二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) (塩ようかん)
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 1話 その名はゾフィー

 どうも、私、塩ようかんと申します。指摘などがありましたら是非よろしくお願いいたします。


 

 その日、藍越学園から下校途中だった大谷 慎吾(おおたに しんご)は事故に遭遇した。

 

 慎吾が帰り道にしている陸橋の丁度中心あたりでフロントガラスがひび割れたトラックが煙を吹き上げながら横たわり、トラックの荷台は事故の影響かいびつに歪んで半ば程開いている。幸いか否かまだ帰宅ラッシュの時間では無かった為に人通りは少なく横転しているトラックに気が付いた数台の車は余裕を持って止まり、所謂、玉突き事故は起きていないようだ。

 

 慎吾は誰かが既にしているかも知れないが、とは思いながらも何もせずに傍観する事が出来ずに携帯電話で119を押す。

 相手が出た瞬間に簡潔に事故だと言う事とこの場の住所を相手に伝えて電話を切った慎吾は、ふと視線をトラックの前方に向けた瞬間にあるものが目に入り、それが何か気付いた時には思わず走り出していた。

 

 トラックの丁度、対面側の橋のガードレールに激突し半分以上車体を橋の外へと出してしまっている一台の車、そして窓から身を乗り出して必死に助けを求める少女と少女の母親らしき女性、集まった何人かの人々も二人を助けようとしているが車はほんの少し触れただけで大きく揺れ、今にも橋の下の線路に落下してしまいそうになり、手をこまねいているようだ。

 

「何て事だっ……!!このままじゃあ……」

 

 慎吾はたまらず声に出して叫ぶ。あの二人はは一刻も早く助けなくてはならない。救助は自分も呼んだし、他の誰かが既に自分より先に通報してくれたのかもしれない。が、いずれにせよいつ緊急隊員が来るかはハッキリ分からない。それまでに何か手は……。そう考えると慎吾は役に立つものを探すべく目と足で周囲を散策しだした。

 

「ん?あれは…………」

 

 と、慎吾は横転したトラック、その中途半端に開いた扉の中のシートが掛けられ不格好に崩れ落ちてる奇妙な膨らみの荷物のさらに奥、運転席側の荷台の壁にに梱包用なのか真新しいロープがかけられている事に気がつく。

 

「あれを使えば……っ!」

 

 気付くや否や慎吾は素早く扉を開き、走りながら荷台の中で倒れている邪魔な荷物をよじ登ろうと荷物に触れた瞬間、慎吾の中で凄まじい数の情報が広がった。

 

「んなっ!?」

 

 訳もわからず、声を上げて驚く慎吾。と、その時シートが掛けられた荷物がゆっくりと動きだし、シートが床にずり落ちる。そして、意識に流れ込む情報と自身の目その物で慎吾はそれが何か理解する。

 

「なっ……ISだと!?まさか…私がこれをっ……!」

 

 慎吾が記憶しているのは、通称『IS』インフィニット・ストラトスは宇宙進出の為に作られた飛行パワードスーツだったものだが、慎吾が密かに楽しみにしていた宇宙開発は残念な事に進まず、気付けば『兵器』に、そして今はスポーツとして使われている。そして、ISの特徴は女性にしか扱えない……。いや、最近になって初の男性操縦者が発見されたとニュースで放送されていた。そして、自分がこれを動かせると言うことはそれ即ち

 

「私が………二人目……」

 

 そう気付いた瞬間、慎吾の頭の中に不安や迷い、そして僅かな怯えが浮かぶ。と、その時、荷台の外から悲鳴と何かが陸橋から落ちる音が聞こえ、慎吾が僅かに視線を後ろに向けた瞬間、危うい所で踏ん張っていた落下して車が姿を消した。

 

 それを見た瞬間、慎吾の脳内の葛藤は嘘のように全消し飛び、体は自然に動いていた。

 

 そして

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁっ……!」

 

 気付いた時には慎吾は展開したISを纏って空を飛び、今にも地面に激突しそうだった車をしっかりと両手で受け止め車内の二人を助けていた。

 

「おい、あれってISじゃないか!?」

 

「しかも……あれって…男!?」

 

「二人目の男性操縦者が、人を救ったんだ!」

 

 事故現場にいた人々の注目が集まるなか、慎重に車を地面に下ろした慎吾は緊張による額の汗を拭いながら、ぼそりと呟く

 

「当然だが予想以上に注目を集めてしまったな……この先は苦労しそうだ……」

 

 

 

 その慎吾の呟きは当たり、まず『二人目の男性IS操縦者が発見されしかもISを動かして人命救助した』事が瞬く間にニュースになり慎吾はマスコミや政府の注目のの的になり、さらに貢献を認められた慎吾は感謝状と勲章を授与され、おまけに慎吾が助けた二人の親子がIS企業経営者の妻と娘だったらしく、家族を救った慎吾に感動した企業経営者が

 

「君には感謝しても感謝しきれない!だから、せめて私は君に、君だけの最高のISをプレゼントしよう!」

 

 自身の資産を資金としてフルに使い、懲りに凝った専用ISを渡すと約束し、そして………

 

 

 

 

「紹介しよう、慎吾君!我が社の持てるだけの技術を詰め込んだ我が社No.1のIS、そう君のISだ!」

 

 事件から、結構な時間が過ぎた日に慎吾のISは完成し、完成したばかりのISはさっそく慎吾に御披露目された。

 

「名前は『ZOFFY』!『ゾフィー』と読んでくれたまえ!」

 

「ゾフィー……これが私の専用機……」

 

 赤と銀のボディー、そして胸には慎吾の受け取った勲章をモチーフとした装飾品が付けられた。スマートな外観のISを見て慎吾は呟く。

 

 

 こうして慎吾とNo.1のIS 『ゾフィー』のIS学園での物語は始めるのであった




 駆け足感が抜けない……


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2話 IS学園のゾフィー

 戦闘回は次で直前辺りまでには来ますが今回はまだです。ご了承ください。


 慎吾が専用機『ゾフィー』を貰ってから数ヵ月後、つつがなく試験をクリアした慎吾は無事にIS学園へと入学した。

 だが、入学式を終えてSHを待つ今現在、慎吾自身の心境は穏やかなものでは無かった。

 

「(……さすがに年下の、それもクラスメイトが女の子ばかりのこの状況は……私と同世代の男なら喜ぶ奴も大勢いるのだろうが、私個人としては落ち着けないなぁ………)」

 

 慎吾は参考書を復習がてら軽く読んで学習していたのだが、周りの空気と視線に耐え兼ね思わず顔を上げて苦笑いをした。

 と、そこで顔を上げた慎吾の視界の端に少女ばかりの一組の中で唯一の例外である自分と同じ男子。さらに正確に言えば初の男性操縦者、織斑一夏の姿が目に入った。どうやら慎吾と同じく彼もまたこの状況に息苦しさを感じているらしく、よく見てみるとうっすら顔は青ざめ、額には脂汗が浮かんでいる。

 

「(織斑一夏……だったか。彼も私と同じく落ち着けないようだな。なんとか力を貸したいとは思うが………私自身がこんな状態ではな。すまない)」

 

 慎吾は親近感を感じたもう一人の男子である一夏を助けようと考えては見たものの、友好的な打開策は浮かばず心の中で頭を下げた。と、その時、教室の扉が開くと一人の小柄な女性教師が入ってきた。

 教壇に立った小柄な副担任の女性教師『山田真耶』はゆったりとした早さで名乗ると、クラスの皆に自己紹介をするように促す。

 

「えっと……次は、大谷君お願いしますねっ」

 

「……っ、はい、先生」

 

 自己紹介は所謂あいうえお順で始めていた為に、すぐに慎吾の順番になり。一生懸命な様子で慎吾に順番を伝えてくる真耶に、若干、吹き出しそうになるのを堪えながら慎吾は返事をして席から立ち上がった。

 

「私の名前は大谷慎吾、世間では二人目の男子とも言われているな。私が高校一年の時にISを動かせると判明したのでこのクラスの皆よりは僅かばかり年上だが、ISの知識についてはゼロから始まったばかりだ。どうか皆、よろしく頼む」

 

 慎吾の自己紹介が終わると拍手が鳴り響き、信吾はそれに対して軽く会釈すると再び席についた。と、ふと信吾は再び視界に恐らくは次に自己紹介をするであろう、相変わらず緊張しきった様子の一夏を捉えた。

 

「(織斑一夏……女性ばかりのこの学園ならば恐らく在学中は長い時間を彼と行動する事になるだろう。関係を円滑にする為にも建前でもいいから彼の事を知れると良いのだが……)」

 

 慎吾がそんな事を考えながら、クラスの女子生徒と共に一夏の自己紹介を待っていると、一夏は誤解によるトラブルに巻き込まれながらも何とか名乗り、そして

 

「………以上です」

 

 尻切れトンボもまだマシと言った感じに異様に短い形で自己紹介は終わり、女子の何人かはずっこけてさえいる。

 

「(おいおい、それはないだろう……まぁ、だが)」

 

 そんな事を重いながら慎吾はそんな様子がおかしくて小さく声に出さぬように笑う。

 

「(少なくとも悪人では無さそうだな……)」

 

 と、内心で密かに一夏に対する評価を上げていたのであった。

 

 その後、クラスの主担任であり一夏の姉でもある織斑千冬に一夏の良く言えば漫才を思わせるやりとりに今度こそ慎吾は耐えきれずに声に出して大笑いをしてしまったのだがそれは女子生徒の黄色い声援に書き消され誰にも気付かれる事は無かった。




 更新頑張ります


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3話 一夏とセシリアとゾフィー

 まだ戦闘はありません、予想以上に先になるかもですが必ず更新はします


「えと、大谷…さん、ちょっといい……ですか?」

 

 一時間目の授業が終了後、予習をしていた慎吾に多少、挙動不審な動きで近付いて来た一夏が若干緊張した様子で慎吾に話しかけてきた。

 

「あぁ、なんだ織斑?」

 

 慎吾は一夏の声を聞くと予習していた手を止め、顔を上げて視線を合わせた。

 

「えーっと、俺達二人だけの男子じゃないですか、だから大谷さんと仲良くなりたいなっ……て」

 

 そう言う一夏に、慎吾はふっと優しげに笑いかけな

 

「はは、そんなかしこまった態度を取る必要は無い。もちろんだよ織斑、世界でISを使えるただ二人が同じクラスに揃ったんだ。是非仲良くしようでは無いか」

 

「本当ですか!?良かったぁ……じゃあ、早速何ですがね……」

 

 慎吾の言葉に安心した様子の一夏が、何か言おうとした瞬間だった。

 

「すまない………ちょっといいか?」

 

 突如、慎吾と一夏を様子見で牽制しあっていた女子の中から一人、黒髪をポニーテールに白いリボンで結んだ女子生徒が話しかけて来た。

 

「……箒?」

 

「ふむ、織斑の知り合いか?」

 

 驚いたように名を呟く一夏に慎吾が訪ねる。

 

「あ、はい、こいつは篠ノ之箒って言って……俺のファースト幼馴染みなんです。会うのは久しぶりなんですけど……」

 

「なるほど幼馴染みか」

 

 それを聞いた慎吾は軽く頷き、箒に向けていた視線をちらりと動かして教室に取り付けられた時計に向けると一夏に言う。

 

「まだ時間は十分ある。私とは次の休み時間にでも話せばいいから、久しぶりにあった幼馴染みと話をしてくるといい」

 

「えっ、でも………」

 

「大丈夫、私の事なら気にするな」

 

 だめ押しのように言う慎吾に、吹っ切れたのか一夏は箒と共に人にあまり聞かれたくは無いのか、廊下へと出ていく。と、扉を開き教室から出ようとした一夏

に慎吾が声をかけた

 

「そうだ織斑、最後に一つ、私の事は大谷でなく気軽に慎吾と呼んでくれて構わないぞ」

 

「分かった慎吾さん!じゃあ俺も一夏でお願いします!」

 

「とっ………あぁ、分かった一夏」

 

 元気良く返事を返す一夏に、一瞬慎吾は驚きで膠着したもののすぐに返事を返すと二人が出ていくのを見送り、再び予習を始めたのであった。

 

 

 

                 

 

 

「大丈夫、私も共に学びつつ教えよう。なに、まだまだ皆に追い付けるさ」

 

「慎吾さん………なんかすいません」

 

 優しく励ます慎吾に申し訳なさそうに頭を下げながら一夏に言う。慎吾は予習の旅に読んでいた百科事典と見間違う程の参考書を片手に机の側に立ち丁寧に説明しながら自分も予習と復習と言う形で学びつつ一夏に教え、一夏はそれを聞きながら椅子に座ってノートを取っていた。

 

「しかし………電話帳と間違えて参考書を捨ててしまうとは………はははっ、今朝のSHと言い一夏は面白いな」

 

「ちょっ!?今それを掘り返さないでくださいよ!!」

 

 話している途中で先程の授業での光景を思い出し、軽く失笑した慎吾に一夏は慌てたように言う。

 

「はは、すまない。その詫びも兼ねて私がしばらく出来る範囲で力になろう」

 

「………お願いしますよ」

 

 軽くじっとりとした目で睨む一夏を軽く受け流しつつ、再び二人の学習が始まろうとしていた時だった。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 突如、二人に美しい金髪に澄んだ青い瞳を持つ一人の女子が話しかけて来た。

 

「…………構わないぞイギリスの代表候補生、セシリア・オルコット。基本は教え終えたしな」

 

 呆然としたままの一夏に変わりに慎吾が参考書を畳んで机に置きながら女子生徒、セシリアに返事を返す。

 

「あら、私の事をちゃんと知ってますのね。それ相応の態度と言うものを分かっているようで何よりですわ」

 

「我がクラスただ一人の代表候補生だしな。チェックはしていたさ」

 

 慎吾の言葉が気に入った自信たっぷりに言うセシリアに慎吾は特に態度を変えずに返事を返す。と、おずおずと言った感じで手を挙げる

 

「あのさ、さっきから聞こうと思ったんだど…………代表候補生って、何?」

 

 瞬間、聞き耳を立てていたらしい女子生徒が数人ほどすっころび、慎吾は顔を押さえてがっくりと肩を落とした。

 

「一夏……代表候補生についてはついさっき教えたぞ……」

 

「うえぇっ!?」

 

 ポツリと呟く慎吾に一夏は慌てた様子で自分が書き込んでいたノートに視線を移し、次の瞬間、顔は一瞬で青ざめた。

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

「い、いいんだ……私の教えが悪かったのもあるだろうしな………ゆっくりと行こう……ゆっくりと……」

 

 凄い勢いで頭を下げる一夏に慎吾は頭を抱えながらも何とか返事を返し、そのままセシリアの方をゆっくりと向き

 

「すまないセシリア・オルコット、急に時間が必要になった…。話は次の休み時間にしてくれないか?な?」

 

「わ、分かりましたわ!下々の者の要求に応えてるのも貴族の務めですし、ええ!そうですとも!」

 

 全体から負のオーラを出している慎吾に圧されたのか、セシリアは背一杯の強がりを言いつつ足早に立ち去って行き、後には慎吾と一夏だけが残された。

 

「すいません……ほんとスイマセン、慎吾さん」

 

「いいんだ、一夏……いいんだ……」

 

 気まずい雰囲気と申し訳なさの二つの効果があってかその後、一夏は次の授業開始まで高い集中力を発揮して背一杯勉強を続けたと言う。




 慎吾の口調をゾフィー兄さんに似せようと努力していますが……難しい


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4話 二人の意地とゾフィー

 やや苦しい展開かもしれません。指摘は受け付けます


 慎吾が残り少ない時間を限界まで使い、どうにか教えた内容を理解し、慎吾が何とか立ち直った所でチャイムが鳴って次の授業が始まり、千冬が教壇に立った。

 

「あぁ、その前に……」

 

 と、授業が始まると思いきや、思い出したかのように千冬がそう話を始めた。話の内容は再来週に始まるクラス対抗戦に向け、クラスの出場選手であるクラス代表を決めるのだと言う。なお、自薦推薦は問わない。と、千冬は最後に付け足した。

 

『(クラス代表…クラス長か。自薦推薦は問わない……ならば自ら進んでやろうとする相手がいなければ当然狙われるのは……)』

 

 そう思った慎吾がじわりと額から冷や汗を滲ませた時だった。

 

「はいっ、織斑くんを推薦します!」

 

「私は、大谷さんを推薦します!」

 

 クラスの女子生徒二人が素早く手を上げてそれぞれ一夏と慎吾を推薦した。

 

「では、候補者は織斑一夏、大谷慎吾の両名だな………他にはいないか?」

 

「(やはり、こうなったか……私と一夏はクラスに二人だけの男子。当然、注目の的だな……)」

 

 千冬の言葉を聞きながら慎吾は半ば予想していた結果ながらも苦笑いをする。と、そこでいてもたってもいられなくなったのか一夏が勢いよく立ち上がり叫ぶ。

 

「し、慎吾さんはともかく……俺も!?」

 

「一夏、どんな形とは言え私達が皆から選ばれたんだ。受け入れろ」

 

「席につけ、邪魔だ」

 

 しかしその声は慎吾の慰めと、千冬のバッサリと切り捨てるような言葉に遮られ、一夏は立ったままの状態で項垂れた。と、そんな時だった。

 

「ちょっと待ってください!納得がいきませんわ!」

 

 と、そこで強く机を叩きながらセシリアが立ち上がり、余程頭に来て冷静さを失っていたのか凄まじいばかりの剣幕で言葉を荒げ、一夏と慎吾よ二人そして果てには日本そのものについて酷評し始める。一夏も一夏でそれが癪に触ったのかお返しとばかりに反論し始めてますます騒がしくなり収拾がつかなくなりそうになった時、耐えきれなくなったように慎吾が静かに立ち上がり二人に向かって叫ぶ。

 

「いい加減に落ち着け二人とも!!今はクラス代表を決めているのだろう!?二人が今ここで互いを罵っているだけではどうにもならないぞ!!」

 

 突如、慎吾の同世代男子の中でも低いと評される低い声が響き渡った事で、驚愕により一瞬、教室は静まり返る。

 

「あ、あなたは口を……」

 

「で、でも慎吾さん………!」

 

 それでもまだ一夏とセシリアは不満があるのか慎吾に向かって反論しようとする。その様子に慎吾は再び頭を抱えるが突如、何かを閃めき一人言のように語り出す。

 

「ふむ……ならば、いっそのこと二人の決着を決めるのとクラス代表を決めるのを兼ねてISでの『決闘』と言う形を取ってみてはどうでしょうか……織斑先生」

 

「いいだろう大谷、それでは勝負は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコットそれから大谷はそれぞれ準備をしておけ」

 

 慎吾から突如、話を降られた千冬は特に動じた様子も無くそれに応じ、ついでに慎吾自身もまた『決闘』に参加するように命じる。

 

「……分かりました織斑先生。あぁ、それから」

 

 それを予想していた慎吾は軽く目を閉じてそれに答えると、着席する直前にクラスを見渡しながら言う。

 

「急に大声を出して悪かった、反省している。本当にすまない」

 

 心底申し訳なさそうに皆に向かって頭を下げると今度こそ席に付き、何事を無かったように始まる千冬の授業に参加していった。




 色々と言われてしまっているけどバードン戦ではゾフィーは頑張ってくれたと思います……改めてあの回を見てそう想いました


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5話 放課後と寮とゾフィー

 遅れながらも更新です、出来れば週一更新を守って行きたいです


「すまない一夏……私の勝手に巻き込んでしまって……」

 

 放課後、机上で今日のまとめの復習を教えていた慎吾はそう言って一夏に頭を下げた。

 

「いいですよ慎吾さん。俺もあのときはつい口が滑ってから止まれなくなっちゃって……慎吾さんが止めてくれなかったらどうなっていたか……」

 

「そうか………なら、いいんだが……」

 

「それにほら、まだ一週間も俺達には時間があるんじゃないですか」

 

 そう自信ありげに言う一夏。その言葉に慎吾は一瞬、呆気に取られたような表情をする。が、すぐに小さく笑みを浮かべた

 

「……うむ、そうだな『一週間もある』そう考えた方がずっと良い。よし、今日の復習を続けるぞ」

 

「はい、慎吾さん!……正直、勉強でもしてないと……やりきれないし」

 

 後半は小声でそう言いながら一夏は視線だけで一組の廊下や教室に押し掛けている他学年や、他クラスの女子達をそっと指し示す。集まった女子達は一夏や慎吾が何か動く度に数人で楽しげに話し合う。と、言った事をずっと続けていたのだった。

 

「その気持ちはよく分かるが……仕方がない事だな。彼女達が私や一夏に慣れるその時まで、私達は何とか堪えていこう。この学園の皆との関係を良くするためにも、な?」

 

 先程、視線を向けた時に集まっている女子達がさらに増えている事に気付き、机につっぷす形でぐったりする一夏の肩を軽く叩きながら慎吾は一夏を励ます。

 

「ですね……慎吾さん」

 

 慎吾の言葉でどうにか立ち直ったのか、一夏はまだ顔色は若干青ざめているものの机から顔を上げて弱々しい笑みを見せる。と、そんな時だった。

 

「ああ、織斑くんに大谷くん二人とも教室に残っていたんですね。よかったです」

 

 書類を片手に持った真耶が、二人に近づきながら話しかけてきた。

 

「山田先生どうしました?私達に何か用事がありましたか?」

 

 真耶に気が付き、視線を向けながら訪ねる慎吾。

 

「あ、はい大谷くん、大谷くんと織斑くん二人の寮の部屋が決まりましたよ」

 

 そう答えながら真耶は二人それぞれに部屋番号の書かれた紙と鍵を差し出す。

 

「……って、あれ?慎吾さん、確か俺達の部屋って……」

 

 と、一夏が不思議そうな表情で慎吾の顔を伺う。

 

「あぁ……まだ決まってはいないから当面の間は自宅通学だ……と、聞きましたが……もしや……急遽、変更が?」

 

 一夏の疑問に継ぎ足すように、慎吾が真耶に訪ねる。

 

「はい、そうなんです……政府からの特命で……二人とも聞いてませんでした?」

 

 と、質問に答える真耶は最後あたり二人だけに聞こえないようにする為にか妙に距離を詰めて話す。途端にクラス内外の人間の視線が一気に熱をおびた。

 

「あの………失礼ですが山田先生……距離が近すぎではないですか?」

 

「か、顔に、息、かかってます……」

 

「あぁっ!?そ、そのっこれは……」

 

 困ったような表情の慎吾と照れているのか顔を染めている一夏の指摘を受けた状況に気付いたのか真耶は慌てた様子で無意味に両手を忙しげに動かす。

 

「えっと、ともかく部屋の事は分かりましたから、荷物の準備の為にも今日はあとちょっとしたら俺達は帰っていいですか?」

 

 その空気がいたたまれなくなったのか一夏がそう真耶に言い、慎吾が了承がわりに軽く頷くのを確認すると、ノートを閉じ荷物を纏めようとした時だった。

 

「二人の荷物なら、私が手配しておいてやった」

 

 いつの間にか教室に入ってきたのか千冬が二人に告げる。

 

「どうもありがとうございます織斑先生。助かります」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「まぁ、生活必需品、あとは着替えと携帯電話の充電器それだけがな、十分だろう」

 

 やたら大雑把な荷物のラインアップに慎吾と一夏は苦笑し、その後真耶から大浴場などの説明を聞き若干のハプニングもありながら(慎吾は笑いを堪えるのが大変だったが)、二人は解放され並んで寮へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

「では、一夏ここでお別れだな」

 

「うう……俺も慎吾さんと同じ個室が良かった……」

 

 一夏の部屋1025号室からほど近い部屋、それも偶々人数調整の為に個室になっていた慎吾を恨めしげに見ながら、一夏が言う。

 

「こればかりは仕方ないな……何、部屋が近いことだし何かあれば私も行こう」

 

「本当に頼みますよ慎吾さん………」

 

 そう言いながら、慎吾は一夏を慰めると鍵を開けて部屋に入って行く。ドアが閉じる中、まだ諦めきれないのか一夏が慎吾に向かって懇願する。

 

「任せておけ、必ず行く」

 

 ドアが完全に閉じる直前に慎吾は背一杯安心させようと軽く笑いかけながらそう言い、静かに一夏に背を向けた。

 

「ベッドは二つか………まぁ、偶然発生した個室ならば当然か」

 

 慎吾は片方のベッドに手荷物を置くと、部屋の内装を確認するためにグルグルと歩き回る。

 

「シャワーがあるのは本当に幸いだな、これで思う事無くトレーニングに集中出来るというものだ。ふむ……そうなると私個人にとっても個室になれたのは予想外の幸運だったと言うべきかな」

 

 部屋のシャワーを確認した慎吾は、さっそく日課のトレーニングをするために制服を脱いでハンガーに吊るすと上はタンクトップ一枚、下は動きやすいジャージに着替え、さっそくとばかりに腹筋を始めようとしたまさにその時だった。

 

 バタン!ズドン!

 

 音にするならば、そう表現されるような激しい音が連続して響き、一瞬後に

 

「し、慎吾さん助けてぇぇぇ!!」

 

 と、言う一夏の悲鳴にも似た叫びが聞こえてきた

 

「どうした一夏!何かあったのか!?」

 

 その声を聞いた瞬間に慎吾は素早くクラウチングスタートのごとく床を蹴って走り出すと、そのまま飛び出すかのような勢いでドアを開く

 

「し、慎吾さぁん……」

 

 慎吾が扉を開くと、どういう状況か一夏は自室のドアを背にへたれこんでおりドアには数センチ程の風穴が空いていた

 

「一夏、こ、これは一体どういう状況だ……?」

 

 読めない現状に困惑した慎吾は思わず口に出して一夏に訪ねる。と、そこで慎吾同様に騒ぎを聞き付けたのか部屋から無防備な姿を晒した女子が次々と姿を表す。

 

「……なになに、あっ織斑くんと、大谷さん………って、大谷さんの筋肉すごっ!!」

 

「えー、見せて見せてー……うわっ、本当だ……ウチのお兄ちゃんの倍ぐらいあるよ……」

 

「制服着てたら分からなかったけど……大谷さん細マッチョなんだね……」

 

 女子達の注目は上半身がタンクトップ一枚の慎吾に集まり、一部は筋肉フェチなのか何かを堪えるかのようや表情で指を動かしてたり、ぼおっとした表情で慎吾の上半身の筋肉を見つめている者もいた。

 

「い、一夏、改めて聞こう何があった?」

 

 回りの声が気になるのか、若干、震えるような声で慎吾が一夏に近寄って訪ねる。

 

「じ、実はですね俺の部屋と同室なのが箒だったんですが……」

 

 一夏は慌てて、事の顛末を慎吾に話す。短く纏めればそれはシャワーあがりでほぼ全裸に近い箒を一夏が見てしまうと言うフィクション等で良く見かける所謂『ラッキースケベ』に遭遇した、との事だった。

 

「ぷっ、あっはっはっはっ……!」

 

「ちょっ慎吾さん!?笑わないでくださいよ!?」

 

 それを聞いた瞬間に慎吾は思わず吹き出し、慌てた様子で一夏はそれを止める。

 

「す、すまない……詫びがわりだ、私が何とか篠ノ乃を説得しよう」

 

 未だに残る笑いを堪えながらもそう言いながら慎吾は一夏をどかして1025号室のドアの前に立つと軽く3度ノックしてから話し出す。

 

「篠ノ乃、私だ、大谷慎吾だ。一夏は十分に反省しているので部屋に入れてやってはくれないか?今の一夏は……正直に言えば同性の私から見て、その…実に不憫なんだ。どうか頼む篠ノ乃」

 

 慎吾の言葉が終わって慎吾がドアから離れると沈黙が流れる。天を仰ぎ合掌している一夏を尻目に時間だけが数分過ぎ、再び慎吾が箒を説得すべくドアの前に立とうとした時だった。

 

「……入れ」

 

 突如、扉が開き、剣道着をまとった箒が姿を表した。

 

「お、おう……慎吾さんありがとうございます!」

 

 入室許可を得た一夏は慎吾に感謝しつつ慌てて部屋に飛び込んだ。

 

「ありがとう篠ノ乃、私の話を聞いてくれて」

 

 ドアを閉めようとする箒に慎吾がそう告げる。

 

「……一夏のせいで大谷にまで迷惑をかける訳にはいかなかったからだ」

 

 箒はそう慎吾に返すとドアを閉じる。

 

「(ふぅ……なんとか一段落か)」

 

 ドアが閉じられると慎吾は静かに額の汗を拭き取ると、部屋に戻りトレーニングを再開した。

 

 

 そのトレーニングに熱中し過ぎて慎吾が1025号室からの騒音に気付かなかったのはまた後の話である。




 ゾフィーのイメージから慎吾は細マッチョで長身って事にしました。タンクトップは……あの人モチーフですはい


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6話 朝の日常と専用機ゾフィー

 遅れながら更新です、出来れば今年までにもう一回は更新してみたいです


「朝か……」

 

 丁度、太陽が出たばかりの朝に目を覚ました慎吾はベッドから降りると洗濯したてのジャージに着替え、暖かいお茶を飲んで水分を補給すると、ストレッチでしっかりと体をほぐしてから、腹筋、腕立て伏せ、そしてIS学園内の施設を確認しながらのランニングといった感じで朝のトレーニングをこなしてから、自室のシャワーで汗を流し、制服に着替えた慎吾がゆったりと歩いて一年生寮の食堂にたどり着いた時には既に生徒が集まり賑やかになり初めていた。

 

「さて、座る席は……」

 

 注文した和食セットが乗ったトレイを手にもち、慎吾が座る席を探すべく食堂内を見渡しながら歩いていると進行方向の席に丁度座っている箒と一夏を見つけた。が、近付いて良く見てみると、先程から一夏が一生懸命と言った様子で箒に話しかけているのだが上手くは行ってないようで何やら剣呑な空気がただよっていた。 

 

「……おはよう一夏、篠ノ之。席を探していてな、私が隣に座っていいか?」

 

 その様子を見た慎吾は何とか空気を変えるべく二人に話しかけた。

 

「あっ慎吾さん、おはようございます!あっ、席どうぞ!」

 

 慎吾の姿を見たとたん一夏は嬉しそうに慎吾に手を降りながら笑顔で自分の隣の席を進める。 

 

「一夏からは許可は貰ったが………篠ノ之は私が座っても大丈夫か?」

 

 座ろうとする直前、トレイを持ったまま慎吾は箒の方に向きながらそう訪ねる。

 

「好きにしろ………」

 

 それに対し箒は、一瞬だけ慎吾を見てそう言うとすぐに視線を外した。

 

「では遠慮なく」

 

 箒からも許可を貰った慎吾が迷いなくトレイをテーブルに置き、椅子に腰掛ける。

 

「お、大谷さんと織斑くんっ!隣いいですかっ!?」

 

 と、そこでいつも間に集まっていたのか女子三人が慎吾と一夏の反応を待つかのごとく立っていた。

 

「あぁ、私は構わない。一夏はどうだ?」

 

「あ、俺も大丈夫です」

 

「…………よしっ!」

 

 あっさりと二人からの了承を貰い、二人に話しかけた女子は小さく声を漏らしながらガッツポーズをし、後ろの二人はハイタッチを決めていた。

 その後、三人の質問に答えつつ和やかなムードで一夏と慎吾は食事を進め、思ったより会話が弾んだために一夏と女子三人は千冬の大声で警告され慌てて朝食をかっこむ事になり、そんな四人を眺めながら既に食べ終わりトレイの返却をも済ませてた慎吾は食後のお茶を飲みながら、微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

「織斑、お前のISだが準備に時間がかかる。予備機も無いため学園で専用機を用意する事になった。少し時間はかかるがな」

 

「へっ?」

 

 慎吾の熱心な奮闘もあってグロッキーになりながらも何とか授業に付いてゆき、再び慎吾から授業のまとめを受けていた一夏は唐突に言われた千冬からの発言に困惑した。

 

「専用機………やはり一夏にもですか」

 

 教室中がざわめく中、どこか予想していたかのような口振りで慎吾は千冬に訪ねる。

 

「そうだ大谷、お前と同じ理由、データ収集を目的としてだ」

 

『えっ!?』

 

 慎吾の質問に答える千冬の発言を聞き、騒がしかった教室に一瞬にして、驚愕の声がシンクロする。

 

「も、もしかして大谷さんにも専用機がっ!?」

 

 と、勇気を出した一人の女子が一歩前に踏み出して訪ねる。

 

「あぁ、私は企業の尽力のお陰で結果的に一夏より早く貰っているがな」

 

 それに対して慎吾は軽く制服を腕捲りすると右手首に緑の宝石が埋め込まれた銀のブレスレットの状態で待機している『ゾフィー』を見せた。そのとたん再び爆発するかの如く教室はざわめき始めた。

 

「え、えーと……」

 

 と、状況に理解が追い付けてない様子の一夏が弱った様子でそう呟く

 

「一夏、教科書六ページだ。朝、復習した所を思い出せ」

 

 見かねた慎吾がこっそり一夏にそう伝える。すると一夏は何とか記憶を絞りだそうとしてか暫く頭を考え

 

「な、なんとなくは今の状況が分かりました…」

 

「うむ、しっかり覚えてたようだな。よく頑張ったな一夏」

 

 苦笑しながらそう答える一夏に慎吾は笑みを見せ、努力した一夏を評価した。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 慎吾に誉められた一夏は嬉しそうに慎吾に礼を言うと笑顔を返す。

 

 そんな様子の二人を箒は羨ましそうに眺めていたのだが、それには一夏も慎吾も気付いてはいなかった




 もう少しで戦闘パートに行けるかもしれません。


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7話 クラス代表決定戦への前準備、そして開幕。起動するゾフィー

 何とか更新です、これが今年最後の更新になります。何とか今年中にゾフィーを起動させる事が出来て本当に良かった……


「慎吾さん、なんで箒の奴あんな急に怒ったんですかね?」

 

 箒の視線が外れた瞬間を見てこっそりと一夏が隣に座った慎吾に小声で訪ねる。

 

「ふむ……私は篠ノ之の事は殆ど一夏から聞いたことくらいしか知らないが……あの様子だと、どうやら一夏の知らない所で何らかの確執があったようだな」

 

 それに対して慎吾をもまた、小声で箒に悟られぬよう一夏に返事を返す。慎吾がクラスの皆に待機状態の『ゾフィー』を見せてから幾分か時間は過ぎて今は昼時、場所は食堂、慎吾、一夏、箒の三人は一つのテーブルにそれぞれ一夏と慎吾は並んで座り、箒は一夏の対面に座っていた。ちなみに食べているメニューは全員が日替わり定食である。

 

「確執ですか……うーん、俺にはちょっと」

 

 そう慎吾に小声で返すと一夏は頭を抱えて悩みだす。

 今、現在、こんな状況になった事の発端は幾分か前にさかのぼる。簡単に言えば一夏と慎吾、二人の男子が共に専用機を持つ事に教室の熱気は何が何やら分からない程にヒートアップし、一人の女子が千冬に箒は篠ノ乃博士の関係者かと質問にしたのである。それに対し千冬が肯定した為に教室の注目は慎吾と一夏から箒へとスライドし、箒に質問が殺到した時だった。

 

「何にせよ、篠ノ之自身が『あの人は関係無い』と言ったんだ篠ノ乃の為にもあまり深く立ち入らない方が良いだろう」

 

 未だにどこか不機嫌そうな表情で黙々と食事をとる箒を見ながらそう慎吾は一夏に耳打ちした。そう、質問責めにあってた箒は突如、大声を出して主張するとそのまま機嫌は直らず、休み時間に慎吾と一夏の元にやって来たセシリアから偶然話を降られた際には睨み返してしまう程だった。そんな状態の箒を何とかするべくこうして慎吾と一夏は強力して箒を食事に誘ったのである。

 

「お前たち………自分達から私を誘っておいてさっきから人に隠れて何をコソコソと話しているんだ?」

 

 と、そこで箒が流石に自身に隠れて話している一夏と慎吾の態度に業を煮やしたのか軽く睨み付ける様な視線で二人に言う。と、直ぐ様、慎吾は箒に視線を移して言う。

 

「あぁ、つい話に集中してしまってな。不快に思ったのなら私の責任だ、すまなかったな篠ノ乃」

 

「……謝罪は受け取った、次は無いぞ」

 

 と、言いながら箒は慎吾から軽く視線を反らし、慎吾を許した。

 

「そ、そういえば箒に慎吾さんっ!」

 

 そんな若干気まずい空気を変えようとしたのか一夏が若干、大きめの声でそう話題を切り出す。

 

「ISの事教えてくれませんか?このままだったら知識がある慎吾さんならともかく、俺じゃ何も出来ずに負けそうだし」

 

 一夏のその言葉を聞いた瞬間

 

「「はぁ……」」

 

「まさかの同時ため息!?」

 

 と、まさに一夏の言う通り完全にシンクロしたタイミングで慎吾と箒の口から同時にため息がこぼれた。ただし付け加えるならば慎吾は困ったように、箒は呆れたかのようにだが

 

「一夏………自己紹介で私が言ったように私はISについてはゼロからのスタート。せいぜい入学前に参考書の内容を暗記していた程度でISの技術的面ではまず力になれない。私が言い出した決闘なのだが………すまない」

 

「ふん、元はと言えばお前がくだらない挑発に乗るからだ」

 

「うっ……そ、そこを何とかっ!」

 

 二人の言葉を聞いても引き下がる訳にはいかない一夏は、拝むように手を合わせて慎吾と箒に頼み込む。

 

 すると、慎吾はふむ、と声に出し顎に手を当てて一瞬だけ考え込むような動作をすると静かに一夏に訪ねる。

 

「一夏、今現在もしくは過去に武術の類いを習った事はあるか?」

 

「えっ?あ、はい、昔は箒と剣道をやっていましたけど………」

 

 慎吾の問いに一瞬、驚きながらもなんとか質問に答える。それを聞いた瞬間に慎吾はしめた、といった様子の笑顔を見せた

 

「よし、それならば策はある。ISが操縦者自身が身に付けて戦うパワードスーツという形を取っている以上、効率よく体を動かして戦う武術を知っているのは間違いなく戦いにおいての力になる。一夏、この一週間の間に過去のブランクを出来る限り振り払うんだ」

 

「そ、そう上手く行きますかね……」

 

 やや自身無さげに言う一夏。と、そこで慎吾は箒に視線を移した。

 

「大丈夫だ一夏、何故なら今ここに過去の一夏の剣を知り、なおかつ剣道の全国大会の覇者がいる。……一夏の剣道強化特訓に協力してくれるか篠ノ之?」

 

「えっ?」

 

 箒は突如、慎吾から話をふられて一瞬呆けたような表情を作るが慌てて表情を無理矢理に元のキリッとした顔に戻すと

 

「ふ、ふん、そこまで言うのなら無下にも出来ん。一夏、放課後に剣道場に来い。今のお前がどの程度か見極めてみっちり鍛え直してやる」

 

「学習面は引き続き私が共に教えて行こう、そちらは心配するな」

 

 と、そんなやる気に満ち溢れた様子の二人の視線に晒された一夏は

 

「よ、よろしくお願いいたします……」

 

 と、冷や汗をかきながら奇妙な笑顔でぎこちない返事を返すしか無かった。

 

 

 

 そして、特訓の日々は矢のごとく過ぎ去り翌週、つまりは決戦の日、当日、慎吾、一夏、箒の三人は並んで第三アリーナのAピットで複雑な事情が絡み合ってごたついたらしく、未だに来ていない一夏の専用ISを待っていた。

 

「も、もう、やれる事は全てやったよな……?慎吾さん、箒」

 

 緊張しているのか武者震いなのか、若干声が震えている様子の一夏が二人に訪ねる。

 

「うむ、私は基礎知識の全てとその応用に付いて参考書の内容を出来る限り全てを一夏に教え、お前はそれを理解出来たと私は判断する。大まかには聞いているがそっちはどうだ?篠ノ乃……いや、箒」

 

「あぁ、最初は驚くほど弱くなっていてどうするべきかと思ったものだが……徹底的に鍛え直して完全に…とは言えないが大分ましな形にはなっただろう」

 

 互いに情報を確認しながら一夏に返事を返す慎吾と箒。そう、この三人はこの一週間、一夏を鍛える為に必然的に顔を合わせて相談する事なども多くなり、気がつけば互いに相手を名前で呼び会う程の仲になっていた。

 

「この日の為に一週間努力したのだろう?だったら後はもうそれをぶつけるだけだ。迷うこと無く全力で戦え」

 

 最後に慎吾はそう言って一夏を励ます。

 

「慎吾さん………」

 

「それに、相手はオルコットだけではない。私とも戦うことになるんだ気合いを入れてくれないと困る」

 

 元気を取り戻した一夏に、ほんの少しからかうような口調で小さく笑いながら慎吾は言った。

 

 本日のクラス代表決定戦は三試合に分けて行われ、初戦が今から始まるセシリア対一夏、次戦はセシリア対慎吾、そして最終戦が慎吾対一夏と言う流れになっていた。

 

「と、そういえば慎吾さんは何か訓練はしてたんですか?」

 

 と、そこで一夏は、自身の専用機が来るのを待つてがら、ふと気になっていた疑問を慎吾にぶつてみた。

 

「はっはっはっ、何、心配する事はない」

 

 しかし慎吾はそれを笑ってごまかし質問をはぐらかす。そんな時だった

 

「お、織斑くん織斑く……きゃあっ!」

 

 一夏を呼びつつ、こちらに向かって危なっかしい駆け足で目の前まで走って来た真耶が……勢いよく転んだ

 

「大丈夫ですか山田先生?」

 

 が、地面を激突する前に慎吾が動き、真耶の両肩をつかんで支える形で受け止めた。

 

「あ、ありがとう大谷くん………」

 

 間一髪、助けられた真耶は慎吾に恥ずかしそうに礼を言う。

 

「全く……山田君、教師がこんな事で生徒に助けられてどうする」

 

「千冬ね……」

 

 呆れたように頭を抱えながら表れた千冬に話しかけた一夏が秒速の勢いで出席簿で殴られる。痛みで悶える一夏を軽くスルーし、千冬は言葉を続ける。

 

「織斑、お前の専用ISが届いた。アリーナを使用出来る時間は限られてるすぐに準備をしろ」

 

 千冬や箒に押され、慌てながらも一夏は早速、届いた飾り気の無い白が特徴的な専用IS『白式』に乗り込むとピット・ゲートへと進んで行く。

 

「(一夏、私は絶対に勝てとは言わない、ただ最後まで諦めるんじゃあないぞ………)」

 

 ゲートが開き、空へと飛び立って行く白式を見送りながら、そう心の中で念じる慎吾。

 そして、試合は始まった。

 

 

 

 

 

「す、すいません……」

 

 試合が終わり、一夏は申し訳なさそうに慎吾と箒に頭を下げる。結果から言えば一夏は負けた。が、被弾を最小限な押さえながら浮遊するビットの特性に気付いての破壊、そして一次移行からの奮闘は慎吾も息を飲むほどだった。ただ最後に、セシリアからの初撃のダメージと一夏自身が専用装備である『雪片弐形』の特性を良く理解していなかったのが不幸になったのだ。

 

「なに、お前は良くやったさどうしても悔いが残ると言うなら次の私の試合で挽回して見せろ」

 

「ふん、あれだけ啖呵を切っておいて負けるとは……」

 

 そんな一夏をISスーツに着替えた慎吾が肩を叩いて慰める。一方、箒は不満があるのかつんとした態度で厳しい一言を放つ。

 

「さて………行くか」

 

 そんな箒を苦笑しながら見ると、まもなく開始される試合に向け、静かに慎吾は数歩ほど歩いて待機状態の『ゾフィー』を構えた。

 

 瞬間、赤色の波状のエネルギーが『ゾフィー』から放たれたかと思うと一瞬のうちに慎吾の姿を変え、慎吾の専用IS『ゾフィー』は展開された。

 

 翼やビットは無く慎吾の全身を包み込む銀を下地に赤色のラインが走る装甲、胸に取り付けられた青く輝く光球の周囲には慎吾が貰った勲章をモチーフにしたポッチ状の装飾、頭部を包んだ西洋鎧のようなトサカが目立つ銀の仮面は表情をすっかり隠してしまっているものの、銀仮面に取り付けられた目は丸みをおびてどこか優しげな表情に見えた。

 

「んなっ、全身装甲のISぅ!?」

 

「そ、そんなISは聞いたことは……」

 

 ゾフィーを初めて見た一夏と箒が共に驚きの声を上げる。

 

「一夏、私の戦いをしっかりと見ているんだぞ!」

 

 慎吾は仮面越しにそう一夏に伝えると、開いたゲートから滑らかな動きで空へと飛び出して行った




 のほほんさんが慎吾を何と言うか今いち浮かんで来ません……。うーむ


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8話 ブルー・ティアーズvs ゾフィー

 戦闘回です、アレの出番はもう少しだけお待ちを……


「二度目の起動だがISは…ゾフィーは私に馴染む……まるで私の体そのもののようだ……」

 

 展開したゾフィーで風を切ってアリーナの空を飛びながら慎吾はふと思い返す。作りたてに近かったゾフィーを初めて動かして挑んだIS学園の実演試験。少ない時間の中、必死にゾフィーの特性を覚え予習していた参考書での知識を全投入し、慎吾なりに万全の体制で挑んだ。試験官の激しい攻撃にどれだけエネルギーを減らされゾフィーのエネルギー切れを知らせる装備である胸のカラータイマーがけたましく鳴り出してもなお慎吾は攻撃を止めようとはしなかった。が、結果はおよばず慎吾は試験に合格こそしたものの相手のシールドエネルギーを四割削り取った所でゾフィーのシールドエネルギーが空になり慎吾は敗北した。

 

「(今、考えてみればあの時の私には無意識ながらも専用機を入手した事への慢心、油断もあっただろうな……そうならないように鍛えてきたつもりだったが、私もまだまだと言うことか)」

 

 しかし、だからこそ慎吾は改めて誓う。

 

「(オルコットを見くびってる訳ではない、だが負けけるつもりは微塵も無い!)」

 

 そして、ゾフィーはアリーナのフィールド中央に到着し、先に来ていたセシリアに対面する形で制止した。

 

「待たせたな、オルコット」

 

「いえ、構いませんわ、大谷さん」

 

 そこで慎吾はおや、と声を漏らす。何の心境の変化があったのか一夏との戦いを終えて今現在、慎吾と対峙しているセシリアの態度や雰囲気は大きく変わって穏やかに落ち着いており、それは慎吾には真の淑女の雰囲気を思わせた。

 

「大谷さん、以前あなたにも失礼な態度をとってしまった事を今、ここで謝罪させていただきますわ。申し訳ございません」

 

 そう心底、申し訳なさそうに謝罪してくるセシリアに慎吾は苦笑する。

 

「(参ったな……オルコットの態度がもし、私と出会ったあの時と同じならば私から何か対策を取ろうと思っていたのだが……私が思っているよりも一夏は何かを持っているのかもな)」

 

「あの……大谷さん?」

                        

 不安げにたずねてくるセシリアを見ると慎吾は、気持ちを改め一瞬、セシリアから一瞬外していた視線を元に戻した。

 

「いや、オルコットがそう思って反省してくれるならば私は構わないさ。仲直りにがわりと言っては何だがお互いに悔いの無い試合をしようじゃないか」

 

 慎吾の言葉にセシリアは表情を一瞬、表情を明るくし、次の瞬間には引き締まった顔に戻っていた

 

「ええ……そうですわね大谷さん!」

 

「来い、オルコット!!」

 

 次の瞬間、セシリアのブルー・ティアーズの装備のライフル、『スターライトmkⅢ』から放たれたレーザーと、ゾフィーの重ねた両腕から発射された銛状の光弾、スラッシュ光線が同時に放たれると互いに正面から激突し、爆発を起こして相殺すると、その瞬間に試合は始まった。

 

「はぁっ!」

 

 スラッシュ光線を放ち、相殺を確認した後、即座に距離をつめに慎吾は勢い良く爆煙を突き抜けて正面のブルー・ティアーズへ向かって走る。が、セシリアは慎吾がそう動くのを読んでいたのか爆風を潜り抜けた直後、まさに雨のごとくゾフィー目掛けて降り注ぐ。

 

 そのビームの雨を慎吾はシュループを描くように動いて回避し、回避しきれないレーザーは移動しつつスラッシュ光線を放って相殺し、無傷でやり過ごしてさらにブルー・ティアーズに接近する。

 

「やりますわね大谷さん……でも!」

 

 ぐんぐんと距離をつめていくゾフィーに若干の驚きを見せながらもそう、セシリアが言った瞬間、ブルー・ティアーズから四つの自立起動兵器、『ブルー・ティアーズ』と機体と同じ名を持つBT兵器を出すと、セシリアのライフルに合わせるかのようにビットもまた移動しながらレーザーを発射して弾幕を作り出す。

 

「くうっ…弾が多すぎる……回避は困難だな」

 

 上下左右と多角に動き、なおかつスラッシュ光線を連打して相殺つつレーザーを回避していた慎吾だが、いかんせん襲い来る数が大きいぶんそれだけでは完全にはレーザーを防ぎきれず、数発の攻撃がゾフィーに食い込み、慎吾への衝撃と共にゾフィーのシールドエネルギーを削り取り、さらに衝撃でふらついたゾフィーに更なる追撃が襲い来る。

 

「この攻撃を防ぎきるには……全身をシールドで包み込むしか無い!」

 

 その瞬間、慎吾は回避を止めて空中に静止すると、近くまで迫ったレーザーをスラッシュ光線で相殺するとその場でゾフィーの腕をクロスさせその場で激しい勢いでゾフィーをグルグルと回転させる。その勢いが極限にまで達した瞬間、なんとゾフィーに迫っていたレーザーは回転するゾフィーに触れた瞬間、ゾフィーにはダメージは通らず鏡やガラス玉に当たったかのようにレーザーは反射されて出鱈目な方向へと飛んで行き、しまいにはライフルから放たれた一筋の閃光がゾフィーに反射されて自身のビットを撃ち落としてしまった。

 

「んなっ……!?」

 

「今だっ!!」

 

 あまりにと言えばあまりにも想定外の出来事にセシリアが驚愕のあまり、ほんの一瞬、弾幕が薄くなってしまった。その隙を見逃さず、慎吾はゾフィーの回転を止めて『瞬 時 加 速(イグニッション・ブースト)』を使い、凄まじい早さでビットに近寄るとチョップでビットを軽く破壊して撃墜した。 

 

「ぜやぁっ!」

 

 そのまま慎吾は止まらず、ブルー・ティアーズ本体に向けて進む。

 

「くっ……!」

 

 何とか冷静さを取り戻しゾフィーに向けて攻撃を再開するセシリア、しかし幾分か弾幕が薄くなってしまった今、ゾフィーにはほぼその攻撃は通らず、  軽々と回避またはスラッシュ光線での相殺、さらにあろうことか、エネルギーを貯めたゾフィーの腕でレーザーは叩き落とされた。

 

「弾幕が薄くなった分、動きが見えるし回避も出来る!これなら……」

 

 一気に距離をつめていく慎吾はそう確信し、再び隙を見て再び一機のビットを蹴りつけて破壊しビットが爆発した。

 

「かかり……ましたわ!」

 

 と、その瞬間セシリアは待っていましたとばかりに、にやりと笑うとビットの爆風で一瞬、視界が遮られた慎吾にレーザーでは無い二機のミサイルが飛んできた

 

「しまっ……!」

 

 セシリアの腹部から広がるスカート状アーマーが駆動しそこから放たれるミサイル、ブルー・ティアーズ最後の二機。それを慎吾は一夏との戦いを見ていた事で知っていた、知っていたのだが攻撃したタイミングを見られた今、もはや回避するのにも防御するのも慎吾には出来なかった。

 

「ぐわあぁぁぁぁっ!!」

 

 決死の覚悟で慎吾は回避を試みたものの、ミサイルは二機ともゾフィーに直撃しゾフィーのシールドエネルギーの低下を知らせる胸のカラータイマーが鳴り出すと、慎吾の悲鳴と共にゾフィーはきりもり飛行でアリーナの地面に向けて降下し始めた。

 

「これで閉幕ですわ!」

 

 そんな慎吾にとどめを刺すべく、セシリアは残り一機のビットとライフルでゾフィーに弾幕の雨を降らせる。落ちて行くゾフィーに容赦なく攻撃が命中しシールドエネルギーを削っていく、が、そこで慎吾の目がカッと見開くとゾフィーを反転させ、ブルー・ティアーズへと向き直る。

 

「(残りエネルギーは少ない今、『アレ』は使えない今、これで勝負するしかない。直撃しても勝てる見込みは低いが……)」

 

 慎吾はゾフィーの両腕を一瞬、高々に上げるとそのまま水平にした両腕をそえるように胸にそえる。

 

「(まだ勝負が付いていない今、絶対に最後まであきらめはしない!)」

 

 降りしきる攻撃の雨も、今だに止まらない落下ももろともせず、両腕を正面に突き出して慎吾は叫ぶ

 

「Z………光線!!」

 

 瞬間、稲妻状の青白い光線がゾフィーの両腕から放たれ、光線はブルー・ティアーズのレーザーを突き抜けビットを破壊し

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

「……くっ!!」

 

 回避しようとしていたセシリアに直撃して大幅にシールドエネルギーを削り取って大きく体制を崩し、同時にゾフィーが地面に激突しゾフィーが苦痛の声を上げる。その瞬間、決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者ーセシリア・オルコット』

 

 瞬間、名勝負を祝福する歓声がアリーナから響き渡った。

 

 

 

 

「敗北……か」

 

 歓声を耳にしつつ、倒れた姿のまま慎吾は呟く。なんて事は無い、オルコットを見くびっていたそれだけの事だ。そう、考えた慎吾はゾフィーの通信回線ででセシリアに告げる。

 

「参ったよオルコット私も全力を出したが……君の勝ちだ、流石は代表候補生と言った所か」

 

「いえいえ、大谷さんも素晴らしい戦い方でしたわ。とても初心者とは思わない動きでしたもの!」

 

「はは……ありがとう」

 

 そう、非常に嬉しそうな声で返事を帰すセシリアに慎吾は苦笑しつつ今回の勝負に自身がが悔いを抱いて無い事を知った。

 

「(オルコット……次の勝負は負けんぞ)」

 

 最も、悔いこそ無いだけで胸の中には決して消えない闘志がしっかりと輝いていたのだが




 ゾフィーがスラッシュ光線使うのはありでしょうかね?あと、戦闘描写にもっと工夫をいれたいです


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9話 ゾフィーVS 白式

 投稿です、出来れば三連休中にもう一回くらい更新したいです


 セシリアとの戦いから数時間が過ぎ去ったアリーナ、そこでエネルギー満タンまで補給したゾフィーを展開して夕日が差し込見始めたアリーナの中央で浮遊しながら腕をくみ、仮面の下では目を閉じながら慎吾は静かに待っていた。そして

 

「慎吾さん………」

 

 慎吾の正面に白式を展開させた一夏が現れた。その顔には迷いや不安、緊張と言った感情がごちゃ混ぜになり、非常に危なっかしさを感じさせた。

 

「一夏」

 

「は、はいっ!」

 

 突如、ぽつりと呟く慎吾に一夏がびくりと震えると、慌てて背筋を整えて返事を返す。

 

「私がお前に言う事は何も無い。一本勝負と行こうじゃないか、これまでの訓練、先程の私の試合、そこから学んだお前の全てを私にぶつけてみろ!」

 

 そう、高らかに告げる慎吾に一夏は一瞬、驚きで硬直するもの硬直から直った時には顔からは迷いは消し飛んだ。

 

「はいっ!慎吾さん!」

 

「……よしっ、では行くぞ一夏!」

 

 その言葉と共に一夏は雪片弐型を構え、慎吾は拳を握ってファイティングポーズを取り、二人の間に一瞬、あるいは長い沈黙が訪れ、それに呼応されて騒がしかったアリーナからの声も静まりかえる。

 

「でやぁぁっ!」

 

 そして、沈黙を先に破り気合いの声と共に慎吾に大上段からの切り込みを放った時だった。

 

「………がっ!?……はっ………」

 

「………………………」

 

 苦痛の声を上げて一夏は身を縮こまらせる。見れば一夏が降り下ろした雪片弐型はゾフィーの胸から数センチ程手前で止まり、反対に一夏の腹部にはカウンターとして放たれたゾフィーの右足がめり込んでいた。

 

「ぐっ……うおおおおぉぉ!!」

 

 どうにか立ち直った一夏はゾフィーから若干、距離を取るとゾフィーの格闘の範囲内に入らないよう注意しつつ雪片の範囲から連続切りを繰り出す。一夏も先程の先制ダメージを取り戻そうとしているのか剣撃は非常に鋭く、なおかつ恐ろしいほどの早さで次々と迫り来る。

 

「くっ……何と言うスピードと手数……よく鍛えていたようだな……だが!」

 

 慎吾はその連撃を繰り出した一夏の技量に驚愕しつつ攻撃をさばき、回避し、あるいは両腕で受ける面を最小限にしつつ防御しながら白式に接近し、一瞬の隙をついて連撃を掻い潜り、白式に手刀を叩き込んだ。

 

「うわぁっ!うぅっ……」

 

 一夏は怯みながらも何とかゾフィーにカウンターの要領で斬撃を繰り出す。

 

「ふっ……ぜやぁっ!!」

 

 しかし、その一撃はゾフィーの表面を僅かに削り取るのみで回避され、逆に隙を見せた白式にゾフィーの踵落としが叩き込まれた。

 

「うわあああああああぁぁっっ!!」

 

「……ふっ!」

 

 踵落としが直撃し、真っ直ぐに墜落していく白式がアリーナの地面に直撃しクレーターともうもうと立ち込める土煙か発生したのを確認すると、慎吾は白式を追うように緩やかにゾフィーを降下させた。

 

 

 

「んなっ……!馬鹿な……」

 

「私と戦った時もIS初心者とはとても思えない戦いでしたが……まさか、ここまでとは……」

 

 リアルタイムで慎吾と一夏の試合をピットのモニターから見ていた箒とセシリアは共に息を飲む。真耶もまた慎吾の初撃が決まった時からモニターの画面から全く目を離せないでいた。

 

「何、あれこそがあいつの一番得意な戦い方だからな」

 

 そんな中、千冬一人だけが冷静さを保ち、薄く笑いながら試合を見ていた。

 

「織斑先生、大谷さんの戦い方を知ってますの?」

 

 千冬の発言に驚きを隠せない様子でセシリアが訪ねる。

 

「あいつの実技試験の時に相手をしたのは私だったからな」

 

「「ええぇっ!?」」

 

 平然とそう言う千冬に再び、箒とセシリアの驚愕の声が重なる。

 

「勿論、手加減はしていたが……あいつは格闘戦で粘って私のシールドエネルギーの4割を削り取っていたな」

 

「「!?」」

 

 連続する爆弾発言に、三度、箒とセシリアの声が重なり、その内容が内容だったためにその言葉はもはや言葉になってはいなかった。

 

 そして、箒とセシリアが驚愕している間にも試合は動き、モニターの画面では未だに土煙が立ち込める中、アリーナの地面にゾフィーが降り立ち、何かを叫んでいた。

 

 

 

 

「一夏どうした、まだ余裕はあるだろ!?」

 

 渦巻く土煙に向かい、腕を組んだ姿勢で慎吾は叫ぶ。土煙の中、未だに倒れているであろう一夏に追い討ちを仕掛けるつもりは無く、ただ慎吾はその場に屹立して一夏の次の手を待っていた。

 

「まだ勝負はついてない!かかってこい!」

 

 慎吾がそう叫んだ瞬間、土煙が揺れた。風の流れから見れば明らかに不自然なその動きに慎吾が一瞬、腕組みを止めたその時だった。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 厚い土煙を切り裂き、『零落白夜』を発動させた一夏が声と共にゾフィーに突撃しながら切りかかってきた。

 

「くっ、近いっ……!」

 

 土煙を利用した白式に予想以上に接近され、回避が間に合わない慎吾に一夏は迷い無く袈裟切りを放つ。

 

 その瞬間、勝負が決すると誰もが確信した。

 

 ただ、『甘い』と呟いた千冬と、覚悟を決めて白式と向き合う慎吾を残して

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ぐっ……」

 

「そんな………っ!」

 

 零落白夜はゾフィーを切り裂く寸前、それも初手の一撃とは違い、数ミリに満たないほど極々小さな距離を残して、命中する寸前に一歩を踏み出したゾフィーの両腕に刀身ではなく白式の腕を捕まれ止められていた。

 そんな状況に完全に決まったと確信していた一夏は動揺して僅かに力が緩み、その隙を慎吾は逃さなかった。

 

「でぇいっ!!」

 

「がぁぁっ!!」

 

 刃を地面に叩きつけ、ガードが無くなった白式に慎吾はゾフィーの飛び膝蹴りを打ち込む。回避も防御も出来ず直撃を喰らった一夏は吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。

 

「うっ……ううう……」

 

 うめきながらも何とか雪片を杖のように地面に突き刺し、立ち上がろうとする一夏。しかし今、現在、白式のシールドエネルギーは慎吾の攻撃を受け続けた影響により枯渇寸前、対するゾフィーは半分以上が余裕を持って残り、カラータイマーも青々と輝き、なにより一夏自身の体力もまた度重なるダメージにより限界が近付いていた。

 

「……一夏、お前を突き放すような言い方になってしまうかもしれないが言おう」

 

 そんな一夏を見つつ、再び真っ直ぐに屹立して腕を組みつつ慎吾が静かに語り始める。

 

「オルコットとの戦いでお前は言ったな、織斑先生の……自分の姉の名を守ると。その気持ちに今、この瞬間でもこの状況でも一切嘘がないと誓えるなら……」

 

 そして慎吾は腕組みを止め、一夏に向かってアリーナ中に響くような大声で叫ぶ。

 

 

 

「立て!撃て!斬れ!」

 

 

 

 

「っっ!………うおおおおおおおおっっ!!」

 

 次の瞬間、一夏は勢いよく起き上がると、残る力の全てを使いきるかの如く怒濤の勢いでゾフィーに突進しながら『零落白夜』での居合い切りの一閃を放つ

 

「Z光線!!」

 

 その想いに答えるべく、慎吾もまた自身の必殺技であるZ光線を迫り来る白式に向けて放つ。

 

 

 そして、白式とゾフィーから放たれる二つの光が交差し、同時にブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

「……ううっ」

 

 Z光線が白式に命中し、一夏はそのダメージに膝を付いて崩れる。

 

「大丈夫か一夏?」

 

 試合が終わった事で闘気を解いた慎吾が一夏に話しかける。倒れた白式とは反対にゾフィーは未だに先程と変わらずしっかりと屹立していた。

 

「は、はい……何とか……いてて…」

 

 慎吾の呼び掛けに一夏は何とか笑顔を向けながらゆっくりと立ち上がる。が、やはり無理があるのか足元がおぼつかない。そんな一夏を見て軽く苦笑しながら慎吾が言う。それと同時に試合結果を伝えるアナウンスが流れた

 

「おいおい、しっかりしてくれ……せっかく」

 

 

『試合終了 勝者ー織斑一夏』

 

 

「せっかくお前が勝利したのだからな、負けた私が立っていて勝利したお前が倒れていてはしめしがつかん」

 

 そう、零落白夜とZ光線、この二つは全く同時に相手に命中したかに見えたが刹那、紙のような薄い差で零落白夜が先にゾフィーに命中しシールドエネルギーを全て削り取ったのだった。そして、白式はその直後にZ光線が命中して倒れたのであった。

 

「はは………慎吾さんに勝ったのは、その偶然みたいなものですよ」

 

「何、偶然だとしても今、この状況でそれをつかみ取ったのはお前の技量だ大したものだ」

 

 自信なさげに言う一夏を励ますと、慎吾は静かに右の手のひらを突きだした。

 

「いい試合だった……ありがとう」

 

「……は、はい、慎吾さん!」

 

 慎吾の行動に一瞬、驚きで固まっていた一夏も直ぐ様答え、二人は固い握手をかわした。

 

 そんな二人を祝福するべくアリーナからは慎吾と一夏、二人の名前が試合が終わった今もいつまでもいつまでも鳴り響いていた。 




 というわけで、慎吾のクラス代表決定戦の結果は、2戦0勝2敗で終了しました。
 M87光線やウルトラフロストは近いうちに使用しますのでしばしお待ちを


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10話 中国代表候補生とゾフィー

 更新が遅れてしまいました……そして、あの子が登場です。そして、アレの出番も近いです


「(偉そうな事を言っておきながらクラス代表戦の結果は全敗。私もまだ未熟者だな……)」

 

 クラス代表戦が終わり、セシリアの辞退により一夏がクラス代表に決まってしばらくが過ぎ四月は下旬。千冬が担当する実技授業中、ふと試合を振り返り慎吾は不甲斐ない結果に改めて頭をこっそりと頭を抱えた。

 

「大谷、織斑、オルコット、お前達が試しに飛んでみろ」

 

 と、そこで千冬に呼ばれた為、慎吾は慌てて思考を停止させ前に出ると、直ぐ様、待機状態のゾフィーを構える。

 

「(ゾフィー!)」

 

 慎吾がそう強く念じた瞬間、赤い波状の光に慎吾の体が包まれると一瞬のうちに全身装甲のIS、ゾフィーは展開され慎吾の体を包んでいた。そのスピーディな動作におお、と回りからは小さく歓声があがる。ゾフィーの装備を終えた慎吾が首を動かして回りを見てみると、既にセシリアと一夏も展開を終え地面から数10cmの所で浮遊していた。

 

「よし、飛べ」

 

 三人がISを展開し終えたのを確認すると千冬がそう言い、腕を動かして合図をした。

 

「ふっ……!」

 

 合図を見た瞬間、慎吾は掛け声と共に凄まじい勢いで垂直に上昇する。その後に若干遅れてセシリア、そしてセシリアからかなり遅れて一夏が続く。

 

「何をしている、スペック上の出力ではゾフィーとでもそれほどの差はつかないはずだぞ」

 

 その現状を見かねて、千冬が若干呆れた様子で通信越しに一夏に注意する。

 

「一夏、うまくイメージがつかめてないようだな」

 

 一夏の飛ぶ様子を見ながら慎吾は振り返り、そう通信で話しかける。

 

「そ、そう言われてもまだ空を飛ぶ感覚がつかめなくて………どう飛んでるかもまだ今一……」

 

「所詮イメージの話ですから、一夏さんがやりやすい方法模索する方が良いんですが……困りましたわね」

 

 慌てて慎吾にそう言う一夏に続き、セシリアもどうしたものか、といった感じの様子で言葉を続ける。

 

「説明は私とセシリアが大まかにはしたが……あれはあくまで分かりやすくした基礎的なものだからなぁ」

 

「あぁ、あの時の慎吾さんの説明はお見事でしたわね、私は慎吾さんの補佐をしただけですもの」

 

 腕を組み考え込む慎吾に、純粋に敬意を持ってる様子でセシリアが誉める。

 

 クラス代表戦終了後、改めてセシリアは一夏と慎吾に謝罪すると、積極的に一夏のコーチを手伝いだした。代表候補生であるセシリアが加わった事で一夏のISの知識と技術はさらに底上げされ、気付けば一夏と慎吾はセシリアとも互いに名で呼び会うようになった。それに答えてセシリアもまた慎吾を実の兄のように親しくある程度の敬意を持って、そして一夏には最初の態度とは正反対のように親身に接しながらも、隠せないほどの好意を向けていた。

 

「そうだ、私よりは代表候補生であるセシリアが教えた方が何かと都合が良いだろう。次はお前がメインで放課後の鍛練をしてみてはどうだ?」

 

「そ、そうですわね!それはいい考えですわ!」

 

 慎吾からの思わぬアシストにセシリアはアイコンタクトで慎吾に礼を述べつつ、すかさず賛同した。

 そう、慎吾はセシリアが一夏に向けている好意に気付き、密かにサポートを入れるようにしていた。最も、最近になって箒が一夏に向ける好意にも気付いてしまったが為にどちらかを贔屓する訳にも行かなくなり慎吾の悩みの種の1つになってしまったのだが。

 

「一夏っ!いつまでそこにいるつもりだっ!!」

 

 と、そこで堪えきれなくなったのか真耶からインカムをひったくった箒が大声で怒鳴る。が、直後に箒の背後に移動していた千冬に出席簿で殴られインカムを取り返された。

 

「うわぁ……ハイパーセンサーの補正で超、痛そうなのがハッキリと……」

 

 頭を押さえて痛みに悶える箒の様子を見ながら冷や汗を流して一夏が言う。

 

「箒さん……」

 

「出来る限りあれは受けたくは無いな……」

 

 同じくそんな箒の様子を見ていたセシリアは思わず同情し、慎吾は冷や汗を流して引きつった笑みを浮かべていた。

 

「大谷、織斑、オルコット、順番に急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

 

 と、そこで千冬の通信で指示が入ると瞬時に漂っていた妙な空気は消え去り、まずセシリアが軽く二人に挨拶すると真っ先に地上へと向かいだし、難なく完全停止もクリアした。

 

「さすがだなセシリア……では、次は私が行くとするか」

 

 それを確認すると慎吾が身構え、一気に地上へと向かう。慎吾が集中しながら降下を続けるとやがて地上が間近に迫り、慎吾はゾフィーのスピードを緩めて千冬の指示通りに千冬から10㎝以内で停止しようとする。

 

「とっ……!?」

 

 が、若干スピードを緩めるタイミングが遅かったのかゾフィーはスピードはかなり緩んでるものの足が地面にぶつかり、足元から小さな土煙をあげた。

 

「すいません織斑先生、速度計算をミスしました」

 

「よし、分かっているのならば次までに直しておけ大谷。いいな?」

 

 頭を下げて謝罪する慎吾に、千冬は一瞥すると意義を言わせない様子でそう告げる。

 

「はい、分かりました織斑先生」

 

 慎吾もまたそれに応じ、続いて一夏が急降下してきたのだが慎吾よりさらに酷い失敗をし……地面に激突してクレーターを作り上げた。

 

「かなりの勢いで激突したが……大丈夫か一夏?」

 

 クレーターの縁に立ち、慎吾は中心で倒れている一夏を見下ろす形で話しかける。

 

「はは……な、何とか……」

 

 周囲の女子生徒のくすくす笑いを受けながら、恥ずかしそうにしながら一夏は白式を上昇させて地面から離れた。

 

「全く……情けないぞ一夏。昨日、私達が教えただろう」

 

「仕方ないさ箒、一夏自身がイメージに慣れるまでは私達がサポートしながら待とう」

 

 いつの間にか慎吾の隣に来ていた箒が一夏を睨み付け、そう責め立てる。が、即座に箒の前に慎吾が立ち、宥めるかのようにそう言う。

 

「し、しかし………」

 

 多少うろたえながらも、箒が慎吾に反論しようとする。

 

「大丈夫ですか一夏さん?」 

 

 と、その時、二人のすぐ側を通りすぎてセシリアが一夏に話しかける。

 

「……っ!」

 

 それを見た瞬間、箒は慌ててセシリアに負けじと一夏へと向かい、瞬時に女の戦いが始まる。その様子をため息を付きながら慎吾は見送り、せめてもの助けとして授業終了後に一夏が課せられるであろう穴を埋める作業を手伝う決断をした。

 

 

「すいません慎吾さん……今日は穴埋めを手伝って貰っちゃっただけじゃ無く、訓練まで……」

 

「何、気にすることはない」

 

 時刻は過ぎて夜、一夏と慎吾は日課にしていた訓練を終え寮への帰宅道を並んで歩いていた。最も慎吾は本日、最後の訓練である学園一周のランニングが残っているのだが

 

「さて、今日の訓練では飛行訓練を中心に、後半は一夏の近接戦闘の参考に私と箒の模擬戦を見てもらった訳だが……何かつかめたか?」

 

 慎吾が本日の訓練を改めて振り返り、一夏に改めて訪ねた。

 

「えっと……飛行は何となくは……模擬戦は何か慎吾さんも箒も早すぎて……あんまり……」

 

 一夏はそれに恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。そんな一夏を見ながら慎吾は穏やかに笑い

 

「何、何となくでさえ形をつかめればそれに越した事は無い。これからどんどん成長していこうじゃあないかお互いに……な」

 

「そうですね……」

 

 一夏はそう自身無さげに呟きながら慎吾と別れて寮へ向かい、慎吾はさっそく学園一周のランニングをすべく走り出した。

 

「ん……あれは……?」

 

 慎吾が走り出してすぐ、慎吾は学園の正面ゲート近くで、ボストンバッグを持った小柄な少女を見つけた。少女は片手に乱雑に扱ったのかくしゃくしゃになった一切れ紙を持ち、何やら周囲を見渡していた。

 

「ぶしつけで悪いが……いいか?」

 

 そんな少女が気になった慎吾は走るのを止め、警戒させないように正面からある程度の距離を保って話しかける。

 

「あ、丁度良かった、あんた校舎一階総合事務所受付ってどこだか知らない?」

 

 突如現れた慎吾に少女は一瞬、驚いたような顔をするが小さく、ついてるっ!と、口にするとすぐに嬉しそうに慎吾に話しかけた。

 

「それならばすぐ近くだ、案内しよう」

 

 その少女の純粋な態度に慎吾は断る理由も無く、本日のトレーニングを中止し、少女を案内することになった。

 

 

「なるほど………凰は中国代表候補生なんだな」

 

「そう言う事。……にしてもいきなり二人目の男子に会えるなんて驚きだわ。あと、名前でいいわよ慎吾」

 

 向かう途中、互いに自己紹介を終えた慎吾と少女、凰 鈴音は会話をしつつ歩き、互いに名前で呼ぶことを許可していた。

 

「うむ、ここが総合事務受付だな」

 

「ん、案内してくれてありがとね慎吾」

 

 二人の会話は予想以上に弾み、予想よりずっと早く総合事務受付に付いた二人は別れ、鈴は軽く慎吾に礼を言う。

 

「なぁに……礼はいらないさ。まぁ……ただ」

 

 と、そこで慎吾は不適な笑みを浮かべて鈴を見る

 

「中国代表候補生のお前とその専用IS、落ち着いてからでも構わないから是非、手合わせ願いたい物だがな……」

 

「……強いわよあたしは?」

 

 鈴もそれに負けじと挑戦的な笑みを浮かべて返す。

 

「あぁ、その時を楽しみにしていよう……」

 

 慎吾はそう返すと、静かに背を向け立ち去る。慎吾と鈴の試合、それが叶う前に一つ大きな騒動が起こることは学園内に予想できる者はいなかった。




 タイトルに出ておきながら鈴の出番が少ないのが何とも……そして未だに、のほほんさんが慎吾に付けるあだ名を考え虫です


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11話 クラス代表決定記念パーティとゾフィーの失敗

 再び更新が送れてしまいました。何とか週一更新を守っていきますので宜しくお願いいたします


「織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

 次々とクラッカーが乱射され一組のクラスメイト達が次々と一夏を称える言葉を述べてく。そんな状況が息苦しくて仕方ないのか頭に乗ったクラッカーのテープを取ろうともせず、弱った表情の一夏を何とかしてやろうと思うのの、友好的な名案が浮かばない慎吾は結果どうすることも出来ずに困ったように笑いながら、頭のテープを払ってやりつつこっそり一夏に「頑張れ」と告げて励まし、一夏が一組クラスメイト、いや、明らかにそれだけでは収まらない数の少女達に囲まれているために、不機嫌になってる箒を落ち着かせていた。

 

「どもども、新聞部でーす。何かと話題の織斑くん&大谷くんの特別Wインタビューをしに来ましたー」

 

 と、そこで突然、騒がしさを増してく人混みを掻き分けながらカメラを首にかけ、眼鏡を身に付けた一人の女子生徒が一夏の前に現れる。と、そこで慎吾は女子生徒が着ている制服が目に入り二年生だと知った。

 

「では、最初は織斑君!激戦の末にクラス代表になった感想をどうぞ!」

 

 そうこうしている間にも、自己紹介を終えて名刺まで渡した少女、黛薫子は取り出したボイスレコーダーを一夏に向ける。

 

「え、えーと……とにかく頑張りたいです」

 

 ボイスレコーダーを向けられた一夏は突然の自体に動揺しながらも何とか立て直し、そう答える。

 

「えー。もっといいコメントが良かったなぁ……」

 

 仕方ないと言えば仕方ない一夏のコメントに薫子は不満げな表情を見せる。

 

「ま、いいや、次は大谷君からコメントお願い。あ、なるべく面白いのお願いね」

 

 が、すぐに表情を元に戻すと次は慎吾にボイスレコーダーを向ける。

 

「コメント……そうだな……」

 

 ボイスレコーダーを向けられた慎吾は思案するような表情を少し見せると、軽く咳払いした。慎吾のその厳粛な態度に周囲も思わず飲まれ、ざわつき立った食堂に奇妙な静けさが水を打つように広がっていく中、慎吾はくわっと目を開いて口を開く。

 

「一夏はワシが育てた!!」

 

 

 その瞬間、沈黙が広がった

 

 実際には1秒にも満たない時間だったのだろうが、慎吾にはそれが何十時間にも等しい長さに感じた。そして精神的負担が限界値に達した瞬間、慎吾は自分の意識が遠くなってくのを感じた。

 

 

 

「何て事だ……私なんかが無謀にも面白い事を言って見ようと思ったのがこの結果か……」

 

「ま、まぁ慎吾さん……黛先輩も『ある意味最高に面白かった』って言ってましたし……」

 

「とどめを刺してどうする阿呆」

 

 翌朝になっても慎吾は未だに精神的ダメージを引きずり、爽やかな朝でただ一人机に項垂れて暗いオーラを放っていた。そんな慎吾を気づかってか必死に一夏は励まそうと言葉をかけていたが、上手くいかず逆に慎吾の古傷を抉り、そこでついに箒からのツッコミが入った。

 

「はは………いいんだ一夏………いいんだ私は大丈夫」

 

 そんな一夏に弱々しく微笑みながらそう言う慎吾。が、明らかに誰が見ても全く大丈夫には見えない。

 

「そ、そういえば、織斑くんと大谷さんは転校生の噂は知ってる!?」

 

 そんな空気をどうにか変えようと一人の必死の様子でひきつった笑顔のまま二人にそう話題を繰り出した。

 

「……転校生の噂?」

 

「転校生ってこの次期に?」

 

 その話題に興味を持ったのか慎吾が項垂れてた顔を上げてる。一夏もまた気になるのか話の続きを待つ。

 

「うん、中国の代表候補生の子なんだって」

 

「(中国代表候補生……?)」

 

 突如としてもたらされた話題にクラス中が盛り上がり、そこから些細なきっかけを元にセシリアと箒の女の戦いが始まる中、慎吾ただ一人が明らかに記憶があるその肩書きに顎に手を当てて思慮にふける。と、その時だった

 

「ーーその情報古いよ」

 

「鈴……?」

 

 突如、教室のドアの方角から聞こえてきた聞き覚えのある声と、一夏の驚いた声に慎吾が思慮を止めて視線を移すとそこには昨夜、慎吾が遭遇した少女、鈴が肩膝を立ててドアにもたれていた。

 

「ふふ、そうよ、あたしが中国代表候補生の凰鈴音……って、慎吾、あんたもこのクラスだったのね」

 

「昨夜ぶりだな……鈴」

 

 と、堂々とした台詞を半分ほど言ったところで慎吾に気づいた鈴が慎吾に視線を移して話す。それに対して慎吾もまた軽く微笑んで返事を返す。

 

「えぇっ!?何々、名前で呼び会うって二人とも顔見知りっ!?」

 

 興味を持ったクラスメイトの一人が興奮した口調で慎吾に訪ねる。

 

「何、昨日の夜に鈴が道に迷ってる所を見つけてな、私が案内したんだ。その道中で名前で呼んで良いと許可を貰ってな」

 

「ま、そーいう事よ」

 

 興奮したクラスメイトをなだめつつ慎吾が説明し、鈴も付け足して慎吾の言葉を肯定ことでクラスメイトはやや不満そうにしながら納得し静かになった。

 

「って言うか、さっきは鈴は何で格好つけてんたんだよ?似合わなかったぞ」

 

「んなっ……!?今、その話を蒸し返す!?だいたいあんたは……」

 

「おい」

 

 クラスの空気が落ち着いた所で、話し出した一夏の言葉に思わず鈴は反論した……所、SHRの時間が近付いて来たためやってきた千冬からの出席簿打撃を受け、一夏に『また来るからね!』とだけ告げると天敵に遭遇した小動物のような勢いで鈴は去っていった。

 

 その後、一夏と鈴の関係を問いただそうと……ついでに何故か慎吾も巻き込まれる形でクラスメイトからの質問の集中砲火を受け、平等に席について無いクラスメイト達は千冬からの出席簿打撃をもらって崩れ落ちて行くのであった。




 今後のストーリーで……あの人、ウルトラマンヒカリを出すかどうか考えています。彼が最もゾフィーが年齢近い訳ですし。しかし仮に登場すれば話の都合上女性になってしまいます。なので未だに考え中です……


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12話 焼肉とゾフィー

 まず最初に謝っておきます。半ネタ回です……どうしても隊長を思い出すとこの話題が浮かんで離さなかったのです……


「お前のせいだ!」

 

「あなたのせいですわよ!」

 

「まて、落ち着くんだ二人とも。確かに一夏にも責任はあるかも知れないが、対する自分達には比べても全く責任は無いとは言わないだろ?…………それに器の大きい女性が一夏は好きだと私は思うぞ」

 

 昼休みが始まり、真っ先に授業中、一夏と鈴の関係が気になり上の空だった為に千冬の出席簿を受けた二人が一夏に詰め寄る。慎吾は手で制してそれを止めつて説得しつつ、最後に二人だけ聞こえるように小さく付け加えた。

 

「うっ………しかし……」

 

「そ、それは確かにそうかもしれませんけど………」

 

 慎吾の言葉を聞き、多少迷いを見せる箒とセシリア。

 

「何だか良く分からないけど……皆、話があるなら学食でメシ食いながらにしないか」

 

 と、そこで箒とセシリア二人の迫力に若干、押されて黙っていた一夏が提案する。その言葉に二人は『仕方ないから行ってやる』という事を強調しつつも明らかに嬉しそうな顔で賛成し、落ち着きを取り戻した。

 

「ナイスアシストだ……一夏」

 

 一夏の肩を軽く叩き、慎吾は小声でそう囁き、自信が先導する形で戦闘に立ち、食堂へと歩き出す。箒とセシリアは喜びを隠しきれない表情で、慎吾は『一夏も中々やるものだ』と見直す中、一夏ただ一人だけは

 

「(ナイスアシストって……俺、なんかしたかな?思ったままの事を行っただけなのに……)」

 

 と、状況が飲み込めず、かと言って下らない質問で和やかになったこの空気を壊す事も躊躇し、結局よく分からないままに皆と食堂に向かうのであった。

 

 

「あ、慎吾さんまた焼肉定食ですね、良く頼みますけど………焼肉、好きなんですか?」

 

 順番を三人に譲り最後に食堂で慎吾が注文した、焼肉定食を見て何気なく一夏が呟く。

 

「あ、いや……これはな……まぁ、いいか」

 

 指摘された慎吾は少し恥ずかしそうに頭を掻きながら少し迷い、やがて答えた。

 

「……昔の話なんだが………身内で小遣いやバイト代で資金を集めてのバーベキューがあってだな、私もそれに参加する事になったのだが偶々、遅刻してしまってな。遅れて駆けつけた時には皆、既に食べ始めていてな……私は殆ど食べれなかったんだ……」

 

 慎吾はそこで一度、言葉を止めどこか虚空を見つめる。気付けばその顔には何とも言い難い哀愁が漂っていた。

 

「勿論、遅刻した私が悪いのは分かっている。ただ……私は皆に余り良く思われていないのか、と考えてしまってな……恐ろしく虚しくなった……そして、気付いたら無意識に肉を求めるようになっていた……そんな下らない理由さ」

 

 最後に自嘲気味に笑って慎吾がそう話を締めくくる。

 

「は、はは………」

 

「……慎吾も苦労しているんだな」

 

「え、えーと、頑張ってくださまし慎吾さん!」

 

 三人はそんな慎吾の話が非常にやりづらいのか、一夏は乾いた笑いしか出ず慎吾に妙な質問をした事をした事を後悔し、箒は冷や汗を流しながら腕組みをして無難な事しか言うことを出来ず、セシリアは迷った挙げ句慎吾を励まし、辺りには奇妙な空気が流れた

 

「待ってたわよ一……夏。………って何、この空気?」

 

 そんな空気になっている事は露知らずに入り込んだ鈴が役一名、何も出来ずに呆然とするしか無かった




 バーベキューのあれは……確かに遅刻した隊長が悪いのは分かっています。しかしまぁ……あの扱いは……でも、きっと何やかんや言って事件が起きなければ兄弟達が隊長の分をしっかりと取っておいてくれたと思います。ウルトラ兄弟の絆の強さは最高ですから。確実かと


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13話 鈴との会話とゾフィー

 何とかいつもりより、早く投稿する事が出来ました。次回もこんなペースで出切ると良いのですが……


「全く……どうしてあんな空気になってたのよ、凄いやりづらかったんだからね!」

 

「その事については本当にすまなかったな鈴。返す言葉もない」

 

 あれから、どうにか普段通り落ち着きを取り戻した慎吾に鈴が呆れたように言い、慎吾はそれに頭を下げて謝罪する。

 今、現在、長テーブルを囲んで慎吾、一夏、箒、セシリア、鈴の五人が男女に別れて対面する形で座っており、一夏の対面には鈴が座っていた。

 

「鈴、いつ日本に戻って来たんだ?あっ、そうそう、おばさんは元気か?あ、そう言えばいつ代表候補生になったんだよ」

 

「おいおい一夏、そんなに一気に鈴に質問してどうする。答えられる筈がないだろ?」

 

 慎吾の謝罪が終わると同時に、鈴に矢継ぎ早に質問を投げ掛ける一夏を慎吾は慌てて制止する。そんな一夏の様子を見ながら一夏が若干、いつもよりテンションが上がっているらしい事に気が付いた。

 

「ホンとに少し落ち着きなさいよ……ってかアンタはいつの間にIS使えるようになってんのよ………」

 

 慎吾に制止されて恥ずかしそうにしている一夏を見てる鈴は溜め息を付きながらそう言う。と、その時、先程から堪えていたが、ついに我慢が出来なくなったのか箒とセシリアが同時にテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「こら、行儀が悪いぞ」

 

 慎吾がそう二人に注意するが全く耳に入っていないのか、二人はそのまま一気に一夏に詰めよる。

 

「そろそろ、二人がどういう関係だか説明してほしのだが……一夏?」

 

「そうですわ!いったい……ハッ、まさかこちらの方と……」

 

 静かな刺々しさを見せながら言う箒に続いて言葉を半分ほど言いかけた所で、セシリアが何かに気付いたような表情で手を口に当て驚きを見せる。そのやたらにドラマチックな動きに自然と周囲の視線も集まりだした。

 

「んなっ!?ち、ちがっ……べ、べべ、べちゅに……!」

 

 突然の質問に鈴もまた慌てているのか、呂律が回らず箸を持った手がサンバの如く派手に踊っていた。

  

「(これは……箒やセシリアに引き続いて鈴もだったか……)」

 

 そんな非常に分かりやすい変化で鈴が一夏に向けている気持ちを理解した慎吾は、この状況をさて、どうフォローをすべきかと考えていた丁度その時

 

「さっきから何の話かよく分からないけど………俺と鈴はただの幼馴染みだぞ?」

 

 約一名、状況が全く飲み込めて無い一夏が心底不思議そうにそう言い放った。

 

「………………………………」

 

 そんな一夏を鈴は無言で睨み付け、慎吾はどうしたものかと頭を抱えた。

 その後も一夏の天然っぷりは遺憾なく発揮され、放課後に一夏に二人きりのデートを誘った鈴を阻止すべき奮戦する箒とセシリアを宥めるのに慎吾は大分、神経をすり減らす事になったのであった。

 

 

「あれ、慎吾さん………今日は何か疲れてません?」

 

「何………訓練には支障は無いから大丈夫だ一夏」

 

 放課後、今日もまた訓練すべきアリーナに向かって並んで歩く慎吾、一夏、セシリアだったが、慎吾の顔に疲労の色が見えた一夏が何気なく訪ねる。慎吾はそれに少し弱々しげに答え、一夏に軽く笑いかけた

 

「(うぅ……もしや慎吾さんが疲れてらっしゃるのは私のせいでは……)」

 

 そんな慎吾を見て負い目を感じるのかセシリアはいつものような軽快な口上は出てこず、黙って弱々しくアリーナへの道を歩き、三人が同時にアリーナへと入った時だった

 

「えっ?」

 

「ふむ」

 

「篠ノ乃さん!?」

 

 同時に三人の声が重なる、一夏は驚いたような、セシリアは焦りを見せて、そして慎吾は何故か納得したように腕を組みながら言い、静かに言葉を続けた。

 

「なるほど、また一夏の練習の相手をしに来てくれたのか?箒」

 

「……あ、あぁ、一夏に頼まれたからな」

 

 慎吾に的を付かれ若干、反応が遅れたが箒が直ぐ様『一夏に頼まれて』を強く強調して言う。

 

「丁度いい、私は格闘戦、セシリアでは遠距離戦しか満足には教えられないからな……お前との戦いは近接武器を持った相手とのいい学習になる」

 

「そう言う事だ……一夏、刀を抜け」

 

 若干、嬉しげな慎吾の言葉が終わると同時に箒がそう言うと刀を抜刀して構える。

 

「お、おうっ!」

 

 それに対して慌てて一夏もまた雪片を構えると、周囲の緊張が最高潮に包まれ、まさに二人の対決が始まろうとした時だった。

 

「……頭では確かに一夏さんの為にはなると分かっていても……やはり納得は出来ませんわ!お待ちなさい!」

 

「セシリア!?」

 

 突如、セシリアが慎吾の制止を降りきり、箒と一夏の間に割って入り、その行動に怒った箒がセシリアを切りつけ、そのまま二人は戦い始める。

 

「全く……二人とも一夏の事になると熱くなりすぎだな」

 

 慎吾はそう言って苦笑いしながら小さく呟くと、ゾフィーを急発進させ、二人の間に入り込むと箒の剣撃を手刀で受け流し、セシリアのスターライトmkⅢの弾丸をスラッシュ光線で相殺し二人を押さえ込む。

 

「おい慎吾、邪魔するのか!」

 

「慎吾さん箒さんの味方をしますの!?」

 

「箒もセシリアも熱くなりすぎだ、少し冷静になれ」

 

 止めに入った慎吾に噛みつくように言ってくる箒とセシリア、それを慎吾は二人の攻撃を受け流して受け止めつつ何とか諭そうとする。

 

「えぇ……俺はどうすれば……?」

 

 そんな状況の中、一人だけ何もする事が出来ずに一夏はポツリと立ち尽くしていた。そして、そんな様子は箒とセシリアの怒りの標的になった。

 

「おい一夏!」

 

「何を立ち尽くしてますの!」

 

「ええぇっ!?嫌、だってどっちかに味方したら味方しなかった方が怒るだろ!?」

 

 二人に怒鳴り付けられた一夏はビクリと体を動かし、必死の弁論を開始する。

 

「「当然(ですわ)!!」」

 

 しかし直ぐ様、二人に声を合わせてそう切り捨てられると二人の標的は慎吾から一夏に変わった。そんな二人を追いかけながら慎吾はやれやれと呟き、一夏に告げる。

 

「仕方ない……急で悪いが一夏、状況が状況だ、予定変更で今から箒&セシリア、そして私とお前でのタッグの模擬戦を開始する!!」

 

「慎吾さぁぁぁん!?」

 

 唐突に告げられる無茶とも言える慎吾からの指示にギリギリの所でセシリアの銃撃を回避しながら一夏は悲鳴を上げる。

 

「一夏、サポートは私に任せろ!お前は思いっきり突っ走れ!」

 

 箒の斬撃を潜り抜けて蹴りでのカウンターを叩き込みつつ、慎吾は叫んだ。

 

「えぇぇいっ!もうなるようになれ!!」

 

 こんな状況でついにやけを起こしたのかついに一夏も雪片を構えて二人に突っ込んで行く

 

「はああああっ!」

 

「いい剣だが……隙はある!ゼェヤァァ!!」

 

「たぁぁぁぁっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その瞬間、アリーナからは三人の掛け声と一人の叫び声。そして銃声と金属音が桁ましく鳴り響き、その怒濤の音声はアリーナの外からもはっきりと聞こえたと近くを通りかがった多くの生徒から証言されたと言う……




 もう少しでM87の出番が来ますが……うまくショートカット出来ないという私の力不足が……ゆっくり進めて行きます


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14話 訓練終了と苦労するゾフィー

 慎吾のポジションは……どうも書いてる内にこの位置が一番しっくり来ますね。


「時間切れか………互いのチームの残りシールドエネルギーは………」

 

「はぁ……ひ、引き分け……ですわね……」

 

「くっ……流石に零落白夜とゾフィーの光線技の二つが相手では攻めあぐねる……」

 

 時間切れを知らせるブザーと共に、ゾフィー、ブルー・ティアーズ、打鉄が一斉に攻撃の手を止めて制止する。戦闘で乱れた息を整える慎吾、セシリア、箒は多少の差異はあるが三人とも汗を滲ませており、表示される互いのISのシールドエネルギーの平均低さが熾烈を極めた戦いを否応なしに連想させた。 

 そんな中、流石に疲労を見せている箒とセシリアを遠目に見ながら慎吾は額の汗を軽く拭い、アリーナの地面を歩いて他の三機に比べても特に少なく、首の皮一枚と言った様子でギリギリシールドエネルギーが残って倒れている白式を助け起こし、肩を貸して起き上がらせる。

 

「大丈夫か一夏?………すまない二人に翻弄されて何度か援護が遅れた」

 

「ぜぇぜぇ……い、いいですよ……ぜぇ……慎吾さんがいなかったら……俺袋叩きでボロ負け確実でしたし……」

 

 謝罪する慎吾に、今にも消えそうな弱々しい声と、非常に荒い息、そして滝のような汗と正しく疲労困憊と言った様子の一夏が弱々しく笑いかける。

 

「無駄な動きがまだ多い、鍛えてないからそう……いや、これほどまでの接戦では無理もないか……」

 

 そんな一夏を見て箒は軽く睨み付け叱責しようとしたが、ふと自身の体からも未だに汗が滲み出ている事に気がつき、言葉を止めた。

 

「ほ、箒、頼みがあるんだが……」

 

 と、そこでゾフィーに肩を貸して貰った状態のまま一夏が箒に話しかける。声は幾分か落ち着いたのか、大分元に戻っていた。

 

「今日は先にシャワー使わせてくれよ……流石にこの汗のままじゃあ……」

 

「……あぁ、私は構わないぞ。早く汗を流しておけ」

 

 声や呼吸こそ落ち着いて来たものの未だに滝のごとく流れている汗に気づいた箒は少しの間を了承する。

 

 その後、四人は今回の訓練を振り返って軽く話し合うと、男女に別れてそれぞれのビットに戻っていた。

 

 なお、一夏と共に慎吾がビットに戻る際に箒とセシリア両名から若干恨めしげな目で見られたのだが、疲労している一夏を気にしていた慎吾は気付く事は無かった。

 

 

 

「一夏、今日の訓練での動きは良かったぞ。頑張っているようだな」

 

 ゾフィーの展開を解除し、ピット内で常備していたタオルで顔の汗を拭いながら慎吾がそう一夏に告げる。

 

「あ、ありがとうございます慎吾さん!」

 

 言われた一夏は慎吾と同じく汗を拭っていた手を止め、非常に嬉しそうに頭を下げてすぐに返事を返す。

と、そんな一夏を横目で見つつ、慎吾はぽつりぽつりと静かに口を開き始めた。

 

「初めて戦ってた時に思ったんだが……一夏には生まれつきの才能がある。一夏は私より確実に強くなる……そう思うんだ………」

 

「お、俺が慎吾さんよりですか!?まさか、そんなぁ……」

 

 慎吾の言葉を聞いた一夏は信じられない、と言った様子で慌てて手で制してそれを否定する。

 

「何、謙遜する必要は無い。それに、これはあくまで私個人の意見だからな」

 

 しかし慎吾は特に気にした無くそう言いながら、最後に小さく笑う。と、その時だった。

 

「一夏っ!おつかれ!」

 

 ビットのスライドドアが開き、そう元気良く言いながら鈴が入ってきた。

 

「はい、これ濡れタオル。あとスポーツドリンクもあるわよ」

 

 鈴はそう言いながら次々と一夏にタオルとペットボトルを手渡す。

 

「お、サンキュー鈴!……お、しかもこのスポーツドリンクちゃんとぬるめだ……」

 

「えへへ……それが良かったんでしょ?」

 

 濡れタオルで体についた汗を拭き取りっていた一夏は思わぬ鈴の配慮に気が付き思わず感嘆の声をあげ、それを聞いた鈴もまた嬉しそうに笑い、気付けば自然と二人は楽しげに会話を始めていた。

 

「一夏と鈴……二人は本当に仲が良いんだな。私も少し羨ましいくらいだ」

 

 そんな二人を自身は会話に参加せず、微笑ましく見守りつつ着替えていた慎吾が着替えを終え、未だに会話を続けている二人に呟く。

 

「ふにゃっ!?……い、いきなり何言ってんのよアンタは!」

 

 その一言に鈴は一瞬で顔を真っ赤にし、大分うろたえた様子で答え。

 

「セカンド幼馴染みですからね、仲良いのは当然ですよ!」

 

 一夏は一切の悪気が無いであろう矢鱈に爽やかな表情でそう答えた。

 

「「…………………」」

 

 瞬間、鈴と慎吾二人の沈黙が重なる。その沈黙は言葉にこそしなかったものの確かな呆れが共に浮かんでいた。

 

「な、何だよいきなり?………ってか、慎吾さんまで」

 

 そんな二人の態度に一夏は軽く冷や汗を流し二人に訪ねる。

 

「べっつにー……」

 

 その言葉に鈴はぷいっと視線を反らしながら面白くなさそうに答え。

 

「一夏………それはお前の良さの一つなのかも知れないが……人を傷付けてしまう事も同時にあるんだ。発言には気を付けろ」

 

「うぇっ!?」

 

 慎吾は一夏の肩に手を置いて真剣な眼差しでそう告げ、そんな慎吾の態度の変化に一夏は不意を付かれて奇声を上げ、混乱した。

 

「まぁ、考えるのは後で構わない。今は早く着替えを済ませておけ」

 

 そう、一夏を落ち着かせるように言い聞かせながら慎吾は表情を緩ませて視線をゆっくりと外す。

 

「そ、そうですね……今日はせっかくシャワーの順番を譲って貰った事だし」

 

 慎吾の言葉に何とか一夏は落ち着きを取り戻し、そう元気良く答えた。

 

「シャ、シャワー!?しかも『今日は』!?ど、どういう事よ一夏!!」

 

 ………最後にとんでもない爆弾を残して。

 

 

「(………注意はしたが早速か……)」

 

 食い付くように次々と一夏に質問していく鈴、状況が上手く出来ておらず困惑する一夏。そんな二人を眺めつつ慎吾は小さく、これからどう一夏をフォローすべきかと悩んで溜め息をつくのだった。




 いつも皆も見守ってピンチの時に駆けつける………慎吾をそんな尊敬できるお兄さんにしようと苦戦しながら書いてます。


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15話 一夏と鈴の約束、ゾフィーの言葉

 最低、忙しくて更新がしにくいです……もっと執筆力が欲しいと日々、思います……


「し、慎吾さんこの状況どうにかなりませんか?」

 

「私も何とかしたいとは思うが……現状では下手に手を出せば問答無用で噛みつかれるだろうな。それも双方から」

 

 目の前で繰り広げられる修羅場に青ざめ身を縮こませながら一夏がそっと隣に立つ慎吾に訪ねる。それに慎吾は静かに首を横に降り一夏にだけ聞こえるように、そう言う。よくよく見てみると慎吾の顔にはうっすらと冷や汗がにじんでいた。

 

 ここはビットから移って寮の1025室、つまり一夏と箒の部屋。そこでは獣のごとく相手の一秒の隙も逃さないとばかりに睨み合い、互いに怒濤の勢いで言葉のドッジボールを交わしている箒と鈴。その気迫に圧倒される一夏。そして、どうしたものかと頭を抱えて悩む慎吾の姿があった。

 

 あの後、鈴からの質問攻めで箒と同室で生活してる事を一夏は明かしてしまい、その結果、夕食後に鈴が二人の部屋を訪れ開口一番に『部屋を変わって』と告げたのであった。

 

「えぇい、慎吾!お前はどう思うのだ!?」

 

「……まずは、落ち着くべきかと思うぞ。箒も鈴もな」

 

 そしてこの場に慎吾がいる理由と言えば、嫌な予感がした為に偶々一夏の部屋を訪れていたため『第三者の意見』と言う形で慎吾も交えて話に組み込まれているのが大方の理由である。……ちなみに残りの理由は、ほぼ半泣きとなった一夏に一緒にいてくれるよう慎吾が頼まれたからである。

 

「ねぇ、ところで一夏、約束は覚えてる?」

 

 と、慎吾と会話している隙を狙い、すり抜けるように一夏に話しかける。

 

「わ、私を無視するな!ええい、こうなったら………」

 

 その態度が癪に触ったのか箒が、ベッドの横に立て掛けてある木刀を取ろうとする。

 

「待て箒!……いいか鈴も聞いておけ、これ以上騒がしくすると、この時間に見回りしている織斑先生にも気付かれてしまうぞ?」

 

 それに気が付いた慎吾が大声で箒を制止し、ぼそりと継ぎ足すかのようにそう言った。

 

「うっ………」

 

「ち、千冬さんかぁ……」

 

 それを聞いた瞬間、思い出したかのように箒は思わず絶句と共に硬直し、鈴は今朝食らった出席簿の一撃を思いだし冷や汗を流した。

 

「……一夏と話があるのだろう?丁度、互いに話は平行線だったんだ。続けてみろ」

 

 静まった空気の中、絶句から落ち着きを取り戻した箒がベッドに腰掛けてそう呟く。

 

「え、えっと鈴、約束ってのはあれか?確か小学校の時の………」

 

 はれて箒からの許可が出た一夏が周囲の空気を伺うように恐る恐る語り出す。

 

「そ、そうよ!うん、それそれっ!」

 

 一夏の口から想いの通りの言葉が出てきたのが余程、嬉しかったのか鈴は一瞬で顔を満面の笑顔に変えて続きを促す。

 

「あれは確か………」

 

 鈴に促された一夏は記憶の糸を手繰り寄せ、ぽつりぽつりと過去の話を語り出す。そして、その会話を聞き終えた瞬間、慎吾は確信した。

 

「(毎日酢豚を……うむ、完全にプロポーズだな。しかし、小学生でプロポーズするとは……大胆だな。しかし……)」

 

 そこで慎吾はちらりと、『完全に記憶出来ている』と満足毛に笑いながら言う一夏を見て、小さく溜め息をついた。

 

「(困った事に一夏は全く、その自覚は無し……の、ようだな)」

 

 と、そう思った慎吾が再び溜め息を吐いた瞬間、鈴が勢いよく一夏の頬をひっぱたいた。

 

「最っっ低!女の子との約束をちゃんと覚えてないで笑うなんて信じらんない!犬に噛まれておっ死んじゃえ!!」

 

 そう、あらんかぎりの暴言を一夏に投げつけると、鈴は自身の荷物全部が入っていると言っていたボストンバックを片手にドアを蹴破るかのごとく部屋から出ていった。

 

「……大丈夫か一夏?」

 

「慎吾さん……」

 

 異様な程に静まった部屋で、慎吾が一夏を見つめながら話しかける。

 

「鈴は、泣いていたな……」

 

 慎吾は立ち上がり、静かにそう告げる。

 

「はい……」

 

 一夏はベッドに緊張が解けて崩れるようにベッドに座り込むと、小さく頷きながら答えた。

 

「一夏……人の記憶とは案外、思い込みが多い時もあるものだ。心底、今回の事をお前が悪いと思うならもう一度、もう一度だけ鈴との約束を思い出してみろ。出来る限り主観を捨てて……な」

 

「はい………!」

 

「ならば私からは何も言うことは無い……邪魔をしたな」

 

 一夏が肯定したのを確認すると、慎吾はそのままゆっくりとドアに向かって歩き、ドアを開いて廊下へと出ていった。そして、ドアを閉じる瞬間

 

「箒よ、あんまり一夏を責めてやるな……分かっているとは思うが一夏はあまりにも純粋なのだ……」

 

 と、だけ告げると自分の部屋へと戻っていき。部屋で着替えるとベッドに入り込んだ。

 

「やれやれ……やる事ばかり増えて行くな。が、それを何とかするのが年上の勤め……か」

 

 部屋に戻った慎吾はそう呟くと、静かに眠りについた。

 

 

 

そして翌日

 

「……やれやれ、運命とはかくも狙ってるかのように奇妙に動くな……」

 

 朝のトレーニング帰りに生徒玄関前に立ち寄った生徒玄関に張り出された『クラス対抗戦日程表』を見て自嘲気味にそう言った。

 

 そこに張り出された一組、一夏の対戦相手は二組。つまりは鈴だった

 

「現状を嘆いても仕方無い……私は私でやれる事を探すか……」

 

 そう決意した慎吾はその場を後にして歩き出す。

 

 しかし慎吾は知らない、運命は予想以上に過酷な道を仕掛けて来る事を

 

 その結果、慎吾がセシリアとブルー・ティアーズを相手にした時も、一夏と白式を相手にした時でさえも使わなかったゾフィーの最強の切り札を使用する事になるのを

 

 その時の慎吾はまるで予想出来なかったのである




 最後の方で理解されたでしょうが……はい、出します。近々……に、なると良いですが。


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16話 ちらつくゾフィー最強技と試合前の約束

先日、ウルトラアクトのウルトラセブンを購入いたしました。隊長も是非欲しかったのですが……とても値段が出る値段ではありませんでした


「やぁあああっ!!」

 

 時間は放課後、場所は幾分か日が沈み始めたアリーナ。

 そこで行われているゾフィーと白式の実戦的訓練で、まさに今、一瞬の隙を付いた白式の剣撃がゾフィーのガードをすり抜けて胸に命中し、ゾフィーは剣撃の勢いでそのまま転倒すると小さく土煙を上げてアリーナの地面に叩きつけられた。

 

「よし!今の一撃は素晴らしかったぞ一夏」

 

 慎吾は受け身を取った体制から土煙をなぎはらって起き上がり、そう一夏に惜しみ無い称賛の言葉を贈る。

 

「や、やったぁ!!」

 

 その言葉に一夏は思わず片手に雪片を持ったままガッツポーズで喜びを露にする。それを見て慎吾も納得したかのように腕組みをしながら頷くと、感慨深げに語り始めた。

 

「セシリア主体によるIS操縦技術訓練。私が教えた中近格闘戦。そして箒による剣術の指導……その全てがこうして成果になり始めたんだ。箒にセシリア、二人とも手伝ってくれて本当にありがとう……。感謝している」

 

 そう、言葉の最後に箒とセシリアに向けて頭を下げて慎吾は礼を言う。

 

「い、いえ慎吾さん、私は当然の事をしたまでですし………」

 

「……お前に礼を言われるような事はしていない」

 

 そんな慎吾にセシリアは軽く手を振って謙遜するように言い、箒は慎吾から視線を外しながら言うがその耳は僅かに赤く色付いていた。

 

「あ、そう言えば……慎吾さん、ゾフィーの『初期装備(プリセット)』って何なんです?確か、Z光線やスラッシュ光線は『後付装備(イコライザ)』何ですよね?」

 

 と、そこで一夏が思い出したかのように慎吾に尋ねた。すると、慎吾は少しばかり恥ずかしそうに笑い

 

「……それなんだが、ゾフィーの初期装備は少しばかり扱いが難しくてな。セシリアや一夏を見くびっていた訳では無いんだが中々使うタイミング無くてな……だが」

 

 と、そこで慎吾は言葉を止めて一夏、箒、セシリアを順に見ると珍しく強い自信を含んだ口調で次の言葉を口にした。

 

「それを命中させれば、相手がどんなISだろうと必ず倒す事が出来る。それだけは自信を持って言えるな」

 

 

「待ってたわよ一夏!」

 

「り、鈴!?」

 

 訓練が終わり、ピットに戻ってきた一夏と慎吾をそうよく響く声で出迎えたのは鈴だった。突然の訪問に一夏は声をだして驚き、慎吾は静かに冷や汗を流す。

 

「(セシリアと箒が反対側のビットにいるのが幸いか……二人を責めるつもりは無いが、二人が絡むと話がややこしくなってしまうからな)」

 

 慎吾が出来る限り思考を冷静にしながらそんな事を考えていると、鈴は一夏にぴっと指を突き付け.bz気味の顔で問いかける。

 

「それで、一夏。反省はした?仲直りしたいって思った?」

 

「い、いや、そんなこと言われても鈴がこの数週間ほど避けてたからなぁ……あと質問は一つにしてくれ」

 

 それに一夏は戸惑った様子で鈴にそう返す。どうやら残念ながら数週間では一夏は記憶の真相を思い出す事は出来なかったようである。そんな一夏の態度が若干、苛つきだしたのか少々語気を荒げて再び尋ねる

 

「あんたね……もし、女の子が放っておいてっめ言ったらそのまま放っておくの!?」

 

「えっ、何か変かそれ?」

 

 そう純粋に不思議そうに言う一夏に、鈴の額には青筋がピクリと浮かび、慎吾は困ったように笑って頭を抱えた。

 

「あぁ……もうっ!謝りなさいよ!!」

 

 どうやら我慢の限界が訪れたようで鈴が大声でそう一夏に怒鳴り付ける。それに対して一夏も一夏で納得いかないまま謝罪するのは納得いかないらしく、譲ろうとはせず鈴に謝る理由を聞こうとし、鈴はまさか自分が昔プロポーズをしたなどと答える訳にも行かず話は平行線へと向かっていく

 

「まぁ、二人とも一旦、落ち着け。……話は聞かせて貰ったが、つまりは一夏は自分が謝る理由を知りたい。鈴は一夏に罪を認めて誠心誠意の謝罪が欲しい。という事だな?」

 

 そんな状況を変えるべく、慎吾は一夏と鈴の間に割って入り、二人を落ち着かせるようにゆっくり話し出す。

 

「丁度……と、言っては軽率になってしまうかもしれないが、来週にクラス対抗戦が控えている。その試合の結果で雌雄を決してはどうだ?少なくとも私には二人がこのまま話していても解決はしなそうに見えるしな」

 

「いいわよ、その話、乗ったわ!」

 

「お、俺もそれで構いません!」

 

 慎吾の提案を聞いた瞬間、弾かれるように直ぐ様鈴が賛成し一夏も負けじと続く。

 

「二人とも賛成か。では、話はここまでだな?」

 

 二人の反応を見て慎吾は確認するように言い、二人が同時に頷くのを確認すると。うむ、と納得した様子で小さく口にした。

 

「じゃ、一夏、あたしに謝る準備しときなさいよ!」

 

 ピットから去り際、ドアの手前で振り返り、鈴が軽く挑発するかのように一夏にそう言う。

 

「おう、お前こそ俺に説明する覚悟をしておけよ!」

 

 鈴の挑発に売り言葉に買い言葉方式で、鈴を指差しそう告げる。

 

「い、いや……説明はその……」

 

 一夏の言葉に思わず鈴が頬を染めてどもった瞬間、狙ったかのようなタイミングでドアが閉まりピットには慎吾と一夏、そして沈黙だけが残された。

 

「(さて……私としては共に鍛えた一夏には勝利してほしいとは思うが……かと言って鈴の気持ちが理解できる分、鈴に負けて欲しいとは思えない……全く、ままならぬものだな……)」

 

 ビット内で打倒鈴目指して、静かに闘志を燃やす一夏を見ながら、慎吾はそんな事を考えてこっそり溜め息を漏らした。




 前話から引き続き、宇宙最強の光線の話題を引っ張ってます。一刻も早く出せるよう頑張って執筆していきますので……これからもよろしくお願いいたします。


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17話 白式VS甲龍!見守るゾフィー

 今日は何か調子が出てたので更新です。次の話も今週中に更新するつもりです。


 試合当日、会場となるアリーナは限界まで埋め尽くされ、立ち見は当然となり、それどころか会場に入れなかった生徒や関係者までいるほどだった。

 

「この一週間、皆で考えた特別強化メニューでしっかりと鍛えた……あとはお前次第だぞ……一夏」

 

 一夏の白式と鈴の甲龍、二機のISがアリーナに姿を表し、試合が今、まさに始まらんとする中、ビットからリアルタイムモニターで一夏を見守りながら慎吾がそっと呟く。

 その静かな緊張が込められた慎吾の言葉に箒とセシリアも少しモニターから目を離して慎吾を見つめ、真耶ははらはらと、千冬は不適な笑みを浮かべて慎吾に視線を送る。

 

 対面した鈴と一夏が何か言葉を交わしたかと思った後、アナウンスと共にブザーが鳴り響き。切れるその瞬間、鈴が動き。慎吾は声を漏らす。

 

「よしっ……!」

 

 

 そう、先に動いた鈴の甲龍の持つ青龍刀《双天牙月》が未だ動かない白式に命中する直前、カウンターとして放たれた雪片の剣撃が甲龍を弾き飛ばしていたのだ。

 試合開始、早々から決まった白式の強烈なカウンターに騒然とするアリーナの中。一部の、正確に言えばクラス代表決定戦を見ていた生徒や教師だけは気付いていた。

 

 たった今、一夏が放った開幕と同時に動いた相手へのカウンター。それがクラス代表決定戦でのゾフィーと白式の戦いで慎吾が披露した技に酷似していると。

 

 

 

「…………っく!あたしの初撃に合わせてカウンターなんて、やってくれるじゃないの一夏!でも、残念ね同じ手はもうあたしに通じないわよ!」

 

 雪片に吹き飛ばされながらも直ぐ様、体制を立て直して双天牙月で攻撃を仕掛けつつ、鈴が一夏に向かって叫ぶ。どうやら先程のカウンターに鈴は驚いてはいるようだが、表情から判断して全く怯んでる様子は無い。

 

「(まずい………カウンターが完全には決まらなかった!)」

 

 一方で一夏は鈴の攻撃を多少、危うい所を見せながらも何とか防ぎ、いなしつつ、顔に薄く冷や汗を流していた。

 実はと言えば雪片が甲龍を切り裂かんとした直前、鈴はとっさに背後に戻る事で直撃を回避しダメージを押さえていたのだ。つまり、端から見れば鈴に先制ダメージを与えた一夏が有利に見えるこの現状、実際には初撃のカウンターを鈴に軽減された一夏が出鼻を挫かれた形になっていたのだ。

 

「(とにかく、ここは一旦距離を取って……)」

 

 鈴の攻撃に押され出した白式が後退したまさにその瞬間。

 

「甘いっ!隙ありよ一夏!!」

 

 甲龍の肩アーマーが滑らかにスライドして開き内部の球体を見せ

 

「ぐわぁっ!!」

 

 中央の球体が光ったと思われた瞬間、一夏は見えない衝撃に吹き飛ばされ地表に打ち付けられた。

 

「これで、さっきのカウンターの分は返したわよ……」

 

 危うく暗闇に落ちそうになる一夏の耳には、そう得意気に笑う鈴の声が響いていた。

 

 

「い、今のは一体……?」

 

「ち、直撃するまで全く軌道が見えないとは……」

 

 ビットからその様子を見てい箒が呟き、慎吾も口を開いて驚きをあらわにしていた。

 

「箒さん、慎吾さん。あれは『衝撃砲』ですわ」

 

 と、そこでセシリアが二人の呟きに答えを出す。

 

「衝撃砲?」

 

 聞きなれない単語ににセシリアの言葉を一度聞き返す慎吾。セシリアはそれに無言で頷いて肯定し、言葉を続ける。

 

「そうですわ慎吾さん衝撃砲とは、空間に圧力をかけて砲身を生成。その際に余剰で生じる衝撃波を武器とする……」

 

「ブルー・ティアーズと同じく第三世代型兵器……か、厄介だな」

 

 セシリアに代わって最後の言葉を慎吾が呟き、困ったように首をひねる。

 事実、慎吾の言葉を証明するようにモニターには上下左右は当然として、何と背後からも迫り来る見えない攻撃に悪戦苦闘している一夏の姿が写し出されていた。

 

「…………………」

 

 そして、箒は何も言わずただ不安げに劣勢へと追い込まれていく一夏を片時も目を離さず眺めていた。

 

「なぁ……箒よ」

 

 そう口にしながら慎吾は箒の隣へと移動し、共に試合を眺める。

 

「安易に大丈夫だとは言わない…………だが今は信じてみようじゃないか。これまでの訓練を、そして何より一夏を」

 

「一夏……」

 

 慎吾の言葉に箒は小さく言葉をもらす、と、そこで慎吾がある事に気付きモニタを指差しながら箒に笑いかけた。

 

「見ろ、一夏はまだまだ諦める気はないようだぞ」

 

 慎吾が指差すモニターの先の一夏は攻撃の嵐の中で汗を流し息を荒げながらも、その目には勝負に勝ちに来ている強さが見えていた。

 

 

「うっ……ぐっ……」

 

 ありとあらゆる方向から迫り来る衝撃砲で少しずつダメージを削られ続け、一夏は苦悶の声を上げる。

 

「中々持ちこたえるじゃない、衝撃砲《龍砲》は砲身も砲弾も目にも見えないのが特徴なのに」

 

「(こ、このままじゃ押し切られて負ける……)」

 

 一夏を誉めるように……しかし衝撃砲、龍砲の連射は全く止めずに言う鈴に、一夏はジリ貧のこの状況に焦りだしていた。

 

「(だからって……諦める訳にはいかない!何か手を打たないと……こうなったら……)」

 

 が、当然ながら闘志を失っていない一夏は雪片を握りしめ、何かを決意した。

 

 そして、次の瞬間

 

「本気で行くぞ鈴っ!」

 

「……んなっ!?」

 

 一夏は迫り来る龍砲を避けるでもなく、防御するでもなく勢いよく甲龍に向かって走り出した。その余りにも急な行動に驚いた鈴だったが瞬時に冷静さを取り戻し、迫り来る白式目掛けて龍砲の雨を降らせた。

 

「あんたねぇ!……やけを起こしたってっ……!?」

 

「当たらねぇよ!」

 

 龍砲がまさに白式が迫ろうとした瞬間、一夏は今までの慎吾達との訓練で身に付けた『瞬時加速』で龍砲を回避する。

 残りの龍砲はセシリアとの訓練で進化したIS操縦技術が、箒との剣術で鍛えられた目が、そして入学してからずっと自分を支えてくれた慎吾の優しさを無駄にしたくないと言う一夏の気合いが、瞬時加速中でありながらも回避を可能にさせた。

 

「うぉぉおおおおおおっっ!!」

 

 そして一夏の渾身の一撃が鈴に決まりそうなまさにその瞬間。

 

 

 巨大な爆音と衝撃がアリーナ全体に響き渡った。 




 次回……ついにアレが出ます。たぶん……確実に


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18話 謎のISとゾフィーの切り札

 宣言通りについに出しました。そのせいか、気合いが入っていつもより長めです。


「い、今のは一体!?明らかに衝撃砲や零落白夜が出すような音では……」

 

 ビット内で試合を見守っていた突如として発生した爆に慎吾は思わず叫ぶ。モニターに移るアリーナのスージ中央からはもうもうと煙が立ち込め視界を遮る。状況から判断するに『何か』がアリーナの遮断フィールドを突き破って入って来たらしい。そして、煙が晴れた瞬間

 

『!?』

 

 千冬を除く、ピット内にいた全員の驚愕の声が重なる。

 

 煙の中から姿を表したのは巨大な一機の異形のISだった。

 

 そのISは深い灰色の体に、異様な程に長い腕にはビーム砲口が並び、肩と頭が一体になってるかのような頭部にはセンサーレンズが不規則に取り付けられ。そして何より特徴的なのが

 

「全身装甲!?……慎吾さんのゾフィーと同じ………?」

 

 セシリアは思わずそう声に出す。そう、そのISはゾフィーと同じく肌を全く露出しない全身装甲のISだったのだ。最も、ゾフィーが持っているような神秘性や優しさはそのISからはまるで感じれず、不気味な冷たさを放っていた。

 

「一夏!?」

 

 と、そこで静止していた謎のISが様子を伺っていた一夏と鈴目掛けてビーム砲を発射し、その様子を見た箒は一夏の身を案じて思わず悲鳴を上げる。

 が、危うい所でビームが命中する直前、一夏が鈴を庇う形で回避し二人は難を逃れ、熱線は地面に着弾して小爆発と共に小型のクレーターを作った。

 

「織斑くん!凰さん!すぐにアリーナから脱出してください!先生達が制圧に行きますから!」

 

 そこで真耶がアリーナの一夏と鈴に向かって、そう指示を飛ばす。余程焦っているのか声を出す必要が無いプライベート・チャンネルなのにも関わらず、小柄な体から一生懸命叫んでいた。が、慎吾は既にその意見が二人には通らない事を、モニターに映る一夏の表情を見て察して苦笑した。

 

「(……あのISはアリーナのシールドを貫通する程のパワーを持っている。そんなISの攻撃から客席の人々を守るために自分が戦う………そうだろう?一夏)」

 

 

「もしもし!?織斑くんも!鳳さんも!聞いてます!?もしもぉーし!?」

 

 直後、慎吾の予想は的中したようで真耶は大いに焦った様子で二人に必死で呼び掛けていた。そんな中でも千冬は特に動揺した様子は無く、優雅な動きでコーヒーをカップに注ぎだした。

 

「本人達がやると言ってるのだ。やらせても構わないだ……おい、何をする大谷」

 

「織斑先生……塩コーヒーはおすすめ出来ません」

 

 が、やはりどこか心に迷いがあるのか、コーヒーに塩を投入した所で気付いた慎吾が苦笑しながら千冬を止めた。

 

「む…………」

 

 指摘された千冬はただ一言、しかしどこか恥ずかしそうにそう呟くと静かに塩を運ぼうとしていたスプーンから塩山を落とし、改めて砂糖をすくってコーヒーに投入した。

 

「先生!わたくしにIS使用許可を!すぐに出撃出来ますわ!」

 

「私も準備は出来ています……織斑先生、どうか」

 

 と、そこでセシリアが手を上げて千冬に懇願し、慎吾も後に続いて真剣な表情で千冬に頼み込む。

 

「お前達の意気込みは分かった。だが……これを見ろ」

 

 そんな二人を見ると、千冬は溜め息と共にブック型端末にこの第2アリーナのステータスチェックの画面を表示させた。

 

「遮断シールドがレベル4に設定……!?」

 

「どうやらあのISの仕業のようだな……おまけに扉は全てロック。つまりは避難も救援を不可。くっ、万事休すか……!」

 

 そこに表示される最悪の情報にセシリアは顔を青ざめ、慎吾は歯噛みした。

 

「既に政府に助勢の要請は済ませた。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ……」

 

 千冬が落ち着いた様子でそう語る。が、よく見てみればその手は苛立ちを押さえれないようでせわしなく動いてる。

 

「むむむ……むっ、箒?」

 

 と、そこで慎吾はどうしたものかと思い悩む視界の先に、何かを決意した様子でビットから出ていく箒の後姿を見つけた。それを見た瞬間

 

 直観的に嫌な予感が慎吾の体を走った。

 

「すいません織斑先生、少し出ていきます!!」

 

「おい、大谷!?」

 

 直後、慎吾は千冬が止めようとする声も振り切り、ビットから走り出した。

 

 

「待て箒、何処に行くつもりだ!」

 

 ビットから数十メートル先で慎吾は箒を見つけ、肩をつかんで箒を止める。

 

「は、離せ大谷!このっ……!」

 

 肩を捕まれた箒は慎吾の手を振り払おうともがき、武術まで使おうとした。

 

「……そうまで離してほしいなら、私を納得させるんだな」

 

 が、剣での試合なら兎も角、格闘武術では慎吾の方が優れているらしく、箒の肩から慎吾の手が剥がれる事は無かった。

 

「……私は!黙って見ているだけなんて出来ない!」

 

 慎吾の手を振り払うのを諦めた箒が観念したように思いの丈を叫ぶ。その肩は叫びながらも静かに震えていた。

 

「行くんだな……アリーナに」

 

「……………………」  

 

 慎吾の問いに箒は無言の沈黙で返し、一瞬、周囲は静けさに包まれた。

 

「分かっているのか箒?その決断がどれだけ甘いのかを。ISを持っていない無防備のお前がアリーナに出るのだ、今も戦っている一夏や鈴の戦いの邪魔になるのかもしれないのだぞ?」

 

「それでもっ……!」

 

 咎めるように箒に告げる慎吾。それに箒は勢い良く振り向いて慎吾の手を払うと、真っ正面から慎吾を見て言い放つ。

 

「それでも……一夏が自分も危ないのに、皆を守る為に必死に戦っているんだ………。それをただ見ているだけなんて……やっぱり私には出来ない!」

 

 箒の目からは一滴、また一滴と静かに涙がこぼれ落ちていた。が、その表情は悲しみや怒り等のマイナスな感情は無く、真っ直ぐに揺るがない、強い決意を込めたものであり、慎吾はそれが例えどんな言葉を投げかけたとしても決して揺るがない事を理解した。

 

「箒…………やはりお前が一人でアリーナに行くのは無茶だ。私はクラスの年長者としてそれを止める義務がある」

 

 淡々とそう告げる慎吾に、箒の表情が一気に曇り絶望の色が見えだした。

 

「だからな……」

 

 が、その瞬間、慎吾は口角を上に吊り上げ笑顔を見せた。

 

「私が箒に同行して共にアリーナに行けば、私がゾフィーで箒を守れるから問題は無いな」

 

「へっ?」

 

 慎吾の突然の提案に箒は思わず間抜けな声を上げてしまう。

 

「さぁ、早く行くぞ。一夏に何かしてやりたいのだろう?」

 

 慎吾はそう言うと箒に向かって静かに手を差し出す。

 

「あぁ、行こう!」

 

 箒は力強く慎吾の手を握って答え、二人は同時にアリーナに向かって走り出した。

 

 

「一夏!!」

 

「気持ちは分かるが焦りすぎだ箒……後で二人に謝ろうな」

 

 アリーナの中継室に付くなり、真っ先に窓から見える一夏の姿を見て叫ぶ。ゾフィーを展開させた慎吾はそんな箒を注意しながら、箒が勢い良く開けたドアに運悪く頭部を強打して気絶してしまった審判とナレーターを介抱しながらドアを開き中継室の外へと移動させる。

 

「一夏!男なら……い、いやっ、一夏!負けないでくれっ!お願いだ!」

 

 そして、箒はアリーナの館内放送を利用して一夏に今、自分が出来る精一杯の気持ちを込めた言葉を叫ぶ。そんな箒の目は潤んでいた。

 

『し、慎吾さん!?箒が何でここに!』

 

 アリーナの窓から驚愕した様子が見えたのと同時に、プライベートチャンネルでそんな慌てた様子の一夏の声がゾフィーに受信される。

 

「すまないが説明は後だ。今、私が言えるのは……」

 

 と、そんな中、侵入してきた敵ISが先程の館内放送に興味を持ったのか発信者である箒に視線を向ける。

 

「箒は絶対に私が守る!お前は迷わず自分の策を実行しろ!」

 

 その瞬間、敵ISから箒の盾となるようにゾフィーが立ちふさがり、同時に慎吾は一夏に告げた。

 

『……はい!』

 

 慎吾の声に、すかさず一夏は返事を返して動きだし……数秒後に決着は付いた。

 

 

「なるほど……鈴の衝撃砲を利用してさらに瞬時加速の速さを高めて攻撃するだけでは無く、さらに零落白夜で遮断シールドの破壊……そしてセシリアの射撃で決着………いい手だな一夏。しかし……無人機のISだったとは……」

 

「むむむ……仕方が無いとは言え……一夏の奴め鼻の下を伸ばしおって……」

 

 ゾフィーを展開したままアリーナの地面に倒れた敵ISを見ながら分析し、一夏の戦略を褒め称えながら何かを考え込む慎吾。一方で箒は今回の勝利の功績者であるセシリアと楽しそうに話す一夏を見て悔しげ呟く。

 

「あぁ……私があの場にいれば……」

 

「箒、今は………っ!?」

 

 ぼそりと恨めしそうに何かを言おうとする箒を慎吾がゾフィーの展開を解除してフォローに回ろうとした瞬間、慎吾は気付いた。

 

 倒れたはずの敵ISが起き上がり、白式へと狙いを付けているのを。

 

「……箒、ドアの向こうに避難するんだ」

 

「し、慎吾!?ちょっと待………!」

 

 気付いた慎吾は有無を言わさず、箒をドアの向こうに移動させるとゾフィーのフルパワーのスクリューキックで中継室の防護ガラスを破ると外に飛び出した。

 

「(あのISの放つビームは具体的な数値は不明だが遮断シールドすら突き破る力を持っている……白式を守りに行くには間に合わない………。ならば『確実に倒せる』攻撃で一撃でビームごとあのISを撃破する!)」

 

 そう判断すると、慎吾は空中でゾフィーの両腕を水平にして胸の前で構え、敵ISに狙いを定めた。その瞬間、構えたゾフィーの腕は青く輝き凄まじいエネルギーがゾフィーの腕へと蓄積されていく。

 

「みんな、後ろに下がれ!」

 

 慎吾が間もなく発射する技を前に、警告の声をアリーナ内にいた三人に叫ぶ。突然アリーナに表れたゾフィーに驚きを見せる三人だったが、慎吾の明らかに何時もとは違う鬼気迫る慎吾の声に、咄嗟に指示通りに後退した。

 と、その瞬間、敵ISの最後の一撃、今まで放っていた物より太いビームが発射された。が、

 

「M87光線っ!!」

 

 そんな一撃はこの技の前では風の前の塵に等しかった。

 

 水平にした右腕を胸に付けたまま、真っ直ぐに伸ばしたゾフィーの左腕から放たれた青白い光線は唸りをあげながら敵ISのビームに当てると、ビームなどまるで関係ないが無いかのようにねじ伏せて押し返しながら敵ISへと一直線へと向かって行く。そして

 

 M87光線は見事敵ISへと直撃し、その体を凄まじいエネルギーによる爆発と共に粉々に砕いた。

 

 

「こ、これが慎吾さんの……とっておき……」

 

 M87の直撃で跡形も無くなった敵ISを見ながら一夏が呆然としたように呟く。鈴とセシリアもまたその破壊力に圧倒され手何も言えず、アリーナ内には爆発による煙が静かに漂っていた。




 M87光線、呼び方は所説ありますがこの小説内では

 M87光線(えむはちじゅうなな)とさせていただきます。


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19話 引っ越しとゾフィー 

 ようやく、原作一巻ぶんが終了しました。週一投稿でも私には長い道のりに感じました……。


「弁解はしません。私の独断で勝手な行動をした結果、織斑先生を含む教師の方々に迷惑を本当に申し訳ありませんでした」

 

 事件後、念を入れて負傷を確かめる為に訪れた保健室で近くに、軽い打撲の為にベッドに寝かされていた一夏がいるのも構わず、慎吾はそう言うとしっかりと屹立して千冬に頭を下げた。

 

「はぁ……顔を上げろ大谷」

 

 千冬はそんな慎吾を見て呆れたように目をつむりながら、溜め息と共にそう言う。そして慎吾が言われるがまま下げてた頭を上げた瞬間

 

ばしん

 

 そんな音と共に出席簿を慎吾の頭に降り下ろした。ただし通常よりは弱めに押さえてではあるが。

 

「初めて受けましたが、見た以上に効く一撃ですね……これは」

 

 出席簿で叩かれた頭を軽くさすり、苦笑しながら慎吾はそう答える。

 

「ふん、お前はまだ小僧のくせに何でもかんでも自分一人で背負って解決させようとし過ぎだ。困ったら少しは我々、教師達という大人にも頼れ」

 

「……善処します」

 

 少々咎めるような千冬の言葉に図星を付かれた慎吾は軽く目を反らして、千冬にそう返した。

 

「……その言葉は元々やるつもりが無い人間が言うものだ」

 

 そんな慎吾を見て溜め息を付きながらそう言って千冬は保健室から出ていった。

 

「さて……特に異常が無かったことだし、私はここまで去るとしよう」

 

「慎吾さん、もう行っちゃうんですか?」

 

 千冬が保健室から去って暫くしてから慎吾もまた腰かけていた丸椅子から立ち上がり出口へと向かって歩き出す。そんな慎吾に不安げにベッドで寝ていた一夏が声をかける。

 そんな一夏の声に、慎吾は一瞬振り替えると

 

「何、心配はいらない。私、以外にも見舞いに来てくれる相手はいるさ」

 

 そう安心させるように一言だけ一夏に言うと、保健室の扉を開いて廊下に出ていき

 

「……後はお前たち次第だ、頑張れよ」

 

 最後に保健室の出口近くで入るタイミングをうかがっていた箒、セシリア、鈴の三人にそう声をかけると自室へと戻っていった。

 

 

 

「大谷くん?入りますよー」

 

「お、お邪魔します……」

 

 その日の夜、夕食を終えて自室で軽いトレーニングをしていた慎吾の元に、ノックと共に真耶と一夏が訪れた。

 

「どうしました山田先生?……おや」

 

 と、そこでトレーニングを中断した慎吾は、一夏の手に握られた荷物に気が付いた。

 

「もしかして……引っ越しですか?」

 

 一瞬の間を置いて慎吾は直ぐにそれが何を意味するのかに気が付き、トレーニングで流れた汗をタオルで拭いつつ真耶に尋ねた。

 

「あ、はい、お引っ越しです。織斑くんは篠ノ之さんの部屋から大谷くんの部屋へと引っ越しです!」

 

 慎吾の問いを真耶は柔らかく笑って肯定する。その後に続いて慎吾の前に一歩踏み出し、慎吾に手を差し出す。

 

「慎吾さん、今日からよろしくお願いしますね!」

 

「何、今更見知らぬ顔でもあるまい、気軽に接してくれ」 

 

 差し出した一夏の手に握手で慎吾は答えると、一夏と慎吾、双方の間に自然と笑顔が溢れる。 

 

 それは端から見てもとても幸先の良い始まりに見え、実質その光景を見ていた真耶も何か納得したかように軽く頷きながら見守っていた。

 

 が、ここにいる三人は知らない。この平穏は恐ろしく短くも持たなかった事を。

   

 

 真耶が帰った後、箒が部屋を訪れ、要約すれば、来月に開催される学年個人別トーナメントで優勝したら自分と付き合って欲しいと、一夏に大声で告げる事を。

 

 言った場所が場所ゆえに何人かの生徒がその話を耳にし、話に尾ひれが付きまくって翌朝には何故か『学年トーナメントで優勝すれば、商品として織斑一夏、あるいは大谷慎吾と付き合える』と言うことになっていた事を。

 

 残念ながら慎吾のIS学園生活に平穏は中々訪れてははくれないようであった。




 時話あたりで……あの人を出すつもりです。ただし多少、私のアレンジを加えておりますのでご注意を


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20話 ゾフィーの新武装テストと現れる光

 宣言通りに登場です、今回、独自設定が多いので一応閲覧注意です


8月頭の日曜日、天井から淡い輝きを放つ照明だけが中を照らす薄暗いドーム。そこに慎吾の姿はあった。

 

 ゾフィーを展開させた慎吾は音も立てず上空からドーム中央の大地へと降下していく。

 

『それではテストを初めてください』

 

 ゾフィーがドームの大地にしっかりと降り立つと、ドーム内にアナウンスと実験開始を伝えるブザーが鳴り響く。それを確認した慎吾は身構え、素早く両手で正面に十字を組み、ゾフィーから十メートル程離れた先にある横一列に三つ並んだターゲットの一つに狙いを付ける。その瞬間

 

「……スペシウム!」

 

 慎吾の掛け声と共に組まれた手から青白く輝くビーム、スペシウム光線が飛び出し、放たれたスペシウムは真っ直ぐにターゲットに向かって飛んで行くと慎吾の狙い通りターゲットの中心に命中して粉々に粉砕した。

 

「………………」

 

 それを見ても慎吾は特に反応は示さず、冷静に次のターゲットに狙いを定め、水平にした両腕を胸の前に添える。

 

「ウルトラスラッシュ!」

 

 掛け声と共に右腕を後ろに引く慎吾。と、引いた腕に渦を巻くように光が集まると瞬時にゾフィーの右腕に沿うように青白く輝くリング状の光の刃が出現した。

 

「たぁっ!」

 

 刃が完全に完成すると慎吾は勢い良く右腕を引き戻し、ターゲットに向かって投擲する。刃はかん高く空気を切り裂く音を立てながら宙を飛び、ターゲットを真っ二つに切り裂いた。

 

「エメリウムッ……!」

 

 それを確認すると、休む間も無く慎吾は次のターゲットを狙い、両腕を今度は頭部に持っていき伸ばしたゾフィーの人差し指と中指を額に添える。その瞬間、今度はゾフィーの額部分から緑色に輝く細いビーム状の光線、エメリウム光線がターゲット目掛けて発射される。が

 

「くっ……」

 

 慎吾は狙いを外し、エメリウム光線はターゲットの中心を外れて僅かにターゲットの縁を掠めるとそのまま飛んで行き、ドームに張られたシールドにぶつかると音と共に砕け散って霧散した。

 

『ターゲットを追加します』

 

 アナウンスと共に、再び現れる複数のターゲットを見ながら慎吾は気持ちを切り替えてターゲットを狙って身構えた。

 

 

 

「今回の新武装のテストだが……単刀直入に言って君の意見はどうだ?慎吾」

 

 武装テストを終え、汗を拭き取って着替えた慎吾がドーム近くの休憩室でベンチに座って体を休めていると、慎吾のすぐ近くで腰掛けていた海を思わせるような青い髪をショートカットにし、白衣を着た少女が慎吾にそう訪ねてきた。

 

「そうだな……スペシウムとウルトラスラッシュ……この二つは扱いやすく狙いもつけやすい。ゾフィーでも十分に取り扱えると私は判断する。が、エメリウムと中近用の武器、アイ・スラッガーは元の威力は優れてはいるがゾフィーとは相性が悪いのか、それぞれ発射時に想定以上のブレが発生して威力を発揮出来ていない……。と言う所か」

 

 青髪の少女の問いに少し考えて言葉を纏めると慎吾は、ゆっくりとそう少女に告げる。

 

「成る程……ではスペシウムとウルトラスラッシュは最終調整の後、ゾフィーへの装備を見当……。エメリウムとアイ・スラッガーはゾフィーの後続機の専用装備とするか……」

 

 少女は慎吾の言葉をメモを取りながらしっかり聞き取り、手にしたファイルに素早く今後の予定を書き込んだ。

 

「しかし、すまないな慎吾。せっかくの休みに呼び出したりして……」

 

 ファイルに書き終えると少女はファイルから顔を上げ、慎吾見ると申し訳なさそうにそう言った。

 

「何、私の事は気にするな。……最も、君があの大企業Mー78社で新型IS製作の手伝いをしていたと知った時は大分、驚いた物だがな」

 

 そう、今現在、慎吾と少女がいるのは世界にも名の知れたIS大手起業のMー78社の本社近くの研究所、そこで本日、慎吾は少女から連絡を受けて研究所のドームで少女達の開発チームが新たに作り出した新武装のテストに参加していたのだ。

 

「はは……それを言うなら俺も皆で作り上げた新型IS『ゾフィー』を使うのが二人目の男子で、しかもそれが慎吾と知った時は君より驚いたさ」

 

 軽くそう言う慎吾に釣られ、少女もまた笑顔になる。そこには開発者と操縦者と言う壁は無く、長い付き合いである二人が自然と相手に見せ合う物であった。

 

「それでは私は今日は帰るが……IS学園にはいつ頃、復帰出来そうなんだ?」

 

「そうだな……確かめてみよう」

 

 立ち上がり、去り行こうとした慎吾は最後にそう少女に訪ねる。すると、少女は携帯端末を白衣から取りだし内蔵されているスケジュールをチェックし、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「……あと三段落程、済ませればどうにか復帰出来そうだな。昨年は出席日数が足りずに危うく留年になりかけたからな……出来るだけ学園には出席しておきたいんだ」

 

「そうか……!君が来てくれるのは楽しみだな……」

 

 少女の返事が良いものだった事に慎吾は喜び、大きく頷いて見せる。

 

「……それに俺自身にも学園には少し用があるからな」

 

 だからこそ慎吾は意図して小さく呟いた少女の言葉と、その瞳に込められた静かな闘志を見逃してしまった。

 

「……さて、これから君が提供してくれたデータを纏めてくてはならないからな……それでは今度こそ、今日はさよならだ慎吾」

 

 少女は慎吾が自身の発した言葉に気が付いていないのに気付いて少しばかり安堵すると白衣を翻して慎吾の元から立ち去る。慎吾は立ち去る少女を見送りつつ言葉をかける

 

「あぁ、早く学園で会える事を祈ってるぞ……ヒカリ」

 

 

 

 大谷慎吾と芹沢(せりざわ)(ひかり)、二人がIS学園で再会し、慎吾が光が学園に向かう隠された目的を知る日までにはまだ暫くの先の事であった。




 うちのヒカリは悩んだ結果、女体化で天才学者のオレ娘になりました。残念ながら今回は今回は顔だしのみ。ヒカリの活躍はもう少し先の話になります


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21話 二人の決意とゾフィー

 更新です。俺っ娘のヒカリに反対意見が無かった事に心底安堵しました。正直、酷評が来たら挫けてしまいそうでした……


「なにやら疲れているようだが……どうした一夏?休みではなかったのか?」

 

 時刻は慎吾が光と別れてから過ぎて6時過ぎ、寮の自室へと戻ってきた慎吾の目に入ってきたのは疲れた様子で自分のベッドに横たわる一夏の姿だった。

 

「あ、慎吾さん……恥ずかしい話なんですが、実は今日、久しぶりに友達の所に行きましてね……」

 

 慎吾が帰ってきた事に気付くと一夏はベッドから体を起こしてベッドに腰掛けると、少し恥ずかしそうに事情を語り出す。

 

「はははっ、そうか、友達と遊びすぎて疲れたのか。どうやら中々、充実した休日だったようだな」

 

「いや、子供っぽくてお恥ずかしい……」

 

 事情を聞いた慎吾は愉快そうに笑い、一夏は恥ずかしそうに頭をかきながら苦笑した。

 

「……まぁ心持ちはしっかりとしておけ、件の学年個人別トーナメントは今月だからな」

 

 一旦、落ち着き笑いを止めると慎吾はそう言って部屋にかけられたカレンダーを指差した。

 

「トーナメントは恐らく今までの練習より格段に険しい戦いとなりゆる。……無論、私もお前と戦うときがあれば丁度だ、クラス代表決定戦での雪辱もかねて全力で叩き潰しに行かせてもらうが?」

 

 と、珍しく挑発的に笑みを浮かべながら一夏に言い放つ慎吾。

 

「望むところです、その時は俺だって全力で戦って慎吾さんを倒してみせますよ!」

 

 慎吾の挑発に一夏もまた強気な笑顔を向けて、返し堂々と宣告してみせた。

 

「そうか……ならば互いに相手と戦えるように奮闘するとしようではないか。なぁ一夏?」

 

 一夏の迷いがない態度を見て、慎吾はそう言うとふっと肩の力の抜き、いつもの優しい笑顔を見せた。

 

「はい、慎吾さん」

 

 慎吾の言葉に一夏はゆっくり頷きながら同意し、二人の間には穏やかな空気が漂った。

 

「一夏、いる?」

 

 と、その時、数回の軽いノックと共にドア越しに鈴の声が聞こえてきた。

 

「あぁ、鈴。一夏はいるぞ。鍵はかかってないから入ってくるといい」

 

「そう言えばあんたが一夏と同じ部屋だったわね……」

 

 慎吾がそう声をかけると、鈴はそう言いながら扉を開けて部屋に入ってきた。

 

「おぉ鈴、何か用か?」

 

 部屋に入ってきた鈴に気さくに一夏が話しかける。

 

「ふふん、あんた夕食はまだでしょ?わざわざ誘いに来てあげたのよ」

 

 すると鈴は待ってましたとばかりに得意気に胸を張り、一夏に言って見せた。

 

「おお、丁度よかった。さっそく三人で一緒に食堂に行こうぜ?」

 

 鈴の言葉に一夏は笑顔で同意し、ベッドから立ち上がるとさっさとドアに向かって歩き出す。

 

「……あれで、本人はごく当たり前のつもりなんだ。許してやれ」

 

 半ば呆然としてる鈴にそっとそう囁き、励ますように鈴の軽く肩を叩くと、一夏の後に続いてドアへと歩き出す。

 

 どうやら休日明けからさっそく苦労する事になりそうだ……。

 

 食堂へと向かう廊下で、ラフな姿のクラスメイトにほぼ絶え間なく声をかけられ続ける一夏と、それを心底面白く無さそうに頬を膨らませている鈴を見ながら内心、そう慎吾は表情には出さず内心で深くため息を付くのであった。




 活動報告での慎吾の愛称募集、募集期間を4月3日にまで延長しますのでどうか一案、皆様のお力をお貸しください。


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22話 二人の転校生とゾフィー

 危うく遅れそうになりました、更新です。
 最近、ウルトラアクト、ゾフィーの再版を知り胸の高鳴りが止まりません。ぜひ入手したいですね


「慎吾さん……なんかクラスの皆がやけに騒がしいんですが……何か知りません?」

 

 月曜日の朝、視線の先で賑わってるクラスメイト達を見ながら一夏がこっそりと慎吾に尋ねる。

 

「私も詳しくは知らないが……昨日、食堂で小耳に挟んだ様子では今度の学年別トーナメントで何かあるらしい。それも恐らくは素晴らしい事のようだ。私と一夏には秘密と言う条件が気になるが……まさか」

 

「まさか?何か分かるんですか慎吾さん?」

 

 慎吾の言葉が気になったのか一夏は思わず身を乗り出して慎吾に尋ねる。

 

「……私が現状から判断しての事なんだが。この学年別トーナメントで優勝した者はおそらく……」

 

 周囲に自分の話に聞き耳を立てている者がいない事を手早く確認してから慎吾は小声で語り出し、一夏は慎吾の言葉を聞き逃さないと耳に集中し始める。

 

「諸君、おはよう」

 

「お、おはようございますっ!」

 

 まるで狙っててたようなタイミングで千冬が教室へと入り、騒がしかった教室は一瞬にして静まり返り、生徒は例えるならばまるで軍隊のようにピシリと整列して見せた。

 

「話はホームルームの後だな……」

 

「ですねっ……!」

 

 それを確認した信吾は直ぐ様会話を止めて姿勢を正し、一夏も慌てて自分の席へと戻っていった。

 

「諸君、今日から本格的な実戦訓練が始まる。ISを使用しての授業になるので気を引き締めるように……」

 

 静かになった教室でいつものように堂々とした態度で朝の連絡事項を延べていく。……最後にISスーツ、簡単に言えばISの動作をスムーズにする事が出来る特殊スーツを忘れたものは水着、水着をも忘れた者は下着で授業を受けさせると言う爆弾を投下していったが。

 

「(休日にヒカリからMー78社製ISスーツの予備を何着か貰って置いてよかったな………)」

 

 千冬の話を聞きながら信吾はそう考え、小さく苦笑した。

 

「え、ええっと、今日は皆さんに転校生を紹介します!それも二人!」

 

 と、慎吾が思考している間にいつの間にか教壇には千冬から変わって真耶に代わり立っていた。そして、真耶が開口一番に発した言葉は千冬の登場で一時的に静まり返っていた教室に火を放つかの如く騒がしさを取り戻させた。

 

 と、その瞬間、教室のドアが開き二人の転校生が入ってきた。

 

「失礼します」

 

「…………」

 

「(あれは……まさか……!?)」

 

 二人の生徒を見て教室のざわめきが瞬時に止まり、慎吾の目も驚愕に見開かれた。

 

「シャルル・デュノアです」

 

 にこやかなで人懐っこそうな笑顔でそう自己紹介する転校生の一人、金髪の生徒は中性的な顔で一夏や慎吾と同じく『男子』の制服を着ていたのだ。

 

「だ、男っ……三人目!?」

 

 呆気に取られていた生徒のうち、誰かが口にした。

 

「はい、ここに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて………」

 

 転校生、シャルルがしっかりと言えたのはそこまでだった。次の瞬間、発生したソニックウェーブの如く女子生徒達の完成に書き消されたのだ。

 

「(何せ三人目の男子だ……まぁ、この騒ぎは当然か……それよりも……)」

 

 大騒ぎする生徒達を困ったように見つめながら慎吾はそう考え、慎吾はもう一人の転校生に視線を移す。

 

「(入ってからだ……殺気を隠そうとすらしないとはな……)」

 

 その転校生、腰にまで届く輝くような銀髪に、赤い瞳に左目には黒い眼帯の転校生は真っ直ぐに一夏を睨み付けていた。

 

「(どうにも一波乱ありそうだな……)」

 

 銀髪の転校生から目を放さず、慎吾はそう考え内心で溜め息を付く。

 

 

 慎吾の予想は当たり、銀髪の転校生『ラウラ・ボーデヴィッヒ』が自己紹介の後に一夏の頬に平手打ちをぶちかますのはこの直後であった。




 実はと言うとエイプリルフールネタと、言う物を活動報告に書いて見ました。遅れてしまいましたが良ければ見てください。


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23話 シャルルと一夏とゾフィー

 どうにも最近、分量が最近少ない気がします。それでこの更新スピードは少し……次回から少し増やしてみようかと思います。


「すまん一夏、いきなりボーデヴィッヒがいきなり手を出して来るとは……目は付けていたが反応が遅れた」

 

 一夏に水道水で冷やしたタオルを渡しながら慎吾は、そう謝罪した。

 

「いや、いいですよ慎吾さん。俺も最初、何されたか分からなかったし……気にしないでください」

 

 慎吾から受け取ったタオルでラウラに叩かれた頬を押さえ、苦笑しながら一夏はそう答えた。

 

「そうか……お前自身がそう言うのならば……おっと、二人でばっかり話してすまないなデュノア」

 

 と、そこで慎吾は結果的に話の流れから置き去りにされていたシャルルにそう謝り、軽く頭を下げた。

 

「……あっ、いいよ気にしないで!それに僕の事もシャルルでいいからね?……えっと、慎吾?」

 

 シャルルはと言うと顔の前で軽く手を振って『気にしていない』事をしっかりと主張すると、確認するかのようにそっと慎吾の名前を呼ぶ。

 

「あぁ、そうだ私が慎吾だシャルル。こっちは一夏、分からない事があったなら聞いてくれ。織斑先生からもそう言われている」

 

 慎吾は一夏と自分を指差しながらシャルルにそう微笑みそう言った。

 

「あっ…と、慎吾さん……!」

 

 と、そこで一夏が教室を見渡して何かに気付き、慌てて慎吾に知らせた。

 

「む、そうだな、早く移動するとしよう。付いてきてくれシャルル」

 

 そう言うと慎吾は先頭に立ち、一夏とシャルルを先導するかのように教室から出てていく。

 

「えっと……これは……?」

 

「あぁ、女子が教室で着替えるからな」

 

「俺達は空いてるアリーナの更衣室で着替え、という事になっている……む」

 

 移動しながら問いかけるシャルルに、一夏と慎吾が順場に答える。と、先頭を歩いていた慎吾が何かに気付き、顔をしかめる。

 

「ま、間に合わなかったか……」

 

 一夏もまたそれに気付き、肩をがっくりと落とす。

 

「な、何?何であんなに皆、集まってるの?」

 

 慎吾達の目の前、そこには各学年各クラスから情報をいち早く集めんとばかりに集合した選ばれし尖兵とも言える女子達が集合し、進路先の廊下を埋めつくそうとしていた。その光景に呆気に取られたような口調でシャルルが言った。

 

「皆、この学園では二人……今日からは三人しかいない男に興味津々なんだ。今日はいつもより少し多いがな」

 

「俺達、パンダにでもなった気分ですね……」

 

 徐々に増えてく女子生徒達によってスペースを詰められていく廊下をどう突破するべきか顎に手を当てて思案する慎吾がシャルルの問いに答え、一夏も改めて周囲を見渡し、小さく溜め息をついた。

 

「………………………?」

 

 と、何故かシャルルそんな二人の様子を『よく意味が分からない』とでも言いたげに不思議そうに見ていた。

 

「…?どうした、シャルル」

 

 そんなシャルルの様子に気が付き、どうにも気になったのか一夏がシャルルに尋ねようとする。が、

 

「……時間がない、仕方ない。多少、強行だが行くぞ一夏、シャルル」

 

「おっ?」

 

「わあっ!?」

 

 その瞬間、次の授業までの時間があまり残されてない事で少し焦りを見せた慎吾は咄嗟に両腕でそれぞれ二人の腕を掴むと、女子達の集まりの針の穴のような隙間をすり抜けるように走り出す。

 

 その端から見れば『男子三人が仲良く手を組んで走ってる』ようにも見える光景に只でさえざわついていた女子達の声が高周波と化す勢いで一気に高くなり、後日、何処から出たのか、そもそも誰が撮影したのか、この三人が手を組んでるように見える光景の写真。それが冗談のような枚数、学園中で出回った事を三人が知るのはもう少しだけ先の事であった。




 無事、慎吾のあだ名を決める事が出来ました。協力して下さった皆さまアンケート解答ありがとうございます


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24話 真耶とゾフィー

 宣言した通り、少し文量を増やしました。と、言っても今回は本当に誤差レベルですが


 何とか一夏とシャルルの腕を取ってリードしたまま慎吾が怒濤のように迫り来る女子達をやり過ごし、そのまま手早く更衣室で着替えを終えた三人は、第二グラウンドへと前から慎吾、一夏、シャルルの順で早足で歩いていた。

 

「ところでさ……何でシャルルは俺と慎吾さんから隠れて着替えたんだ?」

 

 と、何気無い様子で、更衣室でのシャルルの行動を見て浮かんでいた疑問を一夏が歩きながら直球で聞く

 

「えっ!?えっと、それは……」

 

「ん?どうしたんだシャルル?」

 

 突然の一夏の質問にシャルルは声に出して驚き、うろたえて言葉が詰まった。それを疑問に感じた一夏は足を止め、シャルルに向き直る。

 

「待て一夏、同性同士でも肌を余り見せたく無い人もいるんだ。私達に着替えてる所を隠すのはシャルル個人の自由ではないか?」

 

 そう慎吾が足を止め、一夏の方へと振り向きながらたしなめるように言った。

 

「それもまぁ……そうですね。悪かったなシャルル、いきなり変な事を聞いて」

 

「う、ううん、僕は大丈夫だよ」

 

 慎吾の言葉を受け取った一夏は軽くシャルルに謝り、シャルルはそれにどこか安心したような顔をしながら謝罪を受け取った。

 

「さぁ、急ごう。このまま授業に間に合わずに織斑先生に叱責されてしまうぞ」

 

 その様子を見届けた慎吾は再び正面を向き、早足第二グラウンドへと歩き出し、一夏とシャルルも慌ててその後についていった。

 

 

「では、本日から格闘および射撃を含む実戦訓練を始める」

 

「はい!!」

 

 千冬の声にいつもの倍以上の声量と勢いで返事が返ってきた。と、言うのも本日の授業は一組と二組合同の為、千冬を見慣れてない二組の生徒は張り切って声を出し、一組もそれに負けじと気合いを入れて叫び、結果空気が震えるほどの音量と化していたのだ。

 

「相変わらずだが、織斑先生が絡んだ時の皆の気力は驚くばかりだな……」

 

「ぶっちゃけ圧倒されますよね……」

 

 そんな様子を見ながら慎吾と一夏は顔を見合わせ、話を続ける千冬に気付かれぬようにこっそりと苦笑した。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。そうだな……凰にオルコット!」

 

「「は、はいっ!!」」

 

 突如、千冬に指名された鈴とオルコットは緊張のせいか上ずった声で返事をすると慌てて前へと出てきた。

 

「お、鈴とセシリアで模擬戦するのか?」

 

 揃う二人を見て、一夏が思わず声を漏らす。

 

「どうだろうか……む?」

 

「どうしました慎吾さん?」

 

 話を慎吾が急に止めたのを疑問に思い、一夏が尋ねる。

 

「いや、気のせいか上空から空気を裂くような音が聞こえるのだ……がぁ!?」

 

「うおあぁぁっ!?」

 

 次の瞬間、音のする方向、真上を見上げた慎吾と一夏は共に目を見開き声に出して叫んだ。

 

「ど、どいてくださ~いっ!」

 

 何と上空からは学園の訓練機『ラファール・リヴァイブ』を展開させた真耶がきりもみ回転しながら真っ直ぐこちらに向かって落下して来ていたのだ。

 

「くっ!間に合うか……っ?ゾフィー!」

 

 何とか冷静さを取り戻した慎吾は真耶を助けるべくゾフィーを展開させた。

 

「たぁっ!」

 

 瞬時に赤い光に包まれ、ゾフィーを展開し終えた慎吾は大地を蹴って空中へと飛び出して真っ直ぐに落下し続ける真耶へと向かって行き、地面までの距離が近付きながらもゾフィーの腕がラファール・リヴァイブに触れそうになった瞬間

 

 

ドン!

 

 

 そんな鈍い音と共に激突音、そしてその衝撃により土煙が一瞬で周囲に立ち込め、あちこちから土煙を吸った生徒達が咳き込む声と慎吾と真耶を心配する声が聞こえた。

 

「間一髪……か。山田先生、大丈夫ですか?」

 

 と、土煙が薄れ、中から片膝を付いて着地している赤と銀が輝くゾフィーの両足が見えると周囲から安堵の溜め息が漏れる。

 

 が、土煙が完全に晴れゾフィーの姿が、完全に見えた瞬間、周囲が一気にざわついた。

 

「あ、あ、あの、そ、そのですね……」

 

 顔を真っ赤にして呂律の回らない盛大に慌てている様子の真耶。その様子に周囲のざわつきは歓声に代わりだした。

 

 それも無理の無い話で、今、現在真耶はゾフィーの腕でしっかりと、しかし決して傷付けぬように強く抱き締められていたのだ。それは端から見れば、まるで姫を助けた騎士を描いた絵画のような光景であり、乙女の憧れをのシチュエーションでもあった。

 

「おっと、これは失礼を。救助の為とは言え長々と抱き締めてしまいましたね」

 

 と、その状況が周囲からどう見えるか、特に意識をして無かった慎吾はゆっくりと真耶を足から地面へとおろし真耶が立ったのを確認した瞬間、体を離した。

 

「あっ…………ありがとうございます大谷くん」

 

 慎吾が体を離した途端に真耶は一瞬、名残惜しそうな声をあげ、腕は先程の感触を求めるように宙を動いたが真耶は周囲の視線に気付き、慌てて慎吾に礼を言うと距離を取る。そんな真耶の行動に再び周囲から再び歓声が上がった。

 

「はぁ……慎吾さんみたいにカッコいい人ならああいうのも似合うんだろうけどなぁ……」

 

 直後、一夏が溜め息と共にそう羨ましそうな声を漏らし、しっかりとその発言を聞いていた箒に背後から睨み付けられるのだが当人は気付かない。

 

「(やれやれ、どうしたものかなぁ……)」

 

 結果、慎吾一人が時折、送られる真耶からの奇妙な熱い視線と、クラスメイトからの何らかの期待を込められた呟き、箒へのフォローと言う三つの出来事に悩まされながら授業を進めて行く事になったのであった。




 気付いて見れば、慎吾と山田先生の距離が近く……需要はあるのでしょうか?


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25話 授業開始とゾフィーの兄力

 分量を少し増やしてから、時間がかかるように……次回はもう少し早めに投稿します


「見事……と、しか言いようがないな」

 

 先程開始された、ラファール・リヴァイブに乗る真耶にタッグで挑む鈴とセシリアの戦闘実演はたった今、終了し千冬の指示で解説をしていたシャルルの話をしっかりと聞いておきながらも行われる実演をコンマ一秒も見逃さなかった慎吾は思わず感嘆の声を上げた。

 

 単純に結果を言ってしまえば『圧倒』、相手が二人と言う不利な状況にも関わらず。真耶はそれを技量を持って軽々とひっくり返してしまったのだ。

 

「さて……これで諸君にもIS学園教員の実力は理解出来ただろう?以後は敬意を持って接するといい」

 

 戦闘でかける言葉が無いほどにやられ、立ち上がれず座り込んだまま肩で息をしている鈴とオルコットにクラスの同情の視線が集まる中、千冬は手を軽く叩いて意識を切り替えるようにそう言った。

 

「では今から実習を行う。実習は専用機持ちの大谷、織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰をグループリーダとする六つのグループに分けて行う。では、分かれろ」

 

 千冬がそう言い終わるや否や、一斉に女子達は動き出し瞬時にして慎吾、一夏、シャルルの元に人だかりを作った。

 

「大谷さん、分からない所があったら教えてください!」

 

「もう一回、あの技を見せて!」

 

「そ、その筋肉に触らせて下さいっ!」

 

「は、ははは………皆、少し落ち着いてはくれないか?」

 

 予想はしていたものの、想像を越えるほどの女子達からのコールに慎吾は手をこまねいて誤魔化すように苦笑するしか無く、慎吾が隣を見てみると慎吾より若干多い人だかりに囲まれている一夏とシャルルも同じく困ったように顔を見合わせていた。

 

「何をやってる馬鹿共が!出席番号順に調整して各グループに入れ!………仮にでも、次にもたついた奴がいたら、そいつにはISを背負ってグラウンド百周させるぞ?」

 

 状況を見かねた千冬が脅すかのようにそう言うと蜘蛛の子を散らすように女子達は移動し、あっという間に人数調整もバッチリな六つのグループが完成した。

 

「(好き好んでISを背負ってグラウンドを百周するなどど、思う人間はいないだろうから当然と言えば当然なんだがな……)」

 

 その冗談のようなスムーズな動きを見た慎吾は静かに笑うのであった。

 

 

「それでは準備も終えた所で、出席番号順に始めるとしよう。最初は……相川(あいかわ)だな?」

 

「はいはいはーい!出席番号一番!相川清香(きよか)!部活はハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョキングです!よろしくお願いしまーすっ!!」

 

 訓練機、『打鉄』を受け取り慎吾が実習を始めると早速、出席番号一番の生徒、清香が片手を上げ小さく跳ねながら慎吾に少々やり過ぎな程に元気よく返事を返した。

 

「うむ、元気が良いな。今日の実習も頑張ってくれ」

 

「あっ……」

 

 そんな清香を慎吾は評価し優しく微笑むと、そっとその肩に手を置く。置かれた清香は一瞬、先程の元気が消え、恥ずかしそうに頬を染めて呟いた。

 

「あっ……いいなぁ……」

 

「わ、私も気合い付けにお願いします!」

 

「応援の言葉もよろしくお願いします!」

 

 と、そんな清香を見ていた慎吾のグループの他の女子達は争わんばかりに慎吾の前に隊列のように肩を並べる。

 

「あっ、あぁ……分かった」

 

 その動作に少し押されながらも慎吾は答え、一人一人に『頑張れよ』や『大丈夫だからな』などと言った言葉をかけながら肩を優しく叩いて回った。

 

「くぅーっ!大谷さんの優しさが染みるっ!」

 

「私の胸に込み上げるこの熱いもの……これがっ!これがお兄ちゃん力なのかぁっ!?」

 

「よ、喜んでくれたのならば何よりだ」

 

 信吾に肩を叩かれた女子達は次々と心底満足そうにそう言い、慎吾はそんなオーバーリアクション気味な女子達の反応に冷や汗を浮かべながらも笑顔を返した。

 

『あぁっ!?』

 

 と、そんな慎吾の背後から幾重にも重なった羨ましげな声が響く。

 

 慎吾が声のした方向に振り返って見ると、そこでは腕組して面白く無さそうに一夏を睨む箒を除く一夏のグループ全員とシャルルのグループのこれまた全員がそれぞれの前に一列に並び、ダンスにでも誘うかのようにお辞儀の体勢で右手を差し出し、顔だけはしっかりと慎吾達を見ていた。

 

「ど、どうしよう……」

 

「私も織斑くんに肩を……いやでも……うぅん……」

 

「これは悩み所だわ……」

 

 慎吾達のやり取りを見ていたメンバーは、自分もまた一夏やシャルルに肩を叩いて貰おうかと悩み、体制を迷うように動かす。

 

「ほぅ………悩んでるようだな諸君……」

 

『いったあぁぁぁっっ!?』

 

 と、その瞬間、嫌に低い千冬の声が悩んでいたシャルル班のメンバーが同時に悲鳴を上げた。

 

「私は教師だ、諸君らがそんなにも実習授業で悩んでいるのならば私自ら見てやらないといかんな。そうだろう?」

 

 悶絶するシャルル班の女子達を見ながら優しげな口調でそう言う千冬。その口元には微笑みすら浮かべており、千冬の美貌もあってそれはさながら女神の微笑みのようでもあったが。その微塵も笑ってはいない目を見たものは『鬼神あるいは夜叉の笑顔』と答えただろう。

 

「あ、いや……その……」

 

「も、問題は自力で解決した方がいいかなぁ~何て……」

 

 そんな千冬に恐怖しながらも勇気ある二人が何とか迫り来る災難から逃れようと言うが。

 

「何、遠慮することは無いんだぞ?」

 

『はい……』

 

 再び千冬の目が全く笑ってはいない微笑みを受けて反撃する力が無くなり、例えるならば死んだ魚のような目で力無く首を縦に降った。

 

「……さて、改めて自己紹介も済ませた事だし私達も張り切ってとするか」

 

 そこまで見た慎吾は再び振り返り、班の全員に向かって短く確認するように言う。

 

『は、はいっ!』

 

 そんな慎吾の声に自分達もシャルルの班の二の舞にはならないとばかりに背筋を伸ばして真面目な態度で返事を返す。

 

「(シャルル班のメンバー……挫けないでくれよ………)」

 

 背後から時折、聞こえてくる悲鳴を耳にしてシャルル班の無事を祈りながら慎吾は訓練を始めたのであった




 個人的に歴代ウルトラシリーズを見てみると隊長の所謂、兄力はある方だと個人的には思います。
 セブンの兄らしさには流石に負けるとは思いますが……


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26話 実習授業と模擬戦をするゾフィー

 今回は危なかったです……次回こそ早くしたい……とは思うのですが


「うむ、そうだ!いいぞ、その調子だ」

 

 打鉄に乗り込んだクラスメイトの正面からある程度の距離を置いてゾフィーを展開させた慎吾は、何かあれば一秒ともかからず駆けつけられる距離を保ちつつ、丁寧に指示を出し、成功すればすぐに誉める。 

 

 そんな事を繰り返しながらスムーズに授業を進め、気付けば慎吾のグループ全員の生徒は授業が半分を過ぎた所で全員が授業でやるべきノルマを終えていた。

 

「よし、これで皆一通り終えた……皆、よく頑張ってくれたな。ありがとう」

 

『はいっ!大谷さん!』

 

 ゾフィーの展開を解除し、皆の前に向き直りながら慎吾がそう言うとグループのメンバー達は真剣かつ元気に慎吾に返事を返した。実際、慎吾の生真面目で優しく、一人一人にしっかりと気を配ってフォローもする授業姿勢に引っ張られたのか慎吾のグループのメンバーは皆が真摯に授業に向き合っていた。……それこそ背後の一夏のグループで行われていたちょっとしたトラブルによるお姫様だっこ騒ぎのゴタゴタに殆ど気が付かなかった程に。

 

「しかし予想外に時間が余ってしまったな……どうするか」

 

 皆の分の実習を終え、落ち着いた事で改めて予想以上に余った時間に気が付き悩む慎吾。

 

「ふむ……では……」

 

 と、次の瞬間、慎吾の口から何かを確認する小さな声が漏れる。その顔にはうっすらと笑みを浮かべているようにも見えた。

 

「えっと、どうしたんですか大谷さん?」

 

 そんな慎吾の様子を見て気になった清香がそっと慎吾に尋ねた。

 

「いや何、皆が嫌だと言うなら勿論しないし、織斑先生から許可を貰えるかは分からないのだがな……?」

 

 慎吾はそう苦笑しながらも、警告するようにそう言うと一つの提案をする。

 

「折角、授業の残り時間はたっぷりあるんだ。復習も兼ねて私と模擬戦でもしてみないか?」

 

『えぇっ!?』

 

 その瞬間、同時に慎吾のグループメンバー全員の声が重なった。

 

 

 

「さて……始めよう、ルールはさっき言った通りだ」

 

 再びゾフィーを展開させた慎吾が力を抜いた状態で向き直り、確認するかのように言う。

 

 以外か否か、慎吾の唱えた模擬戦の案は時間を考えて一試合のみと武装の使用は禁止と言う条件付きであっさりと千冬から許可され、グループのメンバーも迷いこそすれど誰も反対をしなかった為、今まさに互いに準備を終えて、模擬戦は始まろうとしていた

 

「私からは一切、攻撃をせず防御と回避にのみ専念する。それを突破して、授業終了までに私に一撃でも通るダメージを与えれば皆の勝ち。分かったか?」

 

 そして、そんな慎吾との模擬戦に自ら名乗り出たのは。 

 

「はいっ!大谷さん、私、負けませんよ!」

 

 打鉄に乗り込んだ慎吾の言葉に大声で答え、ついでに、むんっ!と言わんばかりに構えて見せる。

 

「はは……気合いは十分なようだな」

 

 その元気一杯に張り切ってる清香の様子に不安は無い事を悟り、慎吾は優しく笑う。

 

「さぁ、始めよう、どこからでもかかって来るといい相川!」

 

 と、次の瞬間、慎吾は腕を上げて合図をし模擬戦は始まった。

 

「たぁああぁぁっ!!」

 

 慎吾の合図と共に清香は大地を蹴って慎吾に向かって走り出し、距離を詰めると右足での蹴りを慎吾に向かって右足での回し蹴りを放った。

 

「おっと」

 

 

 それを慎吾はその場から動かず、体の軸をずらす事で難なく回避して蹴りは空振りに終わった。

 

「何の、まだまだっ!」

 

 初撃が外れたものの清香は諦めず、素早く振り上げた脚を戻すとさらに踏み込みゾフィーのボディーを狙って両手で数発のパンチを打ち込んだ。

 

「うん、いい気迫だぞ!」

 

 慎吾はそんな清香の姿勢を誉めながらも、そのパンチを片手で全てガードして受け止め、無力化した。

 

「誉めてくれるなら、大人しく攻撃に当たって欲しいですっ!」

 

「その気持ちには答えたいが……すまないな。自分から言い出した手前、早々に負ける訳には行かないんだよ……」

 

 今度は左足から離れた蹴りを後ろにのけ反って避けながら、慎吾は少し困ったような口調で返事を返す。

 

「うっそ、これも当たらないっ!?………ならっ!」

 

 先程から休む間もなく攻撃し続けるのにも関わらず余裕を持って慎吾に避け、もしくは受けられてる現状に焦る清香だったが、一瞬、何か覚悟を込めたような表情をするとさらに一歩踏み込み、渾身のストレートパンチを打ち込んだ。

 

「とっ……」

 

 が、威力は大きいものの若干のタイムラグがあったそのパンチはゾフィーの腕で当然のように防御される。

 

 

 しかし、清香の真の狙いはそれでは無かった。

 

「えええぇぇぇいっ!」

 

 

 ガードした瞬間、清香はゾフィーの両腕を勢いよく掴み、打鉄の持つ力、その全てをもってゾフィーを空中に持ち上げた。

 

「なっ……!?」

 

 予想外の清香の行動に慎吾は驚愕の声を上げ、僅かにその反応が遅れる。

 

「たあぁっ!!えいっ!」

 

 瞬間、清香はゾフィーを地面へと勢いよく投げ、更にだめ押しとばかりに投げられた勢いで落ちるゾフィーに向かって再び打鉄での渾身のストレートパンチを放った。

 

『今だっ!』

 

 と、そんな清香の奮闘に思わず見物していたクラスメイト達から歓声が上がる。気付けば慎吾のグループだけでは無く他のグループのクラスメイトも一夏達もその白熱した戦いを思わず目で追っていた。

 

 そして、次の瞬間、金属同士が激しく音が響き、決着は訪れた。

 

 

「見事……実に素晴らしかったぞ相川」

 

 清香に投げられたものの慎吾は空中で素早くゾフィーの体勢を立て直して地面に着地。そして、迫り来る打鉄のパンチも見え、ガードをする余裕もあった。が

 

「この模擬戦……私の負けだ」

 

 そう屈託無く笑って言う慎吾、その胸にはゾフィーの右腕でのガードをコンマ数ミリですり抜け、打鉄の拳が命中していた。

 

「やった……やったぁぁぁああっっ!!」

 

 模擬戦とは言え慎吾に勝利した、その事実を理解した清香は思わず打鉄に乗り込んだままガッツポーズする。

 

「(模擬戦とは言え敗北は敗北……鍛練の量を増やさなくてはなぁ……)」

 

 勝利を祝福する友人達に囲まれて溢れんばかりの笑顔を見せる清香を見ていた慎吾の顔はそう考えながらも優しく笑っていたのだが、全身装甲のゾフィーを展開させたままだった為に、それに気付いた者はいなかった。




 挿し絵が欲しい……と、最近良く思います。自力で頑張りたいとも思うのですが……生憎画力は私には無く……


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27話 セシリアの料理とゾフィー

 また危ない所でした……やはり連休明けは油断してしまいますね


「……どういうことだ」

 

「その怒りは理解出来なくも無いが……少し落ち着け、箒よ」

 

 憤慨した様子の箒を落ち着かせるように慎吾は軽く箒の肩を叩いてそう静かに言う。

 

 あれから時間は移って今は昼休み、場所は美しい大理石が敷き詰められた床と色とりどりの花段が鮮やかなIS学園の屋上。そこに一夏、慎吾、箒に鈴とセシリア。それに加えてシャルルの計6人が昼食を取るべく集まっていた。

 

「うん、天気もいいし皆一緒に屋上で食べるってのは正解だったな」

 

 そしてこれを提案した一夏当人はと言うと、箒の呟きは聞こえてはいなかったようで雲ひとつ無い空を見つつ、満足げにそう言っていた。

 

「まぁ……一夏の言う事も正論ではあるし、今日は転校したばかりで右も左も分からぬシャルルがいるんだ。勘弁してやってはくれないか箒?」

 

 そんな一夏を目に止めつつ、シャルルを一瞬指差し慎吾は小声でそう箒に言った。

 

「ぐぬぬ……次はないぞ……」

 

 箒はあまり納得していない様子ながらも慎吾の説得を聞き入れ手にしていた弁当箱をテーブルの上に置くと気持ちを収めた。

 

「はい一夏、これアンタの分」

 

「コホンッ……実は私も何の因果か偶然にも早く目が覚めまして、こういった物を作って見ましてね……」

 

「「あっ……」」

 

 

 と、その合間を付くように一夏に鈴はタッパーに入った酢豚を、セシリアはバスケットに綺麗に並べられたサンドイッチを一夏に手渡した。その瞬間、出遅れたと感じた箒は焦りで、慎吾はセシリアの手作りサンドイッチを見た瞬間に顔を青ざめ、思わず声を漏らした。

 

「(セシリアの手作り料理か……気持ちを入れているのは分かる……分かるのだが……)」

 

 

 慎吾の頭の中には数週間前、セシリアから『お世話になっている慎吾さんに』と訓練の休憩後に渡されたお菓子を食べたときの事を思い出し、その顔にはじわりと脂汗が滲み出していた。

 

「(寮に戻ってあのお菓子を食べた瞬間、一瞬だが意識が飛び、意識が戻ったかと思えば次は腹痛を起こし、数日ほど苦しめられた……あれは堪えたな……)」

 

 

「ど、どうしたの慎吾?さっきから顔色が悪いよ?」

 

 と、自身の持ってきた弁当を食べる手が震え、時間と共にどんどん顔色が悪くなる慎吾を心配し、シャルルが声をかける。

 

「大丈夫だシャルル……私は大丈夫だ……」

 

 そんなシャルルにぼんやりとした返事を返しつつ慎吾はある一点から目を話せずにいた。

 

「!……!?」

 

「ど、どうかしら?」

 

 鈴の野菜と肉のバランスが素晴らしいコントラストを描いた酢豚、箒の肉魚野菜でバランスが取れた和食風の弁当に先程までは舌鼓を打っていた一夏。それがたった今、セシリアのサンドイッチを口にした瞬間から豹変していたのだ。

 

「ぐぐっ……がっ、そ、そうだなぁ……」

 

 何とかセシリアに返事を返そうとする一夏。が、その肩は生まれたての子羊を思わせるかの如く小刻みに震え、貧血かと思うほどに青ざめた顔からは慎吾の倍かと思える程の量の汗が流れ落ちていた。

 

「(一夏……)」

 

 そんな見るからに辛そうな一夏を放置していることは慎吾には出来なかった。慎吾は覚悟を決めると深呼吸し、出来うる限り平静を装ってセシリアに向き直り、口を開く。

 

「……セシリア、悪いがそのサンドイッチ私も一つ貰ってもいいか?」

 

『!?』

                        

 瞬間、一夏、鈴、箒の視線が一気に慎吾へと集まる。言葉にこそ出さなかったが目が『正気か!?』と語っていた。

 

「あら……ええ、どうぞ慎吾さん」

 

 セシリアはその三人の視線に特に気付いた様子は無く穏やかな笑みを浮かべてサンドイッチの入ったバケットを差し出す。

 

「ありがとう……」

 

 慎吾は礼を言ってサンドイッチを受けとるが相変わらず脂汗は止まらない。いや掴んだ瞬間にサンドイッチがサンドイッチにあるまじき感触をしていた事がより慎吾の汗を増加させた。が、もう後には引けない、慎吾は覚悟を決めると一気にサンドイッチにかぶり付いた。

 

「がふっ………!」

 

 瞬間、プロボクサーのアッパーカットの如く暴力的な甘味が慎吾の舌に襲いかかり慎吾は思わずうめき声をあげた。目眩のように意識がぐらつき、胃が『これ以上食べれば命にかかわる』と慎吾に警告するが慎吾はそれを『構うものか』と振り切り、二口目でサンドイッチの残りを一気に口の中に放り込み、なるべく味を感じないように機械的に手早く咀嚼すると、自信の持ってきた鳩麦茶を一気に飲み干す事でどうにかこうにか食べることが出来た。……その代償と言わんばかりに明らかに慎吾が疲労困憊の表情に変わってはいたが

 

「……セシリア」

 

「は、はいっ!?」

 

 慎吾の急な行動に呆然としていたセシリアは急に慎吾に話しかけられ、ビクリと体を動かした。

 

「一つ聞くが、このサンドイッチは味見はしたか……?」

 

「い、いえ………」

 

 未だに動揺が残るような顔ながらもセシリアは慎吾の質問に答え、ゆっくりと否定する。

 

「そうか……」

 

 それを聞くと慎吾は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に儚い笑顔を見せ、セシリアに微笑みかける。その何かを悟りきったかのような慎吾の表情に押され、セシリアだけでは無く一夏や鈴までもが思わずビクリと体を震わせた。

 

「セシリア、自分では完璧に決まっていたと思っていても実の所は上手く行ってない……そんな事は多々あるものだ。私との練習試合でビットでの攻撃が完全に命中したと思ったら私に上手く受けられていた事があっただろう?」

 

「あっ………」

 

 慎吾の話を聞いたセシリアは思わず口に手を当てて声を漏らした。そんなセシリアを見ながら慎吾はもう一度優しく微笑みかけた。

 

「そうだ……料理も実戦も最後まで油断厳禁。次からはきちんと自分で味見をして納得出来るものを持ってくるといい……私はセシリアならばきっと出来ると信じ……てるぞ……」

 

「慎吾さん!?」

 

「ちょっ!アンタ大丈夫!?」

 

「おい、慎吾!しっかりしろ!」

 

 話を終えた瞬間、崩れるようにテーブルの上に突っ伏した。セシリアが悲鳴を上げ、鈴が慌てて立ち上がり慎吾の背中を揺さぶり、箒は声を上げて呼び掛ける。

 

「慎吾大丈夫!?……って、一夏何してるの……?」

 

 そんな中、慎吾の元に同じく駆け寄ろうとしていたシャルルは一夏の変化に気が付き、思わず足を止めて一夏を凝視していた。

 

「ありがとう……慎吾さん……ありがとうっ!」

 

 

 一夏は無意識のうちに涙を流し、慎吾に向かって敬礼をしていた。

 

 言葉にせずとも一夏は慎吾の思いを感じ取っていた。圧倒的感謝がそこにはあったのだ。

 

 こうして一夏は慎吾の自己犠牲により、学園在学中一つの驚異を退ける事が出来るようになったのであった。




 この話ってシリアス何でしょうか……ギャグ何でしょうか……?


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28話 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡvs ゾフィー。そして……

 またもや危なかった……今回はちょっと苦戦しました。


 その日、午前授業が終了した土曜日の午後の第三アリーナでは慎吾とシャルルが模擬試合をしていた。回りで実習中の生徒達も学園に三人しかいない二人の戦いと言うのに加え、二人の目を離せないような高レベルの激戦に思わず実習の手を止め二人の対決の為の空間を譲り、信吾とシャルルの戦いを見守っていた。

 

「くっ……だああっ!!」

 

「……っ!?」

 

 シャルルは自身が搭乗するラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの放つ弾幕、それを音を立てて回転しながら突き破ってきたゾフィーを見て思わず息を飲んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 とは言え、弾幕を突き抜けた時点で既にゾフィーのシールドエネルギーは半分の更に下まで減り、警告を知らせる胸のカラータイマーはけたましく鳴り響いている。が、息を多少乱しながらも体制を整えている慎吾は全く闘志を失っていないようだ。

 

「……M87光線っ!」

 

 そして、動揺により一瞬、ほんの僅かな隙が出来たリヴァイヴに向け、慎吾はゾフィー最大の必殺技とも言える切り札を放つ。シールドエネルギーを削って使用する事で他のISのビーム兵器では考えられない程の破壊力を生み出すゾフィー。その中でもM87は最強であり、同時に使用時に一番シールドエネルギーを消費する装備でもあった。シールドエネルギーの残量が三割ほどシャルルに負けてる慎吾は、勝利を掴むためリスク覚悟の危険な賭けに出たのだ。

 

「くっ……!うぅっ……!」

 

 M87は重低音を響かせ大気を容易く切り裂いて一直線にリヴァイヴに迫る。もはや回避が間に合わないと理解したシャルルは実体シールドでどうにか防ごうと試みるがその圧倒的なエネルギー質量に押され、リヴァイヴは激流の中の流木のようにM87の青い光の中に飲まれてジリジリと後ろへ押されていく。

 

「……シールドがっ!?」

 

 悲鳴を上げながらもどうにかゾフィーから放たれ続けるM87の直撃を防いでいた実体シールドにヒビが入り、シールドに出来た隙間から青い光がこぼれだす。

 

「……とっ……うわぁっ!!」

 

 次の瞬間、シールドは音を立てて砕けちり、リヴァイヴに遮るものが無くなったM87光線が直撃し、リヴァイヴのシールドをエネルギーを恐ろしい勢いで削ってゆく。

 

 そして決着を知らせるブザーが鳴り、二人の戦いに決着は付いた。

 

「……やるな、シャルル」

 

 M87光線を放っていた構えをゆっくりと解き、慎吾が呟く。ついさっきまで激しく赤く点滅して鳴り響いていたゾフィーのカラータイマーはもう点滅しておらず音も止んでいた。

 

 そう、ゾフィーのシールドエネルギーは0になっていたのだ。

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう慎吾」

 

 疲労困憊、そう言った様子でシャルルは慎吾に返事を返す。そしてリヴァイヴのシールドエネルギーは首の皮一枚で繋がり、先程砕け散った盾があった右腕でアサルトライフルをしっかりと握りしめていた。

 

「まさか盾が砕ける直前に防御を捨てて銃撃を行うとは……M87が直撃した時、私は勝利を確信して油断していたのかもしれないな」

 

 先程の一瞬の攻防を思い返し、シャルルの捨て身の一撃が直撃したゾフィーの胸元を見ながら慎吾はそう呟いた。

 

「あはは……最後のが当たるかどうかは賭けだったんだけどね……」

 

 そんな慎吾を見て苦笑しながらシャルルはそう言った。

 

「ふふ、敗れはしたが素晴らしい勝負だった……ありがとうシャルル」

 

 慎吾は軽く笑いながらそう言い、シャルルに手を差し出す。

 

「ふふ……慎吾の戦い方も凄かったよ?一夏の強さも慎吾が教えていたなら納得かな」

 

 シャルルはそう言うと慎吾の手を優しく握って応えた。その青春じみた光景に瞬間、観戦していたクラスメイト達から歓声が上がる。

 

「いいやシャルル……私もISについては一夏と同じゼロからスタートした身だ。私一人の力など対した事は無い、本当に凄いのは……」

 

 周囲の歓声を少し恥ずかしそうに受けながらも、慎吾はシャルルの手を握ったまま視線をクラスメイト達と共に見物していた一夏、そして箒達に向ける。

 

「私が勝手に言い出した訓練に付き合ってくれた箒とセシリア、もちろん鈴も。そして何より訓練をいつも一生懸命な一夏。本当に凄いと言えるのは彼らさ」

 

「慎吾さん……」

 

 信吾の一言に感動したように呟く一夏。セシリアは優しく慎吾に微笑みを返し、箒と鈴は頬を赤く染め恥ずかしそうに視線を反らしていた。

 

 そんな光景に思わず慎吾とシャルルの頬も緩み、周囲は暖かい空気に包まれた。

 

 

 

 

「おい」

 

 そんな空気を冷たく、短い一言が切り裂く。

 

 ISのオープンチャンネルで聞こえてたその声に、慎吾達が思わず周囲を見渡すと声の主は丁度ビットのすぐ近くにいた。小柄な体に黒きIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏い、転校初日に一夏に平手を当てた少女。ラウラ・ボーデヴィッヒその人であった。

 

「見たところただ実習に来た訳では無いようだが……何か私達に要件でも?ボーデヴィッヒ」

 

 警戒した様子でラウラにから視線を外さないよう注意しながら慎吾がラウラに問う。

 

「おい貴様」

 

「……何だよ」

 

 そんな慎吾を無視し、ラウラは一夏を睨み付けながらそう言う。呼ばれた一夏は余り気が進まないような様子でラウラに返事を返した。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな……ならば私と戦え!」

 

 冷たく鋭い声で一夏にそう言うラウラ。

 

 試合で流した汗が乾き始めた信吾の背中からは再び汗が滲み出し初めていた。




 次回予告 大胸筋バリアー。出ます


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29話 一触即発?ラウラとゾフィー

 何とかいつもよりは早く出来ました……それと、先日ランキング入りしたのに気がつきました。
 やはりこう言った結果が残るのは大変、嬉しいものですね。これからも頑張って執筆して行きますので宜しくお願いいたします。


「……嫌だ、お前と戦う理由がねえよ」

 

 ラウラに勝負を挑まれた一夏は、そう言うと首を降って断った。しかしラウラは全く殺気を緩めず、いや、それどころかむしろ更に強く一夏を睨み付ける。

 

「貴様には無くても私にはある……そもそも貴様がいなければ教官はモンド・グロッソで……っ」

 

 そこが怒りの沸点だったようで、ラウラははっきりとした怒りの表情を見せ一夏にそう怒鳴る。

 

「(モンド・グロッソ、第二回IS世界大会か……確かあの大会で、大会二連覇がかかっていた織斑先生が突如棄権し騒動になっていたな……)」

 

 そんな二人の様子を注意深く観察しながら、慎吾はラウラの発した言葉から静かにその真意を読み取ろうと試みていた。

 

「(詳しい事はまだ分からないが、どうやら織斑先生の棄権の理由には一夏が関わっているのは間違いないようだな……。そして恐らくボーデヴィッヒはその真相を知っていてそれが気に入らない。話し合いで済ませるのは厳しそうだな……)」

 

 そう判断した慎吾は二人から視線を外さず、しかしラウラには気付かれぬよう以前、休日の際にヒカリから『非常用』として貰った装備をいつでも出せるよう密かに準備した。

 

「……やっぱ、断る。また今度な」

 

 と、そこで黙ってラウラの話を聞いていた一夏はそう口にすると改めて勝負をきっぱりと拒否した。

 

「ほぅ……そうか、ならば」

 

 一夏の返事を聞くと、ラウラは僅かに吊り上げていた口角を緩め。

 

「無理矢理にでも戦わせてやろうっ!」

 

 次の瞬間、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが戦闘状態にシフトし、同時に一夏が白式を展開させる。そして、全く同じタイミングで信吾もまた動いた。

 

 直後、レーゲンの左肩に装備された大型の実弾砲が一夏の白式を狙って発射された。が

 

「ぜやっ!!」

 

 その攻撃は白式に届くより先に、エネルギーを回復させたゾフィーが庇うように前に飛び出し、胸を張るような構えで迫り来る砲撃を胸部で受けると、そのまま何事も無かったかのように防いでしまった。しかも、驚くべき事に攻撃が直撃したのにも関わらずゾフィーはタイマーこそ点滅していれどダメージを受けた様子が見た目にも数値にも全く無かったのだ。 

 

「何っ……!?」

 

 完全に予想外の方法で自身の一撃を止められたラウラは思わず驚愕の声を上げた。

 

「ボーデヴィッヒよ、お前の事情は私には分からんが……今日、この場は引いてはくれないか?」

 

 そんなラウラに対して慎吾は構えを崩し、落ち着かせるような緩やかな口調でそっと話しかけた。

 

「舐めるな、たたが一発防いだ程度でいい気になるなよ……!」

 

 が、ラウラは信吾を睨みながらそう言うと、今度は砲の狙いをゾフィーに移す。

 

「くっ……!」

 

 迷うように小さくうめきながら慎吾もまた構え、レーゲンの砲撃を相殺せんとスラッシュ光線を放とうと狙いを付けた。

 

『そこの生徒!一体何をやっている!?』

 

 と、今にも二人が激突しそうであったその時、アリーナ内にスピーカーからの声が鳴り響いた。恐らくはこの騒ぎを聞き付けて来た教師であろう。

 

「ふん……今日は貴様の言う通り引いてやる。だが、これで終わりでは無いぞ……!」

 

 すると、ラウラはそう言って信吾、そして一夏を殺気を込めた視線で睨み付けると、戦闘態勢を解きアリーナゲートへと去っていった。

 

「ふぅ……引いてくれたか。仮に戦闘になっていたら今のシールドエネルギーでは私が負けていただろうな……」

 

 去っていくラウラを見送ると、慎吾はどっと疲れたように膝をついて深く溜め息を付いた。

 

「慎吾!」

 

「慎吾さん、大丈夫ですか!?」

 

 と、そんな慎吾にシャルルと一夏が駆け寄り、それぞれが肩を貸して膝を付いた慎吾を助け起こした。

 

「あぁ……一夏、シャルル私は大丈夫だ。ちょっと疲れてしまっただけさ……」

 

 慎吾はそう言うと二人の肩から放れ、無事を示すように僅かにふらつきながらも立ち上がった。

 

「そういえば慎吾、僕との模擬戦でシールドエネルギーが0になったはずなのに……どうして回復しているの?」

 

 と、そこでふと気付いたようにシャルルが慎吾に尋ねる。そう、確かにゾフィーのシールドエネルギーは先程まで空になった。が、しかし今、ゾフィーのシールドエネルギーは全開までとは行かないが三割ほどが復活しているのだ。

 

「あぁ……これのおかげだ」

 

 そう言うと慎吾はゾフィーの右腕に装着された銀色の十字の中心に穴を開けたような奇妙なブレスレットを一夏とシャルルに見せる。

 

「これは非常用、緊急時にシールドエネルギーが不足している時に、急速にシールドエネルギーを回復するための装備だ。最も……これはまだ試作機らしいがな」

 

 そう言いながら慎吾はふと、この『ウルトラコンバーター・プロト』と名付けられた試作機を『必ず近いうちに、もっとスピーディかつ大幅にエネルギーを回復できる正規版を渡す』とやる気に満ちた真剣な表情で言ったヒカリを思い出し、小さく笑った。

 

「さて、時刻も4時を過ぎたし問題もひとまずは解決した。皆、今日は引き上げるとしよう」

 

 と、そこで慎吾は気を取り直したようにそう言い、皆がそれに賛同したのを確認すると、慎吾と一夏はゲートへと向かおうとした。

 

「あ、そうだシャルル、今日こそ一緒に着替えようぜ!」

 

「えっ?い、一夏!?」

 

 突如、慎吾と共にゲートへと去ろうとしていた一夏が振り返りシャルルにそんな事を提案をシャルルにしてきた。提案をされたシャルルとは言えば一瞬で顔を赤くし混乱していた。

 

「一夏……藪から棒に一体何を言っているんだ?大体、お前は今、シャルルと同室ではないか」

 

 そんな奇妙な状況に耐えかね慎吾は小さく一夏に囁いた。

 

「それがですね慎吾さん……」

 

 慎吾の質問に一夏も小声で返し、こっそりと返事を返して現状を説明した。要約すると、曰く、部屋で二人きりだと急によそよそしくなる。同性同士なのに妙な距離感を感じる。と、何故か必死な様子で一夏は慎吾にそう言ってきた。

 

「ほら……裸の付き合いってあるじゃないですか。それで何とか距離を縮めたくて……」

 

「言いたい事は少しは分かるが……だからと言って一緒に着替えに誘うと言うのは無理があるぞ?」

 

 話を全て聞き終えた慎吾は苦笑しながら、そう一夏をたしなめた。

 

「……ともかく無理じいは良くない。今はシャルルを待ってやれ」

 

「はい………ごめん、シャルルさっきのは無しで」

 

 慎吾の言葉を聞くと少し納得しないようながらも頷いて了承し、シャルルに謝罪すると慎吾と共にゲートに向かって行く。

 

「(あ、危なかったぁ……)」

 

 そんな二人の背中を見送りながらシャルルは内心で深く深く安堵の溜め息を付いたが、それに気付いた人物は誰もいなかった。




 という訳で、今回、ウルトラコンバーター(試作機)を登場させました。正規版はのちのち。
 ウルトラマジックレイは……登場を迷っております。


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30話 シャルルの真実、慎吾の想い

 何とか更新は間に合いました……。こんなのは危ういと思っているのが、毎度ギリギリになってしまう現状が辛い


「慎吾さん……っ慎吾さんっ!!すいません……大変なんです!力を貸してください!」

 

 夜、寮の自室のシャワーで汗を流し、そろそろ夕食を取ろうとしていた慎吾の元にただならぬ様子の一夏が訪問してきた。

 

「どうした一夏、一体何があったんだ?」

 

「えっと……シャルルの事なんですが……その、何て言ったものか……」

 

 慎吾から質問されると一夏は頭を抱えてうんうんと声を上げて悩み出す。どうやら事態は説明も出来ない程に切迫した事らしい。

 

「と、とにかく俺の部屋に来てください。来れば、すぐ分かりますから!」

 

「わかった……すぐ行こう」

 

 そう一夏に了承の返事をすると慎吾は廊下に出て、一夏と共に現在シャルルと一夏が共に過ごしている1025室へと向かった。

 

「んなっ………?」

 

 そして数秒後、部屋のドアを開けて中に入った慎吾の口から少し呆けたような声がこぼれた。

 

 

「……と、言うこと何ですが、大丈夫ですか慎吾さん?」

 

「あぁ、すまん……私としたことが取り乱してしまったようだ」

 

 一夏から現状の説明を受けつつ幾度か呼吸を繰り返して、何とか落ち着きを取り戻した慎吾は未だに悩むように額に手を当てながらそう言った。

 

「うん……慎吾が驚くのも無理は無いよ……」

 

 そんな慎吾に自嘲するように苦笑しながらベットに腰掛け、シャープなラインが特徴的なスポーツジャージを着たシャルルはそう言う。表情だけを見れば、シャルルの様子は多少、気力こそ無いものの何時もと変わらぬように見えた。そう、問題は

 

「シャルルが女性とは……正直、私も想像してはいなかったな」

 

 深くため息を付きながら慎吾は呟き、再び部屋の中には沈黙が訪れる。そう、今のシャルルが普段と大きく違うことは一つ。

 

 

 

 ジャージから浮き出るシャルルの体には『男子』なら無いはずの確かな胸の膨らみがあったのだ。

 

 

 

 それがシャルルが男性では無く、女性である事を表す事は誰の目から見ても明らかだった。

 

「えーっと、シャルル……なんで、男のカッコなんかしていたんだ?」

 

「…………」

 

 そんな重苦しい空気を何とか打破しようとしたのか口火を切って一夏がそうシャルルに話しかけた。その瞬間、目に見えてシャルルの表情が曇るが、一瞬の間を置いて勇気を出すように静かに口を開いた。

 

「うん……それは実家の方からそうしろって言われてね……」

 

「シャルルの実家……デュノア社からか?」

 

「そうだよ慎吾、それも僕の父……社長からの命令なんだ……」

 

 慎吾の質問にシャルルは弱々しく答えると、静かに、まるで自分の罪を自白するかのように語り出した。

 

 父の愛人の子と生まれ実の父とも殆ど会えず、父の本妻の相手に虐げられた壮絶な過去。そして経営危機に陥ったデュノア社に利用され男装して注目を集める広告塔にされている現状。そして

 

「一夏……慎吾ごめんね……僕はIS学園で君達に接近して……白式とゾフィーのデータを盗むように言われているんだ。学園生活を助けてくれた二人に……嘘を付いちゃってたね……」

 

 最後にシャルルは悲壮に満ちた痛々しい表情でそう言うと深く二人に頭を下げた。

 

「……かよ、それで……」

 

「え……?」

 

 と、そこで何かを堪えきれなくなったように一夏が小さく呟き、思わずシャルルは聞き返す。

 

「それでいいのかよシャルル!?」

 

「い、一夏……?」

 

 次の瞬間、一夏はシャルルの肩を掴んで顔を上げさせると強くシャルルにそう語りかけた。

 

「親が何だって言うんだよ!親がいなきゃ子供は生まれない……そりゃそうだろうだけど、だから子供の自由を親が踏みにじって良い訳が無い!どんな子供にだって夢を求めて輝くチャンスはあるはずなんだ!」

 

「落ち着け一夏……お前の言うことが正しいと私も思うし共感も出来るが……シャルルを怯えさせては駄目だ」

 

 必死にシャルルにそう熱弁する肩を軽く叩いて慎吾は一夏を落ち着かせた。

 

「あっ……悪いシャルル……つい……」

 

 と、そこでシャルルの様子に気付いた一夏は慌ててシャルルの肩から手を離し、謝罪した。

 

「う、うん……でも、どうしたの一夏?」

 

「それは……」

 

 一夏の手から解放されたシャルルは多少ドキマギした様子ながらもそう尋ねる。その言葉に一夏は迷いを見せたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「それは……俺と千冬姉が両親に捨てられたから……」

 

 一夏がその言葉を口にした瞬間、資料で知っていたのかシャルルはハッと息を飲んだ。

 

「ご、ごめん…………」

 

「気にしなくていい、俺の家族は千冬姉だけだし……今更、親に会いたいとも思わないさ」

 

 シャルルは慌てて一夏に謝罪するが一夏は対して気にした様子は無く、そう苦笑しながら言った。

 

「……ところでシャルル、君はこれからどうしたい?」

 

 と、そんな中、何かを考えるように黙っていた慎吾が口を開き、シャルルにそう質問した。

 

「えっ……どうって言われても……フランス政府に真相を知られれば僕は代表候補生をおろされて、良くて牢屋行きに……」

 

「あぁ、そうじゃないんだシャルル」

 

 慎吾の意図が読めないと言った様子でそう言うシャルルの言葉を、慎吾はやんわりと止めた。

 

「私は純粋に気持ちを聞きたいんだ……政府やデュノア社の事は関係ないシャルルの気持ちをな……」

 

 そう、優しくシャルルに言い聞かせるように言いながら慎吾は再び問いかける。

 

「シャルル……改めて聞こう、君はこれからどうしたいと思うんだ?」

 

「僕は………」

 

 慎吾の問いにシャルルは迷いを見せ、言葉につまる。そして、次の瞬間シャルルは少しづつ、思いの丈をぶつけるように語り出した。

 

「僕は、もう少しIS学園で知り合った皆と過ごしたい……一夏や慎吾、箒やセシリアや鈴と一緒に居たい……!」

 

「そうか……」

 

 シャルルの想いを聞くと慎吾はそう言って深く頷き

 

「ならば私はシャルルのその想い……その気持ちを全力で守ろう」

 

 そう満面の笑顔で慎吾はシャルルに言った。

 

「えっ……?」

 

「何……私達は互いに知らない中では無い……それどころがシャルルは私達の立派な仲間だ……ならば、守らない理由がどこにあると言うんだ?」

 

 状況を良く理解出来ていない様子のシャルルの右肩にそっと手を乗せ、慎吾はそう優しく言い聞かせる。

 

 「勿論、俺だってシャルルを守るぜ!」

 

「慎吾……一夏……」

 

 そのシャルルの左肩に一夏もまた手を乗せ、一夏もまた誓って見せた。

 

「それに、これもまた皆より少しばかり年上の私のつとめと言う奴さ……」

 

 最後に付け足すように慎吾はそう冗談っぽく笑って見せた。

 

「慎吾さん……それ口癖みたいに言ってますね」

 

「私のポリシーのような物だからな……」

 

 そんな慎吾に一夏がからかうように笑いかけ、慎吾もまたそれに笑顔で返した。

 

「(慎吾っていつでも、落ち着いていて親切で強くて凄く頼りになるなぁ……まるで……)」

 

 そんな中、シャルルの心の中に慎吾に対して一つの思いが芽生えつつあった。優しく、暖かい、いつでも見守ってくれる……そんな慎吾を例えるのならば……そう。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「「……えっ?」」

 

 シャルルの小さく、しかしながらその破壊力はとんでもない発言に再び室内に衝撃が走った。




 慎吾、まさかの妹誕生です
……正直、かなりの冒険でした


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31話 シャルルと慎吾。そして兄妹誕生?

 な、何とか間に合いました……今週は少し忙しくて…


「つまり最低三年間はこの特記事項二一によりシャルルの無事は保障される訳だ。この間に私達で対策を練る……これがベストな選択だろう」

 

 どうにか落ち着きを取り戻そうとしながら慎吾が一夏とシャルルに説明をする。しかしその声は若干高く、良く見れば手も細かく震えていた。

 

「そ、そうですね……」

 

「う、うん……」

 

 そんな慎吾に、一夏とシャルルもまたどこか落ち着かない様子で細かく動きながら慎吾に返事を返す。

 

「(ぼ、僕……いくら優しくしてくれるからって慎吾を『お兄ちゃん』なんて……は、恥ずかしいよぉ……)」

 

 そして、シャルルはうつ向きながら内心で先程の自分の行動を後悔していた。現に、今のシャルルの突拍子も無い行動である程度落ち着きかけていた部屋の空気が先程とはまた別次元の異質な空気に包まれ、慎吾も一夏も対応に困っているのだから後悔するのも当然と言えるが。

 

「ごほんっ……だが、この3年間でデュノア社、およびフランス政府が何のリアクションも起こして来ないとは言い切れない。何にせよ注意は怠らない事に越した事は無いな……あ」

 

「……っ!」

 

 多少咳き込みながらも慎吾は伝えるべき事を二人に伝え終えた。と、その瞬間、ほんの一瞬顔を上げていたシャルルと慎吾の視線が交差し瞬時にシャルルの顔が真っ赤に染まる。

 

「あー……シャルル?さっきの事だが……」

 

 そんなシャルルの様子を見て少しの迷いを見せながらも慎吾が口を開きシャルルに何かを告げようとする。と、その瞬間だった

 

「一夏さん?いらっしゃいますか?」

 

「とっ……」

 

 控えめなドアのノックと共にセシリアの声が聞こえ、慎吾は慌てて口に出そうとしていた言葉を止めた。

 

「セシリア?なんでこのタイミングで……」

 

「ど、どうしよう……?」

 

 突然のセシリアの訪問に一夏とセシリアは目に見えて身をすくめ、小声でそう狼狽えた。

 

「弱ったな……ここでいきなりシャルルの秘密を言う訳にもいかないし……セシリアや他の皆は信頼出来る仲間だから近いうちに話すとして……とりあえず今はシャルルは布団に身を隠しておいてくれ。一夏はドアを開けてセシリアを部屋に入れてやるんだ」

 

 慎吾もまたこの不足の事態に頭を抱えながらも少し考えると、手早く二人に指示を出す。

 

「う、うん、分かったよ……」

 

「分かりましたけど……慎吾さん、セシリアには何て?」

 

 慎吾の指示を受けて二人がそれぞれ動く。と、ドアへと向かっていた一夏が足を止めて心配そうな顔で慎吾に尋ね、それに賛同するようにシャルルもまた不安げに視線を向けてきた。

 

「大丈夫だ一夏、シャルル。ここは私に任せて話を合わせてくれ。何、責任は全て私が取ろう」

 

 と、そんな二人を励ますように、そう言いいながら慎吾は優しく笑いかける。

 

「わ、分かりました……」

 

 慎吾の言葉を受けて一夏は頷くと、静かにドアを開く。

 

「ありがとうございます、一夏さん」

 

 一夏がドアを開くとセシリアは丁寧に一礼してから部屋に入ってきた。と、そこでベッドで布団にくるまって横になっているシャルル、そしてベッドの横に立っている慎吾の姿をを見つけると、不思議そうな顔をした。

 

「あら、慎吾さんもいらっしゃいましたの?それにデュノアさんはどうして横に?」

 

「あぁセシリア。シャルルの体調が悪いと一夏から聞いてな。私が様子を見に来たんだが……。どうやら、軽い熱のようだ」

 

 セシリアの問いに慎吾は難しい顔をして平然と実際にそうだっかのように語ると、無言でシャルルと一夏に目で合図を送る。

 

「あ、あぁ、そうなんだよセシリア!いやー本当にシャルルが心配で!うん」

 

「え、えっと……ごほっ!ごほっ!」

 

 慎吾からのサインに気が付くとすぐに二人はそれぞれリアクションを起こして見せた。が、その余りにもわざとらしさが過ぎると言える二人の行動に慎吾は冷や汗を流す。

 

「あらあら、それは大変でしたわね。では、一夏さんは夕食をまだ取られてないようですし……偶然にも私もまだですので、本日はご一緒しましょう。えぇ」

 

 が、セシリアはそれに気が付いた様子は無く。気のせいか上機嫌になると一夏を夕食に誘った。

 

「あっ、でも慎吾さんが……」

 

「私は、ここでシャルルの容態をもう少し見ている。私は後から行くから今は、先に二人で行って来るといい」

 

 一夏の言いかけた言葉を慎吾は柔らかくそう言って遮り、気にせず行くように促した。

 

「は、はい、分かりました」

 

「それでは参りましょう。デュノアさんお大事に……慎吾さん風邪がうつらないよう、お気を付けて……」

 

 慎吾に言われて一夏は多少ギクシャクしながらも返事を返すとドアを開いて廊下へと出ていき、セシリアは軽くシャルルと慎吾に一礼をするとその後に続いて出ていき……ドアが閉じる直前、そっと一夏の腕を取り絡めとった。

 

「(大胆な行動に出るな……セシリアも)」

 

 しっかりとその現場を見ていた慎吾は腕組みしながらどこか感慨深げに内心でそう呟いた。

 

「……あの、おにっ……!……いいかな、慎吾?」

 

 と、室内に二人だけになったのをしっかりと確認するとシャルルが一瞬、妙な噛み方をしながら慎吾に話しかけ始めた。

 

「あぁ……なんだシャルル?」

 

 慎吾は認知したが、その事については何も言わずただそう言うとシャルルに視線を向けた。

 

「あのね……お……慎吾はさっき、僕に何を言おうとしてくれたのかな……って」

 

 慎吾の問いに再び慎吾を『お兄ちゃん』と言いそうになったシャルルは真っ赤になりながら、慎吾にそう問いかける。

 

「あぁ……あれか……大した事ではないが……」

 

 そんなシャルルを優しく見ながら慎吾は静かに口を開く。

 

「シャルル、お前が呼びたいのならば私を兄と呼んでくれても構わない……そう言おうしただけさ」

 

「えっ……?」

 

 慎吾からの予想外の言葉にシャルルは思わず聞き返した。すると慎吾は恥ずかしそうに頭を掻きながら言葉を続ける。

 

「フェアにならないから後で一夏にも言うつもりだが……私は両親と既に死別して家族と言える者がいなくてな……シャルルにそう言われた時、私はとても嬉しかった……まるで、私に本当の妹が出来たかのように感じていたよ」

 

 

 そこで慎吾は静かに言葉を止めると、再びシャルルに向き直った。

 

「だから私を兄とは呼んでくれないか?シャルル」

 

「………」

 

 慎吾に正面から見つめられたシャルルは一瞬だけ迷い

 

「慎吾……お兄ちゃん……?」

 

 頬を染め、上ずった視線でそう慎吾に言った。

 

「あぁ……何だシャルル?」

 

 その問いに慎吾は肩の力を抜き、柔らかな笑顔でシャルルに返事を返した。

 

「……慎吾お兄ちゃん!」

 

 次の瞬間、シャルルは心底嬉しそうに慎吾の手を握ると再び慎吾の名を呼び、慎吾は笑顔のままそっと開いた手を伸ばしてシャルルの頭を撫でる。

 

 実際には生まれた国も違い、血の繋がりも無い二人ではあっだが、その姿は実の兄妹のそのもののようだった。




 次回、ラウラvs慎吾をやります。どう、立ち回るかが悩み所ですね……


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32話 ゾフィーvsシュヴァルツェア・レーゲン 前編

 ついに遅刻してしまいました……今週は二回投稿とさせていただきます。


「ウルトラ……フロスト!」

 

 アリーナの中心でゾフィーを展開させた慎吾がそう叫ぶのと同時にゾフィーの手には青くキラキラとした光が一瞬きらめく。と、次の瞬間ゾフィーの両手から白い冷気が発射され、狙いを付けたターゲットは冷気を浴びると一瞬のうちに凍りつき、氷の塊と化した。

 

「スペシウム!」

 

 ターゲットが完全に凍り付いたのを確認すると慎吾はすかさずゾフィーの腕を十字に組み、スペシウムを放ち、次の瞬間スペシウムは見事氷の塊の中心に直撃して、ターゲットを粉々に砕いた。

 

「ふぅ……これで一通りゾフィーの装備の動作確認、および訓練は終了……と、言った所か」

 

 砕けたターゲットの破片を眺めながら、そう言うと慎吾はため息と共に肩の力を抜く。本日、第三アリーナで慎吾は珍しく一人でISのトレーニングをしていた。その理由は単純に一夏や箒との予定が上手く噛み合わなかったのもあるが、実際には『自分一人の為の訓練に皆を付き合わせる訳にはいかない』との慎吾の独断の配慮が主であった。

 

「それにしても……騒ぎが収まるどころかより白熱しているな……予想以上に」

 

 訓練を終え、少しばかり緊張が抜けた慎吾は軽く笑いながら今朝の教室での事を思い出して呟いた。今に始まった話では無いが、『学年別トーナメントで優勝した者は織斑一夏あるいは大谷慎吾と交際出来る』との噂は日を追う事に大きく膨れ上がりもはや学園の女子で知らぬ者はいないであろうほどの大騒ぎになっていた。今日も今日とでクラス内で女子達が夢中になって気付かなかったのか、廊下にまで聞こえるほどの音量で話をしていた為に危うく登校してきた一夏に気付かれそうになり、盛大に取り乱し訳も分からぬ程に慌てていたのだ。

 その女子達の慌てぶりを思い返し、再び慎吾はくすりと仮面の下で笑う。

 

「しかし……一夏はともかくとして、私のような堅物と交際したいと思う女性などはいるのだろうか……?」

 

 と、誰に言う訳でも無くふと思い返し、慎吾がそう呟いた時であった。

 

「あら?慎吾さん」

 

「あっ……あんた先に来てたの?」

 

 全く同じタイミングで甲龍を展開させた鈴、そして同じくブルー・ティアーズを展開させたセシリアがアリーナに姿を見せた。

 

「鈴とセシリアか……私は今丁度、訓練を終えて引き上げる所だが……二人は今からか?」

 

 二人に気付くと慎吾は軽く手を上げ、そう言いいながら挨拶を交わす。

 

「……ええ、奇遇にもこれから学年別トーナメントに向けて特訓を」

 

「そう……ホント奇遇な事にあたしも今から始める所だったのよ」

 

 慎吾の言葉に二人は一瞬、視線を交わすと合わせたようなタイミングで口を開いた。

 

「う、うむ、そうか……」

 

 二人が視線を交わした一瞬、確かに二人の視線の間に見えない火花がぶつかり激しく弾けたのを確認した慎吾は思わず苦笑いしながら返事を返す。どうやら、両者共に優勝を狙って精神が相当に熱くなっているようだ。

 

「目的が同じなら丁度いいわ……セシリア、あんた『実践的訓練』に付き合ってくれない?……お互いの為にも……ね」

 

「えぇ勿論構いませんよ鈴さん?……この際どちらがより強く、優雅なのかをここで証明しましょうではありませんか」

 

 現に今もセシリアと鈴の二人は口調だけは穏やかながらも互いにメインウェポンを構え、空気が震えるほどの気迫を構えて対峙し、今にも激突しそうな雰囲気を漂わせている。慎吾はそんな二人を見ながら再び小さく苦笑した。

 

「(ふふ、この気迫……私が止めても聞かないだろうな……丁度、訓練も終えた事だし私はここで引き上げて……!?)」

 

 次の瞬間、身震いするような急激な殺意を感じた慎吾は直ぐ様意識を切り替え、殺気がした方向へと勢いよく向き直り構えた。

 

「……一応、聞いておくけど背後から殺意剥き出しで近付くなんてどういうつもり?」

 

 どうやら殺意は鈴とセシリアにも向けてられていたらしく鈴は連結した双天牙月を、セシリアはスターライトmkⅢを慎吾が殺気を感じて構えた方角と全く同じ場所に向けていた。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』、そして日本の『ゾフィー』……三機そろって仲良く訓練か?ふん、程度の低い貴様らには丁度いいだろう」

 

 そこにいたのはシュヴァルツェア・レーゲンを展開させたラウラだった。3対1と言う圧倒的不利な状況にいながらもラウラは全く臆した様子も無く、三人に向かってそう見下した視線で挑発するようなセリフを口にしてきた。

 

「……二人とも、この程度の挑発に乗るなよ?」

 

 ラウラの言葉に鈴とセシリアの両方が口元を引きつらせたのを確認すると慎吾は構えを崩さぬまま静かに二人に告げた。

 

「言わなくても分かってるわよ……それくらい」

 

「この程度の挑発に乗るほど私、安くはありませんわ」

 

 不機嫌全快な表情でラウラに殺気を向けながらも二人は慎吾の言葉に頷き、挑発に乗って軽々と動きはしなかった。

 

「ふん、そう言えば貴様には偶然だろうとは言え、攻撃を止められた借りがあったな……」

 

 するとラウラは今度は慎吾へと視線を向け、残忍な笑みを浮かべ品定めでもするかのようにゾフィーに狙いを付けた。

 

「丁度いい、今この場で貴様を叩き潰して借りを返してやるっ!」

 

「……私が断ったら、無理矢理にでも襲ってくるのだろう?……鈴、セシリア、ここは私に任せてくれないか?」

 

 慎吾はそう落ち着いた口調でラウラに向かって一歩また一歩と近付きながら、そっと穏やかな口調で鈴とセシリアを下がらせた。

 

「ならば……かかってこいボーデヴィッヒ。私が相手になろう」

 

「話が早いのだけは評価してやろうっ……」

 

 ラウラが満足そうにますます狂暴に笑い、セシリアと鈴が振り返りながらもビットに下がったその瞬間。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンとゾフィーその二機が銃弾の如く相手へと向かって同時に動いた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「ど、どうした一夏?」

 

「一夏、何かあったの!? 

 

 一夏は追いかける箒とシャルルに返事もせず、第三アリーナへと続く道を早足で進んでいた。理由は先程から妙にアリーナへと向かう生徒達が慌ただしい事、第三アリーナに近付く程に聞こえる模擬戦にしては異様と言えるほどに激しい物音、そして自主訓練を終えた後に一夏達と合流し、一夏とシャルルの訓練を見学すると約束していた慎吾が姿を見せていなかった。

 

 全ては偶然かもしれない、しかし一夏はたまらなく嫌な予感がしていた。

 

 そして一夏が第三アリーナ入った瞬間に見たのは

 

 仰向けに地面に倒れ、全身にダメージが目立ち、今にも消えてしまいそうな程に激しくカラータイマーを鳴らすゾフィーと

 

 それを冷たく見下ろすシュヴァルツェア・レーゲンを展開させたラウラの姿だった。




 次回、一夏が発見するまでの戦闘描写をやります


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33話 ゾフィーvsシュヴァルツェア・レーゲン 後編

 遅刻分の投稿です、金曜日頃にはもう一本も投稿します。


「慎吾さんっ!?慎吾さんっ!!」

 

 

 アリーナの大地に倒れ、装甲のあちこちが傷付きピクリとも動かないゾフィーを見た瞬間一夏は、自分達がいる観客席に張られた特殊なエネルギーシールドで声がアリーナ内にいる慎吾の元には届かない事を知っていながらもたまらず叫ぶ。

 

 一体、慎吾に何が起こったのか?話は試合開始直後に遡る

 

 

「てやぁっ!」

 

 試合が始まったのと同時に、慎吾は大地を蹴り、前身しながら構えて数発のスラッシュ光線をシュヴァルツェア・レーゲンに向かって放つ。

 

「その程度……」

 

 放たれたスラッシュ光線をラウラは僅かに動いたのみで容易く回避し、反撃とばかり大型カノンをゾフィーに向けて発射した。

 

「くっ……!」

 

 慎吾はそれを紙一重で避け、追い討ちとばかり迫る砲撃をも上下左右と立体的なジグザグへと動いて回避し、さらにレーゲンに向かって加速しながら一気に近付いていく。

 

「たぁっ!」

 

 そして、射程距離に入った瞬間その勢いのまま慎吾はラウラに向かってゾフィーの強烈な蹴りを放った。

 

「早さは中々だが……甘い」

 

「なっ……!?」

 

 しかしその一撃はラウラが片手を上げた瞬間、レーゲンに命中する瞬間、突如凍りついたかのように空中で制止してしまい慎吾は目を見開いた。

 

「(この特性……ま、まさか慣性停止能力……AICか!?くっ……迂闊に接近しすぎた!)」

 

 自身の迂闊な行動を内心で呪う慎吾、と、そのレーゲンの瞬間巨大なリボルバーカノンが音を立てて無防備なゾフィーへと狙いを付ける。

 

「動きを止めたな……?」

 

「くっ……スペシウム!」

 

 レーゲンから弾丸が放たれる瞬間、慎吾は片足を上げたまま不安定な体勢でスペシウムを放って相殺するとAICの拘束が切れるのと同時に、爆煙が収まらない間に転がるように移動して距離を取る。

 

「ふん、距離を取っても無駄だ」

 

 と、その瞬間、ラウラの冷たい嘲笑と共に爆煙を吹き飛ばしてレーゲンの両肩に搭載されいた一対刃がゾフィーに向かって発射される。刃とレーゲン本体はワイヤーで繋がっており、縦横無尽かつ三次元で軌道を読みづらい動きをする計4つのワイヤーブレードが一斉にゾフィーへと襲いかかった。

 

「ふっ……!たぁっ……!」

 

 慎吾はワイヤーブレードのワイヤと刃の両方を無駄を押さえた最小限の動きで避け続け、レーゲンから腰部からさらにワイヤーブレードが発射されても落ち着いた様子で体を動かす速度を上げたのみで回避を継続し、それどころか逆に冷静に隙を見てかすみ切りのような手刀でワイヤを切断してワイヤの範囲を狭めていく。

 

「ほぅ、どうやら回避だけは上手いようだな……だが」

 

 ワイヤブレードの嵐を紙一重ですり抜け続ける慎吾を見て、ラウラは表情を変えぬまま一言そう称賛する。

 

「ワイヤーに構いすぎて隙だらけだ!」

 

 次の瞬間、迫り来るワイヤを避ける為に一瞬、ほんの一瞬、レーゲンに背後を見せてしまったゾフィーの背中に向かってリボルバーカノンが発射させる。が、

 

「あぁ……分かってるさ、私が故意に作った隙だからなっ!」

 

 ラウラの攻撃のタイミングが完全に分かっていた。まさにそんなタイミングでゾフィーは振り向き、振り向き様にZ光線をレーゲンに向けて発射した。

 

「なにっ………!?ぐぅぅっ!!」

 

 さすがに慎吾のこの行動はラウラも予測しきれず、結果、AIC発動のタイミングが僅かに遅れて直撃こそ避けたものの殺しきれなかった分のZ光線が襲いかかり、ラウラの苦悶の声と共にレーゲンは背中から大地へと崩れ落ちた。

 

「……ぐっ!」

 

 が、ただで倒れた訳では無いらしくレーゲンは倒れる直前に急速にワイヤーブレードを本体へと収納、Z光線を放った直後の隙を付かれたゾフィーはワイヤーを避けることが出来ず、刃が背中に命中して正面に膝をついて倒れる。

 

「(ラウラ・ボーデヴィッヒ……予想していたより……いや、それ以上に強い!)」

 

 膝をつき、息を荒めつつも決して倒れているレーゲンから視線は離さず慎吾はラウラの強さに驚きを隠せないでいた。

 

「(くっ……鈴とセシリアを守るためとは言え……訓練で失ったエネルギーを回復しないまま挑んだのは予想以上に困難だったのかもしれないな)」

 

 慎吾はゾフィーの右腕に視線を移す。この戦況を優位へと進められそうなウルトラコンバータは何の因果か今朝一番に調整の為にヒカリの元へと送っており、今現在手元には無かった。

 

 つまり、現状ゾフィーのシールドエネルギーを回復させる手段は無い。

 

 自身に迫る危機を改めて理解し、思わず慎吾は顔を歪ませ額からは冷や汗を流した。

 

「ふっ!」

 

 と、その瞬間、レーゲンの両手首から超高温のプラズマの刃を展開させたラウラが起き上がるのと同時に加速して一気にゾフィーへと迫り来る。

 

「くっ……たぁぁっ!だあっ!」

 

 迫るラウラから逃げず慎吾は、襲い来る二つの刃にゾフィーの両拳で対抗し、防御を最小限に抑え、被弾覚悟のスピード重視の突きで次々とレーゲンへ張り付くような近距離で猛攻を加えていく。

  

「こいつ戦い方を……っ!」

 

 先程まで、相手の隙を見て慎重にパワーを込めた一撃を狙うような戦い方をしていた慎吾が急激にスピードと手数重視の戦法に変わった事により、ラウラは少しずつ押され始めていた。嵐のような慎吾のラッシュはラウラにAICを発動させる隙も与えない。

 

「くっ……調子に乗るな!」

 

 不利になりだしたラウラはゾフィーの拳を避けつつ牽制の為、ゾフィーの手刀に切断された事により数が減ったものの計六つのワイヤーブレードを攻撃に集中しているゾフィーに向けて発射した。

 

「うっ……!」

 

 囲むように迫り来るワイヤーブレードに慎吾はやむ無くレーゲンへの攻撃を中断すると、回避の為に背後へと下がる。と、丁度、その瞬間に先程までゾフィーがいた場所でワイヤーブレードが鋭くうなり上げて空を切った。が

 

「今度こそ本当に隙を見せたな……これで終わりだ……」

 

「………っ!!」

 

 その隙をラウラが見逃すはずもなく、次の瞬間ゾフィーのボディはAICに捉えられ完全に動きが制止し、勝利を確信した様子のラウラの言葉と共にレーベルの肩に搭載された大型レールカノンが音を立ててゾフィーに狙いを付ける。更にゾフィーのカラータイマーが鳴り出し、シールドエネルギー残量の低下を警告し始める。まさに一瞬、一秒にも満たない一瞬で慎吾は優位を覆され窮地に立たされていた

 

「M……ッ87光線!!」

 

「なっ……この距離でっ!?この死に損ないが!!」

 

 が、それで慎吾は諦めるつもりは無く、最後の抵抗、AICで拘束されていない右腕に力を込めてラウラ目掛けてM87光線を放とうと試みた。慎吾の行動にラウラは目を見開いて驚愕するもAICの拘束は決して緩めず、カノンを連射してどうにかM87を放たれるより先にゾフィーを沈黙させようとする。が、慎吾はシールドエネルギーが目に見える勢いで減少し、防御仕切れないダメージが体を襲っても決してM87を放つ体勢を崩さない。

 

 

「だっ……あぁぁぁっ!!」

 

 

「おおおぉぉぉっ!!」

 

 

 次の瞬間二人の怒濤の声と共にアリーナはM87の青い光に包まれた。

 

 

 そして

 

 

「ぐっ……わぁっ……」

 

 

「この戦闘技術、そして精神力……見事、実に見事……」

 

 光が晴れた瞬間、既にラウラとゾフィー二人の戦闘に決着は付いていた。

 

「この学園にも……大谷慎吾……お前のような強者がいたのだな……」

 

「うっ……う……」

 

 そうラウラは言いながらプラズマ手刀で捉えたゾフィーを地面へと投げ捨てる。ゾフィーのカラータイマーは今にも消えてしまいそうな程の勢いで激しく点滅してもはやゾフィー、慎吾共に戦える力が残って稲井事を示していた。

 

「これでトドメだ……」

 

 もはや呻く事しか出来ないゾフィー目掛けてラウラがトドメを放つべく、冷たく見下ろしながらカノンで狙いを付けた時だった。

 

「おおおおおっ!!」

 

 アリーナのバリアを突き破り、白式を展開させ、雪片を装備した一夏がゾフィーとレーゲンの間に割って入るかのように突入してきた。




 ラウラとの戦闘描写はかなり苦戦しました……さて、皆様のおかげでこの小説もめでたくお気に入りが100件を越えましてたので、その感謝を込めまして近いうちに感謝の気持ちといたしまして特別番外編を投稿しようかと思います。特別番外編には……『あの人』を出すつもりです。


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34話 白式vsシュヴァルツェア・レーゲン!VTシステム

 何とか間に合いました……こんなハラハラを味わわない為にも気を付けたいです。


「止めろ!もう決着は付いてるだろ!?攻撃を止めろよ!!」

 

 白式を展開させた一夏は雪片を構え、倒れているゾフィー背に庇うように立ちながらラウラを殺気を込めて睨み、怒鳴り付ける。

 

「何を甘い事を、そもそも私がお前なぞの言うことを聞くとでも?」

 

 そんな一夏を冷えきった視線で見ながら嘲笑するような口調でそう告げるラウラ。その表情からは先程の奮闘した慎吾を称賛した時のような僅かな暖かみも完全に消え失せていた。そして、一夏に向けて挑発するようにカノンの狙いを付ける。

 

「私を止めたいのならば、さっさとかかって来い……それとも怖じ気づいて逃げ出すか?」

 

「慎吾さんを置いて……誰が逃げるかよっ!!」

 

 その言葉は隠す気すら無いら明らかな挑発ではあったが、目の前で見た事が無いほどに傷付いた慎吾とゾフィーの姿を見せられて今にも爆発しそうであった一夏の怒りに火を放つには十分だった。

 一夏は怒りのままに零落白夜を発動させると同時に瞬時加速を行って一気にラウラへ向かって突っ込んで行く。と、その時だった

 

「い、一夏……」

 

 一夏に弱々しくもはっきりと聞こえる声で個人間秘匿通信(プライベート・チヤネル)で慎吾の声が聞こえてきた。見ると、慎吾は両手で地面に手を付きながらも、ゾフィーを起こして必死に立ち上がろうとしていた。

 

「怒りで冷静さを失うな……私達との訓練を思い出せ……お前にならそれが出来るはずだ」

 

 

 その言葉を言い終わるのと同時に慎吾は力尽きたように崩れ、ゾフィーは再び地面へと倒れる。

 

「慎吾さんっ……!!」

 

 慎吾が伝えたのは、ただそれだけの短いメッセージ。しかしそれで一夏には十分だった。怒りはしっかりと残っているが頭と心は冷静さを取り戻し、瞬時加速していながらも周囲の景色がはっきりと見えるほどに驚くほど落ち着いていた。

 

「ー消えろ」

 

「………おおおっ!!」

 

 そして次の瞬間、白式の白とシュヴァルツェア・レーゲンの黒が素早く交差し

 

「ば、かなっ……!?私がこんな所で………?」

 

 次の瞬間には『シュループ』の軌道を描いた白式の瞬時加速。そこから放たれた零落白夜の一撃レーゲンのシールドエネルギーは瞬く間に枯渇し、ラウラは何が起こったのか分からない驚愕の表情のまま崩れ落ち、落下していく。

 

「……ボーデヴィッヒよ、確かにお前は強い。それほどの強さを手に入れる為にお前が一体どれほどの鍛練をしたのか……私にも想像しがたい程だ」

 

 そんなラウラの耳に、静かに語りかける慎吾の声が聞こえてきた。その声に反応して落下しながらもラウラがゾフィーが倒れていた方向を見ていると、そこには一夏の後を追って来たのであろう、リヴァイヴを展開させたシャルル肩を貸される形で地面へと立ち、しっかりと見つめてくるゾフィーの姿があった。

 

「だが、私……いや私達にはその強さを越えれる物を持っている」

 

 そう言うと、慎吾は自分に肩を貸してくれているシャルル、アリーナ客席からシャルルに続いて飛び出そうとしていたセシリアと鈴、一夏そして慎吾を信じて待つ箒の順に視線を見つめ、最後にふっと一夏に視線を向けた。

 

「それが信頼できる仲間達との絆だ。仲間達と切磋琢磨して己を磨き、そこで身に付けた技、そして生まれた仲間との絆を信じて勝てないと思うような強敵とでも決して諦めずに戦う……。それが私達の強さなのだ」

 

「絆……それがお前の……」

 

 慎吾の言葉にラウラが何かに気が付いたような顔でそう口にした。

 

「私に、お前達のような………」

 

 そして、ラウラが消えそうな声で小さく呟いた瞬間。

 

「ああああああっ………!!!」

 

 ラウラの身を裂かんばかりの絶叫、レーゲンもそれに呼応するかのように激しい雷撃を放ち、周囲を目が眩むばかりの光に包み込む。

 

「うわっ!……一体何が……!?」

 

「これは……一体……」

 

 閃光が弱まり、ほぼ同時に視界を確保した一夏と慎吾の驚愕の声が重なる。

 

 そこにいたのはシュヴァルツェア・レーゲンだったはずのものが変形した黒い全身装甲のISだった。ボディラインはラウラのものに似ているが、装甲は腕と足に最小限のものが取り付けられてるのみで、フルフェイスのアーマからは普段なら装甲の下にあるはずのラインアイ・センサーが赤く輝いていた。そして、何より特徴的なのが

 

「あれは……雪片か……!?織斑先生がかつて使用していた……」

 

 黒いISが手にしていた唯一の武装を見た慎吾は思わず叫ぶ。当然、その事は一夏も直ぐ様、気が付いたらしく再び、いや先程、慎吾を助けようとした時よりも明らかに強い殺気を込めて黒いISと相対しようとしていた。

 

「いかん!一夏はさっきの瞬時加速を二度使用し、零落白夜も使用した……白式のシールドエネルギーはもう一撃どころがかすり傷でも尽きてしまう!……ゾフィーが動ければ……くっ!」

 

 一夏の危機を知りながらも何も出来ない現状に歯噛みする慎吾。と、その時だった

 

「……お兄ちゃん、ゾフィーのモードを一極限定にして。コア・バイパスで僕のリヴァイヴのエネルギーをあげる……」

 

 個人間秘匿通信でシャルルがそう慎吾にそう伝えた。

 

「シャル!?しかし……」

 

「今の一夏に一番力になってあげれそうなのは……僕よりゾフィーとお兄ちゃんだよ……」

 

 シャルルの提案を慌てて止めようとする慎吾ではあったが、シャルルは軽く苦笑するだけで言葉は止めない。

 

「お願いお兄ちゃん……一夏を助けてあげて」

 

 真剣な様子のシャルルに見つめられた慎吾は何も反論出来ずに沈黙し、そして……

 

 

 

「ぐうっ……!」

 

 

 黒いISからの一撃をどうにか避け、一夏は膝を付く。慎吾からの一言を聞いていたおかげで冷静さを何とか失ってはいなかったが一撃でも食らえばシールドエネルギーが尽きてしまう現状と、紛い物ではあるが千冬の動きを再現した黒いISに手をこまねき、次第にジリ貧の状況へと追い込まれていた。

 

「こ、このままじゃ……くそっ!」

 

 そんな状況に一夏が焦り始めたその時だった

 

 

 

「一夏!これと同時に行け!」

 

 そんな鋭い慎吾の声と共にシャルルからエネルギーを受け取った事で幾分かカラータイマーの点滅が緩やかに変わり、立ち上がったゾフィーから稲妻状の鋭い光線、Z光線が黒いISに向けて放たれる。行動不能と思われたゾフィーが再び稼働して攻撃した事で黒いISはZ光線を回避しようと行動を移す。その瞬間

 

「……千冬姉なら、その程度で隙は見せない。お前は所詮、ただの真似事だ」

 

 Z光線と零落白夜での縦の一閃を受け、黒いISは崩れ落ち、割れた中身から弱った様子のラウラを吐き出した。

 

「やったな……一夏」

 

 気絶したラウラを抱える一夏、そして遅れて駆けつけてきたISを展開させた教師陣の両方を見ながら、慎吾はそう優しく呟いた。




 誤植を直す。そして文章の継ぎ足してたら時間越えてしまいました……大失策です。


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35話 二人の道、ラウラの道。ヒカリとゾフィー

 ギリギリが多くてすいません……何とかペースを上げれるように頑張りたいのですが……


『成る程、強さか……それは中々に難しい問いだな……』

 

『え、そうですかね慎吾さん?』

 

 強さとは何か、そんなラウラの問いに二つの声はそうそれぞれの返事を返した。

 

 『俺は、強さは心の拠り所とか……自分がどんな存在であるかを常に考えるような事だと思うんですけど……?』

 

『…………ははっ』

 

 迷うように一つの声がそう言い終えると、その瞬間笑いを堪えきれぬようにもう1つの声が吹き出す。

 

『ええっ!?な、何か俺おかしい事を言いました!?』

 

『いや……すまない、何もおかしい事は言ってないさ……ただな』

 

 慌てたような声を宥めるようにもう1つの声がそう優しく言った。

 

『そんな答えを迷いなく直ぐ様、答えられる……だから、皆を惹き付けるのだろうな……と、考えるとついな』

 

『俺が皆に惹かれる……?』

 

 何か納得したかのようにその呟きに、再びもう1つの声が尋ねた。

 

『謙遜する事は無い、お前は十二分に皆に愛されるような人間であると私は判断するしISの才能もある。前にも言ったはずだが、お前なら私などすぐに越える事が出来る……私はそう思っているんだぞ?』

 

『いやいや、だから俺は強くないですって!全く』

 

『自分はまだまだ強くない……それは大抵、私が知る限りいくらでも強くなる可能性を秘めた人間が言う言葉だぞ?』

 

『うぅ……少なくとも今は、討論で勝てる気がしないんですが……』

                        

 恥ずかしいのか慌てて否定しようとする声を柔らかく受け止めて難なくいなしてしまい、ついに否定の声は諦めてしまった。そんな二人のやり取りはラウラが今まで見た事無いほどに愉快で楽しく

 

 ふふっ……

 

 気付いた時にはラウラは小さく笑っていた。それは試合の時に見せたような狂暴な笑み等では決して無く。ただの十五才の少女が見せる年相応の可愛らしい笑顔であった。

 

『さて、ボーデヴィッヒよお前も考えてはみないか?』

 

 と、そこで1つの声が再びラウラに向き、静かにしかし確かな力強さと暖かさを持って語りかける。

 

『自分だけの強くなる意味を……お前の心の中のその答えを……』

 

『お前がその道を選ぶのなら、俺がお前を守ってやるよ』

 

 二人の声は真っ直ぐにラウラの心へと響き。

 

『わたし、はっ……!』

 

 ラウラが途切れ途切れの言葉ながらも自身の答えを告げようとした瞬間。

 

 ラウラの意識は目覚めた。

 

 

「つまり……どうやってもトーナメントにはゾフィーの参加出来ない。と、言うことだな」

 

『あぁ、色々と手を考えて見たんだが結論として、これから先の事を考えるとゾフィーのトーナメント参戦は控えた方がいいと判断した。最も……慎吾がダメージレベルBの状態でZ光線を発射するなんて無茶をしなければ結果は分からなかったが』

 

「あの時は夢中でな……すまん、苦労をかけるなヒカリ」

 

 傷の治療、そして教師陣からの事情聴取を終えた慎吾はヒカリとの通信で戦闘で傷付いたゾフィーについて話を聞いていた。

 

『今回は事情で仕方ないとも言えるが……気を付けてくれよ?俺は一人の友達として慎吾、君を心配しているんだ』

 

 潔く頭を下げて謝罪する慎吾に、ふっと光は力を抜くとそう優しく告げた。

 

「あぁ……血が繋がってないとは言え、私は兄になった立場だ。そう簡単には倒れる訳にはいかないさ」

 

 その言葉に、慎吾は全く迷いの感じない自身を持った口調で返す。

 

『そうか……君は家族を手に入れる事が出来たんだな……おめでとう慎吾』

 

 突然の慎吾の『兄になった』という言葉に光は特に動じた様子も無く、心から慎吾を祝福してそう言った。親友として長年の付き合いになる慎吾と光、互いを深く信頼している二人だからこそ出来る事であった。

 

『兄になったんだ、しっかり守ってあげろよ……』

 

「あぁ、勿論そのつもりだ」

 

 最後に慎吾と光は短くそんな言葉を交わすと通信を切り、慎吾はふっと溜め息を付く。と、緊張が解けた影響か慎吾はそこでふと空腹を感じていた。

 

「そういえば夕食をまだ済ませて無かったな……丁度、一夏やシャルルも解放されて食事を取っているはず、食堂に行くか……」

 

 誰に言うまでも無くそう言うと、慎吾は食堂へと向かって歩きだしていった。

 

 

「うーん、ボーデヴィッヒさんと一夏が……でもお兄ちゃんも一緒にいたんだし……うーん……」

 

 微妙に平常時より遅い歩調で先頭を歩きながらそんな事をシャルルは小さな声で呟いていた。

 

「慎吾さん……シャルル何でさっきからブツブツ小声で独り言を言ってるんですか?……正直、ちょっと怖いし……」

 

 そんなシャルルの姿を見て顔を若干青くしながら、その背後で一夏もまた小声で慎吾に尋ねた。

 

「少なくとも迂闊に触れるべき事では無いと、私は思うが……」

 

 そう一夏に返事を返しつつ、慎吾もまたどうしたものかと判断に困っていた。

 

 こうなった要因は非常に単純で、慎吾が食堂で一夏、シャルルと合流して共に食事を取っていた際に一夏がふと『ISでプライベート・チャネルも越えた会話は出来るのか?』とシャルルに尋ね、慎吾と共に一夏は一部始終を話したのだ。その時からシャルルは食事を終え、帰路に向かっている現在でもずっとこの調子で一人で思案するよつに呟いているのだ。

 

「(見た様子だとシャルルの場合、自分でも怒るべきかどうか判断出来ないでいる……これでは私からは手の打ち様が無い……参ったな)」

 

 慎吾がそう悩んで、頭を抱えた時だった。

 

「あっ、織斑君!デュノア君!大谷君!三人とも朗報ですよっ!はぁ……はぁ……」

 

 背後から不安定な足音を響かせ真耶が駆け寄ってきた。どのくらい走ったのかは分からないがその息は着れかかっている。

 

「……山田先生、大丈夫です。私達は待ってますからどうか落ち着いてから話してください」

 

 真耶のそのコミカルな仕草に少しリラックスした慎吾は、真耶に苦笑しながらそう告げる。

 

「あ、ありがとう大谷君……実はですね……」

 

 真耶は慎吾の言葉に取り出した可愛らしい柄のハンカチで汗を拭いつつ、深く呼吸をして息を整えると口を開いた。

 

「ついに今日から、男子の大浴場使用が解禁です!今日は三人とも早速お風呂で疲れを癒してくださいね」

 

「おお、本当ですか!?」

 

 真耶の言葉に心底、嬉しそうな声を返す一夏。しかしその時、慎吾とシャルルの表情は同時に青ざめていた。

 

「(まずい……山田先生はシャルルの真実を知らない……だからこそ言ってるのだろうが、この状況は……)」

 

 そう、考える慎吾の額には早くも冷や汗が滲み始めていた。




 近いうちにオリジナルとなる特別編を書きます。特別編には……特別参戦として、私達がよし知るあのお人が……出ます。


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36話 風呂と感謝、増えるゾフィーの妹

 調子に乗って書いていたらこんな時間に……ペース配分は考えるべきだと、改めて思いました。


「……と、言うわけで父が無くなった事で私は現在、天涯孤独の身になっている。と、言うことだ……すまないな一夏、言うのが遅れて。あまり人に聞かせたくは無い話だったからな……」

 

広い湯船で数メートル程の距離を置いて隣に座っている一夏に、目を閉じて過去の事を思い出しながら静かに語っていた慎吾はそう言って息を吐き出して話を終える。

 

「慎吾さん……」

 

「だがな一夏、私は両親を恨んではいないよ」

 

 慎吾の話を聞いて複雑な表情をする一夏に、慎吾はそう言うとふっと笑いかけた。

 

「母は最後まで私を大切に育ててくれたし、父は私が人としても。そして戦士としても私が一番尊敬出来る人間だった……それこそ、今でも私が目標にするくらいにな……」

 

「慎吾さんの親父さんが目標……?」

 

「あぁ、強かったぞ……私の父は……!」

 

 一夏の呟きに慎吾は自身たっぷりと言った感じにそう言った。

 

「一夏、お前の家庭の事情や、お前の考えについて私は異を唱えるつもりは無い。だが親と子、その絆は簡単には切れたりはしない……私はそう信じてる」

 

 そう、迷いを見せないはっきりとした口調で慎吾は一夏に告げた。

 

「でも……俺は……」

 

 慎吾の言葉に何か思う所があったのか一夏は、思案するように口を開いて何かを慎吾に告げようとする。と、それを慎吾はそっと手で制した。

 

「何、今この場で結論を出す必要は無い。私達はまだ若いのだ、たっぷり考えて自分だけの答えを出せばいいんだ……さて」

 

 そこまで言うと慎吾は静かに湯船から立ち上がり、腰にタオルを巻いて浴室の出口へと向かって歩き出していく。

 

「……それでは私は、ここであがらせてもらおう。あぁ、そうだ一夏」

 

 そう最後に振り向きながらそう言っていた慎吾だったが、言葉の途中で何かを思い出したかのように付け足すと一番に視線を向ける。

 

「広い浴場で気持ちが高ぶるのは分かるが、次からはあまり大声で叫んだりするのは控えておけよ?」

 

「うっ……!」

 

 慎吾に指摘された瞬間、一夏はぎくりとしたように表情をこわばらせる。                       

 実は数十分前二人が同時に大浴場へと入った際に、一夏は檜風呂やジャグジーは勿論、サウナや全方位シャワー、さらには打たせ滝までが設置された業火な大浴場にテンションが上がりすぎたのか入った瞬間、浴室中に響くような大声で叫んでいたのだ。

 

「うっ……つ、次は気を付けます……」

 

 一瞬の間を置いて一夏は表情をこわばらせながら、ややぎこちない動きで慎吾に返事を返す。その様子を苦笑して見ながら『先に帰ってる』とだけ一夏に伝えるとゆっくりと脱衣所への扉を開いて出ていった。

 

 

 

「あっ……いっ……!……お、お兄ちゃん……上がったの?」

 

 脱衣所に戻った慎吾が手早くバスタオルで体と頭髪を拭いて下着に着替え終わった丁度その瞬間、一夏が戻ってきたと早とちりし慌てて物影に隠れて様子を伺っていたシャルルが慎吾と気付いて姿を表した。

 

「あぁ、すまんなシャルル。一人で待たせてしまって」

 

 シャルルに気が付くと慎吾は頭を拭きつつ、シャルルに笑いかけながらそう返事を返す。

 

 そう、事前に浴場へと入る前、慎吾、一夏、シャルルの三人で話し合った結果、シャルルの奇妙な程の勧めにより先に慎吾と一夏が風呂を堪能し、二人が上がった後にシャルルが一人で入浴。と言う事になっていたのだ。

 

「もうすぐ一夏も上がるだろう……私も着替え終わった事だしここで失礼させて貰おう」

 

 完全に着替え終わった慎吾がそう脱衣所から立ち去ろうとした時だった。

 

「ま、待って!お兄ちゃん……っ!」

 

 慎吾の背中に向かって慌ててシャルルが呼び止める。

 

「なんだ、シャルル?」

 

 シャルルの言葉を聞いた瞬間、慎吾は足を止めそのままゆっくりと振り替える。

 

「あのね……こんなタイミングで言うのもおかしいんだけど……改めてありがとう。一夏とお兄ちゃんの言葉と優しさが僕に勇気をくれた……僕にここにいたいって思わせてくれたんだ……。ありがとう……お兄ちゃん……」

 

 するとシャルルは少し恥ずかしそうにしながらも淀みなく慎吾に向かって、静かに自分の思いを語り始めた。

 

「どういたしまして……シャルル」

 

 慎吾はシャルルの純粋な感謝の想いが込められた言葉を少し照れ臭そうにしながらも、しっかりとそう返事を返した。

 

「あと……我が儘を言うみたいだけど、お兄ちゃんには僕を本当の名前で読んでほしいんだ」

 

「本当の……そうか……」

 

 シャルルの言葉に慎吾はそう、どこか納得したように一人で頷いた。

 

「そう……シャルロット。それが僕の本当の名前。お母さんがくれた名前なんだ」

 

 慎吾の言葉をシャルル、いやシャルロットは柔らかく肯定した。それを見た慎吾はふっと笑い、再び振り向くと振り返らないまま歩き出した。

 

「……シャルロット」

 

「なぁに、慎吾お兄ちゃん?」

 

 去り際にぼそりと慎吾が呟き、シャルロットは可愛らしく小首を傾げながら答えた。

 

「礼を言うならば、私もだ。君のおかげで私は二度と得る事は叶わないと思い込んでいた家族を持つ出来た。私にとって真に守るべき物が生まれたのだ。……ありがとう、シャルロット……」

 

「どういたしまして、お兄ちゃん……」

 

「ふふっ………」

 

「あははっ」

 

 先程の趣向返しのようなシャルロットの言葉に二人の間から共に笑顔が溢れる。

 

「それでは今度こそ、私はここで……」

 

 そう慎吾は言うと、今度は足を止めずに真っ直ぐに脱衣所から出ていった。

 

「う、うん、じゃあね、お兄ちゃん!また明日!」

 

 そんな慎吾にシャルロットは背後から何故か少し上ずった調子の声をかける。と、それと同時に脱衣所の扉は閉められた。

 

「(気のせいか……?最後のシャルロットの声が何か妙だったような……そう、まるで何かを隠すような……うぅむ……)」

 

 自室へと向かいながらも、僅かに感じた違和感を胸に抱えながら慎吾は悩んでいた。

 

 その予感は的中していた事を慎吾は知るのは翌日の事であった。

 

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

「(シャルロット……昨夜、勇気を持ったとは聞いたが、さすがにこれは……大胆すぎるだろう)」

 

 翌朝のホームルームで『スカート姿の』シャルロットはそう言ってクラスの皆の前で丁寧に礼をし、クラス中が唖然とする中、慎吾はそう内心でそう思いながら頭を抱えて苦笑していた。

 

「デュノア君が……男!?」

 

「嘘……デュノア君、好きだったのに……」

 

「いやいや、待って!昨日。確か男子が大浴場を使ったわよね!?」

 

 当然と言うべきかシャルロットの告白に一瞬のうちに教室中は喧騒に包まれ、視線が慎吾と一夏に集中する。

 

「……誤解しているようだが……私は一夏と共に大浴場を使用したが、シャルロットとは入っていないぞ?シャルロットは私が上がった後に入ったはずだ」

 

 皆の視線が集まる中、慎吾は動じず静かに口を開いて冷静な口調でそう告げる。

 

「一夏だって、そうだろう?」

 

 慎吾の全く慌てた様子の無い落ち着いた口調の影響でクラスの空気が若干、落ち着いたのを確認すると慎吾はいよいよもって事態を沈静化すべく一夏とシャルロットに視線を向ける。が、

 

「た、確かに慎吾さんは………」

 

「うん、お……慎吾は入ってないけど………」

 

 二人から帰って来たのは気まずい雰囲気の漂う口調、そしてそれをより頷けるように同じタイミングで二人は目を反らした。

 

「ま、まさか……」

 

 予想外の二人の返答に慎吾の顔が青ざめ、思わず口から言葉が溢れた。

 

「織斑君とシャルロットさんが………!?」

 

「だ、大胆すぎる………!」

 

 途端、収束仕掛けていたクラスメイト達の喧騒が再び、いや先程よりも更に激しくなって盛り返し始めた。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 と、その瞬間、その賑わいに更に油を注ぐように烈火の如く怒りの顔をした鈴がドアを蹴破る勢いで姿を表し、勢いよく一夏に向かって走り出し

 

「いやいや、落ち着け鈴!冷静になるんだ!!」

 

 直前で慌てて駆け寄った慎吾に止められた

 

「大丈夫よ慎吾、あたしら超冷静だから、ちょっとドロップキックを一発アイツにくれてやるだけだから」

 

「それは明らかに落ち着いては無いだろう鈴!?」

 

 妙に落ち着いた口調でそう語る鈴を何とか宥めながら慎吾が一夏に何か言うように振り向いた瞬間。

 

「おい、な、ーむぐっ!?」

 

『!?』

 

 この騒ぎの間に乗じて接近してのであろうラウラが胸ぐらを引き寄せて一夏の唇を奪っていた。しかも、妙に長い。そして、慎吾をも含む教室中が呆然として何もリアクションが出来ない中、ラウラは高らかに宣言した。

 

 

「お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

 

「あっ……あんたねぇっ……!!」

 

 その瞬間、憤怒の叫びと共に怒りを堪えきれないよ様子の鈴が甲龍を展開させる。更に良く見てみればセシリアとシャルロットもまた自身のISを起動させ、箒に至っては日本刀に手をかけている。

 

「ボーデヴィッヒ!何故、そうしたかは聞かないが……!」

 

 四人は怒りで錯乱している。ならば仕方ないかとゾフィーの使用を考えた慎吾がラウラにそう言おうとした瞬間

 

「……私の事はラウラと呼んでくれ、『おにーちゃん』」

 

『!?』

 

 何気ない様子で発せられたラウラの言葉に教室中の空気が制止し、ISを展開していた鈴、セシリア、シャルロットの動きもピタリと止まり、箒は刀に手をかけたまま完全にフリーズしていた。

 

「そのラウラ?……おにーちゃんと言うのは私がか?」

 

「うむ、日本では心から尊敬する年上の異性を、おにーちゃんと言うのが伝統なのだろう?」

 

 一足先に硬直が溶けた慎吾がラウラに尋ねると、ラウラは胸を張って自身満々にそう答えた。

 

「と、言うわけでこれからよろしく頼むぞ、おにーちゃん」

 

 そう言いながらラウラが手を未だに困惑している慎吾の右手を握った瞬間だった

 

「ずっ……ずるい!」

 

 我慢出来ないように起動させたリヴァイヴを解除しながら駆け寄り、慎吾の左手を握りながらラウラに抗議した。

 

「お兄ちゃんは、僕のお兄ちゃん!後から来て勝手に妹になるなんてずるいよ!」

 

「むむっ……これがライバル出現と言う奴か……だが、嫁もおにーちゃんも渡さん!」

 

 そう言うと互いに威嚇するように視線を交差させる

シャルロットとラウラ。

 

『………………………』

 

 そして、慎吾に向けられるクラスメイト、そして一夏達仲間達の視線。嫌悪の視線こそ無かったものの逆にそれが慎吾にとってはじわりと胃に来ていた。

 

「(あぁ……今日と言う日は……)」

 

 牽制しあうシャルロットとラウラ、そしていっそ痛いくらいの沈黙の中、慎吾は内心でそう深く深くためいきをついた。




 はい、と言う訳でラウラが無事に兄妹入りを果たしました。トーナメントは残念ながら話の展開故にほぼカットでほぼ決まりです。やりたい気持ちはあるんですがどうにも上手く纏められそうにないので……


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37話 大激戦!?、そして騒がしい朝とゾフィー

 今回は正直、私自身で悩んだ回でした。賛否は別れるかもしれまさん。


「うぐっ……くっ……!」

 

 一瞬の隙を付いて放たれた激しい銃撃と斬撃の二つがゾフィーを襲い、慎吾の苦悶の声と共に直撃を受けたゾフィーはアリーナの台地へと叩きつけられた。

 

「おにーちゃん、大丈夫か!?」

 

 警戒は怠らないながらも、そう慎吾に心配そうに声をかけるのは慎吾のパートナーであるラウラ。現在慎吾達が参加している学年別トーナメントはペアを組んでのタッグバトル。慎吾はラウラとタッグを組み次々と勝ち抜いて今現在、二人は決勝戦にまでたどり着いていたのだ。

 

「あぁ、大丈夫だラウラ。ダメージはさほど大きくは無い……が、時間が無いな」

 

 ラウラにそう言って緩やかに胸のカラータイマーを点滅しながら立ち上がり、慎吾は自身とラウラのシールドエネルギー、そして残り時間を確認して仮面の下で一筋の汗を流した。

 

「おっ、落とせなかった!?確かに直撃してたのに……」

 

「っ……焦らないで一夏。まだ……まだ僕達が有利だよ!」

 

 そんな慎吾とラウラ、並べばそれぞれ銀と黒が鮮やかなゾフィーとシュヴァルツェア・レーゲンに対峙するのは白と橙の白式とラファール・リヴィヴ・カスタムⅡ。一夏とシャルロットのタッグである。

 

「そうだな……確かにこの調子のまま試合が続けば一夏とシャルロット、お前達が勝つだろう」

 

 先程の一撃もあり、エネルギーの総合量から見れば激闘の中、一夏とシャルロットが幾分かゾフィーと慎吾を押してはいた。だがしかし今現在、焦っているの一夏達であった。

 

「先程のような奇襲、あれが二度も私に通用するのならばな」

 

「うっ……」

 

 はっきりとした口調でそう断言する慎吾に思わず図星を付かれたのか一夏は小さく呻く。

 そう先程の奇襲、ゾフィーと白式が激突している間に、どうにかラウラの隙を突いてゾフィーにシャルロットが攻撃を仕掛け、更にだめ押しとばかりに怯んだゾフィーに一夏が追撃を仕掛ける言うシンプルな戦法。この戦いでどうにか二人はゾフィーを撃破するつもりだったのだ。

 しかし、予想を越えるほどにより成長したラウラからは更に隙が減り、必然的に発射された弾丸の数も減り、一夏の追撃も慎吾が体制を崩しながらも直撃を回避した事もありゾフィーを倒すことは叶わなかった。こちらの手を知られてしまった以上、もはや慎吾とラウラにはこの手は通用しないだろうし、新しい作戦を考えるには時間が厳しい。その事実が一夏とシャルロットを焦られていたのだ。

 

 

「残り時間はそう多くない、一気に決めさせて貰おう!……サポートは任せたぞラウラ」

 

「任せておけ、おにーちゃん!」

 

 ラウラにそう指示を出すと同時に慎吾は地面を蹴って飛び立ち、そのまま空中でM87光線の構えを取る。

 

「やはり、このタイミングで仕掛けて……くっ!」

 

「ふん、そう簡単におにーちゃんの邪魔はさせんぞ!」

 

 そんな慎吾の動きを読んでいたシャルロットはM87の発射を接近しつつ射撃で何とか止めようとするが、瞬間、ラウラが割り込むようにシャルロットの前に立ち塞がり、一定の距離から大型カノンとワイヤーブレードでの攻撃を仕掛けてきて慎吾へ攻撃する隙を与えない。いや、それどころかシャルロットは逆に押し返されてしまっていた。

 

「シャルロット!」

 

 思わずシャルロットを助けに一夏が動くと、ラウラは一夏に一瞬だけ視線を向けると直ぐ様攻撃を止め、瞬時加速を使って勢いよく後ろに後退した。その瞬間

 

「M……87光線!!」

 

 猛烈な音、そして衝撃波と共にゾフィーの右腕から思わず目を閉じてしまう程に強く輝く極太の青白い光線、M87光線は発射され、冗談のような攻撃範囲であっという間に射線上にいるリヴァイヴと白式を飲み込まんと迫り来る。

 

「うっ……おおおおおっ!!」

 

 M87光線をもはや回避出来ないと判断した一夏は、だがしかし諦めはせず気合いを入れるように叫ぶと零落白夜を発動して真っ直ぐにM87へと突っ込んで行く。

 

 一夏が狙うのは一瞬、零落白夜によって迫り来るM87を出来うる限り打ち消し、僅かに出来た隙間に体をねじ込みゾフィーへとどうにか一太刀浴びせ撃破する。それが一夏の考えたM87への捨て身の対抗策であった。

 

「良いだろう……私のM87とお前の零落白夜、どちらが勝つか勝負だ一夏!」

 

 その戦法を理解しながらも慎吾のやる事は変わらない。ただ自身の最強最大の技であるM87光線で真っ向勝負をして叩き潰すのみ。

 

 そして、慎吾と一夏が互いに一歩も引かぬままM87と零落白夜が正面から激突し………

 

 

「む…………?」

 

 押しきって勝利して見せると気合いを入れた慎吾が目を開くと。そこは試合が行われてるアリーナなどではなく見慣れた寮の自室、そのベッドの上に慎吾はいたのだ。

 

「夢、か……ははは……妙にはっきりとしていたな」

 

 一瞬、混乱した慎吾ではあったが深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、先程まで夢と現実の境が分からなくなっていた自身を思い返してふと、軽く失笑した。

 

 学年別トーナメントは既に一夏&シャルロットのペアが激戦を勝ち抜き優勝を果たして終了している。慎吾、そして何故かラウラもトーナメントを棄権し試合観戦に回っていてた為にトーナメントが終了するまで一戦たりともしていない。では、何故こんな夢を……

 

「……分かりきった事か、私も参戦したいと思っていたんだ……あのトーナメントに」

 

 そこまで考えて慎吾は、そう言うと口元に小さく苦笑いを浮かべた。決勝戦の激戦は未だに脳裏に焼き付いている。あの戦いに参戦したいと思い観客席で歯がゆい思いをした事も一度や二度では無かった。

 

「でも、良いんだ。私はこれで満足だ……」

 

 しかし、それでもなお慎吾はそう迷い無く断言した。自分があの時あの場で動かなければ、唐突ながらも自分を兄と慕ってくれている、もう一人の少女ラウラの身が無事では無かったかもしれない。それを守れたのならば後悔は無いと胸を張って慎吾は誓える。

 

「もしかしたら、この夢はお前が見せてくれたのかもしれないな……ゾフィー……」

 

 慎吾がそう言って待機状態のゾフィーにそっと声をかけると、待機状態のゾフィーはそれに答えるように薄く輝く。少なくとも慎吾にはそう見えた。

 

「さて……そろそろ一夏を起こさねば」

 

 寝起きから思考して良く目が覚めた慎吾は、シャルロットの性別が判明した事により自身の部屋に引っ越してきた一夏を本人が希望してきた朝のトレーニングに誘うべく起こそうとした、が

 

「む……?」

 

 そこで慎吾はふと違和感に気付いた

 

 この部屋のもう1つのベッドで寝ているのは確かに一夏一人。その筈ではあるのだが一夏が寝ているベッドの膨らみは明らかに奇妙。例えるならば、そう、まるで人が一人入っているかのような膨らみだ。

 

「……いや、まさかな」

 

 心中である予感をしつつ、慎吾は真相を確かめるべく一夏に内心で悪いとは思いながらもベッドに近より布団の端をつかんでバッと勢いよく布団を払いのけた。

 

「なっ!?」

 

「へっ……?ちょっ……し、慎吾さん何を……うおおおっっ!?」

 

 布団を払いのけた瞬間、慎吾は目を見開き、布団が剥がされた琴電志度目を覚ました一夏も寝ぼけながら慎吾に抗議しようとして真実に気付き直ぐ様大声と共に意識を覚醒させた。そう、そこにいたのは

 

「ん…………すぅ………」

 

 一夏の自称夫にして突如、慎吾の妹になった人物、ラウラその人が気持ち良さそうに眠っていた。しかも何故か一糸纏わぬ姿である




 一応の補完としますと、前半のバトルは『ゾフィー』が慎吾の想いを受け、今までの慎吾の戦闘データ等から擬似的に夢の中で戦闘を再現した。そう言うつもりで書いております。


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38話 ラウラの説得、苦難のゾフィー

 最近、中々更新するのに苦労します。今回も何とかギリギリで間に合った……と言う形です


「な、何でラウラがここに!?」

 

「気持ちは分かるが……落ち着け一夏……そう、まずは落ち着くとしよう」

 

 そのまま飛んで天井へと激突してしまいそうな速度でベッドから起き上がり、動揺する一夏にそう言い聞かせながら慎吾は出来うる限りラウラの体を見ないように注意しながら額に冷汗を滲ませながら、若干震える手でひとまずそっと自身が取った布団をラウラに被せてその小さな体を隠した。

 

「ん……もう朝か……?」

 

 と、布団が小さく動き、少し眠そうに目を擦りながら眠っていたラウラが目を覚ましベッドの上で起き上がった。

 

「聞きたいことは無数にあるが…………ひとまずは、おはようラウラ」

 

「うむ、おはよう、おにーちゃん!そして嫁よ!」

 

 少し慎吾に話しかけられるとラウラは瞬時に寝惚けていた顔をいつもの状態に戻し、自信に満ち溢れた真っ直ぐな表情でそう返事を返した。

 

「ラウラ、寝起きてま悪いがまず一つ聞かせてくれ。何故ラウラは私達の部屋に入って、一夏のベッドで……それも全裸で寝ていたか私達に教えてはくれないか?」

 

「あぁ、勿論いいぞおにーちゃん。それはだな……」

 

 言葉を選んでラウラに話しかける慎吾に、ラウラは得意気にそう笑うと話を続ける

 

「何でもこの国では、将来結ばれる者同士ならばこうして相手を起こすのが理想的だ、と言う有力な情報を入手してな……早速、実行してみた訳だ。同室がおにーちゃんならば裸を見られても全く問題無いからな」

 

「そ、そうか……」

 

 しっかりとした意思が込められた目でそう語るラウラに思わず、慎吾は押されて思わず曖昧な返事を孵してしまった。

 

『あの一戦を終えてラウラは、セシリアや鈴に自身が言った事を謝罪したし、周囲への対応も柔らかくなり、私や一夏と行動を共にする事が多くなった……それらは良い進歩だと思っていたのが……今日のこれは、思わぬ弊害だな』

 

 そう、慎吾はここ最近の事を思い出しながら思わず大胆が過ぎるラウラの行動に改めて苦笑した。

 

「どうしたおにーちゃん?嫁もいつまで黙りこんでいるんだ?」

 

 しかしラウラ本人は殆ど気にした様子を見せず、逆に不思議そうにそう慎吾と一夏に訪ねてきた。

 

「ひとまずラウラ、お前が一夏を起こしに来てあげようと思った事はとても良い事だ。少なくとも私は評価しよう」

 

「ちょっ、慎吾さん!?」

 

 何とか事態の解決へと導いてくれると信じていた慎吾からの予想外の言葉に思わず一夏は叫ぶ。が、慎吾はそれを無言のまま手で制すると、『私にまかせろ』と言うようなアイコンタクトを一夏へと送った。

 

「だがな、我々が寮暮らしで集団生活を送っているのがここで問題となる……一例を出せば、そのままでは何らかの形で早朝から私達の部屋を訪れる事になった者……先生方、あえて更に言えば織斑先生等に目撃された場合、間違った認識を抱かれてしまうのかもしれないのだ」

 

「む…………?」

 

 真面目に慎吾の言葉を聞いていたラウラは、慎吾が『織斑先生』と言う単語を耳にした瞬間、ピクリと顔面の筋肉を僅かに動かした

 

「……無論、織斑先生の事だ、常に冷静な織斑先生ならばこの光景を目撃した所で私達が速やかに冷静かつ落ち着いた態度で説明すれば理解してくれるだろう。しかしなラウラ」

 

 ラウラが反応したのを決して見逃さず、慎重に気を抜かないように注意しながら慎吾は一気に勝負にかかった。

 

「万が一相手が織斑先生では無かった場合、開けた者が男子しかいないはずの部屋に裸のお前がいると言う状況に混乱してしまって話が通じず、最悪の場合。噂に尾ひれが付いて、私と一夏の印象が損なわれる可能性がある……かもしれない」

 

「なんと……!?そんな問題が発生するとは……くっ、私とした事が先走り過ぎて不覚だったか……」

 

 慎吾の言葉を聞いてラウラは心底衝撃を受けたような表情を見せると、歯を噛み締めて悔しそうにそう言った。

 

「だがなラウラ……さっきも言った通りお前のしようとしたその行動、それは決して間違いでは無い」

 

 その瞬間、待ってましたとばかりに慎吾は優しい口調でラウラに救いの手を差し伸べる。

 

「そこでだ……私から提案だが何も私達の部屋に入る必要は無く、お前はドアの前で呼び掛けて私達を起こしてくれれば良いのだ。その後、私達がトレーニングに出かければ余り余計な詮索を入れる者もいないだろう」

 

「おにーちゃんの話は良く分かった……しかし、それではあまりに味地味ではないか?」

 

「そう言われると否定は出来ないな……だがなラウラ」

 

 ラウラが、そう口にした瞬間、慎吾は最後の切り札を繰り出すべくラウラの耳元に顔を近付けてある一言を囁いた。

 

「朝、起きたばかりの一夏の視界に一番最初に入る女性がお前、と言うのはとてもロマンチックでは無いか?」

 

「っ……!?、お、おにーちゃんの言う事を妹は聞くものだからな!その要求を受け入れよう!おにーちゃんの言う事なら仕方ないな、うん!」

 

 その瞬間、頬を赤く染め、興奮した口調でラウラは一気にそう言い切ると、慎吾と一夏に背中を見せると逃げ出すように裸のままドアへと向けて走り出した。

 

「ラ、ラウラ!?おいっ!?」

 

「裸で外に出ては駄目だ!せめてこれを来ていけ」

 

 そんなラウラを慌てて止めようとする一夏、慎吾は走り出したラウラを止めるのが間に合わないと判断すると素早く自身の上着を脱ぎ捨て、ラウラへと投げ渡す。

 

「と……感謝する、おにーちゃん!」

 

 ラウラは正面を向いたまま、背後から飛んできた慎吾の上着を受けとると器用にそのまま羽織る。と、その瞬間だった

 

「お前達、何を朝から騒々しく………!?」

 

 どんなタイミングか、丁度朝の鍛練を終えて一夏を起こそうとした箒がドアを開き何かを言おうとし

 

「箒……何故このタイミングで……」

 

 上半身が全裸の状態で弱りきったような表情をする慎吾

 

「む、お前か……」

 

 そして全裸の上にブカブカのパジャマの上着を着たラウラを見て箒は、三度見までしながらも状況を理解出来ずに完全に硬直した。

 

「どういう事なのだこれは…………!?」

 

「(今度はこの状況をどう説明するか……か。全く、休む暇もないな)」

 

 ようやく絞り出すように呟いた箒の言葉に慎吾は頭を抱えながらそう思うであった。




 日常パートでは基本的に苦労人の慎吾、やはりこれが書いていて一番しっくり来ますね


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39話 ショッピングモールとゾフィーの災難

 言い訳がましいと思われるでしょうが、私はかっこいい隊長を書きたいのです。書きたいと思っているのですが、日常パートだと何故か隊長をこんな役割にさせてしまうのです……


「ううむ、ここのショッピングモールは本当に広い……これは冗談でも無く油断をすれば迷子になりそうだ」

 

 休日の日曜日、七月の頭に迫っている郊外学習、いわゆる三日間の臨海学校に備えて荷物を揃えていた慎吾は昔、使用していた水着のサイズが合わなくなっていた事に気が付き、一人駅前のショッピングモール、『レゾナンス』に訪れ、そこで慎吾は非常に交通アクセスに優れ、食事、衣服、レジャー等の店舗が充実した作りとなっているレゾナンスのその内部のあまりの広さに圧倒されて思わず感嘆のため息を付いた。

 

「……いつまでもここにいても仕方ない。ひとまず行くとしよう」

 

 落ち着いた所で慎吾は先程見た案内板の表示に従い、男女用共にスポーツ水着の品揃えバッチリと看板文句のある店がある二階のショッピングモールへと向かって歩き出した。

 

「ヒカリも来てくれれば助かったのだが……」  

 

 エスカレータに乗った慎吾は少し残念そうにそう呟くと、昨夜、携帯端末に届いたヒカリからの電子メールに再び目を通した。

 

『誘ってくれたのは嬉しいが元々立て込んでいた案件の期限が早められた為に行けそうに無い。すまない慎吾』

 

 メールの内容こそ簡潔ながらも、ヒカリがしっかりと自分の事を考えてくれている事が伝わっているメールにふっ、と慎吾は笑みを浮かべながら取り出したメール確認の為に取り出した端末をしまいうと。エスカレータを降り、二階へと足を踏み入れた。

 

「さて、目的の店はこっちだな」

 

 既に店内の見取り図を頭に入れておいた慎吾は、休日故に数多くフロア中を歩き回る客の人々に当たらないように注意しながら、真っ直ぐに目的の店へと向かって歩いていく。

 

「おや、あれは……?」

 

 と、そこで迷わず歩いていた慎吾は視界の先に何故かそれぞれ壁にぴったりと張り付き、夢中で何かを観察している見知った後ろ姿の三人組を見つけた慎吾は進む道を変え、三人組がいる場所、女性水着売り場の近くへと向かって歩き、ある程度近付くと背後から三人に向かってそっと声をかけた。

 

「鈴、セシリア、ラウラも一体そんな所に隠れて何をやっているんだ?」

 

「「うひゃうっ!?」」

 

「おぉ、誰かと思えば、おにーちゃんではないか」

 

 突然、慎吾から声をかけられた事で狼狽して思わず背をびくりと動かして奇声をあげる鈴とセシリア。そして、それとは対称的にラウラは慎吾の姿を見ると嬉しそうに慎吾の元に近寄ってきた。

 

「……!! あんたに対する文句は後でたっぷり言うから今は隠れなさいっ!」

 

 そんな中、鈴が出来うる限り押さえた様子の声で河辺近くの物陰に隠れながら三人に指示を出す。その声にはっとしたようにセシリアとラウラが動き、慎吾も現状を把握できないながらも指示に従い、自身も近くの物陰に身を隠そうとしたが高い身長が災いして上手く身を潜める事が出来ず、結果的に慎吾は一人、『頭隠して尻隠さず』の形になった。

 

「……それで、一体三人は何をしてたんだ?」

 

 咄嗟に物陰に隠れるなどと言う普通では無い行動から大体は察していたが、一応確認の為に慎吾は出来うる限り自身の体を物陰に収めようとしながら小声で鈴に尋ねた

 

「あれよ、あれ……」

 

 慎吾の問いに鈴はしっかりと身を隠しつつ、険しい顔のまま指で壁の向こう側を指差しながらそう言った。

 

「あぁ、やはりか……むむ?」

 

 鈴の指差した先、女性水着売り場、案の定そこにいたのはシャルロットと一夏。と、そのまま観察しているとシャルロットが水着を片手に一夏と何かを話したかと思えば何とシャルロットが手を引き、一夏と共に試着室へと入っていってしまった。その衝撃的な光景に、黙って見ていた慎吾はたまらず声をあげた。

 

「あいつ……」

 

「待て、流石に今回ばかりは気持ちが理解できるが…………落ち着くんだ鈴」

 

 その光景をしっかりと見ていた鈴は、誰にだって分かるような明らかな怒りに満ちた目で一夏とシャルロットが入った試着室を睨み付けて身構える。今にも飛び出し、試着室の一夏に向かって飛び蹴りでもしそうな鈴の様子を見た慎吾は思わず身を隠すのも止めて鈴を止めに入った。

 

「そうです、まず落ち着くべきですわ鈴さん」

 

「セシリア……」

 

 と、そんな慎吾の背後からセシリアの声が聞こえ、その落ち着いた様子の声に慎吾は安堵し共に鈴に冷静さを取り戻させるのに協力して貰おうと振り返り

 

「無用な接近は控え、遠距離から確実に狙うべきですわよ?」

 

「セシリアァァッ!?」

 

 見た目は笑顔、しかしその目元は全く笑わず部分展開させたブルー・ティアーズにスターライトmkⅢを手にしたセシリアを見て悲鳴のような声をあげた

 

「くっ、仕方ない……ラウラ、手伝ってくれ!」 

 

 新たにセシリアの前に立ち塞がって止めつつ、鈴の動きも見逃さないように注意しながら慎吾は奥の手とばかりにラウラを呼ぶ

 

「……いない!?」

 

 が、先程まで確かにラウラがいた筈の場所からは忽然とラウラの姿が消え失せており、周囲にも全く見当たらない

 

「くっ……」

 

 ラウラからの救援を諦めた慎吾は何とか自分だけの力で二人を落ち着かせようとした時だった。

 

「オルコットに凰、大谷、お前達、そこで何をしている」

 

「「お、織斑先生!?」」

 

 突如、姿を表した千冬に鈴とセシリアは同時に驚愕して勢い良く振り返った

 

「あっ」

 

「「あっ」」

 

 と、その勢いで慎吾は二人分の振り返る力で大きく体勢を崩し、そこに更にスターライトmkⅢが激突して慎吾は空中へと吹き飛ばされ、慎吾、続いて鈴とセシリアの声が重なる

 

 そして

 

 ドンガラガッシャーン!!

 

「うわぁぁぁぁ!!人が飛んできた!?」

 

 何の因果か慎吾が吹き飛ばされた先、隣の店舗はあイメージチェンジの為にペンキで店の壁を塗り替えており改装中。そこに慎吾は飛ばされた勢いのまま突っ込み、ゾフィーを展開させる間もなく頭から塗装に使っていたペンキ液が入った缶の中身をしたたかに浴びた

 

「(あぁ……どうして私はこんな目にばかり……)」

 

 目の前に転がる『ブロンズ風カラーペンキ、HP社製』と書かれたペンキの缶を見ながら、頭から足先までブロンズ色に染まった慎吾は、ペンキまみれの顔で泣き笑いのような顔を浮かべてがっくりと崩れ落ちたのであった




 お気づきの方もいるかもしれませんが

 HP社=ヒットポリト社

 


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40 話 臨海学校開始!ののほんさんとゾフィー

 正直、今回は間に合わないかと思った……更新です


「慎吾さん……本当に、本っ当に申し訳ありません!!」

 

「今回はホント悪かったわ……ごめん」

 

 慎吾の目の前でセシリアは全力で謝罪し、鈴も申し訳無さそうに頭を下げた

 

「いいんだ二人とも……幸いな事にペンキは水溶性ですぐに落ちたし、セシリアが持ってきてくれたシャンプーでペンキの跡も殆ど残らなかったからな……」

 

 髪についた水分をタオルで拭き取りつつ、慎吾は幾分か元気を取り戻した顔でそう言って笑いかける。

 

 慎吾がペンキを頭から浴びてブロンズ色になった後、周囲は蜂の巣をつついたかのような大騒ぎになり。不用意に中身が入ったペンキ缶を放置していたと店側が自らの非を訴えた事と責任を感じたセシリアの必死の心力もあり、慎吾は体に付着したペンキをモール内のフィットネスクラブに備え付けられたシャワー室で綺麗に落とし、着ていた服はクリーニングへと渡され、慎吾は今、替えとなる新しい服に袖を通していた。

 

「すまん、おにーちゃん……妹の私とした事がおにーちゃんの危機を救えんとは……くっ!」

 

 遅れて現場に駆け付けたラウラ(何故、突如皆から離れたか話そうとはしなかった)が悔しそうに歯を噛みしめて、そう言う

 

「ラウラ、お前も気にする必要は無い……皆もだ。今回の件は不幸な事故。それで話はおしまいだ」

 

「慎吾さん……」

 

「…………」

 

 表情に笑顔を浮かべ、落ち着いた態度でそう言うと優しくラウラの頭を撫でる慎吾。一夏はそんな慎吾を憧れのような視線を向けていた。

 

 結局、その場はそのまま流れという形に収まり慎吾は、謝罪代わりとばかりに積極的に慎吾の水着選びに協力した鈴とセシリアのおかげで無事に新品の水着を手入れる事が出来たのであった

 

 

「お、お~海が見えたよ、しんに~」

 

「ああ、天気に恵まれた事もあって最高の景色だな、本音」

 

 快晴となった臨海学校初日のバスの中、隣席となった本音こと布仏本音のゆったりした口調に合わせてなのか、いつもよりペースを緩めた速度でのんびりとそう返事をした。

 

「あのね、しんに~は海、好き?」

 

「ふむ、どちらかと言われれば好きな方と言えるな。水泳も昔からそれなりにはしていたからな」

 

「おー、しんに~泳げるんだ。何出来るの~?」

 

「とりあえずバタフライに背泳ぎ、平泳ぎとクロールの基本は身に付けたかな」

 

「へー、しんに~すごーい!ぱちぱち~」

 

「ふふ、そう言われると照れてしまうな……」

 

 気付いた時から既に慎吾を奇妙なあだ名で呼び、ゆるいペースで毒にも薬にもなりそうになりまったりとした会話を続ける本音だが、慎吾はそれを全く気にした様子は無くゆっくりと言葉を返し続ける。

 

『(ずっと楽しそうに話してるし、仲はいいみたいけど……恋人というより兄妹だ、これ……)』

 

 その様子を何か起こらないものかと聞き耳を立てていた慎吾の周囲の席の女子生徒達は溜め息と共に、どこか安堵したかのような、それでいてがっかりとしたかのような奇妙な気持ちで大部分が意識を慎吾と本音の会話から外していくのであった。しかし

 

「うぅ……一夏の隣は譲れないけど……お兄ちゃんと沢山話せるのも……ううん……」

 

「まさか……私がくじ引きで二回連続で負けるとは……不覚!」

 

 約二名だけが例外的に少し羨ましそうに、目的地である旅館前にまで続けられた本音と慎吾の話を聞き続けていたが、それを知る者は本人達を除いては誰もいなかった

 

 

「「「よろしくおねがいしまーす!!」」」

 

「三日間、よろしくお願いいたします」

 

 千冬の後に続いて、クラスの全員が一斉に臨海学校の三日間、宿泊と食事をする事となる旅館『花月荘』の出迎えに来てくれた従業員と女将に挨拶をし、慎吾も一言そう言ってから僅かに遅れて頭を下げた

 

「はい、こちらこそ。ふふ、今年の一年生も元気がありますね。……あら、もしやこちらのお二人が?」

 

 そう言って丁寧にお辞儀をしてから、こちらに挨拶を返してきた見た目からして三十路程でありながらも、纏う雰囲気から不思議と若々しさ女将。と、そう挨拶を言い終えた所で女将は一夏と、その隣に立つ慎吾に気付いて千冬に尋ねる

 

「どうも初めまして、私は大谷慎吾。私の隣に立っているのが織斑一夏と申します」

 

 千冬が返事をするのより早く、慎吾が一歩前に出ると軽く頭を下げると、にこやかな笑顔でそう女将に挨拶をした

 

「今回は、イレギュラーな男性操縦者たる我々二人がいるために浴槽分け等で皆様に苦労をかけてしまうでしょうが……どうかよろしくお願いします」

 

「うふふ、これはご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

 慎吾の挨拶に女将、景子は先程見せたのにも勝るとも劣らない丁寧なお辞儀を慎吾に返した。

 

「男性操縦者のお二人は、どんな子かと思いましたが……随分としっかりとした子ですね」

 

「えぇ、大谷は確かにそうと言えます。……不出来の我が弟にも見習って貰いたい程です」

 

「ちょっ、ちふ……織斑先生!?」

 

 景子の率直な感想に、千冬はため息を付きながらそう返事を返して、その言葉に一夏が慌てる。そして皆が妙に必死な様子の一夏がおかしくて笑いだし、臨海学校の一日目は和やかに始まりを告げた

 

 

「むむ……あれは?」

 

 自室となった教員室(一夏、千冬と同室に)に荷物を置き、クラスメイト達にも誘われていた故に一日目の自由行動を海で満喫すべく、手持ち鞄に水着とタオルに水中ゴーグルと水泳赤と銀の水泳キャップの水泳セット、替えの下着、1000円ほどが入った小銭入れ、何かあった時の為の小型の救急箱を詰め込んだ慎吾が先に更衣室のある別館へと足を進めていた。……のだが、その道中に妙な物を発見して足を止めた。慎吾の視線の先にあるのは地面

 

 

 そう地面から、いわゆるバニーガールなどが頭に付けるカチューシャタイプのウサギの耳が生えていたのである。

 

「………………」

 

 その余りに異質な光景に思わず慎吾は無言のまま地面から生えたウサギの耳が見つめる

 

「…………止めておこう」

 

 が、たっぷり数十秒程考えてから慎吾はウサギの耳から視線を外して再び別館へと向かって歩き始めた

 

 正直に言えば慎吾にも抜いてみたい気持ちは持っていた。が、どこから自身に向けられる妙な気配を感じた為に慎吾は直感を信じてそれを断念し、見なかった事にした

 

「まぁ、あれだけ奇異な物があるのだ。私で無くとも誰かが直ぐに抜いてしまうだろう」

 

 男子用の更衣室の扉を開いて中に入りながら誰に言い訳をするまでも無く、慎吾はそう呟いて着替えを始める。

 

 その後、ウサギの耳が生えていた場所に遅れて一夏が到着し、ちょっとした騒ぎになったのたが。場所がちょっと離れていた為にその騒ぎは慎吾の耳には届かなかった。




 今回、以前から言っていた慎吾のあだ名を出しました。改めてテクノクラート社員さん、ご協力ありがとうございました!


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41話 ゾフィー、いざ海へ!の前に準備体操

 今回は個人的に区切りの良い所で終わらせた為に少し短め、従って次回を少し長くする予定です


「ふぅ……良い日差しだな……」

 

 赤地に銀のストライブが色鮮やかな競泳用の水着へと着替え、意気揚々と砂浜へ出てきた慎吾は、雲一つ無い青空でいっそう眩しく太陽の光を胸板にたっぷりと受けつつ、心底心地良さそうにそう言うと大きく伸びをした。太陽光線で熱された砂浜は素足の慎吾の足の平に容赦なく熱さを伝えてきたが、それもまた海の醍醐味だ。と、慎吾は思っていた。

 

「あ、大谷さん!相変わらず脱ぐと、細マッチョ!」

 

「あ、あれが……あれが大谷さんの生大胸筋……」

 

「ちょっ……何で涎足らしながら大谷さん見てるの!?怖いよ!」

 

「み、皆も、元気そうで何よりだ……」

 

 と、そんな慎吾にそれぞれ良く似合った水着を着たの女子達が明るく(一部除く)話しかけ、それを聞いた慎吾は少し顔をひきつらせながら手を振ってそう返事をした

 

「……準備体操を始めるか」

 

 その後も時折、通りすぎていく皆にそれぞれ軽く挨拶をしつつ、周囲を見渡すと慎吾は砂に足を取られぬよう慎重に準備体操を始めた

 

「(……水の流れのないプールなら兎も角、波があり流れが予測しにくい海で足がつってしまえば私でも自力で岸へ戻るのは非常に困難。用心に越したことは無いな)」

 

 そんな事を考えながら慎吾は特にアキレス腱、そして肩と両手両足首に注意しつつ緩やかながらも手慣れたスムーズな動きで準備体操を進めていった

 

「あっ……慎吾さん」

 

「おお、来たか一夏。……どうした、私には部屋にいた時より疲れているように見えるのだが」

 

 と、熱心に準備体操をしていた慎吾の背後から一夏が声をかける。その声に反応して振り向く、が、その表情に僅かな違和感を感じ、体操の手を止めて一夏に訊ねた

 

「それは、その……色々ありまして……ええ」

 

 慎吾の問いに一夏はそう、頭を掻きながら何か困ったように曖昧な言葉を口にした

 

「……何、説明しにくい事ならば構わない。一緒に準備体操でもするか?」

 

 慎吾はそんな様子の一夏を見て何かを察したように一瞬、沈黙してから何事も無かったかのように再び動き出して体操を始めようとしていた

 

「……はいっ!」

 

 一夏も慎吾のその計らいに助けられたらしく、そう言うと直ぐ様動き、互いの腕が当たらない距離を保って慎吾の隣に並ぶように立ち、揃って全く一緒の動きで準備体操を開始した

 

「よし、次で最後、深呼吸だ」

 

「はい、慎吾さん……」

 

 二人はまるで実の兄弟であるかのように時折、動きをシンクロさせながら次々と体操をこなしてゆき、最後の深呼吸に取りかかっていた

 

「い、ち、か~~っ!!」

 

「うっ……ぶふおっ!?」

 

「鈴!?」

 

 と、その瞬間、突如、鈴が助走を付けて砂浜を蹴り、一夏の背後からそや背中へと飛び乗って来た。完全に無警戒の一夏は息を思いきり吸っていた途中で鈴が飛び乗った故に、深呼吸とはお世辞にも言えないような中途半端な呼吸をしてしまい、盛大にむせかえって倒れそうになったのを慎吾に支えられ、ギリギリの所で堪えた。と、そこで顔を上げた慎吾が鈴に気が付いて驚きの声を漏らす

 

「あんたら二人揃って一生懸命に体操してて真面目ねぇ……あ、これ意外と遠くまで景色が見えていいじゃない」

 

 当の鈴はと言うと、そんな二人をあまり気にした様子は無く一夏によじ登って肩車の体制になって周囲を見渡しながらそう言った

 

「おい鈴、こんなに人目の付く場所でそんな事をすれば……」

 

「あっ、ああっ!?な、何をしてますの!?」

 

 そんな鈴の大胆の行動を危惧して慎吾が注意しようと声を出そうとした瞬間、優雅なパレオ付きのブルーのビキニを着て手にはビーチパラソルとシートを持ったセシリアが姿を現し、すぐに鈴がしている行動が目に入って半ば怒鳴るような口調で問いただす

 

「んー、肩車……いや、移動監視塔&監視員ごっこ?」

 

「ごっこかよ……って、そうなると俺、監視塔!? 生物ですら無いのかよ!!」

 

「と、とにかく! 鈴さんはそこから降りてください!」

 

「セシリアも話を聞いてくれ!!」

 

 セシリアの問いに鈴は一夏の頭の上で顎に手を当て

、首を傾げながらそう答えた。そんな鈴の答えに思わず一夏がツッコミを入れるが、まるで当然のようにそのツッコミはセシリアにスルーされ、一夏は思わず叫んだ

 

「ヤダ、まだ乗ったばかりだし」

 

「何を子供じみた事を……!」

 

 鈴の言葉に怒りに火がついた様子のセシリアが傘を地面に突き立てて鈴を睨み付ける

 

「お、揉め事? ……って、織斑君が凰さんを肩車している!」

 

「い、いいなぁ~あ、でも私は……織斑君も良いけど大谷さんがいいかも!」

 

「空いてる今の内に私が肩車一番乗りっ!」

 

 と、そんな二人の騒ぎを聞き付けて、何故か一夏や慎吾に肩車をさせて貰おうと一気に集まる

 

「……生憎、一夏はそう言う事はしていない。代わりと言ってはなんだが私で良ければ担当しよう」

 

 そんな現状を見かねた慎吾が女子達の間に割って入るとそう言った

 

 その瞬間、集まった女子達から歓声が上がりたちまち慎吾の周囲を囲むように行儀良く並んで慎吾の肩車の順番待ちを始める

 

「いつも、すいません慎吾さん」

 

 鈴を肩から下ろした一夏が、申し訳無さそうに頭を下げてそう言う

 

「なぁに……これくらいは軽い物さ」

 

 そんな一夏に、慎吾は『気にしていない』とでも言うかのように笑顔を返した

 

「おー、しんに~の背、高い、高~い」

 

 慎吾の頭の上で満足そうに、偶然か否か肩車を一番乗りし、着ぐるみのようにも見える奇妙な水着を見ながらそう呟いていた




 のほほんさんは書いていて、優しい気分になれますね。日常回ではお世話になりそうです。


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42 いざ海へ!ゾフィーと妹達

 今回も日常編です。日常編は次くらいまでは続きそうです


「これで十秒……次、だな」

 

 一人の女子を肩から下ろし、一息付くとまた新たな女子を慎吾は背に乗せた。ちなみに女子達の間では『慎吾に負担をかけぬように肩車時間は一人十秒まで』、『しがみつく為の頭や肩を除外しておさわりは基本的に厳禁』と、言った感じにいつの間にかしっかりとしたルールが決められていた

 

「向こうは無事でやっているだろうか……」

 

 特に疲れた様子は見えない様子で慎吾は首を僅かに動かして海へと向ける。慎吾の視線の先では、鈴と一夏が競うように波に揺られて浮かぶブイを目印にして競うように泳いでおり、更に良く見てみると現在は鈴が僅かに一夏をリードしていた

 

「全く……お二人とも……」

 

 そんな二人をセシリアもまたどこか不満げな目で見つめつつも、丁寧に自身の水着のズレを確かめていた

 

「確かにあれは気の毒だとは思うが……あの元気さは鈴の魅力だと思うぞ?」

 

 そんなセシリアをたしなめるような口調で、さほど疲労していなかったものの、皆に進められて小休憩に入った慎吾がそう言いながらセシリアの隣に立つ。

 

 そう、事が起こったのはつい数分前、ちょっとしたやり取りからセシリアに一夏がサンオイルを塗ることになったのだが(ちなみに、この事で自身も一夏にサンオイルを塗ってもらおうと再び騒ぎが起きそうになり、やはり繰り返しのように慎吾が代打を申し出たのだが、行列を潜り抜けて登場した清香の『大谷さん一人にそこまで迷惑をかける訳にはいかないでしょ?ある程度は自重しようよ』の一言である程度落ち着いた)、その事を当然ながら面白くは思わない鈴が一夏がセシリアにサンオイルを塗っている途中で茶々を入れ、はずみからセシリアの水着が肌から離れてしまい、一部始終を見ていた慎吾は慌てて視線を反らして目を硬く閉じる事になった。そうこうしている内に、鈴は一夏を連れて海へと逃走。そして今は、何故か二人で競争をしている。と、集まった女子達の協力もあって非常に素早く水着を着直したセシリアから改めて話を聞いた慎吾はたまらず苦笑した

 

「しかしなセシリア、繰り返し言うようだが……」

 

 少し怒り気味のセシリアを落ち着かせるべく、再び口を開こうとした慎吾だったが、突如その顔は険しい物へと変わり、その目は瞬きもせずにずっと一点を見つめていた

 

「……慎吾さん、どうかしまして?」

 

 そんな慎吾の様子を怪訝に感じ、セシリアが不思議そうに慎吾に尋ねながら、慎吾の視線の先を見つめ

 

「あれは……!?」

 

 それに気付いたセシリアの顔もまた驚愕に彩られる、慎吾が見つめていたのは先程まで鈴と一夏が泳いでいた場所。が、一夏の先を泳いでいた筈の鈴の姿は忽然と消え失せており一夏も泳ぎを止めている。そして鈴がいた場所には白く、荒い泡が漂っていた。

 

 そう、まるで何かが海中で激しくもがいたかのように

 

 

 

「…………くっ!!」

 

 そこまで確認した瞬間、慎吾は砂浜を陸上選手の如く激しく蹴り飛ばして全速力で走り出すと、勢いのまま海へと飛び込み、ダイナミックなクロールで一気に二人の元へと泳いでいく

 

「大丈夫か二人とも!?」

 

「慎吾さん!あ、はい、こっちは何とか大丈夫です」

 

 慎吾が二人の元へとたどり着くと、一夏は既に鈴を救助し終えたらしく背中に鈴を背負った状態で泳ぎながら慎吾へと返事を返した

 

「し、慎吾あんたも……けほっ……来たのね……」

 

「無理して返事は返さなくていい、今はまず呼吸を整えておくんだ」

 

 慎吾が現れたのに気が付くと一夏に背負われた状態のまま鈴が咳き込みながら返事を返した。溺れた直後なのか顔色が青白いのにも関わらず平静を装うような態度の鈴をそう言って諭した

 

「慎吾さん助けに来てくれたのは嬉しいですけど……ここは俺だけでも大丈夫です。戻ってください」

 

「そう言う訳にはも行かないさ、せめて浜辺までは私も同行しよう」

 

 そう言って帰そうとする一夏の言葉を押し退けて、慎吾は一夏と鈴から一定の距離を取って浜辺まで付き添って行った。その間、鈴と一夏の間でい会話が行われていたのだがそれは慎吾の耳には自身の泳ぐ音と、波の音に邪魔されてとどかなかった

 

 

「どうしたシャルロット……こんな所に引っ張って来て」

 

「ごめんねお兄ちゃん、ちょっと急用があって……ほら」

 

 浜辺へとたどり着き、鈴と一夏を見送っていた慎吾はシャルロットに手を引かれて浜辺に建てられていた休憩所の建物の影へと来ていた

 

「……もしかして、そこいるのはラウラ……か?」

 

 と、そこで慎吾は今一つ確証を持てないような様子でそう呟いた。それも当然、シャルロットに案内された建物の影にいたのは複数の白いバスタオルを巻き付けて頭の先から膝下までを多い尽くした奇妙な何かであり、それはさながら手を抜いたミイラのコスプレのようにも見えた

 

「その声は……おにーちゃんか」

 

 慎吾の声に白い何かが動いて反応すると顔部分にあった一枚のバスタオルが外れ、中から慎吾の予想していた通りラウラが姿を現した。そんなラウラの姿を見て少し呆れたようにため息を付きながらシャルロットは口を開いた

 

「ほら、ラウラ。お兄ちゃんが来てくれたんだから少し頑張ってみたら?」

 

「無ぅ……わ、分かった。おにーちゃんと……その……姉さんに頼まれたのならば仕方ない……」

 

 ラウラが心底、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらそう言うとシャルロットは、ん、よろしい。と少し意地悪な笑顔をしながら満足そうにそう言い、慎吾はそんな二人を見ながら『本当の姉妹のようだ』と想い苦笑していた。

 

 シャルロットとラウラのこの姉妹のような関係はトーナメントが終わった時から続いており、どうやら自分が先に慎吾を兄と呼び始めた事、なおかつトーナメント優勝と言う実績を使ってやや強引気味にラウラを説得しシャルロットが長女、ラウラが次女と言う形で落ち着いたらしい。

 

「ええい!ど、どうだ、おにーちゃん、私の姿は?」

 

 と、そこで勇気を出したのかラウラは体に纏っていたバスタオルを一気に投げ捨て、自身の姿を慎吾と晒して見せた。

 

「……うむ、良く似合ってるぞラウラ。水着とそのヘアスタイルもお前に合って非常に可愛らしい……私はそう思うな」

 

 タオルを取ったラウラの姿を見た慎吾は全く迷いを見せない様子でそう答えた

 

「本当か、おにーちゃん!?」

 

 慎吾の言葉にたちまち表情を明るくして、アップテールに結んだ髪を揺らしながら心底嬉しそうにそう言うラウラ。その姿はラウラ現在着ているレースをふんだんにあしらった黒のビキニと非常に絵になっており、例えその構図が雑誌の表紙になっても誰一人疑問を持たないだろうと確信出来るほどの眩しさを持っていた

 

「あぁ、ちなみにラウラの髪は僕がセットしてあげたんだよ?」

 

「うむ……頑張ったなシャルロット」

 

 そう得意気に慎吾へと言うシャルロットの頭を慎吾は優し撫でた

 

「あっ…………」

 

 瞬間、シャルロットは魔法のように静かになり、じっとして慎吾に頭を撫でられ始めた

 

「ね、姉さんだけではずるいぞ! おにーちゃん、私もだ!」

 

「あぁ……分かったよラウラ」

 

 そんなシャルロットに少し嫉妬をしたのかラウラが恥ずかしさを捨てて慎吾の元へと駆け寄り、『さぁ撫でろ』と言わんばかりに慎吾に向かって頭を突きだし、慎吾は苦笑しながらラウラの頭を撫で始める。

 

 

 その後、慎吾が二人の頭を撫でていたのをクラスメイトに目撃され、どういう訳か『慎吾に頭を撫でて貰える権利』を賭けて、シャルロットとラウラをも巻き込んでさながらスポーツ漫画のごとき壮絶なビーチボール大会が日が沈むまで行われる事になり、その日の自由時間は旅館の従業員曰く今までに無い程の騒がしさとなり、千冬を多いに呆れさせるのであった




 ついに明確な姉妹判定を作って見ました。今回の話通りにウルトラ兄弟で例えるなら。シャルがウルトラマンのポジション。ラウラがセブンに近いポジションになるかもしれません。


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43話 夕食、そしてゾフィー対千冬!?

 日常回はとりあえず、今回で一区切り。の、予定です


「それにしても今日の決勝戦は死闘だったな……」

 

「うん……ラウラの援護が無かったらもう少しで負ける所だったよ……」

 

「そ、そうか……二人の活躍は見ていたが頑張っていたたからな」

 

 時刻はあれから進んで午後7時、大広間三つを大胆に繋げた大宴会場で食事を取りつつ、対面する形で今日のビーチボールについて語るシャルロットとラウラに、慎吾自身は試合に参加しなかったものの、自身が見ていた数々壮絶な試合を思いだし、困惑しながらも慎吾は二人にねぎらいのエールを送った

 

「うぅ……あそこでサーブミスなければ頭を撫でてもらったのは私のはずなのに……」

 

「これが……これが敗者の末路か……」

 

「無念……がふっ」

 

 事実、そんな風に慎吾と楽しく話す行為を涙を飲んでひそひそと呟く周囲のクラスメイト達の声が聞こえてきたが、何とかしてあげたいとは思えども自分ではどうにも出来ない事故に、慎吾はこれを苦笑しながら聞くことしか出来ず、結果、慎吾は申し訳なさを誤魔化すように少しスピードを上げて食事に意識を集中させる事に決めると、肝付のカワハギの刺身をメインとしているのであろう和膳を味わい始めた

 

「……お、おにーちゃんよ、少し頼みがああるんだがいいか?」

 

「ん……どうしたラウラ?」

 

 と、慎吾が食事に集中し始めて数分ほどした時、慎吾の隣に座っているラウラが慎吾の浴衣の裾をそっと引っ張りながらそう言い、慎吾はそれに答える為に口の中の食べ物を飲み込むと一旦食事の手を止めてるとラウラの方へと向き直った

 

「私は、おにーちゃんに、あれをしてほしいんだが……」

 

「あれ……? あぁ………そうか、そう言う事か……」

 

 少し恥ずかしそうにラウラが指差す先に、慎吾は怪訝な表情で顔を動かし、すぐにその意味を理解して困ったような顔で溜め息をついた。

 

 ラウラが指差す先にあったのは隣席の一夏に向かって目を閉じ、恥ずかしげながらも上品に口を開いたセシリア。そして、一夏はと言うと余り恥ずかしそうな様子もなく刺身をつまんだ箸をセシリアの口へと持っていこうとしており、とどのつまり一夏とセシリアは所謂『あ~ん』をしようとしていたのだ

 

「ラウラ、私自身はしても構わないと思っているが、この場だと……」

 

「あぁぁーっ!? セシリアずるい! 反則!」

 

「織斑君に食べさせて貰うとか……許さんっ! 私もやるっ!」

 

 慎吾の言葉が言い終わらないうちに当然ながら、全員が揃っている宴会場で大胆な行動をしようとしていたセシリアと一夏は女子達に囲まれると、セシリアはその行動を弾糾され、一夏は自身も食べさせて欲しいと雛鳥の如く一斉に口を開く女子達に囲まれた

 

「……大丈夫だ、私は周囲の目はあまり気にしないぞ」

 

 その様子を見て、若干のタイムラグがありながらもラウラは再びそう言って慎吾に懇願する

 

「いや、そうでは無いんだラウラ、私が言いたいのはこの場には……」

 

 ラウラの言葉にゆっくりと首を降りながら慎吾が説明しようとした瞬間

 

「ほぅ、諸君らは自由時間をたっぷり満喫したように見えていたが……静かに食事が出来ん程にまだ体力が残っていたか」

 

 今まで、それなりに食事を楽しんでいた様子の千冬がゆっくりと立ち上がり、身も凍り付くような気が込められた声で一夏とセシリアの元へと集まった女子達に視線を向ける。それだけで一瞬前まで非常に賑やかだった宴会場には時が制止したかの如く沈黙が走った

 

「折角だ、その体力を有効活用する為に今から砂浜を50km程ランニングしてくるといい。いや、待て、その体力ならば70……」

 

「いえいえいえ! 疲労困憊です! ヘロヘロのクタクタです! だから私達、大人しく食事をしてますね!?」

 

 千冬が恐ろしい数値を口にするより早く、一人の女子が一気にそう言うと、蜘蛛の子を散らすような勢いで集まっていた女子達はそれぞれの席へと戻って行った

 

「なるほどな、おにーちゃん」

 

「そう言う事だ、ラウラ」

 

 その様子をしっかりと見ていたラウラは短くそう呟き、慎吾もそれに一声だけを返すと二人は食事が終わるまで一切無駄口を話す事はしなかった

 

 

「くっ!……流石は織斑先生、こっちも一流と言うべきですね」

 

「ほぉ、大谷はここが弱いようだな……とっ……んっ! こら、一夏少し加減しろ!」

 

「はいはい……じゃあ、今度は……」

 

「確かに織斑先生は強い、ですが決着は付いていない以上私はまだ負けるつもりはありませんっ……!」

 

「くあっ! そこに来たか……! あぁぁっ!一夏、やめっ……!!」

 

 夕食を終え、風呂上がりに千冬、慎吾、一夏三人が泊まることになる部屋で行われていた。二つの対決が決着を迎えようとしていた瞬間、ぴたりと千冬が動きを止めた

 

「……一夏、それと大谷。少し待て」

 

 千冬は二人にそう言って寝ていたベッドから起き上がると、何故か足音を立てぬよう、しかし滑らかな動きでドアに近寄ると次の瞬間、勢いよくドアを開いた

。すると

 

「「「へぶっ!!」」」

 

「……箒、それにセシリアに鈴? 何故そんな所にいるんだ?」

 

 千冬が急にドアを開いた事で、ドアが直撃した事により勢いで床にひっくり返ってしまった三人を見ながら慎吾は不思議そうに首を傾げていた

 

 

「け、結局、一夏は織斑先生とセシリアに腰のマッサージをしてあげてただけで……」

 

「おにーちゃんは、その傍らで教官と将棋とやらをしていた訳か……」

 

「織斑先生だ馬鹿」

 

「私は自分から対局を挑んでおいて負けてしまったがな……。それも飛車角落ちのハンデを貰って」

 

 顔を赤くしつつ、今回の出来事を纏めるシャルロットとラウラ。と、ラウラの言葉の訂正すべく千冬が出席簿でラウラの頭をはたき、慎吾はそのマグネット将棋盤の上でボロボロになった自軍の銀矢倉を見ながら、対局に熱中し過ぎた為に出てきた汗を拭いつつ苦い顔でそう呟いた

 

「部屋を汗臭くされると叶わん、お前達はもう一回風呂に入って汗を流して来い」

 

「ん、そうする」

 

「分かりました……皆は、まぁゆっくりとしていくと良い……」

 

 千冬はそんな慎吾と、セシリアのマッサージをした事によって汗だくになった一夏にそう指示をし、二人はそれに従ってタオルと着替えを持つと、慎吾が少し元気の無い声で部屋に集まった箒、鈴、セシリア、そしてシャルロットとラウラにそうとだけ言うと並んで大浴場へと向かって行った

 

「……何、あれが最後の一戦と言う訳では無い……なら、次は織斑先生に一矢報いて見せるさ……」

 

 こっそり持ってきたマグネット将棋盤を見つつそう決意を決めた目でそう、慎吾は呟いた。

 

 その後、風呂を上がっても対千冬対策を将棋盤片手に慎吾は考え続け、偶然にも偶然、歩いてきた真耶と曲がり角でぶつかってしまい、慎吾が慌てて自分とぶつかった事でバランスを崩した真耶を受け止めた所、真耶が顔を真っ赤にし、それを偶々通りすがった女子に見られてしまって、ちょっとした騒ぎとなったおかげで慎吾の帰りは一夏より大分遅れてしまう事になるのであった




 千冬vs慎吾(将棋)
 勝者 千冬


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44話 天災とゾフィー

 今回も色々と悩みながら決めました。意見を貰えるととても嬉しいです


 一夜が明け合宿二日目の朝、四方を崖に囲まれた専用ビーチに慎吾達、一学年全員がISスーツを着用して集合していた。……いや、正確に言えば約一名、更に言えば珍しいことにラウラが五分の遅刻をしたのだが、そんなラウラに注意をするより先に千冬はISのコア・ネットワークについて一つ問いかけをし、それを見事にラウラが答えて、その事で遅刻の件を見逃して貰ったラウラは心底安堵した様子で溜め息をついていた

 

「(まぁ……当然、ラウラは織斑先生がドイツで教官をしていた時代にみっちりと叩き込まれたのだろうな……それはもう)」

 

 背筋を伸ばした真っ直ぐな姿勢で地面に屹立しながら、慎吾はラウラが体験してであろう苦労を想像してほんの僅かに顔の筋肉を動かして苦笑した

 

「さて、それでは……」

 

 全員が集合したのを確認してから、千冬が口を開き本日の目的である各種装備試験運用とそのデータ取りの開始を告げようとした時だった

 

「ちぃぃぃちゃぁぁぁぁん~~!!!」

 

 そんな声と共に誰かが砂塵を巻き上げ、信じがたい速度で走ってきた

 

 

「……信じられん……我が目を疑うような性能だ……」

 

 数分後、慎吾は腕を組み上空を見上げながら心に思っていた感情を思わずそのまま口に出してしまっていたが、周囲のクラスメイト達でそれに何か意見を言う者は誰もいない。誰もが今しがた起こった光景に圧倒され、慎吾と同じ事を感じていたのだ

 

「やれる……本当にこの紅椿なら……絶対に……」

 

 その光景を作り出した一人が、たった今手にした専用機『紅椿』を纏い感慨深げな様子でゆっくりと降下してくる箒。その両手には二振りの刀を持っていた。その片方が対単一仕様で箒の打突の動きに合わせてエネルギーの刃を発射して周囲に漂って積乱雲になりそこないだった雲をあっという間に蜂の巣に変えて霧散させてしまった『雨月』。片方が対集団仕様で箒に迫った慎吾が思わず息を飲むほどの凄まじい数のミサイルを一閃、箒の放った斬撃に合わせて発射された帯状の赤いレーザで全てのミサイルを撃沈して見せた『空裂』。紅椿が見せた武装たったのその二つだけではあったがその圧倒的性能に慎吾を含むこの場にいた殆んどの人間が圧倒されていたのだ

 

「ん~箒ちゃんが気に入ってくれたようで、束さんは何よりだよ」

 

 そして、何よりこんな光景を作り出した最大の原因が満足そうに笑いながら紅椿に乗った箒を眺める人物、慎吾も昔、絵本で読んだ事がある不思議の国のアリスの主人公アリスそっくりな服装に身を包み、頭にはやたらにメカメカしいウサギの耳を装着した女性、箒の実姉にして、ISの開発者である篠ノ乃束その人なのだ

 

「(篠ノ乃博士は私達に興味が……いや、先程のセシリアへの態度をみる限り最初から視界にすら入れてないのが正解なのかも知れないな)」

 

 慎吾の隣で先程、束が一夏の白式のデータを分析していたのを見て、自身のIS、ブルー・ティアーズも見て貰おうと勇気を出して接近したものの、束にはっきりとした拒絶と言う形で突っぱねられて、落ち込んでいるセシリアの肩をそっと撫でて励ましながら、束を観察していた

 

「(個人の思考や行動……それも相手はISをこの世を生み出した天才と言って差し支えのないような大博士。冗談でも無く私達とは違う世界を見ていると言うのも有り得る。だが……あまり心地の良い話では無いな)」

 

 そう思いながら、束を見てほんの僅かに眉を潜める慎吾

 

「あっ、そうそう、そこの無駄にでかい2号君。いっくんの今後の為にも仕方ないから、ついでに君のISデータも見せなよ」

 

 と、その時、ずっとこちらには目もくれずに紅椿と箒を眺めていた束がふいに慎吾の方へと向き直り、心底興味が無さそうな口調でそう言った

 

「篠ノ乃博士、2号……とは、私の事ですか?」

 

「そうだよ、それぐらい察しなよ。全く思考が遅い奴だな。君に拒否権なんか無いし、興味も無いから2号君はさっさと前に出てきなよ」

 

 急に束に言われた慎吾が、控えめにそう聞くと束は不機嫌そうに早口で一気にそう言い慎吾をせかす

 

「……はい、分かりました篠ノ乃博士」

 

 慎吾はそんな束に特に動じる事は無く、駆け足で束に近付くと瞬時にゾフィーを展開させた

 

「全く、これだから箒ちゃんと、ちーちゃんといっくん以外の人間は……」

 

 束はそんな慎吾に見向き所か遠慮もせずに慎吾の全身をすっぽりと包むゾフィーの装甲にコードを差し込む。そして空中投影のディスプレイに表示された膨大なゾフィーのデータを見ると

 

「ふ~ん……」

 

 と、一言だけ呟いた

 

「(まぁ……意図せずとも天才と呼ばれる人間には風変わりな思考を持つのかもしれないな……)」

 

 そんな束を見ながら慎吾は、普段は柔軟かつ滑らかな思考をしているのにも関わらず、自身で決めた特定の事柄の場合には慎吾の説得にも動じない頑固さを持つ、自身の親友であり、慎吾が迷わず天才と判断する人物、芹沢光を思い出して仮面の下で小さく笑った

 

「いつまで突っ立てんの? データチェックはとっくに終わったからさっさと行きなよ」

 

 と、そうして思考していた慎吾に束が鬱陶しそうにそう言ってゾフィーの装甲を軽く叩いた

 

「すいません……少し考え事をしていたもので……」

 

「はいはい、そんなの全くどうでもいいから」

 

 慎吾はすぐに軽く束に謝罪して離れるもの、束はそれを全く意に介した様子は無く、しっしっと手を動かして慎吾を追い払う

 

「(ともかく、篠ノ乃博士に関しては博士から接近して来ない限りは不干渉を貫いた方が得策のようだな……)」

 

 ゾフィーの展開を解きつつ、慎吾がそう判断をした時だった

 

「お、おお、おおお織斑先生っ!! た、大変です!」

 

 突如、真耶が小型端末を片手にいつも以上に、いやそう考えても明らかに尋常な程に慌てた様子で叫びながら千冬へ向かって走ってきた

 

 どうやら、慎吾が一通りのスケジュールを見て頭に思い浮かべていた『楽しくも厳しい臨海学校』は誰の予想をも遥かに越えた過酷な物になりそうであった




 束さんの慎吾に対する態度には意見が別れるのかも知れませんが、束さんにとって慎吾は『何かそこにいた、ただの二人目のISが使える男子』くらいにしか思わないだろう。と、判断した結果こうなりました。……しかし、個人的にはむしろ少し優しかったかな?と思っています


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45話 慎吾の決断、一夏の決意。そして『作戦開始』

 今日は危ない所でしたが、どうにか間に合いました……。


「(この専用機……ゾフィーを貰い受けた時から覚悟はしていたが……まさかこんなに早く、その機会が来るとはな)」

 

 旅館の奥に設けられた大広間で、箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、そして一夏と共に千冬から説明を受けながら静かに慎吾は厳しい顔つきのまま緊張の冷や汗を額から流していた。

 

 千冬の説明と入ってる情報が完全に正しいと考えれば、今回の事態は纏めれば、ハワイ沖で試験稼働中だった第三世代軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走した事から始まっていた。

 

 暴走した福音は監視空域を易々と越えるとそのまま疾走を続け、衛生による追跡によるとどういう訳か、時間にして五十分後、慎吾達が宿泊している旅館から二キロ先の空域を通過する事が予測され、その事態に対処すべき要員として学園上層部から訓練機を使用してでの空域と海域の封鎖役に千冬達教員、そして作戦の要として専用機持ちである慎吾達はこの場に集められていたのだ。

 

「(……相手は特殊射撃を特異とする万能型。格闘戦は未知数、偵察は不可能……厄介だな)」

 

 セシリアの懇願により提示されたデータを目にしながら、精神を落ち着かせ冷静に時折、千冬達教師陣シャルロットやラウラ達代表候補生達と意見を交わしつつ作を共に練っていく慎吾

 

「……つまりアプローチは一回が限界。一撃決殺が可能なISで勝負を決めなければならない訳ですね」

 

 ある程度、纏まりかけた話を許可を貰って代表するように慎吾がそう口にする。

 

「………………」

 

 その瞬間、視線は一斉に発言者であり今までにも凄まじいまでの威力を持ち、直撃すればどんなISでも一撃でシールドエネルギーを空にしてしまうであろう『M87光線』を装備した専用機ゾフィーを持つ慎吾と

 

「えっ……?」

 

 こちらもまた、命中すればその特性により確実に相手を落とす事が可能な『零落白夜』を使用する事が出来る白式を自らの専用機とする一夏。この二人に向けられた

 

「ちょっ、ちょっと……!」 

 

 今まで話についていけず弱っていた一夏は急に自身が指名された事で焦りを見せ、慌てて口を開こうとする

 

「………分かりました織斑先生、私が出ます。私がゾフィーで福音を落としてきます」

 

「……慎吾さんっ!?」

 

 と、丁度その瞬間、迷いを見せないような表情と確かな決意を裏付けるようなはっきりとした口調で慎吾がそう口にし、一夏は思わず口にしようとした言葉を飲み込んだ

 

「一夏、私は今回の事件概要を聞いた時から決めていたんだよ。可能ならば私が率先して参加するとな……」

 

 慎吾はそんな一夏に首を動かして視線を向けると、そう言ってふっ、と笑いかける

 

「しつこいと思うだろうが、これが私の……年長者としての義務なん……痛っ」

 

 続けて言葉を発しようとした慎吾だったが、その言葉は千冬からの出席簿での一撃を頭にもらい途中で制止させられた

 

「やはり効く一撃ですね……」

 

「馬鹿者、大谷……お前は私が以前言ったことを聞いていなかったのか? こいつらから見れば年上だろうが、所詮はお前も私から見れば、まだまだ小僧。おまけにこれは訓練では無く実戦だ。一丁前に背伸びなんかするんじゃない」

 

「……前向きに検討します」

 

 貰った一撃で顔をしかめながら苦笑する慎吾に千冬はため息を付きながらそう言い、それに慎吾は苦笑したままいつぞやと似たようなニュアンスの言葉で千冬に返事を返した

 

「はぁ……それで、自分から言い出したのだ。手は持ち合わせているのだろうな?」

 

 その言葉を聞いてこれ以上、慎吾に何を言っても無駄だと判断したのか千冬は再びため息を吐くとそれ以上の言及を止め、作戦に付いて語りだした

 

「速度についてならゾフィーであれば全く問題はありません。移動エネルギーについてもウルトラコンバータで十二分に行き帰りの移動と戦闘、M87を放つだけのエネルギーを確保可能です。無論、超高感度ハイパーセンサーも搭載済みです」

 

 千冬の問いに慎吾はあらかじめ考えていたのか、全く淀み無くすらすらと答えていく。千冬は慎吾の話を聞き終えると、ふむ、と一言呟き

 

「では今回の作戦は大谷のM87を中心とー」

 

「待ってくれ千冬ねっ……! 織斑先生!!」

 

 千冬が作戦の具体的内容を決めようとした瞬間、座っていた一夏は急に立ち上がり必死に声を張り上げながら割って入った

 

「この作戦、俺も参加させてくださいっ!!」

 

「一夏…………!?」

 

 先程の一夏の繰り返しのように今度は慎吾が驚愕に染まった表情で一夏を見つめた。そんな慎吾に一夏は真っ直ぐに視線を返し、口元には軽い笑みすら浮かべながら言葉を続ける

 

「勉強でもISでも、おまけに学園生活でも慎吾さんに助けて貰って甘えてる訳にはいかない……それを当たり前にしたくない! 俺も慎吾さんと一緒に戦います!!」

 

「覚悟は……どうやら出来てるようだな織斑。良いだろう、今回の作戦の中心は大谷、織斑の両名とする」

 

 そんな一夏の様子をしっかりと見ていた千冬は弟の成長に、一夏にしか分からないほどうっすらと笑みを浮かべてそう言い、一夏は思わず小さくガッツポーズを決めていた

 

「さて、大谷に加えて織斑の参戦も決まったが故に問題となるのは、織斑の移動方法だが……現在、この専用機持ちの中で最高速度が……」

 

 一旦、息を吸い込み再び千冬が話を再開させようとしたその瞬間

 

「ちょーっと待った、待った! いい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティングなんだよ!」

 

 またも割り込む形で、どこかわざとらしく間の抜けた声が天井から響いてきた

 

 

 その後、一番高速戦闘の訓練時間が長いセシリアを中心とした代表候補生組からじっくりと高速戦闘のアドバイスを受け、改めて作戦を頭から終わりまで練って内容を三十分かけて頭に叩き込んだ一夏と慎吾、そして追加されたもう一人の三人は雲ひとつ無いほど晴れ渡った空の元で僅かな距離を立っていた。

 

「……ゾフィー!」

 

「来い、白式」

 

 三人は互いに一度を目を合わせて頷くと、一斉にISを展開させる。まずは口火を切るようにゾフィーが水面に浮かぶ波紋を思わせるような赤い光に包まれてその姿を現し、それに続いて一夏の白式

 

「行くぞ、紅椿」

 

 そして最後に太陽の光に反射してよりその紅を色鮮やかに魅せる箒の紅椿がその姿を見せた

 

「(この作戦における紅椿は移動エネルギーに困っていた一夏のいわゆる運び役になってくれる。さらに紅椿は篠ノ乃博士の作った各国が躍起になって行ってる第三世代型IS開発を無意味にしてしまうような規格外にも程がある第四世代のIS。以上から考えて紅椿の参戦は非常……に有効。……のはずなのだが)」

 

 事前に決めた作戦通りに紅椿の背に乗る一夏を見ながら、慎吾はどこか不信を感じていた

 

「(篠ノ乃博士の登場といい、福音の暴走といい、あまりにも話が出来すぎている。本当に全ては偶然で、私の気のせいだと助かるのだが……どうにも腑に落ちないな……) 」

 

 と、そんな風に胸の中に説明しがたい奇妙なわだかまりを感じながらも千冬の合図の元、一気に上空まで飛翔していった紅椿のすぐ後に続くように大地を蹴って急加速していたのであった




 次回の話から私が最も、と言って良いほど書きたかったパートに移るので気合いを入れて書いていこうかと思います


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46話 紅椿&白式&ゾフィーVS銀の福音。そして危機

 ギリギリでしたね……次こそは何とか


「見えたぞ、一夏! 慎吾!」

 

「!!」

 

「来たか……!」 

 

 三人が飛び立って数分もしないうちにハイパーセンサーはその名の通り、全身が銀色に輝き頭部に一対の巨大な翼を持つIS『銀の福音』を捉え、三人にそれぞれ緊張が走る

 

「まずは私が先攻して隙を作ってみよう……その間に二人は攻撃を頼む」

 

「分かった」

 

「慎吾さん、資料にあった多方向時射撃に気を付けてください!」

 

 自身の言葉に二人が頷き、返事をしたのを確認すると慎吾は更にゾフィーを加速させ更に福音に接近しながら両手を重ねて矢尻状のスラッシュ光線を福音に向けて数発程発射し、狙い違わず放たれたその一撃は福音の銀の装甲に突き刺ささろうとした、まさにその瞬間

 

「何っ……!?」

 

 福音は飛行しつつ体制を僅かに動かしただけで全てを完全に回避し、放たれたスラッシュ光線は海面に激突して穴を空けた

 

「くっ……ならばっ……!」

 

 福音の回避能力に驚かされながらも慎吾は動揺を抑えて福音を追跡しながら再びスラッシュ光線を連射する形で次々と発射する。しかし、これすら福音は軽々と回避し一撃すらも福音を掠める事すら無く。空しく海面に穴を空けていく。が

 

「今だっ!」

 

 福音に隙を作るにはそれで十分だった

 

「うおおおおっ!!」

 

 慎吾が合図と同時にスラッシュ光線の連発を止めて後退したその瞬間、最高速度で福音に向かっていた紅椿からカタパルトの如く一夏の掛け声と共に凄まじい勢いで白式が発射された。さらに、それだけでは無くダメ押しとばかりに一夏は瞬時加速で白式を加速させると、満を持してそこで零落白夜を発動。二段階の加速であっと言う間に接近した一夏は未だに反応出来ていない福音目掛けて光の刃を降り下ろす

 

「なっ!?」

 

 が、福音は零落白夜の刃がその銀の装甲にあと一ミリで触れると言う瞬間に反転、後退のような形で白式と対峙し、一夏が思わず動揺の声をあげた

 

「(回避した!? いや、しかしまだ一夏の間合いだ、このまま押し切れれば……) 」

 

 福音に注意を払いつつ、そう慎吾が想うのと全く同じタイミングで一夏は体制を立て直して、第二撃を放とうと更に福音へと踏み込む。まさにその瞬間だった

 

「敵機確認。迎撃モードへと移行。《銀の鐘》、稼働開始」

 

「「「!?」」」

 

 福音は一夏の放った零落白夜の刃を再び回避すると、同時にそうオープンチャネルで抑揚の無い機械的な音声を三人に向けて流した。その声には今まで無人機であるかのように自動的に動いて攻撃を回避していた福音から、三人に向けた確かな敵意が感じられ思わず三人はそれぞれ無意識に制止して身構える。と、そのほんの僅かな隙を見逃さぬように福音の装甲の一部スラスターがまるで銀の翼を広げるように展開し

 

「……まずいっ!! 避けろ一夏! 箒!」

 

 その下から『砲口』が現れたのを確認した瞬間、慎吾は二人に向けて警告を発する。

 

「La…………♪」

 

 甲高いマシンボイスと共に福音の全砲口から高密度に圧縮された羽のような形の無数のエネルギー弾が全方位に向けて発射されたのはその直後であった

 

「くっ……こ、この破壊力は……!!」

 

 迫り来るエネルギー弾を後退しつつゾフィーのスピードを持って避け、あるいはスラッシュ光線で撃ち落としていた慎吾の元に、ほんの僅かな隙を狙ったかのように羽がすり抜けるようにゾフィーの装甲に突き刺さると即座に爆ぜ、想像以上の破壊力と体に伝わる衝撃に慎吾は思わず顔をしかめる。

 

「なんて連射速度だよ……!」

 

「くっ………!」

 

 見れば一夏と箒も被弾したのかそれぞれのISの装甲から煙をあげて注意深く福音を睨んでいた

 

「(元から長期戦などするつもりは無かったが、福音の攻撃のこの破壊力から考えるとやはり下手に勝負を長引かせるのは危険……。と、なると)」

 

 追撃はせず観察するようにこちらに視線を向けてくる福音を確認すると、慎吾は弾かれたように一気に踏み出しながら箒へと指示を出す

 

「箒、共に一夏が確実に零落白夜を福音に命中させられる隙を作るぞ!」

 

 「了解した! 私に任せろ!」

 

 慎吾の言葉に箒は力強く返事を返すと慎吾と共に福音に向かって突撃すると、全く同時に攻撃を開始した

 

「はぁぁっ!」

 

 箒が気合いを込めて斬撃を放つ。その攻撃はまたも福音には紙一重の所で回避され、攻撃を避けた福音からの反撃を箒は受けそうになるが

 

「ぜやぁぁっ!!」

 

 それは慎吾が許さない、福音が反撃に移る瞬間を見極めていた慎吾がタイミングぴったりに合わせてスラッシュ光線を放った。福音は途端に反撃の手を止めて回避するものの、今度は紅椿の機動力を生かして死角を狙った箒の攻撃が襲う。そんな風にして、徐々に二人が回避も許さない程の猛攻で押し始め、流石の福音も回避が困難になりだしたのか防御を使い始めた

 

「今だっ!」

 

 と、再び慎吾からの攻撃を回避した際に福音に生じた隙を狙って箒が二刀流による突撃と斬撃、更に腕部展開装甲から発射したエネルギー刃が発射して福音に襲いかかる。それを福音は紙一重で回避して反撃の砲撃を放とうとするが

 

「……おおおぉっ!!」

 

 箒の攻撃を抜けた瞬間、待ち構えていたゾフィーの強烈な蹴りが直撃し、福音はあさっての方角に光弾を飛ばしながら大きく吹き飛ばされて体制を崩した

 

「今だ一夏!!」

 

 ついに生まれ福音の決定的な隙に箒はすかさず一夏に呼び掛ける。が

 

「うおおおっ!!」

 

 瞬時加速と零落白夜を同時に最大出力で発動させた一夏は福音とは真逆、あさっての方向へと飛んでいった光弾に必死で追い付くとそれを書き消した

 

「い、一夏!? 何をしている!!」

 

 そんな一夏の一見すれば二人が死力を尽くして作り出したチャンスを無下にしてしまうような行動に思わず箒が叫ぶ

 

「船か……!」

 

 そして慎吾はハイパーセンサーで一夏が守ろうとした物に気が付き、一夏がもし気付いてくれなければ自身が福音を蹴り飛ばしたせいで出鱈目な方角へと飛んだ弾があの船に直撃していたのだと気付くと冷や汗を流した

 

「たぶん密漁船ですけど……見殺しには……」

 

 そう苦々しい顔で言う一夏の手に握られていた雪片弐型の光の刃が消え、展開装甲が閉じる。エネルギー切れであった。それを見た箒は苛立ちを隠せないように歯軋りすると一気に叫ぶ

 

「ば、馬鹿者! 折角のチャンスをそんな犯罪者な……!」

 

「箒!!」

 

 その先は言わせない、とばかりに箒の言葉を遮るように一夏が強く叫ぶ。と、既に体制を建て直していた福音が方向の狙いを二人に付ける

 

「くっ……!」

 

 させないとばかりに慎吾は福音の狙いを反らさせるべく、移動しつつスラッシュ光線を福音目掛けて放つ。が、その瞬間

 

「な……っ!?」

 

 まるで最初から予測していた、と言わんばかりに福音はターンするかのように静かに動くとゾフィー目掛けて光弾を発射した

 

「ぐわっ! ぐぅぅ……っ!! なんの、まだまだ……っ!」

 

 予測外の不意打ちに慎吾は怯み、爆風が視界を多い尽くす。それでも何とか戦闘を続行せんと慎吾が爆風を突き抜けると

 

「ぐああああっっ!!」

 

 そこには自身が盾になるように箒を抱き締めた一夏が福音の一斉射撃を受けて崩れ落ちる姿があった

 

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」

 

 まっ逆さまに落ちていくのも構わず、箒は涙を流して一夏の名を叫ぶ。が、エネルギーシールドで相殺出来ない程の攻撃を受けた一夏からは何の返事も返っては来ない。そのままあわや二人とも海へと落下すると思われた瞬間ふっと二人の落下が制止した

 

「これはっ……!?」

 

 いや、それだけでは無い。つい先程確かにエネルギーが尽きたはずの紅椿と白式。それぞれが甦るかのように二人の体に再び展開されたのだ

 

「……流石に二人に全てのエネルギーを渡す訳にはいかなかったが出来る限り多くを白式に優先して渡した。それで二人が無事に帰投する分はあるはずだ。私が奴の相手をする間に急げ……!」

 

 それを確認すると二人を救出し、同時にウルトラコンバータからエネルギーを与え終えた慎吾は相変わらずこちらへと狙いを付けている福音に向き直りながら背中でそう箒に告げる

 

「しかし、慎吾! お前が……!」

 

 一夏を両手で支えつつ箒がそう慎吾に訴える。

 

「早く行け! 一夏の容態は一刻の猶予も許されない! それに私といればお前たちまで攻撃されてしまうぞ!?」

 

 慎吾はそんな箒に口を荒げ大声で、箒にそう促した

 

「くっ……うっ……! すまない……すまない慎吾!!」

 

 その説得が聞いたのか箒は堪えきれない程の悔しさを見せながらも、慎吾と福音に背を向け気を失ったまはまの一夏を抱えて先頭海域から離脱して行く。それを福音は追撃しようとしたのか視線を向けるが

 

「ここから先は……何としても行かせん!!」

 

 それを食い止めんと凄まじい気迫で慎吾は二人を守る形で慎吾は福音の前に飛び出した。

 

 二人にを渡した為に八割以上のエネルギーを使いきってしまったウルトラコンバータを装備したまま、ゾフィーと銀の福音の戦いは1VS 1と言う形で第二ラウンドを告げようとしていた。




 次回、アレをやります。


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47話 ゾフィーが負けた! 白式も負けた!

 今回はタイトルから察された通りです。つまりは、あの回です。弁明らしき物も後書きにしてますのでよろしければ


「はぁぁぁっ!!」

 

 ダメージ覚悟で慎吾は最低限発射の邪魔にならない程度の光弾を回避、あるいは相殺しつつ一秒にも満たない隙を狙って未だに光弾の連射を続ける福音目掛けてZ光弾を発射。しかし複数の光弾を破壊しながら放たれたこの一撃も福音には命中する直前に踊るように回避されてしまい、空振りに終わった

 

「相手が私一人なった瞬間、途端に回避重視に逆戻りか。分かりやすいと言えば分かりやすいが……やはり、やりにくいな」

 

 福音が反撃に放った光弾を回避し、油断なく福音を睨み付けながら慎吾は自身の攻撃が回避され続けている現状に僅かに焦りを見せ初めていた

 

 箒達が戦闘を離脱した先程から移動しつつ、様々な角度やタイミングで攻撃を続け、更に福音の反撃を出来うる限り回避していたとは言え何発かを被弾した影響でウルトラコンバータに残されたエネルギーは残り一割程。圧倒的不利とは言えないものの慎吾は真綿で首を締めるかの如く徐々に福音に追い詰められ初めていたのだ

 

「この戦い方を続けても私の勝ち目は薄い……と、なると勝つためには多少の無茶な賭けでも仕方ない。……ふふ、私からこんな事を言い出すとは、私も知らずうちに一夏と過ごす中で影響を受けたのかもな」

 

 自身のシールドエネルギー残量を改めて確認しつほう考えを纏めた慎吾は、自身のその考えがどこか訓練や試合の時に一夏が考えて実行してくるような策に似ている事に気が付いて小さく笑う。そして次の瞬間

 

「ぜやぁっ!」

 

 慎吾が福音に行ったのは単純明快、正面からゾフィーの持つ全速力での一直線の突撃。まさに引き絞られた弓から放たれた矢の如く凄まじい勢いで発進したゾフィーはみるみるうちに福音との距離を縮めていく

 

 が、そんな大胆不敵な接近を許すほど福音は抜けてはいない。当然のように勢いよく突撃してくるゾフィーに容易く照準を付けると一斉射撃モードで大量の光弾の弾幕を作り上げる

 

「はぁっ……!」

 

 迫り来る光輝く壁のような弾幕を見ても慎吾は全くスピードを緩めず、ゾフィーは全速力で福音に向かって飛び続けながらも銃口から放たれた弾丸の如く激しく回転を始めた

 

「先程までは混戦の中で一夏や箒に当たる事を配慮して使用を控えたが……今ならば!」

 

 光弾が回転するゾフィー装甲のあらゆる部分に次々と命中していくが光弾の殆どはゾフィーに突き刺さる事はなく、命中した瞬間ゴムボールをコンクリの壁にぶつけた時のように弾き飛ばれ周囲の光弾を巻き添えにして爆発し徐々にその数を減らしていく

 

「ぐっ……!」

 

 が、それでもなお福音の数は余りにも多すぎるのか完全に防げている訳では無いらしく。偶々弾き飛ばされずにゾフィーの装甲に突き刺さった光弾が爆発してゾフィーのシールドエネルギーを削り、ゾフィーの速力を僅かに落とす。そして、そのスピードの減少は

 

「《銀の鐘》最大稼働ーー開始」

 

 福音に追い討ちとなる第二射をさせるのは十分だった

 

 

「…………っ!!」

 

 慎吾の息を飲むような声が聞こえた次の瞬間、眩い程の光が爆ぜ大量の光弾がゾフィーに襲いかかると一瞬でその姿を覆い隠すのと同時に、光弾は一斉に爆発し先程までゾフィーがいた場所は一瞬にして爆炎に包まれた

 

 

 それを確認した福音が、大きく広がる爆炎の中からゾフィーをスキャンしようとした瞬間

 

「捕まえたぞ……!」

 

 爆炎を切り裂いてゾフィーが姿を表し、一瞬の間を福音の脚をがっちりと両手で掴んだ。突如あらわれたゾフィーに動揺するかのように福音はゾフィーを振り払おうとしたが

 

「ぜっ……!!」

 

 それを狙っていたかのように慎吾は両手を離すのと同時に福音に向かって右足で膝蹴りを放ち、福音を衝撃で仰け反らせた

 

「たぁっ!!」

 

 更にそれだけでは終わらない。慎吾は蹴りの勢いのまま一回転し、一瞬福音に背を向けるとそのまま福音が体制を立て直すより早く左足での回し蹴りを叩き込む

 

「ぜぇぇやぁっ!!」

 

 そして最後に気合いの声と共に渾身の力を込めたミドルキックを福音の装甲に叩き込む。立て続けにゾフィーの蹴りを受けた福音はゾフィーの凄まじい速度と鋭さを持った蹴りを回避する事は叶わず、勢いよく海面に向かって降っ飛ばされていく

 

「これで終わりだ……!」

 

 そんな福音にトドメの一撃を与えるべく、慎吾はゾフィーの両手を胸の前に水平にするように構え、直後

、右手から体制維持が出来ない福音目掛けてM87光線を発射した。

 

 回避が間に合わないような範囲で迫り来るM87光線を福音はどうにか防御体制に移り堪えようと試みるが青白く輝く光線が福音へと命中した瞬間、M87光線が直撃した翼は跡形も無く消し飛んでおり、福音は風を失ってしまった凧のように力無くくずれ落ち、近くの足元の小島の海岸へと墜落していった

 

「ふぅ……福音は一斉射撃をした直後、僅かだが動きが停止する……。それを狙ってダメージ覚悟で防御しつつ、ギリギリまで近付いて瞬時加速で接近戦に持ち込んで即時決着……の予定だったのだが。やはり少し無謀だったか……」

 

 戦闘中のギリギリの駆け引きで乱れた呼吸を整えるように一息を付きながらゾフィーの右腕に視線を送る。そこに装着していたウルトラコンバータは福音の光弾数発が直撃した為に半壊してしまい、壊れた箇所から見える機械部分からは黒煙が上がっていた。これではとても使えそうには無い

 

「しかし、帰還するのには十分なエネルギーが残っている。不幸中の幸いと言うべきかな……」

 

 過ぎた事を引きずっていても仕方が無い。そう決めた慎吾が恐らく小島で倒れているであろう福音に目を向けた瞬間

 

「なっ……!」

 

 慎吾は心の底から絶句した

 

 先程まで福音が倒れていた場所にあったのは強烈な光を放つ光の珠。その球から放たれるエネルギーは浜辺の砂を軽々と吹き飛ばし、押し寄せる波を次々と蒸発させていく。そして、珠の中心では青い雷を纏った福音が胎児を思わせるようにうずくまっていた

 

「まさか……これは『第二形態移行』か!? ま、まずい……!」

 

 福音との戦いでエネルギーを消費し、エネルギー補給のウルトラコンバータが破損していると言う最悪の状況に慎吾が思わず焦りを見せた。その瞬間

 

『キアアアアアアア……!!』

 

 獣の咆哮に酷似した鋭い声を上げ福音が余りにも凄まじい速度でゾフィーに飛びかかってきた

 

「くっ……!!」

 

 たまたまコンバータを見るために腕を構えるような形にしていた慎吾は信じがたい速度で迫る福音に奇跡の抵抗とばかりにスペシウムを放った。

 

 が、しかし

 

 

「なっ……!?」

 

 何と福音はスペシウムが放たれるタイミングを最初から知っていたかのように、最高速度を保ったまま薄皮一枚で回避し両手でゾフィーの腹部を拘束した

 

「うぐっ……なんのっ……!」

 

 苦悶の声を漏らしながら慎吾は気力を振り絞り渾身の力で抵抗して福音の拘束から逃れようともがく。が、福音はゾフィーを全く離そうとはせずベアハッグのような形で強く絞めあげる。そして

 

 M87で跡形も無く吹き飛ばされたはずの福音の頭部から音もなく、緩やかにエネルギーの翼を伸ばす。それはまるで蛹から出てきた蝶が羽を伸ばすかのように神秘的で、いっそ美しさを感じるような動きではあったが、福音が何をしようとしているのか悟った慎吾は一瞬にして顔を青ざめた

 

「くっ……!」

 

 『間に合わない』と、頭では理解しながらもウルトラスラッシュを発動して福音の拘束からコンマ一秒でも早く逃れようとした瞬間 

 

 美しく輝くエネルギーの翼にゾフィーは抱かれ、零距離から全身にエネルギーの弾雨を食らった

 

「うっ……! ぐっ……ぐああぁぁぁぁっ!!」

 

 凄まじい猛攻に放つ寸前でゾフィーの腕の中で形成されていたウルトラスラッシュの輪はガラスのように粉々に砕け、次々と直撃する光弾はゾフィーのシールドエネルギーを凄まじい勢いで削りながら装甲を焼いていき、限界が来たゾフィーの頭部からは炎が上がり、慎吾は激痛に悲鳴を上げる

 

 そして慎吾に取っては永遠のようにも感じられた攻撃が終わると、福音はゾフィーを無造作に海へと放り投げた

 

「す……ま、ない……みん……な……。一夏……シャルロット……ラウラ……ヒカリ……」

 

 薄れる意識の中、慎吾が呟いたその一言は誰にも聞かれる事は無く、ただボロボロになったゾフィーは吸い込まれるように海中へと沈んでいった




 誤解の無いように言っておきますが私はゾフィー隊長がとても好きで、かっこいいと思っています。
 しかし、どうしてもバードン戦でのあの隊長はインパクトに残ってしまう為に書かずにはいられませんでした。しかし、個人的にはあの戦いは、ゾフィー隊長が疲れて無ければバードンに勝てたと言う説を指示します。一応、そう言った気持ちもを込めて今回は個人的に無理の無いと思える程度で出来る限り実力者に見せるように書かせていただきました。


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48話 動く妹達、慎吾とゾフィー

 ギリギリでした……それなのに文章がいつもより少ない矛盾……次こそは頑張ります


「お兄ちゃん……」

 

「くっ……おにーちゃん……!」

 

 頭、胸が殆んど包帯に包まれてしまうような大怪我そして自発呼吸でさえつい先程まで出来なかった程の深いダメージを受け、意識も無くベッドで横たわる慎吾のその枕元。そこでシャルロットは傷付いた慎吾の姿を見て悲しげに呟き、ラウラは自身が参加出来なかった作戦で一夏、そして慎吾と言ったIS学園で得た『大切な人達』を無惨に傷つけられた事実に歯噛みするかのように悔しげにそう言った

 

 偶然にも封鎖に当たっていた真耶によって、呼吸停止状態で慎吾が孤島に打ち上げられているのを発見されたのは二時少し過ぎの事であった

 

 ただちに救助された慎吾は一夏同様にただちに待機してた医師達によって治療を受けたものの、慎吾とゾフィーの受けたダメージが共に一夏と白式よりも大きく、慎吾もまたISの操縦者絶対防御、その致命領域対応による昏睡状態から目覚めそうには無かった

 

 と、二人が目を覚まさない慎吾を見守っている中、突如ラウラの脇に置いてあったブック端末が振動し始めた

 

「出たか……!」

 

 その瞬間、つい先程まで纏っていた悔しげな雰囲気を一瞬にして消し去り、ラウラは素早くブック端末を手に取ると、そこに表示された期待通りの結果に不適に口を小さく吊り上げた

 

「ここから30キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていた所をたった今、衛星による目視で発見したぞ……そっちはどうだ?」

 

 ラウラがそう告げシャルロットに視線を向ける

 

「うん……僕も準備オッケーだよ。いつでも大丈夫」

 

 そんなラウラにリヴァィヴの専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』のインストールの準備を終えたシャルロットはどこか得意気そうにラウラに返事を返す。当然のように先程まで今にも泣きそうだったはずの表情からは悲しみが吹き飛んでいた

 

 そう、今の二人にあるのは

 

「福音よ、おにーちゃんを傷付けた借りは返させてもらうぞ……!」

 

「覚悟してもらうよ……今の僕には手加減は出来そうにないから!」

 

 妹として、兄の雪辱を張らす。単純ではあるがそこに淀んだ復讐心は無く、純粋で真っ直ぐな想いだけがそこにあった

 

「行こう……」

 

 ラウラはそう言うと綺麗にたたんでブック端末の隣に置いてあった真っ黒の軍服をさっと羽織るって立ち上がると、今まさに一人、責任を背負い込んで死にそうな目を目をしている箒を鈴がはげまし……もとい活を入れているだろう。一夏の病室を目指してシャルロットと共に歩き出した

 

「大丈夫、僕達は皆、必ず帰ってくるから。だから……待っていてね、お兄ちゃん」

 

 去り際にドアの隙間から再び慎吾を見てシャルロットは呟くと、そっとドアを閉める。しかし、シャルロットは気がつかなかった

 

 シャルロットの言葉に反応するかのように意識の無いはずの慎吾の体、その右手の指先がほんの僅かに動いている事を

 

 そして、二人達が立ち去ったすぐ後にドアを開いて真耶に先導される形で一人の人物が慎吾の病室へと入ってきた事を

 

 この時ばかりは全く気付く事は無かった

 

 

「ここは……一体……?」

 

 福音との戦いに破れて海へと沈みながら意識を失っていた慎吾は気付くと、顔に近付けた自分の手の平さえ全く見えず、自分が今大地に立っているのか浮かんでいるのかさえ判断できない程に深く分厚い暗闇の中にいた

 

「く、暗い……何も見る事が出来ない……」

 

 呼吸でさえ困難になるかのような重苦しくねばつくようや暗闇を前に慎吾は本能的に思わず呻き、顔をしかめる。もし、僅かでも光があるのならば慎吾の顔が青ざめ、脂汗が浮かぶのが見えていただろう

 

「この闇を照らしてくれる一筋の……そうせめて一筋の希望のような光があれば……!」

 

 心が押し潰してしまうかような周囲の闇に立ち向かい精一杯抗うかのように慎吾がそう呟いた瞬間。

 

 慎吾の声に答えるように幾重の闇を力強く切り裂きながら目映い光が慎吾の眼前に姿を表した

 

「……っ!? こ、れは……」

 

 慎吾はその光を太陽、もしくはそれに匹敵するような強い電気の光と思ったがすぐにそれが違う事に気が付いた。その光はここ最近の慎吾にとって最もと言って良いほどに身近にある光だったのだ

 

「ゾフィーの放つ……光……? うっ……!」

 

 慎吾がそう呟いた瞬間、光がいっそう激しく輝いて闇を打ち消した。その強い輝きに目を開くことが出来ず、慎吾は思わず目を閉じる

 

『慎吾……』

 

 と、少しの時間が過ぎ、慎吾が瞼の裏から光が収まって行くのを確認して目を開こうとした瞬間、何物かが慎吾に語りかけてきた

 

「君は…………」

 

 目の前から聞こえてくる中性的で、どこか懐かしい気持ちがするその声に反応して慎吾が目を開く

 

『聞こえているか慎吾……』

 

 慎吾が目を開くと、いつの間にか目の前には暖かい光を全身から放つ何者かが立っていた。光に包まれているせいかその全体像は水中で物を見ているるのように歪んでぼやけ、人形で慎吾とそう変わらない背格好と言うこと、そして胸で青く輝く水晶くらいしかはっきりと分かる物は無い

 

『私達の仲間が今、危機に晒されている。共に戦い、仲間達を救いだそう……!』

 

「…………!」

 

 ここが何処なのか? 目の前にいる者の正体は?

 

 ここに来てから慎吾の脳裏に浮かぶ疑問は数え切れないが、『仲間が危機に晒されている』目の前の人物から告げられたその情報だけで慎吾が決断するには十分だった。それに、目の前にいる人物が何物なのかは先程の言葉でもう検討が付いていた

 

「あぁ、共に戦おう……ゾフィー!」

 

 慎吾が力強くそう答えた瞬間、目の前の人物は頷き。世界は赤く、水に浮かぶ波紋のようなエネルギーに包まれる

 

 それはまさに慎吾がゾフィーを展開する時にいつも見ている光景そのものであった

 

 

 

「行ったか……」

 

 流星のような勢いで水平線の向こう側へと一直線に空を飛んでいく赤い光、それに続く白い光を見ながら一仕事を終えた芹沢光は浜辺に無造作に放置してあった簡易椅子に腰かけたまま小さくため息をついた

 

「あれほど痛めつけられた状況の中で更に進化して自らの力で第二形態を取得するとは……慎吾はますます強くなっていくな……」

 

 親友の成長を目の当たりにした光は心底満足そうに呟き、目で追っていた二つの流星が完全に水平線の彼方へと消えたのを確認するとゆっくりと立ち上がり、戻ってくる慎吾達を出迎える準備をすべく旅館へと戻っていった 




 こっそりヒカリ登場、そしてゾフィーの第二形態発動です!名前や能力は次回にて


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49話 逆転! 白式&ゾフィー只今参上!!

 今回は後書きに一応、設定らしきものを。稚拙かも知れませんが是非


「くっ……二人とも大丈夫か!?」

 

 苛烈極まるな福音からの攻撃をどうにか避けつつ箒は額に滲み始めた汗も気にせず叫ぶように言った

 

「な、何とかね……」

 

「5人がかりで、まさかこれほど押されるとは……」

 

 自機IS、肉体共に傷だらけでフラフラになりながらも、どうにかそう箒に返事を返すのはシャルロットとラウラ。

 

 鈴に活を入れられて気力を取り戻した箒を中心として、それぞれISのパッケージのインストールを済ませたセシリア、鈴、シャルロット、ラウラの5人で数十分前から福音に挑み続けているのだが、現状は最悪とも言える程に悪かった

 

 最初こそラウラの奇襲が成功した事もあり優勢を保っていた5人ではあったが、獣のような声を発し凄まじい速度かつ怒濤の攻撃を仕掛けてくる福音に徐々に押し返されてゆか、一番消耗が少ない箒で現在進行形で疲労の色が見え始め、シャルロットとラウラは半ば気力と根性で戦闘を続けているような状態。一番損傷が酷い鈴とセシリアにいたっては墜落寸前で海面近くをどうにか飛んでいるに過ぎない

 

「これ以上……戦闘を長引かせる訳にはいかん!」

 

 徐々に傷付いていく仲間達を見ている事が出来ず、箒は覚悟を決めると福音の放つ光弾を回避しつつ福音の懐目掛けて勢い良く飛び込んだ

 

「援護は……任せておけ!」

 

「出来る限り持ちこたえるよう頑張るけど……急いでね」

 

 そんな箒を助ける為に懸命に体力を振り絞りラウラとシャルロットは援護するように福音へと攻撃を開始した

 

「うおおおおっ!!」

 

 それと同時に箒は弾かれたように急加速をして一気に福音へと詰め寄ると局所的な展開装甲を用いたアクロバットな動きで空中で踊るように、回避でさえ次の攻撃を放つ為の回避にしか使わず、しかも徐々に出力を上げて行く押し潰すような超徹底的な攻撃を仕掛け、その猛ラッシュを受けて次第に福音は紅椿へと押され始めていた

 

「今だ……っ!」

 

 そして次の瞬間、押された福音がたまらず生んだ一瞬の隙を目掛け、必ずこの一撃で仕留めんと雨月での打突を放とうとした瞬間だった

 

「なっ……!?」

 

 先程までの攻撃と回避を兼ねたアクロバットな動きで紅椿はエネルギーを切れを起こしたのか、攻撃は空振りに終わり、箒に決定的な隙が生まれてしまった

 

「いかん! 早く退け!!」

 

 その隙を逃さんとばかりに福音が箒の首へと手を伸ばし、それに気付いたラウラが慌てて箒へ向かって叫んだ

 

「しまっ……ぐぁっ!」

 

 が、ラウラの声には気付いたものの箒の回避はあと一歩の所で遅れ、箒は福音に捕らわれてしまった

 

「(ふ、不覚……だ……すまない一夏……)」

 

 迫りくる福音の光輝く翼、そして箒を助けまいと枯渇しそうなシールドエネルギーで福音に挑もうとするラウラとシャルロットを眺めながら箒がそう諦めるように思った瞬間

 

 福音に二つの光、強力な荷電粒子砲とZ光線が命中し、福音はたまらず掴んでいた手を離して吹き飛ばされていった。そして

 

「俺の仲間は、誰一人としてやらせねぇ!」

 

 白く、輝きを放つ白式第二形態・雪羅を纏う一夏と

 

「福音よ、覚悟するといい。私は二度も同じ相手に不覚はとらないぞ……!」

 

 全身から赤いオーラのような光を放ち、より強烈な一撃を生み出す為に元より一回りほどき屈強に太くなった四肢を持つ、力強さに満ちたゾフィー第二形態・スピリットを纏った慎吾の二人が姿を表した 

 

 

「今、皆にエネルギーを分け与えよう!」

 

 慎吾はそう告げると光の手によって完全に修復されただけでは無く、より多くのエネルギーを蓄積出来るように改装されたウルトラコンバータで5人に平等にシールドエネルギーを分け与えた

 

「お兄ちゃん! 良かった……」

 

「うむ、おにーちゃんならばきっと大丈夫と信じていたぞ!」

 

 慎吾が皆にシールドエネルギーを配り終えると、すかさずシャルロットとラウラが嬉しそうに慎吾の元へと駆け寄ってきた

 

「うむ……心配をかけてしまったようだな。……妹達よ」

 

 慎吾はそんな二人に仮面の下で優しく微笑みかけると、ゾフィーの両腕でそっと二人の頭を撫でた

 

「あっ…………」

 

「これは……悪くないな……うむ、悪くない」

 

 巨大な鉄塊でも軽々と吹き飛ばしそうな力強さに満ちた姿のスピリットゾフィーではあるが、二人の頭を撫でる動作はとても優しく慈愛に満ちており。シャルロットとラウラの二人は思わずその暖かさに酔いしれていた

 

「それでは……二人とも、私は行ってくるよ」

 

 そして慎吾は、福音へと向かっていく一夏の姿を確認すると背を向けて勢い良く飛び立っていき、二人は静かにその後ろ姿を眺めていた

 

 太陽のように輝くそれが決して福音に負けたりはしないと確信して

 

 

「うおりゃぁぁぁっ!!」

 

 第二形態移行を済ませた事で更に速度を増した白式が右手だけで構えた雪片で福音目掛けて切りかかる。それを福音は寸時の所で回避するが

 

「せやぁっ!!」

 

 その瞬間、白式の左手の新兵器《雪羅》が変形したエネルギー刃のクロー。そしてより大きく、より破壊力を増したスピリットゾフィーのスラッシュ光線が炸裂し福音は吹き飛ばされた

 

『敵機二機の情報を更新、共に攻撃レベルAで対処する』

 

 と、吹き飛ばされながらも福音は体制を整え、全身の翼を広げ掃射反撃を開始した

 

「そうしてくるだろうと思ったよ……!」

 

 しかし、二人共にその攻撃を全く回避しようとはせず、一夏は雪羅シールドモールドの相殺防御で完全に防戦仕切り、代わって前に出た慎吾は口火を切って以前よりエネルギーが密集した事で目映い光を放つようになったスペシウムを凪ぎ払うように放ち光弾を打ち消して行く。更にそれだけでは無い

 

「ハァァッ……!!」

 

 一瞬、スピリットゾフィーが輝いたと思うや否やスペシウム発射から『全くタイムラグを置かず』ゾフィースピリットからはウルトラスラッシュ、そしてZ光線が次々と発射され。ウルトラスラッシュは福音の光弾をすり抜けながら羽の一本を吹き飛ばし、Z光線は残りの光弾を貫通して本体へと直撃して強制的に福音の掃射を止めさせた。

 

「あれは……!?」

                        

 そんな動きをしたゾフィースピリットがまるで自身の得意技とする『高速切替』を使用しているかのように見えたシャルロットが思わず息を飲む

 

『状況変化。最大攻撃力を使用する』

 

 と、Z光線が直撃して怯んでいた福音がそう告げると、翼を体へと巻き付ける

 

「まずい……っ!」

 

 何か嫌な予感がした一夏は四機のウィングスラスターを備えた白式・雪羅の二段瞬時加速で何とか福音を止めようと試みる

 

「大丈夫だ、私に任せろ」

 

 しかし、それを遮るように慎吾が福音へと向けて生身の人間が見ればテレポーテーションでもしたとしか思えないような早さの瞬時加速で詰め寄ると右手を福音に向けて突きだす。その瞬間、再びスピリットゾフィーの体が一瞬だけ光に包まれる

 

「まさか……!」

 

 何か確信じみた予感を感じたラウラが呟いた瞬間、福音はピタリとその動きを止める。いや、良く見ればその姿は不可視の何かに捕らわれ、そこから逃れようと福音が必死に抵抗しているように見えた

 

 その光景は余りにもAICを使用したシュヴァルツェア・レーゲンに酷似していのだ

 

「今の私ではそれほど長くは止めていられない……今だ一夏!」

 

 そして、慎吾は福音の動きをしっかりと止めたまま一夏に向かって叫ぶ

 

「分かりました慎吾さん!……箒!」

 

「一夏……?」

 

 一夏はそれに答え、零落白夜を発動しながら箒へと向かって叫ぶ

 

「三人全員であいつにリベンジだ! あいつに一発決めてやろうぜ!」

 

「…………あぁ!!」

 

 一瞬、戸惑うような目をしていた箒だったが一夏がそう言うとすぐに返事を返し、二刀を構えると一夏と共に福音目掛けて飛んで行く。

 

 そして、慎吾が福音を離した瞬間

 

「うおおおっ!!」

 

「せやぁあああっっ!!」

 

 白式の白と紅椿の紅、二つの光が瞬時に炸裂し福音を同時に立ち切った

 

「……よっと」

 

 そして、アーマを失いスーツだけの状態になった操縦者は慎吾が余裕を持って傷付けぬよう抱き締めるように受け止めた

 

「ふぅ……今度こそ終了……苦戦したな……」

 

 病み上がりから更に未知の第二形態を使用した事で肉体と精神、共に急激な疲労を感じていた慎吾は操縦者を落とさないように注意しながら大きく溜め息をついていた

 

「だがまぁ……皆を守れたんだ。万々歳と言った所かな」

 

 改めて全員の無事を確認した慎吾はそうどこか満足毛に言いながら空を見上げる。

 

 見上げた空では夕闇に肩を並べ、一夏といつの間にか髪にリボンを結んでいた箒が立っていた




 ゾフィー・スピリット

 ゾフィーが第二形態移行をした姿、外見的な変化は強化された両手両足と体に纏う溢れる程のエネルギー光のみだが、その機動、攻撃、防御の全てが著しく強化されている。その最大の特徴はコアネットワークによりある程度の交流、例えて言うならば『絆』を持った機体や操縦者が持つ技能を、ある程度再現ら使用する事が出来る事であり。無限の可能性を秘めているIS とも言える
 ただし一回の戦闘で再現出来るのは精々三回。それ以上は再現度が大幅に落ち、機体にも損傷があるためにメリットは無いに等しい。

 なお、スピリットゾフィーはエネルギーの消費や機体の事を考えると戦闘可能時間は約180秒である


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50話 臨海学校終了……慎吾の衝撃の結末

 何とか間に合った……やはり、これだけギリギリだと心臓に悪いですね


「うっ……痛ぅ……」

 

「大丈夫か慎吾、傷が痛むのか?」

 

 案の定、賑やかになった食事を終え、旅館ロビーの角で光と将棋をしていた慎吾が体制を変えた瞬間、苦しげに顔を歪めると、光は心配そうに駒を持つ手を降ろし慎吾にそう声をかけた

 

「あぁ……大丈夫だ。少し傷が痛んだだけで大した事は無い」

 

 そんな光に慎吾は傷口を片手で押さえながらも、平気さをアピールするように笑顔をつくって見せた。すると光はそんな慎吾を見てその顔を、ほっと安心したような表情に変えた

 

「それは何よりだが……しかし、大した事は無い……か。俺が駆け付けた時にはゾフィーも慎吾も、コンバータを治してやる事くらいしか出来ない程の重傷であったのにも関わらず。一日もしない内にそこまで回復するとは……」

 

「私にもはっきりとした事は分からないが、ゾフィーが第二形態移行した事が要因に深く関わっているのは間違いないと考えている。それに……」

 

 そこまで光に言うと、慎吾は額に手を当て少し考えるようにしながら、ゆっくりと言葉を続ける

 

「私としたことが、余りはっきりとは覚えていないんだが……意識を失っていた時に誰かに遭遇した気がするんだ。それも不思議な事に初めて会うはずなのに何処か懐かしい感じがする……そんな奇妙な人物だった」

 

「なるほど……夢か……」

 

 慎吾の口から放たれた事情を知らぬ者が聞けば荒唐無稽にしか感じない話を聞いてもなお光は全く動じる事は無く、真剣な様子で考え込みながらそう呟いた

 

「……すまない、俺はゾフィーの開発者の一人だが、それでもはっきりとした事は分からない。あまり力になれそうには無いな」

 

「いや、気にする必要は無いヒカリ。それに、これはいずれ私自身で決着を付けなければならない……そんな気もするのだ」

                        

 申し訳なさそうにそう頭を下げる光に、慎吾はそう言って柔らかく謝罪を止めさせると再び手に駒を持ち、将棋を再開し始めた

 

「……そろそろ教えてはくれないか慎吾」

 

 一手、軽やかな音を立てて再び駒を動かしながら光は慎吾に問いかける

 

「まさか将棋を打ちたいが為に、本社に戻ろうとしていた俺を呼び止めた訳ではないだろう?」

 

「………………」

 

 珍しく冗談っぽく笑うようにそう言う光に慎吾は一瞬だけ沈黙し

 

「親友の君だけにはどうしても話しておきたくてな……」

 

 慎吾は真剣な表情でそう口火を切ると、静かに光に向かって語りだす。

 

 今回の作戦に置いて、自分が感じた違和感、そして束への疑い、その全てを包み隠さず

 

「そうか……今回は事情が事情ゆえに俺も掛け合って大方の話は聞いていたが……なるほど、つまり今回の一連の騒動は篠ノ之博士の手の平の上の出来事だった……。確かに納得出来る話ではあるな」

 

 将棋を打ちつつ一字一句逃さず慎吾の話を全て聞き終えると、そう光は慎吾に同意を示して頷いた

 

「未だにハッキリとしま証拠は無いゆえに確実とは言わないが、今日の出来事は箒の、ひいては紅椿の言わばお披露目が目的で行われたのがほぼ確定と私は認識している」

 

「……それで、仮にそれが真実ならどうするつもりだ慎吾?」

 

 と、そこで黙って慎吾の話を聞いていた光は静かにそう一言だけ、宣告のするかのように告げる。

 

「家族を想い、力になろうとする気持ちは私にも良く理解出来る……血は繋がっていないとは言え、今の私にはシャルロットとラウラがいてくれるからな」

 

 その言葉を聞いて慎吾は目を瞑り、一言ずつ言葉を選ぶようにゆっくりと光へ、心許せる友へと自身の想いを告げていく

 

「だがしかし、だからと言ってそれで他者を踏みにじって良いはずが無い……もし真実だとして、なお私の家族や仲間達を傷付ける事も構わないとするならば私は立ち向かわなくてはならないだろう。……たとえ相手が篠ノ之博士だとしてもだ」

 

「……………そうか」

 

 慎吾が言い終わると光は深い沈黙の後、溜め息をするかのようにそう言うと同時に一手を打ち、その音は静寂に包まれているロビー内に響き渡った。

 

「ならば俺は……持つ力の全てをもって立ち向かう慎吾の為の護る支えとなり、同時に共に戦う力になるとここで約束をしよう。……困った時にはすぐに俺も駆けつける」

 

 そう光は言うとゆっくりと椅子から立ち上がり、慎吾に躊躇いも無く背を向けてロビーから外へと出ていった

 

「あぁ……それと慎吾、将棋はその一手で詰み。お前の負けだ」

 

 と、最後に扉が閉じる直前に光は、慎吾でも数える程でしか見たことがないような珍しくからかうような笑みを浮かべてそう言うと、逃げるように足早で立ち去っていった

 

「む…………」

 

 結果、その一言で慎吾はロビーで一人、難しい顔で気付かぬ内に僅差で押し切られて敗北した盤面としばらく睨みあいをする事になるのであった

 

 

 

 

「一夏……大分疲れているようだな……」

 

「そう言う慎吾さんだって……撤収作業、人の三倍はやってたけど大丈夫ですか?」

 

 翌朝、昨晩の光との一局の敗因を模索し過ぎた結果消灯時間迄に戻る事が出来ず、抜け出し何故か疲労していた様子の一夏と共にたっぷりと千冬の説教を受けて睡眠時間が短くなった慎吾は隣接する運転席近くの座席に腰掛けた一夏と互いに相手の疲労を気づかい、声を掛け合っていた

 

「慎吾さん……飲み物を持ってませんか……?」

 

 疲労しきった様子の一夏は一分の期待を込めて慎吾にそう尋ねる

 

「すまん……私も最後の一本を先程使いきってしまった……」

 

 が、慎吾は申し訳なさそうに空になったミネラルウォーターが入っていたボトルを見せる。慎吾が軽く振った事でその中身が完全に空だと改めて理解すると一夏は大きな溜め息をついた

 

「慎吾さんも駄目か……しんどっ……!」

 

 そう一夏が落胆の声を溢した瞬間

 

「「「「い、一夏っ」」」」

 

 意を決した様子のシャルロット、セシリア、ラウラ、そして箒の声が同時に聞こえ、一夏が振り向こうとした瞬間

 

「ねぇ、大谷慎吾くんと織斑一夏くんって二人ともいるかしら?」

 

 全く同じタイミングでバス車内にカジュアルなブルーのサマースーツに身を包んだ見知らぬ女性が入ってきた。年齢は二十歳ほどだろうか

 

「大谷は私で、隣にいるのが織斑ですが……失礼ですがあなたは?」

 

 一夏と共に一番手前の席に座っていた慎吾はいち早く女性に気付き、そう話しかける

 

「ふぅん……君たちが……へぇ……」

 

 鮮やかな金髪が美しい女性は慎吾の言葉を聞くと、一夏、続いて慎吾と順番に興味深そうに眺めていく。その瞳からは品定めをしているような感じは無く、純粋な好奇心が読み取れた

 

「あ、あの……?」

 

 その女性が持つ独特の色香のせいか、落ち着きを保てなくなった様子で一夏が女性に尋ねる

 

「ふふっ、私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ。ありがとう、白のナイトさん」

 

 そんな一夏を見て、女性、ナターシャは色っぽく笑うと一夏の手を優しく取って握りつつウィンクして見せ、そんなナターシャから漂う大人の女性特有の色気に魅せられたのか一夏の頬は赤く染まった

 

「そして……」

 

 そうして数秒程、一夏の手を握ってから離すとナターシャは今度は慎吾の前に立つと、すっと握手を求めるように右腕を差し出した

 

「これはどうも……」

 

 それに答えるべく慎吾が右手をナターシャに差し出た瞬間

 

 

 

 慎吾の右手首はナターシャの右手にしっかりと囚われた

 

「えっ……?」

 

 慎吾が混乱した瞬間、ナターシャの左手がそっと慎吾の頬に添えられ、慎吾の視界いっぱいにナターシャが入り込み

 

「ちゅっ……」

 

「!?」

 

『!?』

 

 ナターシャが大胆に慎吾の唇を奪い、慎吾、そして一部始終を見ていたクラスメイトの達の驚愕の声がシンクロする

 

「忘れないわ……あの時、私をしっかりと両腕で抱き締めて守ってくれたあなたの暖かさを、あなたの優しさを。……今日のこれはお礼だけど、また会いましょう慎吾くん?」

 

 数秒程、重ねた唇を離すとナターシャは少しだけ朱を浮かべた頬でそう言うと、慎吾の手に連絡先が書かれてると思われる名刺を渡すと慎吾に手を振ってバスから降りていった

 

「な、な、な、な、な…………」

 

 突然、余りにも突然過ぎるナターシャからのキスに言葉が震え、何も言うことも思考さえも出来なくなる慎吾。

 

「……むぅ」

 

 そんな慎吾をどこか面白く無さそうな表情で真耶は見ていた事には誰も気付く事はなかった




 山田先生にナターシャ……書いてると何故か慎吾が年上ばかりにモテるように……何故なんでしょう


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51話 慎吾と子猫の協奏曲

 夏休み編、突入しました。


「しかし……タンクトップが走り込みの途中で千切れてしまうとは……事実は小説よりも奇なりとは良く言ったものだ」

 

 八月、遅めの夏休みを利用して慎吾は一人、その動きやすさから長年自身が愛用しているトレーニング着でもあるタンクトップを買いに、駅前のデパートへと訪れ、ゆっくりと店を見て回りながら歩いた結果、買い物を終えた慎吾が店を出るときにはちょうど十二時を過ぎていた。

 

「ふっ……それにしても、あれは朝方で人が殆どいなかったのが不幸中の幸いか、間違っても私の裸の上半身など見たいと思う者はいないだろうしな……おそらくは」

 

 と、ふと慎吾は、つい先日の朝方のトレーニングの最中に、毎日の激しい特訓の為についに生地に寿命が訪れてしまったのか、走り込み中にとても修理が出来ないほどにタンクトップが破れてしまい、やむ無くトレーニングを中断して寮へと戻った時の出来事を思いだし、小さく苦笑した

 

 なお、慎吾は知るよしも無かったが、一糸纏わず寮へと帰還する慎吾の姿は朝練の為に早起きをしていた運動部の一部の勇士によって撮影され、その写真はその日のうちに迅速に希望者に配られ、その希望者の一人に真耶もいたのだが、その動きはいっそ無駄な程に機敏で手早いが故にこの出来事を知る者は生徒と教員を含む希望者と、ごく一握りの生徒達しかいなかった

 

「さて……どこで昼食を……」

 

 折角の休日に出掛けたのだから昼食は久しぶりに外食にしてみようかと慎吾はゆっくりと歩き始めた

 

「うん……?」

 

 と、慎吾は歩き初めてすぐにオープンテラスが備え付けられたカフェでよく見慣れた二つの人影があるのを見つけた

 

「……どうした、何かあったのか? シャルロット、ラウラ。まるで現状は掴めないが」

 

「おぉ、おにーちゃん……」

 

 二人に接近した事で慎吾は二人が奇妙な状況に陥ってる事に気が付き、妙な顔をしながら慎重に声をかける

 

 それを具体的に言えば何故かシャルロットがかっちりとしたスーツを慎吾が若干引いてしまう程に目に怪しい光を宿した二十代後半らしい女性に手を握りしめられ困惑し、そんな状況でラウラも流石にどうすれば良いのか分からず、近付いてきた慎吾に返事はしたものの座ったままで動けないでいた。

 

「お兄ちゃん……えっとね……」

 

「……また、ここにも逸材が! ひょっとして今日は、私にツキが来てるのかしら!」

 

 かなり頭を悩ませながらもシャルロットが慎吾へと現状を説明しようとした瞬間、シャルロットの手を握っていた女性がバネ仕掛けのように首を慎吾の方へと動かし、やたらに高いテンションでそう言った

 

「わ、私が何か……?」

 

 ホラーじみた動きに押され、冷や汗を流しながら慎吾は呼吸を整えて女性にそう問いかける

 

「うんっ! 是非あなたにも頼みたい事があるの!」

 

 慎吾が気圧されてるのも構わずシャルロットの手をかたく握ったまま女性はそう言いながら慎吾へと近付くと息を吸い、次の瞬間、大声で叫ぶ

 

「あなた、うちの店でバイトしないっ!?」

 

「は、はぁ…………」

 

 その勢いに慎吾はそう困ったように返事をするしか無かった

 

 

 

 考えた末にシャルロット、ラウラに続いて慎吾がバイトを承諾した女性の店『@クルーズ』は喫茶店ではあるのだが、いかさか得意な店舗であった

 

「男性店員は執事、女性は所謂メイド……か。ラウラがメイド服なのにも関わらず、シャルロットが執事の姿をしているのはあまり詮索しないでおくか……」

 

 機敏に動いて自身の仕事をこなしつつ、働く二人の様子を見ていた慎吾は静かに呟いていた。

 

「しかし……何故私の着ているだけ執事服が白なんだ? シャルロットや皆は黒で統一してるのに……」

 

 店内を忙しく歩き回り、自分と同じはずの執事服の店員達と自身を見比べ慎吾は不思議そうにそう言った

 

 

 そう慎吾が着ている執事服は白、上着は勿論、手袋から革靴、果てやベルトやソックスまでが白一色で統一されており、唯一異なるのは流れ星のような造形のタイピンが付けられた鮮やかな赤色のネクタイのみで、遠目で見ればそれはさながら執事服の慎吾が胸に真っ赤なバラを身に付けているようにも見えた

 

「オーナーは似合うと言ってくれたが、女性店員メイド服も黒色が多いぶん……私、一人だけが店内で白では嫌でも目立ってしまうな……とっ!」

 

 仕事の手は止めず、まじまじと慎吾が自身の白い執事服を観察していると再び慎吾に入り、慎吾は即座に思考を中断するとテーブルへと向かって動き出した

 

「お待たせしましたお嬢様、オーダーは何に致しますか?」

 

 テーブルに着いた慎吾は深く、しかし媚びた様子は全く無いような力強さと優雅さを感じるような動きで、滑らかにおじぎをすると。女性客に微笑みかけた

 

「え、えっと……コーヒーとシフォンケーキを……」

 

 慎吾に優しく微笑みかけられ、注文した女性客は頬を染め緊張した何故か恥ずかしそうに慎吾にそう言った

 

「はい、コーヒーとシフォンケーキですね?」

 

 女性客の注文を受けると、慎吾は確認するように女性客に視線を向けたまま、胸元から黒いペンを取り出してさっと注文を書き込む。その華麗と言える動作に男女を問わず、周囲の客から小さな歓声が上がった

 

「承りました、それでは少々お待ちを……」

 

 注文を書き終えると慎吾は再び、さっとおじきをしてオーダーを通しに下がっていく

 

「はい、待ってます……閉店まで待ってます……」

 

 気付けば慎吾から漂う落ち着いた大人のような雰囲気に魅せられたのか、注文した女性客はぼおっとした様子で白い執事服の慎吾の後ろ姿を見送っていた

 

「金髪の執事さんが貴公子なら……さながら白服の執事さんは執事長……両方違って両方良い!」

 

「あの白服の執事の人、すっげーかっこいい……俺もあんな大人になりてぇな……」

 

「天使が三人も……私達の天国はここにあった……!」

 

 

 ラウラやシャルロットまではいかないものの、そんな慎吾の動作は店内に男女ともに小さく、しかし根強いファンを作っていった……




 この編は次、もしくは更に次で終了。夏休み中のオリジナルエピソードに突入させるつもりです


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52話 慎吾と子猫の協奏曲 鮮やかな終結

 ギリギリです……つい書いてたら夢中になってしまって……


「大混雑……か、流石に幾分か疲れたな……はぁ……」

 

 金髪の貴公子の美少年執事、銀髪で冷たくあしらってくれる小さなメイド、そして白服で落ち着いた大人の雰囲気漂う執事が働いてると言う情報はあっという間にネットの海を通じて広がってゆき、通常時の七割増しだと言う客達を相手に懸命に慣れない仕事ながら足手まといになるまいと店長からの的確なサポートも借りて人の2倍程は奮闘していた慎吾ではあったのだが、時間と共にしだいにその呼吸は乱れ額にはうっすらと汗が滲み初めていた

 

「しかし、この程度でヒカリや一緒に働いてる妹二人に笑われてしまうだろうな……。よし、もう少し心力を尽くして見るとしよう!」

 

 そんな言葉で感じ初めていた自身の疲労を気合いで吹き飛ばし、慎吾が決意を決めて再び動き始めた瞬間

 

「てめえら全員、動くんじゃねぇ!」

 

 突如ドアを蹴破るような勢いで5人の男達が店内に入って来た

 

 

 

 

「(他にも誰かが予備を持っている可能性も大きいが銃を持ってるのは三人、リーダー格がハンドガンにその取り巻きらしき二人がそれぞれショットガンとサブマシンガン。残る二人は……あれはサーベルとメイスか? 何か纏まりが無いな……)」

 

 幸いにも男達が侵入して来たときに厨房の近くにおり、なおかつ、いち早くその存在に気が付いた事で男達に気付かぬ内に身を隠す事に成功した慎吾は、息を潜めてジャケットにジーパン、そして顔には覆面(何故か、サーベルとメイスを持ってる強盗が付けているものだけが何故か覆面では無く顔の上半分を隠すような仮面ではあったが)と言った姿に、ここを襲撃する前に銀行強盗をしたのだろうと容易に想像出切る紙幣が溢れる背中のバッグに身を包んだ強盗達の様子を近すぎず遠すぎず、と言った距離を保って観察していた。

 

「(既に警察機関も駆け付けたようだが、こちらに人質がいてはまともに動けまい。さて、どう動いたも……!?)」

 

 犯人の立ち位置と人質が集められている場所を確認するように店内を見渡しながらこれから先の行動に付いて改めて慎吾が思考を纏めようとしていた、その瞬間、信じがたい物を目撃して慎吾は思わず声を出しそうになったのを慌てて堪えた

 

「なぁなぁ、ちょっと見なって、この子ちょ~マブくない?」

 

「おぉ確かに……あんた良い趣味してるな!」

 

 そこにいたのは強盗達が侵入して来ても、警察機関の威嚇射撃をしてもなお物怖じせずに、強盗達を除いてただ一人たっていた人物

 

「(ラ、ラウラッ!?)」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒその人が、サーベルを持った強盗とショットガンを持った強盗に絡まれ、ラウラは冷ややかな目で絡んで来る二人の強盗を睨んでいた。

 

「おい、お前ら何をやってる!」

 

 と、そこでリーダー格のハンドガンを持った男が呑気な仲間達を見かねて、咎めるように睨み付けながら怒鳴る

 

「まぁまぁ、落ち着けよ。こっちには人質がいるし、考える時間はたっぷりあるんだ。ここは一息付いてこうぜ?」

 

「そうッス! こいつの言う通りッスよ! この子に接客してもらって一休みしましょうよ!!」

 

 そんなリーダーを宥めるように少し馴れ馴れしさが過ぎるような口調でメイスを持った男がそう言い、サブマシンガンの男はラウラを前に鼻の下を伸ばしながらメイスの男に全力で賛同を示した

 

「……一理ある。良いだろうメニューを持ってこい」

 

 そんな手下達を眺めて一回、舌打ちしながらもリーダーはそれを飲み込むとラウラにそう命じ、近くのソファーに腰を下ろした

 

「…………」

 

 ラウラはうなづくでも無く、5人を一瞥するとカウンターの中へと歩いていき

 

 キッチンの近くに隠れていた慎吾とバッチリと目があった

 

「(ラウラ、無茶はよせ!!)」

 

 視線が合わさった瞬間、目でそうラウラに語る慎吾に

 

「(大丈夫、私を信じてタイミングを見逃すな、おにーちゃん)」

 

 ラウラは決して声には出さず唇だけを動かして、ほう慎吾に告げるとトレーに氷水が満載されたコップを乗せると速やかにそのままトレーを持って厨房から立ち去ると、ゆっくりと強盗達の元へと戻っていった。

 

「(ラウラ、一体何を……いや、まさか……)」

 

 息を潜めてラウラの背中を見守りながら慎吾がそう想った瞬間、氷水だけを持ってきたラウラを怪訝に想い、5人全員の注意がラウラに反れた瞬間

 

 ラウラは勢い良くトレーをひっくり返し、流れるような動作で空中に浮かんだ氷を掴みとると、突然の行動に反応出来ない5人の眉間、喉、瞼、そして油断してトリガーから離れていた人差し指に冗談のような命中率の氷の指弾を叩き込み、オマケとばかりに一番近くにいたサブマシンガンを持っていた男に膝蹴りを叩き込んだ

 

「……っきしょー! かわいい顔して、俺達をなめやがって!」

 

「卑怯も何もねぇ、5対1でぶちのめしてやる!」

 

 痛みから一早く復帰したリーダーに続いて、サーベルとメイスの男が二人が互いに獲物を構えて、リーダーから放たれるハンドガンの弾丸を回避し続けているラウラに向かって同時に駆け出した

 

「ならば……私は、そうさせる訳には行かないな」

 

 その瞬間、ラウラが作った隙を利用して悠々と二人の背後へと回っていた慎吾が二人が振り向くより早く、その首に強烈なラリアットを叩き込んだ

 

「ぎゃあっ!」

 

「ぐえっ! ……て、てめぇっ……!」

 

 ラリアットが直撃し、メイスの男はバランスを崩して顔から床へと叩きつけられたが、サーベルの男はギリギリの所でバランスを保つと、首の痛みを堪えながら慎吾に向かってサーベルでの突きを放つ

 

「はぁっ!」

 

 それを慎吾は白い執事服をはためかせながら、あらかじめ読んでいたかのように軽々回避すると、そのままの勢いでサーベルの男の顔面に右手刀を叩き込んだ

 

「…………!!」

 

「くっ、そおおおぉぉっ!!」

 

 手刀の破壊力で仮面が割れ、声にも出せない悲鳴で悶絶しながらサーベル男が倒れると、雄叫びを上げながらメイスの男は、先端に刺突きの鉄球が突いた自身の獲物を振り回しながら慎吾に襲いかかる。

 

「ふんっ!」

 

「なっ……」

 

 が、振り回すメイスを恐れず、冷静に軌道を見切って慎吾はメイスの刺のない中央部を蹴り飛ばして男の手からメイスを奪い取り、床に叩き付けると、男に詰め寄り顔面目掛けてハイキックを放った

 

「おっと! へへっ……隙あ……」

 

 が、メイスを持っていた男は咄嗟に屈む事でそれを回避し、蹴りを回避された事によって必然的に生まれた慎吾の隙に男が慎吾に反撃の一撃を放とうと

 

「りぃ"っ!?」

 

 した途端、ハイキックを回避された瞬間すかさず振り上げた脚をそのまま踵落としへと変えた慎吾の踵が男の背中に直撃し、男は奇妙な悲鳴を上げながら倒れた意識を失った

 

「調子に乗る……なぁっ!?」

 

 そして最後に慎吾は、立ち上がりかけながら慎吾に刃を打ち込もうとしていたサーベルの男の胸に蹴りを叩き込み、意識を奪い取る。時間にして十秒程の時間で慎吾は二人の強盗を撃退したのであった

 

「向こうも終わったか……」

 

 呼吸を整えるのと同時にラウラとシャルロットが爆弾を持って抵抗しようをしたリーダーを含む三人の意識を奪ったのを確認すると、駆け付けてくる警官隊を目にして三人で無言で頷きあうと、公になる前に速やかに三人揃って騒がしく鳴り出した店内を後にした。

 

「す、すごい……あの蹴り、あの速さ……俺もあの人みたいに……」

 

 そしてこの時、最も近くで慎吾の戦いを見ていた少年の一人が鮮やかに強盗を撃退した慎吾に強い憧れを抱き、将来の憧れとするのも

 

 どこからか出回った『強盗を撃退した白服執事』の画像をナターシャが手に入れ、休日を利用して慎吾の元へと訪れ、彼女の前で再び白の執事服姿を披露する事になるのも慎吾にはまるで予想が出来なかった




 慎吾が戦った仮面の強盗二人は……もちろん獅子の王子と戦ったあいつらがイメージです


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53話 歪む空間、ゾフィーに迫る危機

 今回から、しばしオリジナルエピソードを公開していきます。そして……かねてより『出す』と言っていたある人物がついに今回、登場します


「なるほど、急にナターシャさんが来たのは、そんな事があったからですか……慎吾さん強盗に巻き込まれた上にそんな目にあうなんて大変でしたね……」

 

 アリーナで日課の訓練の半分を終え、慎吾と一夏は互いにISを展開させたままま小休憩し、お互いにあった出来事を報告するように軽く雑談をしていた

 

「ナターシャさんはISについては非常に参考になるアドバイスをしてくれて助かるのだが……流石に私も、その見返りに執事の格好をして一時間近く撮られ続ける事は困ってしまうのだがな……」

 

 そう慎吾は、非常に有益かつ理解しやすいナターシャからのアドバイスの言葉と、白い執事服を着用した自分に細かいポーズ指示や表情の注文まで出され、ほぼナターシャ主催の撮影会と化していた一時間の出来事を思い出し、仮面の下でややんなりとした苦笑を浮かべた

 

「しかし、過ぎた事を悩んでいて仕方がない……。よし、ここで小休憩は終わり。早速、今から一本の模擬戦は出来るか一夏!?」

 

 と、そこで慎吾は沈みぎみだった自身の心を振り払うように全身に通るような張りのある声でそう言うと、休憩の終わりを告げるのと同時に一夏に尋ねた

 

「えぇ慎吾さん、俺はいつでも!」

 

 そんな慎吾の声に答えるように一夏も力強く慎吾に返事を返すと、その手に持った雪片を構える

 

「うむ、いい返事だ……」

 

 一夏が戦う模擬戦を行う意志を見せ構えるのを見届けると、慎吾もスッとゾフィーの両手で一夏の素早い斬撃を捉える為、前傾よりの構えを作り始めた

 

「よし、それでは……!」

 

「行きますよ……!」

 

 一夏と慎吾は互いに相手の準備が出来た事を確認すると、全く同じタイミング地面を蹴って相手へと向かって一直線に走り出し、一夏の白式の放つ斬撃と慎吾のゾフィーの蹴りがぶつかろうとした時だった

 

 

 突如、全くの前触れもなく二人の周囲の空間がぐにゃりと大きく歪んだ

 

 

「!?」

 

「なっ……!?」

 

 目の前で起きた信じがたい出来事に、二人は思わず攻撃の手を止め、周囲の様子を見渡した

 

「な、何なんだこりゃあ……」

 

 例えるのらならば揺らめく炎に物が照らされて壁に映し出された影絵のように、錯覚などでは決して説明が出来ない程に奇っ怪に歪み、ねじれていく周囲の光景を呆然とした様子で見ながら一夏が呟く

 

「通信機器が上手く働かない……? そんな馬鹿な……!?」

 

 慎吾はそんな奇妙な現象を報告すべく、千冬、あるいはIS学園教師陣に連絡を取ろうと試みたのだが何故か上手く通信を繋ぐことが出来ず、枯れそうなノイズ音しか響いてこない

 

「まさか、この現象の影響だと言うのか……?」

 

 続く異様な事態に慎吾は額から汗を滲ませながら、何とか外と連絡を取ろうと無駄とは思いながらも調整をしつつ再び通信を試みる

 

「し、慎吾さんあれ……」

 

 と、その時とき歪むアリーナを見渡し、あるものを見つけた一夏が驚愕で声を震わせながら一点を指差した

 

「なんだあれは……」

 

 そして、一夏に言われるがまま指差す先を見つめた慎吾もその異様な『物』に思わず言葉を詰まらせた

 

 

 それがあったのは歪みに包まれたアリーナの中央、そこからやや東へと逸れた方向。そこに、いつのまにか1m程はある、怪しく不気味に光ともに波打つようなエネルギーの波を放つ、一つの光球が出現していた

のだ。

 

 そして、アリーナを包む歪みは、どうもこの光珠から発射されて徐々に周囲へと広がっているようなのだ

 

「もしかして誰かの新しいISの装備? な、訳は無いよなぁ……」

 

 光球を怪訝な顔で見つめながら、さらに良く調べてみようと近付く

 

「待て、私が前に出て光球を調べよう。私もいつでもM87を放てるようにしているが、一夏も万が一の為に備えて零落白夜をいつでも使えるようにしておいてくれ」

 

 と、そんな一夏を遮るように手で制しながら慎吾が一夏の前へと出ながら、そう指示を出す

 

「で、でも慎吾さん……」

 

「何、一夏、君を見くびってるのではない。むしろその逆だ」

 

 何か思う所があるのか少し言葉を濁す一夏、慎吾はその肩を軽く叩くと励ますように言葉を続ける

 

「一夏の実力や才能を信じているからこそ私は全くの未知の物であろう、あれに対しても君に安心して背中を任せる事が出来る。目の前の事に集中出来るんだ。……どうだろう、改めてここは私に任せてはくれないか?」

 

 淀みなくそう語る慎吾の言葉を一夏は黙って聞くと

 

「分かりました、気を付けてくださいね慎吾さん」

 

 決意したかのようにそう言って後ろへと下がった

 

「……ありがとう一夏」

 

 慎吾はそう一言だけ一夏に礼を言うと、注意しながら珠の前に立ち、間違っても触れないように注意しながら改めて珠を良く調べ始めた

 

「……やはり周囲の空間が歪んでいるのはこいつの仕業か、しかし正体までは……」

 

 珠に近付いた事でゾフィーに搭載された高感度センサーの手助けもあって、慎吾はこの原因不明の空間の歪みを引き起こしてるのが間違いなく目の前の光珠だと言う事は読み取れた。が、しかしヒカリ達Mー78社の研究員達が死力を尽くして作り上げたゾフィーの力を持ってしても珠の正体が何なのか全く分かる事は無かった

 

「本当に何故、いきなりこんなものが学園のアリーナに現れんたんですかね……」

 

「私にもそれは分からん。しかし、このまま……」

 

 珠を不思議そうに見ながら尋ねてきた一夏の問いに慎吾が、そう答えようとした瞬間

 

「なにっ……!?」

 

 何の予兆も無く珠が突如、激しく光り輝き、その光がは矢のように真っ直ぐに飛ぶと珠の一番近くにいたゾフィーに襲い掛かり、その装甲に突き刺さった

 

「慎吾さん!?」

 

 その様子を見た一夏は咄嗟に零落白夜を発動させ、珠に向かって勢い良く踏み込みながら必殺の一撃を放つべく構えた

 

「くっ……M8じゅ……」

 

 そして、謎の光を受けて怯みながらも慎吾が自身の持つ最大の一撃を放とうとした瞬間。

 

 慎吾の視界は珠が放つ不気味な光一色に染まった

 

 

 

 ある世界、ある宇宙、ある恒星近く

 

「なに? 異次元空間が開かれたらしき空間の歪みが発見されただと?」

 

 パトロールを終え、帰還中だった一人の戦士は仲間達から送られてきたその報告に宇宙空間を飛行しながら驚いたような声を発した

 

「場所は……私が今いる場所から近い……気がかりだな」

 

 まだハッキリとは決まってはいない不確かな情報、しかしどうにも相手が『異次元空間』と言う事で戦士の心は、僅かにざわついていた

 

「パトロールの延長戦と考えて見に行ってみるか……」

 

 結果、戦士は帰投ルートから体を反らし、自らその報告のあった地点へと向かう事へと決めた

 

 戦士の名前はゾフィー

 

 宇宙の平和を守る光の国の宇宙警備隊の隊長であり、ウルトラ兄弟の長男であるゾフィーその人であった




 と、言うわけでオリジナルエピソードではご本人に登場して貰いました。ゾフィー隊長を慎吾とはまた違った風にかつ、格好良く、原作のイメージを崩さないように書くのが大変、気を使います……


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54話 二人の『ゾフィー』

 思ったより設定を練るのに苦労してしまいました……やはり、オリジナルとなると構成にいつも以上に気を使いますね


「ここだな……報告があった場所は」

 

 あれから数分ほどでゾフィーは報告のあった場所。ゾフィーから見れば自身の握り拳程の大きさの小惑星が無数に漂う地帯へとたどり着いていた 

 

「見たところ、超獣や侵略者などが現れた形跡は無いようだが……うん?」

 

 そう言いながら気を抜かずに飛行ながらゾフィーが周囲の調査を続けていると、そこで隕石群の間に一つの生命反応を見つけた。とは言っても、反応からして怪獣等では決して無い。それを気掛かりに感じたゾフィーは反応のあった方向へと飛んで行き

 

 次の瞬間に生命反応を放っていた者の正体を理解し、そしてゾフィーはその生命体を良く知っていた。

 

 だからこそ、その生命体が母星からは数百光年以上離れた生物もいない小惑星以外に何も無いこの場所にいる事に、自分が生命体の母星に訪れた時も、兄弟や部下達からの報告でも一度も見たことが無いようなその生命体の姿に驚きを隠す事が出来なかった。

 

「馬鹿な……彼は地球の人間なのか!?」

 

 ゾフィーはそっと巨大な手の中で包み込むようにして保護した一人の人間を見ながら、思わずそう声に出していた。それは全身に甲冑のような装備を身に纏っていたが、ゾフィーが傷付けないよう慎重に調べて見れば甲冑の下にあるのは間違いなく一人の人間、それも少年であった。少年は意識は失っているようだが心臓はしっかりと動き、甲冑状の装備が酸素を確保しているのか呼吸も安定してる。しかも周囲に彼の装備以外に彼が乗ってきたと思われるような人工物が一切確認出来ない。

 

 それだけでも十分に驚くべき自体ではあったが、ゾフィーを一番驚愕させたのは彼の甲冑のような装備のその姿であった

 

「似ている……なぜ、彼の装備はここまで私に似ているんだ……?」

 

 改めて手の中で保護している少年の姿、そして自身の姿を確認してゾフィーは驚きに満ちた様子で呟く

 

 

 そう、ゾフィーが保護した少年の甲冑状の装備は偶然では決して無いと断言出来るまでにゾフィー自身に酷似していたのだ。

 

 シルバー族特有の銀と赤の体色も目の形や色、カラータイマーもゾフィーと鏡に映したかのように同じで。スターマークまでもがしっかりと甲冑には刻まれていた。二人の違いと言えば単純な体の大きさと、少年の甲冑がやはりゾフィー自身と比べるとやや機械的な所くらいか

 

「ともかく、彼をこんな場所に置いていく訳には行かない。出来れば地球に送り届けたいのだが……」

 

 それはゾフィーの心からの想いではあったが、何分パトロール後にこの場に駆け付けた為にゾフィーに残されたエネルギーは万全とは言えなかった。更に、この辺りから得れる光エネルギーも決して十分では無く、ゾフィーが地球に少年を地球に送り届けるようなエネルギーを得れるとは思えなかった

 

「……ここは一旦、光の国へと戻って彼の治療をしてみよう。それに、私自身も彼に聞いてみたい事がある」

 

 一瞬の思考の後、そう判断するとゾフィーは少年をそっと手の中で守りながら光の国へと向かって飛び立っていった

 

『おのれ……よもや、この段階でウルトラ兄弟、それもゾフィーに嗅ぎ付けられてしまうとは……』

 

 そんなゾフィーの様子を姿を隠し、忌々しげに観察している者がいたのだが少年の保護に集中していたゾフィーは気付く事が出来なかった

 

 

 

「う、うん……ここは……?」

 

 降り注ぐ柔らかな光を感じとり、慎吾は緩やかに意識を覚醒させ、目を開いた

 

 アリーナに出現し、周囲の空間を歪めた元凶らしき不気味な光珠をどうにか破壊せんとM87を光珠目掛けて放ったが、光珠が放つ光にM87ごと飲み込まれて意識を失った。自分がどれ程の時間気絶したかは分からないが、それだけはしっかりと覚えている

 

「ゾフィーは……待機形態か。しかし、ここは……」

 

 仰向けの情態で寝たままISスーツ姿の慎吾は首だけを動かして、まずは不調が無いか自身の体を確かめると、続いてゆっくりと自身の周囲を観察し始めた

 

「いったいここは……どこだ?」

 

 慎吾が寝かされていたのは金属製のベッド、その周りにはベッドを包み込むように小さな半透明に透き通ったドームが被せられていたが、慎吾はそれに息苦しさをまるで感じる事は無く、逆にどこか心が落ち着くような快適な空気がドーム内には静かに流れ循環していた。

 

「いや……そもそも、ここは地球であるのだろうか?」

 

 そんな半透明ドームの向こうに見える景色にあった機器類は、あらゆる箇所で最新技術が惜しみ無く使われているIS学園でも、日々新しい物を開発してるMー78社の研究所でも慎吾が『全く似た形の物すら見たことが無い』と言えるような未知の物ばかりが立ち並んでおり、とてもそれが慎吾には地球上の光景と思うことが出来ず、気付けばその想いを口に出していた

 

「おお、意識を取り戻したようだな」

 

 と、その時、慎吾に『妙に聞き覚えのある声』で何者かがそう話しかけ、慎吾はハッとして声の主の方角に目掛けて再び首を動かして視線を向け

 

「なっ……!?」

 

 思わず絶句した

 

「すまない……この姿では、逆に君を驚かせてしまったようだな」

 

 そう慎吾に申し訳なさそうに謝罪する一人の男性。その顔は慎吾より年を重ね、より大人の顔付きに変化している事だけが、逆に言えばそれ以外の体格から髪の色、筋肉の付き方までのその全てが男性は丸写しと言えるレベルで酷似したのだ

 

「あ、あなたは……ここは……?」

 

 次々と起こる未知の出来事に激しく混乱する頭の中で慎吾はどうにか思考を纏め、そう男性に問いかける

 

「私は『ゾフィー』ここは……『光の国』。M78星雲、ウルトラ星の光の国」

 

「M78星雲……」

 

 男性、どういう訳か自身のISと同じ名のゾフィーの言葉を復唱するように慎吾は呟いた。

 

 地球でM78と呼ばれる星があるのは慎吾も知っていた。が、慎吾の記憶が正しければM78は地球での観測の結果、生物の住まない星であり、とてもこんな超高度な文明があるとは思えなかった

 

「君から少し話を聞きたいのだが……構わないか?」

 

 自身にそう穏やかに問いかけるゾフィーの声を聞きながら、慎吾は自身がたった今、想像も出来ないような状況に立たされている事を確信した




 ゾフィーの様子をうかがっていたのは……もちろん、異次元のアイツです。


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55話 浮かぶ黒幕、慎吾と『ゾフィー』

 オリジナル編に予想以上に苦戦しています。やはり、色々といつも以上にストーリー構成に考えさせられますね


「なるほど……どうやら君……いや、慎吾は別の世界から私達の世界へと来てしまったようだな」

 

 慎吾の話、『慎吾が暮らしていた地球』やISについての説明を含めた話を全て聞き終えると、『ゾフィー』は腕を組み、そう静かに呟いた

 

「平行世界の話などフィクションでしか見たことはありませんし、普通ならとても信じがたい話ですが……今の現状をそうでもしないと全く説明出来ない事を考えれば、どうやら間違い無いようですね」

 

 『ゾフィー』の言葉に同意して頷くと、慎吾は改めて『ゾフィー』から説明を受けても大まかにしかその機能が理解出来ない不思議な機械達、そして暖かく目映い光が照らす上空を見上げた。

 

 『ゾフィー』の話によれば、慎吾が寝ているこの場所は空港。そこに設置された応急治療室のような場所であり、この星に暮らす、先ほど慎吾に本来の姿を見せた『ゾフィー』のような住人以外には少し強すぎる光に満ちた光の国で、慎吾のような地球人が過ごせる場所らしい。

 

「……ですが、実に奇妙ですが私にも分かることが一つあります」

 

 と、そこで慎吾はただ一つ、一つだけ『ゾフィー』の話を聞いて密かに確信と言って良いほどに察していた事を『ゾフィー』に語る

 

「うむ……こんな状況ながら私もだ。恐らくは、それは慎吾と同じ事だろう」

 

 その慎吾の言葉に『ゾフィー』もまた確信を持った様子で返事を返し、二人は互いに呼応するように静かに同時に口を開く

 

「慎吾、君は……君の世界の……」

 

「そう言う『ゾフィー』あなたは……この世界の……」

 

 

 そして、次の瞬間

 

 

 

 

 

「「私」」

 

 

 

 

 

 

「……なんだな?」

 

「……なのですね?」

 

 二人は全く同じ表情、同じタイミング、同じ音程、同じ語調でそう相手に殆ど同じ言葉を言ってみせた

 

「ははは……ここまで私達が酷似しているのならば、言うまでも無く、そのようだ」

 

「ふふ……そのようですね。最も、私は荒唐無稽過ぎて直感では解っても、脳での理解が追い付かないですが」

 

 慎吾にも、その何千倍以上の時間を生きた『ゾフィー』でさえも体験した事が無いような余りにも奇妙な状況に、二人は気付けば再び完全に同時のタイミングと互いを映す鏡のように同じ表情で苦笑いを浮かべていた。その姿は一卵性双生児の兄弟以上に似ており、ある意味で歪にも感じられた

 

「と、……このまま二人で悩んでだけいても仕方あるまい。慎吾が元の世界に帰る為の方法を探さなくてはならないな」

 

 と、そこで『ゾフィー』はふと苦笑いを止め、真剣な表情でそう慎吾に言う 

 

「そうですね……何か手がかりはありますか?」

 

 言うまでも無く『ゾフィー』と全く同じタイミングで苦笑いを中断していた慎吾は、この世界で暮らしている『ゾフィー』ならば何か帰還に役立つ事を知っているのではないかと期待を込めて尋ねた

 

「うむ慎吾、君の話が正しいのならば君が君のいた世界で目撃したと言う光珠は『異次元空間』へと繋がる入り口に違いない。そして君はその異次元空間を経由してこの世界へと来てしまったようだな」

 

「異次元空間……?」

 

 難しそうな顔をしながらそう語る『ゾフィー』に、慎吾は若干オウム返しをするように聞き返す

 

「あぁ、そうだ。そして私は異次元空間をそのように奇妙に操り、支配する事が出来るような者に心当たりがある。が」

 

 そこで『ゾフィー』は言葉を止め、僅かに緊張したかのような表情をしてみせた

 

「……私達と彼等は真っ向から敵対している。それどころか彼等は私達を滅ぼさんと根強い悪意を持って幾度と無くあらゆる方法で私達に挑みかかって来たのだ」

 

「では、今回の一件は……」

 

 そこで慎吾も状況を理解し、ハッとした表情でそう呟き、『ゾフィー』はそれに無言で頷いた

 

 

「そうだ、彼等『異次元人ヤプール』が私達、光の国の戦士達を滅ぼす為に、打ち立てた何らかの策略があったのだろう。それに、慎吾は偶然か計画のうちかはまだ解らないが、巻き込まれてしまった……」

 

 そこまで言うと『ゾフィー』は慎吾に向かって申し訳なさそうな顔をしてみせた

 

「すまない、どうやら半ば、私達のせいで君をこんな目にあわせてしまったようだな……」

 

 

 そう言うと『ゾフィー』は慎吾に軽く頭を下げて謝罪した

 

「そんな……気にしないでください『ゾフィー』。話を聞くに今回の出来事はあなた達にも予想していなかった事なのですね?」

 

 そんな『ゾフィー』を見て慎吾は慌てて腰掛けていたベッドから立ち上がって止めると、確認するかのように落ち着いた様子で言葉を続ける

 

「ならば起きてしまった事はもはや今、後悔しても仕方がありません。今は問題の解決に集中しましょう」

 

「すまないな慎吾……」

 

 慎吾の言葉で『ゾフィー』も若干は励まされたようで、少々力無くはあるが、そう言いながら慎吾に笑顔を返した

 

「それと『ゾフィー』……身勝手な事だと思いますが巻き込まれた以上、私自身もこの事件解決に向けて動かせてはくれませんか? このまま何もせずにただ帰るのを待っているのは私は、嫌なんです」

 

「…………」

 

 続けて放たれた慎吾の言葉を『ゾフィー』は真剣な表情で聞くと、一瞬、沈黙し

 

「普段の私なら『若い君をそんな危険な目に合わせるなど、とんでもない』と断っていただろうが……慎吾が私であるとなると、ここで私が断っても無理に動こうとするだろう?」

 

 どこか悟ったかのような笑顔でそう言うと、慎吾に向かって手を差し出した

 

「ならば共に行こう慎吾。……ただし、どんな危険があるかは分からないぞ?」

 

「ふふ、軽々しく大丈夫とは言いませんが危険な目には元の世界で、ある程度慣れてますよ……」

 

 『ゾフィー』の手を握り返してそう答える慎吾

 

 今、まさにここに互いに生まれた世界は違うなれど、『自分同士』であると言う臨時ながら奇妙なコンビが生まれようとしていた




 


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56話 超ダブルマッチ! 異次元人&超獣vs地球人&ウルトラマン!

 今回の展開は少々、冒険かもしれません


「ここだ、この場所で私は気絶している慎吾を見つけたのだ」

 

 あれから程なくして幸いな事にエネルギーコンバータが無くとも十二分にエネルギーが残された自身の専用IS、ゾフィーを展開させた慎吾と、本来の姿でありやはり慎吾のゾフィーと似た姿をした、銀と赤の巨人の姿に戻った『ゾフィー』

 

 二人は『別世界から慎吾を、こちらに引っ張って来るような力を持つ異次元への入り口がそうそう消えるとは思えない。仮に消えたとしても何からかの重要な手がかりが残っている筈だ』と、言う『ゾフィー』の言葉を信じて、共に慎吾が通ってきた異次元への入り口を探すべく、最初に慎吾が発見された小惑星地帯を訪れていた

 

「今のところは、僅かなガスと恒星からの弱い光、そして大小無数の小惑星以外に何も無い場所に見えますね……」

 

 そんな場所をゾフィーの小回りが効く機動力を生かして無数の小惑星の間をすり抜けながら、高感度センサーを主に利用して周囲を探索しながら慎吾はそう呟いた

 

「油断はするな慎吾、先程、説明したが相手は空間を操る力を持っているんだ。今は私にも異常は無いように見えるが……いつ、仕掛けてくるか分からんぞ」

 

 常に慎吾の位置を把握しつつ、自身も決して怠る事が無いように注意深く周囲の様子を観察しながら『ゾフィー』は慎吾にそう警告した

 

「勿論です『ゾフィー』……しかし、宇宙空間故に仕方の無い事ですがここは広い。何か異次元空間の入り口を効率良く探す為の手がかりがあれば良いのですが……」 

 

 そう、慎吾は控えめに考えても自身から数キロ以上に渡って繰り広げられる小惑星帯を眺めながら軽く溜め息をついた

 

「うん? 手がかり……ひょっとしたら……」

 

 と、そこで慎吾はふとある可能性に気が付き、動きを一瞬止め、ゾフィーに記録されたデータを探り始めた

 

「よし……残っていた……! あの光の珠に関するデータが! これを使って……」

 

 IS機体が事故に巻き込めれて世界を越える。と、恐らくヒカリを含めたM―78社の研究スタッフ、いやひょっとしたら開発者たる篠ノ之博士をも含む誰もが予想出来ないような出来事に、蓄積されたデータに不備が生じて無いか不安に感じていた慎吾は自身の考えが杞憂に終わった事で内心で大きく安堵の溜め息を吐いた。

 

 そうして少し気持ちを落ち着かせると慎吾は早速、アリーナで自身が一夏と共に目撃した正体不明の謎の光珠に関するデータ。相手が余りにも未知の物質だった為か数秒に過ぎない僅か、だが確かに残されている珠から放たれていた未知の波長のデータをセンサーに入力し、その波長がこの小惑星が溢れる地帯の何処からか放たれていないかを、僅かな波長の波も逃さぬようより範囲を広げてスキャンし始めた

 

「…………見つけた! 来てください『ゾフィー』!」

 

 数分後、やはり光珠のデータを組み込んだ事が正解だったのか慎吾は見事、小惑星地帯の中でも一際大きい惑星の表面に、ゾフィーに記録された光珠から放たれていた波長と全く同じ波を持つ波長が放たれているを発見し、その場所から注意を反らさぬようにしながら、『ゾフィー』を呼んだ

 

「……うむ、確かにここだ。ここに異次元空間の入り口がある」

 

 その声に『ゾフィー』は直ぐ様反応し、慎吾以上に滑らかな動きで惑星郡をすり抜けて慎吾の元に駆け付けると、そう言って直ぐに慎吾の言葉を肯定した

 

「異次元空間は危険だ。私が、突入するから慎吾はこの場所で……!」

 

 『待機してくれ』

 

 恐らくは『ゾフィー』はそう言おうとしたのだろう。しかし、その瞬間ゾフィーが激しく音と共に慎吾に向けて何かが攻撃を放った事を警告し、『ゾフィー』もまた背後から殺気の込められた気配を感じて咄嗟に振り向いた

 

「ミサイル……っ!?」

 

「くっ……!! このミサイルは……」

 

 惑星の前に立つ二人に迫っていたのは二つのミサイル。慎吾はそれを出力を上げたスラッシュ光線の集中放火で余裕を持って破壊し、ゾフィーは力強くミサイルを手ではね除け、ミサイルが飛来してきた方向を睨んだ

 

「『ゾフィー』あれは……生物なのですか!? 巨大すぎる……」

 

 『ゾフィー』に続いてミサイルを発射した相手を見つけた慎吾は、ここよりもいくらか巨大な小惑星の上に降り立つ襲撃者のその姿に目を見開いた

 

 

 ゴツゴツとした黒い皮膚に全身から生えた赤い珊瑚のような突起。そして、それを支える太い脚と鋭いツメが生えた腕。その目は真っ赤に充血しており、まるで血に飢えていかのように二人に向かって鋭い視線を向ける。そして、その生き物は慎吾が見たどの生物よりも遥かに巨大な体を持っていた

 

「ただの生物……とは違う。あれはヤプール人が作り出した合成生物……名前は『ミサイル超獣ベロクロン』!」

 

 生物、ベロクロンを睨み付けて構えながらゾフィーはそう落ち着いた様子で慎吾に伝えた

 

「超獣……ベロクロン……!」

 

 ベロクロンが次に何をしてくるかと、慎吾がそう名前を呟いたその瞬間

 

『クックッくっ……やはり現れたかゾフィーよ』

 

 寒気を感じるような不気味な声が何処からか聞こえて来たかと思うと突如、一部の空間が窓ガラスに石を投げ込んだのように亀裂が入って砕け、亀裂の向こう側から不気味な光に満ちた謎の空間が姿を表し、その向こうにはピエロにも似た姿をし、片手には三日月篠鎌に似た腕を持つ奇妙な姿の生物がこちらを覗いていた

 

「……これは!?」

 

「おでましか……ヤプールよ!!」

 

 その信じがたい光景に慎吾が驚愕する中、ゾフィーは開いた空間に向かってそう叫ぶ

 

『異次元空間から一気に大量の超獣を送り込んで光の国を制圧する計画が、誤って地球人をこんな場所に送ってしまうのは予想外だったが……問題は無い!ここでゾフィー貴様を倒してウルトラ兄弟を誘き寄せて一人づつ倒せば問題はない!』

 

「…………!」

 

 その言葉を聞いてゾフィーは一瞬、ヤプールとベロクロンを交互に見て思い悩むかのように動きを止めた

 

 『勿論ヤプールはこの場で倒さなくてならない。しかし、それでは既にこちらに気付いて攻撃を仕掛けてきたベロクロンを放置してしまう事になる』

 

 そんな両立しない想いがゾフィーを悩ませ、その脚を止めさせてしまったのだ

 

「『ゾフィー』! ここは私に任せて、あなたは奴を倒しに……!!」

 

 その事に直ぐ様、気付いた慎吾は瞬時加速を要いてベロクロンの前に立ち塞がるように出ると『ゾフィー』にそう告げる

 

「しかし君に……!」

 

「私はあなたと同じはず……私を信じてください『ゾフィー』!」

 

 『ゾフィー』はそんな無謀とも言える行為に走った慎吾を止めようとしたが、慎吾はそれを力強くそう言って遮る

 

「……分かった……だが無茶はするな……!」

 

 その、慎吾の熱意に負け、『ゾフィー』はそれだけを告げるとヤプールが待ち受ける異次元空間の中に飛び込んでいった

 

「さて……相手をしてもらうぞベロクロン!」

 

 それと同時に、慎吾はベロクロンを正面に立ち迎え撃つような形でそう叫んだ




 色々と悩んだ結果、ベロクロンさんに慎吾の相手をしてもらう事にしました。対決は次回で


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57話 爆裂! ゾフィーvsベロクロン!!

 ベロクロンの行動パターンを見る為に、久しぶりにウルトラマンエースを見ました。昔、見たときよりゾフィー兄さんが前に出ていて少しだけ驚きました


「くっ……とりゃぁぁ!!」

 

 ゾフィーに向かって両手を突き出し、ミサイルを放つベロクロン。そのミサイルをゾフィーのスラッシュ光線で打ち砕き、そのおまけとばかりにもう一発を隙を見て慎吾はベロクロンの頭部に向けて放ち、ミサイルの爆風を突き破りながらスラッシュ光線は見事ベロクロンの眉間に命中して爆発し、煙が上がった

 

「これで……どうだ?」

 

 追撃の準備をしつつ、煙に包まれるベロクロンの頭部を伺ってスラッシュ光線の一撃がどれほどのダメージを与えたのか慎吾は様子をうかがう

 

「うわっ……!!」

 

 その瞬間、ベロクロンの口からゾフィー目掛けて真っ赤に燃える火炎が発射され、慎吾は咄嗟に右に旋回する事でその一撃を避けた

 

「ミサイルだけでは無く、火炎までもか……他にも何かあると見ても良い見ていいだろうな」

 

 ゾフィーのセンサーで関知したベロクロンの吐いた火炎の信じがたいような温度に冷や汗を流しつつ慎吾はそう呟く。コンバータを装着している故にシールドエネルギーには大分余裕があるとは言え、あれをまともに受けてしまえばゾフィーでもただではすまないだろう。

 

 こちらの攻撃に対する動きや攻撃パターンを分析しながら戦う。ベロクロンはどうやら、そんな長々と余裕を持った戦い方が出来るような相手では無いらしい

 

 嫌らしい程に追尾性能が優れたミサイルを次々と発射していくベロクロン。そのミサイルをスラッシュ光線、あるいは瞬時加速をつかって擦れ違い様に破壊してやり過ごしながら慎吾は今の現状を分析して、そう判断していた

 

「(ならば多少の危険は承知で短期決戦に持ち込むべきか……)」

 

 再びミサイル攻撃の隙を見てベロクロンにZ光線を命中させながら慎吾がそう考えた時だった。

 

 Z光線が直撃して怯んだかに見えたベロクロンが突如、弾かれたように動いてゾフィーに腕を前に突きだし、再びミサイルが発射されると警戒した慎吾は咄嗟に後退しつつミサイルを撃破するべく身構える

 

 と、その瞬間、ベロクロンが真っ赤な瞳でゾフィーを見ると、巨大な口角を吊り上げて不気味にニヤリと笑う。少なくとも慎吾にはそう見えていた、ベロクロンその顔を見るのと同時に言葉に出来ないような凄まじく嫌な予感を慎吾は感じ取っていたのだ

 

「なっ……!?」

 

 そして、直感を信じて慎吾が動くより早く、ベロクロンの両腕からは白熱したリング状の光線が発射され、ゾフィーに命中すると光線はたちまち一つの巨大な鎖のように絡み付くとゾフィーを拘束してしまった

 

「しまった! 奴には拘束技までもが……!」

 

 自身の直感を一瞬だけ疑って動かなかった事を後悔しつつ、両腕に力を込め、ゾフィーの持つ最大限の力で何とか絡み付く鎖を打ち砕かんと奮闘する。が、鎖は力に押されて軋みこそするものの砕けず、更に絡み付いた鎖の影響かゾフィーをその場から少しも動かす事が出来ずに、結果、慎吾はベロクロンの眼前にして狙ってくれと言わんばかりの大きな隙を見せてしまい、勿論ベロクロンがそれを見逃すはずも無かった

 

「…………っ!!」

 

 瞬間、今まで回避され続けられた上に反撃されていた鬱憤をぶつけるかのようにベロクロンから複数のミサイルがゾフィーに次々と向けて発射されると爆発し、もがくゾフィーの姿はあっと言う間にミサイルの爆炎に飲み込まれてゆき、その衝撃と破壊力は切羽詰まった様子で放たれた慎吾の声をもかき消してしまう。それを見てトドメとばかりに更に口を広げ、ベロクロンは口内からミサイルを発射し、余りにも激しい爆発でもはやゾフィーの姿は完全に炎に飲み込まれてしまった

 

 それを見て、疑う余地も無く完全に撃破したとベロクロンは確信し、自身も未だ異次元空間で行われているであろう戦いに参戦しようと背中を向けた瞬間

 

 炎を突き破り、ベロクロンに向けて一直線に放たれた青白い光線、M87光線がベロクロンの頭部を吹き飛ばし、ベロクロンは膝を付いて倒れると息絶えた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ベロクロンが倒れるのと同時に炎が霧のごとく晴れてゆき、そこからM87発射の構えのままのゾフィー、それもその第二形態となる太い四肢と全身から放たれる赤いエネルギーが特徴的な『スピリットゾフィー』が姿を現した

 

「ま、まさに紙一重か……ぐっ……」

 

 息を切らし、疲労困憊の体で慎吾はそう呟いた

 

 ベロクロンからのミサイルが迫った瞬間にリスク覚悟でゾフィースピリットへと変わり、大きく強化した力で鎖を破壊。そこから息も付く暇もなくゾフィースピリットの力で再現された高速切換で次々とスラッシュ光線とウルトラスラッシュでミサイルを破壊、迫る爆炎と衝撃を回転によるウルトラバリアーで防御。ベロクロンがトドメがわりに使ったミサイルは同じく、再現されたAICで寸前で防ぎ、そして最後に油断したベロクロン目掛けて相手が『人間』では無い為に一切の手心を加えないM87を放ち、どうにか撃破したのであった

 

「いくらなんでも少し、酷使し過ぎたか……私も、ゾフィーも……」

 

 当然、そこまでの事をしておいて全くの無事の筈が無い。ミサイルの持つエネルギーを完全に消し去る事は出来ずゾフィーのシールドエネルギーはコンバータを駆使した今でも半分程くらいしか残っておらず、装甲にも直ぐには機能には差し支えは無いが見て分かるような傷が付いた。連続して強力な出力の光線を放ち続けたゾフィーの両腕はオーバーヒートを起こし、暫くは何も撃つ事が出来ないだろう

 

「『ゾフィー』の事が心配だが……私がこれでは……」

 

 ゾフィーをエネルギー消費が激しいゾフィースピリットから通常形態に戻しつつ、遠くで未だに開いてる異次元空間の入り口を慎吾が『ゾフィー』を心配してそう呟いた時だった

 

 突如、異次元空間の入り口から宇宙にそびえる柱の如く太く、それに並ぶように強く輝く青白い光が勢いよく飛び出した

 

「あれは……!?」

 

 それが何であるか、軽く見ただけで自身の物とは威力が桁違いではあるが、一目見ただけで慎吾はその正体を確信した

 

 それが、この世界の『ゾフィー』の放つ自身と同じ名を持つ一撃必殺の技、M87光線なのだと




 慎吾、初の単独での勝利!(相手がISとは言ってない)


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58話 ひとまずの決着 愛しき故郷と慎吾の妹達

 


「すまない、予想していた以上に苦戦させられた……大丈夫か慎吾?」

 

 M87の放射が止まると、異次元空間から『ゾフィー』が飛び出し、『ゾフィー』は出てくるとのと同時に慎吾を心配して声をかけた。その体のあちこちには傷が残り、カラータイマーも赤く光って点滅し、『ゾフィー』が軽視出来ない程にダメージを受けているのが見て分かったが、それでもなお『ゾフィー』は自身より慎吾に気を使っていたのだ

 

「えぇ、私もベロクロンとの戦いで損害はありますが私自身は大丈夫です……ありがとう『ゾフィー』」

 

 そんな『ゾフィー』に慎吾は軽く手を動かして自身の無事を示し、心配をしてくれた事に礼を言った

 

「そうか、それは何よりだ。しかし……」

 

 そんな慎吾を見て安心した様子で『ゾフィー』はそう言う。と、その途中で何かを考え込むように腕を組んだ

 

「『ゾフィー』……何かあったのですか?」

 

「あぁ……慎吾、この事は君にも話しておく必要があるだろう」

 

 そんな『ゾフィー』を疑問に感じてそう話しかけると、『ゾフィー』は僅かに迷った様子を見せながらも静かに数分前、異次元空間で自身が体験した事を語り始めた

 

 

 

「ぎっ……やぁあああぁぁっ!!」

 

 ヤプールの怒濤の攻撃の一瞬の隙を狙って離れた『ゾフィー』のM87光線はヤプールの体を貫き、ヤプールは断末魔の悲鳴をあげた

 

「……ヤプールよ、これまでだ」

 

 それを見て勝負に決着が付いた事を確認するとゾフィーは構えを解き、直立すると落ち着いた様子でヤプールにそう宣告した

 

「ぐっ……確かに戦いは破れたが……今回の事件で、あの地球人がいた世界とこちらの世界には小さいが『繋がり』が生まれたはずだ……」

 

 と、致命傷を負って今にも息絶えそうな状態の中、ヤプールは何かを確信した様子でそうほくそ笑む 

 

「何だと……?」

 

「これから先、その小さな『繋がり』が、二つの世界をシンクロさせ片方の世界で起きた事と似た出来事が、もう片方でも起こるようになるだろう……」

 

 そのヤプールの不気味な言葉に思わず聞き返す『ゾフィー』。だが、その言葉が聞こえているのか、それとも深いダメージのもはや聞くことが出来なくなったのかは分からなかったが、ヤプールは『ゾフィー』の言葉を無視して笑いながら言葉を続ける

 

「くくっ……どちかに起こった出来事の影響で、あの地球人か、『ゾフィー』! 貴様が倒れて死ぬのを楽しみに待っているぞ! っ……ぐがぁっ……!」

 

 最後に高笑いしながら宣告するとヤプールは今度こそ息絶え、爆発と共に木っ端微塵に砕け散った

 

 

「なるほど、繋がり。ですか……」

 

 『ゾフィー』から話を聞き終えた慎吾は腕を組み、深く思案しながらそう呟く

 

「奴の言うことが真実であるなら、これから私、もしくは君の身に何が起こるのかは分からない。だがしかし、互いに注意を怠らずに警戒をする必要があるだろうな……」

 

「そうですね……事件は解決したようですが、全くもって厄介な置き土産が残ってしまいましたね」

 

「ふっ、確かにそうだな……」

 

 『ゾフィー』はそう言って信吾に注意を促し、慎吾はそれに頷きながら、そう言って深く溜め息を吐き、『ゾフィー』もそれに同意し、苦笑するようにそう言った

 

「……さて、互いに話は尽きないようが、そろそろ君は自分の世界に戻らねばなるまい」

 

 と、そこで『ゾフィー』は話を区切り、小惑星の表面に出来ている異次元空間の入り口を指した

 

「いるのだろう? その世界には君の『家族』になってくれた者達が……。この空間を通り抜ければ君の世界に帰れるはずだ。私がそこまで送り届けよう」

 

 そう言うと『ゾフィー』は確認するように、慎吾に向かって手を差しのばした

 

「えぇ、あなたと別れるのは寂しいですが……ここで、別れですね」

 

 慎吾がそれに答えて頷くと次の瞬間、『ゾフィー』が慎吾を庇うような形で二人は同時に異次元に飛び込み、怪しい光に満ちた異次元空間の光と『ゾフィー』の放つ目映いばかりの赤い二つの光が慎吾の視界一杯に広がると、気付かぬうちに慎吾はその意識を闇の中へと落としていった

 

 

 

「んん……」

 

 顔に降り注ぐ光を感じ取り慎吾が目を覚ますと、そこは神秘的な光に満ちた光の国では無く、慎吾がいくらか見慣れた場所であるIS学園保健室。そのベッドに慎吾は寝かされていた

 

「(そうか……帰ってこれたのか私は……異次元空間を抜ける途中で意識を無くしてしまうとは情けないが)」

 

 それほど長い間、離れていた訳では無いのに懐かしさを感じさせる地球の光景を眺めていると、ベッドのすぐ隣にいた二人が慎吾が意識を取り戻した事に気が付き、慌てて心配そうな顔を近付け、同時に話しかける

 

「あ、お兄ちゃん!? 意識が戻ったの!?」

 

「大丈夫か、何ともないか、おにーちゃん!?」

 

「あぁ……大丈夫さシャルロット、ラウラ。妹のお前達を残して、私は消えてしまったりはしないよ」

 

 慎吾は自身の妹達二人を安心させるように穏やかな口調でそう言うと、ベッドの上で起き上がりそっと両手で二人の頭を撫で始めた

 

「ん……心配したんだぞ、おにーちゃん」

 

 慎吾に頭を撫でられ、ラウラは少しくすぐったそうにしながらも嬉しそうにそれを受け入れながらそう言い、その隣で同じく慎吾に頭を撫でられ、満足そうに目を閉じていたシャルロットも呟く

 

「うん……僕も心配だったよ、一夏からトレーニング中にお兄ちゃんが倒れた。って聞いて……」

 

「(うん……?)」

 

 シャルロットの言葉を聞き、慎吾の眉が僅かに怪訝を感じて動く

 

 あの光に包まれて光の国へと行っていた自分は、その間、行方不明と扱われるのだろうと思っていた。だが、しかし自分が『トレーニング中に倒れた』と扱われているとは?

 

 そう疑問に感じながら慎吾がベッド横の時計付きの電子カレンダーを見た瞬間

 

「(んなっ……!?)」

 

 そこに表示されていた日付と時刻を見て、慎吾は驚愕に目を見開いた。

 

 自身が気絶していた時間を差し引いても、向こうには少なくも5時間以上は滞在していた筈だ。だが、しかしどうにも電子カレンダーと時計を見る限り、あの光に包まれてから30分も時間が過ぎていないのだ

 

「(やはり、相手は異世界。こちらの世界の常識がそう簡単に通用する物では無いのかもしれないな……)」

 

 シャルロットとラウラ、二人が満足するまで頭を撫でつつ、この話を千冬やヒカリにどう説明すべきか慎吾は悩み始めるのであった




 次回で『真・ゾフィーとの対面編』は終了です。そこから先は再びオリジナル編です。そこで、臨海学校編で回収出来なかった出来事を回収します


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59話 慎吾と偉大なる『父』、舞い降りる群青

八月のお盆、慎吾はただ一人IS学園の制服を着て、美しい花が咲き並ぶ小高い丘の上に立てられている一つの墓を訪れていた

 

「……父さん、私もIS学園に入学してから立て続けに様々な出来事がありましたが……流石に今回の事件ばかりは自分が体験した事が未だに夢のように感じれます」

 

 自身が供えた花束を時折眺めながら、何処か楽しくそうにそう語りかける慎吾。その脳裏に浮かぶのはIS学園で出会った仲間達、激闘と騒動の数々、そして自身がつい最近体験した『もう一人の自分』がいる異世界で超獣と呼ばれる超巨大な生物との死闘。それらを思い出すと慎吾は口から大きく、そして深くため息をついた

 

「(結局、あの出来事をありのままで学園側に伝えるのは諦めた。私が報告したのは『光に包まれたら意識を失い、気付いたらベッドで寝ていてISもいつの間にか損害を受けていました』……と言った感じで一夏の話に合わせた事実半分の内容。余りにも荒唐無稽で事実を話した所で信じられるような事では無かったからな……。しかし)」

 

 慎吾は報告時に少しだけ勘ぐる様な目で見ながらもその報告をそのままに受け入れてくれた千冬を思い出し、改めて感謝しながら慎吾は制服の上着に大事にしまっていたある物を取り出すと、墓に、そこに眠っている自身の父にも見えるように突きだした

 

「もしかすると私は彼との、もう一人の私であった『ゾフィー』と語り、共に戦った想い出を、出来るだけ自分の心の中だけに留めていたかったのかもしれません」

 

 そう穏やかな笑みを浮かべる慎吾の手に握られているのはルビーのように赤く透き通り、加工したかのように美しい球体をした手のひらに収まる程の大きさの小さな石だった

 

 この石は帰還後、見舞いに駆けつけたシャルロットとラウラが戻った後に、気付けばいつの間にか慎吾が眠っていたベッドの側に置いており、それを不思議に思って手に取った瞬間、慎吾の頭にまるでテレパシーのように『ゾフィー』の声が聞こえてきたのだ

 

『慎吾、私と君が共に戦った友情の証にこの石を渡そう。きっとこの石が手に終えないような窮地に陥った時、君の助けとなってくれるはずだ』

 

 そう、短いながらも暖かさに満ちた『ゾフィー』のの声は決して幻聴の類いでは無いことが不思議と慎吾には確信する事ができ、それ以来慎吾はこっそりと鑑定を頼んだヒカリにさえ『解析不能』と診断された、この赤い石をお守りの如く肌身離さず持ち歩いているのであった

 

「手に終えない程の窮地か……出来れば皆の為にも来ないでくれるとありがたいのだがな……」

 

 そう慎吾が呟きながら石を再び懐にしまった時だった

 

「やぁ慎吾くん、先に来ていてくれたか」

 

 そんな風に慎吾の背中から穏やかな語調の男性の声がかけられた

 

「『ケン』さん……どうも、お久しぶりです」

 

 その声を耳にした瞬間、慎吾は緩やかに立ち上がると振り向きざまに落ち着いたグレーのスーツに身を包んだ男性、ケンに向かって深く頭を下げた

 

「前にも言ったが……慎吾くん、そんなに私に気を使ってくれなくてもいい。君は私の友人であった彼の息子なんだ、君さえ良ければ別に私に実の家族のように接してくれても良いんだぞ?」

 

 そんな慎吾を見てケンは男性にしては長めの髪が伸びる頭を困ったように掻きながら、一般的に見て誰もが美形と判断するような力強さと優しさを兼ね備えた非常に整っている顔を、困ったような笑顔に変えながてそう言った

 

「いえいえ、ケンさんには私は既に十二分にお世話になりましたし、今も世話になり続けているも同然です……これ以上私がケンさんに迷惑をかける訳にはいきませんよ」

 

 そんなケンに慎吾は頭を上げながら、僅かな迷いも見せずにそう告げる

 

 事実、実父を失い急に天涯孤独の身になった事で途方に暮れていた慎吾の元に『親友の息子が困っているのだから』と誰よりも早く駆け付けて慎吾が一人で生きてゆく為の力になり、未熟だった慎吾の格闘技術を『父のように強くありたい』との慎吾の言葉を受け止めて今のレベルにまで鍛え上げ、そしてMー78社内部から幹部の面々に慎吾が十二分に信用たる人物であると丁寧に説いた人物こそが、今慎吾の前に立つケンその人なのであった

 

「それは、確かに一理あるのかもしれないが……。しかし慎吾くん、格闘技に関しては君は元々天性の物がある。私がいなくとも独力でその力を開花させる事は十二分に出来ただろう。Mー78社の事に関しても私は重役の立場を捨て置き、公平な視点から見た真実を話したに過ぎない。君の世話に関しても当然の事をしたまでだから君が特別にかしこまる必要は無いぞ?」

 

 慎吾の話をじっくりと聞いてからケンはそう柔らかに、あくまで優しい口調で慎吾を諭した

 

「……それでも私は、あなたにはいくら感謝しても感謝仕切れないと思っている。そのつもりですよ」

 

 ケンにかけられた言葉に慎吾は笑いながら小さく首を降ってそう言った

 

「それでは私はこれで……」

 

 最後にそう一言だけ告げると慎吾はケンに背を向けて歩き出した

 

「……たまには家に来てくれ、妻も子供も久しぶりに君に会いたがっているんだ」

 

 去りゆく慎吾の背中に向けてケンは最後にそう一言呟いた

 

「………………」

 

 その返事が聞こえていたのか聞こえていなかったのか、慎吾は何も言うことは無く無言でその場を後にするのであった

 

 

 慎吾が父の墓を訪れていた頃、IS学園正面には光が訪れていた

 

「今年中にやらねばならない事は終えた、これで漸くIS学園に通学出来るな。……まさか夏期休暇までかかるとは思わなかったが」

 

 研究所での苦労を思い出してそう小さく苦笑する光ではあったが、内心では再び学園に通える事が嬉しくて仕方がなかった。その大きな理由は自身の親友たる慎吾と学園生活を共に出来る事、そして

 

「篠ノ之よ……これが因果なのかどうかは私には分からないが……今度こそ互いに決着を付ける時だ……」

 

 そう力強く語りながら学園屁と向かって歩き出す。その目には、今にも火が付きそうな程に燃える闘志の炎が輝いていた




 今回の話で『真・ゾフィー』編はエピローグです。そして……次回からは『ヒカリ対箒編』と、なりす


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60話 懐かしの再会 向かい合う蒼と紅

 今回の展開は少し苦しい……かも、しれません


その日の朝、偶然にも慎吾、そして一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロットとラウラ、ともかく仲間達、全員が全員手が空いていた為にいっそうの事、大がかりな訓練をしようと慎吾を中心として七人は朝食を終えると揃って食堂で話し合っていた

 

「……と、なるとやはり個人、それぞれの今の力量を瑞からで確かめられる『総当たり戦』が無難と言う事になるな、おにーちゃんよ」

 

「うん、私もその意見に賛成だラウラ。皆はどう思う?」

 

 話し合いの結果、出てきた一つの答えを纏めるように語るラウラに聞かれると、慎吾は頷いてそれを肯定するとラウラを除いた5人を見ながらそう尋ねる

 

「まっ、別にそれでも良いんじゃない?」

 

「私も特に反対意見はありませんわ慎吾さん」

 

 それに鈴があっけらかんとした様子で、セシリアは落ち着いた様子で何事も無いかのように返を返す。が、そんな二人の瞳には『たとえらどんな試合になろうと自分が軽々と負けはしない』と、言う強く熱い思いが込められており、それは無言で頷く事で肯定したシャルロットと箒、そして一夏もまた同じであった

 

「全員賛成か、では対戦スケジュールを……」

 

 全員が賛同したのを確認して慎吾が話を次の段階に進めようとした時

 

「……慎吾、随分と張り切っているみたいだな」

 

「きめっ…………!」

 

 突如、自身の背後から表れた人物に親しげな様子の声で、慎吾の肩は軽く叩かれ、その声を聞いた瞬間に慎吾は話を中断してまですぐ様振り返り、深い海色の青髪と制服を見た瞬間に驚愕で目を見開いた

 

「ヒカリ……! もう、学園に復帰出来るようになったのか?」

 

 そう、慎吾の背後にいたのはつい先日も鑑定以来を頼んだばかりの長年の友人である光であり、おまけにその姿はM-78の研究所で見るときのような白衣では無く、上級生たる二年生の証たるリボンが付いたIS学園の制服を着ている

 

「あぁ、企業から事前に言われていた今年度のノルマは既に達成した。少なくとも何か起こらない限り今年一杯は慎吾と共に学園に毎日通えるだろう」

 

「そうか、それは何よりだ……!」

 

 光の姿を見るなり嬉しそうに話しかける慎吾を見て、光もまた笑顔で返事を返し、慎吾は光のその朗報に心底満足そうに頷きながらそう言った

 

「あのー……慎吾さん、そちらの方は……?」

 

 と、そこで慎吾と光が二人だけで話す様子を見ていた一夏がタイミングをうかがいながらそう尋ねてきた

 

「と、……あぁ、すまない、紹介が遅れたな。彼女は私の親友の……」

 

「芹沢光だ、俺はこの通り二年生ではあるが……昨年は研究が忙しくて殆ど学園に来れなかった上に慎吾よりは年下。無用な気づかいは必要ないぞ」

 

 慎吾から紹介を受けると光はそう言って皆の前で軽く頭を下げて自己紹介して見せた

 

「芹沢……? もしかしてあなたは……」

 

 と、光の名を聞いた瞬間シャルロットが反応し、何らかの確信を込めた様子でそう呟き、慎吾はそれを肯定して頷きながら口を開いた

 

「あぁ、そうだシャルロット。彼女……ヒカリこそが私の専用機たるゾフィーをプロトタイプとして今も開発中の新型IS、U(ウルティメット)シリーズの発案者であり開発者、M-87が誇る天才科学者の芹沢博士その人だ 」

 

「よせ慎吾……Uシリーズは俺も設計と開発の一部に関わってただけに過ぎない。と、前にも言っただろう? あれは研究所の皆の力で生み出した努力の結晶なんだ、決して俺一人の力で出来たんじゃあない。そこをどうか忘れないでくれ」

 

 慎吾の言葉に光は少し恥ずかしながら、しかしはっきりと『自分の力だけではない』としっかり強調して言い切って僅かに慎吾を咎めながら、慎吾と話を続ける

 

「……………………」

 

 と、そんな中、唐突に表れて慎吾と親しげに話す光に多少戸惑いながらも、光の穏やかな人柄もあっていくらか落ち着きを取り戻してきたその時、ただ一人、箒だけが光が姿を表した瞬間から驚愕に目を見開いて硬直し、今なお瞬きも殆どせずに光を凝視していた

 

「箒? どうかしたのか?」

 

 と、そんな変化に気付いた一夏が、光に向けていた視線を反らして箒に声をかける

 

「久しぶり……だな篠ノ之」

 

 その瞬間、慎吾と話をしていた光が話を止め、数歩ほど歩くと正面から対面する形で静かに箒に向き直った

 

「お前は……やはり……やはりあの時の……」

 

 正面に立つ光に箒は反応し、光と互いに視線を交わしながら掠れそうな声で静かにそう呟く

 

「ヒカリ、これは一体……?」

 

「……そういえば慎吾には機会が無くて言えていなかったな」

 

 現状を理解できず珍しく迷うように慎吾が呟いた瞬間、光は悲しみと怒り二つの感情が入り混ざったかのような複雑で奇妙な笑みを浮かべると静かに、しかし淀み無く語り始めた

 

「俺は昨年、剣道の全国大会に出場していた。そして私は決勝戦まで勝ち進み、そこにいる篠ノ之と俺が戦うはずであったのだ」

 

『!?』

 

 その言葉を聞いた瞬間、そのあまりに衝撃的な言葉に一夏や鈴達に驚愕が走る

 

「…………!!」

 

 そして慎吾は光が今から箒に『やろうとしている事』を察して驚きながらも無言でそれを見守るように光に視線を送る。

 

「だが……その決着は俺には……そして篠ノ之、恐らくは君にも納得出来るような物では無かった……」

 

「……………………」

 

 言葉を続ける光に対し箒は言葉が無い。いや、出すことが出来なかったのだ。そう、昨年の大会で互いに勝ち進んでいた箒と光、本来二人が戦うはずたった決勝戦で、箒と光が戦う事が無く共に準優勝と、言うあまりにも唐突かつうやむやに終わっていたのは他でもなく原因は姉の束がISを開発した為に起きた要人保護プログラムのせいだ。その事に関して箒は光に対して責任を感じていたのだ

 

「そこでだ篠ノ之、率直に言えばあの時付けることが出来なかった決着を……ISを使って俺と全力で勝負してはくれないか? 互いに専用機を使って……な」

 

 動揺した箒に決意を込めた視線で見つめる光、その腕には光の専用機が待機状態で装着されていた




 と、言う訳で光の設定を箒に因縁があると言う風にしています。しかし、そのせいで光が好戦的な印象に……


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61話 蒼紅の光と影

 最近になって、書く上で動きの参考になるかとゾフィー隊長のULTRA-ACTを購入しました。思っていた以上に稼働して面白いので純粋に良い買い物でした。


「全く……水臭いじゃあないか、あんな事をするなら事前に言ってくれ」

 

 あれから少しの時間が流れて慎吾と光は二人だけで中庭のベンチに少しの距離を空けて並んで座り、話し合っていた

 

「いや、すまない慎吾……。俺が勝手に決めていた事だからな、君を巻き込むまいと思ったのだが……余計な事だったようだな……」

 

 困ったようにそう言う慎吾に、光は少し苦笑しながらそう軽く謝罪すると、そっと目を瞑った

 

「慎吾……俺はな、あの時、決勝戦で篠ノ之との試合を果す事が出来なかった日から心の片隅でずっと……お前と共にいる時も、この学園に入学した時も、研究所で仕事をしている時にだって、言い様の無い不完全燃焼のような想いがくすぶっていたんだ……」

 

「……………………」

 

 目を瞑ったまま光は慎吾だけに聞こえるような小さな声で独白を始めた。それに慎吾は特に何も言わずに、黙って座ったまま光の話に耳を傾ける。光も慎吾の態度にとやかく言う事などはせずに言葉を続けていた。

 

「だから篠ノ之がIS学園に入学すると知った時、俺はどうしても自分の気持ちを押さえる事が出来なかった。想ってしまったんだよ『心に渦巻く不完全燃焼を消し去る為に、ただの剣道の試合ではなく、今持てる全ての力を持って篠ノ之との決着を付けたい』とね……」

 

「……それでISでの勝負と言うことか?」

 

 と、そこで沈黙していた慎吾が光の言わんとした事を悟ったように小さく苦笑して言った

 

「あぁ、篠ノ之が断ったのならば、剣道の試合で再戦を頼むつもりだったが……引き受けてくれたからな」

 

 慎吾に返すようにそう言いながら光もまた苦笑して目を開くと再び、先程箒と対面し、箒が迷いながら果たし合いを引き受けた時に見せたような闘志をその瞳に映した

 

「篠ノ之が俺の勝手な提案での勝負を引き受けてくれた以上、この試合で俺が負けるにしろ、勝つにしろ、それで明日を切り開いて未来へとつき進める気がするんだ」

 

「……そうか頑張れよ、『光』」

 

 どこか確信を込めてそう語る光に慎吾はそう一言だけ返事をして、ゆっくりと首を縦に降った。と、そこで光は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた

 

「……そうだ、蛇足になってしまうが篠ノ之とのこの試合、本音を言えば俺は慎吾に応援をして欲しいのだが……お前の話を聞いてると篠ノ之とは、それなりに深い交流があるみたいじゃあないか?」

 

 いかにも実際に悩んでいるかのような口調で慎吾にそう尋ねる光、しかし良く見ればその口元には笑みを浮かべており、慎吾は勿論その事には気が付いていた。気がついたうえで迂闊には行動せず、光の様子を伺っていたのだ            

 

「そこで慎吾に一つ聞こう。この試合、お前は俺と篠ノ之の一体どっちを応援してくれるんだ?」

 

「……………………」

 

 少しだけ突きつけるようにしながら立ち上がり、慎吾の顔を覗きながら言う光。それに対して慎吾は一瞬だけ沈黙し

 

「試合前で気持ちが高ぶっているのは分かるが……冗談はそこまでにしておいてはくれないか? 流石に私でも困惑するぞヒカリ」

 

「ふふ……相手がお前では、流石にそれくらい分かるか。あまり冗談など言わない物だから無理があるとは思っていたがな」

 

 苦笑しながらも迷いなく答えた慎吾を見ると、光は特に残念がる様子も無く再びベンチに腰かけた

 

「しかし……先程の応援の話は冗談だが試合を見てもらいたいのは本当だ。是非来てくれ慎吾」

 

 ベンチに腰かけながら語る光の顔からは僅かに見せた意地の悪い表情はすっかり消え失せており、光がいつも慎吾に見せるような落ち着いた笑みをしていた

 

「あぁ、それは勿論。是非とも見に行かせて貰う。ヒカリの専用ISも見てみたいからな」

 

 慎吾の頼みを一瞬の迷いも無く受け止めた慎吾は、最後に一瞬だけ光の右腕に大きなブレスレットの姿で装着された、待機状態の蒼いISに視線を向けた

 

「勿論、お見せしよう。この俺と名前を同じくし、Uシリーズの新型IS『ヒカリ』その優れた性能をな」

 

 みなぎる自信を見せてそう強く語る光。その目には気付けば先程見せた剣士としての目では無く、一人の技術者としての強い誇りが表れ始めていた

 

 

「(駄目だ、上手く精神を集中する事が出来ない……)」

 

 時を同じくして、IS学園剣道場では箒が午後3時に迫る光との対決に備えて鍛練をしていたのだが、どうにも心が揺れて思うように立ち回る事が出来ず、箒は疲労とは別ベクトルの原因で額に流れた汗を拭き取ると、鍛練の手を止めて思考にふける

 

「(とは言っても、この無様な動きの原因は分かっている……芹沢だ……)」

 

 その名を口にしただけで胃の奥にずしり、と重みが込み上げてくる。

 

 それは本来正当に行われる筈だった彼女、芹沢が今日始めて話しても分かる程に心待ちしていた決戦を自身の姉、束が原因で台無しにしまった事に対する罪悪感も勿論強く影響していた。が、それとは別に箒の心にはもう一つ、光が表れた事で無意識のうちに封じ込めていた記憶であり、重くのし掛かっている出来事があったのだ

 

「(私は以前……全国大会で芹沢の『剣』を一度見ている……!)」

 

 甦るのは昨年の剣道全国大会

                        

 その準決勝後の事、一夏が不在故のの苛立ちから感情のままに相手選手を打ちのめし、涙さえ流させてしまった事で自身が剣に込めていた感情の恐ろしさを改めて理解し、呆然とした状態で特に意識せずに入ったもう一つの準決勝が行われていた会場。そこで箒は光の試合を目撃して

 

 その鮮やかで、激しくもどこか穏やかな剣技に思わず息を飲まされた

 

「(あの試合は、芹沢に破れた選手までもが良い勝負が出来たと握手を求めるような誰もが称賛する試合……まるで私とは正反対だった……)」

 

 歓声に包まれたあの試合を思い出し、箒の胸は再びちくりと痛んだ。

 

 浮かんだ責任感から引き受けた今回の試合であったが、一度、剣の道を誤ってしまった自分が私情を差し引いて見ても一年前から既に素晴らしい剣の技術と正しい心の二つを持ち合わせていた芹沢に今の自分が勝利する事が出来るのだろうか?

 

 鍛練の途中で精神を乱す事はあってはならないと理解しつつも、箒の頭の中ではそんな考えが布に染み付いた油のようにしつこく付きまとっているのであった




 今年の更新は次で最後。と、予定しております


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62話 拮抗を崩すのは

 あけましておめでとうございます
 2015年までには間に合いませんでしたが、こうして元旦に更新させていただきました。良ければ今年もこの作品をよろしくお願いいたします


 慎吾と光が二人で話しているうちに時間はあっという間に過ぎて試合を約束していた時間となり、二人は共に第三アリーナのBピットに並んで立っていた

 

「いよいよ……だなヒカリよ」

 

「あぁ……待ちに待った、いよいよだ……」

 

 慎吾の呟きに光は静かにそう一言だけ返すと、一歩

歩いてピットゲートへと進んだ

 

「『ヒカリ』……! 行くぞ……」

 

 ゲートの入り口が開いてくのを確認すると光は右腕にブレスレットの姿で待機していた『ヒカリ』に合図をするかのように掛け声をかけると展開させ、光の体は雷光のような蒼くとエメラルドのような緑、二つの鋭い閃光に包まれ、光が収まった瞬間には『ヒカリ』展開は既に終わっていた

 

「なるほど……それがIS『ヒカリ』か……」

 

 その姿は、全身装甲で基本の状態では武器を持たず、銀をメインカラーにしていると言う点ではゾフィーに酷似していたが、銀を下地に赤のラインが走るゾフィーとは異なり、銀のベースの装甲に入るラインは蒼。さらに仮面の上で光輝やく目や胸にあるカラータイマーは見当たらず、変わりのように鮮やかに輝くのは右腕に装着されたブレスレット状のヒカリの専用武装『ナイトブレス』。目元や胸などの上半身を中心として全身を包む装甲は見るからにゾフィーより遥かに堅牢で頑丈に作られており。それは、まさしく蒼の鎧を纏った騎士のような美しい姿であり、慎吾は思わず感嘆の声を出した

 

「さてと……行ってくるぞ慎吾」

 

 光はちらりと慎吾を見て、ふっと力を抜いた様子でそう言うとピットから勢い良く飛び出し、自身が熱望した戦いの相手たる箒が待つ、アリーナの中央に向けて飛び立っていった

 

「この戦い、しっかり見させて貰うぞ……光」

 

 去り行く『ヒカリ』の背中を見送ると、慎吾は静かに観客席へと向かって歩き出していった

 

 

「待たせたな……篠ノ之よ」

 

「芹沢……それがお前の……」

 

「あぁ……これが、これこそが俺の専用機の『ヒカリ』だ。なるほど……それがお前の専用機たる紅椿か。やはり、資料映像等では無く、この目で見ると受ける印象も異なる物だな……」

 

 アリーナの中央で対面した光と箒は互いに言葉を交わしていた。その間に漂うのは戦闘前故に今にもはち切れてしまいそうなまで張りつめた緊張感。そして相手への牽制への空気。気の弱いものが下手に触れてしまえざ箒と光が相手に向けて放つ闘気の凄まじさに圧倒され、恐怖のあまり動けなくなってしまいそうな空気の中特に動じた様子も無く、箒の紅椿を観察しながら光はそう箒の質問に答えつつ呟いた

 

「さて……俺から話しておいて何だが、勝負の前にこれ以上の話は無用。そろそろ初めても構わないか?」

 

 と、そこで光は話を中断し、静かに構えを作りながら箒にそう尋ねる

 

「………………」

 

 それに箒は言葉で答える事は無く、無言で剣を構えて返答した

 

「そうか……ならば行くぞ篠ノ之……!」

 

 それを確認すると光は、腕のナイトブレスから白熱して輝く光剣、ナイトビームブレードを伸ばすように出現させると箒に合わせるように静かに構える

 

 そして次の瞬間、互いの残像が残るほどの超高速で紅と蒼、二つの閃光が互いを狩るべく激しく激突を始めた

 

 

「す、すげえ……箒も……芹沢さんも……」

 

 火花が激しく飛び散り、互いに恐ろしい程の速度で攻撃、回避、防御を不規則に繰り返し、相手に紙一枚での隙を見つければ即座に一刀両断せんと鋭さと破壊力を合わせ持った斬撃を放つような凄まじい試合を見ていた一夏は思わず自然と心に想った事、恐らくは観客席にいる殆ど全員が思っている事を呟いていた

 

「光の奴、最近は見る事が無かったが剣の腕を一味、いや……更にそれ以上と言うべきまでに上げたようだな」

 

 その一夏のすぐ近くに座り、光の動きから殆ど目を話さ無いように見守るように見ていた慎吾が感想を漏らす

 

「うん、『剣道』とやらはまだ良く分からないが、おにーちゃんの友達の、あの芹沢が優れた戦士だと言うことは、この場で見ているだけで良く理解出来るな」

 

 慎吾の右隣に腰かけたラウラも慎吾の意見に同調するように頷き、非常に興味深そうに瞬きさえも殆どせずに二人の試合を見ていた

 

「……!! 皆さん、どうやら試合が動き出そうですわよ……!」

 

 と、そこで嵐のような激しさで攻防一体の戦闘を繰り広げている二人の試合を、皆と同じく集中して見ていたセシリアが何かに気付いて、声を上げる

 

「あれって……!」

 

 その声に反応して、鈴が改めて試合の様子を凝視した瞬間、光を突き飛ばして距離を取った箒が構えた雨月で必殺の一撃を放とうとしていた

 

 

 話は少し前に遡る

 

「(ぐっ……な、なんと言う太刀筋と速さだ……!!)」

 

 試合開始の激突から全神経を目の前で次々と斬撃を放ってくる蒼い装甲のIS、ヒカリに集中しつつ箒は内心でその強さに舌を巻かされていた

 

 今の所、勝負は互いに刃が相手の装甲を掠めるのみで決定的一撃のない互角の形を取っているものの二人に差は殆ど無く、いつそのバランスが崩れるのかは箒にも……そして恐らくは光にも全く分からないのだろう

 

「(この決定打の無い降着状態をいつまでも続けているのは危険だ。では、これを打ち崩すような奴と私の差と言えば……)」

 

 焼き切れてしまいそうな程に神経を集中させて剣を振るいつつ、箒は試合を観察して降着を打ち破る策を練る

 

「ふんっ……!」

 

 と、その瞬間に光が箒の一撃を身を逸らしてかいひし、同時に白熱したナイトビームブレードを紅椿へと目掛けて放ち、右上から鋭い斬撃が箒へと迫る

 

「(やはり、これしか無い……!)」

 

 それを見た瞬間に箒は覚悟を決めて、被弾を覚悟の上で雨月の刀身でそれを受け止めると持てる力を全て込めてヒカリを突き飛ばした

 

「……!?」

 

 流石に想定していなかったのか、突き飛ばされた光は素早く空中で体制を整えようとしながらも一瞬、ほんの紙一重、反応が遅れた

 

「今だ……っ!!」

 

 それを確認した箒は素早く雨月を構えて必殺の一撃を放つ

 

 そして、アリーナに一つの爆発が巻き起こった



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63話 断ち切れた拮抗、見守る二人

 やや危ない所でしたが何とか更新です。


「これは……勝負が決まった……っ!?」

 

 箒の雨月での一撃が放たれた瞬間、どこか確信じみた様子でシャルロットが口にする。

 

 確かに、ヒカリの一瞬の隙を付いて放たれたその一撃は打突と共に放たれるエネルギーの刃でたちどころにシールドエネルギーを急激に減らして、その底を着かせただろう

 

「いや…………」

 

 緊迫した膠着が続く試合が動いた事で観客席がにわかに騒がしくなってゆく中、慎吾は落ち着き払った様子でそう呟く

 

 そう、光が『ただの剣道経験のある科学者で』そしてIS ヒカリが『ただの近接戦型のISならば』、決着は付いていただろう

 

「試合はまだまだこれからだ……!」

 

 

 慎吾が確信を持って呟いたのと同時に、光は自身に迫るエネルギー刃を見ても全く慌てた様子は無く、まるで箒の動きを予め予測していたかのようにナイトビームブレードをナイトブレスに引っ込めると、勢いよく背後に後退しながらヒカリの右腕のナイトブレスを天の神に捧げるように上空へと向ける。と、それに呼応するようにナイトブレスから青い稲妻のようなエネルギー光が覗き、光はそれを一瞬だけ見ると右腕を下ろしてそっとナイトブレスに手を添える。そして、エネルギー刃の先端が今にもヒカリに触れそうになった瞬間

 

 

 十字に組んだヒカリの手から虹色の光線、ナイトシュートが勢い良く放たれた

 

 

『っ!?』

 

 観客席が驚愕に包まれた瞬間、一直線に箒に向かって放たれたナイトシュートはエネルギー刃を突き破り、打突を中断して回避をしようとした紅椿へと目掛けてそのまま吸い込まれるように命中し、次の瞬間爆発を起こした

 

 

 

 

「ぐっ……うぁっ……!」

 

 痛みと衝撃を堪えてどうにか体勢を維持しながら、箒は苦し気にうめく、迫るナイトシュートの速さを見て、回避を諦めて咄嗟に防御した事で直撃こそは避けれたもののその破壊力は流石に慎吾のゾフィーが放つM87には劣っているものの脅威的としか言いようが無く、事実、紅椿のシールドエネルギーはナイトシュートの一撃で大きく減らされていた

 

「(こ、事を早く仕掛けすぎた……っ!)」

 

 光と実際に剣を交えた事で僅かに生まれてしまった焦り、もしくは緊張感からか数秒前の自分が選んでしまった失策を箒は後悔し、内心でそう叫んだ

 

「はぁっ!」

 

「うっ……!」

 

 と、その瞬間、再びナイトブレスからナイトビームブレードを伸ばしたヒカリが瞬時加速を要いて一気に紅椿へと迫るのと同時に斬撃を放ち、それを箒は危ういタイミングで咄嗟に雨月で受け止める。が、ガードの出が遅かったのと光の斬撃の勢いが箒の予想を越えていた事もあって、箒はその場から押されて強制的に後退してしまった

 

「(不味い……早く立て直さなくては……っ!)」

 

 後退した箒目掛けて、その隙を逃がさないとばかり更に踏み込んで激しく攻撃を放ってくる光に、箒はこののまま不利な状況にはされないと、対抗するように自身もまた苛烈に剣を振るい、防御にも気を配りなからもヒカリに向かって反撃を開始した。が、荒波に打たれた岩が波で少しずつ削られてゆくように、徐々に反撃に移ったはずの箒が光の猛攻に押されて攻撃する余裕が無くなり、いつの間にか防御中心となって後ろへ後ろへと押し込まれてゆく

 

 

 そして

 

「はぁっ……!」

 

 光の攻撃に生じた僅かな隙を狙い、箒が咄嗟に咄嗟に大振り気味な右払いの一撃を放つ。

 

 だが、それが第二の過ちだった

 

 その軌道を読んでいた光は放たれたその一撃を前進しながら踊るように空中で身を反らして回避し、一気に箒の懐へと飛び込んで行く。

 

「し、しまっ……!」

 

 気づいた箒が慌てて剣を戻そうとするが、それは光の反応速度を相手にしては僅かに遅すぎた

 

「たぁっ!」

 

 箒の懐に飛び込みながら光が放ったのは隙が少なく、かつ鋭い居合い切りのようなナイトビームブレードでの横一閃。その一撃は紅椿の装甲を紙のように軽々と切り裂いた

 

「うわぁっ……!」

 

 ヒカリの一閃で急激で急激にシールドエネルギーは減少し、紅椿はナイトビームブレードで斬られた装甲から火花をあげ、翼を失った鳥のようにアリーナの大地へと崩れ落ちていった

 

 

「あの一撃を元に……何と言う奴だ」

 

 一連の光の攻撃を見ていたラウラは珍しく心底、感嘆してそう呟く

 

「あぁ、あの相手に生じた僅かな隙も逃さないのがヒカリの恐ろしい所だラウラ。あれだけ戦闘に優れていて実力で技術にも天才的な物を秘めているとは全く凄まじいとしか言えない……私も、まだまだ鍛えなくてはな……」

 

 その意見を肯定するように慎吾はそう呟き、光に触発され少しだけ熱が込められた口調でそう呟く。

 

 観客席の内では篠ノ之博士特性の紅椿に勝るとも劣らないどころが、確かにリードを取っている光を称賛する声が徐々に大きくなり、光へと大きな視線が集まり始めていた

 

「………………」

 

 と、そんな中、一人、一夏は少し落ち着き無く体をそわそわと動かしながら心配そうに固唾を飲んで倒れた箒を見つめていた

 

「……箒が心配か? 一夏」

 

 それに真っ先に気が付いた慎吾は首を動かすと、そう優しく声をかける。慎吾の声に反応すると、一夏はゆっくりと顔を慎吾の方に向けた

 

「慎吾さん、俺……」

 

「とは言っても、私達はこの試合は箒とヒカリの戦いだ、それを私達が邪魔をしてはならない。それが箒の為でもある……」

 

 不安げな表情で呟く一夏に、慎吾は困ったような笑みを浮かべてそう言い

 

「だが……だからと言って決して、何も出来ない訳ではない。思い出すんだ一夏、以前に箒がお前にした事を。それも、お前も箒にすればいいんだ」

 

 直後にそう、一夏に間接的な形で助言した

 

「そうか……! ありがとうございます慎吾さん!」

 

 慎吾の言葉を受けると、一夏はすぐさま座席から立ち上がり行動へと移す

 

「さて、お前なら理解しているだろうが箒はそれで敗れるほど弱くはない。これからが勝負だぞ。ヒカリ……」

 

 それを見届けると慎吾はそう呟きながら、アリーナへと視線を移した




 今回の『ヒカリvs箒』。一応の予定としてはあと二話で決着を付けるつもりです。


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64話 目覚める紅、もう一つの群青

 この展開が書きたい為にこの編はあったと言える回です


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 大きく紅椿のシールドエネルギーを減らされ、アリーナの大地へと倒れた箒は荒い息でどうにか呼吸を整えようとしてつた。心臓は極限に近い疲労と緊張で破れそうな勢いで鳴り続け、冷や汗も流れ始めていた

 

「(焦りと動揺で二度も攻撃を受けてしまうとは……くっ、これでは何のために鍛練をしたのか分からんではないか……)」

 

 自身が選んでしまった失策をきっかけとして光から二度も致命的な一撃を受けてしまった事でそう内心で想う箒の心には静かな絶望が生まれ始めていた

 

「(やはり私では芹沢には勝つ事が出来ないのか……?)」

 

 紅椿を追うようにアリーナの大地へと静かに着地し自身に向けてナイトビームブレードを構えるヒカリを見ると、箒はどうにか起き上がり自身もまたヒカリに向けて剣を構えるが、箒の心の中には解消できない濃霧のようなモヤモヤが立ち込めてとても精神を集中させて戦う事など出来そうには無い

 

「(私は一体、どうすれば良いのだ……)」

 

 そうして晴れない心のまま、箒が光へと挑もうとした時だった

 

「箒ぃいいっ! 頑張れ! まだまだこれからだぞっ!」

 

 箒の耳に観客席から聞こえる、一つの、しかし決して聞き間違えたりはしないような声が聞こえてきた

 

「いち……か……」

 

 その声を認識した瞬間、相手が目の前で構えていると言う事も一瞬、忘れて箒は声の聞こえた場所に視線を向ける

 

「負けないでくれよ……箒!」

 

 そこには観客席で立ち上がり、額に汗を滲ませ身を乗り出さんばかりに必死になって大声で応援している一夏の姿があり、視線を向けた瞬間に一夏と箒は目が合い、一瞬二人の視線が交錯する

 

「箒、たとえこんな状況でも……お前なら勝てるって俺は信じてるぜ……!」

 

 箒と目があった瞬間、一夏は力強くそう箒にそう告げると笑顔を向ける

 

「一夏……!」

 

 その声を、一夏を見た瞬間、箒の心からは渦巻いていた靄が凪ぎ払われ、突沸するかのように急激に強大な熱を持って跳ねあがった。

 

「(そうだ、私は何を迷っていたんだ……私は一夏と共に戦いたい、一夏の背中を守れるようになりたい。そう願ってこの力を、紅椿を欲したのでは無いか……)」

 

 もはや箒の心には一分の迷いは無い。あったのはただ一つ、純粋かつ力強い一つの願いだった

 

「(私は欲しい……! 一夏が向けてくれる想いに答える力を! 私の願いを叶えれるような力を!)」

 

 そして、紅椿はその箒の強い想いを受け止め

 

「これは……!」

 

 突如、紅椿の展開装甲から赤に混じって黄金の粒子が溢れ出したかと思えば、ハイパーセンサーは機体のエネルギーが急激に回復しているのを知らせる

 

「『絢爛舞踏』、これが私のワンオフ・アビリティー……!」

 

 項目に書かれた文字を読み上げ、箒は新たな自分の力の目覚めに感嘆するかのように強くそう口にした

 

「どうやら……この状況で更に成長したようだな篠ノ之」

 

 と、そんな箒を見て、戦闘が始まってから殆ど言葉を発する事が無く、光がナイトビームブレードを構えたままどこか嬉しそうに箒に向かってそう言った

 

「あぁ……試合中なのに待たせてすまないな、芹沢」

 

「何、俺は既に一年待ったんだ、これくらい待つうちに入らんさ」

 

 それに答える箒の声は口元に笑みを浮かべる余裕があるほどに非常に落ち着き、精神は限りなく完璧に近いほどに研ぎ澄まされ、光と言う強豪と戦う事に対する緊張は、心地好いと感じれるレベルに変化していた

。そんな箒の変化を前にしても光は全く動じた様子は無く、冗談のような口調でそう箒に答える

 

「……それでは、行くぞ篠ノ之……っ!」

 

「あぁ……来いっ! 芹沢!」

 

 そして、二人が確認するかのようにそう言い合った瞬間。

 

 爆発的なエネルギーと二人が同時に動き、今度は地上を舞台として再び互いに超高速で剣技を放つ熾烈な激戦が開始された

 

「(剣にまるで動揺も乱れも無い、いや、それどころかより洗練されてさえいる……やはり芹沢は強いな)」

 

 今までシールドエネルギーが枯渇寸前だった箒が急にワンオフ・アビリティーを発現させ、エネルギーを回復して猛攻を仕掛けていると言うのにも関わらず、まるで動じた様子も無く、自在に振るうナイトビームブレードの剣を振るう光を見て箒は気付けば素直にその精神の強さを賞賛していた

 

「(が、しかし……それでも今の私ならっ!)」

 

 それでも箒はもう、『自分が勝てるのか?』等とはとは全く思わなかった

 

「(剣の軌道が見える! 奴の次の動きが予測出来るっ!)」

 

「くっ……!」

 

 光の猛攻をきっちりと捌き、あるいは防ぎながらも箒の目には剣の軌道がしっかりと見えており、互角の状態から冷静に少しずつ手を早めて繰り出して行く箒の剣撃は次第に光の攻撃を押し返し始め、光を攻撃寄りの体制から防御中心へ徐々に変えさせて行く

 

 そして

 

「せやあっ!!」 

 

「…………!!」

 

 遂に箒の一太刀が光の強固な防御を打ち崩し、ナイトビームブレードを弾いた

 

「行くぞっ!」

 

 その瞬間、箒は光が弾き飛ばされたナイトビームブレードを直ぐ様構え直そうとしているのを、更には構え直した直後に斬撃のカウンターを放とうしているのも見切りながらも、被弾覚悟の瞬時加速で一気にヒカリの懐目掛けて飛び出した

 

「せやぁあぁっっ!!」

 

「うっ……!」

 

 懐に飛び込むなり箒が放つ、肩上から切り裂く問答無用の猛烈な斬撃に思わず光は怯み、ヒカリは後方へとのけ反らされた

 

「まだまだぁっ!」

 

 そろでも箒の攻撃は止めない、光が放った決死のカウンターをも撥ね飛ばし、雨月で更なる追撃を加えてヒカリの装甲から激しく火花を飛び散らせた

 

「そう、何度も決められてたまるか……っ!」

 

 が、光も負けてばかりではいない。箒の二撃めも受けて火花を撒き散らして倒れながらも、咄嗟に倒れ際にナイトビームブレードを振りかぶってブレードから光輝くエネルギーの刃、ブレードショットを紅椿へと放った

 

「うわっ……!」

 

 倒れ際ながらも見事に箒は攻撃後の隙を付いて放たれたブレードショットは紅椿に見事に直撃して、攻撃中の箒を転倒させる

 

「くっ……」

 

「……見事、実に見事だ篠ノ之。まさかヒカリの装甲を二撃で吹き飛ばしてしまうとはな……」

 

 直ぐ様、体制を立て直して起き上がった箒に光は静かに声をかける

 

「それは……」

 

「あぁ……これが本当の……いや、もう一つのヒカリの姿だよ。篠ノ之」

 

 声をかけられた箒は、ヒカリの姿を見て思わず息を飲む

 

 ヒカリの姿は先程の箒の連撃によって装甲を剥がされ、先程とは大きく異なる姿を見せていたのだ。

 

 より鮮やかになった青と銀色のボディ、その胸で輝くのは形状こそ違えどゾフィーと同じくカラータイマー。そして銀仮面に作られたどこか優しい白い瞳が箒がじっと箒を見つめていた

 

「互いにシールドエネルギーは多くは残されていまい……次の一撃で決着を付けよう」

 

 身軽になったヒカリは、箒にナイトビームブレードを突きつけてそう告げる

 

 ヒカリの胸では赤くカラータイマーが点滅していた




 次回、決着


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65話 終わる激闘、握られた手

 今回で決着となりますが、この二人の勝敗を決めるのは大変悩まされました。それこそ直前までどちらが勝つか悩みましたが、一応、自分なりに決めさせて頂きました


「……………………」

 

「……………………」

 

 箒と光は互いにそれぞれのIS、紅椿とヒカリ自慢の武装たる雨月とナイトビームブレードを構え、一定の距離を保って無言のまま向き合っていた。

 

 箒が絢爛舞踏を発動させてからの僅か数秒の激戦により互いのシールドエネルギー激減しは共に相手の一撃が当たれば即座に沈められる程度。ほんの僅かにでも無駄な行動は許されないような状態だ。

 

 だからこそ、二人は意識を究極と言えるレベルにまで集中させて、相手に決まり手となる一撃を与えるべく、この戦いに決着を付けるべくまるで武士同士の決闘のように互いに剣を構えて向き直っていたのだ

 

 

「………………」

 

 無言のまま光は音を立ててアリーナの大地を踏み締めながら、ゆっくりと横に移動する。試合開始からつい十秒程前にまでヒカリの全身を包む防御する鎧と同時わにヒカリ事態のエネルギーを増幅させる役割を兼ねていた『アーヴギア』と呼ばれる装備は既に先程の雨月の連撃で大破してしまいこの試合ではもはや使用不可能。更に胸のカラータイマーが赤く点滅してヒカリの残りエネルギーが枯渇しかかっている状態ではあったが光自身には全く動揺は見られず、ナイトビームブレードを深く構えて瞬きすらも忘れる程に箒に意識を向けていた

 

「………………」

 

 移動する光に合わせて脚を運び、油断無く雨月を構える箒の紅椿もまた、大地に倒れ伏した時よりはシールドエネルギーが回復こそしているが、それでも全身に渡ってナイトビームブレードが掠めた後やナイトシュート、ブレードショットが直撃した痕跡がはっきりと残り余裕などは決して残されていない事が目に見えて明らかになっていた

 

 そんな互いに一言も発しない、しかし二人から放たれる闘志とプレッシャーが激突して聞こえざる音が聞こえているような重い緊張感に満ちた時間が永遠のようにも続くかと思われた時だった

 

「……たああぁぁっっ!!」

 

「はぁあぁぁっ……!!」

 

 瞬間、その切っ掛けがどちらかが相手の隙を見つけたのか、あるいは何気なく吹いた一陣の風が切っ掛けなのか、ともかく二人は弾かれたような勢いで相手に向かって走り出し残された全ての力を解放せんとばかり力強く声を発すると、最も相手に接近した瞬間、互いに蒼と紅、それぞれの斬撃を繰り出した

 

『きゃあっ……!?』

 

 箒と光の斬撃のエネルギーが激突した瞬間、相手にぶつけても尚、余ったエネルギーは周囲で爆発と同時に周囲の土を巻き上げて二人の姿をかき消し、その余りに激しく、そして壮大な光景に思わずこの試合の司会を担当していたが二人の対決に飲まれてあまり話す事が出来なかった女子生徒は悲鳴を上げる

 

 そして爆風と土煙が収まった瞬間、アリーナに現れたのは

 

「ぐっ、うぅっ……」

 

「うわぁっ……くっ……」

 

 ともにISが解除され、アリーナの大地に力無く倒れて苦しげにうめく光と箒の姿だった

 

 

「えぇっ!? ちょっ……これ、まさか引き分け!? ここまで来て、そりゃちょっと無いでしょ……?」

 

 アリーナに広がる衝撃的な光景を見て、信じられないと言った様子で鈴がそう叫ぶ。

 

 確かに箒と光、二人の激しい剣撃が炸裂する序盤から始まり、劣勢と優勢が交錯し、互いに奥の手を見せても尚、互角の状況であったこの名勝負の終わりが『引き分け』で、終わるとは理解こそ出来るものの簡単には余り納得できる話では無い。想定外の決着に観客席に動揺の波紋が広がり始めた

 

「……待って! 映像での判定に入るみたい!」

 

 と、そこでアリーナ内の大型モニターには試合の様子を撮影し続けた映像が流れだし、映像にはまさに剣を構えた二人が交錯して互いに一閃を放つ瞬間のスローモーションと画面端に二人の残りエネルギーシールドの値が表示された、シャルロットの声を切っ掛けにモニターに観客席全員の視線が集まった

 

 一部分を切り取って拡大し、より見やすいように加工された映像の中でも二人の刃は同時に放たれ、同時に命中したかのように見えていた。が

 

「あっ…………!」

 

 流れる映像を更にスローにするとほんの僅か、薄紙一枚にも満たない程に僅かではあるが、片方の刃が先に命中し僅かに相手の装甲を切った直後、相手の斬撃を受けて倒れていた。それに気付いた一夏が小さく声を上げた瞬間、遅れてブザーと共に決着を告げるアナウンスが流れ

 

『試合終了、勝者芹沢光』

 

 光の勝利を告げるアナウンス音声と共に観客席は揺れるような歓声と拍手に包まれた

 

「やったな……光」

 

 その中で慎吾は席に腰掛けたまま小さくそう呟いて光に微笑みかけ、静かにその勝利を祝福するのであった

 

 

「……敗北か」

 

 流れる音声アナウンスにより、剣が交錯した時から感じていた小さな予感が現実へと変化した事を知った箒はアリーナの大地で小さく溜め息をつく。が、自身が敗北したと言うのに箒のその表情は落ち着いており、どこか安らかささえも感じられるような微笑みさえも浮かべていた

 

「だが、何故だろうな……ふふ、不思議と晴れやかな気分だ」

 

 事実、箒の心には当然ながら光に瀬戸際の攻防で敗北した悔しさはあったものの、それと同じくらい自分の持てる力の底まで全て出しきり、自分が戦う意味を改めて決意出来たこの試合をどうしようも無いくらいに満足していたのだ

 

「し、篠ノ之……」

 

 と、そんな箒の元に光がダメージと疲労で所々でよろけながらも自分の力で歩き、腕が届く程の距離まで箒に近付くと、ふらふらで倒れそうな体を屈めて手を差し出す

 

「最高の勝負だった……ありがとう篠ノ之。……いや、君の強さを称えて、俺も箒と呼んで構わないか?」

 

「…………!!」

 

 そんな光に箒は一瞬、呆気にとられた様子だったが

 

「礼を言うのは此方の方だ……! 光よ……」

 

 そう言うと、すぐに笑って光の手を取り、それに答えた

 

「折角、同じ学園に入ったんだ……また、戦おう」

 

「あぁ……!!」

 

 どちらからともなく交わされたその約束は、興奮が覚めやまないアリーナの中にひっそりと響いていった




 オリジナル編は今回で終了。次回からは、原作に戻ります


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66話 ゾフィー白熱の模擬戦、組むべき相手とは

 


「……っぐ! うおおおぉぉっ!!」

 

 避け損ねたゾフィーのスラッシュ光線が命中しても一夏は攻撃の手を止めず、第二形態となった白式で一気に慎吾へとつめより零落白夜の輝きを持つ雪片を振るう。

 

 九月の三日、二学期初となる一組二組との実戦訓練。その中で行われた一夏と鈴の試合後、どちらかの組の誰かが呟いた一声で実地された慎吾と一夏の戦いは、序盤、慎吾の猛攻に押されていた一夏が粘りに粘ってどうにか食い付き、隙あらば零落白夜の一撃で沈めんとする。緊迫した戦いが超時間に渡って続いていた

 

「早い!? ……だが!」

 

 白式目掛けて弾幕状に無数に放ったスラッシュ光線が予想に反して命中せず、更に一気に距離を詰められて慎吾は一瞬焦りを見せる。が、すぐに構えを変え

 

「んなっ……!?」

 

 一夏の振るう横凪ぎの一閃が今まさにゾフィーに命中せんとしたその瞬間、慎吾は空中で背後に倒れるように大きく身を反らして本当に際どい所で零落白夜を回避してみせた。その事に一夏は驚愕の声を上げるが、まだ慎吾の行動は終わらない

 

「ふっ……!」

 

 反らした勢いのまま、ぐるっと空中に円を描くように一回転した慎吾は一瞬で一夏への背後へと回り込むとゾフィーの両腕で一夏の腕を掴む

 

「はあっ!!」

 

 と、慎吾は一夏を拘束したまま残像が見える程の猛烈な勢いでその場で回転する。そして回転速度が限界点にまで達した瞬間、生まれた強大や遠心力とゾフィーの持つパワーを持って一夏をアリーナの大地に向かって投げ飛ばし、急激に腕から解放された一夏は成す統べなくそのまま大地に激突し、土煙を巻き起こした

 

「ぐうっ……!」

 

 立ち込める土煙の中、一夏は刀を杖のようにしてどうにか起き上がり、投げられた事で受けた衝撃による傷みを堪えながら首を上げて宙を見つめる

 

「行くぞ……!」

 

 その先、上空で一夏を待つように腕組みをしていた慎吾は一夏が大地に立ち上がったのを確認すると、空気を切り裂きながら一夏へと向かって勢いよく突進するように動き出し、白式を狙って空中で蹴りの構えをとった

 

 その胸のカラータイマーは試合中に幾度も装甲をかすめた零落白夜と、回避や攻撃に使用した瞬時加速、自身のシールドエネルギーを消費して発動する光線類の影響等で大方が減らされており、既に赤く点滅し、エネルギーの底が見え始めている事を警告していた

 

「おおおおぉぉっ!!」

 

 それに対抗するように一夏も気合いの掛け声と共に刀を構えて迫りくるゾフィーを迎え撃つ。その構える雪片にも既に先程のような零落白夜の輝きが残っておらず、通常の物理的に変化していおり、既に白式のシールドエネルギーもゾフィー同様に決して多くは残されてない事が目に見えていた

 

 そして次の瞬間、ゾフィーの飛び蹴りと白式の斬撃が同時に炸裂し、試合終了を告げるアラームが鳴り響いた

 

 

「ううむ、引き分けるとは……甘かったか」

 

「ぐう……また慎吾さんに勝てなかった……しかも今日だけで二連敗かよ……」

 

 実戦訓練が終わり、片付けを終えて慎吾達は昼食を取りに来ていた。が、未だに慎吾はどこか吹っ切れて無い様子で首をかしげ、一夏は本日勝ち星無しと言うショックを未だに引きずっているようだった

 

「全く……大の男二人がいつまでそうしてるつもりよ」

 

 そんな二人の様子を見ていた鈴は食事の手を止め、少し呆れたように溜め息を吐きながら呟く

 

「だって俺パワーアップしたのに、鈴にも、スピリットになってない慎吾さんにも勝てないなんて……」

 

「うむ、私のゾフィーも一夏の事はとやかく言えないが、白式は確かに大幅に強化されねはいるがエネルギー消費も一層激しくなっているからな。それに一夏……」

 

「な、何ですか慎吾さん?」

 

 と、言葉の途中で慎吾はちらりと一夏に視線を向け、突然視線を向けられた一夏は何かしら思い当たる節があるのか少し動揺しながら慎吾に返事を返し、慎吾はそんな一夏を少し見てからゆっくりと口を開いた

 

「うむ、実は先程の試合でも感じていた事だが……一夏は少々、雪羅での無駄撃ちが多すぎるのでは無いか? 仕方がないとは言えあれではすぐにエネルギーが尽きてしまうだろう」

 

「うっ……」

 

 慎吾がその言葉を口にした瞬間、一夏は気まずそうに顔をしかめる。

 

 事実、つい先程の慎吾と一夏の試合でも一夏は序盤から慎吾に向けて幾度も雪羅の荷電粒子を放ってはいたが、その軌道を慎吾に軽く読まれ殆んどが難なく回避され、終いには荷電粒子砲を避けるついでの反撃とばかりに放たれたZ光線の直撃を受けてしまう場面もあった

 

「エネルギー……エネルギー運用かぁ……ああ、俺も慎吾さんみたいにウルトラコンバーターさえあればなぁ……」

 

 慎吾の話を聞くと一夏は悩みながら頭を抱えると、大きく溜め息をつき俯いたまま慎吾に視線を向ける

 

「おいおい一夏、この現状では無理も無いが、無い物ねだりはあまり感心しないぞ?」

 

 一夏の言葉に慎吾は困ったように苦笑しながらそう答えると、ふと自身がゾフィーを展開させている時に通常ウルトラコンバーターを装着している右手首に視線を向ける

 

「……それに、ウルトラコンバーターはヒカリが『私に』と作り上げて送ってくれた物だ。たとえ渡せたとしてもお前にやる訳にはいかんよ。悪いな」

 

「そりゃそうですよねぇ……」

 

 慎吾の言葉を聞くと、一夏は予めその答えを予想したらしくそう言ったが、やはり多少なりともショックはあったらしく、ますます机の上で大きく項垂れた

 

「だからな一夏……」

 

 そんな一夏を見捨てる事が出来ず、慎吾が何か一夏を励ませるような言葉を語ろうした。が

 

「あ、安心しろ一夏! そんな問題は私と組めば万事解決だ!」

 

 その瞬間、啖呵を切るように、光との試合で自身の最小のエネルギーを増大させるワンオフ・アビリティー『絢爛舞踏』を目覚めさせた箒が腕組しながら立ち上がりそう述べる

 

「ふん、おにーちゃん以外に、嫁は渡さん」

 

 それに負けじと次に動いたのはラウラであり、そう言いながら全く躊躇無く一夏の腕を引き寄せるとそれに抱きついた

 

「ちょっ!? 組むなら幼なじみな上に近接も中距離もこなせて白式と相性もバッチリなあたしでしょ! って言うか、あんたは一夏の腕から離れないよ!」

 

「皆様、揃って勝手な事を……! この場は白式の苦手距離から慈母の如く守れるわたくし、セシリア・オルコットを選ばない手は無いでしょう!? ねぇ一夏さん!?」

 

「……一夏、ここは無難に前に組んだ経験があって、しかも優勝と言う結果まで残せた僕がオススメだと思うよ?」

 

 それに遅れまいと、鈴が立ち上がりながら一夏の腕からラウラを引き剥がそうと汗を流し、三人に比べて少し出遅れてしまったセシリアは何とか遅れを取り戻そうと懸命に一夏へとアピールし……そしてシャルロットはそんな最中、何気無い様子で微笑みを浮かべて一夏に囁いた

 

「(やれやれ……これは当分、静まりそうにないな)」

 

 もう少し騒ぎになったら止めに入ろうと想いながら、慎吾は昼食と一緒に注文したブラックコーヒーを一気に飲み干しながらそう内心で苦笑した。

 

 その後、誰か選ぶかの騒動の末に一夏が、『皆も無理して男と組む事は無いだろ』と謎の気を効かせて、『俺は組むなら、慎吾さんと組む』と答えた為に、納得して大人しく席に着いたシャルロットとラウラを除いて、慎吾は箒、鈴、セシリアの三人に囲まれる事になり話はますますややこしくなるのだが、昼食を取りつつ騒動を眺めるこの時の慎吾には知るよしも無かった




 少しだけ余裕があると、思っていたら結局いつも通り程に……でも、それなり満足ゆく話を書けたような気がします


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67話 イレギュラーな遭遇。最強とゾフィー

根気よく粘った慎吾の心力で、どうにか昼食時の騒ぎ収束させ、午後の実習が行われるアリーナに向かうべく慎吾と一夏は実質自分達専用となっているロッカールームにいた

 

「さて、私はそろそろ行く。先に待っているが……授業開始まであまり時間は無い、気を付けろ一夏」

 

 既にISスーツへと着替え終えた慎吾は、同じく着替え終えた一夏の白式の調整をしばらく手伝っていたが時間が近付いた事もあって一夏にそう告げ、コンソールに向き直ったまま一夏が背中で返事をしたのを確認すると、先にロッカールームを後にし、アリーナへと向けて歩きだし

 

「あら……?」

 

 唐突に、本当に何の前兆も無く、曲がり角で出会い頭に、扇子を手にした一人の女子生徒に遭遇した

 

「なるほど、あなたが……んふふ」

 

 女子生徒は一瞬だけ突然現れた慎吾に驚いていた様子ではあったが、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべて慎吾に視線を送り始めた

 

「…………?」

 

 そんな、どこか不透明で神秘的な雰囲気が特徴的な自分とは初対面である少女、それも光と同じリボンの色から二年生の少女よ行動に少しばかり奇妙な行動に慎吾は困惑させられて何も言うことが出来ず、ただ少女に視線を送り返していた

 

「ふむふむ……確かに光ちゃんに、言わせる程の事はありそうかしら」

 

 慎吾をじろじろと、しかし不思議な事にあまり不快さを感じさせずに観察していた少女はどこか満足そうにそう言うと、心地の良い通る音を立てて扇子を開いた

 

「……もしかして、あなたは楯無会長。更識楯無生徒会長ですか?」

 

 少女、更識の手にした扇子に書かれた手書きなのか達筆な『お見事』の文字を横目で見ながら、慎吾はそう楯無に尋ねる

 

「お? そんな簡単に女の子の名前をピタリも言い当てるなんて……大谷慎吾君も皆に人気があるだけの事はあるね」

 

 そんな慎吾に楯無は少々わざとらしく驚いたような素振りを見せると、男女共に魅了されてしまうような笑顔で慎吾にウィンクを送ってきた

 

「生徒会長の話は光からも聞いていましたから……ええ」

 

 何気無く行われる楯無のそんな仕種に慎吾は更に困惑し、額からは汗も滲み始めたが慎吾は何とか汗をぬぐい出来うる限り平静を装って楯無に返事を返した

 

「うん……今日はこのくらいでいいかな。それじゃあ慎吾くん、さようなら。また、近いうちにね」

 

 そんな慎吾の気持ちを知ってか偶然か、楯無は何か納得したように手を叩くと、再び慎吾に笑いかけると慎吾の脇を通り抜け、廊下の奥へと立ち去っていく

 

「そ、それでは……楯無会長」

 

 そんな楯無の背中に軽いお辞儀と共に慎吾は挨拶して見送ると、仕方が無いとは言え楯無と話す事で遅れてしまった時間を取り戻すべく少しだけ早足でアリーナに向かって動き出した

 

「(しかし、直接会ってみれば楯無会長は……実に不思議な人だな)」

 

 早足で道を歩いて行きながら慎吾は先程出会った、簡単には忘れる事など無い。どこか神秘的で魅力のある人間性をしていた楯無の事を思い出し、小さく苦笑した

 

「(先程、楯無会長は別れ際に『また』と言っていたが……何故だろう。私も近い内に再び会う事になりそうな気がしてならないな)」

 

 そうして考えながらも早足で歩いていたのが幸を制したのか、慎吾は全体から見れば遅めとはなるが、授業開始まで幾分かの余裕を持ってアリーナへとたどり着く事ができ、慎吾が列に並び終えて少しした所で授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。が

 

「(一夏の奴……いささか遅くはないか?)」

 

 授業が開始して既に三分が過ぎている。のにも関わらず何故か一夏が一行に姿を見せない。その事でクラスメイト達は少しずつざわめき始め、そして千冬は表

面上こそ何時もと変わらぬ表情に見えるのだが、時間が過ぎてゆくのと共に少しずつ静かに怒りを蓄積させているのが慎吾には分かってしまい、それが自身に向けられているのでは無いと理解しても慎吾は少し背筋を寒くさせられた

 

「ねぇ……お兄ちゃん、一夏がどうして遅れてるか何か分からない?」

 

 と、そこで慎吾の近くに立っていたシャルロットがこっそりとそう尋ねてきた

 

「うむ……私が見たときは、着替えを終えてまだロッカールームでコンソールを弄っていたが……ん?」

 

 シャルロットの問いに慎吾は鮮明に記憶を思い返し、ふと、ある事に気が付いて思考を一時的に別の方向へと移した

 

「(そう言えば……あの時、去り際に楯無会長はどこに向かって歩いていった? ……あまり見なかったが楯無会長が歩いていった方向は私と一夏が利用しているロッカールームだったような……。いやまさか……だが、しかし……)」

 

「……お兄ちゃん? 急に難しい顔をしてどうしたの?」

 

 と、思考に浸る慎吾がよほど難しい顔をしていたのか、そこでシャルロットがそっと慎吾の肩を揺らし、心配そうに尋ねてきた

 

「あ、あぁ、すまないシャルロット。私とした事がいらぬ心配をさせてしまったようだな」

 

 その事に気が付くと慎吾は直ぐに思考を中断すると少々慌てて、シャルロットに視線を向け少し恥ずかしそうに頭を下げた

 

「とにかく……私はこの通り大丈夫だ。安心してくれ」

 

 続けて更にシャルロットを安心させるべく慎吾は、千冬の目を盗んで一瞬の隙を付くと、自身の無事を強調するようにシャルロットの前で力強く腕を組んだ

 

「ふふっ、うん……お兄ちゃんが言うなら本当にお兄ちゃんは大丈夫なんだろうね」

 

 そんな慎吾を見てシャルロットは楽しそうに笑うと心から安心したようにそう言った

 

「それで……お兄ちゃんはどうして悩んでいたの?」

 

「あぁ……それが一夏の事なんだが……」

 

 そんなシャルロットの純粋な問いに少し迷いながら、慎吾が正直に話そうとした瞬間

 

「す、すいません! 送れまし……!」

 

 見計らったようなタイミングで一夏が額に汗を浮かべ慌ただしく姿を表し

 

「一応は……遅刻の言い訳くらいは聞いてやろう」

 

 直後、千冬の鋭い眼光を向けられて、瞬間冷凍でもされたかのように凍り付いた

 

「……ち……! お、織斑先生……実はですね、見知らぬ女子生徒にロッカールームでいきなりですね……こう、後ろからいきなり……」

 

 数秒程、硬直していた一夏は数秒の時間をかけてどうにか動き出し、滝のように汗を流しながら目に見えて動揺しまくった状態で弁解を始めた

 

「(おいおい一夏……その言い方では……)」

 

 が、動揺のせいなのかその内容は慎吾のように大体の状況を知っている人間で無ければ誤解を招きそうな言葉でしか無く、行く末を杞憂して思わず慎吾は額から汗を流す

 

「へぇ…………」

 

 いや、既に手遅れだったのか先程まで楽しそうに話していたシャルロットの顔には既に一筋の血管が走っていた

 

 

「(これは……どうしたものか)」

 

 当然、言い訳が通用せず正面でますます焦る一夏、背後で額に血管を浮かべながら全く笑ってない笑顔で一夏を見つめるシャルロット。そんな二人に挟まれ慎吾は内心で大きくため息をつくのであった




 今回の話で少し久しぶりの感じがする、兄&苦労人ポジションの慎吾です。落ち着いて理性のある事を意識して書くと慎吾はどうしてもこのような状況に……


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68話 悩みのゾフィー、波乱と騒動の学園祭!……の、始まり

 


「午後の授業ではすまなかったな一夏……私としたことが庇うことができなかった……」

 

「は、はは……いいですよ慎吾さん。謝る必要なんか無いです」

 

 その日の夕方、寮の自室に戻って自身のベッド腰かけるなり慎吾は一夏に謝罪し、一夏は自分のベッドにうつ伏せになった状態のまま、未だに疲労が残っている様子の表情でそう言って慎吾の謝罪を止めさせる

 

 結局、あの授業では慎吾がどうにかして千冬、そしては目だけが笑っていない笑顔を浮かべるシャルロットに事情を説明しようと試みるが、その頃には千冬の指示でシャルロットのラピッド・スイッチの実演、の『的』になった白式がひっくり返り、一夏がのびている所であった

 

「しかし……一夏には悪いが、シャルロットの戦い方らは見事だな」

 

 慎吾は少し遠慮するように声を押さえながらも、午後の実習での空中制動訓練を兼ねての対戦で、自身も対峙したシャルロットの鮮やかな動きを思い出して感嘆したように呟く

 

「あの一戦はゾフィースピリットの能力をフルに使って全力で挑んでも辛勝がやっとだった……それも僅か一手でも違えば敗北していたのは私だっただろう」

 

 一応、ゾフィーが第二形態であるゾフィースピリットに変わってから試合で慎吾は一応、『敗北は、無し』と言う結果を納めていたが、その試合がどれも辛勝、あるいは引き分けと言うなれば形になっており余裕を持って勝利を掴んだ試合など殆んど存在しておらず。慎吾は遥かに火力や機動力がました第二形態に移行しても『3分』と言う制限時間が付いた事でむしほ以前よりも慎重に戦う事を余儀なくされていた

 

「(そう、シャルロットやラウラは何の問題もなかった。ただ……)」

 

 授業での記憶を甦らせているうちに、ふと一つだけ授業中にどうしても気になった事を思い出して慎吾は部屋のベッドに腰掛けたまま黙って腕を組んだ

 

「(セシリアの様子が明らかにおかしい。いつものセシリアならあの程度の一撃は回避するはずだが……)」

 

 慎吾が熱心に思い返していたのは、午後の実習で対峙したセシリアとの試合様子。何やら試合序盤からビットでの射撃が明らかにとまでは言えないが僅かに甘く、スターライトでの射撃もいつもより苛烈で発射数こそ多いもの、どこかキレが無く見切りやすかった。終いには慎吾が牽制として放ったZ光線を避けきれず直撃を受けて敗北をしてしまった程だ

 

 この事について授業終了直後に慎吾は出来うる限り言葉を選びながらセシリアにそれとなく尋ねてみたもののセシリアは『少し調子が悪かったのですわ』と、だけ慎吾に答え、それ以上は何も答えようとはせず、セシリア自身が口にこそ出さないものの『答えたくない』と言う様子の雰囲気を醸し出していた為に慎吾もそれ以上は問いただす事を諦めていた

 

「(当人から聞けない以上、あくまで推測でしか無いがおそらく理由は……焦りだろうな。唯一、自分だけが白式第二形態に負けた事の)」

 

 しかし、セシリア本人から答えが聞けなかったとは言え、慎吾はその理由は大体の見当自体は付けていた。

 

 そう、慎吾を含めた全員が一度は第二形態と刃を交え、BT兵器しか積んでおらずいくら攻撃してもエネルギーを無効化されてしまう状況を抜けきれず、セシリアただ一人だけが敗北し、土を付けられていたのだ

 

「(セシリアは心に高い誇りを持っている……今回はそのプライドが裏目に出てしまったのだろう。だとすれば……それを私一人で解決するのは不可能に近いだろうな)」

 

 そこまで考えて深いため息を付きながら、慎吾は観念するようにベッドにあお向けに横たわり、汚れの少ない天上を見上げる

 

「(やはり、この問題は今は、同じ女性……シャルロットに任せた方が良いだろう。私は……今は下手な手出しはしないでおこう)」

 

 やがて慎吾は冷静に考えたうえで、セシリアに質問を断られ僅かに途方に暮れた時に『僕に任せて』と告げてくれたシャルロットを全面的に信じる事に決め、少しだけベッドで仮眠を取り、日課となっているトレーニングを再開し始めた

 

 ちなみにこの慎吾の一連の行動を見ていた一夏は寝た体勢のまま首をかしげ

 

「(ずっと悩んでると思ったら急にトレーニングを始めて……慎吾さん今日は一体どうしたんだろ……?)」

 

 と、心底疑問に思っていたのであった

 

 

 翌日、今月中にまで迫った学園祭についての説明と言うことでSHRと一時間目の授業時間の半分を大胆に使って全校集会が行われ、学園の生徒全員は学園内のホールに集合していた

 

「しかし……こうして学園の全校生徒が集合した所を見させられると、改めて学園内に男子生徒達が私達だけだと言うことを強く実感させられるな……」

 

「ですね……俺、慎吾さんがいてくれなかったら、この学園に男子が俺一人だけだったら……絶対に今より居心地悪かったと思いますよ、この光景見てると」

 

 周囲から頭一つ飛び抜けた身長でホールに集合した生徒を見渡した慎吾が感慨深く呟くと、一夏もそれに頷きそう答え苦笑した

 

「はは……それは私もだ一夏。きみがいなければ私も落ち着いた学園生活は送り辛か……おっと、話はここまでにしておこう」

 

 そんな一夏に慎吾は返事しかけたが、丁度同じタイミングで生徒会役員の一人が生徒会長が壇上に上がるのを告げ、慎吾は咄嗟に話を中断させると壇上に視線を向ける

 

「やあみんな、おはよう。ちゃんとした挨拶がまだだったけど、私が君達生徒の長、名前は更識楯無よ。以後よろしくね」

 

 壇上には当然と言うか、楯無が立ち微笑みを浮かべながらそう言って全員に挨拶をしていた

 

「あら……ふふっ」

 

 と、そこで慎吾は偶然にも楯無と視線が合い、視線が合うと楯無は笑顔を浮かべながら慎吾に向けて軽くウィンクを送ってきた

 

「どうも……」

 

 そんな楯無の行動にどう返すか、一瞬だけ悩んだ慎吾ではあったが結局、一秒後は自身も笑顔を浮かべて頭を下げると言うやや無難な対応を慎吾は取っていた

 

「さて、今月の学園祭の事だけど、今年に限り特別ルールを導入させて貰うわ……それが」

 

 そんな慎吾を一瞬だけ見て楯無は一度だけ笑うと、どこに隠し持っていたのか扇子を取りだし、横へとスライドさせる。その瞬間、空中投影ディスプレイが浮かび上がり

 

「え…………え?」

 

「これは……参ったな。本当に……」

 

 そのディスプレイに表示された内容を見た瞬間、一夏は驚愕に目を見開き、慎吾は心底弱ってしまったらしく額に冷や汗を流しながら早くも頭痛がし始めた頭を抱えた

 

「その名も、『織斑一夏vs大谷慎吾! 各部対抗争奪戦』っ!」

 

 ディスプレイに非常に大きく表示された慎吾と一夏の写真と共に楯無が扇子を開きながら華麗にそう宣言するとホール内は冗談でも比喩でも無く、揺れるような叫び声に包まれた

 

 うっすらと慎吾自身も予想はしていたが、どうやら例え学園祭だとしても慎吾の気の休まる暇は与えてくれないようだった




 学園祭で……慎吾の旧友としてメロスやネオス、21を少しだけ出そうかと考えていますが……無難に行くとケンとその家族を登場させるつもりです。


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69話 特別SHと奇天烈意見、執事長の再来

 


「(やれやれ……それにしても、楯無会長は本当に突拍子も無く、あのようなアイディアを出してくれるな……)」

 

 その日の放課後、特別HRの時間、慎吾は少しだけ思考を移し、忘れたくとも忘れる訳もない全校集会での出来事を思い出すと大きくため息を付いた

 

「(もう、そろそろ一夏の助けに入らなくては。……経緯は殆ど理解不能だが、現実的に事態は私も大きく関わりがあるように変わり始めているし……)」

 

 と、そこで慎吾は思考を中断し、クラスの皆からの奇妙かつ無茶な意見に特別HR開始辺りから振り回され続けている一夏の助けに入ることにした

 

「却下! と、言うから……頼むから、皆、もうちょっと普通の意見を出してくれ!」

 

 

 今もまた、一人のクラスメイトから出された『織斑一夏、大谷慎吾とドキドキ二人きりでお座敷遊び!』とか言う何だか譲歩しても学生に相応しいとは思えない怪しい雰囲気の出し物の意見を一夏は悲鳴にも似た声で却下していた

 

 ちなみにこれまでに、出された意見は数多くあっまが、中でも少数ながら支持があった意見は

 

 『織斑一夏&大谷慎吾の奇跡のWミュージカル(ポロリもあるよ)』

 

 『織斑一夏vs大谷慎吾! 肉体美見せます、ファッションショーバトル!』

                        

 『優しく丁寧に! そして笑顔で分かりやすく! 二人が体を張って教えます! 慎吾先生兄貴のゼロから始める護身術講座! 助手 織斑一夏』

 

 と言った二人の男子がいると言うネームバリューを隠そうと言う意思を欠片すらも見せない程にごり押しし、尚且内容が破天荒極まりないと言うレベルものばかりであり一組クラス代表である一夏が手に追えなくなっているのも当然の結果とも言えた

 

 ちなみに、このような混沌とした状況の中でこそ助けになるばすの教師陣はと言うと、千冬は心底呆れた顔でため息一つと共に『職員室に戻っている、決まったら報告に来い』とだけ言って早々と教室を後にしてしまい、真耶に至っては『わ、私は護身術講座がいいと思いますよ……?』と言ってこっそり護身術講座に決めていこうとして行こうとする有り様であり、とても力は期待出来ない

 

「(そもそも慎吾先生兄貴とは一体何なんだ……? 日本語として間違ってはいるじゃあないか)」

 

 真耶が徐々にと力を入れ始めた事により他の意見に比べてリードし、始めている自身を中心として動く護身術講座について考えながら冷や汗を流す慎吾

 

「だいたい誰が喜ぶんだよ、こんな出し物を!! 外部から学園祭を見に来た人達が引くぞ!?」

 

 そんな欲望と混沌が溢れるこの状況に耐えきれなくなったように一夏が叫ぶ

 

「無い無い、絶対に引かないよ。むしろ需要バッチリ!!」

 

「って、言うか需要がありすぎて供給が追い付かなくなるって!」

 

「じゃあ逆に聞くけど、織斑くんと大谷さん……二つの異なる筋肉のハーモニーを今見せなきゃ、いつ見せるって言うの!?」

 

「少ない二人の男子を一組の為に! ……多くの生徒達から独占する訳にはいかないんだ!!」

 

「あぁっ……もうっ!!」

 

 が、帰ってくるのはどこか一種の錯乱に近いほどの興奮と欲望に彩られたクラスメイト達の声であり、それを聞いた一夏は貯まりかねた様子でそう言うと両手で頭を抱えてがっくりと項垂れた

 

「……こほん。なぁ、みん……」

 

 そんな一夏を不憫に思い、そろそろ本格的に助け船を出そうと慎吾が息を整えて声を出そうとした。と、その時

 

「ふむ、ならば……メイド喫茶でどうだ?」

 

 騒動の最中にある教室の空気を穿つように、ラウラがそう発言し、その後も淡々とした口調で『客受けが良い』、『休憩所としての需要も補える』と言ったようなメイド喫茶の利点を説明し、普段のラウラの言動からは想像も出来ない、夢や幻覚とか思えないその行動に、慎吾を含めた教室中の殆ど全員が唖然とさせられていた

 

「あっ、それはいいんじゃないかな?」

 

 そんな中、真っ先に動いたのはシャルロットであった

 

「一夏やお兄ちゃんには……厨房とかの裏方……でなきゃ、執事なんて……」

 

 ラウラの援護をするような形で言葉を続けるシャルロット、しかし言えたのはそこまでで

 

 

『執事!! それだあぁっ!!』

 

 

 

 シャルロットの口から『執事』と言う言葉が発せられた瞬間、事前に打ち合わせてでもしたかのようにクラスの女子達が一斉にハモる形でそう言い、その有り余る程の勢いは教室を一瞬、振動させた

 

「大谷さんの白い執事長リバイバルだけじゃなくて、新たに織斑君の執事姿まで!? その案、素晴らしく完璧っ!!」

 

「よし、それで決定! 異論は認めない!! ってか、認めさせない!!」

 

 さながら器にたっぷり貯まったガソリンに火の付いたマッチを投げ込んだかの如く、目に止まらぬ程の速さと、熱、そして一年一組始まって以来の一体感を持って話は決まってゆき、それは先程までの奇天烈な提案で精神が疲労していた一夏や、発言しようとした瞬間に躓いてしまった慎吾では止める事などが出来る筈は無かった

 

 かくして、あれほど難航していてた一組の出し物はラウラとシャルロットの提案、そして圧倒的賛成意見によりメイド喫茶……もとい『ご奉仕喫茶』と、幾分かマシになったもののやはり怪しい雰囲気漂う物になったのであった

 

「(今回は、出遅れた私の責任だから仕方が無いが……また執事服か……まいったな……)」

 

 もはや自身が再びあの真っ白な執事服に袖を通す事が確定事項である事を知った慎吾はへたりこむように机に崩れると、小さく苦笑した

 

 

 

 一方その頃、日本から遠く離れたアメリカでは事務仕事の真っ最中であったナターシャは『近日中に何故か日本に行かなくてはならない気がする』と、突如、乙女の直感が囁き、誰にもいらぬ文句や不満を言われずに有休を得るべく鬼気迫る勢いでキーを叩きだし、事情が分からぬ同僚達を恐怖させるのだが、そんな事を日本にいる慎吾はまだ知る筈が無かった




 前からちょこちょこ、姿を見せていた筋肉フェチの女子生徒……名前をこっそり募集しています


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70話 職員室前、生徒会長とゾフィー

「個々の想いが重なって一つになると、それは凄まじい力になる。……まさか、それをこんな形で思い知らされるとはな……やはり人生とは先が読めないものだな」

 

「し、慎吾さんも大分、まいってるみたいですね……」

 

 職員室へと続く道を一夏と連れ立って歩きながら慎吾が頭を抱えて呟き、一夏はそれを見て苦笑しながらもその表情では『無理も無い』と語っていた

 

「あぁ……正直に言えばまいってるな。……しかし、それでもあれは皆の公平な投票で決まった結果だ。受け入れるほかあるまい」

 

 一夏の言葉を受けて少しだけ気力を取り戻したらしく、慎吾は頭を支えていた手をどかすと、そう言って苦笑してみせる。と、そこで丁度、職員室の前へとたどり着き二人は同時に足を止める

 

「あの慎吾さん……俺から言い出して、ここまで付いて来て貰ったんですけど……やっぱり慎吾さん疲れているみたいですし、良かったらここあたりで休んで待っていてください」

 

 と、そこで一夏は慎吾と職員室の扉を交互に何度も見ると、慎吾に向かってそんな事を提案してきた

 

「一夏……? いきなりどうしたんだ、藪から棒に」

 

「それはえっと……俺がクラス代表だし慎吾さんに助けて貰わなくても、一人でも頑張らないと駄目かな……って思って」

 

 急な提案に困惑し、慎吾が不思議そうに問いかけると、一夏は少し照れ臭そうに笑いながらそう答える。

 

 事実、この数分程前、特別HRで決まった『ご奉仕喫茶』の事をどう千冬に説明するか一抹の不安を感じていた一夏は慎吾への同行を頼み、慎吾も『気晴らしに』と想いそれを引き受けていたのだが、ここに来て慎吾にとっては想定外に、抱えていた精神的疲労を一夏に気づかわれていたのだ

 

「そうだな……その言葉に甘えさせて貰うよ。ありがとう一夏」

 

 その事に気が付くと慎吾は薄く笑い、肩の力を抜いて腕を組むと少し一夏から離れて職員室近くの壁に落ち着いた様子で屹立し、そこで一夏を待つ体制を取り始めた

 

「それでは俺、行ってきます……。あ、でも慎吾さん、もしも、もしも本当に困って俺一人じゃどうしようも無かったら……」

 

 そんな慎吾を見送りながら入ろうとした一夏はそこで立ち止まり、困った表情で慎吾に視線を送る

 

「何、遠慮はする必要は無い……勿論すぐに私が助けに行く。それが……私が年上としての義務だからな。安心してくれ」

 

 慎吾はそれに軽く微笑むと、最後に久しぶりとなる口癖の言葉を使ってそう答えて職員室へと入っていく一夏を見送った

 

「さて……」

 

 慎吾は職員室の扉が閉じるのを確認すると、腕を組んだまま目を瞑り

 

「失礼ですが……いつまでそうして物影から隠れて私達を見ているつもりですか? 楯無会長」

 

 確信を込めた様子でそうため息を付きながら、職員室近く、慎吾から数メートルほど離れた所にある壁に視線を向けてそう言った

 

「あら、気配は完全に消してたのつもりだったのに……やるわね慎吾くん」

 

「どうも、楯無会長……」

    

 と、その瞬間、慎吾が視線を向けた方角からいたずらっぽい笑みを浮かべ、閉じた扇子を上品に口元に添えた楯無が姿を現しすと慎吾に向けて歩みより、慎吾はその姿を確認した瞬間に腕組みを止め息を吐き出しながら楯無に視線を向けながら楯無に挨拶をした

 

「あっ、ちなみに、どこから私が君達を見ていたか……分かる? はい、慎吾くん」

 

 と、現れて早々に楯無は、まるでマイクで芸能人に取材を求める記者のように扇子を慎吾の口元に向かって突きつけ、ぐいっと身を乗り出して問いかけてきた

 

「そ、そうですね……楯無会長が私達に気付いて観察を始めたのは……私が頭を抱えながら歩いていた辺りからですかね?」

 

 そんな相変わらず一歩先の行動も予測出来ないような楯無の行動に、面食らいながらも慎吾はとりあえず楯無の行動に乗り、扇子をマイクに見立てて答える

 

 

「うん、大正解。人の噂は基本的に当てにならない物だけど、キミはそれに当てはまらない、皆の噂通りの力を持ってるようだね。感心感心」

 

「……私を買いかぶり過ぎですよ、楯無会長」

 

 慎吾に見えるように『大正解』と書かれた扇子をかかげ、にこやかな笑顔で慎吾を誉めるが、対する慎吾はそれを真に受けた様子は無く小さく苦笑しながらそう返事を返した

 

「うーん……それ、あんまり気にいらないかな」

 

 すると楯無は、明らかに演技と分かるような拗ねた表情で頬を膨らませると広げていた扇子をたたむ

 

「……と言うと?」

 

「礼儀を持って接してくれてるのは分かるんだけど……私と慎吾くんは同じ年で、ここに来なければ私と学年も同じ、そうだった筈でしょ?」

 

 困惑した様子で尋ねる慎吾に、楯無はそう言葉に区切りを付け、内容を分かりやすくしているように語り、再び慎吾に扇子を向ける

 

「なら、もう少しだけ今よりフランクに接してくれても私は構わないのよ?」

 

「…………」

 

 微笑みながらそう告げる楯無に慎吾はしばし沈黙して考え込み

 

「……私は、あくまでこの学園ではゼロから始まったばかりの一年生ですから。上級生、それも生徒の長たる生徒会長の楯無会長にそう気軽に接する訳にはいきませんよ。お心遣いは嬉しいですが……すいません」

 

 そう、楯無に申し訳なさそうな笑顔を浮かべると軽く首を前に傾けて謝罪した

 

「うーん……慎吾くんは、ちょっと生真面目が過ぎるなぁ……」

 

 そんな慎吾を見て楯無は扇子を手元へと引っ込め、小さく苦笑しながらそう言った

 

「生憎、生まれ持った性格ですので……織斑先生や光にも楯無会長と似た事を指摘された事もあります」

 

「まぁ、それが慎吾くんの強みなのかもしれないわね……」

 

 職員室前でそう楯無と慎吾が話し込み始めた時だった

 

『ぷっ、ははは……!』

 

 突如、職員室から大きな笑い声、それも非常に珍しい事に千冬の笑い声が響いた

 

「な、なんだ……? まさか、一夏が何かしたのか? い、いや……」

 

 そんな予想外の出来事に、困惑して話を中断し、職員室を見つめる慎吾

 

「あら……」

 

 そんな慎吾の背では『予想外に面白くなりそうだ』と、言う感じの笑みを楯無が浮かべていたのだが、職員室の方角を見ていた慎吾がそれに気がつく筈も無かった




 楯無さんのキャラがこれで良いのか少し悩みながら書いています……。今のままだと、何かが足りないような気がしますが……気のせいのような気も……うーん。


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71話 『攻め』の最強と、『護り』の至高

「慎吾さんお待たせしまし……ってぇ!?」

 

「やぁ、織斑一夏くん」

 

「うん……それは、そうなるだろうな」

 

 職員室から出て、自分を待っていてくれた慎吾を迎えにきた一夏は、その場にいた予想外の奥から無に気が付くと思わず声に出して驚愕し、楯無はそんな事はあまりに気にかけて無いように一夏に笑顔を見せ、慎吾は慎吾でどこか納得したように頷いていた

 

「さて……君たち二人が揃った所で、実は君たちに是非聞かせたいとっても大事な話があるのよ」

 

 盛大に動揺している一夏を見て楽しそうに笑っていた楯無だったが、そこでふと口調を少し変え、真剣な表情で一夏、それから慎吾に視線を送る

 

「は、話って……何ですか?」

 

「うん、それはね、この場で話し……」

 

 勇気を出して尋ねた一夏の問いに、楯無が答えようとした時だった

 

「今だ! 覚悟ぉぉっ!!」

 

「……貰った!」

 

「一時休戦で三人がかりなら……さすがに誰かは……!」

 

 突如、前方から竹刀を構え頭に『覚悟完了』と

鉢巻きを巻いた女子生徒が近くの窓ガラスが震える程のかけ声を上げながら猛烈な勢いで楯無に迫ってたかと思うと、まるでそれを合図にするかのように震える窓ガラスを矢が突き破りその奥、隣の校舎から和弓を射る袴姿の女子生徒が、廊下の掃除ロッカーからはロッカーを破壊しそうな勢いで真っ赤なシャツと揃いの真っ赤なグローブを装着した女子生徒が地面を蹴ってロケットのような勢いで飛び出し、三人は一斉に楯無に向かって余力を隠す気など更々ないようやフルパワーで攻撃を仕掛けてきた

 

「な、何なんだ、こりゃあ!?」

 

「…………!!」

 

 先程までの日常を突き崩すように、何の全長も無く余りにも唐突に起こったその衝撃的な光景に、一夏は声に出して驚き、慎吾も袴姿の女子生徒が二人の援護に回り、変性的な三位一体の形となって一斉に楯無へと迫る三人を見て驚愕に目を見開いていた

 

「ふむん……皆、それぞれ技も速さ、それから気迫も中々……。手段を選ばず三人で一斉に攻撃を仕掛けるのも良いわね、勝つために手段は選ばない……そう言うの嫌いじゃないわ」

 

 対して今、まさに攻撃を受けている楯無は矢を身を捻るだけで回避しつつ非常に落ち着いた様子で三人をそれぞれ観察し、あまつさえ笑顔でそれを誉める余裕さえを見せていた

 

「でも……」

 

 その瞬間、竹刀を持った女子生徒の居合い抜きの形で放たれた鋭い斬撃と、ボクシンググローブの女子生徒が全身の筋肉をバネのように使って放つ渾身の右ストレート、そして和装の女子生徒が残り弓を全て使いきる覚悟で放った弾幕のような無数の弓が楯無に迫り

 

「でもみんな……『学園最強』を相手にするなら   もうちょっとが甘いかな? 次は頑張ってね」

 

 楯無がそう呟いた瞬間、全ての決着は付いていた

 

「くふっ……!?」

 

 先陣を切って楯無に攻撃を仕掛けた竹刀を持った女子生徒は竹刀と言う武器のリーチがまるで通じて無いように自身の居合い切り最中に踏み込んで来た楯無の手刀を首筋に受けて真っ先に崩れ

 

「にゃっ……!?」

 

 ボクシンググローブを装着した女子生徒は、竹刀の女子生徒を撃破した楯無にカウンターの要領での回し蹴りを受けてロッカーに向けて吹き飛ばされ

 

「そんなぁ……」

 

 持ち矢の全てを回避されてしまった袴姿の女子生徒は成す統べなく楯無が倒れた竹刀少女から拝借した竹刀の投擲、それを額に受けて窓にもたれ掛かるように崩れ落ち、結果的に時間にすれば10秒にも満たない時間のうちに三人はいっそ鮮やかに見えるほどの完敗で楯無に倒されたのであった

 

「ふぅ…………」

 

 一方でそんな超人じみた技を見せながらも楯無はまるで疲労した様子は無く、軽く息を調え

 

「あの一瞬で女の子を一度に二人も捕まえるなんて……やるわねぇ……慎吾くん」

                        

 

 楯無に破れて意識を失った二人の女子生徒を、それぞれ床やロッカーに激突する前に救いあげ、二人を守るように背中に背負っていた慎吾を見て、面白そうに笑った

 

「楯無会長、あなたにとっては単なる冗談に過ぎないのでしょうが……流石に皆が通りかかる廊下で誤解を招くような言い方は出来れば止めていただきませんか?」

 

「あらあら、ごめんね。悪気はあんまり無かったのよ?」

 

 二人を背負ったまま言われた慎吾は楯無にそう困ったような笑顔を見せ、楯無は慎吾にウィンクしつつ片手を向けて軽く謝罪する

 

「(す、すげぇ……)」

 

 そんな中、一夏は一瞬のうちに眼前で起こった出来事を脳裏で思い返して未だに目を見開いていた

 

「(三人をあっと言う間に倒したんだ先輩も信じられないくらい強いけれど……その先輩の攻撃の間をすり抜けて二人を助けてた慎吾さんも半端じゃ無いぞ……!)」

 

 そう、日々慎吾や箒達と鍛えていた成果か一夏には先程、楯無が見せた無駄が無く美しさすら感じるほどの華麗な反撃も

 

 楯無に手刀を打ち込まれて倒れた、女子生徒を瞬時に動いた慎吾が豆腐を掴むように優しく受け止めて救出するのも

 

 

 ボクシンググローブの女子生徒がロッカーに命中するより早く、上手く自身の体重を分散させるのと同時に筋肉に力を込めて自身が全ての衝撃を吸収してから、抱き止めるのも

 

 

 確かに『見えて』おり、一夏は改めて慎吾が見せたその技術の高さに驚かされていた

 

「ともかく……楯無会長は私達に何か言いたいことがあるのでしょう? ならば意識の失った二人を保健室に預けた後、場所を移して私達二人で共に聞きましょう……。と、一夏、勝手に言ってしまったが、 それで問題はないか?」

 

「……あっ、はい! 俺もそれで」

 

 と、そこで慎吾に確認するように問いかけられた一夏は慌てて思考を中断すると、慎吾に返事をする

 

「ふふ……では、二人を生徒会室へと案内するわね」

 

 そんな二人を見ながら楯無は小さく笑うと『乞うご期待』と書かれた扇子を開き、二人に強調するように静かに扇ぎ始めるのであった

 

 

 

 その一方で

 

「な、何だこの男臭いのに、胸に漂う全く不快じゃない感覚は……!?」

 

「これが……この安らぎが、『兄』の温もり……? くはっ……」

 

 慎吾の背中に背負われた二人の女子生徒は密かに意識を取り戻し、慎吾から漂う『男』特有の香りの直撃を受け、今までに味わった事の無い奇妙な安心感を味わっていたのであった

 

 この二人が、『織斑一夏ファンの集い』に比べれば総メンバー数では半分程でしか無いものの、濃くよりマニアックな者ばかりが集う『大谷慎吾、敬愛の集い』に参加するのはその日のうちの事であった




 次回は……少しだけ話をのほほんとさせようかと思います


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72話 生徒会室、静かなる怒りの慎吾

「あー……おりむー……に、……? わ~い、しんに~!」

 

「え、あれ? のほほんさん……?」

 

「おお、本音か。そう言えば君自身が以前に生徒会所属だと教えてくれたな」

 

 楯無が先導する形で重厚な作りのドアを引いて開き、生徒会室へと入るとテーブルに突っ伏す形で寝ていた本音がまず一夏に気付いて僅かにだけ顔を動かしして起き上がり、その背後にいた慎吾に気付くと眠気も忘れたのか非常にゆっくりとした動きながらも立ち上がり嬉しそうに慎吾の元へと駆け寄ってきた

 

「あら、本音ちゃんが睡眠より優先して駆け寄る何て……ずいぶん仲がよいのね?」

 

 そんな本音の行動を見て楯無が慎吾達が初めて見るような驚きの表情を見せながら座席に着いた

 

「あぁ、本音とは前の臨海学校の時にバス内で隣になりまして……目的地に到着するまで話していたんです」

 

「しんに~はねー、私の話をいつでも、ゆっくりしっかりちゃっかり聞いてくれてるんだよー」

 

 楯無の疑問に答えるように慎吾がそう言うと、それに続くように本音が自身の袖が余る程の長い制服の片手を上げて、そう相変わらすのマイペースでゆったりとした口調で言った

 

「なるほどね……聞いてる話以上に、本音があなたのお世話になっているみたいね。ありがとう」

 

 と、そこで人数分のティーカップを持ち、慎吾にどこか納得したような笑みを浮かべなから、三つ編みに結んだ髪に眼鏡が特長的な三年生の女子生徒が礼を言う。よく見れば、その女子生徒の顔は本音にどこか似ていた

 

「もしかしてあなたは……」

 

「ええ、察している通りに私は布仏虚。本音の姉よ

。よろしくね」

 

 慎吾の問いに三年生、虚は軽く微笑んでそう答えながらもお茶の準備を進めて行く。その慣れた手付きの動きは、バイトとは言え仮にも喫茶店で働いていた慎吾から見ても全く見劣りしないレベルの物であり、慎吾は素直に感嘆させられた

 

「さて、お茶の準備が出来た所で二人には、改めてじっくりと最初から説明させて貰うわね……」

 

 見慣れない生徒会室が落ち着かないのか先程からあまり言葉も発せず視線をさかんに動かす一夏と、行動や言葉こそは普段のように落ち着いているように見えるが、やはりどこか警戒しているのか注意深く様子を伺う慎吾。そんな二人の様子を見て楽しんでいるかのように楯無はそう笑みを浮かべながらそう言った

 

 

「部活動……あー、そう言えば、すっかり忘れていましたね……」

 

「私もだ……。思い返して見れば、このIS学園に入学してから勉学とISの鍛錬しかいなかった。……その二つに力を入れすぎてすっかり失念していたよ」

 

 楯無からの分かりやすく簡潔な説明、そして自身の目で直接見た一夏、慎吾の両者に部活動に入って欲しいという大量の苦情の手紙(中には個人的な下品な欲望を書き綴ったと思われる手紙もあったが、明らかに苦情等では無い部分だけが丁寧にボールペンで塗りつぶしてあった)を見た一夏と慎吾は納得してそう呟いた

 

「ね? この手紙に書いてる内容に差はあるけど……流石にここまで苦情が来られちゃあ生徒会としては何もしないで無視って訳にはいかないのよ……それで」

 

「「それで『学園祭での投票決戦』と、言う形で決まったと?」」

 

 少しだけ困ったように笑いながら語る楯無の言葉に付き足すように一夏と慎吾が全く同時にそう言った

 

「二人ともご明察。ズバリ、そう言うことよ」

 

 二人の言葉に軽く頷きながら、楯無はそう言ってウィンクして二人の言葉を肯定し、現状を理解して一夏は軽くテーブルにつっぷして頭を抱え、慎吾はただ困って苦笑いをした

 

「でも……いきなり、そんな事を言われても困りますよ。俺達、放課後はいつもギリギリまでISの特訓で忙しいし……」

 

「あら勿論、私も無条件で二人に頼むなんて言ってないわよ?」

 

 どうにか気力でテーブルから起き上がり、半ば愚痴に近いような口調で一夏が抗議すると、楯無は冗談っぽく小首を傾げて、そう答えた

 

「と、言うことは……生徒会、もしくは楯無会長から、私達に何か交換条件になりうるようなメリットを提供してくれる……。そう言う事ですか?」

 

 そんな楯無を見て、慎吾は気合いを入れ直すように虚から手渡された心を落ち着かせるような良い花の香りがするお茶を飲み干し、注意深く腕を組みながらそう尋ねる

 

「そう言うことよ。でね、その交換条件の内容はね……」

 

「……内容は?」

 

「…………」 

 

 そう言うと、楯無は少し勿体振るように言葉を貯め、それに興味を引かれたのか一夏は起き上がりおうむ返しをするように楯無に聞き返し、慎吾は焦りを堪え、黙って楯無に視線を向ける。その瞬間、楯無は口を開き

 

 

「私が一肌脱いで、学園祭までの間、二人まとめて肉体もISも鍛えてあげましょう」

 

 そう言うと中央に『特別授業』と書かれた扇を音を立てて広げた

 

「は、はぁ……それはまた、どうして?」

 

 その言葉が余りにも想像からかけ離れた答えだったのか、一夏は唖然としたままの表情で楯無に聞き返す。すると、楯無は何気ない様子で扇子をたたみ

 

「ん? あぁ、それは君達が弱いからだよ?」

 

 何気なく、本当に日常会話でもするかのように軽く、そう答えた

 

「……これでも、それなりに鍛えているつもりですけどね。俺も……もちろん慎吾さんだって」

 

「うん、それでもまだまだだね。だから、せめて形にはなるレベルまで私が鍛え上げてあげようって訳」

 

 楯無のその一言で途端に一夏の表情は険しいものに変わり、ほんの少しだけムッとしたようにそう告げる。が、楯無はと言うと涼しい顔でさらに言葉を続ける

 

「っ! じゃあ……そこまで言うなら、俺としょう……」

 

 流石にその一言は見逃す事は出来なかったのか、一夏が思わず立ち上がろうとした瞬間

 

 

「待て、一端落ち着いて席に付くんだ。一夏」

 

 強くは無いものの、静かな圧力を感じるような口調で静かに慎吾がそう告げ、立ち上がりかけた一夏を止める

 

「し、慎吾さん……」

 

 その迫力に押されて、怒りが反れたのか一夏は思わずその言葉に従って、立ち上がりかけていた状態から巻き戻しのように再び椅子へと腰かけた

 

「楯無会長……あまり下級生の私達をご冗談でからかうのは止めてくれませんかね?」

 

 そして慎吾は、楯無に向かい手を組み困ったように笑いながらそう言った

 

「あら、バレた?」

 

 慎吾に指摘されると楯無はイタズラがバレた子供のようにそう茶目っ気たっぷりに笑って答えた

 

「しかし……」

 

 と、そこで慎吾は笑顔で言葉を続け

 

「たとえご冗談だとしても、今日まで一夏は私と箒達……皆で協力して鍛え上げてきたのです。そこまで言われて私としては黙ってる訳には行きませんね……」

 

 そう言って、『笑顔のまま』楯無に視線を向け

 

「先程、一夏が言いかけた勝負、この私が引き受けましょう。引き受けてくれますか? 楯無会長」

 

 変わらぬ『笑顔で』楯無に宣戦布告をした

 

「う、うん……いいよ」

         

 その迫力に押され、思わず楯無も少し動揺を見せるが、少し無理矢理気味に挑発的な笑みを慎吾に返してそれを引き受けた

 

「しんにーが、怒ってるー……?」

 

 生徒会室には、そんな心底、驚いてる様子の本音の呟きが静かに響き渡った




 慎吾は……侮辱に関する事で怒ると笑顔になるタイプです。あくまで笑顔になるのは侮辱のみで、それ以外ではまた別になります


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73話 いざ道場!

それから時間が過ぎて放課後、畳道場では白の道着に紺色の袴と言う日本古来から続く、所謂武芸者の格好で向き合う慎吾と楯無、そしてこの果たし合いを見物する為に壁際に立って真剣な表情で二人を眺めている一夏の姿があった

 

 ちなみにこの試合、本音もまた非常に見たがってはいたのだが、虚に『仕事があるから』と言われてしまい、嫌々慎吾と楯無と慎吾の試合の見物を諦める事になった本音は、今にも眠気に任せてふて寝してしまいそうな程に落ち込んでいた。

 

「さて……勝負の方法だけど……」

 

「ここは分かりやすく、どちらかが戦闘続行不能、もしくは相手に『まいった』と言わせれれば勝ち。……で、良いのでは?」

 

 勝負を始める前に楯無が試合のルールを告げようとしたその瞬間、少し割り込むような形で慎吾が自らが考えた試合ルールを楯無に提案し、楯無の声を遮った

 

「あら、いいの? 後悔しても知らないわよ?」

 

 慎吾に発言を封じられた形になった楯無だが、特にそれを気にした様子は無く、むしろ涼しげに慎吾に向かって笑みさえ浮かべていた

 

「ええ、勿論。手加減や遠慮する必要はありません……私も自ら勝負を挑んだ以上、全身全霊であなたに挑みかかりますよ」

 

 対する慎吾もそれにまるで臆した様子は無く、いつも通りの柔らかな笑顔でそう楯無に告げる

 

「そう……じゃあ、いつでもどうぞ」

 

 そんな慎吾の対応に何とも無いように楯無もそう返し、全く構えずに慎吾に向かって小さく手招きして見せた

 

「では、お言葉に甘えて……行かせてもらいます」

 

 そして、慎吾はそんな楯無に向かって軽く一礼をし

 

「ふっ……!」

 

 その瞬間、全くと言って良いほどにモーションを見せず楯無に向かって踏み込み、右手での手刀を叩き込んだ。

 

 が

 

「おっと……」

 

 その手刀は軽々と楯無に直撃ルートから回避され、それどころか右腕をひねって慎吾の重心をずらし、自身より大柄な慎吾を軽く空中に投げ飛ばした

 

「んなっ……慎吾さん!?」

 

 そんな瞬きよりも早い速度で行われた慎吾と楯無、その一瞬の攻防に一夏は驚愕しながらも空中へと投げ飛ばされた慎吾の身を案じて呼び掛ける

 

「くっ……!」

 

 が、慎吾も初手の一撃がそう簡単に決まる訳が無いと予測していたのか、空中で体制を整え、出来うる限り衝撃を殺して畳の上に着地すると、直ぐに畳を蹴って着地地点から仰け反るような勢いで離れる

 

「あら……見えてた?」

 

 その瞬間、楯無が放った追撃の右手がつい一瞬前まで慎吾がいた場所を空気を切り裂いて霞め、慎吾の顔にはその衝撃で発生した風がなぞるように触れ、当たらずとも確かに理解出来たその威力に慎吾は額にうっすらと冷や汗を流した

 

「(強い……これが学園最強の実力か……)」

 

 一定の距離を保ちつつ、立ち上がり責めを重視にした構えから、防御を中心にした構えへと変えつつ何気なく追撃に放った右手を戻して、特に構えずにこちらに視線を向ける楯無を注意深く観察しながら、慎吾は脳内で先程、自身の体を持って体験した楯無の強さに心底感嘆していた。が、当然、それで慎吾の闘志は失ってなどはいない

 

「(確かに強いが……私から言い出した手前、軽々と負ける訳にはいかない。私にこの格闘技術を教えてくれた父上やケンさんの為にも……)」

 

 そう考える慎吾の脳内にはかつて、幼い頃の自分に『技』を教えた者、慎吾の師になる人々の姿の人物が甦りつつあった。

 

 一人は今の慎吾の全ての基礎となる基本の技を教えてくれた今は亡き父、もう一人は父が教えた基礎技術をより発展させてより完成形に近付けた父の親友であり、天涯孤独の身となった自分を支えてくれた恩人のケン

 

 そして、三人目の師であり自分の武術をより鮮烈かつ実戦的にした……

 

「ん、来ないなら、今度は私から-―行くよ」

 

 と、そこまで慎吾が思い返していた時、そう言って楯無が先程、自分が見せた物より数段優れ、鮮やかとしか言えないような完璧なすり足、無拍子で一気に慎吾へと急接近した

 

「…………!!」

 

 神経を集中しても、なお殆んど反応する事が出来ないその動きに慎吾の顔から一瞬、血の気が引くが楯無の初手が離れた瞬間にどうにか反応し、自身の肘、肩、腹に向けて放たれた楯無の掌打を見切れる限り両手で一つ一つ弾き、受けきり、フィニッシュの如く放たれた双掌打を両腕を十字に組むことでガードして受け止め、同時に放たれた楯無の足払いも両足でしっかりと畳を踏み締める事でどうにか僅かにふらつくだけで転倒を堪えた

 

「むむ、これを受けきっちゃうか……タフだねぇ」

 

「……鍛えていますからね、私も」

 

 自身の攻撃を塞がれても尚、最初と変わらず優しい笑みのままそう、どこか残念そうに呟く楯無。それに慎吾は自身が受け、防御も叶わず受けてしまった一打の掌打、肩の痛みを少しだけ堪えながら何事も無いかのように笑顔を見せた

 

「さぁ、まだまだ勝負はこれからです、どんどん行きますよ楯無会長……!」

 

 そう力強く語り、慎吾は再び構えを取り、楯無に向かって真っ直ぐに構えを取って見せる

 

「ん、いいわね、男の子のそう言う所……私は好きよ?」

 

 そんな慎吾を見て楯無はそう満足そうに頷き、終わり際に冗談っぽく楯無は告げた

 

「ははっ……止めてください。楯無会長の様な美しい女性に冗談でもそんな事を言われたら大抵の男は勘違いしてしまいますよ?」

 

 そんな楯無の言葉をあくまでも『冗談』と受け取った慎吾は、構えたまま困ったようにそう笑いつつ平然とした様子で返した

 

「……ま、嘘は言って無いんだけどね」

 

 楯無が小さく呟いたそんな言葉は、瞬きも殆んどしないほどに熱中して試合を見物していた一夏は、勿論

 

 

「(勝つためには、一瞬も隙を作る事は許されない……と。なると、攻防一体で尚且つ、相手の意表を付くような技があれば……)」

 

 

 精神統一して次にどう攻めるべきか、どう受けるべきかを考えていた慎吾の耳にも声は届く事は無かった




 次回、慎吾がウルトラ兄弟、弟のあの技を使います。


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74話 空舞う蹴り、燕の一撃

「ぐっ……!」

 

 『完璧に避けきった』不覚にも僅かに油断してそう『思い込んでしまった』いた楯無の一撃が慎吾のガードをすり抜けて左の二の腕をかすめ、慎吾は思わず顔をしかめて苦悶の声を漏らす

 

「っはぁっ!……はぁ……はぁ……」

 

 が、それでも慎吾は直後に放たれたた楯無の攻撃を軸反らしと右腕、それでも足りなければ左脚で受けきり直撃を避けた。

 が、常に極限近くにまで緊張し、道着に汗が滲む程に疲労困憊している慎吾にじわりじわりと限界は近付き始めており、慎吾自身もそれをしっかりと感じていた

 

「あらあら結構……いや、かなり頑張るわねぇ……少し甘く見すぎたかな?」

 

 そんな慎吾を見て楯無は、今度こそ心底驚いた様子の口調でそう口にする

 

 慎吾が物心付くときから毎日ように続け、学園に入ってから更に量を増やした訓練と努力の成果か、それとも本当に楯無が慎吾の実力を見誤っていたのか、試合が始まってから既に一時間が経過した今でも慎吾は1度たりともダウンを奪われる事はなく、不屈の闘志で攻撃を続け、同時に反撃の一撃を耐えきっていた

 

「(とは、言っても左腕はさっきの一撃で殆んど限界で全身もガタガタ……体力は、あと一分持てば良い方か……)」

 

 心を落ち着かせてそう自身の体調を分析しつつ、慎吾は眼前の楯無に視線を向ける。その表情は現在進行形で大量の汗が滲む慎吾とは対称的に一筋の汗も無く、試合前と全く変わず涼しげな物であり、楯無にまだ余裕が残されているのを、たとえ言葉にせずとも理解する事ができた

 

「(どうやら……すぐにでも勝負を決めないと、私の敗北はほぼ確実なようだ……ならば、やるしか無い)」

 

 そんな危機的状況を前にして思わず生唾を飲み込む慎吾ではあったがその目には諦めは無く、危険な賭けに挑む力強さがしっかりと残っていた

 

「(今の私でどこまで『アレ』を出来るか分からんが……たとえ楯無会長を相手に勝利を掴み取る可能性があるのは『アレ』以外には……)」

 

 覚悟を決めた慎吾は、とっておきの秘策を使うべく楯無へと向かって走るような勢いで踏み出し、射程距離に入った瞬間、特技としている蹴りでは無く、集中して腕に残っている力を全て出し切る勢いで、音を立てて空気を切り裂き、うっすらとだが残像が見えるほど鋭い手刀を楯無に向かって両腕を使い、連続で放った。

 

 が、当然、その連続攻撃も楯無相手ではかすめる事すら敵わず手刀はその全てが空振りへと終わり、何も捕らえる事はなく空しく虚空だけを裂いて行く。が、勿論この手刀での連続攻撃が慎吾の秘策では無い。本当に狙っているのは……

 

「(……今だっ!)」

 

 次々と手刀を放つ慎吾の腕の動きを完全に見切った楯無が反撃に移るべく半歩距離を縮め、慎吾の腕に向かって手を伸ばした瞬間、腕を捕まられるよりコンマ一秒早く慎吾は両足で畳を蹴り、空中へと飛び上がった

 

 

「ん~、こんな近距離で空中技は……普通に考えたらちょっと甘いんだけど……?」

 

 確かに威力はあるものの、窮地の中で空中に浮かぶ事で無防備な姿を晒してしまうような苦肉の策と言うような空中技を使う慎吾を見て、少しだけ不思議そうに呟く楯無であったが、それも一瞬にも満たない僅かな時間の事であり、直ぐ様空中に浮かぶ無防備な慎吾に向かって強烈な連続突きが放たれる。その瞬間

 

「たあっ……!」

 

 慎吾は、掛け声と同時にムーンサルトスピンのように『空中で体を激しく回転』させる事で楯無のその一撃を回避してみせた

 

「……!?」

 

 流石にそんな大胆すぎる回避方法は全く思慮に入れてなかったのか、ここに来て楯無がはっきりとした動揺を表情に見せ、その動揺は完全だった楯無の攻撃に紙一枚程の僅かな隙を作った

 

「今だっ!!」

 

 その与えられた僅かな隙を逃さず、慎吾は空中で更にスピンを繰り返して追撃の楯無の攻撃を回避し続けると、急降下しながら回転と落下の勢いを利用して楯無に向け、通常ではあり得ないような角度と早さ、ほそして凄まじい威力を持つ蹴りを放った

 

「…………!」

 

 迫り来る慎吾の攻撃を見たことで、楯無は瞬時にして冷静さを取り戻すとこの試合で見せた中で最小の時間で流れるように迎撃の構えを取ると、慎吾の蹴りに対するカウンターのように右腕を付きだす

 

 

 そして二人の技が全く同じタイミングで重なり

 

 

「ぐうっ…………!」

 

 その結果、崩れ、膝を付いて力無く畳の上に倒れ伏したのは慎吾であった

 

「し、慎吾さんっ……!!」

 

 それを見た途端、呼吸さえ忘れかける程に熱中して二人の試合を見ていた一夏は、そこでようやく拘束が解かれたかのように慌てて仰向けの状態で倒れたまま荒く呼吸をしている慎吾を助け起こした

 

「……この技でも駄目と言うのなら……悔しいですが私には最早打つ手段も体力もありません……私の負けです」

 

 一夏に支えられる事でようやく楯無を見ることが出来た慎吾は、楯無が試合開始前と殆んど変わらないような涼しげな表情をしている確認すると深く溜め息を付き、素直に敗北を認めた

 

「うん、よろしい。なら、今日は慎吾君も疲れきってるし……明日からしっかりと私が二人纏めて教えてあげる。あ、慎吾君は大丈夫だと思うけど、念のために保健室で診てもらいなさいね?」

 

 それを見ると楯無は小さく、しかし決して見下したり同情とは違う、純粋に慎吾を称賛するような笑みを浮かべた

 

「はい……それでは……一夏、悪いが保健室までしばらく肩を貸してくれないか?……今は自力で歩くのも少し難儀しそうなんだ……」

 

 そんな楯無に慎吾もまた、疲労の為に非常に弱々しいながらも笑顔を浮かべてそう言い、一夏にそう頼んだ

 

「勿論、任せてください」

 

 その頼みを一夏は快く引き受け、力を込めて慎吾の肩を支え、側に寄り添いながらゆっくりと保健室へと向けて歩き始めた

 

「すまないな一夏、今回は私から言い出した話なのに、敗北してしまって……」

 

 肩を支えて貰うことでどうにか歩きながら、慎吾はそう申し訳無さそうに一夏に謝罪した

 

「いやいや……今回は本当は俺こそが挑むべきだったんだろうし……会長と戦うのが慎吾さんじゃなくて俺だったら、きっとカッコ悪く会長に負けてましたよ……」

 

 そんな慎吾に一夏は自嘲するように軽く笑ってそう答えると、歩みを進めゆっくりと畳道場から出ていき、最後に慎吾の『そんな事は無いと思うんだがなぁ……』と言う呟きを最後に二人の姿は見えなくなった

 

 

「……………………」

 

 そして、そんな二人を変わらない笑顔で微笑みかけていた楯無はしばし待ち、二人が引き返しそうにも無いと思うと

 

「……っ! はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 糸が切れたかのように苦しげに息を切らし、畳の上で片膝を付いて崩れた。それと同時に楯無の額から、そして全身から今の今まで堪えていた汗がじわじわと涌き出し、一気に着ていた道着をバケツの水を頭から被ったの如く濡らしてゆく

 

「マーシャルアーツ、古武術、カポエラ、ボクシングにおまけに相撲……全部使っても最後以外ダウンすらしないってのは予想外だったな……うん」

 

 先程の慎吾との試合を思い返し、楯無でさえ若干、理不尽と感じてしまった程のその実力に感嘆したかのように楯無は畳道場で一人、静かに呟いた

 

「慎吾君に技を教えたのが……一体どんな人なのか……ちょっと想像出来ないわね……」

 

 未知としか言えない相手の存在にたまらず苦笑する楯無。どうやら再び立ち上がる為の体力を取り戻す為にはもう少し時間がかかるようだった

 

 

 一方、その頃、部活棟の保健室の前では

 

「おにーちゃんをここまで痛め付けるとは……どうやら相手は死を覚悟の上で挑まなければならない相手らしいな!」

 

 千冬からの情報でその場に部活棟にまで駆け付けていたラウラが、一夏に肩を支えられていた慎吾を見て何故か妙な勘違いをしてしまい、どこの最終戦争だと言わんばかりの装備を取り出して向かおうとするラウラを止めるのに一夏も慎吾も相当に体力を消耗し、ただでさえ疲労していた慎吾はますます疲労することになり、結局、その日は保健室へと泊まる事になってしまうのであった




 と、言うことで今回はウルトラマンタロウの特技『スワローキック』を使用と言う事にさせて頂きました。果たして生身で出来るのかは疑問ですが、この技を使った事により彼の登場を確定へと決めました


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75話 慎吾の鍛練

「……と言うわけで私が試合に負け、今日から楯無会長が私と一夏を教えてくれる事になった。……本当に急な話ですまない、突然過ぎる話で憤りを感じるかも知れないが責任は私にあるんだ。そこだけはどうか理解して」

 

 翌日の放課後、箒にセシリア、鈴、シャルロットにラウラと慎吾と一夏、両名の呼び掛けにより全員が集合した第三アリーナで慎吾は最初に楯無に勝負を挑もうとしたのが一夏と言う事を除いて、包み隠さず一連の出来事を全員に話すと迷わず頭を下げた

 

「ま、まぁ……そこまで言われたのならば……」

 

「仕方ないわよねぇ……」

 

「……心から謝罪している方を許す事も、大切な心掛けですわ」

 

 そうやって真摯な態度で謝罪した慎吾を前に箒、鈴、セシリアは互いに顔を見合せながらも怒りを堪えて不問とする事を決めたようで、完全には言わないが、ある程度の納得を見せたような表情で肩の力を抜き、頷きながらそう答えた。一方で

 

「お兄ちゃんを近接格闘で正面から打ち負かすなんて……」

 

 

「昨日のおにーちゃんのあの疲労からして……相手は最低でも、こちらの想像を軽く越えるような強さを秘めてるのは確かだ。……気を付けろ、姉さん」

 

 慎吾を正面から打ち破った相手、と聞いた事でラウラとシャルロットは警戒するように、1m程の距離を置いて皆の前に並んで立つ慎吾と一夏

 

「あら、ふふふ……これから暫くは付き合う事になるんだから、そう邪険にしないで?」

 

 ほぼ間違いなく故意で、その間に挟まるような形で立つ楯無を強く警戒し、半ば『睨んでる』とも言えるような視線を向けるが、当の楯無はまるで気にした様子は無く、むしろリラックスした様子で二人に向かって微笑みながらそう言って見せるのであった

 

 

「シューター・フローによる円状制御飛翔

サークル・ロンド

……これを自在に使えれば戦術の幅が大きく広がる。だからこそ是非とも物にしたい……所だが……!」

 

 先程、楯無の指示により、手本のような形でシャルロットとセシリアが見せたシューター・フローと、サークル・ロンド。現在、その二つを慎吾はどうにか再現しようとゾフィーを展開させ、仮面の下で汗を流しながら奮闘していた

 

「……せやっ!」

 

 PICをマニュアル制御にしているため、円機動でアリーナの空を飛ぶ、ゾフィーの起動制御に気を配りつつ、アリーナ中央にある的となるバルーン目掛けて慎吾がゾフィーの左腕でスラッシュ光線を放つと、スラッシュ光線は見事に狙ったバルーンに直撃し、それを見ていた楯無は『やるね』と、小さく声をあげた

 

 そう、円機動をしつつ『スラッシュ光線』を放つ。単純にそれだけならば、慎吾は幾度かの練習でどうにかコツを掴み、多少の不安定さはあるものの、ある程度までは出来るようになってきていた

 

 しかし……

 

「Z光線っ……!」

 

 楯無の指示を飲み込み、複雑な機動を描きなつつ弾幕を回避した慎吾は再びバルーンに狙いを付けると、意を決して、ゾフィーの両手から雷のようにジグザグに波打ち、青白く輝くZ光線を放つ。その瞬間

 

「くっ……!」

 

 命中した瞬間、バルーンを跡形も無く砕くZ光線。その強力な破壊力の引き換えの代償に強力な反動が襲いかかると、それは慎吾の制御も降りきり、ゾフィーを周回している軌道からずらさせた

 

「ん~、改めて見ると、やっぱりZ光線といいM87といい、慎吾くんのゾフィーは『一発の威力が高過ぎる』のがネックなのね……」

 

 そんな慎吾の様子を見ながら楯無が少し、腕組みをしながら呟く

 

 そう、慎吾が手を焼かされていたのは自身のゾフィーの代名詞と言うべきZ光線とM87光線、二つの運用方法である

  

 現行のISと比べても破格の破壊力を持つその二つは、当然慎吾に帰ってくる反動が大きい為に今まで慎吾は使用する際には回避中でも踏ん張るためな『立ち止まって』使用していたのだが、この円状制御飛翔においては慎吾はその威力に振り回され、どうにも命中率が伸び悩んでいたのだ。

 

 しかしそれでも、慎吾は円状制御飛翔中にZ光線とM87光線を、親友たる光がくれた最高の切り札を諦めるつもりは端から無かった                     

 

「もう一度……もう一度だけ行かせてください楯無会長」

 

 精神集中から来る疲労で息を切らし始めながらも、慎吾はそう言うと再び円状飛翔を始めた

 

「はいはい、一度と言わず何度でもどうぞ?」

 

 そんな慎吾を楯無は励ます事も止める事も無く、ただ笑顔でそう答えると、再び飛翔を続ける慎吾へと指示を出していく

 

 どうやら慎吾が自身が納得出来るレベルでシューター・フローとサークル・ロンドを取得するにはもう少しの時間が必要とするようだった

 

 

「ふぅ……今日の訓練は私も、流石に疲れてしまったよ……」

 

 一夏と共に自室への帰路を歩く途中、タオルで額の汗を拭き取りつつ慎吾は少しため息をつきながら珍しくぼやくように一夏に告げた

 

「あれ……すっげえ難しいですよねぇ……俺、瞬時加速中に壁にぶつかっちゃうし……それ見てた、シャルが苦笑していたのもきつかったな……」

 

 その言葉に一夏も楯無の非常に理解しやすいが非常に厳しい指導と、訓練の中で見た気まずそうなシャルロットの苦笑を思いだし、疲労とは異なる冷や汗をしてそう答えると少し項垂れた

 

「と……そう言えば先程、私が飲み物を買いに言ってる間に虚先輩と話していたようだが、何を話していたんだ?」

 

 そうして一瞬、自然と沸いた重い空気を払おうと慎吾は咄嗟に話題を変え、歩きながら出来る限り自然な口調で一度にそう尋ねた

 

「えっ? あぁ、それはですね……」

 

 突然の問いかけに少し驚きながらもその問いに答えようとしながら一夏が慎吾と共用している自室の扉を開いた瞬間

 

「あら、二人ともおかえりなさい。もう少し遅かったら迎えに行こうと思ってたのよ?」

 

 

「「………………えっ?」」

 

  部屋の中で大胆に女体美を見せる裸エプロンと言う、予想する事すら受け付けないような姿をした楯無の姿を慎吾と一度は同時に目撃し、二人は呆然と口を開いた状態のままフリーズしてしまい、その衝撃は先程、薄ぼんやりと漂っていた重い空気を、流星の如く軽々と地平線の彼方へと吹き飛ばしてしまうには十二分であった




 今年もエイプリルフール、と言うのを活動報告にてしてみました。時間不足で昨年よりクオリティが落ちていますが、良ければ見てくれると嬉しいです


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76話 引っ越し、再び。意外な同居人

 今回は……オリジナル性を追求した結果、少々冒険になりました。もしかすると、この設定に不快に感じる方もいるかもしれません


「えぇと……その……楯無会長、質問しても良いですか?」

 

 少し時間が経ち、部屋に入っていつも使用しているイスに腰掛ける事でいくらかの落ち着きを取り戻した慎吾が、勇気を出して楯無に問いかける

 

「もちろん。でも、その前に二人ともお茶をどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ど、どうも……」

 

 慎吾と一夏、と言う男二人がいる前で体のラインが殆ど見えてしまう裸エプロン(一応、水着は着ていると言う事を早々に楯無は打ち明けたが)と言う格好をしているのにも関わらず、楯無は全く変わらぬ落ち着いた態度でそう言うと二人に向かってそれぞれ暖かいお茶が入った湯呑みを差し出し、慎吾と一夏は異様な光景に冷や汗を流しながらもひきつった笑顔で湯呑みを受け取った

 

「それで……楯無会長は何故、私達の部屋に? ……そして、その格好は一体……」

 

 自身を落ち着かせようとするように湯呑みの中のお茶を一口だけ飲みながら、慎吾は水着とエプロンで本当に危ない所は守られているとは言え臆する事無く大胆に柔肌を見せている楯無の体を出来る限り見ないようにしながら楯無にそう尋ねる。ちなみに慎吾の近くにいる一夏も顔を赤くし、楯無を直視出来ない視線は盛大に泳いでいた

 

「あぁ、この格好? これは夏に……いや、ここはあえて今日頑張ったお二人の為に私からのサービス! と言う事に変更しておきましょう」

 

「そ、それはどうも……ありがとうございます」

 

 楯無は途中で言葉を妙に気になる形で途切れさせながらも冗談っぽくそう笑って、胸元が見えてしまうようなセクシーなポーズを取るとウィンクしてみせ、慎吾はますます困惑しながらも一応、楯無の言葉が真実ならばそれは自分達のためらしい事なので形式的に礼を言って見せた

 

「……それで、私がここに来た理由だけどね」

 

 特にさほど大きなリアクションもツッコミを入れる事が無かった慎吾に楯無は何やら一瞬だけ頬を膨らませて少しだけ不満そうな表情をしたが、瞬き程の一瞬でいつもの笑顔に戻ると、ぴっと、人差し指を立て口を開く

 

「今日の二人の特訓を見て……はっきり言えば慎吾くんが何とかやっていける合格ラインだったけど……一夏くんは残念ながら落第点って感じだったのよ。それで私、一夏くんにだめ押しの一手を打つ事に決めました」

 

「「だめ押しの一手……?」」

 

 先程と違って真剣な様子の楯無の言葉に注目が集まり、慎吾と一夏と声が重なる。その瞬間、物理的に隠せる場所が極端に少ない姿なのにも関わらず楯無はマジシャンのようにどこからか扇子を取り出すと音を立てて開いた

 

「それ即ち、寝食も共にして波長を合わせる事! ……と、言うわけで今日から私が、この部屋で一夏くんと暮らす事を決めました。主に生徒会長権限で」

 

 

「…………へっ?」

 

 再び楯無から放たれた衝撃的な言葉に、先程、部屋を開けた瞬間にエプロン姿の楯無を見た時のように一夏の口は開かれたまま、その体はフリーズしてしまっていた

 

「(も、もしや…………!)」

 

 一方の慎吾はその発言で、楯無の衝撃的な姿の影響で見過ごしていた部屋を慌てて見渡し、あまり多くは無かった自分の私物が消え、代わりに楯無の物と思われる私物が置かれている事に気が付いた

 

「あぁ、ごめんね、無断で悪いけど慎吾くんには今日から他の部屋に引っ越して貰うわ。そのお詫びに、既に慎吾くんの荷物は引っ越し先の部屋に運び終えてあるし……」

 

 と、そこで慎吾の様子に気が付いた楯無が軽く謝罪すると、そこで一旦言葉を止めて慎吾にじっと視線を向ける

 

「同室の子は、これまた生徒会長権限で凄くスペシャルな子だから期待しているといいわよ?」

 

「……? わかりました」

 

 そんな意味ありげな楯無の様子に疑問を感じながらも、あまりにもヒントが少ない為にそれが分からず不思議そうに首を傾げながらそう言うのであった

 

 

「私の部屋は……ここか」

 

 楯無から渡された新たなる自室となる部屋のルームキーに係れている番号と、とドアに掛けられた部屋番号を確かめながらそう呟く

 

 あの後、多少のトラブル(事情を誤解した箒の乱入、慎吾の説得が0.1 秒でも遅ければ箒が紅椿を展開していた)等はあったものの、最終的に一夏と慎吾二人の納得により話し合いは成立し、慎吾はこうして新たな部屋へと訪れているのであった

 

「もしもし、楯無会長から話は伺っているとは思うが、今日からこの部屋で同居させて貰う大谷慎吾だ。……入っても構わないか?」

 

 部屋内にいる人物にも聞こえる程度の声と共に慎吾はドアを軽く三回叩いてノックした。が、いくら慎吾が耳を澄ませても返事らしい返事が帰ってくる事は無く、静かな沈黙だけが慎吾の耳に響いた

 

「……入るぞ?」

 

 このまま廊下で待っていても無意味だと判断した慎吾はドアに鍵が掛かっていない事を確認すると、念を押すようにそう言うと静かにドアノブを回して扉を開くと部屋の中へと入っていった。

 

 が、室内には同居人の姿は見当たらず、部屋には名前が書いてない為に断言は出来ないが、慎吾の荷物が入ったいると思われる梱包された数個の段ボール以外には備え付けの家具、以外には同居人の私物が殆ど見当たらず、その特徴を読み辛くさせた

 

「……同居人はもしや……シャワーか?」

 

 室内に入った時から静かに聞こえる水音を頼りに慎吾が視線を向けると、どうやらその予想は的中したらしく、慎吾には磨りガラス越しにシャワールームに蛍光灯の光と、シャワーを浴びる人影が見えた

 

「これは……一端、出直した方が良さそうだな」

 

 相手がシャワーに入っていると言う事を予測しなかった自身の迂闊さを後悔しつつ、慎吾が部屋を出ようとしたその瞬間

 

「……あぁ、悪いな。今日から同居する者だろう? 気分転換にシャワーを浴びていて気がつかなかったよ」

 

 

 水音が止まると、共に『聞き慣れた声』が聞こえ、慎吾がドアに向かおうとしていた脚を止める。

 

 そう言えば、よく見てみれば部屋にある同居人の家具の一部は何度か見たことが……いや、『つい最近にも見たことがある物』だった

 

「そうだ、驚くかもしれないが言っておくと、俺は同級生では無く二年生だ。楯無会長に頼まれて何の因果かは分からないが、今日引っ越して来たんだよ」

 

 慎吾の頭の中でパズルのピースのように一つ一つのヒントが重なって一つの答えを作り出そうとしていた瞬間、シャワールームの扉が開いて同居人が姿を表した

 

「俺は、芹沢……って、慎吾か?」

 

「やはりヒカリ、君なのか……」

 

 慎吾の姿を見た瞬間、バスタオルで自身の青い髪から水分を拭き取っていた光は目を大きく開いて驚き、慎吾は楯無が仕掛けたこの状況に堪らず苦笑しながらそう呟いた

 

「とりあえずヒカリ、話す前に下着くらいは履いてくれよ……?」

 

「む、そうだな……」

 

 

 苦笑しながら慎吾は手近なベッドに腰掛けると、苦笑したまま、そうヒカリを諭す。

 

 女性しか来ないと想って油断していたのか、それとも素なのか、ヒカリは上下に下着すら付けておらずバスタオル一枚のほぼ全裸と変わりが無い姿だったのだ。

 

 最も、光は慎吾にそれを見られても特に恥ずかしがる様子を見せなかったが




 裸を見られても特にリアクションも無い光ですが、単に長い付き合いの中で慎吾に慣れてるだけです。それこそ、裸を見られても何とも思わないくらいには


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77話 気にしないゾフィー、気になる一夏

それから、しばらくして着替え終わった光は少しの休憩の後に慎吾と机を挟んで静かに会話をしていた

 

「なるほど、大方の話は聞いていたが、まさか楯無会長相手にそこまで粘るとは……」

 

 慎吾の話を聞き終えた光は隠すこと無く純粋な想いでそう言って楯無との試合での慎吾を高く評価して見せた

 

「ヒカリのその言葉は嬉しいが……私としては『粘る』ので精一杯だったと言うべきだな。私は楯無会長を相手にして、知りうる限りのあらゆる手を試して攻略方法を捻りだそうとはしたのだが……見つけるよりも先に私の方が体力が尽きてしまい、結果的にそれが敗北に繋がった。……結局、未だに攻略方法などは分からないよ」

 

 一方で慎吾はその試合結果にあまり満足はしていなかったのか、視線を床に落とし、苦笑をしながら試合自身の行動を振り替えって少し反省するようにそう答えた

 

「それは、ある程度は仕方ないと言えるだろう。……見も蓋も無い言い方になってしまうが、相手はこの学園最強の生徒会長。対して君はISに触れて一年にも満たない入学したてのルーキーだ。普通に考えるのなら前提としてこれほどの差があるのにも関わらず、『粘らせた』と言うのは君を知らない人間であれば行き過ぎたビックマウスにしか思われないぞ?」

 

「ヒカリ……それは大分身内贔屓な意見ではないか?」

 

 少しネガティブになってしまった慎吾の言葉をフォローするように迷い無くそう述べる光。そんな光に向けて慎吾は再び困ったように笑うと手元のマグカップに入っているコーヒーを一口だけ口に含んだ

 

「そうか? 俺は俺が想ったままの事を伝えているだけなんだがな……」

 

 そう、ぼそりと呟かれた光の言葉は二人しかいない室内で小さく響いて行くのであった

 

 

「どうした一夏? 私には、いつもにも増して疲れているように見えるが……」

 

 慎吾が引っ越しをしてから二日が過ぎた日の四時限目の授業終わり、机に突っ伏してる一夏の目から疲労を感じ取った慎吾は、授業終了と共に直ぐ様、自身の席を立ち、一夏机にまで歩み寄ると少し心配そうに声をかけた

 

「あ、慎吾さん……それがですね、昨日の事なんですが……」

 

 机に突っ伏していた一夏は慎吾に声をかけられた事に気が付くと顔を起こすと、二日前と比べて少しだけやつれたように見える表情で何とか苦笑を浮かべると淡々と語り始めた

 

「そ、そうか……今度はそこまでやったのか楯無会長は……」

 

「えぇ、やりましたよ……下着にワイシャツだけの楯無会長にマッサージをするなんて、今思い出しても何か全然現実に思えなくて……おかけで昨日は全然眠れませんでしたよ……」

 

 あまりにもラフと言うか、ルームメート兼指導役と言うにしては距離が近過ぎる楯無とのエピソードを一夏から聞いた慎吾はどう反応して良いか分からずに、ただ苦笑しながら言葉を詰まらせ、一夏は肺にある空気を全て吐き出してしまいそうな程に深く長いため息を付いた

 

「……一夏には悪いが私は新たなルームメートがヒカリで良かったと思ってるよ」

 

 そんな一夏を見て少し申し訳無くは思いながらも、慎吾は小さな声で呟いた

 

「あぁ……慎吾さんの同室は芹沢さんでしたね……」

 

 そんな小さな呟きをしっかりと耳にしていた一夏は慎吾に視線を向けると、再びため息をついた

 

「芹沢さんは落ち着いてるし、慎吾さんの旧友だし……本当に楽そうだなぁ……」

 

「そうだな、例を述べるのなら……」

 

 少し羨ましさを覗かせながら言う一夏に答えるように慎吾は静かに引っ越し初日、昨夜の自室での記憶を思い出しながら語り始めるのであった

 

 

「慎吾、トレーニング中の所で悪いが……可能なら今、調整中の装備について参考までに君の意見が欲しいんだが構わないか? あぁ、忙しいのなら耳を貸してくれるだけでも構わない」

 

 食事と30分程の休みを終え、自室でいつものトレーニング着(タンクトップにジャージ姿)に着替え、額に少し汗を滲ませながら日課にしている腕立て伏せを一心不乱にしている慎吾にそう言って光が話しかけてきた。

 

 ちなみに、そう訪ねた光はと言うと話ながらもベッドの上で座りながら一心不乱に集中してピアニストをのような鮮やかな動きで携帯端末を操作し続けており、その服装は既にシャワーを終えて自身の髪色に合わせたかのような寝巻きではあったのだが、縮んでしまったのかサイズを間違えたのか、パジャマはさながらボディスーツの如く肌にみっちりと光の体に密着してその体のラインを浮き彫りにしてしまって、服を着ているのにも関わらず、ある意味で裸よりいかがわしいような雰囲気を持っており、追い打ちのように光本人の『胸元が苦しい』との理由でその胸辺りのみがボタンで止められず大胆に露出していた

 

「いや……丁度、トレーニングはこの腕立て伏せで最後。それも……これで終わりだ」

 

 慎吾はそんな光の姿には特に言及する事は無く、そう言い終わるのと同時に腕立て伏せを止め、事前に近くに置いておいたタオルで汗を拭き取ると光の元へと向かう。トレーニングの影響で滲んだ汗によりタンクトップは慎吾の体に張り付いて透け、慎吾の上半身はほぼ裸に近い形になり、男特有の汗の臭いが漂い始めていた

 

「あぁ……助かるよ慎吾。話はこのUシリーズ四号機……仮の名として『J』と言う名が付けられたコイツの事なんだが……」

 

 当然のように光もまた、そんな慎吾の姿は特に気にした様子は無く平然とした様子で身を乗り出して携帯端末を手にし、ディスプレイに写し出される映像をゆびさしながら慎吾に説明を始める。が、あまりにも身を乗り出した為に近寄ってきた慎吾の腕に光の胸が押し付けられた

 

「ふむ……以前言っていたゾフィーの後続機に外見は似ているが……攻撃のエネルギー出力を若干下げて、代わりに燃費と格闘性能を上昇させたのか……確かに何を装備させるかは悩無所だな」

 

 そんな事態でも、もはや当たってる事に気がついていないのかのように、落ち着き払った様子で慎吾は消灯時間ギリギリまで光と意見を交わして行くのであった

 

 

 

 

「いやいやいやいや……いくら親友でも、おかしくないですか慎吾さん!?」

 

 そこまで話を聞いた所で、貯まりかねた様子で珍しく一夏が慎吾にそう言った

 

「む、やはりそうなのか? どうも光とは付き合う時間が長すぎたせいで上手く距離感をつかめないんだが……」

 

「どう考えても変ですよ!?」

 

 一夏に言われても少し難しい顔をして考え込む言う慎吾に、再び一夏は叫ぶように言った。普段とは逆の珍しい光景に思わずクラスメイト達は圧倒され、一夏や慎吾を食事に誘おうとしていたメンバーも足を止めてしまった

 

「えーっと……これは、ちょーっと困ったわね……」

 

 そんな中、教室の外では一夏の大声で若干、入るタイミングを逃してしまった楯無が少し所在無さげにしていたのだが教室にいた生徒達の視線は慎吾と一夏に集まっており、楯無が気付かれるのは少し遅れる事になるのであった




 私が書いてると何故か光がこんな事に……。真面目ゆえの天然を表現を使用としていたつもりだったのですが


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78話 学園祭開幕! ご奉仕喫茶の一幕

 今回、以前からモブとして出ていたオリジナルキャラクターを出しますが……残念ながらウルトラシリーズとは無関係なキャラクターですので、ご注意を


それから、正確には慎吾が一夏に同室の光との生活を話したあの日から、何故か以前にも増して楯無が思わせ振りな冗談っぽい行動を取るようになり、それが切っ掛けとなって波瀾が起きたのだが、それは予期せぬ形で一夏を疲弊させてしまった事に責任を感じた慎吾が積極的にフォローに動く事で消火にあたり、放課後には慎吾も一夏も一心不乱に楯無からの特別指導を受け続けていると、あっと言う間に一日一日が過ぎて行き、慎吾が気付いた時には既に学園祭当日となっていた

 

「どうだ一夏、君の調子は大丈夫か?」

 

 慎吾と一夏専用となる一組近くの小さな更衣室、そこで開演前に僅かに与えられた時間を出来る限り使い、もう滅多な事では袖を通す事は無いだろうと思っていた白い執事服に身を包んだ慎吾は全身が映る姿見の前で細かく身嗜みを整え、赤と銀のストライブ柄のネクタイを見映えよくなるように調整しつつ締め直しつつ、慎吾は一夏にそう問いかけた

 

「はは……何て言うか、皆のテンションにパワー負けしそうです。今も全然、落ち着けないし……」

 

 その問いかけに、慎吾とは対になるような黒の執事服に身を包んだ一夏は、椅子に腰掛けたまま苦笑しながら答える。そう言う一夏の体は本人の言う通り、落ち着かない様子で世話しなく動きまわり、一夏の抱えている不安を言葉にせずとも分かりやすい形で表していた

 

「そうだな……これだけの人数がいるのでは、無理もない……と、言うべきだろうな」

 

 その一夏に同調するように慎吾は苦笑すると、そっとカーテンで覆われた近くの窓を小さく開き、から廊下、一組教室の前の様子を伺った

 

「あの織斑くんと大谷さんがダブル執事で接客!? いくらなんでも一組サービスし過ぎでしょ!」

 

「それだけじゃないよ、執事の二人とはちょっとしたゲームも出来るだってさ! 勝ったら何とツーショットで記念写真!」

 

「ついに来た……入学以来、お菓子も大谷さんグッズも織斑くん裏グッズも買わずに我慢に我慢を続けて貯め続けていた貯金を解放するその時が!」

 

 まだオープンしていないのにも関わらず、一組の『ご奉仕喫茶』の廊下前には生徒達は異様な熱気に包まれており、気のせいか否か周囲の空気が揺らめいてさえ見えた

 

「この様子じゃ……お互い、今日は凄まじく苦労する事になりそうだな」

 

「ですね……頑張りましょう……慎吾さん」

 

 これから自分達に起こりうるであろう苦労の気配を感じ取った慎吾と一夏は顔を見合わせて苦笑すると、そっと、廊下にいる生徒達に気付かれない程度に小さく開けていた窓を閉じるのであった

 

 

「それでは……いってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 会計を終えたのを確認すると、慎吾は客であった一人の女子生徒にそう言って丁寧にお辞儀をする。その動きには以前アルバイトをした経験がしっかりと生きており、全く事情を知らぬ者が見れば慎吾を本職の執事かと思ってしまいかねないような程に中々見事な物だった

 

「……は、はいっ! すぐ来ます!! また最後尾から並んで会いに来ますっ!!」

 

 そんな慎吾の動きに一瞬、見とれていた女子生徒は瞬時に顔を赤くすると、舌を噛んでしまいそうな勢いでそう言うと、顔に満面の笑みを浮かべながら廊下に出ると瞬間、火がついたかのような勢いで一組から伸びる『ご奉仕喫茶』の長い列の最後尾に向かって走り出した

 

「ふぅ……っ」

 

 そんな客を、しっかりとお辞儀して見送っていた慎吾は、姿が見えなくなると顔を上げ、小さくため息を付く。『ご奉仕喫茶』オープンから休むこと無く忙しく接客に働き続けていた慎吾は午前を過ぎて少し、疲労し始めていた

 

「うん、相変わらず見事な接客。流石は、私のおにーちゃんなだけはあるな」

 

 そんな慎吾を見て何故か妙に納得した様子の、どこか自慢気な表情で頷き、ラウラがそう言って話しかけてきた。当然のようにその姿は、この『ご奉仕喫茶』の発案者なだけあって、その姿は完璧に決まったメイド服姿だった

 

「はは……そうは言うがラウラ。これは私が父から教えられた礼儀作法やアルバイトで身に付けた物をどうにか形にしたもの。言うならば付け焼き刃にしか過ぎない。私は、そう誉めれるような物では無いと思うが?」

 

 そんなラウラの発言を慎吾はやんわりとした口調で否定し、小さく苦笑する

 

「なるほど、おにーちゃん自身は自分をそう考えているのだな……」

 

 慎吾の話をじっくりと聞くとラウラは、そう考えるように呟き

 

「だがしかし、たとえそうだとしても私は、おにーちゃんを素晴らしいと思うぞ!」

 

 次の瞬間、迷いを見せない滑らかな口調で自身たっぷりに慎吾にそう宣言して見せた。ご丁寧な事にその右手にはしっかりガッツポーズまで作っている

 

「はは……ありがとう。ラウラ」

 

 そんなラウラからの好意を慎吾は今度は素直に受け取り、純粋な感謝の気持ちを込めて微笑んだ

 

「あー……ごめん大谷さん、ボーデヴィッヒさん……今、一番テーブル入ったお客さんが大谷さんご指名なの!! 大谷さん行ってくれる?」

 

 と、そんな中、少し申し訳なさそうにしながらも慎吾とラウラの間に割って入る形で、店内で働いてる箒、セシリア、シャルロットそしてラウラを含めた接客班の一人、皆と揃いのメイド服にピンクのヘアゴムで小さく髪を結んだ一組のクラスメイト、金子(かねこ) 二宮(にく)が話しかけてきた

 

「……あぁ大丈夫、問題はないよ金子。丁度、話は終わった所さ。……行ってくれるよラウラ」

 

 意図せず会話を割って入ることになったことで少しだけ不安そうにしていた二宮を安心するようにそう言うとラウラに別れを告げ、慎吾は少し燕尾服の襟元を整えると一番テーブルに向かって軽やかに歩き出す

 

「やっぱ筋肉ある男は中身もイケメン……やっぱり筋肉は最高よね……」

 

 そんな慎吾の背後では二宮がうっとりとした表情で、口元にうっすら涎を浮かべていたのだが、それは余りにも小さな呟きだったのと店内の慌ただしさが相成って誰にも気付かれる事は無かった

 

 

 

 

「ふ、ふふふ……ここまで計画通り、後はバッチリ堪能するのみよ」

 

 そして、件の一番テーブルでは偶々気付いた隣のテーブルの客が驚く程の迫力を持ち、上品に化粧した顔で笑みを浮かべる一人の女性客、有無を言わせない勢いで休暇を取り、アウトラインにかなり近い方法でチケットを入手し、本日来日したばかりのナターシャ・ファイルスその人が、慎吾が来るの今か今かと待ちかまえていた

 

「久しぶりに会えるんだもん、楽しませて貰うわよ……?」

 

 そう言うとナターシャは、あの日、バスの中で自身が奪った唇の感触を思い出しながら、空に思い浮かべた慎吾に赤いルージュがひいた唇でキスをした




 以前からモブとして登場し、筋肉を絶賛する発言ばかりしていた一組の生徒、金子二宮さん。ちなみに好みのタイプはストリートファイターのザンギエフです


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79話 ナターシャの誘惑

 書いているうちに私の中で、ナターシャさんがどうしてもこういうキャラクターと化してしまうので、今回、全く自重せずに書いてみました。そのため今回、
少々いつもより桃色気味の内容となっております


「ナ、ナターシャさん……!?」

 

「うふふ、久しぶりね慎吾くん。また会えて嬉しいわ……本当に」

 

 一番テーブルに到着するなり、店内の高価な調度品に全く臆する事なくリラックスした様子で椅子に腰かけているナターシャの姿を見た瞬間、驚きのあまり思わず声をあげる慎吾。ナターシャはそんな慎吾を緩やかな動きと、じっくりと舐め回すような視線で眺めながらそう言うと、誘惑するように慎吾にウィンクしてみせる。

 そんな、どこか冗談のようなやがらも、慎吾が学園生活の中で接しているIS学園の生徒達とは同じようで全く異なる『大人の女』特有の色気が漂う仕草に気付けば慎吾は思わず無意識のうちに生唾を飲み込んでいた

 

「それじゃあ……早速メニューを見せてくれないかしら、執事さん?」

 

「は、はい、どうぞ……こちらになりますお嬢様……」

 

 と、軽くナターシャがそう呼び掛けた事で封印を解かれたように体の硬直が緩んだ慎吾は、少し震える声で自身が持っているメニューを手にすると、ナターシャが良く見えるような位置にまで近付いて広げて見せた

 

「あら、私でもちゃんと『お嬢様』って呼んでくれるのね?」

 

 

 ナターシャの接客に表れて早々、名前で呼んでしまった事で少し違和感は感じる物のマニュアル通りしっかりと『お嬢様』呼びをしてくる慎吾にナターシャは少しだけからかうような口調でそう言う

 

「……お戯れを、お嬢様」

 

 が、今度はある程度冷静さを取り戻していた慎吾には通じず、慎吾は軽く苦笑する程度くらいには落ち着いて返事を返した

 

「えっと……そうねぇ……何にしようかしら?」

 

 一方のナターシャも慎吾に対処されるのは、ある程度想定していたのか、それ以上慎吾に言う事は無く、自身の顎にそっと指を添えると悩ましげな視線をメニューへと向ける

 

「じゃあ……この『執事にご褒美セット』を……お願いできるかしら、執事さん?」

 

「……はい、『執事にご褒美セット』ですね……畏まりました。少々お待ちください……お嬢様」

 

 心の奥では半ば予想していたとは言え、出来ることなら避けたかった注文をナターシャがした事で慎吾は思わず苦笑いすると、そのまま一礼してキッチンテーブルへと向かう

 

「はい、どうぞ大谷さん。その……頑張って?」

 

 慎吾がキッチンテーブルへと付くと、直ぐにアイスハーブティーと冷えたポッキーの二つのセット『執事にご褒美セット』が渡される。と、同時にキッチン担当だった生徒が少し気まずそうな表情で慎吾にそんなエールを送ってきた

 

「あぁ……気を使ってくれてありがとう」

 

 恐らくは注文用に接客班全員に取り付けられたブローチ型マイク。更に言えば気まずそうな様子からして、そこから故意ならずとも自分とナターシャの会話聞いてしまったのであろう。

 

 僅かな時間でそう判断した慎吾は、エールを送ってくれた生徒に短く礼を言うと『執事にご褒美セット』を受け取ると、再び一番テーブルへと向けて歩きだして行く

 

 突然のナターシャの訪問で緊張ぎみだった気分はほんの少しだけ良くなったような気がした

 

 

「お待たせしましたお嬢様」

 

「うん、待っていたわよ執事さん?」

 

 『慎吾にご褒美セット』が乗った銀の盆を持ちながら一番テーブルに戻った慎吾に、ナターシャは軽く微笑みながらウィンクをし、そう言って迎える

 

「……では、失礼します。お嬢様」

 

「あら?」

 

 そんな誘っているようなナターシャの態度に少し精神が乱れそうになりながらも何とか勇気を取り戻すと二人がけの席の空いている側、ナターシャの正面に腰かける。流石にそれは予想外だったのかナターシャは一瞬、怪訝な表情を浮かべる。が、直ぐにルージュの引いた唇でセクシーな形を作って微笑んでみせた

 

「あぁ……なるほど、これは私があなたにお菓子を食べさせてあげられるセット……と、言うことかしら?」

 

「その通りです……お嬢様」

 

 全てを理解したように語るナターシャに、慎吾は最初にこの『執事にご褒美セット』の説明を聞いた時に自身の耳を疑ったような子ッ恥ずかしい説明をナターシャにせずに済んだ事に、どこか安心したような気持ちになりながらもやはり恥ずかしい物は恥ずかしいのか、耳を赤く染め、少しうつ向き気味の姿勢で頷いたナターシャの問いを肯定した

 

「うーん、お金を払って初めてお菓子をあげれる……流石は日本。なかなか斬新な発想ね」

 

 慎吾の答えを聞くとナターシャは実に楽しそうに笑顔を浮かべると、何故か納得した様子の口調でそう言うと、滑らかにパフェグラスに入ったポッキーを一本手に取る

 

「それじゃあ早速……あーん。どうぞ執事さん」

 

 そう言うとナターシャは微笑んだままポッキーを慎吾の口元に向けて突き出してきた

 

「あ、あーん……」

 

 この『執事にご褒美セット』と言うメニューの使用上、そしてナターシャの笑顔の圧力にとても断る等と言う事が出来ない慎吾は、素直にナターシャの言葉に従って口を開き、ポッキーの先端部分を口に運ぶ。よく冷えたポッキーは軽やかな音を立てて割れ、シンプルな甘味が慎吾の口に広がって行く

 

「ふふっ……私、雛鳥にご飯を上げている親鳥の気持ちが分かったような気がするわ……あーん」

 

 少しずつポッキーを食べてく慎吾を少し微笑ましい物を見るような視線で見つめながらそう言うと、ナターシャは慎吾が食べ終わるタイミングを見計らって二本目のポッキーを手にすると再び慎吾の口元へと向ける

 

「お嬢様、少々ご冗談が過ぎますよ……あーん……」

 

 慎吾は恥ずかしさからか、ほんの少しだけ抗議の声をあげるものの、素直にそれを受け入れて二本目も口に運んだ

 

「あら、いいじゃない……こんな事、お互いに滅多に体験出来るような事では無いでしょうし」

 

 そんな慎吾の意見を軽く聞き流しながらナターシャは三本目のポッキーを手にする

 

「ちゅっ……」

 

 と、何故かナターシャはその先端に向かってコーティングされたチョコが溶けない程度に軽くキスをし

 

「ふふっ……はい、あーん……」

 

「!?」

 

 慎吾が二本目のポッキーを食べ終わり、ほんの僅かに口が開いた瞬間を狙い、慎吾の口内にそっと自身がキスをしたポッキーを差し入れた。そのあまりに大胆な行動に慎吾は思わず目を見開き、動揺による震動で椅子がガタリと音を立てた

 

「本当は『直接』してあげた買ったんだけど……ふふっ、今日はこれだけ。『直接』はまた今度……楽しみにしててね? ……慎吾くん」

 

 口でポッキーをくわえたまま大いに困惑する慎吾の目の前で、そうナターシャは得意気に微笑むと、おまけとばかり、そう言って慎吾に向けて指で小さく投げキッスを送って来た。

 

 幸いか否か忙しい店内でそれに気が付いた物はいなかったが、慎吾の視線は暫くの間思惑通りなのかナターシャしか移らなくなっているのであった




 少しねっとり気味のナターシャさん……私としては実の所、かなり気に入っているので今度、再び何らかの形で登場するかもしれません


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80話 会長登場、来訪する親子

 すいません……大遅刻してしまいました。出来る限り再びこんなことが起こらないように気を付けます


「それじゃあ、今日はさようなら。ここで私ばかりがあなたを独占してちゃあ卑怯ですもの、また会いましょう慎吾くん?」

 

 最後にもう一度だけウィンクを送るとナターシャは満ち足りた様子の晴れやかな表情で、慎吾に背を向けて立ち去り『ご奉仕喫茶』を後にした

 

「い、いってらっしゃいませ……お嬢様」

 

 そんなナターシャを少し話すペースがたどたどしくはあるがしっかり見送りながら慎吾はそう一礼し

 

「ふぅ……何なんだこの疲労感は……」

 

 明らかに疲れきった様子で顔を上げると、小さくため息を吐きだす。実の所、慎吾のナターシャの接客に使用した時間自体は、他の一般客と何ら変わらない平均的な長さ。むしろ、少し短いくらいではあるのだが、その僅かな時間にナターシャが自身の持つ大人の色気を武器にけしかけてきた積極的なアプローチの数々は並大抵の物では無く。それを証明するように、今の慎吾の額には汗すら滲んでいた

 

「だが……今は疲労に負けている訳には行かない。まだまだ行くしかないな……」

 

 しかし、それでも決して諦めたりも弱音を吐こうとしもせず、慎吾は顔を引き締めると胸元で小さく拳を作ると、決意の証明のように力強く握りしめた。

 

 流石に一夏には負けるもの、事前に一組生徒の間で考えられていた予想を越えるような人数の客を、開店から、ほぼぶっ通しで働いてる慎吾を何が突き動かしているのかと聞かれればそれは単純明解。

 

 

「皆が私を信じてくれてるんだからな……」

 

 そう、いつも慎吾が口癖のように言っている言葉である『責任』ただ、それだけだった

 

 この仕事が全く嫌でも無いし恥ずかしくも無いと聞かれれば流石に慎吾も迷わず首を縦に降るような事は出来かねるが、それでも最初に皆が自分なら出来ると信じてこの仕事を任したなら何としても全うしたい。そんな生真面目過ぎるような真っ直ぐな想いが疲労を振り切って慎吾の体を突き動かしているのであった

 

 が、しかし

 

「あら、慎吾くん。少しお疲れ気味じゃあない?」

 

「楯無会長……!?」

 

 そんな慎吾の変化は突如、現れた楯無の一言であっさりと見破られしまい、精神的疲労の影響からか楯無の接近に気付く事が出来なかった慎吾は思わず驚愕の声を上げて楯無の声が聞こえた方向へと視線を向け

 

「……なんでしょうか、そのお姿は」

 

 予想だにしなかったその姿に思わず絶句し、それから一瞬後になって冷静さを取り戻すと思わず苦笑した

 

「なんでしょう……って、メイド服よ。どう? 似合ってる?」

 

 慎吾の問い掛けに楯無は軽く笑って答えると、その場で軽やかなステップを取ると、モデルのようにポーズまで付けて慎吾にそう訊ねた

 

「そうですね……掛け値なしで私、個人の意見を言えば、楯無会長に大変似合って、すごく可愛らしいと思いますよ?」

 

 訪ねられた慎吾とはと言うと、先程ナターシャに見せたような態度とは打って変わり、特に動じた様子も無く、むしろ微笑ましい物を見るような落ち着いた様子でそう答える。その姿は楯無と出会った当初の慎吾から比べれば正に雲泥の差であった

 

 と、言うのも、その先が殆ど読めないような楯無の行動に暫くの間、戸惑っていた慎吾ではあったのだが、この連日の放課後の訓練で同じ時間を過ごす事も多くなり、その甲斐もあって『大まかには』楯無と言う人間を理解する事を可能とした慎吾は現在、こうして楯無が突拍子も無い行動をしてもある程度は落ち着いて返す事が出来るようになっていたのだ

 

「(まぁ……その分、楯無会長には私の人間性のほぼ全てを理解されているような気がしてならないのだがな……)」

 

「む……やっぱり慎吾くんの反応から新鮮味が薄れてる……これは『成長したね』と喜ぶべきか……『私に飽きたの?』と、悲しむべきなのか……悩むわね」

 

 内心で苦笑しながら、そんな事をこっそりと呟いた慎吾の心を知ってか知らずか楯無は慎吾をじっくりと見ながら少しわざとらしく顔をしかめ、そんな事を口にする

 

「はは、楯無会長。あまり後輩をからかわないでくださいよ……」

 

 それに対して慎吾は再び苦笑すると、そう言って軽く笑い飛ばしてみせる。気付けば結果的かも知れないが慎吾は楯無のお陰で浮き気味だった調子を、すっかりいつも通りの物に取り戻していた

 

「うーん……そうねぇ……あまり、からかってばかりも何だし……」

 

 慎吾の言葉を聞くと楯無は何故かそこで僅かに考え込むような仕種をし 

 

「よし決めた。じゃあ先輩として私から、そんな後輩に少し早めにプレゼントをあげようかしら? 少しやってもらう事もあるけどね」

 

 次の瞬間、ニヤっとした笑顔を作ると慎吾にそう得意気に言って見せた

 

「はい……?」

 

 そんな楯無に今度こそ呆気に取られた慎吾は、呆けてそんな声を上げたのであった

 

 

 

「まさか、やってもらいたい事が黛先輩の写真部の取材に答える事とは……」

 

 慎吾が楯無からの『やってもらいたい事』を引き受けた十分後、そこにはご奉仕喫茶を離れ、早足で廊下を歩いて正面ゲートへと向かう慎吾の姿があった。ちなみにその姿は以前、白い執事服のままではあるが上着を脱ぎ少しだけ動きやすい姿になっていた

 

「しかし、確かに思いがけない形での、この休憩は嬉しいが……取材に予想の他に手間取ってしまったな。……まぁ私のせいなのだから文句は言えないが」

 

 廊下を歩く、多くの生徒や来客の方々に決して当たらないように注意して歩きながら、そう言って自嘲するように笑う慎吾

 

 と、言うのも実の所、以前のクラス代表決定記念インタビューで失敗した事もあり薫子は悪くない事は分かっていながらも、何となく苦手意識を抱いてしまっておりそれが元によって今回のインタビューも必要以上に緊張してしまい、慎吾の薦めで先に休憩を取っていた一夏が戻ってくるまでに時間を食ってしまっていた

 

「何とか、克服しなくてはな……と……」

 

 インタビューで珍しく緊張している慎吾を見て『これはこれで貴重かもね』と言いながらしっかりと写真を撮っていた薫子の事を思いだし、恥ずかしさで苦笑しながら正面ゲート付近を歩いていた慎吾は、そこで先に到着し『事前に連絡した通り』に慎吾を待っていてくれた人物を見つけ、すぐに襟元を正すと近付いて軽く一礼した

 

「お久しぶりです……改めてIS学園にようこそ」

 

 

「慎吾くん、随分と風変わりな姿をしているが……それが君のクラスの出し物の衣装かい?」

 

 一礼をした慎吾、その衣装に少しだけ興味を持った様子で呟くのは、以前の休日の際に墓地で出会った時に着ていた物とは異なる明るめのスーツに身を包んだケン。そして

 

「慎吾さんお久しぶりです! 今日は学園に招待してくれてありがとうございます!」

 

 続いて、そう元気良く慎吾に挨拶をする、ケンと血が繋がった実の息子であり小学生なのにも関わらず慎吾とそれほど変わらない程の長身と、まだ幼さが残る優しそうな顔を持つ少年、光太郎

こうたろう

 

 

 親戚がいない慎吾に変わる形で、ケンと光太郎。この二人が本日、慎吾からの招待と言う形で学園を訪れているのであった



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81話 学園祭の親子とゾフィー

 更新、どうにも調子が伴わず再び遅れてしまいました……。何とか調子を取り戻したい所ですが苦戦中です


「なるほど、話し合いの中で、そんなユニークなアイディアが出てくるとは……さぞかし君の所属してるクラスは楽しく明るいクラスなのだろうな」

 

「うわぁ……そう言えば慎吾さんその服装凄く、かっこいいですね! よく似合ってますよ!」

 

「それはもう……入学してから退屈な日などが無いと思えるくらいには……。光太郎もありがとう」

 

 ゲートから離れ、校舎へと向かって歩く道の最中で慎吾から話を聞くとケンは嬉しそうに目を細めながら、光太郎は純粋な憧れの視線を向けながら、それぞれがそう口にし、長年世話になったケンや自分が実の弟のように面倒を見ていた光太郎が嫌味や皮肉などは決して言わない事を良く理解していた慎吾は少しひきつりそうになる表情を何とか気力で笑顔に変えて二人にそう返事を返した

 

「ユニーク……と、言えば思い出した。先程、正面ゲートで最近ではあまり見かけない程に強い気力に満ちた少年に出会ったな。それこそ彼がもう少し年を取ってればウチの会社(Mー87)に来てみないかとスカウトしようと思ったくらいだ」

 

「あぁ、あのバンダナを頭に巻いていた人ですね? 確かにあの人は周りの人達の注目を集めていましたし……僕も、みんなを楽しくさせてくれそうな人だなぁって思いました」

 

 と、そこで背後の正面ゲートを見つめながら感慨深げにケンがそう呟き、光太郎もまたそれに賛同するように頷く

 

「ねぇねぇ、大谷さんと一緒にいるあの人達、二人ともすっごく良くない?」

 

「スーツ姿の大人の人の方はすっごくダンディーで……もう一人は背が高いけど何か顔がかわいくて……あ、何か変な感覚に目覚めそう……」

 

「わ、私は童顔の男子って……かなり……好きかも」

 

「え~? 落ち着いてる大人の人の方が私は興味あるけどなぁ……」

 

 そして、当然のように学園の女子達の間ではケンと光太郎の姿は目立つらしく、女子生徒達は集まりながら二人について少し意識を向ければ屋外なのにも関わらず、会話の内容が丸々聞こえてしまう程に賑やかに意見を交わしており、さらにその内の数人の生徒に至っては一定の距離を保ちつつ、半ば追跡するように慎吾達の後をゆっくりと歩いてついてきていた

 

「ふふ……皆が揃って実にユニークな生徒達だな。こうなると君が入ったクラスが……と言うよりはこのIS学園が生徒達が楽しく生き生きと出来る、良い学校と考えるべきなのかもな」

 

 背後で騒ぐ生徒達の声を耳にしていたケンは、それらを全て受け止めて苦笑のような笑顔を浮かべるとそう慎吾に向けて呟く

 

「そうですね……因果かどうかは分かりませんが……」

 

 そんなケンの言葉を聞くと慎吾はふと目を細め、一つ一つ思い出すように静かに語り始めた

 

「私がISを起動させ半分程度しか事態を理解できないまま学園に入学して、もう暫くになりますが、混乱や戸惑う事は多くても学園に入った事を後悔した事はありません。……それにこの学園に来なければ彼女達にも会えませんでしたから……」

 

「……君の『妹達』の事だね。ヒカリから大方の話は聞いてるよ」

 

 と、そこまで黙って聞いていたケンが小さく微笑むと、特に何も咎めも必要以上に問いただす事もせず、そう優しく慎吾に言う

 

「出来ることなら、その件の妹達を私にも見せてくれると……」

 

 続いて、そこまでケンが口にしようとした時だった

 

「あっ、父さん、慎吾さん……前に」

 

 会話を交わしていたために必然的に相手へと意識を向けていた二人に代わるようにしっかりと前を見て歩いていた光太郎が二人に聞こえる程度に声を上げ、軽くケンの着ている服の裾を引っ張りながらそう言った

 

「あの、すいません。ちょっといいでしょうか?」

 

 光太郎の声のまま、ケンと信吾が会話を止めて正面、声が聞こえた場所を見る

 

 そこにいたのは虚だった。以前、生徒会室で慎吾が見た時と全く同じきっちりと整った制服姿で、偶然か否か手にしているファイルまで以前出会った時と同じであった

 

「こんにちは、虚さん。……もしかしてチケットの確認ですか?」

 

 虚に気が付く慎吾はすぐにそう言って、ある程度、虚がここにいる理由に検討を付けてから軽く挨拶をした

 

「こんにちは慎吾くん、えぇ察しの通り、そのつもりよ。これも生徒会の仕事だものね……さて」

 

 慎吾の問いに虚は柔らかく微笑んで答えながら、そこで慎吾の隣に立つケンと光太郎に向き直った

 

「……それではすみませんが、チケットを見せて貰ってもよろしいですか?」

 

「あぁ……勿論だとも。私のはここに」

 

「はい、どうぞ、こっちは僕のです!」

 

 虚に言われると、ケンと光太郎はそう答えそれぞれ懐から小さなファイルに入れて、皺一つ無い状態の招待券であるチケットを虚に手渡す。この二枚のチケットのうちの一枚、ケンが持っているものについては学園祭が始まる一週間程前にゾフィーの定期調査の為にMー78社へと出向いた際に慎吾が直接渡したものであり、そして光太郎が持ってるものはと言うと

 

「どうもありがとうございます……こちらの配布者は大谷くんと……あら、こっちは……芹沢さん?」

 

 ケン、次に光太郎と順番にチケットを受け取り、確認していた虚は光太郎のチケットの配布者の名前を見て、珍しく驚いているようにそう呟いた

 

「あぁ……彼女とは『会社』ではちょっとした知り合いでね。頼み込んで息子の分のチケットを譲り受けて貰ったのだか……もしや、それに何か問題があったかい?」

 

 と、そこで虚の呟きに答えるようにケンが静かに微笑みながら言うと、改めて確認するようにそう虚に尋ねた

 

「いえ、特に問題はありませんよ。どうか、楽しんでいってくださいね」

 

 ケンの問い掛けにそう答えると虚は軽く一礼すると、静かに歩いてその場から立ち去っていった

 

「彼女は……自ら動いて積極的に人と関わりを持つタイプでは無いからな……。それ故に意外に感じたのかもしれないな」

 

 虚が立ち去るのを横目で見ると、ケンは会社内での休憩時間、『どうせ招待する相手もいませんし』と、苦笑しながら自身に光太郎の分のチケットを渡した光の事を思い出しながらそう呟いた

 

「ですが……私はそんな光を大いに信頼を寄せていますよよ?」

 

 と、その呟きに、すかさず継ぎ足すようにそう答える

 

「…………あぁ、私もだ」

 

 突然の慎吾の言葉に一瞬だけケンは驚いたように目を見開くが、すぐにその目を微笑みに変えその言葉に同意して頷いた

 

「父さん、慎吾さん……チケットのチェックも終わりましたし、早く行きましょう!」

 

「あぁ……行きましょうケンさん」

 

 と、そこで、何も語らず、じっと話を聞いていた光太郎がいよいよ堪えきれなくなったように、少しソワソワおした様子でそう言って二人を催促し始めた。

 

 体は高校生と偽っても誰もが疑わないであろう程で大きな光太郎ではあるが、こう言う部分は実に子供らしいな。と、慎吾は軽く内心で笑いながら歩き出すのであった



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82話 ケンの背中

 更新です……何とか執筆を続け、決して行方不明になるつもりはありません。どうにか努力して行こうと思います


「えっと……こっちかな?」

 

「お、おい、光太郎……そんなにあっさりと……!」

 

 光太郎の意見を聞いて入った美術部のクラス、そこで岡本太郎よろしく『芸術は爆発だ』と言うテーマの元に何故か開催されていた爆弾解体ゲーム。

 光太郎がメインとして参加し、慎吾が付き添い、確実にクリアに目掛けて進んでいたこのゲームであったが、最終フェイズである『爆弾の最終完全無力化』、赤と青の二本のケーブルを選んで切断し終了と言う段階で、どちらのケーブルを切断すべきなのかハッキリとした答えが分からず長考に入りかけていた慎吾に変わるように特に悩まず、光太郎がニッパー手に赤のケーブルを切断したのを見て慎吾は驚き、慌てて声をあげた

 

 が、本来ならばゲームオーバー。つまりは爆弾の最終完全無力化失敗時に爆発代わりに鳴り響くと言われていたアラームはいつまでたっても鳴る様子は見せなず、それどころか爆弾は僅かに鳴っていた電子音も消えて静かになっていた。すなわち、それは

 

「おめでとう~無事、爆弾解体完了でーす! おおっと! って、えっ……しかも、これって解体完了までの時間が歴代最速タイム!? す、すごーいっ!」

 

「へへっ……ありがとうございます!」

 

 と、その瞬間『美術部部長』と、言う腕章をつけた女子生徒が拍手をしながら二人を称えがら歩みより、それと同時に二人が爆発解体ゲームを開始した時から、たった今まで時間を計測していたストップウォッチで光太郎がゲームクリアまでかかった時間を見て、驚きに目を見開いていた

 

「(そう言えば思い返せば、光太郎……私が軽く爆弾解体の基本を教えただけで、すぐに実行していたし、おまけに、ほぼ完璧と言えるレベルでそれを成功していたな……と、なるとこの時間も必然と言えるか)」

 

「おっとと……今、賞品を持ってくるね……と」

 

 と、そんな風に嬉しそうに成功を喜んでいる光太郎を慎吾が分析していると、腕章を付けた美術部部長が

一旦、部屋の奥へ引っ込むと何かが入ってるらしい小さな小箱を持って、にこにことした微笑みを浮かべながら光太郎の元へと歩み寄ると光太郎の目の前で少し勿体ぶった様子で箱を開く

 

「はい、これが……爆弾解体成功の賞品、美術部特製の金メダルでーす!」

 

 楽しげな美術部部長の声と共に箱から現れたのは、『祝!爆弾解体成功!』と表面に刻まれた手のひらサイズ程の小さな金色のメダルであった。メダルはさほど大きくないものの表面には全く曇りが無く、電灯の光に照らされ慎吾の目から見ても、少しばかり高価な商品として店頭に出せそうだと思える程に完成度が高く感じれた

 

「うわぁ……この金メダル、とっても綺麗ですねぇ……」

 

 美術部部長に箱からメダルを手渡されると光太郎は目を輝かせ、うっとりとしたようにメダルを手に取ってそう言う

 

「え、えへへっ、そう言って貰えると頑張って、作ったかいがあるかなぁ……嬉しい……かも」

 

 すると、光太郎にメダル同様に一切の曇りの無い瞳で純粋に誉められたのが少し照れくさかったのか、美術部部長は少し頬を染めると恥ずかしそうに頭を掻きながらそう呟いた

 

「あっ、そ、そう言えば! 名前、教えてくれないかな!? 今からメダルに刻んであげるから! ね!?」

 

 そんな恥ずかしさを、まるで誤魔化そうとでもするように慌てた口調で少々強引に笑顔を作りながら光太郎へと呼び掛ける

 

「……? あっ、はい、僕は……」

 

 そんな美術部部長の態度を奇妙だとは感じたらしく一瞬、不思議そうな表情をした光太郎ではあったが、だからと言って特に疑いを持った様子もなく名前と、そして聞かれてはいなかった年齢までも付け足して名乗った

 

「いやいやいや……矢鱈に純粋だとは思っていたけど……しょ、しょう、小学生ーっっ!?」

 

 瞬間、窓ガラスが大きく震え、そのまま割れてしまいそうな程の大きさで美術部部長の絶叫が室内一杯に響き渡るのであった

 

 

「それにしても美術部の部長さん、様子がちょっとおかしいな……って、思ったんですけど、あれは一体、何だっんでしょうか? ねぇ、慎吾さん」

 

「そ、そうだな……何故だろうな……私にもよく分からないな……」

 

 首を傾げながら問い掛けてくる光太郎にそう、曖昧な返事をしつつ、慎吾は頭の中で、美術部部長が慎吾自身や美術部部員達の呼び掛けによって落ち着きを取り戻したのを見て慎吾達が立ち去ろうとした瞬間、美術部部長が小さく、本当に消えてしまいそうな程の小声で呟いていた言葉

 

『えっと……あの子は小学生……でも私がときめいちゃったって事は私って、もしかして……うわわわ!』

 

 それが果たして光太郎にも聞こえてしまっていたかどうかが気になって気が気では無く、慎吾にしては珍しくそわそわと忙しくなく所在無さげに体を動かしていた

 

「そうだなぁ……おまえは他の同じ年の子と比べても背が高いし、顔も本当の年齢から見ればほんの少しだけ大人びてる……それでお前を同年代と考えてしまったから美術部部長さんも驚いてしまったのだろう。私はそう思うぞ?」

 

 と、そんな最中、困っていた慎吾に助け船を出すようにケンが非常に落ち着いた様子でそう光太郎に語りかけた

 

「ケンさん……」

 

「……しかし、だからと言って特段お前がそれを気にやむ必要は無い。あくまでお前はお前、それで光太郎と言う一人の人間なのだからな」

 

 予想だにしなかったケンのフォローに驚いて慎吾が言葉を詰まらせていると、ケンはそう言って光太郎の頭を軽く撫でた

 

「うん……分かりました父さん!」

 

 そんなケンに光太郎は頭を撫でられながらそう力強く答えて、むんと胸を張った

 

「(はは……やはり私では……まだまだ、この人にはかないそうになぁ……)」

 

 そうして何事も無いかのように容易く、一瞬にして空気を変えてしまったケンを見て、苦笑しながら慎吾は内心でそう呟いた

 

 今は遠く、先が見えない程に自分の遥か先を歩いている。ケンに、その大きな背中に、いつの日にか追い付けるように願いを込めて




 流石の隊長でも、この方には全くかなわないだろうな、と思います。精神面でも先頭面でも


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83話 光とケン、舞台開幕の前準備

 少し遅刻しました。次回あたりから話を動かして行こうかと思います


「……来てくれたか慎吾、本当の所はもう少し楽しんでいて貰いたかったんだが……報告の通りこちらの予想を越える程に客達からのクレームが激しくて、悔しいが俺だけではどうにも……」

 

「光!? な、なぜお前が……!?」

 

 ケンや光太郎と共に学園祭の店舗を歩いていた慎吾の元に携帯電話でラウラから入った『こちらの処理能力を越えた緊急事態。帰還を求む』との短いながらも、彼女にしては珍しく焦った様子の声の連絡を受けて慎吾が帰還した『ご奉仕喫茶』。そこで慎吾はどういう訳かご奉仕喫茶の制服であるメイド姿でそう謝罪してくる光を見て、思わず目を見開いて驚愕した

 

「あぁ、これか? お前のご奉仕喫茶を見ておこうと休憩時間を貰って訪れたら、楯無会長に代役として頼まれたんだ。なんでも会長に生徒会関係で急を要する用事が入ってしまったらしい」

 

「ああ、その事は理解できたが……」

 

 自身の姿を特段気にした様子も無くしっかりと背を伸ばし、落ち着いた口調で語る光をいけないと分かっていながら驚きのあまりに凝視し、慎吾は何とか絶句しそうになるのを堪えながら返事をする

 

「あ、光さん! お久しぶりです!」

 

 と、そんな中、『ぜひ慎吾さんのクラスの模擬店も見に行きたい』と言って同行してきた光太郎が光に気付くと、満面の笑顔で笑いかけ挨拶をした

 

「光太郎……うん、そうだな本社では研究室ばかりにいたから、こうして直接顔を合わせるのは久しぶり……と、言うことになるな」

 

 そんな光太郎に光もまた、ふっと表情を緩ませると小さく笑いかけてそう答える。と、その時光太郎の背後から静にケンが姿を表す

 

「ふふ……その様子だと君も慎吾と同様に充実した学園生活を過ごせているようだな」

 

「ケン主に……! おっと」

 

 現れたケンに一瞬、光は畏まった様子でそう口に仕掛ける。が、言おうとした直前になっめハッと何かに気づいたように慌てて言葉を止めな

 

「こほんっ……いえ、今はお互いに本社とは関係の無いプライベートですから、主任より『ケンさん』と呼んだ方が良いですね?」

 

 そして改めて思い直すように咳払いを確認すると、先程より少し肩の力を抜いた表情と仕草でケンに話しかけた

 

「……あぁ、私も今日は立場は忘れて、ただの『慎吾の知り合いのケン』として訪れたつもりだからな……そうしてくれると私も助かるよ。光」

 

 光の言葉にケンはそう言うと深く頷き、軽く微笑みながら答えた

 

「さて……あの織斑君も戻ってきている。早速、慎吾にも仕事に戻って貰おうと思うんだが……その前に楯無会長から伝言だ」

 

「楯無会長がか……?」

 

 ケンと光の簡単な挨拶も終わって、バックヤードに引っ込み、早速店内での仕事に戻ろうと事前にニスが美しく光る木製のハンガーかけておいた自身の執事服の上着(なぜか、帰ってみれば上着は店内に出されてそれをバックに店内で記念写真撮影が行われていたのを受け取った)を羽織っていた信吾に同じくバックヤードへと光が静かに告げる。その言葉に幾度か行われた楯無との交流での経験により、直感的に嫌な予感を感じ取った慎吾は思わずぴたりと腕の動きを止めた

 

「……『信吾くんの教室を手伝って多めの休憩時間をあげた代わりに、生徒会の出し物に協力してね。待ってるわよ』だ、そうだぞ慎吾」

 

 そんな慎吾の様子を見て苦笑しながら光は若干、その口調を本人に似せて楯無からのメッセージを伝えた

 

「私の意見を求めていない……と、言う事は、つまりそう言う事なのだろうなぁ……」

 

 メッセージを聞き終え、その内容から例え自分が楯無に今から断りの趣旨の言葉を伝えても相手にしてすら貰えぬだろうと悟った慎吾は半ば諦めに似たような口調と表情で深く溜め息を付いた

 

「生徒会の出し物は『観客参加型演劇』、演目はシンデレラ。だ、そうだ。せめてお前も楽しめるものであると良いな……」

 

 そんな慎吾をどうにか慰めようとする光の声が慎吾の耳には妙に遠く聞こえるような気がしていた

 

 

「……やはりと言うべきか、それとも当然と言うべきのかな……お前も参加されられている事は」

 

「はは……やっぱり慎吾さんもでしたか」

 

 舞台衣装に着替える為の更衣室として用意された、本来はISスーツの着替えを主として使われる第四アリーナの更衣室。そこで更衣室に入る直前に伝えられた衣装に着替えている際に、偶々出くわした慎吾と一夏はそう言うとどちらからともなく、共に苦笑し始めた

 

「一夏は……その王冠からして王子様役だな」

 

「そう言う慎吾さんは、えっと……」

 

「私の役は……王国騎士団隊長。らしいな」

 

 一夏の問いかけに慎吾は自身の衣装を更衣室内に設置された姿見越しに改めて見直しながら答えた。

 

 派手すぎず、しかし決して一夏の隣に立つ事で霞むような事は決して無いほどの存在感を持つ落ち着いた上品な赤がメインのローブに僅かな染み一つ無い白いマント。肩と二の腕を守るシンプルな造形の銀の鎧と渋い茶色と金の金具の皮のベルト。全体を通して見れば、なるほど慎吾のその姿は確かに上品な式典に参加する騎士の姿に見えていた。しかし

 

「(もっとも……騎士と言う設定のわりには、たとえ模造でも武器の類いが全く無く、防御が出来そうな装備も肩と腕の鎧、そして少々厚手のマントくらいしか無いのは妙に気がかりではあるが……)」

 

 慎吾はその心中で説明しにくいような妙な胸騒ぎ、『あの楯無会長が、こんな簡単な事をわざわざ借りを作ってまで自分に頼むだろうか?』と、言うような事を感じていた。

 

 数分後アリーナに作られた巨大なセットに登った瞬間、慎吾が曖昧に抱いていたそんな予感は見事に的中するのであった。それも、慎吾が『そりゃあ無いだろう』と口にしてしまうほどの形で



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84話 舞台開幕。隊長のゾフィー

「今になって、思えば……観客参加型演劇のシンデレラと言う時点で何か妙だと気が付くべきだったのかもしれないな……」

 

 床を蹴って空中に飛び上がり、精巧に作られたセットの階段。その中腹程の手すりに着地しながら慎吾はそう苦々しく笑って呟く。こんな風に自身がアクロバティックな動きをしてもマントも付いたこの衣装が殆んど邪魔になると感じない様子だと、恐らくは劇の脚本を書く時点既にこの事は決めていたのかもしれない

 

「はぁ……なぁ鈴、私はこの通りお前たちのように武器の類いは全く所持していないんだ……少しは手心を加えてくれないか?」

 

 そんな事を考えながら手すりの上に立ち上がると慎吾はため息を付き、階段の下にいる白地に銀のシンデレラのドレス姿に着飾り、手には飛刀(模造刀で切れ味は無いらしいが)鈴に半ば気休め気味な事を隠していないような口調で語りかける

 

「そう? あんたは下手に武器持った奴より、素手の方いろいろとヤバいと思うけど……」

 

 と、そんな何故か確信しているかのような鈴の言葉に、一夏を含めた周囲が一斉に同意して首を縦に動かして頷いた。

 

「おいおい……皆、私はずっと格闘技の修行をしていただけに過ぎない。あまり過剰な評価をしてくれる……」

 

 慎吾はその言葉に再び困ったように苦笑し

 

「!? な、よっ……!」

 

 突如、何かに気が付くと少し慌てた様子で両脚で手すりを蹴り飛ばすと再び空中へと飛び上がった。

 

 その僅か瞬き程の一瞬後、さっきまで慎吾が乗っていた手すりが何処からか放たれた散弾式のゴム弾によって破壊され、砕けた

 

「(暗闇にレーザーポインターのような赤い閃光が見えたから回避してみたが……ライフルでの狙撃か? と、言うことはセシリアか……発砲音が聞こえなかった事を考えるとサイレンサーを装備してるのか……)」

 

 セットの床に着地しつつそう分析しながら慎吾は狙撃から逃れるべく出来うる限り隙を無くすように注意しながら走ってセットの上を素早く移動してゆく。その間にもゴム弾での第二撃が、放たれるが一度目の攻撃でおおよそだが攻撃点を予測していた慎吾はうまくステップを踏み、前を向いたまま走る速度を僅かに緩めるのみでルートを変更しどうにかそれを退けた

 

「移動するぞ一夏! いくら単純な数では今のところ2体2で互角とは言え……丸腰の私達と武器持ちの二人が相手ではこのままでは押し切られてしまう! ……それに増援の可能性があるからな」

 

「はいっ! 言われなくても逃げます! 是非逃げましょう!」

 

 走りながら慎吾は今まで自身の背後の物影に隠れていた一夏に呼び掛け、共に全速力で走り出してその場を離脱し始める。幸か不幸かアリーナに作られているステージにはまだまだ十分な逃げ場が残されていた

 

「あ、待ちなさいよ!」

 

 当然、それを黙って見逃す訳もなく鈴が飛刀を振りかざし、セシリアが狙撃をして逃走する足を止めよう

としてくるが、慎吾は念入りに背後を確認しながら、それを一夏に合図を送り、最高速度で走り続けながら危うい所でステップを踏んで避けてゆく

 

「う、うわっ……!?」

 

 が、それでもやはり完全に回避するのはやはり難しく。放たれた一発のゴムの散弾の一部が慎吾の肩をすり抜けて一夏へと迫り、背後を確認しようと丁度振り返った矢先に眼前近くにまで迫ったゴム弾を見て悲鳴をあげる

 

「はぁっ……!!」

 

 と、あわや、このままゴム弾が一夏へと直撃すると思われたその瞬間。慎吾は踊るようにその場で鋭く一回転し、宙にマントを大きく、そして広くはためかせる

 

 その瞬間、タイミングピッタリではためいたマントにゴム弾丸が命中し、ゴム弾丸は『マントに弾かれ』一夏や慎吾の位置とはかけ離れた検討違いの方向へと飛んで行った

 

「大丈夫か? 弾丸が当たってはいないか一夏」

 

 それを確認すると慎吾は再び視線を正面に向け、走りながら、そう一夏に尋ねる

 

「……! あ、はい何とか! ありがとうございます!」

 

 一夏は一瞬、慎吾が僅かマント一枚でゴムとは言え弾丸を弾いた事に驚愕して目を見開いていたものの、すぐに状況が状況の為に慌てた様子で手短に慎吾に礼を言った

 

「なぁに……」

 

 それにならって慎吾もそう短く、『気にするな』とだけを伝える短い返事を返すだけに止め、走り続ける

 

「(それにしても、この劇の台本にしかし、全くもって楯無会長はいつも人の予想の斜め上を突き進んでゆくな……私なりに多少はあの人の人間性を理解したと思ってはいたが甘かった。やはりまだまだであったようだな……)」

 

 追撃をしてくる鈴の飛刀とセシリアの銃撃を注意深く観察してギリギリ回避し続けながら、慎吾は頭の中で静かにそう考えていた

 

「(……武装し、王子の冠に隠された機密情報を狙う史上最強の兵士と言う設定のシンデレラも大分、無茶だと思ったが……唯一の王子の護衛だと言う私の設定も……)」

 

 そこまで思い返して慎吾は楯無のまるでリングに現れたプロレスラーを紹介するようは自身へのアナウンスを思い出し、無意識のうちに思わず小さく苦笑する

 

『そんな灰被り姫(シンデレラ)達を待ち受けるのはっ! 王国が誇る泣く子も黙る最強騎士団、その中で頂点に立つ大隊長! 王子には秘密のうちに決められた許嫁の姫と王子を結婚させんが為、王子を守りシンデレラ達を蹴散らすために満応じして参戦! 自身の体こそ最強の矛であり、盾であると自称する彼に武装は王から授かったマント一枚で十分なのです!』

 

「(……よもや楯無会長は私を不可能でも可能に出来るような男だと思っていやしないだろうか? いくら何でも私一人がマント一枚で一夏を守り続けるなど無茶にも程があ……!?)」

 

 と、そんな風に珍しくぼやくように慎吾が考えていた瞬間だった。

 

「おっ、と、ととっ……!!」

 

 それは追われている最中に思考をしてしまった慎吾が生んだ隙だったのか、一瞬、ほんのコンマ一秒程慎吾は一夏へ回避の指示を送るタイミングをずれてしまい、一夏が前につんのめるようにバランスを崩してしまった

 

「しまっ……! 一夏!!」

 

 自身のとんでもない過ちを強く後悔しながら慎吾が一夏に向かって手を伸ばすが、二人の回避のタイミングのズレが二人の間に慎吾の予想を越えた距離を作り、慎吾の伸ばした手が空を伐る。その時だった

 

「大丈夫、一夏?」

 

「おにーちゃんよ、支援に来たぞ!」

 

 鈴と同じくシンデレラの衣装に身を包んだ慎吾の二人の『妹』が踊るように舞台へと姿を表した




 武装したシンデレラvs漢装備の隊長
……実はと言うとこんな無茶降りの戦いが、学園祭編で是非ともやりたいことの一つでした。


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85話 兄妹共闘! 騒動の舞台

「シャルロット! ラウラ! お前達もこの劇に参加していたのか……!」

 

 ドレス姿だと言うのに実に器用に、普段と変わらないような早さで舞台の上を手早く走って駆けつける『妹達』の姿を見て慎吾が名前を呼びながら叫ぶ。らしくないような単純なミスをした事で少し頭に血がのぼっていた頭は慎吾が普段から特に大切にしているシャルロットとラウラ、二人の妹達が現れた事でごく自然に冷静さを取り戻せていた

 

「うん、でもね……お兄ちゃん。僕達は」

 

「そう私達は『今は』おにーちゃんと戦うつもりは無い。我ら兄妹で力を合わせて乗り切ろうでは無いか。日本では兄妹が心を一つにして戦えば二倍、三倍を遥かに越える程の力を発揮できると、言われているのだろう?」

 

 慎吾に問われると、シャルロットは少しはにかみながら、ラウラは妙に得意そうに胸を張ってそう答える。そんな、それぞろ個性的な二人の妹を見ているうちに慎吾の口元には自然と笑みが浮かび始めていた。

 

「そんな話は私は聞いたことは無いが……ふふ、この状況の上に、かわいい私の妹の言うことだ。それを信じてみるとしよう」

 

「あっ…………」

 

「むぅ…………」

 

 二人のお陰ですっかり落ち着きを取り戻した慎吾は手を伸ばすとそっとラウラの頭を数回撫でる。頭を撫でられたラウラは気持ち良さそうに目を閉じてそれを受け入れ、一方のシャルロットはそれを見て少し羨ましそうに見ながら頬を膨らませていた

 

「ふふっ……シャルロットは劇が終わった後にでもな」

 

 それを見落としてはいなかった慎吾はそう言って小さく笑い、たしなめるようにシャルロットにそう告げる。そして二人をじっくり見て

 

「改めて、ありがとう妹達よ……今回ばかりは心底、お前達に助けられたと思うよ」

 

 そう言って優しく微笑みかけると、二人に精一杯の感謝の気持ちを告げた。そして

 

「さぁ、こんな機会ではあるが、今こそ我ら兄妹の力をみせてやろうでは無いか……!」

 

 次の瞬間、マントをひるがえし背後へと振り向くと、腕を組みながらその背で一夏を守るように屹立すると力強くそう宣言して見せた

 

「あぁ……勿論だとも!」

 

「うんっ! お兄ちゃん!」

 

 その慎吾の声に答えるように、それぞれが自身の装備。ラウラが日本のタクティカル・ナイフのレプリカ。シャルロットが対弾シールドを構え、慎吾の両脇に並び立ちながらそう言った

 

「ちょっ……これで共闘とかありなの!?」

 

「流石にこの三人の組合せの相手をするのは……しかし……!」

 

 突如として自身の目の前で結成された強力なトリオを前に鈴は驚愕し、新たに参戦した箒はシンデレラのドレス姿に顔をしかめる。ドレス姿だと言うのにその手に持ってるのは見事な木刀であったが箒自身の顔立ちやスタイルが優れているせいか、それは決してミスマッチには感じる事は無かった

 

『おお、何と言う事でしょう! まさにこの舞踏会は死地そのもの!! 二転三転にシンデレラ達や王室関係者同士の共謀も至極当たり前! 卑怯などとは言わせない!! しかし、しかし、こんな試練を朝飯前で乗り越えた強者こそ真のシンデレラ! すなわち勝者なのです!!』

 

 そしてこんな『シンデレラVSシンデレラ』と言う名前だけ聞けば意味と主旨が分かりかねるB級映画のタイトルのようにも聞こえる異様なシチュエーションを作り出した楯無本人はと言うと、いよいよエンジンがかかってきたと言わんばかり楽しげにそう実況し、その話の中で軽く慎吾達の共闘を認めてみせた。

 

「ああっ……! もうっ! こうなったら仕方ない。あたし達も一時共闘するわよ!」

 

「確かに、それ以外の手段であの三人を突破するの困難だな……」

 

 そんな実に自由溢れる楯無のナレーションを聞いて鈴はたまらず丁度、悲鳴と怒りが均等に混じったような声で叫ぶと、そのままやけを起こしたように有無を言わせない口調で箒を見ながら言い、箒も理解し手いるのか静かに頷いて答えると共闘の意思を示すように鈴の隣へと移動する。その直後、セシリアも箒と鈴のチームに参加する事を表明するように空砲が二発、どこからか聞こえた

 

「よし! これで何とか……行ける!」

 

 少し不安はあったものの箒とセシリアの二人が自身の案に乗って共闘に参加してくれた事で鈴は思わず飛刀を持っていない方の片手でガッツポーズを取った

 

「む、来るか……」

 

 当然来ると予期していたこととは言え、目の前で結成された強力なチームに顔をしかめ、警戒を強めて構えなおし、今にもどちらかが動いてぶつからんばかりの緊張感が周囲に漂い始めた

 

「あの……思ったんですけどこれって、俺が早いこと冠外して誰かにあげるってのは……駄目なんですか?」

 

 と、そこで流石にISでの試合時よりは緩いものの、ピリピリとした一触即発の空気に耐えかねたのか一夏が少しひきつりながらも出来る限り刺激を与えないように本人なりに精一杯配慮した様子の表情と声でそう提案し、そっと自身の頭の上に乗った王冠に手を伸ばそうとした

 

『………………』

 

「うっ……」

 

 その瞬間、その場で向き合っていた五人全員の視線が一斉に一夏へと注がれ、一夏は思わずその、無言の圧力に押されて思わず声をあげ、少し仰け反らせる

 

「そうだな一夏よ……考えてみてくれ」

 

 そこで一夏を助けるように、質問を請けた当人である慎吾が沈黙を破り、一夏の方に視線だけを向けて静かに問いかける

 

「『あの楯無会長』がこんなに多くの観客が入ってる舞台で、特に争いも騒動も波乱も無く、一夏が王冠を誰かに渡して平和におしまい。……なんて事を許容すると思うか?」

 

「あっ……」

 

 その慎吾の一言で何かを察したように一夏は、そう小さく言葉を漏らすと頭上に伸ばしていた腕をビデオの巻き戻し映像のようにそっと元に戻した

 

「さぁて……それじゃあ……行くわよ!」

 

「…………!!」

 

 そして、仕切り直すような一言と共に鈴が一歩踏み出し、慎吾が迎え撃てるように構え、今度こそ3対3での激闘が行わ

れようとした瞬間

 

『突然ですが急用により予定を早めまして、ただいまからフリーエントリー組の参加です! ええ、致し方ない事ですが全く偶然に予定が早まって!』

 

 楯無が何の前触れも無く唐突に、何故か妙に早口でそう一気に言い切り

 

「え……?」

 

「なっ……!?」

 

 それを合図に地響きと共に軽く見積もっても数十人以上のシンデレラがステージに雪崩れ込んでくるのであった

 

 

 一方で、そんな青天の霹靂のような事態が次々と起こる舞台を

 

「父さん……あちこちから、たくさんシンデレラが出てきましたよ! 慎吾さんは大丈夫かな……」

 

「ふふ……こう同じ衣装の人物が多いとまるで忠臣蔵だのようにも見えるな……」

 

 光太郎とケン、二人の親子は仲良く並んで観客席で眺めているのであった




 軽い感じで出してしまいましたが、やはりこの兄妹達も互いを想い、助け合う事で全力以上の力を発揮できるのです


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86話 二大襲撃者、IS学園に迫る

 ついに、隊長を語る上では外せない。ヤツを出します


「ちょっ……! 早い! 大谷さんマジで早い!!」

 

「マトモに当たらせてくれない……ってか、当てられる気がしないんですけど!?」

 

「しかも回避中にも隙が殆ど無いって……ええいっ! 囲め! 囲め!」

 

「もうやってるよ! それでこれなの!」

 

 舞台ところ狭しとある時はセットを足場がわりに利用して跳び、ある時は舞うようにターンをしてマントを靡かせて視界を幻惑しながら裂け、ある時は三人同時の攻撃を両手と左足だけで受けきり残った右足で跳躍して回避し、慎吾は大量のシンデレラ達を撹乱し、困惑させる事でやり過ごしていた

 

「はぁ……はぁ……」

 

 が、いくら慎吾が普段から決して鍛練を欠かさない程、鍛えていると言ってもそんなパワー調整を一切しないような全力疾走にも似た無茶苦茶な動きをいつまでも続けられる筈がない。時間と共に慎吾の呼吸はあからさまに乱れはじめ、顔や背中からは汗が滲み始めた

 

「大丈夫、お兄ちゃん!?」

 

「くっ……もう少しで援護に向かう! それまで持ちこたえるんだおにーちゃん!」

 

 次第に限界点が見え始めてくる慎吾を気づかい、シャルロットとラウラがそう声をかける。が、フリーエントリーで参加してしたシンデレラの人数が余りにも多いために二人の姿はかき消えてしまい、聞こえるのは声だけであったが直後に聞こえた

 

「盾では攻撃出来ないから、思いっきり近づいても大丈夫……数分前の私はそう考えていました……ぐふっ……」

 

「ナイフなんて長物でリーチ取ってれば余裕!……とは、これだけ技術差があれば行かなかったかぁ……フフッ……」

 

「どうやら二人は、私が心配する必要が無い程度に大丈夫のようだな……」

 

 と、言う何故だか少し満足げな様子で崩れ落ちるフリーエントリー組のシンデレラ達の声を聞いて二人の無事を確認し、少しだけ安堵した様子でそう呟くと笑顔を浮かべる

 

「くうっ……少し相手が多すぎない!?」

 

「流石にこれだけの数が相手では……!!」

 

 どうやら、鈴と箒もまた余りにも手をやかされてるらしく、少しだけ苦しげに二人がうめいてる声もまた聞こえてきた

 

「しかし……声が聞こえなかったが、一夏は大丈夫なのだろうか……?」

 

 と、とりあえずは妹達の無事、それからすすり泣き達もまた無事である事を確認した慎吾は、ずっしりと疲労し始めた体に鞭を入れ、流れる汗を拭って視界を確保し、身を翻し続けて攻撃を回避して舞台の上を走り続けながら舞台のどこにかにいるはずの、はぐれてしまった一夏の姿を探す

 

「……あそこか!」

 

 そうして、しばらく走り回った所で慎吾はようやく慎吾は舞台の端あたりで一夏の姿を発見した。一夏の周囲には暴力的なシンデレラの数に押されてやはりはぐれてしまったらしく、シャルロット、ラウラ、鈴、箒、それにセシリアの四人のうちの誰もおらず、一夏は必死の表情で無数のシンデレラ達から逃げ回っていた

 

「今、行くぞ……!!」

 

 その姿を確認した瞬間、慎吾は一夏の方向へと走りだし

 

 

 その瞬間、一夏が舞台の下から伸びた何者かの手に足を捕まれ吸い込まれるようにセットの上から転げ落ちるのを目撃した

 

「……おいっ!! 待て!!」

 

 突如として起こった驚くべき光景に慎吾は一瞬、驚愕で目を見開いたが直ぐに怒鳴るような大声で叫ぶと邪魔になってしまいそうなマントを脱ぎ捨てると、たった今まで一夏がいた舞台の端へと向かって走り出す。一夏を連れ去った者は舞台に参加しようとしていたフリーエントリー組の生徒とは違う。と、言う事が慎吾には直感的に理解出来ていた

 

「(何か……何か嫌な予感がする……!!)」

 

 自身の胸によぎる不吉な予感がどうか的外れであってほしいと祈りながら慎吾は一夏を助けるべく、自身もまた舞台のセットの下へと飛び込んで行くのであった

 

 

「この方角は……もしや向かっているのは更衣室か……?」

 

 薄暗い道を僅かに聞こえてくる一夏の声を便りに進んでいた慎吾は、そこで大まかの道の行く先を知り、怪訝な表情を浮かべた

 

「人目の少ない所に連れていく……いよいよもって、本格的に怪しくなってきたな」

 

 自身が無意識に抱いていた嫌な予感が確信へと変わり始めた慎吾は、現在、密室状態になっているであろう更衣室へ一夏が連れていかれてしまう前に何とかしてそれを阻止せんと、歯を食い縛り一刻も早く追い付けるように更に足を早めんと一歩を踏み出し

 

 

「っ!?」

 

 

 その瞬間、一瞬で体内に侵入し体の芯まで零下へと落ちてしまいそうな程の猛烈な殺気を感じとり、慎吾は勢いのまま横へと転がるように飛び出した

 

 

 直後、先程まで慎吾はいた場所その真上から軽々と天井を大きく突き破りながら赤い閃光が現れ、閃光はそのまま床に着弾すると爆発を起こし、赤い火柱が周囲をくり貫くように粉々に吹き飛ばした

 

「はぁ……はぁ……うぐっ……はぁ……!」

 

 その恐ろしい一撃を横に飛び、さらにゾフィーを展開させる事でどうにか凌ぐ事が出来た慎吾は倒れたまま呻く。殺気を感じた瞬間から、それがただの攻撃では無く、『ISを展開させねば間違いなく死ぬ』ようなレベルの攻撃だと慎吾は予知していたのだ

 

「……チッ、直撃は避けたか。だがまぁ、問題は無いな」

 

 直後、自身が天井に開けた穴からISを展開させた襲撃者が小さなぼやきと共に姿を現す

 

 そのISは、まるで青色の翼を広げ、赤い体を持つ巨大な鳥に似ていた。防御を重視しているのかやたらに重厚そうな赤を主体としたボティの装甲の肩部分から伸びた一対の巨大な翼状の青いウィングは見ているだけで圧倒的威圧感を与えてくる。そして何より特徴的なのは茶色の右腕に握られた黄色の巨大なパイルバンカーだった

 

「かすりは、したからな……こいつの寿命が数分程延びたに過ぎないな……くくっ!」

 

「き、貴様は一体……!」

 

 地面に倒れ、先程の一撃がかすめた部分の装甲から白煙をあげるゾフィーを見てせせら笑う襲撃者に、慎吾はどうにか両腕を支えに立ち上がり仮面越しに睨み付けながら問いかける

 

「あん? これから死ぬ奴に誰が名乗るってんだ……って言う所だが……まぁいい、二人目の男子君には特別サービスだ、冥土の土産に教えてやるよ」

 

 睨みつける慎吾を軽く受け流して襲撃者の女性は軽く自身のISと同じく赤い髪をかきあげながら嘲笑う

 

 

「あたしは秘密結社、亡国機業(ファントム・タスク

)の一人! 名前はバード! そして、お前をぶち殺すこいつはバードン!! 分かったなら覚悟しな、大谷慎吾くんよぉ!!」

 

 バードと名乗った襲撃者はそう勢いよく慎吾に名乗るのと同時に瞬時加速を利用してゾフィーへと襲いかかってきた




 と、言うわけで強豪、バードン登場です。考えた結果、このように亡国企業側のオリジナルISにさせていただきました。


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87話 紙一重の熱戦

「ふっ……ぜやっ!!」

 

「おっと! へぇ、中々に早いキックじゃあないか……!」

 

 先制気味にゾフィーが放った上段蹴りを避け、バードは口元に笑みを浮かべる。余程、自身の乗るIS『バードン』の回避能力に自信があるのか横に軸を反らして回避する際に腰に手を当ててポーズまでしている

 

「だがなぁ、甘……!」

 

 バードはそう得意気な顔で、右手のパイルバンカーをゾフィーに向け

 

「いいや……甘いのはお前だ!」

 

 直後、振り上げたままのゾフィーの脚が右斜めに降り下ろすようにして動き、そこから放たれた踵落としがバードンへと炸裂した

 

「んなっ……がっ!?」

 

 完全に攻撃の体制へと入っていたバードはダメージを軽減する事も叶わず、ゾフィーの踵が直撃したバードンの装甲から火花を吹き、驚愕の表情のまま、重力に従い、つんのめるようにして崩れて床へと倒れてゆく

 

「て、てんめぇっ……!」

 

 と、バードは完全に地面に叩き付けられる寸前で体制を変え、側転に似た回転するような動きで回転して激突を避けると、一転して先程までの必要以上の余裕はどこへやら、激昂した様子で青いウィングの両翼の中央に取り付けられた二問の砲門を開き、素早く水色の小さなエネルギー弾をゾフィー目掛けて次々と発射し、攻撃してきた

 

「くっ…………うっ……!」

 

 砲門が開いた瞬間、咄嗟に地面を蹴って空中に飛び退く事で回避を試みた慎吾ではあったが、バードンから放たれたエネルギー源は慎吾の予測を越える程に素早くかつ単純に弾数が多く、回避し損ねた何発かの弾がゾフィーの脚に命中し、即座に伝わる衝撃に慎吾は苦悶の声をあげる

 

「まだまだあっ!! さっきみたいにあたしがぼさっと油断して待ち構えてるだけだと思うんじゃねぇぞぉっ!!」

 

 当然と言うべきか激昂した様子のバードンはさながら機銃の如く勢いでエネルギー弾を乱射してゾフィーへと追撃を続ける

 

「はぁっ……!!」

 

 慎吾はそれを常に移動して回避し続けながら、ゾフィーの腕からスラッシュ光線を発射してエネルギー弾を相殺しつつ、バードンが連射の際に見せるほんの僅かな隙を付いて、砲門に向けて何発かのスラッシュ光線を放ち攻撃を続けた

 

 慎吾自身も無意識の内に、その動きは自然と一夏と共に楯無の指導の元で鍛えぬいた円状制御飛翔(

サークル・ロンド)へと変化してゆき、ゾフィーとバードン、二機のISは互いに攻撃と回避を同時にこなし、つつ徐々に上昇してゆき、そうして、二機のISが天井に開けられた穴、つまりは先程バードが慎吾に奇襲を仕掛ける際に破壊した部分に差し掛かった瞬間

 

「くらいやがれっ!!」

 

「はぁっ!」

 

 バードはバードンの右手のパイルバンカーを構え、慎吾はゾフィーの右腕で手刀を作ると、二人は円状制御飛翔を止め、弾かれたように相手に向かって急加速して飛び出すと交差して激突し、二機のISはそのまま加速の勢いで同時に天井を突き破って屋根の上へと飛び出した

 

「ぐっ! あっ……ううっ……!」

 

「……ち、ちきしょう……あたしと、このバードンがただの手刀一発でここまで……!!」

 

 

 激突した際、どうやら二機のISはそれぞれ攻撃するタイミングが全く同じで、相討ちのような形になったらしく、慎吾とバードの両者は共に飛翔を続けながらも相手からの強烈な一撃に悶え苦しみ、声を漏らした

 

「(な、何と言う威力なんだ……あのパイルバンカーは……)」

 

 バードンのパイルバンカーの強烈な一撃が命中し、黒煙をあげる胸部の装甲部分を庇うようにゾフィーの両手で覆いながら慎吾は激痛を堪え、その恐るべき威力に戦慄していた

 

「(私の手刀が同タイミングで命中した事でパイルバンカーもいくらか威力は落ちているはずなのだが……まさか、それを含めてもゾフィーのシールドエネルギーをこれほどまでに削るとは……!)」

 

 そう一撃、バードンから放たれたパイルバンカーの一撃がゾフィーの脇に命中した瞬間、慎吾に体の芯から砕かれてしまいそうな衝撃が走るのと同時に満タンまでゾフィーのシールドエネルギーは一気に半分近くにまで大きく削られてしまっていたのだ。

 

 恐らく自身の手刀でバードンがのけ反らず、完全にパイルバンカーを打ち込まれてしまっていたのなら間違いなく自身は崩れ落ちてバードンに敗北していただろう。と、慎吾は確信じみて感じ、仮面の下で静かに顔を青ざめさせた

 

 

「(次にあれをまともに受けてしまったら最後、ゾフィーのシールドエネルギーが枯渇して私は敗北してしまう……ここは長期戦をも覚悟で奴の隙を伺うのがベストだが……)」

 

 それが最善の選択ではあると頭では理解していながらも、しかしながら慎吾はそれを選択では出来ずにいた何故なら

 

「(しかし、仮に長期戦を挑んだとしても、今の私に残る体力ではバードより私が先にスタミナを切らしてしまう……そうなるとまず最悪。完全に勝機は潰えてしまうだろうな。それに下手に事を長引かせた場合、一夏の身が心配だ)」

 

 そう、皮肉な事に学園祭で少しでも皆の力になろうと必死で作業し、なおかつ舞台での全力乱舞、そしておまけに一夏を見うしなとばかりに緊張しながらの全力疾走が引き金となったのか既に慎吾は体に疲労を感じ始めていたのだ

 

「(危険だが……やはり、ここは短期で一気に勝負を決める他無い。早く一夏を助けに行くためにも……そして、私自身の為にも!)」

 

 そうして慎吾は覚悟を決めると、突如、ゾフィーを一気にバードン目掛け、全身でタックルでも仕掛けるような勢いで一直線に加速しながら突撃した

 

「……!! ふんっ……そんな馬鹿みたいな真っ正面からの攻撃が通じるかよっ!!」

 

 そんな慎吾の大胆な動きにバードは一瞬だけ目を見開いたもの、直ぐにその行動を鼻で笑うと、その場で静止したままウィング部分から大量のエネルギー弾を発射して弾幕を構築しながらゾフィーを待ち構え、大量のエネルギー弾がゾフィーを捉えようとした瞬間

 

「はぁっ!」

 

 気合いの声と共に慎吾はゾフィーをその第二形態、揺らめくオーラのような赤い輝きのエネルギー光を纏うスピリットゾフィーへと変化させると、決して加速を止めず、両腕を胸の前に水平に置いた

 

「Z光線!!」

 

 そのまま慎吾は放課後の訓練の中で実戦で使えるレベルにまで進歩させた円状制御飛翔でのZ光線を両腕から放つ

 

「んなぁっ……こいつは!? がっ……あああぁぁっつ!!」

 

 空中に稲妻のように細かくギザギザの軌道を描きながら放たれたZ光線はバードンの放った弾幕を障子紙でも破るように軽々と突き破るとそのままバードンに命中し、バードの悲鳴と同時にバードンは全身から上げ、真っ逆さまに地面へと墜落すると、鈍い激突音と衝撃と同時に大地にクレーターを作った

 

「よし! これであとは……!」

 

 Z光線が見事に命中したのを確認すると、慎吾はバードンにトドメを指すべく倒れているバードンに接近する

 

 その場に誰かがいて、この状況を見ていれば誰もが慎吾の勝利を確信し、事実、慎吾も決着が付いていないのにも関わらず、内心で僅かに、ほんの小さくだけ『この一撃で勝利に大きく近付いた』と、判断してしまっていた。

 

 

 だからこそ

 

「へっ……馬鹿め、甘く見やがったなっ……!! あたしと! このバードンをっ!!」

 

 

 倒れて身動き一つしなかった筈のバードンが起き上がり、向かってくるゾフィーに左手を向けている事が、ゾフィーの警戒音に慎吾が気付いて反応する事が僅かに遅れ

 

 

「ぐわああぁぁぁっっ!!」

 

 次の瞬間、ゾフィーの全身はバードンの左腕から放たれた真っ赤な炎に包まれ、回避も防御もする事が叶わず直撃を許してしまった慎吾の悲鳴が空へと響きわたった




 果たしてここから慎吾に勝機はあるのか……?その答えは次回で


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88話 奇跡! 白い閃光

 今回の後書きは新装備の一部説明を着けました


「(油……断した……! 奴の言う通り私は相手の動きの一部分を見ただけで見くびってしまっていた……!)」

 

 真っ赤な炎に包まれ、焼かれながら力無く落下していくゾフィーと共に慎吾は浮遊感と容赦なく全身を襲う激痛を噛みしめながは、自身の甘さが招いた失態を激しく後悔していた

 

「ぐぅ……」

 

 もはや枯渇寸前のシールドエネルギーと強烈な痛みにより霞がかかった意識ではゾフィーを飛ばせる事すら叶わず、ゾフィーは重量に従って地面へと墜落し、そこで立ち上がった多量の土でゾフィーの体を包んでいた炎はようやく立ち消えた

 

「うっ……うわぁ……」

 

 炎自体は消えたものの、いまだに大量の白煙をあげるゾフィーを疲労と痛みに倒れそうな体に鞭打ち、両手を支えに使ってどうにか立ち上がろうとする慎吾。その体で戦闘できる限界が近付いてる事を示すように胸ではカラータイマーが激しく鳴り響きながら激しく点滅していた

 

「くっ……ははっ、ざまぁ……ねぇなぁ!」

 

 そうしてどうにか起き上がろうとしている慎吾目掛け、歩みよってきたバードは容赦無くバードンの足でゾフィーを救い上げるように蹴りをゾフィーの腹部分に叩き込んだ

 

「ぐはぁ……っ!」

 

 当然、起き上がろうとするのにも苦労していた慎吾がその一撃に反応出来る筈も無く、慎吾の吐き出すような苦悶の悲鳴と共に空中へと吹き飛ばされたゾフィーは仰向けの形で再び地面に叩きつけられた

 

「さっきの戦いかたと言い、ちっとはやるようだが……残念、亡国機業のこのバード様に挑むにはちっと甘かったようだなぁ……!」

 

「がっ……! ぐぅっ……!!」

 

 そう嘲笑いながらバードは倒れたまま起き上がる事が出来ないゾフィーを幾度も踏みつけて追い討ちを放って行く、慎吾はそんな連撃にマトモに抵抗する事も出来ずそうして苦しげに呻く事しか出来なかった

 

「ふぅ……まぁ、お遊びはここまでにしておいて、いよいよこいつでとどめを刺してやるとするか……!」

 

 そうやって、ひとしきり抵抗が出来ない慎吾をいたぶった事で満足したらしくバードは倒れたままのゾフィーのタイマー目掛けて右腕のパイルバンカーの先端を突きつけた

 

「あばよ、このパイルバンカーが打ち込まれる前に、最後の言葉を考えておくんだなぁっ! ギャハハハッッ!!」

 

 勝利を確信したバードが慎吾を見下ろしながら嘲笑い、いよいよゾフィー目掛けてパイルバンカーを打ち込もうと身構えた

 

「(くっ……こ、ここまでなのか……!?)」

 

 その一撃はどうあっても回避しなければならない、それは理解してるのだが、必死に足掻いてもエネルギーが足りず、自らに突き付けられたパイルバンカーを動かす事が出来ない。そんな絶望的な状況に慎吾が思わず諦めかけた時であった

 

「そうはさせんぞ……!」

 

 聞いただけで、心底安心できる力強い声とまばゆいばかりの白い閃光が瞬くように三度、慎吾の眼前一杯に広がった

 

 

 

 

「うっ……わぁあああああぁああぁぁっ!! な、なんだ!? なんなんだよこりゃあっ!? 見えねえっ! あたしの目が見えねぇっ!!」

 

 白い閃光が直撃した瞬間、バードはとどめを刺すのも忘れて悲鳴をあげると両手で自身の目を押さえながら狂ったような勢いで地面を転がりだした

 

「安心しろ、今の光で間違っても失明するようなダメージは負わせて無い。緊急事態故に一時的に、視界は奪わさて貰ったがな……」

 

 もがくバードに冷静に告げながら声の主は、恐らく先程の白い閃光を放ったと思われる装置。クリスタルで出来たアレイにも似たそれを本来の肩から手先の上から装着したであろう、Uシリーズの腕部に良く似た銀色の機械の腕で油断無く構えながら静かに歩いて慎吾の前に姿を表した

 

「ケン……さん……っ!?」

 

 地面に倒れていた慎吾はその姿を、懐かしくも自身が最も頼りにしている人物を見た瞬間に、先程までの疲労や痛みも忘れて両手を使って起き上がり、ケンへと視線を返した

 

「何、君と一夏君が唐突に消えたのに不自然とただならぬ危険を感じていてな……気がかりになって思わず後を付いて来たんだよ。しかし、念のためにいくつか装備を整えていたら少々時間はかかってしまっていたがな」

 

 

 生身なのにも関わらずアレイに酷似した装備を手にしたまま、空いている手で起き上がろうとゾフィーを助けながら、ケンは実に何気ない様子でそう慎吾に向けて言葉を続けていく。

 IS同士の戦闘にほぼ生身で突入すると言うあまりにも桁外れの行動をしているのにも関わらず、普段と全く変わらない落ち着いた態度のケンに慎吾が圧倒されて何もすることが出来ず、ただ呆然とした様子で地面の上に棒立ちしながら眺めていた

 

「光太郎の事も心配は無い。ここに来る前に頼れる人物に暫く預かってもらっている……だから、慎吾」 

 

 

 と、そこでケンは一旦、語るのを止め、慎吾の方を再び見ながら静かに告げる

 

「これを纏い、決して諦めずに君が奴を打ち倒すのだ!」

 

「…………これは!?」

 

 ケンの言葉に反応して慎吾がゾフィーをチェックしてみると、いつの間にか新たな装備がゾフィーにインストールされていた。しかも驚くべき事に先程まで枯渇寸前だったシールドエネルギーまでもが完全にまでとは言わないが回復しており、タイマーの点滅も穏やかなものへと変わっていた

 

「私が製作した物だが、これはウルトラアレイと言ってな、今は生身の私でも使用出来るように多少出力を押さえている上に試作型ではあるが、先程のように強い光で相手への牽制、他のISへの装備の受け渡し、そしてシールドエネルギーの回復を可能にするのだ……と」

 

 そこでケンは少し、申し訳なさそうに慎吾に向かって苦笑して見せる

 

「そうだ、これを作る際、参考の為に君からウルトラコンバータを借り受けていたのだったな……すまない、今回の新装備はその詫びの駄賃とでも思って遠慮無く使ってくれ」

 

 優しげな笑みを浮かべながらそうケンは慎吾に告げた。と、その時

 

「うっ……て、てめぇ……このクソ野郎がっ!」

 

 今の今まで強烈な光で一時的に視界を奪われた事でもがき苦しんでいたバードは立ち上がり、まだ完全に視力は回復していないのか目を細めながらも怒りに満ちた様子で立ち上がりながらケンを睨み付けた

 

「生身の分際でこのバード様をコケにしやがって! 殺す! 丸焼きにしてから全身穴だけらにしてぶっ殺してやるよおっ!!」

 

 バードは怒りのまま、左腕を向けると、そのまま無防備なケン目掛けて超高熱の火炎を発射した。が

 

「……それは簡単には行かないぞ?」

 

 放たれた一撃はケンに激突するより早く、ケンと炎の間に素早く入り込んだ何かが炎を軽々と弾き飛ばし一塊だった炎は散らされ無数の小さな火の粉へと変わり、飛び散った火の粉は風に吹かれて自然に消えていった

 

「んなっ……!? 馬鹿な! ありえねぇっ……!!」

 

 建物の外壁を破壊し、ゾフィーにも大ダメージを与えた自慢の一撃が塞がれた事でバードは目を見開く。丁度その時、未だ残る火の粉を振り払い炎を退けた者がその正体を表し、ケンはあくまで冷静にバードに告げる

 

「何故なら、それより先に彼が君の相手をするからだ」

 

 それは鮮やかな赤の表示と銀色の裏地、チェーンで繋がれた襟元が特徴的な新装備『ブラザーズマント』をその身に纏ったスピリットゾフィーの姿だった




 ウルトラアレイ
 ケンが主体、ヒカリが補佐に回って製作した攻守を兼ね備えたUシリーズ新装備。……では、あるのだが、あまりにも独創性が強くて扱いづらく、マニュアル操作以外では殆どその力を発揮出来ない欠陥があった為にケンの所有する試作一機を残して量産は見送られた


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89話 戦いの決着、そして……

 


「うっ…………ちっ! クソがっ! ただがマント一枚羽織ったくらいでいい気になるんじゃねーぞ!!」

 

 一瞬、ブラザーズマントを装着し軽々と炎を吹き飛ばしたゾフィーに息を飲まされたバードではあったがその不安を嘘だと自身に誤魔化すように、パイルバンカーを構えなおすとゾフィー目掛けて瞬時加速で攻撃を仕掛け始めた

 

「たぁっ!」

 

 が、しかしその動きを完全に見切っていた慎吾は軽くマントをはためかせながらパイルバンカーを回避しつつ、中段の回し蹴りを無防備になった腹部に叩き込んだ

 

「うぐっ……!? げ……っ!」

 

 強烈な回し蹴りが叩き込まれた事でバードは肺の空気が一度に抜けてしまいそうな一撃に悶絶しながらも、追撃を避けるために背後に飛び退のき、同時に攻撃後の隙を狙ってゾフィーへの反撃を試みようと左腕を再び構える。が、しかし

 

「はぁぁっ!!」

 

 その瞬間には既にゾフィーは大胆にも更に一歩を踏んでバードンの懐に飛び込んでおり、火炎が発射される寸前に空気を唸らせてその左肩を渾身の力で殴り付ける

 

「ぐがっ……! げっ……な、なんだ、コイツは!? さっきよりあきらかに動きが速く……いや技のキレまで上がっていやがるっ!」

 

 二度の攻撃の直撃により、今度こそ堪える事が出来なくなったバードンは背中から地面に倒れ、バードは苦しげにもがきながらもゾフィーの動きに驚愕して叫んだ

 

「(体が軽く動く……心を落ち着かせて奴と戦う事が出来る……!!)」

 

 地面に倒れたバードが先程のようにいつ起き上がって攻撃してきても対処出来るように身構えながらも、自らの動きを振り返って自身でも少し慎吾は内心で静かに驚いていた。

 

 シールドエネルギーが完全には回復しておらず、尚且つ先程のバードンの攻撃による肉体ダメージがあるのにも関わらずこんな絶好調とも言える動きが出来るのは、ウルトラアレイから与えれたエネルギーの影響なのか、新装備であるブラザーズマントの力なのか、それとも

 

「ほんの少し見ないうちに……また腕を上げたようだな、慎吾よ」

 

 今まさに、この場所にケンがいる、自身が尊敬して止まないケンが自分の戦いを見ている。そんな単純ながらも重要な事実が今の自身を動かしている。慎吾にはそんな気がしてならなかったのだ

 

「くっ……そが……! ふざけんなあぁぁぁっっ!!」

 

 つい一分前まで絶対的優位に立っていたはずが一転、怒濤の勢いで攻撃を仕掛けてくるゾフィーに一方的に押しきられて防御や回避も出来ていないと言う事実が心底癪に触るのか、地面を苛立ちのまま殴り付けて立ち上がるとバードは怒りのあまりに声がかすれそうな程の大声で叫ぶと、左腕と右腕のパイルバンカーを同時に構えながらゾフィーに向かって突撃を仕掛けてきた

 

「はあぁぁっ!!」

 

 が、命中さえすれば効果は絶大なのだろうが、冷静さを失い、怒りに身を任せただけのバードの攻撃は、一度窮地に立たされた事で、神経を集中させていた慎吾には見切る事が容易であり、次の瞬間、パイルバンカーから放たれる杭とバードンの左腕から放たれた灼熱の火炎のほんの僅かな隙間に潜り込んだゾフィーの気合いの掛け声と共に打ち出されたハイキックがバードンに命中した

 

「がっ……!? う、嘘だこのあたしが……オータムの奴より優れてるはずのこのあたしが……!?」

 

 ゾフィーのハイキックが直撃したバードは目を見開き、まるで幻覚でも見ているかのようにどこかうつろな表情で呟き、バードンは蹴りの勢いのまま高く、学園の屋根を軽く越えてしまう程に高く空中へと飛ばされていく

 

「バード! これで終わりだ……!」

 

 そして、その間に慎吾は既に宙を飛ぶバードンに目掛けて狙いを定め、胸の前に両腕を水平に置いていた

 

「M87光線!!」

 

 次の瞬間、慎吾の掛け声と共にまるで学園の上空を貫かんとばかりに太く、まばゆいばかりに輝く青白い光、M87光線がゾフィーの右腕から発射され、光は真っ直ぐに未だ空中で体制を維持出来ていないバードン目掛けて飛んでいった

 

「ひっ! う、うわっ……! くそっ……まだまだぁっ! 負けねえ! あたしの装備はまだ残ってる! 残ってるんだあぁぁっ!!」

 

 怒濤の勢いで自身に迫るM87の凄まじい迫力にバードは恐怖を隠しきれない様子で、回避が間に合わないと分かりながら何とか抗おうとパイルバンカーを引っ込めるのと同時に代わりにシールドを2枚出現させ、シールドを両手に持ち、素早くM87から自身の体を守るように深く構える。丁度その瞬間、M87がバードのシールドに直撃し

 

 

 

 命中した瞬間、バードがたった今出したばかりの2枚のシールドは台風の前の紙屑のように軽く、実に容易く吹き飛ばされた

 

「…………へ?」

 

 

 予想の範疇を越えたあまりにも理不尽な光景にバードが呆けた声をあげた瞬間、バードンのその全身はM87の青白い光の中へと飲み込まれていた

 

 

 

「………………」

 

 M87を既に放ち終え、それが直撃して大爆発が起こった事をハイパーセンサーで確認した慎吾はM87の直撃で気絶したであろうバードを拘束すべく油断なく空中で待ち構えていた。が

 

「なに!? くっ……!」

 

 突如、何処からか構えていたゾフィーに向けてレーザー・ガトリングでの多数の攻撃が放たれ、全力攻撃の連続でシールドエネルギーに余裕が残されていなかった慎吾は思わず咄嗟にブラザーズマントを広げてそれを防御し、一瞬、慎吾の視界はブラザーズマントの赤に覆われる

 

「しまった……! 逃げられてしまったか……!」

 

 慎吾のブラザーズマントが再びその背中に戻った瞬間、爆炎の中にバードの姿は無く、代わりにくすぶるように残る爆炎と、遥か遠くにバードと慎吾を襲撃し、バードを救助したらしいもう一人の襲撃者となる一機の未知のIS。その二つの影が見えただけであり、慎吾はそれを追わず悔しげに黙ってその場で浮遊しながら見送るしか無かった。何故ならば

 

「あの襲撃者は、あの攻撃で私を倒そうと思えば倒すことが出来ていた……!」

 

 そう、確かにブラザーズマントで防いだ筈のレーザー・ガトリングが何発が命中しており、ゾフィーの装甲からは少し白煙があがり、その事によってもともと余裕が無かったシールドエネルギーは更に削られ、撃墜こそされてはいないものの、もはや瞬時加速どころがフルスピードでもう一人の襲撃者を追尾する事すら叶わない程にエネルギーは枯渇して二人を追いたくとも追えず。同時に、例え追えたとして余裕を見せるもう一人の襲撃者に今の自分では勝利するのは困難だと慎吾は直感的に理解してしまっていたのだ

 

「亡国機業……近いうちにまた戦う事になりそうだ……果たしてその時も、勝利できるかは……」

 

 もはやハイパーセンサーでも確認出来ない程に遠くへと行ってしまった、もう一人の襲撃者が飛び去った方向を見つめながら慎吾は確信した様子で呟く

 

 不吉な予感に、気付けば慎吾の体には無意識のうちに小さく鳥肌が立ちはじめていた




 今回はただの慎吾無双回になってしまいました……まぁ、たまにはこう言うのもありだと割りきってみます。
 そして、実は今回の話で初めて対ISでのゾフィー勝利の描写を書きました


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90話 マントの行方……そして『協力者』

「うむ、結果的に取り逃がしはしてしまったが、それでも掛け値無しに見事な戦い方だったぞ慎吾」

 

「大丈夫だったか慎吾? 念のため今すぐゾフィーの様子を見てみよう。エネルギーなら俺がウルトラコンバータを持ってきているから心配はいらないぞ」

 

「ケンさん……ヒカリ……」

 

 追跡を断念して地上へと戻った慎吾を迎えたのは、装備を解除し納得した様子で腕を組みながら深く頷くケンと、いつでも慎吾の援護に行けるようにしていたのか自身のIS、ヒカリを展開させた光の二人であった

 

「ケンさん……今回、姿を表した連中、亡国機業と名乗っていた者達の襲撃がこれで最後とはどうしても私は思えません。今日のこの場は撤退したとしても間違いなく再度の襲撃を仕掛けてくるでしょう。……それも決して遠くはないうちに」

 

 光にゾフィーのメンテナンスを任せながら、慎吾は静かに先程も感じていたケンに自分の考えを語る

 

「それは私も同感だ。この程度の損害で引いてくれるような連中ならば、IS学園に潜入して君と織斑君を相手にこれほど派手に暴れまわるような大胆な事はしないだろう」

 

 そんな慎吾の言葉にケンも同意し、深く頷きながら答える

 

「そうだ……! 一夏は……一夏と白式は大丈夫なのですか!?」

 

 『一夏が襲撃を受けた』と言う言葉を受けた瞬間、慎吾は体の疲労も忘れて立ち上がり、一夏の元へと向かおうとし始めた

 

「落ち着け慎吾。織斑くんの元へは楯無会長が向かった。あの人が相手ならば殆どの相手がまず問題は無いだろう? ……と、丁度、向こうも決着を付けたらしい。たった今、楯無会長本人から連絡があったよ」

 

 そんな慎吾を手で制止しながら光は諭し、同時に楯無からプライベート・チャネルで受け取ったらしい情報を伝える

 

「……残念ながら向こうも襲撃者、織斑くんを襲った亡国機業の『オータム』と名乗る人物を捕らえ損なったそうだ。なお、その際にBT二号機『サイレント・ゼフィルス』を操る人物がオータムの救出に出現、君の仲間のオルコットとボーデヴィッヒが交戦したが……容易く逃げられてしまったらしい……当然、こちらももう追尾は不可能だろうな」

 

「そうか…………」

 

 光の言葉を聞いた事で、一気に冷静さを取り戻した慎吾は頭を抱え、大きくため息をついた

 

「今回、総合的に見れば私達の勝利と言えば聞こえは良いが……これから先の事を考えると、素直には喜ぶ事は出来ないなぁ……」

 

「全くだ……こちらもそれなりの被害を受けているのに、相手に関してここまで不明瞭な点が多くては……あぁ、ゾフィーの方は大丈夫だ、今、チェックは終えたが機体に問題になるようなダメージは無い」

 

「あぁ、すまないなヒカ……」

 

 苦笑しながらゾフィーを引っ込めて元の舞台衣装姿に戻る慎吾。それに続いて光もヒカリを解除し、ご奉仕喫茶の仕事中から急いで駆け付けてくれたのかその制服であるメイド服姿に戻ってゆく、慎吾はそんな光に礼を言おうとし

 

「光……そのマントは?」

 

 いつの間にかメイド服の肩の上からご奉仕喫茶で別れた時には確実に無かった、慎吾にとっては非常に見覚えのある一枚の白いマントを羽織っている光の姿を見た瞬間、気付けば思わず慎吾は直球で光に尋ねていた

 

「あぁ、これか? お前を追いかけようと舞台下に潜り込んで行こうとした時、宙を舞っていたお前のマントが俺に向かって飛んで来てな、急いでいたから振り払いもせずにそのまま一緒に持ってきてしまったが………まさかマズい事をしてしまったか?」

 

 慎吾の問いに光は珍しく自身が無い様子で、自身が羽織っている白のマントをそっと触りながら答え、そっと付け足すように慎吾に問いかけた

 

「いや、特に問題は無い……はずだが……」

 

 光を安心させるように、そう答えようとした慎吾ではあったが、ふとそこで舞台衣装にも楯無が絡んでいると言うことを改めて思い出し、説明出来ないような不安を感じて素直に言うことが出来ず言葉を詰まらせる

 

「そう言えば思い返すと俺がこのマントを持ったまま、走り去る時に幾人かのシンデレラ達から絶好のチャンスが目の前で水泡と消えたかのような絶望の声が聞こえていたような気がするが……あれは何だったんだ?」

 

 慎吾の言葉を聞いて光は考え込むように頬杖を付き始めた

 

 『一夏の場合は頭の冠を、慎吾の場合は背中のマントを手にした者が同じ部屋で暮らせる』楯無が裏で流していたそんな情報を慎吾と光が知るのは学園祭が終わってからの事であった

 

 

「ひいいいい…………青い……青い光が……! 青い光が止まらない……! こっちに来る!!」

 

「……だぁあぁっ! うるせぇな!! いつまでビビっていやがるんだ!?」

 

 とある高層マンション、その最上階である豪華絢爛な装飾があちこちに施された部屋で、オータムは苛立ちを隠さず、毛布を頭から被って部屋の角で震えているバードを怒鳴り付けた

 

「あんなに元気だったバードがこんなに怯えるなんて……相当、怖かったのね『例の彼』のM87は……実際に『バードン』のコアも壊されてしまったものね……かわいそうに……」

 

 そんなバードを見て薄い金色の髪がよく似合った美しい女性、仲間達からはスコールと呼ばれる女性は心底同情するように悩ましげな表情でそう言って慰めの言葉をかける。先ほど浴室から出たばかりなのかバスローブ越しに見える肌やしっとりと濡れており、なんとも扇情的な姿になっていた

 

「…………」

 

 一方で、スコールのすぐ近くに立つ少女、エムは未だに怯え続けているバードに対して何も言わない。それは決してバードに対する配慮では無く、単に敗北した上に、相手に破れた時の事を思い出して怯えているバードを心底見下していたのだけであり、今のエムにはそんな事よりずっと重要な事があったのだ

 

「……スコール、『協力者』は手を貸すのは今回きりだそうだ。近いうちに、ここも離れて自分だけで活動していくつもりらしい」

 

 いい加減にバードの声が鬱陶しくなってきたエムは最低限必要な事を伝え、それにスコールが返事をしたのを確認するとドアを開いてさっさと通路へと出てしまった

 

「(くそっ……! 散々、好き勝手をしておいて! 何が『協力者』だ! アイツめ……!!)」

 

 苛立つ心のまま通路を歩き、エムは内心で激しく毒づいた。そう、エムの心を嫌でもかき回しているのは先程自身が口にした『協力者』。突然亡国機業の前に姿を表し、誰もが認める程に組織内でも圧倒的な実力を持ち、好き勝手に張り散らしていた一人の人物の事であった。それだけでもエムにとっては十分に腹立たしい事ではあったが、尚いっそうエムの怒りに触れる一つの出来事があった

 

「(私を『暇潰しにもならないカス』だと!? 亡国機業を抜けようが関係ない! 必ず見つけ出し、なぶり殺してやる!)」

 

 エムはそう固く決意して通路を歩き続ける。模擬戦で自身を完膚無きまで打ちのめして、見下して嘲笑までした『協力者』をこの手で始末する為に




 M87がすっかりトラウマになったバード。そして、次回からオリジナル編に突入する予定です


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91話 悪夢の目覚め

 更新が少し遅れてしまいました…


澄んだ海と他では見られないような希少な海洋生物が特徴的なある海に連なる諸島。そこから少し離れた所にある諸島の中でも大きいもののなる一つの島、表向けには建造途中のリゾート施設としているある研究所。今まさに、そこではさながら地獄のごとく複数の人間による怒声と悲鳴が飛び交っていた

 

「なんとしてもここで、食い止めろ! アレをここから外に出す訳には行かない!」

 

「くっ……! 怯むな! 落ち着いてヤツに攻撃を続けるんだ!」

 

 

「第四防壁も突破された! ええい、まだ制御は出来ないのか!?」

 

「駄目です! 相変わらず、こちらからの操作を全く受け付けません! 暴走が止まりません!!」

 

 

 そこにいたのはイギリス、中国、フランス、ドイツ、そして日本と複数の国のISに関する研究員と技術者、ISを展開させた兵士、そして一部の政府官僚達を合わせて200名程の人間達。彼らは皆、一様に焦り、そして恐怖に震えながらもここで開発された、しかし不可解な事に搭乗者が存在しないにも関わらず無人のまま動く一機の新型ISの暴走を食い止め、どうにかして沈黙させようと躍起になっていたのだ。

 

 兵士、科学者、そして当初はばらつきもあった政府官僚達もがこの緊急事態にそれぞれプロフェッショナルを意識し、持てる力を結集して挑む姿は実に見事であり、次々と攻撃は暴走を続けるISに叩き込まれていった

 

 が

 

「しまっ……! うああぁぁっ!!」

 

「さ、最終防壁突破されました!! だ、駄目だ! ヤツが外に出てしまう!」

 

 政府官僚達が連れてきた熟練の私兵達の一子乱れぬ猛攻撃、更に世界で活躍する技術者や科学者および技術者達による懸命の制御、そして官僚達による指示を持ってしても暴走する一機のISを止めることは叶わず、外部からの一切の干渉を受け付けないまま、暴走を続けるISはワイヤーの鋭い一撃で兵士達をなぎ払い、最後に用意された一際分厚い防護壁をも破壊すると、研究員達の悲鳴を背中にそのまま悠々と空へと飛びだってしまった

 

「だ、駄目だ……目標、こちらのレーダーからロストしました……」

 

 必死で研究所から逃げだした、暴走ISをレーダーで追おうとしていた研究所の所長である中年の男は顔を青ざめ声を震わせ 、絶望しきったようにそう言った

 

「なんて事だ……アレが……『T』が世界に解き放たれてしまったのか……!」

 

 かつて無いISを作りあげ、名声を得ようした結果、自分達が取り返しの出来ない過ちをしてしまった事に、官僚の中で纏め役の立場をを任されている白髪の老人は世界各国に、そう遠くは無いうちに迫り来る悪夢の絶望に震える事しか出来なかった

 

◇『T』研究所より脱走から十分後 日本 Mー78社研究施設近郊

 

 

 

「こちらゾフィーより慎吾、念のため先程チェックを済ませたが全く問題は無い。これより予定通り実験エリアに入る」

 

『了解した、実験エリアに突入次第早速、新装備の実験を開始してくれ』

 

 眼下に太陽の光に照らされて輝く海をほんの少しだけ眺めながら、ゾフィーを転回させた慎吾は高速で飛行しながら光へとプライベート・チャネルで通信を贈る。

 

 亡国機業の襲撃と言う大きな騒動はあったものの、ひとまず襲撃を受けた一夏も慎吾も無事のまま学園祭が終了してからいくらかの日数が過ぎたある休日の日。慎吾は光が生み出した新武装のテストの為にいつものようにMー78社の研究所。より正確に言えばいつも慎吾や光が利用しているものとはまた別の、本土から一本の橋を結んで隣接している。島にある研究施設を訪れていた

 

「ところで光……今日、いつもの研究所を利用しないのはやはり訳があるのか?」

 

『ああ、勿論だ慎吾。先程君に渡したその新武装、名付けてウルトラマジックレイが大きく関係している』

 

 海面近くを飛びながら実験エリアへと移動を続けながら慎吾はゾフィーの右手にある、どこかテトラパックにも似た三角錘から四本の突起がある奇妙な物体に視線を向けて呟いた

 

『その装備、ウルトラマジックレイは今まで開発した物に比べると少々特殊でな。その特殊さ故に今回のテストにはいつもの実験場とは別の場所で使う必要があったのだ』

 

「なるほど……果たしてどんな性能を持っているのか、実験エリアに着くまで期待している」

 

 肝心の性能の事をぼかして話す光に、慎吾はそれ以上何も言うことは無く。ただ黙って銀の仮面の下で小さく笑いながらそう答えるのであった

 

 

 この時は、移動を行っている慎吾も、そして別場所でヒカリを展開させてセンサーでゾフィーと慎吾の様子を念入りにチェックしている光も気が付く事は無かった

 

 

 自分達より勝るとも劣らないセンサー、驚異的な運動性能と、機動力を兼ね備えたIS。研究所を逃げ出したばかりの『T』が移動するゾフィーへと狙いを定めて動き出していたことを

 

 

 

「ええ……そうです。はい……お怒りはごもっともですが、既に、私自身どのような罰をも受けるつもりでこの連絡をさせて貰っているのです。……それほどまでに我々は取り返しのつかない事をしてしまった」

 

 『T』が逃走した研究所では、一人の官僚が決意を決めた様子で自国の首脳へと携帯端末で連絡をとっていた

 

「再度、申し上げます。研究所から逃走した暴走ISはここに集結した各国、複数のISパーツと装備を併せ持ってます。名は『T』こと『タイラント』! 一刻も早い警戒をお願い致します!」

 

 

 そう伝える官僚の声は何処に行ったかも知れぬ『暴君』の名を持つ、ISを畏怖するかのように震えていた




 はい、このオリジナル展開の敵はウルトラ兄弟を倒した強豪、タイラントです。オリジナルエピソードに苦戦してますが、どうにか頑張っていきます


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92話 『暴君』の君臨

 すいません……大幅に遅刻してしまいました……


「なるほど……お前がこの研究施設を選んだ理由は良く理解できたよ。この新装備の威力がとんでもない事もだ」

 

 濃密な霧が立ち込める景色の中、ゾフィーの装甲を埋めつくさん大量に付着した水滴も払おうともせず、足元に視線を向けながら苦笑して慎吾は光に通信を送る

 

「だがな私の問おうとしていることは愚問なのかもしれないが光、どうしても一つ疑問に思う事があるんだ……」

 

 と、そこで前置きするかのようにそう言うと慎吾は、再び眼下へと視線を向けて光に問いかける

 

 

「……この装備、ウルトラマジックレイは一体、どんな状況で使用すればいいんだ?」

 

 そう慎吾が語ると、タイミング良く周囲を覆っていた霧が風に流されて慎吾の足元

 

 

 カラカラに乾いたプール底のタイルがより鮮明にその姿を見せた

 

 

 そう、慎吾が現在いる実験エリアにあったのはとはスポーツジム等であるような25mクラスの広々とした一つの実験用プールであり、つい先程辿り着いた慎吾は、光の指示に従って水の張りつめたプールに狙いを付けてウルトラマジックレイを使用し、瞬時にしてプールの水を一滴残らず蒸発させて気体に変えてしまったその予想不可能とも言える威力に閉口させられた慎吾はこうしてすぐ様、光へと連絡をとっていたのであった

 

『活用法か……そうだな、水中戦を得意とする敵ISへの対策として……か?』

 

「……だからと言って、フィールド内にプールがある試合など早々無いだろうし、屋外で気軽に使って湖等を勝手に蒸発させて消してしまうのは問題だろう? と言うかそもそも使用する状況が限定され過ぎていないか?」

 

 まるでつい今考えているかのように手探りの様子で答える光に新吾はおいおいと、一言おいて苦笑しながらそう返事を返す

 

『はは……確かにその通りだが、だからこその実験さ慎吾。今日のこの結果を元にこれからウルトラマジックレイをどう使用して行くのかを改めて考えるのさ。……これからも頼むよ』

 

 光自身も自分が言っている事のおかしさは理解しているのか、同じく苦笑しながらそう新吾に改めて頼んだ

 

「あぁ……任せてお……」

 

 未だに軽く笑えを浮かべながらも慎吾が光にそう返事を返そうとした瞬間だった

 

「っ……!?」

 

 突如、東の空から一機のISがこちらに目掛けて急速に接近しているのをゾフィーのセンサーで確認した慎吾は目を見開き、警戒を露にする。

 

 この一帯はMー78社によって管理されている実験エリア故に許可されたIS機体や人が立ち入るのは原則禁止されており、たとえ例外的に立ち入っていたとしてもこのエリアで実験中の慎吾にそれが伝えられないのは妙でありそれだけでも慎吾が警戒するには十分だった、更にそれに付け加えて

 

『気を付けろ慎吾! アレは……!』

 

「あぁ……分かってる」

 

 機体スピードがずば抜けているのか、既にどうにか目視出来る程までに近付いて来ているISを睨み付け、光からの忠告の声に慎吾は緊張を隠せない様子で答えると、静かに下げていた両手を上げて構えを作った

 

「なんと言う……バード……いや、それとは別ベクトルに危険な殺気だ!」

 

 そう、慎吾はセンサーで接近してくるISを見つけた瞬間から自身に向けられる強烈な、それこそ獲物を狙う肉食獣にも似た本能レベルで強制的に震えを感じさせられるような殺気を受け、慎吾は迫る強敵目掛けて最大級の警戒をしていたのだ

 

「相手のあの速さからして、ここまで接近されていた時点でもはや逃走は不可能……やはり、ここで迎え撃つ以外に手は無いか……!」

 

 額に伝わる汗を感じながら慎吾がそう言った瞬間、ついに迫りくる敵ISはゾフィーの前にハッキリとその姿を表す

 

『な、なんだ、こいつは……! この異様な姿は!』

 

 その瞬間、ゾフィーから送られる映像でその姿を確認した光の驚愕の声が響く。Uシリーズの為に世界各国のISを研究し、ゾフィーを作り上げる以前にも幾度となくIS機体やその装備を産み出していた光でさえも『異様』としか表現が出来ないような姿でしかなかった

 

 単純なサイズだけでもゾフィーの1、5倍はありそうな巨大なボディ。そのボディに取り付けられているのは、超高感度センサーの役割を果たす巨大なイヤーと一本角状の装飾が目立つ頭部。腕は右手に巨大な鎌、左手にモーニングスターを思わせる刺が付いたハンマー。大きく肥大し蒸気を放つ脚部、背中には恐竜の胸骨を思わせるような長く、ゆるやかな弧を描く無数の刺。

 

 驚くべきことにその複数のパーツ全てがツギツギのように歪ながらも一つに繋がっており、結果として一機で複数の機体を特徴をそのIS『タイラント』は持っていたのだ

 

「この異様な姿、例えるならば……フランケンの怪物か、あるいは神話に出てくるキマイラと言った所か……」

 

 タイラントから向けられる殺気を受けながら慎吾は自身の落ち着きを保とうとするかのようにタイラントの姿をそう評した

 

『慎吾、今すぐ俺もそちらに向かう。お前を見くびる訳では無いがそれを相手をお前一人に任せるのは……!』

 

「あぁ……分かっている……お前が来るまでは持ちこたえて見せるさ!」

 

 身を案じて語りかける光に慎吾はそう返事を返すと迫りくるタイラント目掛けて飛び出していった

 

「…………」

 

 一方のタイラントは近づいてくるゾフィーを一瞬だけ見ると、最高速度を維持したまますかさず頭部から針状のビームを雨のごとく無数に発射してばらまき、ゾフィーの迎撃にあたり始めた

 

「殺気で交渉は無理だとは感じていたが……やはり問答無用で攻撃を仕掛けてくるか……!」

 

 その一撃を旋回して回避すると、慎吾は決意したようにすかさずスラッシュ光線を数発発射して、ビームを発射しているタイラントの頭部を狙う。が、

 

「なにっ……!?」

 

 タイラントが回避行動を取らなかった故に狙い違わず頭部に向かっていたスラッシュ光線は突如、あまりにも不自然な形でその軌道を変えタイラントの腹部に文字通り吸い込まれてしまった。

 

 その物理法則を無視したような動きに慎吾が驚愕して一瞬、動きを止めてしまった瞬間

 

「うっ……ぐあぁぁっ!!」

 

 タイラントの左手のハンマーから勢い良く噴射されたワイヤーの鞭のような殴打を受け、慎吾の悲鳴と共にゾフィーは海面へと向かって墜落していった




 タイラントから先生の一撃を喰らってしまった慎吾ですが……戦いはまだこれからです


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93話 死闘! 暴君対ゾフィー

 


「くっ……! あのハンマーにはワイヤーが内蔵してあるのか……私とした事が迂闊に接近しすぎた……それに……」

 

 タイラントからの一撃でバランスが崩れたゾフィーの姿勢を海面にぶつかる前に立て直しながら、慎吾が呟く

 

「一撃が想像を越えるこの重さ……奴からの攻撃は出来うる限り回避に専念した方がいいな」

 

 実の所、慎吾はタイラントからのワイヤーの一撃が直撃する本当にギリギリの所で両手と片膝でのガード、さらにだめ押しの抵抗とばかりに後ろに引くことで避けれぬのならば、どうにか威力を軽減させようと試みていた。が、それでもなお、ゾフィーは大きく吹き飛ばされ、ほんの僅かでもタイラントの力が強ければ吹き飛ばされた勢いのまま海面に激突する寸前にまでの衝撃を受け、並の一撃が直撃した時よりも多くシールドエネルギーまでも削られてしまっていたのだ

 

「…………!」

 

 と、そんなゾフィーに分析する暇も与えないとばかりに上空からタイラントが高速で迫り、再び大量の針状のビームを発射し、ワイヤーをさながら鎖鎌の如く回転させながら迫ってきた

 

「おまけに……単純な攻撃速度や移動速度までもが早い……! はっ!」

 

 それをしっかりと見ていた慎吾は咄嗟に瞬時加速を利用し、海面を滑るように回避する。直後、先程までゾフィーが浮遊していた場の下にあった海面を蜂の巣にせんばかりのビームが直撃し、海面に激しい水飛沫と薄い蒸気があがる

 

「…………」

 

 更にそれだけでは終わらず、ゾフィーの瞬時加速が終わった直後、ビームを無駄撃ちさせながらも瞬時加速後のゾフィー位置を予測していたのか、タイラントからワイヤーの一撃が伸びる

 

「はぁっ!」

 

 が、この一撃が来ることは慎吾も見越しており、慎吾は瞬時加速の勢いのまま、迫るワイヤーに向かって鋭く回し蹴りを放ち、ワイヤーを産み面に突き落とすと、同時にタイラントのワイヤーが噴射され、現在も先端から太いワイヤーロープが伸びているハンマーの手に向かってゾフィーの腕から再びスラッシュ光線を放った

 

「…………」

 

 が、しかし先程のタイラントとの遭遇時の繰り返しのように真っ直ぐ腕に向かって飛んでいっていたスラッシュ光線は不自然にその軌道を変化させると、再びタイラントの腹部、そこに取り付けられた五角形のエネルギー吸収器官に吸い込まれて、タイラントにダメージを与える事なく吸収されて消えていく

 

「はぁっっ!!」

 

 直後、スラッシュ光線を放つと同時に瞬時加速をしていたゾフィーのフルパワーの右足の踵落としがタイラントの頭頂部に炸裂し、その衝撃で巨大なタイラントの体が空中で大きく揺れる

 

「お前が私の放つエネルギーを吸収すると言うならば……このゾフィーからの直接物理攻撃を受けてみろ! たぁっ!」

 

 体制を崩したタイラントに慎吾は叫びながら更なる追撃を続け、今度はタイラントの頭部と体、そこを繋ぐ不自然な繋ぎ目に目掛けてゾフィーの左手で手刀を打ち込んだ

 

「………!!」

 

 踵落としの直撃により、体制が崩れてた事が原因か次の一撃たる手刀もまた、タイラントは防御も反撃に放ったビームも間に合わずに直撃を受けて、ビームをあさっての方角に飛ばすと今度は先程より大きく体制を崩した

 

「今だっ……!」

 

 その隙を決して逃すまいと、更にタイラントに向かって更に突撃をして懐に飛び込む、飛び込む寸前に腕を振り回して反撃するタイラントのハンマーがゾフィーの頭部を掠めて装甲から火花を飛ばすと共に慎吾の体に衝撃を伝えるが、慎吾はそれも気にかけずゾフィーの両腕でタイラントの胴体をがっしりと掴んで拘束する

 

「ハァアアアッッ……!!」

 

 そのまま慎吾は拘束されたタイラントが拘束から逃れようと暴れだすより、一瞬早くタイラントのずっしりとした太い脚を払い、タイラントの腹部を掴んだまはま変則的な背負い投げのような投げ技を放ち、海面を狙って勢い良くゾフィーより遥かに重量の重いタイラントを投げ飛ばす

 

「行くぞっ……!!」

 

 その瞬間、慎吾の掛け声と共にゾフィーは姿をより力が溢れ、赤いオーラのようなエネルギー光を放つスピリットゾフィーへと変え、踵落としから始まったこの連撃のフイニッシュを決めるべく落下していくタイラントに向けて勢い良く飛び出した

 

「ゼヤァァアッッ!!」

 

 飛びながら姿勢を整え、加速しながら飛び蹴りで狙ったのはタイラントの首部分。スピリットゾフィーになった事で更に加速速度が増したその一撃は、いくら非常に優れた機動力を持つタイラントいえども、二発の攻撃でバランスが崩れている状態で回避するのは不可能であり、慎吾の狙い通りスピリットゾフィーの加速した蹴りは見事にタイラントの首部分に命中し、激しい激突音と共にスピリットゾフィーの脚が命中した部分から無数の火花が飛び散った

 

 が、しかし

 

「な、なにっ……!?」

 

 自身の攻撃が想い描いていた通りにタイラントに命中したのにも関わらず、慎吾は驚愕の声をあげていた。何故ならば

 

 

 

 タイラントは防御や回避を全く行わず、棒立ち状態のままスピリットゾフィー渾身の蹴りを受け、それを体一つで身動ぎ一つせずに受けきって見せていたのだ

 

「………………」

 

 と、そこで蹴りを放った姿勢のまま愕然としているスピリットゾフィーにタイラントが機械的に首を動かして視線を向ける

 

「……!! くっ………」

 

 その瞬間、タイラントからおぞましい殺気を感じ取った慎吾は咄嗟に飛び退くような勢いで脚を引っ込めながらゾフィーを後退させタイラントとの間合いを作る。

 

 先程まで自身の連撃を食らっていた時とは明らかに違う。今の今まで目の前に映る全ての相手に殺意を向けていたタイラントが、その殺意をゾフィーと言うその存在一つに全て向けた。慎吾には確信を持ってそう感じ取れていたのだ。

 

 その瞬間

 

「SYAッ、ぎ……GYAAaaaaあaaaあァaaaaaっッ!!」

 

 それの元のなったものが電子音声だと理解するのに暫しの時間を必要とする程に、ひび割れ、壊れたラジオのように激しく耳障りなノイズとエコーがかかった爆音でタイラントはゾフィーに吠えかかる。

 

「……!!」

 

 あまりの音量に足元の海面が波紋を描き、狂暴性と暴力に満ち溢れた咆哮は、タイラントの行動をうかがって身構えていた慎吾も気圧され、半ば強制的に一瞬、瞬き程の隙を作らせる

 

 タイラントが動いたのはその直後だった

 

「GYAaaaa……ッ!!」

 

「(しまっ……!!)」

 

 吠えながら弾かれたようにゾフィーに向かって飛びかかるタイラント、それに一瞬遅れて慎吾はガードを作るが

 

 『そんなものは関係ない』と言うようにタイラントはガードの上から左手のハンマーの横殴り一発で軽々とゾフィーを文字通り吹っ飛ばした

 

「が……っ! ぐぁあっっ……!!」

 

 瞬間、意識が吹き飛ばされそうになるほどの激痛と衝撃を受けながらハンマーの一撃を喰らったゾフィーはなすすべ無く、近くの岩礁に叩き付けられ、激突部分の岩を粉微塵にしながら、慎吾は苦悶の声をあげた

 

「ぐっ……うっ……この威力、先程の一撃より更に上を……これほどのパワーのある攻撃を軽々と打ち出せる何て、一体奴は……!」

 

 膝を付きながらもどうにか起き上がろうとし、受けた一撃の威力に戦慄する慎吾

 

「SYAaッ………!」

 

「くっ……うっ……!!」

 

 と、そんな事を考える暇も与えずタイラントは追撃のハンマーを起き上がれていないゾフィーに向けて放ち、慎吾はどうにかそれを右手で岩礁を叩き、転がるようにして回避する。その直後、ゾフィーが倒れていた部分の岩がタイラントのハンマーで木っ端微塵に砕け、辺りに水飛沫と小石の雨を降らせた

 

「たあぁぁっ!!」

 

 その小石の雨を振り払い、慎吾は起き上がりざまにゾフィーの左足でタイラントの脚部に蹴りを入れつつ、完全に起き上がって足場の岩を踏み締めた瞬間、タイラントのボディに威力よりスピードを優先させて複数のパンチを叩き込んだ

 

「(これで決定打が入るとは思わない……更に一撃を!)」

 

 パンチを叩き込み終えた瞬間、慎吾はスピリットゾフィーのパワーを持ってタイラントが反撃に移る前に両腕で頭上より高く持ち上げると、タイラントを頭から岩礁に叩き付けた

 

 タイラント自身の重量とゾフィーのパワー。その二つが合わさった一撃は岩を軽々と砕いて、有り余ったエネルギーが岩から伸びるようにして水面に波紋を描いた。が

 

「GSYaaaaaaaa……ッッ!!」

 

「ぐわあぁ!!」

 

 しかし、しかし、それを真正面から受けてもタイラントは崩れず、倒れたままゾフィーの右足をワイヤーで強烈に殴打して慎吾の悲鳴をバックにしながら再びゾフィーを岩礁の上に倒れさせた

 

「(……慢心でも無く、先程からタイラントに確実に私の攻撃は命中している……しかし、奴は何故……!)」

 

 何事も無かったかのように平然と起き上がるタイラントを見ながら、慎吾は渾身の一撃を何度受けても怯む様子を見せない相手に内心で焦りを感じ、じっとりとした冷や汗が背中を伝わり始める

 

 辺りには波の音と、タイラントの不気味な唸り声、そして、スピリットゾフィーのフルパワーの全力攻撃とダメージによりシールドエネルギーが大きく減少した事を伝えるカラータイマーの音が響き始めていた




 タイラントはこれほど強くても問題ないだろう。……そう考えていた結果が今回のこの話です。この凄まじい暴君との戦いにどう決着を付けるのか? それを一生懸命捻りながら執筆して行きます


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94話 背水の戦い、慎吾の戦略

 悩んだ結果、ほぼ説明会となってしまいました。本格的なバトルは次回で……と、言うことでお願いします


「SYAaa……」

 

 唸り声をあげながら倒れたゾフィーを睨み付け、太い両足で岩を踏み締めながらゆっくりと迫り来るタイラント。その体の装甲にはあちこちにゾフィーの攻撃によって作られた傷があるのだが、とてもそれで弱っている等とは思えないような迫力が滲んでいる

 

「うっ……くっ……」

 

 一方の慎吾は疲労と体へのダメージで膝を付きながら決して闘志は失っていないものの、肝心のゾフィーの装甲はタイラント以上に傷付き、余力が全開時の半分ほども残されていない事を示してカラータイマーが赤く点滅し、鳴り始めていた

 

「(こちらにはあまり余力は残されていないと言うのに、ヤツはまるで健在か。決して多くは無いシールドエネルギーでいかにして奴を撃破するかが問題だが……)」

 

 じりじりと迫り来るタイラントを油断無く睨み付けながら、慎吾はそう脳内で思考する

 

 実はと言うと慎吾はこの凄まじい強敵を相手に全く作が無いと言う訳では無く、確率は決して高いとは言えないもののタイラントを撃破しうる方法があるにはあった

 

「(いくら奴の防御や耐久性が優れていたとしても、このゾフィーのM87の直撃を受けてもなお耐えきれるとは思えない。M87さえ奴のボディに命中させれば勝機はあるのだが……)」

 

 そう、ゾフィーの装備の中で最大にして最強の破壊力を誇り、命中さえすれば現存するどのISだろうが一撃の元に静める事が可能なM87光線。この直撃をボディに受ければ例えタイラント言えども確実に撃破する事が可能であると慎吾は確信していた。が、しかし、同時にそれを実現させるのは非常に険しい道を進まねばならない事を慎吾は理解していた

 

「(ゾフィーの残りシールドエネルギーでは万全の状態でM87が撃てるのは、せいぜい二発……。しかし、奴も黙って撃たせてくれる筈が無い。再び奴の攻撃を受けてしまえばM87を発射するエネルギーは無くなってしまうだろう。そうなってしまえば……考えたくは無いが私の敗北は免れないかもしれん……おまけに)」

 

 タイラントを警戒しつつ、ゾフィーのエネルギー残量を見ていた慎吾はそこで視線をゆっくりとタイラントの腹部、六角形状のエネルギー吸収器官に向ける

 

「(二つ目の問題が、あのエネルギー吸収器官の存在も実に厄介だ。今の所、スラッシュ光線程度の質量では軽々と飲まれてしまう事、そして例え腹部から軸をずらして光線を放っても途中で強制的に起動を変えられて腹部に向かってしまう事くらいしか分からない……つまりはM87も結果的にだがエネルギー吸収器官に向かって放つことになるが……今のゾフィーに残されたシールドエネルギーで、エネルギー吸収器官で吸収出来ない、かつ奴の装甲を打ち砕く事が出来るのだろうか……?)」

 

 と、そんな風に慎吾が泥のごとく体にまとわりついてくる不安と焦りを感じていた瞬間

 

「SYAッッ!」

 

 じりじりとゾフィーに近付いていたタイラントが左腕のハンマーから再びワイヤーを噴出すると、それをムチのように振り回して鞭のごとく横凪ぎの一撃を放ってきた

 

「……!」

 

 それは凄まじく早い一撃ではあったが、休み無く思考をしながらも常にタイラントの動向に気を配っていた慎吾はワイヤーの動きを見切り、それを回避や防御では無く、スピリットゾフィーの力を使って一瞬の輝きの後、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのものを再現したAICを発動させてワイヤーを空中で止める。

 しかし当然と言うべきかタイラントの攻撃はそれに留まらずタイラントはうなり声をあげたまま、空いた右手の鎌を大きく振り回すと、そのまま遠心力を利用しながらAICを使っているゾフィーを狙って躊躇無く鎌を降り下ろし

 

「……はぁっ!!」

 

 鎌が命中する直前、足元の岩を蹴って飛び上がったゾフィーの蹴りがタイラントの腹部に炸裂し、直撃部からの火花と共にタイラントを若干背後へと仰け反らせた

 

「やはり、この程度の攻撃では怯ませる事すら難しいか……!」

 

 が、それでもなおタイラントは怯んだ様子すら見せず、何事も無かったように蹴られた事でずれた自身の体勢を緩やかな動きで戻すと、再びゾフィーへと向き直り、それを岩場へと着地しながら見ていた慎吾はうっすらと冷や汗をかきながら呟いた

 

「(スピリットゾフィーに残された時間は決して多くない……M87を打ち込むために何か一つ……僅かでもチャンスがあれば……)」

 

 再びこちらに狙いを付けながらじりじりと迫りくるタイラントを見ながら慎吾は焦りを堪え、祈るようにそう考えていた。

 

 そう、タイラント撃破に向けて慎吾に課せられた最後にして最大の問題こそが今現在も消費し続けてしまっている『時間』であった

 

 

 ゾフィーの第二形態であるスピリットゾフィーは通常状態に比べて純粋な機体のパワーから、機動力、光線の出力に至るまで全ての能力が大きく優れている。

 が、その反面シールドエネルギー消費、慎吾の肉体やゾフィーにかかる負担も大きく、慎吾の肉体やゾフィーの事を考えるのならばスピリットゾフィーの状態を維持可能な時間は『約180秒』と第二形態が発動した時から慎吾は光に強く聞かされており、そして現在、慎吾が既にスピリットゾフィーになってから100秒近くが経過していたのだ

 

 そうして近付いて来る制限時間に追われながらも、ここで焦りを見せれば敗北に繋がると理解している慎吾がタイラントと睨みあっていた時だった

 

「……SYAッ!?」

 

 突如、タイラントが何かを感じ取ったかのようにゾフィーから視線を反らして虚空を見つめる。その瞬間

 

「GIィッ……!」

 

 突如、空の上から一つ、雲を切り裂き白熱して輝く光の刃がタイラント目掛けて飛んでくると、その背中から生えた刺の数本を切断して吹き飛ばすとタイラントに悲鳴のような叫びをあげさせる

 

「これは……!」

 

 その鋭くかつ強烈で、一夏や箒が放つ物とはまた異なる斬撃を見た直後、慎吾は一瞬タイラントを視界から外し光の刃が飛んできた方向を見つめる

 

「すまん慎吾……予定到着時間少しより遅れてしまった」

 

 そこにはやはり、自身のISヒカリを展開させ、ナイトブレスから光輝く剣ナイトビームブレードを伸ばして、タイラントに向かって構える者。慎吾の親友、光の姿があった



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95話 怒れる暴君

 すみません遅れてしまいました……どうにも調子を整えるのが難しくて……次はバッチリ火曜日に投稿……したいですね


「さぁ……行くぞっ!」

 

 そう自身に気合いを入れるように一言、発すると光はナイトビームブレードを構えたままタイラントを目掛けてまっさかまに落下しているかのような猛スピードでヒカリを急降下させた

 と、丁度その瞬間、ヒカリのブレードショットの不意打ちに近い一撃を受けて怯んでいたタイラントも空へと飛び立ち、狙いをゾフィーからヒカリへと変え、迫るヒカリを迎撃するように、高い機動力を生かして真っ直ぐに空へと飛んで行く

 

「おおぉぉっ!!」

 

「SYAaaaaaaaa !!」

 

 直後、落下する勢いも含めたヒカリのナイトビームブレードでの一閃、そして、その攻撃に対抗するように放たれたタイラントの右手の大鎌でのヒカリの肩口を狙った降り下ろしの一撃が鋭く交差し、激しく空気を切り裂いた二つの攻撃は空中に一瞬、斬撃痕を作った

 

「ぐっ……!」

 

 そしてタイラントとの交差後、先に腹部の脇腹あたりを押さえ、苦悶の声をあげて空中でよろけたのは光であった。

 

 ヒカリのボディを守る鎧のような装甲から盛大に火花を吹き出しながら、光はヒカリの空いた手で被弾した腹部を押さえ、今にも本当に墜落してしまいそうな程によろよろとした不安な動きで飛行すると慎吾の近くの足場に何とか着地し、同時に倒れるように岩場に崩れる

 

「光! 大丈夫か!?」

 

「……直撃はしていない。が、それでもこれほどの威力とは……凄まじい相手だな。……だがな慎吾」

 

 自身のエネルギーが決して多くは無いのにも関わらず、迷わず慎吾は動くとゾフィーの両腕で光を抱き抱えるように支える。支えられた光はタイラントの一撃が自身で予想しているように効いていたのか荒い吐息と共にそう慎吾に答えると、静かに首を上げて上空のタイラントを見上げる

 

「ただ、やられただけでは無い。どうにか奴にも一撃を与えてやったぞ……! 最も、俺だけの力では無い、お前が奴に付けていた傷を利用して切っただけだがな……」

 

「GYaaaaa ……!?」

 

 丁度その瞬間、光の言葉が決して嘘では無かった事を証明するように今の今まで順調に空を飛んでいたタイラントが、悲鳴と共に墜落していく姿が見えた。落下するタイラントをよく見てみれば右肩口からエネルギー吸収器官の取り付けられた腹部にかけて斜めに深くと切られた後があり、光が脇腹を犠牲にしてそこを切り捨てたのは明らかだった

 

「望みは薄いが、手応えはあった。あれで終わってくれると良いのだが……」

 

 海に落下し、その体と重量にあった太い水柱を上げて底へ底へと沈んで行くタイラントの姿を見ながら、あまり期待はしてない様子で呟く光。そうして、タイラントが沈んだあたりから上がっていた気泡が消え始め

 

「ぎ、ぎGぎッSYAあaaaaaaAaaaあaaッッ!! 」

 

 その瞬間、先程のような耳をつんざくひび割れた凄まじい咆哮と共にタイラントが勢いよく海中から浮上し、ヒカリ、そしてゾフィーをギラギラと光る目で睨み付けた

 

「やはり、あれでは決定打になっていないか!」

 

「……気を付けろ光! ヤツの攻撃が来るぞ!」

 

 ボディに付いた傷も倒れる気配を見せず、姿を表したタイラントを見て悔しげに光が呟く、と、海上へと表れたタイラントは姿を見せるなり無茶苦茶な勢いでゾフィーとヒカリの二機目掛けて雨を通り越し、もはや暴風雨に匹敵する勢いの密度でレーザー・ガトリングを発射してきた。しかも、レーザー一発の威力自体も元より上昇しているらしく、僅か一発が直撃しただけでゾフィーのすぐ近くにあった1メートル大の岩を半壊させ熱で溶かした

 

「くっ……!」

 

 レーザーで岩が砕かれた瞬間、慎吾と光は咄嗟に岩礁から空へと飛び立つ事でレーザー・ガトリングの猛攻を避ける事に成功したが、タイラントはそんな事は一切構わないかのように乱射を一切止めようともせず、レーザー・ガトリングの暴風雨はまったくその密度を落とさないまま先程まで二人がいた岩礁を軽々と砕いていくと、そのまま暴風雨は上空の二機に向けられる

 

「このまるでエネルギー切れが無いかのような猛攻……一体なぜ奴はこんな攻撃を続ける事が出来るんだ……!?」

 

 しつこく発射され続けるガトリングの雨をギリギリの所ですり抜けるよう回避し続けながら、信じがたい物を見ているように慎吾はそう言った。

 交戦した当初からタイラントの攻撃や機動は明らかに通常のISと比べて異様と言えるレベルに強くパワフルであり、ゾフィーを相手に攻撃の直撃を幾度も耐えきり、依然リードを奪い続けている。普通に考えればいかに燃費が優れたISいえどもエネルギーが底を突き始めてるはずであるはずであった。が、しかし現在もこうしてタイラントは全力全開の攻撃を続けていられる。それが、慎吾には疑問に感じずにはいられなかったのだ

 

「慎吾、奴の無尽蔵にも見えるパワーの秘密は背中だ! あの背中から生えた刺の一つ一つがエネルギー補給器官となっている! まずはあれを破壊するんだ!」

 

 と、そんな慎吾の疑問に答えるように自身も見事に回避を続けながら光が叫ぶ

 

「ここにたどり着くまでに、俺なりに奴の事を少しでも分かればと調べていてな。おかけで奴が……タイラントが研究所から無人ぬも関わらず暴走を起こして逃走している各国のIS技術が搭載された新型機だと言うことや……奴の弱点らしき者もある程度は理解し、付け焼き刃に近いが策も練った。……そこでだ慎吾」

 

 言葉を続けながら、光はそこで動きを止め、じっと慎吾の方へと視線を向けた

 

「あんな凄まじい相手と一人で戦っていたんだ……お前の消耗が激しいのは分かっている。……それでも俺を信じて一緒に奴と戦ってくれるか?」

 

「光…………?」

 

 光にしては珍しい祈るような言葉に一瞬、慎吾は呆気に取られ意外そうにその名を呼ぶ。そんな光の態度は十年近い付き合いの中で、慎吾でも滅多に見ることは無かったのだ

 

「……あぁ! 当然だとも、親友のお前を信じないでどうする!」

 

「……慎吾!」

 

 しかし、それも一瞬の事でありすぐに慎吾は仮面の下で笑顔を作るとそう、力強く光に返事を返し、その返事を聞いた瞬間、光は再び慎吾を見つめると嬉しそうにそう呟いた

 

「GIYAAaaaaaaaッ!!」

 

 その瞬間、タイラントが動きの止まった二機を狙って大量のレーザー・ガトリングを乱射し、ゾフィーとヒカリの二機に大量のレーザーが迫り、その姿を飲み込まんと迫る

 

「セヤァッ!!」

 

「ハアァッ!!」

 

 が、レーザーに飲み込まれる直前、慎吾はゾフィーのZ光線を、光はヒカリのナイトビームブレードを引っ込めてナイトシュートを放って対抗し、二機から放たれた二つの青き光線は弾雨を蹴散らして突き破り、タイラントへと続く道を作り上げると、静かに此方を睨み付けるタイラントの姿を露にした

 

「行くぞ、慎吾!!」

 

「あぁ……分かった光!」

 

 その隙を狙って慎吾と光は声を掛け合うと、ヒカリ、その後に続いてゾフィーがタイラントに向けて向かっていく。全ては、光が思い付いた策にかけて

 

 

 スピリットゾフィー残り活動時間 約50秒



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96話 超速度の攻防戦

「おおおおおぉっっ!」

 

 最高速度を維持しながら一気にタイラントへと近づいた光はカウンター気味にナイトブレスからナイトビームブレードを出すとタイラントを頭から一刀両断せんとするような勢いと、空間すら切り捨ててしまいそうな速さで空中から斬りかかる

 

「…………GIッ!」

 

 が、その斬撃をもタイラントは見切ってしまい、ヒカリの渾身の一撃は実にあっけなくタイラントの右腕の大鎌に受け止められてしまった

 

「とぉおぉっっ!!」

 

 が、それもあくまで『二人』には十分に計算していた事であり、タイラントがヒカリのナイトビームブレードを受けた瞬間、ヒカリの足下を通り抜けタイラントの懐に飛び込んだスピリットゾフィーが両足でタイラントの左足に蹴り飛ばして払いのけ、タイラントの体制を大きく崩させると、空中でうつ伏せに倒れるような形に引き倒した

 

「食らえっ!!」

 

 その瞬間、タイラントの体制が崩れるのと同時に上空へと回っていたヒカリがナイトビームブレードを払いタイラントの背中の刺を数本纏めて気合いの声と共に一気に切り捨てる

 

「……GYAaaaaaaaaッ!?」

 

 ナイトビームブレードに切断された刺が宙を舞い、切断面から鮮血のような激しい火花が飛び出すとタイラントは悲鳴と共に激しくもがき激しく両腕を振り回し始めた

 

「うっ……!」

 

「ぐあっ……!」

 

 タイラントの棘を切断した瞬間に咄嗟に身を引いた慎吾と光ではあったが、それでもなおタイラントの攻撃スピードには僅かに追い付けず。慎吾が鉄球から発射されたワイヤーの一撃をゾフィーの腹部に受け、光が大鎌に右腕をかすめ、二機は揃って強制的に大きく後ろへとバックさせられた

 

「こちらの攻撃は通じてはいるようだが……それでも反撃の破壊力は全く衰えないか……」

 

「しかし……だからと言ってここで臆する訳には行かない。光、作戦通りもう一度攻撃を仕掛けるぞ!」 

 

 タイラントの攻撃を受けたヒカリの右腕を庇いながら言う光を、そう言って励ましながら今度はゾフィーが先手を切るとタイラントへと向かって飛び出した

 

「ゼヤァ!」

 

「…………!!」

 

 タイラントからゾフィー目掛けて迎撃として放たれたレーザー・ガトリングと空を切って唸るワイヤーを慎重な動きで回避し、あるいはタイミングを合わせて手で弾き飛ばしながら慎吾はタイラントが攻撃を放つ僅かな隙間を付いてゾフィーの両腕で形成された光輝く円状の光輝く刃、ウルトラスラッシュを放つ。

 が、その瞬間、機敏な動きでタイラントはゾフィーに向けていたワイヤーを引き戻すと、向かってくるウルトラスラッシュに目掛けて勢いよくワイヤーを打ち付けた。と、その瞬間ウルトラスラッシュはまるで衝撃を受けた窓ガラスのようにひび割れ、空中で木っ端微塵に砕け散ってしまった

 

「おおぉぉっ!」

 

 当然、それでも慎吾は決して攻撃の手を緩めることは無く被弾を覚悟で更にタイラントに接近すると首を狙って右足で回し蹴りを放った

 

「行くぞっ!」

 

 瞬間、今の今までゾフィーの背中に隠れる形でぴったり付いてきていたヒカリが勢いよく飛び出し、慎吾が蹴りを放つタイミングに合わせる形でタイラント目掛けて左足で回し蹴りを振るう

 

「GYA……ッ!?」

 

 直後、二つの強烈な回し蹴りがタイラントを挟むように直撃し、逃げ場の無くなった衝撃はタイラントのボディへと伝わり、ゾフィーが付けていた傷口から火花が溢れるように吹き出し、タイラントが悲鳴をあげる。更にそれだけでは衝撃は完全には消えなかったのか、先程のヒカリの斬撃で亀裂が入っていた刺が何本か、剥がれるようにタイラントの背中から落ちた 

 

「今だ、慎吾! M87光線を放て!」

 

 その隙を逃さず光がゾフィーに素早くウルトラコンバータを渡すと、タイラントに向かって正面から食らい付き、ガッチリとそのボディを取り押さえると、タイラントを抱えたまま横にぐるりと百八十度一回転しながら叫ぶ

 

「あぁ……これで決めて見せる!」

 

 その言葉を受けた慎吾は、すかさず自身に向けられた『タイラントの背中』目掛け、光から託されたウルトラコンバータに内蔵していたエネルギーの殆んどを用いたM87を発射する構えを作り、刺が取れた事で出現した装甲の切れ目を目掛けて狙いを付けた

 

「例え腹部に吸収されても……エネルギー補給器官の刺が欠けた今のお前に……M87の一撃は処理できない!」

 

 暴れるタイラントの攻撃をヒカリの強固な装甲を生かして耐えきりつつ、そう光は確信じみた様子で叫んだ

 

 そう、これこそが光が慎吾の元へ急行する中で思い付いた策。二人で協力して可能な限りエネルギー補給器官を破壊し、腹部の吸収器官を満全の調子で動作させる事を物理的に不可能とし、その隙を狙ってM87の一撃を撃ち込む。単純ながらも、光がタイラントの装備やエネルギー効率を考えた上で捻り出した、危険を承知で行うハイリスクな突破策であった

 

「(唯一の不安材料はタイラントの腹部から発射される超低温冷気派による攻撃だけだが……エネルギー補給器官が大きく失われてる今の現状では、それが発射されるよりもゾフィーのM87がタイラントに直撃する方が早い! 信じてるぞ慎吾!)」

 

 決して逃さぬようにエネルギーの消費も気にせずヒカリの持つパワーの限界までにタイラントを拘束し続け、タイラントの攻撃によるそう光は内心でそう判断し、慎吾を信じてひたすら堪え続ける

 

「行くぞ光……M87ッ!!」

 

 その瞬間、慎吾は光に合図を送り右腕から、さながら蒼白く光輝く柱のような太さになるまでエネルギーが込められたM87光線をタイラントに向けて発射した

 

「(ヒカリのエネルギー残量は……まだ大丈夫、直撃までタイラントを押さえていられる! 奴が超低温冷気派を発射する動作も見せていないし、着弾した瞬間に瞬時加速で攻撃範囲から離脱する余裕もある! よし、これで、この勝負は決まった!)」

 

 狙い違わずタイラント背中の亀裂、装甲が剥がれて内部機械が見える箇所に向けて飛んで行くM87を見て、光は半ば勝利を確信していた。

 

 

 まさに、その瞬間だった

 

 

 バキリ

 

「なっ……?」

 

 音にすればそれほど短く、そんな鈍い音と共にヒカリのボディの横っ腹から強烈な一撃が炸裂し、起こった信じられないような光の声と共にヒカリは強制的にタイラントの拘束を解除されて突き飛ばされた

 

「っ……光ぃぃっ!!」

 

 タイラントから吹き飛ばされたヒカリがM87の進む軌道上に入ってしまった事に気付いた慎吾は、咄嗟にM87を発射している右腕を上へと持ち上げ光を助け、M87は本来の軌道からずれる事になって

 

 そうして出来た光と慎吾、一秒にも満たないこの僅かな隙は

 

「GIYAaaaaaaaaaaaaッッ!! 」

 

 タイラントが人間で言えば臀部に値する部分から新たに見せた太い『尾』をなびかせ、咆哮と共に反撃に移るには十分な時間だった




 決着……とは、なりまさんでした。


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97話 尽きる力、暴君の目的

 再び大幅遅刻をしてしまって申し訳ありません。その分……とはならないですが、いつもより気持ち多めの文字数とさせていただきました


「(尾……!? そんな馬鹿な……! 奴に搭載されている戦闘装備は既にタイラント開発に関わった各国が、責任を取ってその全てを公開している筈……)」

 

 タイラントの体から突き出た丸太のように太く、それでいて刀剣のような鋭い刃まで取り付けられた尾の殴打によって成す統べなく空中に吹き飛ばされ、ダメージにより体制を崩している光の頭にあったのはまずその疑問であった。が、すぐにその疑問に関する答えははすぐに脳内で割り出す事が出来た

 

「(……特定は出来ないが研究に関わっていた国の1ヵ国が公開を渋ったのか! それがあの臀部に隠された尾! タイラントのもう一つの近接専用装備! 何て事だ! 慎吾……!)」

 

 もはや取り返しの付かない自身の甘い判断が招いた致命的ミス。それによって危険を承知で打ち立てた作戦に付き合って慎吾を虎の子のM87を撃ち終えた状態でタイラントの前に立たせると言う絶対絶命の状況に追い込んでしまった事への激しい後悔と罪悪感が瞬時に沸き上がり、胸が締め付けられるような痛みが光を襲った

 

「(い、いや……まだだ! まだ俺は戦えるし、慎吾もゾフィーも健在だ! まだ勝負は終わってなどいない! 二人に残されたエネルギーをかき集めれば……!)」

 

 しかし、そんな絶望的な状況でも剣の道を学ぶ中で磨きに磨かれた精神力のお陰か、科学者として有るべき冷静さを取り戻していたのか、光は募る焦りを堪え、絶望に飲まれずしっかりと希望を持っていた。

 

 そうして光が硬く決心し、空中でヒカリの体制を整えると全速力でタイラントと交戦しているゾフィーの元へと向かう。

 

 その瞬間だった

 

「ぐっ……ああああぁぁぁっっ!!」

 

 タイラントから伸びるワイヤーに硬く左腕を拘束されたゾフィーが残るエネルギーの全てでの抵抗をも無視され、慎吾の叫びと共にさながらチェーンハンマーの如く振り回されると、遠心力とタイラント自身の馬鹿げたパワーで海面へと叩き付けられ、大きな水柱を上げたのは

 

 

 

「くっ……光っ!」

 

 ヒカリがタイラントの尾によって吹き飛ばされた直後、託されたウルトラコンバータのエネルギーの大半を使ったゾフィーのM87光線を命中させる事が叶わなかった慎吾は本来ならば直ぐに動いて光を救助に向かいたかった。しかし

 

「ぎGiGiGiぃ……!! SYaaaゃaaaあっ……!!」

 

 感情があるのならば怒髪天に来たと言う様子でひび割れとノイズが激しい電子音声を発し、もうもうと白煙が立ち込める頭部から覗く鋭い目でゾフィーを睨みつけるタイラントがそれを許すとは冗談でも思えず、結果的に慎吾はゆっくりとM87の構えを解きながらもタイラントと睨みあったままその場を動けずにいた

 

「(残り活動限界時間は約30秒……コンバータの助けがあったとは言え先程のM87で負担がかかったぶん更に時間が短くなってしまったな……。だが……)」

 

 タイラントと対峙しながらゾフィーに残されたエネルギーと活動限界時間をチェックし、お世辞にも余裕があるとは言えない現状に冷や汗を流す。が、しかし、状況は何も一方的に慎吾が不利。と言う訳では無かった

 

「Gi……」

 

 ゾフィーを睨み続けながら小さな呟きをあげるタイラント。と、ふとその時、一陣の西風が吹くとタイラントの頭部を覆い続けていた白煙を吹き飛ばし、その姿を露にした

 

 なんと頭部の特徴的な装備の一つだった超高感度センサーたる一対の大型イヤーの左側が跡形も無く消え去っており、さらにそれだけには収まらずタイラントの左頭部の一部までがくり貫かれたように一部が消失しその断面は溶解し、沸騰して小さく泡立っていた

 

「(M87での攻撃は全くの無意味だった訳では無い……! 光を助ける為に軌道を剃らしたがそれでもタイラントには確かなダメージを与え、強固な装甲には穴を開けて攻撃を通りやすくする事が出来ている! 道は険しいがまだ勝機は潰えてはいない!)」

 

 

「はあぁぁっ!!」

 

 ゾフィーの胸元のカラータイマーがエネルギーの底とスピリットゾフィーの時間制限が迫っている事を警告してけたましく鳴り響く中、ゾフィーに残された短い時間を決して無駄にしないよう心中でそう素早く決意をすると、睨み合いを断ち切り、雄叫びをあげ、先手を取ってタイラントへと向かって飛び出した

 

「(残されたエネルギーで攻撃するべきは奴の頭部の破損部分! スピリットゾフィーを維持できる時間内で奴を撃破しようとするのならばこれしか手は無い!)」

 

 

 タイラントから発射されるガトリング・レーザーの乱打を出来るだけエネルギーを消費しないように最小限の動き、かつギリギリで命中しないようにゾフィーを動かして回避を行いながらタイラントに接近し、小さく右足を動かして強烈な蹴りを放つべく構え始めた

 

「(非常にハイリスクだが……十秒以内にどうにか近接格闘で奴を怯ませて零距離でZ光線を頭部に打ち込む!)」

 

 しつこくふ降り注ぐレーザーや空気を切ってゾフィーを捕らえようとするワイヤーを集中して避け続けながら、脳内で自身の動きを細かくイメージしながらそうして慎吾がタイラントへと近付いてゆき、いざ特技の蹴りが炸裂した瞬間

 

 

 突如、タイラントの腹部、エネルギー吸収器官から白銀に煌めく霧が発射され慎吾の視界を多い尽くした

 

 

「こ、れは……! タイラントの超低音冷気波!!」

 

 突然の出来事に慎吾が動揺するも、すぐに光から送られたタイラントについての情報を思い出してその答えを導き出し、そして

 

「しまっ……!!」

 

 冷気派を放出したタイミングから『自身の攻撃タイミングを予測されていた』とまで理解した瞬間、ゾフィーの左腕はワイヤーに拘束され、タイラントの冷気派によってボディの殆んどが凍結してしまっていたゾフィーは、残りエネルギーを駆使した抵抗を軽く無視されてハンマー無げのハンマーの如く遠心力をつけて、タイラントに投げ飛ばされたのであった

 

 

「慎吾!! くっ……! うあぁっ!」

 

 成す統べなく海面へと落下していくゾフィーを見て、光の視線がずれた瞬間、タイラントの標的は直ぐ様ヒカリへと変わり、僅かな隙を見せたヒカリに向けて今度はタイラントの頭部の下部分の一部がスライドすると、そこから紅蓮の炎が発射されると一瞬で炎がヒカリを飲み込み、ヒカリの強固な装甲部分から煙が出るほどの強烈な熱を持った攻撃に光は思わず悲鳴を上げた

 

「Giッッ……!! 」

 

 が、しかしダメージを受けたのはヒカリだけでは無い。纏っていた冑が焼かれ、箒との対戦時にも見せたもう一つのヒカリの姿に戻ってしまう程のダメージを受けながらも光は火を吹いたタイラントの一瞬の隙を狙って右腕のナイトブレスからナイトビームブレードを出現させて周囲を多い尽くす焔を斬り払い、ブレードショットをタイラントのM87が炸裂した部分に打ち込んでいたのだ

 

「Ga…………」

 

「うぐっ…………!」

 

 流石に装甲が落ち、むき出しになった部分に一撃を受けてもなお飛行するのは困難だったかのかタイラントはブレードショットの一撃の衝撃でひっくり返ったまま落下していき、それと同じタイミングでヒカリもまた光の苦悶の声と共に崩れ落ちる。慎吾よりタイラントと交戦していた時間は短いとは言え、慎吾の危機を知って急行するまでにタイラントを分析して作戦を練り続け、そこから一秒たりとも休息せずにタイラントとの抗戦。そうして精神と脳を休み無く動かし続けていた事での限界がついに訪れてしまっていたのだ

 

「(だ、駄目だ……意識がぐらつく……飛行状態を維持出来ない……)」

 

 薄れていく意識の中、どうにか墜落せぬように奮闘する光ではあったがそれは叶わず、ヒカリはまっ逆さまに空から落下してゆき、そのまま海面を突き抜けて海の中深くへと沈んで行く

 

「…………?」

 

 と、その時、海中を沈んで行くヒカリのボディを下、つまりはより海の深くから何かが弱いながらも確かな力で支え、上へ上へと引き上げていた。それに気付いた光が、一体何がヒカリを支えてくれているのかぼやける意識で疑問に感じた瞬間、ヒカリのボディは水しぶきを飛ばしながら海上へと飛び出した

 

「はぁ……はぁ……」

 

 一気に海上に浮上した衝撃で、ある程度の意識を取り戻す事が出来た光は、慌てるように深呼吸して息を整える。ヒカリのダメージは大きくもはや戦闘を行えるような余裕は無かったのだが、つい先程までノックアウト寸前だった光の意識でも水中に浮かぶことは十二分に出来ていた

 

「ぷ……はぁ……はぁ……ひ、光……大丈夫か……?」

 

 そうして光が海上を浮遊し始めた瞬間、再び水滴を吹き飛ばし何かが浮上すると、光に弱々しく声をかける

 

「……慎吾! お前が俺を押し上げてくれたのか!?」

 

 そう、そこにいたのは先程タイラントのワイヤーに拘束されたまま海上へと投げ込まれた慎吾であった。既に第二形態であるスピリットゾフィーから通常状態に戻り、ゾフィーの左腕には大きな亀裂が入っていて動かせないようだが、その胸のカラータイマーは消えてはおらず、心身共に光以上に弱ってはいたが慎吾の意識は確かに残っていた。それに気付いた瞬間、光はヒカリの足で水中を蹴って慎吾の元に近付くと、ゾフィーが慎吾の疲弊で沈まぬように左腕で腰を支え、そっと寄り添った

 

「……助かるよ光、情けない話だが私も、もはや体力の限界だったんだ」

 

「なに、お互い様だ……気にするな」

 

 自身が沈まぬようゾフィーを支えてくれる光に礼を言う慎吾に光は軽く、そう答えると小さく笑った。

 

 その瞬間

 

「SYA……重……大……な損傷を……確認……攻撃……続行……不能……撤退……繰り返す……」

 

 海面を突き破るようにタイラントが飛び出すと、遭遇してから初めて聞くはっきりとした電子音声でそう発すると、フラフラとした勢いで空へと向かって飛び立っていく

 

「……やはりブレードショットの一発では倒すことは出来なかったか……しかし……唐突に一体なんだあの音声は?」

 

「私にも良くは分からないが、お前のブレードショットの一撃でタイラントになにかしらのエラーが起こったのかもしれないな……」

 

 再び姿を現したタイラントを警戒して交互に呟く光と慎吾。ヒカリとゾフィーの二機共がもはやタイラントの一撃がかすめただけでとシールドエネルギーが尽きてしまう今、攻撃も満足に行う事が出来ない二人はタイラントが何をしていくるか瞬き程の一瞬も見逃す事は出来なかったのだ。

 

 が、タイラントは海面に浮かぶ二人をちらりとも見ずにふらふらした危なげな動きで電子音声を発しながら、上昇して行き逃走し始め

 

「Gi ……実行困難……作戦目標            

 」

 

 次の瞬間、破損の影響からかタイラントは自身にプログラミングされている目的を呟いた

 

「……ん…………なっ!? そんな馬鹿な!? いくら何でもそれは!」

 

「光! 急いで衛星にアクセスして奴の逃走経路を割り出すんだしてくれ! 今の私達では追尾すら出来ないが、ここで奴を逃しては……!!」

 

 その、あまりにも、直接聞いた光と慎吾でさえ現実とは思えないような、あまりにも信じがたいタイラントの作戦目的に二人が大きく動揺している間に、タイラントは未だ空中でふらつきながらも無理矢理加速し、二人の前から立ち去ってしまった

 

 その背中には、ゾフィーとヒカリの連携攻撃でも完全には破壊しきれなかった数本の刺がしっかりと残っていた



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98話 代表候補生達と『母』

 この機械を利用してあの人を出そうかと思います


「シャル! 光さんが教えてくれた慎吾さんの病室って何階の何番だ!?」

 

 突如Mー78社の研究私設に現れた暴走IS 。タイラントとゾフィーそしてヒカリが抗戦し、慎吾と光の奮闘も空しくタイラントを取り逃してしまってから数時間後、二人が搬送されたMー78社が運営している病院『Uークリニック78』には焦る様子で正面の案内図を見ながらそう言う一夏の姿があった。光から『緊急事態』として知らせを受けてから休む間もなく全速力で駆け付た為に額からは汗が吹き出し、その数滴が病院の良く掃除された床にこぼれ落ちていたいたがそんな事を気にかける余裕は今の一夏には残されて無かった

 

「うん……6階のT40番だよ一夏!」

 

「よし、早速おにーちゃんの元に向かうぞ、嫁よ」

 

 そんな一夏よりは幾分か落ち着いた態度で返事を返すシャルロットとラウラではあったが、実兄同然に思っている慎吾の突然の事態にやはり完全には同様を隠せないのか、携帯端末で光から送られた連絡を入念に読み返しているシャルロットの手は小さく震え、ラウラは何かを堪えるように硬く拳を握りしめていた

 

「慎吾、そして光の両名を同時に相手にしても勝利し、逆に病院送りにするほどの手傷を追わせる程の相手か……」

 

「そう考えますと、以前の福音、いや……あるいは、それ以上に警戒が必要な相手なのですわね。タイラントは……」

 

「……正直、公開されてるスペックだけでも第三世代屈指のクラスのとんでも機体なのに、そんな危険なのが現在進行形で無人で好き勝手に動き回ってるなんてたちの悪い冗談と思いたいわ……」

 

 そして、この場にいるのは三人だけではない。シャルロットにラウラを含めて、箒、セシリア、鈴。と、専用機持ちが一同に光の知らせを受けて病院前に集結しており、三人は気を引き閉め、緊張した様子で会話を続けていた

 

 こうして6人が揃って慎吾が搬送されている病院に駆け付けたのには勿論、慎吾を心配してのが大きな理由の一つではあったが、それが今回の真の目的では無い

 

「一体なんなんだよ……『暴走無人ISについて、専用機持ちの皆に伝えなければならない情報』って……!」

 

 現在地のメインホールから慎吾の病室までの案内図を見て確認しつつも、やはり焦りを堪えきれないのか少しイライラした様子で一夏が呟く

 

 そう、今回の真の目的とは慎吾の負傷と同時に光から専用機持ち全員宛に送られた『皆の安全の為、緊急を要する』情報であり、その大々的内容がメール等では無く光の口から直接伝えなければならないと言う事から、伝えられるのが並々ならぬ情報であることは一夏を含めた専用機持ち全員が理解し、それが未だはっきりと目に見えては出ていないものの皆の心の中で間で焦りと苛立ち、そして不気味な未知に対する不安を作り始めていた

 

「あら、あなた達……」

 

 と、そんな不穏な空気が6人の間に漂う中、この病院で働いているのであろう、洗濯したてで真っ白な白衣を身に纏い、人を安心させるような穏やかな目と、一見では若く見えるが年期を重ねた確かな落ち着きのある一人の女性医師が小さく足音を響かせながら近づいてきた

 

「あっ……すいません。僕達、病院で騒がしくしちゃって」

 

 それを見て、真っ先にシャルロットが自分達が意図せずして騒音を出してしまった事に気付くと、近付いてきた女医に向けて咄嗟に頭を下げ、一夏や箒を含めた五人も慌てて女医に謝罪した

 

「いえ、私はあなた達を注意するつもりでは無くて……あなた達は慎吾……いえ、大谷慎吾君のお見舞いに来てくれたのでしょう?」

 

 一斉に謝罪する六人を見て女医は優しく笑って止めると、そのまま優しげな口調でそう告げる

 

「えっ? な、なんっ…………?」

 

「ごめんなさい、盗み聞きなんてするつもりはありませんでしたが、偶然、通りすがりにあなた達の会話が耳に入ってしまいまして……」

 

 突然、現れた女医に慎吾の元へ向かおうとしていた事を見透かされ驚く一夏に、女医は少し申し訳無さそうに告げると、困ったような顔で笑って頭を下げた

 

「そのお詫び……とは言えないですか、私が慎吾君の病室まで案内しましょう。さぁ、こちらですよ」

 

「は、はい……」

 

 その顔は確かな落ち着きと、どこか無意識に心が安らぐような暖かさを秘めており、気付けば一夏、そして五人も毒気を抜かれ、自然と女医に言われるがまま、美しい銀髪の髪を揺らして先を歩き、先導する女医の後について歩き出す。いつの間にか漂っていた不穏な空気はすっかり霧散していた。

 

「(なんだろう……この人の暖かさは……説明しろって言われて上手く言えないけど、何て言うか、ただ話しているだけなのに自然と落ち着く……って言うか……)」

 

「(あれ……この人の、この感覚ってもしかして……? いや、でも……)」

 

 女医が自然と放つ特有の雰囲気は勿論、一夏達も感じ取っており、特にそれを敏感に感じとれてはいたのだがその正体が後一歩と言う所で確信が持てない一夏とシャルロットは首を傾げながら黙って女医の後をついて歩くしか無かった

 

「(これは……! 間違いない、これこそが以前クラリッサが口にしていた、人を無意識に自身に甘えさえ、緊張を解かせる聖であり魔でもある二面性を持つ属性……『母性』で間違いない! まさかこんな形で遭遇する事になるとは……!)」

 

 そんな中ラウラは一人、一部に大きな偏見がありながら一夏やシャルロットが強く感じ取っていた特有の感覚の正体に気が付き、自然とその視線は女医を凝視していた。

 が、一夏達がちゃんと着いてこれているか時々、振り替えって確認している女医はそんなラウラの視線に特に気が付いているような仕草は見せず、全員が着いて来ている事を確認すると再び歩き始めるのであった

 

 

「着きました、ここがT40号室。慎吾君の病室ですよ」

 

 それから程なくして、女医の案内で一夏達は慎吾の病室へと到着していた。流石、毎日働いている職場なだけはあって女医の案内は非常にスムーズであり、全く走ってもいないのにかなり短い時間で病室へとたどり着けたのだ

 

「それでは、私はこれで失礼します。慎吾君なら、意識もしっかりしてますから皆さんと話すことが出来ますよ」

 

「あ、ど、どうも……わざわざ、ありがとうございます」

 

 一夏達を病室まで案内し終えると、女医は軽く頭を下げてそう言うと立ち去って行き、一夏は慌ててその背に向かって一礼してお礼を言った

 

「……あぁ、最後に一つだけ」

 

 と、その瞬間、女医は振り返りもう一度、一夏達六人を見渡すと柔らかな笑みを浮かべた

 

「一夏くん、シャルロットちゃん、ラウラちゃん……そしてオルコットさん篠ノ之さん凰さんも……あなた達と……それから光がいるから学園生活は慣れない事もあるけど、楽しくやれていると慎吾が教えてくれましたよ。……本当にありがとう」

 

『えっ!?』

 

 感謝を込めてそう言う女医の言葉に全員の驚愕の声が重なる

 

 学園での生活が半年以上を過ぎる中で、既にこの場の六人全員が、特に慎吾が隠さなかった事もあって、慎吾の両親が他界している事は知っていた。では、目の前の見ず知らずのはずの女医は何故、そんな事を知っているのか? たちまち六人の脳内にはそんな疑問が沸き上がっていく

 

「私の名前は『マリ』。学園祭では夫のケンと光太郎がそちらでお世話になりましたね……。では、本当にこれで」

 

 そんな全員の疑問に答えるように女医、マリはそう告げると、唖然としたままの六人をそのままにマリは肩まで伸ばし、結んでいる銀髪を揺らしながらゆっくりと立ち去って行くのであった




 はい、今回は新キャラとして『マリ』事、ウルトラウーマンマリー。つまりはウルトラの母を登場させていただきましました。ウルトラの母のような口調を目指しているのですが予想していたより難しくて少し苦戦しています


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99話 病室、語られる事実

 すいません、遅刻してしまいました。


「不思議だけど……とっても素敵な人だったね……マリさん……」

 

 マリが立ち去った後、少しだけ落ち着きを取り戻したシャルロットは気付けば心の声をそのままにマリに対して感じていた事を口に出していた

 

「確かに……あの方は何一つ、治すべき所が無いほどに素晴らしいレディでしたわね」

 

「大和撫子……と、言う言葉に相応しい女性だな」

 

「……ま、否定はしないわよ。目の前であんな空気を自然と作り出されちゃね」

 

 その意見にはセシリアも完全に同意しているらしく

、マリを素直に誉め称え、その後に箒と鈴も続いた。

 

「だが嫁よ、油断してはならんぞ。……確かにあの女医は思わず気を許して無防備に頭を撫でたてられたくなってしまいそうな暖かさを持っているが……あれは危険だ。魔と聖の両方を合わせ持つ危険な属性、『母性』を持っているのだ。油断すれば自分じゃ何もしないダメ人間にされてしまう。……以前、そうクラリッサも言っていた」

 

 と、そこでラウラが忠告するように一夏の服の裾を引っ張りながら、至極真面目な表情でそう一夏に警告した

 

「ぷっ……ははは……」

 

 冗談では無く真剣にそう思って言っているのであろうラウラの行動が妙におかしく感じ、気付けば一夏は思わず笑ってしまう

 

「じゃ……病室に入るか」

 

 マリとの偶然の出会い、そして予想もせぬ形ながらも笑った事もあって一夏の胸からはもう病院到着時に感じていたような不用な緊張や焦りは大部分が消え失せてすっかり軽くなっており、一夏は落ち着いた気持ちでそう言うと慎吾の病室のドアをノックした

 

『……一夏……それに皆もいるようだな。大丈夫だ、入ってくれ』

 

 ノックの後、病室入り口に取り付けられたインターフォンからスピーカー越しにでも分かるほどに、いつもより力が隠っていない慎吾の声が聞こえたかと思うと、病室のドアの鍵が開く音が聞こえた

 

「失礼しま……」

 

 

 慎吾から入室の許可も出たこともあって、一夏が代表して病室のドアを開き

 

「すっ……!?」

 

 直後、そこに広がっていた予想だにしない光景にドアを半開きにした状態のまま、一夏は硬直した

 

 

 そう、そこにいたのは

 

「織斑君に箒……そして皆、よく来てくれたな。唐突の呼び出しに良く応じてくれてありがとう」

 

「やぁ……こんな姿のままで悪いが……まだ起き上がらないように私はマリさ……担当の先生から強く言われているんだ」

 

 右腕と腹部、そして特徴的な青髪が目立つ頭に包帯を巻きどこから持ち込んだのかホワイトボードを背に一夏、そして箒達五人が全員揃っている事を確認すると、病院服姿でそう告げる光。そしてその後には光と同じく体のあちこちに包帯を巻いた状態でベッドに寝かされ、点滴を受けたままの状態の慎吾がいつものり少し血色の悪い顔で笑いながらそう言う。包帯の量や、顔色からして慎吾の方が光よりも怪我が重いように見えていた

 

 そう、病室にいるのがこの二人だけなら一夏は何も驚愕して固まる事は無かっただろう。一夏を真に驚かせたのは

 

「あら、思ってたより遅かったわね皆」

 

「うむ、確かにこれで全員が集まったようだな」

 

 病室で椅子に腰掛けて、こちらを見てそれぞそう呟く二人、楯無と千冬の姿を見つけた時であった

 

 

「……以上が、俺達が抗戦する事で採集したタイラントの戦闘時の行動に関する詳細なデータだ。まぁ……このデータを得る為に俺も慎吾も手酷くやられてしまった訳だが」

 

 自嘲するような光のその言葉と共に流れていたゾフィー、そしてヒカリの二機のISに記録していたタイラントとの戦闘を映した映像は、頭部を破損しながらもフラフラとした動きで海上から飛翔するタイラントを捉えている所で終わり、映像を写し出していたディスプレイは再び暗闇を写し出した

 

「なっ……そんな……そんな嘘だろ!? なんなんだよあのパワー!?」

 

「タイラントが以前の福音……いや、それをも越える驚異……と、言うのが目に見えて理解出来ましたわ」

 

「まさか、おにーちゃんの格闘技の直撃すら怯まない程の耐久性を持っているとは……」

 

 映像と言う形で改めてはっきりと理解させられたタイラントの驚異を前にして一夏は愕然としたようにそう叫び、セシリアやラウラ、代表候補生達はいつも以上に真剣な表情でタイラントへの対策を練り初めていた

 

「それで……だ、ここからが君達6人。そして織斑先生や楯無会長を呼び出した本当の理由の説明なんだが……」

 

 そんな全員の様子を一人一人ゆっくりと見ながら、光が重い口を開いた

 

「映像には録られて無かったが……交戦の際、偶然、私達は奴のプログラミングされてる行動目的……タイラントが破壊対象としてる物を知ったんだ……」

 

 そこで一夏達が病室に入ってきてから、体の療養の為に問われない限り。殆ど口を開かなかった慎吾が呼吸を整えがら一言、一言を噛み締めるように呟き、やがて、それを見ながら光が迷うような表情をしながらも、ゆっくりと言葉を続けた

 

「結論から言おう……奴の破壊対象は合わせて7つ、即ちここに揃ったメンバーの所持する専用機の完全破壊だ」

 

 

『!?』

 

「「………………」」

 

 突如として、光の口から発せられたあまりにも衝撃的な言葉に今度こそ一夏や箒、そして代表候補生四人は絶句し、楯無と千冬は落ち着いた様子で黙って考え込んでいた

 

「一体誰が、何の目的で、こんな馬鹿げたプログラムをタイラントに仕込んだのかは現時点では分からない……実際、研究施設に幾度かコンタクトを取ってみたが『現在、事実の確認中』と言うような返事しか帰って来なかったからな……そう簡単に答えが帰ってくるとは思っては無かったが……全く」

 

 同じ研究者としてタイラントの開発チームの不手際に思うところがあるのか、珍しく、苛ついている様子で光は最後になるに伴って早口でそう言った

 

「ともかく……俺は君達がタイラントの標的にされていると言う危機を伝えるため……そしてタイラント迎え撃ち、撃破する為の策を打ち出すべく、学園に連絡の後に君達をここに呼び出したんだ」

 

 そう咳払いと共に静かに語る光の言葉は病室内に静かに、重く響き渡って行った




 今回は色々と苦戦してしまいましたが……特に苦戦したのは、ラウラがマリにどれくらいデレるかのバランス調整は悩まされました


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100話 会議、冷静なる光の激情

 皆様の応援もありましてこの物語も今回で無事、100話目に達しました。これからも更新を頑張って行きたいと思いますのでよろしくお願いします。
 それと、後書きに報告があります


「馬鹿な……いくらなんでもそれは……」

 

「私も……とても……とても事実とは思えませんわ……」

 

 光から告げられた衝撃的な言葉に流石に動揺を隠すことが出来ない様子でラウラが呟き、それに続くセシリアの声も衝撃にうち震えていた

 

「無理もないさ、正直な所……俺も、こんなプログラムがタイラントに仕組まれていた事を研究施設がハッキリと否定さえしてくれていれば、あの音声は何らかのバグやエラーが元で生み出されたものと結論付けようとしていたさ……だがな」 

 

 肩をすくめ、深く重いため息をつきながら光はそう呟いて一旦言葉を区切る。が、すぐに表情を引き締めると、姿勢を正し、再び口を開いた

 

「だが……しかし、俺自身も気になる所ではあるが、今はこんな馬鹿げたプログラムを仕組んだ犯人やその動機を探すより先に何としてもなさねばならない事がある。そうだろう?」

 

「……私達を標的に定めている逃走中のタイラントの撃破……か」

 

 その場にいる全員に問いかけるような光の言葉に、箒が静かに、しかし確信を持った様子で答えた

 

「その通りだ箒。そして……先程から意図せずして、皆には悪い情報ばかりを伝える形になってしまったが……このタイラント撃退についてはいくつか朗報がある」

 

 箒の言葉を肯定すると光は、小さく口元に笑みを浮かべ、携帯端末をいじるとその画面を再びディスプレイに映像を写し出す。写し出されたのは慎吾がタイラントの襲撃を受けた海域一帯と本島の海岸線の一部、そしてM-78社の研究施設を含めたいくつもの島々が散らばる海が描かれた地図であった

 

「確かに先程説明したように、俺と慎吾はタイラントに挑んだものの敗北を許し、奴を逃走させてしまった。が、しかし、奴には相応の深手を追わせている。特に集中して攻撃したエネルギー補給器官などは高く見積もっても姿を見せた当初の30%の力も残っていないだろう……いかにタイラントの燃費や耐久性が優れていてもこの損傷のまま今も逃走し続ける事はまずもって不可能と言えるだろう」

 

 

 そこまで光が言うと画面に映し出されている地図の海上に浮かぶ島々を取り囲むように赤い線で縁取られた枠が出現した

 

「よって奴はそう対した距離は移動できず、まだ外洋には出れていない。戦闘で失ったエネルギーを充填するべくこの諸島のどこかにタイラントは潜伏しているはず……そして、ここからが肝心の朗報だ」

 

 そう言って光はニヤリと笑ってディスプレイに視線を向けた瞬間、諸島を囲むように描かれていた赤線がその形を変え、四つの小さな円形へとなる。四つの円はそれぞれ別々の一つの島を囲んでいた

 

「ついさっき我が社……Mー78社の監視衛星レーダーがタイラントを捕捉した。タイラントの放つジャミングのせいで乱されてピンポイントで当てる事は出来なかったがそれでも、確実にこの四島のどこかにタイラントは潜伏しているはずだ」

 

 と、そこで光はディスプレイに向けていた視線を戻し、一夏達の元へと振り返った

 

「飛行が不安定になり、イヤーの一部が全損するほどの損害を受けたタイラントはエネルギーチャージを終えるのにかなりの時間を消費するはず。奴の正確な潜伏場所を突き止め、入手した攻撃パターンを徹底的に研究するには十分な時間が残されている」

 

 そう言った瞬間、光の口元がつり上がり口元に笑み

が浮かぶ。それは敗北を喫し、怪我を負っても決して勝負を諦めずに勝利を勝ち取らんとする。戦士の力強い笑顔であった

 

 

「さぁ……たったの一機で七機のISを完全破壊など馬鹿げたプログラムが仕組まれたタイラントをここにいる皆で力を合わせて打ち倒そうじゃあないか!」

 

「……いつになく獰猛な台詞だな……芹沢。そんな姿は学園でも私も殆ど見たことが無いぞ」

 

 と、そこで今の今まで静かに光の話を耳にしていた千冬が静かに口を開き、光の言葉に突っ込みを入れるような形でそう言った

 

「ええ、そうでしょうね織斑先生……」

 

 そんな千冬の言葉を特に否定する事も無く、光は受け入れて頷く

 

「実験中、勝手に研究施設に現れて好き放題暴れて、Mー78社自慢のIS二機の破損。……そして何より親友を傷付けられても平静でいられる程、俺は大人ではありませんから」

 

「ひ、光……」

 

 そう形としてはあくまで淡々とした口調で答える光ではあったが、その裏にははっきりとしたタイラントへの怒り。それも、激怒と言えるレベルにまで膨れ上がっている感情がハッキリと見え、慎吾は思わずマリから控えるように言われていたのも忘れてベッドから起き上がりその名を呼んだ

 

「つまり……今回の作戦には光ちゃんは本気も本気。超本気で挑むってわけね。ふふっ……いいじゃない。そう言うの嫌いじゃないわよ」

 

 病室に集まっている多くが静かに、だがその内で激しい怒りを見せている光に思わず圧せられる中、何故だか少し楽しそうにそう言う楯無の声が静まり返った病室に響いていた

 

 

「………………」

 

 慎吾が襲撃を受けたMー78社研究エリアの島、そこから然程離れてはいない一つの孤島。その海岸線近くの岩場でタイラントはヒカリを打ちのめした長い尾を体に巻き付け、胎児にも似た姿勢で体を丸めて休み、大分少なくなった背中のエネルギー補給器官である刺を利用し、失ったエネルギーを全身へと充填していた

 

 と、それと同時に『ゾフィー』と『ヒカリ』の二機によりタイラントにとってら予定外の損耗を受けた事でタイラントは武装の動きの変化も同時に行っていた。研究所で武装した相手とは強さのレベルが数段違った二機の戦闘を参考に、より鋭く、より強力に、より確実に相手を破壊出来るように

 

「sya……」

 

 じっと身じろぎ一つせずエネルギーの充填を続けながら唸るような掠れた電子音声を響かせるタイラント。その声はまるで満全の状態で狩りをすべく体を休め、まだ姿を見ぬ獲物に焦がれて唾液を充満させている肉食獣のうなり声のようにも聞こえていた




 100話を記念して特別話を書こうかと思っています。活動報告にアンケートを設置しますので良ければどうぞ


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101話 第二戦、開幕

 更新遅れてしまってすいません。


 太陽が水平線の向こう側へとゆっくりと沈んで行き、雲が一つも無く住んだ空には太陽に変わって輝く満月が浮かび、空に一等星の明るい星がまたたき始めた頃、エネルギー充填を続けていたタイラントが静かにもたれた首を上げ、空を見上げる 

 

「sya……」

 

 タイラントの頭部に搭載された超高感度のイヤーが闇を切り裂き、自身に向かって真っ直ぐに近付いてくる一機のISを関知していたのだ。

 

 しかし近付いてくるのが分かってるとは言え、ゾフィーとの交戦により一対の超高感度イヤーその片方を失った事で精度が半減しており相手の大まかな位置しか判断出来ず、やむ無くタイラントは不完全な形でエネルギー充填を止めると、警戒のうなり声を思わせるような低く掠れた電子音声を発して空中高く浮き上がると、一部損失したイヤーの遅れを取り戻そうとしているのか、残った側のイヤーをフル稼動させて索敵を始める

 

 

 たとえ半損しても確かな効果を持っていたイヤーのお陰で、その結果はすぐに現れ、それから数秒程でタイラントは敵IS。雨月と空裂を構えたまま凄まじい早さで接近してくる紅椿の姿を補足していた

 

「…………!」

 

 迫る相手が紅椿と判明した瞬間、タイラントは急激に弾かれたようにスタートダッシュを決めると紅椿へと向かって加速し続けながら飛行し、接近してゆく。自身にプログラムされてる破壊対象の接近にタイラントは損傷を負ってるのにも一切かまわず、傍観や観察等と言った行為はまるで計算に入れずに紅椿に向かって猪の如く突撃して言ったのだ

 

「Sya……!」

 

 紅椿が射程距離に入った瞬間、タイラントは唸るように電子音声を発すると問答無用で頭部からガトリング・レーザーを豪雨の如く発射し、同時に左手の鉄球を振りかぶってワイヤーを噴出した。更にもし、この二撃をも紅椿が回避した時を考え念を入れて火炎をも発射する準備をしていた

 

 が

 

 頭部から放ったガトリング・レーザーは『タイラントから見れば』瞬間移動でもしたかのように突如、姿を表したブルー・ティアーズとリヴァイヴ・カスタムⅡによるレーザーと実弾による同時射撃でただの一発も紅椿に当たる事は無く相殺と言う形で打ち消され、同時に放たれたワイヤーも同じく突如、姿を表したミステリアス・レイディの水のヴェールで速度を緩まされた所をシュヴァルツェア・レーゲンのAICで捉えられ、空中でその動きを完全に封じられていた

 

 そして、タイラントが最後に放った火炎は

 

「はぁぁっっ……!」

 

「やあぁぁっ!!」

 

 当然のように予兆も無く姿を表した甲龍の衝撃砲、そして紅椿の雨月によるエネルギー刃が霧を吹き飛ばすように炎を突き破り、炎の塊をただの蛍の光程度の無数の火の粉へと変えてゆく

 

「Gyaaa……!」

 

 そして、タイミングを合わせて放たれた二機のISによる爆発的破壊力を持った攻撃は炎を霧散させてもなお、確かな威力を持っており、まだ昼間の戦いのダメージが残っているタイラントの装甲に激突するとタイラントは悲鳴のような音声を発した

 

「(よし……ひとまずは作戦通り……ここで抜かっては話にならないからな……)」

 

 悲鳴をあげながらも攻撃を続けてくるタイラントを注意深く見ながらそう思考する箒。その脳裏には数時間前の作戦会議の時の光景が甦っていた

 

 

「まずは前提として、奴の馬鹿げた破壊力の攻撃を一人で受けきるのはリスクしかなく無謀なだけの行為に近い。と、考えていてくれ」

 

 場所をマリからの許可を受けて貸切状態とした同階の会議室に変え、始まったタイラント撃破の為の会議序盤、光は開幕直後にそう強く警告を促した

 

「ただでさえフィジカルで冗談のようなパワーと高出力のレーザー、機動力を合わせ持っているのにも関わらず、更に咆哮のような音声を発する事で装甲の強度まで含めた全ての機能が通常状態と比べて三倍に跳ね上がる……全く恐ろしい相手だ」

 

 更に光は、タイラントの詳細なスペックが示されている画面を見つめながらそう続け、深く、重いため息を吐いた 

 

 

「しかし、奴は決して無敵ではなく、決定的な弱点がある。……それは奴がコアネットワークを遮断しどのISとも繋がっていない完全な無人機であると言うこと、自身に搭載された装備のみでこちらを補足していること。そして……これらの管理を行う奴のAIに甘さがあると言うことだ。それを利用して……」

 

 その直後、光は不適な笑みを浮かべるとヒカリを腕部分だけ展開させると、王冠を思わせるような装飾の金色のブレスレットを出現させた

 

「この装備、試作型キングブレスレットは装備すれば狙ったIS一機の各センサーに強力な妨害効果を発生させ探敵能力を大幅にダウンさせる事が出来る。タイラントのセンサーがいくら優れていると言えどもその元となってるのは第二、及び第三世代の機体だ。これを完全に打ち破れはしないだろう。最低でも三分以上は効果が続くはずだ」

 

「あの……光さん、一つ聞いてもいいですか?」

 

 キングブレスレットについて説明を続ける光。と、そこで一夏が少し迷った様子で手をあげ、光に質問を求めた

 

「光さん、そんな凄い装備があるなら、なんでタイラントとの戦いで……」

 

「……あぁ、確かにキングブレスレットを使えばまた違った結果になったのかもしれないが……使おうとも、使えなかったんだ織斑くん」

 

 少々ぶしつけな一夏の質問に光は目を閉じると、少しの苛立ちと悔しさを含んだ複雑な表情と口調でそう答える

 

「この、キングブレスレットが試作型に過ぎないせいか今一つ動作に安定性が見られなくてな……後続のUシリーズの機体を使えば話は変わるのかもしれないが、以前の実験では俺のヒカリと慎吾のゾフィー、そのどちらでもキングブレスレットの力を上手く発揮する事が出来ず、殆どただの飾り状態になってしまっていたんだ。……あの激戦の中でそんなものを使おうとは思わないだろう?」

 

 そこまで言うと光は無念さの為か無意識に必要以上に体にかけていた力を抜くように、再び重いため息を付くと肩を落とした

 

「……これがどうにか使えるようになったのはついさっき。治療を続けながらも調整に調整を重ねた結果。ようやくと言った所だ。全く現実とはままならないものだな……とっ、すまない。話がずれてしまったな」

 

 だがそうやって落ち込むのも短い間の事であって、光はすぐにそう言って苦笑しながら謝罪した

 

「ともかく……タイラントとの戦いは奴のスペックやキングブレスレットでの制限時間を考えると短期決戦で一気に決着を付ける以外に無いだろう。それで肝心の作戦内容だが……」

 

 

「SYAaaaa!!」

 

 緊張感に包まれていた会議の内容をそこまで思い返した直後、シャルロットとセシリアからの援護射撃の攻撃を受けながらタイラントが腹部から周囲の空気をも纏めて凍り付かせる勢いで超低温の真っ白な冷気を発射してきた

 

「…………くっ!」

 

 強制的に思考を中断させられた箒は今度は空裂を奮って危うい所で迫り来る冷気を霧散させ、事なきを得た

 

「(焦りは禁物……ではあるが、今は急がなくては……!)」

 

 極度の意識を集中の為に額から汗を滲ませながら、箒はそう決意し、5人のサポートを受けて更にタイラントへと接近し、どうにか必殺の一撃を叩き込める距離にまで踏み込もうと試みていた

 

 何故、ここまで箒が急いでいるのか? ここまで接近するまでタイラントから皆の姿を隠していたキングブレスレットの制限時間の事もあるが、それ以上のある事が箒を急がせていたのだ

 

「何としてもお前の立案した作戦は成功させる……。だから、無理はするな……光!!」

 

 そう、それは現在タイラントと交戦中の箒達から更に500メートルほど上空で、損傷が大きく使用不能になったナイトブレスはそのまま、本体に最低限の修理だけを済ませただけのヒカリを展開させ、自身は痛み止めの注射を済ませただけの状態なのにも関わらず『これを自由に制御できるのは俺だけだ』と、箒達を助けるために傷付いた体に鞭打ち、現在進行形でキングブレスレットを懸命に制御している光の事であった

 

 慎吾よりは軽傷とは言え、光も即座に病院に搬送される程の傷を負っている。『キングブレスレットの制限時間くらいは持たせて見せるさ』と、皆の反対を振り切った光は出撃前にそう言っていたが決して無理はさせられない

 

「はぁぁっ!!」

 

 そんな光の覚悟を決して無駄にしてはならない。そう改めて箒は誓うと掛け声と共に1秒でも早く決着を付けるべく再びタイラントに向かっていった。




 大変、急かつお手数をかけてすみませんが、予定を変更して活動報告でのアンケート期間を延長させて今月いっぱいとさせていただきます。何とか特別編は書き上げますので出来ればご協力お願い致します


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102話 病室、暗雲と儚き希望

 今回、少々短めです


「会議で決めた作戦予定通りに事が動いているのなら丁度、今頃、タイラントに先陣をきって箒、次いでシャルロットやラウラ達が接敵して交戦を始めた……と言う頃合いか」

 

 夕方から夜へと変わり始め、病室を照らす蛍光灯の光の明るさを強く感じ始めた頃、ベッドの上では仰向けの状態のまま首を動かしてベッド横のデスクに取り付けられたデジタル表記の時計を眺めつつ慎吾が一人、静かに呟いていた

 

「タイラントに狙われているシャルロットやラウラ達専用機持ちのが自ら打ち倒すべく出て、光もそれを助けるために傷付いた体のまま行った。織斑先生も非常事態に備えてMー78社の研究所に出向いている……そうして皆が、懸命に努力している中私はこうして寝ているしか無いとは……」

 

 自身が置かれている状況を振り返った慎吾は悔しげに自身の腕に装着されている待機状態のゾフィーを見つめた

 

 第二形態であるスピリットゾフィーになっていたお陰でゾフィー本体のダメージは総合から見れば銀の福音との戦いで負ったものより軽傷ではあった。

 が、しかしそれはあくまで総合面から見た話であり、タイラントとの戦いで負ったゾフィーの右腕部分の損傷は大きく、ゾフィーは最大の必殺技たるM87光線、更にスピリットゾフィーの仕様が不可能と言う状況に追い込まれてしまっていた。

 

 不幸中の幸いか左腕も全損、と、はまでにはなっておらず現にスペシウムやウルトラスラッシュならば現在のゾフィーでも使う事は可能ではあったが、Z光線やM87光線と行った特に強力な威力の装備を使う事が出来ない事、そして慎吾自身の体の負傷の大きさが原因で今回のタイラント撃滅作戦に慎吾は外され、こうして一人、病室のベッドでマリに指示された通りに安静にしているのであった

 

「ゾフィーの破損も、この怪我も私のミスが招いた出来事。仕方無い……が、やはり皆が戦っていると言うのに何も出来ないと言うのは悔しいものだな……」

 

 そこまで言って慎吾は改めて自身の無力を味わい、思わず悔しさに小さく歯噛みした。が、しかし、今、無理矢理ゾフィーを展開させて遅れて出た所で、主力のM87光線やZ光線を失い、なおかつ本体の装甲にも不安が残り、第二形態にもなれない自分がタイラントとの戦闘で皆の足を引っ張ってしまうのでは……と、言う憂慮の方が大きかった為に慎吾は強い無念を感じながらもベッドから起き上がろうとはしなかった

 

 そうして慎吾が手の打ちようの無い現実を前に諦めかけた瞬間だった

 

「ん……? これは、私の着信音か……」

 

 突如、病室に警戒なリズムを刻んだ電子音声が鳴り響き、思わず音の聞こえた方向へと視線を向けた慎吾はそれがベッド横のデスクに置かれた自身の携帯端末から鳴っている事に気付くと、ベッドに寝たまま手を伸ばして携帯端末を手に取る。どうやら電子メールが届いたようであった

 

「差出人は……ケンさん?……」

 

 画面に表示されたメールの差出人の名前を見て、慎吾は仰向けのまま不思議そうにそう呟いた

 

 ケンは激務である仕事の合間をぬって自身がこの病院に搬送された時に真っ先に駆け付け、既に自分と光の奮闘を評価し、同時に力強い励ましの言葉をくれていた。そんなケンが今、自分に一体何の連絡なのだろうか?

 

「……!?」

 

 直感的ではあるが徐々に嫌な予感を感じ始めていた慎吾は、メールの件名である『タイラントの一件に関する緊急』と言う文字を見た瞬間、目を見開きすぐにメールを開くとその内容を確認した

 

「……こ、これは……! この情報を何としてもタイラントと戦っている皆に……光達に伝えなくては!!」

 

 そこに書かれていたのは、たった今、Mー78社独自の捜査で判明したタイラントが未だに密かに隠し持っている『ある機能について』の恐るべき情報。そしてタイラントのジャミングの影響か光に連絡が取れないと言う事が書かれた文面を目にした瞬間、慎吾はみるみるうちに顔を青ざめ、たまらずベッドから飛び起きると患者用のスリッパを履きながら立ち上がった

 

 このタイラントの機能を交戦中のメンバーが知らず、完全に不意打ちの形でぶつけられたら致命的な一撃を誰かが受けてしまう。そう確信していたからこそ、慎吾は例え今の自分がタイラントに挑んでも勝ち目は無いことを、ケンに勝るとも劣らない程に尊敬し感謝しているマリの言うことに逆らうことになろうとも、動かずにはいられなかった

 

「……っう! ……ひとまず病院の外に出てゾフィーを展開させるまでは移動に杖が必要だな……」

 

 が、そう心では既に決めているものの、やはりタイラントから負わされたダメージは予想を越えて大きく

、立ち上がるのと同時に容赦なく体に襲いかかる激痛に思わず慎吾は顔をしかめて片手で壁に手をついた

 

「うん……?」

 

 壁に自重を預けながら慎吾が杖を探して病室内を見渡していると、再び慎吾が手にしていた携帯端末が鳴り響き、再びケンの元からもう一通のメールが届いた事を知らせた。

 

「『責任の強い君の事だ、例え負傷した今でもあのまま黙っててはいないだろう』……はは、やはり、私の行動する事などケンさんにはお見通しか……」

 

 届いたメールを開いた瞬間、自分が行動しようとしていた事、そのタイミングまでケンに完全に予測されていた事を知り、たまらず慎吾は苦笑した。が

 

「『そこで君に僅かながら私も助力しよう』……?」

 

 メールの続きの文面を見た瞬間、慎吾は思わず引き付けられるように壁に手をかけたまま、ケンから届いたメールを読み始めた




 何度もすみません。今月一杯までアンケートの解答をお待ちしております。しつこく感じられるかもしれませんが、どうかご協力をお願いします。


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103話 運命の一撃

 大変、遅れて申し訳ございません。どこでカットするべきか悩んでしまいまして……


「隙あり! 喰らえぇっ!!」

 

 絶え間なくタイラントから発射されるガトリング・レーザーの弾雨を回避しつつ、一瞬の隙を付いて鈴が先程からラウラと楯無の二人の攻撃を回避し続けながら牽制するように攻撃を行っているタイラントのがら空きの胴体に目掛けて複数の衝撃砲を撃ち込む

 

「援護するよ!」

 

「流石にこれならば……回避出来ないでしょう!?」

 

 その攻撃にシャルロットとセシリアも加わり、計三方向からの射撃が一斉にタイラントに襲いかかった

 

「G……GYAAaaaaaaaaッ……!?」

 

 それを何とか回避しようと試みたタイラントではあったがラウラと楯無による強力な追撃。さらに戦闘開始から徐々に徐々にと自分へと距離を縮めてくる箒に気を取られ、結果、三方向からの銃撃。その全てがタイラントに直撃して、タイラントは悲鳴のような音声を発して、着弾と共にタイラントの姿は煙に包まれた。

 

 明らかなタイラントへのクリティカルヒット。しかし、尚も六人は決して喜びの感情など見せず、むしろ焦りにも似た緊張に包まれていた。そう、何故なら『この程度の攻撃は』戦闘開始以来、既に幾度もタイラントに浴びせているからだ

 

「ぎっ……Syaaaaaaaaaッッ!!」

 

 直後、自身を包む白煙を瞬時に吹き飛ばし、ISを展開させても尚、鼓膜が大きく震わされて脳へと響く程までに強大な衝撃を持って発せられたタイラントの憤怒の怒声にも似た雄叫びと共に、先程よりいっそう破壊力とその密度を増したガトリング・レーザー、そして一瞬遅れて射程距離が大きく伸びた火炎が、銃撃により一瞬の硬直時間が生じた鈴達に襲い掛かった

 

「……あぁっ! もうっ! なんなのアイツ!? どんだけタフなわけ!?」

 

「あれほど私達の攻撃を受けても未だに機動力や、攻撃スピードに変化が無いとは……。まるで悪夢のようですわね……」

 

 攻撃が着弾してから、ほんの僅かなラグだけで平然と反撃してきたタイラントのレーザーを紙一重で回避した鈴がたまらず叫ぶ。その隣を飛ぶセシリアの表情にも僅かに青ざめ始めていた

 

「くっ……奴め……時間に猶予など無いと言うのに……。……すまない光……」

 

 そして、焦りを感じ始めているのは決して二人だけでは無い。メインの攻撃役として出来うる限りタイラントの正面に立って交戦を続けていた箒もまた、五人を同時に相手にしながらも決して自身を決定的な一撃が決まる範囲内に寄せ付けようとせず、それどころかこちらの瞬き一回ほどの隙を狙って凄まじい一檄を打ち出してくるタイラントに苦戦し、無情にも過ぎていく時間、それと比較して消費していく光の身体を気づかい、一手先を誤れば即座に敗北するようなこの状況では危険極まりないと脳内では理解していながらも、胸の中に込み上げる焦りを押さえる事が出来ずにいた

 

「(このまま戦闘を続けていれば奴も無敵と言う訳ではない……ダメージが蓄積されている以上、時間をかければ変則的だが私達は奴に勝利する事が出来るだろう……。だがしかし……それまでの長時間戦闘に及んでも尚、ただでさえ病み上がりの光の身に何も起きないが言い切れる!? やはり一刻も早く勝負を決めるしか無い!)」

 

 タイラントから勝利を手にする手段を箒は既に浮かんではいた。が、しかし、互いに全身全霊をかけて剣で戦い、心からの友となっていた光を犠牲にしてまでそれを成し遂げようとまでは決して思慮に入れようとはせず、あくまでリスクの高い短期決戦へと固着して勝負を持ち込もうとしていた

 

「(と、なると……やはり多少の危険は当然。……と考えて早急に動かねばならないな……)」

 

 相変わらず酷く耳障りなひび割れた電子音声で激昂した獣のように吼え、嵐の如く攻撃を仕掛けてくるタイラントの攻撃を回避し続けながら、そこまで思考を巡らせた箒はタイラントの攻撃、特に自身の周りを一定の距離を保ちながら駆け巡り、隙を狙っては攻撃を仕掛けてくるレーゲンとミステリアス・レイディを何とか捕らえようとするワイヤーの動きと、回避が間に合わないリヴァイヴとブルー・ティアーズの銃撃をボディに命中する前に打ち落とす鎌とハンマーの動きをじっくりと、そろこそコンマ一秒も見逃さぬように観察を続け

 

「みんな……聞いてくれ……」

 

 やがて、箒はプライベート・チャネルを通じて仲間達全員にメッセージを送る

 

「今から私が奴に突撃する。だから皆は奴のガトリング・レーザーと光熱火炎、超低温冷気の相殺札だけに火力を集中して欲しい。……その間に私が何とか奴の攻撃をやり過ごして懐に飛び込んで一太刀浴びせてみせる……!」

 

『んなっ……!?』

 

 一言で言えば無茶苦茶、しかし迷いが感じられない様子の箒の言葉に通信を受けていた全員は思わず絶句した

 

「そ、それ本気なの………?」

 

「うーん……いくらなんでも、それはちょーっと無茶が過ぎるんじゃあないかしら……?」

 

 声を震わせながらも口火を切って、その心意を問いただしたのはシャルロット。その後に続いて言う楯無も表面上はいつもと変わらぬどこかおどけた口調と余裕を見せた表情ではあったが、よくよく見てみればその顔は驚愕の為かほんの僅かにひきつっていた

 

「うむ……確かに背負うリスクは大きい……が……ふむ……」

 

 そんな中、先に二人の動揺を見ていたお陰か幾分か落ち着いた様子でラウラは考え込むように僅かな時間、思考を集中させるように目を瞑り

 

「分かった。お前の指示通り私達は奴からの遠中距離と攻撃を援相殺にするのに火力を集中させよう」

 

「ちょっと!? 勝手に何を……!」

 

 そう、さして迷わない口調で全員を代表するように箒にすらすらと了承の返事を返す。そんな少々、乱暴なラウラの態度に反感を感じたのかセシリアが抗議するように叫んだ。が

 

「では今、他に有効手段があるか? ……それに……何より、今現在も奮闘している光はおにーちゃんの親友(とも)。ならば私にとってはおにーちゃんと等しく尊敬すべき相手。……私も何としても守りたいんだ。おにーちゃんの『妹の一人』として……!」

 

 直後に、発せられたラウラの以前から考えられぬ程に熱い覚悟と義兄の兄である慎吾を慕う強い想いが込められた言葉に圧せられて、一瞬沈黙が広がった。そして次に帰ってきたのは

 

「全く……今回ばかりは特別ですわよ?」

 

「あーもう……こうなったら、あたしもこの無茶苦茶に付き合ってやるわよっ! 失敗したら承知しないわよ!!」

 

「ラウラ……念を入れて言っておくけど僕もお兄ちゃんの妹。で、僕は君の『お姉ちゃん』なんだよ? だから当然、何も言わなくても協力するよっ……!」

 

「あらあら、みんな揃って闘志全快ねぇ……ま、それは私も含めてだけど……ね」

 

 四人それぞれの力強く、容赦なくタイラントの攻撃が降りそ注ぐこの現状でも口元に笑みが浮かぶ程の力に溢れた了解の返事だったす

 

「みんな……!」

 

 そんな仲間達から寄せられる熱い言葉に箒は無意識の内に胸が震え、精神が高揚するのと同時にその勢いのまま感涙しそうになる

 

「……っ! みんな……ありが……とう」

 

 しかし、それでも敵を前にして涙を流している暇は無い。そう考えた箒は剣を構え直しながらそう一言、プライベート・チャネルを通じて小さな声で自身の無謀な策に乗ってくれた皆に礼を言う。箒が珍しく素直に心の内を晒した事で箒には仲間達からはどこか生暖かい微笑ましい物を見るような視線が注がれるが、箒はそれをどうにか気に止めないようにした

 

 そして眼前の敵、生体パーツが一切使われてない機械の体ながらまさに狂った獣のように吼え、暴君の如く暴れるタイラントを睨み付け

 

「行くぞっっ!!」

 

 短く、自身の心で決意するように、タイラントに宣戦布告するように、そして、仲間達に呼び掛けるように叫んだ

 

『おおっっ!!』

 

 その声に仲間達が力強く返事を返した瞬間、箒は紅椿が出せる最高の速さでタイラントに向かって飛んだ

 

「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッ!!」

 

 同時にタイラントも更に一段と激しく吼えると、自身にプログラミングされた破壊対象、紅椿を何としても引き裂き、砕き、打ちのめさんとに専用機持ちとの戦いで更に少なくなっていたエネルギー補給器官をフル稼働暴風雨の如くガトリング・レーザーを発射し、直後、殆んどタイムラグも無く高熱火炎と超低温冷気を連発し、怒濤の攻撃を紅椿に仕掛ける。が

 

 

「ふん、いくら量が多くともそんな攻撃……」

 

「……僕達が四人が通すとでも思ってるのかな!?」

 

 直後、ラウラとシャルロットの掛け声を合図に放たれた四人の専用機持ち達からの紅椿への援護射撃の弾幕でタイラントの攻撃は次々と相殺されて霧散し空中へと消え去り、決して紅椿の元へは届かない

 

「Gギっ……!!」

 

 

 攻撃がことごとく無力化されて行くのと急速に近付いていく紅椿を見て、それが回避不能だと判断するとすかさずタイラントは攻撃を近接中心に切り替えて紅椿を攻撃する

 

「速い……だがっ………!!」

 

 しかし、凄まじく速く、唸りをあげて放たれるワイヤーと大鎌そしてトドメとばかりの鉄球が織り成す連続攻撃をも箒はギリギリの所で見切り、避けて更にタイラントへと接近し

 

 

 

「タイラント……これを……受けてみろ!!」

 

 

 ついに、ついに、狙い通り必殺の一撃を畳み込めるタイラントの懐の中に入り込んだ

 

「Gi………!!」

 

「はああぁぁっ!!」

 

 そして動揺し、慌ててタイラントがガードの為に振り上げた鎌を引き戻すより早く、決着を付けるべく振り上げた雨月をタイラントのボディの損傷部を狙って打ち込み

 

 

 

「Gi……Gaッッ!!」

 

 その一撃はタイラントの残った最後の装備、臀部分から生えた長大で太い尾を巻き付かせる事よって受け止められ、刃はタイラントの装甲に命中する前にその動きを止められた

 

「………………っっ!!」

 

 そして、精神を研ぎ澄ませ、万応じして放った渾身の一撃を止められた箒は思わず動きを止めて息を飲む。その決定的な隙を狙ってタイラントが鉄球を振り上げた瞬間、箒は叫んだ。そう

 

 

「今だ………一夏!!」

 

 

 『完全に作戦通りに』動き、はまったタイラントに真のトドメの一撃を放つための合図を送るべく、箒はその名を呼ぶ

 

 ヒカリと共に上空で待機し、光のまさしく限界を越えた奮闘により今の今までキングブレスレットの力でタイラントに感知されずにいた白式を、この一瞬の隙を狙って極限と言えるレベルにまで精神を集中させていた一夏を

 

 

「うおおおおおおおおぉぉっっ!!」

 

 エネルギーを殆ど消費してない白式のもつ最大限のスピードで、落下するよりも速くタイラントに接近し、迷わず零落白夜を発動する

 

「G………!?」

 

 

 そして、そんな完璧なタイミングで放たれた零落白夜での一撃を紅椿と専用機持ち四人を相手するのに自身が所持する全ての武装を使用してしまったタイラントが防げる筈もなく

 

「………!!」

 

 頭部から零落白夜の一閃をまともに受けたタイラントは、断末魔のような電子音声を最後にこぼすと、糸が切れた人形のように力なく崩れ、足元の、それこそ数分前までエネルギー充填をしていた島へと墜落していった




 さて、タイラントは倒れましたが………次回は特別編です。


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104話 特別編 過去の記憶

 かなり難産になりました……大変遅れてすいません。あと、今回は若干のキャラ崩壊注意……と、言えるかもしれません。
 アンケート結果で言うと一番の話となります。なお、今回の話は特に見なくても今後の話に影響はありません


「たぁーっ! やぁっ!」

 

「よし、良い一撃だぞ! 光太郎!!」

 

 慎吾が藍越学園に入学して当初のある日の休日、ケンの家に招かれた信吾はケンの自宅の広々とし、マリの管理が行き届いているお陰で青々とした芝生が広がる広い庭で朝の日差しを受けながら光太郎の実戦的トレーニングに付き合っていた

 

「行きますよ慎吾さんっ! うぅんっ!!」

 

「おおっ!? こ、これは………」

 

 しかし、実戦的トレーニングとは言っても慎吾と光太郎では実技経験の差が大きい。そこで今、行っているのは光太郎はひたすら慎吾に攻撃を仕掛け、信吾はそれを全てガード、もしくは受けさばくと言うある程度のハンディキャップが付いていた。が、人並み以上に飲み込みが速く、小学生にしては非常に高い背丈から発せれる踊るような、しかし強烈な空中技の連続に驚かされた慎吾は徐々に光太郎へと押され始めていた

 

「ふっ………更に腕を上げたな光太郎」

 

 が、そんな状況でも慎吾の表情に浮かんでいるのは笑顔。もちろん光太郎の一撃でしっかりと固めていたガードを崩された事への衝撃もあったが、それよりも慎吾にとってはケンの頼みもあって以前から自身が面倒を見てきた光太郎の成長をこの目と体で感じる事が出来た喜びの方が遥かに上回っていたのだ

 

「ほんの数年前は辛い目に会うと泣いてばかりの子供だったお前がよくぞここまで強く……」

 

「えっ、えええっっ!? し、慎吾さん、その話は……」

 

 思わず感慨深くなったのか思わずトレーニング中なのも忘れて、目頭を押さえながら静に呟く慎吾。一方で慎吾が語ろうとした言葉が余程恥ずかしかったのか一瞬にして頬を真っ赤に染める

 

「あっ………!」

 

 と、そうやって意図せずして集中を切らしていたせいだろうか、偶然にも飛び蹴りを放とうとしていた光太郎が空中に飛び上がろうと右足で大地を蹴ろうとした際に足の力の加減を間違えたのか、光太郎は空中で大きくバランスを崩してしまった。しかも崩れた体制で飛び上がった際に足首も軽くひねってしまったのか、受け身も間に合いそうに無い

 

 このままでは地面に激突する際に体のどこかしらを強打する。もしかしたら骨を折ってしまうかもしれない

 

 そうして光太郎が自身にこれから起こるであろう事を理解した瞬間、思わず口から短い、悲鳴のような声が溢れてしまった

 

「と……大丈夫か? 光太郎」

 

 が、しかしその杞憂は、構えの状態から素早く動いた慎吾が地面に落ちるより速く光太郎の服の首元と、脚を支えて受け止める事で終わった

 

「す、すいません慎吾さん、すぐに降りま……痛っ……!」

 

 と、助けてもらった礼を言いながら光太郎が自らの足で立とうと慎吾の腕から離れると左足を大地に付け、次に右足をも置く。と、さの瞬間、光太郎は足の痛みに小さく悲鳴をあげ、身を縮こまらせた

 

「足首を捻ったのか……よし、私が家まで背負って行こう」

 

 すぐにその様子に気が付いた信吾は軽く屈むとその背中を光太郎に向け、そこに乗るように促す

 

「そ、そんな慎吾さん、悪いですよ。ここは家の庭ですし……僕、まだ歩けるますし……ほら」

 

 負傷した右足を庇うような若干おぼつかない体制ではあるものの、自分の力で立てている光太郎は申し訳なさそうにそう言って遠慮すると自身の言葉が真実であると証明するように、その場で足踏みをしてみせた

 

「ふむ……確かに、自力で歩く事は出来るようだな」

 

 肩ごしに振り返り、そんな光太郎の様子を見ていた慎吾は、どこか納得したかのようにそう呟く。が

 

「だが、それでも私の素人目では分からない事も多々ある。しつこいようだが、ここは念をいれてマリさんに看てもらうまでは背負わせてくれ。……光太郎が足を痛めたのは私の監督責任もある。こんな形ですまないが、どうか挽回させてくれないか?」

 

 背中を光太郎に見せたまま首を正面に戻して慎吾はそう言うと、最後に苦笑しながらも頼み込むようにそう光太郎に言った

 

「……分かりました。お願いします慎吾さん」

 

 そんな慎吾の言葉を聞いて、流石に光太郎もこれ以上は粘らず、素直に好意に甘える事にしたのか慎吾の背中に体重を預けた

 

 

「……大丈夫。確かに光太郎は足首を捻っていますが、この程度ならば湿布を張る程度で何の問題もありませんよ」

 

 ケン家の自宅の和室。そこに敷かれた布団に寝かされた光太郎の足首の様子のチェックを終えたマリは笑顔でここまで光太郎を連れてきた慎吾にそう返事をした

 

「そうですか……それは良かった……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、慎吾は今まで堪えていた息を一気にはきだし、安堵のため息をついた

 

「今回は本当に悪かった光太郎。私が下手に感傷にふけらなければ……」

 

「い、いえ、慎吾さんのせいではありませんよ。あれは僕がトレーニング中に下手に集中力を欠かしたせいですから……」

 

 そう言って改めて光太郎に謝罪する慎吾に、光太郎はマリに痛めた足首に湿布を貼って貰っている状態であわててそう言って慎吾の謝罪を止めさせた

 

「しかし光太郎……」

 

 その言葉を理解こそすれど、しっかりと納得は出来ない様子の慎吾はためらいながら言葉を続けようとする。その時だった

 

「慎吾、君のそんな真摯な気持ちは非常に嬉しいが……ここは私に免じて、『今回の事は偶然が生んでしまった不幸な事故』と思ってはくれないか?」

 

「ケンさん……」

 

 見計らったようなタイミングで和室の襖が開き、ケンが姿を現した。休日故にその服装はMー78社で働いている時のようなスーツ姿では無く、落ち着いた色の私服姿であり、そう言いながらケンは廊下から部屋の中へと入り、光太郎の近くに座るとケンは更に言葉を続ける

 

「……最も、私はつい先程、偶然一部始終を見ただけに過ぎないから君達に強制は出来ないが……。二人はそれで大丈夫か?」

 

「……ケンさんがそう言うのならば、私からは何も意見はありません。今回の一件に関しては光太郎が認めてくれるのならば私は事故と思うつもりです」

 

 怪我をした当人である光太郎、ならびに恩師であるケンの二人の言葉を前にして慎吾はそれ以上反論の言葉を言うことは無く、二人の想いを素直に受け止めて慎吾はそう答えた

 

「うむ、君の気持ちは分かった慎吾。光太郎もそれで問題は無いか?」

 

「はい、父さん!」

 

 続いて慎吾が許容したのならば当然自分も。と、言うように光太郎は寝かされていた布団から起き上がるとそう元気良くケンに言う

 

「よし! では二人ともに納得した所で……そろそろ彼女も来るはずだ、皆で一緒に昼食の準備をするとしよう」 

 

 するとケンは二人の顔を交互に見ながら、さわやかに笑い、そう言うのであった

 

 

「まずいな……事前に連絡はしておいたが予想以上に遅れてしまった……」

 

 太陽が頂点へと上った昼どき、急ぎ足で光はケンの自宅へと続く道を進んでいた

 

 光も慎吾と同様にかねてから世話になっているケンから招待を受けていたのだが、Mー78社で行ってた新型ISの研究で予定外のトラブルが発生してしまい、その収拾を付けるのに大きく時間を取られ、当初は慎吾の少し後くらいの時間には到着する予定だったのにも関わらず、現在、光はこうして招待されたのにも数時間以上の遅刻をするはめになっていた

 

「このペースならば、どうにか昼食までには間に合うはずだが……」

 

 逸る気持ちを押さえながら、無駄に急いでこれ以上何らかのタイムロスを起こし、礼儀としてマリが自分の分も用意してくれていると言う昼食の場に遅れてはならないと理解している光は滲む汗をハンカチで拭いつつ、決して走らずしかし決して無駄の無い動きでケンの家へと向かっていたのだ

 

「よし、門が見えてきた……うん?」

 

 そんな努力もあって、やがて光は自身の視界の先にケン宅の門を捕らえ始めた。が、そこで光は不思議そうに首を傾げる

 

「マリさん……?」

 

 そう、ケンの家の門の前にはわざわざ出迎えに出てくれたのか一人佇むマリの姿があった。が、光が驚いたのはそこでは無い。そのマリの表情が困っているような顔をしており、苦笑いにも似た顔でどこか虚空を見つめていると言う、明らかにマリの身に何かが起きた事を感じさせる表情が光に疑問を感じさせていたのだ

 

「遅れてすみません……と、いきなり失礼ですが、マリさん。何かありました?」

 

 そんな自身が初めて見るような顔をマリがしているのが、どうにも気にかかった光は失礼だと言う事は良く理解しながらも、挨拶するなりマリにそう堂々と尋ねた

 

「あぁ光、来てくれたのですね。それが……少々、困った事がありまして……どうしたら良いのかと、悩んでしまって」

 

 そんな光にマリはどうにか顔に微笑みを浮かべて挨拶をすると、ため息を吐くようにそう光に打ち明けた

 

「困った事……ですか……?」

 

 それを聞いた光はますます混乱し、反射的にまるでオウム返しのようにそう問い返した

 

 今日はケン、マリの夫婦が共に日を同じくて休日であり、二人は揃って家にいる。だからこそ自分と慎吾が招待されたのたがらそれは間違いない

 

 それでは、身内贔屓を差し引いて、更に控え目に言っても『超』が付くほど優秀な二人が揃っても解決出来ないような事態とは一体なんなのだろうか?

 

「少々、口では説明しがたいので……何が起きたかは光、あなたの目で直接確かめて見てください」

 

 そんな風に疑問が山の如く脳内に浮かんでは消えていく光は無意識のうちに表情にその疑問を表情に表していたらしく、マリはそれだけを告げると光を先導して自宅、その庭へと案内していく

 

「…………」

 

 一体どんな光景が自分を待ち受けているのだろうか、マリの後を付いて一歩歩くごとにそんな不安が次第に広がり、光は気付けば自然と無言になっていた。

 

 

 そうして、先を予測出来ない事態への不安により緊張したまま庭にたどり着いた瞬間、想像も出来なかった。いや、こちらの考えの斜め上を行く光景に思わず光は息を飲んだ

 

 

 そう、そこにあったのは

 

 

「す、すまない……まさか君がそこまで深く気にしていたとは……配慮が足りなかったようだ……」

 

「ご、ごめんなさい慎吾さん! 僕も父さんの提案に賛成したんです……」

 

 珍しく僅かではあるが動揺した様子で申し訳なさそうにそう言うケン。その後に続いて慌てて光太郎も頭を下げた

 

 

「……いや、良いんですよ。これは私自身の問題ですからケンさんには何も責任はありません。……光太郎も良かれと思ってやったのだろう? なら、私はお前を責める事なんてとても出来ないよ」

 

 二人が謝罪している相手は、庭に置かれたレジャー用の持ち運び可能なテーブルセットの椅子に腰掛け、頭を抱えながら力無くテーブルに項垂れる慎吾であり、その少し前にあったのは

 

 

 炭が力強く燃え、ちょっとやそっとの風では消えない程に安定した炎が揺らめく屋外用コンロに、その上に乗せられ、開始の準備を今か今かと待つピカピカの鉄網。そして、瑞々しさが残る野菜の盛り合わせと立派肉の数々

 

 

 

 何をどうみてもそれはバーベキューの準備がされたセットであった

 

 

「あぁ…………あいつの……慎吾のトラウマもどきを刺激してしまったのですね……」

 

 それを見た光は全てを悟り、しかし理由が分かったと言って何も解決法が浮かばず、諦めるように大きくため息をついた

 

 思い返せば光にとっては一年前のある日、妙に慎吾の顔色が悪く覇気も感じられない事に気が付いた光が、慎吾の身を案じて問いただした事で知った事実

 

 端的に言えば慎吾と光太郎そして特に親しい仲間達の計6人で金を出しあって始めたのにも関わらず、遅刻を理由に自身が到着してないのに勝手に始められた焼肉会の事であり(一応、慎吾はその場で謝罪はされたらしいが)、珍しく慎吾が弱気に『考えたくは無いが私は皆から嫌われているのではないか』泣き付いて来たことをハッキリと覚えている

 

「(まぁ……皆で集まってそんな事をしていたなんて、俺は慎吾が語るまで殆んど知らなかったんだがな……最も俺は慎吾と光太郎以外のメンバーの顔はあまり知らないし、あの頃は『老師』が姿を見せるまでは研究が特に忙しくて慎吾相手にもつい素っ気ない態度を取ってしまう事もあったが……それでも一応は、慎吾でも光太郎でも誘ってくれたら是非、向かったのだがなぁ……)」

 

「光!? どうしたのですか!?」

 

 そして過去を思い返した事で光もまた、慎吾とは別次元の理由で硬直し目元から僅かに滲んだ涙を隠すように深く項垂れてしまい、それを見たマリが心配そうに声をかける

 

 結局、二人の為に何をすれば良いのか分からず年相応に狼狽える光太郎を落ち着かせつつ、ケンとマリの言葉により慎吾と光の二人が立ち直らせるのには丸々一時間を要し、その間に最初に投入した炭は殆んど燃え尽きてしまったのであった




 慎吾の過去、IS学園入学の少し前の時期の話ですが、今回は思い切りを付けて自分の好きに書いてみたので批評は覚悟しています。なお、次回からは103話からの続きになります


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105話 暴君の憎悪

 お待たせしました、前回(103話)の続きです


「はぁ……はぁ……もう少し長引けば危うい所だったが……無事にいったようだな……」

 

「箒! 大丈夫か!?」

 

 崩れ落ちたタイラントがピクリとも動かなくなったのを見ると、つい先程まで極限と言っても差し支えの無いレベルまで神経を集中させていた箒は、糸が切れたように空中でふらついて崩れ、それを見ていた一夏はその側に慌てて駆け寄ると、その体を支えて肩を貸す

 

「なっ……わ、私は大丈夫だ! その……別に、肩など貸して貰わずとも……」

 

「あのなぁ……大丈夫ってのにそんなフラフラじゃ全然、説得力無いぞ? ほら、顔もこんなに赤いじゃないか。大人しく肩を預けろって」

 

 戦闘が終わって限界まで張りつめていた集中が切れた瞬間、突然、一夏が眼前に現れただけでは無くIS越しにではあるが体を支えられた箒は一瞬にして赤面した

 

「こ……この疲労さえ無ければ……今ごろこれを投げつけてやったのに……!」

 

「ふーん……今の今まで誰も一秒も気が抜けないような状況だったのに、戦闘が終わった途端、すぐに女の子に向かって動けるなんて、一夏は流石だなぁ……」

 

 無論、その様子は激戦を終えて息を抜いていた仲間達にもしっかりと見えており、鈴は荒い息のまま双天牙月を構えたまま怒りでプルプルと体を震わせ、シャルロットは言っている言葉の内容こそ落ち着いた物ではあったが、その口調は非常に冷ややかな物であり、視線もまた絶対零度に近く、視線だけで一夏の背中に鳥肌が立ち始める程に凍てついていた

 

「嫁よ……今後の為にも、おにーちゃんも交えて嫁のこれからの事をよく協議……いや、家族会議をする必要があるみたいだな……」

 

「あらあら……ふふっ……大変みたいだけど、頑張ってね?」

 

 ラウラも二人に同調するように頬を膨らませながら腕を組み、不満げにそう言い、その全てを見ていた楯無は、鈴、シャルロット、ラウラの三人に詰め寄られながら、こっそりと助けを求める目を送ってきた一夏にそう言って笑顔だけを送り、特に何もしようとはせずに現状を楽しく見物していた

 

「はは……みんなが元気そうなのはなによりだが……俺は出来れば、早くタイラントを回収して帰還したい所だな。あんなあらゆる意味で物騒極まりない物を放置して置くわけには……」

 

 と、そこにタイラントが起動停止したのを確認し終えた光が、戦闘中共にいた一夏の姿をタイラントの目から隠すためにキングブレスレットを発動させ続けていた上空から降下して皆と合流しようとし

 

「……くっ……はぁ……いかないだろう……?」

 

 その途中で顔を苦しげに歪めて胸を押さえ、それと同時に機体のヒカリも一瞬ぐらりと不安定に揺れた

 

「光さん!?」 

 

 偶然、ヒカリの降下地点のすぐ近くにいたセシリアはそれに気付くと素早く反応して、装備していたスターライトmkⅢを手放すとふらついたヒカリをのボディを両腕でしっかりと支えた

 

「す、すまない……少し痛みでふらついて……もう、大丈夫だ」

 

「光さん……戦闘は終りましたし、心身も機体も満全でないあなたがあまりお体に無理をされてはいけませんわ。タイラントの回収は私達に任せて、光さんはどうかお休みになられてはいかがですか?」

 

 助けられた光はどこか普段より気力を感じられないような弱々しい声で苦笑しながらそう言ってヒカリのボディを支えるティアーズの腕からそっと離れようとした。が、それでもセシリアは腕を決して離さず、静かにあくまで落ち着いた様子で光をそう制す

   

「しかし……いや……そうだな、正直に言えば体は辛いし……断るようなしっかりとした理由もない。ここは大人しく君の好意に甘えさせて貰うとしよう。ありがとう……セシリア」

 

 光はその言葉に少しの迷いを見せていたが、観念したかのように笑うと、大人しくその体をセシリアに預け、自然と皆から安堵と共に暖かい笑顔が溢れ始めた

 

「あれ……? ある程度は仕方ないにしてもな……それでも俺と光さんで皆の対応が違いすぎないか……?」

 

「そんなの決まってるじゃない、普段の行いの差よ」

 

「えっ!?」

 

 そんな中、一夏だけが今一つ納得できていない様子で箒を支えながら不思議そうに首を捻るが、その言葉は穴が空くほどじっくりと箒を抱き抱える(ようにも見える)一夏を見ていた鈴にドライな一言で躊躇無く切り伏せられた

 

「さ、光ちゃん、私も支えてあげるわ。ここは若い子達に任せて大人しく休んでおきましょう?」

 

「楯無会長……すまない……世話になる」

 

 一方でこちらは、セシリアに続いて楯無も光の救助に加わり、光は大人しくそれに従って楯無に身を預けた

 

「どこか近くに休めるような場所があると良いのですが……」

 

 セシリアと楯無の二人で支える事によって、より安定して光の体は空中に保持されてはいるが、しかし光は病人だ。やはり一度、地上で落ち着いて腰を降ろして様子を見た方が良いと判断したセシリアは、光の体を支えたまま眼下の海原を見渡し

 

「……っ!?」

 

 

 セシリアは一早く、それに気付いた

 

 

 そう、零落白夜の一撃を受けて致命的なダメージを負い、鉄屑のような姿へと変わっているタイラント。ピクリとも動かないそのボディの頭部。エネルギーを失った事で真っ暗だった、その瞳に怪しい紫色の光が灯っている事を

 

 まさか、あれほどのダメージから、さらに零落白夜の一撃を受けているのに、この短時間でそれはありえない。だが今の輝きは錯覚とは思えない。そんながセシリアの脳内に渦巻いていく。その瞬間、再び倒れているタイラントの瞳が紫色に輝いた

 

「っ……! みなさんっ!!」

 

 もはや一刻の余裕も残されていないと判断したセシリアは、普段から意識している優雅さも投げ捨て咄嗟に危険を知らせようと叫ぶ

 

 その瞬間

 

「なっ……!? があぁっ……!!」

 

 一瞬にして白式のボディにワイヤーが絡み付いて、その身を拘束すると一夏が反応する隙すら与えず、白式を大地に叩き落とした

 

『ギgi……ッGiYAAAAaaaaaaaaaaaaっッ!!』

 

 獲物を捉えたタイラントの咆哮は損傷のせいか、よりひび割れや霞みなどのノイズが酷くなり、その声はもはや獰猛な獣のそれとは事なり、まるで押さえきれない怨差と憤怒に満ちた人間の叫びに似ていた

 

「んなっ…………」

 

「なんなんだ……何だと言うんだ、こいつは一体!?」

 

 一夏が打ち倒された、と言うのにも関わらず再び起き上がったタイラントのあまりにも異質な姿に誰も身動き一つ出来ずに息を飲まされていた

 

 

 激しい攻撃によって装甲が吹き飛ばれてフレームのみになり、まるで白骨化した死体が動いているかのような外見に変わったおぞましさを感じる外見

 

 元々、巨大だった刃が更に肥大しもはや片手で一本の大剣を構えているように見える鎌。その鎌と同じく肥大しただけでは無く、より相手を効率的に砕けるように表面に生えた刺が鋭利に変わった鉄球

 

 そして何より、特徴的なのが人魂を思わせるような紫色に爛々と輝き、箒達を誰から狩ってやろうかと睨み付ける獰猛で自分を傷付けた者達への憎悪に満ちた邪悪な目

 

 エネルギーが一度枯渇してもなお使用出来る、タイラントにとって文字通りの最後の切り札『デスボーン』と、呼ばれる姿へと変わったタイラントの姿がそこにあった




 はい、今回EXをぶっ飛ばしていきなりデスボーン状態でタイラントが復活した訳ですが……一応、これには理由があります。詳細は次回の本文でお伝えしようと思います


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106話 死霊の咆哮、怨念の怪光

「……くっ……このっ……!! 一夏を離せ!」

 

 息も出来ない程の緊張感に満ちたデスボーンへと変わったタイラントと睨み合い。それを先に破って動き出し、タイラントにアサルトカノンを向け、発砲したのはシャルロットだった

 

 見間違いようが無い程の決定打たりうる一撃を受けても立ち上がり、おぞましい姿へと変化したタイラントへと対するタイラントへの警戒、そして恐怖は勿論シャルロットの心にも存在していた。しかし、それよりもシャルロットの目に強く飛び込んでいたのは不意打ちで大地へと叩きつけられ、強烈なダメージで立ち上がれず苦しげにうめく一夏の姿。一夏を想う気持ちがタイラントに対して感じていた恐怖を吹き飛ばしたのであった

 

「嫁は返して貰うぞ……!」

 

「あまりしつこいのは例えジェントルマンでも、レディーでも見苦しいですわよっ!」

 

 それに一瞬遅れて、ラウラとセシリアもそれに続いてタイラントに向かってそれぞれ射撃を行い、三方向からこ銃撃が一斉にタイラントに迫る

 

「………!!」

 

 が、しかしタイラントは地上に静止していた状態からロケットの如く急激に浮上して加速すると、三人の銃撃をさながら小鳥やグライダーを思わせるような驚くほど軽やかに、まるで空中で踊るような動きで次々と回避し、結局、三人の銃撃はタイラントの装甲に僅かでも霞める事すら無かった

 

「奴め……更に速さが! と、なると……やはりあれが奴の第二形態の姿なのか?………いや、しかしあの姿はあまりにも……」

 

 元々優れていたタイラントの機動力が更に上昇し、その速さに目を見開き警戒する箒ではあったが、外見上はどう見てもパワーアップしたようにも見えない菅谷、『本当にアレがタイラントの第二形態の姿なのか?』と、小さな違和感を感じていた

 

「……どうやら箒の察してる通り、あの姿は第二形態移行とは微妙に異なるようだ……」

 

 と、そこで箒の疑問に答えるように楯無に支えながらタイラントの様子を観察し、データ採集を続けていた光が語る

 

「本来ならば第二形態移行……今の姿から判断して恐らくは更にボディを巨体にしてパワーが増大した形態へとなる筈だったのだろうが……私達の攻撃、特に白式の零落白夜の一撃が致命的となって、自慢のエネルギー補給器官の大部分をも失っていた奴は第二形態に変わる程のエネルギーが十分に確保出来なかったんだろう」

 

「その結果が、あのゾンビかRPGのスケルトンみたいな姿って訳ね……っ!」

 

 光の言葉に自身も回避を続けるタイラントに向かって銃撃を続けるシャルロットやセシリア達に続いて龍砲でタイラントを攻撃する。が、タイラントはそれでも尚、『容易い』とでも言うように縦横無尽に空中を舞い、四人の攻撃を避け続け、一向にただの一撃も命中する気配すら見せない

 

「エネルギーはまだ残ってる……ならば私も!」

 

「……! 待て箒! あぁ………確かに奴は朽ちた死体のゾンビ同然。無理矢理に第二形態擬きにした分、例え元がいかに燃費が優れた機体だとしても決して長くは持たず、徐々に自壊して放置していても朝焼けすら拝めない。だが、しかし……それが実に危険だ!」

 

 雲を相手にしているかの如くことごとく攻撃を回避するタイラントに苦戦する仲間達を助ける為、ひいては余程打ち所を悪くさせられたのか未だに起き上がれない一夏を助ける為に、箒は自身のエネルギー残量を確認すると光を楯無に任せてタイラントに向かって飛び出そうとした。が、それを光が素早く止めると自身でも信じられないようにそう語ると、咄嗟にタイラントに向かって攻撃を続ける四人に『警告』を送る

 

「気を付けろ皆! 奴め、全く自分への反動を省みないような無茶な一撃を仕掛けてくるつもりだぞ!!」

 

 

 光の叫びが、シャルロット達の耳に届き射撃が止まったその瞬間

 

『gigigi ……!!』

 

 タイラントの頭部が真っ白に白熱し、喉元が一瞬、爆発的に膨れ上がり

 

 

 

 直後、瞬間的に朝を通り越して夜から一気に昼間へと変わってしまったと思わせるような強烈な白い光を放つ熱線がタイラントの頭部から放たれ、射撃を中断して回避に移ろうとした四人に襲いかかった

 

「ちょっ……冗談でしょ!?」

 

「いくらなんでも、これでは……きゃあぁっ!?」

 

「しまっ……うわあぁぁっ!!」

 

「シャルロット!ぐっ……くうっっ!!」

 

 死にゆくはずの相手が放つ一撃とは信じられない、その悪夢としか思えない程の暴力と怨念の塊のような一撃に

 

 鈴はどうにかその威力を弱めようと光の渦に向かってありったけの龍砲を打ち込み

 セシリアは一時的に武装を解除して全神経を集中してブルー・ティアーズの最高速度で回避を試み

 シャルロットは一瞬遅れた回避を取り戻すように僅かでも披ダメージを押さえようとシールドを構え

 ラウラどうにか迫る一撃を回避するのと同時に直撃コースに取り残されたシャルロットを助けようと試みた。

 

 が、四人の努力も嘲笑うようにタイラントから放たれた白熱光は四機のISを霞めただけで軽々と吹き飛ばし、海面へと叩き落としてしまった

 

「みんなっ……!! お、おのれっ……!!」

 

 間一髪の所で光の一言で引き留められた事でタイラントの一撃を受けずに済んだ箒は、倒れていく仲間達を見て叫ぶ。迂闊に感情に任せて動いたら最後、未だにエネルギーの余波がくすぶるタイラントの一撃を受けてしまうと理解して以上、その場から動けず悔しげに叫ぶ事しか出来なかったのだ

 

「くっ……ナイトブレスさえ……ナイトブレスさえ使えれば俺も……!!」

 

「…………」

 

 自信が打ち立てた急ごしらえの作戦を信じて付いてきてくれた後輩達が傷付き、慎吾の他に新たに出来た自身の親友の箒が無念のあまり叫んでいる。そんな状況を変えたいが、しかし、その力が失われている光は仮面の向こうから痛いほど自身の腕の傷付いたナイトブレスを見詰めながら悔しさと苛立ち、そして無力感を隠せないように叫び、楯無はそんな光の心境を察しているのかただ黙ってタイラントを警戒しつつその体を支えていた

 

「(俺のナイトブレスは『老師』から授かった特別製……そう簡単には修理など出来ないと分かっているのだが……それでも……!!)」

 

『Guuu…………』

 

 心中でも激昂を押さえ切れずに吠える光、そんな光を含めた三人に狙いをつけるタイラント。その口元からは光の心中を表すように黙々と黒煙が騰がっていた




 今回、EXタイラントデスボーンがゲーム中で見せるあの必殺技を再現しようとした所……なぜか某怪獣王にも似た白熱光線(こちらは自爆覚悟ですが)に、なりました。流石にやり過ぎで、賛否は別れるかもしれません……


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107話 舞い戻る、『No.1』

 プライベートでちょっとしたトラブルが起きて更新が遅くなってしまいました……既にトラブルは解決しましたが。今年の更新はこれで最後になります


「……あー……光ちゃん? あの、しつこい骨ゾンビ君の弱点とか今、少しでも分かったら、ささっと教えてくれないかしら? 流石にお姉さんもこう連戦が続くとちょっと疲れて来ちゃってねぇ……」

 

 と、デスボーンと化したタイラントの頭部から放たれ、Uシリーズの多くの装備を開発し慎吾がそれを試す様子を身近で見てきた光でさえ、理不尽だと感じる程の強烈な一撃で四機のISが落とされると言う緊迫した状況の中、突如唐突に、タイラントの獲物を狙う殺意の込められた視線を受けていても尚、全く怯んだ様子を見せない楯無が、まるで日常会話でもするかのように冗談っぽく、そう光に尋ねてきた

 

「……楯無会長?」

 

 一方で光はそんな楯無の意図が読めず、自責から来る激しい怒りから解放され、一瞬呆けたように楯無に聞き返す

 

「今の光ちゃん……ちょっと自分を追い詰めすぎ。気持ちは分からなくは無いけど一旦、落ち着いてみなさい。私達が焦り始めたら状況がますます悪くなるわよ?」

 

 

 その瞬間、楯無は真剣な表情をすると指を立て、静かにしかし、はっきりとした口調でそう光に忠告を送る

 

「……! ふぅ……楯無会長、ありがとう。危うく俺とした事が感情に任せて後先の事を考えずに闇雲に動くところだった」

 

 そんな楯無の言葉で光はある程度ではあるが落ち着きを取り戻したのか、軽く深呼吸すると楯無に礼を言った

 

「あら、いいのよこのくらい。それで光ちゃん……」

 

 楯無は光の出したその答えを満足そうに聞くと、すぐにそう尋ね

 

「勿論、もう既に手を見つけていますよ……打つべき奴の弱点を!」

 

 光はそれに、力強くそう答えるとタイラントを睨み付けると短い時間で調べあげた事を語り始めた

 

「……先程見せた炎……と、言うよりはもはや熱線と評するべき一撃は確かに脅威的。疲弊した今の状況では命中どころが霞めただけで致命打になるとは恐れるばかりだ。だがしかし……奴の頭部、熱線を発射した部分を見てみてくれ……」

 

『gigi……giッ……!! 』

 

 そう言って光が指差すのはタイラントの頭部と先程、熱戦を発射する際に大きく膨張した喉元。今、現在タイラントのその二部分からはもうもうと大量の白煙が吹き出し、相変わらず両腕の武器をそれぞれ構えて箒達を睨み付けてはいるタイラントも余程反動が大きいのか時おり空中でふらついていた

 

「見ての通り、あの一撃は奴が自壊してゆく体を更に酷使してもなお、決して連発などは出来ないようだ……そして、今まで交戦した事で得たデータから割り出せた奴の自己修復速度、エネルギー量から言って……」

 

 そこまで言うと光は箒と楯無によく見えるように右手の人差し指一本だけを立てて見せた

 

「一分。最低でも奴が熱線を放つまでのエネルギーを充填するまでのタイムラグは最短でも、現在から約一分以上の時間が必要なはずだ。……加えてあの熱線を放つ為に奴はガトリング・レーザーを犠牲にしている。つまり奴の遠距離攻撃手段は、チャージに時間がかかる熱線だけと言うことになる。そして……ただでさえエネルギー不足で自壊しつつある体で超火力の熱線のチャージをしてるんだ……果たしてそんな状態で近接攻撃の回避の両方に力を入れられるか……? と、ここまで言えば俺の言いたい事は分かるだろう」

 

 そこまで言うと光はちらりと箒と楯無に視線を向ける。

 

 その瞬間には二人は既にタイラントに向かって動いていた

 

「必ず……一分以内に……今度こそ私が倒す!」

 

「うん、いい目をしてるわね。だったら私はそんな箒ちゃんの援護をさせて貰おうかしら……」

 

 力強く刀の柄を握りしめ、決意を決めてそう言う箒。そんな箒に答えながら楯無はランスを構えると優しく、しかしタイラントに対する確実な殺気を込めた微笑みを浮かべる

 

『gigi…………』

 

 箒と楯無の二人が再び身構え、明確な戦闘態勢に入った事を確認すると、タイラントは自身の頭部から立ち込める白煙をかぶりを振って払い、紫色に輝く目で二人を睨み付けると低いうなり声の電子音声を発しながら大鎌を構えて対応し、箒達を待ち構えるような態勢をとった

 

「………………」

 

 途端、その場は周囲の空気が三者それぞれが発する殺気で極限までに張りつめ、箒も楯無も全神経を目の前のタイラントに集中させ無言になり、それにつられて光も何も発せようとはせず、そんな人間らしい意志があるのかどうかは不明ではあったがタイラントすらうなり声のような電子音声を止めて、ただ二人を睨み付けていた

 

 そんな重苦しい時間が数秒ほど続いた時、静かに吹き付けた一陣の風か、あるいは眼下の岩場に打ち付けた波音か、ともかくそれを合図に

 

「はああぁっ……!!」

 

「ふっ……!」

 

『GYAaaaaッ!!』

 

 箒と楯無、そしてタイラント。二人と一機は全く同時に動いた

 

『gigiッ!!』

 

 両者が激突する瞬間、ほんの瞬きする程の差の早さで先に攻撃を放ったのはデスボーンとなった事で更に機動力が増したタイラントであり、二人が攻撃を放とうとする直前にさながら大剣の如く肥大した右手の大鎌を超高速で放った。が

 

「確かに……純粋な速さ事態は近接でも、先程より上がっているようだな」

 

                       

「でも……逆に純粋な一撃自体は……さっきと比べれば軽くなってるわね」

 

 その一撃は紅椿の刀、ミステリアスレイディのランスに容易く受け止められ、その激突時の勢いの激しさを示すように火花が飛び散り紅椿とミステリアスレイディは共に若干後退させられるが、それでも完全に二人はタイラントの大鎌の一撃を防いでいた

 

「よしっ……! やはり予想は当たっていた!」

 

 二度に渡ってタイラントと交戦したことで、通常時のタイラントならばその近接攻撃が例え三機がかりでも正面から防ぐ事は出来ない程の破壊力を秘めていた事を知っている光は、自身の予想通りにタイラントの近接攻撃におけるパワーが低下している事に気が付き。小さくガッツポーズを作ると仮面の下で口元に笑みを浮かべた

 

『………!!』

 

 機体の速さを生かして得た筈の先手を取り逃した事を判断すると、タイラントは咄嗟にたった今繰り出した大鎌を引こうと試みる

 

「あら、もしかして簡単に引けるとでも?」

 

「逃がさんっ!!」

 

 が、タイラントが見せた隙を二人は決して逃さず、大鎌が戻して機動力を生かして後退しようとしま瞬間、すかさずタイラントに踏み込んでがら空きの胴体にそれぞれ一閃と突きを叩き込んだ

 

『Gi……gaッ……!! GiGyaaaッッ!!』

 

 持ち前の機動力を生かして何とか回避を試みるタイラントであったが、それは叶わずタイラントの殆どフレームしか残っていない装甲に二人の攻撃が食い込みむと、タイラントの叫びと共にいくつかのパーツが吹き飛ぶと大きく揺れ態勢を崩す。が、しかし怯みながらもタイラントは左手の鉄球を乱雑に振り回して踏み込んだ二人を狙う

 

「そんな乱雑な攻撃が………!?」

 

 それを容易く回避し、直後、箒はあることに気が付いて目を見開いた

 

「一夏!!」

 

 

 そう、タイラントが鉄球を振り回す事で引き寄せられるように、この戦闘の場へと引っ張り上げられたのは先程まで倒れていて起き上がろうとしていた一夏。よく見ればその体には鉄球から伸びた不可視のワイヤーが幾重にも巻き付いており、更に達の悪い事にその拘束は一夏が零落白夜を持った右腕に特に集中して巻き付いており、一夏は全く腕を動かせないようであった

 

「だ、駄目だ……ほどけねぇっ!!」

 

 一夏もどうにか自身を縛り付けるワイヤーの拘束から懸命に逃れようと額に汗を滲ませながら必死の抵抗を続けてはいたが、針にかかった魚が釣り人に水中から引き上げられるかの如く白式は徐々に徐々にタイラントに向かって引き寄せられていく

 

「今助けるぞ一夏!!」

 

 当然、そんな危機的状況を迎えている一夏を放置出来る筈も無く直ぐ様、箒が刀を構えて一夏を拘束しているワイヤーを切断せんとタイラントに向かって飛び出した

 

『gi………!!』

 

「……!! 貴様……!」

 

 と、その瞬間、ピッタリ狙ったタイミングでタイラントがワイヤーを更に自身に向けて巻き取り、強制的に白式はタイラントを守る盾ような位置に立たされた。しかも、たとえ箒とは言え僅かでも力加減が狂えばワイヤーごと白式を切り捨ててしまうような面を向けて

 

「くっそおおぉぉぉっっ!!」

 

 身動きの取れない自身がタイラント攻撃の為の大きな枷になってしまっている事を嫌と言う程、自覚してしまった一夏は無理矢理にでもワイヤーから逃れようと声を荒げながら激しく暴れまわった。しかし、それでもワイヤーは軋むばかりで全く切れはせず、白式のエネルギー光で一瞬、タイラントの鉄球から伸びるワイヤーが光って見えただけであった

 

「……ようやく見つけたぞ、そこにワイヤーがあるんだな……!」

 

 焦りが最高潮にまで達していた一夏の耳に、そんな落ち着いた。しかしどこか興奮しているような声が聞こえたのはその時だった

 

「おおっ……!?」

 

『Gya………!?』

 

 その声と共に空中からリング状の光の刃が一つ、まっすぐにワイヤーに向かって降り注ぎ、想定外のその一撃にタイラントが反応出来なかった為に、全く障害無く光の光輪はワイヤーを切り裂き、急に拘束から解放された一夏は慌てたがどうにか自力での飛行を再開し、一方で光の輪はワイヤーを切断した勢いで大きく弧を描いてタイラントに命中して、装甲の一部を破壊し、タイラントは悲鳴をあげた

 

「あらあら、見せ場……取られちゃったわね?」

 

 そして一足早く空中を見上げ、一夏を助けるべく光輪を投擲した人物を目撃した楯無は、今にも突撃せんと構えていたランスを下ろし、口元に柔らかな笑みを浮かべた

 

「今のは……? そ、そうだ……確か……ウルトラスラッシュ……?」

 

「と、なると……」

 

 そして、一夏と箒がそう呟いた瞬間

 

「皆、到着が遅れてすまない」

 

 『彼』は仲間達に背中を見せ、タイラントと正面から向き直る形で先頭に立ち、空中からゆっくりと舞い降りた

 

「さぁ……今こそ、力を合わせ、奴との戦いに決着を付けるぞ!!」

 

 自身の愛機、ゾフィーを展開させた慎吾はつい先程まで病床に寝かされていたとは思えない力強い声でそう全員に向かって宣言するようにそう言った



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108話 新たなる光

 皆様、遅れながらあけましておめでとうございます。未熟ゆえ遅れがちながらも何とか更新を続けて行きますのでどうか、2017年も『二人目の男子はIS学園No.1』をよろしくお願いいたします
 なお、今回も多少のオリジナル設定を含みます。念の為にご注意ください


「箒、楯無会長、それに一夏も私について奴に攻撃を仕掛けてくれ! 時間はあまり残されていない……一気に決着を付けるぞ」

 

 宣言を言い終えた早々、慎吾はそう叫ぶとタイラントへと向かって勢いよく突撃して行く。タイラントとの交戦で負った損傷でゾフィーは今もなお、第二形態への移行は不可能ではあったが、それでも尚、ゾフィーは非常に流星を思わせるような速度でタイラントに向かっていった

 

「はい、慎吾さんっ!!」

 

「分かった!」

 

「はいはい……本当に病み上がりとは思えない行動力ね慎吾くん。……無理はし過ぎないでよ?」

 

 慎吾の言葉に一夏は怪我を負ってるとはいえ、窮地に駆け付けた慎吾の参戦が嬉しいのか先程の慎吾に負けんとばかりに力強く、箒は静かに微笑み事でそれに答え、最後に楯無が困ったように笑いながらそう言うと慎吾と共にタイラントへと向かっていった

 

『Guuu……!!』

 

 ウルトラスラッシュの直撃により大きな怯みを見せ、バランスを失った空中を不安定に舞っていたタイラントではあったが近付いてる慎吾達を捉えた瞬間、素早い動きで即座にバランスを整え同時に鉄球から新たなるワイヤーを、胴体からは大きく伸ばした尾を振り回し迎撃にあたる

 

 

 が、しかし、今この時、一夏と箒、それに楯無に慎吾と言う近接戦闘を得意とする四人の前に本来の力ならばともかく劣化しているその攻撃では驚異では無く

 

「行くぞ一夏!」

 

「はい、慎吾さんっ!!」

 

 瞬間、慎吾と一夏が互いに声を合わせてそれぞれ零落白夜とウルトラスラッシュを同時に迫るタイラントの尾へと叩き込み、尾を切り落として元の半分以下の長さにまで切断した

 

『Gyaaa!?』

 

「隙だらけだ!」

 

「悪いけど……その腕……貰ったわよ!」

 

 尾を切断された事で悲鳴をあげるタイラントではあるが、攻撃はそれでは終わらない。尾を切られた衝撃で怯んだタイラントに畳み掛けるように隙を付いた箒の斬撃がワイヤーを微塵切りにし、更には楯無のランスがタイラントの左腕に突き刺さり、装甲が脆くなっていた事もあって楯無が力を込めて腕に突き刺さったランスに力を込めるとタイラントの左腕は完全に切り落とされ、タイラントは鉄球ごと左腕を失った

 

『ぎッ……Gigiyaaaaaaaaaッッ!!』

 

「まだ……もう一撃!」

 

 腕を失って怯み、悲鳴のような電子音声をあげるタイラントに前に慎吾は決して追撃の手を止めず、タイラントに向かって更に一撃失った腕の隙間をついて中段蹴りを叩き込み、蹴りの勢いでタイラントの装甲の一部を砕きながらタイラントを眼下の小島へと叩き付け、その勢いのまま島奥地へと吹き飛ばした

 

 

「……流石、と言うべきだな。これは」

 

 そんな一連の攻撃をしっかりと見ていた光は思わず感嘆するように呟く。実際に慎吾の合図と共に始まった四人の攻撃には殆ど隙らしい隙がなく、完全にタイラントを追い込んでおり、撃破は目前近くにまで見えていた

 

『Giyaaaaaaaaaッ!!』

 

 と、その時タイラントは残っていた右腕、そして両足を力の限り振り回して自身の回りに張り付くようにして攻撃を仕掛け続ける箒と一夏を無理矢理振り払うと、頭部を光に向ける。見ればその頭部からは紫色の光が収束し、ボロボロの体に更に負担をかけているのか収束部分の一部が融解しながらも、急速にタイラントの頭部は輝きを増し始めていた

 

「……! エネルギーはまだ完全には蓄積されていない。先程のような馬鹿げた破壊力の一撃は放てないはずだが……それを本来の狙いである箒達では無く、俺を狙って撃ってくるか! くっ……」

 

 先程とは異なりフルチャージでは無い熱線がどれほどの破壊力を持つのかは光も正確には判断をしかねるが、本来ならばエネルギー出力向上と防御強化の為に纏ってるアーブギアが激しい損傷で使えず、更に最大の攻撃手段であるナイトブレスが満足に使えないヒカリがまともに受ければ、ただでさえ無理を押し通して出撃しているような今の状況だたちどころにヒカリは大破して砕け、自身も命を失う事はすぐに光は理解できていた

 

「……光っ!」

 

「今、そっちに行きます!」

 

 が、当然そんな光の危機を常日頃から彼女と親しくしている仲間達が放置する筈もない。咄嗟に気付いた箒と一夏が光を救うべく一旦攻撃の手を止め、背後の光の元に向かって動き出した

 

「駄目だ、二人とも戻れ! 今、奴への攻撃の手を緩めてはならない!!」

 

 しかし、光は近付く二人を大声と共に片手を突き出す事で制止し、再び目の前で収束してゆく紫色の光に向き直る。唯一、光を信じて後退しなかった熱線の発射を阻止せんとタイラントへと攻撃を続けていたが、タイラントはそのダメージをも無視して無理矢理に熱線を放とうとエネルギーの収束を続け、輝くは更に増して今にもヒカリ目掛けて発射されそうであった

 

「(具体的な威力や射程距離が不明な以上、あの攻撃を前に俺が取れる手段はただ一つ……完全回避のみ。しかし……それが僅かでも遅れれば……)」

 

 背中からうっすらと流れ始めた冷や汗の感触を感じながら意識を集中させる。丁度その瞬間だった

 

「光! これをナイトブレスに使うんだ!」

 

 楯無と協力してタイラントを取り押さえていた慎吾が片手を突きだしてヒカリに向かって赤く輝く何かを投げ渡したのは

 

「こ、これは……!?」

 

 『それ』は掴んでいたゾフィー手から投げ放たれた瞬間、小さな太陽のような輝きを放ちながら吸い込まれるようにヒカリ、ナイトブレスが装着されている右腕へと飛んで行き、その全体像を見た瞬間、光は目を見開く。

 

 光にとっては、それは自身が最低限の設計図のみを書き上げただけで、完成までの道のりはまだまだ先の机上の理論でしか無かった装備であり、今この場に存在する事など間違ってもあり得る筈の無いもの。それが今ここにあったのだ

 

 

「それが私からケンさんに渡された秘策の一つだ……ケンさんは……『非常事態とは言え、勝手に君のデスクを勝手に見てすまない』だそうだ」

 

 そんな光の疑問に答えるように慎吾が苦笑するのように、しかしどこか自信と誇りを持った口調で答え、それを聞いた光も気付けば自然と笑みを浮かべていた。

 

「そうか……あぁ、そうだな。ケンさんが関わっていると言うのならこんな奇跡としか言えない出来事も納得出来る……」

 

 タイラントの頭部がまばゆいばかりに輝き、まさに今、熱線が放たれんとし、一夏と箒が必死に警告の叫びを光に向ける中、ヒカリは震え一つないほど冷静な心持ちで、たった今、慎吾から受け取った新たなる装備、『赤色のブレスレット』を『青色の』ナイトブレスに重ねる。その瞬間、二つのブレスレットはまるで最初からそうだったかのように合体して、一つのブレスに変わった

 

『Gigigi……Giiiィッ、GYAAアaaaaッッ!!』

 

 

 その瞬間、最初に放った熱線よりは何割か周りの寸尺が細くなってはいたものの、目映いばかりの熱線が無防備なヒカリに目掛けて発射され

 

「はああぁっっ!!」

 

 その熱線は霧を払う風のようなヒカリのブレスから伸びる『巨大な光剣』の一撃で凪ぎ払われた

 

「今度こそ……この限定形態、『ヒカリブレイブ』でタイラントを倒す!!」

 

 ケンがヒカリの設計図を元に造り上げ、慎吾が運んできた装備、『メビウスブレス』の力で通常の第二形態とは全く異なる姿、ヒカリの通常装甲に追加された金色のラインが美しい形態、ヒカリブレイブと変わったヒカリでそう光は力強く宣言した




 メビウス包装中を見て、ずっと思っていたのですが果たして、ISでは無く本当のウルトラマンヒカリもメビウスのメビウスブレスを借りればヒカリブレイブと変われるのでしょうか……?
 今回はあくまでISなので『可能』としましたが、真実が気になる所です


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109話 戦いの決着

 すいません、最近投稿が遅れぎみです……言い訳がましいですが何とか早くはしたいのですが上手く行かなくて……


「ヒ、ヒカリブレイブ……? それがお前の新たなる力なのか……?」

 

 数分もしないうちに起こる怒涛の事態に流石に頭での処理が追い付かなくなり始めたのか思わず箒がそう聞き返す

 

「あぁ、箒。おかけでナイトブレスが破損した俺も戦えるようになった。……皆が死力を尽くして奴と対決している中、一人見ていることしか出来なかったのは楽しい物では無かったからな……」

 

 タイラントの攻撃を受け、それぞれ自機ISのあちこちが傷付いた楯無、一夏、そして箒を順番に見渡しながら光は感慨深げにそう答える

 

『Gigigi……がッ……Guuu ……』

 

 一方で崩壊してゆく機体を更に酷使させて放射熱線を放ったタイラントは、その反動か頭部を中心としてほぼフレームのみの薄い装甲がさながら熱した飴のようにどろりと流れて崩れてゆき、元々朝までは持たないタイラントデスボーンの短い寿命が更に削られているように見えた。最も、それでも尚タイラントは逃走など見せる様子は無く、憎悪に歪んだ紫色の目で自身が破壊すべき対象の一夏達、専用機持ち達、そして致命的一撃を叩き込んだ慎吾と光を睨み付け、攻撃的なうなり声を電子音声から発した

 

「……ここまで執念深いのを見せられると、例え相手が命が無い機械とは言え、ある意味ではあるが尊敬の念すら沸いてくるな……」

 

 スクラップまで数歩手前と言うレベルまで損害を受けても一向に戦闘を止めようとはしないタイラントを見て光は光剣を構えながら呆れたように呟く

 

「それは私も同感だな……どれだけ自身の体を傷付けても……死骸同然に変わろうとも組み込まれた目的を達成しようとする姿は凄まじいと言うしか無い……。が、しかし奴はプログラムされた行動を盲目に行うだけ、我々のような困難に立ち向かう確固たる『魂』の輝きは持ってはない」

 

 光の言葉に慎吾も腕を組みながら頷いて同意するが、何か思う事があったのか睨み付けてくるタイラントを気にせず、そう言って慎吾は更に言葉を続けた

 

「小さな事に思う者もいるかもしれないが、自分の『魂』を持って行うか否か……それが勝負の場においては重要なのだ。魂を持たずして行う行動では決して強い信念を持つ相手には勝てないからな。つまりタイラント、お前には最初から完全なる勝利などあり得なかったんだ」

 

『GiYaaaaaaaaaaッッ!!』

 

 と、その瞬間、タイラントが慎吾の言葉を掻き消すよう咆哮と再び動いて再びエネルギーを頭部に集中させる。度を越えた無理を繰り返した事で残っていた右腕が高熱で溶けた内部パーツを撒き散らしながら千切りになり、元々ダメージを受けていた腹部のエネルギー吸収機関からは激しい炎を吹き出し、例え放てたとしてもその一撃がタイラントの最後の一撃になるのは目に見えて明らかではあったが、それでもタイラントはエネルギーのチャージを止めない。そこまでして放とうとしているのは恐らくデスボーンに変わった直後に放って見せた四機のISをかすめただけで一気に落として見せた、最強最大の一撃

 

「やはり残された全てのエネルギーをも攻撃に使って来るか……」

 

 それを理解していても慎吾は避けようとも防御も行おうとはしない

 

「みんなタイミングは分かるな? ……行くぞっ!」

 

 何故なら、慎吾は既にタイラントを『詰み』に追い込むまでの一手を打ち終えていたからだ

 

「「「了解!!」」」

 

 慎吾の掛け声に一夏と箒、そして光と楯無がそれぞれの得物を構えながら答え

 

「っよし! 待ってたわよ、アイツを叩きのめせるこのタイミングを!!」

 

「私とブルー・ティアーズが受けたこの屈辱……今、果たさせてもらいますわ!」

 

「お兄ちゃんごめん……また僕達を助けてくれたんだね」

 

「だが、礼を言うのは後にさせてくれ、おにーちゃん。今は奴に引導を渡してやるのを優先させよう!」

 

 その瞬間、タイラントの強烈な熱線を受けて海に叩き落とされた鈴、セシリア、シャルロット、そしてラウラが全機共に損傷しているがしっかりと飛行している自身の専用機を纏い、一斉に姿を表すと、勇ましくそう言ってタイラントに狙いを定めた

 

「……!! みんな……」

 

「……タイラントとの戦いでウルトラコンバーターも損傷を受けていたが基本動作に問題がある程では無かったからな……機体自体のダメージはどうにもならないが、タイラントと対峙するこの場に参戦する前に私が皆を助けて、シールドエネルギーを回復させておいたんだ」

 

 倒れた仲間達の復活に目を見開いて一夏が驚愕する。と、その疑問に答えるように慎吾は熱や衝撃で傷付いたウルトラコンバーターを見せながらその質問に答えて見せた

 

「これで私を含めて計、八機のISでタイラントを攻撃する形になるが、更にもう1つ……決して誉めれるような物では無いが、それでもお前の強さを称えて、ケンさんから授かった私のとっておきの一撃をお見せしよう」

 

 いよいよ持って真の決着が付こうとしてうるのか、戦力が次々と増加され、タイラントも最後の一撃となる文字通り限界を越えた熱線を放とうとする中、感慨深げにタイラントにそう告げゾフィーの左腕を前に出す

 

「慎吾……?」

 

 皆が今か今かと攻撃のタイミングを伺う中、その光景を見た光がいつでも必殺の一斬を放てるようブレードを構えながらもその意図を今一つ理解できないように呟く

 

 そう、デスボーンに変わる前のタイラントとの戦闘でゾフィーは左腕を損傷しており、機体にあまり負担のかからないスペシウムやウルトラスラッシュはどうにか使用する事が出来るものの、Z光線、そしてM87光線と言ったとっておきの装備を使用する事が不可能となっているはずだった。それなのにも関わらず、慎吾のこの自信は一体……

 

『giッ……GaaaaAAaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

「皆……行くぞっ!」

 

 その瞬間、タイラントが狂ったように吠えると頭部が爆発的に輝き、最初に見せた時と同様、あるいはそれ以上の破壊力を持つであろう熱線が発射され、それと全くに慎吾がゾフィーの右腕を動かし左腕の肘部分に添えて両の腕で大きなL字型を作る

 

 その瞬間、左腕から発射されたのはスペシウムとは明らかに異なる色、使えないはずのM87と全く輝きを放つ光線だった

 

「うっ……おおおぉ……っ!!」

 

 放った光線がタイラントの熱線と激突した瞬間、慎吾は一旦息を吸い込むと裂帛の叫びをあげる。と、それに答えるように光線の勢いはより激しさを増し、ついには単独でタイラントの熱線を非常に弱い力ではあるが押し返し始めた

 

『Gi……!?』

 

 そして、それにタイラントが気付き、驚愕の声をあげた瞬間

 

「今だっっ!!」

 

 それが謀らずともタイラントの断末魔になった。

 

 ゾフィーの攻撃に熱線の全ての破壊力を向けた為にガードも回避も出来ずにがら空きになったタイラント。そこに一夏の合図と共に次々と叩き込まれたのは七機の専用機から放たれる実弾、各種エネルギーのビーム、刀身を放れて飛んでいく斬撃、そして何より一夏の雪羅から放たれた波状のエネルギー弾、それらが全てが吸い込まれるようにタイラントのボディに命中するとを貫き、元々紙同然だったタイラントの装甲にさながら蜂の巣のような風穴を受けて破壊して行く

 

『…………!!』

 

「……終わりだ」

 

 最後に、放たれる熱線が止まった瞬間、光がブレスから伸びた光剣を瞬間的に巨大化させてタイラントを切断し、僅かに残った熱線の一部もゾフィーの光線で完全に霧散させられて消え去った

 

「……Uシリーズの後続機の一部を損傷した腕に使用し……限界ギリギリまでM87光線の威力を出しきったこの一撃……名称は仮にだが、『M87光線Bタイプ』はどうだろう……?」

 

 爆発と共に無数の小さな火の粉となって散ってゆくタイラントを見ながら静かに光に語る慎吾

 

「慎吾……それはいくらなんでも安直過ぎないか……?」

 

 少し呆れたように慎吾に語る光に自然と回りからも笑顔が溢れる。

 

 水平線からいつの間にか太陽が姿を表し、いつもと変わらぬように静かに朝が始まろうとしていた




 予想よりも長く続いたタイラント編はこれにて決着、次回は後日談となります


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110話 後始末、思わぬ『再会』。下される『制裁』

「それで? 聞いてはおくが、何か弁解の言葉はあるか大谷?」

 

 タイラントとの戦いに決着が付けて一夏から

肩を借りて帰投、待っていたかのように準備をしていたマリの元で適切な治療を受けて睡眠を取って丸一日体を休め、どうにか傷が塞がり、慎吾が起き上がって座れる程に回復した日の翌日の昼過ぎ、自主的に病室のベッドの上で正座をした慎吾は千冬から二人きりで『愛』がたっぷりと込められた説教を受けていた

 

「……ありません。事実、私は勝手な判断で病室から抜け出し、気付いて制止してくださった織斑先生を無視して無理矢理、今回の作戦に参加したのです。結果的には撃破出来たとは言え、これを弁解するような余地は私にはありません。……唯一、あるとすればその事に関する謝罪だけです」

 

 千冬から静かな圧が込められた視線で睨まれてはいたが、慎吾はそれに臆した様子は無く。迷いの無く既に覚悟と決意を秘めた表情でそう千冬に答え、座ったまま深々と頭を下げた

 

「……顔を上げろ大谷。はぁ……前も言っただろう。『お前はまだまだ一人の小僧に過ぎないから、困ったら我々を頼れ』とな」

 

「…………」

 

 慎吾に下げていた顔を上げさせると、千冬は呆れているように頭を抱え、深くため息を付きながら説教を続ける。その裏には『ここで言ったところで、有事にはまた破るだろうな』と言う一種の諦めの心情が見えていた

 

「……まぁ、矢鱈に身内に甘いお前の事だ、あいつらの身に危機が迫った時にも、大人しく守るとは思って私も無かったが……それを踏まえても今回は少し無茶をし過ぎだっ……!」

 

「……! 深く反省しています……改めて申し訳ありません織斑先生」

 

 言葉の終わりにお仕置きがわりに、慎吾が怪我を負ってる事でしっかりと加減はしているものの、それでも心と体に響くような出席簿での一撃を慎吾の頭に叩き込み、叩かれた慎吾は再び謝罪の言葉を告げると千冬に向かって頭を下げて謝罪し、結局その後もたっぷり一時間、慎吾は千冬からの注意勧告にも似た説教を受けることになった

 

 

「はは……なるほどな。それで織斑先生からたっぷりお叱りの言葉を受けていたのか……おっと、もうゾフィーの腕のパーツは外してくれて構わない。元通り倉庫のUシリーズNo.2の腕パーツに返しておいてくれ」

 

 パーツ、人材共に豊富なMー78社、本社の技術室。そこでタイラントとの激闘で破損したゾフィー。そして自機であるヒカリ。二機のISの修理を研究員に指示を出しつつ同時に行いながら、慎吾の話を聞いていた光は作業の手を止めて小さく笑う。

 

 その体には当然のごとく慎吾同様に戦いで負った傷が残っており少々動きがぎこちなく、服装も病室から抜け出して来たのかパジャマの上から白衣と言う珍妙な姿ではあったが、それは今回のタイラントとの激闘で二度も『失策』となる手を打ってしまい、仲間達を危機に晒してしまった。と考えている光なりの責任の取り方であり。それを自分が止めた所で光は納得しないだろうし、そもそも変な所で頑固な彼女は話を聞いてはくれないだろうと理解している慎吾は、光に呼ばれてマリにどうにか許可を貰って病院の隣にあるM78社へと赴いた時から、光を止めるような言葉を言うことは無かった

 

「まぁ……俺もお前と似たようなものさ。作戦終了後、即座に治療室に入れられてそのまま入院となった翌日から、ISの修理に当たりたい。と、マリさんを説得したら怒りを通り越して呆れられてしまったし、ケンさんまで苦笑いしてたよ……ふぅ……」

 

 そこで一休みに入った光は作業場を放れると、慎吾が腰掛けていた来客用のテーブルと共に設置された椅子。慎吾の隣に自然な動きで腰掛けると深くため息を付いた

 

「疲れているようだな光……体は大丈夫か? 君ならば自分のペース管理は分かっていると思うが、何なら君も私も病み上がりなのは事実なんだ。私としてはゾフィーの修理はもう少しゆっくりしてくれても構わないんだが……」

 

 そんな様子を見て、体の疲労に気が付いた慎吾は少し心配するように光に訊ね、同時に妥協案を提供する

 

「気持ちは嬉しいが、そんな訳にもいかないさ。これは俺の責任でもあるからな……。それに今日は後、一時間作業をしたら病院に戻る予定だし……最近になって入った優秀なメンバーが手伝ってくれているから大丈夫だ」

 

 しかし、光は慎吾の出した案を静かに首を降ると苦笑し、少し申し訳なさそうに断った

 

「そうか……それなら良いんだが……」

 

 慎吾も、その答えはある程度予測していたのか、それ以上踏み込むことは無く、あっさりと引き下がり

 

「…………!?」

 

 ふと修理中の自身のISゾフィー。その作業に当たっている二人の研究員に気が付いた瞬間、慎吾は驚愕に目を見開いた

 

「あぁ、そうそう。その二人がさっき俺が言った優秀な新人……『早田(はやた)』と『諸星(もろぼし)』だ。先月あたりから空いている時に何かと手伝ってくれていてな。悪い。この所、少し立て込んでいてお前に伝え忘れていてしまったな……」

 

 先月。と言う数字で慎吾はふと記憶の片隅に止めていた1つの出来事を思い出した。

 そう言えば、丁度、その頃、ケンの家の養子であり、光太郎の義理の兄である北斗(ほくと)から、最近トレーニングの相手をしてもらっている早田と諸星の二人が何処かに出かけてしまって、同じく修業仲間で慎吾の昔からの付き合いである(ごう)と共に修業相手に困っている。と言う話を聞いていた事を

 

「しかし……早田も諸星も、お前古くからの仲間だけあって、本当に驚くほど優秀だな……将来、本気でここで働いて欲しいと思うくらいだよ……」

  

 光は心底感心している様子で二人を語るが、呆然としている慎吾の耳には既にその言葉は全く届いてはいなかった

 

 

◇某国、某諸島の無人島に作られた個人研究所◇

 

「くそっ! くそっ! くそっ! あの、忌々しい代表候補生共がっ!!」

 

 額に青筋を浮かばせ肩を怒りに震わせても尚、怒りが収まらぬ様子で中年の研究員の男はたった今まで自身が脇目も降らずに見ていたモニターを苛立ちのまま掴むと床に向かって投げ捨てた

 

「よくも……よくも私の最高傑作! まさにパーフェクトスペックは機体タイラントを! 約束された私の夢を……っ!!」

 

 そのモニターに写し出されているのは、男がこっそりと各国共同開発の際に仕込んだメモリーチップから経由で自身の端末へと送られる。タイラントからの映像やタイラントのエネルギー残量などのデータ。現在、そこに表示されている目盛りは全てがゼロへと変わり、映像はブラックアウト。男がデスボーンを発動させた影響でタイラントがシールドエネルギーゼロを通り越して『コアごと完全破壊』された事を伝えていた

 

「私のタイラントが専用機持ち、そして篠ノ之博士の作り上げた第四世代のISを全て破壊すれば……誰もがそのタイラント発案、設計した私のブレインを……篠ノ之博士より遥かに優れている私の頭脳を世界の誰もが認めた筈なのに!!」

 

 怒りが収まらぬ様子で整理されていない自身のデスクにある物を投げ散らかす。そう、彼こそが研究員達の目を盗んでタイラントを暴走と見せかけて陰ながらこの研究所で操り、さも責任を取るかのように、しかし裏では『広告』としめタイラントのデータを公開し、更には『尾』の存在を隠し通す事を官僚に提案した男。開発グループの副リーダーで『エクセラ』と名乗る。一人の野望に歪んだ頭でっかちの男は激昂しながら叫んだ

 

「はぁはぁはぁ……私とした事が少し冷静さをロストしていたようですね……我ながらお恥ずかしい……」

 

 が、元より一般研究員と比べても基礎体力が欠けているエクセラにはそこが限界だったらしく、肩で息をし始め、それと同時にエクセラは落ち着きを取り戻した

 

「はぁはぁ……ここは、落ち着いて『今は』まぁいいとしておきましょう……。パーフェクトな頭脳を持つ私には、万が一を兼ねて準備していたタイラントに負けない程、スペシャルISのデータがあるのですから……」

 

 個人的な研究所故、エクセラ一人しかいない薄暗い研究室の中、すっかりいつもの調子を取り戻したエクセラはニヤニヤと一人で笑いながら自身が投げたモニタを再びデスクの上に持ち上げると、新たなファイル。エクセラが考え出した新ISの設計図が書かれたファイルを端末のデスクトップに立ち上げた

 

「その名も、『ファイブキング』! このISを作り上げてリベンジを果たすのと同時に、今度こそ私の実力を世界に……!」

 

 脳内に輝かしい自身の未来を思い浮かべ、思わず勝利を確信した笑顔を浮かべるエクセラ。

 

 その瞬間だった

 

 目映いばかりの光が、島を、研究所を、そしてその中にいたエクセラを跡形も無く、まるで『島そのものが最初から無かった』かのように吹き飛ばしたのは

 

 

『ただのうっとおしい勘違い頭でっかち馬鹿だと思って無視してたけど……流石にいっくんや箒ちゃんに本気で手を出そうとしたのは許せなかったからね~……ゴミ掃除ゴミ掃除っと、たまには世界の為になることするのも悪くないよね~うん、束さん満足!』

 

 研究所ごと跡形無く蒸発した島のあたりからは、そんな兎耳の科学者の声が聞こえていたがそんな声を聞いたものは爆風の衝撃で荒れる海と潮風以外に何も無かった




 ついに六兄弟全員を今回の話で(名前だけ)登場させました。そして、今回の事件の真の黒幕としてエクセラーさんも登場していただきました。ファイブキングも稼働する所も考えてはいたのですが、断念した結果、不満に思われる方もいられるでしゃうが今回の結末とさせていただきました
 次回から原作本編と戻ります


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111話 襲撃者『エム』

 今回は全体的にシリアスを意識していますが……最後に桃色成分があります


「……こんなものか……思っていたよりは面倒ものね……」

 

 軍関係者であっても知るものは極一部でしか無い場所、『地図に無い基地』と呼ばれる北アメリカ大陸北西部の第十六国防戦略拠点。そこでIS、『サイレント・ゼフィルス』を纏った一人の少女、エムは侵入者である自分に襲いかかってきた兵士達をあからた殲滅したのを確認すると一人、そう呟いた。

 

 しかし『面倒』と言ったエムではあったが、ライフル片手に果敢に攻撃を仕掛けてきた屈強な男達との戦闘の事では無い

 

「く、くそ……両腕が……」

 

「おい……! くっ……しっかりしろ……!」

 

「し、至急増援を……侵入者の狙いは、この基地に封印されている銀の……」

 

 現に数分前まで攻撃を仕掛けてきた彼らは『サイレント・ゼフィルス』を纏ったエムの凶弾を受けて全員が苦痛に呻いてはいたが誰も死んではおらず、致命傷も負ってはいない。エムとサイレント・ゼフィルスならばそれが実に楽に可能なのにも関わらずだ

 

「(『ISでの殺害はしない』……これだけの人数を相手に実行するのは億劫だが……ひとまず今は従っておくか……そうだ……『奴』と再び戦うために……!!)」

 

 自分に条件と共にサイレント・ゼフィルスを貸し出したスコール、そして『奴』の事を思い返した瞬間、受けた屈辱と完全にこちらを見下している『奴』の嘲笑をも同時に思い返したエムは、マグマの如く沸き上がる怒りのまま空中に浮き上がり、突進して立ちふさがる敵を将棋倒しにして行くと言うワイルド極まり無い戦法で毛散らかしながらマップを基にしながら、やり場の無い怒りをぶつけるように出くわした兵士を一人残らず殲滅しながら全く通路を奥へ、奥へと進んで行く

 

 そうして数分ほど進んだ時だろうか、今まで規則正しく、息苦しいまでに一定の大きさを保っていた通路は急激に広がってゆき、ふと天井と床に余裕を持って五メートルまでの空間が生まれるような広い場所へとエムはたどり着いた

 

「………………」

 

 そこには一人の先客、幾分か距離が離れている為にシルエットで、おそらく女性だろうとしか判断出来ない人物がいたが、そんな事はエムには関係ない。未だに消えぬ苛立ちを少しでも消すために、あばら骨でも砕いてやろうかと思案したエムは邪悪な笑みを浮かべ

 

 その瞬間、鳥の羽に酷似した一本の光の矢がサイレント・ゼフィルスの右肩に突き刺さった

 

「……なんだと……!? ちっ……!」

 

 完全に慢心していた所に放たれた予想外の一撃にエムが驚愕している僅かな瞬間、『羽』は盛大に爆発してエムは舌打ちと共に大きく体制を崩し、壁に向かって吹き飛ばされた

 

 が、高度高速制動に慣れたエムは当然と言うようにそのまま無様に壁に叩き付けられたりはせず、瞬時にしてスラスター制御で激突を回避し

 

 その瞬間、瞬き一秒よりも更に短い隙を狙って再び光の矢が発射されると、矢は脚のアーマに突き刺さり、慢心から立ち直る前に再びエムに強烈な一撃が炸裂した

 

「お前……何者だ……?」

 

 瞬時にして目の前の相手がこの基地に侵入してから、相手したこれまでの人間達とはレベルがまるで違うことを判断したエムは、返事が帰ってくる事も特に期待せずに警戒した様子でそう問い掛ける

 

「あら、聞かれたなら一応、名乗っておこうかしら……」

 

 問われた相手は放つ矢、同様に翼の形をした鮮やかな銀色の武器、『銀の鐘(シルバー・ベル

)』試作壱号機・腕部装備砲(ハンドカノン

バージョン)で決して連射の手を緩める事をせずに、口角を吊り上げて小さく笑うと力強く良く習った

 

「私は、ナターシャ・ファイルス。米国国籍のISテストパイロットで……『銀の福音』の登録操縦者よっ!!」 

 

 名乗り終える共に再びナターシャは生身の体に気合いを入れ、より一層激しくエムに向かってエネルギー・ショットでの砲撃を続けた。単純な出力ならば以前、意図せずして慎吾達と戦闘した時の福音に装備されていた物を越えるその一撃をナターシャは艶やかな金髪を揺らしながら撃ち続ける。そんな攻撃を続けていてはナターシャ自身にかかる負担も非常に大きい筈ではあったが、ナターシャは怯まない。

 

 いや、それどころか衝撃波に撫でられてナターシャの首に巻かれた写真入りの小さなペンダントが揺れる度により一層ナターシャの体ぬは気合い注入されているようにさえ見えた

 

「あの子の為にも……私の『赤い騎士様』の為にも……ここから先は通させはしない……っ!!」

 

 雛鳥を守ろんとする親鳥でありながら、恋に燃える乙女と言う一見、矛盾しているかに見える感情のまま苛烈な攻撃を続けるナターシャ

 

「ふん……無駄に吠えても無駄だ」

 

 しかし、やはり生身であるナターシャとISを纏っているエムとの差は強い想いだけではどうしようも無いほどの差が時間と共に壁となって立ち塞がり、立て続けに二発の攻撃を受けた事で、過去の怒りを振り切り、冷静さを取り戻したエムにはナターシャの攻撃がそれ以上エムに命中する事は無く、ナターシャはあっという間に保っていた距離を詰められてしまった

 

「……!!」

 

「邪魔だ」

 

 ナターシャが目を見開いた瞬間にあっという間に懐に飛び込んだエムは、砲撃を続けていた翼を踏みつけナターシャに右腕で追い討ちとなる一撃を放とうとし

 

「……まっ、だ、まだぁっ!!」

 

 瞬間、ナターシャは気合いの掛け声と共にさながらハリウッド映画のスタントマンのような動きでエムの追撃を紙一枚、いや軽くかすめて自身の美しくつややかな金髪数本を犠牲にしながらも回避し、サイレント・ゼフィルスの脚が完全に床に付く前に翼を取り戻すと床を数回転がって衝撃を拡散すると、不安定な体制でそのまま、ほぼ零距離射撃に近いような一撃を放った 

 

「……!!」

 

「くっ……うっ……!!」

 

 流石にこんな反撃は完全に予想になかったのかエムから驚愕の声が漏れ、それと同時に無理な体制で砲撃を行ったナターシャは衝撃で大きく背後へ吹き飛ばされ勢い良く床に激突する。と、その瞬間、翼が爆発し、結果的に背後へ吹き飛ばされた事でナターシャは危ういところで爆発の衝撃と熱からは逃れられた

 

「雑魚が……そこまでして、たたが一撃を与えて何になる……」

 

 しかし、ナターシャがそこまでの無茶をしてをもエムは怯んだ様子さえ見せず、心底冷えきった口調で床に激突した衝撃で何本かの骨にヒビが入り、立ち上がるのにもまごついてるナターシャを見下しながらさながら死神のように一歩、また一歩と近付いて行く

 

「ふふっ……そうね確かに私の役目はもうお仕舞い。でもね……目的はしっかりと果たさせて貰ったわ」

 

「……?」

 

 絶対絶命。なのにも関わらず突如として笑い出したナターシャ。その瞳に狂気では無く確かな闘志が込められている事にエムが気付き、疑問に感じた瞬間

 

「そこまでだぜ! 『亡国機業』! ここからは私が相手になってやる!!」

 

 突如として床が崩れ落ち、そこから虎模様のIS。アメリカの第三世代型『ファング・クエイク』。それに搭乗した国家代表のイーリス・コーイングが姿を表し、イーリスは威勢良くそう叫ぶと勢い良くエムへと向かって言った

 

 

「ありがとう……私の赤い騎士様。あなたのお陰よ? あなたがこうして私を見ていてくれると思ったから私は全力以上を出しきって、あの子を護る事が出来た」

 

 それから暫くして奮闘もむなしくイーリスが惜しい所でエムを取り逃してしまい、騒動が一段落した頃に医務室へと運ばれたナターシャは首元のペンダントを取り出すと中の写真を見ながら優しく、恋人に言うようにそう言った

 

 ペンダントに納められている写真は以前、自身が休日を利用して訪れたIS学園で撮られた秘蔵の一枚でたあり。ナターシャのとっておきの一枚の写真であった

 

「またいつか……ううん、近いうちにプライベートに二人きりで会いましょう? その時は……ふふっ」

 

 ペンダントに納められた困ったような顔でこちらに笑顔を向ける執事服姿の慎吾の写真を見ながら怪我のダメージを気にした様子も無く妖艶に微笑んだ

 

 なお、そんなナターシャの様子を医務室のドアの素とからしっかりと見ていたイーリスではあったが、ペンダントに治め写真が大人びた顔をしているが、どう見ても未成年の少年が恥ずかしそうにコスプレをしている写真だと言うことを目撃してしまい。流石の彼女も入る事を躊躇してしまうのだが、室内にいるナターシャはそれに気付く事は無く、満足するまで写真の慎吾に向かって甘い言葉を囁き続けるのであった




 今回、再びナターシャさん登場。と、言うわけで盛大に甘さを追加してみました。彼女の性格上イーリスが躊躇うかどうかは悩みましたが……言い方は悪いですが、流石に知り合いがコスプレした未成年の少年の写真を見ながら一人でニヤニヤしてるのを見たら、いかにイーリス言えども流石に躊躇はするだろうと、思ってこの形にしました


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112話 残る違和感、新たなる始まり

 一応、これでキャノンボール・ファスト編の本格的スタート。と、タイラント編ラスト辺りのの蛇足に近い説明です


「えっ、じゃあ慎吾さんも『キャノンボール・ファスト』に出場出来るんですね!?」

 

 タイラントの事件が解決してから暫くの日が過ぎたある日、寮での夕食中に今月9月27日に市のISアリーナを会場とした特別イベントとして行われ、慎吾達IS学園の一般生徒も参加する『キャノンボール・ファスト』の話をしていた時、慎吾から『参加』の返事を聞いた瞬間、一夏は嬉しそうにそう言った

 

「あぁ、幸いな事にMー78社に優秀なメンバーが増えてな。彼等の奮闘もあってこうしてゾフィーの修理が当初の予定よりも早く終了したんだ。私の体の方もマリさ……私の担当医からお墨付きを貰ったから私も当初の予定通りキャノンボール・ファストには参加させて貰うよ」

 

 一夏の言葉に慎吾は食事の手を一旦止め、小さく微笑みを見せると、修理を終えて銀色に光る待機状態になっているゾフィーと自身の腕を軽く動かして体の無事を証明して見せた

 

「良かった……あの時、タイラントに慎吾さんが襲われて病院に搬送されたって聞いた時は慎吾さんもゾフィーも大丈夫なのか本当に心配しましたから……」

 

「うん……あの時は僕もお兄ちゃんの事が、凄く心配だったよ」

 

「私もだ。おにーちゃんが傷付いて倒れるのは……その、凄く嫌だし悲しいからな……」

 

 そんな万全の様子のゾフィーを見て安堵の溜め息を付く一夏、それに続いてシャルロットとラウラも慎吾の身を案じるような言葉を口にした

 

「……あぁ、皆には本当に迷惑をかけてしまったな……すまない。……助けに来てくれてありがとう」

 

「「…………?」」

 

 そんな三人に慎吾は一旦、不自然に遅れながらも苦笑しつつ礼を言って小さく頭を下げる。そんな慎吾のの様子を見てシャルロットとラウラは若干の違和感を感じるがそれは本当に小さなものだったため、二人は特に追及する事は無かった

 

「(やはり、エクセラ博士を始末したのは……いや、しかし……未だに確信の持てない話を皆の、特に箒に決して語るわけには……)」

 

 意図せずして、一夏の口から語られたタイラントの話題。しかし、その時から慎吾の胸の中で思い出したかのように渦巻き始めていたのは昨夜、慎吾と共に利用している寮の自室に重い足取りで消灯時間ギリギリの所で顔を青ざめさせた光に、慎吾が『未確認な部分も多いために、代表候補生達でも他言無用』と、何度も念を押された上でようやく語られた余りにも衝撃的な二つの情報。そう、それは

 

 暴走したIS『タイラント』による一連の事件、通称『T事件』の黒幕と思われる科学者を発見

 しかし、その科学者エクセラが潜伏していた島が、ISで武装した捜査員が出動せんとした直前、発生した海底火山の噴火に吹き飛ばされて文字通り島は『跡形も無く』消滅

 

 と、端的に言ってしまえば『偶発的事故による事件の首謀者死亡』と言う短いながらも素直にそれで『良し』とも『安堵』する事も出来ない程に明らかに不自然な情報。まるで誰かが書いた脚本の如く余りにも話が出来すぎていた

 

 事実、光がギリギリの危ない橋を渡り、それこそ学園寮の消灯時間の事を忘れてしまう程に集中して調べた結果、やはりと言うべきなのかその海域には島一つを丸ごと吹き飛ばしてしまうような大規模な噴火を起こすような規模の海底火山は確認出来ず、ますます『噴火による事故』とは考えにくくなり、更に光が、調査を続けた結果、これと似たような事が『最近』になってもう一件発生していたと言うのだ

 

 それこそが以前、アリーナにてラウラが暴走してしまった原因。シュヴァルツァ・レーゲンに組み込まれていたVTシステムを研究、開発していた研究所であり、こちらはエクセラの一件とは違い意図的だろうが死者は一人もおらず。そして、この研究所もまた原因不明とはなっているがエクセラが潜伏していた島、同様に文字通り『消滅』していた

 

 そして、こんな隠す気がないのかと思える程にダイナミックなのにも関わらず証拠が全く残らない。こんな人知を逸したような滅茶苦茶が可能で動機があり、組織にも属せず個人でそんな事を容易く可能とするような人間。そんな人間は慎吾も光もただ一人しか思い当たる事は無かった。

 

 それは何を隠そうISの開発者であり……

 

「-さん、慎吾さん。大丈夫ですか? さっきから、

ずっと難しい顔をしてますよ? 何回、呼び掛けても返事もしないし……」

 

 と、そこで身動き一つせずに思考に没頭していた慎吾は心配そうに一夏が声をかけてきた事で思考を中断させられた

 

「……あぁ、大丈夫。少し考え事をしていたが大した事では無い。……悪いが集中していた為に話を聞き逃してしまった。もう一度、話してはくれないか?」

 

 この事件はこれ以上、この場で自分一人が一心不乱に考えていて解決出来るとは思えず、それ故にこの思考が必要とは思えない。それに、皆に考え事ばかりにして無用な心配をかける訳にはいかない

 

 そんな事を短い間で判断した慎吾は悟られぬよう少しだけ、無理をして顔に笑顔を作ると一夏にそう語りかけた

 

「あ、はい、キャノンボール・ファストの話なんですけど、慎吾さんはどうするのかなって」

 

「ふむ、私はそうだな……。ゾフィーはあくまでUシリーズのプロトタイプで何かと実験的な部分や未完成な箇所多くてな……高機動パッケージも光が奮闘してはいるが未だに実装されてはいないから……無難に駆動エネルギーやスラスターの調整。装備の見直しが中心となるだろうな……」

 

 少し戸惑った様子を見せながらも、慎吾の頼みを聞いて話を再開する一夏に対し、そう何事も無かったかのように自然な調子で答える慎吾

 

 こうして慎吾の中では何か引っ掛かる形が物がありながらも、当然ながらそれで時間の流れが緩やかなどにはなりもせず、『キャノンボール・ファスト』は静かに始まりだそうとしていた



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113話 自室での一幕、光からの知らせ

 更新、遅れてすみません。


「……アメリカのIS保有基地が亡国機業(ファントム・タスク)に襲撃された……? しかも、奪われそうになったのはナターシャさんの……!? それが本当ならばナターシャさんは無事なのか……!?」

 

 どうにかいつもの調子を取り戻し、部屋へと帰宅した慎吾はその詳細思わず冷静さを失い叫びそうになり、しかしどうにか、すんでの所で隣の部屋にはタイミングを合わせて聞き耳でも立てない限り聞き取れない程度に声を押さえて驚愕の声を押し込めた

 

「あぁ、未だに非公式な情報とはされている事実と見て間違いない。何せ当の侵入者本人が堂々と『銀の福音をいただく』と語っていたと複数の兵士が証言していると言う情報まで入って来たからな……デマにしては少し手がかかりすぎだ。それと……ナターシャ・ファイルス氏の無事も確認済みだ」

 

 慎吾にその事実を教え、そう言って苦い顔で肯定したのは他でも無い慎吾の部屋の気心知れた同居人であり、それが当然と言うように何の見返りを求めず情報を提供してくれている親友の光。

 

 ちなみにだが、光はシャワーを終えて出てきて間もない状態で会話を為に、その深い海を思わせるような光の髪は未だに水気が残り、体も下着の上からタオルを巻き付けて一応隠しただけの大胆な格好であり、汗が滲んで肌や下着が透けていたのだが、慎吾は会話を続けながらそんな光を見てもまるで動じずに深刻な表情のまま会話を続け、同じく光もトレーニングを終えて帰宅したばかり故に上半身がほぼ裸で筋肉で引き締まった体を晒していた慎吾も、あられもない姿を見られている自分も特に意識した様子も無く落ち着いた態度で語り続ける。

 端から見れば実にあまりにも異質に見える光景ではあるが、これらは全て二人が過ごした長い付き合いの中で互いに相手に抱く事が出来た絶対的な『信頼』がある上でなりたつ行為であり、例えこの立場が逆であろうとも二人は全く互いの態度を変えることは無く、そもそも光はゾフィーの調整時に正確なデータを得る為に慎吾の裸体を事細かに観察した事があるので、この二人の組み合わせで思春期特有の緊張や照れなどは全くと言いほど起こらず、いつぞやの二番煎じを思わせるような姿で二人は互いに意見を交わしながら会話を続けていた

 

「……なんにせよ慎吾、今回の事件は国も場所も俺達の専門外。一般生徒と多少違うだけの俺達が関わる事件ではない」

 

「それは、そうだが……」

 

 と、最後に光は慎吾を宥めるようにそう語りながら巻いていたタオルを洗濯機に投げ込みつつ、寝巻きに着替えた所で光は話を終わらせ、慎吾は一瞬、納得出来ないような表情を浮かべたが光の言っている事が正しいと理解しているのかそれ以上何も言わずに自身のベッドに深く腰掛けた

 

「だが、しかし……亡国機業がこの事件に関わっている以上、警戒するに越した事は無いだろう。以前の学園祭のように奴等が織斑くんやお前に襲撃を仕掛けてくるかも知れないからな」

 

「…………」

 

 光の言葉を聞いた慎吾の脳裏に浮かぶのは、自身が以前、変装した亡国機業のメンバーオータムに連れ去れそうになった一夏を助けようとした際に交戦した亡国機業のバード。そしてそのISバードン。この戦いは結果から言えば慎吾が勝利し、M87光線でバードンのコアも破壊した。と、言えるものの実際にはバードに隙を付かれた事で大ダメージを受けて敗北寸前どころかとどめを刺される直前にまで追い込まれており、ケンの介入が無ければ自分は間違いなく負けていただろうと慎吾は確信しており。それだけ亡国機業が恐ろしい相手だと言うことを理解していた

 

「だとすれば鍛えるしか無いな……例え幾度亡国機業や新たなる驚異が襲いかかって来ようとも屈せぬように……! 仲間や私の家族を守れる為に……!!」

 

 が、慎吾は油断が許されない恐ろしい相手と理解しても、嫌、いるからこそ、僅かでも怯むつもりは無く、義理ではあっても兄として確実に護るため、更に己を鍛える道を選択した

 

「鍛える……か。ならば折角の機会だ。復帰したヒカリとゾフィーの調整も兼ねてお互いに空いている今週末にでも、久し振りに一戦、交えてみるか? 慎吾」

 

 そんな慎吾の気持ちを汲み取った光は軽く笑うと慎吾にそんな提案をしてきた

 

「ありがとう。是非、頼むよ光……」

 

 そんな光の優しさへの感謝で頬が緩むのを感じつつ、そう慎吾は答える。

 

 例えどんな難敵と戦う事になっても、それで倒れたとしてもこうして支えてくれる仲間がいる限りきっと立ちあがる

 

 慎吾はこの日、友の優しさに触れた事で改めてそう心で想うのであった

 

 

 

「……あの拳は完全に見切ってたと思ったんだが……まさか剣を振った死角を利用して二発も当てられていたとはな……相変わらず格闘技術では俺は一歩劣るようだ」   

 

「何……これは、お前が直前に放った一閃を防ぐ事も回避する事も出来そうに無かったから一か八かで放った拳が上手く当たっただけ。まだ、狙ってあんな一撃は出せないよ」

 

 そして、時は進んで週末。部屋で取り決めた通り慎吾と光は、休日でもIS訓練に集中する熱心な生徒達に入り交じりながら一戦を交え、結果的に時間切れでの引き分けとなった後、二人は訓練を終えた後、汗を吹いて着替えただけて済ませてアリーナ近くのベンチで横に並んで座りつつ、戦闘を振り返りつつ互いの反省点と評価点を見つけ、改善策を模索し合っていた

 

「そうだな後は……うん?」

 

 と、そんな風に光と会話を続けていた慎吾は何気なく顔を上げた瞬間、少し離れた所で第三アリーナへと向かって真っ直ぐ歩く見知った顔を見つけた。余程、集中しているのか若干の距離はあるとは言え

 

「うん? 何かあったか慎吾?」

 

 語調から慎吾の異変を感じ取った光は、会話を止め慎吾と同じく顔を上げながらそう尋ねた

 

「いや……あそこにセシリアの姿を見たんだがな……」

 

 それに答える慎吾の声はどこかぎこちなく、言い淀んでいる。と、言うのもアリーナに向かって歩くセシリアの表情には距離があっても分かる程に緊迫そして濃い焦燥感が滲み出ており、それがどうにも慎吾がセシリアに声をかけるのを躊躇わせてたのだ

 

「ふむ……確かにあれは……俺も声をかけ辛いな……」

 

 慎吾の様子を見て、ある程度状況を察した光は同意するようにそう言って頷く

 

「あのセシリアの表情……嫌な予感がするのは杞憂であってほしいのだがな……」

 

 直感的感覚で、そう嫌な予感を感じとる慎吾を尻目にセシリアはどんどんと歩いてゆき、やがてアリーナ内部へと、その姿は消えていってしまった




 慎吾の悪い予感は残念ながら良く当たる……


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114話 部活動の慎吾

「全くもって今更だとは思うが……すまない。皆、私は本当にこれで……この格好とポーズでいいのか……?」

 

 月曜日の放課後、全くと言っていいほど落ち着かない様子で周りを見渡しながら慎吾は360度隙間無く自らの周囲を囲んで休み無く熱心にスケッチを続ける女子生徒、美術部の部員達に尋ねた

 

「全然、大丈夫! 全く問題など塵一つとしてありませんとも! ええ!」

 

「むしろ良い所しかありません! あえて言うなら全てがグレート!!」

 

「あ、すいません慎吾さん。集中したいのでもうしばらく静かにお願いします。ポーズもそのままで」

 

 困ったような慎吾の問い掛けに帰ってきたのはいっそ怪しさすら感じる程の謎の情熱に満ちた部員達からの肯定の声。と、言うか数名の部員に至っては全神経をスケッチに向けているのか、早口かつ抑揚の無い声でそう返事を返しながら、さながら機械のような正確さで書き上げ絵てゆく

 

「そ、そうか……」

 

 その熱気に押された慎吾は再び最初に指定された通りの片手を上空に上げ、手のひら程の大きさの青い水晶玉をもう片手に持ったポーズを取り、じっと虚空に向かって真剣な視線を向ける

 

「(暖房が聞いていて決して寒くは無いし、芸術の為とは理解しているが……やはり、恥ずかしい物だなこんな姿をあまり同世代の女の子達に見られるのは……)」

 

 再び熱心に筆を動かし始めた部員達を眺め、全身に感じる視線に困りながら慎吾は内心で苦笑しながら大きくため息を付いた

 

 そう、今の慎吾の姿は武士の情けか下半身にはメンズ向けのショートパンツ(何故か予め用意してあった上に教えてもいないのに慎吾にピッタリのサイズ)を履いてるものの、その丈が短い為に殆んど下着を晒しているのと変わらず、上半身に至っては文字通り一糸も纏わない裸の姿だった

 

 何故、慎吾がこんな極端に言ってしまえば半ば羞恥プレイじみた事をさせられているかと問われれば答えは一つ。今週から始まった生徒会による一夏と慎吾の各部活動へのレンタル。楯無が一夏と慎吾二人に語って見せた正式名称『生徒会出血サービス!織斑一夏・大谷慎吾。W男子貸出しキャンペーン』であり

 そこで全部活動参加。および『織斑一夏部門』、『大谷慎吾部門』の2試合に別れて行われたビンゴ大会で、運動部を押し退けまさかの玉が五回出たのみでビンゴを繰り出して『大谷慎吾部門賞』で一位に輝いたのが美術部であり、放課後になって美術部部室を尋ねた慎吾は瞬間に部員総出で絵のモデルを頼まれ、ショートパンツ一枚と言うあまりにも大胆な衣装に一度は断ったものの、美術部部長と副部長が土下座しかねない程の勢いで『どうか! どうか、この衣装でお願いします!! 我が部の芸術の進歩の為なんです!』と頼み込んで来たために流石に他の部員達もいふ前で仮にも部の長である二人にそんな事をさせる訳にはいかないと慎吾が慌てて折れ、現在の状況に至るのである

 

「(今の私に出来るのは……精々動かず、最初に指定されたポーズと表情を維持しながら早く終わる事を祈るだけか……そう言えばテニス部に向かった一夏は大丈夫だろうか……セシリアもいるから、よもや私のような事には巻き込まれてはいないだろうが……)」

 

 晒され続ける視線に羞恥心は尽きないが半ば強制的ではあるが自分が選んだ道ゆえに誰にも文句を言うことを出来ない慎吾は一刻も早く部活動終了の時間が終わってモデルの役目を終わる事と、一夏の無事を胸の中で祈りながら、じっと耐える続けるのであった

 

 

「そうか、昨日の放課後にそんな目にあっていたのか……どおりで夜中、うなされてた訳だ」

 

「すまん……おかげで迷惑をかけてしまったな……」

 

 翌朝、寮の食堂までの道のりを並んで歩きながら美術部での出来事を光へと慎吾は目元にうすく隈の残る顔で語り、光は思わず苦笑した

 

「どういう訳か、皆が昨日一日の部活動時間で絵をほぼ完成させたらしくてな。二度、皆の前であの格好になる事は無いらしいが……」

 

 そう言うと、部活動の終わり、何故か三日三晩不眠不休で動き続けたように疲労していながらも矢鱈に満足そうな顔で文字通り『燃え尽きた』死屍累々の美術部の部員達の姿と、長時間ほぼ裸に近い姿を近い歳の少女達からあらゆる方向で見られた事で何やら妙な気分になって上手く寝付く事が出来ず、まだ余裕が残されているものの朝の訓練をいつもの半分ほどしか出来ないレベルにまで寝坊してしまった自身を思い出した慎吾は、光につられるように苦笑した

 

「……そう言えば、昨日はお前が酷く疲れているので言うのを避けたが……織斑くんの方も昨日はテニス部でそれなりに大変な目にあったようだぞ」

 

「……一夏がか?」

 

 と、そこで同室の慎吾につられて同じく起床時間が平常時より遅れてしまっているが、特にそれを慎吾に問い質す訳でも無く話を聞いていた光が思い出したかのようにそう呟き、その言葉に反応した慎吾は歩みを進めながら光に視線を向ける

 

「……昨夜、俺が寮に帰宅している途中でテニス部に所属しているクラスメイトに遭遇してな……何やら疲労困憊の上に見て分かる程に落ち込んでいたんで軽く相談代わりに話を聞いたんだが……」

 

「…………」

 

 語り始めた光の言葉を慎吾は相槌もあまりせずに耳を傾ける。その時点で何やら騒動。それも他クラスの生徒達から『名物』と揶揄されてしまうまでに日常的に発生している一夏絡みのトラブルの前兆を感じ取った慎吾の額からは、短い朝練で流した爽やかな汗とは全く違うじとっとした汗が滲み始めていた

 

「何でもテニス部では『織斑一夏、マッサージ権獲得トーナメント』と、言うのが行われたらしくな。俺が話を聞いた彼女は死ぬものぐるいで戦って決勝戦まではたどり着いたんだが、そこで完膚なき程に敗北してしまって、そのショックがまだ取れていなくて落ち込んでいたんだそうだが……更に、もう一つ優勝者がな……」

 

「まさか……」

 

 脳内で慎吾が予想していた事が確信に代わり、思わず声が漏れたその瞬間だった

 

「「今朝セシリアが部屋からパジャマで出てきたってどういうこと!!」」

 

 そんな、学食近くの廊下にまで響き渡るような鈴、そしてシャルロットの声が二人の元に聞こえてきた

 

「……間に合わなかったか……」

 

「……伝達を送らせた俺にも責任はある。今回は協力するさ」

 

 自身が予測していた事より、更に事態が悪化している事を悟り、この騒動をどう平和的に宥めた物かと、朝から大きくため息を吐く慎吾の肩をそう言って光は優しく叩きながら励ますのであった




 ちなみに慎吾のポーズのモデルは、バラージの石像です。


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115話 食堂での一幕

 毎度の事ながら遅れてすいません。と、言うのもいまいちの執筆構想の不調と重なって最近、興味本意でFGOを初めてそれに時間を取られてしまいまして……


「とにかく……お前達が一夏に対して抱いている真剣な想いは尊重する。そして、恋愛とは得てせずして盲目になってしまうのも私自身、経験は無い故に強くは言えないが……それでも、今回はその上で言わせてくれ。何事も焦りそうな時ほど冷静さを持つことが大事。私はそう思うぞ?」

 

「うっ……」

 

「お兄ちゃん……ごめんね」

 

「確かに……私とした事があの時は完全に冷静さを失っていた……」

 

「すまん、おにーちゃん……また迷惑をかけてしまったな……」

 

 駆け付けた慎吾と光が学食で、一夏を中心として起こっている騒ぎを止めるに奮闘して約5分。光の指示で一旦、一夏が皆が腰かけているテーブルから会話の内容が聞こえない程度の距離まで離れ、その上で額に汗が滲む程に熱心な慎吾の説得もあってどうにか落ち着きを取り戻した鈴、シャルロット、箒、ラウラは申し訳なさそうにそう慎吾に謝罪する。謝罪の言葉を口にはしてないセシリアも騒動の主な原因の一つとなってしまった自覚はあるのか、暗い顔で目と口を閉じて慎吾に向かってうつ向いていた

 

「うん、そうだ。そうして皆が心から『申し訳ない』と思ってくれているのならばこれ以上、私から言うことは無い。しかし……二度とするなとは言わないが出来る限り同じ事を繰り返さないよう注意してくれ。あぁ、時間をかけてしまったな……一夏も戻ってきてくれ」

 

 そんな皆の様子を見ると慎吾は感じていた疲労をぐっと心の奥底に押し込めると優しく笑いかけると、手で合図を送りって少し離れたテーブルで腰かけている一夏を呼び戻し、それと共に一夏の見守り役として同じ席に座り、マイペースに朝食を取っていた光も帰ってきた

 

「えっと……もう俺、戻っても大丈夫なんですか? 慎吾さん」

 

「あぁ……悪いな一夏。どうしても私が今回の事で個人的に君を除く皆に言っておきたい事があったんだ。もし、それで仲間外れにされたと感じたなら謝罪しよう」

 

 戻ってきた一夏に慎吾はそう言って軽く頭を下げると空いていた椅子を引き、そこに一夏を座らせる。その間に自然な動きで光は慎吾の隣の席に腰掛けた

 

「いやいや、俺は別に仲間外れにされたとか、そんな事は思ってませんて。ただ……」

 

 慎吾に進められるがまま、椅子へと腰掛けた一夏ではあったがやはり、自身でも慎吾や他のメンバーが数分かけて話し合っていた事が多少なりとも気にはなっていたのか慎吾に問おうとし

 

「……一夏、それに皆も本当に悪いが質問やこれ以上の論議は後にした方がいいようだ。……少なくとも私達全員が速やかに朝食を終えて学食を出るまでは」

 

 が、突如、慎吾は一夏が言葉がまだ途中なのも気にかけず、手の平を出し早口かつ小声でそう言って強引にその会話を遮った

 

「えっ、ちょっ、急にどうしたんです慎吾さん?」

 

 そんな基本的に平常時では落落ち着いており穏やかな慎吾がとった些か乱暴な行動にも見える慎吾の行為に思わず一夏は思わず直球で問いかけ、黙っていた箒達も思わず慎吾に視線を集中させる

 

「……皆、落ち着いて振り替えって自分の後ろを見てみろ」

 

 その問いかけに、慎吾は先程と同じくこのテーブルに集まっているメンバーにだけ聞こえるような小声でそう告げる

 

「後ろ……?」

 

 慎吾の言葉を聞いた六人はタイミングを合わせたように一斉に首を動かして背後を振り返り

 

 次の瞬間、全員がまたもや動きをシンクロさせて、その目を見開いた

 

 そこにいたのは、一体いつ学食に来ていたのか普段から着用しているオーダーメイドなのか体にピッタリと合った漆黒のスーツに身を包み腕を組んでこちらをじっと観察している千冬の姿であり、しかも六人が目を見開いて驚愕した瞬間、千冬は腕組みを止めてゆっくりと慎吾達が集まっているテーブルへと歩みよってきた為に六人は弾かれるように正面に向き直ると、誰一人雑談すること無く残った朝食をかっこみ始めた

 

「(私としたことが……シャルロット達を説得するのに集中しすぎて時間の事をすっかり忘れていた……良く見れば朝食を取っている人数も減っている……予想していたより時間を使ってしまったようだな……)」

 

 一夏達に習って慎吾もまた急ぎ足気味で朝食を食べ進めながら、学食内全体を見渡すのと同時に時計を見て自身の迂闊さを内心で悔やんだ

 

「何やら随分と急いで朝食を取ってている所で悪いが……少し話を聞いてもいいか大谷?」

 

 と、そうして慎吾が休む事無く口へと動かす手を急がせていた、その時。慎吾達のテーブルにたどり着いた千冬があくまで表面的にはごく普通に話しかけているように、しかし暗に『拒否権は無い』と告げているような語調と視線を向けながら慎吾にそう問いかける

 

「ええ、構いませんよ織斑先生。丁度今、朝食は終えましたので」

 

 千冬の言葉を受けた慎吾は千冬の姿を見た時点で予め予測していたのか、あまり動揺するような様子を見せずに朝食のサンドイッチの最後の人切れを飲み込み。そう

 

「そうか、ならば手短に言おう。実は先程、この学食から出てきた一部の生徒が騒いでいてな。何でも、ほんの少し前まで、また織斑絡みで大騒ぎが起きていたらしいのだが……それについて何かは知らないか大谷?」

 

 慎吾が了承の答えを出すと千冬は即座に慎吾に問いただし、その瞬間、無言で朝食を取っていた今回の騒動の中心核、セシリアと一夏、二人の体がピクリと震え、千冬の目はあくまで口元を紙ナプキンで拭き取る慎吾を中心に見据えながらも決してそれを見逃してはいなかった

 

「ええ、確かに『ここで騒ぎがあった』確かにそれは事実です織斑先生。ですが……既にその件については話し合う事で平和的に解決しましたし。騒動の原因は個人のプライベートに関わる事ですので申し訳ないですが、例え織斑先生と言えども私は言う事は出来ません」

 

 そして、それに気付いていながらも尚、慎吾は態度を崩すことは無く、あくまで冷静にそう『嘘は無い』報告を千冬にし、顔に笑顔を浮かべるとごく自然な動きで千冬が向けてくる視線に自分の視線を合わせた

 

「……ふん、今回はお前の話を一応、信じておこう」

 

 二人の間に緊迫した一瞬の沈黙が流れた後、千冬は大きくため息を吐いた後にそう言うと背中を見せ、慎吾達のいるテーブルから立ち去っていった

 

「……ふぅ。よく慎吾さん千冬ね……織斑先生相手にもあそこまで落ち着いていられますね」

 

 千冬が完全に離れていったのを確認すると一夏は安堵のため息をついて、最後まで顔色一つ変える事無く対応した慎吾に感嘆してそう言った

 

「はは……そう見えたか?」

 

 一夏の言葉に慎吾はそう笑って答えたが、一夏は気付かない。強く握られた慎吾の手には緊張により涌き出てきた汗が滲んでいたのを。去り際に千冬がこっそりと声を発せずに口だけを動かして『二度は無いぞ』と慎吾に告げていた事を

 

「(全く……入学試験の時から知ってはいたが……ケンさん達に並ぶくらい凄まじい人だな……)」

 

 改めなくとも分かる千冬の凄さを身をもって朝から味わい、それを思い出した慎吾の胸は再び緊張で一回、強く鳴るのであった



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116話 真耶と慎吾 2

 大幅、遅刻すいません……。次は出来るだけ早く……と、言いたい所なのですがちょっとした私情により更新は来月になります。度重なる投稿遅延でご迷惑をおかけますが、どうかこの作品に付き合ってくれると嬉しいです


「ウルトラコンバータ……残念だが、やはりこれは今回のキャノンボール・ファストには使用を控えるとしよう」

 

 その日、第六アリーナで行われたキャノンボール・ファストへ向けての自習中、ゾフィーのエネルギー分配調整の傍ら、一休みとばかりに大会での戦術を見直していた慎吾は一通り集中して考えた後に、逸機に息を吐き出すと大会でのウルトラコンバータ使用の断念を決意した

 

「あれ? 大谷くん、ウルトラコンバータは使わないんですか?」

 

 と、そうして集中して思考していた慎吾の耳に特徴的な柔らかく間延びしているようにも聞こえる優しげな声が聞こえてきた

 

「山田先生……すいません。少し集中していた為に挨拶が遅れてしまいました」

 

「いえいえ、私もたった今、通りすがりに大谷くんの言葉がたまたま聞こえてきたから話しかけただけですから気にしなくていいですよ?」

 

 話しかけられる事でようやく、自身の目の前にまで真耶が近付いて来ていた事に気が付いた慎吾は、よもや集中しすぎて話しかけられるいるのに無視してしまったか、と、内心で少しばかり慌てながら真耶にそう言って謝罪する。が、真耶は手を動かして自分がたった今、来たばかりの事をアピールすると穏やかに笑って慎吾を許す。と、そんな風に腕を動かした瞬間、真耶の豊満な胸が揺れる

 

「……こほん、そ、そうでしたか。だったら良かったのですが……」

 

 日頃から実父やケンから教わった精神の修行も決して怠る事無く続けているとは言えやはり慎吾も一夏達と変わらぬ男子。突如として目の前に現れたピンク色の光景に思わず一瞬、目を奪われてしまったが軽く咳き込むのと空中投影ディスプレイに視線を反らしてどうにか見ないようにする事でどうにか、それ以上、自分に信頼を向けてくれている教師の前で恥態を晒さないよう堪えた

 

「あの……それで、大谷くん。どうしてウルトラコンバータを使わないのか教えてくれませんか? あれをキャノンボール・ファストで使えばエネルギーの燃費が悪いゾフィーの大きな助けになりますよね?」

 

 どうやら慎吾の涙ぐましくも見える必死の抵抗はどうにか効果はあったらしく特に真耶は慎吾の態度の変化に気付いた様子は無く、微笑みを浮かべたままそう慎吾に問いかけ、慎吾はいつもと変わらぬその態度に多少の罪悪感を感じつつも安堵し、必死で平常心を取り戻しながら真耶の問いかけに答えるべく口を開いた

 

「……は、はい、私としてもキャノンボール・ファストの事を聞いた当初はそのつもりで、コンバータの力を頼りにエネルギー消費を気にせず武装も最低限にして速度特化にしたゾフィーで一気にゴール。と、言う策も考えたのですが……先日、全く予想だにしていなかったトラブルが起きたもので……」

 

「……例のT事件ですか?」

 

 その瞬間、一瞬で事を察した真耶が浮かべていた優しげな笑顔は元日本代表候補生であること今一度思い出させるような鋭い者へと変わり、確信を持った様子で慎吾にそう言った

 

「……! えぇ、あれだけの激闘を終えても幸いな事にこうしてゾフィーは復活できました。……しかし、ウルトラコンバータは詳しく調べるとシステムの根本部分にダメージを負っていたらしく、どうにもコンバータのエネルギー補給システムが稼働はするものの未だに不安定な所がありまして……修理をした光からも『通常形式の試合ならば動作に問題は無いが、キャノンボール・ファストのような特殊環境においても満全に動かせるかは保証出来ない』と、言われていまして……」

 

 そんな真耶の表情の変化に慎吾は一瞬、驚愕したが直ぐ千冬のように表にこそ出ては来なかったが真耶が慎吾や一夏達、代表候補生が先日、激しくIS『タイラント』と激突したT事件に関わっている事と、ISを用いた実技授業などで垣間見た真耶の実力と、その経歴を思い出すと動揺で僅かに途切れてしまった会話を再び繋げる

 

「うーん……確かに開発した芹沢さんがそう言うならコンバータの使用断念も仕方がありませんね……」

 

「はい、大まかな理由はそれなのですが……」

 

 他の誰でも無い開発者である芹沢からの忠告と言うことで慎吾がコンバータの使用を断念した事に納得仕掛かった真耶ではあるが、そこにさらに一言、自身の言葉を聞き取れるような範囲に人がいないことを確認すると小さな声で語り始めた

 

「本音を言えば私はこのキャノンボール・ファストを出来る限り一夏達専用機持ちの皆と同じ条件で戦い、その上で勝利してみたいのです。年上の立場上堪えようとは思ったのですが、どうにも優勝を狙って訓練に励む皆を見ていたら無意識に感情が込み上げてしまいまして……」

 

 当人は自覚しているのか、どこか恥ずかしそうにそう言う慎吾のその瞳に宿り、燃え上がるように熱く、そして目映く輝いているのは紛れもない闘志の色であった

 

「大谷くん……」

 

 普段は生徒の中でクラスのまとめ役を率先している慎吾が胸の奥底に隠し、決して積極的に見せようとはしない思春期の少年特有の青臭さが残る情熱を見せられた真耶は感極まったようにそう呟くと次の瞬間、慎吾の右腕を自身の両腕で包み込み、そっと胸元に引き寄せた

 

「……!? す、すいません山田先生、その……何と言うべきか……」

 

 驚愕の声と共に、たちまちのうちに慎吾の顔は真っ赤に染まり、必死で何かを真耶に伝えようと試みる

 

「大谷くん、誓って大谷くんが抱いてるその気持ちは決して間違ってなんかいません。だから……ええと……キャノンボール・ファスト頑張ってください。私は応援してますよ」

 

 そこで真耶は一瞬、何かを言おうとして躊躇うがすぐに慎吾を微笑み、優しくエールを送った

 

「……山田先生、その気持ちは大変ありがたいですし、大変嬉しいのですが……その……」

 

 そうして一人の生徒に過ぎない自分に決して傲ったりする事もなく、親身になって接してくれる真耶に深い感謝の想いを感じ、頭を下げてお礼の言葉を告げたいとすら考えていた慎吾ではあったが、しかし、それを行う前に自信の羞恥を堪えてもなお、どうしても伝えなければならない事が慎吾にはあったのだ

 

「……私の右腕が……山田先生の胸元に……」

 

「え…………?」

 

 顔をますます赤く染め、恥ずかしさで視線も上手く合わせられない様子で言う慎吾の指摘により、そこでようやく真耶はようやく気付く

 

 そう、本人としては単にサイズが会わなかったので開いておいたISスーツ。安心させようと胸元に引き寄せた時に丁度その開いた部分、所謂『胸の谷間』に慎吾の右腕を拘束した状態で突っ込ませていた事を

 

 目の前の慎吾が必死で目を瞑り、顔を赤らめながら突っ込んでしまっている右腕を抜き取ろうとしている事を

 

 そんな二人の様子を複数の生徒が訓練を止めて遠巻きにじっくりと好奇と羨望と、そして一部、大きく自身に足りない物を持つ真耶に対する嫉妬の視線で観察している事を

 

 

 そして、それら全てを見ていたらしい千冬が気配だけで野生動物達が逃げ出しそうな程の憤怒の形相で近づいてきている事を

 

「え、えええええぇぇぇっっ!?」

 

 立て続けにおきた事態に頭が処理容量を越えて真耶は立場を忘れて思わず叫んだ

 

 

「腕を……山田先生……どうか腕を解放してください……」

 

 そんな中、慎吾は掌に伝わる暖かくて、やたら柔らかく、埋めたくなるような感触をどうにか堪えながら必死で真耶にそう言い続けるのであった



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117話 キャノンボール・ファスト前夜

 すいません遅れてしまいました


「ふぅ……流石に今日の訓練は些か疲れたな一夏」

 

「そ、そうですね……」

 

 寮へと戻る道を歩きながら、未だに止まらぬ汗をタオルで拭いながら少しばかり疲労の色が浮かぶ表情で隣を歩く一夏に同意を求めるように言う慎吾。ちなみに問われた一夏はと言うと遠目で見ても分かる程に疲労しきった顔をしており、足取りはフラフラとおぼつかなく、さながらホラー映画に登場する動く死体を連想させた

 

 ついに大会前日となった今日、慎吾と一夏はラウラがメイン指導の元、慎吾がサブに回り三人でそれこそアリーナ使用時間が僅かに過ぎて、見回りに来ていた教師から軽い注意を受けるほど長く猛特訓を続けていたのだ

 

「二時間以上、ほぼ休みなし。おまけに最後には複合戦としてで慎吾さんとラウラを二人同時に戦うなんてとてもじゃないけど体が持ちませんよ……」

 

 つい先程までアリーナで行っていた、閃光と拳とワイヤーと蹴りと刃がアリーナ中を縦横無尽に飛び交い、冗談や比喩でも無く一撃でもマトモに食らえば即座にシールドエネルギーが底を付きかねないような暴風雨のような戦闘を思いだし、一夏はげんなりとした様子でそう呟いた

 

「はは……それは私もだよ一夏。ラウラも、そして当然一夏も私のコンマ一秒程の隙を狙ってくるような猛攻を仕掛けてくるものだから私は戦いが終わるまでずっと自分に出来る最高レベルの集中を続けるしか無かった。……食事はいつも以上にしっかりと取るとして、食後のトレーニングは控えめにしないと明日には体が持ちそうに無いな。これは……」

 

「……慎吾さん、今から帰ってまだトレーニングするんですか?」

 

 今日の試合を振り返りつつ、静かにこの後の予定を立てる慎吾。と、その言葉の中に聞き逃せないような言葉がある事に気付いた一夏がぐったりとした表情で思わず信じられないように慎吾に問い返した

 

「あぁ……物心つく前から続けていたせいか私にとって毎日の朝夜のトレーニングは毎日の習慣になっていてな。例えどんなに疲れていたり体調が悪かったとしても、少しでもいいからトレーニングをしてから寝ないと熟睡しにくいんだ……それにな」

 

 問われると気恥ずかしそうに慎吾は薄く頬を染めながらそう答えると、静かに日が沈み、一番星が見え始めた空を見上げながら言葉を続ける

 

「終わってから後悔などしないように今日のうちに、やれるだけの事はやっておきたいんだ。皆の実力を見れば容易では無い事は明らかだが……私もキャノンボール・ファストでの優勝を目指しているからな」

 

 慎吾はそこまで言うと再び一夏に視線を向ける。その顔には既に先程差していた赤みは消え、強気な笑顔を浮かべていた

 

「折角だから、ここで宣言しておこう。明日のキャノンボール・ファスト本番は一夏、お前にも、そして皆にも私は負けるつもりなど毛頭無い。全力で挑ませて貰うから覚悟するんだぞ?」

 

「……慎吾さん……。ええ、それは俺もです。負けませんよ!」

 

 一夏も慎吾の宣言に疲労を気力で振り払い、残っている力で出来うる限り精一杯、力強く笑い、ガッツポーズまでしてみせた

 

「そうか……それは、楽しみだ。ふふ、明日が来るのが待ち遠しいな」

 

 釣られたように慎吾もそう言って笑い、一夏と共にゆっくりと寮へと続く道を歩き続けていった

 

 

「(……何か……やけに周囲が騒がしいな……?)」

 

 何やら急に自分の周囲が騒がしくなってきた事に気が付き、慎吾の意識は眠りの中から目覚めていった

 

 未だ覚醒しきれていない意識で目を開くと、シンプルなテーブルの上には一定時間操作しなかった為にスリープ状態になっている慎吾の携帯端末と、書きかけの慎吾愛用のノート。そして飲み干して空になったコーヒーカップがあり、そのコーヒーカップが自室で愛用している物ではなく学食で使われている物だと理解した所で慎吾は自身が眠っていたこの場所が自室では無いことに気が付いた

 

「(そうだ私は、自室で軽いトレーニングをした後にシャワーで汗を流して……着替えた後、学食で一夏達を待つついでに明日に向けた最後の努力をしていた所で居眠りをしてしまったのか……)」

 

 そこまで記憶が甦った自分がした事とは言え、子供じみたあまりにも情けない行動に思わず慎吾は赤面する。なるほど、確かに多くの生徒が集まる生徒が集まる学食で眠ってしまえば騒がしくなるのは当然か。と、結論付けようとした所で慎吾ははたと未だに続く周囲のざわめきを耳にしてある事に気付いた

 

「(いや、しかし……待てよ、いくら食事時で賑わっているとは言え騒がし過ぎはしないか? いや、それどころか騒ぎが徐々に大きく……)」

 

 そう感じた瞬間、慎吾は半ば無意識に騒ぎが大きくなって行く方へと視線を向け

 

「ねぇねぇ、あれ見てよ! あれ!! 織斑くんとボーデヴィッヒさん!! 超お似合い! まさにウルトラフュージョン!!」

 

「あぁ~織斑くんにあんなに触れて、ボーデヴィッヒさんいいなぁ……羨ましい。あ、でも待って、ボーデヴィッヒさんを私がぎゅってだっこするのもそれはそれでいいかも……ぐへへ……」

 

「……あんた、街中でそんな顔してそんな事言ったら逮捕されても文句言えないわよ」

 

 そこにいる学食の入り口付近を指差しつつ、実に楽しげに騒ぎながらそう話す生徒達(役一名ほど、危うい顔で危うい事を言ってる者もいたが)。そして

 

「ちょっ、ちょっと皆、待ってくれよ!? これは別にサービスとか、そう言うのじゃなくて……」

 

「…………」

 

 一体全体、いかなる理由があってそうなったのか細身の体に良く似合う黒いロング丈のワンピースに身を包んだラウラを所謂『お姫様だっこ』の形で抱き締めた一夏に気が付いた。

 

 ちなみに一夏は複数の女子生徒達に囲まれて質問攻めにされて汗を流すほど必死になって弁明をしているのだが騒動はやはりと言うべきか全くといいほど収まりを見せる事は無く。一方で抱き上げられているラウラはやはり恥ずかしくはあるのか頬をうっすらと朱に染めているものの、何故か少しばかり表情は誇らしげであり、良く見れば片手で一夏の服の裾を握っている。

 

「はは……まったく一夏の次の行動を予測するのは困難極まりないな……」

 

 そんな二人を見ていた慎吾は悪いと思っていながらも思わず吹き出してしまった。何にせよ、あんな行動が出来ると言うことは一夏はキャノンボール・ファストを前日に控えても全く緊張をしていないのだろう。その事実を確認して安堵した慎吾は席から立ち上がり、現在進行形でなんとか皆を宥めようとしている一夏に助け船を出すべく歩き始めた



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118 話 開幕! キャノンボール・ファスト

 遅れてすいません……


幸いな事にキャノンボール・ファスト当日は雲一つ無く、晴れやかな青空が広がる見事な快晴でありその効果もあって観客席には一般客やIS産業関係者、そして各国政府関係者が駆けつけ、開場して早くも立ち見席すら埋め尽くされる程の満員と化していた

 

「……流石にこれだけ多くの人の前に立つのは経験が無いが……想像よりも緊張するものだな」

 

 大まかな準備を済ませた合間に抜け出し、満員の会場を見渡していた慎吾はそのあまりの人数に若干、気圧されたように呟く。だがしかし、その顔には確かに余裕が残されており、口元には薄い笑みすら浮かんでいた

 

「ふふっ、これだけの人数が今日、行われる私達のレースを楽しみにしているんだ。ならば、なおのこと無様な姿は見せられないな……」

 

 小さく笑ってそう言うと、慎吾は準備を再開する為にビットへと静かに戻っていく

 

「(楽しみに……と、シャルロットやラウラのような強力な代表候補生達を相手に言えるような実力は悔しい事に私は持ち合わせてはいないが……決してお前をがっかりさせたりするような戦いはしない)」

 

 ビットへと戻る道で偶然すれ違った一夏に軽く笑みを浮かべてエールを送りながら慎吾はそう強く心中で決意する

 

「……見ていてくれよ、光太郎」

 

 最後に声に出して自身が特別指定席のチケットを送った相手、実の弟同然に面倒を見ている少年。光太郎の名と、座席番号を思い出しながら光太郎が座っている筈の観客席部分を見ながら慎吾はその場を後にした

 

 

「あの……すみません……少しいいでしょうか?」

 

「えっ……?」

 

 自身が密かに恋い焦がれている一夏から貰ったチケットの座席番号とマップを頼りに自身の席を探していた五反田(ごたんだ)(らん)は突如として、そんなどこかあとげない、それでいて困ったような少年の声をかけられて思わずマップから顔をあげ、声をかけられた方角へと振り向いた

 

「少し困った事がありまして……Fの46の座席はこの辺りでしょうか……? 僕、お母さんと来ていたんですけれど、お手洗いから戻ってきたら自分の席が分からなくなってしまいまして……」

 

 見ればそこにいたのは、不安気な表情をした首に巻いた白いスカーフが特徴的な一人の少年であり、自身より高いくらいの背から蘭は一瞬、話しかけてきた少年が自身より年上かと判断したが、少年の幼さが強い顔、そして何より少年が迷子防止の為に着ている服の胸元に付けている名前と年齢が書かれた名札ですぐに少年が自身より年下、小学生だと言うことが分かった

 

「えっと……光太郎くん? 私は五反田蘭って言うんだけど……Fの46 なら私の席の隣だから……良かったら一緒に行く?」

 

「はいっ! 蘭さん、ありがとうございます!」

 

 少年、光太郎が年下だと分かった事で蘭は幾分か気を使った柔らかい口調で、自身のチケットを見ながら話しかけると光太郎は一瞬にして曇っていた表情を、まさしく花が咲いたように柔らかな笑顔を浮かべて頷べると、蘭の隣を並び、まるでこれから遊園地に向かおうとする子供のようにスキップでも踏みそうな勢いで楽しげに歩き始めた

 

 

『さて大混戦のレースも終盤、現在一位はイギリスの代表候補生サラ・ウェルキン……お、おおっと! ここで一機が後続を突き放して一気にトップに迫ってきた! あの特徴的な青い機体は……ヒカリ! ISヒカリに搭乗する芹沢光だ! 激しい激戦でシールドエネルギーに余裕が残されていない彼女が満を持してここで最後の勝負を仕掛けるつもりだ!』

 

「……流石だな、ヒカリ」

 

 開会式の後に始まった二年生のレースは余程白熱している事を示すように、実況者の声も明らかに興奮を隠しきれておれず、それと同時に会場そのものが震えているかのように錯覚するほどの盛大の歓声が響き、それはピットで次に行われる一年生専用機持ち組のレースの準備を行っている慎吾達の耳にもはっきりと聞こえ、慎吾は聞こえてきた友人の奮闘に思わず笑みを浮かべる。どうやら、二年生のレースは最後まで決着が分かりそうにはないようだ

 

 と、慎吾は聞こえてくる実況に耳を傾けるのはそこまでにして、ピット内にいるいつもの仲間達。そして、今日のレースでのライバル達であり、それぞれ自機をキャノンボール・ファストに向けてカスタムさせた一夏達の方へと向き直る

 

「さて……二年生のレースは大分白熱しているようだが……私達も決してこれに負けないような正々堂々ベストを尽くしたレースを繰り広げようじゃあないか……!」

 

『おお (ええ) !!』

 

 まるで開幕の合図を告げるかのように慎吾がそう熱く告げると六人は力強くそれに答えると、マーカ誘導に従ってビットから次々と飛び立ち、スタート位置へと移動して行き、自分以外の全員が出た事を確認するとビットで準備に協力してくれた生徒や教師陣に一礼すると、最後に慎吾も飛び立っていった   

 

 

「蘭さん、光太郎をここまで案内してくれて本当にありがとう。心からお礼を言います」

 

「あ、いえいえ……あたしは当たり前の事をしただけですし……」

 

 丁度その同時刻、蘭はレース開始前に光太郎をFの46の座席へと無事に送り届けた事で光太郎の母、マリから頭を下げて丁寧に礼を言われ、マリの真摯な態度に思わず恐縮しながら蘭はそう答えた

 

「(マリさんって……言われなきゃ光太郎くんのお母さんって分からない程に若くて綺麗だな……あ、綺麗って言えばマリさんと雰囲気は全然違うけどさっきのあの人も……)」

 

 その時、そこでマリを見て蘭はふと、光太郎と共にこの席へとたどり着く前にちょっとしたトラブルで偶然に出会い、少し会話を交わした豪華な赤色のスーツ姿と煌めく金髪、そして何よりまだ子供の光太郎や同性の自分が見とれてしまう程に美しい姿の女性の事を思いだし、それと同時にマリとその女性、と自身の間にあるスタイルの大きな格差に改めて気付き、思わず肩を落とした

 

「(まだ成長期だから大丈夫……だよね? きっと……たぶん……)」

 

 もし、仮にでも蘭が出会ったのが女性かマリかのどちらか片方であったのならばまだ蘭の精神は持ちこたえ、風が吹けば飛ぶような物は言え自信も持てただろう。しかし、何の因果か立て続けに否の打ち所が無いような見事な『大人の女』に出会った事で、蘭の自信は決して崩れてはいないものの、崩壊寸前のレベルにまで追い込まれていたのだ

 

「あの……蘭さん大丈夫ですか? もうすぐ一年生専用機持ちの皆さんのレースが始まりますけど……もし体調が悪いのなら……」

 

 と、そんな蘭を心配したのか光太郎が若干心配した様子で蘭に声をかけてきた

 

「ううん、大丈夫。気にしないで光太郎くん」

 

 そんな光太郎の純粋な優しさが沈みがちだった蘭の心に響き、蘭は出来うる限りそれに答えようと精一杯の笑顔でそう返事を返した

 

「(うん、今日は生で一夏さんのIS姿を見られるんだからこんな事、気にしてられないよね……!)」

 

 自分に言い聞かせるように蘭は心中でそう考えると視線をビットから次々と出てくる七機のISへと視線を向けるのであった




 いよいよ次回から本格的にレースの開幕とさせていただきます……原点には無い複数のイレギュラーが同物語に絡んでくるか、うまく表現をしようとどうにか模索しております……


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119話 白熱! キャノンボール・ファスト! そして……

 すいません。GW明けに少々体調を崩して更新が遅れてしまいました。もう体の調子は戻りましたので次回の更新は何時も通り、来週には出来るように頑張ります


「くっ……! 分かっていた話だけど……それにしたってやっぱり速い……!」

 

 必死で加速を続けるものの、コーナを曲がる度に徐々に開いて行く戦闘列との差に冷や汗を流し始め、歯噛みするように一夏が苦しげに呟く

 

 大歓声の中、始まったまだレースはまだ一周目にすら入らぬ序盤であるうちから既に抜きつ抜かれつ、撃ちつ、避けつつの序盤からラストパートかとばかりの火花飛び交う派手なバトルレースを繰り広げ、それは未だ二年生のレースの熱が冷めやらぬ観客を多いに沸かせるのと同時に興奮に包み込み熱狂させる

 

 そして今、現在、レース参加者全員が専用機持ちと言う厳しい環境を押さえて首位に立ち、一夏が必死にその背中を追い続けていたのが

 

『さ、避けたっ! 完璧に決まるかと思われた攻撃をまたも現在首位、大谷慎吾が回避した!』

 

 ラウラが放つ大口径リボルバー・キャノンの一撃を慎吾は決してブレーキをかけたりスピードを落とす事無く、ゾフィーをさながら波に乗るサーファーの如く空中に滑らかな複数のカーブを描くように舞わせ、複数放たれた弾丸、その全てを回避してみせ、観客を更に沸かせた

 

「まさか、今の攻撃を回避するとは……やるな、流石はおにーちゃんだ……」

 

 当の攻撃したラウラさえもそんな慎吾のスーパープレイには驚かされたらしく、目を驚愕で大きく開き、慎吾を素直に評価する。が

 

「しかし、だ、おにーちゃん。回避したことでコースから『逸れたな』」

 

 慎吾が回避した事でやむを得ず生まれた隙間、即ち今の今まで慎吾が維持してきたインコースにラウラのレーゲンが入り込み、一瞬にしてゾフィーを抜き去っていった

 

「くっ……!」

 

 回避の為に不可避となる隙を突かれた慎吾は慌ててゾフィーをコースへと戻して行く。が、今の今までトップを飛んでいた慎吾ではあったがそれは紙一枚程度の小さく弱い優勢に過ぎなかった物であり、それを示すようにゾフィーのすぐ背後についていたセシリアとシャルロットが慎吾が元のコースに戻る前に次々と抜き去ってゆく

 

「僅かでも隙を見せた瞬間にこうなるとは……しかし、まだまだ勝負はこれからだ……!」

 

 一気に三人にも抜き去られた事で慎吾は驚愕を露にする。が、すぐに意識を切り替えるようにそう叫ぶとすぐに全速力で抜き去っていった三人を追い始める

 

「実戦でのその切り替えの早さは、見事。だが慎吾よ……」

 

「私達もいるの……忘れてないっ!?」

 

 

 と、その時、背後から箒と鈴の声が響くと共に紅椿の刀から放たれるレーザー、甲龍から発射される衝撃砲の連射が同時にゾフィーの背中目掛けて放たれた

 

「それは勿論……っ! 僅かでも注意は怠らなかったとも!!」

 

 二人の攻撃の予兆を感じ取った瞬間、慎吾はゾフィーをフルターンさせて背後に振り向くと、二人の攻撃をZ光線を発射して迎撃する事で対応し、ゾフィーの量腕から放たれたZ光線が命中した瞬間、一度に複数のエネルギーが衝突した事で爆発と共に慎吾と鈴と箒の二人の間を遮るようにコース場に濃い白煙が発生した  

 

「うおおおおりゃああっっ!!」

 

 瞬間、まるでそのタイミングを事前に予知していたかのように白煙を文字通り切り裂き、気合いの雄叫びをあげながら一気に雪片弐型を構えた一夏が慎吾に急接近して肉薄する

 

「くっ……! ……はぁっ!!」

 

 白煙を煙幕がわりにして突撃してきた一夏への反応がコンマ一秒遅れた事で雪片での斬撃を回避し損ね、慎吾の苦悶の声と共に浅く斬られたゾフィーの装甲が火花を吹き、空中で大きくバランスが崩れる

 

「ぐっ!?」

 

 しかし、斬撃を受けて崩れながらも慎吾は射程距離まで迫っていた白式に左足で強烈な回し蹴りを叩き込み、結果的にゾフィーはその衝撃でどうにか体制を建て直し、白式は先程のゾフィーの焼き回しのように大きくバランスを崩され,たちまち急降下してゆく

 

「(……今の一撃は一夏がもし、零落白夜や雪羅を使っていたらここで私は撃墜されていたな……確実に……)」

 

 追撃を食らわぬように、全速力でその場を離脱しながら慎吾は自身が幸運に救われなければ先程の一撃であっさりと敗北しかねなかった事に気が付くと戦慄し、冷や汗を流した

 

「てて……やっぱり慎吾さんは強いな……だが、レースはまだまだこれからだぁっ!」

 

 と、そんな時、慎吾の元に一つ、悔しげながらも何処か尊敬、そして熱意が込められた一夏の声がかけられる。どうやら、慎吾が起死回生とばかりに放った回し蹴りの直撃を受けても一夏は撃墜される事なく、空中で踏みとどまったらしくその声は次第に近付いて来ていた

 

「あぁ……! そうとも、決着はまだほどほど遠いな。  そう簡単に私に再度攻撃を当てられると思わない事だ一夏よ!」

 

 そんな一夏に影響されたのか慎吾もまた、一夏に向かってそう叫んで返事を返す。無意識のうちに慎吾はゾフィーの仮面の下で笑顔を浮かべていた

 

「(もはや万が一でも油断などしない……このキャノンボール・ファスト。この私とゾフィーが見事、優勝してみせようではないか!)」

 

 心に熱い闘志を燃やしながらも、頭は冷静に、より神経を集中させながら慎吾は先程までの遅れを取り戻す為に慎吾はゾフィーを凄まじい勢いで加速させ、トップを走るラウラとシャルロットを視界に捉えた

 

「行くぞ……!」

 

 二人は共に恐ろしく早く、単純にスピードをあげて迫るだけではらちがあかない。そう判断した慎吾は前傾姿勢で飛行しながら胸の前に両手を添える

 

「Z……!」

 

 そうして慎吾がゾフィーの両腕にエネルギーを収束させ、必殺の一撃を放とうとした。まさにその瞬間

 

「……!? シャルロット! ラウラ! 危ないっ!!」

 

 上空からトップを走る二人に向かって迫る一機のISに気付いた慎吾は慌ててZ光線発射を中断して二人に警告を送る

 

「え……っ?」

 

 そして、慎吾の声にシャルロットとラウラが反応した丁度そのタイミングで

 

 トップを走っていたシャルロットのリヴァイヴとラウラのレーゲンの二機は乱入してきたISの無慈悲な射撃によって撃ち貫かれていた

 

「あれは……!」

 

 コースアウトして吹き飛ばされゆく二機には目もくれず、余裕たっぷりにコース内へと降り立つISの姿を見て慎吾の脳内で侵入者の正体が記憶を元に直ぐ様割り出される

 

 そう、慎吾にとっても忘れもしない学園祭。そこで事件が終わった後に知った自身とバートが死闘を繰り広げている際に起きていたもう1つの戦い。そこに姿を現した鮮やかなブルーのIS

 

「サイレント・ゼフィルス! 亡国機業か!」

 

 相手の危険性を理解して警戒し、慎重に構える慎吾を前に侵入者は口元を歪めて邪悪な笑みを浮かべた



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120話 混乱の会場

 遅れてすいません……。と、それと我らがゾフィー隊長の初勝利を知って大歓喜してました。因縁の相手であるバードンを打ち倒すとは……これはこの先も活躍が期待できますかね?


「きゃあああっっ!!」

 

「に、逃げろおおっっ!!」

 

「皆さん落ち着いて! 落ち着いて避難してください!!」

 

 先程のまでのキャノンボール・ファストの試合での狂乱は一転、突然の侵入者とそれに撃ち抜かれた二機のISを見た瞬間、観客席は大会主催側のスタッフでさえ手の付けようの無いパニックに包まれ、右往左往して乱れる人混みに阻まれ、まともに避難する事すら困難な状況と化していた

 

「蘭さん、大丈夫ですか? 私の歩調についてゆけてますか?」

 

 

「あっ、は、はい……私は何とか……」

 

 そんな中、人混みが作り出す波のようなうねりの中を帆船のような驚くほど軽やかな動きでマリが先頭をきり、蘭の手をとって確実に通路を前へ前へと進んでゆく

 

「あっ、光太郎くんも大丈夫?」

 

 そんな風にまた一人、マリの案内に従って迫り来る人をやり過ごしながら蘭は自身がマリに変わってはぐれないようにもう片手で手を握っていた背後の光太郎の方へと視線を向ける

 

「…………」

 

 しかし、何故か光太郎は蘭のその言葉に答える事は無く。大人しく手を引かれて歩いているものの、その視界は正面を見ておらず、何かを決意したような表情でどこか一点をじっと見つめていた

 

「光太郎くん……?」

 

 そんな光太郎の様子に違和感を始めた時だった

 

「母さん、蘭さん……ごめんなさい!」

 

 突如として光太郎は、そう二人に謝罪しながら蘭の手を振り払うと、一人、人混みに向かって走り出していった

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 慌てて制止しようとする蘭の声も聞かず、光太郎は器用に走りながら迫る人を軽やかにステップを踏んで次々とかわしながら先程まで蘭達が並んで見ていた席よりより上段の、それこそ会場全体が見渡せそうな客席通路へとつき進んでゆく

 

「皆さん! どうか落ち着い……! どうしたんだ君? お母さんとはぐれたのか?」

 

 と、小学生とは思えぬその軽やかな動きに蘭が思わず呑まれたその瞬間、光太郎は混乱して右往左往する観客達をメガホン片手に必死で落ち着かせようと呼び掛けている会場スタッフの前で足を止める

 

「ごめんなさい、少し『コレ』借りさせてください!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 そんな光太郎を心配したのか観客達に呼び掛けるのを止め、視線を向けてきたスタッフに光太郎は頭を下げて謝罪するとその手からメガホンを引ったくるとそのままの勢いで軽く床を蹴って空中を跳びあがると客席手すり部分に着地し、メガホンを口元に近付けると口をすぼめて息を大きく吸い込み

 

 

「会場の皆さん!! いまあの侵入者はレースに参加していた7人の選手の方々が必死で食い止めてくれています!! どうか信じて落ち着いて避難してください!!」

 

 

 と、この混乱とどよめきに満ちた会場内でも殆どかき消される事が無いような大声でそう叫んだ。いくらメガホンを用いていると言ってもそれは子供の光太郎から発せられたにしては度を遥かに越えた『異様』とも言えるレベルのものであった、

 

 下手な大人など足元にも及ばないような圧倒的声量、それでいて何故か威厳と迫力が感じられる光太郎の声に圧倒されたのか混乱にみちた会場内は水を打ったように一瞬、静まりかえり、やがて誰からともなく無駄口を叩かずに速やかに避難を始め、それに続いて慌てて会場スタッフが出口への誘導を始める

 

「……はい、お返しします。急に奪ったりすいませんでした」

 

「あ、あぁ……」

 

 それを確認すると、光太郎はそう一言だけ告げるとメガホンを拝借した若い男性スタッフにメガホンを返却してから頭を下げると、急な事態に困惑したままの男性スタッフに背中を向けてマリと蘭の元へと帰っていた

 

「凄い子供もいるもんだな……とっ、俺も負けてられないな」

 

 そんな光太郎の背中を暫し見守っていたが、直ぐに自身のやるべき仕事を思いだし、男性スタッフ『ダイゴ』は観客の避難誘導を再開し始めるのであった

 

 

 その一方で

 

「あの……マリさん……本当に……本当に失礼ですけど……光太郎君って一体何者なんですか!?」

 

 背丈は大きいが根は素直で驚くほど純粋。偶然の出会いからそう光太郎と言う人間を判断していた蘭は突如として見せた光太郎の変貌に思わず若干食いより気味でマリに尋ねる

 

「うふふふ……」

 

 しかし、マリはそれに答える事は無く。ただただ蘭と戻ってくる光太郎に優しく微笑みかけるだけであった

 

 

 

 

「……一夏、私がこいつの相手をする。その間にシャルロットとラウラの事を頼む」

 

 襲撃者と正面から対面したまま慎吾は短く、一夏にそう告げる

 

 本来なら慎吾は実の妹同然に想っている二人の危機に一刻も早く駆けつけるつもりであった。だがしかし、目の前で殺気を放つ襲撃者に対してそれは不可能だと言うことを慎吾の直感が告げていた

 

「分かりました!」

 

 その声を聞いた瞬間、一夏が弾かれたように襲撃者の奇襲を受けてコースアウトした末に壁に激突したラウラとシャルロットの元へと急行する

 

「…………」

 

 と、そんな無防備な一夏を狙って襲撃者のBTライフルの攻撃が降り注ぐ。が

 

「聞こえなかったか? お前の相手は私だ!」

 

 その攻撃はゾフィーの両腕から凪ぎ払うように放たれたZ光線が弾き、一夏に迫る攻撃を全て文字通り粉々に『撃ち砕いた』

 

「……面白い」

 

 それを見た襲撃者は不適な笑みを浮かべると瞬時にBTライフルの銃口を一夏から慎吾へと向け、狙いをつける

 

「行くぞっ……!」

 

 それが合図であったかのように慎吾はゾフィーを残像が残る程に急加速させ一気に襲撃者へと詰め寄る。

 

 

 そして二つの影が交差した次の瞬間、二つの音が響き渡った



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121話 死闘、ゾフィーvsゼフィルス!

 またもや大遅刻してしまいました……


「ぐっ……!」

 

 襲撃者と交差した瞬間、慎吾は膝をついて床に転がる。そこに更に襲撃者からのBTライフルの一撃が迫るがそれはどうにか地面を蹴って飛び退く事で回避した

 

「(い、今のは一体……!?)」

 

 決して動揺を悟られないよう構え直しながら慎吾は困惑する頭で先程の事を思い返す

 

 BTライフルが火を吹いた瞬間、ゾフィーに出せる最高速度を出し一気に詰め寄りながらライフルでの攻撃は全て回避した。そして自身の射程距離に入った瞬間、襲撃者、サイレント・ゼフィルス目掛けて渾身の蹴りを放ち

 

 その瞬間、攻撃が『何か』に塞がれ、それに僅かに驚愕した隙を付かれてゼフィルスのライフル先端に取り付けられた銃剣でゾフィーの脇腹辺りの装甲凪ぎ払われるように斬られてバランスを崩した

 

「(少なくとも私はあんな防御装備は見たことが……いや、あえて例えるならば蹴りの時に味わったあの感触はラウラの……)」

 

「慎吾さん!」

 

「そこ……退いてっ!!」

 

 と、慎吾がゼフィルスの次の行動を警戒しながら思い返していたその時、セシリアと鈴の声が同時に響き、それを聞いた慎吾は攻撃の妨げにならないよく咄嗟に勢い良くサイドステップでその場から飛び退く。

 

 その瞬間、つい先程まで慎吾がいた場所を空気を唸らせ、セシリアのビーム射撃と鈴の衝撃砲の連射が一直線にゼフィルスに迫り

 

「んなっ……!?」

 

「くっ……やはりシールビットを……」

 

 自身に迫る複数の弾を前にしても余裕の現れなのか笑みを浮かべたまま微動だしなかったゼフィルスの装甲が二人の射撃によって撃ち抜かれるかと思われた次の瞬間、突如、ビーム状の傘が空中で開き、それによって二人の射撃は難なく無効化され、慎吾は目の前で見せられた自身の初撃を防いだものの正体に思わず驚愕の声を漏らした

 

「鈴さん! 慎吾さん! 三人で多角攻撃! 行きますわよ!!」

 

「お、おいセシリア……!?」

 

 一方でセシリアはゼフィルスの装備の正体を理解していたようではあったが、当のセシリアには全くと言って良いほど余裕が見えず。寧ろ二人からの応答も録に聞かず、真っ直ぐにゼフィルスに向かっていくその姿に慎吾はセシリアの焦りを感じていた

 

『鈴、何かセシリアの様子が妙だ。無論私も出来うる限り注意を払うが……出来れば君も攻撃しつつセシリアの事を注意して見ていて欲しい』

 

 よもやセシリア一人でゼフィルスの相手をさせる訳にも行かず、後に続いて慎吾もまたゼフィルスに向かって飛び出して行きながらもそれと同時に鈴にプライベート・チャネルを用いて慎吾はメッセージを送る

 

『了解……っと、確かに何でかは知らないけど、何か妙に焦ってるわよね……』

 

 セシリアに聞こえぬよう送られた慎吾の言葉に鈴は並んで飛びながら軽く頷きながらそう了承の返事を返した

 

『ありがとう。助かる……!!』

 

 その言葉を聞くと慎吾は会話をそこで止めて攻撃に集中すると、ゼフィルスに向かって牽制とばかりにゾフィーの右腕からスラッシュ光線を放ちつつ、更に距離を積めて単発で二回、ゼフィルスに向かって素早く蹴りを放つ

 

「…………」

 

 だが、ゼフィルスは先程と同じくそれに全く動じる様子は無く、スラッシュ光線はシールドビットに塞がれ、蹴りも容易く銃剣で軌道を反らされゼフィルスにはまるで掠めもしない

 

「ふっ……はぁっ! たああっ!!」

 

 無論、慎吾もそんなに都合よくゼフィルスが自身の攻撃を食らってくれる等とは端から思っていない。

 無駄撃ちに終わった慎吾の攻撃のタイムラグを狙いうちにする形で攻撃を仕掛けてきたゼフィルスに向かってリスクを承知で更に前進し、空中反転でゼフィルスの攻撃を避けながらその勢いで回転を付けると右足で回し蹴りを叩き込み、それもがガードされた事を脚の感触で判断すると脳天を目掛けて手刀を放つ

 

「ふん……」

 

「うっ……」

 

 しかし、そんな都合よく慎吾の連続攻撃を許すほどゼフィルスは甘い相手では無い。殆どノーモーションで回し蹴りから放った手刀を蝶の如く軽やかな動きで容易く回避すると、手刀を放つために伸ばしたゾフィーの腕と交差するような動きでナイフを呼び出し無防備になったゾフィーの首もとを狙って鋭く刃先を突きだした

 

「……おおぉっ!!」

 

 しかし、それでも慎吾は後退する事もガードする事も選ばず、ナイフがゾフィーの首の装甲を薄く掠めて火花を散らさせながらも、攻撃のタイミングに合わせて首を動かすと言う最低限の回避のみで対処させながら更に接近し、腹部目掛けて膝蹴りを放つ

 

「うっとおしい……」

 

「うぐっ……!」

 

 そうやって、いくら攻撃に合わせてカウンターとなる一撃を浴びせようが、それを紙一枚の危ういバランスではあるがギリギリの所で回避し続け、常にぴったりと肉薄した距離を保ちながら休むこと無く攻撃を続ける新語に流石のゼフィルスも苛立ち始めたのか、口を忌々しげに歪めると慎吾の膝蹴りを受け流すとそのまま乱暴に攻撃によりガードが空いてしまったゾフィーの脇腹部分に回し蹴りを打ち込み、まともにそれを受けてしまった慎吾は苦悶の声をあげながらゼフィルスから吹き飛ばされた

 

「だぁっ……!!」

 

「…………!」

 

 が、しかし吹き飛ばされる直前、最後の抵抗とばかりに慎吾はサーカス団員を思わせるようなアクロバティックな動きでゼフィルスの足先目掛けて威力を度外視し、とにかく速さのみに全てを回したローキックを放ち、コンマ一秒反応が遅れたゼフィルスにそれを命中させ機体を揺らす。その瞬間

 

「皆、今だ!!」

 

 一夏の合図の声を元に先程から慎吾と共に攻撃を行っていたセシリアと鈴、そしてたった今駆け付けた一夏と箒、更にゼフィルスの攻撃を受けてフィールドで倒れていた筈のシャルロットとラウラまでもが翔べはしないものの攻撃に加わり、計六機の集中砲火が一斉にバランスを崩したゼフィルスに襲いかかり、ゼフィルスは爆炎に包まれる

 

「(よし! とりあえずは命中させたがこれでどうなるか……)」

 

 しかし、当然と言うべきか慎吾を含め誰もがゼフィルスがそれで終わるはずも無いとは察しており、次の瞬間には予想の通り爆炎を薙ぎ払い殆ど損害の受けていないゼフィルスが姿を表す

 

「…………」

 

 爆炎から出てきたゼフィルスは何も語らない。しかし、ただでさえナイフのようだった鋭い殺気が更に増し背筋を刃でなぞられているような凄まじい圧をかけている事からゼフィルスが先程の一撃を受けた事で激昂しているのが見てとれた

 

「まだまだ……皆、もう一度仕掛けるぞ!!」

 

 そんなゼフィルスが放つ冷たく圧倒的なプレッシャーをまるで振り払らおうとせんとばかりに慎吾は後に続けとばかりに先陣を切るとゼフィルスに向かって飛び出してゆく

 

「……良いだろう。少し、本気を見せてやる」

 

 そんな慎吾を見ながらゼフィルスは周囲の空気が凍りかねないほど冷ややかにそう告げると再びライフルを向けた



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122話 交差する戦闘

 一ヶ月以上も遅刻して真に申し訳ありませんでした……。今回の話は大分難産になってしまいました


「あらあらエムったらムキになっちゃって。やっぱり最初の一撃で二番目の彼を落とせなかったのはミスかしら? 彼、中々強いもの」

 

 サングラス越しに襲撃してきたゼフィルス。エムと激闘を広げるゾフィーや各種専用機達を見ながら赤色のスーツを着た女性は少し困ったように、しかしどこか楽しそうにそう笑って口にし鮮やかな金髪を揺らした

 

「あぁ、強いと言えばあの子が連れていた。小さな男の子も凄かったわね……光太郎くんだっけ? ふふっ……あの子は間違いなく将来化けるわ……」

 

 そこで女性はこの会場で偶然、遭遇した少女と幼い少年。蘭と光太郎の事を思い返し、光太郎が将来確実に身に付けるであろう強さを想像して再び笑みを浮かべた

 

「あら、随分とご機嫌じゃない。イベントへの強制参加はそんなに楽しかったかしら?」

 

 と、そうして見物とばかりに戦いを視ていた女性の背中から声がかけられる。しかし、女性は振り向かない。何故ならば既に女性は声の主の正体と、自身に近付いてくる『二人』の専用機の事も既に知っていたからだ

 

「IS『モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)だったかしら? あなたの機体は。……あぁ、もちろんあなたのIS 『ヒカリ』は分かるわよ? あなたのレース、楽しませてもらったしね」

 

「……やはり気づかれていたか」

 

 女性が自身の専用機の名を呼んだ瞬間、柱の影や座席の後ろと言った物陰を最大限活用し、悟られぬように気配を殺してゆっくりと女性に近付いていた光が緊張した顔つきで姿を表した。あまり準備をせずに急行したのかその服装はまだレースで使用したISスーツのままであり激闘を繰り広げた証拠でもある大量の汗後も付着していたが光にはそれを気にする余裕などは無い。

 

 それまでに世間話をするようにあっさりと自分の存在に気付いた女性が驚異的な実力を隠し持っていると気付いていたのだ

 

「このままタイミングを伺って会長が仕掛けるのと同タイミングで俺も飛び出して同時攻撃を仕掛け、あわよくば初手で優位を掴もうと考えていたのだが……どうやら、そう簡単にはいかないらしいな」

 

「あら、光ちゃん以外と大胆な作戦を考えるじゃない。やるわね」

 

 そんな光に楯無は女性から決して目を逸らさないようにしながらも爽やかに笑いかけながら素直に誉め称えた

 

「ふふ、IS学園生徒会長にMー78社の研究部主任の二人と同時に謁見出来るなんて人によっては信じがたい程の奇跡じゃないかしら?」

 

 女性は迫る二人に背中を見せたまま、心底楽しそうにそう笑い

 

 次の瞬間、振り向き様に二人に向かって煌めくナイフが投擲された。その進行方向はさも当然のように人体の急所を狙っており命中すれば確実に二人の命を奪い取る一撃だった。が

 

「マナーがなってないわね……そんな女は嫌われるわよ?」

 

「確かに投擲速度自体は速い……だが、まだ甘い」

 

 その一撃はそれぞれ自身のISを瞬間的に展開させ、楯無は蛇腹剣『ラスティー・ネイル』で叩き落とし、光はナイトブレスから伸ばしたナイトビームブレードで刃をバターの如く軽く切断する事で回避すると、二人はそのまま返す刃で同時に攻撃を仕掛けた

 

「あら、私のマナーが悪いと言うなら、私一人に迷わず二人がかりで切り捨てようとする貴女達も大概じゃなくて?」

 

 だがしかし、女性は余裕綽々と言った様子でサングラスを外して投げ捨てると、瞬間、自身のISを両腕に部分展開させ、楯無のしなる蛇腹剣を右腕で受け止め。光がナイトビームブレードから放ったブレードショットの一撃を左腕で剃らして軌道を反らし二人の攻撃を笑みを浮かべたまま容易く防いで見せた

 

「……一応、聞いておくけど『亡国企業』。狙いは何かしら」

 

 しかし、そんな事は攻撃を放った時点で既に想定していたのか楯無、光の二人は動揺を見せない。ただ、楯無が相手が僅かでも動きを見せれば討って出れるよう警戒しながらそう女性に問いただすだけだ

 

「冗談でも言うわけないじゃない。折角、目の前で予想もしててなかったような楽しいショーが行われているのに、わざわざ貴女達に構うとでも?」

 

 当然と言うべきか女性はそれに応じる事は無く、顔に笑顔を浮かべたまま鋭い殺気を二人に向けて放ってきた

 

「……なら、こちらのやる事は一つ。だな会長」

 

「そうね、無理矢理にでも聞き出して見せるわ……!」

 

 その殺気を前にしても、光と楯無の両者は怯まず宣戦布告でもするかのようにそう女性へと告げた

 

「あら、貴女達二人だけで果たしてそれが出来るかしら?」

 

「望まなくても、成して見せるわよ……『土砂降り(スコール)』!」

 

 そんな短い会話の直後、三機のISは弾かれたように一斉に動きだした

 

 

「ぐうっ……くっ……!」

 

 空中戦の中、まさに嵐の如く、僅かな息継ぎの暇も与えてくれないゼフィルスの連激をついに回避しそこねた慎吾についにゼフィルスのBTライフルが直撃し、慎吾の苦悶の声と共にゾフィーはダメージと衝撃でバランスを失い木の葉の如くふらふらと落下してゆく

 

「ちょ……っ! あんた大丈夫!? しっかりしなさいよ!!」

 

 と、そんな慎吾を偶然、一番近くにいた鈴がゾフィーの背中を支える事で助け、激励の声を飛ばす

 

「鈴……す、すまない、君もダメージを負っているのに……」

 

 疲労を滲ませながら、そう鈴に礼を言いつつその身を案じる慎吾。事実、その言葉の通り鈴の甲龍もまたゼフィルスとの戦いで損傷を受けており、支えられた時点の一瞬で慎吾には片側の衝撃砲が明かに使用不能レベルの損傷。更に手にしている双天牙月の刃も先端部が欠け、刀身に亀裂まで入っているのが見えた

 

「今はあたしの事はいいから! 大丈夫なら早く戦線復帰するわよ!!」

 

 しかし鈴は虚勢か否か、全くダメージを受けている事を感じさせないような口調で言うと上空を指差す

 

「うぐおっ……! がはっ……」

 

「一夏!! うっ……くっ……」

 

「まだ……まだですわっ……!!」

 

 そこでは一夏と箒、そして鬼気迫る表情でセシリアがゼフィルスと空中で激戦を繰り広げている真っ最中であった

 

 だがしかし、3体1と言う優位性を獲得しているのにも関わらず、圧倒的な技量でまるでその差が存在しないかのようにゼフィルスが数で勝る一夏達を圧しており、飛行する術を失ったシャルロットとラウラ二人の援護も空しく、三人の損傷は徐々に広がり、特に最前線でゼフィルスと一夏と箒は今にも倒れてしまいそうな程に疲弊してるのが見てとれた

 

「だ、駄目だ……! 私も行かなくては……!!」

 

 それを見た瞬間、慎吾は気力を込めると、支えて貰っていた鈴の手から離れると体制を立て直し、ゼフィルスを睨み付ける。決死の覚悟で戦ってる仲間とまだ避難が完了していない観客達。この二つを守る為には絶対に負ける事は許されない。慎吾はそう決意し

 

 

「鈴……いきなりですまないが奴に強烈な一打を当てうる可能性が私にある。出来ればその策に行動してくれないか?」

 

 いつでも飛び出せるような体制でゼフィルスに注意を払いながらそう唐突に鈴に言った。

 

「はぁ……あんたねぇ……」

 

 そんな慎吾の背中を見た鈴は大きくため息をつく。一夏に比べれば遥かに短い付き合いで、シャルロットやラウラのように慎吾と兄妹の誓いを立てていない鈴にも、例えこの場で自分が断ろうとも慎吾は短い時間で何とか自分を説得しようと必死になって中々譲ってはくれないのだと言う事が鈴には理解できたのだ。これでは選択などあって無いようなものだ

 

 

「分かったわよ、あんたの策、あたしが付き合ってあげる。……その変わり、必ず決めなさいよ!」

 

「……感謝する! 手短に話すが、それで策は……」

 

 鈴が半ば呆れながら、了承の返事をすると慎吾は途端に仮面の下に小さく笑みを浮かべると鈴に手早く策を語り始めるのであった



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123話 共闘、そして動く戦場

 皆様、一ヶ月も更新出来ず大変申し訳ありません。塩ようかんです。
 と言うのもここ最近、プライベートな事情で大幅に執筆意欲を消失してしまい、この一話を書くのにも大変難儀してしまいました。
 未だにプライベートの方での問題は完全に解決はしていませんが決して未完では終わらせるつもりはありません。昔のような調子を取り戻せるかは私自身にも不明ですが背一杯の努力はしますので、どうかこれからも本作をよろしくお願いいたします


「来たか……」

 

 二機のIS、甲龍とゾフィーが近付いてくるのを見るとゼフィルスに搭乗しているエムは斬りかかってくる箒の斬激をかわすとそのままうっとおしそうに一夏に向かって突飛ばし、二人に視線を向けた

 

 先程、ガードの隙間を攻撃を直撃させのも関わらず慎吾はまるで臆した様子は無い。いやそれどころか甲龍に負けじとばかりに加速し続けるその姿には溢れんばかりの闘志さえ感じる事ができ

 

 だからこそエムは潰しがいがあるとゾフィーに視線を向けながらエムは口を歪めると凶悪な笑みを浮かべた

 

 元からエムにとってはこの任務は私怨が多少あるものの、全く問題なく冷静にこなせる筈の他愛ない任務に過ぎなかった。だがしかし、今はこうしてエムは当初の予定以上にレースに参加していた専用機持ち達を

、特に慎吾を狙って激しく攻撃していた

 

 その理由はと言えば、まず一つに慎吾の一撃をきっかけに思わぬダメージを喰らわされた事。そして何よりエムの中で大きいのが

 

 

 慎吾の繰り出す格闘技。そのある一部が、自身を余裕綽々と叩き潰した相手。『協力者』に酷似していたのだ

 

「ふっ……」

 

 エムは迫るゾフィーと、そのついでに甲龍に狙いを付けると、これが第2ラウンド開幕だと言わんばかりにライフルの弾雨を浴びさせた

 

「シュッ……!」

 

「はぁぁっ!!」

 

 精確に機体の損傷部を狙って迫る複数の弾雨の前にしながら慎吾も鈴も全く怯むことは無く、気合いの声と共に軽やかな動きで弾を回避しながら確実にゼフィルスへと距離を詰めてゆく

 

「行くぞっ……!」

 

 と、そこで慎吾は掛け声と共に更に加速し、両手を胸の前で水平に添えながらゼフィルスの前に立ち、次の瞬間、ゼフィルスに向かって回転式ノコギリの刃にも似た光輝く光輪。ウルトラスラッシュをゾフィーの腕の中で瞬時に形成し、それをゼフィルスに向かって力を込めて勢いよく投擲した。

 

 放たれたウルトラスラッシュはゾフィーの加速の勢いを助走とし、通常の試合で見せるより遥かに早く鋭い速度で輝きながら空気を切り裂きゼフィルスに迫り

 

「下らん」

 

 次の瞬間、あっさりとその軌道はエムに見切られ、ゼフィルスの機体の軸を少々ずらす事でウルトラスラッシュは狙いを外し、何も切り裂く事も無くエムの背後へと飛んで行き

 

「まだまだぁ! 終わってないわよっ!!」

 

 その瞬間、ゾフィーが正面からエムと対峙している間にその背後へと回っていた鈴が手にした双天月牙を両手で持ち、腋を引き締めながら構えると、あろうことかまるでピッチャーの投げたボールを打つバッターの如く、バットのように振りかざした月牙の刃をウルトラスラッシュに叩き付ける

 

 

 その瞬間、刃はマジックの如く元の半分ほどの大きさに変形すると二つに増え、そのまま鈴が刃を叩き付けた勢いのままエムに向かって飛んで行き更に鈴が駄目押しとばかりに衝撃砲を嵐の如く連射する

 

「はぁぁ……!」

 

 そして、その瞬間には慎吾は既に第二撃を放つためのエネルギー。それをゾフィーの腕に充填する事を終えていた

 

「この二重攻撃……避けれるものならば避けてみろ!」

 

 瞬間、今度はゾフィーの両腕からZ光線が発射され一直線にエムに向かって飛んで行き、見るまぬうちにエムは二枚のウルトラスラッシュの刃、多量の衝撃砲、そしてZ光線で挟み撃ちされる形となった

 

「この程度の攻撃を……対処出来ないとでも?」

 

 だがしかし、それでもエムは動じない。迫る大量の衝撃砲をまるで最初から何処に向かって放たれるのかが分かっているような動きで回避し、ウルトラスラッシュ二つの刃をライフルとナイフで叩き落とし、最後のZ光線をもビットの防御で塞がれ、鈴と慎吾の攻撃は衝撃により発生した爆煙を残して完全に無効果された

 

「あぁ、お前ならば防ぐと思っていたよ……!」

 

 その瞬間、瞬時加速によって爆煙を文字通り突き破って飛び出した慎吾が体当たりをしながらエムに組み付き、ゾフィーの右腕で堅くゼフィルスを拘束する

と、伸ばした左手をそっとゼフィルスの装甲に押し付ける。と、その瞬間、ゾフィーの左腕がまばゆく輝き始めた

 

「貴様……!」

 

 まさに眼前で青白く光る左腕を見て、慎吾が何をしようとしているのか悟ったエムは舌打ちと共にゾフィーを引き剥がそうともがき、鋭くナイフをゾフィーの腕に向かって降り下ろす

 

「M……87光線!!」

 

 しかし、ナイフの刃がゾフィーの腕部装甲に刺さるより一瞬早く慎吾は、気合いの叫びと共にM87光線をほぼ零距離で発射した

 

「ぐっ……!」

 

 Z光線を放った直後の為エネルギーが足りておらず、本来より幾段か威力が落ちている状態で発射されたM87光線ではあったが、それでもエムを衝撃で小さく悶絶させると勢いよく後方へと吹き飛ばし、そのままエムはM87に押されながらアリーナのシールドバリアに向かって飛んで行くと、直後バリアはひび割れ、粉々に砕け散った

 

「はぁ……はぁ……うっ……!」

 

 一方でゾフィー最大の攻撃手段であるM87光線を超近距離で放った事による反動のダメージでゾフィーの装甲にも余波によるダメージが刻まれ、激しい衝撃で慎吾の体も傷付いていた

 

「慎吾さん!」

 

 しかし、それでもM87を命中させた事でシールドを突き破る程の大ダメージ、いやあわよくばシールドエネルギーを一気に減らして撃退したかもしれない。そう判断して慎吾と鈴が戦っている間に体制を立て直した一夏は慎吾の元に近付こうとし

 

「まだだ一夏! まだ奴は終わってない!」

 

「えっ……うわっっ!?」

 

 直後、慎吾の警告の声が響き渡り、それと同時に一夏の進路方向に割れたバリアの穴を通って二発のBTライフルの一撃が襲いかかり、慎吾の忠告で若干スピードが緩んでいた一夏は本来なら直撃していただろうそれを、危うい所で回避し、機体を軽く霞めるだけで済ませた

 

「何て奴だ……背後に全力で飛び退きつつ射撃でM87を弱体化させるとは……と、なると激突してバリアが割れたように見えたのも奴の偽装と言うことになるな……」

 

 自身で見ても0.1秒すら隙を与えず、決定的一撃となる筈だった一撃をいかにして防いで見せたのかを理解した慎吾は相手の技量に思わず息を飲まされた。しかも、被害はそれだけでは収まらない

 

「くうっ……! ちっ、これは……ちょっとキツ……!」

 

 先程、エムが放った二発のうちのもう一発は鈴の甲龍に直撃したらしく一夏の無事を安堵する間も無く、甲龍はスラスター部から白煙をあげるとフラフラと風に揺られる木の葉のように下降していくと、砂煙と地響きを立ててどうにかと言った形で荒く着地するとそのまま大地に倒れた

 

「鈴!!」

 

 それを見た咄嗟に一夏はつい先程まで自分が狙われていたのも忘れたかのような勢いで鈴に向かって飛び出して行き側に駆け寄って行く

 

「……っ!……奴が!!」

 

 と、そこで警戒の為に視線を向けた瞬間、M87で破壊されたバリアの穴から外に出ていたエムが再びBTライフルを構え最大出力までチャージしながら一夏に狙いをつけていた事に気が付いた慎吾は直ぐ様迎撃に動こうとし

 

「やらせませんわ!」

 

 それより早く、セシリアがスラスターをふかしながら勢いよく飛翔し勢いよくゼフィルスにタックルを仕掛けた

 

「セシリア……。よし、私も行くぞ! ハアアアッッ!!」

 

 自身の機体の高速パッケージを生かし、ゼフィルスを押していくセシリア。それを確認すると駄目押しをするかのように慎吾もまた一気に加速すると、勢いを利用し、ゼフィルスの左肩部をゾフィーの左腕で拘束して右ストレートを放ち、セシリアと共に二機の力で一気にゼフィルスを押し、アリーナから市街地へと放れて行く

 

「セシリア! 慎吾さん! 今、俺も……!」

 

「いや、駄目だ。一夏、お前に残されたエネルギーは残り少なく、決して多くはないだろう。一夏、今はお前は自分のエネルギー補給に集中するんだ」

 

 鈴の一先ずの無事を確認した一夏が慌ててその二人の後を追おうとしたが、それを慎吾が止める

 

「この場は私達にお任せ下さい!」

 

 それにつき足すようにセシリアが最後にそう言うと、ティアーズとゾフィー、二機のISはゼフィルスを拘束したまま大きくアリーナから放れていった



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124話 痛撃

 プライベートで大幅に執筆速度が鈍る出来事が起きて、執筆が当初の予定より大幅に遅れてしまいました。何とか今年中にはもう一話くらいは更新しようとしますのでどうかよろしくお願いいたします


「うぐっっ……!!」

 

 防御し損ねた一撃を胸に受け、光は苦悶の悲鳴をあげると吹き飛ばされ、衝撃で背後にあった観客席の椅子数個と、コンクリートの床の表面を吹き飛ばし、煙を巻き上げながら静止した

 

「光ちゃん!!」

 

 肩を並べて戦っていたヒカリが吹き飛ばされた事により、ランスを構えていた楯無が警戒したまま一瞬、光へと視線を向ける

 

 

「だ、大丈夫だ会長……まだ俺は戦える……」

 

 そんな楯無に気づかい無用と言わんばかりに光は自身に折り重なったいくつかの椅子とコンクリート片を払いのけて立ち上がる。しかし、その胸のタイマーは既に赤色に変わって点滅しており、ヒカリに残されたエネルギーが枯渇し始めている事を示していた

 

「ね、これでよく分かったでしょ? 例えあなた達二人がかりでも私のISを突破できない。だからやめておきましょう?」

 

 そんな二人を前に、スコールは当初から放っていた余裕を崩す様子は無くあまつさえ二人を前に冗談のように手を広げてそう言う余裕すら見せていた。

 

 光と楯無がタッグを組んでスコールと対峙して数分、光、楯無共に未だにスコールが本気で攻撃を仕掛けて来てないのにも関わらずシールドエネルギーが枯渇し始めていた

 

「確かに戦闘での実力は認めよう……だが、その程度の事であまり此方を舐めてくれるなよ。亡国企業」

 

 現状はまさに何も分からぬ子供が見ても理解出来る程、圧倒的に慎吾と光が不利。しかし、それでもなお光はふらつき始めた足に気合いを入れてしっかりと屹立し直し、再び構えを取って戦闘続行の意思を見せた

 

「そうね……例え戦いにも……勝負にも。そのどちらでも勝てる手が見つからなければ戦わない。確かにそれは賢くて正しい選択なのかもしれない……」

 

 それに続くように楯無もまたヒカリの隣に並び立ち、静かに語る。いつの間にか楯無のミステリアス・レイディが纏っている水のヴェールは刃に変わっていた

 

「だけど私はIS学園生徒会長、更識楯無。ならばここで引くなんて振る舞いはあり得ない……!」

 

「……あぁ! その言葉に今ばかりは俺も乗らせてもらう!」

 

 覚悟を決めたようにそう宣言する楯無。それに光は力強く笑いながら賛同した

 

「はぁっ!」

 

 直後、掛け声と共に楯無は水のドリルを纏ったランスを構えてスコールに電光石火の如く突撃し、それと同時に光はナイトブレスを頭上にかかげると、残されたエネルギーを大胆に注ぎ込み、それに呼応してナイトブレスはそれに反応して青く光輝き始めた

 

「行くわよ光ちゃん!」

 

「あぁ、分かった会長。君に合わせる!!」

 

 その瞬間、スコールに向かって楯無が勢いを利用して高速でランスの三段突きを放ち、同時に三段突きかま放たれる際に生じた僅かな隙間を縫うように光はナイトシュートを発射した

 

 

 二人が同時に声をかけあった事でほぼ回避不可能と言える二条の攻撃ではあったがスコールはそれに全く動じず、ナイフを両手で数本を一気に掴み取るとそれを迫るランスと光線に向かって一気に投擲した

 

「そんなもの……!」

 

 複数本が一度に投擲されたと言うのにも関わらずナイフはその一本一本が鋭く早い。が、その飛ぶ軌道は甘く、楯無はそれを水の刃で切り裂こうとし

 

「いや……待て会長! 何か妙だ!」

 

 その瞬間、叫び声と共に光がそれを制止し、楯無を庇うようにナイフの前へと躍り出た

 

「光ちゃ……!」

 

 突如出てきた光に驚いた楯無が声を発したその瞬間、ヒカリに迫っていたナイフが一斉に大爆発を起こし、発生した爆風が楯無の盾がわりとヒカリを一気に飲み込まんとし

 

「はぁっ!!」

 

 その瞬間、ヒカリはナイトブレスからナイトビームブレードを出して絶妙のタイミングで爆風を切り裂き、自身やその背後にいる楯無に届く前に爆風を霧散させて無力化させた

 

「ぐっ…………!!」

 

 しかし、只でさえ戦闘でエネルギーを浪費していた上にからナイトシュート、ナイトビームブレードとエネルギーシールドを立て続けに消費した事で、ついにヒカリのエネルギーは底につき、光自身も肉体と精神の両方で立ち上がる事すら困難な程に疲弊してしまい、爆風を切り捨てた途端に光は糸が切れたように床に膝をついて倒れ、崩れ落ちた

 

「楯無会長……俺はいい……早く……奴を……!!」

 

 限界近くにまで傷付き、上手く力が入らない体を地面を引きずり無理矢理動かしながらも、光は掠れるような声で楯無にそう進言した

 

「いえ……駄目ね……今ので逃げられたわ……追跡も間に合いそうにないわね……」

 

「……そうか」

 

 が、しかし、楯無は既にハイパーセンサーでナイトシュートとナイトビームブレードの刃の範囲から離れていたナイフとが激突した事で発生した濃い黒煙に紛れて逃げ出すスコールの姿を既に見つけており、珍しく心底悔しそうに歯噛みしながそう言い、光も悔しさを隠せない様子で小さく呟いた

 

「しかし……偉そうに啖呵を切っておきながら、自力で立ち上がる事も出来ない程のダメージ……か。俺も格好がつかないな……これは……」

 

「私もお互い様……かしらね?」

 

 戦闘により乱雑に荒れた観客席内で互いに満身創痍に近く、満足に動くことも出来ない中、楯無と光はそうして顔を見合わせながら苦笑いを浮かべる事しか出来なかった

 

 

 併走しながらゼフィルスとの激闘を続ける慎吾は、猛攻を掻い潜つ、セシリアのBTライフルの射撃と合わせ、一瞬の隙を見て体を捻らせながら急接近すると勢いよく回転し、右足で鋭く回し蹴りを放つ 

 

「……」

 

「ぐあっ!?」

 

 しかし、空気を切り裂くかのような轟音を立てて放たれた蹴りは予めその攻撃タイミング、更には軌道や打ち込む箇所さえも読まれていたかのごとくゼフィルスに回避され、逆にカウンターとなる形でゾフィーの胸部に連続射撃が叩き込まれると慎吾は悲鳴と共に吹き飛ばされ、咄嗟にセシリアが動いて慎吾を空中で受け止める事でどうにか墜落を免れる程の手痛いダメージを受けた

 

「慎吾さん、お怪我は!?」

 

「すまない……大丈夫だセシリア。だが……くっ……やはり恐ろしく手強い……!」

 

 会場を離れ、市街地上空でセシリアと組んで戦闘を続けている慎吾ではあったがゼフィルスの圧倒的な戦闘技術が二人を寄せ付けず、確実に慎吾達はゼフィルスに押し切られつつあった

 

「このままでは、例え援軍が来るとしてもそう長くは持たず……」

 

 戦闘をしつつ、脳を最大限活動させて作戦を練るものの、防戦一方へと追い込まれて行く現状への解決策をどうして発見する事が出来ず慎吾は銀仮面の下で額に汗を浮かべ焦燥を隠せない様子で呟く

 

「……ええ、二人共々やられてしまいますわね……ですが……決してそうはさせません」

 

「……セシリア?」

 

 セシリアがそう言った瞬間、思わず慎吾はゼフィルスに向けていた視線を外すと、振り返ってセシリアの顔を見つめる。

 

「慎吾さん、申し訳ありませんが援護をお願いします!」

 

「……セシリア!? 無茶をするな!」

 

 その瞬間、セシリアは手に格闘ブレード『インターセプター』を呼び出すと、背後から呼び掛ける慎吾の制止も聞こえてないかのような勢いでゼフィルスに向かって突撃して行き、それを見た遊ぶかのように余裕を持ってナイフを呼び出し、たちまちのうちに鋭い金属と激しい火花が弾け飛ぶ格闘戦が行われた

 

「仕方ない……持ちこたえてくれよセシリア……!」

 

 それを確認した慎吾は、もはや制止は間に合わぬと判断して素早く構えると高速で移動を続けながらスラッシュ光線をゼフィルスに向かって放ち、セシリアを援護する体制に入った

 

「(今のセシリアは……こんな状況とは言え自分の本来の戦闘スタイルを見失っている……何とかしなければならないが……奴の隙を見つけられない……!)」

 

 現状打破とセシリアの為にもゼフィルスを一刻も早く撃退すべく慎吾は何とかM87を放つ隙が無いものかと探るが、先程アリーナでM87を放った際に受けたその威力を警戒しているのかゼフィルスは慎吾が僅かでもM87を放つ為のチャージする素振りを見せればセシリアの対処をしつつ即座に待避や慎吾への妨害を行い、決してM87を放たせようとはせず、格闘戦を仕掛けていたセシリアも苦戦しブレードを弾かれ、無慈悲な連続射撃を全身に受けてしまう

 

「まだ……ですわ……!」

 

 そんな状況の中、ゼフィルスに追い込まれたセシリアが自身の最後の切り札、セシリアのブルー・ティアーズに今現在装備されているレース用の高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』その仕様の際に大前提として決してやってはならないと言われている禁止動作ブルー・ティアーズ・フルバースト。即ち閉じられている砲口から発射し、パーツを吹き飛ばす事によって可能とする四門同時発射を行い 

 

 直後、ザクリと言うゼフィルスの銃剣の刃が肉を貫く鈍い音が響いた



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125話 決着。そして……

 誠に遅くなりましたが、これで今年の投稿は最後になります。来年からは以前の調子を取り戻してスムーズに更新して行こうと心がけてゆきますので、どうか2018年も本作をよろしくお願いいたします


「うっ……!ああぁっ……!!」

 

 ISの装甲をも貫いて刃が生身の体に突き刺さり、苦悶の悲鳴と共に赤い血液が飛散して飛び散り、その一滴がセシリアのブルー・ティアーズに付着した

 

「えっ…………?」

 

 自身の機体に付着した血液を見たことでようやく硬直から解放されたセシリアは一瞬、呆けたような声を上げる

 

 とは行っても、セシリア自身の体には戦闘による鈍いダメージはあちこちにあるものの、決してそれは刺されたような痛みでは無い。ではこれは誰の血なのかそこまで思考が戻された所で

 

 セシリアの目には自身を庇う盾のような形でゼフィルスの前に立ちふさがり、ゾフィーの装甲ごと腹部を貫かれ、力無く腕を足らした慎吾の姿が目に入った

 

「慎吾さん!? ど、どうして……!?」

 

 それを理解した瞬間、セシリアの顔から瞬時に血の気が引いて青ざめ慎吾の名を叫んだ

 

「がっ……だ……大丈夫かセシリア……?」

 

 しかし、そんな状況にも関わらずセシリアの声に反応して今にも止まりそうな程に弱々しくか細い動きで振り返った慎吾が発したのはセシリアを気遣う言葉であり、無理をして力強く見せようとしている声は掠れ痛々しいものであった

 

「セシリア……君の抱える事情は私には分からないが……今の君が本来の戦い方を忘れてしまっている事だけは理解できる……」

 

 貫かれた腹部から出血は止まらず、ゾフィーの装甲を伝ってぽたり、ぽたりと血の雫が足先から零れ落ち、宙を落ちていく中、慎吾は激痛で失いそうになる意識の中、懸命にセシリアに向かって語りかける。たとえここで自身が倒れる前に、一対一でゼフィルスと戦う事になるであろうセシリアにはどうやってであれ伝えなければならない事が慎吾にはあったのだ

 

「セシリア……どうか初めてあの私と戦った時、第三アリーナで見せてくれた気高い自身に満ちた君を……そのの精神を思い出してくれ……そうすれば君は必ず……!」

 

「死に損ないが……何時までもうっとおしいぞ……!」

 

「ぐわ…………っ!」

 

 だが、しかし、その言葉を言い終える前にゼフィルスの近距離での連続射撃がゾフィーに襲いかかり、慎吾は悲鳴と共に落下して足下にあったビルの屋上へと向かって墜落し、鈍い音と共にコンクリートの土煙を上げて屋上にクレーターを作った

 

「慎吾さん…………!」

 

 ハイパーセンサーで捉えた土煙の中、ビルの屋上で倒れたままピクリとも動かない慎吾を案じてセシリアは叫ぶ。ゾフィーの胸元のカラータイマーが非常に弱々しくはあるが点っていた為に保護機能が慎吾を守っていてくれる事は理解出来るがそれでも安堵は出来ない。だからこそ

 

 最速で最短で決着を付けなければならない

 

「行きますわよ……ブルー・ティアーズ……」

 

 そう心に決めた瞬間、セシリアは自分でも驚く程に心が落ち着き、澄みきっている事に気が付いた。ゼフィルスの動きでさえスローモーションの如く緩やかに軌道が良く見え、自然と微笑みすら浮かべていた

 

 そして、セシリアの心の中で蒼い雫が一滴、水面に落ちて波紋を作り、それと同時にセシリアは指を折り曲げ、片手で小さくピストルを作った

 

「バーン」

 

「!?」

 

 セシリアが理解した上で放ったそう発した瞬間、エムを『背後から』四本のビームが貫き、このエ戦いの中でムが初めて動揺を見せ、体勢を崩した

 

 BTエネルギー高稼働時にのみ使える偏向射撃(フレキシブル)それをこの土壇場でセシリアは物にして見せたのだった

 

「見事だセシリア……それでこそ……それこそ君らしい……」

 

 起き上がる体力も尽き、仰向けの状態で倒れたままの状態ながらも、しっかりと真下からその光景を見ていた慎吾は満足そうにそう呟くと、慎吾は体の促すまま自身の意識を手放していくのであった

 

 

『たぁーっ! やあっ!! はあっ!!』

 

 まだ門下生が誰も来ていない早朝の道場、そこで小学生の慎吾は掛け声と共に指示通り、右拳、左拳、そして右足での蹴りを次々と空に放って行く。その動きには未熟さが隠しきれないものの、それでも拳や蹴りはしっかりと空気を切り裂いており、同体格の相手との試合ならば十二分に効果を発揮する程度の完成度を持っていた

 

『うん、なかなか様になってきたじゃないか慎吾。前よりずっと動きもキレも良くなってるぜ』

 

 そんな慎吾を道場に備え付けられた椅子に座って見ていた指導者も満足そうに言った

 

『あっ……ありがとうございます!』

 

 誉められた慎吾はと言うと慌てて訓練の手を止めて指導者に礼を言って頭を下げた

 

『……相変わらず、超がつくほどの真面目だな。アイツと……それからケンの奴の影響かそりゃあ? 若いうちは、もう少し年相応の子供らしくしててもいいと思うぞ?』

 

 そんな慎吾の態度に指導者は苦笑しながら慎吾の事を想い、やんわりとそう忠告した

 

『ですが……私は早く父のような立派な人物になりたくて……』

 

『気持ちは分かるが……そいつは今、お前が必要以上に急いだ所で身に付くようなもんじゃあないぞ?……まぁ、いいか……その辺の所は今の武術に加えてオレがのちのち教えていってやる。覚悟しろよ?』

 

 困ったようにそう答える慎吾に指導者は再び苦笑すると大きく溜め息を吐きながらも、そう言って慎吾を導き続ける事を誓い。慎吾も迷わず指導者のその言葉を信じ、それに答えて見せると決意した

 

 そう、あの『事件』が起こるまでは

 

◇ 

 

「……て。……ください慎吾さん……っ!」

 

「う……うう……」

 

 時間にすれば十年とほんの少しなのにも関わらず遠く、手が届かない程に遠くに感じる記憶の夢を視ていた慎吾は必死に呼び掛けてくる誰かの声で意識を取り戻し、うめきながらゆっくりと目を開いた

 

「ああ……よかった……目を覚まされましたわ……」

 

「慎吾さん! 体は大丈夫ですか!?」

 

 慎吾が目を開いて見れば、セシリアが慎吾の上半身を助けおこし、白式を展開させた一夏と共に心配そうな表情で慎吾を見ていた

 

「あぁ……私は大丈夫のようだが……そうだ、ゼフィルスはどうした!?」

 

 どうやらゾフィーの保護機能が上手く働いてくれたらしく、既に腹部の出血は止まっており多少の痛みはあるものの慎吾が起き上がる程度にまで体力は回復しており、それを確認すると慎吾はすかさず一夏にゼフィルスの行方を尋ねた

 

「……あいつは……俺と少し戦ったら、誰かの連絡を受けて退散して行きました……」

 

「そうか……」

 

 どこか悔しげにそう語る一夏に慎吾は静かにそう一言だけ答える。優しい一夏の事だ疲弊したセシリアや傷付いた自分を置いて相手を追跡するなど端から選択に無かったのだろう。しかし、慎吾はそれを責める気などまるで無かったし、それこそが一夏が皆に好かれる美点だと理解していた。故に慎吾はそれ以上何も一夏に聞くことは無かったのだ

 

「あの……慎吾さん……ありがとうございました」

 

 と、そこで黙っていたセシリアが何かを決意したような表情で口を開き、慎吾に礼を言った

 

「気にすることは無い……セシリア、君には元よりあれを物に出来る力を持っていたんだ……私はただ君の背中を押しただけに過ぎない。あれは間違いなく君自身の力で編み出したものだ」

 

「慎吾さん……いえ……例えそうだとしてもここでお礼を言わせてくださいな……それで……ですね……」

 

 セシリアに柔らかく微笑みかけながら慎吾がそう返事を返した時、セシリアは何故かはにかみながら頬を染め

 

「慎吾さん……もし、許してくださるなら、これから貴方の事を……『お兄様』と、お呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「……君もか」

 

 セシリアの言葉に慎吾は思わず苦笑する。家族がいなくて寂しいと吐露した自分に一年と満たずにこう次から次へと妹が増えて行くのは嬉しくもあるが、慎吾にはある意味で一種の皮肉じみたものさえ感じているのであった



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126話 打ち上げパーティ。 『協力者』の暗躍

 遅くなりました。今回、以前登場した協力者についてのヒントが僅かに出ます。
 勘の鋭い方ならば今までのヒントで既に協力者の正体に気が付かれるかも知れません


「しかし……本当に俺も参加して良かったのか? 俺は慎吾と違って君達とはあまり長い付き合いでは無いのだが……」

 

「僕も……皆さんとは二回くらいしか顔を合わせた事しか……」

 

 あれから時間が過ぎて夕方5時、一夏の誕生日パーティ会場と化した織斑家で私服姿の光と光太郎は若干、居心地が良く無さそうな様子でそう言った

 

「あら、そもそも一夏くんから許可は貰っているし、光ちゃんは私の友達で、光太郎くんは今回の事件のヒーローの一人でしょ? 誘われておかしい理由は無いわよ」

 

「うん、楯無会長の言葉に乗るわけでは無いが……私もここは深く考えず呼ばれた事に感謝して素直に楽しんだ方がいいと思うぞ?」

 

 二人の言葉に楯無は飄々としたいつもの調子でそう答え、腹部の傷がゾフィーのお陰か浅く、既に殆んど塞がっていた為に参加出来た慎吾も同意するようにそう言った

 

「ええ、ここまで人数が増えれば何人増えようと同じだし……光さんも光太郎くんも楽しんでいってください」

 

 そう一夏は苦笑しながら、やや広いとは言ってもあくまで一般住宅レベルでしか無い織斑家のリビングに集結した面々を見渡す。

 

 主役の一夏は当然としてそこに慎吾やいつものメンバーを含めた7人。そこに一夏の男友達である五反田弾に、慎吾とは初顔合わせになる御手洗(みたらい)数馬(かずま)に弾の妹の蘭の3人。更に生徒会から楯無に虚と本音の3人。どういう訳か新聞部から薫子まで駆け付けた事で計13人。更にそこに加わるのは光太郎ともう一人

 

「皆さん、ちらし寿司が出来上がりましたよ。どうか温かいうちに召し上がってください」

 

 と、一夏が何気無く集まった人数を数えていると厨房から先程まで一夏から許可を貰って調理に励んでいた女性。十五人目の参加者であり光太郎の保護者役としてきていたマリが持参した大きな寿司桶を抱えて姿を表す

 

「しかし……マリさん、初めて来る家とは思えない程に厨房に立つ姿が馴染んでいるな」

 

「本職が北斗と光太郎の二人を育てあげてる主婦だからな……自然と貫禄がついているのだろう……」

 

「あっ……! ぼ、僕も行きますっ!」

 

 そんなマリを見て光と慎吾は顔を見合わせて苦笑すると、すかさずマリの手伝いに向かい、その後に一歩遅れて光太郎。さらに一歩遅れて自分も何かしようと一夏も動き、四人はさながら一つの兄弟のように並んでマリの元への歩きだすのであった

 

 

「……ところで慎吾、今回の一連の事件。お前はどう判断する?」

 

 夕食後、後片付けを終えて息抜き変わりにリビングの端辺り、小さなテーブルを囲んで慎吾と光の両者が将棋を打っていた時、ふと光がそう真剣な表情で慎吾に向かって問いかけた

 

「そうだな……相手の……亡国機業の情報が少なすぎて私からは大した事は分からない。だな、今回は。精々、分かったのは今回の闘争の中で私達が交戦したゼフィルスの同乗者は『本気を出してない』。しかし、それでも私達は録なダメージを与える事が出来なかった。……ただ、それくらいだ」

 

 光の問いかけに慎吾は、手にした将棋の駒を握りしめたま、僅かに考えを纏める為に僅かに沈黙すると静かにそう告げた

 

「そうか……お前もか……」

 

 そんな慎吾の返答を光もおおよそ予測していたのか、光は憂いを込めた表情でため息をつくと、ぽつりぽつりと半ば愚痴にも似た事を語り始めた

 

「何の情報も掴めない上に、明らかに手加減をしている敵に逃げられ、おまけにレース直後に最低限の補修だけでの戦闘だったからヒカリもダメージでボロボロ。はぁ……まさに骨折り損と言う奴だな……」

 

「まぁまぁ、光ちゃんの気持ちは私にも分かるけど……今だけはその事については置いておいて、楽しんでもいいんじゃない?」

 

「……会長」

 

 と、光が今日の一連の戦いを振り替えって大きく溜め息を付くと、いつの間に移動していたのか光の背後から楯無が軽く肩を叩いて光をそう励ました

 

「そう……ですね……。私達がここで悩んでいても事態が動くわけでもあるまいし……」

 

「張りつめるだけじゃなく、息抜きも重要……って言うことだな……」

 

 楯無の言葉で慎吾と光は幾分か緊張が解れたらしく、共に固めていた拳をゆっくりと開くと険しかった目を緩め、再び盤面へと視線を移す

 

「ふぅ……ありがとう楯無会長。おかげで幾分か落ち着きを取り戻す事が出来たようだ。危うく折角の勝負も楽しめなくなる所だったよ」

 

 慎吾は胸の中に立ち込めていたもやもやを一気に吐き出すかのように一息つくと、そう楯無に礼を言う。その言葉が真実である事を示すかのように、自然と微笑みを浮かべる余裕すら慎吾には出来ていた

 

「俺からも礼を言わせてくれ楯無会長。本当に助けられたよ」

 

「あら、ふふ……流石にそう素直にお礼を言われると流石に照れちゃうわね」

 

 続いて光からも礼を言われると楯無は懐から扇子を取り出して開くと、扇子で口元を隠しながらごく自然な動きで優雅に笑った

 

「あっ、慎吾さん光さんは将棋ですか? そうだ、一局終わったら僕にも四枚落ちで打たせてくれませんか?」

 

 と、そこで鈴やシャルロット達と混ざって大人数で遊べるボードゲームに参加していた光太郎がボードゲームを終えて、慎吾達の元へと駆け寄ってきた

 

 パーティの序盤こそ場違いのような自身の存在に戸惑っていた様子の光太郎ではあったが、今ではすっかり皆と打ち解けて、このようにプレイ可能人数の限界の為に慎吾達が光太郎に参加を譲ったボードゲームを心から楽しめていた

 

「……うん? あぁ、いかんいかん、俺とした事が忘れる所だったが楯無会長、光太郎に『アレ』を渡してくれないか?」

 

「あら……そうね、今の今まで渡す暇が無かったから、ここで渡した方がいいわね」

 

 と、そこで光が光太郎の姿を見て何かを思い出したかのように楯無にそう言い、光の言葉に楯無は軽く頷くと手にしていた扇子を仕舞い、自身の懐を探ると、一枚の封筒を取り出した

 

「光太郎くん。君に『どうしてもお礼を言いたい』って、言う人からお手紙があるの。私と光ちゃんはアリーナでこの手紙を受け取ったのよ」

 

「僕に手紙……?」

 

 不思議そうな顔をしながらも光太郎は素直に楯無の手から手紙を受け取ると、そっと封を開き、中に入っていた手紙を取り出すと、手紙に書かれていた内容を読み上げ始めた

 

「えーっと……『ありがとう。キミのおかげでレースを見に来ていた人たちを全員安全に避難させることが出来ました。大したものじゃないけどお礼にこのフリーパスチケットをプレゼントします。どうか家族やお友だちと一緒に楽しんでください』……差出人は……『君に助けられた警備員マドカ・ダイゴ』?」

 

 と、手紙を読み終えた光太郎が封筒に書かれていた宛名を読んだ瞬間、開いた封筒の口から一枚の紙切れがこぼれ落ち、チケットらしき軽い紙切れは重力に従って、ひらひらと空中を舞いながらゆっくりと落ちていき

 

「これが……そのチケットか……?」

 

 チケットが床に落ちる前に素早く慎吾が右手でキャッチして、改めてチケットを確認しながら呟く

 

「あら……もしかしてこれって『DE・BANDA・デバンランド』の一日フリーパスじゃない?」

 

 そのチケットを見ると、楯無は珍しく驚いたようにそう言いながら慎吾からチケットを受け取って確認する

 

「デバンランド……? どこかで聞いたことがあるような……」

 

「えっ!! デバンランドのチケット!? 予約が二年先まで埋まってるってあの!? ちょっ……本当に!?」

 

 チケットに書かれていた何処か聞き覚えがあるような施設の名前を慎吾が思い返そうとした瞬間、たまたまそれを聞いていた鈴が先程の楯無と同じく、いや、それ以上に驚愕した様子で叫んで我が目でチケットを見ようと駆け寄る

 

「さっきから一体何の騒ぎだおにーちゃん? もしや……敵襲か?」

 

「いや……流石にそれは無いと思うよ……」

 

 その騒ぎを聞いてラウラとシャルロットも駆けつけ、再び織斑家のリビングは騒がしくなり始めた

 

 

「よぉ……久しぶりだなスコール、それにオータム。はははっ、元気にしていたか?」

 

 その日、久方ぶりに『協力者』はスコール達の前に姿を現し、そう最後に会ったとき変わらぬようなニヤニヤと人を小馬鹿にしているかのような笑顔を浮かべながら、言うなりまるで我が家のように堂々とした態度で椅子にもたれ掛かりくつろぎ始めた

 

「てめぇ……」

 

「あら、事前に来ると言ってくれれば前もってお茶とお茶菓子くらい用意したのに……」

 

 自身の中でもトップクラスに気に食わない相手である協力者の尊大な振舞いが腹立たしくて仕方がないのか隠しきれない程の殺気を込めて協力者を睨み付けるオータム。一方でスコールはまるで協力者の態度を気にかけた様子は無く、まるで長年の友達が家を尋ねてきたかのように優しく微笑みかけながら、お茶の準備を始めた

 

「なぁに、……エムが『アイツ』とやりあったと聞いてな。興味本意で今日、アイツがどれだけ成長していたかエムの奴から話を聞いてやろうかと思ってきたんだが……エムの奴はどこだ? もし、この場にいるなら俺を即効でぶち殺そうとする筈だしな」

 

 協力者はざっと室内を見渡し、目的のエムがいないことを理解すると相変わらずヘラヘラと『エムが自分を殺そうとする』のが心底面白い。と、でも言いたいかのように笑いながらそうスコールに尋ねた

 

「あぁ……あの子なら『彼』の所に向かったわよ。……お土産を持って独断でね」

 

 協力者の問い掛けに答えながらスコールは最後に手の指を折り曲げ、銃を作って見せた

 

「くくっ……織斑の弟か……そいつはエムが帰ってきた時がますます楽しみになったなぁ……」

 

 スコールの言葉に協力者は自身の黒い頭髪を揺らすと満足そうに笑う

 

 エムが実際に一夏を殺害出来ようが出来まいが、そんなことは協力者には心底どうでも良いことであり

 

 どちらに転んでも自身はたっぷりと楽しめそうだ。と、言う確信に近い予感だけが協力者の胸の中を包んでいたのであった



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127話 新たなる妹、セシリア

 最近の寒さで幾度も指先が冷えまくりなかやら、どうにか更新。ここ最近の寒さは心底身にしますね……光の戦士でなくても寒さが嫌いになりそうです


「一夏……繰り返して言うが何故、そんな大切な話をすぐに皆に話さなかったんだ?」

 

「それは……その……すいません……楽しい雰囲気に水を差したくなくて……」

 

 腕を組み、珍しく非難するような口調で言う慎吾に押され、一夏は思わず額に汗を浮かべた

 

 休日が開けた月曜日、その夕食の席で一夏の口から語られた、先日の一夏の誕生日祝いの最中、皆の飲み物を買い出しに出掛けていた一夏に降りかかった亡国機業による襲撃により、その場に駆けつけ一夏を助けたラウラを除いた全員は大きく動揺し、その中でも特に慎吾の反応が大きく、鋭い視線と説教をするような口調で先程から一夏の行動に注意を促していた

 

「なるほど一夏、『水を差したく無い』と言うその気持ちは私にも理解できる。しかし一夏……それで君にもし万が一の事があったら、それこそ水を差すどころでは無い事態になるぞ?」

 

「そ、それは確かに……そうですね。今回は俺が悪かったのかもしれません……改めてすいません」

 

 慎吾の口調は何時もより若干厳しい物ではあったが、それはあくまで一夏を想った優しさから来るものであり、それを理解しているのか慎吾の言葉を聞き終えると一夏は静かに頭を下げた

 

「うん、分かってくれたのなら何よりだ。それと……私も謝らせてくれ。すまなかったな、説教のような真似をしてしまって」

 

 それを見ると慎吾はつり上がり気味だった顔を緩めて、笑顔を浮かべながらそう言うと今度は自身が一夏に向かって謝罪してみせた

 

「それはそうとお兄様、お体の具合はいかがですか? 本日の教室移動の際、少しだけ歩き方に違和感があるように思えましたので……私、お兄様の妹として心配でして……」

 

 と、そうして円満な形で一夏と慎吾の話し合いに決着が付いた所でセシリアがいそいそ一夏から対面の席に腰掛けている慎吾の方に身を乗りだし、実に自然な口調で慎吾を『兄』と呼びながらそう問い掛けてきた

 

「あ、あぁ……ごほん。……まだ腹部に少々痛みはあるが特に問題は無い。傷の回復も非常に良好だそうだ」

 

 突如、不意打ち気味にセシリアに兄と呼ばれた事で少しだけ慎吾は動揺するように口がもつれたが、どうにか話の途中で一つ咳き込みをして呼吸を整える事で落ち着きを取り戻し、セシリアの問い掛けに答える事が出来た

 

「むぅ……セシリアまさかとは思うけど忘れては無いよね?」

 

「ここに、お前よりずっと先に、おにーちゃんの妹になった二人がいるんだぞ……?」

 

 一方でそんなセシリアの態度が面白くないのかシャルロットとラウラは、あからさまに不満げな様子でそうセシリアに言う。ちなみに共に頬を膨らませながら喋るその仕草はほぼ同じと言うレベルでシンクロしており、その様子は、はたから見ればさながら顔の似ない姉妹のようにも見えた

 

「えぇ、シャルロットさん、ラウラさん、もちろん決してお二人を蔑ろになどしませんわよ?」

 

 そんな二人の態度にもセシリアは全く怯んだ様子は見せず、気のせいか何時もより僅かばかり余裕がある態度で優雅に微笑を浮かべると、言葉を続ける

 

「今日からお二人とも、お兄様の……そして私の妹として快く歓迎いたしますわよ?」

 

「「んなっ!?」」

 

「!? ぐっ……げほっげほっ……!」

 

「ちょっ……あんた大丈夫!?」

 

 さも当然のようにそう口にしたセシリアの発言に、慎吾の妹を名乗る身としてそれを見過ごせずシャルロットとラウラは立ち上がり、自身の予想の斜め上をぶち抜かれた事で慎吾は思わず口にしていた味噌汁を盛大にむせかえらせ、その慎吾を一番近くの席に座っていた鈴が慌てて未使用のおしぼりを差し出しながら介抱した

 

「ぼ、僕達を差し置いて、いきなりお兄ちゃんの妹だと主張したかと思ったら今度は、長女を名乗るなんて……そんなの認めるわけにはいかないよ!」

 

「そうだ! 私が次女に落ち着くまでに一体、どれほど協議したと思う! どうしても、おにーちゃんの妹を名乗りたいなら三女を名乗れ!」

 

「いえ、私こそが長女! 即ちお兄様を支え、妹達を見守る真なる妹なのです!」

 

 本人達は至って真剣なのだろうが、次第にヒートアップしながら討論する、シャルロット、ラウラ、セシリアの三人ではあったが、語る内容はと言えば理解し共感する事に中々の努力を必要とするような主張であり、実質、三人の会話を中ほど聞いた辺りで箒は心底呆れ返ったような表情で三人を見ており、鈴は興味が失せたのか我関せずと言った様子でさっさと自身の食事を楽しみ始め、一夏はただただ勢いに圧倒されて何もすることが出来ず、呆然としていた

 

「……シャルロット、ラウラ、セシリア、君達三人が私の事を想ってくれるのは本当に嬉しい。兄として誇り高いばかりだ。だが、しかしな……」

 

 一行に騒動に収まりが見られず、騒ぎと食堂内での注目を集めてゆく三人を見かね、元々は自身のせいで起こったような事態だからと覚悟を決めた慎吾が何とか説得しようと口を開く、まさにその瞬間だった

 

「はぁ……何を延々と馬鹿な事を大声で騒いでいるか、大馬鹿者どもめ」

 

「ひゃうっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 深い溜め息と共に、空気を鋭く切り裂く音が響いたかと思うと、華麗に三発の出席簿の一撃が周囲を見るのを忘れる程に集中して議論していた三人のそれぞれ額を的確に打ち付け、議論を強制的に中断させた

 

「織斑先生……」

 

「あっ……うっ、千冬姉!?」

 

「詳しい話は知らんし聞かんが、大谷。こいつら三人はそれぞれお前の妹を名乗り、お前はそれに答えているのだろう? それと……織斑先生。だ、織斑」

 

 椅子にうずくまり痛みに悶絶する三人と、流石に出席簿での一撃の痛みだけは理解出来るのか三人に同情の視線を向ける箒と鈴を一瞬、見下ろしながら千冬は慎吾と正面から相対し、……ついでに不意を突かれたせいかうっかり失言をした一夏に返す刃の要領で出席簿の一撃を食らわせた

 

「話を戻すが……大谷、仮にも兄を名乗っている以上、妹達の面倒はお前がしっかりと見てやれ。それは長男長女に課せられた共通の義務だ」

 

「織斑先生……えぇ、それは勿論。私に出来る全力で為して行きます。今までも……これからもです」

 

 そう語る言葉からは言葉に出さずとも千冬自身もそれを課しているのであろう。と、確信出来るような強い意志を感じとる事が出来、それを理解した慎吾はそれに答えるよう自身の想いの丈を正直に伝えた

 

「……そうか、ならば今はその言葉を信じよう。だが、また騒げばお前も昨日の市街地戦について、謹慎処分も検討させてもらう……かもな」

 

「はは……それは、何としても避けたい所ですね……」

 

「大丈夫、大谷くんならきっと出来ますよ! 私が保障します!」

 

 慎吾の決意を聞いた千冬はそう言って不敵な笑みを浮かべ、それに対して慎吾は冷や汗を流しながら引きつった笑みを浮かべ、そんな慎吾を真耶が何故かしっかりと手を握ってフォローする

 

「い、てててて……角が……角が刺さった……」

 

 そんな三人のすぐ下では運悪く出席簿の一撃が傷付かず、痕が残らない程度にクリティカルヒットした一夏が悶絶していたのだが、残念ながら千冬から受けたプレッシャーに手一杯な慎吾にはそれをフォロー出来る余裕は残されていなかった



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128話 新武装検討中

 豪雪による雪降ろしによる疲労が蓄積し若干、更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。
 何とか一週間更新に戻せるよう努力していますが中々、一度失った調子を取り戻すのは難しいものですね……


「……なるほど、つまりは新武装。それも中近接戦闘用の武装が欲しい……と、いう事だな慎吾?」

 

 自身のベッドに腰掛け、シャワーから上がったばかりで、まだ幾分か水気が残る青い髪をバスタオルで拭き取りながら話を聞いていた光はそこで髪をふく手を止めた

 

 夕食後、二時間ほど一夏の部屋でコミュニケーション会(を、兼ねた姉妹議論の決着)を終えてから自室に帰宅した慎吾は一つの相談を湯上がりの光に相談していた

 

「あぁ、元はと言えばタイラントと戦った頃から感じていた事だが……今回のゼフィルスとの戦いでより強く感じたんだ。M87を撃つには近すぎて、ゾフィーの拳や蹴りが届かない距離にいる相手への攻撃と対抗手段をな……」

 

 今この場にいる相手が自分の他には親友である光だけと言う状況故に、珍しく慎吾は弱音を吐くような口調でそう、光に伝えた

 

 その脳裏によぎるのはタイラントの戦いで散々に手を焼かされた中距離で迫るワイヤーの一撃。そして射撃、格闘戦共に自身を圧倒して見せたゼフィルス、その襲撃者

 

「勿論、私の格闘技や射撃を疎かにするつもりはない。しかし、やはり想定を越えるような相手と戦闘になった際の緊急手段的措置として今の私には武器が必要だと感じるんだ……」

 

「なるほどな……事情は理解した」

 

 慎吾の話を全て聞き終えると、光はバスタオルを素早く動かし、大胆に髪に残された水分を拭き取るとじ、腕をくんで目を瞑り改めてじっくりと思考を練り始めた

 

「……お前の言っている事には俺も賛成する。是非、その期待に答えて武装を渡したい所だが……生憎Uシリーズそのものが中近接攻撃用の武装の開発が進んでいなくてな。今、使用可能なのは実質、以前のテストで使用したゾフィーとは機体そのものレベルで相性が悪い『アイ・スラッガー』のみ。これではとても実戦には使えないだろう? ……うぅむ……」

 

 そう言うと、光は額に手を添えてますます考え込み、余程悩んでいるのか口からは小さなうなり声すら聞こえていた

 

「……分かった。ならば光、これは元から私が言い出した事、私自身も新武装開発に加わろう」

 

「慎吾……?」

 

 そんな光の様子を暫し見ていた慎吾は、突如何かを決意したような表情でそう言い、光は慎吾から出された想定外の提案に思わず思考の手を止めると慎吾を見つめ返した

 

「いくら君の頭脳が優れているとは言え一から十まで全て決めるのは大変だろう? 参考になるかは分からないが、丁度、試しておきたいアイディアが私にもいくつかあるんだ。……無論、全ては君が引き受けてくれたなら。だが」

 

 最後にそう言うと慎吾は光からの返事を待つように言葉を止め、黙って光に視線を送った

 

「ふっ……技術知識面でのお前の実力を知ってる俺が断る理由もない。是非、手伝って貰おうじゃないか。これは……思ったより早い完成となりそうだな。中近距離用の新武装は」

 

 その視線を受けると、光はどこか満足そうに微笑み、慎吾にそう言うと早くも脳裏には完成の不が浮かんでいるのか、光は空を見上げながら口角をつり上げさせた

 

「しかし、そうなると更に、もう一歩手を……そうだ、許可を貰えたのならば彼女にも視てもらうとしよう」

 

「彼女? 誰か、今回の件で頼りになってくれそうな人物に心当たりがあるのか?」

 

 何かを思案するように呟いた光の言葉に反応して慎吾が尋ねると、光は静かに頷いて肯定し言葉を続ける

 

「あぁ……彼女、(かんざし)とは整備科で出会ってな、何回かISに関して話したり意見を貰った事があるんだ。本人は決してそうとは思っては無いらしいが……俺の目から見れば、実に優れた才能を持っている。知識、実力その両方がな」

 

「なるほど……それは新武装開発に協力を貰えたら大きな力になってくれそうだな。と、なると彼女の都合や用事も考えた上で協力してくれるか否かを迅速に話をつけた方がいいな……今からでも、その彼女と連絡出来るか?」

 

 光の話を聞くと、慎吾は納得したように大きく頷いてそれを肯定し、同時に光にそう問いかけた

 

「あぁ勿論。今の時間ならば彼女に連絡可能な事も把握している。早速、彼女に今回の事を伝えてみよう」

 

「では、早速頼む……と、言いたい所だが、少し待て光」

 

 と、そこで早速とばかりに腰かけていたベッドから自身の机に置いてあった携帯端末を手に取って通信を開始しようとしていた光を慎吾が若干、呆れたように制止する

 

「シャワーあがり直後に話しかけた私も悪かったとは思うが……連絡を取る前に、一旦落ち着いてせめて下着くらいは身に付けたらどうだ?」

 

 そう、シャワールームから出てきた直後から慎吾の話に付き合っていた光の姿は、裸の上から申し訳程度にバスタオルで胸元と股間を隠しただけの肢体があらわになる姿であり、それは例え二万二千歩譲ってもこれから相手に真面目な話を語らんとする姿では無かった

 

「……それも、そうか」

 

 慎吾の指摘を受けると光は改めて自身の体を見ると納得して小さく呟き、手にした携帯端末を再び机に置くと、こそこそと着替え始めるのであった

 

 

「通話……? いいところなのに……」

 

 同室のルームメイトの迷惑にならないよう布団に頭までくるまり、携帯端末で自身の好きなヒーローもののアニメを楽しんでいた簪は突如携帯に入ってきた一件の通話通知によりアニメの視聴を中断された事により、不快そうにそう呟いた

 

 アニメの中の話は強大な敵の攻撃に一度は逃げてしまい大きな犠牲を生んでしまった主人公が恐怖を振り払い、覚悟を決めて今まさに再び強敵に立ち向かうという最高潮の盛り上がりを見せており、それを邪魔された簪は表情こそ変えないもののかなりの苛立ちを見せていた。が

 

『夜分遅くに悪い簪、少し話したい事があるんだが良いか?』

 

「えっ……あっ……光さん……!?」

 

 その通話の相手、決して数は多くない自信が気がね無く会話できる光の声に恥ずかしさと嬉しさで大きく動揺とするのと同時に、簪の怒りは風船が割れるように弾けてしまうのであった



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129話 協力者は嗤う、二つは決断する

 一ヶ月も遅れてすいません。どうにか更新いたしました


「ぐっ……!」

 

「はっはっはっ、戻って治療を終えるなり威勢よく俺様に向かってきたと思えばそのザマか。無様だなぁ……エム。いや、そんなかわいい実力じゃあ……マ・ド・カちゃん。って言った方がいいかぁ? ん?」

 

 明かりもない部屋で部分展開していたISを解除すると『協力者』は余裕綽々と言った様子で残虐な笑みを浮かべると、足元で力無く倒れているエム、マドカを嘲笑った

 

「きっ、さまあ……っ!!」

 

 協力者によって無惨にプライドを踏みにじられたマドカは怒りと屈辱の声をあげながらも手にはしっかりとナイフを握りしめ、そのまま協力者に飛びかかりニタニタと笑みを浮かべる協力者の首をはね落とさんと床でもがくがそれを協力者によって負わされた体の内部ダメージと疲労、そして肝心のゼフィルスさえも協力者の反撃によって瞬時にシールドエネルギーが尽きてしまっていると言う現状が阻み、結果的にエムは協力者に向かって片膝を着いたまま怒りに満ちた形相で睨み付ける事しか叶わず、それを見た協力者はいっそ腹でも抱えだしそうな程に声をあげて笑いだした

 

「悪いけど今日の所は、そこまでにしておいてくれないかしら? 協力者さん?」

 

 と、そんな協力者を世間話でもするかのように落ち着いた、しかし欠片も油断はしていないと感じさせる口調で一人の人物が止めに入った

 

「ふん、スコールか……見ての通り今は取り込みの真っ最中。部屋に入る前にノックくらいしたらどうなんだ?」

 

「あら、私が止めなかったらエムはますます、あなたに痛め付けられてたでしょう? だからもう一度言うわ、そこで手を止めておいてね? 協力者さん」

 

 そう言いながらスコールは一見すればいつもと変わらないような笑顔でそう協力者に微笑みを向ける。それは頭に血がのぼっていたとは言え本気になっていたエムを余裕たっぷりに打ち倒した協力者。その相手をいざと言うときは自身一人でも十分に行う事が可能だと理解出来た上での判断の上での余裕であり、ISを展開させずともスコールの実力がいかに優れているのか証明になっていた

 

「はっ……だったら次からはエムに『自分と相手の実力差は見切れないと早死にする』ってしっかりと教えておいてやるんだな……出ないと……」

 

 スコールの言葉に協力者は以外な事に素直にそれに従い、相も変わらず人を小馬鹿にしているかの顔を浮かべながらもマドカから離れ、スコールと入れ替わりになるように部屋から出ていき

 

「次は本当に俺様に殺されちまうかもな……マ・ド・カちゃん?」

 

 ドアを閉じる寸前、笑い堪えられないと言った様子で協力者はそういい、事実、ドアが閉じた途端にドア越しに協力者の笑い声が協力者がドアから一定以上の距離を取るまで響き渡り続けていた

 

「一度ならず二度までもこの私を……ぐっ! くううっっ!!」

 

 自らが奇襲の形で仕掛けた再戦にも関わらず、前回と殆んど変わらないような屈辱的な敗北。執拗に蹴られ、踏みつけられ、仕舞いには唾さえかけられたかの如く傷つけられたプライドをどこにも晴らす事が出来ずマドカは血が出そうな程に歯を食い縛りながら、八つ当たりでもするかのように床に倒れたまま両手で床に拳とナイフを激しく打ち付けながら怒りを堪えられないくぐもった怒声を発した

 

「無意味に床を傷付けるのは止めて欲しいのだけど……はぁ……この様子じゃ、そもそも耳にも入ってなさそうね……」

 

 怒りを抑えきれずに暴れるマドカを見ながらスコールは大きなため息を吐き出す

 

 これから自分と話が出来るようになるまでどの程度の時間を必要とするのだろうか。それに近いうちに協力者には直接、文句を言う必要がありそうだ。

 

「はぁ……」

 

 内心でそんな事を考えながらスコールは再び大きなため息をつくのであった

 

 

「……すまない。私は今日、光と少し用事があるんだ。今日の昼食は同行できないんだ」

 

 そう食堂へと続く廊下で慎吾は困ったような笑みを浮かべながら、シャルロットが代表として立案し、話しかけた妹達からの昼食の誘いを断った。

 

 ちなみに余談ではあるが、紆余曲折とすったもんだの末に現状維持の形で未だにシャルロットが長女のポジションを確保しており、セシリアも完全には納得してはいないようだが何とか三女というポジションを受け入れてはいた

 

「……光さんと用事。……あぁ、今度の全学年合同マッチのタッグマッチについて? もしかして、お兄ちゃんは光さんと組むの?」

 

 慎吾の言葉に一瞬、シャルロットは思案するように沈黙したが直ぐに合点が言ったかのようにそう慎吾に問いかける

 

 と、言うのも先日のキャノンボール・ファスト開催中に発生した亡国機業の襲撃事件を踏まえて、各専用機持ち達の各種レベルアップを目的とした全学年合同タッグマッチが行われると言う事が話が、まさに今朝のSHRで伝えられており、そんな状況で普段は一夏達を含めた同学年の仲間達と食事を取っている慎吾が急に光と二人だけで行動するならば、慎吾と光が新型武装の開発をしている事を知らないシャルロットが二人がタッグマッチについて動き始めんとしているのだと判断するのは至極当然の事であった

 

「あぁ……そうだな。私は今回のタッグマッチを光と組んで出場しようと考えている。今回はその調整の一環……と、言う感じだな」

 

 そんなシャルロットの問いに慎吾は何か考えがあるのか、あえてこの場では真実を語らず、しかし元から機会があれば光に頼む予定であった事を伝えた

 

「そう言う訳だ。早速で悪いが慎吾は借りていくぞ。これから立案する作戦は流石に教える事は出来ないからな」 

 

「あっ……はい、い、いってらっしゃいお兄ちゃん……」

 

 と、そこにまるで最初からそれを待っていたかのように廊下の曲がり角から光が姿を表し、ごく自然な動きで慎吾の腕を掴むとそのまま引っ張っていき、そのあまりにも急な流れにシャルロットは戸惑いがちに慎吾を見送る事しか出来なかった

 

 

 

「光……タッグマッチの件だが、お前はいいのか? 私が今さっき勝手に決めた事なのだが……」

 

 ある程度廊下を進み、シャルロットの姿が見えなくなると光の腕から解放された慎吾は確認するように隣を歩く光にそう話しかけた

 

「その質問に関しては逆に聞くが慎吾、何故、俺が拒む必要があると思う?」

 

 そんな問いかけに光は当然の事を聞かれたかのように怪訝な顔をしながら答えた

 

「まずゾフィーとヒカリは装備や能力共に機体同士の相性が良い。更に俺達もタッグを組んだ経験が一度や二度ではなく相手の癖や特徴も分かってるレベルだ。これなら既に俺やお前が誰かから誘いを受けて引き受けていない限りは、唐突な話とは言え断る理由など無いだろう?」

 

 それに、と、そこまで言った所で光は語るのを止めて慎吾に視線を向けた

 

「折角のタッグマッチだ。俺としてはT型との戦闘でお前とタッグを組んでも尚、押し負けたのは相当悔しくてな。今回はそのリベンジ……のような心持ちでもあるんだ。俺とお前、Mー78社のUシリーズ二機の真の力はあんなものでは終わらないさ……!」

 

「光……あぁ、勝とう! 私とお前ならば必ず出来るはずだ!」

 

 そう、強い決意を決意を込められた光の言葉を受けた慎吾はタッグマッチでの勝利を誓い、そう力強く返事を返すのだった



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130話 四組、簪との初対面

 再び遅くなってしまいましたが、更新です。喩え遅くなっても確実に行進できていけるよう頑張りながら書かせていただきます


「ああっ!! あれって一組の慎吾さん!? 慎吾さんだ!」

 

「えっ!? あの兄オブ兄の慎吾さん!?」

 

「もしや四組に新たなる妹志願者が!? まぁ、そりゃ私もだけど!」

 

 光と共に四組についた途端、慎吾を待っていたとは、四組の生徒達からのまるで動物園のライオンかパンダを見るかのような熱い歓声と視線の嵐であった

 

「以前、一夏も言っていたが……やはりあまり慣れないな、こんなに多くの好奇の視線を向けられるのは……」

 

「仕方ないだろう? こればかりは有名税のようなものだと思って諦めるしかないさ」

 

 自身と一夏がIS学園に入学してそれなりの月が過ぎているのにも関わらず入学当初からさほど変わらない学園生徒達から向けられる視線に思わず慎吾は苦笑しながらそう小さく呟き、光もまた苦笑しながら、慎吾を励ますように背後からこっそりと慎吾の肩を叩いた

 

「皆、すまない。君達が歓迎してくれる気持ちは嬉しいが、生憎今日は大切な用事があるんだ。道を開けてくれないか? もし、どうしても何か私に関する問いならまた近いうちに出来る範囲で答えると約束しても構わない」

 

 と、そこで慎吾は気を取り直すように軽く咳払いをしながら集まっている全員に聞こえるように声を張りながらもまるで威圧感は感じさせないような優しい口調でそう告げる。

 

『は~い』

 

 と、その瞬間あれほど騒ぎ、教室の入り口部分を生徒達は返事と共に潮が引くように速やかに動き、慎吾と光が通れる程度の道が開いた

 

「さっ、行くぞ光。時間はあまり無いんだ手早く事を済ませるのに越した事は無い」

 

 そう何気ない様子で慎吾は光に言うと、開いた道を先導するように歩きだし、光を手招きした

 

「無意識なんだろうし、人としては美点なんだろうが……俺としては、お前のそう言う所が未だにあちこちで騒がれたり話題にされる大きな要因だと思うんだがな……」

 

 そんな事を小声で呟きながら光は苦笑しつつ慎吾の後を続いて歩き出すのであった

 

 

「改めて協力の誘いを引き受けてくれてありがとう簪。知ってると思うがこっちは慎吾。今回の新武装開発の立案社であり、俺の友でもある」

 

 代表するように光はそう言って簡易的に慎吾を紹介すると柔らかな笑みを簪に向ける。慎吾の声かけの影響もあったのか、事前に予定していた時間ぴったりに簪と合流した慎吾と光はクラスの一番後ろの窓際の自席でキーボードを叩いて作業中だった簪の許可を得て、一旦騒がしい教室を離れて廊下で会話をしていた

 

「あの……初めまして……」

 

「あぁ、初めまして。だな、私からもよろしく頼む。……簪、と、私も呼んで構わないかな?」

 

 光の紹介を合図に簪は控えめに、慎吾は微笑みかけながら互いに頭を下げて挨拶を交わし、簪は慎吾の言葉に小さく頷いて名で呼ぶことを許可した

 

「それでは……挨拶を終えた所で場所を移すぞ。最初に伝えておきたい事もあるし……何より話し合いをするにはもう少し静かな所が相応しいだろうしな」

 

「そうだな……流石にここでは……」

 

「……」

 

 光の言葉に慎吾と簪は未だに騒ぐ生徒達に視線を向けると、互いに頷いて場所の移動を受け入れ、歩き出そうとし

 

「えーっと、更識さんって……あれ? 慎吾さん? それに光さんも?」

 

 まさにその瞬間、狙ったようなタイミングで慎吾達が立っている廊下の真向かい側から一夏が四組教室前に表れ、四組の教室のドアに立ったその瞬間、まず見慣れた慎吾と光の姿に反応して足を止めた

 

「えっ……ちょ、ちょっと待ってください! もしかして慎吾さん達と一緒にいるその子って……」

 

 直後、一夏は改めて二人を見直した事で慎吾と光に挟まれるような形で立っていた簪に気が付き、何か慌てたように近付いて来た

 

「光さん……慎吾さんも、行きましょう……」

 

「お、おい……」

 

「簪……?」

 

 その瞬間、簪は一夏にそっぽを向くと慎吾と光が混乱しているのにも構わず、二人を先導するように歩き出した

 

「ま、待って簪さん! 頼みたいことがあるんだ!」

 

 明らかに自分の姿を認識して離れていった簪を一夏は慌てた様子で駆け寄り、必死に引き留めんとしての事か簪の進まんとしている方角に立ちふさがった。と、その瞬間、簪は眉をしかめ嫌そうな表情を浮かべた

 

「一夏、お前も何か簪に頼みたい事があるのか? その様子を見るとどうやら早急の用件のようだが……」

 

 そんな様子を見かね、一夏と簪の間の空間に割り込むような形で入り込み一夏と簪、互いの表情を確認しながらそう問いかけた

 

「あ、はい。今回のタッグマッチの事なんですけど……簪さんにペアを組んで欲しくて……」

 

「それはまた……唐突な話だな」

 

 一夏の言葉に慎吾は怪訝な表情を浮かべると、思わず首を傾げた

 

 このIS学園に入学して以来、学園内でただ二人しかいない男子生徒同士と言うわけで今日まで、互いに持ちつ持たれつの関係で行動を共にする事が多かったのだが記憶にある限り簪の話は聞いたことは無かったし、仮に一夏が隠していたとしてもその理由が分からない。と、言うよりそもそも一夏は決して嘘を付くのが得意な人間ではない。と、慎吾は今までの付き合いで分析していた。では何故、あえて箒や鈴と言った気の知れた仲間達では無く初対面の簪と一夏は組もうとしたのか?

 

「(答えは一つ、一夏は簪と組むように頼まれた……と、言うことになるな。誰に……かは、わざわざ『更識 簪』と組んでくれと言う時点で答えが出ているようなものだな)」

 

 脳内でそう思考を纏めると、慎吾は思わぬ形で遭遇した難題に思わずため息を吐き出した。

 

「簪……一応、私からも聞いておくが、君は今回のタッグマッチは……」

 

「……イヤです」

 

「うっ……即答……」

 

 先程一夏が現れてから明らかに不機嫌になった様子からほぼ不可能だと分かりきっていたが様子を伺いながら問いかけた慎吾に簪は迷うこと無く拒絶の意志を示し、その早さに一夏は思わず顔をしかめて額から汗を流した

 

「(仕方ないとは言え、新武装の開発に向けた第一歩からこれでは……また、何か一筋縄ではいかないような出来事が起こりそうな気がしてならならないな……)」

 

 これから起こるであろうトラブルを感じ取った慎吾はそう想いながら頭を抱えるのであった



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131話 悩みは消えきらず、問題は尽きず

 週一更新だった更新が今では殆ど月一……と、ここ最近の更新が大幅に遅れて申し訳ありません。何とか時間とアイディアを有効活用したいのですが、中々上手くいかず大変苦戦しています。


「うーむ……弱ったなこれは……」

 

 そう休み時間終了間際、一組への帰路を慎吾は頭を抱えて溜め息をつきながら浮かない表情で歩いていた。

 

 と、言うのもつい先程まで時間が押している為に食事を取りつつ光と簪と自身の三人で当初の予定通りゾフィーの新武装開発についての話し合いをしていたのだが、いかんせん今回の話し合いにおいて肝心の簪が一夏と遭遇して以来、本人も悪気は欠片も無いのたろうがどうにも口数が少なくなってしまい、どうにか慎吾や光が尽力したものの話し合いは予定の半分。本当に最低レベルの目標と予定しか決めることは叶わなかった

 

「これは何も今日だけの話と言う訳ではない。何とか事態を解決しなければ私や光は勿論、タッグを組みたいと言う一夏。……そして簪自身にも非常に良くない事だ」

 

 だからこそ慎吾は深く悩んでいた。どうにかこの事態を解決できないものか、できうる限り多くを円滑で穏便に済ませる事は出来ないのか。そんな風に慎吾が人に追突しない程度にしか前を見ないほど熱心に考えに集中し過ぎたせいであろうか。慎吾は危うく歩み過ぎて一組の教室を歩いて通りすぎそうになってしまった

 

「おっと……これはいかん」

 

 慎吾はその事に気が付くと、自身のケアレスミスが恥ずかしいのか苦笑しながら半歩ほど後退して教室の入口に戻ってドアを開け

 

「……一夏、最後のチャンスだ。もう一度だけ聞く、お前は誰と組むんだ?」

 

「い、いや……そ、それは……待ってくれラウラ。もう少しだけ話し合おう!?」

 

 何の因果かその瞬間、予め狙っていた慎吾の目の前に飛び込んできたのは、口調こそ普段と変わりは無いが明らかに視線や漂う雰囲気に怒気を表しながら一夏に一歩ずつ詰め寄るラウラ。そして、必死の弁解の途中で入ってきた慎吾にいち早く気付き視線で助けを求めてくる一夏の姿。と、どこか既視感を感じる光景であり、気付けば慎吾は再び苦笑していた

 

「(まぁ……冷静になって考えてみればこうやって入学当初からトラブルとは日常茶飯事と言っていいレベルで起きてたんだ。今更、悩み過ぎるのは馬鹿らしいかもしれないな……)」

 

「とりあえずはラウラ、一夏。二人とも一旦落ち着いてくれ。出来れば、二人それぞれから話を聞かせて欲しいんだ」

 

 慎吾自身でも意外な事に、それで幾分かではあるが慎吾の心に霧の如く立ち込めていた悩みは晴れてゆき、早速目の前の事態を対処し出来るだけ早く、そう可能ならば千冬が教室へとやって来る前に一夏を救いだし、騒動を収束させるべく動き出したのであった

 

 

「……! 避けろ一夏! 真上だっ!!」

 

 ヒカリのナイトビームブレードの光刃と紅椿の空裂の刀をぶつけ合い火花を散らす激しい戦闘の最中、偶然、視界の端に一夏が入った事でその危機に気付いた箒は素早く簡潔にそれを一夏に伝える為に叫んだ

 

「うおおおっっ!?」

 

 間一髪、その一声のお陰で一夏は視界から消え、瞬時加速を用いて真上へと移動していたゾフィーの鋭い蹴りを回避し、隙を付いたはずのゾフィーの蹴りはほんの僅かに白式の装甲を掠めるだけに終わった。が、それだけでは慎吾の攻撃は終わらない

 

「ぜやっ!」

 

「うわっ……! とっ!」

 

 すかさず回避した一夏目掛けて今度は慎吾の気合いが込められた掛け声と共に回し蹴りの形で放たれたゾフィーの左足が襲い、その早さにどうにか反応出来た一夏は素早く雪羅のシールドで蹴りをガードするが、衝撃までは殺しきれず大きく体制を崩す

 

 あの後、本当に紙一重と言う所でラウラの説得に成功して宥める事が出来た慎吾は、現在、放課後の第アリーナで、簪とスケジュールが合わなかった事で光との実践的訓練を行おうと訪れた際、偶然遭遇した一夏と箒のコンビと本番を想定したタッグマッチ方式で特訓を行っていたのだ

 

「くっ……! 絢爛舞踏を完全に使いこなして来ている……やるな」

 

「今回の勝負は私が……私達が勝利を貰わせてもらうぞっ!」

 

 一夏のひとまずの無事を確認した箒は改めて意識を光との戦いに集中させるとつばぜり合いの状態から光を弾き飛ばして斬撃を振るい、底が尽きないかのようなその紅椿のパワーに思わず光は仮面の下で顔をしかめる。しかし、その表情には決して諦めの感情は存在していなかった

 

「行きますよ慎吾さん!! うおおおっっ!!」

 

「あぁ、来い! はぁぁっ……!!」

 

 一方、慎吾と一夏の戦いも激しさを増しており、白式から受けた攻撃が少しずつ重なり、シールドエネルギーが減少して言った事でゾフィーのカラータイマーが鳴り出したのを見た一夏が一気に勝負を決めるべく零落白夜を発動させ、それに答えるように慎吾も両手を胸の前に水平に置き、M87を発射する構えを取る

 

 次の瞬間、二条の光が交差してアリーナ内は見てる物の目を射ぬくような鋭い光に包まれた

 

 

「ううむ……また時間切れで引き分け……か」

 

「……何か、お互いに全力で戦ってたのに、しまらないですよね」

 

 それから数分後、アリーナの使用時間切れで引き分け、と、言う有耶無耶な形で決着がついた練習試合を終え、手早く着替えを終えた慎吾は額に残る汗をタオルで拭いながら複雑そうな表情を浮かべながら呟き、着替え途中の一夏もまた時間切れでの決着には納得がいっていないのか同意するようにそう答えると苦笑した

 

「では、一夏。そろそろ寮に戻るとするか。丁度、夕食の時間が近いは……うん?」

 

 タオルを首にかけ、慎吾が手荷物と携帯端末を手にしたその瞬間、狙いすませたようなタイミングで慎吾の携帯端末にメールが届き、その送信者を見た途端に慎吾は怪訝な表情を浮かべた

 

「どうしました慎吾さん?」

 

「いや、光からメールが送られてきてな……私と光は、ついさっき更衣室前で別れるまで話をしていたんだが……もしや……」

 

 と、自らの口でそんな事を言ってる中で慎吾ははたと気付いた。何故、光が通信ではなくわざわざメールを使って連絡したのか。何故、間違いなく一夏と自分しかいないこのタイミングにメールを送ったのか。嫌な予感を感じ始めながら慎吾は光からのメールを開き

 

『箒、そして先程、遭遇したセシリアが互いに自分が一夏のタッグマッチにおけるパートナーに選ばれると確信してる。……これはまずいのでは無いか?』

 

「一夏、ちょっと待ってくれ。少しお前と話したい事が出来た」

 

 簡潔、しかし大変分かりやすく危機を伝えていた光からのメールを読み終えた瞬間、慎吾はすかさず更衣室から出ようとしていた一夏を呼び止める

 

「ん? 何です慎吾さん?」

 

 そんな慎吾の様子に一夏は特に何も気付いた様子は無く、不思議そうに首を傾げて慎吾に聞き返す

 

「いきなりで悪いがくれぐれも落ち着いて聞いてくれ、このままではお前の身に問題が起きかねない事なんだ……」

 

 そんな一夏に慎吾は出来るだけ落ち着かせるように穏やか、しかし慎吾自身も多少いつもより早いペースで自らが思い付いた惨事を避ける為の対抗策を伝えてゆくのであった



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132話 『信じる』と言う選択

 遅れてすいません。最低でも月に二本以上は投稿出来るようにしたいですね……


「えっ……?」

 

「お、お兄様……?」

 

 夕食を終えた後、すぐに一夏の部屋に訪れた箒とセシリアは瞬間、全く同じタイミングで驚きの声をあげた

 

「まぁ……その気持ちは分からんでも無いが、取りあえずは落ち着いて座ってほしい」

 

「そう言う事だ、俺達がいる事情は今から話すから俺からも頼む」

 

 そこに待っていたのは緊張した様子でベッドに腰掛けていた一夏を囲むような形でそれぞれ両隣に立つ慎吾と光の姿であり、二人の表情もまた緊張しているのか笑っているのか困っているのか分からない表情をしていた。

 

「う~む……君達の気持ちを考えると私としては非常に言いづらいのだが……」

 

 箒とセシリアが状況を理解できない様子のまま慎吾に誘導されて敷かれた座布団に座り、それを確認すると慎吾は困った表情をしながらも何かを決意した様子でそう言うと口を開き始めた

 

「だがしかし、事態を無闇に先送りにしても何の解決にもならないので単刀直入に言おう。箒、セシリア残念ながら一夏が今回タッグマッチを組むことに決めた二人のどちらでも無いんだ」

 

「すまん!二人とも本当に悪い!」

 

 すかさず慎吾の言葉に合わせて一夏が素早く自身の胸の前で手を合わせると箒とセシリア両者に向かって交互に素早く頭を下げて謝罪した

 

「す、すまないで……!」

 

「落ち着け箒、まだ慎吾の話は終わっていない」

 

 一夏のその言葉に思わず頭に血がのぼってしまったのか、箒が一夏に鋭い視線を向けながら立ち上がり、そこで箒と同タイミングで立ち上がった光に制された

 

「……以前の私なら、ここで箒さんと一緒に動いていたのでしょうね」

 

 一方で、セシリアは一夏の発言には動揺した素振りを見せたものの、感情のまま立ち上がるような行動する事は無く、箒を横目で見ながら自嘲の笑みを見せた。が、それはほんの一瞬の事であり、次の瞬間にはセシリアの表情は何時も見るような自信に満ちた表情に変わっていた

 

「ですが、今の私は末席に甘んじているとは言えお兄様の妹。この場にお兄様がいる以上、私はお兄様を信じて待ちますわ。ええ、それが妹としてあるべき姿ですもの」

 

「……セシリア……その私に対する信頼の気持ちは喜ぶべき事なのだろう。ありがとう」

 

 何故か少し目を輝かせながら、一切の迷い無くそう語るセシリアに慎吾は少しだけ圧せられながらもどうにか笑って礼を言うことでその場をやり抜けた

 

「事情はプライベートに関わるので今は私の口からは詳しくは言えないが……今回のタッグマッチの件については一夏にとっても、事情があって全くの予想外の形で引き受けた事なのだ。それこそ、皆が動き出すより早く……にな。だから、今回の事に一夏に責任は無い」

 

 光に宥められ、箒が再び座したのを確認すると慎吾は一夏から聞いた事情を楯無の名前を隠す形で二人に語って聞かせ、特に最後は断言するように言い切った

 

「……慎吾、お前は事情があって一夏に責任は無いと言ったな。だが、その肝心の事情をお前は語っていない。そんな事で私達に、お前の言う事を信じろと言うつもりか?」

 

 と、そこで今まで興奮した所を光に宥められた事を罰が悪く感じていたのか視線を落とし、黙って慎吾の話を聞いていた箒が視線を床から慎吾へと移し、そう問い掛ける。その目には口にせずとも『下手な誤魔化しだてをすれば容赦しない』と、言う確かなメッセージが込められている事が慎吾には感じられた

 

「そうだろうな……確かに、ただ私と一夏を信じろと言っても、そう簡単に納得は出来ないだろう」

 

 そんな箒の言葉に慎吾は否定も肯定もする事は無く、むしろそれを予想していたかのような落ち着きを持って答えながら二度ほど小さく頷くと、箒をしっかりと見つめながら更に言葉を続ける

 

「……しかし、だ。だからと言って今、箒やセシリアに教えられる事はこの程度の情報しか無い事も事実。ならば勝手を重ねてすまないが後に必ず説明する。だから『それでも私や一夏の事を信じて欲しい』としか言うことしか出来ないな……すまないな、箒」

 

 そう言い終えるなり慎吾は困ったような表情を浮かべたまま、軽く箒に向かって頭を下げて謝罪した

 

「はぁ……そこまで真っ直ぐに『信じてくれ』と言われては、断るものも断れないではないか……」

 

 その途端、身体中の息を全て出しているかのような深いため息と共に肩の力を抜くと、顔をしかめて根負けしたかのようにそう言った

 

「じゃあ箒……!」

 

「こ、これは……あ、あくまで今回だけ、今回だけは慎吾の普段の行いから判断して信じてみただけだ……!」

 

 事実上、一夏を許した言葉に一夏は目を輝かせながら確認するように箒に問いかけ、正面からキラキラした一夏の視線を向けられた箒は瞬時に頬を赤く染め上げながらも、それを誤魔化すようにぷいっと首を動かして視線を反らすと、多少、声をどもらせながらも箒本人としては背一杯、落ち着きと冷静さを意識した口調でそう言った

 

「私は、先程と何も変わりません。ここで万全の信頼を置いてお兄様を信じる事こそ真の妹に相応しい……つまり、そう言う事ですわね? お兄様」

 

「あ、あぁ、助かる。ありがとうセシリア……」

 

 一方でセシリアは既に今回の事態についての結論が出ていたらしく。自信に満ちた表情で慎吾にそう確認し、それに慎吾は多少、困惑しながらもセシリアから向けられる信頼は決して悪い気分では無く、それに答えたいと感じた為にセシリアに笑顔でそう返すのであった

 

 

「ううん……構想そのものは間違ってはいないはずなのだが……これは取り扱いが難しすぎるな……」

 

「このままじゃあ、エネルギーに耐えられずに数分で自壊するのは免れない。かと言って自壊しない程度にまで強度を上げれば凡庸以下のスペックしか発揮できない……です」

 

「笛と剣を一体化させた武器と言うのは私は面白い発想だと思ったのだがな……現段階でこれを実用にまで持っていくのは無理だな」

 

 慎吾が話し合いを平穏に終えた翌日、IS学園の各アリーナに隣接する形で存在するIS整備室では光、簪、慎吾の三人が順に意見を交わしながらゾフィーの新武装に関して意見を交わしていた。

 が、生憎、簪の参加によって新武装のアイディア自体はいくらかは生まれてはいたのだが、それが実用に向くかどうかはまた別問題であり、光は顔をしかめて悩んだ末にスクリーンに表示された横笛と片手剣が一体化したような武装の設計図を再び端末に戻し現段階での開発を見送る事にした。

 

「どうにも……行き詰まってしまったようだな……」

 

 光明が見えない展開に慎吾もまた頭を抱え、ため息をしながらそう呟いた。

 

 既に慎吾、光、簪の三人はそれぞれ幾つかの案を出しあってはいたものの、その全てが先程の光のようにスペック自体は強力なものの実用には向かなかったり、開発可能なもののゾフィーとの相性に問題を見つけて断念せざるを得なくなったり等して総じてどれも採用になる物は無かった

 

「あの……すみません私、あまり力に……」

 

「簪、俺も慎吾も三人が揃ったからと言って何も一日や二日で素晴らしいアイディアが出てくる等は考えていない。むしろ、今はリラックスして率直な意見を出来るだけ多く出してくれ」

 

 進まない話し合いに責任を感じているのか、簪が申し訳なさそうにそう言う。が、直ぐ様、光がその必要は無いとばかりに諭すように簪にそう告げて簪のフォローに回った

 

「……もう時間も遅い、今日の所はここまでにして切り上げた方が良さそうだな」

 

 そして慎吾は、時計から今の時間と現状を見て本日の話し合いを終える事を結論ずけ、光も簪もその提案には特に反論は無かったらしく慎吾の言葉に頷いて答えると、三人はそれぞれ持参した荷物を纏めて帰宅準備を始める

 

 まさに丁度、その時だった

 

「よっと……お疲れ様。飲み物、買って来たけどどれ飲む?」

 

 奇しくも何気なく簪が整備室の入り口の自動ドアに視線を向けたその瞬間に自動ドアが音を立てて開き、手に何本かの缶ジュースを抱え、やんわりとした笑顔を浮かべた一夏が姿を表したのは



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133 話 簪と光、光の決意

 何とか更新いたしました。何とか週一のペースを取り戻したいと少々、努力をしてゆきたいと思います


「し、慎吾さん……俺、やっぱりさっき、わりと不味い事しちゃったんですかね……?」

 

「……少なくとも今は光を信じて、お前は意識して慎重に行動するべきだと私は思うぞ」

 

 背後の一夏には一瞥もくれず隣を歩く光と真剣な表情で会話を交わしている簪の背中と慎吾の顔を交互に見ながら不安げにそう問いかける一夏に慎吾はあえて今は具体的な事を告げず、そう言って一夏を励ます事にした

 

 さて、いかにして現況に至ったかと言うと、時間は数分前、一夏が差し入れの缶ジュースを持ってきた所にまで遡る

 

 

 一夏の登場につい先程まで真剣そのものの表情と態度で会議に参加していた簪は途端、嫌そうな顔をすると一夏を無視し、その隣をそのまますり抜ける形で立ち去ろうとしていたのを咄嗟に慎吾と光が呼び止める形で踏みとどまり、どうにか簪と心の距離を普通に会話してくれる程度にまで縮めたいとせん一夏が手渡して来る缶ジュースを簪が受け取ろうとした瞬間、そこで第一の問題がおこった

 

 この受けとる際、簪は笑顔で正面から缶を差し出す一夏と直接視線を交わさないように若干、視線を反らす形で缶を受け取ろうとしていたのだ

 

『あっ……!』

 

『えっ……?』

 

 その結果、缶を掴む筈だった簪の手は誤って缶を持っていた一夏の手をしっかりと握ってしまい、妙な形ではあるが結果的に見ればまるで簪から求めて一夏としっかり握手を交わしているようになっていたのだ

 

『……っっ!!』

 

 それに気付いた瞬間、簪は弾かれたように一夏の手を離して自らの体に引き寄せ、返す手で呆然としたままの一夏の手から半ば引ったくるジュース缶を受けとると、そのまま背を向けて整備室から立ち去り始めた

 

『あ、ちょ、ちょっと待ってくれ!』

 

 そんな簪を見て一夏も焦っていたのだろう。良かれと思って自身が行ったことが予想外の出来事で悪手となってしまった今、何としても簪をここで呼び止めて落ち着かせ、どうにかタッグを組む話へ持っていこうとし

 

『そうだ……! 俺に一回でいいから簪さんの専用機を見せてくれないかな!?』

 

 結果的に言えばそれが原因で一夏は第二の悪手を打ってしまった

 

『っ!』

 

 一夏がその言葉を発した瞬間、小さな吐息と共に簪が腹立たしげに歯を食い縛る音が聞こえたかと思うと、次の瞬間には簪は右手で一夏の頬に鋭い平手打ちを決めていた

 

『……へ?』

 

『簪!?……待ってくれ!』

 

 突然頬に受けた衝撃に理解が追い付かず呆けた声をあげる一夏を簪は僅かに視線を向けると早足でその場を後にし、若干遅れてその後を光が追いかけてゆき、その後を刺激しないように一定の距離を開けて一夏が光の背中を追いかけるように続き、そのフォローの為に慎吾もまた一夏の後に続き……話は冒頭の状況へと遡る

 

 

「む……一夏、少し止まれ。あれを見ろ」

 

 一夏とならんで歩きながら前方の簪、そして光に注意を払っていた慎吾が何かに気付き、一夏を手で制して歩みを止めさせると、静かに光の背中を指差した

 

「あ、あれって……?」

 

 慎吾に言われた一夏が良く見てみれば、光は簪に気付かれないようにしているのか自身の背中にこっそりと手を回し、手と指で背後の慎吾と一夏に向けたハンドサインを一定のパターンと共に繰り返し送っていた

 

「『問題は昨日今日では解決不能、日を改める

必要あり、詳細は後に伝える』……か、仕方ない。引き上げよう一夏」

 

 光のハンドサインを見て、すぐにその意味を読み取った慎吾は、お手上げだと言うように頭を抱えながら目蓋を閉じると、ため息を吐き出しながらそう一夏に告げる

 

「よ、良くそんな長いメッセージスラスラと分かりますね……」

 

「あぁ、それは以前にも言ったが、光と私は付き合いが長いんだ。だから私と光は自然とお互いに相手の様々な事を良く知っているんだよ」

 

 微塵も迷った様子を魅せず、光からのメッセージを読み上げた慎吾に一夏は驚いた様子で尋ねるが、慎吾はそれを世間話でも言っているように軽く答えると、一夏を連れてその場から立ち去るのであった

 

 

「慎吾、朗報だ。簪が織斑くんに怒りを見せた真の理由が今しがた、俺ははっきりと分かったぞ」

 

 夕食後、日課のトレーニングを終えて自室のベッドに腰掛けながら、リラックスした様子で読書をしていた慎吾に光は戻ってくるなり、そう告げた

 

「光、どうやら自信があるようだが……何か確証はあるのか?」

 

 そんな光の態度が気になったのか慎吾は本を読む手を止めて本を置くと、興味深げにそう光に問いかけた

 

「あぁ、まず本人と良く話し、更に事情を話して実姉の彼女から聞き出した事だからまず間違いは無いはずだ。それを今から説明しよう」

 

 それに対して光は珍しく得意気に胸を張りながら自身のベッドに腰掛けると呼吸を整え、落ち着いた様子で語り始めた

 

 

「……なるほどな。確かにそう言われれば私も納得する事が出来る」

 

 腕組みをしながら光の話を全て聞き終えた慎吾は少々顔をしかめながらそう声を漏らして頷いた

 

「あぁ……結果論かもしれないが、今まで自分の感情を閉ざし、一人で自身の専用機を組み立てようとしていた簪が、織斑君との出会いで今回、怒りを見せたのは寧ろ進歩だと言えないか?」

 

 一方で語り終えた光はと言うと、何処か簪の成長を誇らしげに思っているのか、顔に僅かに微笑みを浮かべ満足げにしていた

 

「その言葉が本当ならば喜ばしいが……そうなると、これからより注意して二人を見守って行く必要があるな? 光」

 

 と、そこで慎吾は目を開き、決意した様子でそう確認するように光にそう告げた

 

「あぁ、今回は俺も全面的にお前に協力しよう。……俺、個人としても簪が生まれ持った才能を彼女自身で消してしまうのはとても悲しい事だからな……」

 

 そう、慎吾の言葉に迷わず返事を返す光の声は何処か悲しげでありながら彼女にもまた、簪を助けると言う確かな想いが感じられた



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134話 ある日の休日、(一夏との遭遇)

 何とか更新です、出来るだけスムーズに進めて行けるようになりたいですね……


「ふう……やはり改めて基本に帰って過去の資料を見返すのは大事だな。これで、もう少し新武装開発にも前進が見られるだろう」

 

 休日、慎吾と共にM-78社、そこの自身の古巣でも研究部所へと訪れていた光は作業を終え、必要な資料を自身の端末にインストールしながらそう呟くと、ふと壁に掛かっていた時計に目が入った

 

「もうこんな時間か……そろそろ日が落ちるな……慎吾、そろそろ終わりにして帰宅するか?」

 

 そこで二人が昼過ぎにM-78社に到着した時点から実に五時間以上が過ぎている事に気が付いた光は、そこで隣のデスクで作業をしていた慎吾に声をかける

 

「…………」

 

 が、しかし、当の慎吾はそんな光の問いかけに答える事は無く、食い入るようにコンソール片手に目の前のモニターを凝視していた

 

「……慎吾? どうした、何かあったのか?」

 

「あっ……! あぁ、すまない光、少し集中し過ぎていたようだ」

 

 再度、光に話しかけられると慎吾はそこで漸く光に声をかけられていた事に気が付いたらしく、慌ててモニターから視線を外すと、慎吾は少し恥ずかしそうに短く謝罪した

 

「いや、気にする必要は無いが……一体、何にそこまで集中していたんだ?」

 

 慎吾は光から見れば、基本的に生真面目で人の言葉を聞き逃す等、通常ならばまずあり得ないような性格の持ち主だ。では、一体何がそこまで慎吾を集中させたのだろうか? 無性にそれが気になった光は気がつけば自然と、そう慎吾に問いかけていた

 

「あぁ、実はこれらの装備を見ていたら、一つアイディアを思い付きそうになってな」

 

 すると慎吾は先程まで自身が見ていたモニターを動かし、映し出されている映像を光にも見えるように動かして調整した

 

「ふむ、このデータは……キングブレスレットにメビウスブレス……と、俺のナイトブレスも見ているのか?」

 

「まだ空論に過ぎない思い付きだが……あと少し、10分程時間があればどうにか大まかな図面くらいは作り上げる事は出来そうなんだ。悪いが光、私はもう少し残ることにするよ」

 

 光と流暢に会話を交わしながらも慎吾は、モニターに映し出された各装備のデータとをじっくりとチェックしながらコンソールを忙しく動かして、確実に一つの図面を完成させてゆく

 

「いや、構わん。もう六時間もここで過ごしたんだ。この際、10分やそこらの時間など気にしないさ」

 

 そんな非常に真剣に熱中している様子の慎吾を見た光は、普段年齢以上に大人びてる慎吾の何処か時間も忘れて熱中する子供のような行動が少しおかしいのか少しだけ笑みを浮かべると、再び自身のデスクに戻り数分前に購入したコーヒーの残りを慎吾の作業の様子を見つつ、ゆっくりと飲み始めるのであった

 

 

「ふぅ……終わった終わった。いや、本当に待たせて、すまなかったな光」

 

「ふっ……その分、今度の会議での発表を楽しみになるだけさ」

 

 それから十分後、宣言した時間丁度に作業を終えた慎吾は光と共に研究部所を出てM-78社の廊下を歩いていた。設計図面作成には結構な苦戦を強いられたらしく、慎吾の表情には若干の疲労の色が見てとれたが、それ以上に満足する結果を得られた事が自然に慎吾を笑顔にさせ、それにつられて光も自然と慎吾に笑みを返してした

 

「しかし……この時間となると、今日の夕食は学園に戻るよりは外で済ませた方が良さそうだな。慎吾、何か案はあるか?」

 

 と、そこで光は右腕の腕時計に視線を向けて改めて現在の時刻を確かめ、そう慎吾に問いかける

 

「そうだな、この近くとなると……まてよ」

 

 問われた慎吾は数秒ほど思案すると、何かを思い付き小さく言葉をこぼした

 

「この間、会話の中で一夏から紹介してもらった店がここから歩いてすぐの所にあったはずだ。何でも定食屋らしいが……それで構わないか光?」

 

 慎吾がそう問いかけると、光は無言のまま軽く頷いてそれに答え、二人はそのまま並んで幾人もの社員が通る、M-78社正面入り口の自動ドアを抜けて外へと歩み出していった 

 

 

「あった、ここだ光。間違いない」

 

 慎吾と光がM-78社を出てから数分後、二人は迷うこと無く目的地の定食屋にたどり着いていた

 

「店名は……『五反田食堂』? ……あぁ、前に会った弾くんの実家かここは。そう言えば一夏くんの誕生会で話していたのを聞いた覚えもある」

 

 店の看板を見た事で光は全てを察したらしく、記憶を思い返して納得したように頷いていた

 

「味に関しては一夏からお墨付きを貰っている。確か……『業火野菜炒め定食』と言うメニューが特におすすめで鉄板だと言っていたな……」

 

 そう言いながら慎吾は光を促すように先導して店内へと入ってゆき

 

「あれ……慎吾さん!?」

 

「一夏? それに箒も……お前たちも来ていたのか?」

 

 直後、店内で今まさに自分が話題に出していた一夏、そしてその隣にいる箒と遭遇し、あまりにもタイミングの良い偶然に慎吾は思わず驚愕の声をあげるのだった

 

 

「なるほど、黛先輩に頼まれた雑誌モデル撮影の日は今日だったか……」

 

「えぇ、撮影に慣れなくて大変でしたよ……本当に色々と」

 

 数分後、食事の傍らに一夏達から事情を聞いた慎吾は納得したように頷き、一夏はどこか疲労が残る顔で苦笑しながらそう答えた

 

「あぁ……私も自分の撮影の時は恥ずかしながら緊張してしまったな。仕方ないとは言え多くの人々から必要以上に注目を浴びるのはやはり心が落ち着かないものだな。本当に」

 

 一夏の言葉に慎吾は箸を動かす手を一旦止め、思い返すように、そうゆっくりと呟いた

 

「へぇ、慎吾さんもモデル撮影をしたことあるんですね。どんな撮影だったんですか?」

 

 その言葉に一夏は興味を持ったらしく、特に考えずに純粋に果たして自身より筋肉質な体型を持つ慎吾がどんな服を着て撮影に挑んだのかを知りたくて率直に問い掛けた

 

「確か端末にその時の写真を入れて置いたはずだが……あぁ、これだ」

 

 一夏の言葉を聞くと慎吾は懐から携帯端末を取り出し、多少操作すると目的の画像を発見したらしくそのまま端末画面を一夏の方へと向けて近づけ、自然な流れで一夏はそのまま軽く身を乗り出しながら画面へと視線を向け、ついでに少しばかり興味を引かれていた箒もまた画面を覗きこみ

 

 

「「………………」」

 

 二人が共に揃って、そこに映し出されていた予想の斜め上を突っ走る写真に沈黙してしまった

 

「この写真は……あぁ、例の、お前が前に言ってた、今の流行より自分の信じたモノを信じて撮る。と、言う現代にしては妙に粋なスタンスを持ったカメラマンの撮影した奴か? 確かにこの独特の雰囲気は他に無い独特のエネルギーを感じるな……」

 

 その中で唯一、慎吾以外に写真に見覚えがある光がどこか納得したように頷きながらそう言う

 

「これは……この姿は……仏教の十二神将をモチーフとしたのか……?」

 

 と、そこで漸く理解不能な物を見た故の硬直状態から立ち直った箒が恐る恐ると言った様子で慎吾に訪ねた

 

「あぁ、分かるか。何でも私を最初に見た瞬間に電撃的にこのイメージが浮かんできたらしい」

 

「「…………」」

 

 そう何気無く答える慎吾に箒と一夏は何も言うことが出来ず再び沈黙させたれた

 

 慎吾の端末に写し出されていたのは撮影に使われたらしい数名の写真であり、そこには慎吾一人を撮影したものや、慎吾のまわりを多種多様のお洒落な服装に身を包んだ数人の若いモデルの男性が取り囲んだものが撮影されており、それ自体は普通と言えた。そう、何より問題なのは

 

「しかし袈裟も初めて着ると慣れないものだな……道着ならば着なれているのだが」

 

 そう、その写真に写し出されている慎吾の服装は最新ブランドの新発売服や老舗メーカーの自慢の服装等では無く。白地にどこか落ち着いた紅色が目立つ袈裟。それもどういう訳か袈裟の上半身や下半身が品を損なわない程度にはだけており、慎吾の鍛え上げた筋肉が露になっており、良く見てみれば慎吾と共に写真に写っているモデルの男性の何人かは明らかに周囲と比べても異質な慎吾の服装に笑顔が引きつっているのが見てとれた

 

「まぁ、一夏も私も専用機持ちで二人しかいない男性操縦者であゆ以上、これから再びモデル撮影の話が来る事もあるだろう。これもある意味、専用機持ちの義務だと思ってやっていこうではないか」

 

「そう……ですね……はい」

 

 苦笑しながら語る慎吾に、未だに端末画面に写し出されている袈裟を着た慎吾の姿に唖然とさせられていた一夏は額に汗を滲ませながらそんな曖昧な返事を返すことしか出来なかった



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135話 老士、登場

 遅れてすみません、かの人の登場に手間取って更新するのに大変苦労してしまいました……


「(慎吾、相談だ。この状況、果たしてどうする?)」

 

「(私も今、丁度それを考えている所だが……弱ったな……これは)」

 

 注文を受けて運ばれてきた、業火野菜炒めを口にしながら光と慎吾は眼前の一夏と箒に聞こえないように意識しながら密かに二人で会話を交わす。その表情は両者ともに曇っており、状況が思わしくない事は明らかだった

 

 思い返せば自身が写真を見せ、その写真を見た瞬間どういう訳なのかは不明だが一夏と箒が圧されてしまった事で妙な空気になった時、タイミング良く弾の祖父であり、店主の厳が(恐らく当人としては良かれと思って)母屋にいる蘭を呼んだ事から全ては始まったのだろう。と、慎吾は半ば上の空で食事をしながら記憶を思い返していた

 

 厳に呼ばれた蘭は、よもや想い人である一夏がいるとは自宅食堂を訪れているとは想像もしていなかったのだろう。多少、人目を意識はしていたがリラックスした普段着のまま食堂を訪れてしまい、丁度、一つのテーブルに並んで座る一夏と箒、ついでにその対面に並んで座る慎吾と光に気が付き、食堂中にに広がるような悲鳴をあげると耳まで真っ赤にして母屋目掛けて逃げるように走り出していってしまった

 

 そして現在、蘭にとってのお出かけ用と思わしきかわいらしく、まだ真新しい服装の上に使い込まれた様子の年期の入ったエプロンと言うどこか矛盾している服装に着替えた蘭が食堂に戻ってきて店の仕事を始めた。のだが……

 

「…………」

 

「(こっちは……相変わらず……だな)」

 

 現在進行形で否応なしに感じる程に一夏と箒に向けられている熱い視線に、慎吾は思わず小さく苦笑しながらそう心中で呟いた

 

 視線の相手は言うまでも無く先程、慎吾達が注文を配膳するなりカウンターの向こうに引っ込んでしまった蘭であり、その時から隠せない程の焦りと動揺が込められた蘭からの熱い視線は二人に降り注いでいたのだが、箒は慎吾達も同じテーブルにいるとは言え、一夏と物理的に非常に距離が近い同テーブルの隣席にいると言う事で緊張しているのか気付く余裕が無いらしく、一夏はと言うと蘭の態度の変化には疑問に感じたらしく軽く首をひねっていたが、現在、旨そうに自身がフライの盛り合わせ定食と共に注文した焼き魚の鮭を食べている一夏は慎吾が身内贔屓で見ても切実ささえ感じる蘭の視線に気付いているとは思えなかった

 

「(いくら私が一夏や箒達との方が付き合いが長いとは言え、蘭が一夏向けている恋愛感情は間違いなく本物。どちらか一方だけに味方するなど私には出来ない……が、このまま放置してる訳にも……)」

 

 否応なしに突如として困難極まる選択を強いられた慎吾は無意識に食事の手を止め、箒と蘭、両者ともが傷付かず解決する策を必死に練りださんと考え込み始めた

 

「た、食べさせてやろうと言ったんだ! 私が!」

 

「え? お、おう!」

 

 だからこそだろう。慎吾はここに来て一夏と箒の会話を聞き逃してしまうと言う痛恨のミスを犯し、完全に制止のタイミングを見失ったのは

 

「(箒!? 君がそんな大胆な行動をするとは……! よもやここが多くの人目に晒される食堂で更に同じテーブルに私達がいる事を忘れてはいないか!?)」

 

「(いや……横目で俺達二人や周りを見ている以上、意識はしているのは間違い無い。これは学園生活ではあり得ぬシチュエーションに酔っている……ようなものなのかもしれないな……)」

 

 そう、慎吾が僅かに意識を反らした瞬間、一夏と箒は大胆にも人目もはばからず目の前でさながら恋人のように箸でお互いのおかずを少しずつ食べさせあっており、そんな光景を目にした慎吾は必死で声を押さえつけながら驚愕の声をあげ、光もひきつった顔でそう答えた

 

「あああああっ!」

 

 当然ながら、そんな光景を見てしまった蘭の衝撃は慎吾や光よりも大きかったらしく食堂中に響くようなショックの声をあげた

 

「(こ、これはいかん……! 心苦しいがここは一夏と箒を……)」

 

 その様子をしっかりと見ていた慎吾は慌てて二人を止めようとし

 

「…………っ!」

 

 その瞬間、慎吾は気付いてしまった。目の前の箒が一夏に見えぬように配慮しながらも、頬を染め何かを堪えるように拳を握りしめている事を

 

 そう、当然光の推測通りに熱に浮かされてやった行動だとしても箒がこんな大胆な行動をして羞恥を感じない訳が無い。この行動が無謀とは言えどれ程箒が勇気を振り絞って動いたのかを悟ってしまった慎吾はその瞬間に自然と発せようとしていた制止の声がかき消え、何も言えなくなってしまった

 

 それは光もまた同様だったらしく、結果として二人は何も動くことが出来ないまま一夏と箒を見守る事しか出来ず

 

「う…うえええええん!」

 

 そんな二人に追い討ちをかけていくように、その僅かな時間に事態は更に悪化の道を辿っていった。一夏本人は分かってはいないのだろうが、人目をはばからず互いに食事を食べさえ合う二人の姿は、恋人通しのようにしか見えず、一夏に恋心を抱いている蘭はついにらそんな光景を見続けている事が耐えられなくなったらしく悲痛な声で泣き叫びながら食堂からまさしく脱兎の勢いで出ていってしまった

 

「……! 蘭!?」

 

 そのあまりに唐突な出来事に数秒ほど硬直していた一夏ではあったが、蘭を放ってはおけないと慌てて席を立ち上がり蘭を追いかけるべく走り出そうとし

 

『待てーいっっ!!』

 

 しかし、その一夏の前に店内から屈強な五人の男が次々と集結して行くと通せん棒をするように立ちふさがる。良く見れば年齢も体型も様々な五人ではあったが、良く見ればその額には共通して青筋が浮かんでおり、どう贔屓目に見ても彼らが一夏に対して激怒しているのは一目瞭然であった

 

「(……このままでは一夏が……!! くっ……争いは避けられないのか!?)」

 

 それを見るなり、慎吾は椅子を蹴り飛ばすような勢いで立ち上がるのと同時に走りだし、一夏を庇うように五人の男達と一夏の間に割って入り、一歩遅れてその後に光も続く。しかし、それでも男達はまるで怯む様子も無く、憮然とした様子で立ちふさがり、賑やかだった食堂に一触即発の空気が流れた

 

「皆、待ってくれ」

 

 その瞬間だった、長い年を重ねたのであろう事を感じさせるしわがれた、しかしながらもそれ以上に理不尽そのものような絶対的な圧力を感じさせるような男性の声が響いたのは

 

「皆、ここは一旦荒ぶる心を静めて、私の話を聞いてくれんか?」

 

 店内が一瞬にして静まり返ると、声の主はそれまで誰一人として特段気にもかけられる事も無く自然に食堂に溶け込み、優雅に食事を楽しんでいたと思われるカウンター席から立ち上がると、滑るように騒動して騒動の中心となる、慎吾と男達の前にその姿を表した

 

「私は『キング』と名乗らせて貰っておるだけの、ただの老人。だがしかし、老人だからこそ老婆心に見てみぬふりをしてはいられなくなってな。こうして皆の前で話させて貰っているのだ」

 

 堂々と落ち着きに満ちた様子でそう語る、キングと名乗ったその老人は、一見すれば長い白髪と顎を覆い隠す程長い白髭、そして老人にしては立派な体格と穏やかな表情が特徴的な男性だった。だが

 

「(な、何なんだこの人は一体……!?)」

 

 一目見たとき、いやその声を聞いた時から箒は席から動く所が凍り付いてしまったよつに身動き一つ満足に取ることが叶わなかった。そう、何故ならば

 

「(単に言葉を発しただけでこの迫力と、今は微塵も見せてはいないが隠しても分かってしまう程の闘気……! よもや千冬さんと同等……いや……いや! そんな馬鹿な!?)」

 

 キングが意識せずとも放つ迫力。それは例えるならば見渡す限りの大海の如く、果てや底と言ったものが全く感じられないと言う一層、人智を越えたものにしか箒は感じられず、馬鹿げた考えだとは思いながらも箒はキングと名乗る老人が本当に人間であるのかさえ一瞬、疑ってしまっていた

 

「私は年寄りではあるが耳にはまだ自信があってな、失礼だとは承知の上だが、彼等の話していた会話の内容が全て聞こえていたのだ」

 

 一方で、キングはそんな箒の観察するような視線もまるで気にしてはいないように落ち着いた様子でそう語りながら説明を進めてゆく

 

「その上で私はこう断然する。今の彼女を真の意味で救えるのは織斑一夏君。君だけだ。とね」

 

「えっ……!? 何で俺の名前を……」

 

 突然、初対面の筈のキングに名を呼ばれた一夏は困惑と動揺を隠せない様子で思わずそう聞き返した。

 

「あのままでは時間が過ぎるにつれて心の傷口もまた大きくなってしまうだろう。彼女の事を思うのならば、急いだ方がいい」

 

「……! はい!」

 

 が、しかし、続けざまにそう言ったキングの言葉で一夏は慌てた様子で返事をすると、そのまま蘭を追いかけて外へと向かって走って出ていってしまった

 

「……さて、思ったより騒がしくさせてしまったな。私はここで失礼させて貰うよ」

 

 キングはそんな一夏の後ろ姿を静かに見送ると、そのまま懐から取り出した財布で手早く会計を済ませると、静かに席に残された自分の荷物を纏め始めた

 

「ま、待ってください!」

 

「な、何故あなたがここに……!?」

 

 そんなキングの元に漸く緊張による硬直から解放された慎吾と光が駆け寄り、立ち去ろうとしている所を呼び止めた。良く見れば二人とも共に顔に大粒の汗が吹き出ており、二人が激しく動揺と同時に緊張しているのが見てとれた

 

「何、特に深い意味は無い。偶然、ここに食事を取りに来ただけだ。お前達に出会えるような『予感』はしていたがね」

 

 キングはそんな二人を見ると優しく微笑み、落ち着いた口調でそう語りかける。それはあっという間に二人の緊張を解き、リラックスさせるような慈愛に満ちたものである、事実、慎吾と光から流れる汗はたちまち止まり、呼吸も穏やかな物へと戻っていた

 

「積もる話もあるだろうが生憎、今日はケンと先約があってな。改正したナイトブレスの修理マニュアルを渡しておくから、今日はここまで。と、させてくれ。何、近いうちに私達は、また会う事になるだろう。そんな予感がするのだ」

 

 二人が落ち着きを取り戻したのを確認するとキングはそう言うと、光に懐から取り出した一枚のチップを光に渡すと荷物を纏め深紫色の外装を纏うと緩やかに歩いて外へと出ていってしまい。再び、店内はしん、と静まり返った

 

「……慎吾、光、ぶしつけですまないが……あのキングと名乗った人は一体……? 只者では無いと言う事だけは嫌と言う程、理解できたのだが……」

 

 その静寂の中、勇気を出して箒は席から立ち上がり、二人に尋ねた

 

「あの人は……キング老士はM-78社の創立者の一人だ。そして、引退した現在も様々なアイディアを提供してくれている」

 

「……それ以上となると、残念ながら俺達も良くは分からない。ただ、俺達はあの人を尊敬を込めてこう呼んでる」

 

 箒の問いかけに、慎吾と光はため息を吐きながら順に答え、最後に息を合わせて一つの言葉を呟いた

 

「「万能の超人キング……そう、ウルトラマンキング。と」」

 

 しごく真面目な様子で語る二人の声は静まり返った店内に静かに響き渡って行った



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136話 新武装完成

 1ヶ月も更新できずに誠に申し訳ありません。少々、他の事に気を取られた結果、遅れてしまいました。何とかモチベーションを上げて執筆を続けていけるよう努力して行きたいです



 誰もが予想だにしていなかったキング老士の登場などの事態はあったものの、五反田食堂の一件も無事、穏便な形で終わり再び慎吾達の学園生活は始まった。のだが

 

「なぁ……頼むから俺と組んでくれって」

 

「だから絶対イヤ……って言ってるでしょ。 慎吾さん、光さん、行きましょう」

 

「おいおい、簪……」

 

「どうしたものか…………」

 

 既に一夏が簪と出会い、タッグの話を持ち掛けてから一週間近い日が経過しているものの現状はまるで進展は見せておらず、必死に頼みかける一夏をにべもなく突っぱねる簪を見て、慎吾と光は共に顔を見合わせて困り果てていた

 

 一夏がこんな調子で簪に構いきっりな為に、最近はセシリアや鈴達の機嫌はすこぶる悪く、と言うか下手をすれば軽くではあるが殺気すら似た気を放っており、慎吾の懸命の説得にすら

 

『……その……お兄ちゃんには、関係ないもん……』

 

 と、自他共に認める兄想いのシャルロットが迷った末に拗ねた様子で慎吾に答えるたのを筆頭にラウラやセシリアも慎吾への態度はさほど変わらず、まともな話し合いが成立する事は無かった

 

 無論、鈴達を説得する最中にも慎吾は光と協力して簪を説得する事も怠ってはいない。の、ではあるが、影響されるように、どうにも此方の方も上手くいかず。結果的に慎吾は丸5日近く二つの問題を手にあまし、悩まされる日々を過ごす事を強いられていた

 

「(ここは気分転換も兼ねて今日ばかりは、ほんの一旦、開発に意識を集中させるのも必要なのかもしれないな……)」

 

 そう想いながら体中にたまった息を全て出すかのような深く、長いため息を付きながら慎吾は最早、馴染みとなった整備室へと足を運ぶのであった

 

 

「……と、以上がナイトブレスやキングブレスレットから発想を得た、私の提案する新装備、仮称『ウルトラブレスレット』な訳だが……どうだろうか? 二人からの率直な意見を貰いたい」

 

 先日、M-78社で思い付いたアイディアを形にした新武装、ウルトラブレスレットの説明を終えた慎吾は少々、疲労したかのように一息付くとそう光と簪の二人に問い掛けた

 

「「………………」」

 

 が、その問いに返事が返ってくる事は無い

 何故ならば、光は慎吾の説明が終わるなり食い入るように慎吾から渡されたウルトラブレスレットの資料を幾度も見直しており、簪は慎吾が話のの途中から呆気に取られた様子で動けなかったからだ

 

「……光? 簪? ……まさかウルトラブレスレットに致命的な欠陥でもあったか?」

 

 自身が問い掛けてから、たっぷり十秒が経過しても何も言って来ない二人に慎吾は疑問を感じ、思わず更にそう問いかけながら、咄嗟に自身が前日のうちに隅々までチェックしておいた資料に不備が無いかを確かめ始めた

 

「いや、違うんだ慎吾。ただ……はっきり言えば既存の常識を覆す……いや、これは間違いなく歴史に残せる程の大発明なんだ……! ……っと、すまない。だから、先程まで驚愕のあまり何も言えなかった」

 

「基本性能だけども十二分過ぎるのに、加えてこの冗談とした思えないような拡張性……でも、確かに実現可能……凄い……です。本当に」

 

 光、簪の二人は口を開くなり興奮した様子で次々にそう言い、共にブレスレットの案を出した慎吾を褒め称えた

 

「そ、そうか……うん、ありがとう。私も努力したかいがあったな」

 

 研究者特有の物なのかいつになく熱気が込められた二人の言葉に慎吾は若干圧されたものの、その言葉を素直に受け取り礼を言った

 

「では、ゾフィーの新武装は慎吾の意見である、このウルトラブレスレットで決まりで構わないな? よし。……実はと言うと、俺も是非、完成する所を見てみたくて堪らないんだ」

 

 そこで光が場を纏めるかのようにそう言い、それに二人が同意を示して頷いたのを見ると最後に少し恥ずかしそうにそう呟いた

 

「恥じることは何もないさ光、その気持ちなら、私も決して負けないくらいあるだろうしな……。君はどうだ簪?」

 

 慎吾はそんな光の態度を見ても少しも茶化すような真似はせずその言葉を受け入れて微笑みながら簪に尋ね、その問いに簪は賛同するように無言で首をコクリと縦に振ることで答えた

 

「(これで一先ずは、だがゾフィーの新武装に関する件については解決した。と、なると次に差し迫ってる問題は……)」

 

 と、そこまで考えると慎吾はちらりと視線を簪へと向ける。

 簪はそんな慎吾の視線に特に気付いたような様子は見せず既に光と共にウルトラブレスレットの基礎プログラム製作を初めており、幾度と無く同じ時間を過ごすことでより理解する事が出来た簪の表情表情は口に出さずとも『楽しい』と言っていた

 

「(決して放って置くわけには行かないな……だが、しかし……どうにか解決の糸口は見つからないものか……)」

 

 と、慎吾は目を瞑り思いを馳せながら自分以外の誰にも聞こえないようは小さなため息をついた。

 

 そんな慎吾の声が果たして天に届いたのか、はたまた単なる偶然なのかそれから暫くして事態は慎吾の予想の斜め上を行く形で解決する事になる

 

 

「は…………?」

 

 翌日の放課後、いつものように光と連れだって簪の元へと向かった慎吾は思わず呆けたような声をあげてしまった

 

「慎吾さん、俺、やれましたよ! 俺だけで出来ましたよ!」

 

 あまりにも唐突に予想外の事が起こったせいで、未だに頭での理解が追い付いていない慎吾の様子に一夏は特に気付いた様子も無く、どんなもんだと言いたいばかり心底嬉しそうな表情で慎吾にそう報告してきた

 

「……一夏、勿論君を疑っている訳では無いのだが……」 

 

 笑顔を向け続ける一夏に若干、押され気味になりながらも沈黙を続けるの申し訳ないと感じた慎吾は重い口を開くと確認するように慎重に簪へと語りかけ始めた

 

「本当か? 本当にそうなのか簪? 『一夏とタッグを組む』事を了承したのか?」

 

 そう、放課後、昼食を兼ねた光とのタッグマッチについての戦略の合わせが当初に予想していたより白熱した結果、いつもより簪の元へと来るのが遅れてしまった慎吾と光に先に訪れていた一夏自身の口から伝えられたのだった

 

「は、はい……その……本当です……」

 

 そんな慎吾の問い掛けに簪は何故か多少、戸惑った様子ながらもそれを否定する事なく頷きながらそう答えた。そう、何故かその頬を恥ずかし気にうっすらと赤く染めて

 

「……一夏、かさねがさねで本当に悪いとは思うが……どうやったら簪がタッグを組むことを承知してくれたかを、もう一度、最初から最後まできっちりと教えてはくれないか?」

 

 学校に入学して以来、どういう訳だか恒例となってしまっているような気がしながらも慎吾は一旦、深呼吸させて精神を十分に落ち着かせると、そう再び一夏に向かって尋ねるのであった




 はい、今回の話で新武装として、帰ってきたウルトラマンことウルトラマンジャックが使いこなす万能武器。ウルトラブレスレットを採用していただきました。
 理由としましては、ウルトラブレスレットはゾフィーが作成したと言う資料が存在したらしく、これを採用させて貰った形となります。


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137話 心機一転……?

「なるほど……事情は理解したが……」

 

 一夏からの説明(とは言っても、それは何時ものように『俺と組もうぜ』と話しかけたら何故かいい返事で許可を貰えたと言う簡潔極まりない物だったが)を聞き終えた慎吾は腕を組みながら、小さく唸り声を上げた

 

「と、言うか……思ったんだが、相手から許可を貰った瞬間、有無を言わさず書類にサインをさせる……って、言い方は悪くなるがまるでたちの悪いキャッチセールスのようだな」

 

「うぐっ!」

 

 更にその後に続くように光が思案するように顔をしかめながらそう言うと、一夏は自覚してしまったのか光の言葉を聞いた瞬間、胸を押さえて苦悶の声を上げ、それを見ると光は申し訳なさそうに『悪い、少し無遠慮過ぎた』と、一夏に謝罪した

 

「……まぁ、ともかくタッグが決まったのは今はめでたい事だとしておこう。皆もそれで構わないな?」

 

 何やら気まずい雰囲気が漂い始めた、空気をどうにか晴らそうとしたのか慎吾は普段の口調より少々、大きな声でそう語りかける

 

「では……何時ものように整備室に行くとするか」

 

 誰も反論するものがいない事を確認すると慎吾は先陣を切って歩きだすと、一歩遅れてその後に一夏達も続く

 

『…………』

 

 が、しかし、彼等の間に流れるのは無言。無論、こんな状況は四人の誰もが決して望んではいなかったが、それぞれがそれぞれの理由でいかんせん何時ものようには会話し辛い故にこうなってしまっており、事情を知らぬ端から見ればその光景はまるで、確実に落ちると理解している学校の受験会場に向かう受験生のようにも見えていた

 

 

「なるほど、それが君の専用機。『打鉄弐式』……か、しかし、良いのか簪? 今は協力関係にあるとは言え、一応、私達は対戦相手でもあるのだが……」

 

 トーナメントが近付いているせいか、機体を整備する生徒で溢れ何時にも増して騒々しい整備室。そこで、慎吾は自身がかつて事故にあった親子を救おうとし、初めて動かしたISであり、こうして今も待機状態で腕にある自身の専用機ゾフィーを手にした理由、そして何より、自身が世界で二人目のISを使用できる男性だと発覚するきっかけとなったIS、『打鉄』の後続機であり、発展型でもある打鉄弐式を何処か感慨深げに見つめながらそう呟いた

 

「いえ、私も新武装開発の時にゾフィーやヒカリのデータやスペックは見させて貰ったのでこれは……イーブンです」

 

 打鉄と比べるとより装甲をスマートに、機動的に変わった機体であり、自身の専用機。打鉄弐式を展開させた簪はそんな慎吾の問いかけに、迷いなくそう答えた

 

「ん……あれ? もしかして機体は既に完成している?」

 

 と、そこで慎吾や光と共に並んで打鉄弐式を見ていた一夏が何かに気付いたように、顎に手をあて、首を傾けながらそう呟いた

 

「あぁ、俺と慎吾は大まかな話には聞いていたが……織斑くん、君は打鉄弐式に関しては今日が初めてだったな。まぁ……今日まで簪の方から避けていたから寧ろ知っていたら妙な話だがな」

 

「…………」

 

 光がそう言うと、簪は少し思う所があるのか恥ずかしそうに一夏から視線を外し、簪のその行為の意味が分からない一夏な不思議そうに首を傾げた

 

「確か、不足しているのは……武装と稼働データだったか? 新武装製作に協力してくれた礼に俺のヒカリや慎吾のゾフィーのデータを貸したい所だが、Uシリーズそのものが他のISと比べてもかなり独特でな……。すまん、力にはなれそうにない」

 

 しげしげと打鉄弐式を見返しながら光はそう、申し訳なさそうに簪に言った

 

「だがしかし、俺達二人が駄目だとしても今ここにもう一人、君の力になれるデータを持つ物がいる」

 

 と、その直後、光は首を動かし一夏へとその視線を向けた

 

「織斑くん、打鉄弐式の武装にはマルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイルに加えて、荷電粒子砲が採用されている。白式のデータが役立つ時だとは思わないか?」

 

「……! 確かにそうですね!  よぉし……」

 

 光の言葉によって一夏ははっと気が付いたような仕草を見せると白式のコンソールを呼び出してデータを探りながら躊躇いもなく簪へと一気に近付いていった。と、その瞬間に簪の頬が朱に染まり、簪は恥ずかしそうに視線をそらす

 

「……すまん慎吾、俺としてはこれからタッグを組む二人がこれを切っ掛けに互いに親身に話せるようになると思って言ったんだが」

 

 そんなあまずっぱい恋の始まりの予兆を見せる簪の様子を見て光は結果として自らの成した事が、ただでさえ箒や鈴、シャルロットと言った一夏に明らかな恋愛感情を持っている者が五人もおり、その五人を例え妹言えども一夏をめぐることで贔屓しないように、かつそれぞれ揉めないように連日の如く気をかけて熱心に動いている慎吾に更なる負担をかけてしまうかもしれない。口にしてからそう気付いた光はばつが悪そうに慎吾に謝罪した

 

「何、気にするな光……君に悪気が無かった事は分かっているし、判断も間違っていないさ」

 

 それに対する慎吾はこれから自信に降りかかる事になるであろう負担の予感に、じんわりと胃が痛み始めるのを感じながらも決して光に苦言を言うことも無く、少々ひきつった笑顔でそう光に答えるのであった

 

 

「おーりーむー。かーんちゃーん~。あー、しんにーに、せっちゃんも~」

 

 何はともあれ心機一転、一夏と簪、慎吾と光の本来のタッグメンバー通しの二組に別れ、時折互いに意見交換をしながら機体調整を続けていた最中、ぱたぱたぱたっと言うような可愛らしい足音と特徴的な間延びするような呼び方で人を呼び、一夏からは、のほほんさんと呼ばれる少女、本音が姿を表し、(おそらく当人としては駆け寄っているつもりなのだろうが)隣を歩く生徒よりも遅い速度で此方へと近づいてきた

 

「君は……本音か。ところで……せっちゃん。と、言うのはもしかして俺の事なのか?」

 

 突如として呼ばれた『せっちゃん』と言う、童謡を思わせるような可愛らしい名前に光は困惑で顔をひきつらせ、恐る恐ると言うように簪へと問いかけた

 

「そうだよ~、せりざわ。だから、せっちゃん~。いいでしょ~」

 

 しかし、本音はそれを気にした様子は無く、無邪気に光に向かって本人の体の動く速度同様の、ゆったりとした口調でそう言い切り、最後には笑顔さえ向けて見せた

 

「そ、そうか……俺としてはその呼び方は少し、恥ずかしいんだけどな」

 

「え~? そんなことないと思うんだけどな~?」

 

 そんな風に一切の悪意が無い表情を向けられた以上、光は強く拒絶する訳には行かず、結果としてお茶を濁す程度の言葉でやんわりと呼び方を変えるように本音に頼むが、本音にその秘めた想いが通じた様子は無く、本音は光の言葉にそう言って不思議そうに首を傾げるだけであった

 

 



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138話 新たなる『決意』、新たなる『技術』

 更新、遅れました。今年までにもう一本は更新するつもりです。


「……やはり、根底ではダメージが蓄積していたか」

 

 マシンアームを用いて紅と銀色のゾフィーのアーマーを開きその内部パーツを見ると、慎吾は今まで経験した数々の激闘を思い返しながら誰に言うまでも無く、ぼそりとそう言葉を呟いた

 あれから、一夏に尋ねられる事でどうにかして自身が簪の手伝いに整備室まで訪れた事を思い出した本音を加えて機体調整を再開していたのだ

 

「無論それだけでは無いだろうが、大きな原因の一つはやはりT型との戦いのものだろう。毎日の整備を欠かしたつもりは無かったが…俺のヒカリもまだその影響が一部残っているくらいだ」

 

 その隣で慎吾のゾフィー整備をフォローを自身の愛機ヒカリの整備をしながら光もまた、苦い顔をしながらそう答えた

 

「それほどまでに険しい戦いだったのだな……今でも仲間達全員の力が無ければ勝利など出来ないとは思うが」

 

 Uーシリーズの新装備テスト中に唐突に慎吾自身が秘密裏に開発されたIS 『T型』通称タイラントから襲撃を受けた事から始まり、援軍に来た光。更にはタイラントにプログラミングされていた真の狙いが一夏を含めた七人の専用機持ちだったことが発覚してIS持ちだけでも九人も関わる事になったタイラントとの騒動と、後に自身が戦ったゼフィルスと比べても尚、規格外れなスペックを改めて思いだし慎吾は溜め息をついた

 

「だからこそ、だ慎吾。以前、俺達タッグを組んでも尚T型に押しきられた雪辱をこの大会で晴らす。そう、以前にも決めただろう?」

 

「あぁ、私とお前のコンビで二度も敗北する訳など行かないからな……!」

 

 確認するように言う光の言葉に慎吾は拳を握り締め、はっきりとした口調でそう答える

 

 もし、自身が師事を受けているケンに知られれば未熟と言われてしまうのかも知れないが、それでも慎吾は心中で長年の友と共に挑んでも敗北したタイラントとの戦いに悔しさと言うわだかまりを残していた。

 だからこそ慎吾、同じく光もまた、今回の大会における心構えは非常に高く並み居る強敵をも抑えて優勝するつもりでいたのだ

 

「(改めて思うけど慎吾さんと光さんって本当に仲が良いよなぁ……)」

 

「(仲が良すぎてー、イチャイチャしてるとか、付き合ってるだとかそー言う話が一切でないもんね~)」

 

「(例えるなら……別次元?)」

 

 そんな二人を横目で眺めながら、一夏、本音、簪の三人はこっそりと呟き、近くを通りかがった為にたまたまその呟き聞こえていた生徒の何人かは同意を示すように大きく頷いていたが、作業に集中していた為に慎吾も光もそれに気が付く事は無かった

 

 

 

「ととっ……! うわっ!」

 

「光!? 大丈夫か?」

 

 あれから時間は進み、機体調整を満足する形で終えた慎吾と光は今日のウルトラブレスレット開発を中断とし、他のアリーナと比べて空が解放されている事でほぼ制限の無い飛行が可能な第六アリーナで共に新しい空中戦での軌道法を模索していた。

 の、だが、やはり一朝一夕では画期的な方法など出てくる筈も無く、飛行しながら模索し続けた結果、僅かなミスでヒカリの機体バランスを大きく崩した光に慌てて、慎吾が駆け寄り心配そうに声をかけた

 

「あぁ、心配をかけて悪いな。問題はない。問題は無いが……」

 

 自力でぶれた飛行軌道を安定させながら、そう慎吾に言うと光は大きく溜め息をつき肩をすくめた

 

「何かが足りない……それは先程から分かっているが、どうにも先程からそれが掴めない。それが、どうにも歯痒くてかなわないんだ」

 

「光……今日は無理をせず休んで、少し頭を休めた方がいいんじゃあないか? 幸いにも時間にはまだ余裕はある、何も今日一日に根を詰める必要は無いだろう」

 

 そんな状態の光を気遣い、慎吾は落ち着いた口調でそう光に提案すると、そっと右腕を差し出した

 

「そう……だな。今日はここまでに……」

 

 少し考え込むように首をかしげながらも光は慎吾に堪えてその手を取ろうと自身の左手を伸ばし

 

「……うん?」

 

 直後、不思議そうな声をあげると光は慎吾に向かって伸ばしかけていた手を止め、訝しげな声をあげると再び首を傾げ始めた

 

「……? どうしたんだ光、何かあったか?」

 

「いや、あれなんだが……」

 

 光の突然の行動に違和感を感じた慎吾が尋ねると、光はゆっくりと人差し指で自身が見ていた視線の先、慎吾の背後、百メートル程下を先指した

 

 見ればそこには、打鉄弐式を展開させて宙を駆る簪と同じく白式を展開させた一夏の姿があり、どうやら打鉄弐式の飛行テストを終えてピットへと帰還しようとしているように見えた

 

「あぁ、そう言えば二人は私達より先に整備室から出てテストに向かっていたが……まさか、二人に何かおかしな所があったのか?」

 

 ただならぬ光の口調から不穏な雰囲気を感じ取った慎吾は声をひそめ、慎重に光に尋ねる

 

「はっきり見た訳では無いから、気のせいかも知れないが……先程、二人が俺達の横を通りすぎた時、打鉄弐式の胸部ブースターのジェット炎が不自然にちらついているように見えたんだ」

 

「なに? 確かにそれは少し妙だな……」

 

 光の言葉を聞くと慎吾は仮面の下で訝しげに顔をしかめると、念を入れてゾフィーのプライベートチャネルを用いて簪と確認のため通信回線を開こうとし

 

 その瞬間、慎吾と光の見ている前で打鉄弐式の右脚部ブースターが音を立てて爆発した

 

「!! ……簪っ!!」

 

 それを見た瞬間、慎吾は迷うこと無くゾフィーの出せる最高速度でスタートダッシュを決めると、機体ごと大きく傾いて中央タワー外壁へと向かっていく簪の元へと向かい、僅かに遅れてすぐその後に光も続いた

 

「くっ……! どうする慎吾? この距離じゃあ今から俺達二人とも瞬時加速しても間に合わないぞ!!」

 

 加速を続けながら焦りを感じさせる口調で光は慎吾に問いただし、叫ぶ。

 

 当然の事ながら簪の危機に気がついたのは、離れた所にいた慎吾と光だけでは無く、既に一番近くにいた一夏が簪の元へと向かっている。が、こちらにも決して余裕があるとは言えず、このままでは例え一夏が救出に成功しても操縦者保護があるとは言え、無防備な体制で二人分の衝撃と重量で一夏が外壁に叩き付けられる事は避けられず。それで一夏が全く何も問題ないと言える保証はなく、そして何より慎吾と光の両方が目の前の仲間のピンチを放置出来るような事を良しとはしない人柄だった

 

 そう、そんな風に心底他人の事を想える二人だからこそ

 

「……! 光、私に一つアイディアが思い浮かんだが……可能か!?」

 

 この土壇場の状況で一つの策を編み出す事が可能だった

 

 

「簪ぃぃぃっ!!」

 

 突き刺すような強い声と共に一夏は瞬時加速によるスラスター最大出力を用いる事でどうにか、システムダウンを起こしてしまった打鉄弐式がタワー外壁に激突する寸前で簪の体を抱き留める形で救助に成功した

 

「ぐっ……!」

 

 が、しかし、その時点で、もはや一夏にはどうにも出来ない近距離にまでタワー外壁は迫っており、一夏はすぐにでも来るであろう衝撃を堪えるべく目を瞑り、歯を食い縛った。が

 

「…………あれ?」

 

 次の瞬間、一夏の耳に金属通しが擦れあうかのような摩擦音が聞こえただけで、外壁に叩き付けられた事で来るはずの衝撃はいつまでたっても体には全く伝わって来なかった

 

「ふぅ……どうにか間に合ったか。二人とも大丈夫か?」

 

「……慎吾さん?」

 

 と、そんな一夏に安堵のため息をつきながらそう安否を問う慎吾の声がかけられ、一夏はゆっくりと目を開いた

 

「うむ、無事そうで何よりだ一夏」

 

 一夏が目を開いて見れば何と、タワー外壁に対して慎吾が垂直に屹立し、大きく広げたゾフィーの両腕でしっかりと一夏と簪を抱えており、更に一夏がよく目を凝らして見てればその足下近くには数メートル程に渡って波状路が出来ていた

 

「ん……?」

 

 そこで一夏ははたと気付く。先程、打鉄弐式のブースターが爆発する直前に慎吾と光が訓練をしていたのを確かに一夏は目撃していた。だがしかし、慎吾が打鉄弐式の異変に気が付き、すかさず瞬時加速を使用したとしても間に合わず、ましてやこのように割り込んで二人を同時に救助するなど決して不可能だと言うことを。ならば、いかにして慎吾は間に合わせたのだろうか?

 

「どうした? 二人して黙り混んで何か問題でもあったか一夏? 簪?」

 

「い、いや、なんでも……ありがとうございます慎吾さん」

 

「い、いえっあのっ……なんでも……っ!! ありがとうございます……」

 

 だがしかし、一夏はそれを一時の杞憂としてそれ以上気にする事は無く慎吾に礼を言っただけで、あまりにも訳が分からなかった為に深く考える事は無かった。

 

 その腕の中で朱を通り越して最早、茹で蛸のように顔を真っ赤にさせた簪に気が付く事も無く



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139話 ウルトラブレスレット完成!

 どうにか今年中に更新できました。 来年もペースを保たれるかは私としても不安ですが何とか更新を続けて行きますので、どうか来年も今作をよろしくお願いいたします


「い、ち、か……織斑、一夏……」

 

 一年寮の自室のシャワールームで熱めのシャワーを浴びながら胸を高鳴らせながら簪は静かに、しかし想いを込めて一夏の名を呟く。その顔はまだシャワーを浴び始めてさほどの時間が立っていないのにも関わらず、朱に染まっており、その声色には今日の事故が起こるまでは朧気でしか無かった愛情がはっきりとした形となっていた。

 そう、それこそ、あの事故の後に一夏への礼と共に心が想うまま一夏の手を握り、下の名前で呼んでいいと言ってしまうまでは

 

「格好……よかったなぁ……二人とも……」

 

 恍惚しているかのような口調で簪は再び呟く

 

 そう、今現在、簪の心を大きく占めていたのは自覚する事が出来た一夏への恋心ではあったが、それと同時にまるで当然の事であるように一夏と自身の二人をしっかりと抱き止めて救助した慎吾への感謝と、自身の好きなテレビに出てくる完全無欠ヒーローを見ているような憧れの気持ちを抱いていたのだ

 

「二人がいてくれるなら……きっと私も……」

 

 簪にとっては出会ってまだ一月も過ぎていない筈の一夏と慎吾。端から見れば奇に思えるかも知れない事だが今の簪にとっては憧れであり、優秀で強く、かつ魅力的で、決して手が届かない程に完全無欠にして、優しい自身の姉、更式楯無を前にしても押し潰されない勇気を、そして心を奮い起たせてくれる力を与えてくれる存在へとなっていた

 

 

「よし…いよいよ最後の工程だ、光、高周波カッターを取ってくれ」

 

 タッグマッチ大会前日の夜、第二整備室で慎吾は空中ディスプレイと睨みあいをしながらウルトラブレスレット制作、その最後の作業に取りかかっており、慎吾の顔からは緊張と長時間の作業を続行した事による疲労が滲み出ていた

 

「あぁ、任せろ。……お前が立案者だとは言え本当に今までよく頑張ったな、慎吾」

 

 そんな慎吾に何でも無いような様子で高周波カッターを渡す光の表情にはやはり、幾分かの疲労と緊張が隠しきれてはいなかったが、それでも慎吾に最後の鼓舞の言葉を送り

 

「……勿論、皆も言わなきゃな。本当に手伝ってくれてありがとう。本来は簪の打鉄弐式を完成させる為に集まったメンバーなのにも俺達のウルトラブレスレット完成に力を貸してくれるとはな……」

 

 続けてそう言うと、背後で固唾を飲んで見守っていた何人かの二年生整備科メンバーに向かって振り返った

 

「気にしない、気にしない! 僕ら君や大谷君が好きで隙を見て手伝っただけだからね!」

 

「そもそもだやぞ光? こんな常識を大きく覆すような発明品を目の前にして見るだけでおあずけなんて整備科としては生殺しもいい所や!」

 

「そうデスよ! それに私達はfriend! 困った時は持ちツ持たれつ……デス!」

 

 と、光の感謝の言葉に様々な体格、髪型の整備科の三人の生徒が口々にそう笑顔で答え集まっている他の整備科メンバーも同意するように頷いた

 

「井出……堀井……それにショーンも……このウルトラブレスレット完成は君達の助力無しでは出来なかった……本当にありがとう。君達の善意に心から感謝する」

 

 三人から向けられた暖かい言葉に慎吾は胸が温かくなって行くのを感じながら光から受け取った高周波カッターを動かし、最後の行程を終えた

 

「出来た……これが今、出来る技術全てを積み込んだウルトラブレスレット。……名付けるならウルトラブレスレットプロトタイプと、言った所か」

 

 慎吾が部分展開させたゾフィーの腕で完成したての銀色に菱形の装飾が特徴的なブレスレット。ウルトラブレスレットを手に取るとその瞬間、周囲からわっ、と歓声があがった

 

「お、大谷くん? 良かったら……なんだけど早速、そのウルトラブレスレットプロトの性能の一部をここで見せてくれないかな?」

 

 と、そんな慎吾に向かい少しおどおどした様子がらも何処か期待と興奮を隠しきれない様子で一人の女子生徒、井出が懇願するように話しかけた

 

「あぁ、勿論。ここでウルトラブレスレットを使ってみるつもりだよ。無論、安全性を考慮したものを出すが……なっ!」

 

 井出の言葉に慎吾は軽く頷いて答えると、少しだけ緊張した様子でウルトラブレスレットをゾフィーの腕に装着すると力を込めて声を発し、その瞬間、腕に装着されたブレスレットが目映く光輝き、慌てて近くにいた何人かの整備科の生徒が目を手で覆った

 

「成功した。これがウルトラブレスレット第一の携帯。その名もウルトラディフェンダーだ」

 

 光が収まるとウルトラブレスレットはその形をブレスレットから大きく変え、ブレスレットと同じ銀色が目映い一枚の盾となってゾフィーの腕に装着されており、再び整備科のメンバーからは歓声があがった

 

「うむ、見事にウルトラディフェンダーは当初の設計通りに完成したな。脳波コントロール装置には何ら問題はなさそうだ」

 

 出現したウルトラディフェンダーを見てそれこそ、慎吾が発案した時から側にいた光は計器を用いてウルトラブレスレットが問題なくディフェンダーへと変化出来ている事を確認すると、満足して頷いた

 

「以降の装備は後々、ブレスレットに組み込んで行くとして、一先ず現状はこのウルトラディフェンダーと……おや、向こうも完成したようだな」

 

 チェックを行う光にならって自身もコンソールを使い、ウルトラブレスレットが現在、移行させる事が出来る形態を慎吾が確認していると、慎吾達とは反対の方角、つまりは打鉄弐式の制作に関わっていた簪を初めとした一夏や残りの整備科メンバー達から歓声が上がり、それによって慎吾は打鉄弐式が満足出来るレベル形で完成へと至った事へと至った事を悟った

 

「当初はどうなるものかと思ったが……薫子と京子。あぁ、それからフィーに本音の働きも大きかったな。ともかくその四人が来てから大きく進歩したな……しかし、何より忘れては行けないのは……」

 

 ウルトラブレスレット開発のさがら、打鉄弐式の開発について簪、一夏の両名から話を聞いていた光は感慨深げに呟いていたが、その声は周囲のざわめきにかき消され、最後までは隣にいた慎吾以外は聞き取れる事が無かった

 

 

「ふぅ……やはり、一汗書いた後のシャワーは落ち着くなぁ……」

 

 シャワーを終え、部屋着へと着替えを終えた慎吾はタオルで汗を拭いながら慎吾は気持ち良さそうに部屋を出る。

 と、言うのも慎吾はウルトラブレスレット開発を終えた後、一夏が機材の後片付けをしているのを手伝い、ある程度の汗を流すのと同時に着ていた作業着を機材の思わぬ汚れで汚してしまっていたのだ

 

「確か光が指定していたのは……っ!」

 

 そして今、現在、慎吾は先にシャワーを利用した光が提案した慎吾、光、そして簪の三人きりでのひっそりとしたウルトラブレスレット完成記念パーティーに参加すべくゆっくりと廊下を歩いていた。と、その時だった

 

「---ッッ!!」

 

 廊下の向こう側を遠目から見て分かる程に悲壮感に満ちた顔で目一杯に涙を浮かべ、両手で何かを抱き締めたまま簪が走り去って行くのが慎吾の目にはしっかりと見えていた

 

「おい簪! 待て! 何かあったのか!?」

 

 その姿を見た瞬間、慎吾は迷うこと無く簪の元へと向かって走りだして行った



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140話 『私』のヒーロー

 今回は、いつもより気持ち多めに慎吾を活躍させてみました。しかし、どうにも以前のような更新が出来ず悩んでいます……。


「簪、一体君に何があったのか私に話してはくれないか?」

 

「…………」

 

 彼女を見つけた瞬間、すぐ様走り出した事ですぐに追い付き、足を止めさせる事に成功した慎吾は、簪に自身のハンカチを渡すのと同時に人目に付きにくい廊下の端に簪を誘導すると、出来るだけ落ち着いた口調で簪にそう問いかける。が、しばしの時間が過ぎたことで簪の涙が流れるのは止まったものの、ハンカチで顔を押さえる隙間から見える目には堪えようとも堪えきれない涙が滲んでおり、言葉にせずとも未だに答えられる状態では無い事が慎吾には痛いほど理解できた

 

「……少しだけ先程の言葉を訂正しよう。『話せ』と、私は言ったが、何も無理はしなくていい。もう少しだけ落ち着いて……それでも君が話したいと思ったのならば、話してくれればいいさ」

 

 そんな簪を自身に出来るレベルで慰め、落ち着かせんと慎吾は簪の肩に手を伸ばし、そっとその肩を支えた

 

「ここならば人目につく事はまず無いだろう。だからな簪、辛いなら好きなだけ泣いても構わない。心が傷付いている時は素直に泣いた方が落ち着くものだぞ?」

 

「うっ……うあああああ……うあああああん……」

 

 慎吾の口から続けざまに放たれる心底自身を思いやった優しい言葉、それに加えて肩から服越しに伝わる慎吾の体温が簪に追い討ちを決め、簪は心の思うまま支えてくれる慎吾の腕に体重を預け、心の底に蓄積された感情の全てを吐き出すように再び泣き始めた

 

「…………」

 

 そんな簪に慎吾は何も言うことは無く、ただ黙って片腕でしっかりと簪を支え、もう一方の片手で簪の髪が乱れてしまわないように緩やかに、簪が泣き止むまでその頭を撫で続けるのであった

 

 

「ほら、紅茶だ。ミルクと砂糖入りの物で良かったかな?」

 

「は、はい、ありがとうございます……」

 

 数分後、十分に泣いた簪が落ち着きを取り戻した事を確認した慎吾は、簪を連れて自動販売機近くに設置された簡易的な机と椅子がある休憩スペースへと移動しており、慎吾が率先して二人分のペットボトル入りの飲み物を購入して先に自身が椅子へと座らせていた簪へと手渡した

 

 ちなみにそんな二人の表情はと言うと、慎吾は簪の涙を止めることが出来たことで安心して、にこやかな笑顔を浮かべており、それとは対照的に簪てして全く意図的では無いのだが慎吾に心の底へと隠していた弱さを見せ、その優しさに甘えてしまった簪は恥ずかしいのか視線をあまり慎吾に合わせる事が出来ず、座り込んだまま頬を朱に染めていた

 

「それでだ簪、落ち着いた所で無理にとは言わないが私に事情を語ってはくれないか? しつこいようだが、少なくともそれが分からなければ私としても有効な手立てが思い浮かばないからな」

 

「あっ……はいっ! わかりました、話します……」

 

 ごく自然に簪の対面側の席へと慎吾が腰掛け、そう話を動かすと簪は少し迷いながらも慎吾へと涙を流していた理由を、すなわち打鉄弐式に使われた実稼働データサンプルが楯無の物だったと言う事実。誰に悪意があった訳でも無いのにプライドが傷つけられるのと同時に自身が感じた姉への劣等感、惨めさ、そして完成された恐怖の想いを簪自身が驚く程素直に慎吾へと語り始めた

 

「……なるほど、それはどうしようも無い程に悲しくて、苦しくて、辛かっただろう。しかし、よくその辛さを乗り越えて私に、話す気になってくれたな。ありがとう、簪」

 

 その全てを一字一句逃さず聞き終えた慎吾は半分程に減った紅茶が入ったペットボトルを両手で握り締めながら悲しげに楯無に微笑んだ

 

「わたっ……しは……あの人に勝てっこないし……敵わないんです……っ」

 

 慎吾に向かって簪は、自身が背負っていた想いを深さゆえに時おり言葉を詰まらせながらも、吐露せんとするように言葉を続ける。既に十分程前に存分に泣いたせいか涙自体は流れなかったものの、その姿からは簪が内に抱えている悲鳴だけは誤魔化しようが無かった

 

「だから、私、助けてくれるヒーローがいてくれたら……って、強く逞しくて、優しくて真っ直ぐで……決して折れたり曲がったりしない、完全無欠のヒーローが……」

 

「………………」

 

 そんな簪の言葉を慎吾は肯定も否定もする事はせず、沈黙したまま、ただ真っ直ぐに簪を見つめながらその話に耳をすませ続けており、簪が言葉を続ける最中、ふとしたことで刹那、意図せずして簪と慎吾の視線が交錯し、簪は寂しげに微笑んだ

 

「私は……きっと、そんな完璧なヒーローのイメージに……織斑くんや慎吾さんを重ねていたんです……。だから、こうして想ってる事を話せたのかも……」

 

「……すまない簪、私を慕ってくれる気持ちは嬉しいが……念のために、一つだけ言わせて貰っても良いか?」

 

 まさにその時だった

 

 突如、慎吾は簪の話を遮るように口を開き、確信じみた様子で簪に了承を求めながらも真剣な表情で更に言葉を続ける

 

「期待に答えられなくてすまないが簪……」

 

 

「私は自分自身を振り返ってみても、私が君が言うヒーローの様にもてはやされる人間だとは思えないんだ」

 

「えっ…………?」

 

 その簪にとっては全く意を付かれた慎吾の発言に、あまりにも自然に簪は声を漏らしていた

 

「私はな簪、強く優しかった父や母、幼い頃から私を救ってくれた人達のように誰かを守れるような人間になりたい。そう思って、昔から自分に出来る努力をしていただけなんだ。そしてだ……」

 

 と、そこまで語っていた所で若干ながらも強ばっていた慎吾の表情は自然な動きで緩み、柔和な物へと変化して慎吾は微笑みを浮かべていた

 

「端から見れば妙だと思うかも知れないが、今の私は義理とは言え三人の妹達の兄になっている。家族を失った私を兄と慕ってくれている彼女達を私は心底愛しく思っているし、守りたい、いや兄として護るべきだとも思っている。……そう。つまり、私はその二つを厳守しているだけの普通の人間。ヒーローのような素晴らしく尊敬に値するような事はしていないさ」

 

「…………」

 

 事も無げに慎吾の言葉に、呆気に取られたのか簪は沈黙したまま、何も言うことが出来ず目を見開いたまま沈黙していた

 

「それにな簪、私はそもそも完璧なヒーローたる者がいるとしたら……それは即ち、人間ではないと思うのだ。人間であるからこそ失敗するし、負けもする。時には酷く惨めな思いを味わうかもしれない……。かく言う私だって不甲斐ない話だが今まで幾度と無く負けたことか……」

 

 薄く目を瞑り、そう自嘲するように言うと慎吾は再び簪にしっかりと視線を向ける

 

「だが、それは忌むべき事ではない。だからこそ良いんだ。我々が不完全と言うことは、人間は挑み続ける限り、まだまだ成長出来る証明だと言うことに確信を持てているんだよ。だからな簪……」

 

 

 

「君も、ほんの少しでもいい。一人の人間として今のありのままの自分を受け入れて見るんだ。きっと、それが出来た時には今、君を苦しめる苦しみはずっと軽くなるだろう。私がそれを保証しよう」

 

「自分を受け入れる……」

 

 優しく微笑みかける慎吾に、簪は反復するようにその言葉を口にし、そっと紅茶が入ったペットボトルを持つ自身の手を握りしめる

 

 紅茶は、時間の経過により、ほんの僅かなものになってしまいながらも確かに温もりが残っていた



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141話 兆候

 どうにか今月中にもう一本更新する事が出来ました。これから少しずつ調子を上げて更新してゆきたいですね


「一夏……あと少しで否応なしに知ることになるだろうが……それでも最初に言っておこう。すまない、私には止める事が出来なかった」

 

「へ……?」

 

 専用機タッグマッチトーナメント大会当日の朝、これから楯無による開会の挨拶が始まろうとする最中、T事件などで楯無に作った複数の借りの為もあって生徒会に所属していた慎吾は、集合した生徒達や教師陣がマイクスタンドの前で司会をする虚に注意が移った一瞬の隙を縫って、同じく生徒会メンバーてして虚の背後で整列するつ一夏に、こっそりと耳打ちした

 

「まさか……慎吾さん何か本番になってどうにもならないほど困ったことがあったんですか……!?」

 

 不意討ち気味に放たれた慎吾の言葉に一瞬、気を取られたようにポカンとしていた一夏だったが、その内容を理解するや否や表情を険しくして声を潜めながらも緊張した様子で慎吾に問いかけた

 

「……確かに、ある意味ではあるが、そう言う事にもなるのだが……」

 

 一方で問いただされた慎吾は歯切れ悪く、苦笑いするような表情で一夏に答えると小さなため息と共に肩をすくめた

 

「ん~……? ど~したの? しんにーに、おりむー? ふぁー……」

 

 と、そこで偶然にも整列していた立ち位置が二人のすぐ隣だったゆえに話が聞こえていたのか本音が若干、二人に向かって顔を寄せながらそう問いかけ……その途中で眠たげに欠伸をした

 

「……待て、気を付けろ本音。それに一夏もだ。どうにも私達を不信に思ったらしいが先程から何度も連続して教頭先生が君や、私や一夏に視線を向けている。やはり、承知の上だったが、この場で話すのは無理があったか……」

 

 そんな本音と、本音の問いかけに答えようとしていた一夏を慎吾は制すると真っ直ぐに背筋を伸ばして起立した姿勢のまま視線だけを動かして生徒達のすぐ近くに並んで集合している教師陣、その中でコソコソと不審な行動をする慎吾達を睨み付けている一人

 逆三角形が特徴的なフォックス型眼鏡に逆に老けをより強めに見せてしまうような濃い目の化粧、所謂『お堅め』と言われてしまうような皺一つ無いスーツと、まるで絵に書いたような『無駄に厳格で融通が効かない教師』の服装をした(最も、慎吾の知る限り、見た目だけでは無く、性格もまさに当人の服装の通りなのだが)教頭の事を二人に気付かさせ、その瞬間一夏が隣にいる慎吾にしか聞き取れない程度の小さな声で「げっ」と声をこぼした

 

「すまん……私から一方的に語り出した事なのに、ぶつ切りになってしまったが話はここまでだ……」

 

 睨み付けてくる教頭の視線に気付いた一夏が慌てて姿勢を正したのを確認すると、慎吾は最後に短くそう言って一夏に謝罪し、自身も改めて何事も無かったかのように視線を真っ直ぐ、丁度、マイクスタンド前に立ち、開会の挨拶をせんとする楯無へと視線を向けた

 

「どうも皆さん、今日は専用機持ちのタッグトーナメントですが……」

 

 何時もと変わらず堂々とした、しかしそれでも少しも嫌味に聞こえないような声で楯無が語り始める。その内容自体は長すぎも短すぎもせず、抑揚がはっきりしており非常に聞き取りやすいだけで、ごく普通の挨拶であり、何もおかしな点を見つけられず隣に立つ一夏は小さく胸の中で先程の慎吾が何を自分に伝えんとしていたのかと疑問を感じた

 

 そう、確かにこの時まではごくごく普通だったのだ

 

「名付けて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」

 

 楯無が『博徒』と書かれた扇子を開き、力強くそう宣言するまでは

 

「…………はい?」

 

「……………………」

 

 楯無の宣言に生徒達が興奮で沸き立つ中、一夏は思わず間の抜けた声をあげ、慎吾は疲れを隠せない顔で思わず頭を抱えていた

 

「……ってぇ!! それって賭け事じゃあ……っ!!」

 

「それがだな……一夏、一応はこれは生徒達の応援の一環『レクリエーション』の一つであり、賭け事ではない。と、なっているんだ……少なくとも先生達には、そう話はついている……」

 

 気付いた瞬間、反射的に楯無の賭博開始宣言に思わず反射的に突っ込みを入れる一夏だったが、そこに慎吾が心労からか頭を抱えながら更なる情報を付け加え、たまらず一夏は絶句する

 

「私も、どうにか時間を縫って新装備開発の傍ら生徒会に赴いてやれるだけの事はやったんだが……やはり多数決には勝てなくてな……一夏、君も呼ぼうと思ったんだが、あまりにも集中して声をかけづらくてな……」

 

「おりむー、多数決の取る日も生徒会室に来なかったからね~」

 

「ははははは……嘘だろ……おい……」

 

 申し訳なさそうな顔の慎吾といつも変わらぬにへっとした緩い笑顔の本音の口から続けざまに語られる衝撃の事実による精神のダメージにより、もはや一夏はひきつった顔で乾いた笑い声を発しながら立ち尽くす事しか出来なかった

 

「まぁ、そう言うことだから良かったら生徒会メンバーだからって遠慮せずに二人も楽しんでね?」

 

 二人から向けられる視線に気が付いた楯無はそう言って、慎吾と一夏に魅力的に笑いかけながらウィンクをしてみせ、それと同時に二人のため息はシンクロでもしているかのように重なるのであった

 

 

「まったく……生徒の皆を楽しませようとする心は生徒会長としてはすげぇ良いと思うんですけど……少しは押さえて欲しいですよねぇ……」

 

「はは、確かにその気持ちは分かるがな一夏。しかし、我々には破天荒にも見える想像も行動力、そして予測も不可能な行動を実行に移せるカリスマを持っている事こそが楯無会長の魅力だと私は思うし、だからこそ皆がついて来る……楯無会長とは短い付き合いだが、私はそう考えているんだ」

 

 アリーナへと続く道を共に並んで歩きながら慎吾と一夏は先程までの楯無の事を思い返し、二人ともに苦笑した

 

「まぁ、それはそれとしてだな……」

 

 と、そこで慎吾はふと足を止め、一夏に向かって真っ直ぐな視線を向ける

 

「第一試合を背負った、君の抱えるプレッシャーは大きいだろうし……相手はあの楯無会長と箒だ。間違いなく厳しい戦いになるし、私が一夏の立場だったらぞっとしない相手だと思うが……それでも勝機は確かにある」

 

「うっ……そりゃあ、そうなのかとしれませんがね……」

 

 慎吾からの言葉を受けた慎吾は盛大に顔をしかめ、緊張によるものか額から汗を流しながら、そう答える。

 そう、何の因果か今回のタッグマッチトーナメントで先陣を切ったのは一夏であり、実の所、先程から一夏との会話の合間にその様子を見て、その精神の乱れを案じた慎吾はこうして足を止めて一夏に声をかけたのだ

 

「……慎吾さんも一緒に見たでしょう? さっき黛先輩が見せてくれたオッズ。あれ慎吾さんと光さんのペアが同率二位で、俺と簪のペアが最下位だったじゃないですか」

 

 当人としても、あまり口にはしたくは無いのか一夏は若干、声をひそめ、自信なさげにそう慎吾に語る

 

「一夏、それはあくまで統計の結果だろう? 私個人としては一夏を……勿論、簪も、持つ実力を信じている。だからこそ、私は先程『勝機がある』と、言ったわけだ。それにな、統計が全てだと言うなら、そもそも我々がこの地球にこうして、ここにいる事すら怪しいものだぞ?」

 

 そんな一夏を慎吾は特に責めることもせず、あくまで穏やかな口調で一夏に言い聞かせるようにそう言い、励ますようにその肩に自身の手を添える。と、そこで慎吾はたと柔和な笑みを浮かべていた表情を真剣なものに変え

 

「……それに、無茶を言うようだが、もう一つだけ君に頼みたい。私は出来るだけの事はしたが、彼女の……簪の心を変える決定的な一歩を導いてやれるのは他でもない君の気がするんだ……」

 

「……慎吾さん?」

 

 思いがけず放たれた慎吾の言葉に困惑した一夏が聞き返そうとしたその瞬間

 

 全く、突如として空気が張り裂けるような衝撃音と共に地震のような激しい地響きが巻き起こって校舎を揺らし、その力は容赦なく二人にも襲いかかった

 

「んな……っ!?」

 

「こ……れは……っ!!」

 

 一夏が壁に寄りかかり、慎吾が床にしゃがみこむ事でどうにか振動を堪えるなか、廊下に備え付けられた電灯が赤い非常灯へと変わった



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142話 二つの闘争

 何とか更新できました。少しは調子を取り戻せているような気がしますので、これからも頑張って更新を続けて行きたいと思います


「うっ……ぐわぁ……っ!!」

 

「慎吾さんっ!!」

 

 突如現れ、襲撃を仕掛けてきた黒い無人機、『ゴーレムⅢ』の巨大な左腕に一瞬の隙を付かれた慎吾は首を捕まれ、捕まれた瞬間、凄まじい力で締め上げられているのかゾフィーの銀色の装甲からは火花が上がり、共に戦っていた一夏は吹き飛ばされた状態から慌てて起き上がり、苦し気にもがく慎吾の元へと駆け寄った

 

「い、いや……一夏、助けはいらない……こいつは私が引き受ける!」

 

 しかし、慎吾はその助けを手を降る事で制止すると、ゴーレムⅢの左腕を両腕で掴むのと同時に何処か女性的なシルエットを持つゴーレムⅢの腹部に膝蹴りを放ち、怯ませる事でゾフィーの首からどうにか腕を引き剥がした

 

「でも……っ」

 

「学園を襲撃したIS君はこの一機だけでは無い! 君は簪の元へと行ってやってくれ! 彼女には君が必要なんだ!」

 

 慎吾の身を案じて渋る一夏に、慎吾はそれだけを告げると返事を待たぬままゴーレムⅢの腕を離さぬよう両腕で拘束したまま空へと飛び立つ

 

「(このまま狭い通路で戦闘を続けていてはM87もZ光線も使用する訳には行かない……この近くのアリーナにまで運んでそこで戦闘を行う……! とっ……!!)」

 

 ゾフィーの持つ最高速で運搬される間ももがき、空いた右腕の肘から先に形成されている右腕の巨大ブレードでゾフィーに斬りかかってきたが、慎吾はすんでの所で刃の刀身部分をゾフィーの左足で放った回し蹴りで弾き飛ばす事でどうにか防いだ

 

「ハアァッ……!!」

 

 更にそれだけでは慎吾の攻撃は終わらない、アリーナのシールドが急激に近づき、センサーでシールドの巻き込まれるような距離に人がいない事を確認すると、慎吾は空中で捉えたままの左腕を利用し、ゴーレムⅢを背中で背負い、そのまま加速の勢いとゾフィーの重量を利用して、シールドに向かって柔道における一本背負いの形でゴーレムⅢを投げつける

 

「M87……ッ!!」

 

 シールドにゴーレムⅢが激突した瞬間、慎吾はゾフィーの右腕を左腕の肘下に添え、胸の前で大きなL字を作ると本来より破壊力は劣るぶん少ないチャージで放つ事が可能なBタイプと仮称されている変則型のM87光線を発射した

 

「------」

 

 背負い投げからの息も付かせぬ連続攻撃に、ゴーレムⅢは僅かに体格を動かして反応するだけで回避も防御も間に合わず、自身の頭部であるバイザー型のライン・アイにM87の直撃を受けつつアリーナのシールドを砕きながら、音を立ててその内部に叩きこまれた

 

「ハアッ……!」

 

 それを見た瞬間、すかさず慎吾も自身が空けたシールドの穴からゴーレムⅢを追う形で素早くアリーナ内に突入していった

 

 

「今だっ!!」

 

 光の合図の元に、散開した複数人がかりの実弾とビームが入り混じった射撃が一斉にゴーレムⅢに襲いかかる

 

「ーーーーー」

 

 が、ゴーレムⅢはそれをライン・アイで僅かに一瞥しただけで、機体の周りに浮遊する球場の物体が円状に展開してシールドを発生させる事で射撃のほぼ全てを容易く防ぐと、無造作に左腕を向ける。と、瞬間、一番年上と言うことで指揮を取っていた光に向かって熱線が放たれた

 

「くっ……手強いっ……!」

 

 光はそれを見た瞬間、攻撃を中断しヒカリを瞬時加速する事ですんでの所で回避し、事なきを得た。が、決して安堵などする事は出来ず、光は仮面の下で次第に焦りの表情を見せ始めていた

 

 数分前から突如侵入してきたゴーレムⅢ相手にピット内でISを展開させた状態で待機中だった光は同じくISを展開させていた専用機持ちの生徒と協力して現在進行形で戦闘を続けていたのだが、ゴーレムⅢの秘めていた光の予想を遥かに超えた装甲、機動力に翻弄されて徐々に押しきられていたのだ

 

「きゃあっ……!! あっ……」

 

 そうしている間にも、一人の生徒が隙を付かれてゴーレムⅢの巨大ブレードに斬りかかれシールドエネルギーが尽きて崩れ落ちるように倒れてしまった

 

「ーーーー」

 

 と、その瞬間、それに追い討ちをかけようとするようにゴーレムⅢがブレードを振り頭上へと振り上げて構えた

 

「させるか……!」

 

 その瞬間、すかさず光はナイトブレスからナイトビームブレードを形成しながら飛び出すとゴーレムⅢが振り下ろすブレードと生徒の間に割り込み、ナイトビームブレードで巨大な刃を受け止め、つばぜり合いの形になる事で倒れて無防備になってしまった生徒を庇った

 

「ぐっ……うっ……! 今のうちに、早くその子を避難させてくれ!」

 

 ゴーレムⅢのパワーに真っ向からぶつかり、その強力なパワーに苦悶の声をあげながらも光は視線をゴーレムⅢに向けたまま背後に向かって叫ぶ

 

「わ、分かった! 僕達に任せて!」

 

「おいっ! 自分大丈夫か!?」

 

 その瞬間、光の言葉に直ぐ様応じ、今まで安全の為にゴーレムⅢやヒカリから出来るだけ離れた整備道具を集めて作った簡易的なバリケード。その陰に隠れていた何人かの生徒のうち、井出と堀井の二人が素早く倒れた専用機持ちの生徒の元に駆け寄り、素早く気を失った生徒を二人がかりで抱き抱えると、一目散に再びバリケードの影に飛び込んだ

 

「よしっ……! セヤァッッ!!」

 

 倒れた生徒の避難が完了したのを見ると、光はゴーレムⅢに前蹴りを入れ怯ませると再びブレードを構えてゴーレムⅢと正面から対峙した

 

「ま、不味いよ……もう戦えるのは、光ちゃんだけしかしないないじゃあないか……」

 

 バリケードの影から教師陣への連絡を試みつつ、隠れて、その様子を見ていた井出は顔を青ざめさせてそう呟いた

 

「くっそ……ショーンまだかぁ!? このまま、こんな狭いところでアイツとドンパチしてたら光も本気出せんし……何よりアイツの攻撃を食らった瞬間にここにいる皆、全滅やで!!」

 

 その近くではゴーレムⅢとの闘いやその攻撃により負傷した生徒を、何とか出来る範囲で堀井が応急手当を施していたのだが、刻々と悪化していく状況に堪えきれなくなったのか額に汗を滲ませながらバリケードの奥に向かって叫ぶ

 

「Sorry! あと少シだけ待っテ! 今、最後のshieldの解除に取りかかッテいるンだ!」

 

 堀井の声にショーンはいつも持ち歩いている自身の端末を指が残像を残し始める程に素早い動きで操作しながら、額に汗を滲ませ、短く切り揃えた髪を揺らしながら必死の形相でピット・ゲートのシステムクラックを試みていた

 

 一瞬の油断や大怪我、悪ければ死に繋がりかねない危険地帯であるこの場に集まっている井出、堀井、ショーンの三人。だが実の所、彼女達は実の所、整備科の中でも特に優れた能力を持った生徒とは周囲には称させるが、専用機持ちでは無い。友人である光の試合前に激を飛ばすべく駆け付けた。所詮、一般の生徒でしか無いのだ。だが、それでも三人の誰もが自身が置かれた状況に不満を言うことも無く懸命に自分達がそれぞれ出来ることを行っていたのだった

 

「で、出来タ! 今ダ! サムライガール!! GATE へ急ゲ!」

 

 と、その瞬間、ショーンがついにゲートのシステムクラックに成功したのかピット・ゲートがゆっくりと音を立てて開き、ショーンがバリケードから顔を出して光に向かって叫んだ

 

「ぐっ……おいおい、ショーン、その呼び方は……」

 

 ショーンの声を聞いた光はどこか苦笑したような口調てま自身に向かって放たれた熱戦を装甲を掠めながらも直撃を避け、そのまま被弾を覚悟でナイトビームブレードを一時的にナイトブレスへと収めると、一気に距離を詰めてゴーレムⅢの腰部分を両腕でがっしりと組み付いて拘束した

 

「止めてくれと言っているだろう!!」

 

 そう叫ぶと光はゴーレムⅢを抱えたまま、勢いよく開いたゲートから飛び出していった。そして

 

 

 

「光……!?」

 

「慎吾……!?」

 

 そこでアリーナ内で『もう一体の』ゴーレムⅢと激闘を繰り広げているゾフィーを見た瞬間、二人の声が交差した



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143話 ゾフィー&ヒカリvsゴーレムⅢ

 どうにか今回も更新出来ましたが……正直に言えば今回は難産となってしまいました。……どうにも上手い戦闘描写が思い浮かばず苦労します


「ハアアアァァッ!!」

 

 『もう一騎』のゴーレムⅢを抱えた光が近付いてくるのを見た瞬間、慎吾は声をあげるとゾフィーを第二形態である赤いエネルギー光を全身に纏うスピリットに移行すると、そのままゴーレムⅢが放つ熱線を姿勢を傾け前進しながら避け、続け様に放たれたブレードの斬激を腕の中に素早く発生させたウルトラスラッシュを投擲せず、腕に装着したままナイフのように受け止め、その強く力を込めてその軌道を反らす

 反らした瞬間、ブレードを受けていたウルトラスラッシュは音を立ててガラスのように砕け散ってしまったが、それでも慎吾は止まらない

 

「ハァッ!」

 

 気合一閃、声と共に右腕を掻い潜るような形で更に詰め寄ると、第二形態移行した事により、大きく膨張したしたゾフィーの両腕でゴーレムⅢの両腕と両足をがっしりと掴んで掴みかかり、そのまま頭上高く持ち上げた

 

「ーーーーー」

 

 捕まれたゴーレムⅢは慎吾の頭上で激しくもがき、到底人間では不可能な動きでゾフィーの両腕から逃れようと滅茶苦茶に暴れだし、強化されたゾフィーの装甲をも傷付けて火花をつける

 

「ぐっ……光っ!!」

 

 両手両足を拘束しているのにも関わらず、容赦なくゾフィーへと向けられるパワーでの反撃に思わず手を離してしまいそうになるのを堪えると、慎吾は更に両腕の力を込めて屈み、上空の光に向かって叫ぶ

 

「ああ! 行くぞっ! 慎吾!!」

 

 慎吾の声を聞いた瞬間に光は慎吾が何をせんとしているのかを察し、合図と共に自身が拘束していたゴーレムⅢを加速した勢いのまま地上の慎吾に向かって投げ飛ばした

 

「光! 攻撃を仕掛けるタイミングを逃すなよ!」

 

 光に向かって慎吾もまた叫ぶと、渾身の力を込めて自身が抱えていたゴーレムⅢを光に投げられ空中から落下してくるゴーレムⅢを狙いをつけると、その場で回転し、円盤投げのような動きで宙へと放り投げた

 

「「ーーーー」」

 

 一方で投げ飛ばされた二機のゴーレムⅢは、互いが互いに正面衝突するコースを飛んでいる事をセンサーで読み取ると、不安定な体制で投げられた事により大きく機体バランスが崩れているのにも関わらず、それを無人機らしい、人間が搭乗していては決して不可能と断言できるような関節を無視した動作で踊るように空中を優雅に舞い、器用に衝突コースから身を反らす

 

「「今だっ!!」」

 

 その瞬間、ヒカリの放つナイトシュートとゾフィーの放つスペシウム。共に青い輝きを持つ二条の光線が回避した直後の二機のゴーレムⅢにさながらプロレスのダブル・ラリアットのように命中し、二機は二つのエネルギーにより発生した爆発による爆炎に包まれた

 

 

「くっ!? この……!」

 

 次の瞬間、爆発が発生した直後にも関わらず、空中で立ち込める爆煙の中からナイトシュートを放った直後で硬直していたヒカリを狙って二発の超高密度圧縮熱線が発射され、ガードを固めつつ慌ててそれを回避しようとした光ではあったが熱線はヒカリの装甲をかすめただけで大きく機体を揺すぶるのと同時に、光に激痛を与え、仮面の下からは光の苦悶の声が思わず溢れた。しかも、熱線はそれだけでは無い、爆煙を貫きバランスを崩したヒカリを狙って次から次へと熱線が放たれていく

 

「ここは私に任せろっ!」

 

 と、そこに迫りくる熱線に光を庇う形でゾフィーの瞬時加速で慎吾が割って入ると、右腕に装着されたウルトラブレスレットをかがげる。と、その瞬間、ウルトラブレスレットが光に包まれ、銀色に輝く巨大な一枚の盾。ウルトラディフェンダーへとその姿を変えた

 

「ハァッ!! ぐっ……!」

 

 慎吾は出現したウルトラディフェンダーを体の正面に構えると、迫りくる熱線に向かって立ちはだかる。と、その瞬間、轟音と共に複数の熱線がウルトラディフェンダーに命中し盾が熱線の熱量に赤熱化し、慎吾も空中で数歩後退させられ、衝撃を堪えるべく歯を食い縛った

 

 その瞬間、先程までの光景をビデオの逆回しの映像で見ているかのように、熱線を受けたウルトラディフェンダーがゴーレムⅢの熱線をそっくりそのままの状態で反射し、熱線を放った二機のゴーレムⅢ当人達に向かって飛んでゆき、そのまま熱線が直撃すると再び爆発すると共にゴーレムⅢの攻撃で霧散かけていた煙に重ねがけするように新たな爆煙を発生させる

 

「「ーーーー」」

 

 が、すぐにその煙を、二機のゴーレムⅢが戦闘を行う前から何ら変化の無い飛行をしながら突き破ると、今度は狙いを慎吾へと変え、何事も無かったかのように接近しつつ熱線による攻撃を再開し始めた

 

「くっ……何と頑丈な装甲だ……」

 

 ゴーレムⅢが動くのと同時に、油断なくウルトラディフェンダーを片手で構えて光を庇いつつ、二機に挟まれてしまう状況を避けるために素早く移動しながら、慎吾はゴーレムⅢのそのあまりの強固さに仮面の下で顔をしかめる

 

 何も、ゾフィーや光の攻撃を受け、二機のゴーレムⅢは全くの無傷と言う訳ではない

 その証拠とばかりに最初に慎吾と戦闘を行っていたゴーレムⅢはボディに一筋のひび割れと焦げ痕が入り、頭部から突き出している羊の巻き角に似ていたハイパーセンサーは大破して殆どその原型が残っておらず、バイザーにも全体的に地割れのように亀裂が入っている。対して光と戦闘をしていたゴーレムⅢは更に目で見て損傷が分かりやすく、ピットでの戦いの最中でついたのか、あちらこちらにナイトビームブレードが直撃したらしき複数の刀傷。さらには幾度と無くヒカリと鍔迫り合いを繰り広げたブレードは熱で欠け元の半分ほどの長さに変わっていた

 

 だがしかし、それはいずれもゴーレムⅢにとって『決定打』とは言えない傷では無い

 

「くっ……! 光、お前のシールドエネルギーはどれ程残っている!? 私は、今ので四割を切ってしまった!」

 

 目の前で敵対する熱線を回避すればヒカリに命中してしまうと悟り、ウルトラディフェンダーで防ぎながら慎吾は背中合わせに近い形で共に戦う光に叫ぶように問いかける。その胸に輝くタイマーは慎吾の言葉が真実である事を示すように、青色から変わって赤色になり、点滅を始めていた

 

「俺も、あまり余裕は無い……! 全開から言えば五割弱……! から今も減り続けている……と、言った所だ!」

 

 ブレードが半分になった事でより距離を詰め、激しい息も尽かせぬような格闘戦を仕掛けてくるゴーレムⅢをナイトビームブレードと持ち前の格闘技でギリギリの所でどうにか知名打を避けながら、光は慎吾に答える。ゴーレムⅢとの戦闘の最中、ヒカリが身に纏う装甲は処理しきれなかった打撃により少しずつ傷付き、緩やかながら確実に限界は近付いてきた

 

「光……! 以前、簪を救うために使ったアレは使えるか!? 無茶だが、今はアレで隙を作った上で例の戦法で一気にかたを付けるしか奴等を打倒するしかない!」

 

 だからこそ、この、じわじわと真綿で首を絞められるかの如くゴーレムⅢに押されていく状況の中で慎吾が多少のリスクを覚悟の上での短期決着の道を選んだのはある意味必然とも言えた

 

「確かに今は、それしか手は無いな……!」

 

 そして、慎吾の考えは光もまた同意だったらしく、一瞬の隙を見て飛び込んできたゴーレムⅢに回し蹴りを叩き込みながら光はそう答えると、慎吾の元へと駆け寄ると互いの機体ごしにピッタリとその背中を合わせた

 

「……分かってるとは思うが慎吾。あの作戦は確かに絶大なダメージは与えられるだろうが一歩、間違えば俺達、二人纏めて良くて大怪我レベル。運が悪ければ動けなくなって無防備な状態を連中に追撃される。……覚悟は良いか?」

 

「なぁに……無茶は危険は慣れてしまったよ。この学園に入ってから、特に顕著にな……」

 

 光の問いかけに慎吾が答えると、やがて二人はあまりにも危険に慣れてしまった自分達が可笑しく感じ、決して集中は欠いてはいないが戦闘のまっ最中なのにも関わらず、どちらからともなく笑いだした

 

「行くぞ光……!」

 

「あぁ、慎吾。 俺に押し負けるなよ?」

 

 直後、慎吾と光は互いの足裏を重ね、蹴り飛ばすような形でスタートダッシュを決めると、それぞれが相手するゴーレムⅢへと向かっていった



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144話 二人の策

 何とか更新出来ました……。戦闘描写に普段より気合いを入れて書いてみたら予想以上に長くなったのが原因です。が、今回でやりたい事はやれたので満足しています


「ハァァッ!! セイッ!!」

 

 ひび割れたボディ部分を狙った渾身の蹴りはゴーレムⅢに容易く回避されたが、それでも慎吾は追撃の手を止めず反撃とばかりに放たれたゴーレムⅢのラリアットを腕で弾きとばすと今度は頭部のバイザー目掛けて空気を切り裂くような鋭い音を立てて手刀を叩き込んだ 

 

 僅かな時間での光との話し合いを終え、再びゴーレムⅢと対峙した慎吾は戦闘の場所を低空へと移動し、ウルトラディフェンダーを再びブレスレットに戻すと、先程とはうって変わって防御を必要最低限レベルにまでとどめた非常に攻撃的な戦法で戦闘を続けていた

 

「まだだ……確実に成功に導くためにはまだ、責め続けなくては……!」

 

 決して多いとは言えない残されたシールドエネルギーの両では、洒落でも無く一手の誤りが即ち敗北と言える

緊迫した状況の中、慎吾は自身の心音が大きくなり冷や汗が流れ始めるのを感じながらも、覚悟を決めてそう叫ぶと、更なる攻撃を続ける

 

 勿論、慎吾は決してやけっぱちでこんな強硬手段を選んだ訳ではない

 

 あくまで慎吾の頭は激情に流されず冷静さを保っており、全ては短い時間の中で捻り出した二機のゴーレムⅢを纏めて倒す策を実現させる為の行動であった。

 が、それに加えてもう一つ、慎吾の専用機たるゾフィーの第二形態移行たるゾフィースピリット。それは全てに置いて通常時より全ての機体スペックが優れ、特殊な条件付きではあるが他のIS機体が持つ唯一使用を再現して使用する事が可能とする反面、元より一夏の白式程では無いが、燃費が良いとは言えなかったゾフィーの燃費は更に悪化し、維持可能とする時間が約180秒と制限されている。

 既にゾフィースピリットに移行してから二分が経過していた慎吾にとっては最早、一秒たりとも時間に余裕は残されていない。と、言うことも大きな理由の一つに他ならなかったのだ

 

「ーーーー」

 

「うっ!?……ぐっ……!」

 

 と、その瞬間、連続で繰り出される慎吾の蹴りの中、僅かに甘かった一発の右足の蹴りをゴーレムⅢが巨大な左手でガッシリと受け止めると、がっしりと足首を掴むのと同時に装甲が悲鳴を上げだす程の強靭な力で締め上げ、ゾフィーの警告表示がやかましい程に鳴り響くのと同時に足首から先が千切れそうになる程の激痛に耐えながら慎吾は拘束から逃れるべく捕まれていない左脚を振り上げる

 

「がっ……!」

 

 しかし、それよりも早くゴーレムⅢは足首を掴んだまま、力ずくでゾフィーをアリーナの大地に向かって投げ飛ばし、慎吾の左脚が何も捕らえずむなしく空を切った瞬間、ゾフィーは大地に激突して慎吾の苦悶の声と共に土埃が巻き上がった

 

「ーーーー」

 

 決定的な隙を見せてしまった慎吾に、ゴーレムⅢはゾフィーが墜落した場所、土煙に目掛けて、長高密度圧縮熱線を豪雨の如く降り注ぎ、土煙はみるみるうちに真っ赤な熱線へと埋め尽くされていった

 

「ハアアアァァッ……!!」

 

 と、その瞬間、微かになった土煙と降り注ぐ熱線を突き破り、ウルトラディフェンダーですっぽりとゾフィーの全身を守れるように構えた慎吾がかけ声と共にゴーレムⅢに向かって真っ直ぐ突撃を開始した

 

「(まだだ……まだ、まだ耐えられる……! このブレスレットは試作型だが皆で協力して作り上げた一品! 理論上はあの熱線であっても受けきれる筈だ!)」

 

 降り注ぐゴーレムⅢの熱線を正しく盾となって受け、同時に反射を続けるウルトラディフェンダーの表面はあまりの熱量に次第に白熱している範囲が広がってゆき、慎吾も次第にウルトラディフェンダーを持つ手に感じる熱が増していくのを感じながらも、慎吾は突撃を止める事無く、更に速度を上げてゴーレムⅢへと向かっていく

 

「ーーーー」

 

 と、その時だった、多数の熱線を受けても一向に引かない所か全速力で突撃してくる慎吾に対して対処を切り替えるつもりだったのか、はたまた決してありえぬ話ではあるが無人機であるゴーレムⅢが持つ電子の脳で『焦り』を感じたのか、ゴーレムⅢは後退し、今の今まで左腕から途切れなく発射されていた熱線が一瞬、止まった

 

「今……だっ……!!」

 

 無論、その降って湧いたような決定的な隙を慎吾は決して見逃さす道理は無い。今の今まで構えていたウルトラディフェンダーをすかさず頭上へと掲げる。その瞬間、ウルトラディフェンダーは目映い光に包まれ、僅かな時間その姿を元のウルトラブレスレットに変化させたかと思うと再び変形し、より細く、長く、そして鋭利な全く別の姿へと変化してゆく

 

「ハアッ!」

 

 その僅かな間も無駄にはせず、慎吾はゴーレムⅢに狙いを定めるのと同時に頭上で腕を引いて構え、ウルトラブレスレットが新たな姿へと変化を終えた瞬間、空を裂くほど鋭く、早く投擲した。その一連の動作に所要した時間は実に0,5秒。ゾフィースピリットの力でシャルロットの『高速切替』を再現したからこそ可能であった早業であった

 

「ーーーー」

 

 一撃たりとも食らわないとばかりに固くガードを固めていた状態から文字通り一瞬にしてゴーレムⅢへの攻撃へと反転した慎吾ではあったが、無人機であるゴーレムⅢはそれに決して動じたりなどする事は無い。ゾフィーが凄まじい投擲したモノを読み取り、すかさず球型の可変シールドユニットが規則正しく並び、投擲物と接触するタイミングでエネルギーシールドを展開させ

 

 次の瞬間、投擲されたエネルギーシールドをゾフィーから投擲された、持ち手近くの紅白模様と矢にも似た形が特徴的な一本の細身の『槍』がエネルギーシールドをまるでそれが薄ガラスであるかの如く軽々と可変シールドユニットごとシールドを貫通し、その長さがゾフィーの身長ほどもある槍は回避も間に合わせずそのままゴーレムⅢの亀裂部分に命中し、串刺しにした

 

「これが今出来るウルトラブレスレットのもう一つの形態、ウルトラランス……! どうにかぶっつけ本番で形使用する事が出来たが……ふっ、予想を越えた破壊力だな。と……」

 

 荒く息を吐き出し、ウルトラランスが突き刺さった事で空中で大きくふらつくゴーレムⅢをみながら慎吾は仮面の下で改めてウルトラブレスレット小さく笑みを浮かべる。が、直ぐにその顔を緊張で引き締める。もはや、このタイミング以外に策を仕掛けるタイミングは無かったのだ

 

「こちらは準備が出来た! 行くぞ光っ!」

 

 そう叫ぶや否や、慎吾は光を信じて返事を待たずにゴーレムⅢに向かって急加速すると体制を立て直す前に勢いのまま回し蹴りを叩き込み、光ともう一機のゴーレムⅢが戦っていた方向へと弾き飛ばすのと同時に光に向かって飛んだ

 

「あぁ……! 俺も今……そちらに行こう!」

 

 その慎吾の声に、すかさず光は答え、余程苦戦したのかアーヴギアが吹き飛ばされた上にタイマーが点滅している状態な上に格闘戦でゴーレムⅢに押し込まれる寸前だったもの、これ以上時間をかけられないとばかりに覚悟を決めると、片手でゴーレムⅢの刃を防ぎながらナイトブレスを天空に掲げ一気にエネルギーを集中させる

 

「ぐっ……うっ……おおおおっっ!!」

 

 そのままゴーレムⅢが反撃や防御に動くより早く、殆どゼロ距離に近い状態で光はナイトシュートを発射し、慎吾が蹴り飛ばしたゴーレムⅢに目掛けて吹き飛ばす。あまりにも近距離で発射された為にナイトシュートのバックファイアが光自身にも襲い掛かるが、それでも光はナイトシュートの発射を止めず、出来うる限りゴーレムⅢを遠くへ吹き飛ばすと自身もまた慎吾に向かって飛ぶ

 

 

「今だっ!」

 

「行くぞ慎吾っ!」

 

 そんな短い合図を交わした瞬間、二人はすれ違いざま『瞬時加速を行いながら』互いの機体の足裏を合わせると、光が力を込めて慎吾を蹴り飛ばす

 

「はぁっ!!」

 

 多少の誤差はあれど二機分のパワーで加速されたゾフィーは、そのあまりの速度のせいか、空中に一筋の矢のような鋭い飛行機雲を描きながらゴーレムⅢに向かって真っ直ぐに飛んで行き、そのまま速度を利用して上空から急降下し、居合い抜きの如く摩擦熱のせいか炎が見え始めたゾフィーの右脚で、鋭く蹴りを放ち二機纏めて吹き飛ばして怯ませると、速度を落とさないまま機体を大きくカーブさせると上昇した

 

「光! 次はお前だっ!」

 

「ああっ! 任せろ!!」

 

 慎吾を発射された後、すかさず移動してカーブの終わり際で待機していた光に向かってゾフィーの足を浮かべながら慎吾が叫ぶと、先程の巻き戻しの如く加速したまま二機は足裏を合わせ、今度は慎吾がゾフィーの両足で瞬時加速したヒカリをカタパルトの如く激しく発射した

 

「おおおおおっっ!!」

 

 発射されたヒカリは先程のゾフィーに勝るとも決して衰えぬ勢いで、同じく飛行機雲が残る勢いで加速すると

ナイトビームブレードを出し、未だに急加速して放たれたゾフィーの蹴りで体勢が崩れている二機のゴーレムⅢを上空から急降下して斬り伏せ更に大きく体制を崩させると、やはり先程の慎吾同様に大きくカーブしながら上昇し、そこで待機していたゾフィーを再び蹴り飛ばし、急加速させる

 

「「うっおおおおおお……っっ!!」」

 

 『何と、してでもこれで決める』そんな慎吾と光の気迫が込められた雄叫び共に二人の一連の動きは更にその速度を上げて行き、ゴーレムⅢの反撃を決して許さずビー玉か何かのようにゾフィーとヒカリの間を滅茶苦茶に吹き飛ばし滅多うちにしてゆき、やがて二機が作る飛行機雲が空中に巨大な∞のマークを作り出した

 

 そう、この二機が瞬時加速中している最中に互いにタイミングを合わせ、片方がもう片方を蹴り飛ばす事で二機分のエネルギーでもう片方を発射する。と、言う戦法こそが慎吾が簪と一夏を救おうとした際に偶発的に編み出した技であり、タイミングを一歩でも誤れば互いが大ダメージを負ってしまう危険性を秘めた慎吾と光の切り札たる策だったのだ

 

 そして今、絶え間の無い急加速による攻撃にゴーレムⅢの装甲が大きくひび割れ、二機のコアが露出した瞬間、二人の策は最終段階に達していた

 

「光、行くぞっ、トドめだ!」

 

 タイミングを見計らってカーブの途中で一旦方向転換慎吾はボロボロになったゴーレムⅢを掴み、背後に立つ光に向かって叫びながら振り返り、残されたエネルギーを全て使う勢いでゴーレムⅢを拘束したまま最後の瞬時加速を行った

 

「慎吾! 最後でタイミングを崩すなよ!!」

 

 呼ばれた光もまた、傷付いたヒカリの両腕でゴーレムⅢを拘束しながら答えると、瞬時加速をしながら慎吾に向かって飛ぶ

 

「「はあああっっ……!!」」

 

 互いに相手に向かって瞬時加速を行った二機は目にも止まらぬ動きでその距離を縮め、加速されたまま互いに正面衝突をしそうになり

 

 その寸前、二人はそれぞれ拘束していたゴーレムⅢを文字通り放り投げると、近付き過ぎた事で相手の装甲に掠めて火花が出るほどギリギリの所で互を避け、慎吾、光と共にやり過ごした

 

「「」」

 

 その瞬間、嫌な音を立てながら真っ正面から二機のゴーレムⅢは巨大な弾丸と化した相手に激突し、ボロと化した装甲はヒビ部分から、たちまちのうちにコアごと衝撃で崩れてゆき、瞬きもせぬうちにさっきまで人の形をとっていた二機は、それが元は何の姿をとっていたのか判断がつかぬ程に砕け、ゴーレムⅢは最後に断末魔の如く聞き取れる程に小さな電子音を奏でると、単なる瓦礫の山となってアリーナの大地に崩れ落ちていった



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145話 戻る日常……? 

 どうにか更新しました。そして今回、ついに作品の所謂ラスボスとなるキャラクターを本格的に登場させ、次回からオリジナルの話を始まらせていただきます


「ううっ……はぁはぁ……維持可能時間は残り15秒……残エネルギー5%……正しくギリギリだったな……」

 

 アリーナの大地に立ち、最早ただのガラクタの塊と化したゴーレムⅢの残骸を見下ろしながら、慎吾は荒い息を吐き出しつつゾフィーを第二形態のゾフィースピリットから通常状態に戻しつつ、文字通り底を付くまで紙一重だったシールドエネルギーの残量を改めて見直すと、今更ながら冷や汗が出てくるのと同時に、ただ立つ事にすら精神を集中させる必要があるほどの凄まじい疲労を慎吾は感じていた

 

「ふぅ……フレームは勿論として、コアは激突した際に破壊されたのが見えてはいたが……こちらも、やはり粉々か……。う……」

 

 その近くには同じく疲れきった様子の光が立っており、ヒカリのスキャンでゴーレムⅢが何の間違いが起ころうとも決して再起などありえぬガラクタの山と化した

事を確認すると、そこで限界が来たのか展開していたヒカリが解除されると、光はアリーナの大地に膝をついて崩れた

 

「光……!? だ、大丈夫……うぐ……」

 

 目の前で崩れ落ちた光の身を案じて咄嗟に慎吾は近付こうとしたが、やはり慎吾も蓄積された疲労とダメージにより満足に体を動かせる状態では無かったらしく、勇んで一歩を踏み出した途端にゴーレムⅢに握り締められた右足が激しく痛み、慎吾は思わずバランスを崩して、そのままばたりのアリーナの大地にうつ伏せの形で倒れると、同時にゾフィーも解除され、待機状態のブレスレットへと戻ってしまった

 

「ふっ……どうやら……互いに立っている事すら厳しい程に疲労困憊なのは明確だな……」

 

 そうしている間にも、光はもはや片膝立ちをしている体力も無くなって来たらしくズルズルと背後へ姿勢を崩していき、仰向けになると、アリーナの天を仰ぎながら弱々しく苦笑しながらそう言った

 

「そうだな光……私は、今しばらくだけ……このままここで休ませて……貰うとするよ……」

 

 それに慎吾は途切れ途切れに鳴り出した意識で何とかそう答えると、起き上がる事を断念し体の言う事に身を任せて、体の力を抜く

 

「おにーちゃん! 助けに来たぞっ!!」

 

「お兄ちゃん! 光さん! 大丈夫!?」

 

「お兄様!? 今すぐ、そちらに行きますわっ!!」

 

 慎吾が完全に眠りの世界へと落ちる寸前、遠くからそんな風に、慌てた様子の妹達の声が聞こえた気がした

 

 

「は、はは……すまんな、ラウラ。普段なら、この程度は一人でしてるんだが……どうにも肩が動かなくてな」

 

「気にすることはないぞ、おにーちゃん! 妹として当然の行動だ!!」

 

 時間はあれから進んで夜、それぞれがゴーレムⅢとの戦闘で負傷しながらも一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロットに含めて慎吾と光と八人が集まった一夏の部屋で、部屋の隅へと移動すると床に腰掛け、上着とシャツも脱ぎ捨て、上半身裸の状態となった慎吾は筋肉から長年鍛え抜いた事が語らずとも一目分かるような背中をラウラに見せ、負傷により自身の腕が届かない場所へと処方された湿布を張って貰っていた

 

 今回のゴーレムⅢとの慎吾が負った負傷は実に打撲が全身に渡って計二十五箇所。それに加えて左肩と腕にひび、ゴーレムⅢに捕まれた右足首、更に頸椎も運動に支障が無い程度ではあるが捻挫しており、決して動けなくなった訳では無いが今の慎吾は通常時より大きく動きに制限がかけられていたのだ

 

「……最初に『湿布張ってあげようか?』って、言い出したのは僕なのに……」

 

「くぅ……ま、まさか……ここ一番でロイヤルストレートフラッシュが出されるとは……このセシリア、お兄様の妹として、一生の不覚ですわ……」

 

 一方で、そんな何処か微笑ましい様子の慎吾とラウラを見てシャルロットは不満げに頬を膨らませ、セシリアは悔しげに顔をしかめ、隠す余裕も無いのか盛大に歯噛みしていた。

 と、言うのも、この三人はつい先程まで部屋に集まった全員で参加した大富豪中に特に意識せずに慎吾が言った『そう言えば、寝る前に湿布を変えなくては』と、言う一言に自分が変えようかと言いかけた一夏を押し抜けて、慎吾が止める間もなく三人で一発勝負でポーカーを始め、それに見事にラウラが勝利を納め、こうして慎吾の背中に支給された医療用湿布を張る権利を得ていたのだ

 

 

「えっと……聞きたくないけど、この狭い部屋じゃ無視出来ないから、聞くけど……何、あれ?」

 

「何と言うか……あいつらの慎吾への態度は毎度、理解に苦しむな……」

 

「うん……まぁ、鈴、箒、お前達の気持ちも分かるが……人にはそれぞれ独自の世界があるんだよ……」

 

 一方で、そんな状況について行けない鈴、箒、光の三人は関わりあいを避けたいのか若干、遠巻きにその様子を観察しており、それは手洗いの為に席を外していた一夏が戻ってくるまで続くのであった

 

 

「そうかそうか……慎吾の奴が光の奴と組んでいたとは言え、あのイカれ女の作った対IS用IS……とか言ったか? ともかくそのガラクタのオモチャを倒したか。それも二機ともいっぺんに……ふっ……クックックッ……」

 

 薄暗い中、電灯すらつけずにそう『協力者』は一人、無造作に椅子に腰掛けながら、とりあえずではあるが自身の拠点としている廃アパートのうっすらと夕日が差し込む一室で感情を隠し切れないように左手で口元を覆うと、手のひらの中で含み笑いをした。その表情はどれ程平和のぬるま湯に浸かりきった人間だろうと、恐怖と共に命の危機を感じるであろう程に狂暴かつ殺気に満ち溢れており、実際に『協力者』が笑った瞬間、動物的本能で危機を感じ取ったのかアパート近くの電線に集まっていた複数のカラスは一斉に飛び立ち、一目散にアパートから離れていった

 

「なら、いい機会だ。準備は整っている。亡国機業の奴等を見てるのも飽きた事だし、そろそろ俺様も動くとするか……!」

 

 そう決めるが言うが否や、『協力者』はにやついた笑みを浮かべながら腰掛けていた椅子を勢いのまま背後へと蹴り飛ばして立ち上がり、小さく伸びをした。強靭な脚力で蹴り飛ばされた椅子はガラス張りの窓へと飛んで行くとそのまま派手な音を立ててガラスを砕く。その音が『協力者』にはゲームを始めるスタートの合図に聞こえた

 

「行くかIS学園に!! ガキだったあの頃から、少しはマシになったのか……試してやるぜ? 慎吾」

 

 高まるテンションのまま協力者は部屋のドアを文字通り蹴破って廊下へと躍り出ると、その勢いのまま廊下内で自身のISを展開させると、アパートの外壁の一部を軽々と破壊して空へと飛び立った

 

「そして待っていやがれ『ブリュンヒルデ』! この俺様が……! 『ベリアル』が直々に貴様をぶち殺してやるっ!!」

 

 常闇の黒よりも黒く、当人の心の内を表しているかのように歪み淀んだ赤、しかしながらソレの原型自体はどこかゾフィーやヒカリに似たISを身に纏った『協力者』ベリアルはおぞましいばかりの殺意を込めて叫ぶと、高笑いをしながら空の向こうへと飛んで行く。大分傾いていた太陽はすっかり地平線の向こう側へと落ち、ベリアルが飛ぶ空にはじわじわと宵闇が広がり始めていた



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146話 簪の想いと慎吾の答え そして……『扉は開かれた』

 今回は一先ず、ゴーレムⅢ戦の後処理回+本の少しのαとなっています。次回からの本格的にオリジナルストーリーを始めさせていただきます


「ふぅ……やはり窮屈で好きになれそうには無いな、取り調べと言うものは。まぁ……最も取り調べが好きだと言い出すのも、それはそれでまた問題なんだろうが」

 

 誰に言うまでもなく一人そんな事を言いながら、廊下を歩いていた慎吾は一旦、足を止め伸びをしてかたまってしまった背筋を解すと、我ながら不謹慎な冗談だと苦笑しながら再び歩き出す。昨日のゴーレムⅢの襲撃を受けたことにより、慎吾を含めた専用機持ち全員は学園から生徒指導室でつい先程まで、取り調べを受けていたのだ。朝方から午前、午後の分に分けてたっぷりとかけて行った入念な取り調べのおかげで既に太陽は高く天に上り、時刻はとっくに真昼になっていた

 

「そう言えば一夏はやけに慌ただしかったが……大丈夫だったのだろうか?」

 

 長時間拘束された反動か、普段ではあまり見ないほどリラックスした様子でのんびりと歩みを進めながら慎吾が次に考えたのは、取り調べが終わるなり尻に火がついたかの如く、猛烈な勢いで走り出し、そのままの勢いで学園を後にして出かけて行った一夏の事だった

 

 走る一夏の表情から隠せない程に焦りが滲み出ていた為、話しかける事を躊躇った慎吾ではあったが、短く慎吾に挨拶をしながら通り過ぎる際に一夏が口にしていた『全力で走らなきゃ間にない』、『二時には着かないと』と言う断片的な言葉から事前に決めた待ち合わせに遅れそうのだと察していた慎吾はせめてもと心中で一夏が待ち合わせに間に合うように祈った

 

「おっと、そろそろ食堂か……うん?」

 

 そんな風に時折、窓から外の景色を眺めながらゆっくりと歩みを進めていた慎吾ではあったが、やがて目的地である食堂が視界に入りこむと、その足を若干ではあるが早めて向かおうとし、ふと、食堂の入り口近くで一人、両頬を両手で覆い立ち尽くしている簪の姿を見つけた。と、更に、よく見てみれば手で隠しきれない部分から覗くかんの肌の色はうっすらと赤く染まっており、目はぽうっとして何処か虚空を見つめていた

 

「やぁ簪、こんな所で奇遇だな」

 

 それに気が付いた慎吾は出来うる限り驚かせないよう、緩やかに視界に入りつつ、ゆっくりとそう簪に話しかけた

 

「……!? しっ、慎吾さん……!?」

 

 が、簪は余程何かに意識を奪われていたらしく、慎吾から声をかけられた瞬間、体をびくりと動かすと、慌てた様子で手を数度わたつかせ、ずれてしまった眼鏡を直しながら慎吾に向き直った

 

「あぁ、すまない簪。そんなつもりは無かったんだが……驚かせてしまったようだな」

 

「い、いえ……そんなことは……私がぼうっとしていただけですし……」

 

 そんな様子を見て、慎吾はもう少し慎重に声をかけるべきだったかと反省しつつ、すかさず簪にそう言って頭を下げて謝罪した。が、素早く簪がそれを制すると今度は簪自身が慎吾に頭を下げた

 

「ふふ……私からやっておいて何だが、ここで二人とも頭を下げていても仕方あるまい。簪、君も昼食がまだなら一緒にどうだろう? 出来ればそこでゆっくり聞かせてほしいんだ」

 

 意図せずして自身と簪がとった何処かコミカルな行動に慎吾は思わず笑みをこぼしつつ、そう言って片手で食堂を指しつつ簪に、そう誘いかける

 

「何かとても良い事があったんだろう? 君のその瞳を見てれば分かるさ」

 

 何故ならまだ、うっすらと朱が残る簪の顔。その瞳の奥から以前とは明らかに異なり、確かに存在している『希望』の光の色を見た慎吾はその理由を簪自身の口から聞いてみたくてたまらなかったのだ

 

 

「なるほど、よかった……。本当によかったな簪。わだかまりが解けて会長と真に分かり合う事が出来たんだな、君は」

 

 それから暫くして食堂の端辺りの目立たぬ席で、同席している簪の口から全てを聞き終えた慎吾は、既に空になった食器を横に下げ、そう心底嬉しそうに微笑むと簪に向かってそう言った

 

「私は精々、君に助言をする程度の事しか出来なかったが……それでも、君の心の悩みが晴れた事を私は嬉しく思うよ。大したものだな一夏は」

 

「そ、そんなことは無いです……確かに私に一歩前に進む決断をさせてくれたのは……い、一夏ですけど……私にその進むべき道を示してくれたのは……間違いなく慎吾さんです……でっ、ですから……」

 

 簪の口から聞いた一夏の活躍を思い返し、改めて感心したように呟く慎吾に簪は若干、気恥ずかしそうにしながらしっかりとそう主張すると、更に勇気を振り絞り真っ直ぐに正面から向き合うと小さく深呼吸をし

 

「あっ……りがとうございます慎吾さん……! 慎吾さんは違うって言ったけど……あなたは私のヒーローの一人です……っ!」

 

 そんな、包み隠さない慎吾への感謝の気持ちが込められた言葉を一気に告げ、最後に小さく慎吾に向かって頭を下げた

 

「……は、はは……いや、すまないな簪。少し驚いてしまって……」

 

「あ……す、すいません……いきなり私……」

 

 予想だにしなかった大胆な簪の行動と言葉を聞いて慎吾は目を見開き、呆気に取られて数秒ほど沈黙していたが、やがて気恥ずかしそうに頭をかきながら緩んだ顔でそう言い、そこで振り絞った勇気が尽きたのか簪は再び頬を急激に赤く染めると、消え入りそうな小さな声でそう慎吾に謝罪した

 

「いや……謝る必要は無いよ簪。君が慕ってくれると言う気持ちは私にはとても喜ばしい事だ」

 

 慎吾はそれをゆっくりと首を数度横に降り、止めさせると簪の頭にそっと手を乗せる。その瞬間、簪の口からは小さく『あっ』と言う声が漏れ小さく体を震わせたが

抵抗は決してしようとはしなかった

 

「それでこそ……柄では無いと思うが、私が君のヒーローとしてふさわしい人間であろうと思うくらいにはね」

 

 慎吾は柔らかな微笑みを浮かべながら、そう言うと頭の上で数度手を動かし簪の髪が痛まぬよう、ゆっくりと頭を撫でた

 

「あっ……あっ、あのっ……! 慎吾さんっ!! 私……っ!」

 

 と、慎吾に頭を撫でられながら簪は突如として、若干声を震わせながらも再び慎吾に向かって声を張り上げる。そして

 

「私っ……あなたの事を……『兄さん』って呼んでもよろしいでしょうか……!?」

 

 次の瞬間、慎吾の手が頭に乗ったまま羞恥で顔を真っ赤に染め上げつつ簪はそのくせ何故か妙に力強く慎吾に宣言した

 

「そ、そうか……大丈夫だ、構わないよ簪。君が心底そう呼びたいと言うのならば私にそれを拒否する理由は無い。君の心の想うままに呼んでくれて構わないさ」

 

 突如としてそんな宣言をされた慎吾は一瞬怯んだものの、何処かである簪がそう言おうとせん事をある程度予感はしていたのか苦笑しながらもそれを受け入れ再び簪の頭を撫で始めた

 

「……兄さん……慎吾……兄さん……」

 

「あぁ、何だ? 簪……」

 

 自身の想いを確かめるように何度も慎吾の名を呟く簪に答え、慎吾は優しく微笑みながら簪の頭を撫でる。血は決して繋がらず。出会ってまだ間もない二人ではあったが、その光景は端から見れば確かに本当の兄妹のように見えていた

 

「え……簪ちゃん………?」

 

 尚、二人からは遠く離れた席ではあるが、本当に偶然その現場には楯無も訪れており、その現場を見てしまった後、慎吾と楯無との間には表現しようの無い微妙なわだかまりが生まれる事になるのであった

 

 

 だがしかし慎吾は、そして恐らくはこのIS学園で過ごす誰もが知る事は無かった

 

 未だかつて無い強大な悪意が学園に迫りつつある事を。慎吾の身に決して避けることは出来ない恐るべき試練が降りかかる事を

 

『慎吾、U シリーズに関わる緊急事態だ。この知らせを見たら直ぐにM-78社に直行してくれ』

 

 そして、その予兆となるケンからの知らせが今この最中、慎吾の携帯端末に来ていた事を



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147話 立ち込める暗雲

 何とか更新させていただきました。今回はベリアルの凶暴さと傍若無人さを表現するのに苦戦しましたね。一先ずは自分が思う『ベリアルならこれくらいはやるだろう』と思う事を書きましたが……


「Uシリーズの設計データが外部の人間に盗まれていたっ!?」

 

 ケンからの知らせに気付くや否や、同じく知らせが来ていた光を連れだってM-78社を訪れた慎吾はケンに案内された無人の会議室で開口一番、ケンから知らさせれた衝撃の事実に思わず冷静さを忘れて叫んだ

 

「い、一体、どういう事なのですか!? Uシリーズのデータは厳重なセキュリティがかけられていた筈です! それは当然俺だってチェックしています!!」

 

 それは当然ながら光も、いや開発者であったぶん受けた衝撃は慎吾よりも大きかったらしく、光は腰掛けていた席から立ち上がるとケンに向かって身を大きく乗り出して、そうケンに問いかける

 

「すまない……今回は完全に私の認識不足だった。不甲斐ない事に気付かぬうちに隙を付かれて手玉に取られていたようだ」

 

 二人の言葉を前にしてケンはうつ向いたままながらも、逃げることも言葉を隠すことなく、そう言うと二人に謝罪した

 

「具体的な方法は未だに不明な部分もあるが……どうやら犯人は、我が社の研究部社員に複数台の監視カメラと同僚の社員。何人もの社員の顔を全て覚えているような熟練の警備員達でさえ全く見抜けぬ程に精巧に変装した上で我が社に単独で侵入。研究部専用の社員服と本人の社員証。さらに登録されている網膜と指紋のコピーとパスワードを入手して研究部に入り込み、声紋認証すら解除して颯爽とUシリーズのデータを盗んでいったようだ」

 

 続いてケンから告げられた言葉に未だ動揺で荒くなってしまった呼吸を整えながら、慎吾は無意識に自身が生唾を飲み込むのを感じていた。

 

 堂々と侵入して、さながらスパイアクション映画のような事を軽々と実行して見せる鮮やかな手口から見て、どう考えても相手は年密に計画を立てて行った一流のプロ。一筋縄ではいかない相手に違いなかった。と、なるとそんな人物がそこまでの事をしてUシリーズのデータを盗み出した理由とは一体、何か?

 

「ケンさん……データが盗まれた時期は何時です?」

 

 と、そこまで慎吾が考えた事で光が何かを察したのか、小さく深呼吸をしなが意を決した様子でケンに尋ねた

 

「……察しの通り……七月の頭だ。丁度、君が臨海学校の一見で本社を離れている時に侵入を許してしまった。……だがな光、相手は……」

 

「……ええ……分かっています……それほどまでの技術を持っている相手なら、例え俺が本社にいたとしてもデータ盗難を許してしまっただろう事は……」

 

 光の問いかけにケンはその事実がまるで光を責め立てているようになってしまっている事を配慮したのか、大分言いにくそうに言葉を詰まらせながらそう言うが、光は片手で自身の頭を抱えながらゆっくりと腰を落として座ると、消え入りそうな声でそう言い、悔しげに歯噛みした

 

「……ケンさん。そもそもの話になりますが、何故今更になってデータが盗まれていた事が発覚するに至ったのですか?」

 

 と、そんな光を見ていられなくなったのもあるのか、そこで若干ではあるが時間と共に落ち着きを取り戻した慎吾がケンにすかさず、自身が感じた一つの疑問を問い掛ける

 

「……一昨日夜、その件の犯人が郊外で遺体となって発見されたのだ。その彼の所持品や端末を調べて分かった結果だ」

 

「「なっ……」」

 

 慎吾の問い掛けに、ますますケンはますます険しい顔付きになると静かにそう告げ、急転直下の言葉に慎吾も光も思わず絶句し、身を強張らせてしまった

 

「何らかの鈍器で一撃。現場の状況からいって殺人なのは間違いないらしいが……ここからが君達を呼び出した真の理由なんだ。まだ一般には公開されていない情報故に、これから私が見せる物については極秘で頼む」

 

 そう言うと、ケンは懐から端末を取り出して操作すると端末を机に置き、そこに写し出させれている画像を二人に見せた

 

「殺された犯人の物とは違う。こんなメモが現場に残されていたのだ」

 

「これは……!!」

 

 そこに写し出されていたのは汚れ、現場と思わしきアスファルトの上に置かれている傷んだ一枚のメモ用紙を撮影した写真であり、そのメモ用紙に書かれていた短い一文を読んだ瞬間、慎吾は気付かぬうちに自身が声を察していた

 

『これは挨拶がわりだ、次は学園に向かう』

 

 書き手自身のクセなのか筆記体から何者かを悟られないようにしたのか、それとも単純にふざけているのか、荒々しく書かれたその一文は短いながらも堂々とIS学園への襲撃を宣言していたのだ

 

 

「それにしても……久しぶりに動き出したかと思えば、早々に随分と派手な事をしてくれるじゃない。うちも、みんな貴女の事を噂しているわよ?」

 

 

「あぁん……? あれで……たたがあれごときで派手だぁ? おいおい冗談だろスコール。本当に面白くなるのは……これからだぜ」

 

 その夜、ホテル『テレシア』最上階のレストラン。そこの月明かりが射し込む窓際の特等席で紫色のドレスをばっちりと着こなすスコールと同じテーブルを囲んで食事てがら対面していたベリアルは、そう言うと手にしていたワイングラスに度数の高いアルコールを乱雑に注ぎ込むと、その中身を一気に飲み干し、凶悪に笑った。

 ちなみにテレシアはドレスコードのある店故にベリアルもまた本人に似合う黒と赤色のドレスを身につけていたが、ベリアルが無意識に放つ血に飢えた鮫のような気迫と殺気が邪魔をして誰もそのドレスに気を取られる者などおらず、二人の席にワインを運びに来た若いウェイターに至っては終始子鹿の如く体を震わせ、どうか自分に話しかけてくれるなとばかりに出来るだけ距離を放して、物陰から二人を観察していた

 

「でも本当に良かったの? あの『ザラブ』と言ったかしら。あの子が貴女にUシリーズの情報を盗み出してくれたんでしょう?」

 

「あぁ……あいつは実によくやってくれたよ。それこそ、俺様を馬鹿みたいに信じて言うこと聞いてM-78社に潜入して……仕舞いにゃ『このISの力を使って、我ら二人でこの世界を制するぞ』って、俺様の肩を叩きながらヘラヘラ笑って言うくらいにはな。だから……」

 

 スコールの問い掛けにベリアルはそこまで答えるとニヤリと口元に笑みを浮かべ、ワイングラスを持った片手に力を込めて軽々とグラスを粉々に砕くと手を開き、無造作にガラス片を空になった皿が並ぶテーブルの上に撒き散らした

 

「俺がザラブを殺した。あいつは俺に攻撃されたってのに目ぇ見開いて口パクパクさせて、何が起こったのかも分からないって表情をしながら死んだよ。あいつめ、俺にデータを渡した事がどれだけ危険な事かってのを最後の最後まで分かっていやがらなかったんだぜ? ハハッ、世界を制するって言うにしちゃあなんとも平和ボケした頭じゃねぇか」

 

 嘲笑いながらベリアルはそこまで言うと椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、テーブルの上に置かれているまだ半分ほど残ったワインを片手に取ると、スコールに背中を見せ席を後にした

 

「俺とお前達の中だ……スコール。近いうちに最高のショーをお前ら亡国機業にも見せてやるよ」

 

「えぇ、楽しみにさせて貰うわよ。『協力者』さん。……いえ、ベリアル」

 

「へっ……やっぱりてめぇは『そこまで』知っていたか。やはり、俺様が力を貸しててやっただけの事はあったな」

 

 スコールの言葉に振り返ったベリアルは一瞬だけ、その瞳に僅かながらの驚愕を見せるが、それは瞬き一回よりも更に短い時間の事であり、直ぐ様いつものような凶暴な笑みを浮かべるとスコールに向かって冗談っぽく軽く手を降るとそのまま、飲みかけのワイン瓶を片手に店を出ていってしまった

 

「あのワイン……私が注文した物だったのだけどね……」

 

 ベリアルの背中を見送りつつ、割られたグラスの破片が散らばり汚れたテーブルをちらりと見て、スコールはそう苦笑するのであった



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148話 悪夢の予兆

 何とか間に合いました……次回から本格的にバトルを入れて行こうと思います。なるべく矛盾や違和感は少なくしようとは思っていますが、これから先、徐々に露になるかもしれません。どうか、あまりにも目立つものに気付かれましたらご報告お願いいたします


「あの……お兄ちゃん大丈夫? 今日もだけど……何だか最近、とっても険しい顔ばかりしてるよ?」

 

 自動販売機近くの休憩スペースに設置された椅子に一人腰掛け、購入した飲み物にもろくに口を付けず真剣な表情で何かを考えていた慎吾の元にシャルロットが通りかがると慎吾の顔を覗き、心配そうにそう話しかけてきた

 

「あぁ……シャルロットか……」

 

 そんなシャルロットの善意に慎吾は悪いとは思いながらどうしても気力が出てこず、結果として力無い声でそんな気の抜けた返事を返す事しか出来なかった

 

「いったい何があったのだ、おにーちゃん? 見たところ何か焦っているように見えるが……」

 

 と、そこでシャルロットに同伴していたラウラもまた気になるのか自然な動きで慎吾の隣の席へと腰かけると慎吾にそう尋ねてみた

 

「そうか……こんな時こそ、動揺してはならんと頭では理解しているのに表情にまで出てしまっていたか……全くら私もまだ未熟だな」

 

 二人の問い掛けに慎吾は自身の頬を両手で触り、その言葉が正しかった事を改めて確認するとそう言って小さく苦笑した

 

「すまんな、シャルロット、ラウラ、君達に下手な気を使わせてしまったようだな」

 

「ううん、気にしないで。僕達は好きでやった事だから」

 

「妹として相談なら何時でも乗るぞ、おにーちゃん!」

 

 そう言う慎吾にシャルロットは慎吾に向かってにっこりと優しく微笑みながら、ラウラは妙に得意気な顔で胸を張りながら、互いに僅かも迷わずにそう言ってみせた

 

「ありがとう二人とも……本当に勝手だとは思うが事情故に話せない事もあるが……そこはどうか勘弁して私の話を聞いて欲しい……」

 

 少し声を押さえてそう切り出しつつ、ケンから『口外してはならない』と言われた部分を隠しながら語りつつ、慎吾は同時に脳内で一週間前、M-78社での光を交えたケンとの会話を頭の中で思い返していた

 

 

「現状から言って犯人の次の狙いはIS学園にまず間違いは無いだろう。故に既にこの件については君達に連絡を入れる前に私から学園側とコンタクトを取って警戒を促している。が……しかし、私が警戒していることはまた別にあるのだ」

 

 重苦しい空気の中、未だに動揺を隠せない慎吾と光に向け、ケンは慎重に言葉を選びながら語り始めた

 

「私は恐らく相手が盗んだデータを使用して独自のUシリーズ……とも言うべき機体を作り上げたと見ている」

 

「ば、馬鹿なっ……!? Uシリーズは俺達開発チームが丸三年かけてやっとの想いで編み出したM-78社独自の機体ですよ!? いくらデータを盗み出したとは言え、そうそう簡単に真似出来るハズが……!」

 

「光! 君の気持ちは私にも分からないでも無いが……今は落ち着くんだ!」

 

 ケンがそう告げると、やはりUシリーズの開発に大きく関わっていた立場上決して見逃せぬものがあるのだろう。何とか落ち着きを取り戻さんとしていた光が思わず声を張り上げて叫ぶようにそう言い、それを慎吾は光の肩に手を乗せ、軽く力を込める事で制した

 

「ふぅ……すまん慎吾。つい頭に血がのぼって冷静さを欠いてしまっていたみたいだ。ケンさんも話を中断させてしまって、申し訳ありません」

 

 慎吾に制された瞬間、光はハッとしたような顔したが一呼吸すると落ち着きを取り戻したのだろう、肩の力を抜きながらそう言うと、慎吾とケンに向かってそれぞれ頭を下げて謝罪した

 

「いや……光、君の動揺は至極当然のものだ。私だって先程、自分が言った事が起こり得るなど考えもしなかったさ。……この写真を見るまではな」

 

 そう言うとケンは光に顔を上げさせ、先程メモを写し出した端末を手に取り、手の中で操作し始めた

 

「時刻は同じく一昨日。これはM-78社の気象観測用に設置されたカメラが沈む街中と空を撮影した際、偶然空に映り込んだ不明のISを拡大加工した画像だ」

 

 そう言いいながらケンが再び端末を机の上に乗せると、二人に新たに端末に写し出された画像を見せた

 

「これは……」

 

 それは元となる気象観測用カメラ画像が相当遠くに映り込んでいた物の上に、逆光であったのだろう。加工してもはっきりと分かる程に対象となる一機のISは大きくブレている上に、その上、姿は全身真っ黒なシルエットに覆われておりどうにか二色の色で塗装されていると言う事しか分からない

 

 が、しかし、それでも尚、特徴的な全身装甲に包まれたスマートな造形はどう見てもゾフィーやヒカリに酷似しており、光と開発チームと言ったM-78社が作り出した他のUシリーズが現在、全てM-78社の倉庫に保管されている以上、画像に写し出されている謎のISは間違いなく、盗難データを元にM-78社の知らぬ所で産み出されたUシリーズの一機に違いなく、それに気が付いた瞬間、知らずのうちに慎吾は声を発していた

 

「……全体だけを見て言えば純粋なパワー型に見えますが……脚部スラスター部分から判断するとゾフィーやヒカリに負けないレベルで速さもありそうですし……総計で言えばパワー寄りの万能型のUシリーズ……と、言った所でしょうか」

 

 一方で光は逆に画像を見ることで、動揺をある程度取り払いら本来の冷静さを取り戻したようで、画面を食い入るように見ながら冷静に端末に映る不明のISを分析してそう口にした

 

「実際に稼働している所を見るまでは断言出来ませんが……これは決して、単に盗んだ設計データで作り上げただけの劣化した贋作じゃない。悔しいですし、正直に言えば認めたくは無いですが……ここに写し出されている不明機は、俺達が開発した今までのUシリーズに勝るとも劣らない機体だと俺は判断します」

 

 と、そこで光は言葉を止めると端末に集中するため屈めていた顔を上げ、ケンを見つめた

 

「今は相手が何人なのかも不明な現状ですが……仮に学園にこの機体が侵入して来た際に、もしもUシリーズに不慣れな専用機持ちのウチの生徒が遭遇した際、苦戦は免れない……運が悪かったらあるいは……」

 

「……そうだ、だからこそ私は君と慎吾をここに呼び出したんだ」

 

 光が最悪の状況を想像したのだろう、顔をしかめながら、そこまで言った時だった。ケンが目を瞑り、感情を押し殺すように声を絞り出しながら苦渋の決断でだったのであろう一言を口にした

 

「現在、稼働しているUシリーズはゾフィーとヒカリのみ。つまり君達こそが最も実戦に置いてのUシリーズを知っている……対処する事が出来る二人と言う事だ

 

「ケンさん、それはつまり……」

 

「…………」

              

 その言葉で慎吾は、そして光も何故自分達がわざわざ呼び出されたのかを理解した。ケンは暗に最もアドバンテージを小さく不明のUシリーズと戦う事が出来る二人に、戦闘するよう頼んでいるのだ

 

「……すまない、自分がどれだけ卑怯な事を言っているか分かっているつもりだが……それでも、やはり君達にこれを頼む以外、方法は無いのだ」

 

 二人に自身が言わんとせんとしていた事が悟られた事を理解すると、ケンは申し訳なさそうにそう言って頭を下げた

 

「いえ……ケンさん。貴方の考えは決して間違っているとは思えませんし……そもそも相手がUシリーズと分かったのならケンさんから頼まれなくとも学園を襲うのなら、不明のISとは戦うつもりでしたよ」

 

「俺も勿論やります。開発チームの一人として決して学園の為にも……世界の平和の為にも決して見逃す訳には行きません」

 

 そんなケンに返ってきたのは迷わず、そして力強く賛同を示す慎吾と光、二通りの快諾の返事だった

 

「ありがとう……二人とも。情報が入り次第、こちらでも最大限の支援はしよう……しつこく言うが相手は全くの未知数だ。くれぐれも気を付けてくれ」 

 

 そんな二人にケンは二人それぞれの手を取って順に感謝の意を伝えると、真剣な表情でそう警告するのだった

 

 

「なるほど……Uシリーズのデータが盗まれた上に、元にした機体が……それでは、おにーちゃんが緊張するのも当然だな」

 

 ケンから極秘とされた情報自体は言わなかったものの、それでも警戒して声を押さえて語った慎吾から話を聞き終えるとラウラは腕を組み、納得したようにそう呟いた

 

「お兄ちゃん……もしもの時は勿論、僕らもお兄ちゃんと一緒に戦うからね……!」

 

「遠慮なく私達に頼れよ、おにーちゃん!」

 

 一方でシャルロットは慎吾の手を取りると微笑みながらも妙に力強く宣言し、その後にラウラも続いて再び胸を張りながらそう言った

 

「あぁ……その時は頼むよシャルロット。勿論、ラウラもな……」

 

 そんな暖かくも力強い妹達の言葉が嬉しく、慎吾は思わず微笑みながらそんな返事を返す

 

 

 しかし、誰も知らなかったのだ。甘く見てしまっていたのだ

 

 慎吾も光もラウラもシャルロットも、そしてケンさえも、相手を『ただの油断ならぬ強敵』までとしか考えていなかったのだ

 

「ククク……ハッハッハッハァアッ!! よぉし……じゃあ……始めるかぁ!」

 

 そんな彼等を纏めて凪ぎ払い、踏み潰さんとばかりに一機の『悪魔』は空を駈け、IS学園へと行進を始めていった



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149話 『これより先に進むもの、一切の希望を捨てよ』

 戦闘描写に自身が持てないながらも張り切って書いたら、何時もより少々長めになってしまいました。今回は所謂、『無双回』ですので苦手な方はご注意ください。なお、今回のサブタイトルはダンテの神曲から引用させていただきました


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……!!」

 

 焦燥に駈られたまま一夏は背後を一切振り向く事も無く、足の靴紐がほどけているのにも汗が吹き出すのも構う余裕も無く、全速力でアスファルトを蹴りつけ走り続ける

 

 信じがたいニュースが目に入った瞬間から自身の下らない勘違いであってほしい、嫌、例え事実だとしてもどうか自分の仲間達も、そして学園の仲間達もどうか全員が無事であってほしかった

 

 けれども一夏が学園に近付く度に強まる、何か複数の物が焼かれて焦げてゆく悪臭が、複数の人間からなる慌ただしい喧騒と警報が、次々と増える悲鳴と怒号が、そんな甘い期待は徐々に徐々に、一夏の胸の中から消えて行きー

 

 そして、一夏は学園にたどり着いた一夏は見てしまった

 

 あちらこちらに刻まれている何かが激しく激突した事を示すひび割れたアスファルトや壁を、周囲に内蔵されていた部品を撒き散らせたまま白煙を上げてピクリとも動かないISとは異なる人型をした機械を、もうもうと黒い煙が燻る学舎を、担架に運ばれながら苦痛の悲鳴をあげる生徒達を、外壁に大穴を開けられ無茶苦茶になった内部が見える宿舎を、もはや半分ほどにしかその原型を止めていないアリーナを、そして

 

「光! おい光っ!! しっかりしろ光!! 何とか、意識を保っていてくれ!!」

 

「お姉ちゃんっ!? お姉ちゃんっっ!! やだっ!」

 

 医学知識が疎い一夏でも、危険な状態と断言できる程に傷付いた体を指一つピクリとも動かさぬまま担架に運ばれていく光と楯無と、それに追走しながら必死に呼び掛ける箒と簪を

 

「い、一夏……ぼ、僕は……僕達は……! お兄ちゃん……ごめんね……!」

 

「ううっ……! くっ……くそっ! 何が『私達に任せろ』だ! くっ……くううっ……! おにーちゃん……」

 

「一夏さん……お兄様がっ! お兄様がっ!!」

 

 共に傷付き、力無く地面に崩れ、三者三様の絶望にくれて涙を流す慎吾の義妹である三人を

 

「一夏……いい? くれぐれも落ち着いて聞くのよ……」

 

 そして仲間達の中で一番、冷静さを残していたものの腕と頭に巻かれた包帯が痛々しい姿の鈴から一つの、更なる無慈悲な事実を一夏は聞かされる事になった

 

 

 襲撃者による大谷慎吾の拘束および拉致

 

「嘘だろ…………?」

 

 まだ慎吾が何処に連れ拐われたのかも分かっていないと、続ける鈴の言葉を聞きながら一夏は悪夢でも見ているように呆然と騒がしいばかりの警報と負傷した生徒達の悲鳴、そして一面の煙が立ち込めるIS学園を眺める

 

 不明機によるIS学園襲撃。全ては一夏が私用により、学園から離れていた僅か一時間。その一時間と言う、あまりにも短い間に起こった出来事だったのだ

 

 既に燃え出してから時間が過ぎると言うのに、消えぬ黒煙は一夏の頭上で輝いていた太陽を徐々に覆い隠していってしまった

 

 

 

「うん? あれ……? 今の何?」

 

 二時間前、異変に最初に気が付いたのはグラウンドで自主練習の真っ最中、打鉄を纏い近接ブレードで素振りをしていた一人の三年生の生徒だった。

 彼女が練習の最中に何気無く見上げた空、その雲の向こうに一瞬、学園では見たことがないような真っ黒のISが翔んでいるのが見えた気がし、意識を鍛練へと集中させてた為にはっきりと断言は出来ないのだが打鉄のセンサーにも非常に短いが、反応があった気がしていた

 

「えっ、何々、どうかした?」

 

 と、同じくその生徒の隣で素振りをしていたクラスメイトの生徒は素振りをする手を止めると、近接ブレードを肩に背負い、突如声をあげた生徒の方へ振り向いてそう問い掛けた

 

「えっと、あのね……さっきあっちの何か空の方に見たことも無いISが見えたような気が……」

 

 問われた彼女がそう言って、隣の生徒へと向けていた首を動かし、自身が見た方角の空を指差そうとした、まさにその時だった

 

「よぉ……」

 

 嗤うような女性の声と共に、全く突如として指を指した生徒の目の前に自身がつい先程、遥か遠くの空に見たはずの特徴的な全身装甲に包まれた一機の黒いISが姿を表していた

 

 「えっ……?」

 

「それじゃあ……くたばれ」

 

 突如として起きた、理解を超越した事態に女子生徒が指を指すポーズのまま呆然としている間に黒いISは手にした武器を頭上に振り上げると、そのまま歌うように笑いながら打鉄に乗った女子生徒を叩き潰した

 

「……!?……!!」

 

 近接ブレードを背負った少女は先程まで話していたクラスメイト同様、一瞬だけ理解が追い付かず棒立ちをしたいたが、そのクラスメイトが指を指したポーズのまま地面にその衝撃を示すクレーターと頭上より高い土煙を作り上げ、クレーターの中心で倒れたままピクリとも動いてない事を理解し、その瞬間、少女は明確に謎のIS を展開している何者かを『敵』と判断した

 

「こんのっっ……!!」 

        

 判断するやいなや、近接ブレードを背負った少女は瞬時にブレードを両手で握り締め、武器を下ろしたまま構えすらしていない謎のISの西洋騎士のとさかのような頭部目掛け、日頃の鍛練の成果なのか、はたまた気持ちが成せる事なのか先程までしていた素振りより数段速い速度で斬りかかった

 

「遅ぇ」

 

「がっ……はっ……!?」

 

 が、しかし、その一撃は刃が届くより早く謎のISが容易く軌道を見破り、手にした持ち手の長い棍棒のような武器で近接ブレードごと生徒が身に付けたISを雑に凪ぎ払い、直撃を受けた少女は悶絶の声を上げながら飛ばされ、数メートル程グラウンドを転がると静止し動かなくなった

 

「雑魚じゃこんなもんだろうがよ……つまんねぇな」

 

 瞬く間に倒された二人を見て、謎のISは溜め息をつきながら退屈そうにそう言うと、欠伸をしながら軽く伸びさえして見せた

 

「待ちなさい! その場を動かないで!! もし、この警告を無視して動けば発砲します!!」

 

 と、その時、二人の監督役として指導していたラファール・リヴァイブを展開させた若い教師が動き、謎のISに向けて油断無くトリガーに指を添えグレード・ランチャーの銃口を向けながら警告の声をあげた

 

「ちっ……雑魚のくせに、うっとうしい……」

 

 そんな教師を謎のISは頭部に作られた濃いオレンジ色に輝く鋭い目で一瞬見ると、端から警告など無かったかのように手にした武器を肩に背負い、歩いてその場を移動し始めた

 

「言ったはずよ……! 動けば撃つ……って!」

 

 その瞬間、教師が生唾を飲み込む謎のIS目掛けてグレード・ランチャーのトリガーが引かれ

 

「がはっ……!?」

 

 次の瞬間、謎のISが背負っていた棍棒状の武器から一発の光弾が発射されると、それは謎のIS登場者が余所見をしているのにも関わらず正確にリヴァイブを纏った若き教師に命中すると爆発と共に構えていたグレード・ランチャーごとリヴァイブを軽々と吹き飛ばし、グラウンドに叩きつけた

 

「クク……バトルナイザー……ベリアルは当然として、やっぱりこいつは便利だな。実に良い『贈り物』だ。さぁて……そろそろ俺様に準備体操くらいは始めさせてくれよ……?」

 

 謎のISこと『ベリアル』の主、ベリアルは手にした柄が槍の如く長い棍棒に似た武器『バトルナイザー』を片手に満足毛にそう言うと次なる獲物を求め、漸く侵入者を知らせる警報が鳴り始めた学園のより奥へと向かって歩みを進めていった

 

 

「来たか……!! ついに……!」

 

 警報が鳴り響いた瞬間、整備室で万が一の事態に備えて床に屈んでヒカリの整備と調整していた光は作業の手を止めると立ち上がり、緊張した様子で生唾を飲み込んで立ち上がった

 

「ひ、光ちゃん……」

 

「……なぁ、もう一回だけ聞くけど……ほんまに大丈夫なんか光?」

 

「…………」

 

 一向に鳴りやまぬ警報と緊張した様子の光を見て、そうに聞くのは光が慎吾同様に情報を話して整備を手伝って貰っていた三人の内の井出と堀井であり、ショーンは何も言わずに光を見つめていた。三人は何れも顔を不安げにしており、共に光の身を案じているのが分かった

 

「ありがとう、皆。気持ちは嬉しいが……ここは俺達に任せて、どうか避難していてくれ」

 

 その言葉に光は微笑み、三人を安心させる為に出来る限り落ち着いた口調で言葉を返す。が、決して光は嘘でも『大丈夫』とは口にする事が出来なかった。M-78社で謎のUシリーズ機を見たときから確信にも似た気持ちで今まで戦った相手とは訳が違うと言う事を感じていたのだ

 

「……分カッた……光がソウ言うなら、ボクは光を信ジルよ……」

 

 重苦しい沈黙の後、目を細め、溜め息をつきながら全員を代表するようにショーンがそう言うと、井出と堀井は互いに顔を見合わせる、二人もまたショーンの言葉に同意だと言わんばかりに光に向かって小さく頷く

 

「井出……堀井……ショーン……」

 

 三人が行ったのはただそれだけ。アクションと言うはあまりにも短い行動。しかし、それでも光の胸には三人から向けられる暖かさに溢れて満ちており知らずのうちに光は自身の目頭が熱くなっている事を感じていた

 

「それじャア……光、グッドラック」

 

「グッド・ラック……皆もな」

 

 最後にそんな短い会話を交わすと光は決意を新たにし、ヒカリを待機状態のブレスに戻すと決意を新たに整備室から駆け出していった

 

 

「そっ……んなっ!? 嘘でしょ! アイツ本当に人間!?」

 

「怯むな! 落ち着いてさっき言った通り、集中砲火! アイツをこちらに近付かせたら負けだ!」

 

 恐慌状態になりかけた仲間を自身が使い慣れている銃を構えたまま臨時でリーダーを任された三年の専用機持ちの生徒を叱咤激励しながら叫ぶ。が、よく見れば叫ぶ彼女の顔は端から見ても分かる程に青ざめており、拭えない恐怖からか構える銃も震えていた

 

 彼女達は侵入者迎撃の為に向かった、IS学園の教師及び特に優秀な二、三年生の生徒達からなる100人程の混合チームであり、織斑千冬が外出の為に不在と言う今日の状況の中での未知のISを展開させた学園への侵入者の登場。と、言う突発的な事態の中でも誰一人、動揺などは見せず堂々と侵入者の元へと向かっていったのだ

 

 そう、ついさっきまでは

 

「ふん……まぁ、準備体操くらいにはなってるなぁ」

 

 バトルナイザーを背負ったままベリアルは嘲笑うように、そう言うと自身の一撃を受けて倒れ、ベリアルに向かって膝まずくように倒れ、纏ったISのシールドエネルギーが枯渇寸前になった一人の教師を無造作に蹴り飛ばし、蹴られた教師は悲鳴すらあげれず校舎の壁に激突するとそのまま衝撃で壁まで砕け、やがて教師の姿は瓦礫と埃に隠れて見えなくなってしまった

 

 混合チームとベリアルが対峙してから未だに30秒。ただそれだけの時間で100人近かったチームはあっという間にその姿を減らし、もはや僅か10名程度しか戦闘可能とするメンバーは残されてはいなかった

 

「今だ! 奴は隙だらけだ! 一斉に撃て!!」

 

「「「うっわああああぁぁっっ!!」」」

 

 と、その時、恐怖に呑まれそうになるのを堪えるようにリーダーの少女が仲間達に合図を送るのと同時に自身もまた無防備な姿勢で此方を見つめるベリアル目掛けて手にした銃を発砲し、それに続いて奮い起たせるように声を上げながら他のメンバーも発砲を開始した

 

 実の所、残されたメンバーが纏うISはその何れも中距離あるいは遠距離を得意とする機体であり、対する侵入者のISは遠距離攻撃と言えば手にした長い武器から時折、強力な光弾を発射するのみで、主な戦い方は凄まじい威力ではあるが長い武器を振るったり蹴りやパンチを主体とする中近接型。ならば相手の武器が決して届かぬ距離から光弾を発射されるより早くこちらの一斉砲火で沈める。それがリーダーの少女の狙いであり、実際、その選択事態はそれほど間違ってはいなかった

 

「へぇ……なら、俺様も少しだけ本気で遊んでやるか……!」

 

 そう、それは『ベリアルがまだ半分の力も使っていない』と、言う最悪の事実さえなければの話ではあるが

 

 迫り来る無数の実弾とレーザーが織り混った弾幕を前にしても尚、ベリアルは楽しんでいるかのようにそう言って笑うと背負っていたバトルナイザーを構えると、避けようとする素振りすら見せず、その場に立ったまま迫り来る弾幕に向かってバトルナイザーをまるで空調機のファンの如く激しく回転させ始めた。そしてベリアルを狙って放たれた無数の弾と唸りを上げて周囲の空気を掻き込みながら回転するバトルナイザーが激突したその瞬間

 

「んなっ……!?」

 

 それはさながら竜巻に呑まれるかの如く、無数の実弾もレーザーも纏めて回転するバトルナイザーの渦の中に巻き込まれていき、やがて放たれた全ての弾は一発もベリアルに命中する事なく周囲の大気と同じくバトルナイザーの周囲を渦を描いて回転し始め、あまりにも理解からかけ離れた信じがたい少女は思わず絶句させられた

 

「ハハッ……この程度の攻撃じゃあ、まだまだ甘かったなぁ?……喰らえっ!」

 

 嘲笑いながらベリアルはそう言うとバトルナイザーを回転させながら唖然としている混合チームに向かって押し出した。と、渦を描いて回転していた無数の弾はバトルナイザーから離れるとその回転の起動のまま真っ直ぐに混合チームへと向かって飛んでいった

 

「み、皆避け……っ!!」

 

 そこで漸く、リーダーの少女が我を取り戻し、慌てて仲間達に危険を呼び掛ける為に叫んだ

 

「「「きゃあああああぁぁっっ!!」」」

 

 が、しかし、そのタイミングは僅かに遅く、次の瞬間、返ってきてしまった自分達が放った弾丸が一斉に彼女ら自身に牙を向き、全ての弾が戻ってきた後、残された混合メンバーは全員が力尽き、地面に付してしまっていた

 

「ハッハッハッハッハッ! IS学園っても、たいしたことはねぇなぁ!! だがなぁ……」

 

 その様子を見てベリアルは満足そうに笑うと、突如、笑うのを止め、戦闘によって瓦解した防壁に向かって手にしたバトルナイザーを向ける

 

「オマエは違うんだろ? なぁ……学園最強?」

 

「あら……やっぱり気付いていた?」

 

 と、そんないつも通りの調子の軽い口調と共に楯無が防壁を飛び越えて姿を表し、堂々とベリアルの前に姿を表して見せた

 

「お前は特に楽しませてくれそうだったからなぁ……ククッ、丁度手ぶらになったタイミングで駆け付けてくれるとはありがてぇ……」

 

「あら、そう……。それじゃあ、その慢心が命取りにならないようにね……!」

 

 心底楽しそうに笑うベリアルに正面から対峙した楯無は殺気を隠さずに、己のミステリアス・レイディを展開させると特殊ナノマシンによって超高周波振動の水を螺旋状に纏ったランス。蒼流旋を構える

 

「はああああっっ!!」

 

「どりゃああああっっ!!」

 

 次の瞬間、二機は一斉に相手に向かって弾かれたように飛び出し、楯無の蒼流旋とベリアルのバトルナイザー二つの武器がつばぜり合いになる事で二人の戦いは始まった




 


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150話 絶望の漆黒

 何とか間に合いました。相変わらずバトルの連続となまして表現にいつも苦戦させられています……。現在は特にベリアルの戦闘スタイルを思い返す為に改めて銀河伝説を見返しております。そして今回のサブタイトルはウルトラマンメビウス最終三部作Ⅱのタイトルからせていたただきました


『……山田先生、現在の状況と被害は?』

 

 端末越しに心底、忌々しげな表情で千冬は真耶にそう問いただす。先日の無人機襲撃から二週間も過ぎていないのにも関わらず、再度の襲撃。それも相手が力任せに立ち向かう戦闘教員達をまるで相手にせず好き放題暴れまわっているとなれば流石の千冬も苛立ちを隠せずにはいられなかったのだ

 

「は、はいっ! 『敵』は10分前上空から超高速降下でグラウンドから侵入! 突然の襲撃に練習中の生徒二名と教員一名が攻撃を受けて共に重症! 迎撃に向かったチームもつい先程、『敵』に全滅させられました! 『敵』に未だ、目立った損傷は確認されてません! 『敵』は尚、手当たり次第に周囲の建造物の破壊を続けながら学園奥、地下シェルターに向けて進撃しています!」

 

 千冬の言葉に格納庫で自身の機体を纏い、武装して何時でも出れる状態のまま真耶は非常に緊張した様子ながらも状況を纏めて、一息でそう一気に言い切って見せた

 

 襲撃を受けてから10分。迎撃をまるで異に介さず学園内を思うがまま、文字通り力任せに暴れまわるベリアルを前にIS学園は混乱と騒動に襲われ、爆発して全体にパニックが広がる所を水際の所で食い止めているような非常に危機的な状況に見舞われていた

 

『ちっ……またか……今回も早過ぎる……! 『あいつ』を出すには、せめてあともう少し……』

 

 真耶からの報告を聞くと千冬はますます顔をしかめて、そう苛立ちと焦燥が入り交じったように呟いた

 

「……? 織斑先生?」

 

 以前の無人機襲撃の際にも聞いたかのような千冬の言葉に何か引っ掛かりを感じたのか真耶は一瞬、思わず非常時だと言うことも忘れ、そう率直に千冬に問いかけていた

 

『……何でもない。教師は引き続き生徒の避難先導を最優先して続行しつつ防衛布陣を更に固め、『敵』を何としても地下シェルターに近づかせるな!』

 

「りょ、了解!」

 

 だがしかし、千冬からその答えが帰ってくる事は無く、一瞬の沈黙の後に真耶へと指示を出し、その声で我に返ったのか真耶は先程、感じた疑問を意識の彼方に追いやり、慌てて千冬の指示通りに動き出すのであった

 

 

「ハッハッハッ……それなりにはやるじゃねぇか。俺様とここまでやりあえるとはな」

 

 空中を大鷲の如く自在に動き回り手にしたバトルナイザーを上下左右、更には真上や真下などまるで最初から体の一部であったかのように自在に振るい、楯無の蒼流旋を容易く防いたうえで、僅かな隙を付いてはカウンター攻撃を仕掛けながら、ベリアルは楽しそうに笑う

 

「くっ……!」

 

 一方の楯無はと言うと、戦闘しつつ軽口を叩く程の余裕を見せるベリアルとは対照的に、言葉も録に返せずベリアルを悔しげに睨み付けるしか余裕が無いレベルで現在進行形で苦境に立たされていた

 

「(ちょっと、冗談でしょ……!? こっちは時間が無いから最初から全力で攻めてるってのに……)」

 

 ベリアルに向かって瞬きすら限界まで堪え、タイミングを計っては放つ全力の一撃が当たる所か、掠める事すらしない事が続いている状況に次第に感じる焦燥感を堪えながら楯無は自身の頭を狙って振り下ろされるバトルナイザーの強烈な一撃を両手で構えたランスで防いだ

 

「うっ……!」

 

 が、しかし、バトルナイザーを受け止めた瞬間、楯無は苦痛に顔を歪め、ぐらりとその体制を崩してしまう

 

 実の所、先日のゴーレムⅢの襲撃の際、楯無はゴーレムⅢとの戦いでゴーレムⅢを撃破したものの、その体には大きな怪我を負っており、今も尚残るその負傷を誤魔化しつつ戦っていた楯無ではあったのだが、想定を遥かに越えた戦闘能力を持つベリアルを相手し続けていた事により、元から無理をしていた楯無の体についに限界が訪れ始めていたのだ

 

「あぁん? どうした、急に動きが鈍くなったぞお前?」

 

 そんな楯無の異変に直ぐ様感付いたのだろう、ベリアルは黒い仮面の下でニヤニヤとした笑みを浮かべると、バランスを崩して怯んでいる楯無に向けて次々と容赦なくバトルナイザーを振るってゆく

 

「くっ……ううっ……!」

 

 何とかその連激に対処し、蒼流旋で受け捌き続ける楯無ではあったがその動きは何処かぎこちなく、徐々に一歩、また一歩と追い込まれてゆく

 

「うおらぁっ!!」

 

「…………っ!!」

 

 そして、ついにその瞬間は訪れてしまった。ベリアルが振るうバトルナイザーを一撃を受けてランスのガードが下がってしまった瞬間、ベリアルが一気に踏み出し、楯無のミステリアス・レイディに向かって強烈な膝蹴りを放ち、楯無を更に上空へと向けて大きく吹き飛ばしたのだ

 

「こいつで終わりだっ!!」

 

 蹴りを放つと同時にベリアルはバトルナイザーを背負うと、決着の一撃を与えるべく瞬時加速を用いて一気に楯無へと向かって駆け出した

 

「……ええ、そうね」

 

 文字通り目にも止まらぬ速度で迫り来るベリアルを前に楯無はランスこそ手放してはいないものの、ぐったりとした様子でそう呟き

 

「でも本当に終わるのは……私とあなた。どちらかしら……っ!?」

 

 その瞬間、楯無は急激に目にも止まらぬ速度で身を起こし、カウンターのような形で振り下ろされたベリアルのバトルナイザーをランスで受け流すように捌き、ベリアルの装甲に超高周波振動を纏ったランスの先端を突き付けた

 

「なっ……にぃ……っ!?」

 

 学校に突入して以来、常に自信満々かつ余裕綽々の様子であったベリアルが初めて見せた動揺と驚愕。自身の策略によって生み出したその結果に満足を感じつつ、楯無は更なる一手を繰り出す為、ランスを握り締めた

 

「行くわよ……!」

 

 そう覚悟を決めたように楯無が言うと蒼流旋からは装備されているもう一つの装備、四門ガトリングガンが火を吹き、超近距離からありったけの弾をベリアルに叩き込んだ

 

「ぐおっ……!? だがなぁ! こんなものじゃあ俺様はやれねぇぞ……!」

 

 ベリアルの瞬き程度の時間の動揺を付いて繰り出されたその連激に僅かにベリアルは怯んだ。が、直後、ガトリングガンと水のドリルランスによりベリアルの装甲から火花をあげながらもベリアルが動き、目の前の楯無を手にしたバトルナイザーを構え

 

「あら、言ってなかったかしら? 本番はまだこれからよ?」

 

 瞬間、楯無はその時を待っていたとばかりの笑みを浮かべると静かに自身の切り札を発動させた

 

「てめぇ……!」

 

 忌々しげなベリアルの怒声を何処か遠くで聞いているかのように感じながら楯無は思い返す

 

 正直な話をすれば、ベリアルとの戦闘を行う前まではいくら追い込まれたとしても先日の襲撃事件のダメージが色濃く残る体と機体でこの『切り札』を使うのは無謀を飛び越えもはや自殺行為に等しいとさえ考えていた。だがしかし、ベリアルとの戦闘を最中に楯無は心中で確信した。否、確信してしまったのだ『この手以外では倒せない』と

 

「(一夏くんや……慎吾くんの影響かしらねぇ……)」

 

 全身に抵抗するベリアルの反撃を受けながらもそう、何処か他人事のように思いながら楯無は笑うと静かに切り札を放った

 

--《ミストルティンの槍》発動--

 

 

 瞬間、上空から一条の流星が上空から真下のIS学園に向けて降り注いだ

 

 

「ちょっ……な、何っ……!?」

 

 突如、空に流星が見えたかと思えば同時にそれがすぐ近くの地面に着弾して地震のような凄まじい振動と轟音が鳴り響き、道の真ん中を歩いていた鈴は激しく巻き上がる土埃と暴風に思わず顔を手で覆い、足腰を引き締めて身を低くする事で堪える事で、どうにかその場に留まった

 

「鈴さん! いま落ちてくる時に落ちてくる二機のISが一瞬だけ見えましたが……片方は侵入者として……あの水色の装甲はミステリアス・レイディですわ! まさか……!?」

 

 その近くにいたセシリアも咄嗟に、近くにあった頑丈な建物に影に隠れる事で風と土埃をやり過ごすと、同時に心中にざわりと立ち込める妙な胸騒ぎを堪えて建物の影から顔を出すとそう叫んだ

 

「……お姉ちゃん!?」

 

「……!? 簪さん!!」

 

 そして、この場にいるのはセシリアと鈴だけではない。簪もまたセシリアと同じく建物の影に隠れていたのだがセシリアの口から発せられた一言を耳にした瞬間、いてもたってもいられなくなった様子で砂煙がまた収まらないうちにセシリアの制止を振り切って建物の影から飛び出し、より土埃の濃い流星の落下地点の方角に向けて走り出していく

 

 当然の事ながらベリアルの襲撃を受け現在、IS学園全体には生徒全員に地下シェルターへの避難指示が出ている。では何故、現在の状況でこの三人が地下シェルターに向かう事すらせずにこうして外を出歩いているのか

 

 その理由はただ一つ、セシリアが避難する幾人もの生徒の列から離れ、緊迫した表情で正反対の方向へと向かっていく慎吾の姿を目撃した事にある

 

 しかも、その両脇にはそれぞれ慎吾に追走するシャルロットとラウラの姿もあった事を確認したセシリアがすかさず『お兄様が戦うのであれば当然、妹の私も共に戦いますわ!』と迷わず主張し、その場にいた簪も無言で頷く事でそれに同調し、鈴は妹云々の話はともかくとして単純にそれなりに愛着が沸き出しているこの学園で好き放題に破壊しながら暴れ回る侵入者が非常に不愉快だった為にこうして三人は教師の目を盗んで先行して行った慎吾と、侵入者を探していたのである

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

 

 濃い土埃の中を進んだことで咳き込み、息を切らしながらも簪は声を張り上げ、疾走しながら必死に最近になって漸く分かり合う事が出来た最愛の姉を呼ぶ

 

 簪の脳内では先日の襲撃事件で深いダメージを受けて血塗れになり力無くアリーナの大地に倒れている楯無の姿が鮮明と甦って来ていた

 

 そんなはずはない、あんな恐ろしい事がそうそう起きてたまるものか

 

 吐きそうな不快感を堪え、念仏のように、そんな言葉を脳内で何度も繰り返しながら簪が落下地点にたどり着くと、大分薄くなり始めた土埃の向こう、落下の衝撃で出来たクレーターの淵に屹立して此方に背中を見せている大分、傷付いているものの土埃の中でも目立つ特徴的な水色の装甲が目に入った

 

「おねえ……」

 

 それを見た瞬間、ほっと、簪は胸を撫で下ろした。そうだ、やっぱりいかに侵入者が強力とは言え簡単に私のお姉ちゃんが、学園最強が敗北する筈は無い。そう考えると何だか我が事のように嬉しくなってきた簪は笑顔を浮かべながら楯無の元へと駆け寄ろうとし

 

「ちゃ……」

 

 その瞬間、土埃が完全に晴れ『侵入者のISの腕に首を捕まれ』、クレーターの淵近くで宙ずりにされている楯無の姿が簪の目に飛び込んできた

 

「ふん……何かしようとしてきたらしいが……所詮は無駄な足掻きだったなぁ! 学園最強ぉ!」

 

 侵入者、吊られたまま指一本動かさぬ楯無に向かってベリアルはそう言って嘲笑うと、手にしていた楯無を通路の外壁に向かってゴミでも捨てるかのように投げ捨て、壁に叩きつけられた楯無はそのまま力無くずるずると壁に背中をすり付けるように崩れ、地面に倒れたまま起き上がる事はなかった

 

「あっ……あ……あ……あ…」

 

 そのあまりにも無惨な光景を見た瞬間、簪は呼吸することすら忘れてしまったかのような声を上げると、錆び付いた機械のような動きで、倒れたまま目も開いてくれない楯無と高笑いを続けるベリアルを交互に見る

 

 

 大切なお姉ちゃんが、やっと分かり会えたお姉ちゃんが、奪われた、壊された、誰に? こいつに、お姉ちゃんを嘲笑うこいつに

 

「ああああああああああああっっ!!」

 

 それを理解した瞬間、簪は作戦も戦略も冷静さも何もかも投げ捨て、怒りに任せた声を上げながら打鉄弐式を展開させると同時に薙刀を呼び出すとベリアルに向かって斬りかかっていった



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151話 嘲笑う『悪魔』

 更新が少々遅れてしまいました……。今回は自分でもかなりの難産となってしまい、少々おかしな点や違和感もあるかもしれません。どうか、目に余る者や、お気づきになられましたら報告してくださると大変助かります

 それと蛇足ですが、何故か私が書くと意図せずして閣下が煽りキャラクターとなってしまい……ベリアルとはこんなにも相手を煽ったか? と、若干の疑問を感じ始めております


「ハハハッ……真面目にやれ! 全然、つまらんぞお前」

 

「黙れ……! 黙れ黙れ……っ!!」

 

 身体の芯から簪を燃やしつくさんとばかりに溢れる憤怒に身を任せたまま、瞬時加速を利用した上で息もつかせぬような猛烈な薙刀のラッシュを仕掛ける簪であったが、そのラッシュをベリアルはその場で地面に立ったまま移動すらせず、あろうことか手にしたバトルナイザーすら録に使用する事も無く、身体を反らして回避するか片手で刃を叩く事でその全てを完全に防ぎきっており、更にはそんな風に怒髪天の簪を嘲笑する余裕すら見せていた

 

「これなら……!」

 

 薙刀のラッシュが通用しないと判断すると簪はすかさず戦法を切り替え、薙刀から今度は荷電粒子砲を二門を構えるとすかさずベリアルに向けて立て続けに放つ

 

「俺に二度も言わせるな……お前は動きが直線過ぎてつまらん!」

 

 だがしかし、それをもベリアルは苛ついているかのような口振りで言いながら、荷電粒子砲による攻撃をさながらピンポン玉でも弾いているかのように次々に片手で吹き飛ばすと、一瞬の隙を付いて簪にバトルナイザーの棍部分を向けた

 

「……! …………っ!!」

 

 瞬間、自身に向けられたバトルナイザーに既に此方を撃墜するには十分過ぎるエネルギーが充填されている事に打鉄弐式のセンサーを通して気が付いた簪はそこで、目を見開くのと同時に一瞬の内に頭が冷え、楯無が倒された姿を目にした怒りに身を任せて以前の失敗と同じ鉄を踏んでしまった理解し、己の不覚を悟った。だがしかし分かった所で最早、簪には回避も防御も間に合わず、ベリアルからの一撃を受けてしまうのは決定的に見えた

 

「……フン」

 

 が、その瞬間、ベリアルは一つの鼻息と共に急激に簪に向けていたバトルナイザー手元に引き下げると、瞬時加速を使用し、急激にその場から飛び退いて後退した。と、その瞬間、先程までベリアルが立っていた場所に上空から何かが降り注いだかと思うと一瞬のうちに直径二メートル程のクレーターが形成された

 

「簪さん! 大丈夫ですか!?」

 

「……ったく、非常時だってのに一人で勝手に動いてるんじゃないわよ」

 

 それと同時に簪の頭上の空から姿を表したのは、それぞれ自身の専用機を展開させたセシリアと鈴であり、二人は簪にそう声をかけながらも値踏みするようにじろじろと此方を見てくるベリアルから一挙手一投足も逃さぬとばかりに視線を剃らさずそれぞれ何時でも発射出来るよう砲口を向けていた

 

「ふん……まぁ、お前ら程度の実力なら1対3になれば俺様も『ほんの少しは』楽しめるかもな」

 

「あんた……それ、もしかして挑発してるつもり?」

 

 一気に二人、それもセシリアと鈴、代表候補生二人の援軍だと言うのにも関わらず『それがどうした?』と、言わんばかりに上から目線で語るベリアルに苛立ちを感じながらも鈴は代表候補生の誇りからか、その感情を表立って表さないようにしながら、そうベリアルを睨みつけながら問いただした

 

「挑発……? 俺様がお前らにか……?」

 

 その問いかけにベリアルは一瞬、不思議そうに首を傾げ

 

「ぷっ……ハッハッハッハッハッ!! オイオイオイ

……まさかお前ら揃いも揃って俺様が態々挑発しなきゃいけない程、自分達の実力が優れているとでも考えていたのか? 3対1程度で俺と渡り合えると思っているのか? だとしたらそいつは……」

 

 

「とんだ『お笑い草』って奴だな。代表候補生より、ピエロでもやってた方が向いてるんじゃあないのか?」

 

 体を震わせ、笑いを堪えきれないと言った様子で黒い仮面越しに自身の口元を手で多いながらベリアルがそう呟き

 

「っっ……ざっけんなっっ!!」

 

「その余りにも過ぎた高慢さ、私が矯正してさしあげますわっ!!」                

 

 もはや挑発など生易しい物では無く侮辱、分かりやす過ぎる程に貶めている言葉に鈴、そして同時にセシリアの許容点をも一瞬にして限界点を迎え、二人は全く同時にそれぞれ龍砲による衝撃砲とスターライトMKⅢによるレーザーでベリアルを狙い撃った

 

 

「行くよ……『打鉄弐式』!」

 

 しかも、攻撃はそれだけでは終わらない。二人に合わせるように打鉄弐式のマニュアル誘導システムを起動させた簪が打鉄弐式に肩部ウィング・スラスター六ヶ所に取り付けられた八連装独立稼働型ミサイル『山嵐』計四十八発。その全てをベリアルに向けて発射する

 

 

 鈴の見えない衝撃砲に加えて激怒してはいるが狙いの精度はまるで落ちぬセシリアのレーザー、更に以前以上に複雑な三次元陽動を描いて迫る四十発以上のミサイル。突発的な物ではありながら三人が行ったこの攻撃は、衝撃砲、レーザー、ミサイルの何れかが仮に一発でも攻撃がベリアルに当たりさえすれば連鎖的に他の一撃が命中し、相手を問答無用で袋叩きにする。と、言う非常に完成度に高い物になっていた

 

「あーあ……直接言わねぇと分からねぇ程、お前ら馬鹿なのか? 俺様は『事実』を言っているだけだってな……」

 

 一見すれば被弾覚悟で回避、あるいは徹底に防御に専念する事しか手段が無いように見える三人の攻撃を前にしながらもベリアルは特に動じた様子を軽く欠伸をしつつ

腰を低く落とし、バトルナイザーを手にして低く身構える

 

「ふんっ……!」

 

 と、次の瞬間、ベリアルは吐き出すような一息の呼吸と共に激しくバトルナイザーを回転させると、それを盾にするかのように一直線に無数の弾雨の中に突進していった

 

「んっ……なっ……!?」

 

 ベリアルの行動にスターライトMKⅢでの銃撃を続けながらセシリアは思わず絶句する。これで片が付くとまでは楽観していなかったセシリアだが、いくらなんでも突撃して来る。と、言うどう見ても自爆にしか見えない方法などは端から想像だにしていなかったのだ

 

「うおらああぁぁっ!!」

 

 が、雄叫びをあげながらベリアルが回転させるバトルナイザーに命中した瞬間、レーザーも衝撃砲もミサイルの爆風や砕けた破片でさえ暴風の前の塵や埃のように吹き飛ばされベリアルに命中する前に霧散してゆき、そのままベリアルは攻撃を続ける三人をどこ吹く風とばかりに更に加速して一気に距離を詰めてゆき、そのままベリアルは弾幕を突き破った

 

「なっ……このっ……!!」

 

 突き抜けて来たベリアルに一瞬、鈴は驚愕の声をあげたもののセシリアや簪に先駆けて反応し直ぐ様、龍咆の発射を止めると双天牙月を構えて加速状態から停止に移ろうとしているベリアルに急接近すると同時に斬りかかった

 

「フンッ……!」

 

 が、しかし、不安定な体勢ながらもベリアルはバトルナイザーで双天牙月を受け止めると、更にカウンターとばかりに鈴に向かって強烈な前蹴りを叩き込んだ

 

「うぐっ……!? がはっ……!!」

 

「鈴さんっ!!」

 

「……危ないっ!!」

 

 ベリアルに腹部を蹴り飛ばされてしまった鈴は悶絶しながら勢いよく背後にいたセシリア向かって吹き飛ばされてしまい、それをセシリアとそのサポートに入る形で簪がそれぞれ手を伸ばして飛ばされきた鈴の背中をしっかりと支える。が

 

「……っ!?」

 

「こ、この力は一体……!?」

 

 何と二機分のISの力を持ってしても尚、鈴にかせられたベリアルの蹴りの衝撃は収まらず、その力に圧せられながら二人は鈴を支えた状態のまま空中で引きずられるように押し出されしまっていた

 

「はん……馬鹿め! 隙だらけだっ!!」

 

 そして、三人が見せてしまった決定的な隙をベリアルが見逃す筈も無く、笑うようにベリアルはそう言うと手にしたバトルナイザーにエネルギーを蓄積させると、手元に引き寄せる形で構える。と、その瞬間、音もなくバトルナイザーの棍部分が光り、オレンジ色に輝く大鎌の刃のような形のエネルギーの刃が出現した

 

「おらあっっ!!」

 

 そのままベリアルが声と共にバトルナイザーを勢いよく振りかざすと刃はバトルナイザーが最高速で加速された瞬間バトルナイザーから離れ、空気を切り裂きながら宙を飛ぶと、鈴を助けようと硬直したまま動けない三人に襲いかかり、刃が直撃した瞬間、三人を中心としてエネルギーの閃光の爆裂と爆煙が巻き起こり、爆煙が晴れるのと同時に三人は声も無く同時にまっ逆さまに落下し、共に土煙を上げて地面に崩れ落ちた

 

「ふん……これで分かったか? お前らじゃ決して俺様には勝てないって事くらいはな」

 

 そんな三人を見下ろし、ベリアルは嘲笑うようにそう言うと高笑いをしながら悠然と歩いてその場を後にしてゆく

 

「ま、待ちなさいよあんた……まだ……あたしは……」

 

「かっ……はっ……! ここで倒れる訳には……お兄様……」

 

 そんなベリアルの背中に向かい、何とか立ち上がろうと鈴とセシリアは懸命に地面でもがくが、激しいダメージにより機体にも彼女ら自身の体にも既に限界は訪れており、共に立ち上がる事はかなわずそのまま崩れ落ちてしまった

 

「お……ねぇちゃん……」

 

 そんな中だった。果たしてそれは偶然なのか必然なのか簪は二人から若干離れ、倒れたまま動かない楯無の近くへと落ちていたのだ

 

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 

 簪は激しく痛む自身の体で力を振り絞り、ほふく前進のような形で一歩、また一歩と近付いて行く。が、あと一歩で楯無の手に簪の指先が触れようとした寸前、簪は意識を失い地面に突っ伏してしまった

 

 そう、だからこそ

 

 既に気絶してしまった鈴やセシリア、そして既に立ち去ってしまったベリアルも決して気が付く事は無かったのだ

 

 簪が気絶した直後、弱々しい動きながらも確かに意志を持って動き、すぐ近くにまで伸びていた簪の手を包み込むようにしっかりと楯無の手が握りしめた事を

 

 学園教師陣や各国代表候補生達を軽々と退け、無双を繰り広げているベリアルがこの時点で最初の失策を犯していた事を、この時ばかりは誰も知るよしが無かった



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152話 再 開

 少々、遅刻してしまいました。なお、今回は正史のウルトラシリーズでも『もしかしたらあり得たかもしれない』と、言うレベルのオリジナル設定を組み込んでおります


「くっ……急がなければ!」

 

 立ち込める黒煙と悲鳴、そしてパニックの予兆が色濃く現れ始めた学園内をラウラ、シャルロットと共に走り抜けながら慎吾は先程、見た流星の落下地点へと急いでいた

 

 全く予想だにしない事態に避難を促そうとしている教師陣も既に手一杯になっているのか誰も慎吾達を呼び止めようとする者おらず、慎吾達は緊急事態にも関わらず学園内を比較的自由に動き回れていたのだが、混乱で情報が伝わりづらい状況ではそれが逆に災いし、意図せずして慎吾達は侵入者とはおおよそ90度程違う方向に向かってしまっていた事に先程の流星で漸く気付かされたのだ

 

「シャルロット、セシリアや鈴達とは連絡は取れるようになったか?」

 

 行く手を塞ぐ、破壊された建物の一部であったコンクリートの瓦礫を走る脚を止めずに飛び越えながら、慎吾はすぐ後ろの左隣を走るシャルロットにそう呼び掛けた

 

「……駄目、鈴もセシリアも出てくれないよ!」

 

 問われたシャルロットは走りながら素早く自身の端末を操作する。が、何度呼び掛けても沈黙を続ける端末にその表情を険しくし、慎吾にそう伝える

 

「私も先程試してみたが……簪も駄目だった。……と、なると……」

 

 そう呟くと再び慎吾は落下地点へと視線を向ける。シャルロット、ラウラと対・詳細不明のUシリーズについて対策会議をしていた最中に起きた侵入者による襲撃だったが、慎吾は走り出した直後からどうにも胸の奥から立ち込め、まとわりつくような嫌な予感をここまで振りきれずにいた

 

「(侵入者は、まず間違いなく件の盗まれたデータで作られた不明のUシリーズで襲撃を仕掛けたのだろう。それは理解出来る。単機でこのIS学園に襲撃を仕掛けた事から相手が自信と最大限の警戒を取るべき実力を持っている事も想像出来る。しかし……それでも私が感じるこの悪寒は一体なんなんだ……?)」

 

 今はラウラとシャルロットが共にいる手前いらぬ心配はさせまいとひた隠しにしているが、慎吾は頭の中で幾度も自身でも正体が掴めないのにも関わらず確かに感じ続けている謎の恐怖の正体を必死で探ろうとし続けていた。だがしかし、まるで雲をつかもうとするかのように自身の事なのに明確な答えが慎吾自身にもまるで分からず、ただ『何か最悪の事が起きる』と言う予感が続くだけで完全に手詰まりへと追い込まれていた

 

「……待て、おにーちゃん、シャルロット。正面の曲がり角だ」

 

 と、そんな風に思考に耽りながら走っていた慎吾の右隣を追走していたラウラが突如、ハッと何かに気が付いたような表情をすると同時に足を止め、左腕を慎吾の前に突きだすと、睨み付けるように慎吾達が進む通路の先、小さな細い曲がり角に視線を向けながら慎吾とシャルロットを制し、その脚を止めさせた

 

「ラウラ……まさか敵か?」

 

「あぁ……気を付けろ、おにーちゃん。相手もこちらに気付いているだろうが……隠れもせず、堂々と来るぞ」

 

 ただならぬ様子のラウラにそう慎吾がそう問いただすと、ラウラは視線は外さずに首だけを動かして頷く事でそう返事をすると、すかさず自身のシュヴァルツァ・レーゲンを展開させる。そんな、ただならぬラウラの様子に後に続く形で咄嗟に慎吾とシャルロットもそれぞれゾフィーとリヴァイブを展開させると、一気に三人の間に重苦しい緊張が走り抜けた

 

「ん……? ハハッ、こいつは……」 

 

 その瞬間だった、まるで休日に街頭でも歩いているかの如く余裕を見せながらバトルナイザーを構えたベリアルが曲がり角の先から姿を表すと、そこで慎吾達三人に気が付き、そう言いながら首を鳴らすの小さく笑った

 

「(これが……写真に写っていた、不明のUシリーズか……)」

 

 一方で慎吾は相手が僅か一ミリでも動けば即座に戦闘に移行出来るよう、最大限の警戒を行いつつ相手のISをじっくりと観察する

 

 その姿はシルエットのみだった写真と同じく、全体的な姿を見て言えば基本的にはUシリーズ。それも自身のゾフィーに酷似している。だがしかし、そのボディーカラーは銀と赤のゾフィーのアンチテーゼの如く黒と赤。Uシリーズ共通のタイマーは不気味な紫色に輝き、通常状態のゾフィーより更に太い腕は手部分ざ合金でさえ容易く切り裂きそうな鋭利な鉤爪に変わっており、何より特徴的だったのが鋭くつり上がり上がった目と大きく裂けた口元であり、猫背にも似た姿勢も相成った事で慎吾にはまるで相手が巨大な一匹の鮫のようにも見えていた

 

「お前は一体誰だ? 何故、わざわざM-78社を選んでUシリーズのデータを盗み、IS学園を襲撃したんだ?」

 

 油断なくシャルロットとラウラが身構えているのを横目で見ながら、慎吾は自身が感じている緊張を悟られまいと言葉を選びつつ相手に問い掛ける。と、は言っても慎吾自身、白昼堂々と襲撃を仕掛けて来る相手から、まともな返事が返ってくる事はあまり期待していない。ただ、全くの不明である相手の事を僅かでも知り、ミスが許されぬこの戦闘で事を一歩でも優位に進ませんと考えた上での事だったのだ

 

「クッ……ハッハハッハハハハッ! 俺が『誰か?』だって!?」

 

 そんな慎吾の問いかけに侵入者は何がそれほどまでにおかしいのか手にした武器を手にしたまま腹を抱えて笑い

 

「声で俺が分からねぇか? 十年とちょいとぶりとは言え随分と薄情になったじゃねぇか……えぇ? 『慎吾』」

 

 次の瞬間、へらへら笑いながら慎吾にとってあまりにも衝撃的な言葉を口にすると、平然と頭部の装甲のみを解除し何の躊躇いも無く全身装甲の仮面の下に隠されていたその素顔を見せた

 

「あっーーーーー」

 

 その黒髪を、日に焼けた肌を、特徴的なつり目を慎吾が目にした瞬間、雪崩のように過去の記憶が一気に慎吾の中で有無を言わさず一斉に再生された

 

 父のように強くなりたいと朝の道場で自習練習している幼い自分を『頑張りすぎだ』と苦笑しながら技を教えて貰った日

 

 ケンと共に手を引いて初めて自分を仕事場である研究施設へと連れていってくれた日

 

 そして父、母、両親の葬儀に真っ先に駆け付け、肩を撫でながら乱雑ながらも暖かい言葉で慰めてくれた日

 

「アリア……さん……?」

 

 自分が当初から感じていた悪寒の正体が『これ』だと理解し、決して忘れぬ記憶がより鮮明に慎吾の記憶に甦った瞬間、慎吾は我を忘れ、恐る恐る昔のようにその名を呟いていた

 

「フッ……そんな名、とっくの前に前に捨てたよ!」

 

 そんな慎吾をせせら笑うようにベリアルは口を開き、歯を見せながらそう言うと一時的に解除していた黒い頭部装甲を再び纏う

 

「今の俺の名は『ベリアル』! この機体も同じ名前だ……!」

 

「……何故」

 

 そんな、あまりにも変わり果ててしまったアリア、否、ベリアルを前に慎吾は悲しみ、絶望、動揺、失望、怒り。と、次々と涌き出てくるあらゆる感情で言葉を震わせながら口を開く

 

「何故、あなたがそこまで堕ちてしまったんです!? あなたとケンさんは友ではなかったのですか!?」

 

 次の瞬間、慎吾に驚愕で目を見開いている妹達に配慮する余裕も無くベリアルに向かって叫ぶ。慎吾の口から放たれたその叫びは声量そのものは大きかったがそれは何処か悲鳴にも似ており、事実、それは慎吾の心の底からベリアルへの想いが込められた叫び声だった

 

「あん……? そうか……ケンの奴は伝えてないのか。ククッ……相変わらず、お優しいこった……」

 

 その叫びを正面から受けたベリアルは一瞬、怪訝そうに首を傾げたものの直ぐに何かを悟ったように一言呟くと笑い始め、再び手にしたバトルナイザーを慎吾へと向ける

 

「それが知りたいなら……! そして、この学園を守りたいのなら! 今すぐかかってきやがれ慎吾! 鼻たれだったガキがどれだけ成長したか俺様に見せてみろ!」

 

「あなたは……!」

 

 それはもはや戦闘が不可避である事を指し示すベリアルからの宣言であり、慎吾は気付いた時には思わず拳を握りしめていた

 

「……おにーちゃん。あいつは一体、おにーちゃんにとって何者なんだ?」

 

「うん……僕も、お兄ちゃんが言いたくないならいいけど……それは知りたいかな」 

 

 と、そこで堪えきれなくなったように目の前のベリアルを見据えながらラウラがそう問いただし、それに続いてシャルロットも遠慮がちに慎吾に尋ねた

 

「彼女は……」

 

 二人から向けられる視線を向けられた慎吾は言いよどむ、ベリアルは様子見だと言わんばかりにこちらを視線を向けるだけで動こうとしない。話すならおそらく今、以外には機会は存在しないだろう。だがしかし自分の、いやケンを含めた自分達の過去の因縁に彼女達を巻き込む事は間違っているのでは無いだろうか?そんな考えが慎吾の頭の中でぐるぐると回る

 

「彼女は、私の武術を教えた師の一人だ。……恐ろしく強いぞ。それこそ私は、あの人の半分の力も出させた事は無いだろう」

 

 そのせいか、慎吾は気付いた時には自然とそう口にし、自身が言っても引きはしないだろう妹達を思ってせめてもの想いでベリアルに対する更なる警告を促した

 

「おにーちゃんにそこまで言わせる相手な上に、師匠とまで来たか……」

 

「それなら、いつも以上に精一杯頑張らないと駄目そうだね……!」

 

 その言葉にラウラもシャルロットもより一層、表情を引き締めベリアルに向き直る

 

「ラウラ……シャルロット……」

 

 慎吾から見て、二人の表情には緊張こそあれど恐怖は無い。そんな二人を見て頼もしい。と、思う反面、まず間違いなくベリアルとの戦闘になればどれ程奇跡的な事が起ころうとも全くの無事で済むものはいないだろう。と、直感的に感じていた慎吾は本音では二人を守るためにも下がっていて欲しかった。が、しかし、当人達の選択を自分の都合で歪める訳には行かない。と、慎吾は自身の想いを口には出さず胸に留める事にした

 

「それじゃあ三人纏めてかかってきな! ひょっ子共!!」

 

「行くぞ! ラウラ! シャルロット!」

 

 次の瞬間、それが戦闘の合図だと言わんばかりに宙へと飛び上がったベリアルを追い、三人は慎吾の合図と共に空へと飛び出していった



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153話 決死の猛攻、そして謎

 平成最後の投稿となります~、どうにか間に合って良かったぁ……
 尚、今更になってしまいましたが、読んでくれた方を混乱させてしまう事もありますのではっきりと名言しますと、この作品でのベリアルことアリアはケンと同じ年のれっきとした女性です。
 理由は話の都合等、色々とあるのですが、やはり無駄に男性操縦者を増やして、話をややこしくするのを避ける。と、言うのが大きな者です。


「まずは、こいつを喰らいな!」

 

 戦闘が始まった瞬間、ベリアルはバトルナイザーを向けるとそこから次々と複数の光弾を発車し、離陸直後の三人を狙う

 

「はっ! でやぁっ! とおりゃあっ!!」

 

 が、しかし、不意打ちに等しいその先制攻撃を慎吾は予測していたのか掛け声と共に襲い来る光弾を空中にジグザグの飛行軌道を描くような鋭い動きで回避すると、光弾の発射を続けるベリアルを狙ってエネルギーの充填をそこそこにスピードを優先させてゾフィーの腕からスペシウムを放った

 

「まだまだぁっ!」

 

 更にそれだけではベリアルへの攻撃は終わらない。慎吾同様、無事に光弾をやり過ごしたシャルロットとラウラが慎吾がスペシウムを放つタイミングに合わせてそれぞれアサルトカノンとリボルバーカノンの砲撃を放ち、ゾフィーのスペシウムを中心にベリアルを挟み撃ちにするような形で補助に入る

 

「ふん……」

 

 だが、ベリアルは鼻で軽く笑うと右腕バトルナイザーを軽く横凪ぎに振るう事で軽々と弾き飛ばし、三方向からの攻撃はどれもが欠片さえベリアルを掠めずに霧散させれた

 

「はあっ!」

 

 その瞬間、バトルナイザーを振るった事で僅かにベリアルに生じた隙を狙って慎吾が瞬時加速を利用して一気に詰め寄るとすかさず右脚で空気を切り裂き、胴を狙って強烈な蹴りを放つ。が、その蹴りはベリアルが蹴りの軌道を読んで右に移動をする事で容易く空振りに終わり回避されてしまった

 

「中々、蹴りは様になってるじゃねぇか……だが、まだあま……!」

 

「甘いのはお前だ」

 

 その瞬間、突撃するゾフィーの背を盾にしてピッタリ密着して隠れていたラウラが飛び出し、ベリアルが言葉を言い終える前にプラズマ手刀で斬りかかった

 

「ちっ……!」

 

 自身の言葉を遮られた苛立ちからか、ラウラのプラズマ手刀がベリアルの頭部を掠める寸前、舌打ちしながら後方に飛び退く事でベリアルは攻撃をやり過ごすと、慎吾とラウラの二人を睨み付けながら手にしたバトルナイザーを構えた

 

「おっと、そう簡単には反撃には移らせないよ」

 

 すると、今度はステージでダンスの演者が入れ替わるように軽やかな動きで二人の間をすり抜けてシャルロットが姿を表すと同時に両手に構えたショットガンを連射し、複数の弾丸で息つく暇も与えずベリアルに更なる攻撃を仕掛けた

 

「ふっ……!」

 

 が、しかし、これもベリアルは寸前で反応し、拡散する弾丸を高い機体性能を生かし超高速で上昇する事で回避する

 

「とおぉっ!!」

 

 その瞬間、回避先で待ち構えていた慎吾が空中でゾフィーを唸らせて空中で一回転すると瞬時にその姿を第二形態であるゾフィースピリットに変化させ、そのままカウンターにも似た形でゾフィーに出せる最大限のパワーを込めた回し蹴りを硝煙の向こう側にいるベリアルに向けて叩き込んだ

 

 自身に技を教え、知能、実践経験、才能まで圧倒的実力差を持っていると慎吾自身が判断しているベリアル。それに対し慎吾が短い時間で取捨選択し、導き出した策はエネルギー消費と防御を限界まで無視し、三人がかりで最速の攻撃のラッシュを叩き込み続ける短期決着だった

 

 勿論『作戦』と、体を取っているものの、防御を捨てている故にほんの一手でも崩されるだけで、たちまちの内に窮地に立たされるような無謀極まり無い戦法だと言うことは当然ながら立案者当人である慎吾も、そして二人が構えてからベリアルが飛び立つ直前まで。と、言う余りにもの短い時間を利用してプライベート・チャネルを通じて慎吾から伝えられながらも、二人同時に即座に了承してついて来たラウラとシャルロットも当然、理解している

 

 そこまでのリスクを背負うとしても尚、慎吾がこの方法を選んだ理由。それは偏にベリアルに此方の手の内、そして戦闘スタイルを見切られる事を防ぐ為だった

 

 慎吾が唯一、現時点でベリアルと互角に張り合えると考えているのはベリアルが慎吾の前に姿を見せなかった十年近くの空白期間だった。ベリアルが十年の間に実力がいかに変わったかは不明だが、それはベリアルも同じ条件だと慎吾は踏んでおり、そこがベリアルを打倒出来る可能性がある唯一のポイントだと考えていた。だからこそ、慎吾としてはリスクを背負うとしてもベリアルに手を見切られ対処されるより前に何としても打倒する以外に手は無かったのだ

 

「(怯むとまではいかなくても、この一撃で多少はダメージが入っていてくれば反撃の目が……!)」

 

 流石にベリアルでも回避は不可能だったらしく蹴りを放った脚に確かな手応えを感じながら慎吾は祈るような気持ちで硝煙の向こうを睨み付けた。と、その瞬間、煙が晴れ

 

「なるほど、なるほど……防御を捨ててのフルパワーでの短期決戦か……悪くねぇ選択だぜ慎吾。だがな……」

 

「なっ……!?」

 

 嘲笑い明らかにダメージが無いベリアルと、その右掌にしっかりと受け止められたゾフィーの右脚を見た瞬間、慎吾は思わず声をあげ現状を一瞬、忘れてしまう程に愕然とさせられた

 

「(第二形態になって更にパワーが増したゾフィースピリットの全開の一撃を受け止めた!? それも片手で!? 馬鹿な、いくらアリアさんでも無茶苦茶が過ぎる!!)」

 

 ベリアル自身の技能に機体性能を加えて考慮したとしても、あまりにも常識離れした事をして見せたベリアルに慎吾は蹴りを放った体勢のまま一瞬硬直し、思考を巡らせながら再びゾフィーの右脚を受け止めているベリアルの右掌に二度目の視線を向ける

 

「たが悲しい事にそいつを選ぶにはちと、実力不足だったなぁ!!」

 

 直後、ベリアルは掴んでいたゾフィーの右脚を離すと急激に身を翻し、蹴りの体勢のまま固まっていた慎吾に狙いを付ける

 

「くっ……!!」

 

 そのスピードから、もはや回避は間に合わないと判断した慎吾は咄嗟に胸の前で両腕を交差させしっかりとガードを取るのと同時に、勢いよく背後に飛び退き、ベリアルから距離を取る

 

「うおらぁあっ!!」

 

 その瞬間、慎吾に向かって上から振り下ろすような強烈な回し蹴りが襲いかかり、そのタイミングをどうにか見切る事に成功した慎吾はベリアルから退きつつ交差させた両腕で迫り来るベリアルの左脚を受け止めた

 

「がっ……はっ……」

 

 が、受け止めたベリアルの脚は容易くガードを固めた慎吾の両腕を弾き飛ばすと、その勢いが殆ど衰えさせないまま無防備になってしまったゾフィーの胸へと炸裂し、慎吾を悶絶しながら大きく吹き飛ばした

 

「お兄ちゃんっ!?」

 

「おにーちゃん! くそっ……!」

 

「(やはり……だ。先程から思考の隅で考えてはいたが今、確信した! このあまりにも常識を越え、尚且つ無尽蔵に続くかのようなパワー……単純な技術や機体性能なんかじゃない……あの機体、ベリアルには何らかのトリックが存在している!!)」

 

 ベリアルに吹き飛ばされた慎吾の身を案じるシャルロットとラウラの声が響き、受けた蹴りの衝撃と激痛で視界が歪み目眩がするのを堪えながら、慎吾は意識の中で一つ、そう確信していた

 

「よくも、おにーちゃんを!」

 

 慎吾が吹き飛ばされた瞬間、いち早く動いたのは慎吾の最も近くにいたラウラであり、慎吾と入れ替わりになるようにプラズマ手刀で無造作にラウラに向かって背中を見せるベリアルに高速で切りかかった

 

「はっ、遅ぇぞガキ!」

 

 しかし、その手刀を余裕を持って見切ったベリアルは体をその場で一回転するように反らす事で避け、すかさず接近したラウラに向かって腕を交差させるようにベリアルのクロー状の右手を突き刺そうとするかのように襲いかかった

 

「ちぃ……っ!!」

 

 ラウラを持ってしても『目にも止まらぬ』としか言い様が無い速度と技のキレ、しかしながらラウラは命中する直前でAICを発動させて迫るベリアルの右腕を止めることに成功した

 

「がふっ……!?」

 

 しかし、その直後ラウラは嗚咽を上げるとその身を『く』の字に仰け反らせ、なおも収まらぬ衝撃がレーゲンを大きくベリアルから吹き飛ばさせる

 

「ん? 一撃で落とすつもりだったが……AICで少しは威力が落ちたか……」

 

 一方で平然とベリアルは始めに腕を捕らえたAICが身体へと移る直前に更なる急接近をしてラウラに向けて打ち込んだ膝と、悶絶するラウラを見ながら若干不思議そうにそう呟く

 

「ラウラ!? このおっ!!」

 

 その瞬間、今度は入れ替わるように右手にショットガン、左手にマシンガンを構えたシャルロットが飛び出しベリアルに向かって即座に大量の弾丸をばら蒔いた

 

「ふん……お前はこれでも食らっておけ!」

 

 その大量の弾丸をベリアルはバトルナイザーを振り回し、まるで羽虫でも払うかの如く打ち落とすとそのままバトルナイザーのリーチを利用してシャルロットに向かって突きを放った

 

「くっ……うっわああっっ!!」

 

 『アレの直撃を食らうのは不味い』短い時間ながらもベリアルとの戦いを経てそれを嫌と言う程に理解できていたシャルロットは『高速切替』で物理シールドを念を入れて五枚重ねて呼び出し防ごうとしたが、まるで瓦割りでもしているかの如く、ベリアルのバトルナイザーはシールドを軽々と砕き、そのままリヴァイヴに直撃すると悲鳴と共にシャルロットを突き飛ばした

 

「はん……思ってたよりは、楽しめたが……これで終わりだ」

 

 どうにか地面への激突を避け浮上は続けているものの、肩で息をしておりダメージの大きさが隠せていない慎吾

 その側に寄り添いながらも苦しげに咳き込み、口元から吐血した一筋の血液を足らしながらベリアルを睨み付けるラウラ

 機体から紫電を走らせバトルナイザーの直撃を受けた胸部を抑え、青ざめた顔で苦し気に呻くシャルロット

 

 そんな満身創痍の三人を見下ろし、嘲笑いながらベリアルは腰を落とし静かにバトルナイザーを構える。戦いを終わらせる事になる決定打の一撃を放つつもりだったのだ

 

「慎吾……ケンはお前の将来に強く期待していたそうだがな……残念な事にこの俺様と戦うには三人がかりでもまだまだ早かったなぁ!! ハッハッハッ……!」

 

「い……つ……」

 

 バトルナイザーから形成された鎌状のエネルギーの刃と、嘲笑うベリアルの声を聞きながら慎吾は荒い呼吸で今にも掠れきってしまいそうな小さな声で呟く。状況から見れば、それは諦めの境地からなる辞世の一言にしか聞こえず、事実ベリアルも笑いながらそう確信していた

 

 そう

 

 

「いつ……私達が三人で戦うと思っていた!? 『ベリアル』!!」

 

 息を一気に吸い込み、慎吾がゾフィーの輝く目でベリアルを睨み付けるまでは

 

「おおおおおおっっ!!」

 

「たあああああっっ!!」

 

「何ぃっ……!?」

 

 瞬間、掛け声と共に太陽を背にバトルナイザーを構えたベリアルの背後から蒼と紅、二機の機体が襲いかかりベリアルはそれに咄嗟に反応したもののバトルナイザーに形成されていた鎌状のエネルギーの刃は砕けちるのと同時に爆発し、その衝撃でベリアルは大きく仰け反った

 

「すまない、遅くなったな慎吾。皆」

 

「皆、まだ戦えるか?」

 

 ベリアルを前に油断なくそれぞれの獲物()を構えながら、蒼と紅のIS、ヒカリと紅椿を展開させた光と箒の二人はそう慎吾たちに尋ねた



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154話 宣告

 どうにか書きました……今回は戦闘描写は次回に持ち越しです。今回の話の中でこれから先の展開についてヒントを出しています。


「間に合ってくれたか……。ありがとう光、箒」

 

 暫しの時間を経て、どうにか戦闘再開が可能な状態にまで体力を回復させた慎吾はまさに絶好のタイミングで救援に駆け付けてくれた二人にそう礼を言った

 

 何故、光と箒がこの場所へ駆け付ける事が出来たのか。その種を明かせば非常に単純であり、ベリアルの元へと向かう以前、中々連絡の取れぬ鈴やセシリアの身を案じた慎吾が光、そして箒に自らの現在地を伝えつつ通信を繋いでいたのだ。その連絡が慎吾達がベリアルとの戦闘を始めた事により不自然に途絶えた故、光と箒が最後に伝えた現在地を頼りに駆け付け、どうにか紙一重の所で三人を守る事に成功したのだ

 

「………………」

 

 そんな最中、ベリアルは衝撃で仰け反り、首を俯かせた体勢のまま一言も発せずピクリとも動こうともしなかった

 

 先程の攻撃の猛ラッシュとベリアルの蹴りでゾフィーのシールドエネルギーも半分程にまで減ってはいたがまだ戦う余裕は十分に残されている。ラウラとシャルロットもそれぞれ強烈な一撃を受けてはいたが、それぞれの方法でダメージを軽減させる事に成功しており、致命打は受けておらず戦闘に支障は無い。更にそれに加えて新たに加わった光と箒はエネルギーはほぼ満タン。この状況で5VS1のこの状況は通常の相手ならば誰もが勝利を確信しているだろう

 

『………………』

 

 だがしかし、この場に揃った五人は誰一人として気が緩みなどしていない、寧ろ五人ともに張り詰めた緊張の糸が今にも音を立てて切れてしまいそうな程に警戒し、慎吾の言葉以来、誰も言葉を発せずベリアルを睨み付けていた

 

「クッ……ククッ……そういう事かよ」

 

 と、その時だった。今さっきまで沈黙を続けていたベリアルが俯いていた首を持ち上げると、咄嗟に警戒する五人の存在を無視しているかのように、仮面越しに口元を抑えて含み笑いをしながらそう言った

 

「さっきの言葉……訂正してやろう。俺様相手に一瞬だけでも驚かせるとは……純粋な技量や策、加えて覚悟も昔より遥かに成長してるな慎吾。今のお前ならばケンもさぞ誇りに思うだろうなぁ?」

 

「…………っ!!」

 

 それは薄ら笑いするかのような口調でありながらも言ってること事態は純粋に指導者の一人として慎吾の成長を褒め称えている言葉だった。だがしかし、ベリアルがそう言った瞬間、慎吾が感じ取ったのは先程向けられたものより更に濃密で深い殺意が込められたベリアルの悪意そのものであり、落ち着いたばかりの心臓が再び音を立て激しく鳴り始めるのを慎吾は感じていた

 

「(まだ……まだ、余力を残していると言うのか……っ!!)」

 

「だからこそ、俺がその強さに『敬意を表して』お前らを獲物じゃなく五人全員纏めて『敵』として叩き潰してやる。光栄に思えよ?」

 

 心中で戦慄する慎吾を他所に、バトルナイザーで集結している五人を一人、一人と棍部分を指差しするように向けながらベリアルはそう自信たっぷりに宣言する。それは冗談を言っているような軽い口調では間違いなくベリアルはそれを本気でやろうとしているのが口にせずとも五人全員が理解していた

 

「慎吾、ラウラ、シャルロット。お前達は三人まだダメージの影響が抜けきっていないだろう。俺と箒が前に出て戦うから無理をせず暫く後方から援護に回ってくれ」

 

 そう言って光は振り返らず背後の慎吾達に向けてそう言うと、一瞬だけ確認するように銀の仮面越しに自らの隣に立つ箒へと確認するように視線を向ける

 

「さて……勝手に決めた事だが頼めるか箒?」

 

「あぁ、任せておけ。共に行くぞっ! 光!」

 

 それに箒が返したのは、自身の武器である二振りの刀、雨月と空裂を構え、全く迷わぬ口調での賛同の返事であり、更に表情を見てみれば多少の緊張はあれど口元に力強い笑みを浮かべる程度の余裕すら見せていた

 

「つまらん話はそれで終わりか? じゃあ……早速、俺から行くぜぇ……?」

 

 そのやり取りが終わるや否や、ベリアルがバトルナイザーを構えて突撃し、それにコンマ一秒遅れて五人は一斉にベリアル迎撃に向けて動き出し、それぞれの武器と機体が発する爆音でそうぞうしく第二ラウンドは開始させれた

 

 

「何だって! IS学園に不明のUシリーズ機が襲撃!? しかも相手は単機だと!!」

 

 場所はIS学園から変わってM-78社、そこで重役を交えた不明のUシリーズについての対策会議が行われていたその最中、突如鳴り響いた緊急回線で衝撃的な報告を聞いたケンはこちらの行動を嘲笑うような事が起きたその衝撃に主任と言う立場も忘れて思わず叫んだ

 

「……現在の状況は? 慎吾や光からの連絡はあるのか?」

 

『はい主任! 不明機によるIS学園襲撃を既に十分以上が経過しているようですが、カメラで確認する限り学園は複数の施設が破壊されて火災発生! 被害は甚大と見られます! 連絡については先程から此方からも呼び掛けてはいるんですが…大谷パイロットから、数分前本社に向けて映像ファイルと添付された短いメッセージが送られて以降、芹沢博士を含めた両名共に全く応答がありません!』

 

 ケンの言葉により会議室内でざわめきが起きる中、逆に一呼吸置いた事で冷静さを取り戻したケンが落ち着いた口調で緊急回線を繋いだ社員にそう問い掛けると、問われた社員はやや動揺した様子ながらも、ある程度は修羅場慣れしているのか要点を纏めて答えて見せた

 

「映像ファイルか……こちらのスクリーンに映せるか?」

 

『はい! 今、映像データとメッセージをそちらに送ります!』

 

 ケンがそう指示を送ると、会議室でケンや複数の社員が集めた不明機についてのデータを描いた資料が写し出されていた大型スクリーンが一瞬、暗転したかと思うと直ぐ様切り替わり、新たに火の手が上がる学園校舎の上を悠然と飛行する一機の黒いIS、ベリアルが撮られた映像を写し出した

 

「……これが学園を襲った不明のUシリーズか。手にしている棍棒状の武装は私は見たことは無いし……どうやら記録にも無いようだが……」

 

『続いて、メッセージを映します!』

 

 ますます会議室内の喧騒が大きくなってゆく中、スクリーンに映るベリアルを分析しながらケンが懐から端末を取り出して操作しながらそう呟く。と、その瞬間、再び通信が入ったかと思えば先程、映し出された画像がスクリーン上部に元の七割程の大きさに圧縮されて、下部に空白部を作るとそこに短い数字程の英単語を順に映し出す

 

 『A R I A 』

 

「な……っ!!」

 

 その単語を見た瞬間、ケン。そして一部の『知っている』社員は思わず言葉を止め、瞬時に凍り付いてしまったように絶句すると、その動きを止めた

 

「まさか……っ!! まさか、あの事故から生き残っていたと言うのかっ!! アリア……ッ!!」

 

 わなわなと震える手でケンは頭を抱えると、苦悩に満ちた顔で、声を震わせるとベリアルの過去の名を、そして心通わせた親友(とも)の名を叫んだ

 

「何と言う事だ……慎吾……光……! 私達が背負うべく宿命に若い彼等を巻き込んでしまうとはっ……!! せめて慎吾には真実をもっと早く伝えるべきだった……!」

 

 心中であぶくのように次々と沸き上がる後悔の念と、慎吾の心中を案じた結果として己が犯してしまった取り返しのつかない失策に苛まれケンは額から脂汗を思わず机に突っ伏して項垂れる。と、そんなまさに時だった

 

「ケン主任、大変です! 倉庫の保管室に保管されていたUシリーズの装備品が……! 保管室の扉が開かれて中の装備品が紛失していますっ!」

 

 余程、慌てているのか雑なノックと共に会議室の扉が乱雑に開かれ、顔を青ざめさせた年若い社員がケンの元に駆け寄り、そう報告する。瞬間、会議室のざわめきが水を打ったように静まりかえる。良く見れば、さっきまでざわめき立っていた社員達の顔が瞬時に先程入ってきた年若い社員同様に真っ青と言うレベルにまで青くなっていたのだ

 

 そんな会議室の社員達の無理の無い話で、そもそもの話をすれば今回の騒動の切っ掛けはUシリーズのデータ盗難。そんな最中での装備品の紛失事件など誰もが関連性を意識せずにはいられなかった

 

「……話を続けてくれ、ゼノン」

 

 そんな混乱に包まれる最中、ケンは僅かな時間で自身の混乱と動揺を隅に追いやり、自らの冷静さを取り戻すと何時もと変わらぬ口調で会議室に入ってきた若い社員。ゼノンにそう問い掛ける

 

「はいっ! 今回、私とマックスが紛失しているのを発見したのは、このM-43保管室に保管されていた……」

 

 ケンの言葉にゼノンは机の上に置いた自身の端末を要いて保管室の管理システムにアクセスすると、ケンへの説明を続けながらM-43保管室に設置されていた監視システムの記録と、使用履歴を断念に調べ始めた

 

「M- 43保管室を最も最近に利用したのは……えっ?」

 

 と、突如、端末を操作していたゼノンの手が止まる

 

「……光博士?」

 

「…………まさか」

 

 信じられないようなゼノンのその言葉を聞いた瞬間、ケンは一瞬、目を見開くと愕然とした様子で硬直し

 

「緊急を要する事態だ! 映像、通信、方法は問わない! 何としても光と連絡を取るんだ! もし『アレ』を使ってしまうとしたら……! 彼女は……!」

 

 次の瞬間、ケンは弾かれたように動きだすと一斉にそう会議室中に響くような声で指示を飛ばすと、混乱しそうな社員達の目を覚まさせるような、衝撃的な一言を口にした

 

 

「芹沢光は五割の確率で死亡してしまう!!」



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155話 非情なる決着

 本当に……2ヶ月も遅れてすいません。ここ最近、モチベーションが大幅に下がるような事が連発した故に、執筆が遅れてしまいました。


「よしっ! 行くぞ箒!」

 

「任せろ光! おおおおおっっ!!」

 

 後方から放たれる慎吾達の支援攻撃により、僅かに隙が生まれたベリアルに向かい、光は箒に合図を出すとタイミングを合わせて箒は右から、光は左からと挟むように二人同時に斬りかかる。が、しかし、その攻撃をも軌道をベリアルに見切られると同時にいなされ、三振りの刃は全てベリアルが握るバトルナイザーの柄部分に受け止められた

 

「くっ……こいつ! 一体、どこまでの……!?」

 

「引くな箒! ここで押しきるんだ!」

 

 全力、それも二人がかりの力で押していると言うのにも関わらず、まるで二人が首を上げぬと見渡せぬ程巨大な岩盤を相手にしているかのように、バトルナイザーは三振りの刃を受け止めたまま、僅かも後退しない。いや、それどころか歯を食い縛り、限界まで力を入れている二人を徐々に押し返してさえいた

 

「……どうした!! 五人がかりでそのざま……かあっ!?」

 

「うっ……ぐっ……!」

 

「うわぁっ!!」

 

 と、次の瞬間、ベリアルはそう嘲笑うと共にバトルナイザーを持つ腕に更なる力を込め力任せにバトルナイザーを振るい、踏ん張ろうとしていた二人を純粋なパワーで木の葉の如く軽々と後方へと吹き飛ばした

 

 高速で移動するベリアルを追って戦闘を続けていた結果、アリーナ上空付近へと戦いの場所を移して既に幾分かの時間が過ぎ、流石に5対1と言う条件化の為か時間と共にベリアルにも僅かに回避の合間に隙が生まれ、先程のようにそのタイミングを光と箒が付く事も幾度かあった。だが

 

「光! 箒! 大丈夫か!?」

 

 吹き飛ばされ、宙を舞う二人に呼び掛けながらベリアルの追い討ちを阻止すべくゾフィーの手からスラッシュ光線を発射して牽制しながら慎吾が二人に呼び掛ける

 

「俺は大丈夫だ慎吾! それより、もう一度仕掛けるから引き続き援護を頼む! お前は行けるか箒!?」

 

 空中でどうにか乱れたヒカリの体勢を整え、制止した光は短く返事を返すと、今まさに体勢を整えたばかりの箒に呼び掛け、箒が頷く事で答えるのを見ると再びベリアルへと向かっていく

 

 そう、ベリアルの動きに当人が意図して作った物ではない隙が生じ始めているのは確かに紛れもない真実だった。だがしかし、それでも尚、この状況下で圧倒的な実力を武器に勝負を優位に進め続けているのは常にベリアルだった

 

「はああああっっ!!」

 

 今度は箒がより全面に出て右手に空裂、左手に雨月を構えた二刀流のスタイルで怒濤の攻撃のラッシュを仕掛け、更に光がそのサポートに回るように箒が攻撃するタイミングに合わせてナイトビームブレードを振るい箒が刀を振るう際に僅かながら出来ていた回避出来る領域を更に減らし、波状的に逃げ場の無い攻撃を繰り出していく

 

「遅いっ……! 遅いぞお前ら!」

 

 だがしかし、ベリアルはその連撃をもバトルナイザーを自由自在に振るい、受け止め、さばき、全ての刃は全くベリアルの装甲には届く事は無く、次々と無効化されてゆく

 

「くっ……なんと堅い防御……! 二人がかりでこれとは!」

 

「あぁ……確かに硬い。おまけにこちらの攻撃速度を見切られてしまっている。このまま俺達が二人がかりで全力攻撃しても、隙を付かれて押しきられてしまうだろうな……」

 

 ベリアルへの攻撃の手は止めないながらも、本体にかすらせもせずに正しく鉄壁の防御を維持し続けるベリアルに箒が歯噛みしながら叫ぶと、光もまたナイトビームブレードを振るい続けながら声を潜めてそう呟き

 

「そう……俺達二人だけならなっ……! 箒! 右! 行くぞ!」

 

 その瞬間、光は叫んで箒に合図を送ると、互いに攻撃の手を止めると、箒の手を引くように先導しながらすかさず飛び退くようにその場から離れ、ベリアルが振るうバトルナイザーの攻撃軌道からも距離を取る

 

「あん……?」

 

 ラッシュを続けていた二人の突然の攻撃の中断にベリアルは思わずバトルナイザーを振るう手を止めると怪訝な声でそう呟き、ほんの僅かな時間、その動きを止めた

 

「ハァッ……! Z光線!」

 

 その隙を付き、ベリアルに向かい慎吾が掛け声を上げ既にエネルギーを充填しおえていたのか、両腕を胸の前で付きだして揃えると、ゾフィーの両腕から青白い輝きと共に稲妻状のうねりを描いて飛ぶZ光線を発射した。しかも、それに合わせてシャルロットとラウラもここぞとばかりにベリアルに向かって最大火力で攻撃して更なる追撃を仕掛ける

 

「ち……いっ……!!」

 

 流石のベリアルも隙を付かれた上に、M87には劣るがゾフィーの持つ装備の中でも一際高い威力を誇るZ光線、それに加えてバトルナイザーでのガードの妨害に徹底したラウラとシャルロットの射撃が相成る事で咄嗟に振るったバトルナイザーでは攻撃を完全には無効化する事は出来ず、ベリアルの周囲に霧散しきれず光のミストのように無数に散らばり漂うZ光線の破片のエネルギーの光粒がベリアルに襲いかかり、ベリアルは舌打ちと共に光粒が命中するのり早く背後へと飛び退いた

 

「はぁっ!!」

 

「たああっっ!!」

 

 と、まさにその瞬間、僅かに漂うZ光線の光粒を己の刃で切り裂きながら箒と光がベリアルに向かって突撃すると、一定まで距離を詰めた所で光は一旦ナイトブレスからブレードを引っ込めるとチャージを短くしたナイトシュートを放ち、箒は雨月と空裂を同時に振るい、無数のエネルギーの刃を容赦なくベリアルに向けて放つ。更に二人の攻撃はそれだけでは終わらない。二人とも中距離からの一撃を放ち終わるや否や、二人は再び刃を構えてベリアルに更に接近し同時に刃を向ける

 

「クク……馬鹿の一つ覚え見たいにまた全開火力で突然か!? まぁ、それしか無いよなぁ!! お前程度の力量で俺様を倒そうとするならなぁ!!」

 

 ヒカリが放つナイトシュートに加えて紅椿の雨月と空裂による徹底的に逃げ場を無くした相激。更にだめ押しとばかりに再びブレスにナイトビームブレードを形成した光と箒による畳み掛けるような追い討ちの一撃

 

 だがしかし、その全てを無傷でやり過ごし、再びバトルナイザーに止められ寸前で止まった三降りの刃を見てベリアルは大声でそう嘲笑った

 

「ぐっ……!! くっ……うぅ……!」

 

「こ、これすら止めて見せるか……っ!!」

 

 笑い続けるベリアルを前にし、光と箒は悔しさで顔を歪めながらも、どうにか刃を押し込み、届かせようと懸命に力を込めるもののバトルナイザーは二人の刃を全て受け止めたまま一ミリ足りとも下がってはくれない 

 

「だがな、お前らのそんな意地らしい無駄な努力……。俺様はもう見飽きたんだ」

 

 と、そうベリアルが口にした瞬間、刃を受け止め続けているベリアルのバトルナイザーの両端の棍部分に急激にエネルギーが蓄積され、不気味に青く輝き出した

 

「な……! あれはマズイっ……!! 離れるぞ箒!」

 

 眼前で光が強まるバトルナイザーを前に迫り来る危機を感じとった光は、間に合わぬ事かと思いながら箒を先導して離脱するべくナイトビームブレードを引っ込めると元の半分ほどにまで減ったエネルギーを使い、瞬時加速を利用してその場から離れた

 

「無駄だっ! 二人ともここで死ねぇっ!!」

 

 背を向ける二人に向かってベリアルはそう言って嘲笑うと、二人の刃が離れた事で解放された青く輝くバトルナイザーを突き出す、その瞬間、バトルナイザーの両棍部分から稲妻のようなエネルギーの波を描くビームが放出されると、稲妻状のエネルギー波は逃げる二人に向かって、まさに雷光の如く非常なまでの速さで真っ直ぐに飛んでゆく

 

「なっ……ぐわあぁっ!?」

 

 狙いすまされたベリアルの一撃は、どうにか回避を試みた光と箒、その援護に回ったラウラとシャルロットたち四人を嘲笑うかのように、まず電撃状のエネルギー波が最初に光の背中に直撃するとその破壊エネルギーはまさに雷光のごとき速さで瞬時にヒカリの全身を多いつくし、瞬時に光の叫び声と共にヒカリを空中から叩き落とした

 

「光!? くっ……!」

 

 そして続いて、僅かに遅れて到達したエネルギー波は地上のアリーナに向かって真っ逆さまに落ちていく光に向かって叫ぶ箒へと襲いかかる。が、箒は第四世代と言う機体性能のおかげか当人の日々の努力の賜物か、顔をしかめながらも、その一撃にどうにかタイミングを合わせて迫るエネルギー波を前に素早く両手に持った二振りの刀を構え、間合いに入った瞬間、居合いでもするかのように稲妻状のエネルギー波を切りつける

 

「うっ……ああぁぁっっ!!」

 

 だがしかし、それでも尚弱まりこそしたもののベリアルの一撃は止まらず、先程の光のように直撃を受けた箒は苦悶の声をあげると墜落こそしなかったものの衝撃によって空中で吹き飛ばされ、体制を崩し大きく仰け反ってしまった

 

「箒! 今、助けに……うわっ……!」

 

「ぐっ……シャルロット! 気を付けろ!」

 

 一瞬にして窮地に晒された箒を援護すべく真っ先にシャルロットそしてラウラが動こうとしたが、箒が切り払ったエネルギーの余波が空中に漂うバリケードのように二人の前に立ちふさがり、行く手を阻む

 

「あぁ、そう言えばお前の紅椿には確か、絢爛武踏。とか、言うのがあったな。……だったら」

 

 そうしている間にもベリアルの手は止まらない。箒が体制を立て直そうとするよりも早く、思い返すかのようにそう呟くと、紅椿に向けて両手でバトルナイザーを構えると棍部分を向ける。その瞬間、バトルナイザーの棍部分から鞭のようにしなるビームが紅椿に向けて発射され、そのビームは蛇のように蠢くと、たちまち紅椿に絡み付き機体全体を拘束する

 

「こ、これは……! なっ……!?」

 

「そのまま飛んでいってろ……!」

 

 一瞬にしてビームにより梱包された荷物のように拘束されてしまった箒は必死にもがき、紅椿を硬く拘束するビームをどうにか千切ろうとするが、それよりも早くベリアルがバトルナイザーを明後日の方向めがけて無造作に振るうと、そのバトルナイザーの動きに引っ張られているかのように箒は必死にもがいて抵抗するが、結局はそのまま、ぐんぐんとベリアルの元から離され戦線を離脱してしまった

 

「さて……と、次はお前らにするか」

 

 それを確認した瞬間、ベリアルは返す刀で行く手を遮るエネルギーのバリケードに手間取っていたシャルロットとラウラに狙いを変え、未だに燻るバリケードをバトルナイザーの一撃で吹き飛ばすと恐ろしい程の速さで二人に襲いかかった

 

「くっ……!!」

 

 まず『近いから』と言う理由でベリアルに狙われたのはラウラだった。自身らが手間取ったエネルギーのバリケードを軽々と蹴散らして突撃したベリアルにほんの一瞬、驚愕の表情を見せたもののすかさずそれを回避すると、自ら接近して来たベリアルに向けて両肩、腰部左右、六つのワイヤーブレードを一斉に解放して迎撃を始めた

 

「フンッ!!」

 

「……っ!?」

 

 だがしかし、宙を自在に舞うワイヤーブレードも、前進を止めないベリアルに向け、更なる追撃としてラウラが両手首に展開させたプラズマ刃までもベリアルはただ一声と共にバトルナイザーを1度振るうだけで軽々と蹴散らし、それだけの攻撃で放ったワイヤーブレードのワイヤーの半数近くが強引に捻切られ、ベリアルの眼前にしてラウラは全く想定にしなかった隙を生じさせてしまう

 

「ラウラ! 下がって!!」

 

 その瞬間、シャルロットが素早くラウラを庇うようにラウラとベリアルの間に割り込むとベリアルにむけ近距離からショットガンを連続で叩き込む

 

「はん、その程度の攻撃なぞ……俺の前では無駄だと言うのがまだ分かってねぇのか!?」

 

「うっ!?」

 

「くっ……シャルロットォ!」

 

 しかし、その攻撃もベリアルには届かない。一笑すると共に放った弾丸の全てを空いたベリアルの片手ではたき落とされ、更にベリアルが追撃でシャルロットの腕目掛けて蹴りを放つと、シャルロットが手にしてショットガンは手から吹き飛ばされるのと同時に歪に変形し、破壊されてしまい、シャルロットも咄嗟にラウラの助けが入ったものの、蹴られた腕を押さえながら強制的に後退させられてしまった

 

「この俺様を前に中々粘った……それだけは認めてやろう」

 

 無防備な姿を見せるシャルロットとラウラを見てベリアルは愉快そうにそう笑いながらバトルナイザーを乱雑に握りしめる。と、その両棍部分に再び電撃状のエネルギー流が迸り出し、周囲にバチバチと電気が弾けるような音を鳴らし始めた

 

「だが、そいつもこれで終わりだ!」

 

 その直後ベリアルはバトルナイザーを両手で持ち、必殺の一撃を放たんとする剣士の如く大きく降りかぶると、身動きが取れぬ二人に向かって空気を切り裂き唸りを上げるバトルナイザーを居合い切りのように叩き付け、ラウラとシャルロットを纏めて軽々と地面に向かって撥ね飛ばし

 

「あぁん……?」

 

 その瞬間、ベリアルは再び怪訝な声を上げる。電撃状のエネルギーが充填されたバトルナイザーは確かに二人に回避の隙を与えずに命中した。それは間違いない。だがしかし、ベリアルの手に伝わってきた感触と衝撃、そしてつい先程響いた音はIS機体に直撃したものとは明らかに異なるものだったのだ

 

「ハァハァハァ……!」

 

「ま、間に合った……!?」

 

 見ればシャルロットとラウラ、二人を守るように二機のIS全体を鮮やかな赤の表地に、銀色の裏地を持つ一枚のマントが優しく包み込んでおり、更にマントの表面には堂々と銀色の盾が一枚そびえ立っていた

 

 

 バトルナイザーの一撃を受けた影響か、マントには複数の風穴が空いてマントに包まれているラウラとシャルロットの姿が僅かに見えていたし、銀色の盾に至ってはそびえ立っていはいるものの盾には表面に地割れのような大きな亀裂が中心に走り、上部分に至ってはあまりの熱エネルギーによってドロリと融解しており、結果として盾は元の八割程のサイズへとなってしまっていた

 

「こいつは……!」

 

 その二つを見た瞬間、ベリアルは思わず声をあげる。両者共に痛んではいたが見間違えようが無い。あれはベリアルが某国機業に『協力者』として力を貸してた期間、エムことマドカからベリアルの頼みにより『親切丁寧かつ笑顔で』見せて貰った某国機業の重要資料ファイルの中に書かれていた防具でもあるマント、ブラザーズマントとウルトラブレスレットが変形した盾、ウルトラディフェンダーに違いなかったのだ

 

「行くぞシャルロット!!」

 

「うん! 分かった!!」

 

 と、そうしてベリアルの動きが一瞬、制止した瞬間、凄まじい速度で落下し続けながらもラウラの合図と共にレーゲンのレールカノンとシャルロットが新たに手にしたマシンガン、その二門が一斉にベリアルがバトルナイザーを持つ左手目掛けて一斉に火を吹き、その直後、二人は重力に従って同時にコンクリート地面に叩き付けられ、二つの土煙をあげた

 

「ぐ……!」

 

 二つの砲撃は見事にベリアルに命中すると、ベリアルは苦悶の声をあげる。と、それと同時に左手から滑り落ちるようにバトルナイザーが離れると、バトルナイザーは重力に従って真っ逆さまに落下してゆく。その瞬間だった

 

「……待っていた。この瞬間を……! このタイミングを……!」

 

 丁度バトルナイザーが落下したベリアルの真下、十メートル圏内にまで距離を詰め、仰向けのような姿勢でベリアルを睨み付けながら溢れ出さんばかりのエネルギーが渦巻くゾフィーの両腕を胸の前に水平に添え、緊張からか慎吾が声を震わせそう口にしたのは

 

「ちっ……!!」

 

 それに気が付いた瞬間、ベリアルは舌打ちと共に機体を空中で翻しゾフィーに背を向けると、ベリアルの持つ加速力を持ってして全速力で予想する攻撃範囲から飛び退いた

 

「逃がすものか! エムッッ……!!」

 

 無論、慎吾にはそのままベリアルを逃すつもりなど微塵もない。声と共に右腕を胸の前へと付き出すと、ただこの瞬間を狙い打つが為に蓄積していたエネルギーを解放する

 

「(外せない! 光や箒の……そして、シャルロットとラウラの為にも、この一撃だけは絶対に!)」

 

 瞬きする事すら止め、烈迫の形相でゾフィーのハイパセンサーでベリアルを睨み付けながら慎吾は心中でそう強く決意していた

 

 シャルロットとラウラを囮とするような形でゾフィーのエネルギーチャージを続け、慎吾がM87による一撃決殺により勝負を付ける。行く手を阻むバリケードに苦戦させられるラウラとシャルロットからプライベートチャネルによりそんな戦法を提案された瞬間、慎吾はまず自身の耳を疑い、それが間違いなく二人の口から発せられた物であると理解すると、慎吾は余りにも危険すぎる二人の賭けに止めるよう強く宣告した。だがしかし、慎吾は聞いてしまったのだ

 

『大丈夫、僕達がお兄ちゃんを信じるように、お兄ちゃんは僕達を信じて』

 

 襲いかかる電撃に顔を歪めながらも前へと進むことを止めず、そう優しくもはっきりと誓うシャルロットの言葉を

 

『ここは私達にまかせろ! 頼んだぞ、おにーちゃん!』

 

 そして、シャルロットと同じく箒達を救い出すためベリアルに決して背を向けず進み続けるラウラが放った決して迷いの無い力強い宣告を

 

 だからこそ、慎吾は自身もまた最愛の妹達を信じている以上、引き留める事は出来なかった。

 

 故に外すなどあり得ない、この一撃に自身が持つ全てを賭ける

 

「87光線っっ!!」

 

 次の瞬間、肺の中に溜まっていた全ての空気を吐き出すような慎吾の叫びと共に、退避途中のベリアルに向かって可能なレベルにまでエネルギーを充填させた結果、青白く輝き、文字通り極太の光の柱と化したビームが襲いかかった

 

「ぐっ……うっおおおおおっっ!!」

 

 それを見た瞬間、ベリアルは早々に回避を諦めたのかバトルナイザーが無くなった事で空いた両手でエネルギーシールドを展開させるのと同時にうずくまるように体を丸め、機体をすっぽりと自身が展開させたエネルギーシールドの中に覆い隠し、迫り来る莫大な質量を持つM87光線を防ごうと試みた

 

「ハアアアアァァァ……!!」

 

 だがしかし慎吾は理解している、『その程度』のシールドではどれだけ踏ん張ろうとも、決してここまで充填させたM87光線は防ぐ事は出来ないと言う事を、そしてシールドを砕ければ確実にベリアルを打ち倒せると言う事を、だからこそ慎吾はダメ押しの如く更にゾフィーの腕から放出されるM87の出力を強め

 

 

 その結果、心中で『決着が付く前に勝利を確信する』と、言うこの土壇場に置いてとは余りにも致命的な失策を犯した

 

 

「ぐっ……おおおっ……!! ハッ……ハハハッ……なるほど、こいつがM87……大した威力じゃねぇか……!! バードの奴が何時までもビビってる訳だ……」

 

 M87光線のエネルギーの嵐に晒され、機体を風に舞う木の葉の如く大きく揺さぶられ、唯一の防御策であるシールドが一瞬で亀裂で覆い尽くされ、今にも砕けちりそうなのを見ながら、それでも尚ベリアルの声色からは余裕の色は消えない

 

「(何だ……!? 一体、何を考えている!?)」

 

 そんなベリアルに対し、決してM87光線の放出は緩めはしないものの、慎吾はじわじわと不穏な気配を感じ取り、自然と胸の鼓動が早くなるのを感じていた

 

 確かに何が起きたのは分からないが、自分が知っていた『アリア』と今の『ベリアル』では、とても同一人物とは思えない程、見た目や言葉づかいから見える性格等、あらゆる所が異なっている

 

 だがしかし、それを前提としても攻守共に異様レベルで優れた武装であったバトルナイザーをほんの一時的とは言え使用不能にされ、唯一の防御策であるエネルギーシールドさえ崩壊寸前だと言うのにも関わらず全く余裕を失わない。それは戦士としてのベリアルの強さをよく知る慎吾から見て、狂気に犯されていたとしても、あまりにも異常過ぎる行為にしか見えなかったのだ

 

「ぐぐっ……! うおっ……! ところでなぁ……慎吾。さっきのバトルナイザー……俺が落としたと思っていたか?」

 

 その時だった、拭い切れない違和感と動揺を感じ始めた慎吾の心を嘲笑うように、そして見透かしているように、絶え間なく放たれ続けるM87光線の衝撃により時折、苦悶の声をあげながらもベリアルが唐突にそんな事を呟き始める

 

「そうだろうなぁ……! 『普通だったら』誰だってそう思う! ぐがっ……だが冥土の土産だと思って教えてやろう……!」

 

 そう話している間にも、ベリアルの全身を包んでいたエネルギーシールドは崩壊は進み、次の瞬間、ついに割れたシールドの小さな隙間から入り込んだM87の一部がベリアルの装甲に命中し、ベリアルは思わず言葉の途中に悲鳴をあげる。だがそれでも、なおベリアルは余裕の態度を崩さない

 

「何を……! 一体、何を言いたいんですか!!」

 

 そんなベリアルの態度に遂に精神に巣くう不安と動悸を堪えきれなくなった慎吾は怒声と悲鳴が入り交じったような震える声で叫ぶ。それは圧倒的有利の立場である慎吾が心の隙間を付かれて見せてしまった決定的な隙だった

 

「分からないのか? 俺様はあのバトルナイザーは投擲したんだ。ここで、こうなる状況まで予想してな」

 

 と、最早、慎吾の攻撃など最早無いものであるかのように、そうベリアルが宣告した瞬間だった

 

 ガスッッ!!

 

「うぐっ!? うっ……! あぁ……」

 

 突如、そんな鈍い音と共にゾフィーの側面部から強烈な衝撃と爆炎が慎吾に襲いかかり、M87の放出と目の前で破壊の光に飲み込まれる寸前で堪えるベリアルに集中していた慎吾はそれを回避どころか反応すらする事が出来ず、M87を放つ体勢のまま空中で大きく吹き飛ばされ決着を付ける一撃となるM87はベリアルと言う目標を離れ、滅茶苦茶な方向へと飛んでいってしまった

 

「そん……なっ……!! ま、まさか……っ!?」

 

 そんな激痛で歪む景色と、天地すら分からなくなる程の浮遊感の中、それでも慎吾の目は確かに自身を攻撃した物の正体を捕らえていた

 

 それは、あたかも『最初から慎吾がこの位置でM87を放つ』事を想定してたかのように、ついさっきまでゾフィーが浮遊していた場所に片側の棍部分の先端を向け、アリーナの外壁に突き刺さっているバトルナイザーだった。はっきりとは慎吾には見る事が出来なかったが棍部分からは白煙が上がっており、そこから慎吾に向けてつい先程、戦闘中に幾度も見せた光弾が放たれたのは明らかであった

 

「いや全く、大した成長だったぞ慎吾? まさかこの俺がお前を相手にするのにほんの一瞬でも焦りを感じるとはな……その強さは学園で誇ったっていいだろうぜ」

 

 と、そうして悶絶する慎吾に向かい何処からかすっかり調子を取り戻し、それどころか機嫌さえ良くなっているかのような様子のベリアルの声が投げ掛けられる。だがしかし、慎吾はその言葉に何一つ返答する事は出来なかった

 

「まぁ……それでも俺様には届かなかったんだがな!!」

 

「がっ……あっ……! げはっ……!」

 

 何故ならばその瞬間、M87のエネルギーの嵐から解放された瞬間、急加速したベリアルの右足がゾフィーが第二形態移行した際に大幅に強化された筈の装甲を軽々と砕き、その腹部に正真正銘、決定打となる一撃を打ち込み、そのあまりの破壊力に慎吾は叫び声すら出せず、仮面の下で肺の中に溜まっていた全ての息と、込み上げてくる血を吐き出す事しか出来なかったからだ

 

「うおらあぁぁっっ!!」

 

 しかもベリアルの攻撃はそれだけでは終わらない。加速の勢いをつけたまま、そのままの体制でベリアルは地面へと向かって落下するよりも早く加速して行くと、やがて蹴りを喰らったまま動けない慎吾をクッション代わりにするような姿勢で大地へと降り立ち、アスファルトの大地に巨大なクレーターを作った

 

 

「さぁて……いい加減出てこいよブリュンヒルデ。じゃないとお前のこの学園、俺が滅ぼしちまうぜ?」

 

 衝撃で立ち込める鬱陶しい土煙を片手で振り払うとベリアルはそう言って含み笑いを浮かべる

 

「ぐ……う……ぁ……」

 

 その足元では機体ダメージと急速なシールドエネルギーの枯渇で、今にも消えてしまいそうな程に弱々しくゾフィーのカラータイマーを点滅させていた慎吾が掠れる声でもがいていたが、ベリアルはそれに僅も視線を向ける事は無く、やがて慎吾が意識を失うと共にゾフィーの展開も解除されてしまい、後にはベリアルの足元で口元から血を流して気絶している慎吾の姿しか残らなかった



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156話 孤軍奮闘

 ようやっと書き上げる事が出来ました……。中々、執筆の調子が上がらなくてすみません。ですが、必ず本作は完結させるつもりですので、終章の前半部分にまで入った本作ですがどうか最後までよろしくお願いいたします


「うっ……はぁはぁ……俺は……? あぁ、そうか……奴の一撃を受けて気絶していたのか……」

 

 重く、暗い泥のような眠りから意識を呼び覚ますと、光は損傷こそ大きいものの、まだ幾分かエネルギーが残されていたヒカリの両腕で、機体に覆い被さっていた、生身では到底動かせないような、いくつもの大きなコンクリートの欠片をどけ、自由を取り戻すと、よろよろとした動きながらも立ち上がり始める

 

「まだだ……うっ……まだ、こうして稼働させる事が出来る以上、まだエネルギーに余裕はあるはずだ……」

 

 光が立ち上がった瞬間、疲労かあるいは知らないうちに頭部に何らかのダメージを受けていたのか、目眩が襲いかかったが光はそれを自身のすぐ近くにある崩れかけた壁によりかかり、堪えるとヒカリに残されたエネルギーをチェックする。先程、バトルナイザーから放たれた電撃のせいでアーブギアは破損して砕け散り、ハイパーセンサーの機能も落ちてはいたが、そのお陰かヒカリ本体そのものは比較的守られており、ざっとではあるが3割程度のエネルギーが残されていた

 

「よし、これならまだ戦える! 」

 

 それを確認すると光は早速、まだ仲間達と合流しようと改めて周りを見渡し、自身が何処にいるのかを確認し始める。どうやら光が落下して破壊してしまい、今の今まで気絶していたのはアリーナ近くの小さな建物だったらしく、目を向ければ近くにはよく目立つ巨大なアリーナの壁がそびえ立っているのを直ぐに光は見つけ、それと同時に学校内での連絡用に使う電光掲示板を見つけ、そこに表示されていた時計で光は自身が数分程気絶していた事を知った

 

「ならば、すぐ近くに皆も戦っているはずだが、それにしてはこの静けさは……いや、そんなまさか……!」

 

 はやる気持ちを心の奥へと抑えつつ、光は周囲を警戒しながら一刻も早く仲間達と合流すべくと動き出す

 だがしかし、自身が気絶していたとは言え、数分前まで間違いなく激戦が行われていた筈にしてはあまりにも奇妙な静けさに、どうにも嫌な光は予感がしてならず、とても、体力を回復させるまで、その場に留まっている事が出来なかったのだ

 

「(まさか……! そんな筈は……!!)」

 

 そう、そんな風に心の中で必死に押さえようとしても、どうにも光は気持ちを押さえる事は出来ず、自然と足は徒歩から早足へと変わっていた

 

「慎……吾……」

 

 だからこそ、必然的に光はすぐに発見してしまった

 

 クレーターの中心で倒れたまま、目を閉じて口元から血を流し、ピクリとも動かない慎吾を

 

 そして、隠す気など端から無いのか、倒れた慎吾の腹の上に脚を乗せているベリアルを

 

「慎吾っ!!」

 

 それを理解した瞬間、光は迷わずベリアルに向かって走り出した。と、は言っても確かに激情の感情こそあったが、光は何も無策で突っ込んだ訳ではない。先程の戦いで『使い損ねた』取って置きがもう一つ、光に残されていたのだ

 

「うっ……おおおおぉぉっっ!!」

 

 攻撃範囲内にベリアルを捕らえると光は圧倒的な不利に立ち向かう自分を鼓舞させるかのように雄叫びをあげる。と、その瞬間ヒカリの腕部分が光が輝き途端、ヒカリの右腕に元から装着されているナイトブレスとは対称的な燃えるような赤に輝くブレス『メビウスブレス』が装着された

 

「(マックス! ゼノン……! 君達の善意を裏切るような真似をしてすまない! 弁解なら後でいくらでもしよう!)」

 

 光は心の中で自身がこの武装を秘密裏に得るため、騙してしまった友人達に謝罪しつつ、左腕に取り付けられたメビウスブレスを右腕のナイトブレスと合体される

 

「だから今は……! 再び、この力を存分に振るわせてくれ!」

 

 光がそう叫んだ瞬間、ヒカリのボディ全体は光に包まれ、その姿がタイラントとの戦闘でも見せた、ヒカリの装甲が一部変化し、金色のラインが入った限定的な形態『ヒカリブレイブ』へと変化した

 

「ハアッっ!!」

 

 掛け声と共にヒカリが二つのブレスが合体した事で、ナイトメビウスブレスと化したブレスを天空に翳すと、その瞬間、ブレスからは光輝く長剣『メビュームナイトブレード』が出現し、そのまま光は声を上げている故にとっくに此方の存在に気付いている筈なのに此方を見ようともしないベリアルに向かって居合い抜きのような形で一閃を繰り出す

 

「はっ…… 馬鹿かお前?」

 

 が、しかしベリアルは背後すら振り返らずその一閃を上空に飛翔する事で容易く回避すると、そのままアリーナの外壁に突き刺さった自身の獲物であるバトルナイザーを抜き取る

 

「俺様の足元にこいつがいる以上、お前は俺が避けた瞬間、刃が当たるような可能性がある方向からはまず俺に斬りかかれない……。 そして、それは……!」

 

 倒れたまま身動きすら取れない慎吾への興味はとっくに無くしているのかベリアルは一瞥すらせず、そう言うとバトルナイザーを両手で持ち、槍のように構える

 

「この一撃もお前は回避する訳にはいかねぇって事だ!!」

 

 その瞬間、ベリアルは流星のような勢いで上空から一気に加速し、流星のような勢いで光に向かって力任せの鋭い突きを放つ

 

「ぐっ……!」

 

 その突き自体は光には決して見切れないものでは無い。だがしかし、ベリアルの言う通り避ければ倒れている生身の慎吾に命中してしまう。それ故に光は危険だと理解していてもガードを固めてメビュームナイトブレードで受けるしか無く、刃にベリアルのバトルナイザーが命中した瞬間、光は苦悶の声を漏らすと、尚、有り余る衝撃でズルズルと徐々に後方へと引き摺られていく

 

「うおらぁっ!」

 

 そんな光に向かってベリアルは一瞬でバトルナイザーを引っ込めるのと同時に体を素早く反転させ、まだ動けぬ光の空いた左脇腹を目掛けて右脚で強烈な回し蹴りを叩き込んだ

 

「ぐわっ! ぐぅっ……があぁ……」

 

 ベリアルの蹴りがヒカリの装甲に炸裂した瞬間、ヒカリはたまらず蹴りの勢いのまま吹き飛ばされると、アリーナの外壁へと激突すると外壁にクレーターを作る程の衝撃に悶え、苦しみの声をあげる

 

「くらえっ!」

 

 更にベリアルの攻撃は終わらない、素早く着地するとバトルナイザーを振りかざし、バトルナイザーから先ほど見せた電撃を放出し、光を狙う

 

「……っ!」

 

 放たれた電撃に痛みで揺らぐ視界の中、光は無理矢理意識を覚醒させると、体を傾けると渾身の力を込めて右脚で地を蹴り飛ばすと直撃寸前、転がるような動きでバトルナイザーから放たれた電撃を回避した。と、その瞬間、光の真後ろのアリーナ外壁に電撃が命中し、爆炎と一瞬のうちに共に既に出来ていたクレーター部分から外壁を更に広く深く広げ、まるでトンネルのような大穴を作り上げた

 

「ハハッ! さっきの勢いはどうしたぁ!? 早く避けねぇとまだ追撃が来るぜ!!」

 

 そんな光を嘲笑うようにベリアルはバトルナイザーを構えると起き上がる寸前の光を狙って突撃し、次々と攻撃を放つ

 

「くっ……!!」 

 

 その攻撃をどうにか、タイミング良く光の刃をぶつける事で、どうにか直撃の軌道を防ぎ続ける。が、一歩、また一歩と、ベリアルのバトルナイザーが振り下ろされる度に光は移動できないまま、出来た穴の奥へと押し込まれて行き、つい十秒程前に先制して光が奇襲をかけたのにも関わらず状況は既に光が防戦一方の形へと変化してしまっていた

 

「(まだだ……っ! まだ、もう少し……!!)」 

 

 だがしかし、その状況の中でも光は諦める事は無い。死ぬものぐらいの気迫でベリアルのバトルナイザーの速さに追い付き、隙あらば一撃を浴びせそうと食らい付きさえしていたのだ

 

「そんな……生ぬるい攻撃が効くかぁ!!」

 

 がしかし、ベリアルはそれを羽虫でも払うように軽々と捻り潰し、反撃として光が僅かに見せたベリアルの隙を狙って放った光の刃を正面から叩き折る

 

「……なっ!? ぐうっ……!?」

 

 通常時のヒカリが使うナイトビームブレードよりも遥かに強度が増している筈のメビュームナイトブレイドが叩き折られ、光が思わず驚愕の声をあげた瞬間、ベリアルの蹴りがヒカリの鳩尾部分に叩きこまれ、光は再びトンネルの奥へと叩き込まれる。と、その瞬間、ベリアルが攻撃する度に深くなっていたトンネルはついに外壁を突き抜け、ヒカリはシールドが張られていなかったアリーナ内に乱雑に投げ出され、勢いのまま土煙を上げて倒れた

 

「(ま、まさか本来の第二形態とは異なる姿とは言え……強化形態のヒカリブレイブでもここまで歯が立たないとは……)」

 

 アリーナの大地に倒れた光は、もがきながらも両手両足に力を入れて必死に立ち上がろうと両手で立ち上がろうと試みるが、限界までたまった疲労とダメージは光の想像を越えて容赦なく体を蝕んでおり、同時にブレイブと変わったヒカリも見るからにボロボロで僅かに残っていたシールドエネルギーは枯渇寸前。その結果として崩れるようにように再び地面に倒れる事しか出来なかった

 

「はっ……最後のあがきも、これで無駄……つまんねぇ……!」

 

 そんな光を鼻で笑うとベリアルは悠然と一歩、また一歩と余裕たっぷりに歩いて倒れたままのヒカリに近寄る。最早、万策尽きたように見える光には興味が既に無いらしく、それはただ楽しみも何も無く、とどめを刺すと言う『作業』をせんとする一つの動きであった。そう

、だからこそ

 

「やっと……捕まえたぞ……っ!」

 

 倒れているヒカリの元まで後、数歩と言う時になって突如、弾かれたように飛び上がり、光が組み付いてきた時にもベリアルはまるで動揺しなかった

 

「……無駄だってんのがわかんねーのか? お前に残されたエネルギーじゃあもぅ……」

 

 と、そこまで言いかけた所で、ベリアルはヒカリの姿がヒカリブレイブから通常形態に変わり、再び左腕にナイトブレスが装着されている事に気が付く

 

 

「『ウルトラダイナマイト。typeプロト』発動ッッ!!」

 

 その瞬間、覚悟を決めた少女の叫び声と、火山火口の如き深紅の爆炎がアリーナに顕現した



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157  ウルトラダイナマイト 発動

 ちょっとモチベーションが保てない事がありまして遅れてしまいました。

 そしてー今まで告げてはいませんでしたが実の所、本作は現在、最終章の『前編』くらいの所にまで入っており、このベリアル編を持ちまして一応は本作を完結と言う予定で行かせていただきます。必ず、完結をさせますので、至らない所も多くありますでしょうが、どうかもう暫く本作にお付き合いいただけると嬉しいです


「ぐっ……うっ……」

 

「慎吾!? 大丈夫か慎吾ッッ!!」

 

 炎を纏っていたゾフィーが突如して上がった慎吾の苦悶の声と共に実験場の倒れた瞬間、光はすかさず実験中止の合図を出すや否や、椅子を蹴り飛ばして実験場に向かって走り出すと、ゾフィーの展開が解除されて生身になった慎吾の元へと走り出した

 

「だ、大丈夫だ光……少々火傷はしたようだが、私の体に問題はない……平気だ」

 

 幸いな事に当の慎吾はと言うと実験場に備え付けられた消化装置が上手く作動してくれたらしく、少しだけふらつきながらも自力で立ち上がり、駆け寄ってくる光とM-78社の研究員達に無事を伝えるようにゆっくりと手を振って見せる。が、目に見える破壊後として、最後の砦として熱から慎吾の体を守りきったのか慎吾が纏っていた実験用のISスーツはボロボロに焼け焦げて穴が開き、結果として慎吾は殆ど全裸に近い悲惨な姿ではあったが

 

「……お前がそう言っても、『はい、そうですか』は行かない。お前自身が気付いて無いだけで体内に損傷があるかも知れない。そもそも火傷はしているのだろう? だったら、今は何も言わず大人しく検査と治療を受けろ」

 

 駆け寄った事で親友の一先ずの無事に光は僅かに安堵の表情を浮かべる。が、直ぐ様その表情を険しい物へと変えると、躊躇わず慎吾の元に近より肩を貸しながら駆け付けた医療チームが用意していた担架に慎吾を寝かせる

 

「はは……それはそうだ……だがな光……」

 

 そんな光に慎吾は特に否定する事も無く従い、抵抗くる事も無く担架に乗せられて運ばれていく。が、その直前でふと寝たまま首を動かし、光へと視線を向ける

 

「……あぁ、分かっている。実験の為に出力を大幅に落としてコレだ。危険すぎて今の俺達の手にはとても追えないよ」

 

 光はその言葉に、振り返る事も無く実験場の一角、先程までゾフィーが倒れていた箇所を見つめながらそう呟く

 

 幾重にも重なった頑丈な装甲で設計され、仮にゾフィーやヒカリが機体に秘めた火力を存分に発揮しても『ある程度は』持ちこたえられる筈の実験場の床と壁は、僅か十秒程の実験で水飴の如くドロドロに融解し、熱気を放っていたのだ

 

 それを見ながら光は自身が愛用している端末を操作して、Uシリーズに装備する筈だった新武装『ウルトラダイナマイト』のプログラムに二重三重にもなる厳重なロックをかけて端末の奥底へと封じ込め、慎吾自身は本人の申告通りの軽症でゾフィーの損傷も軽度のものではあったが、ケンも交えた会議の結果その危険性故に『ウルトラダイナマイト』のプログラムは何か革新的な物が見つからぬ限り封印される事が決定された

 

 それがM-78社が偶然、謎の不明機を発見する数ヶ月前の出来事だった

 

 

「うっ……ああっ!! あぐうっ……!!」

 

 そして現在、覚悟を決めて自らが封印をした『ウルトラダイナマイト』のプログラムを発動させ、実行に光は苦痛に呻いていた

 

 熱い熱いアツいあつい熱いアツい熱イアツい熱いっ……!!

 

 やかましいくらいの危険を知らせるエラーコードが鳴り響き、体が骨ごと燃え尽きてしまいそうな程の高熱に包まれ、熱と痛みで視界がすらまともに見えない中、それでも光は両腕の力を振り絞り、しっかりとベリアルを拘束して離そうとはしなかった

 

「(この『ウルトラダイナマイトtypeプロト』を実行した場合……成功率は30%ほど。発動後の俺の生存確率は約50%……! 無茶に無茶を重ねているのにこれほど『数値が高くなっている』なら試す価値は十分にある!)」

 

 光の頭に思い返すのは事前に対不明機を考え、最後の手段として『ウルトラダイナマイト』のシミュレートして割り出したデータ。常識で考えれば成功しようとも半分の確率で命を落とすと言う凄まじく危険な値ではあったが、光は目の前のベリアルを戦いの中で『それくらいしないと倒せない』相手だと確信していた

 

 故に、光は地獄の業火と意識を手放してしまいそうな程の苦痛に耐え、ベリアルを拘束し続ける

 

「雑魚が……! うっとうしいぞ!!」

 

 が、当然ベリアルが大人しく拘束されている筈もない。その体がヒカリから燃え移った火で燃えだしながらも、躊躇い無くヒカリを蹴り飛ばし拘束を振りほどかんと暴れ始める

 

「がはっ……!」

 

 ベリアルの蹴りが直撃し、只でさえ瀕死の体に鞭を打って無理矢理動かしていた光の体は痙攣と共に大きく震え、意識が揺さぶられる事で光は危うくベリアルの拘束を危うく僅かでも緩めそうになってしまう

 

「(まずい……ウルトラダイナマイトが真の発動に至るには後『5秒』は必要だ! し、しかし、今の俺では……!)」

 

 ガード無しの状態でウルトラダイナマイトが前段階として発する超高熱を正面から受けながらも怯まず、暴れ続けるベリアルに、見る間のうちに最後の力を込めて奮闘するヒカリの努力も空しく、確実に拘束は緩み始め、ベリアルはがっしりと掴んだ筈のヒカリの両腕から逃れようとしていたのだ

 

「(ぐっ……発動まで残り2秒……! 最早手はないのか……!?)」

 

 僅か5秒、日常ならば意識する事すら無く過ぎていくような短い時間ではあったが、今の光にとってはその5秒はあまりにも絶望的に長すぎる時間だった

 

「オラァッ……!!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

 

 そして、ベリアルの蹴りがアッパーカットのような形で容赦なくヒカリの顔面を捕らえ、衝撃で脳が揺さぶられて光の視界が盛大に揺らぐその最中

 

 彼女はベリアルの背中部、先程の慎吾達との共闘ではまるで気が付かなかったが、機体パーツどうしを繋ぐ僅かな隙間の間に確かに『澄んだ輝きを放つ物体』を見た。つまり、それはそれほど小さく巧妙に仕込まれたものでありー

 

「あ……?」

 

 その瞬間、背中に殺気を感じ、ベリアルはあと一歩で光の拘束を解けるというのにも関わらず、鍛え上げた戦士の性ゆえか、思わず攻撃を中断し、殺気がした方角、ピットへと視線を向ける

 

「はぁ……はぁ……」

 

 歩くのもやっとであるかのような荒い呼吸と青ざめたのを通り越してもはや白くなり始めてる顔。アリーナの壁を支えにやっと立っていると言うボロボロ。そんな姿を晒しながらも確かにそこにいたのは、慎吾達より一早く遭遇し、敗北して倒れた筈の楯無の姿だった

 

「オイオイ……はっ、倒れてりゃ良いものをわざわざ、やられにでも来たか? 流石に分かるだろう? 今のお前じゃ……俺様にまともに攻撃する事も出来ないってなぁ!」

 

 そんな楯無を見た瞬間、ベリアルは背を丸めて嘲笑すると、もはや警戒する必要も無いとばかりに再び光に意識を向けると、笑ったまま光の拘束から抜け出して見せ、そのまま光は炎に包まれたまま力なく大地に倒れてしまう

 

「……カチン…っ」

 

 と、その瞬間、楯無は『うまくいった』と言わんばかりにベリアルに向かってスイッチを押すような構えを取ると微笑み、そのまま指を押した

 

「んなっ……!?」 

 

 その瞬間、ベリアルの背中で突如、爆発が巻き起こり、予想打にしなかった一撃にベリアルは勢いのまま大きく前方へと体勢を崩す

 

 それこそが楯無が最後の抵抗として敗れる寸前にごく僅かながら損害を受けていたベリアルの背中に仕込んだ『アクア・クリスタル』によるものだった。だがしかし、あまりに急ぞなえの物だった故か、その威力はとてもベリアルを倒すには至らない。

 

だが

 

「うっ……おおおおおおおっっ!!」

 

 それは炎に包まれながらも光が残る最後の力を振り絞りベリアルに再び掴みかかる為には十分すぎるアシストだった

 

「ちっ……!!」

 

 そして、ベリアルが己の不覚に舌うちしながら反応しようとしたまさにその時、先ほどまで光が待ちに待った『五秒』が訪れ……

 

 

 瞬間、ヒカリの全身から放たれた爆炎と衝撃波が瞬きするよりも速く広大なアリーナの中に広がり、それはさながら小型の核弾頭のように全てを紅蓮に覆い尽くしていった

 

 

 

 

「う……」

 

 アリーナ内に立ち込めていた爆炎が収まり、辺りに黒煙が燻り、空気が歪む程の熱気が立ち込める中、光は静かに意識を取り戻す。ウルトラダイナマイトのあまりの破壊力は発動した瞬間、光の意識すら奪い取っていたのだ。

 

 全身が動きすらままならない程に激しく痛み、視界が激しくぐらつき、目眩も酷い、自分が何処にいるのかさえ分からない。そんな、最悪のコンディションの中で光が無意識に自身の顔を触ると鼻、口、目、更には耳からまで顔中の穴からどくどくと血が流れ続けているのに気がついた

 

「う……あ……う……」

 

 全身を襲う絶え間ない激痛に加え、出血によるショックの為か意識が徐々に薄れ、瞼を開いている事さえ辛く感じる中、力を振り絞って上半身を起こし、奇跡的に作動したヒカリのハイパーセンサーが無事な様子の楯無の反応を捕らえ、内心でほっと胸を撫で下ろす

 

 咄嗟の行動ではあったが光はどうにかウルトラダイナマイトのエネルギーを自身の前方に超巨大な半円を描くようにして全て前方に飛ばし、自身の背後にいた楯無を守る事に成功していた。そのため、ウルトラダイナマイトを放ち終えた今現在のアリーナは片側だけがほぼ無傷で、反対側が衝撃と熱でボロボロ。と、綺麗に半分だけが半壊していると言う言葉遊びのような奇妙な姿へとなっていた

 

「うぐっ……!!」

 

 とは言え、たたでさえ疲労とダメージが蓄積された体に無理を重ねた光の体へのダメージは大きい。楯無の無事を確認した途端、光は支える糸が切れてしまったかのように崩れ、仰向けの形で地面に力なく倒れると、そのまま目をつむり、意識を手放してゆき

 

 

 

「なるほど……確かに危なかったなぁ、今のは。喜べ、『大したものだ』と、くらいは言ってやろう。だが! 一手を誤ったな!!」

 

 

 直後、そんなベリアルの声が聞こえた瞬間、頭から冷水をぶっかけられたように強制的に光の意識は覚醒させられた

 



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158話 最凶vs最恐

 誠に遅れて申し訳ありません!! モチベーションが大幅に崩れるような事や環境に大きな変化があって中々、執筆するとこが出来ませんでした! 決してエタらずに完結まで持っていこうと思いますのでどうか本作をこれからもよろしくお願いいたします!


「そんな……そんなバカなっ……!!」

 

 熱と黒煙が立ち込める廃墟同然のアリーナの中、まるで力が入らない体でそれでも光は目を見開き、かすれそうな声で叫ぶ

 

 先ほどのベリアルの声は自分の恐怖心から生まれた幻聴ではあると信じたかった

 

 だがしかし、いくら瞬きしようともベリアルは表面装甲に多少、焼けただれた後があるものの、それでも確かにボロボロになったアリーナの大地に立っており、それがダメージで身動きすらままならぬ光にどうしようも無い絶望を植え付けさせていた

 

「俺にバトルナイザーを持たせまま切り札を使う。その時点でお前はミスしてたんだよ……こんな風に出来地舞うからなぁ!」

 

 一方のベリアルは光を無造作に見下ろすと、手にしたバトルナイザーを棒術の型を見せるように器用に腕を動かし、自身の周囲で勢いよくバトルナイザーを回転させてみせる

 

 と、その瞬間、ベリアルの周囲に立ち込めていた熱気と黒煙はたちまちのうちに吹き飛ばされてゆき、数秒程でウルトラダイナマイトの余波でサウナのような熱気が立ち込めるアリーナ内でベリアルの周囲の気温だけがアリーナ外の外気温と大差ないレベルにまで下がっていった

 

 

 それを見た瞬間、光はベリアルがいかにしてウルトラダイナマイトから逃れたのかを察する

 

「(俺が気絶した隙を突いたのか……!!)」

 

 そう、光はウルトラダイナマイトを発動させた瞬間、あまりの破壊力で意識を失い、それと同時にガッチリとベリアルを締め上げていたヒカリの両腕での拘束は僅かながら緩んでいたのだ

 

 ベリアルはそのほんの僅かな時間を使い、爆風が自身に命中するよりも早くヒカリの腕から逃れ、瞬時加速も用いて飛び退き、距離を稼ぐとバトルナイザーを素早く回転させ、迫り来る爆風と衝撃波を霧散し、被害を最小レベルにまで留める

 

 もはやいくら高性能なISを纏っていたとしても人間に可能な領域を超越している技ではあったが、それしか可能性は無かった

 

「(何故だ……何故、ここまでの連戦、それも相手は教師陣や代表候補生達も加わってパワーが枯渇しない……!? 何故、常に全力で戦闘する事ができる!?)」

 

 呼吸も困難なばかりの苦しみと薄れゆく意識の中、もはや戦闘出来ぬ相手に用は無いとばかりに嘲笑うベリアルの視線を受けながらヒカリの頭の中にあったのは、ベリアルへの恐怖でも怒りでも無く、先程から見せ付けられ続けるベリアルの異常なまでのスペックへの疑問だった

 

「うっ……ぐ……」

 

 M-78社やケンを半ば裏切るような形で持ち出した切り札さえもが通用しなかった上に反動でこのダメージ。もはや自分は戦う事など出来ない。だがしかし、光は諦めずに最後の力を振り絞り、油断しきっているのか無警戒のベリアルに壊れかけたヒカリのハイパーセンサーを向け

 

「あっ……」

 

  その瞬間、全く光が意図しない形で奇跡は起きた

 

 どうみても苦し紛れの最後のあがきにしか見えない光のこの行動、しかしセンサーがベリアルの持つ『バトルライザー』を捕らえた瞬間、そこに隠された秘密を知った

 

「(まさか……これは……!?)」

 

 それがウルトラダイナマイトの破壊エネルギーで僅かに損傷した故に感知出来たのか、それとも単なる偶然なのかは光には分からない。だがしかし、それは間違いなく無敵のような強さを見せつけるベリアルを撃破する為の重要な鍵になるに違いなかった

 

「(伝え……なくては……!)」

 

 ヒカリはその想いだけで最後の力を振り絞ると、右腕を動かし、その瞬間、今度こそ意識を失った

 

 

「はっ……ハッハッハッハッハッハッ!」

 

 意識を失い、力無く倒れているヒカリを見下ろしながらベリアルは突如『堪えきれない』と言った様子で大笑いを始める

 

「いやいや……この学園に来てずっと雑魚ばかりを相手していてな、いい加減飽きてきたんだよ……」

 

 ベリアルが真っ直ぐ見据えるのは半壊したアリーナのはるか上空。そこから一機のISが悠然と真っ直ぐに自分に向かって下りてくるのが見えていたのだ

 

「とうとう出たな! ブリュンヒルデ!!」

 

「参る」

 

 そこにいたのは打鉄を纏った千冬だった。千冬はベリアルにただ冷たく一瞥と共に一言だけ呟くと更に加速し、一直線にベリアルへと向かっていく

 

「ふっ……ははははははっっ!!」

 

 そんな千冬とは対照的に、ベリアルはようやく現れたターゲットをぶちのめすべく、バトルナイザーを構えながら大地を蹴って飛び立つと一気に加速する

 

 瞬間、アリーナ上空で打鉄の白とベリアルの黒、その二色が互いに獲物を構え、激しく交差した

 

「がっ…………!」

 

 近接ブレードとバトルナイザーが交差すると、ベリアルは苦痛の声と共に体制を崩す。見ればその胸部装甲にはたった今、千冬に斬られたらしい、刃での傷跡が残されていた

 

 無論、そんな隙を千冬が逃す理由も無く、ベリアルが反応する事すら許さないとでも言うように、振り向き様千冬が近接ブレードによる二撃目をベリアルに向かって放つ

 

「ははっ……!! そうだ、それだ! それでこそ倒す価値がある!!」

 

 が、しかし、ベリアルは心底楽しそうに笑いながら、その一打を片手に持ったバトルナイザーで軽々と受け止めると、すかさず体を捻らせて千冬の腹部に向けて右脚で前蹴りを放つ

 

「遅い」

 

 しかし、この一撃を当然のように千冬はベリアルが蹴りを放つ前から既に読んでいたかのような動きで、ベリアルの蹴りを避けるのと同時に、蹴りを放った事で僅かにバランスが緩んだベリアルをの懐に入り込むと、瞬時に柔道にも似た動きで空中へと投げ飛ばした

 

「はっ……これも読むかよ! おっと!」

 

 攻撃を塞がれ投げ出されたのにも関わらずベリアルの余裕は崩れない。むしろ心地よさそうに笑うとすかさず空中で瞬時に体制を整え、投げるのと同時に放たれた千冬が二連続で放った近接ブレードの刃での追撃を異様な体勢から新体操のような動きで軽やかに避けてみせる

 

「今度はこいつはどうだ!」

 

 と、避けながらもバトルナイザーにエネルギーを貯めていたベリアルは、千冬が刃を戻すほんの短い感覚をついてバトルナイザーを向け凄まじい破壊力を持つ青白く輝く電撃を発射する

 

「……その程度で初代ブリュンヒルデに挑んだのか?」

 

 その攻撃を前に千冬は挑発するかのように薄く笑うと、迫り来る電撃をまるで紙切れか何かの如く余裕を持って近接ブレードを振るい、一刀両断の元に電撃を切り伏せて見せた

 

「ぐっ……おっ……!?」

 

 しかも、それだけでは無い。千冬の斬激はあろうことか、十二分に距離を取っていた筈のベリアルの頭部にまで届き、殺気に反応して咄嗟に体を捻って回避したベリアルの頭部装甲の一部が浅く切り裂かれ、その衝撃と動揺でベリアルは思わず声をあげて怯み、千冬の前で僅かな隙を晒した

 

「……!」

 

 が、その瞬間、弾かれたように千冬は背後へと飛び退きベリアルから距離を取る。と、その行動が終わらないうちに、先程まで千冬がいた場所にバトルナイザーから伸びた光の鞭が宙を舞い、僅かに打鉄の装甲を掠めてその一部を裂いた

 

「ちっ、これも避けるかよ……」

 

 それを見ながらベリアルは舌打ちしながら易々と鞭を引っ込め、再び千冬に向かいバトルナイザーを構える

 

「…………」

 

 『厄介な相手だ』決して口には勿論、態度にも微塵も出さぬものの、千冬は密かにベリアルに対してそう感じ始めていた



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159話 非情な結末

 大変、遅れて申し訳ないです! これにて今年の更新は最後になりますが、来年もどうにか更新をしていきたいと思いますので2020年も本作をどうかよろしくお願いいたします!!


「なっ……んだ、これは……!」

 

 目の前の光景に思わずリヴァイブを展開させた一人の

教師は思わず自身の立場も忘れて、直感的に感じた事をそのまま口走る

 

 千冬が謎のISを纏った侵入者との戦闘を開始したとの情報を入手し、謎の侵入者の異常とも言える戦闘能力を前にされるがままにされた事ですっかり意気消沈していた教師陣は、途端に熱を取り戻し僅かに残った動ける者達をかき集ると、援護するべく我先にと千冬と侵入者が激突している、アリーナへと集合していた

 

「…………」

 

 だが、半壊したアリーナの前に集合し、視線の先に激戦を繰り広げる千冬とベリアルの姿を見ながらも誰も援護に移ろうとする者はおらず、ただ呆然とした様子で立ち尽くしていた。いや、そうせざるを得なかったのだ

 

「はっ! はははぁっ!!」

 

 目の前で心底楽しそうに獲物を振るい、無数に互いの獲物をぶつけ合いながら、ベリアルは激しく千冬と『対峙』していた

 

 

 そう、戦えてしまっていたのだ。ここにいる教師陣は勿論、世界中の多くの人々が世界最強だと認めるであろうブリュンヒルデである千冬を前に、ベリアルは互いに一歩も引かないような猛スピードで激戦を繰り広げる事が出来ていた

 

 それがあまりにも信じがたい、まさに悪夢のような光景である上に、もはや二人以外にはその残像をかろうじて捕らえられる事しか出来ぬ人知を越えた激戦に、駆け付けた誰もが支援どころか、動くことが叶わなかったのだ

 

「ぐっ……うおおおっ!!」

 

 しかし、それはあくまでも『普通』の目で見た視点の話であり、実の所、ベリアルと千冬の戦いはまもなく決着がつこうとしていた

 

「どうした、もう手詰まりか。私を倒すのだろう?」

 

「ちっ! ……流石にブリュンヒルデと戦うまでに遊び過ぎたか……」

 

 近接ブレードを構え、余裕を持ってそう語る千冬にベリアルは舌打ちをしながらそう返事をする。千冬との戦いでベリアルの装甲には幾重もの傷が付き、制御システムも安定していないのか浮遊しながらも波間に揺られる舟のようにふわふわと宙を上下していた。しかし、それでも尚、ベリアルは勝負を捨てておらず、バトルナイザーを千冬に向けている

 

「これで終わりだ」

 

 そんなベリアルに千冬は何の躊躇いも無く、踏み込み、一気に近接ブレードで斬りかかる

 

「うっ……おおおっっ!?」

 

 その攻撃をベリアルは咄嗟にバトルナイザーで受け止める。が、その瞬間、ベリアルの体はバットで打たれた野球ボールの如く、背中から勢いよく吹き飛ばされていき、最早残骸と化したアリーナに激突し、大きな土煙をあげる

 

「おお!!」

 

 その瞬間、凄まじい決戦を前に最早、見物している他に手は無かった教師陣はどう見ても決着となるであろう千冬の一撃に感嘆の声をあげる。その顔から最早、恐怖は消え『やはりブリュンヒルデには誰も勝てないのだ』と言う確信が見えていた

 

「………………」

 

 だがしかし、ベリアルを吹っ飛ばした筈の千冬本人は違和感を感じていた

 

 確かに、今の一撃は迷う事無く本気で斬りかかった。だがしかし、だ。それで、あれほどまでに派手にぶっ飛ぶだろうか? 今の今まで自分に食らい付き、幾度も喉を食い破ろうとしてきたベリアルと言う相手が

 

「織斑先生! 後は私達にお任せを!!」

 

「ヤツを確保します!!」

 

 千冬がベリアルが叩きつけられた方角に向けて近接ブレードを構えていると、もはや決着はついたと早合点したのか数人の教師が土煙へと向かって飛び立つ

 

「待て! 今はまだ……!」

 

 ベリアルの行動に妙な違和感を感じ続けていた千冬は咄嗟にそれを静止しようとする。が

 

「うっ!? うわあぁぁっ!!」

 

「なっ!? これは一体!?」

 

 その言葉は土煙の中から飛び出して来た、それぞれカミキミムシとクモに似た外見を持つ大型の二機の銀色のロボットがISを纏った教師陣を襲撃してきた事で強制的に中断させられた

 

「ハッハッハッ……ブリュンヒルデ! 今回は退かせてもらうぜ!」

 

 その瞬間、立ち込める土煙を軽々と吹き飛ばし、ベリアルが大声で笑いながらその姿を表し、その瞬間に千冬以外の教師陣は一斉に銃の照準をベリアルに向けて、引き金に指を伸ばす

 

『!?』

 

 が、土煙から現れたベリアルがいつの間にかバトルナイザーを持つ手、その逆側に握られている物を見た瞬間、全員がトリガーを引こうとする指を止めてしまった

 

「(やはりこのつもりで『わざと』吹っ飛ばされたのかアイツは……! あの瞬間、既に撤退するつもりだったか……!)」

 

 その瞬間、先程のベリアルの行動の真意を理解した千冬は、言いように利用された事に内心で静かに怒りを感じる。が、同時に千冬もまたすぐには動くことは出来なかった。そう何故ならば

 

「だが……こいつは俺が預かって行く」

 

 ベリアルの手に握られていたのは気絶し、口元から一筋の血液を流しながら身動き一つしない慎吾だった

 

「分かるなブリュンヒルデ? こいつを返してほしけりゃお前は俺とタイマンでやり合うしか無いんだよ……!」

 

 そんな千冬を嘲笑うようにそう言うと動かない慎吾をISの腕でガッチリと拘束したまま見せつける

 

「…………!」

 

 それは、あからさま過ぎる挑発であった。

 

 が、しかし千冬は動かない。隙は非常に小さいがなりふり構わず、それこそ攻撃に巻き込まれた慎吾が負傷する事さえ全く無視して飛び出せば、間違いなくベリアルに引導を渡せると言うのに千冬にはそれが出来なかった

 

 そう、何故ならば

 

『私に出来る全力で為して行きます。今までも……これからもです』

 

 千冬は教師として一夏を通じて慎吾と一般生徒達より数歩程、深い交流を持っていた。彼の内心の想いや、その願いを知ってしまっていたのだ。だからこそ、慎吾を負傷させてしまうかも知れぬと言うリスクを前に千冬は歯噛みしながらも、生徒を想う一人の教師として動く事が出来なかったのだ

 

 

「それじゃあ……再戦を楽しみにしているぜブリュンヒルデ!!」

 

 結局、千冬はそんな嘲りの笑いと共にどこからか呼び出した大量の銀色のロボットと共に、バトルナイザーから電撃の雨を降らせながら立ち去るベリアルを見送ることしか出来なかった

 

 

「大谷くぅぅぅうううんんっっ!!」

 

 ベリアルが呼び出したロボットを駆逐した後も、千冬の救援の為に駆け付けた真耶の慟哭の叫びはいつまでも響き続けていた



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160話 残された鍵と因縁

 皆様……長くお待たせしまして本当に申し訳ございません。逆流性食道炎で体調を崩したりプライベートに大きな変化があって長らく更新が出来ませんでした。来年こそは順調に更新できるように努力させていただきます……


 「そん……なっ……」

 

 事の始終を聞き終えた一夏はその内容のあまりの衝撃に膝から崩れ落ちる

 

「当然、各国が逃走したベリアルの追跡を開始したわ。でも、結果は追跡に関わった各国チーム、その全てが全滅。……現在でも奴の行方はまるで分からないわ。もちろん慎吾の行方も……」

 

 そんな一夏に向かい、悔しさを堪えきれない様子で唇を噛みしめながら鈴が告げる。そんな鈴を呆然とした様子で見ながら一夏は自身の心に大きな喪失感が生まれている事に気づいた

 

 大きなトラブルに幾度となく見舞われながらも送ってきた学園生活。一夏にとって、それを支えてくれたのは間違いなく仲間逹であり慎吾

 

 慎吾と言う規格外の三人目の男子がいてくれたからこそ、多少は学校の女子生徒からの視線は分散されたし、そして何より動揺する自分に嫌な顔一つせずに手を差し伸べ、僅かしか年齢が変わらぬと言うように大人じみた精神を持ち、それでいて決して威張らず自分や箒やセシリア逹と共に当然のように肩を並べて敵と戦ってくれていた。だからこそ、一夏は当然のように慎吾に実の兄に対する物のような深い信頼を感じていたのだ

 

「う……あっ……!!」

 

 だからこそ、慎吾が拐われ、一筋の光をも見えぬこの現状に心が押し潰されそうになるのは当然の結論。気付いた時には一夏の口から押さえ込めない嗚咽が零れ始めていた

 

「…………っ!」

 

 そして、何時もは強気な鈴もまた、自身の体で嫌と言うほど味わったベリアルの異様なまでの実力を体験した以上、このかつてない窮地を前にして悔しさに唇を噛み締めた一夏にかける言葉を見つける事が出来ず、立ち尽くすしか無い

 

「お、兄様……」

 

「お兄ちゃん……!! ううっ……!」

 

「くそっ!! くそおおおぉぉっっ!!」

 

 そして、今この状況で一番絶望していたのは、助けられて以来慎吾を特に慕い、実の兄妹と変わらない程に信頼しあっていたセシリア、シャルロット、ラウラの三人であり、ベリアルが学園を去りその際に繰り出した正体不明のロボット達をも残存した教師陣達がとっくの昔に殲滅し終わった今になっても、深い悲しみによる慟哭の叫びを続けていた

 

 しかし、だから言って誰もこの場にはそんな一同にあの時の慎吾のように『立ち上がれ!』と、鼓舞出来る者はいない。だからこそ一夏達は

 

『えっ……?』

 

 突然、それも全く同じタイミングでその場にいた全員のISに短いメッセージが届けられた瞬間、誰もが驚愕の声をあげた

 

「い、一体誰が……?」

 

 そして、一番最初に驚愕による緊張から逃れた一夏が、どうにか体を動かして謎のメッセージを開こうとし……

 

「んなっ!?」

 

 再び驚愕して、声をあげ今度はあまりの衝撃に尻餅までついてしまった

 

「ど、どうしたの一夏!? って、えっ……!?」

 

 そんな一夏のただならぬ一夏の様子にシャルロットは何があったのかと自身もまたメッセージを覗き込み、直ぐ様限界まで目を見開いて驚愕する

 

「おい、どうした!? 一夏! シャルロット!

何が書いてあった!?」

 

「いったい何が……んなっ!?」

 

 その二人の激変の理由が先程のメッセージにあると違いないそう考えたラウラやセシリアと言った残りの面子も一斉にメッセージを開き、共に愕然とした。そう、何故ならそのメッセージを送り主は

 

「慎吾さん……!? な、なんで……」

 

 そう、それは間違いなく敗北し、侵入者と交戦するも敗れ、連れ拐われてしまい行方不明となっている筈の慎吾からの物であった

 

「だけど……なんだこれ?」

 

 この緊急事態の最中に届いたメッセージ。それは間違いなく大きな手がかりになると期待していた。だがしかし、そこに書かれていたいたのは英語と数字が降り混じった数行の羅列のみでそれ以外は何も書かれていない

 

「これは……経緯度か……。 と、するとこれが指しているのは……」

 

 そんな中、一早く、その数字の意味に気が付いたのはラウラであり、素早くその数列が指し示す座標を読み取ろうとしていた

 

「って事は……これ……!」

 

「お兄ちゃんからのSOSのメッセージ……!?」

 

 ラウラが切っ掛けとした事で慎吾のメッセージの意図に、集まったメンバーは栓を切ったかのように直ぐに気が付き、鈴とシャルロットが心底驚いた様子で呟く

 

「慎吾さん……!」

 

 気がついたら一夏は叫んでいた。あの慎吾が助けを求めている。それも他ならぬ自分達に向けて、だ。ならば相手があの時対峙したT型より遥かに危険な相手だろうと、やる事など端から決まっていた

 

「……行こう。慎吾さんを助ける為に!」

 

 そう緊張感に満ちた表情で額には汗を滲ませながらも一夏は宣言する。

 

「そうか……私が何か言わずとも折れないでいてくれたか。それは心強い」

 

 その時だ、突如としてその場にいたメンバーとは全く違う声、何処か安堵したような優しい男性の声が一夏の背中に向かってかけられる。一夏にはその特徴的な人を安心させる声は確かに聞き覚えのあるものだった

 

「あなたは……」

 

「だが、まずは謝っておこう。本当にすまない……諸君。君達は私達の因縁に巻き込まれて(・・・・・・)てしまったんだ」

 

 一夏が振り向くと声の主は心底申し訳なさそうに呆然としている一夏達に向かって頭を下げる

 

「今回、学園を襲撃したアリア……いや今はベリアルを名乗っている彼女は……私のかつての親友(とも)だった人物であり……慎吾に武を教えた師の一人だ」

 

『っっ!?』

 

 ケンの言葉にその場にいた一夏や箒達……つまりは慎吾、限定と一定以上の付き合いをしていた全員が目を限界まで見開く

 

 当然だった。ケンの言葉は倒すべき宿敵であったベリアルの正体が慎吾の身内であると言ってる他ならなかったからだ

 

「慎吾と絆を結んだ君達にこそ……この緊急事態だからこそ伝えよう。私達とベリアルの過去とその因縁を……」

 

 そう語るケンの口調は言葉では言い表せない程の深い憂いを帯び、口に出さずともケンが抱える深い悲しみが色濃く表れていた



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161話 明かされる過去 前編

 あけましておめでとうございます
 スランプに悩み、キャラクターの口調とかに大分悩まされながらの更新です。ここからオリジナルの過去を膨らませ、この物語のベリアルがどうしてああなったのかを明かして行きます。


 シャルロットからの提案により一旦の休息と治療を挟んでから一夏達が訪れたMー78社は間違いなくベリアルの影響であろう、入り口から既に喧騒に満ち、何人もの社員が緊迫した様子で話し合ったり、慌ただしく何処かへと資料を運んでいたりしていた

 

「IS学園の方々ですね? どうぞこちらに。主任は既に二階会議室にて待機しています!」

 

 そんな中でも一夏達がたどり着いた途端、直ぐ様『ゼノン』と名乗った一人の社員が案内を買ってでて、緊張した表情ながらも真っ直ぐに一夏達を先導し、会議室魔で小走りで案内してみせた

 

「……待っていたよ。一夏君、箒君。そしてラウラちゃんにシャルロットちゃん達代表候補生の諸君。席は準備してあるから遠慮なく座ってくれ」

 

 案内された会議室の扉が開くと、白い電灯の光が照らす会議室内にはケン一人しかおらず、一夏達に気が付くとプロジェクターのスクリーンを背にして椅子に腰かけていたケンは立ち上がり、会議室に入ってきた人物、一人一人に視線を向ける。そして……

 

「織斑先生もぶしつけな申し出にも関わらず、一方的な申し出を引き受けてくれた事に深く感謝する」

 

「…………」

 

 そう、一夏達に続いて最後に会議室に入ってきたのは千冬であり、千冬はケンの言葉に何も答えることは無く、睨み付けるような視線を一瞬、向けただけで無言で会議室の扉を扉を閉じると、指し示された席へと着いた

 

「さて……彼女について話すと言ったからには分かりやすい資料と共に説明して行きたいと思うのだが、これはどうしても完全に客観的とは行かずに私の主観も混じってしまうが……構わないだろうか?」

 

 一夏、箒、鈴、シャルロット、ラウラ、そして千冬が指定された席についたのを確認すると、ケンはそう問いかける。その言葉に同意……とは若干異なるのだろうが誰も特段と異論の言葉を挟むことは無く、無言でケンの言葉の続きを促す

 

「……分かった。それでは早速始めるとしよう」

 

 それを理解したケンは、手にした端末を操作し背後のプロジェクターに一つの静止画を投影する。

 

 写し出されたのはMー78社、正面門前で撮られたものらしくこちらに向かって歯を見せ、笑顔で視線を向ける二人の人間の姿があった

 

 その内、一人は白衣を着ており今より少しばかり若い外見のケン。そして、その隣に立ちISスーツを着た色黒の肌に黒髪の女性は見間違いようも無く……

 

「これが私の知る限り彼女が私達が知る彼女だった最後の写真。君達にはベリアルと名乗った者だよ。……念を押して交戦した君達に聞くが彼女がIS学園を襲撃した不明のIS同乗者で間違いないかい?」

 

「馬鹿な、これがベリアルだと……!?」

 

「全然雰囲気違うじゃないの……」

 

 ケンから見せられた写真を目にするとラウラと鈴は愕然とした様子で口を開き、唖然とする。

 

 無理もない、写真に映るベリアルは強気なつり目や体格こそIS学園で激突したベリアルそのものの特徴だったがその笑顔は男勝りで荒々しくはあるがどこか爽やかさがあり、そこに獰猛さや危険性は殆んど感じない

 

「彼女が変わってしまった切っ掛けは……」  

 

 ケンはそこまで言った所で口をつむぎ、何かを堪えるように拳を握る。が、ついに迷いを振り切るように再び口を開いた

 

「やはり……白騎士事件からと言うことになるだろう」

 

「…………!」

 

 ケンのその一言はしんと静まりきった会議室に一夏の驚愕の吐息を伴い、波紋を打つようにゆっくりと広がっていった

 

 

 頭がぼやけてしっかり思考できない、体に鉄の塊がくっついてるかのように重くて動かせない、それどころか目が接着されてしまったように開かずに暗闇しか見えない

 

 唯一、感じるのは風の吹くまま、波に任せて海上を漂うような浮動感と、青空に浮かぶ太陽の光を縁側で浴びているかのような優しい暖かさ

 

 

『…。………。』

 

 と、その暗闇の中、周囲の空間が奇妙に蠢くとやがて幻覚のように一つの景色と複数の話声を周囲に動画の再生ボタンを押したかのように周囲に流し始めた

 

『……見えるかい慎吾? あれが全く新しいエネルギー機関、その名もプラズマスパーク。あれは私だけじゃない、ケンやアリア。そしてここにいる多くの研究員やスタッフが力を合わせて漸く作り上げる事が出来たんだ』

 

『君達、新しい時代の子供達には是非ともこれを見てほしかった。……とは言ってもこれが人類に希望か、あるいは絶望をもたらすのかはまだ分からないのだけどもね』

 

『だからこそ……作った責任として俺達が悪用されないよう、しっかり管理しないとな。これが本当に役に立つ時はもう少し未来だろうしな』 

 

「…………!」

 

 

 三人の話し声と共に見える暗闇の中で映く輝く青白い美しい光、そしてその光を囲む複数の大人とその大人に寄り添う子供達の影。そこで漸く慎吾は気が付いた。これは……目の前で繰り広げられているこの光景は紛れもなく幼いころの自分が体験した記憶だと。ならば……この声の主は……

 

『……慎吾。我が息子よ。お前が成長する未来の先に何が待っているかは今の私には分からない。しかし……どうかこの光の如く、希望が溢れた物で合ってほしい。そう私は願おう』

 

『……そうだな。私も生まれてくる子供やケン……そこして集まった子供達が安心して暮らせる平和な世界の為にまだまだ奮闘せねばな』

 

『はん……慎吾。俺はお前の親父やケンとは違うから言ってやる。てめぇは確かに才能はあるがまだまだ甘ちゃん。修行が足りなさすぎるんだよ。そこでぼさっとプラズマスパーク光に見とれてる光ともども俺が厳しく鍛えてやるから覚悟しておけよ』

 

「父さん……ケンさん………アリアさん…………」

 

 

 自身の父親と恩人達の名前を呟く慎吾ではあったが。そこで急に見えていた映像は消え失せ、慎吾の精神世界は再び闇へと飲まれていく

 

「何故だ……何故あなたが……アリアさん……!」

 

 全てが闇に飲まれて消え失せる寸前に放たれた慎吾の慟哭の声は誰にも聞かれる事は無く消えていった

 

 

「……と、言う訳で私達はエネルギーの平和利用を考えて開発を続けていた訳だが……。ようやく微かながら目処が見え始めた……。そんな段階に突入した日だったよ。白騎士事件の日は……」

 

『なっ…………』

 

 会議室ではケンからの話が続いていた。が、誰もが絶句して言葉を発する事が出来ずにいた。

 

 何故ならば、流石に何もかもを包み隠さず……とは行かないがケンは特に躊躇せず一夏達に『Mー75社はまだ何処にも公表してない新たなエネルギー源となる物質を開発し、保管している』と言う事実を語って見せたのだ

。どう考えてもあり得ない程の情報提供にしか見えなかった

 

「……何のつもりだ」

 

 と、そんな中、恐らくこの会議室でケンについで冷静であった千冬がケンを見据え鋭い瞳で一言、しかし誤魔化しを許さないような圧を込めて問いただす

 

「こうして我が社の機密を伝えたのは、これから私が彼女の秘密について話すべき内容に大きく関わるからだよ。そう、私がアリアにしてしまった『罪』にもな」

 

 対するケンは千冬の目を反らさず、しっかりと見据えて答える。その目には確かな悲しみが浮かんでいた。そしてケンは重い口を開いて言葉を続ける

 

「私は……親友である彼女を間際で見殺しにしてしまったんだ」



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162話 明かされる過去 (中編)

 過去編その2です。この辺りから徐々に二人の思想にズレを出していこうかと思います


「……なんだ……あれは……」

 

「………………」

 

 その日、その時、ケンとアリアは呆然とその光景を見ている事しか出来なかった。

 

 全世界のありとあらゆる軍事施設がハッキングを受け、日本に向けて一切に無数のミサイルが発射されると言う絶望的としか思えなかった状況。それを打破すべくケン、アリアそしてこの場にはいないが慎吾の父も、その驚異を何とか退けんとMー78社が開発したばかりの上に入念に保管していた為に被害を免れた秘蔵の『とっておき』を上層部に掛け合って危険を承知で守るべき者達が暮らすこの国を守るために自らの身も省みず使用しようとしたのだ。

 

 だが実際には二人が今まさに『とっておき』を発動させようとした直前、Mー78社の衛星カメラから二人の端末に送られてきた映像は、それでも無数のミサイルを軽々とダンスでも踊るように蹴散らし圧倒的な『力』を見せ付けてデモンストレーションの如く鮮やかに解決して見せたのはIS『白騎士』。その光景を前に二人の目は限界まで見開かれ、額にはじわりと汗が滲み体は石になったようにぴくりとも動かせずにいた

 

「なぁ……ケン……」

 

「……どうしたアリア」

 

 やがて映像から僅かでも目を離さないままアリアが震える手を抑え掠れた声でケンに問い掛ける

 

「さっきまで必死にあがいて平和の為に自分に出来ることでどうにかしようとしていた俺様達は……いや俺様達以外にも何とかしようとした連中は一体なんなんだ? 全部、アレがどれだけ優れて凄いものかを世界中に見せ付ける為のピエロで俺様達は『何も出来なかった馬鹿』か……?」

 

「…………っ!」

 

 怒り、嘆き、そして焦燥が入り交じったアリアの呟きにケンは何も返すことが出来ない。何故ならケンも口にこそ出してはいないもののアリアの言ってる事に間違いが無いと考えてしまったからだ

 

「ちっ……くだらねぇ真似しやがって……ただじゃおかねぇぞ……!」

 

「…………アリア」

 

 手にした端末が軋み、悲鳴を上げるほどの力で握りしめながらアリアは怒りのままそう吐き捨てる。その瞳に映るのはミサイル郡を軽々と破壊して空を駆ける『白騎士』。そしてアリアは心中で堅く違う『この茶番劇を作った馬鹿をぶちのめしてやる』と。そしてケンはそんなアリアにかけるべき言葉を見つける事が出来ず困ったような視線を向けながら、そう呟く事しか出来なかった

 

 これが、これこそが後にケンとアリアが決別し、彼女がベリアルへと変わる『第一歩』の出来事が起きた日だったのだが……それを今のケンは勿論、アリア自身もまるで知ることは無かった

 

 

「そこからのアリアの行動は実に早いものだったな……」

 

 そして現代、ケンは目を細めて一夏達に語りかけていた。その言葉に含まれるのは過去への郷愁。まだアリアが確かに親友であった時の懐かしさと、あまりに変わってしまった現状への悲しみだった

 

「篠ノ之博士が作り上げたISに関する情報をあらゆる手段を使ってかき集めた上でゼロから学び徹底的知識を付け……元から日々の鍛練を欠かさずしていた彼女が更に鍛練の時間と質を倍以上に上げ基礎から応用まで半ば狂気に満ちた程の鍛練を施し体を鍛えあげて……私もせめて彼女の心を励ませればと知識と鍛練の両方で助力していたよ」

 

「その……努力家……だったんですね……」

 

 ケンの話を聞き、一夏はポツリと率直な感想を口にする

 

 相手はIS学園を襲撃して破壊しまくり仲間達に大怪我を負わせ、慎吾まで拐った憎むべき悪。それに何一つ間違いは無いし今も決して許しはしていない。だが、それでも恐らくこの場でただ一人、ベリアルと戦闘していない事もあってか一夏はどうしてもケンの話に効くベリアルが今回のような凶行を働く人間には思えなかったのだ

 

「……あぁ、アリアは努力家だったよ。それでいて本人の生まれ持った才能も超一流。……言動に粗暴さも目立ったがそれでも慕うものも多くいて……身内贔屓を抜きにしてもまさに彼女は『努力する天才』を絵に書いたような上に立つに相応しい人物だった」

 

「ちょっと……アンタあいつが敵だって分かってるんでしょうね?」

 

 それに対するケンの言葉もまたアリアへの惜しみ無き称賛。それに反発を覚えたのか鈴が顔をしかめた様子でケンにそう問いただすと。ケンは悲しげな顔のまま『もちろんだ』と短く返した

 

 そう、ケンにはベリアルと名乗るアリアがしでかした事の重大もそれによりここに揃ったIS学園の人々のからだも心も酷く傷付けてしまった事も良く理解していた。それでも尚、彼女を忖度せずに称賛するのはかつての親友としての立ちきれぬ未練なのか

 

「……だから……そんな彼女だからこそ『狙われた』のかも知れない」

 

 それともそれは罪悪感による拘泥か。ケンは相変わらず浮かない顔で言葉を続ける

 

 話は再び過去に遡る

 

◇ 

 

「俺がISのテストパイロットの依頼だと? ……唐突すぎて訳わかんねぇぞ」

 

 自身と慎吾の道場での訓練に最近、入ってくるようになった早田と諸星を父親の死以降ますます張り切って修行に取り組む慎吾のついでにと纏めて対処しつつ、三人纏めてしっかりとしごきを入れてダウンさせてから、軽く流した汗を拭いつつ自宅では無くMー78社へと戻り、休憩室で飲み物を口にしていたアリアを出迎えたのは居合わせたケンからのそんな言葉だった

 

「……あぁ、とは言ってもあまりおおっぴらに言える話では無い。だから……アリア」

 

 怪訝な顔でアリアが問いただすとケンは真剣な表情でアリアに向けて視線を送り、声のトーンを僅かに落とす

 

「……一体なんだよ?」

 

 その仕種でケンの求める事を理解したアリアは少しばかり面倒くさそうな表情をしながらもケンの元へと更に歩みより、小声でもしっかりと聞こえるように耳を向けた

 

「……この依頼は政府から我が社に直接申し込まれた。それもテストに必用不可欠な極一部の人間以外には極秘とするとの条件付き。……念を入れて探りを入れたが政府公式の依頼で間違いないようだ」

 

「……あぁん?」

 

 小声で語られたケンの言葉を聞くとアリアは訝しげにそう言うと盛大に眉をひそめた

 

 どう贔屓目に考えても怪しい依頼だった。しかも非常に多くの分野の人材と太い縁があるケンに探りを入れられてまるで引っ掛からないと言う事は政府の名を語るテロリストやら詐欺だとも考えづらい。と、なると考えられるのは……

 

「……政府様とやらは俺様に公に出来ないほど訳ありのヤバイ機体に乗らせようって訳か?」

 

 脳内でそう結論付けたアリアはそう言うとニヤリと笑みを浮かべる。ここ数年で自身の願望を叶える為にISに関しても相当の事はやった。だからこそアリア『目標の一人』を除いて自身にISでの戦闘で勝てるやつなどいないと断言できたし、過去に自分が行った内容で政府から恨みを買うような事も一つや二つでは無いことも理解していたのだ。

 

「無論、君が不審に感じたり拒否するならこの話は突っぱねる……。と、言うのが上の意見で、正直私も進められないが……どうするアリア」

 

 そんなアリアの思案を知ってか知らずか周りに盗み聞きしているものがいないか警戒しながらケンは答えを求めて尋ねる

 

「……リターンは何だ?」

 

「そんないかにも怪しい話、余程のバカでも引き受けねぇなんて誰でも分かる話だ。……それ相応のエサがあるんだろ?」

 

 それに対しアリアはひそめてた眉を元に戻し、真っ直ぐにケンを見据えると有無を言わせぬような、しかし確信した様子の口調で逆にそうケンに問いかけた

 

「……試験飛行で機体との相性が良く、尚且つ優れた成績を残した者には機体を譲渡した上で代表候補の一人に抜擢するそうだ」

 

 

「……! なるほど、そいつは飛びっきりのエサだな」

 

 ケンの言葉を聞くとアリアは一瞬だけ目を見開くと口元に笑みを浮かべる。

 

「つまり……向こうはそこまでしてまで自分達が作った新型機の搭乗者が欲しくて仕方ねぇのか。ハッ……こりゃますますキナ臭い話だなぁ?」

 

「そうだな……。ならば……やはりこの話は……」

 

 軽く笑いながらそう言うアリア。今、まさに政府に対してアリアの不信(とは言っても元々アリアは政府に信頼などはしていなかったが)を決定的な物とし、それを察したケンも断りの知らせを入れるべく動こうとし……

 

「だが敢えて俺様は、この話に乗ってやるぜ」

 

「なっ……!? アリアっ!?」

 

 ニヤリと笑ったアリアの口から発せられた言葉に思わず目を見開き大声をあげた

 

「……落ちつけよケン。確かにこいつはキナ臭い上に怪しい話だ。……だがな、それでも結果を出せばMー78社がまだ研究中のコアを調べあげるより早く俺様には専用機が手に入るんだ。そうすりゃあ俺様の願望が叶う、なら俺様にはリスクを背負うかいがあるってもんだ」

 

 対してアリアはごく落ち着いた様子でケンを諭すように語る。間違っても勢いや冗談で言った訳では無いらしく、アリアの口調は非常に落ち着いていた

 

「……君の願望とは?」

 

 その落ち着きに異様さを感じながらもケンは尋ねる。とは言うものの、アリアがどう答えるのかはケンには粗方推測がついていた。ケンとしてはそれを単なる自分の考えすぎだと思えるような言葉を密かに望んでいたのだ

 

「俺様の願望? そんなの決まってるだろう……」

 

「あの伝説扱いされたブリュンヒルデ……。いや、織斑千冬を俺様が打ち負かし、長く延びきった篠ノ之束の鼻を叩き折る。どうやら篠ノ之は織斑にご熱心のようだからなぁ……それが俺なりの世界に舐めた真似をしてくれた篠ノ之束への借りの返し方だ」

 

「…………っ!」

 

 そうハッキリと語るアリアを前にケンは何も返す事が出来なかった。あまりにもその言葉の内容が予測した通りの言葉だったのだ

 

 確かに白騎士事件から幾年かの時が過ぎた現在、Mー78社は既に白騎士事件の切っ掛けとなった世界規模のハッキングが篠ノ之束によって起こされた可能性がほぼ確定的だと言うことを突き止めていた。そしてその情報をアリアが聞き付けて以来、更に過酷に己を磨いていると言うことも

 

「(アリア……やはり君は変わってしまったのだな……)」

 

 次第に一歩、また一歩と暴走してくアリアにケンは深く頭を抱え、苦悩する。がらしかし、強くこの場でアリアを止めようする事は出来なかった。何故ならば確かに白騎士事件はケンにとっても到底納得出来る物では無かったのは事実であり、その分ではアリアの想いも理解する事が出来たのだ。そして何より

 

「(しかし、それでも私は君を……)」

 

 ケンは親友であるアリアを信じたかったのだ。きっと話せば理解してくれる。分かり会えると心の底から信じていたのだ

 

 それが取り返しのつかないほど大きな過ちの第一歩だとも気付かずに



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163話 明かされる過去(後編)

 大分、調子やモチベーションを崩してしまって大分苦戦しながら書きました……。一度崩すと戻すのが大変ですね……


 

「ぐっ……うおおぉぉぉっっ!!」

 

 僅かに気が緩んだ瞬間、熱波で木の葉の如く吹っ飛ばされる体。そのままの勢いで頑丈な実験場の鋼鉄製の壁に叩きつけられそうそうになる瞬間、気合い声と共に通路に設置された手すりを掴みとると、それを支えにしてその場に堪え、やがて熱波が収まるとケンは再び立ち上がりゆっくりと前へと進み出す

 

 先ほどの物だけでは無く既に何度か受けた熱波と衝撃で既に着ている白衣はあちこちが焼け焦げ穴が開き、骨もあばらを数本程折ってしまっている。感覚からして脚の骨にもヒビが入っているが構っている暇はなく、一刻も早く前に進まなければならない。と、ケンは自身を鼓舞させる。何故なら

 

「ぐ……お……うわぁあぁぁぁぁぁっっ!?」

 

「っ……!! 今行くぞアリア!!」

 

 ケンの視線の先、そこで暴走してしまいオーバーヒートした機器から熱波等を撒き散らし、勝手に動く機械の腕が手にして離れてくれないブレードを振り回して実験場のあちこちを破壊してしまう中、ISを苦しみながらどうにか押さえ付けようとしているアリアの姿があったのだ

 

「(何故だ……何故こんな事になってしまっている!? チェックでは機体やアリアにも何の問題も無かった! それは間違いない!)」

 

 吹き付ける高熱や容赦なく飛んでくる散弾のような勢いで飛んでくる壁や床や実験器具の破片から目を守りつつ前身しながらケンは思案する

 

 アリアの強引とも言える志願によってM-78社は政府からの依頼を正式に受諾する事が決まり、その後は特にトラブルも無く政府から一機のISが運びこまれた。そして、アリアがパイロットに決まった事を切っ掛けにケンもまた言い様の無い不安を感じていたアリアの動向を近くで見るため、その実験担当の職員へと志願し、実験に使用するISの最終調整、および管理の役割を担当していたのだ。

 

 そして今なら一時間前、テスト当日の今日に、他ならぬ自身のチェックによって『問題なし』と判断されたISで動作テストは始まった。のだが……

 

「ちっ……くしょおおお!! 制御がまるで効かねぇっ!」

 

 テスト開始から十分が過ぎ、ある程度の動作や武装が何ら問題なくカタログが示す通りの動きを見せた所でいよいよ対ISとの戦闘を意識した訓練へと移行しようとした時、突如としてアリアが乗ったISは暴走を開始し、アリアの意思に反して動き、実験場で大暴れを開始したのだ。アリアはそれに全力で抵抗しているおかけで未だに参加した研究員や作業メンバーには軽傷以上の負傷をしたものはいないがISのパワーを押さえ込むと言う無茶苦茶を行い続けるアリアの体は確実に傷付き限界は近付いてきていた

 

「……制御端末だ……! まずはテスト用の遠隔操作端末までたどり着かなくては……!」

 

 

 自身の額からうっすらと血が滲むのを感じながらケンは自分に改めて言い聞かせるようにそう叫ぶ。既に負傷者を含めた自身以外の殆んどの研究員は殆んど避難させ終わってているので必要以上に周りに気を配る必要は無い。だからこそケンはわき目も降らず真っ直ぐに、実験に使用していた床に固定された制御端末を目指していた

 

「(あの制御端末は……部分的にだが遠隔操作で部分的にアリアが装着しているISを操作できるようにしてある……! あれを使えば……強制的にパージする事も出来る筈だ!)」

 

 と、その可能性ただ一点に賭けて、道を塞ぐ瓦礫や暴走したISから出鱈目な方角に向けて放たれる実弾を危うい所でどうにか避けながら歩みを進めるケンの視界についに瓦礫の壁に覆われるように端末がその姿を表した

 

「端末は……! よし、無事だ……これなら……」

 

 ケンが近付いて来た時、制御端末の周囲には天井や壁から瓦礫が崩れて寄りかかるように倒れて来てはいた。が、幸いな事に端末そのものには瓦礫が倒れた時についたのであろう小さな外傷しか見当たらず、ケンが祈るような気持ちで画面に触れた瞬間、何の問題も無く作動し画面が発光し、ケンの操作を受け付けて管理画面に移行すると非常用のシステムを発動前の準備状態にさせた

 

「アリア……ッ! 今、こちらからの操作でISを強制パージさせる! あと少しだけ堪えてくれ!!」

 

 その画面を確認するとケンはすかさずこの騒音の中でも消えないような大声で未だに苦しみ続けているアリアに向かって叫ぶ。

 

 それが単に慰めでしかなく、只でさえ苦しんでいるアリアに更に無理をさせるような言葉であるのは承知の上であったがそれでも、自らISを纏うことが出来ない状況でケンが叫ぶのは友をスグサマ助けに行けぬ無力を感じてしまう自分を振るい立たせようとしているのも無意識のうちにあったのだろう

 

「っ……! この状況で軽々と要求してくれるな……ケンよぉ! こっちも限界が近いんだ!」

 

 そんなケンの叫びにアリアは怒鳴るようにそう文句を言う。が、途端にケンの方角へと向かう攻撃や機器から放たれる熱波は目に見えて減り、ケンは直ぐ様、端末にのみ集中して作業に進める事が出来るようになった

 

「(流石だアリア……! これならば……!)」

 

 内心でその技量に惜しみ無い感心を送りつつ、痛む体に鞭を打ち、作業の手を決して緩めず作業を進めていくケン。カードリーダーに自身のカードキーを読み込ませ安全の為、やたら長い解除コードを電子キーボードで直接打ち込んでいき、精神を研ぎ澄ませたケンは普段操作するよりも数段は速く入力し続け、あっと言う間にあと数文字の所にまでたどり着いた

 

「よし……これを打ち込めば……! アリア……!」

 

 絶望的な状況からようやく掴む事が出来た希望。勿論、これで決して終わりではない。研修場の被害は決して小さくは無いし、これから後始末は大変な事になるだろう。しかし、これでようやくアリアを救える……。

 

 そう、ケンはこの時、若さゆえか全く意識せぬうちに一つの過ちを犯してしまっていた。まだ事態は完全には終わっても無いのに、既に『解決した』と思い込み、あまつさえその後の事さえ考えてしまった。

 

 だから

 

 

「…………っ……!」

 

 

「な…………」

 

 

 今、まさに最後の一文字を入力しようとした瞬間、皮肉にもアリアが最後の力を振り絞って押さえようとしたまさにその瞬間、ケンの耳に一つの圧し殺すような悲鳴が聞こえた。しかも、その悲鳴は……

 

 

「マ……マリッ……?」

 

 それは正しく危機的状況だった。マリは負傷したらしい研究員。恐らくは最後の一人に肩を貸し、肩を貸す研究員からの出血で白衣が汚れるのも構わず懸命に脱出口へと向かって歩いていた。が、二人が歩く通路の天井は一連の騒動で既に崩れかけており、既に落ちてきた破片が何個か当たったのかマリの背中にはうっすら血が滲んでおり、これにより集中するケンを気遣って堪えていたマリが堪えきれず悲鳴を上げた事は間違い無かった。

 

 だがしかし、二人はあと少しで出口へ、加えてマリに向かって救助しようと駆け付けてくる他の研究員達の元へと到着しそうではあった。しかしまだケンが視線を向けて2、3秒もしないうちに更に状況は悪化する

 

「なっ……ん……だとっ……!?」

 

 

 そう、駆け寄る研究員達の腕が、マリの足があと一歩で出口へと到達しようとした瞬間だった

 

ピキ……ピキ……!

 

 まるで狙ったかのようなタイミングでマリ達の頭上の天井に悲鳴のような音と共に亀裂が入った。それに気付いた研究員が『あっ』と言うよりも早く天井が崩れ、瓦礫がさながら雪崩のように二人に向かって降り注ぎ始めるたのだ。

 

「マリッ! ……うっ、おおおおおぉぉぉっっ!!」

 

 その瞬間ケンは端末に背を向け、雄叫びと共に床を蹴りとばしてマリの元へと向かってさながら背中にロケットエンジンでも積んでるかのような猛烈な勢いで一目散に駆け出す。

 

「はあぁぁっっ!!」

 

 瞬時に瓦礫の元へとたどり着いたケンが繰り出したのは助走に加えて空中で回転する事で遠心力を加えた強烈な回し蹴り。その強烈な一撃を前に重いコンクリートで出来た瓦礫は一瞬で全体に亀裂が走るとマリ達に当たるより早く木っ端微塵に砕け散ると、ケンが着地した瞬間、当たっても傷を負わない程の小さな小石と変り、雨粒が降るような軽い音と共に落ちてきた

 

「はぁ……はぁ……! 無事か……マリ……?」

 

「は、はい……あなた……」

 

 

 着地したケンには傷は無い。だがしかし、流石に何の備えもなく身の丈に匹敵する大岩を蹴りで砕くと言う行為はケン程に精神と肉体を共に徹底的に鍛え上げた人物であっても尚、大きく体力と神経を消耗し、ケンは額に汗を滲ませ肩で息をついていた

 

「(まだだ……まだ……止まる訳には……っ!)」

 

 だがしかし、そこで休んでいる暇など存在しない。とケンはマリの無事を確認した途端、文字通り息つく暇もなく自身を鼓舞すると軽く腕で額の汗を拭ったのみで無理矢理呼吸をして立ち上がる。コンマ一秒でも無駄にはできない。何故ならば今もアリアは危機に晒されている。あと一手で助けられるとは言え決して止まる訳には……

 

「っがっ!?………ケエエエェェェンン……ッッ!!」

 

 

 だがしかし、その時既にケンは叩きつけられていたのだ。僅かに手を誤った罰を……そして何処までも非情かつ残酷な現実を

 

 

「ッ……! アリアッ!?」

 

 

 ケンの耳に聞こえたのは怒声にも悲鳴にも似たアリアの声、その声に素早くケンが振り返った。そして

 

「ケンッ……! うっ……わああああぁぁぁぁっっ!!」

 

 その瞬間、ケンは目撃した。暴走する機体から、それが彼女自身の鮮血のように火花と炎を吹き出しながら宙を吹き飛んで行くアリアの姿をそして、そのまま何も出来ず頑丈な防壁へと吹き飛ばされて行くのを

 

 

「アリア! アリッッ…………!!」

 

 一瞬で顔が青ざめる。最早手遅れだと言うことは頭の中で理解していた。だが、それでもケンはアリアに向かって手を伸ばしながら走る。無茶に無茶を重ねて負荷を掛けすぎた事で足首は既に悲鳴を上げていたがそれでもケンは精一杯アリアに向かって手を伸ばし

 

 

「ぐっ……がっっああああぁぁぁぁぁっっ~っ!!」

 

「ア……………………」

     

 当然ながらその手がアリアの元に届くことは無く、むなしく空を切り、アリアは悲痛な叫びと共に隔壁に搭乗していた機体ごと背中から叩きつけられるとその瞬間、機体は鼓膜が破れそうな轟音と共に爆発し、激しい炎と煙に包まれてアリアの姿はケンから全く見えなくなった

 

 

「アリア……アリアァァァァァッッ!!」

 

 

 後に残ったのは己が一手誤ったことの後悔、親友を救えなかった悲しみが込められたケンの慟哭の叫びだけだった。



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164話 覆水凡に帰らず

 すいませんまた遅れてしまいました。なお今回で過去編は一先ずの区切りとなります。


 

「う……ぐ……あ……」

 

 全身がミキサーで骨ごと細かく粉砕されたかのような激しい激痛と天も地も分からぬ程に激しく回転して吐きそうな目眩の中、アリアは静かに意識を覚醒させる。だがしかし、そこに広がるのは一筋の光すら見えず、自身の体でさえ全く見えない深い闇の中だった

 

「オ……レは……。こ、ここは……」

 

 一寸先も見えぬ暗闇を前に途方に暮れてると、追い討ちの如く頭が割れそうな頭痛までしてくるのを感じながらアリアはうめく

 

「っ……! そうだ俺様は……」

 

 と、その瞬間、濁流のように記憶が自身の頭の中へと流れ込みアリアは思わず苦痛の悲鳴をあげて頭を抱えた

 

 

 新型ISの実験、事故、焼けるような痛み、自分に背を向けたケン、身動き出来ない自分に分厚い壁が迫り、そして今まで感じたことが無いような激しい衝撃と苦痛が……

 

「オレは……あれで……死んだ……のか……?」

 

 

 そこまで思い返した所でアリアは一つの結論を出し、掠れた声で呟く

 

「はっ……はははっ……ははははははっ……!!」

 

 

 と次の瞬間、アリアの口からは自然と笑い声が溢れだし、やがてその声は次第に大きく変わっていく。が、勿論、それは歓喜の声などでは無い。アリアにとって僅かな希望すら奪い去った無情な現実と、何もなす事が出来なかった自身への深い絶望が込められた自嘲の笑いだった

 

「くそぉっっ!!……情けないっ! 情けない……! 俺は……俺様は……!」

 

 笑いを止めた瞬間、アリアは奥歯が軋むほど強く噛み締めながら感情のまま叫ぶ。周囲にもケンにもあれだけの事を言っておいて女性としての幸せも、出世への道をも全て捧げて強くあらんとしたのにも関わらず自分のこの様がどうしても許せず、それが確実に出世し結婚をして子供まで授かったケンと重なって見えたアリアは精神的に追い込まれた事、そして絶望に心が負けそうになり……追い込まれた末にアリアはこう思ってしまったのだ

 

「(力が欲しい……俺様を見下すこの世界をぶち壊す力が……!!)」

 

 それは打倒篠ノ之束を掲げ、多少過激な言動が目立っていたとは言え、それでも己が信じる正義の為に、平和を守る為に動いていたアリアにとってはつい溢れてしまった言葉。だがしかし、それでも僅かながら『本心』で思ってしまった事であった

 

「………っ!? なっ……!」

 

 その瞬間だった。アリアの周囲をすっぽりと包み込んでいた漆黒の闇が風に吹かれた水面のようにさざめき揺れると、一瞬のうちにその姿を無数の気味の悪い触手へと変えると、アリアが目を見開いて動揺している一瞬のうちに延びていき、全身に絡み付いて来たのだ

 

「ぐっ!? っ……がっ……!! ぎっ!? ぐぁっ……ぐああぁぁっっ……!!」

 

 絡み付いて来た触手は録に抵抗も出来ぬアリアを強固に拘束すると怪我でボロボロの皮膚を薄く突き破り、何らかの薬剤を次々と注入する。視界が黒一色で録に見ることも叶わぬ中、感覚だけでそれを感じていたアリアは薬剤が注入された瞬間、あまりの苦痛と不快感に悲鳴をあげた

 

「や……めろぉ……! オレさまがっ……!! あ……ぐ……」

 

 自分の中に激痛と共に何かが注入される度に身体の奥から自分が変えられる。少しずつ少しずつ元の自分が強制的に変えられていく。そんな異様な感覚にアリアは録に動かない身体を必死に動かして抵抗する。が、そうしてる間にも次々とアリアの身体に液体は注入されていき……やがて激しい苦痛と不快感でショートするようにアリアの意識は少しずつ薄れていき、悲鳴の声すら弱々しくなっていく。伸ばしていた指もゆっくりと垂れ下がり始めた

 

『くっ……ククク……気が変わった……俺様が少し力を貸してやろうじゃないか……』

 

「……だ……れだ…………?」

 

 と、その時だった消えそうになる意識の中、確かにアリアに向かって何者かの声がかけられたのだ。

 

『俺様が何者なんてどうでもいい……お前が望むものに到達する力をくれてやろうって言うんだ。悪い話じゃないだろう?』

 

 

 頭の中に響くような、その声は聞いたことが無い男の声……の、筈ではあるのだが妙に何処か馴染みがあるように苦痛で薄れるアリアの中に毒のように身体の奥底へ、魂へと染み込んでいく

 

『これで精々、好きに暴れまわれ……この世界の「□□」よ』

 

 

「う……あ……う…………」

 

 

 最後の言葉はアリアには良く聞き取る事が出来ない。だがしかし嘲笑ってるようにも暖かくも聞こえる謎の声と、アリア頭の中に流れ込んでくる一つの武器の設計図がアリアに一つの事を確信させた

 

「(勝てる……これならばブリュンヒルデも篠ノ之博士も相手じゃねぇ……! 俺様が……俺様こそが最強に……!)」

 

 アリアが抱いた、そんなどす黒い想いに呼応するようにアリアを包む黒い液体は身体に浸透していき……

 

 

 まさにこの瞬間、苛烈で横暴な言動が目立ちながらも己の信じる正義を持っていた『アリア』は死に、ただ己の野望の為に全てを利用し踏みにじり蹂躙する『ベリアル』へと成り果ててしまったのだ

 

 

 二度とは戻れぬ、悪魔の姿へと

 

 

◼️

 

 

「……未知のウィルスだと?」

 

 今の今までじっと口を閉ざし、ケンが語る過去の話を聞いていた千冬がその言葉を聞いた途端、静かに口を開き、ケンが言った言葉をオウム返しにする

 

「あぁ……先程告げた通り、即死しても可笑しくない事故状況だったのにも関わらずアリアは大怪我を負いながらも生存した。その治療と事故原因を探るために破損した件のIS機体の断片を回収していた際に機体とアリア。……その両者から全く同じ未知のウィルスが検知された」

 

「……それは……! もしや……!」

 

 ケンが語る言葉に箒が目を見開き、驚愕した様子でそうケンに尋ねる。それに続くように一夏達の驚愕の視線も答えを求めるようにケンへと集まっていた

 

 

「あぁ……そうだ。最初からこの話はアリア個人を狙って仕掛けられた罠だ。事故の直後、以来をした政府関係者に探りを入れた結果、判明したよ」

 

 

『!!』

 

 

 

「当時は証拠隠滅が徹底されてた故に我々にも特定する事は出来なかったが……皮肉でしか無いが今回のIS学園襲撃事件で、その正体がハッキリと判明した」

 

 

 その視線に答えるようにケンは慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと一つの結論を述べる

 

 

「過去のアリアの事件、そして今回のIS学園襲撃事件……その裏で暗躍し、全ての元凶は国際テロ組織『レイブラッド』の仕業だ」

 

 

 ケンの話が一区切りを終えた時、会議室に差し込む日の光は幾分か傾き始めていた。



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165話 レイブラッド

 大変、遅れて申し訳ありません。これから隙を見つけて投稿して行きたいと思います。決してエタらせず完結をさせますのでどうかよろしくお願いいたします


「レイ……ブラッド……?」

 

 ケンの告げた言葉に会議室が一瞬にして緊張が走る中、一人、状況が理解できていない様子の一夏はケンが言ったその言葉を繰り返し呟き、首を傾げた

 

「君が知らないのも無理はない。代表候補生のような立場はともかく一般には秘匿扱いされている組織だからな」

 

 そんな一夏をケンは特に非難する様子は無くむしろ『事前に説明すべきだったな』と、軽く謝罪すらしてみせた

 

 

「レイブラッドはね一夏……組織の目的不明、首謀者不明、正確な構成員すらも不明な集団。確認された活動も神出鬼没に世界各地に構成員を名乗る人物が現れては街や施設で破壊活動を行う災害のようなテロリスト集団。……少なくとも僕達はそう説明されてるよ。逆に言えばそれしか知らないってことさえけど……」

 

 その代わりと言うようにシャルロットが口を開き、一度、ケンに『言っても大丈夫ですか?』と確認するように視線を向け無言での肯定が一夏に補足するように説明する

 

「ん? 待てよシャルロット。それって……」

 

 と、その言葉途中、違和感を感じた一夏が思わず片手を出して一端、話を遮ると自身の感じた疑問を呟こうとする

 

「あぁ、そうだ一夏くん。君が感じている通りこの話だけではレイブラッドと言うのは犯罪者達が勝手に名乗ってるだけの存在しない組織……犯罪者の戯れ言の一種のようにも聞こえるだろう。だがしかし……レイブラッドの一人だと名乗ったテロリスト達の中には共通する明確な特徴がいくつかあったのだ。その一つがこれだ」

 

 そこで再びケンが話を変わり、一夏に説明すると再び端末を操作しプロジェクターに映像を映しだす

 

 

 それは人種も年齢すらもバラバラと思える複数の人間の腕や胸、手の甲等、体の一部をファインダーの中心に収めた複数の写真であり、その写真全てに全く同じ形状の刺青で彫られたらしき紋章。あえて例えるならば青色のクワガタ虫のような昆虫の頭部と人間の頭部を継ぎ合わせたような姿をしていたが目の位置がクワガタ虫で言うところの大顎の中央部付近にあり、脳がどこにあるのか判断しにくい奇妙な形をしていた。

 

「……ご覧の通り『レイブラッド』を名乗った物達は全員が体に全く同じ色、形状の刺青が身体の何処かに刻まれていた。それに加えて……だ」

 

 そこまで説明するとケンは再び映像を切り替える。それは各国に現れたレイブラッドを名乗った者達によって破壊された道路にビルや店舗と言った町並み。そして傷付き、倒れる人々を撮らえた数枚の写真だった。が。それは写真のメインでは無い。真にカメラのファインダーが捉えた物は爬虫類や両生類等の生物の姿を模してはいるが何処か異形であり、全身が金属の機械で構成されたロボットであり、それはこの場に集う者達には見間違いがないものであった

 

「……! これって……確かIS学園にもいた……!」

 

「そうだ。これこそがレイブラッドを名乗る者達の共通する最たる特徴。実在、あるいは空想の生物をモチーフとした外見を持つ存在。見ての通りその外見が創作物における妖怪や幻獣、あるいは『怪獣』と呼ばれる存在に酷似した姿から事から我々はこの機体に『モンスターズ』と名付けた。これもまた極秘にされている為にISと直接的にかかわる一部の人間しか知らない事実だがな」

 

「怪獣……モンスターズ……」

 

 

 一夏はケンの言葉を反復するように繰り返す。一夏にとっては初めて聞くはずの単語なのに妙にその言葉こそが最も馴染むように感じる不可解な感覚だった。そうあれの呼び名は決して単なる戦闘ロボットと言った呼び名は合わない。『怪獣(モンスターズ)』こそがあれに最も相応しい。そんな名前だと頭ではなく感覚で感じるような気さえしていた

 

「レイブラッド達はこのモンスターズを脳波でコントロールし自身の手足の様に操る事が出来る。その戦闘能力は現れた個体によってまちまちだが……基本的にはISで十分対処できる程度以上の機体は現在のところ観測されていない。ここまでのデータは今回、学園で観測されたモンスターズ達も違いはない。ここからアリアは間違いなくレイブラッドの一人だと考えられる。……のだが今回のケースは妙な所がある」

 

 と、そこでケンはおもむろに腕を組むと深く思考するように視線をスクリーンに映るモンスターズへと向けた

 

「……レイブラッド達が操る事が出来るモンスターズは当人がどう努力しようが最大三体。それが逮捕したレイブラッドの構成員達から聞き出した確かな筋の情報だ」

 

 

「……何だと?」

 

 その一言を聞いた瞬間、それまで発言する事なく僅かな揺らぎも逃さぬとばかりに集中してケンの話に耳を傾けていた千冬が眉を潜めながら聞き返すとケンは瞳を閉じたまま静かに頷き肯定する

 

「……しかし知っての通り今回の事件で目撃された奴が操っていると思われるモンスターズは二十機以上。……例え常人より遥かに優れた身体能力を持つ彼女だとしても身体に何ら支障なくあの数を操つるのは異常としか言い様が無い。あの手にした未知の装備に何らかの秘密があると考えるべきだが……」

 

 

 そこまで言うと箒や千冬……つまりは一夏を除いたベリアルと交戦したメンバーに向かって視線を投げかけ

 

 

「光が戦闘の最中に送り届けてくれた映像とセンサーで感知した表面的なスペックデータだけでは何分、一撃で大半のISのシールドエネルギーを削り取ってしまう破壊力を秘めた装備と言う事しか分からないのが此方の現状だ。……だからこそ直接、奴と交戦した君達の目線から見て些細な事でも構わない、気付いた言ってみてくれ」

 

『………………』

 

 ケンのその言葉に一同は短い間『答えるべきか否か』と、相談するように顔を向き合わせ、会議室には暫し、しんとした沈黙が流れた。

 

「十分な論も証拠も無いゆえに………これは完全に戦いの中での私の直感になるが……」

 

 と、沈黙が数秒ほど過ぎた後、代表するようにラウラがケンに向かって口を開いた。その時だった

 

 

 

『…………ケンさん、奴のからくりならば解けましたよ』

 

 

 突如、レイブラッドに関する資料映像がテレビ通話映像へと切り替わり、腕には点滴の管だらけ全身はミイラの如く包帯にまみれ左目も眼帯で塞がり、立つことも不可能なのかベッドで寝転がった状態のままながらも力強くそう宣言する光の姿が映し出されたのだった



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166話 絶望

 大分遅れてすいません。生きております。


 

「光!? 意識が戻ったのか!? ……いや……ダメだ! 君はまだICUで絶対安静の筈だぞ! 会議に参加するより今は治療に専念するんだ!」

 

 突如、映し出された光の姿にケンは一瞬、驚愕したように絶句したが直ぐに眉をひそめると光の行動を咎め、毅然としながらも反論を許さぬ強い口調でそう命じた。

 

『いえ……それでも、これだけは……何としても伝えなくては……っ……!』

 

 が、画面に映る光はケンの言葉にも全く怯まず片目ながらも鋭く睨み付けるようにケンを見て言葉を返そうとするが傷が痛むのか話している途中で言葉を詰まらせ、苦しげに顔をしかめる

 

『何度も止めたのですが頑として譲ってはくれなくて……彼女の強い信念は美点なのですが今回ばかりは……』

 

 

 と、その途端、ベッドに横たわる光が映る画面に新たな声と共に白衣を着たマリの姿が映り、光の行動に納得出来ないと言うのが言わずとも分かる難しげな表情をしながら光の腕に薬品が入った注射を打つ

 

 

『はぁ……はぁ……自分が……いかに無茶な行動をして回りに心配をかけているのか理解しています。ですが……それでも……たとえこんな身体とは言え、私も慎吾を救いたいのです』

 

「光……お前は……!」

 

 

「……君が、そこまでして火急に伝えるべきだと判断した情報を聞かせてくれ」

 

 薬が効いているのか光は顔色は依然として青ざめているものの、数度、ゆっくり呼吸を繰り返すと落ち着きを取り戻し、迷いのない口調でそう自らの決意を語る。深く傷付いても尚、揺るがないその覚悟を前に、箒は光の身体を案じて放とうとしていた制止の言葉をそれが彼女への無礼にあたると判断し、苦渋の表情で無理矢理飲み込み。彼女の人となりを理解していたケンは深くため息を吐き出しながらも、仕方ないと言うように言葉の続きを促す

 

『ありがとうございます。……奴の持ってる装備についての詳細ですが、まずはこれを。……偶発的にヒカリのハイパーセンサーでスキャン出来た物ですが……』

 

 ケンから許しが降りたのを確認すると光は器用に片手で小さな機器を操作すると空中ディスプレイに一つの映像をケンや一夏達に見えるように角度を調整しながら投影し、それを見た瞬間、千冬が小さく息を付きながら呟く

 

「……これは」

 

 映像はアリーナで光が自爆覚悟でウルトラダイナマイトを放った直後の映像だった。ヒカリの破損が大きいせいか映像には絶え間なくノイズが走るものの、しっかりと崩れ落ちたアリーナの残骸と、燻る炎の中で尚も平然と佇むベリアルの姿を捉えていた

 

『注目して欲しい箇所はここ、画面の端のベリアルのシールドエネルギー残量です。……あの時、私はウルトラダイナマイトを放っても尚、奴に細工で押し負け、ダメージを与えられてないのだと判断しましたが……』

 

 ケンや千冬がいるからか何時もより畏まった口調の光の指示の元、一同がベリアルのシールドエネルギーに注目する。連戦の影響かはたまた光の奮闘の成果かその両方か、バトルナイザーを高速回転させて防御していたのにも関わらず、シールドエネルギーは満タンの状態から半分を切りある程度の消耗が見られていた。が、次の瞬間だった。

 

「なっ……!? 光さん……これは……!?」

 

 ベリアルが手にするバトルナイザーが一瞬、発光したかと思った瞬間、失われた筈のシールドエネルギーはコップにホースに水を注ぐような勢いで急速に回復し、瞬き程の僅かな時間で傷一つ無い満タンの状態へと変化してしまったのだ。冗談のようなその光景に一夏は思わず声に出して驚愕した

 

「これは……これじゃあアイツ……タイラントにそっくりじゃあないか!!」

 

 そう、一夏の脳裏に甦るのはかつて慎吾や仲間達と協力してどうにか撃破する事に成功した暴走IS『タイラント』。敵ISの正体は未だに掴めないがそれならば楯無やラウラ、セシリアと言ったメンバーを相手取るのも理解できる。そう一夏は判断した。の、だが……

 

 

『俺も分析当初はそう思った。何らかの装備を用いて……シールドエネルギーを急速に回復させてまるで不死身のごとき耐久性を見せつけているのだろう……とね。だが一夏君、実際は更に悪質な物でな……今、見せよう』

 

 

 光はその言葉に静かに首を降って動かすと、途端に元より負傷で悪かった顔色が更に悪くなった気がした

 

「光さん? 一体どうし……」

 

 その様子が気になった一夏は光を案じて尋ねようとし

 

「…………っ!!」

 

「ちょっ!? 嘘でしょ……!?」

 

 ディスプレイに写し出された目を疑うような映像に思わず絶句して次の言葉は衝撃と動揺に瞬時に飲まれ喉からは掠れたような声しか出てこず、それはラウラやシャルロットと言った代表候補生達も同じだったらしく鈴がいつもの勝ち気な態度からは考えられないような小さな声を出すのが精一杯であり、千冬とケンの二人でさえ表だった態度にこ出さないが共に眉間に皺を寄せ、画面を凝視している

 

『……このような数値が出ている理由はベリアルが手にしたバトルナイザー。そこに量子変換によって収容されている複数……いえ、数値からして無数と言うべきモンスターズの影響で間違いないでしょう』

 

 そんな中、出来るだけ平静を保とうとしているのか光が平坦な口調で話を続ける。しかし、やはりと言うべきかその額には身体に負った傷とは別の理由からなる汗が滲み出ていた

 

『モンスターズはISには質こそ劣りますが全ての機体がシールドエネルギーを持っている事が資料で確認されています。それを装備しているバトルナイザーを経由してベリアルへと流れ込み、この数値が出ていると仮定すれば……』

 

 

『……約100体のモンスターズが収容していると仮定すればベリアルが第二世代型のラファール・リヴァイヴと比較して約百倍近いシールドエネルギーを持つ理由が説明出来ます。……最も個人的には奴と自分自身で戦闘してなければ数値の誤差だと考えたいですが……』

 

 そう、画面に表示されていたのはハイパーセンサーで光が読み取ったベリアルのシールドエネルギーの総量の予測。そのあまりにも理不尽としか言えない数値、しかし交戦したメンバーは誰もがそれが決してセンサーの故障や誤差などとは断じて違う事を確信として心で理解し

 

『このシールドエネルギーを削りきる方法を編み出さねばベリアルに勝利する術は無い』

 

 と言う、子供にでも分かるほど単純、しかしながら絶望しか感じない事実に言葉が出てこなかった

 

 

「う……ぐ…………あ……」

 

 海風が頬を打ち付ける感覚を感じ慎吾は、ようやく意識を取り戻し目を開ける。その途端、身体全身にずきりとした鈍い痛みが纏わりつくように襲いかかり、慎吾は思わず苦悶の声をあげる。

 

「こ、ここは……」

 

 実に目覚めの悪い夢から覚めた、慎吾の視界に広がったのは今にも降りだしそうな鈍色の空とあちこちが一目で廃船と分かる程、錆に覆われ、その錆をなぎ払うように刻まれた鋭い傷跡が刻まれただらけの飛行甲板だった。

 

「空母……か……?」

 

 全身の打撲のせいか慎吾は呼吸する度に鈍い痛みを感じたがそれを押さえ、更に目を凝らせば甲板の向こうには濁った海と水平線が見えたものの、現状を確認しようとする。が

 

 がちゃり

 

「……やはり私を、そのままにはしておかないか。例えゾフィーの損傷が甚大でも……」

 

 そこで漸く、自身が死刑囚の如く両手両足が拘束された上で鉄筋等の廃材を組み合わせて作られた十字架に貼り付けにされている事に気が付いた。念の為に少しばかり動かせる首で手首にブレスレット型の待機状態に移行しているゾフィーに目を通し、一応展開しようと試みてみたものの、想像通りゾフィーを展開して纏う事は出来ず慎吾は大きく溜め息をついた

 

 ベリアルとの戦闘により受けたダメージにより慎吾、ゾフィーは共に全体に深刻なダメージを負い戦闘困難の状態だ。が、幸いか否か慎吾には全く記憶の損傷は無く、アリーナ上空の戦いでベリアルに大地に叩き付けられ胸部装甲を踏み抜かれた所までしっかりと記憶していた

 

「くっ……! う……! すまない……皆……!!」

 

 当然、信頼出来る仲間、そして『妹達』と共に持てる力を知恵を作を全て出し切っても尚、敗北したと言う無念もだ

 

「私は……私はどうすれば……いいんだ……?」

 

 その事実が今まで数多くの困難に対面しても尚、冷静を努める事を意識していた慎吾の心を折れそうにならんばかりに揺さぶり、思わず慎吾は心のまま不安げに呟く

 

 慎吾の呟きに答えるものは誰もおらず、ただ海風と波の音だけが傷付いた慎吾の心に空しく響くだけだった



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167話 一夏の決意

 どうにか投稿できました。これからも自分のペースで確実に最終話に向けて投稿していきたいと思います


 

「……っ! だったら……! だったら俺が!」

 

 何度目かも分からぬ重い空気に室内が包まれた瞬間、今の今まで受けの体制で話を聞いていた一夏が堪えきれないと言うように立ち上がると、その勢いのまま両の手のひらで机を叩くと一気に言葉を続ける

 

「だったら俺と白式でベリアルの膨大なシールドエネルギーを全部削り取ってやる! 例えどれだけシールドエネルギーの量が多くても零落白夜なら関係ねぇ!」

 

 そう宣言すると一夏は光、続いてケン、最後に千冬へと順番に視線を向ける

 

『……確かに、単純だが理屈では確かにそうだ。俺も打倒ベリアルには一夏君。つまりは白式と零落白夜が必須だと考えている』

 

「じゃあなんで……っ!」

 

「お、落ち着いて一夏!」

 

 てっきり否定の言葉が来るものだと思っていた矢先に思いがけず自身の話を肯定してきた光の言葉に一夏は思わず身を乗り出して食らい付き慌ててシャルロットに静止された

 

『その答えは単純だ。俺は、あのタイラントをも撃破した君の実力を決して見くびる訳ではないが……』

 

 

 が、それでも光の態度は変わらない。が、顔の大部分に包帯が巻かれた顔で一旦、息を吸い込んで呼吸を整えると静かに口を開き

 

『その上で聞くぞ? 君は自信を持って自分がベリアルと戦って勝てると言えるか?』

 

 

「…………! そ、それ……はっ……」

 

 

 本来ならば一夏は長所であり短所でもある真っ直ぐさで、慎吾を救うべく『勿論だ』と迷わず答えていただろう。だがしかし、一夏にもベリアルが引き起こした『学園在籍の代表候補生達と教職員を薙ぎ倒し単騎でのIS学園制圧』と言う余りにも荒唐無稽。理解の範疇を超えた惨状の凄まじさを嫌と言うほど理解できた。その強さを理解していた箒やラウラ、楯無、更には慎吾までもが誰一人ベリアルに有効打を与えられず敗北して大損害を負い、今現在、戦闘が可能なのは一夏、ラウラ、シャルロット、箒のみだ。その上に相手はモンスターズと言う機械兵士100近く存在しており人数的にも圧倒的不利。がその残酷な事実が一夏の心を迷

わせる

 

『どうなんだ一夏君。君の答えを聞かせてくれ。……安心しろ。どんな答えであれ俺はそれを否定したりはしない』

 

 そんな一夏の心境の変化を画面越しからでも感じ取ったのか光が畳み掛けるように話しかける。それは少々強引にこそ見えたが口調そのものは柔らかく、一夏をベリアルとの戦闘と言うあまりにも危険な行為から暗に『逃げろ』と引き留めているようにも一夏には感じれていた

 

「(光さんでも、そうするくらい相手はヤバいって事かよ………どんだけ強いんだよベリアルは……!)」

 

 先程、光自らが話題に出したタイラントとの戦いでも光自身がタイラントの凄まじさを身を持って理解してこそ、光は決して戦う前から仲間達に逃走を進めたりはしなかった。だからこそベリアルと言う存在がいかに絶望的に強い相手なのかを理解させられる。が

 

 

「……それでも……それでもっ! 慎吾さんを見捨てるなんて訳には行かない!」

 

 

 それでも尚、一夏は呼吸を整え、迷わず力一杯そう吠える

 

 

「確かに戦っても俺に勝ち目は無いかも知れねえ! でも……っ!

ここで慎吾さんを見捨てて逃げるなんて事をしたら絶対に一生後悔する!! だから俺は絶対に諦めねえ! 白式でベリアルを倒してやる!!」

 

 一夏は次々と感情に身を任せて言葉を放ち、会議室にいる全員に、そして画面の向こうでベッドに横たわったままの光に向けて言葉を告げる。それはさながら癇癪を起こした子供の主張のように無茶苦茶にも見えたが、飾らず心の底から放たれた言葉だと聞いた誰もが理解できていた

 

「……さて、どうします織斑先生? 経験談ですが、こんな目をして主張をするような子は、私達大人がいかなる手段を取って説得しようが揺るがないと思いますが?」

 

 そんな一夏を見ると、今まで黙って会話を聞いていたケンが口を開き、千冬へと問い掛ける。その表情に浮かぶのは苦笑のような笑顔。しかし、それは何処か一夏の決意を優しく受け止め、高く評価しているような暖かさが込められていた

 

「……私に確認を求めなくとも既に結論は出ているのでは? ……こいつはこうなっては私が殴った所で止まらぬでしょう」

 

 対する千冬もまた呆れた顔こそしていたが、その目は教師から弟の成長を見守る『姉』の暖かい目に変わおり、一夏の決意を否定するつもりは無い事が読み取れた

 

『ふ、ふふ……やはりか。君が引くことは無いことは分かっていたよ。……その上で、俺から一言、君達の先輩だとか78社の研究員としての立場を一旦置いて、一言だけ言わせてくれ』

 

 そして光もまた一夏の言葉を笑って受け入れると、表情を若干変え、じっと画面の向こうから一夏へと視線を向け

 

『……織斑一夏君。こんな絶望的な状況の中でも俺の親友を迷わず救おうとしてくれてありがとう。慎吾が君を高く評価していた理由が改めてよく理解できたよ』

 

 そう告げると傷を負った体が痛むのも構わず短く一礼すると丁寧に一夏に礼を言った

 

「光さん……」

 

『さぁ、話はここまでだ。方針が決まったのならば早速、対ベリアルの対策を─』

 

 そんな光に思うところがあったのか一夏が話しかけようとしたものの光はそれを遮るように話を反らそうとした、まさにその時だ

 

 

「あぁ、確かに見事な言葉だった。君の揺るぎ無い覚悟が感じられたぞ。元から助力はするつもりだったが、より決意させられた」

 

 突如、会議室に明瞭な、しかし年季を感じさせる低く落ち着いた声が響いた

 

「(え、この声って……?)」

 

 その声を聞いて一夏に一つの記憶が甦る。自分がこの声を聞くのは初めてじゃあない。確か以前、五反田食堂で……

 

「こうして再び巡りあったのも一つの縁だ。この私も君達に助力するとしよう」

 

 会議室に入ってきた老人。かつて慎吾と光に『万能の超人』とまで言わせた人物。キング老士が特徴的な長い顎髭を揺らし、一夏を見つめながらそう告げていた



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168話 作戦決行 序

 ここから本格的にクライマックスに向けて進んで行こうと思います


 

「……お? あいつらが動きやがったか……待ったかいがあるってもんだ」

 

 自身が示した期限の時刻が近づく最中、何度目かも分からぬ追討軍を余裕たっぷり、何なら鼻歌まで歌いながらバトルナイザーを振るって撃破し、かつてアリアと呼ばれた女性、ベリアルは自身と同じ名前の機体センサーに数機のIS。即ち学園で自身が交戦した代表候補生達の姿が写し出されたのに気付くと少しだけ嬉しそうに呟く。

 

 無論、その誰もベリアルにとっては有象無象にしか感じない程度の戦力だったが顔も覚える価値も無い雑魚とは一線を越す、少なくとも『暇潰しにはなるか』と感じる程度の力は持っている。と、ベリアルは判断していた。

 

 端から見ればそんなベリアルの思考は至極、自分勝手で自惚れた考えに見えた。

 

「いい加減、軍との遊びにも飽きてた所だ。こいつらを完膚なきに叩き潰せばいい加減にブリュンヒルデも『自分が出るしかない』!……って俺様に挑んで来るか・も・な……」

 

 そう呟くとベリアルは無造作に倒れて起き上がれぬ兵士を呑気に鼻唄を歌いながら蹴りとばす

 

「う……ぐ……」

 

 ベリアルに蹴り飛ばされた兵士は短い悲鳴を上げるが起き上がれる程の体力は既に残ってごろりごろりと積まれた山を転がり落ちて行く。

 

 そう、その積まれた山、その全てがベリアルに挑み破れた各国のIS

 

「じゃねーと……マジで全世界のIS操縦者が絶滅するぜ?」

 

 そう言うとベリアルは頭部のアーマーを解除し、長い黒髪を伸ばし素顔を晒す。その顔こそ非情に整っており切れ長な目はワイルドさを醸し出してはいたが、そこに浮かぶ表情は野獣すら上回る程にあまりにも獰猛であり、見る者に無意識に本能に危機を感じさせる。

 

「さぁ、まずは腕試しだ。簡単にやられるんじゃねーぞ?」

 

 夕焼けで真っ赤に染まる空の下、無数に倒れた人間達の前でギガバトルナイザーを天に掲げて悠然と笑うその姿はベリアルの名前の通り、正しく悪魔そのもののように見えた

 

 

「目標地点まで後、200km! 向こうは……動いていない! じっとしているよ!」

 

 夕日で赤く染まる空を飛びながらセンサーでベリアルの様子を観察し、仲間達に告げるのはシャルロット。彼女は列の中央付近に位置取り、センサーによる索敵を担当していた

 

「……我々が近付いている事にはとっくに気が付いている筈だ。なのにも関わらず動かないと言うことは……」

 

「その場にいながらも行える何かしらの対抗手段があるか……あるいは私達を大したことが無いと見くびっているのか……どちらにしろ舐められたものだな」

 

 その少し先、列の先頭を切って飛翔するのはラウラがシャルロットの言葉を聞いてそう呟き、殿を勤める眉を釣り上げて更に険しい顔をしながや箒も続けた

 

「だとしても……確実に一撃決めてやる。俺と白式で……!」

 

 そして列の中央に位置するのは一夏。彼が駆ける白式からはコードが4本伸びており、ベリアルと交戦しても尚、比較的損傷の低かった三人が前線に出る形で今回の作戦の鍵となる白式を奇襲から守り、また夏に起きた銀の福音との経験から単純に最悪に燃費が悪い白式の移動によるシールドエネルギーの消耗を押さえていた

 

「……いや待って! ベリアルがいる方角からこっちに複数の反応が近付いて来ている! これは……ISじゃない!」

 

 と、そんな中、センサーを睨んでいたシャルロットが反応に気付いて全員に警戒を促す

 

「……ってなると……!!」

 

 一夏がそう言って自分達が進む方向。その彼方を見つめた時だった

 

『───────!!』

 

 簡易的な機械音声を響かせ、尻尾やら角が生え人型とは大きく異なる姿をした自動戦闘機械『モンスターズ』がその姿を表した。その姿は一体、また一体と増えていき、あっと言う間に30体程のモンスターズが一夏達の進行方向に立ち塞がる

 

「……ぐ……気を付けろ……。まだ計画のうちとは言え……いらぬダメージを追わないように……」

 

 そんな三人に今にも消えそうな掠れた声で警告を送るのは白式を牽引する四本のケーブルの最後の持ち主。作戦会議から病床から無理に無理を重ね、かなり強引に自身のISを修復して前線へと立つ光だった。ヒカリのアーヴギアはベリアルとの戦いの損傷が酷すぎて修理が追い付かず、どうにかナイトブレスが動作可能程度でヒカリは頭部装甲はゾフィー同様の仮面にも似た通常装甲に覆われていた

 

「分かっている。 私達のやることは……!」

 

「最低限、目の前の敵だけを倒す……!」

 

 光の言葉に答えるようにラウラとシャルロットが一切速度を落とさないまま、銃口を迫り来るモンスターズに向けると同時に発射する

 

『─────!!』

 

 その瞬間、直撃を受けた数機のモンスターズが僅かに体勢が崩れ、密集していようといた集団に僅かに隙間を作る

 

「今だっ!!」

 

 その瞬間、ラウラの合図と共に二人が銃撃を続けて僅かな隙間を閉じないようしながら、四人は一斉にモンスターズの集団に向かって最高速度で突撃した

 

「一夏! 分かってるな!? 事前に決めた通りモンスターズと戦うのは身を守る最低限に留めろ!!」

 

 目の前に迫り、襲い掛かってきたサボテンのような姿のモンスターズを一閃で切り捨てながら箒は牽制するように一夏に告げる。

 

 先制攻撃が成功した事が幸いしたのか、モンスターズ達の動きはシャルロットとラウラの射撃からの近接攻撃に翻弄されて鈍く、突っ込んでくる4人を殆ど対応しきれず蹴散らされ、危ういながらもどうにか道は途絶えることなく事、形成され続けていた。

 

「あぁ……分かってる。分かってる……! でもな……!」

 

 箒の言葉に一夏は反論する事は無く、両手を下ろしたまま黙って牽引される形で進んでいく。が、その言葉と裏腹にその表情は仲間達が懸命に戦っているのにも関わらず自分が守られている現状が心底から納得出来るものでは無いようで悔しそうに歯噛みをしていた。

 

 と、その時だ

 

『──────』

 

 

 三人の攻撃で怯んでいたモンスターズの一部が復帰して体勢を立て直し、依然前方の敵を蹴散らしながら驀進し続ける三人を背後から数機のモンスターズが狙いを付けて攻撃体勢に移り

 

 その瞬間、五人を守るように空中に『5つ』の閃光が走った

 

 

「おやおや、あいつら思ったより頑張ってるようじゃあないか。だが……いつまでもつかな……? フ、フフフ……」

 

 その頃、ベリアルは朽ち果て無造作に転がっていた廃船のマストの上にベンチのように腰掛け、モンスターズから送られ自身の機体へと投影される多勢に無勢の状況でありながらモンスターズと激闘を繰り広げるラウラや箒達の映像を自宅のようにリラックスした様子で観戦してた。 

 

 一応、奇襲を受けている立場でありながらそこには全くと言っていい程に焦りは無く。事実、ベリアルは例えメンバー全員が損害を最小に押さえて自身の元へとたどり着こうが、どんな戦略を隠していようが正面からねじ伏せる事が出来る絶対的自信があったのだ。

 

 と、そんな時だった

 

『────()()()久しぶりだな』

 

「…………っ!! あんたは……っっ!!」

 

 ベリアルの元に、彼女が生涯を通じて忘れぬ人物の一人、かつてケンと共に武術を教わった師範とも言える人物。

 

 伝説の超人と呼ばれた男、キングからの通信が入ったのは

 

 



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169話 幕間 彼等の視点

 今回は少し視点が変わる幕間。軽い種明かしと……です


 最初に彼がそれに気付いたのは牢獄に捕らわれ、いよいよ怒りより飽きが上回り始めた日の事だった。

 

「あん…………?」

 

 拘束されほぼ首しか動かせぬ自身の視線の先、特に意味もなく暇潰しに見ていた単なる無機質な壁があるだけの筈の空間。そこが突如として歪んだかと思えばそこに悶えて苦しむ一人の地球人の姿がディスプレイ画面のように映し出されたのだ

 

「なんだこれは? あいつらの仕業……じゃあねぇだろうな……」

 

 彼、かつてウルトラマンでありながら力に惹かれて悪の道を選び、光の国に反旗を翻したベリアルは訝しげにそう呟きながらも他にやることも無いので、見え始めた映像に視線を向け続ける。

 

 意識して聞いてみれば直ぐに、そこにいる人間の口走る事が地球の事にしては全く聞き覚えの無いことあまりにもそこに映る人間の姿が激しく苦しんであげき、今にも死にそうな程に衰弱していたのでこの映像が自らをここに閉じ込めた『地球人にお優しい』連中が見せている物ではない事を理解した。

 

「……ふん、放っておいても直ぐに死ぬなありゃあ」

 

 映像に映る地球人、過酷かつ非情な状況に苦しむ若い女性に触手の如く蠢きながら黒い物質が襲い掛かる姿を、何とも思わぬ様子でベリアルは見ていた。例え出来たとしても端から助けるつもり等は無い。彼は多くの同胞とは異なり、地球人に特たる興味を持ってはいなかったのだ。が

 

『や……めろぉ……! オレさまがっ……!! あ……ぐ……』

 

「………………!」

 

 呻く女性のその一言を聞いた瞬間、ベリアルは身体をぴくりと動かして反応する。その瞬間に気が付いたのだ。その声の調子、苦悶の様子。そして何より状況そのものが自身の過去

 

 光の国を追放されてレイブラッド星人に力を与えられた状況と性別以外は『まるで同一人物』と言うレベル酷似している事に

 

「く、クハハハハ……!! こいつは面白いじゃねぇか……! どうやら……思っていたより楽しみがいのある暇潰しなりなりそうだ……!」

 

 

 ベリアルは身体を動かせぬ状況なのにも関わらず、声を上げて笑った。これが例え自分を利用しようとしている物の仕業だとしても関係は無い。どうせいつ出れるとも分からぬ投獄中の身だ。面白い見世物を見せられたからには駄賃を払ってやろう。そう決めるが否やベリアルは直ぐに行動に移す

 

『くっ……ククク……気が変わった……』

 

 謎の空間の歪みから見える女性に向かってベリアルはテレパシーを送る。今の身体は拘束されて指一本動かすことは出来ない。しかし、こうして相手の姿がはっきり見えるほど近く、精神防御の方法などは知らない生物に対して念話のような形でメッセージを送るのはそう難しい事では無かった。だからこそベリアルは全く落ち着いて……『この状況に陥った自分なら』求めるであろう力を、自身が使用した中で理解したギガバトルナイザーの仕組みや作りを知識とし人間に送る

 

『これで精々、好きに暴れまわれ……この世界の【俺様】よ』

 

 最後にベリアルがそう告げた瞬間、空間の歪みは圧縮されたように急速に縮こまって小さくなり……やがて溶けるように消えてなくなり後には数分前と変わらぬ殺風景な風景が帰ってきていた

 

「……ク、ククク……さぁて……アイツはどう暴れるかな……?」

 

 歪みが消えた後もベリアルは含み笑いを続ける。この瞬間、捕らわれた事への怒りや退屈は既に吹き飛んでいた。自分が知識を与えたあの人間が、直感的に理解した並行世界の自分とも言うべき存在が、どう暴れるのか、世界を目茶苦茶にするのか? ベリアルはただその事を考えて笑っていたのだ

 

 

 これによりある程度、冷静さを取り戻したベリアルがザラブ星人の手を借りる形になりながらも脱獄せしめるのは暫く後の話であった

 

「……正体不明の空間の歪み? 発生場所は一体どこだ?」

 

 M78星雲、光の国、宇宙警備隊。そこにある自らのオフィスで部下から報告を受けてゾフィーは改めてその報告を見直す。空間の歪みが起こる。と、言う事そのものは差程、おかしな事では無い。だが、しかし、ゾフィーの長年の戦闘で培った直感はこれがそうではない。と、言う事を告げていた。

 

「この数値は……別の事件で見られた物と部分的だが酷似しているな。……だが、これは……」

 

 事実、胸騒ぎのまま報告にあった資料をゾフィーが調べていると、今回の一件で観測されたデータが過去の事件と一致していた。事に気付き、ゾフィーは思わず作業のために動いていた手を止め、まじまじとデータを見返す。それはゾフィーにとっては自分が大きく関わった以外の理由でも決して忘れられない事件であり、並行世界の『自分』と出会った忘れられぬ一件

 

「……彼との……『慎吾』との一件か……」

 

 自身がかつて纏めた資料を見返しながら口に出してゾフィーはその名を口にする。

 

 ゾフィーがヤプールが大谷慎吾と言う地球人の少年と出会った時間はごく短く、時間にすれば1日も無いだろう。だが、その時間はゾフィーにとってはもう一人の自分と話しているような掛け替えの無い時間であった。だからこそ、ゾフィーは自分達の世界と一時的とは言え交わった事で変わってしまう彼の今後を案じ……無理言って最悪の状況を覆せるような『とっておき』を渡したのだが。

 

「……この一件にはまたヤプールが関わっているのか? しかし、ヤプールの復活はエースが監視を続けているんだ、エースが復活を見落として私が先に発見するとは少し考えづらい。と、なるとこれはあの事件の余波と考えるのが自然か……と」

 

 と、そこまで思考していた所で機器で解析途中だった空間の歪みが発生した詳細な場所の図が表示され

 

「場所は……ベリアルの監獄だと!?」 

 

 その文字が表示された瞬間、ゾフィーは思わず声を荒げて驚愕する。先程までゾフィーの中でも直感としてでしか感じる事が出来なった慎吾に起こりうる不吉な予感はベリアルの名前を見た瞬間、確信へと変わっていた

 

 

「間違いなく慎吾に恐るべき危機が起こる……! いや、もうすでに起きているのかもしれない……! くっ……慎吾……!」

 

 慎吾の身を案じ、ゾフィーは出来ることならば直ぐにでも光の国を発って『責任はこちらにもある』として直ぐにでも彼助けに向かうか、最低でも警告を送りたかった。しかし互いの世界があまりにも離れすぎている上に繋がりさえ事件から時間が過ぎた影響で今にも切れそうな程に細く、テレパシーのような念話すら届く可能性は低い。つまりは、いくらゾフィー言えども『あの地球』に暮らす慎吾へ支援を送るのは無謀と言うより不可能に近い事であった

 

「信じるしか……無いのか……まだ少年でしか無い慎吾を……。彼が語っていた……兄妹のような仲間達を……」

 

 だからこそ心中に押さえきれぬ気持ちこそあれどゾフィーはその場を動く事が出来ず、悔しげに歯噛みする事しか出来なかった

 

「慎吾……どうか無事でいてくれ……」

 

 慎吾の無事を祈りながら呟いたゾフィーの言葉は緊張で張りつめたオフィス内に静かに響いていった



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170話 運命の因果

 

 

『最後に話したのは……あの実験の前日か。お前には本当に私は期待していたのだがな……そうなった事は実に残念だ』

 

「……何の用だジイさん。態々、昔話したい為にこんな状況で俺様に通信した訳じゃねーだろ」

 

 突然、キングから送られて来た通信にベリアルは無愛想にそう返事を返すと素早く迎撃に出たモンスターズ達への指示は最低限に押さえつつ、自身の周囲に集中してセンサーを巡らせ丹念に索敵する

 

 誰もが叶わぬような圧倒的な力、IS『ベリアル』を手にした事で既にベリアルは自分こそが最強の存在だと確信していた。が、それでも尚、決してキングに、超人と表されるその存在に対して警戒を怠ると言う愚策は端から考えていなかったのだ

 

『……最後の警告だアリア。慎吾を解放して軍に投降しろ。今、投降するなら命の無事と最低限の自由は私が便宜しよう』

 

「…………フン。こんな状況だぞ? 本気で言っているのか? ジジイ」

 

 警戒している最中、キングからそんな言葉を告げられるとベリアルはわざとらしく鼻を鳴らし、心底呆れたようにそうキングへと告げた

 

「もう俺様は何があろうが止まらねぇぞ……。織斑千冬……ブリュンヒルデが現れるまで世界中のIS操縦者はプロアマ問わず、俺様に挑んだ挑まない関係無しにぶちのめして。その上でのこのこ現れた全力のブリュンヒルデを俺様が世界が見る前で捻り潰して、散々ブリュンヒルデを持ち上げていた篠ノ之束のプライドを叩き潰す。それが……俺様を舐めた報いだ!」

 

『俺様を舐めた報い……か。昔の君ならば手段や口調は乱暴でも確かに世界の人々の事を考えていたのだがな。……残念だ。アリア……いやベリアル』

 

 殆ど狂気に取り付かれたかのようなベリアルの発言にキングは通話口の向こうで深く、心底悲しそうにため息を吐く、数秒前までしっかりと彼女の真の名前であるアリアと呼んでいたのが『ベリアル』へと変わったのがキングからの決別の意志であると言うのがベリアルにも良く理解できた

 

「それでどうするつもりだジジイ。俺様とやり合うつもりか? まさか男で、しかも100歳を過ぎたくたばり損ないのお前が前線に出てやり合うつもりか?」

 

 そんなキングにあくまでベリアルは高圧的な態度を崩さぬまま、そう挑発して見せる

 

 そう、確かにベリアルはキングの超人としか言い様の無い力は身を持って理解していた。だがしかし、いくらベリアルのセンサーで調べても周囲数キロ以内には自身と人質に取った慎吾以外の人間やISの反応は無く、例えスナイパーライフルで狙撃しようが自身が駆るベリアルならばその場を動かずに対処できる自信があり、こうしてこの場、通信越しの会話の最中にキングに搦手はあれど自分を即座に行動不能にする手段は無い。そう、ベリアルは結論を立てていたのだ

 

 

『そうか……あくまで悔いるつもりは無いと言うのだなベリアルよ』

 

 ベリアルの返事を聞くとキングは最後通告のようにそう言い

 

『ならば、罪の報いを受けるがいい』

 

 次の瞬間、情けを捨てたような口調でそうベリアルに告げた瞬間、それが合図のようにベリアルの頭上に広がる夕焼けの空が雲すら殆ど無いのにも関わらず、雷が鳴るような不気味な唸りを上げる

 

「!!」

  

 

 ベリアルが素早く頭上を見上げれば、夕焼け空に浮かぶ宵の明星に並んでもう一つ、明るく輝く星がいつの間にか現れ、それがベリアルに向かって急速に降下し始めていた

 

「ふん……衛星軌道砲か……こんなものを仕掛けてたのは驚いたが……甘い!」

 

 ベリアルは上空から突然の攻撃の予兆に仮面の裏で一瞬、動揺したが直ぐにそれをせせら笑うと、すかさず瞬時加速を使用して一気に衛星軌道砲の範囲内から離れようと試みる。が

 

「う……お……っ……!? こいつは……!?」

 

 ベリアルが瞬時加速をしようとしたまさにその瞬間、事前に予知していたかのようなタイミングでレーザーで構成された光のネットが突如、空中からオーロラのように飛来すると、瞬きする程の短い時間で投網のようにベリアルに纏わり付くとその動きを拘束する。その瞬間、ベリアルの脳裏に甦って来たのはかつての記憶。

 

 そう、この光の網、キャプチャーネットをケンの案に乗る形で開発したのは他でもないアリアだった頃の自分に違いなかった

 

「チッ……! 衛星砲は2発撃ってたって事か! だがこんなものギガバトルナイザーで……!」

 

 舌打ちしながらも、すかさずベリアルは片手でギガバトルナイザーを構えるとロープを切断しようと切断力に優れたベリアルデスサイズを出そうとし

 

「ぐっがああぁぁぁあぁぁぁっ!?」

 

 その瞬間、またもや狙っていたようなタイミングで衛星軌道砲……雷にも似たエネルギー状の光線が避雷針のようにギガバトルナイザーに落ちる形で直撃すると、その衝撃とエネルギーでベリアルを勢いよく吹き飛ばした

 

 

「ハッ……!」

 

 一夏達に迫り来る数体よモンスターズの一体、一本角の竜にも似た一体に向かって一機のUシリーズのISが交差した赤と銀の腕から放たれた青白い光線『スペシウム光線』を放ち直撃した機体を粉々に吹き飛ばし、更にその周辺に集まっていた機体をも巻き添えにしていく

 

「ふっ……!」

 

 更にその近くではもう特に赤い塗装が目立つ一機のUシリーズが頭部に装備されていたブレードを投擲し、それをブーメランのように自在に操りながら目にも止まらぬ早さで次々とモンスターズを切り裂き、撃破していく

 

「はぁぁっ!」

 

「とぉっ!」

 

 それに負けじとばかりに別のUシリーズ二騎はそれぞれ一機はブレスレットを変形させたランスと蹴りで、もう一機は腕部分から発生させたレーザー状のブレードで切り裂きながら、モンスターズ達を蹴散らかしていく

 

 この状況下での惜しみ無いMー78社の誇るUシリーズの大量投入。それだけでも十分に驚愕すべき光景ではあったが、その場の注目を一番集めていたのは

 

「ストリウム……!」

 

 掛け声と共に一機に全身にエネルギーを全身させると逆L字型に組んだ腕から虹色状の光線を解き放ち、瞬時にモンスターズを殲滅していく頭部から伸びた一対の角が特徴的な赤いUシリーズだった。何故ならば纏っていたのが光を覗いたその場の全員の予想を越えた人物だったからだ

 

「なっ…………」

 

「うそでしょ…………?」

 

「このタイミングで……だと……!?」

 

 普段冷静なラウラでさえ一瞬、攻撃の手を止めるほどに動揺し、シャルロットや箒もまた呆然と戦いを繰り広げる一機のISを見上げていた

 

「一夏さん!そして皆さんもご無事ですか!? 遅れてすみません!」

 

 同じくあまりの衝撃に呆ける事しか出来なかった一夏に対し、手に短槍状の武器を手にしながら戦闘を繰り広げながら進撃を促すのは武骨な外見なUシリーズの機体とは大きくかけはなれた幼さが残る『少年』の声

 

「光太郎っ!? お前……光太郎なのか!?」

 

「はい一夏さん、僕です! ケンの子供の光太郎です! この機体は『タロウ』! お父さんとお母さんが作ってくれたUシリーズNo.6のISです!」

 

 そう、一夏の戸惑いが混じった問い掛けに元気よく答えたのは紛れもなく光太郎の声。そう、それはつまり

 

「あなた達の道をは僕達が……僕の駆るタロウを含んだゾフィーの兄弟機のUシリーズ五機が切り開きます!」

 

 ここにISに登場出来る三人目の男性が誕生した事を示していた




 と、言うわけで今の今まで暖めてきたとっておき。三人目の登場です。一応、以前に伏線的な物はありましたし、完全に唐突ではない……ようにはしました


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171話 作戦決行 破

 遅れてしまいましたが更新です。


「うっ……ぐっ……がっ……!? 単なるダメージなだけじゃねぇ……シールドエネルギー総括量減少……更にバトルナイザーとの接続も低速化……即時回復不能だと……!?」

 

「ち、ちきしょう……判断を誤った……! ジジイの奴が……! 慎吾を俺様が捉えている事を……奴が意識しない訳ねぇだろが……」

 

 落雷を思わせるようなエネルギーが放たれた衛星軌道砲の爆心地でベリアルは地面に倒れ、ダメージに苦しみながら負わされた想定を優に越えた被害に悪態を付く

 

ベリアルの周囲は衛星軌道砲撃と言う莫大な質量の攻撃が行われたのにも関わらず周囲の海や投棄された船は殆ど無く、貼り付けにされた慎吾も全くの無事だ。が、しかし、それと反比例するかのようにベリアルの機体装甲にはあちこちに亀裂が走り、ほぼ最大値近くまで余裕があったシールドエネルギーは大きく減退し、そして何より絶対防御で守られている筈の生身のベリアル自身の身体も一瞬、呼吸が止まる程の多大なダメージを受け、一艘の廃船の甲板の上で力無く四つん這いになりながら、呼吸の確保の為に頭部装甲を解除し、荒い呼吸を繰り返しながら痛みに喘いでいる

 

 つまり信じがたい話ではあるがこの一撃は広範囲攻撃に見せかけたピンポイントの狙撃。としか考える他無かったのだ

 

「衛星軌道砲で俺様ただ一人だけを狙い、回避方法を全て計算した上で被害は最小限……。クソ……ッ!! どんだけふざけてんだあのじいさんは!!」

 

 自身の判断ミスを呪いつつ、しかしそれでも尚、常識を越えているとか思えないキングと言う人間の能力を垣間見た事で思わずベリアルは感情のまま振り上げた拳を甲板の上へと振り下ろす

 

 ガンッッ!!

 

 当然ながら元から波の侵食で痛んでいた甲板にはISを展開させたままのベリアルの力を受け止める余裕など残されている筈もなく、ベリアルの拳を受けた瞬間、甲板には直径一メートルを越える穴が軽々と開いて下の朽ちた船室が露になる……どころでは収まらず、ベリアルの拳の破壊力は巨大な船体そのものまで高波に飲まれたかのように大きく揺らし、衝撃のエネルギーで細かく飛び散った海水は剥き出しのベリアルの顔にまで付着する

 

「冗談じゃねぇ……こんなもので俺が止まるか。……止められるか……!」

 

 そこで若干の冷静さを取り戻したのかベリアルは悔しげに歯噛みをしながらも立ち上がり、頭部の装甲を再び展開して身に纏うと上空を睨む

 

「ふん……まさにピッタリのタイミングで来やがったな。このタイミングまで予測済みか……つくづく舐めやがって」

 

 まさにその瞬間、猛烈な速度でこの場に近付いてくるIS五機を目視して確認するとギガバトルナイザーを肩に構え、迎撃する為に静かに浮かび上がる

 

「まだ俺様が動ける以上、どれだけ弱ってようが、ガキに……それも大半が一度破った奴ばかりの烏合の衆に負けるか!」

 

 

「奴を衛星軌道砲で迎撃する……ですか……!?」

 

 ベリアルへの対策会議が行われていた最中、現段階でロールアウトUシリーズのフル出撃等が決まっていた中で、キング老人の想定を越えた提案に流石のケンも驚愕した様子で発言を聞き返していた

 

「あぁ、それを当てればUシリーズを基盤にした奴のベリアルでも決定打は避けられないだろう。これに関しては私に一任してくれ。タイミングも指定の時間通りに合わせよう」

 

 それをキングは特に動じた様子も無く、世間話をするかのような雰囲気で『現代兵器でISに致命打を与える』と言うことを微塵も奢らず、しかし無謀でもなく当然のようにやってのけると言って見せたのだ。キングが放つ雰囲気に一夏は勿論、ラウラやシャルロット代表候補生、さらには千冬ですら呑まれて反論する意欲を失ってしまい、ただ唖然としながらキングの言葉に耳を貸す事しか出来なかったのだ

 

「……だが、しかしISを使えぬ老人の私が手助け出来るのはそこまで。決着は優れたISの乗り手に任せる他は無い」

 

 と、そこでキングは一旦口を閉じると順番に箒、ラウラ、シャルロット、鈴。そして最後に一夏へと一人一人しっかりと目を合わせて視線を向けて行く

 

「さて……やってくれるか一夏君? 作戦は今、決めた通りだが、それらが全て上手く行ったとしても厳しい戦いになることは避けられないだろう。それでもやるかね?」

 

 

「はいっ! 俺は……俺は逃げませんっ!! 学校も俺の仲間達も無茶苦茶にされて引き下がってなんかいられないっ!!」

 

 

 と、そこまでキングが口にしたその瞬間、一夏は勢い良く立ち上がると感情のまま一気にそう叫んだ

 

「………………」

 

「それに……慎吾さんには俺も散々お世話になったんだ! 今度は俺が慎吾さんを助けるんだ!」

 

「だから……だから……俺は絶対にベリアルを倒す!」

 

 一夏の言葉をキングはじっくり最後まで言葉に耳を傾け続けると、満足げに頷いた。

 

「……いい目をしている。決意は堅いようだな一夏くん。……それに君達もだ」

 

 やがて、そう言って緩やかに微笑むと一夏。そして『その周り』に視線を向けた

 

「えっ……?」

 

「全く……そこは『俺達が』くらいは言いなさいよね?」

 

 そこには呆れたような口調ながら微笑みを浮かべる鈴がいた

 

「この局面でもそんな言葉を吐けるとは、相変わらずの無鉄砲さだな一夏。だが……その……戦いに赴く前の決意表明としては悪くないぞ」

 

 視線を反らしつつ何処か照れ臭そうに一夏にそう言う箒がいた

 

「露払いは僕達に任せて。アイツの所に行くまでしっかり一夏を守りきるから……一緒にお兄ちゃんを助けよう!」

 

「おにーちゃんの為だ、遠慮はいらん。そもそも嫁を守るのは当然の事だからな」

 

 並んで立ち、得意気に笑いながら一夏にガッツポーズを送るシャルロットとラウラの姿があった

 

「みんな…………ありがとう……!」

 

 被害で見れば未だかつて無い程の強敵が相手なのにも関わらず、自身が何も言わずとも当然のようについてきてくれる仲間達の姿を見て一夏は感慨深そうに呟くと、自身もまた笑顔を作り彼女達に例を言う

 

「……相変わらず、良い仲間を持ってますね彼は。そんな彼等の仲間に慎吾が入っていると言うのが誇らしいくらいだ」

 

「……まぁ、多少青臭さ過ぎるのは難点だがな」

 

 そんな一夏達を見ながらケンがそう告げると、千冬はそれに苦言を呈しつつもケンの言葉を否定することは無く受け入れる。が、その時、千冬本人は気が付いているのかどうかは不明ではあったがその表情はケンが向けるものと変わらない程に暖かさに満ちていた

 

 こうしてMー78社に到着した時の重苦しい雰囲気は氷解し、彼等は対ベリアルに向けて最高の雰囲気で会議を進めることが出来たのだ



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172話 作戦決行 急 

 

「ふん、雁首そろえて来やがったな……。まだやられ足りて無いのか?」

 

 ベリアルの眼前に集結した五人を前にベリアルは不利な状況かつ、自身の機体が傷だらけなのにも関わらず余裕たっぷりの堂々とした態度でそう言い放つ。今、ここに至るまで自身が彼等の思う通りに動かされたと言うことはベリアル自身、理解していたが、そこにはまるで動揺は無い。この状況下でもベリアルはまるで揺るがず自身の勝利を確信していたのだ

 

「俺様に手傷を負わせてイイ気になってるつもりか? 生憎、俺様は動きに支障はない。おまけに、バトルナイザーにはまだ使えるモンスターズがいる。お前らごとき餓鬼が一斉にかかってこようが楽勝で……」

 

「いいや、この場でお前の相手をするのは俺だけだ。ベリアル!」

 

 と、その時だ、ベリアルの言葉を遮り、先頭に立ち横に並んで身構えていたラウラとシャルロットの肩の間をすり抜けつつ、真っ正面からベリアルを睨み付けながら一人がその眼前へと姿を表し、手にした刃を向けながら堂々とそう宣言した

 

「あん…………?」

 

 一方でその態度にベリアルは怪訝な声をあげる。これもまた自身を嵌めるための作戦の一つかとも一瞬は考えたが、それにしては『彼』の瞳はあまりにも真っ直ぐ、馬鹿かと思う程ににこちらを見ており、ベリアルにはそこに含みがあるようには感じれなかった

 

「……なんだ、お前?」

 

 だからこそベリアルは怪訝な顔をしながらバトルナイザーを向け、純粋な疑問としてそう問い掛け

 

「俺は……! 俺は一夏! 織斑一夏! ブリュンヒルデ、織斑千冬の弟だ!!」

 

 それ答えた彼、白式を纏った一夏は自身が千冬の弟だと言う事実を臆することも無く堂々と名乗ると手にしたブレードを向けて名乗る

 

「行くぞベリアルっ!」

 

 そうして一夏が弾かれたようにベリアルに向かって飛び出し……それが合図となって決戦の火蓋は切られた

 

『──! ────!!』

 

『…………! ──っっ!!』

 

「(う……ぐ…………こ、この声は…………? くっ……目が…………)」

 

 突如として周囲が一気に騒がしくなった事で深い闇に沈んでいた慎吾の意識は揺れ動き、再び浮上し始めていた。だがしかし、蓄積しているダメージの影響か意識こそ覚醒しているものの、その瞼は慎吾の意思とは無関係に固く閉じたままで、聞こえてくる声に耳を澄ませる事しか出来ない

 

「(ならば……せめて音で状況だけでも……!)」

 

 逸る気持ちを押さえつつ、慎吾が意識を集中させるとくぐもって雑音のようにも聞こえていた声が次第に鮮明になり……

 

『─けるかっ! ───これならっ!!』

 

『チイッ…………うっとおしいっ!』

 

 

「(……!! 一夏!!)」

 

 それが一夏とベリアルが戦闘を繰り広げている声だと分かった瞬間、慎吾の心臓が跳ね上がるのを感じた

 

「(早く……早く立たなくては……!! 私も……戦わなくては……!)」

 

 何故、一夏がここにいるのかとの疑問は湧かない。人一倍熱くて仲間思いの事だ自分を助けに来た事に違いない。そして恐らくは一夏一人では無く、ラウラやシャルロットと言った仲間達も同行している事、そして一夏だけでは無い以上、自分を助けるべく入念な作戦が立てられている事は容易く想像出来た。だが

 

「(だから……だ……! ここで一夏達の勝利を信じて静かに救助を待つ……。それも確かに正しい手なのだろう。だが……とても私にそんな事は出来ない……。一夏が……仲間が……私を『兄』と慕ってくれた妹達が奮闘しているのにも関わらず、私が倒れているだけなど……私が私を認められない……!)」

 

 それでも尚、慎吾は全身の力を振り絞り懸命に起き上がろうと身体に力を込める。死なない程度にしか治療を施されてなかった身体は中々、力が入らない上に鉛のように重く、触れなくとも自身の愛機であるゾフィーも展開できるかどうかさえ怪しかった

 

「(すまない……あれだけの損害を負ったのに無理をさせるのは重々承知だが……それでも『ゾフィー』! もう一度、私に皆と共に戦う力を……!)」

 

 慎吾は懸命に自らの身体に鞭打ち、半ば懇願にも似た想いで腕に装着されたゾフィーへと呼び掛けながら必死に身体を動かそうとあがき続けると、やがて蛞蝓が這うような速度ではあったが慎吾の指は徐々に動き始め、瞼もゆっくりと上がり始めていた

 

「(……こ……れ……なら……。ぐっ……やはり身体の痛みが……)」

 

 と、そんな風に慎吾が痛みを堪えながらも必死に奮闘していたその時

 

「うわっ!? すっごい重症だよ!!」

 

「な、なんちゅうこっちゃ……あの慎吾とゾフィーがここまでやられとるとは……」

 

「ダカラこそ、ボク達が頑張らなキャ!」

 

「(……! この声は……!)」

 

 何処か覚えのある三人の声が聞こえた

 

 

「うおりゃあぁぁっっ!!」

 

「……チッ! 調子に乗るなっ!」

 

 一夏が右手で振るう雪片弐型と左手のクロー状に変化させた雪羅のラッシュをベリアルは舌打ちをしながら最低限の動きで回避しつつ、致命的な一撃はギガバトルナイザーで受け流し、隙を見付けてては一夏に反撃を打ち込む。

 

 ベリアルと一夏の戦闘が始まって約2分が過ぎ、状況事態はここに来るまで移動にエネルギーを消費しなかった一夏がここぞとばかりにエネルギー消費を恐れず、隙を見ては雪片弐型と雪羅、更に隙を見ては霊落白夜を放ち、慎吾に教わった技と知識、そして何より仲間達との訓練の成果を生かし、猛烈果敢な攻撃を仕掛けベリアルを防戦一方に追い込んでいるように見えた

 

 が

 

「はぁ……はぁ……! くそっ……!」

 

 息を荒げながら悔しげにそう吐き捨てるように言う一夏。開戦当初から全て燃やし尽くすような勢いで動きで苛烈な攻撃を続ける代償か、まだ五分と時間は過ぎてないのにも関わらず、既にその額には汗粒がびっしりと浮かび、疲労の色が現れ始めていた

 

「ふん……! ちょこまかと、うっとおしい……!」

 

 対するベリアルは身体に蓄積されたダメージこそ色濃く見て取れるものの、一夏とは正反対に無駄な動きはせずエネルギーを温存しつつ、冷静に最低限の動きで一夏の攻撃を避け、あるいは弾く事で確実に対処して損害を殆ど負ってはいない

 

 つまりは結果として、徹底攻撃に回っている筈の一夏こそが体力を確実に削がれ、徐々に詰みへと近付かされていたのだ

 

「(だ、駄目だ落ち着け……っ! 冷静になれ……っ!)」

 

 当然、その現状は攻撃を続ける一夏自身もよく理解しておりシールドエネルギーの大幅な現象に感じ始めていた焦りを必死に圧し殺しながらベリアルを睨み付ける

 

「……どうやら動きの基礎は剣道。そこを更に慎吾の奴に近接格闘戦を仕込まれたな?……実戦もお仲間と共にそれなりに経験して来たと言うわけか」

 

「………! 何を………っ!!」

 

 対するベリアルはしごく落ち着いた様子で一夏を分析しており、交戦した短い時間でその戦闘スタイルまでも言い当てて見せ、一夏の顔に思わず動揺が浮かび、緊張で張り詰めていた態勢が僅かにぶれる

 

「なら……分かってるだろう? 織斑一夏ぁ? お前の実力じゃ絶対に俺様に勝てないってなぁ!!」

 

 

 その僅かな隙を逃さずベリアルはせせら笑いながら瞬時加速を利用し、固めていた防御を一気に攻勢へと変えながら一夏へと突っ込んで来た



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173話 二つの戦い

 完結が近付いてると言うのにどうしてもぐだぐだした展開になってしまい、試行錯誤の日々です……。


 

「うっ……! ぐっおおおおっっ!!」

 

「ハハハハッ!! 粘るじゃねぇか!! おらぁっ! 次はこいつを食らえ!!」

 

「う……ぐっ……!!」

 

 

 ベリアルの瞬時加速を利用した奇襲に一夏はどうにか反応して雪片でギガバトルナイザーを受け止める。が、それを見越したベリアルは更なる追撃を腕部に装着された不気味な赤色のクローと蹴りで行い、一夏はそれをクローをどうにか弾き飛ばす事で直撃を押さえたものの、その隙間を縫うように放たれたベリアルの蹴りは吸い込まれるように腹部へと叩き込まれ、一夏は大きく後退させられると

共に絶対防御の上からでも響く衝撃に内蔵が圧迫され盛大に悶絶させられた

 

「一夏!!」

 

「大丈夫一夏!?」

 

 徐々にそんな一夏を気遣い、箒とシャルロットが戦闘の最中、ほんの僅かな隙に一夏に呼び掛ける

 

「……気を反らすな! こいつら……他の雑魚とは訳が違うぞ……!!」

 

 そんな二人に対し、ラウラは抗戦する敵から目を反らさず大型レールカノンを撃ち込みながら警告する。が、やはりラウラも一夏の身を案じているのか、その手は戦闘に支障は無い程度ではあるが微かに震え、一夏を案じる気持ちを必死で堪えている事が見て取れた

 

 一転して訪れた一夏の危機に本来ならば、すぐにでもラウラ、シャルロット、箒の三人は助けに向かいたかったし、身体に鞭を打って戦闘を続ける光も見過ごしてはいられなかった

 

 だがしかし

 

『『………………』』

 

 一夏がベリアルと抗戦している間にベリアルがギガバトルナイザーから出したモンスターズの大半は既に4人によって苦もなく蹴散らかされ次々と撃墜されていったものの、残り2機になった所で矢鱈に強い機体が四人を遮って来たのだ

 

「このパワー……機動性……! その上、この装甲……!! こいつらは一体何なんだ!?」

 

 自身の刀と敵機を交互に見つめながら箒は動揺からか額に汗を滲ませながら叫ぶ

 

 箒と光が主に相手をしているのは黒を主体に金色を交える形で塗装され、人型に近い外見こそしてるものの首が無く肩と一体化し。腰部からスラスターらしき円柱状パーツが生えた外見の機体だ。

 その『目』に当たるらしい部分には白銀に輝くバイザーにも似たセンサーが攻めあぐねてる箒と光を睨み付けて、太い両手のうち右手部分に換装されたライフルの銃口を向ける。構えこそ見せないもののこの機体は、どこか横向けにした缶を切ったような形の頭部機レーダーを持つ機体で正確に二人の動きを読み切って致命的となり得る攻撃を正確に回避し、スピードを優先して斬りかかって尚、二人の刃を寄せ付けない程に強固な装甲を武器に要塞の如く立ち塞がる

 

「くっ……おのれっ……!」

 

 一方、ラウラ、シャルロットの二人を同時に相手どっているのは外見で言えば何処か黒いカミキミリムシと人間を合わせたような姿の機体で、此方も両手こそ武器を持たない空手なもののそれがデメリットにならない程、格闘戦に持ち込まれたラウラが競り負ける程の、凄まじいパワーと、シャロットが隙を付いて放ったショットガンの直撃で傷一つ負わない程の装甲を合わせ持ち、ラウラがAICを発動しようとすれば、更には頭部から発射する火球状の砲撃は一発一発が掠めるだけでシールドエネルギーを大きく削りるような馬鹿げているとか思えないような破壊力でジリジリと二人を追い込みつつあった

 

「……今、ようやく分析が終わった。この2機は…以前、学園を襲撃した無人機と機体の基礎データが酷似している。その上……内部にISの物とは異なるだろうが、コアに酷似したエネルギーのシステムを観測した」

 

「何!? そんな馬鹿な! ISコアに匹敵するようなエネルギーシステムだと!? そんな物がそう簡単に……!」

 

 苦しそうに肩で息をしながらも、後衛に回って箒の援護をしつつ分析を続けていた光がそう言うと箒は信じられぬと言うようにそう返す

 

 それも当然の事だ。今、世界各国が躍起になって開発者の束以外は誰も知らぬ、まさに未知に包まれたISのコアを解析して我が物とせんと目論んでいるのにも関わらず、それをいくら強大とは言え一人の犯罪者でしか無い筈のベリアルが酷似したエネルギーシステム二つも所持し、自らの駒として運用して見せているのだ。この事実だけで挑んできた各国の軍隊を返り討ちにしたベリアルの存在に見劣りしない程に世界中が度肝を抜かれるような事態だ

 

「確かに疑問は尽きん。だが……ここで悠長に考えている時間は無いぞ!」

 

 混乱が生じ始めた中、ラウラはそう言うと先陣を切るように箒の隙を付いて奇襲をかけようと腕を伸ばしていたカミキリ虫型の機体の僅かな隙を付いてカウンターのように6機のワイヤーブレードで絡めとった

 

『………………』

 

 拘束されるとカミキリ虫型の機体は攻撃仕掛かっていた動きを僅かに停止させる。が、それもほんの僅かな事で、即座に無造作にワイヤーを掴み取ると、鋼鉄のワイヤーブレードをまるで紙テープのよくにいとも簡単に切り裂き

 

「一気に決めさせて貰うよ! たああぁぁぁっっ!!」

 

 

 その瞬間、背後に接近していたシャルロットのショットガンから零距離射撃での『ラピッド・スイッチ』を使用したショットガンからのマシンガン、トドメにライフル。と短時間で徹底した集中砲火を叩き込まむ

 

『──!ゼ───トォン──』

 

 いかに強固な防御性能を持つ機体でも流石にこの一撃は応えたらしく、奇妙な電信音声を上げると前のめりにつんのめるように倒れ

、大きくバランスを崩した

 

 

「やるな……! ならば私も負けていられるか!」

 

 

 その様子を見て鼓舞されたのか今度は箒が先陣を切って黒と金の機体に再び気合いを入れると雨月と空裂で同時に斬りかかった

 

『──────』

 

 が、当然黙ってその一撃を敵が喰らう筈も無く、太い腕でガッチリとガードをすると雨月の突きを受け止め……

 

「はああああぁぁっっ!!」

 

 その瞬間、箒が紅椿の機体スペックで強引に黒金の機体が完全にガードを決めるより速く刃を押し込んでガードを崩させる

 

「これを……っ!! 受けて……っ!! みろっ!!」

 

そのまま雨月から突きと同時に放たれたレーザーを直撃させると、強引にそのまま同じ部位を狙って近距離で空裂で直接切り付けるの同時に更に吹き飛ばし、空裂から放たれるエネルギー刃を更に同じ部位を狙って命中させる

 

『──!!────』

 

 それは鼓舞される形で放った機体スペックを武器にした強引な力押しではあったが実際、有効だったらしく箒の攻撃により黒金の機体には箒の猛攻により、装甲には大きな亀裂が生まれていた

 

「な、成る程……箒と紅椿は偶然にも助けられただろうがベリアルとの戦いで最も損傷が低い。加えて第四世代と言う規格外……優れた成果を上げてくれるとは思っていたがこれ程とは……な」

 

 その様子を見ながら肩で息をしつつ光は仮面の下で小さく笑う。ラウラやシャルロットと言い、先程までの不利が一夏の危機に気付いた。と、言うだけで一瞬にして覆す仲間達の奮闘が何処から沸いてくるのかと、疑問も感じない事も無かったが、視線を動かしすぐにその答えは理解できた

 

「……やはり君こそが作戦の要。と、言うことは織斑……一夏……」

 

 そこには負傷しても尚、圧倒的実力をベリアルの赤い光を前に、苦戦しながらも息を切らしながらも決して諦めず、ただ前だけを見て戦い続ける1つの白い光があった

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……うおりゃぁぁっっ!!」

 

「ふん、そんな攻撃が……当たるか……っ!!」

 

 肩で息をしながらも再びベリアルに斬りかかる一夏。しかしベリアルはそれを容易くかわすとバトルナイザーを振りかぶり遠心力を乗せて白式の腹部を狙う

 

「ぐあっ…………!!」

 

 あわや直撃……かと思われた一撃だったが、命中する直前に一夏は反転しつつ刀を手元に引き戻す事でバトルナイザーを刀身で受け止め、怯みこそすれどダメージを最小限に抑えることに成功していた

 

「チッ…………」

 

 その様子を見たベリアルは思わず舌打ちをし、決着に至らなかった事に苛立ちを隠せずにいた

 

「(何だ、このガキは……ブリュンヒルデの弟なのは知ってるが、実力は遠く及ばない雑魚だ。……だが、しつこい。何度打ちのめしても向かってきやがる……)」

 

 レイブラッドに遭遇して以来、おおよそ俗世とは切り離させれた生活を送っていたベリアルにはブリュンヒルデ、織斑千冬の殲滅こそが第一目標であり、一人目の男性たる一夏にさしたる興味など無く、この戦いも当初は軽くあしらうつもりだった。だが

 

「まだ……! まだ……っ!!」

 

 一夏は例えベリアルがどんな苛烈の攻撃を仕掛けようと、それをすんでの所で致命打を回避して受け続け、逆にベリアルに当たらずとも果敢に攻撃を仕掛けて決して休まない。当然、その間も白式のシールドエネルギーは減り続けており、ベリアルの勝利は揺るがないだろう。だがしかし、その奮闘が徐々にベリアルの精神を惑わし、苛つかせ冷静さを失わさせていく

 

『いえ……まだやれます……!』

 

『……! ハッハッハッ……! ガキにしてはいい目をしている……!!』

 

「(クソッ……止めろ! 止めろっっ!!)」

 

 だからこそベリアルの脳裏には、とっくに忘れた筈の過去の記憶が甦って来ていた



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174話 運命の一打

 年内最後の更新となります。あまり思うように進められませんでしたが来年もどうか本作をよろしくお願いいたします


 

「おら、どうした? 俺はそもそも構えてないし反撃すらしてない。十二分に手加減しているぞ? それとも全員降参か?」 

 

 ある日、ケンに頼まれる形で自身が時折ではあるがアリアが面倒を見ていた道場で、そこに通う初等部の子供達が冬休みに突入した翌日、アリアは抜き打ちの形で通う子供達相手に試練を課していた。

 

 その内容自体は言うだけならば単純で『アリアに一撃当てる』……だけなのだが

 

「はぁ……はぁ……」

 

「も、もう無理だよぉ……」

 

 レベル差を考え、アリアは反撃を行わずガードと回避のみと言うハンデを付けた条件でも尚、格闘技を覚えて十年にも満たない程度の子供達しかいないこの道場ではアリアに一撃当てる者等が現れる筈もなく、一時間後には汗一つ流さぬアリアの周囲には疲労困憊により冬なのにも関わらず汗まみれで立ち上がれなくなる子供達が円を描くように倒れ伏す異様な光景が広がっていた

 

「(ふん、心を鍛える為の荒修行とは言え……ま、鍛えていても普通の

ガキじゃあこんなものか……)」

 

 そんな様子をアリアは特に関心も抱かず、つまらなそうに見つめ、内心で溜め息を吐く。元よりこの試練の目的は課題をクリアする事では無く困難中でも決して諦めない精神力を磨くものであり、そう言う意味で言えば端から合格はさせないつもりではあったのだが……

 

「(だりぃ……どいつもこいつも……雑魚ばかりじゃねぇか……)」

 

 アリアはどうしても退屈を隠しきれずにいた。無論、子供達がまだまだ未熟な事も、それでも懸命に自分に挑んで来ている事は理解している。だがしかし、それでも尚、アリアが想定していたハードルを乗り越えるほどに強い精神や才能を見せるものは殆どおらず、ベリアルの心は覚め続けてていた

 

 そう、唯一の例外は

 

「まだ……まだ……もう少し……おねがいします……!」

 

 ベリアルが思考に耽っている僅かな間、額に流れる汗を道着の袖で拭き取り、荒い呼吸を無理矢理整え、身体はボロボロでも確かに瞳には闘志を携え、ベリアルの前に立ち上がる一人の少年がいた

 

「ふっ……! やはりお前が残るか慎吾!」

 

 その姿を見た瞬間、アリアの口角が僅かに上がる

 

 確かにアリアの目線から見ればこの道場に集まっている子供達の実力は慎吾を含めて自身の爪先にも劣る程度。それに間違いはない。だがしかし、その中でも慎吾は明らかに周囲と比べても異質とか言えない程の精神力。より具体的に言えば遥かに高い壁を前にしても自分の中に残らされた力が尽きるまで挑み続けられる強さを既に身に付けていたのだ。だからこそ『期待する』

 

「やああぁぁっっ!!」

 

 身体に鞭を打ち気合いの雄叫びを向かって来る慎吾を見ながら、静かにアリアは自身の中で鼓動が脈打ち、冷えた身体が熱を帯びていくのを感じていた

 

「(そうだ……それでいい慎吾。お前のような奴がいるからこそ俺達は安心して世界を……)」

 

 

「(守るべき、この世界の平和を託せる……)」

 

 

「(黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッッ!!)」

 

 頭の中にリフレインするように浮かび上がる過去の残像を苛立ちながら消し飛ばし、かつてアリアと呼ばれた女性、ベリアルは一夏が放った突きをバトルナイザーで弾き飛ばしながら無理矢理戦闘に意識を戻した

 

「(戦う時のコイツと慎吾の目や心構えが似ている!? だからどうした! 俺様は既に……平和を守ろうとする心など、とっくにの昔に世界に絶望して捨てた! そう! あるのは……!)」

 

「復・讐! だけだあぁぁぁぁっっ!!」

 

 一瞬だけよぎった過去の残り香から生まれた迷いを否定するためベリアルは叫ぶと手にしたバトルナイザーにエネルギーを充填させる。と、その瞬間、ギガバトルナイザーは蒼白く不気味な輝きを放ちながら唸り、瞬く間に狂暴に煌めき始めた

 

「……!! ヤバい! 止め……!!」

 

 その光に、途轍もない一撃が放たれようとしていると確信した一夏は何としてもベリアルを止めるべく、残り少なくなったシールドエネルギーを使って瞬時加速を発動させると残像も残らぬ程の超加速でカミソリのように鋭くバトルナイザーを向けるベリアル向かって飛びかかる

 

「させると……思ってるのかぁぁ!?」

 

 が、その寸前、ベリアルは完全に一夏の動きを予測していたかのように身体をくるっと一回転させると遠心力と一夏自身の加速を利用した回し蹴りが吸い込まれるように剣を振り上げてがら空きの白式の腹部に叩き込まれる

 

「ぐっ……がっ……!?」

 

 当然、加速の勢いに乗っていた一夏にそれを防ぐ術などある筈もなく、カウンターとして放たれた蹴りをまともに受けた事で身体をくの字に曲げさせられ、逆回しの映像のように背後へと吹き飛ばされていく

 

「これで……終わりだぁっ!!」

 

 そんな致命的な隙を晒した一夏に対しベリアルがギガバトルナイザー向けるとその瞬間、鋭く凝縮された電撃状のエネルギーが体勢を崩したままの白式を貫かんと真っ直ぐに飛んで行き

 

 そして、白き光が全てを覆い尽くした

 

 

「(く、くそっ……!! ここまで……かよ……!!)」

 

 絶体防御を介しても尚、全身に響き内蔵が潰れてしまいそうな蹴りで意識がぐらつく中、一夏は自身に迫り来る電撃状のエネルギーを見ながら諦める寸前の胸中にいた

 

 いくら自分でも見ただけで分かる。今の白式に残されたシールドエネルギーでどうやった所で耐えきる事は不可能であると。つまり、自身が将棋で言う詰みの形へと追い込まれてしまったのだと

 

「(せっかく……皆が俺を信じて協力してくれたのに……慎吾さんを助けなくちゃ……いけないのに……!)」

 

 

 体勢を維持する余裕すら無く、ただただベクトルに沿って飛ばされながら一夏は込み上げる悔しさを越えられず、思わず手が裂けんばかりに強く握りしめる。極限まで意識を集中させているせいか迫り来る電撃が矢鱈に遅く感じ、脳内で走馬灯のように千冬や箒、弾、鈴、そしてIS学園で出会った仲間達が甦り……

 

『いいか一夏。私と君、つまりゾフィーと白式では格闘と刀。と、基本戦闘スタイルは見ての通り大きく異なる。が……互いに切り札のコンセプトそのものは同じだと私は考えている』

 

『即ち、それは一撃必殺。リスクはあれど決めればいかに不利に追い込まれていても瞬時に逆転して勝利する事を可能とする一撃だ』

 

「(え……?)」

 

 突如一夏の脳裏に走馬灯を吹き飛ばすように、思い返されたのは日課となっている放課後の訓練の後、汗を拭いながら水分補給を行ってる時に交わされた慎吾との会話の一部だった

 

『だからこそ、私も一夏も倒れて指一本動けなくまでは一瞬のチャンスを狙い撃つチャンスを諦めてはいけない。むしろその為にこその一撃必殺だと私は理解しているよ』

 

「(慎……吾……さん……。そう……ですよね……!)」

 

 何故、この極限の状況下に置いてこの記憶を思い出せたのかは一夏自身でも分からないでいた。が、それでも理解出来たのは

 

「まだ……決着は付いてないぞぉおっっ!!」

 

 そう叫びながら一夏は電撃に向き直りながらしっかり刀を握り締めると不安定な体制のまま零落白夜を発動させる。残るシールドエネルギーは確かにこの電撃を『耐える』にはどうやっても不可能。……だが、零落白夜を発動させる分には支障は無かった

 

「(集中……しろっ……!!)」

 

 とうにギガバトルナイザーから放たれた電撃は目と鼻の先にまで来ている中、既に極限まで集中させていた意識を更に濃縮するように細く張り詰めさせ、激流のようにうねり狂う電撃の軌道とその奥にいるベリアルを一夏は見やる。ここまで来てミスは決して許されない。だからこそ覚悟を決めて

 

「はぁああぁぁあああぁぁぁっっ!!」

 

 一夏は雄叫びをあげると、零落白夜を発動させながらスラスターを全快に吹かす。そして次の瞬間、電撃をさながら高速船が水面を切るように零落白夜で切り捨て、無効化しながら超高速で一気にベリアルに向かってへの電光石火の突撃を仕掛けた

 

「なっ……にいぃぃっっ!!」

 

 流石のベリアルもこれを読みきる事は出来ず、感情に任せて放ったあの一撃が致命的な失策だったと理解し……

 

「おりゃあぁぁっっ!!」

 

 その瞬間、間近まで迫っていた零落白夜の白い閃光がベリアルに襲い掛かり視界を多い尽くした



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175話 作戦決行 結

 遅れながら更新です。いよいよラストスパートです


 

「ぐっ……がああぁぁぁっっ!!」

 

 白い閃光が収まった瞬間、ベリアルは背中を曲げ零落白夜で斬られた箇所、即ち頭部を左手で押さえながら悶絶する。見れば機体としてのベリアルの頭部装甲は右部分が受けた斬激により破損して亀裂が走り、その亀裂からは絶体防御をも貫かれて負った頭部の切創からの血液が一筋、滲み出て、赤い涙のように頭部をつたい、一滴の血液がベリアルから落ちる。と、海面へごくごく小さな赤い波紋を作ると、一瞬のうちに青い波の勢いに流され掻き消えてしまった

 

 

「こ、この……野郎……っ! 織斑っ……一夏あぁァ!!」

 

 傷の痛み、そして何よりプライドを傷つけられた事でベリアルは激しく激昂し、憎悪に満ちた声で一夏の名を叫ぶ

 

「っ……はぁ……っ……はぁ……。どうだ……!」

 

 それに対し、一夏は息を切らし、額に大量に汗を浮かべながらもベリアルの激昂に飲まれるどころか得意気に笑い、してやったりとばかりに笑みを浮かべて見せた

 

「ぐっ……! うっ……う……」

 

 だが、その笑顔はなけなしの意地で飾った単なる虚勢である事が、一夏の隠しきれぬ苦悶の声が、左手の雪羅の消え行くエネルギーの爪が、流れる血が、青ざめた顔が、そしてISのセンサーで既に白式のシールドエネルギーは枯渇している事が簡単に見て取れた

 

「たたが一撃、傷を負わせた程度に調子に乗るな! 死にぞこ無いの小僧がぁ!!」

 

 

 そんな一夏にベリアルは吠えると痛む傷口バトルナイザーを持って身構えながら一気に加速すると、一夏を仕留めようと襲いかかる

 

 一夏によって思いがけずに記憶の奥底に封じていた自身がかつて抱いていた理想の一つを揺り戻された事、そして何より勝利を確信していた状況から零落白夜によって絶対防御をも貫通するような傷を負わされた事で完全に頭に血がのぼり冷静さを失っていた。無論、ベリアル自身にもそれは理解していた。が、その上で未だにモンスターズと戦闘を繰り広げている箒達が救援に来るより早く、移動しつつもバトルナイザー先端部分に急激に形成され、死神が持つ鎌を思わせるようなエネルギーの刃で一夏を一閃し、仕留められる事を導き出せていた為にベリアルは敢えて冷静さを投げ捨てて全力の集中と殺気を一夏に向けていたのだ

 

 事実、その計算自体は正しかった

 

 あと。ほんの瞬き一つ程の時間さえあればベリアルはデスサイズによって難なく一夏を白式ごと切り捨て、己の鬱憤を晴らせただろう

 

 ただ、それよりも早く

 

ゴォォーン……ゴォォーン……

 

 奇跡のように澄みきり、耳から入って心に働きかけ全身に響き渡るような美しい鐘の音色が響きわたり、星の欠片のように夢の如く煌めく光の粒子が辺り一面に降り注いだ

 

 

「……! これは……!」

 

 ダメージでふらつく身体でどうにか意識を保ち続けていた一夏は思わず目を見開き、驚愕を露にしていた

 

 迫り来るベリアルの刃を前に、無理に等しい事だとは思いつつも回避を試みようとしていた、その最中。戦闘の最中、張りつめた緊張すら和らぐような美しい鐘の音色と共に粒子が降り注いだ瞬間、戦況は瞬時に変化していた

 

「ぐっ……がっ……!? こ、この……音色は…………!!」

 

 さっきまで一夏に決着の一撃を放たんとしていたベリアルはまるで音波攻撃でも受けているように頭を押さえてもがき苦しみ、機体もあちこちでエラーを引き起こしているのか火花が吹き出し、空を制止して浮遊するベリアルの軌道は不安定にガクガクと上下さえしていた

 

 しかも、起きている事はそれだけではない

 

『ーー! ー………………』

 

 先程まで箒達と交戦していたドラム缶状のパーツが目立つ機体、そしてシャルロット達と交戦していた黒いカミキリ虫に似た機体、二機の機体が共に鐘の音と共に光の粒子を浴びた途端、糸が切れた人形のように急激に力を失い、次々と海へと着水していった

 

「はい! 一夏さん! これこそがミーティングで話した僕達の……Mー78が誇る切り札です!!」

 

 

 そして衝撃の光景を前に思わず呟いた一夏の声に答えるように上空から、光太郎の声が響く

 

「光太郎! 無事だっ……」

 

 その声に反応し視線を向けた瞬間、一夏は再び驚愕し目を見開く

 

 そこにいるのは三人目のIS適合者である光太郎が駆るIS、タロウだけでは無く、一夏達をベリアルの元に行かせるべくモンスターズと戦ってくれたUシリーズの機体が勢揃いしていた。それだけならば一夏も驚愕はしなかった。……のだが

 

「その名も『ウルトラベル』! この力で僕達が皆様をお助けします!」

 

 タロウを含めたUシリーズ五機は全員で力を合わせ、黄金色のロープで彩られた一艘の御輿、あるいはソリにも似た白と赤のコントラストが美しい台座を力を合わせて抱え、その台座の中心にはクリスタルで構成された小さな塔が作られていた

 

ゴオォーーン……ゴオォォーーン……

 

 そして、その塔の中心に収められていたのが遠くからでも目をひく程美しい黄金色の輝きを持つ洋鐘。その鐘の内部に取り付けられた舌と言う分銅部分から伸びた黄金の紐がタロウの手に握られ、タロウが手の動きに合わせて鐘はなり、シャワーのように煌めく光を辺りに飛散させていたのだ

 

「か……身体が楽になっていく……シールドエネルギーも!?」

 

「これほどの……装備とは……」

 

 その光の粒子を一夏、そしてモンスターズと戦闘を繰り広げていた箒達も盛大に浴びてはいたが、その光が彼等を害することは無い。それどころか緩やかにはではあるがベリアルとの戦いで負った傷を治癒させ、それぞれが搭乗するISのシールドエネルギーを回復させていく

 

「っ……!! バカなっっ……! バカなバカなバカなっっ!! お前らが……ガキどもそれを使うだとっ!? ふざけるなっ!!」

 

 と、そんな最中、憤怒と言うべきまでに怒りを露にしたベリアルが光太郎を睨み付けながら叫ぶ

 

「ベルを手にするには試練を突破しなければならない筈だ! あの試練は……ケンと俺様でも突破するのに二週間も必要としたんだぞ!? それがお前らガキごときに……!」

 

 

「それだけ私達が貴女の予想を超えて成長してきた。と、言うことですよ『アリア』さん。……例え今、実力が及ばなくとも決して最後まで諦めないで努力し続けるのなら成長し続ける事が出来る」

 

 と、そんな中、一つの明瞭な声がベリアルの叫びに答えるように響く

 

「あっ…………」

 

「この……声は…………っ……!」

 

 その瞬間、シャルロットとラウラは自然と声の方角へと視線を向ける。それは、この場で今、何より聞きたかった声だった

 

「上手く……行ったか……!」

 

 光は無理がたたり、箒に肩を貸して貰わねばならぬ程に衰弱しながらも、仮面の裏で笑みを浮かべ『出撃時から発動し続けたキングブレスレット』の効果を解除する

 

「あ…………!」

 

 そして一夏は見た、自身の目の前、ベリアルから守る盾のようにしっかりと立つ赤と銀の誇り高い姿を

 

「それは性別でも才能でもなく全員に与えられたチャンスだ。……その言葉を教えてくれたのは貴女ですよ」

 

 最後にベリアルを堂々と正面から見据え、胸に輝く勲章を模したシンボルを太陽の光に煌めかせるゾフィーを動かし

 

「未来の為……そして、あなたの教えが正しかった事を証明する為に……私の部屋全てを賭けてもここで決着を付ける!」

 

 ベリアルに向かい迷わず慎吾はそう宣言した



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176話 M(ミラクル)の一撃

 ようやく更新です。これで残りは……あとほんの僅かです


 

「──────」

 

 間違いなく自身の手で機体であるゾフィーを戦闘不能レベルまで損傷させ、脅迫する材料の一つとして人質にまで取っていた慎吾の復活。激昂してた中で起きた、その信じがたい事態に流石にベリアルの頭も混乱し、僅かに思考が止まる。が、ふと視界の端に戦線から離脱せんとする見慣れぬ三機の量産型ISを見つけた瞬間、ベリアルの頭の中で欠けたパーツが埋まり、一気に謎が解けていくのを感じた

 

「……成る程、雑魚でも使い所ではそれなりの活躍が出来ると言う訳か。俺様を相手に自分達だけは戦闘を捨てて修理に専念するか……舐めた真似を」

 

「う、うわっ!! こっちを見た!?」

 

「oh……目だけでメチャクチャボク達に怒ってるのが分かるヨ……」

 

 

「って言っても防御用の装備くらいしか持ってない僕らには戦闘は出来へん! 早いこと退くで! イデ! ショーン!」

 

 ベリアルに睨まれると今の今までヒカリがキングブレスレットを発動させ続け、ベリアルのセンサーからその存在をひた隠しに続けた三人。整備科の生徒であり光の友でもあった井手、堀井、ショーンの三人は慌てて今の今までゾフィーの修理に使っていた工具を持ったまま撤退を始める。当然、ベリアルから見れば隙だらけの光景であり追撃は可能ではあり、バトルナイザーも一度は向けた。が

 

「………ふん、あんなのはいつでも倒せる。それより今は……」

 

 吐き捨てるようにそう言うとベリアルは三人に向けていたバトルナイザーを手元に戻す。ベリアルにとっては種が分かった時点で量産機、それも動きを見ただけで戦闘能力が決して優れてはいないと分かるような整備科の生徒など欠片も興味は無いものでしか無かった。だからこそ

 

「……決着ゥ? そんなボロボロの身体でかぁ? 随分と大きく出たなぁ……えぇ、慎吾?」

 

「………………」

 

 ベリアルはただ一人、自身を見据えながら構える慎吾にのみその意識を集中させていた。事実、ベリアルの言葉は正しく、三人の手によって機体は戦闘可能にまで整備されていたものの拘束され続けた事で肉体も精神も弱りきり、ISの力でどうにか動ける程度にしか力が残されておらず長時間の戦闘は事実上の不可能となっていた。だがしかし、それを見越されても尚、慎吾はベリアルの問いには答えず無言を貫き通し、ひたすら精神を集中させて睨み付けていた

 

「そうだろうな……お前の身体の様子から言って特技のM87光線も撃ててせいぜい撃てて一発か二発……と、言ったところか? ククク……」

 

 その慎吾の睨みすら、そよ風にでも吹かれているかのようにまるで動じずベリアルは余裕すら浮かべて慎吾の様子を分析してそう告げる

 

「(彼女相手に隠し通せるなんて思ってなかったが……やはり……読まれているか……。だが……それでも……!!)」

 

 事実、ベリアルの分析は的を射ており激昂した状態から直ぐ様、落ち着いた思考を巡らせる事に慎吾は動揺こそしたが、それでも打つべき手段は変わらない

 

「フッ………………!」

 

 息を一気に吐き出すと、幾度も繰り返した動作、それこそ初めてゾフィーに登場した時から何度も『切り札』として放ったM87光線を撃つべく、胸の正面に両腕を水平に添え白く輝くエネルギーを集中させる。相手の前で堂々とチャージを行うこの行動は隙を晒すこの行動は一見すれば無謀にしか見えないこの行動ではあった。が

 

「(この距離とベリアルの損傷から見れば……喩え回避や迎撃を狙おうと……それより先に私のM87が先に命中する!)」

 

 

 慎吾にはそれでも尚、ベリアルに自身の渾身の一撃を命中させる自信があった。整備科の三人の生徒もゾフィーの修理に全力を尽くしてくれていたので会話が無く、慎吾にも完全に状況が飲み込めている訳ではない。だがしかし、それでも尚、ベリアルと激闘を繰り広げている仲間達を見て状況は理解できた。ならば既に慎吾に『やらない』と言う選択は存在しなかった

 

 

「はん……いいだろう……! 正面から叩き潰してやるよ慎吾ォ!」

 

 それに対しベリアルはせせら笑いを浮かべると自身もまたバトルナイザーを掴んでエネルギーの向きを一気に腕に集中させると、不気味な赤と黒のエネルギーが急速に蓄積されバチバチと凶暴に音を立てる

 

「はああぁぁぁぁあぁぁぁっっ!!」

 

「ふうううぅぅぅっっ!!」

 

 ゾフィーの白とベリアルの黒、相対するように2つの光がそれぞれの色に輝く中、2つの気迫の声が響く。それは長く続いたこの戦いに終演をもたらす事を知らせるファンファーレのごとき音にも似て

 

「終わりだ! 慎吾!! デス……シウム……!!」

 

 その刹那、一瞬早くエネルギーの充填を終え、右腕を上に左腕を水平にし、十字に組んだベリアルの両腕。その右の掌部分から赤と黒の光を纏い、放たれた瞬間にあまりの熱に周囲の大気が陽炎のように歪むほど猛烈な高波熱線、ベリアルにとっての切り札の一つであるデスシウム光線が未だにエネルギーを溜めている最中のゾフィーに向けて発射された

 

「…………!! M87っ!!」

 

 その一瞬後、僅かに遅れる形で慎吾もM87のチャージを終えてすぐ目前にまで迫ったデスシウムを迎撃する形で青白く輝くM87光線で受け止める。が

 

「ぐっ……うううぅぅっっ!!」

 

 2つの光線が正面から激突し、その衝撃で反動が身体へと戻ってきた瞬間、先にベリアルのデスシウム光線に押し込まれ、傷だらけの腕に襲いかかる高熱に苦悶の声をあげたのは慎吾だった。

 

「慎吾さんっ!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「今行くぞ! おにーちゃん!」

 

 全力で堪えてM87光線を負けじと放出し続けてこそいるものの、じわじわと押し込まれている慎吾を案じてたまらず一夏とシャルロット。そして一足早くラウラが慎吾を救助しようと向かい

 

「皆、来るなっっ!! 余波に巻き込まれるぞっ!!」

 

『!?』

 

 

 その足を他ならぬ慎吾自身の怒声にも似た激しい口調で封じられ、救助しようとした三人は強制的に足を止めさせられる

 

「だい……じょうぶ……だ。……ここは……私に任せて……くれ……!!」

 

 不安そうな妹達の視線が集まる中、返ってくる反動に苦しげに呻きながら慎吾は落ち着かせるように出来るだけ穏やかな口調でそう言うと光線の押し合いを続行する。だが早くも応急修理がたたって限界が近付いてるのかゾフィーの胸に輝くエネルギー残量を示す水晶状のタイマーが早くも赤く点滅し警告し始め、ついにはベリアルのデスシウムはゾフィーの手前にまで迫り始めていた。

 

「…………っっ!! 慎吾さんっ!!」

 

 そんな状況を見るに見かね、一夏はブレードを構えると忠告を無視して飛び出そうとする。既に一夏自身もギリギリであり、更に燃費が最悪の自身の白式では慎吾の言う通り下手すればこの凄まじい破壊力を秘めた熱線が激突する余波だけで残り少ないシールドエネルギーが付きかねない。しかし、それでも慎吾を僅かでも救える可能性があるならと覚悟を決めて強く刃を握り締めた瞬間

 

「思えば……私がIS学園に来て一年も経たぬ間に良くも悪くも様々な事があった。ありすぎた……と、言えるくらいだ」

 

「……それら全てが私にとっては間違いなく正解だった。たとえ遠回りでも、酷い悪路だったとしても決して間違いじゃあ無かったんだ」

 

 次第に押し込まれていく緊急事態の最中、突如、慎吾は過去を懐かしむように、そんな言葉を口にした

 

「慎吾さん…………?」

 

「ハッ……何だ? 辞世の言葉かぁ!? それとも走馬灯でも見てんのかぁ!?」

 

 

 そのあまりに異質な行動に一夏は怪訝な顔を浮かべ、ベリアルはそれを諦めと見たのか嘲笑すると更にデスシウムの出力を強め、決着を付けにかかり、押し込まれ続けたM87はついにほんのゾフィーの指先から1メートル程度しか出ていないレベルにまで押され、デスシウムの赤い光がゾフィーを包み込もうとし

 

「……だからこそ今、こう断言しよう。一夏、君に会えて本当に良かった。君との出会いが無ければ私は決してこの一打を放つ事が出来なかっただろう」

 

「…………!」

 

 その時、その瞬間、一夏は気が付いた。ゾフィーの周囲に立ち込めてる赤いエネルギーの光が迫り来るデスシウムでは無くゾフィーから放たれている事を、ゾフィーの両腕両脚が通常形態より大きく肥大している事を、つまり

 

 ゾフィーは既に第二形態である『スピリット・ゾフィー』へと移行していると言うことを

 

「行くぞ……っ!! これがその証明だっっ!!」

 

 そしてスピリット・ゾフィーの特性はIS同士でのネットワークで繋がり『絆』が生まれた機体のワンオフ・アビリティーの模倣

 

「零落……白夜っ!!」

 

 ついに目と鼻の先にまで迫ったデスシウム光線を前に慎吾は一時的に右腕からの放出し続けていたM87を止めると、M87とはまた 違う白い輝きを放つ『左腕』でデスシウムを正面から殴り付ける

 

 

 その瞬間、あれほどの破壊力を持ったデスシウムはガラスの如く砕けると、海風に吹かれ僅かに赤い煌めきを残しながら儚く四散しながら崩れ、瞬き程の一瞬の内に消え去っていった

 

「なっっ……にいいいいぃいっっ!?」

 

 自身の渾身の一撃を無効化されベリアルの驚愕の声が響く。確かにベリアルは慎吾の戦闘傾向については完全に把握しており、それは当然ながら全てのスペックが上昇したスピリットゾフィーでも変わらない。だがしかし、流石にこの状況

 

『土壇場でゾフィーが白式の零落白夜を使う』

 

 等は完全に予想の範囲を越えていた。だからこそ無敵の戦闘能力を持っていたベリアルに隙が生まれる

 

「はぁぁぁ……!!」

 

 その僅かなチャンスに慎吾は今まで右腕だけで放っていたM87のエネルギーを左腕にも送り、渾身の一撃を放つべく急速にエネルギーをチャージさせていく

 

 この殆ど右手だけでM87を打つ技術は、タイラントとの戦いでゾフィーの腕部を負傷した際に身に付けた変則的なM87を放つ技術の応用であり、慎吾の言葉が真実であると言うように今この瞬間、過去の激闘も経験もその全てが導火線に火が付いたのかのように、この一瞬で一気に炸裂せんとしていた

 

「Mっっ……87っっ!!」

 

 その瞬間、慎吾の全ての気合いを込めたM87光線が構えたゾフィーの右腕から発射される

 

 

 

 その瞬間、ゾフィー周辺の大気は有り余る程の熱量と質量で捻れるように大きく歪む。目映い光はその場にいた全員の視界を青と白で埋めつくし、竜巻の如くエネルギーが激しく渦を巻きながら突き進む

 

「…………!!」

   

 その速度はあまりにも早く、ベリアルが添付の才を持って反応しても尚、その瞬間には既にどう足掻いても回避も防御も不可能なまでの距離にまで距離を詰められていた。だからこそ

 

「ハッッ……やるじゃねーか……。流石はアイツの……」

 

 光線が自身を完全に包み込むその最中、ベリアルは何処か仮面の下で何処か満足そうに笑みを浮かべる。彼女は今、自分の前に堂々と立ち打ち破って見せた慎吾の姿にかつて自身がケンの他によく組んでいたもう一人、慎吾の父親の姿を無意識のうちに重ねていた事に気が付いていた

 

 それは決別した筈の自分が結局、過去に囚われているようで腹立たしくもあったが、それでも何処かどうしようも無い『誇らしさ』を感じていた。そう思えば腹立たしさも少しは薄れ、ダメージもあってベリアルの動きは自然と止まる

 

 つまり結果から見ればベリアルは端から見ればまるで抵抗できず青白い光の濁流へと飲まれ吹き飛ばされいく形となり、M87光線が撃ち終わる頃には光線のった道を示すように雲が食いちぎられたように散り、慎吾達から大きく離された所でシールドエネルギーがすっかり消し飛び、衝撃で気絶したベリアルは廃棄された船舶の上で倒れ、ピクリとも動かないベリアルだけが残されているだけだった

 

 こうして世界を巻き込み後に『ベリアルの乱』と呼ばれる騒動は世間一般的には終わりを告げる事になる

 

「ぐ……う………」

 

 そう、あくまで世間一般的に公表された話はここまでなのだ

 

 この場に集まった者達にとっては騒動はまだ終わっていない。



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177話 消えゆく星

 どうにか更新しました。そして……長らく続いたこの作品も次回で最終回を予定しております


 

「ぐ………。ん……慎吾……?」

 

 最初にその異変に気が付いたのは箒に支えられながら息を整えつつ、慎吾とベリアルの戦いの状況を丹念に観察していた光だったが、ふと違和感を感じて病床から抜け出した無茶の代償のような痛みに吐き出していた荒い呼吸を止める

 

「何かあったのか光? ……新たな問題か?」

 

「いや……慎吾の様子が……」

 

 光を支える箒が光の変化に気が付くと、箒がその口調から只事では無いことを察して光、同様にM87光線を撃ち終え、光線の熱で蒸気を全身から吹き出すゾフィーの背中を見ていた。と、まさにその瞬間、その背中が、ゾフィーの身体が大きく揺れ

 

 突如、糸が切れたように真っ逆さまにゾフィーは海面に向かって落ちていった 

 

「慎吾っっ!?」

 

「慎吾さんっっ!!」

 

 それにいち早く反応したのは視線を向けていた光、そして何より一番近く慎吾の側にいた一夏であり素早く白式を駆けると崩れ落ちるゾフィーをしっかりと両腕で支えて受け止める。と、丁度その瞬間に展開されていたゾフィーが限界を迎えたらしく解除され、ISスーツに身を包んだ慎吾が姿を表した

 

「慎吾さん! しっかりしてください慎吾さん!!」

 

「慎吾!? おいっ!! どうした! しっかりしろ!!」

 

「目を覚ませ慎吾!!」

 

「お兄ちゃん!? しっかりして!!」

 

「おにーちゃん大丈夫か!?」

 

 一夏が受け止めた後、光、箒、シャルロット、ラウラ、と仲間達が慎吾の元へとかけより懸命に慎吾へと呼び掛ける。しかし慎吾は目を閉じたままぴくりとも動かず、まるで声にも反応もしない。そして何より

 

 慎吾の着てる紅白が特徴的なISスーツはベリアルとの激闘によりボロボロに傷付き、胸元も素肌同然にまで露にされていた。のにも関わらず

 

 慎吾の胸はピクリとも動きはしなかったのだ

 

 その事には全員が気付いてはいたが誰も口には出さず懸命に声を張り上げ、慎吾を眠りから覚まそうとしているかのように呼び掛け続ける。そうしなければまるで慎吾がISの操縦者保護すら間に合わぬ程に全ての力を使い果たして燃え尽きて───

 

「……っ! 待ってろ慎吾! M78社を中心とした救護チームは既にすぐ近くにまで来ている! それまで俺が応急措置を行うから堪えるんだ!!」

 

 全員の頭の中に最悪の予感が過る中、それを振り払わんとばかりに光がふらつきながらも前に出ると、慎吾との新型装備実験用に使っていた医療用の心電図と脳波を測定する機器を起動させ

 

ピーーーッッ

 

「…………!!」

 

 そこに無情に表示された呼吸停止、心肺停止、脳波停止の知らせに強制的に次の言葉を停止させられる

 

 決して奢らず、仲間達を思いやり、どんな強敵にも恐れず立ち向かい続けた少年

 

 大谷慎吾はこの場で既に死亡していた

 

 

『うわあああああああああああああぁぁぁぁっっ!!』

 

 

 永遠かと思われる程に長く感じたベリアルとの戦いが済んだと言うにも関わらず、この場に勝ちどきを告げる声は無く、海風に仲間達の絶望の悲鳴が響き渡るだけだった

 

 

「そんな……そんな……嘘だ……! 嘘だよね……!?」

 

 戦いによる損傷が比較的に少なかった廃船の甲板の上、その上に戦闘を終えたメンバーが動かぬ慎吾を中心として集まっていた

 

 ベリアルとの戦いに全力を注いだ為に武装以外の装備が殆ど無く、冷たい甲板の上に寝かされ、徐々に体温が下がっていく慎吾の手を抱き締めるように握りながらシャルロットが涙を流しながら絶望を前に必死に呼び掛ける

 

「起きてくれ……起きてくれ、おにーちゃん……! 頼む…………!」

 

 その隣ではラウラが懸命に慎吾の側に座り、溢れる涙を隠さずにいながらも懸命に心臓マッサージを続けていた。慎吾の心肺停止が確認されて既に五分。軍人であるラウラも光に助力して先程から自分の持つ知識を総動員して慎吾の応急措置を手伝っていたのだが既に万策付き、もはや絶望に必死に抗いながら効果があるかも分からぬマッサージを続ける事しか出来なかった

 

「くそっ……!! くそっ!くそっ! くそおぉぉっっ!!」

 

「一夏…………」

 

 一夏は甲板の上に手を付き、悔しさに歯噛みをしながら指が避けて血が流れ始めるのにも関わらず何度も何度も何度も握った拳を叩きつけ叫ぶ。そのままでは指の骨すら折れてしまいかねない勢いに箒は一夏の身を案じるが、その無力感と悔しさが痛い程に理解が出来た為に動くことが出来ず、ただ一夏の側によりそう事しか出来なかった

 

「俺はバカだ…………! やれ天才だともてはやされても……目の前の友一人をも救うことは出来ないなんて……」

 

 そんな光景を見ながら光は流れる涙をも枯らしたのか、力無く朽ち果てた船舶の壁面に体重をあずけながら座り、仲間達を眺める事しか出来なかった。既に通信であと3分もしないうちにケンが急がせてくれた救護班が到着する事は知ってはいたがそれで治療を受けた慎吾が何事も無かったように復帰できる。……と、信じるほどに光は楽天的になりきる事が出来なかった

 

「やはり俺があの時、どうやってもウルトラダイナマイトでベリアルを仕留めるべきだったんだ……いや、そもそも倒れずに慎吾と戦い続けていれば……いや待て……」

 

 今や光に出来ることは虚ろな目のまはま過去の事を振り返り、重箱の隅をつつくように己の失態を過ちを追求して嘆き続ける事だけであり、それ以外の事は何も出来る気力が沸かなかったのだ

 

 勝利したのにも関わらずこの場にいる誰もが立ち上がれず、うちひしがれるその様はまさに絶望そのものである光景としか言えなかった

 

 

 だからこそ

 

「(心臓マッサージ……人工呼吸……ISを使っての電気ショック……いづれも効果を示さなかった……やはり……俺では救えないのか……あれほど優れた精神を持つ人間を……)」

 

 絶望の最中、光の脳内には走馬灯のように次々と慎吾と過ごした過去の記憶が蘇り始めていた。始めての出会い、考え方の違いからの対立、そして和解。無二の親友となったこと、自身が作り出した新型機ゾフィーを慎吾が所有する事になった事、そして学園に通うようになってから共に戦うようになった数々の強敵……

 

「(あぁ……そう言えば慎吾は以前、『地球より遥かに科学力が進んだ星に暮らす並行世界の自分に出会った』なんて話もしていたな……。しかも土産まで持って帰ってくるのだから本当にあいつは数奇な運命の元に……)」

 

 その時、光は本当に深く何も考えず、思い出に浸ろうとして自身が慎吾から以前預かり、それ以来自身の機体、ヒカリに保管していた「赤い石」を取り出し

 

「え………………?」

 

 その瞬間、否応なしに気が付いた。M78社にある自身のラボにある最新の機器で調べても『所持していても危険性は無い』と言う事しか分からなかった赤い石

 

 

 その石が太陽のように目映く輝きながら心臓の鼓動のように脈を打ってる事を

 

 

 全員がベストを尽くしても尚、果たせないその時こそ

 

 鮮やかにウルトラの奇跡は巻き起こる



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