Black Safety (芋砂)
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キャラクター紹介

はじめまして、芋砂という者です。
この作品が自分が書く最初の小説となります。
色々お見苦しい所もあると思いますが、どうかよろしくお願いいたします。

小説の更新頻度につきましては不定期となります。


ザコチュラ

 

ザコチュラという種族は画像(挿絵参照)のような

妖魔だ。 容姿は人間と大きく異なるものの、身体能力、知力は人間のそれと同じと言っても過言ではなく

ライフスタイルも朝昼晩と飯を食べて学問や仕事に励み夜はゆっくり休むという人間と全く同じである。 DNAがかなり単純らしく、様々なバリエーションが存在している。 彼らは恐竜を滅ぼしたといわれる隕石と共に地球にやってきて、それ以来人間と生活を共にしてきたと言われている。

なお、とある技術を利用する事により人間と同じ容姿になることが可能。

性別は雄しか存在しない。

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

第2偵察班

 

主人公達が所属する

民間保健企業Black Safetyの中の一部隊。

偵察班とあるが社内でも低成績の者が配属される

いわゆる捨て駒部隊。

そのせいか旧式の装備しか回ってこない。

 

 

 

 

 

 

イチゴウ 種族:ザコチュラ

 

性別:男

年齢:20

身長:172cm

 

本作の主人公。

種族はザコチュラだが人間の姿をして暮らしている。

外見はおとなしそうな少年でありアホ毛が特徴で

どこか可愛らしさが漂っている。

第2偵察班の班長を勤めており

使用武器はマークスマンライフルである"SVD"。

 

 

 

 

 

 

バンダナ 種族:ザコチュラ

 

年齢:20

性別:男

身長:45cm

 

第2偵察班に所属する対戦車兵のザコチュラ。

社内で唯一のバンダナ着用者なので

このコードネームがついた。

 

愛用武器は対戦車ロケットランチャー"RPG-7"。

 

アサルトライフルやハンドガン等の扱いは

下手を極めているがロケットランチャーだけは

飛行中のヘリに必中させる程の腕前を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

その他のキャラクター

 

 

 

 

シャーリー 種族:人間?

 

性別:女

年齢:20

身長:170cm

 

自作の衝撃波マシンガンを愛用武器としているバウンティハンターで金髪のセミロングヘアーと青い瞳が特徴の女の子。

 

性格は陽気で明るく社交的。

 

 

 

 

 

 

アニア・キスバード 種族:人間

 

性別:女

年齢:28

身長:175cm

 

世界にその名を轟かすキスバードコンツェルンの

令嬢。

 

綺麗なピンク色のロングヘアーとピンク色の透き通るような瞳が特徴の容姿端麗で美しい淑女。

 

冷静に物事を考えるが高飛車な一面もある。

 

 

 

 

 

 

ブラック・バード 種族:ザコチュラ

 

性別:男

年齢:30

身長:45cm

 

 

民間保健企業Black Safetyの幹部。

 

外見は黒いザコチュラで冷静沈着な性格。

異常なほど妖魔に対して殲滅欲を持っている。

 

このブラック・バードという名前は

本名ではなくコードネームである。

 

 

 

 

 

敵キャラクター

 

 

 

 

妖魔

 

金星上に存在する魔の存在。

ハーピーやラミア、マーメイドなど

言い出せばきりがないほどの種類が存在する。

 

基本的にどれも可愛らしい少女の姿をしているが

Black Safetyによれば

これは人類によって駆除されずに

円滑に世界征服を進めるためだという。

 

 

 

 

 

魔王

 

全ての妖魔を統括しているとされる存在。

凄まじい魔力を持っているとされているが

エネルギー観測でしか確認されておらず

魔王という存在を疑問視する意見もある。

 

 

 

 



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第1話 遭遇

辺りの平原は真っ白に染まるほど猛吹雪に包まれていた。ヒュウオオという風切り音が生物の体に強く突き刺さる。

その風の音しか聞こえないこの平原でサクッサクッという共に4人のザコチュラと1人の人間の影が近づいてくる。

 

「イチゴウー本当にこんな所に妖魔が住んでんのか?」

その中のバンダナを巻いたザコチュラがダルそうに呟く。よほど寒いのかそのザコチュラが呼吸するたびに

白い息が出ている。

「あいつらは体だけは無駄に頑丈だからね。こんな所の方がザコチュラや人間に見つからないし好都合なんじゃない?」

その問いにイチゴウと呼ばれる少年がそう答える。

その少年はおとなしそうでどこか可愛らしさが漂っている。

「全く…いくらなんでも寒すぎでしょ。本社もビークルのひとつも用意してくれないんだからね。」

イチゴウがそう呟きながら歩き進める。

「仕方ないと思いますよ。どうせ我々は捨て駒なんですから。」

隊員のザコチュラが淡々と答える。

 

一行が猛吹雪の中を進んでいると

うっすらと建物の影がちらついた。

 

「集落確認。全員伏せて。」

 

班長であるイチゴウがそう言うと

他の4人のザコチュラがザッと伏せる。

 

「隊員は予定通り隠れながら集落に近づいて。

集落へはここから約200m。

この猛吹雪のおかげで幾分か楽な筈だよ。」

「了解。」

隊員はAK-47アサルトライフルを構えゆっくりと集落へと近づいていく。

「さてと。」

イチゴウは背中に背負っていたマークスマンライフル

であるSVDを手に取った。

イチゴウはSVDの二脚を路面に固定し

SVDに取り付けられているPSOスコープを覗く。

ロシア式の特徴的なレティクルと共に集落がイチゴウの視界に広がる。

「全隊員へ。作戦準備完了、しばらく待て。」

イチゴウが無線機にそう呟いた。

 

少し離れたその集落には竜人達が住んでいた。

やはり妖魔の特徴なのかここに住んでいる竜人は

可愛らしい少女や美しい女性だ。

 

「お姉ちゃん…この吹雪だと作物が心配だね…」

ある家の中で少女の竜人が心配そうに呟く。

「大丈夫よ。作物はきちんと守ってあるわ。」

姉と思われる美しい竜人が答える。

しかし窓の外ではいっそう吹雪が強くなっていた。

「今からお姉ちゃんは畑の確認をしてくるわ。いい子にしてて待っててね。」

「うん!!」

そう言うと姉は家の外に出て畑へと向かう。

「ふぅ……寒い……早く家に戻らないと」

姉は畑につくと畑のカバーの調整を素早く終わらせる。

姉がふと前方を見たとき

「何かしら?あのちらつく光?」

姉がそう呟いた瞬間!

 

パンッッという乾いた音が辺り一面に響いた。

 

それからコンマ数秒遅れてグシャっという音と共に

竜人の姉の胴体から血が飛び出す!

 

「あっ……あぁっ………」

竜人の姉の声は段々生気を失い、最終的に姉は地面へと倒れる。

 

「お姉ちゃああん!!」

竜人の妹が窓から姉を確認したのか

外の寒さをもろともせず家から飛び出してきた!

 

 

「いやー我ながら綺麗に決まったね。」

イチゴウがPSOスコープを覗きながら

クスクスと笑っていた。

「ん?」

畑では倒れた姉に泣きながら妹が寄り添っていた。

「妖魔の子供か。ま、殺しとくか。」

そう言うとイチゴウはレティクルを

竜人の少女に合わせてトリガーを引く。

パァンという大きな乾いた音と共に

強い反動がイチゴウに伝わる。

そしてスコープの中で竜人の少女が倒れる。

 

 

「痛いよぉ……お姉ちゃあん…助けてえ……」

SVDの7.62mm弾は竜人の少女の足にヒットしたのだった。

「いやぁあ……!いやぁ……!」

竜人の少女は腕を使い必死に逃げようとする。

 

 

「ちっ。外しちゃってたか。」

イチゴウが舌打ちをして悔しそうに呟いた。

「ま、いっか。」

イチゴウは倒れて逃げようとしている竜人の少女に

再び照準をつけてトリガーを引いた。

乾いた音と反動がイチゴウに伝わる。

 

「おっ。ヘッドショット。」

SVDから放たれた7.62mm弾は

竜人の少女の頭部を粉砕した。

 

 

「何!?」

二体の竜人の死亡を皮切りに集落全体が騒ぎだす。

あちこちの家から竜人達が飛び出してきて

中には槍や剣、弓といった武器を

所持している者もいる。

「可愛そうに…あの姉妹……」

ある竜人がそう呟く。

「殺した奴を絶対許さない!!引っ捕らえて皆の前で八つ裂きにしてやる!!」

隣の竜人は剣を構え怒りをあらわにしていた。

 

 

「全隊員へ。作戦開始。」

イチゴウがそう無線機に呟いた。

すると集落のすぐ近くへと迫っていた4人のザコチュラはAK-47アサルトライフルの安全装置を解除し、いつでも発砲できる体勢に入った。

 

平原の猛吹雪はこれから起こる事を暗示するかのようによりいっそう強くなっていった…

 

 

 

              To be continue…

 

 



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第2話 戦闘

     ーイチゴウからの命令5分前ー

 

猛吹雪の中、4人のザコチュラは

集落の外回りの家の影に隠れていた。

 

「ざわつき始めたな。」

バンダナが家の影から顔を出し確認する。

集落では激しい足音と共に多数の竜人達が走り回っていた。

 

「よし、予定はわかってるな?

ここからはAチームとBチームに別れて

Bチームは集落を回り込んで

挟撃する体勢を立てろ。」

 

「「了解。」」

 

バンダナがそう言うと

Bチームである二人のザコチュラが

ゆっくりと家の影を経由しつつ集落を回り込む。

 

「あまり足音をたてるなよ?奴らピリピリしてるからな。」

バンダナがBチームに無線機で静かに伝える。

集落はより一層ざわつきが増していた。

 

「よし、俺らも位置につくぞ。」

 

バンダナは近くに横になっていた木の梯子を担ぎ

隠れている家の壁に近づき、静かに立て掛ける。

 

「よし、登れ。」

バンダナとザコチュラはギシギシという

木独特の音と共に立て掛けた梯子を登って

屋根に登り煙突の影に隠れた。

するとバンダナは無線機を手に取り

 

「こちらAチーム、位置についた。」

 

「こちらBチーム、同じく位置についた。」

 

集落を回り込んだBチームから

応答が帰ってきた事を確認すると

バンダナはAK-47アサルトライフルに入っている

マガジンが正常かを確認した。

隣のザコチュラもポーチを開けて

リロード用のマガジンの数を確認していた。

すると

 

 

「全隊員へ。作戦開始。」

 

 

確かにイチゴウの声が無線機から聞こえてくる。

その言葉と同時に4人のザコチュラはAK-47アサルトライフルの安全装置を解除した。

 

そしてまず動き始めたのはBチーム。

サクッサクッという雪を踏む音と共に

建物の影を素早く移動し、竜人達に近づいていく。

 

「有効射程に入った、これより攻撃を開始する。」

一人のザコチュラが無線機でAチームに伝えた。

 

「了解、援護する。」

バンダナが無線機でそう答える。

 

「いくぞ。」

バンダナが隣のザコチュラにそう呟いた。

そして二人はAK-47アサルトライフルを構え

Bチーム援護の体勢を整える。

 

そして

 

「オープンファイア!!」

 

Bチームのザコチュラが竜人達へ向け

AK-47を発砲した!

何人かの竜人が胴体を撃ち抜かれ地面に倒れる。

 

「あいつらか!!」

「許さない!殺してやる!」

 

竜人たちが剣を構え殺意を露にして突っ込んできた!

 

「撃て!撃て!」

ザコチュラはお構い無しにAK-47を発砲する。

そして突っ込んできた竜人達は着実に撃ち抜かれ

倒れていく!

 

「リロード!」

焦ってフルオートで撃ってしまっていたからか

すぐにAK-47の弾倉の弾が切れ

二人のザコチュラはAK-47に入っているマガジンを

予備マガジンで弾き飛ばした。

すると!

 

「死ねぇ!!」

一人の竜人がリロード中の二人のザコチュラに向けて斧を降り下ろした!

 

「うわぁ!!!」

 

二人のザコチュラはなんとか回避したものの、

 

「あぁ!ポーチが!」

 

回避の際に二人は替えのマガジンが入ったポーチを落としてしまい、対抗手段が無くなったザコチュラはとにかく逃げるために走り出した!

 

「聞こえるか!?こちらBチーム!!問題が発生した!援護を頼む!!」

一人のザコチュラが走りながらAチームに無線機で

伝える。

 

「了解、援護射撃を行う!」

バンダナは照準をつけトリガーに指をかける!

 

「バンダナ!どっちの方向だ!?」

 

「10時の方向だ!走ってるザコチュラが見えるだろ!」

 

二人はAK-47をフルオートで発砲しBチームを追撃している多数の竜人に弾幕を浴びせる。

 

「クッソー、俺じゃ本当に弾幕を浴びせてるだけだな。ちっとも当たりゃしねぇ。」

 

バンダナが嘆いているが隣のザコチュラのおかげで

着実にBチームを追撃している竜人の数が減っていき

それに加え一定の間隔で凄まじい着弾が起こる。

 

「イチゴウの狙撃だな、良い威圧になるぞ。」

弾幕を張りつつバンダナが呟いた。

 

 

大方、追っ手が片付くとイチゴウが集落のBチームとAチームに合流し

この集落の中心とも言える場所へ向かった。

そこには集落の長と思われる美しい竜人がいた。

 

「あー、ボク達はBlack Safetyって言う者だけど、

君も含めて全員駆除させてもらうよ。悪いね。」

イチゴウが長にそう言い放った。

すると

 

「クックック……

どうやら自分達が勝った気でいるらしいな。

同胞を虐殺した罪、ただでは許さんぞ!」

その冷静な瞳の奥には確固たる憎悪が燃え上がっていた。

 

「はぁ。どこに強気になれる要素があんのさ?君もう詰んでるよね?」

イチゴウが半ば呆れてそう答える。

 

「それはどうかな?」

 

長がそう言った瞬間!

周りの地面からイチゴウ達を取り囲むように

竜人達が飛び出した!

 

「こいつらは戦闘センスの優れたものを集めたこの集落のいわば防衛だ。さぁどうする?」

長が少し微笑みつつイチゴウ達に問いかける。

 

「班長!やばいですよ!もうこちらには弾薬がほとんどありません!相手をするのは無理です!」

ザコチュラが慌ただしく叫ぶ!

 

「クソ!ダメだ!俺のAKにも1発すら残っちゃいねぇ!!」

バンダナも焦りながらそう言った。

 

 

「まぁまぁ、落ち着きたまえよ。」

イチゴウはいたって冷静にそう答える。

 

「何でそんな余裕なんですか!?」

一人のザコチュラが絶望的なつっこみを入れる。

すると

何やら遠くから回転音のようなものが近づいてくる。

そしてその音はだんだん大きくなり竜人達もざわつきだす。

 

「何だ?この音は?」

竜人の長も辺りを見渡し警戒する。

 

「あれは!吹雪でよく見えねぇが本社の攻撃ヘリじゃねぇか!?」

バンダナが遠くを指差しそう叫ぶ。

確かに2機のAH-6が集落に向かって近づいてきた。

 

「こいつらの仲間か!」

竜人達は近づいてくるヘリに対し手持ちの槍やら弓やらを構え戦闘体勢に入る。

 

「機銃掃射が来るぞー!全隊員伏せろー!」

イチゴウがそう叫ぶとイチゴウ含め4人のザコチュラが地面に伏せる。

 

「前方に味方と妖魔を確認。

これよりミニガンによる機銃掃射を開始する。」

パイロットからの無線が入ると同時に

機関銃とは思えない程の凄まじい音が辺り一面に響き渡る!

そして2機のAH-6の前方にいた竜人達はどんどん引き裂かれていく。

 

「ヒュー!一回のストレイフランでこいつらを壊滅させるとは流石AH-6だね!」

イチゴウは立ち上がって

ご機嫌でヘリに向かって手を振る。

 

「これより残党の妖魔を掃討しつつそちらの回収に向かう。」

パイロットからの無線が入る。

 

「ふー。合流する前にヘリ要請しておいて良かったよ。」

イチゴウがそう呟いた。

 

「ったく、勝手にヘリ要請なんかしやがってよぉ。また本社から文句言われたらどうすんだよ。」

バンダナが呆れたように言い放つ。

「まあ、しかしM134ミニガンの威力は

やっぱすげぇな。」

バンダナは眼下に広がる竜人達の肉片を見ながら

そう呟く。

 

そのころAH-6はすでに

集落に隠れていた竜人を始末し終えていた。

「こちらパイロット、残党の掃討完了。

これより回収に向かう。」

パイロットが再び無線を入れる

パイロットが横を見たとき集落から逃げ出す

一人の竜人とその子供たちを確認した

 

「妖魔とその子供を確認。」

パイロットがそう無線を入れる。

 

「あぁ。成長したらめんどいからぶっ殺しといて。」

イチゴウがパイロットからの無線に対しそう答えた。

 

「了解。」

パイロットは操縦レバーを傾けその竜人達に

近づいていく。

「あれは!」

竜人がヘリの接近に気付き

「みんな!走って!」

その竜人は子供たちにそう叫び全員で走り出す!

しかし所詮は足による走り。

ヘリに追い付かれるのは目に見えていた。

 

AH-6のパイロットは武装をロケットポッドに切り替え照準をつけトリガーを押す。

すると小気味良い音と共に

テンポ良くハイドラロケットが発射される。

 

発射されたハイドラロケットは連続で着弾し

竜人とその子供たちは

容赦なく木っ端微塵にされていく。

 

「目標の排除を確認。これより回収に向かう。」

パイロットがイチゴウ達にそう伝えた。

 

「ようし、迎えが来るよ。みんな準備して。」

イチゴウがそう言うと4人のザコチュラは

銃を背負い直してヘリに乗る準備をする。

 

そして第二偵察班の前に2機のAH-6が着陸した。

 

パイロットは全員ヘリに乗ったことを確認すると

ヘリを離陸させ、2機のAH-6は

真っ白い吹雪の中を泳ぐように飛び去っていった。

 

 

              To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 出会い

眩しい日が照っている元で第二偵察班は本社の敷地で

ランニングを行っていた。

 

「イチゴウ!ちんたら走ってんじゃねぇ!」

「もう無理…デスダ教官…」

 

デスダと呼ばれるいかにもゴツく

まさに教官といった風情の男が

スタミナ切れでヘトヘトになっているイチゴウに

怒号を浴びせる。

 

「よし!10分間休憩!」

デスダのその言葉で隊員達が一斉に

休憩し出す。

隊員達は水分を片手に談笑を始める。

 

「あぁ、地獄の30分往復ランニングが始まるよぉ…」

イチゴウが文字通り泣きそうに

なりながら呟いていた。

 

「お前はSVD担いでるだけだからいいが、俺なんかATロケット担ぎながらでの往復ランニングだぜ?」

バンダナがヘトってるイチゴウに呆れながら呟く。

 

 

「さて、次は往復ランニングか。」

デスダはファイルを持ち休憩している隊員達に

近づいていく。

すると

 

「デスダ教官ですか?幹部がお呼びであります!」

背後から一人のザコチュラが話しかける。

 

「この何の取り柄もねぇ偵察班に幹部さんが何の用だ?」

デスダが腕をくみながらダルそうに答える。

 

「ちっ。おい!イチゴウ!幹部が呼んでるぞ!行ってこい!」

 

「えぇ!?ボク何かやらかした?」

 

「知らん!とにかく行ってこい!」

 

「はーい…」

イチゴウはデスダに言われ重そうに身体を起こし

立ち上がってデスダに話しかけたザコチュラに

ついていき本社のビルへ入っていく。

 

 

「イチゴウでーす、入りまーす。」

イチゴウがそう言い

いかにも高級そうな扉を開け中に入る

 

「君が第二偵察班の班長だな?」

そうイチゴウに口を開いたのは

目の前の高級ソファーに座っている

ブラック・バードと呼ばれるこの会社の幹部で

平たく言えば全身が黒いザコチュラだが

何か言葉には言い表せない気迫と威厳を放っている。

 

「そーだけど何か用ですか?」

イチゴウが表には出してないがだるそうに答える。

 

「君を呼んだのは他でもない、偵察任務を頼みたくてな。」

 

「偵察任務?」

イチゴウがあっけにとられたように答える。

 

「まぁ、偵察任務といっても大した事は無いんだがな。隣の町の酒場を知っているか?」

 

「えぇ、まあ一応。」

 

「あそこはいわゆる賞金が掛かっている強力な妖魔の退治をハンター等に依頼しているギルド的な側面もある。

そこでだ、君達には賞金が掛かっている妖魔がどんな物なのかを聞き込み調査してほしい。」

 

「はぁ、わかりました。」

イチゴウはそう答え幹部の部屋を後にする。

 

 

 

 

それから第二偵察班は軽装甲機動車に乗り

山道を突っ走っていた。

 

「隣町の酒場で聞き込み調査だっけか?」

バンダナが座席にもたれながら呟く。

 

「ビールも楽しみですね。」

後部座席のザコチュラ達の

テンションが上がっていた。

 

「ちょっと。飲みに行くんじゃないんだから

そこはわきまえてよ?」

イチゴウが呆れながら運転していた。

 

軽装甲機動車は隣町の門を高速でくぐった。

その隣町はレンガ造りの建物が多く

それこそファンタジー物に出てきそうな町だった。

そして軽装甲機動車は酒場の前に勢い良く停車する。

 

「ついたよ。」

 

イチゴウがそう言うと隊員達は車のドアを開け

一斉に降車し酒場へと入る。

 

酒場はとても騒がしく賑わっていた。

妖魔の依頼を受け付けているからか

大きな剣を背負った男や

巨大なランスを背負っている者といった

いかにもハンターといった人物が多数いた。

 

「ここが酒場か。」

バンダナがそう呟く。

酒場は凄まじい英気に包まれ本当に賑わっていた。

 

「プフフ、笑っちゃうよね。」

イチゴウがクスクス笑いながら呟いた。

その笑いは何かを馬鹿にしているようにも取れる。

 

「どうした?イチゴウ。」

バンダナが尋ねると

 

「いやー、皆あんな大きな剣とか槍とか持っちゃってさー。攻撃効率も悪いし戦法も限られるし非常に戦略的じゃないなーって思って。」

イチゴウが尚も馬鹿にしたように笑いながら喋る。

 

「そういう事はあんまこういう場所で言うなよ?」

バンダナがイチゴウにそう注意する。

 

そして第二偵察班はテーブルについて

それぞれ思い思いの飲み物を飲みながら

話し合いを始める。

 

「皆、いい?

妖魔ってのは強力な奴が上になって成り立っている。

つまり、効率良く駆除を進めるためにはそれらの強力な奴らを倒すのが手っ取り早い。

まず、これからあそこの掲示板に貼ってある

強力な妖魔の詳細な情報をこの酒場中の人間から

集めるんだ。」

イチゴウが珍しくリーダーらしく隊員達に命令する。

 

「「了解」」

第二偵察班のメンバーは

飲み物を飲み干すと同時に席を立ち行動を始める。

 

「さて、まず情報を集めるにはカウンターに行くのが一番だね。討伐依頼も受け付けているし。」

イチゴウは酒場のカウンターに向け足を運ぶ。

しかし

カウンターには先客がいた。

 

イチゴウと同じ年齢くらいだろうか

黄金のように綺麗な金髪のセミロングと

サファイアのように青く透き通る瞳の持ち主で

なにより表情の豊かさが

彼女の明るい性格を物語っている。

その女の子は受付と喋っていた。

 

「ん?妖魔の討伐依頼を受けているのか?少し盗み聞きしてみっか。」

イチゴウが近くの柱に隠れ二人の会話に耳を傾ける。

 

「この討伐依頼を受けさせてくれない?」

女の子が受付にそう言う。

 

「この妖魔ですね?賞金は10万Gとなります。」

 

「おっ。いいね、

じゃあそれを受けさせてもらうわ。」

 

女の子は笑顔で受付に答えると

依頼書を受け取り出口へと歩く。

すると

 

「やあやあ、君がその妖魔をぶっ殺すの?」

柱の影からイチゴウが現れその女の子に喋りかける。

 

「そうよ。」

女の子は突然現れた少年にそう答える。

 

「依頼書にはどう見てもゴツい妖魔の写真が添付されてるけど、君が持ってるそんなチープなサブマシンガンで相手出来るのかな?それに君の体格もゴツい訳じゃないし。」

イチゴウが馬鹿にしてる口調でそう喋る。

 

「へぇー、私を馬鹿にしてるんだ。

じゃあ、いいわ。

先にあんたに私の実力を見せてあげよっか?」

女の子はイチゴウの煽りとは裏腹に

自信満々に答える。

 

「やれるもんならやってみたいけど

残念ながらボクは

そろそろ本社に戻らないといけないから。

また会ったら叩き潰してあげるよ。」

イチゴウも負けじと答える。

 

「そう、残念。」

女の子は残念そうに答える

 

「まぁ、そういう所だから君もその不可能な依頼を頑張りたまえよ。じゃ。」

 

「あんたもいい気になりすぎて

妖魔に食べられないようにね。」

 

二人は別れの挨拶を告げるとそれぞれの行動をとる。

 

イチゴウは第二偵察班のテーブルに戻ると

隊員達がすでに集まっていた。

 

「班長!それなりにいい情報が集まりました。」

ザコチュラがドヤ顔でそう言うと

懐から5冊のメモ帳を取り出す。

 

「えっ、それ全部に妖魔の情報書いてんの?」

イチゴウがそう答えると

 

「はい、1ページの隙間もなく。」

ザコチュラが自信たっぷりにそう答える。

 

「良くやるなぁ。」

イチゴウは感心して呟いた。

 

「よし、そろそろ本社に戻るよ。単純に疲れた。」

イチゴウがそう言うと隊員達は酒場を出て

軽装甲機動車へと乗り込む。

 

「はぁ、またボクが運転かぁ…

正直なとこ寝たいんだけどな。」

イチゴウが愚痴を吐きつつ

車のエンジンを始動させ発車させる。

イチゴウは町の門を出ると

近道の為にちょっとした砂漠地帯を

走り抜けていた。

 

「やっぱ4WDはいいねー。

砂地でもスピードが出せるから。」

イチゴウはそう呟くと

アクセルを踏み込みスピードを上げて

本社へと向かう。

 

 

そして近くの少し高い崖の上に1つの人影…

「あれが、私を馬鹿にしたアホ毛さんが

乗ってる車ね。」

女の子は崖の上から

砂漠を疾走する軽装甲機動車を見下ろしていた。

 

 

             To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話 シャーリー

第二偵察班は軽装甲機動車に乗り

本社に帰るため砂漠を疾走していた。

 

「あとどれくらいかね?」

イチゴウが助手席のザコチュラに尋ねる。

 

「あと30km程かと。」

その問いにザコチュラがそう答える。

 

「一番近いルートを通っても30kmか……

遠いなぁ。」

イチゴウが運転しつつ嘆いていた。

すると

 

「あれなんだろ?」

後部座席に座っていたザコチュラがそう呟く。

 

「どうしたのさ?」

イチゴウが尋ねると

 

「!?金髪の女が高速で飛んできます!」

 

「おいおい…何ふざけ…」

その時!

 

「うお!?」

タイヤ周りで炸裂音がしたかと思うと

車のバランスが大きく乱れる!!

 

「後ろの金髪が何か撃ってきてます!!」

後部座席のザコチュラがそう叫ぶ!

 

車の周りでは衝撃波のような物が炸裂しており

車のバランスを取るだけでも必死だ。

 

「えぇい!50口径を使えぃ!後ろの奴を追い払え!」

イチゴウが半ば叫びながら

後部座席のザコチュラに命令する。

 

軽装甲機動車に取り付けられたブローニングM2が

起動し車両後部を飛行している金髪の女に向けて

射撃が開始される。

しかし

 

「え…?」

射手のザコチュラが絶望的な声をあげる。

 

「どう…!した…!のさ!?」

イチゴウが車のバランスを取るのに

必死になりながらも射手に尋ねる。

この状況でもバンダナと

もう一人のザコチュラは車内後部で寝ている。

 

「いえ…撃った弾が金髪の女の直前で止まって浮遊しています…」

 

「何アホな事言って…ってうわぁ!?」

イチゴウが反論しようとした時に

ついに車のバランスが崩れ車が横転する!!

横転した車は何回転も地面を転がっていく。

 

 

車の横転が一段落したと同時にイチゴウが

車から這い出てくる。

 

「いてて…」

イチゴウが車から這い出て立ち上がると

 

「こんにちは。私を馬鹿にしたアホ毛さん♪」

 

イチゴウが声のした方向へ顔を向けると

空中で浮遊しているさっきの女の子がいた。

 

「まさか君…能力者だったのか…!」

イチゴウが緊張したような面持ちで呟く。

 

「そんなに緊張しなくていいよ?

殺すつもりは元々無いから。」

女の子は柔らかさを混ぜた口調でイチゴウに言う。

 

「ちぃ!」

イチゴウは緊張していたからか

背中に背負っていたドラグノフ狙撃銃を

手に取り構える。

それと同時に

車からどんどん隊員達が這い出てきて

AK-47を構える。

 

「はぁ。」

女の子はため息をついた。

 

「オープンファイア!」

一人のザコチュラがそう叫ぶと

第二偵察班はその女の子に向かって

一斉に射撃を開始する。

 

するとすぐに女の子は浮遊したまま

高速でスライド移動し弾丸を避けていく。

そしてある程度距離を取ると

赤く塗装された衝撃波マシンガンを手に取る。

 

「あれが軽装甲機動車をぶっ飛ばしたやつか!

皆、避けろ!」

イチゴウが他の隊員達に命令すると

すると隊員達はバラバラに散開し走り回る。

 

「今かな。」

女の子がそう呟くと

逃げ回っている隊員達が

位置的に重なったタイミングで

衝撃波マシンガンを放つ!

 

3人程の隊員が地面に発生した衝撃と共に

吹っ飛ばされる。

残ったのはバンダナとイチゴウだ。

すると突然

 

「RPG!!」

バンダナがその女の子のド真ん前でRPG-7を構え

発射体勢に入る。

しかし

バンダナがRPGの引き金を引こうとした時に

あっさりと衝撃波マシンガンで吹き飛ばされる。

 

「正面からロケット砲は流石に無謀じゃない?」

女の子は呆れたように呟く。

 

「後は私を馬鹿にしたアホ毛さんだけみたいね。」

女の子は岩の影からドラグノフを構えている

イチゴウに視線を向けると

即座に衝撃波マシンガンを放つ。

 

「うわぁ!?」

イチゴウは衝撃波で吹っ飛ばされると同時に

地面へと叩きつけられる。

すると倒れているイチゴウに女の子が近づく

 

「わかった?私の実力。」

女の子は自信に満ち溢れた笑顔で言った。

 

そして少し間をあけて

「私の名前はシャーリー。あんたは?」

女の子は自己紹介を始める。

 

「……ボクの名前はイチゴウ。第二偵察班の班長をやってるよ。」

 

「イチゴウ…ね。また会ったらよろしくね♪」

そう言うとシャーリーは浮遊し

高速で飛び去っていく。

 

イチゴウは横転した軽装甲機動車と

吹っ飛ばされ気絶している隊員達を見ながら

大きな溜め息をついた。

 

 

             To be continue…

 



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第5話 予兆

シャーリーとの戦闘の後の夜、本社の駐車場には

ボコボコになった軽装甲機動車が止められており

社内では第二偵察班が

ミーティングを行っていた。

 

 

「えー、それでは解析班から

今回の能力者のPSI解析結果を報告します。」

 

一人のザコチュラが第二偵察班の前でそう告げる。

というのも班長であるイチゴウがシャーリーとの

戦闘で得たシャーリーの情報を解析班に渡し

解析を要請したのだ。

 

「まず始めに、

彼女の能力は[PK(サイコキネシス)]である事が

判明しました。彼女が飛行していたのはPKで

身体の周りの空間を曲げてその空間の弾性で

飛んでいたと推測されます。」

 

「弾性?ゴムが引っ張られてパチンってなる奴?」

イチゴウが不思議そうに尋ねる。

 

「はい。それに空間による弾性で飛行するとなると

能力においてかなり高いスキルが要求されますし

空間の弾性で飛ぶというアイデアにも

能力の応用力が高い事を感じます。

もし、彼女相手に新鋭兵器が揃っている本社の本隊で挑んだとしても必勝できるという確証はありません。」

前のザコチュラがそう説明する。

 

「はあ、今度会ったらリベンジしようと

思ってたんだけどなぁ……」

 

「どっちにせよ今のお前らじゃ

どうあがいても勝てねぇよ。」

横から教官のデスダが第二偵察班にそう言った。

 

「それと、続きですが」

解析班のザコチュラが話を進める。

 

「空間の弾性で飛べるという事は

相当高いPKエネルギーを操れるという所に

繋がります。」

 

「それがどうしたのさ?」

イチゴウが解析班のザコチュラに問う。

 

「つまり、PKを使用した

強力な攻撃も出来るという事です。」

解析班のザコチュラがそう言うと

 

「ちょっと待ってよ、ボク達との戦闘では

そんなの使ってこなかったよ?

手持ちのマシンガンオンリーだったし。」

イチゴウが不思議そうに答える。

しかし

その問いにはデスダが答えた

 

「簡単な話だ。

お前らが弱すぎるから舐められただけだ。」

デスダがそう言い捨てると

 

「それは……」

イチゴウの脳裏にはシャーリーの

あの明るい笑顔が思い浮かぶ。

「………完全に舐められてたなぁ…」

イチゴウが失望したように呟く。

 

「あっ、それと」

解析班のザコチュラが思い出したように話を始める。

 

「彼女の手持ちの衝撃波マシンガンについてですが

かの有名なH&K社のMP5という武器を

改造して作られたものと推測されます。

この武器は特殊な気体を高速射出しその際に発生する

衝撃波で目標を破壊するというものかと。」

 

「にしてもあの衝撃波凄かったよ?

軽装甲機動車がひっくり返るし。」

イチゴウがそう言うと

 

「ええ、こちらで計算してみた所

大気圏再突入時の人工衛星による衝撃波をも凌駕するエネルギーを持っている事がわかりました。

第3世代の主力戦車にすら

ダメージを与える事が出来ます。」

 

「威力ヤバイな。」

イチゴウはあり得ないような物を

見ているような感じで呟く。

 

「因みにブラックバード幹部によりますと

この武器は

Shock-Wave-Machine-Gun、

[SWMG]と呼称するそうです。」

 

「ブラックバード幹部好きだもんなー、

そういうの。」

イチゴウが呆れたように答える。

 

「それと」

イチゴウが不意に尋ねる

 

「このSWMGだっけ?

そういえば赤く塗装されてたけど何で?」

 

「知らなかったんですか?

国際法で弾丸以外を射出する特殊な銃器は

赤く塗装する事が義務付けられているんですよ。」

 

「はあ。」

イチゴウは納得したように頷く。

すると

 

「お前ら!さっさと訓練を開始するぞ!」

デスダが第二偵察班の隊員達に怒鳴ると

しぶしぶ第二偵察班は移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー金星 アテナ海域洋上

 

 

アテナという海域に

一隻の大型貨物船が航行していた。

甲板上には大量のコンテナが積み重ねられており

一目でコンテナ船というのがわかる。

それに加えBlack Safetyのロゴが書かれているため

Black Safety所属というのも見て取れる。

 

そしてそのコンテナ船の甲板上では

CTAR-21カービンを装備した

ザコチュラや人間男性の隊員達が

警備に当たっている。

 

「暇だなー。」

甲板上で男性隊員が横のザコチュラに呟く。

 

「まあ、俺達にはコーヒー飲むこと

くらいしかねえからな。」

ザコチュラも愚痴りだす。

 

「でも銃持って甲板をウロウロしてるだけで

金貰えるんだから得っちゃ得なんだがな。」

そのザコチュラは頭上を通り過ぎるカモメの群れを

眺めながら呟く。

 

「だけどよー、せっかく銃を持ってるんだぜ?

早く妖魔相手にぶっ放してみてえよ。」

男性隊員が物足りなさそうに言うと

 

「さては、お前新入りだな?

そういう子供みたいな考えは持つな。

いざ戦いになったらお前みたいなのが

真っ先に死ぬんだ。」

ザコチュラが男性隊員に教えるように警告する。

 

「わ、わかったよ…

だけどあんたも言った通り

俺は入社して1年にも満たねえんだ

少しくらい夢は持っていいだろ。」

男性隊員はなけなしの反論を行う

 

「まあ、好きにしろ。」

ザコチュラの隊員は

その反論をあっさりとスルーした。

 

すると

 

 

 

 

「全隊員へ、警戒体勢を取れ。繰り返す、

全隊員へ、警戒体勢を取れ。」

 

 

 

 

サイレンと共に

甲板上のスピーカーから警告の音声が流れてくる。

そして甲板上の隊員達が

一斉に銃を構え警戒体勢を取る。

 

「一体何だ?」

一人のザコチュラの隊員が辺りを見渡す。

 

「おい!!あれを見ろ!」

一人の男が東の空を指差す。

すると甲板にいたほとんどの隊員が

東の空を見る。

 

「嘘だろ…」

 

東の空からは真っ黒に見えるほどの大規模な

ハーピーの群れが接近していた。

 

「おい!こっちに向かってくるぞ!!」

ザコチュラの隊員がそう叫んだ。

 

「オープンファイア!撃て!」

甲板上の隊員達は一斉に射撃を開始する。

乾いた発砲音と薬莢が鉄の地面に落ちる音が

あちこちから聞こえてくる。

すると

 

「つーかまえた♪」

可愛いらしい声が聞こえてくる。

「助けてくれ!!」

そこにはハーピーに捕まっている男性隊員がいた!

 

「そいつを離せ!クソ鳥が!!」

ザコチュラの隊員が男性隊員を捕まえている

ハーピーに向けて発砲する。

しかし

 

「危ない♪危ない♪」

そのハーピーは男性隊員を捕まえたまま

空へと飛び上がりそのまま巣に向けて飛び去っていく

 

「カムバーーック!!」

拉致された男性隊員を見ながら

ザコチュラの隊員が叫ぶ。

 

似たような形で甲板上の男性隊員が

次々とハーピーによってさらわれていく。

 

「畜生!誰か対空ミサイル持ってないか!?」

一人のザコチュラがそう叫ぶも

 

「無理だ!こんな数、対空砲でもないと

相手できねえよ!!」

コンテナの影に隠れて

リロードをしているザコチュラが叫ぶように答える。

 

 

そのころ操艦室では

 

「本社へは連絡したか!?」

艦長が慌ただしく尋ねる

 

「いえ!無線の不調でまだです!」

副官のザコチュラも慌ただしく答える。

操艦室のガラスからはハーピーと戦闘中の

ザコチュラ達が一望出来る。

 

「早く無線を直してくれ!!」

艦長が副官に叫ぶようにそう言った瞬間

突然船体が大きく揺れる!

 

丁度その時、艦内電話がかかってくる。

「こちら艦長!どうした!?」

艦長は大急ぎで電話に出た。

 

「こちらバラストタンク!!

不具合で開いた入水口から多数のマーメイドが

浸入してきてます!!

「絞め殺してあげる♪」

うわあぁ!!助けて!助けてぇぇ!!」

マーメイドと思われる可愛い声と

ザコチュラの悲鳴が聞こえた瞬間に電話が切れる。

 

「クソ……どうすりゃいいんだ…?」

艦長は絶望したかのように立ちすくむ。

 

 

甲板では

 

「クソ!いくら撃っても数が減らねぇ!

こっちのマガジンが尽きるだけだ!」

 

リロードしながらザコチュラの隊員が呟く。

 

隊員達の射撃によって何十体もハーピーを

撃ち落としてはいるが数が圧倒的に多く

減っているようには感じない。

そして最悪な事に

 

「左舷からマーメイドが登ってきたぞ!」

隊員であるザコチュラの一人が叫ぶ。

 

「あぁ、クソ!」

甲板のサイドか多数のマーメイドが登ってくる。

空にはハーピー、海からはマーメイド

正に地獄絵図だ。

そのとき

 

 

「あなた達は罪人です、

ここで罪を償ってください。」

 

 

透き通るような美しい声が

甲板上のザコチュラの隊員達にそう告げる。

 

隊員達が一斉に声のした方向を向くと

そこにはほかのマーメイドより一回り大きい

とても美しく神秘的な雰囲気を纏ったマーメイドが

ハープを手に持って佇んでいた。

 

「ふざけやがって!!」

3人のザコチュラが銃を構え発砲しようとする!

 

「なんと愚かな……」

そのマーメイドは正に愚か者を見つめるような目で

3人のザコチュラにそう言うと

手持ちのハープで美しい旋律を奏でる。

 

すると

発砲しようとした3人のザコチュラが

シャボン玉のようなものに包まれ宙に浮いていく

 

「なっ、何だこれは!?」

そのシャボン玉は

大海原の真上まで来ると

 

パチン。

 

「うわああああ!!」

3人のザコチュラを包んでいたシャボン玉が割れ

3人は海へと落下していく。

 

そして着水して間もなく

 

「うわぁぁぁぁ!助け…」

海へ落下した3人のザコチュラの真下に

数多くの巨大な魚影が現れたと思うと

そのザコチュラ達は海へ引きずり込まれ

周りの海が真っ赤に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーBlack Safety本社

 

 

「幹部!失礼します!」

 

一人のザコチュラが慌ただしく幹部室へ入る。

 

「どうした?」

 

「プルトニウム239を運搬する我が社の貨物船が

ハーピーとマーメイドの大規模な群れに襲われ、

甲板上では極めて強力な個体も

確認されているとの事です。」

 

「仕方がない、本隊を向かわせるか…」

ブラックバードがそう言うと

 

「本気ですか!?幹部!

あの船はプルトニウムを運搬しており

放射線による危険が伴います。

そのような場所に我が社の主力を回すのは

リスクが大きすぎるのでは!?」

 

「ふむ…なら良い案がある。」

ブラックバードが鋭い眼差しでそう答える。

 

「そ…その案とは?」

ザコチュラが恐る恐る尋ねると

 

 

     「第二偵察班に向かわせる。」

 

 

 

              To be continue…

 

 



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第6話 強襲

アテナ海域上空で荒れている潮風の中、

第二偵察班を乗せた一機のV-22"オスプレイ"が

海上で孤立している貨物船へ向けて

飛行していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第二偵察班の装備

 

☆イチゴウ

SVD狙撃銃

トカレフTT-13拳銃

 

○バンダナ

PM-63 RAK短機関銃

RPG-7対戦車ロケットランチャー

 

○隊員C

AK-47突撃銃

トカレフTT-13拳銃

 

○隊員D

AK-47突撃銃

トカレフTT-13拳銃

 

○隊員E

AK-47突撃銃

トカレフTT-13拳銃

 

 

第二偵察班のビークル

 

V-22オスプレイ

 

装備

M134ミニガン(ターレット)

M240機関銃(後部ランプ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「んで、情報は?」

イチゴウが隊員にそう言う。

 

「はい、今回の貨物船襲撃の件ですが

妖魔の構成はハーピーとマーメイドの初級妖魔、

それに加え上級妖魔クラスのマーメイドも

確認されているという事です。」

 

「上級妖魔!?

そんなのウチじゃなくて本隊出さないと

ダメな奴じゃん。」

 

「それに厄介なのはそれだけではありません。

今回の貨物船は兵器用プルトニウムが

積まれているようです。」

 

「つまり、戦い方を間違えれば

高濃度の放射線で死ぬって訳だね。」

イチゴウは顎に手を当て

何かを考えているように呟いた。

 

「偵察班!貨物船が見えてきたぞ!」

オスプレイのパイロットが

第二偵察班に向けて叫ぶと

イチゴウはコックピットに近づき貨物船を見る。

 

「甲板上に妖魔が腐るほどいるね…

パイロットさん、

これじゃ甲板に降りるのは自殺行為だから

ターレットで掃射してくれる?」

 

「ったく仕方がねえな。」

パイロットがイチゴウの要望を聞くと

貨物船の甲板にオスプレイの機首を向ける。

 

 

 

「何あれ?」

甲板上のハーピーの一体がそう呟くと

すぐに

 

「あいつらの仲間だわ!!」

すぐ横のマーメイドが叫ぶ。

そのマーメイドの言葉と同時に

甲板上の全妖魔が戦闘体勢に入る。

 

 

 

そしてオスプレイが甲板上空まで来ると

オスプレイはミニガンターレットをスピンアップさせ

機銃掃射を開始する。

 

まるで布を裂くような爆音が鳴り響き

甲板が大量の妖魔の返り血を浴びていく。

 

「流石ミニガンだね。

妖魔を文字通り引き裂いていくなー。」

イチゴウが感心したように呟く。

 

すると

突如炸裂音と共にオスプレイが激しく揺れる!

 

「うお!!何だ!!」

バンダナが驚き、声をあげる!

 

「どうなってるのさ!?」

イチゴウが激しい音と振動の中

パイロットに尋ねると

 

「ハーピーだ!

奴ら飛んできてオスプレイにアタックしてやがる!」

パイロットが操縦レバーを必死で握り叫ぶ。

 

オスプレイの周りには

甲板から飛び立った多数のハーピーが舞っており

オスプレイに向けて激しいアタックを繰り返す!

対してオスプレイは着陸のために

ローターを上に向けているので

スピードが出ずこの状況から脱する事が出来ない!

 

「後部ハッチを開けて!」

イチゴウがパイロットにそう叫ぶ。

 

「あ?何する気だ!?」

 

「後部ランプに付いてるM240機関銃で

ハーピー共を撃ち落とす!」

 

「よし、わかった!」

パイロットがスイッチを弾くと

オスプレイの後部ハッチが機械音と共に開き

激しい風が機内を貫通する!

 

「バンダナ!M240を頼んだ!!」

イチゴウが後部ランプに一番近い

バンダナに向けて叫ぶ!

 

「オーケー!!任せとけ!」

バンダナが機内に入ってくる風を前右足で防ぎつつ

後部ランプの機関銃座につくと

ハッチから飛んでいるハーピーに向け掃射を開始する

 

そして機関銃独特の重い射撃音と共に

ハーピーを撃ち落としていく!

 

「よし!この調子だ!」

イチゴウがそう言うと

再び機体が激しく揺れ

今度はコックピットに警報が鳴り響く!

 

「あぁ!クソ!バードストライクだ!

ハーピーが左エンジンに突っ込みやがった!!」

パイロットがそう叫ぶと

間もなくオスプレイはバランスを崩し

回転しながら貨物船の甲板に向けて落下していく!

 

「みんな!!飛びおりろぉ!!」

イチゴウが叫ぶと第二偵察班は

落下中のオスプレイの後部ハッチから

貨物船の甲板に向け一斉に飛び降りる!

 

第二偵察班が甲板に降りたと同時に

オスプレイが第二偵察班の横を掠め

コンテナに直撃し機体が弾け飛び炎上する。

 

「オープンファイア!」

イチゴウがそう叫ぶと第二偵察班の隊員達は

AK-47突撃銃を構え迫り来る妖魔に発砲する!

甲板上に乾いた発砲音が鳴り響き

近づいてくるハーピーとマーメイドを

どんどん撃ち抜いていく。

 

「あぁ!畜生!きりがねえ!!」

バンダナがそう叫ぶのも無理はない、

先程のオスプレイのミニガンによる

機銃掃射があったとはいえ

甲板上には妖魔が多数おり

5人だけの突撃銃による射撃では

数が減っているようには見られない上

数が少ない第二偵察班は広い甲板上で孤立し

妖魔達に囲まれる危険性もあった。

 

するとここでイチゴウが動く。

イチゴウはドラグノフ狙撃銃を構えて

PSO-1スコープを覗く。

狙いは墜落炎上しているオスプレイだ。

 

「どこに狙いを付けてる!?イチゴウ!?」

バンダナが半ば叫びながらイチゴウに尋ねると

 

「オスプレイを見て、燃料が漏れているよね。

オスプレイの燃料タンクを撃ち抜いて爆発させる。

それで目の前の燃料の川に引火させて

妖魔の時間かせぎをするのさ!」

そう言うとイチゴウは露出している

オスプレイの燃料タンクに向けて

3発ほどテンポよく銃弾を放つ。

 

着弾と同時に燃料タンクは爆発し

それによってオスプレイから漏れていた燃料が

勢いよく燃え上がり

甲板はその炎によって2分割される

 

「ああ!炎のせいで近寄れないわ!!」

炎の向こうのハーピーがそう叫ぶと

 

「大丈夫よ!船内にはマーメイド達がいるわ!

奴らの運命は決まっているも同然よ!」

隣のハーピーは炎が近づいているにも関わらず

勝ちを確信したように声をあげる

 

 

「今のうちだ!船内に入るよ!」

イチゴウがそう言うとバンダナが

 

「船内に入るって

甲板上のあいつらはほっとくのかよ!?」

 

「大丈夫さ。さっきの炎で数は減るだろうし

いざとなれば本社の攻撃ヘリを呼べば良いしね。

どうにもならないのは船内だよ。

こればっかりは歩兵であるボク達が何とかしないと」

イチゴウが喋り終えると同時に第二偵察班は

甲板上の階段から船内へと入っていく。

 

 

船内は膝元まで浸水しており

ザコチュラにいたっては

体の半分が水に入ってしまう。

そして何よりも

あちこちにザコチュラの死体が

浮いており

不気味としか言い様のない静寂が

船内を支配していた。

 

そんな中、第二偵察班はパシャパシャと水を進み

船内を歩いている。

 

「何だよ…ここは…?」

バンダナがそう呟く。

バンダナのその声は静寂に吸われていくように

船内に響く。

 

「油断しない方がいいよ。

水があるのと無いのとでは

マーメイドの機動力は段違いさ。

浸水しているこの環境は

まさにマーメイドの庭だよ。」

イチゴウが銃を構えつつそう呟いた

そのとき!

 

 

バシャン!

 

 

すぐ近くで水の跳ねる音がしたのだ。

 

「!?」

第二偵察班はすぐに辺りを見回す。

すると一人の隊員が異変に気づいた。

 

「班長。前から何かが向かってきます。」

前は薄暗くて良くわからないが

確かに何かが水の中を突き進み

第二偵察班に向かってきていた。

 

「撃て!」

イチゴウが指示すると

水の中を進んできている何かに向け

一斉に射撃を開始する。

 

すると水中からマーメイドが

勢いよく飛び出してきた!

 

「やはりか!」

イチゴウがそう呟く。

 

そのマーメイドは水中を突き進んでいる段階で

何発か被弾しており船内の水が少し赤みを帯びる。

そして飛び上がった所を第二偵察班は見逃さず

一斉に銃弾を叩き込む!

 

マーメイドは無惨なまでに撃ち抜かれ

水の中へと沈んでいく。

 

「危なかった。

あともうちょい反応が遅れてたら

誰かが殺されてたな…」

バンダナが恐ろしげに呟く。

 

 

そして第二偵察班は

マーメイドに警戒しつつ通路を進んでいき

プルトニウムの保管庫が目の前に迫る

がしかし

 

「ちぃ!」

イチゴウが舌打ちをする。

 

前方から4体のマーメイドが近づいてきていた。

このまま保管庫に近づくと間違いなく鉢合わせする。

 

「仕方がない。一旦引くかぁ」

イチゴウはそう呟き戻ろうとすると

 

「無理だな。」

今度はバンダナが舌打ちをする。

第二偵察班の前方に加え後方からも

マーメイドが接近していた。

それにここは一本道、

ほぼ積んだといってもおかしくはない。

 

 

「みんな。水に潜って。」

イチゴウがそう命令すると

 

「正気か?マーメイド相手に水中に潜んのかよ!?」

 

「水は濁ってるしザコチュラの死体が浮いてる。

死体を盾にすればやり過ごせると思うよ。」

イチゴウがバンダナの反論に対しそう答える。

 

「のんきに喋ってる時間もねえか、

やるしかねえ!」

 

第二偵察班は一斉に水に潜り

ザコチュラの死体の影に隠れる。

そしてその隠れているすぐ横を

マーメイドが通る。

 

「(早く行ってくれ……!)」

すると

 

「ん?」

一体のマーメイドが立ち止まり

辺りを見渡す。

 

 

「……何もないわね。」

そう呟くとマーメイド達は通りすぎていく。

 

 

「何とかやり過ごせたね。」

イチゴウがそう呟くと第二偵察班は

保管庫の鉄のドアを5人掛かりで開け

内部へと入っていく。

 

内部は縦横25mくらいの広い部屋で

中心には箱が置かれており

それ以外に何も置かれていなかった。

 

「外傷も無いし幸い放射線は出てないみたいだね。」

イチゴウが箱に近づき呟くと

 

「よし、じゃあ早く本社に連絡しようぜ。」

 

「わかったよ。」

バンダナの言葉でイチゴウが無線機を手に取り

本社へ連絡を取ろうとする。

すると

 

 

「あなた方も愚か者の仲間なのですか?」

 

 

透き通るような美しい声が

第二偵察班に向けられる。

 

その言葉に第二偵察班が一斉に振り向くと

そこにはハープを持っている

美しいマーメイドが佇んでいた。

 

「報告にあった上級妖魔か…!」

イチゴウが冷や汗をかきつつそう呟く

 

「班長、どうします?

こちらは残弾が残り少しです。」

隊員はイチゴウに小声でそう話す

すると

 

「君、少し聞いていいかな?」

イチゴウがそのマーメイドに

質問をぶつけた。

 

「いいでしょう、答えてあげますよ。」

 

「君の目的は何?」

イチゴウがそういう風に質問すると

マーメイドは少し間を空けて

 

「……同胞達と共にこの船を沈めに来ました。

同胞達を悪魔の手から守るために…!」

そのマーメイドは静かな怒りを込めながら

冷静に言葉を放つ。

 

「じゃあ、沈めれば?」

マーメイドのその言葉に

イチゴウがいたって普通に返答する

 

「おい!何言ってんだイチゴウ!?」

バンダナが驚き言葉を発するが

イチゴウは構わず話を続ける。

 

「沈めるのは君の勝手だけど

この船には兵器用プルトニウムが積まれている。

そんなもん海に沈めたら海中は

あっという間に核汚染。

そうなれば君の同胞、マーメイドは全滅さ。

君は同胞を守ると言いつつ殺すんだね?」

 

「…っ!」

マーメイドはイチゴウのその言葉に動揺する。

 

「一つ提案があるんだけどさ。」

イチゴウが更に切り出す

 

「ここは一旦引いてくれないかな?

こっちはこれ以上君達の同胞を殺すための弾も無いし

君にとっても種の絶滅がかかっている。

お互い、デメリットしかないよね。

争うならほかの場所でも出来る、

ここは一つお互い引こうじゃないか。」

 

「……わかりました。私達マーメイドは

この船から引き揚げましょう。

しかしこれだけは覚えておいて下さい。

私達は断じてあなた方を許した訳ではありません

いつか必ずあなた方を滅ぼす…と。」

そのマーメイドはその言葉を発し終えると

シャボン玉に包まれ弾けると同時に

この場から消え去る。

 

 

「いやー。危なかったよ、

今のボク達じゃ絶対に勝てなかったからね。」

イチゴウが安心したように呟く。

 

「ホント危ない事するよな。

もう少しでこの船が沈むとこだったんだぜ?」

バンダナもホッとした様子でイチゴウ喋りかける。

 

「まー本当の所を言うと

このプルトニウムは完全に包装されてるから

海中に投げ込んでも核汚染はされないと思うよ。」

イチゴウがそう言うとバンダナが

 

「じゃあ、さっきのマーメイドとのやり取りは」

 

「こっちが助かるために嘘をついただけだよ。

あのマーメイドの言っていた言葉から察するに

彼女は同胞達を命よりも大事に思ってる。

だから"種の絶滅"というナイフを

同胞達の喉元に突きつけてやりゃ

退散していくだろうと思ってね。」

イチゴウは腕を組みながらそう言う。

 

「ですが班長。マーメイドは引きましたが

ハーピーはまだ甲板上にいます。」

隊員がそう言うと

 

「それはさっきも言ったじゃん。

甲板は船内と違って上からも攻撃出来るんだから

これから攻撃ヘリを呼ぶよ。」

イチゴウがそう言うと第二偵察班は

甲板に上がるために階段を目指す。

 

 

「よし、この辺で呼ぶか。」

第二偵察班が階段の足元まで来たときに

イチゴウがそう呟く。

 

「ふぅー。やっと終わりましたねー」

一人の隊員が銃を下ろしリラックスする。

 

「うぃー。疲れたー」

ほかの隊員達もどんどんリラックスを始める。

 

そうこうしていると遠くから

ヘリのローター音が聞こえてくる。

 

「?」

隊員達がはしゃいでいる中

バンダナは何か異変に気づいたようだった。

 

「おい、イチゴウ。ヘリ呼んだか?」

バンダナがイチゴウに問いかけると

 

「いや、それがさ…本社に繋がんないんだよね。

ノイズが走っちゃってさ。

さっきまで繋がってたのに。」

イチゴウが無線機を叩きつつそう答える。

 

「え?じゃこのローター音は…?」

はしゃいでいた隊員の一人がイチゴウに尋ねると

 

「少なくともウチ所属じゃないと思うよ。

おそらくこの無線機もジャミングの影響を受けてるし

最悪の場合も覚悟してくれないと。」

 

「そんなぁ……」

隊員達はヘナヘナと倒れる。

 

「…それにローター音が重低音すぎる。

既存のヘリじゃあんな音は出ないぜ」

バンダナはそう呟く。

 

「どういうこと?」

イチゴウが問いかけると

 

「あんな音を出そうと思えば

化け物並みに巨大なローターを

使わないとダメだろう。

おそらくヘリじゃねえ、

もっと巨大な"何か"が来るぞ。」

バンダナが緊張を走らせる。

 

そしてそのローター音が船の上辺りに来たとき

あまりの重低音に船が細かく振動し出す。

それから数秒後

船の上で連続して爆発が起こり

それによって船が激しく揺さぶられる!

 

「何が起こった!?」

バンダナが叫ぶように言い放つ

 

「とりあえず、甲板上に上がるよ!

全員!武器を持って!」

イチゴウがそう言うと第二偵察班は

階段を勢いよく駆け上がる!

 

 

甲板上では炎があちこちであがっており

焦げ臭い匂いが充満している上

内臓に響き渡るようなローター音が鳴り響き

自然の物とは思えない激しい風が

甲板上に吹き荒れる!

 

そして第二偵察班が甲板上に出たとき

彼らは "ありえないもの" を見た。

 

「何だ…?あれは…?」

イチゴウが聞こえるか聞こえないかの声で呟く

 

甲板上空には巡洋艦規模の船体が

4つの巨大なローターによって浮遊していた。

その船には異質な特長として

甲板から多数の鉄の筒が生えている事が挙げられる。

 

「艦橋の両サイドに超巨大なやつが2つ…

艦首と艦尾に巨大なやつが2つずつ…

左舷と右舷に中程度のやつがたくさんあるね…

あの筒は一体何だ…?」

イチゴウがそう呟く。

 

第二偵察班はローターによって吹き荒れる風と

焦げ臭い匂いの中

巨大な浮遊船を前に立ち竦んでいた。

 

 

            To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話 浮遊船

内臓に響き渡るような重低音と

吹き荒れる暴風が甲板上の第二偵察班に貫く。

そして第二偵察班の上空には

巡洋艦規模の空中戦闘艦がホバリングしていた。

 

「どうすんだよ…」

バンダナが空中戦闘艦を前に非力な声でそう呟く

依然としてその空中戦闘艦は

凄まじい爆音と共に空中に滞空していた。

すると

 

 

「うわっはっはっは!!

お前らがブラックセーフティーの

お使い分隊かぁ?」

 

 

突如滞空している空中戦闘艦から声が聞こえる。

第二偵察班は一斉に上を向き

空中戦闘艦を凝視すると

そこから第二偵察班を見下ろす

青いキャップを被ったザコチュラがいた。

 

「わざわざこんなコンテナ船に遠征とは

ご苦労なこったよなぁ?」

青キャップのザコチュラが嫌味を込めて

そう言い放つと

 

「とりあえず、君は誰なのさ?」

班長のイチゴウが青キャップのザコチュラに

そう問いかける。

それと同時に第二偵察班が一斉に

手持ちの武器を空中戦闘艦に向ける。

 

「はっ!

そんな事はお前らに必要ないし

お前らに構っている義理もない。

だがー

こっちも作戦に移るのに時間がいる、

それまで暇潰しにお前らと遊んでやらなくもないぜ!

行くぞ!!空中戦闘艦"メタルクラウド"!!」

 

 

 

ーーーvs.巨大空中戦闘艦「メタルクラウド」

 

 

 

「皆!!走れ!!!!」

イチゴウがそう言うと第二偵察班は一斉に

コンテナの影に向かって走り出す。

 

「うわっはっはっは!!まるでゴキブリだな!!」

空中戦闘艦から青キャップのザコチュラが

高笑いしつつ逃げ惑う第二偵察班を見下ろす。

 

「はっはっは!燃え尽きろぉ!!

81mm迫撃砲、全門発射!!」

青キャップのザコチュラがそう言うと

空中戦闘艦の右舷と左舷にびっしりの

中程度の鉄の筒が駆動し始める。

そしてその鉄の筒が角度調整を終えると

ポンという小気味良い音と共に

81mm迫撃砲弾がどんどん撃ち上げられる!

 

「まずいな…!かるく50は撃ち上げられてる!」

イチゴウが走りながら

撃ち上げられる砲弾を見つつそう呟く。

 

すると走っている第二偵察班の後ろに

次々と撃ち上げられた砲弾が着弾し凄まじい爆発が

走っている第二偵察班を追うように襲いかかる!!

 

「走れ!!!」

イチゴウがそう叫ぶ。

第二偵察班は後ろから爆発が迫るなか

死に物狂いで走り続ける!

  

そして爆発が第二偵察班に追いつこうとしたとき

第二偵察班の隊員は

一斉に横のコンテナの影に飛び込み

その瞬間に後ろから迫っていた爆発が

第二偵察班の横を掠める。

 

 

「ちっ…コンテナに隠れやがったか!」

青キャップのザコチュラが空中戦闘艦の

甲板上から舌打ちしつつ呟く。

 

 

「皆大丈夫?」

第二偵察班は甲板上のコンテナの中に隠れ

一時的に空中戦闘艦から身を隠していた。

 

「おい、イチゴウ!

あんなもんにどう対処するんだよ!

こっちには満足な火器もねえってのに!」

バンダナがもう無理だと言わんばかりの表情で

そう訴える。

 

「確かに…小銃くらいしか…」

イチゴウの方も

流石に困り果てているようだったが

 

「ん…?待てよ…?」

早速イチゴウが何か閃いたようだった。

 

「あの船ってヘリみたいに

ローターで飛んでたよね?

じゃあ、あのローターをぶっ壊せば

ワンチャンスあるんじゃないかな?」

イチゴウがそう提案すると

 

「班長、それは確かにそうだと思いますが

第一、我々には飛行中の船のローターを壊せるような

対空兵器がありません。」

隊員のザコチュラの一人がそう反論するが

すぐにイチゴウが切り返す。

 

「RPG-7があるじゃないか。」

 

「無理ですよ!対戦車用のRPGを

飛行中の船のローターに当てるなんて!」

隊員がすぐさまに反論するが

イチゴウにも考えがあった

 

「普通の隊員じゃ無理だろうね。"普通"だったらね。」

イチゴウはバンダナに視線を送る。

 

「俺に当てろってか!?」

バンダナが驚いたように反応する。

 

「今でも語り継がれてるよ?

何でも昔RPG-7で

敵性教団のMi-17を"飛行中"に

全機叩き落としたらしいじゃないか。」

イチゴウがそう言うと隊員達が

 

「マジっすか!」

 

「すごいぜバンダナ!」

一斉にバンダナを称賛し出す。

 

「待て待て、わかった。

それは昔の話だが

やってみるだけはやろう。」

バンダナがそう答える。

 

 

 

 

 

「クソ!どこいった!?」

そのころ青キャップのザコチュラが

空中戦闘艦の甲板上で

血眼になって第二偵察班を探していた。

すると

 

「オープンファイア!!撃て!!」

コンテナの影から飛び出してきた3人のザコチュラがAK-47突撃銃を空中戦闘艦に向け発砲する。

 

「見ぃぃつけたぞぉぉぉ!!」

青キャップのザコチュラがそう叫ぶと

空中戦闘艦の鉄の筒がまたしても駆動し

3人のザコチュラに向け迫撃砲弾を放つ!

 

「うわぁぁぁぁーーー!!」

3人のザコチュラは降り注ぐ迫撃砲弾の中を

必死に走り回っていた。

 

 

「クソ!!コンテナの列を走り回りやがって!

迫撃砲が当たらねーだろうが!!」

青キャップのザコチュラが

逃げ回る第二偵察班の隊員に対して

甲板上で地団駄を踏みながら叫ぶ。

その時!

 

「うお!!」

青キャップのザコチュラの周りで3発程の銃弾が

勢いよく着弾する!

 

 

「あ、やべ。外した。」

隅っこのコンテナの上で

ドラグノフ狙撃銃を構えていたイチゴウがそう呟く。

ドラグノフの銃口からは

火薬の煙が立ち上がっていた。

 

「こざかしいマネしやがって!!

こうなったら

てめえらもろとも吹き飛ばしてくれる!!

砲撃準備!!!」

青キャップのザコチュラがカンカンになって

そう叫ぶと鉄の筒が駆動し角度の調整を始める。

 

 

「今だ、バンダナ。」

イチゴウが無線機でそう伝える

 

「サンキュー、お前らのおかげで気付かれずに

ローターの真下に来れたぜ。」

バンダナがそう答えると

RPG-7を構えて専用スコープを覗き

空中戦闘艦のローターに照準を合わせる。

 

「これで終わりだ!」

凄まじい爆音と爆煙と共にRPG-7が発射される。

発射された弾頭はローターに向かって飛んでいき

ローター直前で炸裂し爆発を起こす!

 

「よし!!」

イチゴウが声をあげる。

しかし

 

着弾時の爆煙がだんだん晴れていくと

なに食わぬ顔で回転しているローターがあった。

 

「そんな!!」

隊員達が思わずそう言い放つ。

 

 

「何かしたかぁ?」

空中戦闘艦の甲板上にいる

青キャップのザコチュラが半ば笑いながら

第二偵察班にそう呟きかける。

 

すると青キャップのザコチュラの元に

一人のザコチュラが近寄ってきて

 

「キート艦長。

ドリルミサイルの装填が完了しました。」

そのザコチュラがそう告げる

 

「よし、わかった。」

青キャップのザコチュラが返事をすると

空中戦闘艦から貨物船を見下ろして

 

「おい!!お使い分隊!!

悪いが遊ぶのはここまでだ!

こっちにも仕事があるんでな!」

青キャップのザコチュラがそう叫んだと同時に

空中戦闘艦のVLSから2発のミサイルが

凄まじい音と共に発射される。

 

そして垂直発射されたミサイルは空中で姿勢を変え

貨物船の甲板に向かって飛んできて

甲板に突き刺さり

その2発のミサイルは突き刺さったと同時に

貨物船の甲板を削り出す。

 

第二偵察班はその様子を黙って見るしかなかった。

 

2発のミサイルによって削られた甲板は脱落し

空中戦闘艦下部から数本のアンカーが下ろされた。

甲板が脱落した穴のなかにアンカーが入り

何かに引っ掻けている。

 

その数十秒後にアンカーが重々しく

空中戦闘艦に引き上げられる。

ある物体と共に。

 

「おい!嘘だろ!!」

バンダナがそう叫ぶと

 

「そんな!!」

イチゴウもその引き上げられた物体を見て

声をあげる。

 

その引き上げられた物体は

兵器用プルトニウムであるプルトニウム239が入った

コンテナだったのだ。

 

 

「おい!なにするつもりだ!?」

バンダナが上を向いて青キャップのザコチュラに

荒々しくそう問いかけると

 

「アレを完成させるために必要らしいからな。

ま、お前らには関係のない話よ。」

青キャップのザコチュラがバンダナの問いに

そう答える。

すると空中戦闘艦は高度を上げ

プルトニウムのコンテナを

アンカーで吊り下げたまま貨物船から離れていく。

舌打ちしているバンダナの横で

イチゴウにはあるものが見えていた

それはその空中戦闘艦に書かれているロゴだ。

 

今までは角度の関係上見えなかったが

空中戦闘艦が離脱態勢を取り角度を変えたことで

見えるようになったのだ

そのロゴはBlack Safetyの物と似ているようで

Black Safetyの物とは反するデザインだった。

 

そのロゴには"Black justice"という名前が

表されていた。

 

 

 

 

 

 

空中戦闘艦が飛び去った甲板上は

海上の静けさを取り戻し

海鳥の鳴き声と船にぶつかる波の音だけが聞こえる。

その中で第二偵察班はただただ座りつくしていた。

 

「ブラック……ジャスティス…………?」

 

イチゴウだけは空中戦闘艦のロゴに

書いてあった組織名を

そっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーBlack Safety本社

 

 

一応任務を終えた第二偵察班は

本社に戻り結果報告をおこなっていた。

 

「なにィ?

核物質を奪われただぁ!?

てめえら一体何をしてるんだ!!」

デスダが第二偵察班に怒鳴り付ける

 

「落ち着け、デスダ。」

横からブラックバード幹部が

デスダ教官にそう声をかける。

 

「しかしー幹部。奪われたのは核物質だぞ?」

デスダがそう言うと

 

「安心しろ。

今回運搬していたプルトニウムの量では

それほど威力のある核弾頭は作れない。」

ブラックバードがそう言い返す。

 

しかしイチゴウはその二人のやり取りを聞いて

別の考えを持っていた。

 

    本当に核弾頭用途なのか?

    空中戦闘艦を建造出来る技術があるのに

    そんなつまらない事に使うのだろうか?

 

イチゴウがそんな事を考えているうちに

ブラックバードが話を進める。

 

「実のところ、

兵器用プルトニウムを奪われて都合がよかった。」

ブラックバードがそう言うと

 

「どういうことですか?」

勿論イチゴウがそう問いかける。

 

「ああ。あの貨物船の進路上で

今日連合軍が海上封鎖を行っているみたいでな。」

 

「連合軍?」

ブラックバードの話の途中で

イチゴウがそう呟く。

 

「そこからだったな。

連合軍というのは

人類が金星に移住した時に発足した組織で

アメリカ、中国、ロシアという

三大軍事大国の正規軍が平和維持を目的に

合併したものだ。」

 

「じゃあ何でその連合軍がウチの貨物船の航路上に

ピンポイントで海上封鎖しているんですか?」

イチゴウがそう問うと

 

「元々兵器用プルトニウムの保有、製造は

国際法で厳しく禁じられている。

つまり正規ルートでこれらの入手はまず不可能だ

だから我が社はロシアの原子力研究所から

秘密裏に手に入れて食料貨物船に偽装したもので

運んでいたんだが

その事をIAEA(国際原子力機関)が

嗅ぎ付けて連合軍に告発したという流れだろう。

それに連合軍は"人魔共存"という

人類と妖魔の共存思想を掲げていて

我が社は前々からマークされていたからな。

幸い、兵器用プルトニウムは奪われていたから

大問題にならずに済んだが。」

ブラックバードがそう話を進める

第二偵察班はブラックバードの話を

黙って聞いていた。

 

「それはそれとして、君達についてだが」

ブラックバードが急に話題を変える

 

「君達は核物質の確保に失敗した訳だが

私が君達に与えた任務が貨物船の調査だった事と

報告にあったBlack justiceという組織の空中戦闘艦の件を考えれば一概に君達だけの責任だとは言えない。

それに君達は貨物船の妖魔を一掃したという

一定の成果もある。

後の事はこちらで対応する、

君達は訓練に戻りたまえ。」

ブラックバードがそう言うと

第二偵察班は一礼し幹部室を後にする。

 

 

「ブラックジャスティス……

やはりな。」

ブラックバードは幹部室で一人そう呟いた。

 

 

             To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話 夢魔

今回の話はイチゴウ達Black Safetyとは
違う視点で物語が進みます。
では、どうぞ。


重々しく鐘の音がなる。

夜の静けさと少しだけ皮膚を刺激する涼しさとが

この一帯を支配している。

ここはアックルヴァ丘のふもとにある小さな町。

Black Safetyが本社を置いている大陸の中心部分からは

かなり離れている地だ。

 

そんな中で一人の男が町に帰るために

坂道を登っていた。

薪割りなのか背中に多数の薪を背負っている

 

「今日は少し冷えるなぁ。」

男がそう呟きつつ歩いていた。

男が歩いている坂道の両サイドは

森が鬱蒼と茂っており

視覚的な寒さを演出している。

その男はどんどん坂道を登り

ついに町が視界に入るようになると

 

「よし、あと一息!」

その男がそう言う

その時だった。

 

「そちらのたくましい旦那様、

お待ち頂けないでしょうか?」

 

そう言う綺麗な声が聞こえたのだ

男が声のした方向に振り返ると

そこにはヴィーナスと比喩しても

可笑しくない程の美女が佇んでいた。

 

「一体どうした?」

男がその女性に尋ねると

 

「実は日付が変わる頃に

丘の上のお城で宴を開くのですが

なにしろ女性だけで男の人がいなくて……

それであなたを宴にお誘いしているのです。」

女性が男に向かってそう言う。

 

「よし、わかった。いくよ。」

男が女性にそう答える

下心が見え見えなのは言うまでもあるまい。

 

「それとーーー」

女性がまだ話を続ける

 

「できるだけ多くの男の人と宴で交流したいと思い

私も色々な男の人に話しかけていますが

流石に私一人では………

あなたにお願いしたいのは

知人の男の人にこの事を伝えて誘ってほしいのです。」

 

「わかったよ。」

女性のその言葉に男がそう返す。

 

「ありがとうございます!

では、日付が変わる頃に丘のふもとで

馬車を用意して待っています。

宴では美味しいお酒も用意していますよ。

では、また会いましょうね。」

女性はそう言うと坂を下って去っていく。

 

「綺麗だったなぁ……

もしかしたら脈アリかも♪」

男は鼻唄混じりでスキップで町に入っていく。

 

そして男が町中をスキップで走り

自宅に到着すると勢いよく扉を開ける。

男の自宅には多数のビール缶が転がっており

部屋の中央で一人のザコチュラが布団を被って

だらしなく寝ていた。

 

「おい!トニー!いい話があるぞ!!」

男がそう叫ぶと

 

「……あぁ?」

トニーと呼ばれるザコチュラは

仰向けの状態から身体をひっくり返す。

 

「どうも丘の上の城で美女達が宴をやるらしいんだ。

それを飛びっきりの美女に誘われてさぁー、

人数が欲しいって言ってるからお前も来ないか?

こんなチャンス絶対ねえぞ!」

男がテンションMAXで喋り続ける。

しかしトニーは

 

「丘の上の城って…

あそこ廃城だぞ?」

トニーがまだ完全に眠気の飛んでいない声で

そう切り返す。

 

「きっと大っぴらに出来ない宴なんだよ!

あぁ!ワクワクするなぁ!」

男はテンションが下がるどころか

むしろ上がっていた。

 

「ポジティブだな、お前は。」

トニーは呆れながらそう言うと

床に立っていたビール缶を前右足でどかして

もう一度寝転がる

 

「悪いが俺は行かねぇな。

常識的に考えて良い予感はしないからな。」

トニーは布団を被りつつそう言う。

 

「残念だなー、美味い酒もあるってのに。」

男がそう呟くと

 

「よし、行くか。」

さっきまでとは一転してトニーがシャキッと

起き上がる。

 

 

 

 

 

 

時は0時、調度日付が変わる頃に

丘のふもとでは一台の馬車と

何人かの男がいた。

 

「皆さん、集まりましたか?」

さっきの美しい女性が馬車の中から顔を出し

集まった男性達にそう言う。

 

「乗ろうぜ。」

一人の男がそう言うと男性達は

次々と馬車に乗り込む。

全員が乗り終えると馬車が発進して

町がどんどん小さくなっていく。

 

「…………」

もう二度と戻れない、そういう感覚を

馬車に乗った男性達は薄々持っていた。

しかし

すぐに男性達は城の宴に対しての期待を取り戻し

ワイワイ騒いでいた。

 

ただ一人のザコチュラ、トニーだけは

町の光が届かなくなり暗くなっていく景色の中で

何とも言えない不安を持っていた。

 

 

それから馬車に揺られる事、数十分。

馬車が停止し

 

「皆さん、降りてください。」

女性がそう言うと男性達は一斉に馬車から降りる。

すると男性達の目の前には

深い暗闇を背景に巨大な城が広がる。

その城は石で出来ており

人が生活している跡は見受けられない。

 

「………」

流石にテンションが上がっていた男性達も

異変に気付きだし

その内の一人の男性に至っては

腰の片手剣に手をかけている。

 

「さ、緊張なさらずに入ってください。」

女性が城の扉を開けて男性達に

そう声をかける。

 

男性達はその女性に言われるがままに

城内へと入っていく。

 

 

城の扉をくぐり抜けると

そこには広場が広っており

前方には高台と

周りには観客席のようなものが広がっている

コロシアムのような構成になっていた。

 

「何だ?ここは…?」

一人の男が片手剣を構え、そう呟く。

 

「………」

トニーも懐から簡易スコープが装着された

マテバ オートリボルバーを取りだし構える。

すると

 

「色欲に踊らされた愚か者共が……」

 

高台から声がする。

男性達が一斉に高台を見上げると

そこには先程の女性が男性達を見下ろしていた。

 

「どういう事だ!?」

男性の一人が高台の女性に向け

そう言い放つ。

 

「まさか、こんな不自然な流れでも

ここまでついてくるとはな。

本当に男とは馬鹿な連中だ。」

その女性はさっきまでの丁寧な言葉づかいとは

うって変わって凍っているような言葉を

男性達にぶつける。

 

「とりあえずお前の目的は何だ?」

トニーが高台の女性にそう問いかける。

 

「どうせお前らはここで干物になるんだ

教えてやろう。」

その女性がそう言い放つと

両手を大きく広げる。

するとその女性から

黒い大きな翼と尻尾が出てくる。

 

「お前…!まさか!」

一人の男性がそう言うと

 

「やっと気づいたか。私は"夢魔"だ。

夢魔が生き延びるには

男の精力が必要でな。そこで精力補充のために

貴様らを呼び出したという訳だ。」

女性がそう言い終えると

男性達は迎撃態勢を取る。

 

「同胞達よ!!宴の始まりだ!!」

高台の夢魔がそう叫ぶと

周りの観客席のような物から

多数の夢魔が現れる。

どれも高台の夢魔に

勝るとも劣らない容姿を持っている。

 

「やってられるか!!」

いきなり一人の男性がそう叫んで

城から出ようと入り口に走り出す!

観客席にいた多数の夢魔が

その男性に向けて一斉に飛びたつと

そしてその男性は容易く捕まり

床に叩きつけられる!

 

「いっただっきま~す♪」

そういう夢魔達の声があちこちから聞こえてきて

夢魔達の尻尾が次々とその男性に突き刺さる。

 

「嫌だ!!!死にたくない!!助けてくれぇ!!」

男性が腹の底から叫んで助けを求めるも

だんだんその男性の身体がしぼんでゆく。

 

「うぁっ……助けぇっ…………」

その男性は体の骨格が視認出来るレベルまで

身体がしぼんで声にならない声で

なおも助けを求める。

 

「あいつはもうダメだ!

とにかくここから離れるぞ!」

残された男性の一人がそう言うと

 

「よし、お前たちは逃げろ。

俺が時間を稼ぐ。」

ある男性が片手剣を構えてそう言う。

 

「そんなの無茶だ!」

一人の男性がその男性に向けてそう返す。

 

「大丈夫だ!俺は酒場のハンターとして

数々の妖魔を狩ってきた!

きっと食い止めれるさ!」

片手剣を持った男がそう言うと

 

「…わかった。よし、全員行くぞ!」

残った男がこの場を離れようとすると

 

「おい!あのザコチュラがいねぇぞ!」

一人の男が周りを見渡す。

確かに残された男性達の中に

トニーはいなかった。

 

「トニーの奴!こんな時に!」

一人の男性がそう叫ぶが

 

「おい!お前!早く逃げるぞ!!」

残された男性達は広場から城の深部へと逃げていき

それに続いて多数の夢魔が

その男性達の後を追っていく。

 

 

 

「さぁて、ご飯はどこかしラ?」

ある夢魔が城内の深部を捜索していた。

すると

その夢魔がいる向かいのドアから何か音がする。

 

「あらぁ?夢魔の気配じゃないわネ。フフフ」

その夢魔は笑いながら向かいの扉を開ける。

扉を開けたところの部屋は酒が入った樽や瓶が

大量に保管されている部屋だった。

そして手前に一人のザコチュラ。

そのザコチュラはビンに入った

いかにも高級そうなワインを飲んでいた。

 

「お前!何をしていル!」

夢魔がそのザコチュラに対しそう声を荒げる。

 

「おい、このワイン保存状態が悪いんじゃないのか?

このブランドの割には香りが出ていないぞ。」

そのザコチュラ、トニーがそう言うと

 

「うるさい!!

ここで貴様はもやしになるのダ!!」

夢魔がそう叫ぶとトニーに向かって

突進してくる。

 

「正面から来るとは、妖魔も考えないな。」

トニーはオートリボルバーを取りだし

突っ込んでくる夢魔に狙いを合わせると

1発の重い射撃音が部屋中に響き渡る。

それと同時に夢魔の胸部から一気に血が吹き出す。

 

「ぅ………ぁっ……」

声にならない声を発しながら夢魔は

その場に崩れ落ちる。

 

「44マグナム弾を侮ってもらっては困るな。」

トニーは倒れている夢魔にそう言い捨てると

ドアを開け酒倉を後にする。

するとすぐに

 

「ザコチュラだワ!」

 

「男ほどじゃないけど一応ご飯にはなる!

皆!襲えぇぇぇぇ!!」

夢魔がそう大声で言うと

4体の夢魔がトニーに向かって飛んでくる。

 

それに対してトニーはオートリボルバーの

簡易スコープを覗いたままじっとしている、

それはまるで何かの機会を待っているようだった。

 

「よし。」

トニーがそう言うと

またしても1発の重い射撃音が辺りに響く。

トニーが発砲したタイミングは

調度、夢魔が4体縦に並んでいた。

つまり

 

「ぐぅ……ぅあっ……」

4体の夢魔が一斉に苦しみだす。

発射されたマグナム弾は縦に並んでいる夢魔を

一気に貫通し4体全ての夢魔の胸部に穴を開けた。

 

「まだまだ衰えてないな、俺も。」

トニーはそう言うと

4体の夢魔が床に崩れ落ちた所を確認して

その場から素早く移動する。

 

 

そのころ……

この城には一機のティルトローター機が

接近していた。

 

 

            To be continue…

 

 

 

 



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