龍閃の軌跡 (通りすがりの熾天龍)
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物語が始まる場所

新作新作ゥ!
というわけで第1話。
基本リィンサイドで進めていきます。


12年前、西暦20XX年。

俺は一人の子供を庇い、殺人鬼の凶刃に倒れた。

 

 

時を同じく、12年前。

しかし七曜暦1192年。

俺は異世界でとある貴族に拾われた。

身体年齢が一気に低下し、5歳くらいになっていた。

更に、外見もまるで別人のようになってしまった。

 

 

9年前。とある冬の日。

俺は『力』と『異能』に目覚めた。

といっても、『異能』の方は元から持っていたものが進化したような形であるが。

 

 

7年前。1197年。

《剣仙》と呼ばれる男、ユン・カーファイと出会った。

俺は彼に教えを乞い、『異能』をコントロールできるようになった。

しかし、『力』は完全制御には至らなかった。

数年間の修行の末、八葉一刀流を習得。

前世の漫画などの知識をもとに、新たな奥義を作り上げることにも成功した。

師匠ユンにも、新たな型としてその剣術を認めてもらった。

 

 

3年前、1201年。

師匠の言葉に従い、一人旅に出る。

旅に出る直前、あるものを完成させ、身に着けていくことにした。

師匠が用意してくれたフリーパスのおかげで国境を越え、他国へ行くこともできた。

行く先々で様々な人と出会い、様々な経験をし、様々な意味で成長した。

 

 

そして今日、1204年3月31日・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『次はトリスタ、トリスタ。一分ほどの停車となりますので、お降りになる方はお忘れ物のないようご注意ください』

「んぁ・・・そろそろか」

 

車内放送で目が覚める。

軽く伸びをして荷物の確認。

と言っても身に着けているもの以外は細長い包み一つだけなんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリスタに到着。

駅を出て十歩程、立ち止って辺りを見回す。

春のライノ。無数の白い花が俺達トールズ新入生を出迎えてくれる。

日本では入学式には桜だけれどライノの花も同じくらい綺麗だ。

桜は花が散ってから葉が出るが、ライノは花と葉が同時に見える。

そう言えば師匠が言ってたっけ、この世界にも桜は存在するってこと。

東方から桜を取り寄せてライノと並べてみようか。

桜とライノが入り混じる春の風景。うん、いいかもしれない。

 

と、突然背中に軽い衝撃を感じた。

それと同時に「きゃっ」という小さな悲鳴。

振り向くと、同じ制服を着た女の子が尻餅をついていた。

状況から察するに・・・俺が悪いな。

 

「悪ぃ、道の真ん中で立ち止るのは拙かったな。大丈夫か?」

 

手を差し伸べて謝罪。

その娘は俺の手を取り、立ち上がる。

 

「気にしないで。私も花に見とれて、余所見しながら歩いてたから。それにしても、凄く良さそうな街よね?」

「そうだな。春にトリスタに来るのは初めてだが、凄く綺麗だな」

 

俺の言葉に、女の子はキョトンとする。

 

「春には初めてってことは・・・貴方はこの街に来たことがあるの?」

「ああ、前に何度かな。あ、そういえばそのトランク、さっきので落としたみたいだけ

ど、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

 

なら一安心。

 

「それにしても・・・制服の色、同じなのね」

 

彼女の疑問(?)ももっともだ。俺らのように赤い制服はほとんど見かけない。

 

「確か、貴族生徒が白で平民生徒が緑だったはずだが・・・赤い制服の話なんて聞いたことが無いぞ」

「でも私は送られてきたものを着てきただけよ?」

「それは俺もだ。まぁ、他にも2,3人は見かけたし、何か理由があるのかもな」

 

例えば・・・

 

「もしかして同じクラスだったりするかもね」

 

おっと先に言われてしまったか。

 

「かもな。どうせならこの場で自己紹介といこうぜ。俺はリィン・シュバルツァー。君は?」

「アリサ・ライ・・・んんっ、アリサ・Rよ」

 

ファミリーネームを言い直したのは触れない方がいいか?

もちろん口には出さないが。

 

「よろしくな、アリサ。それで、この後どうする? 俺はもう少しぶらついてから行くつもりだけど」

「私はこのまま真っ直ぐ行くわ。それじゃ、入学式で会えたら、また会いましょ」

「おぅ、そんじゃな」

 

そんな会話をして別れる。

さて、教会にでも寄るかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリスタの教会は俺の故郷ユミルのそれとほぼ同じ規模である。

・・・どうでもいいよね。

おや、誰かいる。

褐色肌・・・外国人か?

それに、制服の色は赤。

うーん、赤い制服の意味が尚更解らなくなってきた。

しっかし随分長く祈ってるな。

お、立ち上がった。

 

「すまない、邪魔をしたか」

「いや、そんなことは無い。気にすんな」

「そうか。失礼する」

 

褐色肌の男はそう言って教会を出た。

・・・俺も軽く祈っていくか。

あえてキリストに・・・は流石に止めておこう。

天罰怖いでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トールズ士官学院。

これから2年間、俺が過ごす場所。

その校門前に一台の車が停まっているのが見えた。

緑色の高級車。そこから降りて学院に入っていく一人の少年。

貴族か。しかもかなり位の高い。

リムジンがUターンしてきたので脇に避ける。

そのままリムジンは通り過ぎて行った。

しかし今の貴族っぽい奴、制服の色が赤かったな。

 

 

 

 

なんて考えていると、

 

「そなた・・・リィンか?」

 

後ろから声が。

振り向くと、見覚えのある姿が。

 

「ラウラじゃないか。久しぶり。元気そうだな」

 

レグラムを訪れた際に出会った少女、ラウラ・S・アルゼイドが、そこに居た。

 

「うむ、大体1年半ぶりだな。そなたも元気そうで何よりだ」

「ヴィクターさんは元気か?」

「いつもと変わらぬ」

 

つまり元気ってことだな。

 

「っと、ラウラも赤い制服なんだな」

「そのようだな・・・その、リィン、一緒に行っても、構わないだろうか?」

「おぅ、いいぜ」

 

俺がそう言うと嬉しそうな顔をするラウラ。

 

「うむ、では行こうか」

 

 

 

 

と、そこで俺の視界にあるものが目に入った。

ラウラに一言断りを入れ、道沿いの草むらに落ちていたそれを拾う。

 

「これは・・・導力器(オーブメント)か?」

「だな、俺が持ってるのと同じみたいだが・・・」

「それなら私も持っているぞ?」

 

ラウラと顔を見合わせる。

 

「どうする、リィン? 落し物なら学院に届けたほうがいいと思うのだが」

「いや、まずは俺たちで探したほうがいいだろう」

「ふむ・・・なぜなのだ?」

 

その1、この導力器、学校の備品という割にはかなり複雑な作りをしている。

つまりこれはかなり高価な品のはずだ。

予算などの都合上、これを持っている生徒の数は少ないと思うべきだ。

その2、今までわずかしか見かけなかった赤い制服の生徒。

目視情報だけで判断すれば、同じくその数は少ないであろう。

この二つと、もう一つ。

既に俺とラウラがこれを持っているという事実から推測できるだろうこと。

赤い制服の生徒だけがこの導力器(オーブメント)を持っているはずだ。

ならば話は簡単。

 

「赤い制服でかつ何かを探していそうな人、もしくはそんな人の目撃情報を探せばいいってわけだ。見つからなかったら落とし主が気づいてないって事だろうから、その時は学院に届ける」

「なるほど、流石リィンだ」

 

俺の推理に納得した様子のラウラ。

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

さっそく探しに行こうとすると、学校とは逆の方向から声をかけられた。

声のほうを見ると、駅前で会ったばかりの彼女がいた。

 

「あれ、アリサ? 先に行ったんじゃなかったのか?」

「そうなんだけどね。大事なものを落としちゃって・・・」

 

それってもしかして・・・。

 

「これか?すぐそこに落ちていたやつなんだが」

 

拾った赤いオーブメントを見せる。

 

「ああ、それよ。よかった、無事に見つかって・・・リィン、ありがとう」

「どういたしまして。すぐに見つかってよかったよ」

 

探すまでもなく一件落着、と思いきゃ

 

「ふむ、落とし主がすぐ見つかったのはいいのだが・・・リィン、その娘とはどういった間柄なのだ?」

「え? いや、駅前で会って同じ制服だなって話しただけだけど・・・な、なんで睨むんだ!?」

「睨んでなどおらぬ」

「いや、どう見たって」

「睨んでなどおらぬ!」

「アッハイ」

 

解せぬっ。

 

「あはは・・・貴方も大変ね」

 

アリサには同情される始末。どうしてこうなった。

 

「と、とにかくだ。そろそろ時間も惜しいし早く行こうぜ、な?」

 

ラウラの怒り(?)は解いたがなぜか周囲の視線が怖い中、二人と共に学院へ向かうことになった。

なんか爆ぜろとか爆発しろとか聞こえた気が・・・うん、気のせいだよな、な?

 

 

 

 

 

 

アリサ、ラウラと共に学院の門をくぐる。

と、そこに俺達を呼び止める声が聞こえた。

 

「君達が最後みたいだね」

 

そう俺達に言ったのは黄色いツナギを着た男。

そのすぐ横にはどう見ても学院生とは思えないほどちっこい少女。

しかし彼女はトールズの制服を着ている。

その少女が確認するように俺達に問いかける。

 

「えっと、リィン・シュバルツァー君に、ラウラ・S・アルゼイドさん。それに、アリサ・ライ・・・「ストップ!」ふぇ!?」

 

アリサの本名を言おうとしたであろうその人に、アリサがストップをかけた。

 

「す、すみません。アリサ・Rでお願いします」

「え、で、でも資料にはライ・・・」

「だからストップ! お願いですからそれ以上言わないでください」

「う、うん。わかったよ」

 

そんなやり取りを見てラウラが俺に尋ねる。

 

「どういうことなのだ?」

「事情があると思うぞ。まぁ、詮索禁止ってことで」

「ふむ、了解した」

 

それでは改めて、レッツテイク2。

 

「そ、それじゃあ、もう一度確認するね。リィン・シュバルツァー君、ラウラ・S・アルゼイドさん、アリサ・Rさん。で、あってるよね?」

「ええ、間違いありません。リィン・シュバルツァーは俺です」

 

少女の言葉に俺が代表して答える。

 

「それじゃあ、申請のあった品を預かってもいいかな?」

 

今度は黄色の男が俺達に言う。

 

「案内書にあった通りですね。了解です」

 

俺達はその人に荷物を渡す。

ラウラから受け取った時に少しよろめいたのは・・・まぁ、大丈夫だろう、多分。

 

「確かに。後で返されるはずだから心配しないでくれ」

「あっちのほうに行くと講堂があるよ。入学式はそこでするからまっすぐ向かってね」

 

最後に、と少女は満面の笑みで付け足す。

 

「3人とも、トールズ士官学院へようこそ!」




突発的後書き企画!


『やりたいネタ①』

リィン「あ、貴方は・・・杉田さん!」
トヴァル「誰だよ!」
リィン「いや、何かピンときた」
こんな声優ネタ。


『やりたいネタ②』

リィン「ニセッチダヨー(声真似)」
トワ「あははははははは!」
リィン「そこまで笑うようなネタだっけ?」
会長のツボは謎(独自設定)。




リィンの前世には軌跡シリーズは存在しなかった設定です。
よって原作知識なし。


頭脳明晰、しかし恋愛には非常に鈍感なリィンです。
あれ、これって原作と一緒じゃん。
しかし性格は随分変わってます。
真面目モードとおふざけモードの二面性が目立つ性格のはず。

先に言っちゃうと完全記憶能力持ち、かつ高次元演算可能。
完全記憶は常時発動型ではなく、真剣に覚えようとしたものや、インパクトが強かった出来事など、記憶する事象のある程度の選択が可能です。


既に4話まで書き終えています。
ですが一気に投稿せず、様子を見ながら投稿していこうと思います。
少なくとも2話目投稿まで1,2週間は間をあけようかと。
評価や感想など、お待ちしてます。
では!


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特別オリエンテーリング

お気に入り登録数47件・・・(゚Д゚ )
まだ一週間たってないというのにスゲェ。

これで後で手のひら返されたら立ち直れる自信が無い。
というわけで皆さんどうぞ見捨てないで下さい。

第2話、行きます。


前世から俺にはある『異能』があった。

一言で言えば『脳のリミッターが無い』状態。

正確にはリミッターの一部が完全にOFFになっている状態。

リィンとしての人生の中、あの日に異能が進化し、超能力と呼ぶべきものになってしまったのだがここでは割愛しよう。

前世からの俺の異能を言葉にするなら、『完全記憶能力』『高次元演算能力』の二つ。

周りからすれば明らかに異端だったであろう。

高校時代辺りから周りから避けられ始め、成長したら今度は自分から距離を置く。

おかげで対人関係に関しては経験が足りなかった。

でもこの世界に来てからは積極的に人と接し、経験を積んだ。

旅をしていろんな人と出会い、話し、触れ合い、共に笑い、そうして今の俺が居る。

ただ、なんというか、今世の俺は異常なほどラッキースケベに陥る体質らしく、それに関してはかなり苦労してきている。

普通の人ならムラムラしたりするのだろうが、俺は完全に思考停止してしまうタイプだ。

思考停止中は表情が完全に固まるらしい。そのせいか、顔が赤くもならない。

不可抗力なのに理不尽にぶっ飛ばされた後、俺の反応が薄いためか魅力がないって言うのかなどとこれまた理不尽に攻められたり。

前世では人間関係が希薄になる前すらそんな事態にならなかったというのに。

ん? なぜ急にそんな話をするのかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカ――――――――――――――――――――!」

「へぶぁ!?」

 

 

・・・アリサにビンタされました。痛い。

え? 話が読めないって?

よろしい、ならばハイパークロックアップだ!(混乱)

 

 

(意訳:回想入りまーす)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば俺達が最後ってどういうことだろう?

そんなことを考えつつ講堂に入り、決められた席に座る。

その後は、簡単に言えばヴァンタイク校長先生による式辞、というか演説。

長々と話していたが、彼が最も伝えたかった言葉はこれだろう。

 

『若者よ、世の礎たれ』

 

トールズという学院の全てがこの一言に集約されていると言っても過言ではないはずだ。

 

「うーん、いきなりハードルを上げられちゃった感じだね?」

 

俺に話しかけてきたであろう誰かの声。

その声に隣を見ると、赤毛の少年がいる。

制服の色は、赤。

 

「そう悲観することもないだろ。要は自分のなすべきことを見つけろって話なんだから。でもまぁ、俺はいい言葉だと思うよ、『世の礎たれ』ってのは。流石『獅子心皇帝』だな」

「うん、確かにそうだね。僕はエリオット・クレイグ。君は?」

「リィン・シュバルツァーだ。よろしく、エリオット」

「うん。よろしくね、リィン」

 

と、ここで俺的にはかなりタイミングよく放送が入った。

 

『以上でトールズ士官学院、第215回入学式を終了します。以降は入学案内書に従い、指定されたクラスへ移動する事。学院におけるカリキュラムや規則の説明はその場で行います。以上、解散』

 

・・・おいこらちょっと待て。

 

「指定されたクラスって・・・入学案内書にそんなの書いてあったかな?」

「いや、無かった。この場で発表されると思っていたんだが・・・いや、今からか?」

 

と、俺がここまで言ったとき、またまたタイミングよくその知らせが聞こえた。

 

「はいはーい。赤い制服の子達は注目~!」

 

講堂に残った全員がその声の方を見る。

他の生徒は既に講堂を出ており、残っている生徒は赤い制服を着た俺達だけ。

 

「実は、ちょっと事情があってね。君たちにはこれから『特別オリエンテーリング』に参加してもらいます」

 

・・・訳がわからないよ(QB)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサ、ラウラと合流し、初対面同士は自己紹介しつつも会話しながら移動中。

他の赤い制服の生徒も少し遅れてついてきている。

そうして見えてきた建物に対してエリオットが一言。

 

「な、なんかいかにも出そうな雰囲気じゃない?」

「あれか。スーツ着た緑髪の男が両手にバタフライナイフ持ってドヤ顔っぽい変顔しつつ『ヒャッハー』とか叫びながら床を突き破って下から魔獣に乗って飛び出してくるってやつ?」

 

途中までならわかる人にはわかるはず。

床を突き破ってから先はオリジナル。

実はその作品、世界観をゼムリア仕様に改造して俺が小説を出版している。

タイトルはそのまんま。

 

「描写が細かすぎる上に訳が分からないわよ」

 

アリサにツッコまれました。

まぁ、床は突き破らないし魔獣にも乗らない奴だしな。蛇形の鎖は使うが。

教官らしき女性はそのまま建物に入って行ってしまった。

 

「これは・・・私達も入れということなのか?」

「だろうなぁ。・・・床を踏み抜いてまっさかさまなんてことがないといいんだが・・・」

「不安になるようなこと言わないでよ!」

 

またもアリサにツッコまれました。今度は若干震えながら。

しかし、これが半分当たるとは俺もこの時は思っていなかったのだ。

 

 

 

 

「全員いるわね?」

 

この場には教官含めて10人しかいないけど?

それでも彼女は話を続ける。

 

「ほとんどの人は始めましてになるわね。今日から君たちの担任を務めさせてもらうサラ・バレスタインよ。よろしくお願いするわね♪」

 

サラ・バレスタインってまさか!?

 

紫電(エクレール)・・・だと・・・!?」

 

俺の驚愕が聞こえたのかその場の全員の注目が集まる。

 

「あら、私を知ってる子がいるのね」

 

女性教官、改めサラ教官が言う。

 

「リィン? そなた、彼女を知っているのか?」

「話に聞いたことしかないけどな。遊撃士、しかも史上最年少のA級昇格を果たした実力者だよ。紫色の雷を操ることから『紫電(エクレール)』という通り名もある遊撃士の中でもトップクラスの人だ。でも、なぜ遊撃士が教師をやっているんだ・・・?」

 

サラ教官は笑って返す。

 

「それは内緒よ。ま、同じ『史上最年少』でも貴方の方がよっぽどの偉業よね。『史上最年少の剣聖』リィン・シュバルツァー君♪」

()()()()()調()()()()()()ってことか。厄介な。でもまぁ、褒め言葉として受け取っておくよ」

 

そんな俺達のやり取りにラウラ以外が疑問符を浮かべているのは『剣聖』、そして『八葉一刀流』について帝国では殆ど知られていないからだろう。

どう見ても帝国人じゃない人が一人いるが。

ちなみにラウラは俺が剣聖であることを既に知っている。

 

「まてよ、聞いたことがあるな」

 

その言葉が聞こえた方には金髪のいかにも貴族らしい雰囲気を醸し出す少年。

確かラウラに再開する直前、校門で緑のリムジンから降りていたやつだ。

遠くから見ただけだったが間違いない。

 

「確か東方のある流派を皆伝した者に与えられる称号、だったか。俺も詳しくは知らないが」

 

一応合ってはいるけど・・・。

 

「『八葉一刀流』。それが俺が修めた剣術の名前だ」

「しかも皆伝した人は大陸中合わせても手で数えられるほどしかいないのよね♪ いや~、こんな凄い子の担任になれるなんてお姉さん感激!」

 

・・・茶化すな。

とはいえ、サラ教官の言葉の前半部分にラウラ以外は驚きを隠せないようだ。

・・・いや、銀髪の子が興味なさそうにあくびしてるな。

 

「話を戻すわね。本来、この学院のクラスは5つ。貴族生徒が配属されるⅠ,Ⅱ組と平民生徒が配属されるⅢ,Ⅳ,Ⅴ組。でもね、今年から新たなクラスが作られることになったの。その名も『特科クラスⅦ組』」

「Ⅶ・・・組・・・?」

 

そうつぶやいたのは誰だろうか。

構わずサラ教官は続ける。

 

「簡単に言えば『身分に関係ないクラス』よ。そこで、ある条件で選ばれたのが君達ってわけ」

 

ある条件・・・?

俺がその先を考えようとしたその時。

 

「なっ・・・冗談じゃない!」

 

声を荒げたのは緑髪の眼鏡男子。

 

「どうやら不満があるみたいね。マキアス・レーグニッツ君」

「ええ! 自分はとても納得しかねます! まさか貴族風情と一緒のクラスでやって行けと言うんですか、貴女は!」

 

ある条件・・・もしかして、こういうことなのか・・・?

っていうか『貴族風情』って・・・。

随分貴族を敵視してるな。

 

「ふん・・・」

 

おい、お前さっき剣聖についてちょびっと喋ってたやつだよな。

鼻で笑うってどう考えても状況悪化にしか繋がらないだろ!

 

「・・・君。何か文句でもあるのか?」

「別に。『平民風情』が騒がしいと思っただけだ」

 

こらこら、何やってんだお前。

案の定、マキアスの額に青筋が浮かぶ。

 

「これはこれは・・・どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度・・・さぞ名のある家柄と見受けるが?」

「ユーシス・アルバレア。貴族風情の名前ごとき覚えてもらわなくて構わんが」

 

・・・アルバレアと来たか。

やはりというべきか、何人かはその名前に動揺している。

マキアスもその一人のようだ。

しかし彼はそれでもユーシスに突っかかる。

 

「だ、だからどうした! その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ! いいか、僕は絶対に」

「はいはい、そこまでにしておきなさい。二人とも」

 

ナイスですサラ教官。

俺が止めようとすれば余計にヒートアップしそうだったし。

 

「あんたたちも色々あるとは思うけど、文句は後でゆっくり聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしね」

 

と、サラ教官が壁に手を伸ばし・・・あれは、スイッチか?

 

「それじゃ、早速始めましょうか♪」

 

スイッチが押された直後、床が傾いた。

何人かは悲鳴を上げながら、他のみんなも落ちていく。

俺はといえば坂となった床の上で留まっている状態。

素早く周囲を見回す。

と、悲鳴を上げながらずり落ちるアリサの姿が。

他のみんなは上に跳んだ一人を除いて全員下に落ちたようだ。

見たところアリサは完全に動揺している。

ここは救助一択だな。

宙に放り出されたアリサに向かって跳ぶ。

彼女の下に行くように自分の体を動かし、そこから横抱きに抱きかかえようと・・・、

そこでアリサが動いた。

簡単に言えば、手に触れたもの、つまり俺にしがみついた。

その時、俺の思考が停止する事態が起こった。

具体的に言えば、アリサの胸が、俺の顔に押し付けられ・・・、

思考停止に陥ったまま、俺は後頭部を床に打ち付けるまで全く身動きが取れなかったのだ。

要するにガツンと。

 

 

 

 

「うぅ・・・何なのよ、全く・・・へ」

 

アリサが退いてくれないせいでい、息が・・・。

 

「・・・え、きゃあっ!?」

 

状況に気付いたのかアリサが跳ね起きた。

あぁ、息ができる・・・ゴホッゴホッ。

でも頭がまだグワングワンするぅぅ・・・。

 

 

 

 

10秒ほどして、ようやく治まった。

後頭部に響かないようゆっくりと起き上がり、立つ。

周囲を見回すと呆れたり顔を赤くしたり苦笑したりしながら俺を見るみんな。

どうやら怪我はないようだ。

さて、アリサは・・・俺の前で胸をかばい、顔を真っ赤にしながら俺を睨んでいる。

不可抗力とはいえ・・・だよな。

 

「と、とりあえず無事で何よりだ。その・・・すまなかった!」

 

反応がない・・・ど、どうすれば?

 

「うぅ・・・」

 

唸ってる、のか?

 

「ア、アリサ・・・?」

 

顔を上げようとした瞬間、

 

「バ、バカ――――――――――――――――――――!」

「へぶぁ!?」

 

 

 

 

今ここ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リ、リィン? 何してるの?」

「五体投地。動くと頭が・・・うぐぅ」

 

さっきのビンタが後頭部に響く。

 

「あ・・・はは・・・。そ、その・・・災難だったね」

「ちくせう、厄日だ」

 

エリオットの心配が今の心の清涼剤。

ラウラはといえば、現在アリサを慰めている。

不可抗力だったということはちゃんと伝えているようだ。

 

 

 

 

 

30秒かけて痛みを沈めて立ち上がる。

と、その時辺りに電話の音が同時に幾つも響いた。

突然のことに戸惑う皆。

俺は落ち着いて音源を辿り、それを手に取る。

赤い制服と一緒に届いた導力器(オーブメント)

全員が同時にそれを開く。

 

『うん、無事に繋がったみたいね』

「サラ教官か」

 

この導力器(オーブメント)、通信機能付きのようだ。

ざっとでも前もって調べておくべきだったか?

・・・駄目だな。俺がヒートアップして改造とか始めそう。

 

『勘づいている人もいるだろうけど、それは戦術オーブメント。しかも貴方達だけの特注品よ。エプスタイン財団とラインフォルト社によって共同開発された第五世代戦術オーブメントで、その名も《ARCUS(アークス)》』

 

そこで教官が何かのスイッチでも押したのか、周囲が急に明るくなった。

周囲にはいくつかの台座。

 

『台座の上にさっき預かった荷物と、ARCUS用のマスタークォーツが置いてあるわ。マスタークォーツの方は箱に入っているから、ARCUSの蓋を開いて、その中央にある一番大きな窪みにはめ込んでちょうだい』

 

マスタークォーツか。話には聞いたことがある。

使い込むことで進化していくクォーツだとか。

とりあえず散開して各自荷物を取りに行く。

マスタークォーツをセットすると何かが共鳴する感覚が。

周囲を見ると全員が同じことを感じたようで皆戸惑っている。

 

『戸惑う必要はないわ。今の感覚は君たち自身がARCUSに共鳴・同期したってこと。これでめでたく導力魔法(アーツ)が使用可能になったはずよ。ARCUSの機能はそれだけじゃないんだけど・・・まぁ、そこから先は実際に体験した方がいいわね。というわけで』

 

広間の奥の扉が開いた。

・・・これって全部上でスイッチ操作可能ってことか?

 

『この先はダンジョン区画になってるけど、終点まで辿り着けたら無事に旧校舎1階に戻ってこれるわ。魔獣相手にアーツやらなんやらの練習でもして来なさい。それではこれより、士官学院《特科クラスⅦ組》の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ』

 

そのまま通信は切れてしまいました・・・っておい。

 

 

 

 

 

「リィン、そなたはこれをどう思う?」

 

どうって・・・。

 

「文字通り実際にARCUSの性能を体験してこいってことじゃないの」

「ふむ、そうか・・・。ならばリィンは《Ⅶ組》の設立について、何か知っている事はあるか? 先ほど、サラ教官についても知っていたようだったが・・・」

「知りはしないけど大体想像できる」

 

全員の注目がまたしても俺に集まった。

 

「なら、説明してくれないか?」

 

マキアスにそう言われる。

 

「ここで話すのか? オリエンテーリングが終わったら教室に案内されるはずだろうし、そこで話した方がゆっくりできるし俺としても気が楽なんだが・・・っておいおいおい」

 

全員の視線が今度は俺の視線の先へ。

そこにはユーシスが勝手に一人で先に行こうとしている姿が。

 

「ま、待ちたまえ! 一人で勝手に行くつもりか?」

「馴れ合うつもりはない。それとも『貴族風情』と連れ立って歩きたいのか?」

 

売り言葉に買い言葉・・・はちょっと違うか。

 

貴族の義務(ノブリス・オブリージュ)として、力なき民草を守ってやっても良いが?」

「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!」

 

そのままマキアスはダンジョンへ突き進んで、ユーシスも先に行こうと・・・ってコラ。

 

「待たんかい二人とも」

「「ぐぇ」」

 

縮地で距離を詰めて二人の襟を引っ張る。

何? 首が締まった? 知らんな。

 

「げほっ、何をする!」

 

マキアスが恨めしそうに言う。

ユーシスも似たような表情で俺を睨む。

 

「未知の迷宮相手に単独行動とかアホかお前ら。もし迷子にでもなったらどうしようもねぇだろうが!」

「「う・・・」」

 

唸る二人。

他の皆は唖然として俺ら、というか俺を見ているようだが・・・。

相手は四大名門? だからどうした。

 

「基本3人一組で行動することにしよう。ちょうど俺らは9人だしな。で、その組み合わせだが、まずは皆の武器を確認したい。で、自己紹介もしてもらいたいが・・・ファーストネームだけの紹介に留めておこう。ファミリーネームまで言うとさっきみたいなごたごたにもなりかねないしな。あまりこの場で時間を食うのは避けたい」

 

とりあえず円陣を組み、互いが確認しやすくなるようにする。

 

「まずは言い出しっぺの俺から。さっき聞いたろうが名前はリィン。使う武器は東洋の片刃剣、太刀だ」

 

刀を抜いて見せ、すぐに納刀。

 

「んじゃ次、ラウラ。そのまま並んでる順にいこうか」

「うむ、承知した。私はラウラ。使う武器はこの大剣だ」

 

ちなみにそのスタイルは彼女自身の父親からの直伝である。

 

「次は私ね。アリサよ。私が使うのは導力式の弓。とはいっても少したしなんだ程度ね」

 

導力弓、すなわち後衛だな。

 

「僕の名前はエリオット。僕の武器はこれなんだけど・・・」

 

エリオットが見せたのは黄緑色の(スタッフ)

 

魔道杖(オーバルスタッフ)って言って、まだ試験段階の武器なんだって。僕自身はまだ使ったことが無いけど・・・」

「前衛か後衛かで言えば?」

 

俺の質問にエリオットは少し考え、

 

「えっと・・・話を聞いた限りでは後衛だと思う」

「なるほど。んじゃ次」

 

とりあえず先を促す。

 

「ん。フィーだよ。使うのはこれ」

 

銃剣が二丁。さしずめ双銃剣といったところか。

しかしこの子、かなりの使い手だ。間違いなく場馴れしている。

 

「次は僕だな。もう皆知ってると思うが、マキアスだ。僕が使うのはショットガンタイプの魔道銃。もっとも、あまり使い慣れていないが」

 

見る限り両手持ちタイプだな。

 

「私の番ですね。エマといいます。私が使う武器はエリオットさんと同じく魔道杖(オーバルスタッフ)です。私も、これを使うのは今日が初めてで・・・」

 

エマの魔道杖は紫色が基調になっていて、先端の形もエリオットのものとは異なる。

 

「先ほど名乗った通り、ユーシスだ。俺の武器は片手用の剣になる」

 

四大名門の出だし、宮廷剣術の使い手と見るべきだな。

腕は・・・ラウラには及ばなさそうだな。

 

「最後は俺か。ガイウスだ。見ての通り帝国人ではない。使う武器はこの槍だ」

十字槍。なるほどな。

 

 

 

 

 

「よし、こうしよう。チーム1、ラウラ、ガイウス、マキアス。チーム2、ユーシス、フィー、アリサ。んでもってチーム3が俺、エリオット、エマ。これで行こう」

「ふむ。理由を聞いてもよいか?」

 

皆を代表して、ラウラが質問する。

 

「今回は脱出を優先するってことで、仲がギスギスしたりしないように調整した。マキアスとユーシスは見ての通りだし、俺とアリサはさっきの・・・な」

 

アリサが気まずそうに目を逸らした。

 

「・・・ほんとゴメン。気を取り直して、続きな。チーム内でバランスを良くする為に前衛二人、後衛一人の構成を基本にする。そして、エリオットとエマにとっては魔道杖(オーバルスタッフ)をちゃんと使えるようになることが一番重要だ。だから二人を一緒にする。道中、意見交換とかしながらいろいろ試してみれば習得もしやすくなるだろうからな。前衛の組み合わせはパワーバランスを崩さないようにこの中で抜き出ているだろうラウラとフィーを別チームにした」

 

皆が納得したように頷く。

 

「んじゃ、全員納得したみたいだし、チーム1,2,3の順に探索開始と行こう。途中で鉢合わせしすぎたら気まずいだろうし間は10分あけることにする。それじゃ、チーム1、レッツゴー!」

「承知した。行くぞ、ガイウス、マキアス」

 

ラウラが二人に呼びかけ、チーム1が扉の先へと足を踏み入れた。




リィンの異能についての解説。
超能力を利用して魔法を発動させるのが主な使い方です。
魔法についてはDQとかFFとか、ガッシュの術なども使う予定。
リィンからすればゲーム等からとってきた魔法です。



と、いうことを前提において、
『やりたいネタ③』

リィン「ザケル! ザケル! ザケル! ザケルガ! ザケル! ザケル! ザケルガァ!」
?「ギャアアアァァァァァ!!?」
被害者は誰だ!?




小説は収入源。
もちろんネタ元は彼の前世。
他にも前世から持ってきた音楽や発明特許など、彼独自の収入源があります。


五体投地は土下座じゃなくて完全に突っ伏してる方です。





基本は土日、祝日のみ投稿。
それ以外では長期休暇辺りですかね。
感想等、お待ちしております。
それでは!


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Ⅶ組、成立

第3話。今回も長め。
特別オリエンテーリング終了までです。


スピーカーから聞こえる会話を聞いて、サラ・バレスタインは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「まさかここまでとはね。やるじゃない、リィン・シュバルツァー君。クラスの重心にとは思っていたけど、これほどなら中心にもなってくれそうね」

 

まだ日中であるというのに、彼女は手に持ったジョッキからビールを飲む。

 

「ぷは、確か、『龍の剣聖』だったかしら。Ⅶ組最強も彼で間違いない、っていうか他のメンバーとの実力差がありすぎるのは問題になるかもしれないわね」

 

落とし穴の下の部屋には、元から集音機が仕掛けてある。

それを、1階にあるスピーカーから聞ける仕組みになっているのだ。

 

「判断力、統率力、洞察力etc・・・どれも群を抜いているわね。実習の班分けは彼を中心にした方がいいわね。でもいきなりあの二人の仲を取り持たせようとしても二人の方が反発してこじらせそうね。なら1回間を置いて・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム1が出発して10分。今チーム2が出発した。

俺達の番になるまでの20分間、俺は何をしていたかというと。

 

「リィン・・・魔法(アーツ)を斬るなんて凄すぎるよ」

「そうですね・・・。ですが、そのおかげで私達が事前練習できるわけですし、ここはリィンさんに感謝しないといけませんね」

「気持ちは有難く受取ろう。二人とも、かなりスムーズになってきてるぞ」

 

エリオット達魔道杖組の事前練習を手伝っていた。

具体的に言えばエリオット達が放つ魔法を俺が斬る。

只魔法を放つだけでも繰り返し行うことで慣れていき、コツを掴むことなどにも繋がる。

ちなみに魔法を斬ったのは八葉の技、五の型《残月》に連なる秘技《無月》だ。

基本の残月と同じ挙動に見えるが、その剣閃は球殻状に見える。

素人相手から見れば手を刀の柄に添えただけなのに突然球殻状の何かが現れて魔法を無効化するように見えるだろう。

一応某死神の漫画は関係ないぞ。

もう一つちなみに魔法の中心となる一点を斬ることによって魔法を斬ることもしていた。

簡単に言えば魔法破壊(スペルブラスト)。SAO世界では有名な主人公にしか使えない技である。

しかし八葉はこれをいとも簡単にやってのける。しかもソードスキル要らず。

だがしかし、この技術に八葉としての技名は無い。

ゆえに俺は便宜上ではあるが魔法破壊(スペルブラスト)の名前を使っている。

今ここで使ったのはほぼ魔法破壊(スペルブラスト)で、無月は一度だけ。

実はどちらの技にも大規模魔法に対応できるグレードアップ版が存在する。

 

 

 

 

 

さて、そろそろ10分かな。

 

「よし、俺達も行こう。さっきも言ったが、基本俺は二人のサポートに回る」

「わかった。頑張るよ」

「私も頑張ります。でないとずっとリィンさんに頼る羽目になってしまいますから」

「よっしゃ、チーム3、行くぞ!」

「「うん(はい)!」」

 

いざ、迷宮(ダンジョン)へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はいはい弧影斬弧影斬。

動きを封じてるだけだけど。

 

「ブルーララバイ!」

「イセリアルエッジ!」

 

おかげで二人とも安心して魔道杖でいろいろと試してる。

ちなみに魔道杖があればARCUSから放つ魔法も待機時間要らずらしい。すげー。

俺の場合は魔法の代わりに『異能』があると思ってくれれば。こっちも待機時間要らないし。

まだ皆(ラウラ除く)には見せてないけど。

ラウラがなぜ知ってるのか?

レグラムでヴィクターさんとバトった時に見物してたし。

『力』の方はラウラにも見せていない。

理由? 暴走怖いでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで探索開始から約1時間。

なんと新たな発見が。

魔道杖って・・・変形(モードチェンジ)できたのか。

え、詳細?

エリオットの魔道杖がバイオリンになった。

しかも演奏することで攻撃とか回復とかいろいろできる。すげー。

どうやらイメージが重要らしく、エマはちゃんと変形させられなかった。

ピアノとかにも変形させてみてほしいところだ。

え? もう試した?

大きさが違いすぎて上手くいかない? さいでっか。

じゃあ召喚形式ならどうよ?

 

「それです!」

「「えっ?」」

 

エマ、急に何だ!?

そう思ってたら、エマは何かを念じながら魔道杖で床を突いた。

 

「来てください、セリーヌ!」

 

エマ は 黒猫 を 召喚 した

・・・マジですか。

明らかに混乱している黒猫にエマはしゃがんで話しかける。

 

「ごめんなさい、急に呼んだりして。後で説明しますから」

 

再び魔道杖で床を突くと、魔法陣が黒猫を帰した。

 

「マジでできるんだ、召喚」

「確かに、これならピアノも出せるね」

 

エリオットよ、召喚するなら攻撃に耐えられる特別製にしろよ?

よし、俺も今度『異能』で再現してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に進む。なにやら通路の先に無数の気配が。

その場所を覗いてみると広めの部屋に魔獣がいっぱい。

モンスターハウスかよ!

そりゃあ旅の途中で立ち寄った遺跡とかにもこういうのあったけどさ。

 

「リ、リィン・・・ここは危険だよ。別の道を行こうよ」

 

エリオットが心配そうに提案。

 

「二人はそこで見てろ。この程度、軽く殲滅できる」

 

ここの魔獣のレベルはかなり低い。

だから俺が今まで出くわしたモンスターハウスの中では危険度は一番低いだろう。

一言で言えば、余裕っすわ。

ま、油断はしないけどね。

部屋に入ると魔獣たちが一気に敵意を露わにする。

んじゃ、征くぜ。

 

「二の型、秘儀《裏疾風》!」

 

神速の斬撃からの更なる連撃だ。

たったこれだけで魔獣の群れは3分の1に激減した。

ようやく実力差を感じたのか逃げ出そうとする魔獣の残党。

 

「逃がすかよ。四の型、奥義《蒼焔の太刀》!」

 

蒼焔の斬撃を弧影斬のごとく飛ばし、魔獣の殲滅が完了した。

 

 

 

 

 

「す、凄いね・・・リィンって」

「本当に、桁違いというか・・・」

 

二人とも呆然としている。

 

「この程度はまだ序の口だ。ここの魔獣は俺が倒してきた中でもかなり弱い部類に入る。それこそ、下から数えた方が早いくらいにな」

 

さあ、先に進もうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セブンラプソディ!」

「ロードアルベリオン!」

 

おー、ずいぶんと強力な技じゃないの。

 

「だいぶ慣れてきたな、二人とも。その調子だぜ」

「うん、ありがとう・・・ってリィンは何やってるの!?」

「釣り」

 

道の脇を流れている水路だが、普段釣る人がいないからだろうがよく釣れる。

それに釣りってけっこう稼げるんだぜ。セピス吐き出すし、食材としても売れる。

旅の中では重宝する収入手段だ。

お、ソーディゲット♪ なかなかでかいな。

吐き出したセピスは頂いてキャッチアンドリリース。

今は収入には困らない。旅の道中と違って口座からミラを引き出せるからな。

お、今度はけっこう大物だ! さて、何かな~?

 

「レインボウ・・・だと・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリオット、セブンラプソディの七つの球体はどれくらい操作できる?」

「え?」

 

再び探索を開始し、その道中、ちょっとエリオットに訊いてみた。

 

「空属性の球体を敵のど真ん中に突っ込ませて重力で集めてから他の球体をぶつけたりとか、球体を七つ同時にじゃなく先に上位3属性を先に纏めてぶつけて空間支配を発動させて残り4属性の力を高めてからぶつけるとか、そんな感じのことができるかってことだ」

「うーん、流石にやってみないとわからないよ」

 

まぁ、そうだろうな、意識してやってみないとわからないはずだしな。

 

「後は、球体を形状変化させて円錐形とかキューブ状とか刃の形にしたり・・・」

 

あ、もう一つ思い付いた。

 

「バイオリン以外にもトランペットなんかに変形させれば直接エネルギー波で攻撃とかがイメージしやすくなると思うんだが、どうだ?」

「あ、いいねそれ。それも試してみるよ」

 

そんじゃ、次はエマにアドバイス。

 

「エマ、さっきの技、ロードアルベリオンってさっきやった召喚の応用か?」

「あ、はい。そうなりますね」

「塔を一個だけ召喚すれば気力の負担はどうなる?」

「一気に軽減されますね。ですが、それでは攻撃が不安定に・・・」

 

複数個の塔で攻撃を安定させていたのか。

 

「相手の足元に塔を召喚すればそいつの攻撃の照準をずらせるし、自分の足元に召喚すれば移動手段にもなると思う。強度も十分そうだから盾代わりに使うこともできるはずだ」

「あっ」

 

納得したようだな。

 

 

 

 

 

次の瞬間、明らかにヤバそうな獣の咆哮が聞こえた。

しかもその咆哮は間違いなく1体や2体のものではない。

 

「リ、リィン・・・今のって・・・」

「ヤベェな。多分、これまでのとは桁違いの奴が何匹か固まって居やがる」

「そ、それってまさか、皆さんが・・・」

 

急がないと拙いな。

 

「二人とも、先に謝っておく」

「「え?」」

 

俺は疑問符を浮かべた二人を片手ずつで担ぎ上げた。

 

「うわわっ!?」

「きゃあっ!?」

 

俺はそのまま一気に跳躍し、上の通路へ着地。

咆哮の発生源であろう場所へ急ぎながら、二人に言う。

 

「エリオット、エマ、治癒魔法の多重駆動準備を頼む!」

「えぇ!?」

「急げ!」

「「わ、わかった(わ、わかりました)!」」

 

担がれながらもARCUSを駆動させる二人。

俺は一瞬たりとも足を止めず、急ぎ戦場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を遡ること数分前、ラウラ率いるチーム1とフィー率いるチーム2は出口を目の前にした大部屋で鉢合わせた。

どうやらこのダンジョン、正解の道は一つではないのだろう。

実際、この大部屋に繋がる通路はざっと見ただけでも四つある。

そして出口は階段を上った先のようだ。

案の定、気まずい雰囲気を作り出すユーシスとマキアス。

その様子に、他の4人は苦笑する。

そんな空気を切り替えるようにラウラはフィーに尋ねた。

 

「ところで、リィン達はまだか?」

「ん・・・たぶんね。こっちは会わなかったよ」

「そうか・・・こちらもだ」

 

会話終了。未だに気まずい雰囲気は拭えていない。

 

「ならどうする? ここで彼らを待つか?」

「それよりも、一度連絡を取った方がいいんじゃないかしら? あ、で、でも私は無理だからね! その・・・さっきの・・・アレ、で、気まずいし・・・」

 

ガイウスの言葉に続けたアリサは結局尻込みし、3人は苦笑。

 

「確か通信機能があったと言っていたな。しかし、俺は機械を使ったことなどないのだが・・・」

「私も機械は・・・その、少々苦手でな。間違って壊してしまいそうで・・・」

「なら私がするよ。ある程度なら使い慣れてるから」

 

結局、リィン達への連絡はフィーがすることになった。

 

「何か申し訳ない気もするけど、お願いね」

「ん、任された」

 

アリサの言葉に応えたフィーがARCUSを取出し、蓋を開こうとしたとき、この場には相応しくないであろう音、ガゴンという大きなものが動き出したような音が響いた。

全員の動きが止まる。

もちろん、一触即発状態だった二人もだ。

 

「何だ、今の音は?」

 

マキアスが周囲を見回しながら誰にともなく問いかける。

 

「っ!? あれだ!」

 

ガイウスが何かに気づき、それを指差した。

そこには、ドラゴンを模した悪魔のような石像。

しかしそれは、()()()()()

その場の全員が息をのむ中、石像に色が付き、魔獣・・・いや、魔物へと変化した。

 

石の守護者(ガーゴイル)・・・! 古の伝承にある存在が、何故!?」

 

ユーシスが驚愕の言葉を放つ。

そのガーゴイルは台座のような場所から飛び降り、階段への道を塞ぐように構える。

ガーゴイルは前足の片方に禍々しいオーラを纏わせ、床を叩く。

すると、6人の周囲を取り囲むように魔法陣がいくつも出現。

なんとそこから、新たなガーゴイルが出現したのだ。

ガーゴイルは全部で、10体。

 

「な、何だこの数は!?」

「ありえん! 常軌を逸している!」

 

マキアスとユーシスが叫ぶ。

 

「帝国というのは、こんな化物が普通にいるのか?」

「いや、少なくとも古い伝承でしか出てこない!」

 

ガイウスの疑問にラウラが叫ぶように答える。

 

「キツイね。多分、私やラウラでも同時に2体まで相手にするのが限界」

「じゃ、じゃあどうするのよ! こんな数、どうやって相手にしろっていうの!?」

 

フィーが冷静に分析するが、その結果にアリサが悲鳴を上げる。

ガーゴイル達が咆哮を上げる。

その大音量に耳を塞ぐ6人。

 

「く・・・今のがリィン達に聞こえていることを祈ろう。あの男ならたとえこの数でも一蹴できるはずだ。リィン達が来るまで、なんとしても耐えきらねば!」

ラウラの言葉に、覚悟を決める5人。

 

もっとも、フィーは既に覚悟を決めていたようだが。

 

「まずは囲まれている状況を何とかせねば! アリサ、マキアス! 援護を頼む! ガイウスとユーシスは階段方面のガーゴイルに牽制を! 私とフィーで道を作る!」

「わかったわ!」

「やるしかないか!」

「ふん、いいだろう!」

「任せてくれ!」

了解(ヤー)!」

 

意図的になのかはわからないが、ガーゴイルによる包囲網は階段側の方が密になっている。

ならば、比較的薄い逆側を突破するのが最善策である。

 

 

 

 

 

やるべきことは一つ。全力で立ち向かえ。必ず全員、生き延びろ。

その意識が一つになったとき、何かが変わった。

皆の動き、判断、思考。それらが()()()。手に取るようにわかる。

フィーがまず視界を封じようと考える。

それをアリサが察知し、フィーと同時にガーゴイルに目つぶしを喰らわせる。

目を抑えて苦しむ個体とそのすぐわきの1体に向け、ラウラが走る。

目を潰されていない方のガーゴイルがラウラに爪を振り下ろそうとする。

その手をマキアスが銃弾で上にハジく。

同時に、アリサが階段方面の1体に向けて矢を射る。

ユーシスがガーゴイルの顎をかち上げ、その個体の目に矢が直撃した。

苦しみで暴れるガーゴイルの腕をユーシスは横にはじく。

同時にガイウスが隣の個体の頭を横に弾き、腕と頭がぶつかり合った。

互いに攻撃されたと思い暴れだす2体からユーシスとガイウスは距離を取り、そこにアリサの《ゴルトスフィア》が炸裂する。

ラウラの方では彼女が《洸刃乱舞》を決め、怯んだ2体にマキアスとフィーの銃撃が決まった。

アリサとマキアスは再び互いの位置を入れ替え、その途中で横側のガーゴイル達に牽制射撃。

同時にフィーも両横に向けて射撃を行う。

ラウラが再び《洸刃乱舞》で2体のガーゴイルの体勢を崩す。

次の瞬間、全員が中央に集まり、目を伏せた。

それと同時にフィーが上に投げた閃光弾が炸裂し、ガーゴイル達は怯む。

特に、ラウラの攻撃で体勢を崩しかけた2体は強烈な光で完全にバランスを崩し、倒れこむ。

ラウラが気配からそれを読み取り、それが全員に伝わる。

同時にその方向へ走り出し、ラウラが渾身の一撃で倒れこんだガーゴイルの1体を吹き飛ばした。

そうしてできた道を6人が走り抜け、ようやくガーゴイル達の包囲網を抜けた。

しかしダメージこそ与えたものの、まだ1体も倒せずじまい。

その上奴等には自己再生能力がある。

彼らはガーゴイルに向き直り、今度は魔物の猛攻を耐えきるために構える。

先ほど転んだガーゴイルの1体が姿勢を低く構え、飛びかかろうと――――

 

 

 

 

 

「「マルチドライブ・ティアラ!」」

 

 

二人分の声が聞こえ、6人の体が青い光で包まれた。

突然の現象に警戒し、ガーゴイルが飛びかかるのをやめる。

数瞬後、床を強く踏みつけたような音、その後ドサッという音二つが立て続けに聞こえ、

 

「「痛っ!?」」

 

二人分の悲鳴が聞こえた。

前方を警戒しつつ6人が振り向く。

そこには、尻餅をついたエリオットとエマ。

そして二人の間に立っているのは――――

 

「何とか間に合ったみたいだな。お待たせ」

 

現時点でこの状況を唯一打開できる人物――――リィン・シュバルツァーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこをどう見てもガーゴイル。

今までにも遺跡なんかで戦ったことがある。

暗黒時代ではメジャー(多分)な()()だ。

しかしこの数はおかしい。

どんなヤバい遺跡でもこいつが出てきたのは多くて2体。

もっとも、遺跡によって強さも違うが。

それが何で10体いるのか。弱いけど。

 

「エリオットはラウラ達の回復を頼む。それとできるだけ後ろに下がれ、ってかもう通路に入っちゃって。エマは通路の向こうから魔獣が来た時の迎撃を頼む」

「任せて!」

「わかりました!」

 

全員が通路へ退避。エマが彼らの更に後ろへ。

 

「すまない、リィン。悔しいが、あとはそなたに任せる」

「おぅ、任せろ」

 

そこにガーゴイルの1体が飛びかかってきた。

 

「リィン!」

「危ないぞ!」

 

アリサとマキアスの悲鳴が聞こえる中、俺は右手を刀に添え、

 

「五の型《残月》」

 

抜刀から納刀まで、一切を目視できないほどの神速の斬撃。

ガーゴイルを縦に両断した。

真っ二つになっても慣性で俺に向かってくるそれを蹴り飛ばして他のガーゴイルにぶち当てる。

 

「嘘だろ・・・!?」

「す、凄い・・・」

 

マキアスとアリサの言葉に肩を竦め、刀を抜いて下段の構え。

ガーゴイル達は同族を一撃で倒されたことに警戒しているのか、飛びかかってこない。

代わりに、じりじりと一か所に集まりつつある。

――――悪いが、それは逆に命取りだ。

俺は闘気を高め、それを刀に集中させる。

 

「無明を切り裂く閃火の一刀――――」

 

刀が膨大な量の焔を纏う。

 

「――――八葉一刀流・四の型」

 

縮地で距離を詰め、焔を纏う太刀でガーゴイルの群れに斬りかかる。

限界まで速度を引き上げ、多方向から何度も斬る。

百・・・千・・・万・・・。

最後の一撃でガーゴイルの群れを斬り抜け、ゆっくりと納刀。

 

「終ノ太刀――――《暁》!」

 

俺が完全に納刀するのと同時に斬撃の焔が一気に炸裂し、ガーゴイル達を切り刻んだ。

確認のため後ろを向く。

全身をバラバラに斬り離され、消滅していく9体のガーゴイル。

最初に1体倒しているため、これで全部のはずだ。

改めて周囲を確認。厄介そうな気配は・・・無いな。

通路の皆を見る。

既に俺の実力を知るラウラ以外が唖然として俺を見ている。

彼らの後ろにも、魔獣の気配はない。

殲滅――――完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、階段の上に気配を感じてその方を見る。

そこには通路の皆と同じく、唖然とした顔のサラ教官とヴァンダイク学院長。

更に、さも当然だといわんばかりの表情で頷いている・・・

 

「・・・オリビエ!?」

「やぁ、リィン君。久しぶりだね」

「あ、いや、確かに久しぶりだけど・・・何でいるの!?」

「おっと、今はそれより重要な話があるんじゃないのかい?」

 

オリビエがサラ教官をどつく。

それでようやく我に返ったサラ教官は、階段を下りてきて俺たちの前へ。

 

「あんなにあっさり倒すとは思わなかったわ。剣聖の実力・・・凄じいわね。・・・とにかく、入学式の特別オリエンテーリングは終了よ。で、ここからが本題」

 

俺を中心に横一列に並んだ皆の、誰かがゴクリと息をのんだ。

 

「貴方達のうち、不思議な感覚を覚えた人はいるかしら? 具体的には、他の人の動きが手に取るようにわかる、といった感じね」

「あっ」

 

サラ教官の言葉に、チーム3以外の6人が反応した。

 

「既に体験した人もいるようね。それは、ARCUSのもっとも重要な機能《戦術リンク》の力よ。それによって今までではできなかったあらゆる作戦行動が可能になり、戦術の幅が大きく広がるわ。でも、ARCUSはまだ試験段階。個人的な適正には大きな差がある。新入生の中でそれが最も高かったのが君達9人」

 

ここでサラ教官は、今までで一番真剣な表情になった。

 

「先に言っちゃうと、《Ⅶ組》が設立された目的は、ARCUSの試験運用以外にもいくつかあるわ。おそらく、リィン・シュバルツァー君には予想されているでしょうけどね。そして、Ⅶ組のカリキュラムは他のクラスと比べてかなりハードよ。それを踏まえて、聞かせて頂戴。貴方達が《Ⅶ組》に参加するのかどうかを。不参加を表明した場合は、本来貴方達が所属するはずのクラスへ配属しなおされるわ。貴族生徒はⅠ、Ⅱ組へ。平民生徒はⅢ~Ⅴ組へね。さあ、どうする?」

 

俺の予想通りなら・・・。

数秒考えて速攻挙手。

 

「リィン・シュバルツァー、参加します」

「えっ!?」

 

何人かの驚く声が聞こえる。

 

「早いわね。ちなみに、理由を聞かせてもらっても?」

「この学院には、自分を高めるために来ました。なのにわざわざヌルい方を選ぶなんてことはしませんよ。それに、貴族と平民の混合クラスならなおさらやる気が出るってもんです」

「なるほどね。他の人はどうする?」

 

俺に続くようにラウラ、ガイウス、エマ、エリオット、アリサ、フィーが参加を表明。

小競り合いに発展しかけたが、ユーシスとマキアスも参加を決意した。

サラ教官は満足そうに頷き、

 

「それでは、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する! この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい♪」

 

高らかに宣言した。

さて、重要な話も終わったし、そろそろ・・・

階段の上を見ると、そこには満足そうな笑みを浮かべる学院長の姿のみ。

一方、オリビエの姿はどこにもない。

あの放蕩皇子、逃げやがった!




オリジナル剣技登場。
これからもぼちぼち出していきます。

ガーゴイルの数は閃の軌跡の二次創作最多だと思います。
もっと多い作品とかあったら教えてください。

終の太刀《暁》は原作ゲームよりも強化したつもり。
それと、戦術リンクのシーンはどうだったでしょうか?


次の投稿は来週の予定です。
それでは!




11月28日、追記

マルチドライブはオリジナル設定です。
同一の魔法を多重駆動させて発動する、魔導杖限定の秘技扱い。
いろいろ考えた結果、このようにしました。


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自己紹介会

3連休ということで、3日連続投稿します!
いざ、第4話!
前回に比べて短いですが。


オリエンテーリングが終了し、俺達は本校舎の教室に案内された。

そして、サラ教官から幾つかの連絡事項を聞き、彼女は一旦職員室へ戻っていく。

 

「んじゃ、そろそろ説明すっかな」

 

全員が俺に注目する。

 

「俺が想定する《Ⅶ組》の設立目的は2つ。まず一つがさっき教官も言ってた“ARCUSの試験運用”だ。んで、もう一つが“人材の育成”」

「人材の育成?」

 

エリオットの復唱に頷く。

 

「ああ。考えてもみてくれ。貴族と平民を一ヶ所に集め、同じ教育を施す。つまりこれは()()()()()()()()()()()ってことなんだ」

『!』

 

皆もこれがどういうことか理解したようだな。

帝国でそういうことをするってことがどれほど難しく、画期的か。

これはエレボニアを丸ごと覆すほどの大革命になりうる。

 

「判断材料が少なすぎるから断定はできないけど、教育内容によっては貴族と平民の両方を芯から理解できる、そういった人材の育成が可能なはずだ。貴族と平民の対立が根深いエレボニアではこの先、そう言った人物、人材がきわめて重要になるだろう。そのような人材を集めて部隊を作れば一つの部隊による貴族、平民の問題の両方への介入が一気に容易になる、とかな」

「だから“人材の育成”か・・・」

「そういうことだ」

 

マキアスの言葉に頷くことで肯定。

 

「ま、間違っている可能性もあるし他にも理由はあるかもしれない。それを踏まえて何か言いたいことがあれば受け付ける。なければ自己紹介の時間にしよう」

 

 

 

 

 

というわけで、自己紹介タイムだZE☆

 

「俺はリィン・シュバルツァー。ノルティア州のユミルから来た。さっきも言ったが使う武器は太刀。東洋の技術の集大成とも言われている《八葉一刀流》を修めている。もう一つ言えば俺の戦い方は太刀だけじゃない。この世にある武器は一通り使えるし格闘も得意だ。それに俺には《異能》と呼ぶべき力がある」

「異能?」

 

不思議そうな声を出すフィー。

ラウラは止めるべきかどうか迷っているようだ。

 

「簡単に言えば()()()()()使()()()()()()()使()()()

『!?』

 

驚愕する皆。

エマに至っては完全に固まっている。

ラウラはそんな皆を見てどうすべきか迷っているようだ。

 

「原理は戦術オーブメントによる魔法行使とほぼ同じと思ってくれて構わない。まぁ、いずれ見せる機会もあるだろうし、詳しい説明はその時に」

 

さて、もう一つの重要事項をば。

 

「で、マキアスが訊きたいであろう俺の身分だが」

 

何人かの視線が向かい、焦るマキアス。

 

「俺の身分は“貴族であって貴族でない”というのが正解だ」

「ど、どういうことだ?」

 

マキアスが困惑しつつも少々警戒しながら訊いてきた。

 

「俺の育ての親はユミルの領主であるシュバルツァー男爵家だ。現領主のテオ・シュバルツァーが12年前、身元不明の浮浪児の俺を拾ってくれたんだ」

『・・・』

 

案の定というか、この話をするとたいてい皆暗くなる。

 

「そう暗くなるなって。俺自身は自分の人生を不幸だなんて思ったことは一度もないし、何より、社交界を追い出されても俺を引き取ってくれた両親には感謝してる。それに、俺がシュバルツァー家の養子にならなければ無かった出会いが幾つもあったからな。例えば俺の剣の師匠とか」

「リィン・・・」

 

なおも心配そうな声を出すアリサに苦笑。

 

「まあ貴族とはいってもそれを鼻にかけるようなことはしないよ。むしろそんなことする奴は俺がぶん殴って校庭から校舎の屋上までぶっ飛ばす! てなわけでラウラ、俺の代わりにこの暗い空気をぶっ飛ばせ。全責任はお前の両肩にかかっている」

「ちょ、いきなり!? それになぜそこで無駄にプレッシャーをかける!?」

 

いきなり話を振られ慌てふためくラウラ。かわいい。

 

「んじゃ、まずリラックスしようか。はい息を吸って~」

「う、うむ。すぅ――――」

「吐いて~」

「はぁ――――」

「もう一度吸って~」

「すぅ――――」

「はい息を止めたまま自己紹介!」

「できるか!!」

 

ヤバいこれ超面白い。

漫画だったらラウラの目が飛び出す描写とかされてそう。

当然ながら皆いきなり始まった漫才に目が点になっている。

 

「んじゃ、いい感じにほぐれたところで自己紹介タイム再開といこうぜ。とりあえず順番は旧校舎地下での簡易自己紹介の順と同じで。というわけで次はラウラだ」

「う、うむ。了解した」

 

妙に納得いかなさそうな表情でラウラが頷く。

 

「ラウラ・S・アルゼイドだ。父はリィンの父君と同じ地方領主で、場所はクロイツェン州のレグラムだ。私の流派は《アルゼイド流》。我が剣は父より直接授かったものだ。それと、これはリィンとかぶってしまうが、私はこの身が貴族であることを驕るつもりはない。ゆえに皆にも一人の友として接してもらいたい」

 

マキアスが何やら考え込んでいる。

多分、俺、ラウラと続けて“貴族らしさ”を否定する貴族だったからだろうか。

 

「リィンと初めて会ったのは1年半前、彼がレグラムを訪れた時だ」

 

あ、そうそう、それも説明しなきゃだな。

え? 忘れるのはおかしい?

別に常時完全記憶能力フル稼働させてるわけじゃないよ。

 

「俺は3年間大陸各地を一人旅していたんだ。レグラムに行ったのはその途中だ」

「ちなみにリィンと会うのはその時以来、つまり1年半ぶりだな」

 

へ~、と皆感心しているようだ。

あれ? なんで感心? まぁいっか。

 

「これから1年間、よろしく頼む」

 

俺を含め、皆が拍手。

次はアリサだな。

ところで彼女はファミリーネームを隠していたが・・・。

 

「アリサ・Rよ。ごめんなさい、わけあってファミリーネームは言えないの。導力弓の使い方は私にとっての姉のような人から教わったわ。出身はノルティア州のルーレよ。よろしく」

「ノルティア州か・・・リィンと同じだね。よかったじゃん」

「もうやめて・・・」

 

フィーの言葉にアリサが小さくなってしまった。

これは・・・ダンジョン探索中にもいじられてたな。

 

「ごめん、アリサ」

「もうやめて・・・」

 

うん、ホントごめん。

謝りすぎて罪悪感芽生えさせちゃったならそっちを謝るべき?

え? 余計追い詰めちゃう?

 

「リィン・・・もうやめてあげなよ」

 

エリオットにもそう言われてしまった。

 

「とりあえず、次は僕だよね。エリオット・クレイグです。僕の出身は《帝都ヘイムダル》。魔道杖は適性があるって言われてそれを選んだって感じだね。こんなところかな。皆、よろしくね」

 

さてと、お次は・・・

 

「私だね。フィー・クラウゼル。よろしく」

 

あれ? それで終わり!?

 

「こ、これはもう僕の番でいいのか?」

「早くしろ、阿呆」

「ぐっ・・・マキアス・レーグニッツだ。ファミリーネームからわかる人もいるだろうが、僕の父親はカール・レーグニッツ。帝都ヘイムダルの知事をしている。出身もヘイムダルだ」

 

自己紹介を終えてすぐユーシスと睨みあうマキアス。

こっちもいい加減になさい。

 

「あはは・・・えっと、私ですね。エマ・ミルスティンです。わけあって詳しくは言えないのですが、出身は帝国内部の辺境の地です。魔道杖についてはエリオットさんと同じく適性があると言われて選びました。皆さん、これからよろしくお願いします」

 

おいユーシス。お前の番だぞ。

睨みあってないで進めてくれよ。

 

「ふん。ユーシス・アルバレアだ。クロイツェン州、バリアハートの出身。俺の剣術は、帝国に伝わる宮廷剣術で、俺の兄から教わった。俺の実家は《四大名門》に数えられるが、少なくとも学院内では特別扱いしすぎないでもらいたい。以上だ」

 

で、また二人は睨みあう。

もーやめれってばよ。

 

「俺で最後だったな。俺はガイウス・ウォーゼル。出身は帝国の北にあるノルド高原だ。槍は昔から触れている、俺にとっては使い慣れた武器だ。この学院にはある人物の推薦で入った。いろいろと至らない部分はあるだろうが、よろしく頼む」

 

全員の自己紹介が無事終了し、俺は1回手を叩く。

 

「よし、全員終わったな。まぁ、まずは1年間、よろしくな、皆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、第三学生寮。

自己紹介会が終わり、しばらく雑談してるとサラ教官が戻ってきてここに案内された。

そして各実家から送られてきた荷物は既に寮の1階に纏めて置いてあった。

で、キルシェで遅い昼食を取った後、各自室に荷物を運んで午後は丸々荷物整理。

荷物の量は人それぞれ。

フィーに至っては何もなし。

必要な分はこれから買いに行くそうだ。

経費はサラ教官持ちだとか。ご愁傷様です、教官。

俺は金が有り余るほどあるし、代わりに払ってあげようとも思ったが賄賂扱いされそうで止めた。

とりあえず他の人の荷物運びを手伝い、自室へ向かう。

自室の十分なスペースに『異能』で単発式の術式を仕込み、1階へ。

そこに残っているのが俺の荷物だけなのを確認し、『異能』発動。

纏めて俺の自室へ荷物を転送。

また2階へ上がり、荷物の整理を開始。

 

 

 

 

 

1時間ほど経ち、半分ほどの段ボール箱が畳まれた頃、部屋のドアがノックされた。

 

「はい」

「あの、ちょっといいかしら?」

 

気配で既にわかっていたが、アリサだ。

 

「おぅ、勝手に入っちゃっていいぞ」

「えぇ、お邪魔するわね」

 

アリサが入ってくるが、どうやらかなり緊張しているようだ。

とりあえず椅子をすすめ、自分はベッドに腰掛ける。

 

「まぁ、いろいろと思うところはあるだろうが・・・とにかくすまなかった」

「もう謝らないでいいから! その、こっちこそごめんなさい。いくら動揺していたとはいえ、助けようとしてくれた人に思いっきりビンタするなんて・・・」

「気にすんな。一撃必殺級の紅蓮の槍を喰らうのに比べれば、ビンタなんて可愛いもんさ」

 

あ、アリサが硬直した。

 

「な、何それ・・・じょ、冗談・・・よね?」

「うんにゃ、割とマジ。実際に一度喰らいかけた」

 

その場面を想像したのか、若干震えるアリサ。

と、何かに気付いたように震えを止める。

 

「ちょっと待って、その言い方だと、私以外にもそういうことがあったってこと・・・?」

 

思わず目を逸らした。

 

「貴方ねぇ・・・」

「俺だってしたくてしているわけじゃねぇ! ほぼ不可抗力だ!」

 

それでもジト目で俺を見るアリサ。

 

「リィン、貴方ラッキースケベって言われない?」

「全力で否定したい!」

「否定したいだけでしないのね・・・」

「・・・はい」

 

否定のしようが無いんだってばよ。

泣きたい・・・。

いや、実際に泣いたりはしないけどな。

と、そこでまたノックの音。

 

「はい」

「リィン、入ってもよいか?」

 

今度はラウラか。

 

「いいぞ。勝手に入っちゃってくれ」

 

あ、椅子が無い。

仕方ないので残された段ボールの一つを開ける。

 

「む、アリサか。その様子だと仲直りできたようだな」

「えぇ。心配してくれてありがとう、ラウラ」

 

背後でのそんな会話を聞きながら俺が取りだしたのは折り畳み式の簡易椅子。

ちなみにこれ、俺が前世の知識から導入したものである。特許取得済み。

俺からすればなんで今までなかったのか不思議でしょうがない。

 

「ラウラ、これ使ってくれ」

「うむ、感謝を」

 

ラウラが椅子に座り、俺は再びベッドに腰掛ける。

 

「で、何か用か?」

「うん、そなたの旅の話が聞きたくてな。1年半ぶりに聞かせてもらいたい」

「OK。いいぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間ほど旅の話や雑談をし、二人は自室に戻って行った。

再び荷物整理を開始して更に1時間。

ようやく部屋が片付いた。

ちなみに明日は休日。

荷物が多い人のために明日までは授業が無いのだ。

但し新入生に限る。

俺はもう済んだため、丸1日かけて街を見て回れる。

とりあえずこれから夕食にでもしようと思ったが・・・。

現時刻5時。昼が2時だったので早すぎる。

少し考え、俺はある書類を取り出す。

その数は4。

 

 

1つ目は電気と導力の関係の応用についての論文。

発電は考え方そのものが存在しなかったため、特許取得済み。

それに、電気を利用する機械と導力を利用する機械の融合も実現済み。

この論文はその利便性と理論上可能であろう応用例を纏めるものだ。

例を挙げれば、充電のような形で電気によって導力を充填可能にする機構とか。

電気と導力の相互変換を行いつつ総エネルギーを上昇させる機構とか。

ちなみに上記2つは既に特許取得済みだ。

 

 

2つ目は小説。

俺がロキという名前で出版している書物は幾つもある。

その数は全ジャンル合わせて既に3桁を超えている。

小説、学習用書物、一般向け解説書etc。

まぁ大部分が小説なんだけど。

どれもほぼ前世知識で書いている。

今書いているのはとあるゲームを元にした作品『災厄を喰らう騎士達』

元ネタを言ってしまえば『GOD EATER』である。

作品の名前が違う理由は七耀教会が存在するからである。

空の女神(エイドス)信仰が浸透しているゼムリアで“神を喰う”などと言う表現は使えない。

しかしアラガミの名前はそのままである。

ゼムリアに俺の前世での神話は一つもないからな。

内容も少しいじってある。

機械に関する部分を導力技術に変えることで読みやすくしているのだ。

 

 

3つ目は楽譜。

こちらはオーディンという名前で複数の曲を発表している。

数はもうすぐ3桁といったところ。

前世で気に入った数多くの曲を歌詞も丸ごとパクったものだ。

別にこっちにはない曲だからいいんだよ。

最初の作品はデジモンの『Butter-Fly』。

で、今書いている曲は二つ。

一つは『今咲き誇る花たちよ』。

オリンピックのテーマソングとしても活躍した一曲だ。

もう一つは『君の神話』

創世のアクエリオンEVOLのOPテーマである。

作った曲は帝都歌劇場など、有名な団体にも提供していたりする。

まぁ、金は貰うが。

 

 

4つ目は特許申請用の書類。

簡単に言えば前世の技術でゼムリアに無い物を特許として申請している。

更にゼムリアの既存技術と前世の技術の融合なんかも申請の対象だ。

特許の数は50を超えている。

取得した特許はラインフォルト社などに売ったりライセンス発行したりしている。

売却はともかくライセンスは個人で出来るわけないだろと思うだろうが、そこはコネを活用。

ぶっちゃけて言えばオリビエである。あとクローゼ。

今回申請準備中の特許は“大規模システム用自動管理システム”

その名も『カーディナル』である。

わかる人はわかるであろう。SAOの最重要システムである。

システムの構築法そのもので特許を取るつもりだ。

 

 

 

少し悩んでから執筆途中の小説を手に取る。

他の書類をしまってからペンをとって書き始める。

これから書く部分は初ハンニバル戦の場面だ。

主人公がコウタを庇って神機を壊してしまうシーン。

あ、そうそう。無印・BURST編主人公の性別は男だ。

2編主人公はメイン男サブ女。つまり初期の副隊長は男主。

とりあえず、8時半くらいを目途にするか。

それから食材買ってキッチン借りて自炊しよう。




収入源は大事です。超大事。
論文はゼムリアには存在しない電気技術関連で特許を取るための布石。
小説や音楽は完全記憶能力で前世から持ってきた記憶より引用。
この小説ゼムリアの人達にも読んでほしいなあ、とか。
この音楽この歌手の人に歌ってほしいなあ、とか。

だから言ったじゃない、多方面チートだって。




一撃必殺級の紅蓮の槍・・・。
イ、イッタイダレナンダー




さて、次回投稿は明日正午ごろ予定です。
それでは!


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4月1日

3日連続投稿、本日2日目。
第5話、いきまーす。


起床時間は5時。

俺はベッドから降り、窓に近づいてカーテンを開ける。

更に窓を開けてベランダに出る。

そして、朝の陽射しと風を浴びながら大きく伸びをする。

今日一日は新入生に限り自由行動日。

しかし諸事情により制服で行動しなければならず、電車の使用も禁止。

普段の自由行動日は私服OKである。

とりあえずさっさと着替え、昨夜買ったパンを頬張る。

さて、これから起こるであろう問題が一つ。

 

「郵便受け・・・大丈夫かな?」

 

つまりはそういうことである。

まだ配達される時間ではないだろうし、先に運動しに行こうか。

軽くランニングしながらトリスタを一周しよう。

ついでに学院内の施設の位置とかも見ていこう。

戻ってくる頃には届いているだろう。

期待半分、心配半分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽いランニング程度では汗もかかない俺である。

気配から誰もいないことを確かめ、学院の本校舎の周りを全力で20周程。

異能は使わず、本来の身体能力のみの全力である。

そうやって少し汗をかき、第三学生寮へと戻る。

そんなこんなで現在5時40分。

さて、郵便受けは・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・わぉ」

 

受け取る前から郵便受けに入りきらないことは想定済み。というか確定。

手紙はすべて段ボール箱に入って郵便受けの下に置かれていた。

フィーがうずくまればギリギリ入れそうな大きさの箱に手紙がぎっしり。

ご丁寧に、箱には『リィン・シュバルツァー様宛』と書かれた紙が貼ってある。

手紙の数は軽く3桁に届いているだろう。

丁度郵便受けを見に来たであろうエリオットとマキアスが固まっていた。

 

「す、凄い数だね・・・」

「これ、全部、入学祝いなのか・・・?」

「多分な。ほぼ旅で出会った人たちからだろう。全員団体じゃなく個人で出してるな、多分」

 

二人は軽く街を見て回るそうで、自分宛の手紙を持ったまま外へ行った。

キルシェでゆっくり読むつもりなのかな。

 

 

 

 

 

大量の手紙が入った段ボール箱を抱え、自室へ向かう。

二階へ上がろうとしたとき、ちょうどエマが下りてきた。

 

「あ、おはようございます、リィンさん」

「おぅ、おはよう。皆早いんだな。ついそこでエリオットとマキアスにも会ったし」

「皆さん、慣れない場所で寝たから早く目が覚めちゃうんだと思いますよ」

 

私も同じですし、とエマは苦笑。

 

「そうか・・・俺はいつも5時に目が覚めるんだけどな」

「ラウラさんも朝は早いって言ってましたね。さっき会ったんですよ」

「俺もあいつも武術を嗜んでいるからな。そういう人は朝早く起きて鍛錬するもんさ」

 

ラウラも鍛錬に行ったんだろうしな。入れ違いかな?

 

「リィンさんは今してきたんですか?」

「まぁな。ランニングついでに街をざっと見てきた」

「そうなんですか。あ、そういえばそれは新しく届いた荷物かなんかですか?」

 

エマが指し示したのは俺が抱える段ボール箱。

 

「違うんだなぁ、これが。こいつは今朝届いたばかりの手紙だ」

「えぇ!? これ全部ですか!?」

 

エマのリアクションもなかなかに面白い。

 

「家族とか、故郷の人達、それと旅で出会った人達からの入学祝いさ」

「そうですか・・・。なんか、旅って憧れますね」

「そうだろう? 何ならエマもやってみたら?」

「えぇ!? そ、そんな、私には無理ですよ!」

 

体力もありませんし・・・、と続けるエマ。

 

「徒歩だけが旅じゃないんだ。電車で大陸横断の旅なんてのも面白いと思うぜ」

「いいかもしれませんね。卒業したら行ってみようかな・・・」

「おぅ、そうしろ。で、エマはこれから外? エリオット達はそうしたけど」

「はい。キルシェで何か買おうと思いまして。確か今日だけ開店が早いんですよね」

「らしいな。俺もさっき飲み物買って飲んできた」

 

新入生のためにだったはずだ。

慣れない新生活で早起きする生徒が多いかららしい。

キルシェは5時半に開いた。

 

「んじゃ、俺はこれで。よい休日を」

「あ、はい。よい休日を」

 

俺はエマと別れ、再び自室へ向かう。

 

 

 

 

2階に着き、部屋に入ろうとしたとき、ガイウスが彼の自室から出てきた。

 

「お。おはよう、ガイウス」

「ああ、おはよう、リィン。君も早いな」

「まぁな。といっても今日は皆早起きらしいけど」

 

新生活に慣れないからな。

 

「そうか。俺はむしろ夜眠れなくてたった今起きたところだ。いつもはもう少し早いが」

「あ~、そっちか。俺はいつも通りだけどな」

「旅で慣れていたから、か?」

「正解」

 

旅では寝る環境も様々だったからな。

 

「んで、これは旅先で出会った人達からの入学祝い」

「なるほど、多いな。それだけリィンの人脈の広さが伺えるな」

「サンキュー。あ、それと、キルシェは今日限りだけど既に開いてるぞ」

「ふむ・・・ならばそこで朝食にするか。リィンも一緒にどうだ?」

「俺はこれから手紙の開封で忙しくなるから。この量だと読むのも一苦労だぜ」

「そうか。なら、俺はこれで」

「んじゃな」

 

ガイウスは下に降りていき、俺は自室へ入る。

さあ、手紙を読もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いたらもう13時。

手紙を読むだけで7時間も費やしたことになるのか。

とりあえず一通り読み終えたけど、朝食抜きになってしまった。

ランニング前に食べたパン1個は朝食に入らない。

気付いたら猛烈に腹減ったな。

・・・よし、自炊しよう。

 

 

 

 

というわけでブランドン商店へ。

鶏肉や卵、調味料幾つか、などなど。

キッチンには何も無かった。

調味料や食材はおろか、食器や調理器具すらも。

強いて言うなら水道とクッキングヒーターと冷蔵庫と換気扇のみ。

なんとヒーターは最新式の導力IH。

冷蔵庫は個人の部屋の小さいものとは違い、600L代の大きなやつ。

そんな状況だったから昨日はキルシェで夕食にした。

せめて電子、じゃなかった導力レンジとオーブントースター、食器洗浄機は欲しい。

あと炊飯器も。

ミキサーとかはまたいずれ。少なくとも今すぐには必要ない。

トリスタは帝都に近く、人口もそこそこ多いため、大体の店が揃っている。

今日、新入生だけが休日なのも生活必需品をそろえる時間を作るため。

寮に戻って買った食材を冷蔵庫へ投入。

とりあえず次は調理器具と食器だ。

まず早急に必要な分だけ買う。

残りの器具等や導力レンジ他あたりは昼飯食ってから買いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キッチンに戻り調理を開始。

導力レンジを買ったら自由行動日とかに照り焼きチキンピザを作りたい。

焼いた鶏肉を薄切りにし、塩コショウを軽く振りかける。

 

「今から作るのか?」

「お、ユーシス」

 

ユーシスがキッチンに入ってきた。

俺は作業を続けながら

 

「いやな、飯食うのが遅くなっちまって。朝も食い忘れたし、少し多めにと思ってな」

「お前でも抜けているところがあるんだな」

「人間、完璧なんてありえないよ。皆はもう食べちゃった?」

「全員キルシェでな。ついでだがコーヒー豆を買ってきた。よければ使うがいい」

「おぅ、サンキュ」

 

俺にコーヒー豆を渡し、ユーシスは自室へ戻っていった。

コーヒーメーカーを買わないとな。

とりあえず今は俺の昼食。次は卵だ。

 

 

 

 

 

「おいしそう」

「食べてきたんじゃないのか?」

 

現時刻14時。いかん、昨日の昼と同じような時間になってしまった。

フィーが俺の作った遅い昼食をじーっと見ている。

 

「そうだけど、これ見たらおなかすいてきた」

「おいおい・・・」

 

俺が作ったのはハンバーガーのようなもの。

太くて短めのコッペパンに調理した具材を挟んだものだ。

鶏肉や卵、チーズにトマト、白身魚などなど。

ちなみに個数は15個。

朝食を抜いてしまったため、多めに作った。

 

「2、3個食べていい?」

「つまみ食いにしては多すぎるだろうに」

 

と、そこにアリサが入ってきた。

 

「リィン、今から昼食? ずいぶん多いわね」

 

アリサが俺の昼食を見て察したのか、そう尋ねてくる。

 

「まぁ、な。手紙呼んでたら朝も食い忘れちまってさ・・・」

「手紙ね。エリオットから聞いたけど、ずいぶん多かったらしいじゃない」

「そ。読んでたら朝も昼も過ぎちまった」

「また夜が遅くなりそうね。で、フィーはなにしてるの?」

 

アリサが今度はフィーに尋ねる。

 

「ん、分けてもらおうとしてる」

「貴女もう食べたじゃない・・・」

「だっておいしそうだし」

「あ~、確かにそうね。リィンって料理得意なのね」

 

そんな言葉に肩をすくめる俺。

 

「一人旅に自炊は必須スキルだからな。それにプロには及ばんさ」

「でも凄いじゃない・・・ねえリィン、私にも少し分けてもらってもいい?」

「アリサもかよ」

「半分でいいから、ね? お願い」

「・・・フィーと半分ずつな」

「ええ、ありがとう!」

 

喜ぶアリサに対し、フィーは不満げ。

 

「リィンのケチ」

「いや、あんまりやると俺の分が減るからな!?」

 

結局、俺が食べた個数は14個になったのである。

大食いなのは自覚している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅い昼食が終わり、寮を出たところでラウラに出会った。

 

「お、ラウラ」

「リィンか。そうだ、これから手合わせを頼んでもよいか?」

 

ラウラらしいといえばらしいな。

 

「悪ぃ、今飯食ったばっかだし、止めとくわ」

「む、そうか」

 

少ししょぼんとするラウラ。

そんな様子を微笑ましく思い、彼女の頭を撫でる。

 

「な、なにをする!?」

1年半前のように慌てふためくラウラ。

「何って、見ての通り頭を撫でているんだけど?」

「そ、そういうことではない!」

 

からかうのもこのくらいにしとくか。

 

「ぁ・・・」

「ん? どした?」

「な、なんでもない!」

 

そうは見えないんだけどな。まぁ、言いたくないならそれでいいが。

 

「これから買い物に行くんだけどさ、何か、欲しい食べ物とかないかな?」

「いや、今のところは特にないな。夕食を買いに行くのか?」

「それもあるけど、メインは足りない調理器具とか家庭用導力機、あと食器だな」

 

家庭用導力機とは家電製品のことである。

主に炊飯器とか導力レンジとか。

 

「そうか。ならば私も同行しても良いか?」

「おぅ、いいぜ」

 

そう言うと、ラウラは嬉しそうに微笑む。

 

「うん、では行こうか」

 

 

 

 

 

 

途中、エリオット、マキアス、エマ、ガイウスに出会い、皆で楽しく買い物したことをここに追記しておく。

 

 

 

 

 

 

おっと、忘れちゃいけないことがあった。

というわけで、買った家電や調理器具を持ち帰る道中、皆に訊く。

 

「今晩さ、第三学生寮で食事会やりたいと思ってるんだけど、皆はどう?」

 

昼が遅かったから俺はあまり食えないかもしれないけど。

 

「いいね、やろうよ!」

 

真っ先に賛同してくれたのはエリオット。

他の皆も笑顔で賛成してくれた。

後はこの場に居ない3人、アリサ、フィー、ユーシスだが・・・。

 

「ラウラはアリサに、エマはフィーに、ガイウスはユーシスにARCUSで訊いてみてくれ。時間は・・・そうだな、7時から7時半辺りに準備開始にしよう」

 

3人がそれぞれARCUSを取り出し、連絡する。

 

「アリサは大丈夫だそうだ」

「フィーちゃんも参加するそうですよ」

「ユーシスも問題ないと言っている」

「よしOK、全員参加だな」

 

さて、俺は大体のものは作れるが・・・。

 

「皆は得意な料理って何かあるか?」

 

居ない3人には後で聞くとして。

ラウラは?

 

「うむ、乳製品を主に使った料理なら慣れている」

 

エリオットは?

 

「う~ん、卵料理かな。オムレツは得意だよ」

 

マキアスは?

 

「料理は殆どしたことがないな。コーヒーはよく煎れるが」

 

ぬぅ・・・。

エマ。

 

「野菜を使った料理ですかね。故郷ではほぼ野菜でした」

 

最後にガイウス。

 

「肉料理、特にステーキとかだな。ノルドでは狩った獣を自分達で調理するからな」

 

ほー、けっこう分かれてるな。

マキアスにはコーヒー豆を買ったのがユーシスだってことは言わないようにしよう。

 

「導力機のセッティングが終わったら、アリサたちも連れて今度は食材を買いに行こう」

 

現時刻は5時。皆でのんびり買い物をするのに十分な時間がある。

 

 

 

 

 

 

アリサ。

 

「お菓子以外ではハンバーグが得意ね。姉代わりの人と一緒によく作ったわ」

 

フィー。

 

「ん・・・魚料理かな。私は釣りはしないけど」

 

ユーシス。

 

「スープの類が一番得意だ。それなら初めて作るものでも上手くやれる」

 

なるほどなるほど。

こうしてみると皆得意分野が随分きれいにばらけてるな。

そして俺はオールラウンダー。というか照り焼きチキンピザ作りたい。

いや、それは次の時に回すか。

ならば・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三学生寮の扉が勢いよく開かれた。

入ってきたのはⅦ組の担任、サラ・バレスタイン教官。

この人は第三学生寮の寮監でもある。

学院での仕事を終え、戻ってきたのだろう。

入ってすぐ、彼女はある部屋から漂う匂いに気付いた。

匂いのもとであろう部屋に向かい、扉を開ける。

その部屋はキッチン兼食堂となっており、そこにはⅦ組の全員が居た。

何人かが料理をし、キッチンに入りきれない残りの人が食堂のテーブルで下ごしらえや盛り付け、食器の準備などをしている。

自らも動き回りながら彼らを指揮しているのはリィン・シュバルツァー。

Ⅶ組の設立から2日目で既にリーダーの枠に収まっている少年である。

状況を飲み込めず立ちつくすサラに、彼女の一番近くに居たガイウスが詳細を伝える。

曰く、Ⅶ組設立記念と自分たちの入学祝いを兼ねた食事会である、と。

リィンはサラにも手伝いを要求し、彼女が準備に加わる。

そうして、ほぼリィンの予定通りの時間に全員が席に着いた。

テーブルの上には、野菜サラダ、オムレツ、ハンバーグ、コーンスープ、魚のムニエル、サイコロステーキ、シーフードピザ、フルーツヨーグルトとかなり豪華。

サラが乾杯の音頭を取ることをリィンに提案され、それを承諾する。

彼女の音頭に合わせ、全員が手に持つグラスやコップを掲げる。

その後は、皆が作った料理を食べながら雑談などを楽しむ。

例によってマキアスとユーシスが睨みあい、その光景に呆れつつ苦笑したり。

何気にリィンの隣に座るラウラの表情が嬉しそうに輝いていたり。

エリオットが皆のリクエストに答えてバイオリンを弾いたり。

そんな中、リィンが食事会を企画したと知り、内心で彼の評価を上げるサラ。

評価された本人は、皆に旅の話を聞かせている。

聞いている皆、そしてサラも、その話を楽しんで聞く。

こうして、1204年4月1日は笑顔とともに終わりを告げた。




本日のメイン、それは食事会。
マキアスには今後上達してほしいものです。

ラウラが一番ヒロインしている(笑)
一応出番は全員に平等に与えたつもりだったんですがね。

リィンは料理もハイスペックです。
誰が何を作ったかは大体わかると思います。


次回投稿は明日。それでは!


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4月10日

3日連続投稿最終日。
レッツ6話目!
サブタイが前話とかぶっているのは気にしない方向で。
だって思いつかなかったんだもん!


「そのドライケルス皇子が最初に挙兵した辺境の地ですが・・・リィン・シュバルツァー君。その地がどこなのかご存知ですか?」

 

トマス・ライサンダー教官による帝国史の授業。

 

4月10日、土曜日。

この日最後の授業だ。

獅子心皇帝が挙兵した地・・・それなら知っている、というか旅の途中で立ち寄った。

 

「ノルド高原。帝国の北東に広がる高原地帯です」

「はい、正解です。ちなみに、リィン君は少し前まで旅をしていたと聞きますが、ノルド高原には行ったことがありますか?」

「ええ、まぁ」

「後で話を聞きたいものですね。と、授業に戻りましょう。当時、ドライケルス皇子は・・・」

 

あ~、何か目つけられたっぽい?

何人かが同情の視線を向けてくる。

教員方の中にもこの人の被害にあっている人も居るらしいし。

サラ教官もその一人だそうだ。

でもなぜだろうか、この人かなりの強者だ。

・・・まぁ、そのうちわかるだろ。

それはさておき、授業授業。

 

――――そんな授業風景の一幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実はドライケルス本人に会ったことがあるっていうのは内緒。

過去にタイムスリップしたことがあってだね。

俺はあいつのことをドライクって呼んでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、まずは9日間、お疲れ様」

 

放課後のHR。サラ教官が話す。

4月1日は1年だけ特別休暇だったため、代わりに4日は1年だけ授業日となった。

 

「明日は1年にとって、初めての自由行動日ね。1日の特別休暇と違って、私服も許可されているし、前日までに申請すれば鉄道の使用も許可されるわ。但し、鉄道で行ける範囲は限定されるし、就寝時間までに寮に戻ってこないと罰則があるわよ。明日は最初だし、学院の各施設やクラブ活動を見て回る人が多いと思うわ。講堂以外の学園の施設は自由行動日には基本開放されているけど、節度を守った行動ができないと施設の閉鎖もありうるから、注意して頂戴」

 

鉄道で行くとしたら帝都辺りが距離的にもちょうどいいだろう。

それ以上遠くだと十分に楽しめる時間が無いだろうからな。

 

「最後にもう一つ。羽目を外しすぎて体調を崩すなんてことが無いように」

 

サラ教官の話はそこで終わり、副委員長であるマキアスが号令を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、二人はクラブはもう決めた?」

 

HRが終わり、皆が自由行動に移る。

フィー以外の女子3人は教室の外で楽しそうに雑談。

俺とエリオット、ガイウスは俺の机のに集まって、こちらも雑談。

他のメンバーは外に出て行った。

そんな中、エリオットが俺とガイウスに訊く。

 

「俺は美術部というところに入ろうかと思っている」

 

意外。ガイウスって絵が趣味なのか?

 

「絵は故郷に居た頃、たまに趣味で描いていた。しかし、ほぼ我流だからきちんとした技術を学べるのはありがたいと思ってな。エリオットはどうだ? もう決めているのか?」

「うん、吹奏楽部にしたよ。昔から音楽は好きだからね」

 

なるほど、なんとなくエリオットらしい気がする。

 

「そうか。リィンは決めているか?」

 

俺の番、だな。

 

「俺は特定のクラブに所属するつもりはないかな。個人的には自由が一番だし。気が向いた時に適当なクラブに遊びに行こうかなって考えてる。女子限定のラクロス部は除くけどな」

 

へぇ~、という声をあげる二人。

 

「なんだかリィンらしいね。でも、そういう考え方もあるんだなぁ」

「そうだな。型に嵌らない考え方がいかにもリィンらしい」

「おいガイウス、その言い方じゃ俺がキチガイみたいじゃねぇか」

「い、いや、俺はそんなつもりでは・・・」

 

思わぬことを言われ、焦るガイウスを見て、俺とエリオットが笑う。

そして彼らはそれぞれの部活・・・じゃなくてクラブへ向かう。

・・・どうもクラブって聞くと小学生のイメージがなぁ。

そんなことを考えつつ、俺も教室を出た。

もちろん、鍵を閉めて教員室へ返しに行くのを忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今日は行ってみたい場所があるんだ。

中庭を通ってその場所へ向かう。

その場所、とは技術棟。

技術部が独占中の建物らしい。

そこの部長がかなりの技術を持っていると聞いた。

俺も自分の技術にはかなり自信がある。

なにせ俺には脳のリミッターがぶっ飛んでいるという規格外な要素がある。

更に異能を応用した独自の技術は十三工房やエプスタイン財団、ZCFやラインフォルト社、ヴェルヌ社等の技術団からのお墨付きだ。

超能力から術式と呼ぶべきものを構築。

それを機械や物などに組み込んで永続化させることで、普通の技術にはありえない機能を付加することが可能になるのだ。

ちなみに、この術式は完成品に組み込むのではなく製作中に回数を分けて組み込む。

そのほうが確実に永続化できるし、より精密な術式を組み込むことが可能だ。

術式によって付加できる機能は様々。

空間に作用したり、エネルギーを大量に溜め込めるようにしたり。

生命力、自意識などをを構築することも可能。

上手くやれば機械生命体とかも作れる。

この技術、一部の人達には《魔導異端技術》、略して魔術なんて呼ばれている。

だが俺は魔術じゃなくて《術式技術》って呼んでる。

俺にとって魔術というのはまた別物だから。

ちなみに魔術はユミルでしか使えない。

更にもう一つ、業界から認められている俺専用の技術がある。

前世の知識をそのまま流用したものだ。

名付けて、《電力技術》。

導力に対し、全く異なる電気というエネルギーを使うからだ。

電気と導力の融合という研究もやっている。

 

それはさておき、いざ、技術部へ。

誰が見ても異端な術式技術が使え、前世の地球の技術も持つ俺だが、別にこの世界の技術が完璧にできるわけではない。

現代ゼムリアの技術に関しては技術屋が、古代ゼムリア技術に関しては七曜教会が詳しく、俺が持つそれらに関する知識など、彼らに遠く及ばない。

少し前、アーティファクトを改造しようとしたが、無理だった。

わけがわからないことになってしまったそれは、おとなしく教会に預けた。

いや、ぶっちゃけ押し付けたようなものか。

ともかく、新しい技術が習得できるかもしれないし、技術部現部長で唯一の部員らしいその凄腕技術者と気が合うかもしれない。

俺達が持つARCUSの整備もその人がやっているらしい。

ARCUSの話を聞くだけでも有意義に過ごせそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

技術棟の手前の広場に、二人の人が居た。

比較的俺の位置に近いほうに、黒いライダースーツの人。

気配からして女性だ。というか俺の知り合いだ。

もう一人は入学式の日に会った、黄色いツナギの男。

そのツナギの男がいじっている物は・・・バ、バイクだ。

え、マジ?

今まで旅しててバイクは概念すら見なかったというのに。

本物が目の前にありやがる。

 

と、ライダースーツの女性が俺に気付いた。

 

「おや、リィンじゃないか。久しぶりだね」

 

そう言った彼女は、半年前に帝都の近くで出会った人。

ログナー侯爵家のアンゼリカ・ログナーだ。

ツナギの男もこちらを見る。

 

「よっす、アンジェ。久しぶり。ここの生徒だったんだな」

「そういえば、言ってなかったね」

 

アンジェとは、俺が彼女に付けた徒名である。

 

「アンジェっていうのは、アンの徒名なのかな。二人は知り合いかい?」

 

ツナギの人がそう言った。

 

「ええ、半年前に会ったんですよ。改めて、リィン・シュバルツァーです」

「僕はジョルジュ・ノーム。宜しく、リィン君」

 

自己紹介の後、改めて俺とアンジェの関係について聞かれる。

 

「半年前、いつもみたいにバイクで帝都に行ってね。あぁ、その時は一人だったよ。それで、帝都の近くに妙な魔獣が出たっていう話を聞いたから、行ってみたんだ」

 

アンジェの話に、俺はあることに気付く。

 

「そっか、あの時もアンジェはバイクで来てたんだ。そこからは徒歩?」

「あぁ、そうだね」

「なるほど。で、話を戻すけど、俺もその魔獣の話を聞いて、調査していたんです。そこでアンジェと出会って、共同戦線を敷いたのが知り合ったきっかけですね」

「なるほど、そうだったのか」

 

ジョルジュ先輩が頷く。

 

「そういえば、ジョルジュには敬語を使ってるけど私には使わないのかい? 一応私も君の先輩なんだけどね」

「え? いやほら、アンジェには、あの時も敬語使ってないし」

 

今更敬語ってのも違和感が、ねぇ?

 

「はは、アンにタメ語なら僕にも同じくタメ語でいいよ」

「サンキュ、そうさせてもらうよ、ジョルジュ」

「き、切り替え早いね・・・」

 

ジョルジュに苦笑された。

 

「ところで、リィン君は導力バイクを知っているのかい? これは現在研究中で、まだ世の中には出回ってないはずだけどね」

 

そういえばさっきの会話の時いかにもバイクを知っているような口調で話したな、俺。

流石に前世の知識だなんて言えないし。

というか“導力”バイクだから俺の知ってるバイクと構造はいくらか違うだろうし。

 

「あ~そこは・・・まぁ、うん。そういうことだよ」

「いや、どういうことさ」

 

言えない、ごめん。

 

「ジョルジュ、ここは訊かないであげよう」

「え? あ、うん。わかった」

「スマン・・・」

 

 

 

 

話を変えよう。

 

「ところで、このバイクを作ったのって・・・」

「僕だよ」

 

やっぱりか。

 

「いろいろと試行錯誤しながらレポートを纏めて、ルーレの工科大学に提出しているんだ」

「試運転は私の役目でね。たまに誰かを連れてツーリングに行ったりもしてるよ」

 

ほー。

 

「まぁ、アンのツーリングは大体女の子とのデートだけどね」

「なんだ、いつものアンジェか」

「そういえば、あの時リィンも見ていたね」

 

一連の事件が終わって、帝都に戻った時、アンジェは街の入口で女子に囲まれてたからね。

ずいぶん心配されてたみたいだからな。

その時、その場で個別にデートの約束を取り付けてたし。

いろんな意味でびっくりしたよ。

まさにレズハーレム。

 

「ジョルジュ、バイクはその1台だけ?」

「今のところはね。でも、どうしてそれを訊くんだい?」

「いや、ね。俺もバイクを作りたくなってきたから」

「「乗るほうじゃなくて作るほうか!」」

 

二人にツッコまれ、俺は笑う。

ここでは言わないが、俺が作りたいのは仮面ライダーのバイクだ。

ドラグランザーとかは機械生命体として作れるはず。

その後は、ジョルジュと技術について話し合って、なんか互いにヒートアップしてしまった。

アンジェが置いてけぼりになって、暇そうにしてたり。

偶に遊びに来ることを約束して、俺は技術棟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、二人で熱くなるから、私は暇でしょうがなかったよ」

「ははは、ごめんごめん。それにしても、アンにとって彼は特別なんだね」

「急にどうしたんだい?」

「いやね、なんだかアンのリィン君を見る目が熱っぽかったからさ」

「・・・隠してたつもりなんだけどね」

「いやいや、意外とわかりやすいよ。多分クロウやトワにも一発でバレるだろうね」

「・・・ははは」

「クロウが目を丸くして大げさに驚く姿が想像できるよ」

「ぷっ、確かに」

「でも意外だね。アンは彼が入学していたことに気づかなかったのかい?」

「私がチェックしていたのは女の子だけさ。まさかリィンがトールズに来るなんて想像すらしなかった。卒業してから、彼を追いかける旅にでも出たかったんだけどね」

「そうか。でも結果的に良かったじゃないか、また会えたんだし」

「あぁ、そうだね」

「今度彼と一緒にツーリングにでも行ってきたらどうだい?」

「いいかもしれないね。明日、誘ってみるよ。それまでに、バイクの調整、頼むよ」

「任せて。バッチリ仕上げるよ」




リィンにしか使えない術式技術。
今後もちょくちょく出てきます。
主に四次元バックとか。
機械生命体もいずれ出す予定。

リィンはトマス教官の正体については知らないです。
たまたま彼に会ってないだけで、リィンは騎士達とは関わりがあります。
ロジーヌは教会所属じゃないことにしています。




次回投稿は来週予定。
土曜日の予定です。
それでは!


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魔導術

解説回みたいになってます。

第7話、スタート!


「やあああぁぁぁぁ!」

 

ラウラの剣が真上から迫る。

俺は彼女の剣の横腹に打撃を加え、剣閃を逸らすと同時に俺自身も逆方向にずれ、剣を躱す。

剣が地面に刺さるが、彼女はすぐさま剣から手を放し、俺に拳を打ち込もうとする。

両手で一発ずつ放たれた拳打を受け流し、ラウラの腹に一撃。

ラウラはこれを自ら後ろに飛んで衝撃を軽減。

その際にうまく地面に刺さった剣を引き抜き、再び構える。

 

「いくぞ! 《洸刃烈閃》!」

 

見たことが無い技。ラウラが独自に作り上げた技だろうか。

光を纏った剣を下段に構え、突進しながらの斬り上げ。

威力、速度ともに申し分ない。

これほどの技なら達人相手にも十分やれるだろう・・・だが、

 

「《三連・獅子戦吼》!」

 

獅子の頭部を模した闘気を左手、右脚、右手と連続で放つ。

その連撃はラウラを剣ごと吹き飛ばした。

地面に転がった彼女から、少し離れた位置に剣が突き刺さる。

 

「よし、この辺で終わりにしよう」

「わかった。そなたに感謝を」

「おぅ」

 

言葉を交わして現在朝6時。

 

 

 

 

 

4月11日、日曜日。

俺達トールズ1年にとって初めての自由行動日だ。

朝からラウラに捕まって彼女との手合せをしたところ。

但し、俺は素手で。

それが今終わったため、これから朝食だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の朝はサンドイッチ。

昨晩それぞれが好きな具を買って冷蔵庫へ。

それらの具を使って俺とアリサ、フィーで作った。

作る際にアリサと技術の話題で盛り上がり、なかなか楽しめた。

フィーが「夫婦みたい」と冗談を言ってアリサが真っ赤になってしまったのはご愛嬌。

俺はこういう冗談は言われなれているが、アリサはそうじゃないようだ。

だから真っ赤になってしまうのは仕方ないだろう。

そういうことだからラウラ、こっちを睨むの止めなさい。

俺がやらかしたわけじゃないってば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリオット、エマ。二人は魔導杖にはもう慣れたか?」

 

寮の食堂で集まって朝食。

そんな中、俺は二人にそう尋ねる。

 

「少しはね。でもまだまだかな」

「私もですね。なかなか奥が深いですし・・・」

 

まぁ、そうだろうな。

まだ試験運用段階だって言うし。

 

「じゃあ午後にでも旧校舎で実践練習でもするか? 学院長に言えば鍵を貸してくれるらしいし。戦術リンクの練習も一緒にしておいた方がいいな」

「それは、僕とエマの二人でってこと?」

「いや、俺もついていく。何なら俺の異能を披露してもいいぜ」

『何っ!?』

 

お、おおう、全員が反応した・・・?

 

「リィン、それ本当?」

 

フィーが目をきらきらさせながら訊いてくる。

 

「お、おぅ・・・」

「行きたい人は手を挙げて」

 

アリサの言葉にもれなく全員が挙手。

そ、そんなに見たいか・・・。

 

「あれ、ラウラはもう見ているよな?」

「うむ、だが私一人だけ行かないという理由は無い」

「お、おぅ。じゃあ、午前中は自由行動。早めに昼食を食べて午後1時あたりに探索開始ってことでいいか? 俺が鍵を取りに行く。集合場所は旧校舎前ってことで」

 

その時、食堂の扉が勢いよく開いた。

 

「話は聞かせてもらったわよ!」

「サラ教官も・・・?」

「当然よ。私だって見たいわ」

 

そ、そうか・・・。

 

「じゃあ、鍵を貸してもらったら連絡するよ。その後すぐに集合ってことでOK?」

『OK!』

 

ノリいいなお前ら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、現在午前9時。

書き終えた手紙の返事を出す。

ようやく全部返し終えた・・・。

これからは個人じゃなくて団体ごとに出して欲しい。

返事が書ききれねぇよ。

とりあえず手紙も出したし、一度寮に戻って・・・

 

「やぁ、リィン。探したよ」

「あれ、アンジェ?」

 

声のほうにはアンジェの姿が。

って、俺を探してた?

 

「これから一緒に帝都までツーリングに行かないかい?」

「あ~、悪ぃ、午後から皆と旧校舎に行く約束してるんだ」

「そうか・・・なら今日は無理かな」

 

ってことはまた誘う気だな。

 

「つーか帝都に着いた途端お前を慕う女子達に敵意を持って囲まれる未来しか想像出来ないんだけど。そうなったら穏便に対処できる自信ないよ? だいたい物理で突破とか」

「そんなことは無いと思うけどね。あの娘達も君には好意的なほうだと思うよ」

「んな冗談はいらん。慰めにもなんねえよ」

「いや、別に冗談じゃないんだけどね・・・(小声)」

「ん? 何か言った?」

「なんでもないよ。そうだ、旧校舎の探索、私も行っていいかい?」

 

アンジェも来る気か?

 

「別にいいけど。Ⅶ組全員にサラ教官も来るよ?」

「それは構わない。ま、皆に拒否されたら諦めるけどね」

 

拒否はされないと思うけどな。

 

「午後1時前に旧校舎前に集合だ。昼は早めに取っておいてくれ」

「ふふ、了解だよ。それじゃ、また午後に」

「おぅ」

 

アンジェは学院方面に戻っていった。

さて、俺も寮に戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼はキルシェで買ったパン6個。

午前中は小説や楽譜、論文等の続きを書いて過ごした。

そんなこんなで現在旧校舎前。

既に鍵は借りてきた。

今この場に居るのはⅦ組メンバーにサラ教官、そしてアンジェ。

アリサとアンジェが知り合いだったのには驚いたが、それ以外は特に問題なし。

鍵を開けて旧校舎に入る。

流石に今回は落とし穴は使わない。

というわけで適当に行って戻っての道になるだろう。

さぁ、レッツゴー。

ガーゴイルは石像から魔物になる前に真っ二つにしておこう。

いざ、テイルズシリーズの奥義、次元斬!

空間ごとスパーンとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆は、魔獣がどうやってアーツを使うか知っているか?」

 

説明スタート。

まずはこんな質問から。

 

「一部の魔獣はアーツを使うためにセピスを体内に溜め込んでいるって言う説がある。まぁ、この説に従うならアーツを使わない魔獣がセピスを摂取する理由がわからないんだけどな」

 

とはいえ、異能で確かめたらこれが事実であることがわかったんだが。

 

「で、ユミルで魔獣を捕獲していろいろ調べてみたんだよ。そしたら、魔獣が体内にセピスを使った回路のようなものを形成していることがわかったんだ」

「回路?」

 

マキアスの言葉に頷く。

 

「クォーツって内部に回路が刻み込まれていることは一般に知られているよな? んで、魔獣はセピスを体内に配置してその間を体組織の一部を使って繋いでいるんだ。それによって様々なことができるようになる。例えば、七曜石が元々持っているエネルギー補充機能とかも再現できるんだ」

「そうだったのか・・・」

 

ユーシスの言葉にまた頷く。

 

「で、そのエネルギー補給なんだけど・・・あれ、実は空気中に漂う霊力とか魔力とかを取り込んでいるんだよ。七曜石も魔獣も」

「えっ!?」

 

何人かの驚く声が聞こえる。

この事実、俺は未だ発表していない。

証明した手段が手段だしな。

詳細を言えば、異能によるスキャニング。

確実ではあるが、その確実性を証明のしようが無いっていうね。

 

「で、ここからは俺の異能の話。俺の異能って正体は人間の脳が本来もつ力なんだ」

 

話を聞いた皆が混乱している。まぁ、当然か。

 

「医学界で言われていることなんだけど、人間の脳ってリミッターがかかっているんだよ。それが身体能力の一部を制限したり思考能力を抑制したりしている。で、俺はそのリミッターがぶっ飛んでんだ。そうすると、脳内の演算などによって体の外の空間にも影響を及ぼすことができる。さらに、脳の中から特殊なエネルギーが生まれるんだ」

 

実はこのエネルギー、演算せずとも思考によって操れる。

 

「脳にリミッターがかかっている理由は、リミッターがないと脳や体に負担がかかるからなんだ。少なくとも、5~6歳辺りまでの子供はその負担に耐え切れず、体が崩壊する」

 

前世の俺は一部しか外れていなかったから耐え切れた。

 

「だから、俺はできるだけ負荷を掛けずに異能を最大限に行使できるように工夫をしている。そこで、さっき話した魔獣の体内にある回路だ」

 

誰かが息を呑む音が聞こえた。

 

「脳内から発する特殊エネルギー、便宜上、俺はPSIエネルギーって呼んでる。これを体内に巡らせ、セピスの代わりに回路を作るんだ。まず、肺とその周囲に回路を形成し、呼吸を通して霊力や魔力を取り込む」

 

霊力や魔力は一度取り込めば異能を使わずとも体内で自由に動かせる。

氣の操作と同じやり方でだ。

 

「で、泰斗流って知ってるかな? アンジェもその使い手なんだけど。それで、肉体の生命活動によって生じるエネルギーと精神力で生み出す闘気を混ぜ合わせて《氣》って言うのを生み出すんだけど、詳しくはアンジェに聞いて。そのほうがわかりやすいから」

 

説明丸投げ。

当然、何人かが苦笑する。

もちろんアンジェも。

 

「で、取り込んだ霊力や魔力と氣、それにPSIエネルギーを練り合わせることで新たなエネルギーに変える。これを俺は《魔導力》って呼んでる。で、その魔導力をPSIで作った回路に通して魔法を使えるってわけ。魔導力の代わりに氣や霊力、魔力にPSIなんかを使うこともできるけどな。でもその場合、威力とか精度とかは落ちる」

 

あ、何人かが理解を放棄してる(笑)

ちなみに魔導力は『NARUTO』でいう《仙術チャクラ》に+αしたようなものである。

NARUTOに当てはめれば“氣=チャクラ”だしね。

 

「この魔法を、俺は《魔導術》って呼んでるんだ」

「《魔導術》・・・」

 

エマの呟きが、静寂の中、空中に溶けて消えた。

 

 

 

 

「で、魔導術の前提になる俺の異能なんだが、一部の奴らからは《龍の力》なんて呼ばれてる」

 

本当はその言葉、俺の中では別のものを指してたんだけどな。

それまで龍の力と呼んでいたものは、《龍神の力》に名称変更。

《龍神の力》の存在、俺以外は誰も知らないけどな!

それに、《鬼の力》っていうのも別にあるんだよ。

《鬼の力》の命名はカンパネルラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際に使って見せよう。その方がわかりやすいだろ? ってなわけで、ザケル!」

 

手から雷を放射して魔獣に浴びせる。

だが銀色ではなく金色である。

その威力は一撃で複数体をを葬るほど。

テオザケルの方が強いけどな!

元ネタは『金色のガッシュ!!』という漫画。もちろん前世の。

 

「エクスプロード!」

 

要するに爆発。炎属性の魔法。

元ネタは前世のゲーム、テイルズシリーズ。

 

「アイスメイク――槍騎兵(ランス)!」

 

氷の槍が数本、魔獣に突き刺さる。

但し構えは不要。

元ネタは前世の漫画『フェアリーテイル』。

他にもDQとかFFとか伝勇伝とかetc。

『NARUTO』の忍術も再現可能。

印は結ばなくていい。

入口に戻って再びVSガーゴイル。

奴は復活していた。

 

「バオウ・ザケルガ!」

 

前世では皆さんご存知、ガッシュの最強術。

但し俺は手から出す。色は金色だぜ?

もちろん一撃必殺。

俺の中では龍を模した魔導術が最強。

これは俺の“龍=最強”というイメージの結果である。

最後にもう一つ。

 

「ケアルガ」

 

全体治癒魔法をば。

ケアルガは単体の場合も多いけど全体の方が使いやすいじゃない。

他にもいろいろ。

ヘイスガとかラウザルクとかメドローアとかアストロンとかetc。

攻撃、防御に回復、補助もどんと来い。

 

 

 

 

そんなわけで、本日の訓練は終了。

俺を含め、皆戦術リンクにも慣れてきた。

エリオットとエマも魔導杖をさらに使いこなせるようになった。

今日の成果は上々、といったところか。

しかしアンジェがARCUSを持っていたのには驚いた。

なんでも、前年度でⅦ組の前身のようなものをやっていたらしい。

詳細はそのうち聞かせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~、終わったぁ~」

 

旧校舎から外に出て、エリオットは大きく溜息。

時刻は既に夕方。

正確な時間は時計を見ないとわからないが、大体5時くらいか。

最後に出た俺が旧校舎の鍵を閉める。

そして皆の後ろに続こうと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――っ!?」

 

即座に身体を反転。

扉へと向き直り、右手を刀に添える。

 

「リィン? どうかしたのか?」

 

ラウラの問いに答えず、俺は10秒ほど不動。

結局、それ以上何もなく、刀から手を離した。

 

「・・・悪ぃ、気のせいだったみたいだ」

 

口ではそう言いつつも、嫌な汗が止まらない。

心配そうな表情を浮かべる皆を促し、解散。

鍵はサラ教官が代わりに返してくれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脈動のようなものを感じてから、俺の中の《鬼》がざわめいている。

この旧校舎・・・何かあるな。

それも、旅で訪れた遺跡などとは比にならないほどのものが。

 

・・・・・・この先、荒れるかもしれない。




解説回でした。

魔導術を簡単に言えば異能を介して魔法を使う、といった感じでしょうか。

メリットを纏めると
・異能を直接使うのに比べ、脳への負担が大幅に軽減。
・戦術オーブメントの魔法のような待機時間が要らない。
・その場に応じて回路を組み替えることで自由に魔法が選択可能。

一方、デメリットは
・戦術オーブメントなどの魔法と違い、脳や体に負担がかかる。
・身体への負担は、異能を直接使う場合より少しだけ大きい。
・空気中の霊力等を大量に取り込むため、周囲のそれらが枯渇しやすい。

簡単に纏めればこんな感じでしょうか。


ちなみに、Ⅶ組メンバー及びサラ教官はリィンが既にアンゼリカにフラグを立てていることに気付いていません。
一発でこれに気付けるのは大陸で三人だけ。
ジョルジュ、クロウ、トワ会長。
他の人はそうだと知ってようやく気付けるのです。


唐突ですが、なんとなく次回予告をしてみようと思った。
(今回限りだと思いますが)

次回は、洗脳未遂事件が勃発するぜ!
お楽しみに! それでは!


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生徒会長 トワ・ハーシェル

予告通り、洗脳未遂事件です。

いざ、第8話、レッツゴー!



「明日は二日目の自由行動日ね」

 

サラ教官の言葉のとおり、明日は俺達にとって二回目の自由行動日になる。

 

「先週の自由行動日は有意義に過ごせたかしら? 反省するところやすべきところがあると思ったら、その反省を明日に生かしなさい。特に午前中の話ね。少なくとも午後はリィンのおかげで有意義に過ごせたでしょう?」

 

目の前でそう言われると少し気恥ずかしいな。

褒められることに慣れてないってわけじゃないけど。

4月17日、土曜日。

今週の授業もすべて終わり、現在HR真っ最中。

 

「あと、来週の水曜日、実技テストがあるわよ。これはⅦ組だけの特別カリキュラムよ。これは評価対象に入るから、そういう意味でも明日は有意義に過ごしなさい。実技テストは月に一度。第三水曜に行うわ。で、今月の実技テストの終了後、《特別実習》の具体的な説明をするわ」

 

特別実習・・・。

特化クラスⅦ組だけの最重要カリキュラムとだけ聞いている。

内容については一切不明。

前に学院長にも直接聞いてみたが、説明する時まで待ってくれと言われた。

 

「それじゃ、HRは以上。さ、挨拶して、副委員長」

「はい。起立、礼」

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。リィン、貴方はしばらく残ってなさい」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラ教官は一度職員室に戻って行った後、十数分ほどして戻ってきた。

この時点で教室に残っているのは俺一人だけ。

 

「で、何で俺だけ残したんです?」

「貴方に生徒会で人数分受け取ってほしいものがあるのよ」

「受け取ってほしいもの?」

 

何だろうか?

 

「行けばわかるわ。生徒会室は学生会館の二階、廊下の突き当りにあるから」

「う~す」

「遅くまで開いているはずだから、下校時間少し前でも大丈夫なはずよ」

「そんなに遅くまで後回しにはしませんよ」

 

下校時間は9時半なのだ。

こんなに遅いのは全寮制だからかな?

 

「それじゃ、受け取ったら全員に渡しておいてちょうだい」

「うぃ、了解っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学生会館に到着。

二階へ上がり、廊下を真っ直ぐ行った突き当り。

サラ教官の言う通り、そこが生徒会室だ。

とりあえずノック。

 

「はいはーい。鍵は掛かってないからそのままどーぞ」

 

何やら聞き覚えのある声。

っていうか入学式の日にジョルジュと一緒に正門に居たちっこい先輩じゃん。

なんで生徒会室に一人で居るんだ?

とりあえずドアオープン・・・の前に、

 

「失礼します」

 

挨拶は忘れずに。

入室するとやっぱり例のちっこい先輩が居た。

 

「どうも、入学式以来ですね」

「うん、そうだね。だから2週間ぶりになるね。生徒会室にようこそ、リィン・シュバルツァー君。リィン君って呼んでもいいかな?」

「ええ、大丈夫です」

 

そう言うと、先輩は笑顔を見せた。

なにこの人、行動の一つ一つが可愛いんだけど。

ホントに年上?

 

「む・・・今失礼なこと考えてたでしょ」

 

ぎくっ

 

「そ、そそそそんなことなないでですよ~」

「・・・リィン君ってわかりやすいね」

 

逆に苦笑されてしまった。

しょうがないじゃん、俺ってば嘘が致命的なまでに下手なんだもん!

 

「あはは。じゃあ、そろそろ本題に入ろっか。サラ教官の用事で来たんでしょ?」

「まぁ、そうですけど。その前に自己紹介してくれません?」

 

俺は貴女の名前も知らないんですよ。

 

「あ、そうだった。えっと、この学院の生徒会長をしている、2年のトワ・ハーシェルって言います。改めてよろしくね、リィン君」

「俺も改めて、リィン・シュバルツァーです。これからよろしくお願いします」

 

・・・・・・あれ?

 

「って、生徒会長!?」

「? そうだけど、どうかしたの?」

「いえ、正直びっくりしましたってだけです」

「そうなの? まぁ、それはともかく、困ってることや相談したいことがあればぜひ生徒会まで来てね。いつでも歓迎するよ♪」

 

相談すること・・・あるかもしれない。

ユーシスとマキアスのこととか。

 

「さて、今度こそ本題に入ろっか。はい、これ。Ⅶ組の皆の分の学生手帳だよ」

 

あ~、そういえばまだ貰ってなかったな。

他の生徒が手帳を取り出しているのは見たことがある。

それに、俺たち以外の1年は既に持っていると聞いた。

 

「えっと・・・はい。9冊、確かに受け取りました」

「うん。でもゴメンね。君達Ⅶ組はカリキュラムの違いのせいで発注自体も遅れちゃったんだ。学生手帳も、他の生徒達とは違うところがあるの」

 

自分のをパラパラとめくってみる。

なるほど、確かに違う。

ARCUSの説明書は、一般の学生手帳には載ってないだろうし。

 

「それで、サラ教官に頼まれて、私が編集作業をしていたんだけどね。1人でやったから、少し時間がかかっちゃったの。遅くなってごめんね?」

 

え? 一人で?

 

「生徒会って一人じゃないんですよね。他のメンバーに手伝ってもらわなかったんですか?」

「皆にも仕事があるからね。負担はかけられないよ」

 

貴女の負担はどうなんですかね?

 

「そもそもそれって教官がやるべき仕事じゃないかと思うんですが?」

「確かに生徒会の仕事じゃないけど、私は教官達の仕事の手伝いはするよ?」

 

“私は”ってことは・・・。

 

「手伝うのは会長一人で?」

「うん。さっきも言ったけど、皆に負担はかけられないから」

 

だから自分への負担は大丈夫なのかってば。

 

 

 

 

 

「よーっす。トワ、差し入れ持ってきたぞ~」

「あ、クロウ君」

 

その時生徒会室に入ってきたのは一人の男子生徒。

 

「今日のはキルシェでトワのために特別に作ってもらったアップルパイだぜ」

「わぁ、美味しそう。ありがとう、クロウ君」

 

誰なのかは知らないが、会長とはかなり近い関係のようだ。

生徒会役員には見えないが。

 

「っと、初めましてだな、後輩君。クロウ・アームブラストだ」

「こちらこそ初めまして。リィン・シュバルツァーです」

 

クロウ先輩、か。

しかしこの人、かなりの強者だ。

 

「挨拶ついでに面白いもん見せてやるよ。ちょっと50ミラコイン借りていいか?」

「ほいな」

「サンキュ。そんじゃ、よーく見てろよ」

 

クロウ先輩はコインを親指で上に弾く。

そして、落ちてきたコインが首から胸辺りの高さまで来たとき、クロウ先輩は開かれた両手をコインめがけて突きだし、掴む。

 

「さぁ、コインはどっちにあると思う?」

 

右手か左手か、ということだろうが・・・。

 

「右手の親指でコインを弾き落とした。そしてコインはそのバッグの中、ですね?」

 

バッグが置いてあったのは真下ではない。

しかしクロウ先輩は、親指で斜め下に弾き飛ばすことでバッグの中に入れた。

 

「スゲェな。これを見抜いたのはお前が初めてだ。流石だな、“一年最強”」

「ありがとうございます、“二年最強”」

 

間違いなく、二年の最強はこの人だ。

強者のオーラが凄まじい。

 

「というわけで暫くこの50ミラ貸してくれ」

「だ、駄目だよクロウ君。そんなことしちゃ」

 

何だかガクッと来た。

 

「別に寄付でもいいですよ。金ならあり余るほどありますし」

「うわ、いいなぁ。俺もそんなセリフ言ってみてぇ」

「ふぇ~、リィン君って凄いんだね~」

 

良いだろう良いだろう?

これも今までの努力の結果なのだよ。

 

「月の収入が平均して5,6桁くらいですね」

「「5,6桁!?」」

 

今まででは最大で月8桁行った。

 

「そんなにあるなら3割、いや、2割・・・1割で良い、恵んでくれ!」

「クロウ君!? 流石にそれは駄目だからね!?」

「いや、あげませんよ? 50ミラ一回きりですからね?」

「わかってるよ・・・でも羨ましいじゃねぇか!」

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで以下略。

 

「あ、そうだ。サラ教官から、生徒会の仕事を少し回してやって欲しいって話があったんだけど、それってリィン君のことかな?」

 

ん? どういうことだ?

 

「話が読めないんでとりあえず詳細プリーズです」

「う、うん。えっとね、Ⅶ組のメンバーに手伝いにちょうどいい人が居るから、その人に学生手帳を取りに行かせる。だから、週1くらいで仕事を回してやって欲しい、だったかな。あと、回す仕事は学院内や街を歩き回る類の仕事内容がいいってことも言ってたね」

「・・・俺何も聞いてないんですが?」

 

初耳だってばよ。

サラ教官め、謀ったな!?

 

「え、えぇ!? そ、そんな、じゃあ、私って無茶を言ってた!? ど、どうしよう・・・」

 

何でそこで涙目になっちゃうの!?

 

「(おい、まずいぞ。今すぐ了承して泣き止ませろ、急げ!)」

 

クロウ先輩が小声で話しかけてきた。

 

「(え、え? な、何ですか急に?)」

「(トワが泣きかけているところを役員に見られてみろ。社会的に消されるぞ!)」

「(怖っ!?)」

 

人望の厚さが伺えるにしても明らかに過剰だ!

 

「そそそそそんなことないででですよ!? ももももも問題ななな無いでででです!」

 

ぬぎゃあああああぁぁぁぁ!!

嘘をついているわけでもないのにどもりががががああああぁぁぁぁ!!

 

「やっぱり無茶言ってたんだ・・・どうしよう・・・どうしよう・・・」

「おい! なにそんなどもってんだよ!?」

「アイムパニック!! イッツパニック!!」

 

もはや自分でも何を言ってるかわからなななな、

ガチャリ。

 

「会長、例の件は一通り終わり・・・なっ!?」

「げっ、アルト!? ち、違うんだ! これはだな、」

「クロウ、それに新入生の人か・・・君達、会長に何をしたぁ!」

 

社会的抹殺要員が来ちゃったあああぁぁぁぁ!!?

 

「ぬあああああぁぁぁぁ!! 記憶消去! マインドクラアアアアァァァァッシュ!!」

 

特に理由の無い実体無き黄金の巨腕が生徒会役員アルト君を襲う!

 

「なっ!? う、うわあああぁぁぁぁぁ!!?」

「アルト君!? リ、リィン君待ってええええぇぇぇぇ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――暫くお待ちください――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

「・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・」

 

無言。誰もが無言なり。

ただただ書類を片していく。

 

「とりあえず、一旦まとめようぜ」

 

クロウ先輩の言葉に俺達は声も無く頷く。

 

「会長、仕事は個人でできる範囲であれば遠慮なく回しといてください。俺は大丈夫ですから」

「・・・うん」

 

俺の言葉に会長が力なく頷く。

 

「リィン君、その、すまなかった。原因はサラ教官だったんだな」

 

生徒会役員のアルト・バーナード先輩が俺に謝ってきた。

マインドクラッシュなら解除したぞ。

 

「ゴメンね、リィン君、クロウ君。いきなり泣き出しちゃったりして・・・」

「これからは気をつけてくださいよ・・・」

「右に同じく。それで被害こうむるのは俺たちなんだよ・・・」

 

会長の謝罪に俺とクロウ先輩がこちらも力なく答える。

 

「・・・ふぅ。これで今日の分は終わりだな」

 

アルト先輩の言葉の通り、本日の生徒会業務は終了。

 

「うん。皆、本当にお疲れ様。リィン君も、手伝ってくれてありがとう」

「大丈夫です、問題ありません」

「・・・それ死亡フラグじゃねぇか?」

 

おぅふ。

 

「それじゃ、皆でご飯食べに行こっか。皆にも迷惑掛けちゃったから、今日は私が奢るよ」

「いえ、俺に奢らせてください。財布でも会長に負担を掛けるなんてとんでもない」

「え、でも・・・」

「金なら有り余るほどあるって言ったじゃないですか。このくらいの出費、平気ですよ」

 

だから会長、無茶は止めて。

俺達の心が痛むんだ。

 

「うん、ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」

 

疲れ果てた顔で会長は精一杯の笑顔を浮かべた。

限界ギリギリそうなその笑顔にむしろ俺達が泣きそう。

 

「クロウ先輩とアルト先輩の分も奢ります」

「サンキュ、そんじゃ、ご同伴に預からせて貰うぜ」

 

クロウ先輩は快諾。

 

「クロウ、少しは遠慮しろよ・・・。リィン君、俺は自分の分は自分で払うからいいよ」

「いえ、ぜひ奢らせてください。さっきのマインドクラッシュの謝罪も兼ねて」

「そ、そうか。わかったよ」

 

この後、皆で学食に行ってご飯を食べた。

疲れ切った俺達、特に会長を皆が凄く心配していた。

誰から聞いたのかエリオットがやってきてセブンラプソディ(回復)を俺達に掛けてくれた。

とりあえずエリオットには感謝。

彼の学生手帳はその場で渡しておいた。

ついでにまだ配ってない男子の分の学生手帳3つも持って行ってくれた。

ありがとう、エリオット。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。やっぱりエマとフィーの分も持っていくよ」

「おぅ、サンキュ」

「アリサとラウラにはリィンから渡しておいて。二人もその方がいいと思うから」

「お? おぅ・・・」

 

エリオットがやけにニヤニヤしてるのは何でだ?

 

「ははーん、そういうことか。お前も隅に置けねえなぁ」

「???」

 

クロウ先輩は理解したようだが・・・。

 

「これはなかなか面白くなりそうだな」

「クロウ、不謹慎だよ。止めてあげなって」

「そうだよクロウ君。ここは見守ってあげないと」

 

アルト先輩とトワ会長も理解しているようだ。

どういうことなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺は寮でアリサとラウラに学生手帳を渡した。

ごめんアリサ。ファミリーネーム見ちゃった。

でもラインフォルトはお得意様だし、その、何だ・・・お母さんによろしく?

え、それだけは嫌だ?

・・・その・・・ごめん。




うちのリィンは嘘が超絶下手。
ダウトをやると必ず最下位になります。
考えがすぐ顔に出るわけではありません。
トワ会長がわかりやすいと言ったのは嘘に関してのみ。
失礼なこと云々は女の勘でしょう。

マインドクラッシュそのものは記憶消去ではないです。
記憶消去などを行うための前準備のようなもの。
洗脳“未遂”事件ですから。

次回は自由行動日前半。
旧校舎探索は後半でやりますので次々回。
それでは!


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依頼執行、4月版

4月18日、自由行動日前半です。



You got a mall!

 

は・・・ちょっと違うか?

それはともかく日曜日。

今日、4月18日は自由行動日である。

 

 

 

 

 

毎朝恒例のランニングから戻ると、郵便受けの中に手紙。

内容は生徒会から回された仕事である。

もっと細かく言えば、その中の生徒会宛の依頼。

依頼は学院内だけでなく、街の人々からもあるようだ。

数は3つ。

もうちょっと多くても大丈夫なんだが・・・。

と思ったら、何か妙な依頼がある。

一言でいえば『旧校舎に異変』ということ。

やっぱあれか。

俺の中の鬼がざわめいていたことと関係があるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎の調査は午後一杯かかると見た方がいいだろう。

導力器の配達なら町全体が範囲と見るべきか。

となると学生手帳の捜索を最初に持ってきた方がいいな。

学院内で済む確率が100%ではないが高い。

さて、そうと決まれば早速学院へレッツゴーだ。

確か学生会館1階で待っていると書いてあったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学生会館に入ると、学食の椅子に一人の女子が座っていた。

他の生徒が誰も居ないということは・・・。

 

「1年Ⅳ組のコレット・ブルーム、で、合ってるよな?」

 

まずは確認。

 

「うん、そうだけど・・・貴方は?」

「生徒会代行で来た。依頼は学生手帳の捜索、でいいよな?」

「うん、あってる・・・けど、代行? 生徒会に入ったわけじゃなくて?」

「只の手伝いさ。生徒会の負担を減らせれば、と思ってね」

 

もっと言えば生徒会長の、だけど。

 

「へぇ、そうなんだ・・・。凄いね、特科クラスって。同じ1年なのに全然違うね」

「そんなことは無いと思うぞ。さて、早速始めよう。詳細を聞かせてくれ」

「うん。手帳を失くしたことに気付いたのは昨日の放課後で・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞いて、とりあえず本校舎の方面を捜索開始。

1年Ⅳ組の教室は捜索済み。

かつ他の教室には入っていないということで、廊下や休憩スペースを捜索。

結果、2階の談話スペースに学生手帳を発見。

勝手にだが、中も確認して名前も一致していることを確かめた。

 

 

 

 

 

「というわけで、これ。念のため確認してくれ」

 

学生手帳を手渡し、本人の確認を待つ。

 

「・・・うん、間違いない。私のだ。ふぅ、本当に良かったぁ」

「なら良かった。依頼は無事完遂って会長に伝えておくよ。コレットは自由行動日を楽しんでくるといい。まだ午前中だし、十分取り返せるさ」

「ありがとう。でも、あそこって落としやすいのかなぁ? 前にも落としたことがあったんだけど、その時は音がしたからすぐに気付けたの」

 

ズボンやスカートのポケットに入れていたのなら、座った時に落としやすいな。

だから多分・・・

 

「学生手帳ってスカートのポケットに入れてるのか?」

「うん、そうだけど・・・?」

 

やっぱりか。

 

「制服の上着に内ポケットがあるのには気付いたか? そこなら滅多に落とすことは無いだろう。俺もそこに入れているしな」

「え!? ・・・あ、ホントだ。こんなところにポケットあったんだ」

 

気付いていなかったようだな。

だが、これで一応は大丈夫だろう。

 

「ありがとう。あ、そうだ。世話になりっぱなしっていうのもあれだし、お礼に、これを貰ってくれないかな?」

 

コレットが差し出してきたのはシルバーのアクセサリだ。

唯でもらうにはちょっと高すぎる代物だと思うんだが・・・。

 

「いや、受け取れないよ。これはちょっと高価すぎる」

「気にしないでいいよ。間違えて2個同じのを買っちゃったものだから。自分で二つ持っているのもあんまり意味がないし、受け取って貰った方が私も気が楽だから」

「そうか、そういう事ならありがたく受取るよ。サンキュな」

「それはこっちのセリフだよ。今日は本当にありがとう。それじゃあね」

「おぅ、じゃあな」

 

依頼完了。

さて、次の依頼は・・・技術部か。

ジョルジュからかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、リィン君。今日も来てくれたんだね」

 

彼の台詞からもわかるように、俺はよくここを訪れる。

1~3日くらいに1回の頻度でだ。

 

「実は、今日は別件なんだ。生徒会長から依頼の一部を回してもらってね」

「トワが? そうか、リィン君がだったのか。いやね、昨日、トワから聞かされていたんだよ。仕事を手伝ってくれる後輩ができて、代わりに修理品の配達をやってもらうってことになったから、依頼の文書を簡単にでいいから書いてくれって。多分、トワは僕たちが既に知り合っていることを知らないと思うよ」

 

確かに。

知っていたら俺かジョルジュのどちらかに話は通ってるはずだ。

 

「会長とは親しいんだ?」

「まぁね。実は、僕とアン、それにトワとあともう一人で君達Ⅶ組の試験版のようなものをやっていたんだよ。だから僕らは親友なんだ」

「ああ、アンジェが言ってたⅦ組の前身か。もう一人ってクロウ・アームブラスト先輩?」

「あれ? クロウのことも知ってるのかい?」

「まぁね。会長と凄く仲良さげに話してたから」

 

なるほど、と頷くジョルジュ。

さて、そろそろ本題に入らせてもらおうか。

 

「それで、配達する修理品ってのは?」

「ああ、この3つだよ」

 

彼が出したのは3つの小さな箱。

それぞれに機械の名前が書かれた紙が貼ってある。

 

「まず、導力計測器は本校舎2階の家庭科室へお願いするよ。調理部部長のニコラス君に渡してくれ。二つ目はアンティークの導力灯。トリスタの街、中央商店街の南東のはずれの質屋《ミヒュト》の店主、ミヒュトさんに届けて欲しい。三つ目が導力腕時計。場所は中央商店街の南西にあるラジオ局《トリスタ放送》で、渡す人はディレクターのマイケルさんだ。まず受付の人に言ってマイケルさんを呼んでもらうといい。さて、これで全部だけど、何か質問は?」

「特に無いな。んじゃ、今すぐ行って来るよ」

 

愛用のウエストバッグに荷物三つを入れる。

よし、準備完了!

 

「ちょっとまって! 他二つはともかく何でアンティーク灯がそのサイズのバッグに入るの!?」

 

そういえば、まだ教えてなかったな。

ちなみにバッグはある程度大型だ。

いざって時に何かを取り出しやすくなる。

 

「このウエストバッグは中が四次元空間になってるんだよ。ほら、ジョルジュにも教えただろ? 俺が魔導異端技術を使えること」

「そうか、魔術でか。じゃあ、そのバッグはリィン君の自作ってことかい?」

「まぁ、そうだな。でも魔術って呼ばないで欲しいんだけど。術式技術、もしくは魔導異端技術っていってくれって最初から伝えただろ?」

「ゴメンゴメン。魔術って言う名前の方が聞きなれてるからね」

 

全く・・・。

 

「んじゃ、早速行って来るわ。終わったらもう一度来る」

「うん、頼んだよ」

 

いざゆかん、レッツ配達!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは本校舎2階へ。

家庭科室は入ったことは無いが場所だけは知っている。

いずれ遊びに行ってみようとも思うが今日は配達だ。

遊びに行くのは次の機会ってことで。

 

「失礼します。調理部部長のニコラス先輩は居ますか?」

 

家庭科室に入りそう言うと、一人の平民男子が反応した。

 

「僕がニコラス・ケリオだよ。君は調理部への入部希望者かな?」

「違います。お届け物があってきました」

「届け物? 僕に?」

「技術部より、修理された導力計測器になります。どうぞ」

 

バッグから箱を出して渡す。

 

「なるほどね。うん、彼は本当に仕事が速いね。どうもありがとう」

「いえいえ」

「君が届けに来たって言うことは・・・生徒会か技術部の新参者ってところかい?」

「いえ、生徒会の仕事を手伝っているだけです」

「手伝いか。しっかりしているね」

「ありがとうございます」

 

褒められるのは悪い気はしない。

 

「ところで、君は料理はするのかい?」

「ええ。高級料理店の手伝いもしたことがあります」

「それは凄いね。じゃあ、せっかくだからこれを持って行ってよ」

 

ニコラス先輩が出したのはチーズとハーブ。

それぞれ、種類も幾つかある。

 

「いいんですか?」

「もちろんだよ。これで新しい料理でも作ってみるといいよ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、ジョルジュ君によろしくね」

「はい。それでは失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、質屋ミヒュトってのはここか。

入ったことは無いが・・・。

とりあえず入るか。

 

「なんだ? ここは学生が遊びに来ていいような場所じゃないぞ」

「お届け物です。技術部より、アンティーク灯の修理が終わりましたので」

「ああ、ジョルジュに頼んでいた奴か。あれがもう直ったんだな」

「はい。こちらになります」

 

ミヒュトさんにアンティーク灯の入った箱を渡す。

 

「・・・よし、確かに受け取った。しかしお前さん、今どこから出した?」

「このウエストバッグですが?」

「どう見てもこれが入るようには思えんのだが?」

「中見てみます?」

 

バッグを彼の目の前で開け、中を見せる。

ちなみに、バッグの中は無重力かつ衝撃なしだぜ。

 

「お前・・・これをどこで手に入れた!?」

「内緒です。自分で調べてみてください、“情報屋さん”」

「!? ・・・なぜそれを?」

「守護騎士第一位から聞きました。『カーネリア』の作者だってことも」

「そうか・・・」

 

少し安心したようだ。

あ、そうだ。あれを言ってみよう。

 

「彼女とはアーティファクトを巡って殴り合ったことがありますよ」

「はぁ!?」

 

あ、仰天した。

アイン曰く、彼の無表情以外の表情は珍しいらしい。

しっかり覚えたし、後で絵に描いて騎士団宛に送ろう。

 

「えっ、おまっ、な、何で生きてる!?」

「ちなみにそのアーティファクトは勝ち取ってきました」

「そうか・・・はぁ!? お前何者だ!?」

「リィン・シュバルツァーです♪」

「っ・・・《龍の剣聖》か・・・」

 

納得頂けた様で何より。

 

「いいだろう。ならお前にも情報屋として情報の提供はしよう。それから、いくら剣聖クラスの超人とはいえ、学生の身分であるお前にはミラの貸し出しはしない」

「わかってますよ。そもそも金なら十分すぎるくらい持ってます」

「そうか。ああ、それと、ここでは学生向けに物々交換や掘り出し物の売買をしている。そちらの方も、興味があれば利用してくれ。無理にとは言わんが」

「了解。んじゃ、また来ます」

 

俺は質屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後はラジオ局。

この世界、ラジオはあるがテレビは無い。なぜだ。

とりあえずレッツゴー。

 

「トリスタ放送へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ディレクターのマイケルさんに、腕時計の修理が終わりましたのでお届けに上がりました」

「かしこまりました。すぐに呼んで参りますので少々お待ちください」

 

 

 

 

待つこと2,3分。

彼は現れた。

 

「待たせてすまん。技術部から腕時計を持ってきてくれたようだな。いきなりで悪いが、早速渡してもらえないか?」

「はい、どうぞ」

 

腕時計をマイケルさんに渡す。

 

「おお、完璧に直っているし早いな。プロ顔負けの仕事ぶりだぜ。2週間前から新番組が始まっているんだが、今日は手元に時計がないと思うと不安でしょうがなくてな。だが、これで安心して放送できる。届けてくれてありがとうな」

「どういたしまして。新番組ですか。何時からですか?」

「ああ、毎週日曜の夜9時からだ。メインパーソナリティが開始直後から大人気になってな。このトリスタ放送の知名度も一気に上がった。番組名は《アーベントタイム》って言うんだ。意味は“夕べの時間”だな。お前も今夜から聞いてくれよな」

「はい。是非聞かせていただきます」

 

ラジオなら自作のがあるからな。

前世でも良くあった手回し充電器&ライト付き。

そう、電気式である。

導力波もちゃんと拾えるようにはしてあるけどな。

充電がめんどくさい時は導力電源に切り替えることも可能だ。

つまり、電気式と導力式を切り替えられる。

 

「それじゃ、ジョルジュ君にもよろしく言っておいてくれ」

「了解です。それでは」

 

さて、報告報告。

技術棟へ戻ろう。




実は今話と次話、元々1話分で済ませる予定だったんですが、1万字を超えてしまうという誤算が発生したため分割したという経緯があります。
と、いうわけで、今話の反響によっては明日に次話をUPするかも。

既存キャラに勝手に苗字をつけたのは苗字なしだと違和感があるためです。
こうしたほうがいいんじゃないかという意見があれば教えてください。

次回は明日か来週か。
UP後の反響を見て決めます。
それでは!


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旧校舎探索 ver.April

記念すべき第10話!
今話の投稿時点でお気に入り数250超え、UA2万5千超え!
皆様、本当にありがとうございます!
これからも、『龍閃の軌跡』をよろしくお願いします!

それでは、旧校舎探索編です、どうぞ!


ジョルジュへの報告を終え、キルシェで早めの昼食。

その後、再び学院に戻り、向かう先は学院長室。

 

「失礼します、学院長。1年Ⅶ組、リィン・シュバルツァーです」

「おお、待っておったぞ」

 

ノックをして入ると学院長が迎えてくれた。

 

「トワ君から聞いておるよ。君らが引き受けてくれたとな」

「俺ら、というか俺が引き受けたって感じなんですが・・・」

「そうか。まぁ、まずは話を聞いてもらいたい」

「了解です」

 

曰く、今週の月曜辺りから妙なことが旧校舎で起こっている。

魔獣の種類が変わっていたり、どこからか声が聞こえてきたり。

入学式の日、ガーゴイルが10体居たこともやはり異常だったが、ここ1週間で今までに起こったことがないような“異常”な出来事が幾つも起こっているとのこと。

 

「そういった“異常”の確認をしてくればいいということですか?」

「うむ。とりあえず地下を一巡りして先週との違いを確認してきてもらいたい」

「了解です」

「とりあえず、これはⅦ組全員への依頼として扱ってもらいたい。一人で行くばかりではなく、他のメンバーにも声を掛けておくといいじゃろう」

「わかりました。ですが今日のところはまず一人で行ってみようと思います」

「そうか・・・では、これを渡しておこう」

 

学院長が渡してきたのは、旧校舎の鍵。

 

「これはいくつかあるスペアの一つじゃ。暫くの間、君に預かってもらいたい」

「了解です。確かに、お預かりしました」

「うむ。それでは、旧校舎の調査の方は頼むぞ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎に向かう。

鍵を使って扉を開け、いざ旧校舎へ足を踏み入れようとした時、

 

「ちょっと待って!」

 

声を掛けられた。

声と気配でわかってはいたが振り向くとそこにはアリサ。

一緒にラウラ、エリオット、ガイウスの姿もある。

 

「どうしたんだ? 皆揃って」

 

なぜ4人が揃ってここに居るのかわからず、訊く。

4人の話を纏めるとこうだ。

偶々4人が合流し、これからキルシェに食べに行こうかと相談していたところ、俺が真剣な顔で旧校舎に向かうのをガイウスが見たとのこと。

とりあえず、4人に学院長からの依頼の件を話す。

 

「そうだったか・・・」

「で、これから入ろうとしていたところだ」

「ふむ、ならば私たちも一緒に行っても構わないだろうか?」

 

予感はしてた。してたんだけど・・・。

 

「昼飯は? まだ食べてないって言ってたろ」

「「「「あ」」」」

 

仕方ないので携帯食料を4人に渡す。

干し芋にドライアプリコット。

あとニコラス先輩から貰ったチーズの内の半分。

ついでに無限に水が出るボトルから飲料水を。

ちなみにこのボトル、アーティファクトである。

名称は《手中に収めし泉》。

第一位との殴り合いの末に勝ち取ったのはこれじゃない奴だからな。

 

「んじゃ、行くか」

 

俺の言葉に皆が頷き、俺達5人は旧校舎へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガーゴイルが居る部屋に入る。

だが、なぜかガーゴイルは居なくなっていた。

それだけではない別の違和感も感じられる。

 

「部屋が・・・小さくなっている!?」

「それに、あれ・・・あんなところに扉なんてなかったはずよね!?」

「しかもそのすぐ傍のあれ・・・あれって戦術オーブメントの回復装置!?」

 

ラウラ、アリサ、エリオットがそれぞれ驚愕の言葉を放つ。

・・・いきなりとんでもないことになったな。

 

「学院長もこんなこと言ってなかったぞ」

 

もし既にこうなっていたのなら学院長にも報告が行っている筈。

その場合、学院長は間違いなく俺に伝えたはずだ。

そうなっていないってことは・・・。

 

「つまり、これを見たのは俺達が最初ということか・・・」

 

俺の推測と全く同じことをガイウスが言った。

 

「とりあえず、行くしかないだろう」

 

そして俺達は階段を下り、前回は無かった扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

そこに広がるのは、全く見知らぬ光景。

完全に地下の構造が変化している。

そして学院長から聞いていた通り、魔獣の気配は全く異なる。

俺達の近くには、完全に停止状態となっている装置。

 

「リィン・・・どうするの・・・?」

「とにかく、行けるところまででも行ってみよう」

 

エリオットの言葉に答え、そして俺達は先へ進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く違う構造と化したダンジョンを進む。

途中、ナメクジ形の魔獣にアリサが悲鳴を上げたり、ラウラがポムを愛でようとしたり、他にもいろいろあったが・・・まあ、些細なことだろう。

しかし、何かが妙に引っかかる。

 

「ふむ、遺跡の構造が変われば魔獣の強さも変わるようだな」

「そうね。全体的に強くなっている気がするわ」

 

それか!

ガイウスとアリサの会話で気が付いた。

俺からすればちょっと強くなろうが大して変わらないからわからなかった。

しかし、それはそれでおかしい。

 

「学院長の話では魔獣の種類こそ変わりはすれ、強さは変わってないはずだ」

「だとすれば、ここの構造が変わったときに魔獣の強さが変わったということか」

 

俺の言葉にラウラが推測する。

まぁ、俺の考えも彼女と同じなんだが。

 

「あ、終点みたいだよ」

 

エリオットの言葉に前を見る。

そこは小部屋のようになっていて、入口近くにあったものと同じ装置(こちらも完全に停止している)と遺跡などで偶にある特殊なオーブメント回復装置が置かれている。

その奥には、扉が。

遺跡にも良くある終点への自動ドアだ。

だとすれば、この先は()()が居るだろう。

そいつを倒すと何かが起こるのはどの遺跡でもほぼ同じだ。

今回の場合、少なくとも停止状態の装置が稼動を始めるだろう。

 

「どうする? 戻るか進むか。あの扉の先には魔物が居るはずだ」

「え、あれって扉!? 壁かと思った・・・」

 

・・・おい。

部屋から伸びる短い通路の先にあって不思議な模様があるあれがただの壁なわけないだろう。

エリオットよ、こういうことはよく見ないと駄目だぞ?

 

「で、どうする? 俺一人で行ってもいいが」

「いや、私は行こう。ここまで来ておいて、そなた一人を置いて引き返すなど武人の名折れ!」

「俺も行こう。大丈夫だ、俺達には風と女神の加護がある」

「ぼ、僕も行くよ。皆に比べればまだまだだけど、精一杯頑張るから!」

「私も行くわ。ここまで来たのに、引き返すなんて逃げることと同じよ!」

 

よし、いいだろう。

 

「皆、行くぞ!」

「うむ!」

「ああ!」

「うん!」

「ええ!」

 

俺達は、扉の先へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

俺達全員が入ると、後ろの扉が閉まり、硬く閉ざされる。

そして、先ほどよりいくらか大きな部屋の、その中央に魔物が現れた。

全長は3メート・・・じゃなくて3アージュほど。

・・・いや、2倍に巨大化した。

奴が仰け反るように腹を突き出す。

そこから、巨大化前の同一種の魔物が這い出てくる。

巨大化した奴を合わせると、5体。

3アージュサイズだった4体もまた、巨大化し6アージュに。

更に後ろからズルリという音が聞こえ、振り向くとこれまた同じ奴(6アージュ)が出現した魔法陣の中に生まれた渦の中から這い出てきていた。

 

「リィン。後ろの1体は我々4人に任せてもらえないだろうか?」

 

ラウラがそう提案してくる。

 

「いいぜ。ついでに10分以内に倒せたらいいもの見せてやるよ」

「「それって一体・・・?」」

 

ハモったアリサとエリオットに微笑を返し、5体の魔物へ向き直る。

確か奴らの名称は・・・《ミノスデーモン》だったか?

さて、最初の10分程は軽くあしらう程度にするかな。

 

「確かそいつは暗闇のブレスを使うはずだ。視界を塞がれないように気をつけろ」

「「「「わかった!」」」」

 

んじゃ、バトルスタート!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人は7分で1体を倒した。

上手いな。戦術リンクもなかなか使いこなしていたようだ。

戦術リンクってシンクロモードに似ているよな。

お互いの動きが見えなくても感じるというあの状態。

シンクロモードの開発者はヨシュア&エステル。

そして命名は俺。

 

「リィン、無事か!」

 

ガイウスが心配からか尋ねてくる。

 

「なに、この程度余裕だ」

 

さて、10分以内に倒したことだし、あれを見せてやろうかね。

襲い来るミノスデーモン共を魔導術による衝撃波で吹き飛ばす。

 

「んじゃ、見せてやるよ。龍の力と対を成す俺のもう一つの力だ」

 

いざ、神気合一!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――」

 

俺の体を黒い雷のような気が包む。

見る人が見れば、そいつはこう言うだろう。

――――“陰の気”と。

 

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

俺の髪が白く、眼が赤く染まる。そして声も低くなる。

まだ完全制御には至らないためガチバトルではまず使わない力。

ミノスデーモン共は俺が発する覇気に若干だが怯えている。

 

『これが―――――“鬼の力”だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを見ていた4人は皆驚愕した。

リィンが纏う気は黒い雷の如く、髪の色が変わることも普通ならありえない。

最も、リィンを後ろから見ている4人は目の色も変わっていることは見えていない。

そして、誰もが、魔物共も気づいた。

唯でさえ強すぎるリィンが、更に強くなっていることを。

 

『一撃で決めてやるよ』

 

低くなった声で、リィンはそう告げ、刀を納める。

そして、偶然か横一直線に並んだ魔物5体に視線を向ける。

直後、リィンは魔物が並ぶ直線状にの先に移動していた。

 

『八葉、新奥義、《天翔龍閃(アマカケルリュウノヒラメキ)》!』

 

直後、魔物は5体纏めて真っ二つになった。

そして、リィンが黒雷状の気を収め、髪と目の色が元に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔物を倒したが完全停止状態だった装置が稼動を始めた以外は何も無し。

装置の正体は転送装置だった。

旧校舎を出て学院長に報告するために本校舎へ。

 

「そういえばリィン。なぜ鬼の力とやらをレグラムでは見せてくれなかったのだ?」

「あの時は今ほど使いこなせてなかったんだよ」

 

道中、ラウラとそんな会話もありながら、学院長室へ。

旧校舎を出た辺りで、黒猫が見てるのに気づいたが、気には留めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・それは予想外の出来事じゃな」

 

事の次第を説明すると、深刻そうな声で学院長が言う。

 

「地下の構造が丸ごと変わるなんてね。そこまでとんでもないものだとは思わなかったわ」

 

同席したサラ教官もそう呟く。

とりあえず、一つ聞いてみたいことが。

 

「あの建物って、どれくらい昔にできたものなんですか?」

「・・・いつ、誰が造ったのかはわしにも全くわからん。だが、この学院の設立前には既にあったのは確かじゃ。おそらく、暗黒時代か、それ以前のものじゃろう」

 

エリオットに先に言われてしまったが、学院長の言葉を聞く。

しかし、今までの遺跡とは何処かが違う。

例えば、最奥の魔物を倒したのに何も無かったこととか。

入口までの転送装置が存在していることとか。

俺がそんなことを考えている内に、サラ教官と学院長の間で話が纏まっていく。

 

「シュバルツァー君たちの報告から考えて、今後は旧校舎へは立ち入らないようにすべきじゃな」

「ええ、そうですね」

「なら、鍵は返したほうがいいですか?」

 

暫く預かることになっていたとはいえ、立ち入り禁止になるなら返却すべきだろう。

 

「いや、その鍵は君が持っていてくれ。強力な魔物を相手に、軽くあしらえるほどの実力を持つ君なら、わしらも安心して鍵を預けることができる」

「了解しました。責任を持って、預からせて頂きます」

「うむ。君には今後も、旧校舎の調査を頼みたい。気が向いた時で構わない。調査して、何か変化があったらわしかサラ教官に報告してくれ」

「はい」

 

その時誰かを連れて行くかどうかは俺次第、だろうな。

 

「5人とも、本当にご苦労じゃった。よく調べてきてくれたな」

「「「「「ありがとうございます」」」」」

「それでは、今日のところはもう解散してよい。これ以上時間を取らせるわけにもいかんからな」

「「「「「はい」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調査の報酬として、俺達はクォーツを一つずつ貰った。

俺からすれば持ってても意味ないというか。

それを察したであろう学院長から、分解してしまっても構わない、とのお言葉。

ありがたくセピスに分解させていただきまーす。

というわけで会長に報告一日の報告をしにレッツゴー!

なぜか皆もついて来た。

 

「失礼します」

「あ、リィン君」

 

生徒会室に入ると会長が席に着いたまま出迎えてくれた。

その隣にはジョルジュとクロウも。

 

「よ、リィン。一日お疲れだったな」

「お疲れ様、リィン君。僕も助かったよ」

 

3人は書類を片付けているようだ。

生徒会長が予想外にちっこいからか、皆が俺の後ろで驚愕してる。

 

「ジョルジュ君から聞いたよ。話の良く合う後輩ってリィン君のことだったんだね」

「俺も会長やクロウ先輩とジョルジュやアンジェが親友だったとは知りませんでしたよ」

「あはは、まぁ私達が親友ってことは4人で一緒に居ないとわからないからねぇ」

 

と、そこでクロウ先輩が何かに気づいたように声を上げる。

 

「ちょっと待て、リィン。お前ジョルジュのこと呼び捨てにしたか? それにアンジェってまさかゼリカの徒名か? 何でそうなってんだ!?」

「え? 本人に許可貰いましたよ」

「マジか。お前らそんなに気が合ったのか? っていうか何でゼリカまで!?」

「説明めんどいんで後でジョルジュに聞いて下さい」

 

ザ・丸投げ。

クロウ先輩は少し考えた後、言葉を発する。

 

「ジョルジュやゼリカにタメ語なら俺にもタメ語でいい。っていうかそうしてくれ」

「あ、だったら私も! 4人のなかで私一人にだけ敬語って言うのも何か変だし」

「OK。んじゃ、遠慮なくそうさせてもらうわ。クロウ、トワ」

「「「「「「切り替え早っ!?」」」」」」

 

二人だけじゃなく後ろの皆も一緒に驚愕した。

ジョルジュは苦笑している。

 

「まぁ、いいか。とりあえずリィン君。今日は生徒会の仕事を手伝ってくれてありがとう。それから、後ろに居る皆も手伝ってくれたんだよね。ありがとう」

「「「「どういたしまして、会長」」」」

「力になれたんならそれ以上のことはないさ」

「えへへ、本当に助かっちゃったよ」

 

俺達の言葉に限界ギリギリなんかじゃない本当の笑顔を浮かべるトワ。

うん、昨日の笑顔と比べると本当にやってよかったと思う。

 

「旧校舎の調査もあったし皆疲れたでしょう? 今日は早めに帰ってゆっくり休んでね」

「俺達はもう暫くここに居る。何かあったらいつでも依頼してくれていいぞ」

 

トワとクロウがそう言うが、まだまだ書類が残っているようだ。

もう夕方だというのに・・・。

よし、ここは・・・。

 

「まだまだ忙しそうだし、俺も手伝うよ」

「え、えっと・・・いいのかなぁ? リィン君も疲れているでしょ?」

「大丈夫だって。まだまだ余裕はあるから」

「・・・ありがとう。リィン君って優しいね」

 

その途端、なぜか約2名の視線に棘が混じった。

・・・なぜだ。

視線を向けられる俺以外は気付いていないようだが。

 

「それじゃあ、お願いしようかな?」

「「会長! 私達もやります!」」

「ふぇ!?」

 

アリサとラウラが凄い剣幕で迫る。

トワもびっくりしちゃってるよ。

 

「なぁ、エリオットとガイウスはどうする?」

「う、うん。僕も手伝うよ。会長も凄く忙しそうだし」

「俺も手伝おう。す、少しでも力になれればいい」

 

俺の質問に二人が答える。

若干二人も声が震えてるのは仕方ないだろう、多分。

 

 

 

 

午後8時頃に仕事が終わった後、トワがお茶をご馳走してくれようとしたが、約2名が突如殺気を発したことにより、涙目でそれを取りやめた。

トワが涙目ということで俺とクロウは昨日の悪夢を思い出してしまい、恐怖した。

だが、戻ってきたアルト先輩たち生徒会役員も入ってくるなり恐怖で女子役員数名が腰を抜かしてしまうという大事件に。

俺とクロウは安心すべきか恐怖すべきかわからなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜだろう、今日一日の業務でなんてことはない書類処理が一番疲れた気がする。

自炊する気も起きないためキルシェへ。

エリオットやガイウスとは別れたがなぜかアリサとラウラはついて来た。

しかも二人の間で火花を散らしながら。

解せぬ。超解せぬ。非常に解せぬ。どうしてこうなったんだチクショー!

そんなことを考えながらキルシェに入ると、何やら店主のフレッドさんが困り顔。

話を聞いてみると、重要な調味料の在庫が切れてしまったとのこと。

その調味料は、パッションリーフ。

大陸南部の香辛料で、少々手に入りにくい代物だ。

だが・・・。

 

「乾燥させたものなら持ってますよ」

「本当か!?」

「ええ」

 

いつもの四次元バッグからタッパ(俺の発明品の一つ)を取り出す。

蓋を開けるとパッションリーフの束が。

俺も偶に使うため、こうして保存してあるのだ。

 

「これだけあれば2週間は持つでしょう。全部どうぞ」

「全部!? 君も使うんじゃないのかい・・・?」

「いえ、問題ありません。それに、代金も頂きませんよ」

「そうか。ほ、本当にいいのか?」

「はい」

「わかった。本当にありがとうな。恩に着るぜ」

 

助けてもらったということで料金をサービスしてくれるといってくれたが、俺の分だけは定額で払うことにし、アリサとラウラの分に大きくサービスしてもらった。

二人も少しだけだが機嫌を直してくれたようで一安心。

とりあえず、3人で食事をして、二人の機嫌を取って。

けっこう時間がかかってしまったな。

明日と明後日の放課後に別々に買い物に付き合うことを約束して、何とか機嫌を直してもらった。

じゃんけんで順番を決め、明日がアリサ、明後日がラウラになった。

さて、楽しんでもらえるといいがね。

そんなこんなで寮に戻って時計を見ると時刻は夜9時半。

・・・・・・ラジオスイッチオン。

何も聞こえない。

アーベントタイムは聞き逃してしまったようだ。

ええい、くそ!




原作ゲームとは違ってラウラとアリサが追加。
探索途中は省きました、すみません。

というわけで鬼の力初披露。
リィンがこの力を使うのは基本殲滅戦。
何故なら未だ完全制御に至っていないから。

トワ会長に嫉妬する二人。
大人げない? それは置いといてよ。
トワ会長をリィン寄りにするかクロウ寄りにするかで悩んでいます。
彼女がリィン寄りになった場合、クロウのヒロインは・・・ヴィータ?

次回投稿は来週土曜。
現在ケルディック編二日目を執筆中です。
それでは、また次回!


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実技テスト

11話です。


4月21日。

 

「それじゃ、予告通り、実技テストを始めましょう」

 

グラウンドに並ぶ俺達を前に、サラ教官が言った。

 

「前もって言っておくけど、このテストは単純な戦闘力を測るものじゃないわ。“状況に応じた適切な行動”を取れるかを見るためのものよ。だから、たとえ短時間で倒せたとしても、何の工夫もしなかったら評価は厳しくなるわ」

 

ゴリ押しだけじゃ駄目ってことだな。

 

「それでは、これより、4月の実技テストを開始する」

 

そしてサラ教官に呼ばれたのは4人。

エリオット、ラウラ、エマ、ユーシスだ。

呼ばれた4人が前に出る。

 

「貴方達には4人で協力してこれと戦ってもらうわ」

 

そう言ったサラ教官が指を鳴らすと、彼女の横に、突然何かが出現した。

これは戦術殻のようだ。

どう考えてもオーバーテクノロジー・・・十三工房製か?

教官曰く、いろいろと設定を変えられる結構便利なものらしい。

分裂する機能もあるとか。

うん、確かに便利そうだ。

今回は少々強めに設定してあるが、倒せない相手じゃないとのこと。

機械が本格的に動き出し、4人が構える。

 

「それでは、始め!」

 

サラ教官の掛け声を合図に、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺から見てもなかなかの出来だったと思う。

後続のアリサ、ガイウス、フィー、マキアスのチームも負けていない。

 

「さて、実技テストはこれで終了よ」

 

え、ちょ!?

 

「俺は!?」

「え、要らないでしょ。大陸最強クラスだもの」

 

自惚れるつもりではないが“大陸最強クラス”は否定はしない。

でも何で教官がその評価を知っているんですか!? 

 

「リィンの最強っぷりはオリヴァルト殿下のお墨付きだしね」

 

なるほど、オリビエか。

 

「今回は見学してもらったけど次回からはリィンも評価する側に入ってもらうわ」

「マジか」

「マジよ」

 

次回からも実技の特別試験は免除ってことだな。

評価する側っていうのもいろいろなことが見えるしいいかもしれない。

 

「で、今日はこれから、リィンにエキシビションをやってもらうわ」

 

・・・へ?

 

「それじゃ、ルールを説明するわね」

 

そう言ったサラ教官が指を鳴らす。

それを合図に校庭の中央に大量の戦術殻が出現。

数は・・・3桁超えといったところか。

形状もさっきとは違いがある。

 

「リィンには30分間、これらを倒し続けてもらうわ。倒してもすぐ次が湧くように設定してあるから、どんなに早く倒しても30分かけるわよ。但し、校庭を破壊するのは勘弁してちょうだい。私としてはできるだけ多くの技や魔導術が見たいわね。さっきも言ったように、これはエキシビションよ。だから人に見せられないようなエグイものはとかは無しで」

「らじゃ~」

 

できるだけ派手で、かつ破壊力を押さえて行けってことだな。

 

「準備はいい?」

「OK!」

「それでは・・・始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開始直後にレーザービーム飛来。

数は30強。

一歩下がって魔導術。

 

「ラシルド!」

 

雷を纏う壁がせり上がり、ビームを反射。

反射したビームは雷を付加され、威力を増大して戦術殻に直撃。

更に貫通して他の戦術殻にも当たり、レーザーの数より多い50体を撃破。

即座に違う術を発動。

 

「ラウザルク! ヘイスト! ピオラ!」

 

スピード強化を重ね掛け。

術式がそれぞれ異なるために実行可能な方法だ。

一気に加速。刀に手を添える。

 

「四の型、奥義《蒼焔・紅葉斬り》!」

 

蒼い焔を纏った紅葉斬りを複数体に纏めて叩き込む。

10体撃破。だが、次から次へと湧いてくる。

次はあえて納刀し、両手に氣を込める。

十数メートル、じゃなくてアージュを一歩で踏み込み、両手を突き出す。

 

「獅子戦吼!」

 

巨大な獅子の頭部を模した氣の塊が、数体纏めて戦術殻を撃破。

直後、右足に莫大な焔を纏い、接近してきた複数体目掛けて回し蹴り。

これはオリジナル技と言えるかもしれない。

 

「フレア・レッグナイフ!」

 

ラウザルクによって雷属性も含んだ炎のレッグナイフ。

と、ここでスピード強化術三つが切れた。

・・・次はこれだ。

 

「インディグネイション! ジャウロ・ザケルガ! ジゴスパーク!」

 

上から黄金の雷、白銀のザケルガ十一連撃、地面からの漆黒の雷。

三種類の雷が戦術殻を纏めて屠る。

更に追撃。

 

「風遁・螺旋手裏剣!」

 

振り向きざまに螺旋手裏剣を投擲。

炸裂し風の手裏剣が、こちらも複数体纏めて破壊。

さて、ここからは水系・氷系で行こう。

 

「タイダルウェイブ! マヒャデドス! 水遁・水鮫弾! 氷欠泉(アイスゲイザー)! ウォタガ! フリーズボルト! 水遁・大瀑流! コーラルレイン! ハイドロカノン! 煉獄氷夜!!」

 

最後の煉獄氷夜で全ての戦術殻を凍らせる。

だが、別にこのまま30分が過ぎるのを待つ気は無い。

むしろここからが本番だぜ。

 

「メラゾーマ! 火遁・劫火滅却! 八葉奥義《蒼焔の太刀》! 魔女狩りの王(イノケンティウス)! ギガノ・ラドム! ガンフレイム! ブラストバーン!」

 

ありったけの炎技を放つ。

そして氷を一気に溶かして更に蒸発させる。

蒸発した水は上空で雲を作り出す。

 

「バオウ・ザケルガ!」

 

雷の龍を上空の雲へ撃ち込む。

そして、降り注ぐ巨大な雷の塊。

NARUTOではサスケが使用していた雷遁系最強の術。

自然の雷を利用した極大の一撃。

 

「雷遁奥義・麒麟!!」

 

幻獣の姿を模した雷が炸裂。

見た目もかなり派手だが、今回は威力を抑えた。

だからグラウンドの地面には、被害は少ない。

広範囲にわたって焦げているくらいだ。

 

 

 

 

ここらで脳を休めておこう。

そして、代わりに発動するのは鬼の力。

龍の力と鬼の力は、同時に使う事ができない。

更に鬼の力は完全制御に至っていないため、魔導術を使ったほうが強い。

それでも、この場では十分だ。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――神気合一!!』

 

髪は銀、瞳は紅、声も変化し黒雷状の陰の気を纏う。

再び刀に手を掛け、八葉の技を連続して使っていく。

 

『龍炎撃! 残月! 龍翔閃! 龍槌閃・惨! 無想覇斬! 烈火紅葉斬り! 龍巻閃! 無月! 九頭龍閃! 裏疾風! 天翔龍閃(アマカケルリュウノヒラメキ)! 終の太刀《暁》!』

 

一部違うだろという技もあると思うが、これらは九の型になる。

俺が師匠から認められた型で、現在では八葉の隠し技だ。

さて、あと5分かな。

神気合一を解き、再び魔導術を行使。

使うのは俺のオリジナルの魔法。

 

「ドラグレイド・ヘキサ!」

 

俺の背後に6体の龍が現れる。

それぞれ、蒼焔、紫水、紅氷、黒風、白雷、緑光で構成された龍だ。

6の龍を放ち、それぞれが何体もの戦術殻を飲み込む。

時間的に次がラストだな。

大技を決めるか。

今回の中で最も複雑な術回路を構築。

最強技ではないが、〆にはもってこいの術だろう。

 

須佐能乎(スサノオ)!」

 

俺中心とした空間に人型の上半身が出現。

NARUTOでは左右で異なる万華鏡写輪眼を開眼させた者だけが使える奥義。

但し完全体ではない。

この術は術者によって形が違うのが特徴で、俺の場合は頭部が龍。

更に腕が6本と、鉤爪の付いた6つの翼。

三つの宝玉を持ち、背後には円盤。

わかる人にはわかるだろう。

“超神星アポロヌス・ドラゲリオン”の上半身そのまんまである。

これが完全体須佐能乎になれば下半身も再現され、全体が巨大化して俺はドラゲリオンの胸の中央に位置する虹色の宝玉の中に入ることになる。

そしてこの龍、口からブレスを出せる。

 

「龍神奥義、《七曜龍の轟咆》!」

 

ゼムリアの七属性を込めた虹色のブレスがグラウンドに広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついでに言っておくと、完全体須佐能乎からは比較的脳への負担が少なく《シン・ベルワン・バオウ・ザケルガ》という超大技を放てる。

生身でシン・ベルワンを放つのと完全体須佐能乎を通してシン・ベルワンを放つのでは合計としては後者の方が負担は少々大きいが、完全体須佐能乎を使うとより広い範囲から空気中の霊力や魔力を大量に取り込むことができ、威力を底上げできるのだ。

須佐能乎や完全体須佐能乎の内部にも体内と同じ程度の負担で回路を組めるため、より複雑な魔導術式が組めるという利点もある。

完全体使うためにはかなりの量の魔導力が要るんだけどね・・・。

つまり空気中の霊力や魔力、それに氣やPSIエネルギーも大量にいるわけで。

いざという時の為に普段から魔導力を生成して蓄えておいた方がいいって話。

特にPSIエネルギーは龍の力をOFFにしているときは出ず、ONにしているときのみでて、かつ単位時間で一定量しか出ないから、普段からため込んでいくしかない。

 

 

 

 

まぁ、そんな話は置いといて、エキシビション終了!

皆が唖然としているが、まぁいつものことだし気にしない。

 

「と、とりあえず、これから《特別実習》の説明をさせてもらうわね」

 

いよいよか。

 

「君達には、A班とB班の二つのチームに分かれてそれぞれ、こちらが指定した実習先に行ってもらうわ。そこで実習の期間中、用意された課題をこなしてもらう。で、今から配るのが、班分けとそれぞれの実習先、それと実習期間が書かれたプリントよ。さ、一部ずつ受け取って頂戴」

 

えっと・・・ふむふむ。

A班は俺とアリサ、ラウラ、エリオット。

で、実習地がケルディックか。

B班がエマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス・・・っておい。

いやいやいや、マキアスとユーシス同じ班は拙いでしょうよ。

とにかく、B班はパルムか。

で、実習期間は・・・4月の24と25の二日間。

注釈で移動時間を含むと書いてある。

 

「なお、移動手段はA班、B班共に鉄道を使っていくわ」

 

最後に、各自英気を養っておけとのサラ教官の言葉と共に解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、やることは幾つもある。

まずは食材を購入。

蜂蜜、小麦粉、鰹節、梅干し、その他もろもろ。

鰹節を粉にして小麦粉や他の粉と混ぜ、蜂蜜などで固める。

兵糧丸を知っているだろうか?

地球では主に戦国時代に多用された携帯食料である。

水渇丸というものもあり、それは兵糧丸とは違うらしいが、ここでは割愛。

俺もよく知らん。

魔導術による時間加速で速攻完成。

タッパに入れて四次元バッグへ投入。

乾燥させるときに一緒にドライフルーツと干し芋を作っておいた。

それも容器に入れて四次元バッグに。

これにて食糧補給は完了っと。

 

 

 

 

後は銀行でミラをおろしておく。

ケルディックに行くのなら金は必須だ。

更に技術部へお邪魔してARCUSの調整。

ついでに幾つか特製クォーツを作っておこう。

全部作るのに今日を含めて三日かける予定。

制作に術式技術を使用し、特別な効果を持たせる。

このクォーツは23日金曜日の夜、それぞれに渡すつもりだ。

一応普段から四次元バッグに入れて常備している機械も調整しておこう。




ただリィンが無双しているだけ。
術にはオリジナルが幾つか混じっています。


次回はいよいよケルディック編です。
投稿はいつも通り来週土曜予定。
それでは!


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ケルディックへ

いざ、ケルディックへ!
というわけでケルディック編前編です。



いよいよ4月24日。

今日と明日は初めての特別実習だ!

詳しい課題の説明は向こうでサラ教官がしてくれるらしい。

それだけ聞けばA班とB班それぞれの自習先に赴いてそれぞれに説明するということになる。

トリスタから見て方向真逆ェ・・・。

ま、まぁどちらかの班には向こうで説明してくれる人がいるでしょ。

うん、大丈夫。多分大丈夫。

大丈夫じゃなかったら実習成り立たないって。

 

 

さて、特別製のクォーツは既に配布済み。

昨日の放課後はⅦ組全員を巻き込んでいろいろと準備は済んでいる。

皆を巻き込んだということは皆の準備も済ませたということ。

いつも通りに朝早くのランニングを済ませた後、皆が何か忘れてたり必要な準備を新たに思い出してたりしていないことを確認。

 

「皆、忘れ物は無いか? 何か忘れてた用事はないか? よっしゃ! 今年度最初の大仕事だ! 気合入れて、かつテンションあげて行こうぜ!」

「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

「気合入ってるわねぇ・・・」

 

サラ教官に苦笑された。解せぬ。

ちなみに駅の構内だったため、無関係な何人かに睨まれた。解せる。

ユーシスとマキアスが睨み合うのはいつものこと。

なに、解せぬって? 知るか。

 

 

そんなこんなで先に帝都方面行きの列車が来たため、B班メンバーは出発。

少し遅れてクロスベル方面行きの列車に乗る俺達A班。

ついでにサラ教官も乗ってきた。

教官が付いてくるのは俺達A班側か。

細かいことはおいといて、さぁ、出発だ!

 

 

ところで、電車じゃなくて列車なんだよね。

俺的には電車の方が言いやすい。

・・・どうでもいいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケルディックまで列車で約1時間。

ちなみにそこで乗り換えるとバリアハート行き。

乗り過ごすとクロスベル行きだ。

 

「リィンはケルディックにも行った事があるの?」

「ああ、何度か立ち寄ったことがある。かなり大きい街だからな」

 

エリオットの質問に答える。

 

「一番有名なのは交易町という名前の由来にもなった太市だな。毎週土日に開かれてるが規模はかなりのもんだぞ。他にも街の特産物として穀物や野菜とかがある。特に小麦は帝国内のシェアの半分近くを占めているんだ。街郊外の北西にあるルナリア自然公園も有名な観光地として知られている。公園の管理人やガイドの人はある程度戦闘ができることが必須条件だ」

 

概要としてはこんなところか。

 

「リィン、特産物の中に地ビールを忘れてるわよ」

「俺らまだ未成年ですってば・・・」

 

サラ教官の言葉に呆れる俺達。

 

「ところでサラ教官。A班への説明はサラ教官がすると言うことはわかりましたがB班の方はいったい誰が説明するんですか?」

 

アリサの質問。

これは俺も思ったことだ。

 

「B班の現地での説明は私の知り合いに頼んだわ。A班の方の説明が終わったら私はB班のフォローとかその他もろもろのためにパルムのほうへ行くからよろしく」

 

B班は険悪そうだもんなぁ。

まぁ、いずれ通る道ではあるし、そんなら早めに解決した方がいいよな。

今回の研修が終わった後二人がどうなっていることか・・・。

俺が知る全ての神に祈っておこう。

(地球の神仏を含む)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケルディック到着。

何度来てもこの雰囲気は心地良い。

人が多いのにのんびりとした感じは観光地としても過ごしやすい。

 

 

さて、俺達は今、サラ教官に連れられて2日間世話になるだろう宿へ移動中。

ちなみに教官はあの後からケルディックに着くまでずっと寝てた。

ここ1週間はほぼ徹夜だったそうだ。

お疲れ様。頑張れ。

ついでに教官が寝てる間、俺達はUNOとかトランプとかブレードをやってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿の名前は《風見亭》。

俺も何度か世話になったことがある宿だ。

宿の女将であるマゴットさんとはサラ教官と彼女のような気軽に話すような仲ではない。

互いの名前と顔は覚えているが、軽く世間話をした程度だ。

とはいえ、互いに知り合いではあるため、3人で少し雑談に走った。

マゴットさんは俺がサラ教官の担当クラスの所属とは知らず、少し驚いていた。

彼女は、噂やら何やらで、俺が士官学院に入ったことは知っていた。

というか入学祝いの手紙を送ってきてたし。

あの時はどうやら、ケルディックの他の何人かに触発されたらしい。

簡単に言えば、皆で手紙書こうぜ! ということだ。

雑談の後は知り合いでない者同士が軽く自己紹介をし合い、部屋に案内された。

 

 

案内されたはいいんだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一部屋にベッドが四つ・・・っておい。

 

「まさか男女で同じ部屋ってことですか!?」

 

アリサが驚愕のような悲鳴のような声を上げる。

 

「う~ん、あたしも流石にどうかとは思ったんだけどねぇ。だけど、サラちゃんに『構わないから』って強く言われちゃってさ」

「『構わない』って強く言う言葉じゃねぇ・・・」

 

思わずそう返す俺であった。

 

「もしかしてB班も男女一緒だったりして・・・」

「「「・・・」」」

 

エリオットの言葉に俺を含むA班の他三人は天を、というか天井を仰いだ。

 

「いや、逆に考えるんだ。男女一緒の部屋にすることでガイウスの精神的負担が減ると」

「あんた達も大変そうだねぇ」

 

俺の言葉に3人が頷き、マゴットさんが苦笑した。

 

「B班に比べれば私達A班の苦労など大したことはあるまい。軍は男女の垣根なく生活を共にする世界。ならば部屋同じくすることくらい今の内に慣れておいたほうがいいだろう」

「ええ・・・そうね。でも、貴方達、不埒な真似はしないで頂戴。特にリィン」

 

ラウラの言葉に頷いたアリサだが、彼女は俺達、というか俺に釘を刺す。

 

「OK。なら俺は野宿にしよう。その方が二人も安心して眠れるだろう?」

「え? いや、ち、違うわよ!? 私は別にそんなつもりじゃ・・・」

 

俺の言葉にアリサは焦り始めた。なぜだ。

 

「いや、違うも何も、俺は野宿なら慣れてるから大丈夫だって」

「リィン、そろそろやめてあげなよ。それはアリサを非難しているようなものだよ」

「え? いや、何でそうなる?」

「リィン、私もエリオットと同じ意見だ。これ以上はアリサが不憫だ」

 

あるぇ?

 

「まぁ、とりあえずこれを渡しておこうかね」

 

マゴットさんが俺に封筒を渡してきた。

有角の獅子、士官学院の紋章。

特別実習の課題か。

 

「それじゃあね。何か困ったことがあったら何でも言っておくれ」

 

そう言ってマゴットさんは業務へ戻っていった。

さて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、開けるぞ」

 

頷く3人の目の前で封筒を開け、中身を取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

実習範囲はケルディック周辺、200セルジュ以内とする。

なお、1日ごとに班で一つ、レポートを纏め、後日担当教官へ提出すること。

レポートの作成日時は当日の就寝前とする。

別紙の依頼書を参照し、各自適宜判断して行動せよ。

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、これだけ?」

「ふむ、どういうことだろうか・・・?」

「とりあえず、別紙の依頼書って言うのを見ればいいんじゃないかしら?」

「よし、見るか」

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず概要は以下の通り。

 

・東ケルディック街道に出現したスケイリーダイナの討伐。

・街道灯が壊れたから交換して欲しい。

・薬の材料の調達(多分)の手伝い。

 

以上。

 

 

「え、これだけ?」

 

さっきはエリオットが言った言葉を今度はアリサが言った。

っていうか、書式がまんま遊撃士への依頼書じゃねぇか。

つまり・・・。

 

「なるほど、そういうことか」

「リィン、わかったの?」

 

エリオットの言葉に頷く。

 

「結局、どういうことだ?」

 

ラウラが尋ねてくる。

 

「簡単に言えばこの依頼を受けるか受けないかも俺達の裁量次第ってわけだ。それ以外にも、他の人が何か頼んできたらそれを引き受けることも有りだと思う。その日その日をどう過ごすかは全て俺達の判断にかかっている。つまりはそういうことだ」

 

おそらくは、それこそが特別実習の内容。

 

「多分だけど、これらの依頼は自分達で歩き回って解決していくようなものを選んでいると思う。その理由は、このケルディックという地を深く知るため」

「ふむ、その土地ならではの実情を自分達なりに掴む、ということか?」

「その認識でいいだろう」

 

皆の顔を見ると、どの顔にもわくわく、という感情が浮かんでいる。

 

「さて、どれからやろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西へ行って街道灯を交換し、皇帝人参を貰う。

ついでにルナリア自然公園にも寄ろうとしたが、工事かなんかで立ち入り禁止。

しかし、管理人のジョンソンさんは休暇中かな?

で、門の前にいた二人は代理?

街に戻り二手に別れ、俺とエリオットは壊れたほうの街道灯を持っていって報告。

その間に女子チームは太市でベアズクローを貰い、教会へ。

宿の前で合流して今度は東にスケイリーダイナの討伐へ。

俺がやると何の意味も無いからとラウラに言われて俺はただ見物。

戦闘終了後に注意点その他もろもろを指摘して戻る。

依頼人のサウロさんに報告を終え、街に戻ってこれからショッピングでも、と思ったら問題発生。

 

「ふざけんな! ここは俺の店の場所だ!」

「それはこちらの台詞だ! 嘘を言うんじゃない!」

 

商人二人が場所を巡って争っているようだ。

片方は見ない顔だがもう一人の方は知っている。

この街に住居を構える商人の一人だ。

確か名前は、マルコ。

 

「何があったんですか?」

 

とりあえず周囲にいる商人の一人に話を聞いてみる。

ここの商人達には俺のことは結構知られているからな。

 

「あ、リィンさん。何やら場所を巡ってのトラブルみたいで・・・。口論を聞く限りどちらも本物の許可証を持っているみたいなんですが・・・」

 

なるほど・・・しかし、それは妙だな。

こういった許可証の発行、もとい商売場所の管理はアルバレア家の仕事のはずだが。

 

「あっ・・・!?」

 

アリサの声に再び二人の商人を見る。

すると彼らは、互いの胸ぐらを掴み殴り合いを始めようとしていた。

 

「まずい! 止めるぞラウラ!」

「承知!」

 

俺とラウラは二人の商人を引き離し、落ち着かせる。

 

「な、何だね君達は!?」

「げっ、リィン君!? い、いや、これはだな・・・」

「とりあえず、落ち着いてください」

 

「なんの騒ぎかね!」

 

市場の入口から聞き覚えのある声。

誰もがその声の方を見る。

 

「貴方は・・・」

「も、元締め・・・」

「お久しぶりです。オットーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、いろいろあって一応形は整った。

週ごとに交代で場所を使い、もう一人の方は誰も使っていなかった場所に。

ところで、なぜ同じ場所の許可証がダブることになったのか。

 

「最近、少しばかり面倒なことになっていてな」

「面倒なこと?」

 

オットーさんの話に眉をひそめる。

あまりいい話ではなさそうだ。

 

「実は二月ほど前、太市での売上税が大幅に上がってしまったんじゃ。その割合は、ほとんどの商人が生活に困るギリギリの量での。それを取りやめてもらおうとバリアハートにある公爵家に何度も陳情のために行ったのじゃが、一向に取り合ってもらえず門前払い。しかも、領邦軍もこちらが陳情を取り下げない限り太市には不干渉を貫くと明言してな。諍いの仲裁はもちろん、市場に出すために育てている作物の畑を荒らす凶暴な魔獣の対処も杜撰になっておる」

「・・・マジかよ」

 

売上税の大幅増税。

帝国各地での様々な税金の増税がこんなところまでに来ているとは。

しかも苦情陳情に対する対応が最悪だ。

領民の生活を脅かすようなまねをするなんて・・・。

 

「まぁ、あまり君達に言ってもただの愚痴にしかならんし、このくらいで控えておこう。それより、明日の朝も、今日と同じく幾つか依頼を用意させてもらっておる。急に依頼が増えることもあるかもしれんが、午前中に終わるように調整しておこう」

「「「「ありがとうございます」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、太市へ。

マルコさんが今週の奥になってしまったため、慰めに行く。

 

「マルコさん、大丈夫ですか?」

「ああ、リィン君か。さっきは悪かったな」

「流血沙汰にならなかっただけでも一安心ですよ」

「・・・本当に悪かった」

 

とりあえず、落ち着いたようで一安心。

売上税の増税もあり、こんな奥だとギリギリらしい。

前はこの場所でも大丈夫だったことを考えると、増税の影響は大きい。

それに、増税前はこんな諍いもゼロだったと聞く。

下手すると、ケルディックが廃れることもありうる。

 

 

 

 

 

彼の店は明日開くとのことで、少し買い物を。

幾つか店まわり、お土産や保存の利く食材を買っていく。

ラウラたち3人は両手に買った物を持つが、俺は四次元バッグにポストン。

3人から羨ましがる視線を向けられるのは当然か。

そうして店をまわっていくと、一人の商人が興味深そうに話しかけてきた。

 

「その制服、君らトールズ士官学院生徒やろ?」

 

何か特徴的なしゃべり方、というか関西弁。

学院にも一人関西弁の生徒がいるけどね。

ん? そういえばあいつ、商人の娘だって言ってたよな?

 

「元締めから聞いとるで。君ら、実習とやらでここに来たらしいな?」

「はい、そうですけど・・・?」

 

アリサが疑問符を浮かべつつ答える。

 

「実はウチの娘も士官学院の、君らの同級生でな。ベッキーちゅうて、ミラ勘定以外はさっぱりな出来の悪い娘何やけど・・・」

 

やっぱりか。

 

「ええ、知ってますよ。トールズにはもう一人商業系の生徒がいて、よく二人で討論してます。仲は悪くないみたいですよ。後は、トリスタのあちこちでバイトしてますね」

「おぉ、そうか! 元気にやっとるみたいやな。ほんなら、君らとはどうや?」

「二人の討論をたまに聞いたりとか、買い物途中でバイト中の彼女と雑談したりとかしてますね。まぁ、仲良くやってますよ」

「お、おぉ、そうか・・・それは、うん、よかったなぁ・・・」

 

ベッキーのお父さんが若干震え声になったのは、俺が話している途中で約2名が不機嫌なオーラを発し始めたからである。なぜだ。

 

「二人とも、何で睨むんだよ?」

「別に。なんでもないわよ」

「私は睨んでなどおらぬ」

 

・・・なんでさぁ。

 

「ま、まぁ、君らも学院ではあんじょうしたってくれ。いろんな意味で頼むわ」

「「「わかりました」」」

 

空気が少し落ち着いた。

ベッキーのお父さんは一息ついて続ける。

 

「ほんで君ら、調子はどないや? 実習とやら、上手くやれとるんか?」

「あ、はい。それなりに頑張ってます。あはは」

「至らぬことも多いが、それでもいい勉強をさせていただいている」

 

エリオットとラウラの言葉にそうか、と頷くベッキーのお父さん。

 

「お、今ええこと思いついたで!」

「「「「?」」」」

「君らも疲れてるとは思うんやけど、もしよければ、店番をやってみないか?」

 

なんと、店番とな。

 

「なんせ商売っちゅうんは交渉術。士官学生にとってこういった経験は決して無駄にはならんはずや。どないや、いっちょ、やってみいひんか?」

 

面白そうだな。

 

「皆はどうしたい? 俺はやりたい」

「そうね・・・こういった経験をしておくのも悪くないわね」

「ちょっと自信はないけど、やってみたいかな」

「うむ、面白そうだとは思うし、是非やらせてもらいたいところだ」

「よし、決まりだな」

「ほんなら、早速始めよか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引き受けたのは夕方のセール。

ベッキーのお父さん、もといライモンさんは、“利益より数”という商売理念を持っていて、より多くの顧客に満足してもらうことで店の評判を上げ、更に多くの客に来てもらう、といった、長期的な目で見ると利益が増えるような商売をしている。

大貴族達にはぜひとも彼のやり方を見習ってもらいたいものである。

まぁ、それはさておき、俺達の店番体験だ。

俺たち4人が時間交代で一人ずつ店番をする。

で、4人で売り上げ対決をしようぜって話。

店番は、俺、ラウラ、エリオット、アリサの順。

一人15分でそれぞれが自分のやり方で商売をし、結果・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリオットは値引きをあまりしなかった。

結果、利益はそれなりに出たが数は少ないかな、といった感じ。

逆にラウラは値引きをしすぎて赤字気味。

数は多く売れたがちょっと商売としてはやっていけないかな。

総合順位2位は俺。

売り上げ、販売数共に並みの商人クラス。

旅は経験の宝庫だとコメントしておいた。

で、それを上回ったのがアリサ。

売り上げ、販売数共に俺を上回り、上位の商人達に迫るほど。

本人は商売経験は無いと言っていたが・・・。

経験がある俺より上とは・・・これも血筋か、才能か。

とにかく、楽しめたからよしとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に大幅な増税を行うのはかなり危険だ。

当然、反発が出るし、場合によっては税を払うどころか生活に必要な金すら無くなってしまい、文字通り無一文になってしまう人もいる。

増税を行う理由はある程度予想が付く。

貴族派と革新派の対立。そろそろ戦争になりかねない。

各大貴族はそのための準備に金が必要なのだろう。

だから税を増やした。

しかし、貴族達の生活が全く変わらないのに対して、平民の生活だけが厳しくなっていく。

つまりは格差がより大きくなるということ。

領民達の信頼を保ちつつ、かつ増税を行うのであれば、増税する割合を小さくし、自分達の身を切る政策、つまり貴族が自ら節制を行い、それを知らしめるくらいの事をしなければならない。

そうでなければ領民だけが苦しみ、貴族は相変わらず裕福な生活をしている状況に、平民達の不満や怒りは溜まっていく一方だ。

こんな状況が続けばどうなるか。

考えられることは幾つかある。

領民による革命運動や、領民の国外・領外逃亡。

革命は、最終的には領邦軍と武装した領民のぶつかり合いになるだろう。

領民が勝った場合は貴族の没落が起こり、領邦軍が勝った場合には領民達の戦死や生き残った領民の逃亡などにより税収が大幅に減り、どちらにしろ貴族にとって苦しい結果になる。

領民逃亡の場合は税を納める人が減ることにより税収が減り、貴族の生活が苦しくなる。

ここで、貴族が更に増税した場合、逃亡する人が更に増え、という負のループに陥る。

どう足掻いても誰にとっても嫌な結末が待っているからこそ、急な大幅増税は愚策なのだ。

 

「と、こんなところかな」

「「「へぇ~」」」

 

俺の説明を聞いて感心する3人。

現在俺達は、風見亭の1階で夕食中。

 

「商人だけの問題ではなく、領全体の存亡にも関わるのだな」

 

ラウラの言葉に肯定の意味をこめて頷く。

 

「ねぇ、そろそろ部屋に戻らない? レポートも書かなきゃいけないし」

「あはは、確かにそうだね。これ以上のんびりしてると眠くなってきちゃいそうだよ」

「んじゃ、戻るか」

 

そうして俺達は部屋に戻る。

皆で協力してレポートを書いて、今日という日が終わる。

明日は問題が起こりませんようにと願いをこめて、おやすみ、皆。




一番最後はフラグ。
原作知っていればわかるとは思いますが。

次回はケルディック編中編です。
ですが来週は諸事情により投稿無し。
次回投稿は17日予定です。
それでは!


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初めての特別実習、二日目

皆さん、お久しぶりです。
第13話の投稿になります。
今回はケルディック編中篇です。
それでは、どうぞ。


マゴットさんから今日の分の依頼書を貰う。

依頼内容は二つ。

オットーさん直々の魔獣討伐依頼。

昨日見つけられた財布の落とし主の捜索。

俺達が今日帰るということで少なくしてくれたようだ。

余った時間で大市を楽しんで欲しいということか。

やっぱり来てくれたからにはいい思い出を作って欲しいってことだろうな。

 

「どっちからやる?」

「そうだな・・・財布の落とし主が気付かずに帰っちゃったらあれだし、先に財布の落とし主の捜索に行こうか。できるだけ早めに見つけたほうがいいからな」

「わかった。それでは行くとしよう」

 

そして俺達が外に出ようとした時、

 

「女将さん、大変大変!」

 

ここの従業員であるルイセが駆け込んできた。

 

「なんだい、朝っぱらから騒々しいねぇ」

「それどころじゃありませんよ! 大市の方で“事件”なんですよ!」

 

事件・・・?

 

「それはどういうことだい?」

「大市の屋台が夜の間に壊されてて、しかも商品まで盗まれちゃったらしいんです!」

「何だって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで駆けつけると、大市には商人達が居た。

彼らの中心には昨日も揉めてた二人がまた揉め、オットーさんが止めようとしている。

 

「よくも私の屋台を滅茶苦茶にしてくれたな!」

「何言ってやがる! そっちこそ俺の屋台をぶっ壊したんだろうが!」

 

今のを聞く限り、被害者今まさに争っている二人。

そして二人は、互いに相手がやったと思っているようだ。

俺達は彼らを止めようとする。

 

「何の騒ぎだね!?」

 

その時、大市に領邦軍が現れた。

流石に二人も争いを止める。

 

「早朝から大騒ぎしすぎだ! 誰でもいい、状況を説明しろ!」

 

それを聞いてオットーさんが事件のことを話す。

途中で誰も口を挟まず、最後まで聞き終えた領邦軍の隊長は頷いた。

 

「ならば話は早い。その二人の商人を引っ立てろ」

「「ハッ!」」

 

何言ってやがるんだこいつら!?

 

「互いの屋台を壊され、商品まで盗まれた。しかも昨日二人の間で諍いがあったとなれば答えは一つだ。いがみ合う二人が同じ事件を同時に起こしたということに他ならない」

 

いくらなんでも無茶苦茶だ。

そんな暴論が通るはずがないだろう。

 

「捜査もしないうちからそうするのはいささか強引過ぎると思うのだが?」

 

ラウラも同じ意見のようで、領邦軍にそう意見する。

 

「ふん、我々にはこんな小事に手間を割く余裕はないのだよ。このまま騒ぎを続けるのであればこちらはさっき言ったとおりに処理するしかないが?」

 

そういわれた二人は力なくうなだれる。

 

「そうだ。それでいい。あまり余計な仕事を増やさせないでもらおう。今後は注意したまえ」

 

そのまま領邦軍は去っていく。

 

 

 

 

 

「・・・何も解決してねぇじゃねぇか」

 

思わず呟いた言葉に皆は頷く。

領邦軍も今までこんなことはしていなかったはずなのになぜ・・・。

 

「腑に落ちぬことは多いじゃろうが、お前さんたちは頭を冷やしてくるが良かろう。勝手に決め付けて殴り合っても、状況は悪くなるだけじゃ」

「「・・・はい」」

 

その後はその場に居た全員で壊れた屋台を何とかし、それが終わった後、俺達4人はオットーさんに連れられて彼の自宅へとお邪魔した。

 

 

 

 

 

 

「お前さんたちのおかげで無事に大市を開くことができた。礼を言わせてくれ」

「いえ、あれ以上の大事にならなくて幸いでした」

 

会話が途切れ、沈黙。

 

「でも、領邦軍が駆けつけたのに何の解決にもならないなんてね・・・」

「そうだね。あれが本来のやり方、なんてはずはないのに・・・」

 

アリサとエリオットがそう呟く。

 

「ケルディックの抱える問題はなかなかに大きい、ということか」

「ああ、そうなるだろうな」

「わしらが増税への陳情を取り下げぬ限り、彼らはあのような姿勢をとり続けることじゃろう。今までは介入すらせずに放置していた分、今日のはまだマシじゃろう」

「でも、このままじゃああの二人も収まりが付かないだろうし・・・」

 

確かにそうだろう。

特にマルコさんは奥で売ってギリギリと言っていたため、よりキツイだろう。

 

「噂が広まれば、利用者の足が遠のくことは想像に難くない。このままではいかんと、ワシもみなもそう思うておるのじゃが・・・」

 

そうすれば全体の収入が減り、それによって税収の総額も減る。

アルバレア家の対応によっては昨日俺が言ったような悪循環に陥る可能性も高い。

 

「・・・一つ、いいですか?」

「む? どうしたのかね? リィン君」

「今回の事件、俺達に調査させて頂きたい」

「「「「!?」」」」

 

オットーさんはもちろん、アリサたちも驚愕する。

 

「ええっ!?」

「屋台を壊した犯人を、私達で見つけるというのか?」

「リィン、本気なの!?」

「当然だ」

 

エリオットの疑問詞に簡潔に答える。

 

「・・・しかし、大市でのことは、ワシら商人の問題じゃ。それに、年長者として、学生の身分であるお前さんたちに押し付けるわけにはいかん」

「そういうわけにはいかない。ここまでの事件が起きている。もはや商人だけの問題として片付けられる事じゃない。それに、領邦軍も頼れないのであれば、今一番自由に動ける俺達が行動するのが最善だ。士官学生としても、この事件、見過ごすわけにはいかない!」

 

あ、しまった。

つい敬語が抜けた。

 

「で、でもリィン。リィンはともかく、僕達は素人だよ?」

「そうよ。せめてサラ教官の指示を待つべきじゃないかしら?」

 

エリオットとアリサの言葉に、俺は首を横に振る。

 

「二人とも、今は特別実習だ。今日まで俺達は範囲内でなら自由に動け、何をするかは全て俺達の判断に委ねられている。ただ指示を待つだけじゃ何も始まらない。違うか?」

「「「・・・」」」

「事件の調査をしないというのなら皆は実習課題のほうを進めてくれ。最悪、俺一人でも何とかする手段ならある。それに、課題と調査を無理なく同時に進める計画も立てた」

 

沈黙し、考え込む3人。

やがてラウラが口を開いた。

 

「私は参加しよう。このまま何もしないというのは我が誇りを汚すのと同義だからな」

「そうね・・・見てみぬふりをするなんてやっていいわけないものね・・・私もやるわ」

「自信はないけど・・・僕も頑張るよ!」

 

よし、全員参加だな。

 

「いや、しかし・・・」

「オットーさん、これは俺達が自主的にやると決めたことです。貴方はいざというときに俺達が事件の捜査をしていたという事の証人になって欲しい。頼めますか?」

「・・・わかった。よろしく頼みますぞ」

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうするの? さっきは課題も同時にこなせるって言ってたけど」

 

外に出た俺達。

アリサの言葉に俺は口を開く。

 

「3人は大市を中心に聞き込みを。もし財布を探している人を見つけたら、リジーさんの屋台まで連れて行ってくれ。その間に俺は西街道の大型魔獣をブッ潰してくる。戻ったらオットーさんに報告した後連絡を入れるから、一旦集まって集めた情報の整理だ。いいな?」

「「「了解!」」」

「よし、解散!」

 

俺は魔導術で身体強化を使いながら西街道へ向かう。

アリサは大市会場、ラウラは街の西側、エリオットは街の東側へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウザルク、ヘイスト、ピオラ併用。

街道を一気に駆け抜ける。

魔導術で強化した視力で猛禽形の魔獣を捕らえる。

気配を探り、魔獣の周囲に人が居ないことを確認し、更に加速。

右の拳に業炎を宿し、加速の力を乗せた一撃を叩き込む。

ズヴォーダーはその力に耐え切れず、体を霧散させた。

 

 

 

 

 

ここからではARCUSの電波、じゃなくて導力波は届かない。

加速が切れ、ヘイストだけを掛けなおす。

ダッシュでケルディックへ戻る。

オットーさんに討伐完了の報告をした後、ARCUSで全員に連絡。

集合場所は風見亭。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、まずはアリサが報告を頼む。次はエリオット。その後ラウラだ」

 

会議の場所は風見亭内の俺達に割り当てられた部屋。

つまりは俺達が泊まった部屋。

俺の言葉に3人が頷く。

 

「私はまず、被害にあった二人に話を聞いてみたわ。どちらもアリバイはあるから二人の商人は犯人じゃないのは間違いないわね。マルコさんは加工食品、ハインツさんの方は装飾品を盗まれた。どちらもかなりの量を盗られてるわ。あと、ハインツさんから預かった商品のサンプルがこれよ」

 

アリサが取り出したのは銀の腕輪。

確かこれは帝都発のブランド品だったはず。

 

「額にすればどちらも大損害。特にマルコさんは店を畳むしかないほどよ。二人ともお互いが犯人じゃないことはわかってるけれどそうでもしないと正気が保てないって感じだったわ」

 

アリサの報告が終わり、次はエリオット。

 

「僕のほうは手がかりはほとんどなかったかな。事件とは関係ないけど、財布を落とした人を見つけたよ。あとは、教会の方で女の子から話を聞いてね。最近見慣れない男の人が猫にちょっかいを出していたんだって。その人は酔っ払っていたみたい」

 

見慣れない酔っ払いね・・・。

 

「その酔っ払いは私のほうで見つけた。話はあまりできなかったが事件の関係者には思えなかった。彼から聞いた情報は彼が仕事をクビになったらしいという事だけだ」

 

仕事をクビになった酔っ払いが自棄になって猫にちょっかいを、か・・・。

 

「その人の名前、聞いたか?」

「いや、上手く話ができなかった。だが、どうも昨日は道端で寝ていたらしい。街の人がそう言っていた」

 

ふむ、なるほど。

 

「俺からも一つ。これは、戻る途中で考え付いたことだけど、聞いてくれ。今回、騒ぎの仲裁に領邦軍が関わってきたよな? でも、今朝のオットーさんの話では、“今までは介入すらせずに放置していた”って言ってたよな?」

「ふむ、確かに」

 

ラウラの反応に頷く。

 

「このことは魔獣討伐の報告の時にオットーさんに確認した。間違いなく、領邦軍はこの2ヶ月間、一切大市に関わってないと言っていた」

「でも、それってどういうこと・・・?」

 

エリオットがそう尋ねてくる。

 

「考えられることはいくつかある。最悪なパターンでは・・・領邦軍が事件の犯人、もしくは犯人をけしかけてきた元凶」

「「「!?」」」

「そう考えると辻褄が合うんだ。大市での盗難事件はほぼゼロだ。その理由は街道の出入口を領邦軍が警備しているから。駅から列車を使おうにも不振人物は駅員に捕まるのが普通。そんな中で大量の商品を盗み出し、それが領邦軍に気づかれないというのはありえない。かといって、街に隠そうものなら隠せる場所は限られるからすぐ見つかる。なのに見つからないということは街から外に持ち出されたということ。そして領邦軍がそれを通したということなんだ」

 

一息つくために水を飲む。

 

「もう一つ。盗まれたのは二人だけ。しかも二人の店の場所は離れている。これは盗む側にとってやりづらい選択をしているということになる。それに金になるようなものを盗むにはもっといい店もあった。それから、盗むだけじゃなくて屋台も壊すっていうのはどう考えても盗む側にメリットがないどころか逆に手間がかかるという意味でデメリットになる」

「つまり・・・えっと・・・」

「纏めるとこうだ。離れた場所にある二つの店だけを狙い、その屋台を壊すことはムダだらけの行動だということ。これをやったのはどう考えても素人だ。そんな素人が大掛かりな盗みをやって、領邦軍に見つからないわけがない」

「だから、領邦軍はあえて犯人を見逃したってことになるのね」

「そうだ」

 

もうちょっとだけ続く。

悪ぃ、皆。あと少しだけ我慢してくれ。

 

「盗まれた二人は前日に同じ場所を巡って対立していた。でも、二人の接点ってそれだけなんだよ。盗む側から見て、それを理由に盗む店を選択する理由ってあると思うか?」

「ふむ・・・確かに、偶然にしてはできすぎているな」

「だろ? その上で領邦軍はこの事件をなかったことにしろと遠まわしにだけど言った。被害者の二人は公爵家の発行した許可証がかぶったから争った。許可証がダブるなんてことは今までほとんどなかったと聞いている」

「意図的に用意された状況、という可能性が高いというわけね」

「で、でも、領邦軍が犯人だってまだ決まったわけじゃないんでしょ?」

「ああ、そうだ。だからこれから行こうと思う」

「行こうって・・・どこに?」

「領邦軍の詰所にだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

領邦軍詰所に殴りこみ、とは行かないまでも電撃訪問だ。

揺さぶりを掛けてボロを出すかどうかはちょっとキツイが・・・。

士官学生の身分を利用したラウラの言葉で、隊長を引きずり出すのには成功した。

 

「領邦軍として、あれ以上の調査は行わないつもりですか?」

「何を言うかと思えば、そんなことか」

「そんなこと? 盗難事件というのは領地の治安に関わる問題。なのになぜ、“そんなこと”で片付けようとするんですかね? 領地の治安維持をするのが領邦軍の勤めでしょう?」

 

誰がどう見ても喧嘩を売ってるって?

喧嘩になれば領邦軍とか相手にもならないけど?

 

「ふん、威勢がいいな。だが、その認識ではまだまだ青い」

「・・・ほぅ?」

 

今ので俺の額には青筋が浮いたと思う。

 

「我々領邦軍が治安を維持するに当たって、各地を治める領主の意向が最も重要になる」

「アルバレア公爵家・・・」

「そうだ。領邦軍に属する以上、貴族の命令は絶対だ」

「つまり、どんな事件が起こっても、大市が少しでも関われば絶対に関与しないと?」

「そうなるな。領邦軍にとって、貴族の意向こそが最重要となるからな」

 

本当に面倒だ。

 

「あの・・・すみません」

 

と、ここでエリオットが声を上げた。

 

「何だ?」

「被害者のハインツさんが取り扱っていた商品、あれは加工食品だし、もし街の中に隠してあるならゴキブリとかが沸いて衛生的に危ないと思います。だから、そちらだけでも何とかしたほうがいいんじゃないでしょうか?」

「何を言っている? 加工食品を扱っていたのはマルコとかいう地元商人だろう?」

 

ああ、そういうことか。

ナイスだエリオット。

 

「失礼、こちらの言い間違いでした。ですが、なぜ貴方がそれを知っているんでしょうかねぇ? ろくに調べもしてないくせにわかるなんておかしいですよ?」

 

思いっきり嫌な笑い方をしながらそう尋ねる。

 

「わ、我々の方でも独自の情報網があるということだ! これで話は終わりだ!」

 

めっちゃ動揺してんじゃん(笑)

 

「クロだな。ナイス、エリオット」

「あはは、とっさに思いついたことだったし・・・」

「でも結果オーライって感じね」

「うむ、これでかなり見えてきた」

「でもリィン、さっきの笑顔はかなりあくどかったわよ」

「挑発だ。かなり効いたと思うぜ」

 

 

 

 

 

領邦軍詰所を後にして街に出たとき、俺の視界にある人が入った。

 

「なあ、ラウラ。さっき見つけた酔っ払いってあの人でいいんだよな?」

「ああ、確かにそうだが・・・リィン?」

「仕事をクビにされたって言ってたよな?」

「う、うむ。確かに言っていた」

「リィン、どうかしたの?」

「・・・ありえねぇ」

「「「え?」」」

 

3人の疑問符を無視してその人のほうへ向かう。

 

「ジョンソンさん」

「ぅぁぁ~、おぅ? リィン君じゃねぇかぁ~」

「仕事をクビになったって本当ですか?」

「あぁ~? 何でそんなことを知って・・・おぉ、さっきの嬢ちゃんじゃねぇかぁ」

「彼女から聞いたんです。いったい何があったんです?」

「俺もわけがわかんねぇよぉ~、ヒック。何にも拙い事なんかありゃしなかったのに、いきなりクロイツェン州の役人さんがやってきて解雇されちまったんだよぉぉぉ」

「何だと・・・!?」

「ね、ねぇリィン。この人と知り合いなの?」

 

アリサが訊いてきた。

 

「この人は“ルナリア自然公園”の管理人だ」

「! それって・・・昨日の」

 

そう、昨日皆を連れて行こうとした場所だ。

閉鎖中ということで門前払いを喰らったが。

 

「この人が居なかったのはおかしいと思っていた。あの時は一時的な休暇でももらっているんだろうと思っていたが、まさかクビになっているなんてな・・・」

 

しかし、そうなると一つ気になることが。

 

「ジョンソンさん、あんたが解雇されたってことは今あの公園はどうなっているんだ? 閉鎖中って言ってたが、まさか公園ごと潰れるのか!?」

「それがさぁ~、なんかチャラチャラした若造共が管理人の制服着て大きな荷物運んでたんだよぉ、ヒック、昨日の夜中に。もうわけがわからねぇよぉ~」

「昨日の夜中にだと!?」

 

もう間違いない。

犯人の潜伏場所はルナリア自然公園。

領邦軍どころか公爵家まで完全にグルということか。

こんなことしても自分に不利益だってのに。

 

「ジョンソンさん、あんたの居場所は、俺達が絶対に取り返してみせる」

「お、おぉ?」

「待っていてくれ。必ず取り返す! 皆、聞いたか! これからルナリア自然公園へ殴り込む! 管理人のこの人が居ない以上、魔獣が増えているだろう。準備はできているか?」

「問題ない!」

「いつでもいけるわ!」

「準備ならばっちりできてるよ!」

「よし、盗まれた商品と奪われた自然公園を取り戻す! 行くぞお前ら!」

「「「おー!」」」




説明におかしいところがあるかもしれません。
もし見つけたら、感想やメッセージでお知らせください。

次回はケルディック編後編になります。

ここ3週間感想がゼロなのでかなり堪えてます。
感想ください。
できれば前話分も含めてお願いします。


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ルナリア自然公園

ケルディック編後編の第14話。
これにて、ゲーム内での第1章が完結になります。


昨日来た時とは違い、門の前の見張りは居ない。

不用心にもほどがあるが今、俺達からすれば好都合。

公園の奥、4人分の気配を感じる。

ラウラは木々や魔獣が邪魔なのか感じ取れないようだ。

まだまだ修行不足だな。

そして、アリサが落ちて草に紛れていた腕輪を見つける。

そのデザインは、彼女がハインツさんから借りたサンプルと同じ。

もはや犯人が此処に潜伏していることは間違いない。

門には内側から錠が掛けてある。

ならば・・・

 

「五の型・残月」

 

錠前を一刀両断。

落ちた錠はその辺の草の中に隠しておく。

 

「行くぞ」

 

俺の言葉に、3人が無言で頷く。

それを見て、俺は鉄の扉に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、小さな石碑があちこちに建ってるね」

「ええ・・・何なのかしら?」

「多分、この地方にあった精霊信仰の名残だろう」

「ラウラの言うとおりだ。本来、この場所は信仰の場だったのさ」

 

精霊信仰はかつてゼムリア全土で盛んだった宗教に近いもの。

地球で言えば八百万の神とかがそれにあたる。

 

「今でもここは霊的な土地として御参りとかに来る人もいる」

「「へぇ~」」

「うむ、私の故郷であるレグラムにもそういった人はいるぞ」

 

そうそう、名残がある地では今でも信仰が残っているんだ。

というわけで石碑に向かって4人で合掌。

無事に事件が解決しますように。

 

 

 

 

 

さて、そろそろ動こう。

俺は四次元バッグから幾つかの機械を取り出す。

 

「それは?」

「自立飛行型相互通信式広域偵察機、通称“ゼクター”だ」

 

わかる人にはわかるであろう、仮面ライダーカブトの変身アイテム。

カブトゼクター、ガタックゼクター、ドレイクゼクター、ザビーゼクター、ハイパーゼクター他。

但し変身はできない。

偵察機として作ったからな。

なぜゼクターにしたのか? ロマンだよ。

ゼクター達を空に放つ。

カブトゼクターとハイパーゼクターはまっすぐ犯人たちの居る場所へ。

ザビーゼクターは全部で5体。

彼らとガタックゼクターは森全体を捜索する。

犯人達が盗んだものを一ヶ所に纏めているとは限らないからだ。

ドレイクゼクターは俺達のすぐ傍で待機。

他のゼクター達からの通信を俺達に知らせる役目である。

ドレイクは眼の二色の光で会話ができ、他ゼクターから受信した映像を空間に投影できる。

カブトの機能は単に大容量だということ。

つまりより多くの映像を保存できる。

そしてカブト単体で自分で撮った映像を空間投影できる。

ハイパーは撮影機能は無く、代わりに強力なステルスが使える。

当然他のゼクターを隠すのが目的だ。

ステルス中でもゼクター同士の通信は可能。

ザビーは数で攻めるだけ。

広範囲をカバーするためには必須だが。

ガタックは多機能タイプ。

戦闘のサポートにも使えるしフラッシュ機能や単体ステルス、小さいがバリアも張れる。

もちろんサソードもある。

こいつも単体ステルス機能付き。

尻尾の先に高圧電流を流す針がついているため、主に戦闘のサポート用。

忍び寄ってプスリ→感電が基本の使用法。

 

 

さて、ステルスまで使ってカブトを飛ばした理由だが、

 

「証拠として提示する為だ。こっそり奴らの会話を録っておけば自分達しかいないと思って自爆してくれるだろうさ。盗まれた荷物もそこにあれば映像も証拠になる」

「撮影されていることに気付かせないためのステルスね」

 

そういうことだ。

さあ、俺達も行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い森の中、進むこと二十分弱。

俺達はカブトが撮影真っ最中の地点まであと少しという位置まで来た。

奴らとの距離は耳を澄ませば会話していることがわかる程度。

当然、自分たち以外に居ないと思っている犯人達は俺達に気付いていない。

魔導術を使い、空間に干渉。

向こうの音をこちらに聞こえやすく、逆にこちらの声を向こうに聞こえにくくする。

そうして向こうの会話を聞く。

その会話の内容を要約すれば、犯人達は依頼によって盗んだようで、陳情を取り下げなければもっと稼げる、その上報酬まで出ている、依頼人は領邦軍にも顔が利いているが、何を考えているかさっぱりわからないような奴、ということ。

・・・思った以上に複雑かもしれない。

ここにきて領邦軍でも役人でもない第三者か?

どうなっているのやら。

いや、考えるのは後にしよう。

作戦開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ! という音が響く。

公園の管理人の服を着た男たちはその音に振り向き、驚愕した。

 

「っ!? お前、昨日の!?」

「門には鍵を掛けてたはずだ! なんで入ってきている!?」

「きっと突破してきたんだ! そうじゃなきゃこうはなってねぇ!」

「それじゃあ、鍵を掛けてきただけじゃ足りなかったのか!?」

 

喚く男たちの視線の先には、黒髪の男。

言わずもがな、俺ことリィン・シュバルツァーである。

 

「トールズ士官学院所属、リィン・シュバルツァーだ。お前達を捕縛させてもらう」

 

俺の言葉に焦る男達だったが、次第にそれは薄れる。

逆に、男たちの口元には薄ら笑いが浮かぶ。

 

「へっ、ガキ一人に何ができるってんだ!」

「こっちには最新式の導力銃があるんだぜ!」

「幸い目撃者もいないことだし、殺っちまってもばれないよな!」

「一人でのこのこやってきて、馬鹿じゃねぇの? 覚悟しろよ!」

 

口々に喚く男達に、肩を竦める。

 

「馬鹿はそっちだ。もう少し頭は使えないのか? 素人ども」

 

その言葉に激昂し、銃を乱射する4人の男。

 

「五の型《無月》」

 

それを、球殻状になるほどの神速の斬撃でひとつ残らず叩き落とす。

 

「無駄だ。たとえ最新式の銃(マシンガン)を使おうが、素人では俺に傷一つ付けられない」

 

目の前で起こったことに驚愕を隠せない男達。

 

「ば、化物かよ・・・・!?」

「ハッ、この程度が化物? だからお前らは素人なんだよ。この程度は武術の使い手なら大抵の奴ができるぞ。化物っていうのは息をするように周りを制圧できるような奴を言うのさ」

 

そう明言する俺も十分化物の条件に合致する。

というわけで軽く殺気を放ち、男達を威嚇。

素人である彼らはもう足が震えている。

ちなみに、このレベルの殺気なら、今ではエリオットも怯まずに立ち向かえる。

 

その時、ヴォン、という音と共に、男達の背後の盗品の山が結界で覆われる。

回り込んだエリオットが盗品に傷がつかないように結界を張ったのだ。

直後、広場の両横から現れたアリサとラウラがARCUSを駆動。

重力魔法と高周音波の魔法を発動し、男達は倒れる。

今ここに、制圧が完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

といっても別に俺一人が斬りこんでフルボッコでもよかったんだけどね。

正直、無駄だらけの作戦だったけど成功したんで無問題。

まぁ、この程度の奴らに失敗する方がおかしいんだけどね。

それはともかく、

 

「チェーンバインド」

 

“リリなの”って言えばわかるよね。

鎖を生成して拘束する魔法。

犯人達の足元に魔方陣が出現し、そこから現れた鎖が勝手に犯人達を縛り上げる。

本家は鎖の生成だけど俺の場合は転送に近い。

転送元? 俺の四次元バッグの中。

カブトには撮影を続けてもらってドレイクを手元に呼び寄せる。

映像は映さずにカブトから受信したデータの音声だけを再生。

当然ながら、それを聞いて驚愕を示す犯人達。

 

「まぁ、今のを聞いて大体理解できたろ? 逃げ場はないぜ。というわけで聞かせてもらおうか。お前達に依頼をした男について、な」

 

と、そこで知っている気配を感じた。

 

「・・・ブルブラン?」

「あれ、この音・・・?」

 

同時に、エリオットも何かに反応する。

それは俺も聞こえた。

 

「笛の音、か?」

 

次の瞬間、巨大な魔獣の咆哮。

聞き覚えがある。これは・・・、

 

「グルノージャ、か?」

 

そして、こちらに近づく地響き。

 

「エリオット、結界を強化しろ」

「う、うん!」

 

結界の色が濃くなる。

 

「アリサ、ラウラ、犯人達を広場の端へ」

「わかったわ!」

「承知!」

 

二人が犯人達を引きずって広場の端へ。

そして二人は彼らの前に立ち、構える。

俺は一歩前へ。

そして現れる巨大なヒヒ。

奴は公園を縄張りとする主、グルノージャ。

だが、こいつは森の奥深くに潜み、人が通るこの広場まで出てくることは有り得ない。

この森に何かが起こっているのか、あるいはさっき微かに聞こえた笛の音か。

俺は刀に手を添え-―――

 

「リィン」

 

ここでラウラが声をかけてきた。

 

「何だ?」

「この戦闘、我々3人にやらせてもらえないか?」

「えぇっ!?」

「ラウラ、本気なの!?」

 

・・・これはどう判断すべきだろうか?

 

「アリサとエリオットはどうする?」

「「・・・・・・」」

 

考え込む二人。

だが、やがて二人ともゆっくりと頷いた。

 

「私はやるわ。いつまでも、貴方に頼り切りになるわけにはいかないものね」

「僕もやるよ。せっかく特科クラスに入ったのに、このまま何もしないなんて嫌だ」

「・・・OK」

 

魔導術を発動し、エリオットの結界の上から別の結界を張る。

同じ術をもう一つ発動し、今度は縛られている犯人達を結界で守る。

でも、ここで下がるのは御免だね。

 

「せめて初撃くらいは入れさせてもらうぜ!」

 

前に向かってダッシュ。

グルノージャが反応して前足を振り下ろす。

しかし、その勢いを逆手に取り、体術奥義・一本背負い。

後は3人に任せ、俺は跳躍して犯人達の元へ。

 

「ば・・・化物・・・」

「・・・死にたいか?」

「「「「ヒィッ!?」」」」

 

そんなやり取りは置いといて、

 

「ヘイスガ、リホイミ、レジスト、バイシオン」

 

補助魔法を3人にかける。

加速、時間回復、状態異常防御、攻撃強化。

 

「危なくなったら俺がやる。思いっきりぶつかってこい!」

「ええ!」

「うむ!」

「うん!」

 

3人は、ようやく起き上がったグルノージャに向かい、そしてラウラが地を蹴った。

俺は周囲にいる取り巻きに対して魔導術を行使する。

 

「バオウ・ザケルガ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にして11分。

撃退完了。

3人とも大きな怪我もなく、俺はあれ以上手を出さずに済んだ。

 

「ケアルガ」

 

回復魔法を使って3人を癒す。

 

「お疲れ。どうだ、何か掴めたか?」

 

俺の言葉にはラウラが頷く。

 

「うむ、いい経験になった」

「そうか。なら良かった」

 

そんな俺達に対し、犯人達は安全に腰を抜かしている。

 

「な、なんなんだよこいつら・・・」

「リィンだったら一人でも秒単位で終わるよ?」

「「「「・・・・」」」」

 

エリオットが放った言葉に絶句する犯人共。

まぁ、さっきもバオウ・ザケルガ使ったし、嘘だと笑い飛ばすことなんてできないだろうさ。

見た目に反して腹黒い彼がしてやったりと笑ったところで、ホイッスルの音が。

同時に、こちらに向かってくる複数の足音。

この気配、領邦軍の奴らだな。

 

「居たぞ!」

「取り押さえろ!」

 

隊長の号令に従い、領邦軍兵士が取り囲んだのは、なぜか俺達。

 

「なぜ我等を取り囲む?」

「口答えするな!」

「学生とはいえ容赦はせん! おとなしくしろ!」

 

ラウラが発言するも、理由を言う気すらないようだ。

 

「一つだけいいか? 隊長さん」

「なんだ? 言ってみろ」

 

少なくとも隊長は話を聞く気だと。

 

「来たばかりで士官学院生をいきなり取り囲むなんて、正気とは思えないけど?」

「ふん、そこに転がっている彼らがやったとは限らんだろう? 可能性として、君達がやったということも十分あり得るのではないかね?」

「ってことは彼らがやった可能性もあるってことだよな? それなのに、取り囲むのは俺達()()?そういう理由なら全員捕らえる必要があると思うけど?」

「既に彼らは縛られているだろう? それに、既に縛られているということは君達が彼らに通報されないために縛り上げたのではないかね?」

 

うわ~、理論としては滅茶苦茶だぁ。

 

「言いがかりにもほどがあるわよ・・・」

「誰かに聞かれたら終わりだよ? わかってるのかなぁ?」

 

そんなアリサとエリオットの呟きは、小声ながら聞こえてしまったらしい。

 

「ふん、ここには我々以外に誰も居ない。何を言ってもバレなければ問題ではないのだよ」

「あ~、堂々と言っちゃってくれたところ悪いけど、全部録音してるよ?」

「何っ!? ・・・ならばそれを出してもらわねばならんな」

 

・・・めんどくさい。

 

「そいつは断る。当然だろう?」

 

とりあえず、魔導術を発動。

俺達と領邦軍の間に円柱状の結界を張る。

驚いた領邦軍兵士の一人が撃つが、結界に阻まれる。

次に、上空に向けて一発魔力弾を放つ。

その魔力弾が森を上に抜けた時、空間に波紋が広がった。

そのまま、魔力弾は上へと突き抜ける。

魔力弾が見えなくなった後、黒い雲が集まり始めた。

 

「な、なんだ・・・!?」

「リィン、今度は何をしたのだ?」

 

領邦軍隊長とラウラの言葉には答えず。

集まった暗雲は俺達の真上を中心に渦を巻く。

そして、雲が蒼い雷を纏う。

更に・・・

 

『ガルロオオオォォォォォォ――――――・・・』

 

渦の中心から巨大な蒼いバオウの頭部が出現した。

 

「ヒ、ヒィッ!?」

「ば、馬鹿な・・・!? なんだこれは!?」

「正当防衛だ。悪く思うなよ」

 

怯える野党に驚愕する領邦軍隊長。

俺達と商品の結界を解く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。言い忘れてたけど足元注意な」

『え?』

 

ガヅン!

 

「「「「「「「ぬべらっ!?」」」」」」」

 

ポンッ

 

 

 

何が起こったか?

地面から突如突き出した鉄の棒に股間のアレを思いっきり打ち付けられたんだよ。

棒の先は丸めてあるから安心しろ。

で、その後の音は上空のブルーバオウが雲ごと消えた音。

消えるときにナルトでよくある白い煙を出して、な。

俺達は領邦軍の包囲網から離脱、と。

 

「うわぁ・・・えげつない・・・」

「見ているこっちが怖くなってくるわよ」

「うむ、いくらなんでも、これは、なぁ・・・」

「潰れてはいないはずだから問題ない」

 

暫く痛みはあるだろうけどな。

 

「いずれにしろえげつないですよ、リィンさん」

「お、クレア、久しぶり」

「ええ、お久しぶりです」

 

そう言って若干引き攣りながらも笑みを浮かべたのはクレア・リーヴェルト。

彼女の背後には鉄道憲兵隊の面々。

全員もれなく顔が引き攣っていて、男性陣は股間を手で押さえている。

 

「どの辺から見てた?」

「この現場を見たのは丁度地面から金属の棒が突きだした瞬間からですね」

 

クレアが苦笑しながら教えてくれた。

 

「ねぇリィン、この人達って鉄道憲兵隊だよね? その水色の髪の人とは知り合いなの?」

「ああ、彼女はクレア・リーヴェルト。鉄道憲兵隊の纏め役だ。階級は大尉だね。『氷の乙女(アイス・メイデン)』って聞いたことない? クレアの異名なんだよ」

 

異名のせいで氷のような冷たい人とか思われることが多いけれど、そんなことは無い。

むしろ温厚で親しみやすい人だ。

常に敬語なのに堅苦しい感じがしないのもこの人の特徴というべきか。

 

「「「へぇ~」」」

「なんか、リィンさんに言われると少し気恥ずかしいですね」

 

クレアが何故か顔を赤くしながら言うと約2名の視線に棘が混じった。

これ何度目? 解せぬ。

 

「でもまさか、リィンさんが特科クラスになるとは思いませんでした」

「ああ、聞いたか。誰情報?」

「ミリアムちゃんです」

「そうか、おかげさまで楽しく過ごせてるよ。ありがとな」

「いえいえ、礼には及びませんよ」

 

ここで会話を切り、疑問符を浮かべている3人に向かって言う。

 

「俺がトールズに入ったのは、クレアが勧めてくれたのがきっかけなんだよ」

 

3人も納得したようで、んじゃあそろそろ・・・

俺がクレアに視線で促すと、彼女は俺の意志を汲み取って頷く。

 

「ケルディックは鉄道網の中継地点に該当する為、そこで発生した事件には我々にも捜査権が発生します。なお、我々の調査でこちらの学生たちが犯人ということが有り得ないことは、既に裏付けをとっています。よって、貴方達の捜査は不適切と判断し、以降の捜査・処理は我々鉄道憲兵隊が行います。何か意義はおありですか?」

「ぐ、ぐぬぉぁ・・・」

 

反論の余地もなく、股間にも余裕が無い領邦軍隊長は、ただ呻くのみ。

数分後、漸く立ち直った領邦軍は無言で立ち去って行った。

 

「おい、待てよ! 話が違うじゃねえかよぉ!」

 

そんな窃盗犯の言葉に、彼らには答えるだけの余裕などなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、さっきの蒼い雷の龍ですが、あれほどのエネルギーをどう処理したんですか? 撃たずに消したらしばらく影響は残るはずでしたよね?」

「ああ。あれ、ただの幻術。フェイク目的なのに本物は使わないって。安心しろ、ケルディックからは見えていないから。森のすぐ上に膜張っただけだし」

「あれ? ってことは・・・」

「魔力弾は途中から映像に切り替わってたってこと。波紋が広がった時に膜ができたのさ」

「そうでしたか。さて、皆さんにも事情聴取をしたいので、時間をとられるかもしれませんが、ケルディックまでご同行お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事情聴取を終えた頃には、もう日が傾き、辺りがオレンジ色に染まっていた。

 

「少し時間がかかりすぎましたね。すみません。特別実習の課題は大丈夫でしょうか? もし必要でしたら、私から学院の方に謝罪を入れさせていただきますが・・・」

「え・・・? なんで特別実習のことを・・・?」

 

クレアの言葉にアリサが戸惑う。

 

「課題の方は全て済ませてある。そこは安心してくれ」

「流石リィンさんですね。アリサさんの疑問への答えですが、我々鉄道憲兵隊や各地方を預かる領主達、それに皇族の方々には事前に関連事項が伝えられているんですよ」

「そうだったんですか・・・」

 

クレアの説明に、アリサは納得したようだ。

 

「既に元締め以下太市の纏め役の方々には話しましたが、ケルディックには暫く憲兵隊員が常駐することになりました。領邦軍の方々とは衝突することが無いように配慮しつつ、治安が安定するまで介入を続ける予定です」

 

一通り説明し終え、彼女は話を変えた。

 

「ところでリィンさん、来週の日曜は休暇をもらっているんですが、一緒に夕食でもどうですか? 最近、バリアハートにおいしい高級レストランができたんですよ」

「へぇ~、いいね。OK、なら来週は空けとくよ」

「「っ!?」」

 

なぜかアリサとラウラが過剰反応した。

ここで、なぜかアリサとラウラを見るクレア。

彼女の目に好戦的な光が見えたような気がした。

・・・気のせいだよな?

 

「ふふ、アリサさん、ラウラさん。負けませんよ?」

「同じ言葉を返させてもらいます。ラウラにもね」

「うむ、当然私も負けるつもりはないぞ」

 

なぜか火花を散らす3人。

ちょっとちょっと、どうしてこうなるのさ・・・。

 




この後、サラ教官が来たのでリィン達はトリスタに帰還しました。



次回はクレア大尉とのお食事デート、なのですが・・・。
上手く書けないのでまだ未完成。
来週の投稿は難しい状況です。
なので話が完成次第投稿ということになります。
食事デート以外にも帝都でのエリゼとのイベントやケルディックにてアリサ&ラウラとのイベントも盛り込む予定です。お楽しみに。

それでは、いつになるかはまだわかりませんが、また次回で!


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