崩壊と混沌の黙示録 (天崎)
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紅崎 黒白の始まり

思い付きを書いただけではあります。
それでも構わないなら読んでください。
ぶっちゃけあらすじ詐欺に近い内容です。


とある路地裏。

 

「で、これで全部?黙秘したら他の奴ら同様壁のしみになってもらうからな?」

 

少年は右手で一人の男の首を掴み、壁に押し付けながら笑顔で問う。

その周囲は異様に紅かった。

それが意味するのは一つだった。

故に首を掴まれた男は恐怖で過呼吸になりながら涙目である。

 

「そうです……そうですよォ!?俺らはこれで全員ですよォォォ!!」

 

「嘘はねぇな」

 

「は、はい!!もちろんです!!」

 

男の様子を確かめながら嘘かどうかをじっくり判断する。

情報と人数はあってる上にこの様子である。

嘘では無いだろう。

 

「よし…………なら死ね」

 

「は?」

 

男が声を出した時には終わっていた。

いつの間にか左手には紅い針があり、それが男の脳天を貫いていた。

死亡したのを確認するとそこらへんに投げ付ける。

 

「これでお仕事完了、と。あとは姉御に報告すれば終わりだな」

 

血肉で真っ赤に染まった道から遠ざかりながら呟く。

少年の名は紅崎 黒白(べにさき こはく)。

傍目から見たら普通の人間ではあるが、これでも吸血鬼である。

今の時代、自身の特性をいじる技術はありふれている。

故にたとえ日光が出ていようと平気で外を歩ける。

短所を消す代わりに長所と言える部分も消えるのでどういじるかは本人次第ではあるが。

黒髪に短髪で黒スーツ、見た目としてはそうおかしくない。

“境”が崩壊した数千年前は様々な文化が入り混じっていたが大体は人界に合わせられる様になった。

それは上位存在は世界を崩壊させかねなかったからだ。

純粋な神や魔王は聖気や障気が満ちた天界や魔界に近い環境のエリアから出るとその存在の強大さ故に世界そのものに影響を与えてしまう。

あらゆる世界が混じった故に世界は脆くなったのだ。

なので、上位存在が自由にする為には神格を落とすしかなかったのだった。

神格を落とした上位存在は寿命に縛られる。

上位存在が死んだ場合は似た様な性質を持つ者に神格が移る。

それ故にもはや種族の境すらも曖昧になっていた。

だから、虫は平気で殺せても犬を殺すのに抵抗があるという生死感の“境”も曖昧になり、個人の価値観による物が大きくなっていた。

それによって安全区と呼ばれるエリア以外は非力な者にとってかなり危険であった。

とはいえ、黒白はそこらへんを分かった上で殺っているが。

あくまで仕事の依頼があったから殺っただけであった。

携帯を取り出すとネクタイを緩める。

仕事という事でキッチリ絞めていたが多少キツかったのだ。

ネクタイを緩めた事により、首から異様な物が見える。

首輪であった。

それは誰かの所有物である事を意味しているわけではない。

監視対象の証であった。

報告をしようとした所でちょうどよく電話が掛かって来た。

 

「もしもし」

 

『私よ』

 

「姉御でしたか!!ちょうどいい、今報告しようと……」

 

『あぁ、それは把握してる』

 

「なら、何の用で?」

 

『今すぐ戻って来い。そうだな……二十分以内かな』

 

「ちょ、姉御!?此処はZ区ですよ!?姉御の家のあるF区までどれだけあると思って………」

 

『うるさい、下僕。遅れたら血をやらないわよ?』

 

「了解、五分で戻ります」

 

そこで通話が切れる。

電話の相手は黒白が所属している会社の社長とも言える人物だった。

会社と言っても所属しているのは数人だが。

黒白は困った顔をしながらも何かを期待するかの様に笑う。

とりあえずの問題はどうやって街の端から端へ十分で行くかだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

黒白達がいる街はA区からZ区までの26個の区に分かれていた。

その内、十区は危険区扱いだった。

黒白が先程までいたZ区は危険区と安全区の境とも言える区域だった。

ちなみに街の外はもれなく危険区である。

街の端から端まで移動するとなり、仕方無く吸血鬼の身体能力を全開にしてダッシュする事で何とか事務所まで辿り付いたのだった。

あいにくと霧化は弱点と共に消えていた。

インターホンで間に合った事を確認してから社長室を目指す。

事務所と社長の家を兼ねてるので割りと広かったりするのだ。

社長室の前までくるとちょうど金髪の少年が部屋から出てくる所だった。

金髪の少年の首にも首輪はあった。

金髪の少年と黒白は目が合うなり、顔を歪める。

 

「チッ、吸血鬼。お前は何で此処にいる?」

 

「俺か?姉御に呼ばれたに決まってるだろうが、狼男」

 

互いに露骨に悪意を混ぜながら言う。

もはや睨み合ってるに近い。

金髪の少年の名は狗神 不炎(いぬかみ ふえん)。

二人は根本的に相性が悪かった。

 

「そもそもさ。お前の様な奴が姉様の近くにいるのが気に入らないんだよ。早く死んでくれないかな?」

 

「それは此方の台詞だ、駄犬。俺はテメェの様なのが特に嫌いなんだよ」

 

「へぇ、気が合うな。俺も君は嫌いだよ」

 

殴り合いに発展しそうな雰囲気になった時だった。

社長室の扉が勢いよく開かれる。

 

 

「私の部屋の前で騒ぐな!!下僕と犬はそんな事も分からないの?」

 

 

「「すみませんでした!!」」

 

今までの雰囲気をガラリと変えて社長室から出てきた少女に土下座した。

二人とも少女には頭が上がらないのだ。

少女の名は、墓守 青葉(はかもり あおば)。

彼らの監視役であり、管理人であった。

が、そんな役職は二人には関係無い。

二人とも純粋に青葉を慕ってるからこその態度だった。

 

「ったく、あんたら“封印指定”が安全区に住めるのは私が監視役だからという事を忘れるなよ?」

 

「「重々承知です!!」」

 

「なら、よし。犬は犬小屋に戻って書類を片付けとけ。下僕は話があるからとりあえず入りなさい」

 

指示を出され、素直に従う。

土下座から立ち上がる一瞬に睨み合いが発生するがそれは無視する青葉であった。

社長室に入るなり、青葉は椅子に座り、机の上の書類を手に取る。

黒白は机の前に立つ黙って立つ。

 

「さて、何で呼び出したか分かるかしら?」

 

「いえ」

 

「そう。なら、説明してあげる。簡単に言えばあんたやり過ぎ」

 

「と言いますと?証拠は残してませんよ?」

 

死体は肉片レベルに散らすか、脳天を正確に貫いていたいるので証拠など把握しようが無いはずだ。

 

「それは分かってるわよ。もうちょっと綺麗に殺せと言ってんのよ。掃除屋使うにも金がいるのよ?」

 

「あぁ……そういう事ですか。けど、姉御。屑には相応しい殺り方というのが………」

 

「黙れよ、下僕」

 

その一言で空気が変わる。

冷たく凍える様に。

 

「確かに子供を生け贄にしようとした奴らはあんたが過剰に反応するのも分かるわよ。そして、今回だけなら許してるわよ。でもね、それを毎度……数十件も起こされるのは面倒なのよ」

 

「暗黙の了解ってやつですか?」

 

「そうよ。十年前に目覚めたばっかのあんたはまだ把握し切れて無いでしょうがこういう仕事は目立たずやる物なのよ。あんたみたいに掃除の必要がある殺り方は迷惑なのよ」

 

明確なルールと言うわけではない。

生死感が個人によって違うこの時代で死に過剰に反応するのはいない。

だが、それでもやっていい範囲と言う物がある。

普通に殺る分ならともかう肉片も残らないレベルで潰すのはさすがに駄目なのだ。

 

「それでどうしろと?」

 

「とりあえず、掃除代はあんたの給料から引いとくとしてあんたはまず“表”を知りなさい」

 

「それに何の意味が?」

 

「そろそろあんたも“表”の身分を持つべきと思っていてね。そのついでよ」

 

「はぁ」

 

困惑する様に頷く。

これまで“裏”の仕事ばかり請け負って来たのにいきなり“表”を知れと言われても困るだけなのだ。

青葉は悪戯っぽい笑みを浮かべ、何処か楽しむ様に告げる。

 

 

「一先ず、高校から始めましょうか」

 

 

これが紅崎 黒白の“表”の始まりだった。




いきなり血塗れ!!
設定などは後々明かしていく感じです。

紅崎 黒白 吸血鬼
狗神 不炎 狼男
墓守 青葉 ???

という感じです。
種族に関しては混血でも特性が濃い物を名乗ります。

それでは、質問があれば聞いてください。
感想待ってます。


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紅崎 黒白の悪夢

 

それは最悪の目覚めだった。

数百年振りに目が覚めたと思ったら辺り一体は火に包まれ、廃墟同然な光景だった。

封印が解かれたのだろう。

けれども、それは“俺”には関係無かった。

どうせ身勝手な人間が施した封印だ。

知った事では無い。

問題なのは誰が解いたかだ。

もしも、“俺”を利用するというのなら殺すつもりだった。

が、目的を確認する暇も無かった。

封印を解いたのは男女という事を把握した時点で男の方が襲ってきたからだ。

当然応戦した。

当たり前だ。

誰だって殺されるのは嫌だ。

“元々の神格”をいじりにいじって吸血鬼に固定した“俺”でも相手は出来ていた。

勝つか負けるかは分からない。

しかし、それどころでは無くなった。

“俺”は“それ”だけは見逃せ無いのだ。

敵の事では無い。

そんな物はどうでもよくなった。

封印解除の余波か、戦闘の余波かは分からない。

でも、それもどうでもいい。

大事なのは“あれ”を救えないなら“俺”は___

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

_____最悪の目覚めだった。

よりによって一番見たくない夢を見ていた。

額に手を当てるとジャラリと鎖が動くような音がした。

当然だ。

だって、俺の手足には枷がはめられてるのだから。

 

 

◇◇◆◇◇

 

 

「いや、姉御…………俺は高校生って年齢じゃ無いんですが」

 

「ハァ?」

 

当然の疑問を言ったら睨まれた。

こういう時は大抵パターンが決まっている。

自分が楽しむor自分のストレス発散の為にセッティングしたのに口を挟むな、というパターンだ。

まぁそれ自体は構わないのだがさすがに高校というのは抵抗ある。

てっきり“表”の身分証を作った上で“表”の仕事をやると思っていたので想定外だった。

 

「別に外見年齢も精神年齢もそのくらいでしょうが。どうせ不老なんだからそこらへんは楽しめるのを選んだ方がいいでしょ」

 

「いや、ですけどね…………」

 

「文句言おうが手続きは此方で済ませて置くから無駄よ」

 

これはもう無理なパターンだな。

いや、抵抗してもいいが返り討ちにされる。

こういう時は素直に従うのが吉だ。

 

「分かりましたよ。制服とかもそちらで用意してくれるんですか?」

 

「えぇ、そこらへんは任せとけばいいわ。………………あぁ忘れる所だった」

 

何かを思い出した様に姉御が指を鳴らす。

直後に首輪から鎖が伸びて俺の体に巻き付く。

この鎖は暴走した“封印指定”を抑え込む為の機能である。

勿論魔封じを込められてる。

ただでさえ力を抑えられてるのに更に力が抜ける。

 

「えーと、姉御…………何故今これを?」

 

「下僕のあんたにプレゼントがあるからよ。喜びなさい」

 

そう言い、にこやかに笑う姉御の手には枷が四つ。

明らかに手足に付ける奴である。

枷からは中途半端に鎖が伸びている。

おそらく首輪と同様の仕掛けがあるのだろう。

 

「何で枷を増やされるんですかね?」

 

「そりゃあんたがやり過ぎだからよ。謹慎処分兼重封印ってわけ」

 

納得と同時にゾッとする。

首輪だけでも結構な力を封じられてるのにこれ以上封を付けられたら何処まで力が落ちるか分かった者じゃない。

 

「しかし、姉御。これって着替えとかの邪魔になりませんか?」

 

「そこらへんは大丈夫。半実体って言う物でね。特殊な方法じゃないと触れないから服もすり抜けるわよ。“管理人”と“鍵”を持たないと触れられない。とはいえ、手とか斬り落とされても面倒だからそういう刃物とかは弾く設計にはしてあるけど」

 

「そうですか」

 

確認作業をする中でも枷は付けられていく。

さすがに抵抗はしない。

というか出来ない。

全て付け終わると首輪の鎖が消えたので立ち上がる。

 

「さっきの言い方だと“管理人”と“鍵”の所有者は別に聞こえましたが」

 

「そうよ。“管理人”は当然私だけど、“鍵”は……あんたの後ろにいる子が持ってるわよ」

 

「ッ!?」

 

思わず振り向く。

本当にいた。

気配すら感じ無かった。

“血”の臭いすら無かった。

そこらへんは常に気を配ってるので気付かない方がおかしいのに。

 

「墓守 楓(はかもり かえで)。黒白さんの枷の“鍵”の管理と学園での監視役を担当させてもらいます」

 

白髪長髪ストレートで赤目で眼鏡の少女が微笑みながら頭を下げてくるのだった。

何処か似た様な臭いを感じたが身に覚えは無かった。

 

 

◇◇◆◇◇◇

 

 

というわけで手枷足枷が現在の俺にははめられてるのだった。

どうもどうやら首輪に比べて封は弱いというか方向性が違うらしい。

身体能力などはそのままなのだが、吸血鬼としての力が一部を除き根こそぎ封印されて使用不可な状態になっていた。

姉御の言った様に完全に実体では無いようで邪魔には感じ無かった。

 

「ったく、面倒な事この上ねぇな」

 

「何が面倒なのですか?」

 

「ッ!?」

 

思わずベッドから飛び飛び降りて臨戦体勢を取ってしまった。

気配を感じさせずに近付かれるのは職業柄警戒してしまう。

 

「あら?驚かせてしまいました?」

 

楓は不思議そうに首を傾げた。

とはいえ、俺はこの子の事を何にも知らないわけだが。

何処か幼さを感じさせる。

まぁ重要なのは“枷の鍵”を持ってる事だ。

それを奪えればだいぶ楽になる。

その為にも普段は使いたくない故に使わない力を使うしか無い。

それは“魅了の魔眼”だ。

相手の精神を壊す可能性があるがこの際仕方無い。

俺は楓に近付くとその目を見詰めながら魔眼を発動させる。

 

「なあ、ちょっと聞きたいんだが………………」

 

「あ、言っておきますが“魅了の魔眼”は私には効きませんよ?」

 

「なァ!?」

 

マジか!?

つーか、何でだよ!?

俺の魔眼が効かないのは神格が上の相手くらいだぞ!?

 

「私は半吸血鬼、いわゆるハーフヴァンパイアなので吸血鬼の力は一部無効化出来るんですよ」

 

丁寧に説明してくる。

まぁ納得出来ないがそうというならそうなのだろう。

手っ取り早い安易な方法を選んだのが間違いだったのだろう。

とりあえずは切り換えていくべきだ。

聞きたい事は幾つかある。

 

「そもそもお前はどうやって入ってきた?」

 

「監視役という事で合鍵を青葉さんから」

 

「……………」

 

下僕のプライバシーなんて知った事では無いんだろう。

俺は姉御の所有物なのでそこらへんは構わないが。

それより気になるのが姉御との関係何だよな。

 

「青葉さんとの関係が気になりますか?」

 

「まぁ一応な」

 

どうやら表情でも読まれたらしい。

とはいえ、都合はいいのでそのまま聞く。

 

「私はとある事件で天涯孤独の身になっていましてね。青葉さんは偶然その事件に関わっていて拾われたんですよ」

 

「拾われた?」

 

「そのままの意味ですよ。もしかしたら捨て犬を拾う感覚だったのかもしれません。そのまま墓守家の養子という事にされて青葉さんには妹の様な扱いを受けてました」

 

姉御だからありえそうな話である。

実際俺も拾われたに近い。

ん?待てよ。

 

「姉御は確か本家と喧嘩してて勘当されてるはずだぞ?」

 

「はい。なので、私も本家の人には会った事はありません。どういう手を使って養子云々の手続きをしたかは分かりませんが」

 

…………何故だか嫌な予感がしたがおそらく気のせいだろう。

とはいえ、関係性は大体分かった。

そして、“魅了”が効かなくて本当に良かったと思う。

姉御の妹にそんな事をやったと分かれば殺されかねない。

そういや、肝心な事を聞き忘れてた。

 

「今更何だが、お前は何しに来たんだ?」

 

「あぁ………忘れる所でした。青葉さんから頼まれ事を受けてまして、この封筒を先輩に渡す様にと」

 

「先輩?」

 

「はい。学園の方でも、会社の方でも黒白さんは“先輩”となりますので」

 

大体分かった。

それはともかく封筒の中身を確認する。

内容は編入の手続きが終わった事、編入は一週間後、制服の手続きなどが書かれていた。

たった一日でここまで話が進んでいるという事はおそらく以前より進めていた話なのだろう。

姉御らしい事だ。

こりゃ今更どう足掻こうが無駄だな。

 

「それでは、わたしはこれで」

 

「ん?もう帰るのか?茶くらい出すぞ?」

 

「私は他にも用事があるので」

 

「そうか。わざわざ封筒を届けてくれてありがとうな」

 

「いえいえ、このくらいは幾らでもやりますよ。それではまた今度」

 

そう言うと楓は部屋を出ていくのだった。

玄関まで見送ろうかと思ったがタイミングは逃した。

何か引っ掛かりを感じたのだが、それが何かはピンと来ないのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

そんなこんなで一週間後。

俺は制服に身を包み、編入先の太刀川学園に来ていた。

制服は黒のブレザーだった。

ネクタイは青い。

さすがに初日なので着崩したりはしない。

とはいえ、首輪と手枷足枷は目立つが。

拘束されてるのとは別の意味で。

 

「では、教室まで案内しますね」

 

と、言って俺の前を歩いているのは担任教師だ。

東山 千鶴(ひがしやま ちづる)というらしい。

周りの様子を人気の女教師的な空気がある。

担任も同じく首輪をしている。

“封印指定”の証である首輪だが、首輪持ちが何故教師をしているかには疑問を持つが種族が分からない分には何とも言いがたい。

教室の前に着くと呼ぶまで廊下で待ってる様に言われる。

 

「それでは、転入生入って来てください」

 

「はい」

 

教室の引き戸を開けて中に入る。

同時に生徒達が騒ぎ始める。

それもそうだろう。

“封印指定”を見た時の普通の反応がそれである。

俺はそれを無視しつつ、黒板の前に立つ。

 

 

「紅崎 黒白だ。これからよろしくな」

 

 

最初はまぁ無難に始めていくつもりではあった。

決まった物は仕方無い。

あとは面倒を起こさない程度にやっていくだけである。





軽く説明すると
“封印指定”は“ある脅威”を持つ存在に対する物です。
“封印指定”が安全区で生活するには管理下に置かれ、力を封じられる事になります。
首輪はその分かりやすい目印です。

この世界そのもの聖気と障気のバランスがかなり不安定であり、それらの濃度が高いと魔族などは影響を受け、人類は体に悪影響が及ぶ可能性があります。
で、それらのバランスが安定してるのが安全区というわけです。
危険区に関してはランク分けされてますがそれらは本編で出てから説明します。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。



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紅崎 黒白の困惑

さて、名乗ったはいい。

ヒソヒソ話してるのも転校生相手には当然だろう。

が、問題なのは手枷足枷だ。

 

『あの枷、何?首輪は先生のと同じだろうけど』

『そんな事も知らないのかい?』

『ありゃ首輪と同じで魔封じの枷だ』

『けど、滅多な事じゃなけりゃ付けてる奴いないけどね』

 

やはり手枷足枷は目立っている。

当たり前だ。

こんな物は“封印指定”の重罪人くらいしか付けてない。

というか、五つも枷を付けて普通に行動してる時点でまともじゃない。

そこらへんは俺故にだが。

まぁ悪目立ちしてるのは確実だ。

今日から俺の所属するクラス、2-Cの連中の話題としてはちょうどいいのだろう。

 

「はいはい、静かに。質問があるなら本人に聞きなさい」

 

「はい!!じゃあ、紅崎君の種族は何ですか?」

 

視線が俺に集まる。

そりゃ気になるよな。

つーか、さすが安全区だな。

“裏”じゃ命取りだから隠しておくのをホイホイ聞いてくるぜ。

俺としては構わないが。

 

「吸血鬼だ。神格はいじってあるけどな」

 

嘘は言ってない。

ちょっと誤解が生まれやすくなっただけだ。

神格をいじった末に吸血鬼に落ち着いて、吸血鬼としての弱点を削ったのが俺だからな。

相変わらずザワザワしてるが時間的に解放されるだろう。

 

「じゃあ、皆仲良くするように。紅崎君の席は右から三列目の一番後ろだから」

 

「分かりました」

 

適当にそれっぽく返事してから席に向かう。

途中で周囲の臭いを嗅いでおく。

妙な臭いは………とりあえずはしなかった。

本当に一般人の集まりなのか、巧妙に隠してるのが混ざってるのかは知らないが。

そして、朝のホームルームは終わり一時間目の授業が始まる。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

油断はしてなかったと言えば嘘になる。

何故ならこんな面倒な事になるとは思っていなかったからだ。

授業の間もヒソヒソ話が続行され、ノートの切れ端が回ってるのを見て察するべきだった。

まさか、本番は休み時間だとは………………

 

「吸血鬼らしいけど、何処までいじったの?」

「“封印指定”が何でこんな所に?」

「おいおい、“封印指定”なら副会長とか風紀委員長とかいるんだし聞くような事でも無いだろ?」

「手枷足枷は何をやらかして付けられたの?」

「何処から転校してきたの?」

「どうして此処に転校してきたん?」

「そもそも何歳?私達と同じ?」

 

聞いた話によると若い奴らは退屈を持て余して新しい何かを求めているらしい。

そして、此方は話題の塊。

こうなるのは必然だったのだろう。

とりあえず間違いは正してからさっさと質問攻めから抜け出す。

とはいえ、休み時間は短い。

抜け出すと言っても便所に逃げるくらいである。

 

「で、何でお前はそこにいるわけ?」

 

「私は先輩の監視役ですから」

 

そう答えたのは楓であった。

白い髪を揺らし、ズレた眼鏡の位置を正す様にしながら立っている。

こいつは確か一年だったはずである。

一年の教室は南校舎の方だったはずだ。

俺のいるのは北校舎。

何故わざわざ来たのか。

 

「教室以外では監視していろと言われてますので」

 

「ったく、真面目だねぇ」

 

服装を見てもブレザーはキッチリ着て、リボンもしっかり絞めてあり、スカートの長さもおそらく校則通りだろう。

まさに模範的な感じである。

 

「さすがに便所までは付いてこないよな?」

 

「当然です」

 

冷たい目で睨まれた。

当然と言えば当然だが。

そんなこんなで適当に便所を済ませて教室に戻ろうとすると止められた。

 

「まだ何か用か?」

 

「えーと………弁当の用意ってしてありますか?」

 

「してないけど?」

 

「な、ならどちらかいいがですか?」

 

前に出してきたのは輸血パックと屍肉の臭いがする袋と普通の弁当箱だった。

……………何で用意してあるんだ?

まぁいいけど。

 

「じゃあ、弁当を貰っておく。ありがとな」

 

弁当箱を受け取るとそのまま教室に入るのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

次の休み時間も何とかやり過ごした。

変化が起きたのは三時間目の授業である。

何か教師がグループ組めと言って来たのだ。

とはいえ、転校初日で積極的に組もうとしてくるのはいない。

居眠りでもしようかと思った時に話しかけられた。

 

「僕は浅間信二(あさま しんじ)。委員長をやってるわけだけど、良かったら僕達と組まないかい?」

 

「いいけど」

 

特に断る理由も無いので了承した。

グループは俺を含め男三人、女三人と言った感じだ。

 

「紅崎君もグループに加えようと思うんだけどいいよね?」

 

眼鏡で黒髪の委員長がグループのメンバーと話している。

たかが授業のグループ作りでそんな物が必要なのかは疑問だった。

どうやら話はついた様なので俺は席につく。

 

「紅崎 黒白だ。改めてよろしく」

 

一応名乗っとく。

一応知り合いは作っておいた方がいいだろう。

 

「原与一(はら よいち)だ。よろしくな」

 

筋肉質だが小柄な男が名乗ってくる。

手を見た感じだと弓辺りでも扱ってそうな感じだ。

 

「本陣色(ほんじん しき)よ。副委員長をやってるわ」

 

ボブくらいの黒髪で後ろに一房長いのが伸びている女が名乗った。

 

「浄心衣(じょうしん ころも)よ。お見知りおきを」

 

次は丁寧そうな黒髪長髪の女が名乗った。

 

「信二に、与一に、色に、衣な」

 

「いきなり下で呼ぶのかい?」

 

「悪いか?」

 

「いいや、そんな事は無いよ」

 

名字で呼ぶのはあまり好まない。

距離離れてる気がするしな。

血の臭いはしないが何かありそうな臭いをどいつもこいつも漂わせている。

そこで一人忘れていたのを気付く。

 

「そういや、聞き忘れていたな。あんたは?」

 

「私?」

 

紫髪長髪ストレートで蒼い瞳の女が此方を向く。

よく見ると制服の上からローブの様なのを纏っている。

とはいえ、今となっては髪色も格好もおかしな物では無いが。

 

「赤池ディメアよ。好きに呼んで」

 

「ディメアな。お前らは見た感じだと、人間っぽいが間違いじゃないよな?」

 

「そうだね。クラスには色々といるけど、この五人は人間だよ」

 

委員長が答える。

人間か。

それにしちゃ何かありそうではあるが。

人間と言っても神格を得ずに己を研ぎ澄ますタイプもいるのだ。

 

「ねぇ。少しいいかしら?」

 

「何だ?」

 

ディメアがネットリとした声で話し掛けてきた。

こいつは明らかに怪しいタイプである。

というか、自分から怪しく見せてるタイプだ。

それも怪しさを利用する系の。

 

「吸血鬼というには何か妙な気配を感じるのだけれども貴方、本当に吸血鬼?」

 

「それを聞くか」

 

中々鋭い。

そうは言っても吸血鬼である事に変わりは無いが。

混ざり物なのは間違い無い。

けれども、それを正直に言う気は無い。

 

「それを聞きたいならお前の秘密でも明かしてくれないか?今日は質問されてばっかりだからな」

 

「ふーん、いいわ。明かす事に問題があるわけでは無いしね。私は魔女の一族よ」

 

「……………そうか」

 

うん、知ってた。

格好的にも予測はしていた。

臭いをよく嗅ぐと薬品と思わせて魔術用の触媒の臭いが混じってるしな。

 

「じゃ、俺も言うとしたら純粋な吸血鬼では無いな。混ざり物だよ」

 

「そう、そういう事なのね」

 

手枷に目を向けながら言ってくる。

その様子も不気味である。

何を考えてるか読みにくいのにも程がある。

俺達のやり取りを聞いていた委員長が何か思い付いた様な顔をする。

 

「そうだ!!此処は皆で秘密を明かして行こうじゃないか」

 

そんなこんなで質問攻めよりは楽だが俺達の六人グループは秘密暴露大会みたいになるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ようやく一区切りが付いた。

時としては昼休みだ。

弁当食って寝るかとでも考えているとこんな放送が流れてきた。

 

[えー、2-Cの紅崎黒白君。生徒会長がお呼びです。至急生徒会室まで来てください。繰り返します。2-]

 

何やら呼び出しを食らった。

クラスメイトの視線が痛い。

転校初日に生徒会に呼び出されるとか異常以外の何でも無い。

理由は予測付きはするが。

 

「委員長、飯を誘ってくれたとこ悪いが言ってくる」

 

「別に構わないさ。今日がダメなら明日一緒に食べればいい」

 

そういうわけで教室から出るわけだが出た直後に楓と出くわした。

……………何故いる。

 

「ほら、呼び出されたんだから早く行きますよ」

 

「それは突っ込むなって事か?」

 

突っ込む気も無いが。

何はともあれどう言おうが仕方ないので俺達は生徒会室に向かうのであった。

その途中、

 

「ん?」

 

何か脈打つのを感じて思わず振り向く。

だが、特に気になる様な事は何も無かった。

あるとしたら、クラスメイトの一人とちょうどすれ違ってた事だけだ。

だが、そんな物はただの偶然だろう。

すれ違っていたのは確か………八事羽生(やごと うい)だったか?

まぁ後で委員長にでも少し聞いとくか。

とにかく今は生徒会室に向かうのであった。

 

 





転校初日でした!!
クラスメイトについては35人います。
後日活動報告に名前一覧として載せます。

それでは、質問があれば聞いてください。
感想待ってます。


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紅崎 黒白の沸点

活動報告に2-Cの生徒一覧載せてます。


 

さて、生徒会室の前には来た。

背後には楓が付いてきている。

並んで歩く気は無いらしい。

正直無駄に目立つわけだが気にしない事にした。

もうそこらへんは言っても聞かないと分かっている。

楓の事はそこまで知らないがこういうタイプは何人かあった事がある。

それはともかく俺は生徒会室の扉をノックする。

 

「入りなさい」

 

明らかに聞き覚えがある声が返ってきた。

予測は出来ていた。

何となくこの後の流れも予想が付くので正直引き返したいのだがそれはそれで後が怖い。

しょうがないので諦めて扉を開ける。

それはそれで失敗だったが。

 

「ごふぅ!?」

 

「入る前に“失礼します”とか言いなさいよ。郷に入れば郷に従えって言うでしょ?」

 

おそらく辞書と思われる本を投げ付けられた。

完全な不意討ちだった事もあり、バランスを崩して後方に倒れる。

すると、どうなるかと言えば単純である。

俺の後ろを楓が付いてきていたのである後方に倒れれば下からスカートの中身が丸見えである。

 

「これ…………俺が悪いか?」

 

「さぁ?」

 

楓は笑いながら首を傾げる。

これだけなら可愛らしくある動作なほだが、目が笑ってないので台無しである。

そのまま楓は俺の頭に踵を落とすのであった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

一悶着あった物の中にいたのは予想通りの人物であった。

墓森青葉、ようは姉御だ。

姉御の服装は楓とは真逆だった。

どう真逆かって?

生真面目なぴっしりした格好の逆と言えば着崩し、改造制服に決まっている。

黒髪長髪のストレートはそのままではあるが。

上はブレザーを羽織らずにYシャツにリボンではなくネクタイを絞めている。

それも緩めている上に上二つ程のボタンが外れている。

言っちゃ悪いが姉御はそこまで胸ある訳じゃないので露出させてるわけではない。

下はロングスカートだ。

ただし、スリットが入って下着が見えないのが不自然なレベルだが。

 

「姉御が“表”では高校生やってるのは知ってましたがまさか生徒会長とは思いませんでしたよ」

 

「学校では会長と呼びなさい。それはともかく高校なんてそう経験出来る事では無いからね。楽しむ所は楽しませて貰ってるのよ」

 

姉御は此方に目を向けない。

何か書類を処理しているようだった。

椅子に座らず机の上に座ってるのは何時もの事ではある。

 

「ちなみに私は庶務です」

 

「………ぴったりだな」

 

言われても反応に困るので無難な答えでも返しておく。

はっきり言ってそこらへんの感覚はピンと来ないのだ。

そんな事を話していたら後ろの扉が大きく開いた。

 

「会長、理事長よりの返答が届き………」

 

どうやら生徒会役員が入ってきたようだ。

何やら報告しようとしていたがその声が止まる。

理由は分かっている。

というか明白だ。

分からない方が不自然だ。

なんたって聞こえて来た声は俺の知る中で最も不愉快な声だからだ。

 

「何でテメェが此処にいるんだ、クソ吸血鬼!!」

 

「それは此方の台詞だ、クソ狼男!!」

 

能力も武装も今は魔封じの枷のせいで使えないが関係無い。

素手でもやるだけである。

拳を構え、何時でも掴み掛かれる体勢に入る。

向こうも向こうで大体同様な様だ。

 

「テメェは自分の状態分かってんのかぁ?そんな枷を付けて俺に勝てるとでも?」

 

「テメェみたいな腐れ狼を潰すくらいならこのくらいのハンデがあった方がちょうどいいくらいいなんだよ。鎖に縛られてるのが羨ましいのか?」

 

互いに殺気を剥き出しにする。

奴の言う通り、不利なのは確かだ。

だからと言って敗北が確定しているわけではない。

戦い様によっては十分に戦える。

まさに戦闘開始数秒前という時だった。

 

 

「ねぇ……あんた達さぁ…………………此処が何処で私の立場が何か分かってやってんの?」

 

 

凍える様に冷えた声が睨み合っていた俺達の視線を姉御に固定させる。

表情は変わらない。

だが、目は明らかに怒ってる。

 

「あんたらが何処で喧嘩しようが構わないけどよ。あんたらは私の下僕と犬なのよぉ?見世物はもっと面白くやりなさい」

 

言いながら指を小さく鳴らす。

途端に俺とクソ狼の首輪から鎖が伸びて全身に巻き付いて体を拘束する。

魔封じそのものと言える鎖に巻き付かれては俺もこいつも身動きなど取れるわけがない。

 

 

「そもそもさぁ………あんたらの生殺与奪権は私が握ってるのは忘れるなよ?私は私の害になる物なら容赦無く斬るわよ?たとえ、身内でもね」

 

 

いつの間にか手に握っていた刀の刃を鞘からチラつかせながら凍える瞳で言ってくる。

元々逆らう気も無いが俺達は姉御には絶対に逆らえないのだ。

少なくとも首輪がある内は。

首輪がある限り、拘束される上に姉御には絶対に実力的に勝てないのだ。

姉御は斬ると言ったら斬る。

俺達は冷や汗流しながら無言で頷くのだった。

背後で楓がクスクス笑ってる気がするのはきっと気のせいでは無いのだろう。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

さすがにここまでやられて喧嘩を続ける程馬鹿でもねぇので中断した。

ギスギスとした空気の中で副会長らしいクソ狼と姉御が書類を処理する。

俺への用件は後らしい。

楓も姉御もギスギスした空気など涼しそうにスルーしている。

まぁ実質俺とクソ狼が殺気を向けあってるだけなので当然ではあるが。

 

「先輩、お茶です」

 

「悪いな」

 

楓の出してくれた茶をすすりながら待機する。

ちなみにクソ狼は制服改造をしていない。

多少着崩してる程度である。

 

「さて、面倒な伝達事項も済んだ事だし、本題に入りましょうか」

 

姉御が机の上に座ったまま言ってくる。

やっとである。

とはいえ、用件そのものがどんな物かは想像が付かないが。

 

「わざわざ呼び出したって事はそれなりに急な物ですか?」

 

「そうね。出来るだけ早く解決して欲しい案件ではあるわね」

 

という事は依頼の類いか。

断る気は更々無いがこのタイミングは意外である。

てっきりしばらく仕事が回ってこない物かと思っていた。

 

「それで何処からの依頼ですか?」

 

「ん?あぁ勘違いしてるようだけど、これは私の個人的な依頼よ」

 

「へ?」

 

「報酬はきっちり支払うから安心しなさい」

 

いや、そういう事では無い。

姉御が個人的な依頼をしてくる事など滅多に無いので驚いたのだ。

けれども、そういうのは大抵面倒事だ。

単純に解決出来るレベルではないだろう。

 

「まずは幾つか聞くわ。最近此処らで起きている失踪事件は把握している?」

 

「いえ、安全区の情報はあまり」

 

「そう。なら、これから話す事にしましょう」

 

そう言いながら姉御は書類に手を伸ばす。

神隠しとか珍しくも無いのでそういうのは事件として扱われる事は少ない。

大抵手段が分かれば芋蔓式に解決するからだ。

 

「失踪事件とは言ってるけど本当に消えたのか、肉体も残らないレベルで殺されたかは不明よ。残留思念も上書きされた様になっていて読み取り不可」

 

「被害は現在で十三件。問題は神隠しの前兆も観測出来ず、神格の読み取りすら出来ていない事よ」

 

「どんな神隠しでも十件を越えれば臭いが割り出せる。最低でもどういう系統かくらいはね」

 

「これが残らない場合は二つ。一つは肉体も残らないレベルで消された。もう一つは神隠しに頼らずに誘拐した」

 

「後者の方は今時使う奴なんてそういないけど、逆にそれが盲点となっている可能性があるわ」

 

「事件の概要としてはこんな物よ」

 

面倒な事件というのは分かった。

その上で幾つか疑問が出てきた。

 

「えーと、その情報って何処から得た物ですか?」

 

「情報屋よ。割りと高かったけど割りには合う程度だったわ」

 

………………こりゃ珍しい。

姉御はほとんど情報屋には頼らない。

下っ端でもいいから捕まえて拷問してでも根元まで辿り着くタイプだからだ。

 

「それで肝心な事ですが早急に解決する必要がある理由とこの件と姉御がどう関わってるかだけでも教えてくれませんか?」

 

「姉御じゃなく会長と呼びなさい。まぁそれらは同じ事よ。さっさと解決しないと折角計画してる学祭が中止になりかねないのよ!!」

 

………………一瞬思考が止まった。

何かと思えばそんな事か、と思える。

だが、姉御らしいと言えば姉御らしい。

気分屋で楽しめる物は楽しむタイプである姉御にとって最高に遊べる物なのだろう。

まぁ姉御が望むなら出来る範囲で叶えるのが俺である。

 

「分かりましたよ。失踪事件を解決すればいいんですね?」

 

「そうよ。でないと、この地区周辺が警戒指定されて学祭が中止になりかねないのだから」

 

「報酬は何時も通りでお願いしますよ」

 

とはいえ、さすがに姉御の依頼でも理由が理由なだけにモチベーションが下がったのは確実だが。

それほど切羽詰まった状況では無いのは姉御自身が動かない時点で分かっている。

そんな事を考えていると姉御は此方に顔を向け、

 

「頼んだわよ、“黒白”」

 

とびっきりの燃料を投下してきた。

姉御がニッと笑いを向けてくれた上に名前まで呼んでくれたのだ!!

やる気が出ないわけがない!!

 

「お任せあれ!!」

 

そんなこんなで俺は姉御から書類を受け取って生徒会室を後にするのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「あの先輩、幾つかいいですか?」

 

「何だ?」

 

生徒会室を出るなりに楓が声を掛けてきた。

教室に戻るまでついてくる気なのだろう。

 

「青葉さんの性格からして先程の笑みも全部計算の上ですよね?」

 

「それがどうした?」

 

そんな事は分かっている。

唐突な高校への編入。

編入当日に呼び出してこの依頼。

更にはくだらない理由。

そして、あの笑み。

全てが俺を都合良く動かす為の計画だろう。

理由だって別にあるのは大体察せれる。

……………さっきの理由も本気ではあるのだろうが別の思惑は確実に入っている。

ようは動かしやすい立場にした上で解決に都合の良い所へと設置したのだ。

 

「俺は姉御が望むなら叶えるだけだ。それが今の俺のやるべき事だからな」

 

それがあの日誓った事だ。

それを果たす為ならこの身は幾らでも削る。





黒白、二年生無所属
青葉、三年生生徒会長
不炎、三年生副会長
楓、一年生庶務
という感じです。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。


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紅崎 黒白の手慣らし

活動報告にて2-Cの生徒一覧載せてます。


 

生徒会室から戻り、早急に昼飯を食えば午後からも授業である。

姉御から依頼を受けたが此方も姉御の命令なのでサボらずに出る。

というわけで午後からの授業なのだが、

 

「ウオラァ!!」

 

岩男から殴り掛かられている。

いわゆる戦闘訓練という物だ。

多少こういう技術が無ければ街から街へと渡るのすら苦労する羽目になる。

ちなみに女子は別だ。

それで俺は転校生。

実力を見ときたい連中から挑まれてるというわけだ。

相手は確か岩塚 剛(いわつか たけし)だったか。

全身が岩で構成されているがそう珍しいわけではない。

周囲の土を吸収する事で巨大化も可能な様だ。

巨体で怪力なわけだが、意外にも素早い。

とは言っても観察出来るだけの余裕は普通にある。

枷が付いていても身体能力そのまんまである。

とりあえず軽く拳を回避しながら紅いカプセルを取り出し、口に放り込む。

“血”の味が口に広がっていくのが分かる。

新鮮な血とは言いがたいがこのカプセルは早急な血液補給の為の物だ。

戦闘ではこういうのも必要である。

血が体に馴染むのを感じ、岩石の拳の軌道を読む。

 

「オラァ!!」

 

「よっと」

 

タイミングを合わせる様に岩石の拳に蹴りを入れる。

それだけで骨は粉砕するのだが生憎と普通の体では無い。

枷でも再生能力は封じれてはいない。

だから即座に再生する。

拳と足を打ち付けた状態のまま固まってると、もう片方の腕が振り降ろされる。

 

「ふんッ!!」

 

「お前はもうちょっと相手を見た方がいいと思うぜ」

 

言って横方向に回避する。

怪力を受け止める気などない。

むしろ逆だ。

完全に回避した状態で岩石の拳に手を当て下方向へ力を加える。

元々の振り降ろす力と俺の力が合わさり、予定外の勢いで拳が地面に叩き付けられる。

 

「ぐぉ!?」

 

「とりゃ」

 

予定外の動きでバランスが崩れ、前に重心が寄った所を狙う。

足払いを同時にし、バランスを完全に崩させ、転ばせる。

そして、重心が完全に前に寄った所を狙う。

地面にめり込んだ腕を掴み、投げと要領で力の流れを操作する。

それにより、剛の岩石に包まれた体が宙に浮き、背中から叩き付けられた。

決着は付いた。

 

「俺の勝ちでいいな?」

 

「あぁ完敗だ、クソッタレ」

 

「いやいや、お前も中々やる方だぞ?」

 

とか言いながら俺は剛に手を伸ばす。

まぁ動きが単調でやりやすかったのは確かだが。

剛は岩石の装甲を剥がして人間サイズになってから俺の手を掴むのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

午後の授業も終わり、俺の転校初日も終わりそうになっている。

結局あの後は五人程度倒して終わった。

さて、あとは帰るだけなのだがやっておく事は幾つかある。

 

「八事 羽生………八事さんについて知りたいのかい?」

 

「あぁ廊下ですれ違った時に何かおかしいな気配を感じたもんでな」

 

とりあえず委員長に聞ける事を聞いておく。

委員長だし、そこらへんは詳しいだろう。

聞けなくても幾つか手はあるからいいんだが。

 

「そうだね。一応知ってはいるけど…………八事さんの事なら赤池さんに聞いた方が早いんじゃないかな?」

 

「どういう事だ?」

 

「赤池さんと八事さんは仲が良いからね。聞くなら詳しい方がいいだろ?」

 

そういう事ね。

となるとディメアは既に帰ったし、八事羽生はそもそも分からねぇし他を当たるしか無さそうだ。

 

「ありがとうな。引き止めて悪かった」

 

「いいよ、僕は役に立てるなら何でもするからさ。それじゃあまた明日、紅崎君」

 

そう言って委員長は鞄を持って帰っていった。

俺も教室には用が無いので鞄を持って出る。

直後に、

 

「お帰りですか、先輩?」

 

「なぁ、何でいるんだ?」

 

「監視役ですから」

 

「……………徹底してるな」

 

相手にするのも面倒なのでスルーを決める事にした。

どうもこの後輩は俺を一人にさせるつもりが無い様だ。

何はともあれ何をするにせよ。

こいつがいると面倒なので大人しく帰る事にしよう。

事務所は今日は呼び出されることも無いだろうから行く必要も無いだろうし。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

というわけで家の前まで帰って来たわけだが………………何でまだいるんだよ?

 

「え?そりゃ青葉さんにしばらく先輩の所に泊まれと言われましたから。どうせ部屋は余ってるだろとも」

 

「いや、まぁ余ってるは余ってるが」

 

目の前の家を見る。

家扱いしている物のその実態は廃棄予定の電車車両を買い取って改造して家にしているだけなのだが。

三両買い取っているので厨房も寝床もあるにはある。

 

「マジで泊まる気?」

 

「マジですが」

 

言いながら眼鏡をクイッと上げる楓。

こうも融通利かないとそれなりに面倒に思える。

とはいえ、考えても仕方無い。

それに姉御の命令でもある様だし納得するしかない。

 

「寝台車に個室あるからそこで荷物置くなり、寝泊まりするなりしとけ」

 

「はい、先輩」

 

こういう時は手短である。

それはそれでいいのだが。

何はともあれこれから先は面倒事が増えそうだ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

夕飯を食らった後から資料に目を通してはいる。

手口は不明、特定神群の臭いは感知されない。

ただし、臭いは消されてる可能性も普通にありえる。

現場は最初の数件は何か重たい物体でも引き摺った跡が残っていた。

しかし、徐々に被害者側が抵抗した跡や血痕が残る様になっていった。

手際が荒くなってるとも思える。

被害者の接点は特に無し。

無差別で選ばれてると思われたが、各々何かしら“蛇”に関連していた。

 

「…………“蛇”ね。決め付けるには速いが大物だった場合は危ねぇかもな。…………一週間前の被害者の動向が分かればそれなりに手掛かりになりそうではあるんだが」

 

そもそも敵の本拠地が分からなければ乗り込み様が無いし。

こりゃ骨が折れそうだ。

被害者はいまだに行方不明。

見付かってすらいないし、死体にもなっていない。

捕らわれてるのか肉体も利用してるのかは知らないが証言不足には違いない。

……………本当にどうすんだ、これ。




転校一日目終了。
とはいえ、既に学園外の何か始まったりしてますが学園も絡むので安心を。

それでは質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。


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紅崎 黒白の不安

 

…………どうやら寝てた様だ。

資料を見ながら頭を抱えてたら寝落ちとか滅多に無いんだけどな。

 

「つーか、今何時だ?」

 

遅刻したら姉御が色々と言ってきそうなのだ。

とりあえず時間を確認しようとした所で右肩に何かが持たれ掛かってるのに気が付く。

 

「えーと…………」

 

ありのまま今の状況を話すぜ。

朝起きたら隣で後輩がやけにツヤツヤした顔で眠ってた。

しかも、ニヤけた顔してる上に血が混ざった涎まで垂らしている。

首筋が多少痛んで、貧血っぽい辺りから大体何をされたかは察しがつく物の訳がわからねぇ。

添い寝だの、夜這いだのそんな物では断じてねぇ。

何故なら俺がそんな事をされても気付いて無いってのが異常過ぎる。

近付かれた気配を感じれ無かったのは千歩譲ってまだいいとして、問題なのは吸血された事だ。

そんな事をされれば普通は気付くはずなのだ。

吸血鬼だろうが、半吸血鬼だろうがそこらへんは関係無い。

以前からおかしいとは思っていた。

こいつの気配や匂いは何故か警戒心が薄れる。

まるで自身と似た様な物を放ってる様に。

 

「………まぁそこらへんは考えても結論は出ねぇよな」

 

そこで俺は思考を放棄する。

はっきり言って面倒ではあるが実害はそうない。

何より姉御の身内をあまり疑いたくはない。

 

「えへへへ…………そんなぁ………………やめてくださいよ……ムニュ………」

 

隣から寝言が聞こえてくる。

しかし、寝ると多少違って見える物だな。

…………ツヤツヤしてるのがどうにも気になるが。

吸血鬼の吸血は性行に近い面もあるが………さすがにここまで直球な反応が出る奴は稀だぞ?

寝言といい…………こいつ生真面目の裏にとんでもねぇ何かが隠れていたりしねぇよな?

それはともかく折角監視抜きで動けるので立ち上がって散歩にでも行こうかと思うと袖が掴まれた。

 

「起きたのか、楓?」

 

そちらを向くと…………起きてはいなかったが姿は一変していた。

何かに怯える様に身を縮め、瞳に涙を見せている。

 

「嫌だ……嫌だ………私はまだ……………何も……………」

 

魘される様に怯えた声が聞こえてくる。

離れた途端にこれである。

 

「悪夢でも見てるのか?」

 

とはいえ、さすがにこのまま放置するわけにもいかない。

…………しょうがないのでまた椅子に座って落ち着くのを待つのだった。

結局楓が起きるまで俺はそのまま座ってる羽目になった。

冷めてはいたが机の上にコーヒーが置いてあったのが唯一の救いだが。

おそらく楓が持ってきた物だろう。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「あー・・・・・・色々と迷惑掛けたみたいですね、先輩」

 

「いや、何も迷惑なんてしてねぇよ」

 

それは確かである。

動けないのは多少辛かったが資料を見直すくらいは出来たので別に問題は無い。

どうもどうやらコーヒー入れて俺の所に運んで来てくれた様だが、その時には既に寝てたらしい。

そんで俺の血の匂いに釣られてつい吸ってしまったとか。

そして、そのまま寝てしまったとも。

 

「まぁ血を吸われてもこんくらいなら特に問題ねぇしな」

 

「いや、それ以外にも…………私魘されてたでしょ?」

 

「そうだな」

 

「一人で眠るとたまに悪夢を見るんですよ。でも、今日は先輩のおかげか大丈夫でした。おわびとしては何ですが私の血でも飲みますか?」

 

とか言いながら既に指に斬り傷つけてやがる。

此方に拒否権はほぼ無いような物だよな。

まぁ血の匂いからして不味くは無さそうだしいいんだが。

ただ…………指から垂れる血を飲む時に楓が妙にニヤニヤしてた気がするのは気のせいだよな?

 

「ああ、そうだ。先輩、今日は先に学校行っててくれませんか?」

 

「監視はいいのか?」

 

「許可は貰ってますよ。ちょっと用事があるので離れますがサボらないでくださいよ?」

 

「分かってるよ」

 

制服に着替えた後に朝食をとりながらそんな事を話すのだった。

そして、俺と楓は住処の前で一旦分かれるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「えぇ………ちゃんと“印”は刻めましたよ。私に掛かればそれくらいは簡単ですよ」

 

黒白と分かれた楓は誰かと電話していた。

その口調は何処か嬉しそうにしていた。

 

「そりゃあ嬉しいですよ。これでやっと我が主の役に立つ準備が出来たんですから。返し切れない恩を返す為の準備が…………」

 

頬を紅めながら呟くのだった。

通話相手の呆れた息も聞こえてくるがそんな物は構わないのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

吸血鬼は再生能力が高い。

だが、それにも例外はある。

同族による吸血跡は中々再生しないのだ。

なので、黒白は適当に湿布を貼って誤魔化すのだった。

当然色々聞かれはしたが全てスルーしていた。

何はともあれ現在は授業中である。

科目としては魔術の基礎だ。

種族によって適性に差はあるが知識を付けといて損は無い。

今の内容は目的の現象を起こす為の術式を組み立てろという物である。

ただし、黒白とディメアは不参加である。

封印指定クラスが下手に魔術を使えば想定外の事が起こりやすいので不参加という事にはなっている。

実際黒白が暴発させる事などそう無いのだが校則があるので仕方無い。

ディメアに関しては魔女の一族という事で書類を通してこういう類いの授業には不参加でも問題無い様にしてある。

というわけで基本的には見学しているのが筋なのだが二人は別の事で口論していた。

 

「だからよ!!お前の言う方式より俺のが対応範囲は広いだろうが!!」

 

「あんたのは安定性に欠けてるのよ。魔術を使うなら先ずは安全性でしょうが」

 

「お前のは一々回りくどいんだよ。予め設定して置いた複数の小型の陣で増幅させた方が効率はいいだろ」

 

「それが安定性に欠けると言ってるのよ。一つでもズレが生じたら面倒でしょうが」

 

「五行の相生による循環増幅だから一定の安定は確保してるんだよ。お前の地脈方式とか場所を選ぶだろうが」

 

「馬鹿なの?そんな物は陣の微修正でどうにかなるでしょう」

 

術式に対しては互いに譲れない部分があるようで二人は無駄に熱くなっていた。

ただし、どちらも膨大な魔力とそれを操る知識と技術を持っているのが前提の話なので他の生徒は参考に出来ない所か理解出来る部分も少ない。

 

「そもそも危険区で使う事を考えたら外部補給式より自己完結式のが安定は

するだろ」

 

「何の為の陣だと思ってるの?そういう環境を整える為の物でしょうが」

 

「それでも対応性には問題があるだろう?俺の方式なら循環させてるのを一属性に収束させるなり、で対応出来るが」

 

「陣そのものを切り換えれば済む話でしょうが」

 

「ほとんど固定式に近い大規模な陣でよくやれるな」

 

「魔女をなめないでくれるかしら?」

 

「だが、その分反動も凄いだろう?陣の形成に妨害を掛ければ負担は重くなるだろう?」

 

「それはそっちもでしょう?複数連動させる分負荷を大きくすれば崩壊はししやすくなる。それにそこらへんの対策をしないとでも思ってるの?」

 

「負荷が大きくなれば相克でリセットするからいいんだよ」

 

そんな二人の口論ではあるが一つの指パッチンで終わる事になる。

その音が聞こえた途端に二人が説明の為に展開していた式が全て崩れ落ちた。

この場でそんな事が出来るのは一人しかいない。

教師の東山 千鶴である。

彼女は笑顔を浮かべている物の目が笑っていない。

 

「紅崎君、赤池さん。互いの術を高め合うのはいいんですが……………他の生徒に迷惑掛けるのは駄目ですよ?」

 

二人は何も言えなかった。

否、何かを言える状況では無かった。

熱くなっていた自覚もあるので言い訳の仕様も無い。

 

「力を持つ者なんですからそこらへんちゃんと自覚してくださいよ?でないと、周りを巻き込んでしまいますよ」

 

二人が色々と語った結果授業で組み立てていた術式にも影響が出ていたのだ。

それゆえに千鶴はこうして止めに入ったのだった。

その後、二人は罰として備品の後片付けを任されるのだった。





口論回でした。
楓に関しては色々あったりします。

黒白とディメアの口論に関しては戦闘スタイルというより二人の魔術の基本骨子みたいな物です。


それでは、質問があれば聞いてください。
感想待ってます。

次回はディメアとの後片付けです


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紅崎 黒白の聞き込み

あけましておめでとうございます
今年最初の投稿となります


罰の後片付けをする黒白とディメアだったがこれはある意味ちょうどよかった。

黒白としては元よりディメアに用があったので機会としてはいい。

 

「なぁ、八事 羽生について聞いていいか?」

 

「はぁ?何でよ?」

 

露骨に嫌そうに答えるディメア。

そこらへんは黒白も想定はしている。

 

「いや、委員長に聞いたらお前のが知ってるって言うからさ」

 

「そうじゃなくて…………何であんたがあの子の事を知りたがるわけ?」

 

「廊下で変な気配を感じて気になったのさ」

 

そこは正直に答える。

黒白としてもそこを隠して怪しく思われるのも面倒なのだ。

 

「まぁ簡単な事でいいさ。性格とかな」

 

(…………それが一番面倒なのよ)

 

「ん?」

 

「何でも無いわ」

 

小声なので今の黒白には聞き取れなかったがディメアは気にしない様に言ってくる。

 

「性格ね………一言で言えば“いい子”よ」

 

「………………何か違う意味がありそうな言い方だな」

 

「それゃね。私もそれに振り回されて苦労したわけだし」

 

「どういう事だ?」

 

「……………今のは忘れてくれるかしら?」

 

どうもどうやら失言だったらしい。

明らかに何か隠している態度を不信に思うが黒白としては切り込みにくい。

 

「まぁいいが……何か怪しい物に関わる様な事はしてるか?」

 

「…………私が何処まで把握していると思ってるわけ?あの子とは友人であっても常に一緒なわけじゃないわよ?」

 

「そうかな?さっきから気になるのがその呼び方だ。結構親しくなければそんな呼び方はしないと思うが?」

 

「…………………」

 

互いに無言になる。

互いの胸の内を探り合うように視線を向ける。

その間にも片付けは続けている。

しばらくしてディメアが何か諦めた様に息を吐く。

 

「そうね…………最近は変な占い師と親しくしているようね。その近所で“物騒な事件”も起きてるからやめといた方が言ってるのにね」

 

「へぇ?その占い師ってのは気になるな。具体的な店名とかは知らないのか?」

 

ディメアは再度溜め息を吐くと紙の切れ端の様な物を黒白に投げ付ける。

受け取った時には白紙であったがディメアが何かを呟くと文字が現れる。

 

「ありがとな」

 

「別に聞かれた事に答えただけよ。私としてはこれ以上あんたに羽生と関わって欲しく無いだけよ」

 

そこだけは本心の様に言うディメアであった。

黒白は片付けを終えるとこれ以上用は無いとでも言うかの様に去って行った。

とはいえ、次の授業でどうせ会うのだが。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「隠しても面倒だったからある程度は教えたわよ。口止めされた部分以上の事は言ってないから安心しなさい」

 

「まぁあれ以上隠していたら彼は私達の事を調べるだろうからね。そこはありがとう、ディメアちゃん」

 

ディメアの背後からヌルリと人影が現れる。

ディメアはそちらを向かずにペンダントの様な物を人影へと放り投げる。

 

「これは何?」

 

「保険よ。防御魔術を詰め込んであるから危険があっても大丈夫でしょう」

 

「何で今渡すの?」

 

「どうせそろそろ動くつもりでしょう?念の為よ」

 

少々頬を赤めながらディメアが言う。

すると、人影は微笑みを浮かべてディメアの背に抱き付く。

 

「うふふ♪心配してくれてありがとう♪嬉しいよ、嬉しいよ♪」

 

「ちょちょちょっと!?いきなり抱きつかないでよ………」

 

慌てた様子で文句を言うディメア。

しかし、実際はそこまで嫌がった様子を見せず、口元も綻んでいた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「楓、この占い師について何か知らねぇか?」

 

「えっと、何ですか?」

 

放課後。

一旦話し合う為に黒白と楓は喫茶店にいた。

楓にディメアから渡された情報について知っている事を聞いていた。

 

「あぁこれなら噂には聞いてますよ」

 

「本当か?」

 

「えぇ、友達から聞いた事なんですがこの占い師は人を選ぶそうです。気に入った人だけを占うが意外にも結構当たるという噂です」

 

「ありがちな“都市伝説”だな。探るだけの価値はあるが本人に会う必要がありそうだな」

 

「別の噂では占い以外の時は人通りが多い所で人を眺めているらしいですよ?」

 

「人間観察か?」

 

「いえ、見定めてると言われてます。ここで彼女に選ばれた人間は彼女が何もしなくても彼女の店に辿り着くとか」

 

「思いっきり魔術の臭いがするな」

 

「ただ、気になる点がありまして」

 

「この噂はどういう経緯で広まったか分からないんですよね。占って貰った人が広めたなら条件も広まりそうな物ですし、それ以外だと知りようも無い事がありますし」

 

「なるほどな。けどまぁ、会ってみりゃ分かるだろ」

 

「どうやって会うつもりですか?」

 

「見定の段階なら見付けれる。どうせ何かの魔術使ってるんだろうし、痕跡追えばどうにかなる」

 

「なら、私も同行しま「いや、お前は待機だ。家帰ってろ」

 

言いながら立ち上がる黒白。

文句を言う為に立ち上がろうとする楓。

しかし、立つ前に止められる。

 

「大丈夫だ。心配すんな、まだ戦いはしねぇよ」

 

「いや、そうでは無くて私も手伝いますって」

 

「手伝いはいらない。一人でやった方が効率がいい」

 

「何の効率ですか?」

 

「俺のさ。一人の方が探知範囲は広いんだよ」

 

適当な事を言って流そうとする黒白。

その態度にイラッとして食い下がる楓。

 

「分かってくれよ。俺だけが動いて被害が出る分はいいんだがお前まで巻き込むつもりはねぇんだよ」

 

「どの道戦闘やるつもりじゃないですか!!」

 

「逃げるにも事情があるんだよ。巻き込んだら姉御に見せる顔がねぇし」

 

「私じゃ力不足ですか?」

 

「そんな事はねぇよ。ただ、心配せずにいてくれればそれでいいんだよ」

 

言いながら楓の頭を撫でる。

すると、楓の力がみるまる抜けていく。

納得は出来ないが何となく止めるのは無理だと確信するのだった。

いきなり襲われる可能性にも考慮しようと思ったが黒白の方が断るのだった。

 

「気をつけてくださいよ、先輩」

 

黒白は軽く手を振り、喫茶店を出るのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

キラキラキラキラと………妬ましい。

私は全てが妬ましい。

でも、それももうすぐ終わる。

だから、今は耐える。

あと数人集まれば準備は整うのだから。

だが、妬ましい。

私がここまで堕ちたというのに平和に暮らしている全てが憎い。

憎くて憎くて殺したいくらいに。

でも、今目立つわけにはいかない。

だから耐える。

耐えるのだ。

運命のレールが切り替わる瞬間まで。

“あの男”の言う事が本当ならば私はもうすぐ解放されるのだから。

この忌々しい物と離れられるのだから。

胡散臭い男だったが今すがれるのはあれくらいしか無かった。

妬ましい、本当に妬ましい。

平和な奴らが妬ましい。

頼れる物がある奴らが妬ましくて憎々しい。

呪いたいぐらいに憎々しい。

けれども、今は見定める事が大事だ。

私は私の為に使える人材を見定め無くてはいけないのだから。

眺める眺める人の波を瞳で、魔眼で、全てで。

見定め見定め植え付ける。

暗示の種を植え付ける。

 

「よぉ、あんたが例の占い師って事でいいのかな?」

 

何かが現れた。

視界に入った途端に寒気がした。

闇が見えた。

恐ろしい闇が見えた。

濁った世界よりももっと深い黒が目の前に現れた。

だが、冷静にだ。

冷静にしていればどうにかなるはずだ。

 

「何の用ですか?」

 

「ちょっと話でもしようか。それとも、今は休みか?」

 

見た所は同年代。

だが、外見年齢は信用ならない。

とはいえ、私の目的に気付かれるわけにはいかない。

 

「はて、そもそも私が占い師に見えますか?どう見ても同年代でしょう?」

 

「同年代ね…………まぁこの姿じゃ仕方ねぇよな」

 

何を言っている。

まぁいいが。

本当に何故この男は私に気付いた?

“隠す”為のバンダナに、ノースリーブにジーパンだ。

占い師とはとても思わないだろう。

 

「まぁいいや、話を戻そう。あんた気付いて無いのか?魔術の臭いがただ漏れだぞ?」

 

「…………へぇ」

 

普通は気付かないはずだ。

私はそれなりの腕だし、忌々しい“神格”的に隠せてたはずだ。

この男はそれを見破ったとでも言うのか?

 

「それで私に何か用なのか?」

 

「噂を聞いて興味が出たのさ。それにこの近くでは失踪が多発していてね。関連性を調べてた所さ」

 

「私を疑ってるわけだ」

 

「疑ってるじゃねぇ。確信してるよ、誘拐犯さんよ。今までの現場とあんたから感じた魔力の臭いからな」

 

こいつ、厄介だ。

私の念願を潰しかねない。

ならば、消そう。

何が何でも消そう。

潰される前に潰してしまえばいい。

 

「少し場所を変えよう」

 

「あぁいいぜ。此処は人通りが多いからな。根こそぎ聞くには都合が悪い」

 

首でついてくる様に促し、路地裏へと入っていく。

その間に眷族を一匹放つ。

人払いをさせる。

私本人がやると気付かれる恐れがある。

 

「そういや、名乗って無かったな。俺は紅崎 黒白だ。あんたは?」

 

唐突に聞いてきた。

どうでもいい。

本当にどうでもいい。

何で消す相手に名乗る必要がある。

だが、多少気を引く必要はあるかな。

場所もちょうどいい。

気紛れだが名乗ってやるか。

 

「私の名は目頭 愛木(めとう あき)だ。別に覚えなくてもいい。というか、覚えるな」

 

「何でだよ」

 

その声に合わせて振り向く。

それと同時にバンダナを外す。

隠していた、封じていた、髪を、蛇を解放する。

男の顔がひきつる。

 

 

「死に行くあなたが覚える必要も無いでしょう?」

 

解放された蛇が男へと襲い掛かる。

今更気付いたがこの男枷をしていた。

何やらそれを気にしている様だがどうでもいい。

そのまま死ね。

噛まれ砕かれ千切られ溶かされ毒され貫かれ苦しんで苦しんで無惨に死ねばいい。

私の念願の邪魔をするからだ。

私の邪魔をするな。

私は解放されるのだ。

この運命から!!

憎くて堪らないこの運命から!!





新キャラ登場でした!!
目頭 愛木(めとう あいき)
年齢としては高校二年くらいです。
ただし、占い屋やってるので高校には通ってません。
そこらへんの事情は今後です。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。


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紅崎 黒白の仕込み

おいおい………マジかよ。

これを狙ってたとはいえ、いきなり殺る方向かよ。

バンダナ取ったら蛇髪というのは予想はしていたが…………面倒だな。

“最悪”よりは危険度が下がったがそれでも神格持ちの相手を枷が付いた状態でやるのは無謀に近い。

此処は素直に殺られておくのが吉か。

とは言っても“魔眼”使われたらさすがにヤバイが。

そんなこんな考えてる内に相手の蛇髪が俺に襲い掛かる。

 

「ごばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

割りとマジで悲鳴をあげておく。

ヤベェな毒持ちかよ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

男は無惨に悲鳴をあげながら肉塊へと変わっていく。

それに特に何も感じる事は無い。

こんな光景は最早見慣れた。

見慣れてしまった。

忌々しいこの力のせいでだ。

 

「呆気ないのね」

 

本当に呆気ない。

もっと抵抗するかと思った。

面倒が起きないだけよかったけど。

けれども、これで心置き無く仕度を進められる。

人払いをさせていた眷族を回収し、この場を離れる。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

行ったか。

やっと行ったか。

正直死んだ振りも苦労するんだよ。

痛覚はそのままなわけだからな。

カプセルを噛み砕き、血を吸収して再生力を引き上げる。

裂けた肉がくっついてく音や砕けた骨がくっつく音が響きながら体は再生していく。

勿体無いので血も回収したい所だが毒が混ざってるのでやめておく。

不幸中の幸いとも言うべきか体液すら周囲に撒き散らすレベルで殺ってくれたおかげで毒は多少抜けていた。

あくまで多少だが。

まだ少し体に残っていて再生を阻害する。

 

「多重展開、同調から相乗に移行…………移行完了」

 

複数の魔法陣を展開する。

それらはすぐに同調する様に設定させてある。

同調から相生によって互いに高め合う形に術式を移行させる。

陣の展開はこれで完了だ。

 

「術式起動、五重陣で“解毒”を、二重陣で“再生加速”を」

 

幾つか設定していたプログラムを起動させる。

陣の数で強さを変える。

神格持ちの毒なのでそれなりに力を入れる。

五分程度で動ける程度には回復する。

 

「術式停止」

 

魔術を停止させて陣を消す。

さて、人払いも解かれてその内人が来そうなので俺もさっさと退散するとしますか。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

住処の前では楓が待っていた。

血塗れの黒白を見て酷く驚いた顔をする。

 

「あr……先輩!?何ですか、それ!?」

 

「えーと……とりあえず怪我はねぇから心配はするな」

 

「その格好を見てそれが出来るわけが無いでしょうが!!」

 

直ぐ様駆け寄ってくる楓。

対して黒白は何か違和感があった。

会ってそこまで長く無い男をここまで心配するか、疑問に思ったのだ。

とはいえ、楓が表寄りと考えればそこまで不自然では無いか、と適当に結論を付けるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

黒白は一先ず血塗れでボロボロな服をどうにかする事にし、シャワーを浴びてから着替えるのだった。

シャワーから出た後、何故かボロボロの方の服が減ってた気がするが特に気にする事も無かった。

 

「そんじゃあ、説明してくとするか」

 

何はともあれ分かれてからの一連の出来事を説明する黒白。

話を進める度に楓が頬をひきつらせるが気にせず進めるのだった。

 

「何を一人で突っ走ってるんですか、貴方は!!相手が先輩の事を知らないから良かった物の!!もし、顔を知られてたらどうするつもりだったんですか!!それに何で無抵抗で殺られてるんですか!!先輩の再生能力でどうにかならない相手だったらどうするつもりだったんですか!!そもそも枷で万全に力を振るえないのに敵といきなり接触するとか頭おかしいんじゃないですか!?」

 

「……………悪かったから一先ず話を聞いてくれ」

 

語り終えた直後に爆発した後輩を宥める。

黒白としても此処まで騒ぐとは予想していなかった。

完全に予想外の反応であった。

とはいえ、基本的に青葉達としか親密に話す事が無いのでこれはこれで新鮮だったりするのだが。

 

「一人で接触して無抵抗で殺られたのには理由がある」

 

「どんな?」

 

「まず、複数で行くより一人の方が油断を誘える。無抵抗で殺られたのは相手の状態から判断した事だ。あの状況で俺から何も情報を得ずに即消そうとする程度には焦るか錯乱していた。そこが付け入る隙になる。俺が殺られて死んだという事にしておけば相手は一種の安心感を得る。その安心感から派手に動いてくれる可能性もあるし、“仕込み”に気付かずにいてくれる可能性も上がる」

 

何より瞳を見て、何か追い詰められた様な色をしていたのが黒白にとっては決め手だった。

そんな状態なら正常な判断もしにくいはずだ。

 

「そういう狙いがあったわけですね」

 

「元々殺されるパターンも想定していたからな。俺はともかくお前にそういうのをやらせるのには抵抗があるからな」

 

「つまり、私の為と………」

 

「?」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ楓の表情が緩み、頬がほんのり紅くなる。

だが、すぐに戻ってしまう。

 

「でも、それは殺される無いと確信したわけにはなりませんよね?」

 

「そこらへんは後で話すが……相手の神格に大体検討が付いたからな。殺られるかどうかの判断は付く」

 

「そうですか。まぁそれで一応納得しておきます」

 

一先ず落ち着く楓。

それに密かにホッとする黒白。

 

「それはそれとして、先輩が死んだ事にして油断を誘うのはいいですがそれなら私は物陰に隠れて尾行する等の選択肢もあったのでは?」

 

「それは万が一があるからな。奴は眷族放ってたし、見付かったら俺は殺され損になる」

 

「そういう事ですか。でも、どうするんです?そのまま逃がして来たんでしょう?」

 

「“仕込み”をしてきたと言ったろ?奴の眷族に位置情報を此方に逐一発信する術式を仕込んだ。眷族は常に近くにいる様だからな」

 

「よく殺られながらそんなことを気付かれずにやれましたね」

 

「そこは運も強かったけどな。何はともあれ、これで居場所は掴んでる。此方も準備を整え次第、奴と決着をつけに行く」

 

「また置いてくなんて事は無いですよね?」

 

「大丈夫だ。俺の勘が正しければ、数は必要になる。だから手伝ってくれ」

 

「喜んで!!」

 

頼ってくれた事が嬉しそうに答える楓。

が、黒白は何かが脈打つのを感じていた。

それが何か分からず首を傾げる。

とはいえ、分からない事を考えても仕方無いと思考を放棄する。

 

「とりあえず姉御に会いに行くか」

 

「経過報告ですか?」

 

「それもあるが、幾つか聞いておく事があるからな」

 

そう言って立ち上がり、青葉に連絡をするのだった。

仕込みは終え、後は準備を進めるだけであった。





死んだ振りとはいえ、絵面的には骨が出てたり内臓散ってたりグロくなってたりします。
そこらへんは吸血鬼の生命力という事で。


それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。


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紅崎 黒白の確認

目の前で人が一人原形を無くすレベルでズタズタにされていた。

蛇は男の体を次々に貫いていく。

内臓と思われる部位すら食い千切っている。

肉が抉られ、骨が見える。

腕を絞め上げていく。

骨が砕ける様な音が響き、手足が千切れる。

もはや傷のついて無い部位など無く、肉塊と表現するのが正しい有り様だった。

 

「(手を出さなくて正解だったわね。まぁ……手を出してたら気付かれてたし恨まないでよ)」

 

そんな事を男をズタズタにした者の眷族の目を通して見ていたディメアが呟く。

彼女は黒白の観察も兼ねて魔術で千里眼の様な事をしていたのだが、黒白が相手の眷族に何かしらの魔術を仕掛けたのを見てそちらに干渉して術式をいじり、自分の観察魔術を割り込ませたのだ。

これで黒白にも、相手の女にも気付かれる事無く覗けるのだった。

 

「それにしても教えてからこんな短時間で辿り着いたのは恐ろしいわね」

 

どうもどうやらズタズタにして死んだと思った女が眷族を連れて移動を始めたのでディメアは干渉を解除して自ら動き始める。

羽生の事もあるのであまり黒白に干渉する気は無いが、その体は研究サンプルにちょうどよかった。

 

「どうせあの女がさっさと去った後には再生してるでしょうけど。肉片と血液で此方としては充分なのよね」

 

ローブを纏い、自室の扉を開き、ディメアはサンプル回収の為に現場へと向かうのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

幾つか確認の為に姉御の所に向かったのだが、そこで見たのは死骸と山の上に立つ姉御だった。

まぁ………特に珍しい光景と言うわけではない。

それでも、一応は聞いておく。

 

「姉御…………何してるんですか?」

 

「あら、意外と早く来たわね。見りゃ分かるでしょ?英雄候補狩りよ」

 

「またですか…………」

 

ある意味日常茶飯事である。

後ろの楓が頭を抱えながらも特に何も言わないのがその証拠に近い。

姉御の義妹ってくらいだからよく見てるのだろう。

姉御はとある神格を得る為に英雄候補を狩っている。

英雄候補とは英雄系の神格を得る可能性がある者達の事である。

神格は当代の者が死ねば、最も適した要素を持つ者へと移る。

姉御の場合は稀有な事に二つの神格の候補者である。

血筋的には当然と言えば当然だ。

姉御は戦乙女と死者の王の娘なのだから。

姉御は片方の神格は候補者序列ダントツ一位なのだが、そちらは毛嫌いしている。

だが、もう片方は下位に近い。

神格は一人一つしか宿せない。

ゆえに姉御はもう片方の神格候補序列を上げる為に英雄候補を狩り、その魂を“主神”に捧げているのだ。

 

「それで?私に何の用?例の件に進展でもあった?」

 

「はい、その件について幾つか聞きたい事がありましてね」

 

「私に?面倒ごとじゃないでしょうね?」

 

「そこは大丈夫ですよ。目頭 愛木という名前に聞き覚えがありませんか?」

 

「ん~?その名前………どっかで……………あぁ!!」

 

何かを思い出したかの様に姉御は死骸の山に手を突っ込む。

そこから取り出したのは手帳だった。

それを何ページが開き、此方に投げ付けてきた。

 

「そこに答えが書いてあるわよ。他の英雄候補も狙ってた様だし、聞き覚えがあったわ」

 

「えぇ……これでこいつの神格に確信が持てましたよ。とりあえず明日にでも終わらせます」

 

「そう………代わりと言っては何だけど楓を置いて行ってくれるかしら?」

 

「私ですか?」

 

「えぇ。この英雄候補とその連れは結構金になりそうな物を持っていてね。仕分けを手伝ってくれる?」

 

姉御がそう言うと楓は俺の方を見てきた。

 

「えーと、先輩。青葉さんの手伝いする事になりますがいいですよね?」

 

「俺としては構わねぇよ。これから調べる事もあるしな」

 

「そうですか…………また置いていったら帰ってきた時に刺しますよ?」

 

「…………分かったよ」

 

何やら恐ろしい事を聞いたがとりあえずスルーしておく。

こういうのは触れないのが吉である。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

黒白と別れ、楓は青葉と死骸の山から金目になりそうな物を取り出していた。

武器や鎧は損傷具合で判断していく。

とはいえ、青葉が正確に急所を抉っているのでそう傷は付いてないのだが。

 

「それにしても青葉さん…」

 

「だから、私を呼ぶ時は姉として呼びなさいと言ってるでしょ?」

 

「……………この人達はどういう経緯で殺る事にしたんですか?」

 

無視して続けていた。

青葉は英雄候補を狩るとは言っても無差別にではない。

ある程度、基準はある。

 

「こいつは自分が英雄候補ってのを使って取り巻きと共に暴れてたらしいわよ。ようするに典型的な勘違い野郎ってこと」

 

「そうですか」

 

「自分が特別だって思い込んで優越感に浸って暴れるほど馬鹿は無いわね。英雄というのは行動が評価されたが故に英雄なのに。まぁそんな事はどうでもいいけど。私が望む物を手に入れる為の糧になれたんだからそれだけは誇れるわね」

 

「相変わらずですね」

 

青葉は神だろうが、仏だろうが敬意を払わない、恐れないどころではなく下に見る。

評価はすれど同列と見る物は何も無い。

何処までも上から目線なのだ。

“最終目標”からして仕方ない事ではあるが、青葉の前では全てが下なのだ。

楓だけはある意味例外だが。

 

「何はともあれ、姉として貴女に聞いて起きたいのだけれども」

 

「ちょ、ヒャア!?」

 

青葉はいつの間にか楓の背後に回り、その耳に息を吹き掛ける。

それによって楓は身をよじらせる。

 

「下僕はどうなの?」

 

「ちょ!?何処触って……べ、別に報告してる通りですよ」

 

「そう、詰まらないわね。………というか、これ私より大きくなってない?」

 

「そ、そんな事は無いですよ!!」

 

胸を揉んでくる青葉から何とか逃れる。

残念そうにする青葉から反射的に距離を取る。

たまに過剰に触ってくるので楓としては警戒してる。

 

「枷付けたんですから変化が無い方が自然なのでは?」

 

「まぁ………そうなんだけどね。“気付いた”様子も無いのが鈍い証拠よね」

 

「一方的な物だから仕方無いですよ」

 

「そういうもんかな?」

 

「そういう物です」

 

距離を取り、警戒しながら楓は作業を進めるのだった。

「下僕はどうなの?」には別の意味もあるが、それに気付きつつ、それを察する事が無いように進めていくのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

某所のとある部屋。

そこで女の悲鳴が響き渡る。

悲鳴が止まると血走った目をした目頭 愛木が部屋から出てくる。

 

「あと少し………あと少しで私は解放される!!」

 

その様子を眺める男の存在は目頭 愛木の眼中には無かった。

男は何も言わずに部屋へと入り、そこに転がってる物を見てニヤけるのだった。




久々の投稿でした。
この時期は色々あるが故に遅くなりました。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。


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