クロスワールド~紡がれる戦士たちの軌跡~ (鈴ー風)
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プロローグ~始まり:ユニオン~

初投稿!ども、鈴―風です。
タグにめっさアニメやらゲームのタイトルがあってびっくりしました?これ、ぶっちゃけ高校の授業中に「いろんな作品のクロスオーバー書きたい」って思って書いたやつです。いぇい。

興味を持っていただけたなら、プロローグどぞ!!


 この世には幾つもの次元が存在し、膨大な次元の中には幾つもの世界が存在する。

 それらは、決して交わるはずの無い世界だった。そう―――――そのはずだった(・・・・・・)

 

「……駄目だ!この方法でも、『あのお方』を目覚めさせるのは不可能なのか…」

 

 とある小さな島の森深くに存在する小さな研究所らしき建物。その中で、一人の男性が机を叩き、悔しそうに顔を歪めている。

 

「また失敗だったの?グラナ」

「…お前か、カザリナ」

 

 グラナと呼ばれた白衣の男は、ずれた眼鏡を直しながらカザリナ――――自らがそう呼んだ女性の方を向き、ばつ(・・)が悪そうな表情をした。

 

「今回は上手く行きそうだった。だが…『あのお方』の目覚めには、あるものが決定的に欠けているんだ」

「それは?」

「……一つ目は魔力。多少特殊なものでも代用は利くが、並大抵の量では無い上に質の高いものでなければならない」

「二つ目は器だ。膨大な魔力を『あのお方』に流し込むための器も必要不可欠だ。そして……」

「まだあるの?」

「ああ。三つ目、これが一番の問題なのだが……情報だ。『あのお方』は嘗て、全てを失っている(・・・・・・・・)。本当の意味で目覚めさせるには、失った分を補えるほどの膨大な情報(データ)が必要となる。しかし、もうこの世界には……」

 

 グラナはそこで話を止めると、苦虫を噛んだような表情で項垂(うなだ)れてしまった。

 

「あったよ。その方法」

 

 重い空気を取り払ったのは、十代前半に見える華奢な少女だった。

 

「ライラ……戻ったのか」

「うん」

 

 ライラと呼ばれた少女は、グラナに短く返事をすると、こう言い放った。

 

 

「私たちの世界に無いんだったら、集めればいいんだよ……他の異世界(・・・・・)から」

「「!?」」

 

 

 その言葉に、グラナとカザリナの表情は一変した。

 

「無茶だ!確かに、異世界とこの世界を繋ぐ物質転送プログラムは完成しているが、あれはまだリスクが高すぎる。あまりに無謀だ!」

「だったら、プログラムを逆作動させて異世界の情報(データ)をこっちの世界と併合する。私たちが行くんじゃなくて、向こうを引き寄せればいいんだよ。これならリスクも無いし、理論的には可能なはず」

「む……」

「できるの?」

「…ああ、理論上はな。もちろん想定外の事態も考えられるが……しかし、肝心の情報(データ)はどうやって『あのお方』に伝えるつもりだ?」

「それも大丈夫」

 

 そう言うとライラは、手に持っていた一枚の紙を机に広げた。A2サイズはあるであろうその紙には、何かの設計図のような図面が描かれていた。

 

「これは?」

「異世界の一つ、そこで行われているVRMMOと呼ばれるオンラインゲーム、SAO《ソードアート・オンライン》。それにアクセスするための触媒として使われている装置――――――《ナーヴギア》」

「ナーヴギア?」

「この装置は直接脳に仮想の五感情報を伝達することで仮想空間を作り出すフルダイブというシステムを可能にするものらしい。このシステムと装置を応用して『あの人』を情報(データ)として「構築」することができれば……」

「そんなことが可能かしら?」

 

 カザリナは、流石に怪しいと感じたのか、(いぶか)しげな視線をライラに向けている。

 

「……それよりもライラ、それ程の情報とその設計図はどうやって手に入れた?」

「教えてくれた人がいたの。設計図もその人が。確か、『セオ』って……」

「セオ……《救世主》…」

「……グラナ」

 

 セオという人物について考えていたグラナを、ライラは真っ直ぐに見据えていた。長い髪に隠れ、左側しか見えない目は、真剣だった。

 

「確かに、こんな話出来過ぎてる、怪しむのも仕方ないと思う。でも……賭けてみようよ。私たちには、もう時間が無い(・・・・・)

 

 時間が無い―――――その一言で、グラナは静かに目を閉じ、そして決意した。

 

「そう、だな……。巻き込んでしまう異世界には申し訳ないが……」

「そうね……」

 

 カザリナも、グラナに肯定した。そして、グラナは奥の部屋へと移動し、巨大な装置―――――物質転送装置《アクロディア》の起動スイッチを押した。

 

 

「それでは始めよう。世界を壊し、世界を創る我々の最後の希望―――――《ユニオン・リバース》を」

 

 

 ―――――刹那、この世界を含む、幾つもの世界に光が降り注いだ。

 破壊と創造をもたらし、交わるはずの無かった物語を繋ぐ邂逅の光が。




どうでした?まだまだ文章が拙いですが、頑張りますので生暖かい目で読んでやってください。後、批評酷評何でもいいので、感想お願いします!

あ、でもほどほどに……(弱気


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1章 戦士達の邂逅
第一話「謎の世界、最後の希望」


原作タイトルにしておきながら、指輪のあの人はまだ出ません。
今回は、デスゲームをクリアした英雄夫婦の登場です。時間軸は、七十五層攻略、クリアした直後です。現実には戻れてません。

では、どうぞ!


 鬱蒼とした森の奥深く。光さえ満足に届かない、いかにもファンタジーの世界にありそうなフィールドに、意識のない一組の男女の姿があった。

 

「う、んん……」

 

 先に意識を取り戻したのは男の方だった。黒いコートに身を包んだ彼の名はキリト。HP0=死という恐怖のデスゲーム、《ソードアート・オンライン》をクリア、生き残った6000人を超える人々を開放した英雄であった。

 しかし、彼はそのことを知らない。なぜなら―――――

 

「…っ!?アスナ!!」

 

 キリトは、自分の傍らに倒れている女性の名を呼んだ。白い服に赤いラインが映える彼女の名はアスナ。キリト同様に《ソードアート・オンライン》に囚われ、ギルド《血盟騎士団(けつめいきしだん)》の副団長を務めた人物。そして、キリトの妻でもある。

 

「う、んん……」

「アスナ!?アスナ!!」

「キ、リト君…?」

 

 意識が覚醒しつつあるアスナに、キリトは思わず抱きついた。

 

「キ、キリト君…?」

「ごめん…アスナ、ごめん……約束、守れなくて……」

 

 彼は、ゲームクリアの真実を知らない。なぜなら―――――ゲームクリアと引き換えに、キリトもまた最後の敵、ヒースクリフこと茅場晶彦の剣の前に、そのHPを全て失ったのだから。

 

「そっか……」

 

 アスナは、キリトの背中を優しくさすりながら……

 

 

「私たち、死んじゃったんだね」

 

 

 再び会えた。その最後の奇跡の温もりを、静かに感じていた。

 

 

 

 

 

「冷静に考えると、何処なんだろうな、此処……」

「もしかして、現実に戻れたのかな…」

 

 視界に広がるのは一面の森。妥当ならば、死後の世界ということになるが、そもそも死後の世界を知らない二人の判断が及ぶところでは無い。

 

「…少なくとも、現実ではないよ」

 

 キリトは、自分の姿を確認し、静かにそう言った。身に纏っている漆黒のコートの名は、『コートオブミッドナイト』。靴は『ブーツオブミッドナイト』、背中には愛用していた『エリュシデータ』と『ダークリバルサー』まである。これらは全て、紛う事なき《ソードアート・オンライン》のアイテムである。アスナもまた、愛用する細剣「ランベントライト」がその腰で存在感を放っていた。更に、ヒースクリフ戦でその寿命を終えた筈の『ダークリバルサー』は、まるであの戦いが嘘だったかのように傷一つない刀身をしていた。

 

「でも…それじゃあ、ここは何処なの?バグか何かでSAOマップのどこかに転移させられたとか…?」

「…いや、その可能性も無さそうだ」

 

 そう言ってキリトがアスナに見せているのは、同じところで何度も空を切る右手だった。

 

「もしかして……!」

「ああ…メニュー画面が表示されない。おまけに、プレイヤーアイコンもHPバーも表示されていない」

 

 そう言って、キリトは自分の頭上を指差した。SAOの中ならば必ず表示されていたプレイヤーアイコンやHPバーが表示されないという事実は、二人に一つの仮説を叩きつけた。

 

「もし…ここが天国や地獄じゃなくて、私たちが生きてるとしたら……」

「ここはSAOでも、まして現実でも無い……別の世界ってことだ…」

 

 二人は重く震える口を開き、幸か不幸か、その現実を受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

「それで、どうするの?キリト君」

 

 数分の間、失意にのまれていた二人だったが、いつまでもこうしていても仕方がない、と行動を始め、今は森の中をただまっすぐ進んでいた。

 

「とりあえず、誰かいないか探そうと思ってる。この世界のことを知ってる奴がいるかもしれないし、もしかしたら他のSAOプレイヤーがいるかもしれないし」

 

 正直な所、キリトが最も心配しているのがそれである。アスナは近くにいたからよかったが、他のプレイヤー、特に知り合いであるシリカやリズベット達がこの世界に来ているかもしれない……そう思うと、気が気ではない。

 

(シリカ…リズ…頼むから無事にログアウトしていてくれ……)

 

「―――ト君、キリト君!」

「ど、どうしたアス――――」

 突如アスナに呼び止められ、やや驚きながらアスナへ向き直るキリト。すると、アスナは右手の人差し指を口に当てる。所謂、「黙って」のポーズである。

 

「…周り、囲まれてる」

「っ!?」

 

 キリトが精神を研ぎ澄ますと、確かに索敵スキルに複数のモンスター反応がヒットした。どうやら、取得したスキルは問題なく使用できるようだ。

 因みに、キリトはこの索敵スキルをコンプリートしている。にも関わらず、キリトがモンスターに気付けなかったのは、単にキリトの注意力が散漫になっていたというだけだ。

 

「…っく!」

 

 キリトは自らの失態に顔を歪め、それを払拭するかのように背中の日本の剣を引き抜き、両の手に構えた。アスナも、腰の「ランベントライト」を引き抜き、構えをとった。すると、キリト達を囲むようにSAO時代の敵―――《ルイン・コボルド・センチネル》。数は…8体。

 

(考えるのは後だ!まずは、目の前の敵を倒す!!)

 

 頭のスイッチを切り替えたキリトは、奇声をあげながら我先にと襲い掛かってきたコボルド・センチネルの懐に自ら飛び込み、己の代名詞、『二刀流』ソードスキル、‘エンド・リボルバー’を放つ。ソードスキル特有の青白い光を帯びた二本の剣を円形に振り払うと、その斬撃を受けた2体のコボルド・センチネルがポリゴン状の粒子となって弾けた。

 

(よし!ソードスキルは発動できる!)

 

 アスナの方を見ると、細剣の高速突き技、‘リニア―’の連続で、既に2体のコボルド・センチネルがポリゴンとなって消えていた。

 残りは4体。早くも4体を撃破され、残ったコボルド・センチネルは若干焦っているようにも見える。

 

「よし!このまま残りも――――」

 

 ズゥン!と、突如台地が、空間が震え、凄まじい威圧感が噴き出してきた。

 

「キリト君、これって…」

「…ああ。多分、奴だ」

 

 二人には、ある程度予想はついていた。なぜなら、二人が戦っていたモンスター、ルイン・コボルド・センチネルはSAOにおいてあるモンスターの守護モンスターであり、そのモンスターは、嘗て《浮遊城アインクラッド》第一層のボスモンスターにして、ディアベルという男を殺した―――――

 

 

「《イルファング・ザ・コボルドロード》……!」

 

 

 当たりだ。木をへし折りながら現れた巨体は、二人の予想と寸分違わぬ姿をした猛獣、《イルファング・ザ・コボルドロード》そのものだった。

 

「…お前は―――――」

 

 キリトは、ソードスキル‘レイジスパイク’のモーションを起こし、コボルドロードへと駆け出した。

 

「キ、キリト君!?」

「アスナ、雑魚は任せた!」

 

 残りのコボルド・センチネルをアスナに任せ、キリトはコボルドロードへの攻撃態勢をとる。

 

(お前だけは、俺が…この手で!)

 

 ディアベルを殺した、そして、キリトがビータ―と呼ばれるきっかけを作ったモンスター。一度はこの手で倒した相手に、キリトには勝算があった。

 嘗ては、コボルドロードの技を‘レイジスパイク’で相殺、その後アスナが作った大きな「隙」を突き、片手剣スキル‘バーチカル・アーク’をぶつけて倒した。しかし、今はこの『二刀流』がある。いくらあの頃のコボルドロードより強かろうと、技のキャンセルととどめを一人でこなし、倒し切ることができる―――――それが、キリトの勝算だった。

 

「グアアァアアァァッ!!」

 

 予想通り、前回と同じ上段からの斬撃が振り下ろされた。

 

(よし!こいつをソードスキルで相殺して、‘バーチカル・アーク’を―――――)

 

 コボルドロードの刀にエリュシデータをぶつけ、ソードスキル‘レイジスパイク’を発動させる。青白く光る剣の一撃で、武器は甲高い音をたてて後方へと吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトの持つ、エリュシデータが。

 

「なっ…!」

 

 ―――――キリトは忘れていた。先程、認めた事実を。

 

 ここは、SAOの中ではないということを。

 SAOの常識は、何一つ通用しないということを。

 

 

「キリト君!前!!」

 

 アスナの声で正気に戻ったキリトの目に映ったのは、コボルドロードの左手に宿る体術スキル、‘ストリング・ブロー’の輝きだった。

 そして、次の瞬間、コボルドロードの一撃によってキリトは数メートル離れた木に叩きつけられた。

 

「キリト君っ!!」

 

 キリトのもとへ行こうとするアスナだが、親玉が来たからだろうか。急に連携を取り始めたコボルド・センチネルがそれを許さない。再度放たれた‘リニアー’により、1体がポリゴンとなって消滅した。が、残る3体が行く手を阻む。

 

「くっ…邪魔、しないで!キリト君…キリト君!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトは、何とか意識を保つだけで精一杯だった。周りの景色さえぼやけ、コボルドロードの姿を何とか捉えているのみ。声は、まともに出てこない。

 

(痛ぅ…何で、こんなに痛みが…VRMMOは―――――)

 

 覚束ない頭で考え、たどり着いた。《ソードアート・オンライン》の世界でないなら、ペイン・アブソーバーが働くはずが無い。つまり、|全ての痛みは直接全身を襲うということになる《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》、ということだ。現に、キリトの手には赤い血がべっとりと付着している。全身からも力が抜け、思うように体が動かない。

 

(まずい…このままじゃ……)

 

 やられる―――――死の感覚がキリトを焦らせる。何か、出来ることはないかと。

 だが、コボルドロードの反応はキリトの予想とは相反するものだった。コボルドロードは虫の息のキリトには目もくれず、未だコボルド・センチネルと立ち回りをしているアスナを視界に捉えると、キリトとは逆方向のそちらに向かって歩き出した。

 

(おい、待てよ…そっちに行ったら……)

 

 ふと、キリトの脳裏をとある光景がよぎった。それは、《浮遊城アインクラッド》の最後の敵―――――ヒースクリフこと茅場晶彦との戦い。その中で自分を庇い、その剣を受けて散った―――――最愛の妻、アスナの最後だった。

 「さよなら」―――――彼女のその言葉を聞いた瞬間、キリトは全てを失った気がした。

 

 ―――――今まで生きてきた意味も。

 ―――――アスナと共に過ごしてきた日々も。

 ―――――未来を生きる、希望さえも。

 

 だから、キリトは、

 

「…げろ…」

 

 動かない体に残された全てを込めて、

 

「…に、げろ…」

 

 愛する人(アスナ)へと、叫ぶ。

 

「逃げろぉぉぉ!アスナアアアァァァァッ!!!」

 

「キリト君!!」

 

 キリトの叫びは、アスナに届いた。

 だが、少し遅かった。振り返るアスナの前で、既にコボルドロードは、刀を振り上げていたのだから。

 

 ―――――誰でもいい

 

(もう、あんな絶望は見たくない!)

 

 ―――――誰か

 

(奇跡でも何でもいい!だから―――――)

 

 

 ―――――俺の希望を、守ってくれ!!―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ希望を捨てるな」

 

 

「え……」

 

 ドドドドッ!!

 

 突然銃声が鳴り響き、直後、コボルドロードの背中で爆発が起きた。

 

「グエアアアァァァ!?」

 

 体勢を崩したコボルドロードの振り下ろした刀は軌道がずれ、アスナの隣にいたコボルド・センチネルに命中し、消滅した。更に、続けざまに放たれた2発の銃弾が残ったコボルド・センチネルを撃ち抜き、消滅させた。

 

「今、のは……」

 

 呆然とするキリトの足元に、先程放たれた弾丸が転がってきた。魔方陣のような模様が描かれたそれは、未だ視界の霞むキリトにもよく見えるほど純粋な光を生む――――

 

「銀色の、弾丸……」

 

「間一髪、セーフだったな」

 

 キリトが突然の声に顔を上げると、キリトの傍らに1人の男が立っていた。

 

「…あんた、は?」

「ん、俺か?」

 

 赤いズボンに黒いコートを着た青年は、剽軽(ひょうきん)に笑いながら、

 

 

「希望を守る、魔法使いだ」

 

 

 あっけらかんと、そう言った。

 その指には、ドラゴンを(かたど)った不思議な形の指輪がはめられていた。




次回はついに指輪のあの人が登場します。

次回、「共闘 魔法使いと黒閃の剣士」

「さあ、ショータイムだ!」


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第二話「共闘 魔法使いと黒閃の剣士」

うおぉ……
とりあえず、一言。

時間がかかってしまい、もーしわけありませんでした!!

今回で、ひとまずキリト達の戦いは終幕です。
では、どうぞ!


 

 

「魔法、使い…?」

 

 キリトは、青年の言葉をすぐに理解することができなかった。魔法とは、ファンタジー世界に当たり前に存在していそうなものだが、残念ながらSAOには魔法が存在しない。そのため、キリトは魔法について、「手から火が出せる」程度のありきたりな想像しかできなかった。

 

「キリト君っ!!」

 

 そんなことを考えていると、両目いっぱいに涙を浮かべたアスナが、突撃するかのような勢いでキリトに抱き着いた。

 

「ぐぅっ…!」

 

 身を切り刻まれたような激痛が走ったが、そこは男の意地だろうか。(うめ)き声は、何とか飲み込むことができた。

 

「キリト君…キリト君…!怖かった…キリト君も、私も、死んじゃうんじゃないかって…また、一人になっちゃうんじゃないかって…」

 

 その後の言葉は、嗚咽と混じり合って聞こえなかった。だが、アスナの体は小刻みに震えていた。体中の感覚が痺れ始めていたキリトでも、その震えは感じ、理解することができた。その震えが意味する想いも、全て。

 

「…アスナ」

 

 だからこそ、キリトは自由の利かない右手をかろうじて動かし、アスナの頬を伝う涙を拭った。そして、激痛に叫ぶ体に鞭打って動かし、アスナの唇を、自分の唇でふさいだ。

 

「っ!?キ、キリト君…」

 

 一瞬だけ触れた唇が離れ、キリトのぼやけた目にもはっきりと映るほど、アスナの顔は赤く染まっていた。

 

「前に、言ったよな…俺の命は、君のものだ、って…君が生き残るために、使うって…でもさ、これからは…君の命も、俺にくれないか?君だけが、俺だけが生き残るためじゃない。二人で生き残るために、一緒に元の世界に…現実世界に戻るために戦おう。俺たちの命を、想いを、一つにして。もう二度と、離れ離れにならないために……」

「…キリト、君……」

 

 それは、絶望を目の当たりにし、絶望を乗り越えて奇跡を起こしたキリトが掴んだ、一つの答えだった。

 

「もしかしなくても、俺、お邪魔?」

「「っ!!?」」

 

 キリト達の行為を静観していた男は、飄々(ひょうひょう)とした笑みを浮かべながら口を開いた。キリトもアスナも、男の存在を完全に忘れていたらしく、二人そろって顔を赤くした。アスナに至っては、再び泣き出しそうにすら見える。先ほどとは別の意味で。

 

「グルオオォオ……」

 

 そうしていると、しばらくその動きを止めていた《イルファング・ザ・コボルドロード》がゆっくりと立ち上がり、その視界にキリト達を捉えた。

 

「そろそろあのファントムも、待ってくれそうにないな」

 

 男もコボルドロードの方へ向き直り、そのまま銃を片手に歩き出した。

 

「ふぁん、とむ…?お、おい、待て!」

 

 キリトは慌てて、男を呼び止めた。いくらSAOで珍しい銃を持つからといって、男の格好は黒いコートに赤いズボンという、あまりにも戦いからかけ離れた服装であった。SAOの時と違い、ダメージが実際の衝撃となる今、男の格好はまさに自殺行為といえるものだったのだ。

 

「その格好じゃ、戦いは、無理だ……俺が、戦う…ぐっ!」

「キリト君!」

「その様じゃ、アンタの方が無理だろ。いいから俺に任せとけ」

「で、でも……アンタの力じゃ」

 

 敵わない。キリトがそう口にしようとした瞬間、それより早く、コボルドロードが隠し持っていた武器、「トマホーク」を投げつけてきた。

 

「ヤバい……っ!」

 

 かわせない。キリト達を正確に狙うトマホークに、焦りを覚えるキリト。

 だが、そんなキリトとは対照的に、男は素早く右手の指輪を付け替えると、その右手をベルトの中央に位置する、手を模したバックルに翳した。

 

『ディフェーンド!プリーズ』

 

 独特の機械音がバックルから発せられると同時に、男の前に巨大な赤い魔方陣が出現し、トマホークをいとも簡単に弾いてしまった。

 

「なっ……」

「す、すごい…」

 

 初めて魔法を目の当たりにし、キリトとアスナは愕然とする。だが、キリトが驚いたのはそれだけではない。今の行動を即座に弾き出す決断力、そしてそれを確実に実行するだけの技量、実行力。いずれをとっても、男の実力を示すには十分すぎるものだった。

 そしてそこから、キリトは自分達とは比較にならない何か、別の「覚悟」を感じ取った。そこに、キリトは驚いたのだ。

 

「で、俺の力が何だって?」

 

 キリト達に向けた男の表情は、やはり飄々としていて。

 

「…いや、余計な心配だった」

「分かればよろしい」

 

 どこか、強い安心を覚えた。

 すると、男は再び指輪を付け替え、バックルに翳した。

 

『ヒール!プリーズ』

 

 すると、今度は小さな魔方陣から緑色の風が吹き出し、キリトの体を包み込んだ。

 

「…これ、は?」

「最近見つけた、治癒の魔法さ。回復するまで少しかかるから、大人しくしてな」

 

 そう言ってコボルドロードへ向き直った男は、三度(みたび)新たな指輪に付け替え、バックルに翳した。

 

『ドライバーオン!プリーズ』

 

 機械音と同時に、指輪を翳したバックルの形状が変化、ベルトと一体化した。

 そして、ベルトを両手で操作すると、バックルの手の向きが変わり、ドライバーから淡い光のエフェクトが発せられた。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

 

「さっき聞いちまったからな、お前らの『希望』」

 

 男は、最後にもう一つ指輪を取り出し、その指に嵌めた。

 ただし、今度は左手(・・)に。

 

「お前らの希望は俺が守ってやる。俺が、最後の希望だ」

 

 希望。男はそう言うと、左手に嵌めた紅き指輪に右手を添え、一つの言葉を口にした。男が、希望となる言葉を。

 

 

 

「変身!!」

 

『フレイム!プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 

 紅き指輪のジョイントが嵌まり、その指輪をバックルに翳した瞬間、男の横に赤い魔方陣が出現し、炎を纏って男の体を通過する。魔方陣の炎に包まれた男は、一瞬にして漆黒のローブに身を包み、深紅が映えるメタリックなフルフェイスの仮面がその顔を包んでいた。

 

「アンタ、一体…」

「またそれか。俺は操真晴人、希望を守る魔法使い…仮面ライダーウィザードだ」

「「仮面、ライダー……」」

 

 仮面ライダー。初めて聞くその言葉を口にするキリトとアスナをよそに、男――――ウィザードは、左手の指輪をおもむろにコボルドロードへ向ける。戦いの始まりを告げるために。

 

「さあ、ショータイムだ」

 

 言うが早いか、ウィザードは銃を構えながらコボルドロードへ向けて駆け出した。銃撃で牽制するが、不意討ちだった先程とは違い、その殆どがかわされ、斧で弾かれ、(ことごと)く無力化されていく。

 

「銃は効かないか…なら」

 

 銃の効果が薄いと判断したウィザードは、手にしている銃――――ウィザーソードガンをガンモードからソードモードへと切り替えた。そして、コボルドロードが斧を降り下ろすタイミングに合わせ、カウンターのように剣をコボルドロードめがけて振り払った。

 

「どりゃっ!!」

「グエアァアッ!!」

 

 見事に決まったカウンター気味の一撃は、贔屓目(ひいきめ)に見ても少なくないダメージを与えたはずである。

 だが、コボルドロードは怯みこそしたものの、それも一瞬。即座に体勢を立て直すと、周りの木を利用してその巨体からは想像もつかないようなスピードで飛び回り始めた。

 

「空中戦か。なら、こっちはこれだ!」

 

『ハリケーン!プリーズ。フーフー、フーフーフフー!』

 

 今のままでは分が悪いと判断したウィザードは、再び左手の指輪を付け替え、ハンドオーサーを操作すると、▽を模した鮮やかな緑色の指輪をバックルに翳した。

 先程とは違い、指輪と同じ緑色の魔方陣が現れると再びウィザードの体を通過する。すると、ウィザードの仮面も緑色に変わり、辺りに風が吹き荒れた。

 

「色が、変わった!?」

「こっちも空中戦だ!ッハ!」

 

 後方で驚くアスナを余所に、ウィザードは地面を蹴り、高く飛び上がった。すると、ウィザードの足元に風が集束し、その体を更に高く押し上げた。ウィザードはウィザーソードガンを逆手に持ちかえると、そのままコボルドロードめがけて剣を振り払う。

 斧と剣、武器の大きさ的に大きなアドバンテージを取られているウィザードだが、そんなことは微塵も感じさせない太刀筋で着実にコボルドロードへのダメージを蓄積させていく。

 だが。

 

(マズイな…)

 

 このままではジリ貧になる。ウィザードは、そう感じていた。確かにウィザードの攻撃は、コボルドロードにダメージを与えている。が、決定打に欠けているのだ。敵の実力を把握できない以上、このままでは、いずれウィザードの魔力が尽きるのが先だろう。

 

(何か、決定的な一撃が――――)

 

 ウィザードの一瞬の雑念を見逃さなかったコボルドロードの一撃が、ウィザードの右側から襲う。

 

「ぐぁっ!?」

 

 かろうじてウィザーソードガンを自身と斧の間に滑り込ませ直撃を防ぐが、重い一撃にウィザードの体が地面へ叩き付けられる。

 

「ウィザード!」

 

 キリトがウィザードの名を呼ぶ。幸い、ウィザードのダメージは軽そうだった。

 

「ああ…アンタ、もう大丈夫なのか?」

「ああ、おかげさまでな」

「そりゃ何よりだ。もう少し待ってろ、今アイツを…」

 

 あくまで軽い感じを崩さないウィザードの肩を、キリトはつかんだ。

 

「待てよ。俺たちも戦う」

「一人で行こうとしないで下さいよ」

「いや、危険だ。俺一人で――――」

 

『無茶しないでよ、晴人くん』

『一人で抱え込まないでください、晴人さん』

『一人で悩んでんじゃねえぞ、晴人』

 

 不意に、ウィザードの脳裏に声が響いた。それは、嘗ての仲間たちの声。魔法使いである前に人である晴人が、一人で抱え込み、悩み、潰れそうになる度に支えてくれた、励ましてくれた、大切な声。

 その声で、ウィザードは自らが再び間違いを犯しかけたことに気づくことができた。

 

(…そう、だったな)

 

 自分は一人じゃない。今はもう、それに気づいているからこそ、ウィザードは言葉を改める。

 

「分かった、手伝ってもらおうか、二人とも。えーと…」

 

 そしてウィザードは、今更ながら二人の名前を覚えていないことに気付いた。

 

「キリトだ」

「私はアスナです」

「ああ、悪い。キリト、アスナ」

 

 どこまでも軽いウィザードに、キリト、アスナ両人は若干呆れている。しかしウィザードは気にした様子もなく、再び口を開く。

 

「さて……手伝ってもらうのはいいとして、問題はどう攻めるかだな」

 

 問題はそこである。相手の力量が分からず、かつこちらは手負いの人間もいる。コボルドロードの圧倒的なスピードを封じ、尚且つ決定的な一撃をぶつける作戦でもなければ、恐らくこちらに勝機はない。

 だが、悩むウィザードとは逆に、キリトが静かに、しかし自信に満ちた表情で口を開いた。

 

「それなんだが、ウィザード……俺に考えがある」

「キリト君?」

「へぇ…いけそうなのか?」

「ああ。でも、この作戦は俺だけじゃ出来ない。アスナ、それに……アンタの力も貸してもらわなきゃいけない、ウィザード」

 

 考えがあると言ったキリト。その年相応の顔に、不安は一切見受けられない。

 その顔に、ウィザードは覚悟を感じた。必ず勝つ、という覚悟を。

 だから、ウィザードはその提案に賭けた。

 

「いいぜ。乗ってやるよ、その作戦に」

「すまない、ウィザード。アスナも、それでいいか?」

「私がキリト君を信じなかったこと、あった?」

 

 ウィザード、アスナ……双方が自身に全てを委ねているこの状況に、しかし幼き剣士は臆することなく、己が提案を語る。

 

「あまり時間が無い。手短に話すぞ。いいか、まずは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィザードを圧倒したコボルドロードが、威圧するようにゆっくりと、ゆっくりとウィザード達に歩みを進める。その手に持つ斧の射程圏内に三人を捉えると、ゆっくりとそれを高く掲げ、

 

「グアァアアッ!!」

 

 三人目掛け、降り下ろしてきた。

 

「ーーーいくぞっ!!」

 

 同時に、キリトから発せられた合図によって、三人は弾かれたように動きだし、降り下ろされた斧の回避に成功する。

 

「はああぁぁっ!!」

 

 斧が叩きつけられて舞った砂ぼこりに紛れ、コボルドロードの死角からその姿を現したアスナ。その手にした『ランベントライト』は、青白い光を纏っている。

 

「せあぁあっ!!」

 

 光が集束しきったと同時に、手にした武器を真っ直ぐに突き出す。すると、コボルドロードの右腕に打撃音が三発響く。

 《閃光》の名を持つアスナの代名詞、超高速の"リニアー"である。

 

「グアァアアァアッ!?!」

 

(アスナは、奴の攻撃を掻い潜って、攻撃の手を止めてほしい。ほんの一瞬でいい、頼む)

 

 アスナに課せられた役目は、高速の剣技による不意打ち。

 超高速の連撃は流石に効いたようで、斧から手が離れる。アスナの役目を全うするには、十分すぎる威力だった。

 そして、その一瞬をウィザードは見逃さなかった。

 

(ウィザードは、アスナの攻撃が成功したら、奴の動きそのもの(・・・・)を止めてくれ。攻撃は俺に任せてくれ。アンタなら、できるだろ?)

 

「言ってくれるねぇ」

 

 ウィザードに課せられた役目は、所謂足止め。

 しかし、再び赤い仮面に戻ったウィザードは、仮面の下で飄々とした笑みを浮かべながら、新たな指輪を右指に嵌める。

 

『バインド!プリーズ』

 

 「拘束」を意味する指輪の効果により、複数の魔方陣が出現し、そこから現れた無数の鎖がコボルドロードの胴体を腕ごと縛り付ける。

 

「これでいいだろ。いけ!キリト!!」

「後はお願い、キリト君!!」

 

 充分すぎるほどにその役目を全うした二人の声が、残る剣士へとかけられる。

 己が片腕と呼べるエリュシデータをその手に掴み、野獣の如き殺意を纏った剣士は、二人の声に、はっきりと答えた。

 

「ああ!」

 

 そのままコボルドロードの元へと走り、両手に持つ剣を高く振り上げ、青き輝きを纏ったそれをコボルドロードへ叩き付けた。

 

「グアァアアァアアアァッッ!!」

「ぅぉおおおおおあっ!!」

 

 コボルドロードの悲鳴が響く。が、キリトはその手を緩めない。力の限り、二刀流最強の剣技、゛ジ・イクリプス゛をコボルドロードの体へ叩き込む。一撃、また一撃と、斬撃が命中する度に、コボルドロードから苦悶の叫びが響く。

 

(よし、効いてる!今度は効いてるぞ!!)

 

「これで、どうだああぁぁぁぁっ!!」

 

 確かな手応えを感じながら、キリトは、遂に最後の27発目の斬撃をコボルドロードに叩き込んだ。同時に、コボルドロードの声が止んだ。

 

 倒した。

 

 そう、思った。

 

「グルルルァア………」

 

 しかし、キリトの目に映ったのは、依然として赤く目をギラつかせているコボルドロードだった。その体に、ポリゴン化の兆しは無い。

 

「や、ばい……」

 

 キリト達の使うソードスキルには、使用後に硬直時間がある。キリトは今、文字通り全身が硬直していた。

 

「キリト君っ!!」

 

 このままでは、攻撃を避けられない。瞬間、運悪く、ウィザードの呼び出した鎖が千切れ、虚空へと消えていく。

 好機とばかりに攻撃のモーションに入るコボルドロードに、キリト達は為す術がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、しょうがねえな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレイム!スラッシュストライク!ヒーヒーヒー!ヒーヒーヒー……』

 

 ただ一人を除いては。

 その呟きの刹那、キリトの真横を猛スピードで赤い何かが過ぎ去った。そして、次の瞬間、コボルドロードの体を通過したかと思うと、その体はポリゴンとなり、虚空へと消えた。

 

「ぁ……」

「ぇ……」

 

 目の前の危機は過ぎ去った。ほんの一瞬の出来事に、二人の幼き剣士は茫然として、その場にへたり込んだ。

 そして、

 

「ふぃ~」

 

 ウィザードーーー改め、操真晴人はいつも通り一服を入れていた。

 

 剣士と魔法使いの共闘は、こうして終幕(フィナーレ)を迎えた。

 

 




と、いうわけで第一戦終了です。
さて、次は誰が出るんでしょうか?よろしければ、少しでも考えながら待っていただけると幸いです。

ではまた、次回で!


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