残念美女教師の決闘日記 (もちマスク)
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プロリーグ・・・あ、間違えたプロr
女性の部屋・・まずはその幻想をぶち殺す


八月になったばかりの夜。うだるような暑さに耐え切れず、その女は文明の利器に涼しさを求めて冷房のリモコンへと手を伸ばした。 しばらくして。 エアコンがガタガタと音をたてて風を吐き出し室内 温度を下げるも、舞い上がった埃が彼女を苛立たせる。 ろくに掃除もしていなかった彼女の自業自得なのだが、貧乏性の女には冷気を外に逃がす気に到底なれないようで、舌打ちをしながらも窓を閉める。

 

九鬼優亜(くき ゆあ)は地元私立高等学校の教師だ。年齢は20代半ば。背中辺りで結んだ銀髪と日本人離れした白い肌が特徴的で、スタイル は抜群。やや童顔であることも彼女の魅力と言えよう。そこらで雑誌のモデルでもやっていればいいように思えるのだが、残念な事に彼女のズボラな 性格がそれを許さないようだ。

 

一介の若年教師が一軒家を持てるはずもなく、両親から見離されて久しい彼女が住んでいるのはマンションの一室。玄関から 少し足を運べば、すぐに寝室と居間を 兼用した部屋にたどり着く、お世辞にも広いとは言えない部屋。 そんな真夏の密閉された空間に埃が舞っている状態 を想像してみて欲しい。

黒光りするGあるいは増殖するGでもでようものなら阿鼻叫喚の渦の中でムンクの叫びが木霊することだろう。

 

「ケホっケホっ…こんな状態じゃ、ゲームもできねーじゃんよ…」

 

そう悪態を付きつつもス〇ファミの電源にスイッチを入れる優亜。 彼女が勤める高校で「美人なダメ人間」「残念美女 」「やせいの びじんが あらわれた」「美女『の 』野獣」と言われるだけあって、なんとも目を覆い たくなる光景である。

 

そんな彼女の部屋に来客があったのは、その直後の ことだった。

 

「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 『わしが転生者候補の娘の家にテレポートしたと思ったら、汚い部屋で超絶美女が下着姿のま まレトロなゲームをプレイしていた』。 な…何を言っているのかわからねーと思うが、わし も何を見てるのか分からなかった・・。 頭がどうにかなりそうだった・・。女への幻想が砕 けたとか、ミサトさんだとか、 そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

 

 

時代錯誤といおうか、ファンタジックなローブに身を包んだ、老人。 そんな人物が前触れもなく、部屋の中央に突如現れていた。

 

「……あ?」

 

訝しげな優亜の視線が老人の眼球を射抜き、老人はあわてて姿勢をただす。

 

「ゲフンゲフン…なんじゃこの部屋は。マダオ(マ ルでダメなオンナ)とは聞いておったが、 こんな埃まめしな部屋でよくも平気なもんじゃの」

 

「不法侵入者のクセして随分な物言いじゃん。警察呼ぶから、そこいらでくつろいで置くといいわ」

 

「気を遣わせてすまんの…いや待つのじゃ、早まる でない、国家権力は勘弁してほしい」

 

そんなこと言いながら、老人はその場に腰を下ろす 。 九鬼は老人を警戒しながらも、それを悟らせない眠たげな表情を浮かべながらベッドへと腰掛ける。

 

「で、なんで私の部屋にいる。ていうかそもそも誰じゃん?」

 

「うむ。いきなり押しかけて来たことはわびねばな らんのう。まずは自己紹介じゃ。 ワシは神。職業は神じゃ」

 

「来るなら神さまよりもサンタクロースがよかったわ。金目のものとか沢山もってそうだし」

 

「残念じゃが彼は子供にしか興味が無くての。おや、なんだか犯罪の匂いがする言い回しじゃったかの?ところで神様って職業なんかの。じゃあ種族ってなに?種族が神なら職業はなんなんじゃろうな?ニート?」

 

「知ったことか。私は忙しいんだゲームがしたいんだ、さっさと要件言って果てろ」

 

「本当にわからんか?心当たりはないか?思い当たる節は?」

 

窺うような老人の台詞。

言外に、わかっているんだろうと問い詰めるような台詞に、九鬼は眉に皺をよせる。不愉快だ。実に。

実のところ彼女は…九鬼優亜は既に理解している。

認めたくない事実。

 

「まあ…私はすでに死んでるってことじゃん?」




どうも、もちマスクです。 ここで投稿するのは初めてです。シンクロとかエク シーズは序盤は出しません。オリカに至っては最後 まで出す予定はないです。 ボチボチ書いていこうと思うので、よろしければ応 援お願いしますね! 誤字報告とか矛盾とか感想と かレビューとかあったら感動のあまり我が骨子が捻 れ狂ってしまうかもしれません


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とどのつまり、転生です

おい、決闘(デュエル)しろよ
僕もそう思います。



緩慢な動作で動き出したのは優亜の方だった。

神と名乗った老人から興味を無くしたように視線を外し、のっそりと腰を上げる。

うっひょーくびれがエロい、なんて神は思っていない。心で感じているだけだ。

優亜はそのままゆったりと神の前を通り過ぎ、何かを手に取った後、再び腰を下ろす。

 

「優亜よ、自分がすでに亡者と知っているのならば、ワシがここにいる理由《わけ》もわかるの?」

 

「……(カチャカチャ)」

 

 

「お主の最期は立派なものじゃった」

 

「……(ピコピコ)」

 

「辛いのはわかるがの…この世界にお主の居場所は無くなってしもうたのじゃ…」

 

 

「……(プシュッ)」

 

ゴキュゴキュ

 

 

「話を聞かんかぁああッ!!?」

 

 

神が叫び、そこでようやく優亜の視線が再び神を捉えた。

ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら「?」と首を傾げる。

 

「どこに神様を前にしてありがたぁああいいお話を下着姿でゲームしてビール飲みながら聞く女がおるんじゃ!?」

 

「……」

 

「……」

 

「え?ああどうぞ続けてぐらふぁー……」

 

「あぁもう欠伸なんてするでないわ、はしたない!ここは暗黒界ではないぞ!」

 

 

 

結局、落ち着いて話が出来たのはそれからしばらくしてのことだった。

部屋の掃除などを終えた神は肩で息をしながら、自らの足を運んだ理由を語る。

九鬼優亜にとってはどうでもいいことなのか、はたまた表情に出さないだけなのか、その表情にさして驚きはなく、取り乱すこともない。

 

神はそんな優亜に眼をやり、もしかして話を聞いていないんじゃないかなと、心配になる。

それくらいのリアクションのなさ、自然な振る舞いだった。

実際にはそんなことはなかったようで、しばらくして優亜は頷いて口を開いた。

 

「つまり、私が生徒を庇って死んだ姿に心打たれたから、別の世界に生き返らせてやるってことか?」

 

「うむ…。結果としワシには人を見る目がないということがわかってしまったがの」

 

「私は未練も何も残さないように生きてたから、このままゲームオーバーでもよかったんだけど。折角の好意は受け取っておくじゃん」

 

「お主…一発殴っていい?」

 

わりと真剣に言ったつもりだったのだが、優亜はうっすらと笑いながらビールを喉に流し込むだけで何も言わない。酒気を帯びた色気にどこか憂いを感じるように思えたのは神の錯覚だろうか。

 

やがて神が諦めたように溜息をつき。

 

「先ほど言ったように、お主には転生してもらう。ワシをこき使ったので地獄にでも落としてやりたいのじゃが、既に決定事項での。

転生に至って決めてもらうことはただ一つ。どの世界に生まれ変わるか、じゃ。年齢、性別、容姿はそのまま。戸籍なども全てこちらで用意するでな。」

 

「…どの世界にすると言われても困る。どんな世界があるかわからないし」

 

「当然の疑問じゃな。そうじゃの……アニメ、漫画をモデルにした世界などどうじゃろう。お主好きじゃろ? ファンタジーな世界でもよい」

 

そこで初めて、優亜の目の色が変わる。

 

「なんだとぅ!? じゃ、じゃああれか? お前すごいのか? このイケ☆メン!太っ腹!大富豪!」

 

露骨にベッドから飛び上がる優亜。

神は今まで反応に乏しかった優亜の変化に得意げになり、立派に蓄えたヒゲをいじりつつ、

 

「フホホホ!!チートとかもありじゃぁあああああいい!!」

 

「それはいらない」

 

「喧嘩売ってんのかヒューマン!!」

 

バッサリと切り捨てられた。惨めだ。

 

ちょっと落ち込んでヒゲがしぼんでる神をよそに、優亜は大きめの箱を取り出し、ドンッ☆と神の前に置く。

 

「…これは、遊戯王カードかの? よくもまあこんなに集めたもんじゃ」

 

「おかげでほとんどカップ麺生活だったじゃん…」

 

 

あぁ…やっぱりダメだなぁ、コイツ。と神は心の中で感想を述べつつ、優亜に確認を取る。

 

「遊戯王の世界に転生ということでよいのかの?」

 

「うん。時代はどこでもいい。ヌフフ、この世界ならゲームやって稼げるわ…フヒャヒャヒャヒャ」

 

「ふむ。ではこのカードもお主の転生先に送っておくとしようかの。あと、女子(オナゴ)がそんな汚い笑い方をするでないわ。では、もう送るぞ。お主の相手は疲れる」

 

「ん、ありがと。また私が死んだら、今度は一緒に酒を呑むじゃん」

 

「もう会いたくないが…考えておく。あと、ニートは許さんので、転生先(むこう)でも教師をやってもらうからの。所謂天罰ってやつかの?」

 

「……あ?」

 

 

彼女が眉にしわを寄せたときにはすでに神はおらず、目の前には禿げた男が豪華な椅子に腰掛けていたのだった。



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一年目
いやでござるーはたらきたくないでござるー


いいや・・・もう。
初志貫徹ってことで



九鬼優亜は、禿げた男と向き合っていた。

立派な椅子に腰掛けている、温厚な顔つきをした恰幅のよい男。

 

鮫島校長。

遊戯王GXの舞台となるデュエル・アカデミアの校長であり、彼自身もサイバー流デッキを使用するデュエリストである。

穏やかで生徒思いな人物ではあるものの、GXの舞台で起こる事件の影にはこの男が絡んでいることが多く、胡散臭い。

まあ、悪意があるわけではなく間が抜けているだけで、どこか憎めない雰囲気を漂わせているのも、彼の稀有な才能なのだろう。

 

 

そんな鮫島校長を、優亜はアルコールの入った脳を総動員して認識する。

どうやら本当に遊戯王の世界に来れたらしい、第二の人生がこれから始まる、喜ぶべきことだ。

 

 

しかし優亜の表情は優れない。

眉にシワをよせ、鮫島校長を――否、虚空を睨めつけている。

はたから見れば何やら思案しているようにも見えるのだが、そうではない。

この世界のデュエルディスクはシンクロやエクシーズを認識するのかとか、世界滅ぼされかけるけど大丈夫だろうかとか。

宇宙からいきなりやってきたカードが認識される事を考えると問題なさそうだし、世界が滅びかけようと主人公が何とかするだろう。

そんな楽天的な考えで、優亜は心配などしていないし、微塵も悩んでなどいない。

 

彼女は憤り、絶望しているのだ。

見つけてしまった。現実を見てしまった。

『ソレ』を見つけてしまった…。

 

雇用書(アポリア)

 

デュエル・アカデミアの教師として、九鬼優亜を迎え入れるといった旨の書類が、鮫島校長の座すデスクの上に存在していた。

 

神の仕業だろうか、この世界に置ける彼女の立ち位置が頭に流れ込んでくる。

デュエル・アカデミアの新任教師。基本的な部分は元いた世界で歩んできた人生と同じ。

しかし、NE☆ETになることを望みこの世界を選択した彼女にとっては死刑宣告にも等しいことだった。

この場合は神の宣告になるのだろうか、いろいろと無効化されそうである。

何はともあれ、教師なんてもうする気のなかったというのに。

それどころか、働く気すらなかったというのに。

事実を目の当たりにした優亜はよろよろと後ずさる。

 

 

 

「冗、談…よね?」

 

 

ポツリと呟いた声には、憎悪が込められていた。

 

 

「なんのためにこの世界を選んだと思ってる…? カードゲームで金が稼げて、働くことなくゲームが出来るからじゃん…?」

 

怒りの矛先(かみ)は、すでにここにはいない。

彼女はすっかり脱力し、その場に膝をついてしまったのだった。その瞳には涙さえ浮かんでいる。

 

「ひっく・・・えぐ・・うぁ・・・うあぁぁ・・・」

 

「…え」

 

 

『そ、そこまで働きたくなかったかの…!?』

 

これにはさすがに別世界から様子を見ていた神もドン引きだった。ガチ泣きである。

鮫島校長からしてみればたまったものではない。

 

 

 

しばらくして。

涙と共にアルコールも抜けきった優亜はスクッと立ち上がる。

ちなみに校長は彼女の背中を摩っていたりする。優しい。

 

 

「えー、ゴホン。落ち着きましたかな、九鬼先生。まったくびっくりしましたよ、いきなり泣き出すものですから…」

 

「悪かった。ちょっと現実からは逃げられないと思い知って」

 

 

「よ、よくわかりませんが、話を続けてもよろしいかな?」

 

 

もう何度目かもわからない咳払いをして、校長は改めて九鬼を見据える。

 

「ようこそデュエルアカデミアへ。校長として新任教師であるあなたを歓迎します」

 

「……」

 

「もうすぐ生徒の入学実技試験が行われます。そこで、さっそく九鬼先生に仕事をしてもらおうと考えているのです」

 

「えぇ~…いやでござる~はたらきたくねーじゃんよ~…」

 

 

教育者としてあるまじき発言に面食らったのか、鮫島校長の顔から一瞬表情が消える。

しかしすぐにニコリとわらって(こめかみに血管が浮き出ているようにも見える)、彼は告げた。

普通の教師ならすくみ上がるようなセリフを。

 

「…ごほん。すべての試験が終わった後、クロノス教諭と模範デュエルをしてもらいます。このデュエルにはあなたの実力を見る意味もありますので、新入生の見本となる立派なデュエルを期待していますからね」

 

 

クロノス教諭。遊戯王GXに登場するキャラクターで、アカデミアでは高い実力を誇る人物。

赴任早々生徒の前で、実力者と決闘させられる。新人にとってはプレッシャー以外の何物でもないだろう。それはもうキャ〇ジンが必要なくらいに。

しかし優亜は嗤う。

 

(血だ!血を見るまで私の怒りは収まらない…グギャギャギャギャ!!)

 

血走った眼で虚空を睨め付けながら舌なめずりをする。

九鬼優亜は、盛大な八つ当たりの実行を決意していた。




グギャギャギャギャギャ!!
感情的になって素がでると女性的な口調がいいなぁ・・なんて・・・


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ツンデレとヤンデレが合わさって最凶に見える

アニメ版のアンティーク・ギアゴーレムってなんでかバトルフェイズにトラップスタン効果使えないんですよね。まぁライフが4000だからちょうどいいんでしょうけど。OCGVSアニメ効果ってことで書いてみました。
でもそうすると未来融合が装備カードになりその場で出てくるというもはや未来の部分の要素がなくなるという悲劇に見舞われるんですが…頑張れ九鬼先生!

初デュエル~♫


「なぜワタクシがあんなドロップアウトボーイに・・!」

クロノス=デ=メディチは吐き捨てるように呟いた。

35歳の、背の高い白人。デュエル・アカデミアに勤務する教師にして実技担当最高責任者。

『暗黒の中世デッキ』と呼ばれるデッキを使用し、その切り札である『古代の(アンティーク)機械巨人(・ギアゴーレム)』を召喚して敗北したことは無いと言われている。

 

「あのクロノス先生が受験生に負けるなんて…」

 

会場からデュエルを見学していた生徒の声がクロノスの耳に届く。

 

受験番号110番、遊城十代(ゆうきじゅうだい)。つい今し方、この伝説を破った男。

筆記試験の成績も低く、実技試験には遅刻してくるような男が、クロノスを破ったのである。

 

(ワタクシの名誉が音を立てて崩れ堕ちていくのを感じるノーネ…)

 

クロノスの足元がぐらつく。多くの生徒が集まるこの場所で、能天気な勘違いヤロウに自分が敗北した。

どうしようもない現実がクロノスを絶望(アポリアw)の淵へと叩き堕とす。

 

 

『試験が全て終了しました。お疲れ様です。ではここで、先生方による模範デュエルを行います』

 

 

そこでアナウンスが流れた。

クロノスは思い出す。新任教師との模範デュエル。苦渋に歪んでいたクロノスの顔に笑みが浮かぶ。

 

(これナノーネ…新任教師には悪いケード、ワタクシの名誉回復の為の生贄になってもらウーノ)

 

 

『では新任の九鬼優亜先生、デュエル場にどうぞ』

 

ざわついた会場に静寂が戻ったところで、コツコツと小気味の良い足音が聞こえてくる。

シルエットから、足音の主が女性であることがわかる。

やがてデュエル場に現れたのは、とてつもない美女。

スタイルの良い、銀の髪をした童顔の美人が、デュエルディスクを構えていた。

 

普段のクロノスなら『美しいノーネ!その御御足でワタクシを踏んでほしイーノ!!』などと大騒ぎしていたかもしれない。

しかし今のクロノスの眼には、哀れな自分の踏み台にしか映らない。

クロノス=デ=メディチは、自らの保身(プライド)の為に牙を剥く。

 

 

 

 

(こりゃぁ、十代にやられた腹いせに本気でくるつもりじゃん)

血走った眼をしたクロノスを一瞥し、優亜は他人事のように笑う。

 

自分を紹介するアナウンスを聞き流し、この先の展開に心を躍らせる。

無理やり働かされる鬱憤は目の前の似非外人で晴らさせてもらうとして、自分は今、未知の世界にいる。

ソリッドヴィジョンを体感できる。そう思うと、自然と心が沸き上がるのを感じた。

 

(ゲーマーとして、OCGプレイヤーとしてこれほど嬉しいことはないじゃん?)

 

「おいおい…新任の教師が模範デュエルかよ…しかも女だぜ?」

「…ふ、ふつくしい」

「カワイそー」

 

生徒たちの舐めきった声さえ、今の彼女には心地よい。

自分は今、生きているのだ。

 

 

 

 

 

やがてアナウンスが終わり、彼女はデュエルディスクを構えて相手の様子を伺った。

散々校長の長話に付き合ってきたわけだが、もう我慢の限界だ。血を魅せろ。

それぞれの思惑が交差し、互いに(悪意に満ちた)笑みを浮かべる。

 

 

「ではお嬢さん、デュエルを始めるノーネ!!」

 

「待ちわびたじゃんよぉ…!!」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

九鬼   LP:4000

クロノス LP:4000

 

「先行はそちらに譲るノーネ。レディファーストなノーネ」

 

「とか言って、様子見したいだけじゃん?私のターン、ドロー!」

 

ドローしたカードを見て、優亜の顔が少し歪む。所謂、手札事故である。

 

とはいえ、予想通りでもある。彼女が現在使っているデッキでは日常茶飯事ともいえるのだ。

 

 

「メインに入るじゃん、私は手札から魔法カード『打出の小槌』を発動!手札のカードを任意の枚数デッキに戻し、その枚数だけドローするじゃん」

 

 

「あれは打出の小槌!」「すげぇ、レアカードじゃねぇか!」

 

優亜の使用したカードに会場のざわめきが強くなり、クロノスも目を見開く。

 

(…あん?レアカード?私の世界じゃ100円もしないのにな。売り飛ばしたらいくらになるのかしら?)

 

「ふん、まあ中々いいカードを持ってるようナノーネ。でも私のアンティーク・ギアには遠く及ばないノーネ!」

 

(アンティークデッキなら私も持ってるんだがなぁ…。ギアタウンとかガジェルドラゴンとか入れてるし。古代の機械使えばよかったじゃん)

 

この世界における高級デッキが――ストラクチャーデッキで簡単に組めると知ったら、子供のお小遣いで古代の機械巨人が買えると知ったらクロノスはどんな反応するのか。

―――見てみたい。

若干邪悪な笑みを零してしまったが、気を取り直し、先ほどの効果で引いたカードに視線を向ける。

結果はまずまずといったところであろうか。サーチカードさえあれば仕留められる、言わばリーチの状態。

 

「私は永続魔法『魂吸収』を発動するじゃん。このカードが場に存在する限りカードがゲームから除外される度に1枚につ500ライフポイントを回復する。更にカードを二枚セットして、ターンを終了するじゃんよ」

 

 

周りから生徒達の訝しむ声や嘲りの声が聞こえてくる。やれモンスターを召喚していないだの手札交換しといて事故だの。

 

(コイツら遊戯王が発達した世界の人間の癖に頭悪いな。こんな馬鹿どもを私は教育しなきゃならないのか?)

 

内心で憤りを蓄える優亜をよそに、クロノスがカードを引く。

 

 

「ではワタクシのターンなノーね。見栄を張っておいてその程度とは、少々ガッカリデスーノ」

 

落胆の表情を見せつつ、内心でクロノスは二枚の伏せカードを警戒する。

 

(とはいえ…厄介なノーネ…少し様子を見たほうが良さそうデスーノ…)

 

 

「あれれぇ?もしかしてクロノス先生も事故っちゃいましたぁ?手が止まってるようですけど、御自慢のガラクタ人形が出せないとか?」

 

どこかの頭脳が大人の少年探偵のような声色で優亜が言う。正直うウザい。

しかもどこかニタニタした感じのGE☆SU顔である。

元々冷静ではなかったクロノスの頭に完全に血が登る。

 

「ムッキー! そんなに見たいなら魅せてあげるノーネ!

手札から魔法カード天使の施しを発動!デッキからカードを3枚ドローして二枚捨てるノーネ!!」

 

「…あ、そうか。こちらでは禁止じゃないのか…。トリシューラ歓喜じゃん」

 

ブツブツと呟く優亜を怯えていると判断したのか、クロノスのテンションはウナギのぼりに上昇する。

 

 

「ワタクシのテンションが有頂天に達したノーネ!かなぐり捨ててヤルーノ!更に手札から魔法カード『磁力の召還円LV2』を発動するノーネ 

このカードは自分の手札からLV2以下の機械族モンスターを一体特殊召還するノーネ 出でよ『古代の歯車』!」

 

フィールドに突如魔方陣が描き出され、そこから歯車が現れる。

 

 

『古代の歯車』

星2/地属性/機械族/攻 100/守 800

 

 

「そして『古代の歯車』の効果発動! 自分フィールド上に『古代の歯車』が表側表示で存在するとき、手札から同名モンスターを攻撃表示で特殊召還することができルーノ!そしてこの二体の『古代の歯車』を生贄に捧げて――見せてあげるノーネ! 『古代の(アンティーク)機械巨人(・ギアゴーレム)!』」

 

 

『古代の機械巨人』

星8/地属性/機械族/攻3000/守3000

 

 

ゴゴゴゴーレムと音を立て、その巨体を晒し現れる『古代の(アンティーク)機械巨人・(ギアゴーレム)』。一連の流れを見て、優亜は感動のあまりホゥっとため息をついた。

 

「イクーノデスヨ!『アルティメットパウンド』!!」

 

クロノスの掛け声とともに降り下ろされる巨人の拳。凄まじいプレッシャーと共に優亜のライフを大きく削る。

 

九鬼   LP:1000

クロノス LP:4000

 

「うぁ…!すげぇ迫力…不覚にもときめいてしまったわ…でもこれって悲しいけど処刑なのよねぇ。3000ダメージを食らったときにリバースカードを発動じゃん!速攻魔法『ヘル・テンペスト』!」

 

(アニメ版の最初はなんでかダメステ終了まで魔法罠使えない効果がないじゃんよー)

 

何故かアニメ版の最初の十代とのデュエルのとき「このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。」の効果がない

アニメまできっちり覚えていたからこそ出来た芸当だった。OCGの効果が適用されるならこのデッキはもはや紙束と化してしまう。

 

「『ヘル・テンペスト』の効果は3000以上の戦闘ダメージを受けたときに発動できるじゃん!お互いのデッキ、墓地のモンスターカードをすべてゲームから除外するじゃんよぉ!」

 

「デッキと墓地のモンスターをすべて除外!?」

 

その限定的かつ不可解な効果から、生徒たちの「3000以上の戦闘ダメージを受けたときに発動可能!?」や「デッキと墓地のモンスターをすべて除外だって!?」などとざわめきが聞こえてくる。

 

「そうか! そうだったのか!優亜先生が発動した永続魔法はこれのためだったのか!」

 

ざわめきの中で、優亜のコンボを理解した空気(みさわ)がいた。

その横で、今だ理解しきれていない十代が首をひねる。

 

「2番、優亜先生の狙いが分かるのか?」

 

「ああ。ヘルテンペストでデッキと墓地のモンスターを除外して魂吸収の効果発動するためだ。そして魂吸収は除外されるカードの1枚ごとに回復する。つまり...」

 

 

そこで会場のざわめきを切裂いて、優亜の声が響きわたる。

 

 

「私のモンスターとクロノス先生のモンスターの数の合計…つまり23×500ポイントライフを回復するじゃんよーっ!」

 

 

 

「なに!? 23×500ポイント回復するだって―――えーと...500が23だから...いくらだ?」

 

「23×500は11500だよ、兄貴。そしてその分が回復したら...」

 

「あぁ。先生のライフは12500になる…!」

 

九鬼   LP:12500

クロノス LP:4000

 

生徒たちは膨大なライフを初めて見るのか、ざわめきは収まる事を知らず、クロノスも瞠目して状況を飲み込もうと必死になっている。

静かに状況を見守っているのはカイザーこと丸藤亮と、傍らの天上院明日香の二人のみだ。

 

「あの新任の先生やるな…クロノス教諭の古代の機械巨人は確かに強力。しかし――」

 

「その『古代の機械巨人』の攻撃力を逆手にとってライフを大幅に回復するなんて…クロノス先生が優亜先生の手の上で踊らされてるみたいね」

 

 

我を失っていたクロノスだが、相手が新任といえど教師であること思い出すことで我に帰る。今自分が相手にしているのは忌々しいドロップアウトでもエリート生徒でもない。

現実をようやく正しく認識した彼は、気を引き締めた。

 

「まさかワタクシの古代の機械巨人の攻撃力を利用してライフを11500も回復するとは、恐れ入ったノーネ。でもあなたはミスを犯しターノ。あなたのデッキにーハもうモンスターがいないノーネ!逆にワタクシの場には古代の機械巨人がいる――いかに多いライフでもいずれは消え果るノーネ!」

 

 

そう宣言し、クロノスはターンを終了する。

誰もがクロノスの言うとおりだと思った。たとえモンスターが残っていようと、クロノスの場には『古代の(アンティーク)機械巨人(・ギアゴーレム)』が存在している。

例えライフが膨大であろうと、逆転は不可能だと。

 

 

「やっぱりあの先生が負けちゃいそうッス…」

 

「おい聞こえてるぞそこのチビ!まぁ見ておくじゃんよ。ゲームはそんなに単純じゃないってことを見せてやるじゃん?」

 

「ひっ! 地獄耳っす…でも綺麗なヒトっす…」

 

 

翔は平常運転だった。よきかなよきかな。

 

 

「私のターン、ドロー!―――キタぁあああああ!!!」

 

優亜の手にあるキーカード、デュエルディスクはそのカードを受け取り、戦場を彩ってゆく。

 

「手札からフィールド魔法、『天空の聖域』を発動するじゃん!ラピュ〇の雷を見せてやるじゃんよ!!」

 

「そんなカードまで持ってるノーネ?しかしいかに戦闘ダメージが0になろうと肝心のモンスターがいなくちゃお話にならないノーネ」

 

クロノスの嘲笑を受け、優亜の口が笑みの形を飾る。

 

「そしてリバースカードオープン!『奇跡の光臨』! ゲームから除外されている自分の天使族モンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚するじゃん。私に従いなさい!『裁きの代行者 サターン』!」

 

 

『裁きの代行者 サターン』

星6/光属性/天使族/攻2400/守 0

 

 

 

流れるようなコンボを三沢が賞賛し、十代が眼を輝かせる。

 

「ヘルテンペストでゲームから除外したモンスターを『奇跡の光臨』で特殊召還させる。いかに強力なモンスターでも

デッキから手札に加えなければ何の役にも立たないが.―――やることに無駄がない」

 

「すっげぇー! 俺もやってみてぇよ、あの先生とデュエルをさぁ!」

 

 

「でもサターンの攻撃力は2400…ワタクシの『古代の機械巨人』には敵わないノーネ!」

 

「サターンには、一つ効果があるじゃん。その効果は『天空の聖域』がないと発動できなけど―――このカードをリリースすることで、超えているライフポイントの数値分のダメージを相手ライフに与える」

 

 

「ナナナっ!!?」

 

「言ったじゃん?ラピュ〇の雷を見せてやるって」

 

 

 

「8500ポイントのダメージだと!?」

「…!?」

「は、は、、はぁあ!?」

「す、すっげぇ・・・!」

 

亮が叫び、明日香が瞠目し、万丈目

が大口をあけ、十代が身を乗り出す。

パワーボンドを使用したサイバーエンドドラゴンよりも高いダメージである。

 

(この程度は普通なんだけどな…あ、サターンが『キラッ☆』ってしてる)

 

 

「お”…お”おぉ”ぉ…マンマミーアァァァァアアァア!!??」

 

九鬼   LP:12500

クロノス LP:  0

 

こうして試験会場に血の雨が降ることで決着が付き、彼女の怒りはすこし収まったようにみえた…。

後に学園関係者は語る。

「彼女はあらゆる意味で疫病よりも厄介な『人間災害』」であると。




ヘル・サターン1キルでした。TFで試してみたんですが成功率の低い低い。しかもアンティーク相手だと何もできずに終わるし…。アニメ効果って強力なの多いですけど、今回ばかりは助かりましたね。アニメ効果にOCGで立ち向かうのがコンセプトのつもりなので主人公がアニメ効果を使うことはないです。

脳内再生ができるくらいの文章が書けるようになりたいな~



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大して意味の無い閑話っぽいノリとゴーシュさんが言ってた

無事実技試験を終え、入学式も終えた優亜を待ち受けていたのは、更なる絶望(あぽりあ)だった。

 

正直なところ、彼女は仄かに期待していた。

クロノスをプチッとしたことで怒りのボルテージが下がり、あることを思い出したからだ。

デュエル・アカデミアでは、原則として女子生徒は無条件でオベリスクブルー所属となる。

さらに言うと、彼女はクロノスを手玉に取る形で破ったのだ。きっと自分もオベリスクブルーの寮に寝泊りすることとなるのだろう―――そう思っていた。

たしか、ブルー寮の食事はとても豪勢であったはず……生活費を全てゲームに費やし、味のないパスタで餓えを凌いでいた彼女にとって、それはどれほど甘美な夢であっただろう。

 

そうやって、そこまで夢を見て、彼女の望みは奈落へと落とされた。つまり除外された。

 

入学式を終えてすぐ、彼女は校長室へと招かれた。

 

 

「あなたにはオシリスレッドの寮長の補佐をしてもらおうと、私は考えているのです――」

 

 

このとき、彼女は無表情だった。

しかし内心では憎悪が荒れ狂っていることだろう。光の無くした眼がそれを物語っている。気がつけば優亜の腕が校長の首に伸びていた。

彼女の肉しみは消えないんだ!

 

「か、かひゅっ……!? きゅ、給料には色を付けておキますかカら、頼まれてはくれませんかかか閣下!?」

 

「お前も蝋人形(のよう)にしてやろうか!」

 

腕をぺしぺしたたきギブアップを訴えながらの一言で、ギリギリ優亜は殺人の罪を犯さずに済んだ。かなり際どかったが。

1年間だけという条件付きで彼女はこの条件を飲み、涙目で校長室を去っていった―――

 

 

   ―――――――――

 

 

九鬼優亜のいなくなった校長室で、鮫島は大きく安堵の溜息をついた。酸素うめぇ。

ツルリと禿げ上がった自らの頭をハンカチで拭き、ヤレヤレと腰を椅子へと下ろす。

まさか意識が落ちる寸前までチョークスリーパーをかけられるとは思わなかった。

スリーパーホールドではない。チョークスリーパーだ。完全に喉を潰しに来てた。

あれはあかん。

思わず『ミ…ミラクル…!』と言いたくなるような手際の良さだったが、かけられた本人としてはたまったものではない。

しかも眼に光が宿っておらず、全く人間味を帯びない半笑いを浮かべながらの完全に容赦のないシメ技だったので、本気で殺られるかと心の中で念仏を唱えてしまったほどだ。

豊満な胸があたってムホホと密かに思ったのは内緒である。

 

何故、こんなことになってしまったのか。

 

彼もまた、九鬼優亜の決闘(デュエル)に魅せられた者の一人だった。

彼とて当然オシリスレッドの現状を把握している。ボロい。貧しい。ひもじい。お腹がすいたのはきっと気のせい。

そんな環境で生徒たちのやる気が育むはずも無く、落ちこぼれでは済まされないほど落ちぶれてしまっている。

 

しかし、あるいは彼女なら―――九鬼先生なら現状を打破してくれるかもしれない。

クロノス教諭との一戦をみて、鮫島は彼女に可能性を見出したように感じた。所謂デュエル脳である。

 

「頼みましたよ、九鬼先生―――」

 

彼の独白は、室内に小さく響き、そして消えた。

 

 

 

 ―――――――――

辺りの闇は濃かった。

美しい月が紺碧の空にぽっかりと浮かび、満天の星が瞬く静かな夜。

穏やかな風が寂れた景色を優しく包み込む。

歓迎会が終わり誰もが寝静まったころにオシリスレッドの寮へとやってきた九鬼優亜を迎えたのは、猫を抱えた糸目の男だった。

 

「遅かったのにゃー、九鬼先生。歓迎会にも顔を出さずにどこ行ってたのにゃー…って酒くさっ!? 鼻がまがるにゃぁ~~~っ!」

 

「大徳寺先生…だっけ?こんな夜遅くまでゴクローさまじゃん」

「わかったから絡みつかないでほしいにゃ~~!!」

 

大徳寺という名の教師。オシリスレッドの寮長を務め、授業では錬金術を担当する。オカルティックな授業を担当するわりにホラーが苦手という一面があるよく分からない男だ。

というか錬金術て。

ちなみに九鬼が遅れたのはブルー寮の歓迎会に混じり食事を取っていたからである。

『酒もってこーい!肉もってこーい!』と騒ぎまくった挙句、『なんで私ばかりこんな目にあうのよぉ~』と響みどり先生に泣き付いたりして、多いにブルー寮長のクロノス教諭を困らせた。

 

「出迎えてもらってありがたいんだけど、もう眠いから私は部屋にいくじゃん…しっかしホントにボロいわねぇ、この寮…」

 

「ようやく開放されたにゃ~…」

 

ぐったりとした大徳寺をぬこのファラオが慰め、夜が更けていくのだった

 

 




~九鬼先生の噂話~
その1←new!
「先生はゲームが大好きなんだって!特にレトロなゲームを集めてるらしいよ!」


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俺は勝利をリスペクトしているのだーbyへるかいざあ

フレイムウィングマンってアニメでも融合でしかだせないってエアーマン三沢が言ってました。
響みどり先生・・・漫画版のキャラですが出してみました。
だってふつくしいんだもの。



「てっきり仕事もテキトーなものと予想していたのだけれど、存外本腰を入れて取り組んでいるのね」

 

 

デスクに向かう九鬼優亜を横目で観察しつつ、響みどりは彼女の隣にある自分の席まで颯と歩く。

気取らない、それでいて凛とした佇まいは、彼女の誠実な性格を物語っている。

軽く椅子の表面を撫でるように埃を払ってから、悠々と腰掛ける姿が様になっている。

 

 

「そりゃあ、生徒たち(ガキども)の人生が掛かってるからな。さすがにそれを疎かにするほどの外道じゃないじゃん、私は」

 

「まるで教師みたいね」

 

「残念だったわね。教師なんだよ。不本意だけど」

 

目は書類や授業で使う教科書から離さないが、台詞だけはみどりに向けられている。

もっともな言葉にみどりは苦笑しながら、優亜がにらめっこしている教科書をのぞき込む。

あちこちに見られる×印と専門用語の数々。

それが何なのか考えていると、先程の会話を聞きつけたのか、クロノス教諭が声をかけてきた。よろしいならば戦争だ。

 

「ふん。先刻の職員会議で瞼に目を描くなんて化石のような子供騙しで熟睡していたヒトが言うことじゃないノーネ」

 

「仕方ないじゃん。二日酔いで頭がガンガンしてそれどころじゃなかったんだし」

 

などと嘯く優亜。

どう考えても自業自得である。

クロノスの額に血管が浮きでたところで。

それに、と優亜は続ける。

 

「あんなハゲの戯言なんて聞く価値ないし。何が健全なデュエリストを育成するじゃんよ、アホくさい」

 

 

この時、優亜の言葉には明らかに怒気が含まれていた。

優亜は、友人や親しい人を馬鹿にされても怒らないが、自分やゲームを冒涜されるとブチキレるという極めて自己中心的な一面を持っている。気になる方はためしに彼女に「お前の母ちゃん赤い帽子の髭男」と言ってみよう。

そんな彼女にとって、鮫島校長の言う健全なデュエル―――つまりはリスペクトデュエルは激昂に値するものだった。

 

相手が全力を出すまでわざと待ち、それをこちらの全力で叩き潰すという彼らの述べるリスペクト。優亜にしてみればこんなのは尊敬でもなんでもなく、舐めプレイも同然。

デュエルモンスターズにプロと呼ばれる者が存在し、全国にオンエアされる世の中なので、エンターテイメントとしての側面で魅せるプレイは必要なのかもしれない。

しかし。それを生徒に強要するのは、彼女の持つゲーマーとしての魂と、鋼鉄で出来たミジンコ並みの教師’sプライドが許さない。

そんなのものは洗脳だ。戦時下ではあるまいし。

そう考え、鮫島校長に直訴したところ。

 

『ふむ…なるほど、あなたの(意外な)情熱はわかりました。よろしい。では、あなたの望む、あなたの決闘(デュエル)を生徒たちに教えて上げてください。九鬼先生の受け持つ科目の授業方針はあなたに一任します』

 

というセリフを告げられた。

なんとも気前のいい校長だ。むしろそれでいいのか。不安だ。行き着く先はアポリアか。

 

 

そんなやり取りがあったことなど、みどりが知る由もなく、クロノスと共に悩ましげな溜息をつくのだった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

遊城十代と呼ばれる少年がいる。オシリスレッドに所属する1年生の一人。

入学試験にてアカデミアの実力派教師『クロノス・デ・メディチ』を破った生徒。

アメコミ風のカードデザインが特徴で、『融合』により真価を発揮する『E・HERO』デッキを扱う決闘者(デュエリスト)だ。

筆記試験の成績は110番とかなり低く、ドロップアウトとしての印象を与えるかもしれないが、実技に関しては、文句なしの実力者。

彼の扱うこの『E・HERO』は、各モンスターが多種多様な融合モンスターの融合素材になり、状況に応じて融合モンスターを使い分けられる。

それにより腐ることも少なく、融合素材代用モンスターを用いることでの同じ切り替えも可能で、クロノスが虚をつかれたのも無理はないと言える。

魔法カードを封じ融合を使用できなくする『ホルスの黒炎竜 LV8』や『魔法族の里』のほか、手札の消費が多いというのが弱点ではあるが、この世界に置いて前者のカードを使うものはほとんどおらず、後者も遊城十代の引きの良さでカバーできる。

そういった意味を含めて、この『E・HERO』は彼に相応しいデッキといえた。

 

「くっそー、あともうちょっとだったのに…」

 

「しょうがないよ、兄貴。あのままだったら警備員に捕まってたよ」

 

「そうよ。入学した瞬間に退学なんて間抜けにはなりたくないでしょう?」

 

通路を走り抜けながら、十代がポツリともらし、共に走っていた翔と明日香がそれをなだめる。

 

この日、十代は万丈目に呼び出され、決闘を行なっていた。

互いのカードをかけた賭け勝負(アンティルール)である。

当然賭け勝負(アンティルール)は禁止であり、時間外に施設を使用するのも禁じられている。

あともう一歩遅れていれば、雷が落ちることは必然だった。

 

 

「――――お?」

 

 

その時、アカデミア各地に配置されている自販機から声が上がる。

3人がヒヤリとして振り向くと、新任の九鬼優亜教諭が、奇妙なラベルのついた缶ジュースを片手にこちらを眺めていた。

翔が慌てて逃げ出そうとするのを明日香が捕まえ、優亜におずおずと頭を下げる。

優亜は返事がわりに軽く片手を上げ、ゆったりとした動作で彼らに歩み寄る。

3人は退学になるんじゃないかと薄氷を履む思いでいたが、それを見透かしたように優亜が笑う。

 

「私の業務時間は5時で終わってるじゃん。時間外に仕事なんてお金にもならないあだ花はいらないじゃんよ」

 

プシュッと、奇抜な缶ジュースの蓋を開けながらヒラヒラと手を振る優亜を見て、ようやく十代達の緊張がほぐれ、安堵のため息が溢れる。

 

 

しばらくして。

明日香はブルー寮のため別れ、十代と翔は九鬼教諭と共に帰路につく。

 

「うげ…やっぱりハズレだったか、『いちご小豆おでんミルク』…」

 

「あ、それ今日おれも飲んだぜ。とても飲めなかったけどな…」

 

「だから僕が止めたじゃないか。人の話を聞かないんだから、兄貴は」

 

とりとめもない話をしながら続く街灯の照らす道すがら。

やがて自然と万丈目との決闘(デュエル)の話になる。

 

「あぁ…それでこんな時間に」

 

何が楽しいのか、カラカラと笑う九鬼。

しかしその笑顔も、『いちご小豆おでんミルク』をもう一口喉に注ぎ込むことで掻き消える。無表情。

模範デュエルでクロノスを手玉にとった謎の新任教師。

十代は戦ってみたいという欲求を内心で抱きながらも、先程の事件と時間の関係でそれを我慢する。

そこで、九鬼が初めて十代に向き直った。

 

「それと十代。死者蘇生でフレイムウィングマンを特殊召喚するつもりだったといったけど、ソイツ、融合召喚でしか特殊召喚できないじゃん?」

 

「…あっ!三沢も言ってたな、すっかり忘れてたぜ…」

 

「『融合召喚のみ』だからな。召喚条件を1度満たしても蘇生はできないじゃん。この辺り面倒くさいけど、ちゃんと覚えておくじゃんよ、テストに出すから」

 

「じゃあ、あのまま続けてたら、やっぱり俺は負けてたのか…悔しいぜ…」

 

地団駄ふむ十代を流し目で見る優亜。

『いちご小豆おでんミルク』を喉に流し込みながら、彼の背中を軽く叩く。

 

「クレイマンを蘇生させればまだチャンスはあったかもじゃん。何にしろ、勝敗は最後までわからないさ」

 

「まるで先生みたいっす」

 

「残念な事に先生なの。ぶち殺すぞチビ」

 

「教師のセリフじゃないっす!?」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

翌朝。アカデミア。

その教室には、1年の生徒が集まっていた。

レッド、イエロー、ブルーの制服をまとった生徒たち。

すでに時計の針は授業中であることを示している。初めての九鬼優亜の講義。

だというのに、

 

「いったいどうなってるの?」

 

と声を上げたのは天上院明日香というブルー寮の女子生徒。昨日十代たちと走っていた少女である。

金の髪を背中まで伸ばし、整った顔立ちは男子生徒のみならず、同性からも高い人気を得ている。

 

彼女が憤っている理由はごく簡単なことで、優亜がこないのである。

授業が開始してから既に10分がたつ。

模範デュエルを見ていた彼女は密かにこの講義を楽しみにしていたぶん、余計に苛立ちがつのる。

 

結局、優亜が教室に入ってきたのは、それから5分後のことだった。

 

「遅れてすまんじゃんよー。なかなかモ〇ハンの緊急クエストがでないもんで」

 

悪びれもせずに教卓につく九鬼に生徒があきれかえるが、適当な調子で付け足されたセリフに生徒は唖然とすることになる。

 

「あぁ…教科書しまえ。いらんそんなの。その代わり私が言うこと書くこと実践すること全てノートにとるじゃんよ。でなきゃ進学できないと思え」

 

 

こうして『こちら側』での。

彼女の初めての授業が始まった。

 




~九鬼先生の噂話~
「先生の実家はすごいお金持ちなんだって!成金会社って言ってたよ!でも、先生は出来の悪いお兄さんを気遣って家出しちゃったんだって!」


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だって義務教育だもの。え、違うの?

ダメージステップの手順ってこれであってます……?
ほぼコピペですがポルナレフ状態になります。



理解できる方がおかしい。

それが、遊戯十代の嘘偽りのない感想だった。

眼前に広がるのは(つわもの)どもの骸と、それを見渡す銀髪教師。

全ては1時間前に始まった。

 

「あぁ…教科書しまえ。いらんそんなの。その代わり私が言うこと書くこと実践すること全てノートにとるじゃんよ。でなきゃ進学できないと思え」

 

九鬼優亜の指示に、訝りながらも生徒たちは教科書をしまう。

彼女はそれを確認すると、ドンッ✩とプリントの束を教卓におき、前に座る生徒たちに取りにこさせる。

 

 

「さて。お前たちに聞くが、デュエルモンスターズのルールは全て理解しているか?」

 

気だるげだが、よく通るどこか柔らかい声。

生徒たちは一瞬何を聞かれたのかわからなかった。九鬼の美声に呆けたわけではない。自分たちとて、試験に受かってこの場所にいる。目の前のこの教師はそれを理解していないのだろうか?と、ほとんどの生徒が憤りを覚えたからだ。

 

「デュエルモンスターズのルールは非常に覚えやすい。だが、理解するのは困難の極みだ。私の授業では、そのルールを完璧に把握してもらう。いいな?」

 

「ちょっと待ってくださいよ、先生。オシリスレッドの落ちこぼれならともかく、オレ達にまでそんな初歩的な講義をすると言うんですか?そんなの中等部でとっくに終わってますよ」

 

声を上げたのはオベリスクブルーの生徒。

名は万丈目準。昨日、遊城十代と校則違反デュエルを行った生徒で、オベリスクブルーでも名のある少年だ。

彼の顔には九鬼を見下すような嫌味な笑みが浮かび上がっており、それがまた九鬼をイラつかせる。

そんな彼の言葉に賛同する声も多数上がり、しまいにはほとんどの生徒が不満の声をあげはじめた。

 

「えぇい、うるさい黙れ潰すぞ。ならワン丈目、ダメージステップはいくつの手順を踏むか言ってみろ!」

 

「ダメージステップの・・・手順?」

 

「あ……? まさかわからんとか抜かすんじゃないよな?オベリスクブルーのワン丈目くん」

 

「万丈目だ!1万をかけろ! えっと、ダメージステップはバトルフェイズに行い―――」

 

「んなこた聞いてない。わからないなら私の講義を受けろうつけ者。いいか、ダメージステップは全部で『18個』の手順を踏む。まずはダメージステップ開始時の裏側表示のモンスターのタイミングだ。ここでミスティックソードマンなどの効果を適用する。次にモンスター公開タイミングだ。ここでマシュマロンなどの単純な永続効果の適用を行う。またリバース効果発動トリガー確定もここだ。次にモンスター公開後タイミング。ドリルロイドやスフィアボムなどの誘発効果発動はここだな。次。戦闘に関わる誘発、永続効果摘要。リフレクトバウンダーのダメージ反転の誘発効果を発動するタイミングだな。そしてフリータイミングを挟んでここからダメージ計算時にはいる。まずダメージ攻守値判定だ。『お注射天使リリー』の効果の発動はここだ。スカイスクレイパーの効果も忘れるな。次。ダメージ処理開始前。みんな大好きクリボーはここで使う。ガードヘッジを使うなら厄介で、次の手順に入る。ガードヘッジ発動時特殊対応処理だ。その次にモンスター同士のダメージ判定で、その後にプレイヤーへのダメージ判定が入る。そしてようやくダメージ確定及びモンスターの戦闘破壊確定だ。ライフからダメージ分減らすのもここだ。ココまでがダメージ計算時。次。戦闘結果に対してのモンスターの誘発効果適用タイミング、そして戦闘結果発動するモンスターの誘ダメージ・回復系発効果解決タイミング。マシュマロンはここでダメージを与えるわけだな。なお、同時に強制効果が被った場合、スペルスピードの早い方から発動する。はい次。戦闘時誘発するリバース、誘発効果の発動タイミング。リバースモンスターの効果発動。次。破壊確定モンスターを墓地または除外に移動する。次。墓地に移動したことで発動するモンスターの発動タイミング 。キラートマトやクリッターはここだ。ダメージステップ終了前に入るぞ。ここで伝説の柔術家などの効果を発動、解決する。はい最後。ダメージステップ終了。」

 

 

マシンガンのように九鬼の口から発せられる専門用語の数々。ヒエラテックテキストにも匹敵する程の難解さ。

うるさかった教室に、一瞬にして沈黙が訪れる。

コンマイ語なるものを習得しなければならない今、ダメージステップで止まるわけにはいかないのだ、さっさと講義を進めたい。

 

「……さて、まあいきなり理解しろといっても無理だろうが。なぜ貴様らはノートを取らない?私はいったはずだ、私が言うこと書くこと実践すること全てノートにとれと。三沢だけか、書いてるのは」

 

その言葉で正気に帰り、先程とは打って変わって、一斉にノートを取り始める生徒たち。それは万丈目や天上院明日香も例外ではなかった。

 

「書いていて何を書いているのかわからなくなってきたわ…」

 

「な、なんだこれは…超エリートの俺が…」

 

ただの書き取りでSAN値チェックを行う生徒達を横目に見ながら優亜はカ〇リーメイト(チーズ味)をぱくつく。

 

「ノートを取りながら聞くじゃん。私の授業で居眠りすることはぜったいに許さない。私が寝る時間とゲームをする時間を削ってまで貴様らに高説を垂れてやってるんだ。寝たらもう起きることはないと思え。なぁ、フレイムウィングマンの効果を忘れていたくせに寝ようとしている十代くん」

 

理解できないと分かるや否や、睡眠の姿勢を取ろうとした十代が慌てて姿勢を正す。

今回ばかりは彼も文句を言うことはなく、隣の翔にルーズリーフを1枚受け取り、バツの悪そうな苦笑いを浮かべる。

 

「そうだ、もし寝ているものを見かけたらその場で私に知らせろ。そしたら0.2点やる。5回摘発すれば1点だ。私の出すテストは先程のダメージステップだけではないぞ。少しでも点数が欲しいんじゃないのか?」

 

悪魔の囁きだった。

裏切りが裏切りを呼び、疑心暗鬼を惹き起こす。

友情破壊の罠が仕掛けられたといっても過言ではない。

 

 

「ZAP!ZAP!ZAP!谷口!先生、谷口君が寝ています!」

 

「国木田てめぇ!交互に寝て片方が見張りとノート取りって約束しただろ、裏切り者め!」

 

「おお生徒、国木田。裏切りとはなんですか。私の授業を聞かないつもりだったのですか?」

 

「いいえ、私は完璧で幸福な生徒ですので九鬼先生の授業で眠るなんてありえません。きっと谷口は反逆者なのです」

 

「WAWAWA~!?」

 

 

阿鼻叫喚。生徒同士は互を警戒しあい、友が倒れるのを今か今かと目をぎらつかせる。

デュエルモンスターズをこんなに苦しく思ったことはないと遊城十代は語る。

 

「はは…マシュマロンは2でソードストーカーちゃんなんだよね、兄貴…」

 

「翔!?しっかりしろ、しょーーーーーーー!!」

 

 

 




1、ダメステ開始時(モンスター裏のままタイミング)
2、ダメステ開始時(モンスター公開タイミング)
3、ダメステ開始時(モンスター公開後タイミング)
4、戦闘に関わる誘発、永続効果摘要
5、フリータイミング
★ココからダメージ計算時----------
6、ダメージ攻守値判定
7、ダメージ処理開始前
8、ガードヘッジ発動時特殊対応処理
9、モンスター同士のダメージ判定
10、プレイヤーへのダメージ判定
11、ダメージ確定及びモンスターの戦闘破壊確定。
★ココまでがダメージ計算時------------------------------------
12、戦闘結果に対してのモンスターの誘発効果【適用】タイミング(プレイヤーダメージ誘発含む)
13、戦闘結果発動するモンスターの誘ダメージ・回復系発効果解決タイミング
14、戦闘時誘発するリバース、誘発効果の発動タイミング
15、破壊確定モンスターを墓地(除外)に移動する
16、墓地(除外)に移動したことで発動するモンスターの発動タイミング
17、ダメステ終了前
18、ダメステ終了

とのことです。
すっげぇわかりやすい早見表ですがわかりにくい。
何を言ってるのかわからねぇと思うが(ry


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脳トレしたら脳味噌まで筋肉になった

 

恐らく、どの学園でも正午の購買部と言うのは戦場ではないかと、九鬼優亜は考える。

少なくとも、自分が通っていた一貫性の学園はそうだったし、前世にて従事していた高校も例に漏れない。

昼食を求める生徒たちによる、血を血で洗う闘争。

我先にと人気の食品や食券に手を伸ばし、飢えた瞳で職員に訴えかける。

『飯を、栄養をよこせ』と。

育ち盛りゆえに仕方のないことだが、やはり好きになれない。喧しいのは苦手だ、喧騒が治まるころに出直そうか―――。

 

そこまで思考して、彼女はふと首をかしげる。

 

 

「………あんぱんを」

 

 

時計は既に正午を指し、この場は既に購買部(せんじょう)のはずだ。

しかし、青春溢れる醜い争いは行われておらず、むしろ寮を問わず死んだ目をした生徒たちが、みな仲良く幽鬼のような足取りで行列を作っている。

 

 

「……なんでもいい、脳に、糖分を…」

 

 

いわずもがな、優亜の講義のせい―――優亜の講義の賜物である。

彼女のスパルタ(?)教育によって極限にまで精も根も尽き果てた彼らにはもはや争うだけの気力が残っていないのだ。

 

遠目から優亜を視認した一人の生徒は「ひっ」と息を呑む。

まるでライオンに睨まれたチワワのようだ。

ダークガイアに睨まれたマシュマロンと言い換えてもいい。

とかく、記憶領域がパンクし机に倒れ伏した時に言われた一言がトラウマになっているのかもしれない。

 

 

『豚めが死んだぞ』

 

 

教育者にあるまじき暴言である。全生徒の顔が引きつったが、彼女はまったく気にも留めず、ただつまらなそうにカロリーメ○トを口に放り込むのみだった。口がパッサパサ。でもうまい。

もっともこの後、この生徒を含めた多くの脱落者に対して付きっ切りで講義を行ったところを鑑みるに、根はしっかりと教師なのかもしれない。

 

 

「…そんなにきつかっただろうか。初めから詰め込み過ぎてもと思って、あまり多くは語っていないはずだったが」

 

 

怪訝そうに眉をひそめながらポツリともらした言葉。

そんな言葉に異を唱えたのは、生気の感じられない丸藤翔―――を親指で指しながら苦笑を浮かべる遊城十代だった。

 

 

「そのセリフはこの翔を見てから言ってくれよ、先生…」

 

 

なるほど、確かに他の生徒同様翔の目からハイライトが失われている。やはりペース配分を誤ったか。いやしかし教えるべきことが沢山ありすぎてこれくらいしないと間に合わない。おのれコンマイ。

だがしかし、その前に。恨み言をいうその前に。

遊城十代。その声色に、優亜は激しい違和感を感じた。

なぜ貴様・・・生きている・・・死んだはずでは・・・!

 

「ん? でもお前は平気そうじゃん、十代。意外だな」

 

 

ダメじゃないか。死んだ奴が出てきちゃあ。死んでなきゃ。

 

 

「あぁ。だってさ、今まで自分がやってきたこと整理してみたらなんとなくわかってさ。筆記は苦手だけど、先生の講義はちょっと楽しかったぜ」

 

 

ちなみに彼女の初回講義を受けてなお、未だ気力が溢れているのは三沢を除けば十代のみだったりする。

天才肌というのはこういうところでも発揮されるものらしい。

優亜は彼に対する認識をすこし改める。

 

 

「まぁ、初めにすこし脅かしておくとお前たちも気合が入るじゃん。それに、不本意とはいえ、仕事は仕事だ。手を抜くつもりは一切ないよ」

 

「…だからってアレはやりすぎだよ。あんなの理解できっこないし、実際デュエルするのにも役に立つはずないッス」

 

 

ようやく少し気力が戻ったか、はたまた優亜に対する不満が彼を死の淵より呼び戻したのか。

恐らくは後者であろう、翔は批難に満ちた眼で優亜を見ていた。

そんな彼を優亜はまっすぐと見据え、告げる。

 

 

「流石だ、まともにデュエルもできんガキは言うことが違うな。ではお前が言うデュエルに役の立つ講義とはどんなものだ?クロノス教諭のようにフィールド魔法の説明でもしたほうがいいか?まさかな、それこそ万丈目のいう初歩中の初歩だが、そんな講義をお前は受けたいのか?」

 

 

はっきりと攻めるような言葉に翔はたじろぐ。元々気の弱い彼が文句を言えるはずもなかったが、なにより、何をどう言い返せばいいのかすらも思いつけなかった。

 

 

「理解できっこないか。すばらしい負け犬根性だ、流石に私も端から理解する気のないやつには何も教えられんな」

 

 

どうやって理解する気にするか、それも教師の仕事ではあるが。

と、内心で優亜は付け足したが、当然それを知るものは誰もいない。

 

 

「はっきり言っておくぞ。私はこの学園の連中すべてを下せる自信、確信がある。貴様の兄とて例外ではない。当然だ、ここの連中はリスペクトだのなんだの言って、肝心の知識も構築力もろくに伴っていない」

 

 

自信過剰としか取れない発言。優亜自身もそう理解しているし、すこし強引だったとも思う。

しかしコレは彼女の嘘偽りのない本心であるし、なにより。

翔に、その他自信のない生徒に。

否、この学園のすべての生徒に自分の存在を知らしめるため。

そして、自身の講義を受けるすべての生徒に向上心を持たせるため。

彼女はここで一発かますことにした。

 

 

「あ、ありえないっス!クロノス先生に勝ったのは確かだけど・・・お兄さんはプロ入りがほぼ決まってるデュエリストっス、そう簡単に――――」

 

「なら。試してみるか?なあ、丸藤亮」

 

(ちょっと挑発がすぎたけど・・・でもコレくらい派手にいくのが私流じゃん)

 

 

内心でそんなことを思っているのを億尾にも出さずに、翔の訴えを遮り、既に注目の集まる購買部(このば)で、静かに、しかしよく通る落ち着いた声で告げる。

 

しばらくの静寂の後。

 

「・・・・・・いいでしょう。俺も先生には興味があった。なにより、俺のデュエルを侮辱されて黙っているわけには行かない。」

 

生徒を掻き分け現れたのは、静かな闘気をその身に纏った、アカデミアの帝王(カイザー)

丸藤亮、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本気で挑発するならハザマさんとかベクターとかいろいろ混ぜた挑発にしますがね

エヌアインを仲間から薦められた結果、ペル子がツボにはまりました。
なんだあの可愛い生物


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