烟る鉄底海峡 (wind)
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beginning of Journey

「♫~~♫~」

 

 

 

小さな島の浜辺の小屋。波の音ににまじり、かすかに歌が聞こえる。

椅子に座った一人の艦娘。彼女が歌っているようだ。

 

 

「…はぁ。」

諦観に満ちた溜息とともに、彼女は視線を空へと上げる。

 

 

 

 

しかし、青色は見えない。霧によって覆い隠されている。

 

今、この海域に、空はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

鉄底海峡上空。

 

 

 

霧で出来たドームの上を、三機のヘリが飛行している。装甲輸送へリ、Stork。

積載量の多さが売りのこのヘリは、機体下部に装甲車のようなものを吊り下げていた。

それぞれ赤、青、黄のカラーリングが施された最先端揚陸艦。そのうち、あなたは青い二番艦ブルージェット号に搭乗している。

 

 

赤の一番艦レッドスプライト号から通信が入る。

 

「鉄底海峡上空に到達しました。再度、作戦の概要を説明します。

かつての激戦の後、この海域は南木提督の元防衛線の再建が進められてきました。しかし先日の嵐の後、この海域は異常な霧によって覆われ、内部との連絡が取れない状況に陥っています。

我々のミッションオブジェクティブは内部に突入し、南木鎮守府の人員と接触すること。並びにこの現象の原因調査、解明です。

この霧は恐らく深海棲艦により引き起こされたものだと思われます。そして、そうだとすれば内部に敵がひしめいているという可能性も否定出来ません。そのため、今回の作戦では飛行可能なライトニング級次世代揚陸艦群が使用されます。霧のドームの中心点に近い南木鎮守府に上空から接近し、事態の収拾を図ります。難しい任務です、総員の奮闘に期待します。

 

これより、霧によって閉ざされた鉄底海峡への突入作戦を開始します。対ショック体勢をとって下さい。」

 

 

通信終了。

艦隊が突入準備に入る。

 

 

 

ストーク前側のウインチが巻かれ、揚陸艦が傾く。あなたはベルトが体に食い込むのを感じた。

 

「各部チェック。」

 

「エンジン、点火準備。OKです。」

「ストークとの接続解除準備、完了。」

「突入角調整用補助スラスター、テスト。異常なし。」

「オールグリーン。」

「二番艦準備完了です。」

直後に他艦からも準備完了の連絡が入る。一番艦から通信。

 

 

 

「了解、艦隊発進。我に続け。」

エンジンが点火される。飛行開始。

 

微かに音、そして振動。ストークと船体を繋ぐケーブルがパージされたのだ。

落下。

あなたは浮遊感を感じつつ、筋肉を緊張させ、振動に備える。

空気抵抗により船体が震える。しかしそれもエンジン出力が上がることで落ち着いた。

 

高度を維持しつつ、一番艦に続く。

 

 

「こちらStork2。投下成功を確認しました。皆さん、ご武運を!」

ヘリのパイロットに見送られつつ、揚陸艦は行く。

 

 

前方に、機首を下げていく一番艦が見える。

 

「霧に突入します。カウント10。」

「9。」「8」「7」「6」「5」「衝撃に備えて!」

 

突入。

 

霧に覆われ、揚陸艦の姿が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら一番艦。損傷なし。各艦無事ですか?」

「二番艦、異常なし。」

「三番艦、同じく異常ありませ…!通信です!」

 

「何処からです!?」

「この通信コードは…間違いありません。発信位置、コードとも南木鎮守府のものです!」

「無事だったか…!内容は?」

「読み上げます。即時帰投せよ…?ここには」ノイズとともに通信が切れる。

 

 

 

「おい、どうした?応答しろ!」

「三番艦が予定コースを外れていきます!」「火を吹いてるぞ!?」「エンジントラブルか?」

 

 

「違う、砲撃だ!すぐ高度を下げろ!狙い撃ちにされるぞ!!」

 

一番艦が急下降し、二番艦もそれに続こうとする。

 

 

瞬間、二番艦の後部に着弾。誘爆。左エンジンブロックが吹き飛ばされる。

バランスを崩した青い船はパーツを撒き散らしながら海に向かって落ちていく。

 

船体に穴が開いているのが見える。

あなたは衝撃に弄ばれ、船から投げ出されつつあるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

小さな島の浜辺の小屋。歌っていた彼女は、空に青い流星が流れるのを見た。

 

手に持つコインを弄びつつ、彼女は呟く。

 

 

「まだ、終わらないのか…。」

 

 

コインが指で弾かれ、彼女の視線がそれを追う。

コインの向こうに、流星から投げ出される人影のようなものが見えた。

 

驚き、コインを取り落とす。

 

 

…いや、自分には関係ないとばかりに、彼女はコインを拾おうとする。

…もし、表が出ていたらアイツを助けに行こう。そんなことを考えつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は落ちたコインを見る。

 

 

 

 

 

 

「…はぁ。」

「つくづく、運の良いヤツだな…。」

 

彼女はため息をつきながら立ち上がり、ボロボロの艤装を装着し始めた。

 

 

 

 

 

そんな彼女を、砂浜に縦に突き刺さっていたコインの顔が見送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

あなたは見知らぬ小屋で目を覚ました。

波の音が聞こえる。

 

ここは…?あなたの記憶は船から投げ出されたところで途絶えている。

 

 

 

「よう、目が覚めたか?ブルーバード。」

 

見知らぬ艦娘。彼女が助けてくれたのだろうか?彼女の声に答えつつ、聞く。ブルーバードというのは…?

 

「お前のことだよ。青い船から落ちてきたからな。あの高さから落ちてほぼ無傷だもんなぁ…。実際運が良いよ、お前。固定されてた椅子ごと落ちたのが良かったんだろ。まぁそれでも体に負荷が掛かったのは事実だ。」

「もう少し寝ておけよ。」

 

 

 

それだけ言って、彼女は部屋を出ていこうとするので、あなたは慌てて呼び止めた。

 

「…なんだよ?」

いや、まだ礼を言っていない。助けてくれてありがとう、貴方は恩人だ。そうあなたが言う。

 

「お前の運が良かっただけ、ただそれだけだよ…。」

 

呟くように答えた彼女に問いかけようとして、恩人の名前すら聞いていないことに気づく。

 

「あ?オレの名前?…天龍だ。」

 

ぶっ壊れた南木鎮守府の生き残りだよ。彼女はそう答えた。

 

 

 

 

 

 

1st, "beginning of Strange Journey" is the end.

continue to next "Shuttered blues"

 




ほぼ初投稿につき、行間がおかしいかもしれません。
第一話とはいえ短すぎるので、後で統合するかも。

又、レッドスプライト、ブルージェットと違いエルブスには黄色要素は無いのですが差別化のため黄色扱いしてます。


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Shuttered blues(上)

「♫~~♫~」

 

 

「あ。起こしちまったか?」

 

 

彼女の歌で、あなたは目を覚ます。悲しげなメロディ。

彼女に朝の挨拶をしつつ、起き上がろうとすると関節に痛みが走る。

 

「まだ痛むのか?飯を持ってきてやるから少し待ってろ。」

 

 

「ほらよ。」

 

あなたは天龍に感謝しつつ、朝食を食べ始める。

 

 

 

 

 

 

 

「食い終わったか。」

 

 

「それで、お前らは何しに此処へ来たんだ?」

 

何しに?あなたは答える。『それは当然、…?』

 

「わざわざ飛べる船で来るぐらいだ、鎮守府に行こうとしたんだろうが…外ではこの件に対してどう認識されているんだ?」

 

「おい、聞いてるのか?」

 

 

『ああ、いや、すまない。申し訳ないんだが、質問には答えられそうにない。』

 

 

「…この状況で機密云々言うつもりじゃないよな?」

 

 

天龍の目が、剣呑な光を帯びる。

 

 

「…隠すつもりなら、怪我人だって容赦はしねぇぞ?」

 

 

『そうではなく。』

 

 

「ああ゛?」

 

 

『覚えていない。というか、そもそも今はどういう状況なんだ?』

 

 

 

 

『というか、私は誰だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話  "Shuttered blues"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ…記憶喪失?いや、まぁあの高さから落ちて無傷ってほうが逆に変だったのかもしれないけどよ…。」

 

肩を落とした天龍に、あなたは謝る。

 

『力になれず、すまない。せっかく助けてもらったのに…。』

 

 

「…いや。別にそういう理由でお前を助けたわけじゃない。」

「言ったろ?お前の運がよかったってだけさ。」

「ストーンヘンジに撃たれて生きてる、なんてのは実際奇跡みたいなもんだ。」

 

『ストーンヘンジ?』

 

「コードネームってか、アダ名みたいなもんだ。島を丸ごと砲台化した深海棲艦のな。いや、島が丸ごと…か? アレのせいで此処じゃあ航空機は役に立たん。おかげで散り散りになった味方とは連絡が取れない。」

 

「霧が出て以来、あっちもこっちも妙な敵ばかり現れやがる。」

 

 

 

「多分、お前の船もアレに撃たれたんだと思うんだが…。覚えてないか?」

「オレが遠くから見たかぎり、砲撃を食らった空飛ぶ船からお前が放り出された感じだったが…。」

 

『なんとなく、何処かから落ちたのは覚えてる。その前に散々振り回された気もする。』

 

「そうか…。」

 

「落ちてきた装備に、何か情報があるかもしれないな。持ってこよう。」

 

『大丈夫、もう起き上がれるよ。一緒に行く。』

 

「…無理はするなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

外には数隻分の艤装パーツや予備弾薬が置かれていた。そのほとんどが駆逐艦用の…特Ⅲ型のもののようだ。

 

『これが?』 あなたは天龍に聞く。

 

「…そいつは別件のだ。こっちだよ、第一お前は朝潮型だろうが。」

 

言われてみれば、微妙に見慣れない型…なような気がする。自分のことすらひどくあやふやだ。

 

…流石に航行の仕方まで忘れてたりしないよな?あなたは不安にかられる。

 

 

 

天龍曰く特異な敵までいるらしいこの海域で、そんなことになったら死は避けられないだろう。

 

死にたくはない。

まだ任務だって残ってるんだ、とっとと味方と合流しよう。

 

 

そこまで考えて、自分の思考に苦笑する。

…どうやら人は、自分のことすら忘れても、死にたくないと思えるらしい。

少し、驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだ。一部しか回収出来てないが、試しに装着してみろ。…案外、何か思い出すかもしれないしな?」

 

手持ち式の主砲が一つ。魚雷はなし。航行用の装備は最低限揃っている。

 

「推進器の類は椅子に固定されてた。魚雷が外されてるのは、多分船中で誘爆するのを防ぐためなんだろう。」

「どうだ、動かし方は覚えてるか?」

 

『…多分。』

 

 

「不安になる答えだな…。」

 

「試運転でもしてみるか。この島周辺ならギリギリ安全なはずだ。」

「オレから離れず、しっかりついてこいよ?」

 

 

ギリギリ…。

不安になるようなことを言う。

 

あなたはおっかなびっくり、海へと進み始めた。

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

「砂浜に沿って島を半周する。ちゃんとついてこいよ~?」

 

からかうように天龍が言う。

あなたには彼女に言い返す余裕も無い。

 

「おいおい、ホントに大丈夫かぁ?」

 

 

『よし、よしよし。安定した。』

この後出力を上げて、舵の様子を見つつ…。

 

 

「お。思い出してきたみたいだな。」

「やっぱり、そういうのは体に染み付いてるもんなのかね。」

 

多少ふらつきつつも、あなたは天龍に追いつくことが出来た。

 

「よ~し。それじゃあ、もう少し速度を上げるぜ?」

 

 

島から一定の距離を取り続けるように、右に左に蛇行する天龍。

あなたはそれに必死に付いていく。

 

 

「Okだ!」

「中々上手いじゃないか。」

「そろそろ岩場に入る。勢い余って突っ込むなよ?」

 

蛇行がさらに激しくなる。

 

途中、あなたは岩場に様々な残骸が打ち上げられているのに気づく。

激戦の痕跡。

 

あの駆逐艦用装備もここから引き上げたものなのだろうか?

それにしては、やたら状態の良いものも混じっていたが…。

 

 

「考え事とは余裕だな!」

「なら、ここから先は先導はなしだ!」

「向こうのあの浜までいって戻ってこい!」

 

岩場を縫うように、あなたは行く。

 

 

 

 

折り返し地点に到達。

左右の出力を調整し、ターン。

 

 

そして、天龍の元に戻るべく加速。

 

そんなあなたの姿を、天龍は懐かしいものを見るかのように眺めていた。

 

 

「よし、航行に関しては問題なさそうだな。」

 

「じゃあ次は攻撃のおさらいをしとくか。」

「主砲を構えてみろ。」

「島に向けてなら、敵に気づかれる心配は少ない。やってみろ。」

 

一発、二発。

砲弾は重力その他の影響を受けつつ飛び、狙い通りに着弾した。

 

「良い腕してんなぁ!」

「実は、記憶失ってなきゃエース級だったりするのかもな?」

 

 

 

「うっし!じゃあ次だ!」

 

言って、天龍はあなたに簡素な木剣を渡す。

 

『これは…?』

 

「近接戦用の武器だが?」

 

『近接戦…主砲があるのに、わざわざ?』

 

「残念ながら、霧が出るのはドームの外周部だけじゃあないんだ。此処じゃあ突然濃くなったりもするあの霧のせいで、気づいたら敵が目の前にいる。なんてことも起こり得る。」

「練習しといて損はないぜ。」

 

「試しに打ち込んで来い!」

 

『しかし…振って当たったら結構な怪我をしかねない。』

 

「…フフフ、オレに当てられると思ってんのかぁ?」

 

彼女は自信満々で木剣を構えている。

あなたは寸止めできるように気を付けつつ、接近し木剣を振るう。

 

「踏み込みが足りねぇなぁ。」

 

軽く言って、木剣が打ち払われる。

 

二撃目。

「脇が甘い。」

三撃。

「勢いが弱い。」

四。

「体が崩れてるぞ?」

五。

「うりゃあ!」

 

無理な体勢で放った攻撃は見事にいなされ、木剣が弾き飛ばされていった。

 

「あー…。」

「此処らにゃあ近接武器を持った敵も珍しくない。せめてパリィの練習はしといたほうがいいみたいだなぁ…。」

 

 

 

こうして、天龍による近接戦闘講座が始まった。

 

 

 

特に重要だと念押しされたのは二点。

 

まずは如何にして推力を打撃力に変換するか。最適打撃がどうこうと言っていたが、理解できた自信はない。

そして如何にして敵の攻撃をいなすか。敵の攻撃を打ち払いつつ、可能なら自身の推力を利用して相手の体勢を崩せるとなお良い、らしい。

こちらはあなた自身が散々味わう羽目になった。打ち払われる剣ごと相手のターンに巻き込まれてしまうのだ。

 

 

マスターできたとは言いがたいが、艤装の推力を技に盛り込んだ彼女の実戦格闘術は役に立つだろう。

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

彼女と二人、帰路につく。

日暮れが近いのか、霧に覆われた空が少しずつ暗くなっていく。

 

 

「なぁ、あの明かりが見えるか?」

 

天龍が指差す先には、ぼんやりと明かりが灯る大きい島がある。

 

「あれだ。あれがストーンヘンジだ。」

 

!『大きいな…。』思わず、あなたは呟く。

 

「あそこには対空用の馬鹿デカい砲と、それを守るための近接防御用の砲が多数据えられてる。」

「幸いなことに、対海上目標用の砲は射程が短い。命が惜しけりゃ近づかないことだ。」

 

『ああ、分かった。死にたくはないからな…。』

答えて、何かが引っかかるような感覚を覚える。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

そう、そうだ。さっきも似たようなこと考えて…。

思い出した!

 

 

『そうだよ、確か味方がいたんだ!』

確か連絡用の通信機が艤装に積まれてたハズ…あった!

 

 

「通信機か?それ。」

 

 

『こちら、…あー、まぁ良いか。誰か、この通信を拾ったものは居ないか?』

 

 

 

 

ノイズ。

 

 

 

 

霧は内部での通信も阻害してしまうのだろうか?

 

 

「いや、今霧が薄いところなら大丈夫だ。この周辺に相手が居れば通じるはずだが…。」

 

 

 

『そうか!』

『繰り返す、誰かこの通信に答えてくれ!』

 

ノイズの中、途切れ途切れに何かが聞こえる。

 

 

 

「こち…、…ッド……ライト……。ブル………ト号…………すか?」

 

 

 

通じた!

 

 

 

しかし、それ以降通信が繋がる気配はない。

 

 

「向こうが霧の濃いところに入っちまったのかもな。」

「もう夜になる。今日のところは戻ろうぜ。」

 

 

『…分かった。』

『すまないが、今日も世話になる。』

 

 

「いいさ。」

「部屋は余ってるからな。」

 

 




行間のテストを兼ねて投稿。
初期ブレード=木刀。アーマードコア(PS2まで)ではお馴染み。

試しに振ってみた使命表のダイスで記憶喪失に。
プロットは無事死亡、ラスボスが交代する事態が発生。
人称ブレブレキャラ迷走の惨事。後でなかったことにするかも。


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Shuttered blues(中)

翌日。

 

 

「今日は、霧が濃いなぁ…。」

 

そうね。

 

「お、起きたか。」

 

おはよう、天龍。

太陽がないと時間が分からなくて困るわね。

 

「失くしてから分かる偉大さってか。」

 

 

 

 

 

天龍は椅子に座って海を見ていた。

あなたは持ってきた椅子を置き、天龍と二人座って海を眺める。

 

 

 

 

 

「…その椅子は。」

 

小屋に置いてあったのを持ってきた。

…マズかったかな?

 

「いや。構わない。構わないが…。」

 

天龍は立ち上がる。

 

「飯にしよう。」

 

 

?あなたは天龍の様子がおかしいように思う。

 

 

 

 

…この椅子は大事なものだったのかもしれない。

天龍の座っていた椅子と見比べると、とても綺麗だ。

 

あなたは傷が付かないよう気を付けつつ、椅子を持って帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…わざわざ持って帰ってきたのか?」

「構わんっていったろ?放っておいても良かったんだぞ。まだ椅子はあるし…。」

「どうせ、もう使う当てもない。」

 

 

投げやりな口調とは裏腹に、残り四脚の椅子にも埃や汚れは見受けられなかった。

あなたは椅子を丁寧に置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

無言での朝食が終わると、天龍が口を開く。

 

 

「多分、この霧じゃあ通信は通じないだろう。」

「今日もオレと近接戦訓練をしないか?」

 

…分かったわ。

あの訓練はためになった。むしろこっちからお願いしたいぐらいだ。

 

 

そんなことならもっと早く言ってくれれば良かったのに。あなたは思う。

食事中も、天龍が送ってくる視線が気になって仕方なかったのだ。

 

 

 

天龍は武器をとりつつ、外に出ていこうとする。

 

 

 

あなたは木剣の他にも武器が立て掛けてあるのに気づいた。

槍。柄の一部が加工されている。ナックルガードが増設されているようだ。

 

天龍の武器だろうか?にしては剣の扱いがとても上手かったが。

コウボウ・エラーズというやつだろうか。

 

 

…何かおかしいような気もする。

なので直接聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

 

「は?訳が分からんが、ケンカ売られてるのか?」

「…もしかして、弘法筆を選ばずって言いたいのか。それにしても意味は通らないが。」

 

「…あの槍のことか。いや、別に槍の扱いは上手いわけじゃない。」

「いつもの得物は折れちまったからな。あれは借り物なんだ。」

 

 

 

「ほれ、剣だ。」

「艤装はいらん。今日中にパリィの感覚を覚えてもらうぞ!」

 

 

…お手柔らかに頼むよ。

 

 

あなたは昨日の訓練を思い出し、頬を引き攣らせた。

彼女の訓練は、中々にスパルタだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

剣が弾き飛ばされ、あなたは砂浜に転がった。

いくら攻めても天龍には届かない。

 

 

「よーし、攻守交代だ。」

「オレの剣をパリィしてみろ。」

 

言って、彼女はまだ寝転がるあなたに剣を振り下ろした。

慌てて転がり、飛ばされた剣を手に取る。

 

危ないな!

 

「ダラけてる方が悪い。」

「ほら、散々手本は見せてやったんだ。しっかり受け流せよ?」

 

「オラ!」

 

 

天龍の剣撃を、あなたは必死で受け流す。

 

「タイミングが早い!」

「敵の動きをしっかり見るんだ。」

 

「オラ、オラ!…!そう、そのタイミングだ!」

 

「次は剣の角度に気をつけてみろ。」

「コツさえ掴めば武器が無くても敵の攻撃が逸らせるようになる。」

 

 

「よし、基本はサマになってきたな。」

「さぁ!今まで教えたことを使いながら斬りかかってこい!」

 

 

天龍の剣の扱いだけでなく、教えるのも上手かった。手馴れてる感じがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…!

また、あなたの剣が弾き飛ばされる。天龍のフェイントに引っかかってしまったのだ。

 

「剣技を磨くだけじゃなく、それをどう戦闘に活かすかも考えるんだ。」

 

 

 

そういうことなら…!

 

あなたは拾い直した木剣の切っ先で地面の砂を跳ね上げようとする。

 

「甘い。」

 

しかし、その動きは潰されてしまった。下がった状態を狙われ、剣を足で踏みつけられ

てしまう。

 

握っていた剣に引っ張られ、あなたの体勢が崩れる。

 

 

天龍は踏み込んだ勢いを活かし、剣を振るう。死に体になったあなたに避けることはできない。

 

だが。

 

 

 

 

 

甘いのはどっちだ。読み通りなんだよぉ!

 

「…なにっ!」

 

 

 

今の自分にフェイントを見切ることは不可能。ならばフェイントを使えない状況に持ち込むしかない。

だから、意図的にこの状態に持ち込んだ。

 

天龍が放ったカウンター。とても鋭く早い剣撃。

しかしカウンターである以上、フェイントを挟む意味は無く、タイミングはとても分かりやすい。

 

 

 

だから、コイツをっ! 弾く!

 

 

 

剣を手放し、左手で天龍の剣を弾く。

天龍に初めて現れた、明確な隙。それを逃さず、あなたは拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 ペチ っという気の抜けた音が鳴った。

 

 

 

 

あなたの拳が天龍に当たった音だ。…所詮、死に体で放ったパンチなどそんなものだ。

 

 

 

 

…いや、まぁ。一発は一発だし?一矢は報いたことになるし。

 

 

言い訳染みたことを言うあなたの足元では、天龍が笑い転げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

「フ、フフフフ、いや、すまない。お見事だ。一日二日の訓練でオレに一撃入れられるヤツなんてほとんどいなかった。実際すごいよ、お前は。」

「しっかし、ペチって、フフフ…。」

 

 

忍び笑いを漏らしつつ、天龍はいう。

 

 

 

…笑うか褒めるかどっちかにしてくれ。

流石に疲れた。先に戻ってるよ。

 

 

 

「本気で褒めてんだぜ?機嫌悪くしないでくれよ~。」

 

 

 

別に、本気で気にしてるわけじゃないさ。

 

天龍の声に答えつつ、あなたは小屋に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜に一人残る天龍。

 

 

 

「フフフフフ…。」

 

「………。」

 

「……。」

 

「…。」

 

「…にしても、笑ったのなんか何時ぶりだろうな。」

 

「…」

 

「あいつなら、オレの代わりに…。」

 

 

 

天龍は海を、そしてその先にあるはずの鎮守府を見やる。

 

 

「終わらせなきゃ、な。」

「自分で巻いた種だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

「♫~~♫~」

 

 

今日も、彼女の歌で目が覚めた。

 

 

 

 

「よう。起きたか。」

 

「ん?これか?」

 

「お前の艤装には足りないもんが色々とあったからな。」

 

「特Ⅲ型のだが、規格は合うはずだ。」

 

 

 

 

…だが。それは…。

 

綺麗な多数の椅子や大きい小屋。

彼女が時折見せる寂しげな表情。

 

そのあたりから、なんとなく察せられるものはあった。

 

 

 

 

大切なものだったんじゃ…。

 

 

 

 

 

「……。」

 

「流石に気づくか。」

 

「だが、どのみちもう必要のないものには変わりない。」

 

「そして、お前にはこれが必要だ。」

 

だが…。

 

「気にするな。」

 

「いや…違うか。」

 

「オレは、お前に使って欲しいんだ。」

 

…。

 

…分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

天龍に薦められ、あなたは艤装を試着することにした。

魚雷管が装着され、ウェポンラックも増設されている。

 

…槍も改造していたし、天龍はこういうのも得意なのだろうか。

やはりコウボウ…。

 

 

彼女の多芸さに戦慄していると、また天龍が口を開く。

 

 

 

「どうだ、通信は繋がりそうか?」

 

 

え?ああ。

試してみる。

 

 

…非常に微弱だが、信号がきてる!

これなら、大まかな方向だけは分かりそうだ!

 

 

 

「なら、行こうぜ。」

「……オレの決意が、折れる前にさ。」

 

 

 

 

あなたは後半の呟きを聞き取ることが出来なかった。

だが、天龍の様子がおかしいことは分かる。

 

 

どうして、もっとこう…喜ばないんだ?

 

 

「喜ぶ?」心底意外そうに、天龍は言う。

 

「何をだ?」

 

何をって、これで味方と合流できるじゃないか。

 

「ああ、オレも連れてこうって?」

 

え?

 

「エスコートはしてやるが、オレにはまだやることがある。」

 

ちょ、ちょっと待って…!

 

 

「ほれ、調整してやるから艤装を貸せ。」

 

「ついでに準備もしておけよ。」

「一人分のな。」

 

 

早口に言って、天龍は戻っていく。

あなたは一人取り残された。

 




お気に入りに登録してくれた人がいて、とても嬉しい。

…書いてる内にどんどん長くなって困る。
ここから先はさらにダイジェスト化が進むかも。


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