魔法少女まどか☆マギカ ~少女へ捧げる鎮魂歌~ (kasyopa)
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オリキャラ設定資料(序盤)

読んで字の如く、オリ主の設定資料。
結構重要な事書いてあるんで、ゆっくりみていってね!

【2012/11/02更新】人形達の追加、結界魔法の追加(防御欄)
【2012/11/19修正】第五話との矛盾点が発覚、修正。
【2012/12/01追加】利き手利き足等を追加。
【2012/12/08修正】超修正。技等削除。



【設定資料】

 

名前:黄昏藍香

容姿:瑠璃色の長髪、くすんだ赤の瞳

性別:女

身長・座高・体重:151cm・83.6cm・41.2kg

3サイズ:B71・W53・H76

利き:全左

年齢:14歳

 

説明

 

キャラクターとしての黄昏藍香について

 

見滝原町に引っ越してきたある少女。

参考までに身長はまどかの2、3cm上くらい。

体重、3サイズについては全く気にしていない様子。

髪色はさやかと全く同じ色で、腰まで伸びている。瞳の色は杏子と全く同じ色。

顔の形はさやか似。

 

身体的スペックは高く、学校に行っていた頃は体育の成績が一番高かった。

五教科の中では理科が一番得意。数学、英語共に不得意。

リズム感はあまりないものの、UFOキャッチャーはとんでもなくうまい。

 

魔法少女としての黄昏藍香について

 

キュゥべえとは契約せずに、地球に眠る本来の魔力、魔法を使いこなし戦う真の意味の魔法少女。

どうやってこの力を手に入れ、ここにまで至ったのかは不明。

魔力はある意味無尽蔵ではあるが、消費の大きい魔法は肉体が耐えられない為、乱用すると命の危機に。

 

最初は理解することすらなく【この世界】を普通に生きる。

最後にはワルプルギスの夜の存在によって魔女の存在を知る。

 

そして時空を超え、再びこの世界に降り立ち、違和感を持って少しずつ魔女について調べていく過程で魔法少女についても調べ始める。

真実を実感して初めてキュゥべえの行いの過程が間違いだと悟る。

 

三回目の輪廻では暁美ほむらの願いについて、この輪廻を考えた。

接触も最小限。ただただ影で魔女を狩っていた。

そして、その【鹿目まどかとの関係をやり直すという願い】はまどかに因果を背負いこませ、魔法少女としての素質を向上させている事に気付く。

 

四回目の輪廻では変わり果てたほむらに対して完全なる傍観を展開。

そして、自分を失う事無く、再び時空を超える。

 

五回目の輪廻開始時。本格的に介入を開始すると決意。←現在

真の輪廻を断ち切る為には、自分の介入が不可欠だと言う事に気付いたからである。

そして、優しい抑止力となって別の時間軸のまどかの悲願を叶えようとも暗躍する。

今回でケリを付ける。熱い意志をそのくすんだ瞳に写しながら。

 

結界の中では小さな人形を操り、客をもてなす。

名前は順に時・風・守・世・夢。

時は客の案内、風・守は接待、世は調理、夢は後片付け。

痛覚だけは持ち合わせておらず、唯一、夢だけが喋る事が出来る。

一応、一人で魔女一体を倒す事が出来る強さはあるが、戦う事はまずない。

 

【おもてなし人形】

 

名:時(とき)

容姿:金髪で長髪、青い瞳

身長:15cm

 

客の案内を担当する藍香の人形。

結構甘えん坊。

 

名:風(ふう)

容姿:緑髪で長髪、黄色の瞳

身長:15cm

 

客の接待を担当する藍香の人形。

負けず嫌いで一生懸命。

 

名:守(しゅ)

容姿:青髪で長髪、緑の瞳

身長:15cm

 

客の接待を担当する藍香の人形。

のほほんとしてまったり。

 

名:世(せ)

容姿:赤髪で長髪、銀の瞳

身長:15cm

 

客の料理を担当する藍香の人形。

人見知りが激しいがとても優しい。

 

名:夢(む)

容姿:銀髪で長髪、赤の瞳

身長:1.5m

 

客の最後を担当する藍香の人形。

忠が厚く人を見分ける目を持つ。

 

【魔法武器】

 

【遠距離系】

 

名:クラッシャー

消費魔力:中

説明:魔導式C4爆弾。かなりの範囲を焼き払うくせ、魔法少女には被害なしの魔導兵器。

 

名:ブラッドレイ

消費魔力:極小

説明:30cm程の紅い刃が銃身に付けられたライフル。刃はどんな方向にも対応する。

   弾丸自体はレーザーで、貫通性が高い。近接遠距離並行武器。

 

【近距離系】

 

名:破幻刀

消費魔力:小

説明:元から魔力が込められている対魔女刀。刃の部分は赤、峰の部分は黒。

峰打ちで使い魔を倒せる。対魔女刀故に。

 

名:楼幻刀

消費魔力:小

説明:対魔法刀。刃の部分は白、峰の部分は秘色(明るい灰色掛った青)。

相手の魔法の効果を打ち消し、魔力の弾丸などを易々弾く。

 

名:天空槍牙

消費魔力:小~中

説明:純魔力で構成された投槍。相手を貫いたり突き刺して爆破したり出来る。

魔力を込める事で威力が上がりサイズも大きく、速度も上がる。使い捨て。

 

名:拡連多節棍

消費魔力:極小~小

説明:節の部分を増やしたり節の部分を細かく分けたり出来る多節棍。

   枝分れさせて使う事も可能。元々の節の数は3つ、30cmずつ。繋ぎの鎖は10cm。

 

名:死角殺し

消費魔力:極小

説明:槌の部分にコンテナミサイルが格納してある前代未聞のハンマー。

   コンテナの射出散布、槌からのミサイル攻撃といった事が可能。

 




という訳で、藍香の設定資料でした。
身長・体重・座高・3サイズ要らないって? 絵が描けるレベルまで濃くしたかったんだすまない。
まだまだ序盤なんで技も魔法も数が少ないです(ェ

もしかしたら、一部の武器、技、魔法共々使わず終了したなんて事もあるかも知れませんが、そこのところはご愛敬。
ここにも書きますが、技などの一覧を書いたのは説明省略の為です。ご察しください。

P.S. この黄昏藍香を使いたいって方がもしいらしたら感想、またはメッセージにて申請して下さい。ご期待に合ったご返信は致しますので。


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第一話『救済技法』

『管理者を破壊する・・・バカげたことを』 byAC3 ファンファーレ




Side 黄昏藍香

 

 

崩壊する都市。私は仰向けになって、明るくそして暗い堕ちた空を茫然と眺めていた。

 

「倒した……んだよね」

「倒した……筈よ」

 

もう私は腕を動かすのもままならない程に傷付き、疲れ果てていた。

倒した筈だった。魔女を。救済の魔女を。

 

それでも、私は解りきっていた。この輪廻は、終わらないのだと。

 

「ねぇ、藍香」

「なに、―――さん」

 

顔だけを横に向けてお互い向き合う。

 

彼女ももう限界だ。しかもその限界は二つの意味を持っている。

一つは命尽きる意味での限界。そしてもう一つが。

 

「ぐっ! ぁああああ!!」

「―――さん?! しっかり気を持って!」

 

彼女の綺麗な白色のソウルジェムは黒く塗りつぶしたように濁っていた。

私は知っていた。魔法少女はいずれ魔女になってしまう運命なのだと言う事を。

そして彼女に話した。でも、彼女はこう言った。

 

『ならそれまでに、いっぱい魔女を倒さないと』

 

私はその返事に驚愕し、問いかけた。

彼女は一度、絶望に負けたというのに。

 

『なんでそういう風に思えるの!?』

『それは仕方のない事よ。私は一度絶望に負けた。なら今は守れる今を想うと決めたの』

 

涙で視界がぼやける。あの時、魔女を倒すのを止めても、結局彼女の結末は変えられないと。

 

「藍香。最後のお願い、聞いてくれないかしら?」

「最後なんて言わないで、―――さん」

「いいえ、最後のお願い」

 

彼女はソウルジェムを私に向けて掲げ、口を開いた。

 

「私を……殺して」

「―――――――」

 

言葉を失った。

 

「このままだと、また魔女が……ううん、また『本来の私』が生まれる」

 

体が震え、視界が歪む。

今の私はどうしたらいいか解らない顔をしているだろう。

対する彼女は相変わらず私に向かって微笑みかけている。

 

「早く、お願い……時間が……ないわ」

 

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!

長い輪廻の中で初めて出来た友達なのに、こんな終わりなんて嫌だ!!

初めて。私が……助けた子なのに!!

 

「逃げていては駄目」

 

緑色の瞳が私の顔を写す。

そこに居たのは目に涙をため、困惑している私。

 

私は体を起こし、彼女の目を見て楼幻刀を生成する。

 

「……藍香、貴女の事は忘れないわ」

 

世界が、弾けた。

 

 

*********

 

 

目を開ければ、よく知った天井が出迎えてくれた。

 

「夢……かぁ」

 

何回目かの輪廻の中であった事。時折、夢で思い出す。

私としては勘弁なんだけど、仕方ない。体の仕組みなんだから。

 

一階に下りてお弁当を作り、朝ご飯を作って食べて、家を出る。

 

「行ってきます」

 

親はいない。最初から一人きりだったから。

 

 

 

//////////////////////

 

 

 

学校。少し気だるい授業が終わってお昼休み。

私はいつも通り屋上で一人お弁当を食べる……筈だった。

 

「あんたよくこんなとこに居るよね」

「私は私。私のやり方には誰も否定はさせないからね」

「ふ~ん」

 

佐倉杏子。彼女はこの街をテリトリーとする魔法少女。

でもある時私が使い魔を倒している時に偶然接触してしまい、一戦交えた。

 

結果としては引き分けだったけど。

それからの付き合いで仲良くしている。

 

それから、これが普通というものなのか。

時間と共に仲も深くなっていき、杏子ちゃんは彼女の過去について話してくれた。

そして彼女は、私が普通の魔法少女じゃないって事に気付いた。

詳しい事は話していないけど、私は私で、彼女は彼女で自分の道を歩いている。

 

ある意味、私の初めての友達。

 

「あんたさぁ、もうちょっと効率ってもん考えないの?」

「杏子ちゃんはちょっと軸がぶれてるみたいに思えるよ」

「良いじゃんか。これが私のやり方なんだよ」

 

そう言って彼女は手で卵焼きをつまみ、頬張る。

私は杏子ちゃんの右手にしている指輪を見た。

 

「杏子ちゃん、最近調子はどう?」

「ん……どうって、キュゥべえの野郎最近執拗に来んだよな」

「それはどうして?」

「解ってて聞いてるだろ、藍香」

 

ジト目で私の方を見てくる彼女。もしかして、魔法少女について話したからなのかな。

なら、私の事も今見ているだろう。

 

「キュゥべえ、居るんでしょ?」

「よく解ったね。流石は最高のイレギュラーだ」

「っ?!」

 

キュゥべえは駆けよってきて正座している私の膝の上に乗る。

杏子ちゃんは驚き、そのまま跳び引いて警戒をあらわにした。

 

「テメェ、どの面下げて出てきあがった?」

「今日の僕は君達にお願いがあって来たまでだ。特に黄昏藍花。君にね」

 

キュゥべえは私にその機械の様な冷めきった瞳を向け、尻尾をゆらゆらと動かす。

杏子ちゃんと接触しすぎた結果がこれ。最終的には交渉の末、和解を果たしたが。

 

彼らにとって絶望のエネルギーを採取出来れば、別に構わないのだ。

今までそのエネルギーを採取する方法がそうするしかなかっただけであり。

ノルマを達成すれば後は放っておくだけ。

人類の問題として全てを野放しにして自分達は帰っていく。

 

だから私は神様に魔女から魔法少女からその絶望のエネルギーを抽出する魔法を真っ先に望んだ。

キュゥべえにではなく、私にこの世界への転生の運命を強いた神々から。

 

キュゥべえ自身が私の特異さに気付くのには、そこまで時間を要した訳ではない。

私が杏子ちゃんと和解を果たし、単身で魔女を倒した時の事だったろうか。

まぁ、ばれたものは誤魔化しようがなかったから一部のみ明かしたけど。

 

一つは、私が普通の魔法少女ではない事。

 

もう一つは、穢れを抽出して別物体にできる事。

 

「で、お願いって?」

「最近この付近のある町で、魔女の活動が異常なんだ」

「つまり、ここよりも魔女がうじゃうじゃしてるって事か?」

「現時点ではそこまでとはいかないね。でも何れそうなるだろう」

 

なんとなく読めてきた。キュゥべえのお願いというものが。

 

「君達にはその町に出向いて貰いたい」

「率直だね。私にも学校とか在るのに」

「あたしは問題ないね。ここより良いならすぐにでも移ってやるよ」

 

やはりというかなんというか、杏子ちゃんは効率を考えて動いている。

私の方と言えば、人が死ぬのが嫌だから使い魔も魔女も倒している。

 

「君にとって、重要なのはその程度の事なのかい? 藍香」

 

いちいち頭に来そうになる言葉を放つキュゥべえ。

彼の正体を知っているのだから尚更だ。

 

「人間の価値観は、図りしえない物。感情を持たない彼方達は私達以上に理解できないよ」

「はっ、だからお前達の口癖が『訳が分らないよ』なんだよ」

 

杏子ちゃんはキュゥべえに、おふざけの声真似で馬鹿にする。

その可笑しさに私は少し吹き出してしまった。

 

以前までは自分の意思で行っていたが、今回はこういった形で向かう事になるとは。

 

「藍香は移ってから学校行くのかよ?」

「うーん、どうだろ。行かないって言うのも手かな」

 

こんなに早かったら、あの子に接触する可能性も出てくるし。

すっ、と何処からか黒光りする漆黒の塊を取り出して渡す。

キュゥべえはそれを頭で受けて背中の部分に格納した。

 

「さってと、私は一足お先に行っときますか」

 

杏子ちゃんは柵の上に立ち、遠くを見据えて口を開く。

 

「そっか、じゃあ私は退学書類も出したし一緒に行こっか」

 

風と共に消える。私達はもうそこには存在しなかった。

 

 

///////////////////////////////

 

 

結界。甘いお菓子の匂いと薬品の臭いが混ざり合って、咽返りそうな臭いが漂う。

私は変装して仮面も付けて道ある道を歩いて行く。

杏子ちゃんは何か思う事があったのか、結界の外で諦観に浸っていた。

 

「(確かにここはマミさんの管轄。杏子ちゃんが嫌うのも無理ないかな)」

 

人の気配を感じたから隠れて見てみる。

そこにはまるで蜘蛛の巣に捕まった蝶の様な姿の少女、暁美ほむらがいた。

 

私は楼幻刀を生成。ほむらちゃんを縛っているリボンを切り裂いた。

 

「っ?! ――――」

「大丈夫? 貴女―――」

 

納刀して振り返ると同時に拳銃を額の部分に押しあてられる。

 

「あなた、一体何者?」

「人にいきなり銃を突きつけておいて、それはないと思うよ」

 

私はそう言いながらも両手を上げて、撃たないでとアピールした。

 

「助けてもらった事に対しては礼を言うわ。ありがとう」

 

そう言ってもほむらちゃんは警戒の雰囲気を解かずに、仮面から覗く私の目をじっと見ている。

対する私は視線を外さずに魔女の状態を探っていた。後どれほどで孵化してしまうか、と。

 

今の所なんともないが、この状況を打開できなければ私も彼女も動く事は出来ない。

強行突破も可能だろう。

しかしそれでは彼女が発砲、貴重な弾を消費し、未来に大きな誤差が生まれる可能性もある。

それこそ、今回の魔女は異常な相手だ。今すぐそこにある未来が変わる可能性も……

 

「あなたの名前は?」

「………」

「質問を変えるわ。あなたは何をしに此処まで来たの? 目的は何?」

「魔女を狩る。私の方法で」

「どこの魔法少女か知らないけど、命が惜しければ退きなさい。今回の魔女は今までのとは違う」

「それなら、早く先に行った子を追いかけた方がいいと思うよ」

「そうしたいけど、生憎そうもいかないみたい」

 

彼女が辺りを見渡すと、使い魔が私達のやり取りを見物にするかのように囲んでいた。

そして感じる、魔女の魔力。どうやら、それに刺激されて使い魔が出てきたようだ。

 

「「孵化が始まった」」

 

重なる声。ほむらちゃんは一瞬驚いた表情を見せたが、意識を使い魔へ向けた。

 

「此処は私が受け持つから、貴女は先に行って」

「そう言う訳にいかないわ。あなたの目的がなんなのか、それがはっきりするまで―――」

 

彼女が自分の言葉を言い切る前に、私はカールグスタフ二門を両肩に担いで乱射と高速リロード。

後ろに居るほむらちゃんからはかなり離れたからバックファイアとかも大丈夫だし、防御もかけてる。

効果範囲の広い榴弾が、周囲の使い魔を軽々と吹き飛ばし焼き払っていく。

 

気付いた頃には辺りは穴だらけで、火薬の臭いが空気に混じっていた。

 

「………」

「貴女は私の目的より、私が味方なのかを知りたいんじゃないかな?」

 

そう告げて私はその場から消えてなくなった。

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

名前も、目的も聞けないまま、まるで存在自体が消えたかのように姿を消した魔法少女。

実際は感謝している。私にはどうしようも出来なかった拘束を解いてくれたのだから。

あれだけの使い魔を、こちらの弾を消費せずに片付けてくれたのだから。

 

「………」

 

火薬の臭いが鼻に衝く。

あれは確実に現実の兵器だ。巴マミの様に魔法で構築した物ではない。

 

<貴女は私の目的より、私が味方なのかを知りたいんじゃないかな?>

 

全てを見透かしていたかのような発言であった。

確かに、私はこうなっても心の何処かで味方を探していたのかもしれない。

―――もし彼女が協力してくれたなら、大きな戦力となってくれるだろう―――

 

「……考えていても仕方ないわ」

 

今は、巴マミを止めなければ。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

結界内に声と轟音に近い銃声が響き渡る。

この魔女、シャルロッテは普通と違うのは嫌というほど知っていた。

対処さえ間違えなければ簡単に倒せるであろう、という事も。

 

小さな人形の口から吐き出された第二形態とも言える、幼虫の様な姿のシャルロッテ。

そのままマミさんを狙って一気に近付き、丸かじりと言わんばかりに口を開けた直後。

 

私は死角殺しのソニックストライクで横に魔女を吹き飛ばした。

壁に撃ちつけられて落ちる魔女。そこに鎚からミサイルコンテナを射出してそのままぶつける。

撒き上がる爆炎と鳴り響く爆音。

少しばかり視線を観客の二人の方を向けると、案の定二人は耳と目を塞いでいた。

 

「あ、あなたは……?」

「私は名乗る名も無き魔法少女」

 

あまりに素気ない返事だったので、マミさんに心の奥で謝罪しながらも爆炎を見詰める。

次の瞬間炎を突っ切って特攻を仕掛けてきた魔女。此処にいる私以外はその光景に驚愕した。

 

死角殺しで今度は上に撃ちあげたが、新たな本体を吐き出して私を捕食しようと突っ込んでくる。

 

「キュゥべえ、なんなのよアイツ!」

「おそらく、脱皮するかのように再生しているんだ、そして」

「その方にグリーフシードを移していく」

「「っ?!」」

「ほむらちゃん?!」

 

マミさんとさやかちゃんは驚き、まどかちゃんは声を上げた。

突然風の様に現れた、暁美ほむら。

 

「あなた、どうしてここにいるの? 確かに拘束した筈なのに」

「彼女が助けてくれたのよ」

 

そう言って私を見詰める彼女。その顔はまだ若干の警戒が残っていた。

マミさんもその言葉を聞いて私に警戒の視線を向ける。

 

突き刺さる視線をよそに、私はシャルロッテと交戦を続けていた。

突っ込んでくる相手を死角殺しで打ち返し、そして再生して再び突っ込んでくる。

二、三回繰り返した後、懐に隠し持っていた何かを放り投げた。

そうすればどうだろうか。魔女は私達をそっちのけにして放り投げた何かの方へ向かっていく。

 

「あなた、本当に何者?」

「何の事かな?」

 

ほむらちゃんの問いかけ。私は惚けた様なリアクションを取る。

 

「ふざけないで、何故あの魔女の弱点……いや、好物を知ってるの?」

「「好物?」」

 

その言葉にまどかちゃんとさやかちゃんは首を傾げる。

 

「さっき投げたのはチーズ。あの魔女はチーズに目が無いの」

「な、なんか意外過ぎて緊張感保てない……」

「うん、そうだね……」

「でも確かに、あの魔女は今までの魔女とは違う。少なくとも私はあんな魔女を知らないわ」

「「………」」

 

長年この街で戦っていたマミさんでさえ、知らない魔女。

二人は思い出したかのように顔を青く染めた。

たぶん、マミさんが食べられそうになった瞬間を思い出したのだろう。

 

「暁美さん、今回ばかりは謝るわ。ごめんなさい」

「そんなことより、今はあの魔女を倒す事に専念しなさい」

「(なるほど、素直になれない。か)」

 

マミさんは誰にも解らないように笑みを零し、私の方を見た。

先ほどの笑みは、ほむらちゃんの何かを理解したからによるものだと、私は推測する。

 

「あなたにもお礼を言わなきゃね。ありがとう、えっと……」

「……黄昏。黄昏でいいよ」

「ありがとう、黄昏さん」

 

呼び名。そんな感じだ。名字になっちゃったけど。

 

「来るわよ」

「ええ」「うん」

 

ほむらちゃんの言葉通り、再び私達を標的にしたシャルロッテが戻ってきた。

ミサイルコンテナを再装填してから武器を切り替え、ブラッドレイと破幻刀を持つ。

 

ブラッドレイでレーザーを放った後、破幻刀で続け様にレイパレードを繰り出す。

再生し、口から出てきた魔女をマミさんが複数のマスケット銃で撃ち抜いた。

しかしながらイタチごっこに変わりはない。決定打と言うものが無い訳ではないのだが。

 

「そんな事をしても、また再生されるだけよ」

「そうは言っても……」

「手が無いのだから仕方ないわね」

 

相手は魔女。疲労などもないだろうから、永久機関に近い物だろう。あの魔女の再生も。

向かってくる相手に再び引き金を引こうとしたが、ほむらちゃんの手が銃身を静かに押さえた。

 

「二人はそこで少し見てなさい」

 

そう吐き捨てるかのように告げると、彼女は一人で向かっていく。

マミさんが止めようとしたけど、今度は私が遮った。

視線を合わせ、向かい合う。

 

「黄昏さん!」

「大丈夫。信頼する事も、頼る事も、時には大切な事でしょ」

「でも……」

「彼女は強い。実力も、そして意志も」

 

次の瞬間、マミさんがはっとするように目を見開いた。

私もそれに反応して振り返れば、ほむらちゃんの居た所を魔女が食べている光景が。

それでも私は焦らなかった。彼女には、奥手が在る事を知っていたから。

 

視線を他の所に移せば、ほむらちゃんは別の場所に移っていた。

不機嫌そうな顔をした魔女が再び、彼女をその場所ごと呑み込もうとするが。

既にそこに彼女の姿はなく、また別の場所へと移っている。

魔法少女に翻弄される魔女。魔女を翻弄する魔法少女。

 

私以外の観客はその摩訶不思議な光景をただただ見詰めるだけ。

 

だが、その均衡は意外な形で崩れることになる。

無意味という事を理解したのか、魔女が標的を私達に変更したのだ。

 

マミさんはその急な展開に追いつけず、咄嗟には動けない。

私は動けるのだが、此処から動けば彼女が犠牲になる。そうなれば守るしかない。

 

防衛の構えにより、前方に見えない魔力の壁を作って守る。相手はものの見事に正面衝突。

しかし怒ったのか壁ごと食べてやる、と言わんばかりの大口を開けて被り付こうとして来た。

壁も広いし強度もそれなりだから破れる事はないのだが……

 

「こうも相手が必死だと流石に怖いね」

「そうも言ってられないみたいだけれど」

 

余裕を取り戻し始めた彼女は笑みを浮かべ、中くらいのサイズの銃を生成する。

 

「黄昏さん。この壁、内側の攻撃は通す?」

「えっ、あ、はい」

「なら、やらせてもらうわね!」

 

爆音が響き、魔女が吹き飛ぶ。

そして空中で爆発の連鎖。

その合間を縫うかのようにクラッシャーを投げつけ、起爆する。

跡形も残らないように焼き払い。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

最後にマミさんの砲火が魔女を貫き、業火に散った。

結界が解け、グリーフシードが落ちた所で私は安堵の溜息を吐く。

 

さて、私はもう引こうかな。

 

 

Side 巴マミ

 

 

黄昏と名乗ったその少女。

彼女は私の命を救ってくれた。

 

その恩も兼ねて。

 

「黄昏さん」

 

名前を読んで、振りかえったと同時にグリーフシードを投げ渡す。

彼女は少しばかり驚いたが、なんとか受け取ってまじまじと見つめる。

そして、次の光景に私達は肝を抜かれるのであった。

 

両掌でそれを包み、指の間から青い光が微かに漏れる。

次の瞬間、彼女の左手には磨き上げられたガラス玉の様に綺麗で透明なグリーフシード。

右手にはブラックダイヤの様に黒く禍々しい物体が乗っていた。

そして綺麗なグリーフシードを私に向かって投げ渡す。

 

「それは貴女達が使って。通常のグリーフシードよりもずっと使えるだろうから」

 

右手にある物体の説明はせずに、彼女はそう言い残して風と共に消えた。

 

仮面で顔は見えなかったが、私には見えた。優しい微笑みがその仮面の下にあるのが。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

ある建築中のビルの屋上。

私はむき出しになった鉄筋に腰を掛け、足を振る。

手荷物になっている紙袋を隣に置いて街を見据えた。

 

「この街が、魔女の活動が活発な場所」

「あの野郎、こんな嫌な場所を選びやがって」

 

不意に現れた杏子ちゃんは私の紙袋に乱暴に手を突っ込んで、サンドイッチを取り被り付く。

 

「マミさんが苦手?」

「ああ、あんなヒーロー気取りの偽善者なんて、私には真っ平ごめんだね」

「人の為に。それはその人が自分の望んだ姿を見せてくれる事で、自分の心が満たされるって事じゃないかな」

「……ちょっと黙れ」

「………」

 

それを自覚している彼女。でも忘れたい記憶。

我が儘だけど、人とはそういう者だ。私だって傲慢な強者でしかない。

でもそんな人達が作り上げた歴史も少なからず存在する。

 

ガツガツとがっつく音と風が通り抜けていく音が交差して、寂しげな雰囲気を醸し出していた。

会話が無いとはこういうもの。

私は紙袋から私用にサンドイッチを取りだそうとして……固まった。

 

「杏子ちゃん! 私用のサンドイッチ取ったでしょ!」

「うるせー! 誰が食べたって同じじゃねーか!」

「だからってその言い方はないでしょ!?」

「それに別の所に入れておけばいいんだよ!」

 

それからは言い合いからの笑いあい。そして解散した。

心が温まり、やはり無くてはならないなのかなと思った私であった。

 

 

///////////////////////////////////////

 

 

場所は変わって新しい家。

そこで夕食も風呂も済まし、髪を丁寧に乾かしながらキュゥべえを呼んだ。

 

「キュゥべえ」

「なんだい、藍香」

 

傍に置いておいた穢れの結晶を投げ渡す。

彼は頭で上手に受けとめると、背中が開いてそれを格納した。

正確には捕食したと言った方がいいのだろうが。

 

「君のお蔭でかなりのエネルギーが溜まってきている。感謝してるよ」

「使い捨てほど、無駄の多い物はないよ。私はそれをしてるだけ」

 

彼に対してはこういった言葉を吐き捨てる方がいいだろう。

自分の行動の真意は今の所悟られていない。

冷酷な道具であればあるほど自分のボロに気付き、そこを突いてくる物はないと思う。

その事を心に命じながら、キュゥべえとはそこまでの関係で居たい。

 

なにせやり方が間違っているだけで、彼らの行っている事は理に適っているのだから。




アニメ第三話。そしてマミさん救出。そして発揮される藍香の存在と力。
ずっとこんな感じです。多分。

さて、誤字脱字の指摘は大いに受けますのでよろしくお願いいたします。
その他、ご要望などありましたら感想等でお寄せ下さい。


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第二話『守護者の結界』


『一つの命を守る。それを愚かと呼ぶか』 byACFA ウィン・D・ファンション



Side 黄昏藍香

 

 

朝日と共に目覚めを迎え、日が沈むと共に眠りに就く

人の生活がどうなろうとも、それは太古から自然と共に刻まれた物の一つ。

それに逆らっていれば、いずれ身が持たなくなって朽ち行くだろう。

 

朝一番に目が覚めるのはいつものこと。

昨日は夢を見ていたから少しオーバーしたくらいで。

 

カーテンを開け放ち、段々と赤から青に染まっていく空を見詰める。

暁から青空へ。この光景が私は好きだ。

新しい日の始まりと、その始まりにある生を受けた事に感謝できる。

 

「おはよう、藍香」

「おはようキュゥべえ。今日も早いね」

 

何も置いていない机の上に座っているキュゥべえ。

 

「君の方が、まどかやさやかよりよっぽど早いじゃないか」

「私はこれが普通なの」

 

普段着に着替えて朝食を作り始める。

 

「それにしても異常だね。この頻度は」

 

昨晩、少しばかりこの街全体の様子を視察した。

街の発展具合は最新と言ってもいいだろうが、何故かそれと双璧を誇るかの如く魔女の数が多い。

連日魔女が出現してもなんらおかしくないといった現状。

 

「(ワルプルギスの夜が近いから、他の魔女も活発になって来てるのかな)」

 

手を動かしながらも思考を練る私。

 

何はともあれ、マミさんを助けられたのは良かったと私は思っている。

ちょっとばかり、三人でも様子を見てこよっかな。

 

 

Outside

 

 

まどか、さやか、マミの三人は学校の屋上で昼食を摂っていた。

 

「あの黄昏って子、一体誰だったんですか?」

「私も知らないわ。でも、おそらくあの子は普通じゃない」

「普通じゃないって……そりゃまぁ、変な仮面付けてたし」

「確かにそれもあるかもしれないけど、重要な所はそこじゃない」

 

さやかの言葉を遮るマミ。その言葉に二人は彼女の顔を見た。

それに合わせるかのようにマミは何処からかあの浄化されたグリーフシードを取り出す。

 

「実はあの後キュゥべえに聞いたんだけど、これ一つで通常の何倍もの効果を発揮するらしいわ」

「「えぇっ?!」」

 

何倍もの、という事は少なくとも数倍を超える。おそらく五倍から六倍程だろうか。

 

「でも、どうしてそんな凄いのを自分で作っておいて」

「自分で使わなかったんだろう……?」

「そうよね。普通なら、そんな技術は独占しておいた方が自分の得なのは目に見えてる」

 

浄化されたグリーフシードを仕舞い、再び二人の方に目を向けるマミ。

二人は首を傾げて、何故そんな事をしたのか考えていた。

 

「あの、マミさん」

「どうしたの、鹿目さん?」

「黄昏ちゃん? でしたっけ、あの子とは仲良く出来そうですか?」

「そうね……」

 

マミは目を閉じ、あの時の光景を思い出す。

自分を助け、暁美ほむらの行動の、少しばかりの本質に気付かせてくれた存在。

そしてあの時、仮面に秘めた明るく優しい微笑み。

 

「出来るなら、一緒に戦ってもらいたいわ」

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

私は一人昼食を取りながら、昨日の事で頭を使っていた。

 

おそらく彼女が手を出さなければ、巴マミは今は亡き存在となっていたであろう。

それはそれでまどかが魔法少女になるという可能性が生まれる恐ろしい事であった。

だがそれと同じくらい障壁とも成し得た。

魔法少女としての死はどう言ったものなのか教える為にも。

いずれにせよ、彼女には借りが出来た形になる。

 

「………」

 

それにしても、黄昏と名乗った少女は一体どういった存在なのだろうか。

グリーフシードの穢れを取り除き、従来のよりも穢れを吸収するようになったそれ。

その事だけではない。

あれだけ魔法を使ったと言うのにグリーフシードを使用するどころか巴マミに譲った。

いや、でもそんな手段は私も知らない。なら、何故譲ったのか。

ただ単に、とてつもない程のお節介とも思えない。

 

もしかすれば、彼女の魔法は私達の魔法とは根本的な部分で違うのではないか。

キュゥべえと契約する以外の、別の方法で得た力。

 

仮面の下に隠れたあの笑みは、何か知っている顔。

何を知っている? 魔法少女の真実? インキュベーターの真意? それ以上の何か?

 

完全なるイレギュラー。それも、かなりの腕を持った者。

この時間軸は私の知らない次元にさえ成し得ている。

 

―――なら、今度こそ決着を付けられるのでは?―――

 

甘い囁きの様な考えが頭をよぎる。

いや、彼女が、黄昏という少女がいなくても私は今度こそ決着を付ける。

そう信じて私はいままで、ずっと戦い続けているのだから。

まどかを救えさえすれば、後は全て捨て去っても構わない。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

街にある、一番高いビルの屋上。

私はそこから足をぶら下げて振っていた。

 

何故私がこんな場所に居るかというと。

 

「藍香」

 

背後から声、杏子ちゃんだ。

振り返ると同時に投げ渡されるグリーフシード。

私は魔法を使ってそれを浄化し、投げ返した。

 

「ありがと。これだけはあんたにしか出来ないからね」

「これが真の効率の良さってものかな?」

 

杏子ちゃんだけという訳でもないが、彼女とはこの交渉で最初の縁を結んだに近い。

今は、本当の友達だけど。

 

「ところでさぁ、その黒い物体ってアレか?」

「うん。憎悪や憎しみ、呪いの元となる感情の結晶。強力な魔女程それなりの物にもなる」

「それはソウルジェムから抽出したものよりも、グリーフシードを浄化した時の方が純度は高い」

「っ?!」

 

風と共に現れた者。インキュベーター。

杏子ちゃんは相変わらず睨みつける。

 

私は素気なく、おつかれさま。とだけ言ってその結晶を投げ渡した。

彼はそれを受け取ると、何事も無かったかのようにこの場を立ち去っていった。

 

「あいつ、いつか切り刻んでやろうか……」

「無駄だよ。だってインキュベーターは無限に存在するに等しいから」

「ならちょっと位いいじゃねぇか」

「じゃあ杏子ちゃんは、永遠に終わらないモグラ叩きをやり続けるだけの気力がある?」

「………」

 

はぁ、と重い溜息を吐いて彼女は私の隣に座り、たこ焼きを食べ始める。

はふはふと熱そうに食べるその姿は、いつもの彼女と違って面白かった。

 

「食うかい?」

「頂きます」

 

一個だけ貰って口の中に運ぶと、予想以上の熱さに驚いて舌を火傷しそうになる。

その様子を見て杏子ちゃんは声を上げて笑った。ちょっと悔しかったのは内心秘密だ。

 

 

////////////////////////////////

 

 

魔女の気配を感じ取ってすぐさまその方向へ駆けだす。

杏子ちゃんは今日も別の魔女を探しに出ていった。

彼女曰く、『藍香は誰とでも仲良くなれるから奴だから仕方ねーや』だそうで。

単に褒めているのか、皮肉っているのかは解らないが、褒め言葉として取っておく。

 

廃工場のような場所。魔女の結界を半ば無理やり開いて侵入する。

元々他の魔法少女が入った後の入り口なら侵入しやすいのだが、こう一から開くと言うのは辛い。

 

空中に浮かんだメリーゴーランドの様な背景。重力はそこまでないのか浮かぶ事も出来る。

と、目に入ったのはピンク色の髪の少女。そう、鹿目まどかその人。

彼女は、天使を模したマネキンとも言える使い魔に四肢を引っ張られ、今にも千切れそうなほどにまで伸びていた。

その近くにはブラウン管式のパソコンの画面みたいな魔女が。

 

「―――――」

 

私は天空槍牙を五本生成して正確に投げ付ける。

使い魔を貫いたと同時に爆発させ、魔女に私の存在を意識させた。

拡連多節棍を生成、魔女から生まれる使い魔を叩き潰していく。

それと同時にさりげなくまどかちゃんに近付く。理由は不安にさせない為。

 

「まどかちゃん、大丈夫?」

「た、黄昏ちゃん?」

 

若干目に涙を溜めた彼女の顔は不安の色でいっぱいだった。

だから私は耳元で囁く。

 

「大丈夫、私が守るから。安心して」

 

拡連多節棍を思いっきり増やして使い魔を全滅させると、そのまま一本に束ねて間髪入れずに魔女を狙う。

 

魔女の真上から思いっきり叩き割るかのようにぶつけると、何かが拉げる音が鳴る。

縦に凹んだ魔女はそのまま地面に叩きつけられ、黒い水を噴き上げた。

それと同時に解ける魔女の結界。今回も無事に守れたようだ。

 

まどかちゃんはあまりの事の進み用に言葉を失っている。

 

……それにしてもこの仮面蒸れるなぁ。もうちょっと通気性とか考えたらよかった。

実は付けている仮面は魔力で生成したもの。ただの鉄仮面でしかないけど。

 

「鹿目さん!」

 

と、ここでマミさんの登場。

まどかちゃんを抱きしめ、そのまま膝をつく。

 

「良かった……良かった……!」

 

私は自分の髪をいじりながらもその光景を眺める。

やっぱり、此処まで心配してくれる人がいるとうれしい物を感じるのかな、まどかちゃん?

 

 

 

 

「ごめんなさい。また弱い所見せちゃったわね」

「あの、ごめんなさい。マミさん」

「鹿目さんは何も悪くないわ。むしろ私の方こそごめんなさい」

 

暫くマミさんは泣いていた。今は涙をぬぐい、謝り合っていた。

私としては二人とも悪くないと思うんだけど。優しいな、二人とも。

 

「黄昏さんも、ごめんなさいね。迷惑かけちゃって」

「大丈夫ですよ。それよりも何よりも、まどかちゃんを救えたのが幸いでした」

「え? どうして私の名前を……」

「さてなんでかな?」

 

私は笑いながら仮面を手に取り、握りつぶすかのようにして消滅させる。

二人は突然の行動に唖然とした。

 

「私の名前は黄昏藍香。この街にやってきたイレギュラーな魔法少女」

 

そして、私独自の結界を創造した。

 

 

Outside

 

 

まどかとマミの二人は次々に巻き起こる展開に追いつく事が出来ず、茫然と辺りを見渡す。

新緑の緑が煌々としている森と鏡のように透き通った湖。

辺りは白銀の月光と舞い踊る蛍の光で照らされていた。

だがその場にはこの空間の創造主がいない。

 

「あれ、黄昏ちゃん?」

 

まどかは声を掛ける。マミは慎重に辺りを見渡し、気配を探る。

魔女の結界とはまるで違う。だが普通でも無い世界。

 

と、そこにひらりと紙飛行機が舞い込む。

羽根の部分には【マミさんとまどかちゃんへ】と書いてあった。

まどかは何処から飛んできたんだろうと首を傾げながらも、それを解く。

その中には文章が書き連なっていた。

 

『        招かれし、二人の少女へ。

  私は何処に居るでしょう? と言っても解んないよね。

     そこから真っ直ぐな道が見えるでしょ?

   その道を暫く進めば見えてくる建物があるから、

     そこで私は待ってます。必ず来てね。

 

P.S.

まどかちゃんはお家の人に連絡しておいた方がいいよ。  』

 

 

「マミさん」

「ええ。私の方にも一通届いたわ。全く、粋な事してくれるわね」

 

怒っている様な口調だったが、その顔は笑っていた。

 

「行きましょう。折角のお呼ばれ、断る訳にはいかないものね」

「あ、その前に電話しておきます」

 

その発言にマミは思わず少し吹き出してしまった。

 

 

*******

 

 

白銀の月光は優しい光でその世界を照らしていた。

灯りが必要ないほどにまで照らされたその道は、手紙に書いてあるようにまっすぐであった。

 

「黄昏藍香ちゃんかぁ、なんだか不思議な名前ですね」

「ふふっ、人の名前ってそんなものよ」

 

二人とも心から信用しているのか、この世界になんの警戒心も持たずに何気ない会話を交わす。

 

「そういえばどうして藍香ちゃんは、マミさんの名前を知ってるんだろう」

「私のような魔法少女は珍しいから、逆に有名なくらいよ」

 

「それより鹿目さんの名前を知ってる方が私としては不思議だわ」

「うーん、私のクラスにそんな名前の子いないし……他のクラスの子かなぁ?」

「私のクラスにも少なくともいないわ。そもそもあの身長からして二年生かしら」

 

そんな会話を交わしていると、急に森が開けてなだらかな坂が続いていた。

思わずその先にある物を見て歩みを止める。その坂の先。大きなお城が建っていた。

 

もう驚かない。もう慣れたから。

 

今宵、招かれた客として、二人は再び歩き始める。

そして案外早く辿り着く。心なしか楽しみで速足だったのだろう。

 

木製の門の扉が開かれると、出迎えたのは小さな人形。

髪は金髪。瞳の色は青色の少女の姿をした作りこまれた物。

ふわふわと空中を漂っていたが、二人に門をくぐるよう動作で示す。

戸惑いながらも二人は門をくぐると、すぐさまその人形が門を閉めた。

続いて城の扉を開いて招き入れる。

 

「なんだか、不思議な感じですね」

「え、えぇ」

 

人形に先導されるのは良くも悪くもこれが初めてなので、戸惑いを隠せない二人。

それに対して、慣れているのかその人形はテキパキと仕事をこなしていく。

 

長い廊下。その突き当たりにある木製の扉。上には『応接室』と書いたプレートが。

人形が扉を開くと、椅子に腰かけている藍香が出迎えたのであった。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

「いらっしゃい、まどかちゃん。マミさん」

 

私は満面の笑みで彼女達を出迎える。

 

「ありがと、時」

 

私はこちらに飛んできた『時』を膝の上に乗せて頭を撫でる。

時は嬉しそうに目を細めながら私に擦り寄った。

ふと、二人ともまだ立っている事に気付く。

 

「ああ、そこに座っていいよ」

 

四角い机、私と向かい合う形で置かれた二つの椅子。

ポンポンと私が手を叩くと、『風』と『守』が奥の部屋から飛んできて椅子を引いた。

彼女らに再び先導される二人。戸惑いながらも腰を掛ける。

 

それを図ったように今度は『世』が姿を表し、カートに紅茶を乗せてやってきた。

順々にお皿、スプーン、カップ、ケーキと置いていく。

最後に角砂糖とミルクの入った小瓶を添え、頭を下げて奥の部屋に消えていった。

 

「さて、お茶会始めよっか」

 





10話(アニメ6話~7話)までは書きあげているので、結構なペースで更新となります。
問題は、ワルプルギスの夜ですがね……(意味深)

ではではー

2012/11/04 前書きの台詞がまさかのウィンディーの台詞だったでござるの巻


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第三話『和解への一歩』


『偉そうに、非戦闘員を守る、そんな格好すらつけられないか』 byACFA ウィン・D・ファンション



Side 黄昏藍香

 

 

「さて、お茶会始めよっか」

 

カップを持ち、微笑んで口を付ける。

 

「熱っ?!」

 

だがまた予想以上に熱くて驚いた。カップをおいて唇に指を当てる。

その私の様子を見て二人は吹き出していた。やっぱり締まった雰囲気は似合わないか。

図った訳ではないが、緊張した空気が解かれたのを肌で感じながら良かったと思う。

 

「私に質問があるなら、答えられる範囲で答えるよ?」

「ならまず私からいいかしら」

 

マミさんは肘をつき手を組んで私を見詰めた。

 

「はい。なんでもどうぞ」

「貴女は一体何者?」

 

うわぁ、単刀直入だなぁ。

苦笑しながら質問で返す。

 

「それはどう言う意味で、ですか?」

「そのままの意味よ。グリーシードを必要としない魔法少女なんて、普通じゃないわ」

 

そうですねと言いながら私は紅茶を飲む。

 

「実を言えば、私はキュゥべえと契約してないの」

 

マミさんは予想通りといった顔をして納得し、まどかちゃんは驚きを隠せないでいた。

 

「言える事はそれだけ。だけど、そのお蔭で貴女達に出来ない事が私には出来るの」

「グリーフシードを浄化したのも、そのひとつってわけ?」

「はい。それ以外にも……マミさん、ソウルジェム出してくれますか?」

「ええ、いいわよ」

 

マミさんの右手にある指輪が金色のソウルジェムに変化し、渡してくれる。

それは少し濁っていて、私がこの前渡したグリーフシードを使っていない事を物語っていた。

 

「実はこの結界、少しずつだけどソウルジェムの魔力を回復させるっていうおまけ付きなの」

 

正確には穢れを取り除くんだけど。と付け加えてマミさんのソウルジェムを見詰める。

すると段々と本来の輝きを取り戻し始めた。

 

「これが貴女の魔法……」

「凄い……」

 

私は得意げに微笑むとマミさんにソウルジェムを返す。

 

と、私の膝の上で大人しくしていた時が玄関の方へ飛んでいった。

それに合わせて風と守もあわただしい様子で奥の部屋へ飛んでいく。

ああ、これはもしかして。

 

「新しいお客さんが着たみたい。ちょっと騒がしくなるけど気にしないでね」

 

私は微笑んで奥の部屋の方を見詰める。

風と守が椅子を運んできて、私の隣に置いた。

再び消えていったかと思えば、純白のテーブルクロスを持ってくる。

私がケーキとカップの乗ったお皿を浮かばせて、二人の手助けをした。

そうするとすぐに私達の机にもすぐさまテーブルクロスを掛ける。

 

そのあっという間の出来事に二人は相変わらず追いつけていない。

 

扉が開く。その先に居たのは。

 

「なんだよ、やっぱり先客が居るじゃねーか」

 

 

Outside

 

 

「っ?!」

 

マミはすぐさま後ろを振り返り、彼女の姿を視界に捉える。

 

「貴女がどうして此処に居るのかしら、佐倉杏子さん?」

「そんな事どうだっていいだろ。私は藍香に晩飯を貰いに来たんだよ」

 

私服姿の杏子は動ずる事無く、藍香の隣に座ると風と守が持ってきた紅茶を啜った。

一方のマミは警戒心を向けたまま、席に座ろうともしない。

 

「で、あんたは一体何なの?」

「えっ、あ、私は」

 

急にまどかの方に話が移る。

杏子からすれば、この結界に居るのはせいぜい藍香の招いた者のみ。

とはいっても魔法少女でもないこの少女を招いた理由が、全くもって理解できなかった。

 

「あの、私、魔女から藍香ちゃんに助けてもらったんです」

「ふーん。ま、それはご苦労なこった」

 

もうこれ以上興味が無くなったのか、今度はケーキに手を付ける彼女。

 

「≪鹿目さん気を付けて、彼女も魔法少女よ≫」

「≪えっ!≫」

「≪それも他の町の魔法少女≫」

「≪じゃあもしかして≫」

 

まどかの頭に過ぎる、マミの言葉。

<私のような魔法少女は珍しいから、逆に有名なくらいよ>と。

<むしろ多いと、見返りの奪い合いになりかねないわ>と。

 

「≪自分の損得を考えて≫」

「≪そうね。彼女の場合もっとひどいのだけど≫」

 

マミは話した。杏子のやり方を。

使い魔を倒さず、魔女だけを狩りグリーフシードを集める。

使い魔はいずれ分裂元と同じ魔女へと成長する為、そこで初めて狩る。

まるでそれはグリーフシード、即ち魔女の養殖であり普通では考えられない事。

使い魔でも、人を殺す事は出来るのだから。

 

まどかはその話を聞き、驚愕を顔で表わす。

その表情の変化に気付くもあえて声を掛けない藍香と杏子。

 

「ああそうだ。これまた頼むよ」

「うん。いいよ」

 

別の魔女を狩り終えたのか、報酬を藍香に渡す杏子。

藍香は飲んでいた紅茶を置いて浄化を始めた。

 

「藍香さん、もうひとつ質問いいかしら?」

「はい。答えられる範囲で、ですよ?」

「佐倉さんとはどこで知り合ったの?」

 

先の二人のやり取りは、何気ない雰囲気が漂っていた。

それすなわち彼女達はそれなりの付き合いである事を物語ってもいる。

 

「私がもともと住んでいた町で、使い魔を倒してた時に知り合ったんです」

「全く無駄な事する奴だよ。藍香も本当に」

「いいでしょ? だって人が死ぬのは見たくないもん」

 

杏子がその発言をした後も藍香はそう言って笑った。

 

しかしまどかは杏子の発言で核心を得る。

マミの言っていることに間違いはなかったと。それでも、疑問が一つ生まれた。

 

なら、何故そんなやり方をしている彼女と、藍香が付き合っている理由が分らない。

まるで水と油のように違う二人が、何故此処まで調和されているのか。

杏子も、藍香も、仕方ないから付き合っている、とは到底見えない。

姉妹のように慣れ合い、親しみを持って接している。

 

「まどかちゃん、さっきから黙ってるけどどうかしたの?」

「えっ? ううん、大丈夫だよ?」

 

顔に出ていたのかと思いながら何とか誤魔化すまどか。

藍香は首を傾げていたが、紅茶を飲む事によってそれを止めた。

 

此処で奥の部屋からいい匂いを漂わせながら、世が料理を持ってくる。

 

「御馳走するよ。私は貴女達とも仲良くなりたいの」

 

 

Side 鹿目まどか

 

 

藍香ちゃんの告白。

その時の顔はいつもの笑顔じゃなくて、真剣な表情で私とマミさんを見据えていた。

3つのお人形さんがテキパキと配膳していくが、藍香ちゃんは相変わらず私達を見詰める。

 

「「「「………」」」」

 

食器が擦れる音だけがこの場を埋める。

私はこんな雰囲気に慣れてないから目線を料理に移した。

 

ミートローフにコーンスープ、色とりどりの野菜が入ったサラダにロールパン。

おかずにはフライドポテト、マカロニのトマト煮、サーモンのマリネ。

全部が全部出来たてなのか、湯気を立てていたりいい香りがしたりしていた。

 

「(凄いなぁ、これ全部あのお人形さんが作ったのかなぁ?)」

「おいおい、見合ってないで早く食べようぜ。じゃないと冷めちまう」

 

杏子ちゃんの言葉ではっとする。そうだ、まだ藍香ちゃんとマミさんは。

 

「そうね。作ってもらったからには頂かないと。作った人にも失礼だもの」

「やっぱり食事は最初だけでも皆幸せにならないとね」

「何言ってんだ、食べ終わるまで全部感謝して食べなきゃダメだろ?」

 

なんだか杏子ちゃんのいい所が少しわかった気がする。

 

「「「「いただきます」」」」

 

マミさんからしていた緊迫した雰囲気も納まり、私はほっとしながらもスープを飲んだ。

 

「おいしい……!」

「そうでしょ? 世の作る料理はかなりの腕なの」

 

嬉しさと自慢が混じった笑みを浮かばせる藍香ちゃん。

 

誰なのかなぁと思っていたら、赤く長い髪に綺麗な銀色の目をした人形がペコリとお辞儀した。

慌てて私も頭を下げると、すぐさま藍香ちゃんの方に飛んでいってしまう。

 

「あっ」

「ごめんね。世は人見知りが激しいから」

「そ、そうなんだ」

 

まるで人の様な人形。感情も表情もある。

最初は不思議な感じがしたけど、今では友達になれるかなとも思ってしまう程。

 

マミさんの方を見ると美味しそうに、そして優雅に味わっていた。

杏子ちゃんもおいしそうに食べているけど、対照的に豪快に食べて……いや、食らいついていた。

その光景を見て思わず苦笑い。

藍香ちゃんは至って普通に、言うなら丁寧に食べている。

 

「あの、これも藍香ちゃんの魔法なの?」

「うん。この空間も、この子たちも。料理は本物だよ?」

 

魔女が結界を構成すれば、身をひそめ、人に絶望をまき散らすように。

魔法少女が結界を構成すれば、身を落ち着かせ、他の者に癒しを与える。

そんな想像で創ったのがこの結界。だそうで。

 

「あ、そうそう大事なこと言い忘れてた」

 

何かを思い出したかのように相槌を打つ藍香ちゃん。

なんだろうと自然と食事の手も止まる。

 

「この空間は時間の流れが早いから、時間はあんまり気にしなくていいよ」

「?」

「簡単にいえば、ここに長く居ても外じゃ時間が全然経ってないんだよ」

 

杏子ちゃんの補足でやっと理解できた。

 

「具体的にはどれくらいかしら?」

「一時間が10分くらいかな。ちなみに年齢とか、そういうのには影響ないから」

「そ、そんなに?!」

 

えーっと、じゃあここに長くいてから帰っても、すごく遅い時間に帰ってきたなんてことはないのかな。

うん、そうだよね。ここでの一時間がふつうの10分だから……問題ないよね。

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

イレギュラー。確かに名乗った、黄昏藍香という存在。

私は彼女を知らない。当たり前だ。

当たり前だが、知らないという当たり前ではない事態に私は惑っている。

 

「………」

 

そして、今は彼女の創りだした空間の内部にいる。

見失わないという点では良いのだが、逆に見つかるという点では分が悪い。

 

どうやら森を抜けた先にある、メルヘンチックな城に彼女はいるようだ。

しかし、先ほども杏子が入る時に見たが、出迎え役をする人形がいる。

真っ向から行っても、時間を止めて侵入しても、どう転ぶか解らない。

侵入者として撃退しようとするかもしれない。それはないと、思いたいのだが。

いや、すでに黄昏藍香が私の存在に気づいていても、なんらおかしいことではない。

この空間の創造主は彼女自身なのだから。

 

「(それにしても、佐倉杏子は何故ここに?)」

「やはり、あなたでしたか」

「っ?!」

 

思考が別の事へ移り変わろうとした時、何者かに背後から話しかけられた。

月光に照らされ風に揺れる白銀の髪。それと相対的に燃え上がる赤い太陽の瞳。

だが人形で背も150cmほど。あの時出迎えていた人形とは違う。

 

「私は夢(む)。漢字で書くと夢と読む方です」

「そう、それで貴女は何をしに来たの?」

 

一瞬だけ時を止めて銃を構える。

 

「藍香様の命で探索に来たのです。おそらく暁美ほむらも来ているだろう、と」

「正確にいえば、巻き込まれたのだけど」

「そうでしたか。深くご無礼を」

 

頭を下げ丁重に謝る夢。悪い気はしないのだが、ここまで来ると調子が狂う。

 

「もしご所望なら出口まで案内しましょうか?」

「結構よ。私は貴女の主に用があるから」

「私が許可されている範囲までなら、お教えしましょう。主の事を」

 

私の表情から何かを読み取ろうとする、彼女の思わぬ発言に言葉を失う。

その発言はまるで、私がいい策はないかと考えていたのを、見透かしてのような発言であった。

 

「貴女、本当に何なの?」

「私自身の事はもうすでに話し尽くしました。さて、どうされますか?」

「……話してもらえるとありがたいわ」

 

嘘をつくような者にも見えない。

私はその人形からできる限り情報を聞き出すのだった。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

世がデザートを持ってくる頃には、二人の質問タイムも終わって温かい雰囲気に包まれていた。

互いに互いを信用し合う。それはそう、杏子ちゃんはまどかちゃんにちょっかいを出すまでに。

私とマミさんは行きつけのお店とか、好きなものについてとかのお話をするまでに。

 

「あーあ、こんなに楽しいなら、さやかちゃんも誘ってあげたらよかったのに」

「ふふ、それもそうね」

「ん? 誰だそのさやかってやつ」

「私の友達。今度会ったら紹介するけど……」

 

ここでまどかちゃんがハッとする。

杏子ちゃんが学校に行ってない事に再度気づいたようだ。

さっきさらりと彼女がまどかちゃんに対して言っていた。

 

「あ……ごめん」

「なんでまどかが謝るんだよ。あたしの人生だ、誰に何言われようと気にしないよ」

 

これが杏子ちゃんの本当にいいところ。

全て自分の所為。という考え方は、自ら抱く不条理に対してもろい部分がある。

しかしそれを越えれば、すべてを真正面から受け止められる、前向きな考えでもある。

 

悪い面もあれば良い面もあるのが絶対。見方次第、考え方次第でどうにでもなる。

 

「まどかちゃん、マミさん、これだけは覚えておいて」

「「?」」

「どんな人にも、必ず良い所はある。だけど時にはそれを気付かずに、気付こうともせずに、

自らのみを信じる人がいるかもしれない。そんなことがあるかもしれない。

そんなことになったら、一度立ち止まってしっかりと相手を見て。

相手を動くのを待つんじゃない、自分から動くの。でないと全部始まらない。

相手を心から信頼してみて。そうすれば、きっと相手も自分を信頼してくれるから

互いに信頼し合えたなら、今度はその信頼の砦を守り続けて。

もし相手から崩れそうになったら支えてあげて。そうやって初めて、信頼は厚くなるんだよ」

 

 

Side 鹿目まどか

 

 

藍香ちゃんの言葉を聞いて、思い浮かんだのは藍香ちゃんのさっきまでしてきたこと。

 

私達をこの結界に招いて、お城でのお出迎えは人形さんだったけど確かに丁重に案内してくれた。

お茶を出してくれて、質問にも的確に答えを出していた。

 

何故グリーフシードを浄化してマミさんに渡したのか、とか。

実は藍香ちゃんはキュゥべえと契約せずに魔法少女になった、とか。

藍香ちゃんの魔法は色んな事ができる、とか。

 

そして杏子ちゃんが来てからの言葉。

 

『御馳走するよ。私は貴女達とも仲良くなりたいの』

 

藍香ちゃんの方から動いていた。まっすぐに、素直に、自分の望むままの事を私達に伝えた。

 

友達じゃない。でも友達になりたいから最高のお持て成しをする。自分の正体を私達に教える。

そう言った行動は全部、信頼から生まれる物。心から信じているから生まれた物。

それこそ、相手を疑っていたらぎこちない感じになっちゃうもんね。

 

初めて会った筈なのに、もう友達だなんておかしいけど、そうも思わない。

私だって、藍香ちゃんと友達になりたかったから。

 

そういえば、ほむらちゃん……本当に……

 

「藍香ちゃん」

「どうしたの、まどかちゃん」

「もし、話も聞いてくれなくて、本当にどうしようも無くなっちゃったらどうしたらいいの?」

 

目を閉じ、肘をついて手を組んでじっくりと見据えるかのように考える藍香ちゃん。

少しして口を開いた。

 

「そんな弱気になっちゃいけないね。そんな事を思いながらじゃ絶対に自分の想いは届かない」

「まどろっこしいねぇ、そんなのぶん殴ってでも言う事聞かせりゃいいんだよ」

「それは本当の本当にどうしようも無くなった時。そうだね……」

「………」

「自分が、その相手にとってどんな存在か。それを自分で理解すること」

 

「そしてそれを理解したら、自分は何をしたらいいかを考えて行動する。かな?」

 

 

Outside

 

 

そこでお開きとなった晩餐会。

藍香は二人を送った後、杏子と共にある場所へ向かった。

 

結界の城を越えた先。そこには打って変わって幻想的な森が広がっている。

その森の中にある祭壇。石で出来ているが苔が生しており随分と時間が経っているようだ。

 

「で、こんなとこまで連れてきて何の用?」

「ワルプルギスの夜についてなんだけどね」

 

超弩級の魔女、ワルプルギスの夜。

通称名であり、元々一人だったのか、複数人の呪いの集合体なのかは解らない。

しかし結界を必要としないその魔女は直に都市や町に被害を及ぼす。

最終的には世界を戯曲と化すまでの力を持っているのだ。

 

「(まぁ、今更なんだけどね。藍香はさらっと凄い事言うし)」

 

杏子はもうなれたと言わんばかりの溜息を吐いて、藍香の顔を見る。

その名を告げた藍香は杏子の顔をしっかりと見て、再び口を開いた。

 

「何れこの街にワルプルギスの夜が来る」

「……いきなりすぎやしないかい?」

「ごめんね。でも今の内に知っておいてほしかったことだから」

「流石は藍香。と言っておくかな」

 

ワルプルギスの夜。その正体はたった一人の魔法少女から生まれた魔女。

その真実は、ほむらも知らない。

 

「ところでさぁ、この祭壇は何?」

「これ? これは、私の初めての友達が戻ってきたときに、安静にしてもらえたらって思って作ったの」

 

藍香が祭壇に触れると、淡い虹色を纏って、光のベッドに変わる。

そこには、所々装飾が施された純白のシスターの服に身を包んだ少女が眠っていた。

髪も服と同じ純白。瞳の色は目を閉じているので解らない。

その表情はとても満たされていて、それでいて哀しげな雰囲気を醸し出していた。

 

「こいつは……」

「一番有名なのに誰も知らない、魔法少女。彼女が私の初めての友達」

「……まぁ、いつか起きたら紹介してくれよ。まどろっこしいからさ」

「うん。絶対」

 

それから杏子はその場を離れ、自分の住処にしているホテルに戻った。

 




OutSideとは、第三者視点のことです。
更新速度は一週間に一度のペースぐらいを保って行きます。
卒業制作にあまりにも時間がとられて、書けないだよおおお!(泣)

藍香の結界の最大の特徴は、キュゥべえも干渉できない空間という事です。
だって特異魔法少女の空間に別魔法主体の塊が入ってきたらおかしいですし。

次回予告 CV:暁美ほむら

必要のないものかどうかは、後になってみれば解るというのに。
私は切り捨て、排除してきた。過去の自分を置き去りにして。

『少女の過去』


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第四話『少女の過去』

『その力で…貴様は何を守る…?』 by AC4 アマジーグ


Side 黄昏藍香

 

中に誰も居ないことを確認してから、結界を閉じ家に帰る。

 

「はぁ~、疲れたしお風呂入ろ」

 

入浴剤を浴槽に入れ服を脱ぎ、浴室に入ってシャワーを浴びる。

勿論頭もその時に洗っておく。

 

瑠璃色に染まった浴槽に浸かり、体を伸ばした。

肩や首がコキコキと音を立て、疲れていることを体が教えてくれる。

 

「今日は魔女退治にお茶会、いっぱい魔力使っちゃったなぁ。まぁまどかちゃんとマミさんの親睦も深められたからいっか」

「君が率先して魔女を倒すなんて、珍しいじゃないか。藍香」

 

お風呂にある窓の外、曇りガラスの向こう側はにキュゥべえが現れる。

 

「今回は私の友達が犠牲になりかけたからね。本来なら他の子に譲って上げたかったんだけど、誰も近くに居なかったし。私だってほむらちゃんみたいに傍観してたいけど、やっぱり私は傍観者である以前に異端の魔法少女だから」

「君の活躍は当然、上にも通達が行っているよ」

「そうなんだ」

「彼らも君の活躍を高く評価している。僕ら自身、君の存在は非常に好ましい。それほどの逸材でもあるんだ」

「……故に、何かある?」

「正直、今まで君が現れなかったのは非常に惜しいと思っている。時期がもっと早ければ『彼女』も……」

 

彼女。彼女は大丈夫、私が助けるって決めたから。

 

「言ったでしょ? 私は異端の魔法少女。あなた達が生み出す魔法少女とは違う。だからその人達にできないことも出来る。運命さえも捻じ曲げて、摂理に逆らうことさえ」

 

「でも私にできないことがある。それができるのがあなた達が生み出した魔法少女」

「君は、何を知ってるんだい?」

「何も知らないって言ったほうがいいかな。それを知る前に、私が舞台から退場するかもしれないし」

「舞台と言えば、また一人、その舞台に上がった者がいるよ」

 

十中八九、さやかちゃん。

さやかちゃんが何を望んだのかも解る。

マミさんが死にかけたあの場面をその場で見ていて、どれだけ魔女を狩る事が危険か解っていたはず。

それでも、さやかちゃんは奇跡と魔法を望んだ。

 

「美樹さやか。彼女が新しい魔法少女の名前だよ」

「………」

「君も彼女を知っているはずだ。何せあの時、あの場所にいたんだから」

 

うん。よく知ってる。

まっすぐで、ぶつかっても何回も体当たりして、でもすっごく脆い。

誤魔化そうとしても嘘が吐けないか、吐いても下手だからすぐ解っちゃう。

魔法少女は芯の強さが物を言う。彼女ほど、致命的な欠点を抱えた魔法少女はいないと思う。

でもそれはまだ未熟だから。腕前以前に、心の強さが。そういう年頃だし。

 

私だって最初は何にも知らずに日々を過ごしていた。

 

あの日が来るまでは。

 

 

******

 

 

避難所。

 

家族の人がいない私は一人で避難所に駆け込んだ。

その際、役所の人達にいろいろと聞かれたり言われたりしたりしたけど、いつもの遠い親戚の話をして納得してもらう。

 

避難所はとても込み合っている。

避難命令が出てから随分と遅くなってしまった。

情報が入ってくるのが遅かったからだ。

停電に加え、ラジオも使えず、車が来てから準備していたから遅くなった。

 

ゴゴゴゴ……

 

激しい風の音と、地響きを上げる音が建物の中に木霊した。

子供は怯え、大人が声をかけて安心させる。

 

ただの風と地響き? 何か違う物があるような。

少し怖くなって誰にも気づかれないように建物を飛び出す。

何が怖いのか解らないまま、ただただ本能に従って人一人いない道を駆ける。

 

「はぁ、はぁ」

 

息を整えて空を仰ぐ。

そして私は私のしたことを後悔した。

何故空を仰いだんだと。どうして上を見たんだと。

 

「―――――」

 

青紫色のドレスに白いフリルを身に纏った逆さまの化け物。

足があるはずの上の方には三段重ねになった大中小の歯車。

あと一つ容姿を付け加えるならとても大きいということ。

 

足がすくみ、腰が抜けた錯覚。足のすくみから震えに代わる。

私は悟る。何に恐れていたか。そして、頭の中にひとつの単語が過る。

 

【魔女】

 

「フフフ―――アハハハハハ―――――!!!」

 

高々とした笑い声と共に、その魔女を中心にして暴風が吹き荒れる。

ガラスが割れ、門が激しく開閉し、木々の枝が悲鳴を上げた。

 

そして次の暴風が吹き荒れた瞬間、私は空に舞い上げられる。

そのまま、廃墟と化したビルに叩きつけられた。

 

「痛……いだけ?」

 

かなりの勢いで叩きつけられたから、普通なら痛いどころか死んでしまうのではないだろうか。

なのに背中に感じるのは瓦礫のゴツゴツした感触と、叩かれた様な痛みだけ。

おかしい。何で生きてるのかが不思議なくらい。

 

と、自分の回りに球体の薄い膜の様なものが展開されていることに気付く。

 

「バリア?」

 

頭に浮かんだのはその言葉しかなかった。

私は立ち上がりその場所から魔女の方を見る。

 

魔女はかなりの速さでどこかに向かっているようだった。

進行方向の先、そこには避難所が。

 

魔女の歯車が上下して再び暴風を巻き起こし、回りにビルを浮かばせる。

そして浮いたビルが勢いよく落ちていく。

落下地点にあるのは、避難所。

 

「っ! やめてえええええええええええええええ!!!!!!!!!」

 

私の必死の叫びは轟音に呑まれ、そして虚空に消えていった。

 

 

********

 

 

ぶくぶくと口まで湯船に付けて泡を立てる。

嫌な事思い出しちゃったな。

 

「それじゃ伝えるべき事は伝えた。また用があったら、いつでも呼んでくれれば駆けつけるよ」

「うん。あ、キュゥべえ」

「なんだい?」

「女の子の入浴してる時とかは、現れない方がいいよ?」

「……やれやれ、僕たちには感情がない。君もそれを解っているだろう?」

「だけど、私達には感情がある。だからキュゥべえが気にしなくても私達は気にする。そんなこと言ってたら、女の子達から嫌われちゃうよ?」

「それは流石に困る。参考にさせてもらうよ」

「じゃあね、キュゥべえ」

 

影が遠のき、薄れ、気配と同時に消えた。

静寂がこの場を支配する。

 

「さってと。いつさやかちゃんをお誘いしようかな~♪」

 

根源が違っても同じ魔法少女という存在。できれば、仲良くしたいな。

――――――別の時間軸で、仲良しだったんだから――――――

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

ルーズリーフに今日聞き出した、黄昏藍香の情報をまとめる。

 

・あの場所は魔女の結界を自分なりにアレンジした彼女の結界であること

・その結界の中では夢を含めて5体の人形が招待された者をもてなすこと

・黄昏藍香の使う魔法は、私達魔法少女の使う魔法のベクトルとは全く別の物であること。故にここまで特異な魔法の使い方も出来る

・勿論、ソウルジェムがないので、傷付いた体の修復だけで命を繋ぐことはできない

・使う武器は多種多様で、現代兵器を使うこともあれば、自分の魔力で生成された武器を使うこともある。因みに肉弾戦はほとんどしないらしい

 

纏めてみたが、ほとんど情報を聞き出せていないことが解る。

ただ、それは量のこと。一番重要なのは……

 

『・黄昏藍香の使う魔法は、私達魔法少女の使う魔法のベクトルとは全く別の物であること。故にここまで特異な魔法の使い方も出来る』

 

ということ。

 

でないとあんな結界を作ったりはできない。

それに夢という者もあの結界の効果について話していた。

 

『この結界には、ソウルジェムを徐々に浄化する力があるんですよ』

『それはまた、大層な造りね』

『インキュベーターの干渉もありませんので、何かとした会議の時にでも』

『………』

 

ソウルジェムを浄化し、インキュベーターの干渉も無くす結界。

魔女の結界でさえ、インキュベーターは侵入してくるというのに。

冷静に考えれば当然の話だ。彼らが生み出した技術で生まれた副産物と言って間違いはないのだから。

 

「黄昏藍香、貴女は一体何者なの?」

 

少なくとも彼女は学校には行っていない。

そして、他の時間軸でも――――

 

記憶にノイズがかかる。

まどかを救うため、必要のない記憶を排除し続けたからだ。

必要のないものかどうかは、後になってみれば解るというのに。

私は切り捨て、排除してきた。過去の自分を置き去りにして。

だが、今は違う。昔の記憶が必要だ。何か引っかかる。奥の方で、何かが。

 

「黄昏藍香……黄昏藍香……」

 

暗くてよく見えなかった仮面の中身。彼女の素顔。

私が知っているのは、腰まで伸びた綺麗な青い髪。

その色は美樹さやかの髪の色と同じ。

 

美樹さやかと同じ?

 

『藍香ちゃんってすっごい綺麗な髪してるよね』

『そんなに長いのに手入れも行き届いてて羨ましいですわー』

『そうかな。私はそんな特に気に掛けることもないんだけど』

『んぐぐ……同じ髪の色なのになんなんだこの扱いの差はーー!!』

『えっと、髪の色は関係ないと思います……』

 

「っ?!」

 

確かにいた。別の時間軸に、黄昏藍香という存在が!

私、まどか、美樹さやか、志筑仁美の四人と共にいたあの少女を!

 

「………」

 

一度、直々に合って話をする必要があるようね。彼女には。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

朝。平和な朝。

私はいつもの時間通り起きだし、朝ごはんを作る。

 

ピンポーン。

 

と、チャイムが鳴る。

こんな時間。いや、この家に訪ねてくるのは一人しかいない。

 

「はーい!」

「おっ邪魔っしまーす!」

 

そう、杏子ちゃんだ。

朝に来ることは少ないのだが、時たま朝ごはん目当てにやってくることがある。

 

「お、今日の朝飯は洋食かー」

「杏子ちゃん洋食好きだもんね。ちょっと待ってて」

「もーらい♪」

「あ、それ出来t「アツッ!」だから言ったのに……」

「はふっ、はふっ、うまーい! やっぱ藍香の料理は最高だな」

「杏子ちゃんも作ってみたら?」

「へん、そんなのあたしがすることじゃねーよ」

「そんなこと言ってると、後で痛い目に合うよー」

 

杏子ちゃんはリビングに行ってテレビを付ける。

こんな時間にやってるのはニュースばっかりなんだけど。

 

『今日のニュースです。昨日の夜、見滝原市の市街地付近の脇道で、青年一人が重傷の状態で発見される事件がありました』

「「………」」

『青年は顔面などに打撲などの酷い怪我を負っており、警察は暴力事件と見て――』

 

いきなりチャンネルが代わり、情報番組に切り替わった。

 

「まぁ、この規模ならまず使い魔だな」

「だね。時間空いたら倒してくるよ」

「使い魔は他の魔法少女にとって無駄な魔力使うから、ってか?」

「それも大きいけど、出来る限り被害者は出したくないから」

「そうかい。なら私は別のとこでも見張っとくよ」

「おねがい。あ、ご飯出来たよー」

 

一人身同士、こうやって触れ合える場があっていいなと思う私でした。

 

 

Out side

 

 

美樹さやかが魔法少女になったという事が知れるのは、そう難しいことではなかった。

ほむらが学校を休んでいたが、マミとまどかはいつも通り学業に励んでいる。

 

そして休み時間にまどかがさやかの指輪に気が付いたのだ。

 

≪さやかちゃん、それって≫

≪あ、うんそう。さやかちゃん魔法少女になっちゃいましたー! なんてね≫

≪やっぱり願い事≫

≪あー、それ以上は言わないで。解ってるなら心の中にしまってて欲しいな≫

≪……うん≫

≪という訳でマミさん、私新人なんでよろしくお願いしまーす≫

≪ふふふ、はいはい≫

≪(さやかちゃんも魔法少女になって、私は見てるだけ。私も何かできないのかな)≫

 

さやかが魔法少女になったという事実は、まどかの心に容赦なく降りかかる。

その事実は、まどかの焦りと不安をさらに掻き立てるのであった。

 




大きく動いた、のか。
サブタイトル通り、過去のお話をちょこっと。
もうすぐ、独自設定がいろいろ無双し始める頃かと。

あ、今回の話で解ったと思いますが、俺は圧倒的さやか派です。
だからと言ってさやか特別接待でもないです。多分。
弄りやすいんですよね、ああ言うキャラ立ちだと。
次回は、ほむら主体パートです!

次回予告 CV:暁美ほむら

そんなに私に与えたくない情報でもあるのだろうか?
そんなに私に正体を明かされてしまってはいけないのだろうか?

『暁の昏冥』


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第五話『暁の昏冥』

『出来れば違う形で出会いたかった…』 byAC4 シェリング


Side 黄昏藍香

 

 

「さてと、ここら辺かな」

 

市街地で他人の目を潜り、事件があった脇道に入る。

警察は犯人の捜索に移ったようで、現場はもう何もなかった。

 

「とでも思っているのかしら」

「っ!」

 

後頭部に銃を突きつけられる。驚きながらも仕方なく両手を上げた。

いきなりでこれはご挨拶だと思うなー。

 

「流石に貴女でもこの状況はどうにもならないようね」

「でもその状態だと私の顔が見れないよ?」

「別に。こうして突き付けていれば貴女はご自慢の仮面も作れないわ」

「あー。そういう意味でこういうことしたの?」

「それ以外よ。貴女をここから逃がさない為」

「うわぁ、もしかして私がここに来ることも「解っていたわ」」

 

昔の時間軸だとほむらちゃんと友達だったから顔見られるとまずいんだよね。

髪の毛は隠しようがないからどうしようもなかった。

どうしよっかなー。頑張れば顔を見られないまま逃げられるんだろうけど―――

 

と、気付いた時には私の前に魔法少女姿の彼女が移動していて、突きつけられていた銃が消えていた。

あ、ヤラレチャッタ。

 

「やっとはっきりしたわ。黄昏藍香」

「あー、うー、にゃー、Let’sにゃー」

「誤魔化さない」

 

大きなため息をついて、私は壁に寄り掛かった。

 

「あーあ。私の負ーけ。ほむらちゃんの勝ーち」

「勝ち負けを付けるなら、貴女の負けよ」

「うわあああん、なんでこんなに早くばれちゃうのー」

「全てが思い通りに行けば、なんて思わないことね。特にイレギュラーであれば」

「夢から情報聞き出したんだったら、私に会う必要もないと思うけど?」

「そうね。本来ならこうやって待ち伏せして銃を突きつけ、貴女と鉢合わせする予定なんて無かったわ」

「だったら「本来なら、ね」」

 

私は空を仰ぐ。どうしてこうなっちゃったの、と。

当然今から彼女は逃がしてくれないだろうし、露骨に逃げるとなっても彼女の前では無意味だし。

ここで本来の目的である使い魔狩りについて思い出す。

 

楼幻刀を持ったと同時に使い魔の結界の入口を切り開き、その中に逃げた。

 

「っ!」

 

いきなりの行動に驚きながら、ほむらちゃんは追って結界に飛び込むまでは見た。

後ろを見ずに全力で掛け周り、結界の複雑さを利用して物陰に隠れながら、追跡してくるほむらちゃんを撒く。

 

ついでに楼幻刀を破幻刀に持ち替えて、立ちはだかろうとする使い魔を一瞬のうちに斬り捨てる。

うまく撒ければいいんだけど……!

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

それにしても彼女の行動一つ一つにいちいち驚かされる。

即座に刀を持ち結界の中に逃げるという荒技。

 

そんなに私に与えたくない情報でもあるのだろうか?

そんなに私に正体を明かされてしまってはいけないのだろうか?

 

考えても答えを見つけることは出来ないと、すぐさま判断した私は結界の中に飛び込む。

結界内は一本道ではなく複雑に入り組んでいた。

それに加え、クレヨンや文字ブロックのような物が障害物になって視界を阻む。

彼女ほどの体格なら身を窄めれば隠れられるであろう。

 

辺りを見渡すが黄昏藍香の姿は無かった。

この複雑に入り組んだ道と障害物を巧みに使って行方を晦ましているであろう。

だがその策を使っても私にはどこに逃げたかは解る。彼女の性格を利用すれば。

 

確実に捉える為、時間停止を使い着実に近付く。

本当に近付いているのかと聞かれれば、私は首を縦に振るだろう。

それだけ、彼女は『証拠』を『抹消』しているのだから。

 

 

 

 

「見つけたわよ」

「え!」

 

彼女は広い場所で使い魔を狩っていた。上の方では五月蠅く飛び回る使い魔が。

やはり。ある道を通って行けば何れ追いつけると思ったが、それなりに時間がかかってしまった。

 

「今回ばかりは貴女に感謝しないとね。道案内をわざわざありがとう」

「え、ここ使い魔の結界だよ?」

「誰が魔女って言った? 貴女自身のいる場所への道案内よ」

「………」

 

彼女は考える前に、いつの間にか彼女の背後に現れた使い魔を倒す。

 

「私がこうやって使い魔を倒して行ったから、それが道しるべになったってこと?」「ええ。貴女随分頭が回ると思ったんだけど、私の思い違いだったわ」

「はたしてどうかな」

 

刀を消して、今度は銃身に紅い刃が付いた拳銃のような物を持つ。

次の瞬間空中を飛びまわっていた使い魔が全て撃ち落とされ、それと同時に結界が解除された。

 

「結界内は大きな箱庭。あの逃走がその場しのぎでしかないことは初めから解ってたよ? だから早急に使い魔を倒して結界を解いて、逃げる手もあったんだけどね」

「……訂正するわ。貴女かなり頭が回るようね」

「そう? そう思ってくれるなら嬉しいかな。さて、どこでお話ししようか?」

 

銃を消して再び私と向き合う彼女。

私が選んでもいいんだけど、ほむらちゃんのお好きにどうぞ。と。

付け加える言葉に私は付けこむことにした。

 

「なら、私の家でどうかしら?」

 

ハンバーガーショップや喫茶店でもよかったのだが、まだ昼に差し掛かったころで当然学校も終わっていない。

そんな時間に本当の学生と元学生がいたら、指導を受けるのは当然。

それに、私の家の方が何かと私自身もいい。メモ用などの道具も揃っている。

まぁ、頭が回る彼女が直々に、相手の本拠地とも言える場所に行こうとするかは別の話だけど。

 

「いいよ。案内して」

「………」

 

本当に、何を考えているのだろうか。この魔法少女は。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

ほむらちゃんの家に初めてお邪魔する。

 

「お邪魔します」

 

別の時間軸にはそういうことすら聞かなかったのに。

まぁ、何か裏があるとは思うけどそんなに悪いようなことではないと思う。

 

背掛けのないソファ、白い継ぎ目のない床、空中に浮かぶ額縁、シルエットだけの特徴的な振り子。

 

「好きなところに座ってもらっていいわ」

「じゃあほむらちゃんの隣「向かい側の、ね」冗談だって」

 

相変わらずだなー、ほむらちゃん。

私は彼女が座ったちょうど向かいの席に座った。

 

「何も出せないけどゆっくりしていくといいわ」

「といっても話し合いだけだけどね」

 

それに、ここは雰囲気さえ違うがキュゥべえが入ってこれる。

だからそれなりに有力な情報も、秘密も渡せない。

しかし彼女がここと望んだのだから、私はそれに合わせるしかなかった。

 

「それで、貴女は何者?」

「ほむらちゃんの予想通り」≪でも、口には出さないでね≫

「≪………≫」

「≪ここはキュゥべえが介入できる場所だから。ほむらちゃん自身もこんな早急に悟られたくはないでしょ?≫」

 

私は笑みを浮かべて相手の顔を見る。

彼女は表情のひとつも崩さず、私の目を見ていた。

 

「貴女にはいろいろ、頼まないといけないことがあるようね」

「結界とか?」

「ええ。奴らが干渉できないなら何かと話がしやすいわ。真実についてもね」

「知らないところで事が運べば、理解に苦しむからね」

 

キュゥべえ達に感情がなくとも、感情がなくても予想能力があればその予想と違ったときに、戸惑う事はある。

 

「じゃあ話を変えるわ。何故貴女は学校に入らなかったの?」

「一番の理由は、最初に知り合ったのが杏子ちゃんだったから。前の町だと入ってたんだけど」

「そう」

 

後は、自分の正体をあまり明かしたくなかったからと、クラスメイトになっちゃう可能性の根絶かな。

クラスメイトとしての存在は、まどかちゃんやさやかちゃんに大きな影響を及ぼすと思ったから。

 

「昔から変わらないのね、貴女は」

「そういうほむらちゃんは、切り捨てすぎだよ」

 

本当に必要かどうかも解らないのに、不要と決めつけて切り捨てる。

それが、彼女がとり続けた行動。それ故に、私の正体に気付くのが実質遅くなった。

正直、私がほむらちゃんを助けた時に気付かれるのではないかと、心の中で思ってた。

それでも気付かれなかったので、私は多少安心し、そしてその結果が今の状況である。

 

「黄昏藍香。貴女の事が羨ましいわ」

 

ふっ、と哀しげな笑みを零す彼女。

私はその笑顔が本当に羨ましい物と、思っているものから出たのだと解った。

 

「ほむらちゃん、一緒に組まない?」

「お断りするわ」

「どうして?」

「貴女と私は違いすぎる。何もかも。それに――――」

 

「これだけ何度も現実に打ち拉がれても、変わらない笑顔を持つ藍香が今の私には眩しすぎるもの」

 

「だから貴女の傍にずっといるわけにはいかない」

 

決意の顔。しかしそれは儚い物。脆い物。

 

「……暁美ほむら。なんかさ、燃え上がれー! って感じでカッコイイと思うな~」

「!」

「黄昏藍香。こう、夕日と夜空が一緒になってキラキラしてる感じだよね!」

「………」

「ほむらちゃんには、そう言われたよね? 私にはこう言われた」

「だから、なんだというの?」

「私と貴女は対なる存在だった。最初から」

 

「暁と黄昏。相容れぬもの」

 

「だから、当然なんじゃないかな。貴女と私が共に居れないのは」

「………」

「でも、そんなの関係ないよ」

 

それは名前だけ。私達が一緒に居ちゃいけない理由にはならない。

だから、私は関係ないと言った。

 

「どうして貴女は私に執着するの?」

「同じ時を生きる者だから。後は、なんだろ」

「残念だけど、私は昔の私に戻ることは許されない。貴女がまどかを救うのに本当に必要な存在だとしても、私は既に貴女についての関係も、記憶も全て切り捨てた」

「………」

「私も貴女の様に、考えることができれば、こうはならなかったはずだから」

「なら、最初からやり直せばいいんじゃないかな。取り戻せないなら、初めからを選べばいいんだよ」

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

最初からやり直す? 取り戻せないなら初めから? 何を言っているのだろうか。

この前代未聞の魔法少女は。

 

「思い出せないなら、一度全部無くして新しく作ればいいんだよ」

 

「今の貴女が嫌なら、元に戻ればいい」

「そんなこと出来ないわよ!」

 

彼女は知らない。私がこれまでまどかの為にどこまで尽くしてきたかを。

まどかに対する思いがどれほど強いかを。

それを全部忘れて、初めから関係を作るなんて……!

 

「あ、因みに私との関係だよ? ほむらちゃんがまどかちゃんに対する思いを失わせたくないもん」

「……そこまでして何の意味があるの?」

 

しつこい。

この一言に尽きる。

 

同じ時を生きるから、ここまで執着するものだろうか?

お節介どころじゃない。迷惑だ。

 

「本当の理由は、私にも解らないの」

「だったらなおさらね」

「私も、何か大切な事忘れてる気がする」

 

時間遡行者の宿命だ。大切な事でさえ、見失ってしまう。

 

「でも、絶対何かあったんだよ。でないと、私がここまで執着することないもん」

「有ったとしても、そこまでしつこいと逆に嫌われるわよ」

「それは流石に嫌だなー」

 

しょんぼりと少し下を向く彼女。

 

「絶対何かあった、ね」

「うん。忘れてるだけで、大切な事はいっぱいあるはずだよ」

 

昔、彼女と私の身に何があったのだろうか。

忘れているだけで、大切な事がたくさんあること自体、私も知っている。

自分の両親の事、私の幼い頃。

 

「貴女、両親は?」

「知らない。多分今はもういないんじゃないかな」

「……そう」

 

不味いこと聞いたかしら。

 

「ごめんなさい。不味いこと聞いたわね」

「ううん。それこそ忘れてることだから」

 

「それじゃ、また今度私のところでね」

「ええ。またお願いするわ」

 

そう言って出ていく彼女。その背中からは、私の決意とはまた別の決意を感じた。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

ほむらちゃんの家を出た直後。

 

「っ!」

 

結界の気配を感じる。この感じは魔女。

ドアを開け放つ音。ほむらちゃんが勢いよく飛び出してきた。

 

「ほむらちゃん!」

「今は貴女に付き合ってる暇は無いわ」

 

そう言ってまたたく間にいなくなる彼女。

私も結界の気配がする場所へ急いだ。

 




見せたのは真意。今は共に歩むこと叶わぬ二人。
相対する二人だからこそ、なのかもしれない。

昏冥・こんめい
暗い事。暗闇の事を差す言葉です。
正直サブタイは『東の暁 西の黄昏』にしたかったんですけど、
仕事してPさんの楽曲とほとんど被るので没に。(『東ノ暁 西ノ黄昏』)
次回は戦闘メイン(?)です。そしてまどマギPSPで出てきたあの魔女が。
さて、藍香以外の新技考えるか……

次回予告

杏「あんたがさやかだな。まどかの言ってた」
さ「だからなんだってのよ!」
杏「生半可な気持ちで魔法少女やってんじゃねぇ。死ぬぞ」

『玄人、素人』


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第六話『玄人、素人』

『英雄、か。最初から、全て受け入れていたのかしら…』 byAC4 フィオナ・イェル・ネフェルト




Outside

 

 

放課後。

マミは新たに魔法少女になったさやかと共に、結界の捜索に当たっていた。

勿論、付き添いでまどかも付いてきている。

マミの魔法少女体験コースはまだ続いているのだ。

 

「この前も言ったけど、こうやってソウルジェムを使って魔女の残していった魔力を追うの」

「んー、でも全然光変わりませんよ?」

「これだけはどうしようもないわ。何か手掛かりになる物があればいいんだけど」

 

逆にそういう事が少ない方が、魔女の存在する数や影響が少ないので喜ばしいことなんだけど。

そう心の中で思いながら、マミは魔女の気配を探る。

 

「あの、マミさん」

「? どうしたの鹿目さん」

「朝ニュースでやってたんですけど……市街地の脇道で暴力事件があったって」

「! マミさんそれって」

「ええ、とにかく行ってみましょう!」

 

 

 

市街地の脇道。

ここは先に藍香とほむらがごたごたを起こし、藍香が使い魔を殲滅させた場所なのだが。

 

「確かに反応してる。この反応、魔女ね」

「え! 私のはちょっとしか反応してないのに」

「長年の勘って物かしら。大丈夫、すぐに慣れるわ」

「ん~、どうなんだろ」

「………」

 

初めから上手くいくはずがない。

そうとは解っていても、少し焦るさやか。

そしてまどかは後ろから付いていくだけの自分に、納得が出来なかった。

 

 

///////////////////////

 

 

マミが足を止める。

 

「ここね」

「そうみたいですね」

 

マミのソウルジェムもさやかのソウルジェムも、かなりの輝きを放っている。

さやかも心の中でこの反応なら魔女の反応だろうと確信を得る。

 

ソウルジェムをかざすと結界の入口が現れ、その中に飛び込む変身した魔法少女二人と少女一人。

結界。草原を思わせる緑に一色に塗られた細い通路と壁。

ところどころ、様々なクレヨンで落書きされたような跡がある。

 

「ブウウウウウウンンンンン!!!」

「あ、マミさんあれ!」

 

遠くの方にある広間でエンジン音の様な声をあげて走り回る、使い魔。

その姿は、鍵穴の形に口と舌だけを継ぎ足し、足のある部分には、幼児達が描く車が繋がっていた。

その声にふさわしいかどうかわからないが、かなりのスピードで走りまわっている。

 

マミは複数のマスケット銃を空中に舞い上がらせ、一本持っては撃ち、一本持っては撃ちを繰り返し、当てはしないものの確実に追い詰めていた。

最後の2発を使い魔の前後に打ち込み足を止める。

 

「美樹さん!」

「はい!」

 

足場を強く蹴り、低空飛行の高速直進移動で突っ込み、剣を振り下ろす。

完全に不意を突かれた使い魔はいともたやすく切り裂かれた。

しかしその上にもまた別の使い魔が潜んでいた。

先ほどの使い魔の車の部分がプロペラ機になった使い魔だ。

切り込んだ彼女は当然気付いていない。

と、銃声が再び鳴り響く。

 

「っ?!」

 

上を見るさやか。

そこには見事に風穴が空いた使い魔の姿が。

 

「………」

「油断は命取りよ!」

「は、はい!」

 

さやかは上を見上げ、空中を漂っている使い魔を視界にとらえた。

通路よりも広間の方が、天井が高かった為マミのいる位置からは死角の場所にいる。

複数召喚した剣を地面に突き刺し、体を回転させて遠心力も使いながら鋭い剣が使い魔に襲いかかる。

2本で動きを制限し、1本で確実に仕留める。

仕留める為によく考えてはいるものの、これでは魔力の効率が悪いのは目に見えていた。

 

マミとまどかが追いつく頃には広間の使い魔はさやかによって全滅していた。

と言っても数体しかいなかったのだが。

 

「流石ね美樹さん」

「いやぁ、マミさんに比べたらどうってことないですよ。このくらい」

 

それからも順調に奥に進んで使い魔の数を減らしていき、ついに最下層までたどり着いた。

 

巨大な積み木で囲まれた開けた場所。ところどころにクレヨンや文字ブロックが転がっていて障害物になっていた。

そしてその奥。この結界の主である落書きの魔女がそこにいた。

 

「なんか、最近あんな魔女ばっかりなんですど……」

 

その姿はどうも前回マミ達が戦っていた、人形状態のシャルロッテを連想させる姿をしている。

 

「見た目に惑わされては駄目よ。どんな攻撃をしてくるかなんて魔女によってさまざまだから」

「わ、解ってますって!」

「鹿目さんは危ないからここにいて」

「あ、はい……」

 

やはり何もできないという現実が、まどかに襲いかかる。今の彼女はそれに呑まれるしかない。

 

「鹿目さん、そんなに自己嫌悪になっちゃだめよ」

「そうだよまどか。まどかはまどかで出来ることがあるから!」

「………」

『自分が、その相手にとってどんな存在か。それを自分で理解すること』

 

『そしてそれを理解したら、自分は何をしたらいいかを考えて行動する。かな?』

 

二人の励まし、藍香の言葉。

魔法少女ではない自分にできることなどあるのだろうか。

そのことが理解出来たら幾分か今が楽になるのかな、と思うのだった。

 

「美樹さん、しつこく言うけど油断しないでね」

「マミさんも、前みたいに油断しないでくださいね!」

 

二人は互いに笑みをこぼし、魔女に切り込んでいった。

 

 

 

ちょっと気が抜けるような姿の魔女。

初めて見た魔女の方が正直気持ち悪かったと、さやかは思った。

ところで、今その魔女は何故か床に何か描いている。

 

「アハハハ! アハハハ!!」

「!」

 

と、その描いたものが使い魔になって空を飛び回りだした。

 

「おっちろおおおおお!!」

 

さやかが叫びながら地面をけり上げ、出てきたばかりの使い魔をそのまま貫く。

まだ魔女は落書きを続けていて、止める様子は見てとれない。

二体の使い魔が魔女の落書きから現れる。

空中に飛び出したさやかは剣を二本両手に持ち、両腕を広げそのまま落下。

落下の勢いを味方につけ、発した二閃が使い魔を切り裂いた。

そのまま落下すれば魔女の目の前に落ちるので、空中に足場を作り、蹴って後ろに下がる。

 

マミから見ればかなり無茶な戦い方で危なっかしい物ではあったが、実際に経験してみて解ることがあると、余計な口出しはあえてしなかった。

 

一方のマミはマスケット銃を召喚し、魔女を牽制、または部分的な攻撃を行ってこれ以上使い魔が増えるのを抑えている。

それでも結界内から集まってくる使い魔がいる為、それも的確に撃ち落としていく。

まずは安全を確保してからの魔女退治だ。使い魔でも、人を食い殺すだけの力は持っているのだから。

 

使い魔を瞬く間にせん滅。

だが、気付いた時には魔女がいなくなっていた。

二人は魔女の気配を探る。最深層から逃げることは無いだろうが、身を隠すことだってあるだろう。

 

「……そこよ!」

 

銃声。まわりに積まれた積み木の山の一角が崩れると、その後ろから魔女が姿を現した。

見つかったのを少々嬉しそうに思っているのか、はしゃぎながら再び広場に出できた。

その隙を見逃さず、マミがレガーレで拘束し、足にマスケット銃を乱射しそこからのびるリボンがさらに拘束する。

 

「美樹さん!」

「はい!」

 

即座に魔女の元に接近、青い剣閃が五芒星を象った。

 

「マミさん!」

「OK!」

 

「ティロ―――」

 

マミはリボンを巨大なマスケット銃に変え、必殺技を炸裂、させようとした。

 

ドスッ。

 

鈍い音が響き、魔女の胸に槍が突き刺さる。

 

「「っ?!」」

 

そして赤い閃光が縦に魔女を引き裂き、結界が消滅した。

 

「まーたマミはそんな新人連れて、いつまでも変わらないもんだねぇ」

「そういうあなたも藍香さんを連れてるわりには変わらないのね。佐倉さん」

 

赤い幻影の魔法少女、佐倉杏子がそこにいた。

 

「なっ! あんた私達の魔女をいきなり……」

「ベテランが新人連れてチンタラやってんじゃねーっての」

 

上から落ちてきたグリーフシードを槍先で受け止め、掌に乗せる。

 

「流石に貴女でも、魔女の横取りは感心しないわね」

「ま、ちったぁ悪いとは思ってるよ。でもこいつを有効利用できるのは藍香だけなんでね」

 

マミは思い出す。藍香がグリーフシードから何かを分離させ、それの魔力回復の効率を向上させたのを。

当然杏子は藍香と共に行動してるので、杏子の採ってくるグリーフシードの効率もあげているはずだ。

 

「マミさん、あの魔法少女なんなんですか!?」

「彼女とはちょっと昔に因縁があってね。美樹さんは下がってて」

「で、でも」

「今の貴女に敵う相手じゃないわ。出来る限り穏便に済ませたいけど」

「………」

 

さやかは黙って引き下がるものの、やるせない気持ちに腹を立てていた。

 

「ん?」

 

杏子は見覚えのある顔を見つける。

 

「まどかじゃねーか。何してんだそんなところで」

「あっ、杏子ちゃん……」

「……なるほど。マミも無謀なことするねぇ。そんな危険な目にあわせて何の意味がある?」

「貴女には到底解らないでしょうね。『あの場所』では彼女が居たから穏便に済ましたのかしら?」

「藍香は関係ねーよ。あたしはあたしだ」

 

掌にあるグリーフシードを弄びながら視線も合わせない杏子と、いつにも増して真剣な視線を飛ばすマミ。

 

「≪ねぇまどか、なんであいつのこと……それに藍香って≫」

「≪えっと、藍香ちゃんっていうのは黄昏ちゃんのことで≫」

「≪黄昏ってあの仮面かぶってた魔法少女?≫」

「≪うん。昨日仁美ちゃんと工場の人が集団幻惑に掛ったって事件があったでしょ?≫」

「≪あー、っと。魔女が原因だったんだよね? でも誰が倒したの? マミさん? 転校生?」

「≪ううん、それが黄昏藍香ちゃんだったの≫」

「≪ええっ?!≫」

 

意外な人物の名前に驚くさやか。

 

「≪ということはあの仮面の奴もう名前言ったわけ?!(それに黄昏って嘘の名前だと思ったのにまさか名字だったのかー!)≫」

「≪うん。その後お茶会に招待されて、それで杏子ちゃんと知り合ったの≫」

「≪どんな奴だった? 嫌な奴だった?≫」

「≪んと、不思議な子って言うか、荒々しい子だったけど、でもいい子だったよ?≫」

「≪んー、まどかが言うならそうなんだろうけどさ。でもあれは≫」

 

さやかはマミと杏子の方に意識を向ける。

 

「「………」」

 

いつの間にか二人は互いに見合い、緊迫した雰囲気がその場を支配していた。

 

「どうも腑に落ちないわ。貴女がどうして藍香さんと共にいるのか」

「あいつは、不思議な奴なんだよ。マミだって解ってるだろ? あいつのあの雰囲気」

「ええ。あの時ご相伴にあずかった時、ね」

「だったら解るだろ? 私は藍香と一緒にいるだけだ。人は変わるもんさ。あたしみたいにな」

「………」

 

杏子は再び先ほど入手したグリーフシードを見つめる。

 

「ほらよ」

 

何を思ったのか、マミにそれを山なりに投げる。

その行動に彼女は驚きを隠せなかったが、受け取って冷静を装った。

 

「! どうしたの急に?」

「まぁ、今回は悪かったよ。ただ―――」

 

「これ他人以上巻き込むな。これはあたしたち魔法少女の問題だ。魔法少女じゃなくても、これ以上首を突っ込めば戻れなくなるぞ」

 

そう言って今度はさやかの方に視線を写す杏子。

 

「あんたがさやかだな。まどかの言ってた」

「ん、だからなんだってのよ!」

「生半可な気持ちで魔法少女やってんじゃねぇ。死ぬぞ」

「な! あんたこそなんなのよ! いきなり割り込んでグリーフシード奪ったと思えば、すぐ返したりして!」

「後マミ。使うなら藍香に浄化してもらってから、使ったほうがいいぞ」

 

杏子は後ろで一つにまとめた髪を翻し、その場から去ろうとする。

が、途中でその足を止めた。

 

「……よかったな。今あいつが全速力でこっちに向かって来てる」

「! 藍香さんが!?」

「なんでも別の場所に現れた魔女もいたが、ほむらとか言う奴と瞬殺したってよ」

「杏子ちゃーーーん!!」

「「「っ?!」」」

 

そんな大声と共に、一人の少女が空から降ってきた。

青く腰まで伸びた髪が舞い上がり、風を纏う。

 

「ごめんね、遅くなっちゃった」

「気にしてねーよ。むしろ話が終わって丁度いいくらいだ」

 

彼女は息を整えながらマミ達のいる方に視線を向けた。

 

「マミさん、まどかちゃん、久しぶり。さやかちゃんは、初めましてかな?」

「どうして私の名前をって、なんか普通の顔……」

「えぇ?! 私に何の期待してたの!?」

「いやぁ、初対面で仮面してたからもしかしたら絶世の美女かと」

「残念藍香ちゃんでした?」

「まどかちゃんまで!?」

 

そのやり取りの様子を見てマミと杏子は笑っている。

 

「≪やっぱり藍香さんは面白いわね。貴女が居るだけで不思議と場が落ち着くわ≫」

「≪それが藍香のいいとこなんだよ≫」

「≪佐倉さんは彼女に会って初めて、こんなことになったことはある?≫」

「≪そうだな。あたしが結界のお茶会に呼ばれて≫」

 

 

********

 

 

「ようこそ杏子ちゃん」

「……何の用だ、なんであたしをこんなわけのわからない場所に連れ込んだ?」

 

結界の森の中。そこで二人は見合っていた。

杏子が藍香の首元に槍を突きつける。

それに全く動じない彼女は、髪を翻し、振り返って去ろうとして。

 

ガンッ!!

 

木に額を思い切りぶつけてその場にうずくまった。

 

 

********

 

 

「≪………≫」

「≪今でも抜けてないんだなぁ、あいつ≫」

「≪でもそれが彼女のいいところ、なんでしょ?≫」

「≪よく分かってるじゃねぇか≫」

 

そんな会話の中で、藍香、さやかの会話は続く。

 

「そもそも正体隠す時、名字そのまま使うってどうよ……」

「あ、あれはとっさに思い浮かばなくて!」

「ま、まぁまぁ二人とも」

 

まどかも制止に入って巻き込まれていた。

 

「で、藍香。今日はどうすんだ?」

「んー、そうだね。さやかちゃんが魔法少女になったし、いいかな」

「ふーん。じゃあまたご相伴に預かることにするよ」

「うんうん。私は何人でも歓迎するよー」

「ご相伴? 歓迎? なんの話よ」

「さやかちゃんはあの時いなかったからね。藍香ちゃんの結界でお茶会したりするの」

「け、結界? 魔法少女も結界作れるの?」

「いいえ、藍香さんだけよ。藍香さんは私達とは違う魔法少女だから」

「そ、そうなんですか」

 

そういえば、さやかちゃんは初めてだよね。

そう呟いて、藍香は結界を開いた。

 




接触した、赤き幻影の魔法少女と青き旋律の魔法少女。
生きし生ける玄人の魔法少女は何を思うのか。

という訳で、今回マミ&さやかの合同魔女狩り。
え? 更新が早いって? ああいえ、この話と次の話は繋げて投稿したいと思ったわけでして。
早めに更新させていただきました。作者の勝手ですみません。

次回予告 CV:黄昏藍香

それでもこの子達は急ぎながらも、嬉しそうに準備している。
私にかまって貰えるからだろうか。それとも。

『お持て成しの友達』


P.S. 上の文章が指すのは杏子、さやか、マミの事です。
   ツェペリのおっさん……あんたはいい師だった……本当に。


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第七話『お持て成しの友達』

『今はゆっくり休んで。…おやすみなさい』 byAC4 フィオナ・イェル・ネフェルト




Side 黄昏藍香

 

 

「それで、ここまでお客様をお招きしたと」

「ごめんね皆。忙しくしちゃって」

 

風・守だけでなく、時もテーブル出しを手伝い、世は夢と一緒に大急ぎで料理を作っていた。

 

「事前に連絡していただければここまで急ぐこともなかったでしょう。それにこの前より一人多いだけでも、元から大人数ですし」

「あはは……」

 

私も含めて5人。それを今から大至急でもてなす用意をしてと言われれば、大抵は無理な話だ。

それでもこの子達は急ぎながらも、嬉しそうに準備している。

私にかまって貰えるからだろうか。それとも。

 

「とにかく、こちらでは現在人出が足りません。藍香様はお客様の御迎えをお願いいたします」

「はーい。ごめんね皆」

 

夢以外の4人の人形はそんなことないと首を激しく横に振った後、再び用意だなんだと飛び回った。

 

 

/////////////////////////////////////

 

 

招待したお客さんは、まず城から離れた森の広場に送られることになる。

何故かと言えば最初は何も考えてなかったのだが、森という不安を駆り立てる場所におろして、その不安からそこにある道に誘導するため。という結論に至った。

 

まぁ、道も何もなかったら怯えたり戸惑っちゃうだろうから道を作った、ってのもあるんだけど。

 

と、遠くの方に三人の影が見えた。

あれは……杏子ちゃんが居ないのかな。

マミさんとまどかちゃんは何気ない会話をしていたが、さやかちゃんは珍しい物を見る目で辺りを見渡している。

 

「まどか、これってホントに結界だよね?」

「うん、藍香ちゃんの結界。なんでも藍香ちゃんってキュゥべえと契約して魔法少女になったんじゃないんだって」

「なんか、予想とことごとく違うのはなんでだろう」

「私達も初めてここに来た時は戸惑ったものね。でも彼女が作った物だから心配することはないわよ」

「う、うーん」

「ほら、お迎えが来たわ」

 

魔法で聴力を強化していたら、マミさんが私を視界に捕えたのを聞いた。

それに内心ほっとして駆け寄る。

 

「いらっしゃい、マミさん、まどかちゃん、さやかちゃん」

「そういえば今日会ってから挨拶してなかったわね。こんにちは、藍香さん」

「藍香ちゃん、お、お邪魔します?」

「それを言うならお邪魔してますだって。あ、お邪魔してまーす?」

 

それぞれのあいさつを笑顔で返して、お城に案内する。

ちなみに今は日が西へ傾いている。太陽などの位置は、この結界から見た外とリンクしているから、実際に景色としてゆっくり沈むし、ゆっくり昇る。

 

「そういえばあの人形さん達はどうしたのかしら?」

「急に皆招待したから今大急ぎで準備してるんです」

「そうなんだ。でもそれならお邪魔じゃないかなぁ」

「ううん全然? むしろ嬉しそうだったから」

「? 人形って何のこと?」

「私の結界のお仕え役って言ったほうが解りやすいかな?」

「ほんと藍香って何者なのよ……?」

 

さやかちゃんはジト目で私を見てくるが、私はかまわずお城に案内した。

 

「「「うわぁ……(まぁ……)」」」

 

3人は感嘆の声をあげる

お城の前。マミさんもまどかちゃんもこの前来た時は夜だった上に初めてだったから、お城の全部を見ている暇なんてなかった。

でも今は一応日も出てて明るいから、その全貌を見ることができる。

 

「じゃあ、行こっか」

 

門を開き、お城の門も開く。

すると中から時が出てきた。

 

「時、準備終わったの?」

 

皆にぺこりと可愛らしくお辞儀をした時は、私の手を取って応接室まで手を引いた。

 

何をそんなに急いでいるのか解らなかったが、時が応接室の扉を開けると同時に広がった光景に私は納得する。

 

「何してんだ藍香、あんまり遅いからもうこっちで始めてるぞ」

「すみません藍香様、世が何とか止めていたのですが」

「杏子ちゃんだから仕方ないよ」

「それでは私は厨房に戻りますので、席にお着きになられれば及びください」

 

杏子ちゃんは既に椅子に座り、そこにだけ配膳された料理にがっついていた。

うんうん、席はみんなの分もあるし、食器も水もしっかり配膳されてる。

時、風、守、世、夢の頭を撫でて、三人がちゃんと付いて着てるかを確認。

お城の外と変わらない反応をしながら彼女達は応接室に入ってきた。

 

「「いい匂い~」」

「そうね。これは、トマトソースの匂いかしら」

「実際何が出てくるか私も解んないんだけどね。世にお任せしてるから」

「世だけにお任せ?」

「ま・ど・か・ち・ゃ・~・ん・!」

 

私は笑顔浮かべながらもちょっと怒りを覚える。

そんなつもりで言ったわけじゃないんだよー!

 

「ご、ごめん」

「そこまで怒ってないけど、次は無いからね?」

「はいぃ……」

 

彼女は俯いて縮こまる。

仏の顔も三度までって言うしね。

とりあえず杏子ちゃんの隣に座り、三人を席に座るように薦めた。

 

「とりあえず座って。世が料理を持ってくるし」

「え! 私達もしかしてほんとにお客さまだったの?!」

「そうよ。二人とも、主催者さんに失礼だし座りましょうか」

「「は、はい」」

 

皆が席に座ったのを確認してから、私は手元に置いてある小さなベルを鳴らす。

すると風、守、世、夢が順番に料理を持ってきた。

 

まず生ハムのカルパッチョが出てきた。

最初にこれがこういう料理が来るってことは、これって……

 

「あれ? これだけ?」

「最初にカルパッチョ。藍香さん、これはコース料理じゃないかしら?」

「私も同じ事考えてました。夢、どうなの?」

「ご名答でございます。まもなく次の料理をお持ちいたしますので、少々お待ちを」

「こ、コース料理……」

「うわぁ、私そんな豪華な料理初めてだよ……」

 

まどかちゃんとさやかちゃんは、ちょっと手を震わせながらゆっくりと口に運ぶ。

その瞬間、二人の表情がぱっと開いた。

 

「うまい!!」

「藍香ちゃん、これすっごく美味しいよ!」

「まだ前菜だから、ゆっくり食べて言ってね」

 

晩餐はまだまだ続く。

 

 

//////////////////////////////

 

 

「うーん、食べたは食べたけど、あんまりお腹が膨れないなー」

「だね」

「コース料理とはそういう物よ。どちらかといえば量より質といった感じだから」

「んなもん追加注文すりゃあいいだよ」

 

杏子ちゃんは勿論満足しておらず、世がさっき持ってきたマルゲリータ・ピザを頬張っていた。

出来たてで熱々なので流石の彼女もがっついて食べることはしていないが、やはり手を使って豪快な食べ方を私達に披露していた。

 

「ピザってもっと具とかチーズとか、どばっ!って乗ってる感じがあるんだけどなぁ」

「私達が食べてる一般的なピザはどちらかというとアメリカのピザだから、このイタリアのピザとはかなり違うわ」

「そうなんですか。てっきり私ピザは全部イタリアかと思ってました」

「イタリア生まれのアメリカ育ちってね」

「それにしても杏子、美味しそうに食べるなぁ」

「そんな物欲しそうな顔したってやらねーぞ。イタリアじゃ一人一枚だからな」

「もうひとつ付け加えるなら言うなら、ナイフとフォークで食べるんだけれど」

「細けぇこたぁいいんだよ」

 

会話が絶え間なく続くのだが、頬張りながら喋る杏子ちゃんはマナー違反だったので仕草で注意する。

 

「そういえばマミさんってとっても詳しいですよね? コース料理もそうだったけど、ピザの事についても……」

「あ、それ私も気になった。どうなんですか、マミさん」

「親がイタリア好きで、よく教えてもらってたから」

 

どこか懐かしいような、悲しいような雰囲気を纏い、目を瞑るマミさん。

 

「藍香、私もピザ一丁!」

「はーい」

 

さやかちゃんは杏子ちゃんに負けじと追加注文する。

風はそれを世に伝える為に厨房に飛んでいった。

 

「ピザは生地から作るから時間掛かると思うけど許してね」

「本格的だね」

「料理人としてのプライドかしら」

「そうだね、世はいつも最高の物を食べてもらいたいと思ってるみたい」

「その世ってどうやって作ってるんだろ……」

「いろんな道具使ってるのは解るんだけど、詳しいことは知らないや」

 

厨房はオープンじゃないし、私もちょくちょく見てるだけで、今日のピザみたいに変わった料理法をする料理は見たことがない。

と、そこで夢がやってきた。

 

「世の調理法ですか?」

「あ、うん。どうしてるの?」

「ならお呼びになったらいかがですか? 彼女も、あなた達の前で披露したいと思っていますでしょうし」

「そっか……気付いてあげられなかったな」

「藍香様はご心配なさらず。私達のことで気になることがあれば、本人に聞けばいいのです」

「うん。あいがと、夢」

 

ペコリとお辞儀してから厨房に消えていく夢。

 

「藍香さんも大変ね」

「あの子達は私が作ったって言っても、あの子達には自我と意思があるから。この結界の部下である前に、大切な友達だから」

 

時が近寄ってきて何かをねだる。

私は座ってる椅子を引いてスペースを作ってあげると、ちょこんと座った。

それを見て風は私の頭の上に、守は私の右肩に座った。

3人とも嬉しそうに足を振ったり、髪の毛をいじったりしている。

 

「「わぁ……」」

「ふふふ、皆藍香さんの事が大好きなのね」

「あわわ、ちょっ、髪の毛はいじっちゃ駄目だって!」

 

さらさらしてる髪だけど、あまりにも弄られてると形変わっちゃうからやめてほしい。

そんなことを思ってたら、世が機材と材料を持ってこっちにやってきた。

それに反応するかのように風と守が追加の机を持ってくる。

 

「おお! ほんとに実演!」

 

さやかちゃんの発言に世が笑みを零して、生地を練っていく。

 

「この子達の手ってどうなってるの?」

「ん? 人と限りなく近い感触の素材かなー。衛生面とか安全面とかも考慮はしてるよ」

 

すると守がふわふわとまどかちゃんの近くに寄っていった。

そっと手を差し出し、手に触れようとする。

 

「この子は人懐っこいのかなぁ」

「守はのほほんとしてるから、一番懐っこいのかな?」

 

時が一番甘えん坊さんなんだけど……

 

わたわたと手を振り、バランスを崩し宙で一回転。

それを見たまどかちゃんが笑って、手を差し出した。

その手を触る守。

 

「温かい」

「人と同じ。人間の心と人と同じような体。この子達も、また人間であってほしい」

「おおー!!」

 

そんなことを言っていると、さやかちゃんが歓声を上げた。

世の方に視線を送ると、生地を頭の上でくるくる回しながら、たまに放りあげてを繰り返して生地をのばしていた。

思わずその光景に私も、まどかちゃんもマミさんも見入ってしまう。

膝の上で時が、頭の上で風がそれを見てキャッキャとはしゃいでいた。

 

皆の視線の集中で世は顔を赤くしながらも、綺麗に広げ、トマトソースを塗り、チーズとバジルの葉を掛けていく。

出来上がったそれを厨房まで持って行った。

 

「いやぁー、あそこまで見せつけてくれるとは。これは近い将来一家に一人の時代が来ますなぁ」

「さやかちゃん……」

「それにしても見事な手際。流石は藍香さんの作った人形ね」

「それほどでもないよ。私が皆を作って、皆にお料理の仕方を教えてあげただけ。その中で世が一番興味を持ってくれたから、細かく教えてあげて、今に至る」

「じゃあ皆、藍香がこれをやれー!って初めから命令しなくても、やってくれてるってこと?」

「だね。皆好きな事とかあるし、自分に一番合ってる仕事をやってくれてるの」

 

皆、仕事をしてる時は生き生きしてる。

本当に好きな事をしていれば、苦悩なんてない。

 

厨房から湯気を立てているピザが運ばれてきて、さやかちゃんの前に置かれる。

 

「ありがと。それじゃあいっただっきまーす!」

 

その直後、ピザを頬張ったさやかちゃんであったが、あまりの熱さに上がった悲鳴がお城の中に木霊した。

 




休める時に休むのも、仕事だぞ。
という言葉を添えて、癒しを共に。

なんとまぁ、全員集合回(ほむら以外)です。
このお茶会での言葉は、結構影響力を持つように頑張ってたりなかったり。
独自設定、マミさんの両親について。マミさんの技名が全部イタリア語なんでおかしくないかなと。(杏子、さやかの一部もそうだが)
次回は、まさかのマミさんパート。彼女の強さが解る回。

次回予告 CV;巴マミ

ここで絶望したら、自分の今までしてきたことの意味も、
自分が望んだ願いも、すべてをここで否定することになる。
私はそれを一番恐れているんだ。

『魂の宝石』


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第八話『魂の宝石』



『誇ってくれ。それが手向けだ』 byAC4 アンジェ




Side 黄昏藍香

 

 

テーブルには今、私とマミさんが向き合って座っていた。

お皿は引かれ、食後の紅茶とお茶菓子が出ている。

口の中と舌を火傷したさやかちゃんとまどかちゃんは帰る時間が遅くなるからと帰って行って、同じく杏子ちゃんもお腹が満足したのか自分の住む場所に帰って行った。

 

「(……さやかちゃんって、どこの時間軸でもあんな感じな気がする)」

「藍香さん」

「あ、なんですかマミさん」

「貴女、ご両親はどうしてるの?」

 

そういえば、私はずっと一人だけどお父さん、お母さんはいるのだろうか。

この世に生きているのだろうか。私が存在するという事は、当然親が居ると言う事。

しかし、私が時間軸をやり直して『最初から』をしても、私の家に両親はいない。

そもそも私自身が知らない。

 

「すみません。私ずっと一人暮らしで。親が居るかどうかも解らないんです」

「そうなの……悪いこと聞いてしまったわね。ごめんなさい」

 

マミさんは少しだけ考えるそぶりを見せたが、それでもすぐにやめて返事を返してくれた。

ここはひとつ、賭けに出てみるかな。

 

「マミさんはお父さん、お母さんいないんですか?」

「……数年前に事故で亡くなったの。だから今は藍香さんと同じ一人暮らしね」

「あ! ご、ごめんなさい!」

 

自分の中にある事を言葉で吐き出せば、自分の中からは消える。

だから、マミさんにはそういう人に言えないことを言ってもらって吐き出して欲しかった。

 

「いいのよ。それよりも」

 

「藍香さん。私と手を組まない?」

 

その提案に、私は驚きながらも目を閉じた。

 

 

Side 巴マミ

 

 

驚きながらも、目を閉じ考え始める彼女。

ついさっきまで焦って謝っていたのに、この変わりようだ。

もしかしたら、暁美さんよりも掴みにくい性格なのかもしれない。

 

と、そんなことは置いておいて。

私がこの話を持ち出したのに、深い意味は無い。

ただ、どういった答えを出してくるのかが気になったのだ。

 

彼女の趣向としては佐倉さんより私の方が同調しやすいと思う。

現に、藍香さんは使い魔も魔女も倒している。ただ佐倉さんの為に魔女退治は控えているように思えるが。

 

息を吐き、傍に置いてあった紅茶を含む彼女。

しかし目は開けない。まだ考えているということであろう。

 

「(わりと考えるわね。そこまで難しい事だったかしら?)」

「んー。今はお断りします、かな」

 

今は。そして語尾につけた、かな。

まだはっきりしないので、一番無難な答えを選んだのだろう。

 

「今はって事は、今後変わることもあるって見てもいいのね?」

「はい。でもそれ以前の問題もありますし」

「……ワルプルギスの夜」

 

ワルプルギスの夜。

噂とキュゥべえからしか聞いたことがない、最強の魔女。

あまりにも強大で結界を必要としない為、一つの街を壊滅させるなど、いとも容易く行える魔女。

 

「そうですね。あれは私でさえも、一人ではどうにもなりませんから」

「ワルプルギスの夜を知っているの?」

「よく知ってます。彼女は、私が助けてあげたいから」

「(彼女……?)」

 

その言葉を言い終わってから、ハッとして自分の口を抑える藍香さん。

 

「いえ、言葉を間違えました」

「何か貴女は知ってるのね。ワルプルギスの夜について」

「………」

「沈黙は肯定を意味するわよ」

「そう取ってもらって結構です。ただ、このことは言えません」

「どうして?」

「それを知ったら受け取り方次第で、マミさんが絶望してしまうかもしれないから」

「……それは、まるで魔法少女と魔女には何か関係があるとでも言っているようね?」

 

攻める。彼女の隠し事を全て暴く為。

私が絶望するかもしれない。しかし、受け止め方次第の話だ。

それに……もしもの時は藍香さんが救いの手を差し伸べてくれるだろう。

 

「もうここまで問い詰められたら、言い逃れできないや」

 

彼女は少し笑って残っていた紅茶を全部飲み干し、席を立つ。

 

「本当に、真実を。現実を受け止める覚悟があるのなら、付いて来て下さい」

「………」

 

その問いに私は首を縦に振り、席を立った。

 

 

/////////////////////////////////////////

 

 

お城を超えた先にもあった森。

私達がこの結界に招待された時最初におとずれる森とは違って、大樹や大岩が転がっており、幻想的な雰囲気が漂っている。

地面には大きな根や雑草が蔓延り、苔生しごつごつした岩がむき出しになっていた。

道なき道をまるで小動物の様に身軽に跳んでいく彼女の姿は、まるで昔アニメで見た森の妖精と同じ。

時折振り返り、手招きする姿がそれをより一層感じさせた。

 

「(よくこんな場所を進めるわね……魔法で強化しないと辛いか)」

 

私は再び変身して追いかける。

 

と、今度こそ彼女は跳ぶのを止めた。

隣に降りて、彼女の見つめる先を見る。

その視線の先には苔生した祭壇が。

 

「ここは?」

「私の大切な友達が眠る場所」

 

藍香さんが祭壇に手を触れると光のベッドへと変貌する。

そこには、白い魔法少女が眠っていた。

 

「眠っているようだけど、まるで死んでいるみたい」

「もう死んでいる状態なんだけど、完全な死を遂げていない状態」

「どういうこと?」

「傍に魂が無いんです」

 

「ソウルジェムという名の、魂が」

 

その発言に眩暈を覚える。

ソウルジェムという名の魂。

彼女は確かにそう言った。

 

「ソウルジェムが魂……?」

「そうです。キュゥべえと契約した魔法少女は魂を抜きとり、ソウルジェムに変えられてしまうんです」

 

ソウルジェム。魔法少女になった者が手にする宝石。

魂の宝石……。あまりにも出来過ぎた話だ。

 

「そんなことをして、キュゥべえは何を考えてるの? 一つの願いを叶えたから?」

「そんな簡単な事じゃない。彼らの目的の為に」

「目的? 魔法少女を増やし、魔女を倒すことじゃないとでもいうの?」

「契約。その言葉の意味を、しっかりと理解して下さい。約束なんて言う生ぬるいものじゃないってことは、マミさんも解ってるはずです」

 

確かに。契約とは二人以上の当事者の意思表示の合致によって成立する、法律行為。

でもキュゥべえはそれを思わせないかのように、あの言葉を素質のある少女達に掛ける。

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

「ならもし、もしよ? ソウルジェムが無くなったり壊れたりしたら」

「魂の消失ということで、肉体も機能しなくなります」

「―――!」

 

そこで、私のしていることの間違いに気付く。

一つの願いの代償に、自らを死の淵に追いやる。その意味を解らせるために。

そう言う事は初めから解っていた。

 

でもそれ以上に私はどこかで、魔法少女としての仲間を求めていた。

でもそれは二度と戻れない道に、関係の無い少女達を引きずり込んでいた。

自らを戦いによって死の淵に追いやるのではなく、契約自体で死の淵に追いやる。

そんなこと、どんな願いも打ち消して絶望してしまう。

 

私の願った、自らの命を繋ぐという願いさえ。

 

「知らぬが仏……ね。本当に」

「何れ知らなければならない。それが現実であり事実なんです」

 

「でも、この事実以上に辛い現実があるんです。魔法少女には」

 

続くことは解っていた。魔法少女と魔女の関係について彼女はまだ触れていない。

これ以上の絶望に打ちひしがれることも、もう解った。

ならば、もう受け止めるしかない。自分なりの方法で。

 

「もう、諦めない」

「マミさん?」

「現実は、変えられない物ね。抗ったってその場しのぎでしかないもの」

「………」

「藍香さん。もう何も怖くない。だから、続けてくれないかしら?」

「はい」

 

ここで絶望したら、自分の今までしてきたことの意味も、自分が望んだ願いも、すべてをここで否定することになる。

私はそれを一番恐れているんだ。

 

 

///////////////////////////////////////////

 

 

魔法少女が絶望に堕ちた時、魔女になる。

その絶望の時に発生するエネルギーを、キュゥべえは回収している。

藍香さんの話を聞き終えて、私は空を仰いだ。

 

「ごめんなさい。マミさん」

「いいのよ。話の展開上、なんとなくは解っていたから」

 

藍香さんの雰囲気から感じ取れた。

これ以上に辛い現実は無いのだと、自分の中で道を絞れたからこそ、そこまで絶望することもなかった。

 

「強いんですね。マミさんは」

「何年も魔法少女をやっていれば、洞察力もなかなか強くなるものよ」

「解っちゃいましたか」

「でもそのお陰で、予想というクッションが出来たわ。ありがとう」

 

『静かに眠っている』白い魔法少女に目を向ける。

これで死んでいるなんて、信じられない。

 

「じゃあ、彼女のソウルジェムは魔女を生んだから、こうなってると見ていいのね?」

「それも、超弩級の魔女です。魔法少女の素質の強さで、生まれる魔女の強さも変わってきますから」

「ワルプルギスの夜の正体……それが彼女」

 

素質の強さによって魔女の強さが変わる。

ワルプルギスの夜も一人の魔法少女によって生み出された魔女なら、その元となったあの少女はどれほどの資質を持っているのであろうか。

どれほどの強い素質を。

 

「……鹿目さん?」

 

強い素質を持った少女が傍にいる。

その素質の高さは、底知れないことを私も、暁美さんも知っている。

もしかして暁美さんが鹿目さんを、魔法少女にさせたくない理由って……

 

「今のまどかちゃんが魔法少女になったら、それこそ本当に取り返しのつかないことになる。あの素質は本当に異常でしかないから」

「もしかすれば、ワルプルギスの夜を超えるような魔女が」

「生まれるかもしれません」

 

首を縦に振り、言葉を付け加える藍香さん。

 

「キュゥべえも執拗に狙ってます。そこまでの素質をまどかちゃんは持ってますから」

「どうにかして止めないと……でも鹿目さんは」

 

私は話す。お菓子の魔女結界の中で聞いた、鹿目さんの思いを。

魔法少女になって、私の傍にいる。

魔法少女になって、使い魔や魔女から人々を守る。

それが鹿目さんの願いだという事を。

 

「まどかちゃんは、自分の意味を探してます。自分とはどういう存在なのか」

「だから貴女はあの時、ああ言ったのね」

「自分が、その相手にとってどんな存在か。それを自分で理解すること」

 

今の鹿目さんには、いいお灸となるといいけど。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

祭壇を元に戻して、私はマミさんと向き直る。

 

「今日はいろいろ言っちゃってすみませんでした」

「そんな畏まる必要はないわよ。今知ることができて感謝してるほどだもの」

 

3回目の時間軸とは全く違うマミさん。

あの時は、時間を止められるほむらちゃんを拘束し、攻撃力の一番高い杏子ちゃんを一瞬で打ち抜くという、とんでもない判断力でその場を支配していた。

あれでも、冷静な判断なのだ。だからこそ、あんな行動に出たんだと思う。

発狂したかに見えて、かなり分析的な攻撃を。

 

「でも、何かさせて下さい! 全く辛い思いをさせたわけじゃ無いわけですし」

「……そこまでいうなら、お願い聞いてくれるかしら?」

「はい!」

 

出されたお願いは、不思議な物でした。

 

 

 

「お邪魔します」

「はい、いらっしゃい」

 

それは、『今日私の家に泊まっていって欲しい』というもの。

マミさんの家に上がるのもこれが初めて。当然、今までの時間軸で行ったことすらない。

 

綺麗に家具が配置され、観葉植物を多く取り入れた緑のある部屋。

所々にはいろんな色のクッションや小物が置かれていて、女の子らしさを出していた。

外は真っ暗。大きなベランダからは綺麗な夜景が見える。

 

「すっごく素敵な部屋ですね!」

「そんなことないわ。藍香さんのお城の中の方が素敵よ」

「あれと比べちゃ駄目ですよー」

 

互いにクスクスと笑いあった。

 

「そういえば、お風呂どうします?」

「そうね。出来れば一緒に入ってもらいたいけど」

「それもお願いって事ですか?」

「そこまで強制はしないわ。藍香さんの意思を尊重するわよ」

「んー……」

 

なんとなく、一緒に入ってもいい気がしてきた。

それに、今のマミさんとは出来る限り一緒にいた方がいい気がした。

 

「いいですよ。お背中流します」

 

 

 

お風呂場。

 

マミさんの背中を泡立ったスポンジで優しくこする。

ストレートな髪型の彼女は初めて見た。

 

「まさか後輩に背中を流されるなんて夢にも思ってなかったわ」

「私も、先輩の背中を流すなんて思ってもみませんでした」

 

実際の話、年上年下なだけで学校としての先輩ではなく。

魔法少女同士といっても別の部類同士なので、先輩後輩は無いと思う。

ただ、普通に魔法少女同士として見ればマミさんの方が先輩だ。

 

お湯を掛けて、石鹸を洗い流す。

 

「はい、終わりましたよー」

「ありがとう。それじゃあ私の番ね」

「え? あ、大丈夫ですよ。自分で流せますし」

「遠慮することないわ、早く座って」

 

せかされるように座らされ、背中を流される。

髪が邪魔にならないように、分けて両肩から前に流した。

 

「綺麗な髪……手入れ大変じゃない?」

「そんなことないですよ。髪が綺麗だと自分自身も嬉しいですし」

「それにこれだけ長いならいろんな髪型試せるわよ?」

「髪を傷めるから編んだりしないんです。質も気にしてますから」

「そうなの? ならこのシャンプー使っても大丈夫かしら」

「なんでも合うんで大丈夫ですよ」

 

背中を流してもらうついでに髪まで洗ってもらう。

髪は女の子の身だしなみだからね。気を付けないと。

 

「そういえば今日は美樹さんを連れてきたのだけれど、どうだった?」

 

「まだまだ未熟だけど、貴女の目で見てみてどう思ったか聞かせてほしいの」

「そうですね……」

 

杏子ちゃんとはあんまり温厚な感じじゃないかな。

でもあの二人ならきっとうまくやっていけると信じている。

同じ、人の為に自分を戦いの地に向かわせた者同士である故。

 

「今は、様子見って感じですかね。マミさんはまだまだ心身共に幼い魔法少女を、しっかりサポートしてあげて下さい」

「そうね。美樹さん、少し偏った部分があるから、ぶつかることも多いと思うし」

「できれば、一番解ってあげられる存在が傍に入れくれるだけで、随分楽になると思うんです」

「鹿目さんにも限界があるわ。当然、私にも気付けない点もある。藍香さん、お願いできないかしら?」

「了解しました」

 

まぁ、さやかちゃんにとってまどかちゃんの方が接しやすいとは思うけど。

それでも、本当に自分を理解して受け止めてくれる人が必要なのは変わりない。

 

「はい、終わり」

「ありがとうございます」

 

二人の夜は、まだまだ続く――――

 




もう、何も怖くない。
そう彼女は心の中でつぶやいた。

少々無双し始める独自設定。
マミさんが豆腐メンタルだって? とんでもない!
しっかり調べれば解る事ですよ。皆死ぬしかないじゃない!の、
マミさんも発狂してるわけじゃありませんしお寿司。
次回。さやかが、あのさやかがああああ!!!!

次回予告 CV:美樹さやか

もうここまで来たから後戻りはできない。
私だって魔法少女だ。正義の味方なんだ。

『貴女の望んだ真意』

P.S. 外伝的な物でリクエストがあれば、出来る限りお応えいたしますので、
   ドシドシどーぞ。要望の内容によってはメインストーリーに係るかも……?
  (行き当たりばったり開発故)


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第九話『貴女の望んだ真意』



『我々には管理するものが必要だ。我々は我々だけで生きるべきではないのだ。』 byAC2 クライン


Side 黄昏藍香

 

 

朝。いつもどおり、朝日が昇る空を見つめる。

ただ、マミさんの部屋なので、カーテンを開けることなくベランダに出た。

 

着ているのはマミさんのおさがりパジャマ。

ちょっと肌寒さが身にしみるが、火照った体を覚ましてくれるからちょうどいい。

息を吐き出すが、白くはならない。そんな季節はとっくに過ぎてしまっているから。

 

「おはよう、藍香」

「おはよう、相変わらずだねキュゥべえ」

 

前の結界の中で収集した穢れの塊を取り出し、キュゥべえに投げつける。

彼は仕事をすぐさま済まし、私に話しかけた。

 

「そういえば昨日はほとんど君達を見かけなかったけれど、どこにいたんだい?」

「さぁね? あなた達に見つけられない場所なんて、いくらでもあるもん」

 

それを聞いてやれやれと目を閉じ、首を横に振ったキュゥべえは参った様子で退散して行った。

それを見送ってから私は手紙を取り出し、その紙で紙飛行機を折る。

宛先はほむらちゃん。ちょっと魔力を籠めて飛ばした。

 

「さってと、体が冷えないうちに早く部屋に戻ろっと」

 

流石に、すぎる事はなんでも体に悪いから。

 

 

////////////////////////////

 

 

マミさんに朝ごはんを御馳走になって、学校に行く時にお別れして私は自宅に戻る。

 

「ただいま」

「……………」

 

帰ってみると、杏子ちゃんがソファの上でふんぞり返って眠っていた。

周りには食い散らかしたと見られるパンの袋やハンバーガーの包み紙が散らばっている。

雰囲気から察するに、昨日の晩からいたようだ。

お腹一杯になって帰っていったのに、こんなにゴミが散らばっているのはおかしいと思う。

 

「杏子ちゃん、起きて」

「んあ~……」

 

体をゆするも一向に起きる気配がない。

 

「お腹空いてても朝ごはん作ってあげないよー?」

「……!」

 

ピクリと反応し、定期的な呼吸が乱れる。

へぇ、お腹空いてるんだ……

 

「いいのかな~? 私はマミさんの家で食べてきちゃったからお腹いっぱいなんだよねー」

「………」

「だったらわざわざ自分の分を作らなくてもいい訳だから、寝てる子の分はいらないよね~?」

 

ピクピクとこめかみが動く。

 

「さってと、私はちょっとさやかちゃんの様子でも見てこよっかなー?」

「うがー!!」

 

杏子ちゃんが奇声をあげて私に飛びかかってきたが、避けることはせずにそのまましがみ付かれた。

 

「藍香! 昨日なんで帰ってこないんだよ!」

「マミさんの家にお泊まりしてたから」

「だからって、少しくらいはあたしにそのこと教えろよ!」

 

彼女の話を聞く限り、あの後またお腹がすいたので私に何か作ってもらおうと私の家に来たが。

どこを探しても当の本人がおらずその憂さ晴らしにいろいろかっぱらってきて、食い散らかしてそのまま寝てしまったらしい。

 

で、私が帰ってきて起しに来た物の拗ねてすぐには起き出さなかったらしい。

 

駄々をこねる杏子ちゃんのお願いもあって、私は簡単な物を作る。

なんでも夜中に食べたのでまだお腹が空いていないらしい。

作り終えてから散らかったゴミを片付けて、私はさやかちゃんを捜しに出た。

 

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

 

早朝に届いた黄昏藍香からの手紙。

内容は、巴マミに魔法少女の真実を伝えたこと。

そして、まどかが魔法少女になることによって訪れる悲劇について伝えたこと。

 

「流石はイレギュラー。仕事が早いわね」

「イレギュラーがどうしたんだい? 暁美ほむら」

「あなたは今お呼びじゃない。消えなさい」

「……そのレギュラーは誰か僕達も知っている。君は何を企んでいるのか教えてほしいものだね」

「あなた達に話す権利が私になければ、あなた達は私から聞き出す権利もない」

「権利など有って無いようなものだよ」

「最後の忠告よ。消えなさい」

 

銃を取り出し、引き金に手を掛ける。

 

「やれやれ、君といい杏子といい、何がそうさせたんだろうね」

 

家の闇の部分に入り、気配が消えた。

 

「……本当に、望んでいいのかしら」

 

私は微かな希望に向かって、つぶやく事を止められなかった。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

学校はガラス張りだから教室の中は簡単に見ることができた。

当然近いと誰かに気付かれちゃうから、遠くから視力を強化して教室の中を探る。

 

「んー。ほむらちゃんとまどかちゃん、仁美ちゃんはいるんだけど、さやかちゃんはいないのかなー」

 

ほむらちゃんが当てられてないのを見計らって、『話しかけて』みる。

 

「≪ほむらちゃん≫」

「≪今は授業中よ。手短にお願いするわ≫」

「≪さやかちゃん来てる?≫」

「≪来てないわよ。それがどうしたの≫」

「≪特に意味は無いよ。さやかちゃんに話した事があっただけ≫」

「≪……黄昏藍香≫」

「≪ん? どうしたの?≫」

「≪……ありがとう≫」

「≪どういたしまして≫」

 

私は再び、さやかちゃんを捜しに別の場所に移動した。

 

 

Side 美樹さやか

 

 

私は一人学校をさぼって街中を歩いていた。

 

「いやー、こんな天気のいい日には街でぶらぶらするのが一番ですなぁ~」

「そんな貴女に鉄拳制裁!」

「うわぁ?!」

 

不意に後ろから痛くは無いものの、ポカリと殴られて驚きの声を上げる。

勢いよく振り返ると、そこには見なれない笑顔があった。

 

「藍香? あんたこそどうしてここに」

「私学校に行ってないから」

「うわ、不良だ」

「平日のこんな時間にうろうろしている現学生も不良だと思うけどなー」

 

うぐぐ……

ごもっともな事を言われ、言い返そうにも言い返せない。

 

「とにかく、ここじゃ人目につくから補導されても知らないよ?」

「あー。それは……ほんと勘弁」

 

苦笑いを浮かべ、私は藍香の言われるままに別の場所に移動した。

 

 

//////////////////////////////////////

 

 

移動している途中。私は少し気になった事を訊ねてみた。

 

「そういえば、杏子って学校行ってるの?」

「杏子ちゃんも行ってないよ。それはまぁ、詳しいことは本人から聞いてね」

「はい」

 

なんか雰囲気的にサボってるって感じじゃないんだけど……

まぁ気にしてもしょうがないか。

 

佐倉杏子。今日の朝、マミさんに杏子について聞いてみた。

この前の魔女戦でもおかしな行動が多かったから。

 

なんでも元々はいい魔法少女で、マミさんとは昔一緒に魔女と戦った仲だそうで。

でもある日を境に利己的な行動を取り始め、最後には強く反発し合って魔法少女同士なのに戦う事になったそうだ。

 

「……藍香、なんであんたは杏子とコンビ組んでるのさ?」

「人の本質は、一見しただけで解るものではない。そう言う信念があるから」

 

一見しただけで人の本質が解れば、それほど楽な事は無いのに。

恭介の内に秘められた苦痛を、もっともっと早く解ってあげられただろうに。

でも、この奇跡で救って上げられた。恭介の演奏が聴けた。恭介の嬉しそうな顔を見る事が出来た。

 

「さやかちゃんはどんな願いで魔法少女になったの?」

「……なんで言わなきゃいけないのさ?」

「でも、隠すほどの事でもないでしょ?」

 

どんなに幼くったって、願いは願い。命を掛けてまで魔女と戦う道を選んだんだから。

そう付け加える藍香は相変わらずの陽気な雰囲気を出していた。

 

「大丈夫、笑ったりしないから」

 

そういう問題じゃないんだけどなぁ……

そんなことを思っていると、振り返って顔を覗き込んできていた。

 

「あー! もう言うから! そんなに顔近付けなくてもいいから!」

「うん、素直でよろしい」

 

ため息を吐いて口を開く。

当の本人はまた歩き始めた。

 

「私の幼馴染で、バイオリンがすっごく上手い奴……恭介っていうだけど。そいつ、昔事故で指が動かなくなっちゃって、それでお医者さんからももう治せないって言われて……」

「……その怪我を治すために」

「うん」

「………」

 

歩きながらも黙り込む藍香。

その沈黙が身にしみる。

すぐ笑ってくれたらすぐに言い返せてその場が晴れると思ったのに。

 

「な、なんか言いなさいよ」

「ごめんね。何も言えなくて」

「………」

「人の為に掛けた願いっていうのは、難しいから。本当に、それで自分で満たされたのなら、問題ないんだけど」

「私は何にも後悔してない。だから、良かったんだよ」

「さやかちゃんは、その恭介ってその怪我を治すこと自体が願いなの? それとも、その怪我が治ってからのそれからを望んでいるの?」

「?」

 

何を言ってるんだろうか。

その怪我を治すこと自体が願いなのか、その怪我が治ってからのそれからを望んでいるのか。

 

「つまり、怪我を治す事が願いなのか、治ってからの見返りを望んでいるのかってこと」

「そんなの、怪我を治す事自体に決まってるじゃん! それで恭介の怪我は治ったんだから」

「でもそれがもしも、過程に過ぎなかったら」

「何よ! まるで私が見返りを望んでいるみたいなそんな言い方して!」

「自分の願いを、裏切らないためだよ」

 

自分の願いを……裏切らない為?

裏切るって、私は恭介の為に怪我を治したんだ。

私の、大切な恭介の腕を……治して。それで、あいつの演奏が聴きたかっただけ。

あいつの演奏している顔が見たかっただけ……

 

「自分に問い詰めれば解るはずだよ。偽りの願いは絶望を生むから」

「……なんか、見えてきた」

「? 何が?」

「自分の、本当に望んだ事」

「それは今、実現してる?」

 

病院の屋上で、恭介の演奏を聴いた時の事を思い出す。

 

『後悔なんて、あるわけない。私、今、最高に幸せ』

 

「やっぱり、マミさんの言ってた事とはちょっと違うけど、確かに見返りを求めてた」

「そっか。そんな素敵な顔出来るんだったら、それは本当なんだね」

 

手鏡を取り出し、私の顔を映す。

そこにはいつも通りの私の顔が映っていた。

 

さっきまで、自分でも悩んでたっていうのに、今じゃいつもの顔が出来る。

そうだ。私は恭介の演奏が聴きたいから、恭介の演奏するところが見たいから、私は。

もう、これ以上は求めない。

魔法少女になったからには、命がけの戦いを強いられるから。

もう、普通の恋する乙女には戻れない。

 

「そこまで信念が固まったなら、もう話してもいい気がしてきた」

「? 何を?」

「魔法少女としての現実と末路について」

 

思わず歩みを止める。

気に掛けた事なんてなかった。

もう戻れない事は知っている。でも、その先にある事を知らない。

 

「どうあがいても戻れない、その結末を知る覚悟はある?」

 

髪を舞い上げながら振り返り、今までの陽気な雰囲気とは打って変わって、まるで転校生……転校生以上の凍りつくような雰囲気を出す藍香。

 

その後ろには目的地なのかどうかは解らない、ボロボロの教会が見えていた。

 

「大丈夫」

 

その返事を聞きて、再び歩き出す。

その向かう先にあるのは勿論、教会。

 

と、ここである事を不意に思って聞いてみる。

 

「ねぇ、藍香」

「なに? さやかちゃん」

「藍香はどうして、キュゥべえと契約して魔法少女に成らなかったのさ?」

 

キュゥべえと契約して、魔法少女になれば何でも願いをひとつ叶えて貰える。

それからは、まだ私も知らないけど、何でも願いがかなうっていう利点があれば誰でも契約してしまうと思う。

キュゥべえも言っていた。大抵の子は二つ返事だと。

 

「それは後で教えてあげる」

 

教会の前。藍香が古びた扉を開ける。

 

中も雨風にさらされたのか床は黒く少しでも体重をかければ踏み抜けそうなくらいボロボロで。

周りのあるステンドグラスは所々が割れていた。

見るからに豪勢な造りだったんだろう。でも、今じゃその面影もない。

 

「うわぁ……」

 

藍香のお城とはまた別の意味で声を漏らす。

 

「脆くなってる場所があるかもしれないから気をつけてね」

 

彼女は何度も来た事があるかのように、特に周りを気にせず先に進んで教壇の手前にある階段を上っていく。

 

「こんなところまで来て、そんなに大切な話するの?」

「ここには主が居るからね。他の人も、他の魔法少女も近寄らないと思うよ」

 

他の魔法少女まで? 一体どんな人がこんな場所を拠点にしているんだろうか。

 

「さてと、話はごく単純明快に。魔法少女の真相と末路を話すね」

 

私は黙って首を縦に振る。

もうここまで来たから後戻りはできない。

私だって魔法少女だ。正義の味方なんだ。

願いもはっきりしたし、それに恭介との関係もしっかり割り切れた。

もう、なんでもドンと来いって感じだ。

それに、藍香の雰囲気と表情から、尋常じゃない事を言われるのも解る。

ついでに言うなら、信念が固まった事を確認したからだ。

 

「うん。言って」

「その言葉、確かに聞きとめました」

 

「魔法少女になった者は、魂を抜きとられ、その魂はソウルジェムに形を変える」

 

「そしてソウルジェムは、魔力を消費するほど穢れを貯めて、何れグリーフシードとなり魔女を生む」

 




真意など、簡単に見つかるものではないのかもしれない。
しかし、自らを見つめ直せば……必ず。

どうしてもしたかったんだこれ。うん。
さやかの魔女化回避だけは。
……さてもうそろそろ貯め書きが無くなってきた。

次回予告 CV:黄昏藍香

私はここにいるんだと言う事を、手を伸ばさなくても届く場所にいると言う事を。
自分の存在を、確かに彼女に伝える為に。

『因果の記憶』


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第十話『因果の記憶』


『フン…所詮旧世代の遺物、か 下らん輩だ…』 byAC4 ポリスビッチ


Side 黄昏藍香

 

 

真実を告げても、微動だにしないさやかちゃん。

流石の私も実際のところ驚いている。

こんなに早く彼女自身決心した事も、自分の願いについて理解したことも。

恭介君との関係についてはよく分からないけど。

 

これならいけるかな。という不意に思った事に素直になってみた。

でも、この状況から流石に不味かったかと私自身後悔する。

そんな事を突然何の前振りも無しに言われて、信じろと言う方が無理な話だ。

 

すると、さやかちゃんが口を開いた。

 

「キュゥべえはなんでそんなひどいことしてるのさ」

「宇宙のエネルギー採取って言ったら手っ取り早いかな。詳しい事は彼らが一番知ってる」

「……それじゃあ私達、ゾンビみたいなもんじゃない」

 

「何が奇跡よ! こんな体にされてまでして、魔法少女が命がけで魔女や使い魔と戦って!」

 

「それで最後は魔女になって絶望を振りまく! そんなの、ずっと終わらないじゃない!」

 

「こんなんじゃ……まどかと仁美に合わせる顔ないよ……」

 

「せっかく、あの時仲良くなったあんたにも……仲良くできないよ……」

 

涙を零し、その場で泣き崩れるさやかちゃん。

その脆い少女に私は優しく近付き、言葉を掛けた。

 

「自分の置かれている立場を理解して、そして自分は相手にとってどういった存在なのか」

「っ!」

「それを理解すれば、きっと絶望することは無いと思うよ」

「………」

「それに、さっき見つけたんでしょ? 自分の願いの意味を。今のさやかちゃんなら大丈夫。すぐに立ち直れるから」

 

「それに、まだ貴女は死んでない。こうして温もりを感じる事が出来る。こうやって……」

 

そう言って抱きしめる。

 

「なんでゾンビの私を抱きしめてくれるの? あんただって、気持ち悪いんでしょ?」

「そんなことないよ」

「……そっか。藍香は違うもんね。私達とは、違う魔法少女だもんね」

「違わない。同じ魔法少女」

「違わないわけない! キュウべぇと契約せずに魔法少女になったって言ってたじゃん!」

「それでも、魔法少女は魔法少女。私は、また別の苦しみがあるから」

「え……」

 

口が滑ってしまったけど、私は優しく、髪を梳きながらさやかちゃんの頭を撫でる。

優しく、温かく。

私はここにいるんだと言う事を、手を伸ばさなくても届く場所にいると言う事を。

自分の存在を、確かに彼女に伝える為に。

 

さやかちゃんの流す涙が徐々に増して、私の服を濡らす。

 

「なんでだろ……私……あんたが元々最初っから、友達みたいに思えてきた……」

「私が学校行ってたら、そうだったかも知れないね」

「もう、いいかな……私……」

「素直に涙にして、全部辛い事、洗い流しちゃえばいいんだよ」

「う、うわああぁぁぁ………!!」

 

広い教会で、さやかちゃんの泣き声が木霊することなく、ただただ受け止めるかのように消えていった。

 

 

Side 美樹さやか

 

 

落ち着いてから、私が藍香を放す。

 

「なんか、ごめんね? 急に泣き出しちゃって」

「ううん。気にしてないよ」

 

気にしてないとは言っても、藍香の服は肩から袖に掛けて涙で随分濡れていて。

もはやそれは気にしない方が可笑しいように見えてきた。

 

「ほんと藍香って不思議。泣いただけなのになんでもうこんなに清々しいんだろ」

「魔法は使ってないよ?」

「えー!? 絶対使ったでしょ!」

「使ってません。私の魔法は相手の精神をいじくったりする物なんて無いし」

「そんなこと言って誤魔化しても、このさやかちゃんは騙されませんぞー!」

 

さっきまで抱きしめあったいたから、距離はそんなに空いてない。

手を伸ばせばすぐに届く。

身長もまどかよりちょっと高いくらいだから、まどかと同じくらいの位置に手を伸ばせば捕まえられるだろう。

 

「うりゃあ!」

「わひゃぁ!?」

 

横腹辺りを狙って思いっきり掴みかかると、驚くほど簡単に捕まえる事が出来た。

 

「このさやかちゃんの手にかかれば、可愛い女の子の秘密の一つや二つ暴くなどお茶の子さいさい! さぁ、白状してしまえ~!」

「あ! ちょ! 横腹は止めて! くすぐったいよ! あ、あはははははは!」

「ほうほう藍香はここが弱いのか! ならこれでどうだぁ!」

「りょ、両方はも、もっと駄目だってぇ! あははははは!!」

 

バァン!

 

「人んとこで何やってんだお前ら!」

 

いきなり凄い音がしたと思って扉を見てみれば、そこには扉を蹴り飛ばした杏子が経っていた。

ここからじゃ顔がよく見えないけど、なんとなく不味い気がする。

 

「ちょ、藍香! ここの主ってまさか!?」

「う、うん。杏子、ちゃんだよ? それが、どうかしたの?」

「どうかしたじゃないって! お、お邪魔しましたー!」

「おい待てよ」

「あぐっ」

 

一目散に退散しようとしたが、襟を掴まれて急停止。

喉が閉まりむせてせき込む。

 

「人の縄張りに入っておいて、のこのこに返す奴がどこにいるんだよ?」

「でも藍香に連れてこられたから、私は何も悪くない! 知らなかっただけなんだって」

「藍香が?」

 

藍香に助けてと視線を送ると、そんなことは解っていると言わんばかりに返された。

 

「ちょっと魔法少女の真相と、末路についてね」

「……随分と軽く言うな。それにこの様子じゃ、わかってないんじゃねーの?」

「失礼な、単刀直入に言われて解らないわけないでしょ!」

「ショックがでかすぎて思考回路が飛んだとか」

「どうやったら飛ぶのよ!」

 

何故か杏子とは張り合ってしまう。

あの時のピザだってそうだし、今もそうだ。

 

やっぱり、利己的に動く魔法少女と、皆の為に戦う正義の魔法少女だからだろうか。

でもこの前のやり取りを見てたけど、そこまで利己的じゃないと思うんだけどなぁ。

ほんとに利己的だったらグリーフシードを返さないだろうし。

 

「ほらほら、言い合ってないで」

 

藍香が間に入って言い合いを止める。

 

「でもなんで教会にまで連れてきたんだよ」

「ここが杏子ちゃんの縄張りだからかな。他に近寄る人はいないし、キュゥべえもあんまりこっちには来ないしね」

「……ま、なんか引っかかるけどそう言う事にしとくよ」

「じゃあ、私達は帰るね。もうすぐお昼だし」

「それならここに勝手に入ってきた応酬としてまたご馳走になろうか」

「いいよ。いつもの事だしね」

「さやかはまた別の事で返してもらうよ」

「だから私は藍香に連れてこられただけだって!」

 

こんな事に巻き込まれるんだったら、学校行ってた方がよっぽどましだったと思う私であった。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

お昼は当然外じゃなくて自宅で。

休みの日には皆で外に食べに行きたいなー。

 

「そういえば杏子って毎回藍香の世話になってるわけ?」

「仕方ねーだろ、こちとら一人身で金もないんだ」

「あれ? でも藍香ってどうやって生計立ててんのよ? 親もいないみたいだし」

「それがねー。私にもよく分からないの。多分親の保険金だと思うんだけど」

「何よその曖昧なこと」

「実際、私に親がいたかどうかも解らないんだ」

「え……」

 

いつもいつも、家に帰ると一人ぼっちだった。

でもそんなことは気にしていない。

今は干渉して、守るべき人がいる。救うべき人がいる。帰るべき場所がある。

今が一番幸せ。その幸せの中に、『彼女達』が居ればもっと幸せになれるかもしれない。

溺れちゃってるな……『彼女達』に。私も、ほむらちゃんみたいに。

 

 

Side 美樹さやか

 

 

「そんな言ってやるなよ。私達とは違うったって、藍香だって年頃の女だ」

「そっか……そうだよね。ごめん」

「いいよいいよ。気にしないで」

「「それ言ってばっかりだね(な)。藍香」」

 

杏子と言葉がかぶり、思わず噴き出す。

 

「だって本当に気にしてないもん」

「だからって、さっきも使った言葉使わなくても」

「あんまり言葉が出てこないんだよね……本とかあんまり読まないし」

「そうだとは思わないけどな。でないと人を動かせるぐらいの事を言えないだろうしよ」

「私は手を差し伸べてるだけ。その手を取ってるのは貴女達自身だよ」

 

本当にそれだけなんだろうか。

私を助けてくれたのは、それだけの事なんだろうか。

 

「勿論、その人によって差し伸べる手と手まで距離を変えてるけどね」

 

笑いながら料理を持ってくる藍香。

すんなりと凄い事を言ってくる。

 

「藍香はさぁ、何の為に魔法少女になったの?」

「何の為に。難しい質問だね」

 

ミートスパゲッティを盛ったお皿を私と杏子、それに藍香の座る席に置きながら話し始めた。

 

「詳しい事は終わってから言うけど、今はやっぱりワルプルギスの夜を浄化する事に専念しなきゃね」

「? ワルプルギスの夜って何?」

「まったく新人はこれだから困るよ。ワルプルギスの夜ってのはなぁ――」

 

突然の杏子の魔法少女講座。

テーマはワルプルギスの夜について。

 

なんでもワルプルギスの夜ってのは物凄く大きい魔女で、力も強大から結界も必要無いらしい。

ただ強いだけじゃない。それだけで町の一つや二つを壊滅させるほど。

だからこの時ばかりは魔法少女同士手を組んだ方がいいそうだ。

 

「≪ま、藍香の思惑はそれだけじゃなさそうだけどね≫」

「≪どういうことさ≫」

「≪ただ単純に、友好関係を深めて集めてるだけじゃねぇ。終わった後の事も考えてるのかもな≫」

「≪終わった後のこと、かぁ≫」

 

確かに、一度一緒に戦ったんなら、一緒に組むことも出来ないわけじゃない。

皆で戦ったほうが楽なのは変わりないし、その後から魔法少女同士で仲良くできるならなおさら。

 

「「「いただきます」」」

 

そういえば杏子はどんな願いを叶えてもらったんだろう……

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

その後は3人でボードゲームをやったり、トランプをやったりしていたけど。

それだけじゃつまらないと途中で杏子ちゃんが言いだし、私とさやかちゃんはゲームセンターに案内された。

 

時間帯的には放課後。

私はちょっと気にしていたけど、さやかちゃんも気にしてないから問題ないと言い聞かせて付いてきた。

 

で、杏子ちゃんは私達の前でダンスゲームを披露している。

 

「うわ~、どうやったらあんなの出来るんだろ」

「私にも到底真似できないよ。杏子ちゃんの意外な特技ってところかな」

 

この前この筺体のランキング見てみたけど、上位スコアが全部杏子ちゃんによるものだったのは流石に驚いた。

 

「さやかちゃんは何か得意なゲームある?」

「ん~? 私は格闘ゲームかなー。伊達にここに通いつめてるわけじゃないし。そう言う藍香は?」

「UFOキャッチャーかな。コツを掴んだらかなり取れるよ」

「か、かなり……?」

「うん。取ってほしいのが見つかったら遠慮なく言ってね」

 

杏子ちゃんの方はダンスゲームの結果画面で、『perfect』の文字がその実力を物語っていた。

 

「ま、私にかかればこんなもんだな」

「杏子はいいなぁ、何時でもここに来れて」

「さやかも学校なんて行ってないで、魔法少女になったんなら自由に生きればいいんだよ」

「そういう生活にもちょっと憧れるんだけど、まだ私は学生で居たいかな」

「なら学校をさぼらずに学業に励むことね。美樹さやか」

「「っ?!」」

 

私達の視界の外から何気なく表れたほむらちゃん。

制服姿で、肩からかばんを提げているのを見ると、学校帰りなのだろう。

 

「な……、あんたこそ毎日学校に来なさいよ! 昨日休んでたくせに!」

「先生から聞いたでしょ、体調不良よ」

「嘘だ! 杏子によれば藍香と一緒に魔女を倒したそうじゃない! ねぇ、杏子」

「ああ、藍香が言ってたからな」

 

ちらりと私の方に視線を向けるほむらちゃんに対し、私はさあ? と惚けてみる。

一瞬苦い表情を浮かべたと思ったら、杏子ちゃんの方に視線を移した。

 

「で、あんたがそのほむらってわけか」

 

面白い物を見つけたような表情を浮かべて彼女を見る杏子ちゃん。

 

「貴女と会うのは初めてかしらね。佐倉杏子」

「?! なんであたしの名前を知ってやがる……?」

「知っているから知っている。それだけのことよ」

「(藍香に聞いたのか? さっきも藍香に視線送ってたから何かあっただろうが)」

 

少々戸惑う杏子ちゃんと何食わぬ顔のほむらちゃん、驚きを隠せないさやかちゃん。

ちょっと張りつめた空気が漂う中、そこに現れた一人の少女によってその空気が崩される。

 

「あ、ほむらちゃーん」

「げ、まどか……」

 

さやかちゃんは不味いと思ってどこかに隠れようとするが、間に合わずに見つかってしまう。

 

「あれ、さやかちゃん。確か今日学校休んでたんじゃ……?」

「な、なんでかなー。そ、そうだ! 藍香に無理矢理連れ出されちゃって、藍香って杏子と仲いいからそれでゲーセンまで……し、仕方ないなぁ二人ともー!」

「……さやかちゃん」

「あー……えっと、その、ごめん。さぼってた。それで藍香に捕まって、いろいろ話してもらって」

「話?」

「それは―――」

「さやかちゃんストップ」「黙りなさい美樹さやか」

 

彼女が言ってしまう事は無いと思うけど、制止の声を掛ける。

ほむらちゃんも私と同じ事を思ったのか、同じく制止の声を掛けた。

 

「んー、まぁ、ちょっとね」

「……?」

「それよりまどか、せっかくだし遊んでこうよ。藍香のおごりで」

「え、私?!」

「え、さっき言ってたじゃん。『取ってほしいのが見つかったら遠慮なく言ってね』って」

「確かにおごりって形になるけど……まぁいいや」

「藍香ちゃん、無理しなくても私お金出すし」

「いーのいーの、人のご好意に甘えようよ」

「さやかちゃんはもっと遠慮した方が良いと思うよ」

「う、うぐぅ」

 

痛いところを突かれたのか、反論できなくなるさやかちゃん。

 

「杏子ちゃん、ほむらちゃんは何か取ってほしい物ある?」

「ん? あたしは別にかまわねーぞ」

「私は結構よ」

 

ざっくりと切り捨てられたほむらちゃんの返答は、解っていながら辛いものだった。

私達はUFOキャッチャーのある場所に向う。

 

「まどかちゃんは何にする?」

「私は……あ」

 

ふと足を止めるまどかちゃん。

その視線の先にあるのは15cmくらいの黒猫のぬいぐるみ。

 

「………」

 

それを見るまどかちゃんの顔は、どこはかとなく懐かしさを感じているようだった。

私にはそれが何故か解る。どことなく、このぬいぐるみはエイミーに似ているのだ。

 

「これがいいの?」

「あ、うん……」

「どうしたのまどか? もしかして、その猫の愛らしさに心奪われたり~?」

「そ、そんなことはないけど、でも」

 

私は硬貨を機械に入れて、その猫のぬいぐるみをいとも簡単持ち上げて穴に入れ、取る。

 

「はい、まどかちゃん」

「ありがとう藍香ちゃん。……ねぇ、もう一個いい?」

「えっ、どうして?」

「おお! ついにまどかが遠慮しなくなった?!」

「そういうのじゃないの! 藍香ちゃん、いいかな?」

「んー。いいよ」

 

また硬貨を投入して、今度は持ちあげずに滑り落とすように穴へ落とす。

 

「ありがと」

 

今度は凄くうれしそうに受け取った彼女の顔を見て、少し癒される。

懐かしいような、そうでないような。でも、幸せ。

そういえばと、別の時間軸でキュゥべえを思いっきり抱きしめて、嬉しそうにしてた魔法少女を思い出す。

 

「さやかちゃんはどうする?」

「そうだなー。何にしよっかなー」

 

にやにやとあたりを見渡すさやかちゃんは、何かよからぬ事を考えているように見えた。

 




二人の因果を受け、おぼろげな記憶の中で生きる無知な少女達。
はたしてそれが、吉と出るか凶と出るか。

全員集合(仮)
ここから、まどか無双が始まる……?
更新遅れて誠に申し訳ありません。
今週は普通に日曜日に更新いたしますので、長い目で見守ってください。
あ、やばい、これ10話じゃん……15話までは書き終えたが大丈夫だろうか。

次回予告 CV:鹿目まどか

自分の思いを受け取ってほしいから、その近づきになれたら。
そして、ほむらちゃんの気持ちを解りたいから。

『輪廻』


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第十一話『輪廻』



「今はゆっくり休んで。…おやすみなさい」 byAC4 フィオナ・イェル・ネフェルト


Side 暁美ほむら

 

 

黄昏藍香がまどかと美樹さやかを連れて場を離れたまでは良かった。

 

今、ここにいるのは杏子と私だけ。

彼女は菓子を銜えて再びダンスゲームに夢中になっていた。

 

「で、あんたは藍香と、どう言った関係、なのさ」

「別に。彼女が慣れ慣れしくしてくるだけよ」

「あんたも、魔法少女だろ?」

「ええ。少なくとも、貴女達とはまるで違うわ」

「へぇ、藍香と同じタチ、じゃなさそうだけど、何が違うんだい」

「それは言えないわ。関係ないことだもの」

 

いつもと違う問いかけ。

ここまで彼女との接触を遅らせるつもりではなかったからだ。

だかこんなことには慣れている。

 

「同じなのは、キュゥべえと契約した魔法少女って事だけよ」

「それだけ同じなのに違うってどういう事さ」

 

Perfectを出し、こちらに向いてくる杏子。

 

「そんなことより、もっと大切な話があるわ。私達魔法少女にとって」

「ワルプルギスの夜だろ?」

「! どうしてそれを」

「んなもん藍香が教えてくれたんだよ。外国のイベントがこの時期だどうだってね」

 

確かに、この国ではない国では、同名の行事がある。

その魔女の規模、そして襲来の時期に因んで名付けられたのが、ワルプルギスの夜。

 

「呑み込みが早くて助かるわ。そこで貴女達に話があるの」

「んなもん、ただ単にぶっとばせば済む話じゃん」

「単純に、その程度で終わる相手なら簡単な話で済むわ」

「なんだよ、その以前に戦ったことがあるみたいな言いまわしは」

「ええそうよ。私はワルプルギスの夜を見てきた。何度もね」

 

当然と言わんかのように振る舞う私に、戸惑いの表情を浮かべる佐倉杏子。

 

「あんた一体何者だ?」

「………」

 

沈黙を決め込む。

口は災いの元と言うからだ。

 

「まぁいいか。人に言えない事なんていくらでもあるからね」

「助かるわ」

 

想像していた答えと違ったが、逆にこちらからすれば助かった。

聞いてこなければ答えなければいい。それだけのことだ。

 

「とにかく、一筋縄ではいかない相手よ」

「はいはい解ったよ。どうすんだ、この街にはあんたとあたしを含めて4人も魔法少女がいるぞ」

「勿論、使える物は全て使うわ。取り返しがつかなくなった分の落とし前は付けてもらうつもりだから。ところで、彼女が人数に入ってないようだけど」

「ちゃんと人数に入れてるよ」

「なら人数は5人のはずよ」

 

私、佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、黄昏藍香。

 

「あんなひよっ子に、いろいろ預けられっか。逆にお守り(おもり)も出来ねーし」

 

確かに、それは言えることだ。

例え未熟と言えど、ここまで関わった者が命を落とせば、全体の指揮に異常が起こる。

それに少なくとも、それでまどかが契約に至ると言う可能性が無い訳でも無い。

 

「賢明な判断ね」

「それに、あいつが死んでもらっちゃ困るんだよ。散々説教する相手が居なくなるからな」

 

その時の杏子の表情はいつもの強気な彼女ではなく、何処と無く儚さと悔しさが入り交じっていた。

 

「もしかして貴女、美樹さやかの願いを」

「吹っ切れたみてぇだが、あたしは納得いかない」

 

「他人の為に使う願いの代償ってやつを説明してやらないとな。さやかには」

 

それで折れるくらいなら心も貧弱な奴だよ、と言葉を続けて彼女は銜えていたチョコスティックを噛み砕いた。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

「ワルプルギスの夜?」

「うん。杏子に聞いたんだけど、すっごいサイズの魔女で結界がいらないんだってさ」

「それで……どうなるの?」

「その街は普通ならおしまい、かな」

「そんな……!」

「大丈夫だって。杏子と転校生は置いといて、この町には正義の魔法少女が3人もいるんだから!」

 

40cm位のイヌのぬいぐるみを背負い、そう言って右腕でガッツポーズを作るさやかちゃん。

彼女が背負っているぬいぐるみは、勿論私が取ったもの。

冗談で言われたのを真面目にやったら取れたという、所謂嘘から出た真というやつだ。

 

回りのお客さんがさやかちゃんを見てクスクスと笑われていた。

こんな公の場でいい年した女の子が一人魔法少女って大きな声で言ってたら、当然の事なんだろうけど。

 

一方のまどかちゃんは励まされたにも係わらず、不安を隠せないでいた。

 

やっぱり、まどかちゃんの使命感は強すぎる。

キュゥべえからとてつもない才能があると言われ、自分で意思を固めてもほむらちゃんが抑制する。

ほむらちゃんの行動の真意を知らない故に戸惑い、混乱して疑問が浮かぶ。

そのジレンマと、答えを聞いても答えてくれない理不尽さが、逆にまどかちゃんを追い詰めているんだ。

 

「まどかちゃん」

「ん? どうしたの藍香ちゃん」

「今度の週末、お泊まりしに行っていい?」

「えっ?! なんでそんな急に」

「なんとなく。まどかちゃんのお父さんお母さんにご挨拶したいし」

「なんていうか、藍香って変なとこで律儀じゃない?」

「そんなことないと思うけど。どう、まどかちゃん?」

「ま、待って、パパに連絡しなきゃ」

 

あたふたと携帯を取り出す彼女の様子は、本当に可愛らしかった。

 

≪ちょっと、まどかちゃんを説教といこうかってね≫

≪ああ、なるほど。まどかのこの考えだけは、どうにもならないからね≫

 

≪ねぇ、藍香≫

≪ん?≫

≪私にもしもの事があったら、頼むよ。まどかの事≫

≪……何言ってるの、まだまだ時間はあるし、それに皆生きて帰るの≫

 

もう、自分を犠牲にして戦う人はあってはならない。

【彼女の親友】と同じ道は誰も歩ませないし、ましてや死なせる事は絶対に。

 

「藍香ちゃん、どうしたの?」

「ん? 何?」

「えっと、何だか怖い顔してたから」

 

あぁ、顔に出てたかな。

最近は気が緩むどころか引き締め過ぎて昔の事に浸り過ぎている。

一人ひとりが真実を受け止め、覚悟を決めた時の雰囲気が、あの救済の魔女と対した時の二人の雰囲気によく似ているのだ。

 

はっきり言ってしまえば、その二人の方がはるかに大きな気迫、覚悟を纏っていた。

だけど、その時を思い出すには十分。そう。十分だからこそ、浸ってしまう。

 

「大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ」

「そうなんだ……あ、お泊まりいつでも大丈夫だよ!」

「ありがと、まどかちゃん。いっぱいお話しよっか?」

「うん!」

 

さて……と。

もうすぐ、といっても2週間後まで暇がある。

という訳ではない。

 

今は、やるべき事がある。

魔法少女皆覚悟を決めた後にも、必要な事がある。

 

まずは、まどかちゃんにいろいろお話して、いろいろな事教えてあげて。

次は皆とお稽古。特に、さやかちゃんは多少なりとも鍛えてあげないと危ない。

 

「あら、鹿目さんに美樹さん、それに黄昏さんも」

「あ、マミさん」

「「マミさん、こんにちは」」

 

と、ここで偶然にもマミさんに出会う。

ソウルジェムは指輪の状態で、魔女探しをしている訳ではなそうだ。

 

「マミさんはどうしてここに?」

「美樹さんを探しにね。今日休みだったらかもしかしてと思って」

「あ、あははは」

「まったく、学校はサボっちゃ駄目よ。情報伝達も遅れるんだから」

「え!? それじゃあ魔女が」

「いえ、今日はある程度落ち着いてるわ。何故かは解らないけど、大方佐倉さんね」

 

そういえば、と。教会でドアを蹴り飛ばした時杏子ちゃんがグリーフシードをいくらか持っていたような気がする。

また浄化して上げないとなー。なんとなく考えていると。

マミさんの視線が、まどかちゃんとさやかちゃんの持っているぬいぐるみに移った。

 

「あら、そのぬいぐるみどうしたの?」

「藍香ちゃんがUFOキャッチャーで取ってくれたんです」

「マミさんもどうですか? 藍香のおごりですよ?」

「確かにいいけど、流石に藍香さんにそこまで奢らせるつもりはないわ」

「と言っても、300円ですけどね」

「え……?」

 

マミさんは信じられない物を見るような目で私を見る。

 

「ほんと藍香って凄いですよ! これ全部一回で取っちゃったんですから!」

「ほんとに?」

「ほんとですよ? なんならマミさんの欲しいの取ってあげましょうか?」

 

自慢げではなく、いたって普通に尋ねる。

すると彼女は何かないかなと、探し始めた。

 

「なら、あれでいいかしら?」

 

マミさんの指さす方向にあったのは、

さやかちゃんが背負っているイヌのぬいぐるみぐらい大きなクマのぬいぐるみ。

 

「うわ、マミさんも凄いのを要求しますね……」

「でも取れなくはないんでしょう?」

 

ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女に苦笑しながらも、私は硬貨を投入してうまくUFOを操っていく。

人形に上手くひっかけて滑り落ちるように誘導する。

もうちょっとで取れるかなー。

 

「ねぇねぇ藍香」

「ん、なにさやかちゃん?」

 

肩を叩かれなんだろうと振り返ると、さやかちゃんの指が私の頬をつついた。

 

「あはは! ひっかかった!」

「もー、さやかちゃん!」

 

怒りながらも笑い、クマのぬいぐるみを獲得。

それをマミさんに渡した。

 

「ほんとに一回で取れるものなのね」

「藍香はおかしいだけですって。私だって10回やっても取れませんから」

「さやかちゃん、その言い方はないと思うよ?」

 

私は苦笑しながらも、皆と杏子ちゃんとほむらちゃんのいる方へ戻った。

 

 

Side 鹿目まどか

 

 

藍香ちゃんが取ってくれた黒猫のぬいぐるみを見る。

どことなく懐かしい雰囲気。どこかで見たことがあるような気がする。

 

一個は私の為に取ってもらったけど、もう一個は……

と、杏子ちゃんとほむらちゃんを見つける。

相変わらずのほむらちゃんは冷たい表情で、杏子ちゃんは少し笑みを浮かべながら会話しているように見えた。

 

「ほむらちゃん」

 

藍香ちゃんを抜かしてほむらちゃんの前に出る。

ゲームセンター特有の音で掻き消されたのかと思ったけど、私の声に気付いてくれた。

 

「どうしたのまどか」

「あの、えっと、これ!」

 

黒猫のぬいぐるみを差し出す。

彼女の独特の雰囲気に威圧されそうになったけど、目をしっかり見て、自分自身も真剣な目で。

 

『そんな弱気になっちゃいけないね。そんな事を思いながらじゃ絶対に自分の想いは届かない』

 

藍香ちゃんの言葉を自分の中で繰り返す。

自分の思いを受け取ってほしいから、その近づきになれたら。

そして、ほむらちゃんの気持ちを解りたいから。

 

最初は驚いた表情を浮かべていたけど、またすぐ元の冷たい表情に戻った。

そして私の目を見る。彼女から放たれる雰囲気に押されそうになったけど、負けじと目を見つめた。

 

「……私は結構って言ったはずよ」

 

視線を逸らすほむらちゃん。視線の先には藍香ちゃんがいるんだろう。

それでも私は視線を外さず見つめる。

 

「私のこと気にしてていいの? まどかちゃんを見てあげなよ」

 

藍香ちゃんが少々きつめの言葉を飛ばしてくる。

お陰でほむらちゃんの視線を戻してくれた。

 

「ほむらちゃん、受け取って」

「……結構よ」

「いいから!」

「っ!?」

 

ついに押し勝つ。

彼女は驚いて少し後退り。それを利用してぬいぐるみを渡した。

 

「まどか」

「これでお揃いだね♪」

 

そして自分の中で決めていた〆の一言を言って笑う。

 

「……ええ」

 

少しだけ、ほむらちゃんの表情が緩んだ。

それと一緒に、本当の彼女が顔を出したんじゃないのかな、と思った。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

まどかちゃんは変わった。

ほむらちゃんを逆に威圧してしまったぐらいに。

自分の固い意志を持ち始めた。

 

彼女を、暁美ほむらという人間を理解したいという想い。

その為の関係を今築こうとしているのだ。

太陽と月の様に対照的な二人。私とほむらちゃん以上に違う、彼女との関係。

今も昔も変わらない。彼女が変わろうが、それだけはずっと。

 

周りの3人には適当に説明して誤魔化す。

一番驚いていたのはマミさんだけど。ほむらちゃんと杏子ちゃんがここにいたからっていうのもあるから。

 

説教の必要性はないかもしれない。

ここまで意志を固めれば、いずれほむらちゃんから魔法少女の真実を聞きだすだろう。

 

それから、皆帰るべき家に帰って行ったかと思ったけど、まどかちゃんだけはほむらちゃんに着いて行った。

いやいやながらもそれを呑んだほむらちゃんのその時の顔は、私でさえも驚かせるものだったのは言うまでもない。

 

 

Side 暁美ほむら

 

 

二人で橋の上を歩く。

 

「それでね、街中の喫茶店のケーキがすっごく美味しいんだ~」

「鹿目まどか、何故私に付きまとうの?」

「え~? そんなことないよ」

 

嘘だ。絶対に嘘だ。

何故ここまでになった?

この時間軸では弱気で決断力もなく、それなのに使命感を強く持つまどかが。

私と一緒に居ようとして共に歩き、仲を深めようと話を積極的に振ってくる。

 

間違ってもそんなことが起きないように、私は自らの弱い部分を隠して彼女と冷たく接してきたというのに。

それさえも今のまどかには通用しない。

ゲームセンターで、しかもあんな短い期間で何があった。

 

やはり原因は黄昏藍香なのだろうか。

しかし、そこまで彼女にまどかを変えられる力があるのか。

 

「まどか、黄昏――」

「あ! 名前で呼んでくれた!」

「!」

 

しまった、と思うが、覆水盆に返らず。後の祭りだ。

こうなればもう、普通に呼んでしまおうか。

だが、それではいままで私がやってきた事を否定することになる。

どうすれば……

 

「ほむらちゃん、これからは名前で呼んでね」

「お断りよ」

「えー! さっき呼んでくれたのに!」

「それに、私は貴女に名前で呼んでいいって言った覚えはないんだけど」

 

言葉を告げてから少し後悔する。

流石の今のまどかでも、今の言葉は響くだろう。

 

「……ごめんなさい、今のは言いすぎたわ」

 

彼女の顔を見ずに謝る。罪悪感が私の中に生まれる。

 

「そんなこと関係ないよ。それに、もったいないよ。ほむらちゃんの名前」

「もったいない?」

「なんかさ、燃え上がれー! って感じでカッコイイと思うな~」

「―――――!!!」

 

衝撃。

背後から鈍器で殴られる程、強い衝撃が全身を走る。

 

偶然? 偶然にしても、何故、どうしてこの言葉を放ったのか。

 

「? どうしたのほむらちゃん」

「いえ、何の問題もないわ」

 

私は何とか再起動して平常心を取り戻す。

 

「話を戻すけど。貴女、黄昏藍香に何か吹き込まれた?」

「貴女じゃないよ。まどか、だよ」

「……鹿「名前で呼ばないと返事してあげないよ?」……」

 

ついに本人から禁止令を出されてしまった。

彼女に何かを伝えたい時は、どう呼べばいいのだろうか。

もちろん、まどかと呼ばずにだ。

 

考えていると、魔女の気配を察知する。

場所は……此処。

 

「まどか」

「やっと呼んで「魔女がくる」えっ?!」

 

警告する前に、まどか共々結界に呑まれてしまった。

 




昔の記憶を抉る、少女の言葉。
大切な人だからこそ、知りたいんだ。

もう駄目だぁ……お終いだぁ……(書き貯め的な意味で)
いや本気でやばいって言うか不味い。
いつかスローペースになると思いますが、
そこは長い目で見ていただけると本当にありがたいです。

次回予告 CV:暁美ほむら

貰い泣きしそうになる。
でも泣いてはいけない。このまま負けてはいけない。
私は、昔の私ではないのだから。

『慈愛の少女』


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第十二話『慈愛の少女』

「笑わせる…偽物は私の方だったか」 byACLR エヴァンジェ


Side 暁美ほむら

 

 

結界はそこまで深くなく、特に何事もなく魔女までたどり着けた。

ただ、まどかを連れているという点を除けば。

 

「まどか、貴女は安全なところで隠れてて」

「う、うん」

 

凱旋門の様な姿の魔女。しかし本物のそれとはデザインが全然違う。

 

何故魔女でさえ、私の過去をえぐり出そうとするのだろうか。

この時間軸は、何かおかしいのか。

黄昏藍香というイレギュラーが介入しただけで、ここまで変わるのだろうか。

 

「(考えていても始まらない。とにかく魔女を倒さなければ)」

 

急がなければ、まどかの命が危機にさらされる。

しかし、私一人で倒せるのだろうか。

いや、倒してみせる。全ての魔女は私が倒すと決めたのだから。

 

周りの使い魔をアサルトライフルで一掃し、時を止め手榴弾を数個投げつける。

そして一斉に爆発。魔女は爆炎に包まれた。

 

「………」

 

まだ倒されていないだろう、自作爆弾のスイッチを押し投げつけ、爆破。

爆音と共に結界は消え去り、空からグリーフシードが落ちてきた。

 

あっけない。でも、後味が悪い。

苦汁を一気に飲み干したほどの苦い思いが私の中を駆ける。

 

「……っ」

 

思わず舌打ち。

魔女を倒す事でも払い切れなかった、この胸の奥の感情を誰にぶつければいい?

まどか? いや、それはない。黄昏藍香?

 

「大丈夫だった、まどか」

「大丈夫。……どうしたのほむらちゃん」

 

顔に出ていたのか、心配して声を掛ける彼女。

お節介なのは彼女も変わりない。

聞き逃した事を改めて聞いてみることにする。

 

「黄昏藍香に何か吹き込まれた?」

「藍香ちゃん? 吹き込まれたって言い方はないと思うけど」

 

「でも、教えてくれたの。大切な事」

「それは何?」

「相手に自分の思いを伝えるって事と、相手を理解すること」

「………」

 

また妙な事を拭きこんでくれたわね、黄昏藍香。

 

「……まどか、彼女の言う事に惑わされては駄目」

「惑わされてなんかないよ! 私は……」

「それが惑わされてるの。彼女は何を考えてそれを言っているのか解らないわ」

「それはほむらちゃんもおんなじだよ」

「………」

「なんでほむらちゃんは魔法少女になっちゃだめって言うの?

 キュゥべえは私に素質があるって言ってくれてるのに、どうしてだめなの?

 ほむらちゃんは、何を知ってるの?」

「………」

 

歯を食いしばる。ギリッ、と音がしたとほぼ同時に私は口を開いた。

 

「貴女には関係ない事よ」

 

言いなれた言葉で突き話す。

 

「ずるいよほむらちゃん」

 

「そんなことばっかり言って、逃げてばっかりで」

「今の貴女には、関係ない。貴女は今のままであればいい」

 

「言ったでしょう? 本当に周りの人が大切だと思うのなら、今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないでって」

 

「さもなければ、全てを失う事になるって」

「……それは違うよ」

 

どうして否定する。あの時は、言われるがまま受け止めていた少女が、何故。

 

「何が違うっていうの? 貴女は何も知らない。魔女の事も、魔法少女の事も」

「知らないよ。でも、それは関係ないよ」

「貴女には知る必要がないって言ってるの!」

 

怒鳴りつける。感情が高まっている事を自分でも知ることが出来なかった。

顔を俯かせ、視線を外す。後悔はない。これで突き離せらればいい。

それなら、また戻れるだろうから。

 

「ほむらちゃん」

「………」

「やっぱり、ほむらちゃんの言ってることは解んないよ」

 

「だから、納得もできないし、信じられないよ」

 

「でもね、私解るの。ほむらちゃんが、悪い子じゃないって。悪い魔法少女じゃないって」

 

「だから、だから、信じたいの……!」

 

彼女の声が震える。

顔を上げると、そこには涙を溜めたまどかの顔があった。

 

「まどか……」

 

貰い泣きしそうになる。

でも泣いてはいけない。このまま負けてはいけない。

私は、昔の私ではないのだから。

 

「ごめんなさい。でも本当に、今は話せないの」

「ほむらちゃん」

「……ごめんなさい」

 

耐えきれなくなって、その場から走り去る。

 

「絶対、信じてるから!」

 

後ろからまどかの声が聞こえてきたが、振り返らずそのまま去ってしまった。

自分のやるせなさと、彼女の意志とが、私の心を苦しめた。

 

 

Side 鹿目まどか

 

 

「……ごめんなさい」

 

そう言って俯いたまま走り出すほむらちゃん。

私はいけないと思って叫んだ。伝えたい事をもう一度。

 

「絶対、信じてるから!」

 

その言葉が届いたのか私には解らないけど、言わずにはいられなかった。

 

 

*********

 

 

「ただいま」

「おかえり、まどか」

 

パパの優しい声が迎えてくれる。

ママはまだ帰ってきてないみたいだ。

 

「今日も寄り道してたのかい?」

「うん。友達に誘われて」

「あんまり遅くなる時は前みたいに連絡入れてくれれば、後は僕がママに説明しておくから、心配しなくても大丈夫だよ」

「はーい」

 

私は自分の部屋に入って溜息を吐く。

パパも、ママも、魔女の事を、魔法少女の事を知らない。

魔女やその使い魔は知らない人々を喰らい、死に追いやってしまう。

そんなことが起きないように、私は魔法少女になりたいのにほむらちゃんは認めてくれない。

藍香ちゃんも、私の意志を尊重してくれてるような言い方をしてるけど、あんまり私には魔法少女になって欲しくないって言ってるみたいだった。

 

「私の存在の意味……かぁ」

 

私には難し過ぎるよ、藍香ちゃん。

そういえば、藍香ちゃんと『頭で考えるだけの会話』が出来るんだろうか。

もしかしたら出来るかもしれない。

藍香ちゃんの事を考えながら、彼女に言葉を送るようにイメージ。

 

「≪藍香ちゃん……藍香ちゃん……≫」

「≪?! まどかちゃん!?≫」

「≪やった! 届いた!≫」

 

やっぱり届くんだと解った私は胸をなでおろす。

 

「≪え、えっとー。どうかしたの?≫」

「≪あ、うん。ちょっと聞きたいことがあって≫」

 

藍香ちゃんはひどく戸惑っていたけど、それを好機と取って質問してみた。

 

「≪魔法少女って、何か悪いことでもあるの? 藍香ちゃんは別の魔法少女だけど、希望を送る魔法少女だって。だったら≫」

「≪……その話は直にした方がいいと思ってるから、今すぐには出来ないの≫」

 

藍香ちゃんまで、避けようとする。

でも、教えてくれない雰囲気じゃない。

 

「≪でも、今すぐにしてほしいのならすぐに飛んで行くよ。どうする?≫」

「≪お願い。私も、今知りたいから≫」

 

私も、魔法少女としての素質があるから。私も、知る権利がある筈なんだから。

 

「≪じゃあすぐ行くね! とぅっ!≫」

 

思わず噴き出してしまう。まるで昔のヒーローが飛ぶ時に出す声の様な。

全然似合わないのに、それを平気でいう彼女が本当に面白い。

まるでさやかちゃんみたい。

 

「もしかしたらこの窓ガラスを突き破って来ちゃったり」

「いるさっ、ここにひとりな!!」

「それは、まぎれもなく?」

「やつさ」

 

「って! 何言わせるの?!」

 

なんて事を言いながら、乗ってくれる藍香ちゃんにお腹を抱えて笑う。

面白いじゃ表せないほど面白い。お蔭で毎日が面白い。

 

「もー。せっかく乗ってあげたのにそんなに笑う事ないと思うんだけど」

『まどかー、何かあったのかい?』

「な、何でもないよー」

 

呼吸を整えながらも、この場を誤魔化す。

 

「じゃあ、真剣なお話しよっか」

 

真剣な顔で私の目を見る藍香ちゃん。その顔を見て少し身震いする。

怖い、と。それはほむらちゃんを遥かにしのいでいた。

もしそれに怒りの感情が混じっていたなら、私は涙を流していただろう。

 

「魔法少女と魔女の関係と、魔法少女の秘密を」

 

 

「感心しないね。黄昏藍香」

「………」

「きゅ、キュゥべえ?!」

「今まで君は舞台に上った魔法少女達に事実を教えてきた。勿論、佐倉杏子や巴マミ、美樹さやかが僕に対して冷たくなったのも、それが原因だろうけど」

「ど、どう言う事なのキュゥべえ。藍香ちゃんも」

「彼女達は一向に構わない。それで今の自分に納得しない者は絶望し、魔女へ変貌して僕達はエネルギーを集められたからね。前例もあったわけだし」

「『彼女』の事を言わないで」

「まぁ、『彼女』は優秀だったよ。僕達にとって、とても有益な魔法少女だった。ただそれでも受け入れた者が一人居たのは、少々計算違いだったけど」

「……『彼女の親友』は、『彼女』を絶対に裏切らない。それは確かな事」

「『彼女』自身も絶望した時もまた、僕達にとっては意味のあるものだった。しかしそのエネルギーも今、失われつつある」

「過程が間違ってるだけで彼方達の事は見過ごしていたけど、『彼女』の事を悪く言うのは私としても納得いかないね。キュゥべえ」

「僕には理解できないよ。何故地球上に最も存在する一種の生物の一固体が死ぬだけでそこまで感情がゆらぐのか」

「っ?! 何言ってるのキュゥべえ!?」

「彼方達には感情がないからね。彼方達にとって私達の行動が、激動する感情によってどう左右するか解らないと思うよ」

 

「今は帰ってもらえないかな。大切なお話があるから」

「今彼女にその事を述べれば、当然契約もしなくなるだろう。まぁ、君が言う感情がどこまで大きいかによっては……」

「『帰って』って言ったの。今の私はさっきまでの私より甘い人間じゃないよ」

「……やれやれ、それが君の僕達に対する本性かい。なんら他の少女達と変わらないものだね」

 

そう言ってキュゥべえは去ってしまう。

でもそんなことどうでもよかった。私はそこに立ちつくす。

 

キュゥべえがいった真実。藍香ちゃんの怒り。そして、藍香ちゃんにとって大切な人の事。

 

「ごめんねまどかちゃん。お話しようとしたこと全部キュゥべえに言われちゃった」

「う、ううん、でも……」

「心配しなくても大丈夫。今日杏子ちゃんも、さやかちゃんも、マミさんも見たでしょ。彼女達は絶望してたように見えた?」

「大、丈夫だったよ? でも、でも!」

 

「こんなのって無いよ! 皆希望を信じて願いを込めたのに、これじゃ何の為に!」

 

「藍香ちゃん! なんでキュゥべえはあんなに酷い事するの?! 酷い事言うの?!」

「……それが彼らだから。そもそも、キュゥべえには感情がないからその事は私達で言うただ単な作業として消化されていく」

「そんな!」

「言うならばロボットが自分に与えられた仕事を淡々とやってのける感じ、かな」

 

と、藍香ちゃんの目に涙が浮かんでいる事に気付く。

言ってる本人も、辛いんだろう。当然だ。彼女にも、大切な人がいたから。

それが、『彼女』なんだろう。

 

「ごめんね、私は何でも出来るみたいに見えるけど、そう見せてるだけ」

 

「本当はそう演ずることしかできない、愚かな道化でしかないの」

「そんなことない!」

「まどかちゃん……」

「私知ってるよ。藍香ちゃんが皆の為に頑張ってくれてる事。今日は、ちょっと疲れてただけなんだよね? だから、ゆっくり休んで」

「私が励まそうと思って来たのに、ごめんね。逆に励まされちゃった」

「気にしないで。藍香ちゃんのお蔭で、選ぶべき道が解った気がするから」

「帰る前に、ひとつだけ言わせて」

 

改まった雰囲気で話す藍香ちゃん。私はいたって普通に捉える。

 

「まどかちゃんは無力じゃない。だってこんなに私の事心配して励ましてくれたんだもん。それが私達にとって、どれだけ励みになってるか。心の支えになってるか」

「うん。私、藍香ちゃんと話して解ったよ。ありがとう」

「じゃあさっきの言葉は要らなかったかな?」

「ううん、言ってくれたお蔭で再確認できたから」

「そっか。じゃあね!」

 

「きゃぁ?!」

 

窓から飛び出そうとして足を引っ掛け、ジタバタと暴れる藍香ちゃんの姿に、私は笑う事しかできなかった。

 

 

Outside

 

 

感情の力。その偉大さをインキュベーターは知らない。

それを藍香に語られ、おとなしく引いた彼であったが、やはりその存在は、彼らにとってあまり好ましくない存在であるのは確かである。

 

「人類の生んだ言葉の中に、『果報は寝て待て』という言葉がある」

 

「……さて、どう動くかな。事は」

 

一体の契約者はそうつぶやくと、夜の見滝原の街を見下ろした。

 




動きだすのは、時か運命か。
因果が、世界を狂わせていく…

もう明日で大晦日ですねー。紅白で演歌聞くのが唯一の楽しみで…え? 妙に爺臭い?
そんなわけないじゃないですか、まだ成人してすらいないのに。
さて、諸事情により、次回予告は無しになります。
次回は、ちょっと変わった物をお出ししましょう。

以下おまけ

藍香「で、どうなの? 書き貯め」
俺 「イイジャンベツニ」
藍香「聖徳太子ネタ使ったって無駄だよ?」
俺 「十五話書きあげて十六話が五分の一」
藍香「そんなペースで大丈夫?」
俺 「大丈夫だ、問題ない」
藍香「……今回もダメだったんだね」
俺 「さりげなくまどか出すんじゃない!」
藍香「ほらほら、感想が来てたんだからもっと頑張って書かないと!」
俺 「んーそうだよなー。ホントありがたいよな感想」
藍香「わグルま!なんかやってないでさ。年末年始旅行行かずに家に居るんだし」
俺 「俺の個人情報流出してるんですけど大丈夫ですか藍香さん」
藍香「さーねー。書かない作者さんが悪いんだから、私に罪はありませんよーだ」
俺 「しかし、作者とキャラの対談で作者がぼこられ(物理)ないって新鮮だな」
藍香「でも、更新止まったら容赦なく叩くからね」
俺 「なにで?」
藍香「物理的に攻めた後精神的にメンタルを……」
俺 「まぁ、頑張っておりますので、よろしくお願いします」

ここまで読んだ方凄いなぁ…読まざるを得ない読者の性(さが)か。


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第十三話『理想の始まり』


―――それは、一人の少女の始まりの記憶―――


 

 

Side 黄昏藍香

 

 

「ふわぁ……」

 

日光の眩しさと、鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ます。

時刻はまだ早い。二度寝しようか考えたが、朝ごはんが食べられなくなるから無理に起きる。

 

「ふわぁ……ねむ……」

 

朝ごはんを作る前に、眠気を覚ますために顔を洗う。

冷水が気持ちいい。最近は朝シャンなんてのが流行ってるらしいけど、私はやる気がしない。

光熱費ももったいないし。

 

髪を鏡で確認しながら櫛で梳いていく。

同時に寝癖が一つもない事を確認。

 

「よーし! 今日も元気に行ってみよー!!」

 

パンとほほを叩いて気を引き締め、私は左腕を突きあげた。

 

「っとと、その前に朝ごはん朝ごはん」

 

今日から新しい生活が始まる。

生活って言っても、学校生活がなのだが。

 

その事で胸がいっぱいになる私だった。

 

 

 

通学路。

さんさんと照りつける日の光があったかくて気持ちいい。

小鳥の鳴き声。風が耳元を流れる音。葉が風で擦れる音。

目を閉じると聞こえてくる自然の音。自分の耳がよく利くお蔭だ。

 

「ミィ~」

「こんなに小さいのに、一人ぼっちなの?」

「ミィ~」

「そう……私と同じだね」

 

そんな自然の中に混じる一人の少女の声と子猫の鳴き声。

目を開けると、綺麗な長い三つ編みの黒髪に、赤いフレームのメガネを掛けた少女が屈んで、黒子猫の頭を撫でていた。

 

その時見えた顔は少し哀しくて、それを見た私は放っておけなかった。

でも、どうやって声かけようかな。やっぱり子猫から話を振った方が自然かな。

 

「あ、子猫!」

「っ?!」

 

突然の声にびっくりしたのか、名も知らぬ少女は驚いた顔で私を見た。

当然、彼女も私の事を知らないから戸惑うしかない。

 

「ミィ~」

「あはは、可愛い~」

 

頭と背中を優しく、優しくなでる。

気持ち良さそうに目をつぶったのを確認すると、今度は喉元を優しく弄る。

 

「ミィ~」

「気持ちいいのかな? もっとしてほしい?」

「ミィ~」

「はーい。解りました」

「あの、この子のこと、知ってるんですか?」

 

喉元を弄っていると、私の事をじっと見ていた少女が声を掛けてきた。

味をしめた私は会話に乗る。

 

「ん? 私は知らないよ? ここではじめて見たもん」

「そうなんですか……」

「貴女もやってみる? こういう撫で方」

「えっ……」

「アニマルセラピーってすっごくいいんだよ~?」

 

私が止めると、今度は彼女がやってくれるのかと、子猫は彼女の方を向く。

戸惑った様子の彼女に対し、私がレクチャーする。

 

「爪を立てずに、こう、指の腹で優しくゆっくり」

 

恐る恐る首元に伸びる手は震えていた。心配なのだろう。

 

「ミィ~」

 

振れたと同時に鳴き声。高さも、質も変わって無いから、嬉しいのに変わりはない事が解る。

びっくりして手を引こうとした彼女に制止の声を掛けて、そのまま続けて、とレクチャー。

 

手慣れず不格好なそれは、それでも子猫に十分な癒しを与えた。

 

「ミィ~」

 

暫くして時間を気にし始めたのか、そわそわしてる。

 

「えっと、それ、見滝原中の制服ですよね?」

「あ、うん。でも私今日転校してきたばっかりで……ごめんね?」

「え、あ、そう、なんです、か」

「え? もしかして」

「は、はい。私も、今日転校してきたばっかりで……ごめんなさい」

「なんだぁ! それならお友達になろうよ!」

「えっ?!」

「同じもの同士、それ触れ合うも多生の縁だよ! 私、黄昏藍香、よろしくね?」

「あ、暁美ほむらと言います……あの、でも」

「でもなんてないよ! ほら、行こ?」

「そういう事じゃなくて……あの、どこかで―――」

 

私は強引に彼女を、ほむらちゃんの手を取り、走り出す。

でもその途中で心臓が悪い事を聞いて、本気で謝ったのは別の話。

 

 

*******

 

 

校舎だけでなく、仕切りの壁でさえも全面ガラス張りの教室。

中の様子が丸見えで、時間的にも、朝のS.H.R.をやっていることが解る。

私とほむらちゃんは共に転入の手続きを終えて、目的地の教室を探していた。

 

「えっと、教室どこかなー。ほむらちゃん、解る?」

「多分、こっちじゃないでしょうか……?」

「私地図読めないし、方向音痴だからよっぽどな目印がないと迷っちゃうんだよね」

「そうなんですか」

「そうなんですよ」

 

返事を返すと突然笑い出したほむらちゃん。私は意味が解らないので、首を傾げる。

 

「ご、ごめんなさい。ダジャレを言ったわけじゃないんですよね?」

「ダジャレ? そうなんですよって合わせて言っただけ……って、なるほど」

 

私が迷いやすいって言う事は、遭難しやすいってことでもある。それをかけて言ったのかと彼女は思ったのだろう。

 

「私が言ったのに、ほむらちゃんに一本取られちゃった」

「ふふふ。あ、あの教室じゃないですか?」

 

指差す教室の中では、他のS.H.R.とは打って変わった異様な雰囲気が出ていた。

クラスの人が少しぐったりしており、先生は熱烈に語っている。

流石に何の話までかははっきり聞こえなかったけど、なんとなく私は勘弁だった。

 

教室の番号を確認してうなずく。

 

「流石ほむらちゃん」

「そんなことないです」

「謙遜しないで」

『はい。後それから、今日は皆さんに転校生を紹介しまーす』

『そっちが後回しかよ!』

 

教室の中の声が漏れて聞こえる。

そのツッコミの意味が私には解らなかったけど、何故か笑えてしまった。

 

『じゃあ、暁美さん、黄昏さん、いらっしゃーい』

 

戸を開けて、まずはほむらちゃんからと催促する。

多分私が先に行ってしまったら、行くタイミングを逃してしまうと思うから。

若干せかした方が、彼女にとってはいいのかもしれないから。

 

クラス中がざわめく。まぁ、当然だよね。

 

「はーい、それじゃあ自己紹介行ってみよう!」

「あ、あの、暁美……ほむら、です。その、えっと、どうか……よろしく、お願いします」

「黄昏藍香です。おかしな名前ですけど、よろしくお願いします」

 

二人でお辞儀をして、頭を上げた頃にペンを置く音がする。

早乙女先生が名前を書き終えたんだろう。

 

「暁美さんは、心臓の病気でずっと入院していたの。久しぶりの学校だから色々と戸惑う所も多いでしょう」

 

「黄昏さんは、家庭の事情で隣町から引っ越してきたの。こちらでの生活にはまだ慣れていないでしょうし」

 

「皆、助けてあげてね?」

 

こうして始まった学校生活。

席は前の方の、丁度ほむらちゃんの隣。普通なのか、偶然なのかは解らない。

 

S.H.R.が終わって質問攻めに合う。

さっきほむらちゃんは鹿目まどかという人に連れられて保健室に行ってしまった。

もっとお話ししたかったのになー。

 

「綺麗な髪~、地毛なの? 染めてるの?」

「地毛だよ? 染めると髪が傷んじゃうからしない主義なんだー」

「こんなに長いと毎日手入れ大変じゃない?」

「んー、どうだろ。慣れと経験で、もう大変じゃないかな?」

「でもでも、これだけ長いといろんな髪型試せるよね?」

「試してみてもいいんだけど、やっぱり髪の質が落ちるのは嫌だからね」

 

なんでみんな髪の毛のことばっかりなんだろうと思いながらも、的確に質問に答えていく。

 

「うううう……」

 

でもなんだろうか。この表現し辛い背後からの視線は。

周りは生徒で囲まれてる筈なのに、そのバリケードを突き破ってまで届く視線は。

 

「うがー!」

 

ついにその視線を送っている主が爆発した。

後ろから凄い剣幕で迫ってくる、何かを私は見ようとして振り返る。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

群衆をかきわけて出てきたのは、青い髪に青い瞳の女の子。

その私に向けた表情は決してよくない物だった。

 

「転校生! あんたは何でもっとおどおどして、質問されたら戸惑うみたいな反応しないの!? 学級委員としての私の立場が無いでしょーが!」

「えっと、それとこれとは話が違うっていうか、十人十色だから他にも私みたいな人がいるかもしれないし」

「関係あるの!」

「さやかさん、それは藍香さんの言うとおり、関係ないと思いますわ」

「うわっ、仁美……」

 

さやかと呼ばれたその人の後ろから現れたのは、抹茶色の髪に抹茶色の瞳の少女。

お上品な雰囲気で、お嬢様みたいな感じがした。

 

「それに、例えそうなっていたとしても、友達になりたいなら―――」

「ひ、仁美! それ以上は言わなくていいって!」

「??」

「あー、ごめんね。あたし美樹さやか。えっと、黄昏藍香だっけ?」

「うん。そうだけど」

「え、っと。まぁ、なんて言ったらいいかな」

 

戸惑うさやかちゃんの様子を見てなんとなく察する。

さっきの仁美ちゃんの発言もあったわけだし。

 

「さやかちゃんだっけ? 私解らない事多いから、学級委員さんに色々教えてほしいなー、なんて」

 

相手が話を切り出しやすいように言葉を添える。

相手の立場とか、色々理解いてもっとも適した言葉を。

 

気休めに溜息を吐く彼女。

 

「仕方ないなぁ。そこまで言われたら引き受けないわけがないでしょ? この学級委員であるさやかちゃんが何でも教えまくっちゃいますからねー!」

「よろしくお願いします。で、さっそくなんだけど次の授業は」

「数学。って数学?!」

「? どうしたの?」

「あたし最近数学全然解んなくってさー。仁美、後でノート見せて?」

「仕方がありませんわね。藍香さんは、どうされますか?」

「あ、っと……」

「あ、申し訳ありません。志筑仁美と申します。以後お見知りおきを」

「黄昏藍香です。仁美ちゃん、って呼んでいいかな?」

「勿論構いませんわ。私も藍香さんと呼ばせてもらってもよろしいですか?」

「うん、いいよいいよ。あの、ノート私もお願いします」

 

本当にお嬢様みたいにお上品な雰囲気。

私が珍しそうな目で見ていると、さやかちゃんが斬り込んできた。

 

「仁美はね、お金持ちのお嬢様なんだよー。羨ましいよね」

「私もちょっと憧れかな。こう、お上品な雰囲気って素敵だよね」

「そんなことありませんわ。さやかさんも藍香さんも、素晴らしい自分をお持ちですもの」

 

ここまで会話が進んで、ほむらちゃんとまどかちゃんが帰ってきた。

もうすぐチャイムが鳴る時間なので、クラスの皆はそれぞれの席に着いていく。

私はそんななか席に着いたほむらちゃんに声をかけた。

 

「大丈夫だった?」

「うん。でも、定期的に保健室に行かないといけないから」

「そうなんだ。大変だね」

「いえ、慣れてますから……」

「後、朝、ごめんね」

「そ、その事は黄昏さんは関係ないですよ。私の体が弱いからで」

「そんなこと言わないで。ほむらちゃんは何にも悪くないよ」

 

チャイムが鳴り、先生が入ってくる。

前の学校と範囲が同じだったらいいな。

 

 

*********

 

 

「きりーつ、礼!」

 

一時間目終了。ほっと溜息。

前の学校だと、ゆっくりしっかりやっていたからよく解ったけど、この学校では簡単に説明して早く進むから、私には理解しづらかった。

何とか追い付いたものの、これからもこのペースならいずれ追い付けなくなる。

 

それはさておき、先生も察してくれないかなぁ。

私は置いておいて、ほむらちゃんは退院したばっかりで解んないのに当てるなんて。

それに、問題が解けなかったからって、人を見た目で判断する人が陰口を叩いていたのが無性に気になった。

当然、私も同じ問題は時間をかけてゆっくり解いた。

それなのに陰口で、単純に遅いとか、グダグダするから早くしろと急かされた。

悔しい以上に哀しかった。そういう考え方、行動をする人は将来でその性格が災いして絶対に損するから。

 

「ほむらちゃん、元気出して」

「………」

 

うーん……流石に、無理、かな。

重く受け止めすぎるような気がするけど、それも人による。個人差がある。

 

「いやぁ、難しかったー」

「さやかちゃん」

「藍香もなかなか応えたでしょ。あの先生教えるの下手だからさー」

「なんとなくそれ解る! なんだか教科書読んでるだけー、みたいな」

「そうそう!」

「そんなこと言ってばかりでは、授業から遅れるばかりですわよ?」

 

はぁ、と溜息を吐く仁美ちゃん。その手にはノートが。

 

「さっすが仁美、話が解る!」

「ありがとう、仁美ちゃん」

「いえいえ。仰って下されば、他の科目のノートもお見せしますわ」

「はーい。またその時になったら言うね?」

「じゃあ私は国語と英語のノートを……」

「さやかさんには言ってませんわ」

「えー!? 仁美のけちんぼ!」

 

そんなやり取りを聞きながらも、私は一心にノートを写す。

綺麗な字で読みやすく、ノートの取り方もすっごく綺麗で見やすい。

このノートからも、お嬢様な雰囲気が出ていた。

 

「仁美ちゃん、後で数学のノート見せて」

「まどかさん。なるほど、そういう事ですの」

 

私はそのまどかちゃんので気が付く。ほむらちゃんもノートを写したいはずだと。

 

「ほむらちゃんも見る?」

「いえ、私は黄昏さんが写し終わった後にでも」

「暁美さんだっけ? そんなんじゃ休み時間終わっちゃうよー」

「そうだよ。解らない時に見た方がいいって」

「じゃ、じゃあ失礼して……お願いします」

 

こうして、二時間目が始まるまで二人仲良くノートを写すのでした。

 





過去の記憶。

というわけで暫く(15話まで)過去編公開となります。
本編と関係ないから外伝とかでもいいのかなぁ?
うーむ、むずかしい。

更新遅れて誠に申し訳ありません。
そしてあけましておめでとうございます。
今年も見てくれてる方が居て非常にうれしい限りです。

次回予告はしばらく休止。なんてったって過去編ですから!


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第十四話『将来有望』

―――事の始まりより、事の終わりの方が重要である―――


Side 黄昏藍香

 

 

文化系の授業は一旦終わり、体育の授業。

皆体操服に着替えて外に出る。

天気に恵まれ外で走り高跳びだ。

 

「いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち」

 

準備体操。

柔らかい体を思いっきり伸ばして、準備万端にする。

 

「(さーて、頑張っていこー!)」

「暁美さん? 大丈夫? 随分と顔色が悪いわね……貧血かしら」

 

頭の中で叫んで左手を大きく振り上げていると、先生の声が聞こえてきた。

 

「あ……えっと」

『準備体操だけで貧血ってヤバいよね~?』

『半年もずっと寝てたんじゃ、仕方ないんじゃない?』

「――――」

 

まただ。やっぱり、そういう年頃だから仕方ないのかもしれない。

でも相手に聞こえてしまえばそれはショックになのは変わりない。

いや、まともに言われるよりショックだと思う。

 

「先生……私、大丈夫です」

「本当に顔色が悪いわよ?」

「でも! あっ――」

 

バランスを崩す彼女を見た私はすぐに駆けて支えようとする。

間に合って!

 

「「ほむらちゃん!」」

 

まどかちゃんと声がかぶる。

その声とほぼ同時に、彼女がほむらちゃんを支える。

 

「(えっ、あれ?)」

 

彼女が気付いて駆けたのは私より遅かった。

それに、既に私はまどかちゃんを抜いていた。

私自身も脚には自信があったけど、抜かれるとは思ってもみなかった。

 

でも、一瞬だけ不思議な感覚を覚えた。

何か、言葉で表せないような何かを。

 

「え、っと、どうなのかな、何か引っかかる感じが」

「なーに一人でぶつぶつ言ってんの藍香」

「あ、さやかちゃん」

「次藍香の番だからさ、ほーら頑張って行ってこーい!」

「わわわわ!」

 

背中を押され、助走のスタートラインに立つ。

 

「た、黄昏藍香、行きまーす!」

 

高さは140cm。結構高いけど、どうだろ。飛べるかな……?

 

迂回するように回り左足を思いっきり上げて背面跳び。

背中に柔らかい感触、そして自分の重みが掛る。

 

「黄昏さん140cmクリア!」

「すごーい! 黄昏さん、運動神経抜群?!」

「え、あ、あはは……」

 

私が飛べるとしたらこれくらいかな。

体育は一番好きだからいたって普通に飛んでるだけだけど。

マットの上からすぐに移動して、次の人が飛べるように開ける。

次はさやかちゃんみたいだ。体を横に曲げたりして張り切っている。

 

「美樹さやか、行っきまーす!!」

 

勢いよく回りながら、私のまねをして右足をけり上げ―――

 

「あーたった、あーあ!!」

 

脚を絡めて、マットに直撃。そのまま仰向けに倒れる。

右足なんだから、私とは逆の方から走り込まないといけないのに。

 

ドッと、笑いがこぼれる。私も一緒に貰い笑い。

 

「藍香は笑うなー!」

「あはは、なんでー!」

「だから笑うなー!」

 

その反応が面白くて余計笑ってしまう。

 

「ほら美樹さん! 次の人が飛べなくなるから!」

「は、はーい」

 

急いでマットを退こうとするさやかちゃんの手伝い、一緒にマットの近くで次の飛ぶ人を見た。

 

そこには、まどかちゃんとほむらちゃんの姿が。

それに合わせてなのか、先生は棒の高さを上げる。

155cm。私達が跳んだ高さより15cmも高い。ついでに言うなら、この高さを跳べるのであれば、凄いどころの話じゃ無くなる。

 

「うわ~、先生もやりますなぁ」

「いとも容易く行われるえげつない行為とは、まさにこの事かな」

「鹿目まどか、いきまーす」

 

それでも跳ぼうとするまどかちゃん。

よっぽど自信があるのか、それとも……

 

「はっ!」

 

そんな掛け声と共に背面跳び。

その背中に棒を掠めることなく飛び越え、彼女はマットの上に落ちた。

 

「―――」

 

圧巻。でも、それ以前に不思議な感じがした。

まただ。まどかちゃんがほむらちゃんの元に駆けたのと、同じ何か。

当の本人はほむらちゃんの元へ戻って行った。

 

「あれ? まどかってあんなに飛べたかなぁ?」

 

さやかちゃんも首をかしげている。

 

「さやかちゃん、まどかちゃんってあんなに運動神経いいの?」

「いや、ここまで来ると正直いいとかいう問題じゃないでしょ」

「だよね。うーん……」

「また考え込んだってしょうがないって。ほら、藍香」

「わわわわ!」

 

背中を押されながら強制的に元いた場所に戻される。

 

「次はほむらちゃんが跳ぶ番だよ」

「は、はい! 暁美ほむら、いきます!」

 

私達が戻った時とほぼ同時に、まどかちゃんの言葉に後押しされたほむらちゃんが駆ける。

そこでも同じ違和感を覚えた。

 

「……………」

 

ここまで立て続けに起こると、流石に違和感を覚える。

でも、周りの皆は何も気付いていないようにふるまっている。

本当に気付いていないと言ったほうが正しいほどだ。

もしかして、気付いているのは私だけ?

 

上がった歓声で我に帰る。

何があったのかとさやかちゃんに聞くと、ほむらちゃんが155cmをクリアしたらしい。

驚きながらもそちらの方に視線を向ける。

棒はそのまま。ほむらちゃんはマットの上で体を起こしている。

 

「ねぇねぇ暁美さん、もういっぺん跳んでみてよ!」

「え、あっ」

「ほむらちゃんファイト♪」

 

今度は注意して見る。ほむらちゃんを。

今は感じない。気のせいなのかな。

 

「暁美ほむら、再び行きます!」

 

元気よく駆けていく彼女。私は、その姿をただ呆然と見ていた。

大きく回り込むように助走をつけ、そのまま……あれ?

 

「ほむらちゃん!? どこいくの?!」

「あ、あああ解らない! あ、足が、足が止まらない……!!」

 

「た、助けて!! 鹿目さん!!」

「ほむらちゃん! 待ってて!」

 

暴走。そう言ったほうが正しい。

そして、今ならはっきり解る。私は何を感じている。

その何かは解らないけど、それをはっきり感じ取ることが出来ている。

 

ほむらちゃんには何かあった。それが、暴走した。そうとしか言えない。

人ではあり得ない速さで砂塵を上げながら、グラウンドを駆け回るほむらちゃん。

 

「ほむらちゃん!」

 

私もいつの間にか走り出していた。

追い付けないと解っていても、走らなければいけない気がして。

 

後ろから追いかけても簡単に引き離され、先回りして待ち構えても凄い速さですれ違う。

先回りの方法は難しいし、彼女の勢いを急に止めると逆に彼女が危ない。

後ろから追いかけて、彼女の足を地面から離さないといけない。暴走してるのだから、減速させるにはそれしかない筈。

でも、簡単に引き離されてしまう。全力で扱ぐ自転車を追いかけている気分だ。

それでも諦めない。最初の友達だから。ほむらちゃんに対して向けられる陰口を、少しでも減らして彼女を楽にさせてあげたいから。

 

「(もっと速く! もっともっと速く!!)」

 

絶対に追いついてみせる。絶対に助けて見せる!

 

すると途端に脚が軽くなる。それに私は違和感を覚えることなく、逆に好機と取ってさらに脚を動かす。

速度が上がる。いつの間にか、ほむらちゃんに振り切られないほどの速度で走っていた。

でもこれでは足りない。もっと速く。彼女に追い付けないと、意味がない!

 

「ほむらちゃん!」

「た、黄昏さん!?」

 

名前を呼ぶ。私の名字で返される。私の事を呼んでくれた事の喜びが、さらに脚を軽くしてついに追い付く事が出来た。

同時に彼女と速度を合わせる。

 

「ほむらちゃん! 今助けるから!」

「黄昏さん、どうして……」

「だって、友達だもん! ほっとけないよ!」

 

次の瞬間、ほむらちゃんの側面から左腕を回して、膝の下に右腕を差し入れ持ち上げる。

横抱き、俗に言うお姫様だっこだ。

それを一瞬で行ったので、蹴りあげた足が右腕に当たる事はなかった。

 

その状態で徐々に速度を落としていき、やがて止まる。

 

砂煙も落ち着いて、私は胸をなでおろす。

ほむらちゃんは疲れてしまったのか、眠っていた。

 

「ほむらちゃん!」

 

まどかちゃんが焦った表情で駆け込んでくる。

 

「大丈夫、今は寝てるみたい」

「そうなんだ……よかったぁー……」

 

その言葉で私は安堵を覚えたのか、急に脚に力が入らなくなってへたる。

 

「あ、あれ? 脚に力が入らないや……?」

「だ、大丈夫藍香ちゃん!?」

「大丈夫だけど、あはは、脚に力が入らなくて。ほむらちゃんのこと、お願いできるかな?」

「うん、藍香ちゃんは「藍香は私に任せて、まどかは保健室に行ってきなよ」さやかちゃん」

 

まどかちゃんの後ろから現れたのはさやかちゃん。

まどかちゃんはちょっと考えてから、ほむらちゃんを抱いたまま保健室の方へ駆けて行った。

 

「藍香は大丈夫? 保健室行く?」

「大丈夫、脚に力が入らないだけだから。腰が抜けたのかな」

「んー、藍香が大丈夫って言うならいいけど、動けないんじゃどうしようも……そうだ」

 

何か思いついたように私に近づいてくる彼女。

近付いてくるのはいいんだけど。

 

「なんでニヤニヤしながら近づいてくるの?! 怖いよさやかちゃん!」

「いやいやー、さっきは見せつけてくれましたなぁ、と」

「な、何の話かな」

「惚けてもこのさやかちゃんには全てお見通しなのだ! おとなしく捕まれー!」

 

腕を振って抵抗するものの、今度は私がお姫様だっこされる。

顔を真っ赤にしながら俯き、皆を出来るだけ見ないようにした。

 

「お、どうしたどうした~? そんなに顔を赤らめて」

「は、早く運んでよ……」

「そんな藍香は可愛いな~! 藍香も私の嫁になるのだー!」

「お、お嫁さん?!」

「ジョーダンだって」

「あうう……」

 

それから私が動けるようになったのは、体育が終わって皆解散した時でした。

 

 

////////////////////////////////////

 

 

S.H.Lが終わってすぐにほむらちゃんは逃げるように教室を出て行った。

私は追いかけたかったけど、まだ脚が思うように動かなかったから無理だった。

 

「藍香ー、大丈夫?」

「あ、さやかちゃん。まだちょっと」

「そっかー、家ってどの辺?」

「学校から結構遠いの。街の向こうぐらい」

「あ、それなら丁度いいや。ちょっと付き合ってくれないかな?」

「え?」

 

 

 

さやかちゃんに時折支えられながらも、CDショップにやってきた。

 

「CDショップ?」

「うん。ちょっと幼馴染のプレゼントにね」

 

ヴァイオリンのCDが並んでいる所に行く。

ヴァイオリンでもやってるのかな? それとも好きなのかな?

 

「こっちはこの前送ったし、こっちは……」

 

数枚のCDを手に、試聴できる場所に行って聞き始めてしまった。

凄く丁寧に探してる上に、事前に調べているようだ。

私は何も言わず、そのさやかちゃんの姿をニコニコと見守る。

 

適当に座る場所を見つけて腰を掛ける。太ももを揉んで軽くマッサージ。

そういえば、どうして私はあんなに早く走れたんだろう。

今更な疑問が私に浮かび上がる。

それに、走り終えた後全く息を切らしていなかった。その点も考えれば不可解である。

 

「(私にも何か不思議な力があったり。なーんてね)」

 

笑みを零していると、さやかちゃんが戻ってきた。

 

「待たせてごめん。じゃ、次行きますか!」

「え、次って?」

「藍香は黙って私について着てたらいーの」

 

手を惹かれ、おぼつかない脚を動かしながら次の目的地へと向かった。

 

 

 

数ある病室の一室に私とさやかちゃん、そしてそこの患者さんがいた。

部屋は個室。それに広く、設備もそれなりに揃っている。お金持ちなんだなぁ。

 

「恭介、ごめんね? 急に押しかけてきちゃって」

「ううん、僕も今日は来るんじゃないかなって思ってた所だったんだ」

「はいこれ。新しいCD」

「ありがとう。いつも無理させて悪いね」

「このくらいなんでもないよ。幼馴染として当然!」

 

彼が、さやかちゃんの言っている幼馴染なんだろう。

包帯が巻かれた左腕がぐったりと仰向けでベッドの上で寝ていた。

痛々しいのがひしひしと伝わったくる。

 

「で、さやか。そっちの子は」

「ああ、まだ紹介してなかったね。今日転向してきた黄昏藍香って子」

「はじめまして、黄昏藍香です。えっと」

「僕は上条恭介。よろしく、黄昏さん」

「ああいえ、こちらこそ。上条さん」

「藍香には敬語は似合わないって。ほらほら、もっと肩の力抜いて」

「上条さんって言うのは堅苦しいから、出来れば別の呼び方の方が僕も嬉しいかな」

 

二人から言われるものの、初対面で異性なら仕方がない。

緊張もするし、今あったばっかりだ。

 

深呼吸して言い直す。

 

「じゃあ、恭介君?」

「うわ、いきなり名前呼びで来るか……」

「あはは、面白い子だね。さやかが一日で友達になったのも頷けるよ」

「恭介、それってどういう意味!?」

 

盛り上がっている二人を見て、私は自然と緊張がほぐれていくのが解った。

 

「恭介君は―――」

 

同時に、私はいけない事を口走ってしまいそうになった。

慌てて口を両手で押さえる。

 

「? どうしたのさ藍香」「? どうしたの黄昏さん」

「な、何でもないよ?」

 

―――ヴァイオリンが好きなのか。そう聞こうとしていた。

でも、CDショップでのさやかちゃんの行動といい、さっきからの恭介君の怪我した手の形といい、それは言ってはいけない気がした。

 

「んー? なになに~、恭介に何を聞きたかったのかな~?」

「な、何でもないって!」

「嘘を言うな嘘を! 慌てて口を覆うくらいなら出してしまった方が藍香の身の為だぞぉ?」

「い、言わないよ? 絶対言わないよ?」

「ほうほう、じゃあこれならどうだー!」

 

横腹を掴まれ擽られる。

必死に笑いをこらえながら、言葉をひねり出した。

 

「あ、ちょっ、さやかちゃん! ここ病室!」

「大丈夫だってー。恭介しかいないもん」

「だからって廊下に響くから!」

「あ、そっか。ごめんごめん(藍香はまどかと同じく横腹が弱いっと)」

 

何か私の弱点がさやかちゃんにばれてしまったような気がしたが、気にしないようにする。

 

「黄昏さん、本当に大丈夫? 僕に何か聞きたい事があるんだったら……」

「ああいえ、本当に何にもないんです!」

 

そんなやり取りの中、診察の時間がやってきて面会はお開きとなった。

 

私は帰り道、さやかちゃんに恭介君の事を聞いてみる事にした。

 

「ねぇさやかちゃん、恭介君ってヴァイオリン好きなの?」

「あー。さっきの言いかけた事、やっぱりそれだったか……」

 

苦笑して、私の顔を見る彼女。

 

「恭介って、小さい頃からヴァイオリンの奏者で、将来有望だったんだ」

「……それで、今は」

「うん。ある日事故に遭ってね。それで左腕が動かなくなって今は入院中」

 

「ごめんね? 無理に気使わせちゃって」

「ううん。私ちょっと鋭すぎたのかな。私が悪いだけで」

 

そう。私が悪いんだ。

 




過去の記憶2。

地味に恭介初登場ではないのだろうか。
因みに、俺は恭介を罪なお方に仕上げるつもりは全くありません。
罪なのは誠ぐらいでいいだよほんとに。
まぁ、無知は罪なのだが。

16話書き上げました。
感想二件ありがとうございました。
リクエスト、指摘、簡易な感想、なんでもOKです。
全て活用&活力とさせていただいておりますので。

以下雑談という名の現状報告注意


俺 「いやぁまぁ、一時はどうなることやらと思っていたが案外どうにか」
藍香「だよね。やっと作者さんも波に乗ってきたんだし」
俺 「そうそう。17話も順調に書きあげられそうだ」
藍香「もうすぐだね。クライマックス」
俺 「ワルプルギスの夜な。………」
藍香「どうかしたの?」
俺 「いや、俺はパワポケが好きだ」
藍香「いや、そんなこと急に言われても……ってあ、以下特に注意」

俺「諸君、私はパワポケが好きだ。
  諸君、私はパワポケが大好きだ。
  3が好きだ。6が好きだ。7が好きだ。8が好きだ。
  9が好きだ。10が好きだ。12が好きだ。13が好きだ。
  
  サイボーグで、しあわせ島で、甲子園ヒーローで、
  特命ハンターで、さすらいのナイスガイで、
  甲子園一直線で、電脳野球で、逆襲球児で。

  このコナミで行われる野球沙汰が大好きだ。
  必死に貯めたお金を一瞬でかっさらっていく亀田が好きだ。
  しあわせ草を大量に摂取し、一気に反抗していく主人公達には心躍る。
  ヒーロー達の実力行使をガンダーロボを使って撃破するのが好きだ。
  大量のサイボーグをワイドショットで次々に破壊した時など胸がすくような気持ちだった。
  武美がプログラムを寿命タイマーを解除し、特別なクリスマスを過ごすのが好きだ。
  ジャジメントに迎えられる直前の紫杏の告白を、箱の中の猫と返す主人公には感動すら覚える。
  ドラコを倒し、後は白馬でパカを迎えるだけとなった主人公などたまらない。
  絶体絶命の状況でホンフーに対し、千羽矢が覚悟を持って自らの心臓を差し出したのも最高だ」
藍香「……ちょっと黙ろうか。作者さん」
俺 「すまん調子乗りましたってあの顔笑ってるけど目が本気じゃないですか藍香さん」
藍香「無駄に凝った文章作るくらいなら、頑張って本編書こうか?」
俺 「あの、その超弩級の大砲って、あの幻想砲じゃありませんかね?」
藍香「そうだけど、それがどうかしたの?」
俺 「口径1500mmもあるから大気圏突破余裕とかそんな規模じゃない大砲ですよね?」
藍香「そうだよー? 作者さんが考えた立派な武器だよー?」
俺 「それを何故私に向けるんですか」
藍香「制裁」
俺 「デスヨネー」
藍香「光になれえええええええええええ!!!!」
俺 「イ゙ェアアアア!!!」

ここまで読んでくれた彼方には、賛美を称します。

P.S.9は武美、10はカズ派ですが紫杏も捨てがたい。


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第十五話『もう一回』

破滅と救済は、共にもたらされる。しかし、訪れるのは破滅からだということだけだ。


Side 黄昏藍香

 

 

桜の木の花が散り、枯れ木のそれと同じになった頃。

見滝原市を大きな嵐が襲った。

 

家族の人がいない私は一人で避難所に駆け込んだ。

その際、役所の人達にいろいろと聞かれたり言われたりしたりしたけど、いつもの遠い親戚の話をして納得してもらう。

 

避難所はとても込み合っている。

避難命令が出てから随分と遅くなってしまった。

情報が入ってくるのが遅かったからだ。

停電に加え、ラジオも使えず、避難を促す車が来てから準備していたから遅くなった。

 

ゴゴゴゴ……

 

激しい風の音と、地響きを上げる音が建物の中に木霊した。

子供は怯え、大人が声をかけて安心させる。

 

ただの風と地響き? 何か違う物があるような。

少し怖くなって誰にも気づかれないように建物を飛び出す。

何が怖いのか解らないまま、ただただ本能に従って人一人いない道を駆ける。

 

それに、あの時感じた不思議な力も感じる。

でもあの時とは全然違う。理解せずとも気持ち悪くなるほどの強い何か。

 

「はぁ、はぁ」

 

息を整えて空を仰ぐ。

そして私は私のしたことを後悔した。

何故空を仰いだんだと。どうして上を見たんだと。

 

「―――――」

 

灰色の世界に浮かぶ、青紫色のドレスに白いフリルを身に纏った逆さまの化け物。

足があるはずの上の方には三段重ねになった大中小の歯車。

あと一つ容姿を付け加えるならとても大きいということ。

 

足がすくみ、腰が抜けた錯覚。足のすくみから震えに代わる。

私は悟る。何に恐れていたか。そして、頭の中にひとつの単語が過る。

 

【魔女】

 

「フフフ―――アハハハハハ―――――!!!」

 

高々とした笑い声と共に、その魔女を中心にして暴風が吹き荒れる。

ガラスが割れ、門が激しく開閉し、木々の枝が悲鳴を上げた。

 

そして次の暴風が吹き荒れた瞬間、私は空に舞い上げられる。

そのまま、廃墟と化したビルに叩きつけられた。

 

「痛……いだけ?」

 

かなりの勢いで叩きつけられたから、普通なら痛いどころか死んでしまうのではないだろうか。

なのに背中に感じるのは瓦礫のゴツゴツした感触と、叩かれた様な痛みだけ。

おかしい。何で生きてるのかが不思議なくらい。

 

と、自分の回りに球体の薄い膜の様なものが展開されていることに気付く。

 

「バリア?」

 

頭に浮かんだのはその言葉しかなかった。

私は立ち上がりその場所から魔女の方を見る。

 

魔女はかなりの速さでどこかに向かっているようだった。

進行方向の先、そこには避難所が。

 

魔女の歯車が上下して再び暴風を巻き起こし、回りにビルを浮かばせる。

そして浮いたビルが勢いよく落ちていく。

落下地点にあるのは、避難所。

 

「っ! やめてえええええええええええええええ!!!!!!!!!」

 

私の必死の叫びは轟音に呑まれ、そして虚空に消えていった。

 

 

////////////////////////////////////

 

 

忘却。脱力。

何もかも破壊尽くされ、廃墟の町と化した見滝原。

以前はかなりの科学力と建築技術で設計された建物も、今では見る影もない。

 

「………」

 

灰色と白の空から降り注ぐ雨は、今の私の気分をさらに湿らせ沈ませた。

 

「私だけ生き残っても、何もないのに」

 

一つだけ自覚していた。私は他の何かとは違う『何か』がある。

でも解りきっていた。その『何か』では現状を変えられないと。

 

「鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい」

 

どこからか、声が聞こえてきた。

聞き慣れた声。その声は私の中の不安を一気に取り除いた。

 

「ほむらちゃん……?」

 

忘却と共に力を失った脚を必死に動かす。希望を求めて。友達を求めて。

 

「さぁ、解き放ってごらん? その新しい力を!」

 

その彼女の言葉でぱたりと脚を止める。

そして、紫色の光が空を貫いた。

 

高い瓦礫に身を隠しながら声のした方を見てみると、そこには彼女の姿は既になかった。

 

「あれ? ほむらちゃん?」

 

辺りを見渡す時、不意に白い物を視界に捉えた。

 

瓦礫の上。横長の丸い顔をした白い猫の様な生き物が、狐のようなしっぽをゆらゆら揺らしていた。

 

「猫……かなぁ?」

「? 君は僕を見る事が出来るのかい?」

「しゃ、喋った!?」

 

驚き、尻もちをつく。

 

「そんなに驚く事はないよ。僕達は君達が理解できる音を発しているにすぎない」

 

「まぁ、それが君達にとって、喋る、という動作に値するんだろうけど」

「て、哲学っていうか、さらりと難しい事言うね」

「……で、さっきの質問に答えてもらっていなかったね。君は僕を見る事が出来るのかい?」

「え? 普通じゃないの? 彼方はそこにいるから。私、何か変な事言ったかな?」

「僕達がその少女の素質に気付き、初めて僕達が姿を現す。だから僕達が初対面の相手に見えるはずがないんだ」

「えっと、それって自分達が許可した相手にしか見えないってこと?」

「簡潔に言えばね。予想外だったけどまた一人見つけたよ」

「?」

「君は、その眠れる力を何かに利用したいとは思わないかい?」

「どう言う事?」

「……やはり君には、単刀直入に言った方が通じるようだ」

「???」

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

契約? 魔法少女? この子、何を言ってるのかな。

でも、こんな不思議な動物がいるんだから、魔法少女もいるのかな?

 

と、足元に違和感。そして下を見ると。

 

「――――」

 

言葉を失った。

 

「まどかちゃん!? まどかちゃん! しっかりして!」

 

揺すろうとして体に触れた時、私は思わず手を離す。

 

「死ん、でる?」

「彼女はワルプルギスの夜に敗れ、生を全うした。それだけのことさ」

「ワルプルギスの夜?」

「君も見たんじゃないかな。その目を持ってすればあの魔女を見るなんて、容易い事だろう」

 

もしかしたら、あの大きな魔女が。

 

「ねぇ彼方、って言ったらおかしいな……名前ってあるの?」

「僕の名前はキュゥべえ。君の名前は?」

「私は黄昏藍香。よろしくねって言いたいところだけど、もうここは駄目だよ」

「君が願えば、この街を元に戻せるかもしれない」

「え?」

「君の中に眠る素質を使えば、この街を元通りにするなんて容易い事じゃないかな?」

「私の素質?」

 

思い当たる点はいくつもある。

転入初日で物凄いスピードで走った事や、ワルプルギスの夜に吹き飛ばされた時に無事だった事。

 

「でも、その代り君は魔女と命がけで戦う事を強いられる。それでもいいかい?」

「その魔女って言うのは、さっきここを襲った魔女も含まれるの?」

「そうだよ。まぁでも、あんな超弩級の魔女はあの魔女しかいないんだけどね」

「でも、命がけだなんて現にまどかちゃんだって……」

「大抵は二つ返事なんだけどね。君もやっぱり考える方か」

「君も?」

「彼女もまたそうだった。ただ、願いが決まらないだけだったんだけど」

「ねぇキュゥべえ、まどかちゃんが望んだ願いって何?」

「黒猫を蘇らせたのさ。ただ、僕にはその意味が解らないけど」

「(黒猫? もしかして、エイミィ?)」

 

でもあの時からずっと、エイミィは元気にしていた。

転入初日も、エイミィはほむらちゃんと接するきっかけを作ってくれた。

でも、まどかちゃんから不思議な感じがしたのは彼女にあってすぐ。

 

と、ここで疑問が一つ頭の中に浮かぶ。

 

「あれ? そういえばほむらちゃんは?」

「彼女はどこかに行ってしまったよ。果たしてどこに行ったんだろうね」

「彼方と契約したんじゃないの?」

「確かに彼女は、僕と契約しその力を解き放った。しかし、それがどう言った結果を生みだすかは僕達にも想像できない」

 

「何せ、魔法少女は条理を覆すに値する存在だからね」

 

「さぁ、君はどうするんだい? どのみち、この街の復興には数年は掛るだろうけど」

「私は、この街の復興で願いを使うつもりはないよ。でも、暫く彼方と一緒に居たいの」

「いいよ。君には魔法少女以外の、何かがあるようにも思えるからね」

 

 

///////////////////////////////////

 

 

あれから1年の時が経った。

見滝原市は全くと言っていいほど復興の様子も、面影も感じられない。

 

最初は、何とか無事だった百貨店の食料を漁っていたけど、数日でほぼ全ての加工食品は腐ってしまって、中は悪臭が漂っている。

生鮮食品もその衛生的な面で最悪の環境にあったため、一週間足らずで全部腐ってしまった。

なので、今度は銀行やATMを漁った。銀行は流石に街の中心地にあったため、全滅。

ATMは街から離れた所にもあったから、色々な物を使って破壊し、お金を取った。

そのお金を持って隣町に行き、怪しまれない範囲でお金を使って食料を買い、やりくりしている。

 

「生きる為に必要な事だから……ごめんなさい」

「君も大げさだなぁ。毎度やる事だから、そんなに謝罪の言葉をその度に言わなくてもいいじゃないか」

「でも、人の心には善心と悪心があるの。こういうこと、するたびに善心が痛むの」

「感情という物はよく解らないよ。僕達には」

「……だよね。解ってたよ。最初から」

 

あ、因みにだけど、家は前に住んでいた家を魔法で誤魔化しながら買い戻して、そこに再び住んでいる。

家具も全部新調したし、私だけの新しい生活が戻ってきた。

 

「ねぇキュゥべえ。この街にもやっぱり魔女っているの?」

「そうだね。ワルプルギスの夜が通過したから、ある程度落ち着いてはいるけれど」

「そっか」

 

簡単に、本当に簡単に朝食を済ませて私は自分の魔法の練習をする。

言い方からすれば、今までやってきたように思えるかもしれないけど、今回が初めてだ。

 

イメージ、イメージ。防御のイメージ。

 

目を開くと、目の前に薄い壁が出来上がっていた。

 

「す、凄ーい!」

「へぇ、これは」

 

キュゥべえが前から歩み寄ってきたけど、その壁に触れて止まる。

どうやらこれは本当に魔法で出来た壁みたいだ。

 

「藍香。君は既に、魔法少女だったようだね」

「でも私、キュゥべえと契約してないよ?」

「確かに僕達の知る範囲では、契約した魔法少女しかその個体を知らない。でも、それは僕達の知る範囲だ」

 

「君の様な、『例外』が発生しても何らおかしい事ではないよ」

 

「(まぁ、今まで契約してきた中で、僕達が既にその芽を摘み取っていたのかもしれないけど)」

 

私は面白くなって、もっともっと自分の魔法の探求を続ける。

今度は攻撃……は何か壊しちゃいそうだから、もうちょっと凝ったのを。

縄みたいなのはどうだろう。

 

イメージ、イメージ。

 

「えいっ!」

 

キュゥべえをお縄にかけるイメージで手を前に出す。

するとイメージしたとおりに、鎖がキュゥべえを縛り付けた。

 

「ひどいじゃないか」

「あ、ああ! ごめんキュゥべえ!」

 

魔法を解こうとするけど、どうして解いたものかと戸惑ってしまう。

すぐに、『止める』という選択肢が出てきて難なく解除できたけど。

 

それにしても、かなり応用が利くみたい。

もしかしたらもしかしなくても、攻撃系の魔法が出来るんじゃ?

 

「あ、そうだ!」

 

お風呂場に駆けこんでイメージ、そして湯船に向かって指をさす。

湯船の底から、ではなく自分の指先から水が沸き出てきた。

 

「もっともっと!」

 

掛け声に応えるかの如く、水が指先から溢れ出て浴槽を満たしていく。

その水の色はとっても綺麗なシアン色をしていた。

水を出すのを止めて、思わず一口飲んでみる。

 

「(美味しい! って、それは当然か。自分で作ったんだし)」

「かなり応用が利く用だね、藍香」

「あ、キュゥべえ。うん、そうみたい」

 

面白いからどんどんやってみようと思ったけど、体の節々が痛くなってる事に気が付いた。

もしかしたら、やり過ぎると体に負担がかかるのかもしれない。

 

とりあえず今は痛いからベッドで寝る事にしよう。

 

 

//////////////////////////////////

 

 

二階のベランダから日が沈んでいくのを眺める。

今日はかなりの進展があった、と思う。

因みにキュゥべえは何処かへ行ってしまった。

 

「………」

「ごきげんよう」

「っ?!」

 

上から不意に声を掛けられる。

上を向いても誰もいない。多分、ベランダの死角になる場所に居るんだと思う。

 

「誰? 私に何かあるの?」

「確かに、何もないって言ったらウソになるね。彼方にちょっとした用事があって私はここに来たの」

「それってどう言う意味? 彼方は誰? こっちに来て!」

「あはは、それは無理かな~。私は彼方に伝えたい事があるだけだから。

「伝えたい事?」

「うん。何もかもやり直したいときがあったら、左手でフィンガースナップしてみて」

「フィンガースナップ?」

「あー……、指パッチンって言ったら解るかな? 指を鳴らす事」

「こう?」

 

左手を鳴らしてみる。でも何も起きない。

 

「そんな、何の意思も無しに魔法は使えないでしょ? 特に彼方の魔法は」

「えっ!? 何で私の魔法を知ってるの?」

「まぁね。じゃあ、伝えるべき事は伝えたから、私はお暇するよ」

 

指の鳴る音が聞こえて、それから全く声が聞こえなくなった。

 

「やり直す意思、かぁ」

 

そもそもやり直すとはどういう意味なのだろうか。

すごろくでいう、スタートに戻るってことなんだろうか。

なんとなく、そんな気がする。

 

やり直すという意味。やり直すという事。

全部、全部やり直せるなら、それは、とっても、嬉しいかなって。

 

……やってみる価値はある。

 

そう思った私は、意思を持って左手を鳴らした。

 

 

/////////////////////////////////////

 

 

「ふわぁ……」

 

日光の眩しさと、鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ます。

 

「……あれ?」

 

同じ光景をどこかで見た事があるかもしれない。いや、見た事がある。

体が覚えている。

 

……やり直せたのかな? ホントに。

 

……とりあえず、学校に行こう。

一度行った学校に。




もう一回、もう一回と。
少女は回る。輪廻という名の輪の中で。

※今回は普通の記述で長いです。読まなくても大丈夫です。
 今回次回予告あるんで最後まで飛ばしていただければ。

過去編終了。そして次の過去編はありません。
そもそもこの話(13~15話)自身書くつもりなかったっていう。
ローリンガールを意識した題名でございます。
藍香の魔法解説回でもありましたね。

はてさて、出てきましたよフィンガースナップ。もとい指パッチン。
なぜ左なのかって? 藍香が左利きだからさ。
とりあえず、エルシャダイネタは使用したかったんです。
何かと万能ですし、それにストーリーも、ね。
ストーリーが完成されている作品からは結構参考にしたりしてますんで。
ネタ発言等、多いかもしれませんが笑っていいんですよ?一部を除いて。

PC新調しました。しかしワードがないんでちょっと更新ペースが狂うかもです。
いやー、長いですねこれも。もう15話ですよ、週一投稿で。
ほかの人の長い奴と比べたらアカン。
と言っても自分の世界観大事にしたいんで投稿し始めてから全く読んでませんが。

正直オリ主最強伝説と言っても、そこまで強くありません。←ぇ
彼女自身、この万能魔力によって助かっているも同然ですから。
それに『生身の人間』ですから魔法少女達より脆いです。
究極生命体カーズとかマスターアジアとかコブラとかとは全く違います。

次回は平凡な暮らし。戦いはありません。

次回予告 CV:黄昏藍香

家庭。家族。
皆にある、最後の信頼の砦であり、帰る場所にいる人の代表。
私の記憶をいくら探っても登場する事はない、失われた物でもある。

『最後の砦』


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第十六話『最後の砦』

勝手な期待か 遠いな… byAC4 サーダナ


Side 黄昏藍香

 

 

「アーウ!」

「ほらほらタッちゃん、おいでおいでー」

 

まどかちゃんの弟、タツヤ君とリビングで追いかけっこ。

飛び込んできたときは、上手く体を入れ替えて大丈夫なように受け止める。

 

「それにしてもまどかも新しい女友達を連れてくるなんてねー」

「それに、いきなりお泊まりだなんてね。僕も最初は驚いたよ」

「ごめんね、パパ、ママ。急に無理言っちゃって」

「いーのいーの。引っ込み思案のまどかがここまで変わってくれて、私としては嬉しい限りだ」

 

「あははは! タッちゃん、くすぐったいって!」

「アイカー!」

「タツヤったら、もう藍香ちゃんの事気に入っちゃってる」

「ちょ、まどかちゃん助けてよー!」

「あはは、はーい」

 

弱い横腹を弄られるとどうしてもくすぐったくて、悶絶してしまう。

自分でやっても大丈夫のに、人にやられるとなんでこんなにくすぐったいんだろう。

 

「ほらタツヤ、今度は私と遊ぼ?」

「アーイ!」

 

一旦リビングを離れ、ダイニングに移動して椅子に座る。

 

「藍香ちゃん、だったっけ」

「あ、はい。まどかちゃんにはいつもお世話になっています」

「まどかから話は大体聞いてるよ。いつもお世話になってるのはこっちの方さ」

「いえいえ、そんなことはないですよ。この前なんて逆に励まされたぐらいで」

「ほぅ、あのまどかが人を励ますなんてねぇ?」

「な、なーにママ」

「いーや、いい方に代わってホント良かったって思ってるよ」

 

最近のまどかはちょっと抱え込んでる所があったからね。と、まどかちゃんに聞こえない声で、私には聞こえる声でそう呟いたお母さん。

 

「ねぇ藍香ちゃん、この後どうする?」

「まどかちゃんのお勧めの場所とか教えてほしいな。私あんまりこの街詳しくないからせっかくだし教えてもらえたら」

「あれ? そうだったの?」

「まどか~? 藍香ちゃんが最近引っ越してきたばっかりだってこと、もう忘れたのかい?」

「あ、そうだった」

「もうまどかちゃんたら~」

「(本当に、そんなこと忘れちゃうくらい仲良くしてくれて、でも……それ以前に会った事があるような気が)」

 

相変わらず、まどかちゃんは首をかしげていた。

因果が強いから記憶の片鱗が残っているのはおかしくないこと。

……でも私や、ほむらちゃんからすれば少し、都合が悪いのかもしれない。

ただし、それは全てを悟った時だが。

 

 

/////////////////////////////////////

 

 

「美味しいねー!」

「うん。ここのクレープ屋さん、ほんとにオススメなんだぁ」

 

二人で苺とホイップクリームのクレープにかぶりつく。

 

「ほらそんなに杏子ちゃんみたいにがっついたから、ほっぺに付いちゃってるよ?」

「え? どこどこ?」

 

私はほっぺに指を走らせるも、そんな感触はない。

 

「反対側だよ」

 

まどかちゃんが反対側のほっぺを指で撫でると、その指にはホイップクリームが付いていた。

 

「ありがとうまどかちゃん」

「えへへ、どういたしまして」

 

その指についたクリームをおもむろに、自分の口に持って行くまどかちゃん。

かわいいなぁ。

 

「……こんなにも平和な街が、壊されちゃうんだね。魔女に」

「……大丈夫、私達が守るから。今は、今を大切に。そして今を幸せに」

「そうだよね。未来の事を気にかけて今を立ち止まってちゃいけないもんね」

「そうそう。あ、そうだ」

「? どうしたの?」

「いやー。ちょっと皆の強化……もとい、育成……じゃなかった。改造……でもない」

「えっと、不審な言葉がいっぱい出て来てるんだけど?」

「ごめんごめん。簡単に言ったら皆トレーニングして、強くなってもらわないと厳しいかなって」

「え、でもマミさんも杏子ちゃんも、ほむらちゃんだって強いよ?」

「各個が強いだけじゃ、あんまり強い『組織』とは言えないんだよね。

特に、皆が共に行動するなんて時には特に連携が物を言う事だってあるし」

「そっか。藍香ちゃん、結構いろいろな事考えてるんだね」

「何を言いますか! 私だって色々考える事が多すぎて参っちゃってるくらいだから」

「たとえばどんな?」

「今日の夜は一緒に何をしようかなーとか、まどかちゃんのお背中お流ししようかなとか、今日はオールでもしようかなとかー」

「純情な乙女が街中で白昼堂々と……けしからーん!」

「わひゃぁ!?」

 

いきなり脇腹を鷲掴みされ、揉まれる。

そのあまりにも突然な出来事と、そのくすぐったさが私の驚きの声がさらに大きくした。

 

「さ、さやかちゃん?!」

「まどかと藍香を見つけたと思ったら、いきなりそんな会話してるんだから」

「あーうー、それはね」

「それにまどか~? どうしてさっきの強い魔法少女の中にわ・た・し・の! 名前が入って無かったのかな~?」

「そ、それは……」

「さやかちゃんはまだもうちょっとかなー。重点的にトレーニングするつもりだから、覚悟しててね?」

「あ、あははー♪ 藍香? ちょっと場所移そうか…?」

「いいよ? でも『あっち』の方の喧嘩みたいな事をするのなら、結界張るけどどうするの?」

 

そう言いながらも、さやかちゃんに向けて静かな威嚇のオーラを出す。

以前キュゥべえに向けた物よりもっと弱い物だけど、静かに事を終わらせるならこれが一番なのだ。

 

案の定さやかちゃんの怒気が引いて、立場が逆転する。

 

「う……藍香、なんか怒ってる?」

「別にー? 逆ギレなんて私には無縁の言葉だし? さて、どうするのかなー、さやかちゃん?」

「あ、藍香ちゃんそれくらいにしないと」

 

まどかちゃんの言葉で辺りを見渡すと、周りの人がこちらに視線を集めている事に気が付く。

一部の人は足を止めてまでして私達を見ている。

それをいち早く察知していたさやかちゃんは、私達の手を取ってその場を駆け去って行った。

 

 

///////////////////////////////////////

 

 

「まさかあんな事になるなんてねー」

「元はと言えば藍香が悪いんでしょうが! なんで私はそんなに、弱いのさ」

「さやかちゃん……」

 

お昼時。人の少ない公園でベンチに座り私達は話し合っていた。

何故自分には素質があるのに弱いのか。

彼女は唯一の情報源であるキュゥべえとは既に縁を切っている上、先輩であるマミさんや杏子ちゃんには聞きづらい点も多いため、無知な部分も多い。

 

「全部が全部素質じゃないよ? 皆始めた頃は下手。それを才能や素質でカバー出来てる人は、一種の天才なんじゃないかな」

「……そうだよね。それも、身近にいるから解ってるんだけどさ」

「それって恭介君の事?」

「うん。あいつは元々、ヴァイオリニストの素質があったし、あいつ自身もヴァイオリンが好きで頑張ってる。今でもそう。私の願いで治った今も」

 

「それに、まどかも」

「………」

「あーごめん。そういう意味で言ったんじゃなくて。そういえばあいつが言ってたなーって思い出しただけで」

「確かにね。そうなんだけど大抵はその願いの対価に似合わずに、魔女化してしまう子もたくさんいる訳なんだ」

「藍香でもその言い方は無いと思う」

「ごめん……でも、やっぱり絶望の末路を歩んでほしくないから」

 

私は遠くの方を見つめ、『彼女』の事を思い出す。

 

「藍香ー、戻ってこーい」

「あ! さやかちゃん何? 何かあったの?」

「いや何もないけど、最近藍香想いに耽てる事多くない?」

「そうかなぁ? 私はいたって正常だと思うけど」

「私も耽ってる時が多くなったと思う。もしかしてワルプルギスの夜?」

 

まどかちゃんの発言が鋭い。

でもまったく動揺することなく普通に返す私。

 

「とりあえず話を戻して。さやかちゃんは絶対素質があるからすぐに強くなると私は思うんだけどな」

「え、ほんと?!」

「ほんとほんと。だってその速度と機動性に回復速度、武器はその速度を生かせる近接武器。極めれば汎用にして最強の魔法少女にだって……」

「へぇ? このあたしを追い抜いてさやかが最強の魔法少女にねぇ?」

 

ベンチの後ろから急に声が掛ってきて。振り返ればそこに杏子ちゃんがいた。

 

「杏子! あんた人がせっかくいい気分になってるのに」

「そんな鼻っ面伸ばして調子に乗ってる奴は真っ先にへし折っとかないと」

「ま、まぁまぁ二人とも」

「「まどかは黙ってて!(黙ってろ!)」」

「あぅ」

 

まどかちゃんは二人の威圧に負けてすぐに引っ込んだ。

相変わらずの二人。でも仲がいいのはもう知ってる。

お昼ごはんも一緒に食べたし一緒にゲームセンターに行ったりしたし。

 

「今は幸いお昼時で人もいない。どうだい、ここで決着つけてやってもいいんだぜ?」

「望む所よ! 最強の魔法少女である私があんたをコテンパンにのしてやる!」

「ほらほら二人とも。今は魔法少女の話は置いておいて」

「「藍香も黙ってて!(黙ってろ!)」」

「………」

 

このままじゃ普通に成り行きで始まっちゃいそうなので、私は次の手段に移行する。

 

「へぇ~、ふぅ~ん? そんなこと言っちゃうんだ~?」

「そりゃあ言うわよ! 私達の話に割り込んできたんだから!」

「私達が優しく言葉で止めてあげようとしてるのに、無視するどころかつっ返すんだ~?」

「お、おい藍香。なんかおかしくないか?」

「別に? 私は気にしてないよ~?」

「あ、藍香、まさか怒ってない? さっきみたいに怒ってない?!」

「だから大丈夫だよ~? 私はいつも通りだから♪」

「いや、いつも通りじゃないだろどう考えても! そのオーラみたいなの抑えろよ!」

「そうそう! 私達ももう喧嘩してないしさ!」

「ならいいけど」

 

私は怒気を収めて、普通の笑顔をつくる。

 

「≪ねぇ杏子、藍香って本気で怒ったことあるの?≫」

「≪無い。いっつもあんな感じで押さえ付けられるんだよな≫」

「≪でもあれだけ怖い笑み、始めて見たよ……≫」

「≪最近は治まってたんだけどな。どうも慣れないね、長い付き合いだけど≫」

 

二人は目で何か会話しているみたいだけど、盗み聞きしないで私は普通にまどかちゃんに話しかける。

 

「いっつも杏子ちゃんあんな感じなんだよね。さやかちゃんと相性良い筈なんだけどなー」

「それは私も思った。似た者同士っていうのか喧嘩するほど仲が良いっていうのか」

「そうそうそれそれ! ……まぁ、魔法少女同士の戦闘は訓練として取り込むけど」

「え、でも魔法少女同士って危なくないの?」

「いきなりそんなことはしないよ。個人練習からかな。中に対人戦、後に秘密特訓」

「やっぱり結界内でするの?」

「そうだね。後半の秘密特訓は特に。何より結界内だと安全だからね」

 

主に魔力とか怪我した時の治療とか。

後はお茶会とか?

 

杏子ちゃんの言葉を思い出して公園の時計を確認すると、本当にお昼時だった。

さやかちゃんと杏子ちゃんはまだ頭で会話しているみたい。

 

「もうお昼時なんだねー」

「あ、ママからメールが来てる」

 

まどかちゃんがポケットからピンク色の携帯端末を取り出し画面を見る。

 

「お昼ごはんもうできるから早く帰ってこい、だって。ママらしいな」

「じゃあ今日はまどかのパパさんの料理をご馳走になろうかな」

「はーい。じゃあさやかちゃん、杏子ちゃん、またね?」

「ん? おーまどか、またねー」

「ああ、またな」

 

そう言って私達はまどかちゃんの家に戻る。

こんな平凡な日々が続けばいいのに。

でも、これは嵐の前の静けさでしかない事は、自分が一番知っていた。

 

 

////////////////////////////////

 

 

5人で食卓に並んだ料理を頂く。

 

主食はパン、主菜はベーコンエッグにソーセージ、副菜は葉の野菜のサラダにコーンとミニトマトを添えた物。

温かい料理は本当においしい。手作りの物は出来合いの物にはない温かさがある。

世に料理を本格的に教え始めた時の事を思い出す。

勿論食べるのは私だけど。

 

「藍香ちゃん紅茶のお代わりはいいかい?」

「あ、じゃあお願いします」

 

まどかちゃんのお父さんは専業主夫。

家事、炊事、洗濯なんでもできる、素敵な人だ。

 

「藍香ちゃん、遠慮せずゆっくりしていけばいいよ。なんてったってまどかの恩人なんだから」

「もうママったらー」

 

まどかちゃんのお母さんはバリバリのキャリアウーマン。

まどかちゃんの赤いリボンもお母さんが選んだ物だそうだ。

お仕事が忙しくても家族想いが強い、素敵な人だ。

 

「アウー!」

 

まどかちゃんの弟、タツヤ君。あだ名はタッちゃん。

まだ言葉はしっかり話せないものの、その行動力で愛情表現する元気いっぱいな子。

 

家庭。家族。

皆にある、最後の信頼の砦であり、帰る場所にいる人の代表。

私の記憶をいくら探っても登場する事はない、失われた物でもある。

 

「(でもいいかな。そんなに羨むことも、出来ないから)」

 

私にも、あったはずだから。覚えてなくても、居た人達だから。

私が存在するだけで、家族が存在したという証明が出来るのだから。

 

 

//////////////////////////////////////////

 

 

時間はあっという間に過ぎて、一緒にお布団で寝る。

まどかちゃんの部屋はいろいろといっぱいだから、空いていた居間を使わせてもらう。

 

「ねぇ藍香ちゃん。私って、変わったと思う?」

「そうだね、変わったよ。断言できる」

「だよね。そうだよね」

 

自分に言い聞かせるように、まどかちゃんは繰り返す。自分は変わったのだと。

 

「………」

「まどかちゃん、変わってよかったと思う?」

「うん。でも」

「でも?」

「ほむらちゃん、どうしてあんなに哀しそうな顔してたんだろうって」

 

輪廻の因果がもたらす、価値観の変化。それの明確化。

 

「ほむらちゃんに何かあったの?」

「ううん。なにもないんだけど、この前ちょっとお話したの。ほむらちゃんの事教えて欲しかったから」

 

そっか、私の教えがまどかちゃんを変え、自らの疑問を解くために自らで行動してるんだ。

だからあの時のゲームセンターの時も、ほむらちゃんに無理矢理あのぬいぐるみを。

 

「ほむらちゃんは絶対何か知ってる。でも教えてくれないの。藍香ちゃんの説明してくれた秘密以外に」

「それを知りたいんだね」

「うん。それも、ほむらちゃんの口から。私にぶつけて欲しいの」

「そっか」

 

私は天井を向いているから、今彼女がどんな顔をしているかは解らない。

でもその言葉からひしひしと覚悟と意志が伝わってきた。

 

「望めば叶う、願いは通じる」

「えっ?」

「私の信条」

 

そう言って私は瞼を下した。

 

「やっぱり、難しいね。藍香ちゃん」

 

その言葉を最後に聞いて、意識は闇と夢の中に落ちていった。




信頼という砦は守らなくてはならない。
特に、家族であればなおさらだ。

この言葉は父から学んだ言葉でもあります。
家族という最後の砦は必ず守れと。
今回はこれで終いにしましょう。前回長すぎた。それに次回急展開。
エルソード面白いなぁ。←

次回予告 CV:佐倉杏子

自分と同じ、孤児という立場を理解して、
あたしは片膝をついて目を閉じ、手を組んで祈る。
今は安らかに。

『相、対する光』


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第十七話『相、対する光』

「フン…所詮旧世代の遺物、か 下らん輩だ…」 byAC4 ポリスビッチ


Side 黄昏藍香

 

 

朝ごはんを頂いて、私のお泊まり会はお終い。

結界のお城の中。応接間を抜けたその先。純白の世界に黄、紫、青、赤の扉が二分されてそこにあった。

そして3人の魔法少女と向き合っていた。因みに全員変身済み。

 

「で、なんで集められたの?」

「よくぞ聞いてくれましたさやかちゃん!」

 

その簡単な問答でマミさんと杏子ちゃんはやれやれと首を横に振り、さやかちゃんはその行動の意味が解らず首をかしげた。

 

「もうすぐワルプルギスの夜が来るからね。対ワルプルギス戦の訓練を行います!」

「あー、そういえばもうそんな時期かー……全然実感なかったけど」

「そこら辺は実感持て。ただでさえ普通の魔女もまともに相手出来ねーんだからよ」

「ぐ、そ、そこは」

「はいはい茶番はそこまでにして。藍香さん、まずは何をすればいいのかしら?」

「まずは長所を伸ばしてもらおうかなって。マミさんは射撃・拘束、さやかちゃんは近接・回復、杏子ちゃんは近接と……」

「なんでそこ黙るんだよ」

「とりあえずそこが入口だから、自分のソウルジェムと同じ色の扉に入ってね」

 

そう言うと、真っ先にマミさんが黄の扉の前に立つ。

 

「ここでいいかしら?」

「はい。あ、それと目標達成かギブアップで部屋から出られますから、もしもの事があったら言ってください」

「解ったわ」

 

ドアノブを回し、マミさんは部屋の奥に消えた。

 

「対ワルプルギスの夜訓練って言っても、要は個々の能力を上げるだけじゃねーか」

「意外と個々がしっかりしてたら何とかなりそうなんだけどね。連携とかチームワークは後でやるよ」

「ま、そっちの方が気軽でいいよ。じゃああたしは赤の扉を選ぶぜ」

 

杏子ちゃんも扉の奥に消えて行った。残ったのはさやかちゃん。

 

「なんかこれ、ゲームみたい」

「そう言われてみればそうかもね。ささ、早くさやかちゃんも」

「その前に質問! あの紫の扉ってもしかして転校生用?」

「うん。一応連絡はしたんだけどね。今は来てないみたい」

「そっか……一応入ってるんだね。あいつも」

「気にいらない?」

「そりゃそうよ! まどかに何かと付きまとって変な事言ったり、魔女をいつの間にか横取りしてたり!」

 

「それにあの時マミさんが食べられそうになった時だって」

『それは違うわ』

「マミさん?!」

 

スクリーンが映って、その中にはマミさんが居た。

 

『美樹さん、よく聞いて。あの時暁美さんが遅れてきた理由は』

「あ! 危ない!」

 

画面の後ろから、マネキンのような的が襲いかかってきた。

あの扉の奥。そこでの初期訓練は、標的を確実に倒す技術の向上。

たまに頭を回さないと倒せない動きや場所に現れるそれ。

 

バキャ!

 

裏拳のようにマスケット銃を振り抜いて、背後のマネキンが砕けた。

 

『流石ね藍香さん、まだ入って五分も経ってないのにこれだけ中身のある訓練を用意していたなんて』

「お褒めに預かり光栄です。それにしても通信スイッチよく解りましたね」

『扉の隣にあるなんて、用意周到ね』

「ギブアップ用の連絡に用意したんですけどね」

『そう。美樹さん、あの時は私と暁美さんとの関係はあまり温厚ではなかったの』

 

『だからあの時はついに決裂した。私が暁美さんを拘束したの』

「えっ?! マミさんが?」

『ええ。だから遅れた。藍香さんとほぼ同時にやってきたのは、暁美さんを彼女が助けたから』

 

『彼女は不器用なだけ。それだけなの』

「………」

 

マミさんはそれを言い終えて通信を切る。

 

「藍香、あいつがもしここに来たら……」

「それは自分で言った方がいいよ。その方が自分もすっきりするだろうし」

「そうだよね。あはは、私ったらどうしちゃったんだろ」

「戸惑う事はよくある事。さぁ、頑張って行ってみよー!」

「おー! 美樹さやか、行っきまーす!!」

 

掛け声と共にさやかちゃんは扉の奥へ飛び込んで行った。

 

「さて、と」

 

私は四つの扉の真ん中にある無意味なスペースに手をかざす。

すると純白の壁の中から桃色の扉が現れた。

 

「この扉ももう必要ないよね」

 

手を当てて、魔力を送る。そしてその扉は光の粒になって消えた。

 

「良かったのですか?」

「夢。驚かさないでよ」

「すみません。しかし気になったもので」

「大丈夫大丈夫。それより、ほむらちゃんの方は?」

「彼女は先ほど到着いたしました。しかしお会いにならない方がよろしいかと」

「ん? どうして?」

「どうやら藍香様に因縁があるように思われるので」

「そっか」

 

私はお城の外へと向かう。

 

「ほむらちゃんの所に行ってくる」

「今行けば何をされるか解りませんよ?」

「まぁ、何があっても私は死なないから。代わりに皆の事見ててくれる?」

「了解しました。お気をつけて」

 

 

///////////////////////////////

 

 

結界の入口の森。

そこではほむらちゃんが魔法少女に変身して待っていた。

 

「ようこそほむらちゃん」

「来たわね、黄昏藍香」

「私に用があるみたいだったから。で、何?」

「まず貴女の存在と行動のお蔭で、新たな道が開けた。その点はお礼を言うわ。ありがとう」

「私は当然の事をしたまでだよ」

「そして、貴女の存在がまどかを変えてしまったのも事実」

 

あぁ、やっぱりそれか……

 

「だから、貴女はここまでで退場してもらわよ。イレギュラー」

「イレギュラー、ね。良い響き」

「なら部外者と言った方が良かったかしら」

「それを言ったら貴女もイレギュラーでしょ? ほむらちゃん」

「私は違うわ。私の契約が生んだ結果、それが今ここにいる私よ。でも貴女は違う」

「なにも違わないよ。幾多の終わりを超えて、終末を変えようと努力する存在。貴女と同じ」

「……貴女のそのお喋りな口と話し合っても、私の調子が崩されるだけね」

 

ほむらちゃんはおもむろに盾に手を入れ、拳銃を取り出した。

 

「ここで私を殺すつもり?」

「そうね。出来る限りイレギュラーは排除しておかないと」

「そう。残念だけど、今殺される訳にはいかないの。誰にもね」

「なら、私は全力で貴女を排除する」

 

 

Outside

 

 

二人の魔法少女は互いに相手の目を見合い、張りつめた空気を肌で感じていた。

一人の少女は、本当に相手の命を奪わんとせんかのごとく。

一人の少女は、相手に自らの実力を解らせるために。

 

「「………」」

 

最初に動くのはほむら。

時を止め、オートマチック式の銃を全弾乱射。

撃ち出された弾丸は空中で止まり、時は動き出す。

 

藍香は左手に刀を持って全ての弾丸を弾き飛ばし、次いで斬撃を放った。

風のように消えたほむらは彼女の背後に回り込み、手榴弾を投げつける。

それを藍香は蹴り上げる事によって空中へ放り出し、危機を回避。

藍香の行動も計算の内なのか、ほむらは手製爆弾を彼女の足下に設置。

時間停止で逃げるほむらに対し、設置された藍香は今更気付いたのか即座に下った。

爆炎、爆音が森に響き草原であった広場が燃える。

 

炎に紛れて藍香は武器をブラッドレイに持ち替え、光線を発射。

その光線はほむらの右腕を掠めて森の奥へ飛んでいった。

間一髪右腕を傷つけることなくかわしたほむらはマシンガンを取り出し、乱射。

それをブラッドレイに付いている刃で全て切り落とし、接近する藍香。

斬りかかる藍香と、それを時間停止でかわし後頭部に銃口を突き付けるほむら。

 

「「………」」

 

二人の動きが止まる。

 

「勝負ありね」

「ま、そうかもしれないけど」

「戦う前は殺す気で居たけど、今は変わったわ。貴女の様な重要な戦力を失う訳にはいかない」

「じゃあ生かしてくれるの?」

「貴女が、これ以上まどかに余計な事を吹き込まないと約束するなら、ね」

「いいよ。約束する」

 

その即答に驚くほむら。

いくらなんでも素直すぎる。あそこまで接触していた少女が。

 

「意外と素直ね。この状況では健全な判断だけど」

「まーね。それにもう私が伝えるべき事は全て終わったから」

 

なるほど、と呟いてほむらは銃を下げて盾にしまう。

 

「ほむらちゃんごめんね。弾とか無駄遣いさせちゃって」

「いいえ、これも必要な消費だったのよ。貴女とある程度の交渉をするにはね」

「変わっちゃったなぁほむらちゃん」

「何か言ったかしら?」

「ううん何でも? あ、そうだ。弾薬とか兵器とかならお城にいっぱいあるから良かったら来てよ。今ならスキルアップ講座も付けるよ!」

「弾薬と兵器は頂くけれど、後のは必要ないわ」

「皆も対ワルプルギスの夜の為に修行してるのに、暢気だねほむらちゃんは」

「………」

 

ほむらは彼女の雰囲気に巻き込まれる前に移動しようと、その場を後にし城へ向かった。

 

「あー! 待ってよー!」

 

その結界の主を置いてきぼりにして。

 

 

 

応接間に案内されたほむらは何も言わずに藍香について行く。

 

「ごめんね。あの子達新しいお客さんだからいろいろはしゃいじゃって」

「……そうね。躾がなってないわ」

「まぁまぁ。あの子達なりの感情表現だから勘弁してよ」

 

時ははしゃいでほむらの髪の毛に触り、風と守は方に乗っかろうとして、世は料理の代わりに飴玉を差し出した。

ほむらちゃんはそれをあしらっていたが、流石に世からは飴玉を貰っていた。

 

修行の場へ向かう扉を素通りして、奥にある壁へ向かう。

藍香が手をかざして魔力を流すと、近未来的な白い鉄の扉が現れる。

 

「メルヘンな作りなのにこの扉は全然違うわね」

「兵器保管庫なんてそんな感じだよ」

 

扉は自動なのか蒸気の噴き出す音に似た音と共に扉が横に開く。

その中からは独特の火薬の臭いと、黒い鉄の塊が充満していた。

 

「いろんなものがあるけど、ここにはとりあえず『人が持って扱う銃火器』しか置いてないから」

「その言い回しだと、まるで『持って扱う事の出来ない兵器』が別の所にあるようね」

「まあねー。この部屋の奥の扉の先は演習場になってるから、そこも自由に使ってもらっていいよ」

「で、兵器はどこにあるの?」

「いきなり兵器を扱いたい、と?」

「ええ。そうでもないと、あいつには勝てない」

「そっか。演習場の扉を右に行って付きあたり。その部屋が格納庫。その部屋の奥が大型兵器用演習場。流石に天を焼く剣は置いてないけど」

「………」

「ここでの弾薬の使用した分は全て再生成されるから遠慮なく。じゃあごゆっくりー」

 

藍香は手を振って部屋から出て行く。

残されたほむらは、大型兵器が格納されている場へ足を運んだ。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

私は再び修行の扉の前に立つ。

そこでは夢がモニターを映し監視を行っていた。

 

「夢、どんな感じ?」

「藍香様。良好といえば良好ですね」

「そっかー」

「しかし彼女の所はやり過ぎでは?」

「いーのいーの。本当は初級コースからやるつもりだったけど、回復能力の魔力効率も鍛えなきゃいけないからね」

「そうですか」

『ちょっ! 藍香! 見てるんでしょ! ギ、ギブギブ!!』

「さやかちゃんは現時点では一番弱いからね。荒療治だけど我慢してね」

『荒療治って何よ! って、うわぁ!』

「大丈夫大丈夫、死にはしないから」

『あ、当たり前でしょ! ゾンビなんだから、死ぬわけが!!』

「ゾンビでも死ぬよ?」

『ああもう! やればいいんでしょやればあああああああ!!!』

 

半分ヤケクソ状態になったさやかちゃんは後ろで踊っているマネキンに斬り込んでいった。

 

「魔法少女にしては、感情的な方ですね。美樹様は」

「それが重症と取るか、大切な物と取るか。とにかく、戦いの経験が浅いってのは確かだね」

「(はたして同じ戦いを繰り返す藍香様や暁美様は戦いの経験が深いと言うのでしょうか)」

 

マミさんも杏子ちゃんも上級コースに到達して随分と時間が経った。

マネキン自体の強度も向上し、積極的に攻撃して回避もする。高性能なヒューマノイドも同じ状況。

それにビットの様な空中移動砲台と高威力の固定砲台の遠距離攻撃。

杏子ちゃんは持ち前の速さで回避しているが、マミさんは回避とリボンでの防御を織り交ぜてかわしてる。

 

「「………」」

 

「ねぇ夢」

「なんでしょうか」

「これ、どっちが長く持つと思う?」

「そうですね。私としては佐倉様の方が長く持たれるかと」

「私も同じだね。マミさんはどうしても機動力が皆と比べて劣ってるから、回避はどうしても」

 

暫くして、二人は上級コースも達成して戻ってきた。

 

「お疲れ様、マミさん杏子ちゃん」

「上級になった途端あれだ。さやかは大丈夫なのかよ」

「さやかちゃんは中級だけだよ。初級はちょっとね」

「美樹さんは初級から始めた方がいいじゃないのかしら?」

「さやかちゃんは攻撃以外に回復がありますから。その速度と魔力効率は経験からしか生まれませんから。マミさんの拘束魔法、それに」

 

「杏子ちゃんの幻影魔法もね」

「なんでそれ知ってんだ」

 

やっぱりというかなんというか、睨まれるのは慣れない。特に杏子ちゃんには。

 

「なんとなくかな。今まで裏で生き続けた者。人を惑わし姿を消す。幻影以外の何物でもない」

「……やっぱ藍香ってよく解んねーな」

「それを戦闘で使えるようになったら、もっと強くなると思うんだけど」

「そういえば佐倉さん使わないわね。昔は「おい! その話はやめろ!」」

「?」

「そういえば藍香さんは知らなかったわね」

「だからその話は止めろって!」

「どうして? せっかく私が技名も考えてあげたのに」

 

どうやら二人の世界に入ってしまったようで、首を突っ込むのは止めよう。

そういえば、マミさんはどうして『ティロ・フィナーレ』って技名を付けているのだろうか。

イタリア語で確か、最後の砲撃って意味だったけど。

 

そんな事を考えていると、さやかちゃんが戻ってきてここで修業はお開きになった。

 

 

Side 佐倉杏子

 

 

日が落ち込む頃、あたしはいつも通り、帰るついでに教会に行く。

たまに不良共がたむろしているから、そいつらを吹っ飛ばしてやらないといけない。

 

「ん?」

 

今日の収穫の一つであるリンゴをかじりながら、教会に入ろうとしたところで足を止める。

教会の裏、西洋造りの墓が並んでいる場所。その内の墓の一つが目に入った。

大理石造りの結構大きい墓だ。かなり金を掛けているのが解る。

 

「こんな墓なんてあったか? いや、真新しいから最近か……」

 

刻んである命日は4月13日。最近だという事が良く解る。

その下にはローマ字で名前が刻んであった。

 

『 Tasogare Taketo

Kanna   』

「Ta、so、ga、re……黄昏?」

 

何かの偶然だろうか。それにしても珍しい名字だから逆に意識してしまう。

 

「もしかしたらあいつの……ハッ、まさかな」

 

教会の方に戻ろうとした時、供え物なのか写真立てが置いてあった。

顔立ちのいい男性と、蒼い髪が腰まである女性。

そして、その間に立っている一人の少女。

その女性に似た濃い青の長髪、赤くくすんだ瞳、その笑顔、顔立ち。

 

「……なんだよ、あいつも両親がいたんじゃねーか」

 

覚えていないなんて嘘だ。本当に覚えていないのなら、余程のショックで記憶があいまいになったのだろう、と予測する。

自分と同じ、孤児という立場を理解して、あたしは片膝をついて目を閉じ、手を組んで祈る。

今は安らかに。

 

そして目を開けた時、ある文字が視界に映る。

 

『 Aika  』

「………」

 

その場で固まる。黄昏藍香。ローマ字だから同一人物とは限らないのだが、写真が全てを物語っていた。

 

「どういう事だおい……あいつ、死んでるじゃねーか!」




終わりを告げる、その墓石に刻まれた名前。
それは果たしてどういった結末を見せるのか。

もう終わります。この物語も。
この救済の物語も。運命も。

次回予告

杏子「もうここまで引っ張られてきたんだ。もうあたし達は自分の足で歩く」
藍香「そっか。なら、私はもう必要ないかな?」
杏子「……どういう意味だ?」
藍香「疲れた、かな。もうどうでもよくなっちゃった」
杏子「は?」
藍香「自分の私利私欲の為に動こうかなって。生きようかなって」

『一人の勝手』


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第十八話『一人の勝手』

今回は、意味不明かもわかりません。
不完全燃焼かもしれません。
そこらへんの補充等は、後ほどのお話で行います。
では、宜しくお願い致します。


 

 

Outside

 

 

お昼過ぎ。

3人の少女達は杏子の教会の後にある墓場に集まっていた。

 

「(昨日は藍香で今日は杏子、今度は何よ)」

「(まぁ美樹さん。とりあえず佐倉さんの雰囲気から察しましょう)」

 

杏子はマミとさやかを連れてある墓の前で歩みを止める。

 

「この墓を良く見てみろ」

 

きわめてぶっきらぼうに言い放った言葉に、疑問を抱きながらもマミとさやかは良く見る。

 

「あれ、これ藍香の写真じゃない。この二人は、お父さんとお母さん?」

 

「え、でもなんでこんな場所にあいつの写真が……」

「……美樹さん、この名前よく見てみて」

 

マミは杏子と向き合い、さやかは固まる。

 

「佐倉さん、これはどう言う事かしら」

「どう言う事、っていうよりそのままの意味だよ。あいつはもう……死んでいる」

「それこそどう言うことって訳よ。アイツはゾンビでもないし、現に生きてるし、なのに死んでるってどういう事よ!」

「それが解ったら何も苦労しねぇよ!」

 

杏子は俯き、握りしめて横に振り抜いた拳はその墓にぶつかる。

 

「アイツは一体何なんだ! あたし達に希望を見せたあたし達と違うアイツが! アイツはもう死んでいたなんて!」

 

「あたしには解らねぇ! なんで、なんで藍香が……」

 

その場で泣き崩れる彼女。混乱のあまり自我を失いかけていたのは、火を見るより明らかであった。

二人は掛ける言葉も見つからず、同じ悲しみに浸っている。

 

「藍香……両親がいるのか解らないって、もしかして生前の記憶が」

「まだ、彼女が死んだと決まったわけじゃないわ」

 

俯いていたマミは顔を上げ、歩み出す。

 

「おいマミ! どこに行くんだよ!」

「彼女が死んだ理由を探しに行くのよ。まだ亡くなってから日が浅い。もしかしたら記録が残ってるかもしれない」

「そっか! 新聞!」

「ええ。おくやみぐらいでもいい。残っていればいいのだけど」

 

図書館へと足を進めるマミを見て、さやかも顔を上げて駆け出した。

 

「私、ちょっと病院行ってくる」

「さやかまで!」

「なるほど。頼んだわよ、美樹さん」

「任せて下さい。これでも、病院で働いてる人と仲いいんですから!」

 

恭介が入院している時には、ほぼ毎日面会に行っていたさやか。

病院で働いている者とは多少の縁がある。

 

「何事もさ、後悔するなら全部やりきってから後悔しようよ。止まってたらもったいないよ。杏子」

「さやか……」

「いつもの佐倉さんじゃないわよ。いつもの貴女なら、当たって砕けるでしょう?」

 

そうだ、私はいつも、何事にも果敢に挑んでぶつかってきた。

今更臆病になるのもおかしい。

 

「藍香に直接、当たってみる」

「佐倉さん、でも大丈夫? 彼女だってこの現実を知らないのかもしれない……いや、知るはずがない」

「別のことを聞いてみるんだよ。絶対何かあるはずだ。もしかしたらアイツの見えない性格がぽろっと出てくるかもしれねーだろ?」

「なるほど、杏子もなかなか考えるじゃん」

 

3人の魔法少女は散る。真実を知るために。

 

「………」

 

そして誰一人として気付かなかった一人の存在も、その場から立ち去った。

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

家で遅いお昼ご飯を作る。今日は簡単な親子丼だ。

独りぼっち。でも気にすることはない。

私は私だから。

 

「お邪魔するよ」

「あ、杏子ちゃんお帰り」

 

何気なくも他人の家に入るように言葉を添えて家に入ってくる杏子ちゃん。

彼女はすでにお昼を済ませている。何をどこで手に入れ、食べたかは聞くだけ野暮だろう。

 

「お、親子丼じゃねーか」

「よくわかったね。つまみ食いは流石にできないよ?」

「しねーよそんなこと」

 

卵焼きとかはよくつまむのに。

卵でとじて後は少しおいて、どんぶりご飯の上に盛り付けるだけ。

 

「なぁ藍香」

「どうしたの杏子ちゃん」

「いや、お前ってあたしと会う前、どこにいたんだ?」

「どこって……今更だね。杏子ちゃんが元々狩り場にしてた街じゃない」

「それもそうなんだけどよ、生まれたときとか、子供の時とか……」

 

目線を反らしながらも確かめるように私に質問を飛ばす彼女。

いつもと違うのが解っているけれど、私は普通に答える。

 

「生まれた時のことなんて覚えてるわけないよー。子供の頃のことも忘れちゃったな」

 

「何せ、お父さんとお母さんと過ごした時を覚えてないんだから」

「………」

 

「藍香は、それでいいのかよ?」

「顔も名前も声も覚えてない。でも、私解るんだ。とっても優しい人だったって。今いないのは何か理由があってのことなんだよ」

 

「この世に存在する親は子を愛する親だけだよ。ただそれが不器用な人がいる。でも心のどこかで愛してる」

 

「望まれる子が、希望を持って未来へ渡る。先人である大人は今を子に見せ、未来を託す」

「藍香……」

 

 

Side 佐倉杏子

 

 

変わらぬ笑顔と重く深い言葉。いつもの藍香だ。変わりない。

こいつは、希望の鑑だな。

そうでないと、あたし達を変えられなかったのだろう。

 

なおさら、こいつが死んでいるなんて信じられない。

 

「今、か。魂が宿ってないあたし達は今があるんだろうかねぇ」

「ここにあること。それが今。死者には訪れない儚い時。私達は今を生きてる。それだけだよ、杏子ちゃん」

 

箸を進めながらも、言葉だけはしっかり伝えてくる彼女に送る言葉なんて、なかった。

だからこそ、あたしはこう言わざるを得なかった。

 

「なぁ藍香。お前がもしも死んでいたらどう思う?」

 

途端に箸が止まる。普通に流してくれるかと思ったが、そうでもないようだ。

 

「それって、どういう意味かな」

 

箸をおいてあたしに向き直る彼女は、いつもと変わらない笑みを浮かべていた。

 

「どういう意味って、そのままの意味だよ。あたし達みたいにゾンビだったらって」

「そうだねー。相手と自分は別問題だから、もしかしたら絶望してるかもね」

「………」

 

地雷、だったか。

忘れていた。藍香の超人的洞察力を。

だからこそ、箸を止め置いたのだ。

 

「嘘嘘。実はね――――」

 

「私もそう思ってたんだ。それも随分前から」

 

 

Side 黄昏藍香

 

 

「お前、それ本気で言ってんのか!」

「うん、本気だよ。私の洞察力は相手に対してだけじゃないんだよ」

 

信じられない者を見るような目で私を見る杏子ちゃん。

当然だよね。私自身が既に死んでいるんじゃないかって仮説を立ててるんだから。

 

「ねぇ、杏子ちゃん。世界五分前仮説って知ってる?」

「世界が五分前に作られていたっていうやつか?」

「そう。そしてそれ以上過去の記憶は作られ与えられたもの。それ故に過去が存在したという証明もできない。既に『知っていた』世界」

 

「私はある時からの記憶がないの。それは知ってるでしょ?」

「親の顔とかと関係あるのか?」

「そう。私はある日付のある時間以前の記憶が全くない。でも私の名前と存在は知っている」

 

「だから、作られた存在なんじゃないかなって。この神の如き力と、幾多の運命も別の運命に導ける存在である私自身」

 

「作られた人形じゃないかなと、使命を与えられただけの何かなんじゃないかなって」

 

「私の存在はイレギュラーで、未来をある望まれた形にするためだけの「ちょっと黙れ」」

 

杏子ちゃんが私の独白に割り込んでくる。

 

「藍香はそれでいいのか? ただ操られ捨てられる人形で」

「どうだろう。皆と仲良くなって、大切な人もできた。この現実も運命ならちょっと寂しいね」

「ならそんな運命、拒めばいい」

「運命からは抗えない。それが宿命」

「なら惑わせばいい」

「?」

「どこに向かってるか分からなくしてよ。一寸先は闇って言うだろ?」

 

「運がよけりゃ、お前の運命も変えられるかもしれねぇ」

 

「なんだったらあたし達が全力でそんなみじめな藍香の運命を、必至で邪魔してやるよ」

 

「マミが足を縛って、さやかが道を断ち切って、あたしが幻で惑わせてやる」

「よく言うね。私が狂えばみんなの定めがBADENDになってしまうかもしれないのに」

「もうここまで引っ張られてきたんだ。もうあたし達は自分の足で歩く」

「そっか。なら、私はもう必要ないかな?」

「……どういう意味だ?」

「疲れた、かな。もうどうでもよくなっちゃった」

「は?」

「自分の私利私欲の為に動こうかなって。生きようかなって」

 

そういって外を見つめる。

 

「なんだよ、途中まで引っ張ってきて最後まで付き合わないなんて」

「私は皆を救う為に動いてきた。でもそれが定めだとしたら、別の世界で私の大切な人の為に全てを尽くそうかなって」

「……裏切り者が」

「皆も裏切る。でないと私の運命は変えられない気もするから」

 

皆を救うのが私の定めであるなら、なおさら。

 

「色々私のわがままにつき合わせちゃってごめんね? 今までずっと。長い因果の中で」

「何言ってんだ。あたし達は親友だろ? このくらい気にしねーさ」

「優しいね。杏子ちゃん」

 

「じゃあね。また別の時間で」

 

 

/////////////////////////////////////

 

 

結界を開いて一人でティータイム。

世が淹れてくれたお茶は美味しい。お茶菓子を作るのも、相当な腕になってきた。

 

もうすぐ追い越されちゃうかな?

そんなことを心のどこかで思いながらも、焼き立てのスコーンをほおばる。

うん。美味しい。

 

「藍香様、今日はよろしいのですか?」

「ん? 何が?」

「昨日はさておき、今日も引き続いて訓練をやるものだと」

「連日はやらないよー。昨日の訓練はだいぶハードだったし、それに見合うだけの成長ぶりを見せてくれたしね」

 

特にさやかちゃんはかなりの成長ぶりを見せてくれた。

剣捌きといい、サーベル投げといい、速度といい、回復だって。

 

「なるほど、考えますね」

「それほどでもないよ。さて……問題は4人がワルプルギスの夜に勝てるかどうか、だね」

 

ほむらちゃん用の兵器等は彼女に渡してある。

あそこまで団結したらなら、もう敵なしだろう。

ちょっと心残りなのはまどかちゃんだけど。

 

席を立つ。

 

「どこへいらっしゃるのですか?」

「すぐ戻ってくるよ。そしたら、皆で準備しよう」

 

「私が定めた物語を」

 

 

 

 

苔むした祭壇。そして光のベッド。

そのベッドに眠るは、命無き白の魔法少女。

 

「―――さん。私ね、貴女に出会ったお蔭で変われたの」

 

「私の運命から抗うことができるのも、―――さんのお蔭」

 

「出会えてよかった。―――さんは、私の最高の友達だよ」

 

その問いかけに対して彼女の顔が笑ってくれたような気がした。

 

 

**********

 

 

「そっか。君が―――の新しい理解者ってわけか」

「私の名前は黄昏藍香。よろしくお願いします」

「見たとこ新人、いや、特異点ってとこか。私は――――。よろしく」

「苗字で読んだほうがいいかな? それとも」

「名前でいいよ。なんてったって君も私の『恩人』だからね」

「さぁ、貴女達。自己紹介はそれくらいにして、現実を見なさい」

「解ってるよ。相変わらず―――は厳しいなぁ」

「それが彼女。なのかもね。―――さんは―――さんと付き合い長いんですよね?」

「長いよー。―――が一人になっても私だけは付いて行ってたもん」

「そんな友達っていいな。私もそんな人ができるといいな」

「貴女ならなれるわ。いえ、もう既に私たちの恩人として存在する事で既に私達の親友ね」

「―――さん……」

「さて、参りましょうか二人とも」

 

私達は向き合う。目の前にそびえる絶望と。

『偽りの救済』を倒すために。




更新遅れて誠に申し訳ないです。
そして一応、終了でございます。

さやかやマミさんやほむらはどうなったんだって話ですが、後程のお話、又は後書き等で述べさせていただきます。

では、藍香が何をしたのか、どこの時間軸に行ったのか。
そのお話は次章で。そこからが俺としても本編なんで。
暫く更新は休止いたします。長くて次回お休みなだけで済めばいいなぁ。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
感想もかなり励みになっておりますので、有難い限りです。

もうちっとだけ、続くんじゃよ。

ご希望ありましたら、ワルプルギス戦・文末の回想での決戦も執筆いたしますので、お気軽にどーぞ。


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