングザコボルドロードも見ていた。

 

「βテストの時はな」

 

「なら、変です」

 

「アイちゃん?変って何が?」

 

周りを警戒しながもアイの話を俺とアスナは聞く。

 

「刀身が長すぎます。あれはまるで………」

 

「マズイ!!」

 

アイが最後まで言わずともわかった。

今まではセンチネルに気を取られていて気にしていなかったがインファングザコボルドロードの腰に着いている武器は明らかに曲刀ではなく……

 

「野太刀だ!!」

 

俺は叫んだが意味が無かった。

インファングザコボルドロードは最初に持っていた盾と斧を後ろに放り投げてすかさず野太刀を抜刀する。

 

「ブァァァァァ!!」

 

インファングザコボルドロードはキバオウに刀のソードスキル”浮舟”を発動する。

浮舟は下から相手を空中に打ち上げる様に振り上げる下段技。

浮舟自体に威力はあんまり無いが空中に放り出された相手を次のソードスキルで滅多打ちにするための繋ぎ技だ。

 

「なっ!!」

 

そんな事知るはずの無いキバオウは浮舟が直撃し空中に舞う。

 

「ブァァァァァァ!!」

 

インファングザコボルドロードは空中で回避行動が出来ないキバオウに新たな刀ソードスキル”羅刹”の構えをする。

羅刹は刀ソードスキルの中でも威力の高いソードスキル、今の浮舟が直撃した状態のキバオウが羅刹をもろに受けたら確実にHPが全損してしまうだろう。

 

「この!!」

 

「キリト君!?」

 

「アスナ様!センチネルが!!」

 

俺はボスに走り出した瞬間、センチネルがリポップし俺止めようとしたアスナの行く手を阻む。

アスナは悔しそうにセンチネルと向き合う。

 

「とどけ!」

 

俺は今にも羅刹の一太刀目をキバオウに当てようとしているインファングザコボルドロードを目指し全力でジャンプをする。

しかし、当然届かない、がジャンプの最高点の所でソードスキル”ソニックリープ”を発動させる。

ソニックリープは発動中凄まじい速さで体を前進させて相手を斬る相手の不意を突く技。

空中で発動すれば自分が向いてる方向に体が動くので今の俺の状況の様に少しの間だけ飛翔する事も可能だ。

 

「は!」

 

どうにか間に合い、羅刹の一太刀目にソニックリープを当てて羅刹自体を相殺しようとする。

体に当てるだけでは羅刹は止まらないと思ったからだ。

しかし、思わぬ事が起きる。

 

「がっ!!」

 

ソニックリープが羅刹の威力に負けたのだ。

羅刹はソニックリープを押し返し俺ごと弾き飛ばす。

俺はアイとアスナがいる元の場所に吹き飛ばされる。

 

「きゃ!」

 

「キリト様!?」

 

かなりの距離を空中から飛ばされ俺はアイとアスナが戦っているセンチネルに激突する。

激突の衝撃でセンチネルは消滅したが、俺のHPがレッドゾーンに入っていた。

 

「キリト君!ポーションを!!」

 

アスナが駆け寄って抱き起こしてくれる。

その時、被っていたフードが落ちた。

 

「へ?」

 

アスナが場違いな間抜けな声を出す。

 

「お、女の子みたい……」

 

それよりもポーションを……

俺は意識を失った。

 

 

 

 

目を開けるとアイが倒れている俺を覗いていた。

 

「体は大丈夫ですか?」

 

アイが心配そうに聞いてくる。

蒼い瞳が少しだけ潤んでるのがわかる。

 

「何とかな、そうだ!キバオウは!?」

 

俺は起き上がりアイに聞く。

 

「キリト君が突っ込んだ時に出来た隙にディアベルさんがキバオウさんをキャッチしたのよ。今は体制を立て直しているところよ」

 

後ろにはインファングザコボルドロードを見ているアスナがいた。

 

「死人は出てないんだな?」

 

「ええ、キリト君のお陰でね」

 

良かった、俺が気絶している間に死人は出てない。つまり、ユウキは生きている。

 

「にしても、キリト君……」

 

「な、なんだ?」

 

アスナが言いずらそうにモジモジしている。

頭の上に?が出てくるみたいに俺は首をかしげる。

 

「か、かわいい顔だね」

 

「え?……あ!!」

 

顔と言われ顔に手を当てる。

そこで、フードを被ってないのにきずき、顔が赤くなってしまう。

俺は急いでフードを被り治した。

幸い、ユウキは俺がいる逆のボス部屋の右側にいるはずなので顔は見られていないはずだ。

 

「どうしてフードを被るのよ?」

 

「人見知り何だってば!あと、少し事情が……」

 

最後はゴニョゴニョと声が細くなってしまった。

アスナは、そっか、っと深くは追及してこなかった。

 

「このボス戦もあと少しだから私達の番はもうないかな」

 

話を変えアスナがインファングザコボルドロードのHPを指差しながら言った。

見ると残り一段のHPはレッドゾーンに入っていた。

 

「皆下がれ!俺が行く!!」

 

は?

ディアベルは皆を下がらせて自分が前に出た。

ここはボス担当の全プレイヤーでソードスキルを使ってごり押しじゃないのか?

HPは後僅か、ソードスキルを三発入れれば十分倒せる。

 

「何で?」

 

アイも同じ疑問を抱き、戸惑っている。

ディアベルはソードスキルを発動させようとしていた。

その時、一瞬だがディアベルは後ろで待機しているキバオウを見た。

俺はそれを見逃さなかった。

同様にアイもわかったようだ。

 

「グァァァァァァ!!!」

 

しかし、その一瞬でインファングザコボルドロードはディアベルの脚めがけて刀を振るう。

攻撃は見事ディアベルの脚に当たってしまいディアベルは転んでしまう。

ディアベルの後ろにいたプレイヤー達が急いでディアベル目指して駆け出す。

だが、遅かった。

ディアベルは浮舟からの羅刹のコンボを受けて俺と同じようにこちらに吹っ飛んできた。

左側のセンチネルを担当していたプレイヤー達が駆け寄る。

勿論、俺やアイ、アスナも駆け寄る。

 

「キバオウさんと同じで欲が出てしまったよ……」

 

プレイヤーの一人がポーションを飲ませようとするがディアベルが自ら拒む。

 

「すまない……ボスを……倒してくれ……」

 

ディアベルは数人のプレイヤーに囲まれながらポリゴンとなり消えていった。

現実とは全く違う死。

あまりにも呆気なくディアベルはSAO及び現実世界から消えてしまった。

 

「うああああ!!!」

 

声がした方を見るとインファングザコボルドロードが次の獲物を決め襲いかかろうとしていた。

 

「アイ、お前は付いて来てくれるか?」

 

「当たり前です。私はずっと和人様に付いていきます」

 

俺の問いかけにアイは笑顔で答えてくれた。

 

「……ありがとう」

 

俺はアイの頭に手を乗っけて撫でる。

アイは目を瞑り嬉しそうにした。

そして、撫でるのを止めると俺はインファングザコボルドロードを見つめる。

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

俺とアイはは同時に走り出す。

SAOで体を動かす際、ナーブギアが首の後ろで脳の信号をキャッチしてその情報がSAOに反映される。

なら、脳の信号が速ければ速いほどSAOでの動きが強化されるんじゃないか?っと俺は思ったのだ。

ボス戦の少し前に試したがその通りだった。

とにかく、自分は速い、自分は高く跳べる、っと思う事がコツだった。

それによって、ソードスキル程ではないが確実にスピードやジャンプ力が上がったのだ。

アイは真のAI、演算機能は並みのパソコンよりは遥かに上だ。

そして俺、一応にも天才に天才と言われたんだ、自信を持ち自分は天才と思い込む。

 

「ふっ!」

 

俺はインファングザコボルドロードの前で急ブレーキしプレイヤーを攻撃しようと右上から繰り出されるインファングザコボルドロードの通常攻撃をアニールブレードで受け止める。

次にアイが跳び上がりインファングザコボルドロードの受け止められた右腕の上に乗って顔までダッシュ。

刀を持っていない左手がアイを掴もうとするが更に腕の上で跳び上がる。

 

「せ~りゃっ!!」

 

アイは器用に前宙をし前宙の遠心力を使い短剣のソードスキル”アーマーピアス”をインファングザコボルドロードの脳天に炸裂させる。

アイはそのまま、更に深く脳天に短剣を刺しこみインファングザコボルドロードから離れない。

インファングザコボルドロードはアイを振り払おうと頭を振るがアイは短剣にしがみついて離れない。

少しずつインファングザコボルドロードのHPが減っていく。

 

「ハアアアアア!!!」

 

すかさず、俺はインファングザコボルドロードの太った腹を片手剣のソードスキル”バーチカルアーク”で斬る。

一撃目は通常のバーチカル、その後剣を返して一撃目より深く下から斬り上げる。

 

「ギャアアアアア!!」

 

インファングザコボルドロードのHPは全て無くなり通常のモンスターより派手にポリゴンとなり消滅した。

 

「よっと」

 

アイが上から落ちてきたので両手で受け止める。

 

「あ、ありがとうございます」

 

アイは顔を真っ赤にしてお礼を言った。

お姫様だっこってそんなに照れるものなのか?

 

「キリト君とアイちゃん凄い!」

 

「ありがと、これで何とか第1層クリアだ」

 

「キ、キリト様……助けて下さい……」

 

アスナが興奮してアイを抱き締めている。

アイは手を伸ばして俺に助けを求めている。

 

「ねえ!!」

 

振り向くとよく知った顔の少女が難しい顔をしながら俺達を見ていた。

 

「間違ってたら悪いんだけど……しかして____」

 

「何や今の!!!???」

 

しかし、少女の話を差し置いて、奴がまた空気を読まない。

だけど、少し助かったとも思ってしまう。

 

「何って何がですか?」

 

アイが逆に聞き返す。

 

「あのスピードは異常や!何かのスキルやろ!わいらビギナーが知らんスキルを使ってんのや、あんたとそのちっこいのはβテスターやろ!そのスキルがあればディアベルはんも死なずに済んだし、わいもあんなことにならなかったはずや!!」

 

「ちょっとあなたね!!」

 

アスナがキバオウを睨んで反論しようとする。

 

「他にもいるんやろ!こん中にβテスターが!」

 

何てバカな奴だ。

このままだとせっかく第1層をクリアしたのに雰囲気を悪くする。

このままではプレイヤー内に亀裂が入りお互いを信じなくなって次のボス戦に影響が出る。

 

「キリト様……」

 

アイが俺の腕を掴んでくる。

俺はアイを見るとアイは視線であの少女を見るようにっと言っていた。

見るとさっき少女はキバオウを睨んでも反論もしていなかった。

何も言わずにただ、俺を見ていた。

バレたか……

 

「アイ、お前は俺に付いて来てくれるんだよな?」

 

「はい、何があっても。私は和人様と一緒です」

 

その言葉に安心した俺はまず深呼吸をする。

そして、顔を見せないようにしながら少女の元に行き少女の耳元で、

 

「ごめん、もう少し待っていてくれ……」

 

そのまま、俺はアイと一緒にキバオウの前に行く。

 

「俺達をただのβテスターと同じにするな」

 

「なんやと!」

 

俺は叫ぶのではなく普通に喋る。

 

「俺はβテスト時代に誰も行った事がない層まで行った。その時のクエストでスキルじゃないがあのスピードを出すためのコツを教わったのさ。他にも色々知ってるぜ?情報屋なんて必要無いぐらいにな」

 

緊張で手が震えてしまう。

が、アイが手を握って震えを止めてくれた。

 

「なんやそれ、βテスターどころじゃないやん!チートやチーターや!!」

 

「そうだ、そうだ!」

 

「チーターめ!」

 

キバオウの後ろで喚くプレイヤー達。

SAOは皆で協力するゲームだぞ、俺一人な分けないだろ。

しかし、ハッタリは成功した。

皆が俺に悪意を向ける。

その中に変なことを言う奴がいた。

 

「βテスターでチーター、だからビーターだ!!」

 

ビーターっと言った瞬間周りもビーター、ビーターいい始めた。

 

「良い呼び方だなビーター。そうさ、俺はビーター。これからはβテスターごときと同じにするなよな」

 

最後に俺はキバオウを小馬鹿にするような目で見た後、第2層に続く階段に向かう。

 

「ボクは待ってるから……」

 

少女とすれ違う時、少女は呟く。

俺はそのまま、階段を登る。

 

「キリト君!」

 

階段の途中でアスナが俺を呼び止める。

 

「別にキリト君が悪者にならなくてもいいじゃない」

 

「いいんだよ、これで俺に話し掛けるプレイヤーも減るだろうしな」

 

後でアルゴに謝らないとな。

俺と一緒にいたらアルゴの商売に影響がでるしアルゴと行動するのもここまでかな。

 

「キリト君の味方がいないじゃない!」

 

「私がいます。私は常にキリト様の味方です」

 

アイが自分の右手を自分の胸に当てて微笑む。

 

「って事で俺は大丈夫、心配してくれてありがとな」

 

俺はまた、階段を登り始める。

 

「私も味方だからね!」

 

俺は右腕を上げて答える。

 

「強くならなきゃな……」

 

俺は自分自身に言った。

 

「頑張って下さい、私がサポートしますよ、パパ……」

 

「……」

 

「……」

 

無言の時間が続く。

途中から螺旋階段となり俺達はぐるぐる回りながら歩いて登る。

石造りの螺旋階段を登りきり、視界が晴れると俺はアイを見つめる。

 

「……パパって何だ?」

 

「……」

 

「……」

 

「あ~もう!!何で最後までスルーしてくれないんですか!!どうせスルーするなら最後までちゃんとスルーしてくださいよ!!」

 

「スルーしてたわけじゃない!!驚きすぎて頭がフリーズしてたんだよ!! 」

 

「何ですかそれ!?このヤドン ! ! 」

 

「何でだよ!?」

 

緑の牧草に覆われた多層構造のテーブルマウンテンが連なる見事な風景をを全く見ずに口喧嘩をする俺達だった。

 

 

 

口喧嘩もそろそろ疲れてきた時だった。

 

「…………パパって嫌ですか?」

 

アイが口喧嘩に負けてうつむき、本音を呟いた。

俺は驚いたがアイの頭に右手を乗せて、ボス戦の時の様に撫でる。

 

「……嫌なわけないだろ」

 

俺も本音で答える。

アイは撫でている俺の手の上に自分の両手を乗せた。

そして、アイは顔を上げて顔を紅くしながらも笑った。

 

 

かわいいな…………




ソードスキルはホロウフラグメントのソードスキルを多く採用しているので原作やアニメと違う所が多々ありますがご了承ください。
戦闘描写もうまく書けてるか不安しかないです……
優しいアドバイス待ってます!!
それでは、評価と感想お願いします!!!

ちなみにヤドンはポケモンです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 月夜の黒猫団

クリスマスプレゼントは何がいい?って親に言われたから、本がいいって答えたらマジで心配された…………


   11層 タフト

 

「我ら月夜の黒猫団に、でもって命の恩人のキリトさんとアイちゃんに乾杯!!」

 

「「「「乾杯!!」」」」

 

「「か、乾杯……」」

 

俺とアイは11層の街タフトの酒場で歓迎されていた。

クエストの素材を集めるために28層から20層に降りて来たのだが、そこでモンスターから必死で逃げているパーティーを見つけたので助けたのだ。

お礼がしたいとそのパーティーに言われ、何故か強制的にここに連れてこられたのだ。

 

「ありがとう、本当にありがとう!私すごく怖くて……助けに来てくれた時本当に嬉しかった!」

 

青色の髪をした少女サチが涙ながらにお礼を言ってくる。

 

「いや、別に……」

 

帰りたい、物凄く帰りたい。

俺は隣に座るアイにどうにかしてくれと視線で訴える。

 

「当然の事しただけです。では、私達はこれで」

 

俺の訴えを分かってくれたアイは自然な流れで帰ろうとする。

勿論、俺もそれについて行こうとする。

 

「そんな事言わずにさ!もう少しゆっくりしてこうよ!奢るからさ!!」

 

栗色の髪にニット帽を被った明るい少年ダッカーが俺達の前に回り込んで来る。

 

「そうだよ、それに少し頼みがあるんだ」

 

「頼み?」

 

そう言うと、このギルドのリーダーケイタがサチの頭に手を置きポンポンっと叩く。

 

「少しの間ウチのギルドに入ってサチのコーチをしてくれないかな?」

 

「……何でだ?」

 

「いや、前衛がメイス使いのテツオしかいないから、サチを槍から盾持ちの片手剣に転向させようとしてるんだけど、どうもしっくりこなくてさ」

 

「何よ、人を味噌っかすみたいに!」

 

とても仲が良いギルドに見える。

が、サチだけが暗いのはそのせいか。

 

「少しの間だったら、」

 

「よかった!これからよろし___」

 

「でもな、俺達は攻略組。時々モンスターを狩りに上の階に行くから居ない時ある。それでも限界は1週間だ」

 

アイが驚いたように俺を見ている。

 

「分かった。1週間よろしく!!」

 

こうして俺達は1週間だけ月夜の黒猫団に入団することになった。

 

 

 

「どうして、入団したんですか?」

 

酒場の2階の宿で俺はアイに詰め寄られている。

 

「ゴメンって、でも、アイなら一緒に入団してくれるかな~って思ったから…………」

 

「一緒なのは当たり前です!!何で入団したんですかって聞いてるんです!」

 

2つ並んであるベットの1つに座りバンバンっとベットを叩いて怒るアイ。

俺はもう1つのベットに座りアイと向かい合わせになってる。

 

「サチが少し心配なんだよ」

 

「なるほど……」

 

アイも思う所があるようでベットを叩くのを止めた。

俺は無言で頷き、

 

「周りの顔を見て周りに合わせて自分の主張をしない。このギルドは仲が良いけど誰もサチの本当の気持ちを知ろうとしない。多分、サチが勇気を出して、前衛は嫌だって言った事があるんだろうな、でも、周りはサチのためだからって言ったんだろう。人にやらせて自分はやらない、俺はそんな”相手のためを思ったつもりの押しつけがましい命令”が嫌いなんだよ」

 

「和人様……」

 

「さ、寝るか!」

 

空気が暗くなってしまったので俺は無理矢理話しを変えてベットに入りこみアイに背を向ける。

 

「うんしょっと」

 

「ん………ほわ!?」

 

アイが俺の正面に回り込み俺のベットに入りこんで来たのだ。

今、俺の胸にアイが顔を埋めている。

耳まで真っ赤になっている。

 

「ちょ!?アイ!?」

 

「何も言わないで下さい!!」

 

アイが顔を埋めながら叫ぶ。

俺は言われた通り黙る。

 

「何で黙るんですか……このタコ……」

 

「タコってお前……何も言うなって言ったんだろ……」

 

アイが俺の胸を軽く頭突く。

何このツンデレ。

 

「ッッ!!」

 

俺はアイをそっと抱き締める。

アイは体をビクッっとさせた。

しかし、少しするとアイも落ち着いたようで、寝息が聞こえた。

俺はそっとアイから離れようとするが、アイが俺の服を掴んでいて離れない。

 

「………大好きですよパパ………」

 

しかも、アイがこんな事言うので離れたくても離れられない。

仕方なく、俺はまたアイと同じベットに入りアイを起こさないようにさっきより少しだけ強く抱き締める。

 

「俺も大好きだよアイ」

 

俺はアイを抱き締めながら眠った。

 

 

 

 

 

 

「あ~、キリト疲れてる?」

 

20層に行こうと転移門に向かう途中テツオが心配そうに聞いてくる。

 

「別に疲れてない」

 

否定したが実際はめっちゃ疲れていた。

何故かと言うと、

 

 

 

 

 

 

   朝

 

「きゃ~!!!」

 

「うげっ!!」

 

俺は今日、アイの膝蹴りを腹にうけて目覚めた。

俺はその勢いでベットから落ちる。

 

「何で私を抱き締めながら寝てるんですか!!」

 

「アイが俺のベットに入って来たんだろ!!」

 

「そんなはずは………」

 

アイは今思いだしたのか体を震わせ始めた。

 

「だ、」

 

「だ?」

 

「だからって普通抱き締めながら寝ませんよ!!この変態!ロリコン!浮気者!木綿季様と再会したら和人様はロリコンの変態だって言ってやります!!!」

 

「何だよ浮気者って!!じゃなくて言うなよ!?絶対言うなよ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

この後も言い合いをして精神的に疲れてしまったのだ。

アイは隣でプンプンっと怒った様に歩いている。

 

「キリト、アイちゃんに何かしたの?」

 

サチがアイを見て何故か引いている。

 

「……この変態……」

 

アイがポツリと呟く。

 

「お~?キリトはロリコンなのか~?」

 

ササマルがニヤニヤと笑っている。

 

「違う!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、サチ様に前衛は難しいですね」

 

「そうだな、サチは戦闘向きじゃないな」

 

月夜の黒猫団に入団して5日目。

やはりサチは上手く戦えていなかった。

多少は強くなったものの、モンスターを怖がっているサチに無理矢理戦わせるのはどうかと思う。

 

「先客がいるようですね」

 

今、俺達はレベルを上げるために目立たないが良い狩り場に来ていた。

しかし、穴場スポットのこの場所には先客がいようだ。

 

「あれは……クライン?」

 

「知り合いですか?」

 

「俺の最初のフレンドだ」

 

そして、一度見捨てたプレイヤー。

クラインは数人のプレイヤーと一匹の狼を狩っていた。

狩りの最後にクラインは自分に噛み付こうとして突進してくる狼に刀ソードスキル”辻風”をお見舞する。

ポリゴンとなり散る狼を背にクラインはかっこよく納刀する。

 

「ん?キリトじゃねーか!!」

 

「ひ、久しぶりだな」

 

クラインが俺にきずいて走って俺のところに来る。

 

「相変わらず愛想の無い奴だな、ってお前それ……ギルドに入ったのか?」

 

「期間限定だけどな」

 

クラインが俺のHPバーのギルドマークを指差して聞く。

 

「あと、その子は?」

 

「こいつはアイだ。俺の親戚」

 

「どうも、アイと申します」

 

アイはいつも通りの丁寧な挨拶をする。

 

「俺はクラインって言うんだ。キリトには1層で世話になってよ」

 

クラインは逆で、気軽に挨拶をする。

 

「良かったです、キリト様に友達が出来ていて」

 

「様?」

 

「何も言うな」

 

俺はクラインが何か言いそうだったので黙らせる。

 

「そう言えば、お前が探してたユウキ?ちゃんだっけか、あの子、ギルドを作ろうとしてたぞ」

 

「「え?」」

 

知らなかった。

木綿季がギルドを作ろうとしていたなんて。

どうやら、アイも知らなかったらしい。

多分、信頼出来る仲間を見つけたんだな。

 

「時々あの子のパーティーに会うんだけどな、確かギルド名は”スリーピングナイツ”にするつもりだって言ってたぞ」

 

「スリーピングナイツ?」

 

何か意味ありげな名前だ。

もしかしたら木綿季が決めたのかもしれない。

 

「人数は6人で、女3人男3人。俺の”風林火山”と同じで小ギルドだな」

 

成る程、6人の小ギルドか…………男?

 

「クライン、男って何だ?」

 

俺はクラインに詰め寄る。

 

「おいおい、嫉妬か~?」

 

「大罪の1つですね」

 

クラインとアイが悪~い笑顔になる。

俺はその場から逃げ出し風林火山のメンバーの少し離れた所で狩りを始める。

 

 

 

 

 

 

「メールだ」

 

少しするとケイタからメールが届いた。

 

『ケイタです。サチがいなくなりました。ギルドのメンバーで捜しているので協力お願いします』

 

「アイ!!サチが行方不明だ!捜しに行くぞ!」

 

「はい!」

 

俺はアイと走り出した。

風林火山のメンバーはもういなく、代わりに他のパーティーがいた。

 

「転移!タフト!」

 

俺は走りながらアイの手を握り、転移結晶を取りだして叫ぶ。

俺とアイの周りが青く光り一瞬の浮遊感と共に俺達は第11層のタフトに転移する。

 

 

 

転移すると俺は索敵スキルの追跡を選び使用する。

追跡対象はサチに設定したのでサチが通った場所には足跡が光っているはずだ。

 

「あれか!」

 

早速見つけて、俺達はサチの足跡を追う。

 

「遂にですね」

 

「ああ」

 

俺とアイはこの様な状況になるんじゃないかと前々から感じていた。

 

 

 

 

 

 

サチがいたのはトンネル状の水路だった。

 

「何してるんだ?」

 

「キリト?アイちゃん?」

 

サチは体操座りで小さくうずくまっていた。

俺とアイも少し離れた所に座る。

 

「私ね、死ぬのが怖い。本当ならフィールドにも出ないで安全な街にいたい」

 

サチが震えた声で話始めた。

俺達は黙って聞いていた。

 

「でも、皆に嫌われたくないとか迷惑になりたくないって思って必死に戦ってきた。けど、もうそれも限界。何でこんな事になっちゃたの?茅場昌彦は何をしたいの?もう1人の天才は何で助けてくれないの?」

 

最後の言葉に反応してしまう。

もう1人の天才、恐らく俺の事。

アイが何か言おうとしたが俺がそれを止める。

 

「サチはこれからどうしたいんだ?」

 

「…………自殺かな」

 

「サチ様!!」

 

アイが怒りサチに叫ぶ。

 

「何てね、死ぬ勇気があるならとっくに死んでるよ」

 

「サチ……」

 

サチはどうすれば良いか、自分はどうしたいかが分からないんだ。

 

「ねえ、キリト」

 

「何だ?」

 

「どうしたらキリトみたいに強くなれるの?モンスターの前でも冷静で皆が危ない時はアイちゃんと一緒に守ってくれる。私ねキリトみたいに強くなりたい」

 

俺みたいにか……

サチは強いって言ってくれたが俺は強くない、けど強くならないといけないよな。

俺の考えてる事が分かったのか、アイは手を握ってくれた。

よし、先ずは俺を強いって言ってくれたサチに言わないとな。

俺はメニューの装備画面から常に身に付けていたフード付きマントを外す。

 

「あ…………」

 

サチがそれに気づき目を見開く。

俺の素顔を知っているのはアイ、アスナ、クライン、そして木綿季。

サチは初めて見た俺の素顔に驚いている。

 

「女の子だったの?」

 

「違うって!」

 

「だって、キレイだから」

 

何でだよ、アスナも最初俺の顔を見て、女の子みたいって何とか俺を男だとわかってくれたぞ。

 

「水に反射した光とキリト様の容姿、女の子だと間違えるのも無理はないと思います」

 

「…………それは置いといて、サチは俺が強いって言ったよな」

 

「うん」

 

先程の様に声に震えがない。

そんなに俺の顔は驚きだったのか……

 

「俺は強くないよ」

 

「でも!!」

 

サチが反論しようとするが続ける。

 

「サチが言うもう1人の天才、あれは俺だよ」

 

「嘘……」

 

サチが目を見開いている。

 

「俺はある少女の為にこのカーディナルシステムを作ったんだ。けど、いざログインするとそこはデスゲームだった。少女の為にと作った物がデスゲーム。だからさ俺は怖いんだよ、もしアイツが俺の事を恨んでたらどうしようって。それで逃げてきたんだ。こうして顔も隠してアイツに会わない様にしてるんだよ」

 

今度は俺が体操座りで小さくうずくまってしまう。

 

「それでもキリトは強いよ」

 

「言っただろ。俺は強くなんかない」

 

「だってさ、好きな子の為に戦ってるんでしょ?強くなろうとしてるんでしょ?」

 

サチが微笑みながら俺を見てくる。

俺は何も言えない。

 

「今私が悩んでる事は自分が強くなればいい事だもんね」

 

「サチ……」

 

「私、強くなるよ。モンスターにも怖がらずに戦って皆の為に頑張って強くなる」

 

サチが立ち上がり小さくなっている俺に手を差し伸べる。

 

「ありがとうキリト。自分の事、話してくれて」

 

俺はサチの手を掴んで立ち上がる。

 

「俺が励まされたな」

 

「じゃ、私は戻るね。本当にありがと」

 

サチは手を振りながら小走りで水路を出ていった。

 

「俺は強くなれたかな?」

 

「強くなっていますよ。それとですね…………」

 

アイは俺をジト目で見ていた。

 

「いい雰囲気でしたね」

 

「すいませんでした」

 

でも、サチは俺に好きな子がいるって分かってるじゃないか……

 

 

 

 

 

 

次の日の狩りでサチは吹っ切れたようにモンスターと戦った。

まだ随分とぎこちないが前に比べたら凄い成長だ。

 

「強くなろうとしてるんだな」

 

「キリト様はへたれですね」

 

アイの言った事はごもっともだ。

何故なら俺はまたフードを被っているのだ。

 

「別にいいだろ、これでも強くなろうとしてるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「え~、今日の狩りでコルが大分貯まったので、家を買おうと思います」

 

狩りの後、宿でケイタが皆に発表する。

 

「おお!!」

 

「ついにか!」

 

「ありがとうキリト、アイちゃん。君達のお陰だよ」

 

ケイタが少し悲しそうにお礼を言う。

俺とアイは明日でギルドを抜けて最前線に戻らなければならない。

 

「俺達はなにもしてないよ」

 

アイも頷く。

個人的には逆に大いに助けられた出来事が合ったけど。

 

「明日、俺は家を買いに行って来るからその間に皆はパーティーの準備をしてくれ」

 

「パーティー?何故?」

 

俺はてっきり最後まで狩りだと思ってたので何故パーティーをするのかが分からなかった。

誰かの誕生日かな?

 

「何言ってんだよキリト、お前達のお別れ会だろ?」

 

「俺達の?」

 

つまり、買った新しい家で俺とアイにこの一週間のお礼をしたいらしい。

 

「いや、俺達は別に……」

 

「ありがとうございます」

 

断ろうとしたがアイがお礼を言ってしまって参加が決定した。

 

「参加しないと失礼です」

 

そうだけどさ……

 

 

 

 

 

   27層 迷宮区

 

「大丈夫ですかね?」

 

次の日ケイタが家を買いに行った後、ケイタを驚かす為に上の層の迷宮区で狩りをする事になり俺達は27層の迷宮区にいた。

 

「少し心配だけど、いざとなった俺も本気を出すし転移結晶もあるしな」

 

「本気ですか」

 

本気を出すっと言うのは俺のオリジナルの戦闘方法だ。

この戦闘スタイルを知っているのはアイの他にアルゴだけだ。

 

「これって隠し扉じゃないか?」

 

「本当だ!宝箱があるかもな!!」

 

「ラッキーだな ! 」

 

前を歩いていたササマル、ダッカー、テツオがはしゃいでいる。

サチも嬉しそうにしている。

 

「キリト様、ここに隠し扉なんてありましたっけ?」

 

「分からないけど、この層の迷宮区は……」

 

そうこうしてる内に扉が開き中の宝箱が確認された。

 

「やった!宝箱だ!!」

 

ダッカーが宝箱に近づく。

それに続いてササマルとテツオも駆けつける。

 

「まて!その宝箱を開けるな!!」

 

瞬間、宝箱があった青い部屋は赤くなりブザーが鳴る。

 

「トラップだ!」

 

1つしかない出口は閉ざされてモンスターがうじゃうじゃ出てくる。

 

「ゴ、ゴーレム……」

 

俺達は部屋の中心に集まり背中を合わせる。

 

「転移結晶で脱出だ ! 」

 

俺は転移結晶を出そうとする。

 

「ダメだ!結晶が使えない!!」

 

「くそ、無効化エリアか」

 

よりによって、無効化エリアのトラップに引っ掛かってしまった。

 

「キリト様、どうします?」

 

「この場合のトラップは時間が過ぎれば自然に解除される。それまで耐えるしかない」

 

「耐えれるの?」

 

サチだけじゃなくアイ以外の皆が俺を見ていた。

やるしかないか……

 

「俺が何とかする」

 

俺はメニュー画面を出し自分が作ったオリジナルの武器をオブジェクト化して構える。

 

「このメンバーを殺させてたまるか!」

 

俺が取り出した武器は端にピックがついた()だった。

 

 

 




ましろ⇒空太⇒松岡さん(さくら荘)
コミュ症⇒空⇒松岡さん(ノゲノラ)
糸⇒ラバック⇒松岡さん(アカメが斬る)

…………何も言えね~~。
いや、マジで偶然ですよ!!
後から気付いたんですよ!!
信じて下さい!!
糸にした理由もオリジナルストーリーを書く為の用意みたいなものですからね!!
決して狙った訳じゃありません!!

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 様子を見に

戦闘描写が短いです…………


「はっ!!」

 

俺は一体のゴーレムの腹に糸が付いたピックを投擲ソードスキル”スティックシュート”を使って投げる。

このソードスキルは名前の通り刺さるので今ゴーレムの胸にはピックが深々と刺さりピックに付いている糸の先を俺が握っている。

 

「らっ!!」

 

そのまま俺は糸を持ったままゴーレムの周りを廻り始める。

廻っている時にピックが刺さったゴーレムの近くにいた三体のゴーレムも巻き込む。

 

「速い……」

 

サチがグルグル廻っている俺を見て呆気に取られている。

それもそうだろ、今俺は入団してから初めて本気を出しているのだから。

 

「こんなもんか……」

 

大分巻いた後、俺はゴーレム四体が糸で身動きが出来なくなるのを確認すると。

 

「せいっ!!」

 

俺は四体のゴーレムを片手剣ソードスキル”ホリゾンタルスクエア”で斬る。

地面と水平に正方形を描くように斬りつける。

 

「「「「ゴァァァァァ!!」」」」

 

ゴーレム四体は一斉に消滅した。

同時にピックと糸も消滅する。

元々は市販の服等を作る為の糸を何本も束ねただけなので耐久性が低くすぐに使えなくなってしまう。

しかし、俺はこの糸付きピックを数十本もアイと一緒に作ったのだ。

あの作業は地味で辛い……

俺はメニューから新しい糸付きピックを取り出してさっきと同じ事をする。

 

 

 

 

皆の周りのゴーレムの数が少なくなるのを見計らって俺は皆の所に戻る。

 

「しゃがんでくれ!!」

 

皆の中心で言う。

皆は言われた通りその場にしゃがむ。

俺は糸付きピックをメニューから五本出す。

出したピックをスティックシュートを使いながら同時に投げて皆の周りの地面に刺す。もう片方の糸の先にあるピックを適当な壁や天井に同じ方法で刺す。

云わば糸の索敵システムを作ったのだ。

 

「立っていいぞ皆、いいか、この糸にゴーレムが触れたらでいいからソードスキルでそのゴーレムを攻撃するんだ。糸でゴーレムの攻撃は遅くなるから出来るだけ速く攻撃するんだぞ。糸が切れたら俺がまた増やすから全力で攻撃するんだ」

 

「「「「おう!!」」」」

 

蜘蛛の巣のような糸の結界にゴーレムは迷わず入って来る。

しかし、糸が邪魔して動きが鈍る。

そこにソードスキルでゴーレムを攻撃して後退させる。

糸が切れるとすぐに俺が新しい糸を出して結界を修復する。

この方法で俺達はトラップが解除されるまで耐えることが出来た。

 

 

 

 

 

「「「本当にありがとう!!」」」

 

タフトに帰る途中にダッカー、ササマル、テツオの三人が俺の手を握って上下に振る。

 

「別に大した事はしてないよ」

 

俺は後退りしながら否定した。

 

「そんな事ない ! ! キリトは二回も私達の命を救ってくれたよ ! ! 」

 

サチが横からずいっと顔を俺の顔に近づいて来る。

 

「サチ!?近い近い近い!!」

 

俺は三人の手を振り払い、バク転でその場を離れてアイの後ろに行く。

 

「何で私の後ろなんですか?」

 

「一番安全で信頼出来る」

 

俺はこの後もずっとタフトに帰るまでアイの後ろにいた。

三人の男ではなくサチと言う女の子一人に怯えていたのだ。

だって、顔が近かったんだもん、美少女にあんな事されたら誰でも心臓バクバクになるでしょ?そうだよね?

 

 

 

 

「お礼を言わせてくれ、今日は本当にありがとう!!」

 

宿に着くと月夜の黒猫団リーダーのケイタが頭を下げてお礼をする。

 

「当たり前の事をしただけだよ、団員が命の危機だってのに助けない訳無いだろ?」

 

あの時みたいに近くにいるのに助けられないのはもう嫌だからな…………

 

「ケイタ、申し訳ないけどやっぱり俺達はもう行くよ」

 

「そんな事言わないでさ!これから買ったばっかりの家でキリト達の為のパーティーだよ!?」

 

ケイタが引き止めようとする。

他のメンバーも引き止めようとしてくれようとしている。

 

「悪いな、少し用事が出来たんだ。これからも頑張れよ、最前線で待ってるからな」

 

俺は宿を出て速足で転移門に歩く。

アイの足音が後ろから聞こえてくる。

 

「用事なんて無いですよね?」

 

俺は立ち止まり振り向きながら答える。

 

「いや、少し見てみたい場所があるんだ」

 

「見てみたい場所?」

 

俺の言葉にアイは可愛らしく首を傾げる。

すると、アイの更に後ろから女の子が走ってきた。

 

「サチ……」

 

「どこ行くの?」

 

サチは後ろで手を組んではにかむ。

 

「ちょっとな」

 

「キリトの好きな子に会いに行くの?」

 

サチが核心をついてくるので驚く。

そして驚いた俺を見たアイが驚く。

 

「……会うわけじゃない。ただ、様子を見に行くだけ」

 

俺は諦めて行く場所を告白する。

アイがもっと驚き目を見開く。

 

「今度その子に会っていいかな?キリトの好きな子がどんな子か見てみたいんだ」

 

「明るくて元気な子だよ、あいつも一応攻略組だからな会うには強くならないといけないぞ」

 

「勿論、強くなるよ!特にキリトと出会ってからは強くなってる気がするしね ! ! 」

 

サチは自分の両手を上げてマッチョがよくやるポーズをする。

しかし、サチはマッチョではないので全然様になっていない。

むしろ小動物が威嚇してるみたいだ。

 

「俺もだよ。サチと会って俺は強くなった気がする」

 

この世界に閉じ込めらてから俺は少しずつだけど強くなっていると思う。

クラインとアルゴ、アスナにアイやサチ。

色んな人に会った。

この面では茅場さんには感謝しないとな。

 

「私ね、君と会えて本当に良かった、ありがとう、さよなら」

 

俺は最後にフードを取って別れを言う。

 

「俺も会えて良かったよ、ありがとう、さよなら」

 

俺は手を振り歩き出す。

 

「サチ様、また何処かでお会いしましょう」

 

「うん、またね」

 

アイも別れを言い俺の横に並ぶ。

 

「何処に居るか知ってるんですか?」

 

「アルゴから聞いた」

 

「そうですか」

 

俺はまたフードを被った。

 

「月夜の黒猫団のメンバーを見てると木綿季がどんなメンバーとギルドを作ろうとしてるのか気になったんだよ」

 

「そうですか」

 

アイは同じ返事しかしなかった。

丁度夕日が沈みかけていて夕日に輝くタフトの街を俺達は歩いていた。

 

 

 

 

 

「ここですよね?」

 

「そうだな」

 

日が沈み星がきれいに輝く頃、俺達は木綿季が居るという宿の酒場の前に来ていた。

酒場の中からはワイワイっと何やら盛り上がってる様で笑い声が絶えず聞こえてくる。

 

「私が最初に様子を見に行きましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

俺はいつも通り深呼吸をし酒場のドアに手をかける。

少しだけドアを開けて中を覗く。

 

「端から見たら不審者ですよ」

 

アイが後ろで何か言ってるが気にしない。

 

「ギルド創立祝いだ!!ユウキ!!飲み比べだ!!」

 

「お~?ボクに勝負を挑むのかい?ジュンくん?」

 

「飲み比べなら私も参加するぜ!!」

 

「ちょっと待ってろよ、今は俺とユウキがやんだから ! 」

 

誰だあいつ…………

何でだろう、とても楽しそうな木綿季がいたのはいいけど、胸がモヤモヤする。

 

「楽しそうですね」

 

アイもドアの隙間から木綿季を見ていた。

 

「木綿季様、あのジュンって人と良い感じですね」

 

「そうだな………」

 

「付き合ってるんですかね」

 

「それは嫌だ」

 

あ、返事を間違えた。

思わず自分の気持ちを言ってしまった。

アイを見ると何故かアイは満足そうにムフ~っと笑っていた。

何だその顔は…………

 

「あの~、通りたいんですが………」

 

「あ、すいません……」

 

しまった、中に夢中で後ろの警戒をしていなかった。

後ろにはアスナより髪が長く髪色が水色のローブを着たお姉さんがいた。

俺はアイと一緒にドアを譲った。

変な人って思われなかったかな?

 

「ユウキ~!買い出しから戻りましたよ~!」

 

何!?

マズイ!!ローブのあ姉さんがドアを満開にして酒場に入ったから今木綿季がこっちを見たら俺が見えてしまう!

くそ!この人木綿季のギルドメンバーだったのか!!

いや、俺はフードを被っているから顔は見えないはず、大丈夫だ!何もしないで平然としていればいい。

 

「ありがとうシウネー ! ! あのね ! これからジュンと飲み比べするん……」

 

「どうしました?」

 

木綿季が言葉を詰まらせる。

気付くな!気付くなよ!!

 

「和人? 」

 

「くっ!!」

 

「きゃ!」

 

俺はアイの手を引っ張り走りだした。

何でバレたんだ!?

フードも被ってた不審な行動もしていないだろ!?

 

「どうしたんですか!?」

 

俺に引っ張られているアイがアニメの様に地面とほとんど平行になりながら聞いてくる。

それでも俺はコツを使いながら走るスピードを緩めない。

 

「バレたから逃げてる!!」

 

「そんなまさか!?フードも被ってて顔は見られてないはずですよね!?」

 

流石にアイも疑っている。

でも、和人っと現実の名前を言われたのだ、何故か分からないが俺だとバレたのは確かだ。

 

「転移…”ロービア”…」

 

俺はアイを引っ張りながら今俺達がホームとしている街をシステムがギリギリ反応するぐらいの小声で言って転移した。

 

 

 

 

 

 

「何でバレたんだ?」

 

「分かりません」

 

第4層の街ロービアで借りている家で俺達は何故バレたのかを考えていた。

ここロービアは街の中に河があり何処に行くにも50コル使いゴンドラに乗って移動しなきゃいけない街だ。

しかし、そんな街でも良い所が沢山ある。

例えば料理、イタリア料理の様な食べ物にフランス料理の様な食べ物など多くの美味しい料理店がある。

全て、様な食べ物、ではあるけど…………

そして、風景 ! ! 外を見るとまるでイタリアのヴェネチアの様に河の上をゴンドラが進み、夜になると街灯が河に反射して幻想的な風景になる。

さらに、建物の間がジャンプすればギリギリ届く距離だし距離が離れていても本当にヴェネチアをモデルにしたのか建物の間に洗濯を干すための紐が繋がっているので走りながら綱渡りをすれば通れるので体を動かすコツの練習も日常的に出来て鍛えられる。

空中散歩は楽しいです。

 

「アルゴの仕業か?」

 

「いえ、確認しましたが本当に違うみたいです」

 

アルゴはたまに意地悪をするが俺と木綿季の事では何もしない。

アルゴはちゃんと分かってくれているのでそんな事するはず無いか…………

 

「物凄く現実的じゃないんですけど……」

 

「何だ?」

 

アイが顔を少しだけ赤くしながらモジモジしている。

 

「愛の力とか…………あ~!!やっぱり無しです!!忘れてください!!」

 

アイは自分が言った事が恥ずかしくて部屋に一つしかないベットにダイブする。

この部屋は家賃がそこそこ高いからか部屋が広い、窓からの風景も二階建てでメインチャネルにも面しているので綺麗な街並みが見れる夜になると尚更だ。

しかし、何故かベットが一つしかないのだ。

何かを狙ってるだろこれ……

 

「そうだったら嬉しいんだけどな」

 

「あのジュンって人ですか?」

 

アイがベットから顔だけ覗かせる。

あのジュンって奴、何か木綿季と仲が良さそうだったからな。

もしかして本当に付き合ってるのかな?

そんな事を考えてしまう。

 

「待ってるからって言われたんですよね?なら信じましょうよ」

 

アイがベットで寝っ転がりながら言った。

 

「………そうだな、笑っている木綿季も見れたしな」

 

俺は軽く伸びをしてからベットに入る。

 

「お休み」

 

「はい、お休みなさい」

 

俺とアイは向かい合ったまま眠った。




は~い!色々突っ込みたい所があると思いますがとりあえず月夜の黒猫団は生存させました!!
理由は簡単、サチに生きてほしいからです!!
その他の人はおまけ。

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 花

ハッピーバースデイ自分!!


「ユウキ~、朝ですよ!」

 

「もう少し寝る~……」

 

シウネーがボクを起こそうと体を揺らすけどボクは駄々をこねてベットにしがみつく。

ここはボク達スリーピングナイツがホームとしている場所、第47層”フローリア”

フロア全体がお花畑でとても美しい街。

前まではもう少し下の層の宿をホームとしてたんだけど、お金が貯ったからこの街に皆で暮らす為の家を買った。

つまり、ギルドホームだね。

違う街がいいって男子のギルドメンバー、ジュンとテッチとタルケンに言われたけど問答無用で買っちゃた!!

男の子より女の子の方が強いんだよ。

 

「攻略を進めに行きますよ」

 

「う~、分かったよ」

 

ボクは嫌々起き上がって戦闘服に着替える。

肩とか所々素肌が見えているこの服は”ナイトリークローク”

STR・VIT・DEX・AGIに+25の補正。

攻撃力+50防御力+180。

毒、麻痺、出血のデバフにも耐性があるこの47層ボスのLA。

ちょっと恥ずかしいけど性能が凄く良いので愛用している。

可愛い服だしね!

 

「ユウキ!早く行くよ!!」

 

男らしい女性のノリが部屋のドアを乱暴に開ける。

ノリの後ろにはジュン、テッチ、タルケンが待っている。

 

「よし!!それじゃ、攻略に出発だ~!!」

 

「「「「「お~!!」」」」」

 

 

 

 

  最前線転移門前

 

「頼むよ!!頼むよ誰か!!」

 

「騒がしいですね、何かあったんでしょうか?」

 

最前線の転移門前に着くと中年のおじさんが泣き叫んでいた。

ボクはおじさんに声を掛けようとしてみる。

 

「おいおい、私は面倒な事はごめんだよ」

 

ノリが呆れ顔でボクの腕を掴んできた。

 

「大丈夫!もしもの時はボク1人でやるから!」

 

ノリは諦めたのか、ため息をつきながら腕を離してくれた。

シウネーは、やっぱりって感じの苦笑いをしていた。

 

「おじさんどうしたの?」

 

ボクはへたり込んでいるおじさんの前でしゃがむ。

 

「あんた!聞いてくれるのか!?」

 

「おわぁ!!ちょ、ちょっとおじさん!!」

 

おじさんがボクにしがみ付いてきた。

ボクはおじさんの顔に両手を当てて押しのける。

ハラスメント防止コードで黒鉄宮牢獄エリアに強制転移させちゃうぞ!!

 

「ユウキから離れろ!!」

 

ジュンがおじさんに体当たりしてボクから離してくれた。

お~、おじさんが吹っ飛んでいく~

 

「大丈夫かユウキ?」

 

「うん!大丈夫だよありがとね!」

 

あのままだったら本当に強制転移させちゃうところだったよ……

 

「おい、おっさん!!あんた何がしたいんだ!?」

 

ジュンが吹っ飛ばされたおじさんの前に行き両手を腰に当ててすごんでいる。

ジュンが怒るなんて珍しいね。

 

「す、すまねー………あんた攻略組だよな?頼みがあるんだ」

 

おじさんは自分達がオレンジギルドのタイタンズハンドに襲われた事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、付き合わせちゃって」

 

「別にいいよ、俺も突っ込んじゃったし」

 

ボクは今、ジュンと2人で第35層の迷いの森に来ていた。

他のメンバーは攻略に行っている。

ここに来た理由はもちろんタイタンズハンドのメンバーを牢獄送りにするため。

依頼人のおじいさんの情報によると、この層にタイタンズハンドのリーダーがいると言うのだ。

 

「でも、今ある情報ってロザリアって名前の赤髪の女ってだけだろ?」

 

「地道に探すしかないね」

 

「だよな………」

 

ジュンには悪い事したし帰ったらご飯でも奢ってあげようかな?

すると、

 

「ゴルルル!」

 

「ピナ!ピナ!ピナ~!!」

 

女の子の叫ぶ声が聞こえた。

ボクとジュンは声がした方に走り出した。

走った先には女の子のプレイヤーがゴリラのモンスター三匹に襲われていた。

 

「ジュン!!」

 

「ああ!!」

 

ボクは片手剣ソードスキル”ホリゾンタル”でゴリラの後ろから右薙ぎして三匹全てにに攻撃を当てる。

少なくなったHPにジュンが三連撃の両手剣ソードスキル”スコッピード”で残りのHPを削り取る。

 

「大丈夫?」

 

ボクは泣いている女の子に出来るだけ優しく声を掛けた。

ジュンは周りを警戒してくれてる。

 

「ピナ……私を1人にしないでよ……」

 

女の子が地面に落ちている一つの羽を両手で拾い上げて羽を抱き締めた。

 

「それは?」

 

「ピナです……私の大事な……」

 

「ビーストテイマー……ねえ知ってる?第47層の思い出の丘って言う所にテイムモンスターを生き返らせる花のアイテムがあるんだ。一緒に行かない?」

 

「おい!ユウキ!俺達は………」

 

ボクはジュンに笑ってみせた。

ジュンが言いたいのは分かるけど、どうしてもボクはこの子を助けたいって思った。

 

「え?でもご迷惑じゃ?」

 

「大切な友達を生き返らせなきゃね」

 

ボクは女の子にも笑ってみせた。

 

「私、レベルが低いですし……」

 

「余ってる装備があるんだ。余り物だけど最前線のドロップ品だから性能は確かだよ!」

 

ボクはついでにウィンクをしてみた。

 

「何でそこまで?」

 

女の子が不思議そうに聞いてきた。

 

「私も大切な物が無くなった時のその気持ち少し分かるんだ……」

 

和人が目を覚ましてくれなかった時、とても心細かった。

そんな時は誰かと一緒にいるのが一番良い。

 

「わ、私シリカっていいます!よろしくお願いします!!」

 

シリカちゃんは涙を拭き何かを決心したような顔立ちになった。

ジュンは肩を落としていた。

 

「よろしく!ボクはユウキって言うんだ!!彼はジュン!」

 

「どうも、よろしく!」

 

うん!何事も諦めが肝心だよね、ジュン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第35層 ミーシェ

 

「シリカちゃん発見!!随分遅かったね。今度パーティー組もうよ、好きな所連れてってあげるよ!」

 

シリカちゃんがホームとしているミーシェに着くと、どっぷりと太ってる人とガリガリに痩せてる人がシリカちゃんをナンパしに来た。

誘い方が危ない人みたい………

 

「お誘いは嬉しいですけど、しばらくこの人達とパーティ―組むことになったので」

 

シリカちゃんがボクとジュンを紹介する。

すると、ナンパ二人組がジュンを睨んだ。

次にボクを睨………え?目が輝いてる?

 

「さ、行こ?」

 

ボクは逃げるようにシリカちゃんの手を握り歩きだした。

ジュンはナンパ2人組に一睨みしてからついてきた。

 

「シリカちゃんは人気者なんだな」

 

ジュンが笑いながらシリカちゃんに言った。

 

「いえ、マスコット代わりにされてるだけですよ………それに、ユウキさんの方が可愛いですし………」

 

「ボ、ボクが可愛い!?」

 

そ、そんな訳無い!!

でも、やっぱり可愛いって言われると嬉しいよね。

ボクは赤くした顔を両手でぺチぺチする。

 

「あら~?シリカじゃない。森から出られたのね!あれ?あのトカゲは?あ!もしかして!?」

 

「ピナは死にました………でも、絶対に生き返らせます!!」

 

「へ~、なら思い出の丘に行くんだ?でもあんたのレベルで行けるの?」

 

何このおばさん?

嫌な感じでボク嫌いだな。

しかも、ボクとジュンを無視してるし。

 

「行けるさ、そんなに高い難易度じゃない」

 

ジュンがシリカちゃんの前に出て不敵に笑う。

おばさんは急に不機嫌な顔になる。

けど、すぐに馬鹿にするように口を開いた。

 

「何?あんたもその子にたらしこまれたの?見た所ガギだしあんまり強く無さそうだけど?」

 

ボクやっぱりこのおばさん嫌い。

人を見かけで決めたら駄目なのにね。

例えば女顔だけどカッコイイとか。

コミュ障だけど頭良いとか。

あれ?どっちも和人じゃん!!

 

「行こうぜ」

 

ボクとシリカちゃんはジュンについて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何であんな事言うのかな?」

 

シリカちゃんおすすめのチーズケーキがある店に来ていた。

 

「MMOで人格が変わるプレイヤーは多いからな」

 

ジュンがチーズケーキを頬張りながら言っている。

 

「そう言えばあのおばさんって誰なの?」

 

ボクもチーズケーキを食べながらあの嫌なおばさんの事を聞く。

 

「あの人はロザリアさんです」

 

「っ!!ゴホッゴホッ!!」

 

あ、あのおばさんがタイタンズハンドのリーダー!?

ボクは驚きでむせてしまった。

小物感凄かったのに………

 

「大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だよ!それより明日の確認するから部屋に行こうよ!」

 

「そうだな!!」

 

「あ、そうですね!」

 

ジュンも合わせてくれたお陰でバレずに済んだ。

それよりも、凄い偶然。

確かに赤髪でロザリアって名前の女。

間違いなさそうだね。

ボクはジュンに確認の視線を送る。

ジュンは頷いて肯定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第47層フローリア

 

「ここがボク達がホームとしている場所でもあるフローリアだよ!!」

 

「わぁ!!すごく綺麗な所ですね!!」

 

シリカちゃんがお花畑を見てはしゃいでいる。

スリーピングナイツの全メンバーで来たかったんだけど攻略もあるし1人だけシリカちゃんが仲間外れみたいだったからやめておいた。

 

「あ、でも………私って邪魔者ですね?」

 

「何でだ?」

 

シリカちゃんが顔を赤くして指をツンツンしている。

 

「カップルが多いのでお二人の邪魔になるかと………」

 

お二人?

ボクはジュンを見てからシリカちゃんを見る。

でも、シリカちゃんがお二人って言ったんだからシリカちゃんとジュンの事じゃない。

ボクとシリカちゃんの事でもない。

ボクはそんな趣味はないし。

って事は………ボクとジュンの事!?

 

「ち、違うよ!!ボクとジュンはそんなんじゃないからね!!」

 

「そ、そうだぞ!!別に俺はユウキの事が好きじゃ………」

 

「え?恋人じゃないんですか!?私てっきり付き合ってるんだと………」

 

シリカちゃんが驚いている。

最後は申し訳無さそうに声をすぼめる。

 

「さ、急いで花を取りに行こうよ!!」

 

ボクは思い出の丘に向かって走り出した。

 

「待って下さいよ~!!」

 

「おい!ユウキ!?そんなに急ぐな!!」

 

だって恥ずかしいんだもん。

恋人、好きな人。

ボクの王子様はいつまでボクを待たせるのかな?

ね、和人!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?シリカちゃんってボクと同い年!?」

 

「え?ユウキさんってボクと同い年!?」

 

「何してんだお前ら…………」

 

思い出の丘を進んでる時、何となく何歳か聞いてみたんだ。

どうしよう年下だと思っていた。

ってジュンは気付いてたの!?

 

「私ユウキさんを年上だとわぁぁ~!!」

 

「シリカちゃん!?」

 

シリカちゃんの足元から触手が付いた食虫植物型モンスターが現れてシリカちゃんを触手で持ち上げた。

 

「きゃ~!!ジュンさんは見ないで下さい~!!」

 

「分かってるよ!!」

 

ジュンが吊るされてるシリカちゃんから目を背ける為に後ろを向く。

少し見たね………

 

「シリカちゃん!!頭の上を攻撃したら一発で倒せるよ!!」

 

「そんな事言われても気持ち悪いです~!!」

 

分かるよシリカちゃん………そのモンスター生理的に無理だよね。

ボクは少し手助けとして触手の一本を片手剣ソードスキル”スラント”で断ち切る。

 

「いい加減にしろ~!!」

 

シリカちゃんが短剣ソードスキル”ラピッド・バイド”の一撃目で残り一つの触手も斬り、二撃目で脳天を突き刺す。

 

「見ました?」

 

シリカちゃんが自分のスカートを押さえて恥ずかしそうにしている。

だから、ボクは正直に教えてあげる。

 

「ジュンが少し見てたよ」

 

「おい!!ユウキ!!」

 

シリカちゃんが短剣をジュンに向かって振り回し始めた。

本当の事だからボクは悪くないもんね!!

 

思い出の丘、頂上では1つの小さな祭壇があった。

 

「あそこにあるはずだよ」

 

ボクは祭壇を指差す。

 

「あそこに”プネウマの花”が!! 」

 

シリカちゃんが祭壇に走り出した。

でも、祭壇には何もなかった。

 

「無い?」

 

「違うよ、ほら」

 

すると、祭壇から一輪の白い花が咲いた。

シリカちゃんがその花、プネウマの花の茎の部分を手に取る。

 

「これでピナが生き返るんですね!」

 

「そうだ、でも、ここじゃ危ないから宿に戻ってからにしようぜ」

 

シリカちゃんは嬉しそうにゲットしたプネウマの花をメニューにしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道でもシリカちゃんはウキウキしていた。

大切な友達が生き返るんだから当たり前だよね。

出来ればボクも喜びたいけどまだ終わりじゃないんだよね~これが。

 

「何で隠れているのかな?お・ば・さ・ん?」

 

川を渡るための橋の上でボクは嫌味たっぷり含んだ声で木の後に隠れているおばさんに言った。

 

「口の悪い小娘ね~。私はおばさんじゃないわよ」

 

「ロザリアさん?何で?」

 

木の後からは先が十字になっている槍を持ったロザリアが出てきた。

メイクバッチリだからおばさんじゃなくてもおばさんに見えるよ!! 

その点、ボクはノーメイクでお肌ピチピチの元気な10代!!

 

「その様子だとプネウマの花をゲット出来たのね。それじゃ、その花渡してくれないかしら?」

 

「流石、オレンジギルド、タイタンズハンドのリーダーロザリア。要求がストレート」

 

ジュンが一歩前に出てロザリアの正体を暴く。

 

「シルバーフラグスの元リーダーの依頼でお前を牢獄に送る!」

 

「元?」

 

シリカちゃんがまだ状況を把握してないのでボクが説明して上げる。

 

「少し前にねシルバーフラグスってギルドがオレンジギルドのタイタンズハンド襲われたんだ。僕達はそのリーダー、ロザリアって名前のプレイヤーを探してたんだよ。囮みたいにしちゃってごめんね」

 

「ロザリアさんがオレンジギルドのリーダー…………」

 

「あと、一応これ持ってて」

 

驚いているシリカちゃんにボクは転移結晶を渡す。

 

「は!あんたやっぱりガキね。この人数に勝てると思ってるの?」

 

ロザリアが指をパチンっと鳴らすと木の後から続々とカーソルがオレンジのプレイヤーが現れる。

 

「あんなに沢山!!ユウキさん!!ジュンさんが危険です!!」

 

シリカちゃんがボクの腕を掴んで引っ張る。

 

「大丈夫、ボク達は攻略組だよ?」

 

「でも!!」

 

シリカちゃんが心配そうにジュンを見ている。

そのジュンはメニューから回廊結晶を取り出す。

 

「大人しく牢獄に入れ!!」

 

「入る訳無いでしょ。ほら!さっさと身ぐるみ剥いじゃいな!! 」

 

ロザリアの一喝と共に数多のオレンジプレイヤーがジュンに向かって走り出した。

 

「おりゃ~!!」

 

ジュンは走ってくるオレンジプレイヤー集団の中心に両手剣ソードスキル”テンペスト”で突っ込む。

両手剣の突き技であるこの技でオレンジプレイヤー集団はボーリングのピンの如く空中に散らばった。

 

「おい!!こいつスリーピングナイツのジュンじゃないか!?」

 

川に落ちたプレイヤーがずぶ濡れになりながらジュンに指を向ける。

 

「は~?こんな場所に攻略組のスリーピングナイツのメンバーがいるはずないだろ?」

 

ロザリアが少し焦りながら否定している。

残念ながら攻略組ですよ~!!

いや~、スリーピングナイツがここまで有名になるなんて嬉しいね!!

 

「間違いねーよ、ロザリアさん!!その後ろにいるあの女!スリーピングナイツのリーダー”深縹(こきはなだ)の舞姫”だ!! 」

 

ジュンに吹っ飛ばされたオレンジプレイヤーの一人がボクを指差して叫んでいる。

深縹(こきはなだ)の舞姫、ボクのナイトリークロークの色とボクが踊るように戦う事から付けられたボクの二つ名。

他にも”閃光”や”黒の剣士”って呼ばれてる人もがいる。

呼ばれる方は嬉しいけど恥ずかしいんだよね。

 

「ボクの事知ってるんだ!!」

 

それでも有名人になったみたいで嬉しいね!!

 

「なら、ボクに敵わないのも分かってるよね?早く牢獄に行きなよ」

 

ボクが言うとジュンが回廊結晶を使い牢獄へと続く門を作った。

諦めたオレンジプレイヤー集団はトボトボと門の中に入っていく。

しかし、ロザリアだけが1人残った。

 

「嫌だって言ったらどうなうんだい?」

 

「このナイフで麻痺状態にしてから放り込む」

 

ボクは腰に下げていた小さなサバイバルナイフをロザリアに見せ付ける。

 

「私はグリーンだよ?私を攻撃すればあんたはオレンジになっちまうよ!!」

 

ロザリアは急に元気になって勝ち誇る。

嫌な感じだけどロザリアが言ってる事は正しいんだよね。

グリーンのプレイヤーがグリーンのプレイヤーのHPを少しでも減らしたら、攻撃したプレイヤーは犯罪者扱いされてカーソルがオレンジになっちゃう。

街には入れないし他にも色々面倒な事があるしグリーンに戻る為のクエストには時間が掛かる。

そうすると、スリーピングナイツのメンバーに迷惑が掛かっちゃう。

どうしようかな?

 

「私は捕まらないよ!!」

 

「待て!!」

 

ロザリアが腰のポーチから転移結晶を取り出して天高く持ち上げる。

こうなったらオレンジになるのを覚悟で攻撃するしか…………

ジュンも走り出していた。

やるしかない!!間に合え!!

 

「転移!!アルゲー……なっ!!」

 

ロザリアの持っていた転移結晶がピックによって弾かれた。

しかも、転移結晶だけを当てたからHPは減ってない。

 

「誰だ!!」

 

ロザリアがピックが飛んできた少し後ろの木の上を見る。

だけど、誰もいない。

 

「何が起きたんですか?」

 

シリカちゃんがロザリアに向かってダッシュ寸前だったボクの袖を軽く引っ張ってくる。

 

「誰かがピックを投げておばさんの転移を止めたんだよ、隠蔽スキルで隠れてるけどね」

 

ボクは索敵スキルで隠れているプレイヤーを見つけようとするけど反応しない。

ボクの索敵スキルは確かに低いけから見破れない時もある。

けど、恐らくボク達と同じ攻略組のプレイヤー。

索敵スキルが一番高いタルケンを連れてくるんだったよ…………

 

「くっ!!」

 

今度は別の場所からピックが飛んでくる。

でも、当たらない。

攻略組だと思ったけど違うのかな?

とりあえずボクとジュンにシリカちゃんは様子を見る事にする。

 

「この卑怯者が!!姿を現しなよ!!」

 

ロザリアの周りにピックが5本ほど刺さった所でロザリアが槍を地面に突き刺して堂々と叫ぶ。

勿論、出てくるとは思ってなかったボク達は驚いた。

回廊結晶で作った門の前にフードを被ったプレイヤーが隠蔽スキルを解除して出てきたのだ。

 

「やっと出てきたわね、卑怯者さん?」

 

ロザリアはこいつなら勝てると思ったのかフードのプレイヤーに槍を構える。

イラついているからオレンジになる事なんて気にしてないんだ。

でも、勝てる訳無い。

多分、あのフードのプレイヤーは…………

 

「これは牢獄行きだよな?」

 

「え?ああ、そうだ!」

 

フードのプレイヤーがジュンに向けて聞いてくる。

ジュンも慌てて返事をする。

 

「私を攻撃したらオレンジになるよ!!」

 

「俺は1日や2日オレンジになっても支障は無い」

 

フードのプレイヤーが淡々と答える。

ロザリアは悔しげに舌打ちをして逃げる方向を確認し始めた。

バレバレすぎるって、それにどうするかは分からないけど彼からは逃げられないよ。

 

「逃がすかよ!」

 

フードのプレイヤーが右手をおもいっきり引っ張る。

すると、ロザリアの体が何かに縛られた様になりその場に倒れこむ。

 

「な、何で動かない!!」

 

ロザリアにも自分に起きた現象が分からないらしい。

しかし、目を凝らして見るとロザリアの体に何か巻き付いてるのが分かる。

 

「糸?」

 

ジュンもロザリアをよーく見て言った。

ボクにも同じ物が見えた。

フードのプレイヤーは自分以外に糸にも隠蔽スキルを使い隠してたのだ。

そして、ピックで罠がある所までロザリアを誘導したのだ。

いや、よ~く見るとピックにも糸があって見えない糸の結界を作って、ロザリアがボク達の所にボク達はロザリアの所に行けないようになっている。

 

「HPが減らなきゃオレンジにはならない」

 

フードのプレイヤーが両手で糸を引っ張りロザリアをそのまま門の中に放り込む。

 

「門閉めていいぞ」

 

「…………あ、ああ!」

 

ジュンは急いで門を閉じる。

フードのプレイヤーは軽く右手を引っ張る動作をする。

すると、地面に刺さっていたピックがフードのプレイヤーの手に帰って行く。

フードのプレイヤーはそのまま転移結晶で転移しようとした。

 

「糸ってよく思い付いたな!!何かお礼をさせてくれ!!」

 

ジュンがフードのプレイヤーの所に駆け寄る。

 

「こっちも依頼だったから必要ない。多分同じ依頼人だと思うし。それに、糸はいつも使ってる。言っとくけど糸スキルなんて無いからな」

 

「スゲーな!! でも、俺達も助かったしやっぱりお礼しないと、な!ユウキ!!」

 

ジュンが振り向いてボクを見る。

フードのプレイヤーもこっちを見てきた。

そして、何故かジュンとボクを交互に見る。

何か勘違いされてない?

 

「なら…………」

 

「お、何かあるか?何でも言ってくれ!」

 

ジュンが自分の胸を拳で叩く。

何でもって太っ腹だね。

フードのプレイヤーはジュンの耳元でボソボソと何かを言った。

小さい声だし距離もあるのでボクやシリカちゃんには何を言ったか分からなかった。

でも、ジュンは目を丸くして言葉を失っている。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

フードのプレイヤーは転移結晶で何処かに転移していった。

ジュンに何を言ったんだろう?

 

「ジュンさん、何を言われたんでしょうか?」

 

「気になるね」

 

ボクとシリカちゃんはジュンの所まで行った。

ジュンはまだポカンとしている。

しかし、突然、

 

「ユウキ!あのフードのプレイヤーとどんな関係なんだ!?」

 

「わぅ!わぅ!わぅ!!」

 

ジュンがボクの肩を力強く振りまくる。

首がもげる~!!

 

「ジュンさん!ユウキさんが困ってます!」

 

シリカちゃんが止めてくれたお陰でボクは首がもげずに済んだ。

ボクは首を擦りながらジュンに聞いた。

 

「で、何を言われたの?」

 

「何って、

 

   ”ユウキに手を出すな、絶対だぞ”

 

って威嚇するように言われたんだよ!! 」

 

「手を出すな?」

 

シリカちゃんがボクを見てくる。

ジュンは何か必死な様子だ。

 

「………卑怯者」

 

ボクは俯きながら呟いた。

きっと、ボクの顔は真っ赤になってると思う。

 

「ユウキさん?」

 

シリカちゃんが不思議そうにしている。

 

「シリカちゃんは今すぐにでもピナを生き返したいよね?そうだよね?うん、そうだね!よし!帰ろう!!」

 

ボクは速足で歩き出した。

 

「え?ちょっとユウキさん!!手を出すなってもしかして!!」

 

「まだ違う!! 」

 

ボクは速足から走るに切り替えた。

真っ赤な顔を見られたくない!!

 

「ユウキ!!今、まだって言ったよな!?」

 

「何も聞こえない~!!」

 

和人のバカ~!!しっかり正面向かって言いなよ!!卑怯者!!

こんなの反則だよ………

その後、ピナが生き返ってもシリカちゃんとジュンからは(特にジュンから)変な視線を向けられ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第4層ロービア

 

「和人様、依頼はどうでした?」

 

「威嚇してきた」

 

「はい?何言ってるんですか?質問の意味分かってますか?頭大丈夫ですか?」

 

「分かってる。依頼も成功して威嚇も成功した」

 

「……誰を威嚇したんですか?」

 

「秘密」

 




今日誕生日の自分です!!
なので、誕生日プレゼントに評価と感想お願いします!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 圏内殺人事件・前編

今年最後の投稿です !


   第4層ロービア

 

「…………」

 

「和人様、そんな所で寝てたら落ちますよ」

 

「んー?大丈夫、命綱はあるから」

 

アイが窓から身を乗り出して屋根を見上げている。

お昼過ぎ、俺は今ホームとしてNPCに借りてる家の屋根で寝ていた。

屋根の上は人目を気にせずゆっくり寝れる俺の特等席。

しかも、今日は最高の気象設定だ。

日差しは強すぎずでも弱すぎない。

風も程よく吹いていて気温も最適。

 

「攻略はどうするんですか?」

 

アイも窓から屋根に登って来た。

 

「今日は最高の気象設定だぞ、こんな日に迷宮区に潜るなんて勿体ない。それに、たまには休みも必要だろ?」

 

俺は伸びをしながらまた寝始める。

アイは少し考えてから俺の横に寝っ転がる。

 

「気持ちいいです」

 

「だろ?」

 

俺達はそのまま眠りに付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方にメールの着信音で俺は起きた。

また、アルゴからか?

っと思ったのだが差出人には”アスナ”っと書かれていた。

メールを読むと、

 

『今から第57層の”マーテン”に来てくれない?』

 

正直言ってめんどくさい。

横ではアイがまだ寝てるので起こすのも可哀想なのでお断りすることにした。

しかし、

 

『めんどくさいからって断るのは無し。ある事件の解決に協力して欲しいの』

 

何故断る事が分かったのか分からないが大分真剣な事で呼び出したんだろう。

俺はアイの頬っぺたを突っついて起こす。

 

「アイ~、出掛けるから起きてくれ~」

 

「はむっ」

 

「…………」

 

アイが突っついてた俺の指を手に取り甘噛みしてきた。

アイの目はまだ完全に起きてない様で半分しか開いていない。

 

「………は!!私のケーキ!!」

 

アイが起き上がり周りを見渡す。

俺の指を甘噛みしてた事は覚えていないらしい。

てか、ケーキを食べようとしてたのかよ。

 

「今からマーテンに行くぞ」

 

「マーテンですか、何でですか?」

 

「アスナからメールが届いたんだよ、何か事件の解決に協力して欲しいってさ」

 

俺は甘噛みの件を黙っておきながらアスナからのメールの内容を伝えた。

 

「成る程、では行きますか」

 

アイは立ち上がり伸びをする。

俺もそれに合わせて伸びをする。

そして、屋根から飛び出す。

俺達は屋根を越え時に綱渡りをし忍者の様に転移門に向かった。

勿論、フードは着用している。

俺ってどんな味何だろう?

俺は自分の指を見て思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第57層マーテン

 

「ごめんね、急に呼び出しちゃって」

 

アスナが両手を合わせて謝ってくる。

第57層マーテンのとあるレストランに俺とアイはいた。

レストランには他にもプレイヤーが来ていて俺を見ている。

気にしない!! 気にしない!!

 

「いいよ、どうせ暇だったし」

 

「それで、事件の内容は?」

 

アイが言うとアスナは真剣な顔つきで話を始めた。

 

「キリト君は街でPKが出来ると思う?」

 

PK、プレイヤーキル。

このデスゲームで最もしてはいけない殺人の事。

SAOにいるプレイヤーの数は限られているのに、プレイヤーを殺すことがある種の快感だと言うプレイヤーが現れたのだ。

しかし、HPが減るのは基本的にフィールドだけでPKもフィールドで起きる事が多い。

街ではHPが減らないので街でのPKの仕方は限られてくる。

 

「出来るだろ、寝てる間に指を操作されて完全決着モードでデュエルとか」

 

ここ最近増えてる手口の睡眠PK。

爆睡しているプレイヤーを見つけて指を勝手に操作してデュエルの完全決着モードを選択されるのだ。

後は、寝てるプレイヤーを攻撃、プレイヤーも流石に起きるがその時には遅くHPが全損して死に至る。

 

「事件ってのはPKをした奴を探すのか?」

 

流れからしてそうなんだろうけど俺は一応確認する。

 

「それもあるけど、この事件変なのよ」

 

「「変?」」

 

俺とアイは首を傾げた。

言っちゃ悪いけど、PKの犯人探しは珍しい事では無いはずだ。

 

「私も睡眠PKだと思ったんだけどデュエルの決着のアイコンが無いの」

 

「決着のアイコンが無い?」

 

「ちょっと来て」

 

アスナは席を立ち店を出ていく。

俺とアイも急いで後を追った。

何か面倒な事に巻き込まれてる気がするぞ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナの話だとカインズと言う男性がこの建物からロープで吊るされ腹に剣が刺さった状態で死んでいったらしい。

カインズは殺される前にヨルコと言う女性とご飯を食べていたので睡眠PKの線は無し。

となればカインズが完全決着モードのデュエルを行った線が1番有力だが決着のアイコンが無かったのでその線も無し。

 

「で、この剣がカインズさんのHPを全て削ったのよ」

 

アスナがその剣を俺に渡してくる。

剣には茨の様な刺があり刺さったら抜けにくくなっている。

まるでプレイヤーのHPをジワジワと削っていく為の剣だ。

 

「この剣に何かあるのか?」

 

「これからそれを調べに行く所よ」

 

アスナは剣を俺から受け取りメニューにしまう。

ここで1つ疑問が生じる。

 

「私達は何で呼ばれたんですか?」

 

俺より先にアイがアスナに聞いた。

アスナは今や”閃光”と呼ばれるくらいのトッププレイヤーで最強ギルドの血盟騎士団の副団長。

俺達なんかより、頼りになる人達が大勢いるはずだ。

こんなコミュ障の男の子と小さい女の子に話すよりギルドに話をした方が早期解決に繋がるだろう。

 

「キリト君って頭いいじゃん!アイちゃんも凄く物知りだしね。ギルドの人達より頼りになるよ!」

 

アスナは笑いながらアイを撫でる。

アイはムスッとした顔になる。

 

「いや~、俺はビーターだし閃光様と一緒にいたら俺がPKされちゃいそうなので俺はこの件についてはパスって事で…………」

 

本当は人に会いたくないだけなんだけどな。

アスナと一旦別れてから独自でこの事件を裏から調査をするつもりだ。

 

「何言ってるの、キリト君にはアイちゃんがいるし大丈夫でしょ!!」

 

俺はアイを見てみる。

アイはドヤ顔で俺を見ていた。

腹立つなその顔!!

 

「ほら、行くよ!”黒の剣士”さんと”従者”さん!!」

 

アスナは転移門に歩いていく。

俺は従者ことアイと数秒見つめ合ってから、仕方なくこの事件を表から調査する事にした。

やっぱり、面倒な事になった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第50層”アルゲード”

 

「グリムロック作”ギルティソーン”…………でも、この剣には何も仕掛けはないぜ?」

 

「そうですか」

 

第50層のアルゲードに店を構えているこの雑貨屋の店主はエギルさんと言うらしい。

”安く仕入れて安く提供”っと看板に書いて合ったけど本当かどうかは怪しい店だ。

アフリカ系アメリカ人で流暢な日本語を喋るスキンヘッドのエギルさんは気前がよいので悪い店では無いのは確かだが。

俺とアスナはエギルさんの雑貨屋の2階にいた。

 

「圏内の街での殺人、面倒な事件だな」

 

エギルさんは剣をアスナに渡すと頭を掻いた。

そして、俺の方を見てくる。

 

「で、黒の剣士が何で協力してんだ?」

 

「は、はい!その、アスナから協力してくれっとメールが届いたので自分達は協力する事になったしだいです………」

 

久しぶりに初対面の人と話すので、俺は部屋の隅で体を丸くしていた。

筋肉マッチョのたくましい男性のエギルさんは口調は穏やかでもコミュ障の俺が話すのは厳しすぎる相手なのだ。

 

「俺嫌われてる?そんなに怖い顔してるか?」

 

エギルさんが落ち込みながらアスナに聞いている。

 

「してませんよ、それにキリト君がこうなってる理由は別にありますから」

 

アスナがエギルさんを励ましている。

俺が部屋の隅で丸くなっている理由、それはアイが側に居ないことだった。

調査が長引くと思ったアイは家に戻り糸付きピックや食料、寝間着などを取りに行ったのだ。

俺も着いていこうとしたのだがアイにこれもリハビリだと言う事で取り残された。

最初は不安しか無かったけど、アスナがいるから大丈夫っと思って残ったのだが、いざ1人になると周りの視線の量が凄かった。

閃光のアスナと2人で歩いてたらこうなるよなっと反省しながらビクビクして何とかエギルさんの店までこれた。

これで多くの視線ともおさらばだと思ってたのに筋肉の壁が俺を待っていた。

俺の心はその時に折れてしまった。

 

「そうなのか………まさか、ビーターとか黒の剣士って呼ばれてるからふてぶてしい奴だと思ってたのにイメージと全然違うな」

 

エギルさんがまじまじと俺を見てくる。

俺は両手でフードを引っ張り顔を更に隠す。

 

「エギルさん、キリト君が怖がってます」

 

「ああ、すまない。え~、キリト?俺はエギルだ。ここで店を開いてる。よろしくな」

 

エギルさんは部屋の隅にいる俺に対して手を上げて挨拶をする。

俺はチラッと見て手を上げる。

 

「よろしく………」

 

挨拶は大事!

怖いけど慣れるしかない!!

 

「アイちゃんにはこの場所をメールで伝えたからもう少しで来るから我慢してね」

 

アスナの言葉で少しだけ元気になった。

さらに、ドアを叩く音がした。

 

「誰だ?」

 

「従者ですよ」

 

アスナはドアを開けて従者を出迎える。

 

「あ、どうもアイと申します」

 

アイがエギルさんにいつも通りの挨拶をする。

 

「しっかりした、嬢ちゃんだな」

 

エギルさんは驚きもせず率直に思ったことを言った。

 

「あれがキリト様ですか?」

 

「うん、最初は何とか大丈夫だったんだけどエギルさんに会ったとたんにこうなっちゃった」

 

アスナは苦笑いをしてアイに説明する。

アイは溜め息をして俺に近づいて来た。

 

「キリト様大丈夫ですかっ!?」

 

俺は思わずアイに抱き寄せてしまった。

アスナは、やっぱりねっと言い。

エギルさんは、どうゆうことっと思っているのか呆然と俺を見ていた。

 

「怖かった~!!」

 

俺は半分泣いてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第57層マーテン

 

「ヨルコさん、グリムロックって人に心当たりはありませんか?」

 

「グリムロックは昔私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」

 

翌日の早朝、俺、アイ、アスナはカインズさんが殺される少し前まで行動していたヨルコって言う女性に話を聞いていた。

 

「実はカインズさんに刺さっていた剣、製作者はグリムロックさんなんです」

 

「え!?」

 

ヨルコさんは目を見開き両手を口に当て驚いている。

俺にとっては不自然なほどに………

 

「何か気付いたんですか?」

 

「気付いたのではなくて、思い出したんです」

 

ヨルコさんは自分が所属していたギルド”黄金林檎”の解散の原因である出来事を話してくれた。

モンスターからドロップしたレアアイテムを売却か活用するかを多数決で決め、5対3で売却になったこと。

売却に行ったグリセルダさんっと言う女性が殺された事。

反対したのは、ヨルコさん、カインズさん、シュミットさんの3人だって事。

グリムロックさんはグリセルダさんの旦那さんだって事。

必要以上に話してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は次にシュミットさんに来てもらい話を聞く事になった。

話からすると、この圏内殺人事件の容疑者はグリムロックさんでグリムロックさんはグリセルダさんを殺したのは指輪の売却に反対したカインズさん、ヨルコさん、シュミットさんの誰か、もしくは全員だと思っているのでその復讐をし始めた、っと言う事になる。

もしそうなら、この殺人は続く可能性があるので2階だて宿の2階で話を聞く。

 

「何で今さらカインズが殺されるんだよ!!そうか!アイツがグリセルダを殺したのか!?だから復讐としてグリムロックはカインズを殺したのか!!いや、グリムロックは指輪を活用する方を選んだ俺やお前も殺すつもりなのか!?」

 

シュミットさんが1人用の椅子で頭を抱えて嘆く。

俺とアイにアスナはドアの前で様子をうかがっている。

急な話なので話はヨルコさんにしてもらったのだ。

 

「グリムロックさんに剣を作らせた他のメンバーかもしれない、もしかしたらグリセルダさん自身かも知れないわね」

 

「「「「!!」」」」

 

ヨルコさんの思いがけない話にシュミットさんを含めた全員が肩を振るわす。

 

「私、昨日の夜ずっと考えてた。圏内で人を殺すなんて幽霊でなければ不可能だわ。結局の所グリセルダさんを殺したのはメンバー全員なのよ!!あの時、指輪をどうするか投票しないでグリセルダさんの指示に従っとくべきだったんだわ!!」

 

物静かなヨルコさんがここまで感情をあらわにして俺達はまた驚く。

そして、ヨルコさんは窓の淵に腰掛ける。

 

「ただ1人、グリムロックさんだけがグリセルダさんに任せるって言った。グリムロックさんには私達全員に復讐してグリセルダさんの仇を討つ権利があるんだわ」

 

ヨルコさんは段々と落ち着いていった。

やっぱり、何か不自然なんだよなこの人の行動。

 

「何だよ今さら………お前は良いのかよ!!こんな訳の分からない事で殺されても!!」

 

シュミットさんはヨルコさんの話を真に受けてしい慌ただしく立ち上がる。

 

「落ち着いてください、殺されるって決まった訳じゃありませんしあなたは今生きています」

 

アイがシュミットさんに言い聞かせて宥める。

しかし、

 

ドスッ

 

何かが物に刺さった音が響いた。

すると、ヨルコさんが窓から落ちそうになる。

その時、ヨルコさんの背中にギルティソーンと同じ様に刺の返しが付いたナイフが刺さってるのが見えた。

俺は手を伸ばしてヨルコさんを助けようとするが遅かった。

ヨルコさんは窓から落ちてポリゴンの破片となった。

 

「ヨルコさん!!」

 

 




凄い!! まさかランキングに入れるとは思っていませんでした ! !
これも皆様のお陰です!!

それでは感想と評価お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 圏内殺人事件・後編

お年玉が貰えて金持ちに!!


「ヨルコさん!!」

 

下の地面でヨルコさんが消えていくのを見て、咄嗟に顔を上げる。

顔を上げて見た先には俺と同じ様にフードを被ったプレイヤーが街の建物上を走っていた。

 

「アイツか」

 

「キリト君!ダメ!!」

 

後ろでアスナが止めようとしたが俺は止まらない。

俺は窓から俺達がいる宿の正面にある数メートル離れた建物にコツを使いジャンプをする。

いつもロービアの街中を飛び回っているので難無く正面の建物の屋根への着地に成功した。

そのままコツを使いフードのプレイヤーを追い掛ける。

しかし、フードのプレイヤーは懐から転移結晶を出した。

 

「転移か!」

 

俺は腰のベルトに装備されている糸付きピックを鞭の様にして投げる。

普通に一直線に投げても圏内なのでシステムの壁に阻まれるので鞭の様に投げて糸を相手に絡ませるのが狙いだ。

 

「!?」

 

足に糸を絡ませる事に成功して、フードのプレイヤーは屋根から落下する。

それでもフードのプレイヤーは、諦めずに転移をしようとする。

俺は転移先を聞き逃さないようにフードのプレイヤーを糸で引きながらも自ら屋根を降りる。

 

ゴーン、ゴーン、

 

教会にある鐘の音が響き渡る。

そのせいで転移先が聞こえない。

フードのプレイヤーは糸から逃れ何処かに転移してしまった。

 

 

 

 

 

宿に戻り部屋のドアを開けると待っていたのはレイピアの剣先だった。

 

「無茶しないで!!」

 

レイピアの持ち主、アスナが怒りながら出迎えてくれた。

 

「キリト様、ヨルコさんを殺したと思われるプレイヤーは?」

 

アイは怯えているシュミットさんの横から尋ねてくる。

 

「転移結晶で逃げられた」

 

俺は正直に答えた。

すると、シュミットさんが声を震わせながらブツブツ言い始めた。

 

「あのローブはグリセルダのだ……そうだよな……幽霊なら圏内で殺人なんて簡単だよな……」

 

シュミットさんは声だけでなく体まで震わせ始めた。

 

「とりあえず、今日はこれで終わりにしましょう。シュミットさん、また後日連絡をしますね」

 

シュミットさんは転移結晶で自分のホームがある層に帰った。

外では夕日が沈みかけていて幽霊が出そうな夜へとなりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

「キリト君はこの事件どう思う?」

 

完全に夜になり俺とアイそれにアスナは街のベンチに座って事件を思い返していた。

 

「正直、幽霊が犯人ですって言いたいよ」

 

「でも、そんな訳ないですしね」

 

幽霊が犯人なのでいくら考えても無意味です。

この結論が一番しっくりくる事件内容ばっかりだ。

こんな事件が発生するなら茅場さんにアイテムとかシステムとかの話を聞くべきだった。

 

「最初から考えて見るか……」

 

俺は事件発生から今を整理する事にした。

まず、死因と時間帯。

・カインズさんが死亡した原因は体の腹辺りを鎧ごと剣でぶっ刺された事。夕方

・ヨルコさんが死亡した原因は短剣で背中を刺さされた事。夕方

次に個人的に気になった事を挙げる。

・何故、短剣で背中を刺されただけでHPが一気に全損したのか。

・もし、幽霊なら転移結晶を使わないで逃げられるし糸にも絡まない……と思う。

・ヨルコさんの少しオーバーなリアクション。

最後に犯人。

・グリムロックさん

・グリムロックさんのお嫁さんだったグリセルダさんの幽霊

犯人が幽霊ってのはまず無いだろう。

時間帯は俺達が決めたので偶然。

しかし、どちらも刺し殺されたのは偶然か?

そう言えば、ヨルコさんはわざとらしく俺達に刺さった短剣を見せたな……

 

「どうぞ」

 

長考に入っていた俺の前に紙に包まれた何かが差し出される。

差出人はアイ。

アイはメニューからバケットを出して俺とアスナの2人に何かを渡していた。

俺は無言で受け取る。

 

「サンドイッチ?」

 

包みを開けると美味しそうなサンドイッチが現れた。

 

「このバケットの中に食べ物を入れとくと食べ物の耐久値の減少がかなり抑えれるんです」

 

「へ~、いつの間に買ったの?」

 

アスナはサンドイッチがお気に召したようで興味津々に聞いている。

俺も一口食べてみる。

…………うん、美味しい。

 

「これは私が作りました」

 

「………アイちゃんが作った?」

 

アスナが悔しそうにサンドイッチを見つめている。

 

「凄いな、店に出せばヒット商品になるぞ」

 

俺は素直に感想を述べた。

褒めたつもりなのに、

 

「それなら、接客はキリト様がやってください」

 

「無理です」

 

アイが無表情で俺を見てきた。

勿論、俺には接客なんて出来ないので即答した。

アスナは悔しそうな顔からチャレンジャーの顔になっていた。

 

「キリト君は料理が出来る子ってどう思う?」

 

アスナはサンドイッチを見つめながら俺に聞いてきた。

 

「どうって、家庭的で可愛いんじゃないか?」

 

アイもそうだし、木綿季も家では料理好きだったし。

 

「可愛い!?」

 

「あっ」

 

アスナが立ち上がり俺に詰め寄ってくる。

俺は思わず手からサンドイッチを落としてしまった。

 

「あ、ごめんなさい!私……」

 

「大丈夫ですよ、おかわりはありますから」

 

落として地面に落ちたサンドイッチは耐久値が0になりポリゴンとなり砕け散った。

その時、いきなりだけど閃いた。

余りにも呆気なく、余りにも簡単に、この事件のトリックが分かった。

 

「幻の復讐者って事か」

 

「分かったんですね?」

 

「え、何が分かったの?」

 

俺はこの事件のトリックと真相を話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「確かに、その方法なら死亡エフェクトとほぼ同じ物が作れるわね」

 

「ま、俺達の仕事はここまでにして、後はヨルコさん達に任せよう」

 

ベンチで全てを話した俺は達成感に浸っていた。

圏内殺人は嘘だった事が分かったしアルゴに報告するか。

俺はメニューを操作してアルゴにメールを送ろうとする。

 

「キリト君とアイちゃんは超級レアアイテムがドロップしたらどうするの?」

 

アスナが唐突に聞いてきた。

 

「ドロップした方の物です」

 

アスナの問い掛けにアイが答える。

 

「そうだよね、私達のギルドもドロップした人の物にしてるの。誰にどのアイテムがドロップしたかは全部自己申告でしょ、私ねそんなシステムだからこそこの世界の結婚に重みが出ると思うの」

 

「アイテムストレージの共通化ですね………」

 

「そう、今までは隠せた事も結婚すればそれも出来なくなる。この世界の結婚ってプラグマチックでロマンチックじゃない?」

 

アスナは両手を合わせて何だか目をキラキラさせている。

…………どうしよう、結婚したらアイテムストレージって共通化するの!?

初耳なんですけど!!

くっそ~、このシリアス雰囲気の中で俺だけ浮いてる!!

この後俺は何て言えばいいの!?

本当に茅場さんからSAOのシステムについて聞いておくべきだった!!

 

「キリト様?もしかして、アイテムストレージ共通化の事今知りましたね?」

 

アイが冷たい表情で俺を見てきた。

俺は顔を上げてアスナを見た。

 

「キリト君?本当に知らなかったの?」

 

アスナは笑っているけど怖かった。

俺は一生懸命2人に言う言い訳を考えた。

しかし、思い付いたのは別の事だった。

 

「今、指輪って何処にあるんだ?指輪どころかアイテム全部どうなるんだ?」

 

「ん~、グリムロックさんのストレージじゃない?」

 

アスナが少し考えてから答えてくれた。

そして、焦りを感じた。

 

「ヨルコさんの所に急ぐぞ!!俺の予想が当たっていればこの事件にレッドが関係してる ! !

 

俺は勢いよく立ち上がり店から飛び出した。

 

 

 

 

 

   第19層”十字の丘”

 

「グリムロックさんがグリセルダさんを!?」

 

俺はアイを後ろに乗せながら馬を走らせていた。

第19層では馬をレンタルする事が出来るのだ。

 

「直接は殺していないと思う。殺せばオレンジになってグリセルダさんを殺したのが自分だってギルドの誰かしらに感ずかれる。多分、レッドに依頼したんだっと危ね ! ! 」

 

話に気を取られて馬の操作をミスって馬が少しジャンプしてしまった。

 

「ひゃ!」

 

アイがその拍子に落ちそうになるが俺が左手を後ろに回してアイの腕を掴む。

 

「話は着いてからだ!加速するぞ ! 」

 

「はい!」

 

アイは落ちないようにと俺に抱き付いてくる。

ドキッとしたけどアイがしっかりと掴まっているのを確認をして馬を加速させる。

 

 

 

 

 

頂上の大きな樹の下では殺人ギルド”ラフィン・コフィン”のメンバー3人がシュミットさんとヨルコさん、そして恐らくカインズさんだと思われる人物3人を今にも殺しそうになっていた。

しかし、ラフィン・コフィンのリーダーが俺達が走らせる馬の足音に気付き距離をとる。

 

「何とか間に合いましたね」

 

「そうだな、さて、レッドプレイヤーさん?この後援軍に来る攻略組30人を相手に出来ると思うか?」

 

 

俺は剣を構えながら声だけでも凄む。

勿論、攻略組30人なんてただの思い付き。

この三人をこの場から立ち去らせる為のハッタリだ。

アイにも言ってはいないがアイは短剣を取り俺に合わせてくれた。

 

「行くぞ……」

 

レッドプレイヤー3人は霧が立ち込めるこの十字の丘から歩いて去っていった。

 

「また会えましたね」

 

俺は取り敢えず挨拶をしとく。

 

「全てが終われば話すつもりだったんです」

 

ヨルコさんがカインズさんと一緒に頭を下げて謝ってきた。

 

「終わったんですか?」

 

俺は倒れているシュミットさんの肩からレッドプレイヤーに刺されただろう短剣を抜いてあげた。

 

「まだです。手掛かりを見つけただけです」

 

「俺も協力する!!」

 

シュミットさんが立ち上がりヨルコさんとカインズさんに向かって言った。

俺が来るまでに何かがあったのだろう。

でも、その必要はない。

 

「その必要はないですよ」

 

「何言ってるんだ!?俺には協力する責任があるんだ!!」

 

シュミットさんが怒ってしまった。

しかし、アイが俺の手を握り落ち着かせてくれたのでパニックになる事は無かった。

丁度、アスナも見つけてくれたようだしな。

 

「いたわよ」

 

アスナが霧の中から現れた。

アスナは1人の長身の男性、グリムロックさんをレイピアで威嚇しながら連れて来た。

 

「終わらせましょうか………この事件を」

 

グリムロックさんは笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「久しぶりだね、皆」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でグリムロックがここに?」

 

シュミットさんがグリムロックさんに問い掛ける。

 

「私が君達の殺人をラフィン・コフィンに依頼したからだね」

 

「「「!?」」」

 

ヨルコさん、カインズさん、シュミットさんは同時に驚く。

俺、アイ、アスナは予想していた事なので余り驚かなかったが顔をしかめてしまう。

 

「まさか、グリセルダさんを殺したのはあなたなの!?何でグリセルダさんを……奥さんを殺したの!?愛した人を殺したの!?そんなにお金が大事なの!?」

 

今のヨルコさんの叫びは、シュミットさんや俺達の前で見せた時の演技では無く正真正銘の心からの叫びだった。

しかし、グリムロックさんはその叫びを嘲笑う。

 

「ふっふっふ…………金の為?そんなんじゃない。私はどうしても彼女を殺さねばならなかった。彼女がまだ私の妻である間に!! …………彼女はね現実世界でも私の妻だった」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

今度はグリムロックさん以外の全員が驚いた。

グリムロックさんは話を続ける。

 

「可愛らしく柔順で、夫婦喧嘩もしないとても良い夫婦だった。しかし、この世界に捕らわれてから彼女は変わってしまった。現実よりも生き生きと充実した様子だった。認めるしか無かった、私が愛したゆうこは消えてしまったのだと!ならば ! ! 合法的殺人が出来るこの世界でゆうこを!! 永遠の思い出として封じてしまいたいと願った私を誰が責められるだろうか!! 」

 

この男の話を聞いて皆は言葉を失ってしまう。

 

「そんな理由であんたは奥さんを……愛する人を殺したのか……?」

 

俺はどうにか言葉を出した。

 

「十分過ぎる理由だ。いずれ、君も分かるよ探偵君。愛を手に入れそれが失われようとした時はね」

 

グリムロックは自分の考えが全て正しいかのように邪悪な笑みで俺を見た。

その顔を見た瞬間に俺は怒りを抑えられなくなった。

 

「ふざけんなよ!!そんな事で愛する人を殺したのか!!」

 

俺は長身であるグリムロックの胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 

「言っただろ?、愛が失いかける時が来たら君にも分かるとね」

 

グリムロックはそれでも自分が正しいと思っているのか笑みを崩さない。

 

「分かるわけないだろ!!」

 

「親からの愛しかしらない今の君では分からないだろうね、恋人の……本当の愛を失いかけた時の悲しみはね」

 

グリムロックは俺に可哀想と哀れむような視線を向ける。

俺はグリムロックを許せなくなった。

 

「親の愛なんて何年も前に失ってる!!お前が言う愛を失いかけた時の悲しみも知っている!!」

 

「キリト君………」

 

「親の事は知らないが…………君が手に入れた愛は私が手に入れた本当の愛では無かったと言うことだ」

 

「お前が奥さんに抱いていた物が本当の愛なのか………?」

 

自分でも驚く程の低い声でグリムロックに問い掛ける。

グリムロックは両手を広げ天を見上げる。

まるで天国にいる奥さんを見ているかの様だ。

 

「そうだと言ってるだろ!!だから、失いたくなかったのだ!!」

 

グリムロックは何も分かっていなかった。

 

「ちげーよ!!お前が抱いてたのはただの所有欲だろうが!! 」

 

俺が言った所有欲と言う言葉を聞きグリムロックはその場に崩れ落ちる。

それを見て俺の怒りも静まっていく。

 

「和人様………」

 

アイがいつもの様にそっと手を握ってくれる。

こんなに怒りを表に出した事など初めてかもしれない。

 

「キリトさん、この男の処遇は任せてください」

 

俺は小さく頷く。

グリムロックはカインズさんとシュミットさんの肩を借りながらヨロヨロと立ち上がり歩いていく。

ヨルコさんが歩いていく3人の後で俺達に深くお辞儀をした。

俺達も合わせてお辞儀する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~」

 

ヨルコさん達が霧で見えなくなった瞬間に俺は後ろに倒れる。

そして、フードで隠れている顔を両手でさらに隠して右往左往と転がる。

何で俺はあんな事を叫んじゃったんだ~!

自分は本当の愛を知ってるみたいじゃないか~!

てか、完全に木綿季が好きって事をアイに宣言したようなもんだろこれ~!

俺のバカ!バカ!バカ!コミュ障!ヘタレ!女顔~!!

 

「キリト君?どうしたの?」

 

アスナの顔がひきつっている。

俺はアスナを無視して転がり続ける。

 

「恥ずかし過ぎて顔も見せられないんですね?」

 

俺は顔を隠しながら何度も頷いた。

アイは楽しそうにしている。

 

「キリト君があんなに怒るなんて初めて見たよ……」

 

アスナが苦笑いになりながら転がっている俺の近くにしゃがみこむ。

見ないで!汚れた俺を見ないで~!!

 

「今はこのままでも良いけど、いつかキリト君の事を話して欲しいな」

 

俺は転がるのを止めてアスナを見上げる。

アスナは笑ってフードの下に手を入れて俺の頭を撫でてくれた。

 

「帰ろう!」

 

俺は体を起こして馬を見る。

今ここにいるのは3人。

馬って3人乗りって出来るのか?

 

「私が前にキリト様は真ん中で後ろはアスナ様。これで乗れますよね?勿論、手綱はキリト様ですよ」

 

俺は溜め息を吐くしかなかった。

 

「帰るか」

 

俺は立ち上がって馬に歩み寄る。

何とかアイが言った3人乗りが出来る事を確認して振り向く。

 

「よし!乗れそうだ…………」

 

俺のいる場所からだと樹の後ろには朝日が重なり樹が輝いて見えた。

枯れた樹ではあるがとても美しい姿だった。

しかし、俺が黙り混んだ理由は美しい姿の樹を見たからでは無い。

樹の下に佇んでいる1人の女性がいたのだ。

その姿は半透明でまるで幽霊だ。

女性は微笑みながら俺の目を見ていた。

何かを伝えようとしている様にも見える。

 

「キリト様?どうしたんですか?」

 

アイが両手を上げて俺の顔の前で手を振っていた。

 

「ここってグリセルダさんの墓なのか?」

 

根拠の無い質問にアスナは首を傾げる。

 

「そうだと思います、そこにグリセルダっと名前が彫られた石碑がありますので」

 

アイが指を向けた所には平たい石碑があった。

俺は石碑に近づき手を合わせる。

アイとアスナも横に並んで手を合わせる。

 

「何でグリセルダさんの墓だと分かったんですか?」

 

「俺今日から幽霊信じる事にする」

 

俺はアイの返事も待たずに馬に歩みより乗る。

 

「グリセルダさんの幽霊を見たんですか?」

 

アイが俺の前に乗り込もうとしている。

アスナも俺の後ろに乗り込む。

 

「そんなまさかね~!」

 

アスナが笑いながら何かを誤魔化した。

心なしか俺の腰を掴む手が震えている。

 

「……………」

 

俺はアスナを怖がらせない様に黙ってあげた。

しかし、無言は逆効果だったようだ。

 

「え?嘘だよね!?冗談だよね!?」

 

「出発だ!!」

 

俺は馬を走らせ始めた。

 

 

 

 




後1人!!
リズベットを出せばオリジナルストーリーの人数が集まるんだ ! !
次回はキリト君が剣を作ってもらうあのストーリーです ! !

評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 クリスタル

初詣に行きました。
おみくじの結果は………………


   第48層”リンダース”

 

「このお店です」

 

「昔ながらって感じだな」

 

俺とアイはアスナ行き付けの鍛冶屋に来ていた。

理由は剣を打ってもらうためだ。

先日、スキル欄に”二刀流”という謎のスキルが追加され。

何だこれ?っと思いながら目立たない所で使ってみたら、何と両手に剣を装備出来るではありませんか!!

しかし、モンスターと戦ってみると俺が今愛用している剣”エリュシデータ”の性能が高すぎてもう片方の剣の威力や耐久性などにむらが出てしまった。

そこでエリュシデータ級の剣を打てるプレイヤーを捜していたのだ。

 

「お邪魔しまーす」

 

店に入るが誰も居なかった。

店主が居ないと話も出来ないので店内に並んでいるガラスケースの中の武器を見て回る事にした。

まぁ、話はしたくないんだけど………

店内の剣などの武器は中々の性能だった。

アイも興味深く武器を見ている。

 

「いらっしゃいませ!!リズベット武具店にようこそ!!」

 

ピンク色の髪を小さな髪止めで抑えたいかにも活発そうな女の子店の奥からやって来た。

この女の子が店主さんかな?

 

「あ、オーダーメイドを…………」

 

俺は小声だったが聞こえ無い程じゃない声で注文する。

店主さんは俺の足から頭までを観察するように見通す。

アイが俺の前に立って店主さんを威嚇してくれたけど、小動物が威嚇してるぐらいにしか見えないのは悲しい。

 

「今、金属の相場が上がってますので……」

 

店主さんは心配そうに教えてくれた。

店主さんは俺の格好を見て、オーダーメイドお金なんて持ってないっと思ったのだろう。

だが、こちらにはアイがいる。

攻略で稼いだお金を毎日確認して食事代、家賃、消耗品代、貯金、そしてお小遣い。

金の管理を徹底しているので無駄遣いが一切無い。

なので、お金はたんまりある。

 

「お金の心配は大丈夫です。今打てる最高の剣を打ってくれませか?」

 

アイが店主さんに淡々と告げる。

いきなり、凄い事を注文したな。

 

「っと言われましても具体的な目標性能値をだしてもらわないと………」

 

店主さんが困った顔をした。

 

「キリト様、剣を」

 

俺はアイに言われて背中の剣を店主さんに渡す。

 

「これと同等以上の性能はどうでしょうか………」

 

店主さんは落としそうになりながらも剣を受け取り性能を調べる。

そして、店主さんは目を大きく開いて驚く。

それもそのはず、エリュシデータをドロップしたモンスターは第50層のボスなのだから。

魔剣と言っても良いほどの剣。

 

「これなんかどう?私が鍛えた最高傑作よ!」

 

出てきたのはアスナが持っているレイピア”ランベントライト”のような細い剣だった。

俺は剣を持ちその場で素振りをしてみる。

軽すぎてしっくりこない。

 

「耐久力を試してもいいですか?」

 

「耐久力?別に良いけど……どうやって?」

 

了承を得て俺はエリュシデータの柄を持った。

店主さんは俺がやろうとしてることが分かり慌てて止めようとする。

 

「ちょ、そんな事したらあんたの剣が折れちゃうわよ!?」

 

「その時はその時ですよっと!!」

 

俺はエリュシデータを本気で折るつもりで片手剣ソードスキル”バーチカル”を発動。

 

パキンッ

 

店主さんが出してくれた剣がポッキリ真っ二つに折れてしまった。

折れて飛んでった剣先の方は金属からポリゴンとなってしまう。

店主さんは俺から折れた剣を奪い取り呟く。

 

「修復不可能………」

 

残った方も消えてしまい店主さんは膝を突く。

 

「なんて事するのよ~!!」

 

店主さんは立ち上がり俺の胸ぐらを掴んできた。

店主さんの迫力に負けて俺は何歩も後退してしまう。

 

「すみませんすみませんまさかあれで折れるなんて思わなかったんです………」

 

俺は店主さんの手を振り払い店の隅で謝罪する。

アイも店の隅に来てくれた。

 

「それって私の剣が思ったより弱かったって事!?」

 

そんな俺のビビり方なんて気にせず店主さんは怒りはヒートアップ。

 

「そ、そうゆうわけでは………」

 

店主さんは隅にいる俺の所に歩み寄ってきた。

 

「そんな小声じゃ聞こえないわよ!ハッキリしなさい!!」

 

店主さんは両手を腰に当て説教をし始めた。

その時、アイは店主さんと俺の間に割り込んで店主さんを宥めてくれる。

 

「剣の事は謝りますので落ち着いて下さい」

 

アイと初対面の人の殆どはアイの礼儀や話し方に驚きを隠せないでいる。

それは店主さんも同じで驚きを隠せない。

そのお陰で店主さんは落ち着き許してもらった。

 

「ごめんなさい、いきなり怒鳴っちゃって」

 

「こちらこそ剣を折っちゃってごめんなさい。剣の代金は払いますので…………」

 

「剣の代金はいらないわ。でも、手伝って欲しい事があるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第55層”西の山”

 

「寒いわね」

 

「雪山ですからね」

 

店主さんの名前はリズベットだった。

自分の名前を店の名前にするのはよくある事ではあるけど俺はあんまり理解できない。

目立つし名前を宣伝してる見たいで嫌だ。

店を出す気は全く無いのでいいけど。

 

「これ着ますか?」

 

俺は予備のコートをリズベットさんに渡す。

 

「敬語止めない?年も近そうだしね。私の事はリズって読んで」

 

自分の中でリズベットさんはアスナが怒った時より怖い人とランク付けされているのであだ名で呼ぶのは結構な躊躇いがある。

しかし、ここで断ったら怒るかも知れないので従う事にした。

 

「分かったよリズ」

 

「では私はリズ様とお呼びます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西の山のてっぺんはクリスタルの森だった。

俺の身長の倍の高さのクリスタルがあちこち地面から生えている。

それに雪山なので雪も積もっていてクリスタルと雪の雪化粧。

 

「ここに例のクリスタルをドロップするドラゴンが?」

 

ここに来たのはあるインゴットを手に入れる為。

剣の代金の代わりにこのインゴットを取りに行くのを手伝って欲しいと言うのだ。

リズの話ではこのインゴットはとても希少で数多のギルドがドラゴンを倒し手に入れようとしたらしい。

しかし、いくら倒してもインゴットはドロップしないのでどのギルドも諦めてしまったのだと言う。

 

「じゃ、リズは隠れてて俺とアイでドラゴンを倒す」

 

「転移結晶も忘れずに持っていてくださいね」

 

この層のエネミーだったら俺達だけで十分だし逆にリズが邪魔になってしまう可能性がある。

 

「それはいいんだけど、アイちゃんは大丈夫なの?」

 

リズの心配事は戦闘を見ていれば解消される事。

やはり、人はまず見かけから判断するらしい。

 

「心配は無用です。これでもリズ様よりは強いと思います」

 

リズはアイを疑いの目で凝視している。

アイは視線を無視して澄まし顔。

 

「グオァァァァ!!」

 

すると、中央にある大きなクリスタルからドラゴンの雄叫びが聞こえた。

クリスタルからは頭に三本の角を生やした水色のドラゴンが出てくる。

リズは言われた通りクリスタルの影に隠れ様子をうかがっている。

 

「行くぞ!!」

 

「はい!!」

 

俺達はドラゴンに走り出す。

ドラゴンはまず、俺達に向かって氷ブレスを吐く。

氷ブレスは当たると凍ってしまい数秒間身動きが出来なくなってしまうのだ。

俺達はコツを使って前方に走りブレスを掻い潜る。

 

「せいっ!!」

 

ドラゴンの真下に来た俺はドラゴンの首目掛けて投擲ソードスキル”パワーシュート”を放つ。

放つ際の反動で俺の左腕からから突風が吹き荒れる。

他の投擲ソードスキルと違いドンッと重い音を発しながら突き刺さる糸付きピック。

 

「登れるか?」

 

「登れます」

 

アイに糸を託し俺はドラゴンに挑発する。

挑発と言っても適当なクリスタルの上に登りピョンピョンとジャンプするだけ。

 

「グオァァァァァ!!!」

 

そんだけの挑発でドラゴンは俺を爪で切り裂こうとしてきた。

俺は紙一重の所しゃがんで攻撃をかわす。

ドラゴンは旋回してまた、切り裂こうと突っ込んでくる。

俺は襲い掛かる左腕をクリスタルから落ちながら体を横に倒してかわす。

そして、横になりながら交差方の要領で片手剣ソードスキル”ホリゾンタル”でドラゴンの左腕を肩から切り落とす。

そこで、ドラゴンの背中から声が聞こえた。

 

「乗りました~!!」

 

「よし!!やれ!!」

 

ひょっこりとドラゴンの背中から顔を出したアイは俺に敬礼をする。

俺は空中で身を翻して着地した。

空のドラゴンを見ると背中から火花が絶え間なく飛び散り時にソードスキルの光りも見える。

花火みたいだ…………

後はドラゴンが消えて落ちてくるアイを受け止めるだけ。

 

「キリトも攻撃してさっさと方を付けちゃいなさいよ ! ! 」

 

遠くの方でクリスタルの影に隠れている筈のリズが出てきてしまった。

 

「な!?まだ出てきちゃ駄目だ!!」

 

すると、空中でアイを振り落とそうと飛び回っているドラゴンは3人の中で一番レベルが低いリズに狙いを定めた。

ドラゴンは翼を大きく使い嵐のような風を巻き起こす。

 

「きゃ~~!!」

 

リズは風に吹き飛ばされてしまう。

 

「リズ様!!」

 

俺が助けに行こうとするとドラゴンの背中に乗っているアイがドラゴンの目の前に飛に飛び出す。

アイはドラゴンの風に乗ってリズの方に一直線に飛んでいく。

リズは丁度吹き飛ばされた所にあった大穴に落ちてしまう瞬間だった。

 

「和人様!!信じてますからね!!」

 

アイは俺に叫んでリズと一緒に大穴に落ちていった。

俺は邪魔なフードを取ってドラゴンを睨む。

 

「何してんだよテメー」

 

俺はドラゴンに向けて静かに怒鳴る。

 

「はっ ! ! 」

 

俺はドラゴンから垂れ下がる糸を掴んでコツでドラゴンの背中に飛び乗る。

 

「このっ!!」

 

俺は切れそうな糸の代わりに新しい糸付きピックをドラゴンの首にパワーシュートで打ち込む。

至近距離からでしかも攻略組でもトップレベルの俺の攻撃でドラゴンの首はくの字に曲がる。

そして、糸を掴みながら俺はドラゴンから飛び降りる。

 

「ほっ!!」

 

糸を短く持ってブランコのようにスイングをし俺はドラゴンの首を1周する。

1周半したところで糸が切れてしまい俺はドラゴンの遥か上空に飛び上がる。

上昇が止まり一瞬の静止、そして落下、俺は落下と同時に横に回転する。

 

「せ~りゃぁぁぁ!!」

 

コツも使い高速回転する俺はドラゴンの首目掛けてホリゾンタルを全力で当てる。

 

「グオァッ!!」

 

ドラゴンの首は綺麗に切り落とされる。

ドラゴンのHPは今のホリゾンタルで0になった。

俺は地面に激突する前に糸付きピックを数本、投擲ソードスキル”スティックシュート”で近くのクリスタルに刺した。

落下の威力を全て吸収は出来なかったけど死なずにすむ程度の威力にはなった。

足からくる痛みではない妙な衝撃に耐えて俺はアイ達が落ちた穴を覗きに走る。

後ろではドラゴンが落ちてきた音とその後に落ちたドラゴンがポリゴンとなる音が聞こえたが無視。

 

「ふっか~………」

 

底が見えないのでアイ達の確認が出来ない。

フレンドリストを見るとアイは生きているのでリズも生きていると信じるしかない。

俺は大穴に叫んでみる。

 

「アイ~!!リズ~!!大丈夫か~!!」

 

耳を大穴に集中すると数秒後にアイの声が返ってきた。

 

「どちらも無事です~!! 」

 

俺は一先ず安心する。

しかし、この大穴を降るのは落ちればいいとして登る時の方法が難しい。

今持っている糸だと長さが足りないし3人を持ち上げる為の強度もない。

こうなれば、この穴を大きな蜘蛛の巣状にして俺とアイでリズを担ぎながら素早く上がる方法が一番安全だと思う。

 

「よし、そうしよう」

 

俺は大きく胸を膨らませて大穴にまた叫ぶ。

 

「今の糸の量じゃ助けるのは難しいから~!!一旦ホームに戻って糸とピックを調達してくる~!!戻るのは明日の早朝になるかもしれないけどそれまで耐えてくれ~!!」

 

俺は息切れをしながらもなんとか伝えてアイの返事を待った。

数秒後、

 

「了解です~!!モンスターも出現しませんし大丈夫です~!!でも~!!できるだけ早く戻って来て下さいね~!!」

 

俺はリズ用に寝袋と寝袋の中に夜になったときのランプと食料などのキャンプ用品を入れてる。

キャンプ用品が入った寝袋を糸付きピックの糸に縛り付けて穴の中に投擲ソードスキル”スティックシュート”で投げ込む。

投げた方向は恐らく底の少し上の壁なのでアイがジャンプすれば寝袋は届くだろう。

もし、底に落下しても寝袋の中の物は無事だと思う。

後はソードスキルがアイ達に当たらないのを祈るだけだ。

 

「ありがと~!!」

 

アイではなくリズからお礼がきた。

無事に届いた証拠だ。

俺は最後に大穴に叫ぶ。

 

「絶対に助けるからな~!!」

 

「はい!!」

 

アイが数秒もせずに返事をしてきた。

俺は転移結晶を使い糸の調達に急いだ。




リズベットを助けに穴に落ちたのはアイでした ! !
次回は穴の底のアイとリズベットのお話です!!

おみくじの結果は………………大凶でした。

ふざけんな~!! 酷くないですか ! ?
鶴岡八幡宮のバカやろ~!!
皆様 ! ! この不幸を消し去るべく!! 評価を ! ! 高い評価を下さい ! !

では ! ! 高い評価と感想をお待ちしています ! !


逆に大凶ってすごくね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話 剣と短剣

冬休みの終わりが近づいてきました。


「キリトを待ってる間どうする?」

 

リズ様は届いた寝袋の中身を取り出しながら私に聞いてきました。

どうしましょう、私はAIなので女の子同士のガールズトークというものはほとんど経験していません。

スグ様とはよく話してましたけどスグ様は家族です。

今日会ったばっかりのリズ様の趣味などは分かりません。

 

「私、現実の世界ではほとんど家族としか話してないのでガールズトークの様な事は出来ませんよ」

 

和人様の様にコミュ障では無いですが話す内容が分かりません。

私が話せる事は本の事ぐらいでリズ様が気に入る話など出来ません。

 

「アイちゃんって真面目そうだもんね」

 

リズ様が苦笑いしています。

リズ様の表情を見て申し訳ない気持ちになってしまいます。

どうにかして、話を盛り上げなければなりません。

 

「とりあえず、寝袋とかキリトから届いたキャンプセットを整理しよっか!」

 

リズ様が明るく振る舞ってくれます。

 

「はい!」

 

私も出来るだけ明るくいようと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になってしまいました。

ここまではリズ様のお陰で暇な時間はありませんでした。

しりとりをして私が完勝。

謎々をして私が完勝。

早口言葉をして私の完勝。

雪で彫刻を造る勝負でリズ様はウサギ、私はドラゴン、私の完勝。

和人様が届けてくれた食料と私が持っている食料を使って簡単な料理対決でリズ様はサンドイッチ、私はランプの火を最大限使い水を沸騰させてパスタを茹でてトマトのカッペリーニを作りました。

私と和人様のホームはイタリア風の街なのでイタリアンレストランが多く並びその中で私が好きなお店の味を再現しました。

完勝です。

 

 

「リズ様………大丈夫ですか?」

 

「私よりずっと年下の女の子にここまで負かされるなんて………」

 

剣を折られた時よりも落ち込み具合が凄いです。

勝負事になり私もつい本気を出してしまいました。

落ち込んでいるのが和人様なら冗談でも言うのですが今回の相手はリズ様なのでそれも出来ません。

反省しなければなりません………

 

「落ち込んでても仕方無い!!明日の朝早くにはキリトが助けに来てくれるんだからもう寝ないとね!!」

 

凄くポジティブです。

和人様も少しは見習って欲しいぐらいです。

 

「そうですね」

 

私達は寝袋を並べてお互いの寝袋の間にランプを置きます。

本来は何個かあったランプは料理の時に私が使いすぎて燃料が切れてしまいました。

なので、残りの少ないランプを2人で節約して使う事になったのです。

私達は寝袋の中に入りました。

 

「こうしてると修学旅行を思い出すよ」

 

リズ様が微かに見える星を見上げて呟きました。

 

「修学旅行ってこんな感じなんですか?」

 

私はAIなので修学旅行どころか学校にも行った事がありません。

和人様も引きこもりで学校には行ってなかったので学校の事はあまり知りせん。

知らないと言うか必要が無いと感じてます。

和人様はプログラミングやハッキングの技術では日本どころか世界でも活躍出来る程の天才。

私はAIなので学習能力が人より非常に高く私の好きな本を読んでれば自然に知識が付きます。

 

「そうだよ、こうして友達と話をして盛り上がるの、アイちゃんもこのゲームが終われば分かるよ」

 

「私は学校に行って無いので分かりません」

 

リズ様が寝袋ごと私の方を向きました。

驚いているのが簡単に分かります。

 

「学校に行ってないのにそんなに礼儀が良くて頭が良くてしっかりしてるの!?」

 

「え?」

 

私が予想をしていた反応と違い逆に私が驚きました。

学校に行ってない事じゃなく学校に行ってないのにしっかりしている事を驚くリズ様を見つめてしまいます。

 

「えっと、学校に行ってない事じゃなくてですか?」

 

私は思わず聞き返してしまいました。

 

「違うわよ!私なんて学校行ってるのに馬鹿なのよ!?不公平よ!!」

 

リズ様が寝袋の中で足をジタバタとバタ足を繰り返します。

浜辺に息がありながら打ち上げられた魚みたいです。

 

「そう言えばさ、アイちゃんは何でキリトと一緒に居るの?」

 

バタ足を止めて落ち着いたリズ様が唐突に尋ねてきました。

和人様は私がAIである事を必死で隠しています。

私の為にしている事なので無駄には出来ません。

 

「親戚だからです。家も一緒に住んでいました」

 

私の設定は和人様の親戚となっています。

 

「キリトと付き合ってるの?」

 

リズ様が所謂(いわゆる)ビックリ発言をしてきました。

私は口を魚の様にパクパクして中々声が出てきません。

 

「違います!!」

 

言葉を絞り出して叫びます。

リズ様はニヤニヤと口に手を当て私を見ています。

 

「それに、キリト様は…………」

 

そこで私は口を閉じます。

危ない所でした。

この事を事情を知らない人に教えるのはいけない事だと分かっていたはずなのに勢い余って言いそうになってしまいました。

 

「え?キリトが何?」

 

どうにかして、誤魔化さないといけません。

和人様が少々犠牲になってしまいますが仕方無いです。

 

「キリト様はあの性格ですよ ? あのコミュ障がモテると思いますか ? 」

 

心の中で和人様に土下座で謝ります。

そして、一応木綿季様にも謝ります。

リズ様は軽く笑って納得してくれました。

 

「あんなコミュ障だと学校でも友達少なそうだよね」

 

「キリト様も学校行ってませんよ」

 

リズ様が固まりました。

 

「え!?あいつも!?私と同い年ぐらいよね!?」

 

「でも、キリト様は頭が良いですよ」

 

和人様の歳で茅場様と言う天才と同じレベルにいるのは間違いなく和人様だけですしね。

私としりとりをしたら何回続くか分かりません。

 

「うわぁ、エリートばっかりじゃないの」

 

確かにそうです。

スグ様も剣道が強いですし、純粋な運動神経だったら木綿季様がずば抜けていると和人様が言ってました。

 

「はい」

 

「そこで、はいって言えるのも凄いわね………」

 

リズ様が呆れています。

 

「寝よっか?」

 

「そうですね」

 

そろそろ私も眠くなってしまいました。

明日の朝には和人様が来て助けてくれる筈です。

……………糸が足りないっと言ってましたが、私達をどうやって助けるんでしょうか ?

私、気になります!! 

和人様ならこう考えるのでしょうか?

 

「お休み、アイちゃん」

 

「お休みなさいです、リズ様」

 

今日の出来事は良い思い出になりました。

早く和人様に教えたいです。

私はそっと瞼を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   翌朝

 

「なぁぁ~~!!」

 

大穴の中で悲鳴が響き渡り木霊します。

私達はその悲鳴で飛び起きました。

 

「何今の!?」

 

「分かりません。ですが………」

 

私は私とリズ様との間にある謎の人形の穴を見つめます。

下が雪なので綺麗な人形です。

それにこのシルエットには見覚えもあります。

 

「ビックリした~!!まさか、ここまで深いとは思わなかった!!」

 

人形の穴からは予想通りの人物が這い上がってきました。

落ちて来たんですね。

 

「あんた馬鹿なの!?何で落ちて来たのよ!?死ぬかもしれないのよ!?」

 

リズ様の言い分はもっともです。

しかし、キリト様は時々常識はずれの行動をします。

天才の欠点と言いますか、何かが抜けているんですよね。

 

「アイ!!大丈夫だったか!?怪我してないか!?よく寝れたか!?」

 

和人様が私の肩を掴んで本気で心配してきました。

近すぎてフードの中が見えて涙目の和人様が見えました。

 

「キリト様、近いです!!」

 

「キリト?あんたアイちゃんの為に落ちてきたの?」

 

和人様の後ろで顔をひきつらせているリズ様がいます。

 

「いや、アイだけじゃなくてリズの為でもあるぞ?それにここに来る為には落ちる方法が一番速いかなって………」

 

和人様が私の後ろに隠れながら説明します。

和人様はリズ様が苦手なんでしょうか?

良い人だと思いますが?

 

「はぁ、それで?どうやって助けてくれるの?」

 

「それが…………最初は糸を張り巡らせて俺とアイでリズを担ぎながら上に登ろうとしたんだけどちょっと事情が変わりまして………」

 

私の後ろで和人様が言い難くそうにしています。

糸を張り巡らせて登るってそれも凄い方法ですね。

 

「事情ってなんですか?」

 

「ドラゴンがリポップしました」

 

私とリズ様は何も言えませんでした。

つまり、昨日和人様が倒しただろうドラゴンが復活して私達の救出を邪魔してるって事ですね。

 

「どうするのよ!?勿論、ドラゴン倒してから来たのよね!?」

 

「倒しては無いんだけど………」

 

すると、和人様は何も無い所で綱引きの様に何かを引く体勢をしました。

何が始まるんでしょうか?

 

「何してるんですか?」

 

私が和人様に尋ねると和人様は私に手招きしてきました。

 

「これ引くの手伝ってくれ」

 

「これってロープ?いや、糸の束ですか?」

 

和人様の手にあったのは隠蔽スキルで姿を消していた糸でした。

私は和人様の言われた通りに和人様と一緒に糸の束を全力で引っ張りました。

何やら、重たい手応えがあります。

 

「うりゃ~!!」

 

私は足を雪に滑らせながらも一生懸命引っ張りました。

 

ブチッ

 

「「わっ!?」」

 

糸が切れる音がして私と和人様は後ろにひっくり返ってしまいました。

 

「失敗ですか?」

 

「いや、成功だ」

 

「何が成功よ!?糸が切れちゃったんでしょ!?あんた何がしたかったのよ!?」

 

リズ様が今にも泣きそうな顔になっています。

私は和人様が成功だと言ったので成功だと思います。

 

「二人とも壁際に寄って」

 

和人様は私達を壁際に寄せました。

リズ様は、もう帰れないんだわっと嘆いています。

すると、上から何かが落ちてくる音がしてきました。

 

ドシーン

 

大穴の底にあった雪のほとんどが落ちてきた物の衝撃で巻き上りました。

大穴の底が見えるくらいです。

 

「ドラゴンを釣ったんですか?」

 

落ちてきた物、それは昨日私達が戦ったドラゴンでした。

ドラゴンは背中から落ちてスタン状態になってました。

 

「上であらかじめスタンさせといたんだ。全身に糸付きピックを刺せるだけ刺してから落ちてきたんだよ」

 

何と馬鹿げた救出方法でしょうか。

和人様はこのドラゴンに乗って脱出しようとしてるのです。

しかも、半ば作戦は成功しています。

リズ様も驚きで開いた口が塞がってません。

私でも驚きすぎて呆れてるのですから。

 

「さ、早く乗らないとな!」

 

丁度ドラゴンが起き上がったので和人様は急いで固まってるリズ様を担ぎ上げました。

私も急いでドラゴンの背中に乗ろうとしました。

すると、光る物が私の足元にありました。

私は拾い上げて見ます。

”クリスタライト・インゴット”

私達が探していたインゴットです。

成る程、雪の下に埋もれていたのがドラゴンが落ちてきた衝撃で雪が吹っ飛び姿を現したんですね。

しかも、二個あります。

和人様用とリズ様のお店用です。

 

「アイ!!飛ぶぞ!!」

 

和人様がリズ様を担ぎながらドラゴンの上に乗っていました。

私も急いでインゴットをしまって壁を蹴りドラゴンの背中に飛び乗ります。

 

「飛べ!!」

 

和人様がエリュシデータをドラゴンの背中に突き刺しました。

私も短剣を突き刺します。

 

「グオッ ! ? 」

 

ドラゴンは驚いた様子で飛び上がり上昇を始めました。

上昇していくと眩しいぐらいの光が迫ってきます。

 

「今だ!!横に飛べ!!」

 

リズ様を担ぐ和人様の掛け声と共に私は横に飛びました。

運良く無数にあるクリスタルには当たらず柔らかい雪の上に飛び込む事が出来ました。

 

「あんた馬鹿じゃないの ! ? ドラゴンで上に登るとか普通考えないでしょ ! ! 」

 

リズ様が和人様から降りて文句を言っています。

和人様はいつも通り怯えて私の所に来ました。

 

「それよりドラゴンを倒しましょうよ」

 

ドラゴンが真上から突撃してきたのです。

私達はその場から離れてドラゴンの動きが止まった瞬間にソードスキルを入れます。

 

「はっ!!」

 

和人様が片手剣ソードスキル”ウォーパルストライク”

 

「やっ!!」

 

私が短剣ソードスキル”シャドウ・ステッチ”

 

「おりゃ!!」

 

リズ様は片手棍ソードスキル”トリニティ・アーツ”

それぞれのソードスキルがドラゴンを直撃してドラゴンのHPは無くなりました。

 

「インゴットはドロップしたか?」

 

「インゴットなら大穴の底に2つ落ちてたので拾いましたよ」

 

和人様が私とリズ様にインゴットの確認したのでもう手に入れてる事を教えて上げます。

 

「え?何で大穴の底にあるのよ?あれってトラップでしょ?」

 

リズ様が大穴を指差して言います。

私も何で大穴の底にあったのかは分かりません。

和人様の意見を聞こうと思い和人様の方を見ました。

和人様は何故かオドオドしてました。

 

「どうしたんですか?」

 

「多分だけど、あの大穴ってドラゴンの巣なんじゃないかな?ドラゴンはこの辺のクリスタルを食べて暮らしてたんじゃないか?そこら辺に食べた跡もあるし。だから、巣に落ちてたんならそのインゴットってドラゴンの…………」

 

最悪の答えが返ってきました。

和人様の推測が正しければ私が触ったインゴットはドラゴンの排泄物……………

 

「何て事を言うんですか!?私は信じませんよ!!きっとこのインゴットはドラゴンにとって宝石の様な物だったんです!!この無数にあるクリスタルの中から最上級の物を取って大切にしてたんです!!ここはインゴットの畑なんです!!」

 

絶対そうなんです!!

流石にその推測はいくら和人様の推測でも信じません!!

ドラゴンには悪いですけど…………

 

「そ、そうだな。あ ! 2つあるなら1つを俺の剣にしても良いか?」

 

和人様が慌てて話を変えてくれました。

リズ様も和人様の言おうとした事が分かったようで話を合わせてくれます。

 

「い、いいわよ!助けてくれたお礼よ!!」

 

私達はリズ様の鍛冶屋”リズベット武具店に戻る為に歩き出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第48層”リンダース”

 

リズ様はお店に帰るとすぐに剣を打つ準備を始めました。

工房は半分地下になっていて剣を研ぐための回転式の砥石もあります。

お店の外にある水車と連動してるみたいですね。

私はこの様な雰囲気が大好きです。

 

「片手剣で良いのよね?」

 

「ああ、頼む」

 

リズ様が最後の確認をし火で熱せられ赤くなったクリスタライト・インゴットを剣にすべく打ち始めました。

 

カンッ、カンッ、カンッ

 

1回、2回、3回、どんどん数が増えていきます。

何回打ったでしょうか、インゴットの色は急に赤みを増しました。

すると、インゴットはゴツゴツした形から剣の形に変わっていきます。

 

「綺麗です」

 

思わず口に出してしまいました。

形を変えて赤みが完全に消えるとそこにはとても綺麗な剣がありました。

透明感のある水色の剣身で剣の向こう側まで見えそうな程です。

氷の剣が私の第一印象でした。

 

「名前は”ダークリパルサー”闇を祓うって意味かしら?」

 

「試しに素振りしてみる」

 

和人様は出来たばかりのダークリパルサーを持ち、狭い工房で数回素振りをし始めました。

 

「重い………いい剣だ」

 

和人様は満足そうにダークリパルサーを眺めます。

重い剣が好きなのは現実で剣道をしてる時からですが、やっぱり何が良いのか分かりません。

それに、今回は二刀流ですので重い剣を2つ扱わなければなりません。

 

「次はアイちゃんの短剣ね」

 

そう言うとリズ様は最後のクリスタライト・インゴットを釜戸に入れて熱し始めました。

私は急いで止めようとします。

 

「私は頼んでませんよ!?それに私には短剣がちゃんとあります!」

 

「でも、火力不足じゃないの?」

 

私は口をつぐみます。

確かに最近の攻略で私の短剣は少し攻撃力が少ないかな?っと考えてたました。

それでもまだ使えそうだったので和人様にも黙っていました。

流石、鍛冶職人です。

 

「私はお金が………」

 

「お金はいいわよ。友達からのプレゼントって事にしといてちょうだい」

 

リズ様がぶっきらぼうに言いました。

あれだけ苦労して取りに行ったレアアイテムをプレゼントしてくれるなんてお店は大丈夫でしょうか?

和人様も困った顔をして何やら考えています。

 

「プレゼントって事が嫌なら景品ならどう?大穴の中でやった、しりとり、謎々、早口言葉、彫刻、料理、全部アイちゃんが完璧に勝ったんだからね」

 

「俺が必死になってる時に何してたんだよ………」

 

和人様の言葉に落胆がにじみます。

その話は後で沢山する予定です。

 

「別にプレゼントが嫌な訳じゃありません!とっても嬉しいです!!」

 

「そう?良かったわ。それじゃ打つわよ。短剣よね?」

 

和人様の時と同様に確認をしてきたので私は大きく頷きます。

 

カンッ、カンッ、カンッ

 

リズム良くインゴットがハンマーによって打たれます。

ダークリパルサーの時と同じぐらいの回数でインゴットは形を変えていきました。

赤みが消えて姿を表したのは透明な短剣でした。

ダークリパルサーとは違い柄より上、曲刀をイメージさせる剣身が完全に透明なのです。

 

「”リフレクトハート”?反射する心かしら?」

 

「Reflectは反映って意味もあるし”心を反映”って意味じゃないかな?」

 

心を反映っと聞き、私は1人動揺していました。

果たしてAIである私に心はあるのでしょうか?

私にはちゃんと自我があります。

嬉しかったり悲しかったりと感情もあります。

しかし、それは本物でしょうか?

私はこの短剣を手に取るのがとても怖くなりました。

この短剣を手に取ったら何かが変わってしまうのではないかと不安にもなりました。

 

「アイはアイだろ?」

 

私の考えていた事が分かったのか和人様が優しく撫でてくれます。

そして、いつも私から手を握るのに今度は和人様から握ってくれました。

私は覚悟を決めてリフレクトハートを掴みました。

すると、剣が青白く光り始めたのです。

 

「これは………」

 

数秒間の発光が止み瞼を開けます。

私が掴んでいた短剣に色が付きました。

 

「白?」

 

短剣の剣身は雪の如く真っ白でした。

私はこれが何を意味しているのかが気になりました。

まさか、心が無いって事でしょうか?

和人様の手を握る力が強まります。

私が不安になっていると短剣からウィンドが現れました。

 

『綺麗で純粋な心の持ち主』

 

「綺麗で………純粋………」

 

私は短剣を見直します。

何処を見ても真っ白です。

 

「似合ってるな」

 

「………ありがとうございます」

 

すると、リズ様が何か思いついた様子で和人様を見ました。

 

「キリトもその短剣持ってみなさいよ」

 

リズ様は面白半分に和人様に勧めます。

 

「いいか?」

 

和人様も興味がある様で私に持っていいか尋ねます。

私も拒否する理由は無いのでリフレクトハートを和人様に差し出します。

 

「ありがとう」

 

和人様はリフレクトハートを掴みました。

先程と同様にリフレクトハートが光り始めました。

しかし、色が私の時よりも暗いです。

 

「微妙な色………」

 

剣身は灰色でした。

白でもなければ黒でもない。

それでも普通の短剣の色とは明らかに違う灰色。

 

「意味は何ですか?」

 

「えっと………」

 

『大きな悩みがある心の持ち主』

 

このリフレクトハートを設定した人は誰なんでしょうか?

怖いぐらいに当たっています。

 

「凄いなこれ………」

 

「悩みってあんた病んでるの?」

 

リズ様がストレートな質問を和人様にしてきました。

和人様は自然な流れでリフレクトハートを私に返してくれます。

和人様は何て答えるのでしょうか?

 

「リズ!!」

 

和人様が口を開こうとした時、工房のドアが勢い良く開きました。

そして、女性の方がリズ様に抱き付きます。

これが百合と言う物なのでしょうか ?

じゃなくて、入って来たのはアスナ様でした。

 

「心配したんだよ!!メッセージも届かないしマップ追跡も出来ないし………夕べは何処にいたのよ………」

 

「ごめん、ごめん、ダンジョンで足止めくらってて………」

 

アスナ様とリズ様は相当仲が良いみたいです。

そのせいでアスナ様は私達に気づいてません。

 

「ダンジョン?リズが1人で?」

 

「いや………そこの人達と………」

 

リズ様が私達の方を向きました。

 

「キ、キリト君!?」

 

「や、やぁ、アスナ」

 

「2日ぶりですね」

 

このリズベット武具店を紹介してくれたのが2日前の事です。

夕べにキャンプをしたので2日でも久し振りな気がします。

 

「早速来てくれたんだ!言ってくれれば私も一緒したのに!」

 

「3人は知り合いなの?」

 

リズ様にはアスナ様の勧めでここに来た事を言っていませんでした。

 

「私達は攻略組ですからね」

 

「強い剣が欲しいって言ってたからここを紹介したの!それで~?私の親友に何かしたの?」

 

アスナ様の目が鋭くなって和人様を睨みます。

和人様は全力で首を横に振っています。

怒らせると怖いランキングの1位と2位が一緒にいますし緊張しまくりですね。

 

「………仲が良いんだね」

 

リズ様の表情が一瞬暗くなりました。

和人様とアスナ様にも聞こえないような声で呟きましたが私にはちゃんと聞こえました。

 

「鞘を作るから一旦剣を置いて!」

 

リズ様はいきなり明るくなりさっきの暗い表情と声が嘘のようです。

リズ様は何を思ったのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鞘が出来上がり和人様のダークリパルサーは和人様のメニューの中に、私のリフレクトハートは私の腰にあります。

 

「アイちゃん似合ってるよ!」

 

アスナ様が私の顔とリフレクトハートを交互に見ています。

リフレクトハートの鞘はリズ様がわざと白にしたので私の銀髪と似合ってるらしいです。

それだけではありません。

 

「そのまま短剣を抜いてみなさいよ!」

 

リズ様も面白そうにしています。

さっきの暗い顔は何処へやらです。

私は左腰のリフレクトハートを抜き放ちました。

抜いた瞬間に短剣の周りに白い雪のエフェクトが舞い、私の全身を包みます。

 

「氷属性の武器ってあるんだな。それもエフェクト付きの」

 

和人様が2人とは別の意味で面白そうにしています。

恐らく、リフレクトハートは装備したプレイヤーによって属性が変わるのでしょう。

短剣に麻痺などのデバフ機能がある物は幾つか知っていますが属性付きのは初めて知りました。

 

「ユニークスキル?………違うなユニークアイテム?………にしては全身に雪の舞うエフェクトが少し派手な気もするし………」

 

「どちらでもいいです」

 

和人様は真面目ですね。

私にとっては強くなった事が大切です。

私がリフレクトハートを鞘に納めると雪が舞うエフェクトが短剣に戻り消えていきます。

 

「雪の妖精みたいだね」

 

「従者じゃなくなって、雪の妖精って呼ばれるんじゃない?」

 

「従者がいいです」

 

雪の妖精って呼ばれたら恥ずかしくて外に出られなくなります。

もしくは、和人様と同じでフードを被るようになります。

 

「それじゃ、私達はこれで失礼します」

 

これ以上ここに居ると別の嫌がらせが始まってしまうかもしれません。

逃げるが勝ちです。

 

「店員さ~ん!居ませんか~!」

 

「急がせちゃ駄目ですよ」

 

「そうだぜ、私みたいにスマートに生きなきゃな」

 

「………スマートですか?」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ!別に何も………」

 

お店の方から団体客の声がしました。

しかも、どっかで聞いた事のある声です。

 

「今行きます !!」

 

リズ様が急いで接客の準備を始めました。

 

「そうだ!リズのお店をもう1人の親友に教えたんだった!」

 

「嬉しいね~!アスナが店を宣伝してくれて私のお店も大繁盛よ!」

 

2人で盛り上がっている時、和人様だけがオロオロしてました。

狭い工房の中を行ったり来たりしています。

 

「因みにその親友のお名前は?」

 

「私も気になるわね」

 

もう、確信があるのですが一応聞いときます。

リズ様が鏡の前で髪をセットしながら興味を持っています。

 

「あのスリーピングナイツのリーダーで、深縹(こきはなだ)の舞姫って呼ばれてるユウキよ ! ! 」

 

「転移結晶ってあるか?」

 

「もう、覚悟を決めたらどうですか?」

 

どのみち転移結晶は持ってませんし、ここから出るにはお店を通らなきゃいけません。

つまり、会わなければなりません。

 

「タイミング悪すぎだろ………」

 

リズ様とアスナ様がお店に入って行きます。

 

「あ!アスナ!!会いたかったよ!!」

 

「この間会ったばっかりじゃない!!」

 

お店は楽しそうです。

工房は暗すぎです。

 

「木綿季が帰るまで待つ」

 

和人様は工房の釜戸で暖を取り始めました。

雪山は寒かったですもんね。

私も和人様の横で暖まります。

 

「キリト君も来なよ!」

 

「コミュ障治すチャンスよ!」

 

アスナ様とリズ様が誘ったので和人様が居ることがバレてしまいました。

 

「………」

 

「………」

 

詰みました。




さて!!キリトはどうなる!?
読んでくれてる方が次回を楽しみになる終わり方になってるでしょうか?
気になる方は次回も見てね☆
……………………すいませんふざけました。


作者からのお願い

評価を付ける時に☆5より下の方は何が悪かったか、またはどうすれば良くなるかのアドバイスを感想欄にお願いします!!
自分でも小説の書き方を勉強しますが皆様のアドバイスも聞きたいです!!
勿論!☆5より上の方も気になる事があったら感想欄にお願いします!!
出来るだけ優しいアドバイスを求めています…………



それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話 再会

少し遅れてしまいました!
すいません!!


「どうしますか?」

 

「………どうしましょうか?」

 

俺は悩んでいた。

このままだと木綿季と会ってしまう。

どうにかして回避しなくてはならない。

 

「まだ会わないんですか?」

 

アイが目の前にある釜戸の火を見つめながら尋ねてきた。

 

「それは………」

 

痛いところを突かれた。

俺もそろそろ会っても大丈夫かな?っとは思っている。

サチに出会ってからは少しずつだが強くなっている事も自覚している。

心の整理も出来ている。

でも、会いに行く事は出来なかった。

何かが足りなかった………

 

「後少しなんだ………でも、何かが足りない………肝心な何かが………」

 

俺はその何かが分からなくて悔しかった。

 

「勇気ですよ」

 

「え?」

 

「和人様に足りないのは踏み出す勇気だと思います。いくら強くても勇気がなければただの臆病者ですよ」

 

アイは静かに言った。

それに、そんな事も分からないのかと呆れている。

 

「キリト君?アイちゃん?どうしたの?」

 

出て来るのが遅かったからかアスナが工房に顔を覗かせた。

店の方からはリズとスリーピングナイツのメンバーが楽しそうに談笑している声が聞こえてくる。

 

「もう少ししたら行けます」

 

「あ、キリト君は無理しなくていいからね」

 

「いえ、私が無理矢理にでも連れていきます」

 

アイが意地悪そうにアスナに笑った。

その笑いを見たアスナは苦笑いをしながら出ていく。

アスナが出ていくとアイが人差し指を立てた。

 

「考え方を変えてみるのはどうでしょうか?」

 

「考え方?」

 

俺は何の考え方を変えるのか分からず首をひねる。

すると、アイが俺の胸ぐらを掴んできた。

 

「私の為に木綿季様に会うのはどうでしょうか?」

 

俺は冗談か何かだと思って笑い飛ばそうとした。

しかし、アイの顔は笑ってもなく赤くなっているのでもなく真剣な表情だった。

なので、俺はたじろいでしまう。

 

「和人様の悩みはどうでもいいんです!私が和人様と木綿季様が再会するのを望んでいるから会うんです!」

 

アイの言った事は無茶苦茶だった。

独断専行だ、自己中だ、絶対王政だ。

………………でも、悪い事じゃないと思った。

 

「アイの為に木綿季に会う………」

 

「私じゃなくてもいいですよ。スグ様でもいいですしお母様でもお父様でもいいです」

 

人の為に俺は木綿季と会う。

でも、それでは俺が強くなったとは言えない。

結局は自分が強くならないといけないんだ。

 

「強くなるのは後からでもいいと思います」

 

「後から?」

 

またしても、アイがよく分からない事を言ったので俺の首は傾いてします。

頭の上には3個ほどクエスチョンマークがあると思う。

アイは俺の頭の上のクエスチョンマークに気づいたのか呆れて俺の胸ぐらから手を放す。

 

「良いですか?たしかに、和人様は十分強いです!それは私にも分かります!!でもですよ?和人様は木綿季様を守りたくて強くなろうとしてるんですよね?なら、木綿季様を守ってみないと木綿季様を守れるかどうかは分かんないじゃないですか?」

 

盲点だった。

木綿季を守ってみないと守れるかどうかは分からないじゃん!

俺は頭に手を当ててガックリする。

アイは尚も先生口調で話の続ける。

 

「やっと、気づきましたか……………それに和人様が心配している木綿季様が自分の事を恨んでるかどうかですが………これは和人様が木綿季様に聞く以外に解決方法ないですよ?」

 

こうして指摘されると何で悩んでたか馬鹿らしくなってくる。

強くなったかも木綿季が何を思っているかも木綿季に会わないと分からない。

何で気づかなかったんだろう。

 

「和人様は目の前で人が死ぬのを見たくないだけです。それが愛した女性なら尚更。つまり、和人様には勇気が必要なんですよ」

 

話が終わるとアイはお店に入る為のドアの方に歩きだした。

階段を上ってドアの前に立つと振り向いて俺を見る。

 

「和人様、勇気を出して下さい!和人様に今必要なのは()()()だけなんですからね!!」

 

アイは笑って右手を前に差し伸べた。

俺は最初、手を差し伸べたアイに見惚れていた。

俺は立ち上ってアイを見据える。

 

「俺は凄い娘をもったな」

 

このSAOに囚われてから俺は何回アイに励まされただろうか。

アイが側に居てくれて本当に良かった。

しかも、今回は励ますどころか勇気もくれた。

 

「私はママが欲しいです」

 

「それはまだ早い!!」

 

流れからして木綿季と付き合えと言ってるようなものだ。

俺は照れ隠しに叫んでしまう。

 

「大丈夫です!義理の兄妹でも結婚は出来ますよ!!苗字は変わらないので少々感動が薄れるかもしれませんが……………でも、和人様と木綿季様なら関係ありません!!」

 

アイのテンションがいつにも増して高い気がする。

女の子は結婚の話になるとテンションが上がるのか?勉強になったな。

………………………苗字が変わらない?

 

「苗字が変わらない?」

 

俺は心の中で思った疑問をそのまま口に出した。

アイは我慢してた事から解放されたと物凄く笑顔になり両手を広げた。

 

「和人様と木綿季様が囚われてから数日後に木綿季様は紺野から桐ヶ谷になりました!これがサプライズっと言うのですね!!」

 

俺は気を失いそうになった。

何で今言うんだよ………

木綿季が好きだと自覚していて更に近くにはその木綿季が居る状況で苗字が同じって言われたら想像してしまう。

 

「嬉しくないんですか~?あ、そうか!!木綿季様のウエディングドレスを想像しましたね!?妄想しましたね!?」

 

図星だったので黙ってそっぽを向く。

視界の端でアイが本当に楽しそうにしているのが分かる。

 

「ほら、その木綿季様の姿を見る為にも会わないといけませんよ!!」

 

「……………そうだな」

 

俺は階段を上ってアイの横に並んだ。

アイは尚も嬉しそうにニコニコしている。

木綿季と会うのが楽しみなんだな。

 

「今までありがとな、そんでこれからもよろしくな」

 

「はい!」

 

俺はドア少しずつ開けていった。

ドアの隙間から店内の状況を見て入るタイミングを伺う。

 

チラッ………バタン!!

 

「………どうしたんですか?」

 

「………ジュンって人といきなり目が合った」

 

ビックリした。

ドアからチラッとお店の中を見ただけなのにジュンさん1人だけがチラッに反応したのだ。

まさに第六感と呼ぶべきものだった。

 

「しょうがないですね。私が先に入ります」

 

溜め息をついてやれやれと首を振るアイを見て申し訳ない気持ちになる。

アイは何の躊躇いも無くお店に入っていった。

 

「初めてまして。アイと申します」

 

「スゲー!俺より小さいのに礼儀正しい!」

 

「ジュンも見習ってほしいですね」

 

「やっぱり、初めてアイちゃんと会うと皆驚くわよね」

 

なかなかの盛り上がりようだ。

俺はドアを少しだけ開けてお店の声だけを盗み聞きする。

だが、ちょっと待って欲しい。

盛り上がったら俺は入りにくくなってしまうのでないか?

 

「アイちゃん?キリト君は無理だったかな?」

 

アスナの質問が聞こえた。

アイは何て答えるんだろうか?

 

「言いましたよね?無理矢理にでも連れてくるって」

 

「そんな無理しなくても………」

 

顔は見えないけど絶対にアイは今悪い顔をしているに違いない。

アスナも苦笑いしているのが分かるぐらいに声が変だった。

 

「早く入って来て下さいよ」

 

俺はおずおずとお店の中に入った。

フードをいつもより深く被って少しでも視線を避ける。

 

「ユウキを狙ってる奴!!」

 

ジュンさんが俺を指さして叫んでしまった。

お店の中は一瞬静かになる。

まるで、時が止まったかのようだ。

 

「何でここに居るんだ!さてはストーカーだな!!」

 

「違います!!」

 

ジュンさんが背中の両手剣を抜き俺に向ける。

俺は両手を上げて無罪を主張する。

 

「キリト君はストーカーなんかじゃないよ!!」

 

「そうよ!キリトは私の店に剣を頼みに来ただけなのよ!?」

 

アスナとリズがジュンさんと俺の間に立ってくれた。

スリーピングナイツのメンバーもジュンさんを宥めている。

 

「申し訳ありません。キリト様が顔を隠しているからいけないんです。フードを取ればジュン様の怒りも冷えるでしょう………………………逆に敗北感に襲われると思いますが………」

 

最後の方は俺にしか聞こえないぐらいの声だった。

今のアイは怖いけど、とても頼もしかった。

 

「フードを取れば?」

 

ジュンさんが落ち着きを取り戻した。

それでも、両手剣をおろさずに俺への警戒は解いていない。

 

「はい!」

 

アイは元気に頷くと俺の前に立った。

そして、腰の短剣”リフレクトハート”を抜いて構える。

アイの周りに雪が舞い散ってお店の中が少し寒くなる。

 

「何するつもりだ?」

 

「マントだけを斬り捨てます」

 

「は?」

 

アイは返事と同時にソードスキルを発動させた。

短剣ソードスキルの9連撃”アクセル・レイド”で見事に俺のフード付きのマントだけを斬っていく。

そして驚いた事に斬った場所が凍結していくのだ。

剣身に雪が集まり氷を纏っていて新しいソードスキルのエフェクトだった。

俺は驚きすぎてその場に固まってしまう。

 

「冷たい!」

 

斬撃が止むとマントのほとんどが凍って着ていた俺は氷で冷たいのに身動きが取りづらい氷地獄を受ける事になっていた。

 

「こんの!!」

 

俺は氷をがむしゃらに砕いて氷地獄から出る。

こんな武器が存在するなんて恐ろしい………

 

「フードは自分で取るから………」

 

アイに文句を言うつもりで前を向くとアイは既に横に移動していてお店に居る皆と目が合う。

 

「キリト君はそっちの方がいいよね」

 

アスナが何度も頷いている。

スリーピングナイツとリズは女?女?っと呟いている。

屈辱だ………

 

「女顔の男じゃんか、女と思わせたかったのか」

 

ジュンさんが鼻で笑った。

鼻で笑ったジュンさんを見てアイが鼻で笑う。

アイとジュンさんの間で火花が散っている。

 

「あ、えっと、久し振りだな………」

 

俺はアイVSジュンさんを無視してジュンさんの後ろにいる女の子に声をかけた。

ジュンさんの後ろにいた女の子は長い髪を揺らしながら顔をひょっこりと出してきた。

プルプルと震えていてまるでチワワのようだ。

 

「和人~!!!!」

 

「おぁ!?」

 

女の子、木綿季は弾丸のように俺の胸に飛び込んできた。

俺は木綿季をなんとか受け止めたが飛び込む勢いが強くて後ろに倒れてしまう。

 

「遅すぎるよ!!どれだけ待ったと思ってるの!?女の子を待たせちゃいけないんだよ!?頭は良いのに何で乙女心は分かんないのかな!?」

 

木綿季は俺に抱き付いたまま俺の考えてた事とは別の事を怒っていた。

俺は木綿季を抱き締める事にした。

 

「ごめんな」

 

俺は優しく木綿季の頭を撫でてあげた。

すると、木綿季が上目遣いで俺を見てきた。

(上目遣い+涙目+抱き付き)木綿季=世界で一番可愛い

俺は頭の中でこの式がこの世の全てだと悟った。

 

「………許す」

 

木綿季は泣くのを我慢しながら許してくれた。

それでも、数分間は俺に抱き付いて離れなかったので俺も木綿季を抱き締め続けた。

アスナとリズにスリーピングナイツのメンバーは何が起きたか分かっていないようだ。

1人事情を知っているアイはジュンさんに向かって勝者のポーズとしてピースサインを送っていた。

ただし、アイの顔は悪魔のような微笑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、キリト君はユウキとどんな関係なのかしら?」

 

アスナが俺に”にらむ”をしてきている。

俺は怯んで防御力が下がってしまう。

さらにアスナの横ではジュンさんが”くろいまなざし”で俺を逃げられなくしている。

 

「義理の妹………」

 

俺が正直に答えると隣の木綿季が不思議そうにした。

 

「え?義理の妹?ボク苗字変わってないよ?」

 

「SAOに囚われてから数日後に変わりました。なので、現実世界ではユウキ様はキリト様の妹って事になっています」

 

「自分達でも分かってないんですね………」

 

苗字の事は俺も今日知ったので木綿季が混乱するのも仕方がない。

知的でメガネを掛けているプレイヤーも苦笑いだ。

 

「つまり、義理の兄妹って事?」

 

ジュンさんが何かを期待して尋ねてきた。

恐らく木綿季の事だろう。

 

「そうだけど………」

 

俺は木綿季の腕を軽く引っ張って俺に近づけさせる。

そして、フードがあった時は出来なかった目での威嚇を実行する。

ニャ~!!!!

ましろ直伝の威嚇方法だ。

木綿季の顔は林檎のように赤くなっている。

 

「キリトさんとユウキは付き合ってるんですか?」

 

次に水色の髪をした何処かで見たことのあるお姉さんが尋ねてきた。

お姉さんの目はアイと同種で楽しんでいた。

この質問に自分と同じだと分かったアイが勝手に答えてしまった。

 

()()付き合ってません。早く付き合ってくれたらうれしいですよね。久し振りの再会ですからね、このまま結婚までいってほしいです。義理の兄妹でも結婚は認められていますしね」

 

アイは目を輝かせながら早口でまくし立てた。

それにアイは話の最後にジュンさんを見るのも忘れない。

またもやアイとジュンさんの間で火花が散った。

 

「ユウキにこんなに可愛い男の子がいたなんてな」

 

「お似合いですよね」

 

男気がある女性と知的メガネの男性が興味津々に並んでいる俺達を観察し始めた。

体が大きい男性は後ろで頷いている。

俺と木綿季は恥ずかしくて身を縮めてしまう。

特に俺は数年ぶりに素顔を見せながら話しているので倍緊張する。

 

「キリトとユウキが困ってるわよ。その辺にしときなさい」

 

助け船を出してくれたのはリズだった。

リズのお陰で俺は周りの観察から開放される。

しかし、アイVSジュンさんはまだ続いていた。

 

「そうだ!もうすぐ暗くなっちゃうしこれで解散しない!?」

 

アスナが言ったので俺は窓から外を見てみる。

外は夕暮れ時だった。

俺とアイはもうそろそろ帰らないといけない時間帯だ。

でも、アイはジュンさんと視線で戦ってるし俺はもう少し木綿季と一緒にいたいし………

木綿季は明日攻略かな?

 

「そうだ!ユウキは明日攻略休みにしましょう!ギルドのリーダーで疲れてるでしょうしね!!」

 

お姉さんが突然ポンっと手を打って提案してきた。

そして、お姉さんはチラリとアイの方を見てアイコンタクトをしようとする。

アイはお姉さんの視線に気づいてジュンさんとの勝負を止めお姉さんに便乗した。

 

「そうだ!キリト様も疲れてますよね?今日はドラゴンに乗ったりして疲れましたよね?無理をしたらいけませんよ!!なので明日はお休みにしましょう!!」

 

お姉さんとアイは初めて会った筈なのにお互いの考えている事をほとんど理解していた。

 

「「あれ?2人ともお休みですね?」」

 

完璧に被ったお姉さんとアイは今日一番の楽しそうな目をしていた。

ジュンさんはギロリとお姉さんを睨んでそして、何故かアスナがアイの事を睨んだけど気にしない。

 

「せっかくの再会ですしね!2人で何処か出掛けてはどうですか?」

 

「そうですね、和人様と木綿季様の2人っきりでお出掛けですね」

 

以心伝心とはこの事。

打ち合わせをしてたんじゃないかと疑う程の息が合っている。

しかし、俺にとっては凄く良い提案ではあるけど木綿季はどうなのか気になってしまう。

ここは男として誘うべきだよな!!

 

「お互いに話したい事もあるだろうし………どうかな?」

 

俺は隣の木綿季を人生初のデートに誘ってみる。

小さい頃は2人でお出掛けは珍しくなかったけどこの年になると恥ずかしくて仕方がない。

 

「ふ、不束者ですがよろしくお願いします!!」

 

木綿季はカクカクとぎこちなく深々と礼をしてきた。

木綿季の変な返事で俺はまた、純白のウエディングドレスを着ている木綿季を想像してしまった。

何はともあれ俺と木綿季は明日デートする事になった。

 




やっと再会出来ました!
なので、次回はキリト君とユウキちゃんのデートのお話です!

   
   緊急報告

アイが作られた時の和人君の年齢を変更します。
勝手をお許し下さい!!
話全体に影響はほとんど無いので気にしないって事もOKです!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話 楽しいデート~フローリア~

この前、怪しい女性二人組が家に来て、神は信じますか?っと変な事を言ってきました。
何かの宗教の人だと分かり自分は、居たら嬉しいですっと曖昧に答えました。
すると、今度は、生命は何から創られたと思いますか?っと聞かれてました。
しつこい二人組にイライラしてた自分は反撃の為にこう言いました。



『アミノ酸です』


   第47層”フローリア”

 

「ねぇ、一緒にパーティー組まない?」

 

二人っきりでデートをする事になり待ち合わせの転移門前に着くとすぐにナンパにあってしまった。

しかも、結構しつこいタイプのナンパ。

 

「いえ、待ち合わせ中なので………」

 

「レベルなら負けないからさ!!」

 

ナンパ犯はこれから狩りに行くと思ってるようだけど残念ながら行くのはデート、レベルは関係ない。

それにレベルで人を選んだら駄目だと思う。

そんな事を考えているとナンパ犯は更に強いアプローチを開始してきた。

 

「そんな顔しないでよ!良い顔が台無しだよ?」

 

ナンパ犯はぐいっと顔を近づけてきたのだ。

この人は自分の容姿に自信があるのかな?

しかし、急に近づいてきたらこちらはテンパってしまう。

 

「ち、近いです………」

 

「恥ずかしがっちゃってね~」

 

ナンパ犯は何が面白いのか薄ら笑う。

その顔を見て寒気がしてしまう。

こうなったらこのナンパ犯から無理矢理にでも逃げなくてはならない。

………………深呼吸をしてからナンパ犯と数歩距離をとる。

 

「俺はあんたより年下であんたより可愛い子と待ち合わせしてるの!!」

 

何で俺が逆ナンされてんだよ………現実だとただの引きこもりのニートだぞ?

そうだ、妹のスグからは頭が良いって言われてるから探偵でもしようかな?

ニートの探偵………カッコいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   1時間前の第4層”ロービア”

 

「このコート、どこでドロップしたんだ?」

 

「何層か前のボスに影化できる狼のモンスターがいたじゃないですか。そのモンスターのLAですよ」

 

記憶を辿っていくと確かに何層か前のボスに影になれる狼を思い出す。

HPゲージを一段消していくごとにスピードが増していくし、影化してしまうと攻撃も当たらないとめんどくさい相手だった。

最後は攻略組全員での攻撃だったので誰がLAか分からなかったけど、それがアイだったのか。

 

「フードは無いの?」

 

「ありません」

 

俺はガックリと肩を落としてから自分の全身を見わたす。

コートの名前は”コートオブミッドナイト”名前のイメージ道理に黒い。

ズボンも黒、コートの下のシャツも黒、コートの右胸の所にコートが落ちないようにと銀色の止め金があるけど逆にそれが全身の黒を引き立てている。

 

「黒の剣士にピッタリですね」

 

アイが俺を見ながら満足そうに頷く。

達成感に満ちている顔をしている。

 

「性能もそこそこ良いし、隠蔽にかなりのボーナスがあるのは嬉しいな」

 

このコートを着ながら隠蔽スキルを使ったらきっとハイディング率は90後半を常に保ってくれそうだ。

出来るだけ人と関わりたくない俺にとって最高の性能だ。

 

「これで視線を気にせずに木綿季との待ち合わせ場所に行ける」

 

「隠れたままだと木綿季様に気づいてもらえませんよ?」

 

このコートの難点はそこだ。

フード付きマントとは違いほぼ完全に姿を隠せる代わりに隠せすぎて待ち合わせの時に誰にも気づいてもらえない。

自分から話しかければ良いのだがコミュ障の俺が話しかけるのは少々辛い。

それにフードが無いので顔が隠せないから隠蔽スキルを解除すると素顔がまる見えになってしまう。

 

「隠蔽スキル無しでも影を薄くすれば大丈夫!」

 

俺は小さくガッツポーズをして宣言した。

スキルなんて必要としないくらいの影の薄さを手に入れてやる!!

俺の師匠は幻のシックスマン!!

 

「無理ですよ。逆ナンされるのが分かります」

 

「それはないだろ。ナンパってのはカッコいい人やかわいい子がされるもんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   現在の第47層”フローリア”

 

「誰とか関係ないの。私は君とパーティーを組みたいのよ」

 

俺が拒否を続けてたからかナンパ女は腕を組んで胸を主張させてきた。

だが、俺は鼻の下を伸ばすどころかこのナンパ女を可哀想な目でしか見れなくなってしまった。

良くて中の上ぐらいの容姿なのに自分の顔に絶対の自信がある。

このような人は傷つきやすいのが常識だ。

何か少し傷つく事言って逃げてしまえ。

 

「あんまり美人でも可愛くもないのによくナンパなんて出来ますね!俺には出来ない芸当です!」

 

俺はアイと共に日々練習してきた全力営業スマイルで少し毒を吐いてやった。

そして、即座に隠蔽スキルを発動して姿を消す。

こうなったら木綿季が来るまで隠れていた方が良さそうだな。

まさか、アイの言う通りにナンパされるとは思わなかったし、アイの忠告は無視しないようにしよう。

俺は固まっているナンパ女の横をすり抜けて近くのベンチに座って上を見上げた。

青い空からうっすらと第48層の底が見える。

 

「あの人帰らないのか?」

 

ナンパ女はまだ固まってた。

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ、ピピピピッ、

 

「うぇ?」

 

10時となって木綿季との待ち合わせ時間になった。

俺は早く来すぎたのでベンチに横になって眠ってしまったようだ。

待ち合わせ時間をタイマーでセットしておいて正解だったな。

俺はとりあえず起き上がって木綿季を捜そうと辺りを見渡す。

しかし、木綿季の姿は見つからない。

 

「遅刻?」

 

俺は立ち上がって伸びをする。

それからもう一度辺りを見渡す。

そこで、ガリガリとデブの2人組が転移門の奥でナンパチャレンジをしているのが目に入った。

いつの間にか居なくなっているナンパ女よりナンパ成功確率が低いと思う。

俺は失敗すると勝手に決め付けて心の中で御愁傷様と手を合わせておいた。

 

「いや、ボク今からデートなんだ」

 

ガリデブコンビにナンパされている女の子が引きぎみにナンパに抵抗する声が聞こえた。

俺はまさかと思い横に移動してナンパされている女の子の顔を確かめる。

そして、顔を確認した瞬間に俺は走り出した。

 

「こんにゃろ!!」

 

隠蔽スキルは攻撃時も適応されているので俺の回し蹴りは見えない攻撃状態となり回避不可能と言っても良い。

 

「うべぇ!!」

 

「のぶ!!」

 

蹴られたガリデブコンビはそれぞれ変なうめき声を発して飛んでいった。

だけど、俺はナンパされていた女の子の方が大切だ。

 

「木綿季ってやっぱりモテるんだな」

 

「ボ、ボクは別に………」

 

ナンパされていた木綿季はモジモジしながら顔をうつむいてしまった。

何かぶつぶつ言ってるけど声が小さくて聞こえない。

 

「何するんだよ!ユウキちゃんとパーティー組むのは僕達だぞ!邪魔しないでくれないか!?」

 

「そうだぞ!マナーってもんが分からないのか!?」

 

木綿季に何言ってるのか聞こうとした時にガリデブコンビがダッシュで戻ってきた。

当然だけどお怒りになっている。

でも、俺の方がもっと怒っている。

 

「こいつは今日俺の貸し切りなんだ、勝手に手を出されちゃ困るんだよ」

 

俺は木綿季を抱き寄せてからガリデブを睨んでやる。

自分でも恥ずかしい事を言ってるのは十分理解してるけど気にしない。

 

「なんだよ!お前ユウキちゃんとどんな関係なんだよ!?」

 

デブの方が木綿季を俺から剥がそうと手を出してくるが振り払う。

ガリの方も警戒心剥き出しで俺を睨んでいるので俺はとどめを刺す。

 

「家族なんだよ」

 

「か、かず……ムグッ!?」

 

木綿季を更に抱き寄せてから自慢するようにしてガリデブコンビを見下してやる。

驚いた木綿季が現実での名前を呼びそうなったので木綿季の口を手で抑えるのも忘れない。

これでガリデブコンビは俺達が結婚システムで結婚していると誤解して今後一切木綿季に近づかないだろう。

 

「それじゃあ、俺達はこれで」

 

戦意喪失したガリデブコンビをほっとき俺は木綿季の手を握ってその場を跡にする。

今日は2回もナンパを撃退してしまった。

それにしても………………

少し歩いた所で俺はその場にしゃがみこみ両手で顔を覆う。

 

「あ~!!」

 

「どうしたの和人!?」

 

今まで黙っていた木綿季も流石に声を掛けるしかないようだ。

 

「恥ずかしい………」

 

今更だけどガリデブコンビに言った言葉と取った行動は俺のトラウマになること間違いなしだ。

木綿季がナンパされてたとはいえあそこまで大胆になれるとは思わなかった。

木綿季も呆れてるから声を掛けないんだろうな。

 

「ボクは嬉しかったよ」

 

驚いて振り返ると木綿季が手を差し伸べていた。

 

「本当に?」

 

「うん!ほら、早く行こうよ!沢山話したい事があるんだから恥ずかしがっている時間はないよ!!」

 

木綿季は俺の左手を握って俺を引っ張って走り出した。

こうして手を繋いで走っていると小さい時によく遊んだ事を思い出す。

 

「俺も話したい事が沢山あるんだ!!」

 

俺は木綿季の隣に並んで同じスピードで走った。

何処を目指すのではなくただ今は一緒に笑って走りたかった。

それは多分木綿季も同じ気持ちだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウキさん!?」

 

程なくして木綿季を呼ぶ女の子の声を聞こえたので俺と木綿季は走るのを止めて声の主を捜した。

すると、何処かで見たことのあるツインテールの女の子がスイーツ店の前に立っていた。

女の子の頭には水色の小竜が乗っているので珍しいビーストテイマーだと分かる。

だけど、ビーストテイマー少女が何故目を見開いて持っていたクレープ的な食べ物を手から落としたのかは分からない。

 

「シリカちゃん!!」

 

木綿季が元気よく空いている左手を振っているので木綿季の友達だろうか?

シリカと呼ばれた女の子は木綿季を見てから俺の方を見て最後に俺と木綿季の間にある繋がれた手を見た。

 

「お彼氏さんでありましょうか!?」

 

動揺を隠せてないシリカさんは変な口調で尋ねてきた。

 

「ち、違いまする………」

 

俺はシリカさんの変な口調が伝染して変な返事をしてしまった。

でも、()()彼氏じゃないのは本当だし嘘は言ってないので良しとする。

いい加減に会話に慣れないといけないと改めて実感した。

 

「………………彼氏じゃないんだ………」

 

横の木綿季が小さく何かを呟いている。

彼氏じゃないんだっと言い拗ねている気がするが多分気のせいだろう。

 

「ジュンさんは?」

 

「いないよ、今日はボクとこのキリトの2人でお出掛けなんだ!」

 

ジュンさんの事が出てきてムッとしてしまうが同時にシリカさんを何処で見たかを思い出した。

 

「ロザリアを捕らえた時の女の子か」

 

「え?何でそれを……………もしかしてフードの人ですか!?」

 

手を口に当ててビックリしている。

シリカさんも思い出したようだ。

確かにいきなり現れた謎のフードの人の素顔がこんなんだったら驚くのは当たり前だよな。

 

「中性的なイケメンさんですね!!お似合いですよ!!」

 

シリカさんは最大限の気づかいをしてくれた。

だが、中性的って事は俺を女顔と言ってる様なものだ。

無意識に少しずつ相手の心を攻撃してくるタイプだな。

 

「お邪魔になるといけないので私は失礼します!!」

 

シリカさんは凄い速さで走り去って行った。

その際シリカさんの顔は若干朱に染まっていたが何故なんだろうか?

俺は数秒間悩んだけど分からなかった。

別に大したことでも無さそうだしいいか。

 

「和人って凄いね」

 

「何で?」

 

すると、木綿季は手を繋いでいる右手を俺に見せた。

俺の左手と木綿季の右手はしっかりと繋がっている。

 

「シリカちゃんと話をしてる時も一度も離さなかったよね?」

 

「あっ」

 

木綿季は嬉しそうに笑っていた。

シリカさんは俺が木綿季の手を離さないのを見て顔を赤くしたのか。

気づいた時には手遅れで俺の顔もどんどん赤くなってしまう。

俺は慌てて木綿季の手を離そうとするが木綿季が更に手を握るの力を強めたので離せなかった。

 

「ボクのオススメの料理店があるんだ!そこに向かいながら歩こ!」

 

「……………そうだな」

 

俺と木綿季は花が咲き乱れるメインストリートを今度は歩いていった。

料理を食べる時は流石に手を離さないといけないので俺は出来るだけゆっくりと歩く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!!」

 

俺は出てきた料理を見て歓声をあげた。

出てきた料理の全てに花が使われていたのだ。

流石、花の街。

 

「見て楽しむのも良いけど食べて楽しむのも良いでしょ!」

 

木綿季も楽しそうだ。

様子からして木綿季はこの店に何度か来てるように見える。

現実に帰れた時は俺も花を使った料理に挑戦してみよう。

 

「エディブルフラワーなんてそこら辺に売ってるのか?いや、パンジーなら自分でも育てられるな………」

 

「エディブルフラワー?何それ?」

 

頭で考えてた事が口から漏れていたようだ。

木綿季が不思議そうに首を傾げている。

知識欲の木綿季は気になる事があったら納得するまで質問攻めにされるので教えてあげよう。

 

「EdibleFlower、食べられる花って意味だ。現実に帰った時にこのお店の料理を再現してみよう思ってね」

 

「なら、味見役はボクにしてよね!だから、ボクの病気が治るまで待っててよね!」

 

木綿季は持っていたフォークを俺に突き立ててきた。

怒ってるつもりらしいがただの可愛く拗ねてる様にしか見えない。

俺は木綿季の頭に手を乗っけて撫でてやった。

 

「俺は待たせ過ぎちゃったからな」

 

木綿季は目をギュっと瞑った。

アイもそうだったけど女の子は頭を撫でられるのが好きらしい。

アイは猫で木綿季は子犬のようだ。

 

「しっかり食べて味を覚えないとね!」

 

木綿季が最初にサラダを食べ始めたので俺も同じのを食べてみる。

青くて星の形をした花は不思議とキュウリに似た味がした。

次に赤い色をして金魚の尾ひれのような形をした花を食べてみた。

最初に食べた花より柔らかくて味も香りも淡白だ。

成る程、これは味の再現に苦労しそうだな。

 

「ふふっ」

 

俺が悩んでる姿を見て木綿季は面白そうに笑っていた。

 

 




料理好きな自分にとって花の料理は一度してみたいです。

次回もデート回なのでお楽しみに!!

では久し振りに………評価と感想をお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話 楽しいデート~ロービア~

縄跳びをしただけで筋肉痛になった自分って…………


  第4層”ロービア”

 

「やっぱり綺麗だね!!」

 

木綿季は転移門の広場でくるくる回って辺りを見渡している。

このデートはお互いがホームとしている層を案内しあうものだ。

なので、正午過ぎまでは木綿季がフローリアの色々な所を案内してくれてとても楽しかった。

しかし、次は俺がロービアで木綿季をエスコートしなくてはならない。

……………出来るのか?

 

「あ~、船着き場に行くぞ」

 

「和人の船ってどんなのかな?」

 

「デザインには期待するなよ………」

 

木綿季の期待に満ちた眼差しに少し罪悪感が湧く。

このロービアに最初に来たときにロモロじいちゃんに作ってもらった船。

造るなら良いものを造りたいっとアイの要望で火を吐く角が生えた熊と闘ったりして最高級の船が出来上がったのだ。

しかし、俺とアイは建物の上を跳んで移動しているので船に乗るのは街の外に行くときだけで船の出番はほとんど無いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………白いね」

 

「言っただろ?デザインには期待するなってな」

 

木綿季は結構楽しみにしてたのか普通に白いだけの船を見て少しがっかりしている。

アスナにも、純白だけじゃ芸がないっとこの船を造ったときに言われたのを思い出す。

でも、この白い色にはちゃんと意味があるのだ。

木綿季も名前を聞けば分かるだろう。

 

「ほら、名前見てみろよ」

 

俺は舷側に流麗な英語で記された名前に視線を向ける。

木綿季も俺の視線を追ってこの船の名前を見た。

すると、木綿季は船に駆け寄り船全体の造りを確かめた。

 

”White Cat”

 

白い猫、それがこの船の名前。

その名の通り、船は全身白く船首にはまっしろな猫が凛々しく前方を見据えている。

単に眠いのを我慢してるようにも見えるけど。

 

「ましろ」

 

木綿季が船を撫でながら何か懐かしむように小さく言った。

勿論、木綿季が言ったようにこの船のモデルは我が家の愛猫ましろだ。

 

「ましろは元気にしてるかな?」

 

「寝るのが好きだからな。多分俺のベットで寝てるぞ」

 

心配そうに尋ねてきた木綿季を安心させるために俺は優しく答えた。

そもそも、ましろは木綿季が病院の庭で拾った猫。

家に連れて帰る前に木綿季が倒れてしまったけど本来の飼い主は木綿季なのだ。

 

「変わってないんだね」

 

木綿季がクスクスっと笑った。

俺の部屋に木綿季とましろのツーショット写真があるけどその時もましろは寝ていたな。

 

「木綿季の膝の上でも寝てたしな」

 

「ボクの膝の上?」

 

木綿季は自分の膝、正確には自分の太ももを見下ろした。

そして、数秒後に木綿季の肩が震え始めた。

 

「写真ってボクとましろの?」

 

「そ、そうだけど………」

 

今にも消えそうな声の木綿季に何故か威圧されてしまう。

俺は変な事を言ってしまったのかと思い会話を思い返す。

しかし、おかしな事を言った覚えは無い。

 

「ボクの顔見たって事だよね?」

 

「そりゃ、俺の部屋に飾ってあるし………」

 

俺の部屋にある唯一の置物で俺が一番大事にしている物だ。

母さんに写真を渡されて早急に飾った物。

猫のましろもあの写真を見ている時があるのは気のせいでは無いはずだと俺は思っている。

 

「ボ、ボク変じゃなかった!?」

 

木綿季が顔を手で押さえて叫んできた。

手の力をもっと強くするとアッチャンブリケが出来そうだ。

 

「変って………それどころか凄く可愛かったぞ」

 

ここは素直に感想を述べておく。

木綿季の恥ずかしながら聞いてくる行動も十分可愛いが、俺はこの後の行動を見る為だ。

 

「か、可愛い!?」

 

期待通りに木綿季はうつ向きながら自分の顔をペチペチさせた。

これは木綿季の癖で可愛いとか褒められたりするとペチペチさせ始める。

自分に自信が持てないのが理由なんだと思う。

木綿季は誰が見ても可愛いんだから自分の容姿を自覚するべきだ。

すると、木綿季は予想外の反撃をしてきた。

 

「嘘じゃない?」

 

両手を頬に当て赤らめた顔を上目ずかいで覗かせた。

それに木綿季の口は嬉しそうにつり上がっている。

 

「嘘じゃないよ」

 

俺は赤くなってしまったであろう顔を隠す為にそっぽを向いてから船を出す為に係留柱からロープを解こうとした。

あの反撃はズルい。

完全に不意を突かれてしまった。

その時、少しの好奇心によってあることをしてみたくなった。

俺は船に乗り込んでから木綿季に手を伸ばす。

 

「お気をつけ下さい、お姫さ……………キャラじゃないな」

 

言っている最中に頭が冷えて恥ずかしくなり途中で諦めた。

木綿季もキャラじゃない俺の行動を見て固まってしまっている。

好奇心って怖いな………

 

「クソっ!」

 

「おわぁ!!」

 

沈黙が恥ずかったので俺は強引に木綿季の腕を握って引っ張ることにした。

俺は飛んできた木綿季を抱き止めて船の席に座らせ、今度こそ係留柱からロープを解く。

 

「ホワイトキャット号、発進!!」

 

俺は船尾に装着された先が猫の櫂を操り二人乗り用の小さなゴンドラを漕いだ。

 

「恥ずかしいからって無かった事にするのは良くないよ!?」

 

木綿季の言葉は俺には聞こえない。

俺は船頭だ、ゴンドリエーレだ、決して王子様がしそうな行動はしていない。

絶対にだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この食べ物の名前ってなにかな?……ほいっ」

 

サクッと良い音をたてながら木綿季がクリーム色をしたお菓子を持っている袋から取りだして食べている。

ついでに袋のお菓子をゴンドラを漕いでいる俺に優しく投げる。

俺のデートプランはゴンドラで街の風景を見ながら美味しい物を食べてまわるっというもの。

木綿季が持っている袋の中のお菓子は美味しい物第1号なのだ。

 

「街がイタリアをモデルにしてるならアマレッティじゃないか?」

 

俺は右手で櫂を操りゴンドラを漕ぎながら左手で木綿季が投げたお菓子を受け止める。

食べると木綿季と同じでサクッと良い音が鳴る。

 

「へぇー、………アマレッティって何?」

 

うっかり俺はアイとの会話と同じ感覚で喋ってしまった。

幸い、木綿季はアマレッティがどんなお菓子か気になってるのか、目がキラキラしているので気分は害してないようだ。

 

「マカロンの原型って言われてるイタリアの焼き菓子」

 

俺は簡潔に教えてあげた。

俺が何故アマレッティを知っている理由は簡単で家で作ったことがあるからだ。

材料も珍しい物を使う訳でもないのでスグのおやつに作ってあげた。

軽い食感でダイエット中のスグの為に甘さも控えめにして良く出来たと思う。

 

「これマカロンの原型なんだ」

 

木綿季がアマレッティ?をまじまじと見つめる。

本当にこれがマカロンの原型なのか疑っているようだ。

気持ちは分かる。

俺も最初アマレッティを見たとき、小さなパンじゃんって思いこれが艶々したあのマカロンの原型とはちょっと信じられなかった。

サロンノ風のアマレッティはマカロンに似てなくもないけれど………

 

「見た目で判断するなってことだな」

 

「ボクはこのお菓子にそんな意味は無いと思うよ………」

 

木綿季は苦笑いで顔の前で右手を振っている。

 

「分からないぞ?その袋の中でアマレッティが、凄いだろ!って胸を張ってるかもよ?」

 

まぁ、自慢してても最終的には食われてしまうのだけどな。

俺はアマレッティが木綿季と俺に食われていく姿を想像したがすぐに止めた。

小さい者が大きい者に食われるのは進撃中の巨人さんがいる世界だけで十分だ。

それに木綿季に食べられるのはご褒美かもしれないけど俺に食われるのは地獄だろうし。

 

「次は何食べたい?」

 

「ピザ!!」

 

木綿季の元気な声で俺は美味しいピザを売っている店がある場所に向けて進路をとった。

俺と木綿季は完全に花より団子状態に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!キラキラしてる!!」

 

夜になって俺は木綿季を家の屋根に案内した。

木綿季は雲1つ無い夜空を見上げて歓声を上げている。

しかし、残念ながら夜空にあるのは星ではない。

星の代わりに第5層の底が光輝いている。

今度あの光は何かを調べる為に迷宮区の外装を登ろうと思っているところだ。

 

「今日は本当に楽しかったよ!久しぶりに和人とお出掛けできたしね!」

 

木綿季の顔は心から楽しそうで嬉しそうだ。

俺も久しぶりに木綿季と一緒にいれて嬉しい。

でも、俺は木綿季に言う事がある。

もしかしたら嫌われるかもしれないけど俺は言わないといけない。

 

「木綿季、この世界の事なんだけど………」

 

「和人がもう1人の天才だって事?」

 

木綿季は最初から俺が何を言おうとしたのかを分かっていた様子で答えた。

じゃなくて、分かっていた。

俺は何で木綿季がその事を知ってるのか分からず首を捻る。

 

「あれ?違った?」

 

「な、何で知ってるの?」

 

俺が尋ねると木綿季はすぐに答えてくれた。

 

「スグちゃんが教えてくれた」

 

俺は屋根から滑り落ちそうになってしまった。

スグは何て幸運なんだろう。

 

「バーチャルホスピスにいたんじゃないのか?」

 

SAOが開始する前、木綿季はバーチャルホスピスという木綿季のように難病と闘ってる人が集まる仮想世界の施設にずっといた。

メデュキュボイドの臨床試験で木綿季は24時間ぶっ続けで仮想世界にログインしてるので、そこしか木綿季の居場所が無かったのだ。

病院に木綿季専用の仮想世界があるけどそこには木綿季の心拍数や血圧など様々なデータが表示されている。

倉橋先生によるとそのデータを見るのが嫌で木綿季が専用仮想世界に来るのはほとんど無いと言う。

俺が木綿季と会えなかったのは木綿季が外の仮想世界にずっといるのが理由だ。

 

「言うなれば気まぐれかな?スグちゃんが凄く自慢してたよ。和人が忙しいからスグちゃんはボクに会ったことを言わなかったんだろうね」

 

「俺に怒ったりしていのか?HIVが治るかもしれないのに、俺は木綿季をこんなデスゲームに巻き込んじゃったんだぞ?」

 

俺はこれまで一番気になってた質問をした。

事情を知っているアイとアルゴからは、そんなわけないっと口を揃えて言われたけれど、やはり自分の口で尋ねて自分の耳で聞いた方がいい。

 

「もしかして、それを気にしてボクに会わなかったの?」

 

「そうだけど………」

 

俺は突き刺さるような木綿季の視線で言葉を濁してしまう。

実際は約1万もの人を死の危険にさらし、現に死んでしまった人達への罪悪感もある。

 

「ボクはそんな事で怒らないよ!逆に会ってくれなかった事に怒ってたんだからね!」

 

木綿季が頬を膨らまして怒っている。

………違う、怒ってるんじゃなくて拗ねているのだ。

俺は最後の確認で小さな声で木綿季に言った。

 

「………本当に?」

 

「和人、ボクを信用してないの?」

 

木綿季にジト目で見られて俺はまた言葉を濁してしまった。

 

「そ、そうじゃないけど………」

 

現実世界から人を避けて生活してた俺は人を避けようとする為に人を見るようになった。

すると、無意識に人の心の裏を見ようとしてしまうようになってしまった。

人を簡単に信用しようとしないのだ。

自分が情けない。

 

「これでも信用できない?」

 

「は?……………ッ!?」

 

隣に座っていた木綿季が身を乗り出して俺の胸ぐらを引っ張る。

いきなり木綿季に引っ張られて俺は何が起きたか分からなかった。

分かるのは、仄かに頬を朱に染めて瞳を閉じた木綿季の顔が驚く程俺の目の前にあることだ。

数秒間その状態が続き木綿季がそっと顔を放した。

俺は最後まで何が何だか分からなかったが木綿季が人差し指で自分の唇を当てるのを見て分かった。

 

「あ、え?今、木綿季の顔が………凄く近くにあって……俺の唇を………」

 

自分の顔が赤くなるのが分かり体も熱くなっていく。

それに、何が起きたか分かっても上手く言葉が出ない。

木綿季が俺に………キスするなんて………

 

「今日だけじゃない………」

 

「へ?」

 

流石に恥ずかしかったのか俺に背中を向けていた木綿季が呟いた。

何かと葛藤しているようでもある。

 

「今日だけじゃない!この先ずっとボクは和人の貸し切り!それでも信用できない!?」

 

勢い良く振り向いて宣言した木綿季を見て俺は呆気に取られてしまった。

頭の中が混乱している。

現状に着いていけてない。

木綿季が言ったことはつまり………

 

「告白?」

 

俺の問いに木綿季は小さく頷いた。

 

「………嫌だった?」

 

正面を向いて横目で俺をチラ見しながら聞いてきた。

その声には明らかに不安が滲んでいる。

そんな木綿季を俺は堪らず抱き締めた。

木綿季は体をビクッと震えさせたけれど抵抗はしなかった。

 

「俺は木綿季を信じる。何があっても俺は木綿季を信じるよ………」

 

俺は一呼吸の間を作ってから言葉を口に出す。

 

「大好きだ………木綿季………」

 

やっと言えた自分の本心。

やっと伝えられた自分の気持ち。

俺の本心を聞いた木綿季は俺の背中に手をまわしてくれた。

 

「ボクも好き………和人が大好き!!だから………」

 

そして、木綿季は俺と同じように一呼吸置いた。

 

「ボクをもう独りにしないでよ……………」

 

そう言うと木綿季がシクシクと泣き出してしまい今にも大声で叫びそうになっていた。

俺は泣き叫ばれると人が集まって二人っきりを邪魔されてしまうかもしれないと思い木綿季の形の良い唇を塞いでやった。

自分の唇で。

 

「約束だ、俺はもう木綿季の前から消えたりしない」

 

先ほどよりは短いキスだったけど木綿季が泣き止むには十分だった。

木綿季は自分の涙を拭いてからにこやかに笑った。

 

「絶対だよ!!」

 

この後、俺と木綿季はお互いの事を話しあった。

俺はアイがAIである事や自分がSAOのカーディナルシステムを作ってしまい多くの人が死んでしまって悔やんでいることなどを話した。

木綿季はスリーピングナイツのメンバーが難病である事などを話してくれた。

お互いの悩み聞いて少しでも支えになれるようにだ。

アルゴ………アオイさんも言っていた1人でも自分の事を知っている人がいるだけで楽になると。

 

「絶対に生き残るよ」

 

「当たり前だ」

 

俺と木綿季は再度唇を重ねた。

1、2回目とは違う誓いのキス。

キスをしている間、俺はこの世界にいるのは俺と木綿季だけだと感じた。




つーいにくっついた~!!
長かった~!!
やった~!!

次回からはオリジナルストーリー!!
この作品のSAO編でもメインのストーリーです!!
お楽しみに!!

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話 謎のクエスト

ご注文はうさぎですか?の二期の制作が決まり、
心がピョンピョンでランランです!!


『深縹の舞姫ちゃんの王子様、黒の剣士へ。

面白いクエストを見つけたんで明日の昼間に第61層”セルムブルグ”に来てくれよな。

ユーちゃんとキー坊のお姉さん役の鼠のアルゴより』

 

何ともふざけたメッセージが届き俺はベットで胡座を組んで呆れていた。

ここは第4層”ロービア”のとある家。

家と言っても借りてる家なので月に家賃を払わなければならない。

それなりに稼いでるしアイもいるので心配は無用だけど。

 

「どうしたんですか?」

 

奥の風呂場から全身ホカホカのアイがタオルを首にかけて出てきた。

水滴がまだ銀色の髪に残っていて普段よりかなり色っぽく見える。

アイが着ているピンク色のチェック柄パジャマはアスナの手作りだ。

色っぽいけど、パジャマはなんか子供っぽい。

 

「アルゴが明日第61層のセルムブルグに来てくれってさ。なんか面白いクエストを見つけたとか………」

 

「あの騒ぎの後なのにですか?」

 

俺は溜め息を吐いてベットに仰向けに寝っ転がった。

あの騒ぎ、それは数日前の出来事である。

木綿季とデートをした次の日に木綿季が、スリーピングナイツのメンバーを紹介したいっと言うので第47層”フローリア”に来ていた。

すると、転移門から出てきてまず俺の目に映ったのは多くのプレイヤーが慌ただしく駆け回っているところだった。

俺は隠蔽スキルを使い、走り回るプレイヤー集団の話を盗み聞きしてみた。

話によるとプレイヤー集団が走り回っていた理由は木綿季に彼氏がいるかどうかの真偽を確かめる為に木綿季を捜していたのだ。

つまり、何故か俺と木綿季の関係がほとんどバレていたのだ。

俺は咄嗟に安全な建物の屋根に登り木綿季にこの後どうするか尋ねる為にメッセージを送った。

結果、当分は距離を置くことなってしまった。

まぁ、別に全く会わない訳でもないし毎日必ずメッセージのやり取りもしているので寂しくはない。

………………少しは寂しいけどね。

 

「木綿季の彼氏が俺だって事は分かってない筈だし、隠蔽スキルを使うから問題なし」

 

「今までのフードが役に立ちましたね」

 

俺の素顔はほとんど知られていないのであのフード男の中身が木綿季の彼氏だとは誰も思わないだろう。

しかも全然男らしくないこんな顔。

 

「それよりも、今はアルゴのクエストの方が心配だよ」

 

自分で考えてたのに何故か悲しくなったので俺は無理矢理に話を本題に戻した。

しかし、逆に憂鬱になってしまう。

アルゴにとっての面白いは俺にとっての辛いでしかないのは分かっている。

今回も、新しい鬼畜クエストを見つけたからクエストクリアヨロシク~☆って事だろう。

 

「悪いな」

 

「私はいつも通り和人様に付いていくだけですよ」

 

俺はアイの可愛らしい笑顔を見た後ベットから降りて風呂場に足を進めた。

すると、アイに冷たい視線を向けられた。

さっきの笑顔は綺麗に消えている。

 

「女の子が入った後の風呂に入るとは………変態ですね」

 

「一番風呂が良いって言ったのはアイだろ!?」

 

悔しいが風呂の途中に少し意識してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第61層”セルムブルグ”

 

「で、そのクエストってなんだ?どうせ鬼畜クエストだろ?」

 

セルムブルグは層全体が海の様になっているので街が島になっている。

俺とアイはアルゴとの待ち合わせ場所としてその海が良く眺められる海岸沿いの隠し絶景スポットにいる。

この隠しスポットは全くと言っていい程にプレイヤーが来ないので情報屋のアルゴとの密談には最適の場所。

それに、プレイヤーが来ないから俺のお気に入りの場所でもある。

 

「それが今回は少し違うんだヨ。これを見てくレ」

 

チッチッチっと人差し指を左右に振って楽しそうにしているアルゴはメニューから一枚の紙を出して俺達に見せた。

少し古びた羊皮紙には達筆にこう書かれていた。

 

『勇気ある者達よ、我に力を貸してほしい。我はイルオルコスで待っている。

 

                       イアーソーン』

 

俺とアイは思わずお互いを見つめあってしまった。

そして、アイが何回か瞬きをした後に俺は視線をアイからアルゴに移動させた。

何これ?っと訴えた俺の視線を理解してくれたアルゴは溜め息を少し吐いてから答えた。

 

「情報はその紙だケ。イルオルコスなんて街は無いからイルオルコスってのは一時的(インスタンス)マップってのは分かるシ、その羊皮紙にクエストを受けるメンバーを書けばクエストが受理されるのもクエスト説明に書いてあっタ。だけど、分かるのはそれだけなんだナ。これがどんなクエストかも分からなイ、難易度も分からなイ、未知のクエストなのサ」

 

「それで私達になんのクエストか調べて欲しいと?」

 

アルゴの説明を素早く理解したアイがアルゴに尋ねる。

両腕を使って大きな丸を作ってアイの質問に返事をするアルゴ。

 

「勿論、何が起きるか分からないからそれなりのお礼はするゾ」

 

「……………どうします?」

 

アイが少しの間考えてから俺に尋ねてきた。

宣言通り俺に付いていくらしい。

嬉しい限りだ。

 

「これ、結構大きなクエストだぞ」

 

「このクエストを知ってるのカ?」

 

俺の唐突な答えにアルゴが不満そうにしている。

知ってるなら何でクエストの情報を渡さなかったんだ!っと怒っている感じだ。

しかし、残念ながら俺はこのクエストを受けた事なんて無い。

 

「これ多分ギリシャ神話を題材にしてるんだ。船でコルキスって所まで行ってコルキスの森にある金羊毛って言う秘宝を手に入れる話。知らない?」

 

俺はアルゴに軽く説明すると何故かアルゴは目を大きく開いて驚いていた。

しかも隣のアイまでもが驚いている。

二人とも不思議な生物を見つけたような顔をしている。

 

「何で分かるんですか?」

 

「何でって………イアーソーンが出てくるなら金羊毛の話しかないだろ?」

 

「流石天才だナ」

 

アイが尋ねてきたので答えてあげた。

答えてあげたのにアイもアルゴも俺を見て呆れているのが腑に落ちないが黙っておく。

てか、なんで分からないんだよ?

 

「昔に映画化されてたし分かるだろ?」

 

「主人公はイアーソーンじゃなくてジェイソンでした」

 

「ジェイソンは英語。古代ギリシア語だとイアーソーンって言うんだよ。イアソンって言うときもあるみたいだけどな」

 

現実のスグが神話とかが好きなのでそれ系の本が結構あるから暇なときに読んでいて覚えたのだ。

アイは神話とかよりも日本の古書が好きなので知らないのも無理は無い。

俺がパソコンでこの物語の映画を見たことがあるから内容は知ってるようだけど。

 

「簡単………じゃないよナ?」

 

「勿論、行きも帰りも危険が沢山ある」

 

しかし、本当に怖いのは物語に出てくる怪物よりも味方になるメーディアだ。

愛が大きいというか………男性陣に女は怖いと印象付けるには最適の女性だと俺は思う。

まぁ、今は関係ないので何も言わないでおく。

 

「それなら、友達誘って皆で受けるカ?」

 

アルゴが良い事思い付いたと提案してきた。

 

「いや、俺達だけで良いよ。俺の知ってる物語と大分変わっている所もありそうだし」

 

「だからだヨ。キー坊達が困ったら助けるのサ」

 

アルゴは丁度良い具合の風が吹く中、海を眺めて言った。

俺は断ろうとしたけど海を眺めるアルゴを見て口をつぐんでしまう。

 

「私は賛成ですよ」

 

隣のアイが俺の裾を摘まんでくる。

その姿はまるでお菓子をねだる子供のようで俺はアイの頭に手を置いてあげた。

しかし、コミュ障の俺が人をクエストに誘うなんて出来るのか?

 

「駄目ですか?」

 

アイが裾を摘まむどころか頭の上にある俺の手を引っ張ってきた。

懇願するアイにたじろいでしまう。

俺は助け船を出してくれると期待してアルゴを見た。

しかし、アルゴは助け船を出してくれなかった。

 

「大事な娘さんのお願いだゾ?」

 

俺はアルゴにチョップを繰り出そうとしたが、どうせカウンターをもらうだけなので止めておいた。

確かに娘だけどそんなにハッキリ言うなよ……………照れるから。

 

「………………………分かったよ」

 

遂に、俺が折れてしまい大規模クエストのクリアを目指した暫定的なパーティーメンバーを集める事になった。

 

「これも和人様のコミュ障改善プロジェクトの一環なんですからね!!」

 

アイの懇願する姿はコミュ障を治す為に俺に人と話してくれと懇願している姿だったのか。

俺の為を思ってくれているのは嬉しいけど何故か悲しくなる。

 

「そんじゃ早速チーム名を決めるカ?」

 

アルゴが尋ねてくるが、残念ながらチーム名だったら既に決まっている。

 

「チーム名ならこのクエストを受けると同時に勝手に決まると思うぞ」

 

「自分達で決められないのカ………」

 

チーム名を決めるのが楽しみだったのかアルゴが項垂れた。

そこで俺はアルゴに嬉しいお知らせを報告する。

 

「そんなガッカリすることもないぞ。この冒険で集められる奴等の事を何て呼ぶと思う?」

 

アルゴは首を振って知らないと言う。

アイは映画を見て知っているので俺の言いたい事が分かったらしい。

いたずら好きの子供の顔だ。

 

「”アルゴノーツ”………良かったな、自分の名前がチーム名だ」




アルゴノーツ、やりたかったんですよね~!!
ですが、バトルも多くしたいので原作と違う部分が多々あるのでその点はご了承下さい。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話 出発!!

電車に揺られていたら隣の席に『酢豚!!』っと達筆に書かれた白黒の服を着たフランス人が座り自分は笑うのを我慢してました。


   第61層”セルムブルグ”

 

「凄いメンバーですね」

 

「凄すぎるな」

 

例のクエストに向けてアルゴとの話を終えた後にすぐ参加者集めを開始した俺とアイ。

俺達がメッセージや直接会いに行くなどをして人数を集めたら予想を遥かに超えた豪華メンバーが集結したのだ。

 

「キー坊の人脈の広さだナ」

 

アルゴが横でケラケラと笑っている。

俺は自分の人脈の広さではなくただの偶然と運だと思うけど。

 

「キリトは人に好かれやすいからね!」

 

正面に居る木綿季が俺のおでこを人差し指で軽く小突く。

現実での名前で呼ばないのはプライバシーに関するので止めとけとアルゴからの忠告されたからだ。

俺は別に気にしないけどアルゴ曰くそれがルールと言うものらしい。

木綿季は、そっちの方が和人の名前に特別感があって良いっと言っているので特に問題は無いみたいだけど、俺は何だか寂しい。

 

「好かれやすい訳ないだろ」

 

「ボクは好きだよ?」

 

俺の寂しさを感じたのか木綿季がニィーっと無邪気に笑っている。

端から見ればストレートな愛情表現だなっと思うかもしれないが俺は木綿季の耳が赤いのと手が震えているのを見逃さない。

恥ずかしいのを我慢しているのがバレバレだ。

しかし、我慢して言っているのが逆に可愛い。

 

「お熱いね~」

 

「見てるこっちが恥ずかしいわよ」

 

それを見て、アルゲードに店を構えるスキンヘットのエギルさんとリンダースに鍛冶屋を構える活発少女のリズが俺と木綿季を冷やかている。

エギルさんとリズは纏まった資金が欲しかったと言うことで気前よく参加してくれた。

お店の経営の事とかで気が合うのだろうめっちゃ息が合っている。

経営の難しさや苦悩を分かち合う良いコンビだと思う。

冷やかしはごめんだけどな。

 

「冷やかすの禁止!!」

 

只でさえ我慢して言った事なので冷やかされたことで我慢できなくなったらしく木綿季はエギルさんとリズをうがぁーっと叫びながら追い掛け始めた。

木綿季に追い掛け回されているエギルさんとリズは二人して豪快に笑いながら全力で逃げ回っている。

なんとも微笑ましい光景に口元が緩んでしまう。

 

「初々しいな~」

 

「憧れちゃいます!!」

 

俺が以前所属していたギルド”月夜の黒猫団”の団員で槍使いのサチ。

サチは俺がギルドを抜けた後に槍で前衛をする珍しいスタイルに変わっていて有名になっていた。

そして、珍しいビーストテイマーで中層プレイヤーの中ではアイドル的存在のシリカさん。

この二人が早くもリズを捕まえて擽りの刑に処している木綿季を見て目を輝かせている。

てか、木綿季捕まえるの早いな。

 

「何でお前の周りには可愛い子が集まるんだよ!!」

 

「うぉ!?ク、クライン!降りて!!」

 

俺の後ろから幽霊の様に現れて寄っ掛かりながら悪態つけるのは俺がSAOを始めて最初に友達になったクラインだ。

どことなくクラインの元気がない理由はなんとなく想像できている。

数日前に俺がクラインをクエストに誘おうとメッセージを送ったのだが返ってきた返事が変だった。

 

『可愛い子はいるか?』

 

まるで合コンに誘われた人の返事だった。

と言っても合コンなんて俺が知っているわけないが、この時既にシリカさんやサチにリズなどの女子メンバーの参加は決まっていたので俺はクラインに、

 

『いる』

 

っとメッセージを送ってあげた。

 

『俺はあきらめないぜキリト。女の子と書いて好きと書くんだ!!』

 

メッセージから分かる事は失恋だろう。

凄いタイミングだと思う。

俺と木綿季の恋が結ばれた時に俺の知らない所で恋が結ばれなかった人がいたなんて思わなかった。

今日クエストに参加する女子メンバーの誰かがクラインに気があるとは思えないけどクラインには是非とも良い女性と結ばれて欲しいと願っている。

俺はクラインを背負い投げで背中から剥がした。

 

「今日はこのメンバーで行くんですか?」

 

すると、俺ではなく木綿季が誘ったアイドルのシリカさんがおずおずと尋ねてきた。

小動物のようなシリカさんに迫力などは感じられなく、ほぼ初対面の俺一人でも話せそうな女の子なのだが。

とある理由で緊張してしまう。

 

「キュルルルル」

 

シリカさんがテイムした子竜のピナが何故か俺の事を会ってからずっと威嚇してくるのだ。

普通の時は目がクリクリしていて愛くるしい顔なのに俺の前では竜の姿を突然見せる。

俺は何も悪い事をしていないのに!!

 

「あと、1人来るはず。今回のメンバーで一番の有名人が」

 

ピナの威嚇に耐えながら俺は答えた。

しかし、集合時間には後少し時間があるけど最後の1人は最強ギルドの副団長様で本当に来れるか少し心配になってきている。

っと、俺の心配事を掻き消すように突如後ろの転移門から女の子の絶叫が聞こえた。

 

「避けて~!!」

 

「うげっ」

 

だが、俺の反応速度でもいきなり女の子が転移門から飛び出てくる滅多にない状況に対処が遅れ、絶叫を聞いて振り返った俺は固まったまま女の子の下敷きになってしまった。

 

むにゅ、

 

「?………なんだこれ」

 

下敷きになってしまったので俺は急いで覆い被さっている女の子をどかそうとしたのだが。

その時、俺の右の手のひらにとても柔らかい感触が広がった。

試しに俺は何回か右手に力を入れてみる。

 

モミ、モミ、

 

「きゃぁ~!!!」

 

「なっ!?」

 

二回程、手に力を入れたさいに覆い被さっていた女の子が俺の左のこめかみ辺りに見事なフックをめり込ましてきた。

俺は訳も分からないまま女の子が放ったフックの勢いに逆らえず、数メートル吹っ飛ばされてしまい転移門前にある噴水の中に大きな水飛沫を立てながら着水した。

 

「うぅ、何なんだよ………」

 

痛みは感じないけど強烈なフィードバックにより頭がクラクラとして乗り物酔いになった気分になる。

 

「誰が………」

 

俺は転移門の前に居る俺を殴り飛ばした女の子を確認した。

そこには赤と白の戦闘服を着た見覚えのある女の子が顔を赤くしながら両腕で自分を抱き締めるように自らの胸を隠して女の子座りで座っていた。

 

「ああ、アスナか……来れたんだな」

 

俺はアスナの姿勢やさっきまでの行動を気にせずに右手を振って来てくれた事を歓迎した。

しかし、右手を上げた瞬間、アスナは視線に怒りを乗せて俺に放った。

 

「ひっ!!」

 

死線となったアスナの視線をまともに受けた俺は噴水の中なのにしゃがみこんで死線をかわす。

コミュ障が改善されてきているとは言え怒られたり怒鳴られたり怖い視線を向けられると頭の中がパニックに陥る。

助けを求めアイにSOSのアイコンタクトをするが、アイは助けるのではなく無表情で俺に向けて右手をにぎにぎしている。

俺はアイのジェスチャーを見て先ほど感じた柔らかい感触を思い出す。

今思えば人肌ぐらいの暖かさで形はまるで………

 

「まさか?」

 

俺の頭の中で最悪の結論が出され、急いでアスナの側まで走った。

走っている最中もどうか俺が触った物が大きなマシュマロ系のお菓子でありますようにと祈っていた。

が、そんなお菓子は見たことないし聞いたこともないので可能性は0に限りなく近い。

 

「わ、わざとじゃなくてですね!事故なんです!!お、俺は別にそんな事を考えていませんからね!!」

 

俺はとにかくわざとではないことをアピールする為に両腕を全力で振って子供のように弁解する。

こうして弁解している今も女子メンバーからの軽蔑の眼差しが俺に降り注いでいる。

 

「アスナ様!!勝手な事をしては困ります!」

 

俺がバタバタと弁解していると転移門から今度は痩せぎみで背をピンとさせたロン毛男性が堂々と出てきた。

服装がアスナの所属しているギルド血盟騎士団の制服だし、アスナ様と呼んでいたのでアスナに用があるのか。

しかし、アスナは男が出てきたとほぼ同時に俺の後ろに隠れてしまった。

 

「え?ちょっと、アスナ!?」

 

「今日はここに居るメンバーでクエストに行くの!!だから今日はギルドを休む!!そもそも何で家の前に待ち伏せしてるのよ!!」

 

「私の任務はアスナ様の護衛です。それには当然自宅の___」

 

「含まれないわよ!!このバカ!!」

 

なるほど、この男は任務を口実にアスナをストーカーしてたのか。

その事はこの場にいる皆が分かった事で皆それぞれの反応をした。

特に女性陣の反応は凄まじく、サチとシリカさんは無言で後退り、リズは今にも男に飛び掛かりそうになっている。

木綿季も同様に臨戦態勢になっていて体からどす黒い殺気オーラが漏れている。

そしてアスナは未だに男と口論中。

因みにアルゴはこのストーカー男の情報を売って金にしようとしているのか商売人の顔をしていた。

………………俺を挟んでの口論を止めていただきたいです。

 

「とにかく本部に戻りますよ」

 

しびれを切らした男が遂に俺を盾にしていたアスナの腕を強引に引っ張り連れていこうとした。

アスナが男に連れ去られそうになった瞬間、俺はアスナと目が合った。

アスナの目は、助けてっと訴えているようにも見えて俺は無意識にアスナを引っ張る男の腕を掴んだ。

 

「何だ貴様」

 

「………あ、いや!別にー、じゃなくて!その………アスナとは予定があるので………その、連れていかれるわけには………」

 

「貴様らなんぞにアスナ様を任せられるわけないだろ!!」

 

無意識に男の腕を掴んでいたので気づけばいきなり睨まれるし、あたふたしながらも男の問い掛けに答えたらめっちゃ怒鳴られたし、俺はダッシュでかたわらのアイの背中に身を潜めた。

 

「周りをちゃんと見てください。ここに居るメンバーは殆んどがトップクラスのプレイヤーですよ?これでもアスナ様を任せられないんですか?」

 

俺の代わりに俺が言いたい事をアイが溜め息まじりに言ってくれた。

アイの言葉に男は少しだけだがこの場に居るメンバーを確認する。

メンバーの豪華さを今頃気づいた男は悔しそうに顔をしかめて舌打ちをわざとらしくした。

 

「私ほどではないな」

 

意地っ張りな男は自分の方が凄いと思っているらしい。

 

「じゃあ、ボクとデュエルしない?」

 

そこで、いつの間にか男の背後に移動していた木綿季がアスナを掴む男の腕を払いながら男に挑発した。

木綿季はあくまでもニコニコ笑顔で元気良く挑発する。

心の中では親友にストーカーする男を許せなくて怒りに燃えているのだろう。

 

「深縹………いいだろう!私に勝てたらアスナ様を貴様らに任せよう!!」

 

男は見事挑発に乗って木綿季にデュエル申請のメッセージを飛ばした。

初撃決着モードでクリティカルな攻撃を一本か相手のHPゲージを半分まで削ったら勝者の今のSAOでは度々ある決着方法。

しかし、このデュエルの勝敗は目に見えている。

 

「キー坊は止めないのかイ?」

 

アルゴが欠伸をして退屈そうに尋ねてきた。

 

「止めるもなにもあいつが売った喧嘩だし勝敗なんてやらなくても分かるだろ?」

 

「ユーちゃんが勝つのは当然だヨ。オイラが言ってんのはあーレ」

 

アルゴが指差した方をアイとアスナもつられて見る。

そこでは二人の人物を中心に大きな人だかりが出来ていた。

 

「さー血盟騎士団副団長の護衛役VS深縹の舞姫のデュエルだよ!!」

 

「血盟騎士団か?それともスリーピングナイツか?お前らはどっちに賭ける!?」

 

リズとエギルさんがちゃっかりと金儲けをしていた。

野次馬の人達は、深縹に千コル!、護衛に千五百コル!など叫んでいた。

それによく見るとクラインも参加しているしサチとシリカさんはエギルさん達のお手伝いをしている。

 

「オイラはユーちゃんに五千コル賭けてみたヨ」

 

「………………アイ、お前はどうする?」

 

「木綿季様に五千コルにします」

 

「なら俺も木綿季に五千コルにする」

 

せっかく何もせずに100%金が入る機会なので俺も賭けに乗ることにする。

アルゴは、了解っと言って俺とアイから受け取ったコルをエギルさんに渡しに行った。

それにしても、流石最強ギルド副団長の護衛役、次々と金が賭けられている。

 

「どんな勝負になると思う?」

 

「友達を大切にする奴だからな。プライドが高そうなあの男にとっては処刑だな」

 

アスナも俺に聞く前から答えは分かっているのだろう。

だから、想わずにはいられない。

護衛の男よ、御愁傷様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果は予想を裏切らない決着だった。

デュエル開始と同時に両手剣ソードスキル”アバラッシュ”を護衛の男が発動したのだが、木綿季が易々と降り下ろされる剣を右斜め前に前進して避けた。

さらに木綿季は避けるついでに片手剣ソードスキル”ホリゾンタルスクエア”を発動していた。

踊るように回転しながら剣を振るう木綿季の跡には地面と平行に正方形の剣の青白い軌跡が浮かんでいる。

映画のワンシーン級の見事な交差法に男は青白い正方形の真ん中で顔を歪めて膝を折った。

 

「おじさんよりボクの方が強かったね!」

 

木綿季が自分の剣を肩に担いで跪く男を見下ろす。

この時、木綿季の攻撃がクリティカル判定されていて、木綿季と男の間にはシステムの判決により勝者は木綿季だと表示されている。

 

「約束通りアスナはボク達に任せてもらうよ」

 

木綿季は剣を腰の鞘に戻して男に背を向けてアスナの方に歩き出した。

その行動で男のプライドが更に傷つき、男を怒らせてしまったようだ。

男はよろよろと立ち上がり両手剣を構え直しソードスキルは使わなかったものの木綿季を串刺しにする勢いで木綿季に突進した。

 

「ふざけるなっ!!」

 

「!?」

 

男の怒号で振り返った木綿季だったが男の両手剣はすぐそばまで接近していて木綿季は剣を抜く隙もなくなっていた。

皆が、ユウキ!と叫んで走り出している中、木綿季の危険をいち早く察知していた俺は既に木綿季の左隣までたどり着いていた。

走り出した瞬間からだが、俺が見ている全てのものがスローモーションになり自分だけが普通に動けている変な感覚を感じながらも俺は右手で木綿季の肩を掴んで俺の胸に引き寄せた。

 

「何すんだよ」

 

俺は空いた左手で突き出された両手剣の剣先をガッチリ掴んで放さない。

男は何を焦ったのか引っ張って両手剣を取ろうとしているが、俺はコツを使っているので生半可な力じゃ取れるわけがない。

 

「血盟騎士団副団長として命じます。クラディール、あなたは本日をもって護衛役を解任。次の指示があるまで本部にて待機。以上」

 

アスナはクラディールに命令を言い放ちこの場から立ち去るように指示を出した。

俺も両手剣を放してやった。

しかし、クラディールは木綿季を危険な目に合わせたので俺は乱暴に両手剣を放してあげる。

 

「クソ!!」

 

クラディールは去り際に木綿季の事を一度睨んでから、転移門で何処かに転移して行った。

良い歳したおっさんが何で必死にアスナをストーカーしてたのかは分からないけど取りあえずこの場のゴタゴタは解消された。

俺は一先ず安心したので息を漏らす。

そこで、何やらモゾモゾ動く生き物が俺の胸辺りにいる事に気づいた。

 

「木綿季?」

 

「あのね、ボ、ボクは嬉しいんだけど………周りの視線が………」

 

俺は木綿季に言われて周りを見てみる。

周りでは賭けで集まったプレイヤーのほとんどが俺と木綿季の事を見ていた。

いや、木綿季は別で全員が俺の事を見ていて嫉妬や妬みなどが感じられる。

何故かその中にクラインが混じって俺の事を見てるし………

 

「ひゃあ!!」

 

今の悲鳴は木綿季じゃなく俺。

俺は咄嗟に木綿季から離れて隠蔽スキルを使い姿を隠した。

この時はフードじゃなくてこの黒コートで良かったと本気で思う。

何故なら人が大勢見ていてもしっかりと姿を隠す事が出来たからだ。

 

「おい!今の女顔は誰だ!?」

 

「噂の舞姫の男か!?」

 

「捜せ!!」

 

賭けをしていたプレイヤー達が血眼になりながら俺を捜し始めた。

しかし、既に俺は安全地帯の建物の上にいるので誰がどう捜そうと見つけられる筈がない。

俺はアルゴに早くクエストの受理をするようメッセージを送った。

 

『キー坊も男になったナ。姉として嬉しいゾ』

 

自称姉のアルゴからすぐにメッセージの返信が届いた。

余りの速さにあらかじめ用意していたメッセージだと推測される。

俺は呆れながらも屋根の上からアルゴを見ると、羊毛紙に何かを書いていた。

俺のメッセージ通りにクエストに参加するメンバーを書いているらしい。

アルゴの後ろにはリズやエギルさんが興味津々に羊毛紙を覗いていた。

 

「どうやってイルオルコスまで行くんだ?」

 

ここで当然の疑問に俺は胡座をかいて考える。

俺は無難に強制転移だと良い。

下で俺を捜ししているプレイヤー達に見つからないしお得だ。

 

ピコン、

 

「ん?」

 

アルゴが受理完了のメッセージかと思い確かめる。

しかし、そのメッセージの送り主は誰でもなく空欄だった。

 

『第61層”セルムブルグ”の港に行け』

 

俺は他の皆の反応を見てみたが皆同じで何の事か分かっていない様子。

なので、俺達はメッセージ通り港に行くしかないようだ。

 

『港で合流しましょう』

 

今度はアイからメッセージが飛んできて俺は、了解っと手短に返信を打った。

返信を送ると下にいる今回のクエストに参加するメンバー、木綿季、アイ、アルゴ、アスナ、リズ、サチ、シリカさん、クライン、エギルさん、それにピナの9人と1匹が集まって港に向けて走り出した。

 

「うし!!」

 

俺はこの世界では必要無いが軽くストレッチをして走る準備をする。

要は雰囲気だ。

 

「行くか」

 

俺は後ろに数歩下がって助走距離稼ぎ呟く。

十分な距離に達したら意を決して前に走り出す。

 

「はぁぁ!!」

 

威勢良く飛び出した俺は建物から建物に乗り移りながら港を目指した。

外国でアクロバティックに街を走ったり建物と建物の間を跳んだりする人達が居ると知っているがそれに近い感覚。

跳ねて飛んで時に誰も俺に気づかないのを良いことにかっこ良く前宙してみたりする。

下の道とは違い一直線に港に行けるので先に行った木綿季達よりも早くたどり着くかもしれない。

 

「お?」

 

すると、ここで木綿季からメッセージが来た。

 

『和人ってアスナ見たいに胸が大きい方がタイプ?』

 

ガシャーン!!

 

突然届いた木綿季のメッセージを見て俺は足を滑らせて建物から落ちてしまい薄暗い裏路地にあるガラクタ置き場に顔面から不時着した。

調子に乗って空中でメッセージを読もうとしてこの結果だ。

木綿季の奴、気にしてたのか……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これに乗るのか?」

 

「大きいですね」

 

「こいつは予想外だナ」

 

港で合流した俺達を待っていたのは大きな木造の船だった。

木綿季の態度が変だったけど、これは黙っておく方が良いと思ったのは木綿季も同じだろう。

船首には少し錆が付いている鉄製の人魚が手を組んで何かに祈っていて船全体の色が焦げ茶色。

年期を感じさせるけれど、それでも俺のホーム”ロービア”で作れる最大の船よりもひとまわり程デカイくて高級そう。

ロモロじいちゃんもビックリの大型船だ。

 

「お待ちしておりました」

 

船から降りてきた中世の貴族服のようなものを身に纏った金髪オールバックNPCが一礼して俺達10人と1匹を船の甲板に案内してくれた。

甲板は俺達が全員入ってもまだ余裕があるほど広く床や手すり部分がピカピカに磨かれていて昔の豪華客船のようになっている。

 

「では、これから皆様をイルオルコスまでお送りします」

 

オールバックNPCは甲板二階にある舵の前で言った。

すると、巻いてあったいくつもの帆が一斉に垂れ下がり風を受ける。

帆が垂れ下がり風の力を使う事が出来るようになった大型船はゆっくりと、しかし力強く前に進み始めた。

 

「うっひょー!!これは気持ち良いぜ!!」

 

「こんな大きな船乗る機会なんてまず無いわよね」

 

「キュールルー!!」

 

「ああ、ピナ!?そっちは海の上だよ!!」

 

皆楽しそうにはしゃぐ。

ピナも初めての船に興奮しているのか、ご主人のシリカさんの側から離れて船の横を飛んでいる。

 

「きれーい!」

 

「そうですね!」

 

アスナやサチにエギルさんは船の前方を見つめている。

アスナとサチが風に靡く髪を押さえながら海を見るのは凄く絵になるのだが、それよりもエギルさんが思いの外似合っていてアスナとサチの素敵な絵が霞んでしまう。

男らしく腕を組んで綺麗な白い歯を見せながら笑いながら前を見通すエギルさんの姿に俺は憧れてしまう。

高い所から景色を眺めようと帆が付いた柱をよじ登っているクラインとは大違いだ。

 

「楽しくなりそうですね」

 

「そうだな」

 

俺とアイは船首の人魚の上に乗って、進め~!!っと海賊風に前方を指差す木綿季を見て笑いあった。

 

 




出発だ~!!

先に言いますが、このアルゴノーツ編でキリト君のもう一人の娘さんが登場します!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話 Argonautes

受験のお陰で一週間高校休みだ~!!


「ギリシャ感が凄くありますね」

 

アイが隣で言う。

同じ事を考えていたので俺は頷いた。

俺達が船を降りると目に映ったのは昔ながらの中世の街だったのだ。

ギリシャの街でよく見られる石造りの建物が建ち並んでいるし、道行く人達の服が中世の時代に着られていた物なので俺達はタイムスリップした気分になる。

 

「そんでキー坊。これからどうすんダ?」

 

「イアーソーンがコルキスに遠征する為のメンバーを集合させてるんじゃないか?」

 

「ならお城に行こうよ!そういう系ってお城が定番でしょ?」

 

アルゴが尋ねてきたので俺は答えると木綿季が街の中心にそびえ立つ大きな城を指差した。

が、某夢の国にある城みたいな豪華さは無い。

城壁は高いけど城自体の高さはあんまり高く無い造りで戦う為の城って印象だから、少し残念な気もする。

 

「それにお城は女の子にとって憧れなのよ?ドレスとか着てみたいじゃない」

 

女子メンバーの中でも一番王女様から離れているリズが目を輝かせながら城を見てうっとりしている。

リズもこう見えて乙女なのだろう。

しかし、リズが国の王女様になった時にはどのような国になってしまうのだろうか。

悲惨な国になってしまいそうで恐ろしい。

 

「キリト君、今リズに失礼な事考えたでしょ?」

 

アスナが俺を見ないでリズを見ながら尋ねてきた。

目を見て言わないので怒っていると思ってしまう。

 

「い、いや、違くてね!少し意外だな~って思って………ほら!リズってお姫様じゃなくて戦いの中で暴れ回っているイメージだから………」

 

「キリト様、逆効果ですよ」

 

テンパりながらしゃべっている内にだんだんフォローじゃなくなってきているのをアイに言われて気づいた俺は黙る事にした。

これ以上何か言うとリズに聞こえて更にまずい状況になるかもしれない。

 

「キリト君………じゃあ、キリト君の中で一番王女様に近いイメージの子って誰?」

 

アスナが出来の悪い子を見る目で俺を見た後に辺りでリズの意見に賛成している女子メンバーに視線を向けた。

けど、アルゴだけはその女子トークには混じらないで男性のエギルと話している。

二人はまるで保護者だ。

って、そうじゃなくて、王女様…………王女様…………

 

「やっぱり、木綿季かな。あいつなら笑っているだけで民からの支持も多く集まるだろうし良い政治が出来るからな。戦いの時には戦況を見て将軍とかに的確な指示はもちろん、思い切った戦術で相手を翻弄させる事も可能だと思う。そんでもって戦いには自分も参加して味方の兵の士気を高める。優しくて強い王女様。最高だな」

 

そこまで都合良くいくとは思っていないけど木綿季なら出来ると俺は思っている。

因みに2番目はアスナだ。

冷静沈着、焦りや迷いは無くて自分の信じた道を進む攻略の鬼。

ん~~、王女様じゃなくて最強の将軍だな。

木綿季が王女様でアスナが将軍だったら凄く強くて豊かな国が完成すると思う。

 

「ちょっと待って、私が想像してた返事と全く違う返事なんだけど………」

 

「え?王女だろ?政治の才能と戦いの才能。それ意外に何が必要なんだよ?」

 

アスナが顔に手を当てて肩を落としていて、アイは何かを悟ったように目を横線にしている。

俺はそのアスナとアイの行動が理解出来なかった。

俺はアスナの質問に正直に答えた迄だ。

 

「キリトは乙女心が分かってねーな。キリトはドレスって聞いて最初に誰のドレス姿をイメージするよ?」

 

後ろから俺の頭をくしゃくしゃにしながらクラインが呆れ顔で現れた。

どうやら、俺の答えが間違っていたらしいので俺はクラインの言われた通りイメージする。

 

『和人』

 

「ふん!!」

 

俺は煩悩を振り払う為に石の地面に向けて全力で頭突きをくらわせる。

痛みは感じないけどフィードバックで頭の中がぐわんぐわんする。

 

「キリト君!?」

 

「おいおい、キリト。どうしたんだ?」

 

「何でもない………」

 

言えない、絶対に言えない。

それより何で俺はイメージしてしまったんだろうか。

イメージで出てきたのは当然木綿季。

しかし、確かに木綿季が着ていたのはドレスだったけどあれは王女じゃなくても着れる物だ。

純白のウエディングドレス。

木綿季は何処かの教会でいつもと少し違う笑顔で静かに俺を待っていた。

ベールに隠れていても、うっすら見えた木綿季の顔は幸福に満ちた笑顔だった。

 

「ドレスはドレスでも純白のドレスをイメージしたんですね」

 

「誰にも言うなよ?」

 

「私が持つ和人様の弱みがどんどん増えていきます」

 

アイがアスナとクラインに聞こえないようにしゃがみこんでいる俺に耳打ちしてきた。

どんなにごまかしてもアイにはお見通しのようだ。

アイには敵わないと知っている俺はアイに口外しないよう頼むしかない。

親の弱みを数多く握る娘ってなんなんだ………

 

「アイちゃん?」

 

「何でもありません。ただ、キリト様は純粋だったって事が良く分かりました」

 

「どういうことだそれ?」

 

クライン、頼むから深く追及しないでくれ………

恥ずかしくてこのまま海に飛び込んでしまいそうだ。

 

ゴァァァァン

 

運が良いことに城の方から景気良く鐘の音が聞こえてきた。

音はそこまで大きくないけど良く聞こえる不思議な鐘の音は俺達の耳に残る。

そして、俺はクエストに関係があるかもしれないのでクエストメンバー全員を見た。

 

「行こう!」

 

「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」

 

俺達は未だに鐘が鳴っている城に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が向かった城の門は見るからに対砲撃用に造られていて、他の場所とは違い石造りではなく鉄製になっていた。

ここまで守りが堅いとイルオルコスの王は俺と同じで根性無しなのかと思ってしまう。

その頑丈そうな入り口の前には大勢のNPCの勇士が既に集まっていた。 

全身に防具を纏わせて顔すら見えない者や逆に最低限の防具で身動きしやすくしている者、時に魔法使いの様な格好をしている人がいて、一人一人がなかなかの個性を持っている。

 

「沢山いますね」

 

「イアーソーンは49人の勇士を集めたって言われているからな」

 

勇士の中で一番有名なのは豪傑ヘラクレスだろう。

他に有名な勇士と言えば千里眼のリュンケウスとかがいた気がする。

どちらも本と映画でしか姿を知らないのでどんな姿をしているのかとても楽しみだ。

 

「皆の者!今日は集まってくれた事に礼を言う!!」

 

突如、門の上から良く通る声が聞こえてきたので周りのNPC共々と俺は上を見上げる。

門の上には長いブロンドの髪を風に揺らされながら凛と佇む男がいた。

当然今回のクエストの依頼主、イアーソーンである。

 

「今回の遠征はコルキスの森にある金羊毛を取り戻す事である!!しかし、コルキスへ辿り着くには幾つもの試練が待ち受けているだろう………そこで!!我は皆の力を借りる事にした!!遠征から無事帰ってこれた全ての者に褒美をやる!!力を示すのだ!!勇気ある者達よ!!」

 

「「「「「「「お~!!!」」」」」」」

 

イアーソーンがNPCとは思えない程の大迫力演説を行い、下で聞いていたNPC達が自らの剣を抜き天に掲げながら地鳴りでも起こしそうな勢いで声をあげた。

リズやクラインも同じように声を出してテンションマックス状態になっている。

ここに居る勇士達のほとんどが戦闘好きの猛者共なのだろう。

俺は戦闘よりも褒美の方が楽しみだけど。

 

「我に続け!!」

 

そう言うとイアーソーンは何と10メートル以上ある鉄製の門から軽々と飛び降りて俺達がいる側に着地した。

そして、自分を先頭にして港の方に歩きだした。

イアーソーンに続いて数々の勇士達が歩き出すのを見て俺達はイアーソーン団体の後ろを歩く事にした。

理由は単純に俺があの中にいるのが怖いだけだ。

たとえNPCでもあんなに厳つい顔をした人達が周りにいるだけで俺は失神しそうになる。

 

「城に入れなかったのは残念だけどイアーソーンって奴、意外とイケメンだったナ」

 

「戦う貴族だな」

 

ここからでは見えないけどさっき見たイアーソーンは物凄くイケメンだった。

人ではなくどちらかと言えばエルフに近い容姿をもつイアーソーンはどこに居てもモテモテなのかもしれない。

 

「………キリトは良いの?」

 

「何が?」

 

サチが苦笑いしながら前にいる木綿季を指差して訊いてきた。

そこでは木綿季がリズと一緒に先頭に居るであろうイアーソーンを見る為なのかぴょんぴょん跳ねていた。

 

「イアーソーンが見えない!」

 

訂正、完全にイアーソーンの顔を見る為だ。

俺は何故か分からないけど嫌な気分になってきた。

ジュンさんと木綿季を見たときもこんな感情になったことがある。

しかし、こんなハッキリとあの感情に出会った事が無い俺はどうすれば良いか分からないのでとりあえず左にいるアイの手を握る事にした。

 

「何ですか?」

 

「嫌な気分になったから気を紛らわそうと」

 

アイは溜め息を吐いたけど俺の手を強く握り返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いた、予想はしていたけどこの大きさで驚くなと言うのは無理がある。

 

「マジかよ………」

 

そこには俺達が乗ってきた船は無く、代わりに先程までは無かった筈の超大型船が港に浮かんでいた。

クラインが目の前にある木製の巨大な船を目の当たりにして呟く。

それもそうだ。

総勢50人もの人数を乗せて出港する為の船。

俺達がイルオルコスに来るのに乗った船とは格が違い過ぎる。

 

「アルゴー船、船大工のアルゴスにちなんで名付けられた船………」

 

「50人以上乗れますよね?」

 

アイの言う通り、アルゴー船は50人以上乗れる位高いし長いし広い。

これだと、遠征じゃなくて豪華クルーズ船での船旅になってしまう。

 

「何をしている!早く乗れ!!」

 

俺達が船の巨大に気圧されていると船からイアーソーンの良く通る声が聞こえた。

周りを見て俺達は自分達以外の人達はもうアルゴー船に乗っているのに気付き慌ててアルゴー船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ!あんなに怒鳴らなくても良いじゃない!」

 

「まぁまぁリズさん、落ち着いて………」

 

リズはイアーソーンの言い方に文句を言いながらのしのしと船内を歩いている。

シリカさんはいつの間にか怒ったリズの宥め役になっていた。

 

「それにしても不思議な船よね」

 

アスナが歩きながら船のあちこちを見渡している。

壁の所々に俺達でも知っているモンスターが彫られているし船内のランプの形はゴースト系モンスターが持っているランプの形にそっくり。

色んな場所にSAOに出てくるモンスターが飾られていたりしている。

 

「そんな不思議な空間を台無しにする男が後ろにいるけどな」

 

俺はエギルさんの後ろにいるクラインを見る。

船に乗って数秒後、まだ出港もしていないのにクラインは顔を青くして船酔いになってしまっていた。

 

「すまねえ………戦闘になったら役に立つからよ………」

 

今にもぶっ倒れそうなクラインは壁で体を支えながら弱々しく言っているので説得力が全く無い。

今のクラインでは第1層のイノシシにも勝てないだろう。

 

「見て見て、キリト!!平均台!!」

 

そんなクラインを心配さえしないフリーダムな木綿季に呼ばれて振り向いた俺はアルゴー船を見た時以上に驚いてしまう。

 

「ちょ、木綿季!?危ないから降りろ!!」

 

船の幅の狭い手すり部分に乗っている木綿季は体操選手のようにバク転やら前宙やらと技を決めていた。

木綿季が乗っている場所が安全な所だったら拍手などを贈りたいところなのだが実際に木綿季が乗っている場所の右側は落ちたら相当なフィードバックがあるであろう高さの危険地帯。

俺は急いで木綿季を降ろすために両腕を前に出して木綿季を待ち構えた。

 

「ほら!」

 

「うん!」

 

木綿季が手すりから跳んでポスンと俺の両腕に収まった。

世間で言うお姫様抱っこだ。

考えてみれば木綿季を抱っこした事は初めてかもしれない。

 

「えへへ!」

 

「あ、あのな………」

 

俺にお姫様抱っこをしてもらえた事がそんなに嬉しいのか木綿季は照れながらも笑顔になった。

どうやら俺にお姫様抱っこをしてもらう為の作戦だったらしい。

こんな事をしなくても木綿季にやってと言われればやってやるつもりなのに。

俺は照れ隠しにそっぽを向いた。

そっぽ向いた先にはニヤニヤ顔のアルゴと嬉しそうにガッツポーズをするアイがいた。

二人の後ろではアスナとかリズが呆れ顔。

更に後ろだとクラインが悪魔のような眼で俺と木綿季を睨んでいた。

 

「あいつらをバカップルって言うんだよな?」

 

「ユウキさん可愛いです!!」

 

「良かったねキリト」

 

エギルさん、シリカさん、サチが思い思いに笑いながら言っている。

いつまでもこの生暖かい視線が向けられるのは耐えられないので俺は優しく木綿季を降ろした。

すると、船の何処からか咳き込む声が聞こえた。

 

『皆の者、準備は整ったか?と言っても遅いのだがな。これより我々はコルキスにたどり着く為、まずはキオスに向かう。………それでは出港だ!!』

 

船全体に鉄のパイプが通っているのらしく原始的な船内放送が終わるとアルゴー船はキオスに向けてゆっくりと動き出した。

 

ピコンッ

 

クエスト名”Argonautes(アルゴノーツ)”開始




次回にはユイを出したいですね。
あ〜、ユイにアイのことを、お姉ちゃん!!って呼ばせたいです!!

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話 池の妖精

ゴッドイーター2レイジバーストが楽しみだ!!


『間もなく我々はキオスに着く。着いたら水を調達するために少人数で森に泉を探してもらう。誰が行くかはこちらで決めさせてもらうので皆はいつでも行けるように準備をしていてくれ』

 

船がイルオルコスの港から出港して1時間ちょい。

クラインの船酔いが俺達は一向に治らないまま次の島、キオスに到着しようとしていた。

 

「キリト様、何か大分物語が飛ばされている気がします」

 

「いや、最初の島で起こるやつは無い方が良いだろ。あれをゲームに取り入れたらただのエロゲーになるぞ。二番目の島だってそうだ、あんなシリアス展開俺は嫌だぞ」

 

船には俺達10人専用の大きな部屋が設けられていた。

そして俺は部屋の隅に置かれてある1人用のソファーにだらーんと腰掛けていたところだった。

そんな俺にアイはこの物語の流れの違いを指摘してきた。

が、キオスに着く前の物語は無い方が全体に良い。

女だけの島とか勘違いで親しくなった王を殺してしまうなんて嫌だ。

特に女だけの島、ほとんどの女は腹黒くて恐いんだぞ。

そんな島ただの地獄じゃん。

 

「あー、確かにそうですね。でも、クラインさんは喜ぶと思いますよ。船酔いも治ったでしょうね」

 

俺はテーブルにひれ伏しながら呻いているクラインを見た。

クラインはサチから水を受け取ってお礼を言っているところだ。

船酔いじゃなくて二日酔いのおっさんの様に見える。

 

「そのうち平気になるだろ。俺はキオスに着くまで寝るから起きたら起こしてくれ」

 

俺は更にだらーんとなりフカフカのソファーに深く沈んだ。

寝心地がかなり良いので我がホームに欲しいくらいのソファー。

 

「水汲み班になったらどうするんですか?」

 

「50人もいるんだ、そんな簡単には選ばれないだろ」

 

俺はそれを最後に瞼を閉じて黙った。

の○太のように3秒で寝れる訳ではないけど寝るスピードは常人より速いのでそろそろ寝れるだろう。

 

「それもそうですね。では、私も寝ます」

 

瞼を閉じて少しすると、俺の腹の上にアイが乗っかる感覚があったのだがすぐに寝たい俺は気にせずに眠ろうとした。

俺とアイのホームにある振り子椅子で俺が寝ているとたまにこんな風にアイが俺の上に乗って重なりながら寝る時があるのでいつもの事として考えていた。

それにアイは内緒で一緒に寝ているらしいが俺はアイの暖かさで気づいてしまっている。

アイのプライドに関わると思うので俺が言わないであげているのだ。

 

「………ボクも一緒に寝たいな」

 

可愛らしく拗ねた声が何処からか聞こえてきたけど、既に俺は眠りに入り掛かっていたので声の主を捜す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は現実とは酷いものだと実感していた。

4名の狭き門を抜けて晴れて俺は水汲み班に選ばれてしまったのだ。

そして今、船が止まっている場所の近くにある森でありったけの水を調達する為に森を歩いていた。

 

「川でもあれば良いんだけどな!」

 

エギルさんよりは細いけどそれでも十分筋肉質な男、ヘラクレスが先頭で歩いている。

ヘラクレスは白い服を着ているのだが右肩を豪快に出していた。

漫画とかでも見られるあれだ。

確か、ヒマティオンだったかな?

 

「そんな都合良くいきませんよ」

 

ヘラクレスの隣を歩いている美少年はヘラクレスの従者、ヒュラース。

神話ではヘラクレスがヒュラースに恋をしていると言われているけどヘラクレスはヒュラースの事を相棒として見ている気がする。

こちらも服装はヘラクレス同様ヒマティオンを着ている。

違いは服の色が青い事だ。

 

「それよりこの辺で別れた方が良いと思うぞ」

 

そして最後の1人の声が()から聞こえてきた。

単眼の巨人、ポリュペーモスである。

腰に白い布を巻いただけの服とも言えない格好で風邪をひかないのかと心配になる。

けど、俺の何倍もの大きさのポリュペーモスの体は頑丈なのだろう。

現に現れるモンスターを素手で簡単に殴り付けたり飛んでくる鳥型のモンスターからは俺達を守ってくれている。

たった1つしかない目を潰されているのに何で周りの事が分かるかが不思議だ。

 

「では、僕とポリュペーモスさんは水を汲みに行きますのでヘラクレス様とキリト様はこの辺りの木を切って持ち帰って下さい。そしたら船で会いましょう」

 

俺達のもう1つの仕事、木材調達。

切った木は料理の時に使ったり薪として使うのだろう。

それにしても何と高性能なNPC。

真のAIであるアイよりかは感情が無いのだけどまるで普通の人間のように話している。

このNPC達の基礎を俺が作ったなんて信じられない。

 

「おう!しっかりな!!」

 

「ヘラクレス様達もですよ。それでは行きましょうか」

 

「ああ」

 

女も驚く程の美少年と単眼を失った単眼の巨人はそのまま進んでやがて見えなくなった。

つまり、俺はヘラクレスと二人きり。

変な汗が超大量に出てくる。

 

「始めるか!!」

 

「は、はい!!」

 

「おし、いくぜ~!!……………ふんっ!!」

 

ヘラクレスは持っていた棍棒を両手で構えたと思ったらソードスキルさえも使わずに目の前の木に向かって思いっきり打ち込んだ。

結構な大木だった木はヘラクレスのたった一撃でドシンッと地震かと勘違いしてしまうほど地面を揺らしながら倒れた。

 

「男女、お前は俺が折った木を適当な大きさに切り分けろ。それぐらいは余裕だろ?」

 

「りょ、了解しました!!」

 

男女と言われてかなりのショックを受けながらも俺はヘラクレスに指示された通り背中のエリュシデータを抜いて倒れた木を斬り始めた。

ヘラクレスが雑に折って俺が綺麗に斬って揃える。

俺達の作業は黙々と続いていった。

木綿季に会いたい!アイに会いたい!2人に会いたい………………

俺は涙目になりながらずっとそれしか考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら遅くねーか?」

 

「そ、そうですね………」

 

大、中、小の3つの大きさに分けた木々を船の倉庫に運んだ俺とヘラクレスは船の真ん前でヒュラースとポリュペーモスの帰りを待っていた。

すぐ後ろの船には木綿季とアイがいると分かっているのに会えないのが凄く悔しい。

マジで、早く帰って来てくれよ……………

 

「あれ?」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「あ、いや、な……んでもないです」

 

俺は早く帰って来てくれよっと思った時に気づいた。

神話ではヒュラースがこの場に戻っては来ないのだ。

森の池にいる数人の妖精がヒュラースを誘惑して泉に引き込んだって話の筈。

ヘラクレスと一緒にいることで緊張してしまってすっかり忘れていた。

 

「大変だ!!ヒュラースが消えた!!」

 

「何だと!?何があった!?」

 

ポリュペーモスが森から闘牛の突進のような迫力で出てきた。

凄まじいパワーで木々を凪ぎ払って出てきたポリュペーモスの後ろには簡単な道が出来上がっている。

 

「おい、捜しに行くぞ!!」

 

「え、ちょ、んなぁぁぁ!!!」

 

ヘラクレスは俺の右手を掴んだと思ったら何の迷いもなく森に走り出していった。

ポリュペーモスも俺達の後を追う。

 

「ちょ、時間時間!!間に合いませんって!!戻りましょうよ!!」

 

このプチクエストには時間制がある。

時間を過ぎると恐らく俺はクエスト失敗と見なされてしまうだろう。

それに神話ではヘラクレスとポリュペーモスは結局ヒュラースを見つけられなかった。

このままでは強制的にクエスト失敗になってしまうので俺は何とか船に戻ろうともがき続ける。

 

「お前は自分が愛した者が消えた時に同じ事を言えるのか!!」

 

「ッ!!」

 

俺はヘラクレスの言葉に一瞬抵抗する力を緩めてしまった。

そしてヘラクレスはその一瞬を見逃さず俺を上空に投げ飛ばす。

 

「おわぁぁぁ!!」

 

「見つけられたら早く戻れるからな!!」

 

後ろを走っていたポリュペーモスが叫びながら落下を始めた俺を右手で鷲掴みにして森に投げ飛ばした。

 

「飛んでっ!?」

 

ヘラクレスに投げられた時よりも高く上空に飛ばされた俺は美しい森の景色を堪能する間もなく落ちていった。

 

「はっ!!」

 

このままでは落下ダメージでHPを確実に全損してしまうので俺は腰の糸付きピックを両手合わせて8本出して空中で構える。

投擲のソードスキル”スティックシュート”でピック8本を同時に頑丈そうな木に撃ち込む。

 

「くっ!!」

 

俺は糸を両手でしっかりと掴んで方向転換の衝撃に備えた。

真下に向かって落ちる俺は糸を利用してターザン風に下に掛かるエネルギーを横に変えようとした。

結果としては成功。

しかし、糸はすぐに切れてしまったうえに方向転換の時に掛かった衝撃で左腕がビリビリと痺れている。

 

「って、それどころじゃっ!!」

 

進む方向を下から横に変えただけなので次は横に飛んだ俺。

その時俺は方向転換時の反動で背中を前にして飛んでいた。

 

「ぐっ!!」

 

俺は慌てて振り向こうとしたけど遅かった。

後ろに生えていた木の鋭い枝に気づかずそのまま激突してしまった。

俺は右腕の二の腕を枝が深々と刺さり貫通してしまっているのを見た。

 

「抜けない…………」

 

俺はぐいぐいと不快な感覚を我慢しながら脱出を試みるもなかなか抜けない。

不幸中の幸いだったのは足が地面に届く距離で刺さった事だ。

もし空中でこんな状況になったら自分の体重で右腕に感じる不快な感覚が増大していただろう。

 

「まぁ、こんな状態でモンスターが出てきたり……………」

 

完全にフラグだった。

森の奥から白い狼が音も出さずにわんさかと現れてきた。

只でさえ数が多くて面倒なモンスターなのに今は右腕が枝に刺さって身動きがとれない。

……………勘弁してくれよ………………

 

「グルルルルル」

 

「俺はヤギでも豚でも赤ずきんでも無いですよ?」

 

俺は唸り始めた白狼達に尋ねてみた。

勿論、返事は返ってこない。

 

「ガルルルルル」

 

むしろ、唸り声がグルルルからガルルルに進化してしまった。

頭の中ではふざけている俺だが実際かなり危険な場面である。

 

「どうするかな………」

 

俺は右手を握ったり閉じたりして使えるか確かめる。

俺の右手は震えながらも握ったり閉じたりしたけど戦闘の役には立たなそうだ。

というか、刺さって動けないし邪魔になっている。

 

「仕方ないな、来いよ狼さん。腹引き裂いて石詰め込んで井戸の代わりに池に落としてやるよ」

 

俺はいつもとは逆で左手に愛剣のエリュシデータを構えて狼の襲撃に立ち向かおうとした。

狼達は俺のカッコつけた言い方に怒ったのか一斉に飛び掛かり襲ってきた。

白くて鋭い牙が俺の足や腹、腕を狙っているのがよく見える。

 

「アニメの主人公とかがやる事だと思ってたよ!!」

 

俺は笑い叫びながらエリュシデータで襲い掛かる狼ではなく自分の右腕を切り裂く。

ザシュッと生々しく肉を断つ音が周辺に響き渡った。

上手くいくかは分からなかったけど右腕切断は成功したようなので、俺は狼が来る前に右に飛んだ。

 

「せりゃぁー!!」

 

左手一本になった俺は攻撃を避けられて自分の牙を木に食い込ましている狼達に向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「右腕が治らない」

 

狼達を倒した俺はヒュラースが引きずり込まれた池を探して歩いていた。

あの後も狼以外に蜂とかに襲われたけど何とか生き延びている。

巨大な可愛いリスが出てきた時は斬っても良いのか迷ってしまい危うく死にかけた。

目を光らせてきぃるきゅる言ってくるんだもん。

斬ったら可哀想だろ?

 

「結晶でも治らないって茅場さんちゃんと仕事してるのか?」

 

利き腕を失った事をこの世界を何処かで観賞しているだろう人物の茅場さんに軽く愚痴る。

まぁ、最終的にはエリュシデータの性能が凄かったって事で納得しておく。

 

「あら、坊や?怪我をしているのかしら?」

 

突然、知らないお姉さんの声が聞こえたので俺はその場から飛び去る。

一応エリュシデータも構えて戦闘準備もしておく。

 

「警戒しなくて良いのよ?私はあなたが好きなだけだから」

 

今度は違うお姉さんの声がしてきた。

俺は声がした場所を特定したので声がした場所へ駆け出した。

左手で腰まで伸びている草を掻き分けながら進んだ。

 

「泉?いや、池か?」

 

「ほら、いらっしゃっい。傷を癒してあげるわ」

 

池には妖艶な雰囲気で2人のお姉さん達が俺に手招きをしていた。

どう考えてもヒュラースが引きずり込まれた池だ。

俺は分かっていながらも行くような馬鹿ではない。

そのキャラは俺ではなくクラインだからな。

 

「ひゅ、ヒュラースをか、返してくれませんか?」

 

こんな時でも俺のコミュ障は健在している。

水色のビキニを着ているお姉さん、妖精のニンフ達は微笑みから顔を崩して悔しそうにした。

ヒュラースは美しいから引きずり込まれたんだよな?何で妖精達は俺まで引きずり込もうとしてるんだ?

 

「来ないなら無理矢理にでも!!」

 

「分かっているわ!!」

 

妖精達は池から出てきて池の上で浮かんでいた。

 

「羽があるのかよ………」

 

妖精達は引きずり込む気満々なので俺は逃げだした。

女を斬りたくないし左手だけで勝てるとも思っていない。

ここはヘラクレス達と合流するのが最善策だろう。

 

「逃がさないわよ!!」

 

「逃がして下さいよ………」

 

妖精達は俺の周りを回りながら笑っている。

まるで、遊ぶように飛び回る。

 

「残念だったわね」

 

「やば!!」

 

遅かった。

妖精の1人が俺の両足を掴んで池に放り投げた。

俺は何の抵抗も出来ないまま池に沈んでしまう。

 

「クソ、何する気だよ」

 

この池は他の水辺と違い息は出来るしHPも減らない。

抵抗がある無重力空間にいるようだった。

 

「坊やは私と結婚するのよ」

 

「は!?」

 

池に入ってきた俺を放り投げた妖精が俺の耳元で囁いた。

驚きと気味の悪さに俺は逃げた。

けど、妖精は俺の事を逃がすつもりは全く無いので俺の左腕を掴んで引き寄せた。

 

「死ぬまでずっと私と一緒に暮らすの。どう?嬉しいでしょ?」

 

妖精は俺を絡み付くように抱き締めながら勝手な事を不気味に笑いながら言ってくる。

こんな所でずっと暮らすのは絶対に嫌なので水で動きにくいけどがむしゃらに動いて抗う。

すると、

 

「い、嫌がってますので離してあげましょうよ………」

 

俺はその小さな声で抗うのを止めた。

底が見えない池の隅っこから出てきた黒いロングヘアーで白いワンピースを着た小さな妖精がいたのだ。

しかも、驚いた事に俺を助けようとしているのかお姉さん妖精を説得している。

 

「お前はお黙り!!一番したっぱのお前が口出しするんじゃないよ!!」

 

「あう!!」

 

俺を取り巻いているお姉さん妖精が少女の妖精を一喝して少女妖精の頬にビンタをかました。

 

「おい!!仲間だろ!?」

 

「違うわよ、あんな誰の子かも知らない奴なんて仲間じゃ無いわ。それにあいつは性格が品曲がってるからね」

 

「ざけんな!!」

 

俺はお姉さん妖精に苛立ちを覚えたので全力の左ストレートを顔面に食らわせた。

 

「坊や!!」

 

「お前のような奴と結婚するわけ無い!!」

 

俺はお姉さん妖精に言ってやった後、池の上を目指すのではなく逆に底に向かった。

あの少女を助ける為に。

 

「おい!掴まれ!!」

 

「何ですか………」

 

「焦れったい!!」

 

「きゃぁ!?」

 

池の隅っこに居た少女妖精はすっかり元気がなくなってしまい体操座りで丸くなっていた。

そんな少女をもうほとんど誘拐の形で連れ去る。

 

「逃がさないって言ってるでしょ!!」

 

左腕で少女妖精を担いでいる俺は足しか撃退方法が無い。

それでも俺は諦めない。

俺は池の壁を利用して推進力を高め始めた。

赤い帽子を被ったおっさんがやってるように水中で壁蹴りを繰り返してどんどんスピードを上げていく。

 

「おら!!」

 

「かはっ!!」

 

スピードに乗った状態でお姉さん妖精の腹に膝蹴りをお見舞いする。

スピードがあると言ってもただの蹴りなので攻撃力には自信がないけど動きを止めるには十分だった。

俺はくの字に曲がったお姉さん妖精を踏み台にしてさっきと同じように壁蹴りを始めた。

 

「待ちなさい~!!」

 

妖精の姿は微塵も感じさせなくなったお姉さん妖精は悪魔の如く両手を伸ばしてきた。

しかし、俺は既にイルカみたいに池から飛び出していた時だった。

俺は地面に着地をして余りのスピードに気を失ってしまった少女妖精を心配しながらも船に向かって走り出した。

 

「後言っとくけどな!!俺は結婚相手をとっくに決めてんだよ!!」

 

俺はコツも使って加速してお姉さん妖精が追ってこなくなるまで走り続けた。

後ろからは、何ですって~っと悪魔の声が聞こえてきたけど俺は自分が勝手に決めた結婚相手の元に急いだ。

 

「………………この子どうしよう」

 

俺は頭を振ってお姉さん妖精(悪魔)から逃げる事だけに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュラース、ごめんなさい。

 




ユイちゃんのイメージはSAOでのユイちゃんにALOでの羽が付いた感じですね。
最初っから妖精のユイちゃんでした!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話 絶剣

テスト………


「アイ~!!」

 

俺は船を視界に捉えた時、アイの名前を全力で叫んだ。

あれから一度も後ろを振り返っていないのでお姉さん妖精が付いてきているかは分からないけど、背中へのプレッシャーが凄いので付いてきているのだろう。

 

「何ですか~………って、その腕!!何があったんですか!?それに何を担いでいるんですか!?」

 

「助けてくれ!!」

 

アイが甲板から気怠げに顔を出したかと思うと、目を見開きながら身を乗り出して俺の格好に混乱する。

俺はとにかくアイが居る甲板に向かって飛ぶ為に走るスピードを上げた。

アイも俺が飛んで来るのを分かってくれたので両手を出して受け止める構えをしてくれた。

 

「行くぞ!!」

 

「カモーンです!!」

 

俺はアイの居る所に向けて膝を曲げ全身を使い跳躍した。

今までにない高さを飛ぶので緊張していたけど毎日行っているコツの練習が功を奏しギリギリだけど俺はアイに飛び込んだ。

 

「むきゅうっ!!」

 

しかし、可愛い声を出したアイは俺と少女妖精を受け止めきれず後ろに倒れこんでしまう。

それでもすぐに起き上がって俺の右腕を見て慌て始めた。

 

「って、か、和人様!?腕!腕が!!」

 

「それよりこいつを頼む!!」

 

「和人様!!」

 

心配してくれているアイには悪いけど俺は担いでいた少女妖精をアイに預けるとお姉さん妖精を撃退するために船から飛び降りた。

案の定、お姉さん妖精は羽を使って追い掛けてきていた。

 

「私の夫になる気になったのね?」

 

「言っただろ?俺は結婚相手を決めてるんだよ。あいつ以外の夫になる気は無い」

 

俺は地面すれすれを飛んでいるお姉さん妖精に走った。

慣れない左腕での攻撃も二刀流を使う時の練習だと思って我慢する。

 

「せい!!」

 

俺はエリュシデータを自分の左下から右上に払った。

急には止まれないと考えこのまま顔面から真っ二つに斬ってやろうと思ったのだがお姉さん妖精は小回りが利くようで体を捻って攻撃を避けた。

 

「あまいわよ!」

 

お姉さん妖精は俺の剣が届かない所まで上昇し天に手を掲げる。

すると、何にも無かったお姉さん妖精の周りから水の塊が幾つも発生してきた。

そして、その水は勢い良く俺に降り注いできた。

 

「魔法!?」

 

剣が届かない所からの遠距離攻撃。

それでも俺は弾丸級の威力を持つ水の塊を紙一重でかわしていく。

水の塊が地面に着弾すると地面が抉れて威力の高さを感じさせる。

 

「あら?意外とやるわね。じゃあ、これはどうかしら?」

 

お姉さん妖精は手をピストルの形にして俺に向けた。

お姉さん妖精の人差し指からは水が染み出てきて明らかに水を発射させる態勢だ。

俺はいつでもよけれるようにお姉さん妖精の指先に集中した。

 

「ばん!」

 

ありがたい事にお姉さん妖精が発射タイミングを自分から言ってくれたので俺は難なく水鉄砲を避けれた。

しかし、水の塊が降ってくる攻撃よりも遥かに技のスピードが速いので少しでも集中を切らすと体を撃ち抜かれてしまうだろう。

………このお姉さん妖精って俺を殺しにきてないか?

 

「次行くわよ」

 

余計な事を考えてしまったせいでお姉さん妖精の水鉄砲への反応が遅れてしまった。

俺は反射的にエリュシデータを水が飛んでくる部分、俺の腹の前に置いて水を弾く。

水はエリュシデータの剣身に当たると弾けて消滅した。

そこで俺はある可能性を考える。

 

「まだまだ、行くわよ!!」

 

お姉さん妖精は両手をピストルの構えにしていた。

俺は迷い無く剣を構えて受けてたとうとする。

 

「くらいなさい!!」

 

お姉さん妖精がどんどん指先から水を発射してきた。

俺は自分に当たる水と自分に当たらない水を瞬時に見極めてから自分に当たる水だけをエリュシデータで凪ぎ払う。

 

「はぁぁ!!」

 

斬って斬って斬りまくる。

重いエリュシデータに振り回されながらも俺は無理矢理体を動かして水を斬り続ける。

 

「そんな!?」

 

さすがに驚いたお姉さん妖精の攻撃が止んだ所で俺は1つの反撃にでる。

俺はエリュシデータを逆手に持ち替えて左腕に力を溜める。

投擲ソードスキル”バーストショット”

全ソードスキルの中で唯一の溜める時間が長い程威力が増す、投擲ソードスキルの最上位技。

けれど、今のタイミングでは限界まで溜める時間が無いので全力の半分と少し位の威力になってしまう。

 

「おらぁぁぁ!!!」

 

しかし、俺は威力など関係なくエリュシデータを空中にいるお姉さん妖精に投げ放った。

エリュシデータは赤黒いオーラを発しながら正確にお姉さん妖精の胸に吸い込まれていく。

 

「ぎゃぁぁ!!」

 

エリュシデータはお姉さん妖精の胸を貫通して風穴を開けた。

お姉さん妖精の向こう側の空が胸の風穴から見える。

俺はこの一撃で終わってくれと心の中で祈っていた。

 

「ま………だ、終わってないわよ!!」

 

お姉さん妖精は落下しながら俺に突っ込んできた。

バーストショットは威力が高い分発動後の硬直が長い。

それに本来バーストショットは剣で発動する技じゃない。

よって、今の俺は受けて立つ剣が手元に無いしメニューからダークリパルサーを出そうにも体が動けないので為す術が無かった。

 

「くそっ………」

 

「坊やは私の夫にならないといけないのよ!!」

 

攻撃を受けるだけなら何とか耐えられるかもしれないけどお姉さん妖精は俺を連れ去ろうとしているのでお姉さん妖精にとって絶好のチャンス。

俺は連れ去られるのを覚悟して目を瞑った。

 

「させない!!」

 

「なんだと!?」

 

来るはずのお姉さん妖精が来ないので俺は恐る恐る目を開いた。

何と、俺の目の前には紺色の服を着た女の子がお姉さん妖精を剣で受け止めていた。

 

「木綿季!!」

 

「大丈夫!?」

 

木綿季はお姉さん妖精を払いのけて俺の隣に来てくれた。

心配そうに俺の右肩を擦ってくれる。

 

「大丈夫、ありがとな」

 

俺は木綿季を安心させる為に笑った。

木綿季は頷いてから敵のお姉さん妖精を睨んだ。

 

「あの妖精が?」

 

「いや、あの妖精じゃないよ。ちょっと狼に襲われた時に自分で切った」

 

「でも、和人を連れ去ろうとした………夫にするって言った………」

 

怒りで木綿季は俺を本名で呼んでいる。

こんなに怒ってくれるなんて場違いだと分かっていても嬉しいと思ってしまう。

 

「そんなのボクが許さない!!」

 

木綿季は飛ぶ力が無いのか地面に立っているお姉さん妖精に走った。

 

「やぁぁ!!」

 

木綿季は服と同じ色の紺色をした剣をお姉さん妖精に突いた。

片手剣にしては細く細剣にしては太い、片手剣と細剣の間ぐらいの細さをした剣。

 

「貴様なんぞに!!」

 

お姉さん妖精は水の剣を作り出して木綿季の攻撃を受け止める。

しかし、木綿季の攻撃は終わらない。

 

「まだだよ!」

 

木綿季は連続で剣を突いたり払ったりていく。

お姉さん妖精は後退りながら木綿季の剣を受けているけど間に合っていない。

木綿季の剣を受けきれなくなって、かすり傷が増えていく。

 

「ここ!!」

 

「うっ!!」

 

木綿季がお姉さん妖精が持つ水の剣を弾いて大きな隙を作った。

勿論、木綿季は作った隙を無駄にはしない。

 

「せやぁぁぁ!!」

 

木綿季は何と片手剣で見たことの無い突き技のソードスキルを放った。

木綿季は剣が霞んで見える程の速さでお姉さん妖精の腹に十字を描きながら突いていく。

神速の十連撃を放っても木綿季の攻撃はまだ終わらない。

木綿季は最後の一撃を今まで突いてきた十字の真ん中に撃った。

お姉さん妖精の後ろから木綿季が撃った最後の突き攻撃の衝撃波が広がる。

 

「貴様………」

 

「和人は渡さない!!」

 

木綿季が剣を引き抜いた時、お姉さん妖精は水色をしたポリゴンになって消えていった。

 

「和人!!」

 

木綿季は剣を鞘に収めると振り返って唖然としている俺の元に駆け寄ってきた。

やっぱり俺の右腕を心配している。

 

「木綿季、今のスキルは………」

 

「あ、結構前にスキル欄に出てきたボクだけのエクストラスキル。今のソードスキルはマザーズロザリオって言うんだよ」

 

俺の右肩に手を置きながらスキルの説明を木綿季がしてくれた。

俺だけじゃなく木綿季にもユニークスキルが現れていたらしい。

これで俺が把握しているユニークスキルを出現させているプレイヤーは3人になった。

神聖剣のヒースクリフ、二刀流の俺、そして、木綿季の突き技。

 

「名前は絶剣、片手剣のソードスキルも出せるし細剣のソードスキルも出せる、それに新しいオリジナルのソードスキルも出せる。スキルと同時に手に入れたこの剣の性能は片手剣と細剣の良いとこ取り!!」

 

木綿季の絶剣は二刀流と同じでほとんどチートスキルだった。

ユニークスキルって物は1つだけでもゲームバランスを変えてしまう程の代物のようだ。

 

「対人戦闘が有利に進むんだよね。モンスター相手にも楽に戦えるよ」

 

そりゃそうだろう。

3つのソードスキルがバンバン使えるんだ。

色んな場面の対処が出来る便利なスキルだと思う。

 

「カッコ良すぎるだ……ろ………」

 

自分で右腕を切ったり水中でのもがきと壁蹴りしたり少女1人を担いで1キロ以上の全力疾走で俺は疲れているのか目眩がしてきた。

HPはたっぷりあっても精神の限界がきてしまったらしい。

俺は側にいる木綿季に倒れこんでしまう。

 

「え、和人!?しっかりして!!起きてよ和人!!」

 

木綿季が俺を抱き抱えながら必死に俺の名前を呼んでいる。

俺は力を振り絞って木綿季の頭を残された左手で撫でる。

こうすると木綿季が喜ぶと思ったからだ。

 

「少し寝るから…………ベットまでよろしく………」

 

俺は木綿季の腕の中で眠った。

 




だんだんテストが近づいて来てるのをさっき気が付きました。
勉強をしないと行けないので次回の更新が3月になるかもしれません。
自分としては2月中にもう一回更新したいです。
テストが終わればまた更新するので皆様どうか気長にお待ちください。

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話 食べられない

ゴッドイーター2レイジバースト
リッカの
”ブラッドレイジ、発動!!”
あの声が自分の中で凄く好きです!!


「起きましたか?」

 

「ま、まだ寝てるよ!!」

 

アルゴー船のとある一室。

今回の長時間クエストで疲れた時に使うこの寝室には早速1人の少年がぐっすりと眠っていた。

ボクは彼の寝顔をもう1時間ほど眺めていた。

和人は見れば見るほど綺麗な顔立ちなので嫉妬してしまう。

ボクは顔を近づけて頬を膨らましてみる。

そんな時に、アイちゃんが寝室に入ってきたのでボクは背筋をピンっと伸ばして誤魔化した。

彼氏の顔に嫉妬するか、彼女ってどうなんだろね?

 

「腕が治らないのは不思議だけど、ただ寝ているだけだよ。………妖精さんは?」

 

「大丈夫ではあるんですが………常にオロオロしているのでサチ様1人が付いてもらっています」

 

和人がお姉さん妖精から必死で逃げながら連れて(誘拐して?)きた女の子の妖精さん。

和人に何が起きたかを知ってると思ってボクが質問すると妖精さんは半泣きで、ごめんなさい!っと何故か謝られてしまった。

ボクは結構ショックを受けたので、そのショックを癒すために和人の顔を見つめていたのだ。

 

「それにしても3人おいてきちゃったね」

 

有名なヘラクレスさん、巨人さん、それに美少年さんを思い浮かべながらボクは申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「問題無いですよ。現実の神話でもおいてきてますしね」

 

「そ、そうなんだ………」

 

アイちゃんは素っ気なく答えた。

余りの素っ気なさに少し引いてしまうほど。

和人>友人>知り合い>他人

からかったり悪戯したりするけど、結局は和人絶対主義者のアイちゃんにとって3人はどうでもいい人達なんだとボクは思う。

まぁ、ボクも和人絶対主義なんだけどね。

 

『あと1時間ほどでトラキアに到着する。各自用意をするように』

 

いきなりのイアーソーンの放送で和人を眺めながら呆けていたボク達は見合わせた。

 

「皆の所に行こっか!!」

 

「そうですね」

 

ボクはアイちゃんに手を差し出した。

アイちゃんもボクの手を取って笑ってくれた。

娘と手を繋いでボクは皆が居る部屋に行く。

ボクの当面の目標、

 

”アイちゃんにボクの事をママと呼ばせる!!”

 

このクエスト中には呼ばせて見せる!!

ボクは握る手を強めながら心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラキアの街はイルオルコスよりも田舎ぽかった。

スラムって訳ではないけど豪華でもない。

木造の建物が多くある事でそう感じさせているのかな?

そんな、トラキアのお店にはキラキラ光る置物が幾つも売られていた。

 

「キラキラですね」

 

「これは、金細工かしら?」

 

目を輝かせているシリカちゃんを隣にアスナが呟いた。

指輪にペンダント、それに動物のアンティーク。

全部が金色に光っていて眩しいくらい。

サチ、リズ、それにアルゴまで金細工を眺めている。

それもそのはず、こうゆうアクセサリーとか置物はボク達女の子にとって凄く魅力的。

………でも、その女の子の気持ちを全く分かってない男性陣が()()

 

「女の子はこんなキラキラしているのが好きなのか?」

 

現実よりも耳が長いうさぎのアンティークをじーっと見ながらクラインが考え込んでいる。

何が良いのか全然分かっていないみたい。

だから、振られちゃうんだよ!!

 

「俺はどうしても商売の事を考えちゃうな」

 

エギルは顎に手を当てて店に並んでいる金細工を1つ1つ見比べている。

顔は商人の顔になっていて現実で言う目利きをしてるんだと思う。

クエストから帰ったら売る気だね。

 

「キリトならそんな事言わずに”綺麗だね”ぐらいは言えるよ!!」

 

ボクは我慢ならず地団太を踏んで2人に言った。

和人はトラキアに着くまでに目を覚まさず今もベットの上で寝ている。

このままあの時みたいに目を覚まさないかもしれない?って心配になったけど、…………ねこまたん………こんな寝言を言われたら心配したボクが馬鹿みたいだよ………

どんな夢か気になったけど。

 

「あいつの価値観は少し女の子に似ているからな」

 

「うっ………」

 

クラインの返しにボクは言葉を詰まらせる。

だって、本当なんだもん。

昔からケーキが好きだし動物好き。

アイちゃんによれば現実で和人はずっと家の事を全てこなしていたらしい。

専業主()じゃなくて専業主()になっていたらしい。

 

「マ、キー坊はカッコイイ所もあるからナ。女性、男性、キー坊ダ!」

 

ニャハハハ!!っと鼠の天敵である猫の笑い方でアルゴは笑った。

違いねぇっとクラインとエギルもわっはっはっはっと笑う。

この3人仲良いね。

 

「あ、あの………」

 

「ん?」

 

そんな時、ボクは裾を引っ張られて隣を見た。

長すぎるローブで歩きにくそうになっている黒髪ロングの少女、正体は和人が連れてきた妖精さん。

寝ている和人以外にボク達プレイヤーが居ない船にイレギュラーの妖精さんを1人にするのはどうかと思って連れてきちゃった。

常にアイちゃんが側に居るから安心だしね。

因みに和人の部屋には鍵が掛かっているし、鍵もボクが持ってるからそちらも安心。

妖精さんと和人を一緒にするのもちょっと心配だしね。

どちらもコミュ障だし………………

妖精さんの隣にアイちゃんは少し嬉しそうにニコニコしている。

 

「人間の性別は女性と男性ですよね………?キー坊と言う性別は無い筈ですが………」

 

「冗談!冗談!キー坊はあだ名だよ。ほら、妖精さんを連れてきた男の子」

 

ボクは少ししゃがんで妖精さんと同じ顔の高さで答えた。

元々身長が低いボクは本当に少ししゃがんだだけで顔が同じ高さになる。

なんか悲しいよ………

 

「なるほど、冗談ですか」

 

妖精さんはフムフムと頷いて納得していた。

必要無いとは思うけど一応着る事になったローブがピクピクと動いた。

背中の羽が犬の尻尾のような仕組みで感情を現してるみたい。

 

「そこ!!さっさと行くぞ!!」

 

ずっと前を歩いているイアーソーンがボク達に一喝した。

イアーソーンの愚痴を溢しているリズを宥めながらボク達は前に歩きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む………わしを助けてくれ………」

 

「うわぁ………」

 

イアーソーンに連れられて来たのはトラキアに立てられた大きなお城。

外観はとても綺麗なお城でネズミーランドにあるお城に少し似ていた。

しかし、中に入るとボクはガッカリした。

ボクだけじゃなく女の子皆はもちろん、男性2人も流石に拍子抜けだと肩を落としている。

城の中は窓が殆どなくて廊下では蝋燭の火が不気味に揺れていた。

そして、今ボク達と他に数人のNPCがいる王の間では蝋燭ではなく、まるでキャンプファイヤーのような大きな火が燃え盛っていた。

王の間はお化け屋敷みたいで怖い。

 

「あの人誰?」

 

そんな中、恐怖を物ともしないリズが金色の王座に座るヨボヨボのお爺さんを指差して言った。

 

「ピーネウスですね。ご飯を食べる時にある事が起きてご飯を食べられないんですよ。まぁ、原因はあるんですが………」

 

アイちゃんが教えてくれた。

 

「ご飯を食べられない?そりゃ大変だろうな」

 

「原因はなに?」

 

クラインがうへぇ~っと同情するようにヨボヨボ王を見ていた。

クラインはほっておいてボクはアイちゃんに訊いてみた。

 

「ピーネウスはアポロンから予言の力を授かった預言者なんです。でも、あまりにも予言をし過ぎてゼウスの怒りを買ってしまいましてね。ご飯を食べる時になるとハルピュイアがピーネウスのご飯を食べに来るんです」

 

ボクはアイちゃんの話で何故この城に窓が無いのか納得した。

ヨボヨボ王のピーネウスはどうにかしてそのハルピュイアから自分のご飯を守ろうとしたんだ。

 

「そして、ご飯を食い散らかした後、残りカスに糞を落として帰っていくんです」

 

「そ、それは………」

 

「やりすぎです………」

 

ボクとシリカは後退りをしてしまう。

調子に乗って沢山予言してしまったのは悪いけど………さすがにその罰は………

 

「酷い話ね~、そう思わない?アスナ………ってアスナ?」

 

「ゴメン、私今回何も出来ない………」

 

リズは苦笑いをしながら後ろにいる筈のアスナに言った。

が、アスナはこの中で一番たくましいエギルの後ろで震えていた。

何かに怯えているようすだ。

 

「どうしたんですか?」

 

アイちゃんがアスナに尋ねた。

妖精さんもアイちゃんの隣で心配そうにアスナを見ている。

……………姉妹!!

 

「ちょっと雰囲気がね………」

 

アスナは指でお化け屋敷のような王の間全体をクルクル指し回した。

エギルは美人さんにあんな形で頼られているのに照れもせず困った顔をしている。

 

「もしかして、アスナってお化けとか駄目?」

 

「ッ!!」

 

アスナは肩をビクッと震わせた。

そして、完璧に涙目になりながらボクに向かって頷いてくれた。

アスナにも弱点がある事が分かった貴重な瞬間だね!!

 

「へ~!アスナにも怖い物があるんだ!!」

 

「内緒だからね!!」

 

アスナは顔を真っ赤にしながら必死にボク………と言うかこの場の皆に訴え掛けた。

よくよく考えると、何層か前にゴースト系のモンスターが出てくる迷宮区があったけど、その時アスナを一度も見なかった気がする。

 

「怖い物は誰にでもありますよ。私もお化け嫌いですから」

 

サチがアスナをフォローしようと笑顔でアスナの肩に手を置いた。

けど、全く怖がっていないサチの言葉はこれっぽっちもフォローになっていない。

 

「フォローになってないよ!!」

 

アスナはボクと同じ事を考えていたらしくサチに向かって叫んだ。

サチはポワポワと笑っただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、王のご飯を囮にして襲ってくるハルピュイアを撃退すればいいんだナ」

 

アルゴがイアーソーンの無駄に長い説明を簡単にまとめて言った。

 

「本来は別の方法です。戦うのでは無く追跡して襲わないと約束させるだった筈なんです………」

 

アイちゃんは申し訳なさそうに妖精さんをチラ見している。

予想とは違って戦闘することになってしまい、アイちゃんは妖精さんに罪悪感を抱いている。

ボクはアイちゃんの頭を撫でて言った。

 

「妖精さんはアイちゃんがしっかりと守ってあげるんだよ!!」

 

アイちゃんは妖精さんを心配させないようになのか、ボクの言葉で勇気を貰ったのか分からないけど、胸を張って答えた。

 

「はい!!」

 

妖精さんは小さく、ご迷惑をお掛けします………っと今にも消えそうな声で小さく礼をした。

そこで、

 

「お?旨そうな料理が運ばれて来たぞ。やっぱ、SAOの料理は短縮化されまくってるな」

 

クラインはボク達が入ってきた大きな扉が開く音に誰よりも速く反応した。

扉からは沢山の豪華な料理が黒服の執事が押す台によって運ばれてきた。

 

「あれって、クリスマスとかのパーティーに出されるローストチキンだよな?」

 

「………何で鳥ばっかなのかしら?」

 

エギルとアスナが誰に言うのでもなく自分の疑問を呟いた。

ボクは次々と運ばれてくる料理を1つ1つ見てみる。

アスナの言う通りどれも鳥ばっかりの料理でデザートにさえ鳥が入っている。

 

「あ~、悪足掻きと言いますか………多分ハルピュイアに対する嫌みですね」

 

アイちゃんが王座にヨレヨレと座っているピーネウスを悲しそうな目で見ている。

 

「そもそも、ハルピュイアってなんなの?」

 

リズが愛用のメイスを野球のバッターのように振り回してアイちゃんに訊いた。

リズの後ろではエギルがリズと同様に斧を豪快に振っている。

迫力が違う………

 

「え?あ、すいません。分かりにくかったですよね。ハルピュイアはハーピーの事です」

 

「ハーピー?あの頭と胸は女性で後は鳥の?………あぁ、だから鶏肉ばっかりなんだね」

 

ボクはハルピュイアがハーピーだと知りピーネウスの鶏肉料理の意味が分かった。

 

「共食イ?………にゃはははは!!!」

 

「ちょっと、アルゴさん!!聞こえちゃいますよ!!」

 

アルゴの猫笑いをシリカちゃんが慌てて止めようと頑張ってアルゴに詰めよっている。

でも、アルゴの気持ちは分かる。

鼬の最後っ屁にすらなっていない無駄な抵抗。

哀れだよ………愚かだよ………男ならガツンと堂々としていなよ………

 

「戦闘用意!!」

 

料理のセッティングが終わってイアーソーンが叫んだ。

ピーネウスは左手にフォーク、右手にナイフを持っていつでも料理を食べられる状態にあった。

このままガブッと目の前にある豪華な鶏肉達を食べられる気がした。

だけどその時、

 

「AAAAAA!!!!」

 

「来た!!」

 

The 怪物っと呼ぶべき叫び声が響いた。

ボク達はさっきまでの、のほほんとした雰囲気から一変して、全員が戦いの為に頭を切り替える。

ボク、エギル、クラインが前衛。

アスナ、サチ、リズが中間。

短剣使い3人組のアイちゃん、アルゴ、シリカちゃんが後衛。

そして一番後ろに妖精さんがいる。

まずは、未知の怪物の攻撃パターンを解析するからこの陣形をキープしていく。

ボク達は王の間の扉に集中した。

 

ドカアァァァン

 

「「AAAAAA!!」」

 

2体の怪物ハーピーが扉を無遠慮に破壊しながら王の間に飛び込んで来た。

ほぼ想像通りの姿。

色は、一方は青い羽を持っていてもう一方は赤い羽を持っている。

しかし、予想外の部分が一部あった。

 

「「「「「「「「「顔怖!!!!」」」」」」」」」

 

「いやぁぁぁ!!」

 

ボク達はハーピーの恐るべき顔に鳥肌が立ち思わず叫んでしまった。

後ろの妖精さんが泣きだしてしまう程の恐ろしさ。

 

「「AAAAAA!!!」」

 

”Glacies Harpyia”  ”Flamma Harpyua”

 

ボスの名前が読めないよ………




遅くなりました~!!
本当にすいません!!

では、久しぶりに…………

評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話 氷には氷を

聞いて!聞いて!!
期末テスト!!数学が学年1位なんだよ!!
凄いでしょ!!ね!?ね!?
因みに97点!!

聞いて!聞いて!!
期末テスト!!国語が学年最下位なんだよ!!
凄いでしょ!!ね!?ね!?
因みに23点!!

喜べば良いのか…………悲しめば良いのか…………誰か教えて…………


「KAKA!KA!!」

 

ボク達を嘲笑うかのように青いハルピュイアは攻撃が当たらない上空を飛びまわっている。

そして時折、翼を羽ばたかせて強風を吹きかけてくる。無駄に広い王の間があだとなった。

 

「風がくるぞ~!!」

 

エギルが叫ぶと同時に、ボク達は青いハルピュイアの風を凌ぐために一列に並ぶ。

先頭のエギルが一番の壁となり皆を守る。

ボク達は壁のエギルを支える。

 

「ふぬぅ!!」

 

青いハルピュイアの風を根性で乗り切った。

しかし、ただの風を受けただけなのにエギルのHPは黄色になっていた。

それに相手の青いハルピュイアのHPは全く減っていない。

とっても理不尽な戦いだよ。

 

 

「向こうは良いよね」

 

ボクは赤いハルピュイアが居る方を見た。

赤いハルピュイアと戦っているのはなんとイアーソーンを始めとするアルゴノーツのNPC達。

向こうには何故か弓を装備しているNPCが居るので矢を射って赤いハルピュイアのHPを少しずつだけど着実に減らしている。

 

「キリト君が居れば剣を投げたり、糸で敵を下に落とす事も出来ると思うんだけど………」

 

「キリトが居るのは夢の中だからね」

 

アスナが悔しそうに上空を見上げて青いハルピュイアの怖い顔と睨み合い始めた。

和人曰く”アスナの睨みは凄い………本当に凄い………”らしい。

心なしか青いハルピュイアが少し引き下がった気がする。

 

「なら………」

 

「………ユウキちゃん?」

 

ボクが意味あり気に呟くとクラインが心配そうに振り返った。

リズは何故かボクの後ろで呆れている。

 

「どうしたの?」

 

ボクはクラインとリズに尋ねてみた。

 

「いや~、ユウキちゃんが良からぬ事を考え付いたと思ってね………」

 

クラインが頭を掻きながら言った。

クラインにとっての良からぬ事基準は分からない。

けど、クラインとボクの基準は多分大きく違う。

クラインにとって、ボクが考えた攻撃方法は良からぬ事なんだね。

 

「エギルの両手斧でボクを上にバ~ン!!」

 

ボクは両手を広げて笑顔で叫んだ。

笑っていれば大抵の事は何とかなるっと翠さん………お母さんが言っていた。

反対しそうなクラインもこれで何とかなるよね!!

 

「ユウキって変な所がキリトに似てるわね」

 

「へ?」

 

「キリトって上に飛びたがるじゃない。雪山のドラゴンを倒そうとした時も上に飛んでたわ。まぁ、あの時はアイちゃんが飛んだんだけど………」

 

思わず言葉を失ってしまった。

ついでに両手をばんざいしながら動きが止まってしまう。

 

「そんな事もありましたね」

 

後ろで妖精さんを守っている短剣3人組の1人であるアイちゃんが、その時を思い出している。

言い方からして成功したみたい。

なら、ボクも成功するよね!!

ボクは軽いと思うし………

 

「やるなら早くやんぞ!!」

 

エギルが両手斧をボクが乗れるように下げてくれていた。

普通の両手斧より一回りだけ大きいエギルの両手斧。

今は大きな団扇みたいになっている。

 

「え、本当にやるのか!?」

 

「ボクが嘘を吐くとでも?」

 

「早く乗れ!!風と同時に飛ばす!!」

 

クラインに全身全霊渾身全力の100%で作られたウィンクをお見舞いしてからエギルの両手斧に飛び乗った。

シリカちゃんが後ろで可愛く騒いでいるけどボクの意識は怖い顔の青いハルピュイアに向けられている。

 

「エギルさん、発射用意!!」

 

「おう!!」

 

こんな時でも冷静なアスナはエギルに指示を出した。

その姿はまるで軍師。

攻略の鬼と謳われるアスナはボクが、ボ~ン!!した方が勝率が上がると判断してくれたらしい。

流石ボクの親友だね!!

 

「翼を斬り落としてくるよ!!」

 

「お願いね!!……………エギルさん、発射!!」

 

「よっしゃぁぁぁ!!!」

 

アスナの命令で発射台が動き出す。

右下に両手で構えられていたエギルの両手斧が黄色いオーラを発生する。

両手斧ソードスキル”スマッシュ”

右下から左上へと振り上げられたオーラを出している両手斧は弾丸役のボクを速度十分で弾き出した。

 

「堕ちてもらうよ!!」

 

ボクは速度を緩めることなく青いハルピュイアに突撃していく。

片手剣ソードスキル”サベージ・フルクラム”

剣が青黒いオーラを出してボクは実質3連撃のソードスキルを発動させる。

 

「せりゃっ!!」

 

ボクから見て右側の翼を狙い青いハルピュイアとのすれ違いざま、ボクは一気に3回斬りつけた。

正三角形を書く斬撃は確実に青いハルピュイアの翼に直撃した筈。

青いハルピュイアよりも上に行ったボクは振り向いて下の青いハルピュイアを見た。

 

「って、嘘!?」

 

これで決まったと思っていたボクは予想外の事に目を見開く。

 

「AAAAAA!!」

 

翼………というより羽根の1枚1枚が氷だったのだ。

地面からしか見ていなかったから羽根が氷だって事に気が付かなかった。

今更だけど片手剣ソードスキルの斬より絶剣ソードスキルか細剣ソードスキルの突にすれば良かったと頭の中で考え直す。

 

「ユウキ!!」

 

下で受け止めの態勢をとっていたアスナが血相変えてボクの名前を呼んだ。

 

「AAAAAA!!」

 

落下していくボクを青いハルピュイアが狙い打つ。

氷の翼をナイフのように鋭利にさせて飛んでくる。

上空にいるボクは避ける事は出来ない。

下の皆が悲鳴をあげている。

しかし、ボクは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「まだ1撃残っているよ、怪鳥さん」

 

頭から地面に落ちていくボクは、逆さまになりながら右手で1を作り、青いハルピュイアに見せ付ける。

っと同時に青いハルピュイアの左翼から衝撃が発せられた。

サベージ・フルクラムの特徴、謎の追撃である。

正三角形を描いて少しすると、正三角形の中心から強力な衝撃波が生み出される。

どうして衝撃波が出るのかは誰にも分からない。

SAO七不思議に数えられてもおかしくないレベルだよね。

 

「GAAAAAAA!?」

 

っとまぁ、衝撃波の謎はともかく大事なのはその威力。衝撃波を受けた左翼は折れはしてないけど、だらりと垂れ下がっている。

飛べる状態ではないのは明らか。

青いハルピュイアはボクと一緒に落ちていく。

 

「アスナ~!!」

 

「ユウキ!!」

 

ボクは大好きな親友の胸に飛び込んだ。

親友もボクを優しく抱き止めてくれた。

 

「心配させないでよ!!」

 

「ごめんね」

 

ボクはアスナの抱擁のなかで謝る。

アスナの叫び声はボクの耳に一番響いたから、アスナがどれだけボクの事を心配してくれたかがよく分かった。

ボクは幸せ者だよ。

 

「っと、それじゃぁ………」

 

ボクはアスナから離れて青いハルピュイアの方を向いた。

落下ダメージが思いの外大きかったのか、青いハルピュイアはヨロヨロになっていて、えっちらおっちらと千鳥足だ。

これは絶好のチャンス。

 

「今までの分を倍返しにしちゃおうか!!」

 

ボク達は一斉に青いハルピュイアに飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青いハルピュイアをめったうちにしていると、ボク達はあることに気づいた。

 

「HPが減らない?」

 

シリカちゃんが青いハルピュイアのHPを見て愕然とする。

二段ある青いハルピュイアのHPはもうすぐ一段目を切ろうとしている。

でも、中々HPが減ってくれない。

 

「敵が立つわ!一旦離れて!!」

 

「うん!」

 

ダウン状態だった青いハルピュイアが起き上がろうとした。

アスナの指示でボク達は青いハルピュイアから飛び退いて、最初の陣形に戻る。

 

「なんで減らねーんだ?」

 

「最初は減ってたのによ」

 

横のエギルとクラインが嘆く。

そう、最初はソードスキルを当てるごとにがっくんがっくんとHPは減ってくれた。

でも、時間が立つにつれてボク達の攻撃は通らなくなってしまったのだ。

 

「どうしてなのかな……………ありゃ?」

 

ボクは自分の剣を見て、攻撃が通じない理由が分かった。

キラキラ光るボクの剣。

だけど、いくら綺麗であってもこれは迷惑だね。

 

「アスナー、剣が凍っちゃったよ」

 

刃の部分が氷にコーティングされている。

硬い氷なら問題無かったのだろうけど、この氷は軟らかい。

雪とか霜などに似ている。

 

「これが攻撃力を減らしているのかしら?」

 

「そのようね」

 

アスナも今気づいたようで自分の細剣に付いた氷を観察し始めた。

リズは自分の片手棍に付いた氷を剥がそうとしている。

けど、剥がせていない。

剣も槍も片手棍も、これだとクッションで攻撃しているのとほぼ同じ。

攻撃力は遥かに下がってしまう。

 

「氷の体………どうする?これだといつ倒せるか分からないよ」

 

ボクは作戦を考えているアスナに訊いた。

この瞬間にも青いハルピュイアはまた、上空に飛び立とうとしている。

 

「私の出番ですね」

 

アスナの更に後ろ。

妖精さんを守っているアイちゃんが前に出てきた。

自分の周りに雪を舞い散らせながら。

 

「私の短剣なら攻撃は通じるんじゃないですか?」

 

アイちゃんは自分の短剣”リフレクトハート”をアスナに見せた。

恐らくSAO唯一、氷属性を持ったアイちゃんの短剣。

これなら氷の体である青いハルピュイアにも攻撃は通じる、と思う。

目には目を歯には歯を氷には氷を戦法。

 

「ユウキとクラインさんはアイちゃんの援護。アイちゃんの代わりにサチさんが妖精さんのガードに入ってください」

 

「分かりました、あと私の事はサチでお願いしますね」

 

アスナが的確な指示を出していく。

ボクは前衛に出たアイちゃんの右前に急いだ。

アイちゃんの左前にはクラインがいる。

アイちゃんとクライン、そしてボクは逆三角形にフォーメーションをとった。

 

「アイちゃんのソードスキルを一回当てたら帰ってきて!!」

 

「「「了解!!」」」

 

ボク達は青いハルピュイアに向けて走り始めた。

それを見図ったように青いハルピュイアは翼を羽ばたかせて飛び立とうとした。

 

「ユウキちゃん!!」

 

「OK!!」

 

ボクは青いハルピュイアの左翼を、クラインは右翼にソードスキルを狙う。

ボクの剣から黄色い光が発せられる。

絶剣ソードスキル”セイクリッド・ソング”

一撃目は右腕を鞭のようにしならせながら降り下ろす。

青いハルピュイアの羽根がいくつか散った。

そして、そのまま一撃目の勢いを殺さずに一回転。

続く二撃目は遠心力で一撃目よりも威力が上がっている神速の突き。

地面を突き刺すつもりで青いハルピュイアの翼を撃つ。

 

「ラスト~!!」

 

最後に青いハルピュイアの翼を貫通させたまま、縦に剣を払う。

 

「GAAAAA!?」

 

剣が通った線上には数メートルに駆けて焦げたような痕が地面に残っていた。

クラインは刀ソードスキルで青いハルピュイアの右翼を攻撃を終えてソードスキル使用後の硬直にあっていた。

あの硬直の隙を考えると絶剣は硬直時間がほとんど無いから本当に便利だよね。

 

「アイちゃん!!」

 

「はい!!」

 

飛び立つのを阻止された青いハルピュイアは、翼への攻撃で地面にひれ伏していた。

ボクは振り向きながら呼んだ。

アイちゃんは青いハルピュイアの顔を見ていた。

何処を攻撃してもHPはほとんど減らない、それは人の部分を攻撃しても同じだった。

でも、アイちゃんの剣なら通じると信じる。

 

「これならどうですか!!」

 

アイちゃんの周りを舞う雪が強まった。

そして、強まる雪は収縮していき、アイちゃんが持つ短剣の周りに留まる。

それを確認したアイちゃんは姿勢を低くしてソードスキルを発動させた。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

左足を力強く踏み出して、アイちゃんは右下から剣を振るった。

短剣ソードスキルの奥義技”エターナル・サイクロン”

地面すれすれを通り、青いハルピュイアの顔面に向かっていく吹雪を纏った短剣。

この技は1回斬りつけただけで4撃分の威力を出す強力な技……………のはずだった………

4撃分のはずだった……………

 

ゴオォォォォォ!!!!

 

「うっそ~………」

 

アイちゃんが短剣が青いハルピュイアの顔面を捉えた瞬間、短剣の周りに収縮されていた吹雪が前方に放出された。

青いハルピュイアを巻き込んでいく猛吹雪は地面を抉って進み続ける。

遂には青いハルピュイアを数十メートルは離れていた王の間の壁に激突させてしまった。

壁は崩れて青いハルピュイアは瓦礫の下敷きになり、崩れ落ちた壁の向こう側は青空が広がっていた。

誰もが黙り混んでしまい、今聞こえるのは離れた所で赤いハルピュイアと戦っているNPC達の雄叫びだけだ。

 

「名付けて”エターナルブリザード”です!!」

 

アイちゃんは良い笑顔で剣を納めた。

 

「アイちゃん!!今のは!?」

 

ボクは急いでアイちゃんに駆け寄った。

皆もアイちゃんの側に集まってくる。

 

「奥義技を発動するとこうなるんです。初めて使った時は流石に驚きました」

 

「こりゃチートだナ」

 

アルゴがアイちゃんの短剣を眺めながら言った。

顔がニヤニヤしていて、良い情報が入った!みたいな顔をしている。

そして、ボクは自分の事を全く考えていなかった。

 

「で、アイちゃんのチート性能武器は分かったわ。次はユウキのスキルね」

 

「ボクの?」

 

「あんなソードスキル見たことないわ。何のソードスキルはなんなのかしら~?」

 

アスナがハルピュイアに負けず劣らずの怖い顔で詰め寄ってきた。

和人の言う通り、物凄く怖い。

 

「エクストラスキルだよ!!………多分ユニーク………」

 

ボクはアスナのプレッシャーに負けて皆に教えてあげた。

ボクと和人の二人だけの秘密だったのに少し残念な気もする。

けど、皆が拍手して喜んでくれたので、嬉しかったりもする。

 

「売らないでね」

 

「ユーちゃんの頼みならナ」

 

アルゴにお願いをしておく。

こう言わないとアルゴは絶対にボクの情報を商品にしてしまう。

このメンバーなら大丈夫だろうけど、他のプレイヤーからの妬みや嫉妬は遠慮したいからね。

 

「んで、ユニークスキルにチート性能武器の超攻撃を一身に浴びた鳥野郎は?」

 

「流石にHP全損したんじゃ……………」

 

「AAAAAAAAAA!!!」

 

クラインの問いにリズが答え掛けたその時、瓦礫の中からHPギリギリで生存した青いハルピュイア飛び出てきた。

 

「最初より元気になってないカ?」

 

「なってるね」

 

ボクもそう思ったので肯定しておく。

何か、怒りで活性化しているみたいだけど。

 

「怪鳥が逃げたぞ~!!」

 

すると、大きい声ではないのによく通る声の持ち主イアーソーンがNPC達を連れてボク達プレイヤーが集まっているこの場所に向かって走ってきた。

イアーソーン達の前には赤いハルピュイアがHPを半分ぐらい残した状態で逃げていた。

 

「え?何でこっちに来るんですか!?」

 

「落ち着いて。とにかく、最初の陣形になるわよ」

 

一番慌てているシリカちゃんを落ち着かせてアスナが冷静な判断をする。

青いハルピュイアと赤いハルピュイアが協力して戦うのかもしれない。

 

「盛り上がってきたじゃねーか!!」

 

クラインが楽しそうに刀を構え直す。

最終局面って感じがしてボクもテンションが上がってしまい、笑わずにはいられない。

 

「AAAAA!!!」

 

「GAAAA!!!」

 

「わおぉ……………」

 

ボクは思わず息を漏らした。

赤いハルピュイアは赤の光、青いハルピュイアは青の光の粒になって拡散したのだ。

そして、拡散した光の粒は一ヶ所に集まって形をなす。

 

『GYAAAAAA!!!』

 

光の粒が造り出したモンスター。

左の翼は完璧な氷、右の翼は炎が燃え盛っていて、人間部分は赤と青の線が取り巻いている。

顔はもう言葉に出来ないほど、………凄いことになっている。

 

「誰か………合体の可能性考えた?」

 

勿論、誰も返事をしてくれなかった。

 

『GYAAAAAA!!!!』




SAO最強の戦士、その名はアイ!!
書いた自分が言うのもおかしいけど、アイのチート性能が凄すぎる…………

では、評価と感想をお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話 決着 

めっちゃワサワサでフカフカな丸い犬がいました。
顔が隠れてたけど、あれって前見えてるのかな?
やっぱり匂いでわかるのか?


 

 

「全力で、逃げろ~!!!」

 

クラインが皆に全力で叫ぶ。

 

「あれ反則でしょ!?」

 

リズも走りながら叫んでいる。

 

「ゲームバランスを保とうとしているんですかね?」

 

常に冷静なアイちゃんは今の状況を淡々と分析。

 

『GYAAAAAA!!!』

 

え?何で逃げているのか?

それはね、ボク達を追いかけている怪物さんが満面の笑みでボク達を楽しそうに攻撃しているからだよ。

つまり、ボク達は怪物さんと鬼ごっこをしている。

怪物さんは鬼じゃないけど顔が鬼みたいに怖いから鬼ごっこ!!

鬼ごっこ、学校の友達を思い出すな~。

ボクが入院した時お見舞い来てくれなかったけど………

あれ?ボクってボッチ?

 

「アスナは友達だよね?親友だよね?」

 

「………いきなりどうしたの?当たり前じゃない。それより走らないと」

 

良かった、アスナはボクの頭をポンポン叩いて笑ってくれた。

アスナはお姉さんみたいだね。

お姉ちゃんかー………

 

「それよりあいつどうするんだ?」

 

ボクは頭を振って意識を戦場に戻した。

ボクの少し後ろでエギルが妖精さんを担いで走っている。

体格通りエギルはこのメンバーの中で一番力持ち。

妖精さんは少し抵抗してたけど、きゃ~!!って叫び声をあげながら無理矢理担がれていたね。

可愛かったよ~。

 

「とにかく、あの火と氷の攻撃を何とかしないと___」

 

アスナが考え込んだ瞬間、後ろから熱風が吹きつけた。

振り返ると炎の波がボク達を飲み込もうとしていた。

 

「横に跳んで!!」

 

アスナが慌てて叫んだ。

ボク達は急いで横に跳んだ。

炎の波はボク達をかすめながらもそのまま進んで行った。

かすめただけなのにHPが大分もっていかれちゃう。

直撃しようものならすぐにレッドゾ―ン、下手すると全損。

 

「矢を放て~!!」

 

そんな時、イアーソーンが威勢よくNPCに指示を出してくれた。

弓ソードスキルか矢ソードスキルがあるのか、NPCが射った矢は青いオーラを発している。

 

「でも、あれそんなに威力ないんだよね」

 

ボクは氷炎のハルピュイアに向かっていく矢を見ながら、溜息を吐いてしまった。

幸いな事に氷炎のハルピュイアのHPは一段と少しだけ。

合体する前のHPが合わさっただけだから、そんなにない。

これが4段とかだったらぞっとする。

 

『AAAAA!!!』

 

案の定、全ての矢が当たっても氷炎のハルピュイアのHPは少ししか減っていない。

でも、今はこれしか攻撃方法が無い。

時間が掛かり過ぎて嫌になるよ。

………………それに逃げてばっかりでイライラしてきた。

 

「あ~!!もうボクが突っ込むって作戦は!?」

 

ボクはアスナに期待の眼差しを向けた。

出来る限りキラキラした瞳で、満面の笑みで。

 

「ダ~メ!!行くまでに炎で丸焦げにされちゃうよ。氷の方の攻撃も敵はまだ見せてないんだよ」

 

やっぱり………アスナはぺしっと軽くボクにチョップをした。

む~、ボクには秘策があるのに。

 

「ボクの絶剣スキル。奥義技ならHPゲージ一段全部消せるかもよ!!剣の氷も溶けてなくなってるからいけるよ!!」

 

「ダメです!!一段消せても少し残るでしょ!」

 

またしても、アスナはボクの頭にチョップを喰らわした。

 

「でも、何か一発欲しいですよね」

 

レモン?味のポーションを飲み干したシリカちゃんが、頑張って氷炎のハルピュイアに攻撃しているNPC達を見ていた。

言葉には出していないけど”頼りないです………”みたいな事を考えているんだと思う。

ボクのシリカちゃんものまね上手でしょ!?

 

「キリトならなんかスゲー方法を思いつくんだろうな」

 

ボクの心の中での自慢は勿論、誰からも返事が無かった。

その返事の代わりに、クラインが困った顔してワンワン、ワワンとしている。

ボクはクラインに言った。

 

「クラインが考えれば?」

 

「俺がか?」

 

「………何でクラインさんなの?」

 

一つ間を置いて、アスナがボクに訊いてきた。

 

「キリトって天才でしょ?」

 

「………まぁ、何でも出来そうよね」

 

返答が少し遅かった事は気にせず話を進める。

 

「馬鹿と天才は紙一重って言葉知ってるよね?」

 

「なるほど」

 

納得したのはアスナじゃなくてリズ。

アスナは苦笑いなのか面白がっているのか分からない微妙な表情をしている。

 

「おい~!!ユウキちゃんは俺が馬鹿だって言いたいのか!?」

 

「そう見えるよ」

 

出会ってから時間は経っていなくても、何となくそう思えてくる。

ただし、残念な馬鹿系じゃなくて良い馬鹿系。

 

「俺だってちゃんと就職してだなぁ………」

 

地面を叩きながら嘆くクラインを余所に、ボクは真剣に考え始めた。

ボーン!!作戦は今の氷炎のハルピュイアにやると、空中で焼かれてそのまま落下、または死亡。

空中で回避行動がとれるのは妖精さんだけ。

でも、妖精さんを戦闘に参加させるのは論外、そもそも武器が無いから攻撃できない。

 

「やっぱり、隙を見つけて突っ込む?」

 

「その隙を見つける事が大変なのよ」

 

アスナが悔しそうに氷炎のハルピュイアを観察する。

動作一つ一つ見逃さんと目を見開いている。

ここはNPCさん達に頑張ってもらうしかないね。

 

「そうだ!!炎を凍らせるとかは?」

 

NPCさん達が頑張っている中、リズが氷炎のハルピュイアの右翼とアイちゃんの短剣を見比べた。

アニメとか漫画でよく見るやつだね。

あれって本当にできるのかな?

液体窒素とか使えばいけるんじゃない?

 

「無理です。そもそも炎とは簡単に言うと原子や分子が発する光です。厳密にはもっと色々ありますけどね」

 

「………つまり?」

 

「自然の中で、炎と同等の光を自ら発する氷はありません」

 

ボクの知識では全く理解出来ない事をアイちゃんは最後に簡単に教えてくれた。

唯一理解できているのはアスナだけ。

きっと、和人も理解出来るのだろう。

 

「ですが………」

 

「ですが?」

 

アイちゃんの話にはまだ続きがあった。

 

「私の短剣で炎を打ち消せると思います」

 

無表情8割、笑顔2割の表情を浮かべたアイちゃん。

短剣に手を掛けている所を見るとさっきのアイちゃん命名”エターナルブリザード”を発動させるようだ。

 

「あの奥義技を使った直後に突撃するの?」

 

アスナの質問に無言でアイちゃんは頷いた。

 

「この際、それで良いんじゃないカ?」

 

「危険過ぎます!!確実に仕留める為には時間が掛かってもイアーソーンさん達の弓を頼りましょう!そもそもユウキもアイちゃんもアルゴさんも、何でそんなに勝負を急ぐんですか!?」

 

アスナは真剣な表情でボク達に問い掛けた。

確かに、ボクやアイちゃん、アルゴはアスナの言う通り勝負を急いでいる。

でも、そんなに真剣になる理由ではないんだよ………

ボク達はアイコンタクトをした。

 

「早く戻らないと不味いんだヨ」

 

ボク達の代表としてアルゴが説明に入った。

ボク達3人の心配事は言葉を交わしていないのに共通していると分かっている。

これぞ以心伝心。

アスナは気怠そうなアルゴを見て首を傾げている。

 

「キー坊の精神力がネ………多分今頃、知っている奴が周りに1人も居なくて小鹿みたいに震えているナ」

 

流石に和人も起きている頃だと思う。

しかし、あの和人の事、もう一度言うね。

()()和人だよ。

起きたら知り合いが誰もいない船の中。

船に居るのは個性豊かなNPC達だけの状況で和人が正気で居られる訳がない。

泣いて震えて現実逃避、寂しいと死んじゃうって言われている兎のメンタルを持つ和人にとって、あの船に取り残されるのは地獄同然。

早く帰ってあげないと兎メンタル和人が可哀想………

 

「もっと早く帰れると思っていたのですが………このままだとキリト様の精神が崩壊してしまいます」

 

現実の和人を知っているからこそ分かる今の危機的状況にボク達は焦っていたのだ。

こんなに強いボスが居るなんて想定していなかった。

 

「キリトさんってコミュ障なのに1人は駄目なんですね」

 

シリカちゃんが呆れてしまっている。

 

「前までは平気だったんだけどナ。今のキー坊だト………」

 

「キリト様は変わりましたからね………良い意味と悪い意味で………」

 

良い意味・・・コミュ障だけど友人ができた。自分に素直になった。

悪い意味・・・素直になりすぎて信頼できる人が側に居ないと駄目になる。

 

頭の中で整理すると”戻った”の方が正しい気がする。

現実だと和人はボクにベッタリだったから………ん?ボクが和人にベッタリだったのかな?

……………とにかく!和人は1人だと駄目になっちゃうって事!!

 

「って事で、アイちゃんが炎を打ち消してからボクが突っ込む。いいよね?」

 

和人が心配という気持ちがアスナに伝わったと信じて、ボクはアスナにもう一度尋ねた。

流れでも良いから、いいよって言ってくれさえすればボクの勝ち!!

 

「………どうやって相手の所に跳ぶの?」

 

アスナの意志は固かった。

それでも、少しずつ壊していけている。

あと少し!!

 

「それも大丈夫!!ちょっとした技術で何とかなるよ」

 

和人から教わったコツとは違う技術。

成功する確率が少し低いけど何とかなるで誤魔化した。

嘘は言っていない。

 

「信じようよ」

 

アスナが作戦決行するかどうかを迷っている途中、アスナの肩に手が置かれた。

手を置いたのはサチ。

優しく笑うサチのポワポワ感にはとても逆らえない。

アスナの負けが決定した。

 

「私とクラインさんそれとアルゴさんがユウキの護衛です………」

 

「OKだヨ」

 

「任せとけ!!」

 

選ばれなかったリズは不満げだけど他の皆は納得している。

 

「ん~!!アスナありがとう!!」

 

「ひゃ!!」

 

ボクはアスナに抱きついて今の喜びを感じてもらう。

抱きつかれたアスナは驚きはしたけど嫌がりはしなかった。

 

「死んじゃダメだからね」

 

「分かってるよ!!」

 

次に氷炎のハルピュイアがボク達に狙いを定めた時、それが勝負の時。

出来ればその時までにHPを一段にまで減らしてしてほしい。

頑張れNPC!!負けるなNPC!!この戦いの運命は君たちにかかっている!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦決行までには意外と時間があった。

ボク達の作戦が分かっているのか、イアーソーンが頑張ってくれたのがその理由。

氷炎のハルピュイアのHPは一段になっているし、ボク達のHPは満タン。

 

 

「来ました」

 

最初の一撃のアイちゃんが前に出て、例のエターナルブリザードの構えをする。

アイちゃんが短剣を構えて見据える先には氷炎のハルピュイアがいる。

NPCを蹴散らして満足したのかボク達の所にくるスピードはゆっくり。

 

「準備はいい?」

 

アスナが細剣を構えた。

 

「いつでも大丈夫ですよ!」

 

「オイラもダ」

 

「ボクもだよ」

 

ボク達は頷き合った。

 

『AAAAAA!!!!』

 

同時に氷炎のハルピュイアが雄たけびをあげた。

叫び声と比例して右翼の炎が巨大化していく。

迫力満点、喰らったらHP全損確実なのは何となく分かるぐらい迫力満点。

 

『GAA!!!』

 

右翼が振られて炎の波が生み出された。

生き物のように炎の波はボク達に迫ってくる。

先頭のアイちゃんが感じるプレッシャーは計り知れない。

 

「が、頑張って下さい!!」

 

エギルの後ろにいる妖精さんもアイちゃんを応援している。

アイちゃんと妖精さんは絶対に姉妹だよ!!

 

「勿論です!!」

 

ギリギリまで炎の波を引きつけたアイちゃんは奥義技を出した。

 

「はぁぁ!!」

 

アイちゃんの生み出した吹雪と氷炎のハルピュイアが生み出した炎。

ぶつかり合ったのは一瞬だった。

アイちゃんの猛烈な吹雪が炎の波を打ち消すどころか、打ちもしないで消し去った。

 

「今です!!」

 

ボク達は返事もしないで走り始めた。

炎の熱は無く、それどころか息が白くなるぐらい寒くて冷たい。

アイちゃんの技の威力が凄まじいって事を物語っている。

 

『GA!?』

 

驚くのも無理は無い。

味方のボク達でさえビックリ仰天しているのだからね。

 

『AAAAGAAA!!!』

 

氷炎のハルピュイアは次に左翼の氷を増大させた。

まだ、距離があるボク達の所にも冷気が伝わってくる。

ボク達の知らない未知の技。

 

「来るわよ!!」

 

氷炎のハルピュイアが左翼を振ると宝石みたいな物が幾つも降って来た。

 

「氷ダ!!」

 

アルゴが地面に突き刺さった物を見て叫んだ。

それでもボク達は蛇行しながら前に進む。

幸い、降り注ぐ氷の数は避けきれる数だった。

アスナがスピードを重視したメンバーにしたことでボク達のダメージはほとんど無い。

 

「そろそろ飛ぶからボクに向かってくる氷を打ち落として!!」

 

「はいヨ」

 

さっそくアルゴがボクに向かってくる氷を短剣で打ち落としてくれた。

頼りになるね、アオイさん!!

 

「受け止めは俺さ____」

 

「受け止めは任せて!!」

 

「よろしくね!!」

 

頼りになるね、アスナさん!!

親友のアスナなら着地の事を考えないで攻撃に集中できる。

 

「よし!!」

 

一旦走るのを止めて軽くジャンプをしてから助走に入る。

 

「クライン!その場でしゃがんで!!」

 

「は?え?………おう!!」

 

ボクの指示で慌てながらもしゃがんでくれたクライン。

これでボクの前に踏み台が用意された事になる。

 

「とう!!」

 

「のわ!?」

 

トップスピードでクラインの踏み台に辿り着き、クラインのHPが減らないように力加減をする。

ボクはクラインの首筋の下らへんを踏んで飛んだ。

 

「ここから~!!」

 

ボクは空中で体勢を崩して横に倒れた。

片手剣ソードスキル”ソニック・リープ”

ソードスキルでさらに上昇力を得たボクは氷炎のハルピュイアと同じ高さまで上り詰めた。

相変わらず怖い顔をしていらっしゃる。

 

「いくよ!!」

 

ボクはソニック・リープを発動している最中にも関わらず次のソードスキルに繋げようとした。

和人直伝”スキルコネクト”

絶剣にスキル使用後の硬直が無いけど、こっちの方がスムーズに攻撃に移れる。

ボクの剣が金色に輝きだした。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

絶剣ソードスキル奥義技”アヴェ・マリア”

 

氷炎のハルピュイアの胸を交差点としてあらゆる角度から金色の剣が通っていく。

真上から真下。

左から右。

右上から左下。

目にも止まらぬ斬撃が氷炎のハルピュイアを襲っていく。

 

『AAAAA!!!』

 

13本の線が交差した氷炎のハルピュイアの胸にボクは神速の突きを打ちつけた。

そして、深く深く突き刺さった剣を上に振り上げて怖い顔を斬り裂いてしまう。

振り上げた勢いでボクはもっと上に飛んだ。

 

「GGGGGAAAAA!!!」

 

顔を斬り裂かれた氷炎のハルピュイアは怒り狂ったように盛大な反撃にでてきた。

口を大きく開けてエネルギーの塊を作り始める。

しかも、氷と炎が混じったエネルギー弾は皮肉にも一番近くにいるボクを狙っていた。

 

『BAAAAA!!!』

 

「あ!!」

 

「ユウキ~!!!!」

 

エネルギー弾はボクに向かって発射されてしまった。

目には眩しすぎるぐらいの黄色、水色、赤色の光が埋め尽くされた。

聞こえる声もアスナの叫び声だけ。

走馬灯が脳裏にチラつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

”和人!!!”

 

「こんな所で………死ねるか~!!!」

 

光の中での最後の一撃、金色のオーラがボクの心に反応して強く光る。

ボクは剣を両手に持ち替えて一気に振り下ろした。

 

『AAAAA!!aaa………』

 

脳天から剣が入っていき、氷炎のハルピュイアを2つに割った。

そのまま、氷炎のハルピュイアはあっけなく簡単にポリゴンとなって消えて行く。

金色の軌跡だけがその場に残っている。

 

「…………お、落ちる~!!」

 

攻撃に全てを掛け過ぎて着地の事を本当にに忘れていた。

ボクが猫ならこの空中で体勢を立て直せるけど、ボクは猫じゃないし全てを絞りつくしたから精神力が枯渇している。

 

「よっと!!」

 

「あう!!」

 

背中から落ちたボクは誰かにお姫様抱っこをされていた。

 

「ギリギリじゃない」

 

「………でも生きてるよ」

 

ボクのHPは氷炎のハルピュイアの最後の一撃でレッドゾーンに入っていて残りが2だった。

愛用している赤のバンダナもいつの間にか無くなっている。

 

「やっぱり、ボクはアスナが大好きだよ!!」

 

「気持ちは嬉しいけど、話を逸らさないの!!」

 

アスナはチョップの代わりに回復結晶で回復してくれた。

でも、この後ボクは長い時間アスナにお説教されてしまった。

まぁ、心配したんだからね!とか、無茶しないで!とか、アスナの心配事が主な内容だったから怒られたって感じはしなかった。

☆アスナはツンデレだね!!☆




……………………凄い展開を思い付いた。
それがもう書きた過ぎて最初考えていた展開を破棄して新しく考えた展開にしてやる!!
皆さん!!どうか期待していて下さい!!
自分では、最高の展開だろ!!、って思っています!!

では、評価と感想をお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話 娘

高校2年生か…………
今年の1年生は荒れていると聞いて、自分は図書室の主になる事を決めた。


(わたくし)桐ヶ谷和人は不幸に愛されているとしか思えない状況に居るのだった。

 

「……………」

 

ここには誰も居ない。

普段は近くに居るアイの姿が何処にも無く、捜す為に寝室を出たのだが、なんとアイどころか木綿季やアルゴ、他のメンバー全員が跡形も無く消え去っていた。

学校で居眠りしてて起きたら誰も居ない、その時の気持ちがよく分かった。

 

(えっと………何処に行ったんだ?)

 

最初はドッキリかと思ったのだが全力と全速力で捜しても誰1人見付からなかった。

つまり、皆はお出掛け中。

寝ていた俺を気遣ってくれたのだろう。

 

(ベブリュクス人がやる拳闘試合か?………外は静かだし違うか。そうだったら外でアルゴノーツのメンバーがベブリュクス人を返り討ちにしている筈だ)

 

こんな風に色々と考えた末に名探偵キリトは此処がトラキアだと推理した。

リビングのような所で俺は顎に手を当ててたけど、何か恥ずかしくなったから止めた。

 

(………俺も行ってみるか)

 

別にハルピュイアと戦う奴はアルゴノーツのカライスとゼーテースの2人だけなので俺は必要無いかもしれないけど、誰も居ないこの船で皆の帰りを待つのは個人的にキツイ。

俺は早速出掛ける準備をとアイテムを確認しようとするが、あることに気づく。

 

(右腕無いからメニュー開けないじゃん………)

 

そう、自分で切り裂いた右腕は未だに再生されていない。

このまま二度と再生されないんじゃないかと思わせるぐらい何の変化もない。

俺は仕方なく寝室にある剣を取りに戻った。

 

(アイテムは何とかなるとして、いざ!!外界へ!!!)

 

魔剣を背中に装備した俺はプレイヤー専用部屋のドアノブに手を掛けた。

そして、ドアを開いて船の廊下に出た。

久し振りの1人でのお出掛けになる。

 

「ぬん?」

 

廊下に出た瞬間、筋肉マッチョのご老人と視線が重なってしまった。

目は白目で黒目の部分が無い。

ゲームのラスボス第一形態が印象に残る。

アイが居ない木綿季が居ないアルゴが居ない。

 

バタン………

 

勿論、俺はドアを閉めた。

きっちりと鍵を掛ける事も忘れずにする。

木綿季達は鍵を持っていると思うので大丈夫。

俺はとにかく速足で寝室に直行した。

 

「無理無理無理無理無理無理」

 

ここで俺は起きてから初めて、言葉を口から出した。

 

「何あれ!?怖いよ!!それに、ぬん?ってなんだよ!!」

 

枕に顔を埋めた俺はブツブツ叫び続けた。

よくよく考えるとこの船には、あの人と同レベルの怖さをした人物が沢山いる筈なのである。顔も隠さず廊下に出た時の過去の俺は馬鹿だったんだ。

一頻り叫んだ俺はこれを教訓に今度は隠蔽スキルを使うことにした。

 

「右腕ないからスキルが使えない!!」

 

今の自分も馬鹿だった。

何を考えても右腕が無いという問題に直面してしまう。

俺は右腕を斬った事を今更ながら後悔した。

 

(大人しく寝室で帰りを待ってよう)

 

俺は剣を外して壁に立て掛けて、右腕部分が無い黒コートをシステムの力では無く自分の力で脱いだ。

コートを立て掛けた剣に被せた後、俺はベッドの中に潜り込んだ。

 

(この船って俺と怖い人しか居なくね?)

 

ふと、そんな事を考えてしまった。

ラスボス第一形態の老人。

この船には第二形態、そして最終形態(完全体)。

他にも怖い人が沢山いる可能性が大いにある。

その船に独りぼっちの俺。

安全な筈のプレイヤー専用のこの部屋にいるのに段々体が震えてきた。

 

(落ち着け!大丈夫だから!ここは安全だから!)

 

毛布を器用に扱って自分をくるんだ。

外から見ると白くて丸いものがベッドの上に置かれてあるように見えるだろう。

少し………大分震えている。

 

(アイが帰って来るまで我慢木綿季が帰って来るまで我慢____)

 

怖い人達が襲って来る等の未来で起こるかもしれない勝手な被害妄想の対処法を考えながら、俺は泣いていた。

男のマジ泣きは情けないのでどうにか涙を止めようとしても………無理だった。

え~ん、え~ん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何秒?何分?何時間?どうやら俺は寝ていたらしい。

毛布をしっかりと手に握っているので、寝返りもせずにずっと丸くなっていたようだ。

猫のましろがたまに見せてくれる"ごめん寝"という寝方。

息できるのか?っと思っていた寝方だけど、体験してみて普通に息ができると判明された。

 

(喉渇いた………)

 

泣いたから体の水分が減ったとシステムに理解されたのか、俺はとても喉が渇いていた。

システムにそんな機能が備わっているかは知らないけど、水を求め台所に向かう為に毛布から顔を出す。

 

「____た」

 

俺は半開きの目を声がした方に向けた。

頭はボーッとしているし目もショボショボしているから、声の主の姿を確認できないし何を言ったかも分からない。

視界が万華鏡のようにキラキラ、グワグワしている。

俺は何となく残っている左手を前に出してみた。

………ぎゅっと手を握られた。

 

「あの、」

 

俺は恋人繋ぎで俺の手を握った人物の全体を見た。

小さくて銀色で小さい。

グレーのマントが銀色の髪を引き立たせている。

キラキラ、グワグワしている俺の視界に小さな妖精が現れたかと思った。

 

「小さな雪の妖精………?」

 

「私はアイですっ!!」

 

「がっ!?」

 

ボキッとはならなかったけど、それぐらいの勢いで左手を捻られた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングには帰って来ていた女性陣がだらんとしていた。

少女妖精さえもテーブルに頭を置いている。

皆、精魂尽き果てたって感じになってしまっていた。

 

「アイ、説明を頼む」

 

「主な理由は2つです。1つは、2体のハルピュイアと対戦しました。木綿季様の活躍で何とか倒すことが出来ましたけど、流石に疲れたという事です」

 

「お前は何故元気なんだ?」

 

「大丈夫ではありません。今すぐにでも寝たいです」

 

アイは全く疲れを感じさせない口調で説明してくれた。

でも、口調は疲れていなくても目が疲れている。

アイがこんな目をしているなんて貴重だ。

 

「2つ目の理由は?」

 

「この船に戻る途中にハイテンションのお買い物タイムが発生しました。主な疲れはここから来ています」

 

俺はお疲れ様とかを言おうとしていた口を閉じた。

どうすればここまで買い物に全力を尽くせるのだろうか?

買い物=ネットショッピング、が常識となっている俺には理解できない乙女心。

男性陣のエギルとクラインは自分のメニュー画面を見て何かニヤついている。

 

「あ、キリト君。起きたんだね」

 

テーブルで頬杖を突いているアスナが寝室から出てきた俺に気付いた。

疲れているのは見た通りなのだが、何処か満足そうでもある。

 

「………何を買ったんだ?」

 

俺は恐る恐る訊いてみた。

 

「指輪とかのアクセサリーにギルドや家に置いておくアンティーク後はギルドメンバーへのお土産その他諸々」

 

息1つ切らさずにアスナは早口で言った。

それに合わせて他の女性陣も急に俺の方を向いて頷いた。

女の子はやっぱりよく分からない。

 

「ユウキならそこよ」

 

無意識に木綿季を捜す俺の視線にアスナと同じように頬杖を突いていたリズが気付いた。

リズは親指でソファーを指した。

 

「スー………」

 

茶色をした高級感のある革製ソファーでは木綿季が笑いながら寝ていた。

それはもう、嬉しそうに楽しそうに満足そうに寝ている。

高級感のあるソファーを独り占めしながらあの笑顔で寝るとは何て贅沢な奴なんだ。

疲れの影響で負のオーラが充満している中、木綿季の所だけ正のオーラが発生している。

 

「一番はしゃいでたのよ」

 

アスナがまるで我が子のように木綿季を見つめた。

ま、木綿季はずっと仮想世界に居て、こんな女子ばっかりのメンバーで買い物なんてしたことが無い。

常に明るい木綿季が更に明るく元気になるのは当然だ。

 

「俺が寝ていたベッド開いたから木綿季をそっちに移すよ」

 

「よろしくね、キリト君。………でもどうやって?手伝う?」

 

アスナは片腕しかない俺を見て心配そうに助けようとした。

しかし、俺は首を振った。

 

「大丈夫、担ぐ」

 

「私が運びます」

 

アイに睨まれた。

めっさジト目で睨まれた。

乙女心が分からない駄目な男め!、って睨まれた。

 

「………よろしく」

 

俺は渋々アイにお願いした。

それでも、担ぐ方法が何故駄目なのかが分からない。

近いうちに乙女心講座的なのをアイに開いてもらおう。

 

「ほいしょっと」

 

小さい体を一生懸命使って木綿季を背負ったアイの姿は、何とも言えない可愛さがあった。

木綿季も背が低い方で体重も軽い………と思う。

疲れていても木綿季1人運ぶのは余裕なのだろう。

 

「ドア開けて下さい」

 

「はい」

 

この状況でも寝ていられる木綿季は凄いと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木綿季をベッドに寝かせた時、アイの疲れもピークに達してベッドの横に崩れ落ちた。

アスナを呼んでアイを木綿季の隣に寝かせようとしたけど、アスナもお買いもの疲れでダウンしているだろうしここは左腕1本で何とかするしかない。

 

「ほいさっと」

 

担ぐのはNGなのでアイには申し訳ないが少し引きずってベッドに寝かせた。

アイを寝かせると、木綿季とアイがお互い寝がえりを打ったので、自然と向き合う形で2人は寝る事になった。

何処となく似ている木綿季とアイの顔を見ていると、2人が本物の親子に見えてくる。

 

「母さんまさか………」

 

前にアスナから、アイちゃんとキリト君って少し似てるよね、っと言われた事が合った。

それにアイの容姿は母さんが描いたと、アイがSAOで再会した時に言っていた。

 

「まさかな」

 

考えすぎだと思い俺は頭を振った。

でも、いつの間にか手を繋いで寝ている2人を見ているとアイの容姿は俺と木綿季の………

 

「____」

 

俺の頭はオーバーロードしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___さん………キリトさん」

 

椅子に座ってボーっとしていると俺を呼ぶ声が聞こえた。

はっとして、俺は部屋を見渡した。

でも、部屋に居るのは寝ている木綿季とアイ、それと俺の3人だけ。

おいおい、まさか幽霊じゃないだろうな。

幽霊も電脳化しないといけない時代なのか?

 

「キリトさん」

 

「ひっ!!」

 

いきなり肩に凄く軽い感触があり、悲鳴をあげてしまった。

あまりにも、肩に掛かる感触がフワッとし過ぎていて、本当に幽霊が俺を呼んでいるのかと勘違いしてしまった。

 

「わ、私です………」

 

「え、あ、妖精さん………」

 

すろ~っと3秒以上掛けて振り向くと少女妖精がオロオロしていた。

俺がいきなり悲鳴をあげたのでビックリしてしまったらしい。

オロオロしている少女妖精を見ていると俺もオロオロしてくる………

 

「えっと、俺に何か用が………?」

 

「は、はい。腕の事です」

 

「腕?」

 

俺は右腕があった部分を見た。

切り口が赤くなっている。

 

「その………頑張れば治せるかもしれません………」

 

「………魔法?」

 

少女妖精は何度も頷いた。

何で自然に再生出来ないのかが気になるけど、右腕が戻るならどうでもいい。

 

「え~、じゃあ、その頑張るの内容は?」

 

「………疲れます?」

 

自分でもよく分かっていないのか、疑問形で返された。

首を傾げる少女妖精は何処となくアイに似ていると思った。

………姉妹?

 

「あ~、妖精さんに危害が無いなら………よろしくおねがいします」

 

「が、頑張ります!!」

 

ここまで何とか話せているけど、実は左腕を後ろに伸ばしてアイのフード付きマントを握っている。

少しでも触っていれば安心。

俺のアイ離れは来るのだろうか?

いや、来ない事を願おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

治療魔法に必要なのは水だった。

えっさ、ほいさと少女妖精は大きな容器に水をたっぷり入れて寝室に持ってきた。

 

「で、では、始めますね。あの………右腕を私に伸ばすイメージを頭に浮かべて下さい」

 

「はい」

 

俺は目を瞑って右腕をイメージする。

ここが現実だったら難しい事だったと思う。

しかし、ここは仮想世界、思う事が一番大切な事。

コツもその1つなので、右腕のイメージは簡単に出来た。

 

「むん!」

 

気の抜ける掛け声と共に水の跳ねる音が聞こえた。

俺は瞼を開けて何をしているのかを見た。

 

「ほわぁ~………」

 

俺は目を見開いて驚いた。

目をぎゅ~っと瞑りながら水の容器に両手を入れている少女妖精。

その容器からは綺麗な水色をした水が螺旋を描いて俺の切り口に向かって来ていた。

水は切り口に届くと形を流動させながら右腕を造りあげていく。

IPS細胞もびっくりだ。

 

「凄い………」

 

指の先まで水が形を成すと、俺は水の右腕を手に入れた。

そのうち、水には色が付いてきて、肌色になっていく。

 

「治った………」

 

色が付いていく俺の右腕を見ていると、いつの間にか右腕が完成していた。

俺は出来たてホヤホヤの右腕を振ったり回したりして感覚を確かめた。

 

「違和感が全くない」

 

今着ている服は右腕の部分だけ無いので、ちょっぴりワイルドになった俺は少女妖精にお礼を言った。

 

「ありがとう!」

 

「ふきゅう………」

 

「って、妖精さん!?」

 

アイと同じように疲れで倒れそうになった少女妖精。

俺は少女妖精を咄嗟に支えた。

 

「キリトさんは私を助けてくれました」

 

「助け?」

 

俺は少女妖精に訊き返した。

 

「はい。気が付くと私はあの池にいました。なので親がいません。ずっと1人だったんです。だからですかね、いろんな人にぶたれたりしました」

 

「………」

 

「そんな時にキリトさんが私をこの場所に連れて来てくれました。………誘拐かと思って怖かったですけど」

 

少女妖精は軽く笑った。

あの時の事を思い返し、恥ずかしくなった。

女の子の少女妖精にとってあれは恐怖でしかないだろう。

 

「ごめんなさい」

 

「いえ、怖かったのは最初だけです。サチさんやアスナさん、沢山の人から優しくしてもらえてとても嬉しかったです。特にアイさんはお姉ちゃんみたいで………」

 

アイって妹が欲しいとか思っていたのか?

カーディナルがいるけど会う方法が無いもんな。

アイが皆の前で倒れなかったのは少女妖精が居たからかもしれない。

 

「なら、妹になればいい」

 

「妹にですか?」

 

「親が………家族が居ないのは辛いからな。俺もその気持ち分かるよ」

 

俺は少女妖精の頭を優しく撫でた。

木綿季とアイと同じでサラサラの長髪なので撫でやすい。

そして俺は意を決して言った。

 

「俺の子になるか?」

 

「ッ!!」

 

予想通り少女妖精は目を丸くした。

口をワナワナさせて言われなくても何故?何故?っと訴えかけている事が分かる。

 

「特に理由があるって訳じゃないんだけど………とにかくほっておけないんだ」

 

この子はこのままだとあの池に戻ると言うと思う。

でも、池に戻ればこの子は孤独だ。

単に1人でいるのとは違う。

あの辛さを感じてほしくない。

 

「………お気持ちは嬉しいのですが、私なんかが__」

 

「アイと一緒にいてどう思った?」

 

俺は少女妖精の話を遮って訊いた。

すると、少女妖精は顔を俯かせてしまった。

小さな握り拳を作って細かく震えている。

俺はしつこかったと思い謝った。

 

「ご、ごめん。変な事言って………で、出来れば忘れて__」

 

「嬉しかったです………」

 

「へ?」

 

自分がどんなに恥ずかしい事をしているのかを理解し始めた俺は、顔が赤くなりテンパってきた。

そこに、とても小さな声で言った少女妖精の言葉は、俺の耳には入りにくかった。

 

「とても嬉しかったです!!あんなに、優しく、頼りになる人は………初めてで………嬉しくて………私………」

 

嗚咽を混じらせて少女妖精は泣き始めてしまった。

少女妖精は涙を両手で拭いながら話続けている。

俺は少女妖精の言葉を一語一句聞き漏らさないように聞いた。

 

「私に………アイさんみたいなお姉ちゃんが………居たらって………ずっと思っていて………」

 

「そうか」

 

俺は少女妖精の頭を撫で続けた。

 

「それに………!親に優しく………!してもらったり………!」

 

少女妖精の声が段々大きくなってくる。

それと比例して涙の量も増えきた。

 

「だから………!だから………!」

 

「何?」

 

俺は自分の視線を少女妖精と同じ高さにしてから、優しく訊いた。

 

「私の………!親になって下さい!!私を!キリトさんの子供して下さい!!」

 

「ああ、勿論だ!!」

 

俺は遂に少女妖精を抱き締めた。

少女妖精は、パパ~!、っと俺の腕の中で大号泣をしている。

 

「よし、お姉ちゃんに挨拶しよ」

 

「はい!!」

 

俺は疲れて寝ているアイを指差した。

少女妖精はすぐにアイの首に手を回した。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「きゃぁ!?」

 

眠りがそれほど深くなかったらしく、アイは少女妖精に抱き付かれた瞬間に起きた。

髪が銀色なので顔の赤さが冴え渡る。

 

「………ん~?」

 

流石の木綿季もこの騒ぎに目を覚ました。

そして、隣で少女妖精に抱き付かれているアイを見付けると、目を宝石のように輝かせた。

 

 

 

 

 

今日、俺達に新しい家族が増えた。

アイのもう1人の妹、()()が。

アイ、カーディナル、ユイ。

俺は3姉妹の親になった。




あ~、色々言いたいですよね?
自分でも色々言いたいです。
これで良いのか?これで大丈夫なのか?
不安しかありません!!

では、こんな小説ですが!!

評価と感想お願いします!!


ピンポンパンポーン♪

盛岡にわんこ蕎麦を食べに行ってきます!!
それに、26日からALOにダイブできるようになるので更新を忘れる可能性が大です!!
でも、皆さんもリンクスタートしますよね?
空を飛び回りますよね?
なら大丈夫!!(何が?)

とにかく!!次回の更新が遅れるって事です!!
勝手ですが、よろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話 キリト君は娘が大好き

お~久しぶり~!!
いや~、ロストソング!!
ユウキの猫耳!!Nice!
袴姿でユイをぎゅーってするユウキ!!Nice!!


この日、俺達は船で一泊する事になった。

自分達が思っていた以上の大型クエストだったので俺達は急いでギルドメンバーらにメッセージを送った。

と言っても、俺の知り合いはほぼ全員がこのクエストに参加しているので別に困りはしない。

でも、ギルドに入っている木綿季とかは別だ。

特に最強ギルド血盟騎士団副団長のアスナは忙しそうにメッセージのやり取りをしていた。

っと、そんな事があってやっと落ち着いた時、リビングに猫が現れた。

 

「キリト、似合っているかニャ~?」

 

若干顔を赤くしながらも、黒の猫耳カチューシャを付けた木綿季が目の前にいる。

周りにいる皆は俺がどんな反応をするのかを楽しみにしていてニヤニヤ顔だ。

そして………

 

「ニャ~?」

 

木綿季の隣には白の猫耳カチューシャを付けたアイが猫のポーズをとっている。

この場の雰囲気にまだ馴染めていないらしく疑問形になってしまったようだ。

紺色の髪をした木綿季は黒、銀髪をしたアイは白と、お互いの色に合った猫耳は2人の可愛さを引き立たせている。

でも、この人数の前でそれを口に出すのはキツイ。

いや、その………お持ち帰り出来ますか?って訊いちゃいそうになる………

 

「か………可愛いぞ………」

 

自分の顔が赤くなっている事を自覚しながら、俺は2人から目を逸らした。

目を逸らした先には窓があった。

窓の向こう側は少し前に夕日が沈んだばかりで、星が見え始めていた。

 

「えへへ、やったニャ~!!」

 

「顔真っ赤ですニャ」

 

木綿季に抱き付かれたアイは満更でもなさそうな顔で俺を見た。

………見下してきた?

とにかく、2人が仲良くなるのはとても良い事ではあるんだけど、連携して俺をからかうのは止めてほしい。

 

「お~、お~。幸せ者ですな~?」

 

クラインが酒を手に持って小突いてきた。

SAOでは酒はあっても酔う事はない。

子供でも飲める便利な仕様になっている。

実際俺の手にも酒がある。

しかし、クラインの頭には、酒を飲む=酔う、が成り立っているらしく雰囲気で酔ってしまったらしい。

 

「もっと褒めないと駄目だよ」

 

「何か期待外れよね。折角が一生懸命選んだのに」

 

俺やクライン、エギルの男性陣とは違ってワインを飲んでいるアスナが少々不満げにしている。

アスナの向かいに座っているリズは完全な不満顔だ。

………リズ、その量の飯を1人で食べるつもりなのか?

イタリアンな料理がアメリカンな量と形になっているぞ………

 

「………ユイも付けるか?」

 

俺は2人を無視してクラインの逆隣りに座っているユイに訊いてみた。

因みに、ユイが皆の前で俺の事をパパと呼んだ時の沈黙と視線は、人生の中で精神的に辛かった瞬間ベスト10の上位に入るレベルだった。

秘密の事は秘密にしたまま、俺は事情を時間を掛けて皆に説明したので今は受け入れられている。

 

「ユイちゃん、ユイにゃんになる?」

 

木綿季が自分の猫耳を外してユイに差し出した。

ユイはオドオドしながらも木綿季から猫耳を受け取って頭に装着した。

アイにゃんとユイにゃんの白黒2人組が完成した。

 

「お~、キー坊。この2人をアイドルにするってのはどうダ?売れるゾ」

 

「却下」

 

売れるのは俺も同意するけど、危ない人が寄って来そうで不安になる。

娘達をそんな危険な場所に立たせる訳にはいかない。

俺はアルゴの提案を即刻拒否した。

 

「じゃ、次キリトね」

 

「は?」

 

突然、木綿季がビックリ発言をした。

ユイの猫耳姿を十分に堪能した木綿季は好奇心の矛先を俺に向けたのだ。

ユイも自分の猫耳を外して俺に渡そうとしてきた。

 

「女顔のキリトだったら似合うんじゃねーか?」

 

「ちょっと!離して!!」

 

いつの間にかクラインが俺の後ろに回り込んでいて俺を逃がさないために羽交い絞めにする。

俺は必死で抵抗した。

 

「失礼します!!」

 

「ん~、流れ的にこうするのが正解かな?」

 

両腕をシリカとサチに押さえられて抵抗する力が弱まってしまう。

 

「隙あり!!」

 

「うわ!?」

 

ユイの手から猫耳を取った木綿季が凄い速度で走り込んできた。

この道何十年のような達人っぷっりで俺の頭に猫耳を装着させた。

 

「……………どうなんだ?」

 

「………女の子が男装した状態で猫耳を付けた感じです」

 

「女の子感が倍増したナ」

 

「ボクより女の子っぽい」

 

気絶したくなった。

猫耳を付けて言われた感想が女の子みたいって………

この容姿を呪いたくなる。

 

「だ、大丈夫です!!私を助けてくれた時のパパは格好良かったですよ!!」

 

「お、おう………ありがとな」

 

俺は唯一の味方であるユイの頭を撫でた。

アイが少し頬を膨らましてムスッとした気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ………」

 

いつの間にか寝てしまっていた俺は真夜中に起きた。

窓を見ても曇っているのか星すら見えない闇空で不気味。

それにリビングには色んな屍が転がっている。

 

(事件現場かよ………)

 

テーブルに頭を乗せてだらりと寝ている者。

椅子から落ちたのか床で死んだように寝ている者。

他にも変な寝方をしている奴もいる。

アスナとサチはソファーに並んで寝ているので立派だと思う。

寝方には性格が出るのか?

 

「起きたんですか?」

 

すると、俺の座っていた椅子の下から声がしたので覗いて見た。

椅子の隣の床では体育座りで本を読んでいるアイが俺を見上げていた。

本は持参したのだろう。

 

「寝てなかったのか?」

 

「いえ、本の続きが気になってしまって、先ほど起きました」

 

と言って、アイは本の表紙を俺に見せてきた。

太宰治の晩年だった。

遺書のつもりで書いた太宰治の第一創作集。

俺はその中だと”葉”が好きだ。

 

「現実でも読んでただろ?」

 

「読み返しです。それにこうして自分の手を使ってページをめくるのは、私にとって凄く新鮮で好きなんです」

 

「………そうか」

 

微笑むアイに微笑み返した俺はリビングを見渡した。

木綿季がユイを抱き枕にして床に寝ている光景が一番最初に目に入った。

抱き枕になっているユイの顔は笑っていたので安心する。

 

「どう思います?」

 

アイは前置き無しに質問してきた。

しかし、何の事かは分かっているので俺は答える。

 

「………言い方は悪いけど、一言で言えば………」

 

俺は俺達以外に起きている奴が居ないかを確認してから言った。

 

「「バグの塊」」

 

俺に重ねてアイも口を開いた。

驚いた俺は視線の先をユイから一瞬でアイに向けた。

アイはいたずらに成功した子供のような顔をしていた。

 

「恐らくユイはMental Health Counciling Programだ」

 

「でしょうね。そもそも彼女はプレイヤーでもモンスターでもありませんし」

 

プレイヤーならHPゲージがある筈だがユイには無い。

HPゲージが無いならモンスターでも無い。

クエストのNPCと思ったのだけれども、全然クエストが発生しないので違う。

 

「でも、俺はMHCPを真のAIにしてないぞ。マスコット的な感じで良いと思って、少し高性能の普通のAIにしたんだけど………」

 

「序盤にキズメル様と言うイレギュラーな存在に会ってますからね」

 

SAO序盤の森の秘鍵クエストで出会った超高性能AIキズメル。

クエストNPCにも関わらず、まるで普通の人のような行動や言葉を喋るのであの時は驚いた。

 

「MHCPに何かしらのバグが溜まってしまいユイが誕生した?」

 

「それが、今の所一番可能が高い。………このクエスト大丈夫かな?」

 

「私に訊かれても………」

 

ユイがMHCPだとするならばこのクエストはある意味危険だ。

バグによって不安定なMHCPが織り込まれたクエスト。

考え過ぎかもしれないけど理不尽なトラップやモンスターによって全滅の可能性もある。

 

「まぁ、予想外な事の先を考えても予想外な事によって潰されるだけです。臨機応変にいきましょう」

 

「そうだな。サポート頼むぞ」

 

「任せて下さい」

 

俺とアイはお互いの拳を合わせて笑った。

少し古臭いけど、悪い気はしなかった。

 

「さて、もう一眠りするか~」

 

俺は大きく欠伸をした。

 

「くぁー」

 

床に座っていたアイも小さな欠伸をした。

見るからに眠そうな顔をしている。

しかし、アイはそれでも本を読もうとしていた。

気持ちは分かるけど流石に寝かせた方が良いと思った。

 

「おい、寝た方が良いぞ」

 

「いえ、これを読み終えるまでは………」

 

言ったそばからアイは船を漕ぎだしてしまった。

こっくりこっくりと頭が揺らして睡魔と全力で戦っている。

残念だが俺は睡魔の味方をさせてもらおう。

晩年をアイから取り上げて自分のストレージにしまう。

その後、俺はアイの脚と背中に腕を回してお姫様抱っこをした。

 

「和人様?本を………」

 

「後にしなさい。本は逃げません」

 

俺は半目になっているアイを抱えながら寝室に向かった。

向かっている間、アイはずっと馬鹿だの返してください馬鹿だの、俺を馬鹿にしていた。

けど、言葉に力が無いし言葉のボキャブラリーが無さすぎて俺の心は全く傷付かない。

物足りない?………いや、俺はMでは無い。

 

「ほら、今寝とかないと戦闘の時に辛いぞ」

 

俺はアイをベッドに置いて布団を被せてあげた。

アイは何か言いたげだ。

 

「なら、和人様も一緒に………」

 

「……………分かった」

 

言って言うことを聞かない子供の目をしていたアイに負けた俺はベッドに入った。

 

「……………」

 

アイとこうして一緒のベッドで寝るのは初めてでは無いが、緊急してしまう。

2人で寝ている所を誰かに見られたら俺は恥ずかしくて引きこもれる自信がある。

 

「パパ、お休みなさい………」

 

俺の事をパパと呼ぶ時は寝惚けている時だけ。

起きると和人様かキリト様に戻ってしまう。

だからなのか、パパと呼ばれた時は結構嬉しかったりする。

俺は俺の胸にしがみついているアイを両手で包み込んだ。

髪がサラサラしていてアイは美人さんだな~っと改めて実感する。

同時にアイと付き合うのなら俺より強い奴が必須条件にしようと心に硬く誓った。

そして、負けるつもりは一切無い。

 

「お休み。アイ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ~!!メーディアさんの為にもこんな奴らには負けられるかよ~!!」

 

クラインは走っていた。

向かって来る大勢の兵士を自慢の刀で斬り伏せて行く。

相手の攻撃なんて気にしない。

強引、無理矢理、アグレッシブに暴れ回る。

今のクラインを止められる者は居ない。

 

「クラインさん。凄い迫力です」

 

そんなクラインを見てシリカは呟いた。

 

「そしてもう1人いるのよね………」

 

シリカと背中を合わせながら地面に転がった竜の歯から出てくる兵士と戦っているリズはクラインの奥に視線を向けた。

 

「おらぁ~!!」

 

俺はユニークスキル、二刀流を駆使して湧き出てくる兵士どもを蹴散らしていた。

今朝の記憶を消し去る為に、俺は全力を尽くしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   今朝   

 

「か~ずと!」

 

俺は誰かに呼ばれた気がして目が覚めた。

まだ、完全に開ききっていない目を擦りながら、俺は上半身を起こした。

凄くニヤニヤニヨニヨした木綿季がいた。

 

「もう朝か?」

 

「そうだよ。それにしてもよく眠るね!」

 

木綿季の顔が不自然ににやけている。

確かにいつも笑顔でいる木綿季だけど、いつもの笑顔とは少し違う気がする。

 

「何か付いてるのか?」

 

俺は自分の顔を袖で拭いた。

特に汚れなどは無い。

て言うか、SAOにゴミなどは無い筈。

綺麗で清潔、潔癖性の人でも安心なこの世界だ。

 

「うんうん!!しっかりくっついているよ!!」

 

「え?何処に?」

 

俺はまた、裾で顔を拭いた。

次いでに髪もいじってみる。

けど、やっぱり何にもない。

髪が少しボサボサになっただけ。

 

「大丈夫だよ!ちゃんと()()()から」

 

「何言ってんだ?さっきくっついているって………」

 

「ほら!!」

 

俺は頭を捻ると木綿季が何かを見せてきた。

どうやら写真のようだ。

俺は木綿季から写真を受け取った。

受け取ってからでは遅いが俺は後悔した。

俺は横で寝ている小さな少女を思い出したのだ。

 

「この写真は?」

 

「アイちゃんが和人にくっついていたから、撮ったんだよ」

 

おう………木綿季は良い笑顔で言ってくれた。

俺はもう一度写真を見た。

銀髪美少女を抱き締めたまま寝ている少年。

少女は少年の胸の中で幸せそうに寝ている。

俺は隣で寝ている写真の少女を見た。

 

「くー………」

 

寝ている。

しかも、俺の服を若干掴んだまま。

 

「木綿季さん?俺の言いたい事、分かるかな?」

 

俺は良い笑顔で木綿季に尋ねた。

殺気も悪意もない純粋な笑顔だ。

そんな俺のスマイルに木綿季も良い笑顔になった。

 

「ボクみたいな凡人に和人みたいな天才の考えている事何て分からないよ!!」

 

「あっ!!」

 

木綿季は俺が手に持っていた写真を刹那の内に取り戻し、光の速さで寝室から出て行った。

5秒程フリーズしてしまった俺はすぐにベッドから飛び起きた。

急いで木綿季の後を追う。

 

「木綿季!ストップ!!」

 

だが、リビングからは女の子達の歓声?が聞こえた。

 

「遅かったか………」

 

俺はその場で膝を突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

   現在

 

「せいっ!!」

 

メーディアの薬薬のお陰でステータスが大幅に上昇したとは言え、少なくとも100体以上はいた鎧兵士のモンスターを倒すのは骨が折れる。

でも、今放った一撃でモンスター退治は終わった。

お説教を受ける時間が始まった………

 

「え~っと。キリト君が二刀流スキルって言うユニークスキルを持っていたのも驚き何ですけど、今は今朝の話をしましょうか?」

 

俺は正座になって返事をした。

アスナの眼光が怖い。

 

「はい………」

 

俺は今朝の出来事を話始めた。

女の子達の歓声?が聞こえてその場に膝をついた俺は即刻船を脱出した。

勿論、隠蔽スキルで姿を消してだ。

皆俺の事を捜してくれたみたいだけどアルゴの、その内出てくるサ、っと言う一言で捜索は打ち切られた。

頭を冷やしたい俺にとってアルゴの発言は嬉しかった。

俺はそのままクエストに行く皆の数歩後ろを俺は歩いて行くことにした。

 

「で、頭を冷やしたくてずっと隠れていたと?」

 

「はい………」

 

リズの鋭い視線が俺の心を傷付ける。

 

「続きを」

 

その後、原作ストーリー通りイアーソーンはコルキスの王アイエーテースから無理難題の試練を言い渡された。

脚は青銅、口からは火を吹く暴れ牛で畑を耕し、その畑に撒いた竜の歯から現れる兵士を1人残らず打ち倒せ。

何回聞いても金羊毛返却条件が謎。

とにかく、俺達はそれに協力することになる。

しかし、暴れ牛は俺達が想像していた以上に狂暴で、スペインの闘牛さんが可愛く見えた。

そんなピンチに現れるのがイアーソーンを愛したコルキスの王女メーディア。

メーディアの薬草でパワーアップ!!した俺達は暴れ牛を従えて畑を耕した。

 

「で、その後出てきた兵士モンスターが弱い事に気づいたと?」

 

「………で、何故か可笑しくなって暴れ牛より暴れてしまいました」

 

俺は目の前にいるアスナに”DO☆GE★ZA”した。

正直、兵士を倒していた時の記憶は曖昧だ。

今朝の記憶を飛ばしたくてしかたがなかっただけ。

………結局飛ばせなかったけど。

 

「キリト様、何かしたんですか?」

 

アスナを盾にアイがゴミを見る目で俺を見下してきた。

アイは寝ていたのであの写真の事をしらない。

知らぬが仏って事で見せていない。

もし、見せたらアイは俺と口を利かなくなると思う。

そんなの嫌だ。

 

「いや、何でもないんだ。お前は何も知らなくて良いんだ………」

 

「………分かりました」

 

結局は俺を信じてくれるアイは腑に落ちなさそうだけど了承してくれた。

何て優しい子なのだろう………

 

「ほら、キリト弄りは船に戻ってから!イアーソーンが行くよ!」

 

この事件の原因である木綿季が楽しそうにユイを連れて歩いてきた。

ユイも手を繋いでもらって嬉しそうにしている。

くそっ!!木綿季に一言言いたいんだけど言えない!!

何故だ………可愛いからか………可愛いは正義なのか………

 

「原作通りなら次がラスボスですよ。何があったかは知りませんが元気出して行きましょう」

 

アイの笑顔を間近で見れて、俺は少しだけ精神力が回復した気がした。




後少しで自分が突然思い付いたストーリーにたどり着く!!

それでは、皆様!!
評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話 眠らぬドラゴン眠る

新教室!!そこは何と!!
理科の実験室だった!!
廊下は余り人が通らないから薄暗い。
実験室だから弁当が食べられない。
飲み物も一々廊下に出ないと飲めない。
他のクラスに行くには渡り廊下を渡らないと行けない(別校舎だから………)
何これ?学校からのイジメなのか?自分達は落ちこぼれクラスなのか?タコ型超生物が担任になるのか?

酷いと思う人は慰めて…………


 

「原作では木に打ち付けられている金羊毛をドラゴンが守っています」

 

森の入口でアイが皆に説明した。

でも、メーディアがドラゴンを薬草で眠らすんだよな。

その後も全部メーディアが全部危険を回避してくれるし。

しかし、俺はそんな簡単にいくとは思わない。

 

「大丈夫ですかね?」

 

「大丈夫。こっちには閃光、黒の剣士、深縹の舞姫、攻略組トップレベルのプレイヤーが居るんだよ」

 

縮こまってしまっているシリカをサチが元気付ける。

元気付けるのは良いけど、二つ名で呼ばれるのはやっぱり恥ずかしい………

あのアスナもちょっぴり恥ずかしそうだ。

 

「私は………?」

 

ボソッと、隣に居る俺でさえ聞き逃しそうになるぐらい小さな声でアイが呟いた。

アイの二つ名は従者。

二つ名を持っているのにサチに呼ばれなかったのが残念だったらしい。

 

「アイの強さは皆分かっているよ」

 

俺は最大限のフォローをしてみた。

 

「情けは不要です」

 

真顔で返されてしまった。

森の中を見据えながら返事をしたので何かカッコイイ。

武士みたいだ。

 

「しゃぁ!ドラゴンなんて俺様の刀で仕留めてやるぜ!!」

 

見た目は武士でも中身は武士じゃないクラインが刀を森に向けている。

だが、視線はメーディアに向かってる。

下心が丸見え。

けどなクライン。

メーディアは愛するイアーソーンの為に弟を殺すんだぞ。

しかも、結構残酷………

見かけに騙されるな!!

 

グワァァァ………

 

突如、森の奥から微かにドラゴンのと思われる叫び声が聞こえてきた。

何の変哲のない、至って普通な青々とした森。

そんな綺麗な森はドラゴンの叫び声のせいで不気味なプレッシャー放ち始めた。

今までに無い強敵が待ち構えてるのは明らかだった。

 

「よし…………」

 

俺は小さく拳を握って、気合いを入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を歩いていると、時々モンスターに出会す。

しかし、どのモンスターも攻撃をしこない。

遠目で俺達を観察しているだけ。

戦闘をしない事に越したことはないが嫌な感じだ。

 

「オオ、鹿がオレっち達を見てるゾ」

 

「………何だあいつ?」

 

ハイキングテンションのアルゴが木の陰にいる鹿を発見した。

気になって俺も見てみると変な鹿がいた。

顔全体が垂れ下がっている。

ついでに、角も垂れ下がっていてスゲーやる気無さそうな鹿。

 

「気が抜ける鹿だな」

 

折角気合いを入れ直したのに意味が無くなってしまいそうだ。

でも、あの鹿は悩みが無さそうで羨ましい。

悩みが無い事が悩みって言う人がいるけど、あの人達は良いよね。

女顔って弄られている俺の悩みよりよっぽど良い………

 

「ア、どっか行っタ」

 

変な鹿は、ふんっと鼻鳴らしてから森の奥に消えていった。

全てのモンスターが今のように森の奥へと消えていく。

一体何が起こっているのだろう。

 

グワァァァ!

 

「段々声が大きくなってきてるな」

 

大きな斧を担いでいるエギルが不敵に笑う。

ここで注意したいのがエギルはけして戦闘を楽しみにしているのではない。

戦闘後のドロップ品で金儲けが楽しみなだけだ。

戦闘が楽しみなのはあっち。

 

「ドラゴンかー!!火を吹くのかな?飛ぶのかな?牙と爪はどんなだろう!?」

 

俺の前を歩く木綿季がドラゴンとの戦闘を楽しみにしている。

雰囲気的に原作のメーディアが薬草でドラゴンを眠らすという展開は無いだろう。

木綿季が楽しそうで何よりだ。

そんな木綿季を俺は絶対に守ってみせる。

 

「サポート頼むぞ」

 

「任せてください」

 

俺とアイは歩きながら拳を合わせた。

昨晩と全く同じ言葉と行動だけど、それが逆に良かった。

 

「ドラゴン退治は男のロマンなんですよね?」

 

「いや、知らないけど………」

 

「寝言で言ってましたよ」

 

「え?嘘だよな?嘘ですよね!?」

 

アイは笑っただけで答えてはくれなかった。

大事なお互いの信頼を確かめ合った感動シーンが台無しだ。

………………俺って自分が思ってるよりも子供なのか?

だから、上に空に飛びたがるのか?

ちょっとでも大人な感じを出す為に、今度エギルに頼んでコーヒーのブラックに挑戦しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太ったドラゴンが俺達を威嚇していた。

翠色の鱗がキラリン☆っと光っていて凄く硬そう。

牙と爪は驚くほど鋭くて攻撃力が高そうだ。

防御力と攻撃力が高いけどスピードが遅い系のドラゴンらしい。

そして、ドラゴンの後ろにあるのは黒い台に祭られている金羊毛。

 

「あの黒い台に何かありそうだな」

 

「その台を調べるには目の前のドラゴンを倒さないといけませんね」

 

俺は右手に解き明かす者(エリュシデータ)を左手には闇を払う剣(ダークリパルサー)を構えた。

アイは心を反映する剣(リフレクトハート)を抜いた。

アイの周囲に雪が舞い散り始める。

 

「待って下さい!私がドラゴンを眠らせます」

 

「「は?」」

 

まさにドラゴンにコツを使って飛び掛かろうとした時、メーディアがそれを止めた。

ドラゴンと戦闘する気満々だった俺とアイは間抜けな声を出してしまった。

まさか、ちゃんと原作通りに進むのか?

木綿季やアスナ達も戦わないの?って俺とアイの事を見ていた。

俺は首を傾げて分からないと合図をする。

 

「眠りなさい!!」

 

メーディアは緑と黒、少しの青が混じった色をした摺り潰された薬草をドラゴンに投げ付けた。

投げると言っても優しくフワッと投げた。

宙を舞った薬草はドラゴンの頭に乗っかって溶けた。

あの硬そうなドラゴンの皮膚に薬草が溶け込んだ。

 

グルルルル………………

 

ドラゴンのギラギラした瞳。

瞼が段々下がってきて、その瞳が見えなくなってきた。

 

「あ~、寝た?」

 

「寝ましたね」

 

ドラゴンは瞳を完全に閉ざして、その場に崩れ落ちた。

ラスボスと思っていたのにあっけない。

ドラゴンはスヤスヤと眠ってしまった。

 

「これでドラゴンは数時間目を覚まさないでしょう」

 

メーディアは愛しきイアーソーンに言った。

イアーソーンしか眼中にないメーディアはイアーソーンに褒めて欲しいのかモジモジしている。

ん~、昔のギャルってる人のような格好と容姿のメーディアは正直好きになれない。

木綿季みたいにノーメイクが一番だ。

そう言えば、すっぴんって元々は化粧無しでも美人な人を言うんだよな。

木綿季はすっぴんなのだよ。

 

「ありがとうメーディア。これで金羊毛を手に入れることが出来る」

 

イアーソーンはキャラが変わったように優しい笑顔をメーディアに見せた。

メーディアはもう、今が人生の中で一番幸せ!!って顔をしている。

二人だけの世界がそこにある。

 

「ねぇキリト君。これってどういうこと?」

 

「ボク、ドラゴンと闘いたかったよ………」

 

状況が読めなくて困惑中のアスナと状況なんて関係無くドラゴンとの戦闘が無くて残念そうな木綿季。

 

「予想と違って原作通りに進んでいる」

 

「原作通りならこの後は?」

 

アスナは真剣に訊いてきた。

 

「危険もあるけど、メーディアのお陰で無事にイルオルコスに帰還できるんだけど………」

 

「ハルピュイアとは戦ったのにドラゴンとは戦わないなんて………」

 

横でアイがブツブツ独り言を言っている。

そう、アイの言う通りなのだ。

俺が寝ている間にアイ達は本来戦わないハルピュイアと戦った。

今さら原作通りなんておかしい。

 

「いいじゃねえか。戦わないでクエストをクリア出来る。俺達にとっちゃ万々歳じゃねーか」

 

「……………そうだな。でも、逆に気を付けないといけない。注意していこう」

 

アイが言ったように予想外の先を考えても予想外な事に潰されるだけ、今の最善の策は慎重に臨機応変に行動する事。

それに、クラインの言った事は間違いじゃない。

これは迷宮区のボス戦じゃない戦わないのが一番だ。

 

「集まれ!」

 

イアーソーンは黒い台の前に今居るアルゴノーツメンバーを集めた。

俺達は金羊毛を見に黒い台の前に集る。

 

「ここまで来れたのは皆のお陰だ!感謝するぞ!!」

 

イアーソーンの顔は喜びに満ちていた。

それもそうだろう。

王となる条件の金羊毛を手に入れる事が出来たのだから。

それに、エロースのお陰でお嫁さんもゲッチュした。

イアーソーンは今最高に気分が良いのだろう。

 

「国へ帰ったら皆に褒美を与えよう!!特にお前達には良い物を与える!お前達はアルゴノーツの中でもずば抜けてよく戦ってくれたからな!」

 

イアーソーンは俺達プレイヤーに向かって言った。

テンションが高過ぎて俺は一歩引いてしまう。

 

「ありがとうございます。お役に立てて何よりです」

 

流石、血盟騎士団副団長様。

礼儀正しく俺達プレイヤーを代表してお礼を述べてくれた。

 

「では、少し休んでからこの森を抜けよう!」

 

イアーソーンは金羊毛を大事に抱えてから頑丈そうな箱に入れた。

誰にも渡さない感が凄い。

 

「キリト様、あの台」

 

「ああ、そうだな」

 

俺は金羊毛が祭られていた黒い台にアイと一緒に向かった。

ここの場面からが原作通りなら金羊毛は木に打ち付けられている筈。

元より注目していたこの黒い台が更に怪しく見える。

 

「これは………何だ?」

 

黒い台は大きな石だった。

長方形の黒石の高さは俺の腰辺りまである。

俺はそっと黒石にそっと触れた。

 

ウォン………

 

俺の指が黒い台に触れた瞬間、水色に光る模様が黒い台に現れた。

 

「これって………」

 

「キーボードですね………」

 

何故こんな場違いな物がここに?

俺は驚きすぎて隣にいるアイと目を合わせた。

お互い分からない事だらけだった。

 

「どうしたのキリト?」

 

木綿季が皆と一緒に俺とアイの所に来た。

目を丸くして見詰め合っていた俺とアイを不思議に感じたらしい。

そして………

 

「パパ?お姉ちゃん?」

 

恐らくMHCPであるユイが首を傾げて俺とアイを見ていた。




皆さ~ん!!
次回ですよ!!次回を楽しみにしていてください!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話 反撃

横浜に住んでいる友達が、
俺も教室が理科室だった!!
って言った。
一方、東京の友達は、
俺はPCルームだ!!廊下にはウォータークーラーがあるんだ!!良いだろ~!!

これは差別なのか?


黒い大理石のような台に、水色に光るキーボードが浮かんでいる。

俺がよく知っているパソコンのキーボードだった。

何故このキーボードが浮かび上がったのかは分からない。

 

「ユイは分かるか?」

 

俺はこの世界の一部であるユイに訊いてみた。

記憶などが曖昧でも何か分かると思ったからだ。

ユイがトコトコと一番後ろから前に歩いて来た。

 

「これは…………ッ!!」

 

「ユイ?」

 

ユイが黒石に恐る恐る触った時、ユイがいきなり黒石から手を引いて数歩後ず去る。

そして、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

いきなりの事で一瞬、皆の動きが止まってしまう。

 

「ユイちゃん!?」

 

逸早く硬直を解いた木綿季が急いでユイに駆け寄った。

アスナとサチも後から駆け寄る。

俺を含めた皆が思わず黒石から一歩引き下がってしまった。

 

「あぁ………あぁ………」

 

ユイがその小さな体を小刻みに震わせながら呻く。

どう見ても異常な状態だった。

 

「何なんだよあの石………」

 

エギルが自分の斧を力強く握りしめている。

あの黒石に触れたユイがこうなってしまったのだから警戒するのは当たり前だろう。

 

「いや、少なくとも俺達プレイヤーなら触っても大丈夫だ。現に俺が触れても何とも無かった」

 

つまり、この黒石はユイがAIだった事が原因でユイに何等かの影響を及ぼしたのだ。

俺は然り気無くアイの前に出て庇うように立った。

 

「ありがとうございます………」

 

アイが俺にだけ聞こえるように言った。

俺は振り向いて笑いながら頷く。

この時、アルゴがアイを庇う俺を見てウンウンと何回も首を縦に振っていたのは無視する。

 

「ユイは大丈夫か?」

 

「まだ少しだけ震えています」

 

俺は木綿季に背中をさすってもらっているユイの方を見た。

最初よりは落ち着きを取り戻してはいるけど、完全回復まではもう少し掛かりそうな様子。

ユイの状況からして今すぐにでもこの場を離れるのが先決だ。

皆に船に戻ろうと言うべきなのだ。

しかし、俺はそれが出来ないでいた。

 

(何かある筈なんだ。あのキーボードが浮かび上がった黒石には何かがある筈なんだ)

 

冷静に頭の中を回転させる。

ユイの異常な状態はあの黒石が原因。

黒石に大きな怒りを心に宿しながらも俺は考えた。

それはアイも同じなようで背中からアイの独り言が聞こえてくる。

だけど、流石に情報が少なすぎる。

幾つかの予測は思い付くのだけど、どれも信用性と根拠がない。

俺達2人はイアーソーンの設けた”少しの間”と言う不確定なリミットに焦りを感じ始めた。

 

「コンソールです………」

 

「「え?」」

 

俺達が焦っていると不意に後ろから声がした。

俺が声がした方を向くとユイが木綿季に支えられていた。

まだ、調子が悪そうで無理して立っているのが分かる。

 

「ユイちゃん、コンソールって何?」

 

アスナが姿勢を低くして目線をユイの高さに合わせた。

ユイは頷いてから説明に入った。

 

「あの石はコンソールと言ってゲームマスターが緊急時、システムにアクセスする為の物です」

 

「システムにアクセス……………って事はここからSAO全プレイヤーをログアウト出来るのか!?ユイちゃん頼めるか!?」

 

クラインが期待を込めて言った。

しかし、ユイは顔を下に向けてしまう。

 

「無理です。私はバグの塊のような物。システムにアクセスした時点で即刻削除されてしまいます」

 

ユイの声は震えていてとても悔しそうだった。

自分の事をバグの塊と言ったユイは黒石に触れて何を思い出したのだろうか?

俺の疑問はアスナが尋ねてくれた。

 

「ユイちゃんは何を思い出したの?」

 

「………この場所と私の事です」

 

ユイは未だに下を向いたまま答えた。

言うのを躊躇っているように見えるユイ。

けれども、何かを決心したのか顔を上げて語り始めた。

 

「まず、この場所………と言うよりこのクエストその物がバグなのです。溜まったバグを一気に片付けようとカーディナルシステムはクエストと言う形で消化しました」

 

(バグって………ただ削除したり修正すればいいんじゃないか?カーディナルが溜め込む程のバグって何だ?)

 

俺はユイの言ったバグに疑問を抱いたので独りでに考えた。

顎に手を当てながら考えられるバグを頭の中に並べていく。

………カーディナルが溜め込むようなバグは無いと思うが。

 

「私はMental Health Counciling Program。プレイヤーの精神ケアを行うカウンセリング用のAIでした。しかし、SAOが開始された直後私はプレイヤーとの接触を禁じられました………」

 

「…………誰からだ」

 

思わず冷たい言い方でユイに訊いてしまった。

ユイがMHCPだと言うことは予測していたけど、その後の接触を禁止命令が気になったのだ。

皆静かにユイの話を聞いていたので俺の声は一段とよく響いた。

 

「キリトさん?」

 

「キュル…………?」

 

シリカが俺の事を呼んだ。

ピナも俺を呼んだ気がした。

怯えているのは明らかだった。

今の俺は相当怖い顔をしているのだろう。

怒った時のアスナとは別種の怖さだと思う。

 

「茅場 昌彦です。カーディナルシステムが命令した訳ではありません」

 

「…………ごめん。続けてくれ」

 

今のユイの返事で分かった事がある。

ユイは俺の事を知っている。

恐らくアイの正体も見破った。

カーディナルが俺の娘だと分かっていたからユイは、カーディナルシステムでは無い、っとわざわざ言ってくれたんだ。

その証拠にユイの頬が一瞬緩んだのを俺は見逃さない。

 

「SAO開始時の異常な負の感情。プレイヤーの前に現れて心のケアをしなければならないのに、接触を禁止されているという矛盾。この矛盾がバグとなってしまったんです」

 

「負の感情がバグに………」

 

負の感情がバグになる。

考えずらいがそれが真実。

そして、バグは溜まり続け遂に限界が訪れた。

人の感情バグを削除するのは人。

それがカーディナルの結論だったのだろう。

 

「俺の腕が戻らなかったのはバグのせい。時々現れる高性能AIはバグの影響って事か」

 

「はい。腕を治せたのはバグを私に移したからです」

 

俺は顔をしかめ、拳を握る。

腕を再生させた代償がユイのバグを増幅させる事と分かり自分が許せなくなった。

いくら知らなかったとはいえ、只でさえバグが溜まっているユイにそんな負担を掛けてしまうなんて………

 

「クエストがクリアされたら。ユイちゃんはどうなるの?」

 

ユイを支えている木綿季が口を開いた。

 

「同時にバグ処理完了って事で削除される、または最初と同じようにシステムの中でバグを溜め始めるかです」

 

ユイは木綿季に向かって哀しそうに言った。

負の感情を溜める事がどのような事なのか、俺には分からない。

けれど、それはMHCPのユイにとって物凄く辛いことであるのは分かる。

 

「そんなッ!!」

 

「どうにか出来ないの!?」

 

常にほんわかしているサチが口に手を当てながら涙を滲ませる。

リズはユイに必死で問い詰めた。

 

「私が助かる方法はありません。それに皆さん、私は()()()AI。今話している言葉、今浮かべている表情は偽物なんです………」

 

ユイは涙を流しながら再度顔を下にした。

瞳から零れ落ちた涙がユイの足元に落下していく。

 

「偽物なんかじゃない!ユイちゃんが向けてくれた笑顔をボクは偽物とは思わない!!」

 

木綿季はしゃがんでユイの肩を掴んだと思うと大きな声で叫んだ。

その叫びにアスナが続く。

 

「そうだよ!買い物中のユイちゃん、心から楽しそうだったじゃない!!」

 

ユイは驚いた様子で顔を上げた。

涙を流し終わっていないのでユイの目からは涙が流れ続けている。

 

「理解出来ません………」

 

ユイは両手で必死に涙を拭きながら呟いた。

 

「私は只のAI………全てが偽物なのに………何で優しいんですか………?私が………皆様の前から消えるのは………決まっている事なのに………何で………?」

 

「決まって何かいないよ!」

 

木綿季が泣いているユイを抱き締めて宥める。

皆、どうにかしてユイをこのシステムから救いだそうと考えている。

勿論、俺もだ。

そこで、俺はある事を思い付いた。

 

「アイ、ちょっといいか」

 

「何で___」

 

俺はアイが返事の最中にも関わらず思いっきりアイを抱き締めた。

寝ている時は起こさないように優しく抱き締めていたけど、今は起きているので力の限りギュ~~~!!!ってした。

ギュ~~~!!!って!!

 

「ちょ、え!?パ……和……キリト様!?」

 

俺の突然の行動にアイは勿論の事、真っ赤になっているアイの声で俺を見た皆が唖然とする。

まぁ、端から見れば単なる変態行動に見えるのは俺も理解しているからな。

 

「ん~………よし!!」

 

俺は満足した所でアイを離した。

アイを見てみると口を鯉のようにパクパクさせながら目を回していた。

 

「よしっテ………キー坊はこんな大事な場面で何をしてるんダ?」

 

「充電かな?」

 

苦笑いをして俺に尋ねたアルゴに向けて、不敵に笑ってやる。

そして俺はユイの側に近づいた。

 

「なぁユイ。ユイがあのコンソールでシステムにアクセスしたら、どのくらいで削除される?」

 

「え?えっと………2分程です」

 

訊かれたユイは慌てながらも答えてくれた。

 

「か………キリト?」

 

不思議そうにしている木綿季に頬笑みを向けてから、俺は大きく深呼吸をする。

森の影響なのか、いつもより空気が美味しく感じた。

 

「俺を信じてくれるなら、ユイを助けられるかもしれない」

 

「私をですか………?」

 

木綿季やアスナ、他の皆の顔が一気に明るくなった。

しかし、俺は皆の明るい顔を暗くしてしまうかもしれない。

 

「システムにアクセスした瞬間、カーディナルシステムとユイのデータを切り離す。その後にユイのデータを俺のナーブギアのローカルメモリーに保存する」

 

「キリトのローカルメモリーに?そんな事出来るわけ無いでしょ。あんたね、真面目に考えなさいよ!」

 

俺の考えていた通り、皆の顔が暗くなってしまった。

最初よりも更に暗くなってしまう。

希望が見え、その希望が無くなると元の時より落ち込むのは人として当たり前。

だけど、木綿季、アイ、アルゴ、サチ、そしてユイ。

俺の事を知っている奴は暗くなったと言うより驚いて戸惑っている。

まぁ、俺も正直言いたくないけど言わないと試させてもらえないだろうからな。

それに、アイで充電したから多少の重圧は大丈夫………だと思う。

 

「出来るさ、俺が造ったシステムなんだからな」

 

俺の突然の告白に静かな時間が訪れる。

森の木々が風で揺れる音しか、俺には聞こえない。

視界に入るのは驚きを隠せない仲間達。

え?嘘でしょ?冗談でしょ?な顔と、あのコミュ障が自分で言った!!の2種類の驚き方が見てとれる。

 

「………あ、あのコミュ障が自分で言っタ!?」

 

「おい」

 

アルゴが失礼な言葉で沈黙を破った。

しかも、俺の考えていた事と全く同じ驚き方だったので逆にこっちが驚いてしまう。

いつかアルゴの大っ嫌いな犬を使ったドッキリを決行してやる。

 

「おい、キリトがこのシステムを造ったって?それが本当ならキリトがもう一人の天才なのか?」

 

当然の疑問を大人のエギルが俺に訊いてきた。

俺は黙って頷く。

エギルはありがたいことにそれ以上は訊いて来なかった。

今の確認だけで色々と察してくれたらしい。

これが大人の対応かと感心してしまう。

次の質問はアスナからだった。

 

「にしても、歳がおかしくないかしら?キリト君は何歳の時にシステムを造ったと言うの?見たところ十歳半ばでしょ?」

 

アスナの視線が厳しくなった。

冗談を言わないで!今なら許してあげるわよ、と視線で言っている。

以前の俺なら光の速さで逃げ出す所だった。

俺は成長したのか?

と言っても、精神HPはアイのバフを受けていてもガリガリと削られていく。

 

「おかしくない。俺はカーディナルシステムを14歳の時に造りあげたんだ」

 

俺は正真正銘14歳の時にカーディナルシステムを造った。

不思議がられても他に言うことが無い。

 

「アスナ、本当の事だよ。ボク、アイちゃん、アルゴが証人」

 

「私も知ってるよ」

 

木綿季の説明にサチが言い加える。

サチを見てビックリしていた木綿季だったけど、すぐに笑った。

アスナは何故か溜め息を吐いた。

 

「キリトさんが………」

 

「コミュ障のあんたがねぇー…………」

 

シリカとリズが俺の足から頭までをジーっと観察してきた。

じわじわと精神HPが減少していってしまう。

今の精神HPは丁度半分を切ったぐらい。

 

「ま、キリトのコミュ障を考えるとそりゃ隠すよな。茅場へのイライラをキリトに向ける奴も居ただろうし」

 

世界中の人間がクラインぐらい心が広ければと思ってしまう。

犯罪なんて無くなって平和な世界が訪れるであろう。

………平和だけど駄目な世界になりそうだ。

ん?前にも同じ事を考えたような…………デジャブか。

 

「意外とすんなり信じるんだな」

 

クラインは信じてくれると思っていたけど、リズとかが普通に信じるとは思わなかった。

軽く一悶着あるかと思っていた。

なんと言うか………信じてくれて嬉しい。

 

「キリトがそんな大嘘をつく度胸が無いのは分かってるのよ」

 

「リズ様はよく分かっています。キリト様がへたれである事を」

 

「うっ………」

 

アイから倒置法での罵倒が結構心にぐさりとくる。

やばい、HPが1割ぐらいになった。

アイの攻撃がどんな精神攻撃よりも堪える。

物理的にも精神的にも強いアイって本当にチートだと思う。

 

「とにかく!ユイが信じてくれれば可能があるって事!」

 

俺はユイに言った。

そもそもユイが俺を信用してくれなければ元も子もない。

 

「親を信じない子供何ていません!!」

 

ユイは涙を拭き取ってかっこよく俺を見つめた。

うん、親なら子供の期待に答えなければならないよな。

 

「よし、本気出すか」

 

久し振りのPC。

腕が鈍ってないか心配だが、そんな事考えている場合じゃない。

やらないといけないんだ。

 

「それとユイを切り離すのは多分出来る。俺はその後に試したい事があるんだ」

 

「試したい事?」

 

可愛らしく首を傾げる木綿季に俺は真剣な表情で伝えた。

 

「全プレイヤーをログアウトさせるのは不可能だけど、ログアウトアイテムを出来るだけ製作する」

 

はい、今日2発目のビックリ発言にまたもや沈黙の時間がやって来た。

今回のは流石のアイも驚いたようで口をぽけーっと開けて固まっている。

そんな自分が作った沈黙の時間を自ら解いてあげた。

 

「でも、作れたとしても数は分からない。1個かもしれないし10個かもしれない。それにログアウトアイテムなんてイレギュラー過ぎるからすぐに使わないと削除されると思う」

 

本当なら全プレイヤーをログアウトさせて茅場さんの計画を破壊したいのだけれど、ハッキングのようにシステムにアクセスするのでカーディナルが見過ごす筈がない。

 

「キリト君………無理はしないでね。それのせいでキリト君が消されちゃうのは嫌だよ」

 

アスナの目は潤んでいた。

皆も同じ気持ちなのか心配そうに俺を見てくる。

 

「大丈夫。その………と、友達を悲しませたりはしないから………」

 

何で俺はこんな事を言ったんだろう?

俺は言ってる最中に小っ恥ずかしくなってそっぽを向いた。

しかし、向いた先が間違いだった。

ニヨニヨアルゴとおめめとおめめがこんにちはした。

 

「さ、早速やるぞ!!」

 

俺は全力で誤魔化した。

自分でも何を誤魔化したのかは分からないけど、とにかく誤魔化した。

 

「はい!!」

 

黒石の前に向かった俺の後ろをユイが付いてきた。

アイをもう一度ギューってしたい………

出来れば木綿季も………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにゃろっ!」

 

ユイをシステムから切り離す作業は想像以上に難しかった。

普通に切り離そうとしたらユイのデータがロックされていたり、ロックをすり抜けようとしたら危うく強制的に排除されそうになったり。

まぁ、それでも難しいだけで無理では無い。

俺は毒を吐きながらも作業を進めた。

 

「移して………ってどうだ!!」

 

エンターキーを押してユイのデータを俺のナーブギアのローカルメモリーに移す。

空中に出ている画面にゲージが表示される。

10%、20%、30%と着実にユイのデータが転送されているのが見て分かる。

ゲージが青に染まっていく。

 

「次は………!!」

 

100%になるまで待てる訳もなく俺はアイテム製作ツールを開く。

現時点で残るタイムリミットは1分を過ぎたところ。

打っていると分かるがやっぱり鈍っている。

 

「スゲー………」

 

後ろからクラインの声が聞こえた。

俺のキーを打つときの速さに驚いたのか?

でも、俺にとっちゃまだ遅い。

速く、もっと速く、指のグラフィックが俺の動きに付いて来れなくなるぐらい速く!!

 

「デザインはランダムにしてー………!!」

 

デザイン、耐久性、大きさ、など細かい物は全てランダムにする。

これで超でかいスライム型のアイテムになってもログアウトが出来るなら致し方無し!!

残り30秒。

 

「データ転送完了!アイテム化を実装………!!」

 

丁度、ユイのデータがローカルメモリーに移ったのと同時にアイテム化が始まる。

もう、こっからは俺の出来る事は何も無い。

カーディナルにアイテム化を止められるまでアイテムは作り出され続ける。

強いて言うなら出来るだけ遅くに気付けと祈る事が俺に今出来る事。

 

「頼むぞ………」

 

俺は真後ろに倒れこんでしまった。

ハッキング擬きの状態でこんな作業をするなんて考えたことがないからな。

 

「っと、お疲れさん!」

 

「後は待つだけか」

 

俺はクラインとエギルの男2人組に支えられた。

疲れ過ぎて第1層の雑魚モンスターにさえ勝てそうもない精神状態なので凄く助かる。

 

「パパ、私は………」

 

「俺がログアウト出来たらユイも同時にSAOから出られるよ」

 

俺は何となくピースサインを出してみた。

ユイは満面の笑みになって近くにいたアスナに飛び付いた。

あれ?ユイに一番近かったのは木綿季だった筈じゃ………

 

「凄いよ~!!」

 

「のあっ!?」

 

背中からやって来た謎の抱擁を受けて俺は前につんのめる。

何とか転びはしなかったけど心臓が飛び出るかと思った。

 

「キリトはやっぱり凄いよ!!」

 

後ろから抱き付いて来たのは木綿季だった。

身長差を考えてジャンプして飛び付いたらしい。

それにしても相変わらず男性への警戒心が無さ過ぎる。

胸のプレートが無ければ木綿季の大事な物が背中に押し付けられていただろう。

 

「後はログアウトアイテムだけ」

 

「そうだね!!」

 

顔が近かった。

木綿季の息が耳元に感じる。

ここが現実だったら俺の心臓はどうなっていたのだろう?

もし、この場に俺と木綿季しか居なかったとしたら迷わず押し倒していたかもしれない。

…………………想像するな妄想するな考えるな押し倒した時の木綿季のイメージ映像を頭から削除しろ!!

これはのみのぴこのすんでいるねこのごえもんのしっぽふんずけたあきらくんのまんがよんでるおかあさんがおだんごをかうおだんごやさんがおかねをかしたぎんこういんとぴんぽんをするおすもうさんが____

 

ビィー、ビィー、ビィー

 

俺が煩悩を振り払っていると黒石の上に浮かんでいる画面から警報が鳴った。

遂にカーディナルがハッキングを発見してハッキングの強制終了を開始したらしい。

それと同時に黒石の前に幾つかの小さな光が現れた。

ログアウトアイテムだ。

 

「えっと………」

 

俺は地面に落ちた光の欠片を確認する。

形はエメラルド色をした丸い宝石だった。

大きさは幸いにも手のひらサイズ。

この豊かそうな森にピッタリなアイテムになっていた。

しかし、

 

「9個だけ………」

 

数が足りない。

俺が作り出したかったのは10個。

このクエストメンバーだけでもログアウトさせたかったのに………

ログアウト用アイテムを作り出す事に成功した喜びもつかの間、1個足りないというベタな展開に俺の膝は折れた。

 

「………このアイテムって持って帰れないんだよね?」

 

木綿季が抱き付くのを止めて俺の隣にしゃがんだ。

反対隣にはアイが静かにしゃがむ。

 

「ああ、早く使わないとカーディナルシステムに消される可能性が高い。とてもじゃないけど持って帰るのは………クソッ!!」

 

俺は地面に拳を叩き付けた。

俺がもっと速くユイのデータを移す事が出来れば、俺がもっと速くアイテムを製作出来ていたなら、残りの1個を間に合わせる事が出来た筈だ。

自分の力の無さに腹が立つ。

 

「1人残るんだったラ、これは使わない方が良いナ」

 

「そうですね。ちょっと残念ですけど、1人置いていくくらいなら」

 

皆同じ意見。

ここのメンバーは絶対に仲間を見捨てない。

何があってもだ。

なら、自分から離れればいい。

 

「いや、俺が残る。皆が使ってくれ」

 

「おい、キリト!!」

 

俺は感情を圧し殺して言った。

止めてくれようとしているのはクラインかな?

正直言うと戻りたいという気持ちはある。

だけど、それよりも木綿季を助けたい、アイを助けたい、友達を助けたい。

その気持ちが遥かに上回っている。

ユイには迷惑を掛ける事になるけどそこは妥協してもらうしかない。

すると、木綿季が宝石から俺の方を向いた。

 

「次、そんな事言ったらボク達絶交だよ」

 

「ッ!!」

 

木綿季の声と視線は凄く冷たかった。

いつもの木綿季からは考えられない声音。

木綿季の変貌に俺は息をするのさえ忘れた。

 

「ボクを1人にしないでよ………」

 

っと思ったら木綿季の目が潤み始め、声が弱々しくなった。

木綿季が俺の手を握る。

この時、俺は木綿季との約束を思い出した。

第4層の夜にで交わした約束。

あの大切な約束を忘れてしまっていたなんて………

 

「でも…………」

 

「私が残るわ」

 

俺は驚いて後ろを振り返った。

後ろではアスナがユイの頭を撫でながら笑っていた。

撫でられているユイも驚いて目をまんまるにしている。

 

「駄目よアスナ!このアイテムは使わない方が良いわよ!!」

 

アスナの親友が当然止めに入った。

しかし、アスナは表情を変えない。

 

「キリト君。もし、10個作れたとしても私はここに残るつもりだったよ」

 

「な……んで?」

 

俺は訳がわからずアスナに問い掛けた。

 

「だって、いきなり攻略組の中でもトッププレイヤーのキリト君達が急に居なくなったらおかしいでしょ?事情を説明しないと混乱が起こるわ」

 

「………」

 

考えてもいなかった。

何がなんでもここに居るメンバーだけを助けようとして他のSAOプレイヤーの事を想定していなかった。

深縹の舞姫、従者、閃光、それに風林火山のクラインだっている。

攻略のペースが落ちるに決まっているじゃないか。

 

「正直言って、ここに居るメンバーの中で一番立場が高くて発言力もあるのは私よ。無理矢理にでも納得させてやるわ。それに、このアイテムを使わないなんて勿体無いじゃない」

 

アスナは的確に正論を言ってきた。

正論過ぎて反論が出来ない。

感情論で対抗しても無駄だろう。

 

「でも、それだとアスナが………」

 

結局、感情論さえも言えず口を濁すだけになってしまった。

反論出来る者がこの場には居ない。

 

「それに、キリト君達には外から私達を救って欲しいの。中からは私、外からはキリト君達がこのゲームを攻略するの。勿論、私は死ぬつもりないからね」

 

既にアスナが残る事を前提に話が進められていく。

もう、止められない所まで来ているのを直感する。

 

「………本当に死なないよな?」

 

「キリト君も分かってるでしょ?私は閃光よ!」

 

アスナの顔を見て安心してしまった。

自信たっぷり死ぬ事なんて有り得ない。

外から俺達が何らかのチャンスを与えてくれると信じている。

 

「エギル、アイテムを纏められるアイテム持ってたよな?」

 

「ああ、持ってるぜ………ってキリトお前まさか!?」

 

俺は立ち上がって背中にある2本の剣を外した。

そして、ずっしりと重い2つの剣を鞘に納まったまま地面に突き刺した。

 

「この剣を攻略組の誰かに渡してくれ。絶対に役に立つからさ」

 

「………ならボクはこれをアスナにあげる!!」

 

木綿季は腰にぶら下がっていた剣を外してアスナに差し出した。

 

「部類的には片手剣であって細剣でもあるからアスナのソードスキルも使える筈だよ。残念ながら絶剣スキルは使えないだろうけどね………」

 

「では、私はこの剣を攻略組の誰かに。所有者によって属性が変わるので注意してくださいね」

 

アイも自分の愛剣を俺と同じように突き刺した。

 

「~!!本当は反対なんだけど仕方ないわね!私からはこれよ。そこらのハンマーよりは性能が良い筈よ」

 

リズがメニューから出したのは鍛治用のハンマーだった。

銀色に輝くハンマーは業物を沢山作ってくれそうだ。

 

「んじゃ、俺はこの刀だ!!」

 

クラインはかっこよく愛刀を地面に刺した。

普段だったらカッコつけるなよとか言うのだが、今は本当にかっこいいので言わない。

 

「ったく、ほらこの布の上に乗せろ。纏めて運べるからよ」

 

エギルが大きな布を取り出した。

魔法が存在しないSAOの中で数少ない魔法みたいなこのアイテム。

上限はあるけど、上限内ならどんな荷物も軽く運べる優れ物。

 

「オレっちからはこいつをやろウ。オレっちが知っている全ての情報ダ。悪い事には使うなよナ」

 

物凄い量の紙束がオブジェクト化した。

アルゴが自分で全てを書き留めていたらしい。

想像も出来ない程の価値がある物だ。

 

「す、すいません。私からも何か差し上げたいのですが………私は何も持ってなくて………」

 

「キュルル………」

 

「残念だけど、私も………」

 

シリカが申し訳なさそうに頭を下げるとピナもそれに合わせて首を下げた。

サチも残念そうにしている。

 

「気持ちだけでも嬉しいよ!!」

 

アスナが2人の手を握った。

シリカとサチ、ピナは嬉しそうに顔を上げた。

 

「アスナさん、頑張って下さいね!!」

 

「うん!頑張るよ!!」

 

ユイの応援にアスナは両手で可愛くガッツポーズをした。

一時の別れが少しずつ近づいてきている。

まだ、俺が残った方が良いのでは?と思う気持ちがあるけど、俺には現実からこのゲームを終わらせないといけない。

 

「そろそろだな」

 

俺が言うと皆は黙って頷いた。

最後に俺達はアスナへ全財産を送った。

9人分の全財産はそれはもう大金だろう。

家にあるコルも使えたら使っていいと言ったのでそれはもうヤバイ。

俺達がログアウトしたらどうなるか分からないけど、使えたらいいなと思う。

 

「使い方はログアウト!って言った後に自分の名前を言うだけだ」

 

アスナ以外の皆にエメラルド色の宝石が渡り、いよいよという空気が流れる。

 

「ログアウト後はどうにかして俺が連絡するから待っててくれ。勿論、連絡が貰える状況だったら何らかの行動を起こしてもいい」

 

「そんなのあたりまえでしょ!」

 

リズに怒られてしまった。

でも、これは確認だ。

行動を起こさない奴なんていないだろうしな。

 

「キリト君、信じてるからね」

 

「………俺だけじゃないだろ?」

 

「うん、そうだね。皆、あの茅場昌彦をギャフンと言わせよう!!」

 

アスナが拳を天に突き上げた。

俺達も合わせて拳を突き上げる。

そして、俺は言った。

 

「反撃の開始だ!!」

 

「「「「「「「「「「おう!!!!」」」」」」」」」」

 

「ログアウト!キリト!!」

 

あの時みたいに俺を青い光が包み込む。

一瞬の浮遊感。

意識が段々薄れていく感じがある。

 

「頑張ってね。キリト君」

 

薄れていく意識の中で俺は笑って俺を見ているアスナが目に入った。

俺は不敵に笑ってアスナを見た。

アスナが俺の事を見えたかは分からない。

俺の意識は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますとナーブギア越しに白い天井が見えた。

事故から目が覚めた時を思い出す。

俺がログアウト出来たんだ、他の皆もログアウト出来たに違いない。

俺は筋肉が落ちて動かし辛い右腕を天井に伸ばした。

 

「反撃の開始だ!!」




誰がこの展開を予想出来ただろうか!!
数あるソードアート・オンラインの二次創作でこの展開は自分が初めての筈!!
凄くね!?これ考えた自分を褒めたい!!
まぁ、読んで下さる皆様が楽しんでくれたかは分かりませんが、楽しんで下されば嬉しいです!!
では、次回からSAO現実編!!
果たしてキリト君はどう動くのか?アスナさんはどう攻略を進めるのか?こうご期待!!

そして、評価と感想お願いします!!

過去最多文字数!!
初の一万以上の文字数!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SAO現実編
41話 会議


最近暇です…………
なので暇潰しにジャグリングに挑戦しています。
意外と出来るけど、長くは続かない…………
プロってやっぱり凄いですね!!


「気分はどうだい?」

 

「筋肉痛が凄いです………」

 

俺は病室のベッドで仰向けに倒れこんでいた。

SAOからログアウトして4日目。

俺は一刻も早く動けるようにと医師や看護師に無理を言ってリハビリに励んでいた。

今は固まっている関節を柔らかくしたりしている。

内緒だが病室で1人の時は歩く練習もしている。

お陰で何とか歩けるまでになった。

そして今、無茶過ぎるリハビリメニューによって筋肉痛となっている俺を心配している人物がいた。

 

「菊岡さん………な、何か用でも?」

 

菊岡誠二郎、通信ネットワーク内仮想空間管理課、通称仮想課の職員でSAO事件を担当している総務省の人間。

簡単に言うとお国の人だ。

ほっそり体型の眼鏡長身、いかにもお偉いさん感が溢れ出ている。

そんなお偉いさんは、俺がSAOからログアウトした時に誰よりも早く駆け付けてきた。

他のプレイヤーはログアウト状態なのに何故君は戻って来れたのか?とかSAO内はどうなっている?とか、色々質問攻めにされて参ってしまう。

アイが居ない俺は緊張などで失神しかけた程だ。

しかし、俺は何とか意識を保ちながら条件を出す事にした。

 

「君が言った人物全員にアミュスフィアが渡された。頼み通り、専用の仮想空間も用意した。今からでもそのアミュスフィアからログイン出来るよ」

 

「そうですか。では、早速ログインしたいと思います」

 

俺の出した条件、それは情報提供の代わりにログアウト出来た人物8名が集まれるように場所を用意して欲しいというもの。

筋肉が落ちて歩くことも難しい俺達が集まるには仮想空間しかない。

テレビ電話のような物もあったけど、やはり会って話した方がしっくりくる。

俺は筋肉の悲鳴を無視して体を動かし、ベッドの横にある机の引き出しからアミュスフィアを取り出そうとした。

 

「言ってくれれば僕がやるのに」

 

「あ………」

 

菊岡さんが引き出しに手を伸ばす俺を止めて、代わりにアミュスフィアを取ってくれた。

ついでに、ログインする為の準備も素早くしてくれて、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

 

「天才君にはこれからも色々と協力してもらうつもりだからね。僕が出来る事なら何でも言ってよ」

 

「はぁ………」

 

この人は絶対に何か裏がある。

菊岡さんの爽やかな笑顔を見ているとそう思わずにはいられない。

それでも、今は一応お互い協力しあっているし、アニメみたいな裏切りはないだろう。

お前はもう必要ない、とか言われて銃を向けられたりしたら堪ったもんじゃない。

………"組織"なんて存在しないよな?

BK201が居たら嫌だよ!!

………いや、BK201は味方になるな………

 

「君達は君達で何か行動を起こすんだよね?お互い頑張ろうじゃないか」

 

「………と、止めないんですか?」

 

総務省のお偉いさんvsSAO途中ログアウト組。

負ける気しかしないな。

情報量も権限も行動力も向こうが上。

まぁ、今頃アイが俺の頼みでネット内を飛び回って情報収集をしているのだけど………

菊岡さんが言ったのはただの冷やかしにしか聞こえない。

 

「戦力は多い方が良いからね。それじゃ、看護師さんには僕から言っておくよ」

 

そう言って菊岡さんはヒラヒラと手を振りながら病室を後にした。

国の人となると忙しいのだろう。

廊下から走る足音が遠ざかっていく。

 

「美味しいところは全部持っていくって事か………」

 

元から期待はしていない。

でも、もし何らかの情報、またはSAO事態の解決方法を俺達が見つけたらそれを奪ってラッキー☆っていう感じか。

卑怯な作戦だが、実に効率的な作戦。

そうなると、ちょっとした対抗意識が出てしまう。

まぁ、あの人も作戦を理解されていると承知で行動しているのだろうけど。

 

「………リンクスタート!!」

 

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、俺は皆が居るであろう俺達専用の仮想空間に意識を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮想空間内は不思議な場所だった。

空中にある半透明で青く円状の足場。

その足場から間を開けた周りには英数字の羅列が波のようになっていて揺れている。

それに英数字の波の更に奥はまるでプラネタリウムみたいに星がキラキラと無数に光っていた。

仮想世界ではなくて電脳世界っぽい。

 

「遅いわよ!」

 

「のっ!?」

 

いきなり後頭部から凄まじい衝撃が加えられた。

俺は衝撃の勢いに逆らえず、うつ伏せに倒れ込んでしまった。

どうやら誰かに拳を喰らわせられたらしい。

まぁ、誰かと言ってもこんな事をする奴は1人しか居ない。

 

「リズは筋肉痛を知らないのか………」

 

「ここには筋肉痛なんて無いでしょ!」

 

俺は首を曲げて俺を殴ったリズを見上げた。

ワンピース型の病衣を着ていた。

病院で入院しているからだろうか?

それによく見ると俺も現実と同じの病衣を着ている。

 

「流石、総務省ってか?すぐにこんな場所を用意するなんてスゲーな!」

 

「この空間は誰の趣味なんだ?」

 

リズの後ろからはクラインとエギルがこの不思議空間を眺めていた。

他にもシリカ、サチ、アルゴが居る。

そして、その中に俺が最も会いたい人物の1人が居た。

 

「遅いよ!女の子を待たせるなんて!」

 

「いや、用意が出来たって聞いてすぐにログインしたんだけど………」

 

木綿季が腰に両手を当てて怒っていた。

4日ぶりの木綿季はプンプンと怒っていた。

アイと同じでリハビリの必要が無い木綿季はエイズ治療の説明を倉橋先生から永遠に聞かされていたらしい。

一度木綿季から連絡があったけど意味が分からないなどと愚痴を聞いただけで終わってしまった。

エイズ治療もいよいよ終盤だって事が木綿季の愚痴から唯一分かった事。

木綿季のエイズが遂に治ると分かり、リハビリもその日は倍近くやった。

そのせいで筋肉痛が悪化したのは歪めないが………

 

「何で笑ってるの?ボクは怒ってるんだよ!!」

 

木綿季が治るって事を思い出して自然と頬が緩んでしまった。

俺はだらしない顔を真顔に戻そうと頑張った。

が、好きな子に見られている状態で真顔になれるなんて俺には出来ない。

俺はそっぽを向いて木綿季の頭を撫でた。

 

「ご、ごめん………」

 

「………それはずるい」

 

何がずるいか知らないけど木綿季の機嫌は回復したようだ。

しかし、俺と木綿季の間に変な空気が流れてしまう。

 

「キリト、アイちゃんとユイちゃんは?」

 

助け船を出してくれたのはサチだった。

本人は助けたつもりは無いにしろ、この変な空気を脱する事が出来たのでありがたい。

 

「私ならここです」

 

いつの間にか現れたアイに皆が驚いた。

菊岡さんにはアイの事を話していないのでアイがここに居る筈が無いのにだ。

………ハッキングだろうな。

流石、アーガスの厳重ブロックを突破しただけの事はある。

俺が手助けしなくても悠々と入って来れた。

皆にハッキングがバレないように病衣も着用している。

可愛さを求めているのか薄いピンク色。

 

「アイが居るって事はユイも?」

 

「ここにいますよ!パパ!!」

 

アイの後ろからひょっこりと顔を出したのはワンピース姿のユイ。

予想通り、ハッキングついでにナーブギアのローカルメモリーからアイはユイを連れて来てくれた。

出来る娘、アイ!!

 

「これで全員だな?」

 

「そうですね。では、始めますか」

 

俺達は足場の中心で円くなって座った。

この不思議な空間にほぼ全員が病衣を着ている謎の集会。

どう考えてもミスマッチ。

すぐに仮想空間を用意してくれたのは嬉しいけど、エギルの言う通り誰の趣味なのか疑問だ。

 

「茅場さんをギャフンって言わせる為の会議。第1回目を開催します!!」

 

名前はふざけているけど、中身はちゃんとしたSAO解決に向けて方法を考える会議。

さて、総務省の眼鏡さんに負けないように頑張ろう!!

勿論、一番の目的はアスナの救出だよ!!




今回は特に無いですね。
スルーしても良いぐらいのどうでもよさ。
次回から頑張ろう!!

評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42話 全力を出すだけ

ニート人生に一直線!!
勉強嫌だよ~!!


 

「まずは、茅場さんの居場所だな」

 

会議が始まり、俺は最初の議題を提示する。

 

「どうしてよ?まずはSAOを止める方が先じゃないの?」

 

俺はリズの質問に対して首を横に振った。

そして、何故最初にする事がSAOを止める事ではなくて、茅場さんの捜索する事かを説明しようとした。

 

「はい。もしかして、人質?」

 

サチが手を上げて言った。

 

「正解。俺達がSAOを脱出した事はアスナがSAO攻略組に知らせている。茅場さんもそれを何処かで聞いていると思う。あの茅場さんの事だ。SAOを止められないように何らかの対策をしている筈だ。俺でも迂闊に手を出せられない」

 

「プログラムには手を出せない。取り敢えず今は茅場昌彦の居場所を突き止める事しかやる事が無い………か?」

 

エギルが俺の説明を簡単に訳してくれた。

俺は頷いてエギルの説明が正しいと教える。

 

「でも、それはボク達の前に仮想課の人達がやってるんじゃない?」

 

「それは___」

 

っと、俺は咄嗟に息を止めて言葉の放出を無理矢理遮る。

俺は木綿季の質問に自然な流れで答えそうになってしまった。

ここでアイが調べてくれたと言えばアイがAIだとバレる危険性が高まってしまう。

質問した木綿季も気付いたようでバツが悪そうにしている。

 

「ここに来る前に私が調べて起きました!!」

 

助太刀参上我らがユイさん!!

大好きなお姉ちゃんであるアイの隣で手を上げて元気良く発言。

アイが自分とは違う形のAIだと分かっているユイはアイの重要さを理解しているようだ。

ユイはチラリと俺に視線を向けてから報告に入る。

 

「どうやら、仮想課の人達は茅場昌彦を発見できないでいるようです。恐らく協力者がいて茅場昌彦を匿っているのでしょう」

 

「協力者………」

 

俺は呟き考え込む。

協力者なら、一番考えられるのはアーガスの誰か。

俺が会っているあの幹部の誰かかもしれない。

 

「協力者………家族とかカ?」

 

「仮想課の人達がやってると思う。居所が掴めない、協力者がいる可能性がある、一番考えられるのは家族、よし!家に突っ込め!!って感じで」

 

仮想課の考えは分からないけど、砕いて言えばそんな感じだろう。

それに、根拠は無いけど茅場さんが親に頼るとは思えない。

 

「そうよね。なら、家族以外で親しい人……………恋人?」

 

「リズさん………」

 

シリカが悲しい目でリズを見始めた。

何だ?リズって彼氏欲しいよ~!系の女子なの?

恋より趣味に没頭する系の女子だと思っていた。

と言うか、茅場さんに恋人なんているのか?

 

「まぁ、考え過ぎってのは無いからな。可能性は十分あるだろ」

 

まぁ、確かにエギルの言う通りだ。

捜索などに考え過ぎ何て存在しない。

0.1%でも可能性があるなら調べる必要がある。

 

「そうだな、家族が匿っている可能性もまだ全部を否定できない」

 

さて、そうなると俺達に必要な移動手段と言う問題点が浮かぶ。

こうして考えて推測するなら幾らでも出来るし、ネットで情報収集も出来る。

しかし、実際に行って見ないと分からない事は山程存在する。

 

「今は情報収集か………どんな手段でも些細な事でもいいから茅場さんの情報を集めよう」

 

俺は皆に言った。

 

「私達は一般人なのよ。余り期待はしないでよね」

 

「そんな事ないよ。天才とか関係ない。ボク達はアスナを助ける為に頑張っている仲間。皆が自分の全力を出すだけだよ」

 

木綿季の自分が思った事を包み隠さず言える性格って本当に羨ましい。

本心だから相手の心に響く。

小さい時と変わらない他者の心を動かす性格。

もう超能力のレベルに達しているだろ。

 

「仲間ですって、聞こえましたか?仲間ですよ」

 

「うるさい………」

 

アイが俺に近づいて肘を突いてくる。

俺は一言だけ言ってから黙る事にした。

ポーカーフェイスを保ちながらもアイの弄りに耐える。

それにしてもアイが俺を弄るときって凄く笑顔になるよな。

SくSくと、Sっこく育ったらどうしよう………

 

「んじゃ、今日から3日後の12時までに各自情報を集める。良いな?」

 

最年長?のエギルがこの場を仕切る。

3日で何か重要な情報が入るか不安だけどやるしかない。

それでも、小手調べ的な感じだと3日は妥当な判断。

 

「なら、俺は早速人脈を使って調べてみるぜ。また、3日後に会おうな諸君!」

 

クラインが指をピッとやってカッコつける。

いかにもクラインらしい別れの挨拶だ。

昔なら苦笑いをしていただろうけど、今となっては普通に笑える。

クラインは右手を下に振ってメニューを出す。

その姿が俺とクラインが初めて会った時の場面と重なる。

ログアウトボタンがあるのかと少し不安になった。

しかし、そんな不安なんて何処へやら。

クラインは何故か敬礼しながら青い光と共に消えて行った。

 

「ユウキの言う通りね。全力を出す!!私も頑張らないと!」

 

「わ、私だって皆さんの役に立ちたいんです!!」

 

リズもシリカも元気を出してログアウトして行った。

どんな情報が届くのか楽しみだ。

………シリカにはサプライズを用意してたけど、それは3日後のようだな。

 

「私も頑張るね。アスナは勿論だけど、月夜の黒猫団の皆とも会いたいし」

 

「これでも俺は人脈が広い方だ。ちょっとは期待しとけよ!」

 

サチがにんまりと笑い、エギルが男前に笑いながらログアウト。

この2人は安定感があって期待せずにはいられない。

ここに居る人数も少なくなっていく。

 

「そうダ、キー坊………いや、和人君。情報集めはどんな手段でもいいんダナ?」

 

「え?あ、うん。法に触れなければ………」

 

急に元の呼び方に戻ったアオイさん。

アオイさんの目は悪戯心と真剣さが混じっていた。

間違いなく何か企んでる。

 

「期待しとけヨ。オレっちの裏技は少し凄いからナー」

 

真剣さが無くなり100%悪戯心となったアルゴは手をヒラヒラと振ってログアウトしようとした。

 

「あの、何を企んでいるんですか?」

 

「秘密だヨ☆」

 

アルゴは振り向きざまにバチコンッ☆っとウィンクをしてから今度こそログアウトして消えた。

考えている事が全然読めない。

裏技とか言っていたけど何をする気だろう?

無邪気なウィンクが逆に恐ろしい。

 

「それじゃ、ボクも色々と調べてみるね。ボクはずっと仮想世界に居るからネットの噂話でも漁るよ」

 

「俺は仮想課の菊岡さんから出来るだけ聞き出す」

 

遂に俺、木綿季、アイ、ユイの4人となり、この仮想空間が随分と広く感じるようになった。

短くて会議と呼べるのかさえ疑問な集まりは俺にとって意外と充実していた。

同じ目的で行動する仲間が居ることに嬉しく思えている。

 

「………私達はどっちと一緒に居れば良いんですか?」

 

不意にアイが俺と木綿季に尋ねてきた。

ユイも同様の質問を目で訴えている。

俺としてはどちらでも良いのだが、それだとややこしくなるだけだし………

 

「じゃんけんで決めようか」

 

俺は右手で拳を作り木綿季の前に出す。

 

「アイとユイも2人でじゃんけんしてくれ、勝ち同士と負け同士でペアになろう」

 

「オッケー!」

 

「分かりました」

 

「はいです!」

 

3人とも了承してくれてペア決めじゃんけんが行われた。

俺は木綿季と向き合ってじゃんけんの準備をする。

よく耳にする最初にパーを出すと勝てる説を試してみようと思う。

木綿季は気合い十分だし勝てるかもしれない。

 

「さーいしょーはグー、じゃーんけーん、ポン!!」

 

木綿季がグーで俺はパー。

ユイがパーでアイはチョキ。

従って俺アイペアと木綿季ユイペアとなる。

 

「和人、何か心理学みたいな事考えてじゃんけんした?」

 

「してないよ。ただ、最初にパーを出せば勝てるってよく聞くからな」

 

そんな拳を震わせながら不満そうにしても困る。

木綿季がいかに負けず嫌いだとしても、じゃんけん何て所詮は運ゲー。

俺の方が運があったと言うことだ。

そんな可愛い顔しても意味無いぞ!!

 

「あの、ユウキさんは私と組むのが嫌なんですか?」

 

わぉ、ユイが若干涙目になっていらっしゃる。

わぉ、木綿季がユイを抱き締めダイブした。

わぉ、お互いの頬っぺたを合わせてすりすりしている。(木綿季が無理矢理)

 

「そんな事ないよ!一緒に頑張ろうね!!」

 

「は、はい~………」

 

ユイは言葉を詰まらせながらも嬉しそうに返事をした。

何とも微笑ましい光景に俺はのほほんとした気分になる。

 

「ニヤニヤしていて気持ち悪いです」

 

「………」

 

俺の穏やかだった気分はアイの罵倒によって破壊されてしまった。

そこで今回は軽く反撃してみる事にする。

俺だってやられっぱなしではないのだ。

 

「お?何だ?アイも頬っぺたすりすりして欲しいのか?ほれ、カモーン」

 

両腕を広げて一応アイを迎え入れる体勢になる。

どうだ、あの寝惚けていないアイが来る筈がない!

たった1勝だけど、これはアイに勝てたという大きな1勝だ!

見たかアイ!今回は俺の勝ちだぜ!!

 

「それではお言葉に甘えて」

 

「………は!?」

 

なんと、アイはジャンプして腕を俺の首に回し、自分の頬を俺の頬にくっ付けた。

左頬にとても柔らかくて暖かい感触が生まれ、俺は固まってしまった。

息をしているのかさえ自分でも分からなくなっている。

 

「ふふ!」

 

アイは5回程すりすりしてから離れた。

アイに勝てたと思い上がってしまったようだ。

俺は今回もアイに負けてしまった。

悪戯、罵倒などで俺はアイに勝てる訳が無いのだ。

 

「卑怯者………」

 

俺は負け惜しみとして一言言ってやる。

本当にすりすりして来るなんて、心臓が爆発しそうになったぞ。

 

「何がですか?和人様は受け入れる体勢だったじゃないですか」

 

白々しいにも程がある。

絶対、俺の反撃を理解した上ですりすりして来やがった。

でも、そこがアイの可愛い所なんだけどな………

 

「相変わらず仲良いね。ボク嫉妬しちゃうよ」

 

「からかわれてい___」

 

振り向くと驚きの光景が視界一杯に広がっていた。

あの時と、屋根の上で木綿季とキスをした時と同じ光景。

そして、唇にはあの時と同じ感触。

つまり、木綿季が俺にキスをしていた。

初めてキスした時は恥ずかしくてすぐに離してしまった唇も今は長く合わさっている。

 

「……………もう少しだから」

 

「え?」

 

俺にとっては長く感じたキスが終わると木綿季がこてんっと頭を俺の胸に預けてきた。

仮想空間なのに自分の心臓の音が聞こえる。

木綿季にも聞こえているかもしれない。

 

「もう少しで現実でもボクとキス出来るからね………」

 

「お、おう。そうだな、楽しみにしとくよ」

 

恥ずかしくて半分声が裏返ってしまった。

そういえば、仮想世界のファーストキスってファーストキスとカウントされるのか?

いや、仮想世界も現実世界も関係ないか。

 

「えっと、3日後にね!!」

 

俺からばっと離れた木綿季は半開きになっている手を振ってログアウトしてしまった。

返事をする間もなく行ってしまい、何とも言えない気持ちになる。

だって、アイとユイがめっちゃ俺を見てるんだもん。

木綿季さん、2人が居ること分かっていましたよね?

 

「わ、私もこれで失礼します!!」

 

俺が黙っていると、沈黙に耐えられなかったユイがあわあわしながらログアウトした。

これまた返事をする間なんて皆無だった。

そして、俺とアイの2人だけとなり、俺達は黙ってお互いを見詰め合う。

 

「………ユイちゃんは良い子ですよね。私の重要性を理解してました」

 

先に口を開いたのはアイだった。

 

「そうだな」

 

木綿季とのキスという甘い出来事の余韻を抑え込み、俺は真剣に頷いた。

 

「感情があるAIは危険です。暴走してマトリックス的な事が起こるかもしれない。それに戦争などに利用されるかも知れません」

 

「そして、その真のAIを作り出した人物が特定されると、その人物は生命がどうとか、ハッキングがどうとかで警察沙汰になる。下手すると誘拐されて一生研究に利用される」

 

更に酷いと真のAIの作り方を聞き出した後に殺されるかもしれない。

いくら信頼出来る仲間だとしても、この事を知っているのは俺、アイは勿論、木綿季、ユイ、母さん、父さん、スグ、アオイさん、最後に茅場さんだけでいい。

 

「お互い凄い危険な立場ですね」

 

「総務省だか仮想課だか知らないけど、こればっかりは言えないよな」

 

言ったら逮捕の危険性はあるし、アイが削除される可能性もある。

皆それを理解してくれている。

カーディナルもそれは分かっている筈。

 

「………茅場さんは何処にいるのかな?」

 

「分かりません。けど、パパなら見つけ出せますよね?」

 

娘に言われたらやるしかない。

それが親ってもんだ。

親馬鹿と言われてもし仕方が無い。

 

「………俺は天才だからな!」

 

明日………いや、今日から忙しくなりそうだ。

 




アルゴのキャラ設定が凄い…………
なんで、こんな設定にしたんだろう?
別に気に入ってるから良いけど。

さて、皆様!!
評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話 手掛かり

もう、本当にDr.スランプアラレちゃんですよ…………
全然話しが進まない…………


 

皆は茅場さんに恋人がいたと聞いて信じる事が出来るだろうか?

あの無愛想で色恋沙汰には一切の興味が無さそうな茅場さんにだ。

絶対にいないね。

うん、断言できる。

SAO事件の犯人だとかを差し引いても絶対にない。

 

「嘘に決まってる!あの人に恋人なんてありえない!」

 

病室のベットの上。

ベットサイドテーブルに乗せてあるノートパソコンに俺は叫んだ。

あの会議が終了した後、俺は茅場さんの過去を調べる事にした。

茅場さんが過去に深く関わった人物を捜し、茅場さんについて何か聞き出すつもりだった。

そんな中、茅場さんに一番深く関わったであろう女性が現れたのだが………

 

『いや、まだ恋人と決まった訳じゃないですよ………』

 

パソコンに映っている銀髪に青い瞳の少女が手を横に振っている。

 

「そうなんだけど、研究内容が………」

 

そう言って俺はアイと一緒にパソコンの画面を見詰めた。

茅場さんは量子物理学者。

当然、幾つかの論文が様々な所で発表されている。

その論文の最後、茅場さんは協力してくれた仲間を紹介するコーナー的なのを書く。

そして、いつも名前が出される女性がいる事に俺は………俺とアイは気付いた。

 神代凛子 

茅場さんの1つ歳下の後輩で、茅場さんと共にメディキュボイドを製作に携わった人。

それにメディキュボイドだけじゃない。

地味に情報が隠されてはいるが、茅場さんの研究、実験、そして茅場さんがアーガスに入ってからも彼女はまるで茅場さんの秘書のように付いて回っている。

 

「先輩大好きです!!………って感じの人ではないよな」

 

パソコンに写し出されている神代さんの顔を見る限りじゃそう感じる。

あ、因みに神代さんのプロフィールは彼女が所属していた大学から☆Hacking☆して盗んだ。

大学のデータバンクにアクセスして色々と情報をコピーして逃げてやったぜ。

俺とアイが協力したんだから、バレる可能性は皆無。

良いですか?皆さん。

 

バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。

 

よく覚えておきましょうね。

 

『成績は学年トップレベル、今では優秀な科学者さんらしいですね』

 

「この人なら何か茅場さんの事知ってそうなんだけどな」

 

清楚で凛とした感じの科学者、神代さんは今何処にいるのだろう?

俺が研究室に電話する?

スグにでも頼んで研究室に直接行ってもらう?

防犯カメラを乗っ取って……………無しだな。

 

「…………アイ、電話してくれるか?」

 

『何ですか?”桐ヶ谷アイ、3歳でちゅ。あのね、茅場しゃんにちゅいて訊きたい事があゆの”っとでも言えと?私は人じゃありません。戸籍もありません。Are you OK?』

 

「OK………OK………」

 

途中の赤ちゃん言葉は大袈裟だけど、アイが科学者の巣窟に電話するのは危ないんだよな。

アイが危険になる事はしない。

しかし、俺がまともに話を訊けるとは思えない。

こうなればスグに事情を話して手伝ってもらおう。

スグに研究室に電話してもらうしかない。

俺は早速、家の剣道場で剣道の練習をしているであろうスグと連絡をとるために言った。

 

「家に行ってスグを呼んで来てくれ」

 

『了解です』

 

アイはパソコンの画面で敬礼をしてから画面から消えた。

これでアイは家に沢山あるアイ専用カメラを通りスグを呼んでくれる。

その間、暇になった。

 

「寝る」

 

やること無いなら寝るのが一番。

天気は良いし少しだけ開けられた窓からは風が程好く吹きこんでくる。

昼寝日和な天候に俺の瞼は重くなっていき、俺はベットに背中から倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい………はい。いえ、違います!………はい、そうです」

 

病室に我が妹のスグこと桐ヶ谷直葉の声が響いていた。

携帯を耳に当てて一生懸命受け答えしているスグには感謝しないと。

俺だったら、

 

”はい、どのようなご用件でしょうか?”

 

”間違いました”

 

これで終了していただろう。

堅苦しい人は常に怒っているようで怖い。

フレンドリー過ぎるのも難だけどしっかり者過ぎる人も苦手。

俺の性格ってめんどくさいな。

 

「え?そうなんですか!?………はい、分かりました。あ!いえ!こちらこそすみません!急に変な事訊いてしまって………はい………はい、では、失礼します」

 

電話が終わりスグが携帯を閉じた。

最後の方の反応が少々気になったので早速尋ねてみる。

 

「何かあったのか?」

 

スグは落胆した様子で口を開いた。

 

「数ヶ月前から来てないんだって。長期休暇ってやつ?休みの分のレポートも提出されてるから許可が降りたらしいよ。だから、神代凛子さんが何処にいるか分からないんだって」

 

『数ヶ月前………って事はSAO開始と同時ではないんですね』

 

「でも、何か関係があるのは間違いないな」

 

親しい先輩がSAO事件の犯人だったから病んでしまった可能性もあるが、レポートを提出してるので頭は回っていたようだ。

なら、何故彼女は姿を消した?

茅場さんを匿う為?………いや、それならSAO開始直後から匿ってる筈だ。

もしかして、神代さんが自分と共犯にならないように茅場さんが仕組んだトラップ?

 

「あ、それとね」

 

「ん?」

 

俺がグルグルと頭を回転させていると、スグが何かを思い出したようで人差し指を立てる。

 

「受付の人が言うには神代凛子さん、”やることが出来たんです”って言って出ていったらしいよ」

 

『やること?』

 

茅場さんを匿う事か?

………違う、出来たって事は何かを知った、もしくは何かを見付けたんだ。

じゃあ何を?

SAOを終わらせる方法を知った?カーディナルを止める方法を見付けた?

違う、それなら1人よりも仮想課の人達に協力を求めればいいだけの事。

1人でカーディナルを止めるなんて不可能だ。

じゃあ、何を?

 

「……………茅場さんを見付けたのか?」

 

『………ですかね』

 

最終的に辿り着いた答え。

神代さんは茅場さんを捜して、遂に発見した。

そして、茅場さんを匿う事にした。

今の情報だけだとこれが一番筋が通っている。

 

「でもさ、どうやって茅場さんの居場所を知ったんだろうね?」

 

「まだ、彼女が茅場さんを見付けたって証拠は無いけどな。これだけ茅場さんと一緒に研究してたんだ。何かヒントを貰っていたんじゃないか?」

 

そして、もし、神代さんが茅場さんを見つけたとすれば、神代さんを見つける=茅場さんを見つけるって事にも繋がる。

茅場さんよりも後に姿を消したのなら、茅場さんより手掛かりが多いかもしれない。

茅場さん捜索が一歩前進し事で顔がにやけてしまう。

 

『仮想課の菊岡様に連絡は?』

 

パソコンの画面内で俺と同じくにやつき顔のアイが楽しそうにしている。

よくある草原の写真が写し出されているホーム画面を右に左にとフヨフヨ揺れている。

 

「いやー、仮想課の皆さんも多分知ってるんじゃないですかねー。だから、言う必要も無いと思うなー」

 

っと、言ってもハッキングして手に入れた情報なので言ったら俺が逮捕されかねない。

それに、普通に聞き込みとかしただけじゃ神代さんの名前は出てこないだろうし。

出てきたとしても数多くいる天才茅場さんを憧れとした科学者。

そこまで深く調べないと思うから長期休暇の事も気にしない。

勿論、神代さんの事が捜査上に浮かんでいないのがベスト。

 

「お兄ちゃんがどんどん悪い方に行ってる………」

 

「さーて、どうやって神代さんを見つけ出そうかなー?」

 

俺は思いっきり引いているスグを無視してわざとらしく言った。

しかし、俺に出来るのはパソコンぐらい。

パソコンしかないなら、パソコンを有意義に使うしかない。

 

『このパソコンではスペックに問題がありますね。もっと良い物を用意しないといけません』

 

「そうだよな。もっと良いのを持ってこないと」

 

この仮想課の菊岡さんから支給された普通よりやや性能が良いノートパソコン程度では限界がある。

家にはもっと性能が良いノートパソコンがある。

 

「スグ、頼みがあるんだけどいいかな?」

 

「………」

 

100%スマイルで頼み事をスグに言った。

普通に引いていたスグが苦笑いになって更に一歩後退りをしてしまう。

だが、俺は続ける。

 

「家から内緒でパソコンを持って来てくれないか?アイも一緒に行かせるから外し方は問題ないしさ」

 

「………バレたら怒られるんじゃない?」

 

『何でですか?ただパソコンを持ってくるだけですよ?』

 

ナイス追い討ちだぜアイさん!!

スグは難しそうな顔をしていたが、諦めたのか突然大きな溜め息を吐いた。

 

「はぁ~………分かった。持ってくれば良いんでしょ?」

 

「おう!よろしく!!」

 

『では、行きましょうか』

 

スグはめんどくさそうに病室から出ていった。

俺はそんなスグを見て病室に戻ってきたら好きな物を奢ってあげようと思った。

 

()()が増えましたね』

 

「ああ、()()が増えたな」

 

俺はパソコンの画面にいるアイと見詰めあった。

そして、俺とアイはお互い笑顔になった。

 

「『共犯者(なかま)が』」

 

病室に男女の不気味な笑い声が響き渡たるのであった。

 

 




もう何でしょうね?
キリト君とアイちゃんどうしたんでしょうかね?
こんなに悪い子達でしたっけ?

まぁ、とにかく!!
評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44話 面倒事

あ~、体がだるいのも、やる気が出ないのも。
全部、全部、妖怪のせいなのだ~!!
更新が遅いのも妖怪の仕業に違いない!!


 

会議2回目。

 

英数字の羅列が並ぶ波が周りを取り囲む不思議な空間。

その不思議な空間の中心で10人の男女が円の形に座っている。

皆、時間通り集まった。

そして、1人1人が順に自分が調べてきた事を発表していく。

アルゴにエギルやクラインは流石、大人の人脈と裏技の成果なのか、良い情報を集めてくれた。

しかし、茅場さんを見つける手懸かりとなる情報はなかった。

そこで、俺の調べ、考え、推測した事を皆に聞いてもうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうよ!!私の推測が正しかったって事ね!!」

 

俺が茅場さん恋人存在説の内容を全て説明したところ、リズが胸を張って威張ってきた。

たしかに、一番最初に茅場さん恋人存在説を思い付いたのはリズだったけど。

何だろう?カッチーンっとくる。

 

「まだ、分からないからな。今、全力で神代さんを捜索中」

 

防犯カメラ、ほぼエンドレスハッキング状態で捜索をしているがカメラの解像度が悪かったり似たような人物がたまにいて、中々捜索が進まない。

ドッペルゲンガーかよと思うぐらい似た人物もいてビックリもした。

あれマジでビックリするからな。

 

「とにかく、まだ少し掛かりそう」

 

店の防犯カメラや公共の防犯カメラを少ーしだけ無断で借りています。

何て口が裂けても言えない。

警察とかに言えば即解決する問題だけど、仮想課の人達には負けたくないし、言ったら俺達は捜査に邪魔だと言われ弾き出されるかもしれない。

詰まるところ、これはただの意地であり我儘だ。

 

「私、これからはキリトの説を中心に行動するよ」

 

「そうだな。俺もそうすんわ」

 

サチとクラインがありがたいことを言ってくれた。

正直に言うと、自分の推測が正しいかなんて全く分からない。

なので、最初はサチとクラインに余計な手間を手間を取らせてしまうかもしれないと思い、断ろうとした。

だけど、折角2人は手伝うと言ってくれたのだ。

断ってしまったら人として駄目だろう。

それに、どうせクラインが無理矢理にでも手伝う。

ここは2人の好意を受け取ろう。

 

「………………ありがとう。助かる」

 

お礼を言っただけなのに、何故こんなにも恥ずかしいのだろう?

木綿季もアイもユイも、満足そうに笑わないでほしい。

アルゴに限っては涙ぐんでいる。

勿論、演技ではあるが。

 

「キリトさん、変わりましたね!最初見た時、1人でタイタンズハンドを倒しちゃったんで少し怖かったんですよ………でも、今のキリトさんは凄く良い感じがします!!」

 

恥ずかしいから止めてくれ………

あの時は威嚇する事で頭が一杯になっていたんだ。

 

「俺の時なんて、最初俺の顔を見て泣き出したんだぜ!」

 

恥ずかしいから止めてくれ………

エギルの顔怖いんだよ。

良い人だけど怖いんだよ!!

 

「私なんて、いきなり剣を叩き折られたんだからね!!」

 

それは剣が弱い方が悪い。

 

「ボクはね~」

 

「もういいだろ!!」

 

会議が会議では無くなり、キリト君と出会った時のエピソード暴露大会と化した。

皆からは面白エピソードを言うだけかもしれないが、俺からすれば普通に嫌がらせ。

木綿季が話始めようとした瞬間、それこそマッハ20程のスピードで俺は木綿季の口を手で閉ざした。

しかし、悪魔は別の場所に居る。

静かに、気配を消して、タイミングを見計らい、俺が油断して出来た隙を的確に突いてくる。

 

「キリト様はですね___」

 

「……………」

 

アイには絶対敵わない。

例えそれがパパだとしてもだ。

アイは楽しそうに俺の黒歴史の一部を話し始める。

全部言わない所がイヤらしい………

誰かヘルプ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと良いか?」

 

「ん、何だ?」

 

第2回目の会議が終わり、皆がログアウトをして新たな情報を集めようとしている中。

エギルに呼び止められた。

会議中の笑顔は鳴りを潜め、何やら深刻そうな顔をしている。

 

「お前、情報屋って信じるか?」

 

「は?いや、ま、まぁ、信じるかな。警察とかも捜査に協力してもらっているってテレビで聞いたことあるし………」

 

外国なんかだと情報を提供してその情報が役に立つと公に国から報酬があるらしい。

凄腕の情報屋だとそれだけで食っていけるとか聞いたことがある。

噂によれば住民票なんか造作もなく手に入れることが出来るとかなんとか。

 

「informant、アメリカではこう呼ぶらしいですね」

 

「アイちゃん………ちょっとキリトと大事な話があるんだ。2人にしてくれないか?」

 

ネイティブ発音で俺の後ろから出てきたアイにエギルは申し訳なさそうに両手を合わせて頼む。

他の人には言いにくい内容らしい。

情報屋って名が出てくるんだ。

結構、ヤバい話なのかもしれない。

だがしかし!!アイが仲間外れにされる理由は何処にもない!!

 

「それは駄目だ。話をするならアイも一緒。これは絶対条件」

 

俺はアイの肩に右手を乗っけてエギルを睨む。

これで話が無かった事になっても、俺にとっては厄介事が無くなるだけ。

兎に角、俺はアイが蚊帳の外にされるのが嫌なのだ。

 

「その話、オレっちも聞きたいナ~」

 

「え?あ、あの………アルゴ様、私を支えにしないでください」

 

アイの後ろからアルゴがぬらりくらりと現れた。

自分の顎をアイの頭の上に乗せてだらりとしている。

この仮想空間に身を隠す場所は何処にもない。

隠蔽スキルを使わずに姿を消すことが出来るなんて驚き桃の木山椒の木、あたりき車力よ車曳きー………古いか。

って事で俺は周りを見てみるが誰もいない。

仮想空間には俺とアイとアルゴとエギルの4人だけになった。

流石に確認した後で後ろから誰かが現れるなんて事はないだろう。

フラグじゃないよ?本当に出てこないよ!!

 

「んー、でもな………」

 

エギルはまだ悩んでいる。

ここまでくれば話は無かった事にしてくれると嬉しい。

厄介事はご面倒だからな。

それに神代さんの捜索に集中出来る。

しかし、アルゴが余計な事を言ってしまう。

 

「大丈夫だッテ、ここにいる3人は一応国に関わってるからナ。秘密を守る事は得意ダ」

 

「国!?」

 

俺は顔に手を当てて溜め息を吐いてしまった。

アイもそうだ。

肩を落として余計な事をっと小さく嘆いている。

エギルはエギルで衝撃の事実を知って驚きを隠せないでいる。

 

「別に関わってる訳でもないだろ………」

 

世界初、真のAIであるアイは国に戦争とか良からぬ事に使われそうで正体を隠しているだけ。

俺は真のAIを作り出す事が出来るただ1人の人物。

正体がバレると色々大変だし、下手すると命までも危ないので正体を隠しているだけ。

アルゴは………アルゴは何なんだ?

ただの看護師ですよね?

安岐アオイとは一体何者なんだ………

 

「詳しくは言えないけど秘密は守れるって事」

 

「そ、そうか。分かった。まぁ、人には知られたくない事の1つや2つあるよな」

 

エギルはそれ以上何も言わずに納得してくれた。

しかし、俺はその知られたくない事の1つや2つを先程の会議中に散々ぶちまけられたのだが。

 

「ちょっと長くなるからな」

 

そう言ってエギルはどっしりとその場に座り込んで胡座をかいた。

頭が綺麗にスキンヘッドなので洋風の坊さんに見えなくもない。

ポーズをとれば完璧だ。

 

「………どうせ厄介事なんだろ?」

 

「それも飛びっきりのな」

 

俺は崩れ落ちるように腰を落として適当に座る。

座ってからエギルに軽く愚痴ってみると笑顔で返されてしまった。

 

「キリト様はお人好しですね」

 

隣を見ればアイが礼儀正しく正座をしている。

昔、俺とスグが剣道をしている所を見て覚えたのかな?

それと俺はお人好しなのでは無く、事件とかに巻き込まれやすいだけだ。

 

「キー坊は何でも屋みたいな奴だからナ!」

 

「別に俺は………」

 

俺の逆隣ではアルゴがエギルと同様に胡座をかいていた。

左右に体を揺らしていて、これからエギルに話してもらう内容がとても楽しみらしい。

相変わらず緊張感というものが備わっていない。

 

「俺さ、現実で喫茶店を開いてんだ。ダイシー・カフェって言う」

 

エギルが知ってるか?っと目で訊いてきたので俺は首を振った。

 

「ごめん、知らない」

 

「いや、元々小さい店だ。俺が居ない間潰れないで済んだのが奇跡だ。嫁さんには感謝しなくちゃな」

 

何かエギルのお嫁さん自慢が始まった。

聞くところによると、エギルがSAOに囚われても1人で一生懸命エギルの大切な店を守ったのだと言う。

普通に聞いていれば単なる夫婦の感動物語なのだが、全然厄介事ではない。

むしろ、良かったね、と祝福してあげる程だ。

 

「あの、本題を………」

 

アイがエギルが語るのろけ話に耐えきれなくなり、口を開いた。

エギルも我に返ったようで、真剣な顔になった。

 

「すまん………まぁそんな俺の店にはちょっと凄腕の情報屋が通っていてな。茅場昌彦とかの情報を売ってもらったんだ。いつも世話になってるからって格安でな」

 

「んデ、その情報屋からとんでもない真実を知ってしまったってカ?」

 

SAO時代、同じ情報屋として動いていたアルゴは頬を吊り上げて怖いぐらいの笑顔をしていた。

エギルは頷いてその情報屋から聞いた話を俺達に話始めた。

 

「神代凛子とは別の茅場昌彦の後輩………今は総合電子機器メーカー”レクト”の社員。そして、フルダイブ技術の研究員」

 

俺はまだ、核心的な内容を話されていないのに何故か拳を硬く握り締めたしまった。

それほどエギルの話はヤバい話だと無意識に感じているのだ。

 

「須郷伸之って男が計画している。悪魔の実験の事だ………」

 

俺はこの須郷伸之と言う冷徹非道の野心家が目論んでいる、最低最悪で非人道的な研究内容を聞かされることになった。




えっと、ネタバレしてでも言いたい事があります。

須合伸之よ…………和人君にボコられなさい!!

だから、()()話目にあんたの名前を出したのさ!!

以上!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45話 暴く

 夏の海、5分たったら、ゲロゲロケ~

 トイレが臭く、なった我が罪

 *天邪鬼*


『あんよが上手!あんよが上手!』

 

「アイは俺を何だと思ってるんだ………」

 

入院生活で最も暇な時間帯。

それは、朝飯も食べて点滴を変えたりと看護師からの手厚い体調検査が終了した後の昼食までの時間だ。

面会時間でも無いしリハビリの時間でもない。

マジで暇な時間帯。

パソコンをするにも、看護師さんからストップを掛けられてしまったのだ。

”ネット代が凄いことになって親にも迷惑でしょ!それに目が悪くなっちゃうよ!”っと新人女性看護師さんに怒鳴られてしまった。

因みに新人さんかベテランさんかを会話もせずに見分ける方法は簡単。

点滴の際、血管に針を入れる時、痛かったら新人さん、全然痛くなかったらベテランさん。

血管を外した時の痛みは若干涙目になる程である。

俺は4回ミスられて涙目になってしまったり、最終的にベテランさんが痛みも無く一発で成功させてみせたり、あの無意味な4回の苦痛は何だったのかと落ち込んだりした。

とにかく!!俺は現在、点滴スタンドに両手でしがみつきながら歩く為の自主練をしている。

アイに茶化されながら………

 

「大分歩ける様になったな………」

 

『支えが無いと駄目ですけどね。もっと食べてもっと動きましょう』

 

「食べてるよ。量が少ないの」

 

いくら俺が少食だとしても、今は成長期の食べ盛りな時期。

病院のご飯は正直物足りないと思ってしまう。

たまには熱々ラーメンとかをガッツリと食べたい。

病院のご飯ってぬるいんだもん。

まぁ、熱々を食べて食道癌の可能性が高くなった危ないもんな。

栄養士さんも色々考えてるんだと思う。

 

「だぁ………!!」

 

『お疲れ様です。今日のリハビリは午後ですので時間はたっぷりありますよ。筋力アップ頑張りましょう!』

 

俺がベッドに倒れるとポケット内から伸びるコードを通して俺の耳に装着されているイヤホンから激励が飛んだ。

昨日まではイヤホンなんてしていなかったのだが、1人なのに誰かと話していると例の新人看護師さんに心配されて精神科に連行されたのがイヤホン装着の理由。

イマジナリーフレンドと言う精神病みたいなものと勘違いされたらしい。

極端に言うと自問自答の究極形態のような状態だと先生が言っていた。

人間関係が苦手な幼い子に多いそうだ。

症状は人それぞれで、人だったり時に妖精さんが自分と会話してくれるらしい。

それを拗らせるて二重人格になったのではないかと新人看護師さんはあたふたしていた。

だが、俺にはアイという可愛い妖精さんがいるんだ!!

浮気なんて絶対しない!!

 

『それで、例の件はどうするんですか?』

 

っと、俺が馬鹿な事を考えているとアイが唐突に尋ねてきた。

例の件とは勿論あれだ。

俺は小声で呟いた。

イヤホンのコードの途中に小型マイクがあるので小声でも十分アイに届く。

 

「本当だよ。須郷伸之………感情の操作なんてふざけてるのか?しかも、SAOのクリアと同時にプレイヤーを数人奪う計画だなんてな。カーディナルに直接手を出してないにしろ中途半端に力があるのがイラつく。しかも、先に奴をどうにかしないとSAO攻略できないし………」

 

『情報が本物だとしたらですけど………エギル様の様子を見ると、どうやら信用できる情報屋らしいですし………』

 

「あのバッバめ………」

 

『エギル様の事ですか?いや、たしかに同じアフリカ系アメリカ人っぽいですけど、別にエビ漁師を目指してるわけじゃないですよ。多分』

 

アイは話が通じるから嬉しいよ。

フォレスト・ガンプって名作だもんな。

俺が今まで見た映画の中でも一番のお気に入り作品。

”人生とはチョコレートの箱、開けてみるまで中身は分からない”

一般的にはこれが有名な言葉だ。

けど、俺にとっては”走るのよフォレスト!走って!”が名言となっている。

………そんじゃ、俺もそろそろ走り始めましょうかね。

 

「アイ、須郷の居場所を調べてくれ。ただし、研究内容には手を出すな。俺と2人で安全第一に盗む。誰にも気付かれないよう慎重に………でも、確実に須郷を追い詰める。そして、準備が整いしだい、殺る………」

 

『………随分と本気ですね。たしかに須郷が研究してるであろう内容は許されない物です。しかし、和人様は何か別の理由で須郷を止めようとしている気がします』

 

アイが質問でも無く、ただ自分の思いを漏らした。

その声音は何処か冷たく、何を隠しているのかを問いただしているように思えた。

 

「レクトってさ。アーガスと肩を並べる程の大企業だろ?まぁ俺は茅場さんに憧れていたからアーガス以外興味無かったんだけど」

 

『はい、アーガスの方が企業としては大きかったですけど、レクトも大企業には間違いありませんでした』

 

「でも、流石に無関心ってのはどうかと思ってな。レクトの社長は誰なのかとか、色々調べた事があるんだ。勿論、合法で」

 

『………』

 

アイが何も言わなかったから、俺は話を進めた。

 

「レクトの最高責任者は結城彰三。妻の結城京子。長男は結城浩一郎」

 

『何でそこまで調べてるんですか………たまに和人様を怖いって感じる時があります………』

 

声だけでもアイが引いてるって分かる。

というか、調べるも何もレクトって凄くオープンなんだもん。

調べるって実感さえ無かった。

でも、たしかにここまで知っていたら怖いよな普通。

俺は1つ咳払いをしてから再度説明に入った。

 

「………で、最後の1人の名前が結城”()()()”」

 

『………偶然って可能性は?』

 

「俺もそう思って菊岡さんに訊いたんだよ。そしたらさっきこれが届いた」

 

俺はポケットからアイが居るスマホを取り出して操作した。

メールボックスを開き、菊岡さんから届いたメールを画面に表示する。

朝早くにアイはスグの所に行ってしまっていて、このメールの事を知らない。

 

『………成る程です』

 

「須郷がSAOプレイヤーを捕らえるとしたら真っ先に捕まるのが彼女だ」

 

スマホの画面には俺達が今いるここよりも少し豪華な病室。

そして、その病室のベッドにナーブギアを頭に着けたまま横たわっている少女。

SAO最強ギルド血盟騎士団の副団長、閃光のアスナが写し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう嫌だ………バレたら絶対クビにされるよ………」

 

病室の入り口、壁に寄り掛かりながら目を死なせている女性が1人いる。

肩に軽くかかるぐらいの黒髪に下ぶち黒眼鏡をかけた女性看護師。

目さえ死んでいなかったら童顔美人なのに残念だ。

 

「和人君酷いよ………折角、夢だった看護師になれたのに………」

 

「巻き込んでしまったのは申し訳ないです………でも、ここまできたら最後まで協力してもらいますよ」

 

俺は負のオーラを絶え間なく発生させる新人看護師の五月女(さおとめ)夏凪楽(ななら)に言った。

小さい頃はこの独特な名前で虐めにあっていたと言っていた。

たしかに、珍しい名前の持ち主。

 

「お兄ちゃんって時々酷いよね………」

 

ベッドの横で夏凪楽さんを哀れむように見ているスグが苦笑いした。

そんなスグを無視して、俺はベッドサイドテーブルに並べられた3台のパソコンを起動させる。

電源用のケーブルが各パソコンから延びていて病室にあるコンセントに突き刺さっていた。

数が足りなかったのでOAタップを使用している。

明らかに病院関係者が見たら怒るレベルの器具である。

………病院関係者は居るけどね。

 

「悪者やっつけるから手伝って下さい………ってあのコミュ障和人君に頼まれてさ………嬉しくなっちゃってさ………何で私の将来が危ぶまれてるんだろう………」

 

仕方ないじゃないか!

俺は悪くない!!

家に帰らせてくれないならここで須郷の悪行を暴かないといけないのだからな!!

その為には協力者が必要になる。

協力者の候補としては安岐さんも頭に浮かんだのだが、あの人見た目若いのに看護師の中だと結構上の人らしい。

それなら夏凪楽さんのような新人看護師の方が、言っちゃ悪いけど扱いやすい。

話を聞いて最初は意気込んでいたものの、途中から自分がしている深刻さに気付いてああなっている。

勿論、夏凪楽さんがクビにならないように全力を尽くすのが道理だ。

これ以上、迷惑はかけられない。

 

『準備が整いました』

 

パソコンからアイの声が聞こえてきた。

 

「アイさんも凄いですね………こんな危ない計画に荷担するなんて………」

 

夏凪楽さんにはアイの事を親戚の人と紹介している。

家が遠いので病院には来れないから、電話でコミュニケーションをとるとも伝えてある。

それにしても、何だかんだ言って俺達の事をチクる気は更々ないようだ。

感情制御の研究をしていてその為にSAOプレイヤーを巻き込もうとしている奴がいる!!って聞けば普通、頭おかしいんじゃないか?と思って精神科に連れて行かされる。

別件で連行されたけど。

変に俺を信頼していて、変に正義感がある女性だ。

 

「良いですか?出来るだけ早く証拠を見つけてください。そして!絶対私をクビにさせないで下さいよ!?本当は電化製品の持ち込み禁止なんです!!仮想課の人が用意した物ならともかくも………和人君自身が用意した物は別なんですよ!!」

 

「だ、だ、大丈夫です………バレないように医師が見回りしない時間帯を選んでますし、お、俺の担当看護師は夏凪楽さんですから看護師も来ませんよ…………多分」

 

「そんなおどおどしてたら説得力無いよ」

 

涙目の童顔美人が俺の手を握ってくる。

そんなシチュエーションでコミュ障の俺が冷静でいられる筈がない。

俺の手はチワワのように震えているが、夏凪楽さんの手を握る力が強すぎて強制的に止められている。

痛い、痛い、痛い…………

 

『夏凪楽様、早く始めれば早く終わります。早く終わればバレる心配もありません。よってクビになる危険性も下がります』

 

夏凪楽さんは、でも………でも………とぶつくさ言っている。

早く済ませないと夏凪楽さんのライフが0になってしまう。

俺は手を外してもらってからパソコンに向き合った。

 

「さてと…………何もかも暴いて殺る!!」

 

こうして俺はキーボードを勢い良く叩き始めた。




気付いてしまった…………ALO編どうしよう…………
ま、なんとかなるでしょ!!

そんな訳で、
評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46話 ましろ 2

ゴールデンウィーク最終日。
部屋に入り込んできた蛾の軍団(3匹)と戦い勝利した。


 

 

最近、白い犬がお父さんと呼ばれているCMを少し羨ましく思います。

人間の言葉を話せるなんて凄く羨ましいです。

私はそんな事を考えながらリビングのソファーで寝っ転がりながらテレビを見ています。

言っても、別にテレビの内容が分かる訳じゃないです。

 

「ニャー………」

 

私は立ち上がって、リビングから出ようとします。

ご両親は仕事で留守に、妹さんは気持ち良さそうにソファーで寝てしまっています。

口をにやけさせています。

妹さんが見ていたのは料理のテレビでしたので、出てきた料理を食べている夢を見ていると思います。

キャットフードらしき食べ物が出てこなかったのは残念です………

 

 

「ナー」

 

私は軽やかに階段を登ってご主人の部屋に入ります。

相変わらず便利なご主人作の私用ドアです。

ドアの上には”ましろ用”と妹さんの字で書かれています。

ご主人の部屋は綺麗な状態です。

定期的にお母さんか妹さんが掃除をしてくれているお陰でしょう。

ご主人が居なくなってから私の寝床と化しているので、掃除をしてくれるのは嬉しいです。

 

「ニャッ」

 

私はご主人のベッドに登って、ベッドと布団の間に体を入れます。

そして、息苦しくならないように顔だけ外に出しました。

寝るのは私の得意分野です。

いい夢が見られるようにと祈りながら、私は瞼を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きると家には誰も居ませんでした。

正確には家の中に人間の気配が感じられません。

今は夕方でいつもなら妹さんが夕食の準備をしている時間帯です。

ですが、その音も聞こえないのです。

居眠りをしていた妹さん、流石に起きている筈です。

不思議に思った私は急いでご主人の部屋から飛び出して、1階に降りました。

 

「ニャー?」

 

予想通り、家には人っ子1人居ませんでした。

しかし、謎は深まります。

テレビがついたままなのです。

そのテレビはニュースという物が流れています。

それに、テレビ以外にもリビングの電気までついたままの状態でした。

まさか、恐ろしい人達が?!と考えてしまいましたが、荒らされた跡がないのでほっとしました。

どうやら、テレビやリビングの電気まで消し忘れる程の事件が起きたようです。

 

「ニャ………」

 

まさか、ご主人達に何かあったのではないでしょうか?

嘘ですよね?違いますよね?

胸の辺りがきゅうっと締め付けられる感覚がありました。

私は開けっ放しになっている、玄関へと続くドアに向かって走り出しました。

そして、廊下に出た私は滑る廊下を懸命に掻いて、直角に曲がります。

 

「ニャー!!」

 

しっかりと鍵が掛かっている玄関口。

私は玄関前の白いマットレスに立って、無言の玄関口に叫びました。

私の力ではどうする事も出来ません。

なので、私はただひたすらご主人が帰ってくる筈の玄関に叫び続けました。

 

「ニャ~!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャー………」

 

一晩中鳴き続けたせいで喉が痛いです。

玄関にある窓ガラスからは朝日が私の体を照らしています。

何故、ご両親や妹さんは帰って来ないのでしょう?

もう、倒れそうです。

鳴き続けた事によって体がだるく、最悪の事態を想像してしまった事によって心が疲れています。

正直、今にも倒れそうです。

 

ガチャッ!!バタンッ!!

 

突然、玄関の鍵が解除されて誰かが風のように入り込んで来ました。

妹さんの直葉さんでした。

 

「ましろ!ましろ!ましろ!」

 

妹さんは玄関で待っていた私を抱き抱えるとグルグル回り始めました。

む、胸が当たって苦しいです………目が回ります……… 

 

「フーッ!フーッ!」

 

何が何だか分からない私は爪を立てて妹さんを叩きます。

全てとある部分の弾力によって弾かれました………

しかし、妹さんは私が困っているのに気付いてくれました。

 

「お兄ちゃんと木綿季ちゃんとアイちゃんが戻って来たんだよ!!生きて帰って来たんだよ!!」

 

妹さんは私を高々と上に上げて言いました。

私は妹さんの話を聞き、嬉し過ぎて笑顔になります。

猫の私が表情を作れているか不安ですが、気持ちは笑顔です!!

 

「ニャー!!」

 

ご主人達は生きて帰って来ました。

心配なんて必要無かったんです。

妹さんの後ろからご両親も嬉しそうに家に入ってきます。

今日は本当に最高な日です!!

あ~、早く頭をなでなでしてもらいたいです!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの最高な日から数日が経ちました。

ご主人は順調に回復中で、もう1人のご主人は病気と戦っていてあと少しで勝つらしいです。

つまり、私の夢が叶う日が着実に近付いて来ているということです。

あのベンチで2人に頭を撫でてもらう夢。

想像しただけで心がピョンピョンしてきます!!

 

「ましろー」

 

私はいつも通りご主人のベッドでゴロゴロしていました。

そこに妹さんが何かを持ってやって来ました。

丸い筒が付いた四角い物体です。

知ってます。

たしか、カメラという物です。

写った風景を中に入れる事が出来ます。

 

「こっち向いてねー」

 

筒の先を寝そべっている私に向けています。

そして、眩しい光が私を襲いました。

続いてカシャッと風景が撮れた音が聞こえてきました。

どんな風に撮れたのか気になります。

 

「ありがとね!お兄ちゃん達が喜ぶよ!」

 

と言って妹さんはスタスタと部屋から出ていってしまいました。

お陰でどんな私が写ったのか分かりません。

ご主人達に見せるようなので、変な姿だったら嫌です。

出来たら可愛いく写っててほしいです。

 

「~~~」

 

私は腰を反らして伸びをしました。

楽しそうな声が聞こえてくる1階に行くことにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、ご主人達のお見舞いに行っていた筈の妹さんがご主人の部屋に入って来ました。

理由は不明ですがどんよりしています。

 

「はぁー………お兄ちゃんとアイちゃんって大丈夫かな?犯罪者になりそうで怖いよ………」

 

独り言を言っています。

怖いです。

妹さんは独り言を言いながらご主人の机をいじり始めました。

何かを探しているのでしょうか?

 

「よっと………」

 

妹さんが探し当てた物は半分に折れるパソコンでした。

ご主人に頼まれたらしいです。

何でどんよりしているんですかね?

嫌な事でもあったのでしょうか?

妹さんは折れるパソコンを黒い入れ物に入れました。

 

「よしよし………」

 

妹さんは最後に私を撫でてから姿を消しました。

撫でてもらうのは嬉しいのですが、どんよりし過ぎて怖いです。

でも、危険などんより感では無かったので気にしないで私はまたゴロゴロし始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の夜、ふと目が覚めました。

夜、昼、関係無く寝ているのでこんな時もよくあります。

私はトタトタと部屋から出て、何となく1階に向かいました。

まだ、ご両親が起きているのでリビングには明かりがついてました。

 

「ニャー」

 

「ん、ましろか?」

 

私はソファーに座っていたお父さんに近付きました。

目を擦っていて眠そうです。

帰りたてのようですね。

ソファーの前にある小さなテーブルには苦い飲み物が置かれていました。

私が間違って飲んでしまった事がある黒き復讐の魔女の呪いがかけられた飲み物”コーヒー”です。

あれを飲んだ時、人間の舌は狂っていると本気で思いました。

 

「驚かさないでくれよ」

 

お父さんは私を抱き上げて自分隣にそっと座らせました。

大して驚いた様子はありません。

小さなテーブルにはコーヒーの他に何かが書かれた紙が束になっていました。

仕事の残りですかね?

ご主人もよく徹夜をしていました。

仕事大好きという点で似た者同士なんですね。

お父さんは湯気が出ているコーヒーを一口飲みました。

ごめんなさい、うぇ………と思ってしまいました。

 

()()()()()()の方が全然美味い………」

 

ん?アンドリューとは誰でしょう?

名前からして外国の男性のようですが。

知り合いでしょう。

お父さんは仕事が無い日によくカフェという所に行きますからね。

そこの友人かもですね。

 

「ニャー」

 

「おっと、これは見るなよ」

 

私は紙の束を覗こうとしました。

けど、お父さんがそれを阻止します。

そして、お父さんは私の頭を笑顔でポンポン叩いてから一気にコーヒーを飲み干しました。

飲み干したら、お父さんはコーヒーの入れ物を台所に持っていき、紙の束を何処かに持っていきました。

その時、一瞬ですけど紙の一部に痩せっぽっちの変な眼鏡男性の写真が見えました。

誰でしょうね?

 

「ニャー」

 

コーヒーの香りから逃げるように私はまた、ご主人の部屋に戻りました。

やっぱり、コーヒーは嫌いです。

 

 




久し振りの2日連続投稿です。
そして、久し振りのましろんタイムでございます。
皆さん、色々と察しているのではないのでしょうか?

個人的には楽しくなってきた(特に須郷をボコる和人君)この小説に、
評価と感想をお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47話 須郷抹殺

俺ガイルのいろはすが最近自分の中でブームになっている。
せんぱ~い♡ってあざと可愛い。


「こいつ馬鹿か?馬鹿なのか?絶対馬鹿だよね?」

 

3台のノートパソコンを巧みに操って魅せる俺。

キーボードを殆ど見ないで英数字を打ち込み、目は左右に動き回っている。

ただし、瞼が少々下がり気味なので眠そうに見えているかもしれない。

実際は呆れているだけだ。

 

「どうしたの?さっきまで張り切っていたのに」

 

「いや………ちょっとな」

 

余りの馬鹿さ加減に、スグの質問を思わず曖昧にしてしまった。

結論から言うと須郷の馬鹿げた研究は本当だった。

勿論、研究所のブロックは流石に硬かった。

ハッキングするのは普通に出来るけど、それが気付かれずにという条件が加われば話は別だ。

こんな悪質な研究を進めているのでシステムが硬いのは当然っちゃ当然だけど。

俺が馬鹿だ、馬鹿だと連呼している訳は別に”こんなシステム程度で俺とアイを止められると思ってるの?あはは~、乙~!!”ではない。

システム以前の問題であり、根本的な部分で須郷は馬鹿をやってのけているのだ。

 

「夏凪楽さん、病院のとっても重要な情報ってどうしてると思います?」

 

病室のスライドドアを背にして体育座り姿の夏凪楽さんは両足の間に埋めていた顔を少しだけ上げた。

 

「書類に纏めて金庫に隠す?ドラマでもそんな感じだったし、ヤクザとか………マフィアとか………」

 

20代前半であろう夏凪楽さんは大好きなドラマの話なのに力無く答えた。

確かに、ドラマとかでも隠し金庫の中に重要な書類やら札束やらが入っていたという場面をよく見かける。

分かってらっしゃる、常套手段ですもんね。

ただ、最後にヤクザやマフィアが出てくるとなると、夏凪楽さんは現在俺が思っていたより病んでいるのかもしれない。

早く終わらせなければ………!!

 

「で、それがどうしたの?」

 

「アイ、説明を」

 

俺が自分の中で作った、一生に一度は言ってみたい台詞集に入っている台詞を然り気無く言える事ができ、心の中で静かに喜んでいると、早速アイが説明を始めてくれた。

いいね、この感じ。

 

『つまり、須郷はそれをしていないんです。自分の力、技術力、システムの性能を過信して研究記録などを全てコンピューター内に保存してるんです。ハッキングなんてする奴なんて居ない。もしくはハッキングなんて出来る訳がないと思い込んでいるのでしょう』

 

「「あー………」」

 

アイの分かりやすい説明を聞いたスグは落ち込みながらも聞き耳を立てていた夏凪楽さんと一緒に気の抜ける声を漏らした。

 

「ね、馬鹿でしょ?俺とアイは研究に使われた機器の使用記録データとか地味なもんを集めまくってやろうとしたんだけどな」

 

『そんな事しなくても、大丈夫でした』

 

罠か?と疑ってしまう程、もう出るわ出るわ犯罪記録。

人体実験のオンパレードやーっだった。

ホームレスを何人も金で釣ったり、その金も研究が成功したら渡すなどと言ったのか、実際には渡されていない。

無料で人を雇い、実験体にする。

そして、SAOプレイヤーという須郷にとっては最高の実験体が現れ、何人かを捕らえようとしている事実。

その為の準備も万端で、SAOのクリアを今か今かと首を長くして待っている事も分かった。

幸いなのは研究結果がそうでもないって事だろう。

想定を遥かに越えた最悪な情報を、想定を遥かに越えた低労働で入手出来そうな現状。

色々とギャップがありすぎて頭が痛くなってくる。

 

「って、事は早く終るんですね?そうですよね!?なら、さっさとぶん盗って撤収してください!!」

 

「い、いや、幾ら低労働になっても難しいのは難しいんですよ。まぁ、ミスする程のもんじゃないですが………」

 

ぶん盗ってって………言葉が汚いですよ、研究内容をこっそり盗んでいる俺が言える事じゃないけど。

俺は須郷の犯罪記録をまるっと全てコピーする。

量が多いので、これを整理するのは少しだけど大変そう。

けど、それだけででアスナを守れるのなら安いもんだ。

俺の友達をこんな研究に巻き着込もうとした罪は重いぞ………

友達を傷付ける野郎は絶対に許さない。

身体的には無理でも、社会的に殺してやる。

 

『コピー、50%を越えました』

 

「もっと、速くでお願いします!!」

 

安全第一でいきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話って何かな?」

 

俺とアイは須郷の研究内容を100%まるっとごっそりそのままに盗み出したので、仮想課の菊岡さんを呼び出す事にした。

菊岡さんはこの病室に居るの人間は自分と目の前の歩くのがやっとの少年だけだと思っている。

しかし、本当はアイも俺のポケット内に居るので実質3人だ。

 

「いや~、ちょっと取り引きしたいと思いましてね」

 

俺は警戒心を抱かれないように笑顔と真顔の間の顔を作った。

ポーカーフェイスだ。

 

「取り引き?何か分かったのかい?」

 

「茅場さんの事を調べてたら飛んでもない内容にぶち当たりましてね」

 

「………それは?」

 

俺は布団の下に隠していたファイルを取り出すとベッドサイドテーブルに置いた。

にこやかな表情だった菊岡さんはそれを見て目の色が変わる。

取り出すタイミングは間違っていなかったようだ。

 

「とある資料です。これを渡す代わりにしてほしい事があるんです」

 

俺は尚も表情を変えない。

何がなんでもポーカーフェイスを貫く。

心臓がこれでもかと高速で脈を打っている。

 

「それはこの資料の内容によるね」

 

先にその資料を見せろって事か。

多分、菊岡さんは簡単には見せてくれないだろうと思って、色々な策を考えている筈だ。

だけど、俺はそんな意地悪では無い。

快く渡してあげよう。

 

「これです!」

 

ここで俺はポーカーフェイスを解いて満面の笑みに表情を切り替える。

ファイルの最初のページを開いて菊岡さんに見せ付けた。

菊岡さんとは別種のひょろ長メガネのプロフィールが書かれているページ。

 

「須郷伸之………?たしか、茅場さんの後輩にあたる人物だったような………」

 

菊岡さんは一瞬、驚きを見せるがすぐに真剣な顔に戻った。

流石、仮想課所属のお方。

須郷の事もきっちり調べていたようだ。

俺は絵本の読み聞かせのようにページをめくる。

 

「な!!これは一体!?」

 

次のページ、須郷の感情操作実験に関する内容をドンと載っけてある。

菊岡さんは眼鏡の奥で細めていた目を一気に丸くして、俺の両手から資料を引ったくった。

俺は何も抵抗せずに資料を離した。

 

「須郷の犯罪記録ですよ。どうです?良い交渉材料ですよね?」

 

俺は満面の笑みからアイ直伝の悪い笑顔にフォルムチェンジして、菊岡さんを見る。

頬を吊り上げて少しだけ歯を見せる。

サービスとして邪悪なオーラもトッピング。

さぁ、どうだ?どう行動する?

俺は菊岡さんの次の言葉を待った。

そして、資料を読み終えた菊岡さんの口が開かれる。

 

「何処で手に入れたの?」

 

ですよねー………

いや、予想はしていましたよ。

予想通り過ぎて怖いぐらいに予想通りですよ。

どうしましょう、ハッキングしました!テヘッ♡などと言える訳がない。

てか、ハッキングを見逃してくれが資料を渡す条件なんですよねー。

だって、裁判に掛けようにも、この資料どうしたん?って言われるし、俺が匿名で脅迫して自首させるのも良かったが、それだと刑が軽くなる恐れがあるし。

刑は死刑では無くても、深~いのが俺の願いだからな。

それに、俺が警察のお世話になってしまうと、アイやユイ、木綿季にも迷惑を掛けてしまう。

出来たら、何も聞かないで下さい、がベスト。

て事で、今日一番の山場が俺に訪れているのだ。

 

「………内緒って事は?」

 

「駄目」

 

「そこをなんとか」

 

「駄目」

 

「いいじゃないの~」

 

「駄目」

 

逃げ場が無くなっていくのが分かる。

やっぱり、正直に言うしかないのか?

俺はじーっと菊岡さんを睨んで考える。

悪い笑顔もいつのまにか作れなくなっていた。

そこで俺は自分の行為ではなく、自分の気持ちを素直に言うことにした。

 

「一回、俺はあんたの言う事を何でも聞く。これを調べてくれとか、ここに行ってくれとか、銃に撃たれて死ねでもいい。俺は………俺の友達を危険に巻き込もうとした須郷が許せない、………だから、お願いします」

 

俺は全身を動かしてベッドの上で土下座した。

ポケットで数回バイブ音がしたけど、叩いて黙らせる。

こんなお願い、ドラマでもない限り聞き入れてくれるお願いじゃない。

菊岡さんが常識人なら即却下で、俺は警察のお世話になる可能性が跳ね上がる。

その時は全力で見逃してくれと泣き付くだけだ。

まぁ、今も同じような状況なんだけど………

 

「………仮想課所属の菊岡が茅場昌彦について調査していたら、凄い情報を手に入れた。須郷やその幹部が全員逮捕でお手柄。表彰、少しだけど報酬、部下からの信頼………」

 

「は?」

 

俺は顔を上げた。

何か、菊岡さんが顎に手を当てて悩んでいる。

ブツブツと聞こえてくるのはある意味残念な事ばかり。

菊岡さんの眼鏡がキラリンと光ったと思うと菊岡さんが満足そうな顔をしていた。

 

「それで?和人君のしてほしい事ってなんだい?」

 

「………えっと………」

 

菊岡さんが両手を広げて言ってきた。

どうやら、菊岡さんは常識人では無かったようだ。

自分の手柄の為に目の前の半分犯罪者の俺を見逃すらしい。

俺もついでに捕まえないのは、これから役に立つと思われたからか。

それにしても、見逃してくれが条件のつもりだったので、咄嗟に良い案が思い浮かばない。

 

「無いなら保留って事にしようか。お互い命令権を1つ持った事になる。これでどうかな?あ、勿論命令を拒否する命令は駄目だよ!意味が無くなっちゃうからね!」

 

「………じゃあそれでお願いします」

 

「いやー、情報提供ありがとうね!流石、和人君だよ!」

 

菊岡さんはファイルを持ってきていた大きめの鞄に入れて大事に保管した。

途中まで予定通りに進んでいたのに最後には意味が分からない、何でこうなったの?って言いたい結末になってしまった。

こうなったらこのルートを進むしかない。

俺は病室から出ていこうとしているニコニコ二ーな菊岡さんに声を掛けた。

 

「出来るだけ、須郷を陥れて下さいね。………今のは命令じゃないですよ」

 

「分かってる。一度会ったけど、僕も須郷はあまり好きじゃないからね。あの腹黒眼鏡に目に物見せてあげるよ」

 

菊岡さんは手を振って俺の病室から出ていった。

自ら呼んだ台風は思った以上に、俺の心に被害をもたらしていた。

 

「………腹黒眼鏡はどっちだよ」

 

俺は体を横にして呟いた。

この後、アイから物凄く怒られた。

怒るアイはそれはもう可愛かった………




須郷よ、何も知らない、何も気付いていない、けどな?
お前はもう、死んでいる。

さて~、地味にGGO編フラグが立ってますよ~!!
皆様!
評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

48話 長旅の末、発見

親が勉強、勉強、うるさい!!
嫌がらせに砂糖と塩を入れ替えてやった。
さぁ!塩入りコーヒーを飲むがいい!!


めっちゃ怒られた…………


とある日、今日は例の会議なので、俺は仮想課の人達が用意してくれた仮想空間にいた。

木綿季達も全員元気に来ている。

そして、皆はある一枚の写真を中心として円状に座っていた。

 

「ねぇ、これ何処で撮ったの?」

 

「違うぞユウキちゃん、どうやって撮ったの?だ、この場合は」

 

「キリト様」

 

「いや、俺よりも写真の提供者に直接訊く方が手っ取り早いでしょ………」

 

俺は会議開始直後にどや顔でこの写真を提出した人物に視線を向けた。

身長は俺より小さく、けど俺よりも歳上の女性が腕を組んでムフゥーっとしている。

正直、すげームカつく。

 

「キー坊、アイちゃん、エギルには言ったダロ?オレっちの正体に関わる秘密の一部をナ!」

 

目配せを俺に向けて放ったアルゴは鼻歌混じらせながら、体を達磨(だるま)のように揺らし始めた。

なんだ?この写真には国が関わってるのか?

この空中からとしか思えない場所から、超田舎な所の八百屋で野菜を買っている、神代凛子の写真は………

本当に何者なんだよ、アオイさんは!?

 

「これってもしかして、ドローン?」

 

「お、当たりだよサーちゃん。見かけ通り頭脳派だネ!」

 

アルゴが指を鳴らしてサチを指した。

ドローン、蜂の意味を持つ無人操縦機。

民間では花火などを撮影する時などに使われる。

元々は軍用の機械で爆弾とか積ませたりするらしい。

衛生回線使えば地球の裏側からでも使える物もある。

便利で楽しめる反面、危険でもある存在。

 

「キー坊が神代凛子を防犯カメラで捜していただロ。途中だったけどそのデータ貰ってサ。行動パターンとか次何処に現れたのかを予測しまくったんダ。キー坊の持ってる映像は大分前のだからナ。苦労したゾ」

 

アルゴはニャハハハーと笑いながら説明を続けた。

現在の防犯カメラの映像記録は結構長く保存されている。

しかし、それは公共の防犯カメラや大企業の防犯カメラであって、その他の小さい防犯カメラはそんな長く保存されない。

それが理由で俺は神代さん捜索に行き詰まっていた。

が、そんな問題、この人には通用しなかったみたいだ。

”データよこせ”と乱暴な一言メールを受け、どうせどうすることもできない、と思って諦め半分で渡したデータがゴールまで辿り着いてしまった。

 

「あ、あの、予想しても大変だったんじゃないですか?」

 

「ああ、大変ではあったけど、オレっちが動いた訳じゃないし。病室で命令しただけだし」

 

誰に!?と突っ込みたい衝動を沸き上がらせたのは俺だけじゃない筈。

俺はどうにかその衝動を抑えて続くアルゴの話を聞いた。

 

「予測した地域にドローンをじゃんじゃん飛ばして捜索。後は見つかるのを待つだけダ。デ、見つけて撮った写真がコレ」

 

アルゴが写真に映る真剣な表情でトマトを見つめる神代さんを指差した。

一応は変装をしているつもりなのかもしれないけど、少し季節外れの麦わら帽子を被っている神代さんはトマトに気が向いていてバッチリ素顔が見てとれる。

トマト好きなのか?

 

「取り敢えず連絡とりたいな。ドローンに手紙を持たせるのは?」

 

「あー、無理ダ、もう動かせなイ。これ以上なにかやるとオレっちの立場がまずくなル」

 

アルゴはぶっきらぼうに言った。

これからはアイみたくアルゴ様って呼んだ方が良いのか?

社会的に………だし、身体的も消されそうなんですけど。

 

「ママ、アルゴさんって何者なんですか?」

 

「看護師さんだと思ってたんだけど………」

 

ユイの無邪気な問い掛けに木綿季も困っている。

以前、木綿季はアルゴのお世話になっていたから、それなりにアルゴとは会っているのに心当たりがないらしい。

もう、この際アルゴは凄い人だと決定して何も考えないようにするのが最善策。

これ以上驚かされたくない、心臓に悪い、精神的に疲れる。

 

「サテサテ、とにかくダ!彼女と話すには現地に行かないといけないんだよナ~」

 

「でもよ。ここにいる奴皆、外に出られる体じゃないぜ?医者が許可するとは思えないし」

 

クラインが当然の疑問をぶつける。

例え俺がギリギリ歩けたとしても病院側が許すとは思えない。

ましてや、木綿季は不可能だし、アイとユイは一人では行けない。

 

「大丈夫なんだナーこれガ。これまたオレっちの表側の力を使えば1人だけ行動可能に出来る可愛い子がこの中にいるんだよナ~」

 

表の力………看護師の力で許可を無理矢理出すのか。

木綿季は無理として、サチ?リズ?シリカ?皆普通の女の子よりは可愛いけど………

しかし、アルゴの視線はどの女の子にも向けられていなかった。

何故か俺の方を向いている。

そのアルゴの視線の気づいた皆が俺を見る。

全員の視線が集まった時、俺は両手で顔を覆った。

 

「ヨロシク!キー坊!!頑張れヨ!!」

 

指の間から見えたのは、アルゴの声援と投げキッスだった。

アニメや漫画だとキャピルン☆系女子がやる謎の行動。

アルゴがやると可愛いというよりかちょっと格好良く見えてしまう。

 

「場所は何処なんですか?」

 

諦めた俺はアルゴに訊いた。

人生は諦めが肝心だ。

 

「長野県!!」

 

結構、距離があった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?階段登れる?」

 

見知らぬ女性が心配そうに尋ねてきた。

スーツを見事に着こなしていてワークウーマンなのだろうか?

いや、彼女だけじゃない。

彼女の奥にいる男性もスーツをきっちりと着ている。

その男性の隣も、それまた隣の人も、そしてその手前の人も………

俺の周りはスーツを来ているサラリーマン達で溢れかえっていた。

木綿季のお見舞いに行く時はこういう混雑した時間帯を意図的に避けていたので、初めての体験。

すれ違うサラリーマン達全員が俺に視線を向けてるように思えてならない。

 

「い、いえ、大丈夫です………エレベーター使うんで………」

 

俺は首を振ってその場を後にする。

後ろから声がしたけど、聞こえないふりをする。

ここは駅のホーム。

長野に行くには、近くの駅では直行で行けないので、一先ず大きな駅で新幹線に乗り換える必要があった。

そして、大きな駅に着いて電車を降りるとそこには人、人、人、人。

ホームから落ちてしまうのではないかと心配になる程の人の量。

引きこもり体質な俺にとっては地獄同然だった。

軽く目眩がして視界がボヤける。

それでも何とか階段を目指して進んだのだが、階段には更なる人が集まっていて黒い川みたいになっていた。

時折ながれる肌色の点は何だろう?帽子か?視力の回復も目指さないといけないな。

近くは見えるけど遠くは見えない。

そんな事を考えている時にさっきの女性が声を掛けてきたのだ。

 

「はぁ………」

 

俺は女性に言った通りエレベーターを使うことにした。

しかし、階段の奥にあるエレベーターまで行くには辛い道のりが待っている。

この人混みを掻き分けてゴールを目指すのは至難の技。

行くぞ和人!頑張れ和人!負けるな和人!自分で自分を応援しないとキツイぜ和人!!

 

「よし!」

 

俺は勇気を出して一歩、()を出した。

すると、あら不思議。

俺がゆっくり進んで行くと俺の前で道が出来上がっていくではありませんか。

一歩進むと前の人達が俺を避けて道を作る。

また、一歩進むと同様に前の人達が俺を避けて道を作る。

不思議な事もあるもんだな~と思い、俺は楽にエレベーターに辿り着く事が出来た。

こうして、エレベーターに乗り込んだ俺は改札がある2階へ上がる為に、俺は2と書いてあるボタンを押そうとした。

 

「お兄ちゃん、2階だよね?」

 

突然、乗り込んできた坊主頭の少年が俺の返事を待たずにボタンを押してくれた。

俺は小さく会釈をして、そっぽを向いた。

エレベーターのガラスに薄く映っている少年の顔はニコニコ笑っている。

2階に着くと少年はドアを手で抑えながら俺を通してくれた。

 

「ありがとう………」

 

「どういたしまして!」

 

そう言って少年は小さい体を活かして人混みの中をすいすいと進み消えていった。

少年は常に笑顔だった。

その後も俺が新幹線の乗り換え口に向かうまで、階段やエスカレーターじゃなくエレベーターを使う時、これと全く同じ待遇が俺に待っていた。

進めば道が出来るし、ボタンを押さなくても乗れば勝手に俺の行きたい階に行く。

更には長野行きの新幹線切符を買う時、駅員さんが凄く気を使ってくれて隣に人がいない席を選んでくれた。

機械で買おうとしたのに何故か駅員さんが急いで俺の所に来たのだ。

そんな周りの親切な行動が逆に怖くなって、やっと落ち着けたのは新幹線の中だった。

隣に人がいない席を選んでくれた駅員さんには感謝しないといけない。

さて、長野駅まで少しあるから、何で周りがこんなにも親切なのかを考えてみよう。

教えて、アイちゃん!

 

「何でだと思う?」

 

『和人様、自分の姿を見れば分かりますよ』

 

アイの声は呆れていて答えは簡単だった。

俺はイヤホンから届くアイの声にやっぱりなと苦笑いする。

人気(ひとけ)は珍しい肘全体で体重を支える杖。

肘支持型杖、別名リウマチ杖が窓側に立て掛けられていた。

松葉杖や前腕固定型杖、別名ロフストランドクラッチなどはたまに見かける。

その点、周りの反応から考えると俺のは普通に珍しい型らしい。

それもそうだ、俺のは手首や肘に障害がある人や名前通りリウマチの人が使う物だからだ。

使い方も少し独特で今もまだ、違和感が残っている。

 

「こっちの方が楽だって言われたからこっちにしたんだけど………」

 

『いいじゃないですか、楽ですよね?』

 

「あのな、確かに楽なんだけどさ、歩く事自体は辛いんだぞ!」

 

それにしても、アルゴが入院している病院って俺とは別の筈。

木綿季と同じ横浜の病院だ。

よく横浜の病院から埼玉の病院に俺の外出許可を出せたな。

アルゴは表の力と言っていたけど、絶対に裏の力も働いている。

それか姉のナツキさんが協力してくれたかだ。

 

「着いたら起こしてくれ。疲れた………」

 

俺は死んだように眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は一面に広がる田んぼや畑を目の前に佇んでいた。

風になびいている後は刈られるのを待つだけとなった稲、その隣の畑では何かの野菜を収穫している。

このような風景は小学校の教科書でしか見たことがない。

やはり、教科書に載っている写真を見るよりも実際に来て見るのは良いことだ。

今の日本に残りどれくらい、このように自然豊かな場所があるのだろうか。

とても大切な場所であることは間違いない。

その大切な場所にも欠点があった。

 

『バス………来ないですね』

 

「そうだな」

 

幾つもの乗り換えを繰り返した俺達は遂に神代さんが発見された町に着いた。

後はバスに乗って神代さんがいた八百屋に行くだけで、そう時間は掛からないと思っていた。

しかし、駅前のバス停にも関わらずバスの本数が一時間にほぼ一本という鬼畜さ。

その貴重なバスもゆったりと進む電車を降りて改札を出た瞬間にはもう、エンジンを吹かして出発しそうになっていた。

慌ててバスに乗ろうとするも、只でさえ足が不自由な今の現状、それに人生初の長旅で疲労困憊な俺の足は棒のようになっていて、中々前に進めない。

杖を動かし足を動かし、バス停に辿り着いた時には既にバスは見えなくなっていた。

 

「ここまで来たのに”ただの里帰りです”だったら俺、倒れるぞ」

 

『そうならないように祈りましょう………次のバスまで時間が有り余ってるのでしりとりでもします?』

 

「………負ける気しかしないけど」

 

なんて言いつつも俺は残り50分以上の時間をしりとりで潰すことにした。

”リアス式海岸”で初っぱなからわざと間違えるなんて事はしない。

 

『リウマチ』

 

「チアノーゼ」

 

『全身性エリテマトーデス』

 

「膵官内乳頭粘液性腫瘍」

 

『鬱血性心筋症』

 

「病名だけだと、うで終わるの多くね?」

 

『確かにそうですね………まぁ病名だけとか縛りは無しにしましょう』

 

症とか腫瘍とかで終わるのが多いので長くは続かない。

全然、50分以上も続けられる自信がない。

と言うか、うから始まる病名が全然思い付かない。

炎で終わるのは駄目だから無理ゲーにも程があるぞ。

 

「う………じゃぁ___」

 

「隣、良いかしら?」

 

俺がウロボロスと言おうとした時、後ろから声がした。

俺は右見て左見てまた右を見たけど、遠くでおばさんが元気に自転車を走らせているだけだった。

どうやら俺に声を掛けたらしい。

アイは黙っている。

黙っているけどそこにいる。

俺は普通に話すことが、

 

「あ、はい。どう………ぞ………」

 

出来なかった。

振り向くと、そこに居たのは1つのビニール袋を両手で持っている美人さん。

白と黒のチェック柄の長袖に白のロングスカート。

そして、どこぞの写真で見たことがある麦わら帽子。

 

「居た~!!!」

 

「え、何?!何?!」

 

俺が突然立ち上がり叫んだせいで俺達が捜していた人物は一歩下がってしまう。

今にも逃げ出しそうだった。

どうにかして話を聞いてもらわないと。

だが、俺の体に異変が起きた。

 

「痛~!!!」

 

突然、立ち上がったので全身の筋肉が悲鳴をあげた。

俺は堪らず地面に倒れてしまった。

 

「って、君!?大丈夫!?」

 

女性が持っていたビニール袋を落として俺を抱き上げてくれた。

しかし、疲れと全身筋肉痛で俺は気を失いかけていた。

最後に見えた物。

それは、ビニール袋から転げ落ちたトマトだった………

 

 




神代さん登場!!
トマトはただ自分が好きなだけなので気にしないでください。
時々、自分の趣味を混ぜ込んでいるのでね。
趣味が合う人がいてくれたら嬉しいです!!
特にフォレスト・ガンプ。

評価と感想お願いします!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

49話 遂に

あー、最近暇です。
暇すぎて1日で4つのボールでジャグリング出来るようになった。


 

「……………ここ何処?」

 

俺は畳に敷かれたフカフカな布団の上で目を覚ました。

まだ、全身が痛くて起き上がる事さえ出来ない。

それでも、なんとか動く首を使い、周りの様子を伺う。

誰もいない昔ながらの畳部屋、つまり和室。

天井にぶら下がってる白熱電球は思ったより眩しかった。

今はLEDが主流なので白熱電球を見たのは初めてだ。

 

「………電球が光ってる?」

 

そうだ、俺は何分寝ていた?もしくは何時間?

俺は気を失う前の最後の記憶を脳内から探しだした。

………結果、何故かトマトを思い出した。

え、何でトマト?

 

『___』

 

「は?え?」

 

すると突然、枕元から声が聞こえた。

まるで、寝ていた俺を呪う為に発せられたかのような囁き声に、俺は一瞬本物の幽霊が現れたのかと思ってしまった。

しかし、よくよく考えると聞き慣れた声だったので俺は安心した。

左手を曲げて枕元に置いてあったスマホを掴み、イヤホンを耳に装着する。

 

「幽霊かよ」

 

『こっちの方が気づいてもらえると思ったので』

 

予想通り、囁き声を出したのはスマホの中のアイだった。

スマホとイヤホンは繋がったままだったので、音量を上げて俺に聞こえるようにしたらしい。

 

「普通に起こしてくれよ。一瞬、マジで幽霊かと思ったんだけど」

 

『それでは、いつかテレビから這い出てみましょう』

 

「残念だが、這い出て来るのがアイの場合。怖がる所か逆に引っ張り出して抱き締めるぞ。おまけに頬っぺたにチューだ」

 

本心を交えながらも冗談を言ってみた。

口喧嘩で俺がアイに勝てないのは分かっているから、後の事を考えずに済む。

負けるのが確定してるから………それって俺は自ら傷つきにいってないか?

どうしよう、俺はMの道を歩み始めてしまったのか………

 

『………冗談はともかく。何処かに神代様がいる筈ですので呼んでみたらどうでしょう?』

 

「………それだけ?」

 

いつものアイとは違う返しがきた。

反撃もせず、はぐらかすように話を変えた。

それに声が少し揺れている。

俺は思わずアイに聞き返してしまった。

 

『それだけって………何を求めてたんですか?』

 

「いや、何でもない。そう言えば神代さんはアイの事知ってるのか?」

 

アイは素っ気なく答えたので俺は違和感を感じながらも話を神代さんの事に戻す。

 

『知りませんよ。なので、神代さんがいる前では和人様は歯の音で会話しましょう。1回噛めばYES。2回噛めばNOです』

 

「”コツッ”」

 

俺は早速1回歯を鳴らしてYESの合図をする。

マイクが高性能で助かった。

そして、遠慮がちに声を出した。

 

「あ、あのー!すいませーん!」

 

『和人様は木綿季様とクライン様を愛している』

 

勿論、合図は出さなかった。

酷すぎるだろその質問。

YESでもNOでも最悪の結果じゃねーか………

苦笑いになると同時に普段のアイに戻ったなと思った。

 

「ちょっと、待ってねー」

 

障子の向こう側から返事が来た。

俺は思ったより親しみやすそうな声に安堵する。

この調子だと色々聞けそうだ。

早速、茅場さんの事を質問しよう。

俺は神代さんが来るまでひたすら質問内容を考え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めてまして、私は神代凛子です」

 

「じ、自分は桐ヶ谷和人です………」

 

招かれたのは、俺が寝ていた部屋の隣にあるリビングのような場所だった。

障子は和室と廊下を繋ぐ扉だと思っていたけど、実際は大きな部屋を仕切る為の物だったらしい。

あまり広くは無いけど、ソファーにテーブル、テレビも完備されていた。

俺は神代さんにそのリビングにある緑色のソファーまで運んでもらい腰を降ろした。

神代さんは俺の右隣に静かに座った。

耳のイヤホンは左耳だけにして、補聴器と言ってある。

携帯と同期している物は珍しいねと不思議がられたが、愛想笑いで誤魔化した。

神代さんは俺の愛想笑いを気にせずに自己紹介を始めてくれたのだ。

俺も名前だけを言い、すぐに質問に入る。

 

「あの………茅場さんの事でお話があります」

 

「………うん」

 

神代さんは驚いた様子もなく、微笑みながら俺を見た。

神代さんの微笑みを見ていると俺が何をする為にここへ来たのか、俺が何を訊きたいのか、全てを見透かされている気分になる。

しかも、それは気分ではなく文字通り見透かされていた。

 

「茅場先輩はこの家の地下にいるわ。今はSAOにログイン中よ。たまにご飯を食べに戻る時もあるけど、殆どはSAOに居るわね」

 

「………簡単に教えますね」

 

実にあっさりと茅場さんの居場所を告白した神代さんの考えが俺には分からなかった。

そもそも何故、神代さんは茅場さんに協力しているのか。

茅場さんと神代さんはどんな関係なのか。

疑問は絶えない。

俺が神代さんに警戒心を抱き始めると、彼女は語りだした。

 

「本当はね。私も茅場先輩を止める為にここに来たの。茅場先輩を殺して私も死んでやろうとしたわ。」

 

俺は殺人に自殺を目論んでいた人物の話を聞き続けた。

俺だって木綿季が動けなくなってしまった原因の事故を起こしたトラック運転手を殺したいと本気で思ったことがあるし、突っ込んできたトラックに何故気づかなかったのかと自分を呪い、木綿季をSAOに巻き込んでしまった時には自分に殺意さえ湧いた。

 

「でもね、居場所を突き止めて、果物ナイフ1本と睡眠薬を大量に持ち込んだ私に茅場先輩は、自分の身の回りの世話を頼んだの。そして、何の危機感も躊躇いもなく、SAOにログインしていった。驚いたわよ。自分を殺しに来た女の前で無防備な姿を見せるんだもん。絶好のチャンスだったわ」

 

神代さんは可笑しいでしょ?とクスクスと笑った。

殺しを計画していた人間とは思えない程、綺麗な笑顔だった。

 

「結局、私は殺せなかった………ナイフを掲げて後は降り下ろすだけだったのに、手元が震えてしまったの。私はナイフを捨ててその場で泣き崩れた。大の大人が子供みたいにわんわん泣いちゃったのよ」

 

「何故、殺せなかったのですか?」

 

「人を殺したくない、自分は死にたくない、色々あったと思う。けど、一番はやっぱり好きだったからかな」

 

神代さんは俯いて頬をほんの少しだけ紅くした。

話す時の表情もそうだけど、この人がする行動の1つ1つが絵に描いたように美しく見惚れてしまう。

だからだろうか。

神代さんは嘘を言っていない、彼女は本心を話してくれている、俺はそう感じた。

 

「君はどう?心から好きな子が犯罪者になってしまっても、好きでい続けられる?夢を叶える為に頑張ってきたその人を否定できる?」

 

俺は直ぐに答えることは出来なかった。

木綿季がそんな事をするとは到底思えなかったから。

しかし、それでもだ。

もし………もし木綿季が自分の夢の為に決して許されない事をしても、俺は木綿季を好きでいられるのか?

間違ってると分かっていながらも、世間を無視して木綿季と一緒に生きていける?

ちゃんと、罪を滅ぼした方が為になるのではないか?

それが木綿季の全てを否定する事になっても………

 

「俺は………」

 

『木綿季様に着いていきますか?』

 

「………”コツッ”」

 

多分、神代さんと同じような行動をするだろう。

ベタで、中二病のような発言で、口に出すのは死ぬ程嫌だけど。

例え、世界中全ての人間が木綿季の敵になったとしても俺は絶対に木綿季の味方だ。

それぐらい俺は木綿季が好きだし、愛してる。

そんな俺の顔を見て、何を察したのか神代さんは同士よ!みたいな顔になった。

恥ずかしい………

 

「ナーブギアは2台あるわ。1つは茅場先輩が使ってるけど、もう1つは空いてるの」

 

「何で2台あるんですか?」

 

神代さんの物かと思ったけど、別に必要ないし邪魔になるだけ。

茅場さんは何の為に2台用意したのか分からない。

 

「これを読んで見て。私が始めてここに来た時からある手紙よ」

 

神代さんが前にあるテーブルに引き出しから折り畳まれた1つの小さな紙を取り出した。

何処にでもあるメモ用紙で、俺も持っている物だ。

神代さんはそのメモ用紙をとても大事そうに俺に渡してきた。

自然と受け取る時の手が必要以上に丁寧になる。

そして、俺は恐る恐るメモ用紙を開いた。

 

” 望むなら相手になろう、和人君 ”

 

それだけだった。

つまり、茅場さんは方法はどうであれ俺が途中でSAOから抜け出す事を予想していたのだ。

抜け出して、自分の居場所が割れると分かっていて、これを書いた。

神代さんが意地悪そうに笑った。

 

「どうする?茅場先輩は意外と男の子よ。決闘かもね」

 

「………でも、それじゃ」

 

「私は止めないわ。茅場先輩が君に殺されたとしても、私は君を恨んだりしない。だって、茅場先輩が決めた事よ。それとも、自分の心配をしてるの?」

 

それは無い。

負け覚悟で戦いに挑むのは後に何かを残す為にやることだ。

だが、今の俺には続く奴がいない。

木綿季やアイが続いてくれるかもしれないが、戦いを見れないんじゃ意味が無い。

だから、負け覚悟での勝負はしない。

 

『私はパパに従います。パパがどう判断しても私はパパを肯定します』

 

左耳のイヤホンから逞しい声が響いた。

茅場さんからのメッセージを見つめながら笑みが溢れる。

 

「ありがとう…………」

 

俺はボソッとマイクに向かって言った。

神代さんは首を傾げている。

いきなり、独り言を言ったように見えるからだろう。

俺は神代さんの顔を見た。

 

「メッセージを飛ばしても良いですか?」

 

「………準備をしてくるわ。10分ぐらいしたら戻ってくる」

 

神代さんは障子とは別にある、いたって普通のドアから出ていった。

少しして階段を降りる音が聞こえた。

俺は携帯を取り出してホーム画面を開く。

アイは白いワンピース姿で両手を後ろに組んでいた。

 

「皆に伝えてくれるか?」

 

『何なりと』

 

「茅場さんと勝負をしてくる。全てが終わったらオフ会しような。当然、エギルの店で………それと、」

 

俺は息を大きく吸って吐き出す。

思うのは簡単でもいざ口に出すとなると変な躊躇いがある。

恥ずかしがってる場合じゃないのに、もしかしたら最後のメッセージになるかもしれないのに。

 

「木綿季、好きだ。この世の誰よりも愛してる………以上だ」

 

『承りました。パパが言ったら私も伝えに行きます』

 

俺はそこで考えるのを止めた。

とにかく、冷静でいたかった。

これから待ち受ける死という可能性から逃げ出したかった。

それでも、俺は戦うのだ。

SAOを開発してしまった自己満足の罪滅ぼしの為に。

命を賭けるのだ。

 

「準備が整ったわ」

 

無心状態の俺の肩に神代さんの手が置かれた。

神代さんの心境も複雑だろう。

なんせ人を殺す準備をしているのだから。

自分の意思で愛する人を殺せなくても、愛する人の意思で愛する人が死ぬ。

そして、愛する人の意思で目の前の少年が死ぬ。

こんな経験をするのは世界中でも神代さんただ1人だけだと思う。

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神代さんに支えられながら俺は軋む階段を降りていった。

階段を降りきり、薄暗い廊下を通る。

廊下も階段と同じで軋む。

それで、地下は1階よりも肌寒かった。

 

「ここよ」

 

俺を支えてくれていた神代さんが足を止めた。

廊下の突き当たり、茅場さんがSAOにログインしている部屋。

アイに頼めば直ぐにでも、警察を呼べる状態ではあるが、勿論しない。

俺は手を伸ばしてドアノブを回した。

 

「………久し振りですね。茅場さん」

 

部屋には2つのベッドが用意されていた。

茅場さんは本当に俺が来ると思っていたのかと感心した。

その茅場さんはドアから見て左側のベッドに灰色のジャージ姿で寝ていた。

たまに戻ってくるからか、髪もしっかりとしていて髭も剃ってあり、健康そうに見えた。

けど、痩せ細っている。

俺は神代さんの支えを解いてもらい、自分の力で空いているベッドに向かった。

世間では知られていない、10001台目のSAOソフトが搭載されているナーブギアを手に取った。

 

「私は外で待ってるわ。………終わったら音が鳴る筈だから」

 

音、脳が焼かれて心臓が止まる時の音。

ナーブギアにはそんな機能も付いているのか。

流石に死んだ時の音だとは言いにくいだろう。

それに、2人のどちらかが死ぬ瞬間を見たい筈もない。俺も外で待っててくれた方が緊張しなくてすむ。

すると、神代さんはおもむろに茅場さんに近づいていった。

そして、

 

「愛しています」

 

垂れる髪を耳に掛けると、神代さんは俺が見ている前で茅場さんにキスをした。

俺は驚き目を瞠る。

神代さんは驚く俺に一度だけ、照れた顔で手を振ってから部屋を出ていった。

 

「大胆だ………」

 

俺は呟き、ベッドに横たわった。

ナーブギアを被る。

もう、後戻りは出来ない所まできた。

後は殺るしかない。

 

『帰って来ますよね?』

 

俺はイヤホンを外して、携帯の画面を見た。

アイが顔をうつ向かせていた。

そのせいで表情が分からない。

分かるのは涙声だということだけ。

 

「当たり前だろ」

 

『本当ですよ!約束ですよ!生きて帰って来て下さいね!パパ!!』

 

画面いっぱいに泣きじゃくるアイの顔が表示された。

ここまで感情を表したアイは初めてだった。

俺はそっとスマホにキスをした。

そして、不敵に笑う。

 

「俺を信じろ!」

 

『………はい!!パパ、大好きです!!』

 

それを最後にアイは画面から消えた。

しかし、アイが画面から消えてもアイの泣きじゃくる顔が、大好きと言った時の顔が、忘れられない。

 

「茅場さん、向こうで会おうぜ。勝つのは俺だ。あんたもそうだけど、俺にだって待ってくれている人が居るんだ」

 

俺は横目で茅場さんに言った。

当然、返事はない。

深呼吸をし心を落ち着かせた俺は覚悟を決めて懐かしのあの言葉を言う。

 

「”リンク・スタート”!!」

 

今日の日付は2024年 11月7日。

この季節にしては珍しく暖かい気温だった。

そして、和人には知らされていないが木綿季の治療が終了する日でもあった。




えっと、何だこれは?…………もう1度言います。
何だこれは!?
自分で書いてるのに他の人の作品に感じる…………
ストーリーが滅茶苦茶だ!!
これで良いのか!?本当にこれでに良いのか!?

めっちゃどうでもいい訂正。
前話に出てきた青々とした稲、11月って稲刈りの時期じゃね?と思い少し変えました。
うん、どうでもいいですね。

それでは、評価と感想お願いします!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50話 何処ですかー?

遂に高2初めての奴がやって来る………

(モン)スターが!!



 

目を開けると中世のコロシアムを感じさせる懐かしの広場に俺は立っていた。

今でもはっきりと覚えている。

ここから全てが始まってしまったのだ。

俺が居るこの広場は差し詰め”始まりの場所”だろう。

と独りカッコつけている暇はない。

俺は重大なミスを犯していた事にやっと気づいたのだ。

初歩的なミスで単純なミス。

普通なら一番最初に思い付く事。

 

「茅場さん何処だ?………てか、装備も無いじゃん」

 

広場に誰も居ないことを良いことに、俺は背中から石造りの地面に倒れた。

白い石や茶色に変色している石の地面に何のクッションもなく倒れたのに全然痛くない。

流石、ペインアブソーバの機能。

俺は倒れたままメニューを開いた。

 

「金ないな………」

 

SAOを一度出た時に全コルをアスナに渡してしまった為に1文無し。

装備も古い物ばかりで今着ているのはいつもコートの下に着ていた黒の長袖、それと黒の長ズボン。

武器は軽い剣が数本だけだった。

あまりにも準備不足で自虐的な笑みが漏れる。

とりあえず、何処に居るかが不明の茅場さんに俺はここに居るぞと宣言する為に一番影響力のあるギルドに向かおう。

誉れ高き最強ギルドの血盟騎士団ならSAO全域に広告を出すなんて朝飯前な筈。

コミュ障を自覚している俺だが、幸いにも血盟騎士団には友達のアスナが副団長として君臨している。

一部のプレイヤーは崇拝さえしている神的存在。

SAOに残ってくれた事に感謝。

俺が突然現れたら驚くかな?笑って迎え入れてくれるかな?それとも何で戻って来たのかと 怒るかな?ちょっと楽しみ。

俺の自虐的な笑みがドッキリサプライズを計画する小学生の笑顔となり変な力が湧いてくる。

アスナとは会いたいけど出来れば2人きっりが望ましい。

けど、アスナの周りには常に護衛がいる。

それも下手するとストーカー行為をする輩まで。

なんとか隙を見付けたいものの、ストーカーを甘く見ちゃいけない。

何となくだけど………とにかく甘く見ちゃいけない!!

ストーカーと聞くだけで怖い人としか想像出来ないからな!!

 

「隠蔽スキル使って接近するか」

 

俺は護衛の件を半ば運に任せる事にして頷いた。

その時だった。

 

「誰だ貴様!!」

 

「ヒウッ!?」

 

俺は急な図太いオッサン声に両手で地面を押し海老のように跳ねた。

そして、声とは全くの逆方向に顔を向けて正座した。

ビクビクしながら目を瞑り、耳に全神経を集中させて音で周囲になにがあるかを確認する。

数あるVRワールドだからこそ出来る技術の内の1つ。

規則性のある自然発生する音と人工的に発生する音を聞き分ける。

更に、聞き入分けた音を元に頭の中で何処に何が居るのか等をイメージする。

VR世界限定の”円”のようなもの、もっと正確には何処ぞの魔族特区に住んでいるヘッドフォン男の”音響結界(サウンドスケープ)”という能力。

 

「ここは我が軍の所有する特訓施設である!!戦わぬ民間人が気安く侵入していい場所ではない!!」

 

広場にある入り口の1つからガシャッガシャッと重い金属音が、徐々に近づいてくる。

しかも、数人分。

図太いオッサン声を先頭に6人の列が6つ並んで正方形の布陣で合計37名が俺の遠く後ろにいる。

特訓施設に来たのなら特訓がメインの筈なのに、嫌な笑い声が聞こえる。

ここで捕まると何をされるか分からない。

軍に関しての悪い噂は有名だ。

かつあげ、弱味を握って女を誘拐、俺が居ない間に改善されたとは思えない。

現に後ろの連中は笑っている。

 

「貴様を不法侵入罪として拘束する!!」

 

俺に近づく足が若干速くなった。

てか、不法侵入罪ってなんだよ………生半可な知識で法律作るなよな。

それにしても、どうしたものか。

ここで逃げる事は確定だが、不審者が逃げたと有名になってしまう。

軍はプライドとか功績とかを理由に俺を血眼になって捜索するかもしれない。

規模だけは大きなギルドだ。

街中は隠蔽スキルを使えばいいけど、転移門を占拠されては打つ手がない。

男、少年、黒い、見られてしまったのでこれらにどれか1つでも当てはまる者が居れば事情聴取で軍本部に直行。

強引に突破しようものなら、その時点で俺が侵入者だとバレて”キリト(1人)VS軍(不明だけど多人数)”の鬼ごっこが始まってしまう。

平和を愛する俺はそんな事望まない。

よって、軍共の情報を狂わせて俺を捜査対象から外すのが得策だ。

簡単変身術~!!

まず、手で後ろ髪を解かします。

少しばかり癖のある髪をぺったんこにしてショートヘアのストレートにするのです。

次に前髪をいい感じに分けて軽くおでこを出します。

最後に瞳の中を全力で潤わせれば完成。

それでは、この効果をご覧下さい。

俺は丁度いいタイミングと距離に来た軍の隊に向け、女座りをし顔の半分だけを見せた。

 

「ご、ごめんなさい………」

 

お色気作戦!!

SAOではアバターのせいで俺の女感が上昇する。

現実の俺とそっくりなのにそこには多少の差というものが現れる。

男の方に差が出て欲しかったが、女の方に出てしまった事に溜め息が止まらない日もあった。

しかし、今だけはありがたみを持とう。

喰らえ軍のオッサン!!

女座りをして振り向くショートヘアの涙目!!

おまけに、口に猫の手をした左手を当てて右手は胸を隠すようにするというボーナスアタック!!

胸が無いからこうでもしないと女に見えないからな!!

そして恥じらいの声はわざと高くしなくても素で出た声なので違和感なし!!

これで奴らは俺の事を女だと思った筈だー!!!

 

「へへ………」

 

「ヒッ………」

 

寒気がした。

背筋をゾワゾワっと下から上へとなにかおぞましい生物が通り抜けた気分だった。

何らかの危険を感じる。

男が感じるのは普通ならおかしい危険性。

つまり、貞操………

 

「いや………!!」

 

俺は全力で逃げ出した。

一応予定通りなのだが、俺はそんな予定とか関係なく走った。

後ろから野獣の足音が聞こえてくる。

違う意味で捕まったらマジヤバい。

俺はコツを使い加速する。

そして、MAXスピードになると同時に地面を思いっきり蹴った。

 

「はっ!」

 

コツを使ったMAXスピードからのコツを使ったMAXジャンプ。

モンスター相手にでもここまで全力を出した事があっただろうか?

まさか、プレイヤーに対して全力を出すことになろうとは………

俺はなんとか外塀に手を掛けてその上によじ登った。

第1層”始まりの街”がよく見渡せる。

 

「あの女を捕まえろー!!」

 

オッサンが下で声を上げていた。

作戦通り、俺を女だと思い込んでくれたらしい。

後は隠蔽スキルを使って姿を眩まし、着替えてアスナの所に行けばいい。

捜査対象とまず、性別が違うので俺が捕まる心配はない。

 

「よっと」

 

俺は下で忙しそうに部下を家畜同然に動かしているオッサンを尻目に向かいの屋根に飛び移る。

空中で隠蔽スキルを発動して、姿を街に溶け込ます。

とっくにカンストさせてあるスキルなのでコート無しでも十分効力を発揮する。

俺は転移門に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移門は関所のようになっていた。

別に小屋があるとかそんなんじゃないけど、軍のプレイヤーが門の前に陣取っていて、転移出来ない。

あわよくば軍より先に転移門に着いて転移してやろうと思ったのだが、軍の情報伝達速度は思ったより速いようだ。

それか常にああして陣取っているのか。

だがしかし、聞き耳を立てていると捜しているのは黒い女。

今の俺は鼠色の服に鼠色のポンチョ。

髪型を男らしくすれば問題なく通れる。

俺は屋根から降りて隠蔽スキルを解除し、軍に近づいた。

 

「すいません………通りたいのですが」

 

「なんだ小僧。この街の者か?」

 

「い、いえ………違いますけど………」

 

軍の制服のヘルメットで頭の上半分は殆ど見えないけど、多分20歳後半だろう。

背も高いし喧嘩が強そうだ。

すると、俺を見下す喧嘩が強そうな兄ちゃんは当然のように手を出した。

俺は目の前に出された手の意味が分からず首を曲げて、取り敢えず犬のお手みたいに右手を置いた。

 

「小僧!!ふざけているのか!!」

 

「ひっ!!」

 

久し振りに目の前で怒られて数歩引き下がる。

木綿季もいないしアイもいないしユイもいない。

ここには家族がいなかった。

そんな、怯える俺に優越感でも抱いたのか喧嘩が強そうな兄ちゃんはずかずかと近づいてまた、手を出した。

 

「税だ!税!!俺達はお前ら市民をこの世界から解放してやろうと命を懸けているのだ!!通行料ぐらい払え!!」

 

「税………?通行料………?」

 

俺は言われた言葉をインコのように繰り返した。

ああ、この人………と言うか軍の奴らは1層を支配してるんだった。

戦わずに街に篭ると決めたプレイヤーを市民と呼んで自分達は役人気取り。

どう考えても三下キャラの俺TUEEEだろ………

しかし、残念な事に俺は今1文無しで金などない。

服も元からある物に着替えただけだ。

ここはアイテムで我慢してもらうしかない。

 

「お、お金は無いんですけど………これなら………」

 

俺は銀色に輝く片手剣をメニューから出した。

攻略にはあまり役に立たないけど、中層ぐらいのプレイヤーになら喉から手が出るほど欲しい一品。

攻略の事を考えすぎてアスナに渡さなかった物だ。

 

「ふ、ふむ。いい剣だ」

 

声音で欲が出まくっているのが分かる。

冷静を装っていても演技力が足りていない。

やはり、喧嘩好きの脳筋野郎だな。

俺はぐいっと剣を差し出して言った。

 

「だ、駄目でしょうか?」

 

「………いや、十分だ。通って良いぞ」

 

「ありがとうございます」

 

俺は笑いを堪えている兄ちゃんの横を通り転移門の前で小声で言った。

 

「転移、グランザム」

 

血盟騎士団の本部が置かれる街に向け、俺の周りが青く光る。

そして、一時的である浮遊感が生まれる。

んー、それにしても俺はあんな風な大人にはなりたくないな。

ちゃんと働いて家族を養わなければ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………75層のボス戦に行った?」

 

「そうです。よってアスナ様との会談は数時間後となります。まぁ、アスナ様が貴方なんかと会談するとは思えませんけどね。仕事なので一応手続きはしておきます。大半の方は無理ですよ」

 

血盟騎士団の受付。

アイをギューも無しに、自前の勇気だけを使って話し掛けると受付の女性に睨まれた。

例のアスナ神の崇拝者だった。

俺は数少ない持ち物を売り払い装備を整えてアスナの元に向かうことにした。

待つより直接会いに行く方が精神的な傷が無いからだ。

エントランスであの女性の蔑む視線に耐えられるとは思えない………

 

「いや、また来ます………」

 

おい、茅場さん。

あんた決闘するんじゃないの?

現実世界の俺の体が限界を迎える前に終わらせようぜ?

だから、早く姿を現して~………!!




前書きで言った通り、テストが近づいてきました。
なので、次回の更新が遅れる可能性があります。
まぁー、テストなんてくそくらえだ!!と考えて更新するかもしれませんがあまり期待しないで下さい。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51話 アスナの戦い

遅くなった~りら~りら~!!!

俺ガイル、ゲーム第2弾!!おーめでとー!!!
絶対買う!!


 

 

ワックスをかけたように薄く光を反射する灰色の廊下を私は不満げに歩いていた。

お陰で、時折通り過ぎる団員達は私を見て少々怯えながら廊下の端に寄ってくれる。

 

「はぁ………」

 

キリト君達が現実世界に戻ってから数日後、私は団長に呼び出しを受けていた。

と言っても、別にお説教などの類いでは無く今後の攻略についてだと言っていた。

予想はしていた。

キリト君達が戻った次の日、第74層のボス部屋で転移結晶が使えないという事実を軍の人達が極一部の犠牲を払って教えてくれた。

軍は第25層に大きな損害を受けた事によって攻略よりも組織拡大に勤しんでいた筈なのに、何故今になって攻略する気になったのか不明だけどお陰で私達血盟騎士団は損害なく第74層を攻略する事に成功した。

そして、第75層。

SAOのボスのジンクスからして、今回のボスは桁外れに強い。

25層、50層、今までのクウォーターポイントではキリト君を始めユウキやアイちゃん、クラインさん、エギルさん、攻略組の中でもトッププレイヤーの人達が居たからこそ攻略出来た。

けれど、今彼らはこの仮想世界ではなく現実世界で闘っている。

その大きな穴をどう埋めるのかを話し合う為に団長は私を呼んだのだと思う。

もしくは、キリト君達と一番親しかったからかもしれない。

 

「まぁ、いっか。手間も省けるし」

 

長い、長い廊下を通り終えた突き当たり。

大きな赤い両開き扉に金色の取手。

ボス部屋のように来る者を容赦なく威圧してくる。

私は扉の威圧に対抗しながら人差し指と中指で扉を軽く2回叩いた。

そして、返事が返ってくるのを待たずして、両開き扉の2つある扉を同時に開いた。

 

「副団長のアスナ、入ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団長室は光に満ちている。

私が入って来た扉を中心として半円を描くように広がる団長室。

部屋の面積も然る事ながら、高さまで凄い。

3、4階分ぐらいの高さまで吹き抜けになっていて、天井には豪華な逆三角錐のシャンデリアがぶら下がっている。

それに、シャンデリアだけでもキラキラしているのに団長室には大きなガラス窓が下から上へと等間隔で伸びている。

初めて入った訳ではないけど、未だにこの部屋に入る時は目を細めないといけないし、目が慣れるのにも数秒掛かる。

しかし、私は部屋の豪華さなどに目を奪われず、団長の話に驚きと焦りを必死に隠していた。

 

「つまり、今後のボス部屋は全て一発勝負という事ですか?」

 

「恐らくは………かと言って、攻略をここで止める訳にはいかない。今日、戦う勇気を持つ者を募り、明後日、第75層のボス攻略を行う。偵察が出来ない以上それしか方法がない」

 

部屋のほぼ中心にある団長の椅子と机、私は来客用に用意されているソファーに腰を下ろしていた。

そして、団長の椅子に座っている、灰色のロングヘアーを首の後ろで結んだ見た目30代の男。

神聖剣というキリト君の二刀流やユウキの絶剣と同じユニークスキルの持ち主。

唯一、ユニークスキルの所持を公表したSAO最強のギルドの団長にしてSAO最強のプレイヤー、ヒースクリフ。

団長のユニークスキルの特徴は盾。

白をベースに赤い十字架模様の大きな盾が伴う防御力はゲームバランスを崩壊させてしまう程で、彼のHPが黄色以下になった所を誰も見たことがないという。

故に冷静、常に頭が冴えていて、現場での状況判断が速い。

今も、仲間が閉ざされたボス部屋で未知の敵に殺されたのにも関わらず、最善の選択をしている。

 

「別に君の友人達を信じていない訳じゃない。けど、何もしない訳にもいかない。批判もあるからね」

 

団長が目を細めて言った事で、私はガンを飛ばすような視線になってしまった。

キリト君達を本当の意味で知っている人は私達を助ける為に頑張ってくれていると信じている。

でも、大半のプレイヤー、特に軍に所属している人達は、逃げたとか見捨てたとか、悪態つけて吹聴している。

残念な事に血盟騎士団も例外ではない。

本部やホームの街を歩いているだけで、キリト君の悪口、ユウキの悪口、皆の悪口。

更に酷いのは裏切られて可哀想だねと私と皆の関係の良さを知っている人が心配してくる事。

何も知らないで、私の大切な友達を汚す言葉。

歩いているだけなのに自分の中でマグマのように煮えたぎる憤りを感じる。

その鬱憤を晴らすのに毎日数多くのモンスターが消えてしまうのは当たり前。

 

「分かりました………団員には私から伝えます」

 

「すまないね、宜しく頼むよ。私はこれから聖竜連合の本部に行ってこの事を伝える」

 

すると、団長はメニューを開いて転移結晶を取り出した。

 

「護衛はどうするのですか?」

 

「行動を制限されるのは好きじゃない。それに、護衛などは団員が勝手に決めた事、私には関係ない」

 

団長は不敵に笑って見せると転移結晶特有の青い光と共に消えていった。

そして、だだっ広い空間にただ1人取り残された私は拳を強く握った。

 

「………似ている」

 

団長が消える寸前に見せた不敵な笑みは、敵を前にして楽しんでいる時のキリト君にそっくりだった。

あの笑み………多分本人達は気付いていない。

自分の力を自覚している証。

選ばれた者が無意識に行う癖。

子供の頃から見てきた。

レクトの社長令嬢だからと言って色々なパーティーに訪れた時に必ず見る事となっていた。

けれど、ほとんどが力に溺れ自分より下だと思う者を見下す傲慢な顔だった。

しかし、キリト君と団長は違う。

見下しもせず、自分の力に溺れない。

私は今まで出会った事のなかった。

()()()()()

 

「団長………あなたは………」

 

団長は数日に1度追跡できなくなる時がある。

団長は初めて会った時からSAOを理解し過ぎていた。

団長は防御力の高いユニークスキルを使い、HPが黄色になった事がない。

団長はキリト君に似ている………天才に似ている………

私が知っている中でキリト君と同レベルの天才。

1人しか居ない。

 

「茅場………昌彦………」

 

私は独り呟きながら団長室を後にした。

嵐の前の静けさなのか、私の耳には自分の足音しか聞こえていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく集まってくれた!!これより、第75層ボス攻略に向かう!!」

 

血のように赤い鎧を着た団長が集まったプレイヤーに叫ぶ。

私が団長の事を茅場昌彦だと確信に近いものを感じてから2日後、予定通りボス攻略が開始されようとしていた。

選び抜かれた血盟騎士団と聖竜連合の精鋭達に加えユウキが所属していたスリーピングナイツやクラインさんが所属していた風林火山も参加している。

そして驚く事にサチが入っていた月夜の黒猫団もいる。

私は腰に携えてあるユウキの剣に触れて目を瞑った。

大丈夫、私には仲間がいる、必ず生きて帰れる、と僅に残る恐怖心を振り払い心を落ち着かせる。

けれど、それを邪魔する奴が現れる。

 

「全く………奴等が居れば少しは役に立つと言うのに………あの臆病者共が。アスナ様、現実に逃げた奴等に目にもの見せてやりましょうか」

 

クラディールは澄ました顔で私の隣に並んできた。

私がキリト君達を恨んでいるとでも思っているのだろうか?

私を見捨てるなんて………と思っていると思っているのだろうか?

流石に我慢の限界だった。

こう好き勝手に友達を汚されると凄く嫌な気分になる。

 

「ねぇ、クラディール………」

 

「何でしょうか?アスナさ___」

 

クラディールが返事に答えながら、私の顔を見た。

その時、それまで澄まし顔で己の言っている事は正しいと勘違いをしていたクラディールの目が見開かれる。

 

「次………私の大切な人達を悪く言ってみなさい。私は貴方を許さない………」

 

クラディールだけが悪口を言っている訳ではない事は分かっている。

ただ、我慢の限界だった時に丁度クラディールがいただけの事。

クラディールは運が悪かっただけ。

私は言葉では許さないと言い、目では殺すと言った。

 

「………了解しました」

 

クラディールは一言言っただけで後ろに下がっていった。

気持ちが大分楽になった。

これでボスにも心置きなく戦える。

 

「ありがとうございます」

 

スリーピングナイツの新リーダーのシウネー。

 

「スカッとしましたよ」

 

風林火山の新リーダーのユークリッドさん。

 

「仲間を悪く言うなんて許せませんからね」

 

月夜の黒猫団のリーダーのケンタ。

 

「ボス戦とか関係ない。これは私達の仮想世界側とキリト君達の現実世界側との勝負。どちらが早くSAOを終わらせるかの勝負よ」

 

団長が転移結晶よりも一回り大きい結晶を取り出して叫んだ。

 

「コリドーオープン!!」

 

私達はボス部屋の前に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボス部屋には何のモンスターも居なかった。

赤黒い洞窟の空間の真ん中に円状のバトルフィールドがあるけど、何もない。

プレイヤー全員がボス部屋に入り後ろで巨大な扉が閉まる音がした。

神経を張り巡らせて、何時、何処で、何があっても対処できるようにする。

前は何もない、第76層に続く階段がある。

右にも左にもない。

前も右も左も違う。

なら何処に?

私は瞬間的に上を見て皆に注意した。

 

「上よ!!!」

 

私が叫んだと同時に全てのプレイヤーが天井を見た。

 

「な、なんだよあれ………」

 

誰か思わず恐怖の声を漏らした。

天井に張り付いていたのは骸骨。

日本には、がしゃどくろという妖怪の噂がある。

名の通り骸骨姿で生きた人間を食べるという妖怪。

あれはそれに近かった。

ただし、人間の姿はしていない。

顔は人間に近いけど、体はまるでムカデ。

死神が持っているような大鎌が前に2本生えている。

 

Skull(スカル) Reaper(リーパー)!?」

 

私は全長10メートル以上ある長い胴体を伸ばして天井から降りてくる敵から一端距離を置く為に全力で後ろに飛んだ。

着地地点には偶然にもスリーピングナイツ、風林火山、月夜の黒猫といった知った面々が集まっていた。

 

『ガァァァ!!』

 

スカル・リーパーがバトルフィールドに辿り着くとボス部屋と呼ぶには広すぎる洞窟内の赤みが増してフィールド全体が見やすくなる。

そこで気づいた。

スカル・リーパーを前にして立ち竦んでいるプレイヤーを。

 

「何してるのよクラディール!!」

 

私は一喝した。

クラディールも今夢から覚めたかのようにこちらへ走り始めた。

しかし、遅かった。

スカル・リーパーが右凪ぎした大鎌がクラディールを切り裂いた。

 

「ガハッ!!」

 

クラディールが大鎌の衝撃で宙を舞った。

そして、呆気なくポリゴンの塵と化してしまった。

性格や口が悪いけど、紛いにも攻略組のクラディールが一撃で殺られてしまう程の攻撃力。

余りに強大な攻撃力にプレイヤーの士気が下がる。

そしてまた、僅ずかに逃げ遅れたプレイヤーに向けて一撃必殺の鎌が振り落とされた。

しかし、その鎌はプレイヤーを襲う事は出来ず、私達にある最強の盾に阻まれた。

 

「団長!!」

 

私は団長が受け止めている大鎌目掛けて、細剣ソードスキル重攻撃技”アクセル・スタブ”を撃ち込んだ。

大鎌は弾け飛び、スカル・リーパーの動きがほんの一瞬止まる。

私は団長と視線を合わせた。

 

「私とアスナ君で鎌を捌く!!」

 

「他のプレイヤーは側面から攻撃してください!!」

 

一撃でも当たれば終わり。

キリト君の言う、無理ゲーが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい経ったのか。

数秒にも感じられて数時間にも感じられる。

わざと大鎌の標的となってギリギリのところでかわす。

大鎌の攻撃は軌道が読めやすいのでかわすだけならなんとかなる。

それでも、攻撃スピードが異常な為に集中力を切らした暁には死亡確実である。

 

「ッ!!」

 

何度目か分からない大鎌の振り払いを姿勢を低くしてかわした時、視界の端でスカル・リーパーのHPが見えた。

HPは既に黄色を越えて赤になっていた。

私はここだと思い、言った。

 

「全員!!一斉攻撃!!」

 

自らの声と同時に私は前に出た。

降り下ろされる大鎌をギリギリの所で受け流し、飛ぶ。

目の前には薄気味悪い眼をしたスカル・リーパーの顔面が迫ってくる。

私は全力で剣を撃った。

細剣ソードスキル9連撃の奥義技”フラッシング・ペネトレイター”

最初に3発撃ち込み、残りの6発は全てすれ違いざまに放つ。

実質4連撃だけど、このようにシステムが攻撃してくれる技は多々ある。

私の奥義技を合図としてスカル・リーパーの側面から色とりどりの光が撒き散らされる。

 

『ガッガァァァ!!』

 

プレイヤー全員からのソードスキルを受け、流石のスカル・リーパーも倒れこむ。

それでも、スカル・リーパーは抵抗を止めず、大鎌を振り回しムカデの脚をバタつかせる。

油断したのか誰かの叫び声が聞こえる。

しかし、私には叫び声を気にする余裕は無かった。

正面に戻り、すぐさまタゲを私に向ける。

団長も盾を構えて大鎌の降り下ろしと真っ向勝負している。

 

「もう一息だ!!」

 

団長は絶大な攻撃力を持つ大鎌を押し返し、ソードスキルをスカル・リーパーに喰らわせた。

真剣な表情ではあるのに、団長は何処か笑っているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何人死んだ………?」

 

誰かが静まり返ったこの場で呟いた。

しかし、誰も答えようとはしなかった。

私はメニューを開きバトル開始時と今の人数差を確認した。

そして、確認したその人数差は、

 

「14人です………」

 

残り25層。

恐らくこれから上のボスは全てぶっつけ本番になる。

単純計算で14×25=350

酷い数字。

とてもじゃないけど、これから先犠牲者無しでクリア出来るとは思えない。

確実に生き残ると言い切れるのは団長だけ。

その団長は今回のボスとの壮絶な戦いに関してもHPを黄色にはせず、緑色のまま平然と立っている。

私は思った。

もし、団長が茅場昌彦だとして、彼をここで倒せばこのゲームはどうなる?

これ以上死ぬ人間が居なくなるんじゃないか?

試す価値は………………ある!!

不意討ちでもいい、彼のHPを黄色にする程の攻撃を当てる。

HPの減り具合がシステム的に操作されていたとしたら、正体を見破ることに成功する。

違っていたら黒鉄宮に送られるだけ、それだけの事。

私は黒紫色の剣を構えて走った。

細剣ソードスキル”リニアー”

私が持つ最速の技を使って彼の顔を貫こうとした。

 

「はぁぁぁ!!」

 

彼はSAO最強と呼ばれている。

が、完全な不意討ちで正確かつ研ぎ澄まされた私の一閃は彼の咄嗟な回避行動のスピードを遥かに上回った。

相手がキリト君かユウキだったらかわされていたかもしれない。

私はやった!と思った。

 

ガィィィン!!!

 

金属と金属が正面衝突した時の音が響いた。

私は成功したと分かり彼、茅場昌彦を見上げた。

茅場昌彦と私の剣の間には透明な壁。

茅場昌彦の頭の上には紫色の警告が表示されていた。

 

Immortal Object

 

イモータルオブジェクト、不滅のオブジェクトなど色んな日本語に訳せる。

そして、このゲームの中で今この状況で意味する言葉は、不死。

 

「不死………やっぱり、貴方だったんですね」

 

「ア、アスナさん!?」

 

シウネーがダッシュで私の隣に来た。

最初は私に何か言おうとしていたらしいけど、私が茅場昌彦を指差すと驚いて出ようとしていた言葉を飲み込んだ。

私の行動に護衛をしていた人達が私を捕まえようともしたけど、これも茅場昌彦の頭に映る警告を見て逆に茅場昌彦から遠ざかった。

 

「………どうして分かったんだい?」

 

茅場昌彦は目を開いて驚きはしたものの、自然に尋ねてきた。

やはり、笑っている。

 

「私の家は少し特殊でして、雰囲気で分かるんです。けど、それだけじゃ証拠にはならない。それで今の攻撃です」

 

「………なるほど。アスナ君、君はレクトの………」

 

すると、茅場昌彦は通常とは逆の手でメニューを開いた。

私は何をするのかと警戒して姿勢を低くした。

 

バタリ___

 

隣で私と同様に姿勢を低くして警戒していたシウネーが崩れ落ちた。

私は完全に倒れる前に両腕でシウネーを抱き抱えた。

 

「シウネー!?」

 

「アスナさん………」

 

私はシウネーのHPを見た。

予想通り、麻痺状態になっていた。

はっとして私は辺りを見渡した。

私以外、全プレイヤーが麻痺状態となってその場に倒れている。

 

「何をするの!?」

 

「別になにもしないよ。本来は95層で正体を明かすつもりだったのだが、予定が狂ってしまった。こうなったら私は一足先に100層の城で待つ事にするよ」

 

「………あなたが」

 

「そうだ。私がこのSAOという世界を作り出した。茅場昌彦だ」

 

この時初めて茅場昌彦は自分の正体を言った。

あちこちで、憎しみの声がポツリポツリと聞こえてくる。

私は息を飲んだ。

 

「そこでだアスナ君。君には私の正体を見破った報酬としてデュエルの権利をあげよう」

 

「デュエル?」

 

「私はSAO最後のボスでもある」

 

そこまで言ってもらえば後は分かる。

最後のボスを倒せばここでSAOは終了する。

私が勝てばSAOは終了する。

私はシウネーを優しく床に降ろした。

 

「駄目ですよ、アスナさん………」

 

シウネーが弱々しく手を私に伸ばしてきた。

私はその手を握って笑って見せた。

 

「大丈夫、負けないからね」

 

私は握っていた手を離して、立ち上がった。

茅場昌彦は分かっていたかのような顔で頷いた。

 

「準備は言いかね?友人達へ言い残す事があるんじゃないかな?」

 

「必要ないです。私が勝ちますから」

 

こうして余裕を見せながら強気で言っても勝てる自信はない。

シウネーにあんな事言っちゃったけど、勝てる確率は0に限り無く近い。

けど、確率論に0はない。

全力を出せばどんなに低くても可能性と言うものは0にはならない。

諦めれば0になる。

 

「ユウキ、力を貸してね」

 

私はユウキから貰った剣に言った。

そして、剣を持った右腕を引き絞り、左腕を剣先に合わせる。

茅場昌彦も盾から剣を抜いて構えた。

私は深く息を吸ってから吐いた。

周りから皆の声が聞こえてくる。

けれども、今はそれすらも頭の中から消し去る。

聞こえるのは敵の音だけ、見える者は敵の姿だけ。

経験したことがない集中力。

後は、殺るだけ………

私は地面を蹴った。

 

「せい!!」

 

私の全身全霊の突きは呆気なく盾に弾かれた。

それでも私は突きを繰り返す。

盾を揺らし、出来た隙に剣を入れる。

防御力が高いとはいえ、それは盾で相手の攻撃を防げるから。

相手の攻撃を防ぐ為には盾から僅かに顔を出さないといけない。

その隙を狙う。

 

「たぁぁ!!」

 

「ふっ」

 

しかし、そんな芸当、簡単には成功しない。

私は針の穴にシャーペンの芯を投げ入れるような事をしている。

首を捻れば避けられる。

なら、ソードスキルで反応できない一閃を通せばいいのだけど、相手は製作者。

ソードスキルの起動と軌道は把握している筈で、スキル後の硬直を狙われる。

ゆえに、通常攻撃で勝たなければならない。

 

「ふん!!」

 

「くっ!!」

 

茅場昌彦も攻撃されてばかりじゃない。

勿論、反撃もしてくる。

なんとか避けられるけど、この状況が続くのは厳しい。

通らない攻撃と精度が増してくる相手の攻撃。

こうなったら最速のリニアーで隙を狙い撃つしか突破口がない。

私は行動に出た。

 

「やっ!!」

 

当たればラッキーぐらいの気持ちで隙に剣を差し込む。

茅場昌彦は体を僅かに捻っただけでそれを避ける。

しかし、私はそのまま剣を右に振り払う。

と同時に私は前に出る。

無理矢理大きな隙を作らせた後に超至近距離からのリニアー。

多少盾に防がれても弾き飛ばす勢いで剣を突き出す。

 

「これでッ!!」

 

うまく当たれば即死、それほどに顔面への当たり判定は大きい。

私は突きどころか、殴って顔を吹き飛ばすつもりだった。

 

「惜しかったな」

 

それでも茅場昌彦は避けて見せた。

右耳周辺は弾け、赤いダメージヘフェクトは目にまで届いているが、茅場昌彦は避けた。

理由は明白。

踏み込みが甘かった。

脳裏に刹那の時間、恐怖が浮かんでしまった。

しかし、今頃気付いて嘆いても遅い。

カウンターで茅場昌彦の神聖剣のソードスキルが迫って来るのがスローモーションで見える。

赤みを帯びた茅場昌彦の剣が逆袈裟に進んでいこうとしている。

何も考える事ができず、私は目をぎゅっと瞑った。

しかし、

 

ガンッ!!

 

リアルに再現される筈の肉を裂く音どころか、不快な感覚もやっては来なかった。

代わりに届いたのは聞き覚えのない変な音。

私は恐る恐る目を開けた。

するとそこには、黒きヒーローが茅場昌彦の剣をなんと素手で止めていた。

 

「まさか、アスナが先に闘っていたなんてな」

 

聞き間違える訳がない、見間違える訳がない。

でも、ここの世界に訳がない。

不敵に笑う、もう1人の天才。

 

黒の剣士キリトだった。

 

 




お待たせしましたー!!
本当、新リーダーの名前がユークリッドって………
クラディール死んだよ………
今回も訳が分からない事が多すぎる………

ほうこーく!!
この小説はGGOまでやるつもりなのですが、その後のアリシゼーション編は行いません。
楽しみだった方、すいません!!
ですが!!代わりに何と!!スクワッド・ジャム編をやります!!
まだまだ先ですが、キリト君とレンちゃんの活躍をお楽しみに!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

52話 走れキリト

お金がないよ~。
夏休みに短期バイトでもしようかな~?



 

 

俺は走っていた。

風のようにひゅ~るり~らら~と音さえ立てずにフィールドの草原を疾走する。

モンスターと出くわしても俺に気が付くモンスターは1体も存在しない。

それもその筈、俺が端正込めてかき集めたガラクタアイテムをお金に変えて装備は万全。

流石は最前線第75層主街区コリニアの裏道に開店していた名無しのお店。

黒のポンチョに黒色の隠蔽効果上昇の手袋に靴、隠蔽スキルを多様する俺にとって最高のお店だった。

更に、更に!!エリュシデータやダークリパルサーには遠く及ばないものの、中々の黒い剣が1本売られていた。

もっと重い方が俺好みで良かったがこの層でも充分以上に闘える性能を保持していたので買った。

それでもって、俺の財布はすっからかん。

現在の所持金0、所持品1本の黒い剣”ダークネビュラ”、今着ている服やポンチョ、そして回復アイテムが少し。

もし今日中に茅場さんを見付ける事が出来なければアスナにお金貸してと言わなければならないかもしれない。

モンスターを倒せばいいのだが、それよりも茅場さん捜索に力を入れるので狩る時間がない。

男子が女子にお金を媚びるなんて………

死ぬ気で捜さないとな、男の威厳に関わる。

思わず口が微妙につり上がる。

苦笑いを顔に浮かべながら、俺はまた1歩地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮区には思った程モンスターは出現しなかった。

出現してもスルーしているので関係無いけど奇妙であることには変わりはない。

この異様なモンスター出現率は何を意味するのだろうか。

多分、ボスが強すぎるのだ。

ボスの力は大、雑魚は小。

ゲームバランスを調整しているんだと思う。

 

「ほっと………ってあれか」

 

骸骨鎧の中世兵士の頭上を軽く飛び越えると、ボス部屋の入り口らしき扉が開かれているのを見付けた。

道を間違わずに来れたなんて運が強い!!

すると、ボス部屋発見と同時にキンッやカンッと音が飛び交っているのが聞こえてきた。

まだボスと戦闘中なのだろうか?

しかし、俺は音の質と響きですぐに違うと分かった。

 

「プレイヤー同士が闘っているのか?」

 

ボスの叫び声は聞こえないし、聞こえてくるのは1つの細い金属音。

細く硬い棒が鉄の壁を打ち付け続けているような音。

まぁ、色々考えても残り数メートルを走りきれば音の正体が分かる。

俺はコツを使い、1秒足らずで数メートルの距離を一気に0にした。

一応人形のボスである可能性を考え、迂闊に飛び入りしないよう扉の前でブレーキを踏む。

右足を地面に擦らせた後に上に少し跳んで力を逃がす。

そして俺は、空中で恐ろしい光景を目撃してしまった。

自分の中に流れる時間が恐ろしくゆっくりになった。

 

「なんっ………!!」

 

最初に目にしたのは、地面に倒れ込みながら、ボス部屋の中心に向けて必死に叫んでいた、ほぼ全てのプレイヤー。

次にプレイヤー達の視線の先で行われていた男女2人の闘い。

綺麗な栗色の髪の毛を持った女性と灰色の髪を簡単に纏めただけの赤い鎧姿の男性。

俺は自分の目を疑った。

大切な友達のアスナが捨て身でSAO最強のプレイヤー、ヒースクリフに細剣ソードスキル”リニアー”を超至近距離から顔面に撃ち出しているのだから。

だが、避けられる。

まだアスナが放ったリニアーの剣先すらヒースクリフには当たっていない状況でも、俺が今居る濃密な時間の流れの中ではヒースクリフがほんの少しずつ首を捻っていくのがはっきりと見えている。

顔は………笑っていた。

 

「あ………」

 

只でさえゆっくりな時間の中、俺の頭は更に加速した。

………茅場さんだ。

現実での茅場さんと全く同じ笑い方。

憧れを抱いていた俺には考えなくても直感で分かった。

まるで、ヒースクリフは茅場さんだと最初から知っていたかのような気分だった。

そして、アスナはヒースクリフを茅場さんだと見破った。

茅場さんを倒せばSAOが終わると思い、決闘に挑んだ。

何で、アスナが茅場さんの正体に気付いたのか。

ボス戦を経てなんらかの根拠を掴み取ったのだろう。

しかし、このままでは成果は得られずアスナは負けてしまう。

リニアーを無傷とはいかなくても避けた茅場さんがカウンターでアスナを斬る。

単発で短いながらも生じてしまうスキル硬直で動けないアスナへの急所ピンポイント攻撃。

スピード重視のアスナの装備は防御力は低い。

そのうえ、茅場さんのスキルはゲームバランスの崩壊すれすれのユニークスキル。

アスナは確実に死ぬ。

 

(殺らせるものか………!!!)

 

遂に、俺の時間の流れが通常へ戻っていく。

足が地面に着くまでに、右足の親指に神経を集中させる。

剣を抜く時間さえもどかしく、両腕を曲げ指は立たせる。

虎のように、獅子のように、猛獣のように、上半身を低く保つ。

地面に足が………触れた。

俺は突風を巻き起こしながら突進した。

 

「ふっ!!」

 

短い呼吸とは裏腹にとんでもない速さ。

周りのプレイヤーやボス部屋内の、というか洞窟内の模様が霞んでいる。

が、それでもタイミングは危うい。

俺の想像は当たってしまい、茅場さんの剣が赤い光を放ってアスナに向かう。

俺は茅場さんではなく、その剣に狙いを定めた。

両腕から真っ白なオーラが生み出される。

決して、気や波動のようなものではない。

見栄えを良くする為にあるただのエフェクト。

だが、この技の成功時のスキル効果は凄い。

足でのブレーキをすっ飛ばし、技の成功だけを考える。

 

ガンッ!!

 

茅場さんとアスナの間に入った瞬間、茅場さんの剣を白いオーラが宿った両手で挟み込む。

体術スキル”砕牙”

牙を砕く、相手の武器(キバ)を砕く技。

完全に武器を砕く可能性は10%程で低いが、成功すると相手のソードスキルの種類、強さ、関係無く強制的にキャンセルさせる事が出来る。

俺は茅場さんの剣を止める事ができた。

 

「まさか、アスナが先に闘っていたなんてな」

 

俺は不敵に笑いながら後ろに居るアスナを見た。

当然、驚いた様子でアスナは俺を見ていた。

 




今回は短いし話も進みませんでしたね。
しかし、次回!!遂に、天才VS天才!!!
雑な文ですが、お楽しみに!!

それでは、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

53話 最終決戦

夏アニメも楽しみですね!!
自分は特に”のんのんびより”が!!


 

細長く白い十字架の剣を、これまた白いオーラで受け止める。

茅場さんのソードスキルは俺の”砕牙”で強引にキャンセルさせる事ができた。

あわよくば、剣を砕きたかったのだがそこは10%の可能性。

残念ながら砕くには至らなかった。

俺の腕と茅場さんの剣がお互いの中間でプルプルと震えている。

 

「やはり、来たか」

 

「場所の指定くらいしておいて下さいよ」

 

俺と茅場さんはふと笑いながら短い会話を交わした。

そして、茅場さんは剣に入れる力を弱め、後ろに下がった。

剣が引かれた事により砕牙のスキルも終了し両手から白いオーラがゆっくりと消えていく。

すると、後ろに立っているアスナが俺の肩に手を置いた。

 

「キリト君………なんで?」

 

「えっと、まぁ、色々ありまして………」

 

偉大なる神のメッセンジャー、ナイアーラトテップ様の名言”バレなきゃ犯罪じゃないんですよ”を信条に過ごしてきたここ数日。

全てを話すと真面目なアスナ様は今はどうであれ、後で確実にお怒りになってしまわれるであろう。

アスナが向ける視線が段々と厳しくなっていく。

 

「と、兎に角!俺は茅場さんの元に辿り着いたって事!!」

 

俺はそっぽを向いてアスナの視線を避ける。

そっぽを向いた先はちょうど茅場さんがいる位置だった。

茅場さんは剣を盾に納めていた。

 

「私はもう少し遅いと思っていたのだがね」

 

「俺もですよ」

 

アオイさんの謎権力がなければ後数日は掛かっていたかもしれない。

ドローンをビュンビュン飛ばすアオイさんには感謝、感激、お礼、祭りだ。

しかし、そんな方法で見付かったなんて考えもしていない茅場さんはふむふむと顎に手を当てている。

 

「まぁ良いだろう。で、君は何をしにここに来たのかね?」

 

俺は心の中で”何を今さら”と思った。

茅場さんも本当は分かっていながら、今一度質問してきたのだ。

俺は背中ではなく、左腰にぶら下げていた黒い剣”闇の星雲(ダークネビュラ)”を引き抜いた。

エリュシデータのように真っ黒じゃないダークネビュラは少し紫がかった刃を持っている。

そして、羽のように広がっている鍔の部分。

周りの光りに反射しているのか、刃は細かい無数の光がきらきらと光っている。

()()()()

この剣を手に取った時、突然、思い付いた名前。

何故、そんな名前を付けたのか、今考えても浮かんでこない。

多分、インスピレーションというやつなのだろう。

俺は剣を茅場さんに向けた。

剣先がキラリと瞬くように煌めいた。

 

「勿論、あなたを倒しに来たんですよ」

 

俺は剣を力強く握り締めながら茅場さんに言った。

俺の声には複数の感情が存在している。

憧れの人と再会した嬉しさ、その憧れの人を殺そうとしている恐怖、それでもこの人と闘えるという楽しみさ、そう思ってしまう自分への嫌悪感。

 

「この世界を終わらせる………!!俺にはその責任があるから………!!」

 

歯を食い縛りながら吐き出した言葉は自分自身に向けたもの。

造ってしまったのなら壊せばいい、始めてしまったのなら終わらせればいい。

2年経ってしまったが、やっと俺はこの世界を壊し終わらせるチャンスを得た。

俺のそんな呟きは茅場さんとアスナにしか聞こえてない。

 

「キリト君………」

 

アスナが俺の事を呼んだ。

呼んだ意味は無いのだろう、ただ呼んだだけの声音だった。

だから、振り向かなかった。

しかし、俺が思っていた事とは裏腹にアスナには意味があったようで背中をちょんちょんとつつかれた。

 

「これも使って」

 

差し出されたのは木綿季の愛剣でありアスナが受け継いだ” 刀剣(マクアフィテル)”だった。

鞘に納められた状態でアスナの両手に乗っている。

 

「クラインさんの刀は風林火山のメンバーが、ユウキの剣は私が貰ったんだけど、キリト君の剣は要求値が高すぎて完璧に扱えるプレイヤーが居なかったの。だから、ギルドに保管されていて今この場にはないけど、ユウキの剣ならある」

 

俺はそっとマクアフィテルに手を当てた。

しっかりとした剣で力が溢れてくるような剣だった。

俺は頷いてマクアフィテルを持ち上げ右腰に携えた。

と同時に左手でマクアフィテルを抜いて、俺は懐かしの二刀流スタイルへと変化した。

まさか、最終決戦のこのようなタイミングで攻略組の皆さんにユニークスキルの二刀流をお見せする事になろうとは。

皆、なんで2本も剣を持っているんだ?って思っている筈だ。

俺のスキルを知っているのはアスナと恐らく茅場さんだけ。

 

「キ、キリト………」

 

倒れていた月夜の黒猫団の団長ケイタが俺に向けて手を伸ばしていた。

俺は剣を持った右手を少し上に上げて答える。

 

「待ってろ、今終わらせるからな」

 

俺は茅場さんに向き直り剣を構えた。

体を低く横にし、マクアフィテルを茅場さんの首元に定め、ダークネビュラの先を地面ギリギリまで下げる。

茅場さんは回復結晶でHPを全回復させたところだった。

アスナとの闘いの後で別に反則でも何でもないにしても何か卑怯じゃないか?と思ってしまう。

 

「ズルくないですか?」

 

「君と闘うんだ。そうなると、私も全力じゃないといけないからね」

 

茅場さんは盾から剣を抜いて構えた。

大きな盾で身を隠しながらもしっかりと盾の横から俺を見ている。

剣は盾の陰に隠れていて俺からは見えない。

 

「アスナ、下がって」

 

俺の声にアスナが応え後ろに跳んだ音がした。

これで俺と茅場さんの2人だけでの真剣勝負の準備が整った。

俺は更に姿勢を低くした。

 

「んじゃ、運命の一戦って事で………いきます!!」

 

「では、受けてたとうではないか!」

 

俺と茅場さんは同時に跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!!」

 

俺は左右の剣を全力で打ち付けていく。

茅場さんはSAOのゲームデザイナー。

つまり、ソードスキルを考案しフォームをデザインした人物。

二刀流のソードスキルが持つ最大の特徴である手数が無意味になるということだ。

次に何がくるか分かる技なんてカウンターして下さいとお願いしているようなもの。

当然、通常攻撃しか攻撃方法がない。

しかし、俺にはアスナのように一瞬の小さな隙を狙って剣を吸い込ませる精密な技術を持っていいない。

ならどうする?

攻撃し続けるしかない。

 

「どうした?攻撃が荒いぞ?」

 

「それはどうですかねッ!?」

 

盾の内側で余裕の笑みを見せる茅場さんにこちらも余裕を見せようとした。

その時、茅場さんが腕を伸ばしカウンターを決めに来た。

俺は背中を反らしながら避けた。

そして避けながらも下から掬い上げるようにしてダークネビュラを振った。

カンッと哀しい音が響く。

左手で地面を押して一旦茅場さんから離れた。

それでまた、間髪入れずに突進して攻撃し続ける。

 

「何を狙っている………?」

 

「言ったら意味ないですよ!」

 

茅場さんはHPを黄色にした事がないと有名だった。

それはシステムの力が大きく作用しているからだと推測する。

強靭な盾を自動的に敵の攻撃に合わせるなどのチートを使用していたに違いない。

それゆえ茅場さんは消耗しない。

HPは中々減らない、SAOの世界では最強となる。

だが、盾はどうだろうか?

ここに着いてアスナを守った時、盾の中心部が僅かに赤くなっていた。

それはデザインなどではなく明らかに傷だった。

ここはクオゥーターポイント。

強大な力を持ったボスの攻撃を何度も受けたうえに、閃光のアスナとの闘いで消耗したのだ。

上位のプレイヤーが盾を使用すると完璧に防ごうと一番安定感のある中心でガードする。

 

「らぁ!!」

 

「ふん!」

 

今だってそうだ。

盾の中心から右に逸れた場所を狙ったにも関わらず茅場さんは律儀に中心に当てさせてくれた。

これはもう癖だ。

茅場さんのレベルまでになると、無意識に完璧に防いでしまう。

しかし、剣と同じように盾にも耐久値がある。

茅場さんの盾も例外ではない。

盾の中心を集中攻撃で破壊する。

ダメージが蓄積されたほぼ無敵の盾と新品の剣に速さ重視で防御を避ける為ダメージが少ない剣。

いわばこれは剣と盾の我慢対決なのだ。

 

「はっ!!」

 

「クソ!!」

 

茅場さんのカウンターが横っ腹を深く掠めた。

俺のHPが2割程削れられた。

無駄に耐久値を減らさないように茅場さんの攻撃は全て首捻りなどで避けなければならない。

だが流石に全てをかわすなど不可能だ。

俺のHPがじわじわと削り取られていくのを見ているだけになってしまう。

なんとしてでもそれまでに盾を破壊する。

間に合わなければ俺は死ぬ。

 

ピシッ………

 

が、その瞬間は思っていたよりも遥かに早くやって来た。

茅場さんの盾に赤く光る剣の傷痕。

その数々の傷が交差する一点から斜めに亀裂が入り込んだ。

俺は溜まらず歯を出して笑顔を見せた。

 

「何!?」

 

「しゃぁ!!」

 

俺はダークネビュラを空中で回転させ、逆手に持ち変えた。

左のマクアフィテルを防御に集中させ、右手で行われる動作の邪魔をさせない。

俺は亀裂と剣で出来た傷痕が重なる場所を目掛けて至近距離からほぼ突きの状態で剣を投げた。

茅場さんは気付くべきだった、このバグに………!!

投擲スキル”スティックシュート”

威力は皆無しかし、この技の特性は()()()事!!

 

ガギィィンッ

 

金属と金属が擦れる耳障りな音が響く。

しかし、俺は気にせず刺さったダークネビュラの柄を掴んだ。

スキル硬直は体の自由を一時的に奪ってしまう。

だが、それは手首などの細かい場所までは奪わない。

そして、元から発生している勢いも奪わない。

よって前に前進していた俺は盾に刺さったダークネビュラの柄を掴む事が可能。

更に、スティックシュートは低位のソードスキル。

柄を掴み腕に力を入れる短い時間でスキル硬直の効果は消え失せる。

 

「だぁぁぁあ!!!」

 

俺は盾に強く頭突きしながらも腕を無理矢理曲げた。

その無茶苦茶な動作をシステムが認証する。

片手剣最上位単発ソードスキル”ウォーパル・ストライク”

一発でモンスターのHPを全損させる超強力な一撃。

 

「ぐあ!!」

 

盾の中心部は最も安定した場所。

何故なら自分の腕が支えているからだ。

ダークネビュラは盾の中心を貫いている。

つまり、茅場さんの腕ごと貫いているのだ。

俺は全身全霊で腕を伸ばし盾を貫いた。

 

「あぁぁぁ!!!!」

 

バリン!!

 

遂に、最強の盾が破壊された。

ダークネビュラが刺さった場所からまた複数の亀裂が走る。

亀裂は止まらず、盾の端まで届いた。

すると、盾は甲高い悲鳴をあげながら真ん中から弾け飛んだ。

茅場さんのHPも腕だけとはいえウォーパル・ストライクに盾の破片をくらい半分の黄色。

今までだれも見たことのなかった、たどり着かなかった領域に俺は踏み込んだ。

 

「ガッ………!!」

 

同時に俺のHPも黄色へと変貌してしまった。

茅場さんが俺の腹に剣を差し込んでいた。

マクアフィテルでどうにか胸への致命傷は避けたが腹に剣が埋まってしまった。

俺は体を回転させて地面を転がった。

スキル硬直ですぐには立ち上がれなかったが、それは茅場さんも同様でその場から動いていない。

俺はダークネビュラを杖にして立ち上がろうとした。

 

ピシッ

 

「おわっと!?」

 

茅場さんの盾のみならずダークネビュラにも亀裂が入った。

そして、俺の体重すら支えきれず綺麗に刀身部分だけが光輝く塵と化した。

残るのは柄だけだ。

 

「私の盾の特性だよ。破壊されたら破壊した武器を破壊するというね」

 

茅場さんが親切に教えてくれた。

アイと同じチート武器だったようだ。

買って1日も経たずして俺が一目惚れをしたダークネビュラもとい夜空の剣は廃剣になってしまった。

俺は柄を握り、ありがとうと念じた。

すると、柄は安心したように光出して刀身の後を追っていった。

これでお互い片手剣だけとなりHPも半分。

一撃で決まる可能性のあるところまできた。

得意なスタイルを失った今、生半可な攻防じゃ決着はつかない。

 

「一撃で………一撃で………一撃で………」

 

俺は機械のように呟き始めた。

歩いて茅場さんに近づき、ある程度の距離まで近づいたら左手に持っていた木綿季のマクアフィテルを右手に持った。

持ったら右腕を弓矢のように引き絞り左手を茅場さんに向けた。

姿勢を限界まで低くした状態で止める。

 

「これで最後………」

 

俺は茅場さんを睨み付けた。

茅場さんもそれだけで理解して俺と同じようなポーズをとる。

誰も言葉を発しない。

いや、発っせない。

茅場さんの目が細くなっていく。

俺の視線も細くもなり、また、冷たくもなった。

狙うは心臓。

どんな防御方法も無意味な神速で強大な威力の一撃を放つ。

 

「………」

 

そうだ、俺は、この男を、殺す。

憧れるな、前にいるのは、俺を騙し、木綿季やアイなど俺の大切な人を危険にさらした敵。

どんどん、俺の視線が冷たくなる。

俺は息を深く吸ってから吐いた。

そして、丁度何の負担もない所で息を止めた。

 

バンッ!!

 

俺と()()は決闘の始まりと同じように地面を蹴った。

茅場が目前まで迫ってくる。

その心臓を狙い、片手剣最上位単発ソードスキル ”ウォーパル・ストライク”。

茅場も同じ技だった。

クリムゾンレッドのオーラを纏った紫と白の剣が火花を散らせて交差する。

 

ドンッ………!

 

俺の胸元に鈍い衝撃が迸った。

 




凄くご都合主義な戦い。
でも、自分は満足です!!カッコイイし!!
そして、SAO編も残り僅かです。
最後までお楽しみ下さい!!

では、評価と感想お願いします!!

日常会話より戦闘描写の方が書くスピードが速いと気づいた作者より


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

54話 天空で

俺ガイル11刊を読みました!!
八幡×雪乃派の自分は、いっけ~!ゆきのん!!
と思って俺ガイルを読んでいます。
でも、奉仕部の関係が崩れるのも嫌だなー
と、ジレンマを抱える俺ガイル………


「んっ………」

 

強い光に照らされたと瞼を閉じていても分かった。

瞼の内側が赤く染まり少しばかり眩しいと感じる。

俺は目に襲い掛かってくる可視光線を右手で防いだ。

右手の影によって光が大分遮られ、目を開けれるぐらいにはなったので少しずつ瞼を上昇させる。

 

「ここは………」

 

薄く目を開けた俺は自分が倒れていたのだと今さらだが気づき上半身だけを起こした。

目を覚ましたばかりで状況が全然把握出来ない。

周りを見渡しても真っ赤な夕焼け空で美しい光景が広がっているだけ。

変な形の雲がいい感じに真横にある太陽の光を浴びてかっこよくなってる。

下を見ても………

 

「………浮いてる!?」

 

自分が倒れていた場所が空中だと知り、思わず飛び上がる。

しかし、飛び上がってもほんの数十センチ程度なので雲が敷き詰められている雲海の高度じゃ何の意味もない。

そもそも、ジャンプや倒れたり座ったり出来る時点で透明な床の上に居るのだ。

俺は正座で透明な床に着地した時にその事を閃いた。

頭をぶん!ぶん!ぶぶぶん!!と横に激しく振った。

 

「なんでここにいる?」

 

俺は頭を振って冷静さを取り戻し、最初の疑問に入った。

記憶を辿ればすぐに分かるのだが、俺は茅場………さんに”ウォーパル・ストライク”を放った。

茅場さんも同じで俺にウォーパル・ストライクを向けてきた。

………で、俺の胸にドンッていう衝撃が広がった。

俺の剣が茅場さんに届いたのかは不明だ。

えっと………つまり………?

 

「俺、死んだ………?」

 

だから俺は浮いてるのか?ここはあの世に逝く為の準備をする場所なのか?

おい、おい、おい!!!

ふざけんじゃねぇよ!!何死んでるんだよ!!木綿季ともう逢えないのかよ!!アイとユイに逢えないのかよ!!大切な友達ともう逢えないのかよ!!

 

「クソが!!!」

 

俺は拳に持てる力の全てを捧げ無色透明に叩き付けた。

責任を果たせず無駄死にし、何より約束を破ってしまった。

本当に情けない自分に怒り拳が震える。

所詮、俺はこの程度の奴だったて事か………

生きる価値すら無いのかよ………

怒りを含め色んな物が途端に猛烈な勢いで砂のように吹き飛んだ。

後には何も残らず全て綺麗さっぱり何処かへ飛んでいった。

何もかもを諦めた俺はあそこに向かうのかな~?と上を見上げて黄昏た。

本当、最悪な人生だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を勘違いしてるのか、訊いてもいいかい?」

 

「………」

 

上を見上げ過ぎて首に変な違和感を覚えようとした時、顔がにょきっと俺の視界に入ってきた。

光のせいか茶色に見える髪を乱暴に短くした男性は俺の後ろに立っているようで顔が反対になっている。

俺は完全な放心状態で何も感じず何も考えず何も思わないでいたので、またまた状況把握に手間を取った。

そして、意識が戻り現実に追い付くと死んだ魚のようでDHA豊富そうだった俺の目は輝きを取り戻した。

 

「茅場………さん?」

 

「そうだとも。生憎、私はドッペルゲンガーに遭遇したことはないんでね。ドッキリも無理だよ」

 

危うく呼び捨てにしてしまうところを何とか乗り越えて平然を保つ。

慌ててさんを着けたからもしかしたら早口で声も裏返っていたかもしれない。

けど、茅場さんは気付く素振りを見せず俺に手を差し伸べた。

俺はありがたくその手を掴み立ち上がった。

白衣姿の茅場さんを見たのは久し振りだった。

 

「安心したまえ。君は死んでないよ、和人君。ここはまだSAOの中だ」

 

「あ、いえ、別に………」

 

茅場さんがふと可笑しそうに笑いながら教えてくれたので、急激にさっきまでの俺の行動や思考が凄く恥ずかしくなった。

自分は死んだと勘違いをして、乱暴にこの透明な床を殴った。

その時気づけばよかった………

感触と感覚が仮想世界の物であったと………

俺は頭を掻いて恥ずかしさを紛らわす。

そんな俺を見て茅場さんは着いて来たまえと言って歩き出した。

俺も後を追って歩き出す。

茅場さんの背中は大きく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒースクリフ時代の顔や服装が削ぎ落とされ現実と同じ姿といつも着ていた白衣になった茅場さんに連れられて歩いていると突然茅場さんが足を止めた。

俺は何となく茅場さんの隣に立った。

そして、俺はこの美しい夕焼けや雲海よりも数倍視線を釘付けにする光景に口が半開きになってしまった。

 

「アインクラッドが………」

 

全100層から成る巨大な鉄と岩で造り出された浮遊城。

どんな攻撃にも耐えれそうな城の領域を遥かに超越したそれは、俺と茅場さんが立っている斜め下で音もなく崩れ去っている真っ最中だった。

あれだけ堅かった地面や壁も呆気なく破壊される。

地面が岩に、岩が石に、石が砂へと変化していく。

俺は大迫力な光景に息を飲んだ。

 

「あの時、」

 

「え?」

 

茅場さんが口をおもむろに開いた。

 

「私の剣は和人君の剣と交差した事によって急所を外してしまった。しかし、和人君の剣は逸れずにピンポイントで私の心臓を貫いた。驚いたよ。和人君の剣には強い意志が宿っていた。和人君を助ける為かそれとも私を殺す為にか………」

 

茅場さんは自らの胸に手を当てて俺の剣が差し込まれた時を思い出しているようだった。

 

「和人君、SAOクリアおめでとう」

 

俺は茅場さんの顔を見た。

途中でリタイアしたり4分の3の所で姿を見破られたりと波乱に満ちた展開だった筈なのに、茅場さんは清々しい笑顔を見せていた。

SAOクリアつまり、約6000人のプレイヤーを助け出した事になる。

目の前で起きている現象もデータサーバーの削除を演出したものなのだろう。

それと………

 

「俺はあなたを殺したんですか?」

 

「………気にする事はない。和人君は被害者なのだから」

 

殺したと断言しないのは茅場さんなりの優しさだろう。

それでも、気にするなと言われれば気になってしまうのが人間。

茅場さんの言葉が逆に殺したと実感させる。

 

「和人君、君はこの仮想世界がこれからどう変化すると思う?」

 

どう変化するか、1度現実に戻った俺は茅場さんが言う変化を目の当たりにしていた。

新聞ではSAO関連専用のコーナーで何人が死んだだとかを読者に報告。

テレビのニュースでは仮想世界のメリットとデメリットを話し合い、結局仮想世界は危ないと結論付けられている。

雑誌も偏見たっぷりでVRMMORPGをせっせと罵倒しているしまつ。

アミュスフィアのような絶対安全を掲げて売っている商品もあるが、仮想世界が身近な物では無くなっているのが印象に残っている。

 

「まぁ、忘れ去られたりはしないでしょうけど………」

 

別に言いにくくて口ごもった訳ではなく、単に続く言葉が見つからないだけである。

まぁ、同じ事か。

結局、どうなるか何て俺なんかには分からないのだ。

世間が仮想世界に好印象を受ければ良いのだが、人という存在は好印象よりも悪印象の方を強く受け止める。

どんなに良い事をしていても一度の失敗で信用がなくなり、失敗し続けていたけど一回成功した、でもいつも失敗してるからなと信用がなくなる。

無くなった信用は成功を見せつけないと駄目だ。

だから、今の仮想世界の現状は厳しい。

失敗が大きすぎるから。

 

「渡したい()()がある」

 

そう言って茅場さんは俺の後ろを見た。

俺は視線に釣れられて振り返った。

この場所には俺と茅場さん以外誰も居ないと思っていた。

音も俺と茅場さんの会話だけ。

しかし、彼女はそこにいた。

茶色い巻き毛を揺らしながら緑色の瞳を光らせる。

鼻先に小さな眼鏡を乗っけているがちゃんと効果があるのか疑問だ。

それと、何故か木製の杖。

黒のロングコートを羽織っているので、一瞬賢者みたいな子だなと思った。

 

「あ、あの………彼女は?」

 

「すぐに分かるよ」

 

茅場さんは笑いながら言った。

すると、いつの間にか側まで歩いて着ていた少女と正面から向かい合う事になっていた。

俺は少女を見下ろし、少女は俺を見上げる。

少女が持つ緑色の瞳に俺が映っていた。

 

「………」

 

「………」

 

沈黙を破ったのは彼女の方からだった。

見た目では想像も付かない声だった。

少女の声だが老婆のようでもある不思議な声、それでもって何処か惹き付けられる。

 

「初めましてじゃな。パパ殿」

 

「………カーディナル!?」

 

小さくて可愛い賢者さんは俺の2番目の娘でした。




カーディナルさん登場!!
次回も天空でのお話です!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

55話 最後

俺ガイルの最終回がまさかの終わり方でビックリした。
わたり~ん!!12巻を早急に!!!
続きが気になるのん!!ワクワクなのん!!


低くしわがれた声、でもってちゃんと少女っぽさを残す小さな賢者さん。

その正体は何と、アイの妹にしてユイの姉であるSAOを管理する真のAIカーディナルであった。

自動生成をしたらしく自らの体を自ら作るという神のような事を行い。

何を参考にしたのか口調がおばあちゃんのようになっている。

ついでに杖まで装備してるし………

 

「何故その口調に?」

 

俺はどう反応すれば良いか分からないので、取り敢えず話が続きそうな話題を出した。

カーディナルはふむと頷き口を開いた。

 

「SAOの情報管理は大変でしてな、意識がある時もあったのじゃがほとんど眠っていたのじゃ」

 

カーディナルの役目はSAO全ての管理。

莫大な情報のやり取りがあったのだ。

その作業を効率良く成し遂げ続けようとする為に昏睡状態に陥り、作業に没頭していたらしい。

人間でも同じような事をしている。

寝ることは体を休め、脳を働かせているようなものだからな。

それで、情報の供給が一時的に少なくなった時、自我が目覚め好きなことをする。

あぁ………なんか。

 

「ごめん!!」

 

俺はカーディナルに頭を下げて謝罪した。

つまり、俺はカーディナルをシステムに縛り付けてしまったのだ。

意識があるのはほんの少しの時間だけ、いつも独りで何をしていたのだろうか。

独りは悲しいと知っている筈なのに俺はカーディナルを独りにさせてしまった。

しかし、カーディナルは杖を捨て俺の首に腕を回した。

 

「別に気にしておらぬよ。SAOはネットに繋がっていて色んな事を知れた。わしはそれだけで十分じゃ。まぁ、こんな老婆のような口調になってしまったがの」

 

はははと軽く笑いながらカーディナルは続けた。

俺はたまらず抱き締め返した。

すると、隣で俺とカーディナルを見ていた茅場さんが気になる発言をした。

 

「カーディナル君、まだ言いたい事があるんじゃないか?」

 

「まだ………?」

 

俺はカーディナルを放し、首を曲げた。

そして、カーディナルに何?と問い掛けた。

カーディナルは溜め息を吐いてバレていたか………とかなんとか急にブツブツと言い出した。

で、独り言が終わると鼻に掛かっている小さな丸眼鏡を掛け直した。

 

「その………なんじゃ。アルゴノーツの設定をわしがいじくりコンソールを埋め込んだのじゃ。………パパ殿達を助けようと」

 

「………コンソールを?」

 

アルゴノーツのコンソールといえば祭壇のような黒い石を連想させる。

そして、そのコンソールへと行き着く為に遭遇したちょっとしたバグの発生。

腕が再生しなかったり、ユイが現れたり、幾つかのストーリーのぶっ飛ばし。

何か関連性がありそうだった。

そこで俺は何の根拠もない予想を打ち立ててみた。

 

「………カーディナルは俺達を助けようとコンソールをクエストに埋め込んだ。しかし、意識がある時間は少ないし無理矢理コンソールというシステムに繋がる物を置いたことによってクエスト内にバグが発生。次に起きたらバグ捨て場になっていた………と?」

 

「本来ならそんなことしてはならないのじゃが、パパ殿達には助かって欲しいと思って………」

 

カーディナルは不機嫌そうにそっぽを向いた。

目も口も不機嫌そうで頬も全く朱に染まっていない。

けれど、髪の隙間から見える耳だけは見事な赤になっている。

何か、アイとは別ルートのツンデレ感がカーディナルはあった。

自分の使命を後回しにして俺達を助けてくれた。

何て健気な娘なんだ。

嬉しすぎて死にそうです………

 

「あ、だから茅場さんは俺が来るのをわかったんですか?」

 

「いや、何らかの方法でSAOから脱出する事は予想していたよ。だが、まさかカーディナル君が手を貸すとは思っていなかった」

 

茅場さんは目をつぶって頭を横に振った。

まじで、この人は俺が脱出するのを予想していたらしい。

カーディナルの力無しでどう脱出すると思ったんだろう?

茅場さんは俺の事を結構な過大評価しているんじゃなんかと思う。

 

「………それじゃぁ、()はカーディナルってことは分かりました。で、()とはなんですか?」

 

「あぁ、これだよ」

 

でもまぁ、茅場さんに過大評価されるなんて凄い事だし何か嬉しい。

お父さんに褒められているみたいだ。

俺の父さんは1人は死んで、1人はあまり褒めずに見守ってくれるスタイルだったから何だろう、新鮮なんだよな。

ただ、これは俺が勝手にいい方向に考えて思想しているだけなので、茅場さんにそんな意図があるわけではない。

俺は話を進めようとした。

すると、茅場さんは左手で空を切り、メニューを開かせた。

数回のタッチ音とスクロール音が聞こえたと思うと茅場さんが何かを具現化させた。

それを手に持ち、俺達3人の真ん中に持って来た。

ふよふよと若干頼り無く浮かぶそれは、夕日に照らされ東雲色になっているこの世界で黄金色に光輝き異様な存在感を露にしていた。

 

「卵?………種?………お米?」

 

「惜しいの」

 

「あうっ………!?」

 

俺が黄金の何かを見て幾つか思い浮かんだので少し口に出してみると、カーディナルが杖を踏んで軽いアッパーを決めてきた。

動画であるペットボトルの蓋部分を踏んで上に飛ばすのと似たような方法だった。

それでも、惜しいと言う事には答えにかすってはいるのだろう。

俺は国語の文章題で三角を貰い何が間違えてるの?と先生に訴えるような目でカーディナルと茅場さんの双方を見た。

 

「これは世界の種子、ザ・シード」

 

「種子………」

 

俺は茅場さんに教えられ黄金色に光る世界の種を覗いた。

言われて見ると何かの種子にしか見えなくなってくる。

にしても、大きな種だこと。

オオミヤシの種子を2つに割ったらこれぐらいの大きさになるんじゃないだろうか。

それに、世界の種子とも言われているのだからそれ相応の芽が芽吹くのだろう。

 

「これはSAOのサーバーで稼働していたカーディナルシステムを全体的に整理し小規模なサーバーでも稼働出来るようにしたものだ。更に、ゲームコンポーネントの開発支援環境までもをパッケージングしている」

 

「おぉ………」

 

茅場さんは俺が死力を尽くして造り上げたカーディナルシステムを解析し整理してダウンサイジングに成功していた。

俺は悔しいとかこの野郎など微塵も考えず、ただ単純に凄いと思った。

一度は憧れを止めたものの、やはり憧れずにはいられない。

俺にとってそれが茅場さんという存在だった。

 

「これを拡散すれば仮想世界のゲームを作りたいと思えば作れると言うことですか」

 

「じゃが、私が居ない。当然サーバーの定期的なメンテナンスは必要になるじゃろう」

 

それはそうだろう。

いくらカーディナルだからといって世界の種子をネットを通じて拡散すればほぼ無限にゲームが湧いて出てくる。

最初はまちまちでも時間が経つにつれてメンテナンスが追い付かなくなっていく。

 

「これを世界に広めろと?」

 

「強制はしない。だが、もし和人君が仮想世界に憎しみ以外の感情があるのだとしたら………」

 

茅場さんは肝心な所を言わずに口を閉じた。

皆まで言わなくても分かるだろうって事か。

いちいち回りくどい事をするのが好きな人だ。

だから、今回は正直に答えずちょっと捻くれてみようと思った。

 

「………茅場さんの頼みなら仕方無いですね」

 

勿論、それも本心だが一番の理由は他にある。

仮想世界に消えてほしくない。

俺が強くなれた切っ掛けを作り大切な友達と出会えた世界が消えていくのは心残りがありすぎる。

茅場さんは俺の反応が少し以外だったようで固まっていたのだが、すぐに話を戻した。

 

「なら、頼もうか。種子は自動的に和人君のパソコンに送られるようにしてある」

 

茅場さんは世界の種子を俺に渡した。

種子は俺の両手の上でこれまた弱々しくふよふよと浮かぶ。

そして、パンッ!と花火みたいに弾け飛んだ。

消えたというよりも移動したという感覚が強い。

現実に戻ったら忙しくなりそうだ。

けれど、入院中は家に帰れないので退院するまで放置になりそう。

持ち運び出来る、ノートパソコンで作業をしてもいいんだけど、もう夏凪楽さんに迷惑を掛けられない。

なにより、容量とかの問題でノートパソコンがボンッ!されたら堪らない。

安全第一それがモットー。

 

 

「それじゃ、和人君。私はそろそろ逝くよ」

 

「え?どっ………………」

 

突然のお別れ発言に俺は茅場さんに何処へ?と尋ねそうになってしまった。

俺は息を飲んだ。

忘れていた。

今、俺達は普通に笑って話をしていた。

しかし、それが最後の時だということを頭の中で拒絶していた。

もっと茅場さんと話をしたい、もっと語り合いたい、また一緒に何か他のゲームを幾つも造りたい。

数えればどんどん途絶える事なく噴水のように湧いて出てくる。

そして、なにより………

 

「もっと………背中を追わせて欲しかった………」

 

俺は言葉を漏らしてしまった。

泣き顔を見られたくなかったので雲しかない下を向いて瞼をぎゅっと閉じた。

瞼を閉じても涙は隙間から流れ落ちていく。

自分が殺したのに図々しいと本気で思う。

そして、楽しい時間から一転、急に悲しい時間に時を変えた茅場さんは酷い人だ。

決闘の時は無我夢中で自我なんて無いも同然だった。

でも、今は自我がある、意識が鮮明になっているから心の整理が必要になっている。

 

「………パパ殿」

 

服の裾をちょいちょいと引っ張られた。

顔は見れないけど、声で俺の事を心配してくれているのだと思う。

そんな優しいカーディナルの前でも俺の心は整理がつかない。

すると、頭に大きな手が置かれた。

 

「和人君には悪い事をした。私のくだらない夢の為に愛する人を危険にさらされて、君自身に大きな傷を負わせてしまった。………だが言わせてくれ」

 

俺は顔を上げた。

 

   『”ありがとう”』

 

一瞬だった。

茅場さんがそう言った瞬間、茅場さんの体が青い光の粒となって風に煽られるように消えていった。

まるで、その言葉がトリガーになっていたようだった。

後には何も残らない。

いつの間にか浮遊城アインクラッドも消滅して天空に俺とカーディナルだけが取り残されていた。

俺はその場に糸が切れた人形のように崩れた。

 

「カーディナル………」

 

俺は娘の名前を呼んだ。

 

「なんじゃ………」

 

カーディナルの返事は素っ気なかった。

でも、それがカーディナルなんだなと思った。

俺は仰向けに寝っ転がった。

東雲色だった空に若干の青みと黒みが追加されていた。

カーディナルは正座をして俺の顔の横に座った。

 

「帰ろうぜ。現実に」

 

「………うん」

 

全くしわがれていない可愛らしい少女の恥ずかしいそうな声を耳に残し、俺はSAOという世界から消えて無くなった。

消える瞬間、少女の声と同時に物凄い白い光が俺とカーディナルを包んだのを俺は覚えている。




はっは~!!
毎度ながら………なんだこれ!?
後から読み返すと本当になんだこれ!?ってなります………
でも、いいや!!
たとえ、設定滅茶苦茶でキャラ崩壊しててなんだこれ!?でも面白いと思えば良いのです!!

次回はエピローグ?ですね!

皆さん!!評価と感想お願いします!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

56話 家族

本屋に行くとあらすじ読んだだけで欲しくなる本が沢山あってこまる。
道尾秀介とか東野圭吾、宮部みゆきとか。
他にもいっぱい。
いや~ん、困っちゃう~

自分がこれまで読んだ中で傑作だと思ったのは道尾秀介の”ノエル”


 

 

「____って事なんですよ」

 

俺は隠す所は全力で隠しながら真実を述べていた。

嘘は絶対に口にせず自分に都合が良くなるように話を進める。

この場で()()()の真実を知っているのは俺だけなので俺の話を信じる他ない。

優位な立場に居ることを認めつつ隙を作らない。

ポーカーフェイスならお任せあれ、ポケット内にアイがいる俺はマジ無敵。

だけど油断は出来ない。

例えば、腹黒眼鏡の役人さんなんかが相手の時は特に………

 

「へー、2人で話したんだ」

 

両肘をテーブルに突いて手を顔の前で組んでいる菊岡さんが乾いた笑顔を作り上げた。

 

「そうなんですよ。といっても”クリアおめでとう”って言われたり、今後の仮想世界についてどう思うかの世間話程度ですよ」

 

俺も負けじと乾いた笑顔で対抗する。

視線のぶつかりで火花こそ散らさないものの、お互い声を出さずに笑い合っているだけの現状に緊迫した緊張感が存在している。

開けていた窓から肌寒い風が入り込み俺の髪を揺らしていく。

 

「他は?」

 

「それだけですよ。後は普通に帰って来ただけです。まぁ、色んな人から無茶するなと怒られましたが」

 

俺が茅場さんを殺してから、もう一週間が経とうとしていた。

最早、SAO事件に関する事全てが諦めムードに差し掛かっていた時に突如発生したSAOプレイヤー全員の覚醒事件。

北海道から沖縄にかけて、全国のSAOプレイヤーが現実世界に帰還したことにより、各地の病院は大忙しになったそうだ。

そして、その全国の病院を飛び回る事を強いられた仮想課の皆さんも大忙し。

当然、トップの菊岡さんも駆り出されて必死に人数調査や健康状態などのデータ集めに勤しんだ。

そんで、結局俺の存在に気づいたのが昨日の昼頃。

その時には既に埼玉の病院に戻っていた俺はご飯中にも関わらず見事、突撃隣の昼ご飯を決めてきた菊岡さんに心臓が止まるかと思った。

白米で誤嚥を起こしてしまったので実際には息が止まったのだけれど………

………という感じで、我が病室にて正式なマンツーマンで今日お話する事になったのだ。

 

「じゃ、何ですぐに僕の所に連絡してくれなかったんだい?何かあったのかい?」

 

「違いますよ!!もうですね!帰ってきたらビックリ仰天な報告があっただけですよ!!!」

 

「う、うん。落ち着いて和人君………」

 

乾いた笑顔からクリスマス前の子供のような笑顔に急激にモデルチェンジした俺を見て流石の菊岡さんも引き下がる。

俺がテンションを上げる理由は木綿季、アイ、ユイ、カーディナル、の誰か1人が関わっているのが必須条件だ。

そして今回のテンションアップ理由の原因は最愛の木綿季の事だった。

俺はあの時の記憶を蘇らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍しい杖を必死に前に出しそれに合わせて足も出す。

疲れきって何に対してもやる気が出ない俺の脳みそはその行動を自動的に行い他の思考を全て停止させて病院への帰り道を歩いていた。

病院と言っても一旦木綿季がいる横浜の病院まで行かなくてはならない。

心配を掛けてしまったし、折角外出をしてるので御見舞いのつもりだった。

しかし、単なる御見舞いの筈が木綿季の主治医である倉橋先生の言葉によって激変した。

 

『木綿季君の治療が成功したよ』

 

体力が無くても気力がある。

気力があればなんとかなる。

多分、俺の行動はそれを完璧に証明したと言える。

走ったのだ。

杖を捨て拙い足取りで倉橋先生に心配をかけながらも、自らの足で俺は木綿季の病室に向かって走った。

端から見たら奇妙な行動に見えただろう。

だが、俺は走った。

どんなに遅くても、いかに不格好でも、何度転ぼうとも、自らの足で1歩を踏み出し続けた。

そして、遂に辿り着いた病室の前。

厳重な扉に分厚いガラス。

その壁の向こうに痩せ細った木綿季の体があった。

そこで聞こえた。

ほぼ毎日声を聞いていた筈なのに、何故か久し振りに聞いた感じがする声。

声は俺を懐かしむように言った。

俺は声を懐かしむように聞いた。

 

『和人も勝ったんだね………。ボクもだよ、ボクも勝ったんだよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの瞬間、俺は崩れ落ちたからな。

もう張り詰めた糸がプッツンと切れたようにバタリといった。

後から聞いた話じゃ木綿季も倉橋先生も大慌てだったそう。

迷惑掛けてすいませんって頭を下げに行ったのはいい想い出。

あぁ、本当に良かったよ………

 

「………和人君?」

 

想い出に浸るとはこの事だったのだろう。

いや、浸るどころかブクブクと沈んでいた。

悲しみの海ではなく嬉しいみの海に沈んだ。

沈みすぎて周りの音が届かず、自分の世界にログインしていた。

菊岡さんの声が聞こえてきたのは海から浮上してきた数分後の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで菊岡さんは今日は駄目だと思って帰ったと?」

 

「仕方無いじゃないか。嬉しかったんだし」

 

俺は木綿季専用の仮想空間に居た。

自分の病室からアミュスフィアを利用してここに入っている。

俺と木綿季にもアイ、ユイ、カーディナルが円を作って座っている。

長い時間を掛けてやっと、家族が勢揃いしたのだ。

そんで、俺は昨日来ていた菊岡さんとの話を喋っていた。

特に口止めもしてなかったので話してもいいと思ったのだ。

常識的な判断をしろと言われても俺は聞く耳を持たない。

俺に常識的な判断を期待しているのが既に間違いなのだから。

 

「あの人は絶対に裏がありますからね。私は話が終わって嬉しかったです」

 

アイがどんよりした顔で言った。

アイも俺と同じように菊岡さんに対して苦手意識があるようだった。

人の裏を読もうとする眼鏡の奥にある目が怖い。

 

「パパはその人を追い払ったんですよ!!ある意味愛の力です!!」

 

ユイが明るく元気にガッツポーズ。

純粋無垢なユイの瞳に恥じらいの影は一切ない。

が、言われた側は物凄く恥ずかしいのだ。

あながち間違ってはいないけど、悪戯心持たずに本気の良心で言ってくるユイの発言は時々困る。

けど、そこが可愛い所でもある。

木綿季は顔を赤くしながら”そうだよ~!”とユイの顔をいじくり回す。

キャッキャ笑って木綿季のいじりを受けてるユイはママっ子だ。

 

「ユイはママっ子。お姉さんはパパっ子じゃな」

 

「カーディナルはどっちだ?」

 

俺は冷静に現場状況を分析しているカーディナルに訊いてみた。

実際の距離は同じでも、心の距離だとカーディナルは1歩引いている気がする。

これは時間が解決してくれるものなのか。

それとも個性なのか。

どちらにせよ、早く近づいて来て欲しい。

無理なら強引に引っ張るまでだ。

 

「私は中間じゃな。しかし、今はママ殿派じゃな」

 

「え?何で何で?」

 

「それはじゃな___」

 

自分の事が話題となりユイと戯れていた木綿季がにじりよってきた。

一緒にユイもえっちらおっちらと匍匐前進をしている。

やだなにこれ超可愛ゆいんですけど………

と、そんな心和む平和な家庭のど真ん中に核爆弾が投下された。

 

「全力で泣いていたからじゃ」

 

「え?」

 

「へ?」

 

「和人が………?」

 

アイ、ユイ、木綿季の順番でそれぞれ違う反応をした。

俺はいつの出来事かをはっきり記憶していたので咄嗟に手を出した。

しかし、カーディナルの口を塞ごうとした高速の手刀は木綿季とアイの手によってガッチリと掴まれた。

 

「ぐっ!!」

 

更には、アイが間接技を極めて俺の動きを封じ込めてしまう。

痛みが無いことを良いことにアイは現実だったら確実に骨が複雑に折れてしまうであろう程の力を加えている。

肩の間接がヤバい所まで逝っちゃってる………

そんな不快感を無言で我慢している俺を無視して木綿季は転がる俺の隣に座り、ユイもその逆の席にうつ伏せで陣取った。

足をパタパタとさせる辺りとても楽しみなのだろう。

俺が恥ずか死ぬ程の出来事を………

 

「茅場昌彦と別れて現実に戻った時じゃった………」

 

「お願いします………止めてください………お願いします………」

 

当然、俺の願いは聞き届かない。

カーディナルは淡々と話を進めていった。

同時に、その時の記憶が頭の中で再生され始める。

停止ボタンを探そうにもカーディナルが話を続けてしまうので否応なしに再生が行われる。

 

「クソ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、現実に戻って来るとピーーという機械音が俺の耳をつんざいていた。

鳴り響く高い音は仮想空間から戻ったばかりの俺にはキツイものがある。

俺はナーブギアを頭から外し音が鳴っている場所に視線を向けた。

この甲高い音が耳に届いた時から分かっていた。

これは人の死を知らせる為に人が作った機械の音。

この部屋には命のやり取りをしていた2人の男がいる。

そして、その内の1人である俺が生きて戻っているのなら………

 

「終わったのね………」

 

1つしかない部屋の出入口から神代さんが現れた。

ピーーという機械音で闘いの終わりを知ったのだ。

その結末が恋人の死であったと確認した時、神代さんは何を思ったのかは想像できない。

 

「………はい」

 

俺は小さく頷いた。

罵られるかもしれない、罵倒されるかもしれないとマイナスな方向に思考が進む。

俺は自分の震える手を見つめた。

仮想世界の出来事で血は付いていない。

しかし、人を殺したという罪がこの手にはあった。

自分が怖くなった。

人を殺した俺が生きていて良いのかと思ってしまう。

俺は人を殺す事が出来てしまったのだ。

すると、肩を力強く掴まれた。

 

「………!!」

 

神代さんが女性とは思えない力で俺の肩を鷲掴みにする。

爪が立たされて服の上からでも痛みが走る。

俺は黙って神代さんの次の行動を待った。

前髪を垂らして表情が読めない神代さんが何を考えているか分からない。

でも、腕の力や息遣いから俺に向けて負の感情を持っているのは明らかだった。

何をされても良いと思った。

しかし、殴られビンタされ蹴られると予想していた俺には驚愕の行動を神代さんはした。

 

「ごめんなさい………!!」

 

神代さんの手が外され俺の首に回った。

首を絞められるのではなく腕ごと回しぎゅっと俺を抱き締めてくれたのだ。

そして、何故か神代さんは謝ってきた。

泣いているのが声で分かる。

訳が分からない。

何で神代さんが謝らなければならないのだろう。

 

「ごめんなさい………ごめんなさい………」

 

神代さんはついぞ俺に謝ってくる。

隣のベッドで恋人の死体があり、その死体を作った俺に涙する。

次第に俺の方にも何かが沸き上がってきた。

暗い部屋が蜃気楼のように歪んでいく。

涙が溜まっていた。

そして遂には1つの雫が俺の頬を伝った。

 

「お、俺も………」

 

口が思うように動かない。

コミュ障はこのような大事な時につらい。

それでも、力ずくで言葉を吐いた。

 

「ごめんなさい………!!俺の方こそ………!!」

 

俺はこの後涙が枯れるまで懺悔の言葉を吐き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う感じじゃな」

 

「「「………」」」

 

楽しい雰囲気から一転、気まずい空気が流れている。

スマホで全てを知っていたカーディナルが語ったのはどう考えても笑い話では済まされない出来事であったからだった。

俺も冷静になれば恥ずかしすぎる大切な想い出として扱っているが、木綿季とアイとユイには少々キツイものがあるだろう。

 

「カーディナルは何でそれを私達に言ったんですか?」

 

長女のアイが俺の拘束を解いてカーディナルを咎めるように訊いた。

木綿季とユイも難しい顔をしている。

カーディナルは言った。

 

「別に笑い話として扱うつもりはない。ただ、家族の皆には知っておいて欲しいのじゃ」

 

カーディナルは一呼吸置いてから述べた。

 

「パパ殿は弱いと。だから、支えが必要だと」

 

全てはこれを言う為の話だった。

俺とカーディナル以外の3人が目を丸くしている。

誰も声を出さない。

だから、俺が声を出した。

昔の俺なら絶対に黙ったままだった。

弱いなりの成長だ。

 

「あー、その、………よろしく?」

 

俺は微妙な笑顔になりながらもはにかんだ。

俺は弱い。

だから、支えが必要。

その支えとなってくれる人物達に俺は囲まれている。

右には木綿季、左にはユイ、上にはアイ、正面にはカーディナル。

 

「和人!!」

 

「「パパ!!」」

 

愛する女性と2人の娘に抱き付かれた。

なんか、凄い事になってる………

可愛い3人組に押しくらまんじゅうされる。

緊張、嬉しい、恥ずかしい、暑苦しい、可愛い過ぎるんですけど、もう止めて、幸福。

それをカーディナルが面白そうに眺めている。

 

「助けろよ!!」

 

「いーやじゃ!!」

 

カーディナルは体操座りでベーっと舌を出した。

なにそれ可愛い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜の電話____

 

「もしもし、倉橋先生ですか?」

 

「ん、和人君か。何かな?」

 

「その………ゆ、木綿季の髪の毛ってありますか?」

 

「………………和人君、いくら好きだからってそれは駄目だよ」

 

「ち、違いますよ!!!そんな変なことには使いません!!」

 

「………では、何に使うんだい?」

 

「………ハートインダイヤモンドって知ってます?」

 

 




これでSAO編も完結です!!
須郷?誰それ?
まぁ、兎に角!!次回は番外編ですかね?
頑張って行きましょう!!
さぁ、皆さんご一緒に!!

”おー!!!!”

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
57話 釣り


夏休み。
金稼ぎの為のバイト探し中。
それにバイトに集中するために宿題は7月中に!!
やること多いよ!!


 

「………」

 

雲がまばらで透き通るような青い空。

爽やかに吹き抜ける風が俺の髪を程よく揺らす。

青々とした背の高い草達が俺の髪と一緒に靡いている。

そして、俺が掴んでいる釣竿の先の糸も揺れて水面に浮かぶウキが僅かに動く。

しかし、そこはウキとオモリの力。

数秒もしないうちに、揺れを抑え込んだ。

 

『釣れませんね』

 

イヤホンから娘の声が響いた。

桐ヶ谷和人特性の周りの視線を気にせずに娘と会話が出来る機器(名前募集中)である。

改良に改良を重ね、見た目音楽プレイヤーだが、中身は超高音質ハイレゾ仕様の会話機器と変貌している。

以前と外見は変わらないけど、その分性能がほっぴんJUMP!!と格段に飛躍していて音楽プレイヤーの会社に売れば結構な金になるぐらいだと自負している。

 

「まぁ、ボーッとする為に来たようなものだからな」

 

俺は特訓してきた腹話術で口を少しだけ開けながら小声で言った。

そう、現在俺が居るのは柴山沼という場所の釣り場。

沼と言っても広い池みたいなもの。

指して釣り経験がある訳でもなく、ただの興味本意で来てみただけで………

嘘です、追い出されました。

SAO事件解決から半年以上が過ぎた7月。

杖つきではあるものの退院を決めて、後はAIDS以外の病気を治すだけとなった木綿季の御見舞い以外絶対に外出をしないというアルティメットスペシャルな生活を送っていた。

が、そんな俺に呆れたスグがあるところに通報。

家に来たのは何故かバンバン走れるまで肉体を回復させた驚異のお姉さんその名はアオイ。

アオイさんは俺の部屋に”邪魔するゾ~”と気だるげに突入してPC前の俺を部屋から引きずり出した。

そんで財布、携帯、イヤホン、と俺にとって必要最低限の荷物を持たせると今度は家から引きずり出した。

そして、”8時まで家に入るんじゃないゾ”と自分の家じゃないのに家の仕切りの前に立ち言い放ったのだ。

行き場を無くした俺は最初、木綿季の病院に行こうとしたけど、アオイさんが視線だけでそれを阻止する。

結局、1日ボーッと出来て人と喋らず落ち着ける場所としてここを選んだ。

 

『現在1時。あと7時間です。そんなにボーッと出来るんですか?』

 

「ん~、何とかなるかな。意外と釣り面白いし」

 

魚入れにはオイカワなどの魚がピチピチと泳いでいる。

本当、無関心で始めた釣りもやってみたら超楽しい。

この魚が引っ掛かるまでのボーッと時間も釣れた時の快感に変わり釣り上げの際は爽快感もある。

ハマりそうで怖い………このまま釣りバカ日誌級の釣り好きになったらどうしよう。

今はレンタルだけど、帰ったら自分用の竿でも買っちゃおうかな?

例の金も何故か増えたし。

 

「釣れますかな?」

 

「ッ!?」

 

俺は突然の来訪者に体を強張らせた。

錆びたブリキの木こりみたいに首をギリギリとぎこちなく回して振り返った。

そこには使い古した麦わら帽子を被り、若干ふくよかなおじさんがいた。

ビシッと決めた格好は俺のなんちゃって釣り人とは違い本物の釣り人だった。

 

「おっと、これは失礼しました。若い人が釣りをしているのを見ましてね。興味を持ったんです」

 

おじさんは麦わら帽子を軽く持ち上げて笑いながら話してきた。

そして、俺の許可も無く隣に座ってきた。

突然話しかけられて、突然隣に座られた。

良い人そうではあるけど、フレンドリー過ぎる行動に俺の常時発動技の”コミュ障”が効果を十分に発揮する。

 

「あ、あの………」

 

『和人様。とりあえず”貴方は?”と訊いてください』

 

「んっんん!!………すみません、貴方は?」

 

娘のアイからアドバイスを受け、そのまんまアイの言葉をコピーする。

すると、おじさんは”ああ”と気の抜ける返事と共に自己紹介を始めた。

 

「そうでした。私は西田(ニシダ)西田(にしだ)照之(てるゆき)と申します」

 

『ほら、自分もです』

 

「あ、そ、その。桐ヶ谷です。桐ヶ谷和人です」

 

西田さんは座りながら自己紹介をした。

俺はアイに言われるがまま自己紹介することになった。

もう、アイの道具みたいな状況になっていた。

と俺が苦笑いをしていると釣りの準備をしていた西田さんが”ん?”と変な反応をした。

俺はなんだ?と思い首を傾げてみたり。

 

「い、いや。イヤホンを付けてるのに私の声が聞こえるのかと思いまして………」

 

「え?あ、これですか?その………補聴器みたいな物ですので」

 

俺は苦し紛れの誤魔化しを考えついた。

横髪をかきあげて耳のイヤホンを西田さんに見せた。

性能の為に少々大きくなっているが、違和感のないイヤホン。

もし、西田さんに補聴器の専門知識があるのなら一発で嘘が見破られてしまう。

 

「そうでしたか。これは申し訳ありません。」

 

「いや、いや、いや!!そ、そんな別に………」

 

頭を下げて詫びる西田さんを見て罪悪感が生まれる。

バレる訳にはいかないとは言え、嘘を付いて良心的な人に頭を下げられてはこちらこそ申し訳ない。

俺は耳元での溜め息を聞きながらどうにか話を続けようと努力する。

 

「そ、そうだ!西田さんはよく釣りをするんですか?服装を見るとかなり本格的ですが………?」

 

そこで俺は釣りの話を話題にあげる。

釣りに目覚めかけている俺にとって、西田さんの話は大変貴重な物になるかもしれない。

 

「まぁ、趣味の延長線ですけどね。仕事の疲れを趣味で消化しているんですよ。自分の仕事は割りの良い仕事ですので、休みを見つけては釣りをしに遠出するんです」

 

「ほぉ………」

 

素直に感心した。

仕事の疲れを趣味で消化する。

なんと合理的な解決方法だろう。

疲れた言って部屋でゴロゴロするよりも健康的だ。

良いことを教えて貰った。

俺もいつか西田さんの仕事疲れの対処法を使って見ようと思った。

しかし、桐ヶ谷和人16歳。

中学時代は不登校生。

SAO中にいつの間にか中学を卒業しており本来なら高校生。

政府がSAOプレイヤー用に簡易な学校を用意してくれたのだが、俺は今まで通りの引きこもりスタイルを維持。

不登校生の中卒育ちを何処の会社が採用してくれるというのだろうか。

仕事疲れというか仕事を見つける事すら至難の技だ。

 

「ち………因みに西田さんの仕事とは?」

 

「東都高速線と言う所です」

 

聞き覚えが大いにあった。

でも、俺の勘違いかもしれないので即座に歯を2回ならした。

 

『多分、和人様が想像した通りです』

 

俺の合図を受けたアイがほとんどのタイムラグも無く返事を返した。

 

「えっと、もしかしてですが………ネットワーク運営企業の?」

 

「おお!ご存じでしたか。そうなんですよ。一応、保安部長をさせていただいています」

 

西田さんは若い釣り仲間を見付けた上に話が通じる少年にあって声が弾んでいる。

って、保安部長ってお偉いさんでしたか………

そりゃ、割りの良い仕事ですよ………

 

「いやー、SAO事件がありながらも繁盛してますよ」

 

「そ、そうなんですか。PCが飛ぶように売れたりとかですか?」

 

俺も何か話が合う人と出会って嬉しかったりする。

流石にまだ、緊張はするけど楽しいと感じている。

 

「それが違うんですよ!少し前にザ・シードという世界中の誰でもが仮想空間を作り出せるパッケージが配布されましてね」

 

「あ、ザ・シードですか………」

 

はい、配布したの俺です。

茅場さんの頼みで配布させていただきました。

いや、繁盛していただいているのでしたら、こちらとしても嬉しい限りですよ。

それにザ・シードが広がればそこを庭として扱っているカーディナルが喜びますし。

ザ・シードを配布するときに”ここをわしの住みかとする”と宣言したカーディナルが喜びますし。

今頃、俺が作ってあげた空間をリフォームした場所で情報の図書館でも作っているのだろう。

うちの3姉妹の中で真ん中は自由人だというのは本当らしい。

 

「誰が配布したのか分からないですが、感謝ですよ!!」

 

「はははは!」

 

『感謝されてますね』

 

笑うしかなかった。

うまい人はまた違う表情を浮かべたり話をしたりするのだろうが、そんなボキャブラリーのない俺はただ笑っていた。

 

「っと引いてる!!」

 

「本当です!頑張ってください和人さん」

 

『落としたらバツゲームです』

 

応援してくれる西田さんとプレッシャーを加えるアイ。

俺は独自の感覚でリールを巻き上げ”ここだ!”と思った所で竿を持ち上げた。

 

「釣れた!!」

 

今日数匹目の魚はブルーギルだった。

この後、俺は釣りの事を西田さんから沢山学んだ。

途中からアイも興味を持ったのか話を聞くようになっていた。

そして、楽しい時間は過ぎるのが早いという昔ながらの言葉通り、矢のように時は過ぎていった。

西田さんとはあえて連絡を交換しなかった。

 

”釣りを続けていたらまた何処かで会えますよ”

 

マジ格好良かった。

師匠と呼ばせてほしいくらい格好良かった。

俺は背を向けて帰っていく西田さんを茅場さんとは違う意味で尊敬した。

これは釣り続けるしかないでしょ。

俺はちょっと鼻歌を歌いながら帰宅への道を進んだ。

電車やバスの中でも貴重な体験だったなーっと思いふけていた。

あ、そうだ。

スグが泳げるようになりたいっていってたな。

練習するには貸し切りが最適………うん、策はないけど何とかしよう。

あれなテンションに陥っている俺はスグの為に何かしようと思った。

これも全て西田さんのお陰!!

 

ありがとう、西田さん!!

 

 




西田さ~ん!!
えっと、このニシダさんはSAOに入っていない設定です。
いや、番外編のレベルを越えた番外編だと思いますよ。
本編全く関係ないんですもん。
ただ単に自分の趣味をキリト君にさせているだけですからね。
この小説自分の趣味とか入れすぎてる気がする………
うわーん!!小説書いてることバレたくないよ~!!
………あ、友達少ないからバレる可能性も少ないか。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

58話 男3人

熱中症になりそうで怖い。
熱中症、海や川での事故、でんぐ熱。
家に引きこもっていれば安全さ!!


「将来?」

 

俺は右手に少しばかり辛いジンジャーエールを揺らしながらカウンターの奥でワインの品定めをしているマスターにおうむ返しで聞き返した。

ここは東京都御徒町にあるアンドリュー・ギルバート・ミルズことエギルが営業している喫茶店”ダイシー・カフェ”である。

 

「そうだ。お前、折角国が用意してくれた学校の入学を断ったんだろ?」

 

「いや、今さら学校に行くってのもなんか………それにあそこは学校じゃなくて隔離病棟みたいな場所だし」

 

俺はめんどくさそうに言った。

政府が用意したSAO生還者(サバイバー)専用の高等学校。

卒業すれば大学の受験資格までも貰えるありがたーい所。

しかし、その実態はたまたま空いていた校舎に年配で定年間近の教師と新人の教師を配属させ、そこにデスゲームを学生ながらも生き抜いたイカれ集団をぎゅっと詰め込んだ隔離施設。

役人さんは一ヶ所に集めておけば管理しやすいなどと思っているのだろう。

彼らの目には俺達SAO生還者(サバイバー)は血に飢えた恐ろしい人間と写っているのかもしれない。

 

「おめぇ、そんな事言ってたら就職出来ねーぞ。中卒じゃ雇ってくれる職場なんてほとんどねぇからな」

 

言っているのは俺の隣でアルコールを楽しむ壷井遼太郎、SAOではクラインと呼ばれギルド風林火山のリーダーでもあった人物。

ほろ酔いのクラインは俺の知らない酒を一口飲むと酷く酒臭い息を吹いた。

こんな姿でも輸入商社に勤めているのだから驚きだ。

 

「もしもの時はクラインの所で働くよ。裏口入社よろしく」

 

「んな事出来るわけねーだろ!俺の首が飛んじまう!」

 

俺が冗談を言うとクラインは親指で自分の首もとをなぞった。

ははっと俺は笑って見せた。

しかし、本当に俺の将来は危ぶまれている。

いくら巨額の蓄えがあるとしても働かないのならいつか尽きる。

 

「キリトにはユウキがいるだろ。彼氏兼義理の兄がニートだと落ち込むぞ。退院祝いに結婚指輪を渡すよりも先に就職先を教えてやれ」

 

「そんな事言われても………」

 

SAO事件が解決されてから数日後、木綿季は自分の現状を話した。

日本人初HIVウイルスの完全駆逐に成功!!のニュースがテレビや新聞に大々的に報道されたのが主な理由だ。

まぁ、木綿季は最初から言うつもりだったらしい。

けど、いざ口にしようとすると上手く言えず口がパクパクするだけだったのを覚えている。

そんな時の報道だ。

バッチリ名前も放送または掲載されていて結局アスナ達から問いただされていた。

桐ヶ谷(きりがや)木綿季(ゆうき)

本名プレーは危険がいっぱいだ。

 

「プログラミング得意だろ?その技術を生かせよ。てか、なんかそういう興味みたいなのは無いのか?」

 

「興味ね………ロシアで面白そうな研究所があったから見学したいとは思うな」

 

「ッカ~!!キリトレベルになると世界かよ!!」

 

クラインが不機嫌そうにもう一杯!!とエギルにグラスを差し出した。

エギルも飲み過ぎるなよと注意をしながらもグラスを受け取った。

そして、グラスを一度ステンレス性の台に置くと後ろから英語のラベルを巻いたボトルを取り出した。

そんなてきぱきとした作業を眺めているとエギルの様な喫茶店のマスターも良いなと思ってしまう。

 

「んで、その研究所の何が面白そうなんだ?」

 

そう言ってエギルがボトルの中身をグラスに注ぎ始めた。

なかなか、様になっている。

昼時の現在は俺とクラインしか客はいないけど夜は繁盛しているみたいだ。

俺はんーっと少し考えてから答えた。

 

「ロシアの科学者でVRを研究している人がいるんだ」

 

「科学者ねー。その科学者の名前は?」

 

「七色・アルシャービン博士」

 

「おお、ハーフか。キリトそこの研究員になっちまえよ」

 

クラインが軽々しく言った。

そんな事出来るわけないのに。

第一、ロシアにまで行って研究員になろうとは思わない。

遠いし寒いしロシア語知らないし。

それにもう1つ。

 

「無理だ。俺はあまり人と喋らない仕事がいい。研究とかばりばりコミュニケーションとるじゃん」

 

「俺達とは話せてるじゃねーか」

 

エギルが完成した酒をクラインに渡した。

クラインも嬉しそうに受け取り早速一杯口にした。

 

「話せてるけど長時間の充電が必要なんだよ」

 

そもそも、アイによるコミュ障改善計画の一貫として行われた今日の男3人雑談会。

俺は嫌々だったけどアイを1時間ほどギューやナデナデしたり髪を弄んだりするという条件を提示したのだ。

アイも顔を赤らめながら渋々了承してくれた。

ザ・シードで自分専用の仮想空間を作れるからそこでギューってした。

もうあんな事(抱き締める)そんな事(髪型いじり)から○○な事(頬っぺたすりすり)までして愛でてやりましたよヌルフフフ………。

俺の性格を知っているエギルだ。

何となく想像したのか可愛そうな奴を見る目で俺を見てきた。

 

「アイちゃんも大変なんだな」

 

「まぁ、申し訳無いとは思ってる」

 

頬っぺたすりすりでアイはふにゅ~………とか言って気絶しちゃったからな。

それもパパが………パパが………とか言って赤面しながら気絶するもんだからこっちも気絶しそうになる。

俺の娘、可愛すぎるでしょ。

 

「ほどほどにな。キリトがロリに浮気だなんて聞いたらユウキはショックだろうからな」

 

「浮気なんてしないよ。何があってもな」

 

俺は木綿季一途なので浮気は絶対にしない。

今時の学生は付き合ったり別れたりを繰り返すのが多い。

そんな偽物の関係には興味ない。

付き合うのなら結婚とか考えたうえで付き合う。

 

「確かに。キリトに限ってそれはないか。問題は………」

 

「………」

 

俺とエギルはジト目で酔い潰れているクラインを睨んだ。

さっきまでほろ酔い程度だったのに急に潰れてしまったのだ。

仕事疲れだろうか。

 

「こいつは当分女は出来ないだろうな」

 

「たまにメールが来るぞ。合コンの愚痴だけど」

 

「16歳に愚痴のメール送ってんのかよ………」

 

奴らは見る目がない等の愚痴が盛大に俺の携帯にぶちこまれてくるのだ。

最初見たときは驚いた。

同時に大人の女はこんなんなんだと勝手な偏見も俺の中で生まれていた。

それぐらい勢いのあるクラインのメール。

根はいい奴なのだ。

早く貰い手が見付かれば良いのだが。

 

「”酒は飲んでも飲まれるな”覚えておいた方が身のためだ」

 

「肝に命じておく」

 

俺はエギルのありがたいお言葉を授かった所で腹が減ったなとふと思った。

時計を見ればあと少しで1時間を回るところだった。

折角のお出かけなのだ。

ここでお昼をごちそうになろう。

 

「エギル、ご飯奢って。まかないでもいいから」

 

「働かざる者食うべからずだ。金払え」

 

「ツケで」

 

「お前引きこもりだろうが。店に来ないだろ」

 

と言いながらもエギルは食事の準備を始めてくれた。

材料からして結構な品を作るらしい。

専業主夫の俺にはこんな事まで分かるのだ。

が、流石はマスター。

俺より上手に事を運んでいる。

 

「おお、結婚してくれ。食うに困らなそう」

 

「野郎が相手じゃ無理だな。俺はノーマルだ」

 

エギルは嫁さんが居るって言っていたし俺には恋人がいる。

お互い愛し合っている女性がいるのにその男達が男同士の結婚の話。

異様な光景だと思う。

そんな事を考えてるとエギルがフライパンでフランベをし始めた。

赤く燃え盛る炎が食品の臭みを消し飛ばす。

 

「指輪は?」

 

「準備中」

 

「式会場は?」

 

「考え中」

 

「覚悟は?」

 

「バッチリ」

 

「式会場だったら俺の店でやれ。ただにしておいてやる」

 

「いや、気が早いと思うんだけど………まぁ、ありがとう」

 

「だから今日は払え天才」

 

「奢ってくれるんじゃないのかよ!?」

 

奢ってもらうつもりだったので、ショックが大きい。

財布の中身を見て5000円の方と目が合った。

少し高くても大丈夫だ。

今日は贅沢にいこう。

俺はエギルにクラインの分も作ってくれと頼んだ。




次回からは遂にGGO編!!
現在必死でGGO編を読み返しまくっています。
頑張るぞ!おおお!!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GGO編
59話 オカルトな事件


ほとんどの学校が今日で終わり、明日から夏休み。
自分の学校もその例外ではないです。

さぁ!!皆さん!!夏休みを楽しみましょうね!!!


12月に差し掛かり冬場の寒さが本格的になってきた最近。

意外にも今日はそれほど気温は低くなかった。

しかし、だからと言って上着を手放せる訳でもない。

俺は1年掛けて作り戻した筋肉を使い、東京の一角に営業しているとある喫茶店に足を踏み入れた。

 

「キリト君~!こっちこっち!!」

 

高級感溢れる空間に何とも間抜けな声が響いた。

静かに談笑をして楽しんでいたであろう2人のマダムが何故か俺を睨んでくる。

店内に流れるクラシックがこの沈黙の時間を逆に引き立たせていた。

俺は右耳に装備している”他人から見れば格好いい補聴器”をマダム達に無意識を装いながら見せた。

マダム達、他の客に店員さんも俺の事を耳が悪く大きな声で呼ばないと聞こえない可哀想な子っと勝手に誤解してくれるだろう。

俺はわざと店内を見渡してから俺の事を呼んだ人物の元へ向かう。

 

「どうも」

 

「いやー、来てくれて助かったよ!あ、ここは僕が払うからキリト君は好きな物を頼んでね」

 

と、俺が席に座った瞬間に頭を掻いて全然詫びる態度を示さない国家公務員。

”では………”っと俺はファミレスなどよりも遥かにページ数が少ないメニュー表を覗いた。

まぁ、ファミレスに行った記憶なんて無いんですけどね………

だが、安いが売りのファミレスに行った事がなくてもこの値段の高さは理解できる。

とりあえず、高級そうなバームクーヘンとコピ・アルクやカペ・アラミドのような馬鹿高い物では無いにしろ十分高級品のキューバ産クリスタルマウンテンのコーヒーを注文した。

こういう店のメニューは全てが良い物に感じられて少しだけリッチになった気分を味わえる。

ただ、今俺が頼んだ品の合計金額は相当な値段で俺はいつになってもリッチにはなれないと突き付けられた。

 

「それで、また仮想世界のリサーチですか?」

 

俺は心からめんどくさそうに訊いた。

だって、本当にめんどくさいのだから。

俺の正面の席でニコニコポーカーフェイスを保っている腹黒眼鏡の菊岡誠二郎はうんうん!と何度も頭を縦に振った。

 

「それで?今回は何処なんですか?」

 

「その前にだ。ちょっと、お話しようよ」

 

「………何のですか?」

 

俺は警戒心を強めながら菊岡さんの顔を見た。

相変わらずポーカーフェイスで何を考えているのか分からない。

 

「覚えているかい?先日の新宿駅で起きた事件」

 

「ああ、何か大剣を振り回した男のやつですか?」

 

それならニュースで連日放送されていた。

重さ3.5キロの剣をドラックを使い錯乱状態で振り回して2名が犠牲になってしまった事件。

犯人は重度なVRゲームのプレイヤーで長時間ログインの為に薬をやっていたらしい。

このニュースが流れる度にVRに不満たらたらな人達がねちねちぐちぐち言っていた。

けど、実際全国レベルで見ればそんな大した数じゃないし、この事件1つで仮想世界は社会不安を醸成してるとは結論は出やしない。

 

「あの事件がどうしたんですか?」

 

「あの犯人は何で薬を使う程ログインしていたんだと思う?」

 

菊岡さんはまるで俺の答えを楽しみにしているような顔で質問してきた。

 

「何でって………ゲームが面白かったからじゃ無いんですか?VRMMOゲームってのはログインをすればする程仮想世界の感覚が体に染み渡って良いプレーが出来る。良いプレーが出来ると良いプレイヤーになる。良いプレイヤーになれば皆に親しまれる崇められる嫉妬心を抱く自分より下のプレイヤーを見下せる」

 

「良いプレイヤーね」

 

「まぁ、簡単には言えば究極的な現実逃避がVRだと出来るんですよ。現実では太っていてもVR内ならスリムなイケメン。現実では運動神経皆無でもVR内ならレベルを上げれば世界一の陸上選手より速く走れる。その事件の犯人は仮想と現実がごっちゃに混ざってしまったんでしょうね。俺は強いんだ~って事を皆に見せびらかしたかったんじゃないですか?」

 

俺だって仮想世界でもっと男らしい顔にしたいという欲求はある。

誰でにも欲求はあるのだ。

そして、その欲求のほとんどを仮想世界は叶えてくれる。

物欲、食欲、あるいは性欲。

 

「強い事を………じゃぁ何で強くなりたいと思うんだろう?」

 

「は?」

 

「………え、何だい?」

 

俺と菊岡さんの間に変なズレが生じていた。

菊岡さんの質問に何故そんな質問を?と疑問が浮かんでいる。

お陰で口を半開きになって間抜けな顔になってしまった。

 

「どうぞ」

 

と、その瞬間に頼んでいたバームクーヘンとコーヒーが届けられた。

忍者ばりの無音歩行で近づく気配すら感じ取れなかった。

こんな風な店だと無音歩行などのスキルが必須なのかもしれない。

テーブルに置かれたコーヒーを手にとって半開きになっていた口に流し込む。

酸味と苦味が絶妙に合わさっている上品な味わいに感動した。

腹黒眼鏡の国家公務員と正面向かって話す事すら許せるぐらい心が浄化されていく。

 

「強くなりたいってのは自己実現欲求。親しまれるや崇められるは尊敬欲求」

 

心が安らいだ俺は先程何故俺が会話を止めてしまったのかの説明に入った。

 

「マズローの欲求階層説の内の2つ。それも5段階ある中の上位2つです」

 

マズローの欲求階層説とは三角形に横線を入れて人の欲求を段階別に表した図だ。

1番したから順に生理的欲求、安全・安定性の欲求、社会的欲求、尊敬欲求、自己実現欲求。

No1とNo.2が強くなりたいなどの元となる欲求。

菊岡さんがあまり理解できてなさそうな顔をしているから結論をだそう。

 

「つまり、強くなりたいというのは人間の本能なんですよ。そこに理由なんて無い。あるとしてもそれは全て他の人より上にいきたい認めてもらいたいなどです。自己実現欲求と尊敬欲求の中の理由。この2つの欲求が無い人なんていませんよ。まぁ、あっても欲求が薄い人はいると思いますけどね」

 

「………キリト君はやっぱり面白いね。話を聞いてるだけで面白くなるよ」

 

そんな心にも思っていないだろう事を平然に口に出す菊岡さんを無視して俺はクリームが乗っているバームクーヘンを備え付けられていたフォークで一口サイズに切り分ける。

切り分けたバームクーヘンにクリームをくっ付けて口に運んだ。

凄く甘いけど嫌な甘さじゃなかった。

俺は連続でバームクーヘンを口に運ぶ。

最後にコーヒーを一杯。

適当に選んだ品だが案外良い組み合わせだったのかもしれない。

 

「それじゃ本題に入りましょうか」

 

「そんな慌てないでよ。ちゃんと話すから」

 

菊岡さんはまぁまぁと手を振った。

今までバイトと表して菊岡さんのVRMMOゲームリサーチを受けてきた。

バイトとは金がもらえる。

今の俺の収入源は菊岡さんの金。

もう、菊岡さんの所で働こうかな?

いや………絶対に嫌なんだけどね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に嫌です!!」

 

俺の叫び声に店内でお食事を楽しんでいたマダムやジェントルマンな店員さんがぎょとしたのを視界の端っこで捉えた。

俺はテーブルを乱暴に叩き、荒々しく立ち上がった。

そして、そのまま店を後にしようと出入り口へ向かおうとした。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!キリト君だって有り得ないって断言したじゃないか!五感全ての可能性を否定したじゃいかー!!」

 

「それでもですよ!!」

 

菊岡さんがまるでフラれても泣き付く男のように腕を掴んできた。

眼鏡の奥で”捨てないでー”と言っている。

あまりの女々しさに辛いよー。

いや、実際は女々しいというより鬱陶しいだけなんだけど。

だが、流石に今回のバイトは心から引き受けたくない。

 

「いいですか?俺はそういうオカルト染みた物事は否定しないようにしてるんです!別に本気で信じてる訳じゃないですけど否定は出来るだけしないようにしてるんです!」

 

顔をずいっと菊岡さんの耳元に持っていき小声で言った。

俺は逆にオカルト派よりも科学派なので幽霊などを疑う事はある。

しかし、だからと言って幽霊を全く信じない訳でもない。

多くの事を受け入れた方が考えの幅が広がるからだ。

一部だけを知って全てを知ったようにするのは違う気がするし。

だから俺はニートだからって”うわ!?負け組キモ!!”とはならないし、”黒人だー………うへー”ともならない。

酒を飲んで悪酔いして16歳の少年に合コンとかの愚痴を吐きまくっても嫌いにはならない。

ニートでも彼女がいてPC結構出来たり金もあったりするんだぞ!

黒人だからって差別するな!!シェイカー振る姿格好いいんだからな!!

悪酔いして愚痴を吐くくらい、いいじゃないか!!!可哀想だろクラインの奴………

 

「で、でも………」

 

「分かってます。上の役人さんが気にしてるんですよね?俺だって馬鹿じゃないんですから」

 

菊岡さんが手を頭の後ろに当てて軽く舌を出した。

どうやら図星のようだ。

VR技術の研究は始まったばかりで身体的にどのような効果を及ぼすのか、精神的にどんな影響を与えるのか。

ロシアでも研究が行われている。

謎過ぎるVR事件は不都合が多いのだろう。

 

「全く………テレビでは悪口パラダイスなのに裏ではこれかよ………」

 

俺はこれが表と裏というものだと実感した。

どんな所でもあるものなのだなと肩を落とすにはいられない。

菊岡さんに掴まれていた腕を振りほどくと深く、壮大な海より深く溜め息を吐いた。

他にも色々な感情とかも一緒に出ているんじゃないかと心配になる。

 

「後日、電話します」

 

俺は菊岡さんにそれだけ伝えると今度こそ店を後にした。

出る直前にタキシードのような制服の店員さんがドアを開けてくれた。

すれ違いざまに”会計はあの眼鏡さんから”と言っておく。

店員さんも”了解いたしました”と律儀に背を向ける俺に言ってきた。

ここは東京。

行き先は横浜の病院。

随分と長く道草を食ってしまった。

俺はちょっと速めに足を動かし始める。

厄介事は後回し。

楽しみな事を先に楽しもう。

あんな《VR世界の弾丸で現実世界の人間が死ぬ》事件なんてやってられん。

面倒事は嫌いなんだ………

 

『パパは国家エージェントなんですね!!尊敬します!!』

 

菊岡さんと2人で話せていたのは絶対に耳元で絶えず可愛い声で話しかけ続けてくれたユイのお陰だ。

あの人と2人っきりなんて耐えられる筈がない。

マジで感謝!!HEY!!

 

「違うからなー!」

 

前後ろ、左横右横、上にも下にも付き添う人物は居ない。

けれど、耳元にいる末っ子のユイに俺は言った。

国家エージェントって格好いいけど絶対になりたくない。

 




色々ぶっ飛ばしたりしました。
グダグダと自分の下手な説明よりは早くGGOにログインした方が皆さんも楽しめますよね!!

あ~、ソードアート・オンラインのゲーム次回作。
GGO編がいいです~。
何気に銃とか好きですし!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60話 決意

おっしゃー!!
HIVウイルスに感染しているフランス人の女性が薬物療法を止めたから12年も寛解を維持しているニュース!!
このままHIVウイルスの撲滅療法が確立すれば木綿季も助かる!!
川原さんが紺野姉妹生存ルートを書くしかない状況を作り出せる!!
頑張って世界の医学!!


『ガンゲイル・オンライン、通称GGO。銃のゲームかー』

 

横浜市内にある病院のとある一室。

いかにも頑丈そうな分厚いガラスと白い壁がこの病室を横断している。

今俺がいる方の部屋は横に長く置いてあるものも部屋の長さに合わせた簡単な赤いベンチだけだ。

一方、木綿季がいる方の部屋は精密機械がズラリと並べられていて部屋全体が真っ白け。

ゴミがあったら一目で分かる程白い。

と言うか、木綿季側の部屋にはゴミどころか細菌すら存在しない無菌室。

ゴミがあったら大騒ぎになってしまう。

 

「後で電話するとは言ったけど、正直迷ってるんだよな」

 

俺はベンチに座りながらガラスの向こう側で頭から巨大なヘルメットを被っている木綿季に言った。

既に木綿季の体内からHIVウイルスは消えて無くなっている。

木綿季が装着しているメディキュボイドも本来なら外しても構わない筈だった。

しかし、木綿季は”もっと臨床試験のデータ欲しいですよね?なら最後まで私を使って下さい”と担当の倉橋先生に言っていた。

こうして現在も木綿季は絶賛メディキュボイドの臨床試験を継続している。

ただ、AIDSで発症した病気も順調に完治の道を突き進んでいるので残り1年もしないで無菌室から一般の病室に移動になるだろう。

木綿季を支えていたメディキュボイドともお別れは近い。

 

『和人はそのGGOの調査に行きたいの?』

 

「報酬の値段がいつもより高いから出来れば行きたいんだけど………GGOって”プロ”がいるんだよ」

 

『”プロ”?』

 

天井の隅に取り付けられているマイクから?が飛んできた。

俺はその?を受けとると?の上の部分を真っ直ぐにして!に作り上げた。

木綿季が”ああ!”と納得できるように優しく!を投げ返す。

 

「GGOってゲームは戦闘とかで貯めた金を現実での金に変える事が出来るんだよ。この機能を利用して生活を成り立たせようとしている奴等をプロって言うんだ。他のゲームでは課金で現実の金を仮想世界の金には出来るけど、仮想世界の金を現実の金に出来るのは日本だとGGOだけ」

 

『ああ!ゲームが仕事場って事だね』

 

「そうだな。今日もせっせと銃を撃ちまくってるんだろうな」

 

『和人と一緒だ!!』

 

”ゲームプレイで金を稼ぐ不安定な生活はしたくないなー”などと呑気に思っていたら木綿季が無邪気に”お前は奴等と同類だ!”と言われてしまった。

思い返してみると、VRMMOのゲームの調査で金を稼いでいる俺は確かに同類ということになる。

何故だろう、ユイから”国家エージェントなんですね!!”と言われて浮かれていたけど急に駄目な人間に思えてきた………

 

「うん………就職先どうしようかな………」

 

『あれ!?目から光が消えていくよ!?え?ボクなんか悪いこと言った!?』

 

マイクからあせあせとした声が忙しなく聞こえてきた。

悪気0%の思ったこと言っただけ100%で作られた木綿季の言葉には結構な精神的ダメージを心に与える。

今の俺だと木綿季の攻撃を喰らい、木綿季をどうやって養っていこうか壮大な悩みを植え付けられてしまった。

今の家でずっと過ごす?親の年金食い潰す?それとも安い団地でDANDANDADANDANと皆でRANRANRARANRANと暮らすか?でも、団地だと近所付き合いが………

悩みは尽きのうござんす………

 

『ほ、ほら!好きな事を仕事にするなんて良いことだし!!ボクは和人がしたい事をすれば良いと思うよ!!』

 

「したい事………」

 

本能”俺がしたい事は………木綿季とデートだ!”

理性”違うだろ!木綿季が言ってるのは将来の事で遊びの事じゃない!”

本能”はっ!デートだって将来に関わる事だろうが!!”

理性”そうじゃない!!会話の流れを考えろよ!!”

本能”全く………そんなんだからSAOの時恋人止まりだったんだよ!!”

理性”何だと!!”

本能”現実だとまだ結婚しちゃいけない歳だけどSAOではそんな法律関係ないだろ!!あの時の告白も結婚してくれぐらいの事を言った方が良かったんだ!!”

頭の中でエーちゃん並に本能と理性が言い争っている………

それに、内容が少しずつ逸れてしまっている。

本題から離れて頭の中がこんがらがってしまう。

ステイクールだ………落ち着け………落ち着け………

 

「和人君。残念だけど、そろそろ面会時間終了だよ」

 

「えっ?あ、はい!分かりました」

 

心を落ち着かせていると廊下から倉橋先生がやって来た。

ひょろっとした外見からはこの人が名医だと誰も思わないだろう。

俺は立ち上がって耳にある補聴器もどきをコンコンと指で叩いた。

今の振動で仮想空間でアイと遊んでいるユイに信号が送られて帰る事が知らされる。

今日はいつものコンビではなく交代してみたのだ。

木綿季にアイが俺にユイ。

カーディナルは基本家出少女なのでたまにしか俺や木綿季の所に来ない。

可愛い子には旅をさせろだ。

 

『パパ、入りましたよ!!』

 

右耳からユイの声が聞こえたのを確認すると歯を1回鳴らして返事をした。

 

「それじゃ、明日は仮想世界でな。倉橋先生、では」

 

『うん。冬場限定のクエストもあるから皆でやろうね』

 

「また来るといいよ」

 

俺は手を振って病室を後にする。

倉橋先生が笑顔で手を振ってくれた。

木綿季も自身の仮想空間で手を振ってくれていたら嬉しい限りだ。

俺はそのまま迷路のような病院内を歩き回った。

幸い、壁を伝っていればロビーに辿り着くのは証明済みなので、特殊な場所にある木綿季の病室からでも迷わず進める。

時折他の看護師や医師とすれ違うけど、事故で入院もしているし珍しい機械での臨床試験を行っている患者のお見舞いに幾度となく来ているので顔を覚えられた。

顔パスって凄い。

今では休憩室のお茶請けなどのお菓子や小さなスイーツを貰えるぐらいになった。

 

「ユイ、曲を流してくれ」

 

この補聴器もどきの力はアイやユイやカーディナルのAIが入れるだけでなく音楽を聴くためのミュージックプレイヤーという機能がある。

歩きながら考え事をするときに便利だから搭載させました。

部品集めに手間が掛かったけど良い物が作れたから満足している。

 

『了解です。何にしますか?………と言ってもパパはいつもこの人の曲を聴きますよね?』

 

誰の曲かも言っていないのにユイが丁度いい具合に音量が調節されたクラシックを流す。

勿論、その曲は俺が聴きたかった曲なので文句も何もない。

てか、ユイに文句が無いのは当たり前である。

 

「ありがとう。考え事をするときはこの人の曲が1番良いからな」

 

『凄く有名な訳ではないですけど、この人の曲は私も好きです』

 

俺は病院を出た後も、バスに乗ってるときも、電車に乗ってるときも思考を加速させていた。

菊岡さんの依頼についてだ。

木綿季には本質の依頼内容を伝えずただの調査だと言っておいた。

余計な心配は無用だからだ。

それにお陰で木綿季からいい言葉を貰った。

自分のしたい事………

家に近づくに連れて結論が明確になっていく。

ありふれた住宅街に1つ明らかに面積が違う家が見えてきた。

昔ながらの甓2階建てで広い庭。

剣道のコートが1つ入るぐらいの離れもある。

この家が俺の自宅とは………

 

「やっぱり………」

 

『どうしました?』

 

玄関前に立った時、口から溜め息と共に声が漏れた。

どうやら、俺は結局あの腹黒眼鏡の犬みたいな者らしい。

いつか噛み付いてやる。

嫌だなー、嫌だなー、と思いながらも依頼を受けないといけない。

腹黒眼鏡の無茶ぶりをこなす俺って本当にお人好し!!

 

「どうして()()()()()は、もっと大きな場所でライブしないのかなって」

 

『そうですね。武道館でやるなら私も行きたいです』

 

「よし、武道館かは分からないけど、いつか皆で神崎エルザのライブに行こうな」

 

『はい!!』

 

ユイの満面の笑みが想像できる。

俺と木綿季、アイとユイとカーディナル。

5人家族で行けたら最高だ。

その為にも”死銃(デスガン)”とか言う若干痛い名前のプレイヤーに殺されないようにしよう。

銃の名前や性能も勉強しないと。

やることは多いぞ!!

 

「ただいまー」

 

俺は我が家に足を踏み入れた。




地味に神崎エルザさん出しました。
さて、次回はGGOにログインするのかな?
まだ決めていませんが早くログインさせたいです!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

61話 GGO

夏休みの宿題が明日で終わりそう!!
順調にやれば苦にならないですね!!
8月は遊んでやる!!
ネットしたり、本読んだり、図書館行ったり、昼寝したり………
雰囲気の良い隠れカフェで読書も良いなー、独りで。


銃の始まりは8世紀末頃の唐で作り出された飛発と呼ばれてるハンドキャノンだとされている。

飛発はパイプの側面に穴を開けたりしただけの本当に単純な物だった。

当然、命中率等が低く過ぎて実戦ではあまり役に立たなかったらしい。

しかし、皆がよく知る火縄銃は火薬や銃の始まりである唐、中国の高度な銃技術が元となりヨーロッパで産み出されたのだ。

信長も中国様々だろう。

そして、銃の歴史は進んでいき市民を守る警察官も装備をしている拳銃やゲームなどで1度は憧れるスナイパーライフルなどが次々と開発されていったのだ。

銃は凶器。

 

「………」

 

”貧乳はステータスだ!希少価値だ!”泉こなたなる人物が言い放った非常に有名な名言である。

しかし、元ネタは18禁のゲームだと知った時、一瞬自分の身体全てが機能停止になった感覚に陥ったのはよく覚えている………

まぁ、兎に角だ。

今の世の中、貧乳が負け組で巨乳が勝ち組という設定、ルール、常識が暗黙で確立されている。

だがちょと待ってくれ。

我が日本では昔、国民の半分以上が貧乳の象徴であるAカップであった。

それが時代の流れ、欧米化と共に胸が大きいとモテるやスタイル抜群に見えるといった概念が日本人に生まれてしまったのだ。

その時代の女性達は胸を大きくしようと男性には決して理解出来ない程の努力をしたのだろう。

つまり!!貧乳とは日本人という人種の誉れ高き特徴であり、悲観するものでは無いのだ!!

むしろ!貧乳または貧乳好きは古くからの日本人の血と日本文化を色濃く反映させた日本の中では貴族張りの高位な存在なのである!!!

………違うか?いや、寝たきりだからと言って木綿季だって巨乳とは呼べないし逆に普通より若干小さいし気もするし。

可愛い=正義という絶対的な公式が有る限り俺の貧乳高位理論論文は正しい筈だ。

 

「……………!!」

 

だから、だから、だから………!!

ガラスに反射して映る、男の娘故に貧乳に見えるこの美少女アバターが黒光りする色々な銃をぶっぱなしながら無双すれば必ずと言って良いほどに数日も経たずして一躍有名人に成れてしまうかもしれない!!

不幸真っ只中にでも幸運を見つけろ!!

GGO首都のグロッケンの一角。

ドーム状の大きな建物に背を向けて、たなびく肩よりも長い髪をふさっと右手で掻き上げた。

直後、中年男のアバターをした人物が声を掛けてきたけど即座に逃げた。

なんか”体くれ”みたいな事を言われると思ったからだ。

いやー、危なかった、危なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は菊岡さんの依頼を受ける事にした。

こんな危険度MAXで国がひた隠しにしているVRの謎事件の調査など本来なら絶対に受けないだろう。

だが、いつしかこの事件が公に報道されたら今後のVR技術に不利な世界になってしまう。

確かに今までもVR関係の事件は多くあった。

そんな事件の中でもこの事件は特別なのだ。

VRの世界から直接現実世界の人を殺すことが出来ると判明すればVR自体禁止になるかもしれない。

規制やセキュリティが出来ても必ず悪い奴らがそれを破る方法を見付ける。

ウイルスなどと同じ、いたちごっこになってしまう。

それもハッキングで住所を割り出しその情報を暴力団に売るなど間接的な命の危険ではなく、直接的な命の危険。

………そして俺が一番気にしているのはメディキュボイドなどの医療に関するVR技術の廃止の危険性。

VRが禁止になれば当然、木綿季が頑張って協力したメディキュボイドの臨床試験データが無駄になってしまう。

それだけは何がなんでも阻止しなくてはならない。

と言うことで俺はGGOの環境に素早く適応できるように、菊岡さんへ依頼受理のメールを打つとその次の日には無断でGGOにログインしていた。

俺がGGOにログインしている事を知っている人物は木綿季と3姉妹にエギルだけ。

何故エギルかというとゲームからゲームへとデータの引き継ぎはステータスだけでアイテムやお金は引き継げないからだ。

エギルはアルヴヘイムオンライン通称”ALO”の首都ユグドラシルに店を開いているので全部預けているのでGGOの事を知っている。

勿の論で詳しい内容は木綿季の時同様話してはいない。

金が少しでも減っていたら殴っちゃるけんの。

 

「金がない」

 

ぶらぶら歩きながら考えていた事、金欠だった。

エギルの店にある俺の金が減ろうが減るまいが今の手元にあるのはバリバリ初期金額。

ついでに適当に歩いていたので、現在地が全く分からない。

金欠、迷子、というか何をすればいいか分からない。

凄くまずい事態に置かれているんだった。

フィールドに出てモンスターでも狩ろうとしたけど、銃の撃ち方なんて曖昧だし撃った事ないしそもそも、どっちがフィールドなのか知らないし。

というか、GGOの世界設定は宇宙がどうちゃらこうちゃらの近未来。

太陽もほとんど顔を出さず空は黄金色、コンクリートジャングルの摩天楼なグロッケンは例え地図があったとしても迷うのは確実な気がする。

絶賛ヘルプミー状態だった。

 

「逆ナン………」

 

美少女に見える男の娘アバター。

これを巧みに扱えば数人の男が釣れる気がする。

しかし、GGOは筋肉質なむさ苦しい男がわんさか居るので、上手く喋られるか不安だ。

だって………若干このアバター現実での俺と似ているんだもん!!

なにこれ!?現実の俺がちょっと本気を出せば再現できそうなんだけど!!

現実と似ているだけで上手く話せなくなる。

相変わらずのメンタルなのだ。

だから、こそこそ周りの視線を避けるようにしている。

迷子の原因はこれか………

 

「………まぁ、どんな雰囲気な場所とプレイヤーがいるかはよく分かったしいいか」

 

このままログアウトしてちゃんとGGOの事を調べてから再度ログインしよう。

ついでにアイも連れて来よう。

依頼内容は別として色々と協力してくれるだろう。

逆に協力してくれなきゃ泣くぞ。

アイの協力を信じて、俺はメニューを開きログアウトボタンを押そうとした。

その時だった。

 

「見付けました~!!」

 

「だっ!?」

 

背中からドロップキックを喰らったような感覚に襲われた。

実際に喰らっていたのだけど。

両足を踏ん張って何とか踏み止まろうとしたが、虚しく顔面からコンクリートの地面に顔面ダイブした。

残念なことにGGOファーストキスはコンクリートさんとになってしまった。

この野郎………俺の唇は木綿季、アイ、カーディナル、ユイの物だ!!

それをコンクリートなんかに奪われるなんて………

流石に文句を言ってやる!!

 

「ちょっ………と何でもないです。ごめんなさい」

 

無理でした。

初めは勢い良く声が出たのに彼女を見てから急激に勢いが失われて更には謝ってしまった。

それもそうだ。

黄金色の空、コンクリートジャングルの所々に付いている電光掲示板。

彼女の銀髪は元の銀色をベースとして色鮮やかに輝いていた。

青い瞳には腰を落としている情けない俺が写り、眼力には明らかに怒りが混じり混んでいる。

服装は初期装備で味気無い物だが、それに関係無く美しい。

俺は誰よりも彼女の事を知っている。

………彼女が置いてきぼりにされた際の怒りも当然。

冷や汗が頬を伝っていくのを恐怖の中感じた。

協力を求むなら最初から求めれば良かったと深く後悔。

全知全能、全てを知っている。

そんな目をしていた。

 

「あー、来てくれてありがとう………」

 

両手を胸の前で振りながら遠慮うがちに言った。

しかし、彼女は不動。

アニメや漫画で”味方で良かった………”のような台詞をよく聞いたり読んだりする。

その味方が敵になってしまった気分だ。

 

「キリト様の………和人様の………パパの………馬鹿~~!!!」

 

「うぶ!?」

 

アイが放った強烈なビンタにより身体は吹き飛んで、チカチカ点滅する電光掲示板に激突した。

電光掲示板が壊れなかったのは幸いだった。

金無いからね。

 




前半、自分でも変なのは分かってます。
夏の暑さでおかしくなっているのでしょう。

そんな事より!GGO入りました!!
ただ、原作よりも早いタイミングでログインしています。
キリト無双をするにはキリト君を特訓させねば………

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

62話 戦闘スタイル

夏休みの宿題を7月中に終わらせて後は休みを満喫するだけ!!
ヒャッハ~!!!


 

 

「バレット・オブ・バレッツ?」

 

「通称”BoB”。GGO内で最も有名な大会で最強のプレイヤーを決めるそうです」

 

そう言って、アイは自分のウィンドウ画面を俺に見せてきた。

”Bullet of Bullets”

傷だらけの白い文字でかっこよくタイトルが表示されている。

背景は壁なのか地面なのか色褪せた肌色。

ALOとは全く異なる印象を受ける表示の仕方だった。

ファンタジーなALOでは種族が多くに別れているにしても大会では1vs1が基本。

フィールドも平坦な場所か広い空中が常識。

正々堂々な決闘スタイル。

しかし、BoBの宣伝と一緒に書かれている簡単なルールを読むとどうもGGOでは正々堂々なんて言葉は存在しないらしい。

 

「森に沼に泉に廃ビル街………山あり谷あり………」

 

まずフィールドの広さ。

キロメートル単位とGGO初見プレイヤーからしたら”は?”なビッグフィールド。

しかも、予選では森なら森、廃ビル街なら廃ビル街と1つのフィールドイメージなのだが、本選にもなると予選で登場した森や廃ビル街などが全て結集される。

俺は最初、映画などで見るカーボーイが10歩進んだ瞬間に振り向いて撃つ!!の闘い方が基本だと思っていたのだが根本的に違うらしい。

 

「一緒に載っているダイジェスト版の動画もどうぞ」

 

アイが一端ウィンドウを戻して幾つか操作すると俺と肩をくっつかせる距離まで近付いてきた。

一瞬、ドキッとしたけど2人で動画を見るためだと理解するのに時間は掛からなかった。

端から見ればゆるゆり状態に見えるのだろうけど、()()ならそんな心配もない。

俺が他人との関わりは必要最低限に限るなと勝手に満足していると去年、つまり第2回目のBoBの戦闘シーンがアイの画面で流れ初めた。

画面は暗い森の中だった。

 

『ババババババッ!!!』

 

連続して撃ち出される弾丸がカーボーイハットを被ったちょび髭おやじを蜂の巣にしていく。

あんな攻撃、自分を狙う敵を見つけてからじゃ全ての行動が遅過ぎる。

それに背後からの不意討ちでちょび髭おやじは全然対処出来ていない。

撃たれた感覚で全身がビクビクと痙攣しているみたいだ。

そして、何の反撃も出来ずに呆気なくちょび髭おやじは退場となった。

倒したプレイヤーは自衛隊が着ている迷彩柄の服に迷彩柄のヘルメット。

辺りの草を抜き取ったのか全身草だらけになっている。

そんでなによりも………

 

「木の枝から逆さまになって撃つのかよ」

 

その自衛隊はなんと木の枝に足を絡ませて逆さまになりながらちょび髭おやじを狙い撃ちしたのだ。

このとんでも技術を持ったプレイヤーが所謂”プロ”なのだろう。

自衛隊がちょび髭おやじの退場を確認した所で次の場面に切り替わった。

今度は廃ビル街。

今にも崩れ落ちそうな廃れたビルの屋上に水色の髪をした少女がいた。

少女が構えているのは自らの身長よりも明らかに大きなスナイパーライフル。

ここまで大きいと対物ライフルだろうか。

スナイパー少女は息を潜めながら体を倒し、スコープを覗いている。

 

『………ドンッ!!』

 

スナイパー少女が躊躇いも無しに引き金を引いた。

カメラもいきなりの事で対応が遅れている。

それでも何とかカメラは飛んでいった弾丸の後を先回りした。

写ったのは廃ビルの角に背中を押し付けている重装備の巨体。

膝などのどうしても曲げたりしないといけない間接部分にはゆるっとした鎖。

そこ以外は全て銀色に輝く金属で覆われている。

顔ですらすっぽりと金属のバイクヘルメットみたいなのに守られていて”如何なる銃弾も弾き返すぜ!!”感満載だった。

しかし、そんな男か女かも判別不可能な金属生命体は胴体ど真ん中に大穴を開けられることになった。

 

『ドガンッ!!!』

 

「「おぉぉ………」」

 

思わずアイと一緒に小さな歓声を上げた。

何と、スナイパー少女が放った弾丸が廃ビルの角ごと吹っ飛ばしピンポイントで金属生命体の中心を消し飛ばしたのだ。

金属生命体も背骨を海老ぞりにした後、自分の体に空いた大穴に手を当てて”なんじゃこりゃ~!!”みたいに崩れ落ちた。

重装備だったから吹っ飛ばされずに踏み止まれたのだろう。

しかし、踏み止まれてもHPを見なくても明らかに即死なダメージを負っている。

重装備虚しく、金属生命体はここで退場となった。

スナイパー少女はスコープ越しにそれを見ていたらしく当然のような顔をしていた。

その後、次の試合も、その次の試合も、決闘のシーンは現れなかった。

不意討ちやら爆弾トラップやら、谷底目掛けてミニガンをぶっぱなして弾丸の雨を降らせたり。

これは最早決闘とか生ぬるい考えを捨てないといけないようだ。

想像してたよりもアグレッシブな戦いに俺もアイもたじたじだった。

 

「本当にこのプレイヤーの中から死銃を見つけるんですか?」

 

「………自信がない」

 

死銃を見つけ出すには多分、この大会に出て有名になるのが一番手っ取り早い。

だが、この”プロ”集団の中を生き抜く自信が全くない。

そもそも狙われたら終わりだし銃なんて避けようがない。

スナイパーに至ってはほとんど1キロメートルの射程だった。

 

「でも、やるって言っちゃたしな………」

 

死銃が存在するのなら奴もこの”プロ”と同等の力を持っているのかもしれない。

銃なんて触ったこともない俺が銃のスペシャリスト達と渡り合える筈がない。

蜂の巣、大穴、確実だ。

それに銃の扱いは経験だと聞いたことがある。

経験が皆無な俺は駄目な奴。

 

「カーディナルに真相を突き止めるの手伝ってもらうか?」

 

「カーディナルはもう管理者では無いですよ。それに調べても和人様と同じで”不可能だ”と言われるだけでしょう」

 

存在事態あやふやな死銃の為に”プロ”というマジモンを相手にしないといけない。

これはもう報酬アップしてもらわないと割りに合わない。

幸いにもBoB開催にはまだ数日あるのでGGOの世界の事や武器の事、戦闘の事を学べる時間は結構ある。

この数日間でどれだけGGOに適応出来るかが鍵になるだろう。

 

「FPSもプレーすればよかったですね」

 

「本当にな………」

 

FPSをプレーしていれば銃の特性やら身のこなし方などの最低限の知識は分かっていたのに。

RPGばっかりプレーしていたのが仇となった。

それからレースゲームに戦闘機のシューティングゲーム………アクションとか………

結構なゲーマーだな。

そう言えば、好きとは別に得意だったのはアサシンクリードだったな。

フリーランニングとかカッコいいし、暗殺とか俺好みだし………

 

「フリーランニング………パルクールと暗殺………」

 

俺はふむと顎に手を当てて考え込んだ。

別にわざわざ敵と同じ土俵で勝負しなくてもいいんだ。

このGGOは銃を主体とした戦闘ではない。

()()()戦闘なんだ。

近未来をモチーフにしてるのならナイフもあるだろうし、トラップなら今の動画に映っていた。

パルクールなんてSAO時代にコツの特訓に日常的にやっていた、というかコツを使えばいいんじゃん。

コツを使えるのは今のところ俺と木綿季とアイだけだろう。

アスナとクラインも素質はあるけど練習してないから使えない。

 

「戦闘スタイルが決まったようですね」

 

アイが不敵に笑ってきた。

対して俺も不敵に笑ってみせる。

 

「ゲーマーで良かったよ」

 

暗殺。

銃で渡り合えないのなら渡り合わなきゃいい。

勿論、銃を扱うことにはなるだろうけど、使う銃を極める事なんて出来ない。

なら、全体的にある程度扱えるぐらいにして相手から奪っちまえ。

SAOでも武器を奪ったりするモンスターも居たし、プレイヤー同士でも武器を奪う事は出来た。

GGOでも出来ると信じよう。

 

「では、まずはチュートリアルが出来る武器屋に行きますか?」

 

「そうだな。場所は分かるか?」

 

「お任せを」

 

アイは胸にトンと拳を当てた。

そして、俺とアイは同時に立ち上がり下を見渡した。

光が点々としていて世界観通り近未来に来た気分だ。

それに高い位置だから”まるで人がゴミのようだ~”

そう、俺達が要るのは天高くそびえ立つビルの天辺。

こんな所までグラフィックが届いてるとは最初は驚いたものだ。

 

「私に着いてきてください」

 

「了解」

 

アイが先にビルから飛び降りると、その背中を追って俺も飛び降りた。

黒いガラスに落下する2つの影が見てとれる。

そのガラス壁を蹴り、向かい側のビルに飛ぶとまた、蹴って最初のビルに戻る。

そうやって少しずつ落下の勢いを殺していく。

 

 

さて、本気を出しますか。

 

 




もう、自分の趣味が反映されまくってます。
FPSはやってないんですけど、アサシンクリードはバリバリやってます。
ここのキリト君は正面からの無双より裏からの無双がいいなと思った時に浮かんだアイデア。
はっはっは!!!作者は自分だ!!どんな無茶ぶりも言い訳と一緒に通せるのだ!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

63話 準備

超個人的な質問です。

My Song (Angel Beats!)

銀の龍の背に乗って(中島みゆき)

Bad Day(Daniel Powter)

どれかをアコギで弾きたいのですがどれがいいですかね?


『うむ!お前は全ての武器を器用に扱えるオールラウンダーだ!』

 

「………」

 

目の前に立って見下してくるエギル以上の巨漢が逞し過ぎる腕を組んで言い放った。

チュートリアルは教官が教えてくれるとチュートリアルを受ける前の説明に書いてあった。

しかし、教官は教官でも色々種類があったらしい。

想像では軍隊の隊長のような細マッチョが教えてくれると考えていたのだが、実際に教えてもらったのは白目につり目に何故か上半身裸のゴリマッチョ………

チュートリアルは1人で行う為にアイがいない。

流石に驚きすぎて口が常に3を横に倒したような形になっていた気がする。

 

『さぁ!荒野に赴き暴れまわるのだ!!もし死んだら俺が1から基本を叩き直してやる!!』

 

「………」

 

ゴリマッチョ教官の背後に”バーン!!”という文字と眩しい光が幻覚なのか見えてしまった。

うん、多分仕様だろうな。

このゴリマッチョ教官の迫力を引き立たせる為のエフェクトに違いない。

俺がやったら”シュバフィーン”と薔薇と一緒に出てくるかもしれない………女みたいなアバターだから。

 

「アイも終わってるかな………」

 

俺はチュートリアル用に用意されたこの無駄にだだっ広い金属空間から出ようとたった1つしかない出入り口に足を運んだ。

出る瞬間にチラリとゴリマッチョ教官の方を覗いたらピクリとも動かずに腕を組んで俺を見送っていた。

もしかして、筋肉が発達していて腕がほどけないんじゃ………

 

『簡単に死んだら殺す』

 

一発厳しいお言葉を貰いました………

叫びもせず残酷な言葉を地獄から這い出てきた魔物のような低い声で言っきた。

だが、俺は絶対に死なないぞ!

だって俺にはアイが着いているのだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイトです」

 

「Oh my fucking god!!」

 

騒音が物凄く五月蝿いギャンブル場。

その一角にあるギャンブルには珍しいチェスのギャンブルテーブルがあった。

気取ってラフな格好の男が机に足を置いてプレイヤーを待ち受けていた。

だが、チェスはギャンブルというか実力なので俺達以外の誰かが挑んで賞金はあまり高くない………と思っていたら何と賞金が50万。

勝てば50万クレジット貰えると言うことだった。

あんなカッコつけに50万もの価値があるようには見えないのだが、本を表紙で決めてはいけないのと同じで強敵なのかもしれない。

まぁ、強敵であったとしても負けることはあり得ないでざますわ。

 

「キリト様。ネトゲでたまに見かけるOMFGですよ!」

 

「お、おう」

 

GM、IM、FM、IGMにも引けを取らない実力の持ち主であるチェス王アイ。

彼女から”無礼な態度ですね。気に入りません”の一言を受けたカッコつけのチェス戦士は打ち首………つまりボコボコにされてしまったのだ。

王自らの手によって。

圧倒的な力の差を見せつけられたカッコつけのチェス戦士には哀れみの視線しか送れない。

そんな時、周りにいる野次馬プレイヤーは驚いてアイに声を掛けようとしていた。

全く、まだ一応ゲームの中のゲーム中だ。

金が手に入るまでアイの邪魔はさせない!!

 

ガン!!

 

壁を蹴って音を鳴らした。

コツを使った蹴りはシステムで守られた壁は壊せなくても音はよく響いた。

お陰で()()()()()()()殺気を漏らしている俺に気が付いてくれた。

前髪垂らして目を隠している俺はまるで貞子。

貞子が壁を蹴って殺気を放ってる場面はそうそうない。

計画通り………野次馬プレイヤー達は足を引っ込めてくれた。

 

「キリト様、これ」

 

「ん?ああ、その中が金なのか」

 

ボコボコにしてスッキリしたのか機嫌良さそうにアイがアタッシュケースを頭の上に掲げた。

黒い木製のアタッシュケースだけど止め金はしっかりとしている。

チェス開始時はカッコつけチェス戦士の足下にあった大金も今や外見約10歳、実年齢5歳の少女の手に渡ってしまった。

なんと悲しい世界だろうか。

けど、どうせカッコつけチェス戦士は貯めるだけで使わないのだ。

金は物を買うために国が作った物。

使わなければ意味がない。

 

「んじゃ、次は俺の番だな」

 

「ダーツなんてどうですか?」

 

ゲームセンター荒らし。

全国各地に存在する凄腕ゲーマー。

彼らにとってゲームセンターは餌場同然。

欲しい物がワンコインで手にはいる夢の王国。

 

ギャンブル場荒らし。

今の所、全国に2名でGGO内にあるギャンブル場で荒稼ぎする凄腕ギャンブラー。

2人にとってギャンブル場はゲーム内での簡単金稼ぎ場同然。

プレーすればほぼ確実に大金を手に入れる。

もしも、2人がGGO内にあるゲームの通貨を現実での電子マネーに変えられる有名なシステムを利用する計画を立てたらどうなるのだろうか?

 

「そういえば、態度が気に入らないからってそこまで怒るか?」

 

「____睨んでたからです」

 

「え?」

 

「キリト様を睨んでたからです………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地味」

 

「うっせ」

 

十分過ぎる程の軍資金を稼いだので早速、戦闘の為の準備を始めた。

まず立ち寄ったのは街の仕立屋、もとい戦闘服屋。

動きやすい服装を重要視してファッション関係無く選んでいるとこうなってしまったのだ。

程よく余裕がある(かち)(かえし)色の長ズボンと長袖。

逆に靴は余裕を無くして力が入れやすいようにピッタリのを選んだ。

そして、足首の所まである長い黒のフード付きマント。

SAO時代を彷彿させる見た目となった。

違う所を指摘するならば。

 

「それにしても、髪を縛るのGOODですね」

 

「邪魔になるからな」

 

俺は髪を結んでいた。

だが、髪の結び方なんて習ったことないので首の後で結び1本に纏めてあるだけだ。

顔を右に左にと振ると後ろの髪が左に右にと揺れるのが分かる。

髪を切るという案もあったのだが、悲しいかなどうも切りたくないと謎のプライドが生まれてしまったのだ。

アイはグッと親指を立てている。

この子最近こういう外見とかに気が緩む時があるんだけど………

ユイが出来たからか?

 

「これが俺かよ………」

 

俺は店に置かれている姿見を改めて覗いた。

服装はマントしか見えないので地味。

しかし、顔だけは美人さん。

髪を後ろに結わえただけなのに女子感が増している。

首を振って後ろの髪の位置を確認して、試しにニヘラと鏡の向こう側にいる少女に笑いかけてみた。

少女はへにゃっとした苦笑いで返してきた。

その少女に見える男が自分だと分かっているのにドキッとしてしまう。

なんだこれ?

服装とのギャップで顔が良く見えてしまっている。

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花ではないか!

かくしん的☆めたまるふぉ~ぜっ!ではないか!!

ポテチを手にしてパソコンとにらめっこ出来るレベルではないか!!!

いや、俺は可愛いもこっちみたいなコミュ障の子が好きなんだよな。

なんというか親近感が………

 

「それよりもアイは意外と普通だな」

 

俺は鏡から目を離すと俺みたいに胸当てや籠手などの鎧系装備をきれいすっぱり外した姿とは違い最低限ながらもちゃんと胸当てなどを装備したアイに目を向けた。

全体的に鼠色のアイは鼠のアルゴ2世のようだ。

そんでこちらは。

 

「ポニーテールGOODだ」

 

流石俺とは違い本物の女の子。

長い髪を綺麗にポニーテールに纏めている。

いつもはだらんと下ろしているので新鮮味があっていい感じだ。

そんなアイに見とれているとアイは残金を確かめてから店を出ようとした

 

「では、武器屋に行きますよ」

 

「そうだな」

 

俺は黒のアイは灰色のフードを被り店を出た。

そんで店を出た瞬間にアイが全力で横にダッシュ。

角を曲がってマリオジャンプよろしくと壁蹴りで上に向かう。

俺はというとそのアイの後ろにくっついて行くだけ。

それにしてもこの”コツ”と呼んでいる技術。

考え出した俺でさえもチートだと思ってしまう。

だが、これはチートではなく技術だ。

規制も禁止もされない。

チーターどもにも負けないぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流石は外国サーバーを置くGGO。

巨大な武器屋内は和の欠片もない科学的な場所だった。

 

「キリト様はどんな武器を選ぶんですか?」

 

「普通にナイフかな。一応ハンドガンも買おうと思ってるけど。その他には小細工道具かな」

 

「小細工道具って………」

 

アイは言い方に違和感があったのか微妙な顔をして口を半開きにした。

俺の戦闘スタイルは暗殺なんだから小細工道具は必須だろ。

ワイヤーとかロープとか火薬とか接着剤とか。

相手が人間であるかぎり小細工は通用するのだ。

タコ型超生物とかだったら無意味だけど。

 

「アイはどうするんだ?」

 

「私は髪が銀色なので暗殺は不向きです。あくまでキリト様のサポートが私の役目。アサルトライフルとかにします」

 

俺はフードを被っていても正面から覗くと少し見えてしまうアイの銀髪に納得した。

VR技術は日々進化している。

なので、GGOに限らずVRゲームの情報量は増している。

光の反射や影の付きかた水の再現、道具同士を組み合わせて自己流のオリジナル道具をスキル無しで作れたりもする応用性。

アイの場合、普段は誰もが羨む銀髪が光の反射で常に影にいる暗殺に向いていないのだ。

 

「アイが主役でもいいのに」

 

「駄目です。私は脇役で主人公はキリト様なんですから」

 

主人公と言われて何か小っ恥ずかしくなる。

あれかな?

アイは主人公より脇役で出てくる格好いい人物が好きなのかな?

ハリー・ポッターならシリウス的な感じ。

俺も主人公より脇役の方が好きなんだけど………

まぁ、アイにとって俺が主人公ならそれでも良いか。

だってアイなんだもん。

 

 




微妙な所で終わらせてしまいました。
武器を買ってるところも書こうと思ったのですが、アイはともかく暗殺スタイルのキリト君が何を買うかを詳しく書いたら馬鹿な自分の考えている戦闘方法がバレてしまうかもしれないので結局書きませんでした。

では、評価と感想、ついでにどの曲が良いかお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

64話 鬱憤晴らし

ソードアート・オンライン16色々戦闘シーンや意識ナッシングなキリトのハーレム状態とか面白い場面が沢山ありましたね!!
しかし、自分は1つだけ言いたいことがありました………
クライン!!ユイのことをユイッペとか言うなよ!!
ユリッペ想像しちゃったよ!!
死んだ世界戦線だと思ちゃったよ!!


 

 

「ユウキちゃんよ………頼むから店のカウンター前で漂うのは止めてくれねーか?」

 

「えー、これ面白いよ」

 

アルヴヘイム・オンライン、通称”ALO”

この世界の中心であり首都であるユグドラシルという街の一角、そこそこ繁盛している店がある。

武器や防具を売ったり買ったり、ドロップした素材アイテムまでも扱う何でも屋だ。

そんな店のオーナーである屈強な肉体を持ったエギルが見た目とは裏腹に困った顔をしていた。

その理由は中々の広さを持った店のカウンター前をALOだけの特権である羽を使ってプカプカと浮かぶボクだ。

エギルが溜め息を吐きながらドッシリとカウンターに肘を突いている。

迷惑だと分かっているけど今日は少し相談があるのだ。

店の経営に関わるけど、そこは今度素材調達などで埋め合わせで許してもらうよ。

 

「それで、俺の店の営業を潰してまでしたい相談ってのは?」

 

「なんか感じ悪いなー。まぁ、いいけど。エギルは知ってるでしょ?和人のコンバート」

 

「ああ、アイテムやら金やらを全部押し付けて行きやがったからな」

 

ボクは空中で体育座りのまんまゆっくりと回転しながら話を持ち出した。

お題は和人のコンバート。

和人は菊岡さんという政府の人からの依頼で他のゲームに旅立ってしまった。

他のゲームへコンバートすることは以前から度々あったけど、今回のコンバートには少し違和感を感じてしまったのだ。

いつもの依頼を受けた時の和人と雰囲気が違ったのを覚えている。

そこで、コンバートの度に和人がアイテムを預けているエギルに相談を持ち掛けることにし………他の理由も少しあるけど。

兎に角!!予想通りエギルも和人のコンバートを知っていたよ!!

 

「あのさ、何か変な所無かった?」

 

「変な所………あのときは店に他の客もいたからな。ずっとビクビクしていて常に変だったぞ」

 

それを聞いてボクはビクビク怯えている和人を想像してしまった。

たしかに、ビクビク怯えている和人は常に変で逆に普通の所を探すのが難しい程だった。

でも、ボクにはエギルの短い状況説明だけで和人が謎の行動をとっていると分かるよ!!

 

「和人は1人だったんだね」

 

「ん?そういえば珍しく1人だったな………」

 

エギルがふと思い出したようで顔を上げた。

ボクは”やっぱりね”と思っいうんうんと頷いた。

それと同時に今回の依頼はボクの知らない()()があると確信を持った。

和人の周りにはアイちゃんかユイちゃんがいるのが普通。

それなのに居ないとなると和人はかなり急いでたということになる。

………あれ?でも急いでいてもコンバートの時は絶対にアイちゃんが着いていってるし、アイちゃんも今回の和人の行動に疑問を抱くに決まってるし………

何が起きてるの?あら?えっと………

ボクはこんがらがった頭を整理しようと考え込んだ。

 

「う~、ん~」

 

頭を押さえたり口をつぐんだりして唸った。

和人だったら平然としながら正解を導き出すのだろうけど、凡人なボクには無理なようだね。

和人が何を考えて何を思っているのかが全く分からない。

ボクの持っていた確信がいとも簡単に崩れていく。

 

「ユウキちゃん?いったいどうしたんだ?」

 

空中で唸りながらぐるぐる回るボクに変な人を見る目でエギルは視線を向けてきた。

ボクは背中に生やしていた羽をしまって床に着地した。

 

「和人ってさ。表情に出やすいよね」

 

「表情に出やすいというか、真剣さが分かるな」

 

ボクの唐突な質問にエギルは狼狽えもしないで答えてくれた。

そして、エギルはボクの期待していた答えを口にしてくれる。

ボクは頷いてエギルを見た。

 

「和人がボクに依頼でゲームのコンバートすることを教えてくれた時になんだけどね」

 

「成る程ね………」

 

ボクが一旦区切るとエギルは手で頭を掻いた。

おまけに特大溜め息を吐いてからうつ向く。

そんなエギルにボクは敢えて続きを言った。

 

「”本気”………だったんだよね」

 

最後まで話すとエギルは突然立ち上がって店の奥に移動した。

”どうしたのかな?”と首を傾げながら待っているとすぐにエギルは戻ってきた。

蛇口付きの大きな樽を抱えながら………

アバターの巨漢をフルに活用しながら樽を運んできたエギルはカウンターにその樽を置いた。

冗談抜きで地鳴りが起こるぐらい大きな音だったからそれに合わせて少しだけジャンプまでしちゃった。

 

「何でそれを俺に言ったんだ?アスナとかスリーピング・ナイツの誰かでもよかったんじゃないか?」

 

エギルは樽と同時に持ってきた2つのジョッキの内の1つを蛇口に近づけて蛇口の栓を外す。

蛇口からは泡を起てながら黄金色の液体が滝のようにどんどん出てきてる。

誰がどう見ても未成年が飲んではいけないビールだった。

ボクは上半身も巻き込んで顔を横に曲げた。

しかし、エギルはお構い無しにジョッキにビールを注いで尚且つ質問さえしてきた。

 

「いや、スリーピング・ナイツと今会うのは………」

 

ボクは明後日の方向を向いて話をはぐらかそうとした。

でも、多分エギルには分かってるんだと思う。

エギルは和人やアイちゃんの次に頭が回るから、ボクがHIVに感染していたことを話した時にはもうボクの悩みに気づいている。

ボクだけ助かっちゃたことに。

 

「悩むのは良いけどな。その悩みをキリトの前で絶対に話さないでくれ。あいつは誰よりもユウキちゃんが治ることを祈っていた。けど、そのユウキちゃんが()()()()()を考えてたらつらいだろ。ほれっ」

 

「………うん」

 

ボクは目の前に出されたジョッキに手を掛けた。

さっきまで、ビールじゃないかと心配していたけど全く気にせずに飲むことが出来た。

そして、飲んでビックリ口に流し込んだのはリンゴの炭酸だった。

リンゴの炭酸は子供のお酒と聞いたことがある。

現実のビールもこんな感じなのかな?

そうだったら美味しくて酒豪に成れる自信があるよ!

どうして飲めない人がいるのかな?

 

「そんで?アスナじゃ駄目な理由はなんだ?」

 

「そんな!駄目なんかじゃないよ!!………その恥ずかしくて」

 

持っていたジョッキをカウンターに打ち付けて反論した。

そして、また明後日の方向を向いてしまう。

エギルは自分にも注いだ子供のお酒を飲みながら続きを待っている。

 

「エギルは奥さんいるでしょ?その………さ。好きな人に隠し事された時の対処方と言うか、男の子が隠し事をする時の心境とか色々聞きたくて………」

 

「ユウキちゃんの近くに居る色恋沙汰の経験を持った人物が俺だけだったと?」

 

ボクは恥ずかしながらも、首を大きく縦に振った。

それに、今は分からないけどアスナはきっと和人のことが好きだったんだと思う。

そんな子に相談は出来ないし、したくない。

ボクはズルいから………親友のアスナには側にいて欲しいと思ちゃうから………

 

「エギル、今日は溜まっていた鬱憤をここで晴らすよ」

 

「聞くだけならしてやるよ」

 

そのあと、ボクは浴びるように子供のお酒を飲んだ。

病院での検査に対する不満やまだ残る病気の治り遅いとどうしようもない不満まで。

でも、ボクが一番語ったのは和人に対する不満(のろけ)だ。

奥手過ぎるとかあの時はどうだったとかこうだったとか、色々晴らしてもらった。

エギルも共感してくれたり苦笑いしていたり反応してくれた。

終いにはエギルは奥さん、ボクは和人の良いところ言う合戦が始まったぐらい2人で盛り上がってしまった。

そんなだったからかな。

ボクがメールに気づかなかったのは。

 

「あ、シウネーからだ。えっと………ごめんエギル。なんか急ぎの用事みたい」

 

「そうか。んじゃ、ここでお開きだな。行っていいぞ。片付けはしとくからよ」

 

「ありがとう!!今度お礼に素材調達協力するよ!」

 

ボクは力一杯立ち上がって店を出ようとした。

ドアを開けるときにブンブンと大きく弧を描きながら手を振った。

エギルも軽くだけど手を振って返してくれる。

店の外に出たボクはスリーピング・ナイツのギルドホームがある街………………ではなくそこらの宿屋に特攻した。

シウネーが指した集合場所がALO内ではなく、ある意味僕らのホームであるバーチャルホスピスだったからだ。

誰かの命が危ないとかそういう話では無さそうだけど、急ぎの話であることは十分伝わった。

 

「でも、ボクだけなのが気になるなー」

 

シウネーが集合させたのはボク1人だけ。

ちょっと、ややこしいことなのかもしれない。

ボクは宿屋のドアを壊してしまう程の勢いで開くと素早くNPCの店員さんと話して部屋を用意してもらった。

鍵を受け取ると室内でも羽を使って決められた部屋にGO!!

戸締まりをちゃんとしてからベッドに横たわった。

 

「シウネーの病院って確か………」

 

と何となく呟きながら、ボクはSAO時代には存在しなかったログアウトボタンを押した。

 

()()総合病院だったけ………」

 




新川………
はい!!詳しくは言えませんがまたもや原作ブレイクです!!
今後のストーリーに期待してくださいね!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

65話 予選前のちょっとした事件

夏休みは何にもすることが無いので投稿スピードアップと思っていたのですが夏バテでそうでもないです………
自分の活動時期は冬のようです。


「ご、ごめんください………」

 

真っ白いドアに付けられた銀色の取っ手に手を掛けた。

細長い銀色の取っ手にはうにょーんと縦に歪んでいる奇妙な世界が映っている。

そんな世界を横にやり、恐る恐る声を出しながら忍者のように足を踏み入れた。

ドアを開くとそこには大きなベッドに見知らぬ機械。

そして、その機械を弄くる薄いブロンドの女性。

長い髪を後ろで1つの3つ編みにして看護服を若干着崩している眼鏡姿。

女性は入ってきた俺に気付きにんまりと笑う。

 

「おぅ、和人君久し振りだね!」

 

「ど、どうもです」

 

俺と木綿季がトラックに轢かれた時の事故。

その後の入院生活で大変お世話になった安岐ナツキだ。

”お姉さんって呼んで!”としつこく言ってくるアルゴこと安岐アオイの実の姉でもある。

何故そんなしつこく頼むのかアルゴに訊いたことがあるが”姉や兄がいる人は妹や弟が欲しいもんなんだゼ!!”と自分の願望を全ての姉や兄がいる人の願望のようにいっていた。

あの時からチノの気持ちが理解出来るようになった。

あれだけ言われると悪い気はしないけど、イラッとくるものがある。

 

「よろしくお願いします………」

 

俺は控えめに頭を下げた。

すると、ナツキさんは突如俺の二の腕をがっしりと掴んできた。

不意討ちで体を強張らせ息を飲んでしまった。

それでも我関せずとナツキさんは二の腕以外にも俺の体を弄んだ。

 

「ア、アノ!?何をしてるんですか!?」

 

遂に耐えかねた俺はバックステップでナツキさんの手から逃れた。

声が裏返ってしまい恥ずかしい思いもさせられた………

 

「も~、和人君筋肉無さすぎ。引き込もってばっかりなんでしょ?たまには運動もしないと駄目だよ」

 

両手の甲を腰に当てて不満そうに溜め息を吐きながら髪を交互に揺らす。

いきなり体をコネコネされたことで此方に不満があるのだが、言われていることが最もなので反論も出来ない。

 

「あ、そうだ。これあの人から預かってきてるよ」

 

「………手紙?」

 

あの人とは勿論腹黒眼鏡だ。

今日は例の死銃事件の調査に出る日。

もしもの時の為にちゃんとした設備のある東京の病院に来ているのだ。

因みにアイは現在既にGGOにログインして俺の到着を待っている筈。

 

『ごめんねー!!突然大事な会議が入っちゃって顔を出せなくなってしまったんだ。まぁ、和人君なら許してくれると信じてるよ!それじゃ、死なない程度に頑張ってね!!

PS,美人看護師と二人きりだからって若い衝動を暴走させないように』

 

名前を書かなかったのは敢えてなのかうっかりなのか。

ここがALOなら奴の所まで飛んで行き、俺の剣で切り裂いているだろう。

俺は代わりとしてこのふざけた手紙を切り裂いてやった。

何度も破り粉々になった紙切れをゴミ箱にボッシュート。

 

「早速ですがログインします」

 

俺は病室に置かれているダブルベッドじゃないかと思うくらい大きなベッドに歩み寄り腰を下ろした。

手紙の内容を知ってか知らずか、ナツキさんは面白がりながら準備を始めてくれた。

 

「はい、脱いで」

 

「………は?」

 

毎度のことだが、ナツキさんは唐突過ぎる。

病室に入ったらコネコネされて、ベッドに腰を下ろしたら脱げといわれ、入院中でも意味不明なほど急でクレイジーだった。

今回も説明無しで意味が分からず、俺は首を捻って理由を求めた。

 

「心電図を測る為の電極を付けるだけだから上だけで良いよ。それに入院中に全部見ちゃったんだし恥ずかしいとか無いでしょ?」

 

「………」

 

どうやら、俺の首捻りは”上半身だけか?それとも全部か?”という質問として受け入れられたらしい。

それでも、理由は分かったので気にせずに上半身のいつも通りの黒服を脱ごうとした。

が、ナツキさんの後半部分の言葉で動きが僅かに止まってしまった。

 

「大丈夫、当然見ただけでなにもしてないし。それに初めての()()()()()()は木綿季ちゃんとが良いのは分かってるわよ」

 

「そ、そういうッ!?………早く付けてください!」

 

「うーん………その様子じゃ仮想世界でも()()()ないね?」

 

「ヤってッ!?」

 

「成る程………キスぐらいまでか」

 

次々と繰り出される猛攻撃が全弾クリーンヒットを決める。

一歩のデンプシーロール並みの破壊力と連打力に為す術がない。

ここは逃げるしかない!!

俺は無視を選んだ。

そうすると、つまらなくなったのかナツキさんがちょっと乱暴に俺の胸に電極を付けていった。

付け終わるのを確認したら完備されていたアミュスフィアを被る。

視界が暗くなって右上の白いデジタル時計が存在感を出す。

 

「当分何もないとは思いますけどよろしくお願いします!!」

 

俺は背中をベッドに預けて体が一番楽な姿勢になる。

ベッドの上部が少しだけ上に上がっているので大分楽だ。

 

「はいはい、任されましたよ。ただし、眠ってる間に私が何をしてもいいよね?」

 

「リンクスタート!!」

 

手をワキワキしているナツキさんは凄く怖かったです。

漫画みたいに眼鏡も光っていたし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり現在、和人様の体はある意味危ないんですね」

 

「ああ、ある意味な」

 

GGOにログインして俺の男の娘アバターが出現した場所はBoB予選受付が行われている総督府と目と鼻の先にある宿。

荒れ果てた世界観でも宿屋はなんとか宿屋の形を成していた。

部屋全体も一見ボロい感じだがそれはそれで味がある。

その部屋にある1つだけのベッドに座り俺とアイは少しの時間話をしていた。

 

「まぁ、それに関しては人間である和人様の問題でAIの私には関係ない話ですけどね」

 

「そりゃそうだけど」

 

「それに、男性には興味ありません」

 

アイはツンとした表情と声音で言った。

”男性には興味ありません”

父親としてはとても嬉しい限りだが、父親の俺にも興味がないような気もしてしまい不安になる。

それに男性にはということは女性に興味があるのかと色々考えてしまう。

親は皆こんな感じなのだろうか?

子育ては難しい………

 

「さて、そろそろ行きましょうか」

 

「ん、そうだな」

 

装備を整えて真っ黒マントと灰色マントにお互い身を包む。

マントの裏には買い込んだ暗殺道具がわんさかある。

俺の戦闘スタイルでは見られたら終わり。

それが理由でこんなマントにしているのだ。

アイは暗殺スタイルではないけど、武器を出来るだけ見せないのは基本なのでマントの裏に隠している。

こんなに早く準備する必要も無いがいつでも戦闘が出来る状態にするのはSAOを経験しているからこその癖。

 

「先ずは本選出場だな」

 

「はい」

 

俺とアイは宿屋から足を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、広い………」

 

「ここだけ科学が進歩してますね」

 

数分歩いたらすぐに総督府に着く。

これまで幾度か総督府の前を通ったりしたが、中に入るのは初めてだった。

入るとまず広がるのはだだっ広いエントランス。

中心には大きなホログラムでBoBの予告を大々的に行っている。

そのBoBに参加するためか、応援または観戦なのかプレイヤーが数多く行き交っていた。

そして、そのプレイヤーの中にいる参加する派のプレイヤーがなんか銀行のATMのような機械の前に立ち並んでいる。

 

「あれが参加するための機械みたいだな」

 

「機械で参加受付とは凝ってるのかめんどくさがってるのか………」

 

「何処に考え込んでるんだよ………行くぞ」

 

変な所に思考を巡らそうとしたアイのマントの中に手を入れて手を握る。

そのままATM前に連行した。

運良くATM前のプレイヤーが晴れてくれたことにより簡単に登録まで辿り着けた。

アイを隣のATMにやり自分の登録をしようとした。

名前をローマ字で”Kirito”と入れて右下の確定を押した。

すると、次の画面では現実での住所などの個人情報だった。

戸惑っていると画面の上に説明が書いてあった。

どうやら景品の受け渡しの際に使う情報らしい。

ゲーマーとしては是非ともその景品とやらを手にしたいものだ。

そういうことで、俺は住所を入力しようとした。

その時だった。

 

「………!!」

 

俺は全力で振り返った。

が、誰も後ろには居らず、ごく自然に歩くプレイヤーが沢山居るだけだった。

”視線”

殺気ではなく純粋な視線を感じた。

SAO時代、トッププレイヤーのみが習得していたシステム外スキル。

謂わば”第六感”が己に向けられていた視線に反応した。

 

「和人様………」

 

「分かってる」

 

住所欄をスキップさせて受付を終わらせる。

アイも先程の”視線”を感じ取ったのか鋭く厳しい目をしている。

多分、俺も似たような目になっているだろう。

俺とアイはATMから離れて奥のエレベーターに急いだ。

エレベーターに乗って扉が閉まる際、もう一度”視線”の先を確かめたが、やはり誰も居なかった。

 

「和人様、今のは?」

 

「死銃………の可能性が高いな。目的は分からないけど何かを企んでる」

 

「何か………」

 

錆が所々にある古びたエレベーターの中でアイが尋ねてきた。

あの”視線”、正確には俺ではなく俺が操作する画面に向けられたもののような気がした。

この勘が当たっていたら”視線”を感じた時の画面、つまり、住所を見ようとしたことになる。

だが、現実での個人情報などは本人しか見れないようにシステムの保護が掛かる筈。

本当に何が目的かが分からない………

 

「とにかくだ。向こうも俺達が”視線”に気付いたことに気付いただろうし。順調に勝ち進んでいけば何らかの接触があるだろうな」

 

「一先ず待ちですね」

 

そこでエレベーターが目的の階に辿り着いた。

エレベーターのドアが開き、地下空間が広る。

エントランスと遜色ない広さ、だけど遥かにここの方が暗い。

そして何より武器を見せたがっているむさ苦しいプレイヤー達。

所々に居る武器を見せずに黙ってる奴らが”プロ”なのだろう。

 

「準備は万端ですがどうします?」

 

「そうだな。………一応最終確認しとくか。アイテムの数とか」

 

「了解です」

 

俺とアイは円状の地下空間の端を歩いていき取り敢えず着替えも出来る更衣室的な場所を探した。

その更衣室的な場所はそう遠くない場所にあった。

これなら確認を済ましても大分時間を余らせそうだ。

 

「それではすぐに戻ると思いますけど」

 

「分かってる」

 

男性、女性と別れた部屋。

アイが女性用の部屋に入るのを見送った所で俺も男性用の部屋に入ろうとした。

 

「そっちは男用よ」

 

後ろから声をかけられてしまった。

丁度アイと離れてしまったタイミングだったので俺の中にアイパワーなるものが残っていた。

お陰で何の躊躇いも無く振り向いてしまた。

 

「あ、あの自分は………」

 

見覚えがあった。

BoBの広告と一緒に添付されていた大会のダイジェスト映像に映っていたスナイパーの女の子だったのだ。

戦闘服というよりか私服に見えるラフな格好。

そしてやはり注目するのは水色の髪に美しく深い青の瞳。

驚いて言葉を詰まらせてしまった。

 

「女の子はこっちよ」

 

「え、ちょっと?えぁ、あ、あの!?」

 

スナイパーの女の子はマントの上から腕を掴んできた。

そして、強引に俺を引っ張っていく。

男子には禁断の女性エリアへと………

スナイパーの女の子の方から触っているのでハラスメントコードは発生せず最後の頼みだった女性エリアへ男性が入ろうとすると現れる障壁もこれまたスナイパーの女の子が触っている影響なのか効果がなかった。

そもそもフードを被っていたのに何故俺を女の子だと思ったのかが分からない。

 

「女の子が男の更衣室に入ろうとするなんて気を付けなさい」

 

「い、いや、あの自分は………」

 

と個人的には必死になって抵抗しているのだがスナイパーの女の子は聞く耳を持たずにすたすたと進んでいく。

そして………………

 

「ここで着替えるのよ」

 

「「あ………」」

 

スナイパーの女の子が親切に教えてくれた場所には先客がいた。

銀髪のポニーテール、スナイパーの女の子と同レベルの青い瞳。

その少女は下着姿だった………

純白の白。

胸の方は中々育っておらずブラではなくシャツのような布だった。

そして、手元にはブラ。

ブラデビューでも考えていたのだろうか?

………………………じゃなくて!!!!!!

 

「パ、パパパパパパパパ………!!!!!」

 

「落ち着け!!落ち着いてくれ!!!」

 

しかし、少女アイは落ち着いてくれはしなかった………

 

「ドン引きです!!」

 

「ガハッ!!」

 

見事な正拳突きを腹の真ん中に喰らってしまい、痛みが無いにしろ衝撃によって膝をおった。

”ドン引きです!!”とは………ゴッドイーターになれそうだな………

ガクッ………

 




ちょっとした?事件が最後にありましたね!!
シノンさんの勘違いナイス!!
そして、遂に次回は戦闘開始です!!
戦闘シーンの方が書くスピードが遥かに速い自分だと確信してるので次回の投稿は割りと早めだと思います!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

66話 責任

んー、やっぱり原作のゲームから入ってる自分はアニメのアリサに違和感を感じてます。
もっとデレこいよ!!黒歴史積み重ねすぎ!!
まぁ、その分デレが良いものになることを願います!!

ただ、主人公が神薙ユウじゃないのが未だに不満。
レンカも格好いいけどやっぱりアリサのお相手はユウでしょ!!
漫画だとキスもしてるしね!!


 

 

「その………すまなかったわね」

 

「いえいえ、この人がちゃんと言わなかったのが悪いんです。シノンさんは悪くありません」

 

地下空間にあるテーブル席で俺達3人は予選開始を待っていた。

俺とアイのメンバーにシノンという少女が加わっている。

彼女はついさっき起きた事件を謝罪したいと言って来たのだ。

勘違いとはいえ強引に女性更衣室へ連れていき、その結果先客に殴られる。

俺でも申し訳ないと思ってしまう。

 

「でも何でこの人が女の子だと思ったんですか?フードも被ってますよね?」

 

アイが隣に座る俺のフードをツイツイと軽く引っ張った。

俺は只でさえうつ向いていた顔を更にうつ向かせた。

 

「簡単なことよ。歩き方に背。GGOには女の子プレイヤーは比較的少ないから何となくで分かるのよ。………今回は間違えたけど」

 

「俺ってそんなに女の子っぽいのか………」

 

更にうつ向かせた顔を更に更にうつ向かせて暗いオーラを発生させる。

別にアイに殴られたり女性更衣室へ連行されたことに不満を持っている訳ではない。

アイの姿を見てしまったことならむしろ………………

俺が!!一番落ち込んで不満に思っているのは女性と間違えられたことなのです!!

 

「そりゃもう。ビックリするぐらいね」

 

シノンが苦笑いを浮かべながら言った。

謝罪というよりか驚きの方が勝っているらしい。

 

「キリト様は現実でも女顔ですからね」

 

「様?」

 

「気にしないでくれ………」

 

シノンの目付きが厳しくなった。

アイが俺に様を付けると誰でも同じ反応をするのでこの目には慣れてしまった。

途中からアイ本人も嫌々では無いと感じ初めて最終的には気にならなくなるのが普通になっている。

シノンと長い付き合いになるかは分からないけど。

 

「そういえば、あなた達はどのブロックなの?」

 

「私はEです」

 

「俺はF」

 

先着順なのかランダムなのかどっちにしろ俺とアイは別ブロックに振り分けられていた。

アイとは本選で共に戦ってほしいのでブロックが別なのはとても嬉しかった。

アイの本選は絶対だ、俺が保証する。

 

「そう………じゃ私は貴方を撃ち殺さないといけないようね」

 

「え?」

 

うつ向かせていた顔を上げてシノンの意味ありげな言葉に耳を向けた。

シノンは片手でピストルの形を作り俺の眉間に標準を合わせている。

心臓ではなく頭の眉間。

人間が即死するといわれる場所だ。

そして目。

獲物を目前とした虎のような目をしている。

GGO………仮想世界関係無く本気で”撃ち殺す”言っている気がしてならない。

身の毛がよだつ程のプレッシャーを受けた。

 

「君もFなのか?」

 

シノンはメニュー画面からFブロックのトーナメント表を俺に見せてきた。

右から何番目かに”Sinonn”の名前があった。

そして、俺の”Kirito”は左端。

つまり、勝つ進めば決勝で当たることになる。

俺は思わず頬がつり上がり、自分自身の中に熱く煮えたぎる感情を見つけた。

 

「出来るもんならな」

 

俺は上目遣いでシノンを睨み付けた。

殺気が出ていたのか、シノンは一瞬だけ驚いた顔をしたが、俺と対峙するような表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ俺はあんなかっこつけたことを言ってしまったんだ………………

うああああ!死にたい!死にたいよおおおお!アイに合わせる顔がないよおおおお!馬鹿じゃねーの!馬鹿じゃねーの!バーカ!バーカ!うおおおおおおおん!

アイデンティティークライシスになるとこうなってしまうのかー!!

目の腐った人と同じように心中で叫びまくってやった。

こうすれば少しは楽になると思って全力で唸り声を揚げた。

しかし、その努力虚しく結果は全然で全く恥ずかしさは何処かに行ってはくれなかった。

 

「はぁー………」

 

俺が今いるのは予選第一回戦が開始される直前の心落ち着き時間のような場所。

永遠に続きそうな闇の中に俺のいる所だけ光が何処からか射し込んでいる。

俺の少し上空には餓丸VSKiritoと書かれた文字が浮かんでいる。

この時に漢字に変換出来たのかと気付いた。

元からローマ字のつもりだったので意味ないけど。

 

「初戦は負けられないよな」

 

フードを深く被り直して集中力を高める。

すると、足元から青白い光が現れて俺のアバターを丸く包み込んだ。

第一回戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移が終わった瞬間に俺は強烈なバックステップを踏んだ。

俺が転移された場所が敵から丸見えの場所だったからだ。

森のようなフィールドでその中心に草と何かの建物の残骸があるだけど空き地。

その空き地のど真ん中に転移したら下手するとリスキルの可能性もあった。

 

「森か………」

 

俺はメニューを開き迷彩柄の一回り大きなマントを取り出した。

それを早速羽織り森と同化する。

元から来ていたマントを薄手にして重ね着できるようにしておいたのだ。

黒のマントは道具入れの役割を果たしているのでしまうのは出来ない。

俺は音を出来るだけ発せずに上に跳んだ。

木の上に登り一時的な安全を確保すると耳をすませた。

音響結界(サウンドスケープ)………ではないけどそれに限り無く近い技術。

自分から数メートル以内に敵の餓丸が居ないかを確かめる。

 

「………いる」

 

俺から見て左方面にゆっくりと上に進む人工的な音を感じ取れた。

非常にゆっくりなのは匍匐前進をしているからだろう。

それに恐らくこちらの位置を知られていない。

開始早々絶好のチャンス。

 

「よし」

 

俺はマントの裏から細い糸を取り出した。

裁縫道具にある糸のようにぐるぐると巻かれた糸。

しかし、裁縫道具の糸とは確実に違う性能がある。

それは強度。

硬いがバネのように反発力もある。

ピアノ線だ。

俺はピアノ線の先っぽに人の頭が入る程度の輪を作た。

強く念入りに引っ張っり輪が崩れないようにする。

 

「行くか………」

 

準備が整うと枝を揺らして餓丸が居る方角に向かった。

某忍者張りの身のこなしで枝を蹴っていく。

出来るだけ太い枝を選びながら進んでいるので音は最小限に留めている。

 

「………いた」

 

前方に餓丸が匍匐前進をしながら辺りを警戒していた。

時々後ろを振り返ったりして後方の警戒も怠ってはいない。

が、流石に木の上には注意を払っていないようだった。

俺はピアノ線を握りしめ餓丸が出てくる草むらの入り口にピアノ線を垂らそうと思った。

ピアノ線で首吊りにしてやろうと計画を立てていた。

そんな時だった。

俺はふと気付いた。

別に首吊りじゃなくてもよくない?

アニメや漫画では何かしら理由があって首吊りをしているんかもしれないけどただ仕留めるだけならナイフで急所を狙った方が確実だよね?

何だか真剣にこれを作った俺が馬鹿みたいに感じた。

俺はピアノ線をしまい懐からタクティカルナイフを取り出した。

真っ黒いその刀身は光を反射しないようにするための色。

光の反射などシビアに設定されている仮想世界でも黒いナイフは重宝する。

俺はタクティカルナイフを構えながら餓丸の真上にある枝まで跳んだ。

枝へ着陸した時に餓丸の動きが止まり辺りを見渡したときは焦ったが逆にラッキーだと思考をいい方向へと持っていく。

俺は動きの止まった餓丸に落下していった。

 

「な!?」

 

地面に接している両腕を全力で踏みつけて腕の自由を奪う。

いきなり腕に強烈な違和感を感じ加えて動かなくなったのだ。

どんなプレイヤーでも驚いてパニックになるだろう。

しかし、俺はパニックのなる前に止めを指す。

自衛隊のような姿格好の餓丸のうなじ目掛けてナイフを両手で差し込む。

 

「ぐあぁ!!」

 

餓丸が声を揚げた。

と同時に俺は深々と刺さったナイフを右に払い餓丸の首半分を切り裂いた。

切り跡には赤い血のの代わりに赤いエフェクトがかかっている。

俺は最後にナイフを餓丸の右首から入れ左に振り払った。

人体の急所と仮想世界の急所はほとんど同じ。

うなじという人間の弱点を切り刻まれた餓丸のアバターは当然。

 

バーン………!!

 

粉々に砕け散る。

青いガラスのようなエフェクトがチラチラと舞う。

餓丸は最後まで俺の姿を見ることは出来なかっただろう。

俺はその場にどさりと座り込んだ。

今回はスムーズに進行できたが、緊張感は異常だった。

バレたら終わりのムリゲー感。

俺は一度あの地下空間に戻される時まで寝っ転がることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下空間には思ったよりプレイヤーが居なかった。

俺の戦いが早く終わりすぎたようだ。

アイの姿も見られない。

俺は地下空間の中央に映されている各バトルの中継の中からアイを探した。

 

「お前………」

 

俺は思わず裏拳を放ってしまった。

それでも何とか直撃すれすれの所で拳を止めることが出来た。

まさに幽霊。

音もなく俺の後ろに現れたそいつの存在を気配だけで感じ取った俺は全力で警戒した。

そいつから距離を取りマントの中でタクティカルナイフを構える。

 

「お前、本物か?」

 

「………何がだ?」

 

意味不明なことだけを言うそいつは黒みが強い灰色のマントに何故かダースベイダーのような仮面を付けていた。

俺は警戒しながらも聞き返した。

すると、仮面男はメニューを素早く開きBoB予選のFブロックにある餓丸VSKiritoの場所を見せてきた。

 

「この、名前。あの、仮想世界でも、異常な、身体能力の、動き。お前、本物か?」

 

「すみません………意味が………?」

 

俺は本物に意味が分からず仮面男に謝った。

 

「まぁ、いい。本物なら、礼を言う」

 

「礼?……………ッ!!」

 

仮面男はメニューを閉じて腕を下ろした。

別に仮面男は意識した訳ではないだろう。

しかし、あのエンブレムが見えてしまった。

下ろした腕がマントの中に入っていく。

その腕に黒い棺桶のようなマーク。

SAOサバイバーなら誰もが知っている最悪な存在意味するマーク。

それだけでも逃げ出したい気分なのに仮面男は追撃を放つ。

仮面の顔をフードに近付けて恐ろしく低い声まるで死神のような声で言った。

 

「あの世界を、作ってくれて、ありがとう」

 

崩れ落ちなかったのは奇跡に近かった。

マントに隠れている膝が小鹿のように震え立っているのがやっとの状況。

そんな俺のことなんか気にせず仮面男は横を通り過ぎて何処かへ行ってしまった。

仮面男を追うことなど考えもせず今はただ座りたかった。

ゆっくり、ゆっくりと足取りを進め一番近くにあったベンチに腰を下ろした。

 

「はぁ………!!はぁ………!!」

 

自分の体を強く抱き締めて荒い息を吐き出す。

胃の中にある物が全て飛び出そうな気分だ。

 

「ラフィンコフィン………!!」

 

仮面男が腕に付けていたエンブレム。

SAO時代、殺人を快楽と見出だした狂乱プレイヤーが集まったギルドのマーク。

その狂乱プレイヤーがGGOにいる。

そしてなにより、そのエンブレムを付けたあの仮面男と死銃の声が同じということ。

勘違いでもなんでもない。

間違いなくあの仮面男が死銃でその死銃の正体が殺人ギルドラフィンコフィンのメンバーだ。

俺は歯をガタガタと震える歯を食いしばって無理矢理止める。

 

「あの世界を作ってくれてありがとう………だと………?」

 

あの世界とは十中八九SAOのことだ。

死銃は何処で俺の秘密を知った?

俺のことを知っているのは75層で茅場さんと俺の戦いを見ていた攻略組だけ。

殺人ギルドが知るはずもないのだ。

………いや、そうじゃないだろ。

死銃はラフィンコフィンで殺人を楽しんでいた奴。

ラフィンコフィンで殺人を楽しむ切っ掛けを作ってしまったのは茅場さんと俺の2人。

つまり、死銃事件は少なからず俺達に責任があるのではないか?

そして、茅場さんは死んで俺だけ。

俺には責任がある?

死銃の………殺人ギルドの………

 

「あぁ………あぁ………!!」

 

頭を抱え俺は腰を折った。

何規模を少なくしているんだ俺は!!!

何忘れようとしてたんだ俺は!!!

何が依頼だ!何が暗殺だ!!

俺はそれ以前に絶対に許されないことをしてしまったではないか!!!

約4千人と正確な数字も知らず、確実に1人の命を奪った殺人者。

戦後、誰がこんなにも膨大な人間を死に陥れただろうか。

今回の死銃事件も俺が原因じゃないか。

耳の奥から叫び声が聞こえる。

女の叫び声、男の叫び声。

多くの声が混じり合い不快な耳鳴りを響かせる。

それは耳を通り越し、頭に、胸に、心にまで強く残酷に届いた。

 

「助けて………」

 

周りの音が聞こえない。

視界が万華鏡のようにぐにゃりぐにゃりと焦点が定まらない。

頭の中が恐怖で埋め尽くされる。

思わず出た助けの言葉も返してくれる人は誰もいない。

俺は強くなんてなっていなかった。

ただ逃げていただけ。

自分は悪くないと目を背けて生きていた。

忘れてはならない。

俺は約4千人を殺した最低な奴だと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あんた何してるのよ?」




若干強引感がありますけどキリト君に落ち込んでもらいました。
この小説のキリト君はラフィンコフィン討伐事件が無くてもこうなった気がします。
この展開は最初から決まってました。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

67話 友達の危険

DAIGOさんマラソンお疲れさま!!
残酷な天使のテーゼ………選曲最高!!


 

 

「ごめんなさい。急に呼び出して」

 

「どうしたのシウネー?ボクだけ呼び出すなんて」

 

エギルと楽しい楽しいお話をしている時に送られてきたシウネーからの緊急招集。

ボクだけが集められたりメッセージがいつものシウネーとは何処か違う気がしたりと気になることがいっぱいあったけど特に意識しないでいた。

だけど、バーチャルホスピスにいたシウネーの顔を見て重大な事なんだと感じた。

無数で色とりどりの花が咲き誇るガーデン。

その中心にある大きなガーデンパラソルの下にある木製のベンチにシウネーは座っている。

ボクはSAOと同じ水色、でも髪は短くしたシウネーの隣に座っていた。

 

「あの、ユウキはSAOで出会った人の事を覚えていますか?ああ、現在交流がある人以外でです」

 

「SAOで?んー、印象に残ってる人とかトップギルドのリーダーとかは覚えてるよ。」

 

聖龍連合のリンド、軍のキバオウとかならパッと頭の中に思い浮かべることができるし印象に残ってる人だと卓越した裁縫スキルで有名なアシュレイとかがいる。

本当にアシュレイにはよくお世話になったよ。

この前、ALOで再会したときは驚いたしね。

ボクは他の人も思い出そうと腕を組んで唸っているとシウネーが変な事を尋ねてきた。

 

「それじゃ、相手の癖とかは覚えていますか?」

 

「え、癖?アルゴの話し方みたいに?」

 

シウネーが頷いた。

どうも表情の真剣さと話す会話の内容にズレがあるね。

中々本題に入ってくれないし。

本題が気になってムズムズする。

でもやっぱり、シウネーがここまで真剣に話しているからボクは我慢する事にした。

 

「………どうしたの?」

 

って思ったけど訊いちゃった☆

我慢するのは嫌いだから。

話も早く進むしシウネーにとっても都合が良いと思う。

ボクは出来るだけ穏やかに言った。

すると、シウネーは堅くなっていた表情を緩めると一旦目をつぶって深呼吸をした。

ボクの表情で針積めた糸を緩ませたのかな?

目を開けた時のシウネーの顔は真剣ではあるもののさっきよりは表情が楽になっていた。

 

「笑う棺桶………ラフィン・コフィンを覚えていますか?」

 

「も、勿論だよ!あんな危険な人達………警戒してないと殺られちゃうかもしれなかったしね」

 

最凶、最悪、最低な殺人鬼集団で構成されたSAOではある意味モンスターよりも注意しなくちゃならなかったギルド。

人を殺すという普通だったら考えもしないことを進んで行い、あまつさえ人殺しを喜んで楽しんでしまう人達。

ボクはシウネーの口からそんなギルドの事が出てくるなんて思いもしなかった。

シウネーはとても優しい。

ギルドの皆の命を自分の命のように思ってくれていた。

だから、誰もが嫌う殺人ギルドのラフィン・コフィンのことも人一倍嫌っていた。

ボクは移動してシウネーとの座る距離を短くした。

ピッタリと太股と二の腕がくっつている。

 

「あのギルドの1人と思われる人を見つけてしまったんです」

 

「ラフコフの1人を?誰なの?」

 

XaXa(ザザ)………赤眼のザザです」

 

「ザザ!?」

 

ボクは目を丸くしてシウネーを見上げた。

ラフィン・コフィン、トップ3の内の1人”赤眼のザザ”

エストックと呼ばれる細長い剣を扱いラフィン・コフィンの幹部でもあったと聞かされている。

実際に会ったことはないけど、手配書で姿などは知っている。

 

「で、でも、ザザは骸骨のマスクを着けていたんでしょ?」

 

「はい、ですが、ザザの特徴として言葉を極端に切るようにして話すとも言われています」

 

「あっ………」

 

ボクはSAOで見た手配書を鮮明に思い出した。

微妙にぶれている写真と一緒に書かれていた特徴の欄。

そこには言葉を極端に切るように話すと確かに書かれていた。

”お前を、殺す、刺して、殺す”

命からがら逃げてきたプレイヤーが聞いた声らしい。

こんな珍しい話し方をする人はそうそういない。

いるとしてもそれは戦場カメラマンぐらい。

それに加えてSAO生還者(サバイバー)が感じる同じ生還者(サバイバー)特有の雰囲気もシウネーが感じてたら。

シウネーがザザだと思った人が本物のザザである可能性は高い。

 

「でも、何処で見たの?」

 

「私が新川総合病院に入院していることは知ってますよね?」

 

「うん」

 

「私の病室から聞こえたんです。廊下を通り過ぎる2つの足音を。1人は新川総合病院の院長だとすぐに分かりました。そして、もう1人の人がザザの話し方だったのです。”ゲームばっかりしてないで勉強もしたらどうだ”、”勉強は、している。それと、後継ぎは、弟。俺は、関係ない。巻き込むな”って」

 

シウネーの演技力もあるけど手配書の特徴と同じだった。

それと会話から院長とザザらしき人は親子。

院長の息子。

つまり、シウネーの身近に赤眼のザザと呼ばれた殺人者かもしれない人が彷徨いている。

 

「情けないのですが。私………怖くて………」

 

「シウネー………」

 

シウネーは体を小刻みに震わせていた。

膝に乗せられた両手は小さく握られている。

同じ建物の中に、身近に、10数人も殺した殺人者がいるかもしれない。

シウネーが、どんなに怖いか………ボクには分からない。

けど、大切なボクの友達が危ないなら。

ボクは立ち上がってシウネーの肩を掴んだ。

 

「ボクが何とかしてみせる!!」

 

「でも、勘違いかもしれませんし。何よりも方法が………」

 

「あ………」

 

気の抜けるような声で口が半開きになった。

意気込んでみたけど方法が思い付かない。

それに何とかするって何をどうするかも考えてない。

気だけが進みすぎてしまった。

和人だったら何をどうするべきか最善を選ぶんだろうけど、和人は今、()()の依頼で忙しい。

負担は掛けたくない。

ならどうしよう………

 

「大丈夫です。私はユウキに相談しに来ただけで解決なんて………」

 

「そうだとしても!!やるって決めたらやるの!!」

 

ボクは考えた。

和人みたいに頭が良くないボクは協力者が必要になる。

動けないボクの代わりに動けて、和人みたいに頭が良くて、出来れば病院の人、そして何よりも迷惑が掛からない暇そうな………………アルゴ?

唐突に頭に浮かんだ身近なお姉さん。

その人はあまりにもボクが捜していた人の条件とピッタリだった。

元気に動けて、頭も良くて、看護師で、いつも暇だ暇だと言っている。

ついでに凄い権力も持っている。

 

「………何とかなるかもしれない」

 

「え?そんなどうやって………」

 

「ボクもどうやって説明すればいいか分からないんだけど。とにかく何とかなるかも」

 

アルゴがボクの頼みを聞いてくれるかが問題だけど。

もしアルゴがその気になってくれれば確実にシウネーが抱えている不安も取り除ける気がする。

 

「だから、シウネーは安心してて。これは命令だよ!ギルドリーダー命令!」

 

そういって、ボクはシウネーの返事も聞かずにバーチャルホスピスからログアウトして自分の仮想空間に帰った。

アルゴは多分ブツブツ言いながら勝手に持ち込んだ自前の机で書類を片付けていると思う。

ちゃんと分かりやすく説明しないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

と言ってもそんなに遅くない時間で7時頃だった。

ボクは何となく自分の仮想空間でアルゴから許可をもらった例のことをボーッと考えていた。

”意外とすんなり受け入れてくれたなー”とか、スパイごっこみたいで面白そうだナ!って喜んでたなー”とか他愛ないことから、”シウネーを助けなきゃ!”や”ザザ………”と真剣なことまで色々な思いが頭を廻っていた。

その時だ。

 

「「ママ!!」」

 

「うわぁ!?」

 

目の前が光だし、2人の美少女が降ってきた。

その正体はボクと和人の娘達のユイちゃんとアイちゃんだった。

けど、いつもと様子がおかしい。

何故か2人とも必死な表情でボクに抱き付いてきたからだ。

ボクは初めてアイちゃんがボクの事を”ママ”と呼んでくれた余韻にも浸れず、2人の叫びに動揺する。

 

「パパが!パパが!!」

 

「詳しい話は後でしますから!!パパのところに!!」

 

「え、ちょっと!?2人とも落ち着いて!!」

 

ユイがボクの腕を抱き締めて涙を滝のように流している。

アイはユイとは逆方向の腕を無理に引っ張りながら今にも泣き出しそうな顔をしている。

嫌でも異常な事が起きていると分かってしまう。

和人の家にはユイ達用の仮想空間がある。

ボクはユイとアイに引きずられるようにその仮想空間に移動した。

そして、聞いた。

和人の精神が崩壊仕掛けていることを。

 




ユウキのお話でしたね。
お気付きの通り、GGO編ではこんな感じで現実はユウキ仮想はキリト。
みたいな感じで進行します。
原作と違う部分がありますけど、そもそも原作ブレイクの激しい小説です。
無視の方向でおなしゃす!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

68話 助け

最近気温が下がって元気が出てきました!!
更新ペースもアップ!アップ!ですよ!!!


 

 

「………あんた何してるのよ?」

 

頭が恐怖に埋め尽くされている中で不思議と彼女の声は頭の中に響いた。

ぐちゃぐちゃとパニック状態に陥っていたのにも関わらず、彼女の声はどこか俺が陥っていたパニック状態に波長を合わせていたようだった。

それが偶然か狙ってなのかは知るよしも無いけど、真っ暗な場所で孤独感を味わっていた俺には救いの手を差し伸べてくれたかに思えた。

俺は頭を抱えていた両手をそのままに、腰を少し上げて恐る恐る彼女を見上げた。

 

「あ………いや………」

 

「………1回戦でそんなだったら本選どころか次の試合に勝つのも難しそうね」

 

シノンは見上げた俺を哀れむような瞳で見下していた。

それに、両手を広げて情けなさそうに首を振る。

俺は空元気を出して力なく乾いた苦笑いしか出来なかった。

 

「試合前の威勢は何処に行ったのよ?」

 

シノンはそう言い捨てて背を向けた。

俺は自分でも訳が分からないまま、思わず離れ行くシノンの片手を握ってしまった。

震える両手でしっかりとシノンの片手を握り締めてしまったのだ。

突然のことにシノンは凄い速さで振り返った。

当然だ。

シノンの手を握っている俺でさえ何故こんな行動をしているのか分からないのだから。

頭ではシノンの手を離そうと体に訴えかけているのに体は言うことを聞いてはくれない。

 

「ちょっと!何するのよ!」

 

シノンが堪らず声を出して握られた手を引っ張った。

今、シノンの視界にはハラスメントコードの試行がどうとかの表示が出ていて、もう片方の手でタップするか声を上げれば俺のアバターはGGOのどこかにある牢獄のような監禁場所に飛ばされるだろう。

それが分かっているのに俺の体は手を離そうととはしないで、寧ろ引っ張られたシノンの手を逆に引っ張り返してしまった。

シノンも流石に俺が異常な精神状態だと分かったのか引っ張るのを止めた。

 

「どうしのよ………?」

 

フードギリギリから見えるシノンの瞳。

その瞳の色はアイと同類の深い青。

そして、その瞳はまるで俺のことを()()を見るようだった。

俺はそんなシノンの瞳を見て彼女に謎の親近感が湧いた。

だからだろうか?

顔を更に上げてシノンからでも直接俺の顔が見えるまで角度をつけてしまった。

 

「あ………」

 

シノンからなんとも言えない息が漏れた。

確実に顔を見られてしまった。

しかし、その直後。

一瞬だけ完璧に目と目を合わさった瞬間に水色の光が俺を包み込んだ。

そして同時に握っていたシノンの手の感覚も薄れていく。

俺は最後まで力なくシノンの手を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンとのことがあって何故か心が大分軽くなった。

………のは、ほんの少しの間だけだった。

戦場に戻るとまたパニック状態になってしまう。

特に敵を殺す時が一番ヤバい。

死銃の起こす犯罪を止めるには勝ち進んで再度死銃と接触しなくてはならない。

勝ち進むには対戦相手を殺さなきゃならない。

だが、殺す度に頭の中でSAOのことを思い返してしまう。

強制ログアウトされていないのは奇跡に近い。

そして今、予選Fブロック決勝。

俺はシノンと戦うことになっていた。

 

「はぁ………」

 

廃れた街の中を一直線に横切る道路。

地面との距離が結構あるので恐らく高速道路だろう。

トラブルでも起こしたのか中央分離帯に正面からぶつかっている高そうなスポーツカーだったり、そのスポーツカーを避けようとしたのか横転している軽トラまである。

視線を横に移せば灰色の雲が黄金色の太陽の光を浴びていてある意味幻想的な景色を作り出していた。

俺は高速道路のコンクリート性ガードレールに座りその幻想的な景色を眺めていた。

下を見れば砂漠化の影響か、沢山の砂が風で舞っている。

 

「本選出場」

 

BoB本選出場の条件は各予選の決勝に残ること。

今俺がここにいる時点でまず、俺の本選出場が決まっているのだ。

これで死銃が俺に接触する可能性も高くなった。

つまり、本選出場が決定している以上、俺は相手のシノンを殺さなくてもいいということになる。

 

「よかった………」

 

もう、少なくとも今は誰とも戦いたくないと思っていたので助かった。

それにシノンを殺したくないとも思っていたので2つの意味で助かったのだ。

謎の親近感、同種を見るような瞳。

もしかしたら俺と同じような経験をしているんじゃないかと勘違いしてしまう。

だけど、もしそうならどうして彼女はあんなにも強いのだろうか?

試合の合間に写った彼女は鬼気迫るというか力強かった。

俺にも教えて欲しかった。

 

「無理だろうけど」

 

そもそも俺の中にあるシノンのイメージは俺が勝手にそうなんだろうと思い込んだ妄想であり偽物。

本物とは違う。

大きな風が吹いた。

風の勢いでフードが外れて後ろでマントと共にたなびく。

 

「ははっ」

 

フードが外れて視界が開けた。

お陰で遠くも近くも色んな場所が見えるようになった。

そして、偶然だった。

視界端で捉えたマズルフラッシュ。

俺は何となく首を後ろに反らしてみた。

 

ヒュンッ!!

 

「おお………」

 

丁度首を反らし切った直後に大きな弾丸が通り過ぎていった。

弾丸は高速道路の下に落ちていき地面にでも激突したのかドゴンという重い音がした。

本物に何となくで避けただけなのにスナイパー最大の強みである初撃を潰してしまった。

これを撃ったシノンは驚いているだろうなーっと他人事のように考える。

すると、今度は赤い線が俺の頭を捉えた。

弾道予測線だとすぐに分かった。

俺は弾道予測線の先でスコープを覗いているであろうシノンの方を向いた。

その為、弾道予測線と正面から向き合うことになる。

弾道予測線が眉間を照らす。

 

「シノン………」

 

俺は笑った。

その瞬間、頭に物凄い衝撃が走った。

体が後ろに持っていかれる。

首が引き千切られそうだ。

俺はそのまま高速道路から落ちていった。

こうして、俺は初めて仮想世界の中で殺されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやって家に帰って来たか全く覚えていない。

アイがずっと耳元で何か言っているのは覚えていたが内容はさっぱりだった。

家に入って迎えてくれたスグにも一言ただいまを言っただけでほとんど無視をしてしまった。

俺は真っ暗な自分の部屋のベッドでうつ伏せになりながら死んだように倒れている。

 

「何で今さら………!!」

 

現実の正体も分からない死銃に向けて吐いた。

拳を握り締めて乱暴にベッドを殴る。

何度も、何度も、何度も、何度も!!!

殴っていると反発性のあるベッドが俺に逆らっているようでイライラしてきた。

俺は右拳に力を溜めて思いっきり降り下ろした。

さっきまでとは明らかに違う大きな音がした。

どうやらベッドのクッションを通り越して底の木の板まで衝撃が届いたらしい。

証拠に右手が痛い。

それがさらに俺をイライラさせた。

もう何でこんなことしてるのか分からなくなってくる。

 

「なんだよこれ………」

 

うつ伏せから仰向けに姿勢を変えて天井を見つめる。

何でもないような白の天井だ。

天使でも降りてこないかな?と変な期待が頭をよぎる。

その変な期待がトリガーとなって次々と変なことを考えてしまう。

俺は生きてていいのか?罪を償うべきじゃないのか?償いは死?

プレイヤー名だけでなく本当の名前すら知らない人々を約4千人も殺した俺はどう償えばいいのか。

そもそも償えるのか?

こんなちっぽけな俺1人だけで何が出来る?

許しなんて貰える筈がない………

 

「俺は………俺はどうすれば………!!」

 

同じだ。

死銃と対峙した後の気持ち悪さが襲ってきた。

最悪な日だと思った。

本当にヤバい。

狂ってしまいそうだ………

おかしくなりそうだった………

それでも、どんな時でも。

俺が立ち止まったときは決まって助けてくれる人がいる。

 

『和人!!』

 

木綿季が俺を現実に引き戻してくれた。

シノンの時とは違う。

波長を合わせた感じではなく、優しくて力強くだけど少し無理矢理。

 

「木綿季………」

 

すがるように俺は彼女の名前を口にした。




キリト君大丈夫なの!?
書いてる自分が一番キリト君の心配をしてた気がします。
まぁ、でもユウキちゃんが助けてくれるでしょ!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

69話 支える

夏休みが終わる!!!
やだ!!自分はそんなの信じない!!!
あ、でも来期のアニメは楽しみ。


 

『どうしたの?』

 

家の中に複数設置されている仮想空間からでも現実の様子を見ることの出来るカメラ。

本来の用途は現実に実体がないアイの為に作った物だ。

それが今ではカーディナルとユイ、それに木綿季も加わったことでザ・シードで作った空間からこちら側が見れるようにバージョンが上がっている。

そんなカメラの1つから木綿季の声が聞こえてくる。

心から心配してくれているのだと声音で分かる。

俺は震える口を懸命に動かした。

 

「俺………」

 

が、続きの言葉が出てこない。

自分の言いたいことが言えず、何だか自分でもまどろっこしくなる。

早く口に出したいのに喉でつっかえてしまう。

悔しかった。

ただ"会いたい"って言いたいだけなのに………

 

『和人。()()()()に来て』

 

木綿季が普通なら意味の分からないことを言った。

だが、仮想空間を知っている人なら誰もが分かる言葉だった。

木綿季側、それは仮想世界側ということだ。

 

『えっと、ボク、上手に言えないんだけど。仮想空間だったら楽というか………正直になれる?………違うな。んー、………何て言えばいいんだろう?』

 

カメラ越しでも唸り声が聞こえてくる。

木綿季は直感的な考えが多いから頭で浮かんだことを伝えるのが苦手だ。

だから、こんな感じでアバウトなことも多々ある。

けど同時にちゃんとした芯も存在する。

 

「今から行く」

 

唸りながら必死で自分の考えを伝えようとしてくれる木綿季の声が良い薬なったのか、大分心が楽になった。

かといって辛くない訳でもない。

殴ったときの痛みでか精神的なものか、手の震えは未だにある。

俺はその震えに抗いながらベッドの向かいの棚に置いてあるナーブギアを取りにベッドから降りた。

足に力が入らなくて大きくよろめいた。

SAOから戻ってきた直後に逆戻りした気分だった。

しかし、無理矢理にでも体を動かした。

体中がだるい。

病は気からとは言うが本当にそうだと思う。

ナーブギアを持って家の仮想空間に行く準備だけで額から汗が滲み出る。

俺は額の汗を手の甲で拭い、ナーブギアを被った。

ベッドの上で脱力状態になってダイブの姿勢になる。

そして、言葉を詰まらせないように深呼吸をしてから言った。

 

「………リンクスタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が家の仮想空間は現実の家と全く同じ設計になっている。

家の構造から家具まで何もかもが現実と同じ。

水も出るし火も起こせる。

暖かいお風呂も入れるし料理だって出来る。

これらの図を書いたのは母さんだ。

絵が上手いの知っていたがここまでとは思わなかった。

パソコンの情報誌の編集者だとこういう3D画像の作成知識も身に付くらしい。

ここでアイとユイは文字通りの()()を送っている。

木綿季は普段治療があるので病院の方に居て、カーディナルは自分の図書館みたいなのを作っているのでアイとユイ専用になってしまっているのだ。

玄関に転移した俺はゆっくりとした足取りで自分の部屋に向かった。

埃やちょっとした傷もなく仮想と現実の違いが明確に判断できる。

そして、俺はドアを開いた。

 

「木綿季………!!」

 

「わぁっと!?」

 

仮想空間での俺のベッドに紺のワンピースで座っていた木綿季を見つけた瞬間、俺は木綿季の側まで急ぎ抱き締めた。

木綿季は驚いた様子だったが、それも一瞬ですぐに抱き締め返してくれた。

抱き締めていると木綿季の暖かさが伝わってくる。

木綿季がここに居ると実感が湧いてくる。

その気持ちが却って俺の抱き締める力を強くした。

 

「く、苦しいよ!」

 

「あ!ご、ごめん!」

 

つい力を強めすぎてしまい木綿季が背中をタップした。

木綿季に叩かれるまで全然気づかなかった俺は咄嗟に木綿季は離した。

すると、木綿季は若干朱色に染まっている頬をパンパンに膨らましてジーっと俺を睨んできた。

 

「それで?」

 

「え?」

 

「和人に何があったの?」

 

木綿季が頬に溜めた空気を溜め息に変えながら俺に訊いてきた。

俺は全てを話そうとした。

事件のことも、死銃のことも全てを話そうとした。

しかし、話せば木綿季も協力すると言い出すだろう。

もし、死銃が本当に不思議な力を持っていたとしたら、アイだけじゃなく木綿季まで危険が迫ってしまう。

俺の体は1つ。

庇えるのは1人だけ。

2人も守れない。

 

「また深く考えてるでしょ?」

 

「………はい」

 

木綿季が見透かしたようにジト目で俺の顔を見てきた。

俺と木綿季は現在顔1個分近くの身長差がある。

必然的に木綿季が俺の顔を除くと上目遣いになるのでドキッとしてしまう。

少し心臓に悪い………

 

「和人は深く考えすぎなんだよ。まぁ、そこが和人らしいしボクが好きな所でもあるんだけど」

 

「別に___」

 

「でもね、たまには考えないで気持ちを優先するのも大事だと思うよ」

 

木綿季は反論しようとする俺の言葉を遮り、自分の言葉を重ねた。

俺の手を握って微笑みかけてくる。

そんな木綿季を見ていると俺のことはどうでもよくなり木綿季が正しいと思えてくる。

"和人様は理論的過ぎます。心の中はメルヘンなのに何でそれを表に出そうとしないんですか?"

一度アイに言われたことがある。

その時は"俺はメルヘンじゃない"とか"それはただの不思議ちゃんだろ"とか言って誤魔化した。

けど、木綿季の前でなら正直になっても良いのかもしれない。

アイ達の前ではどうしても強く魅せようとしてしまうが、木綿季の前でなら………

 

「俺………!!」

 

「うん………」

 

涙ながらに俺は語り始めた。

涙と嗚咽が混じって木綿季にちゃんと伝わっているかも分からない。

だけど、伝わっていると信じて続けた。

木綿季は俺の手をずっと握ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直言って何を話したのかは自分でも曖昧だ。

話終わるのも凄く唐突だった気がする。

それに、隣の木綿季だって苦笑いだし。

全然伝わっていなかったみたいだ………

 

「大丈夫!ちゃんと伝わっているから!!」

 

取って付けたような木綿季のフォローが痛い。

俺は肩を落とした。

泣きながら必死で話したのに理解してもらえなかった。

結構、精神的にガツンっと来るものがある。

 

「和人は悪い所ばっかり見ちゃうんだね」

 

「………悪い所?」

 

「うん。和人が話したことの内容は正直分からなかったけど………」

 

なんと木綿季が追い討ちを仕掛けてきた。

肩を落とすどころか木綿季と繋がっている手の逆の手で顔を覆った。

恥ずかしすぎて恥ずか死んでしまう………

あれ、目から汗が………?

 

「気持ちは分かった」

 

俺は体を少し震わせた。

恐怖とかじゃなく木綿季が言ったことに反応したのだ。

俺は手のひらを退かして木綿季見た。

肩を落とした状態なので真横に木綿季の顔が見える。

 

「SAOが生んだのは悪い事ばかりじゃない。良い事だって沢山ある。そうでしょ?ボクだってそうだもん」

 

「良い事………」

 

確かにある。

大分人と話せるようにもなったし、何よりも友達が出来た。

個人的に得たものは沢山ある。

だが、それ以上に奪ったものが多すぎる。

俺は顔をしかめてしまう。

 

「和人が抱えている問題は凄く大きくて和人にしか解決できない。ううん、解決すら出来ないのかもしれない。ボクなんかが一緒に抱えるのは無理なんだと思う」

 

木綿季は最後の方を悔しそうに言った。

手の力が強くなる。

それでも、木綿季は明るく笑顔で続けた。

 

「けど!抱えている和人を支える事は出来ると思ってる!」

 

弾けるような笑顔だった。

白い歯をイーっとしていて、とても可愛らしい。

俺には勿体無いぐらいの女の子。

何て子を俺は好きになって、そして好きになってもらったのだろう。

こんな小さな体に溢れ出す大きな勇気。

俺はその勇気を隣で沢山貰っている。

気付いた時にはもう、木綿季を抱き寄せていた。

 

「俺を支えてくれるか?」

 

「勿論!」

 

「ずっと………ずっとか?」

 

「約束でしょ?1人にしないって」

 

俺は木綿季の肩に手を当てて力を入れた。

ベッドが少しだけ軋む音がした。

そこにあるのは紺色のワンピースを倒れた拍子に乱してしまった木綿季を黒のロングティーシャツと黒のジーパン姿の俺が押し倒している状況。

 

「か、和人!?これはどういう………!?」

 

顔の隅々まで真っ赤な木綿季がまだ慎ましい胸を隠しながら困惑している。

俺は木綿季の顔に自分の顔を近付けた。

 

「んっ………!!」

 

木綿季の唇に自分の唇を押し当てる。

強引だったのか木綿季から短い吐息が漏れる。

 

「ぷはぁ………!!ちょ、待って和人!!ボクまだ心の準備が………」

 

木綿季も察したのか手で俺の胸を押して弱い抵抗をした。

けど、いくら仮想空間だろうと男と女。

力の差が出る。

俺は木綿季の手を抑えた。

 

「………木綿季」

 

「か、和人………!!」

 

俺は今一度、木綿季の唇を奪いにかかった。

体全体で覆い被さるようにして木綿季と密着する。

長い夜が始まる。

俺はこの日、愛する女性と1つになった………

 




あ………うん、久し振りなんですけど。
なんだこれ?
いや、自分が書いたんですけどね。
やっぱり読み返すとなんだこれ?ってなりますね。
うん、なんだこれ?
なんだこれ?
なんだこれ?
なんだこれ?

えっと、では。
評価と感想お願いします!!

なんだこれ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

70話 舞台

お久しぶりです!!!
携帯が壊れたりテストがあったりと色々大変でしたがもう大丈夫!!
頑張って進めていきますね!!


 

「があぁぁぁああぁぁあぁ………………!!」

 

どうにも言葉にならない心地悪さを見た通りの文字通りに意味ある言葉にしないでベッドの枕に向けてぶつける。

枕に顔を埋めながら左右に行ったり来たりとゴロゴロする。

当然、勢い余って俺の体はベッドから飛び出してしまい床に落下することになる。

朝早くでカーテンも閉められた薄暗い部屋にこんなことを1人でしている俺はさぞかし奇妙に映るだろう。

原因は昨夜のこと。

仮想空間だったとはいえ、肩が触れ合う距離で精神崩壊寸前だった俺の心に木綿季がラブアローシュート!!を撃つもんだから最初とは別の意味で精神崩壊してしまったのだ。

それも我ながら結構強引だった。

そういう経験があるはずもないのに木綿季を求めてしまった。

今でもアノ時の不甲斐なさや情けなさが脳裏に浮かぶ。

幸いだったのはヤッタのが仮想空間で避妊がバッチリだということだけ。

 

「あああぁぁぁぁ………………!!」

 

そこでとある問題が浮かぶ。

俺は何をしてしまったのかということだ。

俺と木綿季は恋人である以前に法律上は兄妹。

義理の兄妹だとしても世間一般からすれば妹に手を出した兄という同人誌にありそうなストーリー展開なのだ。

ただ、義理の兄妹は結婚が可能らしいので日本の何処かで義理の兄妹と結婚して行為に及んでいる人達もいるのだろう。

問題は俺達が未成年ということだ。

俺は性犯罪者となるのか?恋人兼義理の妹を強引に押し倒すのはどうなんだ?

魂の殺人とも言われることをしてしまったのだろうか?

折角支えてくれるといってくれたのに台無しになったりはしないだろうか?

そもそも別れ話になったらどうしよう!?

 

「嫌だ………」

 

ベッドから落ちた俺は構わず今度は床でゴロゴロし始めた。

床はベッドのようにフカフカではない。

しなりはあるものの硬い木材が肩や背骨に当たるとゴリゴリっという鈍い音がする。

しかし、木綿季のことで頭が一杯の俺は僅かな痛みなど気にすらしなかった。

 

「………………朝飯作ろう」

 

行動で誤魔化す。

家事の出来る男子が持つ特性だ。

どこぞのファミレスでworkingしている眼鏡男子もそうだったじゃないか。

ちっちゃくないよ!の先輩を撫でるのもいいかも。

俺にはアイがいる。

………あれ?

アイとユイって何処で寝たんだ?

 

「………………」

 

これは深く考えないようにしよう。

俺は心にそう誓って一階に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『和人様、時間ですよ』

 

「ああ、分かった」

 

朝飯を作りスグに感想で”美味しいよ”と専業主夫にはありがたいお言葉を貰ってから数分後。

アイは至って普通に会話に入って来ていた。

スグとも話し俺とも話して昨夜の事をつついてこない。

知らないフリをしているのか、はたまた本当に知らないのか。

いつ毒を吐いてくるか気が気じゃない。

それでも吐いてこない内は普通に接してもし本当に知らなかったときの為に悟られないようにする。

 

『今日は大丈夫みたいですね』

 

「まぁ、何とかな」

 

頬を掻いて曖昧に答える。

黒に白のラインが入った靴に足を入れて玄関に立つ。

第3回BoB本選出場するためだ。

外に出る際の深呼吸をしてドアの取っ手を掴み力を加える。

 

『頑張ってね!』

 

アイでもないユイでもないカーディナルでもない。

家の仮想空間からエールが送られた。

たった一言だけであっても非常に心強い言葉だった。

俺はそれに答える為に力一杯声を張った。

 

「おう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かっているのは本選会場である総督府。

正確にはここから本選が開始されるフィールドに転移されるのだ。

数キロメールもある四角形型のフィールド。

山あり谷ありの壮大なフィールドでの対決でプロとの戦闘は骨が折れそうだ。

加えて死銃の捜索と撃破。

鬼畜なゲームだ。

だが!!元からテンションローな俺には然程気にすることではなかった。

 

「だから言ってますよね?私とユイは木綿季様の仮想空間で寝ましたので御2人が何処まで進んだかは知らないと」

 

淡々と説明するアイは何故か唇がつり上がっていて顔が赤い。

冷静な声音に顔が追い付いていない。

明らかに察している。

ログイン前のナツキさんも何でか察してたし意味が分からない。

肌が綺麗になるのは女性だけじゃないの?

それに仮想空間でだよ?

謎は深まるばかりである。

 

「まぁ、もし和人様と木綿季様の関係がAからBもしくはCまで行ったとしても喜んで祝福するだけです」

 

「お前それ何処で覚えたんだよ」

 

アイの顔が言葉に何とか追い付いて微笑む程度になった。

それにしても一体何年前の隠語を引き合いに出しているのだろう。

あれって1980年頃のものだった気がする。

何を読んだらそんな知識が身に付くのだろう?

いや、俺も知ってたけどさ………

 

「でも、祝福は後ですね」

 

「今日が正念場だからな。気合い入れないと殺られる」

 

"プロ"が居るなかで死銃を見つけ出すのは流石に厳しい。

死銃は恐らくSAOサバイバーでましてやレッドプレイヤー。

戦場での戦い方だけなら俺より上かもしれない。

となると、姿を隠すのもうまいはず。

姿を隠しながら姿を隠している敵を見付けるのは至難の技。

それともう1つ。

 

「それに謝らないといけない奴もいるし」

 

「誰にですか?」

 

「予選で会ったシノンだよ。俺がわざと負けたの怒ってるかも」

 

BoBはGGO最強を決める舞台。

その本選に行けるまでの実力を彼女は持っている。

そんな彼女に謝罪しようと近づこうものなら予選同様頭を撃ち抜かれかねない。

こちらの理由でも気合い入れないと殺られるのだ。

と思っていたら。

 

「あら?よく分かってるじゃない」

 

背中からまるで獣に威嚇されているような鋭い殺気を感じた。

今にも襲い掛かってきそうな程、獰猛な殺気。

錆び付いたロボットのように首を回して振り返った。

案の定、眼を鋭くしてこちらを睨むシノンの姿が目に入った。

幻なのか山猫のオーラを放っている。

ペットのましろとは威嚇のレベルが違いすぎた。

 

「あんた、本選でもあんな舐めた態度とったら絶対に許さないから」

 

「分かってる。予選ではすまないことをした………けど、もう大丈夫だから安心してくれ」

 

俺はシノンの威嚇に対抗しているのか可愛く怖い顔をしているアイの頭に手を置いた。

ポニーテールのアイは怖い顔を止めて澄まし顔に戻る。

試合前の独特の雰囲気が流れる。

一触即発ではないが、それに近い空気。

殺ってやるという意志が嫌がおうにも伝わってくる。

 

「覚えておきなさい。私があなたを必ず殺すことをね」

 

シノンは殺気を変えずに指をピストルの形にして俺に向けた。

指の方向が心臓部分だったらハートを撃ち抜くってことになったかもしれないが、残念なことに狙いは頭。

人間が抵抗する間も無く即死すると言われている眉間。

どんなに弱い武器でもそこさえ貫けば大ダメージ。

それもシノン級のプレイヤーが持つ武器ならワンキルだ。

つまり、一撃で決めるという宣言。

 

「記憶力は常人よりは高いと思っているからな。安心してくれ」

 

「ッ!」

 

皮肉とはこう使うのだろうか?

俺は慣れない言い返しに戸惑いながら口に出した。

シノンは"安心してくれ"と言われた時に反応を見せたので皮肉にはなったようだ。

 

「では、私はキリト様が殺されないように守ります。絶対に」

 

アイも負けじと一歩前に出た。

小さな体に大きな勇気。

何て頼もしい従者だろう。

SAO時代と何にも変わっていない威厳がアイにはあった。

総督府はすぐ後ろ。

俺達は無言で歩き出した。

そして、同時に足を踏み入れる。

決戦の舞台。

木綿季、シノン、そして死銃。

厄介なことがありすぎるが、全て受け止めなければならない。

 

(そんじゃ、本気だしますかね!!)

 

 




次回から本選スタートです!!

それにこの更新していなかった間に結構いいこの小説のラストを考え付きました!!
まだまだ、先ですがよろしくお願いします!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

71話 潜入

シルバーウィーク!!
やることが無い!!


 

『アルゴー、これ大丈夫なの?』

 

ボクはほどほどに揺れる視界を見つめながら、視界の向こう側にいるアルゴに声をかけた。

他人の目線で歩かれるとこんなにも酔いやすいのかと感じた瞬間だった。

 

「仕方無いだロ。ジャイロ付けたらカメラだと一発で分かるからナ。我慢してくレ」

 

『えー………』

 

アルゴの素っ気ない返事に溜め息が漏れてしまう。

ボク自身はこの機械を直接見たことがない。

和人がアイちゃんやユイちゃんを連れてくる時に着けていた補聴器みたいな機械は知っているけど、今ボクが入ってるのは全く知らない物だった。

アルゴ曰く"和人作の試験作"だそう。

なんでアルゴが持っているのかは謎。

まぁ、和人が使っている娘達用の機械に小型カメラを搭載した新型のようなものらしい。

 

「これの真骨頂は記録ダ。今日のターゲットを撮影するのが目的なんだから文句言うなヨ」

 

『スパイみたいだね』

 

アルゴは"だからオレっちの出番なんだろ?"っと言いながら猫を真似てにゃははと笑う。

そう、こんな団欒としているけど今日はとても大事な日。

新川総合病院に行って"ザザ"らしき人物を特定しに行くのだ。

友達のシウネーが入院中の新川総合病院内の何処かに潜んでいるであろうザザ。

ボク達がザザを見付けてその証拠を警察に渡してしまおうという作戦。

幸い、和人の上司的な人が仮想課のトップ。

この作戦で得た情報を見過ごす筈がない。

………………ってアルゴが言ってた。

 

「ユーちゃんは大人になったんだからスパイ活動もへっちゃらだロ?」

 

『ボクはまだ子供だよ!』

 

20歳にもなっていないピチピチの15歳。

お酒も飲めないし結婚も出来ない立派な子供。

子供はそういうダークヒーローに憧れるからアルゴはボクをからかっているんだ。

しかし、アルゴは違う意味の大人を指していた………

 

「いや、だから()()()には大人にだロ?」

 

『え………?』

 

「精神的には____」

 

思わずボクは叫んでしまった。

ボクが大きなイヤホン型の機械の中に居るのは分かっている。

大声を出すのはアルゴの耳に響くことも分かっている。

けど、ボクは叫んでしまった。

そう"心が叫びたがってるんだ"

羞恥で………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新川総合病院は横浜港北総合病院よりも少し小さかった。

正にシンプルイズベストを表現したような無駄の無い横長の長方形。

エントランスも見栄えや便利さを考えてか絵や自動販売機があるものの、くっきりと区別されていて超最適化されている感じだった。

多分、シウネーみたいに落ち着きがある人とかしっかり者の人とかはこの形が落ち着くんだろう。

ボクは逆に落ち着かないけど。

 

「ユーちゃん、準備は出来てるカ?」

 

『バッチリ。いつでも撮れるよ』

 

「じゃ、もう始めてくレ」

 

ボクは言われた通り録画を開始した。

同時に視界の右上に赤い丸が現れて点滅し始める。

それだけで緊張感が増した。

アルゴは変装も全くせずに素顔のまんま乗り込んでいるからだ。

つまり、こちらはザザの顔は分からないけど、ザザからはアルゴだと分かってしまうのだ。

所謂、囮。

いきなり自分の居る病院にSAOで一番有名な情報屋が来たらいくらザザでも何らかの反応をするだろう。

アルゴはそれを狙っているのだ。

襲われないのかと訊いたところ"現実だったら俺っちの方が強い"と変な自信を持って返してきたから何も言えなかったけど。

今はあの変な自信を信じるしかない。

 

「どうも、お待たせしました!」

 

突然、この病院にどうも似合わない明るい声がエントランスに木霊する。

やって来たのは白衣ビシッと決めたオールバックの眼鏡おじさん。

首から下げている名札を見ると院長と書かれていた。

新川(しんかわ)亮二(りょうじ)

ありふれた名前だった。

何の変鉄もない良い顔をした院長。

ただ、おじさんの声には違和感を覚える。

 

「こちらこそ。急な訪問に対して対応していただき、ありがとうございます!」

 

アルゴはおじさんと同等の声の張りを見せながら元気良く返事をした。

声しか聞こえないけど多分満面の笑みなんだと思う。

その証拠に相手のおじさんは若干鼻の下を伸ばしている。

 

「申し遅れました。私、安岐アオイと申します」

 

普段のアルゴを知っているからこそ似合わないアオイの時のアルゴ。

男勝りな態度はなりを潜ませて大人の女性を演じている。

怖いくらいの演技力。

違和感の無い立ち振舞いや声もSAOで培った技術なんだと思う。

これが元からの才能なら女優にもなれたよ。

 

「では、では、早速。病院内の案内をさせて頂きます」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

おじさんは素早く持っていたファイルの中から数枚のプリントを取り出してアルゴに見せた。

印刷されていたのは病院の見取り図で、細部まで細かく説明されていた。

アルゴは然り気無くプリントをずらしてカメラの中心に来るようにした。

大きな補聴器にしか見えないカメラなので院長もまさか盗撮されているとは夢にも思わないだろう。

 

「では、資料通りに案内させて頂きます」

 

そう言っておじさんは手を揉みながら頭を下げる。

不自然な程にアルゴへの印象を良くしようとしているのが伝わってくる。

おじさんは"こちらです"と言ってた背を向けた。

 

『アルゴって普通の看護師だよね?』

 

「この新川総合病院は新設の病院なんダ。医療技術もあって古株の横浜港北総合病院からの調査官みたいなオレっちに良いところを見せておきたいんだろうナ。だから、この補聴器に見えるこの機械の事を言ったりと不機嫌になってほしくないんだロ」

 

アルゴは詰まらなそうに小声で説明してくれた。

大人の都合というものらしい。

すると、アルゴは"それにしても綺麗ですね!"とボクと話している時とは声の質も量も全く違う口振りでおじさんの後を追った。

ボクは揺れる視界の中で子供ながら嫌な光景を見てしまったとほんの少しだけ落胆した。

大人の世界って怖い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大体の案内が終わると今度は応接室で紅茶を頂いていた。

おじさんはさっきから熱心に我が病院のマニフェストは___などと難しい単語をだらだらと絶えず口から溢れ出させている。

ボクがバカだからか意味が全然分からない。

でも、時折アルゴからコツンッと苛立ち混じりの歯音が聞こえてくるから大したことでも無いらしい。

当然、ボク達の目的はザザ。

おじさんの病院の歴史とかは一欠片も興味が無い。

それなのに未だ戦果が無い。

この話が終われば帰るしか道は無い。

失敗に終わってしまう。

ボクは諦めムードに差し掛かってしまう。

しかし、アルゴがそれを引き留める。

 

「そんな大きい病院なんです。後継者も大変でしょうね!」

 

「いえいえ、もう全然ですよ!どちらもゲームばっかりで」

 

「どちらも?」

 

「ええ、私には2人の息子が居るのですが………兄はゲームのやりすぎで()()()()に巻き込まれてしまい。弟が頑張ってるんですが………」

 

アルゴのお陰で光が見えた。

例の事件、言葉をあやふやにしているけどゲームのやりすぎの人が巻き込まれてる事件なんて今のご時世1つしかない。

それに加えておじさんの雰囲気から兄は生きている。

 

「そう悲観すること無いですよ。例の事件で何かを得られたかもしれません。私は例の事件を経ていい方向に成長した人物を知ってますからね。和人と言って超かわいい私の弟のような存在なんですよ!!」

 

アルゴが身を乗り出して声を荒げた。

たしかにアルゴは常日頃から"和人は弟で木綿季は妹なんダ!"と宣言していた。

けど、まさか作戦中にまで及ぶとは………

個人名まで出すとなると相当な弟妹欲のようだ。

 

()()もそうだったらいいのですがね。()()に賭けるしかないんですよ」

 

物凄く悪そうな微笑みの声が聞こえたのは気のせいだとボクは信じる。

 




次回から本選って言ってましたけど何かこうなっちゃいました!
本当に次回は本選ですのでご安心を!!

心が叫びたがってるんだ見に行きたいです!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

72話 逃げる

シルバーウィークも残り僅か………
学校嫌だよ~。


 

現実では再現が不可能と言っても過言ではない程の正方形超ビッグフィールド。

その中には山から谷まで数多くの地形が揃いに揃っている。

と言っても、GGOは世紀末のような近未来のような廃れた地球を設定としているので、自然だけじゃなく発展虚しく朽ちた街が存在する。

勿論、このフィールドにも街が存在する。

しかも、フィールドのど真ん中という分かりやすい場所。

ニョキニョキと竹のようにビルが数棟天に向かって伸びている。

 

「居ましたか?」

 

「全然見当たりません………………」

 

そんな廃ビルが立ち並ぶ中、とある廃ビルの屋上に俺、アイは地上を見渡していた。

捜しているのは先日俺が出会ったボロマントでマスクを着けた男、(デス)(ガン)

こんな1辺数キロもあるフィールドから1人のプレイヤーを捜し出すなんてコツを駆使しても至難の技なので罠を仕掛けてフィールドの中心で待ち伏せした方が効率的だと考えたのだ。

それに、そんな事をBoB決勝開始直後で離れ離れだった俺とアイは同時に考え付いて、何と奇跡的も全く話し合いをしていないのに合流出来たのだ。

 

「もっと良い双眼鏡なかったんですかね?」

 

アイの少し怒った様な声音が耳に響く。

出来るだけ高いビルでお互い真逆の方向を警戒しているからだ。

馬鹿と煙は高いところが好きと言うがそんなの関係ねぇ!!

………あの人消えたよな。

俺は単眼鏡の倍率を弄りながら答えた。

 

「あったとしても高級品だろうな。ずっとプレイする訳じゃないしこれでも十分見渡せるだろ?」

 

「見渡せはしますけど、それは街だけじゃないですか。もっと望遠鏡みたいなので見渡したいです」

 

トストストスとリズミカルな弱々しい足音が鳴る。

アイが自分の小さな足をバタつかせたらしい。

しかし、そんな可愛いことされても仕方がない。

望遠鏡は意外と大きくて重い。

設置するにも敵にバレやすそうだし重いから小細工道具で満たされているメニューにも入らない。

対人戦には向かない物なのだ。

 

「あ、プレイヤーだ」

 

手前にあるドーム状の建物の影に入りながら速足で疾走している。

俺のアバターよりも髪が長くて銀髪。

どこかアイが成長するとああなるんじゃないかと考えてたしまう。

そんな成人版アイの手にはライフルが握られている。

 

「罠につられたんでしょうか?」

 

「いや、ドームに見向きもしてないから違うと思う」

 

俺は無防備に背を向けている成人版アイを見逃した。

しかし、彼女が死銃だったら迷わず狙っただろう。

ただ、雰囲気も行動も性別も違う気がした。

あの死銃が着けるマスクの下が女だったら可能性もあったが、成人版アイからあんな低い声が出るとは思えなかった。

そんなの軽くトラウマになるレベルだ。

 

「そうですか、ただのプレイヤーに興味はありません。警戒を続けましょう」

 

「………お前、素で言ってるのか?」

 

すると、アイは"何がですか?"と真剣に訊いてきたのだった。

思わず、単眼鏡から眼を離して頭を落とす。

まさかそのネタを素で言う人が居たなんて驚きだった。

ましてやそれが自分の娘となると尚更だ。

宇宙人、未来人、異世界人、超能力者なら興味があるのだろうか?

 

「パパ好みの良い子に育って~………かわゆい奴め………」

 

「そのセリフ危ないです」

 

このネタは知ってたのか?

俺は取り敢えずアイの言う通りに警戒を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和人様、スキャンが来ました」

 

「分かった。俺は見てるから周辺だけでも情報をくれ」

 

しばらくすると、この巨大なフィールドで唯一プレイヤーがどこにいるかが分かるサービスが始まった。

これは地球上に人工衛星が回っている設定でその人工衛星がフィールドをスキャンするものだ。

全てのプレイヤーの名前と場所が一時的に公開されるのだ。

そして、スキャンは15分間隔で行われる。

試合が始まって最初のスキャンの時には馬鹿正直に"死銃"と書かれた名前を捜したりしたが、流石にそれはなかった。

 

「先程、和人様が言っていたプレイヤーは恐らく"銃士X"ですね。ドームから少し離れたところにいます。地形からして待ち構えですね。当分、移動はないと思います。その他のプレイヤーは街には居ません」

 

「了解。まだ、待ちかな?」

 

俺はひとまず緊張をほぐした。

もし、銃士Xがビルを登ってこようとしても俺、アイがいるビルは罠地獄と化してるのでコツを使えない普通のプレイヤーが足を踏み入れたら即死もあり得る。

俺の小細工舐めるなよな!

 

「あ、シノン様がこちらに向かっています………」

 

「シノンが先に釣れたか………」

 

俺は眉をひそめた。

"Kirito"の名前を知っている死銃を誘き出す為の罠にシノンが釣られてしまったらしい。

俺の名前を使った罠。

それはデバイスだった。

1度目スキャンの際に"何をプレイヤーとして人工衛星は認識しているのだろう?"といった疑問が罠の始まり。

2度目のスキャンの時に実験をしたところ人工衛星はプレイヤーではなくプレイヤーが持っているスキャンを見る為のデバイスに反応していることが分かった。

つまり、デバイスをそこらに放置してノコノコとやって来たプレイヤーを狙うのも可能性なのだ。

しかし、これは協力者がいないと危険性が高すぎる。

俺にはアイという心から信頼できる存在がいるから出来るものの、GGO最強の名を狙い目指しているBoB参加者に協力している人達がいるとは思えない。

それも決勝でだ。

とにかく、俺はその作戦でデバイスをドーム内に放置したわけだ。

 

「どうしますか?」

 

「試合前にあんなこと言っちゃたからな。個人的には戦いたいけど………」

 

それでは死銃はどうなるのか。

戦闘音を聞き付けた銃士Xが近付いてくるかもしれないし、死銃そのものがやって来るかもしれない。

銃士Xならともかく死銃が来たらキツくなる。

シノンはプロだ。

そのシノンに勝ったとしてもダメージを負った状態でSAOのトップ殺人狂乱者に勝てるとは思えないし俺がシノンに負けると今度はシノンに危険が迫る。

申し訳ないが、スルーするしかない。

 

「スキャンが終わりました」

 

何だかとても負い目を感じてしまい胸が痛くなる。

同時にシノンとの戦いがそれほど楽しみだったんだと気付く。

楽しみが延長された怒りを俺は死銃に向けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!シノンだ」

 

あれから数分後にシノンは俺の単眼鏡で見える範囲にたどり着いた。

シノンの身長より遥かに長く大きい銃を背負っている。

代わりに手元にはハンドガンが構えられている。

銃士Xとは違い、常に周囲に気を配っている。

が、流石にここまで気を配れてはいないようだ。

確かに、ここから狙撃ともなるとシノン級の腕が必要だろう。

そしてシノンは残っているプレイヤーの中でそれが出来るプレイヤーは居ないと判断したらしい。

 

「和人様」

 

アイが忠告するように俺の名前を呼んだ。

俺は無言で返す。

飛び降りて約束通り戦いたい衝動を抑え歯を食い縛る。

それはシノンがドームの入り口に辿り着いた時も同じだった。

しかし、俺は咄嗟にビルの端から身を乗り出した。

 

「撃たれた!?」

 

シノンが崩れ落ちたのだ。

即死ではなかったものの倒れこんで動かない。

俺はすぐに周囲を見渡した。

が、何処にも狙撃したプレイヤーは見当たらない。

近くにいる筈の銃士Xすらいない。

見えない敵。

シノンが撃たれたことよりも狙撃主が見当たらず、狙撃音やマズルフラッシュすら見えなかったことに驚きを隠せない。

 

「………動けないのか?」

 

なかなか起き上がらないシノンに注目すると肩に電気のようなものを帯びている針が刺さっていた。

動かないシノンを見るとどうやらあれが原因らしい。

そんな時だった。

俺は更に驚きの光景を目の当たりにする。

 

「なっ!?」

 

倒れこむシノンの横の空間が歪んだと思うとプレイヤーが姿を現したのだ。

ボロいマントのプレイヤーだった。

その時俺は自分がとんでもないことをしてしまったことに気付いた。

利用されたのだ。

死銃を狙う為に仕掛けた罠を利用して他のプレイヤーを狙ったのだ。

少し考えれば分かることに自分自身を責めずにはいられない。

 

「アイ!!死銃が出てきた!何か分からないけど透明化出来るらしい!シノンが狙われてる!!」

 

「透明化!?そんなアイテム知りませんよ!!」

 

「とにかく、()()()()の入り口に来てくれ!!」

 

俺はそれだけを言うと迷わずビルから飛び降りた。

真っ直ぐシノンに銃を向ける死銃に飛ぶ。

黒いタクティカルナイフを逆手に持って黒いマントをたなびかせる。

全殺気をナイフに纏わせるように構えながらもうスピードで落ちていく。

そして、俺はナイフを全力で振り抜いた。

 

「ちっ………!!」

 

しかし、俺の全力の振りは狙いの首へとは届かなかった。

死銃が寸前で体を捻って避けたのだ。

代わりに死銃の右腕がもがれる。

俺は両手を伸ばして地面と合わせた。

そして、両手からの五点着地という俺のオリジナル着地方法で転がる。

転がり続ける体を両足でブレーキをかけてすぐにシノンの元に急いだ。

この時死銃が後ろにジャンプしながら残った左手で手榴弾を放ってきた。

 

「ふっ!」

 

だが、咄嗟にナイフを投げて死銃が放った瞬間の手榴弾にあてて爆発させる。

死銃はバックステップをしてたので大ダメージとはいかないが少しはダメージを負ったはず。

死銃が怯んでいる隙に俺はシノンを持ち上げた。

小声で何か言っていたが無視してお姫様抱っこをしながら全力で走った。

 

「和人様!!」

 

そこにタイミング良くアイが合流する。

何故かバギーにまたがりながら。

しかし、今はとにかく逃げることが先だ。

 

「ナイスだ!!」

 

俺はアイの後ろにまたがって動けないシノンを俺とアイの間に乗せた。

バギーのバランス調整の為とはいえ、シノンを正面から抱き寄せる形になってしまったが、致し方ない。

俺は最後にメニューから特大のグレネードを出して後ろに捨てた。

その瞬間にバギーも発車する。

 

ドガーンッ!!!

 

別名デカネード。

グレネード系の武器で最大、いや全武器の中で最大の威力を持った爆弾。

最強の爆弾が起こす爆炎、爆風を後ろに、ただひたすら俺達は逃げた。

 




色々あれ?となることが多いかもしれませんが、ちゃんと次回で消化しますのでご安心を。
いやー、原作通りにいきませんねー。
ハッハッハ!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

73話 危機

”心が叫びたがってるんだ”
見に行きました!!
”あの花”の感動とはまた違う感動があって凄く良かったです!!



 

素朴に、そして壮大に広がる砂漠地帯。

時折吹いてくる強烈な風は漫画で見たことのある藁の塊みたいな物体を転がしてくる。

見た感じは本当に何にもない砂だけの世界。

………という訳でもなく何故か結構距離があるが巨大な廃ビルが2棟ほどたたずんでいる。

髪を染めた上半身裸の男達がバギーに乗って襲ってきそうな雰囲気がある。

けど、GGOがまさか世紀末の世界設定を取り入れてるとは思いたくない。

俺には残念ながら7つの傷痕はないし秘孔の位置すら分からない。

 

「何で助けたのよ………?」

 

耳元でシノンが冷たく訊いてきた。

麻痺状態だったシノンは先程まで力が全く入らない状態だった。

それ故俺が正面から抱き寄せる形になっている。

恋人がいるのに他の女の子と抱き合いながら娘の後ろにいるという何ともしがたい不思議な現状。

シノンの吐息が耳をくすぐってむず痒くさが体に広がる。

 

「別に………あそこでシノンが死んだら約束が守れなくなるから」

 

それも本当のことだ。

しかし、シノンを襲ったプレイヤーが死銃ともなると話は変わる。

死銃はシノンを()()()()で殺そうとしたのか。

そこが問題だ。

見た目は見間違う筈もなく死銃だった。

俺からすれば確実に現実で殺そうとしてるようにしか見えなかった。

 

「あいつ………私を殺しに来たんだ………」

 

囁くような声とは裏腹にシノンは俺に回している腕の力を強めた。

俺の肩に顔を埋まらせて小刻みに震えている。

あれだけ強気だった試合前のシノンとは真逆のシノンに驚きこそするものの、失礼だが"やっぱり"と思ってしまう。

 

「シノンは………俺に似てるな………」

 

そう言ってお姫様抱っこの名残で横向きになっているシノンを左腕で抱き締めて右手はバギーを運転しているアイの肩に乗せる。

 

「あと少しで洞窟です」

 

アイはハンドルを握り締めてバギーを加速させた。

何故アイがバギー、正式名全地形対応車を操作できるのか。

俺にはさっぱり分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟内は広くも狭くもなかった。

しかし、退路がないのでもし敵が襲ってきてグレネードを投げられたり、アサルトライフルなどの連射力のある武器で入り口から撃たれたら確実に死んでしまう。

が、砂漠に若干埋もれるかのようにある洞窟。

その上からの見渡しは良く、敵も発見しやすい。

見張りという協力者がいるなら籠城にはうってつけだ。

そして、その見張りを今、アイにやってもらっている。

もしもの為に罠を仕掛けながらなので重労働かもしれない。

 

「さっき、私とあなたが似てるって言ってたわよね?」

 

「あ、いや………何と無くだから。気にしないで………」

 

俺の隣に体育座りで座っているシノンが光る不思議な鉱石で照らされた洞窟の天井を仰ぎ見ながら呟いた。

似てるとはあくまでも俺自身の直感で、何が似ているかと訊かれたら答えることができない。

現に俺は答えをあやふやにしてしまっている。

 

「私もなの………」

 

「………シノンも?」

 

シノンは天井に向けていた視線を今度はゴツゴツした地面に移した。

その表情は可憐で本当にあの山猫のようだったシノンなのか疑ってしまう。

だが、それよりもシノンが"似てる"という言葉に同調したことが驚きだった。

 

「初めて会った時は感じなかった………けど、予選決勝の時から私も何と無く似てるって思い始めた」

 

恐らく、スコープ越しに俺の表情が見えたのだろう。

そして、何かが似てると感じ取ったのだ。

 

「キリトは………多分私と同じ経験をしたのね」

 

「………そうだな。シノンも今までに人を………」

 

シノンは今まで俺が出会ってきた人達とは少し違っていた。

それは同じ経験をしていたからだ。

()()ではなく()調()できる人物なのだ。

それだからか、俺は現実であったこともない彼女に惹かれつつある。

 

「私………人を殺したの」

 

「俺も………人を殺した」

 

どちらからという訳でもなく。

いつの間にかお互いの手は握り締め合っていた。

それは恋愛感情とかではなく、お互いの恐怖を消し去ろうとする防衛本能のようなもの。

お互いの抱える恐怖を知っているからこその行為だった。

そして、先ずはシノンから口を開く。

 

「私が殺したのは____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんですか。では、キリト様は別にシノン様にやましい気持ちがあったわけではないと?」

 

顔は笑っているのに目が笑っていないとは正にこの事。

アイは正座している俺を見下しながら腕を組んでいた。

殺気が身体中から迸っているのが見てとれる。

 

「私も別に恋愛感情があったとかじゃないから………」

 

シノンはアイの後ろで弁護してくれている。

しかし、アイは一切聞く耳を持たず俺のことを見ていた。

まぁ、罠を張り終えて定期的に行われるスキャンの報告をと思って洞窟に戻ると父親が母親とは違う女と手を握り合いながら話をしている場面を目撃したらこうもなるかもしれない。

 

「正直………キリト様が自分の過去を話すことが出来たのは一歩前進したようで嬉しいのですが、手を握り合いながらという浮気現場みたいで複雑な心境なのです」

 

「浮気現場って………あなた彼女いるの?」

 

「まぁ、一応………」

 

更に言えばシノンの目の前にいるアイがその彼女との娘ですとは絶対に言えない。

 

「一応って何ですか?ちゃんと言わないと私が許しません」

 

「正真正銘絶対にお付き合いしている人がいます」

 

即座に訂正する。

それでもアイは不満なようで頬を膨らましていた。

もう、これ以上の言葉は見付からないので言葉ではなく行動で示すことにした。

俺はアイに右手を差し伸べる。

 

「きゃ!?」

 

?マークを頭に浮かべて差し伸ばされた俺の手を触ろうとしたした瞬間にアイの手首を掴んで引っ張る。

そのまま俺は胡座をかいてそこにアイを座らせた。

GGOのアバターが小さいが、アイはすっぽりと綺麗にはまった。

 

「よし、死銃バイバイ作戦の会議を始めましょう」

 

そして、あたかも何もなかったように話を進めようとした。

流石のシノンも唖然としている。

何か小刻みに震える普段より暖かい生物が懐にいるが気にしないようにする。

シノンからだとこの生物の顔が見れるだろうけど、どんな表情かなんて訊かない。

天才と言われている俺は分かってるからな。

震えて体が熱くなる程怒ってるのだ。

 

「そうね。始めましょう」

 

シノンは何故か微笑みながら俺とアイの正面に座った。

んー、やっぱりアイの顔が気になる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今残っているのは私達の他に闇風と死銃だけですね」

 

「意外と減ってるんだな」

 

アイがマップを広げながら説明する。

俺のデバイスは未だにドーム内に放置されているのでアイに頼るしかない。

にしても、こうしてアイと密着していると異世界に飛ばされたゲーマー兄妹を想像してしまう。

 

「こことこことここに新しい死亡マークが出てました」

 

「凄い記憶力ね」

 

アイは立体映像のようなマップに次々と指を指して現状を説明する。

それを見ていたシノンは目を丸くしている。

 

「あら?そういえばどうして死銃が生きているって分かるの?」

 

「決勝に参加するプレイヤー名は暗記しています。そして、その中で唯一死亡マークが付いていないプレイヤーが居るんです」

 

俺は成る程と思いアイの頭に両手を置いた。

ピクンッとアイが変な反応をしたけどそれはもう可愛かった。

アイは逆算したのだ。

生存者と死亡者の合計と決勝参加者の人数に1人分の差があることは前からアイに聞いていた。

そこで試合終盤となったことで参加者から死亡者の名前を引いて生存者の人数と名前を確認して、生存者の中に死んでいないのに名前がない奴が死銃だと判断したのだ。

あの透明マントはスキャンを遮ることが出来るらしい。

にしても、死銃はあの爆発を耐えたか避けたのか。

 

「名前は?」

 

「"sterben(ステルベン)"」

 

知っている単語だった。

と言うか俺がそうなりそうだったのだから知っててもおかしくない。

それにアオイさんが教えてくれたりしてるので医療業界用語は詳しい方だ。

 

「どういう意味なの?」

 

「死亡を意味する医療用語。死銃にはピッタリだな」

 

しかし、ステルベンという単語を知っている一般人は少ない。

俺だってアオイさんにSAOで死にかけると"ステりそうになってんじゃねーヨ"とかリハビリで迷走神経反射に苦しんでいると"何ワゴってるんダ?"とか言ったりしないと分からなかっただろう。

つまり、

 

「死銃は医療関係者かもな」

 

俺が何気無く言うとシノンが顔を上げた。

心当たりがあるという感じだ。

 

「どうした?」

 

「いえ、知り合いにGGOをプレイしている医療関係者がいたから………でも、その人はSAOをプレイしてないから違うと思う」

 

シノンが首を振って否定した。

SAOサバイバーじゃないなら違うだろう。

スピードとかで俺がキリトだと分かるのはSAOサバイバーしかいない。

 

「医療関係者………あれか?薬を予め飲ませてGGOをプレイしている時に効果を………」

 

「無理ですよ。仮想空間で撃たれた瞬間に効果が現れる薬なんてありませんよ」

 

昔、フグのテトロドトキシンとトリカブトのアコニチンを使った事件があったので可能性を考えてみたのだが、確かにあんなピンポイントでは無理か。

テトロドトキシンを利用してアコニチンの効果を後らせるという薬学を応用した事件だったので、医学も進化してるから可能かと思ったのだが………

しかし、それだと少しまずいかもしれない。

 

「シノンは死銃に1回狙われているよな?」

 

「えぇ………」

 

「それって、死銃が超能力者でも現実で何らかの仕掛けを使ってるにしても………」

 

 

 

 

 

 

"シノンを殺す事が出来るって事だよな?"

 

 




キ~リトの浮気ギリギリ回。
現実に戻ってからが楽しみですね!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

74話 犯人特定

最近変な二次創作の案が頭の中を回っています………
何と、"SAO"と"のんのんびより"のクロスです。
しかも、SAOの世界にれんげ達が入るのではなく、のんのんびよりの世界に和人だけを入れる謎設定。
中学2年の和人が転校してきて、皆とのんのんと過ごす変な世界。
そしてヒロインがこまちゃん。
あの小さなこまちゃん………

おい、自分………頭大丈夫か?


 

 

「新川昌一か新川恭治だナ」

 

ボクの仮想空間でアルゴは胡座をかいたまま、だるまさんのように揺れている。

それも結構大きく動くから髪はなびくし、後ろに倒れたときは顔すら見えなくなっちゃう。

ボクとユイちゃんはそんなアルゴの前できちんと体育座りで話を聞いていた。

 

「そんデ、恐らく昌一が兄で恭治が弟………」

 

「シウネーが聞いた話だと"ザザ"の可能性があるのは病院を受け継ごうとしている弟………じゃない方の兄」

 

「つまり、新川昌一が笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の幹部であったXaXa(ザザ)だということですね!」

 

ユイちゃんが人差し指を立てて"ムフー"と鼻を鳴らす。

アルゴも両手を組んで深く頷いている。

ボクもそう思うし何よりアルゴがそうだと確信しているようだし間違いは無さそうだ。

あとはこの事を仮想課の菊岡さんに言ってどうにかしてもらおう。

 

「じゃあ早く菊岡さんに言わないとね」

 

「そうですね!!」

 

ボクは張り切って飛び上がった。

ユイちゃんも便乗して同じように飛び上がる。

これで菊岡さんもボク達が望むような対応をしてくれたらハッピーエンドになる。

だけど、ユイちゃんと両手を組んで"やったやった"とはしゃいでいる中、アルゴは少しだけ浮かない顔をしていた。

 

「………どうしたの?」

 

ボクはユイちゃんとの小ジャンプを止めてアルゴに訊いた。

 

「イヤ、連中がこんなに大人しい人間なのかと思ってナ」

 

「連中とはラフィンコフィンの事でしょうか?」

 

アルゴは無言で頷いた。

まぁ、確かにSAO時代には殺人を好きで殺っていたラフィンコフィンが現実で大人しくするとは思えないけど、現実と仮想の性格が全然違うって人は大勢いる。

ザザもその1人なのかもしれないし。

そんな事を考えているなんてお見通しなのかアルゴが首を横に振った。

 

「奴らは快楽の為に人を殺していタ。それは相当ヤバイ事なんだヨ。人によっては人を殺すことによって性的快感を感じようとすることもあル。快楽殺人者がいきなり殺人を止めるのは無理なんダ」

 

「殺人を性的快感に?」

 

「主に幼児期の体験が原因とされていてナ。昌一は産まれた時から病院で過ごしているようだから生と死に関心も強かったんだヨ。その探求が快感に結び付いちまったんじゃねーカ?SAOという罰せられることのない世界デ」

 

ボクには想像もつかない世界の話だった。

家族を失い事故にあってHIVに感染したりと控えめに考えても生と死に無関係だとは言えない人生をボクは送ってきた。

けど、人を殺すとは一度も考えたことがない。

………狂ってる。

ボクはザザでもなく昌一でもないから彼の経験したことは分からない。

それでもそう思わずにはいられなかった。

 

「もしかするト………何処かでヤバいことを今でもしてるんじゃないかってナ」

 

「だとすれば、いっそう早く仮想課の人達に報告しないとです!!」

 

「そうだよ!ボク達が言えば何かしてくれるかもしれないよ!!」

 

それでもアルゴは仏頂面を崩してはくれない。

言えば解決することは分かっているようだけど、何か別のことを考えているようにも見える。

いつの間にかだるまさんのような揺れも止めていて腕を組んで考え込んでしまっていた。

梃子でも動かなさそうなアルゴにボクとユイちゃんは困ってしまう。

 

『警察の前に伝えておかないといけない人がいるぞ』

 

「「「!?」」」

 

突然、老婆のような声がボクの仮想空間に響き渡る。

その声は一ヶ所から発せられているのではなく、仮想空間全体から発せられているようだった。

驚きのあまり、皆一瞬肩を震わせてしまう。

すると、ふいに光の粒子のような物が何処からともなく現れて形作り始めた。

丁度、ボク達の間で集まっていく光は形を成していき遂には人形へと変化する。

そして、光の形成が終わるとボクとアルゴの間には1人の少女が立っていた。

 

「久し振りじゃの。ママ殿」

 

木製の杖を突いてまるで賢者のような服装と風貌の眼鏡少女。

クリーム色の短い髪に翠色の瞳。

ボクと和人の3姉妹の内の次女であるカーディナルだった。

 

「カーディナル!!」

 

普段は自分で造り上げている情報の大図書館を管理していているのでなかなか姿を見せないカーディナルが目の前に現れたことを嬉しく思い飛び付く。

アイちゃんとほとんど背に差がないからボクでも十分に抱き締めることが出来た。

 

「お姉ちゃん!!」

 

ボクに続いてユイちゃんがカーディナルに飛び付く。

それによってボクとユイちゃんに挟まれたカーディナルは苦しそうに呻き声を上げている。

だけど、ボクは一向に力を緩めることはしなかった。

 

「ホイホイ。ユーちゃんもユイちゃんもカーちゃんが苦しがってるゾ」

 

本当はもう少しくっついていたかったけど、アルゴの言う通り眼鏡や帽子がずれたりしていてカーディナルに精神的なダメージを与えすぎたと反省する。

ボクとユイちゃんから解放されたカーディナルはわざとらしく咳をしながらずれた帽子と眼鏡を治してついでに乱れた賢者服も治した。

それから杖を一回大きく突いてから咳を1つ。

 

「久し振りに会えて嬉しいのはわしも同じなのじゃが、今はそれどころではないじゃろ」

 

見事なまでのおばあちゃん口調でカーディナルは話始めた。

老婆のような声も姿を見ると年相応の幼さも感じられる。

 

「ママ殿達が話していた新川昌一なのじゃが。今、とあるゲームにログインしておる」

 

そう言って、カーディナルは杖を横に振ってシステムの画面を呼び出した。

オリジナルの画面の呼び出しに少し驚いたけど、更に驚くことが開いた画面に映っていた。

カーディナルが呼び出したのは今和人がいる世界のホームページだったからだ。

 

「ガンゲイルオンライン………パパ殿が戦っている世界じゃ」

 

「昌一………ザザが和人のいる世界に?」

 

「成る程、キー坊はそれを知っていたんだナ。それで本気を出しタ」

 

「パパ………!」

 

皆、思い思いに口を開いた。

多分、和人はザザに出会ったことで精神崩壊を起こしてしまったんだと思う。

そして、和人はザザに挑んでるんだ。

ボクはすぐにでもGGOに飛び込みたかった。

和人と一緒に戦いたかった。

 

「VRゲーム全てのデータはわしの図書館に常時更新されておる。そこから見付けたのじゃ。GGO内でのアバター名はステルベンじゃ」

 

「死を意味する医療用語………確実にしたナ」

 

アルゴがステルベンという名前に反応すると頬をつり上げた。

その不気味な笑みには怒気が混じっているのがよく分かる。

そして、そのアルゴに数秒遅れて何とユイちゃんが大声を出した。

 

「あ~!!」

 

小さい体から大きな声が飛び出して、皆目を丸くする。

しかし、ユイちゃんは目を大きく開いて若干背伸びの態勢になった状態で驚きというより閃きを全身使って表していた。

 

「パパの依頼の犯人!!!」

 

 




オヒサデス!カーディナルさん!!

以上!!!

評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

75話 トリック

携帯の機種変したいです!


 

 

「私を殺す………?」

 

シノンは受け入れがたい事実に混乱しているのか口を半開きにさせて声を漏らした。

そして、混乱が解かれて頭がクリアになったらしく猫のような大きい瞳を更に大きく開き、口を震わせる。

俺は"しまった!"と自分を叱咤して、自らが何の考えもなくシノンに無責任なことを言ってしまったと後悔した。

 

「落ち着け!あくまで可能性の一部だ!!」

 

「そんな………私が………」

 

そう言って、俺はシノンの肩を掴んで少し強めに揺さぶる。

しかし、シノンは俺の手を払い除けて子供がイヤイヤをするように頭を両手で押さえながら首を振ってしまう。

 

「シノン様!!」

 

アイも必死に叫ぶがまるで声が届いていない。

現実味がありすぎたのだ。

死銃はシノンを撃とうとした時、一度わざわざ麻痺効果がある弾で狙撃した。

ゲームで殺すのだったら透明マントという魔法のような便利アイテムを使って至近距離から撃てば済む話なのにだ。

一度麻痺させて、ハンドガンで撃つのは特別な理由があるはず。

シノンの話だと死銃が使おうとしたハンドガンは黒星(ヘイシン)

ソ連が使用していた中国製の軍用自動拳銃。

もしかしたら、あの銃が超能力的な力を持っているのかもしれないし、または黒星で撃つことが現実で人間を殺す為の合図なのかもしれない。

それに、シノンは撃たれそうになる直前に死銃の十字を切るような行動をしたとも言っていた。

なんにせよ、死銃がシノンに対して行った行動は不可解なことばかりなのだ。

 

ピコン!

 

「!?」

 

そんな時だった。

俺とアイが必死でシノンを落ち着かせようとしているとき、一通のメッセージが届いた。

俺はシノンにかけていた声を途切れさせて黙りこんでしまう。

当たり前だが本来、BoB本選中は誰ともメッセージの交換が出来ないようになっている。

映像を見ている仲間が外からスパイ活動のように情報を流さないようにするためだ。

それなのに俺の視界の右上には黄色い丸に白のメールマークが刻まれたアイコンが点滅している。

一瞬、運営側からの連絡かと考えたがアイは全くメッセージが届いた素振りを見せていない。

これは俺に向けた物なんだと分かるとメッセージの送り主を見て驚く。

カーディナルだったのだ。

バグやら罠やら数々の不穏な可能性を全て頭から抹消してメッセージを開く。

 

"死銃の正体は新川昌一。新川総合病院の院長の長男。SAOではXa()Xa()を名乗っていた。"

 

「新川………昌一?」

 

何故カーディナルがそんなことを知っているのかはさておき、今は新川昌一という何処かに居そうな決して珍しくもない名前を呟いた。

しかし、カーディナルには悪いがそれが分かったところで今の現状が改善された訳ではない。

例え死銃の正体が分かっていても人殺しのトリックが分からない以上誰も手は出せないし死銃がザザで人殺しをしていた過去も今はその責任が全て茅場さんにある。

俺は顔をしかめるしかなかった。

すると、今まで呻き声を上げるだけだったシノンがちゃんとした言葉を口にする。

 

「新川………?」

 

体を丸めて相変わらずのイヤイヤの態勢で新川の名前を消えそうな声で言った。

 

「新川昌一って言った?」

 

今度は言葉ではなく明らかに俺に向けての疑問文だった。

急激なシノンの変容に戸惑いを感じながらも俺は縦に首を振った。

 

「その人………私の友達の兄なんだけど………何でキリトが?」

 

「………友達ってさっき言っていたGGOをプレイしている?」

 

俺が逆に質問で返すと今度はシノンが首を縦に振った。

と言うことは、新川総合病院の院長の次男がシノンの友達となる。

俺は思わずまた、シノンの肩を掴んだ。

 

「もしかして、シノンの友達は医療の勉強をしてるか!?あ、あと2人兄弟なのか?」

 

丸まっているシノンを無理矢理伸ばして至近距離から問い詰める。

俺は鼻先が触れそうになるのもお構い無しに必死になってシノンの返事を待った。

そしてシノンは思い出すようにして答えてくれた。

 

「た、たしか………病院を引き継ぐからって………。兄弟は2人だったと思う」

 

「そうか………!!!」

 

俺は突然の閃きの連続に喜びながら膝を伸ばして洞窟の天井目指して拳を突き上げた。

アイもシノンも突如両手の拳を突き上げた俺に対して疑問符を浮かべている。

そんな周りを無視して俺は一気に数々の謎が解消されたことによりある種の快感すら感じていた。

しかし、同時にシノンの危機が決定的になってしまったことに気が付いてしまう。

 

「あの………キリト様?そうかとは?」

 

「分かったんだよ。死銃事件のトリックが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「スキサメトニウム?」」

 

大分落ち着いたシノンとその隣に並んで座っているアイが2人揃って同じ方向に首を傾げた。

俺は人差し指を立ててくるくると回しながら説明する。

 

「筋弛緩剤の一種で筋肉の動きを弱める作用があるんだ。他の筋弛緩剤だとアメリカの死刑に使われるパンクロニウムがある。」

 

そこまで言うとアイがフムフムと理解したように頷いていた。

どうやらパンクロニウムは知っていたようだ。

アメリカのドキュメンタリー等にたまに出てくるから覚えていたのだろう。

しかし逆にシノンは未だに頭の上から疑問符が取れていない。

俺は少し考えてから出来るだけ簡潔に説明を続けた。

 

「まぁ、厳密には違うけど今は心臓を止めることの出来る薬だと思ってくれ。それでだ、この薬の特徴が主に2つある」

 

俺はピースの形を作って2人に見せる。

 

「1つは証拠が残りにくい」

 

「ああ、それに加えて死後数日が経っていたので原因が分からなかったのですね」

 

アイが生徒のように手を上げて答える。

俺は正解の印に頭を撫でてあげた。

艶々したうえにさらりと流れる美しい銀髪。

小動物の用に目をつぶって気持ち良さそうにするアイをもっとモフリたかったが、シノンの厳しい視線の前では止めておくのが得策だろう。

名残惜しいがもう1つの特徴を教える為にアイの頭から手を離す。

 

「そんで、もう1つが速効性で、投与から約40秒で効果が現れる」

 

「あら?薬が原因なら逆何じゃないの?」

 

今度はシノンが生徒のように手を上げた。

控えめに上げながら首をかしげている姿は冷静沈着な優等生って感じだ。

何だか先生になった気分。

 

「そこがポイント。逆なんだよ。奴()はゲームでアバターが撃たれるのを確認しながら現実で薬を打ってるんだ」

 

「………どういうこと?」

 

「つまり、死銃は複数いるんだ。ゲーム内で殺す役と現実で人を殺す役とで別れている。多分、大会エントリーの時にあった住所入力を盗み見たんだろうな」

 

俺は一番最初にエントリーの為に操作したATMのような機械を思い出す。

あの時にアイと共に感じた視線が予想通り死銃だったのだろう。

透明マントを使いながら鏡や望遠鏡を使って間接的にでも覗いたのだ。

 

「でも、何でシノン様のお友達が死銃の弟ってことでそこまで見透せたのですか?」

 

「そうよ、他にも可能性はあるはずよ」

 

シノンの言い分は尤もだ。

俺は素直に頷いた。

これはあくまで可能性の一部でしかない。

しかし、俺の頭で考え付く可能性の中でも一番はこれなのだ。

 

「死銃は………新川昌一は医療の勉強を恐らくしていない。いくら院長の長男だろうと学ばなければ身には付かないのは当然だ。アイツの興味の対象は医療じゃなく生と死だからな」

 

少しの勉強はしていたとしても深くは学んでいなかった。

父親に色々な現場を見せてもらった程度だろう。

その付け焼き刃な知識と経験が殺人を止められなくなる程の精神を作り上げてしまった。

SAOをやる理由も最初からPKが目的だったに違いない。

てか、SAOを手に入れられる時点で結構な時間を割いているのは確実、そんな奴が院長の後継者を目指してる訳がない。

医者はそんなに甘くないからな。

 

「そこでシノンの友達だ」

 

「私の?」

 

俺はシノンに指を指した。

シノンは呆けた様子で自分の顔を指差す。

 

「新川昌一は話したんだよ。SAOで自分の行った所業を。医療の知識が無い新川昌一が薬で殺人計画を立てるには医療知識のある協力者が必要だったんだ」

 

「そんな訳ない!!彼が殺人の協力なんて!!」

 

「シノン様!?」

 

俺が言うとシノンは獲物を狩るような鋭さで腕を伸ばして俺の胸ぐらを掴み取る。

俺とシノンの顔が近くなりお互いの視線が交差する。

少し前にも同じような距離になったのだが、雰囲気が全く違う。

シノンに目には怒気が確実に孕んでいた。

 

「これは根拠のない俺の勘なんだが………シノンの友達はGGOトッププレイヤーの一部をちょっと異常なまでに悪態つけていなかったか?」

 

「ッ!!それは………」

 

すると、シノンの力強く握り混んでいた手が急に緩んだ。

友達を疑われて怒気を孕んでいた目には困惑の色が窺える。

言葉に詰まるということが何よりの肯定となってしまっているのにシノンはそれでも反論しようとしていた。

そんなシノンの背中に俺は出来るだけ優しく腕を回した。

 

「何をしてるんですか!?」

 

「あ、あなたね!!」

 

アイは焦るようにシノンは怒るように叫んだ。

2人の叫び声は勢いよく洞窟内をこだました。

耳鳴りのようなキーンという音が耳に残る。

だが、俺はそんな2人とは真逆でシノンの耳元で冷たく言った。

 

「落ち着いて聞いてくれ………」

 

「な、なによ?」

 

「まず、シノンは1人暮らしか?」

 

男性に抱き締められながらこんなことを訊かれると誰もが如何わしい意味で捉えてしまいそうだ。

けれども、俺が冷たく言ったことによりシノンはそうではないと理解してくれた。

シノンはうんと小さく頷く。

 

「シノン………本当に落ち着いて聞いてくれ」

 

俺はもう1回同じことを言って念を押した。

 

「今、この時間に………現実にある君の体の近くには薬物を手に持った人物がいるかもしれない。………君の横で君を殺そうと注射器を持って待機してるかもしれないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に良いのか?」

 

「当たり前よ。あそこで縮こまっていても現状は変わらない。私は変わりたいの」

 

「最終局面でワクワクしますね」

 

数分後………俺達は洞窟の入り口に並んでいた。




いやー、無理矢理なトリックの判明。
流石、チート性能ですね。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

76話 激突

今期も良いアニメが揃ってますね!!
ごちうさ、終わセラ、ワンパンマン。
個人的にはこの3つが大好きです!!


「私は闇風を仕留める。死銃はあなた達にお願いするわ」

 

シノンはそう言って自らの身長に迫る大きな対物ライフルを肩にかけた。

情報ではサーバー内に10丁程しかない対物ライフル。

そんな数少ない稀少価値である物の中の1つがシノンのPGMヘカートII。

現実では全長138センチだというのにゲームの中では大分大きく再現されている気がする。

多分、俺が現実より背が小さい男の娘アバターだからだろう。

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だって言ってるでしょ。恐怖は正直に言うとあるけど、私はキリトを信じる。同類の貴方と1度現実で会って話しをしたいし」

 

シノンは俺とアイにそれだけを言い残して洞窟の後ろに見える2棟の廃ビルへと走り去って行った。

走って行くシノンの後ろ姿には強い意思を感じる。

友達が犯人の可能性や死銃の仲間がすぐ近くにいる可能性。

普通なら戦意を削がれてもおかしくない不安要素。

それでも尚、生きるために戦おうとする意思がシノンにはあった。

ヘカート、古代ギリシャ語ではヘカテー。

冥界の女神の名前でもあるがその意味は"意思"。

シノンは大きな"意思"を持って戦っているのだ。

 

「私達も行きますよ」

 

「ああ、何があっても死銃を倒す」

 

「私も………何があっても和人様を護ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

360度砂だらけ。

それは砂漠のほぼ中心にいるから当たり前なのだが、そこに1人でいると強烈な孤独感に襲われる。

後ろにはうっすらと砂漠に埋もれているような洞窟の入り口が見えて、その後ろの廃ビルは靄がかかったようになっていた。

何処を見ても地平線。

北海道に地球が丸く見える展望台があると言うがこんな感じなのだろうか?

 

「すぅ………」

 

俺は瞳を閉じて1呼吸分の息を吸うと口も閉じて意識を耳に集中させる。

眼で見て捜すよりも遥かに索敵効果のある音響結界(サウンド・スケープ)

頭の中では砂嵐のせいで多少荒々しくも確実に辺りの地形などが構築されていく。

すると、遠くの方で闇風とおぼしき高速で動くプレイヤーを捉えた。

一定の速度で蛇行運転という不規則な動きによりこちらを撹乱させようとしている。

バサバサと音が鳴っているのでマントを着ているのだろう。

まぁ、闇風はシノンが仕留めてくれるので無視だ。

アイの存在も確認出来たし準備は万端だった。

後は死銃を見付けるだけ。

いくら透明マントを持っていようが足音がなる時点で俺の音響結界(サウンド・スケープ)の餌食。

問題は遠距離からの狙撃だろう。

音速を越える場合の狙撃だと音よりも弾の方が速いので音響結界(サウンド・スケープ)は無意味になってしまう。 

その場合はもう1つのシステム外スキルである超感覚で乗り切るしかない。

限界まで索敵範囲を広げた俺は待ち続けた。

いつでも臨戦態勢に入れるように精神に波紋を一切立たせない。

周りは砂嵐で時折轟音のような音が広大な砂漠に響くが心の中では静かな時が過ぎていく。

そんな時だった。

俺は無意識に体を回転させた。

 

「ふっ!」

 

そして、俺が回転する向きとスピードに合わせたような弾丸が頬を掠めていった。

長い髪の一部が弾丸の勢いで切断されて砂の上にパサリと落ちる。

だが、俺はその髪の毛が落ちる前にはすでに弾丸が発射された方向へと走り出していた。

音響結界(サウンド・スケープ)を解除して特攻に集中する。

走りにくい不安定な砂場をコツで強引に蹴り飛ばす。

一歩進むごとに後ろから砂が弾け飛ぶ音が当たり前のように聞こえてくる。

 

「弾道予測線!」

 

向かう方向から赤いレーザーのような一直線の光りが伸びてきた。

ご丁寧に眉間ジャストミートで狙っている。

しかし、これは敵の居場所を教えているようなものだ。

俺は首を横に倒すだけで弾道予測線に沿って飛んでくる弾丸を紙一重でかわした。

そして、マントで隠れていたベルトから通常バージョンのグレネードを鷲掴む。

 

「そい!!」

 

俺はグレネードを弓矢のように引き絞った右手で全力で前方へと放り投げてやる。

数秒後、ドッゴンという砂を弾き飛ばす鈍く重い音が爆風と共にやって来た。

悶々と砂煙が立ち上がり辺りの視界が悪くなる。

そこで、俺はマントから円盤のような灰色のフリスビーを用意した。

これをまた放り投げるのだが、今度は前方へとではなく砂煙が立ち上がっていないただの砂地に投げるのだ。

振り払うように右真横に投げた灰色のフリスビーは砂煙を外れて開けた場所に向かう。

その瞬間、フリスビーの灰色をした表面が破れて黒い風船が膨らんでくる。

微妙に気味の悪い光景だ。

だが、あの黒い風船はデコイ。

市販で売っているような安物ではなく、軍事用の高級ゴムで出来ているのだろうか?

瞬時に黒いゴム人形となって遠目から見たら俺にそっくりな人形と化す。

そんなゴム人形が砂煙から飛び出していった。

 

「あ………」

 

元気に生まれて元気に飛び出ていったゴム人形は砂煙から外れたと同時に弾道予測線のレーザーを受けて後に続く弾丸により木っ端微塵に吹き飛んでしまった。

黒いゴム人形の残骸が虚しく砂漠に花吹雪のような散り方を見せる。

何故だろう?

別に単なるデコイで囮の筈なのに胸がほんの少しだけチクリと痛む。

囮であっても少しだけ情が移ってしまったようだ。

そっくりな人形の為にも勝たねば!!

俺はこれまでに無いほどの踏み込みで、大地を蹴り割るつもりで、何よりも誰よりも速く、砂煙の中に突っ込んでいく。

そっくりな人形が撃たれた時の弾道予測線から死銃の位置を割り出して微塵の迷いなく突進する。

砂煙から抜ける直前になり、俺は懐から黒のコンバットナイフを抜いて逆手に構えた。

 

「………よぉ、久し振りだな」

 

「クソ………」

 

砂煙を抜けた時には俺のコンバットナイフは腹這いになっている死銃に右上から左下へと殴り付けるように襲い掛かっていた。

人が1人なんとか入れる程の小さな洞窟………穴と言ってもいい。

そこにスナイパーライフルを構えたぼろマントを着込んだ仮面の男。

仮面でアバターの顔が拝めないが、声で焦っているのが感じ取れる。

だからなのか、死銃は持っていた銃の発射口部分を掴んでを大剣のように振ってきたのだ。

本来の意図とは全く別物の攻撃方法。

かわす事など出来ず、仕方無くそのままコンバットナイフのスピードを腕をしならせ加速させる。

スナイパーライフルのボディーとコンバットナイフの刃がぶつかり合って小さな火花を散らす。

 

「クソ!」

 

今度は俺が吐き捨てるように呟いた。

遠距離狙撃用に巨大化したスナイパーライフルとコンバットナイフでは大きさに違いがありすぎる。

俺自身のスピードで多少コンバットナイフも重くなっているとはいえ、この均衡は崩れるはずだ。

そう考えていた矢先だった。

コンバットナイフがスナイパーライフルに押し返され始めたのだ。

咄嗟に俺は後ろに飛んで棍棒のような使い方のスナイパーライフルをいなした。

数メートル後退させられた俺はこれ以上の後退を阻止すべく膝を曲げて踵で踏ん張る。

列車の線路のような2つの線がこの砂漠に刻まれた。

そして、踏み止まった俺は腰を落として追撃に備える。

しかし、死銃はスナイパーライフルを振り切った状態で止まったままの状態だった。

 

「そんな使い方するなよな」

 

「黙れ………」

 

「はっ、いい的なんだよ」

 

「何………?」

 

俺は不敵に短く笑うと構えを解いて死銃のスナイパーライフルを見据える。

そこには赤いレーザーが放射されており、これから破壊するという合図でもあった。

しかし、狙撃主の居場所を知らない死銃には何も見えていない。

死銃は俺の視線で気付いたのか急いで自分には見えない弾道予測線から逃れようとする。

だが、遅い。

 

ガシャン!!

 

音速を越えた弾丸が一寸の狂いも見せずに死銃のスナイパーライフルのボディーを直撃した。

GGOでの銃には部分部分にちゃんと耐久力があるのだがど真ん中を的確に撃ち抜かれたスナイパーライフルはバラバラに砕けていく。

もはや、鉄屑の廃銃となってしまった死銃のスナイパーライフル。

部品すら残さぬまま死銃の手の内から赤いガラスのようなエフェクトとなって砕け散る。

 

「………従者か?」

 

「生憎違う。初心者がこの距離を当てられると思ってるのか?」

 

俺は親指で後ろにある2棟ある廃ビルを指した。

見立てではここから2キロも離れているあのビルから正確極まりない狙撃を可能とするプレイヤーは現在BoBに………いや、GGOに1人しかいない。

 

「シノンか………お前には………何故見えていた?この距離でも………見えるのか?」

 

死銃はゾンビのようにゆっくりと体を起こした。

血よりも濃くておぞましい赤色の瞳が俺に向けられる。

緊張感を切らせばその瞳による圧迫感で立っていることさえ難しいだろう。

俺はあくまでも不敵な笑みを浮かべたまま語る。

 

「グレネードで巻き起こした砂煙でお前は見えなかっただろうがな。その時後ろでは1発の銃弾が1人のプレイヤーを貫いていたんだよ」

 

「シノンが………闇風を………」

 

「苦労したよ。闇風がどのコースをどのタイミングで走るか。そのタイミングでグレネードの爆音を引き起こせるか。それによってどう思い何処に隠れるか。そして隠れた場所に向けて単眼鏡を写し、シノンの弾丸を見逃さないか。1つでも間違えたらお前の武器を壊せないからな」

 

正直言ってこの計算は頭がパンクしかけるぐらい厳しいものだった。

NPCならまだしも人間という感情、自我、知能などがある存在の行動パターンを予測するのはコンピューターでも難しいのではないか?

我ながら誇ってもいいと思う作戦だった。

今頃シノンは俺のことを見直しているであろうな。

 

「………何故だ。何故それで………終わらせなかった?」

 

心なしか、死銃の瞳の色が強く更に濃くなった気がした。

それと確実に殺気に怒気という負の感情が宿されている。

もしかしたら、その負の感情が瞳の色を変化させてるのかもしれない。

当たってるかどうか分からないが、面白い仕掛けだ。

 

「質問が多いな。余裕が無くなっているのか?」

 

俺は不敵な笑みから挑発するような笑みへと表情を変えた。

薄ら笑いを浮かべながら白い歯を見せ、顎を引いた状態で死銃を上目遣いのように睨む。

右手に持つコンバットナイフを器用に回転させてから元の逆手に持ち直す。

 

「お前を倒すのはただのプレイヤーじゃ駄目だ。不意討ち何て尚更だ」

 

勿論、シノンが普通のプレイヤーだとは言わない。

仮想空間を仮想空間だと理解しながらも現実として見ている節がある。

狙撃技術など関係無く強いプレイヤー。

心が強いプレイヤーだ。

しかし、死銃と戦うにはとある経験がたりない。

 

「お前を止めるにはSAOプレイヤーに負けたという事実が必要だ。そうだろ?未だSAOから抜け出せられない弱虫が」

 

「殺す………」

 

 




GGOも遂に最終局面!!
次回で決着なるか!?
それは自分の気分次第!!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

77話 諦めない

猫は最高!
猫は最強!!
猫は頂点!!!


 

 

「ふ!!」

 

俺は死銃の懐まで踏み込むと何も持っていない左手で死銃の腹を貫くつもりで拳を放つ。

この時、完全な握り拳ではなく人差し指と中指の第2関節を少しだけ突き出すような形を作ることで部分的な破壊力を上げる。

それに加えて、第1関節を親指で押さえることで形も安定しやすくなっていて壊れにくい。

コツまで使っているのだ。

手を挟む程度ではその手すらも弾き飛ばせるぐらいの威力は持っている。

 

「甘い………」

 

「痛っ!?」

 

だが、俺の拳は濁った銀色をした棒に防がれてしまう。

現実だったら俺の拳は粉々に砕けて骨折は腕のまで到達していた筈だ。

骨が折れる代わりに骨が折れたような感覚が左腕から伝わってくる。

たまらず、左拳を引いて1歩下がった。

そして、嫌な感覚を振り払う為に何度かブラブラと左手を振る。

左手には真っ二つにされたような赤い傷のエフェクトが深々と刻まれてしまっていた。

あの棒を正面から殴り付けてしまったことで割れたようになっているのだ。

俺は不機嫌に死銃が持っている棒を睨む。

 

「エストック………」

 

それはSAO時代に死銃がザザだったころの武器だった。

俺のコンバットナイフと同様に光を反射させない為か茶色に近い銀色で刃が見えにくい。

それで、ただの棒と見間違えてしまい拳を割られてしまったようだ。

 

「こっちの方が………馴染む」

 

死銃は嬉しそうにエストックを高速で振り回す。

まるでエストックが体の一部であるかのような扱い方だ。

それもその筈。

エストックは死銃が人を殺すのに使っていたゆえ最も慣れしんだ武器。

死銃の実力を余すとこ無く100%発揮させられる。

 

「あの頃より小さいな」

 

「この世界では………これが限界」

 

本来は鎧などの隙間をぶっ刺す為の武器で全長100センチ以上の物が多いのだが、死銃の持つエストックは見るからに100センチどころか刀身50センチあるかどうかの小振りな一品。

死銃の口ぶりからして自ら作ったか作ってもらったかのどちらか。

剣を作ることは出来てもあれぐらいが限界なら俺の求めている重い片手剣は作れなさそうだ。

残念ながら完全なSAOの剣を再現するのは不可能ということ。

だが、不完全とはいえ慣れしんだ武器を持たれるとズルいと感じてしまう。

俺はうらやましそうにエストックを見つめる。

 

「残念だったな………」

 

死銃は慣れたようにエストックを前に構えた。

それに、俺は更に一歩後退する。

何とか使えてるとはいえ俺は不慣れなコンバットナイフ。

方や死銃は極めたと言ってもいいエストック。

相性が最悪に悪すぎる。

それにだ。

SAOから抜け出せていない死銃は未だザザだ。

死銃のザザは人殺しの全盛期。

死銃がエストックを持つならまだしもザザがエストックを持つとなれば力の差が別次元に変わる。

SAOを抜け出せた俺では勝ち目が薄い。

 

「お前は………負ける。お前は………殺される所を………見ているだけだ!!」

 

ザザが風のようなスピードで突進してくると自身のスピードを乗せたエストックを一直線に放ってきた。

細剣単発技"リニアー"

オーラのようなエフェクトも独特な機械音もSAO時代に共に発生したものは一切ないが、動きは完璧なまでにリニアーを再現していた。

 

「くっ!!」

 

俺は横移動や受け止め、払いは無理だと判断してその場で思いっきり腰を反らした。

鼻先を掠めながら俺の上をエストックが通過していく

単発系のソードスキルは1発に神経を注ぎやすいので、その分スピードが遥かに上昇する。

今のリニアーを避けられたのは奇跡に近い。

その奇跡を無駄にしないよう俺は反撃に出る。

 

「この!!」

 

上体を反らしながら目前にあるザザの右手首を骨を折る勢いで掴む。

そして、ザザの右手首を軸にして左に回り込みながらザザを砂漠に転ばせようとする。

しかし、ザザは大きく一歩乗り出して倒れるのを回避した。

その一瞬の隙に、俺はザザの手首を掴んでいる左腕をピンと伸ばしてザザに背を向ける。

同時に右手に逆手で握られているコンバットナイフを強く握って右手をコンパクトに振り抜く。

振り抜く先にはフード1枚にしか守られていないであろう急所のうなじ。

このままうなじを貫いて終わり………という展開が一番好ましいのだが流石にそこまで甘くはなかった。

 

「ふん!」

 

「ぐっ!!」

 

ザザは右肘だけを曲げて俺との間に空間を作り出したのだ。

その空間に右足を入れると俺の腹を押し出すような蹴りを加えてきた。

その蹴りが偶然なのか狙ってなのか丁度脇腹に入ってしまう。

体がくの字に曲がって痛みは無いが息が出来なくなる。

そして、息が出来ないことで左手の力が緩み一気に吹っ飛ばされてしまう。

俺は砂の上を数回転がってうつ伏せで止まる。

 

「ゲホッ!ゲホッ!」

 

髪に砂が絡み口の中には砂が勝手に入り込んでいる。

息が一瞬出来なくなってやっと息が出来ると思ったら砂の味。

頭は重いは口はジャリジャリとした砂味だし腹には嫌な違和感がまだ残っている。

気分は最悪、体調も最悪。

それでも俺は無理して立ち上がろうとした。

 

「うっ!!」

 

しかし、怯んでいる俺に向かってザザは容赦無くエストックの連撃を浴びせてくる。

もう技名なんて思い出すことすら出来ない。

兎に角、ザザの連撃を止めなければならない。

俺は避けず逆に突っ込んだ。

自分の左肩を盾にして迷わずエストックに体当たる。

 

「ギリギリの………止め方だな」

 

「医者の息子だろ?注射の練習相手になってやろうと思ってな」

 

「………」

 

俺は焦りながら尚も挑発的な態度を取る。

お陰でエストックを突き刺したままだがザザの動きが止まった。

"何故知っている?"っと思った風の詰まり方だ。

俺は続けた。

 

「なぁ、教えてくれ。病院にいる人達は皆、生きようとするか生かそうとする人だよな?お前はそんな人達を間近で見てきたんだよな?」

 

ザザは何も答えない。

赤い瞳が不気味に揺らぐだけだ。

その態度にちょっとした苛立ちが沸き上がる。

アオイさん、ナツキさん、倉橋先生、木綿季。

身近な人達は全力で生かそうとするか、全力で生きようとする人だ。

生きる為に全力を尽くす人だ。

全ての医療関係者はそうだと思っていたい。

しかし、この世には悪質な医療が多くある。

捻れ曲がった感性で人の命を弄ぶような奴がいる。

俺はそんな奴らが何を思い感じているのかが知りたかった。

俺は声を張り上げてザザに叫ぶ。

 

「医療現場の中心で育ったのに………何故、人を好んで殺す!!!」

 

エストックが刺さっているのを理解しながらザザに詰め寄った。

犬歯を剥き出しにして怒りを露にする。

すると、ザザはおもむろに声を漏らし始めた。

 

「だからこそだ」

 

「何?」

 

「あそこに居ると………人の苦しむ姿をよく見る。可能性が無いのに………無駄な抵抗をする奴が………沢山いる。足掻き………苦しみ………そして死ぬ。哀れで………憐れで………仕方がない。………人はいつか死ぬ。苦しみながら………長く抵抗して………結局死ぬなら………早く殺してやるのが………優しさだ」

 

俺は目を開いて驚く。

ザザの声には迷いというものが一切存在し無かったのだ。

心の底から殺しが優しさだと思い込んでいる。

楽しんでいたのではない。

ザザの中では殺しが救済活動なのだ。

"長く苦しむなら殺してあげよう"という感じに。

そうなれば質が悪い。

生を良かれと思っている者と死を良かれと思っている者。

お互い悪いと思っていない以上衝突は平行線を進む。

何を言っても無駄だ。

しかし、分かっているのに言い返したい気持ちが止まらない。

 

「まぁ………凄い大怪我したり、いかなる難病、奇病を患ったりすると貧しくなければ治療を受ける。当然、難しい治療で苦しむよな。しかも、もしそれが奇跡的に完治したとしても人はいつか必ず死ぬ。軽い病でも軽い怪我でも重い病でも重い怪我でも人はいつか死ぬ。今の医療………科学じゃどんな治療法も所詮は延命治療だ。………………でもな」

 

今度は俺が心の底から信じる言葉をザザに言ってやる。

 

「そう簡単に生きることを諦められるかよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ!!!!」

 




凄く個人的な偏見が混じってますが、どうですかね?
キリト君格好いいですよね?
次回、キリト無双になる………かも?

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

78話 幸せな優勝

ワイルドギース!!
これで3羽の兎が揃った~!!!

リゼの家凄いな。


「パパ!!!!」

 

俺とザザ。

この広大な砂漠地帯には俺達2人しかいないように見える。

むしろ、この砂漠が広大すぎるというか殺風景すぎるというか、そのせいで人類最後の生き残りVSマスク宇宙人という砂漠どころか地球に2人しかいない感じすらする。

こんな奴と2人っきりなんてマジで嫌だ………

だが、幸いなことにこの砂漠には俺達の他にもう1人プレイヤーがいるのだ。

俺は待ってましたと言わんばかりの表情で返す。

 

「引け!!!」

 

「なに!?」

 

俺は大声で叫んだ。

それはもう、美食屋四天王にも負けないような声を出したつもり。

流石に声で戦ったりは出来ないけど………

それでも、伝えることは出来る。

俺の声で吹き飛ばされたようにザザは初めて人らしい声を漏らしながら後ろに飛ばされていく。

肩に刺さってエストックが勢いで抜かれて嫌な違和感多少解消される。

俺は左肩に右手を添えて何度か回す。

今回のエストックが左肩に刺されたことで、俺は左右の腕になんらかが刺さったことになる。

左肩にはエストック、右腕には木の枝。

経験があるとはいえ、何度もやるもんじゃないなと改めて思った。

 

「んで、今の感想は?」

 

「何をした………?」

 

ザザは拘束されていた。

我が娘にして女神であるアイによって後ろに回された腕をガッチリと糸で縛られている。

その状態で地面に這いつくばっていた。

 

「そのマスクだと視野が悪くなるし、フードで視界が狭くなる。キャラ作りなのか知らないけど無駄に着込んだからこれが見えなかったんだろ?」

 

俺は右手に持っていたタクティカルナイフをザザの前に落とそうと離す。

タクティカルナイフは自然の摂理である重力によって落下していく。

そして。

 

「………糸」

 

ザザの目の前に刺さる軌道を描いていたタクティカルナイフはザザの少し上でブラブラと揺れていた。

俺は笑いながらタクティカルナイフの柄に巻かれて右手に伸びる糸を左右に揺らす。

ピアノ線。

それも極細。

応用がしやすいとても便利なアイテムだ。

 

「お前との攻防で幾つかそのぼろマントに打ち込んで置いた。凄いよな、GGOの針は。刺したら返しがあるから抜けないんだぜ?」

 

「何………だと………」

 

ザザは信じられなさそうに言った。

自分が攻めていて追い詰めているつもりだったのに、それが一気に逆転されてしまっている。

針は投げれるが、ある程度近づかなければならない。

問題点はそこだった。

しかし、ザザはエストックを使って近距離戦闘を挑んできてくれた。

ザザが近距離戦を行えば行う程、追い詰められていく戦いになったのだ。

 

「砂煙に混じって1本、その直後の衝突の時に1本、右手を掴んだ時には2本。他にも色々と」

 

「キリト様はバレないように使うのが上手いですからね」

 

「………糸を長めに用意して………その先を………砂に紛れていた………従者が………持っていたのか………」

 

ザザがうなだれて砂漠のザラザラした砂に額を着けた。

ザザの言う通り、アイは砂に紛れてずっと身を潜めていた。

最後に糸を引き付けて拘束できるよう息を殺していたのだ。

 

「残念だったな。お前がザザとしてじゃなくて、死銃として戦っていれば可能性はあったのかもな」

 

その時はその時で銃に対する作戦もあったが、これは危険だった。

光剣というライトセイバーのような武器で向かってくる銃弾を切り捨てるなんて練習無しに出来るわけがない。

1度、利き腕じゃない左腕だけで凄いスピードの水を弾いたことはあるけど本物の銃には遠く及ばないだろう。

まぁ、他にも小細工道具で色々作戦を立てられるけど。

剣と銃だったら銃の方が厄介なのは経験しなくても想像つく。

 

「これは………不意討ち………じゃないのか?」

 

「は?可能性が高いからやったけど、糸を付けられたことに気付かなかったんだ。俺が引っ張ってもよかったんだぜ?不意討ちもなにも1本目に気付かない時点でお前の敗けだよ。それにアイにすら気付かなかったんだ。俺がもし殺られてもアイがいるし、俺はメインとサブに持っていた光剣2つで二刀流戦法も使わなかったし」

 

俺は垂らしていた糸を引いてタクティカルナイフを右手に納める。

 

「てことで、お前が何をしようが、どうせ俺らが勝ってたから」

 

俺は天高くタクティカルナイフを掲げた。

目指すは真下の死銃。

 

「まだ………終わらない………」

 

「終わりだよ。始まる前からお前の………お前らの敗けは決まっていた」

 

死銃は悔しいのか震えだす。

しかし、俺には悔しさ等ではなく恐怖だとすぐに察しがついた。

 

「お前はもうSAOプレイヤーじゃない。SAO生還者(サバイバー)だ。しっかりと現実(リアル)を受け止めるんだな!!!」

 

「………………くそ_____」

 

降り下ろされたタクティカルナイフは死銃のうなじへと吸い込まれていった。

最後に何かを叫ぼうとした死銃だったが、後の叫びを聞いた者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったのね?」

 

「ああ、シノンの危険も取り敢えずは大丈夫かな。けど、安心はしないでくれ」

 

「分かってる。ログアウト直後も周りに人が居ないか確認するし人も入れさせないわ」

 

砂漠のほぼ中心。

俺が死銃を倒した場所は何と砂漠のど真ん中だった。

まさか、こんなに広い砂漠の中心で事の終わりを迎えるなんて思いもよらない。

シノンが駆け付けてその事を教えてもらった時は心底驚いた。

アイも"そこまで計算してたのですか?"と訊いてしまう程のことだ。

それほどこの砂漠は広い。

 

「キリト様の依頼主である上司が仮想課のトップですからそう経たない内に警察の方が向かうと思います」

 

「上司じゃねぇ。ただの依頼人だ」

 

「え?もしかして歳上?」

 

アイが変なことを言ったお陰でシノンが勘違いしてしまった。

俺はアイの頭に手を置いてもう1つの手を顔の前で振る。

少なくとも、雰囲気や立ち振舞いからして俺がシノンより歳上というのはないだろう。

口調からも同い年くらいだ。

俺は声のトーンを落としながら言う。

 

「17歳。………名前も言っとくか。桐ヶ谷和人です」

 

「なんだ。同い年なのね。私は朝田詩乃」

 

「私は親戚の桐ヶ谷アイです」

 

さりげなくアイが自己紹介しているのを突っ込みたい衝動を抑えつつ話を続けた。

いや、設定としては間違ってはいないんだけどね。

 

「まぁ、アイが言った通りすぐに仮想課の___」

 

「キリトが来なさいよ」

 

「「は?」」

 

シノンは年相応の微笑を俺に向けた。

隣のアイがシノンに対する警戒レベルを上げるのを肌で感じる。

俺も警戒までとは言わないが、変な違和感を抱かずにはいられない。

山猫のような雰囲気から一転して家で飼われている子猫に変貌したのだ。

猫を被っているんかそれともこっちが本当の顔なのか。

 

「………………分かった」

 

「なにを!!」

 

俺が渋々受け入れるとシノンは満足そうに頷いた。

嬉しそうというか楽しそうなシノンに溜め息が漏れる。

アイは横で家猫シノンとは真逆の山猫となって俺をフーッフーッと威嚇していた。

怒った時のましろのようだ。

 

「別に会いに行くだけならいいだろ?」

 

「そういう問題じゃ………遠いかもしれないじゃないですか!!」

 

アイが少々ヒステリックを起こしながら騒ぎ立てる。

俺が女の子の家に行くのがそんなのも嫌ならしい。

しかし、アイのヒステリックを加速させるようにシノンは俺と密着するように近付いてきた。

アイが悲鳴を上げる。

 

「ああ!!」

 

「私の住所は文京区湯島の_____」

 

シノンは俺の耳元で数字を呟いていく。

普段の俺ならさして問題無く記憶することができる何の変鉄もない住所。

しかし、シノンのような美少女のアバターの1単語ずつに吐かれる吐息が耳をくすぐって思うように記憶できない。

何とか記憶できても大分集中を削がれてしまう。

シノンは1歩下がると首を傾げた。

 

「………数分あれば行ける距離だ」

 

「なら決まりね」

 

「駄目ですってば!!」

 

アイがもう涙目で俺にしがみついてしまっている。

何というか、親の浮気を目の当たりにしてかつ、その親が浮気相手の元に行こうとしているのを止めようとしている子供のようだった。

似たような状況ではあるし、シノンとは仲良くなれそうだけど、浮気するつもりは毛頭ない。

俺はしゃがんでアイの肩に手を置いた。

 

「あのな。俺は別に浮気しに行く訳じゃないんだぞ?」

 

「分かってますよ!!でも………!!」

 

アイは地団駄を踏んでやりきれない気持ちを発散した。

なんだか、最近アイの幼児化が進んでる気がする。

本当ならこれが年相応ぐらいなのだろう。

しかし、生まれた時のアイは気品ある大人の女性でどこか機械的だった。

それがどうだろう。

今や機械的どころか俺が木綿季以外の女の子と親しくなって家に行こうとすると涙を流すまでに感情が豊かになった。

感情が馴染んできている。

それはアイが真のAIではなく、人になっている証だった。

 

「キリト、ちょっと良い?」

 

「ん?」

 

俺が困惑したり嬉しかったりと色々な感情を心に宿しているとシノンがアイに近寄った。

今のアイにシノンはどう見えるのか、理性では良い人と分かっているけど本能では違うかもしれない。

俺は不安を抱きつつアイをシノンに譲った。

すると、シノンは俺にしたみたいにアイの耳元へ口をやる。

何かを喋っているようだが、女子トークを盗み聞きするのは抵抗があって出来ない。

そして、シノンが耳元から離れると涙目は治り何故か小悪魔的な微笑を浮かべているアイと楽しそうなシノン。

一体何を吹き込んだのだろうか。

分かることは厄介なことになると言うことだけ。

 

「さて!試合を終わらせないとな!!」

 

俺は両手を叩いて下手な笑顔を作った。

自分でも頬が引き吊っているのが分かる。

 

「同時優勝しないとですね!」

 

さっきまで涙目だったアイがルンルンな足取りで俺のマントの中に入ってきた。

もぞもぞと動くのでくすぐったい。

まるで、倉庫のようなマントの内から出てきたアイの手にはグレネード。

アイはそのグレネードを野球のボールのような扱いでポイポイと弄んでいる。

 

「キリトはお土産グレネードって知ってる?」

 

「そんな危険なお土産は貰ったことない」

 

シノンとアイは"当然でしょ"と肩を落とした。

まぁ、貰ったことがあるならあるで逆に大惨事だ。

お土産がグレネードなんて中々の新手テロになる。

あの世への切符だぜってか?

絶対に貰いたくない切符である。

 

「お土産グレネードって言うのはこれのことです」

 

そういってアイは俺の手を取ってボールを握らせた。

なんともメタリックなボールだ。

そう思って俺は手にある珍しいボールを覗いた。

 

「い!?」

 

ボールというのがグレネードだと分かった瞬間には当然何処かにぶん投げようとした。

爆弾を握らされていると皆必ず何処かに投げようとするのは不思議ではなく当たり前のこと。

だが、俺にはその当たり前のことが出来なかった。

 

「わー!!」

 

投げようとした瞬間に俺はシノンに抱き付かれていたからだ。

両手の自由を失ってグレネードが足元に落ちる。

俺はシノンに抱き付かれたことによる心臓のドキドキを紛らわすように足元に転がったグレネードを今度は蹴り飛ばそうとした。

しかし、これも出来なかった。

 

「わー!!」

 

蹴る直前に頬に柔らかいものがあたって狙いがずれてしまった。

全力の蹴りを放ったお陰で派手な空振りを決めてしまいバランスを崩した俺は砂漠に背中を打つ。

倒れて気付いたのがアイが俺の頬に自分の頬をくっ付けていることだった。

左を見ればシノンの美少女顔。

右を見ればアイの可愛い顔。

頭の上には恐怖のグレネード。

成る程、同時に爆発で死ぬことにより同時に優勝するということか。

 

「ははは………」

 

「「ふふふ!!」」

 

俺の乾いた力ない笑い声と2人の楽しそうな笑い声。

そして、耳をつんざくような巨大爆発音と光が俺の全身を包んだ。

美少女と可愛い娘に抱き付かれながら爆発で死ぬ。

なーるほど、これがネットやゲーム、漫画やアニメで噂の、

 

"リア充爆発"

 

下らないな………

光の中で俺は声を出さずに笑うしかなかった。




凄くやりたかったネタが出来て満足です!!
いやー、小説読んだときに一番最初に思い付いた言葉ですよ"リア充爆発"
後でネット見てみると"リア充爆発"、"リア充爆発"言ってる人がいてアニオタは繋がってるなと感心しましたよ。

さて、GGO編も残り2話、もしくは1話に凝縮されているか。
兎に角、あと少し。

では、評価と感想お願いします!!


注«タクティカルナイフからコンバットナイフに変わってまた、タクティカルナイフに戻りましたが、全部同じ武器です。気付かないで書いてました………»


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

79話 友達になる

よく考えると自分ってハロウィンの日に投稿を始めたんですね。


 

『次は____』

 

数年前から変わらない聞き取りやすいお姉さんの声。

濁りがなく耳に自然と入ってくるアナウンスが俺しかいないバスの中に流れた。

俺は一番後ろの長椅子のような席の右端にひっそりと座っている。

乗客がいないのにここの席に座ったのも引きこもりの習性なのだろう。

それにしても、夜中とはいえ東京都内のお茶の水から湯島へ向かうバスに誰もいないとは不思議なものだ。

先程渡った橋からの神田川。

窓越しでもビルから発せられるLEDライトが反射した神田川は綺麗だなと思う程だった。

これも運転手を除き俺しかバスに乗ってないから、周りの景色を見れるぐらい心に余裕を持てているからだろうか。

俺はアナウンスが流れて少し経ってから設置されてある降りる為のボタンを押した。

シノンの住むアパートがある場所まであと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒のジーンズに黒の長袖、黒の上着。

全身真っ黒な姿でこれまた真っ黒な住宅街を歩いていく。

闇に溶け込むとはこの事をいうのだろう。

度々すれ違う社畜となってしまったサラリーマンからすれ違う直前まで気付かれなかったり、等間隔で突き刺さっている電灯から降り注ぐ光へ俺が入った瞬間にお化けを見付けたような大人らしからぬ短い悲鳴が聞こえたりと俺の周りでは謎の現象が起きていた。

見方によれば突然出てきた死神だし場合によってはでっかいゴキブリに見えたのかもしれない。

まぁ、言い方を変えれば前者は尸魂界の瀞霊廷に住む卍解のカッコいい人達で後者だと火星でも進化するぐらい生命力たっぷりの生物だ。

………後者はやだな。

 

「寒………」

 

俺は吹き抜ける風に身を縮めさせながら歩く足を細かくした。

ポケットに両手を突っ込んで若干の猫背になる。

すると、出来損ないの亀になっていた俺の胸に硬い物があるのを思い出した。

俺は気怠げに溜め息を吐いてその細長くて硬い物を避けながら身を丸める。

GGOからログアウトしてからシノンの家に行くと言ったとき、ナツキさんから預かった金属製の伸縮自在の棒。

曰く護身用だそうだ。

アイが木綿季達の所に事情説明しに行っている今、俺は予想外な事でパニックに落ちやすいらしい。

よくわからないが、それなら逆に持っていない方が良いのではないかと言うと何の説明もなしに笑顔で無理矢理押し付けられてしまった。

しかも、自衛隊の一部が使用する特殊警棒と呼ばれる物だったのが更なる驚きだ。

アオイさんもナツキさんもこの姉妹は一体何なんだ………?

()()()()銃刀法に引っ掛からないか心配な物を()()()こそこそと今さら歩くのだった。

うん、上手くはないな、微妙だな。

 

「ここか………?」

 

バス停から降りて近くの筈だが、夜中のせいで大分長く感じたシノンが住むアパートへの道。

欧米化が進む住宅の中で少々古びたアパートはそこに建っていた。

いや、多分このアパートは普通で辺りの家がちょっと派手なだけなのだ。

それに、古いと感じたのは最近だけでよく見たら立派なアパートである。

俺は本当にここで合っているのか?と本当に小さい頃初めて友達の家に遊びに行った時を彷彿させるオロオロ感を醸し出していた。

 

「朝田さん!」

 

「ッ!?アイッ………」

 

俺は何故か身を強張らせ咄嗟に近くにあった電柱の影に隠れてしまった。

加えて愛娘の名をすがるように口にしてしまう程のチキンっぷり。

よく考えればこんな突然1人になるのは数年ぶりなのかもしれない。

SAOから帰って来てからは1人で人と話す機会は割りとあった。

しかし、それはあくまで莫大な時間の精神統一と充電が行われてやっと話せる程度。

それ以外は必ずアイが側に居てくれた。

それが今はいない。

ここでナツキさんが言っていたことが理解出来た気がした。

 

「朝田さんってば!」

 

また、同じ声が闇の中を響かせた。

今度はドアを強く叩いた音まで加わっている。

ドンッという音がドアではなく俺の心臓を叩く。

どうやら、俺は夜中に突然大声を上げられてビックリしているらしい。

心臓の音がやけに速く感じるのも頭の中が真っ白になってきているのも驚いているからだ。

俺はそう体に言い聞かせた。

 

「開けてよ!朝田さん!!」

 

一際大きな声をあらげてドアが強く叩かれる音。

今のが決定打となって遂に頭が真っ白になりかけた時、俺は頭を棍棒で殴られたような感覚に襲われる。

朝田さん?

それはこれから会う約束をした女の子の名字だった。

俺は電柱の影から恐る恐る顔を覗かせるとアパートの2階で俺と同じ背丈の男がとある部屋のドアをひっきりなしに叩いていた。

というか殴っていた。

朝田さん?朝田詩乃さん?

考える前に体が動いていた。

電柱の影から飛び出してアパートの元に走り冷たくなっている手すりを掴んで階段を数段飛ばしで2階に上がる。

 

「何してるんだ?」

 

俺は2階に上がると同時にシノンのと思われる部屋を殴っていた男に問い掛けた。

男は短髪で髪の色は薄い茶色だった。

道ですれ違ったら気にも止めないような男。

だが、今の彼だったらすれ違った瞬間に警察に通報しているだろう。

普段はどんな目をしているか何て分からないが、充血しているその瞳はあのザザを思い出させる。

そしてやはり一番目を引く手の血。

どんなに強く殴ったのか手の指には血が滲んでいてドアにも後が残っている。

ヤバイ奴だと見て分かる。

 

「うるさいな………何のようだよ………!!」

 

男はこの世の者とは思えない程の邪気を孕んだ声を俺にぶつけてきた。

俺は思わず一歩下がってしまう。

このまま逃げ出したくもなった。

かといってシノンが危険な今、逃げるわけにもいかない。

俺は普段ならしないようなおかしなジレンマを抱えてしまう。

何だか今日は思考が上手く纏まらない。

 

「俺は朝田詩乃さんと会う約束をしてるからどうてくれないかなと」

 

俺は馬鹿正直に思っている事を口にした。

相手を刺激しないように出来るだけ丁寧に言ったつもりだ。

しかし、男はドアに向けていた体を俺に向けて言った。

 

「お前なんかに、僕の朝田さんと会う約束を許すわけ無いだろ!!」

 

男はそう叫びながら急に突進してきた。

相手しか見ていない恐ろしい突っ込み。

だが、俺は剣道をしている。

それも毎日全国大会ベスト8の強敵を相手にしながらだ。

一見、凄まじい突進もただ単調で剣を持った妹の踏み込みと比べたら大したことない。

よく見て対処すれば避けることも受け流すことも簡単だ。

しかし、今日は対処まで辿り着く為の思考が遅すぎた。

アイといきなり別れたことで精神に異常が起きている。

 

「うぐっ!」

 

俺は男が放った右ストレートを胸に喰らってしまった。

まともに喰らってしまったと肺を押されたことで短い息が漏れる。

しかし、喰らった時の衝撃と感触が拳と全然違っていた。

拍子抜けのパンチに倒れるどころか余裕で踏み止まる。

思ったより強くないし、感触もまるで鉄の棒がめり込んでくるような感覚。

俺はもしやと思い上着の下に隠してあった警棒を見た。

警棒のあった場所はなんという奇跡なのか男が拳を打ってきた場所だったのだ。

つまり、男は上着越しとはいえ鉄の棒を思いっきり殴ったことになる。

その証拠に男は右手を抑えて蹲っている。

こっちは悪くないのに何故か悪いことをした気持ちになってしまう。

俺は男の横をすり抜けてシノンの様子を伺うことにした。

 

「僕の………僕の朝田さんに近付くな~!!」

 

俺が振り返ると叫びながらポケットから何かを取り出す男がいた。

涎を撒き散らしながら男はそれを俺に見せ付ける。

男がポケットから取り出したのは注射器だった。

注射針の無い素人でも比較的打ちやすい種類のものだ。

中にはなにやら不吉なオーラを漂わせる液体が入っている。

そんな物騒な物を男は掲げていた。

 

「………そうか。お前がキリトか………僕の朝田さんをたぶらかした………」

 

男はぶつぶつ何かを言いながら一歩ずつ近付いてきた。

すると、また凄い速さで走ってくる。

もう俺はめちゃくちゃな思考のなか警棒を出して最大限伸ばす。

そしてそのまま向かってくる男と対峙する。

 

「お前が朝田さんを!!!!」

 

「うるさい!!」

 

俺は注射器を持っている右腕の手首を左手で掴むと問答無用にカウンターを決める。

警棒の先を最小限の振りで男の顎を捉えた所で腕を一瞬止めてから、一気に男の脳を揺すった。

いきなり襲われて何故か調子の悪い今日。

軽くパニックになっている思考とは裏腹に自分でも驚くぐらい綺麗に体が動いた。

男の手から注射器は転げ落ちてふらふらと男も倒れ込んだ。

思ったより重い脳震盪が起こっているらしい。

俺は男に意識が無いのを確認すると再度、シノンの様子を伺う為にシノンの部屋の前に立った。

 

「シノン………キリト、桐ヶ谷和人だけど………?」

 

俺は控えめにドアに話し掛けた。

しかし、シノンは出てこなく声も聞こえない。

留守なのではと疑う程だった。

まぁ、インターホンも押さないでこんな控えめな声なんかじゃ出てこないのは当然だ。

俺はちゃんとインターホンを押そうと腕を上げた。

 

「キリト!?」

 

「ふぇ?」

 

バタンっと勢いよく扉が開かれたのだ。

現れたのは猫をイメージさせる大きな瞳の女の子。

眼鏡を掛けていてその奥の瞳には鳩が豆鉄砲を食らったような驚きを宿していた。

お陰で変な声を出してしまう。

すると、シノンの視線が俺の顔から横に逸れて倒れている男に向けられる。

 

「新川君………」

 

「シノン!?」

 

倒れている男、新川を目撃したシノンはその場に崩れ落ちてしまった。

流れる涙を必死で拭いながら声を殺している。

それでも完全には殺しきれずにヒクヒクと泣き声が出てしまっていた。

俺は崩れて冷たい床に女の子座りをしているシノンの肩に手を置く。

 

「え?僕の朝田さんって言ってたから………彼氏?え!?あのそうだったら………」

 

「友達………信じてたのに………ドアの穴から見て………すぐに分かった………」

 

シノンは嗚咽混じりに言葉をつぐんでいく。

その時気付いた。

俺が倒した男がザザの弟であることに。

くしくも俺の予想は当たっていたのだ。

1人暮らしのプレイヤーを狙った殺人のトリック。

それでも、最後までシノンは信じてた。

友人であるこの男が共犯でないと。

しかし、現実は残酷なもので犯人さえも予想通りだった。

人殺しと言われてきたシノンだ。

周りの人間はシノンを軽蔑し離れていっただろう。

だからこそ、数少ない友人を心から信用していた。

それを裏切られた時の傷は深い。

俺はこの時、今一番言いたい事を言った。

聞き方によれば酷いと言われるかもしれない。

けれど、今の俺にはこれ以外言葉が見付からなかった。

 

「シノン………俺の友達になってくれ」

 

 




話数を見たら丁度きりが良いので分けました。
ってことで次回がGGO編最終回であります!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

80話 親友

オレオレ詐偽って本当にあるんですね。
何処から電話番号が漏れたのか、おばあちゃんの家に親戚一同でいたらオレオレ詐偽の電話が来ましたよ。
息子じゃなくて孫をかたってたから若いグループなのでしょうか?
何にせよ、孫の自分が電話を取った時点で運の尽き。
隠し子説がなければ孫は自分を含めて3人。
それも皆この場にいるし。
実際の孫に"ああ、おばあちゃん?俺だけどさ"って言うとは………
勿論、"自分、孫なんですけど。警察に連絡しますね"って言ったらすぐに消えました。
その後、本当に警察に電話しました。
全く………詐偽なんかするより働けばいいのに。

皆さんも詐偽には気を付けましょうね。



 

 

タクシー程、人を車酔いさせる乗り物があっただろうか?

確かに、何処にでも走っていて場所さえ指定すればどんなに分かりにくい所でも運んでくれるハイテク便利な乗り物だ。

しかし、俺は苦手だった。

まず、あの臭い。

タクシーには独特の臭いというものがある。

煙草なのかドライバーの体臭なのか知らないけどあの臭いがどうしても駄目なのだ。

少し嗅いだだけで胸の辺りがモヤモヤと胸焼けしてしまう。

LPガスが関係してるらしいが、"ガスって名前なのに何で液体なんだよ"と思って全く興味を示さなかった自分を覚えている。

 

「もうすぐですからね」

 

「は、はい………」

 

人当たりの良さそうな中年を越えた白髪混じりのおじさんが目的地付近に近付いたことで声をかけてくれた。

タクシードライバーとは八方美人な気がする。

後ろの席で窓から遠くの空を眺めていた俺は身をすぼめながら中途半端な返事を返した。

これも酔う原因だ。

赤の他人であるドライバーが近距離にいること。

これではコミュ障など関係無く緊張してしまうではないか。

酔って窓を開けたくても開けられず、黙って寝ようにも無駄に話し掛けてくるし。

加えて車内が黒一色なので黒が精神に及ぼす暗い気持ちにさせる効果で俺の心が折れるのは確定。

そして病は気からの通り、精神が病んでいる故に肉体が悲鳴を上げる。

タクシードライバーが悪い訳でもないのに何故か良い印象を持てないのは心が病んでる時にしか会ってないからだろう。

 

『ほら、元気出してください』

 

耳から天使の声が聞こえてくる。

今日も装備してきた中二チックな補聴器にしか見えない娘達の移動手段。

その中からアイは俺の病んでいた心を癒してくれる。

正に天使。

最近気付いたんだが、木綿季は女神、アイは天使、カーディナルは魔法使い、ユイは妖精ってイメージがある。

 

「着きましたよ」

 

俺がボケッと家族の事を考えているとタクシーはすでに止まっていた。

そこは東京のとある都立高校。

タクシーはその高校の校門から少し離れた所に止まっていた。

フロントガラス越しに校門を見ると幸か不幸か丁度生徒が出てくる時間帯のようで生徒が疎らに出てきている。

これではシノンこと朝田詩乃の姿が見付けにくい。

しかし、生徒の為に少し離れた場所に止めたタクシードライバーさんにもっと近付いてくれとも言えない。

ここは一旦降りるしかないな。

 

「い、一旦降りるんで待っててくれませんか?」

 

「はい、良いですよ。あの、ですがここまでの料金は………」

 

「あ、はい。今払います」

 

ドライバーは逃げらてしまうのではと心配なのだろう。

俺はそんなことするつもりは更々無いが、希に逃げる奴がいると聞く。

そんな奴らがいるんだからタクシードライバーとは大変な職業なのだろう。

俺は内心溜め息を吐きながら財布を出す。

料金メーターを見てもそれほど高い訳でもない。

が、これから会う腹黒眼鏡の事を考えるとどんなに安くても領収書を貰わないと気が済まなかった。

 

「領収書お願いします」

 

「分かりました。では、宛名を」

 

俺は一瞬だけ固まってしまった。

普通、タクシーの領収書というのは機械から出てくるレシートのような紙だ。

現代のタクシーでこんな一昔前の領収書があるとは………

いや、それは別にどうでもいいのだ。

問題は宛名に書く名前。

俺のような男が公務員に領収書を書くなど変だと思われないか?

………………まぁいいか。

菊岡誠二郎って書けば。

 

「菊岡誠二郎でお願いします」

 

ドライバーが眉をひそめた気もするけど気にせず書いてもらった。

そして、ここまでの料金を払いタクシーから出る。

あの閉鎖空間から解放された俺は冬の澄んだ空気を肺一杯に吸い込んだ。

酔いも多少解消されてまぁまぁいい気分。

これなら門から出てくる生徒も無視できそうだ。

 

『少し約束の時間までありますね』

 

「曲流して待ってるよ」

 

いつも聞いてるあの人の曲。

アイは当然分かっていて"了解"と言ったすぐに曲を流してくれる。

神崎エルザはやっぱり良いよね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、何処の子だい?」

 

「へ?」

 

何とも図太いがらがら声が神崎エルザの美声を汚した。

遠くの空の雲をティッピーティッピーと鳴きながら飛ぶ第二形態のアンゴラウサギみたいだと思っている時だったので体が強張る。

錆びたロボットよろしくと首だけを曲げるとそこには屈強な肉体を持った青いジャージ姿の男がいた。

男の中の漢。

その後ろには中年小太りの男性と割りと年配の女性。

俺は頭の中でのクエスチョンマークを消すことが出来なかった。

 

「何処の生徒だと聞いてる」

 

漢が腕を組んで見下ろしてくる。

威圧感が凄くて口がパクパクと魚のようになってしまう。

 

『不審者だと思われているんですよ!説明しないと!!』

 

アイが大声で叫んでくれた。

成る程、まっくろくろすけが校門にいたから生徒の誰かが教師に連絡したのか。

それなら事情を説明しなければならないな。

でも、何処の生徒か聞かれても俺学生じゃないし。

 

「あ、いや、学校行って無いんですけど………」

 

「何だと?」

 

正直に答えたのに何故か漢の威圧感が増してしまった。

眼光が鋭く今にも殴られそうな勢いだ。

俺は助けを求めて周りを見たが、残り2人の教師は漢のデカイ体で見えず行き交う生徒は物珍しそうな視線を向けるだけだった。

しかし、救いの天使はそばにいる。

 

『和人様!肩書き!!』

 

「えっと!」

 

俺はアイの一言で急いで財布を取り出した。

あの腹黒眼鏡から貰った肩書きだけの名刺。

何故俺がこんなものに?と疑問だらけの本来はあり得ない役職。

俺は深呼吸してからその名刺を漢に渡す。

 

「総務省総合通信基盤局局長菊岡誠二郎の秘書、桐ヶ谷和人です」

 

「は?」

 

何とか噛まずにこの長い名前を言うと漢は奪い取るように名刺を取った。

そして、まじまじと名刺を眺め始める。

後ろにいた教師も無理に割り込んで名刺を覗いた。

混乱してるのだろう。

3人の目が厳しくなっている。

まぁ、学校に通ってれば高2である俺が公務員などなれる訳がない。

これを渡した時も菊岡は"肩書きだけね"と笑っていた。

いや、笑うなよ。

 

「これは本当か?………本当ならこの学校に何の用だ?」

 

3人の教師が漢を中心として俺の前に横並ぶ。

明らかに疑いの眼差しを向けている。

耳元でもアイが"やっぱり………"と溜め息を吐いていた。

てか、アイが言ったから渡したのに状況が悪化してる………

天使は天使でも堕天使なのか?

ルシファーは落ちてサタンになったからアイもそうなっちゃうの?

俺は赤いモジャモジャのムックみたいにアワアワするしかなかった。

 

「あんた何してるのよ………?」

 

すると、教師陣の後ろから呆れる声が聞こえてきた。

この場にいた全員が声の主へと視線を動かす。

制服の上からクリーム色のコートを羽織った猫のような少女。

俺が待ち望んでいた朝田詩乃だ。

嬉しくて思わずすがるような視線を向けてしまう。

 

「ほら、行くわよ」

 

「ちょ、タクシーあるから………」

 

そう言ってシノンは教師の横を通ると俺の裾を掴んで引っ張る。

俺は咄嗟に止めてあるタクシーを指差してシノンに言った。

シノンは指差した方を見てタクシーを確認すると小走りで走り出す。

俺も合わせて走る羽目になってしまった。

 

「おい朝田!!そいつは誰だ!」

 

後ろから鬼のような声が聞こえてくる。

シノンは振り向きながら答えた。

 

「聞いてないんですか?この人これでも公務員なんです!」

 

俺は止めてあったタクシーに詰め込まれるとシノンは次に俺に叫んだ。

 

「何であんなに目立つ所にいて目立つことをやらかすのよ!!」

 

両手で首元を掴んみ前後に揺らしてくる。

シノンの顔は朱色に染まっていた。

てか、首が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、朝田詩乃さん。この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

クラシックな音楽が流れる中で腹黒眼鏡の菊岡誠二郎は頭を下げた。

いくら腹黒だろうと一般的な常識は持ち合わせているらしい。

うん、形だけで全く誠意が籠められていない気がするのは俺が菊岡誠二郎を苦手としているからだろう。

 

「い、いえ………そんな私は」

 

俺の隣に座るシノンが両手を胸の辺りまで持っていき首を振った。

東京の高級感漂う喫茶店。

料理の値段も馬鹿にならない程高いこの店に俺とシノンは菊岡に呼び出されていた。

シノンには用事が合ったので会える機会が出来たのは良いことだ。

けど、菊岡はいらなかったな。

この人怖いんだもん。

まぁ、大した内容ではなく死銃事件の結果報告のようなものだったので面倒事が持ち込まれる訳では無さそうだ。

 

「いや、慰謝料ぐらいは請求したほうが良いぞ。どうせ国民の金だから寧ろ返して貰う感覚で」

 

『無理に決まってますよ………』

 

「私はそんなに鬼じゃないわ」

 

シノンは傷1つない綺麗な机に置かれた紅茶を口に寄せた。

無駄に高い紅茶。

俺が頼んだコーヒーも偉く高いのだが、家のコーヒーとの違いが全く分からない。

俺は最近挑戦しているブラックコーヒーを一口飲んだ。

しかし、やっぱり分からない。

逆に家の方がいい気もしてくる。

あれだ、高級プリンよりもプッチンプリンの方が美味しいって感覚だ。

庶民の味(インスタント)万歳!!

 

「では、他に聞きたいことはあるかい?」

 

菊岡が頭を上げてにんまりと笑った。

嫌な笑顔だ。

話の途中、シノンは新川弟のこれからを訊いて、俺は新川兄のことを訊いていた。

どちらも楽には日常に戻れないらしい。

これからが大変だとも言っていた。

病院では後継ぎが犯罪者だったことで軽く問題になっているとのこと。

これでは日常に戻ってきたとしても家族の中でゴタゴタが起こるかもしれない。

………まぁ、いつか挨拶ぐらいは一度行ってやろう。

法に触れていたとはいえ、あいつにもあいつなりの正義あったのだからな。

シノンも弟の方に会うと言っている。

新川兄弟、悪いことをしたのは明らかなのだが、全てを否定する気にはなれない2人だ。

そういうことで、それだけのことが分かっていれば十分だった俺達はもう特に質問はない。

俺は代わりに軽口を叩く。

 

「ここまでのタクシー代は経費で落としてくれよな」

 

「次、会うときに払うことにするよ」

 

「こちらとしては会いたくないんだけどな」

 

菊岡は"手厳しいね"と形だけの笑いを見せながら机にお金を置いた。

値段は俺達が頼んだ飲み物とデザート分のお金が置かれている。

ピッタリの値段というのがまたイヤらしい。

"釣りはいらねぇよ"ぐらいのことを言ってほしかった。

公務員だけにお金の管理はしっかりとやるのだろう。

 

「では、朝田さんまたいつか」

 

菊岡は最後にシノンへ会釈すると小走りで店の外に出ていった。

本当にあの人は苦手だ。

今の会釈も真剣なのか疑わしい。

何だろうな。

声も顔も似てないのに髪を上げて本性を現した時の藍染隊長をイメージさせる。

姿を現したな化け物め!!

 

「ねぇ、あの人何者なの?言ったら悪いけど、底が見えない………」

 

「生憎俺にもさっぱり。一回本気で何者か調べようとしたんだけど、防衛省の言葉が出てきた瞬間に止めた」

 

「防衛省!?」

 

シノンが高級喫茶にそぐわない大声を出してしまった。

後ろで気品溢れるマダムが技とらしく咳き込んだ。

端から見たら学生2人が隣り合って不釣り合いなコーヒーと紅茶を飲んでいて、敵視されているのがバリバリと伝わってくる。

シノンは小さく咳き込むと残っていた紅茶を一気に飲み干した。

 

「防衛省って何でそんな所に?」

 

「考えたくない。あの人怖いからな」

 

絶対に深く関わらないようにしてる人No.1の人物なのだ。

下手に手を出して取り返しのつかないことになったら遅いからな。

因みにNo.2はアオイさん。

あの人は嫌な感じはしないけど危ない。

好奇心で人を殺せるタイプ。

 

「それよりもこの後暇か?」

 

「ええ、特に予定はないわ」

 

「じゃあさ、ちょっと付き合ってくんないかな?」

 

俺は若干声を震わせながら尋ねた。

シノンは"何よ?"と首を傾げる。

 

「あの………BoBの中継に俺とシノンが手を繋いでたりしてた映像が流れてて………その、別にイチャついていた訳じゃないことを弁解してほしい人がいて………」

 

「へぇ………その人が噂の彼女さん?」

 

シノンがまるでしてやったりと言いたげの顔をする。

それに耳元からはクスクスとアイの堪えきれていない笑い声。

何か企んでいるような2人に疑問を持ちつつも俺は答えた。

 

「いや、ゆ………彼女は今入院中で外には出れないんだけど………彼女の親友がお怒りのようで………」

 

『和人様、()()準備が整ったと連絡が』

 

電話越しなのに鬼のオーラが受話器から流れ込んできた時はマジで腰が抜けそうになった。

電話であれなら本人の顔はさも恐ろしく身の毛もよだつ程の表情かもしれない。

まぁ、ナイスタイミングなアイの連絡通り()()準備を手伝ってもらったんだ。

お叱りなら幾らでも受けよう。

俺は目元が全く笑っていないのに笑顔の閃光様を想像しながら心に誓う。

 

「なら、早く誤解を解かないといけないわね」

 

「助かる」

 

俺はシノンの面白がるような笑みに感謝を述べつつ菊岡の遺品を手に取った。

我々庶民の金が………

 

「ほら、さっさと行くわよ」

 

「はいはい」

 

俺とシノンはアンドリュー・ギルバート・ミルズことエギルが運営するダイシー・カフェに向かう為、カウンターにお金を出して店を後にする。

まだまだ寒さが強くなりそうな今日この頃。

"俺とシノンは親友になれるのかな?"と自分では不思議なことを考えていた。

 

「それならキリトのこと全部話しなさい」

 

「え?声に出てた!?」

 

『うっすらと出てましたよ』

 

「今日、これから行く理由も誤解を解くだけじゃないのよね?」

 

シノンは見透かしたように俺の心を読んでいた。

俺は思わず息を飲んだ。

 

「私もあの時話せなかったこと話すから」

 

間違いない。

俺とシノンは間違いなく親友になれる。

シノンの微笑を見ているとそう思えてきた。

どんよりとした曇り空の下。

何だか俺の心の中は晴れやかだった。

 




GGO編ラスト~!!
終わり方が微妙~!!
でも、自分はこんな終わり方割りと好きです。

さてさて、次回なのですけども………ネタも考えてないのですが番外編を2つやろうと思ってます。
そして、その後に最終章のスクワッドジャム編突入!!
皆様、最後までお楽しみ下さい!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
81話 墓参り


筋肉痛が凄い………
別に運動神経が悪いって訳じゃないのに体力がないのですぐにバテてしまいます。
何だかんだで小学生の頃が一番体力が有り余っていた気がする………
まったく、小学生は最高だぜ!!


長野県のとある田舎町。

木造平屋の駅を出たところには冬野菜を収穫しようとしているおばあちゃんおじいちゃんがせっせと仕事に勤しんでいる。

その収穫姿を遠目で観察している若い男の人は後取りだろうか?

真剣な眼差しでお年寄りを見つめている。

俺はその光景をバス停のベンチに座って他人事のように眺めていた。

 

『本当にこの田舎にあるの?』

 

すると、俺の肩に乗っていた機械が喋り出した。

透明なガラスの中にあるカメラがこちらを向いてピントを合わせている。

キュイン、キュインという機械音がその証拠だ。

俺は頷いた。

 

「葬式の時は苦労したよ」

 

『ふーん、ボクならもっと分かりやすい所がいいなー。ヒースクリフも変わってるね』

 

「まぁ、変わってる人ではあるな」

 

肩の機械に入っている木綿季はキュルリとカメラを回して田舎の風景を見渡した。

何だか、某ネズミーアニメーション47番目の長編作品に出てくる帽子のロボットみたいな形をしている機械。

俺が作った自分の意思で辺りも見渡せるカメラである。

ただ、もしこの機械が例によって反乱を起こしたとしても俺は全力で服従するけどな。

だって!中身が木綿季なんだもん!!

俺は何度か来ているこの町の風景を見ながら鼻を鳴らした。

 

「まだ、少し時間があるな」

 

『田舎って大変だね』

 

この町のバスの数は恐ろしく少ない。

何と1時間に1本である。

しかも、1時間内に来る時間帯も少なく実質2時間に1本という俺ら都市民からすれば駅前とは思えないバス数だ。

慣れるにはもう少し掛かるかもしれない。

そんな苦労が絶えないこの町に何故来たのかというと、それは俺が今でも憧れる存在"茅場昌彦"のお墓参りである。

SAOという史上最悪のデスゲームを巻き起こした歴史上にも類を見ない上級犯罪者。

彼の最期は俺の剣を引き金として脳に高出力のスキャンを行うことだった。

茅場さんの恋人である神代さん曰く記憶や自我を電子信号として読み取ろうとしたらしい。

つまり、アニメなどでよくある電脳化だ。

確率で考えると可能性は天文学的な数値になると言っていた。

しかし、確率論に0%はないし、世間には知られてないが感情を持つAIだっている。

こうして暇さえあれば墓参りに訪れてはいるものの、実際は今や蜘蛛の巣のように広がるVRゲームの世界の何処かに居るのかもしれない。

そしたらまた会えるかも。

その方が警察的には厄介者だろうが、俺的にはいい。

俺の頬には自然と笑みが溢れる。

 

『和人?』

 

「何でもない………」

 

あの天才のことだ。

きっと何処かのVRゲームの中にいるに違いない。

俺はカメラから漂う不審なオーラから目を逸らしつつまた笑ってしまう。

真っ白い雲が所々にある絵になりそうな空が山の向こうまで広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チリンッ………チリンッ………

 

『ほとんど森だね。熊とか出てきそう』

 

「出るかは知らないけど、一応鈴は着けてるから」

 

うへーっと怯えるような木綿季に俺は腰に着けてあるサクランボのような鈴を叩いて鳴らした。

全く舗装されていない上り坂の砂利道が俺の体力を奪いながら行く手を阻む。

だが、こちとら全国ベスト8の実力者に加えて金髪の小さな魔神と幾度となく戦っているのだ。

この程度じゃ息も切らさず上りきれる。

それにしても神代さんって意外と体力あるんだな………てか、アオイさん何で剣道できんだよ!?スグに一本も取らせないで勝つし。

あの人マジで何なんだよ………

 

『あの小屋?』

 

「ん?ああ、あの小屋の後ろにある」

 

そうこうしていると茅場さんの隠れ家に辿り着いた。

よくもまぁ、ここで2年間隠れ通せたものだ。

今にも壊れそうな焦げ茶色の木製小屋の表面には植物が頑張ってツルを張り巡らそうとしている。

ここも今ではこんなだが、茅場昌彦の死体発見現場として一時期は有名となり警察は勿論、物好きな人がうじゃうじゃと蟻のように訪れていた。

ネットでもこれまた物好きな実況者さんがここを紹介しては茅場さんに対し誹謗中傷なことを"俺マジ正義の味方!"風に鼻高く演説していた。

ただ、その動画を発見した時にはマジギレしてその実況者さんの個人情報を調べ上げてネット上に流したりしと社会的に死んでもらったけどな!!

まぁ、そんな奴らも知らないことがある。

それは同じ場所に茅場昌彦の墓があること。

本来、犯罪者が死んだ場合、家族が引き取ることが出来なければ行き倒れとされる。

悲しいかな、茅場さんは家族が居ないことが判明。

当然、法律に乗っ取り無縁仏として施設が管理する墓に埋葬される筈だった。

しかし、そこで名乗りを挙げたのが神代さんだ。

神代さんは自分が茅場さんの死体の引き取り人となることを宣言した。

警察は最初戸惑ってはいたが、法律上市区町村へ申請書を提出して許可が貰えればいいので警察は神代さんに茅場さんの遺体を引き渡しのだ。

茅場さんの恋人である神代さんはこうして茅場さんと2人で過ごした家の後ろに墓を作ったのである。

 

「ふっと!」

 

俺は植物が頑張って伸ばしていたツルを取り去って見た目綺麗にする。

目立つ雑草も適当に根っこから抜いて遠くに投げ飛ばす。

こんな小屋でも茅場さんと神代さん2人の愛の巣なのだ。

見た目だけでも綺麗にしておきたい。

一通りの雑草抜きも終わって俺は小屋の後ろに回る。

腰の高さまであるコンクリートで出来た囲い。

そこの中には長方形の綺麗に黒みがかった石が横に置かれていた。

なんとも味のある形の石にその石に掘られた"茅場"の文字。

俺は茅場さんの骨が眠る墓の前に立った。

 

『………御葬式ってどんなだった?人いた?』

 

「人は少なかったよ………」

 

御葬式に参加したのは茅場さんがいた研究所の人が数人、腹黒眼鏡の菊岡、アオイさん、そして俺と神代さんのお坊さん含めても10人にも満たない人数。

研究所の人は渋々といった感じで全てが終わるとすたこらさっさと悲しむ素振りも見せずに帰っていった。

恐らく犯罪者でも研究員の御葬式に出たと言う事実が欲しかっただけなのだ。

逆に手で顔を覆いながら泣いていた神代さんは心から悲しかったんだと思う。

俺は歯を食いしばって涙を堪えていたのだが、アオイさんが肩に手を置いてくれた時にはもう泣き叫んでしまった。

あれは黒歴史………………

 

『和人、花』

 

俺は木綿季に言われてあらかじめ持ってきていた花を供えようと石の両脇にある筒から古い花を取って新しい花に変えた。

小屋の外に付いている蛇口から水を汲んで水の入れ替えや墓の掃除も忘れない。

森のような場所でもここだけは日が射しているのは自然の奇跡なのだろう。

茅場さんの墓は綺麗になり陽の光を反射している。

うっすらと前に立っている俺の姿も見えるぐらいだ。

俺は最後に線香を置いてから目をつむり両手を合わせた。

線香から立ち上る香りが鼻腔をくすぐっていかにも墓の前にいるのだ実感させられる。

数秒後、木綿季が口を開いた。

 

『神代さんは来れないのかな?』

 

「あの人今アメリカにいるからな。………あ、でも春に一度帰ってくるってメールが来た」

 

アメリカの大学に在籍している神代さんは色恋沙汰など見向きもしてない気がする。

御葬式の時に交換したメールアドレスでたまに連絡を取るが、アメリカのイケメン達はこぞって美人な神代さんにアタックしているようだ。

そして、どうやらそのイケメン達を玉砕させているらしい。

好きな人が出来るかもしれないと言ったけど、茅場さん一筋なのかも。

玉砕していった人達、そしてこれから玉砕される人達は哀れだ。

 

『へー!ならまたお話出来るかな?』

 

「出来るんじゃないか?木綿季にも会いたいって言ってるし」

 

メディキュボイドの開発に関わった人物である神代さんは木綿季にとって恩人のような存在。

ワンワンと犬のようになついている。

"全部の病気治ったらアメリカ行く!!"とまで言っていた。

………………まぁ、木綿季が良いというのならアメリカではないけど海外に行くかもしれないのだが。

 

「なぁ、木綿季」

 

『ん?』

 

「もう少し先かもしれないけど………結構大事な話するから」

 

『大事な話?』

 

木綿季はおうむ返しに返した。

俺は茅場さんの墓を見つめたまま続ける。

 

「ああ、まだ不確定な所が多いから言わないけど………4月ぐらいには話せると思う」

 

そう、この話はまだ前向きに提案されただけ。

アイツともっと話さないと実現出来るかさえ危うい案件なのだ。

というか、"私に任せなさい!"って意気込んでいたけど外国人が()()()に住むには結構面倒くさいと聞いたことがあるのだが?

何にせよ、早く話しを進めたいものだ。

 

『………なら、ボクは待ってるよ。待つのには慣れちゃったからね』

 

「悪い」

 

俺は頭を掻いて謝った。

確かに俺は以前から色々と木綿季を待たせ過ぎだ。

変に考えて結局答えが遅くなってしまう。

それも思わせ振りな言葉を最初に残す。

こんな面倒くさい男が彼氏だなんて木綿季も疲れてるかもしれない。

 

『帰ろ!』

 

「そうだな」

 

俺は茅場さん体が眠る墓に背を向けた。

不要になった体を捨てて電脳化し、無限に広がるVRの世界を旅する天才。

茅場さんは実現方法はどうであれ子供の頃からの夢を忘れず純粋な心で夢を現実に体現させてみせた。

俺はそんな茅場さんを今でも心から憧れて尊敬している。

この世界で唯一、俺が背中を追っている人物なのだ。

 

 




少し遅れてしまいましたね!
この小説書くのって1話大体、夜9時から夜12時の3時間なんですよ。
本当なら一昨日の金曜日に更新したかったんですが、その時間るろうに剣心がやってるし土曜日は出掛けてたし日曜日は面倒くさかったし………
まぁ、兎に角!!
ロシアの伏線~!!
まぁ、SAOのゲームやってる人なら分かりますよね?

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

82話 ましろ 3

ああー、ラブライブの続編ていうか、その後的なのないですかね?
頑張れラブライブ!!アンチに負けるな!!
自分達の夢を叶えてくれ!!


最近のご主人はやたらとご機嫌です。

もう1人のご主人がもう少しでこの家に帰ってこれることになってから毎日嬉しそうです。

見た目はそう変わりませんが寝るときも一緒の私には分かります。

床に何やら鉄の塊をばら撒いて変な形の物を組み立てているときには鼻歌まで聞こえてきます。

まるで私の存在を忘れているかのようです。

いくら私が白いからって壁と同化したりはしません。

 

「ふふーん♪」

 

今日もご主人は小さく鼻歌を奏でながら小さな物を造っています。

床に綺麗な布を敷いて細い棒を巧みに扱っています。

私はその姿をご主人のベットの中から覗きます。

ご主人のベットはとても温くて安心します。

 

「ニャー………」

 

しかし、こうして1日のほとんどを睡眠に使っていると暇になってきます。

ご主人は私が鳴いても気にせず構ってもくれません。

もうこのままマッシローンという謎の効果音と共に存在感が薄れて点線だけの存在になってしまうかもしれません。

そんなの絶対に嫌です。

ですが、集中しているご主人の邪魔も出来ません。

私は仕方無く家の中を散歩しに出ました。

音を立てずにベットから降りて私専用のドアを潜り廊下に出ます。

 

「………!!」

 

私は体をブルブル振ってから毛繕いをしました。

その後、取り敢えず1階に降ります。

両親は仕事で居ませんが、1階には妹さんがいた筈です。

きっと構ってくれるでしょう。

私はトタトタと階段を降りていきます。

 

「う~ん………」

 

妹さんはすぐに見付かりました。

ソファーで何やら本を両手にうなり声を上げています。

何かと思って私はコッソリ妹さんの後ろに回ります。

そびえ立つソファーの壁をジャンプで上り妹さんの肩越しに本を盗み見ます。

………布の本でした。

大きな2つの布を中心に丈夫そうな細い布で繋げています。

 

「どうしよう………」

 

私はこれを知っています。

ブラと呼ばれる雌が着ける布です。

何でも形を良くしたり安定させたりする機能が付いているらしいです。

猫の私には全く理解出来ない代物ですが、妹さんにとっては重大な問題なのかもしれません。

なんせ、妹さんはこの布を着ける部分が巨大なのです。

テレビを見ていても中にいる人間よりも妹さんの方が大きいってことはざらです。

妹さんは人間の中でも豊満な胸をしているのです。

因みにもう1人ご主人は小さかった気がします。

昔のことですので今は分かりませんが、何故か今も小さい姿を想像してしまいます。

 

「買うべきか………でも、お金が………ああ、でも最近大きくなったし………」

 

妹さんの悩みは尽きないようです。

私は静かにソファーから床に着地してその場を後にしました。

 

「ニャー」

 

さてどうしましょう。

今家にいるご主人と妹さんは周りが見えていないじょうたいです。

故に構ってももらえません。

かといって、寝るのも飽きてしまいました。

私は廊下を行ったり来たりして考えます。

良い暇潰しは無いでしょうか?

 

「ニャ………」

 

ふと、私はある部屋を思い出しました。

ご主人の隣にある部屋です。

そこは今でこそ空き部屋ですが、昔はちゃんと人が暮らしていました。

そう、もう1人のご主人の部屋です。

私はそこに向かうことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう1人のご主人の部屋は全体的に小さいです。

年齢や身長ののこともあってご主人や妹さんの部屋と比べると不思議な感覚になって私が大きくなった気がします。

小さな枕に小さなベット。

マットは普通でもその上に乗っているテーブルは小さいです。

立て掛けられている服も小さい。

人が住んでる気配、跡が一切ない殺伐とした部屋です。

そのせいで何だか悲しくなってきます。

本当ならここには元気な可愛い女の子が暮らしている筈だったのです。

私はもう1人のご主人のベットの上に上りました。

1日でも早くこの部屋にもう1人のご主人が帰ってくることを望みます。

そして、一緒に寝るのです。

 

「ニャー」

 

私はそんな妄想を時間を忘れて続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ましろ。ここにいたのか」

 

「ニャ?」

 

私が妄想に励んでいるとご主人が部屋に入ってきました。

どうやら物作りは終わったようです。

私も楽しい時間を過ごせました。

それはもう、2人のご主人が私と一緒にあれやこれやと………ぐふふふふ。

お陰でいつの間にか窓から射し込む暖かい太陽の光が冷たい月の光に変わっています。

 

「木綿季の部屋か………久し振りに入るな。スグが掃除してるから綺麗だけどなんか悲しいな」

 

ご主人はベッドの私を抱き上げました。

私も素直に抱っこされます。

ご主人は抱っこしながら私を撫でてくれます。

私はちょっとしたいたずら心でペロリとご主人の手のひらを舐めてしまいます。

 

「おわっ!?っとビックリした………」

 

ご主人は想像以上に驚いてくれます。

けれど、私のことは落としたりしません。

しっかりと抱えています。

 

「ニャ~!」

 

私は楽しくなって鳴きました。

ご主人も笑ってくれます。

そんなご主人はもう1人のご主人のベッドに座りました。

 

「なぁ、ましろ。俺、どうすればいいのかな?」

 

突然、ご主人は笑顔からしんみりとした顔になります。

妹さんと同じように悩みがあるようです。

しかし、妹さんには悪いですがご主人の悩みは妹さんよりも大きいようです。

私はご主人の悩みを聞きます。

 

「ロシアだってよ。夢………の為には行く方が近道なんだろうな。設備も揃ってるし自由に研究出来る。最高の場所だよ」

 

ご主人は夢見る少年のような笑顔になります。

私を撫でる手も何だかウキウキしています。

 

「言葉は何とかなりそうだし。住む場所も一緒に住まわせてくれるらしいし。これとないチャンスなんだよ………でも、」

 

すると、ご主人は急に寂しそうな顔になりました。

涙も滲ませています。

ご主人は耐えかねたように私を抱き締めます。

嗚咽が混じった涙声が聞こえます。

 

「俺、皆と離れたくない………!!せっかく新しい家族に新しい友達も出来たのに………!!離ればなれになるなんて………!!」

 

ご主人は私を巻き込みながら腰を丸めていきます。

流れる涙が私の毛に触れます。

どうやらご主人は何処か遠くに行きたいようです。

しかし、両親や友人とは離れたくないという板挟み状態に陥っているようです。

ご主人は寂しがり屋さんですから、なかなか決心出来ないようです。

 

「ニャー!!」

 

「!?」

 

私はご主人の頬を舐めました。

涙でちょっぴりしょっぱかったです。

ご主人は驚いた様子でバッと起き上がりました。

私はそのご主人の頬に今度は頬を押し付けました。

 

「ニャー」

 

「ちょ、ましろくすぐったい!!」

 

ご主人が本当にくすぐったそうにしています。

それを見て私は満足します。

 

「いきなり何だよ………こっちは真剣なのに………」

 

「ニャー!」

 

私は満面の笑みで返します。

ご主人は呆れているようです。

軽い微笑が顔に浮かんでいます。

 

「はぁー………全く、お前とも離ればなれになるかもしれないんだぞ?」

 

ご主人がまた私の頭を撫でます。

 

「………飯食うか?」

 

「ニャ~!!」

 

例えご主人が遠くに行くことになっても恐らくもう1人のご主人が着いていくでしょう。

アイさんやユイさん、カーディナルさんも当然です。

だから、ご主人は大丈夫です。

私は物凄く悲しいですが、ここにはご主人達と同じぐらい優しくしてくれる人がいっぱいいます。

それに生涯最後の別れになる訳ではないです………多分。

私はあの病院のベンチで綺麗な花を後ろに2人のご主人が並んで私を撫でるという夢が叶えば良いのです。

とにかく、私はそれさえ叶えばいいのです。

ご主人達が幸せなら私も幸せなのです。

………ですがまぁ、確かに悲しいのは事実です。

なので、今を楽しみます!!

この瞬間を全力で!!

 

「ニャ~!!!」

 

「おわ!?………どうしたんだよ!?」

 

私はご主人に飛び付きます。

人間と猫、種族が違うと同時に性別も違います。

私の"ふぁーすときす"と呼ばれるものはご主人のものです!!

 

「にゃ~!!」

 

私は微笑むご主人にしてやったりという表情を見せます。

幸せになってくださいね!

()()!!

 




ましろん………健気な子!!

そして、次回からはジャムジャムしますよ!!
いや、ジャムしちゃ駄目なんですけどね。
皆さんお楽しみに!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SJ2
83話 スクワッド・ジャム


ラブライブのスクフェス………海未ちゃんが欲しいのに何故か白飯大好きかよちんばかり出てくる………
嬉しいけど出過ぎて困る。
いや、他のキャラも出るなら良いけど、かよちんだけが良く当たるんですけど。


 

 

それは急なお誘いだった。

 

「スクワッドジャム?」

 

「ええ、正確にはセカンド・スクワッド・ジャムよ」

 

水色の髪の毛の中からピンと飛び出る猫の耳、ゆらゆらと左右に揺れるこれまた水色の尻尾。

見事な猫娘と化したシノンが酒場にいた俺にGGOで行われるとある大会の出場を勧めてきたのだ。

ここはアルヴヘイム・オンライン、通称ALO。

シルフ、サラマンダー、ウンディーネ、ケットシー、ノーム、レプラコーン、プーカ、インプ、スプリガン。

多種多様な9つの種類が存在する美しくも時々醜い妖精達の世界。

そんな世界には巨大な浮遊大陸が存在していた。

その名も"スヴァルト・アールヴヘイム"

数日前にALOに現れた空飛ぶ島である。

まぁつまり、ALOのアップデートで追加された新フィールドだ。

幾つかの空飛ぶ島で構成されたスヴァルト・アールヴヘイムは様々な環境の島が存在し、雪山や砂漠など極端なものから草原といったのどかな島がある。

だが、様々な環境の島よりも追加当日の出来事は忘れない。

空を大陸の移動のようにゆったりと動く島々を見て我慢できなくなった俺はアイを連れて島の側にある山の頂上に行ったのだ。

そこでアイを三つ編みにしたり、光沢を帯びた紺色の雫形の石に模様を描いたり、アイにお願いしてその石を2人で持つように頼んだり。

そして、頂上に立つ巨大な樹を後ろにして2人で叫んだりもした。

『『バ●ス!!』』

無論、スヴァルト・アールヴヘイムが落ちることは無かったけど一度は言ってみたい台詞が言えて超満足だった。

ここは例の言葉でも落ちなかったスヴァルト・アールヴヘイムの上にある都市、空都"ライン"

 

「え~っと、つまり。BoBのチーム戦みたいな?」

 

「そう。ただ、単独での参加は無し、最低でも2人組じゃないと参加出来ないのよ」

 

「そこで俺に白羽の矢が立ったと………」

 

俺は木製のジョッキに注がれている赤色のエールを一口飲んだ。

ラズベリーのような酸味がある不思議な味。

俺は暫く参加するかどうか考え唸る。

いや、何と言いますか………俺にも事情があって忙しいといいますか………めんどくさいといいますか………

頭の中でどう言い訳しようかの思考に走る。

この時点で断るつもり満々だった。

 

「へー、親友である私のお願いを断るのかしら?」

 

「さーて、開催の当日はいつだ?準備しないといけないだろ?」

 

シノンの俺を凍てつかせる為には充分すぎる冷たい微笑み。

俺の心はもう180度すっかり変わってしまった。

シノンはカウンターに頬杖を突いて不敵に笑っている。

死銃事件以来、よく話すようになったシノンは俺の揺るぎなき親友だ。

しかし、それ故にある意味恋人の木綿季には知られたくない黒歴史を持っている。

情報源は恐らくアイ。

シノンが冷たい微笑みを見せた際は逆らうことを決して許されないのだ。

悲しきかな我が人生………

 

「開催日は4月4日土曜日よ。応募締め切りは4月1日の正午。まぁ、詳しい説明は明日にでもするからそれまでにアイちゃんも誘っておいて」

 

そういって、シノンは酒場を後にした。

俺は深い溜め息を吐いて残り半分もあるエールを一気に飲み干した。

こうでもしなきゃやっていけない。

クラインの気持ちが少しだけ分かった気がする。

ああ、働きたくない………

 

「キリトくんも大変ね~」

 

「他人事のようにしやがって………」

 

「だって、他人事だし」

 

俺はシノンが来る前から話していた小さな女の子を睨んだ。

女の子は未だにクスクスと笑っている。

本当ならもっと真面目な話をしていた筈だったのに雰囲気が台無しだ。

俺はまた溜め息を吐き出す。

 

「まぁ、こっちは迎える準備万端なのよ。後はキリトくんがどうしたいかね」

 

「俺次第か………」

 

俺は天井で光るいびつな形をしたランプを見つめた。

行きたいけど行きたくないといったジレンマが心に残っているのが感じられる。

さて、どうすべきか………

 

「キリトー!!」

 

「グヘッ!?」

 

まるでバットに殴られたような鈍い感覚が後頭部を襲った。

見上げる形だったので頭が急に前に言って喉が潰されかける。

突然の来訪者に隣の女の子も流石に驚いて目を剥いていた。

木綿季か?アルゴか?それともリズかクラインか?

様々な可能性を頭に浮かべる。

勿論、それぞれの対処法もだ。

木綿季なら許す、リズなら怒る、クラインなら一発殴る、アルゴなら諦める。

 

「何す___」

 

「よっす、シルフの美少女()()()()様だ!!」

 

「………()()()。またな………」

 

「ええ、また話しましょ!」

 

ロシアの若き研究者七色・アルシャービンはその小さな体を丸くしながら腹を抱えて笑っていた。

 




まぁ、今回は短めですね。
そして、何とセカンドからジャムらせていただきます!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

84話 高校生と大学生

ギターをやってると指先が固まるからタッチするゲームがなんかやりにくい。
これは自分だけでしょうか?


 

 

「よ、よろしくお願いします………!」

 

俺は少々度を失ったように声を上擦らせた。

漫画とかではこのような場合、目の前には迫力がある人やとても強い師匠など自分より遥かに凄い人が存在しているのがセオリーだ。

しかし、俺が現在頭を下げているのは迫力なんて何処へやら、別に大男な訳でもなく何かの拳法を極めているとも思えない単なる少女。

それもアイと同等かそれ以下の身長だ。

 

「ううん!こちらこそよろしく!!」

 

焦げ茶色のローブ姿の女の子は目を輝かせて頭を下げていた俺の両手を掴み縦に振る。

口もにんまりとしていて、まるで長年の悩みから遂に解放されたという感じだ。

俺は"あははは"と軽く笑うしかない。

全く………何でこうなったんだっけ?

俺は思考を巡らせた。

ここ数日のなんともめんどくさいことに巻き込まれ始めていた日常を。

隣に俺の初っぱなの挨拶で笑いを堪えるアイ、その一歩後ろにやっぱりねと呆れ顔のシノン。

目の前にはショートカットの小さい子で奥ではこれまた小さい金髪の小悪魔的笑みを浮かべるフカ次郎。

………本当にこんなチームでいいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   数日前

 

「___ってことで協力してくんない?」

 

浮遊大陸スヴァルト・アールヴヘイムの上にある唯一の都市"空都ライン"。

俺はこの街にある酒場の個室に何故か金髪美少女と向かい合っていた。

我が妹リーファに勝るとも劣らない剣の実力を持ち、その独特のネーミングセンスで有名なフカ次郎である。

腰辺りまであるリーファの髪よりもブロンドに近い金髪を揺らしてフカ次郎は訊いてきた。

 

「い、嫌です………」

 

俺はそっぽを向いてフカ次郎の依頼を放棄した。

そもそも、頭がおかしな女社長を助ける為にセカンドスクワッドジャムに出るなんて馬鹿馬鹿し過ぎて呆れてしまう。

そんなの警察に言えば一発で解決ではないか。

それに、その女社長の自殺を止める為にゲーム内で殺す意味も分からない。

ゲーム中に死んだら死のうと計画してるなら逆に生かすべきではないのか?

そもそも何でその女社長はゲームで死のうと思っている?

まさか、SAO生還者(サバイバー)なのか?

色々な疑問が頭の中で弾ける。

だが、それらの疑問を正直にぶつけないのは怖いからである。

七色と話してた故に今は誰も身内がいないのだ。

シノンもすぐに帰っちゃったし………

 

「えー、だってキリト大会出るんでしょ?」

 

「盗み聞きですか………」

 

俺はあからさまに肩を落とした。

フカ次郎は俺とシノンの会話を後ろから聞いていたのだ。

なので、セカンドスクワッドジャムに参加するのを知ったうえで協力を頼んでいる。

俺は決心した。

どうにかしてこの面倒事を回避しなければならないと。

 

「なんで、俺なんですか?そんなリアル割れしそうなことをペラペラ喋るなんて」

 

「ああ、キリトってSAOをクリアしたんでしょ?だったら命も大切にするのかな~って」

 

「………………は?SAOをクリア?」

 

フカ次郎のさも当然のように真顔で訳を言うので一瞬聞き流しかけてしまった。

何とか聞き止まりはしたものの踏ん張りが効かず間抜けな声が出る。

折角の鉄より硬い決心も崩れるとかじゃなく決心ごと何処かに飛んでいってしまった。

残ったのは"何故俺がSAOをクリアしたと知っているのだ?"や"SAO生還者(サバイバー)が流したのか?"という謎だけだ。

 

「ありゃ?知んないの?私らの中じゃ割りと有名」

 

フカ次郎は親指を自分に向けて白い歯を見せ付けてきた。

俺は頭から血が抜けるのをハッキリと感じ取れた。

フカ次郎は重度のゲーマー。

俺がログインすると大抵はいる程の。

私らというのはそのゲーマー達を指すのだろう。

………………本当に何でバレてるんだ?

 

「まぁ、それはともかくとして。キリトって何歳?」

 

「え………?17………あ、ヤベ!!」

 

「はっは~ん!!17歳ねー!!つまり高校生!!」

 

何という策士!?

フカ次郎は俺がどう情報源を潰そうかと策を練っている隙を突いて年齢を聞き出してきたのだ。

そして、見事成功してしまった。

何という不覚!

この態度を見る限りフカ次郎は俺より歳上………。

俺は胸を張って机に右足を乗せるフカ次郎を見上げた。

フカ次郎は"クックック!"と全てを支配した時の大魔王のような笑みを浮かべている。

嫌な寒気が背筋を走った。

 

「は~っはっはっは!!」

 

フカ次郎は次の瞬間、お行儀悪く更に右足を踏み出した。

木製の机が壊れそうで怖いくらいの力強さだ。

そして、高らかに突き上げた右手を俺の鼻先に向けた。

フカ次郎の顔は尚も大魔王的な笑みを崩していない。

直感だった。

SAO時代から培ってきたシステム外スキル"超感覚"が俺の脳内にこう告げていた。

"もうだめだぁ………おしまいだぁ"

 

「高校生の分際で現役女子大生に逆らえると思うなよ!!」

 

「あ、大学生なんですね」

 

沈黙が狭い室内に訪れた。

お互い目線を外さず見つめあっている。

そして、沈黙を破ったのはフカ次郎だ。

 

「……………………やらかした~!!!」

 

ことVRMMORPGにおいてリアルの情報は極力流してはいけない。

それが鉄則。

例え年齢などであってもだ。

ただ、最初の話の時点でフカ次郎がそれを忘れているのは分かっていた。

フカ次郎は大剣を振り回しながら戦う時は頭が良く回るのに何処か抜けているのだ。

まぁ、同時にこの協力の内容に対して色々と疑問が沸き上がっていた俺も人のことは言えない。

疑問を持った時点で俺は負けていた。

もし、断ったとしても気になりすぎて勝手に動いていただろう。

腑に落ちないが、頭の中に残る疑問を持ったら解き明かすまで済まない性分の為協力せざるおえなくなってしまった。

 

「はぁぁ………」

 

よし、俺の情報が何処から漏れたか、誰が流したのか探すか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成る程、全てはフカ次郎のせいか。

俺はそう決定付けると前を歩くフカ次郎に恨みの念を送ってやった。

フカ次郎は嬉しそうに楽しそうに愛想を振りまくりながら逆ナンを受け続けている。

武器を買いに行く予定を完全に忘れてしまっているようだ。

 

「明るい方ですね」

 

アイが不思議と尊敬のような眼差しをフカ次郎に向けていた。

フカ次郎程とまではいかなくてもアイが明るくなるのは嬉しい。

だって、甘えてくれる回数が格段に上がるかもしれないではないか。

ああ、でもそれだとツンデレでは無くなってしまう。

うん、アイは今の方がいいな。

生まれた時から完全体。

セルも見習うべき程の最強さだ。

 

「フカはゲーマーだからね」

 

ローブを被った小さな小さな女の子。

フカ次郎の親友であるレンだ。

この女社長救出作戦の首謀者であり、前回のスクワッドジャムの優勝者。

曰く機関銃の雨あられのど真ん中に居ても凌ぎきったとか、数人の敵を前にしても臆さず挑み続けて屍の山を作り上げたとか、フカ次郎から嘘か本当か分からないが数多の伝説を聞かされている。

この人も大学生なんだろうな。

 

「ねぇ、レンさん。あなたが狙わなきゃならない相手って誰なの?」

 

「レンでいいよ。えっと、ピトフーイって人」

 

ピトフーイ、その名前を聞いた瞬間、シノンの顔が歪んだ。

殺気とも呼べるオーラが体から滲み出ていた。

知り合いなのだろうか?

 

「知り合いか?」

 

「私のヘカートを買おうとした女よ」

 

シノンが山猫を彷彿させるうなり声を上げた。

今、シノンの目の前にそのピトフーイなる女が現れたらレンが殺す前にシノンが殺してしまいそうだ。

というか、シノンが持つヘカートは対物ライフルでGGOの中に10丁もないレア物の中のレア物ではなかったか?

それをGGO最強のスナイパーに売ってくれと頼んだのか………

相当な勇気だ。

称賛に値する。

 

「強いのか?」

 

「多分………沢山銃持ってたから銃の扱いには慣れてると思う」

 

俺がレンに尋ねるとレンは声を低くして答えた。

愛銃を持たない。

個性がないと言えば弱く聞こえるかもしれないが、スタイルが無い以上に厄介な相手はいない。

弱点が見付からないからだ。

FPSなどで拾った銃を使うことは多々ある。

しかし、GGOは仮想空間。

ALOの剣とは違い使い方を知っていないと拾った銃は扱えない。

ピトフーイは銃を沢山持っていて銃の扱いには慣れてる。

それは人を殺す道具の扱いも慣れていると同義なのだ。

 

「まぁ、こっちにはあのBoB優勝者3人がいるから心強いよ!」

 

「「「!!!」」」

 

茶化す訳でもなく純粋なるレンの気持ち。

歳上のカリスマ性とでも言うのだろうか?

俺とアイとシノンは意味も無く照れてしまう。

出会ってからまだ1時間と少し。

悪い事ばかりじゃないな、と思い始めていた。

だが、俺の目的は何故ゲームで自殺しようとしているのか聞く為。

勿論、自殺阻止も目的に入っている。

が、どうしても前者の方がメインに考えてしまう。

 

「ねぇ!ねぇ!こっちの細道とかいい感じじゃない?」

 

俺は元からある黒のフード付きマント、アイも俺と同じマントだ。

シノンもBoBで元から有名だった顔が更に広まったらしく、顔を隠すために鼠色のポンチョを装備。

レンは裾が地面に擦れてしまう程大きな焦げ茶色のローブを着ていてお化けみたいになっている。

そんな体から顔まで外からの視線を防いでいる4人。

初対面の筈の3人と1人。

今分かった。

そんな俺達が何故こんなにも自然に話せているのか。

フカ次郎だ。

奴が丁度いい具合に暴走してくれているお陰で意気投合しているのだ。

ありがとう!!!

俺は初めてフカ次郎に向けて心の中でだが感謝を述べた。

 

「ほらほら!カモ~ン!!」

 

でも、子供っぽいよな………

 

 




ハイペースで進んでおります!
SJ2編は恐らくこんくらいのハイペースになるかもしれません。
だって、高3になったら勉強しないといけないんだもん!!
皆様、ご了承ください!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

85話 会場入り

よっしゃ~!!
ラブライブの再放送決定だ!!
それもなんとNHK!!
これでラブライブも全国放送だ!!
アンチに勝った!!………のか?
まぁ、とにかく嬉しい!!


 

「イヤー、アイス1つでここまで腹壊すなんて~!」

 

フカ次郎は反省の意を微塵も表に出さずまま、なんちゃら~はママの味~と歌っている所の舌を出したキャラクターのように大きく舌を出していた。

それもサービスだと言わんばかりにウィンクとピースポーズまで加えている。

4月4日土曜日あと僅かで13時になりかけている今日この頃。

俺、アイ、シノン、レンは何故か神隠しのように忽然とGGOから消え去ったフカ次郎をフカ次郎が最後にログインした宿で待っていた。

本来ならば、SJ2が開かれる酒場に30分もの余裕を持って入る予定の筈だったのにだ。

しかし、フカ次郎はその30分をフルに潰してしまう失態を犯した。

全然戻ってくる気配がしないフカ次郎に恐怖したレンが送ったメッセージによれば"やっべー。アイス急いで食ってお腹ゴロゴーロ"らしい。

流石のレンも"はぁぁぁ!?"と大声を出したり"いいからはやくしろぉぉぉ!!"とメッセージを送ったりと慌てていた。

俺もあまりの衝撃に頭が完全にフリーズしてしまった。

アイとシノンも黙っていたから2人も結構なパンチをもらったのだろう。

まぁ、そんな訳で不幸にもSJ2が開催される酒場から割りと距離がある宿で俺達は立ち往生していたのだった。

 

「先輩のお脳みそおとろけになって、お鼻からおこぼれになっておいででは?」

 

俺は呆れながら大学生という先輩を見た。

ついでに後頭部へ軽くチョップも喰らわせたかったのだが、そこは反撃の可能性があるので自重する。

代わりにレンがフカ次郎の首元を掴んで激しく振っているから大丈夫だ。

いや、何が大丈夫なのかは分からないけど………

 

「もう時間がないよ~!!どうしてくれるのさ~!!」

 

「ハシレバマニアウサー!」

 

しかし、フカ次郎はレンの攻撃を受け続けていても意に介さず、余裕の表情で手を広げていた。

片言なのはヤバいと思っているのではなく首振りの影響だと信じたい。

もうレンが涙目だ。

そんな光景を見ているとアイがマントを引っ張ってきた。

 

「でもどうするのですか?正直ギリギリですよ?」

 

「そうね。バギーがあればいいのだけど。そもそもあれは運転が難しいから乗れる人なんてまずいない………」

 

「バギーなんてあるのか」

 

レンがフカ次郎を必死でお説教している中、俺達はこの状況打開策を考えた。

グロッケンは極端に細長い街だ。

それは枯れた地球を捨てて宇宙に逃げる道を選んだ人類の一部がやっぱり故郷が一番ってことで戻ってきた時の宇宙船の影響である。

GGOに初めて来たときは"中々味のある設定だな"とか呑気に思っていたが、その味のある設定のせいで今このような状況になってしまうことを当時の俺に知らせてやりたい。

 

「キリト様はバギー乗れますか?」

 

「小学校からの不登校者なめんなよ。バギーどころか自転車さえ乗りこなせるか怪しいレベルだ」

 

「自慢できないわよ」

 

俺が少しでも恥ずかしい事実をかっこよく聞こえさせようと自慢げに胸を張るとシノンのチョップが俺のこめかみ辺りに命中した。

だが、実際マジで怪しいのだ。

小学生真っ盛りの時………つまり俺が全盛期だったとも呼ぶべき時代なら木綿季と2人で自転車をブイブイ言わせていたのを覚えている。

それが事故で不登校となってからは友達の家や公園に遊びに行く機会が完全に無くなって自転車に乗らなくなってしまった。

あれから数年。

俺は一度も自転車に乗っていない。

17歳にもなって自転車が乗れないという危険性があるのだ。

 

「なら本当にどうするの?このままだとピトフーイってプレイヤーが男を道連れにして自殺する可能性があるのよね?」

 

「ああ、結構まずいな………」

 

現実でレンが話したという男の話が本当ならば今頃日本の何処かで自殺の準備を整えている場所があり、そこに男女2名がいるのだ。

冗談や手の込んだイタズラだったら良いのだが、レンやフカ次郎の反応や実際にピトフーイというプレイヤーが存在しているのを含めて考えるとその可能性が薄い。

一応現実で策を打ってはいるものの、このまま放っておくのが気持ち悪いことに変わりはない。

この面倒事のベストはレンにピトフーイを殺させて彼女達が結んだ()()を発動させること。

その為にもまず普通は考えもしないどうやって会場に行くかを考えなければならない。

 

「うーん………」

 

俺は顎に手を当てて唸る。

しかし、普通に急いだだけじゃ間に合わないかもしれない。

バギーも乗れなきゃ意味がないしテレポートのようなALOの魔法は残念ながらGGOには存在しない。

俺達5人を一気に移動させる手段………

俺はふとレンとフカ次郎のバトルを見た。

フカ次郎がアメリカンな笑い方をしながらレンの説教を受け流している。

端から見たらまるで小学生の姉妹喧嘩のようだ。

初見で何人が大学生の喧嘩だと誰が分かるのだろうか。

この小さい2人の喧嘩をぉぉぉお?

小さい………小さい子がアイを含めて3人………1人は俺と同じぐらい………

 

「うん、()()の走り方じゃなければいいんじゃん」

 

「「はい?」」

 

俺は人差し指を立てて無意識に言った。

俺の頭の上には電球が光っている。

しかし、アイとシノンの頭の上には雲がかかっているようだ。

2人して首を傾げている。

 

「よし、善は急げ。早速行こうぜ」

 

俺は長い髪を右手で振り払いながら宿を出ようとした。

 

「フカ~!!」

 

「ハハハハハ!!」

 

2人の戦いはまだ続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁぁ!!」

 

「ヒャッホーイ!!」

 

「ちょ、落としたら殺すわよ!」

 

3人が思い思いに今の状況に心の言葉をさらけ出す。

若干1名、フカ次郎は楽しそうにしているが、残りの2人は確実に恐怖と戦っているようだ。

それもその筈、こんな経験現実は勿論ゲーム内でも中々体験できないだろう。

なんせ、俺達はグロッケンに伸びる高速道路的なNPCが動かしている車や数少ないバギーを運転出来るプレイヤーが行き交う道を忍者のように移動しているからだ。

トラックの上や平べったい車のボンネット部分を足場にして車より速い移動を可能にしていた

しかし、ただのプレイヤーがこの方法を使うのは難しいだろう。

猛烈なスピードで走る車から車へのジャンプに飛距離が足りなかったり急な車線変更で踏み外してしまうかもしれないからだ。

ただし、コツを使えば話は別だ。

コツを使えば飛距離は十分稼げるし、急な車線変更で踏み外したとしても数歩ならギリで車と同等の速さで走れるからその間に車へ移動すればいい。

 

「ちょ、フカ次郎!首が絞まってる!!」

 

「おっと、すまんね!」

 

………………そうなのだ。

俺は今、2人の女性を運びながらこの移動手段をとっている。

まず、俺の首に巻き付いてマフラーのように全身を俺の背中で揺らしているフカ次郎。

小さい体のお陰で首が絞まる以外の障害はない。

そして、シノン。

以前は死銃から逃げる時にお姫様抱っこをしたが、今回も恐怖の中でお姫様抱っこをさせていただいている。

山猫シノンも流石に時速100キロを優に越えている車を飛び交うのは怖いらしい。

お姫様抱っこで顔が赤くなるどころか青ざめてしまっている。

 

「おわわ!!」

 

「しっかり握っていてください!!」

 

そんでアイとレン。

2人はお互い腕を組んで飛んでいる。

暗い色の全身を覆うローブとマント。

2匹の怪人チビ毛布はピョンピョンと安全第一で進んでいた。

まぁ、ここは仮想空間なので夜中の歩道で幼女が裸になるラッキースケベなど起きはしない。

ここにはアクロリータは存在しないのである。

 

「ちょっと、ぼやっとしないでよ!!ほら、あそこの酒場よ!!」

 

「あれかっ!!」

 

何か武器でも運んでそうな黒光りする鉄のトラックの上でシノンが叫んだ。

シノンの視線の先には大勢の人だかりが出来た大きな酒場があった。

俺はその酒場を視界に入れた瞬間に全力フルパワーで飛んだ。

鉄のトラックがいい踏み台となってくれて酒場まで綺麗な放物線を描けた。

時速100キロを越える車の上では視界に入った瞬間に飛ばないとすぐに通り過ぎてしまう。

多少強引でも飛ばなければならない。

それはアイも分かっているようで後ろからフカ次郎の楽しむ笑い声に混じってレンの可愛い叫び声が聞こえてくる。

 

「どらぁ!!」

 

酒場の入り口が迫ってくる。

俺は着地の勢い殺しを前に向けてやり時間短縮を試みた。

結果から言えば成功した。

だが、代わりに人間大砲のような形で俺達は酒場に突っ込んだ。

何としてもシノンにダメージがいかないように両手を上げるが、代償として顔を木の床に数メートルも擦り付けることになってしまう。

ここが現実だったらこの酒場には赤いペンキで塗られたような跡が残っているに違いない。

 

「BoB優勝者だ!!」

 

「おい!冥界の女神だぞ!!」

 

「まじか………!!………ならあの下のは死神!?」

 

俺の顔が擬似的な痛みのようなものを受けている中、俺は初めてGGOで自らがどう呼ばれているかを知った。

死神………卍解とか覚えた方がいいのかな?今、総隊長さんが頑張ってるけど。

だったら、あれがいいな。

解き明かせ!エリュシデータ!!

闇を祓え!ダークリパルサー!!

 

「死神ってカッコいいじゃん!!」

 

「早くどいて下さい………」

 

 




最近、ユウキの出番がない………
だ、大丈夫ですよ!!
今は無くてもこの小説の最後はイチャラブですから!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

86話 天才の戦略

今回のごちうさでシャロが携帯使っていたじゃないですか。
その携帯がなんと自分の妹と全く同じ機種と色だったんです!!
つまり、シャロは自分の妹になり今回の話からチノも自分の妹となって、その姉になったココア、リゼ、千夜も自分の妹となる訳です!!
なんと、メイン全員が自分の妹に!!
ついでにココアの妹のチヤ、メグも妹!!
モカは姉!!

………………違うか。
うん、違いますね。


 

俺は顔をテーブルの上に置いていた。

おでこから伝わる擬似的な木材独特のひんやりさが多少でも頭を冷やしてくれる。

俺は頬にもこのテーブルの冷たさを味わわせようと顔を横にした。

うむ、なかなかの心地よさでこのまま顔を上げたくない。

 

「ちょっと、だらしないわね」

 

「そうだそうだ!胸を張っていこう!!」

 

「………………張る胸無い癖に」

 

俺は覆い被さるフードの中でフカ次郎に毒を吐いてやる。

この声が届いたかは分からないが、フカ次郎からの返事が無いので聞こえなかったのだろう。

今、俺達はSJ2が開催される酒場のテーブル。

1つの丸みを帯びたテーブルを囲うようにしてできた所々に傷のある茶色のソファー。

そこに左からレン、フカ次郎、アイ、俺、シノンの順番になって座っている。

フカ次郎以外皆黒や焦げ茶色などと姿をできるだけ隠すような格好をしているので、見方を変えればちょっと怪しい宗教団体に見えなくもない。

 

「………誰か来ましたよ」

 

隣のアイがそういって俺の足を軽くつつく。

俺はそれに合わせてフードから片目だけ出せるぐらいの隙間を身をよじって作る。

 

「や!レンちゃん!!」

 

フードの隙間から見えたのは何か凄いボディーの女性だった。

ありとあらゆる脂肪が一切無く、筋肉だけのスレンダーボディーはまるでサイボーグのよう。

全身ピッチリとした黒のスーツはどこぞの星人と戦う物語に出てきたバトルスーツに似ている。

お陰で僅かに分かる女性特有の膨らみで街を歩けば通り過ぎる男性のほとんどが鼻下を伸ばして振り返ることだろう。

しかし、いくら俺が貧乳好きだとしてもこの女性にはドキッとはしない。

豹や狼のような野性的な雰囲気を際限なく絶えず流しているからだ。

片目だけでもこいつがヤバい奴だということは一瞬で理解してしまう。

 

「前回優勝者おめでとう!!」

 

「ありがと!」

 

サイボーグ女は俺やフカ次郎などの他プレイヤーを無視してレンだけに話をする。

レンも笑顔で答えて2人だけの独立した空間を作り出していた。

彼女達の笑顔に一体何が込められているのだろか。

アハハ、ウフフの綺麗かつ恐ろしい笑顔合戦が行われている。

俺はその光景を見てサイボーグ女が例のピトフーイだと想像がついた。

 

『待機エリア転送30秒前です。出場者は準備をお願いします』

 

その時、酒場に機械的な女性のアナウンスが流れた。

ついに、戦いが始まる。

俺はテンションが自然に上がってしまい、がばっと起き上がった。

その勢いでフードまで後ろに取れてしまう。

 

「やっとやる気になりましたか?」

 

「まぁ、一応」

 

俺はそう答えながら首を回す。

仮想空間なのに何故かコキコキといった現実と変わらない感覚が首筋に走る。

シノンもシノンでエンジンが掛かってきたのか目付きが山猫へと変貌していた。

逆にフカ次郎は"早く飲まないと!"とテーブルに置いてあるレモネードをせっせと飲んでいる。

全く緊張感を感じさせないある意味羨ましい態度だ。

このように俺達が一斉に態度を変えたからだろうか?

ピトフーイと思われるサイボーグ女が初めて俺達4人に視線を向けてきた。

まるで品定めをするようにねっとりとした視線が俺達を襲う。

 

「へぇ~、良い友達持ってるじゃん」

 

「それはどうも」

 

なめるような視線を俺達から外し再度レンに向き直る。

サイボーグ女の目には悪意は無く純粋な好奇心が浮かんでいた。

残り数秒で30秒になる。

 

「ピトさん」

 

「………何?」

 

「私が殺すんで、()()忘れないで下さいよ」

 

「あは!!」

 

レンの宣言にピトフーイは悪魔のような恐ろしく無邪気で気味が悪い笑みを浮かべた。

殺れるもんなら殺ってみろと言わんばかりの笑みだ。

俺はその笑みを見て思った。

確かに………こいつはSAOだとレッド側だ。

SAOでは稀にいる命のやり取りを全力で楽しむ頭の糸が切れてるイカれた奴。

この時、俺の頭の中から冗談という僅かに残っていた可能性を完全に排除する。

マジでこいつは死ぬつもりだ。

 

「キリト様」

 

「キリト」

 

アイとシノンも同時に俺と同じことを感じたのか、より一層瞳が鋭くなる。

 

「女の子5人でも私の所まで来れるなら相手してあげるわ」

 

ピトフーイは余裕のある言葉を残して去っていく。

彼女は自分が上だと思っているそこを突けば勝機は十分にある。

保険を使わなくても済む。

ただ、それよりも大事なことがあるのだ。

その事でアイとシノン、フカ次郎は勿論のことあのレンまでもが声を殺して笑いを堪えている。

さっきの殺伐とした雰囲気をピトフーイが持っていってしまった。

雰囲気を作り、雰囲気を壊していく。

なんと恐ろしいプレイヤーだろうかピトフーイ。

 

「俺………男なんだけどな」

 

4人の盛大な大爆笑を酒場に響かせながら俺は待機エリアへと転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い空間で10分間の殺戮準備が整うと俺達はすぐにSJ2のフィールドへと移った。

青白い光エフェクトが消えて一瞬の浮遊間もそれで終わる。

俺が立っていたのはコンクリート。

ざらざらと荒い面をしたコンクリート道の上だった。

 

「街か」

 

「みたいだね」

 

周りを見ると2メートル程の間隔を置きながらレン、フカ次郎、アイ、シノンの皆が揃っていた。

ルール上敵チームとはは1キロメートル以上離れているから初っぱなからドンパチする必要はない。

だが、一部の狙撃銃や対物ライフは射程1キロなど余裕。

もし、相手が見晴らしのよい場所に運良く転移したらここですぐに撃たれてしまう可能性がある。

リーダーのレンもそれは分かってるのだろう。

先ほどから小さい身長でも頑張ってジャンプしたりして辺りを見渡している。

 

「平気よ。少なくとも狙撃主が居そうな場所は無い」

 

そう冷静に伝えるのはGGO最強のスナイパー。

レンは"おぉ………"と拍手を贈っている。

俺も少し驚いたがよく考えればスナイパーであるシノンなら何処がスナイピングに最適か瞬時に見定めることが出来てもおかしくない。

 

「皆ー!これ見てよ!」

 

すると、何処からかフカ次郎の声が聞こえてきた。

なんとフカ次郎は忍者のように姿を眩ましてその編を詮索しにいっていたらしい。

俺達はフカ次郎の声が聞こえる方に歩いていった。

 

「壁」

 

アイがポツリと声を漏らす。

アイの言う通りそこには50メートル以上もあるどんな巨人も通さなそうなガッチリとした壁がそびえ建っていた。

最初に居たところからは丁度真逆で気づかなかったのだ。

まさに不動。

何事にでも崩れない壊れない倒れない。

冷たく、そして力強く存在している。

それも1つの壁が直角に曲がっている不思議な形で。

 

「ああ、ここフィールドの端っこなのか」

 

俺は首が痛くなりそうな程の壁を見上げながら言った。

そして、ほぼ同時にレンが胸ポケットから端末を取り出してフィールドマップを開く。

レンの端末を中心にしてSJ2の広いフィールドマップが展開される。

マップが開ききると俺達がいる場所が左上、つまり一番北西にあることが分かった。

 

「難しい場所ですね」

 

「まぁ、取り敢えず後ろの警戒は必要ないわね」

 

マップには色々な地形があった。

俺達がいる長いゴーストタウンに岩山、雪山、草原、ドーム状の建物。

あらゆる場面を楽しむ為なのかBoBを目指そうとしているのか、どっちにしろ使えそうな地形が揃っていた。

 

「じゃ、一先ず家に隠れてスキャンを待つよ」

 

「「「「了解」」」」

 

リーダーレンの一言に俺達は声を揃えて返す。

それが何だかおかしくて自然と笑みが溢れる。

俺はこの雰囲気に便乗してある提案をすることにした。

 

「レン、ちょっとした作戦があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、スキャンすらまだの時間。

とあるチームが今家と家の間に細長い半透明の糸を繋げていた。

これに引っ掛かった奴を下に埋めてある爆弾で殺す為の罠を作っている最中だ。

どうやら最初のスキャンで自分のチームに目をつけたチームを狩ろうとする算段らしい。

 

「敵はいるか?」

 

「問題ない」

 

銃を構えた見張り役の男に罠を張る役の男が声をかける。

規律正しいその姿は素人目からすると抜群のチームワークに見えた。

数人の見張りという厳重な守備と数人で迅速に罠を張る。

これも普通のプレイヤーが見ればかなりのチームワークに見えるだろう。

武装も《M16A3》アサルトライフルが4人、拳銃弾のサブマシンガン《UZI》が1人、《イサカ M37》ショットガンが1人。

中距離型の武装もバランスがいいと言っても良い。

この6人の男達は上位までいくだろう。

酒場の観客に加えて自分達でさえもそう思っていた。

 

ドンッ

 

「へ?」

 

しかし、その抜群のチームワークも戦略も武装も天才には敵わないのである。

全てが彼の想像通り。

まず、たった1発の銃弾が罠を張る場所の中心に撃ち込まれる。

当然、地面の下にあった爆弾がその衝撃に耐えかねて爆発してしまう。

これで2人死んで残り4人。

爆発音を聞いた残りの4人が罠を張っていた仲間の方を見たのは当たり前の行動。

それもチームワークが良いチームなら尚更だ。

だが、それが仇となる。

一斉に振り返ってしまった瞬間、彼らはうなじ辺りに嫌な違和感を感じながら崩れ落ちることになる。

これで6人。

全ては一瞬の出来事であった。

 

「先ずは、1チーム」

 

リーダーらしき小さなウサギのような少女に不敵な笑みを見せる少女のようなアバターを持った少年。

この少年こそが敵チームを殲滅させた作戦を考え付いた人物。

かの天才、茅場昌彦が唯一認めたもう1人の天才。

桐ヶ谷和人、"キリト"である。

 




流石、キリト君!!
やはり天才!!

緊急報告!
近々、定期テストを迎えるため、勉強しなければなりません………
ですので、次回の更新が遅れてしまいます。
まぁ、いつものことですので皆様、どうかご了承下さい。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

87話 私が殺る!!

子供は風の子とよく言います。
ですが、これに"大人は火の子"という続きがあるのを初めて知りました。
子供は風の子大人は火の子
子供は寒くても大丈夫だけど、大人は寒いのが駄目で暖かい場所で過ごす、という意味らしいです。



 

 

親友からの連絡をパソコンのメールで受け取った私はその内容を読んで石像の如く固まってしまいました。

その内容とは、

"ALOから助っ人呼んどいたぜ!!ありがたく思いな!"

でした。

 

「はいっ?!」

 

親友からのメール内容が頭に届くまで数秒も要してしまいました。

パソコンの画面に顔が当たりそうになるぐらい近づいて目を開きます。

しかし、何度目を擦っても何度見直しても残念ながらパソコンに表示される文字は一語足りとも変わることはありませんでした。

 

「あのゲーマー!!」

 

私は高校からの親友、そして私をゲームの世界へと導いてくれたゲーム歴でいえば先輩であり師匠。

篠原美優に向けて届かないと分かっていながらも怒りを籠めて叫びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は灰色のポンチョを被った愛しのチビキャラであるレンとなってGGOにいました。

現実での高身長をコンプレックスとして何がなんでもチビになろうと思ったのがVRゲームを始めた切っ掛け。

ALOでそこそこ有名らしい美優ことフカ次郎に大雑把なレクチャーを受けてから巡り巡ってGGO。

今ではこのチビキャラを我が子のように溺愛しています。

 

「本当に来てくれるの?」

 

「心配しなくても来てくれるさ。………多分」

 

「多分!?」

 

巨大なドーム状の建物の前、私とフカは並んでとある3人組を待っていました。

3人組とはフカが頼んだ助っ人の皆さんのことです。

フカがいうにはその3人組の内1人はALO最強のプレイヤーとのこと。

ALOはVRゲームでも特出して人気のあるファンタジーかつスリリングなゲーム。

その世界の頂点ともなればある程度の強さは保証されるでしょう。

しかし、GGOはファンタジーとかけ離れたSF世界。

"少し不思議だなぁ"のSFではなくサイエンス・フィクションのSFです。

ALO最強でもGGOでは初心者。

何処まで通用するか不安です。

それにフカは私が話したピトさんのことも話したと言ってました。

来てくれたとしても後日それを種によからぬことの頼みをしてきたりするかもしれません。

フカは信頼しているようですが、私の頭は申し訳ないですが気掛かりなことでいっぱいです。

 

「ほら!!」

 

疑心暗鬼に陥っている私の前に光の粒子が現れます。

青白い光の粒子は空中を縦横無尽に駆け回ると3つの人形を作り出していきました。

そして、光の粒子が完璧に人形を保つと青白い色は抜けていきプレイヤー本来の色が浮き出てきます。

 

「わぁ………」

 

私は無意識の内に感嘆の声を漏らしていました。

私とフカの前に現れたのが街中を歩けば10人中10人が振り返りそうなぐらい美しい少女達だったからです。

さらに言えば、彼女達を知らないと"GGO本当にプレーしてるの?"と愚弄されてしまうかもしれません。

それ程の有名人だったのです。

黒髪のロング、銀髪のロング、水色のショート。

間違いありません。

第3回BoB優勝者、"死神"、"灰色狼"、"冥界の女神"の異名を持つGGO最強のプレイヤーです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BoB………SJなどとは比べ物にならない運営側が開催するGGOの頂点を決める大会。

腕自慢、好奇心、暇潰し、出場者は皆それぞれの目的を持っています。

しかし、そのような目的を持っているほとんどのプレイヤーはBoB本選まで辿り着けず予選落ちとなることが至極当然となっています。

何故ならプロがいるからです。

プロと言うゲームを稼ぎ口としているプレイヤーが強すぎて通常プレイヤーの行く手を阻むことになってしまっているのです。

それ故、BoB優勝者は曲者揃いのプロの中を勝ち抜いた廃人ゲーマー。

………と言うのが、私のイメージでした。

それが今、隣に立っている少女のような男の子………俗に言う男の娘が塗り替えてくれました。

 

「あ、あの?」

 

「ああ、ごめんなさい!」

 

知らず知らずに彼、キリト君の顔をガン見してしまっていました。

私は慌てて両手を前で振って謝ります。

キリト君は不思議そうに首を傾けていました。

端から見たら飄々としているように感じますが、キリト君の左手は常に私と反対側の隣にいるアイちゃんの右手をしっかり握っています。

シノンさん曰く"人見知りの照れ隠し"だそうです。

つまり、初対面の私に緊張しているようです。

フカのミスによって現実が分かっているので年齢だけは知っている私達。

キリト君、アイちゃん、シノンさん。

皆、私より年下だからでしょうか?

年上の私に何処か一定の距離を感じます。

まぁ、良く言えば礼儀正しいのですがこれからは共に戦う仲間。

信頼関係が大切なのは前回のエムさんのことで嫌な程身に染みています。

どうにかして、距離を縮めないといけません。

 

「登録完了!!」

 

私が唸っているとフカが元気よく大声を出してきました。

その声に私達がいるのがSJ2参加登録の為の酒場だったことを思い出します。

SJ2当日はここからフィールドに転移することにもなっています。

そんな酒場を迷彩柄のポンチョを被ったフカが走って酒場の入り口横にいた私達の所へと走ってきました。

 

「チーム名もバッチリだよ!!」

 

「へぇー、どんなの?」

 

私は自信満々に親指を立てているフカに訊きました。

すると、フカはあまり無い胸を張って答えます。

 

「フカ次郎のF!レンのL!アイのA!シノンのS!キリトのK!その名は………」

 

フカはこれでもかと深く長い溜めを置いてから言いました。

 

「チームFLASK(フラスコ)!!」

 

「バカ~!!」

 

私は自慢気にどや顔を決めているフカの首元を鷲掴みにして前後左右に揺らしました。

これでもかとこれでもかと全力で振り回し続けました。

けれども、フカは何故怒られているのか分かっていないようで反論してきます。

 

「何でさ!?皆の頭文字を先頭にしてるし良いじゃん!」

 

「だからって、何で理科の実験で使う物なの!?」

 

ここから私達の取っ組み合いが始まりました。

キリト君達の前で親友の失態。

心の距離が更に開いてしまうかもしれません。

 

「………仲良いな」

 

「流石、親友です」

 

「私とキリトは絶対しないだろうけどね」

 

3人の生暖かい眼差しが私の背中に届きます。

どうやら、心の距離を縮めることと引き換えに年上の威厳が失われたようです。

この恥ずかしさを絡めて私はフカに取っ組み合いました。

勿論、勝ちました。

SJ2もこれくらい楽なら良いなと思った今日この頃です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SJ2開始直後、キリト君がとある提案を私達にしてきました。

それは私達が最初に転移したゴーストタウンにいる他のチームへの奇襲です。

地図によればこのゴーストタウンは1辺数キロに及ぶ正方形のフィールド全体の4分の1を占める大都市。

ここに私達だけが転移するとは思えないということらしいです。

そして、少し頭を使うチームがいるならこの古びた建物を使って罠を仕掛ける可能性が高いとキリト君は予測したみたいです。

私はキリト君の不敵な笑みに魅せられてしまいその提案に乗っかることにしました。

 

「幸いここはゴーストタウンの端。一直線に進んでいけば何処かしらのチームと当たると思います」

 

そう言ってキリト君はダボッとしたマントの内側から手のひらサイズの黒い機械を私達の人数分取り出しました。

インカムです。

キリト君は小型化されたインカムを私達に配りました。

これこそSF映画などで見掛ける仲間と連携するためのメジャーアイテムです。

小さい頃から少し憧れてもいた機器なので口がにんまりとしてしまいます。

おっといけない。

いくら女性のスパイに憧れを持っていようともここでは真面目な顔をしないといけません。

私は緩む口を引き締め直してインカムを耳に装着しました。

 

「俺達は今から一旦散らばって敵の捜索をする。全体に見つからないように慎重に。そんで、誰かが敵を見つけたらインカムで場所を伝える。後は隙を見て討つだけ」

 

キリト君は今一度不敵な笑みを浮かべます。

本来なら1回目のスキャンを待つべきで恐らくSJ2参加チームのほとんどがそうするでしょう。

転移した地形によってキリト君が予測した通り罠を仕掛けるチームも存在する可能性は大いにあります。

しかし、キリト君はそんな常識に囚われていません。

先手必勝。

常識など関係無く見向きもしないで勝つ為に策を講じる。

まさに策士です。

この頭の回転力を使ってBoB史上初の弾丸を1発も撃たずに優勝という伝説を残したのでしょう。

味方でいてくれることが本当に良かったです。

ついでにフカにも感謝です。

 

「それじゃ、作戦開始だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦は見事なまでに成功しました。

私が忍者のように壁に背中を押し付けては走りまた壁に背中を押し付けては走りを繰り返していた時に偶然敵の談笑を拾ったのでインカムで皆に報告します。

報告を受けたシノンさんが高台に登って私の伝えた場所を観察して敵の人数と位置を把握。

その情報を元にキリト君が私達の配置場所を決めて作戦実行です。

まず、シノンさんの狙撃銃、あの財力で無数の銃を所持しているピトさんでさえ持っていない対物ライフルの一丁"ウルティマラティオ・ヘカートII"の弾丸によって敵が仕掛けていた爆弾トラップを誘発さて、その爆発で敵が怯み意識を爆煙に集中したところで間髪入れずに後ろからナイフで襲う。

 

「まずは、1チーム」

 

キリト君が無邪気な笑顔を向けてきました。

まるでイタズラに成功した子供のようです。

ですが、この完璧なる殲滅作戦を考えたのは無邪気な笑顔を浮かべているキリト君なのです。

感心を通り越して僅かな畏怖すら覚えます。

そして、同時に不思議と胸の奥に対抗心が浮かんでくるのです。

全く違う感情が心の中で入り乱れています。

 

「レン様、スキャンが始まる時間ですよ?」

 

「あ、本当だ」

 

爆発で小さなクレーターが出来た家と家の間にシノンさんを除いた皆が集まります。

その時に人を呼ぶ際様を付けるちょっと不思議な子のアイちゃんがスキャンの時間を教えてくれました。

私は急いで端末を取り出してマップを広げます。

すると、端末から放射される青い光がマップを浮かび上がらせて皆が見れるようになります。

直後、マップの上からマップを横断する電波の波が現れました。

その波はフィールド全体を数秒で通り過ぎていき、跡にはSJ2参加チームの居場所を伝える黄色い光が残っています。

 

「ああ………!!」

 

「………ピト様のチームは真逆ですね」

 

私達がいるのは左上辺り。

対してピトさんがいるのは左下の岩山でした。

私は端末を落として膝を折ります。

アイちゃんの冷静な判断が現実を突きつけられているようで痛いです。

 

「ま、取り敢えずはこの駅に向かってる敵を討つか」

 

「立て籠りなんて卑怯ものめ!!シノンさん殺っちゃって下せぇ!!」

 

『生憎ここからじゃ射程外よ』

 

私は立ち上がりました。

 

「私が殺る!!」

 

 




さて、テストも終わって更新スタートです!!
皆さんお待たせしました!!
次回レンちゃん無双ですよ!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

88話 駅の攻防

食戟のソーマが二期決定!!
次はどんなゲテモノ料理がでるのかな?


 

「本当に良いんですか?」

 

俺は神妙な顔付きで目の前の少女に訊いた。

少女は顔を赤らめながら、しかし断固たる意志をその瞳に宿しながら頷く。

 

「せ、責任はとれないですよ?」

 

手の平に嫌な汗が滲み出る。

俺は震える声音で再度尋ねた。

 

「大丈夫。私が好きですることだから、キリト君はただ出してくれればいいよ」

 

少女の幾分の迷いを含ませない答えに心臓が一段と強く脈打つ。

同時に自然と俺の呼吸が乱れてしまう。

俺と少女の間に重苦しい空気が立ち込める。

俺は一歩だけ目の前に立つピンクの兎のような少女に近寄った。

 

「的確にお願いね」

 

「………頑張ります」

 

俺は心に渦巻く迷いを"ここでやらなきゃ男じゃない!"という雑な理由で否応なく問答無用に払い除けた。

そして俺は更に少女へと近付く。

 

「多少の誤差は容認してくださいね」

 

「近ければ問題ない!!」

 

少女に巻き付けられたロープ。

その先端部分を握り締めて、俺は今にも崩れ落ちそうな黄色いレンガ造りの住宅街の先にある駅を見据えるのだった。

………いや、なんだよこれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハッ!!やっぱその格好、プレイにしか見えない!」

 

ケラケラと茶化すような迷惑極まりない笑い声。

俺とレンの隣でフカ次郎が《MGL-140》という連発式グレネード・ランチャーを寝っ転がりながら天へと向けている。

1秒間に2発、全6発のグレネードをたった3秒でぶちまけることを可能にする凶悪なGGOでもトップクラスのモンスター武器を愛銃としているフカ次郎。

そんな単体でも十分強力な《MGL-140》を2丁も携えているので素人の筈なのに素人感が一切出ていない。

今回は右手をトリガーに当てているので使うのは"右太"君の方の《MGL-140》らしい。

"左子"さんの出番はまだ先らしい。

右太には悪いが暴発して死ねば良いのに………

 

『FとかNって言うんですよね』

 

「いや、違うだろ」

 

今度はインカムから少々間違って解釈をしてしまっているアイの声が届いた。

そういう行為でもないし文字も間違っていて反射的に突っ込んでしまう。

別にSMマニアを否定するつもりは無いけどアイにはそうなってはほしくない。

意識せず素の状態がちょっぴりS、これが最高なのだ。

 

『キリトにそっちの趣味があるなら絶対やられる側ね』

 

「だから無いって!!」

 

俺は息を殺しながらも叫んだ。

確かに俺は他所から見ると幼女をロープで縛り付けている変態にしか見えないだろう。

だが、これはれっきとした作戦なのだ。

レンが鬱憤晴らしの為に考えた作戦なのです。

 

「それじゃ、フカ。最初の1発よろしく」

 

「ほいさっさ!」

 

フカ次郎は早速、《MGL-140》をここからでは住宅が邪魔で見えない駅の方角に照準を合わせた。

グレネード・ランチャーの極端に放物線を描く軌道を利用した奇襲である。

駅に潜み立て籠っている敵集団からはこちらの位置は少なくとも最初は絶対に分からない為、バレットラインナッシングの初撃を与えることができるのだ。

今頃、シノンとシノンの護衛役のアイが遥か遠くで駅内の何処に敵がいるかを正確に探っているだろう。

"シノンの狙撃で終わらせれないのか?"と尋ねたところ"1人か2人は確実に仕留められるわ。けど、残りは隠れたり逃げたりして仕留めそこなう可能性がある"らしい。

その点、グレネード・ランチャーでは半径5メートルという圧倒的な致死エリアが存在するに加えて上空からの攻撃。

点ではなく面での攻撃はさぞかし避けずらいだろう。

運がよければ1撃で終わりという可能性もある。

 

『フカ次郎。敵は駅中央の線路の上に要るわ。人数は6人』

 

『明らかに誘い受けの構えです。普通の襲撃なら私達でも酷しい戦いになってたでしょうね。2つしかない入り口に向けて銃口を向けてピクリともしません。絶対的有利な場所だと理解しています』

 

インカムから正確無比の情報が流れてきた。

巨大なSJ2のフィールド4分の1を占める大廃都市を縦に横切る線路。

その中心にある駅は一見狙われやすそうだが、それは間違いだ。

周りを頑丈そうな鉄格子とコンクリートで守られていて列車が通る線路の横にもコンクリートの塀があり迂闊に乗り越えたらすぐに気付かれてしまいそうだ。

まさに鉄壁、そんな引きこもりな敵を1人か2人は確実に殺れるとシノンが断言できたのは、最高の技術と最強の武器の賜物である。

攻めいるには最早空からの襲撃しか他ならない。

………………なら、空から襲撃すればいいじゃない。

 

「では、このフカ次郎。僭越ながら1発デカイの撃たせていただきます」

 

フカ次郎は目を細めて空中に敬礼すると駅目掛けてグレネードを投下した。

ぽこんっ!!と不細工銃には不釣り合いな可愛らしい音が鳴り響く。

それと同時に俺はお腹をロープで結ばれたレンを紐を使った投石のような要領で全力で投げた。

ハンマー投げのように2周ほどレンを振り回し、両手で掴んだロープをこの身に引き寄せながら遠心力をフルに活かした方法で駅の方角へとレンを飛ばす。

こんな事が出来るのはチーム1のチビアバターであるレンと筋力型でコツを使える俺だからだ。

 

「おまえらぜんいんぶっころす!!」

 

不吉過ぎる呪言のような恐ろしい叫びを残してレンは飛び出していった。

次の瞬間、大きな爆発音が巨大ゴーストタウンの地面を電撃のように迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカーン!!と耳鳴りがする程大きな爆発音が前方で発生しました。

駅からはもくもくと灰色の煙が立ち上っています。

私はその爆発地から左前に逸れた駅の屋根の上に滑り込みました。

キリト君に我が儘を言って無理矢理投げてもらったお陰で体験できた僅かな時間の空中散歩。

まず、人の手の筈なのに着地地点の誤差が数メートルしか無いのに驚きました。

もしかしたら、煙の中に突っ込ませないようわざとずらしたのかもしれません。

私は素早く体に巻いたロープをコンバットナイフで断ち切ると愛銃である《FN P90》を抜いて右下で慌てふためくプレイヤーの1人に照準を向けました。

 

「いけ、ピーちゃん!」

 

1分間に900発の素晴らしい連射力を持つ可愛い可愛いピーちゃん。

私はピーちゃんを引き金を引き絞り眼下のプレイヤーに無慈悲の弾丸の雨を注ぎます。

 

「アガガガガ!?」

 

下はジーンズで上はジャージの戦闘する意気込みを感じさせない現実でも何処かにいそうな服装のプレイヤーはピーちゃんの弾を受けて立ったまま痙攣し、その後呆気なく倒れ込んで周りのプレイヤーにこの者の死を知らせるDeadのマークが浮かびます。

彼が最後まで大事に持っていた武器………それは光学銃でした。

エネルギーパックを源として火の玉のような青白いエネルギー弾を発射する光学銃ですが、対人戦闘だと対光弾防御フィールドを展開されてしまい威力は著しく低下してしまいます。

何故そのような武器を選んだのかは今となっては不明ですが、元々私には関係ありません。

私は屋根から飛び降りて次の敵を倒しにかかります。

 

「はっ!!」

 

駅の線路に着地した瞬間に私は運良くこれまた光学銃を持った男性プレイヤーにピーちゃんを向けました。

どうやら、いきなり痙攣して死亡した味方に呆然としているのでしょう。

私は振り向かれる前にプレイヤーの顔面に照準を合わせて発砲します。

ババババ!!と10と数発の弾丸が男の顔を穿ちました。

男の顔はダメージエフェクトで真っ赤になり元の顔が全く分かりません。

 

「お前か!!」

 

すると、ホームに上っていた迷彩服の男が光学銃を私に向けて発砲してきました。

しかし、GGOの戦闘セオリー通り対光弾防御フィールドを着けているので光学銃の光弾は私に触れる前に透明なバリアと激突し、大分小さくなっていました。

それでもダメージは少ないといえど喰らいます。

私は小さくなった光弾を前方へのダッシュで避けると飛び上がって男の正面にやって来ます。

 

「やぁ!!」

 

ジャンプ中でも気合いを入れてピーちゃんを噴かせます。

引き金に指を掛けてバレットサークルを男の胸に合わせてから躊躇なく指に力を込めました。

光学銃ではなく実弾銃だったら可能性が残っていたものを、3人目の男は胸の中心に無数の赤い点を煌めかせて死んでいきました。

次に私はフカの放ったグレネードでできた煙の中に自ら飛び込みます。

ここから敵の声を嗅ぎ付けて襲撃するつもりでした。

しかし、煙の中には予想外の先客がいました。

 

「死体?」

 

恐らくフカの一撃でやられたプレイヤーでしょう。

その証拠に左腕と左脚が根こそぎありません。

私は迷わずこの死体を使うことにしました。

 

「ほい!!」

 

左手で死体の襟を掴んで私が煙に入ってきた方向と逆の方に死体を転がしました。

すると、左右からほぼ同時に光弾が打ち込まれたのを確認できました。

私は勢いよく煙から飛び出して、まず、右側の敵の額にピーちゃんを押し付けます。

本来なら1発でも即死する額ですが細かいコントロールなど今は出来ないので数発撃ち込んでやりました。

そしてすぐさまその場を離れます。

シーサーに似てなくもないエイリアンのように体を丸めて転がりながら離れていき、逆方向から飛んでくる光弾を避けていきます。

 

「糞が!!」

 

光学銃を使うダンディーなグラサンプレイヤーは無鉄砲に光学銃を乱射してきます。

ですが、そんな攻撃が当たる筈もなく転がる私にかすりもしません。

私は足が地面に着いた時に彼に向かって飛びました。

ロケット頭突きです。

この際、多少のダメージは無視して一直線に突っ込みます。

グラサン男は転がりから急に突進してきた私に驚いて持っていた光学銃を盾にしました。

 

「はい!!」

 

「痛で!?」

 

私は彼が盾にした光学銃を膝蹴りして彼の体勢を崩しました。

その隙に回り込んで後頭部に銃口を当てます。

男からしたら突進してきた私が消えて居なくなっていたという不思議な感覚に襲われている筈です。

現に辺りを見渡しているのが良い証拠です。

 

「バイバイ」

 

私は親切にさよならを言ってから引き金を引いてあげました。

身長差のせいで上向きに発射された銃弾は男の頭を貫通して空へと消えていきます。

男は膝を折って崩れ落ちてしまいました。

1分もしない間の攻防戦。

皆のサポートもあってほとんどダメージを受けずに済みました。

 

「任務完了!!」

 

私はインカムに笑顔でそう伝えます。

ピトさん達と私達の位置関係が変わった訳ではないのに、スッキリした気分になりました。

 

 




どうでしょうか?
ちゃんとレンちゃん無双してますかね?

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

89話 ジャングル

ごめんなさい!!
下町ロケット見てたら投稿忘れてました!!
約2時間で仕上げたので誤字脱字やおかしな表現があるかもしれませんので許してください!!



技術は嘘をつかない!!


 

現在の時刻は13時40分。

SJ2が開始されてから40分が経とうとしていた。

既に40分か、まだ40分か、どちらの感覚でいるかは人それぞれだろう。

因みに俺達は既に40分が経っているのかと感じていた。

巨大ゴーストタウンを抜けてピトフーイ所属しているPM4を目指して一直線。

これまで2チームと戦って………というか一方的に奇襲をかけていきたが、あれ以来運良くどこのチームとも接触していない。

お陰で色々と装備も整理できたし数々の戦闘時の対処法も確認できた。

しかし、どんなに準備をしても戦略を考えようとも標的と対峙しなければ意味がない。

ここで俺達は難題に直面していたのである。

 

「ドームが邪魔ね」

 

「左右にも強敵が揃っています」

 

俺達"FLASK"はフィールドの中央に設置されている白いドームの外壁にいた。

レンのスマホのような端末機を中心に置いて半円を描きながらしゃがんでいる。

端末機からは青い光で表されているこのSJ2のフィールドマップと何処にどのチームがいるかが分かる黄色い光が浮き上がっている。

俺達が居るのは北西側の外壁、対して俺達のリーダーレンが殺さなきゃならない対象のプレイヤーピトフーイのチーム"PM4"がいるのは南東の岩山。

中央のドームまで来たとはいえ見事なまでの真逆なのだ。

更に不運が降り注ぎ、岩山のふもとには7つの光が重なりあっていて、どう見ても考えても"結託してPM4を倒そう!"感を漂わせている。

即急に駆け付けて殺される前に殺さなければならない。

だが、直径約2キロのドームが行く手を阻む。

 

「妖精の皆さん。今からでも羽根は生えませんか?」

 

「無理だぜベイビ。私達は妖精であることを止めたのさ」

 

レンの悲痛な願いにフカ次郎は痛々しいギャル男のような口振りで返した。

是非とも達を付けないで頂きたいのだが、前にかかった金髪を後ろに払っているフカ次郎の耳には届かないだろう。

それと、リアルの容姿が不明でもフカ次郎のGGOアバターだと小悪魔的な風貌で割りとその仕草が似合っているのが腹立たしい。

 

「ドームを登って上を通るのも手なんだけど。流石に届くかわからないな」

 

「キリト君でも駄目か………」

 

レンがあからさまに顔を落とす。

このドームの高さは数百メートル。

いくらコツを使えるとしても数百メートルも跳べる訳がない。

壁キックをしても一切の継ぎ目も外装もない直径2キロのボールを地面に埋め込んだような構造では引っ掛かりがなくつるんと滑って落ちるのが落ちだ。

俺やアイが登ることが出来てもロープの長さが足りなくて他の皆は登れない。

結局、ドームを突っ切るか、ドームを迂回するしかないのだ。

しかし、ドームの中には3チームが居て、北回りだとMMTM、南回りだとSHINC。

ドーム内のチームは別として外にいる2チームは優勝候補らしい。

 

「ドームを抜けましょう。こうも近距離に3チームがいるのに戦闘してるようには見えない。中が相当要り組んでる証拠ね。それなら中を突っ切った方がいいわ」

 

「中が迷路だったらどうするんだ?」

 

「あんたが斬ればいいじゃない。光剣で壁を斬ってみる。それが駄目でもこの前見たいに私達を背負いながら走ればいいのよ。敵と鉢合わせになってもキリトなら斬れるでしょ?」

 

「迷路だったら銃は使い辛いでしょうしね」

 

俺は溜め息を吐いてレンと同様に顔を落とした。

この子達俺を道具のように扱ってる………

アイは比較的軽いレンを背負うから余裕そうだが、俺は同じぐらいの体重のシノンと暴れまくるフカ次郎を背負わなければならない。

走れはするが戦闘となると厳しすぎる。

 

「そうだね。ドームの様子を見て、突っ切れそうなら突っ切って、無理そうなら迂回しよう。南からなら林もあるし隠れられるかもしれない」

 

レンは端末機を懐に閉まって立ち上がった。

俺も同意見なので特に口を出さない。

 

「それじゃ、出発!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャングル、またはセルバとも言われている熱帯多雨林。

年間の平均気温が20℃以上に加えて降水量2000mm以上の場所に発達する森林。

日本にはほとんど存在しない地帯であるのだが………

 

「わぁお!!ネットじゃない方のアマゾンだ!!」

 

フカ次郎が目を輝かせながら感嘆の声を漏らす。

そう、フカ次郎が今言った通りドームの中は背の高い木々が生い茂る植物園のような場所だったのだ。

天井にまで届く木が幾つもあり、ドームの内壁には植物のつるが縦横無尽に張り巡らされている。

地面は外見のような硬い材質ではなく湿り気のある土が敷き詰められており、これまた視界を悪くしそうな草や横に広がる木が通せんぼするように邪魔をしていた。

 

「こりゃ、好都合だな。視界が悪いなら敵からも発見されにくい。運が良ければ戦闘なし通り抜けられるぞ」

 

「でも、素早く移動するには木が邪魔だね。仲間も見失いそうだし………」

 

レンの言う通りだ。

素早くこのジャングルを抜けるには出来る限り戦闘を控えるべき。

だが、この草木では音を立てずに走るのはまず不可能。

もし、がむしゃらに走れば敵に見付かってしまうだろう。

抗戦は免れない。

それならゆっくり進んで敵に見つからずに抜ければ良いのだが、それだと時間が掛かかってしまう。

敵を避けながら進むより敵を屠る方が速い進み早く抜けられる可能性もある。

俺やアイだけならどうとでもなる。

光剣を2本両手に持ちながら走って飛んできた弾丸を斬ったり、コツを使って木を登り敵が無関心であろう上から抜けるのもありだ。

しかし、シノン、レン、フカ次郎はどうする?

3人を抱えながら木登りなんて流石に出来ないし、弾丸を斬ろうにも人数が多ければ庇いきれない。

なら、あーして、こーして、そーして、何して、それから、こうで、あれで………

 

「よし、突っ込んで敵がいたらやっつけよう!!」

 

「「は?」」

 

俺は同様に長考に入りかけていたレンと一緒に間抜けな声を出してしまった。

俺達の長考を止めてくれた本人は愛銃《MGL-140》二丁をガシャリと高々に構えている。

何故、こんなにも考えないのだろうか?

この人の頭が不思議でならない。

 

「フカ次郎様の言う通りにしましょう。そっちの方が楽です」

 

「そうね。キリトの答えは正しいけどめんどくさいのよ。もっとフィーリングで生きなさい。彼女ちゃんから学んでないの?」

 

「学んでるからフィーリングで生きないようにしてるんだよ!!」

 

俺は心からめんどくさそうにしているアイとシノンに言った。

木綿季は野性的な勘で行動する部分が多々ある。

あの性格は昔からそうだった………

花火を綺麗に見たいからって家の屋根に登って降りられなくなったり、小学生の時にも何が不満なのか俺に突っ掛かってきた男に一発蹴りを入れて何故か俺も一緒に怒られちゃったり。

挙げていったら切りがない。

SAOの時も現在も木綿季の突拍子の行動に巻き込まれているのは俺なのだ。

まぁ、そんな木綿季に惹かれてしまったのも俺なのだが、だからこそしっかりしないといけない。

考えるのだ。

俺に出来るのはそれしかない!!

 

「えぇ~!!キリト彼女いんの!?熱っちいよー、熱過ぎるよ~!!南極の氷が溶けちまうぜ!!」

 

「おい」

 

フカ次郎は俺の睨み付けを意に返さない状態ではしゃいでいる。

持っているグレードを祝砲だと理由付けて全弾ジャングル内に発射しかねないレベル。

その時、ダダダダダ!!という銃声がドームに響き渡った。

一瞬、フカ次郎が本当に撃ったのかと思ったり、まさかレンが撃ったのかと場違いな勘違いをしてしまう。

だが、銃声がジャングルの奥地からだと気付いた瞬間、俺は耳に全神経を集中させた。

直径2キロのドームだと何処に誰がいるのかは把握しきれないが、銃声の向きやリズムは感じ取れる。

俺はすぐに敵の真意が分かった。

同時に団体戦の先輩であるレン、GGOトッププレイヤーのシノンも推測できたようで成る程と顎に手を当てる。

 

「「「罠?」」」

 

 




はい、次回はジャングルでのバトル!!
どこぞの暗殺集団みたいになるのかな?
全く考えてませんがお楽しみに!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

90話 ドームでの開戦

最近、"人生"を振り返ることが多くなりました…………









あのラノベ面白かったですもんね!!


 

 

「変な所触ったら殺すわよ」

 

「触らねーよ!」

 

深い深いジャングルの奥地、色鮮やかな花も鳥も見られない濃く暗い緑の植物だけの世界。

ア~アア~!!と叫びたくなる衝動に駆られてしまいそうな蔓が上から垂れ下がっている。

俺達"FLASK"はその下を密やかに真っ直ぐ進んでいた。

皆、限界まで身を沈めながらきっちりとした一列を保っている。

終始周辺の警戒を怠らずに危険信号を常に赤にしながら神経をすり減らす。

そんな時に花も恥じらう乙女である筈のシノンが刃のように鋭い声で俺の心臓を貫いてきたのだ。

俺はシノンの声を聞いただけで心臓をぶっ刺される幻覚まで見えてしまう。

ま、まぁ?俺の心臓は既に矢が刺されてるから?ダメージは無いんだけど?

震える歯を噛み締めて反論する。

 

「触らねーよ………」

 

そして、己自身の決心を強固にする為にこの距離でも誰にも聞こえないトーンで再度口にするのだった。

今、俺を含めて皆は周囲のジャングルに合わせて緑迷彩のポンチョを着ている。

後ろ姿だけなら"この人だーれだ?"とクイズを出せるぐらい統一感を出していた。

ただ、いくらポンチョを着ててもその人本人の雰囲気は隠せない。

そう、故に目の前を歩くレンもちびっこ特有のピョコピョコした動きが僅かに残って残ってしまっている。

まるで森の中を警戒しながら進むウサギのような動きだ。

そして、猫やウサギやモルモットなどの小動物が好きな俺は"目の前の小動物をモフりたい"という炎よりも熱いリビドーと格闘している真っ最中であり、シノンが定期的に刺してくれなければ危ないかもしれないのだ………

いや、猫とかモルモットとかいたらお腹に乗っけたくなるよね?頭に乗せたくなるよね?肩に乗せてペカチュウの物真似なんて誰しも1度はチャレンジしたよね!?

 

「あっ………」

 

「ん?」

 

すると、一番前を歩くレンが急に足を止めて固まってしまった。

丁度、トンネルのような草むらから出た所だったことに加えて大体ドームの中心辺りに俺達がいたので何らかの建造物でも見付けたのかとレンの肩越しに覗く。

しかし、そこにあったのは神秘的な建造物でも石像でもない人間が構える銃。

アサルト・ライフルらしき銃の銃口だった。

トンネルの草むらを抜けた先は足首までしか背のない草が生える小さな円状の場所だったのだ。

銃口を向けてきている男の他にもレンに気が付いていない3の男がいる。

最早、不運としか言いようがない。

あの銃口を向けてくる男とレンが少しだけ頭を出した瞬間が被ってしまったのだ。

男の指先は既に引き金に付いており、いつでも発砲できる態勢だった。

漫画なら"お邪魔しましたー"と言って首を引っ込めるだけなのだが、こちらの心情を察してもらえる筈もなく銃口からは無慈悲に赤い光線、バレット・ラインが伸びてきてしまう。

 

「レンさん!!」

 

俺は咄嗟にレンのポンチョを引っ張って自分と体を入れ換える。

結果、背中に4発程喰らってHPが半分ぐらいまで減ってしまった。

それでもリーダーが無事で無傷なら安いもんだ。

 

「投げて!!」

 

レンがピンク色の銃、ピーちゃんを構えながら言った。

その目は猛禽類のような狩りを生業とした動物の目で、通常のウサギの雰囲気は戦闘の風に吹き飛ばされている。

俺は迷うことなくレンを撃ってきた奴の方にぶん投げた。

その後、ともえ投げ風にレンを投げた俺はすぐに上半身を起き上がらせて至近距離のシノンに早口で捲し立てる。

 

「敵に見付かった全員に気付かれるかも戦闘準備フカスモーク装填!!」

 

「分かったわ!」

 

俺は伝えることだけ伝えると瞬時に腰にぶら下げていた光剣を掴んだ。

"カゲミツG4"を左手に持ちスイッチを入れる。

すると、柄しかなかった"カゲミツG4"に紫色の光が宿った。

高熱のプラズマで出来た紫色の刃が伸びた先の草を焼く。

そして、右手に握るもう1つの光剣にも刃を宿す。

光剣"オニマルクニツナ"。

天下五剣の中でも唯一御物であり、現実では天皇家の物である名物だ。

その為か伸びたプラズマはクリムゾンレッドで更に荒々しく所々でバチバチとスパークしている。

正に鬼。

敵を斬らせろと持ち主の俺に唸っているようだ。

俺は全力で草むらから飛び出した。

 

「おらぁぁ!!」

 

そこではレンが4人中2人を蜂の巣にした所だった。

声だけでは子供がちょっと怒ったとしか思えない。

しかし、レンは子供声を覆す銃で敵の顔面をオートで撃っている。

ロリが大の男を銃で殺す一部の人には怖い光景だ。

それでも、俺はレンの背中をサブマシンガンで撃とうとする輩を見逃さなかった。

レンの得意なスナップ・ショットに持ち込ませないよう離れた場所から狙い撃とうとしている。

俺はレンとその男の間に躍り出た。

レンに目掛けていた無数のバレット・ラインが俺と重なる。

そして、間に入ったのとほぼ同時に相手の銃口が火を吹いた。

 

「ふっ!!」

 

高速で向かってくるサブマシンガンの銃弾。

俺は自分以外の世界全てがスローモーションになるのを感じつつ、落ち着いて銃弾を1つずつ焼き斬っていく。

右手の"オニマルクニツナ"で大方の弾を焼いて消し、左手の逆手に持った"カゲミツG4"で残った1発2発を消す。

他のことは考えないで後ろのレンを守ることだけを考えた。

SAO時代、水の弾丸を撃ってきた怪物との戦いの時のように体を動かし腕を動かし頭を動かし、2つ光剣が生み出すブオン!ブオン!という効果音と共に光の結界を作り出す。

 

「なに!?」

 

男は前回優勝者のレンをこの手で倒せたと幻視でもしてたのか、サブマシンガンの弾を全て防がれたことに驚きを隠せないでいた。

殺すまで油断してはいけない。

男はサブマシンガンの弾倉が空になっているのにも関わらず、引き金を絞り続けていた。

少しでも気を緩めると斬れなくなり、後は連鎖的に斬れなくなっていく。

1つのミスが致命的なミスになりかねない近距離でサブマシンガンの弾を斬るという荒業。

だが、弾切れしたサブマシンガンなんて鉄屑同然で何も出来はしない。

 

「はぁあ!!」

 

俺は体を右側に引き絞り地面を蹴った。

そして、限界まで引き絞った右腕を弓から放たれた矢のように放つ。

ソードスキル"ウォーパルストライク"の模写技だ。

"オニマルクニツナ"のクリムゾンレッドの光が本来のウォーパルストライク発動時にかかるエフェクトと合致してGGOでSAOに戻った感覚になる。

 

「グアァァ!!」

 

男のサブマシンガンを貫き、現実なら胃がある箇所に"オニマルクニツナ"が強烈な一撃を与える。

ジュワン!!とプラズマが鉄を焼く音が鳴り、貫いたサブマシンガンが黄色がかった赤に熔解していった。

鉄をも溶かすプラズマが男の体内を焼き尽くす。

俺は止めに"オニマルクニツナ"を天に振り上げて男の顔面を切り裂いた。

この時点で男のHPは0になる。

男は恐怖の顔と断末魔を残して死んでいった。

 

「キリト君カッコいい!!」

 

振り替えるとレンが最後の1人を風穴だらけにし終わったところだった。

レンに殺されたプレイヤーには胸から顔にかけて数十発の弾跡がある。

えげつない殺し方だ。

それに、男性プレイヤー3人を難なく殺したレンの表情は輝いている。

正直、俺が加勢しなくても大丈夫だった気がした………

 

「キリト!!」

 

「準備完了でっせ!」

 

草むらから出てきたのはシノン、フカ次郎、アイだ。

戦闘が終わって出てきたらしい。

しかし、俺はシノンとアイをレンはフカ次郎を押し倒した。

 

「伏せろ!!」

 

俺とレンが3人を押し倒すと急いで草むらに駆け込んだ。

すると、先程まで戦っていた場所に無数の流れ星が通り過ぎる。

弾丸だ。

あの戦闘でこちらの居場所を特定したプレイヤーが撃ってきたらしい。

 

「フカ!ピンクスモーク発射!!」

 

「おうよ!!準備は出来てるぜ!」

 

レンが押し倒しているフカに大急ぎで言い、フカ次郎が今の状況を楽しむかのように答える。

レンは満足げに頷くとメニューを呼び出して緑迷彩のポンチョからピーちゃんと同じピンクいろのポンチョに早変わりした。

サプレッサーも付けて俺と目を合わせる。

 

「アイ、俺達は上からだ。シノンはフカ次郎の護衛」

 

「分かりました」

 

「任せて」

 

俺とアイはその瞬間、コツを使ってジャンプした。

垂れた蔓を掴んで天井へと登っていき、大きな木の裏に隠れる。

そして、地上から6発のグレネードが撃ち上がってきた。

バラバラに飛び散り、何処を狙っているかさえ不明なグレネードは重力に従いながら落ちていく。

そして、地上がピンク色へと変貌した。

 

 




さてさてさーて、刀の知識なら常人よりは高いと自負しておりますよ!!
名物三作の何れかと迷ったのですが、天下五剣のほうが分かりやすいと思いました。
いやー、日本男児たる者、刀はロマンですよね!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

91話 ピンク色の煙

ごめんなさい。
風邪引きました。


 

 

数百メートルも高さのあるSJ2フィールド中央のドーム。

このドームは窓1つないコンクリート質の壁で全てを完成させている。

勿論、壁は少しの光も通していない。

電灯などの光になる設備が一切整っていないので、ここが現実ならプレイヤーはドームに入った瞬間、暗闇に飲み込まれている筈だ。

ドームの中に生い茂った巨木の為に運営側が魔法を使って何処からか光を生み出しているのだろう。

自然を守るいい心がけだ、うん、うん。

お陰で真下がよく見える。

 

『OK、指示よろしく!!』

 

「「了解」」

 

インカムからレンの声が届く。

レンは今頃、真下に立ち込めるこのピンクの煙の何処かにいるのだろう。

モクモクと不規則な動きで視界を妨げる煙は木の上から見るとピンクの雲海にしか見えない。

スモークを撃ったら絶対に動かないと予め約束しているのでフカ次郎とシノンの位置は何と無く分かる。

しかし、動くレンは今のところ居場所が特定できない。

サーモグラフィーみたいなのがあれば便利なのだが、生憎そんなもの持ってきていないし、そもそも売ってる所さえ見たことない。

 

「キリト様」

 

2つに分かれた木の向かい側、アイが武器を持って手招きしていた。

俺は自分がいる枝から太い幹のような枝に片膝をつくアイの所まで飛んだ。

 

「では、いきますよ」

 

「ああ」

 

そう言ってアイは自らが持つ銃のスコープに目を当てた。

アイの銃、アサルトライフル《M16A4》のフルオートモデルである。

M16シリーズ、銃のことなどさっぱりな俺でも知っている有名なアサルトライフルだ。

あの伝説の殺し屋、ゴルゴ13も使うのだから性能はお墨付きの筈。

彼のように1キロを超える長距離スナイプは無理だとしてもスナイパーライフル界トップレベルの性能を発揮してくれるだろう。

因みに《M16A4》は命中精度と射程、軽いといったのが利点。

アイもそれを知っていて《M16A4》をメインの武器として選んだと思っていたのだが、"いえ、違います………"と目を逸らしながら答えたので調べてみるとM16は"ブラックライフル"と言った異名があるらしい。

勘違いかもしれないけど、ブラック=俺?のような推測とアイの目を逸らす仕草で悶え死にそうになった………

 

「………っ!!あれだ!!」

 

そうこうしていると、脳内お花畑から強制帰還するはめになる現象が起きた。

俺はアイの背中から覆い被さるような態勢をとり、対象へとアイの照準を大方合わせさせる。

アイが覗くスコープの先には赤い光線、バレットラインの始まり部分、つまり、プレイヤーがいるのだろう。

スモークで姿は確認できないが、バレットラインの付け根なのだから居るに決まっている。

 

「………撃ちます」

 

アイは一呼吸置いてから引き金を引いた。

ダダダダ!!と唸る銃弾が見えない敵のHPを削ぐ為に飛んでいく。

当たれば脳天直撃一撃死もありえる銃弾。

俺は着弾したと思ったらすぐにインカムに伝える。

 

「今の見えました?」

 

『赤いシャワーが伸びてた!!』

 

インカムからは力強い声が返ってっ来た。

どうやら、全力で走っているらしい。

上から見ればよく分かる。

最初は不規則に動くだけのピンク色のスモークが、今ではレンの全力ダッシュで動きがある。

レンの走るとスモークが瞬時に軌跡を作り出すのだ。

これでレンの位置が分かるし、敵の位置もバレットラインでハッキリする。

レンが地上でバレットラインの発生源に突撃するもよし、上には俺達がいるからレンの視界外などの敵も見付けられる。

アイの狙撃で敵のHPは大体削れるから無駄弾も抑えられるし、俺達に気付いても俺が弾く。

それがバレットライン無しだったとしてもだ。

 

「そこだ!」

 

広い視野で敵のバレットラインを見付け、スコープを覗くアイに位置を体で教える。

何か卑猥だけど………

その後、レンがそこに走っていく。

殺していたらそれでよし、殺せてなかったらレンが殺る、スモークが晴れてきたらフカ次郎が再度撃つ。

これを数回くり返したら同士討ちが始まるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインも現れず大体の敵を片付けた頃、良いタイミングでスモークが晴れてくる。

俺とアイはお互いの瞳がしっかりと見える近距離で頷き合うと立ち上がった。

《M16A4》をストレージにしまうアイ。

メインアームを戦場でしまうという通常だとあり得ない行動を終えて、俺達は木から降りることにした。

木に絡まる頑丈な蔓を持って切れないかを確かめる。

 

「ほれ、後ろ」

 

「では、遠慮なく」

 

俺はアイを背中に乗せた。

首回りにアイの腕が回されて温もりを感じる。

戦場だからなのか、それでも恥じらいなく乗っかってくれるのは嬉しい。

こんなアイもいつかは"パパとはお風呂入らない!!"って言ってくるのだろうか?

いや、入ったことないけどさ………

 

「よっと!」

 

俺は反動を付けて木から飛び降りた。

振り子のようにしなる蔓は俺とアイの体重を難なく支えられている。

ターザンをやりたいと言った密かな願望が叶い嬉しくなった俺は蔓を放し、滑るように着地した。

踵を擦らせてブレーキを利かせる。

お陰で今回はSAO時代の時みたいに右腕をぶっ刺されることはなかった。

しかし、辺りには残酷な光景が広がっていた。

 

「死体の広場ですね」

 

アイが俺の肩に顔を乗っけて率直な感想を述べた。

俺は然り気無くアイの太股に腕を入れて体重を支えてやる。

ポンチョの中の服装は俺も知らないが、少なくともシノンのようなショートパンツでは無いようだ。

俺はそのまま歩き出した。

 

「アイの撃った弾で死んだ奴もいるんだな」

 

「みたいですね。流石、ゴルゴ13愛用銃」

 

「そのお陰ではないだろ」

 

他愛ない話しをしている俺達だが、周りの所々には死体が転がっている。

アイの弾で死んだらしい脳天に赤い銃弾エフェクトがある死体やレンの銃弾で死んだ蜂の巣の死体。

1つ2つと数えながらシノンとフカ次郎の元に歩く。

すると、うっすらとだが、楽しそうな声が聞こえてきた。

思わずアイと見合わせる。

アイも聞こえたらしいので幻聴じゃない。

このドーム内ジャングルに原住民がいるとは思えないし、何よりも銃撃戦の後だ。

フカ次郎の嬉しそうな声だったらまだ分かる。

しかし、楽しそうな声だと疑問が湧かずにいられない。

俺は小走りでシノンとフカ次郎の元に向かった。

 

「Let me Go!!いつだって!!最大の!!ポテンシャルで!!」

 

そこは残虐で残酷な処刑場だった。

仰向けに大の字で泣く男、その男の四肢に長っ細い銃で殴打する金髪の悪魔。

銃での打撃でHPは中々減らず、四肢の鈍い痛みに似た感覚と痺れが残るだけの攻撃方法だ。

しかも左手は手のひらを打っていて、あれでは痛みでメニューを呼び出せずリタイアも不可能。

そんな光景を、というか男を絶対零度を越えたような冷酷さで見つめるシノン。

泣きじゃくる男、泣きじゃくる男を楽しそうに拷問するフカ次郎と冷酷な瞳から放たれる視線を突き刺すシノン。

何があったか聞きたくも知りたくもない………

俺は別の質問を探した。

 

「な、なんで天誅ガールズ?」

 

「おお、キリトとアイちゃん!!そんなのこいつが女の敵だからさ!!」

 

まるで、畑仕事をするように爽やかな笑顔をフカ次郎は向けてくるのだった。

もう、銃が鍬に見えてしまう。

フカ次郎はまた、鍬を振り上げて男の左手に打ち下ろした。

グシャッ!!と明らかに骨が折れる音が不思議なほどクリアに聞こえる。

ついでに、天誅ガールズの曲"ミラ・ガール"の続きも聞こえてきた。

 

「ねぇ」

 

「は、はい!?」

 

シノンが瞳はそのまま声は優しくしながら訊いてきた。

別に悪いことしてないのに犯罪者になった気分になる。

 

「天誅ガールズの天誅ブルーってアイちゃんに似てるわよね?」

 

「そうですか?」

 

「………まぁ、確かに似てるな。髪を巻けばそっくりかも」

 

天誅ガールズ

かの有名な歴史上に存在する47士をモチーフとした大人気魔法少女アニメ。

"貴方のハートに天誅!天誅!"をキャッチフレーズとして悪をばっさばっさと完膚なきまでにやっつける戦隊ものだ。

小さい子から大人まで幅広い年齢層から愛されており、俺やアイも見ている。

その中にいる防御担当の天誅ブルーがアイに似てるのだ。

 

「うぁ………」

 

いつの間にか戻ってきたレンもフカ次郎の行動に引いていた。

大事なピーちゃんを行使して死体を作り戻ってきたらこれだ。

敵に容赦のないレンも今回はあの男に同情しているのだろう。

レンはフカ次郎の行動を止めに入った。

そして、左手が動けない男に対してレンは優しく眉間に1発だけ与えてあげた。

男は心底嬉しそうな顔で殺されていった。

 

「余計な戦闘もこれで終わりですね」

 

「ん~、たぶん違うよ」

 

男を殺したことでドーム内戦闘は終わりだと感じたアイが言うとレンはキョロキョロと辺りを見渡した。

レン以外の皆は"何だ?"と思いながらレンを見る。

すると、レンはおもむろに2体の死体が重なる場所にピーちゃんの弾を撃った。

 

「痛って~!!」

 

死体が喋った瞬間だった。

 




えー、最初言いましたが風邪引きました。
別に軽い風邪なのですぐ治ると思いますが、一応報告します。
次回の投稿が遅かったら"風邪と戦ってるんだな"と応援しながら待っていてください。
勿論、風邪とか関係無くすぐに投稿する可能性もあります。

では、評価と感想と応援お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

92話 増えた味方

復活!!


 

「作戦は良いんだが………本当に大丈夫なのか?」

 

身長は確実に現実の俺以上、見た限りでは180センチは優に越している。

その上、横幅も大きく俺とシノンが横に並んでもまだ余裕がありそうだ。

年齢は30代後半か40代前半でアラサーとアラフォーの間で揺れる小難しい時期に見える。

ラノベに出てくる行き遅れて結婚したい願望が異常に高い女性とほぼ同じぐらいだ。

と言っても、目の前にそびえ立つ山のような女性を女性と認識するには髪型の3つ編みぐらいだろうか。

髪が邪魔で短髪にしてたら彼女を女性と見分けることが難しくなっていたのかもしれない。

女性特有の膨らみもプロテクターでも入れているのか緑迷彩の服からは目を引かない。

 

「そんな威圧しないでください!この人の精神力小鹿並みなんですから!!」

 

「おい、そこまでじゃねぇよ」

 

大女が俺に覆い被さるような態勢で見下ろしてきていた。

最初、"アリクイの威嚇のようだなぁ"と無意識に下らないことを思ってしまったが、現実に起きているのはアリクイの可愛い威嚇などではない。

ゴリラのような体型の女性が俺を見下ろしているのだ。

すぐに俺は頭の天辺から足先に駆けて電流が流れる感覚に陥り、背筋ピーンっとなってしまった。

しかし、その時にアイが俺と女性プロレスラーの間に割って入ってくれたのだ。

誠に不本意な言葉を捧げて………

一体、何故このような状況になってしまったのだろうか?

山のような筋肉質の巨体を身に付けた女性に睨まれるポンチョのフードを被った女性らしき人物、その間に入ってポンチョのフードを被った女性を守ろうとする銀髪少女。

事の発端は数分前に遡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛って~!!」

 

そんな叫びが聞こえたのはレンが2体の死体が重なる場所に3発の銃弾を撃ち込んだ後だ。

レンを除いた皆がその場で目を剥いた。

ただ、死体が喋ったとばかり思っていたのだ。

しかし、レンは呆れたように鼻で溜め息をしピーちゃんの銃口を死体に向けている。

すると、2体の死体の内下敷きになっていた方の死体がまるでゾンビのように這い出てきた。

俺はその時になってやっと敵が仕組んだ罠に気付く。

 

「成る程、死亡マークを本当に死んだ仲間の死体で誤魔化したのか」

 

「あちゃぁ………無理だったか。はい、降参でーす!」

 

仲間の死体を乱暴に除けてその男は顔を上げる。

その顔はしゅっとした中性的な顔立ちのイケメンだった。

黒の戦闘服に身を包んでいるので見方によれば撮影中の俳優にも見える。

イケメン君はわざとらしい溜め息を吐きながら正座をして両手を頭の後ろに回した。

 

「弾の無駄遣いは嫌だから降参して」

 

「分かってる、分かってる。メインアームもないし1対5で勝てるとは思えないからね」

 

レンが言うとイケメン君は何故か拗ねたようにブーブーと口をすぼませた。

そんな姿を見てると何というか、合コンでウケそうな人柄だなと思う。

文句を言いながらも言うことを聞く近頃話題の"ひねデレ"というやつなのだろうか。

現実の容姿や私生活は分からないが元の性格がこれなら結構モテそうだ。

まぁ、俺は木綿季がいるので既にモテなくても良いのだが、モテる奴を見るとほんの少しだけイラッとくるのは俺が重度なネットユーザーだからだろう。

そんな時、ふとっイケメン君の腹にある細長いポーチに目が止まる。

俺は何気なく問い掛けた。

 

「なぁ、そのポーチの中ってマガジン?」

 

「え?そうだけど?」

 

メニューを開きかけていたイケメン君の左手が止まり、腹部のポーチを見ながらイケメン君は答えた。

 

「中見せて」

 

俺の両手はアイのおんぶに使用しているので顎を使って指示を出す。

イケメン君は首を傾げながら"分かった"と言い右手をポーチに伸ばした。

そこで俺は万が一の為に釘を刺しておく。

 

「腰にある銃を使おうとしたら撃つからな」

 

「げっ………」

 

イケメン君の手は腹のポーチではなく腰の銃に向かっていた。

予想通り、腰のホルスターに収まっている銃で最後の抵抗か逃げ出すチャンスを掴もうとしていたらしい。

予め"お前の行動なんて想像できるんだよ"感を漂わせておけば、向こうはそう簡単に余計なことを考えないだろう。

俺は目でイケメン君にポーチの中を見せろと脅す。

 

「ほらこれだよ」

 

「あ、それって!!」

 

イケメン君が取り出したマガジン。

そして、そのプラスチック製の細長いマガジンに一番反応したのはレンだ。

レンは向けていたピーちゃんを下げてイケメン君が摘まむように見せるマガジンに釘付けとなってしまう。

レンが夢中になるのも当然で、イケメン君が見せびらかしているマガジンは色見以外全てピーちゃんのマガジンと同じなのだ。

戦場において銃弾は最も大切な物の1つであり、あればあるほど良い物。

残弾が増えるということは生存率も高まる上に戦略の幅も広がる。

素人の俺でも理解出来ることなら、前回のSJ優勝者のレンは更によく理解しているはずだ。

すると、耳にアイの吐息がかかる。

 

「よくわかりましたね?」

 

「大きさ的にまさかと思っただけ。生きてる敵から物奪うの当たり前だからな」

 

そう、敵からアイテムを奪うなんてゲームではよく行われる行為だ。

特に気絶させて物を盗むのはワイルドだけどエッチな蛇さんがよくやっている。

今は敵が気絶してないが、あの性格なら軽い条件を踏まえつつでも渡してくれるだろう。

現に今、レンとイケメン君が言い争っている。

なんか、フカ次郎とシノンがイケメン君に飛び掛かろうとしているけど大丈夫のはず!!

 

「ん~………そうだ!!そこのおんぶしてる人!」

 

「え?」

 

「君がキスしてくれたらマガジンあーげる!!」

 

俺はあまりの衝撃にアイを支えていた腕を下げてしまった。

アイは俺の背中からズルズルと滑りながら降りていくがどこか力ない。

俺の脳内で何かがピシリッとガラスにヒビが入るような音まで聞こえる始末。

このイケメン君はそれほど衝撃的なことを言ってのけたのだ。

 

「俺………男………」

 

やっとの思いで絞り出したのは漢字にして二文字の単語だ。

そうだ、ポンチョからはみ出た髪で女子だと勘違いされたに違いない。

元々、女の子と見間違える程の美少女アバターなのだ。

女の子と間違えられるのは今に始まったことではない。

俺は返事が返って着てないのにも関わらず、内心勝手にホッとしていた。

しかし___

 

「へーき、へーき。俺博愛主義者だから男女関係無く好き!」

 

「あ、いや、そういうことじゃ………」

 

「ん?ああ!行ってなかったね。俺、こんなアバターだけど女だよ。宝塚みたいなイケメン女子。男同士じゃないから君の価値観も守れるよ!!」

 

急激な女の子口調となったイケメン君はGGOの名刺代わりとなるネームカードを送ってきた。

そこには名前の下に女性(フィメール)と間違いなく映っている。

嘘でも、冗談でもなく、彼………彼女は………アバター名クラレンスは女性なのだ。

俺と同じく性転換級のアバターらしい。

いや、そうではない。

俺達を絶句させる発言をそのニマニマした口から飛ばしたクラレンスが女性だという事実は、ある意味駄目なのだ。

 

「あの、俺___」

 

「駄目です!!!」

 

俺が正直にお断りしようとした時、アイがドームに響く大きな声をあげた。

その小さな体格と口からどうやって出したのか不思議になるぐらい大きな声だ。

今度はクラレンスも含めたアイ以外の皆が驚く番だった。

 

「あ、彼女さんだった?!ごめんね!なら、諦めるから!!」

 

プルプルと必死な怒りを小さな体に宿しながら震えるアイを見て博愛主義者だと宣言したクラレンスも流石に身を引く。

そして、男性の演技を辞めて完全に女性と化したクラレンスは申し訳なさそうにストレージからもマガジンをダボダボとだした。

その数なんと12本。

ピーちゃんのマガジンは1つ50発。

つまり、今クラレンスの前にあるマガジンの山には600発の弾丸があることになる。

 

「ね?これで許して!私もちょっとふざけすぎちゃったからさ!!」

 

必死過ぎるのではないかと思う程、クラレンスはアイに謝っていた。

相変わらず笑顔は絶えさないが、先程とは違いなにか無理をしているように見える。

その光景と表情を見たシノンが1人で頷いた。

 

「あれは過去に何かあったわね」

 

「何かって?」

 

「女の闇は深いってこと。あの宝塚みたいな人、過去に現実で手当たり次第にナンパしてたんじゃないかしら?それでナンパ相手の彼女が復讐として制裁を与えた。それが軽くトラウマになってるのよ。女は時に異常な行動力を見せるの。虐めを受けていた私が証人」

 

俺はシノンの説明を聞いて納得した。

博愛主義者は世間一般からはいい人だと言われるが、一部の人々からは強く批判される。

人種や性別など関係無く愛する人故にその主義を口実に強い嫌がらせをされたのかもしれない。

さらに言えばそんな差別的な視線から逃れる為にVR世界に入り込んだ可能性もある。

そう思うと心臓を氷の腕で鷲掴みにされたような苦しみが湧き出てしまう。

 

「ごめんね!!」

 

「では、これはお礼です」

 

3度目の絶句タイムだった。

アイがクラレンスの頬にキスをしたのだ。

それも、耳打ちするように手を加えて位置も時間も調節しながら。

この場にいる俺達にしかキスだと分からないだろう。

カメラを通して観戦している観客には内緒話をしているようにしか見えない。

巧みな情報操作。

事実の隠蔽。

 

「今度、稼ぎも顔も性格もそこそこ良い20代の独身男性を紹介しますからこれで我慢してください」

 

アイは今までの怒りが嘘のように取り払われて満面の笑みになる。

クラレンスは最初すっとぼけた顔をしていたが、すぐにアイと同格の笑みになった。

印象操作。

 

「ですが、次この人に手を出そうとするなら紹介しませんよ!」

 

最後にアイは人差し指を立てて可愛らしく頬を膨らませた。

クラレンスはウンウンと何度も頷く。

脅迫的誘導。

事実の隠蔽、印象操作、脅迫的誘導。

多分、人類が衰退したらこの3つが重要になることだろう。

チキンが反乱を起こすかもしれないし。

 

「うん、ありがとう!!私もお礼をしなきゃね!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

すると、クラレンスはおもむろに立ち上がり、アイと場所を入れ替わった。

アイの肩を掴んで乱暴というか強引に後ろへ投げる。

皆、クラレンスが何らかの裏切りを働いたのかと困惑したが、その考えはクラレンスの行動を見て消し飛ばされる。

クラレンスはアイを守るかのように全身を広げていたのだ。

説明されなくても分かってしまう。

クラレンスは死ぬと。

 

「優勝しろよ~!!」

 

最期の最期、クラレンスは男勝りなイケメン君へと戻りながら頭部に銃弾を浴びた。

俺達のそこからの行動は早かった。

俺はアイの前に踊り出て"カゲミツG4"と"オニマルクニツナ"を構えながら次の銃撃に備える。

シノンも牽制の為に狙撃銃"ウルティマラティオヘカートll"を撃った。

しかし、生憎敵は既に移動しているようでシノンの弾で死んだ感覚はない。

 

「うおっと!?」

 

俺はあらぬ方向から伸びてきたバレットラインと実弾が飛んでくるタイムラグに驚いた。

あまりにも短い。

恐らく敵は俺達がいる場所から50メートルも離れていない場所から攻撃してくるのだ。

と言っても、驚くだけで焦りはしない。

俺は寸前で"カゲミツG4"を返しながら弾く。

 

「長居し過ぎたわね」

 

「うぉっほい!!どうする?スモーク撃って逃げるかい!?」

 

飛んでくる銃弾を腹這いに伏せて回避するフカ次郎。

何故か面白そうに笑いながら愛銃"MGL-140"を見せる。

そんなスリリングを全力で楽しんでいるフカ次郎にアイが言う。

 

「駄目、それはピトさんの時まで取っておきたい」

 

「アイ、グレネードを次のラインが来たら投げてくれ!」

 

「了解です」

 

「それじゃ、脱兎の如く逃げるしかないな」

 

俺が後方のシノン達と一瞬のアイコンタクトをすると"オニマルクニツナ"だけの電源を落として逃げる態勢に入る。

だか、その時だった。

俺達を狙う敵の銃声と俺達を狙う敵を狙う銃声が混じりあったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達を助けてくれたのはしSHINC。

前回のスクワッドジャムで僅差で奇しくもレンに敗れたチームだ。

巨体プロレスラー、ずんぐりむっくりドワーフ、長身のあねさん、そばかす混じりのお母さん、ハリウッド金髪女優、短髪銀狐。

多種多様で十人十色の女戦士軍団。

それがSHINCだった。

加えてどうやらレンとはリアルで知り合いらしく今回のSJ2で再戦を望んでいたらしい。

俺達を助けてくれたのも私達が殺したいからという理由。

しかし、俺達は別に目的がある。

が、その事をフカ次郎が包み隠さず教えてしまったのだ。

すると、SHINCのボスことエヴァは少し考えた後に俺達に協力してくれると言ってくれたのだ。

ボス、厳つい顔でも心優しい人物らしい。

で!作戦を俺が考えることになり今に至る。

そう、ボスに睨まれる俺を庇うアイという状況に。

 

「大丈夫だよ。キリト君、シノンさん、アイちゃんはBoB優勝者だから」

 

「特にこの人は天才なんで問題ありません!!」

 

「それは知ってるが、こんな奴だとは思えなくてね」

 

レンの説得にアイが付け加える。

先程の一件でアイが俺の彼女という勘違いをしたレンはアイの助太刀でボスをなだめた。

因みにフカ次郎からは何故か"リア充死ね"という呪いのお言葉を受け取ったりした。

あの人絶対彼氏いない。

ボスも別に怒っている訳ではないので素直に身を引いた。

寧ろ、BoB優勝者が俺のような奴でからかっているようにも見える。

 

「では、14時より"お菓子作戦"を開始する!持ち場に着くよ!!」

 

ボスの号令に皆が頷く。

現在の時刻は13時55分。

残り5分だ。

 

「行くよキリト君!」

 

「はい!」

 

俺とレンはドームの東口から一先ず東北の雪山に向かう。

アイ、シノン、フカ次郎はジャンルドームの隅に忍ぶ。

SHINCはというと南口からドームの側にある畑地帯を目指す。

そして、俺とレンは走り出した。

 

 

あ、インカムで常にアイの声が聞こえるから大丈夫!!

 

 




ちょっと待ってください!
感想で昨日には投稿するとか言ってたのにふざけんなって怒る前に言い訳を聞いてください!
風邪が思ったより重症で病院で点滴するぐらいダウンしたんです!!
今回の話もそんな中で投稿したから話が意味わからないことになってるはず………
現在は大分回復したんですが、マジで重症だったんですよ!!
別に寝込みながらとらドラ見てた訳じゃないんだからね!!

………こんなに自分ですが今後ともよろしくお願いします!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

93話 失敗

今期のアニメ。
皆さんは何を見ますかね?
自分は原作を読んでいるハルチカと暗殺教室です!!
後は経過を見てからですね。
オススメアニメの紹介待ってます!!


 

「キリト君!あの穴!!」

 

SJ2の東北地帯。

正方形であるSJ2フィールドの右上側は雪山になっていた。

ここではチラチラと走っていながらも気にならない程度の雪が舞っている。

しかし、この目を凝らさないと雪かも分からない粉々しさでよく雪山が作れたものだ。

標高は1000メートルを恐らく越えていて下手すると2000メートルにまで達しているかもしれない。

そんな山がすっぽりと厚手のフワフワコートを着込むように雪を纏っているのだ。

相当な時間と条件が噛み合わないと雪は積らないだろう。

俺とレンはそんな雪山の麓に辿り着いていた。

 

「はい!」

 

俺はレンの行く先にある洞穴を見た。

その洞穴はまるで野生の兎の巣。

地面とほぼ水平に穴が掘られており、その上には雪が覆い被さっている。

ついでに言えば入り口が丁度レン1人が入れる程の大きさ。

隠れるには持ってこいで都合の良い巣穴。

レンはその巣穴にスライディングで滑り込んだ。

その光景は兎が愛しの我が家に元気よく飛び込んだようにも見えた。

俺はレンが飛び込んだ巣穴の入り口を隠そうと白のポンチョを着ながら入り口に伏せる。

ほんの少しでも雪が降っているので余程近くに敵が来ない限りバレることはないだろう。

取り敢えず、この態勢で14時になるのを待つ。

 

「着いたぞ」

 

俺はSHINCが敵から強奪したインカムと同じ周波数に合わせたインカムに呼び掛ける。

当初、SHINCとFLASK、形どころか機種が違うインカム同士の周波数を合わせられるのかと心配したが、別に心配する必要はなかった。

唯一の疑念がよくもこのような歴史を感じさせる一昔前風のインカムで数キロも離れた場所にいる多数のプレイヤーに少しのノイズすら混じらないクリアな音声を届けられること。

現代の科学なら可能かもしれないが、ここは廃れた地球という設定。

茶色く濁った雲の上から黄金色の光が降り注ぎ世紀末を感じさせる。

多分、光学銃や光剣といったSFの世界にある武器を実現させているので技術力はあるのだろう。

 

『了解だ。では、1分後に始める』

 

『こっちも了解です』

 

インカムからは2種類の声の返答があった。

1つ目がSHINCのボスであるエヴァで2つ目がドーム待機組のアイだ。

どちらもありがたいことに、声に特徴があって判別しやすい。

エヴァは声質とレンの友人ということを踏まえると、現実では俺とそう遠く歳は離れていないだろう。

しかし、やはりリーダーらしく俺とは真逆の逞しい声だ。

すげぇ………声だけだとアバターの姿が全く想像できないんだけど………

エヴァのことを知らない奴に声だけを聞かせて紹介したら何人かは釣れそうだ………

対してアイの声は鋭く冷たく突き刺さるような声。

幼さは微塵もなく声だけなら堅物な秘書のよう。

ただ、最近見せるようになった甘えたい時の声はふにゃっとしている。

見た目は鋭い刃だけど実は超柔らかいスイーツのスポンジみたいな感じ。

デレ成分が多くなってきていて親としては嬉しい。

同時に何でこう甘えてくるのか疑問にも思ったりする。

子育てって難しい………

 

『14時、10秒前………8………7………6………』

 

エヴァのカウントが始まった。

これまで散々余計な雑念を交えた妄想を浮かべていた俺の脳はカウントが進むごとにハッキリとしてくる。

完璧にクリアに鳴ったとき、丁度カウントが終わった。

 

『0!!』

 

俺とレンはピトフーイのチームがいる場所。

恐らくはSJ2フィールド南東にあった岩山を下りた辺り。

予想では東南東の草原地帯と岩山地帯の境にいると思われるPM4の居場所を確認する。

レンが予め出していた端末でPM4の位置を見た。

 

「予想通り!!」

 

「よし!」

 

俺は小さなガッツポーズを決める。

そして、巣穴に隠れたレンとポンチョで覆い隠されたことで真っ暗になった場所で俺達はハイタッチを交わした。

俺達がいる場所にもアイ達がいる場所にも近くに敵はいない。

俺は当然、ポンチョを脱いだ。

レンが巣穴から這って出てきてピンクの戦闘服の上から緑迷彩のポンチョを着込んだ。

俺も同様に緑迷彩のポンチョを着る。

 

「キリト君」

 

「あ、どうぞ」

 

ポンチョを着ると俺はレンに声をかけられて腰を低くする。

その上にレンがひょいと飛び乗ってきた。

先刻アイにやったおんぶ。

まさか、レンにやることになろうとは思わなかった。

だが、レンはコツを知らないし出来ないのでこうしないと俺が全力で走れない。

このことを決めたとき、ほんの一瞬だけアイの顔がむすっとしたのは鮮明に瞳へと焼き付いている。

あの顔は可愛いかった………

うん、全然頭クリアになってないな。

雑念ばっかりじゃん。

 

「行きますよ!」

 

「うん!よろしく!」

 

俺はスキャンが終了した瞬間にレンを連れて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピトフーイのチームPM4と俺とレンの距離が約1キロになった地点。

俺はコツでの全力ダッシュを止めて急ブレーキをかけた。

踵が地面を抉り2本の線が数メートル程SJ2フィールドに刻まれる。

俺は背中から降りたレンと共に匍匐する。

現在、ピトフーイのPM4はエヴァのSHIMCと交戦中だ。

上空から見てドームの真下にある畑地帯から予想通りの場所で陣を構えていたPM4に時間稼ぎ前提の戦いを挑んでいる。

戦況はインカムから全て知らされていた。

劣勢ではあるものの善戦はしているらしい。

 

「行こうか」

 

「はい」

 

俺達は匍匐前進を行いながらピトフーイが待つ戦場に向かった。

ただし、全力の匍匐前進だ。

コツを使いながらの匍匐前進だと速すぎて砂埃が立って逆に目立ってしまう。

したがって、コツを使わない全力の匍匐前進で進む。

匍匐前進は現実でやれば相当体力を消耗する行動。

やれば分かるが腕は痛くなるし、痛い腕を補おうと脚を使うと素人なら体が左右に揺れて肩が上がってしまう。

そこを狙われる。

しかし、ここはVR世界なので精神力が続く限り疲労はない。

俺達は並んで現実ではありえない速度で匍匐前進を行う。

そして、14時9分30秒。

 

『時間だ!!』

 

インカムからボスの言葉が飛んでくる。

俺達は"了解!"と叫んだ。

 

「フカお願い!!」

 

『あいよ!!スモーク6丁!!』

 

レンの言葉にフカ次郎から板前屋さんのような返事が届いた。

続いて数秒後、空に6つの弾が弧を描いて飛んでいくのが見えた。

その弾は俺達が居る場所とPM4が居る場所の丁度中間地点に降り注ぎピンク色の噴煙をあげる。

 

『へい!スモーク6丁お待ちどう!!』

 

「ありがとう、突撃するね!」

 

俺達は立ち上がってピンクスモークに突っ込みながら服装を変えた。

草原の緑と一体化する為に着ていた緑迷彩のポンチョを脱いでレンは普段のピンク色になり、俺は緑迷彩のポンチョを脱いでその下に着ていたピンク迷彩のポンチョに変身する。

俺を先頭に一列になってピンクのスモークに入ろうとした。

迷いは無かった。

後は殺すだけだと俺とレンは確信していた。

しかし、視界の左端に捉えてしまう。

黒く細い銃を構えて俺達が向かおうとしている方向に銃口を向けている姿。

距離にして200メートル。

女性、灰色の戦闘服で木の枝と木の葉の柄、髪は緑色で鼻上を通る黒の墨のようなペイントをしている。

自分でも驚いく程に彼女の情報が目にガンガン飛んでくる。

俺とレンの背筋に嫌な予感が走り抜けた。

 

「「だめーっ!!」」

 

喉がはち切れてもおかしくない絶叫を出しながら俺とレンは方向を変えた。

レンが"P90"を持った右腕を伸ばしながら走り、俺も"オニマルクニツナ"を抜いた。

コツを使って女の元に特攻。

しかし、後少しの所で女が引き金を引いてしまう。

俺は着地のことなど考えもせず、持てる限りの全ての力を賭けて横に飛んだ。

右腕を限界まで伸ばし、バレットラインの光線に合わせようとした。

血のように赤いクリムゾンレッドの熱エネルギー。

スパークしながらバレットラインに伸びていく。

だが、全力のコツでも撃ち出される銃弾より速くは動けない。

俺の瞳は"オニマルクニツナ"の先端から数センチ離れた直線を飛んでいく銃弾を見ていた。

 

「ぐあぁ」

 

俺は勢いを殺せずにそのまま草原の地面に転がった。

同時に数発の弾丸が近くを通る音が聞こえてくる。

レンが女を撃ったのだ。

しかし、今はそれどころではない。

すぐに顔をあげて銃弾の先を見つめた。

 

『やったのか?敵の攻撃が急に止んだぞ?!…………あれは___』

 

今、エヴァが双眼鏡で敵陣を観察しているようだ。

俺とレンは祈った。

どうかピトフーイに当たってませんように、死んでませんように。

 

『女が倒れてる!作戦成功だ!!』

 

俺は近くにいたレンと視線を合わせる。

耳には俺とレン以外の仲間達が叫ぶ歓喜がラジオのBGMのように流れていた。

そして、数秒後。

 

「「しまった~!!!!」」

 

 




SJ2編。
今のところは原作とほぼ同じなのですが、ここから原作ブレイク入ろうかと思っています!!
いや、まだ分からないですけど。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

94話 ログハウス

テガミバチが最終巻を迎えましたね!
小さい頃から読んでいた漫画なので達成感あります。
ああ、ラグ~!!


 

「「しまった~!!!!」」

 

『ど、どうした?』

 

俺とレンのインカムを無視した絶叫はSHINCのエヴァを初めとしたチーム皆の耳に飛び込んだ。

VR世界では人体に影響が及ぶ程の音量は出ないよう制限がかかっている。

それでも、俺とレンの絶叫は想像を絶するものであったらしく、エヴァが咄嗟に尋ねてきた。

 

「それ私じゃない~!!他の人が殺っちゃったよ!!」

 

レンが草原の僅かに湿った地面に拳を何度も降り下ろす。

俺も自らの拳を地面にめり込ませてぐりぐりと穴を掘っていく。

油断していた。

俺達と同じ作戦を考えるプレイヤーがいたのだ。

スキャン時には出来るだけ遠くに離れて、恰も自分達は襲撃しないように見せる。

その後スキャンが終了した瞬間に全力ダッシュして一気に標的との距離を積めると奇襲を仕掛ける。

途中までは完璧だった。

SHINCは2人の犠牲を出してまで十分な時間稼ぎと囮役をこなした、アイとシノンにフカ次郎の中距離、遠距離組は援護を任されて特にフカ次郎はこれ以上ないタイミングと位置にスモークを撃ち落とした。

しかし、最後に俺達が油断してしまった。

作戦は途中なのに辺りの警戒を怠ったのだ。

警戒していれば確実にあの緑の女を止められた自信はある。

だが、警戒してなかった。

己の不甲斐なさに腹が立つ。

 

『エヴァ様。ピトフーイは死んだのですか?』

 

インカムにアイの問い掛けが流れている。

 

『ああ、ぐったりと倒れていたからな』

 

『いえ、倒れてるとかではなくて』

 

アイとエヴァの話が頭の中に入らない。

それほど、俺は自分に失望していた。

今現在、現実で1人の女性の命がこの世から消えて無くなったかもしれないのだ。

俺のミスで。

 

『ちゃんと死亡マーク………Deadの文字は浮かんでるんですか?』

 

『………えっと、ないな』

 

「「へ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったわね」

 

「マジで焦ったからな………」

 

SJ2フィールドの中心には巨大ドームがある。

そして、このドームの東側には草原地帯が広がっており、膝たけ程の高さがある草や小川が流れている。

俺達FLASKはそんな草原地帯にあった窪みに身を潜めていた。

皆、緑迷彩のポンチョを装備して周りの警戒を怠らない。

シノンは愛銃の"ウルティマラティオヘカートll"のスコープで遠くのログハウスを監視しながら言った。

俺は安堵の溜め息混じりに答える。

あの後、何故か動かないピトフーイを抱えたPM4はリーダーの機能停止状態により一時撤退。

草原の中心にある2階建てのログハウスに立て籠った。

俺達は追い討ちは駆けなかった。

傷を負って動かないピトフーイを殺しても勝利と呼べるのかとレンが疑問に思ったのだ。

しかし、レンは"戦場で撃たれるのは当然。油断したから撃たれたんだ!自業自得だ!"などと言ってすぐさま襲撃すると決めた。

作戦も至極単純で、ログハウスの南北にFLASKとSHINCの2チームを置いて挟み撃ちにする。

襲撃時間は敵が一番油断しそうなフィールド上のチームが何処にいるか確認するスキャンの直前。

スキャン数分前に2チームで襲うのだ。

誰が死んでも構わない。

レンがピトフーイを殺せばこっちの勝ち。

 

『あと少しで14時20分だ。そろそろ行くぞ』

 

エヴァの指示が耳に届く。

SHINCはずんぐりむっくりドワーフのソフィーと金髪ハリウッド女優のアンナ、2人を時間稼ぎと囮役で失って人数が4人。

プロレスラーのようなリーダーであるエヴァ、長身のお姉さんのトーマ、そばかす混じりの肝っ玉母ちゃんのローザ、短髪で銀髪の狐顔のターニャ。

俺達を合わせて合計9人でPM4を倒す。

各々が自分の武器を装備してエヴァの号令を待った。

しかし、また予想外の乱入者が現れていまう。

 

「………ちょっと待て~い!!」

 

叫んだのはレン。

ピーちゃんを片手に襲撃を今か今かと待ち望んでいた矢先だ。

レンは西の地平線を見詰めていた。

俺達はレンが見詰めている西の地平線を覗いた。

見えるのは、あれだけ大きかったドームの屋根が遠近法で手の平サイズになっているのと3つのつむじ風。

だったが、俺がつむじ風がつむじ風でないと気付いたのは3秒後。

つむじ風の根元を見てからだ。

 

「そ、装甲車………」

 

3つのつむじ風、その原因は3台の装甲車だった。

サンドイエローの車体は全長約5メートル、全幅は2メートルを越えている。

角ばった形をしている装甲車の上には防弾板が兼ね備えられていてプレイヤー1人が顔を出さずに周りを見渡せる状態になっていた。

通常の銃弾では傷1つ付けられそうにない車が3台も20メートル間隔で斜めに並びながらログハウスを目指している。

現に3台の装甲車に気付いたPM4がログハウスの2階から銃弾を撃っていた。

しかし、装甲車に当たった弾は全てものの見事に弾かれている。

 

「あいつらー!!」

 

レンが地面に伏せながら足と手をばたつかせてヒステリーを起こしている。

一方、相棒のフカ次郎は羨ましそうに装甲車を見ていた。

このコンビ変だ。

 

『っち!!どうする!?私達が奴らを足止めできればいいんだが生憎対抗策がない!!』

 

エヴァが舌打ちしながら乱暴に聞いてくる。

どうやら、SHINCの南側からでも装甲車が確認されたらしい。

口調でイラついているのがよくわかる。

だが、対抗策があれば足止めしてくれるようだ。

俺はシノンと頷き合う。

 

「なら、私が装甲車を撃つわ。エンジンを狙撃して爆発させる。1台爆破させればバカじゃない限り降りてくる筈よ」

 

シノンはそう言って、ログハウスに向けていた銃口を遠くから走ってくる装甲車に向け直した。

シノンの銃は対物ライフル。

昔は対戦車ライフルと呼ばれた口径12.7mm、撃ち出す弾は12.7×99mm。

果たして装甲を貫くことは出来るのだろうか?

対戦車ライフルが対物ライフルと呼ばれるようになったのは戦車や装甲車の防御力が上がった為。

あの3台の装甲車がいつの時代の車かは分からないが、弾かれる可能性もある。

 

『了解した。では、爆破と同時に私達が突っ込む』

 

「私達はその爆発に紛れてログハウスに突入しましょう」

 

「私はシノンの護衛かな?アイちんの銃は兎も角、私の銃はグレンラガンだからね!!」

 

「それを言うならグレラン。それと、フカ古いよ」

 

しかし、皆は失敗することを考えずにことを進めていく。

俺は頭を抱えて笑みを浮かべながら溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガーン!!

 

耳をつんざく音がなだらかな草原に響き渡る。

シノンが装甲車の破壊に成功した音だと分かったのは言うまでもない。

俺達は身を潜めてログハウスに走った。

 

『破壊成功したわ。予想通り降りてくる』

 

『あはは、慌ててる慌ててる!!そんなズルするのが悪いんだ!!ねぇ今どんな気持ち?NDK?』

 

「フカ………」

 

並んで走る相棒は呆れ果てている。

もう相棒と言うよりかは保護者のよう。

シノンの苦笑いもインカム越しに聞こえてくる。

 

「アルゴ様と気が合いそうですね」

 

「確かに………」

 

と、そうこうしている内にログハウスの側まで辿り着けた。

木製の巨大なログハウスは間口50メートル、奥行きは分からないが高さが8メートルもある。

作戦通り、PM4が一瞬爆発に気を向けたようで迎撃は受けることはなかった。

俺達はログハウスの壁に背中を押し付けて敵から見えないように並ぶ。

現在時間は14時20分ごろ。

もし、PM4がスキャンを見ていても俺達の位置はばれないだろう。

シノンとフカ次郎がいる位置からコツを使ったサイドスローで端末を行方不明にしたからだ。

スキャンが端末を利用しているのはBoBと同様なのでこれから全てのチームは俺達の位置を確認することは出来ない。

逆に俺達も全てのチームを確認することは出来ないが。

 

『SHINC!!最後の戦いに出る!!』

 

「………俺達も行くか」

 

俺はインカムから届くエヴァの決死の叫びを合図に"オニマルクニツナ"のスイッチを入れて刃を出した。

そして、上に上げるタイプの木製窓から敵が居ない個室を探す。

ログハウスの端、物置部屋のような場所が最適だと判断した俺は早速壁に"オニマルクニツナ"を突き刺した。

すると、ジュっと木の焼ける音が鳴り、貫通した感覚が手元にくるとゆっくり円を描いていく。

人1人がなんとか入れる円が出来上がると俺はそっとその円の中心を押した。

 

「さて、暗殺の時間だ」

 

戦う?決闘?何それ?3年E組の男の娘も言っていたじゃないか。

 

"殺せば勝ちなんだ"

 

 




SJ2編もクライマックス!!
あ、そういえば、原作を知っている人なら気付いてますよね?

原作と全く違いますがよろしくお願いします!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

95話 室内戦

ラブライブサンシャインがアニメ化しますね!
色々と批判が多いサンシャインですが、自分は楽しみです!!


 

 

男は軋む木製の床を歩いて階段を守っていた。

間口50メートル、奥行き15メートルと横に大きいログハウスだが、2階との繋がりは中央にあるここの階段だけ。

2階に上がればある意味袋の鼠なのである。

ただし、それはログハウス内に敵の侵入を許した場合だけであり、2階で四方に銃を構えていればそうそう侵入を許すことはない。

もし、侵入されそうになったとしてもすぐに降りて迎撃したり、罠を張って返り討ちにすることも可能。

今、2階では3人のプレイヤーが辺りを世話しなく鬼の瞳で睨み付けている。

よって、本来ならば1階の警戒など必要ない筈なのだ。

それでも、男が所属するチームPM4は油断しない。

万が一を考えて行動する。

男は階段を守りながら自分が大切な任務を任されているような見せ掛けの高揚感に浸っていた。

そんな時。

ふと、男の視界の傍らで白い物体が流星のように流れたような気がした。

小さな窓しかないログハウスは若干暗いものの何も見えない訳ではない。

男は咄嗟に愛銃の銃口を白い物体が流れた方に向けた。

しかし、そこには50メートルの半分の25メートルの廊下が続いているだけ。

音もプレイヤーの気配もないただの廊下。

 

「フゥ………」

 

男は張り詰めた糸を緩めるかのように息を吐いた。

そもそも、このログハウスに侵入者がいる筈ない。

いたら2階で辺りを警戒している奴らが侵入前、真っ先に知らせてくれる。

きっと、持っていた銃が僅かな光に反射したのを捉えたのだろう。

男はそう自分に言い聞かせた。

その刹那。

緊張の糸を緩ませた一瞬を見定めたように、背後から腕が伸ばされる。

そして、その腕は男の口を塞ぎ頸椎にナイフを差し込む。

 

「ッ!?」

 

男は突然のことに戸惑いながらも助けを呼ぼうとした。

しかし、頸椎から差し込まれたナイフが喉仏を後ろから貫いていて声が出せない。

加えて口も塞がれているので僅かな喘ぎ声もシャットアウトされてしまう。

男は必死でもがいた。

もがいて物音を立てれば2階の仲間が助けてくれるかもしれない。

だが、この思い付きも途絶える。

何故か体がうまく動かせないのだ。

銃を持っていた両手、床に付く脚も、何か小さな物に縛られているみたいだった。

声も出せず、体も動かせず、男は左上に表示される自身のHPが凄まじい勢いで減っていくのを見ていることしか出来なかった。

 

「!!!」

 

そして遂に男のHPは0となった。

謎の力で動けなかった体から力が抜けていき、意識も遠退いていく。

男は最後まで自分の身に何が起きたのか理解できなかった。

それはまるで、唐突に現れては人の命を奪い去っていく___

 

死神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は声を殺しながら音を立てずにハイタッチを交わした。

横には今殺したばっかりの男性プレイヤーが寝そべっている。

薄暗いログハウスの中を変にテンションを上げながら警備していたのでチャンスと思い暗殺したのだ。

まず、アイがポンチョのフードを外して銀髪を見せびらかしながら廊下を横切る。

光を反射しやすい銀髪に視線が集中した瞬間に背後に回り込む。

そして、男が気のせいだと思い気を抜いた瞬間に背後から襲う。

俺が声を出させないようにし、アイとレンが腕と脚を抑える。

後は男が死ぬまで待つ。

3人がかりの暗殺は見事成功した。

 

「これでPM4は侵入に気付くから今のうちに」

 

俺は小声でアイとレンに言った。

今、2階にいるPM4の残りメンバーは無音の状態でいきなり仲間が1人消えたように感じている筈。

慌てて様子を見に来たプレイヤーを瞬殺してやるつもりだ。

急いで配置に付こうと行動に出る。

すると、2階から荒々しい足音が駆け抜けた。

俺達にはすぐに敵が気付いたんだと分かった。

俺は急いで倒れている男を担いで階段の正面に仁王立ちになる。

そして、死んで動かない男を盾のようにして待ち構えた。

 

「何があった!?」

 

慌ただしく階段を駆け降りてきたのは長身の覆面だった。

手にはサブマシンガンのような銃が見える。

この距離でサブマシンガンを連射されていたら俺でも対処出来なかったかもしれない。

しかし、長身の男は死んだ筈の仲間が階段の前で立っているのを見た瞬間、動きを止めた。

その間およそ5秒。

そして、男は叫んだ。

 

「卑怯者が!!」

 

長身の男が死体を盾にしていると気付いて怒号をあげる。

俺は盾にしている男越しに長身の男を覗いた。

長身の男は階段の踊り場からジャンプして飛び掛かって来るのがよく見える。

 

「レンさん!」

 

「おう!」

 

俺は長身の男が空中にいると確認した時、レンの名を怒号の中呼んだ。

それに応えるように階段から上に向かって銃弾が飛翔していく。

木で作られた階段の一部が貫かれて粉々になっていき、階段の板を貫いた銃弾はジャンプで空中にいる長身の男をも貫いた。

ピーちゃんのマガジン50発をフルオートで全て吐き出す。

長身の男は真下からの弾丸の雨を浴びて体勢を後ろに崩した。

背中から階段に落ちていく。

その時、偶然にも1発の弾が長身の男の後頭部を駆け抜けたようで落下して階段に転がった時には既に赤いDeadのマークが浮かんでいた。

 

「くそが!!」

 

続いて降りてきたのは俺より少し大きいぐらいのこれまた覆面の男。

目の前で長身の男が死ぬのを見ていたらしく、悪態付けながら持っているショットガンの銃口は階段。

つまり、階段の下から撃っているレンに向けられていた。

俺はショットガンを持った男に向かって盾にしていた男を全力で投げた。

投げた男でショットガンの男が隠れて見えないがバンッ!!という銃声が飛んだ。

しかし、レンのHPは少しも削られていなかった。

恐らく死体が飛んできたので思わずその死体を撃ったのだろう。

しかし、死んだプレイヤーの体は破壊不能(イモータル)オブジェクトになって全てを防ぐ。

いかなる攻撃も通さない最強の盾となる。

 

「ちくしょう!!」

 

男はまた悪態付けて今度は俺にショットガンを向けてきた。

俺はその場でしゃがんだ。

 

「それで避けれる訳ねがッ!?」

 

男の顔が後ろに仰け反った。

それにつられて腰も沿って銃口が上を向く

バンッ!!とショットガンから銃声が鳴り弾が天井に発射された。

そして、男はそのまま膝を折って倒れる。

見事、階段には3人の覆面プレイヤーが重なることとなった。

俺は振り向いて親指を立てた。

そこではアイが床に伏せて"M16A4"のスコープから目を外すアイがいる。

俺が男を投げたのはわざと俺に銃口を向けさせてアイを隠すためだったのだ。

 

「これで残り2人か」

 

「うん、ピトさんと恋人のエムさん。どっちも異常な程強いよ」

 

階段の下から出てきたレンがマガジンを変えながら言った。

 

「だから、降りてこないのですね」

 

アイが"M16A4"を抱えながら顎に手を置いて頷いた。

俺もアイと同感で敵に感心する。

ピトフーイが降りてこないのは気絶しているからだとしても、レンが言う恋人のエムは冷静な判断が出来るようだ。

慌てて降りても返り討ちにされると理解している。

 

「つまり、俺達から行かないと駄目か」

 

耳を澄ませて敵の位置を探ろうにも待ち伏せで音を出していなければ無理だ。

とは言え、普通に階段を上っている最中にグレネードでも投げられては俺達にダメージがくる。

 

「挟み撃ちしよう」

 

突然、レンが意味不明なことを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の中で数を数える。

気を沈めて無用なことは考えない。

深く、深く、深く、太陽の光さえ届かない深海に沈み混んでいく。

水面には一切の波紋も広がらない。

とても静かな場所。

体がふわふわ浮いているようだ。

とても気分がいい。

 

『今です!』

 

俺は深海から一気に上昇した。

水の抵抗など無視して水面から飛び上がり、辺りの水を巻き込んで竜巻を造り上げる。

俺は走り出した。

 

「おう!!」

 

俺は階段の1段1段を無視して一直線にジャンプした。

踊り場の壁の前で猫のように体を回転させて足から壁に当たる。

そこで反動を付けると壁を両足で蹴り階段を飛んでいく。

階段を上りきった時、目の前には無数の鉄球が飛んできた。

それが全てグレネードだと気付くのにそう時間は掛からなかった。

階段を引き返そうにもグレネードは落下してくるだろう。

俺は全力で後ろに飛んで2階の廊下に逃げた。

空中でバク宙を決めて足を滑らせながら着地する。

その時、階段が爆発した。

がらがらと木が焦げ落ちる音が聞こえてくる。

もう、あの階段は使えなさそうだ。

 

「これは予想外だ。まさか避けられるとはな」

 

そう言うのはSHINCのエヴァ級の巨大を持った男だった。

エヴァと違うのは顔の角張だろう。

腕や脚の太さは俺の何倍もあり、離れていても俺は首を少し上げなくてはならない。

天井が高いため上に頭は当たらないにしても威圧感抜群の迫力。

奴が持っているアサルトライフルがどうしても小さく見えて驚異に感じない。

彼がピトフーイの恋人であるエムのようだ。

 

「遅すぎるんだよ」

 

「成る程、AGI型………スピードには自信があるのか」

 

エムは鋭い目付きのまま、銃の引き金に指を掛けた。

俺も臨戦態勢に入る為、SAO時代のスタイル二刀流になる。

右手には表面にスパークを起こしているクリムゾンレッドの"オニマルクニツナ"。

左手には紫色をした"カゲミツG4"を逆手で構える。

 

「だが、銃弾より速くは動けまい」

 

「さぁ、どうだろうね!!」

 

エムが放った銃弾を俺は光剣で弾き飛ばした。

 

 




そろそろ、SJ2編も終わりますね。
つまり、この小説自体の終わりも近付いているということ………
今度の予定ですが、SJ2編が終わると最終章が始まります。
最終章はまとめという感じで数は比較的少なくなると思います。
ですが、皆様が驚く展開にしたいです!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

96話 ピトフーイ

最近、ちょっと昔のラノベにハマってたりします。


 

「SAO失敗者(ルーザー)?」

 

聞き慣れぬ言葉に俺は首を捻った。

 

「うん。SAO失敗者(ルーザー)、ピトさんはSAOに入りたくても入れなかったんだって」

 

レンは思い返すような顔で言った。

ピトフーイを止めてくれと依頼してきた人物の話を振り返っているようだ。

 

「あの日、SAOの正式サービスが始まった日。ピトさんは仕事でSAOに入れなかったの」

 

「え?それって良いことなんじゃ?」

 

「普通の人ならね。でも、ピトさんは違った。元から過激な人だったらしいんだけど、SAOが命のやり取りをするデスゲームだったと知ったピトさんは"私も行きたかった!!"って暴れまわった。回収されたナーブギアを取り返そうともしたらしいよ」

 

「おぅ………」

 

俺はピトフーイの異常さに苦笑いが漏れた。

レンも自分で話しながら改めてピトフーイの異常さを確認したのか苦笑いしている。

つまり、ピトフーイは自分も生死のやり取りがしたいという輩のようだ。

 

「βテスターでもあったピトさんは暴れに暴れて遂には恋人までボコボコにしちゃう程になってね。まぁ、その勢いを仕事に向けられたことで解決したらしいんだけど。プラスGGOでプレイヤーを殺してストレス発散したり」

 

「それでも追い付かなくなって最終的に大会で死ねば自殺しようと計画する。原理は分からないけどSAOのような状況に自らを置こうってことか………」

 

「恋人も巻き込みながらだよ………」

 

レンは一言足して俺の想像を肯定した。

ここまで分かっているなら"警察に通報すればいいのでは?"と思ってしまうのだが、ピトフーイが"そんなことするわけ無いじゃん"と否定すればお払い箱になってしまうだろう。

警察だって暇じゃないのだから注意とかで終わりそうだ。

 

「でも、前にピトさんに"私が勝ったら現実で会う"って約束を結ばせたからこの約束を何が何でも守ってもらう!!」

 

「成る程」

 

両手でガッツポーズをしているレンの言葉には熱が籠っていた。

たしかに、ピトフーイのような人物は特定の人物との約束は破らない傾向がある………と思う。

ただ俺がそう考えているだけなのだが、異常な人って変な所で律儀だったりするのだ。

と言うことは、プロが集う大会の中でレンがピトフーイを殺し、加えて殺す前に約束のことを言って約束を守らせる。

銃がメインのゲームで1発で終わらせることができないのかよ。

 

「SAOに入ってたら何やらかすつもりだったんだよ………レッドプレイヤーの道まっしぐらじゃん」

 

「話によると、"SAOをやっていれば、そんな人殺しプレイヤーになれたのに!正義の名の下にレッドプレイヤーをぶち殺すことができたのに!"って。SAOがクリアされたときにこれまた周りの物をぶち壊していたらしいよ」

 

「ダークヒーロー志望なんだ………目には目を歯には歯を悪には悪をってこと?」

 

仕事(バイト)じゃなくて趣味だけどね」

 

「あ、このネタ知ってるんですね」

 

俺は頭をかきながら肩を落とした。

正直、レンの話を聞くまで面倒くさいとばかり思っていた。

"馬鹿馬鹿しい自殺願望者なんてどうすることもできないじゃん"と考えていた。

しかし、SAOが絡んでくるとどうしても製作側の人間として罪悪感が湧いてきてしまう。

"SAOなんて作らなきゃよかった"と茅場さんの夢を否定したくなる。

そんなの嫌だ。

憧れの人の夢を否定しない為にも目の前で起きていることぐらいは何とかしたい。

 

「SAO失敗者(ルーザー)ねぇ………」

 

俺は無意識に呟きながらGGO首都のグロッケン裏通りにあるプレイヤーが開く店でM16シリーズの棚をフカ次郎とシノンと一緒に眺めているアイの後ろ姿を見据えた。

3人はGGOトッププレイヤーのシノンのアドバイスを元に参加を決意したSJ2に向けて武器を選んでいる。

俺とレンの話など全く聞く耳を持っていない様子で大いに盛り上がっているみたいだ。

 

「奇跡としか言いようがないな………」

 

「奇跡?」

 

「ああ、いえ!何でもありません!!」

 

俺は慌てて誤魔化しながらも再度アイを。

SAOに1万あるアカウントの中で()()()()空いていた唯一のアカウントで侵入してきた自分の娘の背中を見据えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁を蹴っては横に飛び、着地したら今度は上に飛ぶ。

限られた空間をフルに使って俺はエムの撃つアサルトライフルの銃弾を避けていた。

壁を蹴ったり床を蹴ったり天井を蹴ったり、コツまで使いながら立体的に回避行動を取っているのでどちらが上でどちらが下なのか分からなくなってくる。

上下左右が分かるのはエムの形だけだ。

 

「この!!」

 

エムが唸りながらアサルトライフルの引き金を引く。

アサルトライフルの銃口からは毎回3発ずつの弾が出てくる。

俺は向かってくる最初の弾を勘を頼りに"オニマルクニツナ"で払うと2発目も打ち消そうした。

しかし、この距離になるとバレットラインと実弾のタイムラグは非常に短く無いに等しい。

2発目が俺の腹部を掠めて飛んでいき俺は3発目を逆手に持った"カゲミツG4"でなんとか弾く。

俺とエムはこのような状態を戦闘開始からずっと続けていた。

ただし、エムは銃なのでいずれ必ず弾切れが発生する。

光剣もエネルギー切れがあるのだが、流石に燃費はいい。

少なくとも後30分は熱エネルギーの刃を出したままに出来る。

 

「む!!」

 

そして遂にエムが放っていた銃弾が途切れた。

今まで3点バーストだったのに2発目で止まったのを見ると罠でもないらしい。

この好機を逃すわけにはいかない。

俺は天井からエムに目掛けて突っ込んだ。

だが、流石に弾切れした時に襲われるのを想定してたのかエムは右腰にぶら下げていたコンバットナイフを突き付けてきた。

俺は構わず光剣を振るって迎え撃つ。

 

「はぁ!!」

 

「むん!!」

 

俺とエムの間でコンバットナイフと光剣が衝突した。

しかし、ここでは漫画のような鍔迫り合いは起きない。

右切り上げした光剣"オニマルクニツナ"がエムのコンバットナイフをすり抜けたのだ。

金属で出来た実態のあるコンバットナイフに対して光剣はエネルギーの塊で実態はない。

よって、"オニマルクニツナ"はコンバットナイフをすり抜けてエムの右肩に吸い込まれていった。

 

「グウッ!!」

 

エムの右腕が宙に舞い、着地した俺の横に転がった。

俺は間髪入れずエムへ向き直して"カゲミツG4"を振り上げようとした。

エムはその巨体故に動きは鈍くまだ振り返ってもいない。

コツを使った攻撃に着いてこられる訳が無いのだが、エムの背中はどこか諦めを感じさせる。

俺は"カゲミツG4"を振り上げてエムの残った左腕も斬り落とすと、"オニマルクニツナ"で両脚の先端ももいだ。

四肢を失ったアバターではまともに動くことはできない。

エムは人形のように仰向けになって倒れた。

 

「驚いた………まさか銃弾より速く動けるなんて………BoB優勝者をあまく見すぎたか」

 

「HPはどれくらい残っている?」

 

「………眉間に光剣を刺せばすぐにくたばる」

 

エムは目を瞑ったまま全てを諦めた表情になる。

背中で感じたものだけではない。

口調に表情、なにもかもが諦めを物語っている。

だが、こちらとしては死んでもらうと困るのだ。

俺は光剣のスイッチを切ってついでにフードも取った。

久しぶりにフードを外して猫のようにブルブルと顔を震わす。

フードに針金を入れてフードが落ちないようにしていたから頭が痛い。

俺は自分の頭を撫でながらエムに言った。

 

「だって、あんたピトフーイに言われてゲームで死んだら自分も死ぬことになってるんだろ?レンさんがピトフーイを殺すまで殺さないよ」

 

「………知ってたのか」

 

エムが天井を物思いに見詰めたまま呟く。

俺は無言で頷いた。

 

「キリト君!!ピトさんがいない!!」

 

「え!?」

 

突然、1つの個室から飛び出してきたレンが勢い余って転がりながらも叫んだ。

俺は思わず口をだらしなく開けながら目を剥いた。

続いて別の部屋から出てきたアイが早口で状況を伝える。

 

「外から全部屋見ましたが何処にもいません!!」

 

「一階にもか!?」

 

「はい!」

 

俺は舌打ちして口を押さえた。

予定なら俺が一階から、アイとレンが外の窓から侵入して挟み撃ちにするはずだった。

今頃、エムを行動不能にさせてピトフーイと戦っている最中の構想だ。

しかし、肝心なピトフーイが何処にもいないのでは作戦どころかここまで来た意味がなくなる。

俺は一瞬、エムに聞き出そうとしたがエムが口を割る筈がない。

すると、インカムにザザッというノイズが発せられた。

 

『キリト上よ!!』

 

それはログハウスの遠くで待機しているシノンからだった。

このシノンの言葉は周波数を同じにしているアイとレンにも届いている。

俺達は揃って天井を見た。

木材が原木のまま積み重なったような天井があるだけで忍者のようなことをしているプレイヤーはいない。

そして、ふと、エムが物思いに天井を見詰めていたのを思い出した。

それにシノンの緊急の言葉を加えると___

 

「伏せろ!!!」

 

俺は四肢を無くしたエムを死ぬなという念を籠めて壊れた階段に蹴って突き落とすと、アイとレンを抱いてその場からジャンプした。

それと同時に天井が爆発し、爆風と爆炎に散らばった木片が俺達を襲った。

背中に爆炎などを受けて俺達は一気に廊下の端まで飛ばされてしまう。

特に俺はアイとレンを庇っていたせいで勢いよく端に激突した。

俺はヨレヨレと振り返る。

 

「………わぁお」

 

天井が破壊されて明るみを取り戻したログハウス。

その屋根の上には長い黒髪をポニーテールでにして全身を銃と弾薬などで纏った黒い女。

試合前に見た時とは全く違う風貌で畏怖すら覚える。

ピトフーイは心地よい曲を歌うように両手を広げて言った。

 

「さぁ~て、殺し合いましょ♪」

 

 




アイとピトフーイの関係!!
皆様もお分かりですよね!!
あー!もうこれがやりたくてSJ2編を投稿したようなもんですよ!!
本当に奇跡ですよね!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

97話 現実で

眠い。
いや、こんな夜中じゃ当たり前ですよね。


 

ログハウスの天井が屋根ごと破壊されて光が差し込む。

それによってログハウスの2階は廊下の奥まで見通せる程明るくなった。

屋根に登っていたピトフーイは見掛けの重装備に反して羽でも生えているかのように2階に降り立つ。

ふわりと天使の梯子を伝って降り立つ女性。

ピトフーイの一連の動作は天使や女神様のように優雅で可憐なものだった。

しかし、ピトフーイが顔を上げるとそんな妄想は脳内から削除される。

真っ黒な戦闘服に銃やマガジンを携えて黒髪は後ろにポニーテール。

そして、表情はまるで蛇。

鋭く細い瞳が俺の心臓を既に貫いているようだ。

 

「何があっても動くな」

 

俺はピトフーイに睨まれながら小声で指示を出した。

アイは左にレンは右に、両者はサイドの壁に叩き付けられて動けないような体勢を取っている。

HPを見ると2人はイエローに突入しているにしてもグリーンから数ドットしか差がない。

気絶のフリをしてもらい俺が隙を作れればいいのだが。

2人を庇ったことで俺のHPはレッドに近いイエローになっている。

この蛇のような危険人物と渡り合うとなると少々心許ない。

 

「派手過ぎるだろ………」

 

「デカネードの威力を試したかったのよ。思いの外強力で良かったわ」

 

「そりゃ、おめでとう」

 

俺は何とか会話に持ち込んで隙を伺おうとした。

しかし、ピトフーイは会話に応じるものの隙は作らず1歩1歩俺に近付いてきた。

その足音が悪魔の足音に聞こえて仮想の冷や汗が頬を蔦る。

"こんな奴が居るのかよ"と内心恐怖に埋もれかけるも表情を常に平静を取り繕う。

ただ、爆風と木片で一部肌が露出した背中が後ろの壁に強く押し付けられているのを感じ、自分が無意識に後退しようとしているのに気付いた。

それ程にピトフーイから発せられる殺気は強烈な物なのだ。

おまけに死銃のような純粋な殺気ではなく、好奇心が混じった殺気なので質が悪い。

 

「まぁ、あなたを殺すのはグレネードじゃなくてこれだけどね」

 

ピトフーイは徐に右手を背中に回すと1つの筒を取り出した。

そして、カチリと言う音と共にその筒からは青白い光が立ち上がる。

光剣だ。

 

「これで殺してあげるわ」

 

「………銃弾1発を眉間にズドンッで終わらせてくれない?」

 

「ダ~メ♪そんなのつまらないでしょ?殺した気になれないじゃない」

 

ピトフーイはニッコリと笑いながら光剣を素通りして更に近付いてきた。

アイとレンを通り過ぎて迷わず俺の元に辿り着く。

蛇に睨まれた蛙。

まさにそれと同じ状況だった。

 

「そうだ。あなた眉間に銃弾が欲しいって言ってたわね?銃弾じゃないけどお望み通りにしてあげましょうか?」

 

「………と言うと?」

 

「ビリビリ痺れる光剣を頭にぶっ刺したらどんな面白い死に顔が見れるのかしらね」

 

ピトフーイは何故か光剣の刃を引っ込めた。

 

「この"ムラマサF9"は刃を伸び縮み出来るの。少しずつあなたの脳内に刺し込んであげるわ」

 

ピトフーイはカチリと音を鳴らして"ムラマサF9"の筒上部にあるダイアルを左に回した。

すると、僅かだがひょっこりと青白い光が筒から現れる。

 

「それでは!BoB優勝者"死神"キリトを浄化したいと思いま~す!!」

 

「それは勘弁!!」

 

ピトフーイは勢い良く両手で"ムラマサF9"を眉間に降り下ろしてきた。

それに合わせて俺はピトフーイの手首を掴んで動きを止める。

だが、見た目からしても装備で分かる通りピトフーイは筋力値が異常に高く明らかにパワー型だ。

片や少しの軽金属装備で見るからにスピード重視のスピード型。

力の差と言うものは歴然だった。

しかし、俺はコツを使って筋力の限界を突破する。

 

「いいわよ!いいわよ!もっと抗ってちょうだい!!」

 

「ふぬ!」

 

ピトフーイの顔が素敵なパレードに見入る子供のような表情を浮かべている。

今の状況を心から楽しんでいると分かってしまう。

体を伸ばした形でピトフーイの手首を受けてしまいコツで押し返すことができない。

俺は態勢維持が限界だった。

 

「でも、ほら伸びるよ~。ろんぐう、ろんがあ、ろんげすとお………何か手を打たないと死んじゃうよ?」

 

俺は首を反らして何とか抵抗する。

そう言えば、今のピトフーイは背後が隙だらけの筈。

もし、アイかレンのどちらかに意識があれば襲ってもいいのだが。

どちらも動こうとする処かピクリともしない。

俺は本当に2人は気絶しているんだと絶望の中確信した。

 

「………そうだな」

 

しかし、光はある。

 

「手を()()か」

 

「へぇ?それでその手って何?」

 

俺はピトフーイの手首を両手で支えたまま、深く深呼吸をした。

そして、強く歯を食い縛って両手を強張らせた。

俺は未だ笑っているピトフーイの目をしっかりと捉えて言ってやる。

 

「俺達の手だよ」

 

パンッ!!と破裂音がログハウス全域に広がった。

続いて木を抉るような図太い弾着音と衝撃が壁に伝わる。

弾け飛んだのは俺とピトフーイの両手だった。

ピトフーイの豪快なうめき声と俺の漏れたようなうめき声が重なる。

 

「がぁ!?」

 

「ッ!!」

 

両手を失い体の態勢を前に崩したピトフーイを俺は全力で蹴り飛ばした。

右足の甲で押し出すように鳩尾にダメージを喰らわす。

ボクシングのソーラープレキサスブローだ。

横隔膜や腹腔神経叢がある鳩尾にダメージが加わると一時的な呼吸困難に陥り目眩などが起こる。

ついでに物凄く痛い。

仮想空間で同じ症状が起こるとは思えないが、多少の効果はあるだろう。

俺は自分のHPが0ギリギリにも関わらずまだ宙に浮くピトフーイに追い討ちを掛けた。

 

「はぁ!!」

 

「ご!!」

 

俺は前宙をしてピトフーイの両腕を床に踏みつけた。

ゴリッと嫌な感触が足に伝わって一瞬離れ掛けてしまうが、意地でこの場に留まった。

すると、ピトフーイがもがきながら騒ぐ。

 

「遠くてもシノンの位置は分かってたのよ!?何でバレットラインが無かったのよ!!」

 

ピトフーイがさっきまで俺と鍔迫り合いをしていた場所を睨んだ。

廊下の終わり。

そこはシノンとフカ次郎がいる方向と一致していて窓が空いていた。

 

「ライン無し狙撃だよ。引き金にギリギリまで触れずに狙いを定めて撃つ瞬間だけ触れる技術。あんたらも出来るってレンさんが言ってたけど?次からは自分達だけが出来る技術って思わないことだね」

 

「この技術は現実で銃を撃って無いと不可能よ!」

 

「"それでも、これはゲームよ"っだてさ」

 

俺はインカムから届いたシノンの伝言をそのまま言った。

ライン無し狙撃はシステムアシスト無しで狙撃する高等技術だ。

ピトフーイの言う通り本来なら現実でも銃を撃つなどして経験を積まないと難しいだろう。

しかし、シノンは現実ではなくALOで経験を積んだ。

魔法以下槍以上の射程を誇る弓で魔法以上の射程を可能にする技術。

中距離の弓にはほとんどシステムアシストは付かない。

最初はシノンも戸惑っていたが、次第に慣れていきGGOのみならずALOでも最強のスナイパーに登り詰めたのだ。

そして、シノンはGGOがゲームだと理解していた。

ALOで学んだシステムに頼らない撃ち方、GGOで深い信頼を置き癖も把握している愛銃、仮想空間をゲームだと理解する心構え。

他人が同じ方法で特訓しても先ずライン無し狙撃が出来ると断言できない。

シノンだからこその特訓だった。

 

「………私を殺すの?」

 

「殺すのはレンさん」

 

俺は後ろを振り返った。

そこにはアイとレンが並んで立っていた。

 

「動くなとは言ったけど本気で焦ったんですけど………」

 

「良いじゃないですか。その分信頼されていると言うことです」

 

アイが澄まし顔で言った。

手にはちゃっかりコンバットナイフが握られており、どうやらいつでも襲いかかれはしたようだ。

レンも引き金をしっかりと握られていてこちらも常に発砲可能だったらしい。

 

「さて、ピトさん。約束覚えてますよね?私が勝ったら現実で会ってくれるって」

 

「………レンちゃんが勝った訳じゃないじゃない」

 

「でも、私のチームが勝った。それに、ここは戦場。止めを刺したプレイヤーが勝者だよ」

 

「屁理屈」

 

レンがピトフーイの眉間にピーちゃんを押し当てながら言い争う。

どうやら、ピトフーイはレンに負けたのではなく俺に負けたと主張しており、決してレンに負けたのではないと言い張っているようだ。

対してレンは私のチームが勝ったから私の勝ちだと主張している。

このまま水掛け論をしていても時間が過ぎていくだけだ。

俺は一瞬アイと目を合わせてから最終兵器を投下することにした。

 

「俺もあんたに死んでほしく無いんですけど」

 

「なに?愛の告白かしら?ごめんね私こ___」

 

「俺、あんたの歌好きだから」

 

俺はピトフーイの言葉を遮って言った。

ピトフーイは勿論、レンにも話してなかったので2人は目を見開いている。

そして、

 

「あはははは!!!」

 

ピトフーイは笑い始めた。

首を上下に動かして息を詰まらせても全力で笑っている。

この反応は流石に予想外で今度は俺とレンも驚きで目を真ん丸にすることになった。

 

「ねぇ!!レンちゃん!!彼をどうやって仲間にしたの!?美人局!?」

 

「はぁ!?そんなことしないよ!!!」

 

ピトフーイの問にレンが顔を赤くして反論した。

"このアバターに美人局するプレイヤーはいないだろ"と思いながら俺は楽しそうにケンカするピトフーイとレンを見る。

さっきの嫌悪感たっぷりのケンカは無くなり、友達同士のケンカに変わっていた。

 

「うん!現実で会ってあげる!!色々と話したいし!!」

 

 

 

 

俺達はこの後、約束通りレンがピトフーイを殺して、エムも全てを伝えた後に殺した。

ピトフーイは笑いながら死んで、エムは安心したのか涙を流しながら死んでいった。

恋人同士全く別の表情で死んでいくのは少しおかしな感じがしたものだ。

エヴァ達はあの乱戦で敵チームごと死亡。

残ったチームはいつの間にか俺達"FLASK"と他にもう1チームだけとなっていた。

リタイアも考えたのだが、俺達は"どうせなら優勝しよう"ということで岩山と雪山の間にいた残りのチームを力押しで狩って遂に優勝。

皆、満面の笑顔でハイタッチを交わして酒場に戻って行った。

しかし、俺達は現実での集合場所を決めてすぐにログアウトしてしまう。

結果、優勝商品は2位のプレイヤーに渡ることになり2位の商品は3位のプレイヤーに渡った。

こうして、SJ2は優勝者がいるのにいないという特質な大会としてGGOに語り継がれるのだった。

 

 




はい!!と言うことで最後は強引になってしまったのは否めませんが、ご了承下さい。

それよりもです!!
え!?お気に入りが一気に増えてビックリしています!!
とても嬉しいです!!

次回ぐらいがSJ2の最終回となるでしょうね。
ラストが近付いてくる………
こんな小説でも最後までお付き合いお願い致します!!
最後には今まで溜めていたとんでも展開があるのでお楽しみに!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

98話 宴

受験シーズンですね~。
来年度は自分なのか………


勉強嫌い。


 

4月19日の日曜日。

都内某所を俺はドイツ製高級SUVの助手席に座りながら進んでいた。

車の運転手はSUVの所有者であるワイルド系イケメン。

黒い車体に紺色のスーツをビシッと決めた姿はセレブな社長にも見える。

後部座席に座るのは3人の女性。

俺の真後ろに座るのが、ジーンズにポンチョ風チュニックで落ち着いたファッションのシノンこと詩乃(しの)

勿論、伊達メガネも忘れていない。

そんな詩乃と反対側、ワイルド系イケメンの後ろに座るのは詩乃同様に伊達メガネを付けて肩までかかる薄い茶髪をウェーブさせた女子大生。

スラックスにシャツといったラフな格好をしている。

そして、その隣。

詩乃と女子大生の間に座る長身の女性。

こちらもスラックスとシャツ。

180センチを越えたスレンダーボディー。

この女性が………この背の高いショートヘアーの女性が。

あのGGOでちびっこキャラのレンだなんて………

 

「豪志さん………あとどのくらいで着きますか?」

 

俺は開けた窓から吹く風を仰ぎながらスーツを着たワイルド系イケメンの阿僧祗(あそうぎ)豪志(ごうし)さんに問い掛けた。

 

「もう少しです。なので………」

 

「胃の中ぶちまけてゲロ道にならないよう頑張りな!!」

 

豪志さんの躊躇いを含む間に後の女子大生であるフカ次郎こと篠原(しのはら)美優(みゆ)から間を埋めるように全く励ましになっていない励ましを貰う。

レンこと小比類巻(こひるいまき)香蓮(かれん)は"大丈夫?"と心配してくれているが、詩乃は呆れた様子で既に諦めている。

因みに香蓮さんと美優さんは同級生の幼馴染みであり親友だと紹介してくれた。

香蓮さんのゲーム師匠は美優さんらしい。

すると、詩乃が攻めるように言った。

 

「いっつも家にいるから車に酔うのよ!」

 

「んなこと言われても………」

 

俺は危険を顧みず窓から半分頭を出して外の空気を目一杯肺に入れる。

タクシーの時もそうだったが、どうしても他人の車に乗ると酔ってしまう。

別に臭くないのだが、慣れない匂いが原因だろう。

バスとかは平気なのに自分でも不思議だ。

しかし、流石ドイツ製高級SUV。

更に豪志さんのドライブテクニックで車体の揺れがほとんどない。

タクシーよりかは幾らかマシだった。

それでも高級車に自家製もんじゃを広げるのは論外なので、もしその時が来てしまったら外にもんじゃをお見舞いしよう。

 

「男はかっこよく車を乗りこなせないとモテないぜ!!って事で、豪志さん結婚を前提としたお話しない?」

 

「生憎、僕には心に決めた人がいるのでお断りさせていただきます」

 

フカ次郎のリアルである美優さんが、エムだった豪志さんに逆ナンを始めた。

 

『和人様にもいるんですからね』

 

「分かってる………」

 

右肩に装着されたリングに設置してあるカプセルを半分にしたような形の機械に俺は返事をした。

気のせいなのか、アイのカメラからは溜め息しか返答がなかった。

うん、多分故障だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SJ2終了後、俺達は都内にある香蓮さんの住む高級マンションに集合することになった。

埼玉の俺もほぼ完成されたアイ達用のカメラを右肩に乗せて全力で指定された住所に急いだ。

引きこもりでも、毎日剣道全国ベスト8の妹を相手にしてたら体力も自然と付く。

お陰で想定していたよりも早く香蓮さんのマンションに到着することができた。

ただ、美優さんだけその時は北海道にいたらしく、テレビ電話となってしまった。

そんな中で香蓮さんがピトフーイを助けてくれと依頼を受けた人物にメールを打ったのだ。

その時、俺とアイと詩乃は依頼主がピトフーイの恋人であることを知った。

つまり、ピトフーイの味方で俺達の敵だったエムが助けてくれと要求してきていたのだ。

愛って複雑だと本気で思った瞬間だった。

そのエムからの返信が

 

"今、俺達の未来について話し合っている"

 

文面を見て香蓮さんが大声で万歳したのは迫力があった。

何処がとは言いませんけど。

俺も詩乃と軽くハイタッチをして喜んだ。

美優さんも当然喜んでいたが、テレビの奥で五月蝿いと母親らしき人物に脳天から空手チョップを喰らって悶絶していた。

テレビから響き渡る断末魔はまるでホラー映画その物。

歓喜のムードが一瞬にして冷めたのだった。

母親怖し。

そして、お通夜ムードの中でエムからの追伸が届き、場が何とか盛り上がる。

 

"4月19日、皆様にどうかお礼をさせて下さい。何でもしますよ"

 

北海道の美優さんはその場で飛行機チケットを用意しようとしていた。

鼻息が荒かったので"何を企んでいるんだ?"と不安になった程だ。

まぁ、その企みというのが逆ナンだったのだろう。

 

「略奪愛っていいと思わない?」

 

「刺されますよ」

 

だって、豪志さんに興味津々なのだから。

今、俺達は豪志さんの車から降りて変な建物の前に立っていた。

窓がほとんどない真っ黒な四角い建物。

外観じゃ一切の用途が見えない建造物だ。

しかし、俺とアイには分かっていた。

 

「チケット代って払った方がいいんですかね?」

 

『と言うか、カメラって大丈夫なんですか?』

 

「任せてください。一応、僕は彼女のマネージャーですし、責任者でもありますから多少の融通は効きます」

 

俺とアイと豪志さんの話に着いていけない詩乃と香蓮さんと美優さんは3人して顔を見合わせていた。

豪志さんはそんな3人にある物を渡す。

それは首にかけられるカードだった。

カードには関係者の文字と豪志さんのフルネームに音符のマーク。

 

「これで裏口から入れます」

 

「えっと、何にですか?」

 

香蓮さんが悩む3人を代表して訊いた。

それに対して豪志さんはイケメンオーラ全開で答える。

出たな、"ザ・ゾーン"!!

世間では俺もリア充な筈なのに出せない特別なオーラ。

資質の差か………

 

「神崎エルザのライブですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は真っ黒な四角い建物であるライブハウスの2階中央最前列で神崎エルザのライブを堪能した。

座っているだけでステージが丸見えの特等席だ。

周りの観客も裕福そうな人物ばかりで最初は場違いな気がしてならなかった。

しかし、1000人近い観客を見下ろしながら光のイルミネーションは目を見張るものがあった。

機械的なものから自然をモチーフにした演出、透き通るような声を巧みに操りバラードから観客が盛り上がる曲。

俺達は神崎エルザが作り出す空間にのめり込んでいた。

ついでに言えば、ライブ中は小柄で清楚な黒髪美人である神崎エルザに不覚にも目を奪われ続けていた。

ライブが終わって心が落ち着いてきたのはついさっきだ。

未だにライブの余韻が残っている。

 

「思い残すことは無いぜ………」

 

美優さんに至っては硬すぎず柔らかすぎず、ライブハウス専用のイスに体をだらんと預けながら満足そうに笑みを溢している。

この中で一番盛り上がっていたのはあの人だからな。

相当、神崎エルザが好きらしい。

詩乃も香蓮さんも目が輝いていた。

アイは分からないが、ライブ中カメラからジーッと録画のような音が聞こえてきていた。

うん、やっぱり故障してる。

2時間程のライブで疎らに観客が居なくなってきた時、豪志さんが小走りでやって来た。

周りの観客に聞こえないよう耳打ちしながら端にいた俺に喋りかける。

 

「では、そろそろ楽屋に」

 

「分かりました」

 

俺は小声で頷いた。

俺は詩乃に目線で"行くぞ"と合図する。

合図を受け取った詩乃は隣の香蓮さんを突いて、気付いた香蓮さんが美優さんを突く。

 

「待ってました!!」

 

親友の香蓮さんが空手チョップという鉄槌を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優勝おめでとう!」

 

楽屋に入ると早速神崎エルザからの盛大な拍手を贈られた。

ファンに貰った花束が楽屋のテーブルに放置していて、放置の仕方で彼女の性格がよく分かる。

洞察力が高い詩乃と香蓮さんは神崎エルザの言葉と拍手で全てを察し、香蓮さんはロケットダッシュで神崎エルザに抱き付いた。

 

「よがっだ~!!」

 

木綿季よりは少し大きいものの長身の香蓮さんが小柄の神崎エルザに抱き付くと神崎エルザがまるで人形のように見えてしまう。

魔王ピトフーイが形無しだ。

 

「何で黙ってたのよ」

 

「サプライズ的な感じで。成功したろ?」

 

「そうだけど、成功し過ぎたようね」

 

詩乃が豪志さんに支えられる美優さんを哀れむように見た。

豪志さんが困っている。

中々カオスな現場だ。

 

「分かったから放してよ!」

 

「ヴン………」

 

長い時間神崎エルザをモフリ続けていた香蓮さんが神崎エルザに言われて離れた。

あれだけのライブの後に長い間モフられたら流石に疲れるだろう。

息が上がってしまっている。

 

「豪志!!」

 

「は、はい!!」

 

それでも神崎エルザは大声で恋人の名前を叫んだ。

豪志さんは美優さんを畳の床に寝かせて戸惑いながら看病していた。

美優さん大丈夫なのか?

どうやら、フカ次郎は現実でもフカ次郎のようだ。

豪志さんは神崎エルザの号令で咄嗟に直立に起立した。

 

「金は用意した?」

 

「言われた通りに」

 

そして、神崎エルザは元気よく言った。

 

「SJ2"FLASK"の優勝パーティーだ!!」

 

俺達はその日、神崎エルザのライブハウスに泊まることになった。

"私のライブハウスだから"という理由でガンガン出前を注文して料理を出し、明日が20歳の誕生日である香蓮さんにお酒を飲ませフラフラにし、大声で笑った。

ライブハウスなので音は気にすることなく叫べ、神崎エルザはステージで色々なアーティストの曲をカバーしたりと暴走。

宿主の権限を大いに振るったのだ。

俺も詩乃も独特な雰囲気とチョコレートボンボンのせいでおかしくなり、皆を巻き込みプロが使うステージでカラオケ大会を始めた。

美優さんは持ち前のハイテンションを発揮して暴走する神崎エルザに付いていけてた。

恐らく、冷静だったアイと豪志さんに止められなければ朝まで突っ走っていただろう。

起きたのは昼過ぎで、元から休むと北海道の大学に連絡していた美優さん以外の学生。

詩乃と香蓮さんは悲鳴をあげながら超特急で家に帰っていった。

学生って大変なんだ。

 

「で、和人君には聞きたいことが沢山あるんだけど?」

 

「今日は流石に帰ります。メアドくれたらALOの招待コード送りますよ。特別アイテムほしいので」

 

神崎エルザは快く頷いてくれて、俺は然り気無く神崎エルザのメアドをゲットした。

べ、別に浮気ではない。

向こうが話したいと言ってきたのだ。

ああ、最近まともに木綿季と会ってない気がする。

 

「よし、帰るか」

 

『はい!!』

 

俺は動かない体で伸びをしてから立ち上がる。

首や腰が音を鳴らすので10代にしてもう歳の心配をしてしまう。

 

「………アイ、帰ったらちょっと大事な話があるんだ」

 

『何でしょうか?』

 

「今は言えないけど、最近考えていることがあってな」

 

俺はSJ2が始まってから真剣に考えるようになった話をアイに打ち明けようと思った。

アイは"楽しみにしときます"と言って帰りのバスや電車の時刻を調べてくれる。

俺は心が傷んだ。

俺が話す内容がとても酷いことだと自分で分かっているからだ。

でも、深く考えて言うと決めた。

例えそれが、

 

 

 

 

アイを傷付けることになったとしても………

 

 




ヘイ、ヘイ、ヘイ!!
次回、キリトがあの話を!?
この小説には珍しいシリアス回になるかもしれません。
ですが!!ハッピーエンドになりますのでご安心を!!
………と言うか、自分がシリアスなどドロドロ恋愛関係が苦手なだけです。
ヒロインは決まってて欲しい派なのです。
だから!!ちゃんと木綿季の出番はあるので!!
木綿季の登場は用意しています!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終章
99話 真実


そう言えば、自分"ゲート"単行本持ってた。


現実の世界ではほぼ真夜中。

もう少しで夜の12時を回る頃だろう。

しかし、ここALOの時間帯は未だに夕暮れ前。

幾何学模様を帯びた太陽が傾いて僅かに空が青色から橙色に変色しかけている。

俺は夕焼けの海が一望できる穴場のスポットのベンチに腰をかけていた。

この場所は崖上にある迷路のような街の一部なのでそうそう来れる所ではない。

実際、俺がこの夕焼けの絶景を眺められる場所を見つけてから一度も他のプレイヤーの姿を目にしていなかった。

そもそも、この崖上の街自体がそれほど利益のある街ではないことが原因だろう。

白く美しい街ではあるが、迷路のようだしクエストもほとんどないし良い品がある店すらない。

ビジュアルを重視した気にも止めないそこにあるだけの街。

だからこそ、俺は人気が少ないこの街と場所が好きだった。

 

「まさに穴場ですね!何で言ってくれなかったんですか?」

 

「教えたら秘密の場所じゃなくなるだろ」

 

白い石で作られた塀に両手を突いて不満そうに振り返るアイにこちらも不満そうに答える。

言わずもがな、アイに教えたら絶対に他のプレイヤーに知られることになってしまうからだ。

特にアルゴの耳に入れば一瞬で半径4メートル程の石テラスは噂を聞き付けたプレイヤーによって溢れかえってしまい、テラスから落ちて落下死プレイヤーが出てもおかしくない。

 

「別に言いませんよ」

 

アイは"分かってます"と言うかのように舌をべーっと出した。

そんな太陽に重なるアイの姿は天使さながらの美しさがある。

街と同じ白のワンピース。

洋風の巫女服のような風貌だ。

その服が持ち前の銀髪と合わさり、青い瞳を際立たせている。

今のアイは可愛いと表現するには余りにも美しかった。

 

「それで?こんな人気のない場所で何を話すんですか?」

 

アイは夕焼け前の空を堪能したのか俺の隣に座った。

俺ははぐらかすように言う。

 

「いや………今回のピトフーイの件。奇跡的だったなぁって」

 

「ああ、確かにそうですよね。ピトフーイ様が仕事でSAOに入れなかったことによって私がSAOに入れたんですから」

 

SJ2のピトフーイ自殺未遂。

これは俺達と密接に関係している出来事だったのだ。

ピトフーイはSAOに入れなかった。

それ故に自殺を図ることとなる。

SAO失敗者(ルーザー)となってSAOで味わえなかった命のやり取りをGGOで擬似的に再現してしまったのだ。

しかし、ピトフーイがSAOに入れなかったお陰でアイがSAOへ侵入することができた。

1万アカウントの内1つだけ使われていなかったアカウントの持ち主が数年後に現れて殺し合いのスリルを楽しんでいたなどと誰が予想できただろうか。

たった1つのアカウントが数年後にまで絡んで事件を起こす確率のは恐らくは1%にも満たないだろう。 

今回の事件は俺の中で決して忘れられない出来事となる。

だからこそ。

俺は心に突き刺さり気のせいだと思い込んでいた妄想を数年の時を得て見つけ出してしまったのかもしれない。

 

「本当に奇跡だよな」

 

アイがSAOで使っていたアカウントデータをカーディナルの情報大図書館から見て、ピトフーイが神崎エルザと判明した時から突き刺さっていた刺。

忘れていた期間は何の問題もなかったが、1度気になり出すと胸の一部をチクチクと思い出したかのように痛め始める。

想像だ、妄想だ、幻想だ、とにかく嘘に違いない。

俺を誰だと思っている?

茅場昌彦にも認められた天才だぞ。

そんな俺が断言するんだから違うんだ!!

 

「和人様?」

 

今日の昼、決心した筈の決意は何だったのかと自分でも問い詰めたくなる程の弱音。

けれども、口は意に反して開いていく。

いくら否定しても口に出そうという意思は残っていたようだ。

そして、震える口から矛盾する脳内戦争の決着を伝えた。

 

 

 

 

 

 

「アイ………お前、SAOの事知っていただろ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何を」

 

アイはその青い瞳を大きく見開き、口を半開きにさせて身を引いた。

俺はアイの反応を見て更に深く追及する。

今度はもっと詳しく。

 

「だから、お前は知っていたんだ。茅場さんがSAOを企てていることを。………知っていた上で実行させた」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!?いきなり過ぎますって!!え?つまり、私がSAOがデスゲームだと元から知っていたと?そんな馬鹿なこと」

 

「俺とお前が再会したのはSAO開始から1ヶ月後の第1層」

 

俺はアイの誤魔化しにも聞こえる言葉を遮って喋り始める。

 

「俺はその時11レベだった。対してお前は5レベ」

 

「は、はい、そうですけど………私なんか半分以下です。βテスターの和人様に1日で追い付ける訳無いじゃないですか」

 

確かにアイの言う通りだった。

俺は当時、βテストの経験を活かしてアルゴと共にクエストをこなしていた。

そのクエストの中には討伐クエストなど必ず戦闘を行わないとクリアできないものもある。

本来ならば数人で作られたパーティーで挑む中ボス的なモンスターと非戦闘員のアルゴに代わって1人で対峙した時もあった。

否応にもレベルは必然的に上がっていく。

それは攻略組の中でも1番になれるほどに。

 

「けどな、俺は1ヶ月かけて11レベまで上げたんだ。何でお前は5レベを1日で上げられる?1番高いレベルだった俺でも5レベになるまで半月かかってるんだぞ」

 

その時、アイの表情が明らかに強張った。

両手も震えていて緊張しているようにも見える。

しかし、それでも言い分は変えることなく"たまたま良いモンスターの湧き方をしたまでです"と逃げられてしまった。

だが、今の表情の変化で俺は確信してしまう。

ここで逃げられては一生逃げられたままだ。

俺はさらに踏み込む。

 

「………そもそもの話だ。お前は最初に何処で多く言葉を覚えた?」

 

「…………………ネットワーク内です」

 

アイは墓穴を掘らないようにか長い間の後に答えた。

しかし、この質問に対した意味はない。

答えが考えなくても分かっていることだからだ。

アイを生み出したのは俺で真のAI用言語プログラムを組んだのも人間味を与える為にネットに流したのも俺。

アイの流暢な語呂に多くの雑学はそのせいだ。

肝心なのはアイがネット上に流れその流れの中で知った言葉を覚えているという所。

 

「じゃあ何で!何でお前はあの時"情報収集中の記憶はありません"って言ったんだ!!」

 

「ッ!!」

 

アイの表情がまたも変わる。

その表情は強張るどころではない。

自らの失態を悔やんでいる表情だ。

 

"情報収集中の記憶はありません"

 

この言葉は茅場さんが我が家に来た時、アイが言ったのだ。

情報収集中の記憶がない。

なら何故そんなにも喋れている?

言語プログラム以上の言葉を話し知識を得ている?

勿論、他にも可能性はあるが、俺がやったのはネットワーク上に流すことだけ。

普通のAIならば人間が1から教えたりと予め用意したプログラムを与えるだけだ。

しかし、アイは普通のAIではない。

感情があり、元から知性というものが存在している。

それは自我があると言うこと。

考えることができ、どれが単語で言葉で知識なのかを判断出来るのだ。

 

「お前は見ている筈なんだ!!アーガスのデータベースを!!………いや、あの計画のことを!!」

 

「そんなの見ていません!!!あんな計画知っているなら真っ先に報告します!!」

 

アイが頭を押さえて嫌々するように頭を振る。

 

「いいか?ハッカーは1度ネット内で逃げられると居場所を特定するのはほぼ不可能になる。ましてや1年もかかっていたら足取りなんて無いに等しい」

 

「そんな訳無いじゃないですか!!」

 

「お前の能力だとそれを100%で出来る!茅場さんの言った1年は長すぎるんだ!!けど、それじゃ茅場さんが家に来れた理由が分からない。………お前が茅場さんに教えたんだ!!」

 

俺は初めてアイを怒鳴り付けた。

不思議に思っていた。

茅場さんがアイに対して不自然な程に慣れしんでいたことを。

それに迷わず俺にカーディナルを造らせようとしていたことにも疑問を抱いていた。

あの時は初めて茅場さんに会えて浮かれていたから気にもしなかったが、今考えてみると不可解な点が多過ぎる。

茅場さんは色々と理由を言っていたが、1年かけてアイの居場所を突き止めるのは不可能で、ハッキング機能を作れるからと言って人間が不要なゲームサーバーを作れる道理はない。

 

「………ぃゃ!!」

 

「待て!!」

 

遂にアイは乱暴に立ち上がって逃げ出そうとした。

それを引き止めるべく、俺はアイの腕を掴んだ。

アイは俺の掴んだ手を剥がそうと、細く小さな腕を振ったり逆の手で叩いたりしてきた。

俺は何をされようともアイの腕を放すことはなかった。

 

「放して!!」

 

「駄目だ!!」

 

「放してって言ってるじゃん!!」

 

口調が変わり取り乱しているのがよく分かる。

激しく動いたせいで髪が乱れて息も上がっている。

いつものアイが絶対に言わないような言葉を俺は一言も聞き逃すことなく受け入れた。

 

「言ってることが分からないの!?」

 

「今放したら…………」

 

アイの腕を握り締め。

俺は言った。

 

「2度とアイと会えなくなる!!!」

 

その後、アイが一瞬怯んだ隙に俺は腕を引き寄せてアイの体をこれでもかと抱き締めた。

 

「俺はアイの親なんだ………」

 

それにアイは

 

「…………だって、だっでぇ!!!」

 

年相応の泣きじゃくり方で大声を上げながら涙を流していた。

 

 




遅くなってすみません!!
最近、大学の説明会やら宿題やら白猫プロジェクトやら小論文やらで忙しいです………
大学は遠いし、宿題は簡単だけどめんどくさい系だし、白猫プロジェクトは良い武器でないし、小論文書き方しらんし。

とまぁ、こんな感じで忙しかった訳ですよ。
次回は土日のどちらかには投稿できると思います!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

100話 危惧

ボンジュールモナーミ!!

モンデュー!?
インフルで寝込んでいたら投稿が遅れたでござる!!
ま、まぁ、皆も怒って無いようで結果オーララでござる!


む、難しいでござる………フラン語。

ダコール!!!


 

 

「本当のことを言うと………初め見たのは()()()としてのSAOだけでした」

 

「それってデスゲームじゃないってことか?」

 

「はい………」

 

アイが力無く体重を俺にかけてくる。

それに、俺の左腕を抱き締めるようにしながら鼻ををすする。

目元はまだ若干赤くなっていて、瞳そのものが今にも洪水しそうな程に潤んでいた。

まぁ、それも当然で先程までアイはダムの決壊並みに号泣していたのだから仕方ない。

数年間溜め込んだ涙を一気に流していたのか、声が大きすぎて流石に他プレイヤーが来ないか心配になったぐらいだ。

しかし、泣きながら腕に抱き付かれて"ごめんなさい!ごめんなさい!"と言われればどうすることも出来ないのは当然で、俺は結局泣き止むまで待つしかなかった。

そして、やっと泣き止んだのがついさっき。

アイは数分もの間絶えず涙を流していた。

 

「ゲームの仕様やモンスターの初期グラフィック。ナーブギアが対象者の頭に送る信号データのまとめなど色々な情報がアーガスの共通データバンクにはありました。けれど、1つだけ足りなかったんです」

 

「それが、カーディナルシステム」

 

「そうです………シナリオ、バトル形式、日常の多様性。どれも高いクオリティでしたが、茅場様が目指す"完全な異世界"に必要な核がありませんでした。それは素人の私でも分かりました。………人間のメンテナンスを一切必要としない完璧なメインプログラム。SAOに携わる人達は皆、茅場様の要求する不可能に近い代物を実現させようと必死だったようで、試作品も多く見られました。まぁ、どれも不備ばっかりでカーディナルシステムの足下にも及びませんが」

 

「それでアイはこっそり俺の事を茅場さんに紹介したのか」

 

アイは躊躇いがちに頷いた。

つまり、アイはまだこの時点でSAOがデスゲームだったと知らないことになる。

でも確かに、アーガスの共通データバンクにSAOをデスゲーム化させるプログラムがあったらアーガスに勤める誰かが気付くかもしれないし、そんな大事な物をアーガスに置いている筈がない。

そんなことしたら茅場さんが須郷なんかと同レベルになってしまう。

恐らくは個人のパソコン、あの山奥にある隠れ家にでも隠していたのだろう。

 

「茅場さんは最初どんな反応を?」

 

「そりゃ、驚いてましたよ。本当に世界初の完璧な人工知能なのか確認するべく遠隔操作の可能性とか色んな可能性を吹っ掛けてきました。全部証明してみせましたけどね」

 

アイがひきつった笑みを浮かべる。

泣き疲れたのかアイには覇気が無く腕にかかる体重も少しずつ重くなっていた。

俺はアイと出会って驚いた時の茅場さんの顔を想像して見た。

が、どうしても驚いた顔を思い浮かべることが出来ない。

恋人である神代さんからも朴念仁と揶揄されているのだから表情のバリエーションがよく分からないのだ。

微笑なら見たことあるのだが、驚きの顔は勿論のこと悲しい顔や怒った顔も………というか怒ったり泣いたりしたことが無いんじゃないかと思えてくる。

 

「………で?いつからデスゲームだと知ったんだ?」

 

俺はアイが答えにくいだろう質問を訊いた。

答えやすいよう気軽に優しく怒気を含ませない口調にしたつもりだ。

それでもアイは一瞬体を震えさせて答えるのを拒んだように見えた。

だが、答えなければ話は進まない。

認めているのに正確なことを話さないのは野暮すぎる。

ここで答えなければまた怒ることになりそうだった。

幸い、アイは決心したのか話してくれた。

 

「和人様と茅場様が初めて会った日です。"これはゲームであっても遊びではない"って茅場様が呟きながら出てった後にすぐ茅場様自身から私だけにメッセージが届いたんです。そこで全てを知ることになりました」

 

「え………じゃあ、あの言葉は」

 

「和人様にヒントを与えたかったのも否定はしませんしあると思います。ですが、あれは私に伝えたかったのかもしれませんね」

 

俺は既に太陽が完全に沈みかけている紫とオレンジ色の空を仰いだ。

ALOの一番星が太陽に負けじと光っているのを見つけて気が抜けてしまう。

茅場さんは僅かにだが、ヒントを残していたのだ。

多分、途中経過の会話にも送られた資料にもヒントはあった。

しかし、俺は見落としていたのだ。

浮かれて周りに目を向けていなかった。

 

「気付くことは出来たのか………」

 

「和人様のせいではありませんよ。………私はその時浮かれる所か思い上がっていましたから」

 

「は?」

 

俺は思わず聞き返してしまった。

思い上がりなどアイからは微塵も感じたことのない感情だったからだ。

 

「私はあの時"まぁ、私なら止められる"って思っちゃったんです………!!」

 

アイは歯を噛んで悔しそうに言う。

後悔なんて生温い、まるでその時の自分を蔑むようにした口振りだった。

俺はアイにそんなことを思える時期があったということよりも、今のアイに驚いてしまう。

アイは今まで物事に対して反省をすることはよくあったが、ここまで過去の自分に本気で怒り心から否定したことは無かった。

 

「"和人様も尊敬している人だしゲームは完成させるけど計画は阻止しよう"って………でも!!結局、計画は実行されてしまった!!私はプログラムを消去して阻止したと思い込んでいたんです!!ですが、茅場様は私の考えていることを見透かしたように別に隠してあったデスゲーム化させるプログラムを私に悟られずSAOへ埋め込んでいた!!それも私が聞かされていたSAOの内容と全く別の物に!!」

 

アイは自分に言い聞かせるように言葉を吐き捨てた。

聞いているだけで辛くなるアイの叫びに俺は黙って耳を傾ける。

アイの叫びは続いた。

 

「私は焦りました。自分の犯した過ちにやっと気付いたんです!!だから、私はカーディナルシステムにハッキングを試みました!でもカーディナルシステムは完璧過ぎたんです!!和人様が造ったとしても所詮は人の作ったプログラムと思っていたのに侵入しようとすればするほど強固になっていくセキュリティに絶望しました………!!私は………和人様のことも茅場様のことも自分より下に見ていたんですっ…………!!!」

 

再度、アイの涙腺が崩壊して大粒の涙を下に落とした。

泣き叫ぶ訳でもなく、過去の自分が犯した罪を恥じて申し訳なく思い決して許されることでは無いことを改めて確認したようにただ、涙を流している。

 

「和人様のように騙された訳でもない!カーディナルのように半分昏睡状態で意識が無かった訳でもない!私は………全てを知っていた上で自分は凄いと思い上がって失敗し、4000人の人を殺してしまった!!!挙げ句の果てに私はその事を忘れようとして、最近では本当に忘れていた!!!…………本当に最低な奴なんです………私は」

 

俺が面を食らっているといつの間にかアイは俺の腕から離れていた。

ベンチから立ち上がって夕陽を見つめるアイは今にも消えてしまいそうな程儚く俺の目に写っている。

俺はそれが怖くなって思わず手を伸ばした。

しかし、アイは振り向いて言ってしまう。

 

「私………和人様の所を出ていこうと思っています」

 

「な!?」

 

「私は最低な奴なんです。思い上がりで多くの人を殺してしまった………だから、今さらですが和人様と一緒に居るべきじゃないんです」

 

アイの顔は寂しそうだった。

同時に諦めの表情も伺えた。

当然、俺は考え直すよう説得する。

俺も茅場さんのヒントに気付けなかった、アイが居なければSAOをクリア出来なかった、気休めにもならない………もしかしたら傷つけるようなことを言ってしまったかもしれない。

俺は死に物狂いでまくし立てた。

だが、アイは一向に考えを変えてはくれない。

 

「実は結構前から考えていたんです」

 

俺はそれまで吐き出していた無意味な説得の言葉を止めた。

アイがいなくなってしまうという現実に打ち負けそうになっていたのだ。

そこにアイはだめ押しの一発を無慈悲に加えてくる。

 

「木綿季様の病気が治った時から考えていたんです。この先私と和人様の間には決定的な溝が生まれるって」

 

「そんなことない!!」

 

「ありますよ。………和人様はこれから木綿季様と文字通り一緒に生きていくんだと思います。数年経てば結婚までいくでしょう。………そして、子供が産まれる。元とは言えHIVに感染していた木綿季様が産む子がHIVに感染しているのかは分かりませんが、今の医学は優秀です。感染してたとしても普通の生活は送れます。兎に角、子が産まれると言うのは同時に溝が生まれることでもあるんです」

 

現実味があるアイの話に俺は押し黙ってしまった。

漫画の主人公とかならここで"そんなことない!!"とでも言うのだろうが、生憎俺にはそんな無責任なことを言える勇気は無かった。

アイの想像は()()()()将来必ずやって来る未来を言い当てているのだ。

これはアイに限ったことではない。

ユイとカーディナルにも言えること。

つまり、絶対的な人間とAIによる種族の壁だ。

 

「私が………私達がいる限り家庭は気まずくなりますよ。更に言えばAIはネットワークさえあればどんな所でも生きていける。ずっとずっと、居ることになります。どこかで溝が決定的になってしまうのは目に見えています」

 

しかし、俺はアイに言っていなかったことがあった。

アイが危惧する未来の根本から覆してしまう重要で重大な内容だ。

あまりに衝撃が凄くて俺も未だに嘘なんじゃないかと思っている。

 

「今日は良い機会です。私のような最低な奴が消えるんですから和人様も出来ることなら安心して下さい。それと、ユイとカーディナルはちゃんと考えるよう言っておいてくださいね」

 

「アイ………」

 

俺は後ろから聞こえてくる足音に気付き意識しながら言った。

 

 

 

 

「俺と木綿季の間に………子供は産まれない」

 

 




どうなる次回!?

再度言いますが、ハッピーエンドなのでご安心を!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

101話 家族になろうよ

予言しよう。
青春ブタ野郎シリーズは絶対にアニメ化する!!!
てか、してほしい!!

自分の中では一番で初ラノベのさくら荘のペットな彼女。
それに続く青春ブタ野郎シリーズはぜひアニメ化してくれないと困る!!
多数決ドラマもやってるしアニメ化するよね?するよね?

連載中の作品で一番好きな青春ブタ野郎シリーズに対する自分の思いです………


 

 

「何を………」

 

信じられないとばかりに驚きの表情を浮かべている。

膝や肘の四肢が細かく震えていて、今にも崩れてしまいそうだった。

俺はそんなアイにもう1度強く言った。

 

「だから、俺と木綿季の間には子供は産まれない」

 

俺は拳を握り締めながらアイを見据える。

アイは口を金魚のようにパクつかせていた。

急な告白に何を言って良いか分からなくなっているように見える。

強めに言ったからか嘘としてでも捉えられていないらしく、混乱状態になっているのがよく分かった。

俺は振り返ってアイの相手を交換する。

 

「と言うよりか、ボクが子供を産めないだけなんだけどね」

 

「ゆ、木綿季様………!!」

 

石のテラスにやって来た彼女、木綿季は紺色の髪を掻きながら笑っていた。

しかし、その笑いも普段とは明らかに異なった笑いで作り笑顔ということがバレバレだ。

人懐っこく誰とでも仲良くなれる木綿季だが、この半径数メートルのテラスに立ち込める陰湿な空気に気が引けているのだろう。

喋る言葉もどこかよそよそしい。

 

「どういうことですか!?」

 

陰湿な空気を吹き飛ばし、全身を使ってアイが俺と木綿季に問い掛けてくる。

自分が決心した家出の全てではないにしろ大部分を占めている理由が、根底から覆されるのだから無理もない。

俺と木綿季はお互いを見てから頷き合う。

 

「不妊症………倉橋先生が言うには子宮付属器炎が原因だって」

 

木綿季が穏やかな口調で言った。

多分、あまりアイを刺激しないようにという配慮なのだろう。

しかし、アイは膝を折ってその場にへたれ込んでしまった。

女の子座りになって瞳が震えている。

丁度、現実より明らかに速く動く太陽が水平線に沈んでいき完全な夜が訪れた。

アイの心が沈むと太陽も沈んで暗い夜を迎える。

それはまるで、アイの心境とALOの世界が同期しているようだった。

俺はアイの側に寄り添って肩を抱いた。

 

「何で?何で?何で?」

 

アイは壊れたCDプレイヤーのように"何で?"と繰り返す。

 

「HIVウィルスだ」

 

「ッ!!」

 

HIVウィルス、これは人間の免疫機能を低下させてしまう恐ろしいものだ。

しかし、本当に恐ろしいのはHIVウィルスなどではなくHIVウィルスによる合併症。

HIVウィルスによって低下した免疫につけこんだ細菌どもが体を侵してしまうのだ。

木綿季の場合、最初に発症したのがニューモシスチス肺炎でAIDSと診断された。

その後も様々な合併症が木綿季を襲ったのだが、その中に卵管炎が混じってしまったらしい。

原因は大腸菌。

全ての人間が宿しているであろう超身近な細菌だ。

そして、卵管炎を発症すると平行して卵巣炎も起こしてしまう。

卵管炎と卵巣炎を合わせた言い方が子宮付属器炎。

幸いにも木綿季の子宮付属器炎はHIVウィルスが除去される直前に発症したもので、悪化はしなかった。

しかし、最後の最後で最悪の余韻が残ってしまう。

 

「木綿季は不妊症の中でも早発閉経と呼ばれる症状だ」

 

遺伝性、医原性、自己免疫、等が要因とされているものの正確な原因は不明。

43歳に届いていないにも関わらず卵胞がほぼ消失して閉経を迎えてしまう病だ。

木綿季はまだ15歳で43歳には程遠い。

 

「で、でも、薬で妊娠の可能性はあるはずです!!」

 

「それはあるけど可能性としては低いって、子宮付属器炎を起こしたから卵管の通りも悪くなってるし」

 

木綿季は自分のお腹を両手で撫でた。

顔は笑っていてもやはりまだ作り笑いだ。

残念ながら俺は男であり女ではないから今の木綿季の心境は理解できない。

だが、木綿季は言っていた。

 

"空っぽになった気分"

 

俺が木綿季から聞いた言葉。

木綿季が赤ちゃんを産めない体になってしまったと初めて聞かされた時、木綿季はそんなことを言った。

ガラス越しに見える寝たきりの木綿季は自分が感じていることを率直に言い、俺は泣いてしまった。

その時に木綿季から"何で和人が泣くのさ?"と呆れられてしまったが、正直今でもよくわかっていない。

 

「何で2人にだけ………」

 

「「ん?」」

 

そこでアイは両手も床に突いて四つん這いになった。

俺と木綿季は揃って首をかしげる。

すると、アイは急に嘆いた。

 

「何でこうも2人にだけ不運が訪れるんですか………!?木綿季様は体を和人様は精神に深い傷を負った………酷すぎますよ………」

 

たしかに、俺達は呪われているんじゃないかと思える程不運に見舞われている。

お互い両親を無くして、命の危険にもさらされた。

木綿季は病気になり、俺は1人では他人とあまり話せなくなってしまった。

波乱万丈とはよく言ったものだ。

………ただ、それだけじゃない。

 

「まぁ、お陰でこう幸せな家族に出会えてるんだし良いだろ別に。終わりよければ全て良しだ」

 

「たしかに!ボク今とても幸せだよ!!」

 

俺達は四つん這いになっているアイの腕を掴んで無理矢理起こした。

そして、石テラスの塀にアイを真ん中にして寄りかかった。

 

「言い方は悪いけど、両親が居なくなったから新しい家族と出会えた。事故に巻き込まれなければ倉橋先生やナツキさんやアオイさんとも会えなかったし、コミュ障にもなってなかっただろうからアイも産まれていない。アイがいないなら茅場さんとも会えずSAOがあったのかさえ分からない。つまり、アスナ達にも会えなかったかもしれない」

 

「でも………」

 

「たしかに、ボク達の人生ってビックリするぐらい運が悪いけど、その分良いこともビックリするぐらいあるよね」

 

俺は左腕を木綿季は右腕を、アイの腕に絡ませた。

空には無数の星が散りばめられていて目を見張る。

その上流れ星まで観れたんだからもう万々歳。

 

「一応、薬は飲むけど別にボクは赤ちゃんが欲しいとは思っていないよ」

 

夜空を見渡しながら木綿季は口を開いた。

それにアイが驚いて喉を詰まらせるような音を出した。

その音がおかしくて俺は思わず吹き出してしまう。

アイが抗議の目を向けてきたが目をそらして誤魔化す。

………可愛かったんだからしかたないだろ。

すると、思わぬ所から制裁が飛ぶ。

 

「パパ、今のは少し失礼ですよ!!」

 

「相変わらずデリカシーが無いのじゃな?」

 

石テラスに入って来たのはユイとカーディナルだった。

ユイは白のワンピース、カーディナルは黒っぽい賢者服と杖。

2人は責めるように俺を睨んできた。

 

「ちょっと、可愛いと思っただけだから!!」

 

俺は勿論すぐに反論した。

これで許してもらえず嫌われたら即刻ここから海にダイブして自殺するのも頭の淵に置いている。

まぁ、2人は仕方無く風にだが許してくれた。

そして、カーディナルは俺の隣、ユイは木綿季の隣に座る。

 

「ほら、ボクと和人には3人も子供がいるし子供は十分だよ。まぁ?和人がその………エッチなことして子供が欲しいって言うなら別だけど?」

 

「言い方に悪意がありすぎだろ………怒ってるの?ちょっと強引になったこと怒ってるの?」

 

「野蛮人め」

 

「おい、カーディナル!!」

 

「変態さん」

 

「ユイまで………ちょっと何?いじめ!?いじめなの!?」

 

娘に変態扱いされると心に巨大な傷ができると知った瞬間だった。

もう本当に転落してやろうかと思った程。

と言うか今も思っている。

だって俺は家族から変態扱いされて生きていけるほど神経図太くない。

こうして俺がどうにかして誤解を解かなければと考えているとき、アイが急に笑い出す。

 

「アハハハハハ!!!」

 

「どうした?」

 

()()、私達はAI!関係の終わりはいつかやってきます」

 

「いいや、無いね。俺と木綿季が死ぬまでに電脳化してやる。それで世界の終わりまでずっと一緒だ」

 

「それでこそパパですよ!!」

 

何がおかしいのかアイはずっと笑っている。

そのせいで自然と俺も笑みが溢れてきてしまった。

木綿季、ユイ、カーディナルもつられて笑ってしまっている。

家族5人の大合唱だ。

 

「約束ですよ?」

 

「何がだ?」

 

「世界の終わりまでずっと一緒ってことです」

 

「当たり前だ!!」

 

最愛の娘の為だ。

絶対に約束は守る。

何があっても、一緒にいてやらないと。

 

「じゃ、来てくれるよな?」

 

「えっと、何処にですか?」

 

俺は満面の笑みで答えた。

 

 

 

「ロシア」

 

 

 

この後に響き渡る4人の叫び声は多分一生忘れない。

だって、面白すぎた。

 

 




テストなんかし~らんぺったんきゅ~り。

最終回まであと少し!!
頑張っていきましょう!!

では、評価と感想、ついでに誤字脱字等の報告よろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

102話 3人の天才

白猫プロジェクト………とある事情でデータが消えてしまった………
しか~し!!改めて始めた白猫プロジェクト一発目の11連ガチャでなんとノアが当たりました!!
神は私を見捨てていなかった!!


東京都台東区にひっそりと看板を上げているお洒落な喫茶店"ダイシー・カフェ"

昼間の来客数はお世辞にも良いとは言えないが、"ダイシー・カフェ"のマスターであるエギルによると主な収入源は夜の時間帯らしい。

危ない仕事に首を突っ込んでるのかと聞いてみたところ、はぐらかされたうえに"お前の方がヤバイだろ"と返されてしまった。

ちょっと心配になった。

だが、この店にそう言う客が来るとしても夜のことだ。

今の昼時、客は俺を含めた2人しかいなかった。

 

「それで?私と一緒に来てくれるのかしら?」

 

「口説き文句としては物足りないな」

 

俺は彼女に皮肉を返しながら、グラスに注がれたジンジャーエールを一口飲んだ。

相変わらずここのジンジャーエールは辛い。

横をチラッと見ると彼女が頬を膨らまして俺と同じジンジャーエールをぐいっと飲んでいた。

さて、初めて飲む"ダイシー・カフェ"のジンジャーエールにどんな反応をするのだろう。

俺が見ていると彼女は体を一瞬ビクッとさせてジンジャーエールを吹き出しかけた。

どうやら、予想外の辛さに噎せてしまったらしい。

俺はやれやれと言った面持ちで備え付けの水を彼女に渡す。

 

「そんなに辛かったか?」

 

「ビックリしただけよ!!」

 

彼女は顔を赤らめながら反論してきた。

しかし、彼女の身長はアイと同じかちょっと大きいぐらい。

ちっちゃい小動物が威嚇しているようで全然怖くないのだ。

俺は手元のお絞りで彼女の口周りに付いたジンジャーエールを拭いてやる。

彼女は唸りながらも大人しくしていた。

七色・アルシャービン。

12歳ながらも世界の名門マサチューセッツ工科大学を主席で卒業し、現在仮想ネットワーク社会について研究をしているロシアが生んだ超天才。

世間では茅場さんを闇とするならば彼女は光と例えられている。

 

「で?」

 

「で?って言われましても………」

 

「だ~か~ら~!!私の研究室に来るのか来ないのかどっちなの!?」

 

そう、俺は輝かしい経歴と功績を持った彼女に言わばスカウトを受けているのだ。

それも大分前から。

本来、中卒扱いにされている俺がロシアの一流研究施設から勧誘を受けるなど異常にも程がある。

しかし、どういう訳か七色は俺の裏の顔を知っていたのだ。

俺が政府の犬として法で裁けぬ悪を裁くためのダークヒーローだということを!!

いや、違うけどね。

実際は俺が自宅で開発しているアイ達用カメラの設計図や組織プログラム。

それらを資金集めと言うことで元アーガス幹部らを通じて大企業に売ったのだ。

その売り出し先でたまたま七色の目に止まったらしい。

ストーカーばりの情報収集能力で菊岡に行き当たり、奴の嫌がらせでカーディナルシステムの設計者だとバラされてしまったのだ。

本当に菊岡にはアイ達のことは言わん!!

 

「質問いいか?」

 

「どうぞ」

 

「ロシアに行ったら何処に住めばいい?」

 

「私の家があるわ。どうせ独り暮らしだから好きにしてちょうだい」

 

12歳の子供に独り暮らしをさせるなんて日本では考えられない芸当だ。

これも七色の天才っぷりというかカリスマ性なのだろう。

 

「日本人の俺はロシアに長い間いられない」

 

「3ヶ月ごとに日本に戻ればいいわ。資金は出すから」

 

七色はいやらしく人差し指と親指で丸を作り、お金のポーズを見せ付けた。

資金力なら俺も多少自信があるのだが、相手が七色ならば比べ物にならない。

 

「言語の問題」

 

「それぐらい覚えなさいよ。質問が多いわね。猫に食べられちゃうわよ」

 

「それを言うなら注文な」

 

天才とは無茶を言う。

生憎、俺はロシア語を勉強したことがない。

知っている単語と言えばハラショーとかスパシーバ?ぐらいだ。

某アイドルアニメでしか聞いたことがない。

俺がロシアに行くなど異世界漂流とほとんど同じ感覚なのだ。

文化も言語も人種も違う。

一見、無謀な案件だ。

しかし、研究課題を聞いたときから俺の心は踊っている。

 

 

 面白そうだ

 

 

それだけで十分な理由になる。

ただ、俺は1人でロシアに行ける程精神が強くない。

情緒不安定になってしまうだろう。

だから、

 

「条件を出す」

 

「何でもどうぞ」

 

「木綿季を俺の秘書として迎える」

 

「………良いわ」

 

七色は難しい顔をしながらも承諾してくれた。

どんな形であれ木綿季が側にいてくれるなら大丈夫だ。

何でもできる気がしきてならない。

俺は上がったテンションを下げる為に残ったジンジャーエールを一気に飲み干した。

喉がヒリヒリと痛むが今はそれが丁度良い。

七色は変な人を見る目で俺を見ていた。

 

「でも、大丈夫なの?木綿季さんってリハビリがあるのよね?」

 

「ああ、だからロシアに行くのは俺が18歳になってから。それまでに車椅子ぐらいにはなりたいってさ」

 

「木綿季さんが言ったの?」

 

「と言うか、家族全員で決めたことだから。満場一致で送り出してくれる。ALOがあるし会えなくなる訳でもないからな。母さんに至ってはお土産の方を楽しみにしてるし」

 

アイの短い反抗期事件を終えた後、家族の前で俺はロシアに行くことを話した。

反対があると思ったのだが、家族全員が賛成してくれて木綿季はリハビリを頑張ると仮想空間から宣言していた。

スグもお兄ちゃんに負けないよう全国優勝を目指すと意気込んでいる。

両親からはお土産リストまで貰ってしまった。

しかも、お金は俺が払わないといけないらしい。

 

「とにかく来てくれるのね?」

 

「ああ、よろしく」

 

俺は差し出された七色の手を握った。

そうなると、晴れて俺は七色の部下になったと言うわけだ。

年下の上司程やりにくいものはない。

決めたとたんモチベーションが下がってしまった。

 

「何でうちの店で世界的な契約を交わしてるんだよ………」

 

「他に場所がないからだ」

 

"ダイシー・カフェ"マスターのエギルがカウンター裏からワインボトルを数本箱に入れて戻ってきた。

エギルはそのワインを棚に規則正しく並べていく。

夜の開店準備らしい。

 

「雑誌に出たらここのことを紹介するわ。それで問題ないでしょ?」

 

「客が来てくれるならな」

 

七色はワインを並べるエギルに対して面白そうに言った。

この容姿に備えられた頭脳、加えて七色はアイドル的なことも行っている。

ALOでは大規模なライブまで用意されたりとVRを使った新しいネットアイドルだ。

評判も良くテレビで幾度となく取り上げられている。

超天才で超人気アイドル。

このようなひっそりとした店は落ち着くのだろう。

多分、こうは言ってるものの七色は"ダイシー・カフェ"を宣伝しないし、エギルもその事を分かっている。

すると、七色は思い出したかのように指を立てた。

 

「そうだ。和人君に紹介したい人がいるのよ」

 

「紹介?」

 

「ええ、このプロジェクトに参加するもう1人の天才よ」

 

七色はアイドルらしく立てた指を横に振る。

俺は誰だろうかと考えてみた。

七色と言う天才が天才と呼ぶ人物だ。

恐らく、テレビで見たことあったり誰でも知っている有名人の筈。

ロシア人?アメリカ人?規模が世界的すぎて予想が立てられない。

 

「実はね。もう、ここに呼んでるの。カリフォルニア工科大学在学中だけど彼女の研究テーマとプロジェクトが重なることもあって大学に申し入れたわ」

 

「大学から引き抜いたのかよ!」

 

「違うわ。あくまで協力よ。まぁ、説得には時間が掛かったけど、あることを言ったら今までの拒絶が嘘のように変わったからね。ビックリしちゃった」

 

そんな時、カランカランと来客を知らせるベルの音が響いた。

俺は振り返って来客者の顔を見たとたん思わず叫んでしまった。

 

「神代さん!?」

 

「久し振りね。和人君」

 

「あなたの事を話したら二つ返事で引き受けてくれたわ」

 

そこには俺が殺した茅場さんの恋人が人懐っこい笑顔で俺に手を振っていた。

 

 




神代さ~ん!!
久々の登場ですね!!
和人、七色、神代。
さてさて、何を作るんでしょうね~?
まぁ、分かる人には分かると思います。
この説は有名ですからね。

あと、普通に和人君喋れてますがちゃんと理由があるのでご安心を

では、評価と感想、誤字脱字等の報告お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

103話 AR

灰と幻想のグリムガル
いやー、オススメですね。


 

「こ、神代さんがもう1人の?」

 

「ええ、私も七色さんの研究に参加することになったの」

 

開いた口が塞がらないとはまさにこの事。

予想外の来訪者に俺は口をあんぐりと開けたまま固まってしまう。

クリーム色の薄手のカーディガンに白い膝下まであるスカート。

全体的にゆるふわコーデの神代さんはそんな俺の肩に手を置いた。

 

「これからよろしくね」

 

「あ、はい!!こちらこそ!!」

 

人を引き寄せる優しい笑みを浮かべた神代さんの顔を見て、俺は目を逸らすように頭を深々と下げた。

別に恥ずかしかった訳ではない。

いや、確かに少しは恥ずかしいと思ったが主な要因はそれではない。

俺は未だに神代さんへの接し方を把握出来ていないのだ。

メールなど面と向かう形じゃ無いのなら何の意識もしなくて良いのだが、いざ向かい合うとしどろもどろになってしまう。

恋人を殺してしまったという事実が今になっても拭いきれていないらしい。

神代さんは気にしていないと頭では分かっているつもりでも"もしかしたら"を考えてしまって冷や汗がでる。

 

「えっと、和人君って神代さんに逆らえないのかしら?」

 

「ま、まぁ個人的には………」

 

「別に良いんだけどね」

 

神代さんは笑顔を浮かべたまま俺の隣に座った。

エギルにコーヒーを頼んでいる姿は様になっていて流石アメリカに住んでいる人は注文する所から雰囲気が違うと感じさせる。

俺では店の雰囲気に呑まれてしまい注文の時に噛んでしまうだろう。

この然り気無い行動1つ1つが憧れる。

そこで気付いた。

 

「こ、神代さんって雰囲気変わりましたね」

 

「そう?私は特に変わってないと思うけど?」

 

神代さんVer.にこやかスマイルが店に入って来てからと言うもの、神代さんは常に笑顔を絶やさないでいる。

それは以前の神代さんVer.クールビューティーとは少し違うように見えた。

決して以前の神代さんが全く笑わない人だったということではない。

が、常に笑顔ということも無かった。

アメリカに行って何か神代さんに変化を及ぼす出来事があったのだろうか。

 

「まぁ、多分それは七色さんから勧誘を受けたからかしらね」

 

「違うでしょ。和人君と研究が出来ることに浮かれてるのよ」

 

「は?俺と?」

 

訳のわからない事を口走る七色に俺は"馬鹿なの?"という視線を送った。

ただ、七色はチビりとジンジャーエールを飲んで返信してくれなかった。

そもそも神代さんの研究テーマは茅場さんと同じで量子力学だった筈。

それもVRに特化したVRMMORPGなどのVRゲームブームの今急激に発展を繰り返すようになった激戦の分野。

神代さんはその激戦の中でも頭1つどころか3つぐらい飛び抜けている学者だ。

天才と呼ばれていても不思議ではなく、寧ろ七色と同様に天才と呼ばれるべき人物。

俺なんかと一緒に研究して浮かれるなど以ての外でそれどころか唾を吐かれて捨てられても良いレベルなのだ。

 

「私が言うのも変だけど、桐ヶ谷君って自分が認めた人には絶対に追い付けないとか思ってるでしょ?」

 

「あっと………認めたと言うか憧れた人にですかね。特に茅場さんと神代さんには」

 

「それは光栄ね。先輩が唯一認めた子に憧れを抱かれるなんて」

 

「先輩って………茅場さんが!?」

 

「そう。先輩いつも桐ヶ谷君のことを褒めてたから。顔にはあまり出さないけど我が子のようにべた褒めよ」

 

あの茅場さんがべた褒め。

想像が全く出来ない。

俺が知っている茅場さんはいつも冷静で会社幹部に異常なカリスマ性で指示を出す帝王みたいな人。

不敵な笑みを見せて全てが計算通りのような顔で隙を一切見せない完璧な人間って感じに思っていた。

そんな茅場さんがよりにもよって俺をべた褒め?

俺が脳内で思い描いている茅場さんがいくらか美化されているのは自覚しているものの、茅場さんがべた褒めというのは幾らなんでもありえない。

そう、茅場さんとは雲の上の存在なのだ。

あ、もしかしたら本当に雲の上にいるかもしれないのか。

 

「分かってる。べた褒めって言っても先輩にしてはってことよ。でも、そんな先輩がべた褒めしている桐ヶ谷君に私も憧れたの」

 

「神代さんが?」

 

「カーディナルシステムを初めあらゆるシステム構成能力。自由に動くVRと連動したカメラを作り出す機械工学。1つ1つの完成度と精密性は一級品でシステム構成能力に至っては世界中探しても類を見ないわ。分野は違えど憧れるなって方が無理よ」

 

「そうね。和人君は一部の人に過小評価し過ぎ。私に誘われた時点でちょっとは浮かれなさいよ。自分なんかが行っていいのかってウジウジするなんてそれでも男?」

 

双方からの褒めているのか罵倒しているのか分からない言い分に肩を狭めるしかなくなる。

別に俺は自分の事を過小評価している訳ではない。

売りに出した機器などを買ってくれる会社があることからそれなりに自信も付いている。

ただ、他の皆と一緒に作るということに少しばかり抵抗があるだけだ。

七色のことを信用していないということではなく、単にSAOのことを引きずっているだけ。

友達と離ればなれになりたくないと言うのもあるが、一番の理由はそこにある。

 

「まぁ、参加するから」

 

「当たり前よ」

 

しかし、やはり俺は何かを造るということに快感を覚えている。

自分が造った一部が他の部品と合わさって大きな物を完成させる。

どんなに抵抗があっても俺は今まで無かった物を創りたいと思うクリエイターだ。

七色と神代さんが関わるこの一代プロジェクトに少しでも俺の力が加われば最高の思い出になるだろう。

それを考えると鳥肌が止まらなくなる。

 

「それで?俺達が開発する物って何だ?」

 

「そうだった。私もそれを聞きたかったのよ。大学が特別に参加を許可する程なんだから凄いことなのよね?」

 

「まぁそうね。今から開発する機器は常人ならまず不可能な物よ」

 

七色は天才特有の不敵な笑みで俺と神代さんを見た。

それに対して俺と神代さんも同様の笑みを返す。

 

「Augmented Reality. つまり、()()()()よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、キリトよ」

 

「なんだ?」

 

「俺の店を世界を驚かすプロジェクトの会合場所みたいにするのはやめてくれねぇか?」

 

七色と神代さんと別れた後、俺はまだエギルの店に入り浸っていた。

七色から受けたプロジェクトの企画のまとめをパソコン内に保存して置くためだ。

ネットから完全に遮断されたパソコンにさっき行った会話を暗記した限りで出来るだけ打ち込んでいく。

整頓するのは帰ってからだ。

 

「残念だけど無理。他人に迷惑を掛ける訳にはいかないだろ?」

 

「俺は良いのかよ!?」

 

「何のために借金の一部を肩代わりしてやったんだよ」

 

「お前の資産だと雀の涙じゃねぇか」

 

諦めたのかエギルは不機嫌そうに俺が注文したアイスコーヒーを乱暴にカウンターに出した。

そう、俺は店を準私物化するためにエギルが抱えている借金の一部を返してやったのだ。

お陰である程度なら好き勝手できるし、律儀で真面目なエギルも恩を感じて渋々承諾する。

まぁ、一応迷惑はかけないよう心掛けてはいる。

すると、エギルの店には似合わないメタリックな防犯カメラが独りでに動き出した。

それを確認した俺は今操作しているパソコンから手を外してその横にある様々なファイルが展開するパソコンに手を置いた。

 

「どうだアイ。現実にいる感じはあるか?」

 

『そうですね。1つのカメラより2つのカメラで行った方が奥行きが出しやすいと思います。まだ少しだけですが、2次元的に感じますね。どうしても1つのカメラで実現したいなら』

 

「カメラの精度を上げるしかないか。画素数よりも距離計か難しいな音波でも当てるか?」

 

『いや駄目ですよ………』

 

七色、神代さん………俺だって2人とは違う方法だが、AR(拡張現実)の研究は初めてるんだぜ。

驚く七色と神代さんを想像しながら俺は悪戯を企てる子供のような表情になる。

18歳になるのが楽しみだ。

…………あー、結婚できる歳なんだな。

 




AR!!
つまり?
はい!!次回はやっと和人君と木綿季ちゃんのいちゃラブ回になるかと思われます!!
よーし、がんばるぞい!!

では、評価と感想お願いします!!


どうしよう。3月中に終わらない………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

104話 誕生日

茶熊学園頑張るぞい!!
エシリアGOGO!!


暗い、暗い、暗い。

何処よりも、何よりも暗い闇が続く世界。

何も聞こえない、ガムテープを貼り付けられて喋ることすら許されない。

手足は縛られ手首から足首にかけて1本の荒縄が繋げられている。

こんな姿になってから何時間が経過したのだろう?

数時間?数分?

精神的には数日が経過しており抵抗する力すら残されていない。

俺はこのまま死んでしまうのだ。

折角、七色や神代さんと計画したプロジェクトが本格的に稼働してきた絶頂期に俺は餓死してしまう。

 

「おーっす」

 

すると、暗闇の世界に一筋の光が射し込んで俺の顔を照らした。

眩しくて薄目になるも、俺は声の主の顔を見た。

独特な声質に軽い口調。

されど懐かしく小さい頃から今までずっと聞いてきた声。

 

「よし、出掛けんゾ。キー坊」

 

俺は"はねる"を使った。

………しかし、何も起こらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?昨日の昼頃から今日の昼頃まで俺を部屋で監禁して何を企んでるんですか?」

 

「秘密ダ」

 

俺はアオイさんが運転するとある車に乗せられていた。

スポーツカーのような外見に加えて赤い車体。

それに車内が異様に美しく正面から天井まで繋ぎ目のないガラス張り。

極め付きは縦に開くドア。

間違いなく高級車であり、イタリアの高級自動車メーカーを連想させる。

というか、絶対そう。

跳ね馬のエンブレムが見えてるから絶対そう。

ポルシェじゃない。

しかし、これは突っ込んだら負けなのだ。

この人の闇は凄いから………

 

「いや、怖いんですって。昨日の昼に作業してたらいきなり部屋に入り込んできて寝技で極められて起きたときには拘束されている。それから笑顔で電気を消されてドアを閉めらられるしって最悪だったんですからね!?無理矢理体起こしてドアまで行っても開かないしパソコン電源入らないし!!」

 

「静かにしろヨ。お詫びにオレっちの愛車に乗せてやってんだロ?ラ フェラーリだゾ?知らないのか?2013年の限定モデル。フェラーリ初のハイブリットカーで全世界に499台、日本には45台しか存在しないんだゼ?オレっちが初めて自力で手に入れた車で今でも愛用してるんダ。苦労したヨ。マニアから買って1回も走らせてないのを見せてもらってから交渉するのに1年もかかったんだからナ。あらゆる手を使って売らざるおえない事態に追い込んでやっタ」

 

「今の現状より怖いこと言わないで下さいよ!?なにしたんですか!?」

 

「ああ、あいつ株で儲けてるやつでナ。その株を………」

 

「言わなくていい!!!」

 

俺は隣に座り肩を弾ませながら楽しそうに運転する俺より2回り小さな悪魔の話を断ち切った。

ほぼ24時間、監禁状態にされたことなど関係ない。

たしかに幾度となく恐怖に見舞われたが、今の会話の内容の方がよっぽど恐怖を感じてしまう。

俺は違うことを考えようと思った。

大富豪から限定版フェラーリを強奪した話など聞きたくない。

取り敢えず、俺は辺りの景色をうかがうことにした。

丁度、一般道から高速に乗るところで隣の車を運転する人と偶然目が合った。

その人は驚いたように俺を見た後、車体を眺めてから最後に運転するアオイさんに目を向けた。

俺は釣られてアオイさんを見る。

うん、身長160センチギリギリの高校生………下手したら中学生が運動しているように見えてしまう。

 

「飛ばすゾ」

 

「へ?」

 

ETCで料金所を通過した瞬間、KERSを用して100キロまで2.5秒以下、200キロまで7秒以下、300キロまで15秒という俺が今まで味わったことない加速力が全身を襲った。

座席に背中が押し付けられてエンジン音が力強く高速道路に鳴り響く。

 

「な~!!!」

 

その瞬間、世界が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん………で、エギルの店………」

 

俺は膝に手を突いたまま息を整えていた。

高速道路で法律違反級のスピードを体感して肉体的にも疲れてしまったのだ。

ハリウッド映画の中でしかない見たことがないハンドルさばきで走る車の間を難なく抜けていき、メーターは100キロを優に超えていた。

それでも、向かう方向を見て東京に行くことは大体予想出来た。

埼玉と東京は接しているしこの馬鹿げたドライバーの運動も長くは続かないと思っていた。

しかし、道中最悪な事態に陥ってしまったのだ。

………そう、警察だ。

日本の高速道路で100キロ以上のスピードで暴走するなど法律違反以外なにもない。

諦めて調子に乗ったと運転を止めれば良いのに横の悪魔は何故か更にスピードを上げてしまったのだ。

"警察なんかに負けるかヨ"

イニシャルDで描かれるような操作で車を扱い、パトカーとカーチェイス。

最終的にはアオイさんが急にカーナビを操作したかと思うとカーナビからプルルルと電話の音が鳴り受話器を取るような音が出たかと思うと"オレっちを追う警察を止めてくレ"と運動しながら言ったのだ。

アオイさんはそれだけを言って電話のようなものを切ってしまった。

そうすると、何とあれだけしつこく追ってきていたパトカー数台が嘘のように遠ざかっていったのだ。

 

「イヤ~、思ったより到着遅れちまっタ」

 

「警察とカーチェイスなんかするからですよ………」

 

と言うわけで、エギルの店に着くまで大分時間を要してしまったのだ。

愛車のフェラーリも近くの車庫に止めておき、足をふらつかせて辿り着いたのがエギルの店。

車酔いすらさせてくれない暴挙に俺は倒れそうになっていた。

 

「ホイホイ、さっさと入んナ」

 

「って言われても何があるんですか?」

 

「開けたら分かるからサ!」

 

アオイさんは下手くそにウィンクした。

俺は嫌な予感を感じつつも、恐る恐るだが扉の取っ手を掴んだ。

そして、どうにでもなれ!と思いながら勢いよく扉を開けた。

 

「「「「「ハッピーバースデー!!!」」」」」

 

「…………へ?」

 

そこには俺が知り合ってきた人達が皆揃ってクラッカーを俺に向けて鳴らしていた。

テーブルには沢山の料理と飲み物が並べており、横断幕のようにぶら下げられる紙には"キリト 誕生日おめでとう!!"と書かれていた。

俺は錆び付いたロボットのように首を曲げてアオイさんの方を振り返る。

 

「キー坊の誕生日パーティーダ」

 

「俺の!?」

 

「そうだぜ!!」

 

「おうふっ!!」

 

俺は酒臭い口臭に顔をしかめながら後ろから肩を組んできたクラインに文句を言った。

 

「臭い!!飲んでるだろ!?」

 

「おめぇが来ないのがわりぃんだよ!!主役のくせに遅刻してんじゃねぇよ!!」

 

そう言ってクラインは俺を無理矢理店内に押し入れた。

勢い余って躓くと、アスナが俺を支えてくれた。

アスナだけじゃない。

アスナを始めとしたSAO時代からの仲間にシノンや七色、神代さんまでいる。

七色は食べ物に夢中のようだが、姉の虹架に注意されていた。

 

「本当に俺の?」

 

「当たり前だよ」

 

俺が確かめるように聞くと、奥から車椅子姿の木綿季がやって来た。

 

「ボクの時は病院に居たから出来なかったけど、サプライズ側も面白いね」

 

木綿季は楽しそうに両手で口を覆った。

俺は思わず木綿季を力一杯抱き締めてしまう。

木綿季の姿がどうしてもいとおしく、いてもたってもいられなくなってしまった。

 

「ほら、楽しもう!!」

 

「う゛ん………!!」

 

2026年10月7日、今日は俺の誕生日だった。

 

 




急に飛びましたがご了承下さい!!
次回は割りと早く投稿出来ると思われます(出来るとは言ってない)

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

105話 誕生日2

あー、白猫で忙しい。
ごちうさプロジェクトを目指して引くぞツキミ!!


 

 

絡み酒というのは何とめんどくさい行いなのだろうか。

相手の心情なぞ察しはせず、高いテンションとノリと呂律の回らない口から発せられる意味不明な寒い親父ギャグでその場を保たせる。

こちらも酒を飲んで同じテンションに達すればその時は楽しめるかもしれないし、何かやらかしたとしても翌日の二日酔いなる頭痛を代償に全てを忘れ去ることができる。

しかし、いかんせん俺は今日18歳になったばかりで酒を飲める年齢には2年程足りない。

ああ、若さがおしい。

そういうことで俺はクラインとエギルの酒臭い口臭を我慢しながら話を聞き流さなければならないのだった。

 

「この前合コンで会った女もよ~、俺の職業と年収を聞いただけで"あ、ならいいです"って言うんだぜ!?どっちの"いい"だよ!Yesなの?Noなの?」

 

「おい、クライン!そいつは絶対にNoの"いい"だ」

 

「本当に何なんだよ!!年収1000万以上ってハードルたけーよ!!」

 

むさ苦しい大男2人に挟まれながらお気に入りのジンジャーエールを酒臭さの気晴らしにグラスの半分まで飲む。

先日の合コンで出会った女性の愚痴を湧き水のようにドバドバと吐き出すクラインとその吐き出した愚痴を素早く回収するエギル。

このやり取りが始まってからというもの、かれこれ1時間は経過している。

最初の数分は何とか着いていけていたものの、流石にこれ以上は酒の力がないと耐えられそうにない。

しかし、未成年が酒を飲むわけもいかず俺は救いの手を差し伸べてくれるようカウンターを覗いた。

そこにいたのはエギルと同年代の絵に描いたような女性。

SAOにエギルが囚われていた2年間、この店を1人で守り抜いた中々根性のあるエギルのお嫁さんだ。

エギル同様温厚で誰にでも優しい奥さんなら、この状況をどうにかしてくれるはず。

俺はそう願っていた。

だが、奥さんは俺の視線を感じた瞬間に素早くカウンターの下から2本のワインボトルを取り出してズドンとカウンターに置いてしまった。

それに餌に群がるカラスのような勢いでエギルとクラインが食い付く。

 

「おう!わりぃな!!」

 

「あざっす!!」

 

エギルとクラインはそのワインボトルを器用に開けてグラスに注いだ。

俺は体に溜まる不満を全て吐き出すつもりで盛大な溜め息を吐いた。

どうやら、大人は大人の味方らしい。

今さらだが、今日は俺の誕生日パーティーだった筈。

俺の後ろでは俺が今まで出会ってきた人達が大勢食事を楽しんでいて、アスナや木綿季を始めとした女子グループに至ってはそれはもう究極のお花畑。

お世辞抜きにして俺が出会った女性は美少女ばかり。

うふふふ、あははと美しい花びらが舞っているような特異空間がそこにはあった。

木綿季、シノン、七色、七色の姉の虹架、アスナ、サチ、シリカ、俺の妹のスグもいる。

アオイさん、ナツキさん、神代さんの大人が集まる落ち着いた雰囲気ではないピンク色の世界。

何だあそこは…………

滅多に見れる光景では無いと頭が自衛隊のスクランブル級の緊急警報を鳴らしている。

俺の心には眼福として目に焼き付けておかないといけないという謎の使命感が壮大に渦巻いていた。

エギルとクラインのせいでチラリとしか見れないが愛しの木綿季があのような理想郷に存在しているのだから見ない訳にもいかないのだ。

そうだ、反撃の時が来たのだ!!

俺は意を決して酔っぱらいどもに押さえ付けられていた肩を強引に回して首だけではなく体を捻って振り返った。

すると、2人の肩は力を加えた途端に崩れるよう倒れてしまう。

 

「………え?」

 

「「………」」

 

返事がない、ただのしかばねのようだ。

エギルとクラインは2人仲良くカウンターに頭からぶっ倒れていた。

俺は恐る恐る視線を奥さんに向けた。

奥さんは舌をちろりと出して笑っていた。

 

「ありがとうございます」

 

いつもなら女怖いとか思っていたのだろうが、この時だけは心から奥さんに深く感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生日パーティーの潮時になり皆が片付けを始め出す。

テーブル一杯にあった料理も飲み物も全てが綺麗に無くなっていた。

女子グループはそんな料理に使った食器を洗う係、酔っぱらって動けないエギルとクライン以外の男子………つまり俺は装飾品を取り去っている。

酔っぱらい組は奥の部屋で隔離しておき、車で来たアルゴは他の皆が無事に帰れるよう電車時間などを調べてくれていた。

 

「本当にありがとな」

 

「うん、ボクも楽しめたし良かったよ」

 

俺は車椅子のせいですることがない木綿季に改めてお礼を言った。

木綿季は自分も何かしたいのかウズウズしている。

俺はそんな木綿季の頭にとあるカチューシャを装着してみた。

猫耳である。

 

「和人~?」

 

「あ、いや………現実でも見れたな~って」

 

装飾品のほとんどはSAOに馴染み深い物ばかりだった。

血盟騎士団のシンボルマークや木綿季が所属していたスリーピングナイツのシンボルマーク。

街中で売っていた小物品も飾られていて、出てきた料理は料理好きのアスナがSAO時代の品を再現してみたものだった。

そんな中で見付けたのがアルゴノーツのクエスト中に手に入れた猫耳。

と言っても、そこらで売っている安物だろう。

バイキングの被り物のような形で飾られていた。

 

「にゃ~ん?」

 

「おお、食っちまうぞー!」

 

木綿季が手を丸めてにゃんこポーズをとったので、俺はがぉーと木綿季を襲うポーズをしてみた。

すると、にゃんこ木綿季は食べていいよとばかりに手は丸めたまま両手を広げた。

生憎、俺は大勢の人がいる前で理性を吹っ飛ばせる程、野生的ではない。

しかし、理性を完璧に保てる程、紳士的ということでもないのだ。

唇でも奪おうか………いや、それは恥ずかしいし撫で撫で………では我慢できない。

俺がどうしようかと悩んでいると脳天に軽い衝撃が走った。

振り向くとシノンが第2撃目を放とうと鋭く形作られた手刀に力を込めていた。

 

「迷ってる時点で十分野獣じゃない」

 

「え?別に迷ってる訳では………」

 

「目が泳いでるわよ」

 

シノンが心を読む妖怪サトリのように見事なまでの読心術で俺の考えていることを読み取ってきた。

溝鼠でも見る目で俺を捉えるシノンは悪い虫から子を守ろうとする親のようだ。

 

「木綿季も挑発しない。襲われるわよ」

 

「え!ここで!?」

 

「襲わねぇよ!!」

 

シノンの言葉に木綿季は自分を抱き締めるようにしながら身を引いた。

その行動に若干傷付きながら俺は反論する。

しかし、それは皆の前でと言うことであり2人っきりだった場合は分からない。

絶対とは言わないが高い確率でにゃんにゃん木綿季を………

俺って変態じゃね?

 

「ほら、それよりアルゴさんが駅までのタクシーを呼んでくれたみたいだからお金出しなさい」

 

「あの人が出してくれるんじゃないのか」

 

「手持ちのかお金をほとんど持ってきてなかったらしいわ。ただ飯だと思って」

 

フェラーリ持っているのにただ飯に目が眩む人間を初めて見た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このくらいのスピードで良いか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

俺は木綿季が乗っている車椅子を慎重に押しながら暗い夜道を歩いていた。

木綿季が車椅子になってからまだ日が浅く、今になっても力加減が分かりずらい。

上り坂や下り坂は勿論のこと特に車輪の高さと同じかそれ以上の段差を乗り越えなければならない時はひやひやしてしまう。

車椅子を押している限り乗っている人を心配させてはならないのが常識だ。

その為に場合場合によって声をかけていく。

下がりますよ、止まりますよ、進みますよ。

短い間でも一時期は車椅子生活を送っていたからこそ、その一言一言が何より大切だということがよく分かる。

それを活かせればよかったのだが………

 

「あ、スピードが落ちた。また、ビビったでしょ?」

 

「まぁ………馴れてないし」

 

バリバリに俺の不安が木綿季へと伝わっていた。

これは俺が初めて木綿季の車椅子を押すことになった時からずっと続いている。

緊張してるの?テンション高いね!変なこと考えてない?

どうして俺の回りにいる女性は読心術の達人ばかりなのだろうか。

1度誤って下り坂を前から降りそうになった時、木綿季は"ちょっと、ジェットコースター!?"と冗談混じりに止めてくれた。

その時は丁度ロシアに行くことが決まって色々と忙しい時期だったのでぼーっとすることが多々あった。

木綿季はそれを見抜いて"忙しいなら寝ないと駄目だよ"と笑顔で言ってくれたりもした。

 

「やっと着いたか」

 

「それって重かったってこと?」

 

「違う!」

 

俺は家に着いたのを確認すると車椅子の速度をゆっくりにした。

門から玄関まで少しだけ長いしフカフカの土に石の足場。

柔らかい場所と硬い場所が交互するため嫌でも速度を落とさないと車輪が引っ掛かってしまう。

何とか玄関まで来ると仕事で親がいなく、スグもその両親のおつかいで居ないという無人の家に鍵を刺した。

息子の誕生日まで仕事という立派な社畜に敬礼を捧げたい。

 

「ほい」

 

「うん」

 

俺は玄関の中まで入って木綿季を抱き上げた。

まだ長い時間立っていられない木綿季は家でも抱っこされることが多い。

たまに調子がいい時などでは、リハビリの一環で掴まり立ちや掴まり歩きをしたりする。

それが俺と一緒にロシアへ行くためだと分かっているから余計応援したくなってしまう。

ただ、今ははしゃいだ後なので体力が無いのだろう。

体をぐでっと俺に預けていた。

俺は2階に上がって木綿季の部屋に入った。

本当なら1階の方が便利なのだが、木綿季の強い希望で今も昔と変わらず自分の部屋で生活している。

俺はそっと木綿季をベットの上に下ろした。

 

「疲れた………」

 

「シャワーとかどうする?」

 

「一緒に入る?」

 

「遠慮する。スグが戻ったらでいいか。それまで寝てていいぞ」

 

「ありがと、それじゃお言葉に甘えて」

 

木綿季は糸が切れたように倒れこんだ。

そして、俺は木綿季部屋を一旦出て自分の部屋に入った。

 

「開けてくれ」

 

『了解です』

 

テーブルにある電子式ロックがかけられた引き出しを開けた。

紺色の小さな箱。

大きさ的には手のひらに充分収まる程だ。

しかし、こんな小さな箱でも持っているだけで俺の心臓は破裂しそうに強く脈打つ。

 

「どうしようこれ?」

 

『『『知らない』』』

 

多分、この時が人生で一番頭を使った瞬間だったと思う。

 




次回、遂に!?

評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

106話 夢

今期のアニメは何を見ましょうか?

くまみこ、坂本ですが?、ジョジョ、テラフォーマー、暗殺教室、などなど。
個人的には豊作なんじゃないかと思っています。


 

 

俺は迷い、悩み、考え抜いた。

スグが帰って来て木綿季と一緒にシャワーを浴びてもらっている時も。

俺の番になりシャワーの熱い水を頭から被っている時も。

木綿季とスグが一緒の部屋で寝静まった時でさえ、俺の頭は今日一番の回転力を魅せていた。

俺が睨んでいるのは小さな箱。

パソコンを備え付けられたちょっと近未来系の机の中心にある悩みの種。

この中にはとある宝石がプラチナのリングに美しく施されている。

これを手に取った時は"この世にこれ以上の物はない"と本気で思っていた。

しかし、今この時に限って言えば"何故こんなのがあるんだ?"と若干思ってしまう。

これをいつ、何処で、どのように渡せばいいのか。

こんな見た目ちっぽけでも凄まじい意味を持った箱と中身があるからこそ、俺はそんな単純かつ無理難題なことに人生を賭けなければならないのだ。

もういっそのこと無かったことに出来ないのだろうか?

 

「……………」

 

そして、あさが来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人生は~♪紙飛行機~♪』

 

一階に降りてみると昔放送されて平均視聴率が23.5%を記録した大人気連続テレビ小説の再放送を見ている母さんがいた。

ソファーに寝転びながら半開きの瞳で必死に睡魔と戦っている。

どうやら一挙放送らしい。

仕事で疲れているなら一度寝れば良いものの、母さんは寝ずにこれを観ようとしたようだった。

対して俺はどうだろう。

一睡もしていないのに何故か逆に頭が冴えている。

アドレナリン全開だ。

俺は母さんの邪魔をしないようにそっと台所に回って棚の上にあるバナナの束から1本バナナをむしった。

俺はバナナを持って部屋に戻ることにした。

 

「………誕生日おめでとう」

 

すると、母さんは突然階段を上がろうとしていた俺に祝福の言葉を向けた。

 

「お、おう………」

 

最初から気づいていて、誕生日のことも覚えていてくれたらしい。

俺は小っ恥ずかしくなって生半可な返事をしてしまう。

でも正直、とても嬉しかった。

ただ、母さん。

顔がゾンビみたいになってるから怖いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうやって渡そうか。

俺は昨夜と同じ体勢で同じことを考える。

まずは逆に俺がこれを貰う側だったとしよう。

ノリが悪いなど言われるかもしれないが、俺の場合どうやってでも良いし何処でも良い。

まぁ、ゴミ捨て場で地面に打ち付けながらだったり、森の中で熊に追い掛けられながらだったりだと流石に俺でも嫌になってしまう。

兎に角、一般常識の範疇なら何でも良いということだ。

しかし、これはあくまで俺のこと。

一緒に育ってきたからといって木綿季も同じ思考とは限らない。

ずっと一緒にいた人物でも他人の心を100%正確に読むのは不可能なのだ。

 

「………」

 

然り気無く渡すか、豪華に堂々と渡すか、ドラマのように渡すか。

どれが木綿季の望むシチュエーションだろう。

はたまた、どれが木綿季に一番似合うだろう。

人にサプライズで贈り物をする時。

結局は自分が心の中で思い描いたその人物の身勝手な妄想が嬉しがるだろうシチュエーションで渡すことになるのだ。

自己満足でしかない。

よって結論、相手に聞くしかない。

 

「そんなことできないよな………」

 

ここで最初に戻る。

相手にどんな風にこれを貰いたいって訊ける訳がない。

訊いたら感づかれてしまうし、その相手が木綿季という身近で恋人なら尚更なのだ。

無限ループに思考が入ってしまっている。

いったい何回同じ思考を繰り返しているのだろうか。

もしかしたら100回は軽く超えているのかもしれない。

誰か!!俺に刺激を!!何でも良いから刺激を!!!

 

「最初から考えるか………」

 

さて、先ずは俺がこれを貰う側だったとしよう。

………分かっているのに止められない。

でも、もう一度考えれば答えが出るかもしれない。

最後にそう思ってしまうからこのジレンマが続いてしまうのだ。

 

「和人~」

 

刺激が来た!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、ましろ。実家だよ」

 

「ニャ~」

 

ましろが入ったキャリーバックを膝に乗せて木綿季は白い建物を懐かしむように眺める。

横浜の総合病院で俺と木綿季が大変お世話になった場所だ。

特に木綿季は先日までこの病院で入院をしており、今でも頻繁に通院している。

今日も定期検診ということで木綿季は俺とましろを連れてやって来たのだ。

 

「何でましろも連れてきたんだ?」

 

「最近リハビリとかで相手してあげられなかったからね。里帰りみたいな感じだよ」

 

我が家の愛猫はここの病院で産まれた。

俺は寝てたから詳しいことは知らないが木綿季が生後間もないましろに一目惚れをして猫の管理人に直談判したとか何とか。

他にも猫はいたようだからましろの兄弟か姉妹がいるかもしれない。

心なしかキャリーバックのましろもテンションが高い。

 

「それじゃ、ボクは倉橋先生の所に行ってくるから和人はましろを見てて」

 

「ああ、ならいつものベンチにいるよ」

 

俺は木綿季からましろを預かると木綿季と別れて裏庭に向かった。

中々広い庭なので裏庭には2羽鶏がいる。

それと、散歩する患者さん達に腕に包帯を巻いている坊主頭の男とツンデレそうなロングヘアーの女。

残念だが、木綿季の方が1グーゴルプレックス倍以上つまりグラハム数並みに可愛くて綺麗で可愛くて綺麗だ。

俺どんだけ木綿季のこと好きなんだよ。

ちなみに、検索サイトGoogle(グーグル)は10の100乗googol(グーゴル)のスペル間違いで生まれた言葉らしい。

間違いが無ければ今頃俺達はググるではなくグゴるを使っていたのかもしれない。

 

「間違えても歴史に名を残せて逸話にもなるって凄いよな」

 

俺はましろをキャリーバックから出すと青々とした芝生の上に下ろした。

家では寝てばかりなましろだ。

たまには運動もさせないといけない。

俺は走り回るましろを想像しながらましろを見つめた。

すると、ましろは想像通り走り出したかと思ったら俺が座ろうとしていたベンチにかけ上がって丸くなってしまった。

 

「そこまで寝たいか」

 

ましろちゃんはいつもけだるげ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が青い。

高いところから地上を見下ろすと吸い込まれそうになるのと同じような気分になる。

ただ、高所と違って俺は地上にいるので安心感が半端ない。

俺は点々と浮かんでいる雲にこう言いたくなる。

"ヤーイ、ヤーイ。ここまでおいで~!どうせこれないんだろ?風に流されるしかない水っけの多い綿飴が!!"

しかし、俺も大人だ。

雲が可哀想だし思ったことを直ぐにペラペラと口にするわけではない。

安心しなよ雲。

 

「で、お前は動かないよな」

 

俺の横で丸くなる小さな雲。

ではなく、ましろ。

折角、産まれ故郷に来たというのに帰巣本能というのは無いらしい。

家と変わらずただ寝ている。

こいつが自然に放されたら一瞬で狼などの猛獣に淘汰されるに違いない。

 

「ましろはここに居たときから寝てたからね」

 

「あ、木綿季の検診終わったのか?」

 

「うん、倉橋先生が和人によろしくって」

 

俺は携帯を取り出して時間を見てみる。

丁度、12時を回った時だった。

どうやら、空を眺めていたら時間が思いの外早く過ぎていたみたいだ。

 

「よいしょっと」

 

木綿季は足腰を踏ん張って車椅子からベンチへと移ってきた。

少しハラハラしたが、毎日のリハビリで大分筋力は戻っているようで難なく移動出来ていた。

俺、ましろ、木綿季の順番にベンチが埋まってましろはどう思うのだろう。

 

「いやー、ボクの夢が1つ叶ったよ!」

 

「夢?」

 

「そう、こうして和人とましろを挟みながらこのベンチに座ること。実はましろを連れて来たのもこれがしたかったから」

 

木綿季はチロリと舌を出して笑った。

その木綿季にとっては何事でもない自然な仕草に俺の心臓は高鳴ってしまう。

木綿季の夢に俺が加わっていたことでさえ嬉しいのにそんな表情をされてはたまらない。

俺は照れ隠しにましろを撫でた。

ましろは大きなあくびをして気だるそうに体を動かして撫でる場所を指定する。

ふてぶてしい奴だ。

 

「1つってことはまだあるのか?」

 

「勿論!!プールに行きたい、遊園地に行きたい。海に行きたい、山に行きたい。ロシアはどんな所があるのかな!?色んな所に行きたい!!」

 

木綿季は両手を合わせて体を震わせる。

そして、どんどん候補を口にしてく。

木綿季にとってこの世界は輝いてみえるのだろう。

数年も病院から1歩も出られず、ほとんどのことが初めての経験。

好奇心がそそられるものばかり。

木綿季の心の中はそれだけで一杯だ。

凄く嬉しいが恋人の俺でもその一部にしか過ぎない。

俺が入り込める隙は先の先になりそうだ。

 

「あとは………」

 

「まだあるのかよ………世界一周でもするか?」

 

「お、お嫁に行きたい………」

 

時が止まった。

俺の視界には頬だけではなく顔全体を朱に染めて恥ずかしそうに口元を両手で隠す木綿季の姿。

別に木綿季が何を言っているのか分からない訳ではない。

ラノベ特有の難聴主人公のように声が聞こえなかったこともなく、意味を理解出来ないほど馬鹿でもない。

嬉しさや驚きと恥ずかしさと衝撃と様々な感情が脳裏をせめぎあっており、どんな表情でどの言葉を発せればいいか分からないでいるのだ。

 

「と、当然。和人の………」

 

木綿季のだめ押しの1発。

俺が反応しないせいで言ったようだ。

お陰で木綿季も限界なようで目が渦巻き状にぐるぐるなっている………ような気がする。

刺激はたしかに欲しいと言った。

しかし、ここまで強いものだとは言っていない。

気かっけだけでよかったのに幸運の神様は何をミスったのか一生分の幸運を今に注ぎ込んでしまったらしい。

これからの人生が不安でしかない。

 

「ま、まぁ、それなら今からでも叶えられるかな」

 

「え?」

 

俺はズボンのポケットから紺色の箱を取り出して木綿季に見せた。

木綿季はそれをみると目を大きく見開いて瞳を潤わす。

そして、俺は震える手でゆっくりとその箱を開いた。

 

「木綿季の夢を全部叶える為には必要みたいだし………その………えっと」

 

 

 

 

「俺と結婚して下さい」

 

 

 

 

俺は胸ぐらを引っ張られて前のめりに倒れた。

しかし、想像していたような衝撃はなく寧ろ柔らかな感触が唇に加わっていた。

俺が木綿季とキスをしているんだと分かったのは俺と木綿季の間に挟まれたましろがフシャー!!と威嚇の声をあげたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと見えてる?」

 

『和人様と木綿季様、バッチリです』

 

『ラブラブです!!』

 

『撮影も完璧じゃ』

 

ここは裏庭のとある小屋。

院内で飼われている猫を飼育する為の事務所だ。

 

「ありがとうございます」

 

「いいのよ。あの子のお姉さんと親戚さんのお願いなんだからね」

 

猫の飼育する役員の古株のお婆ちゃんは懐かしそうに幸せ真っ只中の2人を見ているのだった。




っしゃ~!!
結ばれた!!!!
長かった!!長かったよ!!
和人と木綿季が幸せになりますように!!

では、評価と感想お願いします!!


この小説も残り2、3話で終了となります。
最後まで何とか着いてきてくれたら嬉しいです!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

107話 結婚を決意

死にそう………


 

「ご飯にする?お風呂にする?それとも……ボ・ク?」

 

疲労困憊で玄関のドアさえ開けるのが億劫だった筈。

なのに、俺は靴を脱ぎ捨てて台風の突風の如く駆け出していた。

向かう先はエプロン姿の木綿季。

このエプロンは紫色の生地に黒猫の刺繍が施されて木綿季が着るべく為に作られたと言っても過言ではない逸品であり、木綿季の退院祝いに買った物だ。

俺はそんな木綿季を襲うようにして抱き締めた。

 

「木綿季にする」

 

「え!?ちょっと、そこはボク以外のを選んでもらわないと困るよ……!」

 

木綿季は恥ずかしそうに俺の腕の中で身動いだ。

普段は強がっているも、いざとなると顔を赤くして少しばかり抵抗する。

俺は木綿季のこの性格をよく知っているが、どうしても恥ずかしがる木綿季の顔を見たくてついやってしまうのだ。

我ながら酷いことをしていると思っている。

しかし、疲労で狂い出した理性は本能と好奇心を止めることが出来ない。

 

「なんでだ?」

 

「なんでって……お風呂にも入ってないし……し、下着だってお子様みたいだし……」

 

「なら、風呂に入って下着を変えればいいんだな?」

 

「そ、そう言うことじゃ!ヒャッ!?」

 

俺は焦れったくなり素早く動いて木綿季を抱き上げた。

そして、自分の部屋に向かう。

木綿季は"い、今は駄目だよ……!!"とブツブツ呟きながらリンゴのように顔全体を真っ赤に染め上げていた。

さて、このような木綿季をお互いの息づかいも聞こえるお姫様抱っこで誰が我慢できようか。

出来る訳がない。

俺は自分の部屋に入ると木綿季をベットに寝かせて、その上から覆い被さるように木綿季を捕まえた。

 

「もう、無理」

 

心の声を吐露させて、俺はゆっくりと木綿季の顔に迫っていった。

木綿季もとろけるような目になって俺の首に腕を回した。

どうやら、覚悟を決めたらしい。

時計の針の音が遠くなっていく。

邪魔する者が誰1人いない俺と木綿季だけの世界。

お互い目を瞑って、唇を合わせ、夜の営みへと………

 

 

モサッ

 

 

あれ?木綿季の唇ってこんなんだったっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬをぁ!!!!!」

 

俺は窒息死する寸前で目を覚ました。

体にかかる布団を全力で蹴り上げて上半身と下半身の角度を90度にする。

そして、肩を弾ませながら新鮮な空気を肺に名一杯取り込んだ。

一体全体どうなっているんだ!?

俺は即座に振り返って枕元を睨んだ。

そこには猫のましろが猫らしからぬ背筋を伸ばした状態でだらりと気持ち良さそうに寝息を立てていた。

なるほど、犯人はお前か。

 

「あと少しだったのに……」

 

俺はそっと自らの唇に手を当てた。

最近忙しかったとはいえ、あのような夢を見るとは夢にも思わなかった。

いや、夢で見たんだけどさ。 

どうやら、そうとう末期なようだ。

俺はベットから降りて軽く伸びをした。

 

「欲求不満なのか俺は?」

 

最悪なのか最高なのか分からない夢のせいで気分が悪くなるぐらい目が冴えている。

口の中も変な感じで、猛烈に喉が乾いておりズキズキとした痛みが広がっていた。

俺は早急に台所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インスタントコーヒーに砂糖とミルクを入れた物を乾いた喉を潤す為に口から流し込んだ。

俺は一先ず息をつくとソファーに身を投げながらテレビに向かって言った。

 

「ついて」

 

すると、テレビの右下に点いていた赤い光が緑色に変わり、ニュース番組が始まった。

アスナの父親が社長であるレクトから依頼された音声認識型のテレビだ。

少し前から音声認識型のテレビは存在していたが、これは更に精度と質を上げたグレードアップバージョン。

お陰でお金がたんまり手に入ったし、無償で出来上がった品を我が家に提供してくれた。

 

「………休みか」

 

俺はニュースで出演者が弁舌に語っている"近代の受験の模様について"を見て何と無く呟いた。

今は10月後半、早い人なら大学が既に決まっていたり一般受験の人なら過去問などを血眼になって解いている時期らしい。

テレビ画面では机の上に山積みにされた参考書や過去問集とそれらを必死に解く受験生、そんな息子を応援する親の感動物語的なのが流されている。

………"全部覚えればいいだけでは?"っと思ってしまうのは俺だけなのだろうか。

英語ならネトゲやれば覚えられるし、国語や社会は本を読んでれば漢字も文章題の解き方も歴史の流れなどが自然と身に付く。

生物?自分のことだろ?

数学と化学?パズルじゃん。

地学?お前自分が何処に住んでいるのか知らないのか?

ネトゲに至ってはやり込めば英語どころかマルチリンガルになれるレベル。

まぁ、最初は暴言しか覚えられないけど。

 

『和人様、また失礼なことを考えていませんか?』

 

俺は気だるげに返した。

 

「思っていない。俺の意見を考えていただけだ。いいかアイ?日本には思想の自由が認められている。思うだけなら良いんだよ」

 

『そうですけど………時には行動しないと駄目なんですよ』

 

キュル、キュルと家の至るところに取り付けられたカメラが動き出した。

これは仮想世界と現実世界を一体化させる技術。

俺の家は通称AR(拡張現実)世界を作り出すための実験場になっているのだ。

無断でやったらお父さんにめっちゃ怒られた………うん、きっと照れ隠しだろう。

兎に角、俺には()()見えないが、アイにはしっかりと現実世界を妖精のように飛んでいる感覚を味わっている筈だ。

 

「今どの辺にいる?」

 

『和人様の頭に座っています』

 

勿論、俺の頭には何の感覚もない。

まだまだ一方的な技術で発展途上中なのである。

だが、これを更にバージョンアップさせて最終的には俺側からも見たり触れたりするのが目標だ。

その為にロシアへ行くことになっている。

 

「年末過ぎたらか………」

 

俺がロシアへ行く時期は年末を過ぎてからの1月後半。

まだ少し時間があるとは言え外国が初めての俺としては今から体がそわそわしてしまう。

楽しみなことや不安なことなど思うことは多いが、ロシアには木綿季が着いてきてくれる。

それだけで元気100倍だ。

アンパンマンって元気100倍によくなってるけど実際スゲー疲れそうだよな。

 

『そう言えば、和人様はいつ結婚式を挙げるのですか?』

 

「………」

 

『準備してるんですか?1月なんてあっという間ですよ』

 

テレビの画面内でCMが始まって俺はソファーから立ち上がり冷蔵庫からヨーグルトを取り出した。

コーヒーにヨーグルト、一見不釣り合いでも気にしない。

ヨーグルトの蓋を捲ってスプーンを差し込む。

そして、すくったヨーグルトを口に頬張った。

うん、現実逃避は良くないな。

正直な所、ここ数日は肉体的にも精神的にも忙しくて結婚式の準備など考えている余裕は無かったのだ。

俺と木綿季の婚約もお母さんとお父さんにはすんなり受け入れてもらえたのに、義兄妹で未成年ということもあり市役所ではゴタゴタさせてしまい何日か待つことになってしまった。

その何日かの間にはロシアへ行くためのパスポートやビザの発行をしたり七色がいる研究所の研究員に突然来る俺の実力を認めさせる為にAR技術の提供。

荷物の整理、菊岡さんへの報告、倉橋さんへの報告、皆に俺と木綿季の婚約報告。

結局、婚姻届けは未だ手元にある。

名前を書いて判子も押してあり、あとは出すだけなのに俺の多忙で木綿季を待たせることになってしまっていた。

 

『時間があるなら今日にでも出しに行ったらどうですか?』

 

「………そうだな」

 

俺は意を決して自分の部屋に戻った。

机の上にある綺麗なままの婚姻届けと鍵を付けている引き出しの中にある()()指輪を取りに。

 




ごめんなさい、一先ず今回はここまでです。
次回は木綿季視点で話を進めて、その次が最終回ですかね?
もしかしたらもう1話増えるかもしれませんが、取り敢えず今の予定ではこんな感じです。
受験が本格的になって投稿頻度が劇的に落ちていますが今後ともよろしくお願いします。

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

108話 旅立ちの日

ラブライブ!サンシャイン!!略してラッシャイ!!(略されてない)
ヨハネが一番好きな自分です!!


 

高く、広く、白い天井をボクは眺めていた。

周りから聞こえてくる忙しない足音や話し声も今のボクにとってはどうでもいいことだった。

それぐらい今、ボクの心は高鳴っている。

ただ、公共の場でこの心の高鳴りを表現しようものなら辺りの人達から白い目で見られてしまうだろう。

なので、ボクはこうして天井を見上げることで表情を隠していた。

ここは空港。

日本と世界を繋ぐ入り口だ。

ボクは視線を天井から地上へ戻し、周りを見渡した。

トランクを転がしながら腕時計を見ている人、スマホで電話をしながら歩いている人、部下を荷物持ちにして堂々と空港に入ってくるOL。

今日も日本人はせっせと仕事に勤しんでいます。

海外出張は当たり前、上司の命令があれば何処へでも飛んで行く。

世界の人から時折"働き蜂"と日本人が呼ばれるのはこれが由縁かもしれない。

しかし、日本人全員が働き蜂という訳ではない。

 

「はぁぁあ………」

 

ボクは甘ったるい声を吐きながら視線を天井に戻した。

そして、真っ白く反った天井に左手を軽く掲げてみる。

ボクは掲げた左手、正確にはその薬指に着けられた黄金色に輝く宝石をいとおしく見つめる。

透き通った光を発するこの宝石は2ヶ月程前に突然ボクの部屋に入ってきた和人が、出すだけとなった婚姻届と一緒に持ってきた物。

 

ハートインダイヤモンド

 

メモリアルダイヤモンドとも呼ばれるこのダイヤモンドは自然界では決して作り出されることがない人工のダイヤ。

毛髪や遺骨、身体の中にある炭素を利用して自分だけのオリジナルなダイヤモンドだ。

和人が製造方法を照れ隠しなのかその場でそれも早口で捲し立てていたけど、正直よく分からなかった。

分かったのは照れた和人が可愛いということ!

それと、このボクが着けているダイヤモンドは和人から作られたということ。

和人の髪の毛から作られたダイヤモンド。

何だか、和人が常に一緒にいるようで見ているだけで顔がにやけてしまう。

というか、にやけてしまっている。

自分が少し危ない人に見えるのは自覚している。

けど、どうしてもにやけずにはいられなかった。

 

「何してるんだ?」

 

「和人!」

 

ボクが掲げていた左手に音も無く現れた和人が自分の左手を乗せてきた。

どうやら、荷物を無事預けることができたらしい。

ボクは重なる左手を顔の正面まで下ろした。

和人は首を傾げて"どうした?"と不思議そうにしている。

 

「一緒だね………」

 

ボクは和人の左手薬指を見ていた。

そこにはボクと全く同じ物が着いている。

違う所は1つだけ、和人のダイヤモンドにはボクの髪の毛が原料となっていること。

ボクには和人の、和人にはボクの。

この指輪を着けるようになってから少し経つが、やはり嬉しいものは嬉しい。

 

「ボクって幸せ者だ………」

 

ボクがしんみりと心の声を吐露した。

すると、何を思ったのか和人が急にボクの身体を抱き締めてきた。

頭1つ分程、もしかしたらそれ以上の身長差があるためにボクの小さな身体はすっぽりと和人の腕の中に入ってしまう。

でも、それが返って良かったのかもしれない。

恐らく、今周りにいる人はボク達のことを見ているに違いない。

アメリカやイタリアなどの外国ならまだしも、日本でこんなことするのは相当の勇気が必要だ。

嫉妬、冷やかし、好奇心に物珍しさ。

種類はともかく、そんな視線の中心にいるのは耐えられない。

ボクの顔が和人の胸に隠れていて良かった。

 

 

 

「なにしてるのよ、この馬鹿夫婦!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達ね………いくら仲が良いとしても、空港で抱き合うとか漫画じゃあるまいし」

 

「まぁ、まぁ、シノのん。折角の日なんだし」

 

「でも、夫婦ですしねぇ」

 

手荷物検査の受付前、ボク達は手頃なベンチに座って笑い合っていた。

ボクの親友アスナ、和人の親友シノン、そしてボクの姉で和人の妹であるスグちゃん。

この3人が今日、ボクと和人の旅立ちを直接見送りに来てくれていた。

他の皆は予定が合わず、お母さんとお父さんに至っては今日も仕事。

あの人達ブラック企業にでも勤めているのかな?

でも大丈夫。

旅立ちパーティーは前日にALOで盛大に執り行われた。

スリーピングナイツの皆もボクを応援してくれている。

気がかりだったのはジュンが頬を膨らませていたことぐらいだ。

虫歯かな?

兎に角、医療の発展によってギリギリだけど余命を延命している人もスリーピングナイツの中にはいる。

皆が頑張っているのだからボクも頑張らなくちゃならない。

がんばルビィ!!

 

「いや、木綿季が凄く儚げに見えちゃって………」

 

「全く………ボクは側を離れないよ。お嫁さんだからね!」

 

ボクはにんまりと笑みを浮かべながら和人に寄り掛かる。

隣のアスナや和人の隣に座っているシノンからは呆れたような溜め息が聞こえてきた。

シノンの奥に座っているスグちゃんは逆に嬉しそうに笑っている。

 

「分かってる。あの時約束してくれたもんな」

 

そう言って和人はボクの頭に手を乗せた。

あの時、それはボク達の結婚式の時だ。

ボク達の結婚式、実を言うとボク達の結婚式は意外にも質素に執り行われた。

エギルのダイシーカフェを貸しきりにして家族とアルゴノートのクエストに挑んだメンバーにシノン、倉橋先生とナツキさん、神代さん、そして和人は不満そうだったけど菊岡さん。

このメンバーで狭いながらも確りとウェディングドレスも着て結婚指輪の交換もして誓いのキスもした。

その時に和人が言った"ずっと、俺の側に居てくれるか?"

ボクは何の迷いもなく"はい!"と答えた。

ついでに嬉しすぎて涙も出てしまい、和人を困らせたのはいい思い出。

 

「あの結婚式は良かったよ。絶対に忘れない」

 

「まぁ、お兄ちゃん達の結婚式だったら2回目の方も凄かったよね」

 

「「あー………」」

 

いい感じで結婚式の思い出に浸っているとスグちゃんが変な思い出を混ぜ込んできた。

しかも、ボクは心の中で確かにと思ってしまった。

ボク達の結婚式2回目、それはALOだ。

そこでは現実と売って変わってそれはもう豪華に行われた。

ユグドラシルの真ん中で恥ずかしいけどALOで最強と言われるキリトとボクが式を挙げているもんだから関係ないプレイヤーもわんさか訪れて、ユージーン将軍やシルフとキャットシーのトップであるサクヤとリーシャまでもが顔を出した。

結局、何故か種族対抗バトルトーナメントが開催されてキリトが他のプレイヤーを蹴散らして優勝したりした。

多分、あのバトルトーナメントで本当の意味の優勝者は賭けを実施したリズとクライン、飲み物を売りさばいたエギルの3人だ。

悪い笑顔を浮かべて親指立てあっていたし………

 

「良くも悪くも忘れられない結婚式になったじゃない。それは良いことよ」

 

「だな。やっとここまで来たって感じだけど………俺はまだここって感じもする」

 

和人の顔を覗けば遊園地を目前としたワクワクドキドキが止まらない小学生のような表情だ。

確かに、和人にとって今から行く場所は遊園地………ではない。

それ以上、自分と同等の天才2人と世界に誇れる大研究の始まりなのだ。

もしかしたら、SAOを作っていた時よりもときめいているかもしれない。

クリエイターの性だろう。

ボクはそんな和人を支える。

和人の精神が壊れかけた時に宣言した通り、一緒に抱えることは無理でも抱えている和人を支えるんだ。

 

「和人………時間だよ」

 

「ああ、本当だ」

 

ボクは時計を見て和人に促す。

和人は思い出したかのように手荷物を持った。

 

「じゃ、皆。またな」

 

「お土産楽しみにね!」

 

ボクと和人は意を決して立ち上がった。

ALOにログインすればいつでも会うことはできる。

でも、現実では当分会うことは出来なくなってしまう。

それを考えるとやはり悲しくなってくる。

 

「木綿季!!」

 

「アスナ………」

 

アスナが泣きながらボクを抱き締める。

力強く、苦しくなるぐらい強く抱き締めてくる。

そしてその力強さのまま言った。

 

「キリト君………絶対に木綿季を幸せにして!!絶対にだよ!キリト君にはやりたいこと、やるべきことが沢山あるかもしれないけど………木綿季を大切にして!!」

 

「アスナ………」

 

ボクは驚いて顔を上げる。

アスナは意思を持った瞳で和人を捕らえていた。

その眼差しにボクは声を失う。

嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

アスナが………お姉ちゃんのような力を持ったアスナがこんなにもボクを思っていてくれていたなんて。

嬉しいに決まっている。

 

「ああ、絶対に幸せにする!!」

 

ボクをもう泣き出してしまいそうだった。

大好きなアスナにこんなにも思われて、愛している和人にこんなにも想われている。

2人には申し訳ないが、今この時が人生で一番幸せかもしれない。

 

「うん、なら良し!」

 

アスナは嬉しそうにボクを和人に預ける。

和人は大事そうにボクの肩に手を置いた。

 

「キリト、たまにはGGOにも来なさい。レンも待ってるし、あんたを殺すのは私なんだからね」

 

続いてシノンが和人の眉間を狙って人差し指を立てる。

あの人差し指が和人の心臓を狙っていたらどうしようと考えている自分が恥ずかしい。

シノンが発していたのは悪意のない殺気。

獲物を狩る前の黒豹のよう。

しかし、和人も負けじと殺気を放つ。

こちらは王者の貫禄があるまるでライオン。

 

「望むところ!」

 

相変わらず2人には謎の信頼関係があるようだ。

少なからず嫉妬してしまうのは仕方無い。

ライオン対黒豹。

今度ボクもGGOにログインしてみようと思う。

 

「お兄ちゃん!木綿季ちゃん!」

 

そして、最後。

スグちゃんがボク達2人を両腕で大きく抱く。

 

「元気でね!!」

 

名一杯の笑顔でスグちゃんは言った。

親が死んでしまって桐ヶ谷の子となった。

そうして、ボク達一切血の繋がらない3兄妹が誕生した。

笑い合って時には喧嘩もして日々を過ごしてきたボク達。

いきなり出来た妹と兄に驚きもして悩んだりもしただろう。

親を除けば一番苦労を掛けてしまったスグちゃん。

感謝しても感謝しきれない恩がある。

そして何者にも何事にも切ることは出来ない絆がある。

 

「スグも元気でな!」

 

「ボクは大丈夫だよ、()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

「「ありがとう!!!!」」

 

 

 

 

 

 

ボクと和人は日本を飛び出し世界へ行く。

 

2人の天才が待っている。

 

ロシアへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私も飛行機に乗りたかったです!!』

 

『駄目ですよ、ユイ。私達はAIという生き物。パパでも完璧には理解できていないんです。もしものことで飛行機に影響が出たらどうするんですか』

 

『ただ、まぁ。わしらが飛行機に乗れる日も近いじゃろう。パパ殿が黙っていないじゃろうしな』

 

 

『『『早くこないかなぁ………』』』

 

3人は暇そうにカーディナル図書館で2人の親の到着を待っていた。

 

 




お久しぶりです!!
まだ、受験は終わってませんが一応ひと段落。
投稿するする詐欺をしてすみませんでした!!

そして、悲しい事にこの小説も何と次回で最終回。
意味の分からない展開だったでしょう、回収していない伏線もあるでしょう。
しかし、今まで読んでいただきありがとうございます!!
まぁ、次回の投稿がいつになるかは分かりませんが、どうか気長に待っていてください。

では、評価と感想よろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 少女のために

ワーキングの村主さんが良い
足立さんと早くくっつけ


 

寒い、寒い、寒い。

俺は心の底で意味もなく悪態つけながら寒波の中を歩いていた。

何重にも衣服を着込んで手袋もしてニット帽も被って耳当ても装着している。

なのに、寒い。

ロシアへとやって来て数年経つが"ふざけるな"と叫びたくなるぐらい寒い。

以前は濡れたタオルを振り回してカチカチにしたり、自然アイスキャンディーを作ったりして楽しんでいたがそれも飽きた。

やはり、旅行に行って"ずっとここに住みたいな~"と思うのはその場のテンションが織り成す幻想でしかないらしい。

一年で究極のホームシックになってしまう。

ソースは俺。

ただ、俺の場合はロシアの永住権取得のめんどくささを聞いてちょくちょく日本に帰ってるからギリギリ平気。

平気じゃないのは日本にいる間、携帯が絶えず鳴り響いて七色から"早く帰って来い"とのお達しがくるぐらい。

俺の母国は日本なのに………

まぁ、助手のスメラギに文句を言ってからその頻度も減ったような気がしなくもない。

今度帰る時は七色も日本に誘ってやろう。

アイドルである姉の虹架のライブ日に連れて行くのも悪くない。

なんせ、あの神崎エルザと合同ライブだ。

盛り上がるに決まっている。

俺は密かに計画を練ることにした。

が、丁度目的地に着いたので計画は後回しにする。

 

「ただいまー」

 

気だるく玄関を開けてこれまた気だるく声をかけた。

ロシアらしい赤レンガの二階建てで七色が激安で売ってくれたお得な物件。

暖炉の煙突があるのでサンタさんが訪れてもちゃんと入ってこれる仕様だ。

因みに、我が家にはエアコンと言う現代兵器があるものの、クリスマスの日には雰囲気を大切にして暖炉に火を灯している。

だがこれだと、寝る時間が深夜にまで遅れてしまった場合、煙突から入ってきたサンタさんが三匹の子豚の狼ばりの災難に見舞われてしまうという悲劇が起きてしまう。

黒焦げサンタさんがメリークリスマスと言いながら暖炉から這い出てくるなんてホラー以外のなにものでもない。

これぞ這い寄る混沌ニャルラトホテプ。

故にサンタさんが不法侵入してくるのが夜中であるのはその事が原因なのだ。

クリスマスの日に夜から朝まで火を灯していたらその年だけ我が家にサンタさんが来なかったんだから立証済み。

サンタさんが可哀想だから次の年からやらなかった。

 

「お帰りー」

 

そんな一年だけサンタさんが来なかった家から明るい声が返ってくる。

その声の主は跳ねるように玄関に顔を出した。

身長は多少伸びたが、童顔やその童顔に比例する子供っぽさは未だ抜けない愛しの嫁さん。

紺色のエプロンドレスが子供っぽさの一役を買っているのを本人は気づいているのだろうか。

 

「やっぱり似合うな」

 

「ありがとう!ほら、早く着替えて来てよ。ご飯が冷めちゃう」

 

俺に褒められたのがそんなに嬉しかったのか、世界一のお嫁さん木綿季は"にへらぁ"と笑みを溢した。

このエプロンドレスを作ってくれた神代さんに明日土下座してお礼を言おうと思う。

新妻エプロンドレスにロシアの家、作ってくれた料理はグラタン。

仕事の疲れが吹っ飛ぶどころか数日分のバフ効果まである。

世界中の非リア充よ………結婚生活は最高だぞ。

………ただしお嫁さんは木綿季に限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。明日は木綿季達も開発室に来てくれないか?」

 

俺はこんがりと焼けたチーズにスプーンを差し込んだところで木綿季達に言った。

既にグラタンを口一杯に頬張っていた木綿季はリスのように咀嚼しながら首を傾ける。

"何で?"と言っているらしい。

………クソ、かわいいなそれ。

 

「試験運用だけど試作品ができたからさ」

 

『つまり!私達が遂に現実世界に展開できるということですか!?パパ!』

 

「まぁ、そんな感じかな。まだ試作品だしバグやら誤作動があるかもしれないけど」

 

俺は天井に設置されているカメラに視線を向けた。

実家と同じくここでもカメラをあちこちに設置してこの家の見取り図と同じ家を仮想空間に展開している。

カメラの視界を最大限に広げてどんな場所でも最低2つのカメラが捉えられるようにして、人間の目と似たような風に2つの映像をコンピューター内で3次元化させる。

これで奥行きまではっきりと記録されており現実での細かな変化がリアルタイムで仮想空間の家に反映されることが可能。

そして、この現実空間の家と仮想空間の家を複合することによって擬似的にアイ達は現実世界にいられるような体験ができているのだ。

でもやはりこれは一方通行の技術なのでアイ達からは俺と木綿季を触ることはできるが、俺と木綿季からしたら触られた感覚もなく、ましてや自分の娘がどこにいるかさえ聞かないと分からない。

それに向こう側から触れられるといっても体温やら質感は感じ取れず、物を触っている感覚に近いだろう。

しかし、今回の試作品は一方通行ではない。

こちらからも擬似的にだが干渉できるように設計されている。

数年掛けての大発明なのだからユイがはしゃぐのも無理はない。

 

『でも和人様。私達は研究室に行けませんよね?』

 

「行けないこともないけど、黙っとかないとな。ユイはメンタルヘルスプログラムだから無理矢理言い訳がつくけどアイとカーディナルは基礎プログラム事態違うからばれた瞬間に研究対象だ。ユイも感情を手に入れてるし娘が実験動物扱いされるのは死んでもごめんだ」

 

「七色ちゃんとか神代さんならともかく、他の人にばれたらねー」

 

木綿季はグラタンを飲み込んで苦笑いを浮かべる。

研究者は基本探求者なのだ。

未だかつて人類が到達していない領域を求める者なのだ。

それは天才と呼ばれる七色が長の研究室でも例外ではなく、寧ろ七色の元で働く研究者はひときは我が強い。

ノイローゼではないかと疑ってしまいそうな人や頭がいい馬鹿などが大勢いる。

 

そう、あそこは七色研究室

世界中の天才という名の問題児ばかりが集められた

言わば………

言わば、変人の巣窟である!!

 

201号室住人、かみ…………

 

馬鹿な妄想はよそう。

宇宙人やらマハラジャさんやアマゾネスに引きこもりのプログラマーに振り回される運命が買いまみえてしまった。

兎に角、あの場所にアイ達を連れていくのは危険なのだ。

 

「まぁ、どうにか理由をつけて持って帰るよ」

 

『『絶対ですからね!!』』

 

アイとユイは仲良く声を揃えて叫んだ。

そんな仲良し姉妹に俺と木綿季は微笑み合った。

そうだ、もう少しだ。

俺は木綿季と微笑み合う片手間、家族とのやり取りで夢に近づいていると実感し、高ぶった心の行き先をスプーンを持った手に集中させる。

スプーンが食い込んで痛いが知らんこっちゃない。

もう少しなんだ!!

テンションが高ぶってしまった俺はその後グラタンを一気に頬張った。

カーディナルも図書館にいないでここに来ればいいのに………ツンデレめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドーブらエ ウートら」

 

「ど、ドーブラエ エウートラ」

 

研究室の入り口で警備をしている人の流暢なロシア語に対して不出来なロシア語で挨拶を返す。

しかし、警備員の表情は顔が防寒具のせいで隠れてしまっていて読み取れない。

雪は降っていないが、恐ろしい程の寒波が吹き荒れている中なのだから仕方がないだろう。

多分、あの防寒用マスクとゴーグルの下の形相は"もっと勉強しろ"といった関西人が関東人の似非関西弁に対する怒りと同様の想いが籠められているに決まっている。

俺はこれ以上、寒波の中の警備でストレスが溜まっているだろう警備員に更なるストレスを与えないようにそそくさと研究室に入った。

お互いに干渉しない、これこそ現代のストレス社会において本当の意味のwin winなのである。

 

「和人ー、そろそろ慣れないと駄目だよ」

 

「イヤだって、いつも機械みたいに挨拶だけしてくるから怖くて………」

 

しかし、そんな持論を世の中が許すわけがない。

一緒に着いてきたモコモコ装備の木綿季が俺の持論を否定する。

研究室で七色と神代さんの3人で進めていく計画が楽しすぎて近所付き合いが疎かとなっている俺の代わりに地元民との人脈を広げていった木綿季の言うことなのでむげにはできない。

木綿季には人脈を広げる過程で得た流暢なロシア語と地元民の感性がある。

お陰で時折ご近所さんから食材などのお裾分けが届けられるが、ご近所さんの名前すら知らない俺には毒が入っているのではないかと疑ったりしたことがある。

その事を木綿季に言ったらマジギレされて人生初めての夫婦喧嘩………と言うより一方的に俺が悪いので喧嘩にもなっていない木綿季不機嫌期があり、死ぬほど辛くて死にそうなくらい死にたかった。

しかも機嫌を治してくれた要因は俺からではなく木綿季からで、木綿季がご近所さんを招いたホームパーティーを開き悪い人ではないと直接証明してくれたことで俺が謝ったから。

その時、俺は周りの人を悪い方に疑うのを自重するようになった。

木綿季の怒りが怖かったからではない、断じて。

 

「大丈夫だって、あの人和人の事を"いつまでも初々しいなー"みたいに父親が幼稚園児の子供を見る心境と同じ眼差しで見てるだけだから」

 

「え?優しい人なのはいいんだけど、俺ってあの人にとって幼稚園児ぐらいなの?」

 

若干………結構ショックだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七色研究室に入ると暖かい空気が防寒着の上から俺達を襲う。

俺達は暖房の効いた暖かい室内で防寒着を脱ぐと衛生上の問題で無駄に白く長い廊下を運動不足の足に鞭を打って歩いた。

長い廊下のせいで同じ研究者とすれ違い、すれ違う度に木綿季から一言もらう。

既に泣きそうな俺はやっとの思いで廊下の突き当たり、俺が所属する部署のドアを見つけた。

この部屋に入れば少なくとも他の研究者と言葉を交わす必要が無くなり木綿季からも注意されなくなる。

俺は"七色研究室長"と書かれたドアを力強く開けた。

 

バンッ!パンッ!

 

「ようこそ!七色研究室へ!!」

 

「ひゃう!?な、七色ちゃん!!」

 

すると、何故か待ち構えていた七色の放つ特大クラッカーが俺と木綿季を襲った。

普段の大型パソコン数台と書類の束の影は見当たらず、珍しく綺麗な白い部屋だった。

そこに煌めく特大クラッカーの色とりどりテープに鼻をつく火薬の匂い。

これは木綿季でも少々拗ねてしまうだろう。

俺は恐る恐る首を曲げた。

しかし、木綿季は嬉しそうに三角形のパーティーハットを頭に乗せた七色に抱き付きに飛んでいた。

俺は一言物申したい衝動を抑えて鬱陶しく全身に巻き付いたクラッカーの残骸を払った。

そして、七色ではなくその後ろにいる人に言った。

 

「なにやってるんですか………?」

 

「ごめんね、和人君。一応やめた方が良いんじゃいかって言ったんだけど………」

 

「その割には楽しそうですね」

 

神代さんは七色と同じくパーティーハットを頭に乗せて小さなクラッカーを持っていた。

控えめな笑顔からはどう見ても楽しんでるようにしか見えず、本当に止めたのかと疑問に思う。

俺が疑惑の目を向けると神代さんはクラッカーを鳴らして舌を出す。

 

()()()()()だから」

 

「確信犯じゃないですか!!」

 

俺が人間不信なのはこの研究室が原因に間違いない。

老いを知らない美貌を持った神代さんは特に反論せず、もう1発クラッカーを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、これが和人の言っていた試作品ですか」

 

「そうよ。名付けて試作品1号君!!」

 

木綿季が手に取った機器をあらゆる方向からまじまじと観察する。

機器は太い三日月のような形で両先端部分は細くなっている。

色は灰色で目立った装飾品はなく、大発明にしてはパッとしない外見だ。

しかし、七色から試作品1号君という有難い名を貰っている機器は材質や色から何処かナーブギアを彷彿させる。

 

「ボクが素人だからかな?あんまり凄さを感じないけど………」

 

「まぁ、一見しただけだと俺にも何の機器だか分からないからな」

 

木綿季は難しい顔をして目を凝らす。

俺は意地でもどうにかして特徴を伝えようとしている木綿季の手から試作品1号君を取り上げた。

すると、木綿季は"あっ"と声を出した後申し訳なさそうに肩を落とす。

表情の気まずそうなしょんぼり顔からするに俺達に"失礼だった"とか考えているのかもしれない。

けど、こんなの初見で凄さが分かったりしたら逆に凄いことだ。

俺は肩を落としている木綿季の後ろに回り込み、チラリと見えるうなじに試作品1号君を当てた。

 

「和人?」

 

「神代さん」

 

「大丈夫よ。カメラの接続も良好で試作品1号君もオールグリーン」

 

試作品1号君の三日月の形は人間の首に確りと取り付けられるようにするため。

木綿季の綺麗な首に取り付けられた試作品1号君からは準備完了の合図としてゲーム機の電源のように緑色の光が小さく光る。

それを確認して先程試作品1号君と一緒に持ってきたパソコンを扱う神代さんと木綿季の前で自信満々に腕を組む七色とアイコンタクト。

俺達は今世紀最大の悪い笑顔を浮かべていた。

 

「これが俺達の発明品だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木綿季に半ば強引に試験を引き受けてもらい、数項目のチェックを終えた。

システムは良好、バグの発生もほとんどなし、どうしても発生してしまうラグも補正機能で改善されている。

今からでも世界に発信できる水準に間違いは無かった。

しかし、七色が作り出そうとしている()()()()()を実現するにはもう少し改良が必要だ。

システムの軽量化を進めなくてはならない。

 

「久し振りに会ったけど、皆変わらないね」

 

「まぁ、変わって欲しいやつもいるけど」

 

日本の都会では絶対に見ることのできない満天の星空の下を俺達は身を寄せ合いながら歩いていた。

長いマフラーを一緒に巻いて寒波に負けないよう腕を組んでいる。

しかし、やはり寒い。

俺達の足は自然と速くなってしまう。

愛の力とか非現実的なことなど関係ない。

寒いものは寒いのだ。

 

「七色ちゃんのこと?ボクは一緒にいて楽しいけど」

 

「研究室内だとうるさいんだよ。ちょっと自分がミスしただけで叫ぶし」

 

「あははは!」

 

木綿季は俺が苦い表情を浮かべると失礼にも笑った。

端から聞けば笑い話かもしれないが被害者である俺とかはたまったもんじゃない。

いつも突拍子の無いことを言い出すし実行するし、"今日の分は終わった"と伸びをしたら七色が更なる注文を押し付けてくるし。

しかもその内容が無茶苦茶で、スマホのデータをガラケーに移すみたいな地獄の所業だったりしたこともある。

あの時だけは流石に俺も怒った。

神代さんにやんわりと止められたけど俺は悪くないと今でも思っている。

 

「でも楽しそうだね」

 

「………楽しいよ」

 

俺は声を詰まらせて言った。

不服だが、そんな日常を楽しいと感じているのは事実だ。

七色に無茶を言われても心の底では嬉しく思っているし、神代さんと話をしている時は知識欲故か心が踊る。

七色研究室にある他の研究機関に見学に行けば俺の知らない世界中の知識が山ほどある。

楽しくない訳がない。

ただ、それを認めるのが七色の傍若無人っぷりで否定したくなる。

あいつ本当に酷いから。

 

「ふふ、ボクは自分の理性では認めたくないけど本能が認めてるから正直に認めるの和人が好きだよ」

 

「なんだそれ?」

 

流石、ALOではインプである木綿季だ。

小悪魔的な笑みを習得して俺をからかっている。

それがまた可愛いから困ってしまう。

いや、本当に恐ロシアですわ。

しかし、こちとら立派な日本男児。

負けるわけにはいかんぜよ。

 

「和人?………ッ!?」

 

俺からの返しが薄かったからか木綿季が顔を近付けてくる。

俺はその瞬間に手を木綿季の後頭部に当てて引き寄せた。

そのまま勢いを殺さずに、木綿季の唇を奪う。

 

「んっ………!!」

 

木綿季の唇はこの寒い中でも柔らかく温かい。

俺は驚いて一瞬震えた木綿季の体を空いていたもう片方の腕で抱き締める。

こうなればもう、俺が木綿季を襲っているようにしか見えないだろう。

実際、襲っているのだから文句は言わない。

冷たい風が吹き抜ける。

しかし、俺の身体はそんな風を気にする必要がないくらいに熱くなっていた。

 

(俺はどんな木綿季でも好きだ)

 

(………ずるい)

 

お互いの唇はお互いの唇で塞がっている筈なのに、そんな言葉が俺達の心の中にしっかりといつまでも響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいか?」

 

『問題ありません!』

 

リビングの中央。

俺はソファーやらテーブルやらを木綿季と隅っこに寄せて作った広いスペースに立っていた。

重々しい雰囲気が漂う中、少し離れた所で俺を見つめている木綿季と頷き合う。

研究室から最終チェックと言う名の適当な言い訳で持ち出した試作品1号君を首に装着しながら、俺は各方向から自らを捉えるカメラに言った。

 

「カーディナル。システムの状況は?」

 

『異常はない。いつでも実行できそうじゃ』

 

『カメラも問題ありません!』

 

「そうか」

 

カメラから聞こえてくる次女のカーディナルと三女のユイの言葉に安堵しつつ、試作品1号君の電源を入れる。

すると、その瞬間に視界に数々のデータが表示される。

時間や日にち、体温から脈拍まで俺のあらゆるデータが視界端に写っているのだ。

これはまさにSAOやALO、GGOとほぼ同じ仮想空間の世界だった。

だが、今俺が見ているのは仮想空間ではなく現実の世界。

所謂、拡張現実と呼ばれるもの。

木綿季には昼間この拡張現実のチェックをお願いしていた。

これこそが現代の科学が踏み入り始めた新たなる空間なのだ。

 

「うん、視界良し、身体の違和感なし」

 

『では、始めるぞ』

 

そう言ってカーディナルはとあるソフトウェアを起動する。

このソフトは神代さんにも七色にも言っていない俺が家で密かに開発を進めていたものだ。

今、行っているのはこのソフトが正常の作動するかの試験である。

 

「頼んだ、………準備は良いか?」

 

『はい、和人様』

 

『5………4………3………』

 

カーディナルのカウントと共に俺の視界にノイズが混じる。

俺は一瞬冷や汗をかいたが、そのノイズは次第に薄れていき俺の目の前に人形の水色ポリゴン体を形成しいった。

ポリゴン体の向こう側は既に見ることが出来ず、まるで現実にそれがあるようなリアルさ。

実際、これが現実にあっても世界中誰でも何かのオブジェクトだと思ってしまうだろう。

でもこれは試作品1号君から送られてくるデータなのだ。

 

『2………1………0』

 

そして、ポリゴン体はドット数を徐々に減らしていき、遂に消滅した。

代わりに現れたのは1人の少女だ。

霧が晴れたかのように頭を振って綺麗なロングの銀髪を無造作に揺らす。

服装が白のワンピースなので思わず寒くないのか心配になってしまう。

が、彼女にそのような心配は必要ないんだと遅れて気付く。

もう、俺の目には綺麗な白い1人の少女がいるようにしか映っていないのだ。

俺はすぐに壊れてしまう飴細工でも触るように恐る恐る右手をその少女に近づける。

本来ならすり抜けてしまうであろうデータ。

仮想空間でしか触れ合えることは出来なかった。

 

しかし、触れた。

 

「やっと、触れましたね………!パパ!!」

 

俺は娘であるアイの頬に触れた。

俺の右手には確かな体温と柔らかな頬の感覚、アイが流す一筋の涙さえ現実と同じように感じ取れている。

 

「アイが………ここに………!」

 

俺は思わず膝を突いてしまった。

アイはそんな俺の頬を両手で包み混むように触れた。

ちゃんと、俺の頬にはアイの小さな手のひらの感覚がある。

 

「私はここにいます!!」

 

涙を流しながら笑うアイの姿がそこにあった。

俺はアイを抱き締めた。

 

「ここにいる!アイが………ここにいる!!」

 

「はい!!」

 

それと同時にアイも俺のことを抱き締めた。

仮想空間にいるカーディナルとユイはともかく、木綿季にはただ俺が何もない空間に何かがあるように抱き締めている変な姿が見えているだろう。

しかし、俺の世界にはアイがいる。

他からどう見られようが俺の中にはアイが俺を抱き締めているのだ。

 

「やっと、現実でパパに触れたよ………!!」

 

初めてアイと出会った日を思い出す。

初っぱなから毒を吐いて俺を驚かせ、一緒に過ごしていく内にそんなアイにも個性を見つけていった。

どんな時も俺の側にいてくれたアイ、妹想いで家族想いなアイ、時々見せる表情が可愛いアイ。

そんなアイが………

 

「アイがいる………」

 

俺の口から何度も同じ言葉が漏れる。

その言葉しか知らないのかと言われてしまいそうな程だ。

 

『お姉ちゃん!!次は私です!』

 

「和人!早く代わって!!」

 

『わしは最後でいいが、まぁ………できるだけ早くしてくれ』

 

すると、周りが俺とアイの邪魔をする。

俺とアイは一旦抱き合うのを止めてお互いの顔を見つめ合う。

もう、何を言いたいのか一目見て分かった。

俺達は笑って叫んだ。

 

 

 

「「嫌だ!!」」

 

 

 

俺とアイは笑い合う。

そうだ、俺は努力してきた、力を尽くしてきたんだ。

この小さな1人の………

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も桐ヶ谷家は平和である。

数年後、この試作品1号君は改良を重ねて品質を増す。

これはその後の世界に大きな変化を及ぼし、文字通り世界を変える大発明品となった。

その発明品の名こそ、

 

()()()()()()()()

 

 




遂に最終回まで辿り着きました!!

まぁ、今後の事やお礼などは活動報告の方で申します。
………ごめんなさい、その活動報告も明日の夜になるかもしれません。
今日の所は寝かして下さいお願いします。

そんな訳でこの度はこんな駄作を読んでくださりありがとうございました!!

では、評価と感想お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。