南雲盾一と不思議な神器 (康頼)
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プロローグ

「おお、こんなところで死んでしまうとは情けない」

 

そう言いやがったのは、白いひげの白服のおっさんであった。

明らかにもこもこしているひげに、もしも赤い服を着ていると間違いなくサンタだろうと思ってしまう風貌である。

しかし、残念なことに目の前のおっさんはサンタではない。

微妙に小汚い恰好をしたおっさんこそ、神なのである。

 

「新しいな……」

 

おっさんを見て思わず零した。

おっさんの来ているTシャツには神の一文字が書かれていた。

まるで有難みがない神様だ。

Tシャツのクォリティも明らかに浅草などで外国人向けに作っているくらいのものだろう。

 

「おお。こんなところで死んでしまうとは情けない」

 

どうやら反応をしないと先に進まないらしい。

というか、微妙にしたり顔なのがムカつく。

そんなにそのフレーズが気に入ったのだろうか?

 

「はいはい、聞こえているって」

「うむ、お主も気づいている通り、儂が神である」

 

おっさん、改め神さんの宣言により、やはり目の前のおっさんは神だったようだ。

俺自身、神を信じたことはないが、流石に理想とは違う目の前の小汚いおっさんにはがっかりである。

 

「お主は南雲盾一で相違ないな」

「相違ないよ。 ってやっぱり神さんって人間とかの名前を覚えておくものなの?」

 

だったら凄いな、と思う。

そんな俺の質問に神さんはにこりと笑う。

 

「知らん」

「ですよね」

 

期待はしていなかったが、やはり神さんも人間一人一人を覚えておくことはできないらしい。

そんなことを考えながら、俺はようやく実感した。

 

「そうか、俺は死んだのか」

 

目の前のおっさんのインパクトのせいで忘れていたが、俺は死んだらしい。

実感なんて全くないが。

 

「だからそう言ってているじゃろ」

「なるほどね。 でここが天国か? 周りが真っ白過ぎて何も見えんけど」

 

周囲を見渡してみるが、ただ一面に真っ白な空間が広がるだけ。

地面も壁も天井も見えないどこまでも続く場所。

天国というのは、そう素晴らしいものでもないようだ。

つうか、坂も川も渡らなかったのだが、本当に天国なのだろうか?

 

「それは人の考えたものだろう。 死なんてただの無。 地獄も天国も存在しないわぃ」

「何とも夢のない話……って今俺は口に出したか?」

「ふっ、心を読むことなんぞ造作もないことじゃ」

 

自慢げにそう言う神さんに、へぇーと相槌を返す。

そんな俺の反応が、面白くなかったのか神さんは眼を細めてこちらに視線をぶつける。

 

「ノリの悪い奴じゃな。 お前本当に高校生か?」

「とりあえず、ノリの悪い高校生もいるよ」

 

この神さんは、高校生はノリだけで生きていると思っているのだろうか?

 

「実際、死んだんだろ? なら俺がどうすることもできないじゃん」

「まあ、そうなんじゃが。 その、死にたくないっとか、若い身空でーとか、無いのかの?」

「ないよ。 別に不満もなかったし、やり残したこともない、満足した人生だったよ」

 

実際、不満等は全くなかったが、ただ一つ気になることと言えば、俺はどうやって死んだんだということだ。

 

「む? お主、覚えておらぬのか?」

「覚えてないよ。 って今心読んだよな?」

「ふむ、それは困ったぞ」

 

俺の指摘を無視して、何やら難しい顔で考え込む神さん。

しかし、心読めるなら、俺別に喋らなくてもよくね?

 

「一応、神の前じゃから、楽するのはやめてほしいのじゃが……それで何が困ったのかというとじゃな、お主が死んだときの記憶がないことじゃ」

「へぇ、記憶がないとどうなるの?」

「お主は死ねない」

 

それってどういう意味?

つまりは、生き返るってこと?

 

「いや、それは不可能じゃ。 理を捻子てまで命を甦らせるということは儂にもできん」

「そうなんだ。 神様でもできないこともあるんだな」

 

寧ろ、理のほうが神なのかもしれない。

そんなことを考えていると、俺はこれからどうなるのだろうか?

 

「まさか、天使とかやれっていうんじゃないだろうな?」

 

流石の俺も天使はできないぞ。

と考えていた俺に、神さんは呆れたようにため息をつく。

 

「それこそまさかじゃ。 お主みたいな無表情無感情ノリの悪いやつを天使にできるはずがない」

 

ノリは関係ないと思う。

ならば、どうすればいいのか?

 

「お主には、今、ある世界にいってもらおうと思う」

 

神さんの予想すらしていなかった提案に俺は思わず首を傾げる。

 

「ん? 生き返ることはできないんじゃなかったっけ?」

「それは現世にじゃ。 今からお前に行ってもらおうと思うのは、少し訳アリの世界じゃ」

「訳アリって……」

 

そんなことを言われて、行きたいと思うやつはいないだろう。

 

「心配するな。 お前にはこれを渡しておく」

 

親指を立て、グッジョウブとウィンクをかます神さんに、イラッ☆としながら小さな箱を受け取った。

箱の中を開いてみると、そこには家庭用携帯ゲーム機が入っていた。

 

「これゲーム機だよね?」

「神の神器じゃ。 これがお主を守ってくれる」

 

明らかに人気ゲーム機を渡してくる神さんに、俺は突き返そうとする。

そんな俺にゲーム機を押し付けようとしてくる神さんが眼を見開いた。

 

「我がまま言うんじゃありません!!」

「我儘はお前だろうが!! っていうか、まだ行くと決めてねぇぞ!」

 

勝手に送ろうとする神さんだったが、俺にゲーム機を投げてそのまま後ろに下がる。

思わず、ソレを受け取ってしまった俺に一言。

 

「幸運を祈る」

 

親指を立てて、再びウィンクをかましてくる神さんの目の前で、俺は突然、その場から落下した。

 

 

 

 



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人生とは一度きりの大切なものである。

悲しいことや楽しいことが、待っているそんな未来を後悔なく生きてほしい。

それが私の願いである。

 

南雲盾一。

 

 

 

っていうより、私は二度目の人生に突入です。

 

眼を開くとそこは真っ青な空が広がっていた。

白い雲は殆どなく、照りつけるような暑い陽射しが瞼の奥を刺激する。

そこは、間違いなく一面真っ白な妙な場所ではなかった。

 

体を起こして周りを見渡す。

どうやらここは荒野地帯のようである。

視界の届く遥か向こうに見える山々に見覚えはなかった。

別の世界に送ったといっていたので、俺が知っているところでは間違いないが、せめて俺の常識が通じる場所であってほしいと願う。

 

「その願いはすぐに破られることになるのでした」

 

周囲を見渡して、明らかにその願いは難しいと理解した。

道もなく、当てもない。

空を飛んでいるのは、鳥くらいで飛行機が飛んでいるということはない。

というよりも、科学を感じさせるところがかけらも存在しなかった。

唯一の科学と言えば、今手に持っているゲーム機くらいだろう。

 

とりあえずゲーム機に電源を入れてみる。

程なくして、音楽が流れ、画面にグラフィックが現れる。

その聞き覚えのある音や映像に思わず、声をだしてしまう。

 

「あーこれか。 昔よくやったよ」

 

そのゲームとは戦略シュミレーションゲームで、古代中華の三国志を題材にした超人気ゲームである。

自分自身が、国の君主になって軍勢を大きくしていくのは、何度やっても飽きないくらいで、よくプレーした覚えがある。

人によれば、縛りプレーと呼ばれるもので、より難易度を上げて挑戦する者がいたが、俺がハマっていたのは逆のプレースタイルである。

俗にチート全開の最強軍団で中華を蹂躙するプレーである。

ステータスオール100の超人達を百人作って、原作キャラを蹂躙するプレーをやったのを思い出す。

最終的に、斬首ばかりやってしまい、だいぶ昔とはいえ中々残酷なプレーをしたものである。

 

「そうそう、なんか劉の性とか曹の性のキャラも作ったけど、こういう三国志関係ない名前とか登録したよな」

 

例えば、と俺はゲームを操作し、オール100のキャラクターに『アーサー』なんてつけてみる。

明らかに中華の顔に西洋の名前というミスマッチに、より懐かしさを感じた。

 

「アーサーってそう言えば同時に円卓の騎士とかにもハマったよなー」

 

なんて、過去を懐かしんでいると、突然俺の背後から。

 

「お呼びでしょうか?」

 

声が聞こえた。

その声に思わず振り返ってみると、そこには。

 

「え?」

 

ゲームのグラフィックをそのまま再現した人間がその場にいた。

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

「おお、マジか」

 

とりあえず、実験の意味も込めて思わずオール100のキャラを作ってみた。

 

「お呼びでしょうか主様」

 

イケメンのグラフィックで作ったキャラ『ランスロ』

 

「我々がいる限り」

 

髭もじゃのグラフィックで作ったキャラ『ガウェン』

 

「主様には敵はいませぬ」

 

イケメン2のグラフィックで作ったキャラ『トリスタ』

 

の三人である。

名前の通り、彼らは円卓の騎士から名を取っているが、名前入力は四文字までだったのでこうなった。

そしておまけと言わんばかりに、

 

エクスカリバー武力10

アロンダイト 武力10

ガラティン  武力10

フェイルノート武力10

 

の最強武器をエディットし、最高の馬や兜、鎧なども装備した。

最強の戦士の誕生である。

やってしまった……されど後悔はない。

 

なんて馬鹿なことを考えていたが、実際問題、神さんが神器といっていたのは強ち間違いではないかもしれない。

神さん、ありがとう。

そんな風に感謝しようと思っていたが、冷静に考えるとそんな神器を渡さないといけないほどの場所なのかと思い、感謝の気持ちは忘れた。

 

「主様?」

「いや、何でもない、です」

 

アーサーの言葉に返事を返しながら、とりあえず良い護衛ができたので、とりあえず動こうとしたその時、トリスタが何かに気が付いたかのように眼を細める。

 

「砂埃、馬……あれは村」

 

眼を細めるトリスタに習って、俺もそちらの方を向いてみる。

しかし、馬や村なんて見えない。

ただ同じように山々が続いているように見えるだけである。

 

他の三人も恐らく見えていないのだろう。

眼を細める俺達に対して、トリスタは指をさす。

 

「とりあえずは向かってみませんか? あそこがこのあたりで一番近い村のようですし」

 

トリスタの言葉に全員が乗馬を行う。

俺自身の馬を出すことを忘れていたため、アーサーに乗せてもらい、馬を走らせていく。

 

「しかし、本当に村なんてあるのか?」

 

馬を走らせど、まったく馬が見えてこないことに対し、思わずトリスタのいうこと疑っ

てしまうと、トリスタは何でもないように笑みを浮かべる。

 

「こう見えて、私は眼には自身がありますので」

 

自信に満ちたその言葉に、そう言えばトリスタは弓使いの設定だったな、と先ほどの設定を忘れていた。

程なくしてトリスタの言った通り、前方に村と思わしき建物が現れた。

村からは煙が上がっており、微かにだが遠く離れたこの場所にも悲鳴が聞こえた。

村に賊。

現代社会に生まれ、このような状況には今まで出会ったことはなかった。

間違いなく、目の前広がるのは命が刈り取られ続ける地獄絵図。

そんな惨劇を目の前にして、俺はランスロ達を見る。

彼らはその光景を顔色一つ変えることなく、眺めていた。

彼らは、英雄の名を借りただけの虚構の存在。

感情というものは存在しないのかもしれない。

ならば、俺はどうなのか?

道徳というものを習い、感情というものを抱えた人間として生を全うした。

なのに何故なのだろうか?

ここまで目の前の惨劇が心に響かないのは?

 

「生きていた頃は、もう少し感情豊だった気がするけどな」

 

クールが売りになっていた俺だが、それでも悲しいことに泣き、理不尽なことに怒りを覚え、友といることで笑い、生きることに楽しさを見出していた。

これは神さんが言ってた死に様を知らないことに関係があるのだろうか?

それにこの地に俺を送った理由は何なのだろうか?

 

「主様、行かないのですか?」

 

アーサーの言葉に俺は後ろに振り返る。

彼らはこの光景を耐え難いものだと思ったのだろうか?

そんな俺の疑問をアーサーの次の言葉で的外れだったということがわかる。

 

「村人に話を聞かないと、ここが何処かわかりませんよ?」

 

まるで人の命をどうとも思っていない発言に、俺は彼らはやはりそういう存在なのだと実感した。

だが、その言葉はこれからの俺達の行動にとっての大きな理由になる。

勿論、盗賊側に混ざるという選択肢もあったが、そちらへ混ざるべき理由も無いため、俺はアーサー達に指示を出した。

 

「では、行くとするか」

 

ランスロとガウェンの二人を先頭に俺達は村へと馬を走らせた。

 

 

 

 

 



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いつもは静かで穏やかな村中に、悲鳴と怒声が響き渡る。

突然の惨劇に村人達は我先にと村中を逃げ回った。

だが、馬に乗った盗賊達から逃げることは不可能で、後ろから斬りつけられる者。首を刎ねられる者、鉄槍で串刺しにされる者、と大勢の村人達が命を奪われた。

若い娘達は盗賊達に捕まって、最悪の時が訪れようとしていた。

 

そんなときである。

彼らが現れたのは。

 

突然、村の柵を打ち砕いた彼らは、その勢いで盗賊達に襲い掛かった。

数は圧倒的に盗賊達が上、それに対し現れた者は二人だけだった。

だが、その姿はまさしく威風堂々。

見覚えはないが、間違いなく彼らは名が高き将のものだろう。

そんな彼らに盗賊達は一目散に飛び掛かった。

四方から襲い掛かる賊。

絶対絶命の危機に、将は焦ることなく腰の眩き宝剣を抜いた。

 

次の瞬間、周囲にいた賊達は二つに分かれて、呆然とした表情を浮かべたまま絶命した。

そして将達の剣舞が始まる。

 

片や流れるような剣捌きはまさしく眼にも止まらぬ神速の剣である。

賊達はその剣技を捉えることもなく、そのまま地に伏していく。

 

片やその一撃はまさしく豪剣の一言である。

容赦ない暴撃に巻き込まれた賊兵は原型を留めることなく砕け千切れ、その骨は後方に待機していた賊達に突き刺さっていく。

 

素人目でも実力差は歴然。

ゆえに賊達は理解した。

先ほどまで捕食者だった自分達が、今度は哀れな生贄と化したことを。

そして彼らはこの教示を後に生かすことなく、この地で命の幕を下ろした。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

武力100。

 

三国志のゲームで唯一、このステータスを持っているのは後漢末期の最強の将として名が高き、呂布一人のみである。

三国志の創作物として単騎で、三千の兵を全滅したりとか、たった一人で砦を落としたとか描かれる武力チート野郎である。

まあ、知力が低かったり、裏切りやすかったりという特性でバランスをとっていたキャラであったが、とりあえず俺が今言いたいことは一つである。

 

「やりすぎたな」

 

気分はまさしくテヘペロである。

とりあえず、村に向かったのはガウェンとランスロであるが、とりあえず彼らは強すぎた。

ランスロの剣は早すぎて、遠目からなら何をしているかわからないが、近づいた賊兵が細切れになっていた。

対するガウェンは、ランスロほど剣が早くないため、遠目から微かに見える。

しかし、それは刀身がというわけではなく、何やら凄まじい轟音により変なエファクトがついているように見えるのだ。

ちなみにランスロの剣がサイコロステーキなら、ガウェンの剣はミンチである。

とりあえず、今後当分肉が食えないと思う。

 

そして、もう一人のチートは隣にいるトリスタである。

彼はその自慢の弓で、村から逃げようとする賊を射殺している。

その威力は間違いなく、尋常ではないものであり、賊三人くらいを串刺しにして殺すこともできるようである。

速射性も、あれ? 弓ってこんなに軽快に引くものだっけと思うくらい矢を放っており、まるでガトリングのようである。

 

唯一、剣を抜いていないアーサーだが、間違いなく三人と同じレベルの強さを持っているのだろう。

そんなことを考えていると賊の数が明らかに少なくなっていることに気づく。

トリスタのいう話では、1000人近くいたようであるが、今のところ見当たるのは100人くらいである。

トリスタも弓を撃ち終え、ガウェンが討ち漏らしがいないかと村の外を馬で走っている。

ラストスパートと言わんばかりにランスロの剣は加速し、最後の一人をサイコロにした。

 

「終わったようですね」

「ああ、何っていうか呆気なかったな」

 

討ち漏らしがいなかったのか、こちらへ戻ってきたガウェンと一緒にランスロのいる村の中へと馬を進めた。

 

 

 

村に到着して待っていたのは、村人の礼であった。

 

「この度は、村の危機を救っていただき、誠にありがとうございます」

 

恐らく村長だろう老人の言葉と一緒に数人の村人が頭をこちらに下げた。

残りの村人は、死んだ村人や賊の遺体を村の隅へと運んでいた。

時折、あまりの惨劇に嘔吐する村人がいたが、流石にミンチとサイコロはキツイだろう。

俺も先ほどから喉元まできているアレを止めておくのに必死である。

 

「んぐ……気にするな、っていうのは少し言葉が悪いな、正直なんと言えばいいのかわからないが」

「いえ、貴方方が来なければ、被害はもっと大きくなっていたでしょう」

 

引き攣った笑みを浮かべる村長の周りには、沈痛な表情を浮かべた村人達が悲しみを堪えていた。

その姿を見ても、不思議なほどに俺の心に響くものがなかった。

自分自身に起こっている異常を見過ごすことができないが、それ以上に確認しておかなければならないことがある。

 

「こんな状況で聞くのが、悪いがここは何処なんだ」

 

「何処、とは?」

「実は俺達は旅人なんだが、地図を無くしてしまってな。 結構な距離を歩いてしまったため、場所がわからないんだ。 一番大きな都市って何処になるんだ?」

「そう、ですね……ここから北に行くと陳留と言われる都市があります」

 

陳留。

その言葉を聞いて、俺はある疑問が解けた。

何故、神さんが神器として手渡したゲームの中身が、かの時代のことだったのか。

そして、目の前で討ち果たした賊達に巻かれた黄色の布。

その二つと陳留の言葉を繋げて出る事実は。

 

「最後に確認しておきたいのだが、その都市の太守の名前は?」

「私も会ったことはありませんが、曹操様という方でございます。 聞いた話だとどうやらすごく素晴らしい方だと」

 

村長の言葉により、俺の考えた馬鹿げた考えを肯定した。

ああ、本当の曹操ならば、優秀に違いないだろう。

後に三国の一つ、魏の礎を作った大英雄になるのだから。

 

どうやら俺は三国志の世界に来たようである。

 

 

 

 

のちにこの出来事が、かの曹操の耳に入ることとなり興味を持たれることになるということを、この時の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 



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衝撃の事実から一月。

俺達は村人達と別れると中原、正確には陳留の曹操の勢力圏から逃れるように南下した。

中原から下りた俺達はそのまま荊州に渡ると、その地を勢力下においた劉表軍の最大の都市、襄陽で一度休みを取ると、そのまま南下を繰り返した。

そして荊州の南部であり、劉表軍の勢力下から離れた蒼悟という地に拠点を置いた。

この地は、中華よりも異民族の勢力下の強い地であり、中華の英雄達から逃れるためであった。

だが、異民族と呼ばれる精強な軍勢に囲まれるということもあり、すぐに戦力強化が実施された。

 

人を集めて……という時間のかかる手は取れるわけも無く、頼ったのは神さんの神器である。

アーサー達四人以外に、九人の将を作り出した。

その際、自重をするために残りの九人の能力は全員95にしておいた。

次に行ったのは、本拠地とされる城である。

幸いにも、この神器は新武将登録機能だけではなく、本拠地等の数値を弄ることができるタイプのものであった。

とりあえず、この城の城壁等の数値をマックスにし、人口と兵力を最高値の25万に設定した。

冷静に考えると、この国の洛陽でもここまで凄くないのではないか?と思ったが、かなり頭がハイになっていたため、気にしないことにした。

こうして洛陽を超える大都市が人知れず生み出されたのである。

 

「何っていうか、神さんには感謝でいっぱいだな」

 

この神器を渡されてなかったら、間違いなく死んでいる自信がある。

もし、俺個人がオール100のステータスにされても、この乱世を生き抜くことはできなかっただろう。

 

神さんに感謝を込めながら、最上階の自室からこの蒼悟の城を眺める。

ステータスは弄れたが、内装は自分達の手で行わなければならない。

とりあえず田や畑を城壁内に作り、いわば小田原城風にしてみた。

これで兵糧攻めにも耐えることができるだろう。

といっても、兵糧や金の数値を弄れることに気づいたのは、城を作り終えてだったのだが。

城壁は全部で五層に分かれ、俺達が住む場所を中央とすると、城壁を挟んで25万の兵達が待つ兵達の兵舎。

そして、貯蓄した武具や兵糧を貯めた庫に民達の家と田畑と並び、最後は矢塔等が並んだ見張り兵が駐屯する場所となっている。

あと念には念を重ねて、城の四方を囲むようにして柵で防壁を作った巨大な陣が作られており、異民族達の襲来に備えている。

 

最もアーサー達が率いる軍による、異民族狩りにより周辺の人々が陣の周りを囲むようにして住民達が暮らすようになってきたのだが。

 

「地ならしは殆ど終えてきたようだな。徹底的に異民族を叩いた後に中華に眼を向けてもいいかもしれないな」

 

中央へと飛ばした間者の情報によれば、黄巾の乱と思われる戦いは終えようとしていた。

次に始まるのは史実通りに行けば、西の雄である董卓の圧政である。

その戦に参戦するのはいいかもしれない。

 

「これで本当にあの情報が本当か確認できるな」

 

本当なら曹操や劉備などの後の英雄たちが集う戦いに参戦しようと思わないが、確認したいことがある。

それは巷で有名になりつつある、曹操や劉備のことである。

 

「彼らは本当に女なのか?」

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

南で暴れる盾一達のことを警戒する者がいた。

それは盾一自身が脅威に思っていた曹操その人である。

 

「それで、その五人組のことについては追えなかったいうことね?」

「申し訳ございません。 襄陽に入るまでは確認できたのですが……」

 

玉座に座り、忠臣である荀彧の報告に、曹操は思わずため息をつく。

その艶のある姿は、間違いなく男が見ていると思わず唾を呑み込むほど可憐な姿であった。

つまりは、曹操は女であるということである。

むろん曹操だけでなく、目の前で頭を下げる荀彧も、曹操の隣の両翼将軍で知られる夏侯惇、夏侯淵姉妹も女性である。

この世界の住民にとっては不思議なことではないが、盾一からすると、ここは三国志から少しずれた世界ということになるだろう。

 

話がそれたが、そんな女傑曹操が目下気にしている者が、一月前に曹操の領地で起きた盗賊達の件である。

その時、陳留を離れていた曹操達が慌てて軍を送ると、そこには盗賊達の死体が積まれていた村であった。

無論、その中には村人の遺体もあり、その光景に曹操は悔しさで表情を顰めたが、それでも助かった村人を労った。

その際に、聞いたのだ五人組の旅人を。

 

「村人の話では、五人のうち、三人は名刀を備えていたようね。 そしてその剣に勝るとも劣らない腕を持って」

 

細切れになった賊の傷口等を見ると、間違いなく達人であろう。

それも並みの達人ではなく、隣の曹操軍最強の夏侯惇の腕を凌ぐほどの。

そんな人間が最低二人、そして夏侯淵に匹敵するような弓の名手が一人だけいたのも確認されている。

そして、首魁とされる青年。

村長のいう話では、何処か浮世離れした様子だった、と。

四人の英雄を従えた王。

曹操の興味を引くには十分すぎる事実であった。

 

「しかし、先の乱で彼らと思われる者は現れていませんね」

「そうね、けど現れるはずよ。 かの者が私と対する王に相応しい人間ならね」

 

そう言って、古来の英雄は笑った。

英雄の名は曹操、真名は華琳と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 



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D

馬に跨り、城壁の門が開く。

 

「では、行くとするか。 中華へと」

 

その言葉に、背後から歓声が上がる。

総数20万の軍勢に、13人の将を引き連れ、俺達は中原へと向かう。

勿論目的のない侵攻というわけではない。

遂に先日、襄陽に紛れ込ませていた間者から待っていた情報を手に入れることができたのである。

華北の覇者といわれる袁紹からの檄文。

そこに書かれていたのは、帝の傍で天下を牛耳る悪逆董卓軍の征伐への檄文であった。

洛陽に董卓達が入っていることはすでに情報を掴んでいたため、何れはこの事件が起こるだろうと読んでいた。

周辺の異民族を叩き終え、兵力も50万に増強した軍勢に、蒼悟の城を中心に建造された小城により、守りはすでに万全といってもよかった。

兵だけではなく、将軍も残りの87枠を使って、新たな将達を作っておいたので問題は無かった。

後方の憂いは無く、兵糧もこの大軍すらも容易に足りうる量を集めている。

遂に俺達も立つ時が来たのである。

兵糧を守る護軍を中心に置き、4万の前軍の指揮をアーサーに、同じく4万の右翼軍をランスロに、同じく4万の左翼軍をガウェンに、背後を守る4万の後軍をトリスタに指揮を任せ、中央の4万の本軍という陣容で進軍を進めた。

 

「一月はかかるかな?」

「はい、それぐらいはかかるかと思います。 ただ劉表軍が邪魔をしなければの話ですが」

 

俺の質問に答えたのは、俺の副官でありベディアである。

生真面目で冷静沈着の頼れるイケメン3号機であり、武勇は槍の名手として素晴らしく、俺の護衛を兼ねている。

そんな彼の言った通り、中原に行くには劉表の荊州を渡らければならないのだが。

 

「うーん、劉そう陣営に金を掴ませているからな、彼らに何とかしてもらうか」

 

金以外にも、のちに起こるとされる後継者争いの際に力になるとも匂わせている。

勿論、そんな面倒なことに顔を出すつもりはないが、それでもこの大軍をそんな相手に一々仕掛けてこないだろう。

 

「ただ警戒はしておこうか、前陣のアーサーに先行するように伝えておいて」

「かしこまりました」

 

俺の指示にベディアは、前陣へと馬を走らせる。

こんなところで戦力を消耗させるわけにはいかない。

先行したアーサー軍2万の後、俺達は追いかけていく。

こうして俺達は、何の消耗も無く目的地にたどり着いたのであった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

その報告を受けたのは軍議の途中であった。

これから董卓軍の最前線である汜水関攻略のために、各軍勢の主達が集まった天幕の中でその報告を聞いた。

 

「南方の数里先に、20万の軍勢がここに向かっているですって?!」

 

椅子から勢いよく立ち上がり、驚愕の声を上げたのは先ほどの会議で盟主となった袁紹であった。

普段は余裕に満ちた笑みを浮かべ、危機を理解するのにも時間が掛かるほどの彼女がこうして声を一番に上げるのは、それほどにこの状況下が緊迫しているということになる。

それもそうだろう。

通常20万の軍勢を送ることができるものなど、ただの太守にできるはずがなかった。

中華最大勢力を誇り、名家である袁家に生まれた袁紹の軍勢ですら5万であり、同じく袁家の袁術も3万である。

続いて勢力のおおきい公孫賛が2万、盾一が恐れている曹操——華琳ですら1万である。

それほどまでにこの20万という軍勢の巨大さは異常である。

 

「か、数え間違いじゃないのか?」

「数え間違いでも間違い過ぎよ。 本当に20万という軍勢かどうかは知らないけど、間違いなくそれに近い数はいるということは確かね」

 

引き攣った笑みを浮かべる公孫賛——白蓮に、華琳は冷静に答えようと努めていた。

しかし、それでも彼女の額には小さな汗が流れていた。

不測の事態にも冷静に動くことができるのが、彼女自身も自らの強みだと思っていた。

だが、この状況は想像すらもできなかった。

20万もの大軍を抱えた軍勢など、華琳が調べた中では存在しなかった。

 

ならば、私の眼を掻い潜ったというの?

 

それも20万というあり得ないほどの大軍を抱えて。

 

「まさか、董卓軍じゃないのか!?」

「あいつら、天子様を上手いように操って、官軍を……」

「待て、そもそも大部分の軍勢はこの地に集結しておるっ。 洛陽にもそれほどの軍勢がいるはずがない」

「ならば、アレをどう説明する!?」

「そんなもの、俺が知るかっ!?」

 

汜水関攻めの会議から、今現状の危機により軍議は混乱の渦に飲まれようとしていた。

こんな状況では、董卓軍と一線を迎えるということは不可能という

 

「麗羽、わかっていると思うけど、この状況下では董卓軍に刃を交えることは不可能よ」

「わ、わかっておりますわ」

 

「なるほど、ここが会議の場というわけですね」

 

「白熱した軍議の途中に入ることを謝罪させていただきたい」

 

現れたのは、黒髪の特に眼に惹かれるようなものが見えない男。

その姿に、伝令か何かと華琳が思ったその時、背後から現れた四人の将に眼を奪われた。

自信と威厳に満ちたその姿は、まるで古来の英雄そのもので、華琳は女性以外で初めて眼を奪われるということになった。

そして、同時に気づく。

彼らこそが二月も前に起こった盗賊の件で、村を救ったとされる者達であるということを。

ならば、そんな四人に囲まれた冴えない男こそ、何者なのか?

華琳の脳裏に浮かぶ疑問に、男は拝礼を行いながら答えた。

 

「初めまして、私の名は南雲、南雲盾一と申します。 ここより遥か南方の蒼悟の地を勢力下におく田舎者でございまする」

 

遜った態度で、名を名乗る男に続き、背後の四人もそれになって準じる。

その姿に前にいる冴えない男こそ、彼らの主であるということを意味している。

それにしても、だ。

南雲と男は名乗ったが、その名に聞き覚えはなかった。

 

「我が本隊は、数だけの烏合の衆でございます。 ゆえに袁紹殿のこの国を憂う檄文に、この身は馳せるようと、我々だけでもと参りました」

「そ、それは殊勲な態度ですわね。 いいでしょう、話し合いに参加することを許しましょう」

「有難き幸せ」

 

男の言葉に麗羽は気を良くしたのか、普段の通りの調子に戻ると馬鹿笑いをする。

その姿に南雲という男は、一度周囲の人間に頭を下げると、この場で一番の下座に座った。

その背後には、周りを固めるように四人の男達が並ぶ。

尋常ではない覇気を放つ男達に周囲の太守達は、唾を呑み込んでいたが、全く気にした様子のない麗羽により、話し合いは再開された。

 

 

 



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E

合従軍の軍議に参加して数十分。

話の半分は、盟主となった袁紹の自慢話だったため、つまらない時間となったが、ある意味この場に参加できたことは大きい。

まず、確認しておきたいことの一つであった、曹操の性別だったが、やはりここの曹操は女性であった。

あの乱世の奸雄と呼ばれた者が、あのような可愛らしい姿だったのは意外だったが、あの見定めるように見てくる眼と体から溢れるオーラは間違いなくイメージの曹操そのものだった。

そして、袁紹に、袁術、孫策に劉備も女性ということには驚いた。

今まで三国志の英傑達に出会ったことはなかったが、もしかすること全員が女性になっているのかもしれない。

しかし、それでも能力的には全く変わらないということなら、女性だろうが男性だろうが脅威に値することには違いはない。

とりあえず、華北で最大勢力を持つ袁紹には媚でも売っておくほうがいいだろう。

 

そんなことを考えていると、議題は誰が先陣をいくかということになっていた。

汜水関という巨大な防壁を攻略するのには、間違いなく多くの犠牲に払うことになるだろう。

 

「ああ、もう! では劉備さんお願いしますわ!!」

 

そのため、誰もが様子見となっている中で気の短い袁紹の独断により、不運にも槍玉に挙げられたのが、この中で一番勢力の低い劉備であった。

 

「お待ちください! 我々の兵力では汜水関を抜くことなど」

「ええい!! 煩いですわね。 私が盟主です! 盟主の指示に従いなさいな!」

 

劉備の隣にいたロリッ子が慌てていたが、袁紹は聞く耳を持たない。

その様子を見ても曹操などは何も言わないのだから間違いなく、様子見に徹するのだろう。

だが、聞く話によると劉備軍の兵力は二千(よくこんな小勢で参加したものだ)、対する汜水関の董卓軍は3万という数らしい。

加えて関墜としのことを考えると、兵力は全然足りないだろう。

劉備ということは、張飛と関羽がいるのだから、間違いなく後の脅威となるため、ここで死んでもらうのは有難いが、合従軍には勝ってもらわなければならない。

確かに合従軍と董卓軍なら、間違いなく合従軍が兵力を上回っているが、それは合従軍だからである。

単独で言えば、董卓軍が俺達を除けば間違いなく中華で一番の兵力を誇っているだろう。

それに董卓軍には呂布がいる。

こちらには、オール100のアーサー達がいるが、呂布の力がどれ程のものかはわからない。

ゆえにこの有利な状況を生かして、董卓軍を殲滅しなければならないのだ。

 

「少しお待ちいただきたい」

 

ここはこの一手が手堅いだろう。

 

「我が軍も、先陣に加えていただきたい」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

先ほどまで沈黙を保っていた南雲に、天幕内の視線が集まる。

その視線に構うことなく、南雲は気負い一つしていない自然な様子で答えた。

 

「我が軍も、先陣に加えていただきたい」

 

その発言に、華琳は考えを読もうと眼を細める。

普通に考えれば、名を上げたいということが考えられるが、それならば先の乱の時に名を上げようとできたはずである。

兵力を整えていたのか? それはあり得ないだろう。

そもそも20万という数を集めるということは、間違いなく何年もの月日が必要になる。

一か月ほどで変わる数ではないため、間違いなく乱の際には戦える十分な兵力は保っていたはずである。

そもそも20万の兵力を持って、この合従軍に参加したことすら理解ができない。

この合従軍は、帝を董卓の手から助け出すという大義名分を打ち出してはいるが、実際のところは名を、地位を、力を得るためだけの欲にまみれた戦いである。

もしも、華琳自身が20万の兵力を手に入れたのなら、こんな戦いには参加せずに領地を広げるために各地に軍を送っていただろう。

ならば、考えることは一つ。

この戦い自体に意味があるということだ。

無論、あの大義に惹かれたというわけではないだろう。

あの麗羽に媚を売っていたた時の態度とは、真逆の何の関心すら持っていないあの眼をもつ人間が、漢王朝を助けようという気があるわけがなかった。

 

少し、評価を改めるべきね、

と華琳は、南雲という男の評価を上げた。

 

そんな華琳を放って話は続く。

 

「こうして、南方の地から参ったのです。 微力ながら袁紹殿の力になりたいのです」

 

あからさま過ぎる南雲の言葉に、調子のいい麗羽は少し顔を赤く染めてほほを緩める。

 

「で、ではお願いしようかしら」

「は、必ずや期待に応えましょう」

 

天幕内に通るような声を上げた南雲は、上座に座る麗羽に礼を行うと、近くにいた劉備——桃香に向き直る。

 

「では劉備殿、互いに力を合わせましょう」

「は、はい」

 

それだけ伝えると、南雲は立ち上がる。

 

「では、我々はすぐに軍の編成を急ぎますので、失礼いたします」

 

そう言って、配下の四人を引き連れて天幕出て行った。

 

 

 

 

 

 



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F

天幕内に戻った俺達は、すぐに二十万の兵達を編成し直す。

その際、汜水関に間者を飛ばし、地形に将、兵力と調べることができるすべての情報を集めて、攻略を考える。

途中、曹操と劉備が来たみたいだったが、会うつもりはなかった。

曹操には、先陣準備のため会うことはできないと伝えた。

その際、曹操の連れが激怒していたようだったが、曹操自身が止めてくれたようである。

劉備は、先陣の戦略についての話し合いだったが、二千の兵力に何ができるのか? と思ったため、各自奮闘すべしと伝え、話し合いを行わなかった。

そうしているうちに夜が明けて、俺達は汜水関の前陣へと躍り出た。

 

「さて、そろそろやろうか。 先陣のガウェンに伝えろ」

「はっ!」

 

俺の言葉にベディアが鐘を鳴らす。

先陣のガウェンへの合図だ。

先陣にはガウェンの他にも、ケイやパーシーという新人の将を入れている。

その背後にはランスロの第二陣、そしてトリスタとアーサーの第三陣が控えている。

 

「実際は、そこまで使う気はないのだがな」

 

俺は先陣に設置された秘密兵器を見る。

蒼悟の地から苦労して持ってきた兵器が役に立つ時がきた。

関攻めを初めからわかっていたのだから、用意するのは当たり前である。

二十万の兵力は持っているが、無駄な犠牲は避けるべきだろう。

 

「さあ、始めようか」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

合従軍が結成された。

袁紹を総大将とする中華の豪傑達が集まった軍勢が、洛陽に迫ろうとしている報告は董卓軍の耳にも届いていた。

その勢いを挫くべく董卓達は、最初の戦場となるだろう汜水関に、猛将の華雄と張遼を送り込んだのである。

 

「軟弱どもを討つべきだ」

 

と気勢を上げていた華雄を、止めるために張遼はこの汜水関に来たといっても過言ではなかった。

だが、その華雄も目の前の光景に完全に飲まれようとしていた。

目の前には一面、敵兵。

それは途切れることなく、遥か後方まで続いている。

当初の話では十万にも満たないと言われていた。

それでも六万の董卓軍には脅威であったし、それゆえに汜水関で籠城をするつもりであった。

だが、その考えは目の前の光景により、甘い考えだったと否定された。

 

「なんや……これ? 十万どころか、その三倍以上はいるやないか?」

 

叫ぶことも喚くことも許されない絶望的な数。

それは間違いなく、先の乱で用いた官軍の兵数を遥かに超えるものであった。

この光景は、張遼、いや董卓軍の誰もが想像していなかったことである。

だが、それも無理のない話である。

中華全土の兵達を集めても届くか届かないか、というほどの数である。

 

「旗は『南雲』? あかん、聞いたことも無いわ」

 

そしてその軍勢は皆、南雲と文字を描かれた旗を持っていた。

つまり前方にいる大軍はすべて、同じ勢力のものであるということである。

それはどう考えてもあり得ないことであった。

名も知らぬ無名の軍勢が、漢の全勢力の中で圧倒的な軍勢を持っているということに。

 

「張遼、お前は洛陽に向かえ。 私が時間を稼ぐ」

「は? 何言ってんねん!? 困難お前ひとりで止められるはずがないやろ!?」

 

この光景を見て頭が可笑しくなったんか、そう言った張遼の言葉に、華雄は淡々と言った様子で答えた。

 

「それはこっちの台詞だ。 まさか、お前はこの汜水関でアレを止めることができると思っているのか」

 

華雄の言葉に、張遼は唾を呑み込む。

確かに華雄の言う通り、いくら汜水関と言えど、これほどの勢力差がついていれば容易に落とされることになるだろう。

 

「はっきり言って、私達に勝ち目は無い。 こちらに飛将軍と呼ばれた呂布がいるだろう。 あいつの武は間違いなく天下最強だ、だがこの数には固の武は無意味である」

 

董卓軍には、華雄や張遼の他に董卓軍最強の呂布という隠し玉がいる。

三万の兵すら敗走に追い込んだと言われる逸話の持ち主だが、今度はその十倍の数である。

どうあがいても不可能であった。

 

「だから、我々にできることはひとつ。 お前がこの情報を伝え、この地から落ちのびる。 それしかあるまい」

「華雄、アンタは……」

 

逃げないのか、そう続けようとした張遼の言葉に、華雄はゆっくりと首を横に振った。

 

「私は残る。 どのみち、ここで董卓様が逃げる時間を稼がなければならないからな」

 

その姿に悲壮感はなかった。

穏やか。

張遼は、華雄のそんな顔みたことはなかった。

 

「わかった……言っとくけど、華々しくとか考えんなよ? 恥を晒してもええ、命を繋いでまた会うんや、わかったな?」

「わかっている、さすがの私も出ようとは思わん」

 

その言葉を聞いた張遼は、その場を後にしようと華雄に背を向けた。

 

「じゃあな、華雄」

「ああ、また後で、だ。 霞」

 

走り始めた張遼———霞を見送り、華雄は、再び眼前の光景を見る。

 

「打って出るな、か……相手が許してくれればいいのだがな」

 



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G

戦に勝つには何が必要か?

それは武であり、智であったり、その答えは人によってそれぞれだろう。

力の弱い者が、力の強い者に勝つために武器は生まれた。

武器を持つ強者に勝つために、武術は生まれた。

武術の達人に勝つために、人は集団となり、集団を生かすために戦術は生まれた。

こうして人は次々に進化を遂げてきたのである。

 

何故、今このようなことを確認しているのかというと、特に意味はない。

ただ、目の前の光景を生み出したものとして思うのだ。

 

「戦いって恐ろしいな」

 

俺こと、南雲盾一の視線の先には、巨大な岩の雨が空を舞い、そして標的となっている汜水関に降り注いだ。

矢の雨ではなく、岩の雨である。

盾如きで防げるものではなかった。

汜水関の上では悲鳴が上がり、最初の頃はこちらに向かって放たれていた矢も今では完全に止まっていた。

投石器百台からの投石である。

実験で岩を飛ばしてみたら、想像以上に飛んだので用意してみたのだが、これは間違いなく籠城殺しとなるだろう。

こちらの20万の兵も先ほどから投石の準備で忙しく、動き回っているが被害は皆無と言っていい。

 

「そろそろ痺れを切らして出てくるかもな」

「……出てこなかったらどうしますか?」

「出てこなかったら梯子と衝車で破ればいい」

 

どのみち、初戦は間違いなくこちらの勝ちだ。

後は油断なくことを進めればいい。

隣のベディアに指示を送っていると、遂に前方の汜水関から門が開いた。

現れた敵兵の数は3千程。

あの逃げ場のない関の中で、よく岩の雨から逃げれたものである。

 

「あの旗は「華」? なるほど華雄ね」

 

まさしく演義通りである。

ただ討つ相手が、関羽からこちらに変わっただけである。

 

「ガウェンに伝えろ。 お前が華雄を討て、と。 ケイとパーシーは共に一万づつ率いて華雄軍を全滅させろ。

あとアーサーとトリスタで汜水関を落とせ」

 

俺の指示が前軍に渡り、ガウェン達に伝わり、ガウェン軍二万が華雄軍に向かった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

「すまんな、霞。 私はやはり武人だったらしい」

 

汜水関を飛び出し、相棒の金剛爆斧を担いで、最後の特攻を仕掛けようとしていた。

当初は、汜水関で籠城をするつもりであったが、あの投石車の一斉投石により、一気に汜水関は窮地に立たされた。

射程距離外からの攻撃で一方的に攻撃された時、逃げ場のない籠城では全滅は時間の問題であった。

岩から逃げようとする部下達を一喝し、軍としての役割を果たすことはできそうだが、それでも半数は犠牲になった。

後方に下がることは、奴らを洛陽へと引き入れることになり、ならばここで籠城していても、投石、そして梯子でも掛けられれば一息で落とされることになるだろう。

ならば相手の隙を突き、一撃を喰らわした後、再び籠城し時間を稼ぐしかなかった。

故に、私自ら先頭に立って仕掛けたのだが、

 

「くそ、20万という大軍だからこそ、動きが鈍いと思ったのだが、まさかここまで反応が良いとは」

 

ならば、一度と敵と戦って、下がるしかあるまい。

そう覚悟を決めた華雄は、金剛爆斧を握りしめた。

 

そして両軍はぶつかり合う。

華雄は襲い掛かる敵兵の首を落とすと、そのまま直進を開始する。

その決断は、今までの華雄の華雄軍の戦歴からの自信であったが、それが悪手となった。

 

「こいつら、強いっ!!」

 

目の前の敵は烏合の衆でなかった。

間違いなく、訓練と実践を重ねた精鋭部隊であった。

華雄軍と、いや華雄軍以上の練度に華雄は慌てて指示を出そうとするが、目の前に現れた男により、足が止まる。

 

「お前がこの軍の将か?」

 

目の前の全身鎧で固めた重装備の将に、華雄は金剛爆斧を向ける。

そんな華雄に対し、男は何も言わずに剣を抜くと、手綱を引いた。

迫りくる敵将に、華雄は金剛爆斧を振り下ろそうとした瞬間、すでに男の剣が華雄に向かって振り下ろされていた。

咄嗟にその一撃を受け止めた華雄は流石と言っていい。

だが、華雄にできたのはそこまでだった。

 

(馬鹿なっ!! 私が完全に力負けしている!! それにこの男いつの間に剣を振り抜いた!?)

 

じりじりと迫る刃に、華雄は必死に堪えていたが、

 

「終わりだ」

 

目の前の男から発せられた言葉に、金剛爆斧の柄は切られ、華雄はそのまま肩口から斜めに切り落とされた。

 

「……無……念」

 

ただ男にそう言い残して、華雄は地面へと倒れ伏せた。

そんな華雄に構うことなく、男———ガウェンは動きが完全に止まった華雄軍へと、ケイとパーシーが率いる軍勢と共に襲い掛かった。

いくら精強の華雄軍も六倍以上の兵力差に、圧倒的な強さなガウェンの前に打つ手はなかった。

数分で全滅した華雄軍をそのままに、ガウェン軍はそのままアーサー軍と連携し、汜水関に襲い掛かった。

 

こうして汜水関はたった一日で合従軍のモノとなったのである。

 

 

 

 

 

 



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H

圧倒的なまでの勝利に、合従軍は歓声を上げた————わけも無く、ただ誰一人として声を上げずに見守っていた。

結局、汜水関は南雲軍だけで落とされたことになる。

2万ほどいた華雄軍も、岩により押しつぶされたり、ガウェン達に切り殺されたりしていたが、生き残りも皆南雲軍の手によって皆殺しにされた。

汜水関をくぐったときの地獄絵図を思い出し、能天気な袁紹ですら、その光景を見て嘔吐していたほどである。

 

それゆえに、合従軍は汜水関を抜けて少し先をいったところで駐屯していた。

勿論、前陣は南雲軍であるが、劉備軍が曹操軍と同じく中軍に下がっていた。

 

そんな劉備軍を曹操———華琳は、自身の天幕へと招き入れた。

 

「初戦の前陣ご苦労だったわね」

「えっと……私達何もしてないんですけど——」

 

苦笑いしながらこめかみ辺りを掻く劉備———桃香に、華琳は酒を注ぐ。

 

「何もしていないわけではないわ。 あの惨状を目の当たりにしたんだから」

 

華琳の言葉に、桃香を始めとする劉備軍の面々の顔が強張る。

その表情には、隠しきれていない嫌悪感がにじみ出ていた。

 

「彼ら、南雲軍の行為はそう間違えたものではないわ。 敵を討つ、ということは戦場で当たり前のこと」

「でも、あれはっ!!」

「そうね、間違いなくやり過ぎよ」

 

南雲軍は、汜水関に籠っていた華雄軍、一万五千を皆殺しにした。

目的は、恐らく勝利のため、だけではないのだろう。

そもそも汜水関は、華雄を討ち取った時点でこちらの勝利には違いなかった。

ゆえに、汜水関を攻略後に残っている敵兵は、捕虜にでもすればよかったのだ。

だが、南雲は問答無用で生き残りを殺した。

 

それも生き埋めという最も残酷な殺し方で、だ。

 

「あの行為を見て、気分が良い人間なんていないでしょうね。 能天気な麗羽ですら、顔を青くさせていたわ」

 

それは他の諸侯も同じだろう。

二十万の精鋭と潤沢なまでの兵糧を備え、華雄を一撃で葬るほどの武勇を持つ将が率いる南雲軍が、アレほどまでの冷酷な手段を取った。

間違いなく、今頃、南雲の陣営では媚を売る諸侯たちの列が続いているだろう。

 

「アレほどまでに用意と軍勢を持ち、異常なまでの手際の良さ。 私は南雲がこの戦を仕組んだとまで疑いたくなるわ」

「そんな……」

 

華琳の推測に、桃香は思わず呻くような声を出す。

無論、この結論には全く証拠というものはなく、檄文自体は間違いなく麗羽が送ったものだろう。

だが、もしもこの推測が正しければ———

 

「そこで、劉備。 貴女達に提案があるの」

「提案、ですか?」

「ええ、私と組まないかしら?」

 

突然の華琳の提案に、桃香は眼を丸くする。

想像もしていなかったのだろう。

だが、それは悪くない話であった。

桃香自身、華琳達とやり合う気はなく、彼女の願いは大陸の平和を築くことにあった。

 

「わかり……「少し待ってくれませんか?」」

 

二つ返事で答えようとした桃香の言葉を遮るように、隣にいた少女———諸葛亮が声を上げる。

普段は、はわわはわわと小動物のような彼女であったが、諸葛亮———朱里の眼は間違いなく疑惑の色を浮かべていた。

 

「南雲軍の危険性とその軍力は間違いなく脅威ということは理解しています。 ですが、何故私達にその提案をするのでしょうか? 数千の軍しか持たない弱小の我々より、華北の最大勢力であり知己のある袁紹殿などがよかったのでは?」

 

朱里の疑問は最もである。

幾ら優秀な将がいようと、戦の大部分は数の多さである。

ならば、劉備軍以上の適任者は幾らでもいるだろう。

そして、朱里は南雲軍の危険さを理解しているが、同様に目の前にいる華琳達、曹操軍の脅威も理解していた。

間違いなく曹操軍と劉備軍は、その志の違いからいつか戦うことになるだろう。

 

「そうね……確かに貴女の言うとおりね」

 

勿論、華琳は袁紹軍にも後で声を掛けるつもりであったし、目の前の劉備とは馬が合わないと思っている。

 

「ならばこう言いましょうか? その程度の小事で大悪を見失うわけにはいかないの」

 

たった一戦で、華琳は南雲軍の異常を悟った。

まるで全ての兵が一つの意志に纏まった奇跡。

同時に兵一人一人から全く感じることができない人間味の無さが、より南雲軍の不気味さを表していた。

 

「この戦が終われば間違いなく、南雲軍は仕掛けてくるわよ。 それも今度は二十万という数ではなく、さらに膨大な兵を引き連れて、ね。 そんな状況下で同盟を結ぼうとする者達をだまそうとするかしら?」

「……申し訳ございませんでした、曹操殿」

 

華琳の言葉に、納得したように朱里は無礼を働いたと丁寧に頭を下げると、桃香の後ろへと下がった。

 

「かまわないわ。 寧ろ少し感心したわ。 お人よしそうな劉備軍に冷静に物事を見る人間がいるということは有難いわ」

「そう、そうなんです! 華琳さん、朱里ちゃんって本当に凄いんだよ」

「は、はわわわっ! と、桃香様」

 

目の前でじゃれつく主従を見て、華琳は眼を細めて笑う。

こうして、南雲軍の圧倒的な勝利のおかげで、劉備と曹操という二人の英雄が組むという大同盟が起こったのであった。

 

 

 

 



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「ふむ、汜水関は少しやり過ぎたかもしれないな」

 

馬の背の上で揺られながら盾一は、先頭に視線を向ける。

現在合従軍は、洛陽を守る最後の難所とされる虎牢関へと向かっていた。

南雲軍はというと、先陣から少し離された場所で先頭の曹操軍と公孫賛軍を眺めていた。

汜水関の戦い後の軍議で、再び先陣を志願したが袁紹と曹操の手により却下とされた。

合従軍として戦う以上、南雲軍だけで戦うわけにはいかないと言って、曹操軍が先陣となったのだが、間違いなく警戒しているのだろう。

この中軍に南雲軍を配置したということは、後方の袁紹、袁術軍と前方の公孫賛、曹操軍で囲むようになっている。

最も、二十万の南雲軍ならばこの程度の包囲など無いに等しいものだが、それでも被害は大きくなるだろう。

それにその油断こそが、命取りになるに違いない。

石橋を叩いて渡るどころか、石橋を爆破して新しく橋を作って渡るほどの慎重さが、この乱世で生き残るには必要だ、と盾一は気を引き締めていた。

 

———のちに争うことになる曹操や袁紹が自ら戦うと言っているんだ、こちらにメリットこそあれど、デメリットはない。

武名を上げる機会は奪われることになるが、別にこちらとしては武名も名誉も必要ない。

今、俺がすべきことは他軍の動き一つ一つを観察し、対策を練ることである。

 

「なんなら、董卓軍には頑張ってもらいたいものだ。 曹操や劉備、袁紹から兵だけではなく将も奪ってもらうと有難い」

 

劉備軍には関羽、曹操軍には夏侯惇という猛将が、この地で死んでくれたら有難い。

ステータスが最大値のアーサー達なら負けることはないとは思うが、別に強敵と戦う必要性はない。

 

「ベディア、後方をアーサーとトリスタに守らせろ。 ガウェンはそのまま前方を、ランスロを含む残る将達は俺の周りに集めろ」

「かしこまりました」

 

凛とした佇まいのベディアが走っていくのを見送ると、俺は右方に展開している劉備軍に視線を向ける。

 

「さて、天下最強の呂布の武でも拝みに行こうか」

 

何人死んでもいいから、討ち取ってくれよ。

劉備や曹操達に願いを込めて、俺は書簡を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

汜水関の訃報が届いたのは、張遼———霞は洛陽に戻って数時間後の出来事であった。

 

「華雄軍、一万五千は全滅。 投降した者も皆生き埋めにされたらしいわ」

 

顔を青くさせながらも、冷静に努めようとした董卓軍の軍師———賈駆の肩は微かに震えていた。

華雄は賈駆の指示通り、籠城を行っていた。

だが、相手はとんでもない方法で、華雄を引きずりだし塵殺した。

華雄を討ったのは南雲軍ということはわかっている。

だが、最後に華雄と戦った将の名前はどう調べても出てこなかった。

 

「華雄を討ち取った者はそのまま首を取らずに、汜水関を攻め落としたらしいわ。 実際華雄の亡骸を拾ったのは劉備軍だったらしいわ」

 

誰もが一騎打ちの時は名を高らかに上げるものだ、文官の賈駆には理解できないことだが、華雄は武人の誇りゆえにだと自信満々に言っていた。

だが、華雄を討ち取った者はそれすらに興味がなかったのだろうか。

 

「なんや、華雄はそんな死に方をしたんかい……あの誇り高いアイツを、南雲とかいう糞は……」

「霞……」

 

冷静になりなさい、と告げようとした賈駆に霞は手を突き出して、その言葉を止めた。

 

「わかっとる。 これが戦っていうもんくらいわな」

 

賈駆にそれだけを告げると霞は、そのまま振り返って歩き出した。

その行動に賈駆は慌てて声をかけた。

 

「霞、何処に行くの?」

 

まさか、合従軍のところに行かないでしょうね?

その言葉を悟っていたのか、霞はこちらに振り返ることなく、右手を振った。

 

「もう寝るんや。 戦ってないとはいえ、流石に汜水関から走ってきたのは堪えたわ」

 

そのまま寝室に向かおうとする霞に、賈駆はほっとした様子でため息をつくと———次の瞬間、そのあまりの迫力に唾を呑み込んだ。

 

神速の用兵術を扱い、戦場を縦横に走り抜ける将。

それが董卓軍第二の将とされる張遼そのものであった。

言葉を失った賈駆を放って、霞は一人薄暗い廊下を歩く。

 

人が、友が死ぬのは悲しい。

そんな当たり前のことは、この手に刃を握ったその時から覚悟していたことである。

それが乱世、それが戦である。

だからこそ、

 

 

「そうや、戦で人が死ぬんは当たり前や。 だからお前らも————」

 

死んでも文句は言わんよな?

 

友の敵は自分が取る。

静かなる闘気と冷ややかな殺意を身に纏い、霞はその場を後にした。

 

 



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汜水関を落として、三日目。

遂に合従軍は第二の関門であり、洛陽の最重要拠点とされる虎牢関にたどり着いた。

 

「汜水関もデカいと思ったが、虎牢関はそれ以上だな」

 

汜水関は演義だけで、本当は虎牢関しかないと言われている。

昔、虎を飼っていたと言われる関所で、漢以前から拠点として重宝される地である。

関の周りには、巨大な天然の岩壁がそびえたち、侵入者の行く手を阻んでいた。

間者からの情報から、この地の守りは呂布と張遼。

董卓軍の第一と第二の猛将である。

現代においても、呂布は三国志最強の武将として、張遼は張来々と現地の者から言われて恐れられるほどの将である。

間違いなく華雄よりも危険値は上だろうと、私は全軍に停止を指示した。

南雲軍がぶつかるのは、先陣の曹操軍と公孫賛軍が崩れてからである。

相手の虚を突く瞬間を待っておくだけでいい。

 

「主、こちらを」

「うむ」

 

ベディアから手渡された書簡を手に取って広げてみる。

そこに書かれていたのは盾一の狙い通りのことが書かれていた。

 

「向こうも警戒しているだろうから、そう信じることもできないが、まあ悪くないな」

 

ようやく、我々は表舞台に上がることができたのだ、と実感する。

ゆえに、この地の戦いはさっさと終わらしたいところだが———

 

「ほう、籠城ではなく、そう来たか」

 

虎牢関の門がゆっくりと開かれる。

そこには、深紅の将軍旗に『呂』と『張』の文字が描かれていた。

その数は約四万、間違いなく総力戦になるだろう。

よほど汜水関の投石攻めが効いたのか、どちらにせよ戦の時間が早まることだけは確かである。

最も

 

「前線の将兵の血は大量に流れることになるだろうが、な」

 

願わくば共倒れを期待しよう。

盾一は、曹操軍に迫る呂布軍、張遼軍の姿を収めながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

目の前に迫る呂布、張遼の両軍の動きに、華琳は思わず広角を釣り上げた好戦的な笑みを浮かべる。

両名、特に呂布に至っては、その武勇の脅威を華琳はその頭に叩き込んでいた。

たった一人で万の軍勢を滅ぼす武勇、それは間違いなく華琳の覇道を阻む障害となろう力であった。

ゆえに、夏侯惇———春蘭に討ち取るように命じたが、明らかに力不足であった。

このままでは、逆に春蘭が討ち取られかねないと考えた華琳は、彼女の双子の妹である夏侯淵———秋蘭に援護を任せ、中軍の劉備軍に増援を依頼した。

その依頼に速やかに増援である関羽、張飛、趙雲の猛将達を送ってくれたおかげで、今は呂布を抑えることに成功した。

そう、呂布はだが———

 

「邪魔やっ!!」

 

手に握られた偃月刀を振るい、曹操兵を切り裂く張遼。

呂布を抑えてもまだ脅威は収まらない。

巧みな馬術に、判断の早い指揮、そして漲るほどの烈気。

間違いなく彼女は優秀であり、華琳好みの将であった。

 

「ここで討つのは勿体ないわね」

「しかし、華琳様———」

 

華琳の言葉に、隣に控えていた荀彧———桂花は声を上げようとするが、広げられた右手によってその言葉が遮られる。

勿論、桂花の言うことが華琳に理解できないわけではない。

このギリギリの現状で張遼を捉えることなど、自身自慢の兵達に死ねと言っているようなものである。

だが、それでも目の前の彼女の才能は惜しかった。

 

「わかっているわ、桂花。 だけどそれでも彼女の才は我が軍に必要よ」

 

犠牲を払っても、手に入れたいほどの才能。

それは華琳が張遼につけた評価であった。

華琳は今後、南雲軍と争った時に一人でも多くの猛将を連れておかなければならないのだ。

 

「桂花、貴方は右翼を指揮しなさい。 私がこの本陣と左翼を指揮して張遼を抑え込むわ。 その隙に」

「———かしこまりました。 華琳様のご希望に添えるように」

 

華琳の意図を理解し、速やかに行動する桂花の姿に、華琳は彼女も代え難き才を持つ大切な仲間の一人だと再確認した。

 

 

 

そんな華琳達のやり取りを知る由も無い張遼———霞は、曹操兵を切り倒しながら、ただ前へと走り続ける。

彼女の胸には無き戦友の想いと主である董卓への忠義、そして身を焦がすほどの強い怒りである。

 

「死にたくなかったら、退きやっ!!」

 

飛竜偃月刀を振るい、曹操軍の陣形を切り裂いていく張遼だったが、練度の高い曹操軍の動きに段々と動きが取れなくなってきた。

 

———あかん、曹操軍のことは噂では耳にしておったけど、ホンマに厄介や!

 

確かに呂布という戦力と強靭な騎兵を持つ董卓軍は、大陸の中でも精強だと言ってもよかった。

だが、目の前の曹操軍は間違いなく戦場を駆け抜け、厳しい訓練を耐え抜いた精鋭ぞろいであり、その兵を引きいる将達も並みではなかった。

普段なら強敵と戦えることに喜びを感じているが、今この状況下で曹操軍ほど厄介な相手はいない。

 

「どけや!! こっちはアンタらに構っている暇はないんや!!」

 

霞の狙いは、華雄の敵である南雲軍であった。

勿論、私怨がないとは言えないが、それでも南雲軍を崩すことは、董卓軍の勝利を掴むための絶対条件である。

合従軍の三分の二を占める南雲軍こそ、今回の合従軍の裏総大将と言っていい。

実際、南雲軍以外を倒したとしても、南雲軍が無傷で残っていれば、こちらの敗北は必至であろう。

だからこそ、早い段階でケリをつけておかなければならないのだが、その前を曹操軍が阻んでいた。

 

———どうする!? ここは一旦下がるか? けどここが下がれば、恋達が囲まれる。 恋の親衛隊達が戻ってくれば、そのまま引くこともできるけど、今は公孫賛を相手中や。 そう簡単に戻ってくることはできんやろ。

 

形勢は確実に董卓軍であり、犠牲を払っているのは曹操軍と公孫賛軍である。

だが、このままでは確実に積むことになってしまうだろう。

 

思考を巡らせる霞に対し、曹操軍はその隙も与えないと言わんばかりに、次々に兵を送り込んでくる。

それも確実に側面や背後を狙うように動いてくるのだから、厭らしい手を打ってくるものだ。

 

「———引くか、恋達に伝えや」

「あら? ここまできて下がるのかしら」

 

霞が下がろうと指示を出そうとしたその時、戦場に凛と響く声が聞こえた。

聞きなれない、そして何処か耳に残る声に、霞は声の方に視線を向ける。

そこには一人の少女が立っていた。

可憐な少女、だが同時に発する覇気は霞には感じたことも無い巨大さを秘めていた。

その姿に霞は、目の前の彼女こそ、あの曹操なのだと気づいたのだった。

 

こうして二人は戦場で出会った。

 

 

 



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初戦となった汜水関の戦いと違い、虎牢関の戦いは両軍、一進一退の攻防を繰り広げていた。

将である呂布がいないとはいえ、精鋭揃いの呂布の騎馬部隊に公孫賛軍は奮闘をしていた。

白馬将軍でその名を轟かせる公孫賛の旗下の兵達もまた北方の異民族達と渡り合えた猛者である。

だがそれでも呂布の騎馬隊は強かった。

それは精鋭というだけの力ではなく、後がないという気迫の元、数の勝る公孫賛軍を押していた。

その光景を見ていた盾一は、ランスロをこの場に呼んだ。

 

「ランスロ、公孫賛軍に噛みついている呂布軍の首を落としてこい」

「———よろしいのですか?」

 

出るつもりはない、と豪語していた盾一が、突然指示を変えたことにランスロは疑問に思ったのか、珍しく確認を取るように尋ねる。

その言葉に盾一は、少し驚いたように眉を上げる。

キャラクターとして作っているため、こちらの指示通りしか動かないと思っていたが、どうやら自我のようなものも存在するらしい。

ならば、対応力もあるな、と自身の戦力を再認識した。

だからこそ、ここは説明するべきだと考えた。

 

「攻め時だな、ここで呂布軍を突けば、間違いなく呂布が動く」

 

それに今の呂布軍は数を減らして消耗している。

公孫賛相手なら、他の事に眼を行くものはいないだろう、という考えと、一万程度とはいえ呂布軍の脅威さに確実にここで殺すべきだと考えたのだ。

そして、その軍勢を囮として。

 

「そこをトリスタ、お前が射殺せ」

 

トリスタの超精密射撃でその首を取る。

もし、一撃で討てなかったとしても、矢の射程距離内なら間違いなくこちらが一方的に攻撃できるだろう。

呂布を討てば、後は曹操軍と戦っている張遼を皆殺しにして、この戦は終わりである。

 

「かしこまりました」

 

盾一の言葉にトリスタ、ランスロの両名は、その指示を全うするためにその場を後にする。

その二人を見送った盾一は、再び指示を送る。

 

「パーシー、ケイは共に一万の軍勢を与えるから、背を向けた呂布軍の残党を確実に狩れ。 張遼軍は全軍のガウェンに任せる」

 

方針が決まり、速やかに行動を起こす配下達を見送ると、盾一は楽しそうの表情を浮かべて、一騎打ちを行う呂布達にの方に視線を向ける。

 

「さて、賽は投げてやったぞ、後はどうなるか楽しみだな」

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

その軍勢に一番に、気が付いたのは呂布軍と対峙する公孫賛軍だった。

 

「あれは?」

 

突如、呂布軍の攻勢が弱まり、同時に後方の呂布軍から悲鳴が上がったのである。

そこには凄まじいほどの剣捌きで、呂布兵達の戟を打ち払い、流れるような二撃で首を確実に刈り取る化身がそこに存在した。

公孫賛は自分自身に武の才がないことは理解していた。

ゆえに、客将として一時期身を寄せていた趙雲に期待した。

彼女の槍は、目にもとまらぬ刺突で賊兵達を討ち取り、公孫賛軍に貢献した。

だが、あれはなんだ?

確かに趙雲は凄かった、だが目の前の化身は同じようなことを天下最強の呂布軍に向かって行っていた。

ひとたび剣を振るえば、三つの首が飛び、一息で十の命が失われていく。

そんな死神の後には、亡者の如き兵達が呂布軍に襲い掛かった。

確かに練度は呂布軍の方が若干上であった。

一対一なら呂布軍に軍配が上がるだろう。

だが、その数は呂布軍の軽く五倍。

消耗しきっている呂布軍に対し、体力が全開に近い南雲軍には勝てるはずもなかった。

次々に呂布軍を殺していく南雲軍に、公孫賛は味方ながら、その背を恐怖で振るわせた。

 

 

そんな公孫賛の目の前で、ランスロは呂布軍の殲滅を開始する。

呂布が動いたことは、すでに確認している。

だが、それより先にランスロは、殲滅できる自信があった。

それは———

 

「ひ、退くのです!! 恋殿を呼んでしまったら、皆殺されています!!」

 

目の前には小柄な少女が、呂布軍に指示を出していた。

間違いなく、この少女が呂布軍の副官なのだろう。

ならば、やるべきことは一つである。

 

「その少女だけ生かして、後は全員殺せ。 この少女は呂布を動揺させる餌に使う」

 

ランスロは、背後の兵達に指示を飛ばすと、そのまま少女に向けて、馬を走らせる。

途中、呂布兵達の妨害もあったが、ランスロの持つアロンダイトの前では、豆腐のように柔らかい。

数十の呂布軍を切り殺した後、そのまま空いた左手で少女の首を掴み、絞めて意識を飛ばすと、護衛の呂布軍を一掃した。

残りは、パーシーとケイの軍が、隙を突くようにして、呂布軍を一匹残らず耐えられていく。

 

それを見て、ランスロはそのまま背後に振り返ると、そこには血まみれで無数の切り傷をつけた呂布がそこにいた。

二万の南雲軍を割ってきたらしい。

 

「なるほど、その力、主様が脅威を抱くわけだ」

「……はぁ……はぁ、ねねを、はなせ」

 

肩で息をしている呂布は、化け物じみた武勇を持っていたとしても、やはり人なのだろう。

もう限界に近かった。

そんな呂布相手に、ランスロはねね、と呼ばれた少女の首筋に剣を向ける。

 

「動けば、首を刎ねる」

 

ランスロがそう言って、呂布の体が一瞬硬直したその時、————その時が訪れた。

 

「さらばだ、鬼神呂布」

 

人垣を縫うような超精密の矢が呂布の背中に突き刺さった。

 

 

 

 

 



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完全に虚を突かれて放たれた矢は、呂布———恋の背を捉えた。

だが、その身は天下無双と謂われた者である。

矢が背に刺さった瞬間、体を微かにそらして、貫通を防いだ。

しかし、それでも背の肉を抉られ、痛みにより体を硬直させた恋に、鋭い銀色が迫る。

考えるのではなく、感じた。

反応ではなく、反射により、恋は方天画戟を巧みに操って銀色の刃の侵入を防ぐ。

しかし、相手の力が恋の力を超え、恋はそのまま易々と後方へと吹き飛ばされた。

受け身を取ることも許されず、地面に転がる恋に向けて、トリスタは弓を引く。

そして恋の動きが止まったその瞬間、その矢は放たれた。

 

「がっ!?」

 

されど、その矢は恋の前に立ち塞がった兵士達の手により阻まれた。

兵士達は全身血まみれで、足や手を失っている満身創痍の体で、主を守ろうとした。

 

「り、呂…将、軍」

 

お逃げください、そう口にしようとした男の首が宙に舞う。

何れ死に至る兵士達の命すら刈り取り、ランスロは刃を振るう。

その剣筋はまさに神速。

天下最強の将と呼ばれた恋ですら、視認できないその一撃を長年の戦闘感が助けた。

肩を切り裂かれ、方天画戟の刃をへし折り、恋の横腹はランスロの蹴りにより砕かれた。

生き残りの呂布軍の兵士達が、その蛮行を阻止しようと道を阻んでも、ランスロの前には無意味と化す。

その光景を見ていた公孫賛軍にはこう見えただろう。

まるでその姿は天下無双ではないか、と。

盾一の手により、生まれたカンストチートキャラであるランスロの力は、間違いなく呂布以上、少なくとも同格に近かった。

そして、それはランスロだけではない。

先ほどから、生き残りの呂布軍の兵士を肩端から射殺するトリスタも、まさに同等である。

その周りには、数万の精鋭達と、ランスロ達には劣るとはいえ、間違いなく猛将の一角であるケイとパーシー。

既に状況は詰んでいた。

恋が生き残る確率は万に一つもない。

だが、それでも恋は立ち上がった。

 

「ね、ねねを……放、せ」

 

立ち上がったのは、間違いなく恋の強靭な意志の力。

その光景に、盾一の人形として動いていたランスロの心を動かした。

 

「その意志、見事」

 

気絶した陳宮をその場に寝かすと、ランスロはアロンダイトを握りしめた。

初めて見せたランスロの意志の力、圧倒的な覇気により、後方の公孫賛軍から悲鳴が上がる。

それは相対した恋も、それを感じていた。

間違いなく、自分はここで死ぬだろう。

けれど、

 

「誇るといい。 アロンダイトと私の前に沈むことを」

 

構えを取るランスロに向けて、恋は最後の力を振り絞り、方天画戟を構える。

そして———

 

「ああああああああっ!!!!」

 

全身全霊を込めた。

空間すら切り裂き、残像すら写さぬまさに神速を超えた超速。

人の枠組みを越えた英雄の一撃は————

 

「終わりだ」

 

あっさりと化け物の前により、打ち砕かれた。

一の太刀で方天画戟を破壊し、二の太刀でその右手を切り落とした。

そして三の太刀は、恋の肩筋から斜めへと大きく切り裂かれた。

全身から噴き出す血を見ながら、恋は地面へと沈んでいく。

意志だけでは立ち上がることができない最後の時。

暗転する意識の中、最後に見たのは地面に倒れている陳宮———音々音の姿だった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「素晴らしい、の一言だったな」

 

呂布とランスロの最後の対峙を見ていた盾一は、敬を込めた拍手を送ると戦場を見渡す。

戦は既に終えていた。

呂布軍は殲滅、張遼軍は曹操軍と苛烈な一戦を交えた後、ほぼ半壊した軍を引いて、この戦域から離脱した。

追撃にガウェン軍を送ったが、呂布の武に気を取られてしまったために、送るタイミングを逃してしまった。

張遼の脅威を理解していたため、ここで確実に討っておきたかったが、呂布を討っただけでも良しとしよう。

それに張遼軍は予想以上に良い働きをしてくれた。

曹操軍筆頭の将である夏侯惇の眼を射抜いてくれたらしい。

死んでいないのは残念なことだが、眼を失ったことは間違いなく戦に影響するだろう。

それに曹操軍の精鋭達に被害を出してくれたのもなお良し。

理想で言えば、将の一人くらい討ってくれればよかったのだが、とりあえずは良しとしよう。

 

「さて、では袁紹殿に伝令を送ってくれ」

「……なんとお伝えすれば?」

 

ベディアの言葉に、盾一は頬を釣り上げたようにして笑う。

 

「決まっているだろう。 総大将殿には一番の栄誉を得てもらうためだ」

 

そして俺のために、踊っていただきたい。

盾一の眼は、董卓との戦いから既に次の戦場に視線を捉えていた。

 



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