龍娘々伝 (苦心惨憺)
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第1話

 “力”

 

 もっとも欲していたのはそれ。何者をも抗えない、侵せない力。

 

 

 彼女は自分の生まれを知らない。物心ついたころには一人路地裏にいた。

 襤褸をまとい、腐肉を貪る毎日。

 別に珍しいことではない。周りを見れば同じような子供がおり数少ない食料をめぐり争い盗み、奪う。大人は守ってくれない、いやその余裕さえない。

 

 戦争だ、いつ終えるのかもわからぬ戦争に疲弊し、食糧は不足し、人心は荒れてゆく。

 そんな中での孤児など邪魔でしかない。

 生きる為に盗みをする孤児など、容赦なく殴られ運が悪いと殺される。

 

 そんな中、彼女が生き残れたのは奇跡というしかない。しかしそんな奇跡など長続きしないらしい。

 栄養不良のためガリガリだが、見目美しい顔の少女は、男たちの格好の的だった。

 

 走る走る走る。

 男たちはまるで狩りをするように卑下た笑いをしながら追いかけてくる。

 捕まったりしたらおしまいだ。犯され飽きたら奴隷市で売られて終わる。

 だから走る。

 

 しかし、所詮女の脚。大人のまして戦場で戦ってきた男の脚に勝てるはずもなく。

 体の上に圧し掛かる重み、腕を押さえられ、足を押さえられ拘束される。

 引き裂かれる襤褸、男の臭く荒い息。絶望、諦め。

 

 結局はこの世界に奇跡なんてない。強者が弱者を嬲り、弱者はそれに耐えるしかない。

そう思っていたのに・・・。

 

 ゴシャ!!!

 

 聞こえたのはそんな音、その次に圧し掛かっていた男の重みがなくなり横を見る。

 男が倒れている、男が被っている兜を突き抜け顔がひしゃげている。即死だ。

 何で、どうして、何が起きた?その疑問に答えを求めそれを起こした者を見る。

 

 女だ。

 年は、二十代後半。黄金色の髪、顔は絶世といえる美貌だ。服装は、軽鎧を着ている。しかし何故か武器は見当たらない。

 女と見たのか、はたまた武器を持ってないことを見たからなのか男たちが剣を槍を斧を持つ。仲間が死んだというのにその美貌に目がくらんだのだろう。ニヤニヤしながら女を囲っていく。

 

 牽制のためだろう無造作に女に近づき、剣を振るう。と、女の拳が消え剣が粉々に砕け散る。

 そこからは、少女には何が何だかわからなかった。わかるのは、黄金の影が男たちの間を抜けるたびに、獲物が砕け、頭が、腕が、鎧に包まれた胸が貫かれ死んでいく。

 女は武器を持っていない。いや違う、拳が足が肘が膝が全身が武器なのだ。

 

 周りは、あっという間に血の海と化し、返り血もべっとりかかり、血の匂いがする。 しかし少女はそんなことは気にならなかった。

 なぜなら目の前には少女が最も欲したもの“力”があったからだ。

 

 少女は、女に師事を申し出た。当たり前だ自分が求めていたものがそこにはある、躊躇などしない。

 女は初めは渋っていた、どう見ても華奢な少女だ。

 自分も女なので男だ、女だのと見なかったがとても武術を身に付けられるとは思えなかった。

 だが、少女の目を見て考えを改めた。深いエメラルドの目の奥がギラリと光っている。

 

 そうだ違う、さっきまで男に襲われ目の前で凄惨な人殺しを見、自身にも血が降りかかって真っ赤だ。

 こんな時代だ、もちろんこの少女も人の死体など見たことがあるだろう。

 だが、目の前で教えを乞う少女は些かも動揺していない。そんなことなど些事なことなのだと、純粋に力を、求めているのだ。

 

 女は少女の願いを聞き届け、彼女の師になった。

 師となったが、やはり日々の修行に耐えられるとは思わなかった。だが、予想に反して少女は耐え日々成長していった。乾いた砂が水を吸うように。

 天才だ。一を教えれば、十、いや百を知る。そして才能のあるものが陥りやすい驕りなんてない、教えたことを何百、数千、数万繰り返し繰り返し体に刻み込んでいく。

 少女は努力の天才でもあった。

 

 少女は楽しかったのだ。武術の修行は苦しい、拳は皮が破れボロボロ、足は常にクタクタ、体は痣を作り、体中の筋肉が悲鳴を上げている。

 しかし、日々強くなっていくのがわかる。それが楽しかったのだ。

 それから五年、師の女性はあなたには全て教えたといい去って行った。それが師との別れであり二度と会うことはなかった。

 

 そして、少女の幼さ残しながら美しく成長した彼女は旅に出た。強者を探し戦うためだ。

 東に強いものがいると噂を聞けば東へ、西に戦争が起こったと聞けば傭兵として戦場へ。

 とにかく戦い、戦い己の力を高めていく。少女にとって武術(力)は崇拝する神にも等しいものだ。

 

 しかし何事にも終わりがある。人である限り覆せないもの「老い」と「死」だ。

 かつて若く美しかった彼女も今では老婆(まあ、鍛えているからか実年齢より若く見えるが)、全盛期の時よりも力が衰えるのは当たり前だ。

 それでも彼女は今日も戦いを求める。そして終わる、闘争の中で力尽きる。

 そして思うのだ。

 

(いやだ・・・。死にたくない、戦いの中で死ぬのはいい。戦いとは殺し殺されることそんなことは常に覚悟している。でも老いが理由で死ぬのは嫌だ!!!)

 

 彼女も理不尽なことはわかっている、老いたとはいえ今持てる力で戦い負けた。

 老いを理由にするのは、戦った相手に失礼だし所詮負け惜しみだ。

 だがしかしそれでも望まずにはいられない。

 徐々に体が動かなくなり、暗くなる意識の中で願う。

 

(もっと戦いを・・・。もっと強者を・・・。もっと力がほしい!!!)

 

≪それが願いか≫

 

 声が聞こえる。大気を揺るがすほどの神々しい声が。

 暗い意識の中でそれだけが輝いていた。

 ドラゴン、いや龍だ。想像上の生き物が目の前いる。緑の鱗を持ち赤い目だ。そして黄金に輝いている。なんという迫力、圧迫感、神聖さ。

 龍が続けて言う。

 

≪たやすい願いだ≫

 

 そう言い、赤い目が輝く。

 そしてこう言うのだ。

 

≪願いはかなえてやった。さらばだ≫

 

 龍は一際輝きだし七つに光る玉になり、はじけて消えた。

 光が消え、暗くなり今度こそ意識がなくなる中、笑いが漏れる。

 

(フフッ、なんて都合のいい夢・・・。でも・・・、そうなったら・・・いい・・・な・・・)

 

 そして彼女の鼓動は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トクン・・・ トクン・・・

 

(?・・・なに?)

 

 鼓動が聞こえる。

 

 トクン・・・ トクン・・・

 

 絶え間なく聞こえる鼓動。しかしそれは、不快な音ではない。

 どこかやさしい、今まで感じたことがない気持ち。

 

(まるで、母に抱かれているような・・・)

 

 もちろん彼女には母の記憶はない。覚えていないが、心の奥底にある記憶。

 

(・・・?!)

 

 不意に思い出す。徐々に体が動かなくなり、意識が沈んでいく感覚。

 そして心臓の鼓動が止まり自分が死んだこと。

 そう気づいたらここが何処か気になり目を開ける、よく見えない。周りの音に集中する、鼓動しか聞こえない。パクパクと声を出そうとするも声が出ない。では、と手足を動かす。

 動く、少ししか動かせないが確かに動く。動く手足を動かしここが何処かまわりを探る。

 何か柔らかいものに包まれているようだ。ここは心地いいがずっといるわけにはいかない。

 何とか動く足で蹴り上げる。と

 

「今・・・蹴・・だ」

 

 声だ。声が聞こえる。この場所に閉じ込めた者かと思うもそんな悪意は感じはしない。

 むしろ、心地よく優しい声だ。その声をもっと聞きたく耳を澄ます。

 

「おっとう!!いまこの子、お腹を蹴っただよ!!」

 

「本当か!!チチ!!」

 

 二人だ。人の声が二人聞こえる。すごく嬉しそうな声。なぜだか自分もうれしくなりまた、足を動かす。

 

「あ・・また、また蹴っただ」

 

「おうおう。元気な子だなぁ。さすが悟空さの子だべ!!」

 

(子供?どこに?・・・!?)

 

 不意に眠くなる。今の状況がどうなっているか分からなかったが、今はただこの心地よい眠気に委ねた。

 

 

 

 あれからどれだけたったのだろうか。覚醒と睡眠の繰り返し、何故か少し動いただけで眠気がする。時折、聞こえる声に安心しきっていた眠る毎日、毎日が戦いと修行の毎日だったのだ偶にはいいだろと思っていたある時、異変が起きた。

 

「ううううーーーーーーー!!!!!!!」

 

 何時も聞こえてくる優しい声が苦しげに喚いている。

 そしてそれに呼応するように周りが圧迫するのを感じる。

 

「チチがんばれ!!!」

 

「ほれ。牛魔王さまは外に出とれ」

 

「ばあさん!!!頼むぞ。チチーーー!!!元気なややこ生むんだぞーーー!!!」

 

 何か大変なことが起こっているらしい。しかしこちらもそれどころじゃなく何か光のほうに引きずり込まれていく。

 

(痛い。痛い。痛いーー)

 

 頭が割れるように痛い。事実、彼女の頭は収縮して狭い穴を抜けようとしている。

 そして、世界が光に包まれ。

 

「おぎゃーーーーー!!!」

 

 赤ん坊の声だ。どこからか赤ん坊の声が聞こえる。どこだ、どこから聞こえる。

 

(あっ? わ た し?)

 

 産婆が体を持ち上げ、湯に浸ける。敏感な肌はそれだけで刺激となり口からは鳴き声がもれる。彼女の頭の中は混乱でいっぱいだ。

 しかし誰かの横に寝かされるのが、分かり安心感が心を満たす。

 

「おらと悟空さの赤ちゃん・・・」

 

 声には赤子に対しての慈しみで溢れていた。

 徐々に見え始める目を横に向けると、幼い女の子が見えた。本能で分かった、

 

(母親だ。わたしのおかあさん)

 

 涙が出てくる、こんなこと彼女には初めてだった。嬉しさから涙が出るなど。

 

「うおおおおおん!!!よくやった!!よくやっただ!!チチ!!!」

 

 近くで急に大きい鳴き声が聞こえ、でかい顔が涙を浮かべ目の前いっぱいに広がる。

 それに驚き、泣きたくないのに感情がコントロール出来ず泣き出してしまう。

 

「うんぎゃーーーーー!!!!!」

 

「ははははーーー。大きい声で泣く子だなぁ。」

 

 大きい手が頬をなでる。体がうまく動かない中でその行為に恐怖を感じまた、泣き出してしまう。

 

「ほれ、おっとうこの子は女の子なんだべ。男の人は怖いだよ。」

 

「な、なんだぁ。オラはこの娘のじいちゃんだべ。ちょっとぐらいいいべ」

 

 何が何だかわからないことが多いが一つわかったことは、どうやら生き返ったらしい。

 それもただ生き返っただけじゃない前世の記憶を持ったままだ。

 それを見ていた産婆がポツリという。

 

「いや~それにしても初めてだ~。何十年と赤子を取り上げてきて、まさか尻尾が生えてる赤子をとりあげることになるなんて~」

 

 そうこの赤ん坊の腰には尻尾が生えていたのだった。

 

 

 

 

 

 



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第2話

 フライパン山にある居城の一室、そこに転生した彼女はいた。

 

 生誕してからひと月あまりたった頃、いろいろ周りの状況が分かってきた。この世界は、以前生きていた世界ではないこと、なにせ動物が言葉をしゃべり二足歩行しているからだ。そんなことは前世の世界では聞いたことがない。

 

 それにずいぶん文明が発達している、絵が動き話す箱に、馬も引いていないのに動く馬車。何より世界が平和で豊かだ。

 

 そして身近にいる家族、母親の名前はチチ、長い黒髪の14歳の少女、とても一児の母には見えない幼い容姿だ。

 祖父の名前は牛魔王、髭が生えた信じられないぐらいの巨漢の男。

 そして父親の、孫悟空。

 

 父親の顔は分からない、ひと月たっても見ないからだ。でも母と祖父の話題には毎日のように上がる。とんでもなく強い武闘家らしい。

 そして、彼は子供が生まれたことを知らない。それは、父親としてどうなんだ?と思うが、チチも牛魔王も納得済みで彼が武闘家として強くなるのを邪魔はしたくないようで今は黙っているつもりのようだ。

 

 確かにチチと同い年の14歳で子供ができたと知ったら修行どころではないだろう。 (近い将来、子供ができたと知っても働かず修行に明け暮れることになるが。)

 

 ある日、使用人の者が赤子の近くで、悟空とチチとが何故子供ができるようなことになったのかその経緯を喋っているのを聞いた。使用人もまさか赤子が聞いているとは思わなかったのだろう。

 

 それによれば、第22回天下一武道会に向けて修行の旅に出ていた悟空が、以前立ち寄ったフライパン山、その近くを通りかかった悟空は久しぶりにチチや牛魔王に会いに来た。それを大層喜んだ二人は、ご馳走を用意し歓迎した。

 その時、酒を悟空、チチともあやまって飲んでしまい、眠りこけた二人を牛魔王が同じ部屋に押し込みその間にということらしい。

 悟空にはそうゆう知識がない為、チチの方から迫ったというのが使用人の見解だ。

 

 まあ珍しくない話だ。

 

 それより驚くべきは、転生を果たした体だ。

 生まれてすぐに見える目、聞こえる耳、考えられる頭脳(これは前世を覚えている為だと思うが。)そして驚きの尻尾が生えているという事実。悟空も尻尾が生えていたらしいので父親の血だ。本当に地球人か?

 そして、ひと月で首が座り、3か月後にハイハイ、つかまって立てるようになり、5か月後には言葉しゃべり歩けるようになる。

7か月後には走り出すのだ。

 

 普通の子供の倍以上の成長速度、完全に異常だ。それともこの世界では、これが普通なのか?

 彼女にしたら素晴らしい体のスペックだが、チチや牛魔王からしたらどうだろうか。

気味悪がられないか。

 

「さっすが悟空さの子供だべ」

 

「まんず、まんず。そうだなぁ」

 

 そんなことはないようだ。

 

 走れるようになった彼女は、思いっきり体を動かした。あまり動けなかった7か月のうっぷんを晴らすように。野をかけ、山を登り、木から木へ伝う。

 ひとしきり遊んだら遠くからチチの声が聞こえる。

 

「空詩(カノン)ちゃーーーーん!!!ごはんだべーーーーー!!!」

 

「わかりました!!!母様ーーーーーー!!!」

 

 紹介が遅れたが転生した彼女、空詩(カノン)、悟空の空を1文字とって孫空詩だ。

 

 

 

 

 カノンの家の朝は早い、母は使用人の人たちと朝餉のしたく。使用人がいるのだから任せればいいのだが、いつか悟空と住むときの為の花嫁修業だ。そして牛魔王はカノンと遊んだり、カノンがあまり遠くに行かないように気を付けながらカメラをパシャパシャやっている。

 そしてカノンはというと前世と違う体になれる為、それ以上に前世の体とは比べ物にならないあふれ出るパワーを我が物にするために走り回り、牛魔王にわからないよう遊んでいるふりをしながら、前世で身に付けた武術の型をチョコチョコと体に覚えこませていた。

 

「すごい力です。これなら、前世以上の力が手に入ります。この世界に生まれてよかった。あたたかい家族、前世を超える体。これで、私以上の強者がいれば」

 

 牛魔王に聞こえないようにポツリとつぶやく。

 

 しかし、自身も武術を学んだ牛魔王にはわかっていた。日々、目に見える形で力を付けていくシオンの天性の資質を。

 若き日、武術の神と称された武天老師、亀仙人の下で同じ弟子である孫御飯(悟空の祖父)と切磋琢磨していた頃を思い出し、その時の情熱が蘇ってきた。

 

「なあカノン、亀仙流武術を習ってみねえだか?」

 

「亀仙流?どんな武術なんですか?お爺様」

 

 この世界で初めて聞く流派にカノンにすればかなり気になる言葉だ。

 

 そしてどんな流派か聞くと天下一の武術家、武天老師の流派で牛魔王、悟空の祖父も教えをこいカノンの父親、悟空もその教えを受けたと。

 これに食いつかないカノンではな。二つ返事で答える。

 

「是非、教えてください!!!お爺様!!!」

 

「そうか、そうか!!カノンだったらすーぐ強くなれるだ」

 

 牛魔王は孫可愛さに贔屓目のセリフをはくが、カノンには確かにその資質はあった。

 そして朝ごはんの為に城に帰る。

 

 さて、カノンのしゃべり方は1歳の子供にしてはかなり言葉使いがいい。それは母親であるチチの教育の一環なのだが、そんな教育ママの片鱗を見せ始めている母に亀仙流のを習うと報告すると予想通り。

 

「亀仙流?武術?ぜーーーたい、ダメだ!!!」

 

 勿論こうなる。

 

「いやしかしチチ、カノンには武術の才能が・・・」

 

「武術の才能なんて関係ねえべ!!女の子はおしとやかにしているのが一番なんだ。それにまーた今日もこんなに泥だらけになって」

 

 カノンの汚れた顔を拭きながら反対するチチ。

 母親の気遣いはうれしいカノンだが、力を求める彼女からしたらどうしても亀仙流とやらを教えてもらいたい。祖父や父が通った道を。

 

「母様!!お願いします!!顔も見たこともない父様ですけど、その父様が教えを受けたという亀仙流をどうしても習いたいのです!!!」

 

 可愛い娘の必死のお願いに、うーん、でもと思い悩む。まあ普通は1歳かそこらの子供が武術を習いたいといっても(普通そんなことはないが)、絶対にさせる親などいない。

 でも顔も知らない父親のことを言われるとチチにしてみたら強く出ることはできなかった。でも、このまま「わかった、いいだよ」といってもなし崩し的にカノンは武闘家の道を歩んでいくだろう。チチにはそういう予感があった。

なので条件を付けることにした。

 

「わかっただ」

 

 喜ぶカノンとその祖父。

 

「ただし!!おらも亀仙流を習うだ。そして一年後、おらとカノンちゃんが試合をして、おらが勝ったらカノンちゃんは武術をやめる!!カノンちゃんが勝ったらおらはもう何も言わないだ」

 

 チチには勝てるという自信があった。いくら牛魔王がカノンに武術の才能があるといってもわずか1歳、条件を付けた1年後でも2歳の子供だ。条件を付けたのは、母親として怪我をしてほしくないという母心だった。

 その母心を知ってか知らずか嬉しそうにその条件をのむカノンだった。

 

 

 

 1年後に試合をするということで、カノンとチチはそれぞれ離れた場所で修行をすることになった。

 まず、渡されたのは亀の甲羅だった。

 

「あ、あのお爺様これは?」

 

「うむ、カノンちゃん。亀仙流はこの甲羅を背負って修行をするだ。ささ、背負ってみるだ」

 

 カノンは後ろを向いて牛魔王に甲羅を背負わせてもらう。そんなに重さは感じない、手足を動かしてみるが十分動けそうだ。それを見た牛魔王は驚愕する。

 

「カノン!!その甲羅は5キロはあるだぞ、大丈夫だか!!」

 

「あ、はい。全然大丈夫です」

 

 亀仙流で初めに渡される甲羅は20キロ、1歳のカノンには5キロでも重いはずだ。

 しかし、牛魔王は、孫の力を見余っていたようだ。

 この後、10キロ、15キロ、20キロと重さを増やした甲羅を試していき、最終的に動きを阻害するほどの重さは40キロになった。

 

「信じられないべ。この子は武術の神に愛された子だぁ」

 

 牛魔王は戦慄とともに、嬉しさも感じていた。自分の孫がとんでもない資質を持っていることに。兄弟子の孫御飯を越えられなった牛魔王。強さを求め極めたいという過去の思いをこの孫は継いでくれるかもしれない、そう思わずにはいられなかった。

 

 亀仙流の修行は、自己の鍛錬だけではなく、精神修行、基礎的な学問におよび、要はよく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。まさに基本を学ぶ武術といえるだろう。

 

 しかしやってることは完全に子供の虐待だろう、早朝の牛乳配達、それもただの牛乳配達ではなく牛乳を持ってスキップ、先が見えない並木道をジグザグに走り数百mの高さがありそうな階段を上るなど、ときには川も横断する。

 

 それが終われば素手で広い畑を耕す。勿論耕す場所は、城のまわりで農作業をしている人の手伝いも含んでいる為、まわりは恐縮しきりだ。

 

「お、お嬢様にこんなことさせるわけには」

 

「いえ、これも修行ですからご遠慮なさらず」

 

 修行もでき、またカノンの好感度も鰻登りだ。そして昼まで勉強、前世では名前を書くのが精一杯だったカノンにしたら勉学は新鮮で楽しかった。昼食の後はお昼寝、午後からはサメや近くに住む巨大なイノシシから全力で逃げ回り、木にロープで結ばれ近くの蜂の大群から逃げる。

 朝の修行はともかく、昼からの修行には流石に牛魔王もやらせる気はなかったが、亀仙流ではやることなのでカノンは牛魔王を説き伏せ実行していた。

 

「はっ!!せい!!や!!」

 

 巧みな足運びで蜂をかわし、手で払い落としていく。勿論こんな修行は普通の子供はできない。いくらカノンの体のスペックが高くてもわずか1歳なのだ、耐えられるはずがない。

 

 その秘密は、前世で習得していた生命エネルギー、気を操り体を強化する術を身に付けていたからだ。しかもこの体は信じられない気を持っている。だから耐えられるのだ。

 

 この様な修行を日々こなし、そしてチチとの約束の日がくる。

 

 しかしその約束の日の前に世界にとって戦慄の出来事、カノンにとっての歓喜の日がくる。

 ピッコロ大魔王が全世界に恐怖をもたらす日が。

 

 

 




こんなんでいいのかなぁ?
とりあえず、サイヤ人編あたりまでやります。
需要がなければやめることにしよう。


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第3話

 1年前交わした約束の日の朝、カノンとチチは対峙していた。

 

「それでは、1年前に約束したと通りこの試合でチチが勝った場合カノンちゃんは武術はやめる、カノンちゃんが勝ったらチチはカノンちゃんが武術を続けるのを認めるそれでいいだな」

 

 審判役の牛魔王が、両者を見ながらそう言う。そして二人は互いにうなずく。

 

「悪いだがカノンちゃんに武術をするのを認めるわけにはいかないだ。本気でいくだぞ」

 

「はい!!母様、私も精一杯頑張ります!!!」

 

 カノンはかつてないほどの充実感を感じていた。今朝いままで背負っていた亀の甲羅を脱いだ。途端に感じる体の軽さ、軽く飛ぶととんでもない高さを飛び、動きも数段上がっている。

 ここまで強くなれるのか、これなら前世の世界では負けなしだ。そしてこの世界でもそうだろう。強くなれる嬉しさと同時に、敵がいなくなる一抹の寂しさがある。

 

「それでは、始め!!」

 

 牛魔王の開始の合図がかかると同時に、構えをとる。じりじりと両者の距離が縮まっていく。先手はチチだ。

 

「はあああああ!!!」

 

 右、左、左右連続の突きからの蹴り、カノンはそれを紙一重で避け続ける。チチは攻撃の手を緩めず攻め立てていく。

 

「どうしただ!!カノンちゃん!!そったらことじゃ武術を習うのを認めることなんてできないだぞ!!!」

 

 

 カノンは攻め立ててくるチチの攻撃を躱すのをやめ掌または、手の甲で払い始める。それでもチチは攻撃の手を緩めない。娘を戦いの世界にはいかせたくない為に。武術を習うということは敵を倒すすべを学ぶということ、そしてそれを身に付けたなら試したくなるのが人だ。

 ましてカノンは悟空の血を継ぐ娘。その血が戦いを求めていくであろうことをチチは無意識の内で予感していた。その結果もしかして大けがをしたり、最悪死んでしまうかもしれない。その為に厳しいであろうがここで倒すという気迫が、拳にはのっていた。

 そして、その思いは実際に戦っているカノンには痛いほど伝わってきていた。

 

(御免なさい。母様、それでも私は戦いたい、強くなりたい。そして絶対の力を手に入れたい!!)

 

 それは前世の思い、悟空の遺伝子が求める戦いの欲求、それが混ざり合い前世以上の“力”の渇望をカノンにもたらしていた。

 

 だから進む、前へ前へチチの懐へと進んでいく。チチからしたらこんなにやりにくいことはない。ただでさえ小さいカノンだ、懐に入られたら攻撃しにくい。そして突き放すため、腕を大振りに振るう。

 それを待っていたカノンがその腕を受け流し、チチは大きく右に態勢を崩してしまう。

 

「しまっただ!!」

 

 腕を苦し紛れにカノンに振るうチチ、しかしそのカノンは残像を残し消えチチの背後から右側頭部に手刀を放ち、当たる寸前に止める。

 

「・・・・ふう。おらの負けだ。カノン」

 

「ごめんなさい。母様」

 

 娘として母の思いに応えたい、その思いもある。だがだめなのだ。その思い以上に強くなりたい思いがカノンにはあった。前世の苦しく、辛い人生に光を与えてくれた武術に。

 

 二人の押し黙る空気に耐えかねた牛魔王は、陽気な声で言う。

 

「い、いや~。二人ともすごかっただな~。チチも負けたとはいえいい試合だった」

 

「いや、おっとう。カノンちゃんの方がすごかったべ。約束だ、カノンちゃんが武術をするのを認めるだよ」

 

 寂しそうにチチが、答える。

 

 それを見てカノンは勝って認めてもらえたのに、母に対して罪悪感を感じていた。

 

「だども!!武術をするのは認めるだが、カノンちゃんは女の子なんだからお洒落をしたりおっかぁのお手伝いもちゃんとするだぞ!!」

 

「っっ!!はい、わかりました!!母様!!!」

 

 ただでは起きないチチだった。

 

 

 

 

「がはは!!めでたし、めでたしだなや」

 

 牛魔王が今度こそ陽気に言う。

 

「しかし、カノンちゃんはオラの予想以上の強さだべ。これならもしかして『かめはめ波』を使えたりするかもなぁ」

 

「かめはめ波?なんですか。それは?」

 

 『かめはめ波』それは、亀仙人が50年の歳月をかけて生み出した技で体内の潜在エネルギー、気を両掌に集め放出する技、気功波である。

 

「放出?体の外に気を出すということですか?!」

 

 カノンは信じられなかった。前世では主に気は体を強化しそれをもって攻撃したり、体の外に出すことも可能だが、それは相手の体に触れ内部を攻撃するというものだ。

 

「凄い!!!お爺様すごいです!!ぜひやって見せてください!!」

 

 物凄いキラキラした目で牛魔王を見つめ、懇願するカノン。牛魔王はタラりと汗をかき目線をずらす。

 

「あ、いや、オラは・・」

 

「お願いします。お爺様~~」

 

 今度は、手を合わせウルウルした目でお願いする。

 

「わ、わかっただ。よ、よーく見とくだぞ」

 

 そういって足を広げ妙な構えをとる。

 

「か」

 

 両手首を合わせ、手を開き前方に向ける。

 

「め」

 

 腰付近に手をもっていく。

 

「は」

 

 腰にもってきた掌に気を集中させる。

 

「め」

 

 しかし見た目なにも感じない。

 この時点でカノンは気づき、真相を知っているチチは呆れた顔で見ている。

 

『はーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 

 

 

 し~~~~ん

 

 手のひらを前方に出したまま牛魔王は、固まっている。

 

「あ、あのお爺様?大丈夫です!!なんとなくわかりましたから!!」

 

「はぁ~~~~」

 

 カノンの気遣うセリフとチチの溜息に牛魔王のHPはゼロだった。

 

 

 

「ま、まあこうやって気を集中、凝縮して放つ技だ!!!」

 

 そういって牛魔王はやけくそ気味に言い、カノンはオロオロし、チチはもう一度溜息を吐く。そしてみんな一斉に笑い出す。

 

「だっはっはっはー。いやーすまん。オラなんかにかめはめ波なんてできないだ」

 

「もう。お爺さまったら」

 

「孫の可愛いお願いにできもしないことをするからだぁ」

 

「だっはっはーーー。いやー恥かいたら腹が減ってきただ」

 

 確かにもう昼時だ。かめはめ波のことは午後から試すことにして昼飯にすることにした。

 さっきの出来事やカノンのこれから、そして今はいない悟空のことを話しながら楽しく昼飯をしていると、牛魔王が不意に提案する。

 

「そうだ!!カノンちゃんがチチに認められた記念に明日、みんなで遊園地に行くべ」

 

 生まれてからカノンは、ここの周囲にしか出たことはない。遊園地というものが知識として知っているが、行ったことはないのでワクワクする。

 

「じゃあ、お弁当作らないとな。カノンちゃん、おらが腕によりをかけてお弁当作るからな」

 

「はい!!すごく楽しみです!!」

 

「そんなら、明日の天気を調べないとなぁ」

 

 そしてテレビをつけるとこの世界の国王が映っていた。

 

「国民の皆さんみなさんにお知らせしたいことがあります。テレビの前に集まってください。私は国王の座を追われました。そしてこの世界はピッコロ大魔王のものになったのです。こんなやつが王になっては世界が破滅だ!!誰かこの無法者をやっつけてくれ!!」

 

「余計なことは言うなといったはずだ。まだ死にたくはないんだろ」

 

 そしてピッコロ大魔王が姿を現す。緑の体色をし、頭には触覚のようなものをはやし胴着を着ている。それを見た瞬間、カノンの背筋に悪寒が走る。

 

 

(強い!!それも途轍もなく強い!!テレビ越しでもヤツの強さが伝わってくる!!!)

 

 ピッコロ大魔王は玉座に座り、自らがこの世界の王になったのだと宣言する。

 

「さて、では早速新国王の抱負でもきかせてやろうかな?まず私の嫌いな言葉を教えてやろう。それは正義と平和だ。言っておくが私は何も国民を縛り付けようなどとは考えておらん。むしろ好きなように自由に振る舞えといっておるのだ。警察などというものは廃止する。戦争、暴力、殺人何でも自由だ。誰も咎めはせん。悪人どもよ、やりたいことをやれ。

正義を振りかざすものはわが魔族がことごとく退治してやる。必ずや悪と恐怖に満ちた、素晴らしい世界になる」

 

 伊達や冗談ではない、本気でピッコロ大魔王はする。そんな迫力がある。ピッコロの名を聞いた時から牛魔王は震えていた。それに気づくカノンとチチ。

 

「ど、どうしただ?おっとう」

 

「もしかして、このピッコロ大魔王と言う方をしっているのですか?」

 

「ああ、武天老師様から昔、聞かされたことがあっただ」

 

 その昔、どんな武道家も敵わない力でもって世界を恐怖に陥れた、まさに大魔王と呼ぶべき存在。その力は、当時の亀仙人やその師の武秦斗でさえ敵わないほどだった。

 しかし、魔封波という技を開発した武秦斗の命がけの技で封印され海底の底に沈められたはずだった。

 

「そ、それが何故」

 

 テレビに映るピッコロ大魔王を見ながら言う。

 そしてさらにピッコロ大魔王は、恐怖の提案をする。

 

「さて、ではわが国民となった貴様らにこのピッコロ大魔王からプレゼントをやろう」

 

 そういうと玉座から立ち上がる。そして喉が異様に膨れ上がり巨大な卵を次々に生み出す。生み出された卵が、次々とひび割れ1個の卵につき3匹の化け物が生まれる。

 その化け物は子供ほどの背の高さで緑色をしたトカゲに似ていた。しかも両の足で立ち翼をはやしている。

 

「こやつらが、私からのプレゼントだ。そうだな、こやつらを解き放ち1日10人の死体をもってこさせ、その恐怖で引き攣った死体の顔を国民に見せてやろう。どうだ?たのしみだろう?ぐわーはっはっはっ!!!」

 

 さも楽しそうにピッコロ大魔王は笑う。事実、本心から楽しんでいるのだろう。

 

「では、行け。わが子らよ。わが魔族の恐ろしさを世界に知らしめて来い。」

 

 トカゲらは頷くとそれぞれ四方に散っていく。

 

「くっくっく。まあ安心しろ、今の者らは知能も低く力も弱い。ただし我々魔族にとってはな。もしかして頑張れば倒せるかもしれんぞ」

 

 ピッコロ大魔王の笑い声が響く中、番組が終了する。

 カノンは体の震えを止めることができなかった、それを見たチチがカノンを抱きしめる。

 

「大丈夫、大丈夫だべ!!カノンちゃんはおらが守ってやるだ!!」

 

「そうだ!!チチ!!村のみんなを城に避難させるだ!!!」

 

 確かに、村の中にいるより城の方が頑丈で守りやすい。早速、行動に出る牛魔王とチチ。

 

「カノンちゃん、ジッとしてるだぞ!!!」

 

「・・・・・・・」

 

 カノンは震えていた、恐怖ではない。歓喜だ。体の奥からくる狂喜。

 

「ふふっふふふふ、はぁっははははーーー!!!!!!!!なんて世界なんだここは!!!こんなことがあっていいのか!!!」

 

 いまだかつてない歓喜がうずまき、周りに人がいないことをいいことに大声で言う。

 

「ここに来い!!化け物共!!!私の疼きを鎮めてくれ!!!」

 

 その数時間後、カノンの願いが叶うことになる。

 

 

 

 

 




全然、話が進まない。




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第4話

 牛魔王とチチが村人を城に避難させて約3時間、テレビで情報を集めていた。

 

「わ、私たちは今、東の都近くにいます!!」

 

 現場レポーターが緊迫した顔でテレビに映っている。遠くでは人の悲鳴や何かが壊れる音、爆発音、銃声が聞こえる。

 

「あまり近くによると我々の身が危険にさらされるので、少し離れたところで中継しております!!ピッコロ大魔王が解き放った、化け物は町を破壊し暴れまわっております!!」

 

 望遠カメラが町の様子を映し出しその様子を映し出す。道にひびが入り、建物が破壊され、人が何人か倒れている。

 

「遠目の為、詳しくはわかりませんがすでに何名かの被害者が出ている模様です!!」

 

 その他、化け物以外の者も暴れまわり重火器を用いて警察署を攻撃したり、その矛先は一般市民にまで向けて居る。またその混乱に乗じ火事場泥棒、略奪何でもありだ。囚人服を着ている者もいることから暴れまわっている者たちが手引きし脱走させたのだろう。

 そして何故か暴れまわっている者を化け物を攻撃しない。ピッコロ大魔王の言葉通り悪人たちの味方をしているのだろう。

 

「このテレビを見ている皆さん、我々は人間です!!化け物ではないのです!!どうか理性的になって行動してください!!ピッコロ大魔王の言葉に乗せられてはいけません!!!」

 

 現場の人間を見て、レポーターはテレビカメラに向かい必死に叫んでいる。

 

 初めそれに気づいたのはレポーターを映していたカメラマンだった。レポーターからテレビカメラを空に向ける、そこには翼をはためかせてくる黒い影いや化け物だ、その化け物がこちらに向けて口を開き光ったとおもったらテレビ画面が砂あらしになる。

 

 牛魔王はテレビのスイッチを切り疲れたように椅子に座る。

 

「た、大変なことになっただな。ここも何時あんな化け物がくるかわかったもんじゃないべ」

 

「なあ、おっとう。悟空さなら、悟空さならピッコロ大魔王を倒してくれるんじゃ」

 

 チチが希望を見出したように、牛魔王に言う。

 

「無理だ。いくら悟空でも勝てるわけねぇ」

 

「そ、そんなことねぇ!!悟空さならきっと!!」

 

 その様子を見てカノンも牛魔王と同じことを思った。

 

(無理です。父様がどんな強さかわかりませんが、あんな化け物に勝てるとは思えない。そして今の私でも。今は耐えて数年、力を蓄えてから挑まなければ!!)

 

 カノン自身は、それほど絶望していなかった。前世のスペックでは絶望的だが今の体の潜在能力があれば必ず勝てるという確信があった。

 正直、勝てないとわかっていても今すぐに挑みたい。だが、いくらチチが武術をするのを認めてくれたとはいえ絶対に行かせてくれないだろう。死地に子供を行かせる親がいるとは思えない。

 

 そう考えていたその時、外が騒がしくなる。そして転がるように城の外観で見張りをしている村人の男が駆け込んでくる。

 

「ぎゅ、牛魔王様!!来ました!!化け物が来ましたーーーー!!!!」

 

「な、なにーーーー!!!」

 

急いで部屋を出、城のバルコニーから空を見る。確かに遠くから5匹ほどの化け物が近づいてきている。

 

「みんな!!絶対に城から出るんだねぇべ!!オラがいってやっつけてやるべ!!!」

 

 牛魔王がそこに集まっているみんなに言う。

 

「そんな、いくら牛魔王様でも無茶です!!相手は5匹もいるんですよ!!!」

 

 村人たちはそう言い、われらも戦うと鍬を高々と上げる。

 

「ダメだ!!!!おめえらのかなう相手でねえ!!!被害がでるだけだ!!!」

 

 牛魔王の言う通り相手は重火器も聞かない化け物だ、鍬程度で攻撃しても効かないどころか、攻撃を当てることすらできないだろう。それが分かっている村人たちは悔しそうに下を向く。

 

「でも、おっとう!!いくらなんでも多勢に無勢だ!!そんならおらが助太刀するべ!!」

 

「お爺様!!私も戦います!!!」

 

 チチとカノンが必死に懇願するも牛魔王が首を振る。

 

「ダメだ。チチおめえは、悟空さに会って結婚するんだべ。カノンちゃんもお父さんに会うんだ。こんな所で死なせるわけにはいかねぇ。ここは爺ちゃんに任せてくれ」

 

 そう言うと、巨大な斧を持って外に出ていった。

 

 城の外に出た牛魔王に向かい、五匹の化け物が降りてくる。そして五匹の化け物は牛魔王を囲み気味の悪い笑い声をあげる。

 

「ギ、ギ、ギギギギギ!!」

 

「来い、化け物共!!!みんなやチチ、孫には指一本触れさせないべ!!!」

 

 ドス、ドス、ドスと正面にいる化け物に近づき、上段から斧を振り下ろす。その一撃は薄く化け物の体に傷をつけるも上空に逃げられてしまう。振り下ろした斧を戻そうとするも左右、後ろから化け物が接近し牛魔王に攻撃を加えていく。

 

「ぐうううう」

 

 やはり多勢に無勢、牛魔王は一気に防戦に追いやられる。そして上空に逃れた化け物の1匹が、止めと言わんばかりに牛魔王の頭めがけて突っ込んでくる。

 

「おっとう!!」「お爺様!!」『牛魔王様ーーー!!!』

 

 バルコニーから戦況を見ていた、チチ、カノン、村人たちは牛魔王の危機に叫ぶ。

 しかしその攻撃を牛魔王は、読んでいた。

 

「むおおおおおおおお!!!!」

 

突っ込んでくる化け物に向かい斧を振りかぶる。急加速で降下していた化け物はその斧を避けきれず、頭から股にかけて切り裂かれ紫の血を牛魔王の体にぶちまけ絶命する。

しかし、牛魔王の攻撃はそこまでだった。上空の敵を迎え撃つために無防備になったところを残り四匹になった化け物の波状攻撃を受けてしまう。

 

「がはあああ!!」

 

 血を吐き、片膝をつく牛魔王。そこをさらに攻撃してくる化け物たち。牛魔王は腕力や体力には自信があるが動きは鈍い。避けることができず、そしていくら体力に自信があるといってもこれほどの攻撃を受けてはどうしようもならない。ついに持っている斧を落とし、前のめりに倒れる牛魔王。

 ガンッと倒れた牛魔王の頭を踏みつける化け物、残りの化け物がそれを見て笑い声を上げる。

 

「あ、、、あああ。おっとう」

 

 カノンの隣で絶望の声を上げる、チチ。その隣のカノンは、化け物の所業を無表情で見ていた。おそらく現実を理解できず呆然としているのだろう。牛魔王が倒されたことで絶望している者たちは痛ましい顔でカノンを見ていた。

 

 だが違う、違うのだ。カノンが感じていたのは怒り、それも今までに感じたことがないほどの怒りだった。

 

 牛魔王を倒した化け物は、次の標的を殺すために城に向かう、と足が止まる。下を見るとボロボロになった牛魔王が足を掴んでいた。

 

「い、言ったはずだべ。ごほ、ごほ。みんなには指一本触れさせないと」

 

 それを冷たい目で見ていた化け物が、止めを刺そうと口を開き口内が光り輝いていく。

 

「おっとーーう!!!今、助けるだ!!!!!」

 

 チチが牛魔王を助ける為、バルコニーから飛び立とうとするがここからではとても間に合わない。

 

(み、みんな。逃げてくれ!!!チチ!!カノーーーーン!!!!!)

 

 そして、口から気功波を放つ。

 

 ボン!!!!!!

 

(ッッッ、、、、・・・・・?生きている?なんでだ?)

 

 牛魔王は前を向く、前には奇妙なものがあった。まず足、腕、胴、大きく見上げ頭を見るしかしそこにはあるべき頭がない!!!頭は遠くに吹き飛んでいた。そしてそこにはカノンが立っていた。

 

「カ、カノンちゃん」

 

バルコニーから、高速で飛んでいき化け物の頭を吹き飛ばしたカノンが牛魔王に近づき優しく語り掛ける。

 

「もう大丈夫です。お爺様。後は、私に任せてゆっくり休んでください」

 

 限界に来ていた牛魔王をそのまま気を失う。そしてカノンは城のバルコニーにいるチチを見る。

 

「母様。お爺様をお願いします」

 

「へ、、、、あ、ああ。わ、わかっただ」

 

 隣にいたカノンが一瞬で移動し、化け物の頭を浮き飛ばしたのを呆然と見ていたチチはおそらくこれから戦うだろうカノンを止めるのも忘れて返事をする。

 そして、急に現れたカノンを遠巻きに見ていた化け物たちの方を見るカノン。

 

「さて、よくもお爺様を痛めつけてくれましたね。こんなに怒りを覚えたのは初めてです。怒りに身を任すのは武道家として失格でしょう。冷静さを失い、正常な判断ができなくなる。でも今はこの感情に身を任せたい」

 

 化け物は知能が低い、が野生の獣のように強いものの気配は分かる。しかし自分たちの親ともいえるピッコロ大魔王の命令は絶対だ。それに相手は自分たちより背の低い子供だ。

 一匹では敵わないかもしれないがこちらは3匹、いくら知能が低くてもそれぐらいの計算はできる。

 

「どうしました?かかってこないのですか?」

 

カノンが化け物に問う。それが合図になったのか、化け物の1匹が地を蹴りカノンの右頬に拳を叩き込む。

 

「カノンちゃん!!!」

 

 チチの叫びが響くが、カノンは一歩も後ろに下がらなかった。それどころか拳が当たって口が切れている口角を持ち上げ笑う。

 

「安心しました。この程度の攻撃ではお爺様が殺されることはなかったでしょう」

 

 顔に当たっている拳を掴み、力を籠め砕く。絶叫をあげカノンの腕を振り払おうとする化け物の腕を引っ張り腹に拳を打ち込む、体を九の字に曲げ顔を下げたところに蹴りをぶち込む。

 

 

「ブギャ~~~~!!」

 

 化け物は10mほど吹き飛び顔面から落下する。

 

「どうしました?早く立ってください。手加減しましたから立てるでしょ?」

 

 カノンは笑いながら言うがその眼は笑っていなかった。

 

 残り2匹の化け物は、1匹の化け物に体を向けているカノンの背から一斉に襲い掛かる。そして攻撃が当たる。が全く手応えがない、残像だ。2匹の化け物たちは混乱するがそこにさらに多数のカノンが現れ幻惑する。

 

「ほら、攻撃してきなさい。化け物なら本当の私がわかるでしょ?」

 

 その挑発に攻撃をするが、カノンにはかすりもしない。そして2匹の後ろに現れ、化け物の頭を掴みぶつけ合う。頭をぶつけられ、ふらつく化け物の腹それぞれに掌を押し付け気を叩き込む。

 血反吐を吐き吹き飛ぶ、2匹。重なるように倒れこむ2匹は力が入らない足で起き上がる。

 

「いいですよ。今の一撃も手加減しましたが、さきほどの者よりあなた達は根性がありますね。私がなぜ手加減しているか分かりますか?あなた達は、お爺様を痛めつけてくれました。そのお礼です。因果応報ってやつですね」

 

 化け物2匹は、このままでは勝てないと思い切り札を出す。2匹が並び大きく口を開き、口内に気を高めていく。

 

「カノンちゃん!!ダメだ!!逃げるだーー!!!」

 

 チチがカノンに呼びかけるもカノンは両の掌を相手に向け、受けの態勢に入る。

 それを見た化け物達はニヤリと笑い、最大の力で気功波を放つ。赤い閃光がカノンに向かい、ドーーーーーンという音とともにカノンに直撃、土煙が舞う。

 

「カノンちゃーーん!!!そ、、そんな」

 

「ギッギっギギギギギ」

 

 生意気な子供が跡形もなくなった、土煙が舞うその光景を見て化け物達は笑う。その笑いにチチは怒りを覚え目から涙が溢れ出す。

 

「おっとうだけでなく。カノンちゃんまで。殺してやるだ、おめえら!!!おらが殺してやるだ!!!」

 

 強敵だった子供がいなくなり、余裕を取り戻した化け物がチチに近づいていく。

 

「なんだ。気功波というものがどんなものかと思いましたがこの程度ですか」

 

 カノンの声が聞こえ、おそるおそる土煙が晴れていく場所を見ると全く無傷のカノンが立っていた。それを見た化け物達はブルブル体を震わせる。化け物達が感じているのは恐怖。そして空を飛び逃げる、自分たちの親から受けた命令を無視して。

 

「あなた達みたいなやつらを逃がすわけないでしょう!!!!!」

 

 そしてカノンは構える。

 

「か」

 

 両手首を合わせ、手を開き前方に向ける。

 

「め」

 

 腰付近に手をもっていく。

 

「は」

 

 腰にもってきた掌に気を集中させる。

 

「め」

 

 凝縮した気が光り輝く!!!

 

『はーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 先ほど化け物が放った気功波などとは比べ物にならない青い閃光が煌めき、極太の光線が逃げ出した化け物2匹に追いつき消滅させる。

 

「なんだ。凄い威力じゃないですか」

 

 自分が放った気功波を見てカノンが呟く。

 そして最後に残った化け物を見る。化け物は完全に戦意をなくし、自分が飛べるのも忘れ後ずさっていく。

 

「さ、残ったのはあなた一人です。いつでもかかってきていいですよ。」

 

「ヒッ・・・・・ガ、ガガガ!!!」

 

 化け物は突然苦しみだし倒れる。確認すると死んでいた。

 

「な、なんで?」

 

 その数十分後、謎の少年がピッコロ大魔王を倒したというニュースが世界中に発信された。

 

 

 

 

 




 ナメック星の最長老が産み出すのは同じナメック星人なので、最長老が死んでも死にません。これは原作通りですね。

 しかしピッコロ大魔王が産み出した魔族はピッコロ大魔王が死ぬと死んでしまうかは不明(作者は知りません、誰か教えてください)なので、この小説ではこう言う設定です。



 


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第5話

 ピッコロ大魔王が倒された次の日の朝、牛魔王は目を覚ましていた。さすがは体力自慢の牛魔王である、まだ立ち上がることはできないが意識はしっかりしていた。

 

「すまねえだ。カノンちゃん、結局オラ何の役にも立てなかっただ」

 

 牛魔王は、事の顛末を聞きカノンに詫びる。

 

「そんな、お爺様はご立派でした。それに私はお爺様の孫です、お爺様の代わりに母様や皆様をお守りするのは当たり前です。」

 

「カ、カノンちゃん」

 

 牛魔王はカノンの言葉に感動し涙を流し抱きしめる。

 

「うお~~~ん!!カノンちゃんなんていい子なんだべ!!オラには勿体ない孫だべ!!」

 

「当たり前だ。おらの子供だべ。いい子に決まってる」

 

 チチは誇らしげに言う。牛魔王に抱きしめられたカノンは苦しそうに身じろぎする。

 

「お爺様、苦しいです」

 

「おお、すまんすまん」

 

 謝りながらも牛魔王は力を抜くが抱きしめるのをやめない。

 

「それにしてもピッコロ大魔王を倒したというその謎の少年とは何もんなんだべ」

 

 牛魔王は信じられなかった、何せ自分の師も歯が立たなかった相手だ。想像もできない。しかしチチには分かっていた。

 

「悟空さだ。悟空さに決まってるだ」

 

「!?」

 

 母の確信している顔。全く疑っていない言葉にカノンはまだ会ったことのない父を思う。そしてどうしようもない感情が湧き上がってくる。戦いたい。どうしようもなく。あのピッコロ大魔王を倒したという孫悟空と戦いたい!!!!

 

「母様!!お爺様!!私、父様に会いたいです!!!」

 

 急にそんなことを言い出したカノンに驚く二人。今まで父親の悟空の話をしてもそんなことを言わなかったカノン、おそらく悟空の修行を邪魔したくないという二人のことを慮って言わなかったのだろうとチチと牛魔王は思っていた。

 事実、カノンは二人の思う通りチチと牛魔王を困らせたくなかった。でも今は違う、どうしても会いたいという思いが口に出てしまった。

 

「そうだな、そろそろ会わせてもいいだな。おらも会いたいし」

 

「うむ、さすがにチチもいつまでも未婚のままでいるという訳にもいかないべ。え~と、悟空さが居るとすれば武天老師様のところがなぁ」

 

 チチと牛魔王がそういうがカノンの言う会いたいは、ただ会いたいではないのだ。

 

「あの違うんです。母様、お爺様。私は娘として会いたいのではなく、武闘家として会いたいのです。」

 

『へっ?』

 

 二人揃っておかしな声を上げてしまう。

 

「あ、あのカノンちゃん、武闘家として会うって悟空さと戦いたいってことか?」

 

「はい。私が父様の娘だとわかったら本気で戦ってくれないかもしれない。できれば、もっと力を付けてから会って戦いたい。いずれは娘であることを言いたいですが、今はまだ・・・」

 

 すまなそうにカノンは下を向く。母親のチチにしたらこのまま悟空に会えば、カノンのことがばれてしまう。ということは、チチが悟空に会えるのはまだ先になってしまう。

 

「わかっただ、カノンちゃん。やっぱり悟空さの娘だ、そういうところは父親そっくりだ。だから顔を上げるだ。」

 

 チチはカノンに優しく言い抱きしめる。

 

「じゃあ、うんと強くなって悟空さを驚かせないとな」

 

「はい!!母様!!お爺様、引き続き修行をお願いします。

 

 

 カノンはチチに笑顔を向け、牛魔王にお願いする。しかし牛魔王はそのお願いを聞いても難しい顔をするだけだった。

 

「あのお爺様?」

 

 返事がない牛魔王にカノンは困惑する。

 

「無理だ。カノンちゃんはこれ以上オラが教えても強くなれねえだ」

 

「そんな。おっとう!!カノンちゃんは、まだまだ強くなれるだ!!」

 

 カノンが武術をすることを認めたチチは、客観的に物事が見られていた。自分との戦い、昨日の化け物との戦い。確かに武術を習い始めてたった1年とは考えられない強さだ。実際は、前世の経験があるので1年ではないのだが。

 

「ちがうだ、チチ。確かにカノンちゃんはまだまだ強くなる。それこそオラの想像を超えて、今でさえオラの力を越えてるだ。そんなカノンちゃんに修行を付けるなんてとてもできないだ」

 

 自分を越えたことは嬉しいが、寂しさも感じる牛魔王だった。

 

「あ、あの。大丈夫です!!修行なら私一人でできますから!!」

 

 カノンは前世の記憶がある、前世でやった修行をすればいい。それで今の実力を急激に上げられるかはわからないが早く母が父に会える為にも頑張らなくてはならない。

 

「カノンちゃん・・・・!?そうだ!!カノンちゃん!!カリン、聖地カリンに行くだ!!そこならもっと強くなれるだ!!!」

 

「なんだ。おっとう、聖地カリンって?」

 

 聞いたことがない場所にチチが聞き返す。そして牛魔王は答える。

 聖地カリン、そこには遥か天空まで続く長い塔『カリン塔』があり、塔の頂上には仙人が住んでいる。さらに亀仙人が昔、その仙人に師事を受けたらしい。

 

「そこに行けば、もっと強くなれるのですね!!では、行ってきます!!!」

 

「ちょーと待つだ、カノンちゃん。一人で行くきけ?勿論、おらも行くべ」

 

 逸るカノンにチチも付いて行くという。そしてカノンを引っ張って歩いていく。

 

「あの、母様。どこに?」

 

「勿論、出発する準備だ。それに仙人様に教えてもらうだ。お洒落していかないとな」

 

 武術の修行を付けてもらいに行くのに、お洒落をしていくというチチに連れられ奥の部屋に消えていくカノンだった。

 

 

 

 

「さ、いくだ。カノンちゃん、忘れ物はないだか?ハンカチは?そうだ歯磨きセットいれたかなぁ」

 

 準備を終えたチチが自動車に乗りカノンに尋ねる。そのカノンはというと頭をシニヨンに纏められ、服装はワンピース、尻尾は服の中に入れられている。

 流石に大けがを負い松葉杖をついている牛魔王は付いて行くことができない。

 

「カノンちゃんもチチも気を付けるだぞ。それじゃあ、頼むだ」

 

「はい!!任せてください、牛魔王さま!!お嬢様方は私がしっかり目的地にお送りいたします!!!」

 

 運転手役になってくれた村人が気合十分に言う。自分たちを救ってくれたカノンは村人たちにとって英雄であり、その可愛さもあり人気は止まることがなかった。今も周りには大勢の、いや村中の人が見送りに来ている。

 

「頑張ってください!!カノン様~~~!!!」

 

 熱烈な見送りに汗を垂らしながら、手を振るカノン。

 

「きゃ~~~!!!カノン様!!可愛いいいいい!!!」「俺にも手を振ってくれ~~~カノン様~~~!!!」

 

 まるでアイドルだ。流石にこれでは切りがない。

 

「あ、あのもう出してください」

 

 村人の歓声を受けて出発するカノンたちだった。

 

 

 

 

「いや~~~流石、カノンちゃん。大人気だべ」

 

 先ほどの歓声を聞き嬉しそうにチチは言う。それに同意するようにうんうん頷きながら、運転をしている村人も同意する。

 

「それはそうですよ、奥様。カノン様は今や我々の英雄、いや天使です、いやいや大天使、いやいやいや」

 

 その二人の言葉を聞き流しながらカノンは思っていた。

 

(はあ・・ほんとは聖地カリンまで修行の為に走っていくつもりだったのになぁ・・・!?)

 

 考え事をしていたカノンは周りの風景がおかしいことに気づいた。今まで青空だったのに急に暗くなったのだ。

 

「あれ?また暗くなっただ?」

 

「え?よくあることなのですか?母様」

 

 チチ曰く、数年に一度こういう現象が起こるそうだ。カノンはこの世界特有のことと思い考えるのをやめ、聖地カリンに思いをはせた。

 

 聖地カリンに近づくにつれ、異様な長さの塔が見える。あれがカリン塔なのだろう。カリン塔の近くまで車で行き降りる。運転手は近くの村で待機すると言い去っていく。聖地だけあって車を置いておくのは、仙人も迷惑するだろうとの配慮だ。

 カリン塔の下にテントらしきものがあり、そしてそこから屈強な体の男とその息子と思わしき男の子が出てくる。

 

「あなた達は何者だ、ここは聖地。用がないのならば去れ。」

 

 ここ聖地に住む部族なのだろう。チチやカノンの前に立ちふさがる。

 

「おらたちは、カリン塔の仙人様に会いにきただ」

 

「なに?あなたが?」

 

 そう言い、チチを見る男、ボラ。まだ少女と思わしき彼女、隣にいるのは年の離れた妹だろう。若い頃、自分もカリン塔に挑んだボラにはとてもこの目の前の少女がカリン塔を登りきることができるとは思えなかった。

 

「いや、あなたではカリン塔を登りきるのは無理だ。いままで挑戦して頂上に到達できたのは二人だけだ」

 

 そう言い、諦めさせようと説得する。

 

「確かに心配だども。でも、おらは約束しちまっただ、約束は破っちゃなんねえ」

 

 チチはカノンに武術を続けることを認めた、子供とした約束だ。それを破ったら親として失格だと思っていた。

 その決意の目を見、ボラは説得するのを諦めた。

 

「わかった。もう何も言わない、だが塔を登りきる間もう一人の面倒は見させてくれ。仲良くできるな、ウパ」

 

「はい!!父上!!」

 

 ボラの息子、ウパがカノンの方を見ながら返事をする。

 

「ありがとう。そんなら行くべ。カノンちゃん!!」

 

 カノンは膝を縮ませ足に力を込め、答える。

 

「はい!!!行ってきます!!!母様!!!」

 

 大地を蹴り、遥か上空まで飛ぶ。

 

「え?え?」

 

 ボラとウパは空の彼方に消えていくカノンとチチを交互に見る。そんな二人に気が付かないチチは、もう見えなくなったカノンの無事を祈るのだった。

 

 塔を登り続けるカノン、流石にワンピースで登る訳には行かず、背負ってきたバックから白い胴着を出し、尻尾は帯の下に入れる。しかしもうかなり登ったはずなのに全然頂上が見えない。だがカノンの顔は笑顔だった。

 

(この先に、私をもっと強くしてくれる仙人様がいる!!!そしてそこで、うんと強くなればあのピッコロ大魔王を倒したという父様に、孫悟空と戦える!!!)

 

 悟空と戦うという一心でカノンはカリン塔を登り続ける。そして上り続けて4時間程、ついに頂上が見えてきた。

 

「はあ、はあ、あれが頂上。やった、、、です。」

 

 流石のカノンもなれない高高度の薄い空気の中を登るのは、体力をかなり消耗する。そしてついにカリン塔の頂上に手が付きそこにある宮殿に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 




相変わらず、話が進まない。





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第6話

またしても話が進んでいない。






 ようやく頂上に到着したカノンは宮殿らしき中で、座り込み呼吸を整えていた。

 

「なんだら~。ずいぶんちっこいヤツが登ってきたなや」

 

 疲れすぎていたカノンは、自分に向かって歩いてくる男に気づかなかった。見上げるとそこには小太りで乱雑な黒髪長髪、そして腰に刀を差しせんべい袋を片手に持った男が立っていた。カノンはすぐに立ち上がり、確認する。

 

「あの、あなたが仙人様ですか?」

 

「仙人~~?。俺がそったらもんに見えるだか?」

 

 どうやら目の前にいる人物は仙人ではないらしい。では、仙人はどこにいるのかと周りを見渡す。キッチン、風呂場に洋服箪笥、ベットもあるどうやらここは居住区画らしい。

 

「そんで、おめえなんて名前なんだ。ちなみに俺はヤンジロベー様だ」

 

 自分よりはるかに年下の子供に偉ぶりたいのか、自分のことを様付で言う。

 

「あ、失礼しました。ヤンジロベー様、私は」

 

「ヤンジロベーだ!!」

 

「え、ヤンジロベーさん?」

 

 あまりの訛りに相手の名前が分からないカノンとそれを訂正する男性のやり取りが数分続き、やっとわかった名前はヤジロベーというらしい。

 

「あの、大変失礼しました。改めて、私の名は」

 

『こっちじゃ。上まで上がってこい』

 

 上の方からこちらに呼びかける声が聞こえる。

 

「おい。こっちだ、付いてこい」

 

 結局、ヤジロベーはカノンの名前などには興味がなかったのか、先導し付いてくるようにいう。球形になっている外側に階段があり、そこを登っていくと二階部分に出る。

 そこには壺らしきものがある台座があるだけで何もなかった。そしてそこには白い猫が杖を持って立っている。

 

「にゃんにゃん」

 

「にゃ?」

 

 つい猫好きなカノンがそう言うが、おそらくこの人物こそが仙人だと気づいた。雰囲気で分かる、不思議な気配だ。そしてカノンは先ほどの失礼な言葉を詫びる。

 

「し、失礼致しました!!仙人様!!」

 

「ほっほっほっほっ。いい、いい。それにしてもよくわしが、仙人だとわかったのう」

 

 仙人は気にするなといい、カノンがすぐに自分が仙人だと分かった理由を問う。カリン塔に登頂したものは過去に二人のみ、その二人も自分が初め仙人だと分からなかった。

 

「気配です。仙人様から感じる気配が常人の者より澄んで感じました」

 

「ふーむ。おぬし幼いのにずいぶん感覚が鋭いの。それに、この塔をこんなに短時間で登ってくるとは。如何にもわしが仙人様じゃ。正確にいえば仙猫様じゃがな。ま、わしのことはカリンと呼べ。」

 

それを聞きカノンは、膝をつき拝礼する。

 

「カリン様、カリン様に修行を付けていただきたくやってまいりました。どうかあなた様の教えを私に伝授してくださいませ」

 

「ほー。こりゃまた礼儀正しいやつがきたの。そこにいるヤジロベーにおぬしの爪の垢でも飲ませたいわ」

 

カリンは手すりを椅子にせんべいを齧っているヤジロベーの方を見そう言う。うるせー。とヤジロベーはそっぽを向き、カリンは真剣な顔でカノンに向き直る。

 

「それで娘よ、何故力を求める。おぬしも知っていよう。ピッコロ大魔王が死にこの世は平和になった。ましておぬしはまだ子供、子供は自由に遊んでおればいい」

 

 そうカノンに説いてくるがカノンには、どうしても力をつけたい理由がある。

 

「私にはどうしても戦いたい人がいるのです。でも今の私の力ではその人の足元にも及ばない。だから強くなりたいのです!!お願いいたします!!カリン様!!」

 

 必死の想いでカリンに頭を下げるカノン。その必死の願いに邪気はなく、純粋にその者と戦いたいのだろう。カリンは仙人だけあって人の心を読むことができる、しかしそれをしなかった。そんなことをしなくてもカリンには、カノンの性根はわかった。

 

「うむ。よいじゃろう」

 

「宜しいのですか!!ありがとうございます!!」

 

もう一度頭を下げるカノンにカリンは、壺が置かれている台座を示し

 

「では、あの超聖水を飲むがいい」

 

 修行を付けて貰えると思っていたカノンは、何故超聖水とやらを飲まなければいけないのか分からず首を傾げるカノン。超聖水を飲みにいかないカノンにカリンは訝しむ。

 

「どうした。超聖水がほしくないのか?」

 

「あのカリン様、超聖水とはなんですか?」

 

「なんじゃおぬし、そんなことも知らずにここに来たのか」

 

カリンは言う、超聖水とは飲んだものの力を何倍にもあげることができるという聖水であると、その説明をしている間、ヤジロベーがニヤニヤしているのが気になったがカノンの答えは決まっていた。

 

「カリン様、それではその超聖水は私には必要ありません」

 

「なんと!おぬしは強くなりたいんじゃろ。それなのに何故超聖水を飲まん」

 心底、不思議だという顔をするカリン。しかしカノンにはそんなもの何の役にも立たない。

 

「カリン様、そんなもので強くなり何の意味がありましょう。私は自分の努力で強くなりたいのです。自分の足で走り、苦しみ、そして自分の手で壁を壊し限界を越えたい。生意気を言ってすいません。でもこれが私の望む強さなのです!!」

 

 カノンは、転生前の世界を思い出す。いつも辛く苦しい毎日、おそらく師に会わなければ男の慰みものになり、どこかで野垂れ死んでいただろう。

それを助けてくれた師、その師に教えてもらった武術。修行は苦しかったが、どんどん強くなっていくことが楽しかった。そう強くなる過程が、重要なのだ。

その過程を無視し一足飛びで強くなるなんて意味がない。それをカリンに言う。

 

「・・・・・・、にゃっはっはっはっは!!いやすまん。別におぬしのことを笑ったのではない、そうじゃの。こんなもので強くなっても意味がない。ほんにおぬしの言う通りじゃ」

 

 カリンは嬉しかった。この目の前の少女はこの超聖水は意味がないと言っている。この壺の中身は水だ。カリンは超聖水を飲むのを邪魔し、超聖水を手に入れる過程でスタミナ、スピード、体裁き、相手の動きを読む先読みの技術得る。つまり結局のところ努力をしなければ力を手に入れられないのだ。

 

「確かにおぬしの言う通り、努力なしに強くなるのは、邪道じゃろうな。じゃが、それが時には必要な時がある。それがなんだかわかるか?」

 

 この時、カリンの脳裏にあったのは悟空のことであった。悟空はピッコロ大魔王に勝つために超神水を飲み強くなった。超神水が猛毒というリスクはあったがそれを乗り越え、ただ飲むという行為で強くなった。しかしそれに意味がないか?

 

「それは、その者の大切なものを守るためじゃ。答えを言うがこの超聖水はただの水、先ほどおぬしが言ったように強くなる過程のただの道具だの。じゃが実際に飲めば強くなる水がここにはある。」

 

カリンは鋭い眼光をカノンに向けこう問いただす。

 

「おぬしが、大切な者を守るために絶対に勝てない相手と戦わなければならない。勝たなければ大切な者が奪われてしまう。そして、そこには飲むだけで強くなれる水がある。どうじゃそれでもこの水を飲まないか」

 

「・・・・・いえ」

 

 そういわれると何も言えなくなる、前世の時は守るべきものがなかった。しかし転生してからは、確かに守るべき者がある。母や祖父、それに村のみんな。それを天秤にかけたときどちらに傾くかなど、わかりきっていた。

 

「おい。カリン、こんなガキに何小難しいこといってんだぎゃ」

 

 明らかに気落ちしているカノンを見てヤジロベーが言う。

 

「なーに。これからの人生、そういうこともあるかもしれんということじゃ、今言ったことは胸の片隅にでも止めておけばいい。」

 

「勉強になりました。カリン様」

 

 本当に勉強になった。このことを知っただけでもここに来てよかった。そしてカリンはすでに薄暗くなった風景を見て修行は明日にしようとカノンを下の居住区に案内する。

 

「さーて。今日の晩飯は何にするかな」「肉だ。肉にしろ」

 

「ヤジロベー、お前はいつもそれじゃの」

 

 晩御飯のことで争っているカリンとヤジロベーにカノンはチチに持たされたお弁当のことを思い出した。

 

「あのカリン様、ヤジロベーさんよかったら母様が持たせてくれたお弁当一緒に食べませんか?」

 

「いやそれは、ありがたいがの。このヤジロベーは意地汚いのでおぬしの弁当を全部食っちまうぞ」

 

「誰が意地汚いだ」

 

 どう考えてもこんなに小さいカノンの弁当だとても3人で食べれるとは思わないカリン。そしてヤジロベーも腹の足しにもならないことが分かっていたのでくれとは言わなかった。

 

「大丈夫です。母様が大目に用意してくれましたから。」

 

 そう言うと、カノンはホイポイカプセルを取り出しボタンを押して投げる。ボワンという音を出し、中から出てきたのは途轍もない箱。それが居住区いっぱいに広がっている。

 

「それでは、お弁当開けますね」

 

 呆気ににとられているカリンとヤジロベーに気づかずお弁当箱?の上に乗り箱を開ける。中を見ると肉魚、山菜、果物がぎっしり入っている。

 

「おい、本当に食っていいんだな」

 

呆気にとられていたのは一瞬、いい匂いが食欲を促し我慢できずにヤジロベーが言う。

 

「はい、勿論です。カリン様もどうぞ遠慮なさらず」

 

「う、うむ、それではこの焼き魚を」

 

 ガブガブガブと本当に遠慮なく食べるヤジロベーと、そしてふと母親がこんな巨大な弁当を幼い子供に持たせるのか気になったカリンがカノンの方を見る。

 

「おぬしこんな巨大な弁当、どうする・・・・」

 

 つもりじゃと続けようとして絶句する。カノンは、カプセルで出したであろう机と椅子に座り、ナイフ、フォーク、スプーンや箸を使い行儀よく食べている。だがそのスピードが尋常ではなかった。口に入れる端から食べ物が消え、手が見えない。

 

「なんですか?カリン様?」

 

「いや。何でもない・・」

 

その日が更けていく。

 

 

 

 

 そしてあくる日、いよいよカリンとの修行が始まる。カリンとカノンは、互いに向き合いカノンが頭を下げる。

 

「それではお願いします!!カリン様!!」

 

「うむ。では修行の内容を言うぞ。それはこの壺をワシから奪うことじゃ」

 

 いよいよカリンの修行が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 




こんな駄文を読んでいただきありがとうございます。

そこでお願いがあるのですが、この小説のここが面白い、またはここが面白くない。単純に面白い、つまらないでも結構です。

面白いと思ってくださる方が多ければこのまま突っ走ります。面白くないのならば面白くする為頑張ります。

流石に物語の大筋が決まっていますので大きく変えることはできませんが、もし次回作をするときがあれば参考にさせていただきますので、ご意見ご感想お願いいたします。









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第7話

明日、早いのに感想をもらってやる気が出てしまった。


 カリンの杖の先にぶら下げている壺を見て言う。

 

「その壺とは、超聖水が入っている壺ですよね。しかし、それは水なのでは?」

 

 昨日カリン自身が言ったはずだ。それなのに壺を取るとはいったい。

 

「なあに、この壺をワシから奪う修行でおぬしの身体能力を向上させようというのじゃ、スタミナ、スピード、反射神経、先読みの技術、様々な要素を駆使しなければワシから壺を奪えんぞ」

 

「分かりました」

 

 すっとカリンは構えをとる。

 

「さあ、来るが良い」

 

 その声と同時にカリンが真正面から突っ込む。それはカリンの予想を大きく上回る動きだ。

 

(早い!!じゃが)

 

 カノンの直線的な動きに上に飛んで避ける、しかしそれを読んでいたカノンはカリンの尻尾を掴みにくる。空中では方向転換ができない、このまま尻尾と掴み引きずりおろし壺をとる。

が、カリンは杖の先から壺を宙に放り投げる。壺を奪うことに集中していたカリンはとっさにそちらの方を見てしまう。その瞬間、カノンの頭を衝撃が走る。

 

「う、痛いです」

 

 杖をカノンの頭に一撃し、そして一回転して空中からおり、放った壺を再び杖の先にぶら下げる。

 

「おぬし、とんでもない速さじゃの驚いたぞ。しかしその速さを全くコントロールできていない。」

 

 確かにカリンの言う通り、カノンはその身の内に抱える莫大な力をうまくコントロールできていない。前世の時と比べれば雲泥の差の気の容量だ。亀仙流の修行でマシにはなったが、まだまだ荒削りなところが多い。

 

「さ、修行は始まったばかりじゃ。どんどん来るがいい」

 

 今度は直線的にいかず、高速で周りを回りだすカノン。その速さはまさに目にも留まらぬ速さだと言えるだろう。事実、カリンはカノンの動きを完全に捉えられている訳ではなかった。

 

(こいつは驚きじゃ。悟空以外にここまでの使い手がいるとは、じゃが、自分の力に引っ張られているのか突っ込んでくる瞬間、わずかに態勢が崩れておる)

 

 カノンが態勢を崩した瞬間を狙い、足の先に杖をだし転ばせる。カノンは転がるままに勢いをつけ腕の反動で空中に飛び、そのまま再びカリンに突っ込む。

 

「それでは先ほどと一緒じゃぞ!!」

 

 壺をカノンから遠ざけ迎撃の為、足蹴りにする。だがそれはカノンの残像、と同時に多くの残像が現れる。くしくもそれは悟空が使った手だ。しかしその量が違いすぎた、残像が所狭しと現れ、隙間がないほど埋め尽くされる。これでは目で探すことなどできない。

 しかしそれは、それだけ動いているということだ。空気が薄いところでの運動に慣れていないカノンの呼吸は乱れ、動きは緩慢になる。それは動きの単純化を意味する。早く目的のものを手に入れるために不用意にカリンに突っ込んでしまう。

 

「ほれ」

 

 勿論、そんな隙を見逃すカリンではない。先ほどと同じく頭を杖でたたく。カノンはそのまま無様に床に倒れこむ。

 

「はあ、はあ、はあ。つ、疲れました」

 

「そりゃそうじゃ。こんな高所でそんな無茶な動きをしたらそうなる。ここは地上よりずっと空気が薄いのじゃぞ。そもそもおぬしは動きに無駄がありすぎる」

 

(とは言え、あんなありえない数の多重残像拳は見たことはないがの) 

 

 タラりと冷や汗を流すカリン。今はまだ、この環境に慣れていないカノンだがこの分ではすぐになれるだろう。悟空と同じように数日でこの修行が終わりそうである。

 

「まだ、まだ行きます!!」

 

 と思っている間にもう回復したカノンが壺を取ろうと張り切っていた。

 

 

 

 

 

 それから5時間ほど、7時から始めたのでもう12時だ。ノンストップで動き続けていたカノンも流石に疲れ倒れこんでいた。

 

「はあ、はあ。タフなやつじゃ。このワシがこれ程息を乱すとは」

 

 5時間全く休みなしで、動き続けたカリンも相当疲れていた。カノンの地力はカリンより上だ、一部の隙も見せられないその緊張感が、高所に慣れているはずのカリンを疲れさせていた。

 

「まったく、よくやるだぎゃ~」

 

 そばで見ていたヤジロベーが肉を頬張りながら呆れたように言う。それを見て昼時だと気づいたカリンは、昼食後に続きをしようとカノンに言うがフラフラになりながらも続けようとするカノン。

 

「休むことも修行じゃぞ、無理をしても効率が悪くなるだけじゃ」

 

「はい、分かりました」

 

 しぶしぶ了解したカノンはカリンとともに昼飯を食べる為に1階に降りる。しかし明日用に残しておいた弁当がない。こんなことをするのはヤジロベーしかいない。

 

「ヤジロベー!!おぬしはホントに意地汚いの!!」

 

「うるせー。置いてあった物を食って何が悪い」

 

 悪びれる様子もなくヤジロベーに思いっきり杖を叩き付けるカリン。

 

「困ったの。こやつ備蓄している食材も全部食っておる」

 

 カリンはキッチンを見て溜息をつく。カノンはぷすぷすと頭から煙を上げて倒れているヤジロベーを見ながら提案する。

 

「あのカリン様、私が下まで行って食料を買ってきましょうか?」

 

「いや、それは無用じゃ。ほれ、これを食べるがいい」

 

 そう言いながらカノンに豆を差し出すカリン。

 

「カリン様、この豆1つだけですか?仙人様は肉魚を食べないということはないですよね。実際、昨日食べていましたし」

 

 精進料理みたいなものかとカノンは思ったがどうやら違うようだ。

 

「その豆は、仙人の食べる豆つまり仙豆じゃ。一つ食べればゆうに十日は腹が持ち重傷の怪我でも直してくれるありがたい豆じゃ。」

 

「そんな貴重なものを私に!!ありがとうございます!!」

 

「う、うむ。さあ食べるがいい」

 

 仙豆を食べて腹が膨れ、すごいすごいと言っているカノンに実は残り少ないとはいえ数か月に一度はなる仙豆にここまで喜んでくれるなんて素直ないい子だなーと温かい目になるカリン。

 

「さ、どうする。疲れはとれたはずじゃ、続きをするか?」

 

 自分も仙豆を食べながら、再度2階に上がり続きを促すカリンだがカノンは先ほどとは違って頭を横に振る。

 

「すいません、カリン様。今までの動きを整理したいのでしばしお待ちいただけますか?」

 

 そう言って、カリンからの了承を得たカノンはその場で正座し目を閉じる。今までのカリンの動き、そして自分の動きを頭の中でトレースする。徐々に徐々に自分の無駄な動きを削っていき、ゴールへの道筋を立てていく。

 しかし途中で気づく、カリンは言っていたではないか。とんでもない速さだがコントロールができていないと。ということはコントロールさえできればこの修行はおしまいだということだ。午前中に何度か惜しい場面があった、このまま続ければそう遠くないうちに達成できるだろう。

 だがそんなことは、他のところでもできる。ここで得られるものはないか必死で考える。そこで思い出す、初めにカリンを見たときに感じた澄んだ気配。カリンが言っていたではないか、鋭い感覚を持っていると。

 

(そうだ、気配だ。気配を感じるんだ。)

 

 では気配とはなんだ。それは、生きとし生けるものがすべて持っている生命エネルギー、気だ。

 気を感じるのだ。ではどう感じる。まずは自分の気を感じる。荒々しい気だ、これでは外に目を向けるなんてできない。まずは自分の中の気を平静に抑えていく。

 この時点でカリンはカノンが何をしようとしているのか気づいた。

 

(バ、バカな!!こやつ自分を無にしようとしておる!!そんなことは教えておらんぞ!!しかもわずかこんな短時間で!!!)

 

 カノンは溶け込むように自然と一体化していく。そうすると今まで見えていなかったものが見えてくる。

 正面にある気配(気)はカリン、この下にいるのはヤジロベー。

 さらに感覚を広げていく。カリン塔を登ってくる大きい気の持ち主が4人、さらに広げると地上に2人、少し離れたところに1人。これは母だろう。

 そしてこのカリン塔の宮殿よりさらに上空に強大な気を感じる。

 

(わかる。一度も会ったことはないが、この気は父様だ!!孫悟空だ!!!わかる気の本質とは何か。どうコントロールすればいいか!!!)

 

 カノンはすっと立ち上がり、カリンを見る。

 

「お待たせしましたカリン様。続きをお願いします」

 

「いいじゃろう。見せてみよ、おぬしが掴んだ感覚を」

 

 互いが無言になり、ふっとカノンの気配が消えたと思ったらカリンの後ろに佇んでいた。そして杖の先にあったはずの壺はカノンの手の中に納まっていた。

 

「み、見事じゃ。まさかここまでできるやつだとは思わなかったぞ」

 

 カリンは素直に驚嘆していた。正直、目の前で見せられても信じられなかった。どうして信じられる。今までコントロールできていなかった力を制御し、そして目をつぶった状態で壺を奪ったのだ。完全に相手の気を読んでいる。

 この修行の目的は相手の動きを予測し、無駄な動きをなくし壺を奪うことだ。

 

(それなのにこの娘は、さらにその上を行きおった。この修行の成果は天界で授かるものじゃぞ)

 

 勿論こんな短時間でこの域まで行けるわけがない。それは、前世の経験値によって到達できたのだ。カノンが前世で死を感じたときに感じた、溶け込む感覚を覚えていたのが大きい。

 

「見事じゃ。過去ここに上ってきた中でおぬし以上に成長したものはおらん。しかもわずか半日足らずで、あのピッコロ大魔王を倒した孫悟空でも3日だったというのに」

 

「孫悟空さん・・・」

 

 はるか上空に感じる気。徐々に膨れ上がっていくのを感じる。さらに強くなっていく孫悟空に喜びが溢れだしてくる。

 

「カリン様、その孫悟空さんと会えませんか?」

 

 我慢できなくなったカノンが、カリンに尋ねる。早く自分の修行の成果を試したいのだ。だがそれは、無理だとカリンは言う。

 

「今、悟空のやつは天界で神様に教えを受けておる。天界には資格を持った者にしか行けんのじゃ」

 

「て、天界!!神様!!」

 

 予想以上の答えに驚くカノン。この世界には神がいて、会うことができるのか。そんなところで修行をしている父親を羨ましく思いながらでは、いつ会えるか問う。

 

「悟空は、3年後に開催される天下一武道会に向けて修行しておる。そこでなら会えるじゃろう」

 

 天下一武道会と呟き、カノンはまさに父と戦う絶好の舞台だと思った。3年も母を待たすのは悪い気はしたが、そもそも天界とやらにいけないのではしょうがない。

 

「もしや、おぬしが戦いたい相手とは悟空のことかの?」

 

 頷くカノン。悟空と何やら因縁があるようだが野暮なことだと聞こうとしなかった。そしてもうここには用はないだろう。

 

「ここでの修行は終わりじゃ。正直、おぬしの助けになったかどうか」

 

「いえ、ここでの修行がなければここまでには至れなかったでしょう。感謝いたします、カリン様」

 

 そう言って頭を下げるカリン。

 

「うむ、ではあとは下界で力を付けるがいい。出るんじゃろ天下一武道会に」

 

「はい、孫悟空さんと戦う為に」

 

 自分の成長させるべき道筋は見えた。あとはこれを伸ばしていくのみ。

 

「では、大変お世話になりました。ヤジロベーさんにもよろしく言っておいてください。また、お会いしに行きます」

 

 まだ、気絶しているであろうヤジロベーを気遣いよろしく言っておく。

 

「達者でな」

 

 カリンに背を向け宮殿から去っていこうとするカノンにカリンが声をかける。

 

「そういえば名を聞いていなかったな?」

 

「は!!申し訳ありません。ここまでお世話になっていながら名前を語らないとは」

 

 心底、申し訳なくするカノンによいよいと手を振る。

 

「して、名は?」

 

 カリンの目を見、答える。

 

「カノン、、、、、、、、孫 空詩(カノン)です。それでは!!」

 

 そのまま空中に飛び出し落下していくカノン。それを驚愕の顔で見るカリン。

 

「孫、孫カノン、いや、まさかな」

 

 

 

 

 

 落下していくカノン、その心の内は歓喜でいっぱいだ。

 

「孫悟空と戦える!!戦えるーーーー!!!」

 

 その途中で、先ほど感じていた4つの大きな気の持ち主を見かけた。

 

「餃子、もう少しだ頑張れ!!」

 

「うん、天さん」

 

 頭がつるつるの額に目?がある男、その下に小柄で帽子をかぶっている子。

 

「悟空もこれぐらい登ったんだ、クリリン俺たちもやるぞ」

 

「分かってますって、ヤムチャさん。これぐらい!!」

 

 そして同じ胴着をきているハンサム風な男と、これまたつるつる頭の男。

 その横を急加速で落下していくカノンはすれ違いざま。

 

「もう少しです。がんばってくださーーーーーーーーぃ」

 

 そのまま消えていくカノン。4人は小さな女の子が、上から急降下で落ちていく様を見て呆然とするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話

 悟空に憧れ、悟空のようになりたいウパは父のボラに修行を付けてもらっていた。昨日聖地カリンに来たおかしな姉妹、いや親子が来ても日課になりつつある鍛錬は続けている。

 あと少し鍛錬をして、それから食材を調達することにする。いつもより早く鍛錬が終わってしまうが仕方ない。昨日はチチが持ってきた料理を食べたが、食い扶持が増えこれからのことを考えるならば少し多く食材を用意しなければならない。カリン塔を登って行ったカノンがいつ戻ってくるか分からないからだ。

 

「父上、カノンさんはいつ戻ってくるでしょうか?」

 

「さて。孫悟空が3日で仙人様の修行を終えたと聞くが、流石にあの娘がそんなに早く戻ってくるなど無理だろう。数か月になるかそれとも数年になるか」

 

 カリン塔の上を見ながら心配する二人。その時、上空からバアン、バアンという音が響き渡りそのあと、ボラとウパに突風が叩き付けられる。その突風は二人を弾き飛ばし、住処にしている天幕を飛ばし周囲の木をしならせる。

 ウパを抱え、木にしがみついたボラは上空を見た。そこにいたのは落下してくるカノンだ。しかしその落下速度は音が鳴り、突風が起こるたびに遅くなっている。カノンは気を空気に叩きつけ徐々に減速させているのだ。ある程度、地上に近づいたカノンは一回転し地面に降りる。

 そして、突風がなくなり体が地に付き倒れこんでいるボラとウパ、木に叩きつけられ無残なことになっている天幕を見回しさっと顔が蒼くなる。

 

「も、申し訳ありません!!私ったら調子に乗ってしまって」

 

 カノンは修行が上手くいったことと、3年後に悟空と戦えることが分かりテンションが上がりまくっていたのだ。そして、世話になっているのだからと衣服を近くの小川で洗っていたチチが異変を感じカノンたちの元に走ってきた。

 

「なんだあ。この惨状は、台風でも来たのけ。あれ、カノンちゃん!!帰ってきてたのか!!」

 

「あ、母様」

 

 カノンはチチに事情を話し一緒に謝りながら吹き飛んだ天幕を直す。

 

「ほんとにすまねえだ。世話になっておきながらこっただことに。勿論、なくしてしまったものは弁償するだ」

 

 しゅんとなりながら天幕とともに吹き飛んだ日用品を拾っているカノン。それを見て流石に可哀そうになったボラは、話題を変えることにした。

 

「いや、いいんだ。それよりカノンといったな。残念だったな」

 

「えっ。何がでしょう?」

 

 ボラはカリン塔を指さし

 

「登りきれなかったのだろう。だが、無理をすることはない。また、力をつけて挑戦すればいい」

 

 私も昔そうだったといいながらうんうん頷いているボラ。それをきょとんとした顔で見ていたカノンはボラの言葉を訂正する。

 

「あの、私、頂上まで行きましたよ。そしてカリン様に修行を付けていただきました」

 

「え?」

 

 カノンがカリン塔を登ってまだ1日もたっていない、そんな短時間でカリン塔を登り仙人様に修行を付けてもらい、カリン塔を降りてくる。そんなこと有り得ない。

 

「う、うそでしょ?悟空さんでも3日かかったのに」

 

「そう言われましても」

 

 信じられないウパに対して、カノンには証明する証拠がない為そこは納得してもらうしかない。

 

「いや、カノンが嘘をつく意味はない。と言うことは本当に修行を付けてもらってきたのだろう」

 

 結局のところ本当のことだろうが、嘘のことだろうが他人には関係ないことだ。自分の力になったかどうかなのだから。

 

「カノンちゃんそれで、強くなっただか?」

 

 そもそもカノンのことを疑っていないチチは、ここに来た目的が上手くいったか聞く。

 

「はい!母様!!強くなりました!!それにこれからもっと、もっと強くなる為のヒントも貰いました!!」

 

 心底満足している顔のカノンにチチは嬉しくなる。

 

「そったら、悟空さと会えるだな」

 

 嬉しそうに言うチチにカノンは説明する。悟空は今、天界の神様の下で修行を受けており次の天下一武道会までは会えない。

 

「すいません、母様」

 

「なして、カノンちゃんが謝るだ。そっか悟空さは神様に修行を付けてもらってるだか。さっすが、おらが惚れた男だ」

 

 神に修行を付けてもらっていることには全く言及してこないチチ。

 

「?あの今、悟空さんの話をしていましたがあなた達は悟空さんの知り合いだったのですか?」

 

 ウパは悟空の話題が出てきて、気になりチチとカノンの話に割り込んでくる。チチはカノンの肩を後ろから手で添え、誇らしげに言う。

 

「この子はおらと悟空さの娘、孫カノンだ」

 

『?・・・・・・・・・・・・ええええええええええ!?』

 

 初め全く理解できていなかったボラとウパはその言葉の意味が理解できた時、驚き目が飛び出る。

 

『嘘だーーーー!!』

 

 さっきは、カリン塔に登ったことを信じたボラさえ信じなかった。それにムッとしたカノン。今度は明確な証拠がある。帯を外し、その中の尻尾をフリフリ動かしながらどうだと言わんばかりに二人に見せる。

 

「どうです。これなら信じてもらえますか」

 

 尻尾を見てまたもや目が飛び出し、口をあんぐりと開ける。

 

「さて、じゃあそろそろ帰るべ。おっとうも心配してるだろうしな。あ!!もし悟空さがここに来たら一応このことは、黙っててくんろ」

 

 まだ固まっている二人はコクコク頷く。確かに牛魔王は心配しているだろう少しでも早く帰らねばと思いカノンも頷くのだった。

 そしてまだ驚いている二人に頭を下げ、礼を言う。

 

「ボラさん、ウパちゃん。世話になっただな、このお礼は後日させてもらうだ」

 

「母様がお世話になりました。どうか息災で」

 

 二人は近くで待機しているだろう運転手のところに歩きだし、ボラとウパの方に何度も頭を下げ遠ざかって行った。二人が見えなくなりようやく動き出す二人。

 

「さ、流石、孫悟空だな」

 

「う、うん。流石、悟空さんだ」

 

 チチとカノンが去って行った方をずっと見つめる二人なのであった。

 

 

 

 

 

 数日ぶりに帰ってきたフライパン山。牛魔王や村人全員に出迎えられ、何故か城でカノンが帰ってきた記念の大宴会に突入する。翌朝、昨日の宴会ではしゃぎ疲れたみんなは、寝こけて起きだしてくるものはいなかった。その城を抜け出し近くの森に行くカノン。

 

「天下一武道会は3年後、それまでにもっと!!もっと強くなる!!」

 

 カノンは前世や亀仙流で習った基本的な修行を中心に鍛錬する。カリン塔で覚えた気の感覚が基礎的な訓練でもより強く、鋭敏にしていく。確実に依然やっていた時より何倍も効率が良くなっている。そしてそれに合わせて、気のコントロールを操作しまだまだ不慣れな気功波の練習をし、研究していく。

 果たしてこれらの修行が悟空に通用するのかどうか、ワクワクしながら修行を続けていくカノン。そして瞬く間に3年が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 第23回天下一武道会前日の出場選手受付日は、生憎の雨模様だった。しかしそれにも関わらず受付前には出場選手を一目見ようとたくさんの人でにぎわっていた。

 そしてカノンもチチと一緒に会場前に来ていた。

 

「ほら、カノンちゃん。もっと近くによるだ、雨に濡れて風邪を引いたら大変だからな」

 

 タクシーから出たチチは、カノンの体を自分の方に近づけ傘を広げる。

 

「ふあー。ここが武道会会場ですか」

 

 チチの腰を掴みながらあたりを見回す。フライパン山以外カリン塔に行っただけのカノンはここに来るまでもきょろきょろしていたが、武道会場にも興味津々だった。何せ前世の町と全然違う。

 

「ふふっ、楽しいだかカノンちゃん。そういえば3年前に遊園地に行こうって行ってたのに結局、行けなかっただな。この大会が終わったらおらとおっとう、悟空さと一緒に行くべ」

 

「はい!母様!!でも残念ですね。お爺様、急なお仕事が入っていけなくなるなんて」

 

「それは仕方ないべ。おっとうも村のみんなの為に遊んでいる訳にもいかねえからなあ。それにおっとうが来たら一発で悟空さにばれてしまうだ」

 

 あの巨体だ。確かにばれてしまうかもしれない。おらも気を付けないととカノンと手をつなぎ大勢の参加選手が並んでいる最後尾に向かう。美しく成長したチチとカノンが並ぶ姿は3年前と違い、若い母親と子供という風に見える。その親子が手をつなぎ、ニコニコ笑いながらしゃべっている。

 完全に場違いだ。何人かがここは参加選手の受付だからと言うがここで間違いないと言う。そして、カノンの番になる。

 

「えっと、それではお名前をどうぞ」

 

 チチの方を見ながら受付担当をしている者が言うが、その隣のカノンが答える。

 

「カノンです」

 

「いや、お嬢ちゃんの名前じゃなくてだね」

 

「え!でも参加する人が直接受付しないといけないんですよね」

 

 受付担当者はチチの方が参加すると思ったようだ。しかしそれは当然で、普通こんな小さい子が参加するとは思わないだろう。ポケッとしている受付担当者と後ろに並んでいる試合に参加する屈強な男たちの様子に不安になるカノン。

 

「あ、あのもしかして年齢制限とかあるんですか?」

 

「あ、いや、そんなことはないんだがね。本当に参加するの?」

 

「そういってるべ。早く受付してけれ」

 

 中々終わってくれない受付に横にいたチチはイライラしながら急かす。雨の中ずっと待っていたのだ、早くホテルに行ってカノンの体を温めないといけない。

 

「わ、わかりました。えっとカノンと。」

 

 やっと終わった受付と同時に雨が止んでいく。

 

「なんだ、今頃雨が止むなんて。さっ、カノンちゃん寒かったべ、ホテル行って風呂に入って、たらふくご飯を食べて明日に備えるだ」

 

「・・・・・・・」

 

「カノンちゃん?」

 

「あ、そうですね。今日は明日に備えて早く寝ないといけませんね」

 

 チチと連れ立ってホテルに向かっていくカノン。そしてカノンは感じていた、自分の近くにいた大きい気を。これが悟空だということを。

 しかもそれだけではない、悟空と同じくらいの気の持ち主、そしてその気に似た気、遠くてよくわからないがここに近づいてくる多数の気の持ち主。カノンの体が震える。

 

「カノンちゃん。大丈夫だか?早くホテルさ行かねばな」

 

 カノンが震えているのが寒さのせいだと思ったチチはカノンの手を引っ張りやや早足になる。しかし違う、カノンの震えは武者震い。その証拠に口元が笑っている。

 

(父様のほかにも、こんなに強い人がいる!!なんて楽しい世界なんだ!!!)

 

 この世界に転生したことを心底幸運だと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく原作に絡めていけます。







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第9話

「今日はカノンちゃんの晴れの舞台だ。しっかりした格好しないとな」

 

 天下一武道会、開催当日カノンはホテルにて着替えていた。チチに髪を三つ編みに整えられている。カノンの髪はかなり長い、カノンとしては武術の邪魔なので短くしたいのだがチチがそれを許さなかった。確かに3年前、武術をするのを認めてくれたがその時、お洒落をすることも条件にされたので何も言えないカノンであった。

 

「よし!終わりだ。」

 

 カノンは目の前の全身を映す鏡を見る。髪は三つ編みにし肩に掛かっている。服装は龍の刺繍が描かれている白いチャイナ風の道着、黒いリストバンドと帯、そしていつものように帯の中に尻尾を入れている。

 

「いいぞ、カノンちゃん。ばっちり決まってるだ」

 

 カノンは帯をギュッと締め気合を入れる。ついにこの時が来た、修行の成果を試す時が。

 

「いきましょう!母様!」

 

 そして天下一武道会会場に赴く。

 

 

 

 

「うわっ!昨日よりたくさん人がいます」

 

 会場の周りには多くの人が集まり、花火が打ち上げられ出店もある。まるでお祭りだ。

 

「こんな中で試合をするんですか」

 

「緊張してきたか。カノンちゃん」

 

「大丈夫です!周りなんて関係ありません!!相手に集中あるのみです」

 

 カノンはそう答える。前世では殺し殺される戦場を駆けてきたのだ、今更この程度で気後れするカノンではない。とそこに拡声器で予選を促す声が聞こえる。

 

『間もなく予選を行いますから、出場する選手の皆さんは競武館の方にお集まりください』

 

「さ、カノンちゃん。おっかあは予選会場には入れねえからここからは一人になるけども大丈夫だな」

 

「大丈夫です。それでは行って参ります!!」

 

 気を付けるだぞー、怪我すんなよー、応援してるべー。という声を背に受けながらカノンは競武館に歩いていく。競武館に入る途中、止められたりとひと悶着あったが受付名簿に名前が記されていたのを確認してもらいやっと入ることができた。

 そしてカノンはきょろきょろと目的の人物を探す。

 

(いた!!あの人だ!!あの人が父様!!孫悟空!!)

 

 会ったことはないが、チチや牛魔王から聞いた風貌と一致する。何よりその感じる強さがそれを物語っている。そして周りにいる者たちも相当な達人たちだ。おそらく同じ一派なのだろう、集まっている5人の内3人が同じ前後に亀と書かれた赤い道着を着ている。

 カノンはドキドキしながら悟空の元に歩いていく。周りから奇異な目で見られているがそんな視線は無視する。

 

「あ、あの!」

 

 そして悟空に声をかけ、振り返る悟空。ここで初めてカノンは悟空の容姿を見る、黒いシャツの上に赤い道着を着、顔は凛々しく、独特な髪形をしている。

 

(母様、結構面食いなんですね)

 

 悟空たちは見知らぬ女の子に声をかけられ戸惑う。こんなところにこんな小さい女の子がいるなんておかしいからだ。

 

「君、迷子かな?お母さんは?」

 

 迷子になって声をかけてきたのだろうと悟空と同じ道着を着ている顔に傷がある男、ヤムチャがしゃがみ込みカノンと目線を合わせ聞いてくる。

 

「俺、係の人を探してきますよ」

 

 そして、こちらも同じ赤い道着を着て頭をツルツルに剃っている男、クリリンが駈け出そうとする。

 

「あっ、違うんです。私も参加選手なんです」

 

 え~!!、と驚く悟空以外の者たち。

 

「ほ、本当に出場するのか?」

 

 心配そうに聞いてくるこちらも頭がツルツルで額に第三の目がある上半身が黄色、下半身が緑の道着を着ている男、天津飯。

 

「だ、大丈夫?」

 

 こちらも心配そうに見てくる天津飯とは真逆の色合いの道着を着ている男、餃子が言う。こくりと頷くカノンに如何やら本当のようだと思う一同。

 

「それにしてもなんだって我々に声を?」

 

 クリリンが疑問に思いカノンに聞いてくる。もしかして過去に出場していた自分達のサインをねだりに来たのかな?と思いながら。その疑問に答えずカノンは悟空の前に立つ。

 

「あなたが孫悟空さんですね?」

 

「ああ。おめえは?」

 

「私、カノンと申します。悟空さんのお噂はかねがね、母様やお爺様に聞いております」

 

首を傾げながらカノンの言う母や祖父とは誰か考える。

 

「おめえのかあちゃんとじいちゃんはオラと会ったことがあるんけ」

 

「はい。昔、会ったことがあると言っていました。そしてたいへん強い人だと」

 

 本当は会ったどころか、チチを孕ませているのだがそれは言わないカノンだった。それを聞いてもわからない悟空。

 

「誰なんだ?おめえのおっかあとじいちゃんって?」

 

 勿論、カノンはこんなところで言うつもりはなかった。悟空とは真剣に勝負をしたいのだ。

 

「それは、私と戦った後に話します」

 

 カノンは悟空の目を見ながら言うが、クリリンとヤムチャは少し笑いながら言ってくる。

 

「おいおい。悟空と戦うって、悟空はめちゃくちゃ強いんだぜ」

 

「まあ、予選を勝ち上がらなくては悟空と戦うどころではないけどな」

 

 カノンはそのセリフに気を悪くしなかった。それは自分が子供なので仕方がないと思っていたし、これから勝ち上がって実力を示せばいい。

 

「確かに私はまだまだ未熟です。でも精一杯頑張って悟空さんと戦ってみせます。それでは、失礼致します」

 

 ぺこりと頭を下げ去っていくカノン。それを見てクリリンは、大丈夫かな~あんな小さい子がと心配げにカノンの背中を見つめる。

 

「いや、あいつは強いよ。それもとんでもなく、な」

 

 へっ?と悟空を見るクリリンとヤムチャそして天津飯、餃子。悟空にはわかっていた、カノンが実力を隠していることを。そしてその底知れない力を。

 

 

 

 

 

「はあ~緊張しました。でも母様が惚れるわけです」

 

 カノンの悟空への第一印象はかなり良かった。かっこいいし、優しく包み込むような雰囲気、そして何より強い。カノンが隠していた実力も見抜いていただろう。あの人が父親なら不満などない。

 

『選手の皆様!!お待たせしました!!只今より予選を行いますので中央にお集まりください』

 

 いよいよ予選が始まる。もしかしてここで悟空と試合が当たるかもしれない、チチが見ている武舞台で戦えないのは残念だがその時はその時だ、目一杯やるしかない。

 武道寺館長から予選開会のあいさつが始まる。それによると今回の参加者は72名と前回に比べて少なくなっているらしい。カノンも前回の試合の映像を見たが、かなりハイレベルだった。あれでは参加人数も減るだろう。

 そして武道寺館長の挨拶も終わり、予選の組み合わせ抽選が始まる。

 

「と、届くかな」

 

 背の低いカノンに合わせてくじ箱を下げてくれる係員。それをすいませんと言いながらくじを引く。

 

「えーっと、51番。3ブロックの後半ですか」

 

 3ブロックの方に移動し悟空がいないことを確認し安堵する。やはり悟空とは、チチの見ている前で戦いたい。ここでの強敵になりそうなのは悟空と一緒にいた、確か餃子という人だ。前大会で本選に出場を果たした人だ油断はできない。

 あとはっと周りを見、変な人を見つけた。服の前に『殺』と書かれ、後ろにはKILL YOUと書かれたピンクの道着を着て、髪を三つ編みにしている人。そこまではいいのだが口元だけ出ているヘルメットをかぶり、長袖になっているので分かりにくいが手の部分がプロテクターになっているようだ。あれは反則にならないのかなーと疑問に思う。実は自分も周りに変な目で見られていることに気づかないカノンだった。

 

「えーそれでは予選を始めたいと思います」

 

 ついに予選が始まる。初めは餃子とあの変な人だ。どちらもなかなかの達人同士だ、本当は悟空の方を見に行きたいが予選では全く実力を出さないだろうと自分のブロックの戦いに集中する。

 そして試合が始まると餃子が宙に浮かぶ。そんなこともできるのかと度肝を抜かれるカノン。しかし餃子は対戦相手を見、ついで驚きの顔を見せ無防備になったところに攻撃を受ける。そしてそのまま昏倒してしまう。あたりをうおーという歓声が上がる。

 

(うーん。なかなか)

 

 見た感じ確かに達人の域に達している変な人だが、ワクワクはしてこない。その騒ぎに天津飯を先頭に悟空たちが近寄って来て、天津飯が餃子を抱える。

 

「くっくっくっくっく、かろうじて生かしておいてやったぞ。殺してしまっては失格らしいからな」

 

 その言葉に怒りの表情を向けるが天津飯もそれが誰だか気づいたらしい、名前は桃白白、そして殺し屋をやっている。如何やら天津飯、餃子の師匠の弟らしく、悟空が昔に倒しそのケガが原因でサイボーグ化したようだ。

 カノンはサイボーグって何?と思いながらさらに話を聞く。悟空にはやられた借りを返す為、天津飯には亀仙流に靡いた裏切りに対する行為に二人を殺しに来たらしい。

 

「首を洗って待っているんだな」

 

 と舞台を降りていく桃白白。そこで同じブロックで見ていたカノンに気づいたクリリンがこちらに声をかけてくる。

 

「君!たしかカノンって言ったね。もしかしてここのブロックなのかい!?」

 

「はい、そうですけど」

 

「棄権した方がいい。やつは危険だ」

 

 近くにいたヤムチャも言ってくるが、勿論カノンにはそんな気はない。

 

「ご心配ありがとうございます。でも悟空さんと戦うまで私、負けませんから」

 

 頑なに棄権するのを固持するカノンに危なくなったらすぐ降参するんだよと自分のブロックに帰っていく悟空達、いい人たちだなーとニコニコしているカノンに審判の声が聞こえてくる。

 

「51番のひとー。早く来ないと失格になりますよー」

 

 クリリンたちとしゃべってる間に試合が進んでいたようだ、カノンは慌てて舞台の上に上がる。

 

「す、すいません。お待たせしました!」

 

「えーっと?51番?」

 

「はい。そうです」

 

 手元にある資料をペラペラめくり間違いないことを確認した審判は、開始の合図をする。

 

「お願いします」

 

 元気よく言ってくるカノンに対して対戦相手の大男は困惑するが、すぐに楽に勝ち星を挙げることができると思いカノンに向かっていく。ただしこんな小さい女の子だ、無駄に痛め付ければ周りに非難されてしまう。優しく押し出してやろうと考えてる内に、顎に衝撃が来てそのまま意識を失ってしまう。

 周りで見ていたものにはカノンの姿が見えていなかったのだろう。大男が何もしていないのに倒れたことにシーンと静まり返る。

 

「えっと、気絶かな?51番の勝ちです」

 

 うおーーと歓声が上がる。カノンは周囲の人に礼をしながら舞台を降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どんどん文章が増えてきてなかなか先に進めない。







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第10話


この話数からオリジナル技、独自解釈、オリジナル設定が少し入ります。


 無事、予選一回戦を通過したカノン。その歓声は悟空達の元まで響いていた。

 

「お、おい天津飯。あの子勝っちまったぞ」

 

「あ、ああ」

 

 ヤムチャと天津飯は驚いた顔でカノンがいる3ブロックを見ていた。

 

「なっ、言った通りだろ。あいつはつええって」

 

 カノンの強さを見抜いていた悟空はさも当然という顔でみんなの顔を見る。

 

「でもよ。このままあの子が勝ちあがってきちまったら桃白白と戦うことになるんだぜ」

 

 カノンが酷い目に合うことを心配するクリリン。だがやはり悟空の言うことは変わらない。

 

「でえじょうぶだって。そんなに心配なら早く予選を終わらせて見に行こうぜ」

 

 悟空はクリリンたちを促し、それぞれのブロックに散っていった。悟空達は危なげなく予選を勝ち抜いていく。

 そしてそれはカノンも同じだ。すべての試合を軽く拳で打ち抜いて対戦相手を気絶させていく。そのまま順調に勝ち抜いていき、あと1回勝てば本選出場が決まるまで来た。

 

「では、44番と51番の試合を行います」

 

 審判に呼ばれ、舞台に上がるカノン。すでに準備ができている桃白白は後ろ手に佇みながら、カノンを完全に見下していた。

 

「ほう、まさかこんなガキが予選を勝ち上がってくるとは、この大会のレベルもたかが知れているな」

 

 その言葉を無視しカノンは開始前の礼をする。

 

「くっくっく、安心しろ。殺しはせん、だがそんなチビでは力加減を間違えて殺してしまうかもしれん。なるべく死なないようにしてくれよ」

 

 またもや挑発してくる桃白白に一応自分も返しておこうと返答をする。

 

「はい、でもあなたの攻撃は当たらないと思うので大丈夫です」

 

 桃白白は一瞬絶句し、カノンを怒りの表情で見る。そして審判の開始の合図も聞かずカノンに突撃してくる。

 

「44番!!まだ開始の合図は」

 

「いえ、このまま開始していただいて結構です」

 

 カノンは審判にそう言い桃白白を迎え撃つ。

 

「このクソガキがーーーーー!!!」

 

 完全に頭に来ている桃白白の攻撃は、確かに中々早かったが単調なためカノンはすいすい避けていく。それがまた桃白白の怒りを誘う。

 いち早く予選を決めカノンの戦いを見に来た悟空、クリリン、ヤムチャそしてそこに遅れてやってきた天津飯が合流する。

 

「すまん、遅れた。どうだ試合の様子は」

 

「やるよ、あのカノンって子」

 

「ああ、全くあの桃白白に触れさせない」

 

 クリリンとヤムチャは危なげなく桃白白の攻撃を避けているカノンを見ながら答える。天津飯も舞台の上で戦っている二人を見て気づく。桃白白の動きは今の自分なら危なげなく倒せるレベルだ。しかしカノンの動きは。

 

「このガキ!!少々避けるのがうまくても攻撃してこないと勝つことはできんぞ!!」

 

「では、攻撃させてもらいますね」

 

 一連の攻撃で動きを見切ったカノンは無造作に右の蹴りを放ってくる桃白白の足に左手をかけてそれを軸に体を浮かす。そして左の頬に蹴りを一閃させる、今度は返す刀でかかとを左の頬に打ち込む。   

 そのまま桃白白は吹っ飛んでダウンする。その動きに周りで見ていた選手は、おーと歓声を上げる。

 

「さ、もう降参してください。後はあなたと因縁のある天津飯さんに任せます」

 

 カノンは天津飯を見る。それに天津飯は頷き返す。確かにこれは自分がやらなければならない問題だ。しかし桃白白には屈辱の言葉だ。

 

「こ、降参~~~。この桃白白様が降参だと~~~!!このクソガキがーーー!!!」

 

 怒鳴り声をあげガシャンと左手首が外れる。そこから仕込み刀が伸びてくる。

 

「44番!!反則です!!武器の使用は禁じられています!!」

 

「うるさいな!!もう試合などどうでもいい!!そうだ!!このガキを殺して次は天津飯、そして孫悟空を殺せばいいんだからな!!!」

 

 見境がなくなっている桃白白、そこに天津飯が舞台に手をかける。

 

「カノン!!下がっていてくれ!!ここは俺がけりをつける!!」

 

 桃白白が反則負けになったためカノンの本選出場が決定している。なのでここで自分が出てきても問題ないはずだ。しかしさっきは任すといったカノンは首を振る。

 

「いえ、まだ相手は参ったと言っていません。ならば私が相手をします」

 

「なっ、桃白白様は反則負けになっているんだぞ!!」

 

 それを聞いてもカノンは頑なに拒否する。

 

「お願いします。天津飯さんにお任せするのは桃白白さんを完全に負かしてからにしてください。これは武道家としてお願いです」

 

 カノンとしても折角戦っていた相手が、反則負けで終わるのは本意ではない。まあ結局は戦いたいだけなのだが。それを聞いて天津飯は下がる。

 

「わかった。戦っているのはお前だ、だが桃白白様を絶対にたおしてくれよ」

 

「はい、任せてください!」

 

 このやり取りを見ていた桃白白は発狂するぐらい怒り心頭になり、歯をギリギリさせる。

 

「い・・いい加減にしろーーーこの桃白白様を倒す!!!!やれるものならやってみろーーー!!!」

 

 左の剣を片手に襲い掛かる桃白白。だがこのような相手には慣れている、なにせ前世で散々やってきたからだ。

 振りかぶってくる剣の腹を右手の甲でたたき割る。そしてこのまま腹に一撃をと思ったところでふとこのまま攻撃して殺してしまわないかしら?と思ったカノン。

 

 前世では力の限りの一撃を加えて相手を絶命させてきたし、こちらの世界ではあのピッコロ大魔王が産み出した化け物と戦った時も手加減と言いつつ別に殺してしまってもよかったので一応死なないようにしていただけだ。

 そしてここまで戦ってきた予選選手は、弱すぎた。なので全く力を出していなくとも倒せた。要するに桃白白の強さはカノンにとって中途半端な強さなのだ。強いものには全力で攻撃できるし、弱い者には力を抜けばいい。まだまだこの世界での経験値が少ないカノンは手加減が苦手だった。

 なので本来なら腹に加える一撃を避け、左の手は桃白白の左手首を掴み、体を屈み腕の下を通り抜け、右掌で左の肘を叩き割りそのまま体重を掛ける。

 バギャという音が響き渡る。

 

「ぐぎゃあああああああああ!!!!!!!!!」

 

 桃白白の左腕は本来曲がる方の反対側に曲がっている。周りで見ている選手は顔色を蒼くしている。

 

「あ、あの子容赦ないな」

 

「あ、ああ」

 

 クリリンとヤムチャがそういうが、前大会の時そのヤムチャの足を折った天津飯はヤムチャから目線をそらす。

 

「はあ、はあ、ぐぐぐ」

 

 膝をつき口から涎を垂らして息も絶え絶えな桃白白に再度カノンは言う。

 

「さあ、桃白白さん。降参してください。これではもう戦えないでしょう?降参しなければ次は右腕を破壊します」

 

 全く躊躇しないカノンの言葉に言われている桃白白より周りがゾッとしている。カノンは絶対に降参しなければ折るだろう。そんな声色だ。

 しかしこれでもカノンにすればかなり優しくしているのだ。前世では相手が命乞いをしてきても容赦なくその命を奪ってきた。それなのに殺してはいけないルールで降参しない相手に腕を折るだけで負けを認めることを促しているのだ。本当ならば両手両足を折っているところだ。

 

「はあ、はあ、だ、誰がお前みたいなガキ相手に降参するか!!」

 

 桃白白は大きく跳躍し舞台の隅の方に着地する。そして今度は右手首を外す。そこから現れたのは何もない、いや違う。砲身が出てきた。桃白白はやっと優位にたったと思ったのだろう、脂汗を流しながらニヤニヤ笑う。

 

「はあ、はあ、、、くっくっくっく。ガキここまでだぞ、調子に乗っていられるのは。このスーパーどどん波は貴様をアッと言う間に地獄に送ってくれる」

 

「スーパー・・・どどん・・波?」

 

 どどん波を知らないカノンは首を傾げる。しかしそれを聞いた天津飯たちは慌てる。何故なら天津飯、餃子が使う技でにわか仕込みのかめはめ波では勝てないほどの気功波なのだ。

 しかもスーパーとついていることから普通のどどん波などよりも威力は上だろう。

 

「やめてください!!桃白白様!!」

 

「これは流石に黙ってる訳には行かないな」

 

「そうですね、ここは我々があいつを取り押さえないと」

 

 天津飯、ヤムチャ、クリリンが言う。そして悟空が無言で舞台に上がろうとしたとき、それを見て桃白白はニヤリと笑う。

 

「おっと、動かない方がいい。このスーパーどどん波を打つ前に私を取り押さえたり、気絶させたりしても体に埋め込まれたAIが自動で周りにスーパーどどん波を撃つことになる。それとも私を一瞬で塵も残さず消し飛ばすか?それなら助かるかもしれんな。だが、そんな力を使えば周りにどれだけの被害が出るかな?」

 

 それを聞いて踏みとどまる悟空達、確かに桃白白を一瞬で消し飛ばせるかもしれない、しかしそれには高出力の気功波を使う必要がある。それをこんな四方に囲まれた建物の中で使えばどんな被害が出るか分からない。それならと天津飯が一歩前に出る。

 

「それなら俺から殺してください!!どうせその子を殺した後、俺を殺すんでしょう!!」

 

 天津飯には自信があった。スーパーどどん波を自分に撃たせ掻き消すことができる自信が。しかしカノンにコケにされた桃白白はまずはカノンを殺すと決めていた。

 

「俺に命令するな!!!天津飯!!!あのガキを殺した後、お前もきっちり殺してやる!!」

 

 もはや聞く耳をもたない桃白白はカノンの方に向き直る。

 

「さあて、またせたな?ガキ」

 

「くっ、やめてください!!こんな密閉された空間でそんな技を使ったら大惨事になりますよ!!」

 

 こんなことになるなら殺すことを躊躇するんじゃなかったと最低限被害が出にくい場所を探す。カノンは上を見る。やはり上に気功波のエネルギーを逃がすしかない。気功波を受け止めて上に逃がす、これだ。万が一、失敗した時の為に自分の後ろにいるものに避難をするように言う為に後ろを向く。

 

「皆さん、私の後ろから離れてください!!」

 

「くっくっく。無駄だぞ。今、逃がしたとしてもお前を殺した後ここにいるもの全員を殺すと決めた。その前にスーパーどどん波が貴様を貫き外にいるものが大量に死ぬことになるがな。そうだ!!その中にお前の家族がいるかもしれんな。来ているんだろう家族が、感謝してほしいな。家族一緒に殺してやるんだからな!!!」

 

 はっはっはと笑う桃白白にピクリと肩を震わすカノン。カノンが後ろに向けている顔を見てしまった選手たちはがくがくと足が震え腰を抜かしてしまった。空気が凍る。殺気が溢れる。そして振り返るカノン。

 

「・・・・あ゛」

 

 無表情な顔、そして凍るような目。先ほどとは別人だ。

 

「おまえ、今なんてった?私の家族を殺す?母様を殺すと言ったのか?」

 

 カノンの殺気に後ずさる桃白白。しかし虚勢を張って笑う

 

「そ、そうだ!!嬉しいだろう。母親と死ねて!!さあ、殺してやるぞ!!!」

 

『スーパーどどん波だーーーーー!!!!!』

 

 桃白白の右腕から気功波が撃ちだされる。だがこの程度の気功波はカノンには余裕で掻き消せることがわかった。しかし、

 

(こいつは殺すと言った。母様を殺すと言ったんだ!!!)

 

 カノンは両腕の掌を体の前にまっすぐ伸ばす。

 

「受け止めるつもりか!!!無駄だぞ!!!」

 

 勿論、カノンに受け止める気持ちなんて欠片もない。カノンはこちらに近づいてくる気功波の質、波を読み取り、それと反対の作用を持つ気を掌に集中させる。そして掌に当たる寸前。

 

「死んだーーーーー!!!」

 

 桃白白は勝利を確信するが、カノンの掌に触れたスーパーどどん波は反発する気に刹那の間、掌に止まりカノンはそれに自分の気を叩きつける。そして完全にコントロール化に置く。カノンは叫ぶ。

 

『気功反射砲ーーーーー!!!!!』

 

 カノンの気を上乗せしたスーパーどどん波が桃白白にはじき返される。これには悟空達も驚愕する。

 

「何!!!バカな!!!ひいいいい!!!」 

 

 桃白白はこれが直撃すれば死ぬであろうことが理解できた。そして勿論カノンには止める気はない。

 

(この気功反射砲をこの屑にぶち当てて上に逃がすようにコントロールする!!!)

 

 そして、桃白白に直撃する寸前。

 

「カノーーーーーーーーーン!!!!!」

 

 悟空の声が聞こえ、慌ててギリギリのところで上に逃がしコントロールして爆発しないよう破裂させる。気が花火のように降りかかってくる。

 

 死ぬ寸前だった桃白白は髭や髪が白くなり崩れるように気絶する。そしてこの瞬間、カノンの本選出場が決定するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか意味の分からない恥ずかしい技、独自解釈、桃白白にAIが埋め込まれているなどオリジナルの設定が出てきましたけど、気に入らない、面白くないと思う方は(できれば目を通していただきたいですが)、見ない方がいいと思います。

技の解釈はこのまま話が続いて行けば主人公が喋ってくれる予定です。

これからこういうことが、多々起こりサイヤ人編から少しおかしくなってきます。








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第11話

お気に入り数が100を超えておりました。
お気に入りに入れていただきありがとうございます。



「ご、51番、天下一武道会出場決定!!」

 

 審判により本選出場の宣言がなされ舞台を降りていく、そこで悟空と目が合い礼をして去っていくカノン。そのカノンの背を見ながら先ほどの桃白白との戦いを振り返る悟空達。

 

「とんでもないな。あの子」

 

「ああ。悟空と戦いたいってのは冗談なんかじゃないな」

 

 クリリンとヤムチャはカノンの強さを目の当たりにし悟空と戦うだけの力があるとみた。それよりも気になるのは最後に見せた桃白白のスーパーどどん波をはじき返した技だ。あれはただはじき返した訳ではない。

 

「あれは、自分の気を上乗せしてはじき返したのだ」

 

 天津飯は、桃白白を担ぎ上げながら思った。あの技ははじき返すタイミングが少しでも狂えばそのまま直撃してしまう、また自分の気を上乗せする時もうまく乗せることができなければ暴発してしまうだろう。まさに気功波のカウンターとでもいうべき技だ。自分にも使えるかどうか。

 

「それにただ上乗せしたわけじゃねぇ。相手の技のコントロールを完全に奪っていた」

 

 悟空の言う通りカノンが桃白白に気功反射砲を当てる瞬間上に方向を変え、さらに爆発しないよう気を炸裂させて周りに被害が出ないようにした。あの年にしてこのセンス、悟空は心臓が高鳴るのを感じた。

 

「オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 

 

 

 

 

 悟空がワクワクしていた時、カノンはズーンと落ち込んでいた。悟空の呼びかけがなかったら確実に桃白白を殺していた。別にあんな奴が死んでも構わないのだが、それでは悟空と戦う為に来たというのにあそこで終わっていた。3年間の修行も無駄になるところだった。

 なにより、

 

「私の後ろには母様はいなかった」

 

 そうなのだ、桃白白は挑発してきたがカノンの後ろにはチチはいなかった。チチの気ならば直ぐにわかる、なので巻き込まれるということはなかったのだ。どうもカノンは身内のこととなると怒りやすくなるようだ

 

「え~とでは、出場が決定された選手の皆さんはこちらの方へお集まりください」

 

 スーツ姿にサングラスの審判が出場選手を呼んでいる。集まってくる選手はどれもこれも滲み出る強さを持っている。一人だけ確実に一般の強さの者もいるが、これは単純に運がよかったのだろう。

 やはりこの中で飛びぬけて強いのは、孫悟空、そして白いターバンにマントの緑の肌を持つ男、それに眼鏡をかけたちょび髭のおじさん、カノンもチラリと予選の様子を見たが道化を演じながらも相手に接触する瞬間だけは、気の運用が抜群だった。なぜそんなことをするのか分からないが、ぜひ戦いたい相手だ。

 

 本選のくじを引くときに何やら審判の人とクリリンがやり取りをしていたが、いよいよ悟空と戦える舞台に立つことができる。そしてカノンはドキドキしながらくじを引く。

 

(父様と!父様と!!孫悟空と!!!)

 

 そして対戦相手が決まる。

 

 第一試合、カノン対天津飯

 

 第二試合、孫悟空対 カズーセ

 

 第三試合、マジュニア対クリリン

 

 第四試合、シェン対ヤムチャ

 

 

 

(父様と一回戦では戦えませんでしたか。でも天津飯さんとだ!ワクワクしてきます!)

 

 悟空と初っ端に戦えないのは残念だが、相当の実力者である天津飯と戦えることを考えたらこの組み合わせも悪くない。何せ一回勝てば悟空と戦えるのだ。ほかにも強い者が大勢いる中で決勝まで進まなければ悟空と戦えないとしたら、それまでの戦いで消耗する体では思いっきり悟空と戦うことはできない。できるなら万全の状態で戦いたいカノンだった。

 

「あっそうだった!母様と待ち合わせしていたんだった!」

 

 本選試合までの短い時間だがチチが軽い食事を用意してくれているはずだ。急がないととカノンは待ち合わせ場所に急ぐ。

 待ち合わせ場所にはすでにチチがいて、カノンに手を振っている。

 

「カノンちゃん!本選出場おめでとう!」

 

「有難うございます!母様!」

 

 カノンに抱き付きながら祝福するチチ。そして荷物の中から包みを取り出しカノンに渡す。

 

「はい、カノンちゃん、おにぎりだ。一回戦から戦うことになるだ。あまり詰め込んだらダメだべ」

 

 チチからおにぎりを受け取りおいしそうに頬張るカノン。そこでチチは飲み物を取り出そうとして気が付いた。

 

「あ、おらとしたことが飲み物を入れ忘れただ。御免なカノンちゃん、すぐ買ってくるからここで待ってるんだぞ」

 

「いえ、母様。私別に」

 

 とカノンの制止も聞かず駈け出してしまう。それを見て、しょうがないので残りのおにぎりを食べてしまおうとしてふと、怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「この恩知らずが!!」

 

「・・・・・鶴仙人様」

 

 壁の影から覗き込むと、あの餃子が着ていたものにそっくりな道着を着て鶴をあしらった帽子を被っている老人が、天津飯を怒鳴り散らしている。

 

「年端もいかぬお前に武道のイロハを教えた弟をこんな目に合わしおって」

 

 鶴仙人は肩に背負っている桃白白を見ながら言う。折れた左腕、白くなった髭、後ろから垂れている髪も白くなっている。何より余程恐ろしい目にあったのかがくがくと震えている。

 天津飯は何も言わず佇んでいる。これを見たカノンは誤解を解く為に鶴仙人に話しかける。

 

「あの、すいません。桃白白さんをそんな目に合わせてしまったのは私です」

 

「カノン!」

 

 黙ってかつての師の暴言に耐えていた天津飯はカノンが現れたことに驚く。鶴仙人は突然現れた小娘の発言に鼻を鳴らす。

 

「ふん。なんだ小娘がお前のような奴が」

 

「ひ、ひいいいいいいいいいいいい!!!!!!!?」

 

 しかし、カノンの声を聞いた桃白白は奇声を上げ背負っていた鶴仙人から転げ落ち、カノンから少しでも遠ざかろうというのか地面を這ってずり下がる。

 

「た、桃白白・・・・?」

 

「・・・鶴仙人様、もう二度と我々の前に姿を現せないでください」

 

 完全に心を折られてしまった桃白白に憐みの目で見て、鶴仙人にお願いする。鶴仙人は怒りでプルプル震え再び桃白白を背負い、そのまま舞空術でフワフワと浮く。

 

「貴様!!碌な死に方はせんぞ!!そこの小娘も!?」

 

 天津飯は鶴仙人に義理がある為何も言わないが、カノンには関係ない。悪意を持って接してくる相手には悪意を持って応える。

 

「・・・・・・」

 

 鶴仙人は、なぜこんな小娘に桃白白が怯えるのか理解した。あの目だ、あの冷たい目。こちらを虫けら以下に見ている目。こんな小娘ができるような目ではない。鶴仙人はごくりと喉を鳴らし、去っていく。もう二度とこいつには関わらないと思いながら。

 

 

 

 

 

「すまんな、カノン。結局、俺がやるべきことをすべてさせてしまった」

 

 頭を下げてくる天津飯にカノンは慌てて手を振る。

 

「そ、そんな!私こそでしゃばった真似をして」

 

 それを見た天津飯はふっと笑い、次はカノンの顔を真剣に見る。

 

「しかし世話になったからといって、試合では一切手は抜かん。お前が強敵だと理解できたのでな」

 

「はい、勿論です。」

 

 差し出してきた拳に拳を合わせ、天津飯は去って行った。カノンが充実感を感じているとチチの呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「そうだった!!母様を待たせたままだった!!」

 

 急いで戻るカノンだった。

 

 

 

 

 いよいよ始まる第一試合、武舞台の周りは客でいっぱいになりすごい熱気になっている。

 

「第一試合はカノン選手と天津飯選手の対決です。それでは両選手、登場してください!」

 

 カノンは武舞台に進む中、前にいる悟空と目が合う。

 

「頑張れよ!カノン!」

 

「は、はい!!頑張ります!!」

 

 まさか応援してくれるとは思わなかったカノンは、感激し足が軽くなる。そして先頭をカノンその後ろを天津飯が続き大勢の客が見ている武舞台に歩みカノンと天津飯は向かい合うように相対する。

 ざわざわとしだす観客たち。

 

「おい、あれ」「え、子供?なんで子供が?」「大丈夫か?あんな子供が?」

 

 そのざわめきにサングラスの審判はカノンを紹介する。

 

「みなさん!!カノン選手はなーーんと、今までの天下一武道会最年少5歳の天才少女です!!予選ではほとんどの選手を一撃のもとに下してきました!!それだけの実力者なのです!!!」

 

 観客が驚きの声を上げる。

 

「そして天津飯選手は前回の優勝者!!果たしてこの試合どうなるのか!!!それでは!!はじめてください!!!!」

 

 わーーーと興奮の声が上がり、カノンと天津飯は構えをとる。お互いじりじりと間合いをつめていく。ドンと地を蹴り先に仕掛けたのはカノン、それを迎え撃つ天津飯。拳、蹴り、肘、膝、互いに打ち合い、互いに防ぐ。それが炸裂するたび大気が弾ける。そしてそれは地上戦だけではない。

 天津飯の蹴りを避けるのに合わせ、上空に飛んでいくカノンそれを追撃する天津飯。追ってくる天津飯に左右の掌から気功波を放つ。

 

「甘いぞ!!!」

 

 それを両腕で軽く弾く天津飯。弾かれた気功波は散り散りになり霧散する。それでも近づけさせずと連続で放ち続けるカノン。しかし天津飯には無駄だった、鶴仙流の奥義、舞空術で空を自由に飛べるこの技の前では真っ直ぐに進んでいく気功波は、余裕で躱せることができるものだった。カノンの気功波を縫うように飛ぶ天津飯に諦めたのか空中で構えをとる。それに応えるように突っ込んでくる天津飯にカノンはニヤリと笑い、またもや気功波を放つ為、右の掌を向ける。

 

「ただ消耗するだけだぞ!!」

 

 単純な攻撃を繰り返すカノンに落胆する天津飯は、それでも手加減はしないとさらに加速する。気功波を放つ寸前のタイミングで右に素早く回り込み、技の後の隙をつく。天津飯は一瞬で考えを組立て、カノンに向かう。

 

 

「はああああああ」

 

 しかし掌を向けていたカノンはその手を握りしめ指の間から拡散された気功波が、目の前まで来ていた天津飯に降り注ぐ。勿論、拡散され威力が落ちた気功波ではダメージはほとんどないが、単純な攻撃による慣れ、目の前で広範囲に広がる予想外の攻撃、そして気功波が握りつぶされたときに発した光が天津飯の思考を一瞬止める。

 そこを拳を握りしめたカノンが天津飯の左頬を殴り飛ばし、一回転して左の足で首を刈る。が、流石に天津飯もいいようにやられずそれを防ぐ。蹴られた勢いを殺す為そのまま地上に落ち、カノンの追撃をかわす為跳躍しその場を離れる。カノンも仕切り直しと天津飯の反対側に降りていき構えをとる。

 会場はあまりにもハイレベルの戦いに静まり返り見守っていたが、カノンと天津飯の戦いの流れが止まったことで正気に戻り大歓声となった。

 

 

 

 

 

 

 



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第12話



今、俺の中二病が炸裂する。




「ほ、本当に何者なんじゃ!あやつは!?」

 

 今もハイスピードで繰り広げられる戦いに驚きを隠せない亀仙人。予選の桃白白との試合の様子は悟空達から聞いていたが、ここまでできるとは思いもしなかった。

 

「ね、ねぇ、、、あの子、天津飯と互角に戦ってるのよね」

 

 格闘に関して全くの素人のブルマは天津飯が手を抜いているのではないのかと確認するが、亀仙人は首を振る。

 

「いや、それはない。天津飯は全く油断しておらん。なのにあのカノンは天津飯に一撃を食らわせておる。そのあとの攻防も見事というしかない」

 

 カノンが一撃を与えてからは両者にクリティカルヒットはないが、それがまさに天津飯が手を抜いていない証拠だ。ダメージ自体はないが、それでも一撃を与えたカノンの方が優勢なのは違いない。そして今も攻撃を当てようとしているがカノンは防ぎ、躱している。

 だがカノン自身もそれほど余裕があるわけでもない。

 

(早い!!さっきは何とか奇襲が決まって攻撃を当てることができましたけど、やはりこの人はすごい!!)

 

 余裕はないが、口元の笑いは抑えられていない。そしてそれは天津飯も同じだ。

 

(やる!!わかっていたことだが、ここまでやるとは!!だが!!)

 

 飛びかかっていくカノン、天津飯の攻撃が当たる直前に残像を残し掻き消える。

 

「凄いぞ!!あの子かなりのスピードで動いてる!!」

 

 カノンの動きはクリリンから見てもかなりの速さが出ている。だが、天津飯の三つの目にはカノンの動きは手に取るようにわかる。

 

「そこ!!!」

 

 右肘がカノンの左頬に当たり吹き飛ばされ壁にぶち当たる。ガラガラと崩れてくる壁を吹き飛ばし、またもや突っ込んでいくカノン。拳を握りしめ頭上から振り落としてくる。天津飯はそれを避け、その攻撃は武舞台の石畳を砕くにとどまる。しかしカノンは途轍もない左足の踏み込みで地面を砕きながら天津飯を果敢に攻撃していく。

 天津飯を惑わす為に四方八方から凄まじい攻撃を繰り出す。そのたびに強く踏み出す蹴り足によって石畳が砕けていく。天津飯はそれに冷静に対処し、攻撃をさばいていく。カノンの体力は天津飯以上に動き回る為、消耗していく。

 それを見逃す天津飯ではない。動きがほんの少し鈍ったところに蹴りを打ち込みカノンをはじき返す。

 

「もらったぞ!カノン!!」

 

 勝機を見出し、吹き飛んだカノンを追撃する。しかしカノンも反撃をかわす為小さい体を利用して股下をくぐり天津飯の足首を掴み倒す。その隙に間合いを広げる。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 息を整えるカノン。それを見て立ち上がる天津飯はニヤリと笑う。

 

「カノン、お前のパワー、スピードは悔しいが、俺と互角の強さがあるだろう。その年で大したものだ、素直に尊敬するぜ。しかしそれが弱点でもある。」

 

「弱点?天津飯と互角だってのに何が弱点なんだ?」

 

 ヤムチャの発言に応えるように天津飯は答える。

 

「それは体格の差だ。俺が攻撃する際、一歩踏み出すのに対して、小さいお前は2歩踏み出さなくてはならん。パワー、スピードを乗せる為に2倍動かなくてはならんということだ。それは、お前の体力を2倍消耗させていくということでもある。先ほども初めの動きに比べスピードが落ちていたぞ」

 

 つまり、カノンは天津飯と持久戦になれば勝ち目がなくなるということだ。

 

「そしてこれからは、スピードの落ちたお前では俺に攻撃を当てることもできん!勝たせてもらうぞ!!カノン!!」

 

「はあ、はあ、すーーーー。ふーーーー」

 

 大きく息を吸い吐き出すカノン、そして天津飯を見るカノンの目には自分が絶対に負けるはずがないという自信に満ちていた。

 

「どうやら諦めてはいないようだな」

 

「はい、私の攻撃が当たらないのならば絶対に当たる攻撃をすればいいんです」

 

 そういうとカノンは左半身となり、両手の指を鉤爪にし右腕を地に向け、左腕を空に向け腰を落とす。そして集中する、体の周りが仄かに光り紫電が迸る。大気が震えだす。

 

「なんだあの構え、そ、それにカノンの周りがまるで台風だ!」

 

「な、なんて気だ。この気は尋常じゃないぞ!!」

 

 ヤムチャ、クリリンの驚きの声、一体この少女に何度驚かされるのか。ビリビリと肌を震わす気を受けて悟空も自分が興奮してくるのが抑えられない。

 

「ははっ、、すげえ!ホントにすげえぞ!!」

 

 しかし間近でこの衝撃を受けている方は堪ったものではない。先ほどから冷や汗が止まらない。どんな攻撃が来てもいいように構え、どんな動きも逃すまいと三つの目が射抜く。

 そして一際強い迸りが地を伝い、左足を踏み込む。と同時に前に前傾姿勢になり地面に向けていた右腕が地を削るように背まで大きく振りかぶられる。

 それと同時に気の槍が槍衾のように隙間なく武舞台から生えてくる。

 

『地()!!』

 

「なにーーー!!!」

 

 慌てて飛び上がる。そこに接近するカノンは右の踏み込みと同時に今度は左腕が空を裂くように背まで大きく振りかぶられる。上空から気を伴った嵐が武舞台全域を囲み降ってくる。

 

『空(くう)!!』

 

「がっ!」

 

 飛び上がった天津飯に直撃し地面に広がった槍に突っ込む。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 観客席から、穴だらけになった天津飯を見て悲鳴が上がるが血は一滴も流れてはいない、そのように気を調整したからだ。その代り体が縫い付けられ、また上空からの嵐で上から押さえつけられと上と下からの押さえつけにどうすることもできない。

 

「ぬああああああ!!!」

 

 何とか逃れようとするが、すでに一条の閃光と化していたカノンは背に回していた紫電走る両の鉤爪をまるで龍の咢のようにし天津飯の腹に掌底を叩き付ける。

 

『双龍掌(そうりゅうしょう)!!!!』

 

「がばああああああ!!!!!?」

 

 縫い付けられて動けない為、後ろに吹き飛ぶ衝撃さえもダメージになり血反吐を吐きその場に崩れ落ちる。その時になって槍と嵐が霧散していく。

 

「て、天津飯――――!!!」

 

 死んだとしてもおかしくない衝撃を受けたはずだ。これにはクリリンたちも焦る。

 

「あ、あのもしかして死んじゃったんじゃ?」

 

 審判が恐る恐る聞いてくるが首を横に振る。

 

「大丈夫です。天津飯さんは直撃の瞬間、逃げられないと悟って全ての力をお腹のガードに回しました。流石です。そして」

 

 これから先は言わなかった、何故ならこの技は未完成だからだ。

 

「な、なんてガキだ。やつの戦い全てがこの技に繋がっていたということか」

 

 屋根の上で見ていたピッコロは、如何やら悟空以外にも世界征服を阻む存在がいることを認めていた。

 

「ど、どういうことだよじいさん?今まで戦っていた攻防もこの技の布石って」

 

 意味が分からないと、ウーロンは亀仙人に聞いてくる。

 

「うむ、始め上空で無駄とも思える気功波を撃っていたじゃろ?天津飯は最後の気功波を握りつぶした奇襲の布石と思ったはずだ。しかし本当の狙いは上空に気をばら撒くことだったんじゃ」

 

 

 

「ばら撒くことが目的?悟空、何でカノンはそんなことをしたんだ?」

 

 首をひねるクリリン。

 

「ああ、あの技で空から嵐を降らせてたろ?あれは残っていた気の残照をカノンがひっぱたんだ。そして地上での石畳が砕けるほどの踏み込みも一緒で地面に気をばら撒くことが目的だったんだ」

 

「しかしそんなにうまくいくか?いくら気をばら撒いていたとしてもそんなに長く放置していたら、どんどん気が弱くなってくる。それなのにあれほど強い効果が出るとは思わんのだが?」

 

 ヤムチャの疑問ももっともだ。外に出た気は気功波など強い気で放てば別だが、自分のコントロール化から外れたり、はじき返されたり掻き消された場合どんどん霧散していく。

 

「最初カノンが構えて気を集中していた時に、空と地面に気を送って維持していたんだ。何よりすげえのは攻撃の直前まで天津飯に悟られずにいたことだ。少しずつ空と地面に気を送り込み、必要以上に自身に気を集中し目線を自分に向けさす。そして攻撃の時に一気に気を送り込んだんだ」

 

「なんてやつだ。こんなことが5歳の子にできるものなのか?」

 

 

 はっと気づいた審判はカウントを取る。

 

 「ワン!」「ツー!」「スリー!」

 

 カノンは構えを解かない、ヒットの瞬間、気で防御されたのもあるが打点をわずかに反らされた。なので絶対に起き上がってくると確信しているからだ。

 カノンが目指している完成形は、わざわざ気をばら撒く必要はない。それに上下の拘束だけでなく360度全てから襲う。それも押さえつけるだけでなく串刺しにし、切り刻む。最後の掌打も拘束している気を掌に巻き込み収束し叩き付けることができるはずなのだ。

 この熟練度の低い未完成の技では倒せないだろう。

 

「エイト!おお!!」

 

 天津飯は足を震わせながらもゆっくり立ち上がってくる。その頑張りに観客も興奮し声援を送る。

 

「ハアハア。と、とんでもない技をくらっちまったな」

 

 腹をおさえ、息が乱れる。

 

「素晴らしいです、天津飯さん。しかし今度は私が言わせてもらいます。ダメージが残ってスピードの落ちたあなたでは私に攻撃を当てることはできません」

 

「はあはあ、だったら俺も言おう。攻撃が当たらないと言うならば絶対に当たる攻撃をすればいいだけだ。」

 

 

 腕を交差させ気を集中させる。体からオーラが滲み出すと天津飯の体が左右にブレだす。

 

「え!残像拳?いや違います!!天津飯さんが二人に!!」

 

「まだ、驚くのは早いぞ」

 

 二人になった天津飯がまたブレだし、4人となる。

 

「どうなってんだ!?全部本物だぞ!!」

 

 会場中が驚きに包まれる中クリリンの声が響き渡る。

 

「くっくっく、その通りこれぞ天流秘奥義」

 

『四身の拳!!』

 

 4人の天津飯が襲い掛かる、それを迎え撃つ。正面からの連続の突き、それを防ぐ。だが上からもう一人の天津飯が襲ってき、後ろに飛び退る。その先にいる天津飯に背後から蹴りを受け、吹き飛ばされたところに腕を取られ投げ技で地に叩き付けられる。

 

「がはっ!!」

 

 叩き付けられた衝撃で肺の空気が吹き出し、それでも地面に手を付き逆さになって足を振り回す。仕切り直しと離れる4人。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「はあ、はあ、どうした?また息が乱れてきたぞ。まあ無理もない、体力を消費していたところにあれだけの技を使ったのだからな」

 

「凄いです、本当に凄い」

 

「ふっ、いくらスピードが落ちたとはいえ4人の波状攻撃をくらえば落ちたスピードもカバーできる」

 

 まだ、ダメージが抜けていないのだろう。ふらつきながらも攻撃の手を休めない。

 

「そして、十二の目を駆使し死角をなくせば絶対に俺の攻撃は躱せん!!」

 

 4人は武舞台の四隅に配置しカノンに手を向け気功波を放つ。四方を取られ逃げ場がなくなっては上に逃げるしかない。

 

「無駄だ!!この攻撃からは逃れられん!!!」

 

 第三の目から怪光線を上空に放つ。カノンは四条の光線に向けて気を集中し掌を向けて気功反射砲を使おうとするも光線のスピードがそれぞれ違う。これでは使えない、集めた気を防御に回すも凄まじい衝撃が体を貫く。

 

「があああ!!!」

 

 真っ逆さまに落ちるも何とか四つん這いなり衝撃を緩和させる。

 

「ちっ、、はあ、はあ、やはりかなり威力が減っているな。だがこれ以上攻撃を食らえば命に係わる、降参しろ!カノン!!」

 

「はあ、はあ、い、嫌です!」

 

よろよろと立ち上がり、構えを取る。

 

「あの気功反射砲という技を使おうとしても無駄だぞ。はあ、はあ、あの技は同じタイミングの気功波しか跳ね返せないのだろう?ならばタイミングをずらし、複数の気功波を放てばいい」

 

「さ、流石ですね。はあ、はあ、一回見ただけで見切るとは」

 

 そう気功反射砲は反発する気で相手の気功波を一瞬止め自分の気を上乗せして跳ね返す技、なので止めているところに第2撃を食らうと暴発してしまうのだ。

 

「降参をしないのだというならばしかたない、もう一度食らうがいい!!」

 

 再び四隅に配置しカノンに気功波を放とうとする天津飯。力を集中し放つ瞬間、この試合で見せた最高のスピードをみせ一人の天津飯に向かい放たれた直前の気功波の前に躍り出て、手をかざす。

 

「はやっ」

 

『気功反射砲!!』

 

 増幅させた気功波の一撃を受け吹き飛ぶ天津飯。それを尻目に超スピードで二人、三人と吹き飛ばし最後の一人が左の手刀を振り落としてくるが、それを払いのけ懐に入り拳を叩き付ける。

 

「がはっ!」

 

 そのまま崩れ落ちる。分かれた残り三人が消える。それでも立とうとするが、力が入らず立てない。

 

「どうしますか?まだ続けますか?」

 

 全く息を乱していないカノンが問う。

 

「いや、参った。俺の負けだ」

 

「おーーと!!天津飯選手、降参しました!!この勝負カノン選手の勝ちです!!」

 

 わあ、と観客が声援を上げる。まさか、たった5歳の少女がこれ程の試合をし勝ってしまったのだ、その驚きもあって大いに盛り上がる。

 

「あの息切れもスピードも演技だったということか。完全に完敗だな」

 

 苦い顔で言う天津飯。それを見、アドバイスをする。

 

「天津飯さん、貴方は敵の動きを見破るいい目を持っています。でも女の嘘を見抜く目も養うべきです」

 

 5歳の少女が前髪をかき上げ、舌をペロッと出して言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 










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第13話


さてこの回では数合わせ、いやカズーセ様の活躍が見れます!


 ついに準決勝に駒を進めることができたカノン。まだ試合の余韻が治まらない武舞台を後にする。

 

(次の試合は父様と戦える!ついにここまで来た!)

 

 前に悟空の姿が見える。分かる、カノンが悟空と戦いたいように悟空もカノンを求めていることが。目の前まで近づき、目線を合わせる。

 

「と、悟空さん、予選前に言ったように貴方と戦う為にここまで勝ち上がってきました。次の試合、私が持っている全ての力で貴方に勝ってみせます!」

 

「そうはさせねえ。勝つのはオラだ!」

 

 二人は口元をニヤリとさせ火花を散らす。そこに両者を遮るように男が割って入ってくる。

 

「おいおい。お前の次の相手は俺様、カズーセ様だぜ。そのセリフは俺様に勝ってから言うんだな」

 

 悟空の胸に人差し指を突き付けカズーセはその長い髪をたなびかせる。着ていたシャツを脱ぎ、しなやかな力強い体を見せつける。

 

「見ろ!この俺様の美しい肉体を!この世で最も美しく、そして強い俺様を相手にできるんだ。お前は幸運だぞ!」

 

 グイグイ出てくるカズーセに流石の悟空も後ずさる。クリリン、ヤムチャはダメージが酷い天津飯を支えながら思った。こいつバカだと。

 

「え~長らくお待たせいたしました。舞台整理も終わりましたので、次の試合を始めたいと思います!」

 

 一回戦からカノンがかなり荒らしてしまった武舞台を係員総出で直し終え、ついに悟空の試合が始まる。

 

「それでは!第二試合!孫悟空選手とカズーセ選手、登場してください!!」

 

「安心しろ。すぐには終わらせたりしない。俺様の美しさを会場中に見せつけなければならないのでな」

 

「あ、ああ」

 

 その数秒後、悟空の勝ちが宣言される。

 

『アホだな』

 

 クリリンたちだけでなくピッコロさえ意見が一致した瞬間だった。

 

 

 

 

 

(さてと、気を取り直してここからの試合は見逃せませんね)

 

 カノンの中で先ほどの試合はなかったことにし第3、4試合に集中する。どの試合もハイレベルの素晴らしい戦いだったが予想した通りピッコロ、シェンが勝ち上がってきた。だが負けたクリリン、ヤムチャの技は素晴らしく特にクリリンの『追跡エネルギー弾』、ヤムチャの『操気弾』これらの技は良く練られた技で大変勉強になった。しかし一番気になっているのは

 

「天津飯さん、あの空を飛ぶ技はいったい?」

 

「ああ、『舞空術』のことか」

 

『舞空術』全身の気をコントロールし放出することによって飛行することが可能になる技。気の放出量によって空を急加速で飛び、空中戦もよりスムーズに行えるらしい。カノンはゾクリとする。

 

(空中で戦いをする?ということは360度戦闘が可能になり、それだけ戦略の幅が広がる!凄い!凄すぎる~!)

 

 戦闘狂のカノンは戦いの新しい可能性に顔を赤くし身悶えする。周りで見ている者は「なにやってんだ?こいつ」という顔で見てくるが、そんなことは関係ないというばかりに興奮する。

 

(これは是非とも天下一武道会が終われば練習しなければなりません!そうだ!天津飯さんもクリリンさんも使えるなら教えてもらうのもいいかも?)

 

 ニヨニヨしているカノンについに待ちに待った時が訪れる。

 

「それでは!準決勝初めの試合を始めたいと思います!!」

 

 審判の声が聞こえ悟空とカノンは隣に並び立つ。ドキンドキンとやけに大きく自分の鼓動が聞こえる、体の底から早く暴れたい暴れたいと疼く。くくっと意識していないのに口から笑いが漏れる。

 

「おめえ、ホントに戦うのが好きなんだな?オラと一緒だ」

 

 はっと気づき悟空を見るカノン。カノンと悟空は確かに血のつながりがある、だがカノンが生まれてから今まで会ったこともない二人、ましてカノンには前世の記憶がある。どうしてこんなに似ているのか?それは【戦う本能】だ。悟空とカノン、二人の魂に刻まれた絆だった。

 

 

「悟空さん、今私はこの世界に生まれて本当によかったと思います。親愛しているお爺様、母様、そして・・・」(尊敬する貴方、父様に会えて)

 

「ははっ大袈裟な奴だなあ!」

 

 クシャっと頭を撫でられる。さっきとは違う高揚感に包まれる。カノンは思う。

 

(固い手。分かる、幾人もの強敵を打倒してきた手だ。これが孫悟空の手、父様の手・・・今なら出せる!前世を含め過去最高の力が!!)

 

 目の奥がギラリと煌めく。それを見て悟空も高揚感に包ませていく。

 

(まいったな。何でかわからねえ、わからねえけど!オラ、カノンと思いっきり戦ってみてえ!!)

 

「それではカノン選手!孫悟空選手!登場してくださーーーい!!!」

 

 わーー、と盛り上がる観客の声援を受け武舞台に降り立つ両者。

 

「カノン選手は1回戦で死闘の末、天津飯選手に勝利しました!!一方悟空選手は2回戦を一瞬で決めました!!この試合果たしてどうなるのでしょうか!!!」

 

 観客席では悟空を見守る亀仙人たちが応援している。何せ、自分たちの知り合いは悟空を除きみんな一回戦負けをしてしまったのだ。

 

「どうなるの?この試合?」

 

「ご、悟空だよ!悟空に決まってる!!」

 

「ま、順当にいきゃあそうだけどよ」

 

 ブルマ、ウーロンそしてランチはそう言うが一抹の不安は拭えない。

 

「亀仙人様、悟空さんは勝てますよね!」

 

 プーアルが亀仙人に聞くが亀仙人は難しそうに顔を歪める。

 

「むう~。それはわしにもわからん。何せ今残っておる4人は世界で最も強い者たちじゃろう。その力はわしの想像を超えておる。その中においてあのカノンという娘は随分、異質じゃの。あの年でこの強さ。しかもまだまだ力を隠しておるようじゃしの」

 

 カノンがまだ強さを隠していることに驚く4人。亀仙人は目の前でこれから起きる試合に集中する。

 

「さて、どうなるか?」

 

 

 

 

 

 屋根の上で見ているピッコロもこの戦いに集中する。

 

「この試合で、孫悟空の本当の力が見られる。そしてあの小娘の力も・・・」

 

 

 

 

 目の前で対峙するカノンと悟空を緊張の面持ちで見るクリリン、ヤムチャ、天津飯。

 

「悟空が勝ちますよね、ね!」

 

「あ、ああ。いくら強いとはいえ悟空が勝つさ」

 

「いや、わからんぞ」

 

 天津飯の言葉に振り返える。

 

「実際に戦った俺だからわかる。カノンの強さはあんなものじゃない。もっともっと凄いはずだ」

 

 

 

 

 

 武舞台に立つ二人の静かな気迫がぶつかり合うにつれて会場中が何時しか静寂に包まれる。審判はゴクリと唾を飲み込む。

 

「そ、それでは!はじめてくださーーーーーい!!!」

 

 始まりの宣言がされても二人はすぐに動かなかった。カノンに隙はなく、またそれは悟空も同じだ。焦れた審判が戦いを促すが動かない。しかしその時ふっとカノンが力を抜く。

 急に構えを解き隙ができたが逆に攻撃ができなくなる悟空。

 

「悟空さん。行きますよ!」

 

 カノンは腰を落とし、前方に開いた手を両手首に合わせ、その手を腰に持っていく。

 

「え!?まさか!!」

 

 驚く悟空達を無視し気を集中する、凝縮した光が輝きだし前方にいる悟空に放出する。

 

『かめはめ波ーーーーー!!!』

 

 驚いた悟空だが、大した威力のかめはめ波ではないと見抜き片手を上げ受け止めようとする。が、カノンはかめはめ波をコントロールし悟空の足元に落とす。

 ドガーーンと凄まじい轟音がし武舞台が土煙に覆われる。

 

「なんでカノンがかめはめ波を!」

 

クリリンが驚くがさらに驚くべきこと起こる

 

「しっ!何か聞こえないか?」

 

  ガッ!  ゴガ!  ズガガ!!  ドガ!!!

 

 聞こえる、確かに聞こえる。この土煙の中、天津飯の目でさえ見ることができない場所で戦いの音が。

 

 

 カノンと悟空は互いが目を閉じ、しかし迷うことなく標的を感じ取り攻防が続いていた。

 

(カノン!まさかオラが神様の修行で苦労して身に付けた技術を習得しているなんて、はっはーーーーー!!全くすげえやつだーーーーーー!!!)

 

 感じる、悟空の右足が胴を狙っているのを、それを避け反撃とばかりにローキックを放つしかし躱され右の拳が空気を切り裂き飛んでくる、左の掌で反らし懐に入る、そこに膝が割り込み右に避け脇腹に拳を叩き込む、だが掌で受け止められる。そんな攻防が延々続いてゆく。

 

(凄い!凄い!!凄い!!!すごーーーーーーい!!!!まだ!!まだまだ!!!まだまだまだーーーー!!!!)

 

 その攻防が続くたび、カノンと悟空のテンションは鰻登りに上昇する。

 

『はあああああああああああああ!!!!!!?』

 

 武舞台中央で一際凄まじいぶつかり合いをし、武舞台を覆っていた土煙が二人を中心に吹き飛ぶ。そして右腕と右腕をぶつけ合い、力比べになる。二人を覆うように気のオーラが登り今度は土煙の代わりに紫電が武舞台を覆う。

 

 バチィィィィ!!!

 

近くで見ていたクリリンたちは、気の余波を食らい後ずさる。

 

「な、なんだよこれは!こんなことが!!」

 

「凄すぎる!あいつらなんて試合しやがる!!」

 

「か、勝てないわけだ!レベルが違いすぎる!!」

 

 カノンと悟空の戦いはますますヒートアップしていく。力比べをしていた武舞台から一瞬で消え去る。

 

「き、消えた!」

 

 亀仙人には全く見えなかったが、また音だけが聞こえる。今度は地上ではない。

 

「上じゃああああーーーー!!!」

 

 その声で一斉に上空を見る観客達。確かに見える、はるか上空で二人がぶつかり合う閃光が。

 

上空に上がりながら拳、蹴り、肘、膝、体のありとあらゆる一種の凶器をぶつけ合う。やがて二人はジャンプの到達点に登り今度は頭から落ちそれでも攻撃の手は緩めない。

 地上が近くに見えてきたそのとき、悟空はカノンの攻撃を躱し弾丸となり急速に落下する。それを追うカノン。地上にいち早く降りた悟空は腕から着地しカノンが落ちてくる落下点に向けて構える。

 

「しまっ!」

 

「だあ!!」

 

 凄まじい衝撃波がカノンを襲い、態勢を立て直すこともできず場外に吹っ飛ぶ。そんな中、カノンの頭にあったのはもうこの試合が終わってしまうのかという残念な気持ち。こんな簡単な攻撃を許してしまった自分への怒り。そして・・・

 

(あったじゃないか!!この危機を逃れることができる答えが!!!)

 

 困難を乗り越えようとする、くじけない心が!!

 

 カノンは刹那の時間思い出していた、餃子、天津飯、クリリン、そしてピッコロが使っていた技を。全身の気をコントロールし放出する。

 

「浮けええええーーーー!!」

 

 場外に落ちる寸前カノンの体が止まる。慣れない舞空術で体が勢いよく武舞台に突っ込み、今度は前方に気を放出しブレーキをかけ膝立ちになり石畳に降りる。驚いている悟空を見ながら立ち上がり両腕の拳をぶつける。

 

「さあ!!第二ラウンド開始です!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第14話

 
 この14話で主人公が技の解釈をしていますが、あくまで私がそう解釈しているだけです。しかも途中で何が言いたいか分からなくなってしまいました。原作では詳しく書いていないので、良ければ皆さんがどう考えているか教えてください。

 そしていつもの倍の文章量になってしまった。


 鳥肌が沸き立つ、天津飯は試合前のカノンの言葉を思い出していた。カノンはこう言ったはずだ。

 

「天津飯さん、あの空を飛ぶ技はいったい?」っと。

 

 ということはこの試合が始まる前、カノンは『舞空術』を使えなかったはず。確かに先ほどの『舞空術』は拙かった、しかしそれでも成功させていた。

 

「な、なんという戦闘センス、奴はまさしく天才だ!」

 

 天津飯の目には拳をぶつけ合い気合十分のカノンが凄まじく大きく見えた。

 

 衝撃波を放った悟空は別にカノンの場外負けを狙った訳ではなかった。この程度の攻撃を食らい負けるはずがないというある意味、信頼があった。おかしな話だ、今日初めて会った子供にこんな感情を抱くなんて。だがこの短い時間で幾百の拳をぶつけ合い、そのたびに言葉以上に心に響く感情の震えを感じた。それが何故かやっと出会えた自分の片割れのように思うのだ。

 

「へへっ、やっぱおめえすげえな!オラこんなにワクワクしたのは初めてだ!」

 

 悟空は構えを解かず警戒しているが、それでも笑わずにはいられない。しかしカノンは不機嫌だ。

 

「悟空さん、そろそろその重りを脱いでください。これで私が貴方と真に戦えることが示されたはずです」

 

「!?・・・おめえ、気づいていたのか」

 

 悟空は驚くが、周りの者は何を言っているかわからない。そして悟空は何故か道着の下に着ていた黒いシャツを脱ぎだした。

 

「あーちょっとここで息をつくようです。孫選手道着を脱ぎ始めました。無理もありません。この暑さであれだけ動き回れば」

 

「なんだあ、なんで、、!?はっ、もしかしてあのカズーセみたいに悟空も!」

 

「ンなわけあるか!」

 

 パチーンとクリリンの頭を叩くヤムチャだが、天津飯は異常な音を聞いた、悟空が脱ぎ終えたシャツの落ちる音が普通でなく、しかも石畳に罅が入っている。そしてリストバンド、靴までも脱ぐが同じ現象が起きる。

 

「天津飯さん、クリリンさん、ヤムチャさん、片づけてもらっていいですか?いいですよね?」

 

 審判の方を見て確認を取る。

 

「ええ、邪魔になりますしね。」

 

 天津飯たちは脱いだ悟空の服をひょいっと持とうとするが、その異常な重さに驚く。

 

「なに!バカな!この重さは!」

 

「リストバンドも!」

 

「靴もそうです!こんなの履いてどうやって歩くんだよ!」

 

「だろ、もう足がだるくってだるくって」

 

 悟空はこんなものを着てあれ程の動きでカノンと戦っていた。戦慄を隠せない三人。

 

「ぜ、全部で100kgぐらいある」

 

 その言葉を聞き、ざわっと会場中が騒めく。

 

「ははっ、軽くなった!軽くなった!」

 

 軽く動き回る悟空の速さは先ほどとは雲泥の差だ。それにしても、

 

「おめえ、よくわかったな。オラが重り着てるって?」

 

「悟空さんの動きに少し違和感を感じていました。攻撃の命中率、動きの敏捷性、私の動きは感じているはずなのにほんの少しずれていました」

 

「はあ~。おめえ、よく見てるな~」

 

 カノンは構えを取り、さらに力を増したであろう悟空の攻撃に備える。

 

「見せてもらいます、悟空さんの本当の真価を!!」

 

 バンっと自分が出せる最高の踏み込みで一瞬にしてトップスピードに乗る。そのまま先ほどの焼き増しのように攻防が続く。しかし最後の悟空の攻撃、カノンには見えていたがあまりの速さに体が付いていかない。三つ編みに結んでいたリボンを取られ髪がばさりと解かれる。

 

「は、早い!!」

 

「へっへ~。どうだ!」

 

 子供のように自慢する悟空。しかしカノンにしたら笑えない速さだ。

 

「ま、まったく見えなかったこの俺の目を持ってしても!」

 

 天津飯の驚きの声がもれる。ましてやその前の攻防もよくわからなかった観客達には何が起きたのかもわからないだろう。

 

「ほれ。どうする?どうやらおめえにはオラの動きは見えていたようだけど、体の動きが付いていけてないようだかんな」

 

 カノンはリボンを受け取り、無造作に髪をポニーテールに結ぶ。カノンが悟空の動きが見えていることに天津飯たちは驚くが、カノンにしてみればそのスピードに付いて行けなければ戦いようがない。

 考える。どうすればもっと悟空と戦えるのか、天津飯にやったように逃げ場のない『地空双竜掌』を食らわせる?ダメだ、技を出す工程ができていない。今の自分では即座にこの技は使えない、そんなことをしている間にやられてしまう。

 

(どうする?どうする!・・・そうだ!!)

 

 笑みを浮かべ悟空を見る。

 

「どうやら、なにか思い付いたみてえだな」

 

「はい。思い付きですがこの方法しか悟空さんの動きに付いていけないでしょう」

 

 そういうと前傾姿勢になり、足に気を集中させる。そしてそのままロケットのように足の裏から気を放出させ、突っ込む。

 

「バカが!いくらスピードが上がってもただ真っ直ぐ突っ込むだけではいい的だ!」

 

 ピッコロが言うようにかなりのスピードがでているのは確かだ。これなら悟空の速さに追いつくだろう。だが結局は直線的な動きでしかない、これではカウンターを打ってくれと言っているものだ。事実、悟空はカウンターを打とうとしている。

 だがここからが違う。そしてピッコロは驚愕の声を上げる。

 

「な、なにーー!」

 

(全身の気をコントロールする!)

 

 カノンは悟空のパンチを空中で横に捻って躱すそして懐に入り空中に浮かんだまま目の前にある悟空の顎に肘から気を噴出し加速した拳を打ち出す。完全に虚を付かれた悟空はその一撃を受け吹き飛ぶ。それを追い再び足から気を放出し悟空に追いつく。

 

「くっ!はあ!!」

 

 吹き飛んだ悟空はカノンを振り切る為、再び天津飯の目でさえ見えないほどの速さをみせる。それに対してカノンは自分の速さにプラスして体のあちこちから気を噴射させ加速させる。

 

「見えん!!カノンの動きも全く見えん!!」

 

「あのガキ!地上で『舞空術』を使い、コントロールしている全身の一部から気を放出し無理やり加速していやがる!!」

 

 ピッコロには見えていた、攻撃する時、肘から気を噴出し加速させ、蹴りを打ち込むときはふくらはぎから噴出する。腰から頭から体のありとあらゆるところから気を放出する。

 

 (・・・・・・・)

 

 そして何時しか悟空もカノンも無心になっていく。ただその顔に獰猛な笑いを張り付けながら。

 現れては消え、消えては現れるを繰り返すたびカノンの動きは洗練されてゆく、果たして先ほど『舞空術』を覚えたばかりの動きには見えない、そしてそれは悟空も同じだ。この会場の中で二人の動きについていけるただ一人のピッコロはその顔に汗を滲ませる。

 

「やつら、この試合が始まる前より強くなっていやがる!」

 

 カノンが悟空を、悟空がカノンを高めあっている。あるいはそれは戦えば戦うほど強くなる悟空とカノンに流れている血がそうさせているのかもしれない。

 しかしそれはいつまでも続くものではない。

 

「ぐっ!!」

 

 カノンがいきなり失速し、悟空の前蹴りが防御した上に当たり後ろに吹き飛ばされる。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 カノンが息切れをし、大量の汗を流している。これは天津飯と戦った時の演技ではない。

 

「無理もねえ、そんだけ動き回って、しかも常に気を放出していたんだ。それじゃあ、ばてるのも早くなる」

 

 もともと地力の差があるのだ。それを無理やり悟空に追いつく為戦っていたが、ついに限界を超えてしまった。体中が痛い。筋肉はパンパンで、足はがくがく震えている。 だがやはり目はぎらついている。カノンは両足を肩口まで開き、そして胸の前でパアンと手を合わせる。それはまるで神に拝礼するかのようだ。

 

「悟空さん。貴方は私の想像以上に強かった。この勝負、私の勝利する確率はほぼゼロでしょう」

 

 そう言いながらもカノンは勝負を捨ててはいない。

 

「ところで悟空さん。気って何ですかね?」

 

「?」

 

 いきなり関係ない話をしてくるカノンにどう答えればいいかわからない悟空。

 

「気。生命エネルギー、誰でも持っているもの。それは植物も例外ではなく生きとし生けるものすべてが持っている」

 

「その気を私たちは増幅し爆発させ身体能力を上げたり、気功波を放ったりといろいろな技を使っています」

 

「では技とは何でしょう?なんでいろいろな技があるのでしょうか?悟空さんはかめはめ波を使えるでしょう?どのように使っていますか?」

 

 質問してくるカノンに悟空はしどろもどろに答える。

 

「えっ、えっと。なんちゅうか、こうぐっと気をためてばっと出す?」

 

 悟空の答えに苦笑いする。

 

「ま、まあ間違えていませんね。もっと言うなら、かめはめ波とは気を高め増幅凝縮し放つ技です。つまり気をそのように加工していると思うんです。」

 

「たとえば、3回戦で見せたクリリンさんの『追跡エネルギー弾』は相手に自動で追尾する機能を気に持たせ、4回戦で見せたヤムチャさんの『操気弾』は手の動きとエネルギー弾を連動させ動かし、更に多分威力が落ちないように気をエネルギー弾に送り込み続けてましたよね」

 

 ヤムチャの方を見るとヤムチャは頷く。今度は天津飯の方を見て

 

「そして天津飯さんの『四身の拳』これは気で体のがわを作りそのがわの中に気を込め、更に生命エネルギーの中にある自分の経験値とでもいうべきものを分割することによって発動する技だと思うんです。これほど複雑な技だけに自分のパワーの大半を使わなければならなかった」

 

「そして、私が使っていた『気功反射砲』この技は相手が放ってきた技の質、または気の波、特性を読み取り、その逆の質の気で受け止め自分の気を相手の放ってきた気に侵入させコントロールを奪う技です。なので反射と言っていますが厳密には違うんです。」

 

「つまり私が思う技の解釈は、気を増幅したり、凝縮したり、変化させたり、機能を持たせたり、力の強弱、発する波の強弱、反発力、その他多くの特性等々、まあ要するに質を変えて技を組み立てていくものだと思うんです」

 

「長々と喋ってすいません。つまり私が何を言いたいのかというと今から放つ技はそれらを高度に使うということです!」 

 

 カノンは胸の前に合わせた手に気を集中、増幅凝縮させる。そして徐々に手を開きそこには紫電走る淡い光球が浮かんでいる。

 さらに光球を挟み込んでいる両の掌に攻撃的な気を通わせる、それはまるで龍玉を掴んでいる龍の爪のように変化させる。その手でもって光球を左右から押しつぶしていく。しかしまったく違う特性を持つ二つの気が反発しあい外に出よう出ようとする。それを両の掌の外に丸い檻を作り抑え込む。

 

「ぐうううう、な、なんて気だ!!」

 

 カノンを中心にパラパラと石畳の破片が舞い上がる、再びカノンがパアンと手を合わせ気を押し潰した瞬間、辺りを暴風が襲う。観客席にいる者の荷物が吹き飛ぶ、近くにいる悟空達も踏ん張らなくては飛ばされる勢いだ。そして唐突に暴風が止む。悟空がカノンを見ると初めに見た手を合わせた状態で立っていたが、手からブウゥゥゥンという音が鳴り響き手を覆うように気が包み光っている。

 

「はあ、はあ、悟空さん、正直言いましてこの技は今の私では完全に制御できる技ではないのです。ですから、この武舞台上では周りに被害が出て使えません。なのでやめろと言うなら私はこのまま降参します、ですがもし、もし!決着を付けたいと思ってくださるならば」

 

 カノンは空を見る。

 

「私についてきてください!!」

 

 卑怯な言い方だとカノンは思った、こういう言い方をしたら悟空はおそらく着いてくるだろう。しかし地上で使えないということは本当のことなのだ。この技は簡単に言えば異なる気を反発しあい、その反発力でもって気を何倍にも増幅する技だ。なのでその膨大な気は今のカノンの手に余る。

 そして悟空は予想した通り頷く。カノンは少し頭を下げ、空に飛ぶ。それを追うように悟空も飛び上がってくる。そして、

 

『か』

 

 聞こえる、今大会初めて放つその技を。

 

『め』

 

 気がどんどん膨らむのを感じる。

 

『は』

 

 カノンの横、数十m離れたところに並ぶ。

 

『め』

 

 空中で止まり、互いの目が合う。そして開放する、いつか見たあの龍を模したこの技を

 

『神龍咆哮波(しんりゅうほうこうは)ーーーーーー!!!』

 

『波ーーーーーー!!!』

 

 カノンと悟空全く同じ構えだが、カノンの手から漏れる気がまるで龍の咢だ。また口から咆哮を放つ龍のように見える。

 そしてカノンの気功波が矢の形に、悟空の気功波が光球の形になりそのまま中央でぶつかり合う。その瞬間途轍もない閃光が走り、突風が巻き起こる。

 

「うあーーー!!!」

 

 必死に柱に捕まり飛ばされないようにするクリリン。

 

「なんて奴らだ、次元が違いすぎる!!」

 

 こちらも必死になり捕まるヤムチャ。

 

「ま、全くの互角か!?」

 

 光輝いている上空を見つめる天津飯。

 

「な、なんと!!あの二人すでに神の私を越えている!!」

 

 シェン、いや神が二人のぶつかり合いを見て言う。

 

「いや、悟空が押されておる!!」

 

 亀仙人が上空を見れば少しずつ少しずつ悟空の方に光球が近づいている。だが、

 

「違う!小娘が押され始めやがった!!」

 

 ピッコロの言う通り次はカノンの方に光球が近づいていく。

 

「はあ!はあ!!はあ!!」

 

 体力だ、今のカノンでは押し返す体力がない。このままでは消し飛んでしまう。

 

「カノーーーーン!!!聞こえるか!!上だ!オラが合図したら、上空に飛ばすんだ!!」

 

 こくこくと頷くカノン、もはや話す気力も湧かない。

 

「行くぞ!いち、にの、さん!!」

 

 カノンと悟空の気功波が上空に飛んでいく、コントロール不足のカノンの気功波は斜め上に飛ぶが悟空の気功波が支えて飛ばす。

 そして力を使い果たしたカノンは地上に落下していく。だがその落下速度が落ちる。

 

(温かい。何?この包み込むような力強さは?)

 

 そっと目を開ける。そこにはカノンを抱え微笑みかける悟空がいた。カノンを抱えそのまま武舞台に降りる。

 

「カノン。おめえホントにつええな、オラびっくりしちまった!」

 

(負けだ。強かった。負けたけど戦えて本当によかった。)「悟空さん、私の負けです」

 

 カノンが負けを宣言する。それと同時に観客がどっと歓声を送る。ポカーンと見ていた審判は、ハッとし悟空の勝利宣言をするのを思い出す。

 

「この試合!孫悟空選手の勝ちでむぎゅ!!」

 

「カノンちゃーーん!!」

 

 審判の頭を飛び越えチチが悟空に抱えられているカノンに向かう。それを疲れてぼんやりと見つめるカノン

 

「あ・・」

 

「カノンちゃん!大丈夫だか!?怪我してねえか?」

 

 カノンの体を見て大きい怪我がないのを確認したチチはほっとし、キッと悟空を睨む。

 

「悟空さ!いくら試合上のこととはいえ、ここまでやることねえべ!!」

 

 ガミガミ言うチチに、困った悟空は後ずさる。

 

「な、なんだ?だれだおめえ?」

 

「・・・!?ほ、ほんとうにおらがわからないだか?」

 

 頷く悟空に顔を赤くし怒り心頭になる。

 

「おら、悟空さの邪魔になったらダメだと思って会いに行くのを我慢してたってのに、それでもいつか迎えに来てくれると思ってたのに!」

 

 怒りのあまり涙目になるチチにクリリンも違う意味で悟空に怒り心頭になる。

 

「悟空!!おまえこんな可愛い子を待たしていたなんて!うらやま、じゃない!ひどい奴だ!くっそー!おまえ本当に神様のところで修行してきたのかよ!!」

 

「ほ、本当だって!!な、なあ、オラおめえに会ったことがあるのか!?」

 

 本当にわからない悟空にムッとしながらチチが答える。

 

「ある!!そんで約束してくれた!オラのことお嫁に貰ってくれるって!!」

 

『いいぃぃぃーーーーー!!!』

 

 

 クリリンたちが驚きの声を上げる。まさかあの恋愛とかに興味がなさそうな悟空に結婚の約束までしている女性がいるとは信じられなかった。

 

「・・・・?クリリン、お嫁ってなんだ?」

 

 全く意味のわかっていない悟空にズルッとコケる。

 

「ちっくしょーーーー!!!お嫁に貰うってことは結婚するってことだよ!くそ!くそ!」

 

 ダンダンと地面をたたくクリリン。そのクリリンを押しのけヤムチャが詳しく説明する。

 

「悟空!結婚するってのは夫婦になって、ずっと一緒に暮らすってことだよ!」

 

「えええーー!!一緒に暮らすっておめえと!?な、なあホントにおめえ誰だ?名前もわからない奴とずっと暮らすことになんのか?」

 

 ホントにわかってない悟空に溜息をつき教えることにする。

 

「本当にわからないのけ。おら、牛魔王の娘のチチだ」

 

「チチーー!!!」

 

 チチを知っている亀仙人たちもこの乱入してきた娘の名前に驚く。そして悟空は思い出した、確かに昔そんな約束をしたと。

 

「あ~~~!!言った!オラ確かに言ったぞ!は~、でもオラお嫁ってずっと食いもんのことだとばっかり思ってた」

 

 ズコ~と再びずっこける。

 

「じゃあ、あの約束は」

 

 悲しそうな顔をするチチに、まいっかと楽天的な悟空は約束を守ることにした。

 

「じゃあ、結婚すっか」

 

「んだ!!」

 

 いきなりの天下一武道会でのプロポーズに観客からの拍手と歓声が響き渡る。

 

「おーっと!孫選手いきなり結婚してしまいました!!」

 

 悟空のいきなりの結婚に呆然となるクリリンたちだったが、あれ?と疑問に思った。じゃあ、あのチチが心配したカノンはいったい。お前が聞けと目線を向けてくるヤムチャに仕方なくクリリンがチチに聞く。

 

「あ、あのチチさん?チチさんとカノンの関係ってなんなんですか?」

 

 抱きかかえていた悟空から降り、ふらつくカノンを支えながら何でもない風に

 

「ん?カノンちゃんはおらの子供だべ」

 

「はあ~そうですか。子供さんですか。ヤムチャさーん、カノンはチチさんの子供・・さ・・ん!?」

 

『えええぇぇぇーーーーー!!!』

 

 今度は会場中が驚く。

 

「あれ?でも待って?カノンちゃんって5歳よね?そしてチチさんって確か孫君と同い年だから・・・12、3歳で産んだってことになるわよね?と言うことは養子?」

 

 ブルマの発言にちょっと怒ってカノンを抱き寄せる。

 

「失礼な!カノンちゃんはおらがお腹を痛めて産んだ、血を分けた子供だべ!」

 

 次は会場中がシンと静まり返る。確かにチチがそんな幼いころに子供を産んだことは驚きだが、チチは悟空のことを待っていたと言ったのだ。なのに他の男との子供を産んだことになる。これは修羅場になるかと戦々恐々と悟空とチチ、カノンを見る。そんな空気に気づかないチチ。そしてカノンを悟空の方に一歩押し出す。

 

「ほれ!じゃあ改めて挨拶するだ!」

 

 どうせ、あの聖地カリンのところにいたボラとウパのようにすぐに信じてくれないと思ったカノンは、帯を取りその下に隠していた尻尾を動かしながら悟空に挨拶する。

 

「あの、紹介が遅れました。私、カノン!孫 空詩(かのん)です!よろしくお願いします、父様!」

 

『ぎええええええええええええ!!!!!!!?』

 

 クリリンが、ヤムチャが、天津飯が、亀仙人が、ブルマが、ウーロンが、プーアルが、ランチが、そして会場中の人達の目が驚きのあまり飛び出る。

 

「はあ~~!カノンはオラの子かーーー、いや~道理で他人とは思えなかった訳だ!!」

 

 カノンを抱き上げて全く動じない悟空に会場中にいる者すべてが、え~?そんなリアクション!?と思い、クリリンは壁を壊す勢いで殴っていた。

 もっと詳しい事情を聞こうと悟空達の周りに近づいていく亀仙人たちを他所にカノンの意識はどんどん薄れていった。最後に感じたのは父の支えてくれる力強さと母の心配する声だった。

 

(私が気の使いすぎて倒れた後、次の準決勝で戦ったピッコロさんとシェンさんの試合はピッコロさんが勝ったそうです。そしてなんとシェンさんは神様なのだと父様に聞かされました。そして決勝戦!会場どころか周辺を吹き飛ばすほどの戦いが行われ辛くも父様が勝利を収めたらしいです。(そんなことが起こっても私は目を覚まさなかった!)その後仙豆の効力で回復した父様はピッコロさんにも仙豆を食べさせたらしい。皆さんは驚いていたらしいですが私にはわかる。父様はピッコロさんともっと、もっと戦いたいんだろう。そして・・・)

 

 

 

 

 

「う、ううん?」

 

「お、目が覚めたか?カノン!」

 

「大丈夫だか?カノンちゃん!」

 

 筋斗雲に乗っている悟空は膝の上にカノンを置き、背にチチが抱き付いている。初めて乗る筋斗雲に驚くカノンに笑いあい筋斗雲のことを説明する。そしてやっと落ち着きを取り戻すカノン。

 

「あ!そうだ!!私あのまま気を失って・・、そうだ!試合は!天下一武道会は!!」

 

「へへっ!オラが優勝したぞ!!」

 

 嬉しそうに言う悟空に抱き付きカノンも喜ぶが試合を見れず残念な顔をする。

 

「でえ丈夫だ!あとでオラが詳しく教えてやっから!」

 

「そうだぞ!カノンちゃん!今はおっとうのところに帰って早速、結婚式をするだ!」

 

「なんか夫婦になるには結婚式ってのをやらなきゃなんないらしいぞ?」

 

 なんか随分純粋な人だな~、良く私が産まれたもんだと悟空の顔を見る。

 

「よーし!飛ばすぞ!!しっかりつかまってろ!チチ!カノン!」

 

「んだ!」「はい!」

 

 悟空がそう言うと筋斗雲が急加速しアッという間に飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、まだまだ続きますよ」

 

 

 

 

 




 ということでアニメで言うドラゴンボールは終わりました。この後牛魔王の城が燃え上がり、消えない炎を悟空達が解決するというアニメオリジナルの展開がありますが結局同じ結末になる為しません。
 まあこの天下一武道会でも原作と同じ結末と言えば同じですが、それにしても日間ランキングに入って一気に見てくれる人が増えました。その分緊張しますが、頑張っていきます。







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第15話


やべえ、こんなに読んでくれる人が増えるとは!?





 第23回天下一武道会でカノンと悟空、悟空とピッコロが死闘を演じてから4年の歳月がたった。

 悟空達親子は、牛魔王のフライパン山の城から東エリアにある山や森に囲まれた小さな村の近くに居を構えた。牛魔王の城から引っ越しする際、牛魔王はカノンに泣いてすがったが、チチの「お嫁に行くってことはこういうことだべ」という言葉にしぶしぶ従った。お土産を持ってしょっちゅう遊びに来るが。

 とはいえ、ようやく家族3人が揃った生活ができるようになった。カノンは当初父親である悟空との生活に緊張していたが、大らかな性格の悟空にすぐに緊張が解け毎日楽しく過ごしていた。そして今も。

 

「はあああぁぁぁーーー!!」

 

「でやああぁぁぁーーー!!」

 

 森の中を2つの黒い影が交差する。そのたびに周囲の木々の葉が揺れる。黒い影、カノンと悟空の拳がぶつかり合いそれを中心に風が巻き起こり地面の草が円状に曲がる。そしてカノンと悟空は拳を収め、ニッと笑いあう。

 

「ひああ!全く、カノンはどんどん強くなるな~!」

 

 先ほどの戦いで実感したカノンの強さに悟空は嬉しそうにする。それに謙遜するカノン。

 

「いえ、まだまだです!父様こそますます腕を上げられて付いて行くのがやっとです!」

 

 カノンと悟空は暮らし始めてから、ほぼ毎日一緒に修行をしている。

 

「よし!それじゃあそろそろ今晩の飯の獲物を取りに行くか!」

 

「はい!」

 

 悟空は、カノンを伴って森の奥に入っていく。そしてそこで鹿やイノシシ、川で巨大な魚を取りまた山菜、果物を取る。

 

「さ~て!次はお料理です!」

 

「ははっカノンの作る飯はうまいからな~。楽しみだぞ!」

 

 夕食の準備に気合を入れるカノンに口元から少し涎を垂らす悟空が、先ほど収穫した大きい食材を笑いながら運び、チチが待つ家に帰っていく。

 

 カノンの毎日の生活は、朝早く起き悟空と共に森や山を駆けずり回り、終わればチチの作った朝飯を食べる。そのあと正午近くまで基礎的な修行やそれを兼ねた亀仙流でやった素手で畑を耕す等をし、その後カノンはチチと一緒に昼飯を作る。

 午後からは本格的な修行に入る。地上での組手、空中戦、互いの気をぶつけ合う気当たりで気の地力を上げる修行、流石に気功波を伴う組手は家の周りではできないので何もない荒野まで飛んで行きそこで実践的な試合をする等々、そして獲物を取って家に帰りカノンとチチが夕食を作り食べて風呂に入り早めに寝る。という生活を送っている。悟空とカノンからしたら修行三昧の夢のような毎日を送っていた。

 

 勿論それだけでなく、家族で(勿論、牛魔王も)大きな町に行ってショッピングをしたり(取った獲物や耕した作物を近くの村で現金に換えている)、ピクニックをしたり、遊園地に行ったりと前世では考えられない満ち足りた毎日を送っていた。そして今カノンがもっとも執着しているのは。

 

「けえったぞ~!」

 

「ただいまです!」

 

 

 獲物を床に置きながらただいまと言うと台所の方からチチが出てくる。

 

「おけえり!んま~、今日も大量だな!カノンちゃん、それじゃあ夕飯の準備するべ」

 

「は、はい!えっと、それで」

 

 カノンはそわそわし辺りを見回す。すると奥の方から3歳ぐらいの子供が出てくる。

 

「あ、お父さん!お姉ちゃん!お帰りなさい!」

 

「おう!ただいま、悟飯」

 

 悟空の横を神速のスピードで駆け抜け悟飯と呼ばれた子供を抱き寄せ頬ずりするカノン。

 

「ああん。悟飯君!ただいま!いい子にしていましたか?ちゅっちゅっ!ごめんね?あんまり遊んであげられなくて、ホントは四六時中一緒にいてあげたいんですけど」

 

 カノンは悟飯を抱きしめ、ちゅっちゅっと頬をついばむ。そんなカノンに照れた笑顔を見せ。 

 

「いえ、お姉ちゃんが忙しいのは知ってます。なので気にしないで」

 

 その言葉を聞いたカノンは顔を赤らめ、ブバッと鼻血を流しさらにギュと悟飯を抱きしめる。

 

「はあ~。なんていい子なの悟飯くんって!お姉ちゃんは!お姉ちゃんは!!」

 

 どんどんテンションが上がっていくカノンに流石にこのままでは夕飯を作るどころではないとチチがカノンの襟首を掴み悟飯から離す。

 

「ほれ!カノンちゃん!早くしないと夕飯が遅くなるべ。それにそんな汚れた格好で悟飯ちゃんに触れて!」

 

 ハッと気づいたカノンは、体を見回し修行で所々破れ汗と砂で汚れた道着を見て、悟飯に謝る。そして悟空の腕を引っ張る。

 

「ほら!父様。早くお風呂に入りましょう。そして今日もみんなに美味しい料理を作るんです!」

 

「カノン。おめえ毎日同じことやってんなあ」

 

 悟空とチチは困った顔を見合わせ笑うのだった。孫空詩(かのん)御年9歳、弟の孫悟飯に執着するブラコンと化していた。

 そんな充実した毎日を送っていたある日、悟空とカノンはいつものように修行をし家への道を歩いていた。

 

「は~。ちょ、ちょっと今日は張り切りすぎただな」

 

 カノンを支え足を引きずりながらボロボロの悟空が疲れた声でカノンに話しかける。そしてこちらも悟空に支えられないと歩けないカノンが疲れた顔をしている。

 

「はひ、それにしてもよかったです。今日の分の夕食の材料の備蓄があって、こんな体じゃ狩りどころではないですからね」

 

 苦労してもう少しで家に着くというところで2人は邪悪な気を感じた。あまりにも消耗していたためこんな近くまでこないと分からなかったのだ。

 

「父様!この気は!」

 

「ああ!家の方だ!急ぐぞ、カノン!!」

 

 疲労した体にむち打って急ぐカノンと悟空果たしてそこには、チチと今日遊びに来ると言っていた牛魔王が倒れていた。そして悟飯を囲っている、奇妙な者たち。おそらくこの者たちがチチたちを襲ったのだろう。

 カノンは沸々と湧いてくる怒りを感じながら、チチと牛魔王の安否を確認し気絶しているだけと安堵し悟空を見て頷く。悟空も安心しそしてキッと悟飯を取り囲んでいる3人を見る。

 

「おめえらか!!チチと牛魔王のおっちゃんをひでえめに合わしたのは!!」

 

「おとうさーん!おねえちゃーん!」

 

 悟飯は泣きながら悟空の元に行こうとするがそれを白い髪が逆立ち肌が水色の男がオカマっぽい喋り方をし悟飯を掴む。

 

「おっと、だめよ。貴方には興味ないけどその離してくれないドラゴンボールに用があるのよ」

 

 そう言いながら悟飯の帽子についているドラゴンボール、四星球を見る。泣いている悟飯を見たカノンは顔を伏せズンズンと肩を怒らせながら無造作に近づく。しかしその前に小柄で頭が後ろに突き出ている濃い緑の肌を持つ男と大柄で灰色の肌を持ち、顔の横から赤い髪を垂らした男が立ちふさがる。

 

「おい、小娘。どこへ行く気だ。」

 

「ぐっふっふっふ、ここから先は通行止めっす」

 

 顔を伏せていたカノンは、目に怒りを灯し問答無用で襲い掛かる。

 

「悟飯君を離せーーーーー!!!」

 

「カノン!はあああーーー!!」

 

 カノンが戦いに入ったのを見て悟空も加わる。カノンは緑の肌を持つ男にパンチを食らわせようとするが簡単に避けられる、逆に左頬に拳が突き刺さる。そんなもの効かないとばかりに突撃するが今度は空中に避けられ背中に蹴りを入れられ地面に叩き付けられる。

 そして悟空も灰色の肌の男に左右の連続の突き、そこから空中に飛び相手の顔に蹴りを食らわせるがすべて弾かれてしまう。そして腹に頭突きを食らい吹き飛ばされる。

 

「ち、ちっきしょう。こんなやつらリキさえ戻れば」

 

 修行の疲れと攻撃を受けた影響でふらふらしながら何とか立つ悟空。そしてカノンもふらつきながら起き出し、よろよろと歩きながら敵に向かいだす。

 

「カノン!無理すんな!オラが前に出る!!」

 

 悟空は体に着用している重りを外そうとし、それを見たカノンもそういえば自分も重りを着ているのだと思い出す。

 カノンの服装は黒いチャイナ風の道着を着て、その上に肩当がある胸元までの白いベスト、両腕に付けている白い小手。足には白いストッキング、それら白い部分が重りとなっている。カノンもそれを外そうとするがそれを許す相手ではない。

 

「さあ!くたばれーーー!!」

 

 二条の気功波がカノン、悟空に当たり後ろにあった巨木に叩き付けられる。完全に立てなくなった二人はそれでも顔を上げて相手を睨む。

 

「くっ、はあ、はあ、貴方たちはいったい!?」

 

 ここで動けなくなったことで頭が冷えたカノンが問いただす。

 

「ふっふっふ、まあいいだろう。冥途の土産に教えてやる。我らガーリック三人衆、ジンジャー!」

 

 小柄の緑の肌を持つ男がそう言う。そして悟飯を掴んでいる水色の肌の男が前に出てくる。

 

「ニッキー!」

 

 そして最後に大柄で灰色の肌を持つ男が答える。

 

「サンショ!」

 

「ガ、ガーリック?」

 

 そう答えた三人は悟空とカノンに掌を向け気を高めていく。その時ニッキーに捕まれている悟飯の様子がおかしくなる。

 

「ぐ、ぐ、ぐううう。お父さんとお姉ちゃんをいじめるな~~~!!!」

 

 悟飯を中心に突風が吹き悟空とカノンが森の奥に飛ばされる。

 

「ごはーーん!!」「悟飯くーーん!!」

 

 そしてそのエネルギーがジンジャーたちに向かうが上空から飛んできた気功波が悟飯の足元に直撃し吹き飛ばされ目を回してしまう。

 気功波を放った人物が地に降りてくる。それを見て三人は胸に手を当て頭を下げる。

 

「何をしている。ドラゴンボールはあったのかね」

 

 小柄な体躯でマントで素顔を隠した人物が3人の前に立つ。

 

「は、ガーリックJr様、ここに」

 

 ジンジャーはドラゴンボールを差し出す。それを受け取る小柄な男、ガーリックJr

 

「くくくくっ、これであと2つあれば私に永遠の命が!それとその子供も連れてきなさい」

 

 目を回し倒れている悟飯を見る。

 

「し、しかし。危険では」

 

 先ほど見せたパワーは普通ではなかった。だがガーリックJrは笑う。その強さを世界の支配者になる私が使ってやると。そして、悟空とカノンが消えた森には一瞥もくれず飛んでいくガーリックJr達だった。

 

 

 

 

 

 最初に気が付いたのは牛魔王だった。牛魔王も悟飯のパワーで飛ばされたが、もともと大した怪我をしていなかったのが幸いだった。

 

「ここは?そうだ!おら、気絶しちまって!・・・!?チチ!しっかりしろ!!」

 

 近くにいたチチを抱き起こす。

 

「う?う~ん。あれ?おら、どうして?あ!そうだ!悟飯ちゃん!おっとう!!悟飯ちゃんは!?」

 

 牛魔王は周りを見回すが、周囲の風景が気絶する前とすっかり変わってしまっている。木々は折れ、地面の一部が盛り上がっている。

 

「悟空さとカノンちゃんは!帰って来てるはずだ!」

 

「そ、そうだな!おーい!ムコ殿~~!!カノンちゃ~~ん!!」

 

 チチと牛魔王は辺りを探し回り森の中に入っていく。そこに大怪我をして気絶している悟空とカノンを発見する。

 

「きゃ~~!!カノンちゃん!!悟空さ!!」

 

 血の気が引くチチに牛魔王は、落ち着くように言いすぐに二人を家に運ぶ。落ち着いたチチは思い出した。

 

 「そうだ!!確か、仙豆があと2粒残っていたはずだ!!」

 

 ベットに眠る悟空とカノンに仙豆を飲み込ませ、カノンたちは目を覚ますことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 まだだ!まだサイヤ人編には行きません!!






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第16話

風邪で会社休んだのに更新してしまった。明日は絶対休めない。

みんな~!オラに元気をわけてくれ~!

今回の話は結構残酷な描写があります。嫌いな人は見ない方がいいです。


 仙豆を飲み込み、ガバッとベッドの上で身を起こす二人。カノンは周囲を見回すが二人を見て安堵しているチチと牛魔王、隣で同じくベッドから身を起こす悟空しかいない。サッと青ざめチチに縋りつく。

 

「母様!悟飯君は!悟飯君はどこです!!」

 

 そんなカノンに涙目になりながら、首を振るチチ。そして牛魔王はカノンの肩を掴む

 

「この辺りを探したども、悟飯ちゃんは見つからなかっただ。おそらくあいつらに連れ去られ」

 

 牛魔王の言葉を最後まで聞かずベッドから抜け出し外の扉に向かうが、それを悟空に腕を掴まれ引き戻される。

 

「カノン!落ち着け!」

 

 カノンは悟空を睨み自分の激情をぶつける。

 

「落ち着け?どうやったら落ち着けるんですか!もしかしたら今この瞬間、悟飯君が酷い目に合わされているかもしれないのに!!父様は心配じゃないんですか!?」

 

 悟空の手を振り払おうとするが、パアンと頬を叩かれる。そしてグッと抱き寄せられる。

 

「落ち着けカノン。冷静さを欠いたままあいつらのところに行ってもいいようにやられるだけだ。勿論、オラも悟飯のことが心配だ。でもカノン、おめえのことも心配なんだ」

 

 悟空に抱きしめられその温かい体温を感じ頭が冷えていく。そして先ほど悟空に言ったひどい言葉に罪悪感を感じ涙が出てくる。

 

「ごめ、、、ごめんなさい。父様。わた、わたし、、そんなつもりじゃ」

 

「でえじょうぶだ。カノンは優しいもんな、オラ全然気にしてないぞ」

 

 ニッと笑う悟空を見てその逞しい胸に顔を押し付けた。

 

 

 

 

「す、すいませんでした」

 

 一頻り泣いたカノンは恥ずかしさで顔を赤くし悟空に謝る。それを見て悟空はニッコリ笑い頭を撫でる。

 

「へへっ落ち着いたみてえだな。よし!そんじゃ悟飯を助けに行くべ!」

 

「はい!」

 

 冷静さを取り戻したカノンは元気よく挨拶し、悟空とカノンは目をつぶりガーリック三人衆と言っていた三人の気を探る。

 

「ダメです。全然気を感じません」

 

「近くにはいねえみてえだな。今のオラたちじゃあ遠くの気までは探れねえ」

 

 いくらカノン達がこの数年で気の探知を広げられたとはいえ地球全土までの範囲を探るのは無理だ。そういえばとチチが思い出す。

 

「悟空さ、そういえばうちにあった残りのドラゴンボールがなくなっていただ。それをドラゴンレーダーで追えば」

 

 悟空は祖父、孫悟飯の形見である四星球を見つける過程で2つほどドラゴンボールを見つけていた。ガーリック三人衆は確かに言っていたドラゴンボールに用があると。

 

「それだ!チチ!ドラゴンレーダーで追えば悟飯のところに行ける!今日、亀仙人のじっちゃんのところにブルマが行っていて明日遊びに行く約束してたんだ!そこにドラゴンレーダーを持って来てるかもしんねえ!」

 

「父様!早速行きましょう!」

 

 急いで出ていこうとする二人にチチが呼び止める。

 

「カノンちゃん!ホントは母親として止めるべきだども、悟飯ちゃんを助けてけれ。勿論、カノンちゃんも無事に帰ってくるんだぞ。悟空さ二人のこと頼んだべ!」

 

 カノンと悟空は力強く頷く。

 

「母様、心配しないでください。必ず悟飯君を助けてきます!」

 

「二人のことは任せておけ、チチ!すぐ帰ってくっからご馳走を用意してまっててくれ」

 

「わかっただ!うんっとうまいご馳走作っておくだ!」

 

「婿殿もカノンちゃんも気を付けるだぞ」

 

 チチと牛魔王に見送られ筋斗雲でカメハウスに向かうのだった。

 

 

 

 

 カメハウスに着いた二人は扉を破るかのように入っていく。丁度夕食時だった為、鍋をつついていた亀仙人、クリリン、ブルマは突然入ってきた者に驚くがそれが悟空、カノンであると分かり笑顔を向け二人を迎え入れる。

 

「おお~悟空ひさしぶりじゃの~。ほれ!そんなところに突っ立ってないでこっちに来い」

 

「カノンちゃんも大きくなって!ますます可愛くなったわね!」

 

「どうしたんだよ悟空!明日くるんじゃなかったのか!?へへっこれはもっと鍋の材料を用意しないとな!」

 

 亀仙人たちは久しぶりに会った悟空達にそう言うが、再開を喜んでいる暇はない。

 

「ちょっと待ってくれ!ブルマ!ドラゴンレーダー持って来てるか!?」

 

「えっ、ええ。一応話の種になると思って持って来てるわよ。何があったの?孫君」

 

 どう見ても普通じゃない悟空にブルマが問いかける。心配そうに見てくる亀仙人たちに悟空は訳を話す。今3歳の息子がいること、その息子が攫われてしまったこと、その息子を攫った奴らがドラゴンボールを持って行きその為にドラゴンレーダーが必要なことを。

 

「なんと!悟空に息子ができていたとはのう。悟飯か祖父と同じ名前じゃな。しかしそやつら悟空とカノンの二人がかりでもかなわんとは」

 

「いえ、言い訳になりますけど私たちは直前まで修行をしていてかなり消耗していました。力が戻った私たちなら十分相手になります」

 

 自信を持って言うカノンに4年前に見た激闘を思い出し亀仙人は確かにそうだと頷く。

 

「それにしてもどんな修行してるんだよ。そんなに消耗するなんて」

 

 呆れたように言うクリリン。自分も頑張らなくてはと決意しているクリリンを押しのけドラゴンボールの行方を調べていたブルマはレーダーを悟空達に見せる。

 

「見て、ここ!もう五つ揃ってる!それに残りの二つもここに向かってる!どんな願いをかなえるか分からないけど急いだ方がいいわ!」

 

 ブルマからドラゴンレーダーを受け取り、外に向かい筋斗雲に乗る悟空とカノン。

 

「サンキュー!みんな、ぜってえ悟飯を取り戻してくる!」

 

「今度は悟飯君も一緒に遊びに来ます!」

 

 筋斗雲が徐々に浮かび上がっていく。

 

「気を付けるのじゃぞ!」「悟空!カノン!頑張れよ!」「無茶しちゃだめよ!」

 

 亀仙人達の声援を受け筋斗雲は急スピードで目的地に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ドラゴンボールが集まっている場所、南方に位置する紅海の海。もう夜だというのに大気が赤くなっているそこにガーリックJrの大宮殿がある。遠目にそこが見えてきたとき、光る柱が現れる。

 

「くそっ!あいつら神龍を呼び出したな!」

 

 悪態をつく悟空。カノンは遠目でよくわからないがあれが悟空から聞いていたどんな願いも叶えてくれるという神龍かと思い見ていた。そして奴らはいったいどんな願いを叶えようというのかという疑問も。宮殿の上空に着き下に悟飯を攫った三人と小柄な男、ガーリックJrが見える。

 

「いくぞ!カノン!」

 

 初めに悟空が飛び降り。

 

「はい!父様!」

 

 カノンが悟飯を奪い返し、借りを返す為に筋斗雲から飛び降りる。

 

 

 ガーリックJrが願いを叶えられたことを喜ぶジンジャー、ニッキー、サンショの前に現れる悟空、カノン。二人が生きていたことに驚く三人だったが、すぐにニヤニヤと笑い出す。

 

「なんだ、お前ら生きていたのか?で、何しに来たんだ?」

 

 ジンジャーがバカにしたように悟空達に言ってくる。

 

「オラたちは悟飯を返してもらうために来た!悟飯はどこだ!!」

 

 三人は顔見合わせ、笑いあう。

 

「ひあああっはっはっ!!なに?あんたたち、あんなクソガキの為にわざわざ殺されに来たの?」

 

「ぐぁっはっはっ!!俺たちに全く歯が立たなかったのに、よく来れるもんっす!」

 

「はっはっは!!お前ら確か、天下一武道会でピッコロを倒した孫悟空とその娘の孫カノンだったよな?俺たちはそのピッコロを倒してるんだ。そしてお前らも。わかるか?それだけの差が俺たちの間にあることを?」

 

 ニッキー、サンショ、ジンジャーが笑いながら言う、悟空達はその内容に驚く。

 

「なに!?ピッコロが!?」

 

 悟空達は知らないことだが、ガーリック三人衆とガーリックJrの4人で不意打ちしピッコロを倒している。その時、空から光が降ってくる。そしてそこにいたのは神だった。

 

「ガーリックやはり300年後に蘇っていたか」

 

 突然の神の出現に驚くガーリックJr。だがすぐに嘲りの笑みをうかべる。

 

「どうやらピッコロは死んでいなかったようだな。神よ、ようこそ」

 

 神は顔を歪める。

 

「その野望の為には手段を選ばんのは父と同じだな。親も親なら子も子だな」

 

 そして、神は言う。300年前ガーリックJrの父ガーリックと神の座に就くために競い合っていたことを。結局先代の神にガーリックは選ばれなかった。先代の神は気づいていたのだ。ガーリックの野心を。そしてガーリックは先代の神に反旗を翻し、その結果、300年後に蘇るという言葉を残し封印された。

 

 

「そうだ。父ガーリックに代わり神、お前に復讐しその後は人間どもに血と絶望を与え永遠にこの星の支配者となる。ドラゴンボールで永遠の命を得た私がな!」

 

 高らかに笑うガーリックJr。

 

「不老不死!?ドラゴンボールでそんな願いを」

 

「そういうことだ小娘。どうだ、私の部下にならんか?いいぞ。人間どものもがき苦しむ姿は!」

 

「だれが!奥ですね。悟飯君がいるのは!?通らせてもらいます。行きましょう!父様!」

 

 カノンと悟空は素早く動きガーリックJr達を置き去りにし奥に急ぐ。それをジンジャーたちが追いかける。そして神とガーリックJrが対峙するのだった。

 

 

 

 

 

 悟空達がたどり着いたのは大広間だった。宮殿を不可思議な力で覆われている為はっきり悟飯の気は感じないがおそらく上の方だろうと足を進めようとするが、目の前にガーリック三人衆が現れる。

 

「これで二回目だな。どこへ行くつもりだ?ここから先は通行止めだ」

 

 完全に舐めた口調で言うジンジャーにこちらも笑って答える。

 

「初めからボロボロだった私たちに勝ったぐらいでえらく余裕ですね」

 

「今度はオラたち力がみなぎっているかんな。前みたいにはいかねえぞ!」

 

 それを聞いたジンジャーたちはそれでも余裕な顔で襲い掛かってくる。

 

「今度はちゃんと息の根を止めてやる!!」

 

 ジンジャーがカノンに突きを繰り出してくる。それを上空に飛んで避ける、が上からニッキーが襲い掛かってくる。だが、さらに上から悟空の蹴りがニッキーに炸裂し吹き飛ばされる。ニッキーの横に並び同じく攻撃をしようとしているサンショが悟空に気を取られている内にカノンは懐に入り腹に肘をブチ当て吹き飛ばし、さらに地上にいるジンジャーの後頭部を悟空と一緒に蹴り上げ吹き飛ばす。吹き飛んだ三人はふらつきながらも立ち上がる。

 

「な、何なのよ!こいつら全然動きが違うじゃないのよ!」

 

「だから言ったろ?前とは違うって」

 

 前とは明らかに違う悟空達の動きに驚くニッキーたち。だがここからが本番だと力を貯める。

 

「ショウガヤキーッ!!」

 

「ノドアメーッ!!」

 

「ウナジューッ!!」

 

 ジンジャー、ニッキー、サンショがそう言うと三人の体が盛り上がり気が上がる。

 

「本気になったということですか」

 

 カノン、悟空が構えジンジャーたちを正面から迎え撃つ。三人はカノン達の周りを高速で周り突きや蹴りのコンビネーションを繰り出していくが背中合わせになったカノン達は軽々とその攻撃を捌いていく。それに焦りを感じ二人から離れ3方向から気功波を撃とうとするジンジャーたち。しかしジンジャーたちの攻撃はカノン達とジンジャーたちの間に飛んできた気功波が遮る。

 

「余計なお世話だったか?孫悟空と小娘。だが俺はそいつらに借りがあるんでな」

 

 攻撃を遮ったものピッコロが現れる。ピッコロが来るとは思っていなかった悟空は驚きの声を上げるがカノンは階段の上に悟飯がいるのを見つける。

 

「おねえちゃーん!おとうさーん!」

 

「悟飯君!大丈夫!?助けに来たよ!!」

 

 それを見たジンジャーが悟飯を人質にすべく悟飯に近づく。それに気づいたカノンは超スピードでジンジャーの体を突き飛ばし一緒に宮殿の奥に飛んで行く。

 

「あーーっ!おねえちゃーん!」

 

「大丈夫!悟飯君はそこにいてええええぇぇぇぇぇぇーーー!!!」

 

 そのまま遠ざかっていくカノン。それを見た悟空はニッキーに飛びかかり、ピッコロに目を向ける。

 

「ピッコロ!おめえはそいつの相手をしてくれ!」

 

「俺に指図するなーーー!!!」

 

 悟空の言葉に怒りながらもサンショに襲い掛かるピッコロ。そして宮殿の奥に飛んで行ったカノンは、ジンジャーの体を離し急停止する。ジンジャーはそのまま壁にぶつかりようやく止まる。そしてカノンを怒りの表情で見据える。

 

「こ、このクソガキが~!俺をこんな目に合わせてただで済むと思うなよ!?」

 

 そんな言葉を聞いていないかのようにカノンはうつむいている。それにますます怒りを募らせるジンジャーは両腕から二刀の刀を出す。

 

「聞いているのか!!ガキ!よーし!お前を少しずつ切り刻んでやる!!そしてバラバラになったお前をさっきのガキの前に持っていってやる!!」

 

 そう言って笑うジンジャーはふと周りの様子がおかしいことに気が付く。パラパラと宮殿の床に散らばっている小さな破片が浮かんでいるのだ。それはカノンを中心に渦巻いている。

 カノンはうつむいていた顔を上げる。

 

「ヒッ」

 

 そんな声を上げジンジャーは後ずさる。カノンの顔は能面のようになり目が凍り付いていた。

 

「おい、おまえ。今さっき何しようとしてた?もしかして私の弟を人質にでもしようとしていたのか?いい加減、私もムカついてきたわ。母様とお爺様に手を上げ、父様をボロボロにし、そして悟飯君を泣かせた。覚悟はできてんだろうな?おまえ、、、楽には死ねんぞ?」

 

「ヒッヒャアアーーーー!!!」

 

 ジンジャーは恥も外聞もなく逃げ出した。魔族の自分がただの人間に逃げ出したのだ。しかし急にバランスを崩し倒れる。目の前にカノンがいた、いたがカノンは何かを持っている。見覚えがある。いつも見ているものだ。左腕を見る。肘から先がない。カノンの持っている物を再び見る。自分の左腕だ。それを意識した瞬間、強烈な痛みが降りかかる。

 

「ギヤアアアアアアア!!!!」

 

 肘から血を垂れ流し、倒れこむジンジャー。それを冷めた目で見たカノンは持っていた腕を放り投げる。

 

「拾え」

 

 ゾッとする声で命令する。大口を開け悲鳴を上げながら拾おうとするジンジャーの口に蹴りを打ち込む。

 

「黙れ、耳障りだ」

 

 口を残った右腕の刀を投げ出して押さえる。指の間から折れた歯と血が噴き出す。恐怖で一杯になった頭でこのままでは殺されてしまうと思ったジンジャーはイチかバチか落ちている左腕の手に握られている刀を拾いカノンに切りかかる。

 カノンはそれを軽く避け、左手で右の手首をつかむ。そして左の手に気を集中させ、自分の手より二倍ほど大きい光り輝く龍の手を模したものを作り出す。それでジンジャーの手首を握りつぶす。そのまま今度は右手首の先が地に落ちる。

 

「ギャ゛ア゛ア゛ア゛ーーーッ!!!ムグッ」

 

 再び叫ぶジンジャーに左の手と同じく右手にも龍の手を作り出したカノンはジンジャーの顔下半分を塞ぐように握る。

 

「なあ、私は黙れと言ったんだぞ。こんな簡単なこともできないのか?っ!?」

 

 二つの気が消えたのをカノンは感じた。タイムアップだ。

 

「お前のお仲間がくたばったみたいだぞ?私も父様に合流しないといけない。よかったな?これで楽に死ねるぞ?」

 

「む~!!む~!!」

 

 口を押さえられ、涙を流しながらも目で助けを求める。

 

「なんだ?助けてほしいのか?安心しろ、地獄で残りの二人が待ってるぞ。そしてお前の主、確か不老不死になったんだよな?そいつが地獄にいけないのは残念だがその代り、生き地獄を味あわせてやる」

 

 右手に力を入れていき、一気に握り潰す。首から上がなくなった体が落ち、首から吹き上がる血が口許にかかる。それをぺろりと舐め、ブッと床に吐く。

 

「まじい」

 

 そして合流するために悟空たちの元に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ガーリックJrに敗れた神、そして緊張の疲れから眠ってしまった悟飯を後ろにかばうように悟空とピッコロはガーリックJrと対峙していた。

 

「如何やら小娘が最後の一匹を倒したようだな」

 

 ピッコロは一つの気が消えたのを敏感に感じていた。

 

「ああ、あとはあいつだけだな」

 

 悟空は体に着ている重りを脱ぎながら答える。それを見てピッコロもターバン、マント、リストバンド、アンクルを脱いで床に放り投げる。するとドゴンッ!ドゴンッ!と床に穴が開き落ちてゆく。

 

「ひえ~。おめえ、前は付けてなかったリストバンドやアンクルを付けてるからおかしいと思ってたけど、どんな重さの着てるんだ?」

 

 どう考えても悟空以上の重さを着ているだろうピッコロに驚きの顔を見せる。

 

「フンッ!貴様ら親子が修行して前以上の力をつけているだろうことは想像できていた。なら俺は貴様ら以上の修行をするだけだ。そしてあのゴミを倒した後はお前らの番だ」

 

 ピッコロは重りを取り軽くなった首を回す。

 

「ゴミだと?わかっているのか?私は不老不死になったのだ。貴様らには絶対に私は倒せん!」

 

 ゴミ扱いされて顔を顰めるガーリックJrだがすぐに冷静さを取り戻す。何故なら自分は絶対に死なないのだから。

 

「だったら、五体をバラバラにして海にでも沈めてくれるわ!!孫悟空!貴様は引っ込んでろ!!」

 

 そのまま突撃していくピッコロ、そしてそれを追う悟空。

 

「そうはいかねえ!あいつと戦うのはオラだ!!」

 

 それを見たガーリックJrは体を巨大化させ迎え撃つ。

 

「かああああ!!!」

 

「ぜりゃああ!!!」

 

 二人の同時の攻撃を胸に食らい吹き飛んでいく。

 

「なにっ!」

 

 あまりの威力に驚くガーリックJr、吹き飛ばされたまま追ってくる二人に両手からそれぞれ気功波を放つ。しかしピッコロも悟空も軽く避け、一瞬で接近する。二人で顔を滅多打ちにし嫌がるガーリックJrは顔をガードする。と同時に悟空とピッコロは懐に入りそれぞれ手を胸に置き、強力な気功波を放つ。

 

「がああああーーーー!!!」

 

 そのまま消滅していくガーリックJr。ピッコロはそれを見て面白くなさそうに鼻を鳴らし今度は悟空を見る。

 

「さあ、今度は孫悟空。貴様の番だ!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。あいつは死なねえんだろ!だったら!」

 

 不老不死になったガーリックJrを警戒する悟空がピッコロを止めようとする。

 

「関係ない。いくらでも復活すればいい。だがそんなに気になるなら初めに言ったように五体をバラバラにしてやるわ、それが終わったら今度こそ貴様の番だぞ」

 

 そう言ってガーリックJrが消えた方に向かう。しかし全く反対側から気を感じる。だがピッコロは焦らなかった、何故なら上空に大きい気を感じていたからだ。

 

『かめはめ波―――――!!!』

 

「ぎゃああああ!!!」

 

 下半身を吹き飛ばされ周りの残骸に埋もれるガーリックJr。そして重りを脱ぎながらカノンが降りてくる。下半身が吹き飛んだガーリックJrを無視して悟空の元に向かう。

 

「父様、悟飯君は?」

 

「でえじょうぶだ。あっちで疲れて眠ってる」

 

 ホッとするカノンに、怒りの声が聞こえる。瓦礫が吹き飛び下半身を再生させたガーリックJrが出てくる。

 

「き、貴様ら。許さんぞ!この星の支配者にこんな狼藉を働くとは~~!!」

 

 屈辱に身を震わせるガーリックJrだが、もはや勝負はついたも同然である。カノンは生き地獄を味わせようと思っていたがあまりの無様さに憐みの心までうかんできた

 

「えっと、ガーリックJrさん?もういいです。貴方の実力では100年たっても私たちに勝てないでしょう。悟飯君達にしたことは許してあげます。なのでこれからは私たちの目の届かないところでひっそりと暮らしてください」

 

 肉体に攻撃はしなかったが心にダメージを与えた。それを聞いて悟空もあちゃ~と顔を空に向け、ピッコロは腕を組み目を閉じて少し笑っている。それを聞いたガーリックJrはますます身を震わせ、しかし笑い出す。

 

「くっくっく、いいだろう。貴様らには一条の光も差さない身も心も凍る異次元空間『デッドゾーン』を作り出し死ぬまで閉じ込めようと思ったが、やめだ!!それよりももっと凄まじい地獄を見せてやる!!!」

 

 そう言うと両腕を前に向け掌をカノン達に向ける。それを見て構えるカノン達。やがてガーリックJrの掌に瘴気が集まりだす。いや違う掌から出ているのだ。カノンは目を凝らす。点だ、黒い点。それが徐々に徐々に広がりだす。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「こ、これは!?」

 

 悟空、ピッコロがあまりの瘴気に顔を顰める。それを見てやっと意趣返しができたと思ったガーリックJrは得意顔で説明しだす。

 

「見えるだろう。この黒い穴が、ここから先は魔界と呼ばれる世界だ。私では魔界の浅い部分までしか扉を開けないが、まあ安心しろ。魔界の魔族どもはみんな獰猛だ。死ぬまで戦闘を楽しめるぞ」

 

 ニヤリと笑うガーリックJrにカノン達は震えていた。それを見たガーリックJrは自分に恐れをいだいたと思い高笑いする。

 しかし違う。カノン達はガーリックJrを恐れているのではない。後ろにいるガーリックJrには見えていないが小さい穴の中に見えるのだ。目だ。金色の目。カノンと目が合い目がグニャリと歪む、笑っているのだ。それを見た瞬間。

 

「おげえええええええ」

 

 カノンは嘔吐する。吐瀉物が床に広がる。しかしそれを見ても悟空もピッコロも動かない。というより足に力が入らず無様に腰が落ち動けないのだ。

 

(じ、次元が違いすぎる!いや世界そのものが違う!相手の強さがあまりにも大きすぎて知覚できない!!)

 

 カノンは恐怖で凍る心で相手の強さを測ろうとするがそのたびにえずく。全く気付いていないガーリックJrはますます笑うが、穴から出てきた腕がガーリックJrの手首を掴む。病的なほど真っ白い細い腕、おそらく女だろう。そして所々に文様が描いてある。

 

「え?」

 

 急に掴まれた腕を見てそんな言葉を言う。次にものすごい力でどう考えてもガーリックJrの巨体が入りそうにない小さい穴に引っ張り込む。穴を通る時の体が削れる音、苦痛の悲鳴が鳴り響く。そのあと徐々に小さくなる穴の向こうからガーリックJrの悲鳴と肉を食う咀嚼音が聞こえ穴が完全にふさがる。

 

 どれだけ呆然としていただろうか。悟飯の声と神の声が聞こえ硬直が解かれた三人は動き出す。ピッコロは静かにカノンと悟空を見て何も言わず去っていく。

 

「うあーん!おねえちゃーん!おとうさーん!」

 

 泣きながら胸に飛び込んでくる悟飯をあやしながらカノンは悟空の方を見る。悟空は何も言わず首を振る。カノンはもう一度穴が開いていた方を見る。あれは何だったのか。あの目を思い出すと、恐怖で体が震える。だがそれとは逆にカノンの口元には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すっきりしない終わり方ですが、これでガーリックJr編は終わりです。

最後にオリキャラを出しましたが正体がわかるのはだいぶ先です。






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第17話

ここから原作の設定を変え、本格的にオリジナルの部分が出てきます。

嫌だと思う人はここから先読まない方がいいです









「ズリャーーー!!」

 

 ピッコロの連撃の突きがカノンの顔面に突き刺さり、顔が左右に振られる。さらに右の蹴りを食らい岩に叩き付けられ、崩れた岩の下敷きになるカノン。そこに向かって連続で気功波を放ち、空をも覆い尽くす土煙が発生する。

 

「くっくっく、くたばりやがったかっ!?」

 

 土煙を切り裂いてレーザーのような気功波がピッコロの顔に飛んでくる。それを躱すも右頬が薄く切れ鮮血が流れる。今度はカノン自身が飛んできて、お返しとばかりに右の蹴りを叩き付ける。それを受けたピッコロが吹き飛ぶも地面に手を着き無理やり止まる。さらに態勢を崩しているピッコロに追撃を加える為、真正面から突っ込む。

 

「真正面?舐めるなー!」

 

 膝をついた姿勢から気功波を放つ。しかしカノンを突き抜ける。残像だ。残像のカノンが消えるとピッコロの頭上から本物のカノンが現れ頭に拳を叩き付ける。倒れそうになるピッコロの顎に蹴りを入れ無理やり上空に浮かべる、そこで目の前にきた腹に拳を叩き付ける。

 

「はああああああ!!」

 

 ピッコロの体が九の字に曲がり出すがピッコロはカノンの両足を上から掴み一回転し腰に膝を付け地面に叩き付ける為に急加速で落下する。地面にぶつかる寸前カノンは上体を反らしピッコロの腰を掴みそして腕を振りかぶりピッコロは地面に頭から突っ込む。

 

「ふ~、やりすぎてしまいましたか?」

 

 ピッコロが突っ込んだ地面は小さいクレーターになり中心に足だけ見えている状態だ。やりすぎたと言う割にさらに攻撃を加える為、掌をピッコロに向ける。その時足元から腕が出てきてカノンの足首を掴み地面に引きずり込む。

 

「ぐうううううう!!」

 

 固い砂や石に痛めつけられながら自身が削岩機のようになり掘り進んでいく。そして地面を抜ける。目の前には怒り顔のピッコロ。ピッコロは掴んだ足を振り下ろしカノンは地面にめり込ませる。

 

「この、クソガキがーーー!!」

 

 前から背中からと地面が砕け散るほど叩き付けられる。このままでは堪らないと足を捻ってピッコロの掴んでる手を離させる。カノンは一旦ピッコロから離れるも再び2人は超高速でぶつかり合う。

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「ちっ、はあ、はあ」

 

 お互いに息を切らせ、にらみ合う。二人の道着はボロボロになり、体中に擦過傷や痣ができている。当たり前だ、もう何時間も休みなしで戦い続けているのだから。ふと気づくと、もう空が茜色に染まっている。

 

「ここまでですね。ピッコロさん、ありがとうございました。」

 

 礼を言うカノンにピッコロはしかめっ面をし後ろを向く。

 

「何度も言うが勘違いするなよ。俺はただお前を利用しているだけだ。貴様の父親を殺す為にな」

 

 ギロリと目線だけカノンに向ける。それを受けてカノンはニッコリ笑い真っ直ぐにピッコロの顔を見る。

 

「では、私も強くなるためにピッコロさんを利用してることになりますね」

 

 チッと舌打ちしカノンから離れていくピッコロを見ながら、カノンも帰ることにする。

 

「筋斗う~~~ん!!」

 

 悟空から借りた筋斗雲に酷使した体を乗せ、上空に浮かんでいく。

 

「ピッコロさ~ん!また、二日後にお邪魔させてもらいますね!!」

 

 カノンの言葉に見向きもせず歩いていくピッコロに気分を害することなく筋斗雲を家に向けて飛ばす。そしてピッコロは小さくなっていくカノンを一瞥し再び修行をするために去っていくのだった。

 

 ガーリックJrとの戦いが終わりまたその時に味わった恐怖からか、カノンの生活は一部変わった。それがピッコロとの実戦形式の修行だ。カノンの転生前は兎も角、今世の戦闘経験は数えるほどだ。しかも悟空との修行がほとんど。それでもめきめきと強くなっていくがどうしてもお互いの手の内が読めていきこれから先、強敵が現れた時の臨機応変さがとれないかもしれない。

 

 そこで悟空以外の修行相手を探すことにした。しかしこの地球上でカノンの相手になるものは少ない。クリリン、ヤムチャ、天津飯、餃子、天下一武道会に出ていた者もすでに全く相手にならないほどカノンは腕を上げていた。ならば一人しかいない、悟空と互角の力を持つ人物。ピッコロだ。

 

 早速とばかりに悟空とカノンはピッコロの気を頼りに探し出し修行の相手をしてほしいと頼むが勿論そんな申し出を受けるわけがない。ピッコロの目的は悟空を倒すこと、その本人と修行をするなどありえない。そしてその場で始まる悟空とピッコロのかつての天下一武道会以上の戦い。

 周囲の地形が変わるほどの戦いをし、結局痛み分けに終わる。その戦いを見てやはり悟空以外で相手になるのはピッコロしかいないと考えたカノンは悟空がダメなら自分だけでもと再度頼む。がやはり断られる。

 

 しかしピッコロは、カノンの強くなる執念を甘く見ていた。カノンは悟空と修行をした次の日から、ピッコロの元に向かい断られようが戦いを挑んでいき夕刻には家に戻り、次の日はまた悟空との修行と生活のサイクルを変えた。何時しか、ピッコロもカノンのしつこさに諦めたのかそれともピッコロ自身もいい修行相手ができたのかと思ったかは定かではないが、この奇妙な関係は1年間続いた。しかしそんな日常は地球に侵入した三つの脅威により終わりを迎えることになる。

 

 

 

 

 

 ここは、北銀河辺境侵略方面軍兼技術小惑星、惑星ベジータ№2。その治療室でメディカルマシーンにて治療を受けている男。そのメディカルマシーンの前には多数の異星の科学者が動き回っており、その男の詳細なデータを目で追っている。一人の科学者が機器を操作し特殊溶液に漂う肘から先がない男の左腕をアームで持ち上げる。そして別のアームで機械的な義手を装着させる。その瞬間痛みがしたのか男は眉を顰めるが、すぐに緩める。

 

「ラディッツ、左腕を動かしてみろ」

 

 マイクを持った科学者がそう言うと男、ラディッツはゆっくり左腕を動かしていく。様々なデータを処理していき問題がないことを確認した科学者は、メディカルマシーンの特殊溶液を抜き入り口を開ける。顔に装着されていたマスクを、首を振って外し衣服がない状態で出てくる。

 

「どうだ?その腕の調子は?」

 

 科学者の問いに体やМ字型の生え際、腰まで届く髪から特殊溶液を拭いながら若干眉を顰めラディッツは答える。

 

「少し違和感がある。どうにかできんのか?」

 

 それに科学者は仏頂面を浮かべる。

 

「今さっき腕の神経と繋げたんだ。後はなれるしかない。それよりその腕トランスさせてみろ。データがほしい」

 

 さっきまで重傷だったものに言う言葉ではないが、彼はどこまで行っても科学者なのだろう。ラディッツの周りに機器を配置し促す。それに舌打ちし左腕を目の前に持って行き先ほど新たにできた神経の一つに意識を集中する。すると機械然としていた左の義手が一瞬ブレ違和感ない腕に代わる。

 

「いいぞ!次はこっちだ。急げよ!」

 

 早足で目的地に行こうとする科学者にまずは戦闘服を着させろと止めるラディッツだった。

 

 科学者に連れられてきた場所、それは訓練施設。というより実験施設と言った方がいいだろう。この惑星ベジータ№2はまだ建造途中の惑星だ。そこでこの科学者は自分の権力を使い自分の優先すべき施設を先に作った、その一つがこの実験場だ。

 

「よし!次はあの的に向かい左手でエネルギー弾を放て」

 

 またもやラディッツの周りに機器を配置する。それに何も言わず言われたとおりに左腕にエネルギーを貯める。体中のエネルギーが左腕に集まってくるのが分かる。戸惑いながらも的に向かい撃ち放つといつも以上の威力を伴い的を突き抜けていく。

 

「よ~し!いいぞ!今の瞬間、戦闘能力が格段に上がった!あとは経過を見て拒絶反応が出なければひとまず成功だ!」

 

 ラディッツはしげしげと左腕を見る。そして手を開いたり握ったりしながらつぶやく。

 

「凄いもんだな。敵勢力とはいえ東銀河の連中の科学力は」

 

「ふんっ!こんなもん、奴らからしたら旧態依然の技術だ。だからこそその技術力を解明し利用する為にフリーザ様たちは安全な後方の辺境に技術惑星をお作りになられたのだ。」

 

「おいおい、ここは惑星ベジータ№2だぜ。つまり俺たちサイヤ人の星ってことだろ」

 

「そー言うこと、フリーザ様に少し目を掛けられているって言っても調子に乗らない方がいいぜ」

 

 そこに科学者の言葉を遮るように入ってきた二人の男。

 

「やめろ。バイアム、ビジュー」

 

 バイアムと呼ばれた巨漢で髪がモヒカンの男はラディッツに詰め寄る。

 

「なんだよ、ラディッツさんよ。本当のことだろ?」

 

 その後ろで扉を背もたれにして顔を向けてくる中肉中背で少し気障な感じの男ビジューも同意する。

 

「こんなやつに俺たちサイヤ人が舐められて黙ってるのかい?隊長さんよ」

 

 その問いに何も答えず一瞬だけ科学者に目を向けたラディッツは実験場を後にし慌てて二人は付いて行く。

 

 

 

 

 

 食堂に行って食料を確保した三人はこれからのことを話し合う為に個室に戻った。

 

「がつっがつっがつ!!ふぉんとにひひのかほ!ほほははへ!」

 

 バイアムが口に食べ物を含みながらラディッツやビジューに吼える。顔に飛んできた食べカスをいやそうな顔で拭くビジューはバイアムに怒鳴る。

 

「口の物を飲み込んでから喋れ、何を言っているかわからん!」

 

 それを聞いたバイアムは口に含んでいた物を飲み込み再び吼える。

 

「ホントにいいのかよ!このままで!ラディッツさんはこの前の戦いで腕を失う重傷を負ったってのにこんな辺境の建造途中の星まで治療なしで送られて!これじゃあ、閑職送りも同然だぜ!」

 

 それを聞いたビジューは肩を竦める。

 

「事実そうだろ?惑星ベジータなんて付いてるが、その前に辺境侵略方面軍なんて名前がついてんだ。この近辺で俺たちが出向く必要がある惑星が何個あるよ?しかもこれからも俺ら三人以外のサイヤ人が来るんだろ?何人生き残ってるか知らねえけど」

 

 いままで黙々と食事を口に運んでいたラディッツが顔を上げる。

 

「だろうな。これまでの功績を称えてベジータなんて名前がついちゃいるが実態は後方での補給担当ってところか。舐めやがって!だがこれは俺たちにとっちゃあ逆にいいチャンスかもしれんぞ」

 

 顔を寄せろと手招きする。

 

「俺たちの力ではフリーザたちには勝てん。それに元から少数民族の我々の数も減ってきているからな。だがここは技術惑星でもある。事実俺は強くなった、気に入らんがな」

 

 左手を見せながら言うラディッツ。それをいやそうな顔で見るビジュー。

 

「いやだぜ?いくら強くなるって言っても東の奴らみたいに全身機械の体になるなんて」

 

「まあ聞け。それは例えばの話だ。いやな奴らだがここの科学者は確かに優秀だ、これからもどんどん東、西そして南の敵勢力からの技術が集まってくるだろう。それを俺たちが利用しフリーザを倒す!」

 

 それを聞いたバイアムとビジューはニヤニヤ笑う。

 

「なるほど!流石、ラディッツさん!さらに俺たちサイヤ人の数が増えれば怖いものなしってことだ。いいぞ!!がっはっは!!これならフリーが!?」

 

「黙れ!バイアム!何のために周囲に聞こえないように喋ってると思う!」

 

 怒るラディッツに謝るバイアム。それを横目にビジューが提案する。

 

「じゃあ、隊長さんよ?ここは従順なフリして命令通りここら一帯の星を締め上げ一大補給基地にするか!」

 

 頷くラディッツはついてこいと言いこの辺境の星々の詳細を調べる為部屋を出ていくのだった。

 

 

 

「なんだこれは~!」

 

 これからの未来に向け意気揚々とビジューがモニターに映る星々を見るが碌な星がない。いや補給基地を作るというなら悪くはない星が多いが、サイヤ人としての欲求、戦闘を楽しめそうな星が少ない。

 いやそうな顔でモニターを映していくビジュー。同じくいやな顔をしていたラディッツは何かおかしい物でも見たかのような顔をしビジューに画面を戻すように言う。

 

「なんだよ、隊長。これか、地球?まあまあよさそうな星だけどよう」

 

「今の今まで忘れていたがここにはカカロットが送り込まれていたはずだ。こんな文明の低い星の連中などとっくに滅ぼしているはずなのになぜ連絡がなかった?」

 

 だがこれで行き先は決まった。理由を聞いてくる二人に応えながら宇宙ポッドに向かう。ラディッツは思う、何か強力な敵がおりそれが理由で滅ぼせていないのなら戦闘を楽しめ、且つカカロットを仲間にできる。逆にカカロットが裏切っているのだとすれば・・・。

 

「カカロットとの戦闘を楽しめるということだ」

 

 宇宙を切り裂いて飛ぶ宇宙ポッドの中でそう考えるが、果たしてこの戦乱渦巻く銀河での戦いで戦闘能力が上がった自分にこんな後方の星でぬくぬくしていた奴が相手になるのか疑問に思いながらも地球に近づいていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうだったでしょうか?

次回、ラディッツがもう少し詳しいことを喋ってくれます。







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第18話





 上空を凄い速さで飛ぶ3人がいる。悟空とカノン、筋斗雲に乗る悟飯だ。

 

「どうした?カノン。オラまだまだスピードを上げられるぞ!」

 

 カノンのわずか先を飛ぶ悟空がカノンの方を見る。それを受けて、カノンもまだまだ余裕だと悟空に並ぶ。

 

「勿論、私も余裕です。カメハウスまで全力ですよ!」

 

 今日、一年ぶりにカメハウスでみんなと集まることになった、ガーリックJrとの戦いが終わった後、悟飯を連れて一度遊びに行ったがそれ以降カノン達は忙しい日々を送りなかなか行けず仕舞いだった。そこで亀仙人からの誘いを受け久しぶりにみんなと会おうということになったのだ。そしてカメハウスまでの道中、修行がてら二人はスピードを競い合っていた。

 

「おねえちゃーん!おとうさーん!二人とも頑張って~!!」

 

 悟飯の声援でスピードが2割増し上がったカノンだった。

 

 

 

 

 

 カメハウスの上空を悟空とカノンが通り過ぎる。勝負は僅差で悟空が勝った。

 

「へっへ~。どうだ!オラの勝ちだぞ!」

 

 喜ぶ悟空にブスっとした顔を見せるカノン。

 

「むう~。今度は私が勝たせてもらいますからね!」

 

「お父さんも早かったけどお姉ちゃんも凄かったよ!」

 

 筋斗雲で、二人の傍に寄ってきた悟飯の言葉にカノンはキュンキュンしてガバッと抱きしめる。

 

「ああ~ん、悟飯く~ん。今度はお姉ちゃんが勝つからね~」

 

 筋斗雲の上で悟飯を抱きしめ頬にキスの嵐を巻き起こしているカノンにこれは家族愛と見るべきか、それとも欲望と見て乗れなくするべきか悩む(?)筋斗雲。

 そして上空から凄まじい大気が弾ける音がした為、カメハウスから出てきた亀仙人、ブルマ、クリリン、ウミガメは生暖かい目でそれを見る。

 

((カノン(ちゃん)ってブラコンだったのか~))

 

 以前遊びに行った時はそのことを隠していたカノンだった。

 

 

 

 

 テーブルを囲み食事を食べ笑っている悟空、まだ人見知りするのかカノンの後ろに隠れる悟飯。そしてカ~と耳まで赤らめて俯いて座るカノン。

 

「ほらほら、カノンちゃん。いつまでも気にしないで食べて食べて!悟飯君も隠れてないで、はい!ジュース」

 

 ブルマはそんな様子のカノンに食事を勧め、悟飯にジュースを出す。

 

「いや~!それにしても久しぶりじゃ!おぬしらは来いと言わんと来てくれんからの~」

 

 ビールを飲みながら上機嫌で悟空達を見る亀仙人。

 

「いや~わりいな!亀仙人のじっちゃん!オラたち毎日修行に夢中になっちまってよ。カノンなんてピッコロのところに通って修行してるぐらいなんだぜ」

 

 それを聞いた亀仙人たちは飲んでいた飲み物を吹き出す。

 

「な、な、な!それホントか!カノン!!」

 

 まるで嘘であってくれと言うようにカノンを見るクリリン達。その視線を受け甲斐甲斐しく悟飯の世話をするカノンはキョトンとした顔をして本当ですと頷く。

 

「ご、悟空~!お、おま、おまえなにしてんだよ~!カノンを止めなくていいのかよ!!」

 

 悟空に詰め寄るクリリンにこちらもキョトンとした顔をして答える。

 

「何がだ?」

 

「な、なにって!カノンをピッコロのところに行かせていいのかってことだよ!殺されちまうかもしれないだろ!!」

 

 クリリンの言葉に亀仙人、ブルマ、ウミガメが激しく同意と首を縦に振りまくる。それに反論するのはカノンだった。

 

「大丈夫ですよ、クリリンさん。私もピッコロさんを殺すぐらいの勢いで修行していますから」

 

 ね、大丈夫でしょ?と笑顔を向けてくるカノンに疲れた顔を見せるクリリン達。悟空達親子以外が思う、もしかしてこのカノンが一番大物かもしれないと。

 

「でもよくチチさんがそんなこと許したわね~。」

 

 ブルマが信じられないという風に言う。

 

「そうですね。確かに初めは怒られましたけど、根気よくお願いしました」

 

 悟飯の世話をしつつ食べ物を行儀よく凄まじい勢いで食べながらそう答えるカノン。実際に拝み倒したのは本当だが、実は他にも許してもらった理由がある。カノンは気を微細にコントロールする訓練の過程で気功エステともいうべきものを開発した。その効果は生命エネルギーを対象に適度に送り込み肌を活性化させたり、強弱をつけマッサージ機能を持たせたり、毛穴を刺激して脱毛させたり等々。

 それを知ったチチが週に一度はそのエステをしてくれればいいという条件で許可を貰えた。おかげでチチは血行が良くなりむくみ、くすみがとれ色白で柔らかい肌になった。のちにブルマにもその恩恵がもたらされるが未来の話になるので置いておく。

 

「まあ、もうその話はいいよ。しっかしそんな毎日修行をしてるってことは相当強くなったんだろうな。悟空もカノンも」

 

 ピッコロの話を打ち切ったクリリンが二人を交互に見る。

 

「まあな。どうだ!ちょっとやってみっか?クリリンも腕を上げたんだろ?」

 

 クリリンから感じられる気を見た悟空がそう言うがクリリンは苦笑して首を横に振る。

 

「いいよ。今の俺じゃあ悟空には歯が立たないのは分かってる。くそ~俺も結構修行、頑張ったんだけどな~」

 

「まあまあ!今日は修行のことは忘れてパ~としようじゃないか!ブルマ!クリリンも!じゃんじゃん飲み物、食べ物を持ってくるんじゃ!悟空、今日は泊まれるんじゃろ?」

 

「ああ、そうチチには言ってき!?な、なんだ!この気は!」

 

 急に顔色を変え、外に出る悟空に付いて行く亀仙人たち。海の向こうを見るように佇む悟空、そしてカノンはその横に並ぶ。

 

「大きい気が二つ。さらに大きい気が一つ。ど、どういうことでしょうか?これ程の気が突然現れるなんて」

 

「わかんねえ、わかんねえけど。こいつはやべえかもしんねえ!」

 

 突然現れた謎の強大な気に戦慄を覚える悟空とカノン。訳が分からない亀仙人たちはその様子に戸惑う。

 

「お、おい。どうしたんだよ?悟空、カノン?なんだって?」

 

 カノンは顔をクリリンたちの方に向ける。

 

「急に巨大な気が現れたんです」

 

「巨大な気?ピッコロじゃないのかの?」

 

 そういうがピッコロの気は別のところから感じられる。それに感じる気は三つだ。

 

「いや、違うぞ。じっちゃん、現れた気は三つ。そしてその中の一つはオラたちよりでかい気だ」

 

 その言葉に驚く亀仙人たちだったが、更に事態は動く。

 

「移動しだした!これはピッコロさんのところ!」

 

 間もなくピッコロのいる場所に移動する三つの気。そして一人はその場に残り、ピッコロの気が急激に上昇し始め戦いが始まるのを感じる。残りの二人は。

 

「とんでもない速さでこっちに来るぞ!じっちゃんたちは悟飯を連れて家に入っていてくれ。カノン!おそらく戦いになる!準備はいいな!」

 

「はい!父様!」

 

 すでに遠くに見えつつある敵をキッと見定める悟空、そして自分達以上の強大な気を持つ敵が来るのを、口角を持ち上げて待ち構えるカノンだった。

 

 

 

 

 

 時間は悟空達が強大な気を感じた時、その強大な気を発しているラディッツたちは宇宙ポッドから出てきて広大な草原に降り立っていた。

 

「やはりこの星の奴らは生きていたか。カカロットの奴め!」

 

「結構いい星じゃねえか。バカンスとしゃれ込むかビジュー?」

 

「はんっ!てめえ一人でやってろ、バイアム」

 

 3人、いやバイアムとビジューは軽口を叩く。目の前に猟銃を構えた農夫がいるのにだ。その農夫は突然降ってきた隕石に驚き様子を見に来てしまった。そこに宇宙ポッドから出てきた3人の異様な迫力に怯え猟銃を向けているのだ。

 

「な、何もんだよ!おめえらは!」

 

「あ、これがこの星の人間か?隊長さんよ、こいつの戦闘力いくつよ?」

 

 左耳に取り付けられている片眼鏡、スカウターを使い農夫の戦闘能力を測る。

 

「戦闘力たったの5か。ゴミめ。残念だったなビジュー、バイアム。この星はやはりはずれだ」

 

 溜息をもらすビジュー、そして欠伸をしながら農夫の元に歩いていくバイアム。それに怯える農夫は猟銃をバイアムに向ける。

 

「ち、近寄るんじゃねえよ!ぶ、ぶっ殺すぞ!」

 

 さらに一歩近づくと農夫は銃をぶっ放す。その弾丸を何でもない風に掴みしげしげと眺める。

 

「お~い。見てくれよ。ラディッツさん!ビジュー!随分原始的な武器使ってるぜ!」

 

 そう言って笑うバイアムにいいからこっちに来いと言うビジュー。

 

「ちぇ、なんだよ。もうちょっと遊んでもいいだろうがよ。」

 

 その間も恐慌状態に陥っている農夫は銃を撃っているがバイアムに当たっているのに全く効いていない。それがより恐怖をもたらす。

 

「バンバンッ!バンバンッ!うるせーぞ!!このゴミ虫が!」

 

 バイアムは農夫の頭頂部を叩くと農夫は地面に埋もれハンバーグみたいにひしゃげる。

 

「おい!さっさといくぞバイアム!あっちの方角に大きいパワーを持った奴を見つけた!ついてこい!ビジュー!バイアム!」

 

 そういうとラディッツは飛翔し、スカウターが示している場所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 この時勿論ピッコロは強大な気を察知していた。ここに来ることも。

 

「ちっ!なんだこの気は!」

 

 そして身構えるピッコロの前にラディッツ達が現れ、上空から降りてくる。目の前に来るとより強さが感じられる。それでも途轍もない力を持っているラディッツを睨みつけるピッコロ。

 

「チッ!カカロットじゃない」

 

 ラディッツの言葉にビジューとバイアムは肩を竦めるが、それを舐められてると思ったのかイラつきながら言うピッコロ。

 

「何者だ、貴様ら。この俺様に用でもあるのか」

 

「お前などに用はない」

 

 白けた目で見てくるラディッツ。

 

「じゃあ、何しにここへ来た。死にたいのか?」

 

 それが虚勢に見えたのだろうビジューがラディッツの前に出てくる。

 

「なんだあ~。俺たちを前にして虚勢とは言え頑張るじゃね~か。どれ、戦闘力はっと」

 

 ビジューはスカウターを操作しピッコロの戦闘能力の数値を測る。

 

「!?ひゅ~。こんな辺境の星の奴なのに戦闘力が1836もありやがる。やるね~」

 

 スカウターの数値に喜ぶビジュー。それを聞いてラディッツも笑う。

 

「確かに中々の数値だ。だが所詮我々の敵ではない。さっさと片付けて次に向かうぞ」

 

「ラディッツさん、スカウターで向こうを見てくれ。大きいパワーがあるぜ。これがカカロットじゃないですか」

 

 バイアムの言葉にラディッツとビジューはスカウターを操作する。

 

「距離12909、大きいなこの星で最も大きなパワー。それにすぐそばに同じぐらいのパワーがある。今度こそカカロットだ!」

 

 カカロットの元に行こうとするラディッツ達にバイアムは待ったをかける。

 

「ラディッツさん、こいつやらせてもらいませんか?」

 

 バイアムがニタニタ笑いながらピッコロを指さす。それに鼻を鳴らし、まあいいと許可する。

 

「バイアム!やられんじゃねーぞ!へっへっへ!」

 

 ビジューが冗談めかして言うがバイアムも笑いながら

 

「こんな屑野郎に俺が負けるかよ!さっさと行け!」

 

 しっしと手を振るバイアムを残しラディッツたちは飛んで行く。それを見送ったバイアムはピッコロの方を向く。

 

「よ~し!じゃあ始めるか!ちょっとは楽しい戦いにしてくれよ」

 

 そういうバイアムだが、ピッコロは遠くに去って行ったラディッツの方を見ている。

 

「お~い、聞こえているのか?」

 

「お前たちの使っているスカウターといったか?如何やらそれは相手の強さを数値化したり、遠くにいる相手のパワーもわかるようだな」

 

 バイアムにスカウターのことを聞いてくるピッコロ。

 

「よく聞いてるじゃねえか。そういうことだ、お前がここから逃げ出してもすぐ見つけることができるぜ」

 

「では、例えばここに巨大なパワーを持った奴が現れた場合あいつらは戻ってくるのか?」

 

 バイアムは何言ってんだこいつという目で見て、そして理解する。

 

「ラディッツさんたちはスカウターにカカロットのパワーをセットした、警戒信号も近くに大きいパワーが現れなければでないから戻ってくる心配もない。だから安心しろよ。3人でボコったりしねえから、それにお前みてえな屑野郎は俺一人で十分だからよう」

 

 バイアムは、ピッコロがスカウターを破壊し残りの二人が戻ってくる前に逃げ出そうとしているのだと思い笑う。恐らくその後、隙をつき残りの二人のスカウターも破壊するのだろうということも。だがピッコロは逃げずドスン、ドスンと着ている重りを脱ぐ。

 

「お?はっは~!戦闘力が2570まで上がったじゃねえか!このことか?おまえがラディッツさん達を戻ってくる心配をしたのは?」

 

 この重い重装備を外すことがピッコロの切り札でバイアム一人だけならこれで倒せると思ったのだろう、だからラディッツ達が戻ってくることを恐れていた。そう思いバイアムはニヤリと笑う。

 

「でもまだおれの戦闘力にゃあ届いてないぜ!ま、少しは楽しめそうだ!!」

 

 いきり立つバイアムに今度はピッコロがニヤリと笑う。

 

「くっくっく、まあ焦るな。ここからが本番だ!!かあああああ~~~!!!」

 

 ピッコロは両足を広げ、気を高めていく。ピピっと音がしバイアムのスカウターはピッコロの戦闘力数値を測りだす。

 

「バッ、バカな!?何だこの戦闘力の数値は、2700、2900、3100!!まだ上がるのか!?」

 

「かああああああああーーーー!!!!!」

 

 ピッコロの体に気のオーラが覆われ、気の高まりが安定する。

 

「せ、戦闘力、4112、、、そ、そんな、、ばかな、、、」

 

 がくがくと体を震わせ後退していくバイアム。それを見て一歩踏み出すピッコロ。

 

「さて、これで少しは楽しめるようになったか?くくくく、はあ~はっはっは~!!」

 

 高らかに笑い、その数分後バイアムの気が消えた。

 

 

 

 

 

 




前回ラディッツが詳しいことを話すと言ったのですがそこまでいけませんでした。

すいません。しかし次回こそは!

後、今回出てきた「カカロットのパワーをセットした~。」というのはナメック星でフリーザがドラゴンボールの合言葉(?)を聞き出す為最長老の元に行っている時、悟空の戦闘力を探知していなかったのでこうしました。








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