死神代行のIS戦記 (ピヨ麿)
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1.The end and opening

初投稿となります。
至らぬ部分も多々あるかと思いますが、お手柔らかにお願いします。


銀城空吾らXCUTIONとの激闘から幾日か経ったある日。

 

 

「グッモ~ニン!いっちっごおぅ!!」

 

 

彼、黒崎一護の朝は父・一心の襲撃から始まる。

 

本日は綺麗に鳩尾に極まったらしく、直後に蹲っている。

 

 

「朝っぱらからうるせぇよ」

 

 

その言葉に一心は怒りながら言い返してくるも、無視して着替え始める。

 

今は五月。ゴールデン・ウィークも過ぎ去り、学生である一護は当然学校へと通う。

 

 

「おにいちゃーん!ごはんできたよー!!」

 

「おう!今行く!」

 

 

階下から聞こえてきた妹・遊子の声に応えつつ、鞄を持って部屋を出る。

 

今日もまた、いつもの日常が始まるのだ、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ。今日ゲーセン寄ってかねえ?」

 

「浅野さん?僕ら、一応受験生だって分かってる?」

 

「わ、分かってますう!たまにはいいじゃんかよー!」

 

 

彼らは一護の友人である浅野啓吾と小島水色。高校からの付き合いで、数少ない一護の理解者だ。

 

 

「……まぁ、たまにはいいか」

 

「いやっふう!!」

 

 

一護が承諾した途端、テンションがMAXになる啓吾。決して、普段遊んでもらえないから喜んでいるわけではない。頻繁に一護のバイト先に顔出してウザがられてるからでもない。

 

 

「仕方ないなぁ」

 

 

そう口にしている水色だが、内心ではあまり嫌がってはいない。水色も一護や啓吾と遊ぶのは楽しいのだ。

 

 

「んじゃ――」

 

 

行くか。そう続けようとした一護だったが、

 

 

「こんにちわ。黒崎一護君」

 

 

背後からかけられた声に動きを止める。

 

 

「……誰だあんた」

 

 

警戒心を強めながら、話しかけてきた女に問う。ただ名を言われただけならそこまで警戒はしない。だが、この女からは、()()()()()()()()()()が流れていた。石田やチャド程ではないが、ドン観音寺より遥かに大きい。ただの霊能力者では済ませられない。

 

加えて、目の前の女の格好はどこか奇妙だ。青と白のエプロンドレスに機械で出来たウサミミを付けている。言い表すなら『一人不思議の国のアリス』といったところか。サイズが合っていないのか、彼女の豊満な胸が零れそうである。

 

 

「啓吾……」

 

「俺だって時と場合は考えるっての」

 

 

彼女の姿を見て、水色は啓吾に注意を促す。彼はかつて、同じように豊満な身体をした松本乱菊に飛びかかったことがある為、言わずにはいられなかった。

 

 

「そんな警戒しないでよ~。私は、君とお話がしたいだけなんだよ?」

 

 

身体を若干前屈みにし、一護へ言う。そうなれば、当然先程よりも胸元が見えるようになるわけで、

 

 

「けしからん格好ですねお姉さーん!!!」

 

 

我慢出来なくなった啓吾は飛びつき、次の瞬間、見えない壁に当たり、崩れ落ちた。

 

 

「それで、どうかな?」

 

 

啓吾のことを見向きもせず、問う。今彼女の眼には、一護以外の人物は映っていない。

 

 

(俺以外には興味無しか。ご丁寧に結界まで張ってやがる)

 

 

冷静に観察しながら状況を把握する。

 

 

「分かった。ただ話すだけだろ?」

 

「そうだよ~」

 

 

相手の霊圧、敵意の無さを考えた上で、そう決断する。霊圧が高いといってもそれは人間レベルであり、隊長格となんら遜色無い霊圧を持つ一護とは比べるべくもない。だが、仮にこの場で戦闘になったとしたら、啓吾達を狙われる可能性もある。相手がどういう手段を持っているか分からない今、戦闘はなるべく避けるべきだと考えた。

 

それに、この街には石田にチャド、井上、浦原といった信頼出来る仲間がいる。これが一護を引き離す為の罠だとしても、どうとでも対応出来るだろう。

 

 

「それじゃあレッツゴー!」

 

「って! 何でひっついてんだよ!?」

 

 

彼はヤンキーみたいな見た目に反して、かなり初心だ。なので、唐突に自身の腕に抱きついてきた女性の、柔らかい感触に顔を赤くしながら、一護は声を荒げる。

 

 

「? なにか、イケないことだった?」

 

 

それに対し、女性はキョトン、と首を傾げながら一護に聞き返す。

 

 

「一護、早く行って来たら?」

 

「……その手に持ってるのは何だ?」

 

「ん? 携帯」

 

 

言いつつその光景を撮る水色。彼としても一護を貶める気はないが、写真をばら撒いて面白いことになるかな~ぐらいには考えている。

 

 

「…………はぁ」

 

 

この場に味方はいないと悟った一護。溜息を吐いたのも仕方がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、アンタは俺に何の用なんだ?」

 

 

女性に連れて行かれ、ラボのような場所に来た一護は、開口一番そう聞いた。

 

 

「もう……。そんなせっかちさんじゃ女の子に嫌われちゃうよ?」

 

「生憎、産まれてこの方異性にモテたことはねぇよ」

 

「ふぅん?……なら、行き遅れたなら私が結婚してあげようか?」

 

「いや、アンタの方が年上……スンマセン」

 

 

うっかり女性の年齢(タブー)に触れ、殺気を向けられる。今まで様々な相手と戦い、その度に殺気や敵意を浴びてきた一護だが、今のはかつての強敵達のソレと遜色無いほどだった。

 

 

「まったく……見た目は成長してるのに、そういうところは子供のままなのかな?」

 

「その言い方……俺はアンタと会ったことがあるのか?」

 

「ううん。会ったことは無いよ。私がたまたま見かけて、興味を持って、一方的に観察していただけ」

 

 

それってただのストーカーじゃ……

 

見当違いなことを考えていた一護だが、次に言われた言葉に、心を激しく揺り動かされる。

 

 

「あの時……河原で亡き母を抱いて泣いていた時から」

 

 

瞬間、一護の頭は真っ白になった。

 

 

「なんで……なんでそれを知ってんだ!?」

 

 

一護の中の、決して消えない罪の記憶。

 

当時、霊と人の区別がつきにくかった故に起こった悲劇。それを知っているのは当事者である一護と、母・真咲を殺した(ホロウ)・グランドフィッシャー。それと、一心と浦原も、推測ではあるだろうが知っているだろう。

 

 

「あれは本当に偶然だったの。当てもなく歩いていて目にしたのがその場面だった。その場に残った霊圧から(ホロウ)の仕業だとは思ったけど、それ以上に君の霊圧の高さに驚いたよ。私よりも小さいのに、私よりもずっと大きい霊圧を持ってたんだから」

 

 

それが、女性が知っている訳だった。グランドフィッシャーが去った後ならば、ある程度の霊能力者ならば事情を察することは可能だろう。

 

 

「……それで、何で俺に接触してきたんだ? ただ話して終わり、って訳じゃねえんだろ?」

 

「うん。死神代行・黒崎一護。君を見込んで、頼みたいことがあるの」

 

 

と言うと立ち上がり、ついて来てと部屋の奥へと進む。

 

 

 

 

 

 

女性について行った場所、そこには

 

 

「これって、IS……か?」

 

 

インフィニット・ストラトス。通称ISと呼ばれるそれは、10年前に起きた白騎士事件を機に、世界中で知れ渡った。既存の兵器を大きく上回る戦闘能力を有し、軍や企業が積極的に開発しているパワードスーツ。

ただし、女性しか乗ることは出来ず、開発関係の仕事にも興味を持っていないため、生涯関わることはないだろうと一護は思っていた。

 

それが今、一護の前に鎮座していた。たまにテレビに映る機体とは違い、目の前の物は黒い機体だが。

 

 

「なんでここに……てか、俺に見せる必要があるんだ?」

 

「それはだね……君に使ってもらう為だよ!」

 

 

は? と聞き返す間もなく背を押され、不意の出来事ということもあり前へつんのめる。そして、目の前にあるISに手をつく。すると、

 

 

「…………は?」

 

 

触れた瞬間、脳に夥しい量の情報が流れ込んでいき、それが終わると彼は自身の異変に気付く。

 

男であるはずの一護が、ISを纏っているのだ。

 

何が何だか分からない一護の耳に届いたのは、パシャッという音。音源に視線を向けると、

 

 

「……何やってんだ?」

 

「写真撮ってるの。一護君には来月からIS学園に行ってもらうよ」

 

 

言われて思考が止まる。何を言われたのか理解出来ず、しばし無言になり、

 

 

「はあああっ!!??」

 

 

思わず叫び声を上げる一護。だが、目の前の女性はその声を無視して、

 

 

「大丈夫。お父さんにはちゃんと許可もらってるし、浦原喜助さんにも事情は話してるから」

 

 

意外な人物の名が出てきたことに驚くと共に、自身の意思に関係なく外堀を埋められていたことに、もう逃れられないのだと諦める一護。

 

 

「一護君には一ヶ月後ぐらいに転入してもらうから、それまでは私とお勉強会だよ!」

 

 

かつて尸魂界に乗り込む前に浦原と行った、勉強会という名の殺しあい。不意にそのことを思い出した一護は、不安を抱きながら尋ねる。

 

 

「それって何するんだ?」

 

「ISの基本的な知識と動かし方。それを出来る限り詰め込んでくよ」

 

 

それを聞いて一護は安堵する。必要なことだったとはいえ、かつてやったような無茶は出来ることなら避けたいと思っていた。

 

 

「私も悪いと思ってるからね。折角三年まで進級したのに、別の学校で一年生からやり直させることには」

 

「あ……」

 

 

失念していた、というよりも考えていなかった。転入と言われたから学年は同じままだと思っていたからだ。

 

 

「マジかよ……」

 

「ごめんね~。でも、学校で降格なんて珍しい体験出来たんだからいいじゃん?」

 

 

良くねえ! というツッコミも出ず、茫然とする一護。驚くことが多すぎて、もう何を言ったらいいのか分からなくなっている。

 

 

「それでね、IS学園に入学してもらう理由なんだけど――――」

 

 

茫然としている一護に、本来の目的を告げる女性。

 

 

――――ちーちゃん達を護ってほしいの。

 

 




ご意見、ご感想、お待ちしています。


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2.IS school

まだ始まったばかりですが、こんなにも自分の書いた作品を読まれるとは思っていなかったので……正直焦ってます。

第一話投稿から6日も経ったというのに、今回の話は駆け足気味な原作沿い&ちょっとした説明会。なので、読むのがメンドイという方はあとがきだけ読んでいってください。


あの時、女性は一護がISを纏っている画像をIS学園へと送っていたらしく、あそこで一護がいくら拒もうともIS学園への入学は免れなかった。

 

それからというもの、学園関係者が家へと押し掛けてきて、転入準備など慌ただしく過ごし、その合間を縫って女性にISのことを叩き込まれた。仲の良い友人達には心配されたり、呆れられたり、羨ましがられたり。

それと、一護がIS学園に行くことになった為、阿散井恋次が空座町の担当に加わった。今までは隊長と同等の実力を持つ一護がいたので問題は無かったが、町を離れることになった今、車谷だけに重霊地を任せるのは些か不安、とのこと。

 

 

 

 

そして、あれよあれよという間に一カ月が経ち、現在一護はIS学園一年一組の教室の前へと来ている。

 

 

(……帰りてぇ……)

 

 

教員に呼ばれるのを待ちながら、早くも心が折れかける一護。この学園に来ることも了承したし、あの女性の頼み事はきちんと成し遂げるつもりでいる。だが、やはり周りが女性ばかりというのはつらいものがある。昨夜、最終試験と称して朝までずっと勉強漬けだったこともあり、肉体・精神共に、すでに疲労困憊だった。

 

 

『えええええっ!?』

 

 

中から悲鳴にも似た叫びが聞こえ、身体をビクッと一瞬震わせる。

 

 

『それじゃあ入ってきてください』

 

 

続いて聞こえた声に従い、中へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああ――――っ!!!」

 

 

一人目のシャルル・デュノアが自己紹介をしたところで、クラス中から歓声が上がる。二人目の男が、美系が来た、と。だが、一護としては、

 

 

(え? 男?)

 

 

だった。格好は確かに男だが、身体の線や顔が女性のものに近かった。

 

 

(ルキアやたつきよりもよっぽど女っぽい……!?)

 

 

失礼なことを考えていると、不意に悪寒が走る。女性というのは、何故か自身のことを悪く考えているのを察するものである。そしてそれは、女性らしくない行動をしている者に多く見られる。

 

 

その後、二人目のラウラ・ボーデヴィッヒが簡潔に――――クラスにいた男・織斑一夏を殴っていたが――――自己紹介を終え、悪い空気のまま一護の番が来る。

 

 

「空座第一高校から来た黒崎一護だ。お前らより二つ年上だけど気にせず接してくれ。これからよろしくな」

 

 

織斑一夏やシャルル・デュノアと比べて興味を持たれるとも思っていなかった一護は、典型的な自己紹介で済ませる。だが、

 

 

「きゃああああ――――っ!!!」

 

 

一護の予想とは違い、シャルルの時と同じような歓声が上がる。

 

 

「こっちはワイルド系よ!」

 

「しかも年上!」

 

「目つきがちょっと怖いけど、それがまた格好良いわ!」

 

 

……どうやら、このクラスの女子生徒は節操がないらしい。それとも、男に飢えているのか?

一護も、シャルルも、その様子に引いている。

 

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 

ざわめいている生徒だったが、教員が話し出した途端静まり返る。その様を例えるなら、上官の命令に忠実な兵士、だろうか。

 

 

「織斑。同じ男子だ。二人の面倒を見てやれ」

 

 

そう言い残し教室を出ていく教員――――織斑千冬。

 

 

「君が織斑君? はじめまして。僕は――――」

 

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるからな」

 

 

言うと同時に走って教室を出ていく織斑。一護も異性が着替えをする場所にはいたくはないので、それについて行く。

 

 

この学園は男子生徒がいることを想定しておらず、当然男子更衣室もなかった。なので、着替える際には空き教室を使う必要があり、教員に見つからないように走って移動しなければ授業に間に合わない。

だが、女子生徒にとってそれは関係無いようで……

 

 

「転校生発見!」

 

「目標、捕捉」

 

「者ども出会え出会えい!」

 

 

ここは武家屋敷か何かか?と言いたくなるような光景が目の前で展開される。無駄に高い身体能力を駆使して、一護達を追い詰めようと動いている。

 

 

「おい織斑。更衣室ってどこだ?」

 

「え?あぁ、校舎を出て、空いてるアリーナ……今日は第二アリーナの更衣室だ」

 

「第二アリーナ……確か向こうだったな」

 

 

そういうと、近くにあった窓を開ける一護。

 

 

「……あの、何する気?」

 

「何って……飛び降りんだよ!」

 

 

織斑とシャルルの襟首を掴み、そのまま飛び降りる。着地後、二人を離し、衝撃を感じさせない動きですぐさま走り出す。

 

 

「む、無茶苦茶するなよ!!」

 

「二階から飛び降りたぐらいで文句言うなよ。それに、大分短縮出来ただろ」

 

 

着地時に完現術(フルブリング)で衝撃を和らげたとはいえ、それなしでもそこまで無茶だとは一護は思っていない。これ以上の無茶を山ほどしているのと、中学時代のチャドは自分以上にとんでもないことをしていたからだ。それと比べれば、二階から飛び降りる程度どうってことない。

 

 

「……そういう問題じゃ、無いと思う」

 

 

シャルルのツッコミも最もだが、言っても無駄である。

 

 

 

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

 

ショートカットのおかげで、難なく授業に間に合った一護達。今は、生徒の前に立つ織斑千冬の話に集中している。でないと、出席簿で頭を強く叩かれる可能性があるからだ(by織斑)。

 

 

「凰、オルコット。前へ出ろ。お前たちは専用機持ちだ、すぐに始められるだろう?」

 

 

それから始まったのは副担任である山田麻耶との二対一の模擬戦。元日本代表候補生だったらしく、量産機でありながら、専用機持ち二人を追い詰めていく。……それなら、ただの飛行で何故墜落しかけたのか。

その光景を見ながら、

 

 

(連携、全然出来てねェな。まぁ、俺も無理だろうけど)

 

 

死神代行として数々の強敵と戦ってきた一護だが、共闘というのはほとんど経験したことがない。背中合わせならば、中学時代の喧嘩等で慣れているのだが。

 

 

(それに……話を聞いた後だからか、どのISからもちゃんと霊圧を感じる)

 

 

一か月前のあの女性――――篠ノ之束の語ったことを思い起こしていた。

 

 

 

 

『ISコアにはね、私が霊力を込めてるの』

 

『だからISから霊圧を感じるのか……』

 

『そもそも、ISは宇宙での活動を目的に作られた物。でも、普通の人間が宇宙空間を生身で活動なんて到底無理。死神や虚なら可能なのかもしれないけど……。それで目を付けたのが霊力。霊力による結界を張っておけば、宇宙遊泳も可能かもしれないって』

 

『ってことは……シールドエネルギー=霊力による結界ってことか?』

 

『うん。それとね、絶対防御についても皆勘違いしてるの。確かに、搭乗者を護る機能ではあるけど、それは宇宙空間から。衝撃とかからは完全に護ってくれない。私はちゃーんと説明したんだけどな~』

 

 

一護の前で語られたのは、世界中の研究者の努力を無駄にするものだった。

研究者たちはISのコアを複製するべく日夜研究している。だが、今以上のことを知るには霊的素養が必須であり、たとえ霊力を持っていようと結界に関する知識が無ければ意味が無い。

それを事も無げに、最後には笑みを浮かべて語っている。性質が悪い。

 

 

『よく死神や(ホロウ)に狙われなかったな』

 

『その為に、全てのコアに結界を張ってあるの。一護君も近付くまで気付かなかったでしょ?』

 

『確かに……』

 

 

霊圧を遮断する結界。それにより、霊圧感知能力が低いとはいえ、ISを直接見るまで霊圧を――――それもわずかな、浮遊霊並みの霊圧しか感知出来なかった。ISに触れてようやく、内包された霊力の大きさを確認出来た。

 

一護はそれと似たものを一心が張っていたのを目にしている。なので、そういったものがあることには然して驚かないが、死神と関わりもなく、滅却師(クインシー)でもない彼女が高度な結界を張れることに驚いていた。

 

 

『ふっふっふ~。この程度、束さんにかかれば余裕なのさ!』

 

 

一護の考えていることを当てたうえで、自慢げに胸を張って言う。

 

 

(天才ってのは聞いてたけど、想像以上だな)

 

 

複雑な思いで束を見る。(初歩的なことだが)霊力の扱いを死神やその関係者に学んだ一護には到底出来ず、独学の束は高等結界を張れる。鬼道に関してはもう諦めてはいるものの、落ち込みはする。

 

 

『よかったらこれも教えてあげようか?手取り足取り』

 

『……遠慮しとく。何カ月かかるか分かんねえし』

 

 

実際に訓練すれば、ある程度習得出来るのかもしれない。一護は死神として天才の部類に入るのだから。ただし、その莫大な霊力を用いた、とてつもない大きさの結界になるだろう。

 

 

『それにしても……すっごい逞しくなったねぇ。最初に見たときはあんなに小さかったのに』

 

『いつの話をしてんだよ。って、(ちけ)ェよ!!』

 

『腕の筋肉も凄いし……。でもちーちゃん、もうちょっと細かったけど、生身じゃ一護君より力があったような……。なんでだろう?』

 

『俺に聞くな! てか離れろよ!!』

 

 

 

 

(……余計なことまで思い出したな)

 

 

上空の爆発音を聞き思考を止め、その音源を見上げる。ちょうど凰とオルコットが地面へと堕ちていくところだ。

 

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解出来ただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 

織斑千冬が纏めたところで、実践訓練は開始された。最初、男子三人のところにほぼ全員が詰め寄りそれを一喝されたり、織斑がまた騒ぎの種を作ったり等あったが、順調に授業は進んだ。

 

 

 

 

 

 

「……どういうことだ」

 

 

昼休み、一護は織斑一夏らと共に屋上にいた。

入学したばかりで当然知り合いもおらず、一人になれば確実に女子生徒に包囲されると思った一護は、一緒に昼飯を食べるという提案を受け入れた。そのあとに待っている修羅場を知らずに。

で、今篠ノ之箒が不機嫌なのは織斑に原因がある。元々二人きりで食べるつもりでいたらしいので、それ以外の面子――――特に凰とオルコットがこの場にいるのが気に喰わないらしい。

 

 

「あー……なんか邪魔みたいだし、俺らは別のとこに行くか?」

 

 

当たり障りのない言葉でこの場を離れようとする一護。女心が分かる訳ではないが、彼らの関係はすぐに察しが付いた。なので、この後に起こるであろう修羅場から事前に逃げようと考えたのだが、

 

 

「え? なんでだよ。一緒に食おうぜ!」

 

 

あろうことかその元凶であるキング・オブ・鈍感に止められた。さらに、

 

 

「それだと私たちが追い出したみたいじゃない」

 

「わたくしも、ご一緒しても構いませんわよ」

 

 

凰とオルコット、二人からも言われれば、流石に無碍には出来ない。覚悟を決めるしかなかった。

 

 

「あれ? 一護って弁当なのか?」

 

「ああ。今朝来る途中に渡されたんだよ」

 

 

渡したのは篠ノ之束。意外にも料理が得意であり、一か月の間にも度々手料理が振舞われていた。

 

 

「へぇ。ん? 今日は箒も弁当なのか?」

 

 

その言葉を発端に始まったのは弁当戦争。織斑に気に入られる為、篠ノ乃・凰・オルコットがそれぞれ牽制し合いながら自身をアピールしていた。……当の本人は全く、これっぽっちも気付いていないが。

 

 

(……織斑の性格をどうにかした方が(はえ)ェんじゃねえか?)

 

 

失礼なように感じるが、この場にいれば誰しもそう思うだろう。

 

 

 

 

その後は、一護の予想通りの展開になった。時たま『コイツは狙ってやってんのか?』と言いたくなったり、思考回路がおかしいんじゃねえかと思ったり。

そして、何故か一護自身にも被害が来た。勧められるままオルコットのサンドイッチを食べ、その結果が

 

 

「……井上と同じ味覚をした奴がもう一人とか……嘘……だろ」

 

 

ただでさえ減らされていた体力がガリガリと削られていった。

一応の補足だが、オルコットの味覚は正常である。ただ味見をせず、見た目だけを似せて作っているだけ。なので、一応食べられる物である井上のより味は悪い。見た目との差も加わり、意外とダメージは大きい。

 

 

「あら? どうかしましたの?」

 

「いや……なんでもねえ」

 

 

事実を伝えようかとも思ったが、自身が料理を出来ないことと、練習の際に味見させられる可能性を考えてやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

今日から住むことになった寮の部屋、そこに備え付けられているシャワーを浴びた一護は、ボフッとベッドに横になる。

 

 

「そういや……一人ってのは久しぶりだな」

 

 

自宅暮らしの一護は、よく妹たちが一護を訪ねて来るし、朝には一心に襲撃されることがよくある。最近では束と半同棲(本人はそう認識していないが)状態だったので、一人きりというのは意外と経験していなかった。寂しくはないが、何かが物足りない。転入初日で自分を訪ねる者がいないからか、柄にもないことを考えていた。

 

 

「らしくねえな……」

 

 

気分を変えようと立ち上がろうとしたところで、

 

 

「ホーロウ! ホーロウ!」

 

 

(ホロウ)の出現を告げる、代行証の独特の音が鳴り響く。それを聞き流しながら手に取り、胸へと当てる。魂が肉体から抜け出し、死神代行としての一護が現れる。

 

 

「さて、と……あっちか」

 

 

(ホロウ)のいる位置に大まかな見当をつけ、跳ぶ。空座町にいた時よりも霊圧探知が容易だったが、それにはこの近辺の霊子濃度と、霊の数が関係している。ただでさえ霊圧が高い者が多く霊も多い町と、霊すらもあまりいない場所では、(ホロウ)の見つけやすさも段違いだ。

 

 

 

 

「ヤラナイカ!」

 

「ふっ!」

 

青い体色をした(ホロウ)を斬魄刀・斬月の一刀で斬り伏せる。……その(ホロウ)が妙な視線を一護に送っていたのは気のせいだろう。

 

 

「この辺って(ホロウ)の数も少ねえんだな」

 

 

重霊地である空座町ならば、あと二・三体は続けて出てもおかしくは無かった。

 

 

「っと、戻るか」

 

 

近くには浮遊霊や自縛霊もおらず、一護も疲れていたので、早くベッドで横になりたかった。

 

そして、寮へと戻ってくると、自身を見つめる視線を感じる。それを辿った先には……眼鏡を掛けた蒼髪の少女が、一護を訝しげな眼でジーッと見つめていた。

 

 




本編の補足&まとめ

・ISコアについて
ISコアには霊力が籠められ、その上から霊圧遮断結界を張ってある。
シールドエネルギー=霊力で、絶対防御は宇宙空間で死なない為の措置。また、エネルギーが尽きても最低限生き残れるように、使用不可の霊力と酸素供給機能がある。
量子変換したものを内部に収め、ISへ入れられたエネルギーを霊力へと変換する。

・一護の完現術について
一護自身の完現術は銀城に盗られたが、『完現術者が死ねば、その能力者の痕跡は全て消える』ということから、一護の下に戻っているということに。
戦闘じゃ使いませんが、あれば何かと便利なので。

それおかしいだRO!というところがあれば、遠慮なく言ってください。


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3.更識簪

今回はタイトル通り簪回です。出来は自信無いですが…


転入生として男が二人、この学園へやって来た。

 

今校内はその話題で持ち切りだが、本来その少女にとっては関係無いはずだった。開発を中断されてしまった自身の専用機・打鉄弐式を一人で完成させ、自分の能力が劣っていないことを示す。その為だけに日々を過ごしていた。

故に、今も、そしてこれからも、興味を持つことも、ましてや何かしらの関係が生まれるなど、考えてもいなかった。

 

だがそれは、あろうことかその日の内にあっさりと覆された。否、関心を持たざるを得なかった。

最初は、自分と同じ霊が見える人間なのか、と少しの親近感を抱いた程度だった。感じる霊圧も高くなく、本当に霊が見えるだけなのだろうと。

それが突如、今まで感じたことも無い程の大きさに膨れ上がり、慌てて窓の外を見ると、かつて会った死神と同じ装束を着た男が今まさに跳び立って行った。気にならない訳が無い。

 

だからこそ、彼女――――更識簪は、オレンジ髪の彼の帰りを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしかしなくても……見られてる、よな?)

 

 

(ホロウ)を退治して寮に戻った一護は、自身を見上げる少女を見ながら半ば確信した結論を出す。彼女からはあまり霊圧を感じないが、視線が一護を捉えていた。

 

 

「……あなたは、人間? それとも、死神?」

 

「どっちもだ。俺は人間だけど、死神の力も持ってる、死神代行だ」

 

 

そう答えると、少女の目が疑わしそうに細められる。

 

 

「……そんなのがいるなんて、聞いてない」

 

「死神と会って話したんだろ?だったら聞いてると思ったんだけどな」

 

 

今の一護の発言は自意識過剰のようにも聞こえるが、死神の間で一護の名は有名である。反逆者・藍染惣右介を倒し、総隊長までもが掟を破ってまで力を取り戻させた人間。

死神とどこで、誰と出会ったかなど一護は知らないが、死神代行の存在すら知らせないのは少しおかしい。何かあった時に一番頼りやすい人間なのだから。

 

 

「あ……二年よりも前だったら、言わなくて当然か」

 

 

だが、二年以上前となると話は変わる。一護よりも前の死神代行――――銀城空悟は裏切ったので、味方として言うはずが無い。最も、その時の護挺十三隊ならば、おびき寄せる為の餌として使いそうだが。

 

 

「……あなたには、聞きたいことが色々ある」

 

「だろうな。ここで話すのもあれだし……俺の部屋でいいか? ルームメイトがいるとこで話す訳にはいかねえだろ」

 

「……分かった」

 

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します……」

 

 

数分経ったところで、その少女は一護の部屋へやって来た。

 

 

「おう。……って、何モジモジしてんだお前?」

 

「いや、あの……男の人の部屋に入るのって初めてだから……」

 

「……そういや、ここって女子高出身が多いんだったな」

 

 

ISのことを動かせるのは女性だけで、彼女らはこの学園に入学する前からISについて学んでいる者がほとんどだ。勉強詰め・訓練詰めだったという者も多く、異性と触れあったことがない者が大半だろう。だからこそ、織斑一夏が入学した時、皆色めきたったのだ。

 

 

「っと、自己紹介がまだだったな。黒崎一護だ」

 

「……更識簪、です」

 

「そんじゃ、更識――――」

 

「苗字は……イヤ」

 

「……なら簪。何が聞きたいんだ?」

 

「……まず、死神代行について。なんとなく予想は出来てるけど……」

 

 

聞かれると分かっていた一護は、待っている間に話すことを決めていた。国語が得意科目だと言う一護だが、他人に説明することは苦手であり、若干詰まりながら説明していく。

ただし、銀城のことは省いている。様々な想いがあったとはいえ、死神を裏切り、一護の手で殺した、なんて初対面の人間に言えることではない。

 

 

「……大体分かった。私が死神と会ったのは四年前。言われてなくて当然……」

 

「その死神ってなんて名前なんだ?」

 

 

聞いたのはただの興味本位。隊長格とはそれなりに仲が良い者が多いが、それ以外――――数名を除いた席官や平隊員の名前など、一護は当然知らない。知っている奴だったら凄い偶然だな、位に思っている。

 

 

「えっと、雛森桃っていう人だったんだけど……知ってる?」

 

「あー……いや、まあ……一応、知ってる……のか?」

 

 

その名を聞いて、尋ねたことを後悔していた。

五番隊副隊長・雛森桃。元隊長・藍染に心酔し、一時期は錯乱していたこともある。

その姿を初めて目にしたのはレプリカ・空座町での藍染との血戦時。鏡花水月の能力によって日番谷冬獅郎に刺された場面を見ている。

 

 

(どう言やいいんだよ……)

 

(ホロウ)に襲われてたところを助けられて、その時にこのお守りをもらったの」

 

 

と言って差し出されたのは、神社などで売っているようなごく普通のお守り。

だが簪曰く、『(ホロウ)の攻撃から護ってくれる』らしい。雛森は鬼道の達人なので、その程度の細工はお手の物なのだろう。

 

 

「それと一緒に霊力の押さえ方も教えてくれた。垂れ流してると(ホロウ)に狙われるから、って」

 

 

簪から感じられる霊圧が低いのはその為だった。滅却師のように戦闘手段があるのなら問題無いが、一護のように垂れ流しにしていれば(ホロウ)の格好の餌になる。

ドン・観音寺は一護と出会うまで(ホロウ)を見たことも無いと言っていたが……おそらく運がとても良かったのだろう。

 

 

「他に聞きたいことはあるか?」

 

「……私も、戦う力が欲しい」

 

「……ここに通ってるってことはお前もIS乗りを目指してんだろ? 態々危険を冒さなくても、頑張って専用機を手に入れりゃ……」

 

「……私、日本の代表候補生。専用機は……開発されるはずだったのが中止された」

 

「わ、()りぃ」

 

 

専用機のことを話した簪は目に光を宿しておらず、本能的に一護は謝ってしまった。

 

 

「黒崎君が謝る必要無い。悪いのは……倉持技研と織斑一夏だから」

 

 

自身に向けられている訳ではないのに、一護は背筋が凍るような寒気を感じた。そして思う。

 

 

(女って(こえ)ェ……)

 

 

それから簪が堰を切ったかのように愚痴を零しだす。

『姉さんは自分勝手過ぎる』『私はあの人の人形じゃない』『倉持技研には絶対に頼らない。協力するって言ったってこっちからお断り』『いつか絶対に姉さんと織斑一夏を倒す』等々。

 

 

 

 

 

 

一時間ほど喋り通して、

 

 

「……はっ! ご、ごめんね黒崎君。私……」

 

「あー……いいって別に。これでも簪より歳は上だからな。愚痴ぐらいには付き合ってやるよ。……今日はもう勘弁してほしいけどな」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

「気にすんな。で、さっきの話の続きだけど、俺には誰かを鍛えてやれるような経験も、知識も無い。だから簪の希望には応えられない。それに、やっぱり(ホロウ)とは戦うべきじゃねえ。お前は人間なんだからな」

 

「…………」

 

 

一護に拒絶されても諦められない簪。今まで、努力しても認めてもらえず、常に姉と比較されてきた簪にとって、姉には無い力というのは何としても得たい物だった。

そして、その簪の内面――――姉への劣等感を一護は見抜いていた。言ったことも事実なのだが、今の簪に何かを教えることは危険だと。

 

 

「まぁすぐに考えは変えられねえよな」

 

「……うん」

 

「今日はもう遅いし、帰って寝ろよ。ルームメイトだって心配してるだろ」

 

「……うん、分かった」

 

 

簪が部屋を出て行った後、一護はすぐにベッドに横になり、寝息を立て始めた。体力にはそれなりに自信がある一護だが、今日の出来事は体力をかなり消耗させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい一護。昼ご飯食べに行こうぜ!」

 

 

翌日の昼、織斑が爽やかな笑みを浮かべて一護を昼食に誘った。

 

 

「いいけどちょっと待ってろ。誘いたいやつがいんだ」

 

 

向かったのは一年四組の教室。

 

 

「よう、簪。昼メシ行こうぜ」

 

「……ヤダ」

 

 

チラッと織斑を一瞥した後、一護の方を向いて答えた。一護となら別に問題無いが織斑がいるなら行かない、と目で語っている。

 

 

「そう言うなよ。コイツの奢りだぜ?」

 

 

と言って指したのは織斑一夏。

 

 

「……分かった」

 

「よし。なら行くぜ」

 

 

え!? 俺の意思は無視か!? と喚いている織斑を引き摺りながら、彼らは食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

(((((ち、沈黙がツライ!!)))))

 

 

一言も発せずに黙々と食べる一護と簪に、異様な空気を感じる織斑達。

 

 

「おい織斑」

 

「な、なんだ?」

 

「なんか喋って盛り上げろ」

 

「ええっ!?」

 

 

そんな無茶な! と言いつつ必死に喋り、盛り上げようとするのは流石なのか?

 

 

「……どうして、私を誘ったの?」

 

「なんとなくだ」

 

「……私は、ご飯は一人で採りたい派なのに……」

 

「俺も高校入った頃はそうだったけどよ、皆で食うってのも悪くねえぞ」

 

「……アレがヤダ」

 

「……まぁ、若干気持ちは分かる。俺も、ああいうキラッキラした爽やか系は苦手だ。悪い奴じゃねえってのは、分かるんだけどな」

 

 

二人して目線を向けると、未だ必死に喋る織斑と、そんな織斑に苦笑を浮かべるいつもの取巻きがいる。

 

 

「黒崎君もあんな風に笑えば…………ゴメンナサイ」

 

「おい、今何を想像した……?」

 

 

簪が思い浮かべたのは、眉間に皺が寄っておらず、爽やかな笑みを浮かべている一護。

 

 

「黒崎君は眉間に皺が寄ってこそだって、改めて思った」

 

「お前……見かけによらず、結構毒吐くのな……」

 

「……そんなこと無い」

 

 

実際に一護がそんな表情をしていれば、彼を良く知る友人達はすぐさま井上を呼んで治療を施すだろう。護挺十三隊に連絡が行き、大ごとになる可能性も高い。一護もそれは自覚しているのだが、直接言われれば多少傷つく。

 

 

「昨日の話だけどよ、やっぱ俺は人に何かを教えるのは無理だ。そもそも、俺が教わったのは戦いの心構えだけだしな」

 

「……使えない」

 

「おまえ、なんか口悪くなってねえか?……修行相手なら付き合ってやるから、それで我慢してくれ」

 

 

と、昼食を採りながら談笑していると

 

 

「大ニュース!! あのドン・観音寺がこの学園に来るんだって!!」

 

「「「「な、何ィィィィィ!!!!」」」」

 

 

一人の女子生徒から齎された情報により、食堂内は一気に騒がしくなる(日本人のみ)。

 

 

「なんでもこの学園に観音寺さんの一番弟子がいるみたいで、今度の学年別トーナメントに会いに来るって!!」

 

「い、一番弟子!? 噂でいるって聞いてたけど、本当だったのか!!」

 

「やっば、サイン貰わなきゃ!!」

 

 

周りの女子生徒(日本人)と同じようにはしゃいでいる織斑と凰。近くに座っているオルコットやデュノアを含む、日本人以外は何が何だか分からずおいてけぼりをくらっている。

 

 

(観音寺ってこんなに人気あるんだな)

 

 

女尊男卑が浸透している世界で、日本限定とはいえ男でここまで人気があるのは観音寺ぐらいである。一時期よりも低迷はしたものの、冬に放送された『空座町スペシャル』で再び人気が盛り返してきた。

そして、そのおかげかどうか知らないが、空座町は霊的スポットとして有名になっている。

 

 

「……その人って確か、心霊番組をやってる人だよね。本物なの?」

 

「ああ。観音寺は純粋な霊能力者だ。死神とは関係無い、な」

 

 

滅却師(クインシー)でも完現術者(フルブリンガー)でもなく、死神に力の扱いを教わったわけでもないのに、きちんと力を扱えている稀有な存在。そして、何よりも子供達を大切にする、ヒーローと呼ぶべき人間。それがドン・観音寺だ。ただ……

 

 

「正直、メンドい。人として、年長者としては尊敬出来るんだけどな……。あと……何故か一番弟子にされてたな……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

疲れたような表情を見せる一護を見て、簪の中で観音寺に対するマイナスイメージが大きくなっていく。彼女も一護同様、心霊番組等を見てこなかったからか、観音寺の姿すら碌に見たことが無い。

 

 

「テンション上がったあいつらは鬱陶しいからな。気を付けろよ」

 

「それは十分分かってる」

 

 

一護は啓吾で、簪は幼馴染の布仏(のほとけ)本音で、いやというほど分かっていた。

 

 

「おーい一護!」

 

 

突如織斑に話しかけられたので振り返れば、

 

 

「ぼははははー!」

 

 

腕を交差させて、あの独特の笑い声を上げていた。さらに、

 

 

「ぼははははー!」

 

 

隣では凰が、恥ずかしさを見せずにやっていた。

 

 

「一護も一緒にやろうぜ!ぼははははー!」

 

「「「「ぼははははー!」」」」

 

 

織斑に合わせて食堂内にいる日本人のほとんどがやっている。篠ノ乃は恥ずかしいのかやっていない。

 

 

「ほら! ぼははははがっ!」

 

 

あまりにしつこかった為つい殴ってしまった一護。拳が顎に突き刺さり、思い切り背後に倒れる。

 

 

「やっぱ簪も見たこと無いのか? えっと、確かブラ霊」

 

「うん。本音……幼馴染とか家族は見てたけど、私は……」

 

「そうだよな」

 

((霊が見えるのに心霊番組を見るわけがない))

 

「俺は占いとか、目に見えないモンも信じなかったけど」

 

「私は、当たればラッキーって位」

 

 

お互い、霊感を持つ者とこういった会話をしたことが無かった――――石田とは度々口喧嘩をしていて、話題にならない――――ので、思いの外会話が弾む。

 

そこで、タイミング良く予鈴が鳴る。

 

 

「って!まだ食い終わってねえよ!」

 

 

会話に集中し過ぎたせいか、食べるのを忘れていた二人は、慌てて食べる。それを尻目に、皆片付け終え、各自教室へ向かっていく。

 

 

「ごちそうさん!」

 

「ごちそうさま」

 

 

食べ終わった時には、すでに周りには誰もいない。

 

 

「あと一分……!」

 

「誰も見てねえよな……?」

 

 

周りに誰もいないのを確認した一護は簪を抱え、完現術(フルブリング)を使い高速で廊下を駆け抜ける。

 

 

「よし、着いた……あ、ヤベ」

 

 

簪の教室――――四組に着いた時には、簪は気を失っていた。石田やチャドが当然のようにやっているので忘れがちだが、生身で姿が消えたかのように動けば、普通はそうなる。

 

結局、時間には間に合っていたものの、簪を保健室へ連れていった為大幅遅刻となった。




簪に新たな属性を追加してしまった……。

けど原作そのままじゃ個性が埋もれてしまうんだ! 許してくれ!


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4.Sister Complex

今回も駆け足感が強いです。


翌日

 

 

「黒崎君は鬼畜野郎。嫌がる私を無理やり連れてった」

 

 

と言って、昨日から一護の方を全く見向きもしなかった。鬼畜かはともかく、気絶させてしまったのは事実なので、一護も強く言い返せず、

 

 

「悪かったって」

 

 

ただ謝るしか出来ない。

 

 

「……そう言えば、あの時の動きって何? 周りの霊子が変動してなかったから、死神の歩法でも、ISの力でもないよね?」

 

「あー……それは……」

 

「……生徒全員に言い触らそうかな。ハッキングは得意だし」

 

「分かった! 言うから止めろ!」

 

 

一護は特別イメージを大事にしている訳ではないが、転入したばかりの今、イメージを悪くしたくは無かった。後の生活が辛くなるから。

 

 

 

 

 

 

「物に宿った魂を使役する、完現術(フルブリング)……なんで教えてくれなかったの?」

 

「言ったら教えてとか言い出すだろ? それに、気付くと思ってなかったからな」

 

 

簪に対して隠すつもりは無かったが、かといって教えるつもりもなかった。完現術(フルブリング)を使った時特有の光も、ISによるものだと白を切るつもりだった。

だがそれは、簪の霊圧知覚の高さによって断念させられた。

 

簪は代表候補生の為、ISは見慣れている。そして、その内に込められた霊圧もしっかりと記憶している。何より、ISを動かした時と先程の一護の動きでは、周囲の霊子の動きが違う。簪はそれをしっかりと見ていたのだ。

 

 

(霊圧知覚に関しちゃ石田並じゃねえか?)

 

 

霊圧知覚に関しては一護の知る中で最も優れている男を頭の片隅にちょこっとだけ浮かべながら、そう評する。少なくとも一護よりは断然上だ。

 

 

「言っとくけど、完現術(フルブリング)は生まれる前に親が(ホロウ)に襲われた奴にしか出来ない。簪には出来()ぇからな」

 

「……使えたとしても黒崎君は教えてくれないんでしょ?」

 

「まあな」

 

 

予想していたとはいえ、自身の願いを拒否する言葉を聞いた簪は頬をぷくぅっと膨らませてむくれる。

 

 

「そんな顔すんなよ」

 

「……私はそんなに子供じゃない」

 

「誰も子供だなんて言ってねえだろ。自分で言うってことは自覚が――――」

 

「子供じゃない。分かった?」

 

「……はい」

 

 

笑顔で、だが目の奥は笑っていない簪に言われ、頷く以外に選択肢は無かった。

 

 

 

 

 

 

あの後、簪の専用機開発を手伝うということが決められた。ISに関する知識は一般生徒程度にしか持っていない為最初は断ろうとしたのだが、

 

 

『力仕事とかの雑用は出来るでしょ? それに、他に頼める人はいないから』

 

 

と言われれば断れなかった。

とりあえず明日から頑張るとのことで、今日はそのまま寮の自室へと戻ると、

 

 

「遅かったわね」

 

 

簪と同色の髪をした活発そうな女性が、部屋の中にいた。

 

 

「簪ちゃんと一緒にいれて、楽しかったかしら?」

 

「…………」

 

 

一護はおもむろに携帯を取り出し、

 

 

「あ、すんません。部屋に不審者がいるんすけど」

 

「ちょっ!!」

 

 

寮長――――織斑千冬へと電話を掛けた。

 

 

「蒼い髪に紅い目、二年すね。……え? 生徒会長?」

 

「そうだ。ロシア代表にしてIS学園生徒会長、更識楯無だ」

 

 

電話で話していたはずの織斑千冬の声が背後から聞こえ、振り向く。

 

 

「お、織斑先生……」

 

 

あまりに早い登場に、楯無は顔を強張らせながらその姿を見やる。大方、来る前に退散しようと考えていたのだろう。

 

 

「更識。生徒会長とはいえ、やって良いことと悪いことがあるのは分かっているな?」

 

「は、はい!」

 

「不法侵入など以ての外だ。しかも、男の部屋に……あぁ、夜這いか」

 

「す、する訳無いでしょう!! そんなこと!!」

 

「お前の趣味にまで言及するつもりはないが、この学園にいる間は不純異性交遊は認めん。来い」

 

 

覚えてなさい! という三下のような捨て台詞を吐きながら、織斑千冬に引き摺られていく。

 

 

「……なんだったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまた翌日、整備室から帰っていると、

 

 

「簪ちゃんと、昨日の私の(かたき)ー!!」

 

 

楯無が跳び蹴りを放ってきた。それを軽く躱すと、

 

 

「ちっ。やるわね」

 

「……何がしたいんだよお前」

 

「黒崎さん。先日妹様を気絶させたことを会長はご立腹なのですよ」

 

 

楯無の対応に困っていると、楯無が跳びかかって来た方から眼鏡に三つ編みをした女性が声をかける。

 

 

「……あんたは?」

 

「失礼。三年で生徒会書記を担当している布仏(のほとけ)(うつほ)と申します」

 

 

物腰が柔らかく、その雰囲気も相まって、どこかの令嬢だとすぐに察しが付いた。

 

 

「お嬢様が失礼をして申し訳ありません。あの人、シスコンの癖に妹様と顔を合わせるのが苦手で、いつもこうして妹様の敵になるような人物を密かに襲っているんです」

 

「性質悪いな、それ」

 

「あの、(うつほ)ちゃん? あなた私の従者よね?」

 

「ええそうですよ。私は、自由奔放で、仕事を放棄して妹様のストーカーをするお嬢様の穴埋めをする、あなたの従者ですよ」

 

 

どこか棘のある言い方に楯無が縮こまっている中、一護はある死神の姿を思い浮かべていた。

 

八番隊副隊長・伊瀬七緒と、同隊隊長・享楽春水。

 

二人の関係は彼らとそっくりだった。主に仕事をサボるところとか。

 

 

「まぁ、俺が簪を気絶させちまったのは本当だしうおっ!」

 

 

顔目掛けて放たれた裏拳を、顔をのけ反らせることで躱す。

 

 

「やっぱりね! 貴方は(けだもの)じゃない!」

 

「なんでそうなんだよ!」

 

 

矢継ぎ早に繰り出される拳や蹴りを紙一重で回避していく。生身での勝負ならば楯無の方が優れているのだが、今の冷静さを欠いている楯無では、一護に一撃当てるのも難しい。

そして、

 

 

「……姉さん、何してるの?」

 

「か、簪ちゃん……?」

 

 

背後から簪が冷たい声をかける。

霊圧知覚が抜群に優れている簪は学内にいるISならば余裕で探知可能で、一護に接触した馴染みの霊圧――――楯無の専用機である『ミステリアル・レイディ』を感じた。気になって来てみると、今の……姉が一護を襲っている場面を目撃した。

 

 

「黒崎君は……問題無いよね」

 

「まぁ、一度も当たって無いからな」

 

 

一護に何もないことを確認した後、姉へと視線を移し、

 

 

「姉さん、黒崎君に何しようとしてたの?」

 

「か、簪ちゃんを傷つけた彼に裁きを……」

 

「なら次は私が姉さんに裁きを与える」

 

 

ガシッと楯無の肩を掴み、

 

 

「……前から思ってた。話しかけもしないのに私のことを影からちらちらと見てて……ちょっと鬱陶しかった」

 

「…………え? 簪ちゃん気付いて……」

 

(うつほ)さん、ちょっとコレ借りてもいいですか?」

 

「構いませんよ。存分にやってください妹様」

 

「た、助けて黒崎君!!」

 

 

容赦なく襲いそうな簪を前に、敵視していたはずの一護に助けを求める。が、

 

 

「簪、やり過ぎるなよ」

 

「ちょっ!?」

 

「うん、一応心に留めておく」

 

 

触らぬ神に祟り無し。下手に触れて自分まで巻き添えを食いたくは無かった。というより、今の簪は止められないと察していた。

 

「まずはこれ。唐辛子爆弾。ちょうど、使った時の効果を試してみたかった」

 

「そ、それって滅茶苦茶ヤバい奴じゃ……って、近づけないでやめっ……!!」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

一護の目の前には楯無だったものが横たわっている。何をしたのかは明言しないが、とりあえず外面的な傷は負っていない。

 

 

「いいのか、あれ?」

 

「いいんです。放っておけばそのうち目覚めます」

 

 

扱いの悪さに、流石に同情する一護だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日経ち、簪の機体は一応完成し、残すは武装のみとなった。それに関しては一護に出来ることは全くないので、何かあれば呼ぶということに。

 

そして今、一護はアリーナへと向かっている。最近は机で勉強漬けだったり簪の手伝い、ある面倒事の憂さ晴らしのために身体を動かしたいからだ。

 

 

「……なんであんな噂が流れてんだよ」

 

 

一護の頭痛の種は主に二つ。一つ目は更識楯無。あれ以降、度々襲撃され、その度に簪にオシオキされている。若干恍惚とした表情をしているのは見間違いだろう。

そして二つ目が、『今度の学年別トーナメントで優勝したら三人の男の内の一人と交際出来る』という噂。元々は織斑一夏だけだったのが、三人の内の誰かになったらしい。(うつほ)によると、それに関する生徒会への問い合わせが殺到していて、トーナメントの準備もしなければならない今、非常に傍迷惑だと愚痴っていた。

 

 

「やっと見つけたわ黒崎一護ォ!」

 

「またか……」

 

 

歩いていると、宿敵にかけるような声で楯無が叫ぶ。

 

 

「いえ、今回は会長のサボりではなく、れっきとした仕事です」

 

「そうよ!」

 

「仕事?」

 

「はい。といっても、私たちではなく、黒崎さん。あなたへの依頼という形ですが」

 

 

(うつほ)から言われたのは、『アリーナで起こってる諍いを止めてほしい』。それを聞いて、

 

 

「いや、あんたが止めろよ。生徒会長でロシア代表なんだろ?」

 

 

当然な疑問。楯無は国家代表なのだから、代表候補生の争いなど簡単に止められるはずだと。

 

 

「会長は貴方の実力を見たいそうです。貴方だけ、この学園に来てからまだ一度も戦ってませんから」

 

「……分かった。とりあえず止めてくりゃいいんだろ? 場所は?」

 

「第二アリーナです。……構わないのですか?」

 

 

(うつほ)も楯無も驚いたような顔で一護を見る。断られると思っていたのだろう。

 

 

「別に見られて困るようなもんじゃねえしな」

 

 

それだけ言って、一護はアリーナへと走っていく。

 

 

「……力の差を見せつけられたような感じがしますね」

 

「……そうね」

 

 

こちらのことを探ろうとしているのを分かっていながら、わざわざそれを晒しに行く馬鹿はいない。いるとしたら、本物の馬鹿か、晒したところで負けないという実力と自信を持っている者だけ。そして一護は当然後者。

一護はそれを意識していた訳ではないが、楯無らにはそう映った。

 

 

 

 

 

 

第二アリーナにて

 

 

「行くぞ……!」

 

「くっ!」

 

 

凰とオルコットを撃破したボーデヴィッヒが、今度はデュノアに襲いかかろうとした刹那、黒い機体が間に割って入る。

 

 

「お前ら、暴れ過ぎだ」

 

「……そこをどけ、黒崎一護。貴様などに用は無い」

 

「お前には無くても俺にはあんだよ。ここの生徒会長にお前ら止めるように言われてるからな」

 

「貴様が私を止める? ならばやってみろ!!」

 

 

未だ戦う気満々で向かってくるラウラを見て溜息を吐き、

 

 

「女とはあんま戦いたくねえんだけどな……」

 

 

次の瞬間、

 

 

「ガッ……!」

 

 

右拳がラウラの腹に突き刺さり、その身体を勢いよく吹き飛ばす。三度バウンドしてようやくその動きを止める。

 

 

「ば、バカな……。貴様、何故AICが効かない!?」

 

「AIC? ……あぁ、今の網みたいな奴か」

 

 

AIC……Active Inertial Cancelerの略で、慣性停止能力。エネルギーで空間に作用を与え、本来は見ることすら不可能なのだが……

 

 

「そんなに硬くねえし、力入れればすぐに破れるだろ」

 

 

一護としては、藍染戦で浦原が使った縛道の方がはるかに硬いだろうな、と見当外れなことを考えていた。

だが、ボーデヴィッヒや織斑達はそうはいかず、

 

 

「なっ……!!そ、そんなことで破れるわけがないだろう!!」

 

「俺たちがあんなに手こずったAICをあっさりと……」

 

「あっさりというより、そもそも敵じゃないって感じがするんだけど……」

 

 

余談だが、簪も少しコツを覚えれば同じことが出来る。

 

 

「話は済んだか、お前たち?」

 

「きょ、教官……!」

 

 

一護の規格外さに言葉を無くしている織斑達に、織斑千冬が声をかける。

 

 

「模擬戦をやるのは構わないが、アリーナのシールドまで破壊されては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントで付けろ。いいな?」

 

 

相手に拒否をさせない強い口調でそう言い放った後、

 

 

「それとだな……」

 

 

一護の方を向き、手に持っていたIS用近接ブレードを振り下ろす。

 

 

「ッ!!」

 

「やはり受け止めるか」

 

 

咄嗟に剣で受け止めたのを見て、口元をニヤリと歪ませる。

 

 

「私は教師だ。だからこそ、我慢をしていたのだが……やはり獲物(強敵)を前にしては、それも無理というものだ!」

 

 

楽しそうに、心の底から愉しそうに笑う織斑千冬。その姿を見た一護が思うのは、

 

 

(げ、現代版剣八!?)

 

 

十一番隊隊長・更木剣八。強敵との戦いを愉しむ姿は彼そっくりだ。

 

 

「って、あんた争いを止めに来たんじゃねえのかよ!?」

 

「争いは止まっただろう? 他の奴のは」

 

「あんたが止まってねえよ! てか、生身じゃねえか!!」

 

「あぁ、そういうことか。ふむ、ならばこうしよう。次のトーナメントの最後に戦うとしよう。シメにもいいだろうからな」

 

 

一護の意思を無視して、急遽織斑千冬との試合が決まる一護。そして、自身の思惑通りに事が運んで機嫌がいい千冬。

 

 

(は、嵌められた!?)

 

(ふふ、私が獲物を逃がすと思うか?)

 

 

そして、

 

 

「……俺、千冬姉からあんな愉しそうな笑顔向けられたことねえのに……」

 

「…………え?」

 

 

一護に嫉妬心を抱く織斑一夏。あんな笑みを向けられたくないな~、と考えていたデュノアは、彼のシスコンぶりに唖然としている。

 

 

「……私には、あんな愉しそうな顔を向けられなかったのに……」

 

「ボーデヴィッヒさんも!?」




千冬に全てもってかれた気がする。

それと、楯無ファンの方すみません。
正直に言いますが、楯無の扱いに悩んでいるので……


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5.Tag Match Tournament

皆さんお待ちかね!
今回ついに! あの男が登場します!


「お見事でした、黒崎さん」

 

「いや、一発殴っただけで言われてもな……」

 

 

騒動がひとまず落ち着き、来た道を引き返していると楯無と(うつほ)に出迎えられる。

 

 

「……未だに信じられないんだけど。ドイツのAICの完成度はかなり高いわ。あんな力技で破れるようなものじゃない。少なくとも、私には無理」

 

「織斑千冬も出来そうだけどな」

 

「一生徒の比較にブリュンヒルデ(世界最強)が出てくる時点でおかしいわよ……」

 

 

一護がやったのは至極簡単なことで、霊圧を拳に集中しただけ。AICに使われていた霊圧よりも、一護の攻撃の方が霊圧が高く、濃かった。ただそれだけである。

一護としては、霊圧等の扱いを知らないのにただの力技で破れそうな千冬の方が出鱈目だと感じている。

 

 

「だからこそ、タッグマッチで唯一の個人戦、一回戦シード扱いなのだろうけど」

 

 

織斑千冬が去り際に、

 

 

『月末のトーナメントはタッグバトルになったのだが……貴様はタッグを組むことを禁じる。でなければ勝負にならん。それと、一回戦は免除。シード扱いだ』

 

『は? そもそも、出るって言ってな……』

 

『男三人は必ず出ろと上からの命令だ。サボることも許さん』

 

 

ブレード片手に告げていた。サボりでもしたら、ブレードを手に襲いかかって来るだろう。大義名分を得た、と。

 

 

「まぁ、適当なところで負ければ……」

 

「そしたら手を抜いたなって怒るわよ、彼らが」

 

 

確かに、織斑一派とボーデヴィッヒとの諍いは一旦の終息がついた。ただし、彼らの――――正確に言うと織斑とボーデヴィッヒだけだが――――の標的が一護になっただけ。

一護の実力の一端を知っているだけに、少なくとも一般生徒に負けることはありえないと考えていることだろう。

 

 

「頑張ってください、としか言えませんね私からは。では、私達はこれで。仕事が山ほど残っているので」

 

 

 

 

 

 

楯無らと別れた一護は、運び込まれた凰とオルコットの容体を確認すべく保健室へと向かった、のだが……

 

 

「「「「黒崎君! 私とペア組んで!!」」」」

 

 

数十名の女子生徒が、一護とのタッグを組もうと詰め寄って来た。その様子はさながらホラー映画の一シーン。幼いころから霊が見える為に怪談等で怯えたことなど皆無な一護でも、流石にこの光景は恐ろしく感じた。

 

 

「いや……俺、タッグ組むなって言われてるから。悪いな」

 

「な、なんで!?」

 

「理由は織斑千冬に直接聞いてくれ。俺は言われただけだからな」

 

 

それだけ言うと、一護を囲っていた人垣はとぼとぼと去って行った。

 

 

「……何やってんだ?」

 

 

部屋に入ると、涙目の凰とオルコットが織斑を睨んでいる。

 

 

「ッ!? ……一護」

 

「えっとね、一夏が傷だらけの二人をちょんって触ったら、それが痛かったらしくて……」

 

「あー……大丈夫か?」

 

「あとで絶対ぶん殴る」

 

「同じく、ですわ」

 

 

ここまで言われれば顔を青くするはずだが、当の織斑は俯いたまま。

 

 

「……一夏?」

 

「どうしましたの?」

 

 

反応を示さない織斑を不審に思った二人が声を掛けるも、全く反応無し。すると今度は一護へ、『何かしたのか』と若干の敵意を込めて視線を送る。

 

 

「……一護……」

 

「ん?」

 

 

弁明しようとしていたところで、喋らなかった織斑が口を開く。

 

 

「お前にも、ラウラにも! 絶対に負けないからな!!」

 

 

一息で言い切って、そのまま部屋を走り去っていく。

 

 

「……何がどうなってるの?」

 

「ボーデヴィッヒさんを瞬殺した黒崎君に織斑先生が興味を持ったみたいで。その時に向けてた愉しそうな表情を、自分は向けられたことが無いって。要は嫉妬……かな」

 

 

デュノアが簡単に説明をすると、

 

 

「……え? ちょっと待って。……え?」

 

「……今何か、聞き捨てならないことを聞いたような……」

 

「あんな顔を向けられたいって、どんな神経してんだ? 織斑は」

 

「「そこじゃないから(ですわ)!!」」

 

 

 

 

 

 

これから身体を動かすという気分にもなれず、自室へ戻ろうと歩いていると、

 

 

「あ、いた」

 

 

簪が駆け寄ってくる。

 

 

「なんだよ。専用機の開発してんじゃなかったのか?」

 

「そうだったんだけど、アリーナの方で複数人とぶつかり合うのを感じたから……」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「どうかしたのかって……生身ならともかく、ISで戦ったなら心配するでしょ。ドイツの子もいたみたいだし」

 

「……よく分かるな。結構離れてるだろ?」

 

「前も言わなかった? 学園内ならIS全機を感知出来るって」

 

 

その感知能力の高さに、流石に呆れてしまう。以前は石田並と評していたが、彼よりも上なんじゃないかと評価を改める。

 

 

「それに、何でか分からないけど黒崎君の霊圧はすぐに見つけられる。顔を思い浮かべたら、パッと」

 

「お前……出鱈目だな」

 

「黒崎君に言われたくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えたトーナメント開催当日。

 

 

『スピリッツ・アー! オールウェイズ!! ウィズ!!! ィィユーー~~!!!! ボハハハハーッ!』

 

「「「「ボハハハハー!」」」」

 

 

開会式、学園長の後に出てきたドン・観音寺に会場は大いに沸く。ただし日本人のみ。

 

 

「相変わらずだな……」

 

 

アリーナの観客席からその光景を眺めながらそう呟く。

二年前と何ら変わらぬテンションにあの独特な笑い声。それに日本人生徒がほぼ応じているのだから、変わらずの人気ぶりに内心驚く。

 

 

「黒崎君はやらないの?」

 

「やらねえよ。オメーがやれ」

 

「……ヤダ」

 

 

周りが盛り上がる中、隣に座る簪はいつもと変わらぬ様子。

 

 

『見ているかね! マイ一番弟子! ユーもこっちへ来たまえ!!』

 

「呼ばれてるよ?」

 

「行くわけねえだろ、こんな大勢の前で」

 

 

霊が見えるということを何が何でも隠したいという訳ではないが、かといって知られたいという訳でもない。一人二人に知られるならまだしも、これだけの大衆の前で言い放つのは、ただ面倒事が増えるだけ。観音寺がそれを理解しているかは分からないが。

 

 

「行ってくればいいのに。きちんと撮っておくよ?」

 

「……撮ってどうすんだよ。つーか、そのたこ焼きどうしたんだ?」

 

「向こうで売ってた。銀髪に死んだ魚のような目をしてて最初はどうかなって思ったけど、『学園長に許可されてるっての。タコだって新鮮なもの使ってるし。こんな稼ぎ時に手を抜くわけねえだろ』って。食べてみたら美味しかった」

 

 

たこ焼き以外にも焼きそばやチョコバナナ、ポップコーンなんかも売られている。

 

 

「祭りかここは!?」

 

「……祭りのようなもの、じゃない? 教員にも楽しんでる人いたし」

 

 

簪の視線は、ドン・観音寺の登場で盛り上がっている観客達。例年のトーナメントならばここまでの騒ぎにはならなかったので、祭りと言っても過言ではない。

 

 

「ってことで……たこ焼き、美味しいよ?」

 

「……何でこっちに向けんだよ」

 

「え? 黒崎君にも食べてもらおうと思って。……迷惑?」

 

 

口元に差し出されるのは爪楊枝に刺さったたこ焼き。

 

 

「い、いや、迷惑ってわけじゃねえけどさ……」

 

「はい、あーん」

 

「…………」

 

 

差し出されたたこ焼きを無言で手に取り、口に入れる。

 

 

「むぅ……」

 

「お前……初めて会った時と、性格変わってねえか?」

 

「そんなことない」

 

 

訂正。簪も会場内の空気に中てられて、テンションが上がっている。ただそれが、表情として顔に現れていないだけ。

 

 

「もう一回。あーん」

 

「いや、だから……」

 

 

簪からの無言の圧力が一護を襲う。その圧力に屈し、渋々受ける。

 

 

「美味しい?」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

一年の第一回戦・織斑&デュノアVS篠ノ乃&ボーデヴィッヒが始まった。

開幕直後、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込む織斑と、それを読んで織斑の身体をAICで捕まえるボーデヴィッヒ。そこをデュノアが背後から狙い撃つことでAICは解除されるが、今度は篠ノ乃がデュノアに接近戦を挑む。

 

 

「あいつらの連携がどこまで巧くいくかが鍵か。……どうした、簪?」

 

 

試合を見ていた一護だが、簪の表情が優れないのに気付く。

 

 

「……ボーデヴィッヒさんの機体、シュヴァルツェア・レーゲンから……(ホロウ)の痕跡を感じる」

 

「!!」

 

 

言われて驚く一護。先日、僅かとはいえ相対した時には(ホロウ)の痕跡など感じなかった。だが、霊圧感知能力は簪の方が優れているので、本当のことなのだろう、と理解する。

 

 

「ここからじゃ分かんねえな……」

 

(ホロウ)に傷つけられたような感じじゃない気がする。それだったら、事前に黒崎君が気付いてるはず……気付くよね?」

 

「……多分な。霊力(チカラ)が無い奴に(ホロウ)の痕跡があれば、流石に気付く」

 

 

話を余所に試合は進む。四人の中で唯一の訓練機で参加した篠ノ乃が真っ先に落とされ、今は二対一の状況。それをものともしない実力で、デュノアを牽制しながら織斑を撃墜する。続いてデュノアを堕とそうとするも、今この時初めて使ったという瞬時加速(イグニッション・ブースト)、織斑の援護射撃、そして第二世代型最大の攻撃力を持つ六九口径パイルバンカー・灰色の鱗殻(グレー・スケール)によって、逆に追い詰められることになる。

 

 

「すげぇな。あんな風に武器を持ち替えて戦うって」

 

「死神は斬魄刀だけだもんね。というか、黒崎君はそんな器用な戦い方無理でしょ」

 

「……分かってる。分かってるけど言うなよ」

 

 

必死の形相のボーデヴィッヒとデュノアの叫びが重なる。お互いにここが――――パイルバンカーが極まるかどうかが勝敗の分かれ目だと分かっていた。そして、その軍配はデュノアに降りた。

パイルバンカーがボーデヴィッヒの腹に極まり、それが連続で撃ち出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こんな……こんなところで負けるのか、私は……。いや! 私は負けられない! 負けるわけにはいかない……!!)

 

 

戦いの為だけに生み出され、育てられ、鍛えられた、遺伝子強化体。その一人がラウラ・ボーデヴィッヒ。とある事故によってトップの座から転落し、『出来損ない』の烙印を押された。そんなラウラを救ったのが織斑千冬だった。織斑千冬に鍛えられ、再びトップの座に戻ったラウラが、織斑千冬に憧れぬはずが無かった。いや、最早崇拝に近い。強く、凛々しく、常に堂々としている。そんな織斑千冬に憧れていた。

 

だが、その凛々しい表情を崩す相手がいる。

一人は弟の織斑一夏。彼のことを話す時には、僅かだが優しい笑みを浮かべ、どこか気恥ずかしそうな表情をする。

もう一人は黒崎一護。彼には一変して凶暴な笑みを見せる。戦乙女(ヴァルキリー)というよりも狂戦士(バーサーカー)と言うべき表情を。

 

 

(あなたがそんな顔をしてはいけない。あなたは世界最強で、私の憧れなのだから!)

 

 

自身の願望を相手に押しつける、身勝手で歪んだ想い。だが、行き過ぎた崇拝が、戦いに関することだけしか教育されてこなかったことが、それが間違っているのだと気付かせない。

 

 

(敗北させると決めたのだ。奴らを、私の力で、完膚なきまでに叩き伏せると!)

 

『チカラが欲しいか……?』

 

 

歪に歪んだ想いに応えるかのように、闇の奥から声がかかる。

 

 

『ならば願え。あらゆるものを破壊する力を。本能の赴くままに』

 

(力があるのなら、それを得られるのなら、私など――――空っぽの私など何から何までくれてやる! だから、力を……比類なき最強を、唯一無二の絶対を――――私によこせ!)

 

 

Damage level……D.

Mind Condition……Uplift.

Certification……Clear.

Download……Completion.

 

《Valkyly Trace System》……boot.




前書きで煽っておいた癖に出番が少ねえじゃねえか!と憤っている方、ご安心を。
次話、もしくは次々話。きちんと出番がありますから!

次回は初の戦闘回。頑張ります。


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6.Valkylie Trace System

これが今の限界です。


「ああああああっ!!!!」

 

 

デュノアのパイルバンカーの連射によってISが強制解除される兆候を見せていたのだが、突如ボーデヴィッヒが身を裂かんばかりの絶叫を発し、同時に激しい電撃が放たれる。

 

 

電撃が放たれた後には、ISが溶け、ボーデヴィッヒの身体を飲み込んでいく。そして現れたのは、全身を黒く染めたかのような『織斑千冬』。腰には鞘に収まった日本刀を差している。だが、何よりも特徴的なのは、織斑千冬の姿をとった後に現れた、顔を覆う(ホロウ)の仮面。

 

 

「黒崎君、あれは多分VTシステム」

 

「VT?」

 

「Valkylie Trace Systemの略称で、過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステム。今はIS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用が禁止されてる物……なんだけど」

 

「あいつのISに乗せられてたってわけか……」

 

 

簪からVTのことが語られるが、今二人にとってはどうでもいいことだった。

 

 

(これは……(ホロウ)化、なのか……? 俺や平子達とはどこか違うが……)

 

(なに、アレ……。一つの器に無理やり別の霊力(チカラ)を入れ込んだみたい……)

 

 

自身も使っていた虚化(チカラ)との違和感を感じる一護と、並外れた霊圧感知能力で『アレ』の異形さを感じる簪。だが、ゆっくり考えている時間は無い。

 

 

『オオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

咆哮と共に、周囲に殺気と霊圧を振り撒く(ホロウ)化VT(仮称)。アレが動き出せば、シールドエネルギーの残りも少ないであろうデュノアも、空っぽな織斑と篠ノ乃もまとめて殺される。

 

 

「簪。あいつは俺が止める。お前はここを頼む」

 

 

険しい目つきでVTを見る一護。そして、一護が頼んだのは観客席の生徒達のこと。先程までは騒いでいたが、今の咆哮で竦み上がり、動けないでいた。

 

 

「……黒崎君?」

 

「なんだ?」

 

「ううん。……無茶しないでね」

 

「ああ。すぐに終わらせる」

 

 

 

 

 

 

「ち、千冬姉……!」

 

 

すぐに仮面に覆われてしまったが、その姿が織斑千冬だと気付かせるのはその僅かな時間で十分だった。唯一の家族であり、大切な姉。その姿を模倣されたのだと思い至った瞬間、織斑一夏の脳内は怒りだけに埋められる。

 

 

「許さねえ……! うおおおおおっ!!」

 

「待て! 一夏!!」

 

 

エネルギーが空だというのも忘れて、怒りに任せて異形の相手に突っ込んでいく。が――――

 

 

『オオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

突然の咆哮に急停止……否、身体が勝手に足を止めた。

 

 

「ぐっ……」

 

 

無理やり止まったからか、前のめりに倒れる。それと同時に、白式が光と共に消える。元々エネルギーが消えていたのだから当然のこと。そのことに、彼は気を向けられずにいる。

 

 

「な、なんだよ……これ……」

 

 

目の前の異形のことを理解した訳ではない。理解出来る訳が無い。ただ、身体の震えが止まらず、目の前の異形に恐怖を感じる。

織斑だけでは無い。近くにいる篠ノ之とデュノアも、会場にいる生徒も、来賓も、教師でさえも。皆、訳も分からぬ恐怖に支配されている。

 

そして、その反応は生物として正しい。

(ホロウ)と人間の関係は、捕食者と被捕食者。例え(ホロウ)という存在を知らずとも、生物としての本能が、その存在に恐怖を抱かぬ訳が無い。

 

そして、(ホロウ)が人間を殺すことは、なんら可笑しなことではない。

彼が怯えている間に近づき、腰に差していた刀を手に持ち、振りかぶっていた。

 

 

「……あ……」

 

 

身を護る物は何も無く、動くことさえままならない織斑一夏に迫る死。それに気付きデュノアと篠ノ之が彼の下へ駆け寄ろうとするも、それが無意味な行為だと言わんばかりに刀を振り下ろされ、

 

飛来した青白い斬撃に弾かれる。

 

 

「「「!!」」」

 

 

その攻撃に驚きつつも飛んできた方を見ると、黒いISを纏い出刃包丁を大きくしたような大刀を肩に担いだ一護の姿が。

一瞬だけ、織斑の無事を確認するように目を向けた後、

 

 

「……来いよ。俺が相手してやる」

 

『グオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

一護を"敵"だと認識したのか。先程の"挨拶"と異なり、一護という個人へ殺意を向ける。

 

そして、両者はぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

「一夏! 無事か!」

 

「あ、ああ……」

 

 

一護と異形の刃がぶつかり合う音が響く中、急いで織斑の傍へ駆け寄る篠ノ之とデュノア。

 

 

「良かった……。じゃあすぐにここから離れよう。ここにいたら巻き添えを喰らっちゃうよ」

 

「いや……俺はあいつを、ラウラをぶん殴らなきゃ気が済まねえ」

 

「なっ! 何を言ってるんだお前は!!」

 

 

恐怖によって一度は消えた怒りが、心に余裕が出来たことで再燃する。

 

 

「あいつ……千冬姉のことを真似しやがって。千冬姉の技を使ってあんなくだらないことを……!」

 

「だからと言ってどうやってあの中に飛び込むというのだ! お前の白式のエネルギーはもう空なんだぞ!」

 

「……エネルギー自体なら僕のリヴァイブから渡せば問題は無いよ。けど、渡せない」

 

「な、なんでだよ!?」

 

「一夏を死なせたくないからだよ。残ってるエネルギー全部渡しても、到底足りない。零落白夜を使うなら尚更。そんな状態であの中に入ったらどうなると思う?」

 

 

上空では、時折瞬間移動でもしたかのような動きで戦う二人。

 

 

「アレは代表候補生がどうにか出来るレベルを超えてる。一夏だって分かってるでしょ?」

 

「……くそっ!」

 

「一夏……」

 

 

デュノアに言われずとも分かっていた。自分ではあいつを殴ることすら出来ず、斬り倒されるだけだと。その事実を認められず、ただ怒りをぶつけようとしていたことを。

暗くなる織斑に声を掛けようとした篠ノ之だったが、

 

 

『落ち着くのだ! ボーイ&ガールズ!』

 

 

突如アリーナに流れた声に、動きを止める。

 

 

『こ、困ります! 関係者以外がここに入るのは……!』

 

『この非常事態(エマージェンシー)な時にそんなことを言っている場合かね! 会場には不安がっている子供達がいるのだぞ!?』

 

『そ、それはそうですけど……』

 

 

ドン・観音寺に一瞬で説き伏せられる、一年一組副担任山田真耶(22)。

 

 

『あの銀髪ガールは悪霊(バッド・スピリッツ)に取り憑かれてしまっている!』

 

『ええっ!?』

 

『だが、安心したまえ! カリスマ霊媒師であるこの私、ドン・観音寺がいるのだ! 君達のことは私が必ず護り抜くと約束しよう!!』

 

 

この事態は観音寺の手に負えるものではない。それは観音寺にも分かっている。それでも彼は子供達の笑顔を護る為ならば、勝てぬと分かっている相手にも立ち向かっていく。彼が、子供達のヒーローだから。

そして、根拠の無い言葉ではあるが、会場内の生徒から恐怖を吹き飛ばしていた。

 

 

『えっと、トーナメントは全試合中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込みます! 来賓、生徒は速やかに避難してください! アリーナの黒崎君もすぐに退いてください!』

 

 

流れたアナウンスに慌てながら、それでも悲鳴を上げず着実にアリーナの外へと出て行く生徒達。

 

 

 

 

 

 

『そこの三人、何してるの……?』

 

 

未だアリーナから逃げる素振りを見せない織斑達に、簪が開放回線(オープン・チャネル)で通信を送る。

 

 

『早くアリーナから避難してってアナウンスが流れたんだから、とっとと動いて』

 

「で、でも俺は……!」

 

『十数えて動かなかったら撃つから』

 

「ええっ!?」

 

『一、十』

 

 

ドガガッ、と手に持ったアサルトライフルで当たらないように撃つ。

 

 

「ほ、本当に撃つ奴があるか!?」

 

「しかもまだ十秒経ってないではないか!!」

 

『十秒とは言って無い。二進法での十』

 

「って! 漫才やってる暇無いでしょ!? 早く逃げるよ!」

 

 

デュノアが織斑と篠ノ之、二人の手を引いてアリーナのゲートへ向かうが、

 

 

「ちょっと待ったシャルル。更識さんはどうするんだ!?」

 

『……黒崎君に頼まれて、皆が無事逃げるまでここを護ってる』

 

 

簪の背後にはバリアーを挟んでアリーナの出入り口がある。一護が負けるとは微塵も思っていないが、相手は謎の(ホロウ)化VT。流れ弾がバリアーを貫通、避難している生徒に直撃、なんてこともあるかもしれない。そうならない為に簪がいる。

 

 

『それに、黒崎君はすぐに終わらせるって言った。だから、別に問題無い』

 

 

と言いつつ、簪は別のことを考えていた。

 

 

(きっと黒崎君は彼女……ボーデヴィッヒさんのことも助けようとしてるんだろうな)

 

 

一護と出会ってからまだ一カ月も経っていないが、一護がどういう人間なのか、簪は分かってきた。

見た目や言動から勘違いされやすいが、一護は優しい。彼は戦いを好まず、特に女性相手だと戦いを避けようとする。それでも今刃を振るうのは、一護の強い信念の為。目に映る人達を(ホロウ)から護り、(ホロウ)によって不幸になりそうな者を救う為。

 

 

 

 

『俺のお袋は(ホロウ)に殺された。だから、俺と同じ目に合わせたくねえんだ。

世界中の全ての人を護るなんて言わねえ。けど、この手が届くとこにいる人は護りてえんだ、俺は』

 

 

 

 

何故危険を冒してまで戦うのかを聞いた時、そう答えたのを簪は覚えている。だからこそ、一護がボーデヴィッヒを助けないはずが無いと。

 

 

(だけど、さっきの表情は何だったんだろう……。どこか辛そうな……)

 

 

VTを見たときに一瞬だけ見せた表情を気にしながら、上空で繰り広げられる高速戦闘を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちいっ……!」

 

 

鍔迫り合いの状態から強く弾き、お互いに数メートル後退しながら地を滑る。

 

 

(霊圧はそれほどでもねえ。こっちがISを使ってることを考えても、十分に倒せるレベルだ)

 

 

響転(ソニード)で瞬時に一護の前に現れたVTは踵落としを放つ。それを半歩下がることで躱すが、次は居合の型での一閃が抜き放たれる。

 

 

(けど、VT……織斑千冬がここまで強いとはな。偽物とはいえ、流石は世界最強ってとこか?)

 

 

刃を斬月で受け止めると同時に、VTの腹部目掛けて蹴りを放つ。が、足裏で受けられ、その反動を用いて飛び退る。

 

 

(前は剣八だって思ったけど、今のコイツはどっちかっつーと白哉だな……。戦い方が優雅……いや、型に忠実って言った方がいいか)

 

 

斬月を構えながらも、織斑千冬の剣の腕に驚く一護。剣だけでいえば、今まで戦ってきた者達の中でも上位に位置するレベルにある。強敵相手に勝ってきた一護とはいえ、その技巧の数々に苦戦していた。

 

 

「まぁ、大分慣れてきたけどな!」

 

 

背後からの一閃をしゃがんで躱し、振り向きざまに斬月を横薙ぎに振るう。

 

 

『ガアッ!?』

 

 

振り下ろされる刃に対して、カウンターで拳による突きを胸部に突きさす。

 

 

「それに、技が上手くても思考が(ホロウ)なら怖くねえ」

 

 

(ホロウ)は本能で動く。ごく稀に知的に動くのもいるが、大半が思考を捨て、ただ只管に魂魄を喰らおうとするだけ。戦闘能力もそうだが、そういった面でも破面(アランカル)とは雲泥の差がある。

 

長く、纏められた髪が尻尾のようになって頭上から襲うが、片手で掴み取り、握り潰す。

 

 

(けど、俺はこいつのことをとやかく言えねえんだよな……)

 

 

脳裏に過るのは、ウルキオラに敗れ、完全(ホロウ)化した自身の姿。自身の意思と異なる形で(ウルキオラ)を倒し、仲間(石田)にまでその力を向けた。あの時のことは、今でも一護の心の中に深い傷跡として残っている。あと一歩というところで完全(ホロウ)化が解かれたことで何とかなったが、それがあと一秒でも遅かったら仲間を消し飛ばしていたかもしれない。そうなったら、一護は立ち直れなかっただろう。

 

 

(だからこそ、こいつに誰かを傷つけさせる訳にはいかねえ……)

 

 

確かにボーデヴィッヒは織斑千冬以外をどうとも思っていないのかもしれない。そして、この先どうなるかも彼女次第だ。だが、今ここで止めなければその"未来の可能性"すら無くなる。

 

 

(織斑には(わり)ぃが、こいつは俺が止める!!)

 

 

自身の手で倒したいという気持ちは一護も理解出来た。誰にでも、汚されたくない大切なモノがあると分かっているから。

それでも織斑に譲らないのは、彼では勝てず、命を落とすから。ただの(ホロウ)とはいえ、何故かVTと融合しているアレは代表候補生を上回る戦闘能力を有しているのだから。

 

 

瞬歩と同じ感覚でVTへと接近し、斬月を振り下ろす。当然それは防がれるが、

 

 

「月牙天衝」

 

 

斬月を手で押し込むと同時に刃に月牙を纏わせる。ゼロ距離からのそれを避けられるはずもなく、

 

 

『ギ、ギギッ……』

 

 

大きく後退するも、好機を逃がさぬように追従する。

そして、迎撃の為に振るわれた刃を左手で止め、掴み、

 

 

「これで……終わりだ!!」

 

 

斬月を振るうと同時に放たれた月牙が、VTを丸ごと呑み込み、

 

 

――――ここまで、か。やはり雑魚では無理だったか。だが、次は必ず殺してやる! 待っていろ、死神!!!!

 

 

その怨嗟の声に呼応するかのように、VTは派手な音を上げて爆発した。




戦闘回と予告しながら戦闘描写が少なかったですね。

……すみません。精進します。


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7.German is reborn

遅くなってすいません!

今回は二巻の話を終わらせる為に、普段の倍近くの量になっています。
時間が無い方は一応気を付けてください。


「……う……」

 

 

顔に当たる光を感じ、目を覚ますボーデヴィッヒ。

 

 

「おお! 気が付いたかね!」

 

「……お前は……誰だ……?」

 

「私を知らないとは、無知なガールだ。テレビはあまり見ないのかね? 私こそ、世紀のカリスマ霊媒師、ドン・観音寺! よく覚えておきまえ銀髪ガール!」

 

 

いつものように、マントを翻して大仰に自身の名を言う観音寺。

 

 

「……鈍感音痴?」

 

「ノー! 鈍感音痴では無い! ドン・観音寺だ!」

 

「身体の調子はどうだ?」

 

「……教……官……?」

 

 

自身が敬愛してやまない織斑千冬の声を聞き、身体を起こそうとするが、全身に奔る痛みに顔をしかめ、その身をベッドへと沈める。

 

 

「無理をするな。無理な動きを強制させられたことと受けたダメージで、全身に筋肉疲労と打撲、あとは所々に裂傷と火傷だ。しばらくは動けないだろう」

 

「……何があったのですか?」

 

「ガールは悪霊(バッド・スピリッツ)に取り憑かれてしまったのだよ。だが安心するといい! マイ一番弟子がきちんと祓っていたからな!」

 

「……一番弟子……?」

 

 

観音寺のことなど興味が無かったボーデヴィッヒだったが、その言葉には僅かながら興味を示す。

 

 

「そう! ガールを助けたのは黒崎一護。私の一番弟子であると同時に、戦友(とも)でもあるボーイなのだよ!」

 

「……貴様が奴の師匠? ……強いようには見えないのだが……?」

 

「私はマーシャルアーツの師匠ではない! それよりも、もっと大切なもの……ヒーローとしての魂の師匠だ! 心の隙間を押し広げてそこにヒーローのヒートなソウルを埋め込んだのだよ!」

 

 

観音寺の言葉を聞いていくにつれ、ボーデヴィッヒの視線は訝しげなものを見るものへと変わっていく。

 

 

「弟子かどうかはともかく、暴走したお前のISを黒崎が止めたのは事実だ。ここまでお前を連れてきたのもな」

 

「……そうですか」

 

「何か言いたげだな」

 

「……いえ。無様に負け、ISを暴走させた私に……教官の名に泥を塗った私には……」

 

「……確かにお前は負けた。だがそれは、私の指導が間違っていたのが原因だ」

 

「なっ!?」

 

 

ボーデヴィッヒは驚きのあまり目を見開く。彼女の中で、織斑千冬とは完璧な存在。雲の上のような人であり、間違いを犯すなど考えられなかったからだ。

 

 

「そう驚いた顔をするな。今の私でさえ未だ人として未熟なのだ。間違いもするし、悩みもする。……まぁ、それを周りに見せないようにはしているがな」

 

「レディは恥ずかしがり屋なのだな!」

 

「……観音寺さん、その髭とグラサンはいらないようですね」

 

「ソ、ソーリー! 千冬嬢は立派なレディだ!」

 

「ハァ……。ドイツでの教導では私の指導力不足で、お前に力が全てだと間違った認識を与えてしまった。すまなかったな」

 

「…………」

 

「お前は私のようになりたいと思っていたようだが、それはやめておけ。私は――――」

 

「……なら、私はこれからどうすればいいのですか!? 貴方のようになりたくて! 今まで強くなってきたのに! 私は……これから、何を目指して生きればいいのですか!?」

 

「それは……」

 

 

慟哭にも似たボーデヴィッヒの叫びに、織斑千冬は答えるのに言い淀んだ。生きる目標を否定されたボーデヴィッヒの叫びは、ブリュンヒルデである彼女ですら怯ませたのだ。

 

 

「簡単なことだ、ガールよ。夢が無いのなら、探せばいい」

 

「探す……?」

 

 

だが、この男はその程度で怯む訳が無い。目の前に泣いている子供がいるというのに何を臆することがあるのか、と言うかのように。

 

 

「ガールの事情は良く知らないが、夢が無いというのなら探し出すしかあるまい! このドン・観音寺と共に世界を回れば、自ずと夢は見つかるだろう!」

 

「観音寺さん。彼女はドイツの代表候補生なので、他国に行くのは薦められませんよ?」

 

「なんと!? では、ガールとは国内だけの旅になるのか。すぐにプロデューサーへ連絡せねば!」

 

「そもそもIS学園に入った以上、長期間離れることは出来ません」

 

「では私がこの学園に――――」

 

「無理です」

 

 

真剣な話が何故漫才のようになるのだろうか……。

年上だからと一応言葉には気を付けていたが、その対応を止めようかと内心検討し始めた千冬。

 

 

「先程の続きだが……ラウラ、お前は何故私が強くなれたか分かるか?」

 

「いえ……分かりません」

 

「私は弟を、一夏を護るために強くなった。才能や指導の上手さも関係しているだろうが、根幹にあったのはその想いだ。……まぁ、私が護ったつもりなだけで、ちゃんと護れているかは分からんがな」

 

「護る……お前もそうなのか……?」

 

「そうだとも! 私は全国の子供達の笑顔を護るために、日夜悪霊と戦っているのだよ!」

 

「……なら、奴も……」

 

 

彼のことを考えだした時、タイミング良く保健室のドア(修理済み)が開き、件のオレンジ頭が入って来る。

 

 

 

 

 

 

「……!! 黒崎……一護……」

 

 

一護の姿を見たボーデヴィッヒが、驚きながらその名を口にする。

 

 

「なんだ、もう起きたのか。怪我は大丈夫なのか?」

 

「……大丈夫ではないが、数日も経てば動けるようになるらしい」

 

「そうか」

 

「一護ボーイ! 久しぶりではないか!!」

 

「……なんでアンタがここにいんだよ」

 

 

観音寺の顔を見るなり、一護は顔を顰める。あからさまに面倒臭がっている。

 

 

「観音寺さんがラウラのことを気にかけていたからな。私が付いていることを条件に見舞うことを許可している」

 

「そういうことなのだよボーイ」

 

 

嫌そうな表情をしている一護だが、観音寺ならばボーデヴィッヒを放ってはおかないと思っていた。子供達のヒーローである彼ならば。

ただし、気に掛けると言ってもIS学園(ここ)は色々と制約が多く、観音寺の頼みを拒否する可能性が高いと予想していた。それでも彼は無茶を通すだろうが、まさか織斑千冬が許可を出すとは思ってもみなかった。

 

 

「……お前は……」

 

「ん?」

 

「お前は、何故赤の他人まで救おうとする。私など見捨てておけば――――」

 

「ふんっ!」

 

「いたい!?」

 

 

ボーデヴィッヒの頭を軽く叩いた一護。力はあまり入れていないのだが、全身の傷に響いたのか涙目になっている。

 

 

「他人だとかどうでもいいんだよ。俺が助けたいと思ったから助けた。文句あるか?」

 

「……自分に対して牙を向けていた奴を?」

 

「関係ねえよ」

 

「怪我を負ってまで……」

 

 

視線は一護の、包帯が巻かれた左手に。VTの斬撃を受け止めた際に、集めた霊圧が足らずに負った傷だ。

 

 

「あぁ、これのことなら気にすんな。大した傷じゃねえからよ」

 

 

手当てをしたのは簪なのだが、その時の様子がVTと対峙した時よりも数倍怖かったというのは内緒だ。

 

 

「自分以外の誰かを護る為の力……。何故お前は戦う? 傷つくのが怖くないのか?」

 

「怖くない訳ねーだろ。出来ることなら怪我なんてしたくねえし、戦いたくねえからな。

けどそれ以上に、戦いから逃げて誰かが傷つくのを見たくねえ。俺が戦うことで護れるんなら、俺は迷い無く剣を取る」

 

「その相手が自分よりも強くてもか?」

 

「相手の強さなんて関係ねえ。ただ、"負けられない"。負けたら、俺が護りたいもんも護れねえからな。だから、俺はもう負けない」

 

 

一護の言葉に込められた意味や決意を、出会って僅かしか経っていないボーデヴィッヒでは理解出来ないだろう。だが、

 

 

(……そうか。これが、教官の言う"想い"。そして、それを貫き通す"意思"。それこそが"護る為の強さ"か。怒り……いや、嫉妬でただ暴力を振りまいているだけの私では、勝てるはずがなかった。

教官に届くどころか、黒崎一護やドン……鈍感音痴?にも、恨んでいた織斑一夏にすら負けていた。だが……不思議と悪い気はしないな)

 

 

一護の決して変わることの無い"護る"という想いに、意思に、彼女は魅了されてしまった。その感情が尊敬なのか、それとも愛なのかは、本人もまだ分からないが。

 

 

「そういえば……いいのか? 更識を放っておいて」

 

「あー……今機嫌が悪いからなぁ」

 

「刃を、ISを装着しているとはいえ素手で受け止めたのだ。そんな無茶をして平然としているお前に対して不機嫌になるのも当然だ。

それと、分かっているなら会いに行ったらどうだ? 放っておくと手が付けられなくなるぞ」

 

「……そうだな」

 

 

普段楯無に対して行われているオシオキが自身にも向けられることを考え、表情を暗くする。一護には楯無のように虐められて悦ぶ趣味は無いのだから。

 

 

「黒崎一護」

 

「ん?」

 

「お前は……何とも思わないのか? 私は奴らを甚振り、傷つけたんだぞ? それを……」

 

「お前があの時のままだったら許されないだろうな。けど、お前は変わろうとしてんだ。他はどうか知らねえが、俺はそんなお前にどうこう言わねえよ。ま、織斑達には謝らねえと駄目だけどな。

だから、とっとと怪我治せよ? 少なくとも、俺はお前が来るのを待ってるからよ」

 

 

それだけ言うと一護は部屋を出て行った。

 

 

「私は……やり直してもいいのだろうか」

 

「もちろんだ。間違いを犯したからと言って、前へ進んではいけない道理など無い。特にガールのような年の子は、失敗からも学び、成長していくものだ。この失敗を糧に、ビューティフルなレディを目指すのだ!」

 

「……観音寺さん。あなたもそろそろ……」

 

「オーケーだ。ガールよ、何か困ったことがあったらすぐに私に連絡するのだ。このヒーローたる私が、出来る限り力になると約束しよう!!」

 

「あ、ああ」

 

「ではさらばだ!」

 

 

マントを大仰に翻しながら、観音寺は去っていく。その様に呆れながら織斑千冬は後ろを歩く。

 

 

「……この学園に来たのは正解だったな……」

 

 

誰もいなくなった医務室で小さく呟くボーデヴィッヒは、何かを決意したかのように真剣な眼差しをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室を出た一護は、霊絡を辿って簪を見つけ、そのまま食堂へ来たのだが……

 

 

「黒崎君! あんな得体の知れない相手に一人で立ち向かってて、格好良かったよ!」

 

 

生徒とすれ違う度に、ほぼ同じようなことを言われる。それに対して一護は曖昧に返事を返すほかなかった。

 

 

(戦いの後に褒められたり、感謝されるってのも、妙な気分だな)

 

 

褒められたり感謝されて、悪い気はしない。ただ、こうも多くの人からされれば、戸惑ってしまうのも無理は無い。普段からヤンキー扱いを受け、好意的な視線を向けられることの方が珍しい――二年前と比べれば大分マシになっているが――位なのだから、尚更だ。

 

 

「…………」

 

 

そして、一護を悩ませる一番の問題は、隣にいる簪。先程からずっと機嫌が悪く、今も『自分、不機嫌です』と言い表せる表情をしている。

 

 

(どうすっかなぁ……)

 

 

他の仲間達ならば、無茶したことを怒鳴ったり、心配したり、あるいは共に闘えなかったことを悔やんだり。少なくとも言葉として一護にぶつける者が多く、簪のように怒っているのにそれを吐き出さないタイプは初めてで、一護もどうすればいいのか分からずにいた。

そして、

 

 

(どうしよう……。謝るタイミング逃しちゃった。さっきはつい怒っちゃったけど、私が言ったところで黒崎君が変わる訳無い・って分かってたはずなのに……。あと、この表情してるの疲れてきた)

 

 

簪自身もこの状況に頭を悩ませていた。

もっとも、二人が今思っていることを口にすれば、自ずと状況は良くなるのだが……

 

 

「一護……」

 

 

この場に更なる爆弾が追加された。以前の一件で(一方的に)一護のことをライバル視している織斑一夏が、シャルル・デュノアを連れて食堂へやって来たのだ。

 

 

「織斑か」

 

「一護があのドン・観音寺の弟子だったなんてな。何で言ってくれなかったんだよ?」

 

「…………は?」

 

 

予想外な言葉に、一護の思考が止まる。何故、そんな言葉が出て来るのかと。

 

 

「え! 黒崎君がドン・観音寺の弟子!?」

 

「じゃ、じゃあ、幽霊見えるの!?」

 

 

彼の一言を皮切りに、食堂が騒がしくなっていく。騒いでいるのはやはり日本人ばかりなのだが、今回はそれ以外の留学生も話に乗って来ている。アリーナでの騒動を切っ掛けに、ファンになった者が多いからだ。

 

 

「……何でこの学園はこんなに観音寺の支持者が多いんだよ」

 

「……私に聞かれても困る」

 

 

 

 

 

 

食堂で騒ぎ過ぎた生徒達は皆、織斑千冬によって鎮圧された。そして、その騒ぎによって一護と簪の間に漂っていた重い空気は有耶無耶になった。

 

 

「悪かったな。お前はただ心配してくれただけなのによ。けど、俺は――――」

 

「言わなくても分かってるよ。黒崎君は無茶をしてでも誰かを護ろうとするんだって。そして、周りが何を言っても変わらないって。

分かってたはずなのに……黒崎君が怪我してるのを見たら、怒りが湧いて来て。止めなきゃって思ってたのに、溢れ出る感情が止まらなくて……」

 

「……そうか。心配掛けて悪かったな」

 

「……うん」

 

 

自身の感情を持て余していることを悟り、一言告げる。

その言葉はその場凌ぎに過ぎない。そう遠くない未来で起こるであろう敵との戦いで、一護は絶対に無茶をし、大きな怪我を負うだろう。簪だけでなく、多くの者にも心配を掛けるだろう。それでも、目の前の少女を安心させる為に、言うしかなかった。

 

 

「そういや、俺がVT(アレ)と戦ってる時、何か感じたか?」

 

「ううん。戦う前と何も変化無し」

 

 

簪曰く、最初は触れた程度の名残。それが、VTシステム発動と同時に(ホロウ)の存在を感じ取れるまでになった。それは――――

 

 

「本当に"いきなり現れた"みたいだった。遠くからだったけど、周囲の霊子も変化してなかったみたい」

 

「そもそも、俺が知ってる(ホロウ)化とは違ったな。俺らのは魂の内側まで浸食されてるけど、アレは表面()()って感じだ」

 

 

二人して思考を巡らせるも、当然ながら回答となりうるものは浮かばない。

 

 

「……今ここで考え込んでも仕方ねえか。これ以上考えたって何か浮かぶ訳でもねえし」

 

 

浦原喜助にはすでに連絡を入れていた。本当ならすぐにでも会って相談したいのだが、休日でもないのにIS学園から出るのは難しい。……まぁ、浦原ならば気付かれずにこの部屋に来ることも容易なのだが。

 

 

「うん。じゃあ私は部屋に戻るね」

 

「あ、ちょっと待て。今大浴場に誰かいるか?」

 

「え? ……今いるのは二人。織斑君とデュノア()()

 

「簪も気付いてたのか」

 

「私だけじゃ無いと思うよ。さっき食堂にいた人なら、違和感持った人が多いと思う」

 

 

暗部の家系である簪だけでなく、一般生徒にも分かった理由。それは……

 

 

「織斑君に向けてた表情が、何て言うか……"恋する乙女"って感じがして」

 

「……あいつ、隠す気あったのか? バレバレじゃねえか」

 

 

もっとも、他の生徒からは『女じゃね?』と疑う程度であり、他にも『デュノア君はソッチの気が……』『もう少し早かったら織斑×デュノアで夏コミに出したのに!!』等々。

 

 

「黒崎君は何で気付いたの?」

 

「気付いたっつーか、始めて見た時"俺と同じ男子生徒"じゃなくて、"男子用の制服を着てる女子生徒"って思ってたからな。隣にボーデヴィッヒもいたし。で、仕種とか見てても女にしか見えなかった、ってとこだな」

 

「なるほど。……あれ? 確か、織斑君と同室だったよね? 知らないってことは……」

 

 

一般生徒にもほぼ気付かれているのに、同室の織斑に気付かれていないとは考えにくい。そこまで至って、

 

 

「まぁ、私には関係無いか」

 

 

すぐにその思考を捨てた。簪にとっては知ったこっちゃないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、生徒会室にて

 

 

(黒崎一護。彼は何者なの? 調べてみてもちょっと、いや、かなり喧嘩が強いみたいだけど、それ以外は至って普通の高校生。なのに、ISに触れてから一カ月程ですでに国家代表レベルの実力。才能、という言葉だけでは片づけられないわ)

 

 

楯無は一護のことを疑惑の目で見ていた。彼女は、一護が一カ月程篠ノ乃束の下にいたということも、死神のことも知らない。なので、一護の強さに疑問を持つのは当然なのだが。

 

 

(おまけに、簪ちゃんとあんなに仲良くなってるし!)

 

 

今までいいとこ無しだが、これでも現更識家当主であり、IS学園生徒会長である。

 

 

「会長。考え込んでないで、早くこの書類に目を通してください。今回のトーナメントに関するものが山ほどあるんですから」

 

「…………ねえ(うつほ)ちゃん。黒崎君のこと、どう思う?」

 

「一護さんのこと、ですか? ……そうですね。言動はぶっきらぼうですが、言葉の節々に優しさが見え隠れしている。芯が強く、優しい人、ですかね」

 

「へ、へぇ~ (え? 何この反応。顔赤らめて、めっちゃ『私、恋してます』みたいなんだけど。しかも、いつの間にか名前呼びになってるし。ていうかいつ落とした黒崎一護ォ!!)」

 

 

予想外な(うつほ)の返答に、平常を装いながらも内心では動揺を隠せない楯無。この場にいない一護へ怒りの矛先を向けるも、

 

 

 

 

 

 

『黒崎一護のことを知りたいなら、空座町のことを調べてみな』

 

 

 

 

 

 

突如扉の向こうから聞こえた声に、頭が急速に冷えていく。それと同時に、今の声の主を捕らえようと動く。だが、

 

 

「……誰もいない?」

 

 

楯無が廊下に出た時には人影は一つも無かった。ただ一つ、緑色の小さな光が消えていくのが、楯無の目に映るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、皆さん、おはようございます……」

 

 

翌日のHR、教室に入って来た山田真耶はふらふらしていて、誰の目から見ても"疲れている"という外無い。

 

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

 

歯切れが悪い山田の言葉を反芻し、クラス中がどよめく。一護達三人が来て一月も経っていないというのに転校生が新たに来るというのだから、その反応も当然だ。が、

 

 

「その前に、ちょっといいだろうか」

 

 

どよめきの中、少しばかり遅れてきたボーデヴィッヒが声を上げ、教室の前に立つ。

 

 

「これまでの、皆に対して悪い態度を取っていたことを謝ろうと思う。すまなかった!」

 

 

傲岸不遜を絵に描いたような態度だったボーデヴィッヒが上半身を90度曲げて謝る姿に、クラスの皆は呆気にとられた。

 

 

「私は産まれてからずっと軍で生きてきた。教えられたのは戦う技術ばかり。だから、これからも皆に迷惑を掛けると思う。それでも、私は皆と仲良くしていきたい。……駄目だろうか?」

 

 

不安げな表情で一同を見るボーデヴィッヒ。その不安に揺れている目も相まって、

 

 

((((こんな可愛い子からのお願いを無視出来る奴は人間じゃない!!))))

 

 

一年一組(一部除く)の心が一つになった瞬間だった。あのキング・オブ・鈍感こと織斑一夏ですら一瞬ときめいていた。

 

 

「全然駄目じゃないよ!」

 

「うん! よろしくね、ラウラちゃん!」

 

「同じロリキャラとして仲良くしようねラウラちゃん!」

 

 

クラスメイト(山田含む)のテンションが上がる中、ボーデヴィッヒは一護の下へ近づき、

 

 

「兄様! 先程の挨拶は如何でしたか?」

 

「………………は?」

 

 

淀みなく言われたボーデヴィッヒのある言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。そして、

 

 

「「「「兄様!?」」」」

 

 

クラス中が別の意味で騒然とした。

 

 

「黒崎君それどういうこと!?」

 

「俺が知るか!! ボーデヴィッヒ、説明しろ!!」

 

「うむ。あの後、どう接すればいいか悩んだ末に"あの男"に連絡したのだ。そしたら、

『何も迷うことは無い。ただ、自分の本心を語れば、皆分かってくれるはずだ。それか、一護ボーイを頼るといい。彼にはキュートな妹がいるから、ガールが困っていれば手を貸してくれるはずだ!』と。

それを聞いて、かつて副官が『日本では、頼りになる男性を兄として慕うという風習がある』と言っていたのを思い出したのだ」

 

「その副官は何嘘を教えてんだよ!!」

 

 

観音寺のことはまだ許せる。言われずとも一護なら助けただろうから。尤も、それを人に言われるのは癪に障るが。

それよりも、間違った日本の風習を教えているボーデヴィッヒの副官の方が問題だ。

 

 

(一般常識が足りないボーデヴィッヒに間違ったことを教えるとか、面倒事が起こる未来しか見えねえ)

 

「なに? クラリッサが言っていた事は間違っているのか?」

 

「ああそうだ。そんな風習、あるわけねえだろ」

 

「むぅ……。だが、私個人としても兄様の妹になりたいのだが……」

 

「無理に決まって……」

 

 

彼女の願いを断ったところ、

 

 

「黒崎君! ラウラちゃんの願いを断るなんて、男としてどうなの!?」

 

「なってあげなよ! お兄さんに!」

 

「こんなに可愛い妹が増えるんだから、むしろ役得でしょう!?」

 

「ついでにリコリンもげふっ」

 

「妹キャラを手に入れれば、私も脱無個性? (理子、黒崎君に無理を言っちゃ駄目よ)」

 

「さゆか、逆になってるよ。というか、なに平然とクラスメイトを気絶させてるの!?」

 

「何故? それは理子だから」

 

「理不尽過ぎるよ……(絶対に無個性じゃないと思うのは私だけ?)」

 

 

一護を非難する者、便乗しようとする者、天に召される者、ツッコミを入れる者。収拾がつかなくなっていた。

そして、唯一この騒ぎを収められるであろう織斑千冬は

 

 

「ボーデヴィッヒさん、随分変わりましたね」

 

「ああ。これもあの人……観音寺さんのおかげだ。あの人は我々よりもずっと"大人"だった」

 

「凄いですねぇ~」

 

 

山田と呑気に談話していた。

 

 

「っておい! あんたらちゃんと仕事しろよ!!」

 

 

一護が怒る。皆は当然分からないが、

 

 

 

 

(何でか分からないけど……今無性に腹が立つ)

 

「あ、あの……更識さん?」

 

「……なに?」

 

「いえ! 何でも無いです!」

 

 

 

 

四組の簪から怒りと共に霊圧をめっちゃ飛ばされており、その原因と思われるこの状況をどうにかしたかった。

 

 

「む? そうだな。ほらお前達、静かにしろ。黒崎の妹になりたいというなら、それらしく振舞っていろ。そうすれば、奴は認めるはずだ」

 

「テメッ、何言って……ッ!?」

 

「静かにしろと言ったはずだ」

 

 

反論してきた一護の額にスクリューチョーク投げを命中させ、黙らせる。

 

 

「山田君」

 

「はい。じゃあ入ってください」

 

「…………ようやくですか」

 

 

やさぐれた感のするデュノアが教室へと入って来る。女子の制服で。

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 

ぺこり、とスカートを履いたデュノアがお辞儀をする。それを見た反応は

 

 

「あ~……やっぱりそうだったんだ」

 

「なん……だと!? これじゃあ『織斑×デュノア本』が書けないじゃない!!」

 

「…………男の格好してた時は全く無かったのに、何で今はそれなりに大きいの? ねえ、何で?」

 

「なんか僕の予想してた反応と全然違うんだけど!? あと、夜竹さん怖いよ!! ハイライトさんちゃんと仕事して!!」

 

 

まぁ、半分以上が疑っていたのだから(一部は知った上で男であることを望んでいた)、この反応も当然である。

 

 

「という訳で、デュノア君はデュノアさんになりました。皆さん仲良くしてあげてくださいね?」

 

「「「「はーい!」」」」

 

「ちょっと待って! 今の言い方だと、僕が男から女になったみたいじゃないか! 僕は元々女だよ!!」

 

 

そして、全く気付いていなかった者達は

 

 

「一夏! どういうことか説明しろ!」

 

「そうですわ!」

 

「一夏ァ! きちんと説明しなさいよ!」

 

「鈴!? 何で一組にいるんだよ!?」

 

 

予定調和のごとく織斑一夏へと詰め寄る。

 

 

一護達が来てからは常に緊張状態が続いていた一組だが、その元凶であるボーデヴィッヒが激変したことで、教室の空気は大きく変わった。

腫れ物のように扱われていた彼女だが、これからはクラスの皆から愛されるだろう。

 

 

「ちょっ、まっ、ギャアアアアア!!!」

 

 

また一人、天に召された者がいるが、なに、気にすることは無い。

 

 




以前ヒロインのことを感想で聞かれた際はまだ未定だったんですが、簪がヒロインになりそうです。一護の性格上二股以上のハーレムはありえないですし、書いている内にこの二人お似合いだなと。
それなのに、虚他数名にフラグが建っているという……


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8.Day in the Karakuracho

小説書くのって難しいですね。

今回の話は二巻と三巻の間、閑話みたいなものです。



「簪。準備出来たのか?」

 

「うん」

 

 

中止となった学年別トーナメントから数日後。データ取りの為に行われた試合は何事も無く終わり、学園内の空気は日常へと戻っていった。

そして、あのクラスの皆の前で謝った日から、ラウラは目に見えて表情が柔らかくなった。初めは一護の後ろに隠れてばかりだったが、その一護に促されて少しずつクラスメイトとも話すようになった。コミュニケーションに四苦八苦している様子は見ている者皆をほっこりさせ、あっという間にクラスの中心(マスコット)になったのは言うまでもない。もっとも……

 

 

「兄様! 私も――」

 

「駄目よラウラ。お兄様に迷惑掛けちゃ」

 

「……そもそも、俺はお前らの兄貴じゃねえよ」

 

 

一護の後に付いて回っている方が多く、ラウラを切っ掛けに一護の妹を自称する者が増えたのだが。

 

 

「(今日はきっとお兄様にとっても大事な日。私達が邪魔をしてはいけません)」

 

「(な、なるほど)」

 

「(それに、小さな気配りが出来てこそ、良い妹なんですよ?)」

 

「(そ、そうなのか)」

 

「お前、また変なこと教えてるだろ」

 

「まさか。お兄様の不利益になるようなことを私が教えるはずがありませんよ」

 

 

こちら、夜竹さゆか嬢。容姿が似ている(低身長、長髪、ぺったんこ)ことからラウラと特に仲が良いのだが、無知なラウラにあること無いこと教え込んでいる困った子である。まぁ、あながち間違っていないのが救いか。

 

 

「かんちゃ~ん、お土産よろしく~」

 

「別に遊びに行くわけじゃないんだけど……」

 

 

簪と話しているのは布仏本音。(うつほ)の妹であり、簪の親友兼付き人の少女でもある。のだが……常にのんびりとしており、とてもじゃないが暗部の人間だとは思えない。

 

 

「簪ちゃん! 無闇に付いて行くのは危険よ! もっと情報を集めてから――」

 

「ていっ♪」

 

「ごはぁっ!」

 

(妹に足蹴にされる学園最強って一体……)

 

 

本音の目の前で妹に踏まれて悦んでいるように見える楯無も暗部の、それも当主だとは思えないが。

 

 

「黒崎君、行こう?」

 

「お、おう」

 

 

 

 

 

 

IS学園を出発した一護と簪を後から追う影が二つ。

 

 

「……行きましたね?」

 

「はい」

 

 

(うつほ)と、新聞部副部長・黛薫子である。何故二人がつけているのか。それは……

 

 

 

 

「簪ちゃんが黒崎君と出かけるらしいわ」

 

「……はぁ。それが?」

 

「つけるわよ。彼のことは色々と分からないことが多いから、少しでも情報を集めたいの。それに、簪ちゃんが知らない場所で酷いことされるかも――」

 

「彼はそんなことしません。いいですね?」

 

「は、はいぃ!」

 

 

更識楯無、従者に怯え屈する(学園内名物)。

 

 

「ですが、一護さんのことをよく知るというのはいいかもしれませんね」

 

「で、でしょう? だから今すぐ――」

 

「薫子を連れて行ってきます」

 

「って、何で私じゃないのよ!?」

 

「会長だとすぐに妹様にバレますので」

 

 

楯無の隠密行動も決して下手では無い。ただ相手が悪い。飛び抜けた霊圧感知能力を持つ簪には、一護にちょっかいを出そうとしている楯無のことなど手に取るように分かり、その場でオシオキするのは最早日常茶飯事である。霊圧云々を知らない楯無は『簪ちゃんと以心伝心なのね!』と勘違いしてるのだが。

 

 

「では、本日は私が一護さんの後を追い、会長が書類を片付ける、ということで」

 

「……どさくさに紛れて仕事押し付けて無い?」

 

「これは元々会長の仕事です。ここ最近仕事をサボりがちな会長のフォローを誰がしてると思ってるんですか?」

 

 

 

 

というやり取りが今朝、行われていた為である。

そしてこれは余談だが、(うつほ)は事務処理に関して妹の本音を戦力として数えていない。彼女が生徒会に所属している意味とは一体……

 

 

(ていうか、何で私が連れてかれるんだろう……。いや、新聞のネタが手に入るのはありがたいんだけど)

 

 

言葉に出さずに内心呟く黛。清く正しい新聞記者を自称する彼女としては、自らの足で情報を手に入れるのは良いことなのだが、

 

 

(当日の早朝にいきなり呼び出すのはどうなの? まぁ、付いて行くけど。逆らうと後で怖いし……)

 

「……薫子さん? 今私のことを怖いとか思ってませんか?」

 

「い、いえ! そのようなことを思うはずがございません! (怖っ! 心読まれた!?)」

 

「……そんなに怯えられると、結構傷付くんですが……」

 

「まっさかぁ! (うつほ)さんがそんな繊細な訳……ごめんなさいごめんなさいつい本音がだからオシオキは勘弁してください(うつほ)様!!」

 

 

追跡中ということも忘れ叫び声を上げる薫子へ容赦なく振り下ろされる手刀。

 

 

 

 

 

 

「ん? 今叫び声が聞こえなかったか?」

 

「私は聞こえなかったけど……。姉さんが(うつほ)さんにお仕置きでもされたんじゃない?」

 

「前から思ってたけどよ、もう少し優しくしてやれよ。そのうちやさぐれるぞ、あいつ」

 

「もしそんな態度を見せたとしても、『構って!』って言ってるようにしか見えない」

 

(扱いが不憫過ぎる……)

 

 

同じ妹がいる者として、楯無に同情する一護。半分は自業自得だと思っているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車を乗り継いで約一時間、ようやく空座町へと着いた二人は、今日の目的地である浦原商店を目指して歩いているのだが……。

 

 

「あいつらも暇だな……」

 

「いつまでついて来るんだろう。あんなバレバレな尾行で」

 

 

背後にいる五人組――織斑、篠ノ之、凰、オルコット、デュノアへと意識を向ける。

 

 

「俺でも分かったぞ。霊圧関係無く」

 

「黒崎君、霊圧じゃ察知出来ないでしょ」

 

「いや、まぁ……そうなんだけどよ。今言うなよ」

 

 

五人がバレバレな尾行をしている訳だが、

 

 

 

織斑「一護は用があるとかで、更識さんと出掛けるらしい」

   ↓

凰「そういえばあの二人ってよく一緒にいるわよね」

   ↓

「「「「よし、行こう!」」」」(織斑を引っ張りながら)

 

 

 

要するに、出歯亀である。

 

 

「てか、リアクションが大きすぎんだよ。あれじゃ『気付いてくれ』って言ってるようなもんじゃねえか」

 

「……尾行中にどうかと思うけど、反応が大きくなるのも仕方ないとは思う。アレは流石に……」

 

 

簪の言う"アレ"とは、地面や塀に頭から減り込んでいるヤンキーのこと。地元民にとっては割と見慣れた光景(およそ週五の頻度)となった。

 

 

「まぁ、黒崎君が育った町だもんね」

 

「おい。それで納得すんなよ」

 

 

更に文句を言おうとしたところで、一護の横を、鬱陶しいまでに長い黒髪をたなびかせながら男が走る。それを追うように、

 

 

「待ちやがれ! 桂ァ!!」

 

 

薄茶色の髪をした少年が叫びながら走る。

 

 

「待てと言われて素直に待つ者がいるか! それと、今日は桂じゃない! 草冠(くさか)と呼べ!」

 

「くたばれェェェェ!!」

 

 

額に青筋を浮かべながら、手に持ったバズーカを向け、放つ。

 

 

「「……え?」」

 

 

放たれたそれは一直線に男が逃げている方へと向かい、派手な音を上げながら爆発すると共に、爆風が吹き荒れる。

 

 

「……なにこれ」

 

「……俺が知るか」

 

 

白い粉が飛び散る様を眺めながら、二人は力無く呟いた。

ちなみに、白い粉とはハッ○ーターンの粉であり、人体に悪影響のある物ではない。

そして、何人かの悲鳴が聞こえてもそれは気のせいだ。

 

 

 

 

 

 

「いや~、お久しぶりっス。黒崎サン」

 

 

多少のトラブルはあったものの、浦原商店に着いた二人を出迎えたのは、相も変わらず気の抜けた挨拶をする浦原喜助。

 

 

「それと、そちらのお嬢さんが黒崎サンが言っていた――」

 

「えっと、更識簪、です。はじめまして」

 

 

腰が引けながら挨拶をする簪。普段の様子とは随分と違うが、簪は元々気弱で人と話すのが苦手だ。特に、話す機会があまり無かった男性が相手だと今でも委縮してしまう。

 

 

「こりゃご丁寧にどうも。アタシは浦原喜助。しがない駄菓子屋の店主っス」

 

 

浦原の後に続けて

 

 

「井上織姫って言います! よろしくね簪ちゃん!」

 

「石田雨竜。滅却師(クインシー)だ。よろしく」

 

「……茶渡泰虎だ」

 

 

井上らいつもの面々が挨拶を終えると、

 

 

「それじゃ、本題に入りましょうか。黒崎サン、詳しく話して頂けますか?」

 

「ああ」

 

 

VTのことや、その時感じた霊圧等を、ISに記録してある映像を見せながら話す。

 

 

「ふむ。そのVTが発動したと同時に、(ホロウ)の力と仮面が現れた、と」

 

「ああ。簪が言うには機体に(ホロウ)の残り香を感じた、って」

 

「……ふむ」

 

 

浦原は暫くの間顎に手を当てて考え込み、

 

 

「可能性としては二つほどあります。まず一つ目が、予め(ホロウ)の力を内蔵しておくこと。単純な方法ですが、これが最も簡単な方法でしょう。ですが、直前まで力を感じなかったんスよね?」

 

「ああ。これの前に直接対峙したけど、その時には(ホロウ)の力は全く感じなかった。トーナメントまでに(ホロウ)の力を入れたってのも、無理だと思う。簪が気付くだろうしな」

 

「となると、二つ目。『神降ろし』と呼ばれるものでしょう」

 

「……神降ろし?」

 

 

 

『神降ろし』、もしくは『口寄せ』と呼ばれるそれは、霊体を自らの体に乗り移らせ、言葉を語らせる降霊術の一種。テレビでも扱われることもあり――本物かどうかは定かではないが――その名は知らずとも説明されれば分かるという日本人は数多くいるだろう。

 

 

 

「てことは……」

 

「はい。(ホロウ)も浮遊霊等と同じく霊体ですから、可能ではあるでしょう。事前にマーキングでもしておけば、特定の物に降ろすことも出来るはず。非常に珍しい事例っスけどね。

が、そうだと仮定すると、ある事実が出てくるんス」

 

「……ドイツ軍に霊力(ちから)を持った奴、もしくはその協力者がいる」

 

「そういうことっス」

 

 

浦原の見解を聞き終わると、一護は溜め息を吐き

 

 

「また面倒そうな奴と戦うことになるのか……」

 

「そんなこと、IS学園に行くって時点で分かりきってたことじゃないっスか♪」

 

「そもそも、君がトラブルに巻き込まれるのはいつものことだろう。僕としては黒崎が機械を普通に使っていることの方が驚きだ」

 

「……確かに」

 

「黒崎くんって機械オンチっぽそうだもんね」

 

 

井上の言葉に頷く石田とチャドを見て

 

 

「お前らに言われたくはねェよ」

 

 

三人の言う通り一護は機械類に疎かった。だがそれは井上らにも言えることである。

そして、その一護が一ヶ月でISの専門知識まで叩き込まれたのだから、あの勉強会の壮絶さが理解出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

「黒崎、この後はどうするんだ?」

 

「そりゃ、遊子達に会いに行くさ。あんま長居は出来ねえけど」

 

「そうなの?」

 

「ああ。安全確保がどうたらこうたらで、五時までには戻れ、だとよ」

 

「まぁ、IS学園という場所を考えれば、それも当然か」

 

「大変だね」

 

 

一護が石田達と話している傍ら、

 

 

「更識サン。何か入り用な物があったら遠慮なく言ってください」

 

「は、はい」

 

「お主、気を付けろよ。こ奴はスケベなエロ店主じゃからの」

 

「いやいや、何言ってるんスか夜一さん! アタシは年下の女子高生に手は出さないっスよ!?」

 

「どうじゃかのう……。と、こ奴の性癖は置いといて、お主に少し言っておくことがあっての――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦原商店を後にした二人は一護の家へ向かうついでに他の友人に会おうとしたのだが、

 

 

たつき…空手道場でのバイト

 

ケイゴ…アイドルのコンサート

 

水色…会いはしたが、『一護がIS学園で女の子をゲットした』という誤情報を拡散される

 

 

と、碌に会えず、ようやく着いた自宅では

 

 

「ついに一兄にも彼女か……」

 

「お兄ちゃんの妹の遊子って言います。えっと、今後ともよろしくお願いします!」

 

「母さん! もうじき孫が見れるかもしれないよ!」

 

 

などと見当違いな言葉を掛けられ、一心を沈めた後、早々に家を後にした。

 

 

 

 

 

 

その後、一護が向かったのは空座町にある墓所。ここには母・真咲の墓がある。毎年、命日である6月17日に来ていたのだが、今年はトーナメントと被ってしまい来れなかった。本当なら休んででも来たかったはずだが、

 

 

「あの状況で俺がいない訳にはいかなかったからな……」

 

 

もしの話だが、あのVTが暴れている状況で一護がいなかったらどうなっていたか。多くの犠牲者が出ていてもおかしくはない。……一護がいなければ(ホロウ)化もしなかったかもしれないし、そもそも、注目の的である一護が休めるはずも無いのだが。

 

 

「……黒崎君は……」

 

「ん?」

 

「……黒崎君は恨んでないの? お母さんを殺した(ホロウ)のこと」

 

 

自分の母を殺した相手を恨まない訳がない。魂を喰われ、もう二度と会うことが出来ないとなれば尚更だ。あり得ないとは思っているものの、一護がその憎しみに呑まれてしまうのでは、と心配して出た言葉だった。

 

 

「……別に、あんな奴恨んじゃいねえよ。始めて相対した時は頭に血が上ったけど、今はもう……。恨んでるとすりゃ、あん時お袋を護れなかった俺自身だ」

 

 

当時、一護は九歳。人と霊の区別が付けずらく、例え霊体だと気付けたとしても、(ホロウ)を相手に戦うなど到底不可能。それでも自身の無力を悔やむのが、黒崎一護という男。

様々な要因が重なって起きた悲劇ではあるが、一護はそれを自身の"罪"として一生背負い続けるだろう。

 

 

そして、悲しげに墓石を眺める一護の横顔を見つめながら、簪は夜一に言われたことを思い出していた。

 

 

 

 

『一護はなにかと一人で抱え込む癖がある。それに、いくらか成長したとはいえ、儂から見ればまだまだ子供。

じゃから、お主が一護のことを支えてやっとくれ。まぁ、無理にとは言わんがの』

 

 

 

 

(でも、それをわざわざ言われる筋合いは無い。最初からそのつもりなんだから)

 

 

夜一に言われたことでより一層その思いを強めた簪。

 

 

「一人で抱え込まないでね。黒崎君が落ち込んでると、周りにいる皆も元気が無くなっちゃうんだから。それに、元気が無い黒崎君なんて私は見たくない。

だから、辛いことがあったら私にも頼ってね? 大した力は無いけど……」

 

「いや……そんなことねえよ。お前は強い。俺なんかよりもずっとな」

 

 

自分の力の無さを分かった上で、自分のことを想い、力になろうとする者を弱いなどと言う訳が無い。

 

 

「……黒崎君から言われると、皮肉にしか聞こえないんだけど」

 

「そんなつもりねえよ」

 

「傷付いたから黒崎君には謝罪を求めます。……と言いたいとこだけど、私も鬼じゃないので、一つお願いを聞いてもらうことで許してあげます」

 

「なんでそうなんだよ……。で、何をすりゃいいんだ?」

 

「もうすぐ打鉄弐式が完成するから、そのテストに手伝って」

 

「…………え?」

 

 

簪の言葉に一護が固まる。何せ、簪の打鉄弐式は……

 

 

「断る! あんなん喰らいたくねえよ!」

 

「でも、学園で受け切れる人って黒崎君か姉さん、織斑先生位だし……」

 

「テストだったら、俺じゃなくて織斑とかでもいいだろ」

 

「それは、私に人殺しをしろと?」

 

「そうは言ってねえよ。てか、お前はそんな危ねえもんを俺にぶっ放そうとしてんのか!?」

 

「大丈夫、黒崎君なら問題無い。信用してるから」

 

「それとこれとは別問題だ!」

 

 

必死になっている一護だが、(理論上)訓練機の打鉄を()()()兵器のテストなど、拒否するのも当然だろう。

 

 

 

 

 

 

妥協案として手を繋ぎながら歩いていると、

 

 

『逃がすな! 追撃隊を組織しろっ!』

 

『あのハーレム鈍感野郎の首を刈り取れぇっ!』

 

「だ、誰か助けてくれぇ!」

 

 

織斑が黒装束を身に纏い、手には大きな鎌などを持った集団と追いかけっこをしていた。

そして、いつも近くにいる篠ノ之らがいない。不思議に思っていると、

 

 

「くたばれサド野郎!」

 

「やなこった」

 

「ちょっ、鈴! 止めなって!」

 

 

凰は茶髪の青年と()り合っており、

 

 

「ねぇ貴女。お姉さんとホテルでいいことしない?」

 

「断る! というか、女同士で何をやるつもりだ!?」

 

「何ってそりゃぁ……イケないことよ」

 

「私にそんな趣味は無い!」

 

「大丈夫よ。すぐに気持ち良くなるから」

 

「セ、セシリア! 助けてくれ!」

 

 

篠ノ之が助けを求めたオルコットは

 

 

「これを料理に入れるだけで、皆さん勢いよく食べてくれるんですよ」

 

「なるほど……。早速使わせていただきますわ」

 

 

ドクロマークが描かれたビンを手に持ちながら、桃色の髪の女性と楽しそうに話していた。

 

 

「会長! またもや異端者を発見しました!」

 

「なんだと!? ……いや、待て。あの人はもしかしたら、(うつほ)姐さんの言っていた『黒崎一護』ではないか……?」

 

 

 

 

どうしてこうなったかだが、

 

 

(うつほ)のことを見た奴ら――以下Fとする――が当然のごとくナンパ

   ↓

全員フルボッコ。その際に、彼らにモテる秘訣を教え、それと『黒崎一護には手を出さない』と誓わせた。それを破った時の処罰は、『コンクリ』と『東京湾』が関わって来るらしい。

 

 

 

 

「では、我々は引き続き先程の異端者の処刑にかかる! 行くぞォ!」

 

『おおっ!』

 

 

集団Fが無駄に洗練された連携で織斑を再び追いかける姿を、白い目で見る一護と簪であった。

 

 

「……帰るか」

 

「……うん」

 

「あっ! 一護っ! 助け――ぎゃああああっ!」




またもや悲鳴オチ……ここまでいいとこ無しだよ、原作主人公。
次章(臨海学校)ではきっと活躍出来る……といいな。

前話で説明し忘れたことを。
完現術は霊力の無い人間にも見えます。
分かっている方が大半だと思いますが一応。

感想等、お待ちしています。


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臨海学校編
9.have a nightmare at midday


今回から臨海学校編に入ります。

久々の登場のあいつや、最近原作に出てきたあいつ等色々出る予定なので、気長にお待ちください。絶対にエタったりはしません。


イギリス国内にある最大の研究所『BISL』。ここでは日夜ブルー・ティアーズから送られてくるデータの分析や、それを基にしたBT二号機『サイレント・ゼフィルス』の開発に勤しんでいた。同じEUであるドイツからは若干遅れているものの、着実に研究は進み、近日中にはサイレント・ゼフィルスを発表する予定()()()

 

とある組織に襲撃された研究所は、あちらこちらで火が噴き、僅かに残った機械類からは火花が散っている。

所属している職員の大半が骨を砕かれ、肉を焼かれ、臓物を撒き散らし、その命を皆例外無く散らしていた。

そして、数少ない生き残りは

 

 

「は、ははっ……」

 

「た、たすけ――」

 

 

大虐殺を一人で行った仮面を着けた女を前に、最早乾いた笑いしか出てこない。見せしめのように行われた破壊に、迎撃に出たIS操縦者を一瞬で葬り去った光景を見ていたからこそ、その男は抵抗は無意味だと悟っていた。近くにいた別の研究員は自身の命惜しさに必死に命乞いをしているが、

 

 

ぐしゃっ、

 

 

と、黄金色の鎧に包まれた足に、道端に生えている雑草のように頭部を踏み潰された。

 

 

『あら? あなたは逃げないのかしら?』

 

「……逃げたところでどうせ殺されるんだ。なら、するだけ無駄だろ」

 

 

生気の無い眼でそう告げる男。それを見定めるかのように見、

 

 

『……あなたなら実験に丁度いいかもしれないわね』

 

「……?」

 

 

次の瞬間にはその全身を炎に包まれていた。

 

 

「あああアアアア゛ア゛ア゛ッッ!!??」

 

 

全身を焼かれながら男は『何故一思いに殺ってくれないのか』と考えていた。

 

 

『ボス、お願いします』

 

 

その言葉が言い終わるのと同時期に、叫び回っていた男の様子が一変する。

顔に白い泥のようなものが纏わり付いていき、暫くしてそれは固形化し完全な仮面となった。

しかし、変化はそれだけではなく、胸の位置には黒い穴が開き、炎で焼かれたはずの肌の色は病的なまでに白くなっている。

 

 

『ふむ。やはり通常時よりも(ホロウ)の侵食は早い、か』

 

 

その変化を見ても微塵も驚かずに、ただ事前の予測が合っていたのを確かめるかのように呟く。

そして、男だったものは理性の無い凶暴性を纏わせているものの、目の前にいる女へと襲い掛かる様子は無い。

 

 

『さて、後はもう一つの仕事を達すればこの任務は完了ね』

 

 

呟きながら視線を向けるのは、他と同じく破壊されている研究所の一画。ただし、()()()を壊さないよう威力を抑えて攻撃していた為、冷静であれば狙いに気付いたかもしれない。

尤も、仮に気付いたとしても彼らに抵抗する術は無いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、兄様!」

 

「おはようございます、お兄様」

 

「おう。おはよう」

 

 

部屋を出た一護に毎朝決まって挨拶をする妹分二人。そして、

 

 

「……おはよ~……お兄さん……zzz」

 

「ならその手に持ってる枕は置いて来いよ」

 

「……むーりぃ……」

 

 

さゆかのルームメイトである金髪の少女、ルナ・エルジェーベトが眠た気に体をフラフラ揺らしながら近付き、遂には一護に寄り掛かって二度寝へと突入する。

 

 

「はぁ……」

 

 

溜息を吐いた一護は彼女を優しく背負う――ことはなく、重い荷物を運ぶかのように乱暴に肩に背負う。

 

 

「……この光景だけ見たら完全に誘拐犯だな」

 

 

自嘲気味に一護がそう呟くと、

 

 

「!!」

 

 

丁度部屋から出て来た理子が、小さな少女を担いでいる一護の姿を目撃する。

 

 

「ゆ、誘か――」

 

 

と叫ぼうとしたところで、ラウラとさゆかが動く。

 

 

「それ以上言ったら」

 

「表を歩けないようにしてあげます」

 

「ご、ごめんなさい! ちょっとした冗談だったんです!!」

 

 

 

 

 

 

一護達は、朝食を取るべく食堂へ来ていた。

 

 

「あら。朝から女の子を侍らせるなんて、いいご身分ね」

 

「おはようございます、一護さん。それと会長、後で校舎裏に来てください。少しお話したいことがあります」

 

「嘘は言ってないわよ私!?」

 

「ええ。ですが、今の発言は上級生として、人の上に立つ者としての言葉では無かったので」

 

「ちょっ、勘弁してよ! もう(うつほ)の説教は受けたくないわ!」

 

 

(うつほ)からどこか恐怖を感じさせる笑みを向けられた楯無を見て、

 

 

「そんなに怒るなよ。楯無だって悪気があった訳じゃねえし、俺も気にしてねえからよ」

 

「一護さんがそう仰るなら……」

 

「うぅ……。何だか久しぶりに優しくされた気がするわ……あなたには辛辣に当たっていたっていうのに……!」

 

 

流石に憐れに思った一護が優しさを見せたことにより、九割のムチと一割のアメの関係が出来上がる。その結果、

 

 

(って、ちょっと待つのよ楯無! 少し優しくされただけで気を許しては、暗部の当主の名折れよ! それに、これじゃ私チョロ過ぎるじゃない!)

 

 

意気込み新たに、楯無は一護の方を見る。

 

 

(……そういえば、今までは気にして無かったけど、一護君って目付きの悪さを除けば随分と整った顔立ちをしてるのよね。加えて、相当鍛え抜かれた肉体。性格も悪くはない。書類仕事なんかはこれから仕込めばいいわけだし、色々と分からないところがあるとはいえ、楯無の相手としては申し分ないわね……。って! 何で彼を私のけ、結婚相手にしなきゃいけないのよ! 確かにカッコいいけど! あ、でも、近付いて探るっていうのはいい案かもしれないわね。となると、どうやって近付くかだけど……)

 

 

「……楯無の奴、どうしたんだ? 顔真っ赤にしたと思ったら、今度は神妙な顔して何か考え込んでるし……」

 

「気にしなくていいよ。姉さんはこういう人だから」

 

「って言ってもよ……」

 

 

(彼は妹好きみたいだし、妹キャラで行く? ちょうど私は年下だし。あーでもそれはめちゃくちゃ恥ずかしいわ……)

 

 

「……何故か俺のイメージが悪くなるようなことを考えてる気がするんだが」

 

「え? 黒崎君って人からのイメージ気にしてるの……?」

 

 

簪は驚いていた。一応年上とはいえ、同級生に――呼び方は違えど――兄と呼ばれている現状を受け入れている一護が、周りからの評価を気にしていることを。

 

 

「まぁ、私は周りからどう思われていようと黒崎君から離れるつもりはないから」

 

「あー……で、あいつはいつまでああやってんだ?」

 

 

一護の視線は未だにうんうんと唸っている楯無へと移る。

 

 

「放っといたら多分始業時間までやってると思う」

 

「一護さん、ご安心を。私が責任を持って引っ張っていきますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもよりもどこか機嫌が良さそうな表情をした織斑千冬がホームルームで、

 

 

「さて。来週の臨海学校が終わった翌週には一学期期末試験が始まるわけだが、それに関していくつか連絡しておくことがある。まずは黒崎。お前は一般科目の試験免除だ」

 

 

そう告げると、途端にクラス中から非難の声が上がる。

 

 

「黒崎君だけズル~イ!」

 

「お兄さんだからですか!? それともお兄様だからですか!?」

 

「それ……どっちも同じだよ……」

 

「シャルロットさん? 大丈夫ですか?」

 

「ま、まぁ、何とか……」

 

「それは良かったです。貴女がいないとツッコミがいませんから」

 

「え? 心配してるのそこ?」

 

 

珍しく寝坊し遅刻しかけたところをISを使って間に合わせたシャルロットだったが、運悪く織斑千冬に見つかり、その場で一緒だった織斑一夏と共に(本人は相当に手加減しているつもりの)出席簿アタックを喰らい倒れた。

その為、クラス中のボケが飽和状態になり収拾がつかなくなっている中、普段なら怒声を飛ばすはずの織斑千冬は

 

 

「お前達、まだ説明の途中だ。騒ぐのは後にして、今は静かにしろ」

 

 

機嫌を悪くするでも無く、ただ穏やかに教師としての職務を全うしている。

 

 

「黒崎は元々高校二年までの課程を修了している。わざわざ試験を受け直す必要は無いだろう。

そして、ISの実技試験に関してだが、一般生徒は基礎的な動作を、国家代表及び代表候補生、企業代表、二人の男性操縦者は教師と試合をし、その結果を成績とする」

 

「……おい、まさか……」

 

 

千冬の言葉にあることが思い至った一護は、顔がひきつっている。それを見て千冬はニヤリと笑い

 

 

「国家代表の更識と、それと同等の実力を持つであろう黒崎の相手は私がすることとなった」

 

「何でアンタなんだよ! 絶対自分の為だろ!」

 

「何を言う。お前達の試験を出来るのが私しかいないというだけだ。それと……」

 

「うおっ!? 危ね――ッ!」

 

 

投げられたチョークを指で挟んで止めるも、第二射が死角から迫り直撃する。

 

 

「~~~ッ!!」

 

「教師に対しその言葉遣いは何だ。敬語を使えとは言わんが、もう少し丁寧な言葉を使え」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

「お兄様、大丈夫ですか?」

 

「……あァ、大丈夫だ」

 

 

額を擦りながら、さゆかに返事を返す。

 

 

「けど、一護も運が無いよな。まさか試験で千冬姉と戦うことになるなんて」

 

「……目ェ付けられた時点で、いつかはこうなるって分かってたけどな」

 

「頑張ってください! 兄様!」

 

「……おう」

 

 

ラウラからキラキラと期待した目で見られては、流石に不甲斐無い試合を見せる訳にはいかない。それに、理由付けの為に戦うことになったであろう楯無の方が、ある意味可哀想だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突だが、人生とは理不尽の連続である。

如何に他と隔絶した力を持つ者であっても、逃れられない運命というものもあり、必死にもがいてもそれが結果に結びつくとは限らない。

そう……

 

 

「わたくし、今日はお弁当を作ってきましたの。よろしければ、皆さんも一緒にどうですか?」

 

『!?』

 

 

何者も、理不尽な脅威(セシリアの料理)からは逃れられない。

 

 

「あー……俺達は今日食堂で食べるって約束してっから。あの一番高いやつ。だから、悪ィけど織斑達だけで食べてくれ。俺らのことは気にしなくていい」

 

 

傍に来ていたラウラとさゆかの頭に手を乗せて言う。金銭面に余裕があるわけではないが、自身の命に比べれば安いものだと、判断したのだろう。

 

 

「一護お前逃げる気だな!」

 

「逃げる? お前は何を言ってんだ。俺はただ、自分の護りたいもんを護り抜くだけだ」

 

「格好良いこと言ってるけど、それって俺を見捨てるってことだよな!?」

 

「お二人とも……何をおっしゃっているんですの? 早くしませんと、お昼休みが終わってしまいますわよ?」

 

 

そう言いながら、オルコットは高く積み上がった弁当箱を取り出す。

 

 

「今日はつい張り切り過ぎてこんなにも作ってしまいましたの。よろしければクラスの皆さんも召し上がってください」

 

『いえ結構です!!』

 

 

彼女の問い掛けに、クラス一同が声を揃えて答える。彼女達も知っているのだ、料理のヤバさを。特に、ルームメイトである子は……

 

 

「……そういえば、今日具合が悪くて休みって言ってたけど、もしかして……」

 

「!! 急いで連絡取って生存確認して!!」

 

 

クラス中が慌ただしくなり、ほとんどの者が教室を去っていく。オルコットと同室ということは、それだけアレを食する可能性が高いということ。そして、最近体調が優れないと言っていたこともあり、無事かどうかを早急に確認する必要があった。なので、料理から逃げる為に教室から逃げ出した訳ではない。

 

 

「よし。俺たちも――」

 

「よろしければ黒崎さんもいかがですか? 確か、余裕がないと仰っていましたよね?」

 

「……くそっ!」

 

 

不用意な己の言動を悔やむ一護。逃げ道をどんどんと無くしていき、遂には

 

 

「黒崎君、お昼食べに行こう?」

 

 

この時ばかりは、簪に何故来たのかと問い詰めたい一護だった。

 

 

 

 

 

 

「さあ皆さん。召し上がってください」

 

 

屋上にて。本来ならば和気藹々と昼食を楽しむはずだが、目の前に置かれた弁当箱という現実が、場の空気最悪なモノにしていた。

 

 

「(……ねぇ、黒崎君。オルコットさんの料理ってそんなに酷いの?)」

 

「(あァ……)」

 

 

以前食べたモノならば一護もここまでの反応はしなかった。だが、目の前のモノからは、何故か死の危険を感じ取っていた。

 

 

(けど、俺達が何とかするしかねェんだ。それに、飯食って死ぬとか何の冗談だよ)

 

「織斑。俺達で何とかするぞ」

 

「ああ。まぁ、これ食って死ぬわけじゃないんだし。お茶とか飲みながら食べれば大丈夫だろ」

 

((((あ、何かダメな気がする))))

 

 

言動に不安を感じつつ、まずは無難であるサンドイッチを手に取り、齧る。

 

 

「……見た目の割にべちゃべちゃしてて、けど時折ゴリッって感触がある。甘味と辛味と苦味の喧嘩に渋味が乱入してきた感じで味わいは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼んでる。

 

呼んでるんだ。聞こえる。

 

――…きて……い、…様!

 

立てよ。

 

立て。俺が

 

――お願…、……開けて

 

俺が

 

俺が護――――

 

――一護っ!

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

聞こえてきた声に応えるように、意識を覚醒させると共に上半身を起き上がらせる一護。

 

 

「俺は確か……」

 

 

直前に何をしていたのかを思い出し、次いで口腔内の違和感に気付き、せき込む。

 

 

「何だこれ……口ン中がイガイガする……」

 

「黒崎君、大丈夫? 私のこと、分かる?」

 

「簪だろ?」

 

 

一護の後ろで不安そうに声をかけてくる簪に返事をした後、

 

 

「兄様!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

必死の形相でラウラとさゆかが駆け寄って来る。

 

 

「ああ。口の中がまだ変だけどな」

 

 

簪に手渡されたお茶を飲みながら答える。

 

 

「そうですか……。では私は奴を成敗してきます。行くぞ! さゆか!」

 

「ええ!」

 

 

勢いよく飛び出した先、そこには

 

 

「フーッ! フーッ!」

 

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

「り、鈴! 気持ちは分かるけどちょっとは落ち着いてよ!」

 

 

怒りで我を忘れ唸り声を上げる鈴音、そんな彼女を羽交い絞めで必死に抑えるシャルロット、ただただ謝るセシリア。そして、少し離れた場所には未だに目覚めない織斑一夏と、何故か倒れ伏している篠ノ之箒とルナ。

 

 

「黒崎君……本当に大丈夫?」

 

「そんな何度も聞くなよ。口以外に違和感はねェよ」

 

 

心配し過ぎだ、と続けようとしたところで潤んでいる簪の瞳に気付く。普通ではありえないこととはいえ、心配させたのは事実。今にも泣き出しそうな顔をしている簪の頭をくしゃっと撫でる。と、

 

 

「ん? 浦原さんからか」

 

 

携帯が振動し、その相手を確認すると同時に通話に出る。

 

 

「浦原さん、どうし――」

 

『黒崎さん。一瞬ですがとてつもなく大きな霊圧を放っていたみたいっスけど、何かあったんスか?』

 

「えっと、俺もよく分かってねェんだよ……。簪に代わるから、直接聞いてくれ」

 

 

そう言い、簪へ携帯を手渡す。

 

 

「お電話代わりました。あの、信じられないかもしれないんですけど――」

 

 

簪から語られたことは、一護と浦原を絶句させるに足る内容だった。

曰く、『料理に化学で使う薬品が使われていた』とのこと。

 

 

「『…………』」

 

「えっと、黒崎君が倒れて暫くしたら(ホロウ)の霊圧が溢れ出てきてたんですけど、呼びかけていたらそれも止まって、同時に黒崎君が起き上がったんです」

 

『では、今はもう問題は無いんスね?』

 

「あ、はい」

 

 

トラブルが一応解決したことを知った浦原は通話を切る。このトラブルの原因は今袋叩きにされそうなのだが。

 

 

「さて……それじゃあ」

 

 

携帯を一護に返した簪は、徐に立ち上がり、被告人の下へと近寄る。

 

 

「オルコットさん、大丈夫?」

 

「さ、更識さん……?」

 

 

この場で最も怖いと感じていたのは簪だ。激情をまき散らすラウラ達と異なり、簪はただ一護の心配をしていた。その一護が目を覚ました今、彼女がどういう行動を取るのか分からず、微笑を湛えているのと相まって比にならない恐怖を煽っていた。

 

 

「安心して。私は簡単に暴力に訴えたりはしないから」

 

「ほ、本当ですの?」

 

「うん」

 

 

左手を差し出され、怯えながらその手を取る。

 

 

「だけど、このことは織斑先生にきちんと報告しておくから」

 

 

一転、その微笑は悪魔の微笑みに変わる。手を握る力も強く、逃がさないように込められる。

 

 

「そ、それだけはご勘弁を!!」

 

「大丈夫。当然国には報告しないし、多分一回あの世を見るだけで済むから」

 

「それは死んでいるじゃないですか!?」

 

 

余談だが、彼女のルームメイト――アーニャは、無事に生きている。幾度も実食させられたせいで耐性が出来ていたそうだ。

そして、

 

 

「オレハダレダ?」

 

 

起き上がった織斑一夏は、機械のような丸い目でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も暮れ、各々夕食を取ったり、大浴場に行っている頃。彼女はとある部屋を目指していた。件の二人はそれぞれシャワーを浴びており、邪魔をされる可能性は少ない。そして、部屋の主とも打ち解けており、今が好機とみた彼女は以前から計画していたことをこの日実行に移した。

 

 

(あの人は確実に私たちの……。だから、今……!)

 

 

誰にも見られないように部屋に着き、くすねていた予備の合鍵を使い部屋の中へと入る。

 

 

(巻き込みたくは無かった。だけど、私たちの夢のために……ごめんなさい)

 

 

手首に付けた腕輪を一撫でし、彼女は決意を固め、動く。自身の目的のために。




今回出てきたオリキャラのルナ・エルジェーベトは金髪ロリです。情報は随時公開していきます。

この子はあるキャラを参考にしているので、気付く人は気付くと思います。ですが、ネタバレ防止のために感想欄に書くのは止めてください。メッセージで送る分には全然OKですから。


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10.Could you ditermine?

二か月以内だからギリギリセーフ、ですよね?
遅くなりました、第十話です。

今回の話は特に シールドエネルギー=霊力 だということを覚えて読んでください。


あの悲惨な事件の翌日。本来ならば昨日行うはずだった打鉄弐式の試験運用&お披露目は、簪が一護の体調を心配し心ここにあらず状態だった為、次の日に持ち越されていた。

 

 

「それじゃあ始めるね」

 

 

アリーナにて、打鉄弐式を纏った簪は、更に強化を施した機体を確かめるように空中を飛び回る。

問題が無いことを確かめると、続けて

 

 

「ターゲット、お願い」

 

『りょ~か~い!』

 

 

荷電粒子砲『春雷』を展開し、現れたターゲットの中心を正確に打ち抜いていく。

 

 

「次。二人とも、お願い」

 

「おう」

 

「任せろ!」

 

 

ミサイルポッド『山嵐』を展開し、空中で動き回る一護とラウラを打鉄弐式の要でもある『マルチロックオンシステム』で狙い撃つ。

 

 

「これが、世界初のマルチロックオン・システム……。これを一人で完成させられるとは……」

 

 

追尾してくるミサイルをそれぞれ月牙、AICで対処しながら、その性能の高さに驚嘆する。ミサイルはお互いを邪魔することなく、ぶつかり合って自爆したものは一つも無かった。

 

 

 

 

 

 

「さすが簪ちゃん! ほぼ一人でこれほどの専用機を完成させるだなんて!」

 

「そうですね」

 

 

ピット内から眺めながら、簪の技術力を褒める楯無と(うつほ)。それだけならば何も問題は無いのだが、

 

 

「それよりもお嬢様。そのカメラは?」

 

「そりゃあ、簪ちゃんの勇姿を撮る為よ!」

 

「……程々にしてくださいね? また怒られますよ?」

 

「うぐっ! わ、分かってるわよ!」

 

 

従者や妹に怯える当主とは一体……

 

 

「妹様達はこのまま模擬戦を行うようですね」

 

「手っ取り早く実力を上げるなら、自分よりも一段強い相手と戦うのが一番だもの。その選択は間違ってないわ」

 

「いいなぁ! ルナもお兄さんとやりたい!」

 

「我儘を言ってはダメです。今は簪さんとラウラの時間なんですから。まぁ、時間があれば私も手取り足取り腰取り教えてほしいですが」

 

「では私は一護さんと夜の戦いを……」

 

「自重しなさいよあなたたち!?」

 

「「何を?」」

 

「何をって……」

 

 

ナニを想像したのか、楯無は顔を真っ赤に染める。

 

 

「お兄さんの背中って、逞しくて大きいんだよ」

 

「へぇ~。逞しくて大きいんだ~」

 

「会長。鼻血出てますよ」

 

 

 

 

 

 

ピット内でふざけている楯無達はさておき、向かい合っている一護、簪、ラウラはというと、

 

 

「始める前にもう一度聞くが……本当にいいんだな?」

 

「はい!」

 

「今よりも強くなるためには、本気の黒崎君とじゃなきゃ意味がないから」

 

 

始まりは簪が一護に強くなりたいと、訓練の相手を希望したこと。それに続くようにラウラも熱望してきたのだが、一護としては

 

 

『仮にも妹として面倒見てるんだ。俺はお前らには戦いに関わってほしくねえ。

それに、俺がやってるのはただの斬り合いだ。得るもんなんて何もねぇぞ』

 

 

と言い、断っていた。結局、ラウラの熱意に押され、相手をすることになったのだが。

 

そんなわけで、それぞれの獲物――斬月、超振動薙刀・夢現、プラズマ手刀を構え、臨戦態勢に入る。

 

 

「そうか……なら、覚悟しろよ。俺は手加減とか苦手だからな」

 

「手加減なんてさせない!」

 

 

最初に向かっていったのは簪。両手で握った夢現を振り下ろし、それを一護は片手で持った斬月で受け止める。

 

 

「……うご、かない……!」

 

 

スピードの乗った一撃を完璧に受けきり、微動だにしない一護。

 

 

「う゛っ!」

 

 

がら空きの腹に蹴りを入れられ、後方へと吹き飛ばされる。入れ替わるように、

 

 

「はああっ!!」

 

 

ラウラが背後から攻め入る。振りぬかれるプラズマ手刀。一護は動じずに手首を掴んで止める。

 

 

「なっ!」

 

 

驚き目を見開くラウラをよそに、斬月を振り下ろす。

 

 

「くっ……!」

 

 

咄嗟にAICを発動し一護の体を縛るも、それも一瞬。AICの網を力技で壊したが、その隙を突いてラウラは一気に後退し距離を離していた。

が、

 

 

「!?」

 

 

刹那の内にその距離は詰められ、横薙ぎによる斬撃を両手のプラズマ手刀でなんとか受ける。

 

 

(馬鹿な……! ハイパーセンサーの感知をすり抜けるとは……!

今のは瞬時加速(イグニッション・ブースト)などではない。二段階加速(ダブルイグニッション)か?!)

 

「ラウラ、遠慮するな。本気で来い」

 

「ッ!? はい!」

 

 

その言葉に促され、左目に付けた眼帯を外し越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を顕わにする。

 

 

「行きます!」

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、一息に接近すると共にプラズマ手刀を振り下ろす。

 

 

「まだまだぁっ!」

 

 

力では勝てないことは先程の一撃で理解している。故にラウラは両手のプラズマ手刀に加え、ワイヤーブレードを全て射出し、手数で攻める。

 

 

「っと、この数は流石に面倒だな」

 

 

日本刀サイズの天鎖斬月ならば兎も角、大刀である斬月では素早い攻撃の対処は中々に厳しいものがある。接近戦でならば尚更だ。

 

 

「その割には、堪えてるように見えないのだが?!」

 

 

なので一護は、プラズマ手刀だけを斬月で受け、ワイヤーブレードは空いている左手や足で弾いている。

 

 

「私のことも忘れないで!」

 

 

さらに上からは簪が夢現を振り下ろしながら向かってくる。それに対し一護は高速移動――瞬歩でその場を離脱するが、

 

 

「そこっ!」

 

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を解き放ったラウラの動体視力は格段に上昇している。それにより動きを捉えたラウラは、逃がさないようにワイヤーブレードを伸ばす。一護の狙い通りに。

 

 

「!」

 

 

離れた一護はすぐさま反転し、ワイヤーブレードの隙間を潜り抜ける。

 

 

「させない!」

 

 

動きを読んでいた簪が振るう夢現を受け流し、ラウラに正拳突きを突き刺す。

 

 

「がっ……!」

 

「ラウラ!?」

 

「敵から目ェ離すな!」

 

 

一瞬とはいえ吹き飛ばされるラウラの方へ視線を向けてしまった簪。その隙を見逃すはずがない。振るわれた斬月を咄嗟に構えた夢現で防げるはずもなく、ボールのように吹き飛ばされる。

 

 

「うぅっ……」

 

「ぐ、ぁ…… (た、ただの拳が、パ、パイルバンカーと同等の威力だと……!?)」

 

 

呻く二人。特にラウラは手を地に着き、息も切れ切れだ。それもそのはずで、シールドバリアーを容易に貫き、絶対防御を発動させるほどの攻撃をその身に受けたのだ。多少手加減されていたとはいえ、身体に溜まったダメージは少なくない。

 

 

(手加減、されてる……。クラス対抗戦の時の黒崎君はこんなものじゃなかった。それに、霊圧に差は無いのに、こんなにも差があるなんて……)

 

 

膝を着きながら夢現で身体を支える簪は、思い知らされる力の差に打ちひしがれる。戦闘経験では劣っているものの、自身も霊圧を扱えるのだから、多少は相手になると高を括っていた。現実はラウラとの二人がかりで一蹴された。

 

 

(なにが『私に頼ってね』だ。こんなにも、自分のことすら護れない程弱いのに……)

 

「簪、ラウラ」

 

「「?」」

 

 

心が折れかけていた二人に声を掛けたのは、他でもない一護だった。

 

 

「お前らは何の為に戦ってんだ?」

 

「あ……(そうだ。何弱音吐いてるんだろう、私は……。この前誓ったばかりだというのに)」

 

 

ただの問い掛け。だが、その言葉は簪の”決意”を思い出させるのに十分だった。深く息を吐き、

 

 

「ごめんね黒崎君。一番大切なことを忘れてて」

 

「構わねえよ。それより……いけるな?」

 

「うん!」

 

 

先程までは変に意識するあまり身体が強張り、霊圧も緩んでいた。だが、今は違う。

 

 

(私は黒崎君みたいに接近戦だけで戦うことは出来ないし、あの高みに辿り着くことも、きっと出来ない。そんな私を黒崎君はいつものように護ってくれると思う。だけど――)

 

 

霊力のコントロールは出来ているとはいえ、それを実践で使うのは初めてであり、上手く扱えないのも当然と言える。

しかし、それは何か切っ掛けさえあれば劇的に飛躍するということでもある。ただでさえ、簪は基礎が出来ているのだから。

 

 

(それでも、力になりたい。黒崎君を支えたい。悲しんでるところを見たくない……大切な人だから!)

 

 

心も、身体も、霊圧も、先程までとは比べ物にならないほど優れた状態にいる簪は、力強く踏み込むと同時にその場から姿を消した。

 

 

「!」

 

 

それに対し一護は予測していた通りに斬月を振るい、直後刃と刃がぶつかり合った甲高い音が響く。

 

 

「ッ!? やっぱり、黒崎君は防ぐよね」

 

「今の簪ならあのくらいの動きはすると思ってたからな。それに、一回成功しただけの瞬歩を、捉えられねェ訳ねえだろ?」

 

 

それでも、ぶっつけ本番で成功させたことには驚いているが。

一護や隊長格らは容易に使っているが、瞬歩は誰でも習得出来るものではない。下位席官でも使えない者――彼は性格的な問題かもしれないが――はいる。

そして、経験で圧倒的に劣る簪が何故出来たかといえば、やはり跳びぬけた霊圧知覚があったからに他ならない。クラス対抗戦時に一護の瞬歩を見ていたので、もしかしたら、と思ったのだ。

 

 

「経験も、技量も負けてる私が、黒崎君にあっさり攻撃を当てられるとは思ってないよ。接近戦だけなら、ね!」

 

 

鍔迫り合いの体勢から夢現を引くと同時に、その場から二十メートル程距離を取り、春雷を展開する。

 

 

「行くよ、黒崎君!」

 

 

その声と共に連射される荷電粒子砲。今は速射を優先している為威力は衝撃砲・龍咆と同等か僅かに下回る程度だ。

 

 

「おっと」

 

 

それを回避する一護に油断は無い。荷電粒子砲の性質を知っているというのもあるが、その中には()()()()()()()()()のだ。威力や速度が違うとはいえ虚弾(バラ)に近いそれを油断して受けようものなら、体勢を崩された瞬間に大きな一撃を貰うだろう。

 

 

「はあああっ!」

 

 

荷電粒子砲の連射を回避した直後の一護を狙い、瞬歩で近づき夢現を振り下ろす。

 

 

「ッ!?」

 

 

だが、刃が当たる寸前にその姿が掻き消える。

 

 

「左ッ!」

 

 

直後、左から迫る斬月の横薙ぎを夢現で受け止める。続けて繰り出された上段蹴りを、頭を下げて躱すと、夢現を横薙ぎに振るう。

それを一護は簪の手首を掴むことで止める。

 

 

「……え?」

 

 

そのことに一瞬呆けた簪を、地面へ向けて思い切り投げ飛ばす。

 

 

「くぅっ……!」

 

 

即座に霊子の足場を作り体勢を立て直し、一護の方へ目を向けると、

 

 

(月牙……!)

 

 

斬月を天へと掲げ、その刃先に霊圧を集中させている一護の姿が。

 

 

(あれに対抗するには”アレ”しかない!)

 

 

自身の切り札の一つを使うべく、一息に地面へと降り立ち、脚部にあるアンカーを下ろす。そして、春雷を展開し、砲身に付いているファンを回転させ、供給を開始する。

 

 

(正直、人にコレを撃つのは躊躇うんだけど……黒崎君はこれを待ってるんだよね)

 

 

撃つのを躊躇う理由はただ一つ。威力が高過ぎるから。

荷電粒子砲とは、『荷電した粒子を放つ』兵器であり、簡単に言うと超圧縮した電気を帯びさせた”何か”をぶっ放す砲。直撃すれば、原子崩壊させるとも言われている。

流石に普段はリミッターがかけられているが、それでもファンを回転させて放ったものは、現存する兵器の中でも群を抜いている。

 

これを撃つのを待っていると考えたのは、ただ月牙を放つだけなら簪が体勢を整える前に放っているはずだからだ。

 

 

「行くぜ」

 

「うん!」

 

「月牙天衝!」

 

「収束・荷電粒子砲!」

 

 

同時に放たれた二人の一撃は、瞬く間に衝突し、お互いを食い破ろうと突き進む。数秒の拮抗の後、それらは相殺という形で爆発する。

 

 

 

 

 

 

簪が全力を以て一護に挑んでいる一方、ラウラはというと、

 

 

(私は……何の為に戦えばいいのだろうか)

 

 

一護に問われたことに答えを出せずにいた。

 

 

(私を正しい道へと導いてくれた教官や兄様、鈍感音痴の為に力を使う。……それでは前と同じだ。確かにその想いもあるが。護りたいもの、か……)

 

 

一護としてはそこまで考えさせるつもりは無かったのだが、ラウラは戦いを放棄して思考に没頭していた。あたかも、それが最重要事項だとでも言わんばかりに。

 

 

(私には親も兄妹もいない。だから、教官や兄様のように、家族を護りたいとは想えない。

ドイツ軍に所属してはいるが、鈍感音痴のように大勢の人を護りたいとも想えない。そもそも、ドイツに対して思い入れも無いからな。いや、部隊の皆は大事なのだが。こんな私をあっさりと赦してくれた、私には出来過ぎた部下達だ。

……そもそも、私の大切な物は何だ? それがきっと、今出せる答えのはずだ)

 

 

自身の大切だと思うものを思い浮かべる為に目を瞑る。

 

 

(あぁ、そうか……)

 

 

真っ先に出て来たのは、一護や千冬、簪らと共にいる、何気ない日常。僅か二週間足らずだが、ラウラにとってその日々は、何物にも勝るものだった。

 

 

(これが、この胸を温かくする記憶が、居場所が、私の――――)

 

 

 

 

 

 

「はあああああっ!」

 

 

気合の入った叫びと共に幾度も振るわれる夢現。それらを捌いていると、

 

 

「「!!」」

 

 

一護へ大型の砲弾が飛来する。それを見て簪はすぐさまその場から跳躍し、一護は片手でその砲弾を弾く。

 

 

「なんだ。ようやくやる気になったのか? ラウラ」

 

 

視線を砲撃の主――ラウラへと向け、問い掛ける。

 

 

「いえ。今日はもう止めておきます。シールドエネルギーも残り少ないですし。それに、もっと大事なことが分かったので」

 

「ん?」

 

「私は、今いる居場所を護りたい。その為に、私はこの力を使います」

 

 

ラウラの偽りのない真っ直ぐな想い。それを聞き、一護と簪は柔らかく微笑みを浮かべる。

 

 

「あ、あの……何か変ですか……?」

 

「いや、そんなことねえよ」

 

「ラウラらしくていいと思うよ?」

 

 

そう告げ、頭を軽く撫でると、ぽかんと呆けた後、ふにゃりと破顔した。

 

 

「しっかし、たった二週間で随分と変わったよな」

 

「ふにゃ?」

 

「うん。前は一匹狼だったのに、今じゃ飼いならされた子猫だよね。あ、もちろん、飼い主は黒崎君で」

 

「おいやめろ。また俺の評判落とす気か?」

 

「そんなこと、するわけないでしょ。……私は」

 

 

そう。例えば二年の何とか薫子とか。

 

 

「そうだ、黒崎君。最後に試してみたいことがあるんだけど、大丈夫?」

 

「問題は()ェけど……何する気だ?」

 

「ちょっとね。ラウラは危ないから離れててね」

 

 

それだけ言うと、簪は瞬歩を用い距離を取る。

 

 

(シールドエネルギーが霊圧なんだから、私自身の霊圧を込めれば今以上の力が出るってこと、だよね?」

 

 

簪が行おうとしているのは至極単純で、ISに自身の霊圧を込めているだけだ。そして、それは霊圧感知が苦手な一護でも感じていた。

 

 

「……おーい、簪さん? 何やってんの?」

 

(うん。これなら、いける)

 

 

すぐにコツを掴んだ簪は、ゴウッと全身から最大限の霊圧を放出させる。

 

 

「なっ!?」

 

「行くよ黒崎君!」

 

「ちょっ、待て――――」

 

 

そんな一護の嘆願も聞き入れられず、簪は今までとは一線を画す速度で突撃する。

 

 

「ば、馬鹿野郎ーーッ!!」

 

 

一護の叫びが届いた直後、物凄い勢いで地面に衝突した破砕音がアリーナ全体に轟いた。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。今後はこのような調子に乗ったことはもうしません」

 

「いや、まぁ……そうだな。流石に、あの状態でお前の全力は受け切れないからな。やるんなら、俺がもう少し力を引き出した時にしてくれ」

 

 

あの簪のとっしんは、勢いを逸らすことは出来たが、止めることは不可能だった。衝突した簪ごと、一護の身体は地面へと勢いよく激突した。

その後、三人揃ってピットへと戻ったのだが、

 

 

「ねぇ、一護君? あなたの強さの秘密を知りたいのだけど……、私に、二人っきりで、教えてくれない?」

 

 

楯無が正面から抱き付き、首に手を回し、精一杯の色香を出しながら一護の耳元で囁く。

普段は威厳も何も無い楯無だが、そのスタイルは抜群であり、啓吾やコンが見たら飛びつくかもしれない。そんな楯無が密着しているのだから、初心な一護は当然顔を真っ赤にするが、背後の悪鬼のような気配に、意識はそちらへと向き、冷や汗をびっしりと掻く。

 

 

「あら? そんな汗掻いて、どうかしたの? ……も、もしかして、私の身体に興奮――――」

 

「ふんっ!」

 

「ふおぅっ!」

 

 

暴走しかけた楯無は、ラウラによって止められた。脇腹に拳を食らい悶絶し、膝を床に着く楯無は、

 

 

「ちょっとラウラちゃん!? 何するのよ!?」

 

「ふん。兄様に無遠慮にくっ付くからだ」

 

「その言い方酷くない? 私はただ強さの秘密を聞き出そうとした(一護君に触れてみたかった)だけよ!」

 

「……本音が漏れてるぞ。そ、そそそれに、おお前はき、気付かないのか? あの気配に……?」

 

「気配? というか、何をそんなに怯え――ひいっ!?」

 

 

あのラウラがガクガク震えているのを見て何事かと思った楯無だが、一護の隣にいる人物を見て得心した。

 

 

「か、かかか簪ちゃん……!?」

 

 

鬼。悪魔。ちひろ? そんなものが可愛く見えるわ。

この時の楯無は、心の底からそう思った。

 

 

「もうだめだぁ……。おしまいだぁ……」

 

 

ヘタレている楯無は置いといて、

 

 

「黒崎君。私はこれから成長期だから」

 

「……それを俺に言ってどうしろと?」

 

「お兄様。私はまだ成長期に入ってないだけですから」

 

「私は~、まだ育つよ~?」

 

「「は?」」

 

「そんなことより、お兄さん。次はルナと一戦、しよ?」

 

「また今度な」

 

 

ルナの上目遣いでのお願いは、一護には通用しなかった。如何に女性に免疫が無い一護と言えども、流石に小学生と見紛う体型のルナには狼狽えるはずもない。

 

 

「むぅ。じゃあ、たてなしでいいや。ルナと戦おう(遊ぼう)?」

 

「ちょっと。じゃあ、って何よじゃあって」

 

「だって、たてなしが強いとは見えないんだもん」

 

「確かに……会長はこのところいいとこ無しですから」

 

「うっ」

 

「今はムッツリってイメージが強いよね~」

 

「ぐふっ」

 

「本音、それは前から。今は変態が加わってるから」

 

「がはぁっ」

 

 

見事な連携プレーでとどめを刺された楯無は、膝から崩れ落ちる。

 

 

「それじゃあ、更識生徒会長。私とルナ、二人と戦っていただけますか?」

 

「無理じゃねえか? こんな状態じゃ」

 

「いえ。やるわ。ここらで、生徒会長としての威厳を見せつけるべきだもの!」

 

(それを口に出したら意味ねえだろ……)

 

 

何故楯無はこんなにもポンコツなのに、ロシア代表と生徒会長を務められるのだろうか。一護はただただ疑問に感じた。

 

 

「私も、その見せつけてる大きな塊を削い……握りつぶします」

 

「ウフフ。たてなし、あなたは簡単には壊れない人間?」

 

(あれ? ちょっとヤバい?)

 

「この時楯無は知る由も無かった。一年生を相手に、本気を出すなどと」

 

「簪ちゃん? 流石にそれは無いわよ? 変なモノローグ付けないでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……か、加減はしたもの! ぜ、全力じゃ無かったし!」

 

 

出力は抑えているとはいえ、熱き熱情(クリア・パッション)からのミストルティンの槍のコンボを使った楯無であった。

 




ホントにいいとこ無しな楯無。一応言い訳として、目が病んでる(さゆか)のと、目が逝ってる(ルナ)のを相手にしたら、流石に腰が引けるよね。二人のポテンシャルが高いのもありますが。

ちなみに、簪とラウラばかり優遇されてますが、他の面々も強化します。多分

この後、斬月とジェノザ……打鉄弐式の紹介を活動報告の方へ載せる予定です。よかったら覗いてみてください。

次回こそはもっと早く投稿出来る様にします。来月試験だけれど。


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11.preparation

あぁ^~こころがぴょんぴょんするんじゃ^~


……月日が経つのは早いですね。気付いたらもう10月ですよ。
今回は臨海学校前の買い物回です。



7月最初の日曜日。梅雨が明け、一気に夏本番とでもいうかのように太陽の光が降り注ぐ今日この頃。臨海学校まで一週間ということもあり、必要な物――主に水着――を買う生徒達はこぞってIS学園近くにあるショッピングモール『レゾナンス』へと向かっていた。

そして一護も、ラウラ、ルナ共々さゆかに引っ張られ、モノレールを使い『レゾナンス』へとやって来た。

 

 

「うぁ~……あづいぃ……」

 

「だらしないぞ、ルナ。このくらいの暑さで」

 

「日の光やだぁ……」

 

 

だれているルナだが、彼女は肌も白く、生まれ故郷は気候が穏やかな地域。気温もそうだが、日本の湿度、直射日光は辛いだろう。

 

 

「ほら、日傘貸せよ。持ってやるから」

 

「う~……ありがとぉ……」

 

 

ちなみに、簪は四組のクラスメイトに引っ張られていった。一護と関わりだしてからクラスメイトが近寄ってくるようになり、クラス内でのボッチ生活は脱却したそうだ。本音は一組の他の友達と行っている。

 

 

「こ、こういった所には初めて来たのだが、普段からこんなにも人が多いのか?」

 

「そうですね。もうすぐ夏休みという人も多いでしょうし、その準備の為に色々買いに来る人でいつもよりも混雑していますね」

 

 

多くの人間が思い思いに楽しんでいる光景を前に、初めてのラウラは気後れする。

 

 

「で、どこ行くんだ?」

 

「ん~……涼しいとこ」

 

「お兄様、まずは水着を見に行きましょう」

 

「どの店に行くかとか決めてあるのか?」

 

「もちろんです。理子が下見に行ってくれたので」

 

 

それは行かせたの間違いじゃ……と口にしかけた言葉を飲み込み、その目的の場所について聞こうとすると、

 

 

「おーい!」

 

「ではお兄様。参りましょう」

 

「ハアッ☆」

 

 

教室でほぼ毎日聞いている声が聞こえたが、さゆかやラウラは聞こえなかったのか先に行ってしまう。放っておくわけにもいかず、一護はプライベート・チャネルで『悪いな』と軽く言って後を追った。

 

 

 

 

 

 

「俺のは適当でいいとして、お前らの……子供用の売り場ってどこだ?」

 

「あの、兄様……?」

 

「人前で子供用の水着を着るのは流石に恥ずかしいです。……お兄様の前だけでしたら、どんな水着でも――」

 

「それ以上は俺が社会的に殺されるからやめろ。あと、二人はともかく、こいつは冗談でもねえからな」

 

 

三人が視線を向けたその先。

 

 

「あぁ^~。クーラーは人類が生み出した最高の利器だよ……」

 

 

一護の背にもたれ掛り、だらしなく顔を緩めている、ラウラより10㎝は背が低い少女。

 

 

「……これで、近接戦闘に関しては代表候補性クラスの実力があるのだから驚きだ」

 

「ん~? まぁ、ルナは親から戦士としての素質を受け継いでたからね……」

 

「?」

 

 

ルナの言い方に疑問を持ったラウラだが、その思考を遮るかのように

 

 

「ルナのことよりも、早く水着売り場に行こうよ! 二人とも小っちゃいから、良い物見つけるのに時間かかると思うよ?」

 

「「それは事実だが(だけど)、ルナに小っちゃいって言われたくは無い」」

 

「酷い! ルナが気にしてることを! ルナはただ成長が遅いだけだもん!」

 

「それは私もです。ですが、私がルナよりも大きいのは事実でしょう?」

 

「むぐぐ……!」

 

「お前ら、ドングリの背比べって知ってるか?」(181cm

 

「「「ぐはっ」」」(149,148,137cm

 

 

いちごのこうげき

ラウラたちに こうかはばつぐんだ

 

 

 

 

 

 

ラウラ達が瀕死になっている一方で、簪は

 

 

「ねえねえ更識さん、今度はこっちを着てみてよ」

 

「う、うん……」

 

 

見事に着せ替え人形にさせられていた。

 

 

「いやぁ、素材がいいからどんな服でも似合うわね」

 

「ね~」

 

「あの、いつまでやるの……?」

 

「飽きるまで☆」

 

「はぁ……」

 

 

自由奔放なクラスメイトに溜め息を吐く簪。生来大人しい子である簪は、常時テンションが高い人は苦手なのである。

 

 

「まぁまぁ。そんな嫌そうな顔しないでよ」

 

「……そもそも、水着を買いに行くって話だったのに、何で洋服を見てるの?」

 

「何でって、更織さんとどこかに行くの初めてだから、ただ水着を買うだけじゃなくて色々楽しみたいのよ」

 

「前の更識さんはなんていうか、近付き難かったからね~」

 

「それは……ごめんなさい。あの時は辛いことが重なって……」

 

 

以前の自分の人付き合いの悪さを理解している簪は素直に謝る。その頃は、打鉄弐式の開発を凍結した倉持技研やその遠因でもある織斑一夏への怒り、専用機開発の苦労、相変わらずストーキングしている姉の鬱陶しさが重なり、常に余裕がなかった。周りが近づき難いと思っても仕方がない。

 

 

「でも、何で今になって? 自分で言うのもあれだけど、暗いし、人付き合いも悪いし、関わりたいとは思わないでしょ?」

 

 

だからこそ疑問に思った。何故こんな自分と関わろうと思ったのか、と。

 

 

「更識さんって、自己評価が低いよね」

 

「うんうん。でも、前は更識さんの言う通り、付き合い難い人だなって思ってたよ。あの一面見たら、今までのイメージなんてどっか行っちゃったけどね」

 

 

 

 

それは、ラウラと打ち解けた頃。

 

 

『おいラウラ。そんな急いでかっ込むな。喉に詰まるぞ』

 

『むぐむぐ……ですが兄様。クラリッサには、日本では昼飯はかき込むものだと聞いたのですが』

 

『それ、忙しいサラリーマンとかだな。普段からそうやって食ってる奴は……まぁいるかもしんねえけど、時間に余裕あるのに急ぐこともねえだろ』

 

『口の周りに食べカスが付いちゃってるよ。ほら、こっち向いて』

 

『んぐ……! すまない、簪』

 

『ううん、気にしないで』

 

 

食堂にて見られた、微笑ましい光景。これをどう捉えるかは人それぞれだが、少なくとも簪の暗いイメージが塗り替えられたのは確かで、この場に乱入する者は――

 

 

『おーい、一護。たまには一緒に食べようぜ!』

 

『簪ちゃん? お姉ちゃんのことも構ってほしいな~、なんて』

 

 

――よっぽど空気が読めない人物なのだろう。

 

 

 

 

「まぁ、細かいことは気にしないで。あ、これも着てきてね」

 

「うぇっ!? これ、短くない?」

 

「だーいじょうぶ。更識さんなら似合うって」

 

「じゃあこれも――」

 

「それは流石に無理。スケスケだし」

 

「私もそれはどうかと思うわ」

 

「えぇ……! じゃあこっちの紐の――」

 

「「うわぁ……」」

 

 

 

 

 

 

とりあえず必要な物を買い終えた一護一行は

 

 

「中々良い買い物が出来ましたね」

 

「む? そうなのか?」

 

「ルナたちみたいに背が低いと、自分に合ったかわいい水着を見つけるのってけっこう大変なんだよ」

 

「……そうですけど、ルナよりはよっぽど楽ですよ。というか、小学生と間違われてもおかしくない身長で、なんで胸だけ私たちより大きいんですか……」

 

「それはルナだから! お姉ちゃんよりもおっきいんだよ!」(ドヤァ

 

「……どうやら喧嘩売ってるようだな、ルナ」

 

「……いいですよ。喜んでその喧嘩買ってあげますよ」

 

「やめろお前ら!」

 

 

喧嘩が勃発しかけ、ラウラとさゆかの首根っこを掴み強引に引き離す。

 

 

「ですが兄様! 最初に喧嘩を売って来たのはルナです!」

 

「だからってこんなとこで暴れんな! やるなら後でやれ!」

 

「いや、その言い方もどうかと思うけど……」

 

 

四人のやり取りにツッコみを入れるのは、水着売り場で出くわした中華少女・凰鈴音。

 

 

「てか、あんた本当に同一人物なのか疑うぐらい変わったわね」

 

「人は変わるものだ。切っ掛けがあれば尚更な」

 

「いいこと言ってるけど、それだと格好付かないわよ」

 

 

宙ぶらりんなままでは、確かに格好付かない。

 

 

「む、そうだな。……いや、この体勢も結構楽だな。兄様。暫くこのまま――」

 

「自分で歩けよ」

 

「うわっとと」

 

 

言葉と同時に手を離されたラウラは、いきなりのことに驚きつつも問題無く着地する。

 

 

「黒崎、さんのことを兄扱いしだしたって聞いた時は、アホかって思ったけど……。何か普通に兄妹やってるわね」

 

「アホとは何だアホとは。そう言うお前の方がアホだろう」

 

「……慣れって怖いよな。たったの数日でこの状況に適応してきてるんだぜ?」

 

「ご愁傷さま、でいいのかしら?」

 

「別に不満があるわけじゃねえんだが、どうにも釈然としなくてな」

 

「兄様。私はアホではないですよね?」

 

「…………そうだな」

 

 

答えに要した間の意味を悟り、一人落ち込むラウラ。そんなラウラを慰める者は、いない。

 

 

「ああ、そうだ凰。俺に対してかしこまる必要ねえからな。年上だから口調に気を付けてるのかもしんねえけど」

 

「えっと、それもあるんだけど……」

 

 

凰は言い淀む。まさか、本人を目の前にして”怖い”などと言えないだろう。

 

 

「自惚れは良くないよお兄さん。凰さんはかしこまってたんじゃなくて、怯えてたんだよ」

 

(私が言い淀んだことを何軽々しく話してんのよ!?)

 

「二人がかりで戦って負けたラウラが相手にもならないくらいの強さだもんね。万が一怒らせてその力が自分に向けられたらって考えたら、下手なこと言えないよね~。それに、ルナたちはもう慣れたけど、いっつも眉間に皺寄ってたら、誰だって怖いと思うよ」

 

「何で私の考えてたことが全部読めるのよ!? 心を読む程度の能力? ってあんたは破壊の力でしょうが!!」

 

 

一護の力もだが、その周りにいるのも実力者ばかり。戦力としての一番下がラウラということからも、その出鱈目さが分かるだろう。

その為、普段の様子から一護は怒ったとしても暴力を振るうことは滅多にないと分かってはいるものの、藪蛇を突かないように言動に気を付けている者は凰含め多い。

尤も、一護はそんなことを気にせず、むしろ凰の叫びを聞いて、

 

 

「すげえな……」

 

「はい」

 

「これが……」

 

「「「これが本場のツッコみ……!」」」

 

「私は中国人よ! 大阪生まれじゃないッ!!」

 

 

その(芸人としての)素質の高さに驚いていた。

彼女が元のテンションに戻るのに要した時間:5分。ラウラはその間に無事復活。

 

 

「そう言えば……。凰さん、先程織斑さんがデュノアさんと一緒に歩いているのを見かけましたよ?」

 

「あの様子だとデートかもね!」

 

「お前ら、気付いてたんなら返事くらい返してやれよ……」

 

 

彼女らに呆れつつ、一護は凰の顔を窺う。彼女を知る者ならば、そのような情報を知った後の行動が予想出来、場合によってはこの場で止めようと考えていたからだ。だが、

 

 

「ん~……それは無いでしょ。あの朴念仁のことだから、『買い物に付き合ってほしい』ぐらいよ、きっと」

 

 

予想もしなかった言葉が彼女の口から出た。そして、今言ったことは正解です。

 

 

「お、お前……」

 

「ん?」

 

「貴様、偽物だな」

 

「なんでよ!?」

 

 

本人を前にして失礼なことではあるが、四人ともがそう思っていた。

 

 

「だって……」

 

「私たちが知っている貴女は……」

 

「直情型だし! 織斑一夏が他の女の子と一緒にいるって知ったら、ジッとしてないと思う!」

 

「うぐっ! た、確かにそうなんだけど……。私も色々と思うところがあるのよ」

 

「……そうか」

 

 

そのことについて一護は言及しない。普段難しく考えない目の前の少女も、年頃の娘なのだ。悩み、考え込むこともあるだろう。

 

 

「あっ! ルナ、分かっちゃったっぽい。織斑一夏の周りにいる他の女の子とのサイズの違いに落ち込んでるんだ!」

 

「何でそっちの方に持ってくのよ!? 確かに、目の前で箒のアレが揺れてるとこ見て思わず『こいつは私の敵だッ!』って思っちゃったけど! 見せつけてんのかコノヤローって内心キレてたけど!! 私がいつも身体のコンプレックスで悩んでると思ってるの!?」

 

「「「うん」」」

 

「……嘘じゃないだけに腹立つッ! 真顔で答えんな!!」

 

(今日の晩飯、何にしよう……)

 

 

それを現実逃避と言う。(周囲の視線に晒されながら)

 

 

 

 

 

 

五人でぶらついていると、髪を切ったことで若くなったように見える金髪美女が横切り――その際、揺れる二つの塊に悔しがる四人――、少し遅れて銀髪の少年がその美女を探していると訪ねてきたり。

 

 

「む? 兄様、向こうが少し騒がしいようですが」

 

 

ラウラに言われ顔を向けると、そこには時代錯誤な貴族の格好をした青年の姿が。

 

 

「…………」

 

「……凄いわね。セシリアよりも貴族っぽいわ」

 

「に、似合ってるね~」

 

 

他にも、顔や首に刺青を入れた赤い長髪の男、美的センスが壊滅的な少女(?)、口喧嘩で毎回女性に負ける(おとこ)達。

周囲から視線を集めている彼らだが、その理由を分かってはいない。

その後、偶然簪らと出会い、何故か二人きりで行くことになったのだが、

 

 

「お……!」

 

「……私の名前だからって、一々反応しなくていいよ」

 

「けど、似合ってねえか? 安物だけどよ」

 

「私、貰い物にケチ付けたりしないよ。それに、黒崎君から貰った物なら、ずっと大切にするから」

 

 

特に語ることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、一護の部屋にて

 

 

「おい。部屋に入って来るなり、何で人のベッドに横になってんだよ」

 

「……別にそれくらいいいじゃない。ちょっと色々あって、今日は疲れたのよ」

 

 

うつ伏せで枕に顔を押し付けていた楯無は、僅かに顔を上げ今日起こった(本人にとって)辛い出来事を思い返す。

 

 

 

 

中略

「一体いつから、私から逃げられると錯覚していたのですか?」

 

 

仕事から逃げ出した楯無は、幼少期から特殊な訓練を受けていた(うつほ)によってあっさりと捕らえられた。昔からかけっこ等では一度も勝てたことはないのだが、まさかちょこっとだけISを使ったにも拘わらず捕まるとは思わないだろう。

その後、(うつほ)と織斑千冬に罰を受けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

(流石に、この歳になってお尻ペンペンされただなんて言えないわ。絶対に蔑んだ目で見られる! ……なんか興奮してきたわ)

 

 

人のベッドで鼻息を荒くしているのを見ないフリをし、

 

 

「それで、何の用だよ。お前が用も無くここには来ないだろ?」

 

「……そうね」

 

 

一護の言葉にどこか不機嫌になりながら、楯無は身体を起こし一護と向き合う。

 

 

「一護君達が臨海学校に行く場所に、また襲撃される可能性があるわ」

 

 

完全な推測だけどね、と楯無は付け加えていたが、確率としては高いと楯無は考えていた。

織斑一夏がここIS学園に入学してからというもの、行事がある毎に何かしらの――命に関わるトラブルが起こっている。専用機持ちが集まり、尚且つ通常よりも遥かに警備が手薄な臨海学校中に狙わないとも思えない。

 

 

「まぁ、そっちは一護君と織斑先生がいるから、どうとでもなるでしょうけど。問題は、IS学園にも襲撃が起こる可能性が高い、ってこと」

 

「それで、俺に残れってか?」

 

「確かに一護君が残ってくれるのならとても頼もしいし、嬉しいけど、重要なのは戦力だけじゃないのよ」

 

 

楯無は一息吐き、

 

 

「私たちは、幽霊が見えない」

 

 

緊張の糸が切れる音がした

 

 

「いくら強くたって見えなきゃどうしようもないわ。というか、見えないってなによ。覗きし放題? クンカクンカし放題? 何それ羨ましい」

 

(……俺達にとっちゃ普通だけど、霊って基本見えないんだよな)

 

 

普通の人間との差異を改めて認識し、スルー能力を高めていく一護。

 

 

「というわけで、何とか出来ない?」

 

「何とかって……。いつもなら突っぱねるとこだけど、運がいいな」

 

 

そう言って一護が出したのは『御守り』と書かれた、一見何の変哲も無いお守り。

 

 

「これは……?」

 

「霊的な攻撃から一回は守ってくれる御守り、って言ってたな」

 

 

楯無が部屋に来るほんの少し前、部屋に穴を開けてやって来た浦原喜助に渡された物の一つ。最下級大虚(ギリアン)虚閃(セロ)程度なら完全に防ぎきる効果を持っている、かつて一心がコンの為に作った物と同種の御守りである。

 

 

「ただの御守りに見えるけど……。まぁ、一護君が言う事なら信じるわ。それに、確かめる術なんて私には無いし」

 

「それ渡したからとっとと帰れよ」

 

「ちょっと! 一護君までそんな態度取らないでよ!! 脱ぐわよ!?」

 

「やめてください」

 

「!? えっと、敬語とか使ってほしくないな~、なんて」

 

「……開いてんぞ」

 

 

突如として扉の方に声を掛ける一護。その光景に楯無は幽霊に話しかけているのかと内心ビビるが、開かれた扉から現れた人を見て驚きの声を上げる。

 

 

「か、簪ちゃん!?」

 

「……ちょっと落ち着くまでここにいていい?」

 

「別に構わねえけど。何があった――」

 

「……大丈夫。私は普通サイズだから。本音が大き過ぎるだけだから」

 

(俺は何も聞いてない。そしてこれからの言動に気を付けろ。でないと俺が死ぬ)

 

「あ、あはは。お姉ちゃんそろそろ帰るわ」

 

 

死の気配を感じ取った楯無がそそくさと部屋から退散しようとする。余計なことをした本音に怒りを感じると共に、彼女の安否を心配しながら。

 

 

「……何で姉妹なのに、こんなに違うんだろうね」

 

「失礼しましたー!」

 

 

楯無、戦略的撤退。

 

 

「別に出ていかなくてもいいのに……」

 

「いや、今のは誰でも逃げると思うぞ?」

 

「黒崎君も?」

 

「ああ。あの怨嗟に塗れた声を怖がるなって言う方が無理な話――すまん悪かった。だからその振り上げた拳は下ろそう。な?」

 

「…………」

 

 

一護に言われゆっくりと拳を下ろす。何も話さないことが、依然恐怖を煽っているが。

数分経過して、

 

 

「……ごめんね」

 

「……落ち着いたんなら早くどいてくれねえ?」

 

「ヤダ。別にいいでしょ」

 

「困るから言ってんだよ! あと重――肘で殴るの止めてくんねえ? 謝るから」

 

「……デリカシーを学んだ方がいいよ、黒崎君は」

 

 

不満気な顔をしながら簪は一護から離れ、別の椅子に座る。

 

 

「……明日からの臨海学校、楽しみだね」

 

「まあな。学校の行事を楽しんだ記憶が()えからな。……空白の期間があったってのに、アニメスタッフは全カットしやがったからな」

 

「その分明日から楽しめばいいんじゃない?」

 

「そうだな。多分邪魔が入るだろうけど」

 

「テンション下がるようなこと言わないでよ。事実だけど」

 

 

そう口にする簪だが、口元は軽く緩んでいる。この臨海学校もどうせ邪魔が入って中止になるということも想像に難くないが、それを踏まえた上でこの数日を心待ちにしていた。

 

 

(なんでだろう。黒崎君がいるってだけで、楽しく感じる。前はただの一つの行事としか捉えて無かったのに)

 

 

自分がどのように変わったのかはまだ理解していないが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

 

「お兄さ~ん、一緒に朝まで遊びましょ」

 

「いや早く寝ろよお前ら」

 

 

ノックもせずに入ってきたラウラ達に冷静にツッコむ一護。

 

 

「何で今日に限って夜更かしすんだよ。明日からの臨海学校、楽しみにしてんだろ?」

 

「そうなんですけど、二人が興奮して眠れないんです」

 

「なので、今日安く売られていた『東○非想天則』を一緒にやりましょう兄様!」

 

「それとも、お邪魔でしたか? お二人は逢瀬中じゃ……」

 

 

子供かとツッコみたいところだが、実際この子らは子供である。容姿だけでなく中身も。

さゆかの頭にチョップを入れ、

 

 

「……分かった。相手してやるから、騒ぐなよ?」

 

「「「は~い」」」

 

「私はもう部屋に戻るけど、三人とも、ちゃんと寝なきゃダメだからね?」

 

「分かっています姉様」

 

 

ラウラが簪のことをこう呼ぶようになったのは、先日の模擬戦の後から。さゆかの入れ知恵もあるが、尊敬に値する人物だからということもあり、そう呼ぶことにした。

ちなみに、楯無もそう呼ばれたいと鼻息を荒くしていたのだが、ラウラにバッサリと切り捨てられ、簪にしばき倒され、(うつほ)にお仕置きされていた。

 

 

「それじゃあお休み」

 

「「「おやすみなさい」」」

 

 

部屋を出て扉を閉めると、中から『朝まで遊ぶぞー!』『今日は朝まで寝かせません!』『だから! 騒ぐなって言ってんだろ!!』『あの、兄様の声も大きいです』とても寝る前とは思えない程騒いでいる四人の声が微かに聞こえる。

 

 

「明日起きれればいいんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ1

 

(うつほ)様。ご命令通り邪魔者の排除、完了いたしました」

 

『ご苦労様です。あなた達は引き続き、一護さんと簪お嬢様の護衛を』

 

「了解です!」

 

 

舞台裏にて、女尊男卑な思考の女やナンパ男、セクハラ女が連行され、教育されていたことを一護達は知らない。

 

 

 

おまけ2

 

「あんなに怒ったかんちゃんは初めて見たよ。あれは、もはや人の皮を被った悪魔だね」

 

「本音?」

 

「ぴぃ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

 

 

この日以降、布仏本音は簪に対する言動に一層気を付けることとなる。

 

 




次回からようやく臨海学校が始まります。
これからは一護以外のBLEACHキャラも参戦し、本格的にBLEACHキャラがISキャラと関わっていくことになる予定です。また、千年血戦編で出た、この時点で習得している卍解や始解が出る可能性も少しあります。楯無の活躍もあります。

次の更新は…ガ、ガンバリマス。


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