インフィニットストラトスD×D (グレン×グレン)
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簡易設定集 ネタバレ注意

やはり設定は重要です。

これが、ストーリーを理解する力になると願って


世界観設定

 

インフィニット・ストラトスとハイスクールD×Dのクロスオーバー。

 

世界の技術は非常に進んでいるが、その裏で異形の存在が跳梁跋扈している。

 

ISについては人類の科学技術の最先端ということで意識を僅かに向けている程度。人間側の組織は研究を行う者も多いが、積極的な投入には至っていない。

 

これは、ISそのものがコアの数が固定されているためうかつに動けばそれこそ何かを言われるためである。同時に上級実力者の戦闘能力は非常に規格外であるため。その気になれば文字通り指先一つでダウンさせることができる兵器に対して、そこまで深い警戒を抱く者は少ないということである。彼らにとってISというのはあくまで『非常に素早くて面倒』程度でしかないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリジナル設定

 

レヴィア・聖羅(セーラ・レヴィアタン)

 

 旧魔王レヴィアタンの末裔にして、現政権に首を垂れる異色の悪魔。

 織斑一夏の王であり、いざという時のフォローのためにIS学園に入学した。

 赤い髪を持つ貧乳美女。長身でモデルみたいな体系を持つ。

 基本的にわがままを言わないクールな性格。タイミングがタイミングだったので入学試験などはかなり無茶をしたが、クラス編入などには一切口を出さなかったのでクラスは四組。

 各種防御障壁、肉体耐久力、特殊能力耐性にポイントを割り振った超防御体質。本気で防御すると冥界でも相当の上位クラスでないと倒せないほどだが、自身の決定打は低いのが欠点。

 ルームメイトは更識簪。好みのタイプであることと、レヴィアが簪の心をつかんだことから仲は良好。

 

 

アストルフォ

 

 セーラ・レヴィアタン眷属。兵士。駒三つ消費

 レヴィアの補佐を行う悪魔で、相応の実力者。キャラクターのコンセプトは「ジェバンニが一晩でやってくれました」(笑)

 無口で会話が苦手だが、何気に仲間思い。レヴィア達の中では一番年上。

 

 

ヒルデ・アースガルズ

 IS学園3組クラス代表。総合軍需産業アースガルズ・コーポレーションのテストパイロットで、第三世代実験期イチイバルのパイロット。

 実は北欧系の魔術師。文字を媒体として現象を起こす独自の魔術を使う。

 

 

 

 

山田四朗

 教会合同現代技術研究室室長。IS学園教師の山田麻耶の伯父。

 組織の長として優秀なだけでなく、エクスカリバーの使い手の一人でもあるエリート。

 

 

 

 

 

ウィンター

 謎のテロリスト。

 電子戦に特化したISを使い、世界中にISに対抗できる兵器をばらまきデモンストレーションを終えた。

 何者かの命令によって動いているらしいが詳細不明。

 

 

???

 本作の黒幕。

 異形の力についても詳しいが、科学技術においても対IS戦を可能にする兵器を開発するなど規格外のスペックを持つ。

 

 

 

 

ジーコン・アスモデウス

 旧魔王アスモデウスの末裔の一人。

 ある目的のためにISを狙う。旧魔王派の中では実力は高い部類に入る。

 

 

 

 

 

 

 

半オリジナル設定

 

 織斑一夏

 レヴィアの眷属悪魔。駒は戦車。

 第二回モンド・グロッソでレヴィアと関わり、悪魔に転生する。詳細は不明。

 特殊武装カレドヴルッフを使った近接戦闘タイプ。攻撃力は同年代では非常に高め。

 

 

 五反田蘭

 レヴィアの眷属悪魔。駒は戦車。

 一夏と同様の理由で悪魔に転生する。その時色々あったのか関係は友人以上恋人未満。

 神器を五つ後付けし、さらに全て禁手に至ったという規格外。基本は砲撃系だが近接戦闘も砲撃補助もできて隙がない。

神器 八面の龍(ブラスト・ドラゴ)

 八面王という龍を封印した神器。

 八つのフレキシブルアームビーム砲。

 禁手は八面の龍使い(ブラスト・ドラゴ・マイスター)

 八つの龍の頭部にISを収めることで、八面の龍と同じぐらいに神器を使うことが可能になるという規格外の性能を発揮する亜種禁手。理論上、八つの神器を必ず禁手にまで高めることが可能。

神器 聖なる器(ホーリー・ヒール)

 所有者の自然治癒力を数百倍にまで高める神器。

 禁手はその回復力を他人にも転用する聖人の器(ホーリー・ヒーリング)

神器 鬼の健脚(デーモン・ギア)

 脚力強化神器。

 禁手は脚部を覆う鎧としてその能力を宙を蹴って高速移動できるほどに高める(デーモン・ギア・アンダーアーマー)

神器 金剛の腕(ダイアモンド・アームズ)

 腕力強化神器。

 禁手は巨大な一対の腕を生みだして操る金剛の巨腕(ダイアモンド・ギガント・アームズ)

 

凰鈴音

 一夏の真実を知っている。その結果身体強化魔法を中心に学んでいる。

 レヴィアが気を使いすぎたことで須弥山に目をつけられ、それが縁で仙術も習得している。

 

 

五反田弾

 一夏の真実を知っている。その結果空間転移や隠密関係の魔術を鍛えている。

 あくまで人間として一夏たちに接する。親友と妹の関係は急激に深くなったので温かく見守る方針。

 

 

更識簪

 姉に対する愛情が微妙に屈折気味。

 万象の融合という強力な神器を保有している。

万象の融合(オーラ・キマイラ)

 さまざまなエネルギーを自在に操作することができる神器。

 エネルギー製なら障壁を操って攻撃に転用することもできたり、生命エネルギーも操作することが理論上可能など、かなり規格外の可能性を秘めた強力な神器

 

 

更識楯無

 彼女の代から更識は異形にも手を出している。

 特別製の武器を保有しており、はぐれ悪魔程度では手も足も出ない。

清水

 日本が開発した欠陥品の武装。水に触れることで攻撃力を上昇させるが、別に水をとどめておく力がないうえに魔法などを使うと効果が落ちる。

 ミステリアス・レイディの能力を使うことで始めて真価を発揮できる。

 

 

シャルロット・デュノア

 亡国企業のエージェント、サマーとして行動。神器の能力で性別を変え、シャルル・デュノアとして行動している。

 神器 妖精の杯(フェアリー・カップ)

 肉体を変質さえる神器。ちゃんと観測することができれば、DNAや染色体すら変更可能。

 

篠ノ之箒

 亡国企業のエージェント、スプリングとして活動。

 

 

 

 

 

 

 

 

機体設定

 

 不知火

 一夏が使う第一世代IS

 第三世代にまで手が届く技術水準で、それらをそぎ落としたらどれだけの基礎性能が出せるかというコンセプトの機体。基本機体性能なら、拡張領域以外はIS学園全機体でもトップ。

 本来の戦闘技術を考慮に入れて、武装構成は近接戦闘ブレード一種類のみを、破損した時のために複数格納することにしている。

 

 

イチイバル

 北欧系総合軍需産業アースガルズ・コーポレーションが開発した第三世代機。機体カラーは灰色。

 第三世代武装に特化した試験機であり、両腕が武器と化しているのが特徴。

 第三世代武装はPICを応用した擬似念動力テレキアム。これにより狭い範囲ではあるが武器そのものを操作することで多角的な攻撃が可能。

 

 

王龍(ワンロン)

 甲龍の二次移行。

 鈴に追従するための進化形態。鈴の過剰な肉体強化による悪影響を止め、その莫大な身体能力に耐え、格闘技術に悪影響を与えないよう全体的にスケールダウンするなどしている。二次移行の際に鈴の肉体を取り込んでおり、待機形態も含めて鈴の外付けの体といっても過言ではない。

 固有武装の衝撃機構は、空間を圧縮することで壁を形成する物。これを足場にすることで、踏み込みによる格闘攻撃の威力上昇などをすることができる。

 

 

 

 

 

 

スタリオン

 ISコアのシステムを流用し、聖剣をコア中枢部の代用として開発された擬似IS。

 性能は第一世代水準でしかない者の、武装が強力なので運用次第ではかなり戦える。

 

 

 

 

オリジナル設定

 

ISコア

 聖遺物の一つである聖釘の一つを分割したものが中枢部になっている。あのサイズで各種機能を積みこめたのもひとえに聖遺物の奇跡による物。

 その正体ゆえに現代科学でしか見れない者は理解することができない。

 極めて政治的に厄介な代物で、この正体がばれれば戦争を引き起こしかねない。さらに異形社会にとっても聖遺物を奪われた教会勢力と、元凶を匿う堕天使勢力、さらにそこに深くかかわった悪魔という構図が生まれたため、三大勢力の戦争を再発させかねない危険な代物。

 

 

カレドヴルッフ

 レヴィアが出資して研究されている量産型魔剣の集大成。

 性能を引き出すことができれば非常に高い性能を発揮するのだが、同時にすごい速度で劣化していくという欠点を持つ。さらに製造コストも高く、所有者が使いこなすようになるために才能を変質させることもあって、使用する物はほぼいない。

 

 

教会合同現代技術研究室

 教会勢力が合同で作り上げた、現代の技術を研究して利用するために作り上げた研究組織。

 その特性ゆえにISコアの正体にいち早く気づき、現教皇の強硬路線を警戒して独自の行動をとっている。

 

アースガルズ・コーポレーション

 自身の存在を創作物とされたことにより信仰が少なくなった北欧神話体系が、英雄を探すために設立した大規模軍事産業。

 独自の兵器開発とPMCとしての活動を主に行っており、現在はIS産業が中心。同時にそれらを応用した土木産業や医療技術研究にも手を出しており、ヨーロッパでも極めて強大な企業。

 アフリカや南アメリカを含めた、独自IS開発に遅れている企業にとっては、高性能機開発などを支援する組織としてきわめて有力であり、結果として外注の形でISコアを支部に貸し出す国家が続出。世界で最もISコアを使用できる組織として、条約違反ギリギリの活動を行っている。

 ちなみに異形社会による人間社会への過剰干渉にも取れるが、関係者もいるがあくまで個人的関与にとどまっていること。他の業界にも友好的に支援を行っていることから黙認状態である。

 

 

 

 

 

 

 

D×Dを知らない者への一言解説。

 

神器

 聖書にしるされし神が作り上げた、人間に与えられた特殊能力。

 日常生活レベルでしか使えない者がほとんどだが、一部の神器は悪魔や天使を打倒するほどの力を持つ。

 禁手という卍解じみた能力を持っており、覚醒した物は業界で一目置かれる存在と化す。結構レア。

 

悪魔

 文字どおり、聖書の教えにおけるあの悪魔でOK

 人間の欲望をかなえることで対価をもらっており、人によって対価は変動するが魂をとることは最近はめったにない。

 聖水やお祈りなど欠点が非常に多いが、総じて人間より上の身体能力と、莫大な魔力を持つ。高位のクラスになれば山を消し飛ばすぐらいのことを全力を出さずに行えるチート存在。

 

魔王

 文字通り悪魔の長。七つの大罪をつかさどる悪魔の内、ルシファー・ベルゼブブ・レヴィアタン・アスモデウスの四つを指す。

 現時点においてかつての魔王は全員戦死しており、今は最強クラスの悪魔四人がその立場についている。

 とはいえかつての魔王の血族は存在しており、レヴィアはそちら側。

 

三大勢力

 悪魔、神と生み出された天使、堕天使の三すくみの関係。

 長きにわたり戦争を繰り広げていたが、先代四大魔王が戦死するなど三勢力共に甚大な被害が発生したため停戦状態。現在は散発的な小競り合いが行われる程度である。

 

天使

 神によって生み出された存在。光力を操ることができ、悪魔との相性は高い。

 反面欲望に弱く堕天することもあるため注意が必要。

 

堕天使

 悪魔が欲望に堕ちるなどして黒く染まった姿。

 数は一番少ない勢力だが、他の勢力と比べて欠点がないため三つ巴の場合などは優勢に動きやすい。

 

転生悪魔

 神や堕天使との戦争で大きく数を減らした悪魔が開発した技術。悪魔の駒と呼ばれるアイテムを使って他種族を悪魔へと変化させる。

 チェスの駒を参考にしたセッティングがなされており、駒の種類に応じて能力の上昇などが行われる。

 

レーティングゲーム

 眷属悪魔を持つ者同士で行われる練習試合のようなもの。悪魔業界では一大エンターテイメントとして大人気。

 これで上級悪魔に昇格することも多い冥界の中心。

 

須弥山

 中国異形体系の総本山。仏や仙人が活動している。

 トップが最上級の実力者であることもあり、勢力としては比較的大きめ。

 

仙術

 仙人などが使う術。主に生命力に関わる術を使う。

 

アースガルズ

 北欧神話体系の組織。

 神々だけでなく戦乙女や英雄も数多い。伝説の魔剣や龍王などもここの出身が多く、甘く見れない勢力。

 

魔法

 悪魔の魔力を再現しようとして産まれた技術。

 魔力とは違うことができる側面もあり、様々な技術体系が産まれている。



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プロローグ

 織斑一夏は、狭い倉庫に転がされて、酷い後悔を覚えていた。

 

 理由は二つあるが、その根本は一つ。

 

 ありていにいえば、彼は誘拐されたのである。

 

 第二回モンド・グロッゾにて、姉である千冬を応援するためにドイツまできたのに、応援どころか完全に足を引っ張る形になる。

 

 大好きな姉の活躍を阻むという事実に、一夏はいっそ舌を噛み切って死んでしまおうかと本気で思った。

 

 だが、それはなにがあっても出来ない。それこそが、第二の後悔の理由。

 

「い、一夏さん・・・。私達、どうなるんですか?」

 

 震える声で自分に掛けられた声は、しかし回答を求めてのものではなく、あふれ出る恐怖から意識をそらすためのものだった。

 

 五反田蘭。

 

 何の偶然の因果か、一名様のみとはいえ、抽選で招待券が当たったことから、一緒についてきた彼女まで巻き込んでしまった。

 

 親友の妹を巻き込むなど、男の風上にも置けない。一夏はそう思うとその屈辱だけで死んでしまいそうになる。

 

 ああ、だが、それも当然なのかもしれない。

 

 世界は、女性が主導する形に変わっているのだから。

 

 IS。インフィニット・ストラトス。

 

 幼いころから仲の良かった篠ノ之束が開発した、宇宙開発用のパワードスーツ。

 

 その性能は既存の兵器体系を塗り替えるほどであり、この現代社会に置いて一騎当千をつかさどる存在である。

 

 宇宙開発用から軍事用へと転化していったとはいえ、その影響はすさまじく、その存在は世界の中心となっている。

 

 その兵器の唯一の欠陥こそ、女性にしか使用できないというものである。

 

 故の女尊男碑。

 

 お前たちはISが使えないのだから、ISが使える私達の方が上だ。

 

 その思想が蔓延する世界の中で、世界最初にして最強のIS操縦者の弟である一夏は、そんな現状を憂いていた。

 

 本来、男というものは女を守る者のはずなのだ。

 

 男尊女卑といわれるかもしれないが、一夏はやはりそう思っている。ゆえに守れる男でありたいと思うし、そう思っているから剣の腕を鍛えてもいる。

 

 その結果がこれだ。守るどころか、大事な女性を二人も苦しめる結果になった。

 

(畜生・・・畜生・・・)

 

 自分が恨めしく、誘拐犯が憎く、しかし何もできない自分が情けない。

 

 ああ、誰でもいい。誰か蘭を助けてくれ。

 

 そしてできるなら、この情けない俺を殺してくれ・・・。

 

「・・・な、何だ貴様!?」

 

 ・・・その声は、確かに届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類の科学は目覚ましい発展を遂げた。

 

 陸を駆け抜け、深海を探り、空すら支配し、そして宇宙すらその手を延ばす。

 

 しかし、ISという頂点に到達してもなお、「ただ」の人類の力では足元にも及ばないものが存在する。

 

 神、悪魔、堕天使、妖怪、仙人、竜、魔物。

 

 あるといわれながらもその存在を疑問視され、一部は創作とすら思われている物。

 

 しかし、それは確かに存在した。

 

 聖書の教えは多くの天使によって支えられ、彼らに力を授けられた悪魔祓いが悪魔や堕天使を常に殺し合う。

 

 さらに創作と貶められた各神話体系も、しかしそれを知る人たちと共にその力を蓄えている。

 

 そのような力の数々が、確かにこの世界には存在していた。

 

「じゅ、銃弾が通用しないぞ!?」

 

「ISの反応はねえ! 冗談だろ!?」

 

「や、やめろ、来るなぁ!!」

 

 そして、その一端が、このモンド・グロッソでその覇を見せつけていた。

 

「・・・人の目の前で誘拐事件など起こすとはいい度胸だ。ストレス発散も兼ねてしっかりと暴れさせてもらうよ」

 

 この日、織斑一夏は運命に出あった。

 

 そして数年後、彼は全世界を飲み込まんとする争いへと深くかかわることになる。

 

 この事件そのものが、それと無関係でないことを知るのは、まだこの時ではない。

 



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男子生徒のルーキーデビル
第一話 あのねえ一夏君


「・・・さて、それで一夏君。君はつかみを思いっきり失敗したようだね」

 

 ISを教える国際組織、IS学園。

 

 その屋上で、赤い髪の女性が、織斑一夏に呆れた視線を向けていた。

 

 一夏はその視線から逃れようとするが、しかし無理だと気付いてあきらめることにする。

 

 あの時、人生が変わったその瞬間から、彼女にはかなわないというか叶ってはいけないのだから。

 

「・・・ごめん、レヴィア。思いっきり漫才をやらかした」

 

 レヴィア・聖羅。IS学園新入生の一人。今年の所属クラスは4組である。

 

 彼女と一夏の付き合いはもう三年近くになるが、よりにも寄ってこんな場所で離すことになるとは、一夏も彼女も思ってもいなかった。

 

 それは当然。このIS学園の入学基準はISに乗れることなのだから。

 

 IS唯一の欠点は女性にしか乗れないこと。ゆえにIS学園は正真正銘の女子校であり、男子生徒などという言葉は存在しない。

 

 それなのになぜ一夏が入ったのかといえば、つまりはこういうことだ。

 

 ・・・世界初の、IS男性操縦者。

 

「いくらひらがなでの読みが一文字違いとはいえ、藍越学園とIS学園の試験会場を間違えるかい? 漢字二文字と英語二文字だよ?」

 

「それはもうさんざん言われたから勘弁してくれよ!!」

 

 思いっきり彼女を巻き込んだ身としては本来文句も言えないが、さすがにいまさらすぎることを言われてはいい加減反論の一つもしたくなる。

 

 まあ、本来一夏が彼女に口答えするなど、あってはならないことなのだが。

 

 しかし、その事実を前にしても彼女はそのことでは怒らなかった。

 

「あのねえ一夏君。君は別にこの学園で活躍する必要はない。だけど、どう考えても注目を浴び過ぎるほど浴びるであろう状況下で情けないことはしないでくれたまえ。正直僕が恥ずかしい」

 

 本当に恥ずかしがっているのだろう。口調は冷静だが頬には赤みが差している。

 

 その姿は十人中十人が通り過ぎたら振り返るような美貌だったが、一夏は顔を赤らめたりはしない。

 

 彼女はとても立派な人物で親愛の情も持っているが、問題を起こすときはとても問題を引き起こすし、何より周囲を無理やり引っ張っていく素質もある。

 

 これからも長く長く付き合っていくであろう彼女の美貌にいちいちドギマギしてはいられない。

 

 それに・・・。

 

「なあレヴィア。・・・いい加減反応してやろうぜ?」

 

「まあそうだね。・・・出てきてもいいですよ、そちらの方?」

 

 ・・・見知らぬ他人に監視されている状況下で、ラブコメをする趣味もない。

 

「・・・あら、気付いていたの?」

 

 現れるのは青い髪を持った不思議な雰囲気を持つ生徒だった。

 

「・・・誰かと思えば、生徒会長の更識楯無先輩ですか」

 

 特に驚きもせず、レヴィアはにこやかにあいさつをする。

 

 ・・・一夏はそんな中で呼吸をするのに全神経を注ぎたくなった。

 

(・・・プレッシャーが半端ねえ!?)

 

 まるで一秒後に撃ち合うかとでもいうべき緊張感。西部劇の決闘を思わせるような、無言の争いがここにあった。

 

 入学前に聞かされていたが、IS学園の生徒会長は生徒で最も強くなければならないとされている。

 

 しかも、楯無の家系は日本における暗部だ。それも対暗部用というとんでもない組織なのである。

 

 そしてもちろん・・・。

 

「始めまして、レヴィア・聖羅・・・もとい、旧魔王レヴィアタンの末裔、セーラ・レヴィアタンさん」

 

 ・・・悪魔の業界についても知っているということまで把握している。

 

 開いたセンスに書かれた「悪・魔」の文字には突っ込まない。ツッコミたくない。

 

「やはり楯無の名を持つものは伊達ではありませんね。まあ、隠すつもりもありませんでしたが」

 

「ふふふ。どうせあなたもそれぐらいは調べてきてるでしょうしね。別に何の問題もないでしょう?」

 

 表面上はすっごくにこやかだが、内面はものすごい争いが行われているんだろうなぁ。

 

 現実逃避しながら、一夏はとりあえずレヴィアの後ろに隠れることにした。

 

 男の矜持は確かに泣くが、この場に置いて会話に口を挟むわけにはいか無いのだ。

 

「・・・織斑君とはとっても親しいみたいだけど、なぜ、あなたは入学したのかしら?」

 

「大したことではありませんよ。悪魔として当然の行動をしたまでです」

 

 楯無の追及にもレヴィアは動じない。

 

 嘘ではないが真実を言っているわけでもなく、しかし介入は許さなかった。

 

「一夏君とは親しい間柄でしてね。・・・三年間サポートしてくれと言われたんですよ」

 

「そ、そうなんです!! ほ、ほら、千冬姉は教師ですから、あまり頼るわけにはいかないでしょう!!」

 

 付き合いの長さによる以心伝心で相槌を打てと言ったので、慌てて補足するように一夏は続けた。

 

 これも、嘘ではないが真実でもない。

 

「・・・そういうことね。ま、悪魔が入学してはだめなんてルールは表も裏も作ってはいなかったし、仕方ないか」

 

 楯無も現時点では追及する気はないのか、扇子を閉じるとそのまま踵を返す。

 

「・・・・・・まあ、頑張ってね二人とも。IS学園は二人を歓迎するわ」

 

 言外に含みを持たせつつ、楯無は屋上から去っていく。

 

 数分後、一夏はためいきをつくと頭を下げた。

 

「ゴメンレヴィア。俺が馬鹿やったせいで迷惑かける」

 

 思えば数年間はずっとこんな感じだ。

 

 時々振り回されるところはあったが、基本的に彼女はあらゆる面で一夏を支え続けてくれていた。

 

 本来自分が彼女を支え続けていかなければならないというのに、本当に情けない限りである。

 

「構わないよ。君はまだまだこれからなんだ。先達として手助けするのは当然さ」

 

 そんな心中を察してか、レヴィアは不敵に微笑むと一夏を抱き寄せる。

 

「僕は君を評価している。そして、君はそれに答えてくれると確信しているんだ。これぐらいの投資はするさ」

 

 投資。まるで物に向けるような言い方だが、一夏は腹を立てることはない。

 

 一夏は知っている。彼女の、時折自分を所有物にするような物言いは、自分の立場を知っているからこその愛情表現なんだと。

 

 そして、だからこそ一夏は申し訳なく思う。

 

「とはいえ気をつけてくれよ。世界初の男性IS操縦者は間違いなく歴史に残る存在だ。それが・・・」

 

 ・・・自分は未だに、何の恩も返せていない。

 

「・・・現魔王に下った旧魔王血族の眷属悪魔だなんて、本来なら神が直接殺しに来るかもしれない一大事なんだから」

 

 ・・・文字通り、失われたはずの命を拾い上げてくれた恩を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっとくいきませんわ!!」

 

 教室中に響く声で、苛立ちを隠そうともしない怒声が響いた。

 

 まるで純金を思わせるような金の髪を縦ロールにした、どこから見ても貴族の令嬢といった雰囲気を思わせる女子生徒が、その髪を振り乱していた。

 

 イギリス代表候補生、セシリア・オルコット。

 

 その不満だらけの意見に対して、一夏は内心でエールを張り上げていた。

 

 理由は簡単。クラス代表にされそうになっているからである。

 

 クラス代表とは、読んで字のとおりクラスの代表である。生徒会の会議や委員会の出席が主な仕事であり、いわば委員長とでもいうべきだろうか。

 

 ただしここはIS学園。そんな学園のクラスの顔ともなれば、それなりに大きなイベントにも出席しなければいけないかもしれない。

 

 前述のとおり、一夏は人間ではなく悪魔である。

 

 厳密にいえば、人間から悪魔になった存在である。

 

 話を変えることを覚悟で説明すれば、この変化はある意味でとても重要である。

 

 聖書の教えに存在する、天使、悪魔、堕天使。

 

 彼らは長きにわたって争いを続け、悪魔の長である四大魔王の死によって、一時的にその戦争は休戦状態へとなった。

 

 だが、その戦争の爪痕は深い。悪魔は大きく数を減らし、滅亡寸前にまで追い込まれた。

 

 その自体を打破するために生み出された者、それが転生悪魔。

 

 新たなる魔王の一人が生み出した悪魔の駒というシステムを使うことで、あらゆる存在を悪魔へと生まれ変わらせることができるという優れものである。

 

 一夏はこれによって、人であることをやめ悪魔へとなった。いな、ならざるを得なかったといった方が正しい。

 

 そして、それは今の自分の立場と重ね合わせると非常に危険なことである。

 

 悪魔は人間社会と深くかかわっており、政府とのパイプも存在するが、同時に天使の側も同じようにパイプが存在する。そして、戦争は休戦したのであって終戦したのではない。

 

 ありていにいえば、あまりに露骨な干渉を行えば戦争再開が起こり得るのだ。

 

 転生悪魔によって数が増やせるとはいえ、旧い貴族的思考を持つものが多い悪魔社会に置いて、その駒を使うことができるのは上級悪魔に到達した者のみ。そしてその数は少ない。挙句の果てに悪魔の出生率は人間より少ないのだ。

 

 ゆえに悪魔は未だに打撃から回復しておらず、今の状況で戦争を起こすのは悪手以外のなにも出もない。

 

 ゆえに、会社の社長などをする場合は、表の人間の力を借りてあくまで人間の起こしていることとして処理をしなければ、世界最大宗教の力が襲いかかってくる。

 

 そんなところにISという人間社会の頂点ともいえるそんざいの歴史を変えてしまったのだ。

 

 女性しか使えないはずのISを使うことができる男子など、どう考えても歴史に残る。

 

 それが悪魔であるなどと知れれば、下手をしなくても天使にとって挑発以外の何物でもない。実際、はたからは事情を知っている親友程度の認識しかされていないのにもかかわらず、何度か神の教えに従う教会の悪魔祓いが殺しにやってきた。

 

 悪魔側もこのイレギュラーをいっそ自分達で殺して無かったことにしようという動きもあった。それこそ悪魔で少数派だが、本来なら、事故に巻き込まれて死亡したことにして、人間としての一夏を抹殺しようという意見が主流派なのだ。

 

 それを防いだのはひとえにレヴィアの影響力の高さによる。

 

 戦争継続は困難だと判断した現政権側に対し、旧魔王の血族は徹底抗戦を主張した。

 

 ただでさえ弱体化した悪魔の数をさらに減らす内乱の末、先代魔王の血族とそちら側についたものは辺境へと追いやられ、魔王の名は称号と化して当時最強の四人に受け継がれた。

 

 そう、称号として受け継がせねばならないほど、四大魔王の名は重いものなのである。

 

 戦争継続という困難を除けば、かつての魔王の血族に仕えたいと思う者は大勢いる。それは間違いなく現政権にとって目の上のたんこぶになり障害となる。

 

 それを唯一変えるのがレヴィア―セーラ・レヴィアタンなのだ。

 

 かつての魔王の血を継ぎながら、徹底抗戦ではなく平和路線へと賛同、実家を出奔して現政権へと転がり込んだ彼女は、かつての魔王に仕えたい者たちにとって象徴となった。

 

 それゆえにその影響力と存在による恩恵は悪魔の業界でも絶大であり、しかし彼女はそれをひけらかすことなく、むしろ率先してその恩恵を下々のものへと与え、そして度の超えたわがままなどは決して行わなかった。

 

 そんな彼女が、一夏のために無理を通したからこそ、今の自分はこうして人の社会で生きていくことができる。

 

 だからこそ、ISを動かしてしまったという事実以上の影響を人類社会に与え、レヴィアにこれ以上のわがままを通させるようなまねはしたくなかった。

 

 ところが、

 

「では、クラス代表を決めたいと思う。自薦他薦は問わんぞ、候補はいるか?」

 

 そんなことを、我がクラスの担任であり、そして世界最初のIS操縦者であり、世界最強の称号を持っているISの使い手であり、そして一夏の姉である千冬が言ってしまった。

 

 それに関しては問題なかったが、クラスメイトは年頃の女の子である。

 

 その手の類が、ものすごい注目を集めているであろう自分と同じクラスにいて、そんなカッコイイ称号を選ぼうとしたらどうなるか。

 

「はい! 絶対に織斑くんがいいです!!」

 

「私も同感!!」

 

「私も~」

 

 ・・・こうなる。

 

 不味かった。

 

 とても不味かった。

 

 品行方正とは言わないが、あれで悪魔社会に対して大きな我がままを言わないレヴィアに意に沿わぬわがままを言わせてしまうかもしれない。

 

 それどころか、下手すれば政治的な取引でとりあえず停止した教会からの刺客がまたやってくるかもしれない。それどころか今度は天使とか聖剣使いとかがやってくるかもしれない。

 

 上級クラスの実力者は、少なくとも火力と耐久力に置いてISを凌駕するどころか、下手をすればクリーンな核兵器と言ってもいいレベルの破壊力を持っているのだ。レヴィアも相応の実力者であるし、彼女は一夏を守るために行動する可能性が非常に高い。

 

 ・・・IS学園が地図から消える!?

 

 あまりにも重すぎる責任に、一夏はいっそ気絶してしまいたくなった。

 

「ち、千冬姉!! 辞退させてくれ!!」

 

「織斑先生だ。選出された以上、お前に拒否権は無い、選ばれるということはそういうことだ」

 

 公私はしっかりと区別する姉は冷たかった。

 

 ここにきて、一夏は姉に真実を告げていなかったことを後悔する。

 

 実の弟が自分を邪魔するために誘拐されたあげく、そのトラブルが原因で人間でなくなったなど、言えるわけがない。

 

 それぐらいは分かっていたから内緒にしていたが、それがここにきて仇になった。

 

 このままでは、世界大戦クラスの戦乱が起きてしまうかもしれない。それもクラス委員長を決めるノリでだ。

 

 転んだ拍子に核ミサイルの発射スイッチを押してしまったクラスの非常事態だ。

 

 ゆえに、イギリス代表候補生というネームバリューを持つセシリア・オルコットの反論は一筋の光明だった。

 

「わたくしはこのクラス唯一の国家代表候補生。ただの物珍しい男なんかよりも、よっぽどクラス代表にふさわしいですわ!!」

 

 とても正論である。

 

 たかがクラス委員長のノリとはいえ、この学園は存在そのものが人類社会の代表を育成する学園である。クラス委員長レベルでも相応の重さがあるだろう。

 

 政治的な場所や理由がない限り、友達として接させてくれている主の教えもあり、このまま彼女に任せたいと一夏は思った。

 

 だがしかし、ここにきて二つの致命的な事態が発生する。

 

 一つは一夏自身の性格である。

 

 この一夏。一言でいえば正義感が強いのだが、いささかやりすぎるきらいがある。

 

 クラスメイトをいじめる輩を懲らしめるのはいいのだが、ボコボコにしすぎて親が出て、保護者変わりである千冬が頭を下げるというのもよくあることだった。レヴィアが面倒を見るようになってからは上手いタイミングで止めたり、場合によってはやりすぎを理由にさらに派手にボコボコにすることでとりなしてきたのだが、性分な物でなかなか治らない。

 

 さらに第二の理由として、セシリア・オルコットはプライドが高かった。

 

 幼少期のころから努力して実力を磨き、今や故人の母親は男尊女卑のころから女の身で大成してきた傑物。さらに幼少期に両親を無くしたことから苦労も重ね、それらを乗り越えてきた自負がある。

 

 しかしこの時代の女性としてはありがちなことに男を下に見る傾向があり、父親が母に比べて情けない一面があったこともありそれが加速している。

 

 しかも愛国心が強いと来たことが重なり・・・。

 

「そもそもたかが男と同じクラスというだけでも不満ですのに、わざわざ文化的にも後進の国に来ているという屈辱を重ねたうえでこの扱い! いくらなんでも無礼が過ぎるというもの・・・」

 

「おいちょっと待て。そっちだってメシマズ国ランキング殿堂入りじゃねえか」

 

 ・・・点火した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園一年四組に、この話が届いたのは少し後。

 

「皆大変! 一組で例の男子とイギリス代表候補生が、クラス代表をかけて決闘するんだって!!」

 

「ブフォ!?」

 

 レヴィアは椅子から転げ落ちた。

 



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第二話 お前は本当にこういうことに慣れているんだな

ある程度話数があった方が感想も来るでしょうし、ちょっとばらまきます。


「・・・一夏君? 僕は君に言いたいことが二つある」

 

「は、はい」

 

 殺気がものすごかった。

 

 怒気もものすごかった。

 

 一夏はものすごい反省していた。

 

「君が男の矜持を持っていることは知っているし、この時代ではとても良いあり方だとは思ってるけどね? ・・・世界初男子IS操縦者の肩書にクラス代表という伯を付けてどうするんだい? ・・・無いとは思うけど、セラフとか出張ってきたらさすがにかばえないよ?」

 

「本当にごめんなさいだからこれ以上腕をひねらないでぇええええ!?」

 

 堂々と一組の教室で、一夏の腕をひねり上げながらレヴィアは説教していた。

 

 ちなみにこの会話は魔力でシャットダウンしてあるので、周りには意識されない。

 

 当然だろう。ばれたら間違いなく一夏の人生は終わる。一夏が悪魔であることがばれれば、下手をすればIS学園が世界から消滅しかねないのだから。

 

 だからこそ、そのあたりの加減をレヴィアはわきまえていた。そして度の超えた無理をするつもりもなかった。

 

 彼女は権力をかさにきて横暴をする趣味もなければ、わざわざ現政権に下りに来るほど、三大勢力での戦争を避けようとしている。

 

 そんな状況下において自分の眷属が火種になりそうであるが故に、彼女はフォロー及び護衛のためIS学園に入学したのだ。

 

 そんな大事な相手が、自分から危機を呼び込んでしまえば苦言を呈すのが当然である。

 

 ・・・実際のところ、その可能性は考慮しておりまあなってもそこまで問題にはならないと思ってはいたが、それを言って油断されても困るのでお仕置きはちゃんとする。

 

「それと遠回しに言っている相手に対して直接罵倒してどうするんだい? 前から何度も言っているけど、過剰報復はハンムラビ法典の時代から人類のタブーだよ?」

 

 このレヴィア、一部の欠点こそあるが、それ以外は人間でもそうはいないほどよくできた人格者である。

 

 弱きを助け善政をしき、悪魔というイメージからは想像もつかないほど人助けを行える素晴らしい人格を持っている。

 

 とはいえ、下僕に対する愛は多少Sの気質があるようだ。

 

「さらに代表候補生相手にハンデを持とうなど愚の骨頂にも程がある。前から言おうと思っているけど、きみは行動する前によく考えてくれないとこっちが困るんだ」

 

「は、はい! 反省してます!!」

 

 ようやくサブミッションから解放され、一夏は素早く頭を下げた。

 

 男の矜持はどこかに行ってしまっている。

 

 そもそも主と下僕なのだから当然といえば当然だが。

 

「そ、そうだよ織斑君」

 

「男がハンデもらおうとかおかしいって」

 

 クラスメイトの女子たちも、何とか会話に加わろうとそう言ってくる。

 

 別に悪意があるわけではないが、今の世の流れを理解しているから当然の発言であり。

 

「・・・・・・君たちはどこか勘違いをしていないかい?」

 

 ゆえに、レヴィアは彼女たちにも苦言を呈することにした。

 

「『国家代表候補生』と『ただの生徒』なら分かるが、男と女は関係ないだろう?」

 

 その言葉は、その場にいた全員の注目を集めていた。

 

「え、どういうこと? え~っと・・・」

 

「四組のレヴィアだ。・・・どうやら君たちは、世の流れを本流に乗っている自覚が足りないようだ」

 

 レヴィアは苦笑を浮かべると、黒板まで歩いてチョークを手に取る。

 

「良いかね? 剣道の有段者とただの素人が剣道のルールで戦えば、当然有段者が勝つ。これはいいね?」

 

 その言葉に皆が頷く。

 

 当然のことである。

 

 ボクサーと子供がボクシングで勝負すれば、ボクサーが勝つ。

 

 兵士とサラリーマンが射撃で勝負すれば兵士が勝つ。

 

 それが普通だ。なぜなら、後者は戦い方を知らないのだから。戦い方を知っている方が有利になるのは当然であり、そんな勝負があるのなら、知っている方がハンデを付けるのは当然だろう。

 

 そして、それは戦い方の代わりに武器を持っているでも当てはまる。

 

「今の時代に女が男より強いとされているのは、ISという絶対的な武器があるからだ。そんなものは常識だろう」

 

「そうだよね。だから男がハンデもらうのは当然・・・」

 

「そういえばそうだね~」

 

 よくわかってない女子生徒の声を遮って、のんびりとした女の子との言葉が皆の耳を打った。

 

「気付いたようだねそこなダボダボ少女! 名前を言った後補足したまえ!」

 

「布仏本音で~す。・・・つまり、織斑くんは例外ってことだよね~」

 

 その本音という少女の答えに、皆は気付いた。

 

 そう、女は「IS」を動かせるから男より上となっている。

 

 では、ISを動かせる「男」と「女」の場合はどうなるのだろうか。

 

 答えは簡単。ISの性能とIS戦の技量が勝敗を分ける。

 

 故にこそ、「国家代表候補生」と「ただの生徒」。そうレヴィアは言ったのだ。

 

「無論、これは世の圧倒的大多数のISに関わらない男女に置いても言える。・・・女性だからすごいのではなく、ISを使いこなせるからすごいんだ。そこをちゃんと理解しないと、いつかしっぺ返しを食らうぞ?」

 

 出来の悪い子どもをたしなめる親の様に、苦笑を浮かべてレヴィアは言い放った。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

 まるで有能な教師を思わせるその姿に、その場にいる物は沈黙し・・・。

 

 

「「「「「「おぉ~~~~っ!!」」」」」

 

 歓声が響き渡った。

 

 この瞬間、IS学園一年一組に置いて、レヴィア・聖羅は「とてもすごい人」と確定した。

 

 ・・・後に上層部から「お前が目立ってどうする」というツッコミを受けることになる、最初の行動であるのだが今はまだ誰も気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夕方、一夏はとんでもない物を見てしまっていた。

 

 具体的にいえば、半裸の女性だった。

 

 濡れ羽色の長髪を持った美少女の姿を、はっきりと見てしまっていた。

 

「あ、あ、ああああああのその実は・・・!?」

 

 一夏はとてつもなく狼狽しながら、走馬灯のようにどうしてこうなったのかを回想する。

 

 具体的にいえば、家から通うつもりが寮生活が決定になったので、部屋に入ったらシャワー室から女性が出てきたのである。

 

 確か一組にいた子だろうが、よりにもよってこんなことになるとは思わなかった。

 

 織斑一夏は知人の共通認識として世界最強クラスの朴念仁と言われているが、それでも半裸の女性とこんなタイミングで出くわしてただで済むとは思っていない。

 

 と、いうか主にボコられる。

 

「ご、ご、ゴメン!! いや、俺もよくわかってないんだけどどうしてこうなったのか・・・」

 

「お前は本当にこういうことに慣れているんだな」

 

 土下座すら考えた一夏の行動を、半裸の女性の呆れた声が遮る。

 

 その声には、聞き覚えがあった。

 

 それも、かなり昔に。

 

「え、あ、アンタ俺のことを・・・」

 

「・・・ああ、なにも言ってこないと思ったが、気づいていなかったのか。まあ、髪型も変えてたし何年もあってないからな」

 

 女性は苦笑すると、その長い髪を手で持って、ポニーテールのような形にする。

 

 蒼して初めて、一夏は彼女の正体に思い至った。

 

「お前・・・箒? 篠ノ之箒か!?」

 

「ああ、久しぶりだな、一夏」

 

 篠ノ之箒。IS開発者篠ノ之束の妹にして、織斑一夏の幼馴染である。

 

 昔から一緒に剣道をしていた中だったが、まさかこんなところで会うとは思わなかった。

 

「覚えていてくれたとは思わなかった。・・・てっきり忘れられたかと思っていたぞ」

 

「そんなわけないだろ。幼馴染のことを忘れるような奴は死んだ方がましだ」

 

 僅かに会話をするだけで、昔の思い出が昨日のことのように思い出せる。

 

 それに、友達が近くにいるというのは、オオカミの群れにほおり出された羊のような心境の一夏にとって心を癒してくれた。

 

「・・・しかし男と女を同じ部屋に入れるとは、いろいろとIS学園も混乱状態のようだな」

 

「だよなぁ。しかも相部屋が幼馴染とかどんな冗談だよ」

 

 おそらくレヴィアも予測していなかっただろう。

 

「まあ、史上初の男性操縦者などどこの国ものどから手が出るほど欲しい人材だ。寮に匿っていた方が安心だし、それなら発明者の妹である私と一緒に入れておいた方が保護しやすいだろうな」

 

 そこまで言われて、一夏は自分が表の社会でもトラブルに巻き込まれそうだということをいまさらながらに実感した。

 

 実際のところ、レヴィアはある程度予期しており、こっそりPMCを雇って一夏の家の周囲を警護してもらっていたのだが、その辺を一夏は知らない。

 

 そしてこうなる可能性を考慮していなかったことにレヴィアは頭を抱えるのだが、それはまた別の話。

 

 そしてそこまで考えて、一夏は今の状況を思い出した。

 

「って悪い! そういえば風呂上りを―」

 

「いや、それは別にいいさ」

 

 特に動じる様子もなく、箒は肩をすくめる。

 

「・・・お前の体質なら偶然のタイミングでこうなる可能性は十分にあるし、一緒にふろにも入ったことがあるから今さらだろう。通達してなかった学園側に責任がある」

 

 冷静にそういう箒の姿に、一夏は目の前の少女が本当に箒なのか疑う自分がいた。

 

 篠ノ之箒という少女は、こう言ってはなんだがもっと勢いに任せて行動するタイプじゃなかったのだろうか。

 

「・・・お前、変わったな」

 

 喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないその言葉に、箒は立ちあがりながら再び苦笑する。

 

「まあ、私もいろいろあったということさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の学生寮、その一室でレヴィアは静かにお茶を飲んでいた。

 

 飲むのは特製のハーブティ。それは、レヴィアが大仕事をする時の癖だった。

 

 魔王血族のたしなみとして、大手企業の株などを持っていた自分だったが、まさか最先端のISを扱うことになるとは思わなかった。

 

 だが、それは仕方がないことでもある。

 

 セーラ・レヴィアタンは自分の眷属を守るために全力を尽くす。

 

 三年前のモンド・グロッソで起きた自分の愚行のツケを祓うためにも、その汚名を決して忘れぬためにも、それだけは決して怠ったりはしない。

 

 そして、だからこそレヴィアは一夏を全力で守る。

 

 勝手に寄ってくる恩恵を利用することはあっても、能動的に普通の上級悪魔以上の権力を行使することは行わないようにしていた自分だが、そのために行使することにためらいはなかった。

 

「世界が動く。・・・そう、表も裏も」

 

 いずれ一夏が悪魔であることはばれるだろう。悪魔同士の競い合いなどには積極的に参加していないから特に情報は漏れていないが、真剣に調べればいつかはばれる。

 

 世界唯一の男性IS操縦者が悪魔だと知られれば、間違いなくあらゆる異形の社会が動くだろう。事実、付き合いがあるとしか認識されていないにもかかわらず、一夏は過激派の教会側に何度も命を狙われている。

 

 自分が、守らねばならない。

 

 それこそが、三年前に道理に合わぬことをした結果、一生拭えぬであろう後悔を背負ったレヴィアの決意だった。

 

「かかってこい全世界。・・・一夏君は、僕が守る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの? ブツブツいって怖いけど」

 

「あ、ゴメン簪ちゃん。・・・ちょっと考え事してた」

 

 とりあえずは、ルームメイトを怖がらせないことからやらねばならないが。




本作品において箒はかなり魔改造されているキャラだと言っておきます。

将来的にこの魔改造が一番批判されそうで怖い・・・。


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第三話 お姉さんが羨ましいよ

さらに連投!

ちなみにレヴィア側のヒロインが出ます。


 

 

 更識簪にとって、IS学園というのはプレッシャーがかかる場所だ。

 

 IS操縦者日本代表候補生。そんな自分の肩書など、所詮は非才の身であることを証明しているようなものだ。

 

 更識楯無の妹として、その程度ではあまりにも無能だ。

 

 IS学園生徒会長という、学生最強の証明を行い、ロシア代表。

 

 裏の顔として日本を守る暗部用暗部の担い手であるい彼女は、世界でも有数の天才だろう。

 

 天は二物を与えずという言葉を粉砕し、栄光をほしいままにしている正真正銘の現代の英雄。

 

 その美貌は誰もが目を引き、その人格は人を引き寄せ、その強さは人々を高ぶらせる。

 

 おそらく、同じ年で比較すれば織斑千冬とだって張り合えるだろう。それだけの実力が彼女にはある。

 

 ・・・ゆえに、自分という影は浮き彫りになる。

 

「・・・・・・っ」

 

 最新型の空間投影式キーボードを自在に操りながら、簪は自分の心が曇っていくのを感じる。

 

 ああ、いつからこうなったのだろう。

 

 ただ姉がすごいと感じて、姉の勝算をほめられているだけだったあの時はよかった。

 

 だが、姉と同じように勉強をし、努力をし、運動をすればそれは変わる。

 

 圧倒的な高み。自分が同じように鍛える立場になって初めて、その大きな差を思い知らされた。

 

 姉がどれだけの努力をしているのかは知らない。だが、少なくとも自分がくじけそうになるほどの努力をして高く昇っても、彼女はそのはるか先に立っているのだ。

 

 代表候補生など所詮は候補どまり。正真正銘の国家代表に比べれば、ベテランとルーキーぐらいの差があるのだ。それも学生の身分でなっているというのならなおさらだ。

 

 そしてそんな高みにいる者の家族ともなれば、嫌でも色眼鏡がかけられる。

 

 どれだけ努力して結果を出そうと、それを簪個人としてみる物はごく少数で、そのほとんどは楯無の妹としてみてくるのだ。

 

 あの更識の妹なのだかそうなってもおかしくはない。そんな意味の言葉をかけられたことなど何度でもある。

 

 あの更識の妹とは思えないレベルだ。そんな風に罵倒されたことも何度でもある。

 

 自分はどこまで言っても更識楯無の影が付いて回るにもかかわらず、未だ追いつくことも出来ない。

 

 それに代表候補生といっても、自分の機体は不完全だ。

 

 史上初の男性操縦者、織斑一夏。

 

 彼の存在により、倉持技研は自分の専用機である打鉄弐式の開発に関わっていた人材全て投入してでもデータ収集を急がせようとし、結果として開発は一時凍結した。

 

 最も、その時は大株主の一人が「後続が出るかもわからないのに主流を遅らせるなど言語道断。代表候補生との契約を優先しろ」として持ち株すべてを他国のIS企業に売ると恫喝。指示を出したものすべてが降格・左遷・減俸などの処分を下され、生体データ以外のメンバーは全て戻ってきたのだが。

 

 しかし、それでも現在の第三世代技術は未完成。これで代表候補生など笑わせるといわざるを得ない。

 

 そもそも、更識楯無は自分の機体を自分で作成しているのだ。誰かに作ってもらった時点で隠したの証明でしかないではないか。

 

 だから少しでも自分で作れる部分を作らねばならない。

 

 別に姉を超えようなどというつもりはない。つもりはないが、それでも姉に負けない自分が欲しい。

 

 更識楯無の影ではなく更識簪として見てもらうためには、それぐらいできなければ話にならない。

 

 だから、今日中にせめてこのプログラムだけでも完成させなければと考え―

 

「簪ちゃ~ん? ・・・てい」

 

「ひゃわっ!?」

 

 脇腹をつつかれて奇声を上げてしまった。

 

「・・・・・・なにするの」

 

「いや、いつまでたってもそこでちょっとびっくりするぐらいのスピードでプログラムを組み立ててたから。・・・もう九時だよ。女の子なんだからそろそろ晩御飯を食べないと」

 

 ルビーのような赤い髪をなびかせ、ルームメイトのレヴィア・聖羅が苦笑していた。

 

 その両手にはお盆があり、その上にはうどんができていた。

 

「プログラムの組み立てもあるみたいだから、食堂で食べるよりここで食べた方がいいと思って作ってみたよ。・・・根を詰め過ぎると逆にうまくいかないし、息抜きがてら食べてみて」

 

「い、いただきます・・・」

 

 どうにも気を使わせてしまったらしい。

 

 最初にあいさつした後は、何やら怪しい雰囲気を纏わせていたが、どうやら悪い人ではないようだ。

 

「適当に勝ってきた物しかなかったからこれぐらいしかできなくてすまないね。・・・こんど買い出しに言ってくるよ」

 

「気にしないで。・・・ありがとう」

 

 器を使わせてしまったことが恥ずかしくて、顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。

 

 出あったばかりの女の子に、ここまで気を使わせてご飯まで作ってもらうのは甘えでしかない。

 

 だけど、彼女は気にするどころか、満面の笑みを浮かべていた。

 

「気にしなくてもいいよ。僕は可愛い子が大好きだからね。これぐらいのサービスは大歓迎さ」

 

 ・・・マグマもびっくりするぐらい、顔が赤くなったと思う。

 

 可愛いだなんて、そんなことないのに。

 

「・・・そういうのは、お姉ちゃんに言った方がいいと思う」

 

 対そんな憎まれ口を叩いてしまう。

 

 だけど実際その通りだろう。

 

 更識楯無の美貌など、入学式でよく見ているだろう。

 

 自分より彼女の方がはるかに女性として質が上だ。言っていて情けなくなるが、それは断言出来てしまう。

 

「・・・いや、簪ちゃん可愛いと思うけどな」

 

 だから、そんなことを言われるとは思わなかった。

 

「え、えぇ!? わ、私が可愛い!?」

 

「ああ。確かに生徒会長は美人だけど、簪ちゃんも可愛さなら負けてない。世の中にはメガネっ娘萌えという言葉もあるし、そもそもベクトルの違う美しさを比べる方が間違ってるよ」

 

 冗談だとしか思えなかったが、彼女の表情は真剣で、だから本当に言っているのだと分かってしまう。

 

「お姉さんが羨ましいよ。僕も簪ちゃんみたいな可愛くてすごい妹が欲しかったね」

 

 だから、そんな言葉もつい信じてみたくなってしまうのだ。

 

 更識楯無が姉で更識簪の立場が羨ましいといわれることは何度もあったが、逆を言われたのは初めてだった。

 

「あ・・・う・・・」

 

 だから、胸にあふれてくるこの感情が何なのかよくわからなくて。

 

「ご、ごちそうさまでした」

 

 そんな風に、話を変えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表決定戦当日、一夏と、付き添いできたレヴィアは途方に暮れていた。

 

「来ないな、IS」

 

「まさか入学前に最終調整のオーバーホールが来るとわね。・・・ま、一週間は練習したんだし何とかなるとは思うよ?」

 

 一夏のISが遅れているのである。

 

 まあ仕方がないといえば仕方がない。

 

 かつても言ったが、織斑一夏は男性初のIS操縦者であり、専用機を用意しようという話があった。

 

 それで研究中の第三世代機を放棄して、一夏専用機を用意しようという話になったのを、レヴィアが止めたのである。

 

 当然といえば当然の話ではある。

 

 一夏はレヴィアの下僕悪魔であり、IS学園にいるのはかなりイレギュラーで、在学中に男のIS操縦者のめどがつかなければ卒業後に事故死を装って人類社会から退場願うことになっているのである。

 

 ・・・そんな者のために新型IS一機開発させるなど止めるに決まっている。

 

 追加でいえば、人間と契約をして対価をもらう悪魔として、レヴィアは契約は可能な限り順守し優先する主義である。

 

 一度開発して軌道に乗っていた機体を停止して、ぽっとでの素人のために機体をつくろうなどという不義理な真似、許すわけがなかった。

 

 結果として持ち株がたくさんあったことを利用して力技で止めており、さらにありとあらゆる手段を使ってそんな真似をした者達に制裁を加えている。

 

 とはいえ、一夏が悪魔であることは秘密にしなければならないため、ISを用意すること自体は止めることができなかった。

 

 ・・・それほどまでに、男性IS操縦者というのは重いのである。

 

 冥界に転移する用意はしてあるし、近接戦闘ならISにもまけない戦闘能力を発揮できるように一夏を鍛えているレヴィアだが、それを説明するのは自殺行為でしかない。

 

 ゆえに、護身用も兼ねて専用のISを用意することは必然であった。

 

 仕方ないので倉持技研のテスト用及び実験用のISを引っ張り出し、とにかく追手から逃れることを優先し、一夏が一番使いやすく、かつ将来的に弱い機体として認識されそうなものを選んで使用することになった。

 

「まあ、一次移行はできているし何とかなるんじゃないかい? 肩の力を抜きなよ一夏君」

 

「いや、代表候補生が相手なんだろ? ・・・なんでお前はそんな冷静なんだよ」

 

 当事者じゃないからだとは思うが、一夏としてはそう思わずにはいられない。

 

「当たり前だろう。・・・正直君がコテンパンに負けてクラス代表を降りてくれた方がマシではあるんだから。むしろ負けろ」

 

「そりゃそうだけどさ!! 少しは男の矜持って奴を持たせてくれよ!!」

 

 一夏はあんまりなレヴィアの本音に泣きたくなった。

 

 事実その通りとはいえ、一夏にも勝負を挑んだものとしての意地というものがある。

 

 なにも出来ずに無様に負けて、男の価値を暴落させるような真似だけは絶対にできない。

 

 なにより・・・。

 

「お前の物として、なさけない姿は見せられないだろ?」

 

「・・・君はその悪癖をなおしたまえ」

 

 レヴィアはためいきをついた。

 

 この全自動フラグメーカーはこういうところがあるから困る。

 

 正直恋愛対象としては全く持って見ていない自分でもグッとくるのだ。ただでさえ男に飢えているこのIS学園で、どれだけの数の女子を惚れさせてしまうのかと思うと、頭が痛くなってくる。

 

「お、織斑く~ん!」

 

 そんな時に慌てて走ってくるのは、一夏の副担任山田麻耶。

 

 回文みたいな名前の先生が、息を切らしてこちらに走ってきた。

 

「き、来ました。来ましたよ!!」

 

「で「出前がとかくだらないダジャレを言ったら張り倒して不戦敗にするよ一夏君?」ごめんなさいマスターレヴィア!!」

 

 機の聞いたジョークで和ませようとしたのだが、レヴィアに読まれた揚句ダメ出しされて断念。

 

「い、織斑君のIS、到着しました!!」

 

 そういう麻耶の後ろから、それは到着した。

 

 ・・・汚れや損傷をすぐにわかるようにするため、純白で塗られた機体。

 

 倉持技研が第三世代に手を出すまでに、とにかく基礎性能を出せる最大限まで出そうとして開発された、テスト用IS。

 

 分類としては第一世代だが、その技術は第三世代と同等の、一夏の専用機。

 

 白をベースとする織斑一夏の専用機が、ここに参上した。

 

「・・・久しぶりだな、不知火」

 

 今ここに、織斑一夏の最初のIS戦闘が始まろうとしていた。

 




本作品もう一人の主人公であるレヴィア。

そのメインヒロインは簪です。




そして一夏は白式ではなくオリジナル機体。

いや、レヴィアの正確設定を踏まえて行動する場合、一夏の専用機の流れは当然推測するし、今後のキャラを確定するためにもここでそんな行動を見逃すわけがなかったので。

まあ不知火も相当にとがった設計思想の機体ですので、主人公機としては相応の物になっておりますのでご期待ください。


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第四話 これから仲良くなっていこうぜ

そして初戦闘。


 

 

 

「さっさと行って来い。本来必要のない試合をさせるんだ。この期に及んで調整をさせる時間など与えんからな」

 

「まああたって砕けてくると良いよ一夏君。相手の方が格上なんだから、胸を借りるつもりで頑張りなさい」

 

 ハイパーセンサーがなければ分からない程度の、しかし内心で心配している千冬。勝とうが負けようが気にしないが、緊張を和らげようとするレヴィア。

 

 二人の言葉に背中を押され、織斑一夏はアリーナへと足を踏み入れる。

 

 二人の態度はある意味で似通いある意味で正反対だが、しかし共通している隠されたことがある。

 

 二人が一夏を大事に思っていてくれるということだ。

 

 だから、頑張る。

 

 だから、一機の青いISを睨みつけた。

 

「待たせたな、セシリア・オルコット」

 

「本当に待ちましたわ。てっきり逃げたのかと思いました」

 

 腰に手を当てる余裕のポーズを取りながら、セシリアはこちらを舐めた目線で見てくる。

 

 セシリア・オルコットの専用機のデータは、レヴィアの力によって既にある程度は判明している。

 

 イギリス製第三世代IS、ブルー・ティアーズ

 

 試験で教官を倒した唯一の生徒ということもあり、その姿には余裕と自負があふれていた。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

 銃口を向けることなく、セシリアは一夏を指差す。

 

 チャンスとは名ばかりのとんでもないことを言いだすの予想できた。

 

「なんだよ一体。言ってみろよ」

 

「わたくしが一方的に勝利を得るのは自明の理。ですから、みじめに敗北する姿を衆目にさらさぬよう、今ここで謝罪なさい。そうすれば、許してあげなくもなくってよ」

 

 本人としては本当にチャンスのつもりなのだろうが、どう考えてもろくでもない内容だった。

 

 そして、それは自分が負けることなどひとかけらも考えてないことの証明である。

 

 ゆえに・・・。

 

「そんなの飲むわけないだろ。寝言は寝て言えよ」

 

 一夏は切って捨てる。

 

 そして勝機も確信した。

 

 戦闘に置いて、最悪の結果を想像することのできない物はその時点で隙ができる。

 

 戦いというのは、最悪の事態から逃れることが一番大事なのであり、それを考慮しない物は考慮するものにとって弱点を見せているのと同じことだ。

 

 幾度となく巻き込まれた悪魔としての戦いで、一夏はそれを知っている。

 

「むしろ俺から教えてやるよ。調子ぶっこいて敗北することのみじめさをな!!」

 

「ほほう? あなたはISの戦いというワルツではなく、一方的な蹂躙というレクイエムをお望みですのね?」

 

 セシリアから怒気があふれてくるが、一夏は意にも介さない。

 

 この程度か。

 

 この程度の気しか放てないものが、俺の敵か。

 

「・・・なめるなよ、セシリア・オルコット」

 

 織斑一夏にとって、こんなものは脅威でも何でもない。

 

 悪魔となったことで命がけの戦いに巻き込まれたことは何度かあった。

 

 そのほとんどはレヴィアが一人で片付けたが、いずれを見越して戦闘の空気は肌で感じたものだ。

 

 その敵は、こんな生暖かいものじゃなかった。

 

 だから、負けない。

 

 あの世界大会で無様をさらしてから、織斑一夏は己を見つめ直してきた。

 

 勝利のための切り札を見つけ、それに特化して鍛え上げてきた。

 

 一から剣を鍛え直したこともある。そうでもしなければ、いつか致命的な隙を作り出しそうで怖かったからだ。

 

「織斑一夏は、一つ心に決めたことがある」

 

 初期武装である近接戦闘用ブレードを構え、一夏は静かに睨みつける。

 

「一度戦うと決めた相手に、無様に頭を下げることだけはしない」

 

 あの時の背中に追いつくために。

 

「たとえ勝てなくて逃げることになっても、その瞬間に勝つための努力を始める。そしてそれを身にするために絶対に死なないと」

 

 あの涙を二度と見ないために。

 

「たとえ叩き潰されて死ぬことになっても、心だけは屈しないと」

 

 あの覚悟に答えるために。

 

「たかが試合で頭を下げるわけがないだろう? 何やっても死なないんだぞ」

 

 そして、今ここにいない彼女の想いにちゃんと返事をするために。

 

「見せてやるよ。俺の意地を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いでしょう。ならば証明してみなさい!」

 

 ブルー・ティアーズのライフル、スターライトmkⅢの銃口から、光があふれた。

 

「男風情に、なにができるというのか!!」

 

 強大な敵を粉砕するためのエネルギーの奔流が一夏に襲いかかり―

 

「・・・なめるな」

 

 ・・・一夏のブレードがセシリアを掠めた。

 

「「「「「えぇええええ!?」」」」」

 

 観客の一部から驚愕の声が上がる。

 

 彼女たちの目には、一夏がレーザーに貫かれながら、無視して接近して切った風にしか見えなかった。

 

 だが、その光景は見てみれば単純。

 

「・・・まさかここまで思い切りがいいとはな」

 

「すごいですね~織斑君」

 

 ピットの映像で見ていた千冬と麻耶が関心する。

 

 一夏はレーザーに貫かれたわけではない。

 

 レーザーは、一夏の脇を通った。より正確に言うなら、一夏が弾道をみ切って脇を広げることで射撃を回避したのである。

 

 それと同時に一気に加速して接近。セシリアが驚いた隙にブレードで切り裂いたというのが真相である。

 

「・・・PMCを雇って対銃戦闘を叩きこんだかいがありました」

 

 その光景を見て、レヴィアは満足げに頷いた。

 

 銃には明確な回避方法がある。

 

 射手の視線と銃口で当たる部位をみ切り、指先の動きで発射のタイミングをつかむ。

 

 タイミングを合わせて当たる部位から体をずらせば、散弾でもない限り攻撃は当たらない。

 

 言えば簡単だがやるのは難しい。それを一夏はちゃんと切り抜けた。

 

 ああ、そうでなければ困る。

 

 できれば負けてほしいのは負けてほしいのだが、一夏の感情も理解できなくはない。

 

 別に男尊女卑をうたうわけではないが、男の矜持を大事にする一夏を、それなりに評価している。

 

 今の時代、男は完全に女から下に見られている。

 

 反面、悪魔の社会はそんなことはない。

 

 魔王にも女はいるが、男にだって強いものはいくらでもいる。

 

 そんな社会に生きている物として、今の世の流れに違和感を感じていた。

 

 それに負けずに立ち向かおうとし、そして今その希望の光を手にした者。

 

 応援したいと思うのは、我がままだろうか。

 

 そう思いながら、一夏とセシリアの戦いを見届ける

 

 二人の戦いはこう着状態に陥っていた。

 

 極めて高い軌道性能を持つ不知火に対して、セシリアは小刻みに動くことで対処を行い、油断せず速射で対応する。

 

 もとより、ISによる軌道に置いてセシリアは一夏に勝る。

 

 これは経験の差もあるが、一夏が悪魔であることも大きい。

 

 悪魔は翼を使って空を飛ぶことができるが、それはISとは違った飛び方だ。すなわち感覚というものが大きく違う。

 

 その差が違和感となって一夏の機動にアラを生む。結局その違和感を是正することができなかった以上、最高速度で上回ることはあっても小回りでは隙ができるのだ。

 

 相性で言うのならば一夏が上。されど、ISの性能を発揮できるのかでいえばセシリアの方が上であるという事実が、この場に置いて均衡状態を生んでいた。

 

 そして、互角であるということはセシリアのプライドを非常に刺激した。

 

 ゆえに、切り札を使用した。

 

「良いでしょう。私にこの武器を使わせたことを光栄に思いなさい」

 

 ブルー・ティアーズの形状の特徴ともいえる、四つのフィンが外れる。

 

 そのまま落ちると思われたそれらは、しかし宙に浮かぶと独立して飛行した。

 

「いきなさい、ブルー・ティアーズ!!」

 

「ロボットアニメじゃないんだぞぉおお!?」

 

 驚愕する一夏に襲いかかるビットの群れ。

 

 これこそがブルー・ティアーズの真の姿。

 

 思考で操作されるビットを利用した、単独での多対一を形成するIS。それがイギリスの作り上げたISの進化系であり―

 

「―でもどうした!!」

 

 ―この程度ならば一夏は対処できる。

 

(運が悪かったな、セシリア・オルコット)

 

 レヴィアは勝利を確信する。

 

 織斑一夏は転生悪魔である。

 

 転生悪魔は下僕の剣として戦うことが前提となっており、公式にレーティングゲームという戦闘を行っている。

 

 そして悪魔は空中戦を行い、レーティングゲームは集団戦。

 

 三次元における一対多の訓練など、転生してから何度も受けさせている。

 

「この程度なら怖くもなんともねえ! っていうかお前、ビットと本体の同時操縦はできないみたいだな! 隙だらけだ!!」

 

 だから相手の隙を見つける余裕もある。

 

「・・・いっくぜぇえええええ!!」

 

 戦闘とは、極論を言えば隙をつくかつかれるかの争いである。

 

 ゆえに相手の致命的な隙を見逃すようなまねはさせない。そんなものを飲み込んで戦えるような実力は一夏に無いのだから、させるわけがない。

 

「おあいにくさま、ブルー・ティアーズの数を増やせばどうなりますか!!」

 

 そしてそれを座して受け入れるほどセシリアも愚かではない。

 

 これまで秘密にしていた最後の手段。ミサイル型のブルー・ティアーズを発射する。

 

 相手の突撃に合わせたカウンター。一夏も虚をつかれたのか一瞬の隙ができる。

 

 勝てる。この一撃で流れを取り戻し、相手が立ち直るより早く全砲門による集中攻撃を叩きこむ。

 

 そうだ、所詮は男なのだから、これで勝てるに決まっている。

 

 そう思うセシリアの希望に答えるように、一夏にミサイルが直撃して爆発する。

 

「終わりですわ!!」

 

 セシリアは勝ちを確信したが。しかし、それはおごりでもあった。

 

 たとえ男であろうとも、絶対の差であったISがない一夏を相手に、男を理由に油断することなどあってはならなかった。

 

 いな、一夏を相手に攻撃を当てたから勝てるなど考えてはならなかったのだ。

 

「舐めるなよ」

 

 爆発によるダメージは確かにあった。

 

 だが、それは衝撃で一夏を逆に冷静にさせた。

 

 どうせシールドエネルギーはこれでゼロになることはない。ならば俺はまだ負けてない。

 

 そうだ、そもそも生身で当たったところで・・・。

 

「・・・戦車《ルーク》がこの程度で倒れるかぁああああ!!」

 

 織斑一夏には効きはしない!

 

「え―」

 

 ミサイルの直撃に一切ひるまなかった一夏に、逆にセシリアは驚愕し―。

 

「俺の・・・」

 

 ゆえにその連撃をかわすことなどできず・・・。

 

「・・・勝ちだ!」

 

 逆に、一気にたたみかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―試合終了。勝者、織斑一夏』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よし」

 

 大歓声が響き渡る中、一夏は確かな手ごたえを感じていた。

 

 本当なら、負けた方がいいのかもしれない。

 

 織斑一夏という悪魔がISという現代の中心で目立てば、いろいろなところから突き上げが来るはずだ。正体がばれたときに学園最強とかになっていた場合、大惨事を生むことになるのかもしれない。

 

 だが、弱いままでいるわけにはいかなかった。

 

 織斑一夏は、レヴィア・聖羅に返しきれない恩がある。

 

 レヴィア・聖羅は、織斑一夏に大きな借りがある。

 

 これは多分一生返せないとお互いに思っているし、多分お互いに気にするなと言いたいことなのだろう。

 

 だからこそ、せめてお互いがお互いにとって自慢であるべきだと思っていた。

 

 だから、わざと負けることは決してできない。

 

 そして、無様に負けることも出来なかった。

 

 それが織斑一夏が生涯かけてつらぬくときめた戦いだ。

 

 だから・・・。

 

「立てるか、セシリア」

 

「え、あ、はい」

 

 茫然としていたセシリアに、一夏は手を差し伸べた。

 

 先ほどまでいがみ合って戦っていた相手に対してとは思ない態度に、セシリアは首をかしげた。

 

「え、えっと・・・」

 

「なにを驚いてんだよ。俺たちは確かに喧嘩したけど、それももう終わっただろ?」

 

 戦いの結果に遺恨を残せば、それは長きにわたって問題になる。

 

 悪魔の歴史と現状をレヴィアに教えてもらって、一夏はそう思っていた。

 

 だから、自分が勝った喧嘩はこれでおしまいだ。

 

「―リベンジマッチはいつでも受ける。だからまあ、これから仲良くなっていこうぜ」

 

 友達は無理でも、好敵手ぐらいにはなっていいだろう。

 

 そんな思いが込められた表情をみて、セシリアの心に温かいものが宿った。

 

 こんな男を、私は見たことがなかった。

 

 女性にかしずくのではなく、女を守り、そして共にあろうとする男の姿。

 

 ああ、私は、こんな人を待っていたのかもしれない。

 

 そう思ってしまうと、もう自分のプライドなどどうでもよくなってしまいそうになり・・・。

 

「仕方がありませんね。・・・よろしくして差し上げますわ。・・・今度は負けませんわよ」

 

 それは彼にはふさわしくないと思い、精一杯強がることにした。

 




一夏、初勝利。

原作と違い戦闘を経験していることや、機体性能の変化もあり何とか勝てました。

ちなみに不知火の武装構成も白式と同じ近接戦闘オンリーですが、これはレヴィアが一夏の戦闘スタイルに変な影響を与えないようにするため。

どちらに転んでも三年後にはISから離れているので、ISのための戦闘術を仕込ませて生身での戦闘に影響を出るのを避けたためです。

つまり一夏は近接戦闘タイプということです。


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第五話 それじゃあ、いっくんをよろしくね

続けて連投。




 

 

 IS学園の屋上で、その戦いを観察している物がいた。

 

 20歳程度の風貌の、無愛想な男だ。

 

 彼は常人では視認することなど不可能な距離から、クラス代表決定戦を最後まで見届けていた。

 

「見事・・・」

 

 見に来て正解だったと男は思う。

 

 本来ならIS学園に潜入すれば怒られるのは間違いなかったが、自信の潜入能力なら可能だった。自分の主からも要所要所のタイミングでは潜入を許可されている。

 

 だから、彼をこっそり応援することにした。

 

 そして、だからこそ牽制ができたならいいと男は思う。

 

「・・・出てこい」

 

 今この屋上には男しかいないはずなのに、彼は誰かに命令した。

 

 犯罪者というのは、犯罪を防止する能力も高いものだ。

 

 どうやって潜入すればいいのか知っているということは、裏を返せば、どこを警戒すれば潜入しにくいのかを知っていることになる。

 

 優れた隠密能力を持つものは、隠密能力を持つものを探すことにも長けている。少なくとも男はそうだった。

 

「あっちゃ~。気付かれてたんだね~」

 

 その言葉とともに、男の隣の空間がゆがむと、一人の人物が姿を現した。

 

 桃色の髪を持ち、外見年齢から判断して頭おかしいのかと言いたくなるようなウサミミを付けた美人の女性。

 

 ISの開発者、篠ノ之束である。

 

「・・・何用」

 

「君と同じだと思うよ。・・・いっくんこと織斑一夏の初試合を観戦してたんだよぉ」

 

「・・・・・・」

 

 男はかなり本気で警戒していた。

 

 束の言うことが嘘だと思ったからではない。

 

 束が恐ろしい実力者であることを察知したからだ。

 

 天才という言葉を百重ねても足りないほどの頭脳を持っているとは聞いていたが、まさか肉体に置いても超人だとは思わなかった。

 

 自分の能力なら五分に持ち込むことはできるだろうが、それでもこの間合いでは自分が不利だ。

 

 ゆえに警戒だけは続け、いつでも距離をとれるようにしながら男は視線をアリーナに向ける。

 

「一夏、勝利」

 

「うんうん。束さんがこっそり試作機を改造していっくんに与えようとしたのを邪魔された時はどうなるかと思ったけど、まさか勝つとはね。さすがはいっくん」

 

 今、とんでもないことを聞いてしまった。

 

 いくらなんでも倉持技研の行動は不義理だと思っていたが、この女が関わっているとなれば話は別だ。

 

 たとえ世界から苦言を呈されたとしてもお釣りがくる。誘惑に乗ってしまっていてもおかしくない。

 

 一夏の話を聞いていて、人格面に多大な問題があると思っていたが、それにしては今の反応は話と違う。

 

 彼女の態度は友好的といっても過言ではなかった。少なくとも、自分のような口べたすぎる者相手にここまで話をするような人物ではなかったはずだ。

 

 そう警戒している男の方を向くと、束は静かに頭を下げた。

 

「・・・ありがとう」

 

 なにがどうなっているのかわからず、男は隙を作らないようにするので精いっぱいだった。

 

「いっくんのことを守れるように待機していたんでしょ?・・・他にもいるみたいだけど、わざわざ潜入してまで助けに来てくれた君には特に感謝しないとね」

 

「一夏は仲間。当然」

 

「うんうん。そんなふうに言ってくれるような友達ができて、束さんは嬉しいよ」

 

 満面の笑みを浮かべながら、束は歓声を浴びる一夏の方を向く。

 

「・・・これから、たぶんいっくんが卒業するまでに世界は大きく動くかもしれないんだ」

 

 それは当然だろう。

 

 世界の根幹を変えたISの、それまた根幹を変えてしまったのだ。

 

 例えるなら、バランスを崩して取り戻そうとし、勢い余って逆方向にバランスを崩すようなものだ。それらが繰り返されて大きく揺れ動くことは予想できる。最悪の倍大きく倒れることだって十分にあり得るのだ。

 

 しかも一夏の場合、旧魔王血族の眷属であるという爆弾が控えている。それがばれたら異形の業界から集中砲火を喰らう可能性も存在するのだ。

 

 彼は、いわば起爆スイッチがオートで入りかねない核爆弾だ。

 

「だから、これからもいっくんを助けてくれると嬉しいな。私は残念だけど表だって動くのは難しいから」

 

 とてもつらそうにいう束は、しかし表情を素早く変えると、探るような視線を男に向ける。

 

「・・・そういえば、お兄さんの名前はなんなのかな?」

 

 ・・・本当に、彼女は篠ノ之束なのか?

 

 仲間から聞いた話と違いすぎて、男は本当に混乱した。

 

 とはいえ自分がこの学園に姿を現すことは業界関係者にはばれている。

 

 触りを話しても問題ないと考え、男はぽつりとつぶやいた。

 

「兵士、アストルフォ」

 

「そっかそっか。それじゃあ、いっくんをよろしくね」

 

 その言葉と同時に、彼女はまるで蜃気楼のように消え去った。

 

 追撃はしない。彼女を負うのは自分の役目ではないし、それ以上にこれからの警戒に力を入れねばならない。

 

「・・・困難、来襲」

 

 どうやらこれからは、退屈だけはしない毎日のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのアストルフォからの報告を思い返しながら、レヴィアは少しためいきをついた。

 

(偽物か何かだろうか?)

 

 篠ノ之束の人間性に問題があるのは、本気で調べればすぐにわかることだ。一夏から聞くまでもなく、レヴィアはその情報は把握していた。

 

 それが人並み程度の会話を他人と行うどころか、無口なアストルフォとコミュニケーションをとるとは思わなかった。

 

 まさにミッシングリンク。行方不明になっていた間に何かあったとしか考えられない。

 

(後で一夏君に聞いた方がいいかもしれないね。さぁて、かの篠ノ之博士は今後どう動くか・・・)

 

「・・・どうかしたの?」

 

「あ、何でもないよ簪ちゃん」

 

 隣を歩いていた簪に心配されて、レヴィアは表情を笑顔に変える。

 

 最近は登校タイミングも同じになり、こうして一緒に歩くのも日常茶飯事だ。

 

 ・・・時折殺気が浴びせられるのは気のせいだと信じたい。と、いうか仕事している時間帯だろう生徒会長。

 

 そして空気はちょっと桃色だった。どうも簪から発せられているようだが、一夏が好みのタイプだったりするのだろうか。

 

 だとすると心底苦労するだろうなと、レヴィアは同情した。

 

「最近機嫌がいいみたいだけど、何かいいことでもあったのかい?」

 

「う、うん。ちょっといいことがあったから。・・・プログラムの方も最近は進んでるし」

 

「そっか。そこまで言うならすごいプログラムなのかい? 今度教えてくれると嬉しいな」

 

 自分もプログラミング関係の知識はあるので、純粋な興味本位で聞いてみた。

 

「そうなんだ! じゃ、じゃあ完成したら、ちょっとだけ見せてあげる」

 

「ありがとう、簪ちゃん」

 

 お礼の意を込めてにっこりすると、簪の頬が真っ赤に染まった。

 

 ・・・あれ? フラグ立てた?

 

 そう察して、レヴィアは内心でものすごい勢いで冷や汗をかいた。

 

 別に女の子に恋愛感情を向けられることに戸惑っているわけではない。自分は男も女もそういう対象として見れるし、現に友愛の感情を持った相手に対してそういったことをしたことは何度もある。追加でいえばどっちかといえば女の方が好みだ。

 

 だが、自分がIS学園でことを起こすのは非常い不味い。

 

 何度も書いているがレヴィアは悪魔である。そしてIS学園の生徒は国家のエリートと言っても過言ではない。加えていえば簪は代表候補生だ。

 

 悪魔による内政干渉だといわれてしまう可能性は十分にある。

 

 これが悪魔と人間のただの契約関係ならまだ問題ない。だがそれ以上の関係となれば教会が敵意を向けるのには十分な理由だ。

 

 だから、彼女との距離はちゃんと把握して、場合によっては壁を作らなければならないのだが・・・。

 

「そういえば、今日の予習はできた? まだなホームルームの前に簡単に教えるけど」

 

 ・・・人の純粋な好意を断るのは、どうにも苦手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのあたりの腹芸ができないということで情報を伝えられてない一夏は、SHR前にある話を聞いた。

 

「中国から転校生?」

 

「そのようですわ。何でも2組に編入されたとか」

 

 すっかり仲良くなったセシリアからそう聞いて、一夏は首をかしげた。

 

 普通入学式の直後といってもいいこのタイミングで転入だなんておかしい。

 

 しかもIS学園の転入試験を受けるには、国からの推薦が必要だといってもいいのだ。

 

 どう考えても代表候補生クラスだろう。さすがにそれを想像できるほどには、一夏もレヴィアからいろいろと叩きこまれている。

 

「ようやくわたくしの存在を危ぶんだ・・・といったところでしょうか?」

 

 セシリアらしい自信に充ち溢れた言葉を聞くが、一夏としてはそれ以上の嫌な予感を感じていた。

 

(中国って言ったら仙人とか多いって聞いたよな。・・・まさか俺の正体に気付いて刺客がやって来たとか言わないよな!?)

 

 そうなれば間違いなく大変なことになる。主に刺客とレヴィアが一夏をめぐって殺し合いをする可能性がとても非常に高くなる。

 

 上級悪魔VS仙人。IS学園が消滅しないかどうかすごく心配になる。

 

 次の休み時間にその転校生とやらを確認して、必要ならレヴィアの救援を仰ごう。

 

 そう思っている間に、一夏の周りの会話はあっという間に変化していた。

 

 さすがは女子の会話だ。・・・話が変わるのがマジで早い。

 

「一夏君には、クラス代表戦頑張ってもらわないとね~。主にデザートのために!!」

 

「当然ですわ。このわたくしに勝った者が、結果を残せないのでは恥以外のなにものでもありませんもの」

 

「おりむー頑張って~。あ、でもかんちゃんもいるから大変かも~」

 

「フリーパスがかかってるんだよ! 気合入れてよね!!」

 

「専用機持ちはウチ以外じゃ4組だけらしいし、いけるよこれは!!」

 

「なんでもそこの機体はとらぶってるみたいだし、もしかしたら不戦勝もいけるかもよ! よっしゃアイス食べ放題!!」

 

「さて、今のうちにダイエットの予定を立てておかないと・・・」

 

「「「「「それを言うな」」」」」

 

 クラス対抗戦の優勝賞品、学食デザート半年フリーパスに目の色が変わっている女子達。・・・一部例外がいるが。

 

 主もデザートが大好きだったし、女の子はそういったのが大好きなのだろう。

 

 クラス代表としては優勝してクラスに貢献するべきなのだろう。とはいえ悪魔であることを考えれば、優勝して目立つのは避けてほしいところなのだろう。個人的には結果はともかく意地は見せたいところだ。

 

 とても複雑な心境になるが、そこに水を指す言葉がやってきた。

 

「・・・いくらなんでも油断しすぎだろう」

 

 いつの間にか、箒が自分達の近くにまでやってきていた。

 

 決して孤独に過ごしているわけではないが、積極的にクラスメイトと交流しているわけでもない箒がこういうことを言うとは思わず、皆の視線が箒に集まる。

 

「セシリアの言うとおり、専用機持ちの代表候補生を警戒しているのなら、あちらも専用機を持っている可能性は十分にある。・・・クラス代表を交代するという可能性は十分にあるぞ?」

 

 それは言われてみればその通りだ。皆が思わず頷いた。

 

 そして、その相槌は外からもやってきた。

 

「へえ? 少しは頭の回転が速い奴もいるみたいじゃない」

 

 声の主は、ツインテールを揺らしながら、教室の入り口に立っていた。

 

「さっしのとおり、二組のクラス代表の座はこの私が強だ・・・もとい、交渉の結果頂いたわ。もちろん専用機も第三世代よ」

 

 代表候補生らしい、自信と自負に満ち溢れたその姿に、セシリアは警戒し、一般生徒は気押され、箒は関心する。

 

「始めましてこんにちわ。私が中国代表「鈴、カッコつけても似合わないぞ」ツカミが肝心って言葉を知らんのかぁああああ!!!」

 

 そして一夏はマイペースだった。

 

「改めて!!」

 

 怒気と共に踏み込み、

 

「中国代表候補生!!」

 

 一夏の顔面を少女はつかみ、

 

「鳳(ファン)鈴音(リンイン)!!」

 

 そのまま勢いよく振り回し、

 

「一組代表に宣戦布告に来たわよ!! あいさつ代わりにくらいなさい!!」

 

 思いっきり投げ飛ばした。

 




セカンド幼馴染登場。原作よりもアグレッシブに参ります


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第六話 歯を食いしばらないで力を抜いてくれ

連投連投~


 

 

 投げ飛ばされた一夏はしかし、壁に叩きつけられるのではなく壁に着地した。

 

「相変わらず腕っ節が強くなったじゃないか、鈴!!」

 

 反撃といわんばかりに、そのまま壁を蹴ると回し蹴りを返す。

 

「アンタもね、一夏!!」

 

 それを上体をそらしてかわすと、すかさず鈴は反撃に移る。

 

 それをさばきながら、一夏は鈴との再開に感激していた。

 

 小学校後半からの数年間を共に過ごした、大切な幼馴染の一人。

 

 そしてレヴィアや自分の正体を知っている人物の一人だ。

 

 子供のころは名前が元でいじめられており、護身のためにレヴィアが戦い方を教えたのもいい思い出だ。

 

 ・・・加減が上手くいかなくていわゆるエリクサーなフェニックスの涙を持ちだす羽目になったのは深く反省しているが。

 

「そっか。お前が代表候補生かよ!! どうだった中国、ついでに武者修行の旅するとか言ってたけど!!」

 

「それどころじゃなかったわよ。もうアンタたちと関わったのが原因で、とんでもないのに目をつけられて大変だったんだからね!!」

 

 お互いに攻撃をはじきあい、素早く後ろに飛び跳ねる。

 

 ただの人間でありながら、悪魔となった自分と互角以上に渡り合える鈴に、のこり親友である弾が驚いてみていたものだ。

 

 思えば、悪魔であることを知ってもなおいつもどおりに接してくれた鈴や弾がいたからこそ、自分は今でも頑張れているのだと思う。

 

 そんな大事なセカンド幼馴染に、一夏は満面の笑顔を浮かべて激励した。

 

「つよくなったじゃねえか。お互い頑張っていこうぜ」

 

「そうね。情けない姿は見せられないじゃない?」

 

「そうか。今、教師(わたし)はお前たちが情けなくて見てられないよ」

 

 ・・・冷たいオーラに、恐怖という言葉を二人は思い出した。

 

 織斑千冬、降臨。

 

「「げ! 立花」」

 

「誰が西国無双だ」

 

 スッパパーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで一夏さん。あの小さな方はいったい誰ですか?」

 

「ああ、俺の幼馴染の一人だよ。いわばセカンド幼馴染で、一年前に中国に帰ったんだけど、まさかISの代表候補生になってるとは思わなかったな」

 

 セシリアに答えながら、本当に驚いたと一夏は思い返す。

 

 あの頃の鈴は、両親の離婚に巻き込まれて転校する羽目になり、実に大変だった。

 

 レヴィアもいろいろと説得のために動いたようだが、それでも鈴の両親は決意を変えることはなかったのだ。

 

 それに、鈴はレヴィアの教えを受けて魔法を学ぶなどすると、そのもめごとから逃れるようにさらにのめり込んでいた。

 

 てっきりその道に進むと思っていたし、レヴィアもそのためのサポートなどを引っ越し前にしていたから、本当に驚いている。

 

「しかしセカンド幼馴染ということは、私はファーストか。・・・番号みたいでいい気分はしないな」

 

「う、悪い箒」

 

「おりむ~はセンスがたりないよ~。もっと磨かないとだめだね~」

 

「がんばるよのほほんさん」

 

 箒にダメ出しされ、本音に指導されてしまい、一夏は頭を下げるしかない。

 

 どうも自分はセンスがないようだ。いつもツッコミを入れられる。

 

「本当にそうよね。アンタってばくだらないダジャレとかよく言ってたし。レヴィアに矯正されなかったの?」

 

 みれば、ラーメンを片手に鈴が自分達の席にやってきていた。

 

「席もあいてるし、お邪魔するわよ~」

 

「な、何を勝手に座っていますの!?」

 

「え? 別に食堂でどこの席に座るかなんて自由でしょ?」

 

「隣の者に了承を得るぐらいしなさい!!」

 

「一夏、そこいい?」

 

「おう、別にいいけど」

 

「そこのファーストは?」

 

「箒とでも篠ノ之とでもいいから、その呼び方はやめろ。それさえ分かっていれば座ってもいい」

 

「じゃ、そこのだぼだぼな子は?」

 

「いいよ~」

 

「多数決で決まりね」

 

「きぃいいいいい!!」

 

 六人がけのテーブルで、鈴は一夏の隣に座る。ちなみに逆隣りがセシリアで、反対側に箒と本音が座っている。

 

 さらにそこに増援到着。

 

「誰かと思えば鈴ちゃんじゃないか。・・・久しぶりだね!!」

 

「レヴィアもここにいたの!? あ、座って座って?」

 

「だ・か・ら! 了承を得なさいと言っているでしょう!!」

 

「いいぞ」一夏

 

「かまわん」箒

 

「どうぞ~」本音

 

「はい多数決」鈴

 

「むっきぃいいいいい!!」セシリア

 

 無駄に漫才が続けられていた。

 

「しかしこのメンツがそろうと弾くんや蘭ちゃんがいないのは違和感あるね」

 

「たしかにねぇ。レヴィアが皆をまとめて、一夏とあたしが引っ張ってって、弾が巻き込まれて蘭が追いかけてきて・・・懐かしいな~」

 

 レヴィアの言葉に、鈴が懐かしんで表情を崩す。

 

 一夏もそれを思い出した。

 

 ・・・鈴も弾も、自分が人間じゃなくなったとしっても変わらず自分を受け入れて、レヴィアのこともひとしく扱ってくれた。

 

 あの数年間は確かに自分にとっての宝物だ。絶対に大切にしなくてはいけないと思う。

 

「良い友達ができたようでよかったな。・・・別の意味で問題を起こしているようだが」

 

「ど、どういう意味だよ箒」

 

 何やら意味深なことを言ってくる箒に、一夏は文句をいうが取り合ってくれない。

 

 だが、それがわからないのは一夏だけだったようだ。特にセシリアと鈴は涙すら流しそうなほどに納得していた。

 

「・・・そうなのよ。分かってくれる?」

 

「ああ、わかるさ」

 

「わかりますわ」

 

「・・・おりむーは罪つくりだね~」

 

「うん、とても困っているよ」

 

 鈴と箒とセシリアが分かり合い、本音とレヴィアが呆れている。

 

 何やら和やかな空気が、流れていた。

 

 それが崩れるのは、僅かに今夜である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、レヴィアは資料をまとめてから、簪の様子を眺めていた。

 

 遠目で見ているとよくわからないが、彼女の能力は非常に高いと思う。

 

 ・・・こういうことを言えば姉と比較するようで悪いが、彼女は立派に姉と並びたてる能力を持っているだろう。

 

「・・・相変わらずすごいね」

 

 だから、ただ褒めるだけにする。

 

「そんなことない。お姉ちゃんに比べたら、こんなもの・・・」

 

「それは違う。生徒会長は確かにすごいが、少なくとも電子戦の類やこういったプログラミング関係なら、簪さんは姉を超えているよ」

 

 これは数々の情報戦の末につかんだことなので、間違いなく断言できる。

 

 更識楯無は更識簪にできないことができるかもしれないが、更識簪は更識楯無にできないことができるのだ。

 

「僕はこういった方面に君ほど優れた人材を持っていないからね。そういう意味では生徒会長が羨ましいよ」

 

 言った途端、簪の顔が真っ赤になった。

 

 ・・・ヤバい、これは間違いなくアレだ。

 

 レヴィア・聖羅は更識簪にフラグを立てている。

 

 何故だ、なぜこうなった。

 

 彼女のこういった方面のすごさなぞ、代表候補生と立場である以上関係者は気付いているはずだ。少なくとも倉持技研なら気づいているだろう。

 

 更識楯無とは別ベクトルで実力者なのは間違いないのに、褒められていないはずがないだろう。ベクトルが別なのだから楯無と比較されている可能性もないはずだ。

 

「こ、これぐらい分かる人ならだれだってわかるはずだよ? 君の周りにもいるだろう?」

 

「ううん。・・・私のことをここまで褒めてくれた人は、レヴィアが始めてだよ」

 

 ・・・見る目がないぞ周り!!

 

 どうすればいい? どうすればこのフラグをクラッシュできる!!

 

 内心でものすごい勢いで頭脳を空回りさせる中、部屋のドアを思いっきりノックされた。

 

「何事だい!?」

 

 空気を変えるチャンスと考え、ゴキブリもびっくりの速度でドアにせまってあけるレヴィアだが、その意識は別の意味で切り替わった。

 

「・・・レヴィアぁ~」

 

 ポロポロ涙をこぼしながら、鈴がレヴィアに抱きついた。

 

「あぁあああああ!? ・・・って大丈夫!?」

 

 嫉妬の声を上げながらも、どうやらただ事ではないと気付いて簪も慌てて駆け寄る。

 

「鈴ちゃん・・・。どうしたんだい?」

 

「いちかのばかが・・・いちかのばかがぁ・・・」

 

 こんなに彼女が泣くのは何年振りだろう。

 

 少なくとも、自分をからかう連中を自分であしらえるようになってからは、こんなことは一度たりともなかった。

 

「やくそく・・・おぼえてなかったよぉ・・・!」

 

 その一言で大体理解できた。

 

「ああ、一夏は本当に馬鹿だよな」

 

 抱きしめ返し、優しくその頭をなでる。

 

 そして決意した。

 

(一夏シメる・・・)

 

 レヴィア・聖羅は可愛いは正義を信奉しているわけではない。

 

 ただし、可愛くて正しい子は正義だと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、一組に嵐が吹き荒れた。

 

「失礼します。一夏君をちょっとぼこるのでお時間を頂きます!!」

 

「え、え、えええええ!?」

 

 麻耶が驚いている隙に、レヴィアは一気に一夏に詰めよった。

 

「一夏君。歯を食いしばらないで力を抜いてくれ。ダメージが入らない」

 

「ま、待てレヴィア!! お前の本気って危険すぎ―」

 

 数分後、織斑千冬が鎮圧するまで、一夏は地面に体が接触することなく殴り飛ばされ続けた。

 




地味に魔改造されている鈴。レーティングゲームでいうなら近接格闘パワータイプとして進化しています。

 そしてレヴィアの折檻は基本的に凶悪。一課の耐久値を正確に把握しているのでそのギリギリを狙ってぼこられます


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第七話 そこまでわかってるのになんで気付かないの!?

一気に飛ばしてクラス代表戦突入します


 

 

 

 繰り返して言うが、織斑一夏は悪魔である。

 

 人とは圧倒的に異なる寿命を持ち、人とは異なる時間で生きる存在である。

 

 時には人間を妾とすることもあるが、その多くは一種の遊びであり、人を利用する形がかつての主流だった。

 

 今ではそんなこともだいぶ落ち着いているが、それでも悪魔の側に引き込んで転生させるといったことが非常に多い。

 

 そして、織斑一夏は自分を弱いと思っている。

 

 あのモンド・グロッソで己を弱さを痛感し、それを乗り越えるために相応の努力を積んできた。

 

 だが、それでも自分はまだまだなのだ。

 

 だから、彼女の告白に対して、こう答えたのだ。

 

「・・・ゴメン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてクラス対抗戦当日。

 

『はい、対に始まりましたクラス対抗戦。第一回戦のゲストとして、初日に一組で名解説を行い一目置かれた、両クラス代表の共通の友人であるレヴィア・聖羅さんをお呼びしております』

 

『こんにちわ。いつもニコニコあなたのそばに、お耳の恋人レヴィア・聖羅です』

 

 何をやっているんだ我が主は。

 

 一夏は内心でそう突っ込んだ。

 

「あの方は一夏さんの応援にも鈴さんの応援にも回らないようですね」

 

 セシリアは一夏のそばでセッティングの手伝いをしながら、かつ小型の端末を操作する。

 

 そう、よりによって対抗戦の相手は鈴なのだ。

 

 あの後、昔したとかいう約束のことを引き合いに出され、何とか思い出したのだが、なぜか思いっきり泣かれてしまった。

 

「料理が上手になったら酢豚をおごってくれる」であってると思うんだが、いったいどこを間違えたのだろう。

 

 箒もものすごい絶対零度の視線を向けていた。「お前は本当に変わってないな。馬に蹴られて殺された方がいいぞ?」とまで言われた。解せぬ。

 

 しかもレヴィアに徹底的にぼこられてしまった。千冬が止めに入るまで容赦なく殴り続けているし、本人も始末書を書いた上で「反省も後悔もしたくありません」と断言したらしいしなにが原因だろう。

 

「まあ一夏さんが大罪を犯したのは事実ですが、それは別として鈴さんの情報をお伝えします」

 

「セシリアまで!?」

 

 なぜだ、そう違って覚えていない自覚があるのに、一体どうしてこうなった。

 

「中国製第三世代型、甲龍。近接格闘戦向けのパワータイプのようですが、肝心の第三世代兵器は不明ですわ」

 

「そこが厄介だよな・・・」

 

 ブルー・ティアーズとはまた違う、中国独自の技術で開発された高性能は武装が隠されている。

 

 一方こちらの不知火は、設計思想的には第一世代だ。

 

 セシリアに勝てたのは対銃戦闘を叩きこまれたことと、そもそも三次元での一対多になれていたことが非常に大きい。

 

 本来なら、アラスカ条約によってISの情報はすべて公開されることになっている。

 

 だが、そんなものは建前だ。試作型ということもあって未完成だと言い張ればそれで十分ごまかせる。また、IS学園内で開発された者には適用されない。この組み合わせてほぼ完成した機体をIS学園で完成させれば、最高で三年間はデータをこっそり取り続けることができる。

 

 政治の分野はさっぱり分からないが、レヴィアも「いろいろややこしい」と言っていたし大変だ。

 

 まあ、そんな政治のことはわかる者に任せればいい。

 

 織斑一夏のできることなどたかが知れている。

 

 寄って、切るのみ。

 

「・・・サンキューな、セシリア。・・・言ってくるぜ」

 

「はい。行ってらっしゃいませ。そしてできれば、勝ってください」

 

 最初のころからは想像も出来ない柔らかな笑顔が返ってきて、ちょっと照れてしまった。

 

 気付かれてないと良いが、たぶん気付かれてるんだろうな。

 

「・・・ま、頑張ってみるよ」

 

 深呼吸をして、気分を落ち着ける。

 

 今は余計なことを考えるな。

 

 織斑一夏はレヴィア・聖羅の戦車だ。

 

 戦いを前に、余計なことを考える余裕はない。

 

「織斑一夏。不知火、行くぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤みがかった黒のIS。両サイドにある一対の非固定部位。

 

 第三世代IS、甲龍を纏った鈴が宙に浮かんでいた。

 

「よく逃げずに来たわね」

 

「逃げる? それはこっちのセリフだよ。お前こそ、負ける覚悟はできたんだろうな」

 

 開放回線でお互いに挑発をし合う。距離は十メートルもない。ISなか完全に近接戦闘の間合いだ。

 

「まさかと思ってるけど勝てると思ってるの? データとり用で完成されてる、情報を取り放題のその機体で、データが開示されていないこの甲龍を倒せると?」

 

「さあな。だけど、俺は無様にはいつくばることだけはしない。・・・知ってるだろ?」

 

 そう、鈴はそれを知っている。

 

 織斑一夏がどういう生き方を選んだのかも、そのためにどれほどの努力を積んできたのかも。

 

 そのほとんどはISでの戦闘には意味をなさないものなのかもしれない。

 

 だけど、それでも鍛えてきた維持はある。

 

「・・・ええ、そんなの知ってるに決まってるじゃない」

 

 だから、鈴は一夏を馬鹿にしたりも油断したりもしない。

 

『な、なんだかすごくわかり合っているような会話なのですが、もしかして二人は・・・』

 

『一言言いましょう。一夏君は極めて厄介なフラグクラッシャーで朴念仁で鈍感でどうしようもありません。・・・違います』

 

「なんでそこまで言われなきゃならないんだよ!!」

 

 実況担当の生徒にかぶせて答えたレヴィアの毒舌に、一夏は吠えた。

 

 なぜそこまで言われなければならないのだ。泣いてもいいだろうか?

 

「ええ、本当よ。・・・ヤバいまた泣きたくなってきた」

 

「だからどういうことなんだよ!!」

 

 挙句鈴は鈴で泣きそうになっているし、もう何が何やら全く分からない。

 

「だから、「料理が上手くなったら毎日酢豚をおごってくれる」のどこが間違ってるんだよ!! 間違ってるにしても「奢る」が「作る」に変わるぐらいだろ!?」

 

 だからつい言ってしまったのだ。

 

 ・・・それが最大級の核弾頭だとも知らずに。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 ・・・すごい、沈黙が発生した。

 

 登場者を保護する機能があるゆえに、気温などの調節機能も付いているはずのISを装着してなお、ものすごく冷たかった。

 

 主に日本人から発せられるその空気に、一夏は思いっきり戸惑った。

 

「・・・え? あれ?」

 

 これは、まずい。

 

 なにが不味いのかは分からないが、とても不味い。

 

『一夏さん。・・・もう自害なさった方がよろしいのでは?』

 

「セシリア!?」

 

『一夏。・・・姉さんが一緒に死んでやる。死んで詫びよう』

 

「千冬姉!?」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「そこまでわかってるのになんで気付かないの!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「だ、だからどういうことなんだよ!?」

 

 セシリアはおろか千冬が素で嘆き、挙句の果てに観客の多くから駄目だしを喰らって、一夏は自分が完ぺきにアウェイなことに気付いた。

 

 さすがの自分でもこの視線はどういう意味かよくわかる。

 

 ―やっちゃったよ、コイツ―

 

『・・・一夏君。こうなったらもうみんな気づいてるみたいだしあえて言おう』

 

 ものすごい頭痛そうな声で、レヴィアはものすごく言いにくそうに、しかし口を開いた。

 

『つまりこれはあれだよ。日本人が「私の味噌汁毎日食べて」的なアレ。・・・遠回しな、愛の告白だよ』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 日本人特有の遠回しな言い方ってやつだね。もう俺にはよくわかんねえよ。ハッキリ言ってやろうぜ? 男だろ。あ、鈴は女か。

 

 つまりこれは、衆人環視どころか公式に記録されている状況下で告白されたといったようなものだ。いな、正真正銘その通りなうえ、国家代表候補生と史上初の男性操縦者のラブロマンスか。

 

 つまりは。

 

「し、しししししししししし死ねコラァぁあああああああああっ!?」

 

 衆人環視でバラされた鈴が本気で怒るということである。

 

「うわぁあああああああ!?」

 




鈴、公衆の面前で恋心暴露。

しかしこれで一夏に悪い虫が寄ってくる可能性は激減するわけで、場合によっては鈴にとっても一夏にとってもいいことなのでは・・・?


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第八話 こちら潜入してきたテロリストッス

甲龍との戦闘開始。

あと自分で書いててなんだけど、この話の一夏君は確かに殺された方がいいと思う。


 

 

 織斑一夏はとても反省していた。

 

 まさか愛の告白をスルーしていたとは思わなかった。

 

 ああ、これは男として制裁を受けねばならないだろう。女の告白を気づかずする―とか、殺されても文句は言えない。少なくとも制裁を受けるべきだ。

 

 とはいえ、

 

「見えない弾丸で滅多打ちとか反則だろぉおおおお!?」

 

 これは反則だ。

 

「うっさい死ね! 死ね死ね死ね死ね死ねっ!! 乙女の純情台無しにしてくれちゃって、死んで詫びなさい!!」

 

 顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしながら額に青筋を浮かべて猛攻を加えてくる鈴から逃れながら、一夏は何とか攻撃を最小限のダメージで対処していた。

 

 とはいえこれは厄介だ。

 

 甲龍の第三世代兵装、衝撃砲。

 

 空間そのものをどういった理屈か砲弾とかし、武器に使用しているのだ。

 

 別に見えない弾丸というのはそこまで脅威でもない。

 

 発射された弾丸を視認するなど、よほど弾丸の速度がおそいか特殊な弾丸でもなければ無理だ。一夏も弾丸そのものを見て回避する技術など教わってはいない。そんな上位クラスの実力者じゃなければできない技量より、相応の反射速度があれば誰でもできる技術のほうを教わっている。

 

 とはいえ、砲身が見えないのは致命的だ。

 

 一夏が教わっている回避方法は、銃身と銃口、そして発射されるタイミングが分かる行為が見えなければ真価を発揮しない。

 

 当然、砲身そのものが透明であり、かつ思考で発動する衝撃砲は驚異だった。

 

 しかも厄介なことが二つある。

 

 一つは殺気を垂れ流されているということ。

 

 全世界公式配信で告白をばらされたことにより、鈴の殺気は全力放出され続けている。

 

 これでは砲撃のタイミングを殺気の爆発で見ることは不可能だ。もうこれは、トリガーを引きっぱなしにしているのに近い。

 

 もう一つも鈴が切れていることにある。

 

 鈴はブチギレたために狙いが甘くなっている。

 

 これだけ効けば、命中率が下がっていいことのように思えるかもしれない、視線と狙いがあってないというのは最後の回避のファクターを失ったに等しいのだ。

 

 しかも砲身は360度球状に展開できるようで、小刻みに移動して後ろに回り込んでも、そのまま砲撃を叩きこんでくる。

 

 ゆえに高速起動を繰り返してエネルギー切れを待つしかない。

 

 もはや勝つには一つしかない。

 

 瞬時加速《イグニッション・ブースト》。

 

 ISの基本機能の一つでもある、PIC《パッシヴ・イナーシャル・キャンセラー》を最大限に利用して、一瞬で最高速度にまで到達するこの技量は、一夏の奥の手だ。

 

 織斑千冬は、これともう一つの力を利用して世界一に到達したのだ。ならば、代表候補生相手にも十分な勝算が見込めるはず。

 

 ゆえに、一夏は決意する。

 

 幸い、今までの砲撃で土煙が上がり、地面の知覚はほとんど見えていない。

 

 これならなれない瞬時加速の事前行動を見られる可能性は低い。勝算は十分にある。

 

(一度失敗したら流れは完全に鈴の物だ。・・・何があっても流れをこっちに持ってくる!!)

 

 いくら瞬時加速といえど、高速で移動している状況下で逆のベクトルに加速することは難しい。

 

 そして相手に向かっている状態で加速しても、反応される可能性が上昇する。

 

 だから、ブレードを地面に突き刺して急ブレーキをかけた。

 

 勢い余って爆撃といってもいい砲撃が通り過ぎる。もちろんいくらかくらってしまったが、この程度のダメージで逆転できるなら目っけものだ。

 

「もらったぁああああ!!」

 

 瞬時加速、発動。

 

 視界が風景を置き去りに移動する。

 

 一夏はそれらに意識を向けない。向ける相手を間違わない。

 

 今切るべきは凰鈴音ただ一人。その姿と切るタイミングだけは間違わず、勢いよく振り下ろす。

 

「な・・・っ!?」

 

 怒りに目がくらんでいた鈴は反応できない。

 

 そのまま二人の距離が一気に縮まり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が、二人の戦いに割って入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アリーナの観客は全員走れ!!」

 

 レヴィアはその光景を見た瞬間にそう叫んだ。

 

 今、アリーナでは二機の動きが止まっている。

 

 と、いうかタイミングを殺されて振り下ろせなかった一夏が、鈴に思いっきりぶつかって空中でもんどりうっていた。

 

 大きな衝撃と爆発が、衝撃砲によって舞い上がっていた土煙をはるかに凌駕するほどの土煙を生んでいる。

 

 遮蔽シールドに守られているはずのこの空間に、何者かが突入してきたのだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください聖羅さん。いくらなんでもそれは急ぎ過ぎでは?」

 

 状況がつかめていない実況がそうたしなめるが、そんな意見は無視する。

 

 これまで何度も命がけの戦いを繰り広げたことがあるからこそわかる。ISとの戦いすら経験したことのアルミだからこそわかる。

 

 あれは、まずい。

 

「遮蔽シールドをやすやす貫通するような物、こちらに向けられたらどうなるかわかるでしょう!! ・・・死にますよ、皆!!」

 

 既にこの瞬間から、この場は試合会場ではない。

 

 災害の現場か戦場か。とにかく一瞬の油断が死を招く緊急事態の場へと変化してしまったのだ。

 

「・・・生徒会長!!」

 

 万が一のために用意していた緊急回線を開き、楯無を呼び出す。

 

 こんな非常時である以上、個人的に生徒会長のとの直通通信があるだなんて秘密をばらしても問題ないだろう。というかそれどころではない。

 

 だが、その通信は繋がらなかった。

 

『あー、無理ッス。通信は試合開始前からこっちでジャックしてるッス』

 

 その答えは、土煙の中からやってきた。

 

 土煙が晴れた中、そこにいるのは二機のISである。

 

 双方ともに全身装甲。しかし、その形状は明らかに違う。

 

 片方は、既存のISとそこまで変わった姿を取っていない機体で、軍用のISといわれればそこまでおかしなところはないだろう。

 

 背中に、まるで亀の甲羅を思わせるほど大型のバインダーが付いているのが特徴といえば特徴だが、それでも隣に比べればおかしくない。

 

 もう片方は、明らかに異形だった。

 

 例えて言うならゴリラ。

 

 その両腕は明らかに人のサイズではなく、腕と足のバランスが付いていない。

 

 しかもその腕の先には、左右に一問ずつあり、腕としての仕様は考えられていないのがよくわかる。

 

 さらに頭部には首がなく、センサーレンズが不規則に並んだ不気味な顔をしていた。

 

『あーテステスッス。こちら潜入してきたテロリストッス。さっきのはかなり無理した砲撃なので、今からは使うつもりはないッス。・・・逃げようとしたら撃つッスけどね』

 

 明らかに挑発を兼ねているのだろう。機械的に合成された不気味な声が、まともな方のISから漏れ出ていた。

 

 その、逃げれば殺すという意味の言葉に、観客全員の動きが固まる。

 

 誰もが死にたくはない。ゆえに言うことを聞くしかなかった。

 

『貴様、何者だ?』

 

 管制室から、千冬の氷点下の声が聞こえてくる。

 

 誰がきいてもわかる。本気で怒っている。

 

 ブリュンヒルデの本気の怒りに、直接向けられているわけでもない観客から悲鳴が漏れた。

 

 しかし、侵入者は一切ひるまなかった。

 

 そうだ。それでこそブリュンヒルデだ。それぐらいの殺気を込めてくれなければ面白くない。そう言わんばかりの余裕が、侵入者から漏れていた。

 

『さっきも言ったッス。テロリストッス。名前は・・・ウィンターとでもよんでほしいッス』

 

『さっきから通信が繋がらないのは貴様のせいか』

 

『そうッス。この機体は電子戦用なんで、有線回線以外はシャットアウトッス。この試合が始まる前から、IS学園の方では大騒ぎッス。・・・音もシャットアウトできるから、あなたでもわからなかったわけッス』

 

 それは驚異的な技術力の証明。

 

 通信をシャットアウトするだけでなく、それを相手に気付かせないようにすることも可能。さらに物理的な音すら遮断するようなシステム、現代に存在しない。

 

『・・・なぜ音までシャットアウトする? あれだけ派手に動けば、どうせ気付かれるぞ』

 

『逆ッス。学園の方に増援妨害を兼ねて襲撃かけてるッス。だからそれを気づかせないためにやったッス』

 

 そういうと、アリーナのモニターの画像が変化する。

 

 ・・・それを見て、この場にいる者は度肝を抜かれた。

 

 それはいうなればホバータンクとでもいうべきものだった。

 

 戦車特有のキャタピラが存在せず、まるで僅かに宙に浮かんでいるように見える下半身。故障した時のためか移動時のエネルギーの節約のためか、申し訳程度にタイヤが付いているが、それが動いてい無いのはわかっていた。

 

 さらに上部の砲身も以上。二連装の方針は現代ではろくにお目にかからないし、それがまるで腕を振るかの如く高速で稼働するのも異常だった。

 

 そして異常なのはその戦闘。

 

 数機のISと数十機のそれが、勝負になっていた。

 

 ISからの砲撃を余裕で耐え、時にはドリフト走行でかわしながら、戦車は砲撃を放つ。

 

 砲撃は素早い照準によってISをかすめたり、そもそも散弾による攻撃でISにかなりの割合が辺りもする。

 

 ・・・ISが世界に知らしめされた白騎士事件で、世界が学んだことはただ一つ。

 

 桁違いの数の兵器を以ってしても、ISにはかなわない。ろくにダメージを与えることも出来ず、さらに死亡者を出さないように気をつけることも出来る程度の戦闘しかできないということだ。

 

 その常識がいま崩れ去っていた。

 

『本命の目的は見ての通りッス。・・・ウチの新兵器のデモンストレーション。・・・ちなみに、基礎設計はこの映像と一緒に全世界同時配信で無料公開中ッス』

 




いきなり現れた敵勢力。

ちなみにこれ作ったのは束さんではありません。

しかし我ながらなかなかうまくいかない。本格的にD×Dの色を出せるのは原作三巻らへんからなんですよね・・・。


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第九話 また会おうッス、『表』の男性操縦者

VS黒いIS


 

 ISが世界を席巻する兵器となった理由は何があるのだろうか。

 

 最高速度? 否、ISに匹敵する速度を発揮する航空機は確かに存在する。早さという土俵に置いてなら、未だ航空機はISと同じ領域だ。

 

 火力? 否、ISは人を一回り大きくしたサイズでしかない以上、傾向できる火力には限りがある。少なくとも第二世代までなら、航空機の対地ミサイルや、戦車や軍艦の砲撃の方が強力。

 

 人によって意見は分かれるだろうが、その中の一つにこういったものがある。

 

 運動性能と防御力が圧倒的であるからだ。

 

 かつて、戦争の一つに置いて、最高速度に比重を置いていた戦闘機が、運動性能で勝る戦闘機に敗北するということがあった。

 

 PICと搭乗者保護機能によって従来のGの限界をはるかに超えたISは、最新鋭戦闘機の最高速度で、運動性能に特化した戦闘機をはるかに凌駕するほどの旋回性能を発揮し、減速及び加速に置いても凌駕する。

 

 シールドエネルギーと絶対防御に守られたISは、下手な装甲をはるかに凌駕する堅牢さを持つ。

 

 この二つの土俵に置いて、ISは究極といっても過言ではない性能を発揮し、それらを活かすことによって既存の兵器体系をはるかに超越したのだ。

 

 さらにそこに人の延長線上の形状が、銃器を応用した武装の仕様という形であり得ない武器変更能力を発揮する。これにより戦術は大きく変化した。

 

 戦闘機に匹敵する速度を持ち、

 

 軍用ヘリをしのぐ運動性能を持ち、

 

 戦車を上回る堅牢さを持ち、

 

 そして歩兵のような柔軟な運用能力を発揮する。

 

 そんな兵器、たとえISのような性能を発揮できなくても世界でも最高峰の兵器体系になるだろう。

 

 そして、それゆえに一つの疑問が残る。

 

 もし、その土俵に踏み込む程度でもできる性能の軍用兵器が完成されたらどうなるのだろう。

 

 その答えが、今IS学園を襲っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、これを見ている世界各国の方々? 今ならプレゼントでそんな新兵器の型落ちバージョンを全世界にばらまいてるッス。早い者勝ちッス」

 

 そんなとんでもないことをのたまっている人型ISをかばうように、異形のISが前に出る。

 

 そのビーム砲には既に光があふれている。どう考えても臨戦態勢だ。

 

「・・・一夏、下がってなさい」

 

「やだね。幼馴染をほうっておけるわけがないだろう」

 

 同時に前に出ようとして、一夏と鈴はぶつかり合う。

 

 なるほど、確かに代表候補生はこんな時に前に出なければいけないのだろう。

 

 反面、こちらはむしろ貴重品ともいえる男性IS操縦者だ。普通に考えれば守られる側が自分であり、守る側が鈴だ。

 

 ふざけるな。そんなふざけた理屈はいらない。

 

 男尊女卑だろうと時代錯誤だとも隙にいえばいい。織斑一夏は男で、そして男は女を守る者だ。

 

 この意地だけは死んでも捨て切らない。だから一夏は下がらない。

 

「あのね一夏。あんた。・・・自分の種族が分かってるわけ?」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 もちろんそれだってわかっている。

 

 織斑一夏は悪魔であり、それゆえに下手に目立ってからその事実が異形の社会に知られれば、殺されることだって十分にあり得る。

 

 だが、それがどうした。

 

「これは俺がしなきゃいけないことじゃない。俺がやりたいことだ。それに鈴を放って逃げたりしたら、その時点で織斑一夏は死ぬんだよ」

 

 かつて、レヴィアは一夏にこう告げた。

 

 悪魔は欲望と共にある。それをちゃんと理解しろと。

 

 男として胸を張って生きるのが一夏の欲望だ。ゆえにこの場に置いて逃げるだなんて選択肢は存在しない。

 

「お二人同時に来ていいッス。どうせ逃がさないからッス」

 

 ISの合成音声がそんな二人をあざ笑うかのように軽く超でそうのたまい。

 

 黒のISが、ビーム砲を乱射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君! 凰さん!?」

 

 管制室で、麻耶は大声で呼びかけていた。

 

 所属不明のIS2機による襲撃という時点で前代未聞だというのに、外側ではIS以外の兵器でISとの戦闘が成立しているという非常事態。もはやIS学園の許容量をはるかにオーバーしている。

 

 映像を見る限り動かせるISはほぼすべて動かしているようだし、これではどうやっても増援の動かしようがない。

 

 だからどうしようもないが、だからといて生徒を見捨てるようなまねをするわけにもいかなかった。

 

 今映像で映し出されているのは、IS同士での試合ではない。正真正銘の実践なのだ。

 

 下手をすれば命にかかわる。

 

 観客席には防護シェルターが展開されているので、流れ弾程度ではびくともしないだろう。しかしそれはシェルターが展開されていないところでは話が別だということだ。

 

 真正面から戦闘を行っている二人は、通用しない。

 

「一夏さん! 早く下がってください!!」

 

 セシリアも呼びかけるが、やはり反応はない。

 

 不味い不味い不味すぎる。

 

「落ち着け。どうせ対処できるのが現状では二人しかいない以上、あいつらが戦う以外の選択肢はないんだ。やらせてみればいい」

 

 織斑千冬だけが、ぱっとみで冷静さを失っていなかった。

 

「お、織斑先生! これは試合じゃないんですよ!?」

 

 信じられないものを見ながら麻耶が怒鳴るが、千冬は肩をすくめると、珈琲を入れ始めた。

 

「珈琲でも飲んで落ち着いたらどうだ? 糖分でも足りないからいらいらしているんだ」

 

 スプーンをつまんでそのまま粉を入れるとかき混ぜて溶かす。

 

 その風景はまるで授業の間の休み時間に、一息入れるための行動にも似ていた。

 

「こういう時だからこそ冷静になるべきだ。さあ、飲みたまえ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 本当に落ち着いている風にしか見えなかったのだが、ある一点が原因で、二人は硬直してしまっていた。

 

「どうした? 混乱した次は硬直しているのか? 動揺するにも程があるぞ?」

 

「「いやそれ塩です」」

 

 異口同音にそう言われて、千冬はゆっくりと瓶を見た。

 

 はっきりと、『塩』と書かれていた。

 

「な、なんで塩が・・・?」

 

「い、いえ、私にいわれましても」

 

「でも塩ってはっきり書かれてますし」

 

 とても微妙な空気が流れた。

 

「あれ? 一番動揺しているの織斑先生じゃ?」

 

「織斑君はもちろん、凰さんとの付き合いも長いみたいだし、当然といえば当然よね?」

 

「こういう時こそ冷静に対応できると思ってたのに、なんか意外・・・」

 

 ひそひそ声が聞こえてきた。

 

 今、戦闘中という空気を無視して、とても微妙な空気が流れていた。

 

「・・・い、一夏と鈴の救助準備を急がせろ!! 外との連絡網を繋いで何機かこちらに割り振らせるんだ、急げ!!」

 

 ―逃げた。

 

 皆の心が一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな漫才が繰り広げられているとはつゆ知らず、一夏と鈴は追い込まれていた。

 

 接近すれば剛腕で強引に振りほどき、距離を取られればビームが浴びせられる。

 

 さらにその巨体に見合わずスラスターによる強引な軌道は俊敏であり、二人を見事に翻弄していた。

 

 真上から急降下しての一夏の攻撃も、後ろから回り込んでの鈴の衝撃砲も意味をなさない。

 

 しかもビームの破壊力はクレーターを作った上でその表面をガラス状にするほどだ。

 

 一発でも当たれば、ただでは済まない。

 

―切り続ける一夏

 

―切りかかり、時には撃ち放つ鈴

 

―砲撃を作業的に続ける黒いIS

 

 それらを丸で歯車のように続けながら、三人の戦いは続いていく。

 

 そしてそれを見ながら、残り1人は楽しげに観賞していた。

 

「なかなかやるッスね。でも、その程度じゃ勝てないッス」

 

「「うるさい!!」」

 

 挑発としか思えないISの言葉を振り払い、二人は一旦黒いISから距離を取った。

 

「くそ! 『IS』以外もありでなら、勝ち目あるのに!!!」

 

「それはアタシも一緒よ。・・・でも、それをここでやる?」

 

 そう、二人には相応の切り札というものがある。

 

 それさえ放てればあの黒いISをぶちのめすこともできるかもしれない。

 

 だが、それにはあのISが邪魔だ。

 

 追加でいえば、今この場はみられている。

 

 こんなところで異形の領域を見せれば、間違いなく大騒ぎだ。レヴィアの力と権力を以ってしても、防ぎきれない。

 

 だが、それを使わずにこの化け物を倒すことができるのか・・・?

 

 二人の思考にそんな弱きが浮かぶ。

 

『聞こえるかい、二人とも』

 

 それを吹き飛ばすように、希望の光は舞い降りた。

 

『ああ、返事はしなくていい』

 

 これは念話の類だ。

 

 いつか非常に巻き込まれてもいいように、異形の力による通信能力を二人には与えられていた。

 

 そして、それが意味するのは一つ。

 

『今から僕の合図で一時的なハッキングで監視設備を無効化し、煙幕を張る。同時に不意打ちをあの黒い奴に叩きこむから、一気にたたみかけるんだ』

 

 王の指示が、聞こえた。

 

『ああ、ハッキングの準備は念のために用意してもらった奴を使うし、煙幕もアストルフォが事前に準備していたものだ。そして不意打ちはもちろん』

 

『私がやります』

 

 そして聞こえるのは、懐かしい友達の頼りになる言葉。

 

『で、その辺のフォローは俺がすることになってる。・・・レヴィアも俺を巻き込むなよ』

 

 しかも二人もいた。これなら恐れる者はなにもない。

 

『いやいや、二人の激突を間近で見たいと思ってね。おかげで何とかなったよ。マジ助かったね』

 

 反撃の準備は整った。

 

『さあ合図だ、3・2・1!!』

 

 見ているかテロリスト。

 

 世界には、貴様たちの知らないものがいくらでもあること教えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずアリーナの全ての観測機器が一時的にシャットアウトされ、同時に人型のISの周りに一斉に煙幕が発生した。

 

 その煙幕は一時的にハイパーセンサーすら無効化し、そのISに一瞬のすきを作る。

 

「へえッス。思った以上のものッス」

 

 そして次の瞬間ピットの出入り口から無数のビームが放たれた。

 

 それらは科学的には認識できな必殺の魔弾。ゆえにISでも反応しきれずに黒のISに全段叩きこまれ、さらに連続で発射され続け動きを封じる。

 

「もらったぁああああ!!」

 

「え、おい鈴!!」

 

 最初に動いたのは鈴だった。

 

 無論、それに気づいた一夏が一気に瞬時加速を発動させるが、それでもなお鈴の方が早い。

 

「あの一年であたしが手に入れたのは・・・」

 

 甲龍の腕部が除装され、鈴の素でがあらわになる。

 

「ISだけじゃない!!」

 

 そして、その掌打がISに叩き込まれた。

 

 本来なら、ISのパワーアシストすら使われていない格闘打撃など何の通用にならないだろう。

 

 そして、動きを封じられているとはいえ、射線に隠れている腕を動かすことはできる。

 

 だからISは片腕のビーム砲を向け。

 

「無駄よ、アンタはもう積んでる」

 

―力なく、だらりと垂れ下がった。

 

 それはもう片方の腕も同じで、今まで盾にするようにかばっていた腕から力が抜けていた。

 

 まるで、搭乗者自身に直接ダメージが入ったかのように。

 

「よくわからないけど行くぜえええええ!!」

 

 そして一夏も鈴に習う。

 

 両腕を生身のものにして、そして腕の先から光が輝く。

 

 その光は空間をゆがめ、一振りの両手剣を取りだした。

 

 ああ、ようやく反撃の一撃を叩きこんでやれる。

 

 覚悟しろよこの野郎。絶対防御で済むことを祈るといい。

 

 俺は、殺し合いの覚悟ぐらいで来てるんだよ。

 

「カレド・・・」

 

 とりだされた剣から、莫大なオーラがあふれ出る。

 

 それは、それらを感知する機能がないはずのISすら怯ませ、

 

「・・・ヴルッフ!!」

 

 装甲を叩き切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・つーわけで、アレは負けたッス。ま、二対一であそこまで渡り合えるならそれなりの実力ッスね」

 

 逃げたISは通信を行いながら、これまでの情報を報告する。

 

 今回の目的は既に達成している以上、自分達の勝利といってもいい。

 

 ISと勝負できる兵器システムはこれで全世界に公表されるし、新型機のデータもとることができた。

 

 それだけなら『あまり意味はなくなる』が、それでも情報があるにこしたことはないのだ。

 

『よくやった。・・・これで最初の準備は整ったといってもいい』

 

 そして、ISの主はその報告い満足した。

 

『スプリングの方向はその所属上最小限にしなければならないしな。今後も定期的に威力偵察を続けてもらう』

 

「わかってるッス。俺が一番威力偵察向きッス。あんたに拾われた借りもちゃんと返すッス」

 

 この存在は、主によって拾われたものだ。

 

 彼が自分を拾ってくれなければ自分は死んでいた。

 

 彼が自分の肉体の才能を認め、自分が持つ才能を必要としてくれたからこそ、自分はこれだけの力を手に入れた。

 

 ゆえに、全力を持って恩を返す。

 

 自分はあの方の盾であり手駒。ゆえに彼の意に沿って動き、彼の敵を滅ぼし、彼のために彼のものを守ろう。

 

 ゆえに、この作戦は分かり切っていた。

 

『ではそろそろ帰ってこい。これ以上バカげた時間稼ぎは必要ないだろう?』

 

「了解ッス」

 

 元より、これは相手をかく乱するためのものでしかない。

 

 敵も『異形の力を使っている』ことが分かったのだ。『こちらも使える』事を知られると、目的の都合上すぐに対処される可能性が非常に高い。

 

「それじゃあ追っての方々は無駄骨ご苦労様ッス」

 

 黒い霧が、ISを包み込む。

 

「また会おうッス、『表』の男性操縦者、織斑一夏」

 

 その声及び黒い霧とともに、ISの姿は完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の地下には、非常に高い権限を持ったものしか入ることができない区画が存在する。

 

 IS学園を強襲した謎の軍事兵器。その残骸は、その機密区画で慎重に調べられていた。

 

「・・・それで、敵のデータは回収できたか」

 

 IS学園の最重要機密区画で、千冬は麻耶とともに戦闘の情報を調べていた。

 

「ISコアそのものは登録がありました。二年前の米軍基地の原子炉暴走事件のさいに行方不明になっていたものです。ですが・・・」

 

「なんだ?」

 

「全ての兵器に言えることですが、確かに有人機であり無人で稼働するようなシステムが存在していないのにもかかわらず、『中に誰も乗っていません』」

 

 それは明らかにおかしなことだ。

 

 あの謎の情報遮断の隙を着いたのならば、ISの方はまだ理解できる。

 

 だが、それ以外の兵器は不明だ。

 

 そちらの情報収集は完ぺきに行われており、それゆえに逃げ出しているのならばその情報が残っていなければおかしい。

 

「・・・今回の事件には箝口令をしいておけ。どうにもきな臭い」

 

 そう、あまりにもこの事件はおかしい。

 

 ISに対抗できるだけの兵器開発など、それだけで世界をひっくりかえせるだけの代物だ。少なくとも、大国がこれを開発できれば、世界を征服することも可能だ。歴史を書き換えれる大発明でもある。

 

 だが、それをこんな形で発動する必要がどこにある。

 

 戦争を起こすのならこっそり開発して数を揃えてから強襲すれば良い。

 

 普通に世界に公表するにしても、自国のISとの模擬戦という形で示せばそれで十分だ。それなら情報を交渉カードにしてかなり利益を上げれる。

 

 わざわざテロ行為で実証試験をする必要はない。無償でその情報どころか実物を提供する必要だってない。

 

 まるでこれは、『情報と現物を世界中に提供するためにわざわざプレゼントしに来たボランティア』ではないか。

 

「・・・気をつけろ。織斑などどうでもよくなるぐらいに、これから世界は変動するかもしれん」

 

 これからのことを考えれば、もはや暗雲しか存在しない。弟やその友人達が巻き込まれるのかと思うと、千冬の心には不安しか浮かばなかった。

 

 しかし、それは表に出さない。

 

 それは『ブリュンヒルデ』には許されていない。

 




謎の行動を繰り広げる敵組織。

ちなみに、ウィンターと会話していたのがラスボスです。これは確定。


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第十話 でも、それが一夏さんです。

設定がある程度たまるまで書きためてたから連投し放題。自分結構書きためてから投稿する癖があるので出そうと思えば結構出せます。

一度やってみたかった、短期間の大量放出♪

スタートダッシュは大事ですもんね。


 

 

 夕暮れ時のIS学園の屋上で、数人の男女が集結してした。

 

 IS学園に入れる男性など織斑一夏を含めたごくわずか。事実、そのほとんどは非合法の手段で潜入していた。

 

「ようやく事情聴取も終わってひと段落。情報については緘口令が敷かれたようだね。・・・主権限で僕は聞くけど」

 

 アリーナの方に視線を向けながら、レヴィアが軽くため息をつく。

 

 誰がどう考えても想像の斜め上を行く事態が発動してしまった。

 

 女性にしか乗れない兵器に乗れる男性が現れたと思ったら、それと張り合うことすら可能とする兵器が全世界に公表された揚句その設計図と現物が全世界に提供された。

 

 主に技術的に後進の国家を中心としてばらまかれており、アラスカ条約に関わらないIS戦を可能とする兵器の数々は、世界のパワーバランスを一変させるだろう。

 

 正直にいえば、これで織斑一夏の価値は暴落したともいえる。

 

 どうしてできるのかまったくわからない特例より、誰もが使用することができる道具の方が注目されるからだ。

 

「おかげで、好都合」

 

 アストルフォが皆の共通認識を短く言葉にする。

 

 実際、これで織斑一夏が人間社会から抹消されたとしても揺り戻しは少ないのだ。それを選択肢に入れている側としては好都合だろう。彼らは人間社会に悪影響を与えたいのではないのだから。

 

「だからってあんなやり方は無いだろうが。・・・今度あったらウィンターとかいうやつはぶったおす」

 

 一夏は殺意すら浮かべて元凶たちに報復を誓う。

 

 あの大騒ぎによって生じたパニックで、少なくない数の怪我人も出た。

 

 クラスメイトにも怪我人が出た以上、ただで済ますのは彼の矜持に関わる。

 

 そして、それに意見するのは残りのひと組の兄妹。

 

「お前って、本当に大変なことに巻き込まれすぎだよな一夏。・・・羨ましいと思ったけどやっぱないわ。いや、俺も巻き込まれまくったけど!!」

 

 織斑一夏の悪友、五反田弾。

 

 数少ない一夏が悪魔になったことを知る者の一人で、レヴィアの協力で鈴と同じように異形の技術を身に付けた男。

 

 移動が楽になるというくだらない理由で空間転移関係に手を出していたが、おかげで安全に潜入及び離脱ができた。彼を呼び出していなかったら、あのタイミングでの援護射撃など不可能だっただろう。

 

 そして、その援護射撃をした少女が弾の後頭部をはたく。

 

「お兄、ちょっとは一夏さんを心配しなさい!!」

 

 五反田蘭。五反田弾の妹にして、砲撃を叩きこんだ今回のMVP。

 

 総合的な戦闘能力なら、この中でも上位に入る相応の実力者だ。

 

 そして・・・。

 

「今回は大活躍だったね蘭ちゃん。さすが僕の秘蔵ッ子にして最高の戦車《ルーク》だ」

 

 レヴィア・聖羅のもう一人の戦車である。

 

「はいっ レヴィアさん! ありがとうございます!!」

 

 レヴィアに褒められ、蘭は顔を赤くしててれるが、素直に勝算は受け入れた。

 

 ・・・それを見て、男性陣はほほえましい感じになったが、そのタイミングで屋上に乱入者が現れる。

 

「・・・お待たせ」

 

 鈴の姿を目にして、五人の表情が鋭くなった。

 

 別に鈴を警戒しているわけではない。五人とも鈴とは付き合いが長いし、彼女が悪人でないこともわかっている。

 

 問題は、彼女が持ってきた難題だ。

 

 この場で最も位が高いこともあり、レヴィアが代表して鈴の正面に立つ。

 

「じゃあ鈴ちゃん。僕たちにあいさつしたい人を紹介してくれ」

 

「うん。・・・爺ちゃん、連れてきたわよ」

 

 そう言って鈴が取りだすのは大きめの鏡。

 

 そして、その鏡面に猿の姿が映った。

 

 だが、それはただのサルではない。

 

 ただのサルならサングラスをかけないし、そもそも服を着たりもしない。

 

 そして、鏡越しでわかるような気も発しない。

 

『悪かったな嬢ちゃん。儂も悪いとは思うが、さすがにちょっと聞いとかないといけないからよ』

 

 そう言って、鏡を持っている猿こそ、この場に置いて最強の存在だった。

 

 それがわかっているからこそ、レヴィアは敬意をもって猿に向かい合う。

 

「お初にお目にかかります、闘戦勝仏・・・孫悟空どの」

 

 彼こそ、中国の伝説存在、孫悟空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・魔王の嬢ちゃん、女の子に挙げるお守りはちゃんと考えなきゃいかんぜ? たまたま儂が近くにいたからとりなせたもんを、下手したらこの子殺されてたぜい』

 

「・・・・・・・・・本当に面目ない」

 

 孫悟空のたしなめる言葉に、レヴィアは心底恐縮した。

 

 鈴が孫悟空とつながりがある理由は簡単。レヴィアのせいである。

 

 鈴が中国に帰ることになってから、レヴィアは鈴のために相応の支援をした。

 

 鈴に教えた魔術をより鍛えられるようにするための今日本や魔導書はもちろん厳選して用意した。さらに身の安全を守るために、魔王血族の権力を我がままといわれないレベルで使用して相応のお守りも用意している。

 

 そして、それだけのお守りとなれば相応の力を放出する。

 

 それが中国神話業界に勘付かれて睨まれたのだ。

 

 幸か不幸か、たまたまその近辺にいた孫悟空がとりなしてくれたおかげで、悪魔業界からの回し物とされかけていた鈴は命を拾うこととなり、それどころか仙術の修練すら受けられることになったが、これは明らかにかなり幸運な部類で奇跡といってもいい。

 

 念を入れなければなにがあるかわからないと思っているレヴィアだが、念を入れ過ぎても逆に失敗しかねないと今反省した。

 

 世の中はなかなか上手くいかないものである。若輩者である自分でできることなど高が知れていると、レヴィアは本当に心底反省した。

 

 だが、今はそれを続けている場合でもない。

 

 ・・・今現在、神話体系や宗教体系は、冷戦状態といっても過言ではない。

 

 各種宗教体系によって多くの神話が創作扱いされ、それにを恨んでいる神話体系の存在は数多い。

 

 目の前にいる孫悟空はどちらかといえば宗教側についているが、それでもその信仰を奪い合っている聖書の教えに基づく悪魔である自分は、どちらかといえば敵に近い。

 

 油断をすれば殺される可能性も十分にある。気を引き締めなければ自分以外の仲間たちにも危害が加わる。

 

 ゆえに、決して油断しないように気を引き締めながら、レヴィアは視線を鋭くした。

 

「それで、本来の目的は何用でしょうか?」

 

『ま、聞きたいことは一つだけでい。・・・悪魔は、人類社会により深く手を出すつもりかい?』

 

 鋭い視線で投げかけられるその言葉に、レヴィアは正面から向かい合った。

 

 この存在は自分などはるかに凌駕する年月を生きている。

 

 嘘でごまかせる存在ではない。

 

 ゆえに、心の底からの本音でのみ相手をする。

 

「違います。今回の事象は本当に偶然によるもので、我々悪魔はISを利用するつもりはございません」

 

 そう、これは我がままだ。

 

「あくまで我が眷属である織斑一夏の、人間としての側面を可能な限り守るための入学であり、在学中にISを発動できた仕組みが解明されなかった時点で、彼は人類社会から消えてもらいます」

 

 できる限り、眷属の人生を守りたいという、ただのわがままでしかない。

 

 

「ゆえに、悪魔について了承している組織にのみ限定されていますが悪魔の体質についても調べた上で解析しています。・・・今現在、男性悪魔で使える者もいないので織斑一夏が悪魔化したこととの因果関係はないと考えております」

 

 そのために、今まで積極的に利用することがなかった魔王の血筋すら利用したのだ。

 

「中国政府には須弥山を通じて情報が提供されるようにすることも可能で」

 

『いや、もういいわい』

 

 いたわりを感じる声が、レヴィアを遮った。

 

『幸い天帝も今回のことには興味がない。ISぐらいなら対処できる連中は多いしな。嬢ちゃんたちがたくらんでないってわかりゃあ、こっちからは手を出すつもりはないぜ?』

 

 まるで孫をいたわるような口調に全員が戸惑うが、孫悟空に裏はないようだった。

 

 無論、自分達若輩が読み切れるような人物ではない。

 

 それでも、なんとなく信じてしまいそうになる雰囲気を彼は放っていた。

 

『鈴の嬢ちゃんのことたのんだぜ? そっちの戦車の坊主のこと気にいっとるみたいだからよ?』

 

「ちょ、爺ちゃん!?」

 

 鈴が思いっきりあわてるが、孫悟空はカラカラと笑うと鏡から消え去る。

 

 あとは、鏡らしくその風景を写すのみであった。

 

「「「「「「・・・はぁ~」」」」」」

 

 どっと疲れが出てきて、全員の口からため息が漏れる。

 

 闘戦勝仏、孫悟空といえば伝説に名を残す極めて強力な存在。悪魔で相手をするならばレーティングゲーム上位ランカークラスは絶対に必要であり、魔王を以ってしても隙を見せればただでは済まない実力者だろう。

 

 そんなのと内密に会談をしなければならない緊張は、全員の精神を確実にすり減らしていた。

 

「いや、本当にゴメン!」

 

 鏡を取り落としそうな勢いで、鈴が勢いよく頭を下げた。

 

「まさか一夏がIS動かすなんて思ってなかったから、爺ちゃんとの世間話で一夏たちのこと話してたの!!」

 

 なんで中国神話がこんな情報を知っているのかとも思ったが、冷静に考えればそれしかなかった。

 

 とはいえ、それで鈴を責めるのはお門違いだろう。

 

「・・・仕方が、無い」

 

 アストルフォが静かに断言して、レヴィアもそれに頷く。

 

「須弥山に重要機密が知られてるのは怖いけど、そもそも想定できなかったしねぇ」

 

 今まで男性でISが操縦できるようになるなど夢のような話だった。それが動かせるだけでなく、まさか一夏がそうなるなど予測するのは不可能に近い。

 

 そんなものを想定いたうえで世間話を白などとムチャにも程がある。

 

 責めるとするなら、そんな運命を一夏に背負わせた髪にこそある。そして、悪魔にとって神とは本来敵である。

 

 つまり責めることはできない。

 

「ま、その須弥山と鈴ちゃんに繋がりができたのは僕のミスだし、気にしなくていいよ」

 

 それよりもこれからのことを考えるべきだ。

 

 先ほどの会話のとおり、一夏の影響力が下がるのならそれでいい。

 

 だが、IS推進派が焦った場合状況は悪化する。

 

 強硬な手段で男性がISを使える理由を解析しようとすれば、大きな問題が起きる可能性は非常に高い。

 

 それは絶対に警戒しなければいけなかった。

 

(だけどおかげで鈴ちゃんの告白云々が流れたことはよかったなぁ。・・・さすがに合われすぎる)

 

 対抗戦の大惨事を思い出し、レヴィアは内心冷や汗を流す。

 

 なんかうやむやになった気はするが、まあこれで当分は大丈夫―

 

「・・・鈴。酢豚のことで話がある」

 

 一夏が地雷を踏みぬいた。

 

「「「「「ブッ!?」」」」」

 

 まさかこのタイミングでいってくるとは思わず、全員が思いっきり噴き出す。

 

「ちょ、ちょちょちょちょ一夏!? あ、あんたいきなり―」

 

「・・・時間をくれ!!」

 

 動揺する鈴を遮って、一夏が勢いよく頭を下げた。

 

 その思い切りの良さに思わず呑まれ、全員が一夏に視線を集中する。

 

「俺は、弱い。あのISとの戦いでも、鈴1人守れない程度の強さしかなかった」

 

 あの場を見ていたものならば、むしろ上出来とすら言っただろう。

 

 ISにのって一年にも満たないものが、テロ行為を実行するほどまでに修練を積んだ敵と渡り合ったのだ。その訓練期間を考えれば誰がどう見ても上出来だというだろう。駄目だしするのはよほど見る目がないかてれ隠しだ。

 

 だが、それを織斑一夏は認めない。

 

「女1人守りきれないような強さで、彼女を作るなんて俺には考えられない。・・・いや、考えたくもない」

 

 織斑一夏は古風な人間だろう。

 

 この女尊男碑の社会でなお、女を守る男に憧れ、そんな自分でいようとする。

 

 そして、誰かを守れない辛さを嫌というほど知っている。

 

 だからこそ、今このような状況下で愛する女を作るという行為を行えない。

 

「俺がちゃんと大切なものを守れる強さができたら、その時は必ず真正面から正々堂々答えを出す。だから、それまでは・・・答えられない」

 

 もしかしたら一生来ないのかもしれない。

 

 その間に愛想を尽かされるのかオチだとも思っている。

 

 だけど、これは譲れない。

 

 それが織斑一夏のせめてもの意地だった。

 

「・・・はあ。なんかそういうと思ってたわよ」

 

 そして、

 

「良いわよ。どうせIS学園だって三年間もあるんだし、少しぐらい待っててあげるわよ」

 

 そんな男に、鈴は惚れたのだ。

 

「仕方がない男だね、君は」

 

「それが、一夏」

 

「マジで持ったいない奴だよ、お前」

 

 それを理解者たちは呆れながらも温かく見守り、

 

「でも、それが一夏さんです。・・・ええ、素敵です」

 

 恋する乙女はますます惚れる。

 

「あ、こら蘭! ここは私がほれなおすところでしょうが!! 邪魔よ!!」

 

「鈴さんこそ邪魔です!! 私の方がこの返答されたの先なんですからね!!」

 

「・・・え? ちょっと待ちなさい一夏!! アンタ告白の返事が二番煎じってどういうことよ!! 仙術叩きこむわよ!!」

 

「え!? いや、だって答えは同じだし・・・た、助けてくれレヴィア!!」

 

「自分でやりな。ねえ弾君?」

 

「っていうか、何が悲しくて妹の惚気を聞かなきゃいけないんだよ」

 

「・・・未熟」

 

 世界の歴史に残りかけない大騒ぎが起きた後とは思えないほど、和やかな空気が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦いが、後に表と裏の歴史に刻まれるISを巡る大きな闘争の始まりだということを、今はまだ誰も知らない。




闘戦勝仏はあくまで世界観を広げるためのゲストです。

魔法だけでなく仙術まで習得している鈴ちゃん。その特性上対人戦では非常に役立つでしょう。

そして魔改造五反田兄妹。とくに蘭ちゃんは一夏の正妻ポジションを半ば確立している上に、戦闘能力もかなり反則な設定にしております。

ここまで蘭ちゃんをピックアップしている作品も他にないんじゃないだろうか・・・。


あ、とりあえずこれで一巻編はおしまいです。次からは二巻編が始まります。

まだD×D色はあまり出せませんが、それでもちょくちょく小ネタレベルで出せるように努力するので、長い目で見守ってくれると嬉しいです。









あと、これを投稿した少し後に活動報告でアンケートをやります。

もしこの作品を気に行ってくださったのなら、ぜひ一筆お願いします。


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転校生のヴァルキリーシャドウ
第一話 お、男・・・?


第二巻編突入しました。

あ、アンケートはまだまだ募集中です。使えそうな設定がどんどん出てきましたが、それでも待ってます。


 

「今日から本格的な実戦訓練に入る。ISを使う以上訓練機だからという言い訳を使わせるつもりもない。各人は気を引き締めろ」

 

『―はいッ!』

 

 千冬の言葉に気合の入った返事が返される。

 

 学園別個人トーナメントを目前に控えていることもあり、いつも千冬の姿に暴走する生徒たちも気合が入っていた。

 

「では、山田先生。ホームルームを」

 

 その姿に千冬も少しは感心したのか、少しだけ様子が柔らかくなった気がする。

 

 だが、そんなことは麻耶の放った一言で塗り替えられた。

 

「ではまずはいいお知らせから。今日からこのクラスに、二人の転校生がやってきました」

 

 その言葉にクラス中がどよめきに包まれる。

 

 事前に全く情報が無い状況下で、同時に二人も転校生が来るなど普通なら考えられない。

 

 しかもここは転入試験に国家からの推薦が必要とされるIS学園だ。

 

 一部の者は明らかに裏があると確信したが、ほとんどの生徒はそれに気づかず、ただ新しい仲間の登場に歓喜した。

 

 そして、その裏の理由最有力候補の一夏は・・・。

 

「へぇ・・・。どんな奴なんだろうな」

 

 歓喜する側だった。

 

 史上初の男性IS操縦者であり、かつ旧魔王眷属というとてつもなく危うい立場だという自覚が足りない。

 

「それじゃあ、入ってください」

 

「はい、失礼します」

 

「・・・・・・・・・」

 

 入ってきた二人はどちらも美系で、分かる者にはわかるが達振る舞いにも隙がなかった。

 

 明らかに各種訓練を積んだ代表候補生クラスだとわかるが、しかしそこには注目されない。

 

「シャルル・デュノアです。フランスの代表候補生としてこちらに来ました。日本に来たばかりで不慣れなことも多いので、ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」

 

 礼儀正しい金髪の持ち主は、制服にタイプがありある程度改造する者もいるIS学園の中でも、ひときわ異彩だった。

 

 具体的に言うと、男だった。

 

 もう一度言う。男だった。

 

「お、男・・・?」

 

 その姿を見ていたクラスメイトの一人が、茫然とそう呟く。

 

「はい。フランス政府に保護されて隠されていたんですが、織斑一夏君が既に世界に発表されたので―」

 

「「「「「きゃぁああああああっ!!!」」」」」

 

 丁寧に対応しようとしたシャルルを遮って、黄色い悲鳴が響き渡った。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 このシャルル、誰がどう見ても美系である。

 

 それも体格がそれなりにしっかりしている一夏のようなタイプではなく、線の細い中性的な美少年だ。

 

 一瞬で少女たちのテンションはマックスになる。そのご千冬に人睨みによって一瞬で鎮静化されたが。

 

「やかましいぞ小娘ども。男が一匹増えたぐらいでいちいち騒ぐな」

 

「そ、そうですよ! デュノア君だけじゃなくてもう一人いますからね! ほら、自己紹介」

 

 麻耶に先導され、そしてもう一人の転校生が一歩前に出る。

 

 ・・・一言でいえば、彼女は軍用ナイフのような印象を与えていた。

 

 よれば切る。そう言わんばかりの冷たい気配に、ただでさえ鎮静化されていた少女たちのテンションがさらに下がる。

 

「ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ただそれだけをいい、そして黙して語ろうとはしない。

 

 明らかにコミュニケーションを放棄している。

 

 その姿にどうしたものかとほとんどの者が思っていると、彼女の視線が一夏とぶつかった。

 

 そのとたん溢れた敵意に、一夏は本能的に戦闘態勢に入り始める。

 

「貴様が・・・っ!!」

 

 ・・・乾いた音が、鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・で? 張り手を防御したはいいがにらみ合いになったと』

 

『ああ。いつか来るとは思ってたけど、今来たって感じだな』

 

 休み時間、一夏の連絡を念話で受け取ったレヴィアは顔をしかめた。

 

 理由は大きく分けて二つ。

 

 一つは当然今のことだ。

 

 戦闘態勢に入りかけていた一夏の反応速度は、悪魔と化したこともあって常人をはるかに上回る。

 

 それがかろうじて手で防げる程度となると、いくら代表候補生でもそうはいないだろう。おそらく衝動的にやったものだと考えれば、そこまで卓越したものでもないはずだ。

 

 徒手空拳の技術がずば抜けて高いとでも考えるべきかもしれない。

 

 格闘戦にたけた潜入工作員を送り込み、一夏の身柄を確保しようとしているのかとも考えたが、それにしてはファーストコンタクトが明らかに問題がある。

 

 思いつく内容はただ一つだ。

 

『ドイツ軍で千冬さんの指導を受けて心酔した子が、モンド・グロッソの真実をしって一夏君に敵意を持っているってところかな? 軍人を送り込むとはドイツも焦っているのだろうかね?』

 

『だろうな。アイツ、千冬姉のことを教官っていってたしそれだろう』

 

 織斑千冬は日本人だが、一時ドイツに教官として行動したことがある。

 

 それはモンド・グロッソでドイツに借りができたためであり、そしてその理由は一つ。

 

 織斑一夏が、誘拐されたからである。

 

 レヴィアにとっても苦い思い出であるあの事件に置いて、ドイツは自国であることもありいち早く情報を収集、千冬に報告して一夏救出に一役買ったのだ。

 

 カリスマ性の高い千冬の指導を受けた以上、千冬に心酔するものが出る可能性は十分にある。そして千冬に二連続優勝という栄光を汚した一夏は、一部のIS関係者から逆恨みに近い者を受けている。両方重なれば当然敵意を持たれるだろう。

 

 よりにも寄って、そんな人物を送り込んだことに、レヴィアは権力行使を一瞬考えたほどだ。

 

 とはいえそんなことをすれば余計に目だつ。須弥山にまで目をつけられている状況下で、ヨーロッパ=北欧神話体系とギリシャ神話体系etcに目をつけられるのは本当にゴメンだった。

 

 それに・・・。

 

『一夏君。今回の件、僕はあまり積極的な介入はしないよ?』

 

『分かってる。これは俺が付けなければいけない問題だ』

 

 ・・・モンド・グロッソのことで一番千冬に詫びたいのは一夏だ。

 

 ぶっちゃけていってシスコンの一夏は、今でも誘拐されたことを後悔しているし、それを払しょくするために努力も重ねている。

 

 いずれ乗り越えねばならない壁が今来ただけであり、おそらく無用な介入をするのは無粋だろう。

 

 それに、もっと意識して介入するべき問題は他にある。

 

『話は変わるけど、そのシャルル・デュノアと同室になるっていうのは本当かい?』

 

『二人っきりの男性IS操縦者だし当然だろ?』

 

 一夏はなんてこともないように言うが、レヴィアは真剣にそのあたりについて考えていた。

 

 今回の件が決まってから、レヴィアはかなり真剣にISについて勉強している。

 

 もともと全体的にどちらかといえばできる方のレヴィアであったこともあり、こと自分自身の出自もあって政治的な分野にも知識はあった。

 

 だから、今回の件は明らかにおかしい。

 

 既に1人出現している状況下で、フランス政府がなぜ男性IS操縦者の情報を隠す必要がある?

 

 IS学園にまで送り込んだ以上、むしろプロパガンダとして情報を公開した方が政治的にも有効なはずだ。

 

 ・・・というより、いくらなんでもタイミング的に都合がよすぎる。

 

 しかもISでデュノアでフランスといえばデュノア社が想像できるが、この企業、第三世代ISの開発の遅れでいろいろと経営に苦労しているという事実がある。ひっくり返すにはISの常識を塗り替える何かが必要で、男性操縦者はまさにそれだ。

 

 こんなメリットを無視するとは思えない。

 

 十中八九裏がある。レヴィアはそう確信していた。

 

『一夏君。悪いんだけどこっそりシャルル・デュノアの毛髪か何かを回収してくれないか? ・・・むちゃくちゃ怪しいからDNA検査でもしないと安心できない』

 

『へ? ・・・分かったけど・・・いや、やっぱいいわ』

 

 何かあると察した一夏が、専門外の自分が詳しく聞いても意味がないと判断して素直に頷いた。

 

 政治的な分野における能力がない以上、うかつに踏み込めば足を引っ張ることになる。自分の能力をちゃんと把握しているが故に、一夏は無謀なことはしなかった。

 

『じゃ、そろそろシャルルは怪しんでるし俺はこれで。・・・そっちも授業頑張れよ?』

 

『ああ、分かってるよ一夏君。そっちも頑張って』

 

 念話を切ると、レヴィアは軽くため息をついた。

 

 クラス対抗戦の一件で、世界は一夏から注目をはずし始めるかと思ったが見通しが甘かった。

 

 出自不明のISに対抗できる兵器より、出自が判明しているISに関わるイレギュラーのほうを選ぶ国もいるということだろう。

 

 そもそも、デュノア社を含むIS中心の企業は数多い。そんな組織にとってISと戦える兵器などむしろ邪魔ものでしかない。そんな邪魔者と戦うためにもISでのアドバンテージはとるべきだったのだ。

 

 一瞬でも気を抜くべきではなかったようだ。

 

(所詮、ボクなんて若輩者ということか。・・・一度魔王さまにでも相談するべきだろうか)

 

 基本的に平和主義者の現魔王たちなら、何かいい知恵を貸してくれるかもしれない。

 

 いや、あの日常に置いては軽すぎる四大魔王たちだとあさって方向にボケる可能性も大きい。もし『魔王戦隊サタンダー3』とか作ったら目も当てられない。

 

 ちなみに、戦隊モノって五人じゃないのかとか突っ込んではいけない。魔王は四人しかいないのだから、五人戦隊など作れない。追加でいえば1人はニート一歩手前だから、三人戦隊なら簡単に作れる。

 

(やばい、本当にやりそうで怖い!!)

 

 なぜかそれ以上の事態になる可能性を思いつき、レヴィアは戦慄した。

 

 やはり本格的な相談は他の人物にした方がいい。そうだ、ルシファーの妻も魔王級で、とても真面目な人物だった。相談するなら彼女にしよう。

 

 やめよう。今の段階では考えがまとまりそうにない。

 

 レヴィアはそう考え、残り少ない休み時間を利用して、簪と話でもしてささくれだった心をいやそうと思いなおした。

 

 彼女はなんというか小動物的な可愛さがある。どうにもフラグを立てているのは問題だが、その時は同姓であることを理由に断ればいい。

 

 理論武装をちゃんと用意してから、レヴィアは簪の姿を探して・・・。

 

「・・・っ!」

 

 ・・・泣いて走り去る彼女を見た。

 




頭いいキャラが一人いると、策謀とかをかくのが楽でいいですかくのが楽でいいです。


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第二話 今回の対価はそれでいいよ

本作品の簪ちゃんは、姉に対してちょっとヤンデレが入ってます。


 

 最近、簪は機嫌が良かった。

 

 ルームメイトのレヴィアは本当にいい人だ。

 

 自分のことを姉の付属品ではなく、姉と違った才能をもつ女の子だと評価してくれて、それどころかいろいろと世話を焼いてくれる。

 

 しいて言えば、昔からの付き合いの本音や虚もそうだったが、彼女たちは更識に使えている一族で、追加でいえば姉に使えている。そういったこともあって気を使われているのではないかと邪推してしまい、どうしても素直に受取れなかった。

 

 どう考えても甘えているが、自分から能動的に動いていないということもあり、ついついそれに甘んじてしまう自分がいた。

 

 彼女が自分の心を癒してくれているからか、これまで一向に進まなかった打鉄弐式の開発も少し進展してきたかもしれない。メンタルが重要だという話は聞いていたが、ここまで変化するものだとは思わなかった。

 

 もしかしたら、彼女に手伝ってもらったらあっという間に開発できるかもしれない思いそうになり、簪は首をふってその考えを追い出す。

 

 あれは自分の力で開発させるべきものだ。ISを開発させたという異形を再現してこそ、簪は姉と並びたてる存在になれるだろう。

 

 姉とは違う才能を持っているとはいえ、姉に大きく差をあけられているのは事実なのだ。ちゃんと超えるための努力と成果を見せるべきだろう。

 

 そう気合を入れ直す簪の耳に、クラスメイトのひそひそ場なしが聞こえてくる。

 

「・・・そういえば、クラス代表戦は台無しになったけど、もしあったらうちの代表の更識さんって勝てたかしら?」

 

「どうだろうね? 専用機持ちの代表候補生相手だと難しいかも」

 

「え? でも更識さんって代表候補生で専用機持ちだって聞いたけど」

 

「いや、私の姉が倉持技研に勤めてるんだけど、あの子専用機の開発が一時停止になってから、自分で作ろうとかしてるみたいなのよ」

 

「え、冗談でしょ? 無謀じゃない?」

 

「だよねぇ。ちょっとムチャだって」

 

「そういえば、生徒会長の専用機って自分で作ったて噂があったけど、もしかして対抗意識感じちゃってるのかな?」

 

「まっさか~。それはいくらなんでも無理があるでしょ?」

 

 ・・・高揚していた感情が一瞬で冷めた。

 

 やめて言わないでお願いだから。

 

 本当はそんなことわかってる。だけど、それを認めたらきっと自分が許せなくって、耐えられないからお願いだからそれだけは・・・。

 

「・・・会長みたいな天才、比べる方がどうかしてるって」

 

 それ以上は聞けなくて、その場から逃げだした。

 

 周りの光景など全く見えずに、ただ感情の赴くまま走り出す。

 

 自分がどこをどういう風に走っているのかさえ分からない。

 

 ・・・レヴィアに褒められて浮かれていたのかもしれない。

 

 彼女は自分の才能を認めてくれた。評価してくれた。姉とは別の才能だと言ってきてくれた。

 

 泣き出しそうになるほど嬉しかった。自分のことを自分として認めてくれる人が目の前にいて、しかも彼女は姉を知ってもなおそうしてくれていた。

 

 だけど違う、違うのだ。

 

 何より姉と別個で評価してほしいのではなく姉と比較して評価してほしいの自分自身だ。

 

 姉が嫌いなわけではなく、楯無のことを大好きな自分がいるからこそ、嫌いになりたくない自分がいるからこそ、完全に別にして考えるのではなく、セットにして考えたうえで自分を同格だと評価してほしい。

 

 そういう意味で姉に負けない自分だと評価されなければ、自分は姉と断絶してしまうだろうから。

 

 姉の後ろで隠れる妹でもなく、姉とは別個の存在としての妹でもなく、姉と一緒にいられる妹でいたかった。

 

 姉とは別方向の道を走るのではなく、姉と同じ方向で走って並びたかったから、自分はISの道に進んだのだ。

 

 比べて下に見るのではなく、比べなくで同格に見るのでもなく、比べたうえで同格と見てほしかった。

 

 ああ、なんて我がままで醜いのだろう。

 

 後者から遠く離れたところまで走り、激しくなった息を整えながら、簪は自分が恨めしくて恨めしくて殴りつけたい衝動に駆られた。

 

「こんな醜いの。・・・やだよ」

 

 姉にも悪い、レヴィアにも悪い。

 

 もともと他人に能動的に何かを求めることを甘えだと思う簪は、今間違いなくドツボにはまっていた。

 

 誰かに弱音を吐くことも出来ないことが、通常以上に彼女の心をさいなんでいた。

 

 ・・・ゆえに、例え代表候補生であろうとこの襲撃に気付かなかったとして非はないだろう。

 

「へぇ・・・。誰かと思えばできそこないの代表候補生じゃねえか」

 

「え?」

 

 後ろから男の声がして、簪は疑問に思った。

 

 IS学園はその性質上男性の数が極端に少ない。用務員などの一部の作業員を除けば、生徒は一夏だけだ。

 

 ましてやこんなところで男の声が聞こえてくるなどおかしい以外の何物でもなく、だから簪は振り返って―

 

「―ひっ」

 

 ・・・即座に後悔した。

 

 そこにいたのは人間ではなかった。

 

 人間は毛皮など持っていないし人を殺せるような鋭い爪など持っていないし、何よりオオカミの顔をしていない。

 

 なんだコレは? なんでISを含めた科学万能のこの時代に、オオカミ男なんて幻想の産物が存在している?

 

「依頼で生徒を1人売りさばけっていわれた時は面倒だとも思ったが、専用機も出来てないたぁいえ代表候補生なら大手柄だ。・・・悪いな嬢ちゃん。アンタの人生は真っ暗だぁ」

 

 心底罪悪感など抱いていないとわかる表情で、オオカミは舌舐めずりする。

 

 ・・・簪は、いっそ意識を失ってしまいたいとすら思った。

 

 これはいったいどういうことだ? なんで自分の目の前にこんな化け物が現れた。

 

 ああそうか。これはきっと天罰なんだ。

 

 ちゃんと自分のことを自分として見てくれる人がいるにもかかわらず、変な意地をはってわがままな願望を抱いたから、神様が天罰を与えに来たんだろう。

 

 天罰なら仕方がない。だって神様がそう決めたんだから、人間はちゃんとそれに従わないと。

 

 そう思って簪は全て甘んじて受けようとして目を閉じ・・・。

 

『お姉さんが羨ましいよ。僕も簪ちゃんみたいな可愛くてすごい妹が欲しかったね』

 

 ・・・あのルビーみたいな髪の少女を思い出し。

 

 あ、やっぱり嫌だな。

 

 力を求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、更識簪は誰かに頼ることができない人だった。

 

 更識簪にとって、他人に対して能動的な行動をとることが甘えになっていることもあってか、弱音を漏らすことも誰かに当たり散らすこともできない。

 

 姉と比較したうえで並び立つ存在だと認められたいと考えても、それを人に対していうことができない彼女は、どこまでも人に頼れない人種だった。

 

 だから自分の能力でISを開発しようとしたし、しかしそれができないことにいら立った。

 

 そういう意味では、彼女は彼女自身にも頼っていなかったともとれる。

 

 姉にはない力を姉とベクトルが違うという理由で完全に信を置くことができなかった彼女は、自分自身の力すら、よりどころには仕切れなかった。

 

 そう思うと、彼女は改めて頼ることを覚えたのだろう。

 

 自分自身の力の中に、この窮地を打破するものが欲しいと、彼女はまず自分自身に強い意志で頼ったのだ。

 

 そして、この世界には人の想いに答える力が存在する。

 

 それは、持ち主に答えてちゃんと目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に届いていた爪が、はじかれた。

 

「んなっ!?」

 

「え?」

 

 疑問の声は同時、しかし、その流れは簪の方に向いていた。

 

 簪の周囲に、紫電が放たれていた。

 

 慌てて周りを見れば、経年劣化で破損したのか、伝統の一部が壊れて電線が見えている。

 

 そこから電流が簪に向かって放たれ、しかし簪を守るように展開されていた。

 

「え・・・? これ、なに?」

 

 簪はこの現象がどういう理屈か全く理解することができず、ただ困惑するばかりだった。

 

 だが、目の前のオオカミはその現象に辺りを付けていた。

 

 異能に関係していない女が、いきなり妙な力を使えるわけがない。そして打鉄弐式の第三世代武装は未完成だし、なにより断じて雷を操るものではない。

 

 ではこの現象は何か?

 

 一つしかない。

 

神器(セイクリッド・ギア)だと!? なんの冗談だよ!?」

 

 これは想定外だった。

 

 元々この男は、男尊主義者たちの依頼でIS業界のイメージをダウンさせるべく、誘拐からの人身売買を依頼されたのであり、ゆえに学生達はこちら側と一切関係ない連中だとふんでいた。

 

 それがまさか科学万能の象徴ともいえるIS学園で、人間の神秘の極致ともいえる神器を目にすることになるとは思わなかった。

 

 だが、分かってしまえば怖いものでもない。

 

 みれば彼女自身自分の能力を理解しきれていない。

 

 使い方もわからない神器の使い手などそこまで恐ろしいものでもない。自分の耐久力と攻撃力なら、あの程度の電撃は力押しで行ける。

 

「ざけんなよ・・・コラァ!!」

 

 だから驚かせた報復をしようと力を込め―

 

「『僕の』友達になにをしてるのかな?」

 

 それは完全に遅れていた。

 

「遅くなってゴメンね、簪ちゃん」

 

「え、レヴィア!?」

 

 オオカミの爪が雷を貫くより早く、その雷を無理やり突っ切って簪を抱き寄せたレヴィアが、その爪をはじく。

 

 簡単に裂けそうな柔らかい肌は、しかしその爪に傷つけられることは一切なかった。

 

「この子は僕の物だ。・・・はぐれ風情がよくも手を出してくれたね?」

 

 レヴィアは鋭い視線でオオカミを睨むが、すぐに表情を変えると簪にほほ笑んだ。

 

「大丈夫だよ簪ちゃん。じゃ、この雷をとめようか」

 

「え、でも、なにもわからなくて・・・」

 

 何でもないように雷を耐えるレヴィアに、簪はなにがなんだかわからない。

 

 そもそもこの現象を起こしているのが自分だという自覚もなく、混乱していた。

 

 そんな簪をあやすように、レヴィアはより一層深く抱きしめる。

 

「大丈夫。これは君の身を守りたい想いに君の力が答えたんだ。もう大丈夫だって思えば、すぐに止まってくれるよ」

 

 その言葉は今の状況をなんとも思っていないことが分かって、そう思うと自分ももう大丈夫だと安心してしまって・・・。

 

「・・・ふぇ」

 

 雷と一緒に意識も止めてしまった。

 

「お休み簪ちゃん。いい夢を」

 

 そんな簪を優しく抱き直し、レヴィアはオオカミに視線を戻す。

 

 そして、オオカミはそのころになってようやくレヴィアの正体に感づいた。

 

「き、旧魔王レヴィアタンの末裔、セーラ・レヴィアタン!?」

 

「その名は好きじゃないんだけどね。・・・さあ、さっさとうせな」

 

 そういうと、レヴィアは簪を抱きかかえたまま踵を返す。

 

 その反応にオオカミは疑念を浮かべたが、これ幸いと急いで駆けだす。

 

 魔王の血族を敵に回して勝てると思うほど、自分に力があるとうぬぼれてはいない。手を出す気がないようなら気が変わらないうちに逃げ出すべきだ。

 

 だから急いで距離を取ろうと、オオカミは足に力を込め―

 

「―ま、逃がすつもりはないみたいだけどね、『彼女』は」

 

―力を解放するより先に、切断された。

 

「な、なぁあああああ!?」

 

 オオカミはそのまま地面に倒れ、そしてようやく気付く。

 

 異形の世界のオーラを放った日本刀をもった女生徒がそこにいた。

 

 そう、レヴィアが自分を見逃したのは、別に許したわけではない。

 

「・・・このIS学園で狼藉を働いて、生徒会長が見逃すと思ったのかしら?」

 

 ただ単に、自分よりはるかに怒り狂っている相手がいるから譲ったというだけで、

 

「なにより、簪ちゃんに手を出して私が許すと思ってるのかしら?」

 

 先に手を出せば自分がただでは済まないと、承知していたからにほかならないのだ。

 

 生徒会長ではなく、更識簪の姉として、更識楯無が怒り狂っていたから譲っただけにほかならないのだ。

 

 楯無は静かに微笑みながら、いつものように扇子を開く。

 

 因果応報。その四文字が今の彼女のすべてだった。

 

「な、さ、更識はあくまで『表』の家系のはずだろぉ!?」

 

 暗部用暗部に表という言葉を使うことは適切ではないが、この場合表の意味が違う。

 

 あくまでこの場合の表とは科学が万能だという意味の社会という意味で表だ。その意味では、神秘と魔導が渦巻く異形の社会である自分たちこそ真の裏だろう。その領域に更識は踏み込んでいないはずだ。

 

 だが、今目の前にいる女は間違いなく裏の世界の住民だ。

 

「情報不足ね。昨今の政治情勢を反映し、そして私の能力もあって、私の代で更識は裏の力も借りているの」

 

 その手に持つ刀は、まるで自分から水を生み出しているかのごとくしずくが滴り落ち続けていた。

 

「だから彼女の入学を認めたのよ? だって私がいれば対処できるのだもの」

 

 絶対零度の声色で、楯無はオオカミの目の前にまで辿り着いた。

 

 はるかに離れたところから両足を切断するような刀が、目の前に立っている状態で振るわれればどうなるか、そんなものは火を見るより明らかだ。

 

「・・・人の妹に手を出すな」

 

 そして、身を持って体験した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、簪ちゃん」

 

 目がさえて見えたのは、自分を助けてくれた赤い髪だった。

 

 そして、最初に思ったのは、自分を守ったあの力のことだった。

 

「レヴィアは、あれを知っているの?」

 

「ああ。あれは神器(セイクリッド・ギア)っていって、聖書の教えの神様が、人間の力になるように作ってくれた、正真正銘の天から授けられた才能だよ」

 

 簪の髪をなでながら、レヴィアは当たり前のことのように続ける。

 

「この世界にはISにだって負けない不思議な力がいっぱいあるんだ。僕もその力の一端を持っている血筋なんだよ」

 

 そんなものがあるだなんて想いもしなかった。

 

 世界は不思議に満ち溢れているだなんて言葉を聞いたことはあるが、それを実感したのは今日が初めてかもしれない。

 

「簪ちゃんが使ったのは万象の融合(オーラ・キマイラ)っていってね、自分の周りにある魔力やらエネルギーを取り込んだり使ったりする能力なんだ。今回は取り出しやすかった電線から電気エネルギーを引き寄せたんだね」

 

「じゃあ、もしかしてシールドエネルギーも操れるの?」

 

「実例がないからわからないけど、練習次第ではいけるはずだよ」

 

 それはとてもすごい力だ。

 

 シールドエネルギーはISが頂点に立つ理由の一つでもある。そんなものを操れればISでの戦いで有利に立つ。

 

「あ、ISとの戦闘で使うのはだめだよ? そんなことしたら簪ちゃんがそういうところをつかさどる組織に狙われちゃうから」

 

 どうやら上手くはいかないらしい。

 

「僕は神器は持ってないけど、神器の使い方は少しぐらいは知ってる。これからどうすればいいのかはともかく、せっかくだし使い方を練習するのもいいかもね」

 

 才能あふれる弟子を指導する教官のような表情を浮かべるレヴィアを見てくると、なんだか涙が出てきた。

 

「・・・ねえ、レヴィア」

 

「なんだい、簪ちゃん」

 

「私、お姉ちゃんに負けたくない」

 

 自分の力に頼ることを覚えた簪は、次にルームメイトに頼ることを始めてみた。

 

 であって間もない関係だけど、彼女は自分を助けてくれた。自分のことを信頼してくれている。

 

 だから、少しだけ甘えてみよう。

 

「ISでお姉ちゃんにも負けないって証明したい。一度でいいから、ISでお姉ちゃんにも負けないって認めさせたい。お姉ちゃんがやれたことを私だってやってみたい」

 

 アドバイスぐらいもらっても罰は当たらないだろう。

 

「ふむふむ・・・」

 

 それを聞いたレヴィアは少しの間考え込む。

 

「だとするなら、可能な限り条件は同じように持ち込むべきだよ。今の簪ちゃんは致命的なミスがある」

 

 ミス?

 

 いったいどこをミスしたというのだろう。

 

 まさか、才能とか言われたりしないだろうか。そんなことを言われたらさすがに立ち直れない気がする。

 

「別に生徒会長は1人で組み立てたわけじゃないよ?」

 

 ・・・・・・え?

 

「どうも情報が独り歩きしてるみたいだけど、確かに組み立て作業を終了したのは会長だけど、機体自体が重要部分はほぼ完成してたし、整備関係の生徒から指導された状態で作られているんだよ、あれは」

 

 自分でも知らないようなことをよくもまあ知っているなこの人は。

 

 もしかして、この人は姉にも負けないぐらいすごい人なんじゃないだろうか?

 

「だから、完成度が違う機体の組み立てで勝負するっていうのはどうだろうね。簪ちゃんの機体じゃそもそも勝負が成立しない」

 

 確かにそうだ。第三世代兵装など、重要部分が手つかずになっているといってもいい打鉄弐式では、そもそも条件が違いすぎた。

 

「だから、簪ちゃんがISで会長と並びたいなら、会長にも出来なかったことを簪ちゃんがすることで並び立つべきだと、僕はそう思うね」

 

 困った笑顔で言われて、簪は初めて自分の無理がそもそも見当違いの方向に行っていたことに気がついた。

 

 それはそうだ。同じISといっても、運用方法も性能も違う機体で、同じことをしようというのが間違っていた。

 

 少なくとも、これで意味のない方向に進んで無駄な労力を消費することはなかったわけだ。

 

 誰かに相談するだけでここまで状況が変わるだなんて思いもしなかった。

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

 

 だから、つい続けてそう聞いてみた。

 

「そうだね、だったら最初にしてほしいことがある」

 

 そういうと、レヴィアは今度は満面の笑みを浮かべると、頭を下げて、自分と額をくっつけた。

 

 急に恥ずかしくなって顔が真っ赤になるが、レヴィアはそれを見るとさらに笑みを深くする。

 

「・・・まずは僕でもいい、頼れる人を用意することだ」

 

 その後、ゆっくりと、泣いた子供をあやすように抱き寄せてくる。

 

「1人で完成している物なんてそうはいない。少なくとも知的生命体の本質は、連携をとることにあると僕は思う」

 

「連携・・・?」

 

「うん。後方支援っていうのはとても重要だよ。世の中のすごい存在って言うのは、下や隣に相応の人材がいてこそ、真価を発揮するようにできてるからね」

 

 まあ、時々単独で超すごいのとかもいるけど、と前置きしたうえで、レヴィアは続ける。

 

「だから、簪ちゃんがお姉ちゃんに勝ちたいなら、お姉ちゃんに負けないサポート陣営を作るべきだ。条件付きで協力してもいいよ、僕は」

 

「え、じょ、条件!?」

 

 これは少し意外だった。

 

 まさかここで対価を請求してくるとは。いや、ものすごい勢いで迷惑をかけ続けているし、それは当然なのか。

 

 とはいえ、いったい何を要求してくるのか。まさか楯無の後ろ盾が欲しいとか言われたらどうしようと思う中、レヴィアは唇に手を当てて考えた後、にっこり笑って口を開いた。

 

「僕に、簪ちゃんを自慢させてくれるようになること。今回の対価はそれでいいよ」

 

 ・・・その笑顔をみて、簪は彼女に向けている思いを自覚した。

 

 これは恋だ。草津の湯でも治せないとか言われている、あの重病だ。

 

 まさか自分の初恋が同姓に向けられるとは思わなかった。

 

 そして、同性同士の恋愛だなんて蒼上手くいくわけがないとも分かっている。

 

 だけど・・・。

 

「さ、まずは教室に戻ろう?」

 

 ・・・彼女を好きになったことを、後悔だけはしたくなかった。

 




この万象の融合、駒でたとえるなら五つぐらい必要になるほどのチート神器です。

具体的には、

1 科学だろうが異形だろうが、様々なエネルギーを操作可能。

2 IS学園のアリーナとかなら、シールドに触れることでそのエネルギーをビームにして撃ったりとかもできるぐらい汎用性が高い

3 相手がエネルギー系の障壁を張っていた場合、それを無効化するどころかこちらの攻撃に転用することも理論上可能(難易度は高い)

4 こちらも難易度は高いが、生命エネルギーそのものを操作することで仙術と同等のことができる

 などと、神滅具に匹敵する行動が可能なチート神器です。下手な禁手を凌駕しています。まあ、簪が使いこなせるようになるころにはこの話は終わってますが。


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第三話 企業秘密だよ♪

 

「さあ一夏君、このまま腕の関節を外そうか」

 

「待て待て待て待てぇえええええ!! あれか、俺はまたやらかしたのかぁああああああ!!!?」

 

 IS学園の屋上で、一夏はレヴィアに締めあげられていた。

 

 ちなみに要因は極めて単純。

 

 一夏、鈴に屋上で昼飯を食べようと誘われる。

 ↓

 一夏、それにセシリアをさそい、さらに通りがかったレヴィア・簪ペアをさそったあと、さらにシャルルと箒も誘う。

 ↓

 レヴィア、鈴の姿を見て事情を把握、一夏を制裁。

 

 の、流れである。

 

「君は恋する乙女の心理というものを少しは理解しないといけないようだね。こんなことならあの一週間はギャルゲーの攻略につぎ込むべきだった」

 

「ああそういうことか痛い痛い痛い関節外れるマジで外れる悪かった鈴マジで悪かっただから助けてくれぇえええええ!!!」

 

 解放されるまでその後数分かかったが、一夏の関節はかろうじて無事だった。

 

「・・・で、簪さんだっけ? ごめんな俺のせいで機体の開発が遅れて」

 

 そして、一夏が鈴に謝罪した後にしたのは簪への謝罪だった。

 

 結果的に当時の簪にとって好都合だったとはいえ、多大な迷惑をかけたことは事実だ。それをしって、一夏は誠意をもって簪に謝罪した。

 

「いいの。おかげでいろいろ分かったこともあるし。・・・ただ、データを参考に見させてくれると助かるかな」

 

「それぐらいでいいならいつでもいいよ簪ちゃん。いやといってもみさせるから」

 

「いや、嫌なんて言わないけどなんでレヴィアがいうんだよ」

 

 半ば漫才を起こしながら、皆は仲良く談笑を続けていた。

 

「しかし一夏本当にアレだな。あんなことをした後でよくもまあこんな鬼畜な真似をする。・・・いい加減学習したかと思ったんだが」

 

「本当ですわ一夏さん。いえ、今回はよくやったと手放しでほめたいのですが」

 

 幼馴染の所業にあきれる箒に、セシリアも本音をもらしながら同情する。

 

「しかし学年別トーナメントも間近だね。・・・さて、ついでだしここにいる皆で会議でもしようか」

 

 会話の種をつくろうと、レヴィアがそう提案する。

 

 この場にいる全員がIS学園生徒であり、このトーナメントには出場するのだ。ゆえにその意見には皆従った。

 

 だが、レヴィアはこうも思う。

 

 これでは面白くない。

 

 ゆえに、

 

「ちなみに、この場にいる者が優勝したら僕のポケットマネーで好きなものをおごろう。もちろん全員ご招待だ」

 

 爆弾を投下した。

 

「なに!?」

 

「なんですって!?」

 

 レヴィアという存在をよくわかっている一夏と鈴が目の色を変えて反応する。

 

「どうしたのだ二人とも。一般生徒のおごりといっても限度があるだろう」

 

「そうですわよ。それなら私より高い成績を出したものには私が奢った方が良いでしょう」

 

「え、でも、レヴィア、財布大丈夫?」

 

「ぼ、僕はいいよ気にしなくて」

 

 レヴィアの恐ろしさを知らないメンツはそんなことを言うが、二人はそれを見て哀れにすら思った。

 

「いや、レヴィアはこの中でも一番の金持ちだと思うぞ?」

 

「自分用ジェットと自分用メガヨットと専属契約結んでるPMC持ってるのよ? 気にするだけ無駄」

 

 よく知っている二人の説明を聞いて、四人は一斉にレヴィアに視線を向けた。

 

 得意げな表情を浮かべていた。

 

「ど、どこにそんな金をもってますの!?」

 

 特に自分も相当の金持ちであるセシリアが、敗北感すら感じて度肝を抜かれている。

 

 ・・・まあ、レヴィアは旧魔王の地を継ぎながら現政権に与している、極めてレアなあくまであり、それゆえに金も地位も物も勝手に集まってくる。

 

 本人も積極的にかき集めはしないが自分の立場を理解して寄って来るものは持つし消極的だが使うので、尋常じゃないお金持ちである。

 

 だてに倉持技研の方針を捻じ曲げたことができるわけではないのである。世界長者番付け上位ランカーにも喧嘩を売れる大金持ちだ。

 

 とはいえ、その資金を利用して冥界の武器開発や研究施設に多額の支援を行い、さらに寄付や非営利団体のスポンサーもやっているので、使える金額はその中の半分以下なのだが。それでも生半可な金持ちなど足元にも及ばないレベルである。

 

「企業秘密だよ♪」

 

((まあ言えないからなぁ))

 

 事情を知る者二人の心が一つになった。

 

「・・・まあ、シャルル君は分からないけど専用機もちには弱点があるから箒ちゃんや僕にも付け入る隙はあるよ」

 

 と、専用機を持っていない箒をフォローするのも忘れない、余裕のある女レヴィアである。

 

 そして、その言葉に屋上にいた生徒の耳がレヴィアの言葉を拝聴する。

 

 口元に動いていた箸も止まっているあたり、もはや時を止めたといっても過言ではない。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 一次移行すらできない練習機で、専用に進化した代表候補生の専用機を相手にするなど、常人なら一瞬であきらめるような出来事だ。

 

 そこに付け入る隙があれば、だれだって手を伸ばすだろう。

 

「へぇ・・・。あたしの甲龍に欠点があるって? なによ、言ってみなさい」

 

「甲龍の欠点は単純明快。第三世代武装が初心者相手だと逆に対処されすいこと」

 

 バッサリ切り捨てた。

 

 実際一夏が代表戦で考えた通り、甲龍の衝撃砲はそもそも射撃の回避方法を熟知している相手でもなければその特性は発揮しにくい。素人であるが故に動きまわるという対処法をとるしかできず、それゆえに初心者相手にはあまり真価を発揮しない。

 

「ブルー・ティアーズの欠点はいろいろあるけど、一番重要なのはセシリアちゃんがまだ完全に制御できないことだよ」

 

「う゛・・・」

 

 痛いところを突かれてセシリアも黙る。

 

 確かにそうだ。実際一かとの戦いのときでも、ビットと本体の同時移動ができないところを突かれたところがある。

 

「なにもご丁寧にビットを全部動かす必要はないんだし、動かすビットの数を減らして情報処理を減らしたり、移動しながら一つ落として、不意打ちで動かして強襲したりとか考えた方がいいと思うよ?」

 

「な、なるほど・・・」

 

 レヴィアの意見を聞いて、セシリアは目から鱗が出る思いだった。

 

 その発想はあまりなかった。確かに、なにも毎回毎回4機全部使う必要はないのだ。やろうと思えばそういう手段もとれる。

 

「ちょっとレヴィア。アンタあたしにはアドバイス無いのかしら?」

 

「・・・ゴメン、思いつかない」

 

 鈴からの視線をレヴィアは顔をそらして防御する。

 

 別にISの専門家でもないレヴィアは、戦闘経験が多いということを活かしてそういった観点からのアドバイスをしているのだ。・・・ゆえに、シンプルで隙のない甲龍の場合どこを言っていいのかわからない。

 

「で、不知火の欠点は一夏だね。・・・遠距離戦闘が壊滅的だってことさ」

 

「「「「「「逃げた」」」」」」

 

 バッサリ迎撃された。

 

 これに関しては、欠点というより攻略法という方が正しい。

 

 特に鈴はよく理解しているが、将来的なこともありISに積極的でないため、生身での戦闘スタイルを崩さない方向で修練していることがよくわかる。

 

 しかしそれゆえに、その戦闘スタイルは一夏向けでもあり、あるいみでは隙がないのだ。

 

「それなら僕の場合は特色がないってところかな? 僕のラファール・リヴァイブ・カスタム2は第二世代機だから特殊武装がないしね」

 

 せめてフォローしてあげようとしたのか、シャルルが話に乗ってくる。

 

 確かに授業で見たメンツは知っているが、シャルルの機体は訓練機にも使用されているラファール・リヴァイブのカスタム機だ。

 

 鈴やセシリアとちがって第参世代機体ではないし、不知火ほどとがった性能もない。

 

「私の場合は、それ以前の問題だよね・・・」

 

 そしてそもそもみかんせいなのが 打鉄弐式である。

 

「まあ、簪ちゃんの強化プランは既に思いついているからその辺は時間の都合次第なんだけど・・・。箒ちゃんはどうなると思うかな?」

 

「そう言われても困るな。私にできることも一夏と同じく寄って切ることだけだ。それをISでどこまでできるかが鍵だ」

 

 レヴィアからのふりに、箒は特に動じることなく反応する。

 

 どうにもこの剣道少女はクールに対処してくれる。

 

「・・・・・・まあ良いか。そうだシャルル君、ちょっと良いかな?」

 

 だけどまあ、会話は大体弾んでいる。

 

「うん、なにかな? 何でも聞いていいよ?」

 

 だからシャルルもにこやかに聞いてくれるし、

 

「君、何者なんだい?」

 

 ・・・爆弾も投下できるというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まあ、冷静に考えれば必ず来るよね、その質問は」

 

 シャルルはそれでも冷静だった。

 

「政治的な理由があるにしても、史上初の男性操縦者が出てきた後で二番目ができたって、大々的に発表してプロパガンダにする方が早いもんね」

 

 シャルルは肩をすくめると、レヴィアにまっすぐ視線を向ける。

 

「たぶん、聖羅さんはこう思ってるんだよね? 僕が男装した女の子で、一夏の情報を盗み取るために接触してきたって」

 

 そう、それこそがレヴィアが想定したこの事態の真相だ。

 

 IS開発産業的に致命的な問題を抱えているデュノア社が、起死回生のために無謀な賭けに出たというのが一番筋が通る。

 

 そんな無謀な賭けに一夏を巻き込ませるわけにはいかない。

 

 既に財力の限りを尽くしてデュノア社に圧力をかけ始めているが、今この場で正せばそれで済む話だ。

 

 急激に空気が変わった以上、不意打ちによって隙ができるはず。

 

 付け入るすきは、ここだった。

 

「・・・えい」

 

 だから、こんな反応は想定外だった。

 

 具体的には、一夏と自分の手をとって、いきなり股間に当ててくるとは想定外だった。

 

 そして、アレの感触があるのも想定外だった。

 

「これが証拠。・・・なんだったら見る?」

 

「・・・そうしよう」

 

 レヴィアは念のため、確認するために物陰に移動した。

 

~これから先は、音声のみでお楽しみください~

 

「ね? ちゃんとあるでしょ?」

 

「いや、これじゃ足りないね」

 

「・・・・・・え?」

 

「考えてみれば性転換手術はなにも男から女だけではない。ただし、逆に関しては欠点が一つだけある」

 

「な、なにかな?」

 

「男性から女性の場合は『pi-』を『pi-』するため反応があるが、女性から男性の場合は筋肉の一部を『pi-』にするため反応しない」

 

「すごいこと知ってるね!? それで、聖羅さんはなにをするの?」

 

「大丈夫。そっち方面のテクに置いては、IS学園一年生では僕は間違いなくトップだ。・・・いい思い出にして見せるとも」

 

「え・・・ちょ・・・アーッ!?」

 

~音声終了~

 

「・・・シャルルに黙祷しようか」

 

「ついに暴走したわねレヴィア」

 

 シャルルの悲鳴をBGMに、一夏と鈴は深くため息をついた。

 

「・・・どういうことだ?」

 

 ものすごく憐みの表情を浮かべながら、箒が絞り出すように二人に訪ねた。

 

 ものすごく言いたくなさそうな顔をしたが、一夏と鈴は頷きあうと、しかしやはりすごく言いにくそうに口を開いた。

 

「レヴィアってさ、ものすごいエロいことが大好きなんだよ。しかも異性同姓関係ないんだ」

 

「中学時代に同級生の一割ぐらい初体験させたからね」

 

 すごく遠い目で二人は過去を回想する。

 

 レヴィアの明確に欠点といってもいい唯一の欠点がそれだ。

 

 性に奔放すぎるという飛びぬけた個性。なんでも淫魔の血が混ざっているとかで本能的に淫乱なのである。

 

 ちなみに、レヴィアはかなり前から経歴をいじって年齢をごまかしているので自分自身では問題ないが、色んな意味で犯罪である。

 

 そして、その発言に最も反応したのは約一名。

 

「・・・そっか、そうなんだ。そうなんだぁ・・・」

 

「なんで喜んでるんですか、更識さん」

 

 突如顔を赤くしてにやける簪に、静かにセシリアのツッコミが放たれるが、一切聞こえていなかった。

 

 そして、物陰からレヴィアとシャルルが戻ってきた。

 

「ひ、酷い目にあったよ・・・」

 

「ゴメンゴメン。最近男を味わってないからちょっと暴走したよ」

 

 ものすごいいい笑顔を浮かべるレヴィアに、約一名を除いてひきつった笑顔を浮かべてしまう。

 

「うん。シャルル君は男だね。勘違いを謝罪するよ」

 

「まぁ怪しまれてもおかしくないしね。これから機を付けてくれれば構わないよ」

 

 若干中腰で下がるシャルルだったが、少しすると表情を曇らせた。

 

「今までフランスが黙ってた理由は簡単だよ。・・・僕はね、デュノア社の愛人の子供なんだよねぇ」

 

 ・・・その言葉に、微妙だった空気がマイナス方向に引き締まる。

 

「存在そのものがIS業界に衝撃を与えるけど、うかつに公表すると目立ちすぎるせいでマイナスイメージまで追加で来る。だから、政治的に隠されてたってわけさ」

 

 フランス最大の企業の社長だが、それが愛人の子。

 

 普通に考えればややこしいのは誰でもわかる。

 

「ただ、フランス政府もデュノア社の援助を打ち切る方向になってきていてね、なりふり構っていられなくなったところに、史上初の男性IS操縦者が出てきたから、そのすきにちゃっかり公開して時間稼ぎって寸法だよ」

 

 ・・・・・・既に全てあきらめたかのようなその言葉に、その場にいた物の心境は一つだった。

 

 怒りだ。

 

「ふざけんなよ。なんだよそれは」

 

 特に、家族というものに深いものを持つ一夏は黙っていられない。

 

「親だからって、血がつながっているからって何でもしていいとかそんなわけがないだろうが。・・・ふざけんなよそのクソ野郎!!」

 

「一夏君声が大きい。・・・他にも人はいるんだよ」

 

 レヴィアがそうたしなめるが、その表情も険しくなっている。

 

「・・・まあ、社の存続のためならば肉親であろうと切り捨てるというのは組織の運営を第一に考えるとするならば潔いといってもいいがね。・・・どう考えても俗物っぽいしそれはないだろう」

 

 気分を切り替えるために深呼吸をしながら、額に手を当てると首を振る。

 

 世の中には普段ハイスペックなくせに妹のことになるとむしろヘタレになる手合いもいるというのに、面倒なことだ。

 

「仕方がない。デュノア社には僕の伝手でしっかりと脅しをかけておこう。・・・大丈夫、確実に黙らせられる」

 

 やけに自信たっぷりに言い切ったことばに、約二名を除いてキョトンとする。

 

 でもって、約二名は視線と視線で通じ合った。

 

―一夏、レヴィア間違いなく権力フルに使うわね。

 

―そうだな鈴。・・・そういえばヨーロッパのIS企業社長と契約している悪魔が側近に名乗りを上げてるとかなんとか言ってた。

 

―決まりね。そっち経由で(元)魔王の血縁者が本気で怒り狂っているから今すぐ言うこと聞かないと(経済的に)瀕死になるとかいえば・・・。

 

―聞くだろうなぁ。やるときは徹底的にやるタイプだし、レヴィア。

 

 持つべきものは権力者の友である。

 

 しかもレヴィアには、一IS企業の役員に大打撃をあたえた実績もあるし、本気で動けば重要人物の暗殺だって普通にできる。

 

 家族関係に問題があるゆえに特に怒り狂っていた二人だったが、一転してデュノア社に同情してしまった。

 




ある意味超魔改造、シャルル。

この理由は次の話で説明しますのでとりあえず石投げないでください。


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第四話 わざわざ『性別』をいじくる必要は

素早くシャルル君のネタばらし


 

「やれやれ、酷い目にあったよ」

 

 寮の一室で、シャワーを浴びたシャルルは髪をふきつつ水を飲んだ。

 

 まさかあそこまでするとは思わなかった。おかげで非常に濃い思い出ができてしまった。

 

「まったく、彼女はいったい何者なんだろうね?」

 

 そういうと、シャルルは部屋の住人に問いかける。

 

「・・・・・・」

 

 部屋の住人に反応はなかった。

 

 それどころか、明らかに尋常な様子でもなかった。

 

 腕は力なくだらりと下げられ、ぽかんとあけられた口からはよだれがこぼれている。

 

 完全に、正気ではないもののそれだった。

 

「あれ? もしかして留守かい?」

 

「ああ、すまん。飲み物を買いに行っていた」

 

 ドアを開けて、シャルルの話相手が戻ってきた。

 

「待たせてすまんな『サマー』」

 

「『シャルロット』でもいいよ、『スプリング』」

 

 そう言葉を交わし、二人はベッドに腰を下ろすと、スプリングと呼ばれた方が買ってきたジュースを飲む。

 

 やはり潜入任務は非常に疲れる。そういったことを中心として鍛えられてきたから何とか乗り切れたが、この調子であと数カ月も過ごすのかと思うと、少しやる気がそがれる。

 

 とはいえ、その監視対象が善人だったのは功を奏した。

 

 個人的には、アレぐらいまっすぐな方が好感が持てる。こういった任務でなければ好意を抱いていたかもしれないし。周りの人々も悪い人たちじゃなさそうだ。

 

 おかげで、表の事情だけで見事に同情してくれた。

 

「あの方はお前のその辺も考慮して潜入させたのかもしれないな。やはり素晴らしいお方だ」

 

「だよね。でも、わざわざ『性別』をいじくる必要はなかったと思うけどなぁ」

 

 スプリングに答えるシャルルの姿は、先ほどから大きく変わっていた。

 

 その胸には確かに存在を主張している二つの白桃があるし、体の線も僅かにだがやわらかくなっている。なにより、その股間には、触れれば感触がわかるようなものが何一つなかった。

 

 今の彼もとい彼女こそが、シャルル・・・否、シャルロット・デュノアの真の姿だった。

 

「しかし大丈夫なのか? レヴィア・聖羅は悪魔だと聞いているが・・・」

 

「大丈夫。神器の研究は盛んにおこなわれていないみたいだし、だとしてもこれはまだ誰も想定できてないはずだよ」

 

 心配してくれるスプリングを安心させるように、シャルロットは努めて明るく笑う。

 

妖精の杯(フェアリー・カップ)がDNAや染色体までいじれるだなんて、神の子を見張る者(グリゴリ)でも気づいてないんじゃないかな?」

 

 妖精の杯。

 

 肉体の特性を書き換えることで、運動しやすい体、勉強に集中しやすい体、風邪をひきにくい体などといった恩恵を与える、かなり下位の神器。

 

 それらを彼女たちの組織は徹底的に解析し、応用の幅をしらべ、科学も当然のように使って新しい使用法を見つけ出した。

 

 それこそが、肉体を構成する物質そのものをある程度いじることによる肉体変化だ。

 

 変化した物体が体から離れても、それは変化したままだから、スプリングの部屋でだけ元の姿に戻れば誰にも怪しまれないし勘付かれない。彼女のルームメイトは菜のマシンと薬物の組み合わせで、いつでも意識をシャットアウトできるから安心できるし、記憶操作も学んでいる。そして、警戒対象であったセーラ・レヴィアタンも安心していた。

 

 ゆえに、この潜入工作は誰にも気づかれてはいない。

 

 後は念のためにこのルームメイトと関係を深くすれば万が一の時もごまかせるだろう。

 

 自分のルックスがスペック高めなのは知っている。今の立場を利用して甘い言葉の一言でもいえば、ころりと落とせる自信はあった。

 

 女であるが故に女が望む男を想像することなどたやすい。さすがに悪い気もするが、しかし躊躇するつもりはシャルロットには無かった。

 

 どうせ主の目論見が成功すれば、その過程でIS学園は死に絶えるのだ。そこまでするとわかって行動を共にしている自分に、同情する資格はない。

 

「全ては我が主の望みのままに。僕らは銃であり剣であれってね」

 

「私はどちらかといえば刀だがな」

 

 いまだ誰にも気づかれぬ闇の中で、しかし戦乱の火種は既に奥深くまで潜入していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、レヴィアさんは大丈夫ですか?」

 

「え? あぁ、セシリアちゃんか。大丈夫大丈夫・・・ぐぅ」

 

 アリーナで、レヴィア達はIS操縦の訓練のために集まっていた。

 

 ちなみに一夏は来ていない。シャルルが射撃訓練をするということで、不知火の拡張領域に射撃武装を入れたりなどで遅れている。

 

 そして、レヴィアはものすごい疲労して眠かった。

 

「や、やっぱり今日はもう帰って休んだ方がいいよ」

 

「駄目駄目。一般生徒がIS使うのは大変なんだから。予約した時はちゃんと使わないともったいないよ」

 

 今まででは一度も見たことがない姿に、簪も止めるが取り合わない。

 

 ここまで疲労している理由はとても簡単である。

 

 デュノア社に指導を叩きこんだ代償である。

 

 レヴィア・聖羅は普段はあまり使わないが、財力も権力もチートクラスである。

 

 それゆえに、一大企業を黙らせることもやろうといえば可能で、自分に関係する悪魔と契約しているということもあってデュノア社に脅しをかけて行動を自粛させることには成功していた。

 

 だが、物事には成果に対する代償が存在する。

 

 会社に経済的打撃を与えるためには、こちらも相応の経済的損失を受けねばならない。それを今回は金銭的利益がないのだ。

 

 それに、やり方も強引だった。

 

 不用意に自分の領域の外側にいる相手を殴り飛ばせば、周囲にいる者から非難されるのは当然だ。

 

 しかも、この場合の周囲とは教会勢力と他神話体系。絶賛冷戦中の相手でもある。

 

 ・・・事情を説明して納得してもらわなければ、多方面から袋叩きに合う。

 

 いろいろと欲求不満だったのをガス抜きしたことで気が抜けていたレヴィアが、それに気付かなかったとしても仕方がない。

 

 そのためわび状を書いたり魔王に頭を下げたり、事態解決のために奔走してくれた人にお礼の差し入れを誠意を見せるため直接顔を出してしたりなどして、睡眠不足であった。

 

「アンタもアンタで大変よね」

 

 だいたい事情を把握してくれている鈴が、そっと肩に手をおいてくれる。

 

 その気づかいに涙が出そうになるぐらい感謝しながら・・・。

 

「すー・・・ぴー・・・」

 

 ついに本格的に眠りに落ちた。

 

「こりゃ本気で大変だったみたいね」

 

 鈴は友人の苦労を思うと、目頭が熱くなるのを感じた。

 

 一夏のサポートをするためにわざわざIS学園に入学するという無理を行い、そしてその問題を解決するために普段使っていないレベルの権力すら行使する。

 

 理由は痛いほどわかっているが、レヴィアは一夏と蘭のためならば、自制している権力行使を行うことすらできる。

 

 ・・・ふと、思うのだ。

 

 もし自分が同じように例の事件に巻き込まれていたとして、彼女は自分にも同じようにしてくれたのだろうか?

 

 それが卑怯で最低な想像だとわかっているから、誰にも言ったことはない。

 

 それでも、ふと思ってしまうのだ。

 

「今度の申請はあたしも手伝ってあげるわよ。・・・だからお休み」

 

 ある意味で手間のかかる友人の頭をなでながら、なんだかほほえましい気持ちになってしまった。

 

「あれ? ・・・もしかしてこれはチャンス?」

 

「あ、あ、ああああああ・・・!?」

 

 そして恋する乙女たちは暴走しかけていた。

 

 セシリアは鈴がレヴィアに傾いているのかと思って好機が来たのかと歓喜し、簪は鈴とレヴィアになんだか間に入れないようなものを感じて、思わぬ強敵の出現に彼女の性癖を知ってワンチャンスを感じていた高揚感が台無しになる。

 

 そしてそんな光景を見ていたものはこう思った。

 

 お前らはやくIS練習しろよ。

 

 そしてツッコミとしていいタイミングで、砲撃が叩きこまれた。

 

 鈴がレヴィアをつかみ、そして全員が素早く離脱。

 

 四人の中心だった場所に砲弾が着弾し、地面がえぐり取るように爆発する。

 

 そして、その砲撃の方向にいたのは、一機の黒いIS。

 

 ドイツ軍第参世代IS、シュヴァルツェア・レーゲン

 

「中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズ、そして日本の打鉄二式か。・・・データで見た時の方が強そうだな」

 

 あからさまな嘲笑を浮かべ、ラウラ・ボーデヴィッヒが三人に

 

「三人まとめて相手をしてやろう。・・・かかってこい」

 

 自分に負けはないと確信しているラウラの姿にその場にいた物は茫然となり―

 

(((まさか本当に・・・)))

 

 レヴィアに前に言われていた通りの展開に、三人はなんというか納得していた。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒはどうやら一夏君を大衆の目の前で叩きつぶしたいみたいだからね。どうも手段をあまり選んでないみたいだ』

 

 レヴィアは一組の転校生騒動を完全に把握していた。

 

 シャルルという想定がいすぎるイレギュラーと同じぐらい、ラウラの存在に対しても警戒を捨てておらず、僅か数日である程度の情報を集めていた。

 

『一夏君と親しい代表候補生を叩き潰して挑発することもあり得るから気をつけてね。・・・相手は軍によるIS部隊の隊長をあの年で勤めているスペシャリストだ。IS戦じゃ数でせめても苦戦しかねないって自覚しておいて』

 

 極めて自信を無くすことを言われたが、しかしレヴィアの努力を無に帰すのも気が引ける。追加でいえばここで暴れているとあの鬼教師からお仕置きを受けかねない。

 

 ゆえに、三人は「とにかく相手にしない」ことが肝心としてさっさと離れようとし、

 

「ふん。あんな腑抜けで他者を貶めるしか能のない堕馬に懸想する雌馬風情には、戦いを望むなど不可能だったか」

 

 最大級の爆弾を叩きこまれた。

 

「・・・相手のいないところで他者の罵倒など、おなじヨーロッパの者として正さなければいけないようですね」

 

 惚れた相手を罵倒され、セシリアは戦闘を決意する。

 

 そのままライフルを呼び出そうとして・・・。

 

「・・・おい」

 

 怒り狂う人は、自分よりはるかに怒っている物を見ると冷静になるという。

 

 いま、セシリアはその言葉を実体験としてその身で理解していた。

 

「・・・さっきから黙って聞いてれば、誰が他者を貶めるしか能がないですって?」

 

 凰鈴音は、レヴィアたちの素性を知っている。

 

 そして、彼女のおかげで異形の力すら身につけている。

 

 ゆえに、彼女たちがどのように己を鍛え上げてきたか知っている。

 

 とくに織斑一夏に関して言えば、惚れた男ということもあってよく見ている。そう、彼が姉の名誉を奪った自分を憎んでムチャともいえる特訓をして、そして己の力にしてきたことをとてもよく理解している。

 

 それを、他者を貶めるしか能がない?

 

 ―よし、殺そう。

 

「簪、レヴィア見てなさい」

 

 そして鈴は思うとおりに動いた。

 




マジで魔改造シャルロット。本作においては敵側です。

・・・ああやめて石投げないで。彼女のポジションこういう時に超好都合だったのごめんなさい!!




そして鈴VSラウラ。

原作でならラウラの圧勝でしたが、レヴィアの影響を受けた魔改造鈴はそうはいきませんよ?


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第五話 可能な限り正しいやり方でやるべきなんだよ

VS シュヴァルツェア・レーゲン

さあて、我らが魔改造軍団の本領発揮です。


 

 

 あまりに怒り狂っていたのが逆に功を奏したのか、鈴はその怒りを相手を叩き潰すためのパワーでなく、いかに相手を叩き潰す方法を考えるためのエンジンの始動キーとして利用していた。

 

 レヴィアはドS的下僕愛を持つが、基本的には味方に甘いタイプだ。一夏の入学を認めて、人間としての側面を残すために我がままを通したところから見てもそれはわかる。だからあの言い分が間違っているなどとは考えない。

 

 だいたい自分はISにのって一年ぐらいしかたっていないのだ。何年も前からISをのり、軍人として鍛えられ、そして織斑千冬の指導を受けたラウラが強敵なのはわかっている。

 

 こういう時こそ冷静になれ。対策を考え、そしてそれを実行に移せ。

 

 さあどうする? 自分の手札でどうやって対処する?

 

 人間の戦闘者としてもISの操縦者としても格上の相手を倒すには、どんな手段を取ればいい?

 

 決まっている。『ただ』の人間が取れない手段を取ればいい。

 

 所詮は人の世界の実力者だ。異形の世界の戦い方を叩きこまれた自分からしてみれば、付け入るすきは十分にある。あの世界は銃を持っただけの人が戦うには余りに厳しいのだ。

 

 故にそうした。

 

「喰らいなさい」

 

 自分の肉体を魔法と仙術で強化して桁違いの筋力を引き出し、甲龍の手持ち武器である双天牙月を分割してから地面にたたきこむ。

 

 刃が完全に地面に埋まった状態で、そのまま力任せに振り上げる。

 

 ショベルで土を掘り起こすように、固く整地された地面が一気に引き起こされ、勢いよくラウラに襲いかかる。

 

 同時に、それ以上の速度で鈴は踏み込み加速した。

 

 想定されてない内側からのパワーにISが悲鳴を上げるが叶わない。

 

 こいつは一夏の努力を一切見ずに、彼の信念を否定した。

 

 そんな相手を殴り殺すのに、手加減をしてやる必要はどこにもない。

 

「ちっ!」

 

 ラウラは土の塊をレールガンを地面に放つことで衝撃で吹き飛ばし、そのままプラズマ手刀で双天牙月を受け止める。

 

 ―かかった。

 

 鈴はそのまま関節から力を抜き、その懐に得物を打ちあったままはいりこむ。

 

 その勢いを利用して、肘をラウラに叩き込んだ。

 

「とったわ」

 

「この程度で? 舐めるなよ数だけ多い国の分際で!!」

 

 すぐに持ち直し、幾度となく切り結ぶ。

 

 時折衝撃砲を放つものの、それらはラウラの眼前で受け止められる。

 

「それが第三世代武装? へぇ・・・だったら生身はどうかしら!!」

 

 やはり近接戦闘で叩きこんだ方がいいだろう。そう想い突進したが、その動きが突如止められた。

 

「残念だったな。我が停止結界の前にはあらゆる敵が無力だ」

 

 ラウラは平静を取り戻すと、勝利宣言をするようにレールガンの銃口を鈴へと向ける。

 

 だが、それを見ても鈴は動揺しなかった。

 

 所詮ISの戦闘など、シールドエネルギーと絶対防御に守られた安全な場所の戦闘でしかない。

 

 自分は、本当に命が奪われる殺し合いを知っている。

 

 血が流れ、死ぬかも知れなくても立ち上がって自分を守ってくれた背中を知っている。

 

 そのことを悔やみ、並びたてる強さを得るために死に物狂いの努力をしている男を知っている。

 

 ああ、だからこんなもの恐ろしくもなんともない。当たったところで死なないものを必要以上に恐れる必要がどこにある。

 

 それに・・・。

 

「馬鹿ねアンタ。()()にケンカを売ったか忘れたの?」

 

 レールガンが閃光に打ちぬかれる。パージしたレールガンが暴発するのを視界に納め、ラウラは自分の失態をようやく悟ったようだ。

 

「・・・人を忘れて一対一とは、このセシリア・オルコットをなんだと思ってますの!?」

 

 二機のビットを展開させ、セシリアはレーザーライフルを油断なく構えていた。

 

「イギリスの骨董品《アンティーク》風情がよくもやってくれる!!」

 

 ラウラはワイヤーブレードを展開してビットを迎撃。

 

 それをビットは正確に回避するが、そのすきにさらに二本のワイヤーがセシリアを狙う。

 

 ビットと本体の同時制御ができないのがセシリアの弱点。ゆえにビットが展開されたのならばそのすきに本体に攻撃を叩きこむのが彼女の攻略法だ。

 

 戦闘データをちゃんと収集していたラウラは確かに間違いなく正しい判断をとっていた。そのあたりは、正規の軍人なだけあるだろう。

 

「・・・残念ですわ」

 

 ただ、情報がはるかに古かっただけだが。

 

「なんだと!?」

 

「おあいにくさま。親切な方の助言もあり、ビットも二機に抑えれば移動しながら撃てますのよ?」

 

 レヴィアの提案に感謝しつつ、セシリアはワイヤーをかわしつつ的確にビットを操作し、三方向からの銃撃を叩きこむ。

 

 射撃は的確に、しかし正確にしすぎないように移動させながら。

 

 これだけで、命中精度が下がることを引き換えに、相手に迎撃される可能性を減らすことができる。

 

 正確に射撃してピンポイントで当てることができるのは、確かに有能な証拠だろう。

 

 だが正確な射撃は一夏の戦いのときで実感したが、かわされやすさも上がる。追加でいえば、ISはどこに当たってもシールドエネルギーはある程度減らせるのだ。一撃必殺が成立しないことも考えれば、ちょっとぐらい狙いがずれても問題はない。

 

 追加でいえば精密に狙いをつければ動きは止まる。そのすきを突かれで撃墜される可能性も確かにあった。

 

 これまでの模擬戦をみたレヴィアの提案だったが、それはしっかりと効果を発揮していた。

 

(ありがとうございます。レヴィアさん)

 

 内心でレヴィアに感謝の意を浮かべ、セシリアはラウラを睨みつける。

 

 あの女は、自分にとって初めての強い男である一夏をとことん罵倒した。

 

 1人の恋する乙女としても、一人の立派な貴族としても、ただで済ますわけにはいかない。

 

 それだけの意を込めたその攻撃を、しかしラウラは何とか回避できていた。

 

「なるほど。まあ仮にも第三世代を名乗るのだからこれぐらいはできねば困るか」

 

 彼女は敵を上方修正した。

 

 敬愛する教官の栄光に泥をぬるくだらない男に懸想する、あまりにも理解できない女だとばかり思っていたが、それでも代表候補生ではあるのだ。

 

 実力と精神が伴っていないとすら思ったが、しかし腹立たしいことにゆえに実力は高いと認めざるをえなかった。

 

「良いだろう、なら本気で相手を・・・!?」

 

 気を引き締めたラウラが、しかし体が言うことを聞かなくなっていく。

 

 体調は万全の態勢だった。軍人として自分の体のコンディションは正確に把握している。

 

 ならばこれはどういうことだ? 未だ直撃したのはあの攻撃にもならないひじ打ち一つ。

 

 どこに当たってもダメージが入るわけがない。そもそもこれは、まるで肉体の機能自体が衰えているようではないか。

 

 その光景があまりにも突然だったため、周囲の生徒はおろか、セシリアすら動きが止まる。

 

 そんななか、唯一戸惑うことなく動く影があった。

 

(ようやくきいてきたわね)

 

 その光景を見て、鈴は勝機を確信した。

 

 仙術の訓練を積むなか、護身のために対IS戦闘も習得している。

 

 ゆえに、シールドエネルギーごしに気を叩きこんで相手の生命力をみだすなど鈴にとっては余裕にひとしい。

 

 ああ認めようラウラ・ボーデヴィッヒ。お前はIS操縦者としては自分よりはるかに上だ。そもそも二対一で戦って互角という時点でその実力は証明している。

 

 だが、これはISの戦闘じゃない。誇りと意地をかけた戦いだ。

 

 ゆえに、それ以外の手段での攻撃を想定しなかったお前が悪い。

 

「ベッドの上で反省してなさい」

 

 そのままたたみかけるため双天牙月を振り下ろし・・・。

 

「そこまで!!」

 

 割って入ってきたレヴィアを救うため、強引に身をひねって機動をそらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いい加減にしてくれないか? ただの模擬戦ならまだしも、こんな大騒ぎ国家の威信はおろか面目丸つぶれだろ」

 

 未だ眠気が残っているのか少しふらつきながら、レヴィアはその場を見渡すと肩をすくめた。

 

「あと鈴ちゃん。『あれ』は不味い」

 

「ぐ・・・っ!?」

 

 仙術と魔法の使用のことだろう。

 

 この女、いったいいつから見ていた!?

 

「あとであのおじいさんと一緒に反省会しようか」

 

「ぇえ!? ちょ、ちょっと待って!!」

 

 そ、それは不味い。

 

 だがレヴィアはそれには取り合わず、ラウラ・ボーデヴィッヒに鋭い視線を向ける。

 

 それに敵意をこめたまなざしがぶつかるが、レヴィアはそれにも取り合わなかった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。織斑千冬の名誉に泥を塗るのもいい加減にしてもらおうか?」

 

「なんだと?」

 

 言っている意味が理解できないラウラだったが、その視線の鋭さに、攻撃ではなく拝聴を選ぶ。

 

「他者の名誉を汚された報復をしたいのならば、それは他者の名誉を尊重するための行動でなければならないのは考えれば分かるだろう。・・・SHRでいきなり張り手でたたくやら、公式に許可を得ずに乱闘をするやら、それじゃあ織斑『教官』の栄光は地に堕ちるぞ」

 

「!!」

 

 自分が千冬の栄光に泥を塗っているなどとは思っていなかったラウラに、この言葉は想像以上に聞いたようだ。

 

「いいかいラウラちゃん。いま君が身勝手な行動を繰り返し続ければ、それは織斑先生のためではなく、織斑先生のせいになってしまう。・・・正義を遂行するためには、可能な限り正しいやり方でやるべきなんだよ」

 

「ふ、ふむ。確かに一理あるな」

 

「幸いもうすぐトーナメントだってある。一夏君の実力なら十分勝ち抜けだってできるし、それで無理だったら僕の方から模擬戦の申し込みを手伝ってもいい。ここは誇り高いドイツの民として、誇り高いやり方を選んでもらえないかな?」

 

「し、しかしだな・・・」

 

「と、いうかこれ以上動くと織斑先生が怒るよ? ラウラちゃんはあの人を怒らせたいのかい?」

 

「いや、そんなわけがないだろう!!」

 

「だったらもっと正しくいこう。少なくとも、ちゃんとそういう風にやってくるというのであれば、僕は積極的に行動するよ?」

 

「そ、そうか・・・すまない」

 

「ありがとう」

 

「なに?」

 

「こういうときはありがとうって言った方がいいよ? はい、サンハイ」

 

「あ、ありがとう」

 

「うん」

 

((あれ? なにこの可愛い生き物?))

 

(ぶぅ・・・)

 

 突如始まる小動物とのふれあいタイムに、鈴とセシリアがキョトンとし、そして簪が嫉妬の炎を燃やし始める。

 

 ・・・数時間後、謎のIS襲撃などの理由により、安全確保のため学年別トーナメントはタッグマッチへと変更される。

 

 それに真っ先に書かれたコンビ名を紹介しよう。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ レヴィア・聖羅

 



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第六話 無粋な邪魔は入れさせない

レヴィアはこの作品にD×D要素を入れる大事なキャラクターです。





























すなわちエロ担当。イッセーと意気投合しそうですね。


 

 大浴場で、鈴はお仕置きをされていた。

 

「はい鈴ちゃん。次は脇を洗うから手を上げてようね?」

 

「ぅう・・・分かったわよ」

 

 具体的には、レヴィアに全身を洗われていた。

 

「な、なんで私がこんな目に・・・」

 

「いくら見ただけじゃ分からないからって、衆人環視の中で異形の力を使った鈴ちゃんが悪いよ。ISだって損傷したんでしょ?」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない。

 

 ISとは、ただの人間が使うことを前提としたパワードスーツである。もちろん個人差や特訓による身体能力の差もあるので、ある程度の許容量はある。

 

 だが、仙術と魔法による身体強化を同時に発動した鈴の出力はもはやその許容量をはるかに上回っていた。

 

 ゆえにISのダメージが激しく、タッグトーナメントには出場不可にまでなっている。

 

「そこを考えたからこの程度で済ませてるんだよ。・・・マジでやってるなら君にはソープ体験(お客編)をしてもらうところだった」

 

「なんでそんなもんまで習得してるのよ!!」

 

 この女のエロに対する吸収力を甘く見ていたかもしれない。

 

 機体が損傷してなかったら公衆の面前で飛んだ恥辱をさらしているという事実を認識して、鈴は甲龍の脆さに心底感謝した。

 

「・・・で? なに考えてんのよアンタは」

 

「なにがだい?」

 

 レヴィアはとぼけるが、あいにくそんなことでだまされるほど、自分は彼女のことを理解していないわけじゃあない。

 

「あのドイツの女のことにきまってるでしょ?」

 

 レヴィア・聖羅は基本的に一夏の味方だ。

 

 そんなレヴィアが、一夏を逆恨み的に敵視しているラウラ・ボーデヴィッヒにわざわざ力を貸し、挙句の果てにタッグトーナメントに一緒に出場するなど自分から見てもおかしいだろう。

 

 実際一夏との仲の良さを知っているクラスメイトからは、新しい七不思議に入れた方がいいのではないかとか真剣に言っている者もいる。

 

「あ~・・・。なんて言うかさ」

 

 ちょっと言いにくそうにしていたが、鈴なら言いふらさないだろうと判断した。

 

「あの子、一般人的な教育をほとんど受けてないんだよ。・・・ぶっちゃけ兵器として育てられたわけ」

 

「は? そんなの今どき見ないわよ? 親は誰なわけ?」

 

「研究所の試験管ベイビーらしい。ぶっちゃけ親は研究者ってわけだ」

 

「うわっちゃ~」

 

 額に手を当てたかったが、目に泡が入るので我慢する。

 

 それならあの非常識な真似にも納得できる。

 

 軍人としてのスキルは非常に高いが、反比例して一般人としてのスキルが致命的なまでに低いのだ。

 

 それならあのめちゃくちゃな行動にも納得だ。

 

「しかも試作型の技術が失敗して、失敗作扱いされたそうでね。千冬さんに鍛えられたことで出世したけど、そうじゃなかったらどうなっていたことか」

 

「・・・・・・」

 

 もうなにも言えない。

 

 と、いうか生体兵器の開発と買って国際法的にどうなのだろうか? 代表候補生だし少し勉強した方がいいのかもしれない。

 

 しかし、それなら相当に信奉しているのは間違いないだろう。それだけの状況から救い出してくれた存在なら、もはや神といっても過言ではないかもしれない。

 

 神の信仰とは強大なものだ。日本人的な思考が根強い鈴には分からないところも多いが、熱心な宗教家は神の命令なら喜んで命をささげることもできる。神の命令が直接下されれば、人を惨殺することができる手合いも珍しくないだろう。過激なタイプが自爆テロをするのも典型的なタイプだろう

 

 ゆえに、神を穢すものは等しく叩きつぶす。

 

 ラウラの行動原理はまさしくそれだ。だからこそ容赦しない。

 

 レヴィアの交渉はまさにそこをついたものだ。だからレヴィアは彼女を制御できたのだ。

 

「・・・別に悪魔だから信仰する者を堕落させようとかいうわけじゃないけど、だから、ある意味でちょうど良いんだよ」

 

 そういうと、レヴィアは苦笑する。

 

「一夏君はモンド・グロッソの一件で深く傷ついている。そしてそれを払しょくするために強くなったけど、振りきれてはいないんだ」

 

 確かにそうだろう。

 

 三人から聞いた話を思い出すだけで、一夏がどれだけ傷ついたかなんて簡単に想像できる。

 

 あんな経験をすれば一生もののトラウマだ。一夏が守れる男になることにこだわるのも、納得できる。

 

 だから、

 

「良い相手なんだよ。それがきっかけで強くなろうとしたものと、それがきっかけで強くなった者。あの二人は写し鏡なんだ」

 

 だから、力を貸す。

 

「一夏君は彼女と激突することで、自分を見つめ直して少しはふっきれることができるかもしれない。ラウラちゃんも、その激情をぶつけて放出すれば、何かが新しく見えるかもしれない」

 

 失って、力を求めた物と、失いかけて、力を得た物。

 

 互いに織斑千冬の手で大きな影響を受けており、それゆえに激突は避けられない。

 

 なら、せめておぜん立てしてあげよう。

 

「無粋な邪魔は入れさせない。たとえ専用機であろうと、叩きつぶす」

 

 ・・・レヴィアは冷たい笑顔を浮かべた。

 

 時に自分の指示で他者の人生を狂わせることもせまられるからこそ、そういった冷たい笑顔を浮かべれるようになることを求められているのが彼女だ。

 

 この笑顔を見ると鈴はいつも思う。

 

 彼女はこちら側にいさせなければならない。

 

 もし向こう側に行けば、戻れなくなる。

 

「あの娘とは意気投合したところもあるし、ついでだからたまったストレス発散するよ」

 

「・・・この世界は負かした女の子とHできないわよ?」

 

「違うよ!? ストレスってそっちじゃないよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして学年別タッグマッチの当日、IS学園生徒はおろか、関連企業および軍関係者など、様々な人物がアリーナに詰め寄せていた。

 

 学年別トーナメントは、三年は先ほど言った企業のスカウトがあり、二年は一年間の成果の確認があり、そして一年は数多い専用機の性能を確認することができる。

 

 それゆえにこの場にいる者たちは全力でそれを確認することを望んだため死に物狂いで席を入手しているし、生徒たちの気合いも入っていた。

 

 そしてピットには試合に臨む生徒たちが、一斉に準備をしており、ありていにいえば今までにない混雑状態に陥っていた。

 

 そして、男性同士ということで一夏はシャルルと組んで、その試合の準備を行っていた。

 

「だけど第一試合って残念だね。手札を真っ先に知られるから対策が練られやすくなっちゃうよ」

 

「そうか? こういうのは勢いが大事だろ?」

 

 相手の手札に対して手札を切るタイプのシャルルと、一つの技能に集中して鍛え上げる一夏では見えている物が違うが、それゆえにお互いの相性は抜群だった。

 

 そして、それゆえにこのコンビは優勝候補の一角として数えられている。

 

 第二世代機とはいえISの技量も優秀シャルルと、技量は未熟だが成果を発揮してきた一夏。

 

 二人しかいない男性操縦者ということもあり、その注目度は非常に高かった。

 

 そして、ついにトーナメント表が発表される。

 

 第一回戦第一試合、織斑一夏&シャルル・デュノアペアVSラウラ・ボーデヴィッヒ&レヴィア・聖羅ペア。

 




今回は区切りが良かったのでちょっと短め。


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第七話 権利を得たからには義務と責任を果たしてくれ

ついに本番。

さて、この戦い、序盤から派手に行きますよ?


 

 

「逃げずによく来たな。それぐらいの気概はあるということか」

 

「むしろ逃げなさすぎるところがあるからね彼。その辺は心配しなくていいよ」

 

 ラウラの挑発とレヴィアのフォローが、二人を出迎えた最初の言葉だった。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンを駆るラウラに・ラファール・リヴァイブを身にまとうレヴィア。

 

 シールドとグレネードランチャーで装備したレヴィアは、さらにワイヤーを全身に巻いており、ワイヤーには鉄板らしきものがぶら下げられていた。

 

 さらに、その後方には増加型のブースターが取り付けられている。

 

 拡張領域を消費することなく防御と回避を固め、長時間敵を相手にするつもりなのだろう。実際一夏は知っているが、彼女は攻めることより守ることの方が得意な人物だ。

 

 ましてやラウラは単独でなら最強クラスのIS乗りだ。学園を探しても、IS部隊の隊長であるラウラより強いIS操縦者など上級生の代表候補生クラスで専用機持ちでもなければいないだろう。

 

 足を引っ張らないことを目的とした足止め用の兵士と、一対一なら最強候補。戦術としてはまあ当然の内容だった。

 

「俺は逃げねえよ。そんな真似は、弱い奴がすることだ」

 

「なら何故貴様はしない?」

 

 半ば素で返されると腹も立たない。

 

 もとより、この戦いで勝利すればそんなことも言えなくなるだろう。

 

 静かににらみ合う。

 

 モンド・グロッソの事件をきっかけに人生を変えた二人。

 

 白をベースにする不知火に、黒をベースとするシュヴァルツェア・レーゲン。

 

 あの事件がきっかけとなり人を捨て悪魔となった一夏と、あの事件が遠因となり廃棄物ではなく人であれたラウラ。

 

 まるで鏡のような二人は、今この場で静かににらみ合った。

 

「まさか第一試合でぶつかるとわね。・・・しかも専用機が相手だなんて都合がいい」

 

 レヴィアはその光景を心底楽しそうに笑い。

 

「本当に一夏向きの展開だね。僕としては困っちゃうよ」

 

 シャルルは勢いに乗りまくったこの状況に心底苦笑していた。

 

『さて、今回のゲストは専用機の故障で出場を辞退した凰鈴音さんと、生徒会長更識楯無さんです』

 

『あーどうも。なんか情けない理由でゲストになった凰鈴音よ』

 

『生徒筆頭ただ今参上♪ ・・・簪ちゃん優勝しないかなぁ』

 

 実況のための放送席では、ゲストまで用意して試合を進める準備が整っていた。

 

『さて、ボーデヴィッヒ選手が織斑選手を目の敵にしていることもあって注目のこのカード。やはり流れとしては練習機の聖羅選手がどこまで持つかが重要になるのでしょうか?』

 

 いささか酷い発言ではあるが、実況の少女の意見も最もだろう。

 

 四人のうち、専用機を持っていないのはレヴィアだけだ。

 

 そのためISに対する練習時間も少なく、そもそも自分ように調整もされていない。

 

 加えて言えば、レヴィアの実機を使った成績もそこまで優秀ではない。よくで中の上といったところであり、これもまた、代表候補性と比べれば見劣りするものでしかない。

 

 ゆえにその想像は順当であり、

 

『甘いわね』

 

『さてどうかしら』

 

 レヴィア・聖羅をしる者たちからすれば、首をかしげるものだった。

 

『生徒会長として言わせてもらえば、この戦闘能力は確かに大事だけど、それと同じぐらい戦術っていうものは大事よ?』

 

 実戦をしり、力というものを知っているからこそ、楯無はそれに否をいう。

 

『戦術ですか?』

 

『そう。拳銃どうしの戦いなら、相手を油断させて至近距離から急所を打てば、例え子供でも射撃大会優勝者を殺すチャンスはあるわ』

 

 兵器が協力になればなるほど、それはうまくすればわずかな隙で最高の結果を生み出せるという事になる。

 

 そしてIS学園はISの本場であるがゆえに、様々な武装を入手する可能性がある。

 

『正攻法で勝てなければからめ手や相性差を利用すればいい。向こうには一夏君という極めてとがった敵がいるんだし、つけ入るすきは充分にあるわ』

 

 だから、実践をしるレヴィアが何の対策も用意して無いとは考えない。

 

『だからこそのあの重武装でしょう。・・・誰が相手でもボーデヴィッヒ選手が相手の片方を倒すまで粘るのが目的ということね』

 

 それゆえに、殺し合いを生業とする側面をもつ楯無として、彼女は断言する。

 

『確かに、レヴィアを舐めないほうがいいわよね』

 

 そして、それ以上にレヴィア自身をしる鈴は断言する。

 

『あいつさ、微妙に選民思想ってのがあるのよ』

 

『選民思想ですか?』

 

『そ。選ばれた人間はそれだけの権利を得ているから、それだけの事をしなければならないっていう考え方。そしてあいつは、そうじゃない相手にはそうするべきだとしっかり教えるようにしているわ』

 

 それはある意味で傲慢であり考え方であり、しかしレヴィアにとっては当然の考え方。

 

 かつての魔王の血筋を持っているからこそ、彼女は己の立場を自覚してその立場らしい行動を取る事を己に課している。エリートはエリート意識をもち、それにふさわしい存在であることを彼女は望んでいる。

 

 そしてISとは世界のパワーバランスを担う正真正銘の時代の最前線であり、それを学ぶこの学園に入学するのは、時代のエリートであることの証明でもある。

 

 ゆえに、レヴィアは彼女たちにそうであることを求める。ゆえに、そうでなければならないと思わせるために実践する。

 

 将来的にISに関われない彼女だから。本来ISという事業に直接かかわってはいけない彼女だから。それでもIS学園に入学し、ISをつかさどるであろう少女たちと関わることになった彼女だから。

 

 文字通り時代の中心にいるISを関わる者としての義務と責任を意識して背負ってほしい。

 

『アイツ、IS学園で溜まっているストレスを発散するって言ってたわ。・・・間違いなく何かしでかす』

 

 もとより性能でも技量でも向こうの方が上だ。

 

 だがそれは、勝てて当然ということでもある。

 

『格上相手にいい勝負ができた時点で、格下にとっては勝利も同じ。・・・アイツはやるわよ?』

 

 彼女は王だ。

 

 そして王は流れを作る者でもある。

 

 ゆえに、この中で一番何かをしでかすとすれば彼女なのだ。

 

 親に良いように使われていたシャルルではなく、

 

 兵士という道具としての側面をもつラウラでもなく、

 

 そして王の手足となる一夏でもない。

 

 正真正銘使う側である彼女が、何かをしでかさないはずがない。

 

 シャルルは銃火器のロックを外し、両手で二機に照準を合わせる。

 

 ラウラはプラズマ手刀を展開し、両腕の力を僅かに加えて、いつでも振るう体制をとる。

 

 一夏はブレードを展開し、両手で構える。そのブレードは特徴的で、それ相応の対策をとっていたことが見て取れる。

 

 そしてレヴィアはシールドを身を隠すように構え、グレネードランチャーを回転させる。

 

 第一試合にして優勝候補同士の激突。

 

 二機の専用機の組み合わせと、最強候補のIS乗り。

 

「いくよ、一夏」

 

「じゃあ、始めようか一夏くん」

 

 敵と自分の相方が一夏に呼びかけ、

 

「「叩きつぶす!」」

 

 白と黒の戦乙女の系譜がにらみ合い。

 

―試合・・・開始!!

 

 決戦の幕が、ついに開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始のブザーと同時に、爆発音が鳴り響いた。

 

 このメンバーの武装でそれができるのはレヴィアのグレネードランチャーのみ。

 

 だが、爆発はレヴィアのすぐ後ろで起きた。

 

「え?」

 

「は?」

 

「何?」

 

 シャルルも一夏もラウラも、まさかそんな事故が起きるとは思わず一瞬だけだが呆ける。

 

 そして、その爆発はそのすきを突くには十分な恩恵を与えた。

 

 爆風に吹き飛ばされるように、そして誰よりも早く書けるように、レヴィアはいつの間にかシャルルの懐に潜り込んでいた。

 

 タックルをするかのようにシールドを正面に向けたままのレヴィアは、その口を開く。

 

 放たれるのは爆発の衝撃による悲鳴ではなく、確かに意味のある一つの言葉。

 

「・・・クラッシュ!!」

 

 直後、シールドの前で大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、何が起こったんですかぁああああ!?』

 

 開始直後の急転直下の展開に、実況の生徒が悲鳴を上げた。

 

 それはそうだろう。

 

 確かにゲストは注目していたとはいえ、ただの一般生徒のはずのレヴィアがいきなり意味不明の事態が起こったからだ。

 

 そして、データを見てさらに混乱する。

 

『で、デュノア選手のシールドエネルギーがいつの間にかゼロに!? かかかかか解説をお願いしますゲストの方々!?』

 

 開始数秒で優勝候補の一人が戦闘不能になるなど、想定できるはずがない。

 

 しかも、データを見る限り鍵を握っているレヴィアの方はシールドエネルギーが半分以下だが残っている。

 

 この展開に悲鳴をあげても罰は当たらないだろう。

 

 ゆえに、多少は予想できていたみたいだった鈴と楯無に解説をお願いしたのだが。

 

『あの・・・馬鹿』

 

 鈴は思いっきり頭を抱えていた。

 

 何かやらかすと思ったが想像の斜め上を全速力で飛び越えている。こんなもの、教師が見たら説教の一つでも入れるだろう。

 

『なるほどねぇ・・・。長期戦狙いじゃなくて短期決戦狙いだということか』

 

 そして楯無もどういうことか完璧に理解していた。

 

『完全にだまされていたわ。彼女、いい勝負をするどころか完全に勝ちを狙っていたのよ』

 

『か、勝ちを狙っているですか?』

 

 確かに結果だけ見ればシャルルをレヴィアが負かしたことになるが、その過程が全く分からない。

 

 そしてそれはシャルルも同じだった。

 

 もともと、あまり派手に動くつもりはなかった。

 

 自分はどちらかというとサポートする側だし、そもそも今後のことを考えれば、実力をさらけ出すことは失態だ。

 

 だから美味しいところは一夏に与えるようにするつもりだったが、まさか瞬殺されるとは思わなかった。

 

 見れば、たがいに激突するつもりだった一夏とラウラも茫然と自分達の方に視線を向けている。

 

 何が起こったのだろうか?

 

『おそらく彼女が使ったのは、ISの形状を利用した特殊工作練習用の指向性爆弾ね。二年生になると一部の生徒が授業で使うわ』

 

 それと同時にレヴィアの申請した武装記録がアリーナのモニターに展開され、それが本当であることが分かる。

 

 ・・・驚くべきことに、拡張領域のほぼ全てをそれが占めていた。

 

『で、加速の種は簡単。グレネードランチャーを自分のすぐ後ろの地面に向けて撃って、その爆風で加速させたのよ』

 

 基本的な銃というものは、火薬の爆発で弾丸を加速させる。

 

 それと同じことをレヴィアは、火薬の量をはるかに多くしてやってのけたのだ。

 

 直前のスローモーション映像が流され、これも正しいことが証明された。

 

 ・・・一言言おう、頭のネジがあさっての方向に吹っ飛んでいる。

 

 爆発系の武装を移動の補助に使うという荒業に、観客全員が唖然としているのがわかる。

 

 ちなみに一夏とラウラはさらにフリーズしている。ラウラはともかく一夏はレヴィアについてよく知っているはずだが、それでも想像できなかったようだ。

 

 会場全てが水を売ったかのように静まる中、今度は鈴が次の行動の種を説明する。

 

『で、懐に潜り込んだ瞬間に指向性爆薬をシールドの前面に量子展開して、ドカン!』

 

 武器としての性能は低いだろうが、破壊するものとしての性能は破格の代物だ。直撃すればシールドエネルギーをゼロにするどころか絶対防御が発動しかねない。

 

 そこから考えればシールド自体それが目的なのがよくわかる。

 

 指向性爆薬とはいえその方向以外に全く爆風が来ないわけではない。グレネードの爆風を移動に利用する以上ダメージは直撃する。何の対策もできなければ相手を倒せても自分も相打ちになる。

 

 それではだめだ。勝負には勝てても試合には勝利できない

 

 それゆえにシールドとグレネードランチャーの組み合わせなのだ。

 

 この戦術の肝は、時間稼ぎの戦闘スタイルにも見えるということにもある。実際、敵が一般生徒ならこんな手段は使わないだろう。

 

 ラウラに任せれば問題ない時は一対一の状況下に持ち込んで時間稼ぎに終始する。それだと危険要素がある時に限り、この手段で一気にけりをつける。

 

『格上相手の対処方はいくつかあるけど、ギャンブル要素の強い一発勝負で本領を発揮させずに倒すのは立派なカードだわ。・・・まあ、教師側としてはそういう戦術をとるはめになることを勧めないからもろ手を挙げて褒めたりはしないでしょうけどね』

 

 一撃必殺と書かれた扇子を開きながら、楯無がそう補足する。実際、教師陣営はどう評価すれば良いか真剣に頭を悩ませていた。

 

『で、でも、対してISの操縦になれていない人がどうやってそんな器用なまねを?』

 

 それは確かにその通りだ。

 

 ISの量子展開は、イメージによって行われる。そして、それは意外と難易度が高い。

 

 だから一般生徒は基本的に手持ち武装で対応するし、そもそも代表候補生でも上手くいかない場合だってあるのだ。

 

 それを、指向性爆薬の向きをそろえ、さらにシールドの前面に固定して配置するなどという真似をあんな一瞬でできるなど想像もできなかった。間違いなくそういったのが得意な代表候補生でも苦労するウルトラCである。

 

『簡単よ。・・・試合開始までの行動全部使ってイメージしたんでしょ』

 

 だから、あっさりと答えた鈴の言葉に度肝を抜かれた。

 

『・・・はい?』

 

『逆に考えるのよ。そんなイメージが難しいなら、初心者用の方法をさらに突き詰めればいい。あいつ敵の目の前で武器回すなんて挑発しないもの。・・・そこまで含めてイメージの補強に使ったのよ』

 

 なるほど。武器の名前を呼びながらポーズをとるのはイメージの補強に役立つし、実際やっている者もいる。

 

 それをさらに強化して、試合開始前からイメージの補強を続けていれば、何とかなるだろう。

 

 もしかしたらこの一連の行動自体全てを使ってイメージの補強をしたのかもしれない。最初のモーションから最後の掛け声まで含めてが量子展開のための下準備なら、十分に可能性もあった。

 

『失敗した時のための備えがワイヤーにくくり付けた装甲板でしょうね。・・・それで鈍足になるのを防ぐためスラスターも増やしたってことでしょアレは』

 

『戦いは戦う前から始まっていることというわけね。全てが専用機を撃破するためのプロセスだっというわけね』

 

 徹底的にも程がある行動だった。

 

 自爆覚悟の気さくに、初心者用の技能をさらに突き詰めた方法の構築。

 

 教師というものはリスクというものを減らし、上級者にするための存在である。・・・褒めるわけにはいかないが成果を上げてしまっているレヴィアに、本当にどうしたものか頭を抱えている教師が続出した。

 

 余談だが、一番頭を抱えていたのは千冬である。

 

 教師の中では一番付き合いがあったが、まさかこんな博打を打つとは想定していなかった。ゲームとかでも守りを固めてから基本に忠実な戦闘スタイルをよくとっていたのでなおさらである。

 

『今頃千冬さん頭抱えているでしょうね。・・・千冬さんの付き合いじゃレヴィアのこの行動予測できなかったでしょうし』

 

 それを予測している鈴が、心底同情するように目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さあ、僕は証明して見せたよ」

 

 専用機を秒殺するという異形を成し遂げた少女は、衆人環視の中その注目を利用した。

 

「技量、経験、環境。全てが上の相手にも、知恵ある者は勝算を得ることができると、証明したよ」

 

 それは、セオリーガン無視のむちゃくちゃな方法だったのかもしれない。

 

 だが、勝った。

 

「・・・たぶん、ほとんど諦めてた人ばかりだろうね」

 

 何がとは言わない。

 

 ・・・世代が一つ違う機体を専用に持ち、それはもちろん個人として調整された機体。それが代表候補生だ。

 

 そんなものに共用で一次移行すらしていない機体で挑むなど、本来なら無理ゲーだろう。

 

 だから、この試合に出てきた人たちは優勝なんて完全に諦めていた。彼女達とたたかうことを不運としか考えていなかった。

 

 それを、砕く。

 

「でもこれは試合だ。そして試合とは死なないんだ。だからムチャの一つだってできる。・・・僕らは無理できるんだ」

 

 頼りない後輩を教え導くように、彼女はクラスメイトに、学友に、諦めている物に手を差し出す。

 

 自らの手で、勝てると証明し、可能性は少なくないと断言した。

 

「僕らは試験を合格して、不合格の者を蹴落としてこの学園に来たんだ」

 

 穏やかな笑みを浮かべ、レヴィアは学園全体に言葉を放つ。

 

 その姿は神々しさすら感じさせ、まるで王者と相対しているかのような錯覚をその場にいる者に与えた。

 

「頑張るんだ。それが、蹴落として手に入れた物が蹴落とされた者にしなければならないことだ」

 

 圧倒的な絶対者の風格と共に、彼女は学園生徒に発破をかけた。

 

「絶対者として誇りは通せ。全てはそれからだ『女』だろう!!」

 

 ここに誇り高き絶対者が道を指し示す。

 

 お前たちは時代の最先端にいる。人類の半分が土俵に立つことすら許されないのにだ。

 

 ならばその権利を持つにふさわしいと証明して見せろ。

 

「IS学園生徒という権利を得たからには義務と責任を果たしてくれ。・・・少なくとも、僕はそう生きるつもりだ」

 

 たとえ傲慢とののしられようとも、それだけは言わなくてはならない。

 

 本当に男より上に立つものとしての誇りを持たねばならないのだから。

 

 それが、いつか必ずその権利と責務を捨てねばならないものとして、責務を果たすことになる者たちへの選別だった。

 

「・・・さあラウラちゃん。僕は責任を果たしたよ」

 

 そして、ここから責務を果たすものは交代する。

 

「君と一夏君の戦いに無粋な邪魔は入れさせなかった。・・・ここから僕は、一切手を出さない」

 

 そのままどっしりと腰を落とすと、にっこりとほほ笑んだ。

 

 そう、それがこの戦いの理由の一つ。

 

 それを自覚させるために、レヴィアはその視線を一夏にずらす。

 

「一夏君。君の命は僕の物だ。その意味はちゃんと理解しているね」

 

 それは一種の親愛の証。そして一つの契約の証。そして一つの謝罪の証。

 

 しかし、それにもどうしても責任はついて回る。

 

「これは君の信念と矜持を貫くため『だけ』の戦いだ。ゆえに、僕のものらしい振る舞いをしなさい。・・・二対一なんてやり方、やってはいけない」

 

 だから、せめてお膳立て位はしてやらねばならないだろう。

 

「まったく。お前ってやつはほんとに・・・」

 

 そして、その気持ちは確かに一夏に伝わっていた。

 

 本来なら、自分が時間稼ぎをしている間にシャルルがレヴィアを撃墜して、二対一に持ち込む予定だった。

 

 そうでもしなければ勝てない相手だったし、なにより負けるわけにはいかない戦いだったからだ。

 

 だが、レヴィアはその予想をおおしてシャルルを撃破。そしてこういっているのだ。

 

 勝てなくていい、負けるのだけはいけないと。

 

 たとえ結果として撃墜されようとも、これは織斑一夏の意地を証明する戦いだ。

 

 そういう意味では試合の勝敗は勝利条件とは無関係であり、何より自分自身で証明しなくてはならないと、レヴィアは言っているのだ

 

 ゆえに、数を使って攻める無粋な真似はむしろその時点で敗北だと、レヴィアは切って捨てたのだ。

 

「やれやれ。厄介な主を持つと下僕は大変だな」

 

「先ほどからわけのわからんことを言ってくれるな。・・・まあいい、これで憂いなく貴様を叩き潰せる」

 

 一般入試の生徒が起こした偉業の動揺が、ようやく抜け始める。

 

 これより始まるのは、白と黒の一騎打ち。

 

 片方の相方は戦闘不能。もう片方は試合放棄。

 

 妨害も邪魔も手助けも支援も一切ない、すなわちお互いの維持と誇りと実力が勝敗を決する戦いが、切って落とされた。

 




レヴィアがやらかしました。彼女の座右の銘はノブレス・オブリージュ。意味は、高貴さは義務を強制する。

実際の話、これは本来のレヴィアの戦闘スタイルではありません。あくまで生徒に発破をかけるためにかなりの無理をしました。だからこそこんな強引な方法でしか勝てなかったわけですが。

さて、これで一対一を強制された一夏君。この戦いどうなる?


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第八話 だからさ、負けられないんだよ

一夏VSラウラ 本番です。


 

 

 瞬時加速を使い、一夏は一気にラウラにせまる。

 

 レヴィアの行動で目が覚めた。

 

 そうだ、そもそも織斑一夏に対して、ラウラと同様に怒っているのは自分だろう。

 

 自分が弱かったせいで大事な姉の栄誉は傷つけられた。そのせいで姉は大会二連覇という偉業を成し遂げることができなかった。姉に弟を自分が原因で誘拐されたという傷を作ってしまった。

 

 千冬を敬愛するラウラが怒りに燃えるのは当然だ。それを否定する権利は一夏には無い。

 

 だから、一夏は彼女に怒りを向けはしない。

 

 見せるのはただの一つ。

 

 ・・・その傷をばねに、織斑一夏はそれだけの価値がある男になったのだと証明することただ一つ。

 

「行くぜぇええええええ!!」

 

「甘い!!」

 

 そして、正面からの突撃など代表候補生には通用しない。

 

 織斑一夏の戦闘スタイルが猪武者なのは少し調べればすぐわかる。

 

 ゆえにこの奇襲は奇襲たりえない。来るとわかっている奇襲はただのテレフォンパンチでしかない。そしてテレフォンパンチにカウンターを叩きこめないで、代表候補生は、IS特殊部隊隊長は務まらない。

 

 だから、この流れは呼んでいた。

 

 ISのパワーアシストと転生悪魔・戦車の駒のバカげた身体能力を使い、強引に片足を地面にたたきつける。

 

 シールドエネルギーすら削れるほどの抵抗を受け、不知火の機動が高速でずれた。

 

 自然と、カウンターで放たれたAICから回避され、一夏はそのまま得物のトリガーを引く。

 

 それにすらカウンターとしてプラズマ手刀を返すラウラだが、それは悪手だった。

 

 対IS用炸薬加速式近接戦闘ブレード、鎌居達。

 

 パワーアシストと切れ味だけでは補助武器にしかならない近接戦闘用のIS武装を主兵装へと変えるための、試作型武装。

 

 激しい打ちこみに耐える胴田貫を参考にした頑丈な刀身に、液体炸薬を爆発加速させるブースターを取り付けた無茶苦茶な設計思想で開発された高性能なガラクタ。

 

 使い勝手が悪いという欠点により採用されなかったが、しかしこれは一夏にとって都合がよかった。

 

 もともと織斑一夏は複数のことをこなせるような器用なタイプではない。一つのことを極めて一点特化で強くなるタイプだ。

 

 そしてISに長くかかわるわけにはいかない立場である以上、正道で強くなる必要はない。一つの特殊な武装を使いこなして力量を高める方が向いている。

 

 何より、織斑一夏は剣士なのだ。それも、小手先で勝負するのではなく剛剣で叩き切るパワータイプ。

 

 そんな一夏が破壊力重視のブレードを振るえば、一撃で全てを叩き切る。

 

 故にそうする。ゆえにそうなった。

 

「なんだと!?」

 

 一撃でプラズマ手刀は弾き飛ばされ、それどころか発振機が衝撃で損傷する。

 

 これで片腕の出力は半減。最初の流れは一夏へと傾いた。

 

「このままたたみかける!!」

 

 戦闘とは、流れをつかんだ方が優位になる。

 

 それを知っているからこそ一夏はさらにたたみかけようと突撃を駆ける。

 

 その視界に、黒の砲口が大きく映った。

 

 条件反射レベルで身をひねるのと、レールガンが火を吹くのはほぼ同時。

 

 さらにそのすきをついて一夏と不知火を搦め手とるように、ワイヤーブレードがアリーナを駆ける。

 

 流れを一瞬で切り返し、ラウラが戦場の流れを奪い取る。

 

 戦闘は、早くも激しさを増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・驚いたよ。まさかお前があんな邪道に手を染めるとわな』

 

「・・・こんなところで個人回線とは驚きですね」

 

 一夏とラウラの攻防激しく入れ替わる戦いを観戦しながら、レヴィアは千冬の言葉に返答する。

 

 既にこの戦闘は自分では介入できない高速戦闘へと切り替わっていた。

 

 もし自分があの戦闘に入ったとしても、ワイヤーブレードにぶつかって足を引っ張るしかない。

 

 自分の実力を知っているからこそのあの博打であり、その程度の実力でしかISを動かせないのをレヴィアは自分でわかっていた。

 

『あまり自分が選ばれた者だと誤解させては困る。・・・あとで生徒全員に対してフォローを入れてもらいたいところだが?』

 

「それは断ります」

 

 レヴィアは千冬の言葉を切って捨てた。

 

 ああ、その流れは確かに予想していた。

 

 先日のことだ。ラウラは千冬に教師を辞めてドイツの共同をしてくれと懇願したそうだ。

 

 その際、IS学園の現状に対する不満を理由とし、千冬に切って捨てられたらしい。

 

―少し見ない間ににずいぶんと偉くなったな。たかが十五歳で、もう選ばれた人間気どりか?―

 

 ・・・レヴィアは潜入させていた工作員にこの通信を開放回線へと変更させながら、レヴィアは気合を入れ直す。

 

 このスタンスだけは崩せない。そしてそれゆえに今の彼女を否定する。そしてそれはIS学園全体に広めなければならない。

 

「つい先日ラウラちゃんにあなたが言った言葉を否定させましょう。・・・十五だろうと何だろうと、選ばれた者として自覚を持つのがIS学園生(僕ら)の義務でしょう」

 

『なんだと?』

 

 かつて男尊女卑社会ができた理由の一つが、男が女を守る者という流れが生まれたからである。

 

 武家社会に置いて武士が上流階級として行動して武士道が生まれたように、まず責務があってその後で特権がある。

 

 貴族社会における高貴なるものの責務(ノブレス・オブリージュ)がいい例だろう。

 

 そして、レヴィアはそれを全面的に肯定している。

 

「パワーバランスの元であり、世界の中心に立っているISというのは間違いなく特権です。そしてその責任も非常に重い」

 

 それは権利を得る者が一番最初に学ばねばならないことだ。少なくともレヴィアはそう思う。

 

 責任を果たすことは絶対条件だ。全てはそこから先にある。

 

「それを一番最初に伝えるのが、教育者としての責任でしょう」

 

 ゆえに、レヴィアは千冬を認められない。

 

『バカげたことを。彼女たちは確かにISを乗れる立場かもしれないが、それ以前に1人の少女たちだ。・・・貴様はそれを理解してないのか?』

 

「優先順位があると言っているんですよ。・・・特権階級はまず責任を果たして、その報酬として権利を持たねばならない。『ただの少女』じゃなくなっているでしょう、入学した時点で」

 

 IS乗りに責任があるとするならば、それは時代のパワーバランスをになうものとして責任を担うこと。

 

 それほどISとは最強の象徴であり、女性優位社会の象徴なのだ。

 

 その風潮を生んでいる物を使っているという自覚がなければ、彼らは権利だけをとって醜くなる。

 

「己の義務すら果たせないくせして権利だけを得ようとする者の天敵であれ。それが僕が自分に課した役目です」

 

 かつての魔王の血筋がそれだ。

 

 戦闘能力に置いても政治能力に置いても現魔王に比べて見劣りする癖に、まるで自分たちこそ上であるかのように考える。そしてそれを子供たちにまで伝えようとする。

 

 それを醜く感じた時、レヴィアは彼らと決別することを決意した。

 

 わずか12歳の時に賛同者と共に行動し、あのおろか者達が持っている宝物を奪い取って現政権へと亡命した。

 

 結果として賛同者全ての命を引き換えに、その亡命は成功した。

 

 だが、彼女はその意味を理解していなかった。

 

 自分には義務を遂行する能力など無かったのに、それ以上の権利が舞い降り、さらにそれにすがる哀れな迷走者達を迎え入れなければならなかった。

 

 その不満のはけ口を求めて行動し、その結果二人の哀れな犠牲者を生んだのは未だ鮮明に覚えている。

 

「世界最強のIS乗りの称号の責務を理解せず、その義務を果たさなかったから、あなたは自分の名誉を捨てることになった。・・・僕は常にそう思っています。そう思わなければいけない立場だ」

 

『・・・なんだと?』

 

 通信に威圧感があふれだす。

 

『バカげたことを言う。・・・世界最強、ヴァルキリー、ブリュンヒルデ。そんな称号に天狗になった結果がアレだよ。ただおごり高ぶった馬鹿がそのツケを大事なものに追わせてしまっただけだ』

 

 ああ、それは彼女にとってはそうなのだろう。

 

「別に否定はしませんよ。他人の考えを全て全否定するだなんて現代の風潮に合わないしナンセンスだ」

 

 栄誉を得ようともそれで守るべきものを傷つけては意味がない。それは確かに正しいだろう。

 

 だが、それはレヴィア・聖羅の在り方ではない。

 

「・・・だがそれを、『ブリュンヒルデ』という影響力を自覚せずに危機意識を持たなかったツケだと考えるのが僕という存在なんですよ」

 

 だから全否定はしないが肯定もしない。

 

「人は立場にあった責任をまず果たすのが第一で、それが嫌ならそこから逃げるのが当然。そして物事を通すなら道理を可能な限り守るべき。その二つができなかったが故に後悔した僕は、そうあるために努力するだけです」

 

 だから、そうした。

 

 その結果が今の一騎打ちだ。

 

「だから僕は謝りもしませんし撤回もしません。IS学園生徒にISを動かすものとしての責務を自覚し遂行させるために常に行動します」

 

 だから彼女と組むのは好都合だ。

 

 ともに今のIS学園に不満があるのだ。むしろこうなるのは必然だろう。運命という言葉を信じたくもある。

 

「・・・そして、悪いが一夏君はそんな僕の側の者でなければいけませんよ?」

 

 その視界の先で、不知火の脚部にワイヤーブレードが撒きついた。

 

 こう着状態に陥っていた試合が、ついに動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワイヤーブレードが巻きついた瞬間、一夏は賭けに出ることを決意した。

 

 もとより相手の方が格上で、さらに基本的に隙がないのだ。

 

 ペースをつかめなかった以上そうするしかない。そうでもしなければ意地も示せない。

 

 だからそうした。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

「なんだと!?」

 

 ワイヤーブレードをむしろ引き寄せるように足を振り回し、振り回される前に逆にこっちから引き寄せる。

 

 もとよりパッケージすら付けられない仕様にすることで基本性能の上昇に特化したこの機体。全方面に対して対応できるが故にパワーで劣るシュヴァルツェア・レーゲンでは対応できなかった。

 

 さらにその勢いを利用して鎌居達が振るわれるが、しかしラウラはそれを素早くかわす。

 

 あのブレードの危険性は既に身にしみて認識していた。それゆえに回避が間にあった。

 

 ・・・それが罠であることも気づかずに。

 

「ああ・・・」

 

 不知火の左腕がレーゲンの脚部をつかむ。

 

 強引な回避を行ったが故、ラウラには一瞬の隙ができた。それゆえにこのような行動をとることができ、

 

「この瞬間を待っていたぁあああああ!!」

 

 そのまま加速した一夏は、ラウラをアリーナのシールドに叩きつけた。

 

 ラウラという弾丸から観客を守るために、アリーナのシールドは最大出力で黒いISを排除しようとする。

 

 その莫大なエネルギーの奔流が、レーゲンのシールドエネルギーを高速で削り取っていく。

 

 最初のつかみでダメージをあたえ、しかしそこからはIS操縦者としての地力で押し返され続けていた。

 

 それを超えるためには、ISだけでない何かが必要だった。

 

 そして一夏は、それをアリーナのシールドに求めた。

 

 勝利の要素の一つに地の利というものがある。

 

 地形に合わせた戦術を組み立て、有利な地形から攻撃したものが勝利するというこの考え方は、つまり戦場を活かしたものが勝つということである。

 

 強力なシールドがあるという地を活かして利用した一課が、戦局を大きく傾けることは自明の理だった。

 

「な・・・めるなぁああああ!!」

 

 だが、その道理を超えてこそ第三世代。

 

 これまでのISが偶発的要素が無ければなしえなかった特殊能力を初期段階から発揮することこそがレーゲンを含めた新世代機の真骨頂。

 

 シールドに叩きつけていた不知火の動きが、明確に止まる。

 

 AIC。アクティヴイナーシャルキャンセラーと呼ばれ、停止結界と呼称されることもある捕縛機構が、一夏を空中に張り付けにした。

 

「これで終わりだ、織斑一夏」

 

 想像以上にダメージを負ったことで鬼気迫る表情になったラウラが、レールガンの砲身を突きつける。

 

「教官の栄光を汚した貴様に、ここまでやられるとは思わなかったぞ」

 

「ああ、そうだな」

 

 その言葉を一夏は否定しない。

 

 例え誰が何と言おうと、織斑一夏は織斑千冬の名誉を傷つけ、五反田蘭を苦しめた。

 

 確かに、誘拐したものが一番悪いといえばいいのだろう。だが、それをむざむざくらってしまったのは一夏の弱さでしかない。

 

 そして・・・。

 

「だからさ、負けられないんだよ」

 

「・・・なんだと?」

 

 それゆえに力を求めた。

 

「こんなところで負けたら、織斑千冬が名誉を捨ててまで助けた織斑一夏が、結局その価値も無かったって証明しちまうじゃねえか」

 

 一呼吸をし、そして告げる。

 

「一度失敗しちまって、それで終わるしかなかった俺は、だけどやり直すチャンスをアイツにもらったんだ」

 

 織斑一夏にとって、レヴィア・聖羅は恩人だ。

 

 彼女が手を差し伸べてくれなければ、自分は再起することすらできなかった。

 

 ・・・そんなチャンスを与えられておきながら、ただ自分の所業を悔やむことしかしない?

 

 それは馬鹿のやることだろう。

 

「だから俺はここで勝って証明する。織斑一夏は千冬姉に迷惑をかけた分だけ成果を出す。それだけの価値がある存在だって証明する!!」

 

 だから、最後の策を叩きつける。

 

「ふざけるなよ・・・」

 

 ラウラの表情はもはや鬼のそれだ。

 

「私を負かすだと?」

 

 今の言葉により、彼女の限界は突破しかけていた。

 

「あの方に力を授けられ、それによって高みへとたった私が、あの方の栄光を奪い取った貴様に負けるだと? あの人から与えられたたったひとつの栄光を、貴様が奪うだと?」

 

 ワイヤーブレードが射出され、プラズマ手刀が展開される。

 

「私のたった一つの栄光を、貴様ごときに汚されるものかぁああああ!!」

 

 レールガンで撃ち滅ぼすなど生ぬるい。この男は考えられる全ての手段でボロ雑巾へと変えてやる。

 

 その思いがひしひしと伝わり、一夏は―

 

「オイふざけんなよ」

 

 ここで初めて、自分自身の矜持以外の戦う理由を彼女に向けた。

 

 それは、怒りだ。

 

「千冬姉が与えた栄光が力? 違うだろうがふざけんなよ!? それは千冬姉に対する侮辱だろうがっ!!」

 

 言葉と共に解放した。攻撃が放たれるタイミングで解放した。

 

 良いだろう見せてやろうラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 織斑千冬が与えてくれるのは、力だなんてただの暴力じゃ断じてないと。

 

 直後、スラスターが暴発した。

 

 限界を超えかねないほどのGが、ISの搭乗者保護機能を超えて自分にかかる。

 

 それだけの推力を以ってして、強引に停止結界を突き破った。

 

 不知火のスラスターを暴走させることによる莫大な推力の発生。

 

 織斑一夏は猪武者であり、最新技術の塊であるAICの対策など考えられない。

 

 そしてシャルルの協力を以ってしても、そもそも原理ゆえに下手な穴が存在しないこの技術の対策は立てられなかった。

 

 ゆえにこの力技による強引な解決策しか思いつかなかった。

 

 だが、それは強引な力技であるが故に、最新技術の塊である第三世代武装の対策として想定されていなかった。

 

 ゆえに、この成功は当然であり、

 

「喰らえぇえええええええ!!」

 

 鎌居達によるカウンターが、ラウラに直撃した。

 




自分の頭では、AICに対抗する手段がこれしか思いつかなかった・・・。

もう少しスマートな方法が思いつければよかったんですが、そう上手くはいきません。


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第九話 頼む皆。力を貸してくれ!!

VS VTシステム編


 

 

(馬鹿な・・・負けるのか?)

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒはこの瞬間に絶望した。

 

 思えば、彼女にとってIS学園の入学とは試練でしかなかっただろう。

 

 ただの生体兵器として生を受けた。

 

 ヴォーダン・オージェという最新技術を使用され、それが失敗して欠陥品になった。

 

 織斑千冬の指導を受け、その欠陥を補って余りあるほどの成果と立場を得た。

 

 そして、織斑一夏というイレギュラーにより、そのあおりを受けてこの学園へとやってきていた。

 

 既に習熟の域に到達しているISに対する初歩的な知識を、よりにも寄ってファッション感覚でISに触れる者たちと共に学ぶ。

 

 これだけでも莫大なストレスがかかるというのに、クラスメイトはあの織斑一夏だ。

 

 尊敬する織斑千冬の栄光に泥を塗った失態を起こした男に、今まさにラウラは負けそうになっていた。

 

 ・・・彼女にとって不幸なことは、レヴィア・聖羅がある程度彼女にとって理解者になっていたことだろう。

 

 織斑一夏に対する認識でこそ相いれなかったが、共に生徒の在り方に不満を持っていた彼女との会話は、ささくれだっていたラウラにとって救いともいえた。

 

 自分の行動を指導し、しかし全否定しなかった彼女を、すでにラウラは味方とすら思っていた。

 

 己《おの》が成果を持って生徒たちの意識改革を促そうとするなど見上げた根性だと内心では手放しに称賛したぐらいだ。タッグマッチのパートナーが彼女でよかったと心底そう思った。

 

 しかし、彼女はどこまでも一夏の味方だった。

 

 その反動はまさに高みから突き落とされたそれであり、それゆえに彼女の心に深い動揺を与えていた。

 

 そして、その彼女の期待通りに一夏は自分を超えようとしている。

 

 おそらく次の試合には出れないほどの損傷を受けているだろうが、しかし次の瞬間シールドエネルギーがゼロになるのはラウラの方だ。

 

 一対一という卑怯な逃げ道が存在しない状態での敗北。

 

 そんな物にラウラは耐えられなかった。

 

 絶体絶命の状況下を力を与えられることで救われたラウラにとって、戦闘能力とはすなわち全てだった。

 

 かつて、織斑千冬はラウラに行った。

 

 強さとは攻撃力のことではないと。

 

 その言葉を聞きながら、しかしラウラにとってそれは同じものでしかなかった。

 

 そしてそれだけが彼女を支える根幹であった。

 

―精神状態、設定値に到達―

 

 力さえあれば、織斑一夏を倒せる。

 

 力さえあれば、私はいつか織斑千冬になれる。

 

 力さえあれば、失敗作として処分されることはない。

 

 そう、力さえあれば・・・っ!!

 

(力が・・・力が欲しい!!)

 

 ・・・ここに一つの致命的な誤算があった。

 

 その願いに答える者は、決して一つではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その変化は唐突だった。

 

『―――ぁあああああああああああああああっ!!』

 

 全身から紫電が放たれ、そしてシュヴァルツェア・レーゲンの形状が変化する。

 

 全身の装甲がまるで液体のように形状を変化し、ラウラを取り込んで変化していく。

 

 そして、紫電がその両腕を纏うような形状をとると、指向性を持って不知火を弾き飛ばす。

 

「―ガッ!?」

 

 既に相応に損傷を受けていた不知火が、その一撃でシールドエネルギーをゼロに減らしISが解除される。

 

 そして一夏は弾き飛ばされながら、それを見た。

 

 ・・・漆黒に染まった戦乙女。それが目の前の敵の形状だった。

 

 そして、その手に持つのはIS最強の代名詞である織斑千冬の代名詞。

 

「雪平・・・!」

 

 かつてモンド・グロッソで頂点に到達した、織斑千冬と暮桜の組み合わせを象徴したIS用ブレード。それと瓜二つの武装が今ここに存在した。

 

 そして、そこに紫電がからみつくと、極大なエネルギーブレードとなって一夏に振り下ろされた。

 

 ・・・その姿は、まるで幽鬼のごとく織斑千冬の影だった。

 

「ふ・・・っざけんなぁああああ!!」

 

 戸惑いとそれ以上の強大な怒りを込めて、一夏はそれに向かって行った。

 

 存在全てを否定するために、一夏は殴りかかる。

 

 『アリーナのシールドを足場にする』という人外の所業をしてしまうが、そんなことは既に意識の外側にあった。

 

 思い返すのは織斑千冬に剣を教わったその時のこと。

 

 刀に振られるのではなく刀を振るうことを教わった。

 

 刀の・・・人の命を絶つことの重さを教わった。

 

 それをふるうということの意味を、それこそが強さだということを教わった。

 

 それを、『織斑千冬』の剣を汚したこの存在は許さない。

 

 莫大な雷も漆黒の異形も意識の外側に追いやり、ただ一夏は叩きつぶそうと己が刃を呼び出そうとした。

 

「・・・一夏君!!」

 

 その一夏を、強引にレヴィアがかっさらった。

 

 ラファール・リヴァイブと増設されたスラスターが強引に一夏を引き離して距離をとる。

 

 その直後、荷電粒子とレーザーの嵐が黒の異形に襲いかかった。

 

「レヴィア!!」

 

「一夏さん!!」

 

 アリーナの端から、簪とセシリアがISを展開して駆けつける。

 

 レヴィアもシャルルをかばうことを考えてすぐに降り立ち、二人もそこに合流した。

 

 だが、織斑一夏にそんなことは関係ない。

 

 何故邪魔をするすぐにどけ。そうでなければあの偽物を叩き潰せないだろうが。

 

「くそっ!! 離せ、離せっつってんだろ!!」

 

 完全に激情に呑まれた一夏は周りなど最初から感情に入れない。

 

 ゆえにあの異形を屠るために今度こそ自分の真の刃を引き出そうとし。

 

「・・・いいから落ち着きたまえ!!」

 

 ・・・レヴィアにISで殴り飛ばされた。

 

 ISのパワーアシストを全力で使い、しかもスラスターを見事に吹かして速度をはるかに上昇させた振り下ろしが、一夏の頭頂部を叩きのめす。

 

 完膚なきまでの見事なJOLTブロー。ISボクシングという競技があれば、間違いなく解説は絶賛するだろう。

 

 比喩ではなく事実として、一夏の頭部が地面にめり込んだ。

 

「きゃぁあああ一夏さぁあああん!?」

 

「一夏!? ちょ、レヴィア何やってるの!?」

 

「れ、レヴィアやりすぎ! ・・・一夏、生きてる?」

 

 絶叫するセシリアに避難するシャルルに心配する簪。

 

 だが、レヴィアはどこ吹く風だった。

 

 当然だ。ISのパワー『ごとき』でどうにかなるほど、織斑一夏はやわではない。

 

 ゆえに意識することなくそのままレヴィアは説教に入る。

 

「一夏君? 『人間』がISに叶わないのは知ってるだろう? そんな全世界同時一斉報道できるような超人級の偉業を成し遂げられるの君は?」

 

 額に青筋を立てるほどのレヴィアの説教に、殴られた衝撃も合わさってとはいえ一夏はようやく冷静になった。

 

 いわれてみればその通りだ。

 

 ただの人間にISは生身で打倒することはできない。

 

 そんなことができればそれこそ世界は注目するし、その原理を知ろうと躍起になるはずだ。

 

 そんなことになれば世界に与える影響は男性操縦者どころではないし、レヴィアでもかばいきれないどころか、そのせいで余計な大騒ぎを生むことになる。

 

 ・・・下手をすれば世界を巻き込んだ大惨事を生みだしかねない。

 

 旧魔王の眷属悪魔とはそういう存在だった。

 

 あわや大量の死人を生みだす一歩手前だったことに気付き、一夏は肝を冷やして顔を青ざめさせた。

 

 レヴィアは間一髪かっさらわなければ剣を良空間から引き抜くという超常現象を行うところだった。

 

「わ、悪いレヴィア・・・」

 

「何をそんなに怒り狂ってるんだ一夏君。・・・無茶をする時はちゃんと理由を納得させてから、だよ?」

 

 黒のISは迎撃行動だけをとるつもりなのか、紫電を辺りにまきちらすだけで自分からは動こうとしない。

 

 それをハイパーセンサーで感知しているからか、レヴィアは苦笑を浮かべる余裕すらあった。

 

「あれは・・・千冬姉の剣だ」

 

 ぽつりと、一夏はつぶやく。

 

「剣って言うのはその人1人1人の物なんだ。だから、形だけ奪い取ってあんなふうに使うような奴は許せない」

 

 握った拳が震えだすのがわかる。

 

 ああ、織斑千冬の剣は真実織斑千冬の物だからこそ意味がある。

 

 確かに剣術といわずあらゆるものを人類は模倣してきただろう。

 

 だが、技術とは己の物にしてこそ真の意味がある者だ。

 

 あんなふざけたサルまね以下のデッドコピー、決して認めていいわけがない。

 

「あれは俺が倒す。・・・俺が倒したい。それをしなかったら織斑一夏はきっと終わるんだ」

 

 すでに教師部隊がISを纏って現れ、異形のISを囲み始めている。

 

 このままいけばどちらにしてもアレは鎮圧されるだろうが、それを見過ごすわけにはいかない。

 

 織斑千冬を汚したアレを、織斑一夏が倒さないでどうするというのだ。

 

 断じて他の誰にもくれてやるものか。せめて織斑千冬自ら動くならともかく、それ以外の存在にその役目は譲れない。

 

「・・・でもエネルギー切れはどうしようもないよ。生身でどうやって勝つのさ?」

 

 シャルルが冷たいが当然の一言を返した。

 

 そう、それが問題なのだ。

 

 別に、地上接近戦に持ち込める今の戦局ならば生身の一夏でも勝算はある。

 

 だが、それをやると大問題でそれ以上に被害が将来的に見込めるのだ。

 

 さすがにこの状況下でジャミングやスモークをたいても意味がない。織斑一夏が生身で倒してしまえば、せっかく謎の武装集団によって価値が下がり問題が減った一夏の立場が再上昇して国際問題以上の大惨事につながる。

 

「・・・一夏君。問題というのは、その対処をする組織があるのならそこに対処を頼むのが道理だ」

 

 だから、冷徹にレヴィアは断言する。

 

「専門家というのはそれに対する正しい判断を取りやすくそのための職業だから専門家だ。その専門家の力を借りれるのに借りず、勝手に動けば大惨事を生みかねないのは、君が身を持って知っているだろう?」

 

 苦い表情を浮かべながら、レヴィアはそう一夏を諭す。

 

 その表情は真実あの事件の時に浮かべていたものと瓜二つで、だからこそ、レヴィアの前でそれをするということができないのを一夏は痛感した。

 

 別に、あれが間違っているなどと思ってない。

 

 思っていないが、それを言えばレヴィアは真実心から痛みを背負ってしまうのだ。

 

 敬愛する主に対してそんなことはできず、しかし親愛の姉を穢すあの異形を他に任せるわけにもいかない。

 

 二律相反に一夏が震えようとしたその時、その体をそっと包み込む物があった。

 

 レヴィアに抱きしめられたと気付くのには、一瞬の間が必要だった。

 

「・・・だから、そういうときはどうすればいいか教えただろう? 無理をとうしたいときはまずどうするって言ったっけ?」

 

 その声には心底愛情が込められていて、そして一夏は大切なことを思い出した。

 

―一二人とも、わがままをする時はちゃんと頭を下げて人にお願いするんだ。内容に理があれば僕はちゃんと応えるからね?

 

―いいかい? 何かあった時はまず専門家に相談。そして自己判断はそれが間にあわない時にするよう徹底するように。じゃないと僕のような失敗をするよ?

 

 ・・・ああ、この王《人》は本当に眷属に甘い。

 

 だが、今はその甘さに頼らなければならない。

 

「・・・頼む皆。力を貸してくれ!!」

 

 一夏は頭を下げた。

 

 どうしても認められないことをするために、我慢できる苦痛は受け入れる。

 

 この借りは成果を示すことで払しょくしよう。だから力を貸してくれ。

 

「・・・あのまがいものを叩き潰すために、俺に足りない物を貸してくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『と、いうわけで生徒会長。政治的な取引をしましょう。・・・僕が死蔵している宝物一つでいかがかい?』

 

『安心していいわ。更識としてはあなたと一夏君に任せたいと思ってたもの。少しだけ時間を稼ぐし学園上層部に弁護させるから行ってきなさい』

 

『正気ですか? いや、ただで済むならそれに越したことはないんですが』

 

『・・・万が一に備えて呼んでいた異形関係者の一人がデータを取ったわ。あのバケモノには神器の反応がある』

 

『・・・やけにエネルギーを無駄撃ちすると思ったらそういうことですか。紫色の雷撃ということは、やはり雷撃攻撃系神器の紫電の双手(ライトニング・シェイク)ですか?』

 

『気づいていたのね。・・・それもあのISの暴走と連動したのか擬似的な禁手(バランス・ブレイカー)になって手大変なのよ。・・・ぶっちゃけ、ただのISじゃあ荷が重いわ』

 

『一夏君に専門家云々行ってたけど、まさか僕らこそが専門家だとは。じゃあ、僕らで対処できなかったら会長が?』

 

『そういうこと♪ だから余計な仕事を増やさないでくれると先輩嬉しいかな♪』

 

『了解しました。可愛い眷属に期待します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園教師部隊は、一瞬の間時間が制止した。

 

 学園上層部からの緊急連絡により、一時的に行動に待ったがかけられたのだ。

 

 そしてそのすきをついて、動く影が合計三つ・・・否、無数。

 

「行きますわよ!!」

 

「行って・・・山嵐・朧!!」

 

 ブルー・ティアーズのビットが射出され、さらに打鉄弐式が無数のミサイルを放つ。

 

 それに対して異形が迎撃のために雷撃を放ち、しかしそれらは空を切る。

 

 ビットは遠隔操作するので当然といえば当然だが、しかしミサイルはどういうことか。

 

 その原理はレヴィアの発案によるものだ。

 

 打鉄弐式の第三世代武装、山嵐。

 

 第三世代技術はマルチロックオンシステム。それによって放出される、最大48の独立型誘導ミサイルの群れこそが真骨頂。

 

 だが開発の遅れでマルチロックオンシステムは使えないし、そもそもカウンターで放たれた迎撃を交わすなど不可能。

 

 それこそが、レヴィアの考えた奇跡の策。

 

 ・・・複数の稼働パターンをあらかじめ組み込んでおき、リアルタイムで行動をプログラミング入力することで自在にミサイルの群れを操作する。

 

 簪の演算能力や情報処理能力を最大限に生かすために考えた、ミサイルそのものの遠隔操作こそが、レヴィアが設計思想を起こした新機軸システム、山嵐・朧。

 

 一度のプログラミング入力で複数のミサイルをグループ化して駆動させるなどの簡略化を行い。発動中は本体の機動ができないという欠点を呑んだ。そして制御システムを向上するためにロックできるのは一体が限度。

 

 しかし完成したのはブルー・ティアーズを超える新たなるオールレンジ攻撃。しかも撃墜するための行動を回避するというカウンター封じの必殺攻撃。

 

 それらミサイルが全弾、偽の雪平に着弾し地面にたたきつける。同時にビットが異形の脚部を打ちぬき移動を封じる。

 

「行ってください!!」

 

「レヴィアの策よ・・・無駄にしないで!!」

 

 二機による圧倒的数の攻撃を叩きこんだ二人は、しかしとどめを仲間に託す。

 

 行動を封じられた異形にせまるのは、白い一機の第一世代。

 

「行くんだ、一夏君!!」

 

「相当ムチャしたんだから、勝たないと怒るよ!!」

 

 レヴィアとシャルルの激励をうけ、再び顕現した不知火を纏った一夏は無言で異形にきりかかる。

 

 コア・バイパスによるラファール・リヴァイブからのシールドエネルギーの移動。それこそが、一夏に勝利を届けるレヴィアのもう一つの策。

 

 本来なら不可能であったが、デュノア社の直属であるが故に知識が豊富だったシャルルと、そもそもイレギュラーに対する状況対処を中心に学んでいたレヴィアだからこそエネルギーを供給できた。

 

―敵が擬似禁手化している以上、いくらなんでも正攻法は駄目だ。だからちゃんと仲間の支援を受けて袋叩きにしようね。

 

 レヴィアに念話で通達された時は正直コレは無理じゃないかと思ったが、しかしその対策はちゃんとしてくれていた。

 

 一夏は託してくれた仲間と信頼できる主に感謝し、その剣を構える。

 

 そして、これが最後の策。

 

 ・・・悪魔の力によって強化された、魔剣化した鎌居達。

 

 前回の襲撃を反省し、非常事態に置いて攻撃力を圧倒的に高めるために用意された緊急事態専用の特殊武装。

 

 その攻撃力は既存のIS用武装の中でも最上級に達し、ISに対する攻撃ならば、かの織斑千冬の単一仕様能力『零落白夜』に次ぐであろう最終兵器。

 

 その使用許可こそが、この難行をクリアするための最終手段。

 

 レヴィアが策をたて、シャルルが協力し、セシリアと簪が繋げてくれた。

 

 この勝機、つかんで見せねば男ではなかった。

 

「行くぜガラクタ!」

 

 一夏の声に反応し、しかし異形は衝撃によって刃を振るえない。ゆえに紫電のみを放って迎撃とする。

 

 それは非常時ゆえに最善の策であり、しかしそんなもので一夏は倒せなかった。

 

 一夏が鎌居達を一振りするだけで、紫電はやすやすを吹き飛ばされる。

 

 ・・・神器とは、想いの力で駆動する。

 

 人の想いを確かな形に帰る神様からの贈り物が神器であり、ゆえに想いが込められていない物に、科学と異形の融合であるこの鎌居達が負ける道理は存在しない。

 

 そして、たとえ剣をふるわれたとしても一夏は負ける気がしなかった。

 

 想いがあってこその剣術。それを持たぬ物に想いをもつ剣術かが負ける道理などそれこそ存在しない。

 

「俺の・・・勝ちだぁあああああっ!!」

 

 ・・・正真正銘の一刀両断。

 

 科学と神秘の融合した異形は、科学と神秘と信頼に裏打ちされた一閃に、膝を屈した。

 

 そのまま異形は形を失い。ラウラを解放する。

 

 ・・・その視線が、合わさった。

 

 あまりにも弱り切った。泣いている子供のような金色の瞳を一夏は目にしてしまった。

 

 それは守れることにこだわる一夏にとって倒す存在ではなく、だからつい受け止めてしまって。

 

「・・・今日の勝負は水入りだな。また今度、今度は模擬戦で勝負しようぜ?」

 

 ついそんな分かった風な口を聞いてしまった。

 




なんだかんだで下僕のわがままを聞いてしまうレヴィアは甘めの王様です。




ラウラの神器の再使用はかなり後になる予定です。

そして山嵐・朧は原作で簪がやったあの荒業を正式なシステムとして再設計した物。いろいろと改良されていますので今後も使う予定です。


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第十話 お前のことも守ってやるよ

 

 

 VTシステム。

 

 正式名称Valkyrie Trace System。

 

 最強のIS乗りを求めた結果、最強を模倣することを考えて作られた最先端の模倣技術の結晶。

 

 ISの操縦補佐システムであり、モンド・グロッソ各部門の頂点に立つヴァルキリーの行動を模倣するために開発されたそのシステムは、しかし危険性が高く本来は開発が停止された者だ。

 

 つまり完璧な違法品であり、そんなものを使えば国際社会に非難されることは当然である。

 

 そんなものをよりにもよってIS学園に送り込んだドイツ政府にはアラスカ条約加盟国による共同捜査が入ることになる。

 

 とはいえ、欧州の今後に深くかかわるドイツの第三世代機に違法システムが使われていたという事態は非常に重い。下手をすれば複数の国家を巻き込んだ金融恐慌を生みだしかねなかった。

 

 それゆえに、各国政府はあくまでこの事件をシュヴァルツェア・レーゲンの暴走ということにして、裏取引でドイツをフルボッコにすることとなるが、それは学生達には関係なかった。

 

 この騒ぎによってトーナメントは中止となり、とりあえずデータ取りのために一回戦だけすることとなる。

 

 レヴィアによって奮起した一般生徒の努力と、結局織斑千冬による説教だけは逃れきれなかった代表候補生の精神的疲労が重なった結果、代表候補生との戦いは一年生とは思えない接戦となり、意外と専門家からの評価も高かった。

 

 そして専用機持ちの代表候補生を秒殺したレヴィアには各IS関係者からスカウトがひっきりなしに持ちあがったが、彼女の立場を考慮した各種異形関係者がそれに関わる政府高官の協力による圧力によりそれらはすべて立ち消えとなった。

 

 結果、目立ち過ぎてレヴィアは各国政府の要望を受けた魔王直々に説教を喰らうこととなり、数日の間始末書に忙殺されることになるが、それはまた別の話。

 

 また数年後、彼女たちは大きな変革を余儀なくされたIS業界に置いて実力者を多数生みだし、豊作の世代とすら評価されることになるが、それもまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力とは、いったい何なのだろうか。

 

 少なくとも、ラウラ・ボーデヴィッヒにとってそれは強大な力だった。

 

 だが、教官はそれは強さではないという。

 

 それはどういうことなのだろうか?

 

―お前は、それがわかるのか?

 

―分かるわけないだろ。俺はそんなにすごくねぇよ

 

 どこかもわからない空間で、ラウラと一夏は互いの意識と共感し合っていた。

 

 クロッシングアクセスという現象がISにはあるとされているが、それは二人とも気付かない。というか一夏は分からない。

 

 ただ、お互いがちゃんと腹を割って話し合っているのは分かっていた。

 

―だがお前は強い。なら強さを分かっているんじゃないのか?

 

―俺が強い? 馬鹿言うなよ。俺は完璧弱い奴の側だって

 

 その言葉は信じられない。

 

 ドイツ軍IS部隊隊長である自分を倒しておきながら、それを弱いなどというのはもはやドイツに対して喧嘩を売っているに等しい。

 

 そもそも自分は中国とイギリスの代表候補生相手に渡り合ったのだ。よくわからない事態で最終的にレヴィアに救われたが、しかし途中まではやり合った。つまり自分に勝った一夏は二人を合わせたよりも強いということになる。

 

―あ、あれはノーカンにしとけ。鈴はものすごい反則技使ったからな。いや、説明はできないけど。

 

 そう前置きしてから、一夏はさらに続ける。

 

―話を戻すけど、俺は本当に弱いよ。少なくとも、俺なんか足元にも及ばない強い奴ってのは本当に多い。単純な戦闘能力で次元違いの奴なんてごろごろいる。

 

 見えているわけではないが、どうにも冷や汗をかいている風に思えた。

 

 この男がそこまで震える相手がいるとは、どういうことなのだろうか?

 

―だけど、強さって言うのはそういう戦闘能力が強いってことじゃねえと思うぜ?

 

―同じようなことを教官も言っていたが、どういうことだ?

 

―俺だってわかんねえよ。だけど、俺が本当に強いって思える奴は、戦闘能力だけじゃなくて、心の在りかたってのがちゃんとしっかりあると思うんだ。

 

 その言葉に思い出すのはレヴィアの姿だ。

 

 確かに彼女は強い。確固たる信念をもって、それを実証するすごさもあった。

 

―思い出したか? たぶんだけどさ、それが本当の強さだって思うぜ?

 

 口調から、なにか笑顔のようなものがあふれているのをラウラは感じる。

 

 自分が彼女に何かを感じたように、この男も彼女に思うところがあるのだろうか。

 

―そう、俺はレヴィアや千冬姉に比べればどこまでも弱い。

 

 話がまたそこに戻った。

 

―だから俺は守られてる。・・・どこまでも守られてて、そのほんの少しも俺は守り返せていないんだ。

 

―守る・・・?

 

―ああ、俺は守られるんじゃなくて守りたいんだ。

 

 その言葉は今までで一番何かがあって、同時にそれが手に入らない悔しさに満ち溢れていた。

 

―昔の人類が男尊女卑だったのは、男が女をきっちり守ってたからだってレヴィアは言ってた。なんか古い考え方だけど、俺が望んでいるのはそういうことなんだって思う。

 

 照れくさそうにそういい、そして・・・

 

 合うはずもないのに、視線があった。

 

―もしそれができるようになったら、お前のことも守ってやるよ。

 

 ・・・そういえば、教官がこんなことを言っていたのを思い出した。

 

 一夏に油断しない方がいいと、戦闘とは違う意味でそんなことを言っていた。

 

 ああ、それは・・・。

 

―そうか、それは・・・ありがたいな

 

 きっとこういうことなのだろう。

 

 ああ、敬愛する教官の注意を聞いておきながら見事にその通りにくらってしまった。

 

 確かに、自分はまだまだ弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞こえるかクラリッサ。ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ」

 

『如何しましたか、隊長?』

 

 意識を取り戻し、千冬から見舞われて事情を聞いた後、ラウラは秘匿回線で副官を呼び出した。

 

『本日はIS学園でトーナメントを行っていたそうですが、優勝のご報告でしょうか?』

 

 固いクラリッサの声が聞こえる。

 

 ラウラ本人は気にも留めていなかったが、子どもとしか言えない年齢で高圧的な態度を行い、千冬以外をみ下している節がある彼女は部隊内でも好まれてはいない。

 

 しかしそれでも実力は認めているので、尋ねる内容がそうなるのはおかしくなかった。

 

「いや、大会自体は一回戦のみで中止になったのだが、私は敗北したよ」

 

『・・・失礼します。通信の調子が不調なようなので聞き間違えました。・・・一回戦敗北ですって?』

 

 だから、そんなことを言われても信じられない。

 

「ああ、見事に失態をさらしてしまった。済まない、黒ウサギ隊《シュバルツェア・ハーゼ》の名に傷をつけてしまった」

 

 しかも殊勝なまでに謝罪までしてきた。

 

 今この瞬間、これは第三世代武装による精神攻撃ではないのかと思ったクラリッサを誰が責められようか。

 

 いや、たしかドイツ以外にも三か国が専用機もちの代表候補生を送っているし、初の男も専用機あいてに勝利するほどの使い手で専用機を持っているから敗北の可能性が無いわけではない。

 

 だがだからと言って隊長の子の姿はなんだ? おかしいだろう。いや見えてはいないけど。

 

 あまりの驚きに普段の嫌悪感が吹っ飛んだクラリッサは、この通信を全員に聞こえるようにしたうえで、ハンドサインで現状を部隊に説明する。

 

 そして全員が理解した。

 

 これは非常事態だ。

 

『い、いったい何が起こればそんなことに!? は、そういえば今年はタッグマッチになったとのことでしたが、まさか男にほだされたパートナーが裏切って三対一に持ち込まれたとか!?』

 

 そう思うのも無理はないだろう。

 

 実際反則手段を使われなければ二対一でも互角だったであろう戦いぶりを見せていたし、のちにその映像をみたクラリッサはそれゆえにまた後に首をひねったほどだ。

 

 だが、ラウラはそれを否定する。

 

「それは違う」

 

 そう、彼女は決して裏切りなどしなかった。

 

「確かに心情的にはレヴィアは私ではなくアイツの味方だったが、奴はあの戦いに何ら妨害を加えていない。むしろこのトーナメントで最大の勝者といえば誰もがレヴィア・聖羅と答えるだろう」

 

 そう、誰がどう見ても最も成果を得たのはレヴィアだ。

 

「信頼する友を栄光あふれる戦いへと導き、一般生徒の目を自らの技術で覚まさせ意識改革を行い、そしてその信頼にその友は答えた。あの試合の勝者は確かに敵だったが、最も戦果をあげたのは私のパートナーのレヴィアだ」

 

 まぎれもない事実ゆえにラウラはつらつらとそういい切り、それがまたクラリッサ達を驚愕させる。

 

 織斑千冬を絶対と仰ぐあのラウラにここまで言わせる人物に、彼女たちは畏怖すら覚え始めていた。

 

『では、敗北条件の確認でしょうか? とはいえ報告書と映像がなければこちらでも解析はできませんが』

 

「いや、実は軍人としてではなく一個人として相談が・・・ある、のだ」

 

『何でしょうか?』

 

「・・・好きな女と教官の次ぐらいに敬愛する女ができた。ど、どどどどうすればいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時点で、黒ウサギ部隊は別名『ラウラ親衛隊』の異名を自負するようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、ある駄目な人物によって大騒ぎが起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『レヴィア助けてくれ!! ラウラがいきなり俺を嫁にするとか言って来たんだ!!』

 

『・・・分かった。とりあえずそれは置いといてセシリアちゃんと鈴ちゃんから逃げられそうかい?』

 

『理解が早くて助かるぜ!! ・・・四組に匿ってくれ!!』

 

『残念だけどそれは無理だよ。なぜなら・・・』

 

 

 

 

 

「レヴィア・聖羅。今日からあなたをお姉さまと呼ばせてくれ!! クラリッサがそう呼んで慕った方がいいと教えてくれたんだ!!」

 

 

 

 

「れ、レヴィアが、妹で、お姉さま・・・きゅう」

 

 

 

 

「簪さんが倒れたわ! だれか衛生兵!!」

 

「メディック! メディイイイイイック!!」

 

「私達の可愛いマスコットである簪さんによくも!!」

 

「レヴィアさんの妹は簪さんのものよ!!」

 

「レヴィア×簪は鉄板よ!!」

 

「レヴィアさんと仲良くなってからの更識さんは犬耳としっぽが見えるのに!!」

 

「生徒会長の妹? 日本代表候補生? そんなものはどうでもいいくらい可愛いのに!!」

 

「たとえ織斑君にだって渡さないわ、同姓など論外!!」

 

「武道関係の部活生徒は全力で迎撃! 相手は軍人らしいから遠慮は無用よ!!」

 

「訓練用のISを持ってこい!! 相手は専用気持ちだ油断すんな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いだろう、レヴィアお姉さまの妹の座は誰にも渡さん! 見ていろクラリッサ、私はお前のアドバイスを無駄にはしない!!」

 

『むしろ死ぬからこっちこない方がいいよ。あと織斑先生呼んで来てくれない?』

 

 IS学園。

 

 時代のエリートを育てる学校とは思えないほど、普段は平和な学園である。

 

 いや、実弾が飛び交うのが平和というのは語弊があるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころシャルルは、プライベート・チャネルで通信を行っていた。

 

『それで、上はなんて言ってるのかな、スプリング?』

 

『VTシステムのデータはドイツの賛同者を経由して奪い取るから気にするなとのことだ』

 

『そっか。今後の戦闘を考えると通常機用にVTシステムを組み込むかと思ったけど、当分は使わないんだね』

 

『もともと少数精鋭だからな。通常機は砲撃戦闘向けになっているし当然だろう』

 

『まあ本気でそういった方面でIS学園を攻略するのは大変だし、仕方がないか』

 

『そもそも武装の問題もあるしな。現代の科学は近接戦闘に置いては冬に時代だ』

 

『ジャパニーズ・サムライとしては不満かな?』

 

『まさか。私には獅子王丸がある。何も問題はない』

 

『あれチートだもんねぇ。絶対防御じゃ防げないかな』

 

『お前のアレもチートだろう。・・・ラファール程度では不満じゃないか、サマー?』

 

『アレはあれでいい機体だよ。あの方がチートなだけさ』

 

『まあ、あれを超える機体を作れるのはこの世界でも一人しかいないだろうしな。当然といえば当然か』

 

『・・・あの人のこと、やっぱり嫌い?』

 

『好きではないだけだ。半ばどうでもいいしな』

 

『そうだね。僕も父親はどうでもいいからそれは当然かな?』

 

『お互いそれ以上に大事なものがあるというのはいいことだ。あの人があるから私は『生きて』いられる』

 

『ゾッコンだね。たぶん忠誠心では組織でもトップだよね? 恋する乙女って感じかな』

 

『これはそんなものではないさ。しいて言うなら、心酔だ』

 

『ふふふ。そこまで来ると羨ましいよ』

 

「篠ノ之さん。幼馴染が追いかけられてるけど助けなくていいの?」

 

「あいつはいつもあんなところがあるからな。・・・いい加減懲らしめられた方がいい」

 

『・・・そういえば、今度は臨海学校かな』

 

『ああ、なにもないと良いがな』

 

『いや、たぶんまた何かあると思うよ?』

 

『そうなのか?』

 

『・・・・・・その時期に丁度いいタイミングであることが起きるらしいからね? 気を付けた方がいいと思うよ?』

 




クラリッサさんはラウラを暴走させてくれるからすごい使いやすいです。




そして簪ちゃんは四組のマスコット。異論は認める。


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第十一話

このタイミングだと早いかもしれませんが、今後の展開に重要な部分をばらしておきます。


 

 

 とある少女の話をしよう。

 

 彼女は、ありていにいえば異端だった。

 

 異なる端と書いて異端。

 

 より正確に言うなら、天才だった。

 

 一を聞いて十を知るどころか、百も戦も知ることができる圧倒的な知能があった。十人中十人が振り返ってもおかしくない美貌があった。常人をはるかに超える身体能力を持っていた。

 

 そして、それゆえに彼女は恐れられた。

 

 世界最大の宗教にとって、神とは完成された存在だ。そして人とは違う存在だ。

 

 彼女の能力を知った物はそれと同じように考え、しかし彼女を神ではなく悪魔のように扱った。

 

 親からも学友からも周囲の大人からも子供からも、彼女は自分達と違う存在なのだと考え、距離をとった。

 

 実際、彼女をすごい人ではなく彼女個人として見てきた者はごく少数で、そのせいか彼女はそれ以外の全てを自分と同じ人という風にもみなかったし、興味を向けることすら嫌悪していた。

 

 そんな性格をしていれば当然その現象は加速され、そして彼女はそれに意識を向けることはなかった。

 

 ただそういう有象無象に興味を示さず、興味を示す事柄にのみ全力を注ぎ、それゆえに彼女はその能力を最大限に発揮していた。

 

 そんな彼女にとって人生の転機となったのは本当に偶然だった。

 

 通販で興味深かったコンピュータソフトを注文したが、しかし届いたものの中身は違った。

 

 誤送による商品の取り違え。言葉にすれば簡単だが、それは非常に大きな違いを世界中に生む。

 

 そもそも、それが宅配便で送られるということ自体があまりにも非常識なことであり、もしその自体が知られれば、多くの死者を生むことになったかもしれない。

 

 そして、彼女はその存在の真の意味をその神のごとき才能で理解した。

 

 彼女はこの時初めて神という存在を明確に信じたものだ。

 

 彼女はそれを解析するために全力を注ぎ、しかし既存の技術でそれを解析することはできず、しかしその天才としての才能はある程度ならば解析できるようになっていた。

 

 彼女のその解析は『専門家』からすれば呆れるほど稚拙であり、彼女がその程度でしかできなかったということによりのちの『専門家』たちは彼女を異常に評価しなくなるが、それはまた後の話。

 

 その素人じみた知識を、既存の技術に当てはめたらどうなるのだろう。彼女はそう思った。

 

 世界にとっての誤算は、彼女が興味を持つこと以外には本当に頓着しない性格だったことだ。

 

 世界そのものに対して大きな興味を持たず、自身の成果をしらしめたり悦楽を得るためなら、有象無象を不幸にしようが一向に気にしない。

 

 その才能ゆえの隔絶であった弊害は、彼女にその力を組み込んだ科学の産物を生みだすことを決定させた。

 

 その力は絶大といっても過言ではなく、自身の興味が向いていた宇宙開発関係に置いて完成させたが、天才ゆえに軍事転用すれば破格の成果を発揮することも理解していた。

 

 そして世界はその強大さを即座に理解する者がおらず、『専門家』たちは軍事兵器の領域に深く興味を向けるわけでもなかったので、それを知ることすらなかった。

 

 ゆえに彼女のせいかは理解されず、それを不満に思った彼女は世界全土に影響を与える行動をとってその成果を思った形ではないが知らしめた。

 

 ・・・そして、結果として『専門家』はその許されざる大罪にようやく気付いたのだ。

 

 その大罪は命を奪うに値するものであり、しかしその事実が知られれば世界は大きく動いて滅びすら想定できるほどだった。

 

 ゆえにその大罪を起こした彼女を、人権を無視した方法でとらえることにした。

 

 そうしなければならないほどの事態だったし、他に知られる前に動かねば大変なことになる。

 

 ばれるわけにはいかないのでごくごく内密に行動し、『専門家』は自分達の側にも内緒に彼女を狙った。

 

 世界にとっての誤算が彼女の本質ならば、彼女にとっての誤算は『専門家』の能力に合った。

 

 より専門的な分野からその存在の知識を解析し、圧倒的な情報量を持つその『専門家』たちは、あっという間に情報を解析しある程度の再現を可能とした。

 

 最初は簡単に撃破できた。その再現だけなら、己の土俵ならば彼女は容易に撃破できる。『専門家』にとって人が神を超えることはできないと定義されており、ゆえに神に並ぶ彼女には勝てなかった。

 

 だから、自分達の領域を組み込んだ。

 

 その結果彼女はあっという間に不利になった。

 

 さすがにこれに愛する者達を巻き込むことを恐れた彼女は姿を消し、しかし速やかに追い詰められた。

 

 しかし、運命の輪は彼女に救いの手を差し伸べた。

 

「・・・なんか面白い物作ってるらしいな。丁度いい、俺にそれ教えてくれよ? 代わりに当分守ってやるぜ?」

 

 その男は、『専門家』と同様に自分を危険視していた。

 

 だが制御することは可能ではないかと考え、それゆえに一時の猶予を与え、そして彼女の理解者となった。

 

 そして彼女の理解者はあっという間に増えていった。

 

 彼女はそのおかげで、その人格のゆがみをあっという間に矯正されていった。

 

 彼女は興味を持つ事柄に置いて、始めて自分の才能が成果を発揮しないということに直面した。

 

 明確な挫折を彼女は経験し、そしてそれは人が誰しも経験することであるが故に、彼女は神から人になったのかもしれない。

 

 だから、彼女は自分がやってきたことを反省することができるようになり、その影響が自分の大切なものたちにどれだけの迷惑をかけるのか心底理解して。

 

 ・・・せめて、迷惑料ぐらいは払うべきだと思い直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中、男は部下から送ら得てきた情報に目を通していた。

 

 その目に映るのは表の社会の最高峰、インフィニット・ストラトス。

 

 彼はその真相を自らの様々な叡智によって解き明かし、ついにその意味を理解していた。

 

 おそらくこの意味に気付いている物は世界でもごく少数だろう。

 

 これはそういうものだ。表の社会では解析することなどあと数百年はかかるかもしれない。いや、もしかしたら一万年かかっても理解できないかもしれない。

 

 その理由を男は理解しており、しかしそれゆえに男は不満を持つ。

 

 男が望む世界なら、少なくともその一割ぐらいは解明されていただろう。そしてその恩恵をより多く社会に広めることができただろう。

 

 その結果争いも怒って世界は大きく動いているだろうが、それは男にとって望ましいものだった。

 

 今男はその望ましい世界を作るために行動している。ゆえにISについての研究も行っていた。

 

 おそらく自分よりISについて詳しいものは、それこそ生みの親である篠ノ之束ぐらいだろう。低く見積もっても五人もいないのは確信できる。

 

 それだけの実力を男は持っていて、しかし彼はその才能を自信としない。

 

 なぜなら、ISは驚異の一つではるが最高の脅威ではない。そう確信している。

 

 ISは最高の兵器ではある。だが、最強の兵器ではない。

 

 ここまでバランスを取った兵器は今の男でも新たに開発することはできないが、バランスを整えなければ対抗できる戦力を用意することはできる。

 

 だから開発して生産したし、それを自分が望む世界を作るための準備の一つとして、世界のパワーバランスを変えるために送り込んだ。

 

 自分と同じ世界を望む者たちがいるからこんな手段を取らなくても送りこめたが、それをすると世界中が自分の協力者を調べて余計なことをするかもしれない。

 

 だからこんな手段をとった。

 

 ついで言わんばかりに男性IS操縦者のデータも取ったが、まあそれは別にどうでもよかった。

 

 そもそもそんなものは意味をなさなくすることが自分にはできるし既にしている。だから問題はなかった。

 

 だが、それ以上にISには価値がある。

 

 なぜなら、ISこそ自分の理想の到達点の一つであるからだ。

 

 確かに、稚拙な部分が多くそれゆえに完全には理解できないし、自分のような側から見ればツッコミを入れたくなるところも多々ある。

 

 だがそれは確かに自分の理想の一つの形であり、これを解析して初めて、自分の理想成就のための策が整った。

 

 ようやくだ。ようやくスタートラインに立てる。

 

 このゆがんだ世界を正すことができる。

 

 弱肉強食の理を持ち、真に力を持つものがその力を存分に震える世界が誕生する。

 

 そうなればISの栄光は地に落ちるだろう。

 

 アドバンテージはある。だがそれは決定打にはならず、そしてそのアドバンテージすら互角程度にしかならないものも探せば複数出てくるだろう。

 

 その世界になることで、人類は本当の意味で神と共になる世界となる。これをもろ手を上げて喜ぶ弱者も存在すると思っている。少なくとも、神の価値は今までより上がり、そしてある意味で低くなるだろうことは想像に難しくない。

 

 そんな世界を見ることができるのなら、自分は世界を壊すことすらいとわない。

 

 少なくともそれを信じる者は世界中にたくさんいる。おかげで自分がこの組織を乗っ取る前より潤沢な資金ができたし、様々な分野から人外の協力を取り付けることにも成功している。

 

 おかげで、新世代のISを開発することもできた。

 

 時代の流れから考えれば、しいて言えば第五世代ともいえるだろう。それだけの設計思想を踏まえた機体を前に、男は職人的な自負を持って自慢げに笑顔を浮かべる。

 

 おそらく、この設計思想の機体は篠ノ之束には作れまい。

 

 彼女を知る者から聞いた話を考えれば、彼女は人間という物を理解していない。

 

 ただ強力なものを作ればそれでいいと考え、それを使う人間のことを考えない。

 

 道具は使いこなせるようになってこその道具なのだ。ある程度の実績さえあればヒューマンエラーを起こす方が失態であり、それは道具として欠陥品である。

 

 おそらく第四世代はそういう迷走の機体となるだろう。本体だけでの万能の具現化など、それは神にも難しい所業だろう。

 

 本当にそんなものを作ったのなら笑ってやろう。道具とは専門要素を持っているからこその道具なのだ。十得ナイフはナイフとしては戦闘用ナイフにはかなわないのだ。

 

 だから男は篠ノ之束に対する勝利を確信し、しかし油断だけはしない。

 

 男が本当に警戒するのは篠ノ之束ではなく別のものだ。

 

 おそらく彼らは動いているだろう。篠ノ之束に注目していたからこそその動きをある程度知ることができたが、しかし完璧には理解できない。

 

 彼にとってはそれ以上の価値がある者を見つけ、彼女が弱く脆いものになりそうなのをもったいないと思い、その力を鍛えることの方に意識を向けてしまっていた。

 

 それはそれで価値があるし、彼女は自分の大事な刀なのだから後悔はないが、しかしそのせいで出遅れているのも事実だ。奴らならISそのものを作り上げることも不可能ではないだろう。

 

 まあ、全く同じものを作るなど考えられないからその辺は安心しているのだが。

 

「さて、世界を壊しに行くとするか」

 

 そう呟き、そしてそれに応える影が四つ。

 

「ようやくかよ。ようやく、私はあいつに借りを返せるのか。楽しみだぜ」

 

 犬歯をむき出しにして笑う、自分の評価する剣―オータム

 

『そろそろ自分も正体を明かせそうッス。ああどいつもこいつも驚くだろうッス』

 

 通信ごしにうんうんと頷く、自分の強大な盾―ウィンター

 

「彼女と戦える時期が近付いているのか、期待させてもらうぞ」

 

 己の光との対決に心躍らせる、自分の正確無比な銃―エム。

 

「昔の時からここに属してきたけど、この現状はとても面白いわね」

 

 かつての組織との変化を楽しむ、自分の頼れる火種―スコール。

 

 そして刀であるスプリングと配下であるサマーがいれば、布陣は完璧だ。

 

「さて、世界を壊す準備を始めようか」

 




いろいろと重要な部分が漏れ出ている話でした。ISコアの正体とか、この作品での亡国企業の実態とか。



本作の束さんはある人物のおかげでかなり矯正されてます。話が合う人物がいるだけで人って心の平穏かなり保てますし。

ちなみにある人物はD×Dを見たことある人ならすぐわかるかもしれないあの人です。

ぶっちゃけ原作はラスボス束さんですよね。あの性格で味方側はあり得ない。



そしてラスボスはかなりチートじみた存在です。少なくとも技術面で規格外なのは読んでのとおり。

第五世代ISについては足して二で割ったという言葉がぴったりです。ああ、早くお披露目したい。

とりあえず、今日はここまで


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臨海学校のレヴィアタン
第一話 名前を覚えていてくれてよかったデス


投稿からわずか数日で原作三巻まで突入とか自分ぐらいだろうなぁ。

・・・投稿できるレベルで設定練り込むまで時間がかかって、それまでに書きためたのが多すぎるから今のうちに減らしておかないと。


 

 

 トンネルを抜けると、そこは海だった。

 

 IS学園臨海学校。一年生の一学期最大のイベントに、生徒たちは色めき立っていた。

 

「海だぁ~っ」

 

「臨海・・・」

 

「学校っ!!」

 

「「「「「ひゃっほぉおおおおおっ!!」」」」」

 

 普通の臨海学校でもここまではしゃぐことはそうないだろう。

 

 IS学園は本当にテンションが高い。

 

 レヴィアと千冬の会話が解放通信で行われていたこともあり、ISに乗るという事実に対して真摯に向き合う者が増えたとはいえ、やはり年頃の女の子が集えばかしましい。

 

 テンションはうなぎ上りに上がって、千冬の出席簿がところどころで唸りを上げていた。

 

「いや~、いい天気だよなぁ」

 

 そんなただなかにいる唯一の男である一夏は、しかしその状況を一切気にすることなくのんきだった。

 

 朴念仁・鈍感・枯れた男の三冠をゲットするこの男は、世の男たちに殺されても文句は言えないのではなかろうか?

 

 つい先日レヴィアと水着を買いに行き、トラブルに巻き込まれたとは思えないのんきさだった。

 

 ちなみにトラブルとは、昨今の現状ゆえにざらにいる女尊男碑の行き過ぎた女に使いっぱ知りにされそうになり、あげく断ったらいきなり警備員に付きだされそうになったものだ。

 

 何が酷かったかというとその際のレヴィアの反応であった。

 

 速やかに一夏の立場を『大声』で明確にすることによって周囲の注目を集め、ISに触れたこともない女性がISを駆る男性を奴隷のように扱おうとすることを演説混じりで非難。直後に法的に訴えることを女性に明言までした。

 

 もとよりレヴィアは権利は義務と責任を行使した結果得るものであるとの持論を持ち、それに忠実に生きている王である。

 

 ゆえにその手の類に関しては速やかに排除する性分であり、しかも民事でいいので裁判に持ち込むという、財力あふれる立場を最大限に利用した戦術をとる。

 

 結果、そんなことをしでかした女性は公衆の面前で土下座するという大被害を負った。・・・実名入りで写真をネットに上げようとしたレヴィアをとどめるのは大変だったと付け加えておく。

 

 基本的に良い主なのだが、あのあたりとエロさはどうにかならないだろうか?

 

 などと考えている一夏に、女体特有のやわらかさがのしかかる。

 

「一夏! ぼさっと突っ立ってないで泳ぐわよ!!」

 

「お待ちなさい! 一夏さんにはわたくしにサンオイルを縫っていただくのですからね!!」

 

「よよよ嫁! そ、そそそその・・・」

 

 のしかかる鈴を引きはがそうとするセシリアに、さらにその後ろからラウラが赤い顔で近づいてくる。

 

「何やってるの、一夏」

 

 そして、レヴィアを見失って不機嫌な簪がそこにツッコミを入れた。

 

 結構気合を入れて水着を新調してきたというのに肝心のレヴィアがいないので、相当不機嫌だ。

 

「か、簪か。これどういう状況だよ」

 

「クラス代表対抗戦を思い出して。それですべて説明がつくから」

 

「「な・・・ちょっと!?」」

 

「クラス代表対抗戦でなにがあったのだ?」

 

 簪のある意味ストレートすぎる説明に、鈴とセシリアはビビって後退し、事情を知らないラウラは首をかしげる。

 

 ・・・思い出す。

 

 そういえば、鈴に答えたのは人がいないところだったから、一般生徒は鈴の告白に対する返事があったことにも気づいていないはずだ。

 

 その状況下でラウラがあんなことをしたから、もしかしたら生徒たちは注目しているのかもしれない。これがいわゆる三角関係だというものだろうか?

 

 だがそれだとセシリアはどういうことだ? ・・・わからん。

 

「いや、それだと説明つかないことがあるんだが」

 

「馬に蹴られたらどう?」

 

 ものすごい冷たい声でバッサリ切り捨てられてしまった。

 

 孤立無援で助けは来ない。

 

 さあどうしようと思ったその時に、後ろから高い声が聞こえてきた。

 

「・・・あっはは。だったら皆でビーチボールとかどうデス?」

 

 その声に皆が振り向けば、そこにいたのは銀の髪を短く切りそろえた少女の姿。

 

 一瞬考え込んだが、しかしすぐに思いいたる。

 

 ここにいるのは一組と二組と四組のクラス代表。ゆえに代表会で顔を見たことがあるのは当然だった。

 

「たしか、アースガルズさんだっけ?」

 

「そうデス。名前を覚えていてくれてよかったデス」

 

 一夏が名前を問い返せば、少女はほっとしたかのように息をついた。

 

「・・・誰ですの?」

 

 唯一知らないセシリアが首をかしげ、それに応えるのはなんだかんだでそんなセシリアとよくつるんでいる鈴だ。

 

「三組のクラス代表よ。ほら、トーナメントでハンドガン使って相手倒したでしょ?」

 

「ヒルデ・アースガルズ。・・・世界各国に兵器売買と民間警備企業で財をはせているアースガルズ・コーポレーションのテストパイロット」

 

 簪の説明が一番わかりやすいだろう。

 

 アースガルズ・コーポレーション。

 

 世界各国のIS産業にも手を出しており、単独開発している先進国にも匹敵するISを開発し、世界第四位のシェアを生みだしている。IS学園にも機体そのものは展開していないが武装は展開しているほどだ。

 

 自国でのIS開発ができない国家はIS開発のために大きく出資をしており、それゆえに事実上世界で一番ISコアに触れることができる企業だともいえる。

 

 そんな企業のテストパイロットとくれば、もはや先進国の代表候補生にも匹敵する。実際この企業の出身が国家代表として大会に出たことも数多い。

 

「ヒルデでいいデス。今後はもっと関わることになると思うので、是非専用機持ちと親交を深めたいのデス」

 

「どういう意味だ」

 

 ラウラの問いかけに、ヒルデはその平均な胸を張る。

 

 それに貧乳だらけの一同の額に青筋が浮かぶが、ヒルデは気付かなかった。

 

「今まで本体の開発が遅れて持ちだせなかった自分の専用機が完成したデス。なので、皆さんとおそろいデス」

 

「へぇ。どんな機体なんだぐふっ」

 

 思わず無遠慮にそんなことを聞いてしまい、恋する乙女の嫉妬による肘打ちをくらってしまう。

 

 ちなみに、そういった経験が少ないラウラとそもそも感染していない簪は、むしろ性能を聞き出せないかと政治的に考えて耳を澄ませていた。

 

「結構特殊な機体とだけいうデス。それ以上は・・・」

 

 あえて意味深にいい、ヒルデはビーチボールを掲げる。

 

 勝てば教える。負ければ教えない。

 

 実にわかりやすい。そしてあえて乗ってやろうという気分になってきた。

 

「いいわよ。あたしとラウラと簪でチーム組んで、それ以外は敵チームね」

 

「それでいい。・・・一夏は一度叩きのめされた方がいいしね」

 

「ちょ、どういう意味だよ!! 誰か教えてくれ!!」

 

「というか、わたくしはどちらかというと小さい方なのですが!? ああなんで自分でばらしてますの!?」

 

「ふっふっふ。極貧にとっては少しあるだけでも嫉妬の対象ということデス。その勝負乗ったデス!!」

 

「いや、私は嫁と組みたいのだが・・・鈴、引っ張るな!!」

 

 夏の海で、一夏たちは新たな友と共に夏を満喫していた。

 

 ちなみに、ビーチボールは参加希望者が増えて混沌状態になって試合続行不可能になったと付け加えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏が青春を(無自覚に)謳歌しているころ、レヴィアは1人岩場のほうについていた。

 

 あのまま水着少女の群れの中にいると、我を失って暴走しそうだったので距離をとったのである。

 

「す、スペック高い美少女の群れが水着で・・・っ! これは何の御褒美だ、刺激が強すぎる!?」

 

 鼻血すら垂れ流しながらガクガク振るえるレヴィア。色欲に飲み込まれかけた上級悪魔の姿がそこにはあった。

 

 一言言おう。とてもあほらしい。

 

 そんな主の姿に一言言いたくなったのか、アストルフォがどこからともなく現れると、ティッシュの箱をそっと差し出した。

 

「あ、ありがとうアストルフォ。・・・いつもすまない」

 

「・・・気にするな」

 

 そういいながら使ったティッシュを回収するためのポリ袋を取り出したアストルフォは、しかし動きを止めると背後を凝視する。

 

 姿を消した存在の気配を感知。この気配は以前にも感じたものだった。

 

 それに気付いたのか、レヴィアも鼻血を吹くと鋭い視線を後ろに向ける。

 

 その風景がゆがみ、中から現れたのは。

 

「ほ、箒ちゃんのビキニ姿はあはあ・・・。本当に刺激が強いよねぇ」

 

 鼻血をまきちらした篠ノ之束の姿があった。

 

 ・・・レヴィアもそうだが残念なものが多い海岸である。

 

「いやぁ、お互いに良い物を見たね。これで私は十年ぐらい戦えるよ!」

 

「そ、そうか。まあ水着の美少女はそれだけで活力の源だから仕方がないね」

 

 サムズアップする束と、ちょっと引きながらも同意するレヴィアの姿にアストルフォは額に手を当てた。

 

 主は基本的に素晴らしいが時折ダメだ。そしてそれに同調するこの天才科学者も問題が非常にある。

 

「それで? 天下の篠ノ之博士がこんなところに何の用ですか?」

 

 とはいえ、締めるところはしっかり締めるから頼れるのだが。

 

「特に変なことはしないよ。大事な妹に迷惑かけたお詫びをしたいってだけかな?」

 

「それを信じろと? 悪いがあなたはの人間的な評判は非常に悪い」

 

「それは確かにそうかなぁ。いや、黒歴史なんで忘れてほしいかも」

 

「人間生きていれば黒歴史が増える物ですよ。お気になさらず」

 

 はっはっはと笑い合う二人だが、その目は笑っていない。

 

 レヴィアは篠ノ之束の情報を事前につかんでいたからこのフレンドリーな女性が本物か心底疑っていた。

 

 束はレヴィアがただものではないことを既に『知って』いたため、さすがに無警戒というわけにはいかなかった。

 

 少なくとも、ここで激突すれば双方ともにただでは済まない。

 

 そして・・・。

 

「いっくんのことを、お願いしてもいいかな?」

 

 束にそのつもりはなかった。

 

「一夏君のことかな?」

 

「うん。正直ね、いっくんがISを仕えた理由はこの束さんにも分からないんだ」

 

 その言葉に、レヴィアは僅かにだが驚いた。

 

 この天災ならその原因をつかむことはできると思っていたし、もしかしたら原因そのものであることも考えていたからだ。

 

 それが彼女でもわからないという。

 

 一夏の存在は想像以上に重い。この状況下で真実が知れ渡ればどうなるかを考え、レヴィアは状況を天秤にかけ―

 

「―約束しよう」

 

 それでも、決意を変えなかった。

 

「一夏君は僕にとっても大事な存在だ。だから全力を持って支援するし、可能な限り悪いようにはしない」

 

「そっか・・・」

 

 その言葉に束は微笑み、

 

「ありがとう」

 

 真摯に頭を下げた。

 

 それは、心底他人を認めている人にしかできないようなもので、不覚にもレヴィアは見とれてしまっていた。

 

「ISはきっと世界をひっくり返すけど、君みたいな人がいるならいっくんは大丈夫だね」

 

 そういうと、束の姿がうっすらと消えていく。

 

「ありがとう。お願いね」

 

 ・・・彼女を見送りながら、レヴィアは状況を判断し損ねていた。

 

 のちに、レヴィアは束を取り押さえておかなかったことを心底後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その僅か一日後、篠ノ之束は姿を現した。

 

 姿を現したのはIS試験用ビーチ。周囲が切り立った崖に囲まれたそこは、ISで空を飛ぶか一旦潜って海中のトンネルから出るかするしかない天然の隠れ家だった。

 

 そんな機密性が高い場所で、ISのテストを行うのが本来のこの臨海学校の目的。

 

 そして、そんな場所でものすごい高笑いをしながら篠ノ之束は姿を現した。

 

「はーはっはっは! 大天才束さん参上だよ~? みんな拍手拍・・・グボッ!?」

 

 そしてその頭部を千冬に容赦なくつかまれた。

 

 いや、これはつかむというより砕くが正しいのだろうか?

 

「貴様は今が授業中だということも理解できていないようだなぁ?」

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! ちーちゃんストップ束さんの優秀な頭脳がこのままだとパァンって割れちゃう!?」

 

 ・・・臨海学校とは学業の一環であり、ゆえに千冬は教師らしく振舞っていた。

 

 容赦なくアイアンクローを叩きこむのが教師として正しいのかはこの場合さておく。

 

「・・・姉が、申し訳ない」

 

 絞り出すように、うつむいた箒から謝罪の言葉が漏れる。

 

 ふだんからクールビューティの認識を持たれている箒のこの姿に、生徒たちは箒が苦労していることを痛感した。

 

「あ、改めまして・・・。IS開発者の篠ノ之束です。よろしくね♪」

 

 アイアンクローから脱出した束がポーズを決めて生徒たちに己の在り方を証明する。

 

 目じりに涙がにじんでいるのがご愛敬だが、それがむしろ緊張を緩和しているようだ。

 

「いっくんもちーちゃんも元気で何より。そして箒ちゃん!」

 

 ジャンプして箒の前におりたった束は。

 

「箒ちゃんに、プレゼントがあるんだ」

 

 顔をすこし赤くして、束がスイッチを押した。

 

 その瞬間飛来するのは、三メートルほどの菱形。銀色に包まれたそれは、束の隣に降り立つと、その中身を解放した。

 

 それは、紅。

 

 色鮮やかな椿のような、誰もが見惚れる紅の鎧。

 

「この大天才が持てる技術の粋をつくし、設計思想的には第四世代なハイスペックチートIS」

 

 己の最高傑作を、束は自慢げな笑顔を浮かべて言う。

 

「その名を、紅椿!! ぜひ箒ちゃんに使ってほしいんだよ!!」

 

 その姿に、その場にいた者たちは圧倒された。

 

 ISという機体の基礎ともいえる第一世代。

 

 増設ユニットによる特化仕様を取ることができる第二世代。

 

 単一仕様能力のような、特殊能力を機体のデフォルトとして再現することを目的とした、試作段階の第三世代機。

 

 それを飛び越え、基本スペックによる全領域対応を目的とした新たなる新世代機。第四世代。

 

 それを与えられるという時代を先取りした栄誉を―

 

「・・・辞退します。というか、そんなもの渡されたらいろいろと問題が起こるでしょう。一般生徒に渡していいものとダメなものの区別ぐらい付けてください姉さん」

 

「「「「「「「「「「えぇえええええええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」

 

 ため息交じりに箒は拒否した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・大変だ千冬姉! 束さん息してない・・・心臓止まってる!?」

 

「お、おいしっかりしろ!!」

 

 結果として織斑姉弟を混乱させるぐらい衝撃的な一言だったと追加しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 




本作品の箒さんは本当にクールです。


この章から、本格的にD×D要素がからみ始めてきます。

そしてこの章で結構この作品の重要根幹部分も出てきますし、感想で疑問に上がっていた一夏が戦車な理由なども説明します。

さすがに投稿速度は落ちていくと思いますが、楽しんでみていただけると幸いです。


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第二話 分不相応にも程がある

 

 

「いいですか? 確かに私はあなたの妹ですが、IS適性はCですし、寄って切るしか能がない凡才です。そんなものにこんな高性能なISを渡しても宝の持ち腐れでしょう。あなたは自分が世界に影響を与えすぎることを考えてください。っていうか世界各国が第三世代ISを試作している状況下で世代一つ飛び越えるだなんて非常識にも程があります。個人に与える暇があるなら世界各国に技術協力をして・・・」

 

「は、はい・・・」

 

 篠ノ之箒が篠ノ之束を正座させて説教していた。

 

 世界でも最高レベルの優秀な頭脳を正座させて説教させるという所業に、その場にいた者たちは声も出ない。

 

 かの千冬ですら唖然としているあたり、その異常さがよくわかるだろう。

 

「確かに人類は不平等でしかありませんが、しかし平等であるべく努力してきました。実力もわきまえずに専用機など分不相応にも程がある。・・・持って帰りなさい」

 

「そ、そんな!? せっかく箒ちゃんのために作ったのに!!」

 

 取り合う隙すらない物言いに、束がまた倒れないか全員が心配した。

 

「今まで迷惑かけてきたお詫びに、せめて世界最高のISを作ってきたんだよ!? せめて受け取ってよ!!」

 

「なら私がそのISを誰かに譲渡しても問題ありませんね。・・・たしか三組のクラス代表は好成績にかかわらず専用機がなかったな。・・・いるか?」

 

「あ、今日専用機がとどいたんでいらないデス」

 

「二重の意味で完全拒否!?」

 

 自らが箒のために作った至高の機体を全否定されて、束ねは顔面蒼白だった。

 

 ・・・本当に、倒れないか心配である。

 

「し、篠ノ之さん。乗ってあげなよ?」

 

「せっかくお姉さんが頑張ったんだよ? せめて一回ぐらい・・・」

 

「ずるいと思ったけど、さすがにこれはかわいそうだよ」

 

 一般生徒からも同情の声が上がり、それに箒はためいきをついて態度を軟化させるかのように束と視線を合わせる。

 

「・・・臨海学校の間だけですよ? それ以上の使用は実力が見合うまで封印させていただきます」

 

 明らかにいやいやであるが、しかし乗ることを約束した。

 

 その言葉を聞いて、真っ青だった束の顔に赤みが差す。

 

 どん底から絶頂へと、束のテンションが一機に変化した!!

 

「ありがとう箒ちゃ~ん!! さあ調整しようそうしよう!!」

 

 最愛の妹が、自分のプレゼントを受け取ってくれた。その事実に束は狂喜乱舞し、思わずそのままダンスを踊る。

 

 世界最高の頭脳とはいえ、一人の女であることに変わりはない。

 

 それを知ったIS学園生たちは束に温かい視線をむけ、そのISの譲渡を歓迎した。

 

 何せ世界最高のIS研究者が作った新世代ISだ。自分達が乗れなくてもそのすごさをこの目で見ることができるかもしれない。

 

 いつの間にやら空間投影式ディスプレイがものすごい勢いで展開し、それをものすごい勢いで束は処理していく。

 

 簪を以ってしても追いつけないであろうその処理速度は、コミカルな出来事を起こしてもなお、彼女のすごさを証明して見せていた。

 

「準備OK! さあ箒ちゃん、紅椿を起動させて」

 

「・・・はい」

 

 不承不承といった感じで箒は紅椿を起動させる。

 

 ふわりと、ゆっくり、しかし素早く紅椿は砂浜から浮くと空を飛ぶ。

 

 そして次の瞬間、衝撃波をまきちらしながら紅椿は空を舞った。

 

「よぉし、次は武装テストだ!! 今からターゲット代わりのミサイルを・・・」

 

「ちょっと待つデス」

 

 束の声をさえぎり、ヒルデが一歩前に出た。

 

 その首に付けられたチョーカーは、昨日のビーチバレーでは見なかったものだ。

 

「ユグドラシル・コーポレーションとしては、いくらかの篠ノ之博士とはいえ、あまり好きにされていい気分がするものじゃないデス」

 

「ふむふむ。だったらどうするのかな、お嬢ちゃん?」

 

 束が興味深そうに見守る中、チョーカーが光り輝きヒルデの身を包む。

 

 次の瞬間には、両腕がまるで剣のようになった、灰色のISをその身にまとっていた。

 

「・・・イチイバルのならしも兼ねて模擬戦デス!! いくデス、篠ノ之さん!!」

 

 同じく一瞬で加速すると、空中でバランスをとっていた箒に向かって肉薄する。

 

 その剣から光の刃が伸び、そのまま紅椿を一刀両断にしようと迫り―

 

「悪いが、この距離なら負けてやれん」

 

 紅椿に装備された二振りの刃が、それをかろうじて受け止めていた。

 

「「「「「「「「「「おぉおおおおおお!!」」」」」」」」」」

 

 空中で展開されたつばぜり合いに、生徒たちの歓声が上がる。

 

 次の瞬間、二機は高速で移動しながらその刃で切り合いを始めていた。

 

 戦闘能力なら代表候補生にも匹敵するヒルデに対し、性能の差を活かしたのか箒は何とか肉薄する。

 

 もとより二刀流は難易度が高いが、剣の道に生きる箒はそれを使いこなしていた。

 

「なかなかやるデス。なら今度は遠距離戦デス!!」

 

 量子状態の武装が展開し、イチイバルに格納されていたアサルトライフルがその姿を現す。

 

 両手の無いイチイバルはしかし、そのアサルトライフルを取り落としはしなかった。

 

「・・・銃が宙に固定された!?」

 

 その光景を眼前にして、箒が目をむく。

 

 両手に保持されていないアサルトライフルはしかし、確かに宙に浮かんでイチイバルに追随していた。

 

「これがイチイバルの第三世代武装。テレキアム、デス。PICの応用による念動力と考えるデス」

 

 不敵に微笑むヒルデに応えるかのように、アサルトライフルは小刻みに震える。

 

 しかしそれはすぐに収まり、その銃口を箒へと向けていた。

 

「ちなみにこれの練習そのものはやりまくってるデス。失敗するとは思わない方がいいデス!!」

 

 アサルトライフルから銃弾が一斉に放出される。

 

 それを回避する箒はしかし、さらにイチイバルの両手から放たれたビームが掠めて眉をゆがめる。

 

「その両腕、まさか銃剣一体なのか!?」

 

「そうです。第三世代武装に頼り、本体の汎用性を犠牲にしてでも頑丈さを売りにしたのがこのイチイバルデス!!」

 

 近接戦では互角だった二機はしかし、遠距離射撃に変化したことで一気に逆転する。

 

「ま、負けないで箒ちゃん!! その雨突と空裂は動きに合わせてレーザーとエネルギー刃を放つから!!」

 

 しかしそれを、機体を開設する束の声援が変革する。

 

 それを聞いた箒がぎこちなく、しかししっかりと刃を振るうと、レーザーとエネルギーの刃は確かにそれに答えた。

 

 それをあっさりと回避するヒルデだが、その表情は鋭くなる。

 

「なかなかの威力と命中精度デス! やっぱり戦いは張り合いがないとデス!!」

 

「姉に振り回されているようで気に入らんが、わざと負けるのも性にあわんのでな!! 悪いが倒す気でいかせてもらう!!」

 

 灰色のイチイバルと深紅の紅椿、二機の戦闘はさらに白熱さを増してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、大変です!! 織斑先生!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それをかき消すように、山田麻耶の悲鳴が響き渡った。

 

「山田先生? いったいどうしたと・・・」

 

「こ、これを見てください!!」

 

 落ち着かせようとする千冬にたいし、麻耶は手に持っていた小型端末を見せることで返答する。

 

 そこに映るのは非常事態を現す文字列。

 

 特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし

 

 その文字を見た瞬間に、千冬は暗号手話で麻耶と会話する。

 

 それはほとんどのメンバーには分からない内容で、IS学園教師用なため代表候補生でも理解できない。

 

 だがしかし、1人だけその情報を理解できるものがいた。

 

 自らの眷属の安全確保のため、そして何より政治的に非常に危険な扱いとなる自分自身によるIS学園への悪影響を避けるため、その暗号手話の基礎的部分を完全に把握している物がいた。

 

(IS、活動、ここに接近? まさかこの時代に戦争でも仕掛けようとしているのか?)

 

 レヴィア・聖羅はとぎれとぎれながらも内容を把握し、その表情を険しくする。

 

 ISがこの海岸に近付いているということが分かる。そして先生の緊張具合から考えて、最低でも友好的な理由によるものではない。

 

 まさか専用機もちが多数いて、ブリュンヒルデまでいるこの場所に単騎で強襲をかける馬鹿はいないだろうが、しかしろくでもないことなのは確かだろう。

 

 この状況下で考えると、現在のメンバーによる対IS戦が行われる可能性が高い。

 

「麻耶、他の先生たちへの連絡を頼む」

 

「は、はい!! 生徒たちのことを頼みます!!」

 

 麻耶が走り去るのを見送ってから、千冬は両手を鳴らして生徒たちの注意を集める。

 

「全員注目!! 現時刻より、IS学園教員は特殊作戦行動へと移行する。本日のテスト活動は全て中止、全員、機材を片付けて旅館へ戻れ。なお、指示があるまで各自自室で待機すること。これを破った場合厳罰に処す!」

 

「え・・・? ちゅ、中止ってどういうこと?」

 

「っていうか、特殊作戦行動ってなに?」

 

「な、何が起こってるの?」

 

「じょ、状況ぐらい教えてくれても」

 

 新型第三世代機と第四世代機の激突に浮かれていたところにこの急転直下の状況変化。その場にいるものはその変化についていけず戸惑った

 

「何をしている。さっさと作業を進めろ!!」

 

「「「「「「「「「「は、はい!!」」」」」」」」」」

 

 明らかにいらだちが混じっている怒号に、慌てて撤収作業が開始される。

 

「織斑、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰、アースガルズ、更識。・・・あと、篠ノ之も来い。専用機持ちには話がある」

 

「「「「「「「「はい」」」」」」」」

 

 千冬に言われ、専用機乗りが全員一足先に旅館へと向かう。

 

「・・・どう思うかね、布仏さん」

 

「どう見ても非常事態だよね、レヴィたん」

 

 そんな中、一部の物はその状況を正しく理解していた。

 

 明らかに緊張感を増した教師に、専用機持ちを呼び出すという行動。

 

 ISの使用が前提となる非常事態が起こっていることを、レヴィアは正しく理解していた。

 

 代表対抗戦に始まりタッグトーナメントと続き、そしてこの臨海学校。

 

 一学期だけで既に三件も非常事態が起こっている。もはやレヴィアはこの状況を楽観視することなどできなかった。

 

「・・・たしか君は簪ちゃんとは家族ぐるみの付き合いだったよね? 生徒会長をここに呼び出してくれないか? 念には念を入れておきたい」

 

「レヴィたんも気をつけてね~? あれ、間違いなく国際問題レベルだよ~?」

 

 あの更識と家族ぐるみで付き合いがあるだけあって、彼女も何気にただものではないようだ。

 

 そして、そのただものではない少女がそんなことを言うほどの事態。

 

 レヴィアは速やかに念話を展開すると、アストルフォを呼び出した。

 

『・・・アストルフォ。万が一がある、こちらの大規模行動許可の申請とフェニックスの涙の用意をしてくれ』

 

『・・・フェニックスの涙は品薄。後者は期待できない』

 

『可能ならでいい。優先順位は許可を得ることだ。できる限り急いでくれ』

 

『了解。そちらは二時間で済む』

 

 いきなり上層部に微妙な状況の問題での行動を要請するにしては短い時間だが、アストルフォがいうならほぼ確実に成功するだろう。

 

 そういった方面での文書作成能力などは非常に優秀で、実は後方支援ではレヴィアの知る限り上位に入るのがアストルフォだ。

 

 彼ができるといったのなら大丈夫だろう。

 

 とはいえ、驚異的な治癒効果を発揮するフェニックスの涙が難しいのは問題だ。

 

 IS学園という状況下では急速過ぎる回復など怪しまれ、上から小言を言われるだけと判断して調達してなかったが、それが仇とならない保証はどこにもない。

 

 万が一のことがなければいいのだが。レヴィアはその嫌な予感を振りきれなかった。

 

『・・・それと』

 

 その主の想いを察したのか、アストルフォが小さく付け加える。

 

『蘭も呼び出す』

 

 アストルフォも、今の状況をある程度察しているのだろう。

 

 頼れる眷属の招集を自発的に行うその姿に、レヴィアは少しだけ安心する。

 

『いつもすまないねぇ』

 

『それは、言わない約束』

 

 軽く冗談を交わしあい、念話を終える。

 

 嫌な予感は消えない。だが、それ以上に決意が生まれたのもまた事実。

 

 自分は一夏の王だ。ゆえにそうふるまうのみ。

 

 撤収作業を行いながら、レヴィアは自身も各種方面に対する言い訳の文面を考えることから始めた。

 




アースガルズ・コーポレーションの機体は、独特な発想の機体を多くする予定です。



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第三話 この状況も日常生活の一つでしかないさ

 

 

「最初に言っておく。この内容は全て最重要軍事機密だ。情報漏えいが起きれば査問委員会による裁判と二年以上の監視が付く。覚悟がないなら今すぐにこの部屋を出ろ」

 

 突貫工事で旅館に設営された簡易司令部で、千冬はそう言って切り出した。

 

 その中央には、大型空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

 この突然の事態に対して、しかしここまでの用意を行う。そして先ほどの警告。

 

 全てに置いて尋常ではない非常事態が起こっていることの証明だった。

 

「今から二時間前、ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエル共同開発の試作第三世代IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が突如暴走し、監視空域から離脱したと報告があった」

 

 その言葉に、全員の緊張感が一層高まる。

 

 さらにその性能に一同はさらに警戒心を強める。

 

 競技用ではなく広域殲滅を目的とした軍用のIS。

 

 多方向にエネルギーを射撃するスラスターウイングを装備した第三世代IS。

 

 それが暴走しているという前代未聞のこの事件。対IS兵器やVTシステムも大概ではあったが、それに匹敵するほどの非常事態であった。

 

「衛星による追跡の結果、福音は約50分後に、ここから二キロほど離れた空域を通過することが分かった」

 

 その言葉に、自分達がしなければならないことを全員が理解する。

 

「既に二か国及び自衛隊が対応準備をとっているがほぼ間に合わん。ゆえに、ここにいる我々で対応するようにIS委員会から要請が来た」

 

 苦虫をかみつぶしたような顔で、千冬が全員の推測を裏付ける。

 

 ISに対抗できるのはISだけ。

 

 代表対抗戦で同じ土俵に立てる兵器の開発は可能になったが、それでも限度が存在する。そもそも、突如現れた兵器に対して全世界は出遅れており、おそらく実戦に使用できるレベルで準備できている国家はまだないだろう。

 

 ゆえに、自分達に白羽の矢が立ったのだ。

 

「教員は訓練機を使用して空域及び海域の封鎖をおこなう。つまり迎撃は君たちに担当してもらうことになるが、現在銀の福音は時速2450を超えている、アプローチは一瞬しか不可能だ」

 

 その言葉に、その場にいた全員が視線を向けるのがいた。

 

 短時間で最も銀の福音を撃破できる可能性があるのは、スペック―データ的に付け入る隙がある近接戦闘で最強の攻撃力を持つ必要がある。

 

 現時点でそれが可能なのは鎌居達が最有力。すなわち・・・。

 

「俺が行くのが一番か」

 

 一夏は最初から覚悟をしていた。

 

 今回の戦闘は明らかに命がけだ。

 

 暴走している状態のISでは、戦闘不能になった相手に攻撃を加える可能性も非常に高い。それを考えればこれは正真正銘の殺し合いだ。

 

 必然的に命がけの戦いになれている者が行くべきで、該当するとすれば自分を除けば軍人のラウラぐらいだろう。

 

 だからそれに否は無かったが、しかしそれでも不安は残る。

 

「単騎での戦闘はリスクが大きすぎますわ。幸いブルー・ティアーズには高機動パッケージ、ストライクガンナーがありますから、それで支援を行いますわ」

 

「自分も高機動パッケージがあるデス。援護ぐらいはできるデス」

 

 単独で危険なことには巻き込めないと、セシリアとヒルデが名乗りを上げる。

 

 確かに、この作戦に置いては高機動の機体が必須だろう。

 

 ただでさえ超高速で飛行しているISなので、うかつに接近に気付かれれば必然的に逃げられる。

 

 となれば高速で飛行することで迎撃するのが必然。不知火は設計思想的に機動性能も極めて高いのでバランスも含めて最有力候補。次点を上げるなら高機動パッケージを装備している二機だった。

 

 しかし、この次点には一つの欠陥が存在する。

 

「パッケージの量子変換《インストール》はすんでいるのか? 時間はないぞ」

 

 いまだその新武装の使用態勢を整えていない機体で、果たしてどこまで運用ができるのかという点に尽きる。

 

 それに対する反応は二つに分かれた。

 

 セシリアは、まさに痛いところをつかれた反応を示して動きを止めるが、ヒルデは若干得意げな反応を示す。

 

「イチイバルのパッケージはバックパックに限定してるデス。それにパッケージの接続後はコンピュータ制御で数秒で行うので、理論上は戦闘中の交換も可能デス」

 

 その言葉に全員の視線が一機に集まる。

 

 パッケージの調整という手間のかかる作業を瞬時に終えるシステムの構築に、状況を忘れかけるほどの刺激が発生した。

 

 千冬はそれを咳払い一つで済まし、すぐに冷静に思考する。

 

 二対一で戦うなら十分な勝算はある。

 

 だが、可能な限り戦力は多い方がいい。連携も上手くできないような戦力では危険である以上、共に行動したことがないヒルデと一夏だけでは逆に足を引っ張る可能性がある。

 

 とはいえもう時間もない。セシリアの調整を待っている余裕はない。もし調整に時間がかかれば福音はそのまま通り過ぎる。その結果、日本の都市に甚大な被害が発生する可能性も十分にあった。

 

 ゆえに、千冬は対応できそうな人物に相談することを決める。

 

「・・・束、意見を言え」

 

 鋭い声が響き、それに観念したのか障子が開いて束が姿を現す。

 

「ちーちゃんって相変わらずチートだね。・・・まああまり気乗りしないけど、もうひと押しはあるよ」

 

「短く言え」

 

「第四世代ISのコンセプトは『展開装甲による全領域完全対応』。理論上展開装甲はISの自己進化機能と合わせて無限に近い可能性があるし、私が調整すれば七分ぐらいで紅椿は高速戦闘対応可能だよ。・・・できれば最終手段にしたいけど」

 

 その言葉に、千冬は意外な物を見たと感じた。

 

「お前なら、これで篠ノ之を大活躍させれるとか言いそうだったがな」

 

「ゴメンちーちゃんホントやめて。あの頃の私はマジ黒歴史だから」

 

 ものすごい恥ずかしそうな顔で束はそっぽを向くが、既にその両手には空間展開型のキーボードが展開されていた。

 

 最後のひと押しがあればやるということの証明だ。

 

 そして、その最後の証明である箒は―

 

「やれといわれるのであれば、寄って切るまでです」

 

 この中で最も動揺することなく、平静なままに言いきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超高速で飛行する三機のIS。

 

 高速戦闘パッケージ、フェンリルダッシュを装備したイチイバル。

 

 展開装甲による全領域対応をその身で証明した紅椿。

 

 そして二機にけん引される形で二機との速度のわずかな差を是正する不知火。

 

 三機のISが福音に攻撃を叩きこむため高速で飛行する中、一夏はどうしても気になることがあってプライベートチャネルを開いた。

 

「なあ箒。大丈夫なのか?」

 

「それを聞くこと自体が野暮だ。こういうのはやるかやらないかだろう」

 

 投げかけられた一夏の言葉に、箒はなんてことも無いようにあっさりと返す。

 

 その声には恐怖など一切映っておらず、まるで今日食べた食事の内容を語っているかのような気やすさがあった。

 

 あまりに平然とし過ぎている様子に、一夏だけでなくヒルデも違和感を覚えてその顔色をうかがってしまう。

 

「さすがに緊張感がないデス。命がけだってわかってるデス?」

 

「別に生きるか死ぬかなぞ日常でも当然のことだろう? 人は階段で足を踏み外しただけで下手をすれば死ぬぞ」

 

「いや、そりゃそうだけどさぁ」

 

「戦場だろうとスポーツだろうと工事現場だろうとただの学園生活だろうと一歩間違えれば死ぬ。それがわかっていればこの状況も日常生活の一つでしかないさ」

 

 大したことではない。軍用ISとの戦いをそう言い切る箒の瞳は、真実それをそうだと信じ切っていた。

 

 いくら刀という物の意味を知っているとはいえ、つい数か月前まで兵器すら触ったことがない物とは思えないその姿に、一夏はもちろんヒルデも恐ろしい物を見たような気がした。

 

 しかし、次の瞬間にはその感想も消し飛ばさざるをえなかった。

 

 ハイパーセンサーによって全方位を移す視界に、ついに銀の福音を確認する。

 

 一瞬で縮まる銀の福音との距離。福音も敵の姿をとらえ、その動きに一瞬の鈍りが生じる。

 

 次の瞬間、ヒルデと箒が同時に腕を動かして一夏をなげ、一夏は鎌居達を展開すると同時に瞬時加速を発動する。

 

 超音速飛行と同時に放たれる瞬時加速。それは神速となって福音に迫る。

 

 しかしそれを、福音は一瞬で後退することで完全にかわして見せた。さらに次の瞬間にはそのエネルギー兵装、銀の鐘(シルバー・ベル)をそのガラ空きの背中へと向ける。

 

 一時しかなかった好機をしかし逆転され、されど一夏は焦らなかった。

 

 確かにショックはあるし失態だが、それでもその高速飛行を止めることはできたのだ。それはすなわち一瞬での戦いではなくなったことを意味する。

 

 そして、そうなれば数の差が自分達に有利に働く。

 

 ビームとレーザーの嵐が福音を狙い、福音は射撃体勢を解除して素早く回避。その後再び体制を立て直して今度こそ光弾を発射する。

 

 三色の機体が銀の天使を包囲し攻撃する。拙いながらも何とか連携の形になったそれを、しかし福音はものともしない。

 

 福音は暴走状態になったと聞いている。それはすなわち、操縦者の意思を介在していない、ISコアによる機動だということ。

 

 その状況下にも関わらず、福音は三機を相手に攻撃をかわし続ける。

 

 いくら連携が拙いとはいえ、新世代機と超特化使用と軍需産業のテストパイロットの組み合わせ。当然その戦闘能力は強大で隙がない。しかも実戦での連携どころか三人での連携など始めてにもかかわらず、三機は連携の形をとることができていた。

 

 それでもなお、届かない。

 

 三機の連携を広域に放射する光の弾幕によって迎撃する。

 

 三機の攻撃をその翼を巧みに操り回避する。

 

 その広域攻撃は散弾と化し、三機に少しずつだが確実に攻撃を与え続ける。

 

 反面三機の攻撃はしかし当たらない。

 

「これは不味いデス! あれ本当に暴走状態なのかデス!?」

 

 操縦時間の長さゆえに一番損傷の少ないヒルデが、しかし一番に弱音を上げる。

 

 その弱音はしかし事実皆の感想であり、箒もそれがわかっているからか歯を食いしばる。

 

 そんななか、しかし一夏は吠えた。

 

「だからって負けるわけにはいかないだろ!!」

 

 そう、負けるわけにはいかない。

 

 あのISは暴走状態だという。それはすなわち、乗っている操縦者も制御できないということだ。

 

 このまま銀の福音を逃すことがあれば、銀の福音によって甚大な被害が出るかもしれない。

 

 銀の鐘は光の豪雨。こんな雨を町中に振らせていいわけがない。

 

「援護するデス! 一夏君は突っ込むデス!!」

 

 イチイバルの会長領域から、シールドが転送されるとテレキアムで一夏へと投げ渡される。

 

 同時にショットガンを転送し、一夏から離れつつ乱射する。

 

 弾丸の嵐を迎撃するように、銀の福音が光の豪雨を浴びせるが、しかしそれゆえに隙が生じた。

 

 その瞬間を尽くために瞬時加速を発動。一機に距離を詰め、振り上げの一撃を叩きこむ。

 

 福音はその一撃を回避できずに、大きく吹き飛ぶ。反撃のために銀の鐘を向けるが、その動きは精細を書いていて隙だらけだった。

 

 これならかわせる。そして防げる。

 

 ほとんどの攻撃を最小限の機動でかわし、ある程度はシールドで受ける。

 

 そしてカウンターで叩きこもうとした砲撃も、僅かな軌道でその射線から逃れ―

 

「・・・っ!?」

 

 ハイパーセンサーで全方位に展開された視界に、一隻の船が映った。

 

「漁船!? 海域封鎖が間にあわなかったデス!?」

 

「・・・場所から見て密漁船か」

 

 ヒルデが驚愕し、箒が冷静に判断する。

 

 密漁戦であるが故に海域封鎖の情報が遅れたのだろう。

 いくらISが高性能でも、広い範囲の監視には不向きといわざるを得ない。それゆえに抜けがあった。

 

 そして一夏は気付いてしまった。

 

 この最大の好機を受け入れれば、銀の鐘があの密漁船を襲うことに。

 

「く・・・そぉおおおおお!?」

 

 最大のチャンスと密漁船を天秤にかけ、一夏はしかし一瞬で判断した。

 

 瞬時加速を使い銀の鐘へと体当たりする。

 

 次の瞬間、エネルギーの嵐を全てくらい弾き飛ばされた。

 

「一夏君!?」

 

「一夏!? ・・・この愚か者!!」

 

 そのまま墜落するのを抱きとめられたのを感じて、一夏は意識を手放した。

 



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第四話 あれはアイツの失態だ

本作における衝撃の設定の一つが公開されます。


最初に言っておく。

箒ファンの皆さんごめんなさい


 

 

 夕暮れの一歩手前、海の上に人影が多数存在した。

 

 彼らはISを身にまとわない。完全な生身の状態で宙に静止していた。

 

「・・・通信の傍受は失敗しましたが、衛星のハッキングには成功しました。銀の福音はすぐ近くにいます」

 

「では、私が監視を行う。残りは二班に分けそれぞれ別方向からIS学園の人間が集う旅館を挟撃しろ。後方からの強襲はロートに任せる」

 

「承知しました。ジーコン様」

 

「全ては偉大なる真なる魔王の世界のため」

 

 ・・・今、世界は大きく変動する瀬戸際へと立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一次福音迎撃作戦は失敗した。

 

 オフェンスを担当した織斑一夏が戦闘不能になったためである。

 

 その織斑一夏は、急遽用意された部屋で、機械に繋がれて昏睡していた。

 

 絶対防御とはその名に反して全ての攻撃から身を守るわけではない。

 

 エネルギーの都合上の限界は確かにあり、それを超えたダメージは使用者へと直撃するのだ。

 

 ゆえに、一夏はその影響で昏睡状態であった。

 

 奇跡的に重傷と呼べるレベルで済んでいるが、それでも本来なら死亡してもおかしくないほどのダメージを一夏は受けていた。

 

 その一夏の様子を、レヴィアは見ていた。

 

 本来なら彼女はこの部屋に入ることはできない。

 

 情報交換のためにIS学園に送り込んでいた工作員などの協力で情報をつかみ、こっそりと見舞いに来ていたのだ。

 

「・・・馬鹿だな、君は」

 

 深い眠りについた一夏の頬を、その手が撫でる。

 

「君は僕の物だと言ったはずだ。それなのに僕の許可もなく命を無駄にかけて・・・」

 

 静かに目を閉じ、レヴィアは過去を思い出す。

 

 紅い赤い(あか)い血があふれだすかのように漏れる、あの光景を。

 

 あんなものは二度とゴメンのはずだった。

 

 そうならないように努力してきたはずだった。

 

 それも思い込みではなく、ちゃんと公平に見る人たちに評価されるほどの成果を出してきたはずだった。

 

 その結果が、これだった。

 

 選ばれた者であり、選ばれた者として行動し、その名に恥じないよう努力を重ねてきた。

 

 それなのに、この結果だった。

 

『・・・アストルフォ。あとどれぐらいで付く?』

 

『あと十数分。・・・蘭はふさぎこんでいる』

 

『フェニックスの涙は?』

 

『すまない』

 

 即座の回復は不可能。もちろん回復そのものは可能だが、この十省ではさすがに時間がかかるだろう。

 

 その事実に落ち込み、自分の指導の甘さに腹が立った。

 

 悪魔の駒によって転生した悪魔は、使用した駒によって能力の上昇を得る。

 

 一夏に使用した駒は戦車。その特性はパワーとディフェンスの強化。

 

 これは一夏に対する詫びといってもよく、何かあっても大丈夫であるように頑丈さを与えようとした結果だ。

 

 本来一夏の実力相当の悪魔が、これほどのダメージを受けることなどあり得ない。

 

 しかし、一夏はある特性に特化して鍛えており、その結果防御力がおざなりになってしまった。

 

 本来ならこんなことはあり得ない。そのための対策はちゃんと立てているし、それが発動すれば軽傷程度で済んでいたはずだ。

 

 ・・・IS学園に入るにあたり、一夏からの要望で処置をしていなかった。倫理的な観点からレヴィアも納得したが、こんなことならやっておけばよかったと痛感する。

 

『アストルフォ。・・・着いたら旅館の護衛を頼む。僕はちょっと行ってくるよ』

 

 最後に一夏の髪に触れ、レヴィアは振り返る。

 

「人の物に手を出したんだ。まさかただで済むとは思ってないだろうね?」

 

 その目は深く静かに燃え上がっていた。

 

 今、終末の獣が戦場に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋で静かに、箒は目を閉じていた。

 

 思い返すのは先ほどの戦い。

 

 冷静に思い返し、そして自分の動きを思い返す。

 

 あの時自分に失態はなかったか、もっといい動きはできなかったか。

 

 何度も思い返し続け、しかし突然目をあける。

 

「・・・何の用だ?」

 

「勘が鋭いわね」

 

 障子をあけ、鈴が静かにはいってくる。

 

「福音の場所が分かったわ。30キロ離れた沖合に停止中ですって」

 

「・・・それで?」

 

 その言葉の意味がわからず、箒は首をかしげる。

 

 福音の場所が分かったのはいい。だが、それが彼女にとってどういうことだというのだろうか。

 

 それについて判断するのは自分の役目ではない。それは千冬たち、指示する側の役目だろう。

 

「出撃命令が出たのか? それなら行くが」

 

「・・・一つだけ聞くわ」

 

 静かに、鈴の目が箒を射抜く。

 

 それを箒も、向き直って正面から受け止めた。

 

「アンタ、なんとも思わないの?」

 

「一夏のことならこれでも衝撃は受けているさ」

 

 まぎれもない本心を告げる。

 

「だが、あれはアイツの失態だ」

 

 瞬間、胸倉を掴まれて一気に持ち上げられた。

 

 その小さな体にどれほどの力があるのかといったレベルだったが、箒は驚かない。

 

 そういうものがあるというのは身を持って体験している。この程度で驚くようなことではなかった。

 

「アンタ・・・本気で言ってる!?」

 

「ああ本気だ。あいつは好機を逃して自分から攻撃を喰らった。アレを失態といわずになんという?」

 

 殺意すらこもった瞳で睨みつけられるが、箒は動じなかった。

 

「どう思い返してもアレは決定的なまでに一夏のミスだ。それはひるがえせんよ」

 

 今この事態は、下手すれば何万人もの犠牲者を生む可能性のある緊急事態である。

 

 そして一夏がチャンスを犠牲にしてその身を犠牲にしてまでかばったのは密漁者だ。

 

 多くて数十人の、道理から外れて行動するものと、無数の道理の中に生きる者。

 

 表の社会を守ろうと行動する物が優先するべきなのはどちらなのか、それは聞くまでもない。

 

 箒はそれゆえに一夏が悪いと断じる。

 

 被害を出さないようにするために出撃する気になっておきながら、よりにも寄って犯罪者のために失敗してはいけない作戦を失敗した。

 

 ゆえに箒は一夏に同情しないし、非難する。目的のために切り捨てられないような手合いに対して、かける情けなど一切なかった。

 

「へえ。それで自分には一切責任がないとか開き直るわけ?」

 

「まさか。一般生徒が度の過ぎた高性能機を与えられてそのまま参加したのは私のミスだ。あれに織斑先生を乗せていれば今頃は一夏も無事だったろうな」

 

 確かにそうだろう。

 

 ブリュンヒルデの称号すら持つ最強のISのりに、稀代の天才科学者が開発した新世代ISが組み合わされば単機でも福音を撃破できただろう。

 

 素人同然の使い手では真価を発揮できるわけもない。その点において箒は自分の失態を認めていた。

 

「ああそう。分かったわ」

 

 唐突に、その手から力が抜ける。

 

「これから福音をぶちのめすわ。織斑先生には内緒だけど、アンタはどうする?」

 

「これ以上一般生徒が出しゃばるわけにはいかんだろう。そもそも命令違反をするつもりはない」

 

「「・・・・・・」」

 

 静かに視線がぶつかりあう。

 

 鈴は怒りを込めて、箒は無感動に。

 

「それならいいわ。でも、これ以上一夏に関わらないで」

 

「あいつが寄ってくる分はそちらでどうにかしろ。それだけ呑めば受け入れよう」

 

 それだけ言葉を交わすと、鈴はそのまま出て行った。

 

 完全に嫌悪の感情が込められた視線だったが、それは一切気にしない。

 

 気にしないまま、箒はプライベートチャネルを起動して通信を繋ぐ。

 

 紅椿の物ではない。

 

 あれは箒にとって欠陥機だ。そんなものを日常に置いて頼るつもりなど箒には無かった。

 

『・・・シャルル、聞こえるか?』

 

『あ、箒? そっち専用機持ちが行ったみたいだね?』

 

 シャルルは苦笑するような響きで返すが、その言葉に箒は得心する。

 

『どうやら単独行動というわけではないようだな』

 

『僕はお互い無かったことにしたけどね。他の専用機持ちは全員動くみたいだよ?』

 

『更識も動くのか? 意外だな』

 

『レヴィアさんに申し訳が立たないみたいだよ? あとアースガルズさんはリベンジするつもりみたい。あとはまあ・・・想像通り?』

 

 なるほどと納得する。

 

 簪はレヴィアに想いを寄せている。そのレヴィアと親しい一夏がこんなことになり、仇を討とうとでも考えたのだろう。

 

 ヒルデのことはわからないが、もしかしたら言っても聞かないと判断して仕方なく護衛したのかもしれない。あの戦いでも支援に徹していたし、そういう性根の可能性もある。

 

 鈴にセシリアにラウラはもっと簡単だ。惚れた男が酷い目にあって、黙っていられる性分ではないだろう。

 

 相も変わらず異性を引き付ける男だと実感し、箒は苦笑する。

 

 思えば自分も昔はあれに想いを寄せていたわけだ。そういう意味では少しばかりの共感を抱くが、それもせん無きことだ。

 

 今はそれ以上の想いがこの身を締めている。それがある限りそんなものは意味をなさない。この身を占めていた姉への複雑な感情も、自分の状況に対する憤りも、今の彼女にはくだらないものだった。

 

 篠ノ之箒は刀として生まれ変わった。

 

 ゆえにそんなことに興味はない。

 

 だからその銘にも刀自身は意識を向けない。

 

『じゃ、そろそろ僕らも覚悟を決めようか、スプリング』

 

『ああ、巻き添えで死ぬのはごめんこうむるからな、サマー』

 

 亡国企業の当主の刀、スプリングは、これから起こるであろう破壊から身を守るため、静かに転移用の魔法陣の準備をする。

 

 これから予定通りに行けば、この旅館は周囲の土地ごと地球上から消え去るだろう。

 

 一夏が痛みを感じることすらなく死ぬことに対して、箒は自分でも驚くぐらい無感情なのを自覚した。

 

 そんな自分に好感を覚えて、さすがに自分でもちょっと引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして少ししてから、教師たちはこの非常事態にようやく気付いた。

 

「代表候補生の半数以上が無断で出撃しただと!?」

 

「レヴィア・聖羅さんの姿も見えません!!」

 

「代表候補生の位置が判明しました! 福音にむかって高速で接近しています!!」

 

 想定外の事態が重なり、教師たちは翻弄される。

 

 そんななか、千冬は少し目を閉じて考えた後、口を開く。

 

「打鉄とラファール・リヴァイブが一機ずつあったな。私と山田先生で連れ戻す。残りは生徒たちの護衛をしているんだ!!」

 

「わ、分かりました! 五分で準備します!!」

 

「三分でやれ!」

 

 素早く指示を出しながら、千冬は脳裏で一夏のことを思う。

 

 思えば、ここ数年は多少すれ違いがあったかもしれない。

 

 数年前に誘拐されてから、レヴィア・聖羅と知り合ってから、どことなくぎこちないことがいくつもあった。

 

 IS学園に入学してからも、教師としての本分を重視するため、なかなか距離を縮められなかっただろう。

 

 その間にもあの愚弟はその一級フラグ建築士としてのポテンシャルを発揮し、女子高という状況も手伝って多くの人に囲まれた。

 

 それらすべてが仇となって今の状況がある。

 

 姉としても教師としても人としても何とかしなければならない。

 

「麻耶」

 

「なんですか、織斑先生」

 

「・・・福音は私が相手をする。生徒達を、頼む」

 

 静かに決意を込める。

 

 福音は、たとえ刺し違えても自分が撃破すると。

 

「死んじゃだめですよ、織斑先生」

 

「まあ、善処するさ」

 




本作における敵ネームドャラの一人、箒さん。


なんというか色々な物をふっ切ってしまっています。半裸をみられて反応しなかったのも、ふっ切ったので特に意識してないというわけです。


そして冒頭で暗躍している方々は、まあD×Dなら大方予想できているであろうあの勢力です。


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第五話 いや、ここからが本番だよ

VS福音戦 スタート


 

 海上200メートル。福音はそこで退治のように丸まっていた。

 

 まるで眠るように筋かにたたずんでいた福音は、しかしその顔をあらぬ方向へと向ける。

 

 ・・・レーダーに反応はない。しかし、確かに何かの存在を感知した。

 

 これではいけない。よくはわからないが強力な存在が近付いているのはわかる。

 

 それでは死んでしまう。自分ではない。自分のことを大切に思ってくれている大切な主が死んでしまう。

 

 ゆえに離脱しようと翼を動かし―

 

 その背中に弾丸が直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まずは、意趣返しだ」

 

 5kmもの距離からそれを当てたのは、砲撃戦用パッケージ、パンツァー・カノニーアを搭載したラウラだった。

 

 大型のレールカノンを両肩に装備し、機動性能の低下を二つのシールドで対処するその姿は、大艦巨砲主義を思わせる。

 

 その号砲の直撃を以ってして、しかし福音は動揺しない。

 

 まずはこの敵を排除することから始めなければならないと割り切り、その機動力をもって接近する。

 

 放たれる砲弾を正確にかわす。そしてかわしきれないのは撃ち落とす。

 

 そして自身の間合いに入ったと判断した瞬間、横合いから光が直撃する。

 

 いつの間にか、自らの速度に介入する存在がいた。

 

「そして、ここからが反撃ですわ」

 

 超音速の速度に介入するのは、ビット全てを推進力に変換した、高機動パッケージ、ストライク・ガンナーを装備したブルー・ティアーズ。

 

 その売りであるビットによる多方面攻撃を捨てた代わりに、彼女は福音に並ぶ速度に到達する。

 

 その腕にになう大型BTレーザーライフルが、光の豪雨をかいくぐってピンポイントで福音を狙う。

 

 足を止めての大火力砲撃と、高速移動を組み合わせた精密狙撃。

 

 それらの攻撃をかわしながら、しかし福音は狙いを定める。

 

 確かにこの組み合わせは厄介だが、しかしこの機体は爆発的なまでの面制圧を目的とした機体。当然センサーも強化され、弾幕に対処することも可能である。

 

 ゆえにまずは火力の大きい方から撃破しようとして、しかし福音は頭上に迫る影に気づく。

 

「人の惚れた男に手を出して、まさかただで済むとは思ってないでしょうね?」

 

 機能増幅パッケージ、崩山を身に包んだ甲龍が、二機に翻弄された福音の懐に飛び込む。

 

 不可視という利点を捨て去る代わりに、その攻撃力と数を増やした衝撃砲が、銀の鐘にも負けぬ弾幕となって福音を叩きのめす。

 

 それに対して福音は、その衝撃に吹き飛ばされることを自ら受け入れた。

 

 幸い下は海面である。一度水中に潜ってから機動を変えれば仕切り直しは十分にできる。

 

 なにより脅威はまだ残っている。それならここから逃げるのも一つの手だろう。

 

 そう判断した福音はスラスターを加速して海面へと飛び込み―

 

「つかまえたデス」

 

 海面から飛び出て来たイチイバルに抱きつかれた。

 

 ISという空をかける兵器としてはにあわない、水中戦用パッケージ、ミドガルズダイブ。亀の甲羅を思わせる水流水圧干渉用PIC偏向機関を背負い、イチイバルは福音を抱きしめて拘束した。

 

「今デス、簪さん!!」

 

「・・・あなたのせいで一夏は傷ついて、そしたらレヴィアもきっと泣く」

 

 そしてここまでの行動は全てこの隙を作るためのもの。

 

 最後の本命が四人の努力を以ってして舞い降りる。

 

 ・・・山嵐・朧を利用して用意した、増加ミサイルポッド系240発。五倍近い量のミサイルが、正確に銀の鐘を狙って叩きこまれる。

 

 それらはマシンガンのように連続して、しかしその制御能力によってスナイパーライフルのように精密に砲門に叩きこまれた。

 

 シールドエネルギーの防御を超え、しかし搭乗者の生命に危機を及ぼさない精密攻撃。叩きこまれたミサイルの連劇が、銀の鐘を粉砕する。

 

 ・・・これこそが、銀の福音を撃墜するために全員が即席で組み込んだ最後の手段。

 

 四機総出で協力することで動きを封じ、とにかくミサイルを用意した簪の制御能力で叩き伏せる。

 

 その結果、福音はその性能の根幹ともいえる銀の鐘を失った。

 

 翼をもがれた鳥は地に堕ちるしかない。そして、そのまま墜落するのに任せるつもりは毛頭ない。

 

「人の嫁にあれだけのことをしたのだ。覚悟はできているだろう?」

 

「このセシリア・オルコット。友の仇を討つ程度のことはさせてもらいますわ」

 

「代表候補生の意地ってもんがあるのよ。諦めなさい」

 

「ちょっと気になる報告もあるので、さっさと片付けさせてもらうデス」

 

「レヴィアの分もしっかり殴り返す。・・・悪く思わないで」

 

 五機が五通りの火器を構え、福音に全ての弾丸を叩きこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、福音が光に包まれる。

 

 崩壊した銀の鐘は光の翼へと生まれ変わり、瞬間的に今まで以上の光の嵐を五機へと叩きこむ。

 

 土壇場で二次移行を遂げた福音が、最大級のカウンターを叩きこもうとし―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そこまでだ」

 

 その顔面にブレードの一撃を叩きこまれて空中で回転した。

 

「ち、千冬さん!?」

 

 丁度真横を通り過ぎる形になった鈴が顔を真っ青にさせるが、さらにグレネードが続けざまに顔のすぐ真横を通り過ぎて失神寸前になる。

 

 それらは福音に全弾叩きこまれ、その動きを完全に封じていた。

 

「油断しないでください五人とも!! ボーデヴィッヒさんはAICで動きを封じてください!!」

 

 後ろから珍しく剣のある声で叫ぶ麻耶の言葉に、五人はすぐに冷静さを取り戻す。

 

 直後、海面に叩きつけられた福音がAICで動きを止められる。

 

 その拘束された白銀の体に、容赦なくブレードが突きいれられた。

 

「あいにく、生徒を傷つけられて黙っているつもりもない。・・・機嫌が悪いのだ、覚悟しろ」

 

 絶対零度の視線をもって、打鉄をまとった千冬が宣言する。

 

 その視線に、福音は機械であるにもかかわらず一度震えを見せた。

 

 それでも福音はこの場から逃れようとその翼を広げ―

 

「・・・温すぎる」

 

 その前に三連続でブレードを叩きこまれて空中に打ち上げられた。

 

 その身にグレネードが再び叩きこまれて、福音は今度こそ動きを止める。

 

「この程度の奴に苦戦するとは仕方がない。怪我が治ったら一夏は基礎から鍛え直しだな」

 

 そのまま千冬につかまれ、福音はそのまま崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、ちちちち千冬さん?」

 

「お、織斑先生。こ、これはそのですね?」

 

「・・・覚悟はできました教官。さあ、お好きにどうぞ」

 

「で、できれば遺書はアーズガルズ・コーポレーションに届けてほしいデス!?」

 

「・・・反省はするけど後悔はしません」

 

 五人がそれぞれ恐怖に震えるなか、福音を抱えた千冬はためいきをついた。

 

「専用機持ちがそろって命令違反で無断出撃とはいい度胸だ」

 

 福音すら震え上がらせた絶対零度の視線が突き刺さり、五人は死を覚悟した。

 

「・・・だが、よく生き延びた」

 

 だから、まさかそんな優しい言葉がかけられるとは思わなかった。

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・え?」」」」」

 

 思わず聞き返してしまった。

 

「本当に皆さん心配したんですからね! 織斑先生だって顔色悪くて大変だったんですから」

 

 後ろから苦笑交じりの麻耶の言葉が聞こえ、そしてその肩をゆっくり叩かれる。

 

「お説教は帰ってからじっくりとします。でも、その前にゆっくり休んでください」

 

 ・・・戦いは終わったのだ。

 

 戦士たちは全力を持ってその脅威に立ち向かい、そして脅威は排除された。

 

 ゆえに一時の安らぎを得る程度のことは許されるだろう。少なくとも、それぐらい許せる度量は確かに残っていたのだろう。

 

「説教が終わったら一夏を病院に搬送するぞ。見舞いは始末書を書き終えてからにしてもらう」

 

 福音を抱え直しながら、千冬は僅かに口元をゆるめると、五人に向き直った。

 

「これで状況は終了だ。・・・ご苦労だったな、五人とも」

 

 そして、戦いは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ここからが本番だよ」

 

 そして、全く別の戦いが勃発する。

 




そして終了。

この作品において、福音は前座にすぎません。

さあ、派手に行きますよ?


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第六話 まさか、ここまで化け物だとはな

さあ、D×D本格突入


 

 その声と同時に感知したそれに、鈴は状況がそれどころではないことを理解した。

 

「そう、ここからが本番だ。我々にとっても、そちらにとっても」

 

 鈴の視界の中で、千冬が珍しく動揺しているのがわかる。

 

 まあ当然だろう。

 

 ISもつけず、宙に浮かぶ人がいれば、普通は混乱する。

 

 そして、その人はなにも飛ぶ手段を持っていないわけではない。ただその手段が明らかに常人の想像をはるかに上回る為、それが思考を停止させていた。

 

 そのものは、黒い蝙蝠のような翼を12も生やしていた。

 

 その翼の数に、鈴は彼らの正体を一瞬で把握した。

 

 悪魔、それも上級クラスの強大な悪魔にが目の前に存在する。

 

「貴様ら、何者だ?」

 

 福音をかばうように身を傾け、ブレードを突きつけながら千冬が問う。

 

 その姿を嘲笑しながら、12の翼をもつ男が、優雅に一礼した。

 

「ジーコン・アスモデウスというものだ。冥土の土産に覚えておきたまえ」

 

 ジーコンは嘲笑を浮かべたまま、その手を自分達へと向ける。

 

「目的はIS狩りとでも言っておこう。ブリュンヒルデからISを奪ったとなれば、相応の戦果になりそうだ」

 

 ジーコンはその全身から殺意をみなぎらせ、そう余裕に満ちた発言をする。

 

 鈴はその言葉が嘘でも油断でもないことを心底理解している。

 

 だから―

 

「皆逃げて!!」

 

 自分が動いた。

 

「鈴さん!? なにを―」

 

「さがれ凰! 得体が知れな―」

 

 後ろでセシリアと千冬が叫ぶが意識を向けない。

 

 ISでは勝てないから両腕を除装し、その左腕を叩きつける。

 

 もちろん仙術は使用する。

 

 仙術による打撃とは、すなわち気を相手の内側に打ち込むこと。

 

 ゆえに相手の防御力を無視することが可能といってもよく、それゆえに決まればこの状況を打破することが可能である。

 

「・・・仙術か、甘いな」

 

 ゆえに、直撃する前に障壁で防がれれば意味をなさない。

 

 だが、その程度は呼んでいた。

 

 そしてそれは、喰らえばダメージが入るということの証明でもある。

 

「なら、これはどう?」

 

 右腕に全力を込めると同時、出せるすべての身体強化魔法を一気に加える。

 

 自分の体の限界を超えた強化魔法に腕が裂けて血が流れるが、それは今は意に介さない。

 

 そもそもこの現状を打破しなければそんなことを考えることもできないのだ。

 

 下手な上級悪魔をはるかに上回る全力を超越した一撃。

 

 それは障壁を確かに砕き―

 

『Divid!』

 

 ―その肌でやすやす止められた。

 

 見れば、ジーコンの背には白く、そして光を放つ翼が新たに生えていた。

 

 以前レヴィアから見せてもらった映像で知っている。

 

 アレは―

 

「10秒ごとに相手の力を半減して己の物とする白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)。見事だ、真なる魔王に通用する一撃を放ったこと、褒めてやろう」

 

 ・・・この世界には、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる13の力が存在する。

 

 複数の能力を持ち、それら一つ一つが桁違いの効果を発揮し、そして一つの次期に一つしか存在しない、文字通り神すら殺せる人類究極の力。

 

 その一つを、目の前の悪魔が手にしていた。

 

 その力は人間の血が無ければ手に入れることができない力。それを悪魔が手にするということは人間から奪い取ったということであり、ゆえにその時点で相応の実力を持つことの証明でもある。

 

 ・・・勝ち目がない。鈴はその身を以って今の現状を改めて理解した。

 

「とはいえ、王に手を出した報いはちゃんと受けてもらう」

 

 ジーコンの体から、魔力が一つの形を作り上げる。

 

 それは巨大なサソリの尾。もはや毒ではなくその力を以って敵を叩き潰す凶器がそこにあった。

 

 無論かわすために後退しようとするが、いつの間にかその腕をジーコンはつかんでいた。

 

 回避不能。その四文字が頭に浮かぶのと同時に、衝撃が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見て、千冬はようやく我に返った。

 

 半透明の光の尾などという現実離れした光景を見せられて、柄にもなく茫然自失状態になっていたようだ。

 

 鈴が叩きつけられた海面は大きくへこんで津波と間違うような波を起こしており、まるで隕石が落ちたかのような動きを見せている。

 

 ・・・絶対防御すら貫通しかねない威力だと、馬鹿でもわかった。

 

 そして自分の視界に移るジーコンとかいう悪魔は、その手に鈴の腕をまだ持っていた。

 

 当然、それは本体とは繋がっていない。

 

 肘から先の部分が、打撃の勢いについていくことができず引きちぎられていた。

 

 華奢な腕だと、千冬は思う。

 

 身体能力は高かったが、それに合うような筋肉を持っていなかった。体格的にも小柄だし、どう見ても小さな子供のような腕だろう。思えばそれでよくあれだけの身体能力を発揮していたのだろうか疑問に思う。

 

 そんな腕の持ち主に何度も危険な目を合わせた。挙句の果てにこの非常時に真っ先に行動させた。とどめにその腕を失わせた。

 

 しかも腕が引きちぎれるほどの打撃で海面に叩きつけられた。普通に考えれば即死だろう。

 

 ああ、なるほど、死んだのか。

 

 そこまで理解して、感情が現実に追いついた。

 

「―――殺す」

 

 瞬時加速。それと同時の振り下ろしが、ジーコンを正面から打撃する。

 

 そう、それは悪魔で打撃であり斬撃にはならない。

 

「無駄だ。表の最高であるISと我ら裏の高位との戦いは一つの形に集約される」

 

 その言葉と共に尾が振るわれるが、千冬は神速の見切りを以ってして全てを回避する。

 

 もちろんその間も攻撃は忘れない。

 

 だが、それらすべてはジーコンの皮膚を打撃するにとどまっていた。

 

「すなわち、こちらが無限に等しい攻撃を喰らって、その耐久力を超えるまでに一撃を叩きこむか。かすり傷にも満たない攻撃を致命傷にまで重ね合わせるまでに、一切の攻撃を喰らわないかだ」

 

 見えない波動がジーコンから放たれ、その身を弾き飛ばされる。

 

 直後、光の豪雨が目の前に現れた。

 

 その数は福音と比較すれば大きく劣る。しかしその質は福音を比較にするのも馬鹿らしいほどはるかに強大。

 

 直撃どころかかすめただけでシールドエネルギー全てを持って行きかねない猛攻を、千冬は高速で回避した。

 

「だが私は裏の高位ではなく裏の至高だ。そこに勝負は存在しないのだよ」

 

 圧倒的という言葉を体現し、勝者の余裕すら漂わせるジーコンだが、それによって一瞬の隙が生じる。

 

 その瞬間を逃さず、千冬は豪雨を突っ切り接近した。

 

 狙うのは眼球を目指した刺突。

 

 それはかわされることなく叩きこまれ―

 

『Divid!』

 

 その勢いを殺されて封じられた。

 

「無駄だよ、人類の真の至高と、真なる魔王の血が組み合わさった私を倒すのに、ISでは無理だ。おもちゃのナイフで鋼は切れない」

 

 子供を諭すように、ジーコンは笑いかけた。

 

「・・・だから、諦めて死にたまえ」

 

「・・・その油断が、命取りだ」

 

 直後、その背中に現状存在するありとあらゆる攻撃が直撃した。

 

 ・・・織斑千冬という最強戦力を囮にした、集中砲火による不意打ち。

 

 あの猛攻をしのぎながら、しかしそれによって頭が冷えた千冬はプライベートチャネルで指示を出していた。

 

 いくら化け物としか思えない力を持っているとはいえ、この攻撃ならばいくらかダメージは通ると思う。

 

 シールドエネルギーにだって上限はある。絶対防御にだって限界はある。

 

 ならば、この化け物がどんな方法で力を手にしていたとしても、サイズの限界は確かに存在するはずで―

 

「残念だ。まさかこの程度で倒せると思うだなんてね」

 

 ―その限界は、はるか上に存在していた。

 

「まさか、ここまで化け物だとはな」

 

「そうへこまない。君も十分強者だ。すくなくとも現代の英雄を名乗るにふさわしい力を持っている」

 

 打撃が加わった場所に触れ、ジーコンは心底真面目に千冬を評価した。

 

 確かに、彼女の戦闘能力はIS同士での戦いなら現状でも最強格であろう。

 

 ブリュンヒルデの名にふさわしいその力を、彼女は圧倒的な強敵を前に確かに示して見せた。

 

 しかし、それでも届かない。

 

「・・・麻耶! 生徒達を連れて急いで逃げろ!!」

 

 だから決断する。

 

 この命全て捧げてでも、この場を切り抜けることを迷わない。

 

「織斑先生!?」

 

「良いから急げ、撤退すると同時に全生徒を避難させろ、急げ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、下がるのは織斑先生のほうデス」

 

 

 

 

 

 

 

 

「極めて同意見だね。緊急通信を入れてくれて助かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、頭上から声が聞こえた。

 

 それはこの場にいるわけがない声だった。

 

 確かに、彼女の行方が急に消えたと聞いて、今回の件との関係を考えたのは事実だ。だがそれは、情報を知ろうとして何らかの行動をとっている物だとばかり思っていた。

 

「・・・福音に報復するためにいろいろと準備をしてきたと思ったら、まさかこんな状況になっているとは思わなかった」

 

 ため息交じりの声が聞こえ、そしてその姿が頭上から舞い降りる。

 

「報告感謝するよヒルデちゃん。アースガルズ・コーポレーションと聞いた時から予想してたけど、まさか裏の存在を表業界に入れているとは思わなかった」

 

「あいにく適性がSランクだったものでデス。あ、自分完璧サポートタイプなので戦力としては入れないでデス。・・・時間かかるデス」

 

 ジーコンからの攻撃の気配も消えている。

 

 完全に、その敵意は彼女に収束されていた。

 

「・・・来たか、偽りの魔王に(こうべ)をたれる裏切り者」

 

「来たさ。分不相応の言葉を体現することしかできない、驕りしか持たない鍍金の魔王」

 

 敵意をお互いに向けながら、レヴィア・聖羅が戦場に降り立った。

 




本作におけるISと異形との戦闘はジーコンが言ったとおりです。

当たらなければどうということはないを地で行けるISにも勝算はありますが、どうしても攻撃力が足りません。ゆえに千冬でも相手にならなかったというわけです。

ただしこれは逆にいえば、攻撃力さえ何とか出来れば千冬クラスならかなり勝算があるというわけで・・・


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第七話 それが僕の王道だ

ついにレヴィアが真の意味で戦闘を開始します。

彼女の戦闘スタイルは結構とがってるのでどうぞご覧ください。


 

「よくもまあ好き勝手にやってくれるよ。割と本気で怒ってる」

 

 状況があまりにも変化したことに、レヴィアは頭痛すら感じていた。

 

 福音を叩き潰すために魔法使いと連絡をとって速度支援の魔法をかけてもらおうと行動していたら、いつの間にやら福音が叩きのめされる。

 

 だから仕方がないと諦めようとしたら、いきなりヒルデから緊急事態を伝えるメールが送られ、急行したらこのありさまだ。

 

 まさか魔王アスモデウスの血筋をひく者が、ISを狙って行動するとは思わなかった。

 

「いや、僕の下僕()である一夏君がボコボコにやられただけでも機嫌最悪なのに、僕の友人()である鈴ちゃんまでやってくれるとは本当にいい度胸しているね」

 

 正直な話、こんな展開は予想などしていなかった。

 

 ISの戦闘能力は確かに高い。だがそれだけだ。

 

 敵のすべての攻撃を回避して最後まで削りきるか、攻撃を耐え続けて一撃当てて一気に勝負を決めるかになりやすいのが、実力者がISと戦う時の流れである。

 

 ゆえに最上級の存在ならばてこずることはあっても苦戦することはない。だからまさか自分を狙うならともかくISそのものを狙うとは想定していなかった。

 

 とはいえ、ISの機動力が上の上クラス以上の機動力を与えるのは事実だ。速さの部門に置いては、素で勝てる者は少ないだろう。

 

 そこに目をつけ、機動力を高めるための乗り物として狙うというのは、確かに考えられるところではあった。

 

 全ては、それを想定できなかった側であるこちらのミスだ。

 

 それをぬぐうために鈴が犠牲になった。

 

 ああ、許せることではない。

 

「僕はねえ、自分の物が傷つけられるのが意外と我慢ならないタイプなんだ。ぶっちゃけ、権力フルに使うのってほとんど僕の物の利益のためなんだよねぇ」

 

 かつて、自分は致命的な失敗をした。

 

 癇癪を晴らすための行動で、してはいけない失敗をした。

 

 それを反省し、次に生かして行動していたにもかかわらずこの失態だ。

 

 ・・・何より自分のうかつさに腹が立つ。

 

「よく言うな。・・・真なる魔王の血を継いで置きながら、偽りの魔王の配下としてその政治をみださぬよう行動するなど、へどがする真似をしておきながら?」

 

「当然だろう? 魔王とは冥界の政治をつかさどる(まつりごと)の長にして、戦場に置いて勝利をつかさどる勇猛たる戦争の長だ。僕らのようなかつての血の力を活かすこともできない愚かで愚昧なできそこないが立とうなど一万年早い」

 

 ジーコンの言葉は一刀両断する。

 

 すでに自分にとって、彼らは滅びた方が世界のためになる過去の遺物だ。

 

 その誇りという名の原石を、磨くことをせず錆つかせたおろか者。

 

 現政権側に置いても代々続く上級悪魔の大半がその手の類だが、ちゃんと上がしっかりしているのでまあ及第点だ。

 

 だが旧魔王は上も下もそんな感じだ。救いようがない。

 

 政治的にもそれどころではないのに、種族が滅びるか否かの瀬戸際の状態で戦闘行動を継続しようなどと愚の骨頂にも程がある。戦争とは利益を得るための交渉活動の一環なのに、明らかに損をする状況下で長続きする意味がない。それがわからない者が政治を語っていいわけがない。

 

 しかも実力不足なのが見てわかるにもかかわらず、自分達がその立場に付けるなどと信じて疑わないその性根。見ていて吐き気すら催す。実際一度はいたことがある。

 

 それが、今自分の物に手を出した。

 

 ゆえに滅ぼす。

 

 そんな決意を胸に秘め、レヴィアは努めて笑顔で後ろを振り向く。

 

「セシリアちゃん。いろいろと一夏君のことでも面倒をかけたね。後はまかせて」

 

「れ、レヴィアさん・・・? と、というよりもどうやって飛んで・・・?」

 

「ラウラちゃん。今回の作戦はすごかったと思うよ。君は君の役割を果たしたから、ここから先は僕の番だ」

 

「お姉さま・・・?」

 

「山田先生。すいませんがあまり距離をとりすぎない程度で下がってください。早めに終わらせますが、流れ弾の危険性があるのでちょっとかばえる範囲内にいてください。・・・あ、詳しい説明が聞きたいなら山田四朗氏に連絡すると良いかと」

 

「え!? な、なんでここでおじさんが出てくるんですか!?」

 

「千冬さん。生徒としてではなく知人として言います。・・・荷が重いので下がってください。これは、僕の役目です」

 

「・・・よくはわからんが一度下がるべきか。任せて、いいんだな?」

 

 その場にいる者たちに声をかけながら、最後にレヴィアは簪に視線を向ける。

 

 最低限の情報は調べているが、今だ未完成の機体でよくやったと思う。

 

 こんなルームメイトを持てて、自分は誇り高い。

 

「・・・簪ちゃん、無理しすぎだよ。いや、要になったのはすごいと思うけど、生徒会長マジ卒倒しかけてたから気をつけて」

 

「れ、レヴィア。・・・頑張って」

 

 声援までもらってしまったならば、頑張るしかない。

 

 ゆえに―

 

「吹き飛べ下郎。その驕りのままに消えていけ」

 

 初手から全力の魔力砲撃を叩きこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どす黒い色の蛇の群れが、ジーコンを一瞬飲み込んだ。

 

 そして次の瞬間、膨大な力がその蛇を弾き飛ばす。

 

「ほざくなよ!! 白龍皇の力を手にした今の私を、貴様風情がどうやって倒す!?」

 

 蛇の群れをはるかに凌駕する用の豪雨が、反撃として放たれる。

 

 一発一発がISを撃墜するのに十分すぎるほどの火力を持つ。

 

 その豪雨は、しかしレヴィアには当たらない。

 

 強大な力でできた壁が、そのすべてを防ぎきっていた。

 

「忘れてもらっては困るね。確かに僕の才能は、基本的には中の上から上の下といった、魔王の血筋を継ぐものの中でも下位の部類だ」

 

 まるでティータイムをたしなんでいるかのような雰囲気で、レヴィアはジーコンに告げる。

 

「だが、僕は僕の王道にふさわしい実力を発揮するために努力をちゃんと積んでいる」

 

 単騎で都市を瞬時に崩壊させかねないほどの攻撃を、しかし単独で完全に防いでいる。

 

 それはしいて言うならば核シェルターを戦車大隊が破壊しようとするかのようだ。

 

 規格外の猛攻を規格外の防壁で防ぎきる。そんな光景が今目の前で繰り広げられていた。

 

「これがお姉さまの本来の力。・・・なんという防御力だ」

 

 ラウラの言葉がその場にいた物たちのほぼ総意だった。

 

 しいて言えば簪はレヴィアの力の一端を目にしていたが、しかしここまでとは思いもよらなかった。

 

 圧倒的な力に対し、圧倒的な防御でそれを封殺する。

 

 それに対してジーコンはついに高速移動を開始、全方位から砲撃を行い、さらには近接戦すら行って反撃を開始した。

 

 ISに次ぐ速さを発揮するそれらに対して障壁を展開しつつ、しかし間に合わずレヴィアの体には何度も攻撃が叩きこまれる。

 

 近接攻撃で幾度となく後ろへと下がりながら、しかしレヴィアも蛇を生みだし反撃を叩きこんでいた。

 

 総合的に見てジーコンが僅かに有利の状況下だ。

 

 しかし、そこに介入はできない。

 

 先ほどの戦闘で、こちらの攻撃では意にも介されないことが証明されている。

 

 しかも弾幕の数が多すぎて、うかつに介入すればむしろあたりに行くようなものだ、。そしてそうなれば一撃で終わるのは目に見えている。

 

 そもそも、そういった介入自体できそうにない。

 

 今、自分達の周囲には薄い膜のようなものが張られている。

 

 おそらくはレヴィアが張ったものだろう。あの豪雨の流れ弾が何発も直撃しているが、敗れる様子はない。無論、そんな頑丈なものを破る火力もこちらにはない。

 

 手出し無用の状態で完全に守られている。この事実に、代表候補生と教師としてのプライドは完全にずたずただった。

 

「で、でもこのままだとまずいですよ。何とか力にならないと・・・」

 

 麻耶のいうことは最もだろう。

 

 現状、劣勢なのは誰がどう見てもレヴィアの方だ。

 

 防御面では確かに上回っているだろうが、それ以外のすべての面でジーコンの方が優勢。普通に考えればそのまま押し切られる。

 

 追加でいえば鈴の回収もしなくてはならない。

 

 シールドエネルギーは完全に切れているだろうし、彼女は腕をちぎられている。

 

 ほおっておけば、確実に死亡する。

 

「レヴィア・・・」

 

 簪は不安を隠せずにレヴィアを見守る。

 

 自分が求めるヒーローを体現したかのような彼女が、いま自分達を助けるために不利な戦いを強いられている。万が一がないようにするためにこちらを守るという行動まで同時に行ってだ。

 

 それは確かに自分にとっては幸せな展開なのかもしれない。だけど、本当にそれでいいのか。

 

 自分の大切なものが苦しんでいるときに、それを伏してみるようなまねが本当に許されるのか?

 

 それは違うだろう。

 

 そして、こんな状況を黙って見ていられるような性分な者はここにはいない。

 

 ゆえにこの、助けてはくれるが邪魔な障壁を打ち砕こうと努力を開始するために武器を構え。

 

「・・・ハイハイストップデス。自分たちが出てもなにもいいことないからデス」

 

 後ろから拍子を外された。

 

 殺意すら感じる視線を向けられながら、拍子を外したヒルデは肩をすくめた。

 

「世の中には適材適所って言葉があるデス。この激戦じゃ鈴をさがす余裕もないから、ちょっと落ち着くデス」

 

 ISの両腕を除装して、ヒルデはどうどうと両手を広げる。

 

「何を悠長なことを言ってますの!?」

 

「貴様も福音撃破に協働したなら分かるだろう!! 同じ失敗を二度も繰り返すつもりか!!」

 

 セシリアとラウラが食ってかかるが、ヒルデは取り合わず肩をすくめた。

 

「・・・なにか変な勘違いをしてないかデス?」

 

「勘違い、だと?」

 

 緊張感すら無くなっているヒルデの様子に、千冬は振り返って戦闘を確認する。

 

 攻撃を防御しながら放つレヴィアの反撃を、それをはるかに上回る量の攻撃で封殺しつつ、防御障壁を潜り抜けて何度も格闘攻撃を叩きこむジーコン。

 

 見た通りの光景に、しかし千冬は違和感を感じた。

 

「圧倒的有利なの、レヴィアのほうデス」

 

 きっぱりと、ヒルデは断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉のとおり、あせっているのはジーコンの方だった。

 

 攻撃は当てられる。防御は潜り抜けれる。速さなら上回っている。反撃は自分よりはるかに格下だ。

 

 だがしかし、だがしかし・・・。

 

「なぜ通用しない!!」

 

 自分の攻撃は命中してもダメージにはなっていない。

 

 防御障壁に防がれずにあたっているはずなのに、まったくもってそれが成果になっていなかった。

 

「単純な話だよ。これでも僕は同世代じゃ、障壁の頑丈さも肉体の頑丈さもレーティングゲームトップランカーに並ぶという超隔絶された規格外だというだけさ」

 

 なんてことも無いように、レヴィアはきっぱりと言い放つ。

 

 あくびすら出そうなその様子は、正真正銘今までの攻撃がレヴィアにダメージと認識されていないことの証明だった。

 

 攻撃力ではジーコンが上。機動力でもジーコンが上。

 

 しかし、総計ではレヴィアが上であり、それは防御力が隔絶しているからにほかならない。

 

 他のステータスで数割以上引き離していても、防御力が十割以上引き離されている。ゆえに総計ではこちらが下回り、その一点特化ゆえにこちらの攻撃は通用していない。

 

 まるで紙でできたナイフで装甲板を切ろうとするかのような徒労を感じ、ジーコンは心理面で圧倒的に不利になった。

 

 ISと上級クラスの戦闘は、いくら当たってもなかなか効かない上級クラスが、いかにISに攻撃を当てるかに集約される。

 

 最上級クラスである真なる魔王の血筋ならば、そもそもあたっても無意味なのでダメージを意識する必要がない。

 

 それがそっくりそのまま自分とレヴィアに置き換わっている。

 

「・・・王というのは、どういうものだと考えている?」

 

 静かに、レヴィアが見えぬ民衆を見渡すかのように視線を回す。

 

 ジーコンにとって王とは、自分達がもつ当然の権利だ。

 

 偉大なる王の血筋に生まれ、その恩恵と栄光を受けるべきなのは自分達である。本来なら全ての悪魔の忠誠心を保有し、その栄誉と共にあるべきなのが自分達だ。

 

 だが、レヴィアはそれを首を振って否定する。

 

「王にもいろいろあるだろうが、少なくとも、真に民衆を導いた者たちは等しく持っている物がある。それこそが王が持つべき必須のもの、王道だ」

 

 力強く、十二の翼を広げ、レヴィアは真正面からジーコンを睨みつけた。

 

「己の足で立つことを不安に思う人々に、その杖となり立ち上がる力と負担の支える心の柱となること。それが、僕が『魔王』として始めた最初のことだ。・・・そして、もっと大事なことを僕は知った」

 

 目を閉じて思い出すは、モンド・グロッソでの己が失態と、それで手に入れた二人の剣。

 

 あの二人は人生の支えとして自分という元凶を利用するのではなく、自分がきっかけで変わった人生を、どう進むか真剣に見据えていた。

 

 魔王レヴィアタン直系の血筋にすがった者たちは、真なる魔王という光に向かって進みたがっていた者たちだった。

 

 自分達が生きるためにその光が選んだ徹底抗戦から逃れた。だが、それでも輝く道を、照らされた道を歩きたいという願望は強く、自分はそれを現政権で叶えることで、輝きながらも汚物にまみれた道へ間違って進むことを防ごうとした。

 

 そんな中、あの二人の在り方はとても輝いていた。

 

『レヴィアは力をくれるんだろ? それで、俺にも守ることってできるかな?』

 

『レヴィアさんがくれた力、使ってみます。それであの人を振り向かせて見せます!!』

 

 人を守れる力が欲しい。好きな人に好かれる自分になりたい。

 

 それは、ちっぽけな願いだったのかもしれない。

 

 だが、自分という光を進んだ上ではなく、自分という光に照らされた物を拾って自分で進むその姿に、救われたのは自分だった。

 

「自らの道を選ぶ者に、その道を照らして間違いや判断基準を照らす街灯となる。それも一つの在り方だと知った」

 

 あの時、自分の王道は一つの完成を見た。

 

 それを四人の指導者に伝えた時、形は違えど認めてくれたことは涙が出るほど嬉しかった。

 

「光を求める者には、迷走させぬよう正しき位置で光り輝き、その光によって己が道を進む者の足元を照らす、人々のための輝きとなること。それが僕の王道だ」

 

 そして、そのためには一つの絶対条件がある。

 

 道を、そして人々そのものを照らす輝きが消えれば、それは大変なことになるだろう。

 

 王とは絶対の指針であり、人々の心を集わせる象徴であり、後ろから見守る保護者であり、それは失われると大変なものだ。

 

 故に失われない。砕かれない。壊されない。倒されない。

 

 そのための耐久力と障壁能力。

 

 努力という肥料をその二つを育てるために特化して鍛え上げた。たとえ勝てなくても、輝きが弱くても、そこにあることだけは気付かせ続けられるように。

 

「この守りはその王道の証明。王であることにこだわるあまり、そもそも王道すら持っていないおろか者達が、この道を壊すことなどありえぬと知れ!!」

 

 砕けぬ揺るがぬ汚されぬ。

 

 絶対不変の輝きを体現する王が、今この場にその王道を指示した。

 




レヴィアの戦闘スタイルは一言で言うならば、超重装甲。ネットゲームなら典型的タンク。

才能のほとんどをとにかく防御方面へと割り振った結果、障壁の堅さでも肉体の頑強さでも桁違いです。既にこの年代で、両方突破してダメージを与えられるのはかなり少ないレベル。

さらにこの話で示した通り、離れたところにも障壁を張れるためサポートも得意。防御型サポートタイプの雄として名をはせております。

しかもまだ本気出してません。一点特化型のチートが多いというのがD×Dの特徴ですが、彼女もまたその例に乗っ取っております。


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第八話 これって集団幻覚ってオチは無いですよね?

この話でレヴィアの奥の手が二つ出されます。


 

 

 ただ威光を振りかざしてその恩恵にあずかろうとするものと、その威光を照らすことに使い、そのうえで恩恵すら使って領民を導くもの。

 

 王という存在における悪い在り方と良いあり方が、真正面から激突した。

 

「だったらこれならどうだ!!」

 

 威風堂々とするレヴィアの姿に業を煮やしたのか、ジーコンが空間をゆがませて剣を呼び出す。

 

 見るからに禍々しいオーラを放つその剣を握り、ジーコンはレヴィアにきりかかった。

 

 それを手に障壁を展開してレヴィアは防ぐが、その剣は障壁を両断し、レヴィアの腕と激突する。

 

 瞬間、今までにない速度でレヴィアが弾き飛ばされた。

 

「魔剣ディルヴィング! クレーターすら穿つ破壊力の前に弾き飛ばされるがいい!!」

 

 続けざまに切りかかり、その衝撃がレヴィアをどんどん後方へと押しつける。

 

 その余波は海にすら及び、剣が叩きつけられるのに同期して、巨大な波がいくつも発生する。

 

「なるほど、それなりに考えているようだ。足りない実力を補う努力は認めよう。及第点はくれてやる」

 

 両腕に小さくも、しかし確実な切り傷を作りながらレヴィアは敵の実力を上方修正する。

 

 思った以上に強敵だった。ただ自分が強いと思い込んでいるだけのおろかものかと思ったが、それにふさわしい武器を手に入れようとする努力ぐらいはしていたようだ。

 

 レヴィアは強力な武器を集めることを否定しない。

 

 それを否定すれば、高性能の兵器を開発する今の人類の流れそのものを否定することになる。

 

 足りない者をよそから持ってきて補うのは、当然の行動だ。

 

 しかし、それでもこの程度の相手に屈することがあってはならない。

 

 目の前の男は権利だけむさぼろうとするおろか者だ。

 

 その権利を行使する側としての在り方があまりにも足りていない。未熟であり幼稚であり考えが足りない。

 

 そんなものに、今の時代を象徴するISをくれてやる道理など存在しない。

 

 ゆえに、振り下ろされるその一撃にカウンターで拳を叩きこみ―。

 

「だがそれまでだ!!」

 

 その一撃を、防ぎきった。

 

 驚愕に目を開くジーコンの視界は、レヴィアの拳を確認する。

 

 まるで鋼で動物の像を作ったかのように、鋼の毛皮がその腕を覆っていた。

 

「それが・・・貴様を魔王の領域へと近付けるといわれている・・・」

 

「そう。超剛性防御結界、金剛鉄腕。・・・ひじから先までしか展開できない、欠陥品さ」

 

 レヴィアの両腕の変化はそれだけではない。

 

 指の長さから爪の形状に至るまで変化し、それはまるでオオカミと人をかけ合わせたかのような姿だった。

 

「人狼の血を持つ混じり者の悪魔であるが故に発現させることができたこの能力、貴様じゃ一万年かかってもできないだろう?」

 

「お・・・のれぇ!!」

 

 やけになって何度も叩きつけてくるが、レヴィアは正確に腕で受け止める。

 

 この防御は体ごと巻き込むような攻撃には無意味だが、相手が武器を使ってくるなら話は別だ。

 

 結界そのものが空間にとどまるように動くため、重量物を持ち上げることはできないが防御力が働くため支えることは容易。

 

 ゆえに、この防御は彼女の真骨頂。

 

 折れぬ砕けぬ曲がらぬ染まらぬ。そこにあり続け輝きを放つレヴィアの王道を示す、究極の防御の体現だ。

 

 現魔王が全力を出してなお突破困難のこの防御を、魔王の残骸でしかないジーコンが破ることなと不可能だと、レヴィアは確信していた。

 

 そして、ゆえに今度は守りを打ち砕くことで証明する。

 

「固有術式、起動」

 

 レヴィアの左腕の金剛鉄腕が、一瞬で消滅する。

 

 それらは魔法陣と化しレヴィアの左拳に集約される。

 

 それを振りかぶりながら、レヴィアはその現象の名を宣言した。

 

「固有術式、焦がれの矛盾。・・・喰らっておけ!!」

 

 瞬間、隕石が墜落したかのような衝撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね? 大丈夫だったデス」

 

 ヒルデの言葉も耳に入らない。

 

 目の前で起きた大規模破壊に、その場にいた物は唖然としていた。

 

 その視界の先、ジーコンは右腕を吹き飛ばされていた。

 

 魔剣ディルヴィングが宙を舞い、それをレヴィアは軽くつかむ。

 

 禍々しいオーラがレヴィアを汚染するかのようにまとわりつくが、レヴィアは意にも介さなかった。

 

「使わなければ呪いもこの程度か。意外と怖くないね、伝説の魔剣もこの程度か」

 

 軽くふるいながら、レヴィアはジーコンに視線を向ける。

 

 その姿は勝者のそれであり、そしてそれは誰が見ても明らかだった。

 

 圧倒的かと思われた攻撃は通じず、切り札と思われた武器も奥の手で防がれ、そして腕ごと吹き飛ばされて奪われた。

 

「鈴ちゃんの腕を千切った報いはそれですませてあげるよ。今から投降するなら、受け入れるけど?」

 

 油断なく向けられる視線にさらされながら、ジーコンは悔しげに歯ぎしりをしていた。

 

「お、お姉さまの完全勝利だと・・・?」

 

「鈴さんを一瞬で倒した相手をああも簡単に・・・?」

 

「お、織斑先生? これって集団幻覚ってオチは無いですよね?」

 

 ラウラもセシリアも麻耶も現実を受け入れきれていなかった。

 

 当然だろう。

 

 世界最強の兵器とすら言われるISを生身で撃破するような存在が現れたと思ったら、それを圧倒する存在が実は学友で一般生徒だったなどと、信じられないにも程がある。

 

 なまじ代表候補生(元含む)であるだけにその分衝撃は重い。当分夢に見てうなされたとしても同情できるレベルだ。

 

「レヴィア。やっぱり、カッコイイ」

 

 1人恋する乙女なのはこの際置いておいて、千冬は視線を後ろに向ける。

 

「アースガルズ。お前、いつから知っていた?」

 

 思えば、彼女は最初からこの展開を予想していた節もある。

 

 ただ一人レヴィアの勝利を一切疑わず、今も特に動揺している節がない。

 

 レヴィアの正体を何らかの形で知っていた可能性は非常に高かった。

 

「最初からデス。・・・こっちの業界じゃ有名人デス」

 

「説明はあると思っていいんだろうな」

 

「仕方がないデス。他の人には内緒にしてほしいデス」

 

 指を口元に当てるヒルデに、千冬は心底ためいきをついた。

 

 鈴のあの尋常ではない拳の速さなどから考えて、一夏達もこのことについて知っている可能性が高い。

 

 必ず聞きだそうと心に近い、そして意識を戦闘へと戻す。

 

 あまりに圧倒的な状況下に、ジーコンは明らかに狼狽していた。

 

「何故だ・・・。何故、白龍皇の光翼が効かない!?」

 

「馬鹿じゃないの? あんな露骨な能力の耐性、作ってないわけがないだろう。禁手(バランス・ブレイカー)状態でも迎撃フィールド張れば耐えられるし、通常状態なら肉体の耐性だけで無効化できる」

 

 ためいきすらつきながら、レヴィアはそう断じる。

 

 もはやだれが見ても勝敗など明らかな状況に、この場にいる誰もがレヴィアの勝利を確信した。

 

 それはジーコンも同様で、しかし彼はまだあきらめない。

 

 自分はもともと別働隊だ。本命は別にいる。

 

 欲を出して福音をとらえようと考えて自分はここにいるが、そもそも目的は臨海学校に出ているISだ。

 

 そのために念を入れた部隊編成をしているし、なにより向こうには赤龍帝の籠手がある。

 

 他者を弱体化する白龍皇の光翼なら無効化されることもあるが、自身という内側を強化するアレならそれは意味をなさない。

 

 あくまでレヴィアという存在は外側からの干渉を防ぐことに特化しているのだ。そこに付け入る隙がある。

 

 ゆえにその事実を利用して巻き返しを図ろうとしたジーコンは、しかしあり得ぬ言葉を聞いた。

 

「・・・あ、旅館のほうを人質にするつもりなら甘いからね」

 

 勝者の笑顔を続けながら、レヴィアはそう言い切った。

 

「アストルフォ。そちらはどうだい?」

 

 その言葉に、彼女の背に映像が展開する。

 

 それは、殺戮の現場だった。

 

 破壊の痕と無残な死体がそこらじゅうにあり、そしてそれを生みだしたものはその腕に紅い腕をつかんでいた。

 

 それを見てジーコンは驚愕する。

 

 十秒ごとに自身の能力を強化し、そしてその倍化の力を他社にも与えることができる神滅具、赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》。

 

 それが引きちぎられていた。

 

『迎撃終了。増援が助力』

 

「おかしいね。念のために雇った魔法使い組織はまだ到着していないはずだけど」

 

『いや、悪魔祓い』

 

 通信ごしの言葉に、レヴィアは眉をひそめる。

 

「教会の人間がなんのようだ? 助かったのは良いんだけど、僕の立場でうかつな接触は避けたいんけどね」

 

『会談要請。魔王との通信は1人が限度、かつ極秘回線を要求』

 

「・・・警戒を続けながら非常用直通回線でサーゼクスさまを呼び出してくれ。今のうちに片付ける」

 

『了解。悪魔祓いからも1人行った』

 

「来る前に片付けたいねぇ」

 

 そう言いながら通信を切り、そしてジーコンに宣言する。

 

「貴様の負けだ。負けを認めるか無様に散るか、好きな方を選びたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心の中で、レヴィアは相応に焦っていた。

 

 念のためにアストルフォに警備をさせて、さらに一夏に蘭をつけるという判断をとっていたが、まさか本当に必要になるとは思わなかった。

 

 しかも赤龍帝とか想像の外にも程がある。アストルフォの戦闘能力が規格外だったので何とかなったが、まさかここまで危険だとは思わなかった。

 

 白龍皇と赤龍帝。歴史上幾度となくぶつかり合い、そして多くの被害を生みだした覇の担い手。二天龍というドラゴンの至高。

 

 そんな存在を奪い取ったジーコンにはある程度の評価を送ろう。おそらく相応の数の犠牲者が出ただろうが、将来的に見ればそれだけの価値はあった。

 

 だが、それをあの男は無駄撃ちした。

 

 せめて禁手に至るまで鍛え上げてから実戦に投入すれば勝ち目はあったが、今の未熟なままでは意味がない。

 

 故に心底ほっとして、しかし動揺は表に出さない。

 

 王とはそういうものだ。

 

 人々の前で弱みを見せれば、王の在り方は揺らいでしまう。

 

 敵の前で弱みを見せれば、それは付け入るすきになる。

 

 だから揺らぐな振れるな乱れるな。

 

 今この場で動揺することは許されない。勝利の意味を明らかにしろ。

 

 だからこそ、威風堂々と、レヴィアはジーコンに宣言する。

 

「この場で降伏するというのなら、僕の方で現魔王の方々に相応の扱いを願ってもいい。悪い取引ではないだろう?」

 

 焦がれの矛盾はもう使えない。

 

 アレは一日限定の一発勝負で使うものである。

 

 加えて言えば、あれは障壁の一つを一日使用不能にする代わりに、攻撃力に変換するという代物だ。金剛鉄腕クラスの障壁は完全に変換できないが、それでも規格外の攻撃力を自分に与えてくれる。

 

 ゆえに、今の自分は金剛鉄腕を右腕にしか張れない。

 

 それでも苦戦するとは思わないが、世の中には限度がある。

 

 ゆえに屈しろ。

 

「・・・・・・もはや、詰んだか」

 

 その言葉に、心の底でほっとした。

 

「ならば、せめてこれを試そう」

 

 だから、この言葉は予想外だった。

 

「・・・生き残れた場合の褒美として教えておこう。この行動を選んだのは私だが、それはある存在を迎え入れるにあたる、あちら側からの条件だ」

 

「・・・まさか、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーか!?」

 

 その言葉にレヴィアは一人の男を思い出す。

 

 三人の超越者の一人。旧魔王派最強の存在。

 

 だが、ジーコンはぎこちなく首を振った。

 

「アレはダメだ。貴様は真なる魔王の血族としての誇りがないが、あれは悪魔そのものとしての誇りも怪しい。奴を頭に据えれば我らは終わル」

 

 そのしゃべり方にすら異変は現れる。

 

 そして、その内容も警戒するほどだ。

 

 それはつまり、今の旧魔王派には頭に仰ぎたいほどの実力者がいるということであり、そしてそれは今別行動しているということ。

 

 それだけの実力者が隠れている事実に、レヴィアは警戒し、しかしそれ以上に今の状況を警戒せざるを得ない。

 

 目の前の男の魔力が、異常なまでに上昇している。

 

 現魔王を相手にしても勝機をつかみかねないほどの上昇。いくらなんでも短期間に上昇しすぎている。

 

「あとハ・・・私の身を以って・・・研究ノ・・・でーたヲトルノみダ・・・ァアアアアアアアア」

 

 そして変化は急激に起こった。

 

 全身の体が白く変色し膨れ上がる。

 

 その波動に耐えきれずレヴィアが後ろに押し出される中、その体は人の物からかけ離れた姿をした。

 

 例えて言うならば、複数の腕を持ったサソリ。

 

 吹き飛ばされた右腕の分だけ右側が少ないものの、その巨体に見合ったサイズのその腕は、軽くふるわれただけで強大な威力となるだろう。

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

「よくもまあ二転三転する状況だね。・・・厄介な」

 

 純白の怪物を前に、レヴィアは呼吸を整えると気合を入れ直した。

 

 その眼前に、咆哮が放たれた。

 




固有術式は境界線上のホライゾンの神道系の代演を使う術式を想像していただけるとわかりやすいと思います。


一見チートの極みに思えるレヴィアの奥の手ですが、実は結構使い勝手が悪いです。


金剛鉄腕は魔王級ですら突破困難な冥界でも1,2を争う究極の防御ですが、ひじから先しか展開できない。

つまり真価を発揮するには敵の攻撃に腕をぶつけられるだけの技量が必須なので、戦闘技術がはるかに上の相手には意味をなしません。さらにその防御範囲ゆえに体ごと包みこんだりする範囲攻撃にも無力。技量の低い近接戦闘タイプを相手にしてこそ真価を発揮する能力です。


焦がれの矛盾も、一回しか使えないうえに使用した防御障壁は使えなくなるという欠陥があります。ゆえに一発勝負になるうえに失敗した場合戦極がひっくり返りかねません。

最もそこまで使わねばならないような敵に合うこともまれではあります。今回両方使ったのは、鈴の救助をする時間を得るためにも早めに決着をつける必要があったからです。


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第九話 レヴィアさんの戦車として

 

 

 その衝撃は非常に強大だった。

 

 対応のためにはなった障壁はいくつも重ね合わせた多重結界。

 

 それらすべてを粉砕し、とっさに張った迎撃の減衰障壁ですら相殺しきれず攻撃が入る。

 

 その威力は確かに少ない。少なくとも、何発喰らったとしても致命傷になるには程遠いだろう。

 

 だが通った。今まで障壁を抜けることも、直撃でダメージを与えることもできなかったジーコンの攻撃が、確かに通ったのだ。

 

 その事実にレヴィアは戦慄する。

 

「やってくれるね!!」

 

 反撃として今まで以上に密度も数も濃くした砲撃を叩きこむが、ジーコンはそれを防ぎきった。

 

 完全に戦況が逆転している。

 

 今までは、ジーコンの攻撃はほぼ通じず、しかしこちらの攻撃はダメージとして十分なものだった。

 

 だが、今は違う。こちらの攻撃はろくにダメージが通っておらず、逆に向こうの攻撃がこちらに通じている。

 

 アストルフォを呼ぼうか考え、しかしそれを否定する。

 

 今の状況下でアストルフォを呼べば、旅館はがら空きになりかねない。

 

 研究のデータとジーコンは言っていた。それつまり、データ取りを行う部隊が別に存在する可能性があるということである。

 

 万が一そいつらが動いて旅館に被害が生まれるのは避けたい。教会の悪魔祓いも動いているようだが、無条件で頼るのは危険だ。

 

 などと考えている間にも、ジーコンはその腕をふるって攻撃してくる。

 

 幸い障壁を張れば防げる程度の物でしかないが、しかしあの砲撃は危険すぎる。

 

「・・・聖羅!!」

 

 状況の変化を悟ったのか、千冬の叫びが聞こえてくる。

 

「結界の後方を解除します! 先に避難してアストルフォと合流してください!!」

 

 この状況下でそれをやって流れ弾が来る可能性は十分にあったが、今はそんな状況でもない。

 

 今までは障壁を張っていれば完全に防げると確信していたから張っていた。

 

 だが、今の攻撃は下手をすれば障壁を貫通しかねないから逆に危険だ。それなら逃げれるようにした方がまだ安全である。

 

 しかし、そのために振り返ったのが不味かった。

 

 視線を戻せば既に振るわれた腕が眼前に来た。

 

 回避は不可能。障壁を展開する暇もない。

 

 ゆえに我慢することを選択し―

 

「・・・どういう状況だ、これは」

 

 眼前で腕が停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 停止した理由は簡単だ。

 

 腕には細い銀線のようなものがからみついており、それが進行を食い止めていた。

 

 そして、その銀線の先には目を疑うようなものがあった。

 

「・・・男?」

 

 ISらしきものを纏った初老の男。

 

 それだけで前代未聞の文字がいくつも浮かぶが、さらにその隣から見知った影が、見知らぬ姿で現れる。

 

「一般生徒にこんな大変なことを任せるだなんて、生徒会長としてすっごく遺憾だわ」

 

 水を纏ったISを纏った淑女。

 

 IS学園生徒会長、更識楯無がそこにあった。

 

 しかし、その両腕はISを除装し、一振りの日本刀が握られている。

 

 そして、それは大量の水を刀身に付与してIS用ブレードのような形状を維持していた。

 

 ついでに言えば、その表情はかなりキレていた。

 

「よくも私の可愛い可愛い可愛い簪ちゃんに手を出そうとしたわね!! 私の可愛い可愛い可愛い簪ちゃんに!!」

 

「ゴメン生徒会長、鈴ちゃんの心配もしてあげて!!」

 

 レヴィアのツッコミをさらりと無視して、楯無はその刃をジーコンに叩きつける。

 

 ジーコンは腕の一つを盾にするも、その固い外殻に鋭い切り込みが入る。

 

 その姿を見て、初老の男がその刀を観察した。

 

「・・・触れた水に応じて力を強化するも、しかし水をとどめておく力がないため欠陥品扱いされたという最新の霊刀『清水』か。魔法などで制御すると反発するので本当に扱いが悪いらしいが、まさかISの第三世代武装で補うとは思わなかった」

 

「今までにない発想でしょう? 真似しちゃダメよ?」

 

 そういいながら、楯無はジーコンを牽制しつつレヴィアの側へと回り込んだ。

 

 楯無にかばわれる形になりながら、レヴィアはジーコンを警戒しつつも初老の男に鋭い視線を向ける。

 

「これはこれは。教会合同技術研究室室長殿が、まさかこんな所に来るとは思わなかったよ。一応礼を言っておこうか」

 

「会談を了承してくれればそれでいい。そもそも、これ以上の介入は上から何かを言われるだろうから防衛に徹したいしな」

 

 ため息交じりにそう返答し、男は後ろを振り返る。

 

 男が使用したISなどという尋常でないものによってもはや限界以上に驚愕していた者たちだったが、その中でもひときわ驚いているのがいた。

 

 もはや意識すら失いそうなレベルで驚愕しながら、麻耶が震える唇を何とか動かす。

 

「なんでいるんですか・・・叔父・・・さん?」

 

「「「「叔父さん!?」」」」

 

 千冬すら含めて驚愕の事実に大声が出て、それを聞いたヒルデが同情するように首を振る。

 

「まあ知らないに決まってるなデス。教会合同技術研究室は極秘機関だから、表の人間はほとんど知らないからデス」

 

「正直山田先生の存在を知ったとき、教会からのスパイの可能性を本気でうたがったけれど、まさかマジで無関係だったとは思わなかった。世界は狭いね」

 

 同意するようにうなづいたレヴィアが、しかしジーコンを睨みつける。

 

 そして、ものすごい嫌そうな表情を浮かべた。

 

 空気を呼んだかのように沈黙していたジーコンは、既に外殻の傷を癒し、新たな手段を構築していた。

 

 悪魔の翼を人型の山羊の形をしたオーラとでも形容すればいいのだろうか。

 

 そのような人型が無数に表れ、そして翼を広げて飛ぼうとする。

 

 その方向を理解し、レヴィアは舌打ちをした。

 

「明らかな暴走状態でも目的は覚えているのか。狙いは旅館か!!」

 

 ISを狙うために行動し、そのために学園生徒が集まっている旅館を狙っていた。

 

 その意識が残存しているためか、ジーコンによって作られた分身たちは旅館へと進軍を開始しようとしていた。

 

 その無数の山羊の群れに、魔力砲撃、水の刃、そして銀線が食らいつく。

 

 穿ち、切り裂き、貫いてなお、相当の数が潜り抜ける。

 

 アレが旅館に到達すれば、相応の被害が発生する。

 

 レヴィアはそうはが見して、しかし笑みを思わせる音が響いた。

 

「一応準備は完了ずみデス。さ、思う存分鬱憤を晴らすデス」

 

 その瞬間に、砲撃が、弾幕が、光線が放たれ、残る山羊を打ち貫く。

 

 最後の一匹を両断し、その刃の持ち主が感嘆した。

 

「こうもたやすく倒せるとはな。悪魔というものはここまで付け入る隙が大きいのか」

 

 そう漏らす千冬の視線の先、そのブレードには薄く輝く文字がえがかれていた。

 

 その視界に映るのは日本語で、しかも単純な言葉。

 

「・・・聖別。この力を加えられれば、そのへんのブレードだって聖剣に早変わりです」

 

 得意げな笑顔を浮かべるヒルデの姿に、ろくに自我も消え去っているであろうジーコンが身じろぎする。

 

「ルーン魔術を母体に自分が考えた、文字媒介型魔術の味はすごいだろデス」

 

 微笑を浮かべて胸を張るヒルデのいうとおり、戦況は一機に持ち直していた。

 

 ISがジーコンクラスを相手に圧倒的不利なのは、その攻撃力がダメージをろくに与えられないからである。水鉄砲で核シェルターを破ることなど不可能といってもいい。

 

 だが、彼女の魔術はその水の中身をシェルターの装甲を溶かす薬物へと変換する。

 

 そうなれば水鉄砲すらは脅威へと変わり、その機動力もあって十二分に通用する。

 

 加えて言えば、この山羊の戦闘能力は暴走前のジーコンに大きく劣る。それゆえに、ISでの打倒が十分可能な領域へと変化していた。

 

「お姉さま! 有象無象はこちらに任せてくれ!」

 

「いってレヴィア! 私達も頑張るから!」

 

 ラウラと簪の激励を受け、レヴィアはジーコンに向き直る。

 

 ジーコンもまた、状況ゆえに敵をせん滅しようとレヴィアに向かい合っていた。

 

「・・・さて、頑張るしかないけどどうしたものかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん」

 

 体に違和感を覚えて、一夏の意識は浮上した。

 

 何かが体の中に入って、力に変換されるような感覚を感じる。

 

 これはなんだろう。自分にいったい何が起こっているのだろう。

 

 確か福音という暴走したISを止めるように言われていたはずだ。

 

 そして戦うことになって、攻撃をかわそうとしたら後ろに船があるのに気がついて―

 

「箒とヒルデは!?」

 

 覚めた。

 

 慌てて飛び起きて、そしてふと気付く。

 

 自分の体に両手をあてて、そして今驚いて目を開けた少女がいる。

 

「ら、蘭? どうしてこんなところにいるんだよ?」

 

 自分と同じレヴィアの下僕悪魔である蘭の姿がそこにはあった。

 

 おかしい。

 

 部屋の風景から見て、ここはまだ臨海学校の旅館のはずだ。

 

 ここは関係者以外立ち入り禁止だから、表向きは民間人のはずの蘭がここに来るなど普通に考えてあり得ない。

 

 そこまで考えて、傷口に思いっきり爪を突きたてられた。

 

「いってぇええええええええ!?」

 

「こんなところにじゃないです! 一夏さんのバカ!!」

 

 目に涙を浮かべて怒られるが、それ以上に激痛が酷い。

 

「レヴィアさんから一夏さんが大怪我したって聞いて、心臓が止まりそうだったんですからね!! だから戦車らしく防御面も鍛えようって言ったんですよ! 一夏さんの一芸特化バカ!! バカバカバカ!!!」

 

「ご、ゴメン! ホントに悪かったから、防御、もちゃんと、する、か、ら!! だから爪を突きたてないでくれ! 刺さる!?」

 

 思わず悲鳴を上げてのけぞるが、それでも蘭ははなれてくれない。

 

 そのまま涙をぽろぽろこぼすと、胸に頭突きをする勢いで顔を押し付け、そのまま震えだした。

 

 そこまでされて、一夏は思わずこぶしを握り締める。

 

 守る側になりたくて力をつけた。そのための道が見えたからひた走った。自分を守る者が傷つくのを見て、だからもっと集中した。

 

 それで大事なものを泣かしてどうする。

 

 大事なものを守るなら、体だけでなく心も守らなくてはならないだろう。

 

 今の自分は驚異を叩き伏せることしかできない未熟者だ。本当に道はまだ遠い。

 

「ゴメンな、蘭」

 

 そっと肩を抱いて、一夏は改めて決意する。

 

 こんなのはごめんだ。何があっても守りとおせる力を手に入れると。

 

 さすがに脅威を払うことに意識を向けすぎた。

 

 一度脅威に耐える力も身につけよう。そのためには先達の極みであるレヴィアに師事を受けるべきだろう。

 

 そこまで考えて、ふと気付いた。

 

 ・・・外がなんだか騒がしい。

 

「・・・なあ蘭。今はどんな状況なんだ?」

 

 その言葉に答えたのは、蘭ではなく後ろからの言葉だった。

 

「・・・いささか厄介」

 

「アストルフォ? アストルフォまで来てたのか?」

 

 黒髪の長身の男の姿に、一夏は目を見張る。

 

 てっきり治療のために蘭を連れてきただけなのかと思ったが、まさかアストルフォまで来ていたとは。

 

 だが、そんな思考もアストルフォが差し出した紙を見て止まる。

 

 そこには現状を表にまとめられており、今の状況が簡単に分かった。

 

 自分が倒れたことで鈴達が暴走したこともそうだが、さらに旧魔王派まで動いているとは思わなかった。

 

 しかも教会側から悪魔祓いが来て会談の要請が行われているなど、今までの悪魔生活でも体験したことがないような事態の推移である。

 

 さらに、旧魔王派の狙いがこちらにもあるうえに教会の意向が読めない以上、うかつに動くわけにもいかない。

 

 この状況下で最も残るべきなのは、実力が安定して経験も豊富なアストルフォだろう。自分達では攻撃力が高すぎる上に加減がきかず、旅館を巻き込むからもめごとが起きたら足を引っ張ってしまう。

 

 さらにレヴィアが敵リーダーと交戦中だと聞く。このまま黙って任せるわけにはいかない。

 

 ―傷だらけになって血を流しながらも、こちらを安心させるために笑顔を無理に浮かべるレヴィア。

 

 嫌な姿を思い出して、一夏の全身に力が入る。

 

 かつて自分達を救い出して、しかしそれを心の底から後悔しているレヴィア。

 

 その眷属の一人として、黙っていることなどできない。

 

 それをわかっているのか、アストルフォは頷きを返すと、改めて一夏を見た。

 

「・・・いけるか?」

 

「・・・蘭、マジでゴメン」

 

 返答は、蘭に対する謝罪で返す。

 

 自分の未熟を痛感し、蘭を泣かした直後にもかかわらず、しかし一夏はこのまま黙っているわけにはいかない。

 

 あの主は防御力は規格外すぎるがそれ以外がちょっと見劣りする。

 

「・・・どうせ言っても聞きませんよね。一夏さんってそういう人ですから」

 

 ため息まじりの声が聞こえて、一夏は胸が痛くなった。

 

 全く本当に自分は未熟だ。これだけ人を心配させたというのに、さらに心配をかけさせるのだから。

 

 だが、それでも逃げるわけにはいかなかった。

 

 今友人達や姉が戦闘に巻き込まれているのは、元をただせば自分の未熟のせいだ。

 

 ここで助けなければ自分が自分でなくなってしまう。

 

 ・・・だが、同時に自分は未熟だ。

 

 いまだ誰かを守るには自分では手が足りず、しかしそんなことを言っている場合でもない。

 

 だから、頭を下げるしかないのだ。

 

「手伝ってくれるか、蘭?」

 

 自分の情けなさに腹を立たせながら、眼下の少女にそう訪ねる。

 

 年下の少女にこんなことを頼むなどもはや言語道断だが、しかし返答は決まっていた。

 

「・・・このまま一夏さんを放っておくわけがないじゃないですか。それに―」

 

 彼女も同じ苦しみを持っている同士であり―

 

「―レヴィアさんの戦車として、片方だけに任せるなんてできません」

 

 同じ戦場に立つ同胞でもあるのだから。

 



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第十話 今度は、負けない!!

この作品の鈴は、かませなんて言わせない。


 気づけば鈴は、真っ白な空間にいた。

 

 これはアレだろうか、臨死体験の類だろうか。

 

 そうぼんやり考えながら思い出すのは、自分の迂闊な失敗である。

 

 旧魔王血族に真正面から攻撃を叩きこんだのは、やはり慌てすぎだったろう。

 

 レヴィアは彼らを自ら輝きを捨てた宝石と言ったが、それでも宝石であることには変わりはない。ダイヤモンドは原石でも最高の硬度を持っているのだ。磨き上げても元が石ころである自分では、ぶつかり合っては勝ち目がないだろう。

 

 腐っても長く続く上級悪魔を相手に、さすがに気が急いていたと思う。

 

 自分は確かにISを殴り倒せるだけの戦闘能力を持っているが、だからと言って戦闘のプロというわけでもないのだ。無謀な真似をしすぎていた。

 

 だが、鈴の中に後悔はなかった。

 

 これで二度と一夏に会えないかもしれない。レヴィアはきっと自分が出遅れたことを悔やむかもしれない。蘭や弾も悲しむだろう。付き合いが短いとはいえ、セシリアやクラスメイトたちにもショックを与えるかもしれない。

 

 だが、あの場で自分が逃げ出すのは嫌だった。

 

 何もしないでいるのは嫌だった。

 

 思い出すのは、レヴィアが悪魔だと知ってからある程度たった夏の出来事だ。

 

 下僕や友達に甘い側面があるレヴィアに頼み込んで、冥界に連れて行ってもらったことがある。

 

 あの時の出来事はまるで宝石箱だ。信じられないほど豪華なお城に止まったし、そこで食べた食事も高級品。

 

 何より一夏と一緒に旅行に行ったのである。蘭や弾もいたがそこは乙女の修正力でどうとでもなる。

 

 だが、そこでけっこうショックな出来事もあった。

 

 ありていにいえばレヴィア狙いのテロに巻き込まれたのである。

 

 レヴィアは旧魔王血族で在りながら現魔王政権に下った存在である。その存在そのものを使うことで現魔王側でも根強い旧魔王に対する信仰を集めるのが彼女の役目。それによって不安を解消し、現政権を盤石にすることが、彼女が選んだ道であった。

 

 ゆえに、それに反感を抱く者もいる。

 

 旧魔王の血族からすれば裏切り者以外の何物でもない。さらに現魔王側にしても、切り捨てた旧魔王血族におもねることに反感を抱く者も少ないながらも存在する。

 

 その時襲ってきたのは後者だった。

 

 レヴィアが自分達と一緒に冥界の山にハイキングに行った時を見計らって、襲撃を行ったのだ。

 

 相当の実力者を以って行われた襲撃は、しかし圧倒的有利でありながら失敗した。

 

 当時から桁違いの防御力を持っているレヴィアが耐えきり、そしてアストルフォが陽動に引き離されながらも、敵を各個撃破して壊滅させたのだ。

 

 この事件によって表面化した過激派は現魔王によって断罪され、これが膿出しとなったことでレヴィアの安全は真の意味で確立された。

 

 レヴィア自身、その後の特訓によって当時ですら高レベルであった防御を冥界中に轟かせるレベルにまで上昇させたこともあり、積極的に仕掛けても得をしないと認識させるほどになったのだ。

 

 だが、それは当時のレヴィアがそこまで到達していなかったことを意味する。

 

 あの戦いで、レヴィアは自分達をかばって傷を負った。

 

 自分達を守るために当時から使えていた遠隔障壁を張って安全を確保し、そして自分は技と目立つように移動しながら距離をとって、刺客の目から自分達を遠ざけたのだ。

 

 当時のレヴィアの能力でははなれたところの障壁と自分の障壁を両立することはできず、肉体の耐久力も今のような破格な物ではなかった。

 

 アストルフォが治癒の秘薬であるフェニックスの涙を温存していなければ、傷跡が残っていただろう。

 

 自分が役に立たなかったのが原因でそんなことになり、そして今回もろくに役に立てなかった。

 

 だが、それでも逃げなかった。

 

 自分はへたれていたが臆病ではなかった。あの襲撃のときのように、怖くて震えていたわけではなかった。

 

 だから後悔はしていない。ただ深く未熟を受け入れるだけだ。

 

 ただ心残りなのは、足止めもろくにできず友人達をジーコンの前に残したことだ。

 

 散会して逃げれば十分逃げ切れる可能性はあるし、レヴィアのことだから時間さえ稼げれば来るだろう。

 

 アストルフォもなんだかんだでやってくるだろうし、あの二人の全力ならジーコンを倒すことも十分可能だ。

 

 今の自分にできることなど、それが上手くいくことを願うことだけだ。

 

 そう諦めようとした時、視界の隅に泣いている少女の姿が見えた。

 

 ここがいわゆる三途の川的なあれだとするならば、あれは子供の死者か何かだろうか。

 

 だとすると放っておくのも寝覚めが悪いので、慰めようと思って近付いた。

 

「ねえアンタ、大丈夫?」

 

「ごめんなさい」

 

 いきなり謝られた。

 

 なにか謝られることをされた記憶がなくて、鈴は途方に暮れてしまった。

 

「役に立てなくてごめんなさい。・・・いつも肝心な時に力になれなくてごめんなさい」

 

 そもそもあったことあっただろうか。

 

 そんな風にしか思えなくて心底困ってしまったが、その言葉に思い出したことがある。

 

 そういえばあたし、甲龍を本気で頼ったこと無いわね。

 

 無人IS戦の時は仙術を使った。ラウラの時は身体強化魔法も使って、むしろISをダメにした。ジーコンのときもISの機動力でかく乱など考えなかった。

 

 そう思うと、ものすごく脂汗が流れそうになる。

 

 アレ、これってすごくダメじゃない?

 

 ISと上級クラスの異形の存在との戦いは、IS側にとって機動性能が肝になる。すでにその試算はできており、その辺は自分もレヴィアから聞かされている。

 

 なのに自分は機動力を全く生かさず、ただ突っ込むだけだった。

 

「・・・なんかあたし、ものすごくダメじゃない?」

 

 思わず口から言葉になって漏れるぐらいダメダメだ。

 

 そもそも自分はそんなことができるほど真剣に魔術に取り組んだだろうか?

 

 一夏と蘭は立場もあってかなり真剣だ。将来的にそれを使って食べることもあるし、真剣にも程がある。

 

 弾も非常に真剣だった。あの時自分が足を引っ張ったことを痛感したのは彼もいっしょだ。ゆえに足を引っ張らないように努力した。

 

 彼の隠密と転移術はその修業期間でできる限界まで鍛えられている。今度同じことがあったとしても、余裕を以って離脱することができるだろう。

 

 だが、自分はどうだろうか。

 

 あの頃から両親が不仲になったこともあったが、一夏たちほど真剣には取り組んでなかったような気がする。

 

 それなりに真剣に勉強はした。だが、勉強したことを結果として、実力を求めることを怠っていなかっただろうか。

 

 既に仙術で同レベルに到達しているのが証拠だろう。興味深い世界に触れて真剣になり、あっという間に魔術に追いついている。

 

 加えて言えば、自分は代表候補生としての自覚も足りないのではないか。

 

 確かに代表候補生になるほどISには取り組んだ。スカウトを受けて勉強し、同じように努力したものを蹴落としてその場に立っている。

 

 だが、仙術ほど真剣に取り組んだだろうか?

 

 両親の離婚から目をそらすための言い訳として使い、その後に知った仙術ばかりに意識を向けすぎてはいなかったろうか。

 

 専用機をもらったのにもかかわらず、自分はその自覚が足りてないような気がしてきた。これはレヴィアに怒られそうだ。

 

 あのタッグトーナメントで、レヴィアは選ばれたのだから自負と責任を果たせと言っていたが、それは思いっきり自分に当てはまる。

 

 いくらそれだけでは勝てないとはいえ、ISをほぼ無視して異形の力だけに頼ったのは、甲龍に対してあまりにも不義理だ。

 

「・・・役に立てないどころか、そもそも役立たせようとしてないじゃない。バカだあたし」

 

 そう思うと後悔してきた。

 

 あの場で最も状況に対応できたのは、その状況を理解できている自分にもかかわらず、その手段を有効利用せずにあっさりとやられてしまった。

 

 手段として頼られずにいては、甲龍も泣くだろう。それはダメだ。

 

 そう思い、そして泣いている少女を見直して、鈴はなんとなく気付いた。

 

 この子はきっと、そんな自分の失態を気にせず自分がダメだからそんなことになったと思っているのだ。

 

 その正体にうすうす感づき、情けなくなりながらもそっと抱き寄せた。

 

「悪いのはあたしだわ。・・・ゴメンね」

 

「・・・え?」

 

「自分から使うことを選んだのに、使うわずに叩きのめされてちゃダメよね。本当にゴメン」

 

 ああ、やり直せるのならやり直した。

 

 今から取り戻せるのなら取り戻した。

 

 今度はあんな無様はさらさない。少なくとも、ちゃんと自分が選んだことを自覚してやりとおして見せる。

 

 そうすれば、自分はあのエロいのが致命的な友人や、愛する男に胸を張れるのだから。

 

 ただ守られるだけでなく、守り返せるような少女でいられるのだから。

 

「だいじょうぶ」

 

 そっと、少女の手が触れた。

 

「だいじょうぶだよ。今なら、あたしも頑張れる」

 

 視線を向けると、少女はにっこりとほほ笑んでいた。

 

「あたしを使ってくれるなら、あたしもちゃんと役に立つよ。だから―」

 

 そっと、手が延ばされる。

 

「行こう?」

 

「・・・そうね」

 

 その手を、しっかりと握りしめた。

 

 手放したりはしない。ちゃんと掴んで、そして使ってやるのだ。

 

 これは自分が望んで手に入れた力だ。だからちゃんと力として振るってやるのが礼儀だろう。

 

 生身で頑張っても追いつけなかった。自分の力でも役に立てなかった。

 

 だけど、一人ではなく二人なら―

 

「「今度は、負けない!!」」

 

 ―胸を張って、その姿を見せつけれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激戦を繰り広げながらも、しかし戦況はこう着していた。

 

 暴走状態のジーコンは、人型を生みだしてこちらの注意を引きながらも、桁違いの攻撃力の砲撃を放ちながらその腕を振るってこちらを叩きつぶそうとする。

 

 しかもその外殻は頑丈で、楯無の清水なら傷を負わせることもできるが、それでもすぐに修復されてしまう。

 

 明らかに攻撃力が足りない。

 

「・・・アストルフォ呼んでもどうにもならなそうだなぁ」

 

 あれはどちらかというと技で勝負するタイプだ。

 

 攻撃力で言うのなら一夏と蘭なのだが、たぶんそれでも一撃では倒せそうにない。

 

 なんというか―

 

「ちょっと増援が欲しくなってきたね」

 

 思わず気弱な一言が漏れたその時、後ろから砲撃が連続してやってきた。

 

 それらは異形の群れに叩きこまれ、その数を一気に減らしていく。

 

 その砲撃には覚えがある。

 

 八門の砲口を持ち、様々な種類の砲撃を放つ神器、八面の龍(ブラスト・ヤツラ)

 

 そしてそれを持つのはレヴィアの戦車の片割れ―

 

「蘭ちゃんか!!」

 

「お待たせしました!!」

 

 砲撃を続けつつ高速で接近する蘭の四肢には、巨大な装備が施されていた。

 

 両足には脚力強化型神器、鬼の健脚(デーモン・ギア)の禁手、鬼神の脚甲(デーモン・ギア・アンダーアーマー)が施され、まるでISの下半身のような重装甲に包まれている。

 

 両腕には腕力強化型神器、金剛の腕(ダイヤモンド・アームズ)の禁手、金剛石の巨腕(ダイヤモンド・ギガント・アームズ)により、巨大な腕が外から接続されている。

 

 そして、その背からはそれらを維持するために腕のような意匠が施された、八面の龍の禁手、八面の龍使い(ブラスト・ドラゴ・マイスター)が現れる。

 

 史上類を見ない後天的神器使いの、それも複数を禁手化させたイレギュラー。

 

 レヴィアの眷属の中でもひときわ異彩を放つワイルドカードが、後ろから急行していた。

 

 そして、それは一つの意味を示している。

 

 再生能力強化型神器、聖なる器(ホーリー・ヒール)を他者治療すら可能とさせた禁手、聖人の器(ホーリー・ヒーリング)により、蘭は一夏の治療に当たらせていた。

 

 それがこちらに来るということは、少なくとも一夏の意識は回復している

 

 そしてもし一夏が意識を取り戻していたのであれば、あの男は必ずすることがある。

 

 それはもちろん―

 

「・・・行くぜ、カレドヴルッフ!!」

 

 こちらの救援だ。

 

 莫大なオーラを放つカレドヴルッフがジーコンに叩きこまれ、清水に次ぐ損傷をジーコンに与える。

 

 すかさず強化された脚力による蘭の蹴りがそれを支援するためにカレドヴルッフを叩き、さらに深い傷を負わせた。

 

「一夏さん!」

 

「一夏!!」

 

 その姿に、セシリアとラウラが歓喜の声を上げる。

 

 重傷を負ったと知ってひときわショックを受けていたのはこの二人だろう。

 

 治療する方法を知っていた自分や鈴は怒りのほうが先に立っていた。ゆえにショックではさすがに劣る。

 

「織斑くん、もう大丈夫なんですか!?」

 

「早いデス!? え、フェニックスの涙でも使ったんデス!?」

 

 あまりの速さに麻耶とヒルデも驚愕した。

 

「・・・なるほど。彼は眷属悪魔だということか」

 

「あらあら、ついに教会にばれちゃったわね」

 

 教会から大物が来ていることを忘れていた。

 

 苦笑する楯無は、扇子に「窮地到来」などと書かれている。

 

 

「これも簪ちゃんに突き纏った罰ね。うん」

 

 いつも間にやら「天罰到来」と書かれていた。

 

 シスコンに狙われると大変な気がしてきた。

 

 だが、今は一夏だ。

 

 怪我の回復はされているが、あれの回復速度はそこまで高速ではなかったはずだ。

 

 おそらく移動中も回復に費やしたのだろうが、それでも限度はある。

 

 それを悟っているのだろう。千冬の表情は僅かに暗い。

 

「いけるのか、一夏?」

 

「ああ、いけるさ千冬姉」

 

 そして、一夏の表情はしっかりしていた。

 

 その視線はジーコンを睨みつけ、そして決して外れない。

 

 そして呼吸と共に一夏の意識は固まった。

 

 加速を補助するために悪魔の翼は展開していた。

 

 ゆえに正体はもう隠せない。

 

 ならせめて堂々と行こう。

 

 これまでこそこそと隠し通してきたのだ。隠さなくてよくなったことを喜んで、ためらうことなく名を名乗ろう。

 

 ふと視界に、一歩分前に出た蘭の姿が映る。

 

 その表情は少し笑顔で、いま心がつながったと理解した。

 

 だからレヴィアの方を一瞬見て、そして彼女が頷いたのをきっかけの声を張り上げる。

 

「セーラ・レヴィアタンことレヴィア・聖羅眷属、戦車(ルーク)、織斑一夏!!」

 

「同じく戦車、五大頂、五反田蘭!!」

 

 非公式のレーティングゲームではない。はぐれ悪魔の討伐などというレヴィアだけで事足りる流れ作業でもない。

 

 正真正銘の戦いの場で堂々と名乗りを上げる。

 

「「主の敵を打ち滅ぼすため、いざ参る!!」」

 

 それに応えるように、ジーコンが突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしを忘れてもらっちゃ困るわよ!!」

 

 そして、真下から殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 レヴィアの口から漏れ出た声は、その場にいた物すべての感想だっただろう。

 

 あまりの展開に異形もその動きを一瞬止めていた。

 

 そして、その担い手は海水を落としてその姿を新たに表す。

 

 それは見慣れた人物の、しかし見慣れない姿だった。

 

「とりあえず、今ので一発叩きのめされた借りは返したわよ」

 

 左右の非固定部位はそのままに、しかしその形状は小さくまとまっていた。

 

 そして脚部の装甲はより人の足に近くなり、両腕の装甲は肘から先どころか二の腕すら包み込む。

 

 まったく新しくなった甲龍を纏い、凰鈴音は復活した。

 

二次移行(セカンド・シフト)か・・・!」

 

 四朗がその現象を理解して声を上げる。

 

 まるでアニメのような展開だろう。

 

 死んだかと思った仲間が、反撃のタイミングでパワーアップして参戦など、できすぎた物語でしかない。

 

 だが、それは確かに現実で起きた物だ。

 

「さっきは悪かったわね。アンタみたいなやつを相手にするのに、持てる力を全力で使わなかったのは失礼だったわ」

 

 首を鳴らしながら、鈴は好戦的な笑顔をジーコンへと向ける。

 

「・・・だから次からは、マジで行くわよ?」

 

 その姿に、鈴を脅威を判断したのかジーコンはさらにオーラを強くする。

 

 そして、向かい合う鈴に並ぶ影があった。

 

「大丈夫かよ鈴。海に沈んでたってことは、結構やられてたんだろ?」

 

 カレドヴルッフを構えながら、一夏は鈴を気遣う。

 

 それに対して、鈴は微笑で返した。

 

「福音にボコられてた一夏が言えたセリフ? あたしはこれからしっかりやり返すけど、アンタはどうするのよ?」

 

 その返答に一夏は一瞬つまり、しかし首を振って意識を切り替えるとカレドヴルッフを持ち直した。

 

「決まってるだろ? 俺の仲間と主に手を出す奴は、俺が倒さなきゃ我慢がならねぇ」

 

 その言葉に、鈴は笑みを深くする。

 

 自分が惚れた男はこういう男なのだと理解して、そして自分も決意する。

 

 ただ守られるだけの女なんてまっぴらごめんだ。

 

 だから、並び立つ。

 

「行くぜ、カレドヴルッフ」

 

 一夏が己の主武装に声をかけるのに倣おう。

 

 所詮使い捨ての武装に声をかける男の伴侶を目指すのだ。ちゃんと使いきる相棒に声をかけない道理がない。

 

「行くわよ、王龍(ワンロン)

 

 全ての拳を振り上げて襲いかかるジーコンに、むしろこちらから叩きのめさんと二人は加速した。

 




初の二次移行は鈴ちゃんでした。

甲龍の二次移行である王龍の詳細説明は次の話で


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第十一話 さようなら、ジーコン

VSジーコン暴走形態


 

「蘭ちゃん! こうなったらアレを使う」

 

 援護に回るために移動しようとして、蘭はレヴィアの指示を聞いた。

 

 聞いて、そして度肝を抜かれた。

 

「え、いいんですか!? あれは魔王さまから許可もらわないと使わないって言ったじゃないですか!!」

 

 レヴィアがいうアレというのは、この状況下ではよくわかる。

 

 確かにあれなら戦局をひっくり返すどころか一気に終了させることも可能だろう。

 

 だが、あれはその威力と原理不明の現象から使用を控えていたはずだ。

 

 そしてレヴィアは、相応のわがままと通すときは必ずしかるべきところに相談する。

 

 この場合なら、その使用許可をだす権限をレヴィア自らなげた魔王の許可が必要だ。

 

 あのレヴィアがそんな判断をとるとは思わず、信じられない者を見るようになってしまった蘭を責めるのも酷だろう。

 

「・・・仕方がないだろう。このまま僕のわがままで旅館にいる皆を危険にさらすわけにはいかない」

 

 軽くため息をつきながら、レヴィアはそう断言する。

 

「それもそうですね。・・・でも、それだと私もレヴィアさんも動けませんよ?」

 

 蘭の懸念はその一言だ。

 

 ジーコンの戦闘能力は間違いなく脅威で、ゆえにうかつに戦力を減らすわけにはいかない。

 

 どうすればいいかと考えたが、しかし力強い声がそれを砕く。

 

「良いからやれ、二人とも!!」

 

「それぐらい時間稼いでやるわよ。ぶっ放しなさい!!」

 

 その言葉を聞いて、そして決意する。

 

 自分の大事な友達は先ほどまで倒れていた。

 

 だが、そこから立ち直って、今度は負けないと気合を入れている。

 

 ならその意地に応えよう。

 

「やりましょう、レヴィアさん!」

 

「ああ、やろうか」

 

 そう頷きあい、レヴィアは己の左腕を軽く切った。

 

 切り口から血が流れ、そしてそれは魔力を流され発光する。

 

「数分間持ちこたえてくれ! それですべてを終わらせる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「了解!!」」

 

 同時に腕を弾き飛ばしながら、鈴は一夏に続いて戦闘を開始した。

 

 相手は一度自分を瞬殺した相手が、暴走状態に陥った物。

 

 どういう理屈かわからないが、戦闘能力は桁違いに上昇している。

 

 まあ、以前聞いた覇龍とかいう特殊能力の応用だろう。

 

 莫大な生命力の消費と引き換えに、戦闘能力を桁違いに上昇させる竜封印型神器の究極にして最後の切り札。

 

 悪魔は一万年ぐらいの長い寿命を持っているのだから、それだけの生命力を一機に燃焼させれば相応の戦闘能力は得られるはずだ。

 

 旧魔王派は数が少なく不利になっているというし、そういったドーピングの研究も盛んにおこなわれているのだろう。ご苦労なことである。

 

 それだけの攻撃を相手にしながら、しかし鈴と一夏は食い下がっていた。

 

 一夏が食い下がる理由は単純な武器の性能である。

 

 量産型魔剣、カレドヴルッフ。

 

 強大な伝説級の魔剣と同等の性能を持つ武装を量産しようと、長い間研究がされた物を、レヴィアが出資している武装の一つ。

 

 その研究の結果、最大出力を発揮すれば相応の性能を発揮することに成功した。

 

 だが、その分性能を引き出している間は急速に劣化するという欠点を持ち、さらに使いこなすためにはそのために特化した体質になる必要があるという難度の高い武装にもなった。

 

 己の才能が自然に高まるのを待つ傾向が強く、部下も含めて鍛え上げるという発想が少ない傾向にある上級悪魔界ではあまり好まれる武装ではない。

 

 だが、その分鍛え上げれば効果は絶大だ。

 

 故に一夏はそれを選んだ。レヴィアの眷属という立場と、そのための調整を受けるという覚悟を決め、カレドヴルッフを使うというより、カレドヴルッフに使われる悪魔になることを選んだ。

 

 無論、カレドヴルッフを活かすために剣の修行もさらに高めた。その結果、わずか数年で下級悪魔としては過剰なまでの攻撃力を得ることができるようになったのだ。

 

 今、その力は最大限に発揮されてジーコンの攻撃を連続して弾き飛ばしている。

 

 無論、それだけの攻撃にカレドヴルッフは砕け散るが、すぐさま異空間から引き出して即座に態勢を立て直す。

 

 刀剣が砕けたらすぐ変えることを前提とした意識。多数確保するための異空間の確保。そして同調するための肉体と魔力の調整。

 

 それらすべての組み合わせにさらにISの機動性能が組み合わさったことで全ての攻撃を迎撃する。

 

 そして自分も負けてはいない。

 

 振り下ろされる巨大な腕を、自分達の拳で迎撃する。

 

 全ての打撃は強化魔術を最大限に利用して、一機に放たれていく。

 

 今までなら肉体が耐えきれず断裂し、僅か数回で動かすことも困難になっていただろう。そもそも打撃に腕が耐えきれず、骨が折れていただろう。そして駆動に耐えきれずISが壊れてしまうだろう。

 

 今は違う。

 

 ISの保護機能がそれに特化し、肉体を無理なく使用できる。

 

 ISの装甲が自分の魔術の効果を受けて強靭になり、そして外骨格となり腕の骨を保護する。

 

 そして可動部分の強度そのものがまし、さらに空間そのものが固定化されるようになって衝撃を受け止める。

 

 これが王龍の力、衝撃機構。

 

 衝撃砲の機能を取り込み、全身の機構として組み合わさったこれは、空間干渉により支えとなって機能する。

 

 稼働部位を守るように柱となって衝撃を受け止め、殴るときは足場となることで踏み込みの恩恵を与えてくれる。

 

 単純だが大事なこの機能により、鈴の動きに完璧についてくるどころか、正しい意味で拡張させてくれる。

 

 形状の変化も嬉しい。これによって自分の体に近くなり、打撃の入れやすさが一味違う。

 

 自分もこれにおんぶされ続けるわけにはいかない。これはISの側からの歩み寄りなのだ。自分の歩み寄ってISをつけた状態での格闘打撃になれねばならない。

 

 だが、今はただ感謝しよう。

 

「これでコイツを殴り飛ばせる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と、いうことだろうデス」

 

 ジーコンが戦闘に集中して異形を生みだせなくなったことで、ヒルデがそう解説する暇が生まれていた。

 

「な、なんて言う無茶苦茶な機体ですの」

 

 皆の感想をセシリアがまとめてくれた。

 

 人間に無限の可能性を与えてくれるのがISと行ってもいいが、まさか人間の無限の可能性に合わせて進化するとは思っていなかった。

 

 二次移行が使用者のための進化とはいえこれはやりすぎだろう。

 

 なにしろこれは、異形の力をフルに使うことを前提とした進化なのだから。

 

「ちょっと待って。それっておかしくない?」

 

 だから、簪はそれに待ったをかける。

 

「だって鈴が使ってるのって神器とかと同じジャンルでしょ? ISとはかみ合わないと思うけど」

 

 簪の行っていることは極めて正しい。

 

 ISとは、科学者が開発した科学技術の集大成である。

 

 極めて発達した科学は魔法と見分けがつかないとはよく言うが、見分けがつかないだけで魔法と科学は別物だ。

 

 それが混ざり合う進化など、最初から設計されていなければ不可能だろう。

 

「ところがそうでもない」

 

 それを肯定したのは四朗だった。

 

「・・・後で説明するが、ISはそういった異形の力全般との相性が抜群に高い。我々の研究ではこういった進化が起きる可能性は十分にある」

 

「そうなんですか、伯父さん」

 

 伯父の言葉に麻耶が尋ねるが、四朗は薄く微笑するだけだ。

 

「まあ、今は彼らに任せようではないか」

 

 既に異形たちはすべて倒され、あとはジーコンを倒すだけになっている。

 

 だが、簪達は手を出さない。

 

 四朗がそれを止めたのだ。

 

「今の戦闘はISを狙っているとはいえ悪魔の襲撃だ。悪魔を知ったばかりの一般人を不用意に戦闘に参加させるとセーラ・レヴィアタン・・・つまりはレヴィア・聖羅にいらん責任追及が出かねない」

 

 簪の視界の中、レヴィアは蘭の背に寄り添い目を閉じている。

 

 力を操る神器の練習をしているからか、莫大な力が放たれているのが分かった。

 

 それだけの力を使わねばならなことに不安になり、手が出せないことがもどかしかった。

 

「・・・お姉ちゃん、何とかならないの?」

 

 だから、せめて力を貸す人が増えないかと苦手な姉に相談してしまう。

 

 正直どんな反応が変えるか心配で少し視線を向けるのが遅れたが、向けたらちょっと驚いた。

 

「簪ちゃんが、簪ちゃんがお姉ちゃんを頼ってくれた!」

 

「「「「え?」」」」

 

 千冬まで含めてちょっと引くぐらい、なぜか涙を流していた。

 

「お、お姉ちゃん? え、何か悪いこと言った?」

 

「全然! 全然そんなことないわ!! むしろもっと頼って! これからもっともっともう全部こっちに投げつける勢いで!!」

 

 ものすごい勢いで抱きしめられて、しかも頬ずりまでされた。

 

 ちょっと昔を思い出して嬉しくなったが、それどころではない。

 

 そんな風に戸惑っている間に、簪を解放した楯無は日本刀片手に意気揚々とジーコンに向き直っていた。 

 

「ちょっと行ってくるわ」

 

「やめろ。表向きに監視する立場になっている貴様が過剰に手を出すだけで日本異能組織の駆け引きの材料になるぞ!」

 

 その動きを羽交い絞めにして封じながら、四朗はヒルデに顔を向ける。

 

「そういえば彼に連絡はついたか? 流れ的にそろそろ会談の準備をしておきたいのだが」

 

「あ、それは大丈夫デス。直通回線は通信可能ってでてるデス」

 

 その言葉に頷きながら、四朗は視線をジーコンの方に向けた。

 

「あとは彼ら次第ということか。・・・まあ、この後がさらに厄介になるのだろうがな」

 

 その言葉に、全員の視線がそちらを向く。

 

 これから何が起こるのかは分からない。

 

 どうもレヴィアもこの男も相当の立場の人間のようだし、もしかすると世界に影響が出るのかもしれない。

 

 だけどそんなことよりも、レヴィアが無事でいてくれることの方が大事だった。

 

 何かあれば止められてでも割って入ると決意して、簪は今はまだ見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それは来た。

 

「・・・いける」

 

 静かに、レヴィアはその時が来たのを理解した。

 

「・・・いけます」

 

 筋かに、蘭はその準備ができたのを感じた。

 

「二人とも! ジーコンを足止めしてくれ!!」

 

 レヴィアは声を張り上げ、そして一夏と鈴はそれに答えた。

 

 そしてレヴィアと蘭は意識を同調させる。

 

 今から放つのは最大火力の最終兵器。

 

 それを理解しているから、一夏も鈴も全力を出す。

 

「「我、目覚めるは八の(かしら)持つ龍の化身なり」」

 

 カレドヴルッフがまた砕け、しかし今度は二本まとめて出して振るわれる。

 

 二本同時による過剰出力に一夏の腕が悲鳴を上げるが、無視して連続して振るう。

 

「「王の座に食らいつき、天へと迫り、されど神の座に伏せる」」

 

 その一撃を鈴の拳が加速させる。

 

 それらはもはやジーコンの腕を弾き飛ばすどころが吹き飛ばす勢いで放たれ、大きな隙を作る。

 

 無論、そんなことをすれば今まで二人がかりで作っていた隙のなさがなくなり、反撃の余裕も十分に起きる。

 

 その攻撃が掠めてシールドエネルギーをごっそり減らしていくが、しかし二人とも意に介さない。

 

「「我、今こそ覇の座へと上り詰め・・・」」

 

 カレドヴルッフが一瞬で砕け散り、しかしその爆発的な破壊力がジーコンの外殻を砕く。

 

 その損傷はわずかですぐに修復されるが、それより早く鈴が前に出る。

 

「喰らいなさい!!」

 

 衝撃機構でしっかりと地に足をつけ、仙術の一撃がその肉体に叩き込まれた。

 

 それは一瞬のすきを作る程度でしかなかったが、それで十分だった。

 

 明確に動きが止まる瞬間に二人は距離をとり、同時に叫んだ。

 

「「二人とも!!」」

 

 その言葉に頷き、レヴィアと蘭は最後の(ことば)を告げる。

 

「「汝を無の終焉へと送り込もう――!!」」

 

 八つ首がまるで八角形を作るかのように頂点を作り、その中心に莫大な力が集まる。

 

 それは全てを消滅させる破壊の極意にして、覇を現す頂上の咆哮。

 

「「覇龍砲(ジャガーノート・ドライブ・スマッシャー)ッ!!!」」

 

 その覇は、放たれた。

 

 一瞬でそのオーラで空間を茶色に染め上げながら、巨体となっていたジーコンを包み込む。

 

 そして、その肉体を消滅させていく。

 

「「行っけぇええええええええ!!」」

 

 二人の願いを聞き届けるようにその力はジーコンの肉体を塵へと化す。

 

 それに抵抗するかのように、ジーコンは前に出た。

 

 その尾が高速で伸び、その破壊を弾き飛ばそうとするかのように二人へと迫り―

 

「・・・油断大敵」

 

 紅い光に撃ち落とされた。

 

「アストルフォ!?」

 

 振り返った一夏の視界に、紅く輝く光の弓を構えたアストルフォの姿が小さく映る。

 

 次の瞬間、覇を示す破壊の力が瞬間的に増幅し―

 

「・・・さようなら、ジーコン」

 

 レヴィアの別れの言葉と共に、ジーコン・アスモデウスは消滅した。

 




王龍は鈴ちゃんの戦闘能力のフォローに進化の方向性を全振りした機体です。

説明は後述しますが、その進化の方向性ゆえに素手で叩きつけなくても仙術を叩きこむことが可能というハイスペック機


なお、覇龍砲がちょっと洒落にならない破壊力を発揮しておりますが、アレの原理はヴァーリが覇龍を制御できるのと英雄派の開発した業魔人の原理をレヴィアがやっているとお考えください。


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第十二話 人間としての全て、捨てる気はあるの?

戦闘終わって、そして・・・


 

 

「・・・ってことで説明は終わりでいいかしら?」

 

 ISスーツを身につけたまま、鈴はそういうとジュースを口に運んだ。

 

 今現在、鈴たちは四朗が所有する大型のクルーザーに移動している。

 

 外見はただの大きいメガヨットでしかないが、レヴィアが一目しただけで顔をしかめたことから考えて、明らかに異形の力によって強化されているのだろう。

 

 そのサンルームで一休みしながら、鈴が皆に基本的な知識を教えていた。

 

 神や天使、悪魔に堕天使などは確かに存在すること。

 

 それ以外の神話体系も存在し、複雑な勢力図ができ上がっているということ。

 

 そして一夏が人間から悪魔へと変化した存在であることだ。

 

「英国の人間として神の教えは信じておりましたが、まさか本当に悪魔と会うことになるとは思いませんでしたわ」

 

 茫然と、つぶやいたセシリアの言葉は皆の総意といっても過言ではないだろう。

 

 聖書の教えに存在する悪魔の存在を現実に見ていたとは思ってもみなかった。

 

 簪も、お茶を飲みながら同意する。

 

 レヴィアが只者ではいことは知っていたが、まさか人間ですらないとは思わなかった。

 

 加えていえば一夏も人間でないとは驚きである。いや、人間で『あった』という事実にこそ意識が向く。

 

 絶滅を危惧するほどにまで数を減らした悪魔。それに対応するために自分たち以外の種族を自分たちへと作り変える技術を生み出すなど、どういった思想を持ってすれば可能なのだろうか。

 

 しかし、そうだとするならば自分も同じように悪魔に転生することが可能ということになる。

 

 それはつまりレヴィアのものとして一緒に―

 

「・・・山田先生。簪ちゃんが遠くに行っちゃいそうなんですけどどうしましょう?」

 

「え、え、えっと・・・。せ、先生も今はちょっと人のことを気にしている余裕がないというか・・・」

 

 姉が暴走しそうなのでとりあえずその思考は停止させることにする。

 

 なんとうか、完璧を体現しているはずの姉がいろいろとダメになっている。

 

 伯父がとんでもない立場の人間で、しかも自分の教え子がそんな伯父と殺し合う立場であるなどと知っている状態の人に相談をしている場合ではないだろう。

 

 などと考えている間に、小さなため息が聞こえてきた。

 

「・・・・・・・・・」

 

 織斑千冬が、無言で目を閉じていた。

 

 それはそうだろう。

 

 実の弟が人でなくなっているなどと言う事実は、相応にショックがあるはずだ。

 

 だから誰も何も言えず、そして彼女自身何も言わなかった。

 

「まあ、それはそれとしてね」

 

 それが分かっているからか、鈴もなにも言わず、その視線を別の方向に向ける。

 

「あんた達、ちょっと色々と考えた方がいいからね?」

 

 その視線の先には、セシリアとラウラがいた。

 

「どういう事だ?」

 

「決まってるでしょ? 一夏との今後のことよ」

 

 ラウラにはっきりと返答し、真剣な目を向ける。

 

「悪魔っていうのは人間なんか目じゃないぐらい長生きするの。・・・あいつの性格から考えても、一緒にいるならレヴィアに頭下げてでも悪魔に転生させてもらうでしょうね」

 

 まあ、将来的に駒をもらったらそくトレードするでしょうけど、とおどけてから、鈴は小さく息をついた。

 

「つまり、一緒にいるなら人間やめるってことよ」

 

 悪魔に転生するとは、つまりそういうことだと彼女は言ったのだ。

 

 それがそこまで大きなことなのだろうか。

 

 確かに人でなくなることはショックを与えるだろうが、しかし大事な人と共にあるのなら、耐えられるのではないだろうか。

 

 だからそう言おうとして、しかし鈴の言葉が続く方が早かった。

 

「人間としての全て、捨てる気はあるの?」

 

「「「・・・え?」」」

 

 その言葉が二人と同時に口を衝いて出てきたのは、当然だろう。

 

 そして、鈴の言うことをようやく真の意味で理解する。

 

「悪魔になるってことは人の世界から逸脱することで、人の世界で培ってきた栄光とか役職とかを捨てることにもなりかねないわ。少なくとも、代表候補生だなんて立場を維持したまますごすことなんてできないわよ」

 

 代表候補生とは注目される立場だ。

 

 一万年ともいえる寿命を得るということは、必然的に老化からも解放されるということ。

 

 はたして、そんな人とは違う変化を維持したまま、そして人の世から外れたまま、人の世の栄光をつかみ続けることができるのだろうか。

 

 人から悪魔になるという意味を本当の意味で理解して、その心に冷たいものがはしる。

 

「・・・ま、あたしも人のことは言えないんだけどね」

 

 前はあっさり捨てれたけれどと肩をすくめ、鈴はその右手にもったジュースを飲み干す。

 

 彼女の右腕は結局発見されなかった。

 

 おそらく戦闘の余波で跡形もなく吹き飛んでいるだろうし、どちらにしても今頃魚の餌になっているだろう。

 

 それなのに右手でジュースを持てているのは、ひとえに王龍のおかげである。

 

 彼女の力となるために進化を遂げた王龍は、その待機形態も彼女のために変化した。

 

 肉体にほぼ癒着した状態の義手。それが今の王龍の待機形態だ。

 

 そこまで自分に尽くしてくれた相棒も、しかし本格的に悪魔になれば手放さなければならないだろう。

 

 それに抵抗を感じるから、鈴は一夏についていくという判断にためらいを感じていた。

 

「あんたたちもその辺ちゃんと、しっかり考えておきなさい。決断する時は必ず来るんだから」

 

 最後の言葉を簪にも向けながら、鈴はその右手をじっと見つめた。

 

「確かにいろいろと考えさせられるISではあるな」

 

 扉を開け、四朗がヒルデを伴ってサンルームへと入室してくる。

 

 礼服をまとったその姿は威風堂々として威厳に満ち溢れる。

 

 その姿に皆が気圧されるが、千冬が立ち上がると四朗と向き合った。

 

「遅かったな。織斑たちはどうした?」

 

「非公式とはいえ教会幹部と魔王血族の会談だ。相応の準備と言うものがあるのだよ」

 

 そういうと、開いていたソファーに座り、従者からコーヒーを受け取って一口飲む。

 

 そして、軽く息をついた。

 

「異形に合わせたISの進化は想定内だったが、現物を見ると驚くことが多いな」

 

 その視線は義手と化した王龍へと注がれる。

 

「所有者の破損した肉体の一部を取り込んだことで、一種の生体組織を構成に組み込んでいるぞ、そのISは」

 

「あらあら、正真正銘鈴ちゃん専用になるために進化したのね」

 

 楯無の扇子が開き、「人機一体」の四文字が見える。

 

 確かにその通りだろう。

 

 待機形態では文字通り主の右腕となり、その生活をサポートする。そしてISとしては正しい意味で主の体の延長線上になってその力をサポートする。さらには異形の力を使う主のために、それを最大限に生かせる機体ポテンシャルを発揮する。

 

 今目の前にいるのは間違いなく奇跡の塊だった。

 

「あ、あの・・・山田先生の伯父さん?」

 

 山田が二人もいる状態でどういえばいいのかわからずに、しかし簪はどうしても聞きたいことがあって声をかけた。

 

「呼びにくいなら室長と呼んでくれ。どうかしたのかね?」

 

 その態度は柔らかで、麻耶と血がつながっているのを感じさせた。

 

 だが、この質問自体ではそれも変わるかもしれない。

 

「レヴィアと戦うかもしれないんですか?」

 

 普通に考えればそうなのだろう。

 

 長い間三つ巴の戦いを続けてきた陣営同士で、しかもレヴィアも四朗も相応の立場だというではないか。

 

 そんな二人が非公式で会談をすれば、決裂したらその場で殺し合いが始まるかもしれない。

 

「・・・こちらから戦闘をするつもりはない。それだけは約束しよう」

 

 四朗は、真剣な表情をして簪に答えた。

 

「最重要禁則事項に触れるからあまり答えられないのだが、三大勢力の戦争はその大本がほぼなくなっている状態になっている。ローマ教皇がタカ派なのが問題だが、私は戦争に意味はないとすら思っているよ」

 

 沈痛な表情を浮かべながら、しかし穏やかに四朗はそう説明した。

 

 そして、それに応える声があった。

 

「・・・こちらも同意見だ。悪魔は抑圧されすぎる人間の欲をかなえ、聖書の教えは欲望の暴走を抑える手本となる。双極に位置するが我々は共存できるはずだからね」

 

 扉が開き、僅かに湿り気を残した赤い髪が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、今までにないほどに気品を感じさせる姿だった。

 

 貴族を思わせる豪奢なドレスに身を包み、レヴィアは眷属を先導して前を歩く。

 

 その後ろに続く一夏たちも、騎士のごとき意匠が施された礼服に身を包み、その後ろを鋭い顔で追随する。

 

 まさに王族とその従者たちの行進を見せ、レヴィア・聖羅は四朗へと向き直った。

 

「まずは、クラスメイトや先生の安全確保に協力してくれたことと、ジーコン討伐の助力に感謝したい。冥界の者達の利となろうと、無辜の民を守るそのあり方は敬意を表する」

 

「気にすることはない。我々としてもISが馬鹿な悪魔の手に渡ることは絶対に阻止しなければならないからな。貴殿にISを独占する意思がないのならば、共に利をとる決断もありということだ」

 

 軽くジャブとなる挑発がかわされるが、二人の表情に険は見えない。

 

 これが敵対する者同士の会談であることを理解しての、あくまで形だけの牽制なのだろう。

 

「身を清める時間と設備を貸してくれて助かったよ。あんな汚れた状態で会談をするというのはさすがにこの身でやると騒がしくなりそうだからね」

 

「こちらも相応の立場にかかる責任というのは理解しているからな。ではまず聞きたいが・・・」

 

 四朗の視線が一夏に注がれる。

 

「織斑一夏を悪魔にしたのは、ISに深くかかわるための作戦か何かか?」

 

「違う」

 

 はっきりと、レヴィアは断言した。

 

「一夏君と蘭ちゃんを眷属にしたのは何年も前のことだ。入学の一件は、一夏君が英語と漢字の区別ができなかったというとてもアホなことが原因で起こったことで、僕はもちろん四大魔王を含めた冥界政府関係者の意思は介在しない」

 

 レヴィアの後ろで一夏が視線をそらすが、レヴィアは意にも介さない。

 

 僅かにすすけたような感じになる一夏の肩を、蘭がいたわるように軽くたたくが、アストルフォはそれを隠すように動いたりと忙しい。

 

「・・・ならばいい。そちらもいろいろと複雑な立場なのだろうし、悪魔であることを秘密にしたのは騒動を起こさぬための政治的判断だとして了承しよう」

 

 そういうと、四朗はソファーの一つに腰を落とす。

 

 そこには小さなテーブルがあり、さらに向かい側にもソファーが一つ。

 

 応じるようにそのソファーにレヴィアが座り、一夏たちはその後ろに回り込む。

 

 そこに下女が紅茶をおき、二人は一口口をつけてから、再び視線を交わし合う。

 

「では本番に移ろうか。・・・魔王はちゃんと呼び出したのだろうな」

 

「ああもちろん。・・・アストルフォ」

 

 レヴィアが指を鳴らすと、アストルフォが彼女の横に魔法陣が書かれた紙をおく。

 

 その魔法陣から光が放たれ、薄く透ける一人の男の姿を見せた。

 

 (あか)の男。それが皆の第一印象だった。

 

 分かりやすい赤のレヴィアを超えた、見るものすべてを引き付けるような鮮やかな(くれない)。それが男を示す姿だった。

 

 その在り方は優しげだが、しかし全員が理解する。

 

 この男は、この場にいるものすべてを相手にしたとして返り討ちにする可能性があるほどの存在だと。

 

『お初にお目にかかる、山田四朗殿。私が、現魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーだ』

 

 強大さを感じさせぬ。しかし人を惹きつける声が口から洩れる。

 

 その声を耳にしながら、四朗は苦笑を僅かに漏らした。

 

「その立ち振る舞いですぐにわかる。今の教会にあなたと真の意味で相手いできる者などそうはいないだろうな」

 

 明らかな格上の姿に苦笑しながら、そして四朗も一枚の紙を見せつけた。

 

 そこに書かれているのはこちらも魔法陣。

 

 だが、それを見て何人かの視線が鋭く、そして違和感を明確に見せた。

 

「・・・北欧式の、魔法陣?」

 

 小さくつぶやくアストルフォの声が答えだった。

 

 それは教会の方式ではなく、北欧神話体系アースガルズの仕様なのだ。

 

 見せつける四朗の後ろにヒルデが回り込み、その紙を受け取って術式を展開する。

 

「最初に断っておく。我々教会合同技術研究室は、独断でアースガルズと協力体制にある」

 

 その言葉に、サーゼクスは僅かにそのオーラを警戒の色に変質させた。

 

『北欧の神話を創作の世界へと貶めた教会が、なにゆえ彼らと協力体制を行う? しかも上にも知らせていないとはどういうことだ?』

 

「それも全てこれから話そう。だがその前に、ちゃんと紹介するべきだろう」

 

 光はサーゼクスの時と同じく1人の人物の形をとる。

 

 ローブに身を包んだひげを生やした老人。

 

 だが、その質はサーゼクスに勝るとも劣らない。いな、年期なら間違いなく超越しているであろう神そのもの。

 

『ほっほっほ。別嬪さんが多くてこの老いぼれも興奮するわい。・・・わしがアースガルズの指導者をやっとるオーディンじゃ』

 

 今ここに、異なる神話という条件こそあれど、神話の双極の頂点が対面した。

 




オーディン登場。

次の話は、この話における独自設定の中でもかなり重要な部分の話になっております。


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第十三話 それが、ISコアの正体か!?

超重要情報が判明します。

皆さん、覚悟はいいですか・・・?


 

『さて四朗。本題は今から話すということでいいのかの?』

 

「ええ。あまりにも重要なこの話、正直かなり緊張しております」

 

 一見して緊張などかけらも感じさせない声で、四朗はオーディンに応える。

 

 そのやり取りはまるで日常の一会話にも見えるが、しかしレヴィアは警戒を怠らない。

 

 聖書の教えというのは、世界中の神話体系にとって殴り倒したい相手の中でも最上位だ。

 

 多くの神話の共通点とは、それが創作扱いになっているということ。そしてそれは現代の宗教に追いやられたということであり、率先して行ってきたのが一神教である聖書の教えである。

 

 アースガルズにとって聖書の教えは大きな敵の一人のはず。少なくとも、同盟を組むような行動をとるには、相応の大廠が請求されるであろう。

 

 一室長程度が独断で判断していいことではないはずだ。下手をすれば物理的に首が飛ぶ。

 

 その意味を理解しているのはこの中でも僅かであろうが、しかし大きな出来事だということは皆が理解しているだろう。

 

 ゆえに、視線が四朗とオーディンに集まる。

 

 その視線の中、四朗は懐からある物を取り出した。

 

 授業の一環で写真を見たことがある。あれはISコアだ。

 

「突然だが、ISコアとは何だと思うかね? ああ、誰が応えてもいい」

 

 いわれ、皆に戸惑いの表情が浮かぶ。

 

 いまだ完全な解析に成功したものが一人としていないISコア。そんなものの解明など、それこそ専門家の研究者の仕事だ。

 

 ましてや今は会談中。いきなり話が変わったことにも戸惑うし、何より自分から話すのも気が引ける。

 

 レヴィアも文句の一つも言いたかったが、しかし自分はあくまでサーゼクスの配下であると想い口をつぐむ。

 

 あくまで自分は旧魔王信仰を受け止めるための象徴。現政権の(まつりごと)に口をはさんではいけない。そうなれば冥界は大きく揺れ動いてしまう。

 

 だから口をつぐみ、皆も答えづらく、楯無は口をはさむ気がなく、ヒルデはそもそも反応を返さない。

 

 ゆえに皆を代表して、千冬は視線を四朗に合わせた。

 

「科学技術の頂点に立つ、現代の中心となる技術といったところか?」

 

『我々としては深くかかわるつもりはないよ。間違いなく専門外だからな』

 

 サーゼクスの答えを聞き、四朗は首を振った。

 

「いな、これはある意味でルシファー殿が関わらざるを得ないことで、科学の粋という答えも50点でしかない」

 

『しいていえば、うちの研究班に入ったヴァルキリーの家系が近いかの? そこの四朗が一番専門家に近いのは間違いないがのう』

 

 その言葉にレヴィアは眉をひそめる。

 

 科学技術の粋を集めたとされる物に対して、異形の側はどちらかといえば専門外だ。

 

 確かに利用できるものを積極的に取り入れているところは多い。だが、積極的に研究開発を行っている物は少ない部類だし、兵器関係であるISに関しては、手を出している物はごく少数だ。

 

 教会の技術研究だって、悪魔祓いの支援のために補助として取り込んでいるぐらいだろう。それが専門家に近いとはどういうことだろうだ。

 

 そこまで考えて、レヴィアは頭が痛くなってきた。

 

 わけのわからない謎かけに困っているのかと思い、しかし、気付いた。

 

 これはそれとは無関係だ。

 

 後ろを振り返れば、特にISコアを直視していた蘭が頭を抱えていた。

 

「なに、これ・・・。頭が痛い・・・っ」

 

「蘭!? てめえらまさか―」

 

「落ち着け、回りくどい」

 

 攻撃と判断した一夏が動くより早く、その遠回りなやり方には攻撃の意図がないと判断したアストルフォが止める。

 

 その光景を見て、レヴィアは慌てて視線をISコアへと戻す。

 

 僅かに、感じ取れるものがあった。

 

 それは、街を歩いていて間違えて教会に近づいた時のような悪寒。

 

 聖書をそらんじている人の言葉が耳に入り、不快感と共に感じた頭痛。

 

 それらを思い出し、レヴィアは嫌な予感を感じて立ち上がる。

 

 その動きに、四朗とオーディンは答えを見つけた子供を見るかのような、好印象の表情を浮かべた。

 

 そして、四朗は腕を伸ばす。その手はISコアをつかみ、そしてレヴィアに差し出していた。

 

 さらに左手には腕輪がある。見る者がいれば、それはあらゆるものに変化する擬態の力をもつエクスカリバー、擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》だと気づくだろう。

 

「さあ、確かめたまえ」

 

 静かにISコアを受け取ったレヴィアは、それを擬態の聖剣と触れ合わせる。

 

 強大な聖なるオーラをISコアが放ち、レヴィアの肌を強く焼いた。

 

「ま、さ・・・か」

 

 その感触を感じながら、レヴィアはISコアの解析が進んでいない理由を察した。

 

 ああ、それなら四朗の答えは当然だろう。ISコアを科学技術の粋だといえば半分しかあってないし、興味は薄いものだろうが、軍事兵器として使用されている性質上冥界政府はもっと危険視するべきだ。ヴァルキリーの血を引く研究者は専門家に近いだろう。

 

「・・・ISコアの動力源は、異形の力なのか!?」

 

「そうだ」

 

 レヴィアの答えに四朗は頷き、しかしさらに促す視線を向ける。

 

 その答えももうすぐ理解できる。

 

 いくら危険視するとはいえ、魔王が関わることを考えねばならないほどの質を持つこと。異形の側の科学研究者が専門家だといえど、教会の人間である四朗こそが専門家に一番近いということ。

 

 その答えは今、レヴィアの肌を強く焼いていることが証明している。

 

 レヴィアの肉体的耐久度は非常に高い。もちろんそれは聖なるオーラに対する耐久度も高く、上位の悪魔の中でも特に格が高い耐久度を持つ。その気になれば聖水で水浴びしても肌が荒れる程度だろう。

 

 それだけのレヴィアを焼くほどの力を持つ程の異形の力。だが、このサイズでそれだけの力を持つのなら、わざわざISコアにする必要がない。

 

 そこまで考えてレヴィアはついに答えに辿り着く。

 

 つまり、ISコアの正体とは・・・

 

「聖遺物クラスの強大な聖なるオーラを持つ物を分割して中枢部にし、それらを電力に変換することでエネルギー源として使用する、さらにその奇跡の力を以って各種特殊能力の機能を超小型で使用させる。それが、ISコアの正体か!?」

 

「そう、教会から行方をくらませていた神の子の処刑に使われた聖遺物の一つ、聖釘(せいてい)のオリジナルを溶かし分割したものがISコアの中枢部だ」

 

 四朗の答えに、レヴィアはゆっくりと後ろに下がると、ソファーに沈むように座り込む。

 

 あまりの内容に、震えだしそうになるのを何とか抑える。

 

 その様子を心配そうに見ながら、簪が疑問の声を口にする。

 

「・・・せいていって、なんなの?」

 

「聖遺物は知っているな。神の子や聖母、そして聖人の遺骸や遺品のことをさす。その中でも、神の子を磔にする時に使われた釘のことを指す」

 

 四朗はそう答え、そして静かに目を閉じる。

 

「紛失されていたオリジナルの聖釘を捜索するなか、その一つが配送者のミスによって篠ノ之束の手に渡ったと知ったのは、もう五年も前になるな」

 

 強大な能力をもつ科学者は、自分とベクトルが違う強大な力を手にし、そして利用することに成功した。

 

 その結果生まれたのが、現代の科学では並ぶ者のいないまさに機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)、インフィニット・ストラトス。

 

『聖釘とのリンク部分などもオーバーテクノロジーでの、未だアースガルズ・コーポレーションや研究室でも科学部分の完全な複製はできておらんのよ。一部技術も大型化せざるおえん。当然、四朗が乗っておったスタリオンの性能も第一世代の平均水準を出ておらん』

 

 オーディンの言葉にさらに驚愕が走る。

 

 ISコアが未解明なのは、科学の分野では理解できない者が組み込まれているからだ。

 

 だが、それを理解できる者たちですらISコアの他の技術の完全な模倣は不可能。

 

 尋常でない技術力と、それを支える異形の力。

 

 その意味に、その場に重い空気が漂う。

 

『ならば、あなたが上層部に知らせていないのも納得だ』

 

 そして、それ以上に重い内容をサーゼクスは口にする。

 

『聖書の教えにおける至宝が、軍事兵器という道具として、よりにもよって他宗教を信じる国家にも使われている。こんな事実が世界的に知られれば―』

 

 古来より、宗教というものは正義を象徴するものであった。

 

 一神教の宗教にとって神の教えとは絶対のものであり、極端な話その意志こそが正義なのでそれが伝えられればどんな内容であっても従うものは多い。

 

 また、逆に神の意志から外れる者は敵以外の何物でもなく、場合によっては同じ生命体としてすら認識されない。

 

 古来より宗教を引き金とする戦争や紛争が起き、また、虐殺や蹂躙なども数多くおこった。聖書の教えを絶対のものと認識したものによって、その存在を創作と貶められた神話も数多い。

 

 そして聖遺物とは強大な宝であり、ことカトリックにとっては殺人や蹂躙、強奪の理由と成りえる。

 

 そしてカトリックの長たるローマ教皇は、それ以外の聖書の教えに対しても大きな発言権を持つ。

 

 もしこの教皇がこの事実に怒りを覚え、聖遺物を神の教えの下に集めようと考えたのであるならば―

 

『・・・聖書の教えとそれ以外による、ISコアをめぐった第三次世界大戦が起きかねない』

 

「加えて言えば現ローマ教皇は、表の軍事社会に対する介入を可能とするための独自戦力開発を行おうとするなど、人類社会に対してタカ派だ。こんな火種などあのニトログリセリンに近づけれんよ」

 

 同意を示す四朗の毒舌に、緊張感が一気に高まる。

 

 世界のパワーバランスをになうどころか、それらを一気に崩しかねない危険すぎる爆薬。

 

 世界を変えた白騎士事件など、序の口でしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分間、その場は沈黙に包まれた。

 

 この話を聞いた者たちはその重大さに口を開けず、そして四朗たちはそれを受け止めさせるためにあえて沈黙する。

 

 レヴィアも紅茶の香りを堪能して気を落ち着かせ、そして決断した。

 

「一夏君。ちょっと死のうか」

 

「・・・あ、やっぱり?」

 

 返答は、意外とあっさりしていた。

 

 一個人の命のやり取りをあっさりと決めるかのような展開に、しかしほとんどの物が追いつけない。

 

 そんな中、千冬はいち早く理解し、そしてレヴィアに殺意を向ける。

 

「聖羅。・・・貴様、どういうつもりだ?」

 

 その胸倉をつかみかからんと一歩を踏み出すが、その行き先にアストルフォが割って入って動きを封じる。

 

「落ち着け。例えだ」

 

『その通りだ。なにも本当に一夏君の命を奪おうというわけではない』

 

 サーゼクスがとりなすように手のひらを向ける。

 

『ただし、教会の聖遺物に関わる事情に旧魔王の末裔の眷属悪魔が関わっているのはむしろこちら側の戦争の引き金にもなりかねない。ゆえに一夏君はISから・・・つまりは表社会から切り離さなければならないのだ』

 

 聖遺物というのは非常に重要なものだ。

 

 それらは聖書の教えにおける非常に重要な代物であり、それが敵対する悪魔の側にあるというのは、それだけで停戦状態の戦争を再発させかねない。

 

 ISコアに聖釘が使われている以上、その唯一の男性操縦者が悪魔などと知られれば、各種異形の業界からも大きな非難が起こりかねない。

 

 ゆえに速やかに距離をとり、自分達は知らなかった、だからもう手を引くので許してくださいと頭を下げる体制をとるべきなのだ。

 

 ましてやこの情報は未だ教会の上層部にも知らされていない。この会談で口裏を合わせて知らされてなかったことにすれば、被害を最小限にすることは不可能ではない。

 

「ただし、彼は世界中の注目を集めており、ただISから離れるといっただけでは政治的理由により止められるでしょう。ゆえに死亡したことにして社会的に抹消する必要があるんですよ」

 

 額に手を当てて頭痛をこらえながら、レヴィアは説明する。

 

 これはできれば使いたくない手段であった。

 

 使うというのなら、そもそも一夏がISを動かしたという時点で選択肢に上がっていたのだ。それをしなかったのは一夏に気を使ったからだ。一夏の生活を考えて、ある程度様子を見る期間を置いておきたかったからだ。

 

 にもかかわらず、事態がそれを許さない。

 

「この事実が知れた時に一夏君が今のままなら、教会は悪魔に対しても全面戦争を起こしかねない。そうなれば、いったい何人の罪のない存在が死ぬか想像もできない」

 

 神の子の処刑にかかわった聖遺物となればその重要さは現代科学の最上格などというレベルではない。

 

 うかつにしれられればそれこそ悪魔がほろぶほどの戦乱を生みだしかねないのだ。

 

 それは、悪魔全体のためを思い実家を裏切ったレヴィアにはできない。そんな罪を大事な眷属に背負わせるわけにはいかない。

 

「千冬さん。あなたは一夏くんに罪もない何千人もの子供を殺しかねない危険な存在になれとでもいうつもりですか?」

 

「・・・確かに、そうだが・・・」

 

 千冬と視線を交錯させ、しかし彼女は視線をそらす。

 

 彼女だってわかっているのだ。大事な弟にそんな重みを背負わせることを、彼女だって望まない。

 

 だが同時に、それをすれば別の意味で重荷を背負わせることになってしまう。

 

 だから、立ち上がって、歩み寄り、その手をとる。

 

「大丈夫です。そうでないなら、僕は必ず一夏君を守る」

 

 それは、彼を悪魔にしたその時から決断していることだ。

 

「彼が道を間違えない限り、僕は彼の味方でいるつもりです。だから大丈夫です」

 

 レヴィア・聖羅は織斑一夏の守護者であるし、セーラ・レヴィアタンは眷属悪魔を守る側だ。

 

 だから、織斑一夏は大丈夫。

 

 そういう意味を込め、レヴィアは微笑した。

 

「王の決定です。そうそう邪魔はさせませんよ」

 

「ああ、それにもう意味もないしな」

 

 レヴィアの言葉を後押しするように、しかし全く違う意味を込めて、四朗は後ろからそう言い放った。

 

 空気を大きく変えるその発言に、またその視線が四朗に注目する。

 

「全く安心できないフォローを入れよう。・・・既に事態はそんな行動で悪魔が安全圏に入れる状況を超えている」

 

 静かに立ち上がると、四朗はおもむろに服に手をかけた。

 

「いくら上に言えないとはいえ、教会にとって貴重な至宝ともいえる聖釘を勝手に溶かし、しかも異教の民に使わせるような真似をされたと知ってタダで済まそうと思うかね?」

 

 それは確かにその通りだろう。

 

 敬虔な信者なら怒り狂って殺人の動機にもなりえる内容だ。当然、敬虔な信者で構成されているであろう研究室なら当然のことだ。

 

 無論、そんなことをしてもISコアそのものがある以上問題の先送りにしかならないだろう。今の段階でそんなことをすれば、余計な憶測も生むし混乱も起きる。もう一段踏み込んだ対策が必要となる。

 

「早急に確保して代用品を作らせ、大規模アップデートと称して交換させる。そう決断し、警備のために運用していた独自戦力を動かして確保に向かったとも」

 

「大変だったろう。あいつは身体能力でも規格外だから、間違いなくただでは済まなかったはずだ」

 

 同情するように千冬が言いきる。

 

 ・・・このいろいろと規格外な人物が層まで言い切るとなると、相当の実力者なのだろう。

 

 それを思い出すかのように、四朗も微妙な表情を浮かべながらうんうんと頷いた。

 

「三回目ぐらいで対応策を組み立てて、念を入れて重装備で投入して追い込んだんだがな」

 

 そう言い終える頃には服を脱ぎ終え、四朗はそれを見せた。

 

 後遺症が残っているといわれれば信じれるほどの、深い傷跡を。

 

 胴体の三割を占めるその傷跡は、もう死んでいたといわれれば信じられるほどに重症だったのが見るだけでわかる。

 

 その痛々しい姿に沈黙が生まれるなか、四朗は服を着直しながら話を続ける。

 

「その時は私も聖剣片手に乗りこんで、あと一歩のところで邪魔が入ってこの様だ。医師からは三時間以上の全力戦闘は禁止されているし、趣味の飲酒も週に一回しかできん」

 

 心底ため息をつきながらの姿に、しかし誰も答えることができない。

 

 彼の戦闘能力は既にある程度把握している。

 

 明らかに性能で劣っていたあのISもどきを使い、四朗は千冬にも匹敵する量の異形を倒した。

 

 それだけの実力者にそこまでの後遺症を負わせるほどのけがを負わせるほどの人物など、いったい誰が行ったというのか。

 

「そして、それゆえにもはや行動は遅いのだよ。あの男が篠ノ之束を匿っている以上、一度手を出したというだけで悪魔はまきこまれて三大勢力は戦争だ」

 

『そのあの男というのは誰なのだね? 話からして、堕天使側の者である可能性が非常に高いが』

 

 サーゼクスの予測は正しいだろう。

 

 三大勢力の均衡を崩すのに、一度でもISに関わっていたことが理由となるのならば、三大勢力の重要関係者だろう。

 

 とはいえISの存在の価値を把握してなければそんなことはできないだろう。そして価値を知っているのであれば、悪魔側なら現魔王であるサーゼクスの耳に入っている可能性は非常に高い。天使側なら研究室を力づくで妨害する必要はないし、むしろ応援する側だろう。

 

 消去法で考えるのならば十中八九堕天使側。

 

 だが、その存在が想定外だった。

 

「堕天使総督、アザゼルだよ」

 




本作品における超危険物質、それがISコア。

現在の状況も含めると大きく分けて、

1 異形の存在の証拠品

2 第三次世界大戦の引き金

3 三つ巴の戦争のブースター

とになりかねないという超危険物質。

さらに聖遺物の存在に否定的なプロテスタントの価値を暴落させかねないわけであり、正体が知られた場合の影響力は本当に洒落になりません。


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第十四話 和解の道ができると嬉しい

 堕天使総督、アザゼル。

 

 堕天使の執政機関である神の子を見張る者(グリゴリ)の総督であり、どちらかといえば研究者肌の存在。

 

 研究者としては神器の研究が中心なようで、その知識は異形の業界でもトップクラスといわれている。人造神器開発にも手をつけているらしく、三大勢力の戦争時にそのメモがばらまかれたのは笑い話になったとか。

 

 戦闘能力に関しても堕天使トップクラスであり、魔王と張り合うことも可能というトップクラスの力を発揮する。

 

 指導者としてもカリスマ性が高く、トラブルメーカーの側面があるといわれているが、同時に面倒見がいい性分で部下からは好かれているとされている。

 

 人間界にも興味を持っているらしいが、少なくとも表向きには人間界に直接介入することを止めているというのが認識だ。

 

 そのアザゼルが、人間界を巻き込みかねない篠ノ之束を匿っている。

 

 その事実に、レヴィアは平静を装うのに時間がかかった。

 

 落ち着けレヴィア。お前はできる奴だ。

 

 ここでとりみだしたら眷属が一緒に慌てるだろう。そんなことになったら魔王さまにも申し訳が立たないからとにかく落ち着くんだ。

 

 王とは砕けず汚れず慌てない。メンバーの中でも特に落ち着いていることこそが余裕を生み、眷属の心をも落ち着かせてるはずだ。

 

 さあ深呼吸だ。いや深呼吸したら動揺してるのがばれるからやめろ。小さく呼吸を繰り返して落ち着こう。

 

 よしとりあえず落ち着いた。アストルフォはたぶん動揺しているの気付いているだろうけど。あいつは口下手だからたぶん言わないはず。

 

 さて、

 

「・・・それで、わざわざこちら側にばらした理由を説明してもらおうか? ですよね魔王さま」

 

『ああ、これだけの非常事態、遅かれ早かれ気づく可能性が高いアースガルズ・コーポレーションにあえて説明するのはともかく、我々には内密にした方がよかったはずだ。何故いまさら?』

 

 そう、レヴィア達の疑問はもっともだ。

 

 表向きには専属契約を結んでいるといってもいい一夏がISに深くかかわった時点で、こちら側のスタンスは証明している。

 

 ISは仕方ないからある程度かかわるだけで、こちら側からIS開発研究を主導したり、コアの解析などは消してしない。当然コアの保有もしないし、積極的な要求もなし。密接な付き合いをしないように気をつけるし、そうなりそうなら引き離すための行動もする。

 

 調べればすぐにわかるように(しかし一夏の正体はばれないように)オープンにしていたし、そのスタンスは研究室にも通達していた。

 

 わざわざ向こうからばらすようなことをした目的が理解できない。

 

「簡単なことだよ。戦争を起こさないためには、戦争を望まない者同士での連携をとる必要があるということだ」

 

 両手を広げて肩をすくめると、四朗はソファーに座り直す。

 

「現魔王派は、最低でも悪魔が回復しきるまでは戦争をするつもりはない。ならば今の段階で戦争を再発させるような事態に対しては対抗するはずだ。もちろん事情を知る者は最小限にしてもらうが、必要な協力を避ける必要もあるまい?」

 

 そういうと、四朗は紅茶を一口飲んでから、サーゼクスに視線を向ける。

 

番外の悪魔(エキストラ・デーモン)、メフィスト・フィレス卿と会談したい。あの男がアザゼルとパイプがあることはつかんでいる。奴と極秘に接触して状況把握と問題の解決の意思を知りたいのだ」

 

 その言葉に、サーゼクスは僅かに名目した。

 

『それそのものは構わんのだが、現在彼は指導する魔法使い組織が内乱を起こしているため連絡がつかない。こちらの予測では二年ほどかかるといわれているが、構わんかね』

 

 その言葉に、四朗は眼を閉じて考え込み、深く考え込んで―

 

「―仕方がないな」

 

 ため息とともに了承した。

 

『まあそっちの方はこっちからも何とか出来んか動いてみよう。直接介入はできんが、物資の搬入といった間接的な部類なら、かかわっとる魔法使い組織同士の横のつながりで何とかなるじゃろ』

 

 オーディンがそう言いながら映像で何やら資料をかき集めているようだ。

 

 それらを組み合わせれば早期の解決も図れるだろう。

 

 無論、それができたからといってこの事態を収められるのかは分からない。

 

 だが、納めることができる可能性は確かにできたのだ。

 

 世界大戦という甚大な非常事態に対してカウンターを叩きこめることが分かり、その場の空気はだいぶ穏やかなものになった。

 

『ISコア関連に対する資料請求などはやめておこう。我々としても戦争を起こしかねない火種は出すつもりはない』

 

「魔王さまの意向に逆らうつもりはない。なんなら、倉持技研に任せているIS方面を、そちらの息のかかった企業に移しても僕はかまわないよ」

 

「そこまでしなくてもかまわん。ただし、念を入れて倉持技研にはこちらからある程度の情報のやり取りを請求したいので株主権限で要求してもらう。オーディン殿、アースガルズ・コーポレーションに任せて構わないな?」

 

『いろいろ未完成な第三世代機を共同開発したいということでいいじゃろ。やれやれ、こちらも一部にしか伝えておらんのに、いろいろと働かせるのう』

 

 会談の中心となっていた四人が意見をまとめあい、そして終了といわんばかりに同時に息をついた。

 

 それに合わせて、それを見守っていた全員が一息をつく。

 

 問題は何一つ解決はしていない。ISは未だ聖釘を中核とし、それは公表したくても現時点では不可能。その根本ともいえる篠ノ之束は神の子を見張る者と共におり、その総督であるアザゼルの目論見は見えない。

 

 だが、少なくとも三つの勢力がその問題解決のために協力し合うことを約束した。

 

 問題は未だ多いが、しかし対処できる可能性も大きくなったのだ。今はそれで良しとしなければならない。

 

 だから、今はこれで終了なのだ。

 

「・・・あ、そういえばアタシどうしよう!?」

 

 唐突に、顔を真っ青にして鈴が悲鳴を上げる。

 

 それにどうしたことかと視線を向けて、レヴィアはある事実に思い当った。

 

「あ! 須弥山!!」

 

「ど、どうしようレヴィア!! さすがにコレ、おじいちゃんに知られたらヤバいわよね!?」

 

「よし落ち着くんだ鈴ちゃん。深呼吸して無かったことにしよう」

 

 バッサリ言い切った。

 

「もうちょっと真剣に考えなさいよ!!」

 

「大丈夫だよ鈴ちゃん。あちらは本格的にISと関わるつもりはないって言ってるんだ。だったらISに関わるこの話もこちらから言わなければ問題ないよ」

 

 努めて笑顔でそう言ってごまかす。

 

 最悪の場合はレヴィアの側から確保している伝説級のアイテムを幾つか差し出す必要はあるだろうが、しかしそれで何とかなるだろう。

 

 だが、総合的に見て世界が関わっているとはいえ聖書の教えの内輪もめに近いのだから、ばらさなくても別に問題はないだろう。

 

「最悪の場合は僕の眷属悪魔にして君を須弥山とのパイプにするから。それなら重要人物だから少なくとも殺されることはない」

 

「ほんとでしょうね!? 嘘だったら承知しないわよ? いや、アンタ殺してあたしも死ぬ」

 

 目がマジだったがにっこり笑顔で迎撃する。

 

 実際一夏が上級悪魔になるまでにことが終わったらそうするつもりだ。レーティングゲームに積極的に参加するつもりもないのでえり好みする必要はない。追加でいえば十分及第点だろうから問題はあるまい。

 

 うんうんと自分に自分で頷きながら納得すると、後ろから声がかかってきた。

 

『そうじゃな。だったらついでにこっちにもパイプを作ってもらおうかの? 下僕候補にふさわしい奴を紹介するぞ?』

 

 オーディンがにやにやと笑いながらそう提案する。

 

 なるほど確かに正論だ。

 

 これだけの秘密を共有する以上、それ相応の連絡要員を作るというのは当然の判断だろう。

 

 加えて言えば自分という存在の眷属悪魔にするのも好都合だ。ある程度の非難は自分の立場で封殺できるし、直接政治にかかわっているわけではないので、意見が深く反映されることもない。しかし重要ポジションに入るので、アースガルズの意見を素早く伝えることは可能だ。

 

 今後のことを考えれば、各勢力との独自パイプの生成は必要だ。これは好都合だろう。

 

「僕としては構いませんよ。それで、誰を選びます?」

 

『ヒルデ。頼んでいいかの?』

 

 オーディンの言葉に、ヒルデは背筋をぴっちり伸ばした。

 

「じ、自分がなのかデス!? 自分、一応テストパイロットデス! まずくないかデス!?」

 

『以前から悪魔の魔力体系に興味があると言っていたじゃろう? IS適正Sランクを手放すのは惜しいが、儂との悪魔契約の一環として行動すれば言い訳も立つじゃろ』

 

「いや、確かに実家は跡取り多いから大成できないし、IS乗り続けられるなら問題ないがデス、ロキ様キレません!?」

 

『このまま無視するわけにもいかんじゃろ? 奴も政治的工作までするなとは言わんし何とかなるわい。実家の方は儂が守るから心配する出ないわ』

 

「そ、それなら確かに問題はないなデス・・・」

 

 オーディンに説得されつつ、その視線はちらちらとレヴィアの方に注がれる。

 

「確かに、こんな若いのに王さまっていうのしっかりと考えてるのは高ポイントデス。間違いなく人生のアドバンテージで将来設計上方修正確実デス・・・」

 

 少しの間考え、そして決意したかのようにレヴィアに向かい合う。

 

「一つだけいいかデス?」

 

「なんだい?」

 

 レヴィアは正面から向き合い、その言葉を待つ。

 

「今の異形の社会について、憂いはあるかデス?」

 

 深い意味を感じさせる質問だった。

 

「ある」

 

 だから、真剣に、しかし短く答える。

 

「まだまだいろいろと問題はあるし、何より各種神話体系との冷戦状態も何とかなるといいとは思っている。可能性があるなら和解の道ができると嬉しいとは思っている」

 

「・・・ならいいデス。これからよろしくお願いするデス」

 

 ヒルデは深く頭を下げる。

 

「ただ、自分はアースガルズのものなので、もしアースガルズに理不尽に害なすというときは、しっかり敵対するから覚悟するデス」

 

「構わないさ。現政権は、そっちからムチャ言わない限り危害を加えるつもりはないしね。こっちで馬鹿が出たら叩きのめすのは契約のうちかな?」

 

 微笑を浮かべ、レヴィアは懐から駒を取り出す。

 

 種別はビショップ。それを指で回しながらレヴィアは目を細める。

 

「文字を使う独特な魔法体系の使い手が眷属か。これならレア度も高いし周りからとやかく言われることもないね」

 

「旧魔王の血を継ぐ者の配下として、アースガルズの未来に栄光を与えるかもしれない力になるデス。よろしくお願いするデス」

 

 そして契約はなされる。

 

 駒がヒルデに溶け込み、そしてヒルデの背中から悪魔の翼がはえる。

 

 その翼を興味深そうにしげしげと眺めてから、ヒルデは照れくさそうにはにかむと、冗談じみた敬礼をする。

 

「以後よろしくデス 我が王様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・では、そろそろお開きにしたいが、何か質問はあるかね?」

 

 オーディンとサーゼクスがそろって下がった後、四朗は立ち上がりながら全員を見回した。

 

 既に空も暗くなっており、そろそろ戻らねば皆が心配するだろう。

 

「なんなら僕に対する個人的質問でもいいよ? まあ時間もないし一回だけにしてくれると嬉しいかな?」

 

 レヴィアは茶化すようにそう言い、しかし皆は動揺する。

 

 それはそうだろう。

 

 悪魔という存在が実在することを知ったのも初めてなのだ。さらに旧魔王血族同士による激突が開かれ、その力の強大さも知った。そのうえで教会の至宝が関わる重大な事実が明かされ、その根幹にISが関わっているという事実まで知らされた。

 

 衝撃が強すぎてどこから手をつけていいかもわからないだろう。

 

 だからレヴィアは個人的質問も受け付けてハードルを下げたのだが、しかしそれでも上手くいくわけではないようだ。

 

 いっそこのまま切り上げて旅館へと戻るのもありかも知れない。そう思った次の瞬間。

 

「・・・ここで言うことではないのかもしれないが、聞きたいことがある」

 

 千冬が、鋭い視線を向けながら立ち上がった。

 

 その視線に、レヴィアは聞きたいことを半ば理解する。

 

「・・・一夏君のことですね」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 静かに目をつぶりながら、千冬は言葉を探す。

 

 そして思い出すのはわずか数年前、レヴィアを紹介した一夏の姿だ。

 

 ドイツにいた時に知り合い、助けてもらったことがあると言っていた。あの頃はそれを深く聞かず、ただ素直に感謝したものだ。

 

 だが、今の状況を知ってしまえばその疑念が浮かぶ。

 

 タイミングから言って、レヴィアと一夏が知り合ってからすぐに悪魔になったと考えるべきだろう。

 

 そして一夏の性格から考えて、こんな重大なことを何も言わずに独断で動かすとも考えにくい。

 

 だから、聞かねばならない。

 

「・・・ドイツで、モンド・グロッソでいったい何が起きた? あの事件で、一夏と蘭にいったい何があったのだ?」

 

 その言葉を受け、レヴィアは静かに一歩を踏んだ。

 

「最初に、言っておかねばならないことがあります」

 

 そのまま身を沈め、両手をつき、膝をつき、首を垂れる。

 

 それは土下座だった。

 

「今まで事実を秘密にしていたことはもとより、織斑一夏と五反田蘭を悪魔にせざるを得ない状況へと持ち込んだこの身の不徳、謹んでお詫び申し上げます」

 

 それは、深い謝罪だった。

 

「お、おいレヴィア!?」

 

「それは気にしてないって言ったじゃないですか!!」

 

 その姿に一夏と蘭が声を上げるが、しかしレヴィアは動かない。

 

 そして、千冬も動けない。

 

 あの時、自分はあまりにも後悔しすぎた。

 

 大事な弟を恐怖させたこと。その友人をも巻き込んだこと。ブリュンヒルデという栄光に驕り、そのせいでこのような事態を引き起こしたこと。

 

 全て自分の罪を心底思い、しかしそれ以上の事実があることを気づかされる。

 

 ゆえに、すぐには促せなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・聞かせろ。お前の、罪を」

 

 しかし、踏み込まねばならない。

 

 このまま知らぬふりはできそうにない。

 

 ショックを与えたくなかった一夏の判断もあったのだろうが、自分はいままで弟と距離を取り過ぎていた。弟の肝心な部分に触れることを避けていた。

 

 それではだめだ。それは嫌だ。

 

 もし弟が悪魔になったことに重大な秘密があるのだとすれば、そしてそれが自分の予想通りなのだとすれば、その罪はあまさずこの身に受けたい。

 

 だから、自分も頭を下げる。

 

「全て教えてくれ。あの事件で、いったい何があったのかを」

 




 次から時系列が一気に過去に飛んで、一夏と蘭がどうして眷属悪魔になったのかが語られます。

 散々伏線張って色々あったことを匂わせてきた誘拐事件。その真相は・・・。


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第十五話 相応の対応をしないとね

過去編。

まだ未熟すぎたレヴィアの罪の物語









区切るタイミングがなかなかつかめなくて超長くなってしまいました。マジすいません。


 

 

 近接戦闘用ブレードが一閃し、その少し後に歓声が上がる。

 

『織斑選手、圧倒的勝利!! 初代ブリュンヒルデの異名を見せつけ、準決勝もストレート勝ちだぁあああああ!!!』

 

 実況のレポーターが興奮しながら声を上げる。

 

 第二回モンド・グロッソ個人戦部門において、観客たちはその姿を目に焼き付けていた。

 

 初代ブリュンヒルデ、織斑千冬。

 

 その姿はその場にいる多くの者を魅了し、ISという最強の兵器をより際立たせていた。

 

 しかし、その光景を素直に楽しめない者もいる。

 

 レヴィアはその一人だった。

 

「・・・あれがISか、確かに早いけどそれだけだな」

 

 冷静にその性能を見ながら、レヴィアは落胆する。

 

 現代において最強の代名詞とされるIS。それを自分の目でしっかりと見てみたいと思い、わがままを言ってモンド・グロッソを見に来たが、しかし期待外れだった。

 

 確かに織斑千冬は強い。ISでの戦いなら最強の名をほしいままにするだろう。他のISも人間の軍事技術なら非常に高いのだろう。その機動力と運動性能は、確かに自分達の世界の側が相手にしてもてこずるだろう。

 

 だが、自分の世界で見るのならその程度でしかない。

 

 防御力が足りない。自分の堅さと比較するのはイジメだろうが、しかしあの程度の防御力ではこちらの実力者からすれば紙も同じだ。

 

 攻撃力が足りない。核と勝負しろとまでは言わないが、機体のサイズが大きい分これまでの軍事兵器の方が威力だけなら上回るだろう。無論、この程度では自分はもちろん中堅の存在にだって脅威とはならない。

 

 科学の発展は悪魔にも大きな影響を与えたが、戦闘という分野ではこちらの方が圧倒的に上だろう。

 

 上層部が危険視していないのもうなづける。広範囲攻撃をちゃんと習得すれば、ISを倒せる存在など数えきれないほどいる。

 

 それなのに人類の半分しか使うことができないという制約を持ち、挙句の果てに数は数百しか作れないと来ている。数の多さが取り柄の一つである人類の利点をまるでいかせていない。

 

『レヴィア、どうだ?』

 

 声をかけてくるアストルフォに対し、見ているであろう方向に手を振ることで返す。そのままトイレに行こうと席を立った。

 

 レヴィアの心は乾いていた。

 

 ただ権威だけを求め、権威にふさわしい存在になる努力を一切見せない旧魔王派。

 

 そこから逃れるために同士と共に逃げ出し、そして迎え入れられたが、その心は乾いていた。

 

 同胞たちは、一番若く、重要な立場になるであろう自分を守るために全てが命を散らした。そしてその結果得た今の立場に不満は大きい。

 

 自分はただ象徴として、人々の心を支えるだけでよかった。逃げる時に持ってきた財があれば人並み程度の生活はできる。それが足りないと思った時のために、勉強も修行も人並み以上に行っている自信はあった。

 

 だが、彼らはそれ以上の物を自分に与え続ける。

 

 人が一生暮らしていくには十分どころか、その程度足元にも及ばないほどの財を流し込み、その命を捧げようとしてくる者が多すぎた。

 

 旧魔王という名はそれだけの重さを彼らに与えており、そして現魔王に与している旧魔王へと、その忠誠心はあらゆる形となって捧げられる。

 

 無論ある程度は覚悟していたし、その分力になるよう努力はしている。

 

 与えられる財宝はその半数近くは貯蓄に回すが、半数以上は様々な事業に出資して経済を活発化させる。

 

 様々な技術について研鑽を深め、便利だと思ったものはよく調べて価値を見極め、自ら出資したり信頼できる人物に教えたりする。

 

 家庭教師事業は成功しているだろう。満足に教育を受けられない冥界の下級悪魔にたいし、採算度外視で教師を派遣するこのシステムは感謝の手紙が数えきれないほど送られ、全部読むために速読のスキルを鍛えたほどだ。政治的影響を与えないために小規模にしか展開していないが、ある意味自分という名のブランドを与えられた彼らは冥界の事業に貢献して活性化させるだろう。

 

 人類社会の弱者の立場にも積極的に配布し、それによって感謝状を贈られたことも一度や二度ではない。

 

 だが、それらはすべてレヴィアタンの血筋だからこそできたことでしかない。

 

 自分の判断に相応の自信はあるが、それでも若輩らしくミスも何度も起こしてきた。

 

 出資した事業が調子に乗って大きな背信行為を起こしたこともある。教育を受けた物が増長して犯罪を犯したこともある。そもそも芽が出ずに結局潰れた者だって多い。

 

 だが、それが問題になったことは一度もない。

 

 個人的に現魔王にたしなめられたことはあるが、子供のしたこととかいう次元ではないレベルで冥界政府からは意識されていない。

 

 それは自分がレヴィアタンだからだ。

 

 努力を行うレヴィアを評価するのではなく、レヴィアタンがやることだから評価している物が多すぎる。

 

 分かってはいたし覚悟もしていたが、しかしレヴィアもまた子供だった。

 

 その重圧にゆがまないのは評価に値するだろうが、しかし鬱憤はとても溜まっていた。

 

 これがただの子供ならば、不良になるなり騒ぎを起こすなりして発散することもできたかもしれない。誰かに当たり散らすことで発散することもできたのかもしれない。

 

 だが、レヴィアは聡明だった。

 

 自分がそういうことをすれば発言力が強すぎて迷惑をかけることは理解していたし、誇りが強いためにそういった行動も自粛していた。

 

 そして、自分の立場を深く理解するがために友人も作れない。

 

 それは、子供にとって負担が大きすぎることだった。

 

 この観戦はそのストレスを発散するためのちょっとした遊びだった。

 

 だが、それでも悪魔の実力者たちと比較してしまって楽しめない。

 

「つまらないな。何もかも」

 

 レヴィアはふと、現レヴィアタンが出演している番組のことを思い出す。

 

 魔法少女という正義の味方として、悪いことをする犯罪者たちをバッタバッタとなぎ倒す。

 

 自分もそういうことをしてみたいが、しかし大人はそう言ったことに関わらせないようにしているからしたくてもできない。

 

 正直、お忍びで来ている今の状況で犯罪者が現れてくれれば、無銘の人間として解決できるのにと思ってすらいる。

 

 レヴィアタンではなくレヴィアとして人から感謝される。

 

 そんな甘美な響きを内心で求めながら、ふとあいている窓から顔を出して下を覗いてみる。

 

 ・・・子供が二人、大人に運ばれていた。

 

「・・・・・・おや?」

 

 子供は見た感じではどうやら日本人のようだ。まあ、国際大会となれば外国から来るものも多数いるのだから全くおかしくない。

 

 だが、十二歳かそこらの年齢の子供を、脇に抱えて運ぶ大人は普通いない。

 

 加えて言えば、子供たちはさるぐつわと目隠しをされていた。

 

 誘拐事件。その四文字が脳裏に浮かぶのは当然だろう。

 

「やれやれ。これは一民間人として相応の対応をしないとね」

 

 口では冷静に言いながら、しかしレヴィアは歓喜していた。

 

 人知れず誘拐犯から少年少女を救い、そして何も言わずに立ち去る正義の味方。

 

 それは自分のことだと知る者はいないだろうが、その称賛は必ず残ろう。そして新聞の小さな片隅にでも、それはきっと書き記されるはずだ。

 

 そう思うと翼を生やして飛び降り、気付かれないように隠行のマジックアイテムを起動させる。

 

 この時レヴィアは有頂天になっていた。

 

 たかが誘拐犯に大した能力はないだろう。少なくとも、自分の防壁を抜くには人が持つサイズの武装では通用しない。ISが相手でも攻撃を防ぐ程度なら十分すぎる能力をもつ自身がある。

 

 だが、そもそもレヴィアは思い違いをしていた。

 

 事件を見たのなら警察に連絡するのが筋であり、民間人はあくまで補助に回るべきだ。

 

 そして、その傲慢のツケをレヴィアは払うこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中心部から離れた廃工場、誘拐犯はレヴィアによって全員叩きのめされていた。

 

「もう大丈夫。助けに来たよ」

 

 サングラスとスカーフで顔を隠しながら、レヴィアは誘拐された少年と少女の戒めを解きながら笑顔を見せる。

 

 想像通り、誘拐犯はろくな武装を持ってはいなかった。

 

 人が少ないとはいえ、近辺には居住している者もいる。そんなところで派手な音を出せばすぐに警察に連絡されてしまうのだから当然だろう。

 

 消音機をつけた拳銃やナイフていどで傷つけられるレヴィアではなく、体術の心得もあり身体能力が常人をはるかに凌駕する彼女にとって、男たちは簡単に叩きのめせる程度でしかなかった。

 

 実行犯である一部以外はチンピラ程度でしかなく、ほとんど役に立っていなかったこともあって、数分で沈黙させることに成功していた。

 

 念には念を入れて服を使って拘束してから、レヴィアはもったいぶりながら助けに入った。

 

「あ、ありがとう! 本当にありがとう!!」

 

「うぅ・・・怖かったぁ」

 

 少年は突然現れた正義の味方に興奮しながらも礼を言い、少女は緊張が解けたのかへたり込むと涙をぽろぽろと流す。

 

 正反対の反応ではあるが、それも全て危機から逃れたことによる反応だ。レヴィアにとっては待ちに待ったものでしかない。

 

 自分はレヴィアタンで無くてもこれだけのことができる。その実感に、なにより自分に感謝したいのはレヴィア自身だった。

 

 自分はレヴィアタンの血に関係なくこれだけのことをすることができる。子供じみた自尊心だが、しかし確かに満たされていた。

 

「な、なあ。アンタ、いったい誰なんだ?」

 

 泣きじゃくる少女を抱き寄せながら、少年がレヴィアにそんな声をかける。

 

 その視線にさらに自尊心をくすぐられながら、レヴィアは口元が隠れていることも忘れて恰好をつけてにやりと笑う。

 

「名乗るほどの者じゃない。ただの通りすがりの正義の味方と思ってくれ」

 

 恰好をつけながら、レヴィアはしかし冷静さを失ったわけではなかった。

 

 誘拐犯が、わざわざ外国人を誘拐するのは不自然だ。欧州なら日本人は目立つだろうし、そんなものを誘拐しても犯行を伝えることが困難なのは自明の理だろう。

 

 あえて異国の人間を誘拐したのには理由があるはずだ。だとすれば、急いで救出したことを伝えた方がいいのかもしれない。

 

「とりあえずここから離れよう。一応拘束しているけど、もしあいつらが抜け出したりしたらややこしいことになるからね?」

 

「わ、分かった! ほら、蘭」

 

 まだ緊張を解くには早いことを教えられ、少年は少女を立ち上がらせると、その体を支えながら歩き出す。

 

 レヴィアもかばうように周囲を警戒しながら歩き出し、そして気付いた。

 

「・・・二人とも、止まるんだ」

 

 数年前から何度も浴びた冷たい気配。

 

 自分の存在を厄介に思う現政権の一部。裏切り者の制裁を狙う旧魔王派。その立場ゆえに付け入る隙があると判断した教会や堕天使。

 

 その刺客が等しく放つ、相手の存在を消去しようとする否定の気配。

 

 その名前を、殺気という。

 

 そして、それを放つものは上から来た。

 

「木偶の棒だけとはいえこいつら全員叩き潰すだけあるじゃねえか。少しはできるみたいだなぁ、ガキんちょ」

 

 少年と少女と一緒に、レヴィアは上へと視線を向ける。

 

 そこにいるのは1人の女性。ただし、身につけている物が一味違った。

 

 その身を覆う装甲。背中から生える八本の腕。そして宙に浮かぶ腕と足を肥大化させたその姿。

 

 無限の成層圏をその名に関す機動兵器、インフィニット・ストラトスがそこにあった。

 

「マジ・・・かよ」

 

 少年の目が大きく見開き、その顔色が絶望に染まる。

 

 まあ当然だろう。

 

 誘拐犯がISを持っているなど、その時点で太刀打ちできる存在ではないのだ。人間が想像できる最悪の部類なのは間違いない。

 

「・・・この子たちはそんなに重要なのかい?」

 

 だが、自分にとってはそうではない。

 

「アァ? ま、こっちも上からの依頼でな。ドイツの連中が感づいてブリュンヒルデに伝えるまでは、捕まえたままにしておくように言われてんだよ」

 

 恐怖心を一切感じさせないレヴィアに妙なものを感じながらも、ISはその絶対的余裕からペラペラと喋ってくれる。

 

「・・・ブリュンヒルデ? 君、織斑千冬の関係者なのかい?」

 

 魔王の血筋ゆえに策謀渦巻く世の中にもある程度なれているレヴィアは、大体予想がついたので一応の確認を少年に問う。

 

「あ、ああ。俺は織斑一夏。それがどうしたんだよ、なんで千冬姉に誘拐したこと伝えるのが目的なんだよ!?」

 

 恐怖で錯乱しそうになりながらも、少女をかばうように抱き寄せるその姿に、レヴィアは好感を覚えながらも指を立てる。

 

「まあ大体予想はできるよ。織斑千冬が圧倒的すぎてブリュンヒルデ二冠をとりそうだから、君をダシにして織斑千冬をおびき寄せようとしたってとこじゃないのかな? とりあえず日本だけに栄光を与えてなるものかーって感じで」

 

「そうらしいぜ。あ、言っとくが依頼人はこっちも知らねえから諦めな。なんでもいろんな国から同時に来てがっぽり儲かったとか言ってたけどよぉ。・・・ああ、ドイツはこんな事件起こったら大打撃だから関わってねえぜ?」

 

 ご丁寧にもISの方から補足説明までしてくれている。

 

 ISという世界のパワーバランスをになう存在のせいで、余計なしわ寄せが発生したということなのだろう。一夏とかいう少年には深く同情する。

 

「まあつーわけだ。おとなしく捕まるっつーなら、命だけは助けてやっても構わねえが?」

 

 地面へと降り立ちながら、ISは猫なで声で三人に告げる。

 

 狩猟者の笑顔を浮かべているのが、顔を覆う装甲ごしにも分かってしまう。

 

 その気配が読めたのか、一夏にかばわれている少女がさらに震え始める。

 

「もうだめ・・・もう・・・いやぁ・・・」

 

 震えて泣きじゃくるその姿は哀愁を誘る。

 

 だから、レヴィアは笑顔を浮かべてその髪をなでた。

 

「・・・え?」

 

「大丈夫。僕はISなんかには負けないよ」

 

 一歩前に出ると、あえてISに背を向けて、満面の笑顔を二人に向ける。

 

 このISは脅威でも何でもない。だから視線を向ける価値もないと、言外に断言した。

 

 その余裕あふれる姿に、ほおっておかれる状態になったISはもちろんのこと、恐怖にさいなまれている二人もあっけにとられる。

 

 そんな二人をみて、レヴィアは正義の味方らしいことをしてみたくなった。

 

「さあ、二人とも。こういうとき、この(ヒーロー)にどうお願いするのが定番なのかなぁ?」

 

 小さな子供を促す大人のように言うと、二人の表情に小さいながらも笑顔が戻る。

 

 二人は顔を見合わせると頷いて、

 

 大きく息を吸い―

 

「「・・・助けてください!!」」

 

「助けるよ!!」

 

 その声をスターターとして、レヴィアは振り返り様にISを蹴り付けた。

 

 その攻撃は自分の年相応の悪魔らしい蹴りで、しかし莫大な魔力を込められた質量兵器だ。

 

 ISはそれを腕で受け止めようとするまあ当然の行動による大失敗を演じ、倉庫の端にまで吹き飛ばされる。

 

「・・・は?」

 

 そのあり得ない現象に、ISを纏った女は反応できず茫然としてしまう。

 

 まあ当然だろう。世界最強の兵器であるISで武装した人物が、生身の人間の蹴りで吹き飛ばされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISを纏った女―オータムはあまりの事態にこれが現実か疑ってしまう。

 

 今回の一件は先ほど自分が語った通り、織斑千冬の圧倒的実力を打破するのではなく妨害することで優勝を阻止するということだ。

 

 ゆえに使い捨ての人材で誘拐事件を行うというのが手筈で、その人材が妙な仏心を発揮して、その場にいた少女を始末せずに、かといって放っておいて知らされては計画が台無しと一緒に誘拐したところから全てはおかしくなった。

 

 あくまで自分は、想定外の事態が起こった時のための保険であり、織斑千冬以外が救出に来た時に叩き潰して織斑千冬をおびき寄せるための最終手段である。

 

 ゆえに織斑千冬が来た時には即座に撤退できるように機動性重視のカスタムとパッケージを纏っているし、拡張領域も目くらまし用のIS用スタングレネードとスモークグレネードだらけだ。

 

 それでも警察やら機動隊やらが出た程度なら返り討ちにするなど当然だし、何の問題もないはずだった。

 

 明らかに子供でしかない少女が乱入して織斑一夏を助け出すなどという前代未聞のアクシデントに対しても、オータムは驚いてはいなかった。

 

 世の中には神童といってもいい化け物が存在する可能性もある。ISを作った篠ノ之束も、開発当初は十代だったはずだ。それがフィジカル方面に抜き出た化け物がいても全くおかしくない。

 

 そのたぐいだと判断して、万が一ISを持っていたときのために最低限の警戒はプロとしてちゃんとしていた。

 

 だが、あれはなんだ?

 

 センサーはISの反応を感知していない。織斑千冬の接近を即座に探知するためにIS感知にセンサーを強化しているのだから、至近距離の子供がISを使っているかどうかぐらいは簡単にわかる。

 

 だったら、自分はなんで吹き飛ばされた。

 

 遠距離からの戦車の狙撃? こんなところでそんなものを使うのなら、周囲の住民が大騒ぎをしているはずだ。あり得ない。

 

 ISの誤作動? 念には念をいれてつい数十分前に整備したばかりだ。そもそもこんな吹っ飛ぶような異常、あり得ない。

 

 油断しすぎて操作ミス? 自分だってプロとしての最低限の自負ぐらいある。もしそうだとするなら舌を噛んで死ぬ。

 

 多くの可能性が脳裏をよぎりそして否定され、しかしそれをある者が遮った。

 

 ・・・目の前の少女から、殺気が放たれている。

 

 それを見て、オータムは自分があまりにも油断しすぎていたことをいまさらながらに痛感した。

 

 この殺気は、平和な環境になれた子供がはなっていいものじゃない。

 

 自分のような殺し合いを日常にしたことすらあり得るようなものでなければ放てない。それも生き残るのではなく勝ち残るような勝者でなければ放てない代物だ。

 

 それに気づいた瞬間、オータムはその意識を本格的に戦闘へと切り替える。

 

 相手を人と思うな。最低でも人間の姿をした新型のISぐらいには考えた方がいい。

 

「面白ぇ、楽しませろよクソガキィイイイイ!!」

 

 全ての装甲脚を展開し、さらに両腕も使って目の前の少女に襲いかかる。

 

 それらに対して少女は真正面からの迎撃を選択する。

 

 両の拳と足を使って、先ほどのようにこのアラクネを叩きつぶそうとする。

 

 それに対してオータムはその攻撃を受けるのではなく受け流すことで対処し、そして装甲脚を叩きつける。

 

 ああ、あの光景を見ていれば分かる。

 

 この女は、どんな理由かはともかく雑魚を始末する時の自分と同じようにあの戦闘を遊び半分でやっている。ISを前にしてもその気配は一切変わらなかった。

 

 そんな奴が放ったあの蹴りが、本気のはずがあり得ない。

 

 本気を喰らえばやられる恐れもある。それぐらいはさすがにわかる。

 

「さすがに調子に乗ってたかな? IS相手だときっついねぇ」

 

「なにボケてんだテメエ!? 全然効いてねえじゃねえか!!」

 

 余裕だらけの少女に、オータムはいらだち混じりに叫ぶ。

 

 確かにこちらは相手の攻撃を全ていなすことには成功している。

 

 数は力の言葉を体現するかのように、装甲脚は少女の体を打ちすえる。

 

 だが、少女は意に介していなかった。

 

 そういえば雑魚を片付けるときにも、少女は銃弾を意識すらしていなかった。

 

 あの時は最新技術による防弾スーツか何かと思ったが、冷静に考えれば生身の皮膚が露出しているのにあの余裕はおかしい。

 

 この女はその肉体の頑強さ自体が桁違いなのだ。最低でも、アラクネのシールドエネルギーよりははるかに頑丈だろう。

 

 速さならこちらが上だ。手数ならこちらが上だ。今までの戦いで戦闘の技術でもこちらが上だと確信した。威力は不安だが勝負にならないほどではない。

 

 だが、固さが圧倒的に負けている。

 

 どれだけ攻撃を叩きこもうと、それがダメージにならなければ何の意味にもならない。

 

 頑丈さというステータス一つで、本来圧倒的に戦えるはずのISという利点を完全に粉砕されていた。

 

 もし白騎士事件の際にこの女がいれば、白騎士は拘束されていたことだろう。

 

 戦闘不能にするために接近して切りかかったが最後、ダメージ無視で受け止められてそのまま格闘攻撃のコンボでシールドエネルギーを失っていたことだろう。

 

 あらゆる性能において既存の技術を圧倒していたISといえど、接近戦という土俵において彼女にはかなわない。

 

 たったひとつ突き抜けた能力によって、オータムは一見自分が押しているように見えて、その実圧倒的不利な戦闘を体験していた。

 

 とはいえこのまま引くわけにはいかない。

 

 この任務は相棒である愛するスコールが頼んできたものだ。

 

 彼女はいろいろと体の事情を抱えて、それを自分に隠しているが、しかしそんなものは知っている。

 

 だからせめて仕事はしっかりとして安心させてやらねばならない。

 

 というか、謎の少女に邪魔されて失敗したなどさすがに心配するだろう。余計な気をかけさせるわけにはいかなかった。

 

『・・・もういいわオータム。撤退して頂戴』

 

 だから、そんな声をかけられて当惑した。

 

 それを相手に気付かれなかったのは僥倖だろう。

 

『いいのか? 今とんでもない化け物が邪魔してんだがこのままだと・・・』

 

『ドイツの一部を買収に成功したわ。あと十分もすれば織斑千冬に連絡が行く。アレを起動させて時間稼ぎをすれば、十分大丈夫よ』

 

 スコールの声は落ち着いていて、その情報が事実だと確信させるには十分だ。

 

『帰ってきて、私のオータム。あなたが余計な傷を負うところなんて見たくはないわ』

 

 愛する女に言われては引くしかあるまい。

 

 装甲脚をパージすることで相手に隙を作り、瞬時加速で距離をとった。

 

「おやおや良いのかい? 生身の女の子にこうも後れをとって、あなたの上役はさぞ失望していることだろう?」

 

「挑発には乗らねえよ化け物。テメエを殺すのは次の機会にとって置くぜ」

 

 ああ、確かにお前は試合には勝った。この戦いは自分の負けだ。

 

 だが、この後起こるであろう事態を予測してオータムはほくそ笑む。

 

 最後に勝ちは狙わせてもらう。目的そのものは達成させてもらうし、貴様の鼻はへし折ろう。

 

 せいぜい守り通せたと油断していると良いクソガキが。

 

「ああ、そういえば言い忘れてたが・・・」

 

 貴様がどんな荒波にもまれてきたかは知らないが―

 

「・・・織斑千冬も、可能なら始末するように言われてるんだぜ?」

 

 ・・・人間の悪意ってのは意外とそこが知れないんだぜ?

 

 最高速度で離脱すると同時に、証拠隠滅及び、ISごと織斑千冬を始末できるかと用意した爆薬全てを一斉に起爆させた。

 

 轟音とともに工場が吹き飛び、崩れ、炎に包まれる。

 

 それをハイパーセンサーで確認しながら、しかしあの女を仕留めていないことは確信する。

 

 あの化け物がこの程度の爆薬で死ぬわけがない。アレを殺すにはIS一機を戦闘不能にする程度の爆薬では足りないだろう。機甲大隊をせん滅するぐらいの爆撃を収束させる必要がいるのではないだろうか。

 

 そして、こんなこけにされて黙っていられる性分ならそもそもこんな酔狂な真似もするまい。

 

 せいぜい調べ上げて追いかけると良い正義の味方。

 

 言葉で伝えられないが約束しよう。自分もこの借りは必ず返す。

 

 いずれ貴様の領域に足を踏み入れ、貴様を切れる刃を手にしよう。

 

 そう決意し、少し前にスコールにいわれていたことを思い出した。

 

『ねえオータム。世界の真の裏に足を踏み入れてみる気はないかしら? 上があなたのことを評価しているのよ?』

 

 ああ、あれはきっとこのことなのだ。

 

 良いだろう。愛する女の誘いを断るつもりはないし、それで奴の領域に到達できるなら望む所だ。

 

 この爆発は宣戦布告だ。いずれ貴様の首はもらいうける。

 

 来るべき決着を予感し、オータムは高揚感に身を包んだ。

 

 

 

 




今回におけるレヴィアの失敗。


1 警察に報告しなかった。

2 アストルフォにも内緒にしていた。

3 こういう事態になれてないのに単独行動。

4 戦闘時に一夏と蘭を逃がさなかった。


当時のレヴィアはまだ子供だったとはいえ、非常に未熟でした。


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第十六話 選ばせることしかできなくて、御免なさい

そして明かされるレヴィアの罪・・・。


それは、守る王としてしてはならない最悪の失敗。


 

 

 

 

 

 

「・・・クソ。爆発とか無いだろ」

 

 爆発と同時に屋根が崩れて、思わず蘭をかばったのは覚えている。

 

 意識が少しの間飛んでいた一夏は、意識を回復させて目をあける。

 

「い・・・一、夏、さん」

 

 青い顔をして蘭がこちらを見ている。

 

 ああ、確かにこれは怖かっただろう。こんなに不安にさせるなんて、本当に自分は弱い。

 

 守れる力が本当に欲しい。自分達を助けてくれた彼女のような力が、本当に欲しくてたまらなかった。

 

 そういえば彼女はどうなったのだろう。

 

 ISを相手に勇猛果敢な戦いぶりだった。何度も攻撃を受けていたのに、決して一歩も引かなかった。

 

 あんな立派な彼女が酷い目にあっていたらどうしよう。

 

 もしかしたらがれきに飲み込まれているかもしれない。すぐに探さないと大変なことになる。

 

 見ず知らずの自分達を助けてくれたのだ。今こそ恩を返す時だ。

 

 そう思い立ち上がろうとして、しかしなぜか上手くいかない。

 

 腕に力ははいっている。足にも力ははいっている。

 

 なのに、まるで体の中心にストッパーでもかけられたのかのように体を動かせなかった。

 

「一夏・・・さん・・・」

 

 蘭が震える声で自分を呼ぶ。

 

 本当にダメだ自分は。こんな情けない姿を見せたらさらに不安になってしまうではないか。

 

「あ、蘭、悪いけどちょっと待っててくれ。すぐ、立ち上がるから」

 

 緊張から解放されて気が抜けたのだろう。

 

 まったく、いつ崩れるかもしれないところでリラックスしてどうするつもりだ。我ながら情けない。

 

 そう思い全身に力を込めて、しかし震える声がそれをとどめる。

 

「一夏さん・・・! お、お腹・・・」

 

 泣き出しそうな声に従って、腹の方を見てみる。

 

―自分と蘭の腹部を、鉄骨が串刺しにしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 目の前の状況が理解できなくて、一夏は固まった。

 

 串刺しだ。ああ、串刺しだ。貫通だ。

 

 思わず575で考えて、そして一夏は冷静に納得する。

 

 確かにこれなら動けない。地面は老朽化で柔らかくなっていたのか、鉄骨は結構刺さっている。人力で抜け出すのは難しいだろう。

 

 と、いうよりこれはヤバいだろう。

 

 剣術という殺しの技術を習っていた一夏は、当然人の死にやすい状況という物も理解している。腹が貫通するというのはかなり致命的だ。

 

 そしてこの状況では救急車もすぐには来てくれないだろうし、よく見るとかなり血が流れている。致死量までそう時間はかからないだろう。

 

 ・・・死ぬのは時間の問題。その事実を理解するのにずいぶん時間がかかった。

 

「・・・ゴメン、蘭」

 

 本当に自分は誰ひとり守れない。

 

 体を張ってかばったのにもかかわらず、悲劇はその身をあっさり貫いて守るべき人すら貫いた。

 

 そのくせその天の采配は自分達を楽に死なせてもくれない。

 

 いっそ即死していたのなら、こんな罪悪感に駆られることなど無かったろうに。

 

 視界が涙でゆがむ。死ぬまでのわずかな時間を、一夏は後悔で埋め尽くそうとしていた。

 

「俺・・・なにもできない。盾にもなれない・・・最悪だ」

 

「・・・一夏さん。泣かないでください」

 

 青い顔を僅かに朱に染めて、蘭がその身を無理に起こした。

 

 そして、その両手で自分を出ししめる。

 

 温かく、優しく、いとおしく抱きしめられ、一夏は涙を止めていた。

 

「ちょっと不謹慎ですけど、好きな人と一緒に死ぬとか、女の子が夢見るシチュエーションじゃないですか」

 

 そう、少しだけ嬉しそうな声に、一夏は固まった。

 

「え、ちょ、ちょっと蘭?」

 

「もう最後だから言いますね。・・・愛してます、一夏さんのこと、恋人になりたいの好きって感情で愛してます」

 

 死の恐怖に震えながら、しかし自然に笑顔を浮かべて、蘭は一夏を抱きしめた。

 

「だからすこしこわいけど、一夏さんと一緒なら大丈夫です」

 

 ・・・本当に、どこまで自分は情けないのだろう。

 

 一緒に死ぬかもしれないときになって、始めて親友の妹からの好意を知らされるだなんて。

 

 突然のことに、どう答えを返したらいいかわからない。

 

 蘭のことは嫌いじゃない。しっかり者だし可愛いし、こんな時に自分のことを気遣うかのように笑顔を浮かべられるだなんて強い証拠だ。

 

 だけど、これはすぐに答えを返して良いものではない。

 

「・・・ゴメン。待っててくれないか?」

 

「・・・いや、助からないですよ?」

 

「だから、あの世で待っててくれないか? 俺、誰も守れないままで彼女作れないからさ」

 

 苦笑を浮かべながら、一夏も蘭に真剣に答える。

 

「ほら、どっかの神話とかでも死んだ後も戦うこととかあるだろ? アレみたいなことできるようになるからさ。しっかり蘭を怖くさせないぐらいになってから、答えてもいいかな?」

 

 視界が少しずつ暗くなってくる。

 

 もう時間がなくなっているが、だからこそ、しっかりとはっきりと答えを告げよう。

 

「その時まで、俺のこと好きでいてくれるか?」

 

「・・・はい。待ってます」

 

 蘭は笑顔で答えてくれた。

 

 こんな救いようのない死に様だけど、最期に二人で笑いあえた。

 

 ならきっと、あの世でも笑いあえるだろう。

 

 生きて守ることができないのは心の底から残念だが、だからこそ、せめて死後の魂まで怖がらせることがないように強くなろう。

 

 そう思い、最期を受け入れようと蘭を抱きしめ返しながら目を閉じて・・・。

 

「まだ早いよ」

 

 声が、聞こえた。

 

「今の僕では君たちを救うことができない。だが、選択する機会は与えてあげれる。だからまだ早い」

 

 自分達を助けようとしてくれた、そしてまだあきらめていない声が聞こえる。

 

「選択肢は二つだ。人のまま死ぬか、人を捨てて生きるか」

 

 目を開けて、その姿をその目に写す。

 

「だから選んでくれ。選ばせることしかできない僕を恨んでくれていいから、せめて君たちの意思を見せてくれ」

 

 彼女は、泣いていた。

 

 救えないことに泣いていた。

 

 守れないことに泣いていた。

 

 そしてそれ以上に、自分のことを許せなくて泣いているのが分かった。

 

「・・・・・・・・・選ばせることしかできなくて、御免なさい」

 

 傷一つついていない体で、しかし力なく膝をついて、懺悔するかのように首を垂れて、しかし二人に問うていた。

 

 その言葉の意味を、本当の意味で理解することはできない。そんな時間もないだろう。

 

 だけど、二つだけわかることがある。

 

 きっとこのまま死んだら、彼女は深く傷ついてしまうだろう。それは彼女を守れないことだ。

 

 そして、同じように泣く人はきっといる。

 

 鈴は泣く。弾も泣く。そして千冬だって必ず泣く。

 

 ・・・それは、嫌だった。

 

 頷くことで守れるのなら、絶対に守りたかった。

 

 ふと視線を前に戻すと、蘭も自分を見返していた。

 

 きっと似たようなことを考えていると通じ合い、そう思うと苦い笑みがお互いの顔に浮かんだ。

 

「・・・いいかな、蘭」

 

「一夏さんと、一緒なら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・生きたい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、その言葉に何より救われたのは彼女(レヴィア)なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そして、二人を悪魔に転生させました」

 

 額を床にこすり付けたまま、レヴィアはそう悔恨する。

 

 悪魔の駒による転生機能は、ある一つの強大な利点がある。

 

 ある程度の条件はあるが、死者をよみがえらせることも可能だということだ。

 

 鉄骨を抜いた後に莫大な出血で二人は一度死亡したが、その後悪魔の駒で転生することで蘇生した。

 

 その後、一時的に記憶をごまかしたり服を魔力で修復するなりして、ギリギリで立ち去ることができた。

 

 あとは記憶が戻るタイミングで二人の元へと行き、そして改めて眷属として迎え入れた。

 

 だが、それだけで済むわけでもなかった。

 

「魔王の血筋ということもあり、僕の眷属には相当の強さが求められた。・・・今の二人の強さは必要にせまられた物です」

 

「それが、あの力か」

 

 レヴィアの言葉に千冬はあの光景を思い出しているのがわかる。

 

「強さを選ばせるために連れて行った研究施設で、一夏君は魔剣研究の過程で生まれた量産型魔剣カレドヴルッフを使うことを選び、蘭ちゃんは僕の家系が奪取し、それをさらに僕が奪取した神器を使うことを選びました」

 

 レヴィアはその光景を思い出す。

 

 強くなれる。もうあの時のような失態は繰り返さない。むざむざ蹂躙されるだけの自分にはならない。

 

 そう信じる二人は笑顔で礼を言い、それに深く罪の意識を覚えたのも忘れられない。

 

 そもそも自分がうかつなことをしなければ、そんな危険な物に手を出すこともなかったのだ。

 

 あの時、自分は真っ先に警察に連絡すればそれでいいはずだった。大声を上げるだけでも効果はあったはずだった。

 

 そうすれば誘拐事件は早期に解決したはずだし、少なくとも織斑千冬が二人と救出していただろう。

 

 彼女の技量があればあの爆発からだって二人を救えたはずだ。速度が足りず、爆発に驚愕して翻弄され、手遅れになってからそれに気付いた自分よりかははるかに可能性があった。

 

 全ては自分の慢心が原因だ。

 

 問題解決に専門家の力を借りず、子供その物のくだらない感情で勝手に行動したツケがこれだ。

 

 旧魔王の血族として、相応の戦闘に参加することだって当然あるし、それは義務だと思う。

 

 そして、それに眷属を率いるのは当然のことでそれを止めるわけにはいかない。ゆえに未熟な二人を戦場に連れていくことは多く、自分の立場ゆえに多くの危険に巻き込んだこともあった。

 

 つまり自分は、一夏と蘭の命を救う代わりに、命の危険に何度もさらすことになったのだ。

 

 全ては自分が怖かったからだ。

 

 自分の子供じみた後先考えない思慮の足りない行動で、罪もなく覚悟もない小さな命が二つも消え去ることが怖かった。救うために行動して逆に失わせる事実に耐えられなかった。生存という成果をもって、失態の償いをしなければ己の心を保てなかった。そうせずにはいられないほど、自分の行動には覚悟も決意も意識もなかった。

 

 自分はあの時選択肢を与えたのではない。ただ、逃げただけだ。

 

 救うという言葉でごまかし、自分の失態から逃げ出しただけだ。

 

 そして、子供の善意の結果でしかないこの行動を責めることは誰にもできない。

 

 基本的に人がいい四大魔王はこちらを慰めるだけだし、他の悪魔たちは敵意を向けられることを恐れるやら、たかが人間の死と気にも留めないやら、こっちがショックを受けていることをなだめようと必死になるわでしかる者は誰ひとりとしていなかった。

 

 それがさらにショックで、逃げるかのように遠隔障壁展開技術に意識を注いだ結果、今回の事件で皆を守れたのはまあ不幸中の幸いだろう。

 

 鈴と弾に知られた時も、二人はテロリストに対する怒りの方が強くて責められることはなかった。その後、蘭は両親にこっそり告白し、自分が気付いたころにはある程度終わってしまったため何も言われなかった。

 

 当然行われるべき糾弾が、未だに自分には襲いかからない。

 

 だから、もしここで織斑千冬に罵倒されても、それは当然のことなのだ。

 

「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」

 

 それだけの罪の告白に、その場にいるものすべてが何も言えなかった。

 

 そして千冬も黙して答えない。

 

 ああ、今も怒りではらわたが煮えくりかえっているのだろう。

 

 そしてその怒りが放出されることを願っている自分はまだまだ弱すぎる。

 

 受けるべき罰を受けないことを恐怖するなど、心の弱い者がすることだ。

 

 自らの行動で発生した犠牲を受け止める覚悟が未だに足りない。王としてあまりにも未熟すぎる。

 

「ち、千冬姉―」

 

「一つ、聞こう」

 

 何か言おうとした一夏を遮り、千冬は口を開いた。

 

「もしここで、私が弟の仇としてお前の首を求めたら、お前は応じるか」

 

「それはできません」

 

 即答した。

 

 できることなら受け入れてやりたいが、それをされることだけはどうしてもできなかった。

 

「眷属を悪魔にした過程が原因で僕が死ぬことになれば、その責は眷属である一夏君と蘭ちゃんにかかる。・・・それは本末転倒だ。それぐらいはわかる」

 

 一度本気で首を差し出そうと考えて、アストルフォに張り倒されたのは情けない思い出だ。

 

 動きだしそうな悪魔を箇条書きで提出されて、自分の影響力を別の意味で思い知った。

 

 なによりそれは別方向で無責任だ。

 

 旧魔王血族である自分という存在を利用して、戦争再発の原因となりかねない旧魔王信仰をガス抜きさせようとしているのにもかかわらず、たった二人の死をきっかけに反故にするなど卑怯どころの騒ぎではない。

 

 その時になって、自分は自分という存在が酷い影響力を持っていることを本当の意味で思い知った。

 

 ゆえにそんな死に方だけはできない。

 

 何より王である自分は生き残らねばならない。

 

「たとえ一夏君や蘭ちゃん、アストルフォやヒルデちゃんが無残に死のうと、可能な限り生き残らねばならないのが、王である僕の義務です」

 

 義務という言葉に逃げてはいないかと考えたことは山ほどある。

 

 だが、この事実から目をそらすわけにはいかないのだ

 

「・・・フォローするわけではないが。悪魔の中には人間を蔑視するものも多い。そんな事態が起きれば、貴様の関係者すべてを殺そうとする過激派も出かねないぞ」

 

 見かねた四朗の説明を聞きながら、千冬は目を閉じて沈黙した。

 

 沈黙して沈黙して沈黙して、そして目を閉じてレヴィアを見据える。

 

「お前はこれからどうする気だ? どんな王になる」

 

 その言葉にはどんな意味が込められているのだろうか。

 

「守る王です。魔王の血にすがらねば進めない者達の心を守り、自らの道を進む配下を、脅威から守る王です」

 

 それが、自分が求めて、見つめなおした、レヴィア・聖羅の望む王道。

 

 人を引き連れ己が欲望へと進む王ではなく、欲に生き欲と共にある悪魔の王族として、彼らが欲を正しく使う限りそれを守る王になる。

 

 それができる力を持ち、選ばれた物としての責任を果たし、そしてそれを人々に示す基準点としての王。

 

 配下の道を守ることに特化した、守護者の王となる。

 

 自分が最後まで残らねばならないのならば、自らが不動にして不沈の王となろう。砕けぬ絶対の象徴として、

 

 そしてその固さを分け与えることができるようになれば、彼らも死なず失われないのだから。

 

「・・・言っておくが、ここで罵倒してそれにお前を酔わせてやるほど、私はお人よしではない」

 

「・・・っ!」

 

 見透かされていた。

 

 さすがはブリュンヒルデ。英雄をヴァルハラへと導く戦女神の名を冠す猛者だ。

 

 今の自分の魂胆を見透かす程度、造作もないということか。

 

「・・・無様に死んで私の弟を苦しめる結果になることだけは許さん。それを胸に刻んで生き続けろ」

 

 自分にとっては当然の、しかし強く苦しむだろう要求が、彼女の答えだ。

 

 それはつまり、誰もお前を罰しないから、一生その罪に苦しみ続けろというのと同じだろう。

 

「・・・厳しい人だ本当に。いまどきスパルタ教師ははやりませんよ?」

 

「やかましい。私は教師で貴様は生徒だ。生徒は生徒らしく教師に服従していろ」

 

 教師の立場でパワハラを受ければ従うほかない。

 

 あまりにひどい内容ならこちらも手段をとるが、これはさすがに反論できない。

 

 そして千冬はレヴィアを見ない。

 

 その視線は、レヴィアの後ろにいるアストルフォの方に向く。

 

 見れば、アストルフォの視線は温かかった。

 

 一夏や蘭の用にレヴィアをかばうべきか千冬に気を使うべきか迷うそれではなく、簪達のように状況についていけず迷っている視線でもない。

 

 まるで子供が悪戯を反省してるのを見守るような、成長した子供を見守るような温かさがあった。

 

(そういえば、アストルフォとの付き合いも結構たつなぁ)

 

 思えば自分が現政権に下ってからすぐの付き合いだ。

 

 ぶっちゃけ自分の監視役だったが、気づけば書類仕事のうち自分が絶対に必要な部分以外はすべて終わらせてくれたり、勉強に熱中しているときはいつも温かいお茶を入れてくれたり、どちらかというと秘書みたいな立場だ。

 

「レヴィアの世話役だと思うが、それでいいか?」

 

「自分では、そのつもり」

 

 いや実際そうなっているだろうと思うが、今は口をはさんではいけないと思いとりあえず沈黙する。

 

「一夏と蘭のことを、お願いしてもいいだろうか」

 

「当然」

 

 即座に、アストルフォは頷いた。

 

「同胞を守るのは、当たり前」

 

「・・・感謝する」

 

 アストルフォに、千冬は深く頭を下げた。

 

「聖羅。お前にも頼む。二人を・・・お願いする」

 

「・・・はい」

 

 重い言葉だ。

 

 聞けば、一夏と千冬は両親に捨てられたと聞いている。

 

 その絆は普通の姉弟よりはるかに深く、しかしここ数年は自分のせいで溝ができただろう。

 

 その分、一夏を立派に生きていけるようにしなければならない。

 

 いつか自分の罪で裁かれる時は来るのかもしれないが、それまでにやれることはやっておかなければならない。

 

「・・・レヴィア」

 

「・・・レヴィアさん」

 

 気づけば、一夏と蘭がレヴィアに優しげな視線を向けていた。

 

「お前がどう思っていても、あの時助けに来てくれて嬉しかったし、俺たちを生かしてくれて感謝してる。だからその分、俺たちにもお前を守らせてくれ」

 

「あの時レヴィアさんが選択しをくれたから、私達は今ここにいます。それだけは誇っていてくださいね」

 

 二人の戦車から感謝の言葉をかけられて、レヴィアは目を潤ませながら苦笑した。

 

 思えば戦車にしたのも、自分なりの贖罪だった。

 

 少しでも死ににくい体にすることで、少しでも長生きできるようにしようと思ったのだ。

 

 そんなどこまでもダメだった自分を、しかし二人は恩義を持って接してくれる。

 

 この二人のためにも、立派な王にならなくてはならない。

 

 レヴィアは改めて決意する。

 

 この血に恥じない力量を持った、一人の王として君臨することを、その胸に秘めながらも誓う。

 

「おーい、自分のことおいてけぼりなんだけどデス」

 

「ヒルデさん。今いいところなんですから邪魔してはいけませんわ」

 

「嫁もお姉さまもいろいろあったということか。一度死んでまでいるわけだし、一夏を責めるのは筋違いだったか」

 

「そ、壮大すぎて先生ついていけません。しかもそれに伯父さんが関わっているとかどうしたものでしょうか・・・」

 

「まあ、なるようにしかなりませんよ。私達はそれを準備して待ち構えるだけですからね」

 

 眷属になったばかりでいきなりついていけなくて落ち込むヒルデ。

 

 そんなヒルデをたしなめるセシリア。

 

 過去の出来事を深く知って反省するラウラ。

 

 加速する現状に未だ混乱する麻耶。

 

 扇子に塞翁之馬と出しながら苦笑する楯無。

 

 これだけの人の協力を得たり巻き込んだりしながら、自分は今この場を切り抜けた。

 

 まだまだ自分は未熟の極みで、しかしそれでも対処しなければならない。

 

 そのことを深く受け止めながら、レヴィアは前を進む。

 

 どのような理由であれ、自分の決断は悪魔を大きく動かしかねない状況になったのだ。ならば、今度は覚悟の上でその責任を果たさねばならない。

 

「レヴィア」

 

 簪が、いつの間にか自分の隣に近づいて、そして花のような笑顔を浮かべる

「何かあったらいつでも言って? 私も、レヴィアを助けたいから」

 

「・・・ありがとう。簪ちゃん」

 

 今自分を取り巻く環境の、IS学園で出会った友人たちに、レヴィアは心から感謝した。 




これで溜まっていた分は打ち止めです。

これからはゆっくり目で投稿していくことになるのでご容赦ください。


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第十七話 レヴィアぁああああああああああああああああああ!!!!!

 

 と、ここで終われば感動的だったが

 

「さて一夏君、話は戻るけどアレは再開することに決めたからね」

 

 一夏の肩に手をおいて、レヴィアははっきりとそう言った。

 

 直後、一夏と蘭の顔が赤と青を交互に行ったり来たりし始める。

 

「れ、レヴィア!? アレってまさか・・・」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? ま、ま、まままさか!?」

 

 周りを見ながら狼狽する二人に、レヴィアは真剣な顔でうなづいた。

 

「もちろん防御力アップのアレに決まっているだろう? あ、せめてもの情けで蘭ちゃんはセットでするからとりあえず今からしよう」

 

「「やっぱり!?」」

 

 愕然とする二人に視線を向けていたアストルフォが、静かに首を横に振った。

 

 視界の隅でそれを確認した二人は同時に絶望する。

 

 この男、止める気が一切ない!?

 

 一夏は脂汗を流しながら、とにかくなだめようと頭を高速で回転させている。

 

「ま、待て待て待て待て!! アレは勘弁してくれって言ったよな!? お前、しないって約束してくれたじゃないか!?」

 

「・・・アレは僕の不覚だった。アレを毎回定期的にやっていれば、そもそも福音の攻撃で君が昏睡状態になることはなかったんだ」

 

 心底後悔している表情で、レヴィアは強くこぶしを握る。

 

「皆にも説明するけど、一夏君が使うカレドヴルッフは、実はものすごい欠点が多い癖の強い武器なんだ」

 

 カレドヴルッフ。

 

 レヴィアが出資することで開発された、量産品としては最高クラスの攻撃力をもつ近接戦闘武装。

 

 だがこれは、非常に欠点が多い。

 

 まずは、使用者が出せる性能を引き出せば引き出すほど劣化する。

 

 次に、量産できるというだけで実はコストパフォーマンスは非常に悪い。

 

 最後に、カレドヴルッフを使う物は、そのための体質になってしまうのだ。

 

 具体的に言うと、そのポテンシャルや才能がカレドヴルッフを使うために引っ張られて肉体が変質する。

 

 この特性によって、一夏の肉体は致命的な欠点ができている。

 

 戦車の駒によって強化されている肉体耐久度や、悪魔になることで得た魔力運用能力が、カレドヴルッフを使用するための才能に引っ張られてしまうのだ。

 

 そのため一夏の耐久力は同年代の戦車の中でも低いし、魔力そのものは高いのだがカレドヴルッフを使うために使用しなければその効果は非常に低い。

 

 良くも悪くもカレドヴルッフを使うことに一点特化した悪魔なのである。

 

 それでもアリーナのシールドを蹴っても耐えられる程度の耐久力は持っていたが、福音の全力攻撃を耐えるには足りなかった。

 

 だが、レヴィアの行動を持ってすればその分の防御力の上乗せは普通にできたのである。

 

 それを怠り一夏を昏睡状態に追い込んだことを、レヴィアは深く反省していた。

 

「そのために一夏君の防御力を犠牲にし、その結果この始末。王として、このような失態は二度と犯さないために努力する!! 室長、部屋貸してください!! とりあえず今日の分は終わらせてから帰ります!! 十分で終わるし掃除する人にチップ払うから!!」

 

「・・・よくわからないがまあいいだろう。とりあえず夕食も食べていくといい」

 

 レヴィアの剣幕にも動じず、四朗はさらに他のメンバーにも気を使った発言をする。

 

「あ、いいんですか伯父さん? 確かにもう遅いですけど」

 

「ああ。旅館の方はこちらで手を打っておくから、ついでに風呂にも入ると良い。日本人である私用の船だから、浴室はそれなりに豪勢なんだ。夕食は休憩中のメンバーが鯛を釣ったから刺身でも出そう」

 

「本当ですの!?」

 

「ほう・・・。刺身とはマグロだけではないのか」

 

 麻耶に応えるその言葉に、セシリアやラウラが目を輝かせる。

 

 日本文化の一つの極みともいえる刺身。旅館の夕食で食べてから、二人は日本文化に見せられていた。

 

「・・・そういえばもうこんな時間ね。お腹もすいたしちょっと待ってましょうか」

 

「レヴィアも早く来てね。私、待ってるから」

 

「よくはわからんがさっさと終わらせろ。私もあんなのはもうごめんだ」

 

 あっという間にそういったムードになる一同に、二人は顔を見合わせると途方に暮れる。

 

 いや、何とかする方法はあるにはあるのだ。

 

 内容をはっきり言えば止めてくれそうな人は何人もいる。

 

 ただし、それを言うと二人の命がない。

 

 どうしよう。

 

 その思いを共有した二人の肩を、レヴィアがしっかりとつかむ。

 

「さ、さっさといくよ。僕もおなか減ったしすぐに終わらせないと」

 

「「え、ちょ、ちょっと待って・・・」」

 

 妙にうきうきしたレヴィアは勢いよく二人を引きずって部屋から出ていく。

 

 それを見送った四朗は、立ち上がると肩をゆっくりと回した。

 

「さて、迷惑をかけた人たちにもしっかりと詫びをしなくてはならないしな。久しぶりに私も腕を振るおう」

 

「伯父さん料理上手ですもんね。あ、私も手伝います」

 

「あらあら。だったら簪ちゃんのために私も腕を振るおうかしら?」

 

 和気あいあいとする空気の中、ふと立ち止まったヒルデがアストルフォに尋ねる。

 

「そういえばどうやって防御力上げるんデス? 自分も後で受けようとおもうデス」

 

 その言葉を聞いて、アストルフォはぽつりとつぶやいた。

 

「房中術の応用」

 

 ・・・鈴が硬直した。

 

「ん、どうした凰?」

 

 千冬が訪ねても鈴は反応しない。

 

 ゆっくりとレヴィア達が去って行った方向を見て、少しの間考えて、そしてアストルフォの方を向く。

 

「ソレッテ、イツカラ?」

 

「蘭が、12になってから」

 

 それを聞いて鈴はゆっくりと頷き―

 

「レヴィアぁああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 文字通りドアを蹴り破ってレヴィア達を追撃した。

 

「・・・どういうことだ?」

 

「さあ?」

 

 千冬とラウラが顔を見合わせる。

 

 房中術というのが関わっているのは分かるが、それがどうしたというのだろうか?

 

「そういうことか・・・」

 

 唯一わかっているらしい四朗が、額に手を当ててためいきをついた。

 

「えと、どういうことデス?」

 

 ヒルデの言葉に、四朗は言おうか言うまいか悩み始めるが、やがて悲鳴と破壊音が響き渡ってから諦めたようだ。

 

「房中術とは中国古来の術式の一つで、陰陽の概念を男女に当てはめ、それらを組み合わせることによって生命体の流れをよくする秘術とでも言うべきで、しかし聖書の教え的には少し止めた方がいいやり方でな・・・」

 

 少しの間悩んだが、言った。

 

「具体的にいえば、S○Xする必要がある術式だ」

 

 時が止まった。

 

 動ける側である楯無と麻耶が、固まっている側に恐る恐る視線を向ける。

 

 約四名が、時を止めていた。

 

「か、簪ちゃん!? 気をしっかり保つのよ!!」

 

「お、織斑先生しっかり!! っていうか私12歳の女の子に先越された!?」

 

「あ~、自分女の子でも大丈夫だけど、いきなりするのは緊張するデス」

 

「気にしなくていい。親しい配下にはよく行なっている」

 

 ヒルデが顔を赤くして好奇心満々の表情をしたり、アストルフォがなんてことないように言うが、冷静に考えると非常にまずい。

 

 男女で絡み合うこと(ソフトな表現)で発動する術式を応用するということは、つまりそういうことで。

 

 蘭が12の時にしたということはもちろん彼女もそういうことをされたというわけで。

 

 そしてその時にしたということは一夏が13のころというわけで。

 

「レヴィアさんはそんなころからエロかったんデス?」

 

「年齢をごまかしている。レヴィアはもう18」

 

 最後にイレギュラーな情報が出てきたが、それはどうでもいい。

 

 誰がどう考えても犯罪である。

 

「・・・きゅう」

 

「簪ちゃんしっかりして!? れ、レヴィアさんめよくも!!」

 

 簪が倒れたことで、引き金が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、レヴィアの悲鳴が響き渡った。

 

 あと一夏と蘭がレヴィアと同じ意味で悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな夜の海で、ウィンターはハイパーセンサーを駆使してその悲鳴を感知していた。

 

 ウィンターの機体は隠密行動に適しており、光学迷彩も駆使することで遠距離ならば勘付かれないことも可能だ。

 

 ゆえに、この悲鳴を感知することぐらいは可能であり、水中で行動することで会談の内容も大体把握できている。

 

「一つ聞きたいッス」

 

『なんだ?』

 

 自らの主にこんなことを聞くのもなんだとは思ったが、しかし一応聞きたかった。

 

「なんで、ジーコンの援護を許さなかったんだッス? ゴーレムも多くいたし、上手くすれば一人ぐらい殺せたッスよ?」

 

 それは過信ではない。

 

 確かに驚異的な戦闘能力を持っていたが、しかし機動力ではほぼこちらが上だった。

 

 暴走状態のジーコンを利用し、援護射撃を受けながら行動すれば異形に関わらない織斑千冬や、ダメージを受けていた織斑一夏なら殺せていた。

 

 確かにセーラ・レヴィアタンは防御特化型なので自分達の幹部クラスなら無視することができれば何の問題もない。

 

 あの規格外の破壊力を放った五反田蘭との連携は脅威だが、最低でも自分とスプリングなら防御もしくは相殺が可能だろう。

 

 オータムもある程度の下準備があるなら防御は可能だろうし、主の本気なら直撃してもある程度なら耐えられるだろう。

 

 とはいえ警戒するべき対象であることに変わりはない。というよりIS学園にいる異形の存在というだけで、本来なら警戒対象なのである。

 

 まさかあそこまで高い耐久力を持っているとは思わなかった。禁手状態の赤龍帝が相手でも、相手が初期段階ならしのげるだろう。

 

 そしてそれを瞬殺するアストルフォとか言うのは最大の脅威だ。少なくともIS学園に即座に到着できる状態なのはできる限り避けたい。

 

 そういう意味でも減らせるタイミングは逃すべきではないと判断したのだが、しかし何故なのだろう。

 

「答えがあるならぜひ教えてほしいッス」

 

『簡単なことだ。・・・攻略法は既に見つけてある。それがある以上お前を撃墜される可能性をそのままにするわけにはいかにない』

 

 その答えは納得できる物で、しかし油断できるほどではない。

 

 自分は主に忠誠を誓っているが、主は別に自分のために命をかけるわけではない。

 

 相応に有望な人材だと判断しているだろうし、何より自分の能力は計画のメインプランであるため必須ではあるが、だからと言って全てをかけて釣り合うと考えているわけではなかった。

 

 それでも十分だと考えている自分は、ある意味で狂っているのかもしれない。

 

 だがそれでも構わない。

 

 自分という存在にふさわしい世界を主は作ろうとしている。そしてそのための準備は整おうとしている。

 

 なら問題はないだろう。

 

 どちらにせよ、自分達の戦力ならあの程度の敵なら返り討ちにすることができる。

 

 そして肝心の段階にまで行くことができれば、増援の心配だけはない。

 

 ならば確かにこのままでもいいだろう。

 

『じゃあ、作戦は第二段階にまで行くのかな?』

 

 通信に割り込んで、サマーの声が聞こえてくる。

 

 ああ、確かにタイミングはその通りだろう。

 

 自分達の技術の一部をある程度流して、世界の軍事バランスを大きく変動させる第一プランは成功した。

 

 次は、世界各地のISを奪取する第二計画に移行する。

 

 最終調整のためにもISの数は多いほどいい。

 

 だから、自分の出番が忙しくなることだろう。

 

『・・・それで、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな、ウィンター?』

 

「なんだッス?」

 

『簡単なことだ、レヴィアの眷属やら悪魔祓いやら後詰の魔法使いのせいで襲撃犯が壊滅しただろう? ・・・避難に使ったあれは使い捨てだから帰れんのだ。あいつらが独断行動して帰ってないからまだ混乱中だろうが、このままだとまずい』

 

 スプリングの説明に納得した。

 

 ・・・どうやら、第三段階には修正が必要らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思った」

 

 どこか遠くを見つめながら、一夏はバスの中でつぶやいた。

 

 さすがにまずいと思ってばらさなかったことがバレ、本当に殺されるかと思った。

 

 鈴は本気で攻撃を叩きこむし、セシリアはライフルを呼び出して照準を向けるし、ラウラは何を思ったのかそれなら自分もと服を脱ぎだして止めるのに苦労した。

 

 そして千冬はレヴィアにエリアルコンボを叩きこんで撃沈した。あの規格外の耐久力を持つレヴィアを気絶させるとは、いったいどうやれば可能になるのだろうか。

 

 あとその隙に清水を突きこもうとした楯無は危なかった。なんというか目の色が正気を失っており、慌てたヒルデが「鎮静」の文字を大量に書いてようやく動きを止めたぐらいだ。

 

 おかげで夜は再び攻撃が来るのではないかと思って気が気じゃなかった。ぶっちゃけ一睡もできていない。

 

 もうバスの中で寝ることにしようか。

 

 そう考えて目を閉じようとしたその時、一夏の視界にブロンドの髪が映った。

 

「あなたが、織斑一夏君ね?」

 

「は、はい・・・」

 

 見たことない美女の姿に、一夏は少し戸惑う。

 

 こんな女性は学園の教師にはいなかったはずだが、いったいどうしたことだろう。

 

「私はナターシャ・フィルス。銀の福音のパイロットよ」

 

「・・・福音の!?」

 

 そういえば、福音のパイロットは救助された後、四朗経由で病院まで搬送されていたと聞く。

 

 そんな人が何で、こんなところにいるのだろうか。

 

「え、えっと・・・」

 

「ふふ。あの子のせいでいろいろ大変だったみたいだから、ちょっとお詫びをしに来たのよ」

 

 そういうと、ナターシャの顔があっという間に近づき―

 

「・・・一夏さんのバカ」

 

 遠方からの声が、確かに聞こえた。

 

 直後、強力なエネルギーの塊が側頭部に直撃した。

 

 そのまま勢いよく側転しながら、一夏は吹っ飛ばされた。

 

「きゃあああああああああああ!?」

 

「うわっ!? 織斑君が大変なことになるかと思ったらそれ以上に大変なことに!?」

 

「て、敵襲!? なにがあったの!?」

 

「バスのガラスしか壊れてない! これ狙撃だよね!!」

 

「本っ当に一夏さんは油断できない人ですね。自業自得ですわ」

 

「むむむ。嫁の暴走を止めるのが私ではないとは残念だ。やはり先達はなかなか油断できん・・・」

 

「セシリアさんとラウラさんが冷静すぎる!?」

 

 あっという間に大騒動になっている中、一夏の視界は確かに見た。

 

 アストルフォに羽交い絞めにされた蘭が、そのまま森の中に消えていくのを。

 

(二人とも帰ってなかったのか・・・)

 

 むしろ念には念を入れたレヴィアがそのまま警護を続行させたのだが、それを知る一夏ではない。

 

 うん、確かにあれは一夏がうかつだったとは思うが、だからっていきなり砲撃はひどくないだろうか?

 

 手加減されているのは当然理解しているが、それと撃たれた事実は全くの別問題なのである。

 

「・・・一夏、大丈夫?」

 

 すぐそばにシャルルがしゃがみ込んで、そんな一夏に手を差し伸べる。

 

「しゃ、シャルル?」

 

 ゆっくりと顔を動かしてみれば、シャルルは苦笑しながらも一夏をいたわる表情を浮かべていた。

 

「よくわからないけどしっかりして。ほら、立てる?」

 

 ・・・その優しさが身にしみた。

 

「シャルルありがとう!! マジ大好きだ!!」

 

「え、きゃぁ!? い、一夏ストップ!!」

 

 思わず抱きしめて感謝の気持ちを伝えてしまう。

 

 なんというかものすごく優しさが身にしみた。ああ、この純粋な優しさは世界の宝だ。文句いう奴は俺が相手になってやる。

 

 できることなら、シャルルにはずっとこのままでいてほしいと願うのは悪いことだろうか?

 

 ああ、過酷な環境に置かれている物は、その分優しさがとても身を侵食してしまうのだろう。

 

 できることならば、自分自身こういったたことができる存在になりたいものだ。

 

 少なくとも、それができれば自分は誰かの心は守ることができるのだから。

 

 ・・・そうだ。

 

 ふと、一夏は気付いた。

 

 誰かを被害から守るだけでは、まだ半分だ。

 

 被害におびえる人たちの心も安心させなければ、本当の意味で人を守ったことにはならないはずだ。

 

 それこそが、自分が目指すべき道ではないか。

 

「・・・シャルル」

 

「え、な、なに!?」

 

 なぜかシャルルは顔を真っ赤にしているが構わない。

 

「なんか、俺が進むべき道が見えた気がするよ。本当にありがとう」

 

 素直にお礼を言う一夏を見て、さらにシャルルの顔は真っ赤になる。

 

「う、うん。・・・どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、最初は蘭さんのおかげで助かりましたし、今度はわたくしたちが動くべきでしょうね」

 

「うむ。見れば鈴も駆けつけてきているが、待っている場合ではないな」

 

「・・・一夏ぁああああああ!! アンタが目を離した隙になに男に手を出してんのよぉおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・馬鹿しかいないのか、ここは」

 

 夏の日差し以上に厄介な物に頭痛を感じながら、箒は額に手を当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・頼むから妙な火種を残さないでくれ。ガキの面倒は大変だし、何よりあいつの周りはクセの強い奴が多いんだ」

 

 惨状を耳にしながら、千冬はため息をついた。

 

 つい昨日、衝撃的なことを聞き続けたうえにこれではさすがに気が滅入ってしまう。

 

「ご、ごめんなさい。まさか私もあんなことになるだなんて・・・」

 

 眼前で男が狙撃されるなどという事態にさすがに動揺しているのだろう、ナターシャも頬がひきつっていた。

 

「それで、昨日の今日で大丈夫なのか?」

 

「それはあなたの弟にこそ言ったらどう? 私はずっと守られていたもの」

 

 守られていた。

 

 その言葉に千冬は納得する。

 

「なるほどな。・・・福音の暴走というのはそういうことか」

 

「ええ。周りを全て敵と認識したが故の守護対象《私》の安全確保。それこそが福音がああいう動きを取った原因よ」

 

 言葉を続けるナターシャの瞳は、一夏に見せた温かさなど一つもない、敵意に満ちたものだった。

 

 銀の福音は機能回復したものの、暴走という前代未聞の事態を警戒した政府によって当面の封印処理が決定した。

 

「・・・・・しかるべき報いは受けさせるわ。あの子を汚した者たちを、許すわけにはいかない」

 

「あまり無茶はするなよ? どうせこの後、査問委員会だろう?」

 

「まあ無茶をするつもりはないわ。・・・ねえ、『元』担当者さん?」

 

 そう言って後ろを振り向くナターシャに合わせて、千冬も視線をそらす。

 

「は、離してくださいアストルフォ!! いや、悪魔の文化を考えれば確かにする意味はないかもしれませんけど、一夏さんはもうちょっと自分がモテることを自覚させないと制限つかなくて本当に面倒なことに・・・」

 

「あれでは、それには、気付かん・・・!」

 

 背中から龍の頭を八つとも出している蘭を引きずりながら、そのまま下がろうとしているアストルフォの姿があった。

 

 アストルフォはそれに気づくと、千冬とナターシャに一回ずつ頭を下げる。

 

「・・・まさか」

 

「ふふっ。口下手だけど頼りになるのよ? 子供のころはおかげでだいぶ助かったわ」

 

 衝撃の事実がこの一日足らずで出すぎだろう。

 

 実は一連の事件の黒幕が束だったとしても驚けない。と、言うより一枚かんでいる可能性は普通にあるから始末に負えない。

 

「そういうことだから、あの後の事情についてもある程度は知っているわ。・・・あなたも大変でしょうけど頑張ってね」

 

 そういうと、ナターシャは千冬の脇を通り過ぎる。

 

 ・・・僅か一日足らずでとんでもない世界の情報が大量に入ってくるものである。

 

 変な自負など持ってはいないが、ブリュンヒルデの称号など、霞む以外のことが起こらないものだ。

 

「やれやれ・・・。」

 

 世界は狭いのか広いのかよくわからない。

 

 ただ一つだけ言えるとすれば・・・。

 

「・・・一夏は、少し見ない間に大きくなったものだ」

 

 とはいえ、教師としても姉としても、追い抜かれるわけにはいかない。

 

 学園に入ったら鍛え直そう。

 

 そう思い、千冬は日常へと戻っていった。

 

 

 



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次章予告 

イチブイの特報を真似してみたかったんです。


 

 

 

 神滅具

 

 性能を最大限に発揮できれば、魔王はおろか神すら殺せるといわれる13の神器。

 

 主な特徴として、同時期に複数存在することがなく、単体ですら桁違いの出力を持つ能力を複数備えている。

 

 例、制限をほぼ度外視した強大な能力を持つ魔獣の創造と、それのほぼ無制限の制御能力(神滅具 魔獣創造)

 

 例、十秒ごとに発動する理論上無制限の敵能力半減と、敵の能力の吸収および限界以上の力の放出(神滅具 白龍皇の光翼)

 

 そして、神滅具とは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンギヌスと、読む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このこが僕の使い魔だよ。―――レヴィア・聖羅

 

 この女は本当に一点特化で問題児である。

 

 

 どこかの誰かさんのせいでできないんですよ! ―――五反田蘭

 

 被害は明らかに酷かった。

 

 

 後はこの女を何とかすれば・・・。―――凰鈴音、セシリア・オルコット

 

 そんな彼女にも友人は存在する。

 

 

 アイツずるいだろ! ―――織斑一夏

 

 まあ、アクが濃い物同士共鳴したのだろうが。

 

 

 お前と私は相いれないよ。―――篠ノ之箒

 

 だが、そんな彼女にも試練が訪れる。

 

 

 これからも同僚としてよろしくデス。―――ヒルデ・アースガルズ

 

 だから、俺は彼女の力になりたいんだ。

 

 

 レヴィアさんの言うとおりね。相変わらず頭の回転が速いじゃない。―――更識楯無

 

 俺は、彼女を守る盾じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の脅威を切り捨てることで守る、剣だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新型機ができたから発表会に来ると良い。なぁに、臨海学校の件で警戒しとるからの、悪魔に依頼という形じゃ。―――オーディン

 

 気をつけろ。今、ヨーロッパには我らが最大の恥部といえるテロリストが存在する。―――山田四朗

 

 だから、ここで死ぬわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真なる神の教えのために、滅びたまえ。―――黄昏の聖槍の担い手、???

 

 それはISコアという問題を、さらに加速させかねない最悪のテロリストだった。

 

 

 ああ、これこそ信仰の証! イイ、すごくイイ!! ―――信仰を持つはずがない異常なる存在、???

 

 さあ行きたまえ、死を恐れるなど信仰の前には罪でしかない。―――心を病まねばならないはずの存在、???

 

 それは、人が使ってはいけないインフィニット・ストラトスだった。

 

 

 では使ってみるとしよう。これより反撃を開始するぞ! ―――ドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 臨海学校とは違う。今の私はちゃんと使いこなせる!! ―――日本代表候補生、更識簪

 

 それは、人の叡智と神の贈り物と聖人の血の協奏曲。

 

 

 強襲、迎撃する。―――旧魔王血族の兵士、アストルフォ

 

 私の生徒が世話になったな。なぁに遠慮するな、百倍にして返してやる。――― ブリュンヒルデ、織斑千冬。

 

 今ここに、歴史を大きく揺るがす戦いの、公式に記されし前哨戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みのヨーロッパで、科学と異形の混じり合う戦争の、真の第一幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく、ようやく本気を出せるッス!! さあ、相手をしてやるッスよ!! ―――ISを駆る謎のテロリストにして先達、ウィンター。

 

 良いぜ、相手してやるよ、先輩!! アンタは俺が叩き潰す!! ―――世界で初めて公表された男性IS操縦者にして後発、織斑一夏。

 

 

 

 

 インフィニット・ストラトスD×D 第四章

 

 発表会のロンギヌス

 

 

 

 

 真なる魔王の下僕と、真なる神滅具の配下による戦争が、今始まる。

 

 




なお、これはイチブイでの特報と同じく、セリフは同じじゃ無い場合があります。

ご容赦ください。


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発表会のロンギヌス
第一話 一応気を使ってアレかよ!?


夏休み編突入。



この章は、幾つかのイベントを経由してから、本番に突入する形式になっております。


 

 レヴィアと簪の部屋で、皆がおしゃべりしながらだべっていた。

 

 アレ以来、自分達の付き合いは深くなったと思う。

 

 レヴィア達にとっては、秘密を隠すことなく接することができる貴重な人間の友人たちだ。逆に簪たちにとっては、大事な友人たちが秘密をちゃんと話してくれているという事実がある。

 

 おかげでどうにも一緒にいることが多くなった。

 

 実際中学の時には、鈴や弾とばっかり一緒にいることが多かったような気がする。

 

 そして、その中にヒルデも混ざっている。

 

 ヒルデと直接かかわったのは臨海学校になってからだが、これでいろいろと話しやすい。

 

 独特な魔法は話のタネにもなるし、眷属として教えることもいっぱいあるのでその分さらによく話している。

 

 そんなヒルデの顔を見て、レヴィアはあることに気がついた。

 

「そういえば、まだヒルデには使い魔を用意してないね」

 

「ああ」

 

 一夏もそれに気がついてぽんと手を打ち、皆の視線を集めた。

 

「使い魔というと、魔女が使うようなあれですの?」

 

 セシリアのイメージでは黒猫とかが思い浮かぶが、そういうものなのだろうか。

 

「まあ考え方としては近いかな。悪魔は雑用とかを使い魔に頼んで行動する時が多いんだよ」

 

「結構役に立ってるよな。あ、コイツが俺の使い魔だな」

 

 そう言いながら、一夏は白い狼を呼び出すとその喉をなでる。

 

「「「「おおっ!」」」」

 

 その姿に、セシリアもラウラも簪もヒルデも声を上げる。

 

 鈴とレヴィアも少し笑顔になった。

 

 一夏が彼になつかれたのを見てレヴィアは感心したし、鈴も始めてみたときは興奮して抱きついたりしたものだ。

 

「そういえば、レヴィアの使い魔ってなに?」

 

 簪にそう言われて、レヴィアは少し考え込んだ。

 

 ちょっと自分の使い魔はアクが濃い。はたしてうかつに公表して大丈夫なのだろうか。

 

 だが、これからも自分のことをよく知ろうと考えているようだし、だったらあえて見せるのも必要だろう。

 

 そう思いなおし、レヴィアは召喚陣を展開する。

 

「それでは本邦初公開! この子が僕の使い魔だよ!!」

 

 召喚陣が光り輝き、そしてある物を呼び寄せる。

 

 ぬるりと輝くからだ。

 

 いくつものうごめく筋肉。

 

 瞳のないその姿。

 

 そう、それはまがいもなお・・・。

 

「この子が僕の使い魔、ナガヨシだ!!」

 

 触手だった。

 

「「「きゃぁああああああああああ!!」」」

 

 鈴、セシリア、簪は思いっきり悲鳴を上げ。

 

「これが、これが日本では江戸時代から伝えられていたとかいう触手モノとやらの現物か! クラリッサ、私は今日本の真髄を見たぞ!!」

 

 ラウラは何やら妙な方向で感心し、

 

「・・・ああ、これヨーロッパ辺りで有名な奴デス。エロ系研究している魔女が目の色変えて探すレアものデス」

 

 ヒルデは珍しい物を見たかのように写真に撮り始めた。

 

「いや、ラウラはとりあえずそのクラリッサって人と話したいから機会くれ! ヒルデもそんなことはどうでもいいから! っていうかレヴィアお前いろいろと言いたいことがあるんだけど良いか!?」

 

 連続してツッコミをこなしながら、一夏はレヴィアの襟首をつかみ上げた。

 

 たまにどうしようもなくエロ方面にブーストするのは知っていたが、使い魔にまでエロ方面追及とか考えてもいなかった。

 

 今まで見せてこなかったので機に放っていたが、ある意味期待を裏切らないその在り方には関心すら覚える。

 

「・・・もしかして初回からOKだった!? ゴメン、一応初心者には荷が重いと思ってよしてたんだけど、それならナガヨシを紹介すればよかったよ」

 

「一応気を使ってアレかよ!? 俺も蘭もそんなことは考えてねえよ!?」

 

 まさか気を使ってアレだとは思わなかった。

 

 ・・・詳しく思い出すといろいろとヤバいので記憶からシャットアウトするが、正直な話自分や蘭は今後の人生まともに生きていけるのか不安になるぐらいだったと伝えておく。

 

 この女エロすぎる。

 

 そして、後ろから鬼神が覚醒した。

 

「・・・一夏、ちょっとどいてなさい」

 

 そろりと後ろに振り返る。

 

 ・・・半泣き状態の鈴が、拳を振りかぶっていた。

 

「一度死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ! そういうことでヒルデさんの使い魔が変なことにならないか監視するために、わたくし達は冥界の中でも色んな魔物がいるこの辺りに来ておりますわ!」

 

「セシリア? 誰に向かって言ってるデス?」

 

 紫に染まる空の中、レヴィア達は森の中にやってきていた。

 

 フォローのために蘭とアストルフォまで来ていて準備万端である。

 

「思いだすなぁ。丁度この辺りで傷を負ったあいつに会ったんだよ」

 

「そうですね。一夏さんってば警戒されてるのにもかかわらずいきなり傷薬出して近付くから、どうなることかと思いました」

 

 一夏と蘭は周りの風景を見て思い出に浸っている。

 

 その様子をみて、セシリアとラウラはプルプルと震えていた。

 

「くっ! 二人だけの共有する時間が多いというのは明らかなアドバンテージですわ!」

 

「落ち着けセシリア。IS学園という絶大なアドバンテージを確保できる我々には逆転のチャンスが多すぎるぞ。・・・まあ勝つのは私だがな」

 

「そう言いながら震えてるわよ。・・・とはいえレヴィアのことだから、どうせ蘭も次の年には入学させるでしょうしねぇ。そう上手くは行かないんじゃないの?」

 

 そんな二人にそう言いながら、鈴も回りを確かめる。

 

 冥界の空は苦手だ。

 

 あの時の、自分の情けなさをどうしても思い出してしまうから。

 

 もうあんな弱くないとは思ってはいるが、つい先日魔王血族に瞬殺されたこともあるのでなかなかふっきれない。

 

 などと思っていたら、ガサガサと木の葉が揺れる音が少しずつする。

 

 皆の視線が集まる先には、白い白馬がいた。

 

 それは毛並も美しい馬だったが、しかし一つの大きな特徴があった。

 

 角が生えているのだ。

 

「ゆ、ユニコーンだよね。伝説に出てくる」

 

 簪が少し興奮してレヴィアに尋ねる。

 

 昨日見たヒーローが出てくるアニメで、そのヒーローの愛馬として登場していたからかドキドキしてしまう。

 

「そうだよ。しかし珍しい。この変じゃ最近は見掛けないはずなんだけどねぇ」

 

 レヴィアが感心しながらも、なぜか少し後ろに下がる。

 

 ユニコーンはじっとこちらを見て動かない。

 

―もしかして、触れる?

 

 何人もの少女が興奮してその視線を向けるが、ユニコーンはじっとこちらを見るだけで動かない。

 

 その視線が、セシリア、ラウラ、鈴、簪をみて頷いた。

 

 その視線が、レヴィア、蘭、ヒルデを見て首を振った。

 

「・・・なんだよ、この反応の差」

 

 1人相手にすらされてない一夏がつぶやく。

 

 明らかにユニコーンが相手をえり好みしていた。

 

「ああ、ユニコーンは心の清らかな処女にしかなつかないからね。処女と非処女を分別してるんだろう」

 

 なんてことがないように、レヴィアが開設した。

 

 ・・・さて、少し考えてみよう。

 

 つまり今のユニコーンの反応は、相手が処女かどうかで判断していたのである。

 

 つまり・・・。

 

「・・・レヴィアさん?」

 

「なんだい、蘭ちゃん?」

 

「いつの間にヒルデさんに手を出してたんですか?」

 

「三日前」

 

 直後、レヴィアが蘭の回し蹴りを喰らって吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんですのこの毛並!? 今までに触ったことがないぐらい上質ですわよ!?」

 

「さすがお嬢様。馬にも乗ったことあるのね。・・・お、結構乗りづらいわね」

 

「これがユニコーンか、う、動かないでいてくれるんだな」

 

「うわぁ、奇麗・・・」

 

 幻想の生物に興奮する四人を見ながら、一夏は傍らにいるヒルデに声をかける。

 

「なあヒルデ。・・・レヴィアってどうなんだ?」

 

「始めてなんでよくわからないけど、すっごく丁寧にしてくれたデス。一夏の時もそうだったんだろデス」

 

「まあ・・・なあ」

 

 少し言いにくいが確かにそうだ。

 

 快楽追及に結構余念がないレヴィアは、快楽技術追求にも余念がない。

 

 特に性質的に自分も相手も気持ち良くなってなんぼの考え方のようで、そういった方面にはとても気を使う。

 

 だからこそこれだけは言える。・・・最高でした。

 

 とはいえ結構強引にことに運ばれているわけで。

 

「私もっ、ユニコーンにはっ、興味がっ、あったのにっ、近付いてもらえないじゃないですか!!」

 

「い、いや、だってほら蘭ちゃん処女じゃないし!!」

 

「どこかの誰かさんのせいじゃないですか!!」

 

「破ったのは一夏君じゃん!! そこは気を使ったよ僕!!」

 

「気を使うところが間違ってるんです!!」

 

 マウントポジションからの打撃から、マウントポジションからのゼロ距離射撃に変わり始めていた。

 

 さすがにあそこまで来るとレヴィアにも相当のダメージが行きそうなのだが、そろそろ止めた方がいいだろうか。

 

 いや、アストルフォは静かに見守っている。ならば放っておいても大丈夫なのだろう

 

「ま、まあ、ユニコーンを使い魔にするのは諦めた方がいいじゃないか?」

 

「それは同感デス。角とか取り放題で役立つかとも思ったけど、諦めた方がいいなデス」

 

 相応にレアな存在なので残念だが、まあ仕方がないだろう。

 

 そして何より・・・。

 

「嫁よ、話がある」

 

「主に蘭の何を破ったかについてよねぇ?」

 

「うふふふふ。一夏さん、覚悟はよろしくて?」

 

 今は自分の心配をした方が良いようだ。

 

 




使い魔の名前はホライゾンを読みなおしていたら気が付きました。


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第二話 でも、これで大丈夫デス

使い魔探し、後篇


「気を取り直して、今度はウンディーネが近くにいるということだからそっち行ってみようか!」

 

 ボロボロの一夏に肩を貸しながら、レヴィアが皆を促して移動する。

 

「ウンディーネっていうと水の精霊よね? ゲームとかで出てくる」

 

「だけどゲームとは違うし必ず美人ってことはないですよね。・・・ちょっと残念」

 

 歩きながら、鈴と蘭がそう言って話すのを一夏は聞いた。

 

 確かに、現実は必ずしもファンタジーというわけにはいかないだろう。

 

 実際、ものすごい存在に選ばれて力を得るだなんてファンタジーの主人公のような経験をした一夏自身、全体で見てみればまだまだ下の方だ。

 

 ISにしたってそうだ。

 

 女だらけの環境に唯一入れる男など、ハーレム物の定番の一つだとか弾は言っていたが、はたして自分はどれだけ活躍しているだろうか。

 

 クラスの代表に選ばれたのは相性によるものだし、クラス代表同士の戦いもトラブルが発生したし、自分の過去に関わる因縁の清算も何やらトラブルが発生して・・・。

 

「なあ、レヴィア」

 

「なんだい、一夏君」

 

 レヴィアの言葉に頷いてから、一夏はふと浮かんだ疑問について聞いてみた。

 

「俺って、ラノベの主人公みたいな気がしてきたんだけどどうだろ?」

 

「みんなー? この馬鹿は一度死刑になった方がいいんじゃないかおもったひと挙手」

 

 全員が手を上げた。

 

「なんでだよ!?」

 

「一言でいうと自覚が薄い。一夏君、僕は一人か二人なら君の嫁を眷属にすることもやぶさかじゃないが、だからと言って百人や二百人もできるわけじゃないよ?」

 

 ものすごいことを言われてしまった。

 

「俺ってそんなにモテるのか?」

 

「料理できて正義感があってレアな側面持っているイケメンはモテるんだよ。言っとくけど一夏君、中学時代にファンクラブあったからね? 蘭ちゃんが正妻オーラ出してたから鈴ちゃん以外諦めたけど」

 

「マジか!?」

 

 そういえば、なんどか弾はよくわからないが「お前は蘭を泣かせたいんだな? そうなんだな?」とかいって突っかかってきたことがあったが、それはつまりそういうことか。

 

 そうか、俺はモテていたのか・・・。

 

「・・・あれ? だとするとIS学園にいる状況ってヤバくないか?」

 

「いや、クラス代表対抗戦の惨状知って突っかかる猛者はレアだと思っ!?」

 

 冷静にツッコミを入れたレヴィアの後頭部に、レーザーとレールガンが直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論として、ウンディーネを見ることには成功した。

 

 だが、それはとても不幸な出会いだった。

 

「・・・・・・」

 

 レヴィアは沈黙した。

 

「「・・・・・・」」

 

 蘭と鈴も沈黙した。

 

「「「・・・・・・」」」

 

 セシリアもラウラも簪も沈黙した。

 

「・・・・・・」

 

 ヒルデに至っては崩れ落ちていた。

 

「現実は、非情」

 

 アストルフォの言葉が真実をついていた。

 

 今目の前では、二人のウンディーネが縄張り争いを行っていた。

 

 それはみごとな戦いというべきで、もし使い魔にしたのならば、戦闘面において明確な戦力として運用できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筋骨隆々なムキムキマッチョなウンディーネにより、返り血が飛ぶ肉弾戦だというだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで・・・コレなんだデス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使い魔捜索二時間で、一同は憔悴しきっていた。

 

 ユニコーンには逃げられウンディーネはいろいろな意味であれで、好奇心に充ち溢れていた使い魔探索は明らかにアレだった。

 

 正直いろいろと面倒だった。

 

「なんでこんなことになったんでしょうか・・・」

 

 ユニコーンの時もアレだったせいで、特に消耗が激しい蘭が憔悴し切った表情でつぶやく。

 

 自分の使い魔であるイタチを呼び出してなでることで精神を安定させている始末だ。

 

 正直ちょっとレヴィア自身落ち込んでいる。

 

 数年ぶりの新入り悪魔の使い魔なのだから、気合を入れて探そうと思っているのにこの展開だ。

 

 特にウンディーネが酷い。

 

 世の中はファンタジーみたいにはいかないとは思うが、だからと言って魔法攻撃ではなく肉弾戦とかどういうことだろう。

 

 もう少し何とかならないのだろうか。魔力運用による戦闘の強大さは我が身を持って知っている。どう考えても戦力としては十分だろう。

 

 何故体に走る。もっと知的に行こうとは思わないだろうか?

 

「なんなんですのアレは。フェアリーテイルというものをなんだと思ってますの?」

 

 二番目に酷いのはフェアリーテイルで有名なイギリス人のセシリアだ。

 

 あとそういった方面に興味津々の簪も何気に落ち込んでいる。

 

 被害者が非常に多い。それほどまでに肉弾戦ウンディーネの衝撃は強かった。

 

 不味い。これはマズイ

 

「・・・涙出てきた」

 

 デスがついてないぐらいヒルデがマズイ。

 

 これは何とかしてどうにかしなくてはならない。

 

 フルパワーで視線を巡らせて生物を探す。

 

 とにかくまともなのを発見して軌道を修正しろ。それができなければこのままだとまずい。

 

「ふむ、聞きたいことがあるのだがいいか、お姉さま」

 

「ゴメンラウラちゃん。ちょっと後にしてくれないかな?」

 

「いや、本当に一つだけなのだ」

 

「なんだい?」

 

 この際小動物でもいい。とにかく発見しなくては・・・。

 

「ドラゴンというのはそんなに珍しくない生命体なのか?」

 

「いや、強力でレアな方の生物だけど・・・」

 

 そこまで答えて、レヴィアはふと気付いた。

 

 ラウラの視線があらぬ方を向いている。

 

 ふとその方向に向かって視線を向けた。

 

 ・・・真っ白なドラゴンがこちらに向かって飛んできていた。

 

「ほ、聖光龍(ホーリードラゴン)!?」

 

 割とレアなドラゴンが飛んできていた。

 

 聖光龍。聖なるオーラを放つかなりレアでかつ強力なドラゴンだ。

 

 ぱっと見若くて小さめなドラゴンだが、しかしそれでも強力な部類になるだろう。

 

 そんなドラゴンがこちらに向かって接近してきていた。

 

 ついでに言うと、聖なるオーラを垂れ流すこのドラゴン、悪魔にとっては格上のドラゴンに匹敵するほど危険である。

 

 そんなドラゴンが、体当たりする軌道でこっちに向かって突っ込んできていた。

 

「・・・総員後退!!」

 

「「「「「うわぁああああああああ!?」」」」」

 

 全力で後退するとほぼ同時に、ドラゴンが地面に激突した。

 

「な、何だコイツ!?」

 

 カレドヴルッフを構えながら、一夏があわてて迎撃態勢をとる。

 

 いきなり高位のドラゴンが墜落してきたとなれば、それは慌てもするだろう。

 

「まさか墜落してくるとは思わなかったな。我々相手に単騎で来るとはやってくれる」

 

「やってられないわね。なんで使い魔探しに来てモンスター相手にしなきゃならないのよ」

 

 戦闘になれているラウラと鈴に至っては、既にISを展開して戦闘準備をとっているぐらいだ。

 

 とはいえ、来たからにはこちらもやらねばなるまい。

 

「いきなりドラゴンが強襲とかよくもやってくれるね。返り討ちにしてくれる」

 

 このタイミングでこんなのが出てくるとは思わなかった。なんとしても反撃しなくては。

 

 と、思った瞬間に―

 

「・・・いや、ストップデス」

 

 皆を止めるように、ヒルデが一歩前に出た。

 

「ヒルデ・・・?」

 

 戸惑う皆をよそに、ヒルデはつかつかと聖光龍に近づくと、こそこそと様子を見る。

 

「蘭ちゃん蘭ちゃん。このドラゴン怪我してるデス。治療~」

 

「え? あ、はい!」

 

 ヒルデに促されて、慌てて蘭が治療を開始する。

 

 確かに言われてみてみれば、うろこが何枚もはがされていて、見ているだけで痛々しい姿をしていた。

 

「いや、ちょっと待って。それってつまり・・・」

 

 このドラゴンをそんなにボロボロにした連中がいるというわけで―

 

「・・・あの、レヴィアさん?」

 

「あれ・・・何?」

 

 セシリアと簪が指差す先に、それは来ていた。

 

 なんというか、キメラみたいな鳥がやってきていた。

 

「総員戦闘―――――っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なあ大将、テスト中になんか例の連中とカチあったみたいなんだけどよぉ?」

 

 望遠センサーを装備したISを身にまといながら、オータムは自らの主にそう伝えた。

 

『どうせアレクラスの相手を想定していない雑兵だ。・・・どれぐらい持つかデータをとっておけ』

 

「あいよ。・・・あ、ミノタウロス仕留めたんだがいるか?」

 

『丁度いい。アレの塩漬け肉はスプリングが気に入っていた。持って帰れ』

 

「福利厚生が充実していることで嬉しいねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十数分後、キメラの群れは殲滅された。

 

 戦闘能力はISの火力でも十分撃墜可能なレベルだったが、耐久力はともかくHPが高い体質だったのか非常に手間取った。

 

「全員無事かい? 点呼ー」

 

「一夏だけに1!」

 

「なんで一夏さんってギャグダメなんですか? あ、蘭です。2」

 

「鈴よぉ。3」

 

「4でセシリアですわー」

 

「どいつもこいつも覇気がないな。ラウラ・ボーデヴィッヒ、5番!」

 

「6番、アストルフォ」

 

「7番簪。ヒルデ?」

 

「あ、8番のヒルデデス。ドラゴンも大丈夫デス」

 

 ドラゴンの治療を続行しながら、ヒルデはドラゴンに文字を書く。

 

 書く文字は鎮痛。それで怪我がなくなるわけではないが、少なくとも怪我の痛みからはある程度解放される。

 

「大変だったなデス。でも、これで大丈夫デス」

 

 そう言ってなでるヒルデの目はとても優しげだった。

 

「まあ、使い魔ができないのは残念だけどデス。ま、変な化け物に襲われてる希少種を助けれたなら上出来です」

 

 にっこり笑いながら、ヒルデは聖光龍にほほ笑んだ。

 

 その姿を見た聖光龍は、その頭をヒルデにすりよせた。

 

「あれデス?」

 

 ・・・その光景を見て、その場にいる者は共通した思いを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・あ、懐かれた。

 

 

 



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第三話 お茶菓子持ってきたわよ~

流れるプールって、泳いで横に移動しようとすると流され続けて歩くより時間かかるんですよね。

子供のころ、泳いだ方が早いと思って親に怒られました。









プール編を書くにあたって、ふと思い出したのでつい書いちゃいました。皆さんもそんな経験ありませんか?


 

 

 

 

 それからはとんとん拍子だった。

 

 ヒルデに懐いた聖光龍はそのままとんとん拍子で使い魔の契約が終了した。

 

 それなりにレアな使い魔が手に入るとよかったが、まさかドラゴンになるとは思わなかった。

 

 そんなことを思いながら食後の紅茶をすすり、レヴィアは一息ついた。

 

 本来自分の年代では持てないような存在、アストルフォ。

 

 カレドヴルッフの使い手として、近接戦闘なら高い攻撃力を発揮する一夏。

 

 後付けという才能を発揮できない側であるのにもかかわらず、高い神器適正を発揮する蘭。

 

 そして独特な魔術を使い、ドラゴンを使い魔にする期待の逸材であるヒルデ。

 

 数こそ少ないが優秀な存在が集っている現状に、レヴィアは内心でほくそ笑む。

 

 これだけの優秀な人材を確保できる若手悪魔などそうはいない。

 

 特にレーティングゲームに積極的に参戦するつもりはないが、優秀な眷属を持っているというのは気分がいい。今後のことも考えると、自身の戦力拡充も魅力的だ。

 

 そういう意味では今後に期待が持てる布陣だろう。

 

「なんだか嬉しそうだね」

 

 自分の前の席で同じく紅茶を飲んでいる簪が、嬉しそうに見ながらそうほほ笑んだ。

 

「わかるかい? 実は結構楽しくなってきたよ」

 

「気分はトレーディングカードゲームでレアカードを集める感じかな」

 

「そこまでわかる? まあ、すごい人ばっかり集まってるからねぇ」

 

 思わず苦笑しながら紅茶を一口飲むと、簪はその顔を覗き込む。

 

「・・・レヴィアって結構悪だくみとかに向いてるかも」

 

 ちょっと反応に困る感想だが、しかし悪気は感じない。

 

 実際、自分の立場なら策略にも慣れた方がいいだろうし、そういう意味では正真正銘の褒め言葉だろう。

 

「これから大変なことになるだろうからね。まあ、戦力が増えるのは嬉しいことだよ」

 

 その返答に、簪の表情が僅かに曇る。

 

「やっぱり、IS学園(ここ)も巻き込まれる?」

 

 即答するのは避けたが、しかし答えねばならない質問が来た。

 

「可能性はあるだろうね。ああ、それを否定することはできないだろう」

 

 いくらなんでも学園のイベントとトラブルの発生が同期しすぎている。

 

 偶発的なクラス代表決定戦はともかく、IS学園でイベントになりそうな出来事全てに対してトラブルが頻発しすぎている。

 

 VTシステムはまだいい。アレは機体の損傷や搭乗者の精神状態が深く影響を受ける以上、戦闘でダメージを負うそのタイミングで影響を受けるのは当然だろう。

 

 だが他二つが問題だ。

 

 ISに対抗できる兵器の紹介と、ISコアの暴走。

 

 これまでに類を見ない出来事が、男性操縦者というこれまでに類を見ない存在が登場した年にイベントと同時に頻発する。

 

 直接関係があるかはともかくとして、二度あることは三度あると考えるべきだろう。

 

 この二つは、ともに下手をすれば多数の犠牲者を出しかねない騒ぎだった。

 

 それと同じことが自分達の側になっても起こると考えるのは当然だ。

 

「簪ちゃんも気をつけてね。たぶんだけど、これから世界は大きく動くから」

 

「うん。レヴィアも、気をつけて」

 

 素で返されて、少し戸惑ってしまった。

 

 すぐそばで見ていれば何度も思い知らされるが、簪は非常に魅力的な少女だ。

 

 油断すると魅了されそうになり、しかしレヴィアは気合を入れ直す。

 

 簪をこちら側に入れるのは、真剣に向き合ってのことでなければならない。

 

 元からこちら側だったアストルフォ。そうする以外にどうしようもなかった一夏と蘭。こちら側の事情をよく理解した上で来たヒルデはまあ問題ない。

 

 鈴もこちら側の事情に片足突っ込んでいるし、相応の知識も持っている。

 

 だが、彼女は違う。

 

 もし眷属に迎え入れるにしても、相応の時間が必要だろう。

 

 だから話をそらさなくてはいけないと思い、そしたら都合よく視界に都合のいい人物が映ってきた。

 

「ティータイムの簪ちゃんにお茶菓子持ってきたわよ~」

 

 ものすごいいい笑顔を浮かべながら、楯無がお皿の上に満載されたクッキーを片手にこちらに乱入した。

 

 簪に見えない位置で、的確にこちらに蹴りを入れてきたりするのは、本当に洒落にならない格闘センスだと思う。少なくとも、今の自分ではかわせない。

 

「はい。簪ちゃんにプレゼント」

 

「え、え、えっと・・・」

 

 ものすごい断りづらい笑顔で進める楯無の攻勢に、思わず簪は救助の視線をレヴィアに向けてきた。たぶんだが断る方向で持っていきたいようだ。

 

 とはいえ、せっかくの中のいい姉妹の関係構築を邪魔するつもりもない。

 

 ここは心理的ハードルを減らして取りやすくする方向で行こう。

 

「楯・無・会・長♪ 僕も食べたいな~」

 

「ええ、どうぞ好きなのを食べていいわよ?」

 

 許可が出たのでレヴィアは一つ取り、簪もそれにつられて一つ取った。

 

 簪がクッキーを一口食べて、その表情が好評化のそれに変わったのを見てから、レヴィアはそれを一口で放りこんだ。

 

 ・・・すごく、辛かった。

 

「どう簪ちゃん、美味しい?」

 

「う、うん。甘くておい・・・しい」

 

 戸惑いながらも確かに評価する簪の反応から見て、このクッキーが味音痴の産物ではないことを確信する。

 

 ためしにもう一つ取って、簪が食べるのと同じタイミングで食べてみた。

 

「あ、これもおいしい。・・・チョコだ」

 

 今度はワサビの風味がすごくした。

 

 視線を楯無の方に向けたら、ものすごい良い表情だった。

 

 もちろん好意的とかそういう意味ではなく、どちらかというと「ざまあみろ」である。

 

(ぼ、僕の思考を読んでピンポイントにロシアンルーレットを配置したというのか・・・!?)

 

 なんという才能の無駄遣い。

 

 この学園においての生徒会長とはすなわち超人だが、まさか心理的な方面においてもここまでとは。

 

 恐るべしIS学園生徒会長。恐るべし何代目か忘れたけど今の楯無。

 

 この才能の恐ろしさに戦慄しながら、しかしレヴィアは表情を崩さない。

 

 崩したら簪に影響があるはずだろう。それは避けたかった。

 

(我慢するんだレヴィア! これも更識姉妹の仲を取り持つため・・・!)

 

 レヴィアとしては、本来仲良くできる姉妹の仲を取り持つことはやぶさかではない。

 

 なんどか話をしていればよくわかる。簪はやはり楯無のことが大好きなのだ。

 

 ならばルームメイトとして一肌脱ごう。

 

 それに楯無には存在そのものが大迷惑といってもいい立場だからなおさらだ。楯無は誰が見てもシスコンなので方向性の問題もない。頑張って恩を売ろう嫌われてるし。

 

 そしてそのための手段もちゃんと用意している。

 

「あ、そういえば二人とも。今度親交を深めようと思うからプール行こうかと思っていてね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画は完璧だった。

 

 生徒会長とも親交を深めたいという理由なら、簪につられて楯無が来る可能性は十分にあった。

 

 さらに他のメンバーも連れての遊びだといえば、簪の精神的抵抗も減るから一石二鳥だと思った。

 

 だからいろいろとメンバーを連れて来たのだ。

 

 ただ、ラウラは一度部隊の方に顔を出すとのことで都合がつかず、アストルフォも冥界の方にいったん戻るということで都合がつかなかった。ヒルデも使い魔との親交を深めるために、聖光龍の故郷まで行ってみるとのことでタイミングが悪かった。

 

 蘭たちも招待したのだが、弾のほうが友達と一緒に遊ぶ用事があるとのことでコレそうにないとのことだ。美人をたくさん紹介してやろうと思ったのに残念である。

 

 そして一夏と鈴も別件で用事があるということで諦めたのだが・・・。

 

「まさか目的地が一緒だとはね。だったらもう少し踏み込むべきだったか」

 

 ウォーターワールド前で、ばったり一夏と鈴に合流してしまった。

 

「マジか。目的地が一緒なんだったら最初から一緒に行けばよかっ痛い痛い痛い!?」

 

 一夏がアホなことを言ったので即腕をひねり上げる。

 

「誰がどう見てもデートのお誘いでしょうがなんで分からないかな本当にもうこれならISの知識叩きこむあの一週間は女心叩きこむためのギャルゲー攻略週間にすればよかったよ本当にもう!!」

 

 一息で言い切りながらさらに腕を外す勢いで思いっきり引っ張り続ける。

 

 この男は鈍感という領域を通り越している。明らかに欠点以外の何物でもない。

 

 正直な話、彼がハーレムを作る分には一切構わないし問題がない。

 

 悪魔の業界ではハーレムなど異常ではないのだ。少なくとも、上級悪魔で複数の女性を囲っている悪魔はざらにいる。

 

 だから一夏が上級悪魔になればハーレムなど作り放題だ。そして下僕悪魔である今においても、積極的なレーティングゲームに参加しない自分は転生悪魔も積極的には増やしていないので、自分がちゃんと味見できれば駒に余裕がある限り迎え入れても一向に構わない。

 

 心情的には蘭が最優先だが、しかしそういうわけなので特に力づくで行動するわけではない。

 

 だが、ハーレムというのは構成人員におけるドロドロとしたものであってはならないと思う。

 

 みんな仲良く。これが一番だと思うわけだ。

 

 だから無自覚に惚れさせるのは頂けない。

 

 惚れさせるのならちゃんと人柄やその環境を理解させたうえで惚れさせるべきだ。そうでなければ血を見てしまうだろう。

 

 だからここはしっかりとシメておかねばならない。それが主としての務めだろう。

 

「くそ! せっかく二人きりでデートできると思ったのに!!」

 

「残念でしたわね鈴さん。・・・抜け駆けしようとした報いですわ」

 

「元気出してください鈴さん。・・・そうそう好きにはさせませんよ?」

 

 落ち込む鈴をフォローする振りして叩き落とすセシリアと蘭は放っておこう。

 

 そして本題は・・・。

 

「「・・・・・・」」

 

 あまりものという状態になり、お互いに話せず沈黙している更識姉妹だ。

 

 関節技をかけながらため息をつくという器用なまねをしながら、レヴィアはどうしようか考えていた。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プールで一同は思いっきりはしゃいでいた。

 

 蘭と鈴とセシリアが一夏を取り合って戦争状態になり、それを止めようとレヴィアがひと勝負提案し、流れるプール逆行水泳競争、十週勝負などという超ロング勝負が勃発し、今現在二週目に突入しようとしていた。

 

 最初は悪魔と魔法使いである蘭と鈴の一騎打ちになるかと思ったが、この騒動をある程度読んでいたレヴィアが監獄などで使われる封印用アイテムを使用してある程度是正。さらに他者強化系の魔法を使ってセシリアをブーストしたことでかなりいい勝負になっている。

 

 現在レヴィアが反則がないように移動しながらジャッジし、簪が最初の地点でゴールするのを見る形になっていた。

 

 最初はどちらかを自分がするといったのだが、

 

「変にブーストされて他の人に迷惑がかかったらダメだろ?」

 

 と、レヴィアに説得されたので諦めた。

 

 とりあえずもみあいに巻き込まれて疲れた心を癒そうと、ジュースを飲みながら一息つく。

 

 その背中に、明らかに柔らかい感触が二つ、くっついた。

 

「どぉう? 一夏君?」

 

「た、楯無さん!?」

 

 むにゅりと擬音をつけるべき感触が、むにゅむにゅと擬音をつけるべき動きでうごめいていた。

 

 ・・・かつての自分なら一切気にしなかっただろう。

 

 だが、女体をしる今の一夏にとってこれは刺激的すぎた。

 

 加えて言うと、一夏のしる女体とはつまりレヴィアと蘭である。

 

 まな板ド貧乳のレヴィアと第二次性徴期ちょっと前レベルの蘭ではすなわちサイズがハードというかスモールというか失礼な言い方になる感じであり、つまりデカさが足りない。

 

 反面楯無はむしろ巨乳の部類であり、ゆえにその感触は始めてのものだった。

 

「た、楯無さんはなれてください!? あ、あたってる!?」

 

「ん~? どこが当たってるのかな? お姉さんに言ってみて?」

 

 言えるわけがない。

 

 これはアレか、逆セクハラか。

 

 思わぬ事態に一夏は戦慄する。

 

「ねえ一夏くんどうしたの? お姉さんのあたってる部分ってどんな感じ? 最低でもセシリアちゃんよりかはあるから、一夏くんにはまたとない感触じゃない?」

 

 とても返答に困る。

 

「ちょ、ちょっと楯無さん!? 簪に言いつけますよ!!」

 

「・・・じゃあ一夏君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかしら」

 

 一瞬で離れた。

 

 どうやらピンチの時はこの手段が効果的なようだ。

 

 いささか男らしくない気もするが、最終手段として覚えておこう。

 

「ぶっちゃけ、レヴィアさんの弱点って無いかしら?」

 

 ・・・なるほど。そういうことか。

 

 いくら平和的に行動するとはいえ、レヴィアの存在はIS学園にとって目の上のたんこぶだ。

 

 自分の正体が知られれば三大勢力戦争再開の引き金にもなりかねないから来てくれたが、IS学園にとってはレヴィアも爆弾であることに変わりはない。

 

 正体が公表されている以上、それを狙った天使や堕天使の襲来は警戒しなければならないのだ。

 

 当然楯無は上からそう指示を受けているだろうし、直接排除しなくても排除するにおいて有利な状況を取っておくように言われているのかもしれない。

 

 レヴィアの弱みになるようなことを言うのは問題があるが、レヴィアなら、あえて自分の弱みを教えて敵意がないことを教えるだろう。

 

 なら自分が言っても問題はあるまい。

 

「基本的に冷気系の防御研究は一切してませんね。今の魔王レヴィアタンがそっち方面ですごいらしいんで、乗っ取る意思がないことを証明するためにわざと弱いままにしてます」

 

「ちょっとちょっとちょっと一夏君。そういう意味じゃないわよ」

 

 慌てた楯無に止められて、一夏は首をひねる。

 

 はて、何か間違っただろうか。

 

 確かにこれは決定打になるような弱点ではないが、それだともう何も言うことはない。

 

 防御特化型で他の能力は低めだといえばそれまでだが。そもそもレヴィアは基礎ステータスがかなり高めだ。これは弱点とは言わない。

 

 よくわからず頭を悩ませていると、楯無はちょっと簪の方に視線を向けてから、耳元に顔を寄せてきた。

 

「・・・もっと精神的な弱みのことよ。嫌がらせに使えそうな」

 




楯無流嫌がらせ術の全てを耐えきるレヴィア。

だてに耐久力特化型ではありません。


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第四話 レヴィアは楯無さんの味方ですよ

レヴィアは基本的に人格者ですが、しかし問題がないわけではありません。

一夏はそういうところも含めて理解者なのです。


 

 

「楯無さん。俺がそれ言うと思いますか?」

 

 一夏はどうしたものかと本気で思った。

 

 レヴィアはエロ方面において結構問題児だが、それでも立派な主だと思っている。

 

 正義感はあり責任感もあり、多くに人の面倒を見て、慈善団体にも多大な寄付を行う。

 

 エロ方面では非常にアグレッヴだが。だからと言って強姦とかをしているわけではないのだ。

 

 防御術式の儀式に関しても、当時の若かった一夏がレヴィアの色仕掛けに屈して、蘭はそれに乗せられたというのが近い。

 

 ・・・その後で、エロくなる御香とかたいて色々な道具まで使って自分達を攻め立てたが、合意の上ではある。

 

 本当に合意の上ではある。そのうえでこっちを流れに乗せてアグレッシヴに攻め立てるのだが。

 

 合意の上なのだ。こちらを口車に乗せるなど、合意させるためにかなりきわどいことをしてはいるが、本当の本当に合意の上だ。

 

 だから別に報復をするつもりはない。たいていの場合は落ち着いた蘭がしっかりしかるのでその気はない。

 

 まあそういう意味では問題があるが、基本的に敬愛しているし信頼している。大事な友人であり姉である主なのだ。

 

 だから、悪意をもって行動するのであるならばそれ相応の行動をとるつもりではある。

 

 思わず掴みかかりそうになるのをこらえながら、一夏は楯無を睨んだ。

 

「・・・あまり侮辱しないでくれませんか? 政治的な理由があるならともかく、それ以外の時で俺は基本的にあいつの味方だ。だてに戦車やってませんよ」

 

「・・・そんなに怒らないでよ。こっちだって本当に仕方がないんだから」

 

 頬を膨らませながら、楯無は視線を後ろに向ける。

 

 三週目に突入した三人を追いかけて、レヴィアが簪を通り過ぎる。

 

 だがその一瞬、確かに視線が交差していた。

 

 そしてレヴィアを見送る簪は、僅かに、しかし明確にわかる笑顔を浮かべていた。

 

「あんなに簪ちゃんに想われているのよ? 私が欲しくて欲しくて欲しくてたまらない簪ちゃんの信頼を、警戒しなきゃならない上級悪魔に取られてるのよ?」

 

 小さな声を漏らす楯無からは、明らかにどす黒いオーラが漏れていた。

 

 というか血涙を流している。

 

 美人ゆえに声をかけようとした男たちが、その様子を見て慌てて下がっていく。

 

「お願い一夏君! 殺気ぶつけたり後ろから針なげて攻撃したり足元にバナナの皮こっそり置いたりすれ違いざまに足出したりしても全部さばかれるのよ!」

 

 肩をがっしりと掴まれて、ものすごい形相で見据えられる。

 

 美人が台無しだ。正直に言って非常に怖い。

 

「しかも分かってるはずなのに一切告げ口も報復もしてこないし! 先日なんて激マズお菓子を食べさせたのに平然と平らげるし! どうすればいいの!!」

 

 ・・・ここは制裁するのが眷属悪魔としての正しい行動な気がしてきた。

 

 とはいえ、それはやっぱりできないだろう。

 

 だって・・・。

 

「やめときましょうよ楯無さん。レヴィアは楯無さんの味方ですよ。心情的にも」

 

 レヴィアはそれを望んでいない。

 

「・・・あんなに簪ちゃんといちゃいちゃしてるのに?」

 

「だって簪に告げ口してないんでしょ? それって、そんなこと言ったら簪に知られて楯無さんが嫌われるからですよ」

 

 どうせそういうことなのだろう。

 

 レヴィアは別に味音痴というわけではない。

 

 一夏が中学の時は結構安売りのカップラーメンとか食べてアストルフォがたしなめていたが、別にゲテモノ好きでもない。

 

 料理は上手いし行きつけの店は値段以上の味の店ばかりだ。

 

 蘭の家によく言っていたのも、彼女の舌がその味を認めていたからだ。

 

 だから当然その攻撃で大ダメージを喰らっていたはずで、しかし決して表に出さなかったのだ。

 

 出したら、間違いなく目の前にいたであろう簪が気づく。そんなことをしたら簪は楯無を恨むだろう。

 

 それがいやだったから、レヴィアは一生懸命耐えたのだ。

 

「・・・なんで、そこまで気を使うのよ」

 

 まあ、そういう風に思われるのは当然だろう。

 

 一方的に嫉妬心で嫌がらせを受けているのは当然なのだ。普通は報復するだろう。

 

 そして、それもよくわかっている。

 

「レヴィアって、信念に殉じちゃう性格なんですよ」

 

 殉じるではなく、殉じちゃう。

 

 意識して行うのではなく、心のままに湧き出る衝動として存在する。

 

 特権階級は特権に見合う実力をもち責任を果たすべき。

 

 その信条に従い、レヴィアはそうしていない旧魔王派から離脱し、特権を不用意には使わず、そして振るえるだけの存在になるべく努力を重ねていた。

 

 そして、そういった存在を心底嫌悪し、そういった存在に対して敵対することをいとわず、そういった存在になる人が少なくなるよう、身を以って誇り高い姿を見せているほど徹底している。

 

 そういう心情である存在がレヴィアであり、しかしそれゆえにその信条に引っ張られるのがレヴィアなのだ。

 

「・・・実の両親や兄妹のことが、生理的に受け付けられないぐらい嫌いだって言ってました」

 

 複雑な感情でもなく、内心では動向とかではなく、本当に純粋に心の底から親を嫌悪する。

 

 レヴィアが昔のことをしゃべる時のことを思い出す限り、レヴィアの家族はレヴィアには優しく接していたと思う。

 

 それでも嫌いにしかなれない。子としての感情を持つことができない。

 

 そのことをレヴィアはなんてことのないように言っているし、自分の親を嫌悪しているという意味では一夏も同じだ。

 

 同じだからこそ、レヴィアの気持ちがよくわかる。

 

 楯無と簪は肉親同士で、そして嫌いあっているわけではないのだ。

 

「二人は仲良くなれるじゃないですか。だからレヴィアは仲悪くさせたくないんですよ」

 

 肉親同士仲良くできるなら、それに越したことはないのだから。

 

「だから、レヴィアに嫌がらせするぐらいなら、自分もレヴィアに甘えるぐらいでいいと思いますよ。アイツ、たぶん楯無さんのこと嫌ってないですし」

 

 実際楯無をレヴィアは高評価しているだろう。

 

 生徒最強こそが生徒会長の条件。

 

 それは最強であるという責務を常に背負うということであり、少なくとも楯無はその名に恥じない実力を示している。

 

 その在り方はレヴィアにとって評価に値する物のはずだし、そういう意味ではIS学園の生徒会長とはレヴィアにとって好意を向ける立場だろう。

 

「・・・・・・・・」

 

 なんとも言えない表情で、楯無は蘭達を追うレヴィアに視線を向ける。

 

 いま彼女は何を思っているのだろう。

 

 できれば、レヴィアに良い感情を向けていればいいのだが。

 

 そう思っていたら、どこからかざわめきが聞こえてくる。

 

『・・・より、水上ペアタッグ障害物レース。参加受け付けは間もなく終了となります』

 

 どうやらイベントがあるらしい。

 

 しかし障害物レースとはまた大がかりな物をする。

 

 まあ、自分達にとっては関係なことと思い、レースの結果を想像して―

 

『優勝賞品は、沖縄旅行ペアチケットです!』

 

 とてつもなく、嫌な予感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、記念すべき第一回ウォーターワールドペアタッグ、水上障害物競争が始まろうとしています!』

 

 司会の女性が大きな声を張り上げ、プール中にいる人々が大歓声をわきあげた。

 

『エントリーで多少トラブルがあり、開始時間が遅れたことについてはお詫びいたします。その代わり、試合は白熱することをお約束いたします!!』

 

 苦笑交じりの司会の声を聞き流しながら、多くの女性と少数の男性が、タッグを組んで開始の時を待っていた。

 

 ちなみにトラブルとは、「空気読め」という無言のプレッシャーで男を追い返そうとした受付嬢に対し、「そのような事がしたいなら、最初に女性限定とつけろ理不尽だろう」とレヴィアがプレッシャーを返して失神させたことに対するトラブルである。

 

 おかげで30分も遅れてしまったが、その分参加者のバリエーションには富んでいるだろう。

 

 その中でも、特に強烈なオーラを放つ者たちも存在する。

 

 第一候補、鈴&セシリアペア。

 

 急激に上昇したテンションでエントリーしようとした二人は、相手のことを忘れていたことに気が付き、お互いをパートナーとすることで乗り切っていた。

 

「あたし達が組む以上、優勝は確実ね」

 

「ええ、どう勝利するのかに重点を置くべきですわね」

 

 代表候補生としてのレベルの高さに裏打ちされ、幾度となく模擬戦を行い動きの癖も把握している優勝候補だ。

 

((その後でこの女を何とかすれば・・・))

 

 ただし心理的には最大の敵同士なので、空中分解する可能性が非常に高いが。

 

 第二候補、レヴィア・蘭ペア。

 

 鈴とセシリアとは違い、タッグを組む相手のことも考えて冷静に思考した蘭は、レヴィアという最強戦力を選び取った。

 

 レヴィアも蘭を優先しているので、二人に沖縄旅行をプレゼントしようと割と本気である。

 

「安心してくれ蘭ちゃん。IS学園という壁によって時間がとれない分、アバンチュールで挽回させてあげよう」

 

「はい! レヴィアさん!!」

 

 やる気を出している蘭は神器の影響すら出して本気を出している。

 

 ちなみに割と本気で反則のような気もするが、蘭が持つ身体強化系の神器は性能を引き出しているだけで区分で言うなら一般社会レベルの代物でしかないので、レヴィアは黙認していた。

 

 三人の水泳のときには蘭はあえて封印していたのだが、現金なものである。目の前にえさがぶら下がられていると人はここまで醜くなれるのだろう。

 

 そして、それをずるいと思う物は確かに存在していた。

 

「いや、蘭ずるいだろ!? 明らかに神器のオーラ出てるぞ!? 止めないと―」

 

「いいじゃない。蘭ちゃんのアレは個人の才能レベルだから問題ないわよ。私達が本気を出すならいいハンデだわ」

 

 第三候補、一夏&楯無ペア

 

「「「「・・・え?」」」」

 

 その事実に気付き、約四名が勢いよく振り返った。

 

 楯無と、一夏がタッグを組んでいた。

 

「い、い、い、一夏さん!? どういうことですの!?」

 

 セシリアの絶叫も仕方がないだろう。

 

 朴念仁の極みである一夏が、まさかこんなタイミングで、よりにも寄って楯無と一緒に出てくるとは思ってもみなかった。

 

「・・・へえ、これはつまり、巨乳にほだされたってことでいいのかしらぁ?」

 

 一夏のシスコンぶりから、実は一夏は年上趣味ではないのかと怪しんでいた鈴は割と殺意をたぎらせている。

 

 この障害物競走、プールの上ではなく血の海の上でやることになるかもしれない。

 

「いや、楯無さんがアナウンス聞いたとたんに土下座で頼み込んできて」

 

「有用な戦力を自軍に引き込むのは当然のことよ」

 

 楯無はその立派な胸を張って断言する。

 

「な、何が目的ですか! まさかあなたも一夏さんを・・・!?」

 

 想定外の乱入者に、蘭が警戒心をあらわにする。

 

 ただでさえハイスペックぞろいの一夏争奪戦において、スタイルにおけるぶっちぎりトップの乱入は極めて避けたい。

 

 だが、楯無は静かに首を振った。

 

「想像力が貧困ね。誰もが一夏君にメロメロになると思ったら大間違いよ」

 

「・・・そういうことか」

 

 レヴィアはその事情を察した。

 

「狙いは簪ちゃんだね!?」

 

 簪との仲を修復するために、この旅行を利用しようというのだろう。

 

「その通り! あなたと簪ちゃんを旅行に行かせるためよ!!」

 

 微妙に外れていた。

 

「・・・え?」

 

「何を驚いているのかしら? 簪ちゃんのためならば、私は火の中水の中よ!」

 

 一瞬何を考えているのかわからなかったレヴィアだが、しかし楯無の目が本気なのはよくわかった。

 

 あれだけ徹底的に陰湿な嫌がらせを繰り広げていたにもかかわらず、明らかに手のひら返しどころではない。

 

 一言言おう。

 

 どうしてこうなった。

 

「私は目が覚めたわ。簪ちゃんを魅了するあなたを排除するのではなく、そのおぜん立てを整えることこそ姉である私の使命! そのためにも学園最強の力を全力で使わせてもらうわ!!」

 

「一夏君! 生徒会長が壊れたんだけどなぜかわかる!?」

 

「分かるけど俺も想定外だよ!!」

 

 どうやら一夏が一枚かんでいるようだ。

 

 後でしっかり話を聞くことにするとして、しかしレヴィアは真っ向から対峙する。

 

 どちらにせよ優勝するのはこちらなのだ。その願望は叶わないということを示してやればいい。

 

「・・・良いだろう。あなたが勝利した暁には、その沖縄旅行確かに簪ちゃんと一緒に行こう!!」

 

「その言葉に偽りはないわね。簪ちゃん喜んで! レヴィアさんと沖縄旅行よ!!」

 

「あまりこちらを忘れないでくれませんか? 沖縄旅行にいくのはわたくしですわ!!」

 

「そう、このあたしが沖縄旅行を手にするのよ!」

 

「散々IS学園で一緒にいておきながらそうきますか! なら私も全力で行かせていただきます!!」

 

 燃え上がる少女たちのオーラが全体へと伝播し、まるで触発されるかのように他の参加者たちも闘志を燃やし始める。

 

「・・・どうしてこうなったんだぁあああああ!!」

 

 土下座にほだされて参加するんじゃなかったと、一夏は心から後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日のニュースです。

 

 今日午後三時ごろ、ウォーターワールドで行われたイベントで多数のけが人が発生。救急車が多数急行する騒ぎになりました。

 

 沖縄旅行を商品とした障害物レースとのことですが、途中で本格的な格闘戦による乱闘、足場となるフロートの崩壊などが頻発、さらにゴールに同時に飛び込もうとして衝突する人物が複数発生し、レースは中断となった模様です。

 

 参加者の中にはIS代表候補生が数人、さらに国家代表と男性操縦者まで参加していたとのことで、警察では彼らに触発された参加者のテンションが急上昇して、正常な判断能力を失ったものとして捜査を進めています。

 

 幸い死者は出ていませんが、入院の必要があるほどの怪我を負った者も数人確認されており、ウォーターワールドはこの事態を反省し、今後商品を賭けた参加者を募集するスポーツ系イベントは行わないことにすることを発表いたしました。

 

 参加していなかった観客の方の話によると、「姉が変なテンションになったのが原因でごめんなさい」と発言しており、因果関係について詳しく調べていくとのことです。

 

 なお、先ほど申し上げました代表候補生たちは全員ゴール前での衝突に巻き込まれており、今なお意識は戻っていないとのことです。

 



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第五話 さあ、仕事だ!!

か、会長の暴走にばっかり視線がいって、結構目玉のつもりだったレヴィアの気の使いかたの方が注目されない!?

小説書くのって難しいなぁ・・・。


 

「お姉さま、そういえば悪魔は人間と契約すると言っていたな」

 

「そうだけど、それがどうかしたのかい?」

 

 昼食にドイツ料理を食べようと思い、ラウラを誘ったレヴィアは、食事の場でそんな質問をされた。

 

 肉の蒸し煮をかみしめながら、レヴィアはこの妹分の言葉に首をかしげた。

 

「・・・近年軍部においていろいろと面倒なことが起きていてな」

 

「・・・また物騒な話になってきたね」

 

 ラウラの言葉をまとめるとこういうことになる。

 

 ドイツのIS研究施設などで、強奪目的の襲撃が数度にわたり発生しているという。

 

 しかも、諜報部が掴んでいる情報によると、世界各国で同様の事件が頻発しているらしい。

 

 そのせいでISを所有する軍事部隊においてはいろいろと面倒事が頻発しているとのことだ。

 

「そのせいで雑用に追われることが多くてな。・・・機密保持がちゃんとできるなら私の方からクラリッサ達に紹介することも考えているのだ」

 

「なるほどねぇ。と、なればまずは現地を調べての担当の悪魔と渡りをつけたほうがいいかな」

 

 レヴィアの脳内で、速やかにドイツ方面で活動している悪魔の情報が展開される。

 

 科学万能主義ゆえに悪魔の活動にはある程度の支障がある。この状況を利用して軍部関係など科学がメインの場所で活動を行うことができれば、非常に便利になるのは目に見えている。

 

「まあ情報漏えいは心配しなくていいよ。さすがに重大機密に関与するのは不味いけど、大体契約活動を行う悪魔はそう言ったことは守るから」

 

「そうか。しかし悪魔というのはどういう風に仕事をするのだろうな」

 

 興味本位の一言だったのだろうが、しかしレヴィアの脳裏に閃くことがあった。

 

 悪魔としての活動はそこそこやっているが、こういうのは個人的な用事も多いので成果でしか評価されないことが多い。

 

 客観的に見ることで、それとはまた違った刺激になるのではないか・・・?

 

「・・・じゃあ、今度見てみるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うことでちょっと見学させてもかまいませんか?」

 

「おう! レヴィアの姉ちゃんにはいつも世話になってるからな! 邪魔しなけりゃ構わねえぜ!!」

 

 依頼主からの承諾はとれた。

 

 レヴィアはその答えに満足し、そして後ろを振り返った。

 

「じゃあそういうことで。今回の仕事はまあよくやってる集団行動だけど人の目があるんだから、気合を入れ直してやってみようか」

 

「「「はい!」」」

 

「了解」

 

 レヴィアの言葉に四人は頷く。

 

 今、レヴィアは一つの工事現場に来ていた。

 

 工事現場とは言っても、その範囲は広大だ。

 

 大型の箱モノのアミューズメント施設の建設現場。

 

 これまでにも何度か似たような物の建設に関与している会社で、その現場の担当者とは何度も付き合いがある。

 

 色々と大規模な行動の手伝いだからか、こちらも眷属総出で動くことが多い。

 

 今回は、つまりそういうことだ。

 

「昼間からでも仕事をするのか。意外だな」

 

「まあまれにそういうことがあるわけでね。タイミングが悪くてこういうイレギュラーなことしかできなかったんだよ」

 

 妙なところで感心するラウラに、レヴィアは肩をすくめる。

 

 こういった仕事は珍しい方だが、しかしだからと言ってそういったえり好みをするつもりはない。

 

 えり好みするのは人道に反する時ぐらいだ。そうでないなら、可能な限り遂行する。その分ちゃんと正統な報酬はもらうので文句はない。

 

 そして、乗り気になれる仕事ならば本気を出せる。

 

「さあ、仕事だ!! 元気出していくよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・意外だな」

 

 一夏の仕事ぶりをみて、ラウラはそう感想を漏らした。

 

「まあ、そうだよなぁ」

 

 一夏としては苦笑交じりにそう答えるしかない。

 

 今一夏がやっているのは昼食の準備だ。

 

 野菜の皮をむき、手早く材料を刻み、さっと湯に通して下ごしらえを終える。

 

 こういう場所では弁当が出るのが基本だが、やはり人は美味しい物を望むのが基本だ。

 

 ゆえに材料を持ち込んでもらって一夏がそれを料理する。

 

 家事ができる男の本領発揮だった。

 

 加えて言えば、この後レヴィアも本格的な料理に協力する予定だ。

 

 今レヴィアはコンテナハウスの清掃を行い、アストルフォは故障した機材の修理をしている。

 

 何気にレヴィアは女子力が高い。あとアストルフォは万能すぎる気がする。どこでそんな技量を覚えたのか本気で気になる。

 

 そして蘭が一番働いていた。

 

「・・・意外と力持ちなのだな、蘭は」

 

「俺と違って正統派戦車だからなぁ。・・・はっきり言って眷属内で一番怪力だよ、蘭」

 

 ラウラの言葉を聞きながら、視線を少し外側に向けた先には―

 

「あ、コレ向こう側に運べばいいんですね? じゃ、急ぎます」

 

 鉄骨を数本まとめて軽々と運んでいる蘭の姿があった。

 

「鈴もすごかったが蘭もすごいな。あれほどの量を一度に運べる者など私の部隊にもいないだろう」

 

「・・・俺もあの速さだと三分の一が限界かな」

 

 ものすごく男として情けなくなってくるが、実は一夏は単純な筋力なら眷属ないでもかなり低い。

 

 魔力を無駄に使うことで補えるレヴィアと、そもそも年期が違いすぎるアストルフォはまだいいだろう。

 

 ただ、蘭の場合は見ているとすっごく精神的に落ち込む。自分と違って戦車の特性をしっかり生かしている上に、身体能力強化タイプの神器を二つも持っている挙句両方とも禁手というのがもはやハメ技に近い。アームレスリングとかやったら眷属内でぶっちぎりトップだ。一度おやつ賭けて勝負したら、蘭の総取りだった。

 

 最近はいってきたヒルデのおかげでビリではないからだいぶ気分的にはマシだが、しかし彼女は純正サポートタイプなのでそれはそれでどうだろうという気分になってしまう。

 

 カレドヴルッフを戦闘の根幹に選んだことは一切後悔していないが、さすがに日常においてはちょっと劣等感が出てしまうのは情けないところだ。

 

 いや、こういうことを考えていることこそ未熟の証だ。気合を入れ直せ織斑一夏。

 

 ラウラと一緒に野菜を切りながら、ついでに今日の夕食のこととかを真剣に考えつつ意識を仕事へと切り替える。

 

「・・・しかしお姉さまはこういうところで慰安婦とかをするものだとばかり思ったのだが、違うのだな」

 

 そのタイミングでこんなことを言われ、つい包丁がすっぽ抜けた。

 

「・・・一通りの飲み物に「冷却」の文字書き終えたのデ―」

 

 丁度雑用を終えて顔を出したヒルデのほおの左五ミリ先を通り過ぎて、そのまま壁に包丁が突きたった。

 

「危なぁ!? ちょ、一夏なにするデス!?」

 

「わ、悪ぃ! 今とんでもないこと聞いちゃって力ぬけた!!」

 

 あわや大惨事だった。

 

「ちょ、ラウラお前何言ってんだよ!?」

 

「いや、お姉さまはそう言ったことに対して奔放なのだろう? だったら契約でもそういう方面を中心にしているのだとばかり思ったのだが?」

 

「・・・そういえばレヴィアさんってエロいことで契約とか取ってないのかデス?」

 

 言われてみると非常に納得してしまうことを言われてしまう。ヒルデまで同意見なのがどうしたものか。

 

「いや、確かにあいつ基本的にエロいし、エロアニメとかこっそり見てるし、一度真剣にAVデビューしたいとか言ってるし、何より家系の中に淫魔の類も混ざってるらしいからそういうイメージはあるけどさぁ」

 

 だからと言って誰にでも股を開くわけではない。

 

 これでも苦労しているのだ。レヴィアがネットでエロ画像配信従ったりするのを止めるのはかつてはまれにあったわけで、それを「貴族がやることじゃない」と言って総出で止めたのはアレな思い出だ。

 

 実際そういうことをしていないわけではないが、それだってそういう水商売的な奴ではない。

 

 どう説明したらいいものかと思った矢先、その視界にレヴィアの姿が映る。

 

「あ、一夏君! ちょっと今夜一仕事ありそうだよ」

 

 その言葉に、一夏はある意味さらに反論しずらい展開になったことを察知した。

 




意外と仕事はマジメな方向であるレヴィア。

ちなみに、仕事の傾向は以下のとおり。

レヴィア・・・上級悪魔なので大物の依頼が大きい。原作で言うならばリアスのような、呪いの品の解呪などといった派手な一件。

一夏・・・ポテンシャルがフルに発揮される家事手伝い系。ボディガードなどもたまに。

蘭・・・肉体労働系とコスプレ撮影系が半々。

アストルフォ・・・バリエーション豊富。機械の修理からデスクワークの手伝い、さらに護衛から行方不明者の探索まで様々。

ヒルデはまだなりたてなので傾向は固定されてない。


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第六話 これからも同僚としてよろしくデス

長らくお待たせいたしましたぁ


 

 

 深夜、一台の車の中でひと組の男女が絡み合っていた。

 

「・・・そういえば、あの子たちどうなるんだろうな?」

 

 言葉だけをとれば心配しているかのようにも見えるが、口調はほとんど無関心といってもいい。

 

 その言葉を聞いて、女の方が意地の悪い笑顔を浮かべる。

 

 一見して少女といっていい年齢だが、まるで長い年月を生きていたかのような余裕がそこにはあった。

 

「別にええやん。本気で愛しおうとるなら、あんなことあってもくっつくやろ、兄さん?」

 

「辛辣だなぁ」

 

 呆れる兄の言葉に、少女の表情が鋭く変わる。

 

 それは嫌悪だった。

 

「ウチら兄妹が人様に認められん関係で苦労しとるのに、あの二人は幼馴染とか誰がどう見てもくっつける関係なんに、18年もあんなやろ。・・・みててむかつくかんなぁ」

 

 心底いい気味だといわんばかりに笑い始める妹の姿に、兄の方は苦笑を返すしかない。

 

「まあ、俺が言えた義理じゃないけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは! まったくだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、誰や!?」

 

 慌てて車から飛び出した少女の視界に映ったのは、複数名の影。

 

「一つ。人の世の、生き血をすすり」

 

 なぜか声に感情が乗ってない寡黙そうなフードとマスクとサングラスの、非常に怪しい男。

 

「ふ、二つ! 不埒な悪行三昧!!」

 

 やけに恥ずかしそうにしているフルフェイスヘルメットの少女。

 

 そして三人目。

 

「三つ、醜い浮世の鬼を退治してくれよう! 上級悪魔セーラ・レヴィアタンと愉快な仲間達推参!」

 

 どこかのタキシードな人がつけるような仮面をつけた赤い髪の女性が派手なポージングをつけて集合していた。

 

「上級悪魔セーラ・レヴィアタン!? 現政権に与しとるっちゅう悪魔がなんでうちらに用があんねん!?」

 

「はっはっは! 実はたまたま仕事である男の子とお近づきになってねぇ? ちょっと気になったのでいろいろと話を聞いたら何やら変なことになってるじゃないか?」

 

 その言葉に兄妹が痛いところをつかれたかのような反応を返す。

 

「なんでも女の子に家に来てほしいと誘われたら眠らされて、起きたらマジックミラー越しに椅子にくくりつけられて、その女の子の兄と幼馴染がまぐ割っている光景を見せられたとかぁ?」

 

 口調は愉快そうに言っているが、レヴィアは割と本気で怒りのオーラを垂れ流していた。

 

「しかもその幼馴染はその男の子の好意をいまさらながらに自覚したとかいてたみたいだねぇ? いやぁ世の中にはエロ同人みたいな展開が本当にあるもんだよねぇ。これで僕10回目ぐらいだよ」

 

 ここで観客がいたらこういうだろう。

 

 多い!

 

 エロい悪魔だからエロい展開に巻き込まれやすいのか、それともエロい展開に巻き込まれやすい運命だったからエロい悪魔になったのか。

 

 まあそんなことはレヴィアにはどうでもよく、しかし看過できない自体ではあった。

 

 レヴィアははっきりこう思っている。

 

 エロいことは気持ちよくやるべきだ。

 

 エロいことで気持ち良くなることはもちろんのこと、それは周りにとっても気持ち良くなれればいいだろうし、少なくともその行為によって気持ちよくなれない展開になることだけは絶対にあってはならない。

 

 ゆえに鬼畜エロゲみたいな展開など断固反対だし、そういう展開が起きているのだと知れば、権力相応に使ってでも叩き潰す。

 

 そして、ゆえに鬼畜展開などを知ればフォローのためにアフターサービスなど毎回行っている。

 

 工事現場でやけに暗い少年を見つけて何とか話を聞きだしてみたらこの状況。瞬時に行動を決意したのはらしいというかなんというか。

 

「・・・は! それで上手くいかないんやったらそいつらが所詮そこまでやってことやろうが! そこはどないするつもりや?」

 

「これだから馬鹿は困る。・・・世の中みんな愛だけあれば進んでられるほど一直線じゃないんだよ。そういう連中の心情を理解できないような低能が、偉そうなことを言ってもらっては困るね」

 

 相手の反論を鼻で笑い、レヴィアはやれやれと肩をすくめる。

 

「実力がある物は実力がないものを指導し導くのは当然だろう。・・・エロをつかさどる者として、これから一週間ぐらいかけてそんなの気にならないぐらいエロに忠実かつ卓越した人物に鍛え上げるから問題ないけどね!」

 

「それ調教だろ!? 俺があの子にしたことと大差ないと思うんだが!?」

 

「何を言う。トラウマ克服のための治療法の一環といってほしいね」

 

 左右の人物が何とも言えない表情でレヴィアを見るが、レヴィアは一切気にしない。

 

 そういうことを気にしない人物にすればこの手の問題の大半は解決する。エロとはすなわちジャスティス。そういう心情で行動した方がこういうときは有効なのだと、レヴィアは確信している。

 

 後ろで眷属が何やら深いため息をついてるが、とりあえず気にしないことにしておく。

 

 ゆえに、最初にやっておくことはただ一つ。

 

「まずはおいたがすぎる近親相姦どもにお仕置きタイムだ。・・・将来下手なちょっかいを与えられないように、しっかりと弱みも握っておこう」

 

 カメラを片手に、レヴィアは冷徹な声を響かせた。

 

「ああ、恐喝行為は嫌いだからされたら僕に伝えてくれ。ちゃんと真偽を確認して、事実だったら制裁を加えておこう。・・・もっとも、不可侵のための防壁に使用する限り僕は何もしないが」

 

 断言しながら一歩を踏み、しかしその兄妹はあきらめない。

 

「な、なめんなや! アンタのこと知っとるっちゅうことは、ウチらもこっち側やってことを忘れとらんか!!」

 

 少女が印を組むと同時に、周囲の道路が盛り上がり、泥の人形となってレヴィア達を囲む。

 

 さらに男の方も腕を一振りすると、そこから白い炎がわきあがった。

 

 ・・・数秒後、周囲が崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「手加減してるな、三人とも」

 

 想像以上の激戦を見ながら、一夏はそう呟いた。

 

「確かに、お姉さまならあの程度の攻撃意にも介さないだろうな」

 

「というかジーコン自体上位ランクデス。アレが相手にならない化け物が最低でも二人いるのに勝ち目は普通ないデス」

 

 缶ジュース片手に、ラウラとヒルデもそう呟く。

 

 実際その通りだろう。

 

 旧魔王血族として恥じない実力を持つレヴィア。

 

 禁手状態の赤龍帝を単独で瞬殺するアストルフォ。

 

 禁手を五つも保有している蘭。

 

 正直、ネームバリューなら一夏とヒルデが霞むようなメンツだ。圧倒するぐらい簡単だろう。

 

 それをしない理由は簡単。

 

「まあ、派手に暴れたら後始末が大変だからなぁ」

 

 レヴィアクラスの実力者が本気で暴れれば、それは爆撃機が町中で武装を乱射するようなものだ。

 

 必然的に戦闘はある程度気を使う必要があり、それゆえに手加減する必要は存在する。

 

 しかし決して油断はしない。

 

 一夏たちを後詰にちゃんとおいているのが証拠だろう。

 

 本来なら、専用機を持つなど、知名度が非常に高い一夏やらラウラやらヒルデをこの近くに連れていくのは避けるべきだ。

 

 しかしあえて万が一の事態を考えて用意しておくあたり、相応に警戒していることが目に見えた。

 

「っていうか、なんでエロ漫画みたいな出来事に巻き込まれてるデス?」

 

「いや、これがまた意外と多くてさぁ」

 

 ヒルデの疑問ももっともなのだが、こればっかりは天運というほかない。

 

 基本的にはレヴィアはまっとうに悪魔の仕事をしているのだが、時おりこういった事態に巻き込まれることがある。

 

 正直、中学生だった一夏や、小学生だった蘭の精神衛生上非常に悪いとは思っているのだが、いかんせんもう慣れてしまった。

 

 実際やることはやってしまっているので今更である。もうここまで汚れてしまったのならいっそ開き直った方が良いのかもしれない。

 

 それに確かに黙ってみていていいようなことでもないので仕方がない。

 

 まあ取り合えず。これであくどい行動をしている連中を懲らしめて、再犯をさせないことを約束させることができるのなら意味もあるだろう。

 

「・・・でもまあ、ほんとよかったデス」

 

 そんなことを、ヒルデはつぶやいた。

 

「どうしたんだ、いきなり」

 

「いや、レヴィアさんが正義感ある人でよかったと思ってデス」

 

 ヒルデは戦闘を続けるレヴィアを眺めながら、ふと微笑んだ。

 

「今の世界って色々あるじゃないかデス。神話も宗教もにらみ合いで、人間社会もいろいろと歪んでるデス」

 

「・・・そういうものなのか?」

 

 異形のほうにはあまり詳しくないラウラは首をかしげるが、確かにそういうものだ。

 

 ISの登場で女尊男碑が進んだ人間社会。

 

 神話業界も当然混乱状態だ。三大勢力のにらみ合いはもちろんのこと、各神話体系との関係も微妙で、隙を見せれば戦争勃発の可能性は十分にある。加えて言えば、悪魔業界はジーコンのような旧魔王派がいる以上悪影響はもちろんある。

 

「だから、そういうことちゃんと考えてくれる人のところで働きたかったデス」

 

「なるほどな。そういう意味じゃあ、レヴィアは及第点か」

 

 何しろ、魔王の血族としてふさわしい行動をしたいと思って実家を出奔するような女である。

 

 当然魔王血族として冥界のことを真剣に考えて行動してるので、そういう意味では合格圏内だろう。

 

「ハイデス! 眷属になって正解だったデス!」

 

 そういうヒルデの視線の先では、ついにレヴィアが下手人を叩きのめしてガッツポーズをとっていた。

 

「そういうわけで、これからも同僚としてよろしくデス」

 

 その笑顔がまぶしくて、思わず一夏は目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おかげで彼女とも楽しく快楽を共有できて生活は最高です。今度映像を送るのでぜひ感想をお願いしますか。いやぁ、よかったよかっブホッ!?」

 

「よくねえよ!!」

 

 つい主《レヴィア》を殴り飛ばしてしまった自分は悪くないと、一夏は確信した。

 

「完全に変態になってるじゃねえか!! なにやったレヴィア! いや、マジでなにやってんだよ!!」

 

「いや、見られたこととか気にするなら、いっそのこと見られたりすることを楽しむ性癖にすれば問題ないと・・・」

 

「別の意味で問題がありまくりだろうが!!」

 

 つくづくこの主は致命的な弱点がある。

 

「まあいいじゃないか。これで見ててほんわかするようなありきたりだけど価値のあるラブコメが一つ再開するわけで。僕らが人働きする価値は十分にあったと思うよ?」

 

「まあ、それはそれでいいことなんだけどさぁ」

 

 それでも大概うまく回ってしまうのが困りものだ。

 

「・・・おお嫁にお姉さま! 悪魔の仕事の件なのだが、もしよければ普通の仕事も見せてくれると参考になるのだがいいだろうか?」

 

「やあラウラちゃん。・・・そういえばあれは特殊な例だから参考にはしずらいか」

 

「レヴィア、話そらすな。ラウラもちょっと取り込んでるから後にしてくれないか?」

 

 とはいえ、決して失敗がなかったわけではない。

 

 あれは感謝しているが、彼女が心から気にしてることは変わりない。

 

「あ、レヴィアさん! 先日のあれが忘れられないので今夜ちょっとお願いするデス」

 

「あ、OKOK。じゃあ今夜ね」

 

「ほほう。何のことだか知らないが、それほど素晴らしいものなら私も一度体験して―」

 

「だめだラウラ!! ヒルデも内容を言わなけりゃいいってもんじゃない! あとレヴィアは少し黙れ!!」

 

 だから、困ったところも多いが支えていこう。

 

「・・・とりあえず! ちょっとレヴィアは俺と話しようか、な!!」

 

 ・・・やるだけやろう。

 

 

 

 




・・・R18にしたほうがいいだろうか?


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第七話 それも過去のことだ

ちょっと六話があれだったので、続けていきます。


 金糸による刺繍が施された白い衣に朱の袴。さらに金の飾りをまとった美しい少女が静かに舞う。

 

 鈴のついた扇と刀が弧を描き、静かになる鈴の音が神々しさすら感じさせる。

 

 その場には多くの者がいて、しかしざわめきは一切聞こえない。

 

 それはまさしく神にささげられる舞であり、

 

 扇はまるで風に舞う木の葉のように軽やかに、しかし確かな意思を感じさせる意味のある動きをとる。

 

 刀は鋭く、叱り美しい曲線を描いて振るわれ、空を切っているのにもかかわらず、何かを切り裂くかのような幻影を見るものに感じさせる。

 

「・・・・・・」

 

 一夏はその光景をみて息をのむ。

 

 目の前にいるのは、幼馴染の箒のはずだが、まるで別人のように感じさせる。

 

 以前の、なんというか感情的だった彼女が冷静な大人の雰囲気を感じさせるIS学園での姿も見違えた感覚だったが、この舞を踊る箒の姿も、今までにないものを感じさせる。

 

 女の味を知ったからこそ分かる、幼馴染の女としての魅力を隠すことなく見せるその姿に、一夏は目を奪われた。

 

「・・・なんだろうな」

 

 そして、どこか遠く感じる。

 

 それは確かに美しい姿なのだが、一夏の目にはその姿は舞を奉納する巫女ではなく、戦いの姿を再現する女武者のそれに見えてしまう。

 

 彼女が剣術をたしなむ女であるからには当然なのだが、しかしそれはどこか戦いのにおいを感じさせる。

 

「あいつ・・・」

 

 幼馴染が、どこか手が届かないところに行ってしまったような気がして、一夏は夏であるにもかかわらず寒気を感じて少し震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう。お守り一つ」

 

「ああ、ではこちらを」

 

 顔を見せに来たのは自分だが、一切驚かれないというのもなんというか寂しいものをかんじる。

 

「来てたのか、一夏」

 

「まあな。久しぶりに来てみようと思ってさ」

 

 お守りを受け取りながら、一夏は苦笑する。

 

 本当は友人たちと一緒に行こうと思っていたのだが、あいにくみな都合がつかなかった。

 

 特にレヴィアとヒルデと楯無は最近特に忙しいようだ。

 

 なんでもアースガルズ・コーポレーションがかかわっているらしいが、どういうことなのだろうか?

 

 まあそれはいいとして、今は幼馴染との付き合いを深めよう。

 

「来てるとは思わなかった。いつからだ?」

 

「六時前だよ。神楽舞見たぜ、なんていうか・・・見違えたな、色っぽかった」

 

「・・・・・・」

 

 照れながら言った言葉に、箒は茫然とした表情を浮かべて沈黙で返した。

 

 何か変なことを言ったつもりはなかったが、何かしただろうか。

 

「お前がそういう言い方で女をほめるとは思わなかったな」

 

「悪かったな」

 

 ・・・自分はどこまでのレベルで朴念仁扱いされているのだろうか。

 

 最近自分でも反論できない気がしてきたが、しかしここまで言われるのは納得いかない。

 

「まさか、すでにそういった方面でも経験済みだとでもいうのか? お前がそっち方面でなれるにはそれぐらいしないとどう考えてもおかしい―」

 

「ケンカ売ってるのかお前!?」

 

 本当にどんなレベルで思われてるのだろうか。

 

 いや、実際経験済みというか豊富ではあるが、しかしそうでなければおかしい扱いされるのは納得いかない。

 

 不条理を感じていると、売り場のほうの扉から、中年の女性が姿を現す。

 

「あらカッコいい子ね? 箒ちゃんのお友達」

 

「まあそんなところです。幼馴染でして、昔はこっちにもよく来ていましたよ」

 

 箒の言葉にうなづいていた女性だが、少しするとなにやら目を輝かせ始める。

 

「ちょうどいいわ。こっちはもう大丈夫だから、箒ちゃん、ちょっとその子と一緒に遊んできていいわよ」

 

「いや、そういうわけには―」

 

「いいからいいから、ほらちょっとこっち来て・・・」

 

 箒は断ろうとしたようだが、何やら強引に引っ張られて連れていかれて行ってしまう。

 

「・・・いや、俺の意思は?」

 

 別に反論があるわけではないが、なんというかある意味で無視された形になったのはどうかと思う。

 

 もしかすると彼氏と勘違いされたのかもしれない。

 

 これはどうしたものだろうか。

 

 レヴィアに何度も言われたりして最近ようやく自覚したが、どうにも自分は持てるタイプのようだ。

 

 とはいえ箒とは一緒にふろにも入ったことがあるような関係だし、今更恋愛感情がもたれているとも思えない。

 

 それに、すでに一夏の周りには、一夏に想いを寄せている女性が何人もいるのだ。

 

 蘭はもう何年も答えを待ってもらっているような形だし、鈴やラウラもそうだ。

 

 最近もしかするとといった形だがセシリアも危うい気がしてきたし、さらにこの上箒までそうなるというのは問題がある。

 

「こ、ここはレヴィアに相談したほうがいいかもしれないな・・・」

 

 あの主はエロ方面で暴走するきらいがあるが、しかし暴走しなければむしろ自分のストッパー役になっている。

 

「・・・待たせたな」

 

 そんなことを思っていたら、箒が浴衣に着替えてこちらに来ていた。

 

 正直言ってかなり美人だ。

 

「お、おう。じゃあい、行こうか」

 

 割と本気で周りの視線を気にしながら、一夏は箒を促す。

 

 ここは迷わないように手をつなぐべきなのかもしれないが、しかしそれはなんというかデートに見えたりしないだろうか。

 

 いつもなら全く考えないことを思いながら、一夏はどうしたものかと戸惑ってしまう。

 

 そんな一夏の手を、箒が無造作につかんだ。

 

「ほ、箒!?」

 

「お前も久しぶりなのだとしたら、はぐれるとあとが面倒だ。・・・男に寄り付かれても面倒だしな、虫よけ代わりに手を貸してくれ」

 

「お、おう」

 

 そういわれては反論する余地もない。

 

 ちょっと戸惑いながらも、その手を握り返す。

 

 久しぶりに触れたその手は、思ったよりも固く引き締まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・今日のところは私の勝ちのようだな。約束通りリンゴ飴をおごってもらおうか」

 

「くっそぉ・・・。今度は勝てると思ったんだけどなぁ」

 

 たこ焼きを食べながら勝ち誇る箒に、一夏は力なく崩れ落ちる。

 

 これで射的と金魚すくいの双方で敗北してしまった。

 

 まあ、別に金銭的な負担は大したことがない。

 

 レヴィアは眷属の面倒はしっかりと見るタイプで、本当に必要不可欠な出費などはむしろ積極的に出してくれる。

 

 それにカレドヴルッフを使うということは、冥界の魔剣研究に非常に貢献しているということもあり、むしろテスターとしてかなりの報酬を提供されている。

 

 実際蘭も神器研究の貴重な例として、すでにかなりの量の報酬が振り込まれている。

 

 だから別におごってもよかったのたが、しかし勝負に負けての出費だとプライドが傷ついてしまう。

 

「まあそうすねるな。ほら、たこ焼きでも食べて落ち着け」

 

「お、おう」

 

 箒が差し出したたこ焼きを食べながら、しかし一夏は首をかしげる。

 

「しっかし強くなったよなぁ。前は金魚すくいとか得意なタイプじゃなかっただろ?」

 

 少なくとも、昔の箒は苦手だったような気がする。

 

「まあ大したことじゃない。私も数年間別々に過ごせば成長するということだ。これでもだいぶ落ち着いたほうだと思うぞ?」

 

「確かになぁ」

 

 なんというかクールビューティという言葉が似合うのが今の箒だ。

 

 昔はどちらかというと感情的な印象があったが、人は変わるものだ。

 

「お前と別れた後、人生の師ともいえる人と会ってな。あの方が色々教えてくれたおかげで自信がついた」

 

 自分もたこ焼きを口に放り込みながら、箒は過去を思い返しながら微笑みを浮かべる。

 

 その表情は、箒がその思い出を心から大切に思っているのを証明するかのように華やかだった。

 

「自信がつけば落ち着きが生まれ、落ち着きが余裕を生んでくれる。今の私があるのはあの方のおかげだよ」

 

 まぶしいものを語るかのようなその言葉に、一夏は共感を覚えた。

 

 自分の場合はレヴィアがそれだ。

 

 誘拐されておびえる自分の心を救い、失態からの回復とはいえ自分たちの命を文字通りよみがえらせ、さらには強い力を与えてくれた。

 

 問題はあるが、それを補って余りあるほどの人格者だし、十分すぎる価値があるだろう。

 

「ああ、わかるよ箒。そういう人がいるって、すっごい力になるよな」

 

「わかってくれてうれしいな。ほら、もう一つ食べろ」

 

 差し出されるたこ焼きを口に放り込むべく、一夏は口を開ける。

 

「・・・一夏さん!?」

 

 その手が後ろから掛けられた声に、即座に止められた。

 

 二人が声のほうに視線を向ければ、そこには硬直状態の蘭の姿があった。

 

「お、蘭じゃないか。今日は友達と用事があるって言ってたけど、このお祭りに来る用事だったのか」

 

「一夏、そういうタイミングじゃない」

 

 後ろから箒のあきれたような声が来て、一夏はふと我に返る。

 

 今の状況は、一夏が箒が差し出したたこ焼きを食べようとするタイミングでかけられたものだ。

 

 別に友達と一緒に楽しんでいただけだし、特に問題はないと思うのだが。

 

「・・・一夏さん。一応言っておきますけど、はたからみたらバカップルにしか見えませんからね、ソレ」

 

「なんだって!?」

 

 どうやら世間はそうは思ってくれないようだ。

 

 蘭からの冷たいその言葉に、一夏は視線を箒に向ける。

 

「・・・虫よけだといっただろう? まあ、気づかないと思って何も言わなかった私にも非はあるな、スマン」

 

「おぉい!?」

 

 よりにもよって確信犯だった。

 

 まずい、これはまずい。

 

 告白を待ってもらっている状態で、バカップルにしか見えない行動をとっているところをその待っている相手に見られた。

 

 馬鹿でもわかる。これはまずい。

 

 見れば、蘭からは静かに、しかし激しいオーラが漏れているのが悪魔の感覚でよくわかる。

 

 後ろにいるのは蘭の友達か何かだろうか? 

 

 ああ、そんなにおびえなくても大丈夫だ。あくまでこの殺意が向けられるのは俺だけだから、だからそんな震えなくても被害は来ないから落ち着いてくれ。

 

 そして箒、お前なんで五歩も下がっている。視線をそらしながら両手を合わせるな。なんだその自分の失態でひどい目に合うやつにするような態度は。

 

「いいんですよ。一夏さんはそういうところがダメなのは知ってますし、知っていていても私の想いは変わりませんから問題はありません」

 

 蘭はにっこりと笑顔を浮かべるが、はっきり言って怖い。

 

「だから、これはちょっと発散が追い付かないことによる暴発です」

 

 そして許してはくれないらしい。

 

「い・ち・か・さんの・・・馬鹿ぁああああああああっ!!!」

 

 打撃音は一発だが、音量は交通事故のそれレベルだったことを付け加えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんというか、悪かったな、一夏」

 

「そう思うなら止めてくれ・・・」

 

 いまだに鈍痛が癒えない脇腹を抑えながら、一夏はへたり込んでいた。

 

 割と本気でその高い身体能力を発揮して攻撃されたので、そのダメージは一般人がくらってはいけないレベルだ。しかも人体急所の一つである肝臓を見事に貫いている。もう下手すれば死人が出る。

 

 これだけの近接格闘戦闘能力を教え込んだアストルフォを恨みながら、しかし一夏は少し期待していた。

 

 今いる場所は神社の裏手。知っているものはごくわずかしかいない、花火見物の穴場だった。

 

 針葉樹林の林の中にある、ぽっかりと空いた開けた場所。ここから見る花火は、近くに人がいないこともあってなんというか宝物のように感じてしまう。

 

「ここは本当に変わらないよな」

 

「同感だな。もう何年も見てなかったが、ここまで変わらないとそれが嘘のようにも感じてしまう」

 

 苦笑を浮かべながら、箒はあたりを見渡す。

 

 何年も前から来ているが、この風景は一切変わりがない。

 

 そのせいか一夏も過去の記憶が思い起こされ、まるで今までのことが嘘だったかのように感じてしまう。

 

 そして、そんな二人を明かりが包み込んだ。

 

「始まったな」

 

「ああ」

 

 空に咲く大輪の花を見ながら、二人は夜の闇を照らす光の花畑を鑑賞する

 

 色鮮やかな火の粉が散り、そして夜空に溶けていく光景は、いつみても本当に美しい。

 

「こうしていると昔を思いだすな。ああ、あのころが手にとれるようだ」

 

「本当だよな」

 

 箒の言葉に自然にうなづく。

 

 今でも思い出せるあの頃の思い出。

 

 あの光景がある限り、きっと自分たちはいつでもあのころの関係に戻れるだろうと、そんな風に一夏は思っている。

 

「・・・だが、それも過去のことだ」

 

 だから、そんなことを言われるとは思わなかった。

 

「箒? どうしたんだよ一体」

 

「いや、やはりこういうことははっきりさせておこうと思っただけだ」

 

 そういう箒んの表情は鋭く、一夏に反論を許さなかった。

 

「一夏、銀の福音との戦いでのあの行動、お前はどう思っている」

 

 あの時のことを思い出し、一夏は苦い思い出だと自覚する。

 

 蘭を大泣きさせたうえ、その尻拭いをしに行ったことがきっかけで鈴は片腕を失うことになった。

 

 それもこれも、一夏が密漁船をかばったことが原因だった。

 

 だが、それでもこれだけは言える。

 

「あの行動は最善じゃなかったかもしれない。だけど、善だと思ってる」

 

 それだけは言っていい。

 

 一夏のなりたいものは守るものだ。

 

 あの場において彼らを守れなかったら、それは織斑一夏としては失敗だ。それだけは言っていい。

 

 だが、箒はそれに首を振った。

 

「無辜の市民を守るために行動しておきながら、あの行動を失敗じゃないというか。・・・なら、私とお前は相いれないよ」

 

「なんでだよ」

 

 正直に言って、そんなことを言われるとは思わなかった。

 

 一夏の知る箒は、感情的なところはあったが自分と同じように正義感のある少女だったはずだ。

 

 だが、目の前の少女は静かな瞳で一夏に向き合っている。

 

「なんでだよ、箒。そんな、力があるなら何してもいいみたいなこと言わないでくれよ」

 

「それはこちらのセリフだ。力があるなら取捨選択を自由にしていいと言っているようなものだぞ、お前のそれは。罪なき市民を守るために剣をとったお前が、道理から離れた罪あるものを優先して、最大の好機を逃すのは間違っている」

 

 その表情は別に非難をするようなものではない。少なくとも、軽蔑の色は一切なかった。

 

 だが、同時に教え諭すような響きがあった。

 

「人は何かを選んで何かを選ばない生き物だ。そんな風に選ぶ物を間違えて行動すれば、お前は自分の人生に胸を張ることなどできなくなるぞ」

 

 そういうと、箒は踵を返して祭りの場へと戻っていく。

 

 それを追いかけたいと思い、しかし一夏の足は動かない。

 

 まるで目の前の幼馴染が、自分が知る彼女とは全く違う存在へと変わってしまったかのような断絶感がある。

 

 それが、追いかけても本当の意味では決して追いつけないかのような感覚を与えてしまい、動けなかった。

 

「選んだ道を間違えるな。少なくとも、私はその道をそれるつもりはない」

 

 そういって闇に消える幼馴染と、一夏は追いかけることができなかった。

 



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第八話 いや、誰が金出して作らせたんだろうね?

短編集的な話も終わり、本番突入です。


 

 

 アースガルズ・コーポレーション。

 

 世界最大級の総合軍需産業。

 

 最大の特徴は、この軍需産業が政府の影響下ではない正真正銘の企業であるということにある。

 

 銃に始まり、戦闘機や戦闘車両、さらには軍艦からISまで開発し、さらに戦力としてのPMCまで保有するこの組織は、政府を顧客とするがゆえに、基本的には一つの国家と直結している軍需産業としては珍しく特定の国を顧客としていない。

 

 本社が置かれているのはアイスランドだが、アイスランド自体は軍隊を保有していない。現在は政府に土地を借りる代わりに、もし軍隊が必要となる事態になった場合は低価格で傭兵として行動し国防を行うことを約束している。

 

 そしてその影響力は非常に幅広い。

 

 ヨーロッパの一部はもちろんのこと、アフリカ大陸や南米などにも手を広げており、そしてそれらの国のISにおいても力を発揮する。

 

 第二回モンド・グロッソでヴァルキリーを何人か輩出しており、その能力は決して低くないことを証明した。

 

 ほかの軍需産業と比較しても、性能の割に比較的安いこともあり、その結果多くの国が主力兵器をアースガルズ・コーポレーションから輸入している。

 

 その性能は質実剛健。特に故障しにくいことにおいてはかの伝説的小銃AK47に次ぐレベルの信頼性を発揮し、過酷な環境下でも使えることから、一部の先進国でも特殊部隊用に調達してるほどだ。

 

 そして、そのアースガルズ・コーポレーションが最新型兵器の発表を行うことを世界各国に通達した。

 

 それだけならまだしも、問題はその内容である。

 

 あの世界中を共学に包んだ対IS兵器。そのデータを基にした量産型陸戦兵器の量産に成功したとの報告があったのである。

 

 それに対して、世界各国が非常に強い反応を示した。

 

 世界中に拡散した対IS兵器だが、解析と生産には非常に長い時間がかかると誰もが判断していた。

 

 先進国内部にはあまり確認されなかったため解析に時間がかかり、数が多く確保できた国は技術面で後れを取っていたためこちらも解析に時間がかかった。

 

 この兵器が量産できるようになれば、世界の軍事バランスは一変する。

 

 超高性能であるが、数に限りがあるISに対抗することができ、しかも量産そのものに関しては限りなくすることができる兵器の存在は、もはや核に匹敵する価値を持つ。

 

 それゆえに世界はこの発表会に注目し、軍事関係の人物が何人も出席する大騒ぎが発生した。

 

 そして、その発表会において、ある密談が交わされている。

 

「・・・それで、アースガルズは悪魔にその警備を依頼するんですか?」

 

『まあそういうな。一応こちらからも人材を送るが、あまり送りすぎるとほかの連中が何か言ってくるかもしれんしの。その点おぬしらならヒルデのつながりで招待したといえばいろいろとごまかせるじゃろ?』

 

「まあ気にはなりますし、例の件もあるから直接見れる機会は貴重ですけどね」

 

『そうじゃろう? それに、こっちも気になることが多くてのぉ』

 

「まあわかりますよ。・・・ジーコンをそそのかした悪魔の存在がいまだにつかみきれてないですからね」

 

『そう。あのリリンの代わりとなる強大な悪魔なぞ存在そのものが危険じゃ。・・・そやつの手が伸びんとも限らんしの。特に新兵器はいくつかあるから手を伸ばしそうで伸ばしそうで』

 

「まあいいですよ。お土産追加で引き受けましょう」

 

 オーディンにそう返しながら、しかしレヴィアは深く警戒してはいなかった。

 

 確かにISを狙った襲撃は警戒するべきで、そして頻発してもいる。

 

 だが、それはあくまでISの襲撃であってそれだけだ。ほかの軍事兵器においても同じ行動をとるとも思えなかった。

 

 とはいえ無警戒で動くのも危険である。レヴィアは眷属のスケジュールを確保するだけでなく、動かせる悪魔を調べ上げて、それなりに動員することを考えながら、知人に土産にするには何がいいかを考えようと調べるためにパソコンを開いた。

 

 ・・・後日、この判断に救われたと感じるのはそう遠くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これが我々が開発した自走対空砲『ブリュン』の戦闘データとなります。見ての通りこの機体は世界各国に流出した対IS兵器のデータを参考にしており―」

 

「正直見てもよくわからないな」

 

「それは一夏に問題があると思う」

 

 新兵器の映像を見ての一夏の感想に、簪は軽くため息をつく。

 

 レヴィアに戦力拡充を狙って誘われたのにもかかわらず、二人そろってレヴィアとはぐれているので何となく一緒になったが、これは確かにいろいろと微妙である。

 

 しかし一夏は軍事に詳しいわけではないので、今のを見てもすごいかどうかの区別が非常につかない。

 

 こんなことならレヴィアが保有しているPMCでも見学に行けばよかったかもしれない。いや、PMCに自走対空砲があるのかどうかはわからないが。

 

「そもそも自走対空砲っていうのがよくわからないんだけど、どういう分類なんだ?」

 

「読んで字の通り、自分で動くことができる対空砲のことよ」

 

 その言葉と一緒に、料理が乗った皿が突き出される。

 

 そしてその持ち主は、その勢いのまま簪に抱き付いた。

 

「一夏君もどう? 材料も厳選されているから、食べないともったいないわよ?」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

 離れようかどうしようか微妙に迷っている感じの簪の声を聴きながら、一夏はとりあえず上に載っている料理に手を伸ばす。

 

「それで、自走対空砲でしたっけ? たしか襲撃してきたのって戦車ですけど、なんでそんなのにしたんですか?」

 

 そこが一夏にはわからない。

 

 戦車で送られてきたものを再現するなら、当然戦車で作ったほうが好都合だろう。

 

 そこがよくわからないので、どうしてもそのあたりで首をひねってしまう。

 

「まあ、一夏君は軍事方面じゃ初心者だもの。そのあたりはわからないわよね」

 

 そういいながら楯無は扇子を開く。

 

 書かれているのは博学審問。

 

「じゃあお勉強タイムね。生徒会長がやさしく教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、対空砲とはアースガルズ・コーポレーションも考えたものだ」

 

 料理を食べながら、ラウラはそう感心する。

 

「そうなの? あたしもそんなに軍隊に詳しいわけじゃないからわからないんだけど」

 

 同じく料理に手を伸ばしながら、鈴はそう聞き返す。

 

 その隣にいるヒルデも、プロモーション映像を見ながら首をかしげていた。

 

「そこは同感デス。自分もISについてしか教わってないのでその辺の軍事上がよくわからないデス」

 

 IS中心で勉強してきた身ではよくわからないことに、ラウラは嘆息すると二人のほうに向きなおる。

 

「そもそも自走対空砲というのは、ISが登場する前の社会において、現代戦で航空機に対抗するために生み出されたものだ」

 

 航空機がいるところで陸戦を行うためには、航空機に対する備えがなければならない。

 

 最初から対空設備が万全な基地などにこもっていれば大丈夫かもしれないが、攻める場合は相応の体制が必要になる。

 

 そこで、軍の進行速度で進むことができる、対空武装をもった陸戦兵器が必要となった。

 

 その結果が自走対空砲である。

 

「ISがほかの軍事兵器とは一線を画し、さらに地上での高速戦闘を可能にするとはいえ、大局的な視点で見たらISは空戦兵器だ。陸戦兵器である戦車より、対空武装である自走対空砲で対応するほうが当然だろう」

 

「だったらなんであのテロリストは戦車でやってきたのよ。そんなもの設計するからには、そういった兵器の特性を理解してたんじゃないの?」

 

「おそらくは、プロパガンダ的な視点を基にして開発したからだろうな」

 

 鈴の疑問にもラウラは平然と答える。

 

「戦車というのは陸戦においては代名詞扱いされていた兵器だ。自走対空砲がISを打倒するより、戦車がISを打倒するほうが一般人のイメージ的にはヒーロー的視点で見れることにより受けがいいのだろう」

 

 確かに、機関銃がいっぱいついたよく知らない兵器より、誰でも知っている戦車のほうがイメージ的にはいいだろう。

 

「・・・まあ、あの大立ち回りはいろいろとからくりがあるのだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「からくり・・・ですか?」

 

「うん、そうだよ」

 

 セシリアにそう答えながら、レヴィアはオレンジジュースを口に運ぶ。

 

 度数の低い酒なら飲んだことはあるが、今はIS学園で募集された発表会の参加者という名分で来ているし、魔王血族としてのメンツもあるため、飲酒はしない。

 

 まあ、飲酒可能年齢が国によって違うのを利用して飲んだことは普通にあるが、とりあえず怖いお姉さん《織斑千冬》がいるのでその辺は気を付ける。

 

「・・・まあ教師全員で会議したことときの結論と同じだな。あれはかなり相手側に有利な状況だった」

 

 大人の特権と言わんばかりに酒を飲みながらの千冬の言葉にうなづきながら、レヴィアはアースガルズ・コーポレーションの説明を聞き流す。

 

「まあ一つは不意打ちかつ初めてってことだよね。混乱状態で今までやったことがないことをするように言われたら、たいていの人はろくにこなせないよ」

 

 それはまあ当然だろう。

 

 何度も練習してやり方も教わった行動を事前に言われたとおりにやるのと、一度もやったことがないやり方も知らないことをいきなりする羽目になるのとでは、どう考えても後者が不利だ。

 

 セシリアだって、初めてISを動かしたときはいろいろと四苦八苦したものだ。想像してみて確かにいやな気分になった。

 

「次は向こう側の圧倒的有利さ。・・・どう考えても対ISドクトリンが完成されている状態で仕掛けてきたのはわかるしね」

 

 これもよくわかる。

 

 つまりはさっきの話の逆だ。どうやったらうまくいくかを最初から知っていれば、しかもそれを何度も繰り返していれば最初にやるよりもはるかに上手にできるだろう。

 

 いうなれば異種格闘技戦において素人と玄人が戦うようなものに似ている。そう考えると前代未聞の奇跡ともいえそうなあの戦いが、実は徹底的にいかさまを仕込まれた出来レースに見えてきた。

 

「とどめに言えば、あれは兵器的に完全にIS戦に調整されていた結果だ。現実的に運用する場合どう考えてもうまくいかん」

 

 だが、最後の千冬の言葉がよくわからない。

 

 世界最高の兵器であるISを打倒できる兵器ならば、IS以外にも十分な効果が見込めるのではないだろうか。

 

 少なくとも超高速の戦闘を可能とするISに攻撃を当てれるような戦車、戦車同士の戦いで使用すればもうチートではないだろうか。

 

「これは各国家の上層部クラスにしか伝えていないデータだがな? あの戦車は砲弾に散弾を使用していたんだよ」

 

「散弾ですか!?」

 

 その言葉にセシリアは驚いた。

 

 自分もIS以外の軍事方面において玄人というつもりはないが、それでも戦車というものは散弾を使わない兵器だというのは知っている。

 

「しかも砲身は短く切り詰め、いまどき使われていないライフリングまでされている。徹底的に広い範囲に弾丸を叩き込む、近距離での高速飛翔物体攻撃用の設計で作られているんだよ、あれは」

 

 半ばあきれた口調で千冬は言うが、これについては誰もがそう思うだろう。

 

 戦車というものは、基本的には長距離にいる敵に高い威力の弾丸を直接叩き込んで破壊する兵器だ。基本的に平地での長距離戦闘こそが本領を発揮するといってもいい。

 

 その運用を捨ててまで近距離戦闘用の武装を組み込んだ。確かにこれでは本来の目的では使えないだろう。よくて接近してくる歩兵の迎撃程度でしかほかの運用ができない。

 

 そしてそういった運用はどちらかといえば装甲車の役割だ。加えて言えばそんな広範囲攻撃では歩兵を随伴することもできないだろう。

 

 ISと戦えるという意味では突然変異といってもいい画期的な代物だが、兵器として考えれば数が限られ女性にしか使えないISなど足元にも及ばない欠陥兵器だ。

 

「とどめにアレ、本格的に作ろうとしたらそれこそIS数十機作っても余裕でおつりがくる値段になるんだってさ。いや、誰が金出して作らせたんだろうね?」

 

 明らかに企画倒れしないとおかしいよと、レヴィアは乾いた笑い声をあげた。

 

 確かにそう考えるとアースガルズ・コーポレーションの行動はとても納得だ。

 

 戦車で作るとそんなものになってしまう。そんなことになればだれも買わないというか、誰も作らないのは明確だ。

 

 だがあれは違う。

 

 あれは自走対空砲としても極めて高い性能を発揮するほどに完成されてるので、対IS以外の用途にも十分に使用できるようになっている。

 

 テスト時の対IS成績はIS一機につき勝負になる数は約12両。間違いなく対IS性能は低下しているが、しかしISと戦って勝負になるというだけで規格外の価値を持っている。

 

 かの白騎士事件のとき、戦闘機数百機や艦隊が束になってもかなわなかった代物に、数十機でかなうことができるようになるのだ。それだけあれば十分すぎる。少なくとも自分だったら購入を検討するぐらいはするだろう。

 

 それはその場にいる軍事関係者の相違なのだろう。その映像をみた者たちは、みな真剣な表情で新型自走対空砲に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばレヴィア言ってたな。・・・あの戦車をそのまま生産する馬鹿はいないとか」

 

 すべての説明を聞いた一夏の感想はそれだった。

 

 あの時はよくわからなかったが詳しく説明をされると納得だ。

 

 現実では超高性能機の開発は難しいということだろう。確かにISのようにどう頑張っても数を用意できない兵器ならともかく、普通の兵器なら作りやすさや価格も考えるべきだ。高すぎたらその分損をすることもある。

 

 料理でも、味を気にして高級品ばかり使っていたら家計が火の車になる。その辺は家事と同じだということか。

 

「レヴィアさんもそういってたのね。相変わらず頭がいいのね」

 

 苦笑まじりにそう感心する楯無を見ていると、どうやらかつてのような敵意は薄れているようだ。

 

 その事実にちょっとほっとしているのか、楯無をみる簪の視線も柔らかに見える。

 

「あら、愛しのレヴィアさんがほめられて簪ちゃんうれしいのかしら?」

 

「え? いや、別にこれはそういうのじゃ・・・」

 

「も~♪ 照れる簪ちゃんもかわいいんだから~??」

 

「も、もう! お姉ちゃんなんて知らない!」

 

「あ、ちょ、ちょっとまって簪ちゃん!!」

 

 顔を真っ赤にしてその場からさる簪に、楯無は顔面を蒼白にして絶句した。

 

「きょ、距離のつめ方を間違えた・・・」

 

「・・・ドンマイ、楯無さん」

 

 姉弟仲はまあまあの身としてはそうとしか言えなかった。

 

 しかし予想はしていたが非常に人が集まっている。

 

 パッと見るだけで白人から黒人、黄色人も多数いて国際色豊かだ。

 

「やっぱりロシアとかアメリカとかいろいろ来てるんだろうなぁ」

 

「アメリカは微妙ね。あそこ戦術ドクトリン的に自走対空砲は重視しないもの。世界最強国のプライドもあるから今回は様子見じゃないかしら」

 

 早くも復帰した楯無がそう補足してくる。

 

「立ち直り早いですね」

 

「生徒会長を舐めないでくれる? ・・・それで話を戻すけど、今回の発表は世界各国が本気で動いてるわ」

 

 そういう楯無の視線は鋭い。

 

 暗部用暗部という日本の国防にかかわる立場であり、かつロシアの国家代表という存在からしてみれば、こういう動きも大事ということなのだろう。

 

「パッと見るだけで世界各国の軍事関係者がゴロゴロいるわね。なぜかプロテスタントの信仰者が八割超えているのが驚きだけど」

 

「そんなことまで知ってるんですか?」

 

「裏の活動っていうのは、相手の個人情報をどれだけかき集められるかが肝なのよ?」

 

 とても知りたくない事実だ。

 

「一夏君も少しは覚えたらどうかしら。戦車ということはレヴィアさんの楯として動く必要だってあるのだし、相手の行動に対する警戒は必要よ?」

 

 その言葉は確かに説得力がある。

 

 本来戦車は耐久力とパワーの強化を行うタイプの悪魔だ。本来はネットゲームでいうタンク的運用をすることがメインになるだろう。実際転生悪魔の中でも打たれ強いものが多いのが基本だ。

 

 そういう点においてレヴィア眷属は特殊だろう。耐久力重視の悪魔を強化するのではなく、将来的に危険に耐えられる耐久力を与えるために戦車の駒を使ったあたり、あの短時間で、レヴィアがどれだけ自分たちに気を使ってくれたかがわかる。

 

「・・・ちょっと違いますよ、楯無さん」

 

 ただ、その運用は一夏には当てはまらない。

 

 一夏は力を手にするにあたってその耐久力を捨てた。それどころか駒の特性そのものを捨てたといっても過言ではない。

 

 カレドヴルッフの肉体影響によって、一夏の肉体はカレドヴルッフを使うことに特化した悪魔につくりかえられている。そのためその特性を真の意味では発揮できない。

 

 それは自分が力を求めたからだ。それは自分の戦闘スタイルから考えて、剣術を学んでいた自分の経験を最大限に生かすためでもある。

 

 そしてそれは、一つの思想を一夏に与えてくれた。

 

「・・・俺は、剣です」

 

 そう、楯ではなく、剣。

 

「俺は、レヴィアを守る盾じゃない。そういうやり方を選ばなかったんだって、臨海学校で気づきました。」

 

 防御力が低い? 剣術とは本来一撃必殺が思想だ。くらうことそのものが敗北だと考えればワンチャンある程度で十分だ。

 

 悪魔としての特性を生かせない? そもそも死ぬところを救ってくれただけで御の字だ。特性はおまけと割り切れば問題ない。

 

 守る側としてはおかしい? 確かに言われてみればそうだが、そもそも攻撃が入ってからじゃ遅いだろう。大事なものに攻撃が入るより先に、先手必勝で切り捨てる。

 

 そもそも自分が傷つくことで傷つくものがいるのだ。ダメージを受けるという発想を可能な限り捨てるべきだ。

 

「レヴィアが、蘭が、誰かが、そして自分が傷つくよりも先に、脅威を切り捨てることで人を守る、そういう剣に、俺はなりたいです」

 




本作において、ISが表の軍事力で最高であることは変えるつもりはありません。

少なくとも総合バランスであれに勝てる兵器は絶対に出しません。束博士は間違いなく時代における最高の科学者です。それに聖遺物が混ざっている状態でどうやって勝てと


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残念なお知らせ

いろいろと頑張ってみたのですが、どうもこの作品を続けるのが難しいと判断いたしました。

ご声援くださった皆様には申し訳ないのですが、残念ながらこの作品は未完ということにさせていただきます。


とはいえ、一応ラストまでのプロットはある程度出てきていたので、お詫びも兼ねて既存の設定を公表させていただきます。


オリジナル登場人物

 

レヴィア・聖羅(セーラ・レヴィアタン)

 

15(18) 髪の色 赤 目の色 赤

 

旧レヴィアタンの末裔にして、人狼と淫魔の血も持つハーフ悪魔。旧魔王側の末裔でありながら、冷静な判断で現魔王に与した人物であり、それゆえに悪魔の駒を持つ。

 

クールな性格で仲間思い。眷属や友人を「自分の所有物」と断言するが支配欲はほぼなく、あくまで親愛の情。それゆえに不当な危害を加えるものには容赦をしない。昔からこの傾向はあったが、第二回モンド・グロッソの一件で絶対の領域に到達している。また王として下僕を正せる立場でいるようにしているため、一夏に対する態度はお姉さんといった感じ。

 

 元々人類社会に悪影響を与えるつもりはなかったが、一夏がISを使ってしまい嫌でもIS学園に入学する羽目になってしまい。事故死を装って社会的に消そうか迷った結果とりあえず三年間様子を見ることを決意。そのサポートのためIS学園に入学する。そんな無茶な真似ができたとおり、その頭脳は優秀。

 

 だが本質的に淫乱であり、淫魔の血による影響か本来は女性よりの両性。IS学園内では変身魔法で女の姿を取る。強姦行為はしないが結構ギリギリのラインでHなことをするため、そこが致命的な欠点と認識されている。

 

「王とは配下にとって倒されぬ象徴であり、そのゆるぎなき姿が人々の光となる」という哲学を持つ。それゆえに常に自信に充ち溢れた姿を持ち、滅多なことでは揺らがない。とはいえ未だ精神的に未熟であり、過去にストレス発散も兼ねた、後先を考えない未熟な正義感から一夏と蘭を転生せざるを得ない状況に追い込むなど、失敗が重大な事態に発展しやすいという致命的な特徴を持つ。

 

 戦闘スタイルは上記の思想ゆえに「守ること」と「耐えること」に特化しており、肉体の耐久力と防御障壁に置いては最上位クラス。加えて言えば各種魔法体系を組み込んでいるため各種ジャンル攻撃に対応した結界の構築も可能で、よく練習相手になったサーゼクスの影響で消滅魔力に関してはチートレベルの耐性をもつが、セラフォルーの立場を脅かす気がないことを証明するため冷気系は比較的にがて。各種状態異常や弱体化に対する耐性や防護フィールドも高く、敵弱体化極致である白龍皇の光翼すら、禁手を使われなければ余裕で無効化できる。さらに淫魔の血を利用することで防御の加護を与える房中術もどきもつかえる、防御支援型サポートタイプの優。反面その他の能力は上級悪魔の中でも特に秀でている物はなく、決定打となる者を持たないが、「戦の武勲は配下に授ける物」として気にしていない。しかし、故に攻撃を受けることが前提となっており回避に意識を向けないという欠点があり、必殺の攻撃を持ちうる的には逆転されやすい。

 

 金剛鉄腕

 人狼の血を利用した両腕そのものを超強力な防御障壁へと変化させるレヴィアの奥の手。

 現時点において冥界最高峰の防御力を持ち、三大勢力はおろか異形社会全体の中でも最上位の強者でなければ突破困難。全身に展開できるようになれば、その時点で超越者に数えられるほどの頑丈さを持つ。

 その特性上、広範囲を巻き込む攻撃には弱いが、腕を使って止めることができる類の攻撃には非常に強い。

 

 焦がれの矛盾

 レヴィアの固有術式。

 防御手段の一つを24時間使用不可能にすることと引き換えに、その防御力を攻撃力へと変化する。

 現時点では金剛鉄腕クラスの完全変換は不可能。一度使用すると丸一日再使用できないなどの問題を抱えているが、レヴィアの防御力を攻撃にも運用できるという意味では規格外の攻撃手段。

 

 ナガヨシ

 レヴィアの使い魔。触手。以上。

 

 

 

アストルフォ

 レヴィアの眷属・兵士。駒三つ消費の配下で、シャルルマーニュ十二勇士の一人、アストルフォの魂を継ぐもの。

 

 サーゼクス直属の悪魔の眷属であり、神器持ちであったことのみが原因でルシファー眷属に選ばれなかった逸材。監視の目的もあってレヴィアの眷属となるが、レヴィアに王の資質を見て忠誠を誓っている。自分の性質上実技指導以外の教師役ができないので、人格面での転機を作った一夏と蘭には複雑だが強烈な感謝を持っている。

 

 無口であまりしゃべれないが仲間思い。デスクワークでも非常に優秀であり、基本的には後方支援を担当する。

 

 実は総合戦闘能力はレヴィア達の中では最も強大。超高速で移動することができるのが持ち味であり、遠距離戦で真価を発揮する。神器持ちという致命的なハンデを踏まえてもなお、ルシファー眷属の候補になるほどの強さを持ち、やろうと思えばレヴィアの防御を押し切って戦闘不能にすることもできる規格外の戦闘能力を持つ。

 

 神器 赤光矢(スターライト・レッド)

 アストルフォの神器。赤く輝く光の矢を発射する。特殊効果はないが、攻撃力は高い。

 禁手は赤光剣(スターライト・レッド・エッジ)で、赤い光の弓を分割して、赤い光の双剣として運用する。射程距離は落ちるが、クロスボウとしての運用も可能であり、非常に隙がない。

 

 

 

 

 

ヒルデ・アースガルズ

 ヨーロッパを含むIS独自開発能力を持たない組織の出資によって活動する軍事研究機関、アースガルズ・コーポレーションに所属するIS搭乗者。のちに政治的取引によりレヴィアの僧侶として転生する。

 

 北欧の魔法使いの一人。ルーン魔術の応用により、刻んだ文字が意味する効果を発現する魔法を使いこなす。

 

 世界の行く末を憂いている。王の在り方をそ年で示して見せたレヴィアに惚れこんでおり、オーディンに敵対しない限りで忠誠を誓う。

 

専用IS イチイバル

 アースガルズ・コーポレーション製第三世代IS。汎用性を犠牲にして機体の頑丈性を高めた機体であり、銃と剣が一体になったビームウェポンユニットで構成された手の無い腕部が特徴的。メインカラーは灰色

 また、オートクチュールを背部に限定して接続することで強化武装の調整時間をわずか数秒にすることが可能。自動調整機能により戦闘を続行しながら調整することができ、理論上は戦闘中のパッケージ変更を可能とする。

 第三世代武装はPICを応用した念動力機構・テレキアム。拡張領域の武装を周囲に展開して操ることができ、近接専用武装を中距離で使用したり、銃で自分の前方の敵を背後から撃つこともできる。とはいえ試作段階の今では限度があり、同時稼働個数にも最大重量にも限度がある。

 高速戦闘用パッケージ。フェンリルダッシュ

 広いかどう範囲を持つブースターユニット。推力を前方に逃がすこともでき、瞬時加速に次ぐ急加速や減速を可能とする。

 水中戦闘用パッケージ。ミドガルズダイブ

 水中活動のための巨大な甲羅のようなユニット。

 PICの干渉により高速移動時にあまりな身を立てないようにすることが可能であり、飛行時ほどではないがかなりの移動速度を発揮する。

 能力拡張用パッケージ。ニーズホッグバレット

 テレキアムの能力を拡張するためのユニットに限定したパッケージ。

 その気になれば十数種の武装を運用することが可能だが、その分

 

 

デュンダ

 ヒルデの使い魔。聖光龍というレアなドラゴン。

 

 

 

 

 

 

山田四朗

 教会合同現代技術研究室室長。現代の技術を解析して信仰の維持のために利用する組織の長であり、現代の擬態の聖剣の担い手でもある。

 その立場からISコアの正体にいち早く気づいたものであり、それが公開されて戦争が発生することを防ぐため、上にも秘密にして行動を行っていた。そしてもはや自体は単独組織では不可能と判断してレヴィアと接触する。

 殉教を恐れはしないが避ける性格であり、三大勢力の決着をつけるのは愚策と信じている穏健派。ゆえに一定の距離をおいた悪魔との交流をとがめるつもりはなく、戦争反対派の悪魔となら友好を結ぶこともやぶさかではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャロッコ・ベルゼブブ

 旧魔王ベルゼブブの末裔の一人。亡国企業を乗っ取り自身の野望のための組織へと改編させた男。魔剣グラムの現在の所有者でもある。

 

たぐいまれなる魔王の血筋という才能を、絶え間抜努力によって磨き続けてきた正真正銘の努力の天才。さらに新しいものにも理解を示し、はるか昔から科学の研究を続けてきた結果、既存の技術の応用に置いては世界でも最強。

 

 生まれ持った才能や、不可思議な神秘の力を否定される現代人類社会に嫌気がさし、はるか昔の神秘と人類がまさに融合していた世界を現代でも起こすため、そしてかつての英雄達が群雄割拠していた世界をつくるため、「異形と科学の双方を使った、大規模世界乱戦」を起こすために行動する。

 

 基本的な能力も高いが、最も得意とするのは魔力を纏った蝿を無数に使役することでの多角的戦闘。攻撃力も防御力も高いが、機動性能が低く拠点防衛は得意だがそれ以外は苦手。ただしISという道具を使うことでその欠点は克服される。ただし本体の出力はそこまで高いわけではなく、防御を超えた攻撃には比較的もろい。とはいえスペックは規格外レベルで、人格的な部分も加味すれば、リゼヴィム以上に悪魔を滑るにふさわしい存在として旧魔王派から評価されるほど。

 

 カリスマ性は高く、直属の部下を心酔させているは王の道を歩く男。その王道は「配下に道を指し示す」ことに特化している。

 

専用IS グラトニー

 シャロッコの使用するIS。両足に装備されるブーツの姿をしたIS。

 桁違いの数のISコアを連立駆動させており、圧倒的なシールドエネルギーを持つ。その出力にものを言わせたPICにより機動性能も非常に高い。

 

 

 

ウィンター

 最新科学の粋を集めて生み出された遺伝子強化試験体。

さらに神滅具の一つである絶霧を持っており、半ばでたらめのような存在。

 シャロッコの手によって専用のISコアを与えられており、原作開始時点では一夏とは別の意味で唯一の存在。

 性格は非常に軽いが、戦闘生命体と神滅具の組み合わせを持った存在として自負を持っており、実際非常に高い能力を持つ。さらに魔剣ノートゥングすらもち、その能力は計り知れない。

 絶霧の才能は偏っており、転移は相手が心理的な抵抗を持っていてはできないほど才能がないが、逆に結界としては歴代最高。夢幻や無限を相手にしてもある程度なら持ちこたえられるほど。

 禁手 絶望すら阻む濃霧(ロスト・ガーディアン)

 結界系能力の最高峰。超広範囲にわたって転移妨害と移動妨害を発揮する障壁を作り出す。

 発動中は世界最強クラスでも力づくでの潜入はできず、防衛に置いては間違いなく究極の一。反面範囲を広範囲(直径数百キロ)に指定せざるを得ず、その中の存在にはこの禁手そのものでは干渉できないという欠点も持ち、使い勝手が非常に悪い。

 専用IS フォーシーズン・フォース

 亡国企業専用IS「フォーシーズン」の四号機。フォーシーズンは専用に開発されたISコア四機の連立駆動タイプであり、莫大なシールドエネルギーと展開装甲による多様製が売り。そのうえで専用武装を搭載することで特化した戦闘能力を発揮する。

 ISと軍事兵器の連携を視野に入れた機体であり、情報統合システムを装備することで各種軍事兵器の照準を補正。支援部隊の一斉砲撃によって敵機を撃墜する、味方部隊との連携を視野に入れた機体。支援部隊がそのデータを中心に動くため他からの攻撃に弱いという欠点を持つが、これは絶霧でフォローが可能であるためウィンターが選ばれた。

 

第四世代IS ジェネレーション

 シャロッコが第四世代として開発したIS。くしくも篠ノ之束と同じ展開装甲を装備しているが、シャロッコの思想から射撃と近接においては自衛用レベルの性能しかない。とはいえ規格外の天才が開発しただけあり、その基本性能は不知火に匹敵する。

 電子戦闘用に開発されており、無人機のリアルタイム制御やハッキングを行う第三世代武装「グレムリン・ワールド」を装備する。これらはシールドエネルギーの拡散により音を遮断するフィールドの展開も可能。

 

 

 

 

マリアナ=チューダー

 カトリック系テロ組織、パラディン・セイバーの司令官で、黄昏の聖槍の所有者。高いカリスマ性に高い戦闘能力を併せ持つ教会最上位の悪魔祓いだったが、その思想が危険視され捕縛対象にされて逃走する。

 たとえ罪人であれ必ず生きて罪を償うべきだという、人々を平等に愛す心を持っているが、人間として認めるのはカトリックの教えに生きるのみ。なお、異教徒は「正しい教えを知れば改心するかもしれない」として能動的な殺人は避けるが、プロテスタントなどは「正しい教えを捻じ曲げる存在として否定される者」として可能な限り殺害する方針をとる。組織としての活動もカトリック以外のキリスト教徒を絶滅させるために努力する。

 シャロッコに利用される形で行動しており、いざという時のデコイとして利用している。

 黄昏の聖槍の加護(トゥルー・ロンギヌス・ブレッシング)

 黄昏の聖槍の亜種禁手。彼女が救いを与えるべきだと認識する者たちに対してその資格に応じた防護の加護を与える。その防御力は相応に高くカトリックの聖人クラスならばシェルターにこもっているも同然の防御力を与えられる。その効果範囲は100km近い大規模戦術兵器。実は黄昏の聖槍の禁手としては有名で、同胞をいたわる心を持つものはよくこちらになる。

 個ではなく軍での戦いで真価を発揮する。欠点としては本体の性能は一切変化しない点。

 加護を受けている物はその籠の強さに応じて光るため、マリアナはこれを殺すべき存在の感知に利用している。反面加護を与える側であるマリアナ自身には一切影響を与えない禁手であり、これが致命的な欠点となる。

 専用IS クロスメイル

 女性大統領が任期中の米国が開発した、大統領の自衛用第一世代IS。敵の攻撃を無視して味方の陣地まで撤退するために作り上げた

 絶対に大統領を守るためのシールドエネルギー総量と、米軍基地まで直線で退避するための機動力にその能力を限定特化させた機体。拡張領域はもちろんのこと、運用を想定していない宇宙活動能力も保険としての短時間運用に限定、さらにまっすぐ飛ぶことを前提としているため旋回時の対G管制も不十分というとがりすぎた機体だが、それゆえに近い設計思想の不知火を大きく引き離す該当性能の高さを誇る。

 実は米国軍事部門の、異形を知る敬虔なカトリック信者が、ローマ教皇に戦力として渡すために開発した機体であり、並大抵のGに耐えうる身体能力を持った聖剣使いの鎧とするために開発した機体。結果的にそれ以上の存在に渡ったが、これは暴走したローマ教皇がシャロッコに利用されたことが原因である。

 

 

ハーロット・ベリアル

 パラディン・セイバーメンバーの一人。ネコ科の獣人との混血であり、桁違いの反応速度を持つ。

 上級悪魔の血筋でありながら、聖書の教えに傾倒する異色の存在。もちろんそんなことをすれば酷い頭痛にさいなまれるのだが、「浄化されている証拠」としてむしろ喜ぶドM。

 無価値の力を最大限に発揮する力を持ち、反射神経を含めた基礎身体能力は非常に高い。反面それ以外の能力は悪魔全体で平均的。

 専用IS チエーロ・フォルテッツァ

 イタリア製第三世代IS。全身装甲で構成される重IS。

 シールド出力と装甲により、全IS最強の防御力を持っていることが特徴。さらにスラスターによって機動力も高く、瞬時加速一歩手前の急加速が可能という化け物機体。これらを組み合わせることによるシールドチャージはそれだけで高い攻撃力を持つ。さらに錬金術によって装甲がさらに強化されており既に軍用兵器の物理装甲としては文句なしで最強。

 第三世代武装はエネルギー吸収能力、ゴーラ。機体に触れたエネルギー系の攻撃を吸収して、自分のシールドエネルギーに変換してしまう。そのため物理攻撃でしか攻撃できない。

 あまりにも高すぎる急加速性能なため、これを活かすには常人の反応速度では使用不可能。反射神経一点特化型といってもいいハーロットが使用することで始めて使えるが、それ以外が使用する場合、それこそISと使用者の肉体を直接つなぐような人体実験じみた真似をしなければ使うことができない。

 ISコアとの相性も高いが、それが仇となって使用中はハーロットの全身を聖なるオーラが焼いている。ただし、本人は喜んでいるため非常にたちが悪い。

 

 

ヘレナ・マニアール

 パラディン・セイバーのメンバーの一人。

 神滅具、幽世の聖杯の所有者の一人。精神を汚染する聖杯の影響を一切受けない禁手を持っており、それによってサポートを行う。

 実は性格的に一番危険であり、メンバーの八割は彼女によって洗脳を受けている。

 禁手 聖杯に満ち流転する魂(グラール・ヘブンズフィール)

 幽世の聖杯の亜種禁手。肉体を変質させる特製の強化板で、精神の特性を変化させることができる。

 これによりヘレナは聖杯の欠点である魂の汚染から解放されているが、これを利用することで他者の精神をある程度組みかえることも可能。敬虔な信者の信仰心を暴走させることで凶悪化されている。

 また定期的に変質させないと戻ってしまうという欠点もある。

 専用IS アルスター・ウォリアー

 深い青色を基調とした、第三世代IS。ただしこれは第三世代武装とごまかすことで魔術を隠しただけで、実際のところは第一世代に近い。

 急加速及び急減速を中心とした機動力、及びパワーアシストが桁違いだが、常人ではそれについていくことができず振り回されるしかない。さらに武装も剣と盾しかなく拡張領域どころか射撃用のシステムすら存在しないとがった機体。

 実は設計段階から異形の存在との戦闘を可能とする物が使うことを前提とした機体で、シールドエネルギーは意味をなさないため最初から展開不能になっている、非常に局地的な運用を前提とした機体。

 クロスメイルとは違い、機体及び武装自体異能の技術を使用しており、そのため異能を知らない人間では癖が強すぎて操縦できない。反面それになれた人間が使用した場合、人知を超えた性能を発揮できる。

IS同士での試合よりも超常・異能の存在との戦闘を想定した機体。そのため、陸戦での戦闘も視野に含まれており高い運動性能を発揮できるようになっている。脚部の長さが短めに設計されており、それも地上戦での異能を使う人型サイズの敵と相対することを想定しているため。

 第三世代武装は、手持ち武装でもあるカラドボルグとオハンの制御システム、ウィザードユニット。とはいえこれは異形のシステムを第三世代武装といってごまかした物で、厳密な意味では第三世代武装ではない。

 カラドボルグは外観は太めのロングソード。エネルギーブレードを長さを調節して展開でき、刃を投射することも可能。伸縮速度はハイパーセンサーを以ってしてもみ切ることが困難なほどで、これを利用することで弾幕といってもいい接近不可能の連続刺突も使用可能。設計思想上、最大出力では零落白夜を凌駕するがエネルギー無効化能力はない。

 オハンは大型の盾で、ビームとレーザーはもちろん、魔法などのエネルギー系の攻撃を反射する術式でコーティングされている。

 

ゲオル・コンキス

 パラディンセイバーのメンバー。

 大柄な体格の男で、異端者をいたぶるのが三度の飯より大好きな暴力的な男。本来なら投獄されてもおかしくないものだったが、「異端を滅ぼすのは神のためになることだから、それを喜べるのは素晴らしい才能」としてマリアンが救助してメンバーに迎え入れた。

 典型的なパワーファイター。悪魔祓いの中でも随一と言える怪力の持ち主で、ISでも運用できないようなハンマーを使って敵をなぎ倒す。

 神器 傷紋(ペイン・ジャマー)

 異能によるダメージの回復を阻害する神器。

 痛覚が和らぐことも阻害するため、ダメージが長時間にわたって影響を与えやすい。

 禁手 忌まわしき刻印(ペイン・スティグマ)

 攻撃によって与えたダメージに一定時間継続ダメージを与える。回復阻害も凶悪で、フェニックスの涙クラスでも治療は困難。

 発動時は自分と手持ちの武装に禍々しい刻印が浮かぶ。 

 

ギウス・タドール

 パラディンセイバーのメンバー。

 小柄の痩せた男で、異端者を見るだけで吐き気を催すほどのカトリック主義者。マリアンに敬意を払っているから黙っているが、異教徒も同じぐらい嫌悪しているため警告はするが無視したら容赦ない。また上記の理由により、異教徒の味方をするカトリックにも容赦がない。

 二丁拳銃を使いこなす銃使い。神器の能力を利用することで、光の弾丸をはるかに凌駕する光の大砲とでも言うべき大火力を発揮する。射撃の腕も抜群でハイパーセンサーを使用したIS乗りすら凌駕する。

 神器 聖の手(エクス・アーム)

 聖剣に匹敵する聖なるオーラを自在に操る神器。

 ギウスはこれを利用することで光力を強化し、莫大な破壊力をもつ光の弾丸を操ることができる。

 禁手 聖人の衣(エクス・ホワイトキルト)

 聖なるオーラを自在に操る戦闘服を身にまとう。同時に身体能力も大幅に上昇し、これ単体で下手な中級悪魔を凌駕するほど。

 これにより防御力も上昇する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半オリジナル

 

 織斑一夏

 

 レヴィアの眷属悪魔・戦車。

 誘拐事件の際通りがかって助けに入ったレヴィアと、誘拐犯のバックアップを務めていたオータムとの戦闘の余波で致命傷を負い、死亡寸前にレヴィアの言葉に答えて転生悪魔になる。

 カレドヴルッフを使うために異空間の拡張とカレドヴルッフの性能を引き出すことに特化して修練しており、伝説級の魔剣や聖剣とも打ち合える。

 

神器 剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)

 手にした刃物の能力を強化させる。ただのナイフに術式加護を与えた異形の武装並みの性能を与え、剣の性能が高ければ高いほど高い効果を発揮する。

禁手 名剣へと至らせる物(チューナー・オブ・レジェンド・ソード)

 手にした剣の性能を爆発的に強化させる。さらに剣そのものに特殊効果を与えることすら可能。

 純粋な神器の強化と、一つの剣に限定した魔剣・聖剣創造の降下を付与する強力な禁手。

 

 カレドヴルッフ

 冥界の技術部が研究開発した量産型魔剣。高い性能を発揮する変わりに全力解放を行うとすぐに劣化する。

 性能を発揮するには専用に調整を受けた悪魔を必要とする欠点もあり、それに特化した訓練を一夏は受けることになる。

 さまざまなタイプが作成されており、さらに完全に引き出すことができれば伝説クラスの武装にも引けを取らないポテンシャルを持っている。

 

 専用IS 不知火

 大株主だったレヴィアが、自国の第三世代機を無視して素質がそこまで高いわけでもない一夏の専用機を開発しようとしたことに異を唱えたため(将来的な人間界への影響のため、下僕悪魔である一夏を表社会から遠ざける必要もあった)試作機の中から一夏が一番性能を引き出せた機体として選ばれた。

 思想としては試験用の第一世代期であり、機動力重視の機体。その設計思想は「次世代機の素養を完全に落として基本性能を追求した場合、どこまでの機体が作れるか」である・その他の性能も下手な第三世代機をしのぐ。

 一夏の生身の戦闘スタイルと、そもそもISでの社会進出を考えていない(ISの技術を無理に磨く必要がない)ことから、炸薬加速式斬機刀(鎌居達)を複数本格納するだけというとがった武装編成をしている。

 二次移行 不知火白夜

 不知火が二次移行した姿。

 両腕の形状を変形させ、人間サイズに変化させることが可能。これによりカレドヴルッフの自在な仕様が可能になっている、正真正銘の一夏専用機。

 PIC制御を悪魔の翼の補助に回すように進化した駆動システム。さらに放出された魔力のベクトルを操作するシステムの搭載など、完全に一夏という悪魔が実戦で使用するために進化した姿。

 異形と科学の融合という、ISコアの本質を具現化した真価形態ともいえ、シャロッコはこれを「ISの完成系」とすら評価した。

 天魔

 不知火の両腕部に装備された新武装。展開装甲の技術を取り込み、放出された魔力に指向性を与えて、障壁か砲撃の形で放出する。

 これにより魔力次第で火力と防御力を際限なく向上させることができ、本人の魔力で駆動することからISのエネルギーを消耗させないという利点がある。

単一仕様能力 零落白夜・纏

 不知火・白夜の単一仕様能力。

 零落白夜の発展系であり、科学的なエネルギーはもちろんのこと、魔力的なエネルギーすら消滅させる光の膜を全身に一瞬付与する能力。

 発動中はPICが不調になるという欠点があるため攻撃には向かないが、エネルギー兵器に対しては無敵といえる防御力を発揮する。その特性上魔力運用を得意とする悪魔との戦闘を視野に入れた能力。

 

シロ

 白い狼な一夏の使い魔。

 

 

 

 五反田蘭

 レヴィアの眷属悪魔・戦車。

 偶発的要素によりモンド・グロッソに招待されており、それゆえに誘拐事件に巻き込まれ、一夏と同様の理由により悪魔に転生する。ちなみに戦車なのは、レヴィアが二人の命を少しでも守れるように、とにかく死なないように努力した結果。

 神器を操る才能に長けており、最初の神器の禁手によって神器を操る才能を発揮する。結果として五大頂の異名を持つ。

 神器 八面の龍(ブラスト・ドラゴ)

 日本に伝わる高位の竜、八面王を封印した神器。八つのアームユニットに内蔵された魔力砲。簡易的アームとしても使用可能。

 連射による弾幕から第威力の単発砲撃まで自由自在。

 禁手 八面の龍使い(ブラスト・ドラゴ・マイスター)

 極めてイレギュラーな禁手。その特性は神器を格納して使用可能になるというもの。

 この特性の発現に、レヴィアは「禁手の才能が高すぎてシステムが神器を与えるのをためらった」と言わしめるほど。

 覇龍砲(ジャガーノート・ドライブ・スマッシャー)

 レヴィアとの連携で放つ亜種覇龍。

 八面の龍に流血している状態のレヴィアの皮膚を接触させることでリンクし、覇龍の際に消費される生命力を膨大なレヴィアの魔力で代替することで一瞬だけ覇龍を安全に発動させる。

 地でリンクすることでのちに禍の団が開発する業魔化と同等の禁手活性化が起きており、その出力は龍王以上天竜以下の規格外。金剛鉄腕すら抜ける最強の一撃。

 神器 聖なる器(ホーリー・ヒール)

 所有者の再生能力を超強化する神器。

 禁手は聖人の器(ホーリー・ヒーリング)で、再生能力を触れた他人にも与えるようにするというもの。

 神器 鬼の健脚(デーモン・ギア)

 所有者の脚力を高める神器。

 禁手は鬼神の脚甲(デーモン・ギア・アンダーアーマー)下半身を覆うISのような鎧になり、攻撃力を爆発させることで短距離超高速移動を可能とする、宙を駆ける禁手。攻撃力も倍増している。

 神器 金剛の腕(ダイアモンド・アームズ)

 所有者の腕力を強化する神器。

 禁手は金剛の巨腕(ダイアモンド・ギガント・アームズ)。

 巨大な腕を召喚し、それを自在に操る。

 神器 術式創造(テスタメント・クラフト)

 特定の行動を対価として、特殊能力を発動させる固有術式を作り出す神器。

 使用可能になる術式の数が少ないなどの欠点はあるが、使いこなせば神器級の特殊能力を複数使えるようになる。

 禁手は術式の兵団(テスタメント・アーミー)

 他人に固有術式をセッティングする能力。

 

 使い魔はイタチ。

 

 

凰鈴音

 レヴィア達の影響で身体強化系の魔法を勉強している。その後中国に戻った後その影響で須弥山に目を付けられ、闘戦勝仏の元で仙術を学んでいる。

 二次移行 王龍

 甲龍の二次移行。

 ジーコンとの戦闘や、それまでの鈴の仙術使用を経験したことによる進化であり、今までのISとは全く違うアプローチの発展をしている。

 駆動システムが一新されており、全能力を解放した鈴の駆動でも一切損傷しない。それに合わせて四肢も小型になっており、サイズの違いによる格闘での誤差をある程度修正、さらに損傷した際の鈴の体組織を構成に組み込んだことで仙術を叩きこんだり身体強化魔法の恩恵を受けれるようになった。

 生体保護機能も強化されており、過剰な肉体強化魔法を使ってもその悪影響を王龍がカットする。これによりかなり無茶な運用も可能になった。

 特性を最大限に発揮するため、シールドエネルギーの防御を部分的にカットすることが可能。IS同士がぶつかり合っても、シールドエネルギーを消費せずに済ますことができる。

 それらの一新に二次移行の変化をほぼすべて組み込んでいるため基本性能に変化はないが、人間離れした鈴の能力を正しくISに適応させるため、全力状態の耐久力とパワーではIS全体でもトップ。

 なお、大規模な変更の割にパッケージ用のコネクターはあまり変化しておらず、甲龍の時のようにパッケージを装備することも可能である。

 独自武装 空間障壁

 衝撃砲を参考にした四肢のサポートユニット。

 衝撃波をコントロールすることでマットのような柔らかい壁を作ることによって、踏み込むことが可能になる。

 これによって格闘技の技術を最大限に利用でき、近接攻撃の威力を上昇させたり、足場にすることで跳躍による急激な方向転換が可能。

 また応用によって稼働部位のダメージを肩代わりすることが可能になっている。さらに敵の攻撃線上に壁を作ることで物理攻撃に非常に強い。

 

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 神器、紫電の双手を持っていることが発覚、VTシステムの発動もあって一時的に擬似禁手状態となる大騒ぎを起こした。

 神器 紫電の双手(ライトニング・シェイク)

 両手から紫の電撃を放つ雷撃攻撃系神器。ポテンシャルはそれなりに高く、使い手次第では広域破壊兵器としても運用可能。

 禁手は紫電の強化(ライトニング・シェイク・サボット)。

 より高出力化させた紫電を武装にまとわせて攻撃する。

 二次移行 シュヴァルツェア・モーエア

 シュヴァルツェア・レーゲンの二次移行。

 紫電の強化を前提としているため武装そのものは変化せず、しかしその数を大きく増やしている。同時に機体各部に武器携行用のハードポイントを装備しており、拡張領域に頼らぬ武器携行が可能。

 ワイヤーブレードは破損することを前提として予備を含めて18本装備し、プラズマ手刀は全身を覆うプラズマカッターとして展開される。レールカノンそのものは増えていないが、砲撃戦闘用のサブアームを搭載しており、銃火器の多方面攻撃が可能。

 独自武装 ベルリン・モーエア

 AICの発展機構として生み出されたストッパー。左肩に展開する、盾のような形をした慣性制御装置。

 慣性制御の壁を生みだすことで、一方向の通行を完全に止めるフィールドを作り出すことが可能になる。それ以外の方向に移動すれば簡単に無効化できるものだが、その停止能力は超音速でイージス艦が突撃しても何の影響も出さずに停止させるほど。

 その名のとおり黒い壁状のフィールドによって構成され、その範囲は数十平方メートルにも及ぶ。唯一の欠点はフィールドの影響力が高すぎるため、張っている間は自分も移動できないということ。

 

 

セシリア・オルコット

 のちにレヴィアやヒルデから、簡単な魔法の心得を伝授してもらうが、他の人物に比べると異形の関与度は少なめ。

 二次移行 ワイプオフ・ブルー・ティアーズ

 ブルー・ティアーズの二次移行。

 翼上の一対の非固定部位に通常使用のビットを12機装備。そして下半身各部にはマイクロミサイルビットを大量に配備している。そのため形状的にはドレスを着た天使のような外観を持っているのが特徴。

 これらはすべて同時に操作するのではなく、戦闘で破壊された場合に備えての予備としてで使用する。そのため切り替えの際の操作ミスを防ぐために簡易的な自立機能を持つ。

 その分拡張領域を含めた本体の戦闘能力が下がっているという欠点を持っているが、これは戦場で部隊から武装を調達することで補うことができるため危険視していない。

 独自武装 BTMシステム

 通常使用のビットと掌部に装備されたシステム。

 機能はBTエネルギーの完全支配。つまりこのシステムから放出されたBTエネルギーの方向性は全て自在に操れる。

 ビームマシンガンからビームサーベル、果てはビームシールドから暴発させることでビームロケットモーターに至るまで変幻自在。ビット同時でフォーメーションを組むことで広範囲シールドを展開したり威力を上昇させることも可能など応用性も高い。

 放出したエネルギーをためることで、艦載兵器クラスの火力を発揮することも可能である。ただし、それだけの威力を放つエネルギーとそれをとどめておくためのエネルギーが共に莫大に必要となるため机上の空論であり、また冷却の必要があるため連射もできない。が、ワイプオブ・ブルー・ティアーズの場合単一仕様技能によりこの問題が解決しており、事実上昼間の戦闘ならば圧倒的火力の乱射が可能。

 単一仕様技能 ガラティーン

 ワイプオブ・ブルー・ティアーズの単一仕様技能。

 機能は超広範囲の光エネルギーと熱エネルギーの吸収と完全な電力変換。これにより攻撃においてはエネルギー切れが存在しない。

 応用技術で敵の視界を奪ったり光学迷彩を展開してかく乱することも可能。さらに効率は悪いが指定空間の光・熱エネルギーを電気エネルギーに変換することで広範囲攻撃を行うこともできる。

 

 

 

五反田弾

 鈴と同様の理由により空間転移系と隠蔽魔法を中心に勉強している。

 魔法を勉強しているのはあくまで蘭との関係を保つためであり、悪魔になるつもりは一切ない。堅実に人間として真面目に生きていくつもりである。

 

 

 

更識楯無

 更識家自体が自分の第で異形にも関わっており、それゆえにレヴィアたちの監視もしている。

 ミステリアス・レイディ自体、自身の能力と合わせて設計されている特注品。

 霊刀 清水

 日本が総力を挙げて開発した武装。

 水と接触させることでその出力を強化することが可能。最大共鳴量はそれなりに多いのだが、自然から調達した水でなければ使えないという限定条件があり魔力によって生みだしても効果がない。加えて言えば水を操るわけではないため、水中戦でもなければ真価を発揮しない。

 ミステリアス・レイディの水分操作能力を利用することで始めて伝説級に次ぐ性能を発揮でき、ISと武装の組み合わせでいえば最高レベル。

 

更識簪

 潜在能力が非常に高い神器を所有。それを活かすためにレヴィアの指導を受けることになる。

 神器 万象の融合(オーラ・キマイラ)

 自身を中心とした空間にある力を吸収し、操作する能力をもつ神器。

 慣れないうちは砲撃程度でしか使えないが、それでも発展させれば最上級悪魔クラスの砲撃を行うことも可能になる非常に高い潜在能力を持った神器。魔法の技術を知った場合、無尽蔵の魔法行使すら可能となる一種の第二種永久機関。

 禁手は亜種で、万象取り込む冥界の獣(ヘルヘイム・レギオン・キマイラ)

 任意で霊体を取り込みその技量を一定値自身のものとする禁手。相性自体ではその霊体を具現化することも可能であり、自身を一種の冥界へと変化させる。

 自身と敵の魂を繋ぎ、敵の能力に干渉することも可能としており、理論上神滅具の行使すら可能とする規格外の能力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒

 幼少期にシャロッコに見いだされて亡国企業のエージェント「スプリング」として行動する。

 自らを救い一振りの刀として鍛え上げてくれたシャロッコに心酔しており、そのための潜入工作としてIS学園に入学した。

 禁手 獅子王丸

 獅子王の戦斧の禁手。太刀の形状へと変化する。とはいえ、武器としての性能は形状変化程度でしかない。

 その本質は飛び道具に対する加護の一極集中。禁手による能力上昇のすべてをそれに収束させたことで、遠距離攻撃はほぼ完全に無効化する。

 専用IS フォーシーズン・ファースト

 フォーシーズンの一号機。

 高速戦闘に特化しており、大気圧縮型フレキシブルスラスターを装備することで推進剤を必要としない高速飛行を可能とする。加速と減速が瞬時加速一歩手前の超高速戦闘仕様。

 さらにPICも特注品で、足による踏み込みに連動する形で加速する。これにより王龍ほどではないが人間の近接戦闘技術を活かした近接戦闘が可能になった。

 

 

シャルロット・デュノア

 シャロッコをたまたまかばったことがきっかけとなって鍛えられており、その流れで亡国企業のエージェント「サマー」として行動している。

 神器の力を使ってシャルル・デュノアという男子に変化して、本命である箒による工作をごまかすためのデコイとして行動する。また、禁手状態では魔剣ダーインスレイヴをある程度の性能なら完全に安全に扱うことが可能。

 神器 妖精の杯(フェアリー・カップ)

 所有者の肉体情報を、ある程度変化させることができる神器。

 シャロッコの研究によりDNAや染色体の知識があれば性別すら変化できることが判明しており、それによってシャルル・デュノアとして潜入している。

 禁手は妖精世界の聖杯(アルヴヘイム・グラール)

 遺伝子的にも霊的にも所有者を変質させることができ、変質範囲だけならその名のとおり幽世の聖杯にも匹敵する。これにより擬似的に魔剣使いとして行動することができる。

 専用IS フォーシーズン・サード

 フォーシーズンの三号機。

 砲撃戦闘用に調整されており、衝撃吸収と安定性強化用特殊PICを複数持ち、さらに遠距離戦闘用のセンサーを持つ上、重量物を持つことに特化した腕部支援用外骨格ユニットとサブアームを装備。これにより大口径武装を使用した攻撃を得意とする。

 単一仕様技能 タンカー・ストラトス

 フォーシーズン・サードの単一仕様技能。拡張領域の圧倒的上昇であり、その格納量は文字通りタンカーにも匹敵する。

 特殊武装 ザミエル

 魔剣の製造技術で生み出された、使い捨ての魔弾。

 威力は大きいが扱える者が限られることと、実弾であるが故に長期戦向けでないことから、ある程度性能を引き出しかつ大量に携行できるシャルロットだけが使用する。

 

 

オータム

 誘拐事件でレヴィアに痛い目をあわされたことで覚醒。バムルンクを扱う亡国企業の近接技量最強にまで目覚める。

 さらに魔獣創造の保有者でもあり、亡国企業の戦力の大半をつかさどる存在。

 禁手 兵団創造(ランツクネヒト・メーカー)

 高い自己判断能力を備えた人形を生みだす禁手。

 発動者と発動者が指示したものの命令を絶対に聞く忠実な人形であり、さらに基本的な能力でも下手な人間をはるかに上回る。

 発動の際にマニュアルを読ませることでマニュアルに書かれた操縦方法を完璧にとることも可能。これにより一定以上の質を持つ兵士を無尽蔵に生み出すことが可能。

 条件を指定することで人形は自動的に消滅するため、機密保持にも非常に効果的という側面を持つ。

 専用IS フォーシーズン・セカンド

 フォーシーズンの二号機。

 近接戦闘特化タイプであり、全身に装備された高周波振動ブレードによる近接戦闘特化。さらにかつての機体を参考に、先端にチェーンソーを内蔵した蛇腹剣型サブアーム、オクトパス・エッジを装備する

 単一仕様技能 幻影の剣(ミラージュ・セイバー)

 フォーシーズン・セカンドの単一仕様技能。一種のハッキング機能であり、パッシヴで発動するISの防御機能を自身の攻撃に適応させないというもの。

 すなわちシールドエネルギーと絶対防御を発動させずに攻撃できるというものであり、対IS戦では文字通り一撃必殺。

 

スコール・ミューゼル

 シャロッコが真っ先にスカウトした部下。側近としてサイボーグ技術と異形の技術で超強化された存在であり、生身でも圧倒的な戦闘能力を発揮できる人間型ISとでもいうべき存在になっている。

 専用IS ノイエスツィール

 人の一回り拡大でしかないISを、より拡大解釈したらどうなるかという理論で開発された超大型IS。

 独自開発のマルチロックオンシステムによる多方面同時ミサイル攻撃を中心に、拡散モードに変更可能な胸部大口径ビーム砲をもち、火力は絶大。ゴールデンドーンの技術も組み込んでおり、炎を操ることで近距離の戦闘にも対応可能で、さらに伸縮式のクローマニピュレーターもあるため隙がない。

 脚部そのものが大質量兵器ブレード・ラムとして運用可能でもあり、大気圏外からの降下による巨体を生かした破壊行動も可能。その運用のため非常に装甲が頑強で、設計段階から魔剣開発の技術を利用しているため規格外の装甲を持つ。

 

 

織斑マドカ

 本作における独自設定として、織斑千冬の遺伝子と天使のデータをもとにして作り上げた人造ハーフ天使。

 施設の事故で死にかけていたところをシャロッコに拾われ、人を超えた物として人でしかないオリジナルを超えることで自分のアイデンディティを確立しようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

設定

 

ISコア

 

 実は中核部に聖釘を分割化したものを組み込んでおり、一種の人造神器と化している。追加生産は可能だが、強大な力を持つ伝説級のアイテムを核にしなければならないため非常に心理的ブレーキがかかる。

 

 ものすごい偶発的理由で聖釘を入手した篠ノ之束がそれらを組み合わせて開発した代物であり、片方が無茶苦茶な方式で組み合わせているため双方に対しての卓越した知識がなければ完全解析は不可能。それゆえに開発できるのはアザゼルとシャロッコだけしかいない。ちなみに、コア部分は相応の格を持ったアイテムなら代用可能で、シャロッコは旧魔王の遺体をベースに製作した。

 

 その出自ゆえに聖書の教えにとって非常に重要なアイテムであり、真実が公表された場合、その真実を知る者の共通認識として「奪われた教会と奪って作った(と勘違いされている)神の子を見張る者、そしてその流れに乗ろうとしてい(と思える)る悪魔側で三つ巴の戦争が再発する」「聖書の教えとそれ以外とでISコアをめぐって世界大戦が起こる」「異形の存在を科学的に証明する大規模変動が発現する」といわれる事態のもの。

 

 製造過程で開発者の精神構造の一部を受けたことで女性に近い薄い自我が発生。自分達と違う存在である男性を本能的に恐怖していることが男性が使えない原因。千冬が常に一夏に親愛の情を持っていたため、一夏にだけは出れているのが一夏がISを使える理由。

 

 

 

 

 

アースガルズ・コーポレーション

 自身の存在を創作物とされたことにより信仰が少なくなった北欧神話体系が、英雄を探すために設立した大規模軍事産業。

 独自の兵器開発とPMSCとしての活動を主に行っており、現在はIS産業が中心。同時にそれらを応用した土木産業や医療技術研究にも手を出しており、ヨーロッパでも極めて強大な企業。

 アフリカや南アメリカを含めた、独自IS開発に遅れている企業にとっては、高性能機開発などを支援する組織としてきわめて有力であり、結果として外注の形でISコアを支部に貸し出す国家が続出。世界で最もISコアを使用できる組織として、条約違反ギリギリの活動を行っている。

 ちなみに異形社会による人間社会への過剰干渉にも取れるが、関係者もいるがあくまで個人的関与にとどまっていること。他の業界にも友好的に支援を行っていることから黙認状態である。

 スレニル

 アースガルズ・コーポレーションのIS。設計思想でいえば第二世代。脚部に搭載されている六つのスタビライザーゆえに八本足に見え、そこからスレイプニールをもじって付けられた。

 運動性能以外に突出した機体性能はないが整備性が非常に高い。故に技術的に後れをとる国では重宝されている。

 

 

 ブリュン対空砲

 AISシリーズ車両タイプのデータをもとに開発した、対IS戦闘を視野に入れた自走対空砲。

 従来の陸戦兵器をはるかに凌駕する機動性能と射撃命中精度を誇り、耐久性においては他の追随を許さない。

 その分価格は高騰したが、性能と対ISを可能とするという事実を顧みれば十分すぎるほどの価値を持つ。

 のちに世界各国が対IS兵器の生産体制を整える前に世界情勢が大きく変わったため、爆発的な売り上げを記録することになる。

 

 

 

 

 

 

教会合同現代技術研究室

 教会勢力が世界に流通している技術を理解するために各宗派が共同で結成した組織。その都合上世界各国の技術に精通するため、非合法組織対策に戦闘面でも実力者がそろっている。

 現代の最新技術を研究する組織ではあるが、混乱を避けるためある程度流布された技術を研究する。そのためIS研究に置いては各組織に置いて最後発。

 現代技術と神秘の力の比較も行うため相応のアイテムを保有しており、それゆえにISコアの真実に辿り着いた。現在は室長である四朗の判断でアースガルズ・コーポレーション(アースガルズ)と上にも内緒で同盟を結んで篠ノ之束を捕縛するため行動している。

擬似IS スタリオン

 聖釘をコアにしているISコアを参考に、聖剣を外付けの中枢ユニットとして使用することで起動するISに似た何か。

 総合的に最新鋭機には劣る性能しか出せない。Gの影響をISよりも受ける。拡張領域など様々な機能が使えないなどの欠点を持つが、大気圏内の高機動戦なら使用者の戦闘能力次第でISとほぼ互角の性能を発揮できる。

 疑似IS スタリオン2

 特殊な加工を施した聖水によって駆動するスタリオンの量産型。

 消耗が激しいので数時間しか運用でないが、ISの襲撃に対してカウンターで動かす分には十分な性能を発揮できる。また、聖水の補充そのものは容易に行えるので、補給線さえ確保できれば長期的な運用も可能。

 セント・マリア級移動聖堂

 海外における大規模悪魔祓い派遣用の移動司令部。

 聖書の神が残したシステムを流用し、内部の聖堂で祈りをささげることで付近にいる味方や本艦に強大な守りの加護を与えることができる。

 完成前に大規模改造を施すことで、36ものスタリオン2を運用する母艦としての性質を持つ。

 

 

パラディン・セイバー

 キリストのためだけに行動する者と名乗るカトリックを狂信するテロ組織。ISを多数保有し、神の意向を示すために神器を公然と使用する危険思想の塊。

 実は現ローマ教皇が教会の権威を拡大するために本人達にすら気付かれずに結成した私兵集団だったのだが、指揮官のマリアンの狂信的思想によって頓挫。その後裏取引によって亡国企業の「目的達成の準備が整うまでに、異形の力を持つことがばれたときの隠れ蓑」としてマリアンの思想に従う形で行動する。さらにローマ教皇が利用されたことで戦力拡充も可能になり、小国のIS保有数に匹敵する量のISを保有する。

 イスラム原理主義テロリストに匹敵するほどの狂信的集団であり、目的達成のためには手段を選ばない。

 

 

 

 

亡国企業

 シャロッコに数十年前から乗っ取られており、現代技術の研究機関として動かされている。

 本格的な革命はISコアの解析が完了してからであり、そのタイミングで組織内容を一新し、世界各国の存在に刺激を与えて世界大戦の準備を整えている。

 

 

第五世代IS

 シャロッコが設計したフォーシーズンのこと。あくまでシャロッコの設計思想上のことでしかなかったが、時代がすすむにつれてチエーロ・フォルテッツァの第三世代武装が標準装備になったこともあって、展開装甲の攻撃能力が真価を発揮できなくなったため加速的にこちらに移行した。

 あまりにもいきすぎた思想で開発された展開装甲をあくまで本体の性能向上として使用し、強化武装によって突き詰めを行う機体。この設計は人間には万象すべてに対応する武装を自在に使用するなど荷が重いと判断されたため。

 あくまで設計思想上の機体であるため桁違いの性能を発揮しているわけではないが、シャロッコ自身が優秀なため紅椿とも張り合える性能を発揮する。

 なお、フォーシーズン以外の第五世代機は、上記の理由によりエネルギー武装の価値が大幅に下がったため、レールガンなどの実弾武装が中心となっている。

 

 

 

AISガジェット

 対IS戦闘を目的とした戦闘システムの名称。ISコアを解析できたシャロッコだからこそ製造できた新機軸の兵器。

 ISコアの解析によってシールドエネルギーとPICの限定的利用に成功しており、さらに網膜投影型のカメラユニットなどを組み込むことによって360度の視界を確保に成功。数をそろえればISとの戦闘を可能とする機体が完成してる。

 分厚い装甲とシールドエネルギーの複合による耐久力と、サイズ故のISを超える火力、さらにIS程ではないが高い運動性によって、白騎士事件の時の軍事兵器をはるかに上回る戦闘能力を発揮。多対一程度で張り合えるようになっている。

 車両タイプ

 亡国企業が戦車タイプを開発。戦車タイプとはいえ戦闘時における移動はPICをりようしたホバー装甲ともいえる超低空飛行。いわばホバータンクとでも言うべき機体。

 クラス代表対抗戦にて襲撃された機体は20機程度で数機のISと勝負になったが、これは採算度外視・散弾を利用した対IS特化・不意打ちによる混乱・IS側の対抗戦術が開発されてない・こちらが対IS戦に特化した訓練をしていたなどの非常に好条件が加わった結果であり、正式採用された場合一個中隊で一機と勝負になる、それもIS側が長距離戦闘武装を施していない状況下での場合となる。

 ミラージュ・フォース

 亡国企業製の最新鋭車両型AISガジェット。

 ふんだんに異形の技術を採用しており、従来の戦車と同等の形状をしながらも、全ての性能が桁違い。

 主砲と装甲に展開装甲の技術を利用しているため、従来とは比較にならないほどの運動性能と防御力、さらに攻撃の多様性を持つ。反面連続稼働時間は短めなので、運用には母艦を必要とする。

 

 

 半人型タイプ

 上半身は人型だが、下半身は独特の形状をしたもでる。全長は相応に高く20メートル弱の機体。

 ホバー装甲で軽快な機動を取るだけでなく、大型化することでISのPICを限定的に再現しており、慣性をある程度制御することで高い運動性能を発揮する。さらに両腕にはシールドユニットを接続しており、これで弾丸を防ぐことにより人間より一回り大きなサイズでしかないISの火力では突破困難な防御力を発揮している。

 

 

航空戦艦タイプ

 ほかの兵器をサポートするためのタイプ。

 小型拡散サーモバリック速射砲及び広範囲拡散放電ユニットという対ISに特化した武装を採用しており、数機のISが相手なら有効射程に近づけさせないといった真似が可能。反面コストパフォーマンスは最悪に近く、ISという兵器体系が存在しなければ現実的に開発することは不可能といっても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

亡国計画

 シャロッコが己の野望を実現するために行った計画の総称。

第一段階 第四段階が中途半端に終わった時の保険のため、ISというパワーバランスを崩すためにAISガジェットを開発。

第二段階 第五段階の成功確率を上げるため、世界各国のISコアを奪い取って数を集める。

第三段階 AISガジェットやISを使ってISとの全面対決を起こし、ISの性能を正当な意味で世界に伝え、「英雄が乗るべき力」として認識させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロット

 

 夏休み編でパラディン・セイバーとの第一ラウンド終了。

 

 その後学園祭でシャロッコが本格的に活動し、AISを大量に投入して大規模戦闘突入。この時点でラウラが二次以降。

 

 そのごキャノンボールで原作に近い展開とともにセシリアが二次以降。

 

 そして専用気持ちタッグマッチと次期を同じくしてシャロッコが本命を実行。タイミングを同じくして動きをつかんだ束がアザゼルとともにIS学園に来るが、箒が敵についていることまでは読み切れず、結果的に致命傷をおい、ウィンターによってIS学園を中心にした結界が張られ、それまでの裏工作などで戦略核ミサイルが発射秒読み段階に。

 

 時を同じくして四朗がヴァスコ・ストラーダを派遣していたこともあり、戦闘は最終決戦。ミサイルを応用して一部チート人を先に送りこんだうえでレヴィアたちが移動、亡国機業と決戦。

 

 最終的にはシャロッコがかろうじてアザゼルたちを押し切り、激戦をしのいだレヴィアたちとの最終決戦という流れだった。

 

 

 

 

 

 

 

実は続編の構想もあった。

 

主人公は千冬とアザゼルの娘。ちなみにアザゼルは存在を知らない設定。

 

なんやかんやあってイッセーの義妹として暮らしている主人公はイッセーにベタ惚れながらもフォローしながら過ごしていたが、その身にはアザゼルが開発した自立進化型第四世代ISが秘められていた。

 

シャロッコの意思を継いだ残党が禍の団と協力しながら仕掛けてくる中、アクの濃いフルメンバーになったレヴィア眷属や、紆余曲折あって一夏とはくっつかなかったヒロインズの子供たちと共闘しつつ、イッセーとラブラブになっていくストーリー展開を想定していたりいなかったり。

世界情勢

 インフィニットストラトスD×Dから25年後の世界。

 亡国計画と、亡国企業残党によってISコアと対IS兵器による混戦が世界中で頻発しており、数年前まで世界中が混乱状態だった。ほとんどの国が内乱状態だった上、特に世界最強だったアメリカは対IS兵器で出遅れたため国際情勢が大幅に変動している。

 異形社会においても亡国企業の影響は膨大で、各種異形組織がそれぞれ対亡国企業を視野に入れて科学技術の導入と複合による発展の研究が急がれている。

 

主人公 兵藤千夏

 兵藤一誠の義理の姉。イッセーに匹敵するほどの女体好きで、エロ女の異名を持つ。

 基本的に全てにおいてイッセーより優秀だが、対人恐怖症一歩手前レベルで人前だと緊張してしまう。そのため常にイッセーと一緒に行動しており、依存とも恋心ともいえる複雑な感情を抱いている。

 レイナーレをはるかに上回る光力と、危機に陥った時に発現した謎のISウルグナを頼りに、イッセーを巻き込む激戦を共に闘う。

 その正体は織斑千冬とアザゼルの間に生まれたハーフ堕天使。ただし、千冬が姿をくらましたためアザゼルはその真実を知らない。

 

 

セス=オルコット

 セシリア=オルコットと悪魔祓いの間に生まれた息子。聖槍ロンゴミアントの使い手にして、オリジナルISコアユーザーの一人。

 

 

ISコア

 オリジナルタイプとマスプロダクションモデルの二つが流通している。

 篠ノ之束が聖釘を使用して開発したオリジナルモデルは、シャロッコのたくらみによって機体を取り込んだまま所有者を求めて転移するようになっており、一種の擬似神器と同等の状態になっている。

 マスプロダクションモデルはアザゼルやシャロッコが開発したものでほぼ同等の機能を持つが、二次移行が不可能になっている、生命維持機能が低下しているなどの欠点がある。現在は国連加盟国で三機一個小隊による軍事編成二個中隊18機と、実験及び競技用の二個小隊6機の計24機で固定化されている。それ以上の数のISコアは国連の平和維持軍に提供するなど条約が固定化されている。

 大勢側の総数は4680機(内国連加盟国総数4632、国連軍所属48、IS学園用25機)とほぼ十倍。

 オリジナルISコアはその自己進化性能から貴重ではあるが、所有者が死ぬか権利を放棄すると保持しているISごと転移するため扱いが非常に難しい。

 また、個数が限定されているというのはあくまで人間社会においてであり、亡国企業と神の子を見張るものによってISコアの製造技術は確立しているため、やろうと思えば追加生産は可能。ただし世界全土を巻き込みかけた大騒ぎの影響があるため、その生産には忌避感が突き纏い、さらにその存在を危険視した異形社会により生産そのものは禁止されている。

 

新アラスカ条約

 量産型のISコアの登場によって、大幅に改定されたアラスカ条約。その条約締結にはキリスト教などが大幅に意見している。

 神の子の血を以っての現代社会の影響を極力下げ、しかしローマ教皇が馬鹿やらかしたため強気になることができず、結果として世界各国のISコア保有数を固定化させることが中心となっている。

 同時にISコアの製造の禁止も打ち出しているが、これは開発研究がおこなわれることによる異形の技術の流出を警戒してのこと。

 

DI

 セーラ・レヴィアタンが結成した、異形側の対亡国企業組織。

 異形の技術を人間社会に流出させることを目的の一つとしている亡国企業に対抗するための組織であり、ISコアの生産が認められた唯一の組織。その特性上悪魔側の異形社会とのパイプとしての側面がある。

 主に彼女の眷属の中に関係者がいたことから、アースガルズと須弥山に対しては特に協力関係が深く、中国とヨーロッパに専属の支部を持つほど。

 中核メンバーであるセーラ・レヴィアタン眷属も、魔王眷属に引けを取らないといわれる精鋭ぞろいであり

 

 

 

亡国企業

 シャロッコが作り替えた国際テロ組織。

 異形の力を加えた世界乱戦を目的としており、25年前の作戦失敗を機に、散発的なテロを行っている。

 のちに組織そのものが禍の団と合流。目的達成後の世界乱戦の強力を条件に、参加している。

 

第六世代IS

 第五世代ISからさらに発展したIS。ISの価値が下がったことで軍事運用が容易になり、その結果発生した問題点に対処することを主眼に置いたIS。

 シールドエネルギーが切れた後にさらに追撃を受けた場合、高高度で撃墜されて墜落した場合、さらに宇宙空間においてシールドエネルギーが切れた場合を考慮して、簡易型IMと言えるパワードスーツを装着する。これによって生存性が飛躍的に向上している。

 

IA インフィニットアーマー

 ISと同様の技術を持ち、IMともかつての軍事兵器とも違う運用体系を持つ軍事技術の総称。イメージとしてはMA及びAF。

 基本的にISより大型がなのが特徴的で、第三世代技術を軍事転用しようとすると大型化せざるを得ないため、軍事兵器の中でもひときわ大型の機体が多い。

 

 

 

 




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