東京喰種:八 (平和希)
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Prolog ヒト

こんにちは、ひらかず のぞみです。
八幡の作文的なものを目指していたのですが....なんか、変なもんになってしまいました....笑


人、人間、ヒト、人類....どれも俺達の存在を定義する言葉だ。それは、生物学上の....あるいは哲学的な....あるいは....。俺達の存在を定義する言葉は、様々な視点で、様々な思考の元で完成されている。

ならば、ヒトとは、人という一つのカテゴリとしての存在なのだろうか。答えはノーだ。俺達人間は動物という枠組みの中に属している、ホモ・サピエンスとも呼ばれる存在だ。突き詰めてみれば、俺達は動物というのが正しい解なのだろう。

しかし、いつからか、人類は「ヒト」と呼ばれる存在と「動物」を区別するようになった。それは人の進化の一つの結果であると思う。人間は自分達より、動物の方が劣っていると判断し、そして区別するようになったのだろう。しかし、もしかすると、それはただの恐怖心からくるものだったのかもしれない。

いつの時代も人類は動物という存在に脅かされてきた。腕力に、脚力に、咀嚼力に勝る彼らに、人は知恵という力で道具を作り、武器を作り、檻を作り、対抗してきたのだ。あらゆる身体的能力で劣っている人が唯一持ち合わせていたのが、知恵だった。

しかし、もしも、動物のように、強靭な肉体や腕力に、脚力に、咀嚼力を持ち、さらに人の知恵を持つ存在がいるとしたら、俺達はその存在をどのように定義付けるのだろうか。人狼?怪物?悪魔?それとも....。

もしも、それが、人と同じ様に暮らし、感情をもち、文化を持つ存在なのだとしたら、ヒトとそれは相容れない存在で、その世界に待ち受けるのはきっと....

 

 

....悲劇だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はっ....はっ、はあっ!」

 

東京20区。その夜の街を俺は駆けていた....。

 

「チクショウ!なんだって、こんな事に!」

 

走りながら悪態をつく、今俺は人生最大の危機に立たされていた。「彼女」に噛まれた....いや齧られた肩が酷く痛むが、今はそんな事を気にしてはいられない。それほどまでに俺は追い込まれていた。

 

「ふふふ、女の子からにげるだなんて....。ひどい人ね。比企谷くん....。」

 

ビルの角を曲がった時だった、目の前に後ろにいたはずの「彼女」がたっていた。

 

「な....んで....っ!」

 

声が酷く枯れている。嗚呼....わかってしまうこれからの自分の運命が....。

 

「比企谷君は....私のお気に入り。ホントはもったいないし、雪乃ちゃんにはわるいけど....しょうがないよねぇ....だって....」

 

そういい彼女は微笑む。俺は、こんな時だというのに....月明かりに照らされる彼女の姿に見蕩れてしまった。きっと俺はこれから彼女に殺されるのに....、こんなにも恐ろしくてたまらないのに....

 

「我慢できないんだもん。」

 

彼女がそういった瞬間、腹に感じる違和感。

腹を、なにかで貫かれたっ?!

 

「....ンッ!?ゴフッ....」

 

声はでない。口から出るのは大量の血....。

「いたい....?比企谷クン?ごめんねぇ....比企谷クンは私のお気に入りだったから....楽に逝かせてあげるね?」

 

そんな彼女の言葉を聞きながら....薄れゆく意識の中で....俺は彼女と再会したあの日の事を思い出していた....。



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第一話

本編スタートです!
八幡のキャラが変わってる....。と思いますが、彼も成長したということで、解釈してください!


サァッとどこからかふいた風が頬をなぜる。その風には少し湿気が混じっている気がした。この前まで降り続いていた雨が嘘だったかのように、空はどこまでも青く晴れ渡っている。周りを見渡してみれば、半袖を着ている者もちらほらとみえる。

例年よりも多く雨の降った梅雨が終わり、大学に入り2度目の夏がこようとしていた…。

 

東京20区ーーー。そこにある上井大学、そのキャンパスのメインストリートを俺は1人歩いていた。高校2年の終わり、最後の進路調査書に俺はここの大学の名前を記した。もちろん、俺を知っているいろんな奴等には驚かれたが、唯一平塚先生は、君は本来そう言う奴だよ。と、タバコを吸いながらニヒルに笑うだけだった。

 

「あ、はちまーん!」

 

キャンパスを歩いていると、俺を呼ぶ声がする。見ると、そこには待ち合わせをしていた結衣が俺に向かって大きく手を振っていた。

 

「はちまん、やっはろー!」

 

「おう。わるいな、待たせたか?」

 

「ううん、ぜんぜん。私も今きたとこ!」

 

そういい結衣はニパーっと笑う。

 

そんな結衣の雰囲気は高校の頃からは変わっていた。

髪はあの頃とは違い、ロング程に伸ばし降ろされていているし、態度も少し落ち着いてきて、大人びた雰囲気になった。なんだろうか、ダックスフンドが、ゴールデンレトリバーになった感じ?…うん、意味わかんねぇな。まあ、そんな感じだ。

 

「そうか、ならいいんだが…。んじゃ、いくか。」

 

「うん!急がないと、ゆきのん待たせちゃうから....」

 

「そうだったな....。急いでいくか、あいつを待たせたら何を言われるかわからんからな。」

 

基本、人を待たせるとろくな事がないが、その相手が雪乃になるとその危険性は数倍に跳ね上がる。もしも彼女を長い間待たせようものなら、きっとその時には今まで味わった事のないような罵詈雑言が飛んでくることだろう。…うう、想像しただけでも身震いが……。

 

「またそんな事いってる!久々に会うんだから、そんな事いっちゃダメだよ!」

 

「わかってるって...」

 

俺のそんな態度に結衣はプンプンと言う音が聞こえてきそうな様子で俺を叱る。

 

そう今日は久々に奉仕部のメンバーで集まる約束をしているのだ。最後に集まったのは学年が上がった時だったので、今日は三ヶ月ぶりに集まるということになる。

 

「で?どこで待ち合わせだったけ?」

 

「え〜とね....たしかここから近い喫茶店だったと思うんだけど....」

 

そういい結衣は携帯を弄りだす。その度に携帯にジャラジャラ付けられているストラップが揺れるのが気になってならん。重たくないのそれ?せっかく、ガラケーからスマートホンに変えたのに、全然スマートじゃないじゃん。

 

「あ!わかったよ!えーっとね....」

 

どうやら目的の情報を見つけたらしい。結衣は携帯を凝視しながら、目的地の名前を告げる。

 

「高田ビルの近くの........、あんていく....ってお店だって!」

 

あんていく、ね。…変な名前だ、どう言う意味なのだろうか。あんていく…アンティーク?いや、違うか。ふむ………。

 

「さー!いこ、はちまん!」

 

「お、おう…?!」

 

そんなくだらない事を考えている俺を結衣は腕を捕み引っ張ていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あ、あそこかな…?」

 

「ん…?あぁ、そうみたいだな。」

 

大学から他愛もない話をしつつ歩き続けること数十分。俺達は目的の場所であるあんていくへと到着した。外からみた雰囲気から察するにここは喫茶店らしい。入口には平仮名で"あんていく"とかかれた看板が置かれていた。

 

しかし、先ほどからどうもチラホラと視線を感じる。明確な敵意はないが、どうも警戒されているかよ様な…そんな視線を。

 

ざっと周りを見渡してみるが、周りに人が多くてその視線の主は分かりそうもなかった。

 

「はちまん、なにしてるの?はいろ?」

 

「…あぁ、わるい。」

 

俺がそうしている間に結衣は既に店の入口のドアノブへと手をかけていた。結衣は、ん、いいよと言うとドアノブを引く。

カランコロンと、お決まりの音が店内に響き、扉が開かれる。瞬間香る珈琲の匂い。やはりここは喫茶店だったようだ。

 

俺達があんていくに入ると、雪乃は探さずともすぐに見つかった。案の定雪乃は既に席に着き、文庫本に目を落としていた。相変わらず絵になる光景だ。大人になるにつれ、雪乃の美貌にはさらに磨きがかかっている。身長も少し伸びたし、顔つきも幼さがぬけ、元来持ち合わせていた落ち着いた雰囲気は以前よりも型にはまっている。髪の毛はミディアムロング程度に切り揃えられ、以前とは全く異なった印象を感じさせた。それに体つきも全体的に成長してきている。いままで控え目だったあの部分も少しずつ………うん。大人になってる。

ん?なにもやらしい事なんて考えてないぞ?ただの事実の確認だ。

 

「ゆきのん!」

 

俺が誰へ向けた物かもわからない言い訳をしている中、結衣は雪乃の姿を見つけるとタタタッと、雪乃の元へと駆けてゆく。

 

「こんにちは、結衣。」

 

「うん!やっはろー、ゆきのんっ。ごめんねぇ、待たせちゃった?」

 

「いえ、いいのよ。時間はあるのだから、気にすることはないわ。」

 

そう言うと雪乃は微笑む。ほんとに気にしていないだろう。相変わらず結衣には甘いやつだ。そして雪乃は俺へと目を向ける。

 

「はち君も、こんにちは。」

 

「おう。久しぶりだな、雪乃。」

 

んー、はち君って未だに慣れない。いや、嫌いじゃないが。高校を、卒業する頃俺達はお互いを名前で呼ぶようになった。まあ厳密に言えば雪乃のは名前ではないのだが…。彼女が、なぜ俺をはち君と呼ぶのか、答えは簡単、八幡君は言いにくいからだという。たしかに、はちまんくんっていいにくい。なんか、北朝鮮あたりの偉人とかにいそう。ハチマンクン。

 

挨拶もすみ、俺と結衣は席へつく。そして雪乃の手にあるコーヒーカップをみて、率直に感じた疑問を漏らす。

 

「しかし....お前がコーヒーとは珍しいな。」

 

「そうかしら....。昔からコーヒーは嫌いじゃないわ。それに....」

 

そういいつつ、雪乃はカウンターの方へ目をやる。そこでは紳士的な年老いた男性が、柔和な微笑みを湛えこちらを見ていた。

 

目が合ったので、軽く会釈をする。すると男性もこちらへ頭を下げて応える。

 

「ここの店長が入れるコーヒーは美味しいから....。」

 

「東京にも、こんな所があったんだな。」

 

そういいつつ、改めて店内の様子を伺う。店内はまさに、喫茶店と言った様子で、シンプルに余計なものは何も置かれていない。客が少ない訳でもないのだが、それぞれが静かに自分達の時間を過ごしているため、店内には静かな時間が流れている。

 

「ゆきのんはよくここに来るの?」

 

「ええ、ここの店長は私の父と知り合いで、その....東京に来てからいろいろとお世話になっているから。」

 

そう言うと、雪乃はわずかに目を逸らす。

なんだろうか、煮え切らない態度だ。なにか、言えない事でもあるのか…?

 

「へぇ…なあ雪乃…。」

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

俺はその少しの違和感に追及をしようとしたのだが、注文を取りに来た店員にその言葉を遮られる。おおい、俺が言うのもなんだが空気ってもん読んではくれないだろうか。

 

「あら....。こんにちは、霧島さん。」

 

「こんにちは、雪ノ下さん。」

 

どうやら注文をとりにきた店員と雪乃は知り合いらしい、みると、髪をセミロングほどにそろえているーーー歳は高校生くらいだろうかーーー女の子がたっていた。

じっと見ていたら目が合った、すると半眼で睨まれてしまう。ふえぇ....こわいよぉ....。

....俺何もしてないのに....。

 

「それで....、ご注文は....。」

 

「ああ、ごめんなさい。結衣はコーヒーでも大丈夫かしら?」

 

「うん!大丈夫だよ〜。」

 

「お前....コーヒーとか飲めんの?」

 

「バカにしすぎだし!飲めるもん!....砂糖があれば....なんとか....。」

 

「飲めないんじゃねえかよ....。じゃあ俺はまっ....「いっておくけれど」....なんだよ。」

 

「ここに、MAXコーヒーというメニューはないから。」

 

「さいですか....。」

 

「霧島さん、コーヒーを3杯と....、一つだけミルクと、シュガーをつけてもらいたいのだけれど。」

 

「かしこまりました。少々お待ち下さい。」

 

そう言い、店員の....霧島さんは、カウンターへ向かっていく。

 

「可愛い子だったねぇ....。ゆきのんはあのことも知り合い?」

 

「ええ....。彼女はここでバイトをしている、霧島トーカさんというのよ。」

 

「へぇ〜、ほんとに常連さんなんだね、ゆきのん。」

 

「えぇ....。それで、はち君?さっき私をのことを呼ばなかったかしら?」

 

「いや....、なんでもない、気にするな。」

 

「そう....。」

 

そこで、会話は途切れる。しかし、気まずい雰囲気はなく、あの頃と変わらない気持ちいのいい沈黙が続く....。きっと、俺の思い過ごしだろう、久しぶりで神経質になっているのかもしれない。

 

そんな時だった、

 

『ーーー28日 高田ビル通りで男性の遺体の一部が発見されました。現場には"喰種"のものと思われる体液がのこされており、捜査局はこれを"喰種"の捕食と見て周辺調査を開始しています。』

 

店内に置かれたテレビから一つのニュースが流れる。

....なんだ?心なしか、店内の雰囲気が変わった....?

 

『東京の街を襲う"喰種"の恐怖....。彼らの実態とは....?今日は"喰種"研究家の小倉先生にお話をお伺いしたいとおもいます。』

 

「怖いね....高田ビル通りって....ここから、かなり近いね....。でも、私"喰種"なんて一度も見たことないんだけど、ほんとにいるのかな?」

 

「そりゃ、いるだろ。こうしてニュースでも堂々とその存在に触れているんだし、それに"喰種対策局"なんてもんまであるんだ。あれは国の税金からうごいてんだから、これで"喰種"なんていませんでした、なんていったら詐欺なんてもんじゃねぇぞ。」

 

「そっか....。ゆきのんはどう思う?」

 

「そうね....。はち君がいったように、彼らの存在はこの国のシステムが証明しているわ。」

 

「案外、そこら辺にいるかもな。」

 

「やめてよぉ〜!怖いじゃん!」

 

そう言い、結衣は机にうなだれる。その姿を微笑ましく思いながら、雪乃の方へ目をやると、なにか考え事をしているのか、物憂げな表情をしていた....。

なんてことのない、今まで何度か見てきた表情だったが、俺はその表情になにか、妙な胸騒ぎを感じてならなかった....。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ありがとね、はちまん。」

 

「近頃、物騒だからな....。お前らだけで帰らせられねぇよ。」

 

あんていくで暫く過ごした後、俺達は東京の街を遊んでまわった。そして、俺は二人を駅まで送りにきているのだった。

 

「出会ったばかりの頃からは想像もできない殊勝なここがけね。....ほんとに変わったわね....あなた。特に目とか。」

 

「だよねー、はちまん変わったよね!特に目とか!」

 

「お前らな....。」

 

くそ、好き勝手言ってくれやがって。てか目の事強調し過ぎだろ…、そこまで言われるとか前どんだけひどかったんだよ…。まあ自覚してるんだが。

 

「でも、はちまんが先生になるって言い出した時はほんと、びっくりしたよね!」

 

「たしかに、あのときは驚いたわ。はち君がまともに働こうとしているだけでも驚きなのに、教師だなんて。」

 

「おい、もういいだろ…、てかそれを言うなら結衣の事だって驚きだっただろ。」

 

「うぇ?!わ、わたし?」

 

急に話を振られ、結衣がわかり易く戸惑う。てか、うぇ?!なんていうやついたのかよ…。

 

「そうね…。確かに、高校三年からの結衣は凄かったものね。」

 

「ああ、正直驚いた。しかも、ほんとに受かっちまうんだからな。」

 

高校三年生の頃結衣は進路調査書に俺と同じ大学名を記した。雪乃と同じ大学にはいけないからせめて俺と同じ大学に行きたい。とのことだった。これには平塚先生や、いろんな人が結衣を止めたが、結衣はその意思を変えることなく努力を続けた。暇な時間は全て勉強に費やし、奉仕部にいる時間は雪乃に勉強を教わり…、そうして、結果として俺と同じ大学に通っているのだ。本人が言うにはギリギリだったらしいが、それでも俺は結衣の努力の結果だと思っている。将来は保育士になりたいのだという。温厚で誰とでも自然に接することのできる結衣にはぴったりの職業だろう。

 

「ええ、でも元々総武高校に入れるだけの素養はあったのだから、努力すれば大丈夫だとは思っていたわ。」

 

「そうだったな、そういえば結衣同じ高校だったな。」

 

「どう言う意味だし!はちまん馬鹿にしすぎだから!」

 

俺の言葉に結衣はプンプンと言った様子で怒る。結衣のこう言った反応は見ていて面白い、からかいがいがあるというものだ。俺は思わず口端が緩むのを抑えながら、雪乃へ目をやると雪乃も同じ事を考えていたらしい、俺と同じように口端が上を向いている。そんな俺達の様子を察してか、結衣は「もう~!」といいそっぽを向く。…あー、やりすぎちまったか。

 

「すまん、悪かったって。」

 

「むー。今度ハニトー奢ってくれたら許してあげる。」

 

な、なんだと…。この親からの数少ない仕送りを頼りに細々と暮らしている俺にそんな物を奢れと申すか…!…まあ、悪いのは俺だしな。

 

「…分かったよ。それで手打ちだぞ?」

 

「うん!いいよ!」

 

変わり身はや!どっかの忍者かよ…。そういえばNARUT●終わったなー。映画見たけど思わずウルッときちまったぜ…。ヒナタ可愛すぎでしょ、常時白目でも愛せるわ。

 

「結衣、私も少し悪気があったわ。ごめんなさい。」

 

「うん!いいよ、ゆきのん!」

 

「えぇ~…。」

 

雪乃にはペナルティ無しですか。そうですか。…なんだよこの格差、高低差あり過ぎて耳キーンなるわ。

 

「あ、そろそろ電車の時間だ。」

 

「そうか、じゃあ今日はこれでお開きだな。」

 

「そうね…。では行きましょうか、結衣。」

 

「そうだね。じゃあ…また明日ね、はちまん!」

 

「あいよ、またな。」

 

別れの言葉を交わし、俺達はそれぞれの帰路へつく。

二人は電車、俺は一人暮らしのマンションまで自転車だ。

 

二人の姿がホームに消えるまで見送ったあと、俺は駅の自転車置き場へと向かう。そういえば、今日の晩飯何にしようか…今からつくるの面倒だな。俺がそんな事を考えつつ歩いている時だった。

 

「やっはろ〜、ひ・き・が・や・君」

 

唐突に俺の前に"彼女"が現れたのだ。........雪ノ下 陽乃が............。

 

思えば、俺の"物語"はここからはじまったのだ。俺の送ってきたこれまでの人生、小学校の頃のことも、中学校の頃のことも、....高校で、奉仕部で過ごしたあの時間さえ、この物語の序章でしかなかったのだ。そしてここから始まる"物語"は............。

 

................悲劇だ................。




第一話でした。
ちなみに僕がが好きなキャラは東京喰種はトーカちゃん。俺がいるはあねのんです。

どうでもいいですね、すいません。笑


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第二話

ヒデとの絡みが意外と楽しい。


「....そもそもだ....私達人間というものは....」

 

奉仕部で集まったあの日から数日。俺は大学の授業を、ぼ〜っと聞き流していた。近頃はずっとそうだ。今日は特に、授業に身が入らない。

俺がなぜこんなにぼ~っとしているのか、話はあの日の夜へと遡る。あの陽乃さんと出くわした夜へと…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「久しぶり〜比企谷君。」

 

「お久しぶりです…陽乃さん。」

 

雪乃と結衣を見送り、駅の自転車置き場へと向かう途中、俺へ話しかけてきたのは陽乃さんだった。まさか、こんなところでこの人に出くわすとは…

 

「こんな所で陽乃さんと出くわすなんて....。なーんて、考えてるでしょ?」

 

「相変わらずですね....。陽乃さん。」

 

なんでわかんだよ…。ほんと姉妹揃って、ナチュラルに人の思考よむのやめてくれませんかねえ。

 

「あー!図星だったんだぁ!わっかりやすいなぁ、八幡は〜。」

 

そう言い、陽乃さんは、うりうり~と、肘で脇をついてくる。…相変わらず近い…動く度に香るいい匂いと妹とは違って自己主張の激しいあれが俺に悪い影響しか与えないのでほんとにやめてほしい。

 

「やめてください...。てか、なんで陽乃さんが東京にいるんですか?」

 

俺は陽乃さんから身を離し、ふと気になった事を尋ねる。

 

「なんでって....、そりゃあ、私の大学は東京にあるからねぇ。」

 

「え、陽乃さんの大学って、東京なんですか?」

 

「うん、そうだよ〜。あのねぇ、八幡。私程の存在が通う大学なんて、日本には一つしかないでしょ?」

 

「ああ....、なるほど....。」

 

その一言でわかってしまう。確かにそのとおりだ。陽乃さんがそこら辺の大学に通うわけがないのだから。

「そーいうこと!それにぃ〜....」

 

そう言うと、陽乃さんはぐいっと俺の顔を覗き込み....

 

「ちょーっと、八幡の顔が見たくて…来ちゃった♪」

と、てへっと舌をだす陽乃さん。それは普通の男なら一発で惚れてしまう程に魅力的なしぐさだったが、…生憎おれは普通の男ではない。

 

「そうですか、じゃあもう俺の顔も見れたんで帰っていいですよね……ぐぇっ!?」

 

俺はそっけなくそう言いその場を後にしようとするが、陽乃さんに首根っこを掴まれる。

 

「相変わらずつれないなー、八幡は。まあお姉さんはそういう所も好きだけど、他の女の子とかはどう思うのかなー。」

 

そういいやれやれと首を振る陽乃さん、その手はガッチリと俺の腕を掴んでいる。…くそ、これじゃ逃げられねえ。

 

「余計なお世話ですよ…。てか、なんか用事があるならとっとと済ませちゃってくださいよ。」

 

「うわっ、八幡冷たいなー。大好きな八幡にそんな態度とられたら私泣いちゃうよ~。」

 

陽乃さんは泣きまねをしつつそう言う。…正直めんどくさい。このまま無理矢理振り払って帰ってもいいが…そんな事をすれば後が怖いからな。そういうわけにもいかない。

 

「いい加減にしてください。そんな茶番をするためにわざわざ会いに来たわけではないんでしょう?」

 

俺が少し強くそう言うと、陽乃さんは手を離し俺と向き合う。

 

「ん…まあね。ちょっと八幡とお話がしたくてねー。ね、八幡今度暇な時ある?」

 

「いや、最近ちょっと忙しくて…。」

 

陽乃さんのお誘いに俺はそう即答する。俺の第六感が警鐘をならしている、何がなんでもこのお誘いにだけはのるな、と。

 

「へぇ…そうなんだ。じゃー、デートしようか。」

 

陽乃さんのその物言いに俺は絶句する。なんてこった…無理を通して道理を蹴っ飛ばしてきやがった…あなたそんな兄貴肌でしたっけ!?

 

「いや、だから俺忙し…」

 

「デートしよっか。」

 

「いや...」

 

「デートしよっか。」

 

「はい…。」

 

俺は陽乃さんの圧倒的な圧力に屈してしまった....。てか、疑問系できかれてる筈なのに、なんでこんなに強制力感じるの?怖すぎて断れねぇよ…。

 

「じゃ、詳しい事は連絡するから!」

 

そう言い満足そうに笑うと陽乃さんはさっていく。

 

「なんだったんだ....一体....。」

 

嵐の様に去っていった陽乃さんの背中を見つつもれた、俺のつぶやきは夜の街に消えていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして、今日がその....デートの日なのである。

正直めんどくさい。というか、あの人の目的がわからない分、対策も立てづらく、正直行くのが怖いまである。

はぁ....。なんとかできねぇかな....。

机につっぷし、そんな事を考えていた時だった、俺の肩を誰かがゆする。

 

「なあ、比企谷起きろよ。」

 

顔をあげてみれば、俺の肩を揺すっていたのは永近 英良ーーー大学内で俺と話すことのある僅かな人間の一人だーーーだった。

 

「なんだよ、永近。」

 

俺はぶすっとした様子で永近の方をむく。正直今は誰かの相手をするような気分ではない。

 

「なあ、お前今の教授の話しどう思う?」

 

「どう思うってなんだよ。」

 

「人間の進化の話しだよ!聞いてなかったのかよ。」

 

そういい、永近は俺をジト目でみてくる。うるせえな、こっちは今それどころじゃねえんだよ。

 

「うるせえ。てか、それがどうしたんだよ。」

 

「いやー、人間の話し聞いてて思ったんだけどさ、喰種っていんじゃん?あいつらはどうなのってさ。てか、ほんとに喰種っていんの?」

 

そういい、顎に手をやり考える格好をとる永近。お前それだせえからやめた方がいいぞ。…てか、なんかこの前の結衣みてえな疑問だな。あの時みたいに俺が自分の考えを言ってやってもいいが…今はその道のプロが目の前にいるんだ。教授にまかせよう。

 

「知らねえよ。教授に聞いてみればいいだろ?」

 

「そっか…それもそうだな。」

 

「....というわけだ。何か質問があるものは?」

 

そこでタイミングを計らったかのようにきた教授の言葉に永近は、はいっ!と手を挙げる

 

「せんせーい。俺、"喰種"に興味があるんですけど、実際に見たことがなくて、ほんとにいるんすか?"喰種"って。」

 

その質問に教授はふむ…と腕を組む。

 

「"喰種"か....。まず質問に答えよう。彼らが存在しているかどうかだが....。答えはyesだ。彼らは確実に存在している。それは、ニュースや、喰種捜査局などの、この社会のシステムが証明している。」

 

先生のその返答に生徒がざわめく。

何人かは特に驚いてない様子だが....、まあ俺と同じように独自にその答えに行き着いたか....あるいは彼らが"喰種"なのか....。なんて、流石に考え過ぎか。

 

「ok、それでは軽く彼らについて講義をしよう。まず"喰種"という呼び名だが....彼らがそう呼ばれるのは、彼らが人肉、つまり人間の肉を主食としているからだ。そもそも彼らは人肉以外から栄養を摂取できない。これは彼らの持つ特殊な酵素の影響と言われているね。」

 

そんな話しに永近やほとんどの人間がうへぇ....という、表情を浮かべる。俺も表情に出すことはないが、聞いていていい気分はしなかった。

人肉を食べるねぇ....どんな気分なんだろうか。俺はゴメンだな。そんな気分知りたくもない。まあ、一生知ることなんてないだろうが。

 

「ここからは、真偽の程は定かではないのだが....面白い話があってね....。彼ら、舌の作りが我々と違うから....食べ物がめちゃくちゃ不味く感じるらしい。サラダは青っぽく、肉や魚も生臭く感じるらしいね。人前では我慢して食べるかもしれないが....食べた後は強い吐き気に襲われるだろうね。」

 

まじかよ....じゃあほんとに、"喰種"にはなりたくねえな。当たり前のことだが。

 

「まあ、おぐちゃんがいっていたことだから、ほんとかどうかわからないんだけどね。」ハハハ....

 

先生がそう付け足すと、終業をしらせるチャイムがなる。

 

「じゃあ、今日の授業はここまで。"喰種"についてこれよりも詳しい事が知りたい人は喰種捜査局にでもいってみてくれ。」

先生が出ていくと、生徒がまばらに帰り始める。

 

....俺も陽乃さんのところへ向かうか....。

めんどいけど。

 

気だるげに立ち上がる俺。しかし、そんな俺に永近が話しかけてくる。

 

「なあ!比企谷、このあと暇か?」

 

「あー、悪いな。この後用事がある。」

 

「お前こんまえもそういって、結局用事とかなかったじゃん!結衣ちゃんにきいたんだぜ?」

 

俺は永近と話しつつ重い足取りでキャンパスへと出る。

 

「いや、ほんとに今日は用事があるんだよ。」

 

「嘘つけって。」

 

「いや今回ばっかしはほんとだ。神に誓ってもいい。」

 

「じゃあ、俺が納得出来るだけの証拠を出せたら引き下がってやるよ。」

 

「証拠ってお前…。」

 

証拠をみせろってほどフラグ臭のする台詞はないと思う。そう言う奴は大概小学生か、真犯人のどちらかだ。その言葉を口にした途端結末が見えてチャンネルを変えるまである。まあ、今の状況は少し違っているが。証拠、証拠ねぇ…。どっかに落ちてねえかなー。

「あ、八幡だ。やっはろー。」

 

いたよ証拠…。なんでいんだよ………!

俺が永近を連れて歩いているとふいに声をかけられる。その声の主は言うまでもなく陽乃さんだった。

 

「へ?あの美人、今八幡って…?え?なんで?」

 

「………はい、証拠。」

 

俺は、陽乃さんの姿と俺の姿を交互にみて固まっている永近を放置し、陽乃さんの元へと歩いていく。

 

「なんでここにいるんですか…陽乃さん。」

 

俺は楽しそうにニコニコと笑っている陽乃さんに、不機嫌気味に話しかける。めっちゃ注目浴びてるし…勘弁してくれ、こんなのもはやテロだぞ。テロ。

 

「ん〜、大学が早く終わったから....、せっかくだし八幡の学校見てみようと思って…ダメだった?」

 

そう言い陽乃さんは上目遣いで首を傾げる。そのあまりに可愛らしい仕草に思わず、そんなことないです!なんで言ってしまいそうになるが…だが断る。この比企谷八幡が最も好きな事のひとつは自分で可愛いと思っているやつに「NO」と断ってやる事だ…。

 

「ダメです。」

 

俺が岸辺露伴に習った信念に基づきそう即答するが、陽乃さんはニコニコとその表情を崩さない。まだ何か言うつもりだな…。だが、俺は、俺のプライドにかけて屈したりはしない………!

 

「マッカン、一ケース買ってあげるから許して?」

 

「許します。」

 

え?プライド?なにそれくえんの?

 

「てか、そろそろ行きませんか?正直これ以上注目を集めたくないんですけど…。」

 

そう、これ以上めだつとあいつが....。

 

「はちまーん!」

 

結衣が....きちゃった........。

 

「やっはろー!はちまん!....と、陽乃さん?!」

 

「よ、よう。」

 

「やっはろー、久しぶり!がはまちゃん。」

 

「お、お久しぶりです....。」

 

結衣は陽乃さんに挨拶すると、俺の首ねっこを掴み小声で尋ねる。

 

「ちょっと!はちまん!なんで、陽乃さんがここにいるの?!」

 

「いや、なんでって....そりゃ....」

 

「おい、比企谷!俺も聞きてえぞ!あの美人一体誰だよ!?お前とどういう関係なんだ!?」

 

そして、結衣とは反対側に硬直状態から回復した永近が出現する。いつの間に回復したんだよ…永近。

 

「比企谷君はこれから私とデートなんだよ。」

 

答えあぐねている俺へ陽乃さんが助け船を....いや違う!この人爆弾投下しやがった!

 

「え....?」

 

「な、なななななななななな!?」

 

案の定、結衣はその場でかたまり、永近は壊れたロボットのように痙攣し、周りの野次馬からはドヨヨっとざわめきが起きる。てか、いつまでいんだお前ら!見世物じゃねーんだぞ!

 

「「ちょ、ちょっと(お、おい)!はちまん(比企谷)どういうこと(だよ)?!」」

 

硬直から息を吹き返した結衣と永近が声を揃えて俺に詰め寄る。仲いいなお前ら。いつの間にそんなにシンクロ率高めたの?1週間同じ部屋で暮らしてダンスの練習でもしてたの?

 

「落ち着けって...、デートなんかじゃねぇから…。」

 

「でも、比企谷君、私がデートしよっていったら、はい、って言ってくれたよね?」

 

俺が必死に弁明を試みるが、その試みは陽乃さんの追撃に見事に砕かれる。ちょっとぉ?!もうやめてくれませんか!

 

「いや、あれは…!」

 

「はーちーまーんー?」

 

ひいぃ!結衣さんの背後に般若がみえる!おこってらっしゃいます?!なぜ?!ホワァイ?!

 

「じゃ、そう言う事だから、比企谷君かりてくねー?」

 

「いや、ちょっ!?」

 

「あ、ちょっと、はちまん!」

そう言い陽乃さんは、俺に事態を収集する間も与えずに、俺をグイグイと引っ張っていく。

 

「もう!今度ゆきのんと詳しく教えてもらうんからねー!」

 

「比企谷…裏切りもノ………。」

 

そんな結衣の叫び声がキャンパス内にこだまする。そして、その横でどす黒いオーラを立ち上らせる永近。いや、裏切りものってなんだよ!てか、最後なんかやばい雰囲気かもしだしてたぞ!?チラッと陽乃さんの顔を伺うと、それはまあ、いい表情をしてらっしゃる。

 

「違ううんだぁぁぁぁぁ…。」

 

俺の魂の叫びが大学内にこだまする。

 

こうして、俺は改めてこう思うのだった....。やっぱり....俺はこの人が苦手だ....。

 




2話でした!
今回はヒデこんな感じでいいよね!とか、だが断るの使い方間違ってないよね!とか、心配事ばかりです…。

大丈夫ですよね…。多分。


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第三話

陽乃さん…お慕い申しておりました…。


「はあ…。」

 

俺は1つ大きくため息をもらす…。大学での騒動のあと、俺と陽乃さんは20区の路地を2人歩いていた。

 

「ほらほら、いつまで落ち込んでんの!男らしくない!」

 

そう言い陽乃さんはバシバシと俺の背中を叩く。誰のせいですか、誰の。

 

「じゃー、どこ行こっか?」

 

「どこ行こっかって....」

 

きめてないんですか....とは言わなかった。陽乃さんのことだ。わざと俺に行先を聞くような事をして、楽しんでいるのだろう。

 

「....じゃあ、俺がこの前雪乃達といった喫茶店でも行きますか?」

 

「うーん。ほかの女の子の名前を出したのは減点だけど、ミス●とかマッ●とか言わなかっただけ良しとしよう。」

 

陽乃さんは顎に手を当て神妙な顔でそういう。やっぱ、そう言う事だったのね....。

 

「いや、流石にこういう時の事ぐらいはわきまえてますよ…。それに、そんな事したら小町に叱られちゃいますし。」

 

「でた!相変わらず、シスコンなんだね〜。」

 

「千葉の兄妹なら普通です。俺のこれは一生治りませんよ。」

 

なぜなら小町が可愛いからな!

高校に入って段々と大人の色気を身につけてきた小町は近頃天使から女神へとランクアップしつつある。その可愛さと言ったら他の通随を許さない程だ。小町が女神になったことによって俺の天使は戸塚ただ一人になった。が、俺は寂しくない。女神である小町、天使である戸塚この二人への愛が俺を強くする!お前達が俺の翼だ!

 

「ちょっとー、八幡。戻ってきてー。」

 

陽乃さんのその声に俺はハッと意識を取り戻す。いかんいかん、しばらく2人にあってないもんだから禁断症状がでちまったぜ…。

「じゃ、じゃあ、行きましょうか?」

 

若干の恥ずかしさからキョドりつつも俺は陽乃さんと共に歩き出す。

そうして俺は再びあの喫茶店。あんていくへむかうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「喫茶店って、ここかぁ....」

 

あんていくに着くと、陽乃さんがポツリとそう漏らす。

 

「知っている所でしたか?」

 

「うん、ここの店長父の知り合いだから。」

 

「そう言えば、雪乃もそんな事いってましたね....どうします?場所....かえましょうか?」

 

「ううん。ありがとう、でも大丈夫だから。」

 

そう言い陽乃さんはドアノブに手を掛ける。ドアに付いているベルがカランコランとなると、客がこっちを向き、そして、店内が静まり返った。

え?どういうこと?俺達あんま歓迎されてない....?いや、もしかして....。

陽乃さんの表情を覗き見ると、明らかに苦笑を浮かべていた。

「いらっしゃいませ....。」

 

入口から動けずにーーー陽乃さんが動かずにーーーいた俺達の元へ例の年老いた店長がやってくる。あれ?今日は霧島....トーカさんはいないのか?と、店内を見渡すと、カウンターからこちらの様子を伺っているようだった。....少し警戒している様にもみえる。....考え過ぎか?

 

「お久しぶりです。芳村さん。」

 

「お久しぶり。陽乃ちゃん。」

 

珍しく、陽乃さんがあの飄々とした態度ではなく、礼儀正しく挨拶をする。

それを受け、店長こと芳村さんはニッコリと笑顔を浮かべる。はぁ....やっと、緊張の糸がほぐれた。

 

「それと、そちらにいるのは、この前雪乃ちゃんと一緒にいた....」

 

「あ、どうも。比企谷です。」

 

俺の一応自己紹介をうけ、店長は俺と陽乃さんの顔を見比べ、神妙な面持ちを浮かべる。

 

「陽乃ちゃん....。」

 

「芳村さん。」

 

何かを言おうとした店長に、陽乃さんはピシャリ。と言い放つ。

 

「私のやる事には口をださない。そう言う約束だった筈です。」

 

それを受け店長は一瞬苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべると、

「席へ案内しましょう。」

 

くるり、と、振り返り、俺達を席へ案内する。

 

「いこっか。」

 

そういう陽乃さんの表情は既に、いつも道理の微笑を浮かべているのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ〜。すっかり遅くなっちゃったね。」

 

あの後、暫くあんていくで過ごした後、俺達は東京の街をぶらぶらとしーーー陽乃さんにふりまわされーーーすっかり暗くなった道を帰っていた。

 

「そうですね....。駅まで送っていきますよ。」

 

「ありがと。お願いするね?....近頃物騒だしねー。」

 

「そうですね。確かこの前喰種の事件があったのもここら辺でしたっけ。」

 

「うん、そう。ここの先のちょっと行ったところ。」

 

「詳しいんですね。」

 

俺がそう言うと陽乃さんはまあね。と笑う。

 

「....ねえ、比企谷君は喰種っていると思う?」

 

「またその質問ですか....。なんか最近聞かれる事多いんですよ。はやってるんですか?」

 

「ははは、そうなんだ〜。まあ、最近喰種関連の事件多いもんね。ここら辺で。」

 

「まあ、そうですね。」

 

そう言えば、テレビでも最近20区で同一犯と思われる喰種による殺人が続いている....とか言っていた気がする。

 

「それで?比企谷君はどう思うの?」

 

「....喰種がいるかどうかなんて、議論するまでもないですよ。彼らの存在はこの社会に存在している様々なシステムが証明しています。」

 

「....はは、比企谷君らしいね。」

 

そう言い陽乃さんは俯く。なんだ....?らしくないな。

 

「....じゃあ、さ。もしも知り合いが喰種だったら....比企谷君はどうする?」

 

そう言い陽乃さんは立ち止まる。その顔は未だ俯いたままだ。

 

「いきなり、どうしたんですか....?なんかおかしい「いいから」....。」

 

「いいから、答えて。」

 

そう言い顔を上げた陽乃さんの顔は、何時になく真面目な表情だった。

 

「....そうですね....。正直な所、そうなってみないとわからない....っていうのが正直な所ですね。」

 

「そっか....。」

「まあ…別にそいつに俺をとって食ってやろうなんて気が無いなら、俺は別にどうともしませんけどね。もちろん快楽の為に人食らっている喰種もいるんでしょうが…全ての喰種がそうとは限らないでしょう。彼等は生きるために人間を喰らう。それは俺たちが牛や鳥を食べるのと何ら変わりのない事です。それなら、俺に喰種を責める資格なんてない。そいつが快楽の為に人食らっているわけでないなら、俺はそいつを軽蔑する事なんてできない。」

 

俺がそう言うと陽乃さんは驚いたような顔をし、そして微笑みをうかべる。

 

「そっか....やっぱり、八幡は変わってるね。」

 

「そうですかね...。」

 

俺は気恥ずかしさにポリポリと頬をかく。

と、次の瞬間だった。

 

「え?」

 

突如、ガバッと陽乃さんが俺に抱きつく。え、え?え、なに、え?

俺はあまりにいきなりのことに対応出来ずにいた。

 

「比企谷君....雪乃ちゃんと友達になってくれてありがとう。」

 

そう言う陽乃さんの声色があまりに儚げで....俺は固まってしまう。

「これからも雪乃ちゃんのことをよろしくね。」

 

陽乃さんがそういった時だった。肩に激痛が走る!

 

「いっ?!」

 

俺は驚き、思わず陽乃さんを突き飛ばした....つもりだったのだが、陽乃さんはびくともせず、逆に俺が倒れ込んでしまう。

 

「な、なん...?!」

 

混乱しつつ陽乃さんの方を見ると、そのには恍惚とした表情を浮かべた陽乃さんの姿があった。

 

「はあぁぁぁぁぁ....おいしい....。やっぱり、私のおもってたとおりね。比企谷君。」

 

そういい、陽乃さんはニコッと笑う。そして次に彼女が目をあけたとき、その目は。

 

「あ....か?」

 

深紅に染まっていた。

 

「快楽の為に人食らっている喰種………。それって私の事じゃない。」

 

クスクスと笑いながらそう言い、陽乃さんは腰から触手のようなものを生やす。

 

「なんだよ...それ…!」

 

命の危機を感じた俺は、微笑みを浮かべ佇む陽乃さんを尻目にその場を駆け出す!くそ、わけがわからねぇ!陽乃さんが喰種?!うそだろ!?

 

「クソ………っ!」

 

とにかく、今は逃げるしかないッ!あれこれ考えるのはそれからだ....!

陽乃さんに、噛まれた....いや、齧られた肩がひどく痛むが今はそんな事かまってられない。俺はそれほどまでに追い込まれていた。

 

「女の子から逃げるなんて....酷いね。八幡。」

 

「ぐあっ!」

 

耳に陽乃さんの声が聞こえたと思うと、俺は何かに足を絡み取られ盛大に転ぶ。足元を見れば陽乃さんの触手が俺の足に絡みついていた。

 

「八幡…、喰種の赫子見るの初めてでしょ…?怖い?でも安心して………八幡は私のお気に入りだったから、楽に逝かせてあげる。」

 

そう言い陽乃さんは触手の先を俺に向ける。やばいこのままじゃ、やられちまう!なにか、なにか…!と、焦る俺の視界にバックから溢れ出たシャーペンがうつる。

 

「くっ……そぉ!」

 

「………!」

 

俺は手を伸ばし、シャーペンを掴むとそれを触手へ突き立てる!すると、足に絡んでいた触手が少し緩んだ。その隙に俺は触手を振り払い逃げ出す!

 

「ハァ!ハァ!」

 

喉が酷く枯れている....。感じるのは強い絶望と"恐怖"だった。騙していたのか…今まで俺を。これまでの言葉も、優しくしたのも全部…っ!

 

「クソっ!」

 

なんで、なんでなんだ!俺の人生はどうしてこんなにも………。

 

ドジュ!

 

「ガ…ぁ………!?」

 

走り続けていた俺の横腹に突如走る激痛。見れば俺の横腹は触手に貫かれていた。そしてそのまま触手は俺を引っ掛けると、壁へと叩きつける。

 

「………ッ!?」

 

俺の体に激痛が走る。しかし、もはや叫び声すら出ない。それどころか俺の意識は朦朧としてくる。

 

「ここまでだね…。これでフィナーレだよ。」

 

そう言いカツ、カツ、と陽乃さんはこちらへ歩いてくる。そして、俺を見ると儚げに笑う。

 

「さよなら…八幡。」

 

ドオオオオオオオォォォオ!

 

陽乃さんがそう言った時だった。

 

陽乃さんの元へ、大量の鉄骨が降り注いだ。

俺は何が起きたか理解できない。必死に様子を伺い見ようとするが上手く身体動いてくれない。しかも....だんだんと意識が遠のいていく.....。

あ....駄目だ....もう........。小町....雪乃....結衣....すまん....俺もう死んじゃうみたいだ。

 

そして薄れゆく意識の中で俺が見たものは、上を向いていた陽乃さんがこちらを向いて、何かを呟いたあと微笑みをうかべる姿だった....。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ピッ…ピッ…

 

何……だ…?

 

あれ………おれは………。

 

『腹部…損…が………臓器…移…が…必…だ………!』

 

何だって?………よく聞こえん。

 

『この子の臓器を…血液型は同じだ………っ』

 

俺は一体どこにいるんだ………?

 

『…御家族とも連絡がつきません!遺族の方の同意なしには…!』

 

声だけが頭に響く…。

 

遺族…?臓器………?一体なんの話を………。

 

『嘉納先生…!』

 

『他に方法などないっ…!見殺しには出来ん!全ての責任は私がとる!』

 

 

 

『彼女の臓器を彼に………!』

 

 

 

『……………ふふ、八幡。』

 

 

ーーー俺は特異な才能があるわけでもない、凄まじいカリスマ性をもっているわけでもない、どこにでもいるただの人間だ。だが、もしも。俺が自伝を書くことがあるとすれば、きっとこの時のことをこう記すだろう。

 

 

 

…ここから悲劇が始まった…と。




うん…超展開…って感じですね。
どうしても俺がいるの原作キャラを喰種にしてしまうと、ズレがでちゃって、違和感が…。
でも、陽乃さんは喰種にしたかったので、そうさせて頂きました。だってしっくりくるもん、アオギリでもピエロでもリゼの位置でも面白そうなんて、完璧過ぎですよね…陽乃さん…。


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第四話

田口さんこんな可愛かったけ…?


『ねぇ…起きて。』

 

………俺を呼ぶ声がする………誰だ…?

 

『ねぇ、起きて。』

 

再び聞こえる声。…聞いたことのない声だ………。うっすら目を開けるとそこには一人の女性がたっていた。

 

『ふふふふふ…。よろしくね、比企谷 八幡君。』

 

誰だ………

 

 

 

あなたは一体………………………

 

 

 

 

誰なんだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ピッ....ピッ....ピッ....ピッ....ピッ........

 

「........ん、んん........。」

 

規則的な電子音が、眠っている俺の耳を刺激する。最初は無視しようとした俺だったが、結局その音に起こされてしまう。

 

「....どこだここ........。」

 

寝起きでだるさの残る体にムチをうち、体を起こし周りを見渡すと、そこは見覚えのない部屋だった。

自分の周りにおいてある機械や、体についている電極から察するに、ここは....。

 

「病院....か....?なんで病院なんかに........。」

 

『八幡。』

 

そう考えたとき、俺は思い出す。あの夜のことを。

そうだ、あの夜俺は陽乃さんに襲われて....!

俺はばっと病院服をめくると陽乃さんに貫かれた腹を見る。

しかし、傷口は既に塞がっており、特に異常もない様子だった。

枕元に置いてあったスマホを手に取りーーーディスプレイはあの夜そうなったのか、ひび割れているーーー今日の日付を確認する。

しかし、まだあの夜から3日しかたっていないようだった。

....なんだ、この異様な回復力は....?それとも怪我ってこんなに簡単に治るもんだったか....?

感じる違和感なにか、なにかが....おかしい.......。

と、俺が自分の体の調子に疑問を抱いていると、ガラガラ、と病室のドアが開いた。

 

「比企谷君ー。起きてますかー?ってわっ!」

 

か....んごしか....?病室の扉が開かれ入って来たのは看護師だった。そして、その看護師が入るなり俺の姿をみて驚きの声をあげる。っておい。その反応は失礼ではないか....。

 

「ほんとに....おきてた....。」

 

だからおい、失礼だろう。

 

「え、ええっと、かん....」

 

「ち、ちょっと待っててくださいね!先生を!すぐに!呼んできますから!」

 

「え、えぇー........。」

 

そう言い、看護師は慌しく病室をあとにするのだった。なんなんだ....いったい....。俺は呆気にとられ暫くドアを見つめる。…まあ、待つしかないか。

 

「お…。」

 

と、そこで俺の目がベットの脇の机に置かれていた新聞紙を捉える。何よりも俺の目を引いたのはその見出しだ。これって…あの夜の事だよな。

 

「遺族の同意なしに臓器を移植…?」

 

この移植された臓器って…。

 

「比企谷さんー。はいりますねー?」

 

外から声が聞こえたと思うと、俺の返事も待たずにドアがガラガラ…と音を立て開かれる。ノックぐらいしましょうよ…あなたは平塚先生ですか。

 

そして、入ってきたのは看護師だけではなかった。

 

「失礼するよ、比企谷君。」

 

「え、あ、はい。」

 

看護師の後ろから入ってきた男性ーーー白衣を着ている事から医者だという事が分かる。おおよそ俺の手術を担当した執刀医といったところだろうかーーーは俺の顔を見るとニッコリと微笑むとだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ご飯、ここに置いときますね〜。」

 

「あ、はい。ありがとうございます。」

 

俺の担当の看護師ーーー田口さんという名前しいーーーが、俺の前に料理を置く。

…あの後俺は、俺の手術の執刀医を担当した嘉納先生に説明をうけた。

嘉納先生によると、俺は臓器を移植する事でなんとか一命を取り留めることができたらしい。かなりギリギリの状況だったらしいが、そこから命を救ってくれた嘉納先生には、感謝してもしきれない。

....陽乃さんは........死んでしまった、らしい。俺の元へ救助が駆けつけた時には既に手遅れの状況だったそうだ。それを聞いて俺は喜ぶべきか、悲しむべきか分からずにいた。陽乃さんは確かに俺を襲った喰種だ。しかし、なにか引っかかる。考えてみれば、様々な疑問が浮かんでくる。

例えば、何故今まで普通に接してきていたのに、今になって、俺を襲ったのか。それに、陽乃さんはああ見えてほんとに雪乃の事を大切に思っていた。なのに、何故雪乃と仲のいい俺を襲ったのか。そもそも....、あの陽乃さんが何の事情もなく、こんなにリスクの高い事をするだろうか。あの日、俺が陽乃さんと一緒にいた事は、多くの人が目撃している。それなのに俺が死んだとあっては、陽乃さんが真っ先に疑われて然るべきだし、下手をすれば彼女が喰種だという事がバレてしまっていた可能性だってあるんだ。陽乃さんとしてはそんな事は避けたいはず....。なのに、何故俺を襲う事に思い至ったのか。

あの陽乃さんが、何の裏もなく、こんなにリスクの高い事をするはずがないんだ。きっとなにか、事情があるはず....。

もしかしたら....俺がそう思いたいだけなのかもしれないが。

 

「比企谷君....?食べないの?」

 

「あ、すいません。いただきます。」

 

田口さんにそう言われ、俺は考え事を中断する。 ....考えても分からないんだ....とにかく今は早く退院しなければ。そのためにも、しっかりと飯を食べなければならないのだが........。

 

「不味い............。」

 

そう、ご飯が不味いのだ。味噌汁はまるで機械油を飲んでいるみたいだし、魚は生臭く、肉は獣臭い。ご飯なんて、消しゴムを食べてるような気分になる。とてもじゃないが食えたもんじゃない。

...病院食って、こんなにまずかったっけ?いやいや、そんなわけがないだろう。だとすると、やはり事故の影響で、俺の味覚がおかしくなってしまったのだろうか。

「すいません、これ....変な味がしませんか?」

 

「えー?そうですか?」

 

俺が我慢できずに、そう尋ねると田口さんは俺から箸を奪い、俺のあっと言う声を無視しひょいっと魚を啄む。そして、うーんと吟味した後....

 

「別に普通ですけど....?」

 

「そう…ですか。」

 

そう感想を述べる。やっぱり....俺の味覚がおかしくなってるようだ。

 

「ご飯....今日も、さげますか?」

「....すいません、お願いします。」

 

そんな俺の様子を察して、田口さんが気を回してくれる。最初こそあれだったが、田口さんは何かと気を回してくれる、いい人だ。もっとも、昔の俺だったらコミュ障を発動して、まともに会話もできなかっただろうが。

 

「やっぱり、俺の味覚....おかしくなってるみたいです。」

 

「そうですか...、それじゃあ、嘉納先生に相談してみましょうか?」

 

「お願いできますか?」

 

「はいっ。お願いされました。」

 

そう言い田口さんはふふ、と笑うと病院食をもって、部屋を出る。これで現状が改善されるといいのだが....。

そんな時、俺の腹がググウ....となる。

 

「腹....減ったな。」

 

俺は空腹を紛らわすために、眠りへとつくのだった。心の中に得体のしれない不安を抱えつつ…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「比企谷君!退院おめでとうございます!…もう怪我しちゃダメですよ?」

 

「田口さん....お世話になりました。ええ、気をつけます。あんな痛い思いはもう、ごめんなんで。」

 

あの夜から一週間....俺は無事に退院の日を迎えた。相変わらず異常な回復力には首を傾げるが....嘉納先生に聞いても田口さんに聞いても適当に茶を濁らすだけだったので、深くは考えない事にする。ほらあれだ、押してダメなら諦めろってやつだ。....そんな言葉ないけど。

「お兄ちゃ〜ん!」

 

「はちまん!」

 

田口さんに挨拶をし、病院から俺がでると、俺の事を待っていてくれたのか、小町と結衣が駆け寄ってくる。入院中はお見舞いが無かったから、田口さんや嘉納先生以外の人間と会うのは久々だ。....別に面会がなかったのは俺が未だにぼっちだからとか、そう言う事ではなく、病院側が俺との面会を謝絶していたからだ。

 

「おー、わざわざわるいな、小町。結衣。」

 

「わるいな、じゃないよ!お兄ちゃん!ホント心配したんだからね!手術したってきいて....東京に来ても面会謝絶って言われるし!お兄ちゃんが死んじゃったら小町....小町....!」

 

「わ、悪かったって、小町。でもほら、もうピンピンしてるから大丈夫だ。」

 

目に涙をためながら怒涛のごとく早口でまくし立てる小町に俺は慌ててそういい、頭を撫でてやる。

 

「ん........。今度からちゃんと連絡してよね。」

 

「そうだよ、ヒッキー!私も小町も....ゆきのんも心配してたんだから!」

 

「いや、携帯が壊れててよ....。そういえば、今日は雪乃は来てないのか?」

 

結衣の、雪乃の名前を出す前の僅かな間が気になり、俺はそう尋ねる。

 

「うん....。ゆきのん最近連絡がとれないんだ。メール送っても返信ないし、電話しても留守番サービスにかかるだけだし....。」

 

俺の問いかけに結衣は俯き気味でそう答えた。

そうか....雪乃んちは陽乃さんが死んだんだ....。何かとバタバタしているのだろう。

 

「そうか....。まあ、あいつも陽乃さんの事でいろいろとバタバタしてるんだろ。」

 

「陽乃さん....?陽乃さんがどうかしたの?ヒッキー?」

 

「え....?いや、だって陽乃さんは....」

 

俺は思わず言葉を詰まらせる。結衣は陽乃さんが死んだことを知らない....?雪乃がまだ話ていないのか?だとすれば俺から言うのはあまり良くないだろう。

それに....陽乃さんの事を話すには、彼女が喰種だった事も伝えなければならない。それは、俺の中の何かが拒んでいた。

 

「お兄ちゃん....?」

 

「いや....なんでもない。まあ、あいつもそんな時くらいあるさ。その内連絡くらい、かえってくるだろ。」

 

「うん....。うんっ!そうだよね!ゆきのんがこういうの、疎かにする筈がないもん!」

 

結衣はそう言い、胸の前でぐっと手を握る。

....しかし、二人が陽乃さんが死んだ事を知らないのはなんでだ....?俺が怪我をしたのは知っていて、近くで死んだ陽乃さんの事はしらない....?....いや、さっきも考えた通り、雪ノ下の力が働いてるのだろう。だとすればこれ以上俺が何かを考えても、分かることは少ない。

そう俺は結論づけ、その事については深くは考えないことにする。

 

「よーし!それじゃあ、お兄ちゃんも無事に退院した事だし!ぱーっとお祝いしちゃいますかっ!」

 

「うん!いいねそれ!どこ行くっ?ヒッキーは行きたいとこある?」

 

「あー、俺....さ、今味覚が変なことなっててよ、この干し肉以外なんにも食べられねえんだわ。」

 

そう言い、俺は袋に入った干し肉をみせる。

ーーー入院中結局俺はご飯を食べる事ができずにいた。原因はこの味覚だ。俺の味覚は嘉納先生があれこれ原因を考えてくれたが、原因は分からずじまいで、一向に治らないままだった。

結果として、俺は必要な栄養は点滴からとり、腹は嘉納先生がくれた干し肉で補給満たす事となったのだ。この干し肉、何か特別な肉から作られてるらしく、この干し肉でなら俺は普通に食べる事が出来たのだ。....なにかきな臭さも感じたが、背に腹は変えられず、この干し肉で、原因がわかるまでは腹を満たす事にした。 乾物だから腹持ちがいいのか、ふた切れ程食べれば1日中何も食べずに過ごす事が出来た。

以上干し肉についての説明であったーーー

 

「そっか....じゃあ....「あー。」」

 

「だから....よ、飯食う所とかじゃなくて、そのカラオケとか....そこら辺ならいいぞ。」

 

「そっか....そっか!じゃあ、カラオケ!いこーっ!」

 

一度は残念そうにしてた結衣だが、俺がそう言ってやるとぱーっと顔を輝かせ、喜びジャンプする。 相変わらず、天真爛漫というか、感情の分かり易い奴だ。雰囲気は大人びても、こういうところは変わらない....。

結衣を見ながら俺がそんなことを考えていると、ふと、横から視線を感じ、そっちを向く。すると、そこにはニヤついた表情を浮かべた小町がいた。

 

「へぇ〜〜〜。ほんと、変わったよね、お兄ちゃん。」

 

「........いってろ。」

 

俺は小町の指摘に熱くなる顔を隠そうと、そっぽを向く。

 

「でも....。どんなに変わってもお兄ちゃんは小町の大切なお兄ちゃんだからね....。だからもう、心配させないでよ....?」

 

「ああ....。」

 

「ふふ、今の小町的にポイント高い!かな?」

そう言い微笑む小町は、昔と変わらない。変わらないが....どこか大人びて見えた。

 

「おーい!小町ちゃん!はちまーん!はやくいこーよー!」

 

「はーい!今行きますねー!いこっ、お兄ちゃん!」

 

「........ああ。」

 

そして、俺達は手を繋ぎ、いつの間にかはるか前方にいた結衣のもとに、駆けていくのだった。




というわけで、第四話でした。
なにやら八幡のようすがおかしいですね。まあ、喰種になってるからですけどね。隠しても意味ないんでさいっちゃいますけど。笑

しかし、眠る八幡へ話しかけた女性…一体誰なんでしょうね?
そして田口さんはこんなに可愛いくしてよかったのか…。

ご愛読して頂いてる方、お気に入り登録して頂いてる方、ほんとにありがとうございます。皆さんのご期待にそえるように頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします!


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幕間 白鳩

今回は、CCGでの亜門君と真戸上等の白鳩の二人です!


ーーー喰種対策局 CCG20区支部ーーー

 

電話が休むことなく鳴り続け、机は膨大な資料で埋め尽くされ綺麗な机など見当たらない。そして人が忙しなく行き交うオフィス....。

(パッと見ではなんら、普通の企業と変わりはないな。)

CCGに所属している一等捜査官ーーー亜門鋼太郎は、オフィスを見渡しながらそんな事を考えていた。確かにオフィス内の様子はパッと見では普通のオフィスのような雰囲気ではあった。ーーーもっとも話している内容や、電話や資料は全て喰種に関する事件の事であるが。

 

「真戸上等!」

 

と、オフィスを見渡していると亜門は目的の人物を見つけ、そこへ歩いていく。

 

「ああ....亜門君か....。」

 

目的の人物ーーー真戸呉緒上等捜査官は、亜門とコンビを組んでいる、ベテラン捜査官だ。髪は白く、痩せこけたその男性は、その風貌や、喰種に対抗するための武器、クインケに対する異常なまでの執着から、変わり者として有名な人物であった。しかし、確かな実績もあり、過去においては篠原特等など、著名な捜査官ともコンビを組んでいる。....もっとも、そんな真戸の事はコンビである亜門も未だになかなか掴めずにいたが。

真戸の近くまで歩み寄った亜門は、真戸が何か資料を持っていることに気づく。

 

「それは....」

 

「ああ、こいつは、20区に新しく出没した喰種だよ。一週間前頃から活動が活発になっている。レートは判別中、赫子は羽赫、だそうだ。」

 

説明をする真戸から亜門は資料をうけとり、目を走らせると、なにやら眉を顰める。

 

「真戸上等....。こいつの名前は....」

 

「ああ、それか。なんでもマスクを被っていたらしくてね、そこから着けられたという事だよ。」

 

「....そうですか。自分は、あまり好きではありませんね。」

 

「そうかね?私はたまにはこういう面白げがあるのもいいと思うがね。さあ!では捜査へ向かおう!ようやくあの男からとったクインケが出来上がったのでね…。クク、このクインケを早くあの親子へ見せてやりたい、一体どんな表情をするのか…。」

 

そう言い張り切ってコートを着る真戸にーーーやはり周りからは奇異な視線が集まっていたが、亜門も慣れており気にはしないーーー亜門はついて行きつつ、ため息混じりにもう一度資料へ目を落とす。

ーーー20区に出没、一週間前より行動が活発化、既に何人かの捜査官が殺害されており、レートは判別中。赫子は羽赫と確認されており、識別名はそのマスクより....

 

「パン....さん、か....。まったく、可笑しな名前だ。」




謎の喰種パンさん....一体誰でしょうね(すっとぼけ)
はい、皆さんの予想どうりあの人しかいませんね。
俺がいるの、原作を読んでいる人には隠しようのないこの事実........悔しい!

今回は真戸上等と、亜門一等の白鳩の二人の話を書かせていただきましたが…。いやー、意外と二人の話書くの楽しいですね。視点的にも書きやすかったので一人称視点よりも三人称視点のほうが自分にあってるのかなーなんて、どうでもいいですね!ごめんなさい。笑

ここまで読んでいただいてる方々ありがとうございます!ではまた。次の話でお会いしましょう!


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第五話

まだ、月曜ではありませんが....、
今週の更新が遅れた分もう更新しちゃいます!


「はあ....。」

 

東京20区…。俺は帰路につきながらため息混じりに携帯をみる。時刻は既に11時を回ろうとしてる。

....すっかり遅くなっちまったな。

 

あの後、結衣と小町とカラオケに行った俺はなんと8時間以上も拘束され、その後結衣と、もう千葉へ帰らなければならない小町の二人を駅まで送り、改札口のむこうへと消えていく姿を見送った時には、現在の時刻に至っていた。

 

「....はぁ........。」

 

まったく、この前襲われたばかりだというのに....と俺はもう一つため息をつく。もっとも、あの二人は俺が喰種に襲われたという事を知らなかったのでーーー二人は俺が怪我をして手術をしたということしかしらなかったので、俺も適当に茶を濁らせたーーー文句の言いようがないのだが。

とにかく早く帰らないとな、と思ったとき、自分が久々に一人だという事に気づく。

そんな俺の頭の中で様々な思考がめぐる。あの夜の事。陽乃さんの事。自分の身体の事。そんな中でもっとも俺の脳裏をよぎるのはあの夜の陽乃さんの姿だった。

陽乃さんについては、俺は未だに気持ちに整理を付けられずにいた。なぜなら様々な感情が、俺の中でごちゃごちゃになっているからだ。

…俺を襲ったこと、今まで隠していた事への憤りや、そんな感情を持っている自分への自己嫌悪。陽乃さんが死んだ事への悲しみ。自分の知り合いに喰種がいたという事実へのショック。様々な感情が俺の中ごちゃまぜになっていた。そして俺を一番惑わせているのは、あの夜月明かりに照らしだされた陽乃さんが見せた、儚げな表情だった。

....あの夜の陽乃さんの行動には、きっとなにか理由があるはずだ。俺はその理由を知りたい、知らなければならない。…そんな気がする。

どうすればいいのかは分からないが…。

 

と、そこで俺の腹がグウウウと低くなる。

 

「…はら、減ったな。」

 

こっちもどうにかしねぇとな…。と、俺は腹を撫でる。食いもの…か、なんとかなんないものか。いつまでも干し肉をもらい続けるわけにもいかねーし…。

 

「ん....?なんだ、この匂い....。」

 

空腹に頭を悩ませながら歩いていると、どこからともなく漂ってきた匂いが俺の鼻を刺激する。この匂いは....。

 

「うまそうな....匂い........!」

 

俺は、自分がその匂いへ食欲を感じている事に気がつくと、喜びに身を震わせる。

この匂いの元に俺が食べられる何かがある....!

そう考え至った時には、既に俺の足は早足でその匂いの元へと向かっていた。

 

「はあっ....はあっ........」

 

いつの間にか走り出した俺は、走っているうちにどんどんと、匂いの元へと近づいているのを確信する。

 

あの角だ、あそこを曲がった先に....!

 

「えっ............?」

 

角を勢い良く曲がった俺は立ち止まり、自分の目に飛び込んできた光景に呆然とする。てからは、パサっと干し肉の入った袋が落ちるが、そんな事構ってられない。

 

俺の目に飛び込んできたのは、まず肉塊....バラバラに切り刻まれた人の死体。そして、それを貪る、人間の姿だった。

 

....いや違うあれは....。

 

「んん....?なんだぁ....?」

 

そう言い振り向くそいつの目は真っ赤に染まっていた。

あの夜の陽乃さんと同じ........。

 

こいつは........喰種だ............!

 

「くっ...。」

 

くそっ、まさか喰種と出くわすなんて…!どうすればいい…?!

俺はなるべく喰種を刺激しないように2、3歩後ずさりし、この場を脱する機会を伺う。

 

「なんだぁ、てめぇ?人間か....?いや、けど微かに違う臭いが....ん?」

 

そんな俺の事を上から下へと観察していたその喰種はある1点でその視線を停める。

その視線の先にあるのは俺の持っていた干し肉だった。なんだ....?あの干し肉が気になってるのか?その喰種はスタスタと干し肉に近づくとーーーその喰種が近づいた分俺も後ずさりするーーー干し肉を拾い、クンクンと匂ったあと、干し肉をひと切れ丸呑みする。

そして、しっかりと吟味した後、それを飲み込む。そして、眉に皺をよせ言い放つ。

 

「なんだ、これ....。人間の干し肉じゃあねえか........。て、ことはお前も喰種か?」

 

「………は?」

 

え............?こいつ、なんていった?

あの干し肉が....人間の肉............?そんなバカな....。だって、だって、俺はあの干し肉を普通に........。

 

瞬間、俺の中でこれまで感じていた疑問へ次々に解がだされる。

ーーー『 ここからは、真偽の程は定かではないのだが....面白い話があってね....。彼ら、舌の作りが我々と違うから....食べ物がめちゃくちゃ不味く感じるらしい。 』....『不味い....』....『やっぱり俺の味覚....おかしくなってるみたいです』ーーー

カチ、カチとハマっていくピース。

そうかそうだったのか………。

 

「あ、あぁ............。」

 

あの新聞にのっていた記事…、俺に移植されたのは陽乃さんの臓器………。俺の倒れていた近くで、鉄骨が降り注ぐという事故にあって、死んでしまった女性。つまり....俺の腹に移植された臓器は....陽乃さんの臓器だったんだ............。

 

「あぁ....あああ........っ」

 

異常なまでの回復力、おかしくなった味覚............そうか、そう言う事か............俺は、俺は............。

 

「そんな…そんなことって………!」

 

............喰種に、なってしまっていたのか............っ!

 

「俺が…喰種?そんなバカな…!」

 

あまりのショックに俺はその場に崩れ落ちる。

ありえない、人間が喰種なるなんてこと…!そんなことが………!

 

「はぁ?何言ってんだてめえ、どっかで頭打って記憶とんだか?」

 

目の前の喰種が何か言っているが。俺はそれに構う余裕などない。俺の思考はショックで完全に停止している。

 

「....っチ、無視かよ。この糞ヤローが。俺の食事邪魔しやがったんだ。お前さ、死ねよ?」

目の前の喰種が陽乃さんの触手と似ている、尻尾のようなものを腰のあたりから出現させる。その矛先は俺へとむいていた。

しかし、俺はもう、目の前の喰種の事なんて頭になかった。頭では逃げろ、と警鐘がならされている。が、足が動いてくれない。ただその光景を傍観するだけの俺。

 

「じゃあな、クソったれ....っ!」

 

「....ッ!........え....?」

 

そして、目の前の喰種が尻尾を俺へ振り下ろした時…。

俺の視界を黒が埋めつした。月明かりにさえも飲み込む程の艶やかな....黒が........。

 

「ガハッ?!」

 

その黒は先程まで俺を殺そうとしていた喰種を思いっきり蹴っ飛ばす。そのケリにあっけなく喰種は吹っ飛ばされてしまう。

 

「な………。一体何が…。」

 

俺は改めて目の前に現れた存在に目を見やる。こいつも....喰種なのだろうか。いや、そうなのだろう。こんなありえない身体能力、普通じゃない。

俺を助けた....のか?いや違うな、こいつも俺を殺すんだろう。喰種なんて....結局そういう存在なんだ。

 

と、その時。その喰種が黒髪をなびかせながら、こちらを振り向く。

俺は自分を殺す奴の顔くらい拝んでおこうとその顔を見て、そして、「へ....?」と素っ頓狂な声を漏らす。

 

「は....?パンさん........?」

 

その喰種は顔にパンさんのマスクをつけていたのだ。

....いや、いやいやいや、は?パンさん?え?なにそのギャップ。目の前に現れた喰種が、喰種を蹴っ飛ばして、んでそいつはパンさんで....?

 

あまりのギャップに、戸惑っている俺へ、目の前のパンさんは拳を振り上げ、そして、俺の意識を刈り取るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

以前、俺達がまだ高校二年の時のことだ。

雪乃とこんな会話をした事があった。

 

その日、結衣は三浦たちと遊ぶとかで部活には来ていなくて、俺と雪乃は2人で静かに読書にふけっていた。いつも通りなら部活が終わるまで特に会話もすること無く、黙々と読書をするだけなのだがその日だけは違っていた。

 

「比企谷君。」

 

「んぁ?」

 

あ、やべ。変な声出た。

 

いつもとは違い、結衣がいない部活。そのせいか、静かな時間が流れている部室で、俺も雪ノ下も黙々と読書に勤しんでいたのだが…。その沈黙を破る声があった。その声の主は意外にも雪ノ下だった。

 

「何だ?」

 

変な声を出してしまった恥ずかしさから、俺は咳払いした後、雪ノ下にそう聞き返す。

 

「いえ、大した用事があると言うわけではないのだけれど、ただ、その比企谷君が読んでいる本…。」

 

そういい、雪ノ下は俺の手元にある本に注目する。

俺は読んでいたページに栞を挟むと、本を閉じ、雪ノ下に表紙が見せてやる。

 

「これか?」

 

「ええ…。やっぱり、カフカの毒虫よね。」

 

やっぱりって大体わかっていたのかよ。さすが学年主席。その実力は折紙つきだ。

 

「そうだが…。」

 

俺はそういい、それがどうかしたか?といったニュアンスをもたせた目で雪ノ下をみる。

 

「なぜ、その本を?」

 

「いや、なぜって………。」

 

俺は、その雪乃の質問に答えあぐねる。

恐らく雪ノ下の質問は、俺が何故その本を読んでいるのか?と言う意味だろう。って、何だよそれ。俺がカフカの小説読んじゃいけねーのかよ。

 

「…ただ、前に読んだのが中学の頃だったからな。また読みたくなったからってだけだが…?」

 

「そう…。」

 

「なんだよ、カフカ嫌いなのか?」

 

俺のその質問に雪乃は目を伏せると、気まずげに答える。

 

「いえ…、そういうわけではないのよ。ただ…その本だけは、内容があまり…。」

 

「そうか、…意外だな。お前にも本に苦手な物があるなんて。」

 

「ええ…。どうしても毒虫になった少年と自分を重ねてしまって。」

 

「あぁね。」

 

確かにお前めっちゃ毒吐くもんな。まあ、かくいう俺も昔はもし自分が毒虫になったら…と、暗い想像をしたもんだ。まあ、毒虫になった自分の状況を想像したら現状とたいして変わらなかったんですけどね。ははは、…わらえねー。

 

「ねぇ、比企谷君はもしも自分の友人…はいなかったわね。知人が毒虫になったらどうする?」

 

「うるせえよ、質問に混ぜて巧妙にディスるのやめろ。…知り合いが毒虫になったらねぇ。」

 

これは新しいタイプの質問だ。自分でなくて周りの人間が毒虫になったらか…。

 

「…そんなもん、何もできるわけねーだろ。そいつの気持ちなんて、同じ土俵にたってる奴にしかわからねーんだ。なら、同じ土俵にすら立っていない俺がそいつの助けになれるとは思えん。」

 

「…そう、よね。ごめんなさい、おかしな事を聞いて。」

 

そういい、雪ノ下は俺から目を逸らすとそっと本を開く。

 

「別に構わんが…。」

 

俺はそんな雪ノ下の態度を訝しみながらも、再び本を開き読み出すのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん....んん........うっ........。」

 

朝、俺は鈍い痛みのする頭を抱えつつ、目を覚ます。

懐かしい夢をみた....。なぜ今になってあの時の事を....。

 

だるみを感じつつ身体を起こし、周りを見渡すと、ここが自宅だということにきづく。あれ....?俺は、昨日退院して....結衣や小町とカラオケにいって....それから....。

 

そして思い出す。あの悪夢を。

 

「....喰種になっちまったんだな........俺。」

 

そう言えば、どうして俺は生きているのだろうか、昨日の最後の記憶は....。

 

「パンさん....何者だったんだ。あいつ。」

 

俺をここまでパンさんが運んだのだろうか。なぜここを知っているんだ....?もしかして、俺の知り合いなのか....?

 

そう考え、俺は頭をふる。これ以上身内に喰種がいてたまるか。多分、無意識に自分でここまで帰ってきたのだろう。

そう結論づけると、俺はその事について考えるのを止めた。

 

ベットから身体を起こすと、腹が鳴る。....そう言えば昨日の朝から何も食ってなかつたっけか....。

しかし、俺は食事をする気にはなれなかった。当然だろう、もう俺は....人間の肉以外、何も食べられないのだから....。

 

ともかく、だるい頭をさっぱりさせたいと思った俺は、洗面所に顔を洗いにいく。

 

「............クソッ!」

 

しかし、洗面所につき、鏡で自分の顔を見た瞬間、俺はその顔を殴りつける。鏡がパリンッ!と割れ、俺の拳が傷つくが....その傷もあっという間に塞がってしまう。

 

「…なんだってんだッ………!」

 

あぁ....ついに俺は....頭の片隅にあった、昨日の事が全て夢なのではないか....という淡い期待さえも、打ち砕かれてしまった。

 

鏡には....左眼だけが赤く変化した毒虫(おれ)が映っていた....。

 

 




八幡が遂に自分が喰種なっていると気がつきましたね…。
干し肉は完全にオリジナルです。
ちなみに今回出てきた喰種は錦です。別に隠すような事でもないのでいっちゃいます。笑
パンさんの方はまだ秘密です!まあ、おそらくほとんどの人が気がついているとおもいますが…。


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第六話

はい~はい~

はい!すいませんでした!


――― 三月 卒業式 ―――

 

三月上旬、俺は今日総武高を卒業の日を迎えた。

といっても、既に卒業式は終えているし、たった今最後のHRも終えたのだが。

HRが終ると同時に友達の元へ行き、別れを惜しんでいる連中を脇に見つつ俺はそそくさと教室を後にする。平塚先生に挨拶をしていこうかとも思ったが、連中に囲まれている姿を見て、どうせ後でまた会うからいいか。と、判断する。決してあの人だかりをかき分けて行く度胸がなかったとか、そんな事はない。むしろ俺があの場に近づけば、モーゼの海渡よろしく全員が俺を避けることだろう。…嫌われすぎだろ……俺。

 

そうして誰からも声を掛けられることなく、教室を出た俺は迷わず廊下を歩きだす。目的地は考える前に既に決まっていた。

 

廊下を歩いていると至る所に友との別れを惜しみ泣いている者や、これが最後だといわんばかりに騒いでいる者の姿があった。その中には知っている顔も見かけたが、構わず俺は歩き続ける。そんな連中も、目的地に近づくにつれだんだんと少なくなっていったが、俺は足を止めない。むしろ俺の歩くスピードはどんどんと上がっていく。早くしないと、あいつを待たせる気がした。きっと…あいつはもう俺たちを待っているだろうから。あの頃と同じように。

 

教室を出て歩き続けること数分。目的の場所、奉仕部元部室に到着した俺はその扉の前で立ち止まり、深呼吸する。初めて来たときは見る間もなかった扉。それから意識してみることもなかった扉。今になって改めてみてみると、これまで気が付かなかった装飾や傷があることに気が付く。

 

「今日で最後か…。」

 

そう、俺がここへこうして足を運ぶのは今日が最後なのだ。来ようと思えばいつでも来られるのだろう。しかし、いつか雪乃が言っていたように、誰かに会うためだとかそういったことの為にここへ来ることはもうないだろう。

 

「………。」

 

そう考えると扉を開けることは躊躇われた。この扉を開ければ終ってしまう。俺の高校生活が、俺の………。

 

「………らしくねえな。」

 

そんな自分らしくもない逡巡に俺は苦笑すると、遂に意を決しドアノブへと手をかける。ギギギ…と重い音をたてながら扉があくと、俺の頬を爽やかな風がなぜる。そして、その先には木漏れ日のさす教室の中で静かに佇む雪乃の後姿があった。

 

まるで絵画のようだ。と、いつかとまったく変わらない感想を抱く俺。

 

「…うっす。」

 

声をかけることでその風景を壊すことに躊躇いを感じたが、いつまでもぼうっとしていたら何を言われるか分かったもんじゃないので、俺はいつものように声をかける。すると、雪乃はこちらを振り返る。その時、風になびく髪は以前の様に長くはなく、短く切り揃えられていた。俺たちが―――俺を含め卒業生のことだ―――雪乃が髪を短く切っていることを知ったのは、雪乃が壇上に上がり答辞を述べた時だった。それまでトレードマークだった黒く長い髪を雪乃が切ってきたことは、少なからず俺たちに衝撃を与えた。しかし、髪を切った雪乃はすごく大人びていて、凛としたその姿は、俺たちにこれから迎える未来への確かな実感と希望を抱かせた。結依なんて「ゆぎのぉぉぉぉぉぉぉおん」なんて言いながら号泣していた。…あれには正直ドンびいたぞ…。かくいう俺も、胸からこみあげてくるものは確かにあったのだが。

そして、今こうして目の前にその姿を見ると、誰かわからなくなるほどに雪乃が大人びて見えて………。

 

「…さっきから何をジロジロと見ているのかしら。そんないやらしい目で見ないでもらいたいのだけれど。」

 

あー…。うん、こいつ雪乃だわ。見た目変わってもこの毒舌は変わんねえわ、なんか逆に安心しちまったぜ…。

 

「やらしい目なんかで見てねーよ。自意識過剰か。…ハア、なんつーか。いろいろ台無しだぜ…。」

 

「なんのことかしら…。それで、いつまでそこの立っているつもり?入口に立っていては通行の邪魔でしょう。早く中に入りなさい、棒立ちが谷君。」

 

「誰だよそれ…谷しかあってねえよ。…てかここに来るやつなんてそうそういねえだろ。」

 

そう文句を言いつつも、俺は教室の中へと入る。

中を見渡すと、部室はもう俺たちが奉仕部として活動していた時の面影は残していなかった。部室に会った雪乃のティーカップやポット、アンティーク類のものも片付けられているし、結依の持ち込んだ私物も一つも残されていない。それどころか、机や椅子すらも既に片づけられている。部室はまさにもぬけの殻の状態だった。

 

「ふぅ…。」

 

机と椅子がなくなったことで、どこにいればいいか悩んだ俺は窓際に背もたれることにする。外には満開に咲いた桜が、風で散るのが見えた。

 

「結依と一緒にはこなかったのね。」

 

雪乃が俺の横に移動しつつそう尋ねてくる。

 

「あいつは三浦とか葉山とかそこら辺の奴とお別れがあるからな。それが終ったらくるだろ。」

 

「そう…。あなたはよかったの?お別れをしなくて。」

 

「ばかいえ、俺にお別れする奴なんていねーよ。むしろ教室を出る俺を止める奴がいなかったまである。」

 

「それはただ、声をかける間もなくあなたが出て行っただけなのではないかしら…。」

 

雪乃はため息交じりにそう言う。つってもなー、あのまま教室に俺が残っててもやはり声を掛けてくる奴なんていなかったと思うが。なんであいつまだいんの?的な目で見られるのがオチだっただろ。戸塚とは別のクラスになっちまったしなぁ…。あんときゃもう学校に行くのをやめようかと真剣に悩んだぜ…。ちなみに葉山グループはちゃっかり全員おんなじクラスになってたりする…戸辺以外。クラス発表の時、戸塚と同じクラスになれなっかった事であからさまに沈んでいる俺の横で「えぇぇぇぇぇえ!?まじありえねーっしょ!」と叫ぶ声は今でも鮮明に思い出せる。

 

「そういやよ、雪乃。お前なんで髪切ったの?」

 

しばらく沈黙が続いたのち、俺はおそらく全校生徒が気になっていたであろうことを雪乃に尋ねる。

「似合ってないかしら…。」

 

「いや、似合ってはいるんだが…。唐突だったからな、何かあったのかと思ってよ。」

 

「そ、そう…ありがとう…。いえ別に大きな理由があるわけじゃないのよ。いい区切りだと思ったし、一種の願掛けというか、これからやることへの決意が揺らがないように何か形にしておきたかったのよ。」

 

「そうか…。大丈夫なのか?」

 

「ええ、心配には及ばないわ。姉さんもいるし、それに…、何かあればあなたたちに遠慮なく頼らせてもらうから。」

 

「そうか…。ならいいんだ。…ああ、そうだ、雪乃。」

 

「何かしら、はち君。」

 

「卒業おめでとう。」

 

俺がそういうと雪乃は一瞬面食らったような顔をし、

 

「ありがとう。」

 

そういい微笑むのだった。

 

そうして話に区切りがついたとき、廊下からかすかにパタパタ…、と誰かが走る音が聞こえてくる。その音はだんだんとこちらに近づいてきている様だ…。

 

俺と雪乃は顔を見合わせ、これからここへ来るであろう人物を想像し苦笑するのだった。

 

---------------------------------------

 

ピピピ…。ピピピ…。ピピピ…。

 

「んん…。んう……。」

 

午前二時、俺は自分のセットした目覚まし時計の音に目を覚ます。コーヒーを飲んだ事で久々にぐっすり眠れた俺はまだ眠たい体に鞭を打ちベットから起き上がる。なんだかまた懐かしい夢を見た気がする。胸の中には懐かしさと何かが入り混じったおかしな感情がのこっていた。

 

ぐうぅぅぅぅぅう。

 

そこで俺の腹が鳴る。…やはりコーヒーじゃ根本的解決にはならないか。空腹をごまかすことはできても、満たすことはできない。ただ英気を養うことはできるのでそれだけましといえるが。

 

「何とかしねえとな……。」

 

できるだけ人間の肉を食わなくていい方向を模索したいが、最後にはその道も覚悟しなければ…。

 

「はぁ…、どうすっかな。」

 

ともかく今は、昨日のみきってしまったコーヒーを買いに行こう。

そう考え俺は夜の街へと繰り出すのだった。

 

 

 

その日の夕方、時計が四時を回ったことを確認した俺は、軽い身支度をし家を出る準備をしていた。理由は喫茶店あんていくへと向かうためだ。…昨日店で会計をする際、財布を開くと一枚のメモがはさまっていることに気が付いた。そこには一言、

 

〈お腹がすいたらあんていくへ〉

 

と書かれていた。

何か怪しいものも感じたが…、しかし腹が減っているのも事実で、背に腹は代えられず、俺はあんていくへ向かうことにした。

 

鍵を閉め家を出た俺はあんていくへと向かう。何か忘れている気がするが……。忘れるくらいだ、きっと大したことではないのだろう。

そう決めつけ、俺は家を後にするのだった。

 

 

 

 

 

この時もしも無理にでも思い出していたなら、あんな最悪の結果にはならなかったのかもしれない。俺は後にこの事を深く後悔するのだった。

 




お久しぶりです。皆さん……。
さてとりあえずは、

遅れて申し訳ありませんでした!

理由はですね…高校生活最後の冬休みを謳歌させていただいておりました……。

しかし!決してサボっていたわけではありません!
今回この作品をプロットから練り直しまして…というか作ってなかったのですが…。作りました。はい。

と、いうわけで。
一度作ったプロットに沿って第一話から順次編集しなおしていきたいと思います。
建て直したりなどはしないのでご安心を。
もしも大きな変更点などがあれば活動報告なり次話のあとがきなりでご報告いたしますのでよろしくお願いいたします。
ちなみにサブタイは今回よりつけないことにいたしました。決してめんどくさくなったとか、ネタが尽きたとかそんなことではありませんよ?ええ、まったく。
と、いうわけで皆さん!東京喰種:八をこれからもよろしくお願いいたします!


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第七話

今回は初のバトルシーンです!不安!


ガヤガヤガヤ………

 

東京20区、その街中を俺はあんていくへむかい歩いている。平日の夕方だというのに、なぜこんなにも人が多いのだろうか…流石魔都TOKYO、やっぱり千葉の方が落ち着くわー。

しかし、人が多い場所は落ち着かない。昔から好きではなかったが、周りにこうも人がいると口に唾が溜まって仕方がない。……気分が悪い、嫌でも自分が喰種になったのだと実感させられる。…しかしこれには抗いようがない。

 

とっととここを抜けちまおう。と、俺が足を速めようとした時だった。

 

「この匂い………。」

 

俺の鼻がなにかの匂いに反応する。

思い出すのは路地裏で喰種に遭遇した場面………これは血の匂い…か?

俺はその元へと目を向ける。するとそこには若い男と女性が歩いているのが目に見えた。匂いの元は男のほうだな…。喰種なのか?

あの女性も喰種に食われてしまうのだろうか。だとしたらなんとかしないと…。

 

「何考えてんだよ、俺。」

 

そこまで考えたところで俺は頭をふる。俺なんかが行ったところで、どうにかできる訳が無い。返り討ちにされるのがオチだ。

あの女性には悪いが、俺にはどうすることもできない。そう決め、俺はまたあんていくへと足を向ける………のだが。

 

「あぁ…くそっ!」

 

俺は再び体を向き直し二人の後ろをつけるのだった。何やってんだ俺………。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

辺りがすっかりと暗くなってきた。俺はなるべく距離をとり二人をつけ、女性の方を助ける機会を伺っていた。それに…まだあの男が喰種と決まったわけではない。確信が持てるまでは何かをするわけには行かないだろう。

 

…そこで俺はだんだんと人気がない通りへと向かっていることへ気づく。…これはほぼ黒とみていいのか?

しかもここら辺俺んちの近くじゃねぇか。

と、俺が二人から一瞬意識をはなした時だった、視界から二人が消えた。いや、正確には男が女性を無理やり路地へ引っ張りこんだ。まずい…!

俺は急ぎその路地へと向かう。するとそこには気を失っているのか倒れている女性と止めを刺そうと鋭い爪を振りかざしている男がいた。やはり喰種だ!

 

「くっ…!」

 

俺はとっさに足元に転がっていたブロックを男の後頭部に投げつける。さすがに喰種でもこれはきいたのか男はよろける。そして、赤く鋭い目で俺を射抜くーーー。

 

「へ!いいざまだなクソ喰種!」

 

そこですかさず俺は喰種を挑発する。頼む乗ってくれよ…。

 

「この、クソがきが!」

 

喰種はそう怒鳴ると俺を追いかけてくる。よし!かかった!俺はよろける足を必死に動かし走る。後ろを向くと数メートル後に喰種の姿。このままだとすぐに追いつかれちまう…。さて……ここからどうする?どうやって撒くか…。

 

「はぁ、はぁ!」

 

俺は道の角を曲がり、そして直ぐにある路地へ身を隠す。これは賭けだ…!頼む!

すると俺のいる路地をスルーし走っていく喰種の姿がみえた。

 

よし…助かった………。やはりステルスヒッキーは今でも健在か。そんなアホみたいな事を考えつつ路地からでると、足がガクガクと震えていることに気づく。やっぱりこわいよな。三度目でもこわいもんはこわい。でもまだ終わりじゃない。あの女性を何処かへ運ばないと…。急ぐか。

 

「はちまん?」

 

俺が女性の元へ向かおうとした時だった。不意に後ろから声をかけられる。その声に振り返ると、そこにいたのは…。

 

「結衣………?!」

 

「やっぱりはちまんだ!こんなところで何してるの?家にもいなかったし…。」

 

その声の主は結衣だった。結衣は何やら俺に話しかけてきているが、俺は酷く混乱している。なんでここに結衣がいるんだ!?

 

ーーー『明日様子見にいくからね。』ーーー

 

「あ………。」

 

思わず俺の口から声が漏れる。そうだ、結衣の電話。出る時の感じた忘れてる事って…!

 

くそ!とりあえず結衣をここから離れさせないと…!

と、俺が結衣の元へ駆け寄ろうとした時、俺の目が後に人影が現れたのを捉える。ーーー喰種だ!見つかったのか!

 

「結衣逃げろ!!!」

 

「えっ…?はちまん、なん………あッ!」

 

俺が叫び結衣に注意を喚起するも、間に合わず結衣は喰種に殴られ意識を刈り取られる。

 

ーーーあいつ、結衣を殴りやがった…っ!

 

「てめえぇぇぇぇぇぇえっ!」

 

沸き上がる怒りを抑えられず、俺は思わず男に殴りかかる。しかしーーー。

 

「あ?」

 

ぱし。と俺の拳は男になんなく受け止められ。

 

「なっ?!おご……っ!」

 

俺の腹を蹴り飛ばされ、その場から吹っ飛ばされてしまう。げほっげほっ!くそっ!いてぇ!

そうして、むせる俺を男は見下した目でみている。

 

「なんだよお前。コイツの恋人かなんか?てか、さっきはよくもやってくれたなぁ。なに?あの女救おうとでもしてたわけ?てめぇ、喰種だろ?はあぁ、ヒーローきどりってやつ?あのさぁ、そういうの」

 

男はそこで言葉をきり、俺に心底嫌なものを見る目を向け、

 

「クソ反吐が出る。」

 

そう言いきり、こちらへと歩いてくる。

 

「見たところてめぇ、肉、食ってねえだろ?僕は人の肉なんて食べませ〜んってか?いるんだよなぁ、そう言う奴。」

 

そう言いながらも、男は俺の元へ歩いてくる。俺はまだ立ち上がれずにいた。さっきのケリのダメージが身体に残って、うごけねぇ…!

そして男は俺のすぐ目の前で立ち止まり、

 

「お前、そのままじゃ死ぬぜ?まあ、どうせ死ぬんなら、ここで死ね…やっ!!!」

 

そう言い思い切り俺の腹を蹴り抜く!

 

「うごッ!」

 

俺は吹き飛ばされ、そのままの勢いで路地の壁に激突する!

 

「ガハッ!」

 

衝撃で肺の空気が全て叩き出される…。なんだよこれ…、いてえなんてもんじゃない、意識を保つのがやっとだ…!

 

そんな俺にかまわず、男は話し続ける。

 

「あーあ、つまんねぇ…なんか殺るき失せたわ。あっ、そうだ…。この女お前の目の前で殺してやろうか?ははっ!いいね、おもしろそーじゃん。」

 

は…?コイツ今なんて言った?

 

「目の前で彼女を殺される!いいねぇ…悲劇じゃねえか!おもしれぇ。」

 

そう言いながら男は結衣の元へ歩いていく。

 

あいつ、結衣を殺すっていったか?結衣が殺される…?結衣が…?

 

そして、男は倒れてる結衣の元にたどり着くと、腰からズルりと赤い尻尾のようなものを出現させ、それを振りかぶる。

 

「 どうせ、なんもできねえだろ?あれだけ俺の手を煩わせてくれたんだ…。死ぬ前にちっとは楽しませろや。」

 

結衣が殺される…?

 

ーーー『ヒッキー!』ーーー

 

あの尻尾で、結衣を殺すのか?

 

ーーー『やっはろー!ヒッキー!』ーーー

 

俺の見てる目の前で?

 

ーーー『ヒッキー…ありがと!』ーーー

 

そんなの、

 

ーーー『はちまんっ!』ーーー

 

そんなの、許さねえ!!!

 

『ーーー手をかしてあげようか?比企谷君。』

 

「ふざけるなああああああああ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 錦

 

「ふざけるなああああああああ!!!」

 

それは、喰種ーーー錦が赫子で結衣を殺そうとした時だった。

 

突如として八幡が絶叫する。

 

(ああ、もう。なんだよ…うるせえな。)

 

錦は、八幡にまだ叫ぶ力が残っていたがことに少し驚きはしたものの、どうせイタチの最後っ屁だろうと、面倒そうに八幡へと目を向ける。しかし、瞬間。その目は驚愕に色を変えることになる。

 

目の前には、まるで獣の爪のような甲赫を両手に出現させた八幡が迫っていた!

 

「わ''たしの結衣をはなせぇぇぇぇぇええええ''!!!」

 

(なんだこいつーーーッ!)

 

錦は後ろへ飛び、既のところでその攻撃をかわす。しかし、その顔は焦燥で彩れていた。

 

「なんだてめぇ!その赫子ーーー!」

 

「う''あああああああ''!!!」

 

錦が言いきる前に八幡が錦へと襲いかかる。

 

(クソ…ッ!完璧にイカレてやがる…!)

 

錦が再びその場から逃れようとするがーーー

 

「なーーーっ!」

 

錦の目の前にはすでに八幡が迫っていた。

 

(なんだ、この異常な速さは!)

 

本来、甲赫にはありえないまでの異常な速さに、驚きを隠せない錦。

 

「がぁぁぁああああああっ!」

 

目の前で炸裂する八幡の叫び声。回避が間に合わない事を悟った錦は咄嗟に赫子でガードする………が、八幡の甲赫は錦の横腹を尾赫ごとえぐる…!

 

「ガハッ!」

 

大量の血を吐き出し錦は倒れる。

 

(な…んなんだ、この化け………もんは………。)

 

そうして、錦は意識を手放すのだった………。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 八幡

 

さっきまで手も足もでなかった喰種が、腹を抉られ倒れるのを俺はまるで他人事の様にみていた。

正直自分も何が起きているのか理解が追いついていなかった。結衣が殺されそうになったとき、一瞬陽乃さんの声が聞こえたと思ったら、体が勝手に動いていた。…しかし、不思議と動揺はない。まるでこれこそが自分の本来の姿であるというかのように。

ともかく、なんにせよ結衣を守れてよかった。これで結衣をーーー食べれる。

 

「は?」

 

そこで俺は初めて自分に違和感を感じる。何を言ってるんだ俺は?結衣を食べる?俺が?自分本来の姿?あの夜の陽乃さんや、目の前で倒れている喰種が出した物と同じような何かを出しているのに?

 

「なんだ、なんなんだよ…!」

 

おかしい!オカシクナイ。まるで、体の中に俺じゃない何かがいるようだ…!オレハオマエダ。

頭の中に誰かの声が響く!

 

「やめろっ!やめてくれ!一体だれなんだ!」

 

俺は頭を抱えその場にうずくまる。しかしまだ頭に響く声は止まらない。

ハラガヘッテルンダロゥ?メノマエニウマソウナニクガアルジャナイカ。

 

「違う!肉じゃない!あれは結衣だ!俺は腹なんか減っていない!」

 

ウソヲツケ、ソンナニヨダレヲタラシテイルノニ。

 

「な…?!」

 

そこで俺は自分の口から大量の涎が垂れている事に気が付く。

うそだろ…?これじゃまるで……。

 

「オれがユいをタベたがってイルみたイジャないか!」

 

自分の意志とは反対に俺の足は結衣の元へと向かい動きだす。その足を必死に止めようとするが体が言うことを聞いてくれない!

 

「くそっ!やめろっ!やめてくれ!おれは…っ!おれはぁぁあああああああ!」

 

俺が涙を流しながら絶叫する。しかし足は止まらない。チクショウ…なんだ、なんなんだよ!

そして、遂に後一歩踏み出せば結衣に俺手が届くというとこまできた時だった。

 

「………まったく、無様ね。」

 

「あ………?」

 

目の前が黒に染まる。これは前にも経験があるーーー。目の前にはこの前俺を喰種から助けたあのパンさんがたっていた。そしてそのパンさんは苦しむ俺に目を向ける。

 

「…苦しいのね。」

 

そういいつつパンさんは俺に歩み寄ってくる。この声…俺は聞いたことがある。何度も何度も聞き、慣れ親しんだ声だ。

 

「喰種の餓えは耐えられるものではないわ。その様子だとあんていくにはまだいってないのね。………いいわ、今回は助けてあげる。」

 

そしてパンさんは手を振りかざす。

 

「ーーーはち君。」

 

はち君…?俺をそう呼ぶのは一人しかいない。

 

「…ゆき……のっ………。」

 

「おやすみなさい。」

 

そこで俺の意識はパンさんーーー雪乃の手によって刈り取られるのだった。




はい、今回になってやっと八幡の赫子がでました!
八幡の赫子に関していろいろと疑問も感じたでしょうが今回はスルーして下さい!後後に、ちゃんと回収します!はい。

そして遂にパンさんの正体が…て、まあ分かってましたよね。皆さん。はい、正体はゆきのんでした!

最近1話の文字数増やしてからぐんと更新スピードが落ちてしまいました。難しいです…。



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第八話

今回ちょっとやっつけ感が…


もしも、もしもの話だ自分の友人が毒虫になったとして、そんな時自分はその友人に何かしてやれるだろうか?助けてやる。なんて、口でいうのは簡単だ。だけど実際にその状況に出くわしたとして、それを実行出来る奴が一体何人いるだろうか。…少なくとも俺には無理だ。俺にそんな強い意志はない。そもそも、そいつの気持ちなんて同じ土俵にたった奴にしかわからないんだ。なら同じ土俵にすら立っていない奴がそいつの助けになることなどできる訳が無い。

だから、もしも、もしも俺がまだ普通の人間だったとして、その状況で雪乃が喰種だったとしったら、どうしていただろうか。俺には強い意志はない。同じ土俵にすら立っていない。なら、きっと俺は……。

 

だけど、俺は毒虫になった。

 

今俺は雪乃と同じ土俵に立っている。

 

記憶の中の雪乃が俺に微笑む、しかし開いた目は真っ赤に染まっていた。

 

そんな雪乃をみて、俺は、俺は………。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん………?」

 

目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。

 

暫く寝ていたらしい。いまいち頭がはっきりとしない。しかし、周りを見渡すとここが自分の家ではない事は分かった。

 

…そうか、俺はあの後雪乃に助けられたのか。

 

2度目…なんだな、あいつに助けられるのは。最も一度目は雪乃とは分からなかったが。

よくよく考えてみれば、すぐにわかる事だったんだ。陽乃さんが喰種なら、妹である雪乃が喰種出ない筈がないではないか。そんな事にも考えが行き着かなかったのは、自分の事で精一杯だったからか………いや、俺は無意識に考えない様にしていたのだろう。雪乃が喰種だと認めたくないがために。

 

「喰種だったのか…。雪乃。」

 

俺のつぶやきは誰にも受け止められることなく、部屋の中へ溶けていく。雪乃が喰種だったことはショックだった。しかし、俺は何故か、その事をしって…。

 

そこで、部屋の扉がガチャと開かれる。

 

「起きたのね。ハチ君。」

 

入って来たのは雪乃だった。その手にはコーヒーの乗せられたトレイがもたれていた。

 

「………。」

 

俺は雪乃の言葉に返事をする事ができない。まだ気持ちの整理がつけられずにいたからだ。しかし、雪乃はそんな俺に構わずそのままこちらへ歩いてくると、ベットの横に置かれていた椅子へ腰をかけた。

 

「飲む?コーヒー。」

 

そういい雪乃は俺へコーヒーを差し出してくる。しかし、俺はコーヒーを飲むような気分ではなかった。そんな気分にはなれなかった。

 

「…いや、いい。」

 

それがようやく俺の口からでた、雪乃への返事だった。寝起きだからか、それとも話している相手が雪乃だからなのか、その声は酷くかれていた。

 

「そう………。」

 

雪乃は短く返事をすると、そのコーヒーを自分の口へと運んだ。

 

そんな雪乃の姿を俺は直視する事ができない。どんな顔をして雪乃と顔を合わせればいいのか、俺には分からなかった。

 

「失望したかしら…。」

 

その声に俺ははっと顔を上げる。

雪乃は物憂げな表情で、手元にあるコーヒーカップを見つめていた。

 

「それとも怖かった?私が喰種としって。」

 

「………。」

 

俺はその雪乃の問いかけに答えることができなくて、そんな自分が後ろめたくて、雪乃から目を逸らした。

 

「…高校生の頃、私は嘘はつかないと言ったわ。…でも、本当は初めから嘘をつき続けていたのよ。あなたにも、結衣にも。」

 

雪乃は俺の返事の有無に構わずに話し続ける。

 

「だって言えるわけがないじゃない?自分は…喰種です。なんて…。」

 

話し続ける雪乃の声は段々と勢いがなくなっていく。しかし、うつむく俺の視界にうつるのは、雪乃の手元に置かれたコーヒーカップだけで、その表情までは分からなかった。

 

「ハチ君。あなたは以前言ったわ。毒虫の気持ちなんて、同じ土俵に立った奴にしか分からない…って。でも、私には想像する事ができたわ。私が毒虫だと知った時のあなた達の顔が。同じ土俵にいない、あなた達の。」

 

そう言い、雪乃はコーヒーカップを机に置くと、俺の手にそっと自らの手を重ねた。その手は夏だと言うのに、冷えきっていた。

 

「ねえ、ハチ君。こうして私に触れられるのは嫌…?私はずっとこうしたいと思ってた。けど怖かったの…、いつかバレてしまうのではないかと、あなた達が私の身体に染み込んでいる血の匂いに、気づいてしまうんじゃないかって………。そう思うと、私は人と関わる事が怖くなって…だから………!」

 

そう言う雪乃の声は震えていた。顔を上げると目を湿らせた雪乃と目が合う。

 

「でも、ハチ君。あなたは毒虫になったわ。」

 

そう言い雪乃は俺から目を逸らす。申し訳なさそうに、そして後ろめたそうに。

 

「あなたが喰種になったと知ったとき、私は悲しむべきなのか…喜ぶべきなのか、分からなかったわ…。嫌な女よね。大切な友人が喰種なったのに、その事を悲しむべきなのか悩んでるなんて…。」

 

そこで、重ねられた雪乃の手へ涙が1つ零れた。雪乃の顔は酷くゆがんでいて、目からは涙が溢れていた。

 

「でも…っ、でも嬉しかったの……!隠しきれなかった………っ、他でもないあなたが………同じ土俵に来てくれたのが………!嬉しくて………。」

 

…初めて見る表情だった。いつも気丈に、凛と振舞っている雪乃がこんなふうに泣いているのを俺は初めて見た。

 

そして、俺は雪乃の手をそっと握り返した。

そして重い口をあけた。

 

「俺も…俺も嬉しかったんだ。」

 

「え…?」

 

俺のその言葉に雪乃は何故といった表情を浮かべる。

 

「俺は陽乃さんが喰種だと知ったとき、ショックだったんだ。もちろん、陽乃さんが喰種だった事もそうだった。たけど、ほんとにショックだったのは陽乃さんの先にお前の顔が浮かんだからだったんだ。」

 

そう、俺は受け入れられなかったんだ、雪乃が喰種だと言うことが。雪乃の事をそんな風に思っている自分が。だからずっとその事について考える事を無意識に避けてきた。

 

「だけど、自分が喰種になって、その事に気づいて、一人きりでずっと悩んで、苦しんで…。そんな時にお前が喰種だと知ったんだ。」

 

「俺は嬉しかった。」

 

そう、雪乃が俺の前に喰種として現れて、ずっと避けてきた事から逃げられなくなって、向き合って俺が感じたのは喜びだった。

 

「自分が喰種になって…不安だった、誰に頼れば良いのか…孤独だったんだ。これまでもずっとそうだと思ってた。けど、ちがった、前は小町や家族もいてくれたんだ。けど今回はちがう。俺はほんとに孤独になったんだ。だから、雪乃が喰種ってしったとき、俺は嬉しかった。」

 

「そう…。」

 

「嫌な奴だよな、人間の時はお前が喰種だと言うことを拒否して、喰種になった途端、お前が喰種でいてくれて良かったなんてさ。」

 

俺がそう言い俯くと、俺の体を柔らかい何かが包んだ。

 

俺が雪乃に抱きしめられているのだと少し遅れて気づく。

 

「ハチ君…。ごめんなさい私なんて言ってあげればいいのかわからなくて…。」

 

「…いや、いい。しばらくこのままでいてくれ…。」

 

そして俺達は今まで溜めていたものを吐き出すように静かに泣き続けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 結衣

 

私が目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。

しばらく寝ぼけていたが、意識がはっきりとしてくるにつれて、自分が誰かに襲われて倒れた事を思い出した。あの時はちまん叫んでた。

 

『逃げろ!結衣ーーーーッ!』

 

そこで、私の意識が完全に覚醒する。そうだはちまんは!?あの時はちまんはこちらへ走ってこようとしていた。私の後ろには、私を襲った誰かがいたはずだ。はちまんはきっと私を見捨てるなんてことはしない。だとしたら…きっとはちまんは…。

 

そこまで考えて私はベットから起き上がる。見渡してみてもやはりそこは知らない場所だった。しかし、監禁されたり、そういった感じの雰囲気ではない。

 

はちまんが助けてくれたの…?

 

だとすれば、近くにいるのかもしれない。と、私はドアをあけはちまんをさがす。すると、すぐに近くから声が聞こえることに気がついた。この声はちまんと…ゆきのん!

その事に気がついて、私は意気揚々とその声の元へ歩いていく。やっぱりはちまんが助けてくれたんだ!それにゆきのんまで!そして、私が声のする部屋のドアノブへと手をかけたとき…私の耳に信じられない言葉がはいってくる。

 

「はちまんが…喰種になった…?ゆきのんも喰種………?そんな…うそ……。」

 

私はドアノブから手を離し自分のいた部屋へと戻っていった。

 




はい、とりあえず投稿です。
全体的にいそいで書いたのでやっつけ感がしますが…後で編集しなおして、最投稿します!


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幕間 白鳩2

今回は白鳩のはなし…。


東京の都心から少し外れた住宅街の路地。そこにCCG一等捜査官である、亜門孝太郎は訪れていた。

(ひどいな…これは。)

その路地の状態を見て、亜門はそう独りごちる。路地には血が飛び散り、しかも道や壁は酷い有様であった。

 

「これは…真戸上等………。」

 

亜門は血痕などから分析をしているコンビーーー真戸呉緒上等に目をやる。

 

「ふむ…。散っている血から喰種が戦ったと思われるが…いやはやしかし。」

 

真戸は路地を見渡す。路地の道路や壁には、至る所に穴のようなものが空いていた。

 

「派手にやったものだ。」

 

「この穴はいったい…。」

 

「おそらく赫子でつけられたのだろうが…何かを叩きつけたような痕跡がある…という事は尾赫か…?いや、複数穴があるという事は鱗赫………。」

 

亜門の質問に答えることなく、自身の思考にふけりだした真戸に、亜門はため息をもらす。真戸がこうなってはこちらの話を聞かないことはわかっている。

(私も始めるか…。)

穴をみつめブツブツと呟いている真戸を横目に、亜門も辺りの分析を始める。

(パンさんを追ってここにたどり着いたが…奴の赫子は羽赫だったはず。しかし、ここには羽赫の痕跡はない…。)

路地には至る所に穴のようなものが空いているがどれも何かを叩きつけたようなものばかりで、羽赫のものと思われるものは見当たらない。ここはハズレか…と亜門は立ち上がり、なにか見落としはないかと辺りを

もう一度みわたす。

(ん…?あれは………。)

と、そこで地面に周りの穴とは違った傷跡があるのを見つける。その傷跡は何かを叩きつけたような周りの穴とは違い、鋭い何かで抉られたような様子だった。

(これは…羽赫ではないな。という事は甲赫…。単純に考えれば甲赫を持った喰種と鱗赫を持った喰種が戦ったのだろうが…。ここを境界として、穴が全く無くなり、その代わりに血が飛び散っている…という事はここで甲赫を持つ喰種に喰種が負傷させられたと言うことか…?)

しかし、と亜門は穴の散らばりに目をつける。

(この穴…一見不規則に並んでいるように見えるが、この傷跡に向かって収束するように空いている。)

「という事は鱗赫と甲赫をもつ喰種は同一人物…?それとも協力者がいたのか…?」

 

「いい目の付け所だ、亜門君。」

 

「真戸上等…。」

 

真戸は甲赫によるものと思われる地面の傷を眺め、亜門に振り返る。

 

「亜門君、どうやら私達は厄介なものを見つけてしまったらしい。1度本部へ戻ろうか。」




今回は白鳩の話にしました。
実は亜門君と真戸さんの話書くのが一番好きだったり笑
今原作を読み返しているのですが、はじめの頃の亜門君全然雰囲気違いますね。なんか嫌なエリートって感じでした。

そして!お気に入り数が遂に百人超えました!本当にありがとうございます!そしてそして、感想を下さる方々、評価して下さった方々…。本当にありがとうございます、励みになります!
これからも変わらず御愛読をよろしくおねがいします。

では!次回からは遂にあのキャラと八幡を絡ませていく!…予定です笑


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第九話

今回は日常編です


「ゆっくり…平仮名の"の"の字を描くようにね。」

 

「うっす…。」

 

芳村店長のその声かけに俺は苦しげに返事をする。手にはポットが握られておりその手はプルプルと震えている。

俺が雪乃に救われたあの事件の後。俺はあんていくで暫くバイトをすることになった。理由は食べ物…つまり人の肉と"情報"を貰うため、その分の料金をここで働き、稼ぐ事になったからだ。

そのバイトの手始めとして今俺はコーヒーの入れ方を店長に習っている。ただコーヒーを淹れるだけの作業なのだが、これが意外と難しく俺は苦戦していた。

 

「………よし。」

 

そして、コーヒーを淹れ終えるとそのコーヒーを試しに飲んでみる。

 

「どうだい?」

 

「駄目ですね…。どうしても店長のようにいかない。」

 

俺はそう言うと、もう一度コーヒーに口を付ける。正直コーヒーなんてどう淹れたところで対して味が変わったりはしないだろうと思っていたのだが、実際こうして自分で淹れたコーヒーと店長の淹れたコーヒーを比べると、かなり違いがある。やはり、店長の淹れたコーヒーの方が深みがあり、おいしい。

 

「…コーヒーは手間をかけることで全く味が変わるんだ。」

 

コーヒーを見つめ、眉を寄せる俺に店長は優しくそう言う。

 

「人も同じ焦ることはないさ。」

 

そう言うと店長はニコッと笑う。そして、入口の方へと歩いていく。

 

「うっす。」

 

「そろそろ、表でトーカちゃんを手伝ってもらおうかな。わからないことは彼女に聞くといい。」

 

「トーカ…ちゃん。ですか?」

 

トーカちゃんって、あの雪乃に紹介された店員の子だよな。

 

「ああ、そうだよ。霧島トーカちゃん。比企谷君も1度…いや2度顔を合わせているね。」

 

「ええ…まあ。」

 

でも、なんかあいつ雰囲気がピリピリしててこええんだよな。昔の雪乃みたいで。

 

「ああ、それと大事なことをひとつ。『あんていく』はただの喫茶店じゃない。この店は20区の喰種が集う場所でもあるんだ。特に身構える必要はないけど"喰種"のお客さんが店に来るということは理解しておいて。」

 

20区の喰種が集う場所…結衣とここに訪れた時に感じた視線は喰種によるものだったのか。

 

「もちろんいつか君のように人間のお客さんも来る。その時も普段どおりの接客を心がけてね。」

 

人間の客か…。喰種が沢山くる場所に人間が入ってきても大丈夫なのか?

 

「あの、店長…。喰種は世の中から身を隠すべきなのに、人間の客が入ってきても大丈夫なんすか?」

 

俺のその質問に店長は若干顔を強ばらせる。…あれ、もしかしてまずい質問だったか?

 

「…人の世で生き忍ぶからこそ、彼らの事を学ぶ必要がある。性格や行動傾向…何気ない仕草、そしてその意味…モノの食べ方に至るまで人間というのは我々"喰種"にとっては生きた教本なんだ。」

 

俺はそれを聞いて不思議な気持になる。俺たちが普段していた何気ない行動を、喰種はそんな風に見ていたのか…と。

 

「それに…。私は好きなんだよ………ヒトがね。」

 

そう言うと店長はニッコリと微笑む。…ヒトが好き…か。一体、どう意味でなんだろうな。

 

「あぁ、ごめん!作成後にもう一つ。」

 

店長は扉へ手をかけると、何かを思い出し、こちらへ振り返る。

 

「大きな手荷物を持った人間が店に来たら、こっそりと私に知らせなさい。」

 

「うっす…けど、それどういう…。」

 

「追々説明するよ。」

 

そう言うと、店長は部屋から出ていった。

その扉を俺は暫く見つめる。芳村店長…、喰種の中にもあんな人はいるんだな。…まだまだ、俺は喰種ついて知らない事が多すぎる。

 

これからも少しずつ情報を集めていかないとな…。

 

そんな事を考えつつ俺が表へでると、

 

「………!」

 

店の奥の方にいた霧島と目が合う。…なんだ?俺に向かって何かいってるが…誰かに絡まれてるのか…?

 

「そんでビックリしちゃってさ!」

 

この声は聞いた事がある…うん、面倒ごとの予感がする、無視だ無視。さーて仕事しご…。

 

「おおう比企谷!!」

 

…みつかっ…た。振り返るとその声の主は永近だった。なんでいんだよ…。てか、霧島はなんでそんなに俺の事睨んでるの?なに、俺のこと好きなの?

 

「はぁ…なんでいんだよ永近。」

 

「なんだよ、お前がバイト始めたっていうから見に来てやったんじゃねえかよ!」

 

「そうか、じゃあもう用事は済んだな帰ってくれ。」

 

「なんでだよ!せめて一杯ぐらいなにか飲ませてくれよ!」

 

相変わらず声のでかい奴だ…。めっちゃ注目浴びてるし…。やばいな、ないとは思うがこれ以上騒いで永近が喰種に目をつけられるなんてことがなければいいが。

 

「じゃあ、何飲むの?お湯?」

 

「お湯ってなんだよ!ふつーにコーヒー…いや、カプチーノくれ!」

 

「カプチーノね。了解。」

 

俺は伝票にカプチーノと書くとその場を後にしようとするのだが、その際クイッと制服の裾を掴まれる。なんだよ…と後ろを振り返ると永近が頬を染めで霧島を見ていた。うわっ、なんだこいつ気持ち悪!

 

「トーカちゃんが淹れてくれるかな?」

 

「あ……はい………。」

 

見れば霧島は明らかに苦笑いを浮かべていた。おい、流石にそれはかわいそうだぞ。まあ、永近が悪いんだが…。

 

霧島の返事に、疑う事もなくはしゃいでる永近を置いて、俺と霧島はカウンターへと向かう。その時霧島が俺へと話しかけてくる。

 

「…ねぇ、あんた。バレないようにしなよ。」

 

「…今から淹れるカプチーノを霧島じゃなくて俺が淹れるって事をか?」

 

「違う、あんたが喰種ってこと。………店長が何考えてるかわかんないけど、人間をうちで看病するなんておかしいし、元人間なんかをうちに置くの私は反対だから。」

 

そう言い霧島は俺の顔を正面から睨めつけ言葉を続ける。

 

「もしバレたら…あのツンツン頭も、あの女も………殺すから。」

 

「………ああ。」

 

俺のその返事に霧島は肩透かしをくらったかのように驚いた表情でこちらを見る。

 

「なんだよ。」

 

「いや、あっさりと受けいれるのね。」

 

ああ、そう言う事か。霧島は俺が自分の言葉に対していくらか反発して来ると考えていたのだろう。

 

「別に…。霧島が言っていることも理解が出来る。俺が喰種だって事がバレちまえば店長やここで働いている人達が積み上げてきた物が崩れちまうって言うんだろ?なら、俺はそれを否定するなんて無責任な事はしない。」

 

「そう…。あんた、変わってるね。」

 

変わってる…か。陽乃さんにも言われたっけ。

 

「そうか…?まあ、もしも俺がバレたとしてお前が結衣や…永近を殺そうとするってんなら………。」

 

そこで俺は一度言葉をとめ霧島の目を真っ直ぐ見つめる。

 

「全力で止めるが。」

 

俺のその言葉に霧島は一瞬目を大きくあけ、ぷっ、と吹き出す。

 

「止めるって…そのもやしみたいな体で?」

 

そう言い、霧島はクスクスと笑いつつカウンターを後にする。俺は霧島のその態度に呆気にとられ、その背中を呆然と見つめる。

 

「うるせえよ…。」

 

俺の漏らしたその言葉はヤカンの蒸気を吹き出す音に遮られ、誰の耳に届く事もなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「サンドイッチを…食べる……んですか?」

 

「そう。喰種として生きる為のレッスンだよ。」

 

夜になり店をしまった後、俺は店長に呼ばれあんていくの2階の部屋を訪れていた。するとそこに待っていたのは、面白いものが見れると言わんばかりにニヤニヤと俺の顔を見ている霧島と、皿に盛り付けられたサンドイッチだった。なんか、霧島の顔からぜってー今から良くない事が起る気がするですけど。

 

「まずは見てなさい。」

 

「………!?」

 

店長は俺にそう言うとサンドイッチを口に運ぶ。そして、ひとかじりすると何度か口を動かして咀嚼し、そのまま飲み込んだ。…なんだ?普通に食べれてる?何か、仕掛けでもあるのか………?

 

「どうだい?」

 

「いや、えーっと。美味しそう…でした。」

 

俺がそういうと店長は満足そうに笑う。そして俺へと皿を差し出す。ええーっと、これって…。

 

「さ、君も食べてごらん。」

 

…ですよねー。俺は皿からサンドイッチをひとつ取るとそれをまじまじと観察する。特に細工がされているわけでもなさそうだ、だとしたら店長はどうやって…。そう言えば教授が喰種と人間は舌の構造が違うっていってたな…。と、いう事は舌に中身が触れないようにすれば…。

 

「…………。」

 

俺はゴクリと唾を飲み込むと、サンドイッチをひとかじりする。瞬間不快感が襲ってくるが何とか耐える。そして、店長の様にーーー店長がこうしていたかはわからないがーーー二、三度噛む真似をすると、耐えきれずサンドイッチを飲み込む。…う、きもちわりぃ。これで大丈夫だったのか?俺は口元を抑え店長と霧島の方を向く。すると二人とも驚いた表情で俺を見ていた。

 

「驚いたね…。比企谷君、初めてにしてはなかなかだよ。」

 

「そう…なんですか?」

 

俺は店長の言葉にサンドイッチを見つめる。なんだ、意外と簡単だったな。これならもう一口ぐらいなら…。

 

「もう一口食ってみなよ。」

 

「は………?」

 

その言葉に顔を上げると霧島がつまらなそうにこちらを見ていた。

 

「もう一口食ってみなって。」

 

「…別に構わんが。」

 

なんだよ、俺が一発でできたから悔しいのか?そんな事を考えつつ俺は再びサンドイッチを口に運ぶ。そしてサンドイッチをかじった瞬間…先程とは比べ物にならない不味さが、俺の口の中へ広がる………!

 

「おええぇぇぇぇぇぇえええ!!!まっず!!!なんだこれ!!!!」

 

不味い!とにかく不味い!レタスは青臭いし、マヨネーズなんてまるでゲロみたいな味だ!まずい、まず過ぎる!結衣の料理なんてめじゃねーぞ!

 

「はは、二口目は中身が詰まっているからね…、コツがいるんだよ。」

 

そう言い苦笑いを浮かべる店長。ならもっと早く言ってくださいよ…!俺に二口目を勧めた霧島の方を見ればそれはもう悪魔のような笑みを浮かべてケラケラと笑っていた。…コノヤロー………!絶対に許さないリストに載せてやるからな…!

 

「ずいまぜん…オェ……ぢょっと、ドイレ…………ウっ!」

 

返事を待たずに俺はトイレへと駆け込む、その後も喰種として生きる為のレッスンは続くのだった…。




というわけで、第九話でしたのですが…。
やっと、トーカと八幡を絡ませられました。
ここから二、三話はあんていくのメンバーやウタさんなどのキャラクターと絡ませる話が続くと思います。

それと、第二話の方を編集し直しまして、第二話を前編後編に分け、それぞれ第二話、第三話としました。なんかややこしいですが、ご理解をよろしくお願いいたします。

編集し直した第一話、第二話、第三話でさっそく前までとはズレができてます。八幡達が大学二年だったり、ヒデと八幡が知り合いだったり…と、ご迷惑をおかけしますが一度また確認してみてください。すみません。

では、お気に入りにしていただけてる方、評価や感想を下さった方に感謝しつつ、次話の投稿も頑張ります!これからもご愛読をよろしくお願いいたします。


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第十話

ウタさん難しいよ。


「ーーーマスク…ですか?」

 

俺があんていくでバイトを始めてから三日程が経った。その日の閉店作業中に俺は店長と話していた。

 

「そう、マスク。君も持っていた方がいいと思ってね。」

 

「はあ…。」

 

マスク…。マスクって、あの口に付けるやつか?…インフルエンザの予防かなにかだろうか。てか、喰種ってインフルエンザとか風邪とかうつったりすんのかね。しかし、マスクとかつけたら俺完璧不審者なっちゃうんですけど。目が合っただけで通報されるまである。っておい、せめて俺に弁解させてから通報しろよ。…結局通報されんのかよ。

 

「あんた、たぶん違う事考えてる。マスクって顔を隠す仮面の事だから。」

 

そんな一人コントをしていた俺を霧島はそういいジト目でみてくる。なんだよ…普通マスクっていわれてそっちの方でてこねーだろ。

 

「はぁ、仮面ね。一体なんでそんなもん…。」

 

「素顔を隠す為だよ。…喰種捜査官からね。」

 

俺がポツリともらしたその疑問に芳村店長が答える。喰種捜査官…か。人間だった頃は俺達を守る存在だったが、今は警戒すべき存在なんだな。

 

「…イカれたクソ野郎共。私達を殺したくてウズウズしてる…。」

 

店長の言葉に霧島は憎々しげにそう続ける。こいつ…なんか喰種捜査官に恨みでもあんのか…?いや、喰種なんだから当然…か。でも、それにしても霧島のはかなり深いというか、そんな気がする。

 

「そいつらと素顔晒してやりあって、もしも決着がつかなかったら面倒な事になんのよ。」

 

…だからマスクを着ける。と、霧島は続けるとそっぽを向く。…なるほどなんとなく分かった。

 

「顔と正体を一致しないようにする為か…。」

 

「うん、その通りだ。…というわけでトーカちゃん。」

 

「…はい?」

 

「次の休み、比企谷君のマスク作りに付き合ってあげてくれない?」

 

「はっ!?」

 

店長のその言葉に霧島は心底嫌そうな顔で驚く。そして俺の方を睨みつけ、店長に反論する。

 

「なんで私が休日にわざわざこんな奴と…!」

 

そういい霧島はビシッと俺を指さす。…どうも、こんな奴です。まったく、こいつは礼儀ってもんがなってねーな。年上は敬えって教えられなかったのかよ…。しかし、まあ霧島の意見には俺も賛成なのだが。

 

「…こんな奴で悪かったな。…店長俺も一人の方が気が楽なんすけど。」

 

俺は店長の方を向きそう告げる。しかし、店長は困ったように笑うと。

 

「比企谷君一人じゃ迷子になるだろうし…、ウタ君と二人きりじゃ彼も怖がっちゃうでしょ。」

 

「…た、確かにそうですけど…。」

 

え、そこで押し負けちゃうのかよ。もっと粘ろうぜ?そんなにウタ君って人怖いの?行きたくなくなってきたんだけど…。

 

「…でも、それなら雪乃さんにでも頼めばいいじゃないですか。」

 

「それが…、四方君から聞いた話なんだけど…、捜査官が二人ウチの区にきたらしくてね、雪乃ちゃんは四方君とそっちにあたってもらってるんだよ」

 

「………!!」

 

店長のその言葉に霧島は驚愕の表情を浮かべる。しかし、それは俺も同じで店長の言葉に衝撃をうけていた。

雪乃が…捜査官の対応にあたっている………?まさか、捜査官と戦ったりしているんじゃ…!

 

「店長、雪乃がそうさ「もやしぃ!」…うへぁ!?」

 

俺が店長に雪乃の事について聞こうとすると、横から入った霧島の怒声に遮られてしまう。…変な声出ちまったじゃねーか、てかもやしって…。

 

「土曜4時半に新宿駅東口…。遅刻したらぶっ殺す。」

 

「…………………了解。」

 

そういいぎろっと睨んでくる霧島に、俺はそう答えるしかないのだった…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……………おせぇ。」

 

土曜新宿駅東口。

 

俺はため息混じりに時計を確認する。すると既に時刻は5時を回っていた。…クソ、あいつバックれやがったな………。

こんな事なら店長に場所聞いとけば良かった…と俺がもう一度ため息をついた時、不意に後ろから嫌な気配がする。咄嗟にその場から立ち退くと、さっきまで俺がたっていた場所を何かがぶぉんと、音を立てながら空をきる。

 

「ッチ、クソ、生意気。」

 

そんな声がし、そちらへ顔を向けるとそこには霧島が立っていた。こいつ…遅刻した上に蹴りかまそうとするなんて、性格悪すぎだろ…ぜってー友達いねぇな。

 

「…おせぇよ、もう集合時間過ぎてんぞ。」

 

「…うっさい。」

 

俺がジト目で霧島にそう言うと、霧島はバツが悪そうにそっぽを向き歩き出す。

 

「…なんなんだよ。」

 

俺はまたもやため息をつくと、霧島のあとを追いかけるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…ここ。」

 

霧島の後をついていき、街の路地を奥へ奥へ進むこと数十分、俺達は目的の店へたどり着いた。…なんかすごく怪しいんですけど。

 

霧島は趣味の悪いーーー独特なデザインのドアノックで扉を叩くとドアを開ける。ギィと音をたて開かれた扉の先にあったのは…。

 

「なんだここ…。」

 

黒と白のチェック柄にタイル敷き詰められた床、仮面のかけられている壁、そして、マスクをつけられた骸骨…。まるで、悪魔の城の一室ような、そんな不気味な雰囲気の漂う空間だった。

 

「ウタさーん?いますかー?」

 

そんな雰囲気にあてられ入るのを躊躇う俺。しかし、霧島はそんな俺に構わず店の中へと入っていく。…魂くわれたりしねえよな。

 

俺は霧島に続き店内へとはいる。霧島がウタさんとやらを探している中、俺は店内を見て回る。

 

「………ん?」

 

そんな俺の目にローブのかけられた何かが目に留まる。…なんだこれ?なんでこれだけローブなんか…。

俺がその何かへと顔を近づけた時だった。バッ!とローブから何かが飛び出す!

 

「うおおおお!?」

 

俺は突然の事に思わず尻餅をつく。イテテ…と目を開けると誰かが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「………何やってんですか………ウタさん。」

 

その誰かを霧島はジト目で見つつ、そういう。…ってこの人がウタさんなのか?…一体何の為にこんな事を。

 

「………………ビックリさせようと思って…。」

 

「…………。」

 

………さいですか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ウタさん。喰種のマスク作ってくれる人。」

 

「ウタです…。」

 

俺は改めて霧島にウタさんを紹介される。そのウタさんという人物はピアスにタトゥー…と、すごい見た目をしている人物だった。そして、わざとなのか知らないがその両目には赫眼が出っぱなしにされている。…ほんと悪魔かなにかみたいな感じなんですけど…。

 

「比企谷です。…よろしくおねがいします。」

 

俺がそう自己紹介すると、ウタさんは俺の顔を覗き込んでくる。

 

「君が芳村さんが言っていたコか…。」

 

ウタさんはそういうとクンクンと、俺の匂いを嗅ぐ。…って、なんだっ、ほんとに食われたりしねーよな!?

 

「…匂い、変わってるね。」

 

ウタさんはビビる俺に構わずそう告げる。に、匂い…?元人間ってバレたら食われたりしねーよな…。ってさっきから俺そればっかだな…。

 

「ウタさん…怖がるんで。」

 

「ああ…ゴメンゴメン。」

 

霧島のその言葉にウタさんは俺から体を離す。おお、霧島助かったぜ。今回は感謝してやるぞ。

ウタさんはそのまま作業台のような所へ向かい、カチャカチャと道具のようなものを用意しつつ、口を開く。

 

「…彼のマスクがいるんでしょ?トーカさん。」

 

「はい…。ウチもちょっと警戒しなくちゃいけなくなったんで。」

 

「…捜査官が彷徨いていたらしいね。蓮示くんが見つけたって。」

 

「ああ…ハイ。四方さんが…。店長に聞いたんですか?」

 

「うん。」

 

二人の会話に俺は耳を傾ける。なにか、情報を得られる気がしたからだ。

 

「20区は大人しいからあの人たちも放置気味だったのに…。」

 

20区が…大人しい…?

 

あの20区が大人しい…のか?そんなバカな。

俺はその事について訪ねようとしたのだがその後の二人の会話に声を詰まらせる。

 

「やっぱりリゼさんの影響かな…。」

 

「だとしたらホントあの女最悪ですよ…。」

 

「でも、リゼさんは陽乃ちゃんに倒されちゃったのにね。」

 

「ええ、でも…陽乃さんも………。」

 

「待ってくれ!」

 

俺は二人の会話に思わず声を荒らげる。そんな俺をウタさんと霧島は不思議そうに見てくる。

 

「陽乃さんの事…知ってるんですか………?」

 

俺のその質問に霧島は目を逸らし、ウタさんは…。

 

「とりあえず、座ってサイズ測ろうか。」

 

そういい椅子をポンポンと叩くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いくつか質問。アレルギーはある?ゴムとか金属系…。」

 

あの後椅子に座り顔のサイズを測り終えた俺は、ウタさんにマスクを作る上での必要な資料という事でいくつか質問をうけていた。

 

「いえ特に…。」

 

ウタさんはふむ…というと俺の顔をまじまじと観察し始める。

 

「君…。面白い目をしてるね。」

 

「そうっすかね…。」

 

ただ濁っているだけですけどね…。と俺はウタさんから目を逸らす。

 

「うん、孤独を知っている目だ…。それだけに強い意思を感じる。だけど…。」

 

「寂しがりやの目でもある。」

 

「………ッ!」

 

俺はウタさんのその言葉に息を呑む。俺が…寂しがりや………?そんな事はないはずだ。俺はずっと一人で過ごしてきたのだから。あの二人に…出会うまでは。

 

「うんうん、いいね。インスピレーションが湧いてきたよ。」

 

「そう…ですか。」

 

「陽乃ちゃんの事だったっけ?」

 

「…ッ、はい。知っている事を教えて貰いたくて…。」

 

突如振られたその話題に俺は思わず食いつく。まさか、こんなところで陽乃さんについて情報を得られる機会が来るなんて…。

 

「…恋人かなにか?」

 

「いえ…そんなんじゃないです。」

 

「…ふぅん。でもね、陽乃ちゃんについてはぼくもそんなに知っているワケじゃないんだ。」

 

「そう…ですか。」

 

「ぼくなんかよりも、芳村さんや雪乃ちゃんに聞いた方がいいと思うけど。」

 

「…確かにその通りなんですけど。」

 

店長には一度聞いた事があるのだが、今はまだ知らなくていいとやんわりと断られた。…雪乃には…正直この話題を出してもいいのか分からずに聞けずじまいだった。

 

「陽乃ちゃんもね…最初はあんていくで働いていたんだ。」

 

「陽乃さんが…あんていくで…。」

 

「人気のウェイトレスだったよ。その見た目や人当たりの良さも相まって…ね。彼女は僕が作る前からいくつもの仮面を持っていた。外側ではなく、その内側にね。…彼女はその仮面を使い分けて、東京(ここ)でも上手くやってたんだ。ただ…。」

 

「リゼさんが20区に来てからそれが変わった。」

 

「リゼ…さん?」

 

リゼさんって…誰だ…?

 

「リゼさんは大食いと呼ばれ、凄く強い喰種だったんだ。そんなリゼさんが20区にきて、食い場が荒らされるようになった。…陽乃ちゃんは、そのリゼさんを倒したんだよ。…たった一人でね。」

 

「…そんな事が。」

 

陽乃さんが…そんな事を。

 

「ただね、それだけじゃないんだよ。」

 

「………え?」

 

「陽乃ちゃんはね、食べたんだ。リゼさんをね。」

 

「………っ!」

 

陽乃さんが…喰種を食った?てか、喰種が喰種を食うなんて、そんな…。

 

「まあ、ただの噂なんだけどね。」

 

「そう…ですか。」

 

だから、二人であんていくに入ったとき…。

 

「比企谷君。君のことは芳村さんから聞いたよ。…陽乃ちゃんの臓器を移植されて喰種になったって。」

 

「………はい。」

 

「そっか…。ただね、僕興味があるんだ。」

 

「興味?」

 

ウタさんのその言葉に俺は首を傾げる。…一体何のことだろうか。

 

「うん、君が陽乃ちゃんの臓器で喰種になったとして…、君の中にいるのは一体…。」

 

「どっちなんだろうって。」

 

「………?」

 

そのウタさんの言葉を俺は理解することが出来なかった。どっち…?誰がいるって…一体。

 

俺の中に何がいるっていうんだ………?

 

 

 




第十話でした…。

いやぁ、地の文がとても難しいです。てか、リゼ出さないとか言ってたのに結局出すっていう…。謎が深まるばかりで正直俺もついていけてないんですけど………。

と、まあ弱気はここまでにして。今回はウタさんとの話でした。そして、八幡のマスクを作る話でもありました。八幡のマスク…どんな風になるんだろ。俺の中では固まってるけど上手くかけるかな…。

そして、お気に入り件数が120突破致しました!皆さんほんとにありがとうございます!
これからどうぞ、御愛読をよろしくおねがいします!
それではまた次回!


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第十一話

あのぼっちが登場。


「……………。」

 

シンと静まり返る室内。その静かな空間に俺のゴクリと唾を飲み込む音が響く。背中には冷や汗がながれ、動機は荒い。

スーハーと、深呼吸をすると、俺は緊張した面持ちで''そいつ''と向き合う。

 

「……………ダメだ。」

 

数秒''そいつ''と向き合った後、俺は''そいつ''から目を逸らし席を立とうとする。…しかし。

 

『はちまん』

 

頭に響く一人の声。………そうだ。また、あいつと過ごすために、あの空間に戻るためにはこれは欠かせないことなんだ。その為には''こいつ''から逃げるわけにはいかない。

 

俺はそう意を決すると、そいつを鷲掴みにし口へと運ぶ…!

 

「ウゥ''!………ヤベっ!………ドイレッ!」

 

しかし、''そいつ''のあまりの不味さに俺はトイレへと駆け込む。………やっぱ結衣の手料理より不味いわ。サンドイッチ。

 

 

 

「ハァ………。」

 

口にしたサンドイッチをひとしきり吐いた後、気分を紛らわす為、俺はベランダで夜風に当たりつつ缶コーヒーを煽っていた。

最近はこうして家でも、人間社会へ溶け込む為の特訓を行っている。しかし、道のりはやはり険しい。何度やっても今日の様に失敗して吐いてしまう。

 

あの夜から既に2週間が経とうとしている。俺が喰種になったと自覚してからは1週間だ。しかし俺にとってあの夜は随分と昔の事のように思える。…この1週間で色々な事があった。喰種に襲われ、雪乃に助けられ、その雪乃が喰種だったと知り、そして様々な喰種と知り合い…。

 

…これから、どうすればいいのだろうか。

 

これからどのようにして暮らしていく?家族には話すべきなのか?結衣やほかの奴らとの付き合いはどうする?食べ物の事もどうすべきか。やはり人間の肉を食べるしかないのか…。陽乃さんの事だってまだぜんぜん知らない。

 

解決しなければならない問題、抱える不安、知りたい事知らなければならない事、全部山積みだ。

 

俺はそっと左目に手を触れる。俺が喰種だというなによりの証拠。赤い左目、''陽乃さんと同じ赤い左目''。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…お待たせ致しました。」

 

俺はそう言いコーヒーを客のテーブルへ置き、一礼する。そして、カウンターへと戻ると洗い場に溜まった食器を洗い出す。

 

…なんで俺こんな働いてんの?

 

チラッと横を見ると、そこには何やら参考書を睨みつけてる霧島。…なんでお前仕事放棄して参考書睨みつけてんの?そんな事しても参考書の防御力が下がったりしないよ?

 

「…おい霧島、お前いい加減はた「うっさい!」………。」

 

霧島の吠えるの攻撃!八幡は逃げ出した!

にらみつけるとほえるだけで敵追い返すとか凶暴すぎでしょ…。あとスロット2つ何で埋まってんだよ。

 

俺は霧島説得する事を諦め、ハァ小さくため息をつきつつ再び食器を洗い出す。クソ、霧島め今に見てろよ…暗い夜道には気をつけろってんだ。

 

俺がそんな小悪党のような事を考えつつ、全ての皿が洗い終わった時、丁度カランコロンというドアベルの音と共に、ドアが開かれる。

 

「いらっしゃいませー。」

 

俺はドアの方を向き一礼する。霧島は相変わらず参考書と格闘しているままだが。…挨拶ぐらいはしろよ。

 

「あら?新人さん?」

 

「え、ああ、はい。比企谷です。」

 

俺がジト目で霧島を見ていると入ってきた客からそう話しかけられる。見ればそこには女の子を連れた女性が立っていた。

 

「笛口です。こちらはひなみ。」

 

「はぁ…。」

 

俺が笛口さんに紹介された女の子へ目を向けると、女の子はさっと笛口さんの影にかくれてしまう。…その反応は傷つくぜ…。最近はマシになってきたと思ってたが、このくらいの女の子から見るとやはり俺の目はやばいのだろうか。…いっそ常に赤くしておいたほうが…。

 

「ほら、ひなみも挨拶なさい。…ああ、もう。この子ったら、また人見知りして…。」

 

俺が被害妄想を加速させ1人落ち込んでいると、笛口さんがひなみへそう呼びかける。

どうやら俺の目が原因ではなかったらしい。いや、原因の一端ではあるかもしれないが…。笛口さんに隠れているひなみを見やると、顔を赤らめてチラチラとこちらを見ている。お、おおうふ。なんやこの可愛ええ生物は。

 

「よっ。」

 

俺がひなみへそう挨拶すると、ひなみはしばらく恥ずかしげにモジモジと身をよじらせ、上目遣いで俺を見る。

 

「こ、こんにちは…。」

 

それだけいうとひなみは、再び笛口さんの後ろへ隠れる。

やばい…これはやばい。どれくらいやばいかって言うと、戸塚に初めて会ったときくらいやばい。たった今俺の中に三人目の天使ガっ!

 

「い''っ?!」

 

俺がひなみをみて癒されていると、突然頭をゴン!と誰かに殴られる。頭をさすりつつ、後ろを見ればこちらをジト目で見ていると霧島がいた。

 

「なにしやがる…。」

 

「あんたにひなみが今にも襲われそうだったから。」

 

「おい、勝手に人を犯罪者にしようとするのはやめろ。お前の勝手な予想で殴られた俺の身にもなってみろ。」

 

「うっさい、もやし!」

 

ぐっ…この野郎…。これまで我慢してきたが、どうやら一度痛い目見ねーとわかんねぇようだな…。

売り言葉に買い言葉。俺が霧島にさらに言い返そうとした時、横からクスクスと笑う音が聞こえる。そちらを見ればおかしそうに俺たちを見るひなみがいた。

 

「ひなみ…?」

 

そんなひなみを訝しみ、霧島がひなみへ呼びかける。

 

「ごめんなさい…、二人がおかしくて………。」

 

そう言いひなみはまたクスクスと笑いだす。そんなひなみにあっけにとられる俺と霧島。そんな俺達に笛口さんがにこやかに笑いかける。

 

「仲がいいのね、二人共。」

 

「「それはないです。」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

笛口さんとひなみはあの後、2階でまつ店長の元へと向かった。後から聞いた話だが、2人はここへ肉を貰いに来ているそうだ。…自分では狩る事ができないから、らしい。正直そんな喰種がいることには驚いたが、考えてみれば特別おかしな事ではない。それを不思議に思うと言うことは、俺が喰種にまだいい印象を持っていないという事なのだろう。

 

ちなみに霧島は既に帰宅済みである。なんでもテストが近く、帰って勉強をするそうだ。…まぁ、あの様子だと高得点を取ることは難しそうだが。

 

「俺もさっさと帰りたいんだけどなぁ…。」

 

本来であればもうすぐで店も閉店となり、俺も家に帰れる筈なのだが、今日は店長に夜の仕事も頼まれてい

る。…いや、夜の仕事って怪しい仕事じゃないからね?店長曰く、食料調達との事だ。…つまり、人肉を調達しに行くわけなのだが…、人を殺すわけではないらしい。ならどこから調達するのか、という俺の疑問に、詳しくは答えてもらえなかったが、まあ大方の予想はついている。

…しかし、人を殺すわけではないとはいえ、あまり気の進む仕事ではない。しかも、一緒にその仕事へ向かう人物というのが…。

 

「四方さんねぇ…。どんな人なのか。」

 

そう、四方さんという、全くの初対面の人物なのである。このスカウターではかればコミュ力がマイナス値ででる俺を、初対面の人物と、車で2人っきりで、遠くまで仕事に行かせるとは、店長もなかなかえげつないことをする。俺の事が嫌いなのか…、それともあえて苦境に立たせることで成長を促すなんてどこぞの戦闘民族のような思考の持ち主なのか。

…まあ、テスト勉強の為に返った霧島の代わりなのだが。…やはり霧島は俺の事が嫌いらしい、あの手この手で俺に嫌がらせしやがる。はぁ、つらぃ。りすかしょ。

 

しかし、そんな中で俺は四方さんに聞かなければならない事もある。思い出すのはこの前、マスクの採寸を終え、帰ろうとした俺にかけられたウタさんのあの言葉。

 

『陽乃ちゃんの事は、蓮示君に聞いてみてもいいかもね。』

 

…そう、俺は今回あわわくば四方さんに陽乃さんの事を尋ねようという腹積もりなのである。

 

なにか少しでも、情報を聞き出せればいいのだが…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……………。」

 

きけねーーーーーーーーー!

 

仕事場へと向かう車内。その空間には重苦しく気まずい空気が流れ、とても陽乃さんのことを聞けるような雰囲気ではなかった。

そもそも、四方さんの見た目がまずごつい。この時点で話しかける事すら躊躇われる。そして俺の第六感が告げている…。この人は俺と同じ系統の人間(ぼっち)であると…!

…ただ俺と違うのは、俺が話しかけられれば一応応対をするソフトぼっちなのに対して、この人が俺とは真逆の寡黙系ぼっちだという事だ…。

この手の人に話しかけても「おう…」とか「ああ…」とかしか返してこない。そんな返事が来ても俺は「うっす…」としか返せない。俺と材木座の様な同レベル程度のソフトぼっち同士ならある程度会話は成立するのだが…。四方さんとは無理。という訳で俺は絶賛モ●ストなう。画面割れてるからすげーやりにくい…そう言えば俺モン●トのマルチ機能使ったことないんだよな…。理由は言わないが。

 

「…比企谷。」

 

「うひゃ!………はい。」

 

ああっ!?俺のテキ●ラが敵とダメージウォールのあいだに?!

 

丁度俺がテ●ーラを引っ張り標準を合わせている時だった。突如、四方さんから呼びかけられた事に俺は驚きの声をあげ、体を強ばらせてしまう。

チクショウ…やっぱ阿●羅にテ●ーラじゃむりか…。

そんな俺の様子にお構いなく四方さんは俺に話しかけてもくる。

 

「…お前、肉食ってないだろ。」

 

「………ええ、まだ。」

 

四方さんのその質問に俺は苦しげに返事をする。肉とは言わずもがな人間の肉の事だ。

…そう、俺はまだ一度も人間の肉を口にしていない。いつかは食べなければならないのは分かっているのだが、なかなかその踏ん切りがつかずにいた。肉を食べていない今は店長が作ってくれた特製の角砂糖を腹の足しにしている。

…仕方が無いだろう、いくら頭でわかっていても、やはり俺の中にある人間性が人肉を口にする事を頑なに拒んでいるのだから。

 

「…肉を食べきれない気持ちはわかるが…そんな事ではいざという時体が動かない。………いつまでも雪乃に守ってもらうつもりはないのだろう。」

 

「………そんなの……………当然っすよ。」

 

「なら食え。陽乃の事を知りたいのなら、お前はもっと喰種に近づかなければならない。」

 

その言葉に俺はハッと顔をあげる。まさか、四方さんの方から陽乃さんの名が出てくるとは…。

 

「…まだ、なにを聞いても、答えてはくれないんですね。」

 

「……………。」

 

この沈黙は肯定とみていいだろう。この会話を最後に俺達は仕事場へと着くまで話すことはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…少し止めるぞ。」

 

俺達が仕事を終えあんていくへと戻る道すがら、四方さんがそういい車を停める。…ちなみに仕事はやはりというか、自殺した死体から食べられる肉を調達すると言う内容だった。…相手が死んでるとはいえ、人間の肉を解体する事は気分のいいものではなかったが、俺も四方さんを手伝い解体作業を行った。

…まあ、途中2、3度吐いてしまったがな。…いや腹切った時とかやばかったぞ、まじ三号機を襲う初号機になった気分。俺の頭の中の何かがダミープログラム止めようとしてた。ちなみに俺は3度目吐いたのを最後に活動を停止した。

 

「………うっす…。」

 

俺はまだ何かが出てきそうな口元を抑えつつ、車から降りて歩いていく四方さんの背中を見送る。なんだろうか、たっションか?…そう言えば前小学校の帰り道に耐えきれなくてたっションした事あったっけ…しかも、それ誰かに見られてて次の朝学校いったらあだ名がたっションになっていた。…身もふたもねーよな。せめてもっとオブラートに包んで欲しかったぜ…と、俺が自分で地雷回収をしていると四方さんは立ち止まる。

なんだ…?誰かと話している様だが…相手は誰だ?

暫くすると四方さんはその相手を連れて車へと戻って来る。近くに来てようやく分かったが、その相手は笛口さんだった。

 

「…あら、この前の新人さん。………たしかヒキタニ君だったかしら?」

 

「どうも、比企谷です。」

 

…ちょっとまて、なんで俺の名前の感じみたことないのにその呼び方になるんだよ。…意外と普及してんの?ヒキタニ。

 

「え、ああ!ごめんなさいね…。私とした事が…。」

 

笛口さんがそう謝ると、車内に重たい空気が流れる。…僕もうやだ、お家に帰りたい!

 

「…笛口さん、もう狩りをするのはやめた方がいい。」

 

「……………。」

 

そしてそんな沈黙を破ったのは意外にも四方さんだった。…しかし空気は改善されてない、笛口さんめっちゃうつむいてるし、むしろ悪くなってるぞ………。

 

「白鳩がうちに来たのはリゼのせいなどではない。…あなただ。」

 

…俺はその四方さんの言葉を上手く理解することができなかったが、たった一つだけ確実に言える事がある。

 

 

車内の空気おもい…。




…なんか四方さんこんなに話す人だっけ…?
というわけで第十一話でした!

そしてそして、お気に入り140突破!ありがとうございます!
今回はあとがき短いですね。笑
これからも御愛読を宜しくお願いします!


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第十二話

今回短いです!


喰種…人の肉を喰らい生きる存在。彼らは人間と変わらない見た目をしていながら、その身体能力は人間をはるかに凌駕している。また、彼らは彼らにしかない、特殊な身体的特徴がある。その最もたるものが赫子、と呼ばれるものだ。一重に赫子と言ってもそれには大きく分け羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫と4種類があり、また同じ部類に分けられる赫子だとしても個体によってその形状は異なっている。

この4つの赫子にはそれぞれ特徴があり、相性の優劣のようなものも存在する。

まず羽赫、肩あたりに出現し、軽量で赫子による高速戦闘が得意。近距離・長距離どちらの戦闘も得意だが、赫子を常にガス状に放出しているため持久力に欠ける。

次に甲赫、金属質な赫子で肩甲骨下辺りに出現。赫子の中で随一の頑丈さを誇る。重量があるため、スピードに劣り扱いにくい欠点がある。

鱗赫、鱗の触手を彷彿とさせ、腰あたりに出現。強力な再生力があり、独特な表面からくるパワーが強み。ただし、再生力を生むRC細胞の結合のしやすさは、同時に結合力の弱さでもあるため、他の赫子より脆い。

尾赫、名のとおり尻尾のような見た目をしており、尾てい骨辺りに出現。中距離で最も力を発揮するバランス型。弱点らしい弱点はない。

また彼らがこれらの特殊能力を使う際に眼球を赤く変化させた状態の呼称を赫眼とよび、通常両眼が変化するが中には片眼だけを赤く変化させた隻眼の喰種とよばれる存在もいるようだ。

 

「………と、まあこんなもんか。」

 

俺は先程までノートの上をはしらせていたペンを置き、ぐっと体を伸ばす。

これは俺がこの一週間の間に集めた喰種の情報をまとめたものだ。店長やあんていくの店員に聞いたものや、またネットで調べたものなど、それらの中でも信頼できる情報をまとめてある。…しかし、喰種の事って意外にもネットに結構あるんだな。まあ、中には眉唾物のようなものもあったが…。

しかし、こうしてまとめた情報を改めて見るとまるでゲームや漫画の世界の話しのように思えてしまう。特に赫子とかな。普通なら半ば半信半疑になる所だが…既に俺は何度のその現象を目の当たりにしているし、俺自身喰種になって赫子を出現させた事があるのだ。…もっともその時の記憶は殆ど残っていないが。

と、なれば信じる他ないだろう。こういった情報は知っているか知っていないかで大きく俺の生存率を左右する。力でかなわないのなら、少しでも情報を集め対策を練るしかない。

そして、今は懸念すべき事項がもう一つある。それはCCG…つまり喰種対策局の事だ。

ここに所属している、所謂喰種捜査官とよばれる者たちは、喰種を捜索し見つけしだい始末する。という使命のもと働いている。いわば、こいつらは喰種を狩るプロであり、人間だからといってなめていては俺など一瞬でやられてしまう事だろう。…一応クインケと呼ばれる喰種の赫子を元とした武器を使い戦うことは分かっているのだが、逆にいえばそれしか分かっていない。やはり、CCGに関しては得られる情報は少なく、現実こちらに対策を立てられるほどの情報は揃っていない状況だった。

 

「………喰種よりも喰種捜査官の情報の方が少ないなんてな。」

 

喰種、喰種捜査官、半喰種である俺はそのどちらにも警戒しなければならない。…まあ、それは普通の喰種も同じかもしれないが。…ともかく今は少しでも情報を集めなければ。…そして。

 

「稽古…か。」

 

まったく、めんどくせぇ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…ぐぁっ!」

 

稽古開始2秒。俺は構えをとる間もなく、霧島の蹴りによって数メートルふっ飛ばされる。

 

あんていくの地下ーーー、そこにあった巨大な空間で俺は霧島に戦闘の稽古を受けている。そして、そこの空間のあまりの広さに俺があっけにとられていると、霧島がいきなり俺を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ………!てめぇ………いきなり…!」

 

「あんたが構えもとってないのが悪い。てか、隙だらけだったらけるでしょ。ふつー。」

 

知らねえよ!てめえらのふつーをこの前まで一般人だった俺にふっかけてくんな!…ってかその理論もなり横暴すぎない?仮面ライダーに出てくる怪人ですら変身するの待ってくれるよ?

 

「考え事?随分余裕だ…ねっ!」

 

「…くっ!」

 

アホな事を考えている俺に、再び繰り出された霧島の蹴りを俺は咄嗟にバク転の要領で回避する。すると、さっきまで俺のいた場所をブオォォォンと蹴りが通過する。…いや威力おかしくない?これ当たってたら死んでたんじゃないの?俺?

 

「………へぇ?少しはやるじゃん。」

 

「まぁ、基本高スペックなんでな。」

 

霧島のその言葉に俺はそう答えるが内心ではかなり焦っていた。正直、喰種の身体能力がここまでとは思ってなかった、生身の人間だったらもうとっくに死んでるだろう。

 

「ふーん、じゃあ本気出しても大丈夫そうだね?」

 

「…へ?」

 

え…?なに本気って!?まさか体に重りつけて戦ってたとかじゃないよね?君たちほんとに戦闘民族か何かなの?!

 

「覚悟しなよ…こっから気を抜いたら冗談ぬきで………。」

 

そう言いながら俺を見る霧島の目は、真っ赤に染まっていた。

 

「死ぬから。」

 

霧島がそう言ったと同時に、霧島の背中からドオォォォとガス状に何かが放出される。おいおい、本気ってこのことかよ!

 

「…赫子………羽赫か!」

 

「へぇ…ちゃんと勉強してきたんだ。なら…」

 

霧島がそう言った次の瞬間だった、1つ瞬きをした間に俺の目の前に霧島が迫っていた。

 

「………なっ?!」

 

「ちょっとは粘りなよ。」

 

俺の目が視界の端に霧島の振り上げた足を捉える。

 

やべぇ………っ!

 

そう思った俺は咄嗟に腕をクロスし、衝撃に備える。

 

「ぐぁっ!」

 

しかし、俺のガードは霧島の蹴りの勢いを消すことはできず、そのまま吹っ飛ばされてしまう。2、3度バウンドした俺は柱にぶつかりようやく止まる。

 

「………っ!?」

 

が、俺は体制を整える間もなく、そ横に跳びその場から逃げる。すると、俺を追うように霧島の追撃が柱に当たり、そして柱を破壊する。

 

………おいおい、嘘だろ?コンクリ製だぞその柱…っ!!

 

「本気で殺す気かよお前?!」

 

「何甘いこといってんの?当たり前じゃん。」

 

俺の必死の講義に、霧島は何言ってんのこいつ?みたいな感じで首を傾げる。いやいやいや!なんで稽古にそこまで本気なんだよ!

 

「………くそっ!」

 

俺は悪態を着くと霧島に向かい、構えをとる。………羽赫は持ち前の軽量さを活かした高速戦闘が得意、しかしそれ故に攻撃は決定打に欠け、さらに持久力はない。なら、ここは背を向けて逃げるずに、しっかりと霧島の動きに集中して、スタミナ切れをおこすまで耐えきる!

 

「………へぇ?ちょっとはマシな顔になったじゃん。腹くくったってわけ?」

 

「………まぁな。でもいいのか?こうしておしゃべりしている間にもお前の赫子はスタミナを消費しているようだが?」

 

「ふん、いってな!」

 

そう言い霧島はその場を跳びだす。しかし、目が慣れたのか、さっきまでほどの勢いは感じない。よし、よく考えろ…さっきから霧島は左足の蹴りばかりを使ってきている。おそらく、次も左足の蹴りのはずだ。しかし、左や後ろによけたところでリーチの長い蹴りからはにげきれない。なら、俺は………!

 

左によける!

 

俺は既に目の前に迫っている霧島の左側に、前転の様に転がりつつ飛び込む。

 

「…チッ!」

 

すると、案の定霧島が繰り出してきた左足の蹴りが俺の上を通過する。ってか、舌打ちって…ほんとに俺の事殺したいわけじゃないよね?!

 

「………ふっ!」

 

俺は前転の勢いのまま立ち上がると、がら空きになった霧島の左胴にアッパーを繰り出す。

 

「………甘い!」

 

しかし、霧島は左足の蹴りの勢いのまま一回転し、身を沈め俺のアッパーを回避すると、俺の足をはらう。

 

「………やばっ!」

 

足をはらわれた俺は重力に従い、そのまま背中から倒れ込む。背中から伝わる衝撃に顔を歪ませつつ、必死に目を開けると、そこには俺に止めをさすべく足を振り上げた霧島の姿があった。

 

「………っ!」

 

その霧島の攻撃を回避する術はもう俺にはない。………殺される!そう思ったときだった。

 

『手をかしてあげる。』

 

そんな声が俺の頭の中に響く。そして腰の辺りに感じる違和感。俺の意思に反して体は勝手に動き、俺は…。

 

「………。」

 

俺の腰から出現した赫子で、霧島の攻撃を防いでいた。

 

「………これが俺の…?」

 

困惑する俺に霧島はハァとため息をつくと、自身の赫子を引っ込める。

 

「…そ、それがあんたの赫子。………ぐずぐずしてるからほんとに殺しちゃうとこだったじゃん。」

 

そういい、やれやれと身を竦める霧島。…嘘をつけ止めをさそうとする時のお前の目はガチだったぞ。

 

「鱗赫…か。」

 

「そうみたいね。まぁ、オリジナルから比べたらは大分貧相だけど。」

 

「オリジナル…?」

 

それって陽乃さんの事か…?俺はまじまじと自分の赫子を見つめる。確かにこれはあの夜に陽乃さんの出していた赫子と同じものだ。…だけど、これからは。

 

「………陽乃さんを感じない。」

 

「………。」

 

そんな俺の言葉に霧島はスッと目を細める。が、どうやら答える気はないようだ。俺はさっき赫子を出す前に頭に響いた声を思い出す。知らない女性の声…。

 

陽乃さんではないないなら、俺の中にいるのは一体。

 

誰なんだ。

 

 




と、いうわけで第十二話でした。

原作と流れが少し違いますが、そこはお気になさらずお願いします。

そしてそして!ついにお気に入りが150件突破いたしました…!
ここまで長かった!ちょっとした達成感を感じますね。笑

感想をくれてる方々ありがとうございます。
そしてなかなかでない評価平均値…。あと一人なんですけどね…。
みなさん、どうか東京喰種×俺ガイルに清き一票を!


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第十三話 其の一

お久しぶりです!


「いつつつ………。」

 

俺は動く度に痛む体の節々を抑えつつ、階段を上がる。

 

あの後、見事自分の赫子を出すことに成功した俺は、その後霧島と赫子を使っての稽古に入ったのだが…。

『鱗赫ならやり過ぎても大丈夫でしょ。』

そう言った霧島にたっぷりいたぶられました。

あいつ、赫子だすとき本気出すっていいながら全然だしてやがらなかった。まだ赫子を出したばかりで扱いになれてない俺を、圧倒的な速さでいたぶり続け、本当に死ぬ寸前ってとこでようやく攻撃の手を止めやがった。そのまま俺は意識を失ったのだが…目覚めた時巨大な地下空間にたった一人で寝転んでいました。

正直、起きた時に折れていたはずの骨が、既にくっついていたのには驚いたが、俺の扱いの酷さにはさらに驚いた。喰種になってもこんな感じなの…俺は…。

もう、一度死にかけた事とか霧島に対する怒りとかで今ならスーパーサ●ヤ人なれそう。

 

しかし、さっきから足元がふらついてしょうがない。一度赫子を出した事でRC細胞をかなり使ってしまったようで、さらに霧島の無慈悲な攻撃によって大量の血を流したので、空腹と貧血でかなりグロッキー状態になっている。

さっき窓に映った自分の姿を見たが、かなりやばかった。何がって、もうバイオでハザードな感じになってた。俺実は喰種じゃなくて屍食鬼になったんじゃないの?

 

そんな事を考えつつ、地下からの長い階段を登り続け、ようやくあんていくまで上がってきた俺は、二回の従業員用の休憩室へと向かう。とにかくコーヒーでも飲まないと空腹で死んでしまいそうだ。

 

そして、目的の休憩室についた俺はドアに手をかけるのだが、中から物音が聞こえてくることに気がつしき、ドアをひこうとしていた手を止める。

…誰か中にいるのか?いや、今の時間だと皆店に出てるはずだが………。

俺は疑問に思いつつも、意を決して扉を開く。そこにいたのは………。

 

「……………。」

 

口から血をしたたらせながら肉を食べる少女だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁああああ!」←慣れない光景に驚いた俺の悲鳴。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」←突如入ってきて、叫びだしたゾンビ(俺)の悲鳴に驚いた少女の悲鳴。

 

少女はかなり驚いたのか、膝をかかえて縮こまりぷるぷると小動物の様に震えている。って、この子たしかこの前笛口さんが連れてた………。

それを、理解した瞬間俺は背中からだらだらと汗をかき始める。

 

「す、すまん、え、ええっと、ひ、ひな「ひなみ!!!」へぶぁ!?」

 

俺が震えているひなみに驚かせてしまった事を謝ろうとすると、突如勢い良く開かれた扉に吹き飛ばされてしまう。

どうやら入ってきたのは霧島のようだ。

霧島は泣いているひなみと俺を交互に見て何かを察したのか俺をキッ!っと睨む。

い、いや、こいつ絶対なにか勘違いしてる!

 

「ま、まて!話せばわかっーーー!」

 

俺がその言葉を最後まで言い切ることはなかった。俺の言葉を言い切るのを待たずに霧島は足を振り上げる。

 

「死ねっ!!!」

 

その言葉と共にパァァァン!と俺の頭に衝撃が走り、俺は意識を失う。あぁ、こういう時なんていうんだっけ。………そうだ。あの名言を借りるとしよう。

 

……………不幸だ………………………。




お久しぶりです!
最近一人暮らしの準備やら引越しやらテストやらで時間が取れずに今日になってようやく更新することができました………。
久々に開いてみれば、な、なんとお気に入りが220をこえて、さらに評価平均がでているではありませんか!!!
投票して下さった皆さん本当にありがとうございます!
そして、あらたにお気に入り登録して下さったみなさん!これからもよろしくお願いします!

そして、そして、これから少し話の更新の仕方を特殊な形を取るようにしたいと思います。詳しくは活動報告の方に書いておきますので、気になった方はチェックをよろしくお願いします。

ではでは、これからもご愛読をよろしくお願いします。


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