土器王紀-埴輪の愛。土偶の夢- (まいまいഊ)
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宇宙に光あれ!
Negentropy(ネゲントロピー)を求める世界。


There are two islands-Cerebro & Alcilla.
(セレブロとアルシラ、2つの島がある)
Cerebro has all date of all universe.
(セレブロには、全宇宙の全てのデータ)
In Alcilla,live terra-cotta peoples. They're called "DOKIJIN".
(アルシラには、素焼きの民族「土器人」が住んでいる)

Long time ago,DOKIO ruled with a goddess & a destroyer all of univese.
(かつて、土器王は女神と破壊神と共に、全宇宙を支配した)
However,suddenly DOKIO disappeared following his servants after millenium.
(しかし……千年紀の後、土器王は従者ともども、突然姿を消した)

And long time went by....
(月日は流れ……)

Nowadays,someone desires the rebirth of DOKIO....
(今、土器王の復活を望むものがいる……)

――『土器王紀』取扱説明書 より



 宇宙。

 無であった空間に生まれるひとつの世界。

 無に放出された揺らぎ(エネルギー)が世界を満たし、物質は生まれ、溢れていく。

 

 閉ざされた宇宙。

 閉ざされているがゆえに活動はいつしか停滞していく。

 宇宙の状態量(エントロピー)は増大し、最終的に宇宙は熱的死をむかえ、絶対零度の凍りついた世界に達する。

 

 管理された仮想の宇宙。

 人為的につくられた幻想の空間(せかい)もまた、閉ざされた1つの宇宙にすぎず、生まれた瞬間に終焉を運命づけられる。

 ただただ想定された仮想(シミュレーション)を計算し、繰り返し記録し続ける。

 

 その全宇宙のすべてのデータが収められた小さな素焼きの壷の情報量(エントロピー)が増大した時、停滞した機械仕掛けの(うちゅう)は、新しい揺らぎ(ネゲントロピー)によって復活を遂げる。

 そして、今、ひとつの宇宙(せかい)から、ひとつの因子(パーツ)が召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 

********************************************

 

 

 

 

 目の前の空中には、フルフェイスのヘルメット的なものが浮かんでいる。

 奇妙な形である。

 材質は、土の……焼き物のような、灰色のヘルメットだ。

 

 

 まるで、かぶれと言わんばかりに、目の前の、宙で……ゆっくりと回転している。

 

 

「あんさん 世界の秘密 知りたおまへんか?」

 どこからともなく、怪しげな関西弁が聞こえる。

 

 

 どうやら、この浮かんでいるモノから、声が聞こえてきたようだ。

 

「世界の秘密?」

 

「そや、知りたいと思いまへんか?」

 

 

 今の僕に、選択の余地は、なさそうな雰囲気だった。

 僕は、わけのわからないまま、「はい」と答え、回っている物体を、ただただ、見つめたいた。

 

 

「それはそうと、はよ、かぶらんかい!」

「えっ、あ、はい」

 僕は、あわてて、そのヘルメットのようなものを頭にかぶった。

 

 

 ヘルメットのシールドの部分に、映像が映しだされる。

 映し出されていたのは、巨大な壷?

 壷のような胴体からは、4本の細い手が生えている変わった形の。

 

 ……いや、違う?

 ぎこちないが、生物のように、確かに、それは動いていた。

 

 人、なのか?

 壷の栓の部分が頭なのだろうか?

 大きな、赤く丸いレンズのような、石のような瞳が一つ輝いている。

 

「こちらセレブロ司書室。わては司書長テルミナス。聞こえまっか?」

 その壷のような人物が、こちらに向かって、話しかけてくる。

 

「……埴輪?」

「ちゃうちゃう、わては土器人やねん」

 

「ここは、一体、どこなんですか?」

 

 

 そう、気がついた時には、僕は、そこにいたのだ。

 

「さっきまで、海にいたんだけれど」

 なぜか、足元にはシャベルと青いバケツが、転がっていた。

 僕は、落ちていたシャベルとバケツを拾い上げる。

 

 そう、確か、僕は砂浜で砂遊び真っ最中だったのだ。

 

 いい歳して砂遊びとか、ありえなくない? とか言わないで。

 砂遊びはれっきとした芸術!

 砂浜に作りあげるお城は、浪漫!

 ささいなことで崩落する砂の建築物は、繊細!

 そんなことに情熱を注ぐ、それも青春のイチページ!

 

 

 今回作っていたのは、普通の砂のトンネル。

 まぁ、なんだ……原点回帰というのか、言わないのか、トンネルを作っていたのだ。

 

 そして、砂のドンネルを掘り進め、向こう側の人と手が触れ、「やった」トンネルが開通した!

 ……と思ったら、その手に、ひきずりこまれたのだ。

 

 

「わてらが、あんさんを、呼んだんや。実はな、わてらの世界、エスパッシに危機が

迫っとります」

 

 ざざっと、雑音が入り、画面が揺れる。

 

「……土器王、復活させんとあきまへんのや……」

 さらに、通信に雑音が入る……

「……あんさんに、手つど~てもらいまひょか~~!」

 

 ……がりがりと、画面がゆがむ。

 

 ……いや、画面どころではない。

 

 空間が、全て、渦を巻くかのように、波打っている。

 テルミナスの姿がゆがんで見えなくなる。

 

 

 そして、あたりは、ゆらゆら揺らめく霧に包まれた暗闇になった。

 僕の身体は、どこかへ向かうような……いくつもの光の粒子をかきわけ、

 その空間を落ちていく。

 

 その中の一つの光と接触する……

 

 

 眼前には見たことが無い、青い世界が浮かんでいた。

 

 雲の合間に見えるのは、空中に浮かんでいる不思議な形の二つの島だった。

 二つの島が重なったような2段構造の青い島と、赤褐色の火山のある島。

 その二つの島が、空に浮いていた……

 

 僕は、水をたたえた方の島へ一直線に、落ちていく。

 

 青々とした美しい水、石灰のような色をした台地、そして、いくつかの建物らしきものが見える。

 どうやら、そのうちの一つ、島の1段目にある建物に引き寄せられているようだ。

 そして、僕は、その半円形の建物の中に吸い込まれていった……

 

 




エントロピー。
ギリシャ語で「変換」を意味するトロペーに由来している。
熱力学の概念と、情報理論の概念がある。

熱力学のエントロピーは、物質や熱の拡散の程度を表す 。
情報理論のエントロピーは、情報量。そのできごとがどれだけの情報をもっているかの尺度を表す。


ネゲントロピー。
エントロピーの増大の法則に逆らうように、エントロピーの低い状態が保たれていること。
または、
エントロピーを減少させる物理量。


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異世界エスパッシ
1部-1章 浮遊大陸セレブロ


 眼前には見たことが無い、青い世界が浮かんでいた。

 

 雲の合間に見えるのは、空中に浮かんでいる不思議な形の二つの島だった。

 二つの島が重なったような2段構造の青い島と、赤褐色の火山のある島。

 その二つの島が、空に浮いていた……

 

 僕は、水をたたえた方の島へ一直線に、落ちていく。

 

 青々とした美しい水、石灰のような色をした台地、そして、いくつかの建物らしきものが見える。

 どうやら、そのうちの一つ、島の1段目にある建物に引き寄せられているようだ。

 そして、僕は、その半円形の建物の中に吸い込まれていった……

 

 

 

 気がつくと、そこは、壷の中のような小さな部屋だった。

「……ここは?」

 

 僕は、目の前の扉のような部分に触れた。

 ざらりとした、焼かれた土でできた扉は、簡単に開いた。

 扉の外は、研究所のような部屋であった。

 

 ……と、僕の目の前に、一つの赤い光が、すっと現れた。それは、不思議そうに僕の顔を覗き込んでいる。

 赤いレンズの中が、好奇心にあふれているかのように煌々と丸く光っている。

 3本の小さな指が、僕に触れようとする……

 

「あの……」

 僕が、言葉を発すると、レンズの中の光が大きくなり、その生物は後ずさる。

 まるで、驚いたかのように、それは、くるくると回って、部屋の中心へ移動する。

 

 そして、僕の方を見て、止まる。

 その小さな生物は、先ほど、画面に映っていた壷のような人物と同じような材質でできていた。しかし、その形は、まるで土偶のような人型の形をしてる。

 

「……も、もしかして、きみ、テルミナスに……呼び出された人……?」

 土偶に似たモノは、おそるおそる、僕にそう尋ねてきた。

 

 ……テルミナス、そういえば、先ほどの壷のようなモノが、そう名乗っていたような。

「そうだよ」僕は、うなずいた。

「やっぱり! よかったぁ! ……で、きみ、だれ?」

 聞き方がストレートだなぁ……そう思いながらも、僕は、自分の名前を名乗る。

 

「変わった名前だね……ぼく、ケマポン。テルミナス司書長の、たった一人の助手さ……」

「ケマポン?」

 君の名前も、だいぶ変わっているけれど……この世界では、普通の名前なのかもしれない。

 

「……あのね……ねっ、聞いてくれる?」

 ケマポンは、言葉を覚えたての子供のように、つたない 口調で僕に話しかける。必死な様子に、僕はほほえましく思ってしまう。

「うん、いいよ。話してごらん」

 

「よかったぁ! 実はね……『ウニバルのデータ壷』が、みつからないの。『ウニバルの壷』がないと、ウニバル、くるっちゃうの……」

 

 む、さっそく、わけの分からない単語が出てきたぞ?

 しかし、それに構わず、ケマポンは話を続ける。

 

「司書長が、君を呼び出しているところ、転送壷のそばで、見ていたんだけれど……いっきなり、だれかに、頭をガッツーンと、なぐられて、気を失っちゃったんだ……気がついたら、君がいて……あ~、なにから話していいか、わからない!」

 ケマポンは、赤い目を点滅させる。

 

「まぁ、落ち着いて……まず、ウニバルの壷っていうのは、何?」

 とにかく、分からない言葉を聞いていこう。分からないことは、聞いておかなくては、多分、この先、やっていけないだろう……

 

「ウニバルは、きみの住んでいる宇宙だよ。ウニバルの壷は……きみを、呼び出すため、転送壷に置いて、使ってたんだけど、なくなっちゃった……」

 

 ようするに、その壷は『ウニバル』に住んでいた僕を召還するのに使った道具ということかな……

 

「ええと、それじゃあ、その僕を呼んだ司書長……テルミナスさんはどこに?」

 僕を呼び出したテルミナスに話を聞いた方が、早そうだと、そう思ったのだ。

「ぼくが、気を失っているあいだに、ウニバルのデータ壷といっしょに、どこかにきえちゃったの」

 

 僕を呼び出した司書長が壷といっしょに消えた……

 そういえば、ケマポンも、何者かに襲われてと言っていた。

 これは、事件の気配?

 

「それで、僕は何をすれば良いの?」

 いなくなった司書長や壷も気になるが、まずは、これを確かめなくては、いけない。

 僕が、この世界に呼び出された理由を。

「……土器王の復活を、手伝って欲しいの」

「土器王……?」

 雑音の混じる中、テルミナスもそのようなことを言っていたことを思い出した。

「土器王は……全てを支配した、伝説の、土器大人だよ。復活には、きみの助けが、必要らしくて……司書長が、きみを呼び出したんだよ」

 

 また、分からない言葉が出てきた。

「土器大人って?」

「体の大きな、土器人らしいよ」

 そのままかい!……聞くまでもなかったかもしれない。

 

「……そういえば、ケマポンは、土器人なんだよね?」

 テルミナスが、「わては土器人やねん 」と言っていたのを思い出したのだ。

 ケマポンは、ちょっと変わった土偶にしか見えないけれど。

 

「そう、ぼくは土器人。アルシラで生まれる者たちは……みんな、土器人」

 ケマポンは、僕がこの世界から来たばかりということを忘れているのではないかと、思ってしまう。次々と出てくる僕の分からない単語。

 

「アルシラ? ……ここは、アルシラという所なの?」

「……ええとね、ここは、セレブロ。アルシラは、赤くて、火山がある島の名前。この世界には、アルシラと、セレブロは、浮いていてぇええええ、わわわぁ……」

 

 ケマポンが、この世界の説明をしていると、激しい揺れが襲った。世界が、揺れる。

 まるで、崩壊の予告のような、大きな地震が。

「うわ~~~~~~~~~~~こ、こんなこと……こ、ここじゃ……お、おきないはずなのに~~~~~~~~エスパッシこわれちゃうう~……はやく、土器王、復活させなくちゃ!」

 

 地震はおさまったが、ケマポンは、まだ、両手を挙げて、くるくると回っていた。

 この世界の置かれている状況は、思わしくないようだ。

 

「お願い。この世界を、ぼくらの世界、エスパッシを助けて!」

 ケマポンは、僕の腕をつかみ、必死にお願いしている。

 

「あ、あぁ、分かったよ……」

 そのケマポンの懸命な姿に、思わずうなずいてしまった。



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1部-2章 司書室

 この世界-セレブロとアルシラが浮かぶエスパッシ-を救う。

 それが、僕がこの世界に呼ばれた理由。

 それをなりゆきとはいえ、引き受けてしまったからには、行動に移さなくてはいけない。

 ひとまず、ケマポンが司書室と言っていたこの部屋を軽く見渡してみる。窓のようなものはなく、まるでひっくり返した壷の中にいるような感じがする。部屋のいたるところに、壷が置いてある。むしろ、壷しかない。

 僕が出てきた転送壷の扉を含めて、扉は3つ。それから、青地に、赤い渦巻きの螺旋が描かれた円盤が壁に設置されている。

 

 その部屋の中、あるひとつの扉の前に、輝く何かが落ちていることに気がついた。

「これは?」

 ……ふと、目に付いたもの、それを拾い上げる。

 石でできた板状のものに、どういう仕組みなのかは分からないが、赤く輝く文字のようなものが、描かれていた。

 

「これは、司書長のメモみたいだけど……ん~と、バ……バルナって、かいてあるよ、何のことだろう?」

「バルナ……」

 ケマポンに分からないことが、僕に分かるはずもない。

「まぁ、一応、これは、持って行こう」

 ポケットに入れるには、少し大きいこの石版のようなものを、僕はバケツに放り込んだ。

(まさか、こういう形で、このバケツが役に立つとは……)

 

「……とにかく、メモが、ここに落ちていたということは、もしかして」

 僕の勘がメモが落ちていたの扉の中に何かあると告げる。

 

 扉を開けてみると、そこは、物置きのようなところなのだろうか、様々な、壷が並べてある。

 僕には、どう見てもガラクタにしか見えないその中に、見覚えのある物体を見つけた。

 テルミナスだった。

 しかし、そのテルミナスは、灰色で、動いていない。「うわ、何をする! やめろ!」と、何かに驚いたかのように、4本の腕が顔を覆うようにした状態のまま固まっている。

 

「しっ、司書長、こんなところに……うひゃあ、石みたいに、カチンコチン! どうしたら、元にもどるんだろう……」

 ケマポンの様子を見ると、どうやら、石化は、死んだという状態ではないらしい。そもそも、この土器人たちが、どうやって生まれ、死んでいくのかさえ、見当がつかないのだが。

 

 「バルナ」と書き残されたメモは、もしかして、ダイイング・メッセージのようなもので、テルミナスは、「バルナ」に石にされたのだろうか?

(……一体誰が、何のために? ……どういうことだろう)

 

「……この倉庫には、石化したテルミナス以外、変わったものはなさそうだね……」

僕は、倉庫から出た。

 

「この扉は?」

 もうひとつ、まだ開けていない扉の前に立つ。

「そこは、エレベーターがあるの。下に行くと、飛行器械があって……そこから、アルシラに渡れるんだけれど……でも、飛行器械のキイは、司書長が持っているから……のれないの」

「飛行器械!」

 見てみたい。

「見に行くだけでも良いかな?」

「うん、いいよ」

 

 僕は、扉を開けた。部屋の中心には、マイクスタンドのような物が立っている。このスタンドの赤い部分を押すと、動くものらしい。

 

 僕は、大きな赤い部分を押した。

「わわわ……」

 それと同時に、床だけが、吸い込まれるように、下へ動いていく……これは、エレベーターというよりは、リフトに近いモノかもしれない。

 壁や柵が無い、慣れないタイプのエレベーターに、多少の恐怖を覚えたが、すぐに慣れた。

 

 奥に見えるのは、発進口だろうか。外の光が差し込んでいる。長く続く通路には、規則正しく照明がついていた。部屋の壁際には、大きな壷がたくさんあり、太いパイプがいくつも伸びていた。焼き物で、できてはいたが、どこか、機械的(メカニカル)な雰囲気を漂わせていた。

 部屋の中央には、タコの頭のような流線型の、土器をひっくり返したような、モノがあった。

 それが飛行器械なのだろう。

 

 エレベーターから降りて、その飛行器械を調べてみる。搭乗口のスイッチらしきものを見つけたが、鍵がないと、開かないのだろう。押してみても、動く気配がなかった。

 

 残念ではあるけれど、上の階へ戻ることにした。いつまでも、ここにいては、何も始まらないのだ。

 石になってしまった司書長のことは、気になるが、司書室の粗探しもほどほどに、僕は、外へことに出ることにした。

 

「外へ出るには、どうしたらいいのかな?」

 まさか、飛行器械に乗らないと、外に出れないというオチではないだろうかという、懸念を抱きながらも、僕はケマポンに聞いてみた。

 すでに、この部屋にあった3つの扉は、調べたのだ。そのいずれの部屋にも、外に出れそうな出入り口はなかったのだ。

 

「これが……外へ出る扉だよ」

 ケマポンの3本指が指し示した先には、例の渦巻き模様の壁があった。

「え? これも扉だったの?」

「そうだよ」

 住んでいる人間が、奇怪ならば、その扉も奇抜だ。

 模様か、単なる飾りか、芸術品の類だと思っていた、螺旋が描かれた円盤が、外へ出るための扉だったのだ。

「どうやって、開けるの?」

「さわれば、開くよ」

「そ、そうなのか」

 さすが、異世界。分からない事だらけだ。



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1部-3章 水の庭園

「ぼく、きみと一緒に、ついていきたいけど……ぼくは、ここで、こわれた器械をなおさなくちゃ!」

 てっきりついて来てくれるものかと思っていたけれど、そうではないらしい。

「心配しないで……きみのそのかぶっているモノで、いつでもぼくと、通信できるんだ。なにかあったら、呼んでね」

「そんな、機能がこれについているんだ……」

 見た目は、奇怪な形の焼き物の被り物だが、意外と、高度な技術が使われているようだ。そういえば、最初に呼ばれたときも、これから声が聞こえたっけ。

 

「じゃあ、いってくるよ」

 僕は、ケマポンに教えられたとおり扉にそっと触れた。

 

「うぉわ!」

 僕は、思わず叫んでしまった。触った扉が、予想外の動きをしたからだ。異世界に来て間もないのだが、一番の驚きだった。

 一見すると、渦巻きのキャンディのような形なのだが、触れると、円の中央に穴が開き、それが広がっていくような動きをする。

「ほぇぇぇぇ」

 ただただ、感嘆するしかなかった。

 

 扉が閉まるときは自動らしい、僕が潜り抜けると音もなく元の形に戻ってしまった。僕の世界に普通にある自動ドアみたいなものかしら。

 焼き物のそれが、どういった原理で動いているのか分からないが……何もかも土でできている世界のこととだ、柔らかい粘土か何かなのだろう。

 

「おおおお?」

 僕は再び声を上げる。

 司書室は壷の中と言った感じで暗く赤茶色の空間だったが、その変わった扉を抜けた先にあったのは、白と青の世界だった。青々とした美しい空、清らかな水をたたえた池、石灰のような色をした台地、その白い道の先には変わった建物がある。道に沿うように鮮やかな赤色の結晶や、棒の先に白と紫の縞模様の球体が乗った鉱石が生えている。この鉱物のような物体たちが、この星の植物なのだ。

「まさか、植物まで焼き物でできているとは……」

 

 どこかから、弦楽器の音がする。誰かが弾いているのだろうか。聞いたことがない音を奏でている。しかし、ここからはその姿は見えなかった。

 白い道、変わった建物、優雅な音楽が流れているそんな風景は、本当に異世界に来てしまったんだと言う実感をさらに強固にする。

 

「それにしても、なんだか、アラビアかどこかの宮殿にある庭園みたいだ」

 実物は見たこと無いのだけれど。絵本やアニメと言ったものから、刷り込まれる勝手なイメージと言うのか、異世界の雰囲気が漂った異国の風景と言うやつが、浮かんでくるのだ。まぁ、ここは、本当に異世界だという事実があるのだが。

 

 

「ねぇ……いつまで、そこにいるの?」

 通信機から、ケマポンの呆れた声がする。

「ん? もしかして、見えてるの?」

 そう、実は僕は部屋から出て、数歩しかまだ歩いていなかったのだ。ものめずらしさのあまり立ち止まって、景色に見とれていたのである。

「うん、ばっちり、見えてるの」

 

 

「ちなみにね、右に行くとメモータル。左に行くとライブラリーがあるの」

 と、ケマポンの説明。

 目をやると、右手には灰色のピラミッド型の建物があって、左には切り立つ崖と滝が見えた。

 

「ええとね、いろいろ知りたいなら……ライブラリーに。左の道をずっと行くと、エレベーターがあるから……それに乗って地下に行くと、行けるの。あとね、上に行くと、宮殿があるんだよ」

「わかった、ありがとう」

 メモータルが何であるかは、分からないが、今はとにかく色々知らなくてはいけない。

「まずはライブラリーか」

 僕は、左の道を歩き出した。

 

 

 

「お、第一村人発見!」

 水辺に沿った白い道を歩いていて、壷のような花に囲まれて作業している人を発見したのだ。

 

「あそこにいるのは……ウーノだよ」

 ケマポンは、そう説明する。なんとなく、常に監視されている気分になるが、初めての異世界、心強い。

「かれはね、フロンを……ええと、君たちの言葉で、『花』の世話をするのが仕事だよ。この庭園を手入れしているの」

 確かに、ウーノの手には土器のジョウロが握られている。

 外で作業するからだろうか、頭の上に帽子のような少し大きめの蓋がくっついていて、遠目から見ると、辛みそが入っているような丸壷のようにも見える。しかし、帽子の下からのぞく赤い一つ眼や、小さいながらも腹の部分から生えている2本の手は、それが土器人であることを示していた。

 モノ扱いしちゃいけないのだろうけれど、この世界の人は1品ものなのかしら。それとも、同じような形の人たちもいるのだろうか。まだ、3人にしか会っていないが、いずれも異なった形で個性的だった。

 

 それにしても、焼き物の花だけれど、世話が必要なのか。

 見た目が焼き物なだけで、もしかすると生態はあまり変わらないのかもしれない、と僕はそう思った。

 

 

 これから、しばらくこの世界にいるのだから、挨拶しておいたほうがいいかもしれない。そう思い、僕はウーノのいる花畑のへ向かった。

 

「こんにちは。何しているんですか?」

「ウーノ 、水やる……土器花(フロン)になる 」

 ケマポンよりも、さらに拙い言葉遣いで返答が帰ってきた。

「フロン、育てているんですね」

 

土器花(フロン)……マリポスできる ……好き」

「う……ん? マリポス?」

「マリポスは君たちの言葉で『蝶』だよ。花から生まれるんだ」

 ケマポンがそう説明するも、花から蝶が生まれるって? ……だめだ、イメージがわかない。

 

「ん~~とね……その大きな土器花(フロン)、ゆすってごらん。土器蝶(マリポス)生まれるから」

 ケマポンに言われるがまま、土器の花をゆすってみた。何枚かある赤い花びらのうち、一番大きなものがにわかに動きだす。花びらがツボミのように開くと中から、青い羽を持つ瓢箪型の土器が飛び出した。4枚の羽を蝶の様にパタパタと動かして飛んでいるものの、あれは、蝶と言うよりかはトンボのようにも見えた。

 まさか、花びらのほうが開いて飛び出てくるとは思わなかったので、僕は思わず「うわあ!」と、叫んでしまった。異世界に来て、何度目のことだろう。

 

「! ……?」

 ウーノは、僕の叫びにおどろいている。赤い瞳の中の光が大きくなっていたのだ。

「ウーノ、ごめんね。僕、マリポスを、見たことなかったから」

 

「ものすごい、びっくりしていたね~」

 ケマポンの笑い声が耳元でする。

「むぅ……」

 僕は、少しだけ恥ずかしかった。

 

「……やっぱり、きこえた。さっき、ケマポン、声……した」

 ウーノは、ケマポンの姿を探しているようだ。

「あ~ケマポンは……ここに、声が届くんだよ」

 僕は、自分のかぶっているヘルメットを指差した。

 

「ウーノ……ケマポン、言いたい……ある」

 ウーノは、僕のほうに向かって、ケマポンへの伝言を言い始めた。

「ケマポン いつも……ここでメント……」

 

「あ~~~~~ウーノ、言っちゃ、だめぇ~~~~」

 ケマポンは、ウーノの声を掻き消す。

「ん? メン……」

 僕は、たずねようとするが「あ~~あ~~あ~~」と、ケマポンは、すぐに声で遮る。

 

「ち、ちなみにね……土器蝶(マリポス)は、土器魚(ペスカ)になって……ぼくたちは、それを食べて生きているんだよ。……あとで、カーナのところへ……案内するよ。カーナは……釣りがうまいんだよ」

 ごまかすように、この世界の生態系と食について簡単に説明しはじめる。

 なんで、ごまかしているのか気にはなるが、そのうち分かるだろうということで、気にしないでいてあげることにした。

 司書室でひとりあわてているであろうケマポンの姿を思い浮かべて、僕は自然に笑みがこぼれる。

 

「しっかし、花が蝶に。蝶が魚に……この世界の生態系ってどうなっているんだろう」

 色々落ち着いたら、ゆっくり観察してみるのも、楽しいかもしれない。

 この事実を知って、僕はこの庭園を歩いている時に、膨らんだ土器の花(フロン)を見かけると、揺するのが楽しみの一つになってしまった。

 

 

「……そういえば、僕もその魚を食べることができるのだろうか?」

 ケマポンたちの食料である魚。この世界は、花も蝶も土器でできている。おそらく、魚も同じだろう。

「飢え死にと言う事だけは避けたいな……」

 食の確保に多少の不安を覚えつつ、僕はウーノに別れの挨拶をして、ライブラリーへ行けると言うエレベーターまで歩き出した。




ゲームは1日10分状態(笑)
自分にとって、このゲームでの第一村人は花畑のウーノでした。
人によっては、第一村人は釣り人カーナになることも。
(カーナは、そのうち登場させるよ。主人公が土器魚(ペスカ)を食べてみるために)

ちなみに、ゲーム中では、水辺の近くを飛ぶ土器蝶に触れると土器魚に変身する姿を見ることができます。

メントの意味は、そのうちね。


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1部-4章 宇宙のデータ壷

 ウーノに別れを告げ、歩いていくと水しぶきの音が聞こえてきた。土手の向こうに滝があるのだろうか。さらに道を進んで、階段を見つけ、上っていく。予想通り、滝が流れ落ちていた。

 

「すごい眺めだね、ここ」

「上の庭園へ行くと、もっと眺めがいいよ~」

「そのうち、見に行くよ」

 今は、観光よりも、情報がほしい。

 

 さらに、道なりに進んでいくと、エレベーターはあった。まるで脱出ポットのような楕円のカプセルの形をした焼き物だ。大きな扉がついている。僕は、エレベータのボタンを押す。このエレベーターは、司書室にあったようなリフト形式ではなく、普通のエレベーターのようだった。

 

 エレベータの着いた先は、白い壁の続く洞窟のような廊下であった。黒いパイプが、たくさん天井に這っている。

「このパイプは、なんだろう?」

「このパイプはね、すべての宇宙とライブラリーを、つないでいるんだよ……ボクって物知りでしょ!」

 エッヘンと胸を張るケマポンが目に浮かぶ。

 

 少し長めの廊下をケマポンの言う道筋どおりに歩き、扉を開けると、広い部屋に出た。奥には2つの扉がある。ひとまず、近くの部屋へ行くことにした。

 

 部屋に入ると、きれいに整頓された壺が棚に並んでいた。ライブラリーというくらいだから、本があるのかと思ったら、本の代わりに壷があった。部屋の中央で、忙しそうに一人の土器人が仕事をしていた。ボーリングのピンに少し装飾をつけて格好良くしたような形をしていた。テルミナスと同じように、腕が4本ある。

 

「あのぅ」

 僕は、おそるおそる声をかけた。

「おお、ウニバルからいらした方ですね。わたしはビブリオ。生きている宇宙と死んでしまった宇宙のデータ壷を管理しています」

 僕の声に気がついたビブリオは、流暢な日本語でそう話す。

 

「生きている宇宙?」

「こちらに並んでいるのが、生きている宇宙のデータ壷です。宇宙の物理法則が、つねにデータ壷の中の情報と照合されて、一定に保持されているのです。それぞれのデータ壷は、パイプを経て、すべての宇宙とつながっています」

 暗い液体(ひかり)の入った壺は、不思議な輝きを見せている。

「この部屋にある壷すべてがデータ壷です。一つの壷に、一つの宇宙の法則が入っています。データ壷のはずれた宇宙の法則は狂いだして……やがて死んでしまいます」

 

 ビブリオは、ひとつ壷を手に取った。灰色にくすみ、まるで石のようになっている壺が並んでいる。墓石のようだ。

「こちらの壺は、寿命を迎え死んでしまった宇宙が入っています。死んでしまった宇宙は、こちらに保管されます。ここライブラリーは、すべての宇宙の法則を管理する多元宇宙管理センターなのです」

 

 この場所には、様々な宇宙の壺がある。出来上がったばかりの宇宙、生き物にあふれた宇宙、何もないからっぽの宇宙、死んでいくだけの宇宙。

「宇宙はどこから生まれるのでしょうか? 一度、この目で、見てみたいものです」

 

 

「僕を召還するのに、ウニバルの壷を使ったと聞いているのですが……持ち出しても、大丈夫なモノなんですか?」

 ウニバルの壷を使ったということを、ケマポンから聞いていたので、疑問に思って尋ねてみた。

「ウニバルは今、『かりそめの壷』という予備の壷で、つないでいますので、大丈夫です。しかし、それは一時的な物です。あくまでかりそめ、本物の壷には敵いません。なるべく早くウニバルの壷を探し出したほうが良いですね。本当の壷につなぎ変えないと……このままでは、法則がだんだん狂い、いずれ、ウニバルは崩壊してしまうでしょう! 」

 今まで、エスパッシの危機ばかりに、目がいっていたけれど、そして、そんなに、気にもとめていなかったけれど、もしかして、ウニバルの壺が、見つからなかったら、僕らの宇宙もやばいんじゃ? なにげに、僕たちの宇宙も危機?

 

「しかし、心配することはありません。何も今すぐ、崩壊するわけではありません」

 あわてる僕を落ち着かせるように、ビブリオは言う。

「それよりも、今この世界に迫っている危機の方が重大なのです」

 

「僕は何をすれば?」

「土器王の復活を手伝ってほしいのです。土器王とは、すべてを支配した伝説の存在です。詳しいことは、リテラが知っているでしょう。リテラは、隣の部屋にいますよ」

「リテラさんに会ってみます。お話、ありがとうございました」

「いえいえ。何か困ったことがありましたら、いつでも協力しますよ」

 僕は、ビブリオと別れ、リテラのいるという部屋へ行くことにした。

 

 

 

 

 リテラがいるという部屋の扉を開いた。

 その気配にリテラは振り向いた。丸みを帯びた体に4本の腕が生えている。人懐っこい光を宿す赤い大きな一つ目が印象的である。

「なんですかあ?」

 なんか、気の抜けるおっとりした声で、リテラは僕に言葉を投げかける。

「ええと、こんにちは。リテラさん?」

 予想していた人物と少し異なる印象につい、疑問形になってしまう。

 

「あぁ、おめは、テルミナスが呼んだ、ウニバル人だべか?」

 なんだろう、この東北弁のようななまりは。そういや、テルミナスは関西弁だったな。そう思いながらも、僕はリテラの問いに頷いた。

 

「リテラさん、土器王について教えてください」

 僕は、早速本題に入ることにした。

 リテラは、赤く大きな瞳を輝かせ口を開いた。これは、マニアが知識を語るときに陥る現象だ。話は長くなりそうだ、僕はそう感じ、覚悟を決めた。

「土器王。伝説にいわく……すべての宇宙を支配した王様だべ……不老不死の方法を最初に見つけ、土器大人となった! とあるべや」

 そう説明する。そして、さらに伝説について語りだした。このエスパッシはすべての始まりからあると言うこと。破壊神バルナは他の宇宙に渡り、すべてを壊す力を持っていること。最近頻発する揺れは封印されたバルナの復活の兆しかもしれないと言うこと。バルナを倒すには土器王を復活させるしかないことなど、端的に聞くことができた。

 

「伝説にいわく……土ではない人型のものが、危機の時に現れ、土器王を復活させる! と……あるべや。そして、今、伝説の示す通り、おめが現れた……」

 伝説にいわく……、と言うのは、リテラの口癖なのだろうか。愛嬌のある口調に小柄な造形をしているので、親しみやすい印象を受ける。

 

「おめ、本当にウニバルからきただか?」

 リテラの大きな瞳が、僕を捉えている。

「はい」

「そっか、これ……やるだ! 伝説にいわく……ウニバル人に渡せっ……てな。この部屋の司書に代々伝わっているだ」

 

「これは?」

 手のひらサイズの曲線が美しい三角錐の焼き物を受け取る。

「それは、土器王の指だぁ。土器王再生の鍵らしいべ……きっと、大事なものだべな」

「そ、そうなんだ」

 土器王の指をかたどった作りものだよね。まさか、土器王から切り取った指じゃないよね。ちょっと、恐ろしい想像をしてしまった。それにしても、指先だけでこの大きさと言うことは、土器王というのは、かなり大きいのではないだろうか。

 

「伝説にいわく……メモータルには、土器王復活の秘密が、隠されている!……と、あるべや」

 次の行き先は、メモータルということになるのだろうか。

 

 

 ……とその時、再び、大地が揺れた。この世界に来てすぐのとき起こった地震とほぼ同じくらいの規模だ。

「うわ~~まただ~~いそがないと、エスパッシ……壊れちゃう~~」

 ケマポンは、あわてている。

 

「どうか、この世界をば、お救いくだせぃ。伝説の土ならざる人」

 リテラは、落ち着いていたがその瞳には、不安の色がやどっている。

「わかりました、がんばります」

 僕は、別れの挨拶をして、リテラの部屋を後にした。



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1部-5章 宇宙のエントロピー

「む、迷ってしまったか」

 地上へ出ようと、歩いていたら見知らぬところに出てしまった。もと来た道を戻ったつもりだったが、どこかで道を間違えてしまったらしい。

「ケマポン、ここどこ?」

「ええとね……ここは……ダクトルームだね」

 たしかに、壁や天井一面に、無数の管が敷き詰められている。

 

 このダクトルームで働く人たちなのだろうか、何人かの土器人を見かけた。ケマポンによると、修理をする人たちらしい。

 僕は、仕事の邪魔になるといけないので、軽く挨拶をするだけにとどめようとしたが、ウニバルから来たと彼らに言ったら、折角だから、造力室も見て行けと強く言うので、彼らに従って、そこへ案内してもらうことにした。

 案内するのは、アロアとアドビ。体の色が少しが違うだけで、双子のように似た形をしている。それは、同じような仕事をするからだろうか。

 

「最近、何かありました?」

 何も話さないまま、無言で歩くことに耐え切れなくなってきたので、話題を振ってみた。

「時々、ビブリオ……造力室にくる。なにも、ないのに……」アロアは言う。

「ビブリオは研究熱心という話を聞くし、単純に造力室に興味があるんじゃないのかな」

 実際、僕も少し興味があるし。

「そう……なのか」

 アロアは、納得したような、してないような返事をする。

 

「ビブリオと言えば……キュラ、来る……ふたり、とても、仲が良い」アドビが言う。

「見た……仲が良い」アロアも言う。

「キュラ?」

「キュラは、アルシラにあるアルマ寺院の偉い人だよ! 」

 ケマポンは言う。

「へぇ、寺院ねぇ……」

 ビブリオとキュラは、いわゆる「噂になる」ような仲なのだろうか。寺院の人は恋愛しちゃいけないとか、そういう規律があるのだろうか。土器人の文化や、感覚がいまいちわからないので、どういった意図の仲が良いなのか判別がつかなかった。

 しかし、どこの世界も、噂話と言うものはあるものなんですね。

 そんな、たわいもない噂話をしながら、僕たちは造力室へ向かった。

 

 造力室の扉を開くと、熱気があふれてきた。部屋の中央には、円柱状の柱が立っている。低い音を立てながら、薄暗い部屋を紅の色に染めている。

「宇宙のデータ、たくさん流れる……パイプ、とても熱い……」

 アロアは、職場についての不満を言う。

「確かに、ちょっと、熱いね」

 彼ら土器人は焼き物だけれど、熱さは感じるということに驚きを隠しつつ、同意をする。

「宇宙の情報(データ)はエネルギーを持っていて、情報はたくさん流れるから、とても熱くなるね。役目を終えた宇宙は、冷たい石のようになって崩れちゃうんだってサ。」ケマポンは、言う。

 

「壺の中にある宇宙……閉ざされた宇宙、冷たくなる宇宙の死?」

 僕はその言葉をきいて、あることを思い出していた。

 

 

 

 

 熱を持ったエネルギーにあふれる閉ざされた宇宙。我々の住む宇宙が「閉じた宇宙」

 

ならば、宇宙は最終的に絶対零度に向かう熱的死に達するという説がある。宇宙の状態

 

(エントロピー)が最大となったとき、宇宙は死を迎えるというものである。

 

 ビブリオのいた部屋で見た宇宙のデータ壷。一つの壷に、一つの宇宙の法則が入っているといっていた。

 あれが宇宙の形なのだとしたら。

 壷に入った閉じた宇宙に、熱を持った情報は蓄積していき、そして、最期は石のように冷えて死んでしまう――

 

熱的死、宇宙の死因。

 もしもこれが本当に宇宙の姿であるならば、科学者たちが頭を悩ませている宇宙の形、法則、未来の姿、それらの謎の答えにつながるかもしれない素材がここにあるのだ。

 僕が宇宙物理学者か何かであれば、もっと色々理解し、悟ることもあるのだろうが、学生時代にほんの少しかじったくらいの知識では、それ以上の真理を求めようもない。

「ここは、とんでもない世界なのかもしれないな」

 僕は、ただただ驚嘆するしかなかった。

 

 僕は、しばらく造力室を隅々まで見回した。

「ん?これは?」

 造力室の隅のほうの棚に、小さな小瓶がいくつか並んでいることに気がついた。少し機械的な、この場所にはちょっと不釣合いなモノのように思えたのだ。

「これ……土器王、残した……とっても、あぶない、秘薬……」

 アドビが説明する。

「ひとつない、どうした……」

 アロアがアドビに尋ねる。

「……本当だ。ひとつ、足りない」

「そ、それは、大丈夫なのかい?」

 僕は、心配になる。

「……出来損ないの薬……だから、あぶない……」

 何がどういう風に危ないのかは、よくわからないらしい。特にあわてる様子もないので、そんなに危ないものではないのかもしれない。

 ……というか、そんな危ない薬を、こんな誰でも勝手に持ち出せそうなところに、しかも、こんな高温な場所に保管するなって、突っ込みたくなってしまった。




ちなみに、「熱的死」という言葉とは裏腹に、宇宙全体は絶対零度に近い温度になるらしい。熱が拡散しすぎるのかしら。
熱力学第二法則とか、よくわからない。

うん、結局よくわからなかったのです!
一夜漬けのよくわからないままに、書いてしまういい加減さ(笑)

しかし、この土器王紀というゲームはSFだったのだなぁと実感するのです。
「超弦理論」とか「トポロジー」が理解できたら、もう少しいろいろかけたような気もする。
色々調べて、深読みすると、とんでもない裏設定がありそうで、ある意味で怖いゲームです……


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1部-6章 庭園の釣り人

 ライブラリーの探索もそこそこに、次に目指す場所、メモータルへと向かうことにした。エレベータに乗り、庭園へ戻ってくる。今まで、地下の少し薄暗いところにいたので、この青と白の庭園は眩しさにあふれている。

「あぁ、太陽がまぶしい~」

 実は、この世界に、太陽なんてないんだけれどね。空にぽっかりと金環日蝕のような淵が金色で中が黒い穴が開いているだけなのだ。どういう仕組みなのかは、分からないけれど、天に開いた窓のようなところから、光が差し込み、空はまるで空自体が青い色にやさしく発色いるのだ。

 

 こうやって、きれいな庭園を、ただ歩いていると、世界の危機なんて嘘のように感じる。

 

「あ、誰かいる」

 しばらく歩いていると、水辺に釣り人の姿があった。彼は、ちょうど魚を吊り上げているところだった。釣った魚を、傍らの壷に入れている。釣竿は釣り針式ではなく、クレーンゲームを思わせる部品で、それが魚を捕らえていた。

 

「彼は、カーナだよ」

 ケマポンは言う。

 カーナは、釣りのためだけに造られた(うまれた)という造形をしている。他の土器人のように赤い一つ目を持っているが、腕の数は1本のみ。その1本だけの腕が先ほど説明した釣竿なのだ。笠をかぶったような頭部と丸みの帯びた体で釣りをする後ろ姿は、彼が土器人であることを忘れてしまうほど、違和感のない釣り人のシルエットになる。そうなるために作られた体なのだろう。

「今まで、色々なヒトに会ったけれど、カーナも独特な姿だな」

 僕は、そうつぶやいた。

 

「そうだ、おなかすいてない? カーナに頼めば、土器魚(ペスカ)がもらえるよ」

「そ、そうだね。ペスカ、食べてみようかな」

 ケマポンの気遣いはうれしいのだが、果たして、口に合うのかどうかわからない不安がある。毒がありそうだとか、おいしくなさそうだという以前に、これはどうみても生物には見えない。形は魚のようにも見えるが、どうしても単なる素焼きでできた置物の魚にしかみえなかったのだ。

土器魚(ペスカ)……おいしいよね」

 ケマポンは、土器魚のおいしさを語りだす。固めの皮の歯ごたえが最高だと、それを聞いて、ますます、不安に思う。土器魚の皮、それは焼き物、歯が立つかどうか。

 

「つれますか?」

 釣れた現場を見たのだけれど、最初の言葉が見つからなくて、結局この言葉を僕は選ぶ。

「……今日も……大量」

 大きな壷の中に、すでに、たくさんの土器魚が入っていた。

「本当に大量ですね、すごいや」

 思っていた以上に、魚が壷の中に入っていたので驚いてしまった。

 

「……土器魚(ペスカ)……大地からのめぐみ……」

 再び魚釣り上げる。本当に、釣りが得意らしい。あの一心同体の釣り竿のおかげだろうか。

「この……土器魚(ペスカ)……やる」

 カーナは、釣ったばかりの土器魚を、僕の方に差し出した。僕はとっさに、手に持っていたバケツを釣り竿の下に置く。掴んでいた部品が開き、バケツに魚が入る。吊り上げた魚は、暴れることなく、おとなしくしている。

「カーナ、ありがとう」

「……土器魚(ペスカ)くう……メントでる……」

 そう言うと、カーナは、再び、釣りを始めた。

 

 メント……?

 力が出るということだろうか?

 いや……僕は、ウーノとの会話を思い出す。「ケマポン……いつも……ここでメント」ウーノがそう言ったとき、ケマポンがあわてて言葉をさえぎった。

 流れからして、まさか……食物が、最後に行き着く形。

 ケマポンよ……僕はそう思うしかなかった。

 

 ……それにしても、食えるのか?これ?

 触り心地は、ざらりとした焼き物の感触。やはり焼かれた土の塊にしか見えない。どう見ても、焼き物の魚だ。

 ケマポンたちは、どう食べているのだろう?話を聞いてい見ると、そのままがぶりと食すらしい。(口がどこにあるのか検討もつかないが)

 この魚をかじってみる、みないで迷い、右手に左手にと持ちかえながら弄んでいると、ふと魚に違和感を感じた。質量のある流体が入れ物の中を移動するときに感じる、重心が移動するような感触が手に伝わってきたのだ。

 僕はこの魚を振ってみる。中に何か液体のようなものが入っている気配がした。

「中身は……液体なのか?」

 それならば食せるかもしれないと、僕は割ってみようと思った。そのままがぶりと食すにしても、しっかりと焼かれた硬い表皮は歯が立たないだろう。

 

 

 僕は、土器の魚を地面に打ちつけて、ひびを入れ、シャベルの柄で穴を広げていく。魚の中には、液体とも、気体とも分からぬ物体がゆらゆら揺れていた。鼻を近づけてみても、特に癖のある匂いは無いようだ。

 背に腹は変えられない。食べなくては、背中がお腹にくっついてしまう。

 僕は淵に口をつけて、恐る恐るそれを飲んでみた。

 

「ん? 可も無く、不可も無く」

 

 無味なヤシの実ジュースを飲んでいるような。しかし、何かエネルギー的なモノが、体内に吸収されるような感覚が胃に染み渡る。

 空腹と喉の渇きは、あっという間に癒された。この魚、意外と栄養的には高いものなのかもしれない。

 おいしいかどうかはとにかく、空腹を満たせる物が手に入ることが分かったので、なんとかこの世界でも生きていけそうだ。

 

 ちなみに容器というのか魚の皮のほうは、当たり前だが口に合いませんでした。




 ゲーム中、魚は食べません。
 土器の世界にいる間、主人公が何を食べていたのか全く分からないのです。ケマポンたちは、土器魚食べているのは、確かなので、主人公にも、食べさせてみた次第。
 魚の形の壷の中には、宇宙の材料(たね)という栄養が詰まっているに違いないです。


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1部-7章 お告げ石

 メモータルは、土器王が、この世界から去るときに建てたという、巨大な四角錐(ピラミッド)型の建築物である。入り口は地下にあり、途中まではエレベーターで降りることが出来るのだが、すぐ目の前がメモータルの入り口と言うわけではないようだ。そこには、白い階段が続いていた。さらに、降りなくてはいけないようだ。セレブロは宙に浮いている島なので、その続く長い階段を下って行くと、いつしか島の裏側に出てしまう。

 白い柱の隙間から下を覗くと、そこの見えないどこまでも深い青色が広がっている。高所恐怖症の人がいたら……いや、そうでなくとも、この場所は、すこし背筋が凍る。それは、柱の間を吹きすさぶ風が、少し物寂しい音を奏でているからだろうか。 

 

「実は、ボク、メモータルの中には、入ったことないんだ。司書長が言っていたんだけど……入り口は、ウニバルから来た人じゃないと開けられないって、言ってたよ。……わくわくするね」

 ウニバル人である僕にしか開けられないメモータルの入り口、か。

「ケマポンも、たのしみなんだね」

 

 階段の終わりにある石で出来た入り口は、固く閉ざされていた。

「開かないよ……ケマポン?」

 僕は石の扉に、触れてみるものの、押しても引いても、隙間なくぴっちり敷き詰まっているその扉は、人の力では開きそうにない。

「あ……そういえば、メモータルに入るには、オツゲイシの言葉を聴かなくちゃいけないんだ」

 そういう情報は、もう少し、早めに思い出して欲しいと僕は思う。一瞬、自分じゃ開けられない、お手上げかと思ってしまったよ。

 

「オツ……お告げ石? それはどこにあるの」

「オツゲイシだよ! 左脇の……へんな石像の中にいるの」

 確かに、左脇に石灰色のオブジェがある。単なるオブジェだと思っていたのだが、違ったらしい。

「オツゲイシは、土器王が造った番人なんだよ……」

 確かに、つぼみのような丸みのある変な形の石像がある。この中に、お告げ……いや、オツゲイシがいるらしい。

 

「とにかく……オツゲイシの前に立ってみて」

 僕は、ケマポンに言われるまま、オツゲイシの前に立つ。すると、石の扉が左右に開き、中から鴉に似た黒い鳥の頭が出てきた。焼き物というよりは、金属に似た器械のような造形だ。

 

 姿を現したオツゲイシは、「ぎゃぁお~」と、鳴き声をあげ、甲高い声で言葉を告げた。

「われは土器王のしもべ、オツゲイシ。聞け! 土器王……かく語りき! 『我が、復活の時来たりなば、ウニバルより、世界の秘密求めるもの、招くべし!』」

 オツゲイシは、さらに言葉を続けた。

「ウニバルびと、ここに来たり! 今こそ、再生への扉は開かれた! 探せ! そして復活を!」

 

 その言葉を合図に、メモータルの扉が開いた。ちゃんとした手順を踏まないと開かない扉……なんだか、マンションなどの入り口にある認証システムを思い出していた。

 エレベーターとか、飛行器械とか、観光名所にある案内ロボットのようなオツゲイシとか、使われているのが主に焼き物なだけで、この世界は意外と、器械文明が進んでいるのかもしれないなと、僕はそう思った。

 

 

 

 入り口から見える廊下の足元にはライトがあり、通路を照らし出している。石を積み上げて出来ている廊下を進むと、広い部屋に出た。まるで、ピラミッドの玄室にあるような、聖刻文字(ヒエログリフ)に似た模様がびっしりと、黄土色の壁面に赤で刻まれていた。中央には大きな円柱の柱があり、このメモータルを支えるように、建っていた。

「わぁ、すごい部屋だね」

 ケマポンは言う。そういえば、ここに入るのは、初めてと言っていたっけ。

 

 左右側の壁には、文字のような絵は描かれておらず、代わりに、大きな絵が描かれていた。左側には、大きな土器人らしき人が描かれている大きな壁画があった。土器人の右手には、なにやら武器のようなものが握られ、左肩には人間のような人物が乗っていた。そしてその背後に、巨大なクジラに似た飛行船のような物が描かれている。

「わわ、すごいね……この壁画。……なんだか、よく、わかんないけど。こ、この……おっきなひとは……ひょっとして、土器王? ……後ろにいる、もっとおっきなものは、いったいなんなんだろ? ……ちょっと、めまいが、してきた」

「大丈夫?」

「……うん。きっと……感動しちゃったんだね」

 確かに、この壁画は壮大な感じがするものね。

 

 反対の右側の壁画は、太陽のような模様の中に三角形が、そして、その中央に渦巻きの絵が、描かれていた。

「何かの魔方陣みたいだね」

「この壁画の模様、これは、どこかで、見た形……たしか……アルマ寺院から見えたような」

「アルマ寺院から見える……その場所に、土器王の何かあると言うことを示しているのかな」

「……多分ね」

 

 その壁画の下に、円柱の台座がある。台座には、何か小さな石版が置いてあった。僕はその石版を手に取った。その石版には、壁に刻まれたものと同じような文字が刻まれている。

「ケマポン。何が書いてあるか分かる?」

「昔のことばで、書かれてるみたい。司書長か、ビブリオなら、読めるかも…… 」

 司書長は今、石になってしまっているから、ビブリオに頼むしかない。この石版を持って、ライブラリーにもう一度行くことにしよう。

 

 ちなみに、部屋の中央にある柱は、エレベータのようだった。上か下にまだ部屋があるのだろう。しかし、ボタンを押しても、動かなかった。よく調べてみると、エレベーターを制御する台座の中央に、何かをはめ込むための丸いくぼみがあった。きっと、そこに何かをはめ込まないといけないのだろう。

「なんだか、ゲームに出てくるダンジョンの仕掛けみたいだ」

 手元に、そのアイテムがないので、これ以上の探索は出来ない。仕方がないので、手に入れた石版を持って、ライブラリーにいるビブリオの元へ、行くことにした。



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1部-11章 土器王復活の秘密

 再びライブラリーにやってきた。

 薄暗い部屋に、宇宙のデータを記録する音が静かに響いている。

 メモータルの雑多な感じの壁画を見た後だと、ライブラリーの整頓された空間は、無機物のように淡々としているように感じた。この雰囲気の差は、記録する場所と、記憶する場所の違いなのだろう。

 

 ビブリオは、先ほどの部屋で、変わらず作業をしていた。

「あの、今、いいですか?」

 そう言いつつも、返事を待たずに、メモータルで見つけた石版をビブリオの前に置いていた。

「何ですか、この石版は……おお、これは……古代の文字ですね……」

 仕事を邪魔されて、少し苛立ちの気配が見えたが、それは、いらざる心配に終わった。石版の文字を見ると、ビブリオの瞳の中の光が輝きはじめた。

「何と書いてあるか分かりますか?」

「むふ……読んでみましょう」

 ビブリオは、石版の文字を、ひとつひとつ読み上げていく。

 

『われ……ひとたび星々と……ならんとも……い、いつの日か……よみが……えらん。わが……メ……徽章(メダリオン)……転体の封印を、解き……転体……壷……鉾槍( ハルバード)……が大三角形を描き、わが……大いなる……栄光の日々……再び……始まらん……』

 

「……こ、これは、土器王復活の秘密ですよ!」

 土器人たちの表情は読み辛いのだが、ビブリオがもしも、彼が人間なら、顔が興奮で赤くなっていたかもしれない。しかし、彼は土器人、焼き物なので、顔色が変わったようにはみえなかった。それでも、目は口ほどにものを言うという格言どおり、目の様子を見れば、なんとなくわかるような気もしてくるのだ。

 

「意外と、難しい文章だな……覚えられるかな」

 僕は、ビブリオが訳した言葉を忘れないように、口づさむ。

「メモか何かがあればいいのにね~」

 ケマポンは、すでに覚える気がない。

 人並みに記憶力はあるとは思うのだが、あまり使わない言葉と口調の連続で、なかなか覚えられずにいる。

 

 しかし、その問題はすぐに解決することになる。

「おや? それは……」

 ビブリオは僕のバケツの中のあるものを見て、そう言った。ビブリオが指差したのは、司書室で見つけた石版である。「バルナ」と司書長のメモが、書いてあったアレである。僕のバケツに入ったそれを見つけて、ビブリオは簡単に使い方を教えてくれた。

 

「我、ひとたび星々とならんとも、いつの日か蘇らん。我が徽章(メダリオン)、転体の封印を解き。転体、壷、鉾槍( ハルバード)が大三角形を描き、我が大いなる栄光の日々、再び始まらん」

 

 小さな黒板に似た石版に、日本語の漢字仮名混じり文で、そう書かれている。もちろん、これは、僕が書いた文字。

 この石版のような器械を起動し、画面に付属のペンで描くと線が出るのだ。文字やアイコンの意味がわからない僕は、基本的に手書きでメモが書けるこの機能しか使いこなせていないが、なんて便利なのだろう。これで、いろいろメモができるぞ。

 

「僕のいた世界で、最近このタイプの携帯やらパソコンが流行っているのは知っていたけれど、まさか、似たようなものをこの異世界で目にするとは」

 焼いた粘土でできているが、それは紛れもなくタブレット型のノートパソコンである。

 

「でも、これ、テルミナスさんの物ですよね。僕が使ってしまっても、いいのでしょうか」

 これは、今は石になってしまっているテルミナスのものなのだ。貸してもらうにも、許可を得ることができない。

「大丈夫ですよ。これは、司書ならば誰でも持っているものですし、テルミナスは、快く貸してくれますよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて、しばらくお借りします」

 訳された土器王復活の秘密の暗記問題も無事に解決した。

 

「さて……徽章(メダリオン)鉾槍( ハルバード)についてですが、キュラが、何か知っているかもしれません。アルマ寺院へ行き、司祭キュラに、メモータルで見つけた石版を、見せてください。キュラは、とても親切な方なので、力になってくださいますよ」

 ビブリオから、古代語で書かれた石版を返してもらう。今度は、アルシラへ行かなくては、いけないようだ。

「よ~し、行くぞ!」

 僕は、やる気に満ち溢れこぶしを握り、空高く掲げた。

 

 

 

「あ……アルシラ行くには、飛行器械使わないといけないんだけれど……飛行器械のカギ、まだ見つかってないの。ごめんね~」

 ケマポンの言葉に、僕は、「がくっ」と、膝をつきたくなった。

「ケマポン!」

 

「司書室の飛行器械……ですか? 確か、予備のキーがあったはずです」

 ビブリオは、引き出しのつぼの中から、焼き物でできた棒のようなものを取り出した。それが、鍵のようだ。

「どうぞ、これを使ってください」

「いろいろ、ありがとうございます」

 ビブリオは、しっかりしているなと、僕は心強く思った。



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土器王を求めて
2部-1章 火山大陸アルシラ


 司書室は、異世界にやってきたはじめての場所。数時間前のことなのに、この司書室が懐かしい。

 

 僕は、司書室への扉に触れる。

青地に、赤い渦巻きの描かれたは、まるで粘土のように、柔らかな動きで、中央から穴が広がっていく。

「相変わらず、不思議な動きをする扉だなぁ」

 そういえば、ここ以外の扉のほとんどは、左右に開く普通の扉だったこと思い出す。もしかしたら、いわゆる、こだわりの物件というやつなのかもしれない。

 

 僕が司書室に入ると、ケマポン、歌って踊っていた。

「ららら~~~っ! ただいま、修理した機械の試験中! ……えっ みてたの!? 」

 なんていうか、危機感が無い!

 

 

 僕は、脱力しながらも、ケマポンに尋ねる。

「そういえば、ケマポン。飛行機械って、操縦簡単なの?」

 飛行機械に乗る前に、それだけは聞いておこう思ったのだ。

 

「……えっ。なんかするんだっけ? 」

「おい!」

「あははは。冗談だよ。アルシラまでだったら、ボタンひとつで、自動操縦でいけるよ」

「そうなのか」

 自分で自由に操縦してみたかった気もするけれど、どこまで続くかわからない深い青に、墜落なんてしたら洒落にならないしね。

 

 僕は、リフトのようなエレベーターで、飛行機械がある部屋へ降りる。

 壺を逆さにしたような操縦席へ乗り込み、飛行器械の鍵を差し込むと、目の前にある器械に光が現れる。無事に、電源が入ったようだ。

 

 そういえば、深く考えていなかったけれど、焼き物が宙を飛ぶのも不思議な感じだ。空気抵抗や耐久性は大丈夫なのか。揚力は? 推力は? エネルギーは、どうやって得ているのかとか、疑問は尽きない。

 まぁ、僕らの世界では、金属の塊が空を飛ぶことを考えれば、焼き物でも可能なのかもしれない。そう思うことにした。

 

「発進!」

 僕は、ケマポンに教えてもらった自動操縦のボタンを押した。

 飛行機械は、静かな機械音をたて、外へと続く滑走路を走り出す。外に出た瞬間、世界は青に包まれて、不思議な浮遊感が襲う。

 

 青い空に、赤い島が浮いているのが見える。その島の半分は火山が鎮座していて、原始的な香りがする台地であった。セレブロが水と石の島ならば、このアルシラは火と土の島。雰囲気が全く異なっていた。

 僕の乗った飛行器械は、その火山のふもとにある村のはずれに、そっと着陸した。飛行機械の扉が開き、僕は、赤茶けた大地に足をつける。

 

 僕は、空を見上げた。天にそびえる火山は白い煙を吐いていた。

 

 

 

 

 僕は、着陸した飛行器械から、赤土の大地へ降りたった。

 この広場は飛行器械の駐車場なのだろうか、何台か飛行器械が停めてあった。もしかすると、この世界では、飛行器械が普通の交通手段なのかもしれない。

 

 集落といった感じの村は、青い空の下で素朴な景色を作り出していた。道の左右に、赤茶けた半円型の家が並んでいる。窓や入り口は、ただ穴が開いているだけの質素なつくりで、ほとんどの家は、開いた雰囲気のする明るい村であった。村の往来を、こんがり焼けた肌を持つ人々が歩いていた。彼らの肌も固そうな素焼きでできている。

 何人かの土器人が、家々の間を走り回っていた。村の子供たちらしい。それがさらに、この村にのどかさを与えている。

 ほのぼのした空気に、すっかり気の緩んだ僕に魔の手が忍び寄る……。

 数人の子供たちが、僕の姿を見つけると、駆け寄ってきた。

「おわ」

 急に脇腹をつつかれ、僕は妙な声を挙げてしまった。

 子供たちは、僕の体を、不思議そうに眺めたり、つついたり、さわりまくっている。

「きゃきゃ~」

「柔らか、へん……」

「ウニバルの人……ぶよぶよ……?」

「ぶ、ぶよぶよ?」

 子供たちはみな僕を見上げ、好奇心で目が輝いている。彼らはぶよぶよした僕の体を触りたがるのだ。

(ぶよぶよって……確かに、君たちの焼き物のように硬い皮膚に比べたら、ぶよぶよだけど!)

 ちなみに僕はどちらかと言うと、痩せているほうである。だから体がぶよぶよと、そう言われたのは初めての経験だった。

 僕は彼らのような素焼きのような固い肌は持ち合わせていない。この世界においては不可解な者だろう。この世界の「ヒト」は外見は似ていても、皮膚が焼き物のように固い。進化の過程が違うのだ。分かってはいるけれど、僕はなんだか少し落ち込みそうだった。

 

 

「どこから……来た?」

 子供たちは見みな、珍しそうに、僕を見上げ、好奇心で目が、輝いている。

「ウニバル、だよ」

「どこ……行く?」

 子供たちの質問は続く。

「アルマ寺院だよ」

 

「キュラ……会いに行く?」

「そうだよ。よくわかったね」

 

「キュラ……ビブリオと……ウニバルの人……来た時の……話し……してた」

「キュラとビブリオ……仲いい……」

「キュラ……時々、飛行器械で……セレブロ、行ってた」

 子供たちは、それぞれに、キュラとビブリオについての情報を語りだす。もしかすると、彼らは、公認の仲なのかもしれない。

 ……これが、お子様ネットワークか。おばちゃんネットワークほどではないが、それに匹敵するくらい、発達している情報網。

 

 

 子供たちの話題は、キュラとビブリオの話から、飛行器械の話へと移る。

「キュラ……専用の飛行器械を持ってる。うらやましい」

「飛行器械……かっこういい」

「大きくなったら……乗る」

 子供たちにとって、飛行器械は憧れの的らしい。確かに、僕も子供のころは、自動車とか、飛行機とか、列車とか、乗り物に興味を持っていたっけ……子供たちの嬉々とした様子に、昔の自分を思い出していた。

 

 

 色々質問や噂が飛び、僕は、それに一通り答えていく。

 子供たちは納得すると、「……またね」と言って、去っていった。

 

 なにはともあれ、子供たちが元気なのはいいことだ。

 

 

 

 

 道を歩いていると、話しかけてきた土器人がいた。

「彼は、村長のランバじい……この村で、一番のお年寄りだよ」

 ケマポンが、彼についての情報を教えてくれた。

 

「こんにちは。村長さん」

「こんにちは、ウニバルより来たお方。……村の子たちが、ウニバル人がこの村に来たと、言っておったのでな」

 村長は球体に近い体をしていて、腕が全部で7本もある。土器人は基本的には地球人と同じ作りなのだが、時々このような腕が複数本ある者もいるのだ。他にも足がなく常に浮かんでいる者(足を体内に収納しているらしい)や、四足の者などもおり、変化に富んだ造形をもっている。なんとも不思議で素敵な民であろうか。

 さらにこの村長は他の土器人と、目のつくりも異なっていた。土器人の大半は、赤い輝きを持っているが、村長のたった一つの眼は白地に黒目なのだ。そして、眼の上に弓形の模様が描いてある。そして、その模様は、なんと、村長がしゃべるたびに、上下に動くのだ!

 ま、まゆげがうごいている! 僕は、笑いをこらえるのに必死だった。

 

 

「アルマ寺院まで、ご案内しますのじゃ」

 村長は、眉毛を動かしながら、そう申し出てくれた。

「あ、ありがとうございます」

 動く眉毛がおかしくて噴出しそうになるが、何とか押さえ込み、僕はお礼を言った。

 

 僕は村長の眉毛に気をとられないように、村の景色を見ていた。子供たちは、まだ村を走り回っている。

「子供たち、元気ですね」

「そうじゃな。子は、元気が一番じゃ。あの子達も、いずれ大人になり、この村で土器を焼く、立派な土器職人になるんじゃ」

 

 この村は、土器を焼く土器職人の村らしい。すべての土器人たちは、この村の土器職人によって形作られ、アルシラ大陸の半分を占める火山の熱を利用した炉で焼かれる。そして、今から行くアルマ寺院で役割(いのち)を得る。 

 

「ちなみにね……土器人に、性別の概念がなんだよ」

 ケマポンは、衝撃の事実を言う。

「アルマから……紅い卵を受け取るか、白い卵を受け取るか、だけなんだよ。……紅を受け取れば、司書とか司祭とか責任者になるための土器人(ドキツカサ)になって……白を受け取れば、土器人(ドキツカサ)を手伝ったり、土器を作ったり、庭の手入れをしたり、魚を釣ったりする仕事をしたりする土器人(ドキヅクリ)になって……そう言う風に、昔から決まっているの」

 土から作られ、役割()果たす(焼く)ために生き、寿命(ヒビ)来る(はいる)と土に戻り、そしてその土から再び作られる。

 

「そうなのか……」

 生まれながらにして、すべてが決まっている……それは、果たして幸せなことなのか?

 少なくとも、今まで見てきた土器人たちは、自由ではないからといって、不幸には見えなかった。むしろ、自由がある僕らの世界のほうが、窮屈で自由ではないような気がしてきた。しかし、それは、隣の芝だから青く美しく見えるだけなのかもしれない……僕は、そう思うことにした。

 そう思ってしまったのは、生き方の自由が認められているのが当たり前、という価値観の国に生まれて、その中で暮らして来たから思う単なる思い込み(エゴ)なのかもしれない。

 

 

「それから、個体差はあるけれど、ドキヅクリは、ドキツカサに比べて、話があんまり得意じゃないんだ」

 ケマポンは、説明を続けている。

「そうか、だから、話が拙い土器人と巧い土器人がいたのか。ケマポンは、ドキツカサ?」

「ボクは土器人(ドキヅクリ)なんだって」

「……にしては、ケマポンは、よくしゃべるよね」

「ボク? ボクは特別さ!」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ケマポンは相変わらず、ようしゃべるわい。……おぉ、こうして、話している間に……ほれ、あそこ、寺院が見えて来たのじゃ」

 村長は、指差した。

 

 アルシラ大陸は、赤茶色の大地で、村の家々も茶色系のものが多い。その同系色の世界の中にひときわ目立つ白い巨大な建築物がある。それがアルマ寺院である。

「あれが、アルマ寺院……」

「そうじゃ、土器人が生まれ、還っていく場所じゃ」

 

「案内、ありがとうございます」僕は頭を下げた。

「いやいや……こちらこそ、お役に立てて何よりじゃ」

 まゆげは、相変わらず滑らかに動いていた。

 僕は村長にお礼と別れを告げ、寺院の入り口まで続く階段を登りはじめた。



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2部-2章 寺院の中のアルマの中の

 アルマ寺院は、静寂に包まれていた。建物の中は、卵のように球形をしており、天井には無数の穴が開いていた。まるで木々から漏れる光のように差し込んでいる。地上に映る影は、不思議な模様を描いていた。

 僕は、白く舗装された通路を進んでいく。その部屋の一番奥、少し高くなった所にそれはあった。それは、ご神体なのだろうか。表面は少しごつごつした感じの卵のような形で、土器人にあるような瞳がついていた。楕円体の偶像は、外からの清らかな光に白く輝いていた。

「これは、何を表しているんだろう?」

 気になった僕は、近くにいた土器人がいたので話しかけてみた。

 

「こんにちは」

「……何か……お困りですか?」

 修行中だという僧侶は、丁寧な言葉でそう言った。

「ええと、これは何ですか?」

 僕は、卵型の像について、尋ねる。

「これはアルマです。アルシラで焼かれた土器に生命を与えてくれます。アルマは、土器人すべての母……土器人を生み出すものであり、あるいは、エスパッシそのものと言います。……覗いてみてください、中に、セレブロとアルシラが見えるでしょう」

 僧侶にそう言われ、僕はアルマの瞳の中を覗いてみた。確かに、セレブロとアルシラの全景が見えた。

「アルマは、エスパッシそのもの……」

 アルマの中にエスパッシがある。このエスパッシにも、アルマ寺院があり、その寺院の中にアルマがある。そのアルマの中には、エスパッシ。エスパッシの中は、アルマの中?

入れ子細工(マトリョーシカ )みたいだな……」

 どこがはじまりで、どこがおわりなのか。僕は、意味がわからなくなりそうだった。

 

 僧侶の説明は、まだ続いている。

「このアルマの下にある台座に、アルシラで焼かれた土器を置くと、アルマから光の卵が生み出され、土器の体に入り込み魂となります。その光の卵のことを『宇宙卵』と呼んでいます。アルマは、土器に宇宙卵……生命を与えるのです! アルマこそ、我々土器人の母なのです!  土器人は寺院で魂を得て、限りある命を終える時、再びこの寺院に戻り……寺院の地下にある墓所へいき、死を迎えるのです。我々は土器人の死を、昇天と呼びます。しかし、なぜ……それを宇宙卵と呼ぶのか?  土器人がなぜ生まれ、そして死ぬのか……それはわかりません」

 この寺院から始まり、この寺院で終わる。……生命の循環を司っているようだ。

 

「説明ありがとうございます。アルマは、誕生と死と言う世界の神秘が詰まった場所なんですね」

 僕は、率直な感想を言う。このアルマの力で普通の土器に魂が宿り、こんなに簡単に(簡単ではないのかもしれないが)土器人になると言うのは、正直驚いた。アルマの台座に置くだけで成されるという生命の誕生……もっと複雑なものすごい儀式が必要なのだと、勝手に思っていたのだ。

 

 光のとばりが美しい寺院、もう少しゆっくりと観光していたかったのだが、程ほどにしておく。今は、寺院を観光しに来たわけではない。本来の目的は司祭に会うことなのだから。

「司祭……キュラさんには、今、会うことはできますか?」

「はい、大丈夫です。今、ご案内します」

 僕をアルマが見える広間に案内する。きっと、この場所が、いわゆる客間のようなものなのだろう。

「キュラ様を……お呼びしますね。少々……お待ち下さい」

 僧侶は、そう言うと、その奥の扉に消えていった。

 

 

 

「お待たせしました。キュラ様です」

(これは司祭と言うより、魔王だな)僕は、密かにそう思った。

 この世界の住人たちが身につけている衣服は布ではなく焼き物でできた硬い鎧で、それなりの存在感があったのだが、その彼は特に威圧感があった。まるで魔王と言いたくなるような外見なのだ。

 複雑な模様の刻まれた冠のような襟飾りのようなものを頭からかぶり、同じく飾り付けされた肩当からは刺のような細い突起が左右2本づつ計4本はえていた。重そうな(よろい)ではあるが彼はなんと言うこともなく着こなしていた。土器人特有の赤い一つ目が、壷と言う空虚の闇に浮かんで、美しくも妖しい光に満ちていた。迫力のある外見に、神々しささえ感じてしまう。

 

 

「私はキュラ。アルマ寺院の司祭です。あぁ、あなたがウニバルからいらした方ですね。何か、お困りですかな?」

 キュラは、僕の姿を見ると、納得したようにうなずいて、そう言った。

 僕は、今までの事情を簡単に話した。テルミナスが石になってしまったこと、メモータルで発見した石版を、ビブリオに見せたらキュラに会うように言われたことを、手短に話した。

「ふむ、なるほど。……この度は、大変なことに巻き込まれてしまいましたね……」

「それで……キュラさんに、見てもらいたいものがありまして……」

 僕は、メモータルで見つけた石版をキュラに渡す。受け取ったキュラは、ふむふむと、興味深そうに瞳を輝かせその石版を凝視していた。

 

「我、ひとたび星々とならんとも、いつの日か蘇らん。我が徽章(メダリオン)、 転体の封印を解き。転体、壷、鉾槍( ハルバード)が 大三角形を描き……ふむ……ビブリオが訳した通りですね。土器王復活の方法が、書かれた詩です。まず、徽章(メダリオン)を探し転体の封印を解くのです。徽章(メダリオン)は、土器王の宮殿に……セレブロの上の庭園にある建物なのですが、そこにあると伝えられています。鉾槍( ハルバード)は、土器王と共にありと言われています。もしかすると、転体と共にあるのかもしれませんね……」

 キュラは、己が知っている知識を僕に惜しみなく話してくれた。

 

「その石版に読まれた「大三角」というのは、アルシラ平原を、示しているのでは……? ちょうど、正三角形の頂点にあたる場所に、三つの奇妙な構造物があります。ここからも、見えるかも知れません……」

 キュラは、3本の細い指で外を指し示す。僕は建物に開いた穴から、外の風景が見えた。高台にある、寺院からは、村の全景を望むことができ、その平原も一望できた。鮮やかな模様が描かれた円形の広場……その模様は、メモータルの壁画で見た、魔方陣のような不思議な模様であった。たしかに、三角形の頂点の部分に、何かがあった。

 

「……あなたなら、何か大切なことを、発見できるかもしれませんね……特別に、墓所への扉を開いてさしあげましょう! 墓所は、昇天のときを迎えた土器人が還る場所です。そこには、古の土器王の亡骸があるといいます。……彼に墓所まで案内させますので、頼みましたよ」

 キュラは、そばに控えていた僧侶に合図を送る。その僧侶は頷いた。

 

「墓所への扉は、特別に開かれます。……ウニバルびとよ! 土器王を復活させるのです。土器王が、ウニバルの危機を救い、テルミナスも、元に戻してくれるでしょう! 」

 キュラは、僕の手をとり、力強く握り締めて、土器王復活の健闘を祈る。

「……たのみましたよ……ウニバルびと」

 キュラは、「くくっ」と妖しく笑い寺院の奥へ消えていった。

(……やっぱり、立ち振る舞いが、魔王だなぁ)

 僕は、苦笑いを浮かべながら、小さくつぶやいた。



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2部-3章 昇天する場所で生まれる宇宙

 その扉は、大きな岩のようなものでふさがれていた。まるで生の世界と死の世界を分かつ岩戸のような岩が、そこにはあった。

 僧侶に墓所への扉を開いてもらい中へ入る。

「外に出たいときは、お声をおかけください」

 墓所への扉は、あけっぱななしと言うわけにはいかないのだろう。岩戸が閉まると、一層、閉塞感が強くなる。あたりは薄暗い。完全な闇にならないだけましなのかもしれない。しかし、ここは、死したものが眠っている場所なのだ。ほんのり背筋もこおる。

 

「……ボク、墓所は初めて!」

 通信で届くケマポンの明るい声だけが、僕の安心だった。

「死期が近づいた土器人は……本能的にこの場所に訪れるんだよ。昇天する……時しか……ここ……開け……ない……あれぇ? 音が……」

 ケマポンとの通信が、急に途絶えた。

 僕は、静寂に包まれた部屋を見回した。何か霊的な存在がいるときは、電波が乱されることがあることを、僕は思い出していた。ここは、墓所なのだ。冷たい汗が背中を流れるのを感じた。

 

 部屋の中心には、深い穴がある。

 

 ……今、そこから、何か音がしたような気がした。

 

 いや、確かにその穴の底から、音がする。

 鈍い音を立てて何かが這い上がってくるような……

 

 ……しかし、逃げるわけにはいかない。

 僕は、穴の中から、それが姿を見せるまで息を潜めて、闇に目を凝らしていた。

 穴の中から、長い足のようなものが6本現れた。そして、その全貌が明らかになる。それは、まるで巨大な蜘蛛を模したかのような形をしていた。

 

 ……食われる! 死体を食う蜘蛛? 身構える僕。

 

 警戒心丸出しの僕を気にもとめていないかのように、その蜘蛛は穴をまたぐように停止した。蜘蛛の体の部分には扉がついており、その扉が音もなく開いた。やわらかい光が、そこから漏れる。扉の先の内装は、見覚えがあった。

「これは……エレベーター?」

 闇から現れたその巨大な蜘蛛に恐れを抱いていたが、単なるエレベーターだった。拍子抜けはしたものの、ほっと胸をなでおろす。雰囲気のある凝ったお化け屋敷でも、こんな大掛かりな仕掛けは作らないだろう。

 

「それにしても、びっくりしたな……」

 僕は、そうつぶやきながらも、蜘蛛型のエレベーターに乗り込んだ。扉が自動的にしまり、鈍い音を立ててゆっくり動き出した。あの6本の足を使って、地下へ降りているようだ。思ったほど、このエレベーターは揺れなかった。

 

 

 穴の底へ着いたのだろうか、絶え間なく聞こえていた音が止まると、扉が自動的に開いた。僕が外に出ようとすると、左の方向から、何かがやってきた。丸い大きな目玉がそこには浮いていた。その瞳は、闇の中に明るく輝いていた。

「うわ!」

 僕は思わず声を上げてしまった。 

 

「わしは、ツンバ。太古よりこの地で、墓守をつとめし者……」

 僕の叫びにも動じず、それは名を名乗った。よくよく見てみれば、輝く目の下に小さな壷が見えた。どうやら彼は、土器人らしい。

「不思議だ……昇天するでもない者が……」

 しかし、ツンバの赤く光るその目は、疑惑の色に染めながら僕を観察している。

「……おぬし、ウニバルから来た者じゃな! そうか、ウニバルか……これはおもしろい!」

 

「わしは、こう見えて、土器王が生きていた時代から生きている……最後の土器大人……今となっては、誰にも、知られていない存在……」

「土器大人は、体が大きい土器人と聞いているのですが」

 ツンバと名乗るこの土器人は、どう見ても目玉とその下の小さな壷しかないように見える。今までであった土器人の中でも、一番小さいようにさえ思えた。

 僕がそのことを尋ねると、ツンバは笑いながら、教えてくれた。

「ふむ。わしの体はこの土器蜘蛛である。土器蜘蛛と頭部は分離できるのじゃ。この体は、今となっては単なる墓所への入り口であると言う認識……。それが土器大人であることも、知られていない」

 この土器蜘蛛はツンバの体だったのだ! それはでかい。

 僕は、関心のあまり土器蜘蛛とツンバを交互に目をやった。

 

「体が巨大なだけではない。本来、土器大人は、土器王が発見した不老不死の法で生まれた巨大土器人のこと……。だがな、永遠の命を得た者は……わしや、土器王、ほかにもたくさんいたが、やがて、みな、自らの意思で、昇天して、宇宙になっちまったよ」

「宇宙に……」

 お星様になったという表現だと思っていたが、よくよく話を聞いてい見ると違うようだ。本当に宇宙になるらしい。

 

「寺院じゃ、なんといっているか、知らないがよ……土器人てな……宇宙が卵の間すごす姿だな。ま、いってみれば宇宙卵の殻だ。アルマは、土器に宇宙卵を産み、新しい宇宙を生み出す。宇宙卵、そいつが土器人の魂だな。土器に宇宙卵を産みつけてな土器人として育てて『昇天』させて新しい宇宙を生み出す。宇宙卵が新しい宇宙になるとき、つまり、土器人が昇天して、新しい宇宙になるってことよ……いわば、土器人は、宇宙母ってなところよ」

 

 アルセラの土で作られた体。大地を廻る火山の(ほのお)で焼かれた土器の体。土器を作る土の体。その土は、大地の力を宿す。

 セレブロから落ちる水。知をつかさどるセレブロ。土器に生命を与える水。その水は、命の源。

 セレブロからあふれた水が、アルマから落ち、アルセラで作られた土器に命を与える。

 

 土器人の中で宇宙卵は成熟し、やがて、土器人という殻を内側から破り昇天し、エスパッシに溶けて、この世に新しい宇宙が生まれる。宇宙(すべて)になり、アルマになる。

 

 なんという、繰り返される生命の循環。

 この墓所は、土器人が昇天し、宇宙になる場所なのだ。



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2部-4章 墓所に封印されたモノ

 墓所には、いくつか部屋があり、その部屋の中にはたくさんの割れた土器のかけらが、落ちていた。見た目は無機物の土の焼き物なのだが、それは、間違いなくかつて生きていた土器人だったものだ。種族は違えどその亡骸を目にするのは、精神的にどこか畏怖や恐怖を感じてしまう。案内役を買って出てくれた墓守のツンバがいるおかげで、僕は何とか先へ進むことができていた。もしも、ひとりでこの場所へ来たのならば、とてもじゃないけれど、この静寂の空間に、耐えられなかっただろう。

 冷静になって、考えてみると、一つ目で浮遊しているように見えるツンバの外見は妖怪か何かにしか見えない。しかし、この世界に召還されてからさまざまな形の土器人に会っていたので、その姿形は抵抗なく受け入れていた。

(慣れって、すごいな……)僕は、自分自身に感心してしまう。

 

 

 薄暗い空間が、張り詰める。その直後、地面が揺れだした。この世界が直面している危機、あの地震のようだ。

「震源地が近いのか……?」

 僕は、そうつぶやいた。大気の感じといい、なんだか、いつもよりも揺れを直に肌で感じるような気がしたのだ。

 地震の多い国に住んでいると、揺れ方でなんとなくだが、たまに、震源地が遠いのか近いのか分かることがある。本当に感覚的なものなのだが、震源地が近いと、本揺れが来る前に大気が妙にピリピリすると言うのか、一瞬、神経がとがるのだ。それは、寝ている時に顕著に現れる。僕は、いったん眠ってしまえば、夜中に目が覚めることは少ないのだが、本揺れが来る数秒前に目がふっと覚めるのだ。そして、「あれ、何で目が覚めたんだ?」と思う程度に目が覚めた頃に地震が来るのだ。

 

「よくわかったな。上を見るのじゃ」

 僕は見上げた。暗闇のせいでその全貌は明らかではないが、何か巨大な塊が、天井を覆っている。

「あれは?」

「うむ。これが、バルナじゃ」

 ツンバは、変わらぬ口調で衝撃の事実を言った。

「え? バ、バルナって、あの?」

 僕は、拍子抜けた声を上げてしまった。こんなところに、世界の危機をもたらす者がいるとは思わなかったのだ。

「……大丈夫じゃ、今はまだ、眠っておる」

 

 話によると、破壊神バルナは、土器王の力によって、ここに封じられたらしい。昇天した土器王と違い、バルナは眠っているだけのようだ。長い年月が経つうちに、その封印の力が弱まっているのだろうか。最近はよく寝返りをうつかのように、時々身震いするらしい。この身震いこそが、エスパッシが振動する理由らしい。

「土器王が復活すれば、バルナの封印もかけなおしてくれるてばよ」

「完全に、倒すことはできないのですか?」

 僕の質問に、ツンバ は、続けて驚きの事実を語った。

 

「実はな、バルナはかつて、土器王が不完全な宇宙を消すために生み出したのじゃよ」

「生み出した? 世界の危機になるような者を、土器王が作り出したということなんですか?」

「確かにあれは危険じゃが、時には、必要な者なのよ。光だけでは世界は成りたたん。同等の闇があってこそ、成り立つのじゃ」

 僕は小説や漫画で描かれる、歴史(ものがたり)を思い浮かべた。

「闇の部分に目をつぶっていては……時に、闇を認めないと、全ては治めれないということですか?」

「そういうことじゃ。さすがは、ウニバルの宇宙から生まれた人よ。土器王のように聡明じゃ」

 ツンバは感心したように大きな瞳を細めた。

 

「……こんなところに、長居は無用じゃ。さっさと、行くぞな」

「ですね」

 僕は、眠り続けるバルナを気にしながらも、先を急いだ。

 

 

 

 

 アルシラの地下はすべて墓所ではないかというくらい、どこまで行っても薄暗くて不気味な空間が広がっている。

 その延々と続く空間を歩いている間にツンバは、土器王やアルマについてのさまざまな知識を教えてくれた。土器王の秘薬で不死になるのは、桃色の卵を得た土器人だけであること。かつて、土器王が生まれる前は、みんな桃色の宇宙卵を持っていて、ドキツカサもドキツクリもいなかったこと。そしてある時から、アルマは、紅と白の卵を分けて生むようになったことを。ツンバは太古の昔から生きているだけあって、口から出る知識は「世界の秘密」と言ってもいいものであった。

 

「……アルマは土器大人を生み出したくなかったのじゃ。アルマは、世界の意思……」

 ツンバは、大きな瞳を細めそう語る。

「……どうして僕には、そのことを?」

「それは、おぬしが、ウニバル人だからよ。実はな、土器王とウニバルは、密接な関係があるのだよ」

 

 不死であった彼は、エスパッシの……全宇宙の王として君臨していたが、ある時彼は、自らの意思で昇天してしまう。土器王が昇天して、それがウニバルの宇宙になったというのだ。ウニバルは、土器王の魂そのものの宇宙であり、だからウニバル人には、土器王を復活させる力があると。

「ウニバルは、土器王が昇天してできた宇宙……」

 土器王の復活には、ウニバルから召還された者が必要な理由がなんとなくわかったような気がした。

 

 

 果てがあるのかと思っていた空間に、やっと終わりが見えてきた。暗がりにぼんやりと巨大な土器人の陰が浮かんでくる。ここが墓所で一番奥の部屋で、土器王の昇天した場所だ。

「これが、土器王のなきがらじゃ!」

「大きい……」

 僕は土器王のなきがらを観察する。下半身は崩れてしまったのだろうか、上半身しか残っていない。ひび割れた隙間からのぞく内部は空洞で虚無に満ちているが、その体からは威厳が未だに感じられる。

「ん? なんか、ぼんやり明るいような……ツンバさん土器王の中に入ること、できますか?」

「うむ。気をつけて行くのじゃぞ」

 

 胴体にあいた穴からなんとか中に入る事ができそうだ。なんだか、巨大な仏像とか観音像の中に入る時のような少しわくわくする感覚に襲われる。

 土器王の内部は広い空洞が広がっていた。上を見上げると、果てが見えない闇のよう。

「この瓦礫の下かな……」

 ぼんやり光る何かが、そこに埋もれているようだ。僕は、瓦礫を掻き分ける。現れたのは、まばゆいばかりに光り輝く黄金色の棒であった。僕は、それを抱えて、外へ出る。

 

「それは、鉾槍( ハルバード)の柄じゃな」

「これが……」

「うむ、これは、君が持っていくといい。きっと役に立つってことよ」

「刃の部分はないのですね……」

 僕は辺りを見回すも、それっぽいものは落ちていなかった。

「おそらく勘なのじゃが、土器王の宮殿か、もしくは転体と一緒にあるのではないかと……あれは、土器王と共にあるものよ」

「土器王の宮殿か……」

 そういえばまだ行っていなかったな。次にいくところが決まった。

 

 

(……にしても、だんだん手荷物が増えてきたな)

 鉾槍( ハルバード)の柄は、バケツの中には、入りそうにないので小脇に抱えている。両手がふさがっている。この先、もっと荷物は増えそうだ。

一回、ケマポンのいる司書室に行って、少し荷物を置かせてもらうことにしよう。僕は、そう心に決めた。



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2部-5章 大三角の祭壇

 僕は、ツンバに別れを告げると、墓所を後にした。墓所の扉を出るとすぐに、ケマポンの声が聞こえた。

「通信切れちゃったけど……なにが、あったの?」

 ケマポンの通信が回復したようだ。僕は墓所であったことを、手短に話した。

 

「……というわけで、土器王の宮殿に行こうと思うんだ。土器王の宮殿と言うくらいだから、土器王復活の何かが眠っていてもおかしくないよね」

「そういえば、上の庭園にまだ行ってなかったっけ。……きれいなところだよ。でも、宮殿の入り口には、グアルダっていう門番がいて、ぼくたちを、通してくれないんだ! 土器王本人か、土器王が許可した人か、ウニバル人じゃないと、入れてくれないらしいんだよ」

「じゃあ、僕はたぶん大丈夫だね」

「何か、見つかるといいね」

 

 僕はアルマ寺院を出た。寺院は高台にあり一体を見渡すことができる。平原には例の魔方陣のような三角形の模様が描かれている。

「そうだ。村に戻る前にちょっと寄り道して、アルシラ平原を見て行こうかな」

「それもいいかもね」

 

 三角形の頂点の部分に小さな祭壇がある。まず最初に見に行った祭壇は、鉾槍( ハルバード)をささげるための祭壇であろう。そこに何かを刺すための穴があいていた。柄の部分と同じくらいの太さで、少し深めの穴があいている。

鉾槍( ハルバード)は、ここかな?」

 手元には、鉾槍( ハルバード)は柄の部分しかないが、差し込んでみるとぴったりだった。

「でも、刃の部分がないから、だめだよね……」

 僕は鉾槍( ハルバード)の柄を抜いて、再び小脇に抱える。

 

「隣の祭壇は……」

 そして、少し歩いたところにある二つ目の祭壇には、何か丸いものをはめ込むような台座がある。その台座の下には、文字が書いてあった。

「ケマポン、読める?」

「ん~と、これ、ボクにも読めるよ。……我が『転体』を、この下に封ず……『徽章(メダリオン)』にて、封印をとき……わが『指』にて、ウニバル人の来たるあかしを示せ……って書いてあるよ!」

 徽章(メダリオン)を捧げるための台座だった。

「この下に、土器王がいるんだね」

 

 そして最後の、三つ目の祭壇は、ドーム上になっており、開くとすでにそこには、何かが置いてあった。

「ウニバルの壺だ」

 ケマポンが言う。ライブラリーにあった壺たちと同じ形をした物が、そこにはあった。

「こんなところにあったのか」

 いったい誰が? と言う疑問が残るが、壷が見つかってよかった、よかった。これで、データ壺がなくなったがために、僕の住んでいる宇宙が狂うことはない。

「このまま置いておいてもいいよね」

 土器王の復活のときに使うのだ。このままでも問題はないだろう。それに何よりも、もう荷物はもてない。

「大丈夫だよ~」

 ケマポンもそう言ってくれたことだし、さっさと土器王を復活させるのに必要な道具を集めよう。

「さて、セレブロに戻って、土器王の宮殿へ行きますか」

「うん」

 



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2部-6章 土器王の宮殿

 飛行器械に乗って、セレブロに戻ってきた。

 

 上の庭園は、下に広がっていた庭と同じように白い道が敷かれ、花や木が並んでいた。人気(ひとけ)が無いのでどこか物悲しい雰囲気がある。失われた主を懐かしむように、風だけが音楽を運んでいた。土器王が復活すれば、ここも活気に満ちるのだろうか?

 

「あそこが、宮殿だよ。すごいでしょ!昔、土器王が住んでいたんだって!」

 庭園の中心にある釣鐘状の外観をした建物が土器王の住んでいた宮殿らしい。

 宮殿の入り口には、ガタイのいい土器人が門番をしていた。彼が、宮殿の門番グアルダであろう。まるで鎧のような肩当をつけ、腹の部分には渦巻きの模様が刻まれたものを身に着けていた。左手には棘の生えた鉄球のような武器を、右手には3本の巨大なつめが生えている。不法侵入しようものならば、あの両手に持った武器でひとたまりもないだろう。キュラとはまた違った迫力がある土器人である。

 

「宮殿の中に入っても大丈夫ですか?」

 僕は、この貫禄のある土器人に恐る恐る尋ねた。

「どうぞ……土器王の……使者よ」

 グアルダは、僕の姿を認めると通してくれた。しゃべるのはあんまり得意そうではないが、意外と丁寧な物腰だった。

「ありがとう」

 グアルダにうながされ、宮殿の中に入る。

 

「あっさり通してくれたねぇ」

 ケマポンが言うには、今までみんな追い返されていたとの事。土器王と土器王が許可した者以外通さないというのを徹底していたらしい。テルミナスもキュラも、グアルダが思いを寄せているルピカという子でさえも。 

「……忠実なんだねぇ」

(……ルピカって、誰だっけ? ……まだ会ったことがない土器人かな)

 短い間に、たくさんの人に会ったので、いまいち名前と顔が覚えきれない僕なのでした。

 

 

 宮殿の造りはシンプルで、扉を2枚ほどくぐると天井の高い部屋に出た。この宮殿唯一の部屋で、その部屋には、見上げるばかりの巨大な玉座がある。その玉座の前に台座があり、その上には黄金色に輝く巨大な兜のようなものが飾られていた。

「大きいねぇ……土器王の兜、なんだか見覚えのあるような……」

 ケマポンはつぶやいている。

 

 その兜を調べてみると、頭頂部に取り外せそうな金属の板を発見した。金属質で円形の板には、三角形が描かれている。その三角形のそれぞれの頂点には赤い小さな石が、そして中央には青く大きな石が埋め込まれている。

「これが……もしかして、徽章(メダリオン)?」

 ケマポンが言う。

「きっと、そうだよ。これ以外にそれっぽいものないし」

 玉座の間を、じっくり吟味したけれど、他に手がかりになるようなものは無かったので、とにかく次は、転体を見に行ってみよう。転体の封印をとけば、道は開けるはずだ。

 

 

 

 

「ここに、土器王が眠っているんだね」

 飛行器械でアルシラに渡り、魔法陣の描かれた広場にやってきた。僕は早速、手に入れたばかりの徽章(メダリオン)を台座にはめ込んだ。すると、メダリオンが赤く輝き、台座は僕を乗せたまま、地下へ沈み込みはじめた。

「おおっと!」

 突然のことに、僕は思わず声を上げてしまった。今さらのことだけれども、この世界は仕掛けが好きだな、と思ってしまった。

 

 台座は僕を乗せたまま、地下へ降りていく。

 広い空間に出ると、目の前に巨大な土器の人間がいた。土器王がいつの日か復活するために焼いておいた巨大な器は、人型の埴輪のような形だった。

「これが……土器王の転体……」

「おおきいねぇ」

 僕もケマポンも、あまりの大きさにそれ以上の言葉が出なかった。

 

 台座が床に到着した。僕は台座を降り辺りを見回した。

「戦隊のモノのロボット格納庫みたいだな」

 地下に隠された巨大な空間の壁際にたたずむ巨大な人型は、太古の昔に作られたとは思えないほど、傷ひとつなかった。徽章(メダリオン)をささげたからだろうか、その体は今にも動き出しそうに見えた。

 

 その転体の目の前に、手の形をした台座がある。指がひとつ欠けているようだ。

「土器王の指……」

 僕は、荷物の中にそれがあるのを思い出した。

「これをはめ込めば、転体の封印は解けるのかな」

 僕はリテラにもらった「土器王の指」をはめ込んだ。ガシャン、と澄んだ音がして、描かれた模様が不気味な青に輝いた。そして、その手が地下へ沈んでいく。

 

 少しすると、その手には、鉾槍( ハルバード)の刃が握られていた。僕は、刃をそっと持ち上げた。

「墓所で鉾槍( ハルバード)の柄の部分を見つけているけれど、どうもくっつきそうもないなぁ」

 僕は手元にある柄と刃を交互に見た。プラモデルのように、簡単に組み立てられると思ったのだが、そうもいかないようだ。

 

「ドースに直してもらおうか。彼はすごい土器職人だから、きっと元通りにしてくれるよ」

 ケマポンは、ドースと言う土器職人を紹介してくれた。

「土器職人か……」

 どんな人だろうと思いながら、僕はドースへ会うために土器人たちの村へ向かうことにした。



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2部-7章 土器工房の土器作り職人

「ここが土器工房だよ。土器工房の主任ドースは、アルシラで最高の名人なんだ!」

 天井には、乾燥中の土器、棚の上にも土器、無数の土器がその部屋に置かれていた。部屋の奥には、作業台のようなものがり、一人の土器職人が黙々と作業をしていた。工房にはたくさんの焼き物があり、その中には人型を模したものもある。そのため、それに埋もれている土器人は紛れてしまうので、工房に入った瞬間、どれが人なのか迷ったというのはここだけの話である。

 ドースは、数え切れない腕を持っている。一体いくつの腕が、その体には格納されているのだろう。その腕で、器用に粘土をこね形を作っている。

 

「こんにちは。ドースさん?」

 僕は、彼の作業が一段落したのを見計らって話しかけた。

「わてが、ドースどす」

「き、京都弁?」

 僕は、一瞬耳を疑ってしまった。しかし、彼は確かに京都弁を話している。この世界の言葉って、どうなっているのだろう。僕はなんとなく気になってしまった。

 

「おまはんの、けったいなカタチ、創作意欲そそられますなあ!」

 ドースのたくさんの腕が、僕の体を触ってくる。

「ちょ、ま、くすぐったい」

 純粋な好奇心だけで、悪意は無いのは分かっているが、あまり気持ちのいいものではない。僕は、隙を見て逃げ出した。

「……ちょっと、待っとくれやす!」

 舞妓さんに言われるならとにかく、腕がたくさんある……しかも男(多分)に言われても待つ気なんてまったくない。

 僕は工房を飛び出した。工房の外へ出て村の中を走り回った事で、村の子供たちが遊びと勘違いし、途中から混ざってきたのは、また別のお話。

 

「はぁ、はぁ」

 僕とドースは、息を切らし工房に戻ってきた。

「ボクも混ざりたかったな~。すんごく、楽しそうだった~」

 ケマポンがへらへら笑いながら言う。

 ……こっちの気も知らないで!

 

「ところで……これを……直してほしいのですが」

 呼吸を整え、気を取り直して……僕は鉾槍( ハルバード)の柄と刃を差し出した。

「これは……伝説の鉾槍( ハルバード)! すぐ、作業に取り掛かります~」

 ドースはすぐに作業に取り掛かった。いくつもある腕を使い器用に、すばやく作業を進めている。

 あんなに走ったのに、疲れていないのだろうか……

 

「あの火山の麓にある火山炉で、焼いてくれますやろ」

 手渡された鉾槍( ハルバード)は、まるで新品のような、さっきまでこれが二つに分かれていたなんて信じられないくらいの素晴らしいできばえだった。

 

「ありがとうございます、ドースさん」

 



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2部-8章 火山炉の土器焼き職人

 赤茶けた富士型の火山からは、煙が常に上がっている。活火山であることは想像できたが、今は大人しいのだろう。穏やかに細い糸のような白煙をあげているだけであった。

「最近、地震が多いって言っていたけれど、あの火山は大丈夫なのかな? あるいは、バルナの身震いが地震の原因だから……火山性の地震では無いから大丈夫なのかな?」

 地震大国日本に住んでいる自分は、そんなことを考えてしまう。僕の中で地震の時に起こるで怖い事ベスト5は、家屋の倒壊、火事、土砂崩れ、津波、噴火だ。

 僕がそう心配していると、ケマポンが「大丈夫だよ~」と言った。

「あの火山は、土器を焼くための熱を吐き出すだけだから~」

「そういう、ものなの……かぁ」

 地球とは違う成り立ちの火山なのかもしれない。しかし、地球では地震と火山は関係があるので、たとえあの山が熱を作るだけの山だったとしても、僕は一概に安心はできなかった。

 

 火山の麓にある建物に着いた。火山の斜面を利用し、密接するように建てられた登り窯で、今も大量の土器が焼かれているのだろう、火の何かを焦がす匂いが風に乗ってほのかに漂ってきた。

「作られた土器すべて、ここで焼かれるんだよ」

「そうなんだ」

「そして、あそこにいる彼が、火山炉の主任ホルノだよ」

 ホルノは、3本指の生えた重厚な腕が特徴的で、がっちりとした印象のある土器人である。この体のおかげだろうか、燃え盛る火山炉の中にあっても臆することなく、すばらしい土器を焼いている。

 

「用がねえんだったら、とっととけぇんな!」

 火山炉の窯をただただ見上げていた僕に気がつき、それを見たホルノは、そう声をかけてきた。

 ……気が短そうだ。

 

「これを焼いてほしいのですが……」

 僕は、恐る恐る鉾槍( ハルバード)をホルノに見せる。

「こ、こりゃあ、おめぇ、伝説の……鉾槍( ハルバード)じゃねぇか。へへ……これを、焼くのかい。よっしゃあ! 確かにあずかったぜ! おいらの腕の見せ所ってぇもんだ!」

 そう言うとホルノは、専用の器具を使い熱気すさまじい釜の中へ鉾槍( ハルバード)を置く。

 

「ちいっとばっかししたら、焼きあがるぜ! 焼きあがるまで、どこかで時間つぶしてな!」

 そして、ホルノは窯の様子を食い入るように凝視し、細かい調整をしはじめた。

「はい、お願いします」

 僕は、鉾槍( ハルバード)が焼けるまで、村の子供たちと遊ぶことにした。

 

 

 数刻後、ホルノが鉾槍( ハルバード)を持って現れた。わざわざ届けに来てくれたようだ。

「ほらよ、よおーっく焼けてるぜ! 伝説の鉾槍( ハルバード)を焼けるたぁ、一世一代の大仕事、させてもらったぜ!」 

「わざわざ、ありがとうございます!」

 僕は鉾槍( ハルバード)を手にした。焼き物であるはずなのだが、手に触る心地は吸い付くように持ちやすい。

「す、すごい」

「これが、鉾槍( ハルバード)の本当の姿……」

 ケマポンも感嘆の声を上げている。

 

 焼き物のことはよく分からないが、少し前まで2つに別れていたとは信じられないほど……そう、まるで新品のようなできばえだ。

「まっ、何か焼いてほしいものがあったら、来な! こんがり焼いてやるってことよっ!」

 そう言うと、ホルノは、颯爽(さっそう)と去っていった。いわゆる職人気質なのだろう。言葉は悪いが、仕事は確かである。

「ありがとうございました!」

 僕は思わずその後姿に礼をしてしまった。

 

「これを祭壇にささげれば、とうとう土器王が復活するんだね……」

 あの巨大な転体の体が動く……子供のころ夢見た戦隊ロボットを発進させるような、そんなわくわくとしたちょっとした興奮が湧き上がる。しかし、一方で、土器王が復活すれば、僕の役割も、旅も、終わり……そう思うと、少しさびしいような気分にもなってしまう。

「まぁ、とにかく行こう」

 僕は、土器王を復活させるために祭壇へと向かった。



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番外編 土器人たちの生活

 ――時間はほんの少しさかのぼる。

 

 

 焼き物というのは、数分で焼きあがるものではない。なので僕は、鉾槍( ハルバード)が焼けるまでの間ぶらぶらすることにした。

 

 土器人たちは、のんびり暮らしている。

「……危機感がないなぁ」

 この世界に危機が迫っていることが、嘘のようなのどかさだった。

 

 

 

 ――言葉の壁――

 

 僕は村の子供達からこの世界の独特な言葉を少し教えてもらっていた。

 言葉はシャコウに付属している翻訳魔法を通じて分かるのだが、それが無くても少しくらい話せるようになりたかったのだ。魔法の力を通してではなく、どんなにつたなくとも、自らの口でコミュニケーションをとって仲良くなりたかったのだ。

 しかし、素焼きの民の言葉は、僕に発音するのは難しそうであった。

 

「ほ~、ほっ! うぃういうぃゆ~?」

(僕は「おはよう、調子どう?」と、素焼きの民の言葉で言いたい)

 

「ぉほふぉ~! ひょうぃ~ほ~?」

(子供たちは「おはよう、調子どう?」と、日本語で言っているらしい)

 

 お互いの言葉が変な音になってしまうことに、笑いあった。 

 おそらく、声帯や舌、体の構造が違うのだろう。僕にはオカリナのように、美しい音を響かせる声はどうやても出せなかった。

 その逆もしかりで、村の子供たちも僕の世界の言葉の発音はできないでいた。

 言葉を覚えることはできなさそうだが、子供たちと交流を深めることができたので良しとしよう。

 

 ちなみに、口笛を吹いたら、あまりに遠くまで鋭く響いたので子供たちは驚いていた。口笛の音は吟遊詩人が歌うように美しい音色だそうで「好きな人にプロポーズする時に歌えば素敵だね」と言われた。

 

 

 ――恋する者の詩――

 

 僕はセレブロにある上の庭園を探索していた。

 

 どこかから、はかなげな音楽が流れてくる。

 そういえば、セレブロを歩いているときは、いつも聞こえていたような気がする。この上の庭園に来て、はっきりとその音が、聞こえるようになった。

「ケマポン、この音は?」

「詩人さんだよ。いつも、詩を歌っているんだ」

 彼の役割は、詩を歌い続ける事らしい。

「いつも、この奥にある噴水の前で、歌っているんだ」

 僕は、詩人に会いに行く事にした。

 

 宮殿を囲むように流れる運河の前に、たたずんでいる白い土器人を見つけた。

 他の土器人とは、変わった造型をしている。白い枝豆のような形をしていて、その瞳は、青い。体には藍色の模様が刻まれている。その白と青のコントラストが美しい。胸部と脚部のあいだにある流線型のくびれが、なんだか女性的である。弦鳴楽器のような焼き物を持っており。3本の腕が楽器を奏で、庭園に澄んだ音を響かせている。

 ずっと聞こえていたのは、この人が弾いていた音か。

 

 詩人は、僕の姿を見つけると、今まで引いていた曲を区切りいいところまで弾き、新たに詩を歌い始めた。 

「……第一楽章……『美しき宇宙、静寂の庭園』……るるるるるるるるるるるるるる~る~る~ 」

 透明感のある、少し悲しげな神秘的な声が響く。

 詩人の歌う『過ぎ去った時間』への挽歌(おもいで)が、セレブロに響き渡っている。

 あぁ、この場所は、過去の栄華を懐かしむ場所なのだな……僕は、なんとなくそう思った。

 

「……詩人さんの……素敵なうた……聞こえた」

 かわいらしい声が、背後から聞こえた。振り返るとそこには、小さな土器人がいた。日よけのためだろうか、おわんを逆にしたようなケープを身に着けている。

「ルピカだよ。上の庭園の手入れをしているの」

「あたし……詩人さんのうた……好きなの」

 詩人の歌に誘われてやってきたらしい。

 

「ルピカはね……グアルダが……いちばん好きなんだよ」

「グアルダって……宮殿の門番の?」

「そうだよ~。グアルダは、いっつも照れてだじだじになるんだよ~」

「そうなんだ」

 あの外見からは想像もできないが、逆になんとなく想像もついてしまう。外見が武張った人ほど、恋愛模様には不器用なのは、この世界でもあてはまるのだろうか。

「グアルダも、こんなかわいい子に好かれて……やるな~」

 ルピカは、ケマポンと僕がグアルダの話をしていたので、なんだか落ち着かない様子でいる。なんだか、小動物みたいで可愛らしいなぁ。

 

「ルピカの、グアルダへの想い……セレブロをわたる。『恋する者』……幸いの歌。らららららららららららららら~ら~ら~ 」

 詩人の清らかな旋律は、いつまでも庭園に響き渡っていた。




 そういえば、グアルダは土器王がいた時代に生まれた土器人(ドキツカサ)で、土器王の秘薬(不老不死の薬)ちょっとなめたと言っている。だから、彼は、いまだに昇天していないという設定がある。
 この世界で、ものすごい長生きなのは、ツンバ。次にグアルダ。そして次は多分、村長(まゆげ)かな。


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破壊神と土器王の復活
3部-1章 衝撃的な衝撃波


 僕は鉾槍( ハルバード)を持って、祭壇の前へ行く。村の人達も、遠巻きではあるが、期待に満ちた目で広場の中心を見守っている。彼らも、土器王の復活に、いてもたってもいられなくなったのだろう。

 

「復活の時は、来た! さぁ、 鉾槍( ハルバード)を、そこに!」

 司祭のキュラは、広場に描かれた三角形の中心部で両の手を上げ、天に祈りをささげている。彼の過剰装飾気味な造形のせいだろうか、今にも邪神を召還しそうな、そういう黒魔術的な感じの儀式をする神官のようにも見えてくる。そんな様子のキュラに苦笑いしながらも、僕は言われるままに、台座に鉾槍( ハルバード)を差し込んだ。

 その瞬間、広場がぼんやり煌きを持ち始め、台地が揺れ出した。祭壇から光があふれ、光の線が陣の模様を描がき始めた。とうとう、土器王が復活するのだ!

 

 すると、キュラが突然、笑い出した。

「ごくろうだったな、ウニバル人。これで貴兄の役目も終わりだ……。破壊神、バルナ復活の時は来た!」

「えっ……バルナって、何を言っているの、キュラは……土器王を復活させるんじゃ、なかったの?」

 僕はもちろん、ケマポンも驚きの色を隠せない。

 

 キュラは、不気味な光を瞳にたたえて、笑っている。

「ここまで簡単に、引っ掛かるとはな……。まあいい。説明は後回しだ。バルナ復活を、共に祝おうではないか! ……今こそ、封印は解かれた! ……めざめよ! ……バルナ! 」

 キュラがそう叫ぶと、今まで青かった空が急激に暗くなる。大地は揺れ、何本もの稲光が地上に突き刺さる。描かれた三角の陣が輝きだし、中央部分から光の柱が立ち上る。巨大な何かが陣から現れた。……奇妙な模様を緋色に煌かせた土器の鯨である。

 

 

「バ バルナァーーーーー!!」

 

 

 土器鯨(バルナ)に意識をとられていたが、その声に僕はキュラを見た。すさまじい光の衝撃で、キュラにひびが入るのが見えた。腕が天に舞い、飾りは砕け、体が割れていく。光に散り、消滅していく。そして、彼の姿が完全に消えた。――それがキュラの、彼の最期であった。

「え?」

 僕の戸惑いをよそに、土器鯨(バルナ)は稲妻をまといながら天へ昇っていく。体に描かれた模様が、熱を帯びたように赤く、白く輝いているのがとても印象的だった。

 

 揺らぐ空に滞空しているバルナは、その大きな口を開く。折りたたまれた避雷針のような収集器が、その左右にそびえたち、口の中に収納された砲身が回転しながらせり出してくる。収集器に光のエネルギーが集まっていく。光の筋が砲身に集い始め、体の模様はますます強く輝き、そして、膨大な閃光と雷光をその巨大な口から放射した。光線の振動で空がゆがみ、暗黒の深淵が開いた。

 その開いた闇の中に、破壊神(バルナ)は吸い込まれるように宙を泳ぎ……そして、空は、何事もなかったかのように、美しい青色を取り戻した。

 

 

 

「……あれが、バルナ……」

 僕は、ただ呆然と立っていた。

「キュラは、何であんなものを……?」 

 通信機の向こうにいるケマポンも、何がどうなっているか分からない様子だ。

 

 空は、何事も無かったかのように穏やかで青い。

 ここは静かである。

 ここは静寂で満たされている。

 その静けさが逆に不気味である。まるで、先ほどまでの出来事が夢のような感じがする。

 しかし、目の前の祭壇には鉾槍( ハルバード)が確かにささっており、あの儀式は確かに行われたのだと実感する。

 

「ボク、なんだか、さっぱりわかん……な……あ、あれ……」

 ケマポンの声が聞き取りにくい。通信に不具合でも起きたのだろうか?

「あれ……急にめまいが……い……一体……ボク……どうしちゃったんだろ……」

「ケマポン? 大丈夫?」

 僕は呼びかけるが、ケマポンは聞こえていないようだ。

「……はやく……きて……ビ、ビブリオが……司書長、に……はやく……」

 そして、そこで通信は切れてしまった。

 

 

 ――静寂。

 

 

 

 一体何が起きているんだ。

 ビブリオが司書長に……?

 ボクの知らないところで、事が起こっている。

 キュラがバルナ復活をたくらんで……

 そういえば司書長が石になっていて……

 なぜ、今ビブリオが?

 

 

 

 

 あぁ、空は静かで変わらぬ青を映している。世界は、宇宙は、どうなってしまうのだろうか。




「え?」
 これは、バルナ復活のムービーを見ている時、自分が思わず口に出してしまった言葉です。
 あれは、衝撃でした。
 ボケ体質の自分も、ツッコミたくなる。
 バルナ復活の衝撃で、悪者が、ただあっけなく割れていく。
「えっ、われちゃったの? それで、彼の野望は終わりなの?」そんな感じだった。

 しかし、「貴兄の役目も終わりだ」……「貴兄」と言い放ったキュラに萌えてしまったことは、ここだけの話。


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3部-2章 司書長の復帰

 とにかく今は司書室へ向かう。

 飛行機械に乗って司書室の地下へ着くと、僕は急いでリフトに飛び乗った。リフトから、司書室へ勢いよく駆け出すと、目の前に一人の土器人が立ちはだかった。

 4本腕で、壷のような埴輪……それは、どこかで見た事がある造形だ。

「テ、テルミナス? な、なんで?」

 石になっていたはずのテルミナスが、元に戻っていたのだ。

 

「おお……ウニバルから、きてくれたお人でんな! 転送壷で、あんさん呼び出してたら、いきなり、気ぃ失のうて……気ぃついてみると、こんなんでっしゃろ? あんさんには、どえらい、迷惑かけてしまいましたなあ……。ビブリオに、話はぜ~んぶ、聞きましたわ!  ビブリオが、わてのこと、元に戻してくれましたんや! キュラにそそのかされて、手つどぉとったみたいやけど、正気に戻ったみたいやな! ……キュラの奴、取り返しのつかんこと、しでかしよってからに!」

 

 テルミナスの口から次々に繰り出される怒涛の言葉に、僕はたじろぎ二の句が告げないでいる。

 

「改めてあんさんに、たのまなあかんようや。土器王の復活、手伝うてもらえまへんか?」

 テルミナスは、許しを乞うように2本の手を顔の前に合わせ、残りの2本の腕を地面につき土下座する。4本の腕があるからこそできる業である。

 

 僕は今まで土下座する人を見た事が無かったが、実際に目の前にすると、こちらまで申し訳ないような気分になってくる。日本人は土下座に弱いと言うが、僕にもその精神(こころ)が染み付いているようだ。

 

「テルミナスさん、顔を上げて下さい。僕の方こそ、何も知らないでバルナを復活させてしまったので……」

 テルミナスは、信用できるような気がしたのだ。何せ、石になっていたのだから。おそらく、バルナ復活派ともいえる奴らに。

 

「ほんまでっか。さすが、ウニバル人や。ほな、わては、もう少しここで、ケマポンの様子見たら、あんさんのサポートしまっさかい……」

「そうだ、ケマポンは大丈夫なんですか?」

「わてが、気ぃついたときには、こない倒れとったんや……眠っとるみたいなんやけど……なんや、えろぅ、うなされてますねん。ほんま、大丈夫やろか……」

 ケマポンの瞳は、弱々しく光っているだけだった。

 

「きっと、疲れがたまっていたんだよね……」

 テルミナスは石になるわ、バルナは復活するわで……

「ケマポン、待っていてね。僕が土器王復活させるから……だから、安心して休んでいて」

 僕がそう言うと、ケマポンがうなずいたように見えた。

 

 

「あんさん、何か聞きたい事おまへんか?」

 テルミナスは、そう尋ねてくる。色々聞きたい事はあるけれども、ひとまず僕はメモータルで見つけた石版をテルミナスに見せた。土器王復活の秘密が書かれた石板と聞いていたが、本当は何が書かれているのか知りたかったのだ。

 石版を受け取ったテルミナスは、口を開いた。

「ええか? よう聞いとってや……」

 

『我、星々となり、消えらん時、ともにバルナを、葬らん……我がメダリオン、転体の封印をとき、転体、壷、ハルバードが、大三角を描く時、我が大いなる力、バルナよみがえりの道は開かん……』

 

「……ほんまは、こない書いてあるんや。キュラに、ころっとだまされましたなあ。ビブリオと口裏合わせて、あんさん、だまくらかし、バルナ復活させてもうて……ほんま、悪賢いやっちゃで! 」

 

「本当は、土器王をどうやって復活させるんですか?」

 僕は、本題に入る。テルミナスが石にさえなっていなければ、騙される事無く行っていたであろう土器王復活の儀式を知るために。

「それは、ウニバル人の呼び出し方と一緒に、メモータルの壁画に描いてあったんやけど……そや! それよりも、ウニバルの壷や! あんさん呼び出すために、わてがつこたんやけど、キュラが奪っていきよったんや! あぁ、バルナ復活させるためやっちゅうぅて、ウニバルの壷盗んでしまいよって。ほんま、とんでもないやっちゃ! はよ、ライブラリーの棚に返さんといかんのやけど……。そうや、ウニバルの壷返しに行くついでに、ビブリオにも、説教のひとつでも、言いまひょか!」

 テルミナスは、本当に次から次に言葉が出てくる。話題が変わる。本当に忙しい土器人(ひと)だ。

 

「ウニバルの壷……アルシラの祭壇に置いてきたままだ」

「ほなら、壷を回収したら、まずは返しに行きまひょか~。あんさんの宇宙、狂うてしまう前に」

「うん……ビブリオには、聞きたいことあるしね」

 テルミナスは、どう思っているのかはわからないが、ビブリオは……キュラの仲間だったのだから。




 自分、関西圏の人間ではないので、テルミナスの言葉が、おかしい所がかなりあるかもしれません。
 ちょっとくらいおかしくても、「それは土器人の関西弁だから地球のとは違う!」と言い張ってしまえば逃げれるのですが(笑)
 明らかにおかしいところがあったら、感想や、メッセージや、拍手コメント、活動報告などで、教えてください。


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3部-3章 ひび割れる愛

 僕がウニバルの壷を回収している間、テルミナスはケマポンの様子を看ていた。だいぶ落ち着いたと言うことで、僕はテルミナスと司書室を出て、ビブリオの元へ向かうことにした。

 

 

 ライブラリーの一室で、ビブリオはうつむいていた。仕事が手についていないように見える。僕たちが部屋に入ってきたことも気がついていないらしい。ビブリオは、弱い光をたたえた瞳をこちらへ向けた。ただただぼんやりと虚空を見つめ、心ここにあらずといった様子だ。

「……わたしは……なんてことを……あんな、恐ろしい化け物の復活に……手を貸してしまうとは……」

 そう、呪文のように繰り返していた。

 

 

 僕は、この部屋に違和感を感じた。この前ここに訪れたときと、何かが変わっているように感じたのだ。僕は、部屋にあるデータ壷が大量に置かれた棚を見回した。

「あれ? こっちの棚って、生きた宇宙の棚じゃなかったけ?」

 この前来た時は、輝きを持っていた宇宙が、まるで灰色の石のようになっていたのだ。僕の口から出たとおり、そこは生きている宇宙の棚であるのに、輝きを失っていた。それも、ひとつだけではなく、いくつか宇宙が同じように死んだ状態になっていたのだ。

 

「宇宙が、死んでしまったのです……バルナに、消去されたのです。死んだ宇宙の棚に持っていかなくては……」

 ビブリオは、そう弱々しく言った。しかし、口では言うものの、その手は振るえ……まるでその壷を手に取る気配はない。

 

 

「ビブリオ? どうして……」

「ビブリオ、なんで、わてを石にしはったんや~!?」

 僕の言葉をさえぎり、テルミナスが口を開いた。(司書長! 僕が聞きたいこと、それじゃない……)と、心の中で密かに思うものの、全く知りたくない内容でもなかったので、黙ったまま聞くことにした。

 

「司書長には、悪いことをしたと思っています。……司書長によく説明して、バルナ復活を手伝ってもらおうと思っていたのですが……あの時ウニバルの壷を渡そうと思い、私は一人で司書室に行ったのです。するとテルミナスは、話も聞かずに、いきなりあなたを呼び出し始めました。……私は、とっさに石化の秘薬を……使ってしまったのです……」

「石化の秘薬?」

「……造力室を調べていたら、妙な薬をおさめた壷が、たくさんありました。その中の一つが石化の秘薬だったのです。詳しく調べようと思って、造力室からこっそり持ち出してきたのです……アロアやアドビが、どうしても調べさせてくれなかったもので…… 」

 そういえば、造力室行った時に、そんな事言っていたっけ……というか、こっそり持ち出したって……研究熱心というか、この人、研究のためなら何でもやってしまう人なのか? 好奇心が猫を殺しちゃったんだね……きっと。

 

「計画の障害だったテルミナスが石になり、計画を邪魔するものはいなくなりました。そして、この世界に現れた……何も知らない、あなたをだましたのです。……キュラの計画通り、バルナ復活を手伝ってもらったのです」

「どうして、バルナ復活なんてことを?」

 僕は、この事件で一番知りたかった事の発端、核心ともいえる理由を尋ねると、ビブリオは重い口を開いた。

 

 

「私は……キュラを……」

 

 

 

 

 

 

 

「……愛していました」

彼らは涙が流せない。しかし、ビブリオの瞳が濡れたように輝いて見えるは、なぜであろう?

 

 

(すべて、打ち明けることで、この罪、償えるとは思いません。しかし、すべて隠さず、話します。それが、私に課せられたものだから)

 

「私は……知的な彼に惹かれていました。私達はいつも死や破壊について語り合っていました……。死や破壊とは どんなものなのでしょうか……土器人は、何のために生まれるのでしょうか? ……ドキヅクリは 土器を作り続け、ドキツカサは、エスパッシを管理する。……永遠に変わることのない生活です。命を生み出し、死へと向かう、これが、アルマの意志なのでしょうか……? キュラはいつも、自らに問いかけていました……」

 ビブリオの瞳には、今は亡きキュラとの記憶を思い出すかのように、遠い光を宿していた。

 

 

「ある時、キュラは紅と白の2つの卵を産み付けられた土器人が生まれたと話していました。キュラは誰とは言っていませんでしたが、感じていたのかもしれませんね。土器王の復活を」

 

 死と破壊の決められた定め、存在意義。

 人は生まれた瞬間から変わっていく、数多の運命(けっか)を作り続け、最期は宇宙に溶ける。

 

 

 

 宇宙の始まりから存在し、エスパッシの変わることがない存在。

 土器人は土器を作り続け、昇天して宇宙になる。

 死とは何か、生とは何か、破壊とは何か、創造とは何か。

 

 死の決められた消滅の定め、逃れられない存在意義。

 

「すべてを生み出す、アルマの力……。キュラは そのあまりに絶対的な力に、疑いを持ったのではないでしょうか……。キュラは、破壊神バルナの力で……変わることのない、我々土器人の宿命を……変えたかったのかも知れません。彼は変わることのないこの世界の宿命から逃れ、己の存在理由を……見つけたかったのかも知れません。……私は恐れていました。恐れを抱きながらも……いつのまにか、惹きつけられていったのです……はかり知れない、バルナの力に……」 

 

 彼の夢。

 止めるべきだった、彼の夢。

 ひび割れ、砕けてしまいそうなほど、妖しい輝きを魅せる誘惑(あい)

 

「我々だけでは、バルナ復活の謎は解けなかった。あなたがこの世界に現れるまでは夢物語、決して叶うことのない幻想だったのです。しかし、あなたは現れてしまった。彼のいるこの時代に。私は……キュラと口裏を合わせ。ウニバルびと……あなたを利用したのです。……キュラは、何かを変えたかったのです。それが何だったのかは、今となっては……確かめるすべもありませんが……」

 

 

 今は、もうない愛の。

 

 

「……私は、なんと愚者だったのか……」

 

 

 

 これが――

 残された私に科せられた、罰。

 永遠に背負う、罪。

 

 ひび割れてしまった愛。




「埴輪の愛。土偶の夢。」の自分の中の隠しテーマのひとつは、
「ビブリオの愛。キュラの夢。」で、あります。

 ビブリオの見た目はスラリとした埴輪っぽくて、キュラは装飾ごてごての土偶っぽいし……?


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3部-4章 最愛の妃が眠りし場所

 ビブリオの話が終わり、あたりは沈黙に包まれた。

 

「……すでに起こってしまった事は、仕方ありまへん。急いで、メモータルいきまひょ。そこに、解決の糸口が、きっと、ありまんがな」

 口を開いたのは、テルミナスだ。

 そうだ、その通りだ。今は、感傷にふけっている暇は無いのだ。

 ウニバルの壷を棚に戻したので、これでひとまず、僕の宇宙が狂って滅びることは無い。しかし、バルナをどうにかしない限り、危機は存在したままだ。

 早く、土器王を復活させなくては!

 

 僕とテルミナスは、メモータルへ向かった。

 

 メモータルの入り口にいるオツゲイシは、言葉を放つ。

「聞け! 土器王……かく語りき! 『女神の愛にて、我再び目覚めん!』」

 あれ、しゃべっていること、変わっている?

「女神?」

 僕は、オツゲイシの言葉の中にあった単語を、口に出した。

「土器王の妃、ムチャチャのことや! 土器王復活のための秘薬を、持ったまま封印されたはずや」

「そうなんだ」

 さすがテルミナス。物知りである。

 

 

「そういえば、この前来た時は、動かないエレベーターがあって……行けなかった場所があったはず。足りない部品があってエレベーターが動かなかったんだ」

 メモータルの入り口から続く廊下を歩きながら、僕は思い出したことをテルミナスへ伝えた。

「そや、そや。あんさんに会ったら、コレ、渡そうと思っていたんや。倉庫整理していたら出てきはってなあ。でも、石になってしもうて、渡しそびれてしまいましたわ……」

 テルミナスは、どこからともなく丸い宝玉を取り出した。

「なんだか、ご都合主義だなぁ……」

 

 エレベーターを制御する台座にその宝玉をはめ込むと、ボタンに光が灯る。これで、動くようになったようだ。

「いきまひょか~」

 エレベーターの先には、いったい何が眠っているのだろうか。僕は期待に胸を膨らました。

 

 

 エレベーターの着いた先は、1階よりも小さな部屋だった。壁には一面、()が描かれている。それは、文字のようにも見え、何かの絵のようにも見えた。

 部屋の中央は少し高くなっており石棺のようなものが設置してある。棺の中央部には、青い石が埋め込まれていた。そして、棺から少し離れたところに祭壇があり、5本指の手の形をしたくぼみが2つあった。

 テルミナスは、その壁画を真剣に凝視していた。

『王は、遠きウニバルとなり、永き、再生への眠りにつく……。我が復活を 望むものは、世界の秘密を望むもの……ウニバルより召喚されし者、その身がすべてを導くであろう……』

 解読したテルミナスが言う。

 

「その身がすべてを導く……」

 僕は、祭壇につけられた手形を見つめ、そして、自分の手に目を落とす。

「あんさんの手、置いてみはったら?」

 テルミナスの言うとおり、確かに、それは手を置いてくださいとばかりの形をしているのだ。僕は、両手を置いてみた。すると、思ったとおり動き出した。

「確かに、この仕掛けは、僕じゃないと攻略できないね」

 土器王の復活には、召喚されたウニバル人が必要と言う理由が、分かったような気がした。

 

 祭壇から左右に放たれた光は、壁を反射し、棺の宝石めがけて飛んでいく。光の三角形が完成した。光のすべてが、石に吸い込まれ光が収まると、石の棺の蓋がゆっくりと開いた。棺が開放されると同時に、中にいたその人物は姿を現した。

 

「わわわ」

 銀色のその肢体は、焼き物というより、金属でできた完全な人間型で女性の形をしていた。僕の世界の女性に近い容姿で、土器人離れした外見だ。銀色の肌がとてもまぶしい。締め付けるような金属製の服が体のラインを強調している。

 僕は少し目のやりどころに困る。

「む、胸が……」

 かなりの巨乳さんなのでした。

 

「我が名はムチャチャ……土器王の妃」

 彼女はそう名乗った。

「我が目覚めは、王の目覚め。……土器王、復活のときは来た! 土器王に招かれし、ウニバルの者よ。これを……」

 土器人の瞳に似た宝石が施された縄文土器のような壷を託された。

「この記憶の壷と鉾槍 (ハルバード)を眠れる王に捧げよ。すべて、古よりの定め……」

 

「けったいな壷でんなぁ……」

 テルミナスは、土器王から預かったと言う記憶の壷をなめるように観察する。

「眠れる王に、これを使えば……眠れる王って、どこにおるんやろ? ……眠れる? ……んん? ……ま、まさか!!」

 テルミナスの赤い瞳の光が大きくなり、突然そう叫んだ。

「まさか?」

 テルミナスには、何か思いあたることがあるらしい。

「あんさん! 司書室へ戻りましょ」

 僕はわけがわからないまま、テルミナスについていく。

 

「……ケマポンのヤツ。ドキツカサやないのに、妙にようしゃべるなあ、思うとったんやけど」

「え……まさか! ……ケマポンが……?」

 僕らは、司書室へいそいだ。




 テルミナスの推理力と理解力は、異常だと思うことがある。全部知っているんじゃないかと思ってしまう。


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3部-5章 眠れる王に記憶を!

 ケマポンは、司書室で眠っていた。

 僕は、広場から抜いてきた鉾槍(ハルバード)と、ムチャチャに託された記憶の壷を、倒れているケマポンの前に置いてみた。

 

 記憶の壷と鉾槍は輝きだす。それに伴いケマポンの瞳も光輝き、体が光に包まれ宙に浮かぶ……。

 壷から強い光が発され、そのすべてがケマポンの中に吸い込まれていった。ケマポンの赤い瞳に光が戻る。

 

「……あ、あれ? ボクは、どうなっちゃったんだろう……。あの時、ビブリオがあわててここへ来て……そうしたら、急にめまいがして……あ、司書長も、元に戻ったんだね!」

 ケマポンは瞳をくるくるときらめかせる。

「ケマポン、大丈夫?」

「ありがとう、もう、心配要らないよ! ……そうだ……全部思い出したよ! 記憶の壷を、ムチャチャに預けておいたんだ。急ごう、転体のもとへ!」

 

 ケマポンが右手を高く上げると、鉾槍が、その手にが収まる。鉾槍をくるりと一回転させると、念じるように握り締めた。すると、ケマポンの周りの空間がゆがみだす。

 

 そして気がつくと、アルシラの、土器王の転体がある祭壇の前にいた。

「な、なんや! 空間移転やてぇ!?」

 一緒に飛ばされてきたらしいテルミナスは、何が起こったのか説明してくれた。

「空間転移って……」

 そんなことできるなんて、なんでもありなんだな。

 

「……復活のときは来た……ウニバルの人よ……手間をかけさせた。……まずは、バルナだ」

 ケマポンの口調が変わっているよ。

 

 

 ケマポンはアルシラの魔法陣の中心に鉾槍を差し込む。歯車が回るような大きな音がして、魔方陣の一角が四角くへこみ、二つに割れていく。そして、土器王の転体が競り上がってくる。まるで戦隊モノのロボットが格納庫から出てくる時のような状況である。

 

 土器王の姿が完全に現れると、ケマポンの体から、紅い光と、白い光が飛び出した。

「あれは、宇宙卵? 土器人の魂の……」

 2色の玉は合わさって桃色になり転体へ吸い込まれる。転体の大きな瞳が赤く煌き、背中に生えた何本もの管から、蒸気のようなものが勢いよく噴出す。

 

 僕は、「土器王、発進!」と、叫びたくなったが、そこは我慢した。

 

 

 巨大な土器王は、どこからともなく現れた兜を被ると、大地に刺さった鉾槍を手にとる。すると、それは巨大化し、今の土器王にふさわしい大きさへ変わった。

 手になじませるように、鉾槍をくるくると振り回す。

 そして、エスパッシの青い空に穂先を向けると、稲妻をまとった不規則な光の筋が空に発射された!

 放たれた光の筋は、青い空に弧を描くように軌跡を残し、閃光と雷光が空の穴(たいよう)へ吸い込まれた。……数秒後、その光はバルナを捉え、エスパッシの空に引きずり出した。

 もだえ苦しむように抵抗するバルナ。その胴体の左右に折りたたまれた砲身が回転しながらせり出してくる。大きく開いた翼に目で見てわかるほどのエネルギーを集め、その光の筋が砲身に集い始めた。体の模様はますます強く輝き、そして、膨大な閃光と雷光を、宇宙をも破壊する光線を発射した!

 光線の振動で空がゆがむ。それは宇宙(くうかん)をも破壊する光線である。

 土器王はその攻撃を身に受けるが、透明な障壁が現れ、すべての攻撃を阻んだ。その体には、全く傷がついていないようだ。

 

 

 

 僕の目から、土器王の姿が消えた。早すぎて見えなかったのだ。僕が気がついたときには、土器王はバルナの頭上にいて、重力に任せて、鉾槍を頭と体の付け根に突き刺している場面だった。

 

 激しい紫電がバルナの頭から噴きあがる。それは全身に広がっていき、すべてを包み込む。バルナはその強大な体を鳴動させながら光に染まっていく。

 土器王は、バルナから離れた。

 バルナから、いくつもの閃光があふれ出し、エネルギーのすべてを放出すると、ついにバルナは煌きとなって、青い空に溶けて見えなくなってしまった。

 

 

 爆発のひとつやふたつ起こると思って身構えていただけに、予想が外れて裏切られた思いに襲われたものの……とにかく、土器王が復活し、宇宙を破壊するバルナは消え去ったのだ!

 

「これで、終わったんだよね」

 こうして土器王は復活し、世界は救われた。

 そして、再び宇宙(せかい)は歴史を刻みだす。(さいせい)(しょうめつ)の理をもって。




 土器王VSバルナのゲームのムービーを見て、とある方が、突込みどころを、言いました。
「……あれ? 穂先じゃなくて、柄の部分で刺してない?」

……気がつかなかった。
まぁ、格好良かったから、細かいことなんて気にしない!


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我が宇宙への帰還
エピローグ 知と粘土の宇宙《土器の見る夢》


「まさか、ケマポンが、ねぇ……」

 最初出会ったころには思いもよらなかった。今ではこんなに立派になって……。

「わても、……あの、ケマポンが……土器王の生まれ変わりやったとはなぁ……ち~とも、気ぃつかへんかったわ」

 

 今、僕たちは土器王の宮殿にいる。土器王も、テルミナスも、グアルダも、ムチャチャも、他の土器人たちも集まっている。そして、土器王の復活に沸き、賑わっていた。

 

「本当にありがとう……」

 ケマポン……いや、土器王の声が響いた。

「そやそや。ウニバルの人には、感謝の言葉もあらへんなあ。土器王はんも復活しはったし、バルナも封印されたみたいやし……ともかく、これで一件落着や! わてら、元の平和な暮らしに、もどれましたんや。ほんまに、おおきに! あんさんの活躍は、永遠に語りつがれますやろ」

 テルミナスは、ケマ……土器王の会話を押しのけて話しつづけている。彼は、この世界で一番よくしゃべる土器人ではないだろうか。僕は苦笑いしながらも、話を聞いていた。

 

「ところで……あんさんは、ウニバルに戻らはりますか? ここに残る言うんやったら、土器人の体あげまひょ。ドースに、土器のからだつくってもろて……そうや、ええ考えがおます! キュラの代わりに、寺院の司祭っちゅうのは……どうですやろ~? ウニバル生まれの土器人の誕生や! ここの暮らしも悪うおまへんでえ~」

 テルミナスは、冗談交じりに言う。

「ははは。お誘いはうれしいけれど、お断りします。僕は、地球に……ウニバルに、帰ります」

 そこが僕の生きる場所、僕の地球(こきょう)なのだ。

「さよか……やっぱり、戻らはりますか……」

 テルミナスは、どこかさびしそうに瞳の光を揺らしていた。

「短い間だったけれども、ありがとう。楽しかったよ」

 

 

「ひびの入るその日まで……」

 それが素焼きの民たちの別れの挨拶(あいさつ)なのだろう。ひびの入るその日まで、素敵な挨拶ではないか。

 僕も、その挨拶を口にする。

 

 

 ――そして、別れのとき。

 僕は、みんなに見送られながら転送壷に入った。すべてが闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――僕は砂浜に立っている。

 戻ってきたんだ、僕の世界に、僕の宇宙に……

 

 海や空は、僕がエスパッシへ行く前と同じ。青く光に照らされている。

 足元にある僕が作った砂のトンネルの向こうには、今は何もない。どこにも通じていない。しかし、暖かな闇がある。

 

 

 海風が潮の香りを含ませて、どこまでも広がっていく。あの青い空に浮かぶ(ほし)は、完全な球体の太陽(ひかり)。完全な球体の水平線。映し出される色は、澄んだ青の粒子。母なる海は青く波打ち、光を浴びて雲の飛沫を散らす。何かの内にいるような、アルマのように。

 

 

 

 

 僕は一歩を踏み出した。砂浜に足跡が残る。

 僕はこの世界の内にいる。この広大な宇宙に足跡を残しながら、確かに生きている。たとえ、それが土器王によって作られた世界のひとつだったとしても、僕は今ここに存在している。そして、僕の(こころ)には、宇宙の息吹。世界が広がっている。

 

 それは真実。

 それは真理。

 

 僕は思うがまま、その世界(うちゅう)を眺め、世界に触れ、世界を求め、歩き続けよう。

 

 

 

 そう……

 

 ひびの入るその日まで……

 




 エスパッシはアルマの内にあり

 アルマはエスパッシの内にある

 土器はアルシラの土より生ず


 土器花(フロン)土器樹(アーボ)はセレブロの土より生ず

 土器花(フロン)より土器蝶(マリポス)土器蝶(マリポス)より土器魚(ペスカ)を生ず

 土器鳥(バヤペ)土器樹(アーボ)より生じ、メントを食す

 土器人は土器魚(ペスカ)を食しメントを排す

 成熟した土器鳥(バヤペ)はエスパッシの下方へ降りる

 土器鳥(バヤペ)は宇宙卵となりアルマより排される


 宇宙卵を得た土器は土器人となる

 宇宙卵は土器人の食した土器魚(ペスカ)で成熟する

 成熟した宇宙卵は土器を破り宇宙となる

 宇宙卵を失った土器はアルシラの土に還る

 宇宙はライブラリーで健常に保たれる


 アルマこそ、すべての宇宙の母なり


 全てはアルマの内に……アルマは全て……


 これ世界の真理なり……


               ――土器王紀「世界の秘密」のメモより


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