MOON-CRAFT (髑髏饅頭)
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MOON-CRAFT・・・Act.Ⅰ:「甲冑の鍛冶師」

こちらの作品は、TYPE-MOON作品とサモンナイト・クラフトソード物語、オリジナルなどの要素をゴッチャに混ぜています。
つまり、666の獣を取り込んだ混沌みたいなものです。
ネロ・カオス教授の動物園に加わりたくなければ、生を謳歌しながら、ことごとく食い砕きながらお進みください。
そうなりたい人は、優雅に、よりしなやかにお進みください



 

―――――― 人の強さとは、権力であらず、財力であらず、暴力であらず。

 

四つの分かれた異世界の中央に存在する世界――― ”リィンバウム”

 

四つの分かれた異世界には、それぞれが属性のように違う文明や文化が存在する。

 

「機界・ロレイラル」 ―――機械技術・情報科学が発達し、機械が機械を生み出し、機械のみが住む世界。 過去、激しい戦争の後にロレイラルは機械のみでしか住めない場所へとなってしまった。

 

「鬼妖界・シルターン」 ―――鬼や龍、妖怪たちが住む世界で、そこの文化は他の世界とは大きく違い、他の世界では珍しく人間と似た種が多い。

 

「霊界・サプレス」 ―――幽霊、悪魔、天使等の霊的な存在が住まう世界。 嘗ては、この世界からリィンバウムを蝕もうと企み、世界へ進軍する悪魔の軍勢が存在していた。 ・・・そして、今も・・・

 

「幻獣界・メイトルパ」 ―――緑豊かな世界で、幻獣や亜人達が暮らしている。 好戦的な亜人も居れば、友好的な亜人も存在する。 だが、力が強いが為にリィンバウムで何も思わない者達により召喚され、労働力にされている。

 

そんな四つの世界が取り巻く中で、一つだけ「名も無き世界」と呼ばれる世界が存在していた。

 

「名も無き世界」 ―――現在の研究では詳細が判明していない世界。 実験などで稀に召喚されるがその殆どは石像などの物体だけであるが、中には人間も召喚される。 その人間は「ニホン」という国から来たと証言している。

 

リィンバウムは、そんな世界を中心に様々な文明を築き、そこでは召喚術を元に人々は暮らしていた。

 

物語は、そんなリィンバウムにある一つの海上都市―――”剣の都 ワイスタァン” と呼ばれる場所で起きた出来事である・・・。

 

物語の始まりは、ワイスタァンにある一つの二階建ての家から始まる。

二階のベッドで、布団を眉の様に体を包むようにして眠る一人の青年。

その隣には、甲冑の部品が綺麗に並べられており、いつでも着替えれるように置かれている。

 

 「……は…く……」

 

その時、 遠くから声が聞こえた。

ぼんやりとしか聞こえない為、 ハッキリとは聞こえなかったが、 声は現在寝ている家の二階からではなく、 一階から聞こえた。

 

 「ん・・・んんー・・・?」

 

声がして、 薄っすらとだが目を覚めた。

そのまま起き上がり、 傍にあった甲冑の部品を手にして早々に着替えを始める。

まだ眠気が覚めていないにも関わらず、 まるで水洗い場で顔を洗うが如く、 器用にも楽々と鎧を装着していく

 

 「………さ……い……!」

 

そんな着替えをしている最中でも声が聞こえるが、 未だ眠気が覚めていないのか・・・はっきりと声が耳に届いていなかった。

 

 「んー・・・”はくさい”・・・?」

 「………、 …音、 聞いてるの? 早く起きなさい!」

 

ようやく声がハッキリと聞こえ、 それが聞き覚えがある声だと分かった。

 

 「ん…? ”アマリエ”さん…?」

 「これで起こすの三回目よぉー! 今日は大事な開会式なんでしょー? 早く降りてきなさーい!』

 「んんっ・・・あっ・・・そっか・・・今日は開会式だっけ・・・」

 

そうこうしている間に鎧の着替えが完了した。

 

 「もう・・・! ……えっ?」

 

 

 

―――――― 「キャアァァ~~~~~~!!!」

 

 

 

その時、 一瞬の間が開いたと思いきや、 突然聞こえたアマリエの悲鳴に驚き、 先ほどまでの睡魔が一気に飛んでいった。

素早く着替えた甲冑姿の青年は、 「何事ッ!?」 と驚き、 慌てて 『ガシャガシャ』 と甲冑を大きく鳴らしながら階段を素早く下りていく。

 

 「大丈夫ですか、アマリエさんッ!!?」

 

しかし・・・一階に下りるや否や、 そこには先ほどアマリエと呼んだエプロンを着た女性が平然とした穏やかな顔で何事も無かったように台所に立っていた。

 

 「・・・って・・・あれ?」

 「あら、〝セイ〟ちゃん。 おはよう」

 「あっ・・・えっ? お・・・おはようございます・・・」

 

アマリエの優しい挨拶により、 少し混乱しているセイは、 今さっきとはまったく違うペースでアマリエの元へと向かう。

 

 「あの~・・・アマリエさん? つい先ほどの叫び声は~・・・?」

 「あぁ、あれはセイちゃんを起こす為のお芝居よ♪ お・し・ば・い♪ 見事に効いたでしょ?」

 

アマリエは、 ウィンクしながらそういう・・・、 ・・・そんなアマリエにセイは苦笑の笑みを浮かべていた・・・

 

 「あははー・・・、 ・・・ええ・・・確かに効力としては大変効果的でしたけども、 同時に心臓に大変悪影響を及ぼすお芝居ですねぇ~・・・」

 「あら、 結構ビックリさせちゃった?」

 「はい。 凄く、 とっても」

 「あら、 そう・・・ごめんなさいね~、 それじゃあ今度からは、おはようのキスでもして起こしてあげようかしら?」

 「それも色んな意味で心臓に悪影響ですので止めてください」

 

そんなセイとアマリエにとっては日常茶飯事の会話が淡々と流れる。

 

甲冑を着た者。 名は――――― 「セイ」

全身を甲冑で覆い、顔も見えない様に兜を被っている。

ある日、突然ワイスタァンにやってきて、路上で迷っている所をアマリエの夫、《シンテツ》に拾われ、それから行く当ても無いという事で置いて貰っている・・・言わば居候の身。

どんな事があっても甲冑を脱ごうとせず、「脱がせないでください」と断固として言い脱ごうとしない。

だが、さすがに眠る時には脱ぐのだが、いざ脱いだ体と顔を拝見しようとしても人の業とは思えない速度で着替えて見せない。

現在は、シンテツが謎の事故により亡くなってしまい、一人残されたアマリエと共に住んでいる。

 

そして・・・セイと話す主婦が――――― 「アマリエ」

ワイスタァンの中央にある巨大な城、〝工城〟という場所で、〝鍛聖〟と呼ばれるワイスタァンの最高評議会も兼ねる鍛冶師の総称、その役目をしていた一人、〝黒鉄の鍛聖 シンテツ〟の妻だった女性である。

今はシンテツに先立たれてしまって、未亡人の身だが、夫が亡くなる前に出会ったセイのおかげで今でも明るく優しい性格を振舞っている。

セイの事を自分の子供のように可愛がり、大切にしている。

 

 「それより・・・今日は大事な鍛聖を決めるトーナメントの開会式でしょう?」

 「ああ、そうですね」

 

今日は、鍛聖であるシンテツが亡くなり、現在は空席となっている鍛聖の席を埋めるために開かれるトーナメントの開会式の日、

セイは謎が多いシンテツの死の原因、そして、その後釜を継ぐためにトーナメントに参加することになっていた。

 

 「もう、自分からエントリーしといて遅刻だなんて・・・、―――って、もう開会式が行われる時間じゃない?!」

 「えっ・・・、うわっ! ほんとだ!」

 

時計を見て驚くアマリエの言うとおり、時計を見てみると・・・予定時間の15分前まで回っており、完璧に遅刻寸前だった。

 

 「やッばい・・・! 昨日の準備が祟ったか、遅刻ギリギリだ・・・ッ!」

 

セイは慌てて二階に上がり、開会式に必要な参加票を手にし、先ほど慌てて下りた階段を数段下りた所で豪快にジャンプして猫のようにしなやかに着地した。

それから、万一に水の上を移動する際に必要なウクーターと呼ばれる折り畳み式の小型の水上用乗り物を手にし、急いで扉に向かう。

 

 「それでは、アマリエさん。 行ってきます!」

 「あ、ちょっと待って!」

 「何ですか?」

 

突然、セイを止めたアマリエはポケットの中から手作りのお守りを取り出し、セイに見せる。

 

 「それは?」

 「・・・私の夫、シンテツにプレゼントしたお守りよ」

 「シンテツさんの・・・」

 

アマリエはセイの手を持ち、その手のひらの上にお守りを置くように手渡した。

 

 「頑張ってね、セイちゃん!」

 「……はい!」

 

お守りを手にセイは家を後にした。

 

 

――――――出て行く寸前、チラッと見えたセイの目に見えたアマリエの顔は、少しだけ寂しそうに見えた・・・。

 

 

 

 

 

--------------------------------{銀の匠合 (玄関前)}--------------------------------

 

 

家を出て、すぐに走ってトーナメントの会場となる〝工城〟へと急いで向かうセイ

 

 「よぉ! セイじゃねぇか!」

 

その途中、〝銀の匠合〟 と呼ばれる鍛冶師達が日々武器作成の鍛練をしている施設、

その出入り口前で朝の空気を吸っていた一人の大柄の褐色肌の中年男性が先を急ぐセイを引き止めるように声を掛けてきた。

 

 「あ、ブロンさん。 おはようございます!」

 

声を掛けられたセイは、その男の前に立ち止まり、明るく挨拶をする。

 

 「なんでぇセイ。 そんなに急いでよぉ・・・、まさかトーナメントに遅刻してる・・・なーんて言うんじゃねぇだろうな~?」

 

そうニヤけた顔で自分の顎を優しく擦る彼の名は――――― 「ブロン」

ワイスタァンに存在する鍛冶師達が集う施設の一つ、 ”銀の匠合” で親方をしており、その鍛冶師としての腕は鍛聖並みの凄さを持っていると噂されている。

セイとは、亡くなる以前のシンテツの紹介で知り合った仲で、ブロンは一目セイを見て、セイの中にある鍛冶師としての才能を見込み、見習い鍛冶師として銀の匠合に誘った。

その誘いにセイは喜んで受け、今ではセイは銀の匠合では腕の良い鍛冶師として毎日働いている。

 

 「あはは~・・・お恥ずかしい事に~・・・」

 

セイの苦笑混じりの正直な答えにブロンは少しため息をついて苦笑いをした。

 

 「おめぇよぉ。 本ッ当に嘘を付かねぇよなぁ・・・ま、正直なのは悪いことじゃねぇけどよ!」

 「あのぉ~・・・すみませんけど、僕そろそろ行ってもいいですか? 本当に時間が無いんですよ・・・」

 「お、わりぃわりぃ、―――っと言いてぇが、丁度良い。 お前さんに言っておかないといけねぇ事があったんだよ」

 「用件ですか? いいですよ、聞きます」

 「あぁ、ありがとよ。 んで、話ってーのはな、〝開会式が終わったらウチの工房に直行で来い〟 ―――以上だ!」

 「―――――それだけですか?」

 「おう。 それだけだ」

 

セイはその後は何も言わずに先ほどよりも倍の早さで走っていった。

その後ろでブロンが 「気をつけてなぁ~」 と手を振っており、セイは真正面だけを見ながらだが、片手を上げ、ブロンに対して手を振り返した。

 

 

 

--------------------------------{工城}--------------------------------

 

ブロンと一旦別れ、無事に辿り着いたワイスタァンで一番大きな施設――――― 「工城」

ワイスタァンの中央に建っており、ここでは鍛聖と呼ばれる一流の鍛冶師が武器などを作り、ワイスタァンの今後について会議で議論し合っている。

ワイスタァンにとって必要不可欠な場所であり、万が一の住民達の避難所としても昨日している。

 

そんな工城に、なんとか時間に少し猶予を持ちながら辿り着いたセイはホッと一息つく。

だが、念には念と少し小走りで開会式の会場へと向かう。

 

 「えっと・・・、確か開会式は二階で行われるんだっけか?」

 

そう言いながら、門をくぐり抜け、一階フロアで開会式の参加票を片手に階段を上り、二階へ向かう。

二階に上がると、すぐに開会式が行われる部屋が見え、扉前で警護している役人に参加票を手渡す。

参加票を見た役人から 「お通りください」 と言われ、中の広間にへと足を進めていく

 

 

――――――会場に入った瞬間、他の鍛冶師達のざわめきがセイを迎え入れた。

 

 

会場となる広間には、これでもかと言うぐらいの人数の鍛冶師達が居り、それぞれの独り言や会話が混ざって雑音に聞こえていた。

 

その中に見覚えがある鍛冶師が居た――――― 「金の匠合」

セイが居る銀の匠合は、質の良い武器を作り、武器に対する愛情と情熱が強い鍛冶師たちが集まる匠合だが、

金の匠合は、それとは逆に商売目的に武器を作り、品質よりも物量が主で、大量生産などをして格安で武器を提供する匠合。

 

金と銀。

この二つの匠合は昔から犬猿の仲であり、質を大事にする銀の匠合、それに対し量を大事にする金の匠合・・・

セイが世話になっているブロンも、金の匠合のやり方に一層気にくわぬ態度をとっており、金の匠合の親方もブロンの事を嫌っていた。

金と銀の親方が出会えば、その瞬間から喧嘩が勃発する程である。

 

 (やっぱり、金の匠合の人たちも居るなぁ・・・)

 

そう思いながら、セイは適当に自分が入れるスペースを見つけ、そのスペースにスッポリと入る。

他のと比べ、大分周りとは印象がまったく違うセイをチラ見する人たちも居るが、セイは気にせずに居た。

 

――――――そんな中、目の前に赤毛のポニーテールをした女の子が居た。

 

 (うわぁ・・・凄く綺麗な赤い髪・・・まるでルビーみたい・・・)

 

セイの存在に気づいておらず、背を向ける少女の赤い髪は炎のように紅く、丁度ステンドガラスから差す日の光が当たり、ルビーのように美しく光って見えた。

そう見とれている中、一人の役人が会場の舞台に上がり、 「これより開会式を行います!!」 と大声で言った。

その大声と同時に先ほどまでざわめいていた鍛冶師たちが一斉に黙り、辺りは静まり返る。

 

 (あっ、始まった・・・)

 

辺りが静かになった事を確認した役人は、手に持っていた紙を両手で広げて、以下の名前を大声で言った。

 

 

―――――― 「琥珀の鍛聖 ルベーテ様!」

 

 

―――――― 「翡翠の鍛聖 ウレクサ様!」

 

 

―――――― 「青玉の鍛聖 サクロ様!」

 

 

 「よろしくお願いします!」

 

役人が言い終わり、集まった鍛冶師達からの盛大な拍手と共に三人の男性がやってきた。

一人は橙色に近い赤の装束をしてヒゲを生やした中年の男性、

一人は緑色の装束を着ており、黒色と薄い山吹色をした髪が上下に分かれた髪をしており、女性のように白い肌をした男性、

そして最後に眼鏡を掛け、青い装束を着た二人よりも少し若い男性が役人が呼ばれた順にやってきた。

 

 「よく来た、鍛冶師の卵達よ!」

 

まず最初に、赤の装束を着た琥珀の鍛聖、ルベーテが話を始める。

 

 「剣の都を守る剣の聖霊王の子達よ! 君達も分かっているように今日から鍛冶師としての腕を競うトーナメントを開催する」

 

緑の装束を着た翡翠の鍛聖、ウレクサがルベーテの話を繋げて話す。

 

 「三年前・・・もっとも尊敬すべき黒鉄の鍛聖シンテツ師がお亡くなりになった」

 

青の装束を着た青玉の鍛聖、サクロが同じくウレクサの話を繋げて話す。

 

 (黒鉄の鍛聖・・・シンテツさん・・・)

 

――――― 「シンテツ」

セイが拾われ、世話までされた、アマリエの夫でもある、黒鉄の鍛聖を務めていた者。

だが、三年前に他界してしまい、工城にある鍛聖用のタタラ場で力尽きるように亡くなっていた、という不審な死を遂げていたが、ハッキリとした死因も分からず、結局〝過労死〟という事で事々が片付けられた。

 

セイが世話になっていた人物というが、実際の所・・・そこまで関係が深い訳では無かった。

―――と、いうのも、シンテツは鍛聖という事もあってか、ワイスタァンでは重要人物の一人であり、

日ごろは、工城での生活が主になっており、自宅に帰る事は滅多になかった。

例え、帰ってきても一食だけ済まし、その後は用事で再び工城に戻るというのが当たり前だった。

 

――――――だが、今も思い返せば不可解な死だ。

 

シンテツが無くなった日、いつもと変わらぬ時間だった。

セイが最後にシンテツに会った時は、突然死するような素振りも面影も見当たらなかった。

シンテツの遺体には、特に外傷はなく、暗殺によるものでもない。

だとするならば―――。

 

 

 「そして水晶の鍛聖テュラム殿も姿を消してしまわれた・・・」

 

サクロの言葉で、考えていたセイはハッと我に戻る。

 

 (・・・おっと・・・いけない、今は開会式に集中しないと・・・)

 

幾つかの疑問を抱えながら、セイは鍛聖達の言葉に耳を傾ける。

丁度、最近になって行方不明となった鍛聖、テュラムについての話題に変わっていた。

その話題に周りの鍛冶師達が再びざわめき始める。

 

「何故消えたのか?」 「シンテツの死と何か関連性が?」 ――――そんな疑問を投げかけながら。

 

 「〝剣の聖霊王 パリスタパリス〟の守護者たる我々七人の鍛聖に長く空席があるべきではない、そこで今回の大会で、ここに集まった君達の中からもっとも優れた鍛冶師一人を・・・鍛聖として我々七鍛聖の仲間に迎え入れよう!!!」

 

サクロのハキハキと力強い言葉に会場に集まっている鍛冶師達は 「オオオオオオォォォォォーーーッ!!!」 と今まで最骨頂の盛り上がりを見せた。

そして、サクロの力強い台詞に続き、ルベーテが言葉を口にする。

 

 「正直、キミ達はまだ未熟だ。 鍛聖はおろか、鍛冶師としてもヒヨッコだ。 だが・・・そんなキミ達をあえて鍛聖候補に選んだのは他でもない。 キミ達

の若い力こそがこれからの剣の都に・・・このワイスタァンに必要な力だと、そう考ているからだ!」

 

サクロに続き、ルベーテが一層と鍛冶師達を盛り立てた。

 

 

「ふん、くだらん。 若いから未熟だと? 大人だから良い武器が作れるわけではなかろう」

 

 

――――――そんな盛り上がる会場の中でポツリと小さく呟く、金髪の少年が居た。

 

セイは、そんな会場からポツリと出た小さな声を聞き逃さなかった。

 

 (確かにその考えには同意するかな、子供だって大人に負けない才能があるもの)

 

 

 「そして、必要なのは男の子じゃなくて女の子の力ってわけよね~・・・」

 

 

――――――それと同時に目の前に居た先ほどの赤髪の少女が口を開いて言った。

 

真後ろに居たので当然、その言葉を聞き逃さなかった。

 

 (うん、その考えはどうあれ・・・女性には女性にしか出せない力ってあると思うなぁ・・・)

 

 

 「ふふーん! みんなキンチョーしてるみたい、やっぱり優勝するのはボクだね!」

 

 

――――――そんな中、一人の黄色のバンダナと服を着た子供がニカッと笑い、言った。

 

肌は、銀の匠合のブロンと同じく褐色肌であり、目立つ黄色いと黒の服を着ており、短パンではなく、スパッツを穿いていた。

歳は先ほどの二人と比べて少し年下のように見えた。

 

 (別に緊張してるけどね、―――でも、なんか羨ましいなぁ・・・あんなに太陽のように明るい笑顔を振舞えて・・・私なんて・・・)

 

そう聞いている内に、鍛聖達のスピーチが終わり、青玉の鍛聖であるサクロが大会の幾つかのルール項目の説明が始まる。

まず、鍛冶師としての腕、そして鍛聖としての力を見る為に試合は自分の作った武器のみでの勝負である事。

 

 (まぁ、鍛冶師だもんね。 自分の武器は自分で作らないと・・・)

 

続いて、勝敗は、どちらかが武器を破壊するか、立ち上がれなくなったら負けとなるという事。

 

 (ホッ・・・なら武器破壊に専念した方が良いね)

 

そして次に、共に武器を鍛えるパートナーを持つ事と、パートナーの戦闘への参加を許可、ただし戦闘に参加できるパートナーは一人のみという事。

 

 (パートナーかぁ・・・う~ん・・・まぁ、今の現状ではパートナーは無理かな。 召喚術使えないし・・・)

 

そして最後に、武器作成の材料を集めるために中央工城の〝地下迷宮〟 の潜入の許可、カギは後々、係りの者が持っていくとの事。

 

 (地下迷宮・・・この城の最深部へと続く唯一の道)

 

―――――― 「地下迷宮」

昔、このワイスタァンに住んでいた過去の人たちが築いたダンジョン。

何のために作り、そこで何をしていたのかは不明のままだが、海底へと続いており、今でも傷つく事なく存在している。

だが、現在は過去の先人が残したはぐれ召喚獣達の巣窟となっており、幾つかの階では海水の漏れの事故などで水浸しになってしまっている階層が存在する為、一般人は立ち入りを禁じられていた。

 

 (はぐれ召喚獣・・・召喚されたけれども、召喚した者・・・召喚師が何らかの出来事で亡くなり、元の世界に帰れずに彷徨っている可哀想な者達・・・)

 

セイ自身、はぐれ召喚獣に関しては少し気が引けていた。

召喚され、奴隷のように扱われ、最悪・・・はぐれ召喚獣になってしまい、軽蔑され、一生を別世界である、このリィンバウムで過ごす事になる。

しかも・・・中には人間と変わらない者も居て、それらもはぐれ召喚獣となってしまう。

 

 (このリィンバウム・・・、妙な所でおかしいと思う、どうして差別を起こすのか、〝協力〟という言葉がまったく無い。 ―――現に、その召喚獣への差別で争いの火種が出たという事件が幾つかある)

 

そう悲観しながら考えている中でも、鍛聖達の言葉が続く。

 

 「大いなる力を持つ聖霊王を無法者達の手から守るため、地下迷宮には危険が多い! しかし、自分の身は自分の手で守ってもらいたい。 鍛聖候補としては当然だ」

 (その通りだ。 鍛聖になるのであれば、力も必要だろうし、地下迷宮で自らを鍛える良い機会にもなる)

 「さて・・・肝心なる対戦相手についてだが、対戦の組み合わせなどは試合ごとに中央工城が発表する。 これで試合の説明については以上だ」

 

 

――――――「武器は鋼の硬さにあらず」

 

 

 

――――――「武器は剣の腕にあらず」

 

 

 

――――――「武器は友の助けにあらず」

 

 

 「鍛冶師の三宝を忘れず、全力で試合に挑んで欲しい」

 「この大会を通して、君達は友情を育み」

 「腕を磨き、剣を鍛え、一人前の鍛冶師になり、我々と肩を並べる鍛聖となるに相応しい力を手に入れることを心から願っている! 以上だ!!」

 

三人の鍛聖、ルベーテ、ウレクサ、サクロの言葉によって、開会式は鍛冶師たちの最高の盛り上がりによって無事に終えた。

開会式を終えた後、工城に向かう最中に出会ったブロンの言葉を思い出したセイは、そのまま銀の匠合へと足を進めた。

 

 (ブロンさん、 「銀の匠合に来てくれ」 ――――なんて言ってたけれど、何の用件なんだろうか・・・? ブロンさんの事だし、何か助言でもくれるのかな?)

 

 

 

--------------------------------{銀の匠合 (玄関前)}--------------------------------

 

到着して、すぐに銀の匠合の中に入るや否や、二階へと続く階段付近にブロンが居た。

大分待ち焦がれていたのか、そこら辺を行ったり来たりとウロウロと歩き回っていた。

 

 「ん・・・? おう、セイ! 随分とおせぇじゃねぇか!」

 

やってきたセイの姿に気づき、それと同時に少し怒鳴るように声を掛ける。

 

 「しょうがないですよ、開会式が豪く長かったんですから・・・」

 「あ~・・・、・・・まぁ、そりゃしゃあねぇけどよぉ・・・」

 「それで? 何ですか、用件というのは?」

 「おう、ちょいとこっちに来てくれ」

 

セイはブロンに言われるがままについて行き、一階にある親方部屋に入ると、そこに一人の男がポツンと椅子に座っていた。

セイとブロンの姿を確認すると、立ち上がり 「どうも」 とお辞儀してきた。

それに対し、セイも 「どうもです」 と、返事を返しながらお辞儀をした。

 

 「・・・で、ブロンさん。 この方は?」

 「あぁ、この人は召喚師の方だ、わざわざ遠い所からワイスタァンに来てもらったんだ」

 「えっ・・・遠い所からって・・・どうして?」

 

そういうセイだが、 「まさか」 ―――と、薄らとブロンの、この行動を察していた。

 

 「そりゃあ、おめぇ・・・パートナーを付ける為じゃねぇか」

 「パートナー・・・ですか・・・? (うわぁ・・・見事に予感的中だ。 なんという〝予想可能回避不可〟・・・)」

 

ブロンの返しの言葉に、セイは思わず気の抜けた言葉が出てしまった。

それにはさすがのブロンも 「おいおい・・・」 と小声でため息をついた。

 

 「気がのらねぇような台詞を吐くなって、もしやとは思うが・・・お前さん、パートナー無しで大会に出るなんて思ってるだろ?」

 「まぁ・・・はい・・・ただでは済まないと覚悟はしてましたし・・・」

 「・・・あのよぉ・・・さすがに、それじゃあ不味いもんがあるってぇもんだろうよ・・・」

 「えっと・・・話を戻しまして、要するにブロンさんは、こちらの召喚師の方に召喚を頼んでもらい、呼び出した召喚獣をパートナーに大会に出場しろと・・・?」

 「おう、概ねそういうこった。 それじゃ、いっちょお願いしますわ」

 

ブロンがそう頼み、 「分かりました」 と召喚師は軽く頷き、セイの前に立ち、ジッと見つめた。

 

 「それでは、召喚術の儀式を始めます」

 「はい」

 

セイも素直に観念したのか、召喚師の言葉を真面目に聞く。

 

 「では、幾つかの質問をします・・・まず、最初の質問は―――― 〝貴方の恩人、シンテツをどう思いますか?〟」

 「シンテツさん・・・ですか、――――そうですね。 私は、もっとシンテツさんについて知りたいです。 彼の死についても未だに謎が残る・・・その答えを得る為に、この大会の出場を決定したようなものですから」

 

シンテツの死。

先ほど、開会式の時でも思ったが、今回の大会に出た一番の理由がこれになる。

大会に優勝し、鍛聖になれば、シンテツの死に対して何か分かる第一歩が踏み出せるのでは?

そう思っての出場なのだから。

 

次の質問に移る。

次の質問は、〝鍛冶師として大切なものとは、何か?〟――――。

 

 「鍛冶師として大切なもの――――、そうですね、誰かを守る力・・・そう、リィンバウムの住人や召喚獣を差別しない平等で、弱き人の盾となる思いやりの気持ちだと思います。 ただ無残に武器を振るうのではなく、大切な人のことを思い、それを守るために武器はあるんだと思います」

 

その答えに対し、召喚師は 「良い答えですね」 と返してきた。

そして、最後の質問、〝あなたにとって 「優しさ」 とは?〟――――。

 

 「僕にとっての優しさ――――、それは、どんなに自分が苦しかろうと、自分の他に苦しみ、悩んでいる人に手を差し伸べる〝優しさ〟がそうだと思います」

 

・・・そう答え、三つの質問は終了した。

 

 「――――分かりました。 それでは、何か大切な物を差し出してください。 それを使い、貴方に相応しい召喚獣を召喚します」

 

そう言われ、ふと首に着けていたアマリエから貰ったシンテツのお守りを取りだした。

 

 「おい、おめぇ・・・それはシンテツのじゃねぇか!?」

 

シンテツのお守りを見たブロンにセイは頷く。

 

 「えぇ・・・アマリエさんから頂いた物なんですが・・・」

 「宜しいでしょう。 では、この〝サモナイト石〟を持ってください」

 

召喚師から綺麗な魔力の篭った宝石を手渡される。

 

 「召喚術には欠かせない石です。 そして・・・強く念じなさい・・・、貴方の力となってくれる護衛獣が必要だと!」

 「はい!」

 

そして本格的な召喚術が始まる。

 

―――――― 「古き英知の術と、我が声によって、今ここに召喚の門を開かん」

 

召喚師の目の前の空間が光り輝き、現れる。

それと同時に部屋の真ん中を中心に突風が発生し、空間に吸い込まれるように吹く

 

―――――― 「我が魔力に答え来たれ、異界のものよ。 ここに叫ぶ 新たなる誓約の名を その名は――――」

 

「セイ―――――!!!」

 

一瞬、強力な光が辺りを包み込む、徐々に光が止んでいき、部屋の中央に一人の少女が居た。

その少女は、フワフワと浮いており、桃色の髪をして優しそうな顔をしていた。

 

 「――――ここは・・・ワイスタァン?」

 「女の子・・・?」

 

セイの言葉に反応して少女が振り返る

 

 「…………。」

 「あの・・・えーっと?」

 

女の子はセイをジッと見つめるや否や、何かを理解したようにニッコリと笑顔を見せる。

 

 「初めまして、私の名はシュガレットと申します。 やさしく・・・してくださいね?」

 「・・・ぇ、あ、うん・・・」

 

シュガレットと名乗った少女にセイは反射的に頷いて答えた。

 

 「こいつは驚いた・・・おめぇが、まさかシンテツの野朗と同じ護衛獣を召喚することになるとはな・・・」

 「えっ、それって・・・」

 「どうもこうもねぇ、こいつは・・・」

 「――――なるほど、貴方さまはシンテツさまのお子さまなんですね?」

 「へっ?」

 「・・・いいです、とっても」

 

シュガレットはセイの甲冑にそっと抱きついた

それには、さすがのセイも驚き、戸惑った。

 

 「うぉう!? ちょ、ちょっとぉっ!? あの・・・えーっと・・・ぼ、僕はシンテツの子供ではなく・・・その・・・!」

 「あー・・・わりぃが・・・シュガレット? そいつは残念ながらシンテツの子供じゃねぇんだ・・・。 だが、ある意味では子供に近い存在かもしれん」

 「え・・・それって・・・?」

 

ブロンの言葉を聞いたシュガレットは頭に?マークを浮かべながら首を傾げる。

 

 「そいつはシンテツの嫁さん、アマリエさんと一緒に住んでいる者でな、まぁ今後はそうじゃねぇんだが・・・」

 「え、えぇ・・・アマリエさんとは親しくさせて頂いてます。 シンテツさんも鍛冶師をしている私にとっては憧れだった存在で・・・」

 

そう返すセイだが、どこか先ほどのブロンの台詞に 「ん?」 と思える部分があった。

だが、話はすぐに進む。

 

 「それを踏まえたら、ある意味では無関係とは言えねぇな、セイ。」

 「う~ん・・・まぁ・・・そう・・・なんでしょうけど・・・」

 「うし! そんじゃあ、少し落ち着いたら二階に上がって、真っ直ぐの部屋に入ってこい。 先にそこで待ってるぜ」

 

そういってブロンは先に二階へと向かっていった。

 

 「あ、はーい」

 「あの・・・嫌・・・ですか? 私に抱きつかれるのは・・・」

 「ん? あー・・・いや? 僕は大丈夫だよ。 なんというか・・・慣れちゃってるっていうか・・・なんというか・・・」

 「・・・もしかして、私の事が嫌いに・・・」

 

シュガレットの目が潤む

 

 (うぅっ・・・!)

 

その時、セイの良心が酷く痛んだ。

 

 「き、嫌いになってないよ!? いや、急に抱きつかれてビックリはしたけどさ?! あの、えーと!」

 「ふふっ・・・そうですか、良かったです」

 

微笑むシュガレットにホッと胸を撫で下ろす。

 

 「よし。 そんじゃあ、ブロンさんが待ってる部屋まで行こうか」

 「はい、セイ様」

 

こうして、セイはシュガレットというパートナーを得て、改めてブロンが待つ二階の部屋へと向かう。

 

 「・・・ねぇ、シュガレット?」

 「はい? なんですか?」

 「僕の腕に胸がすっごく当たってるんだけど?」

 「・・・当ててるんです♪」

 

 

--------------------------------{銀の匠合 (二階)}--------------------------------

 

部屋の前でブロンが待っていた

 

 「おう、来たか!」

 「はい、ブロンさん。 ここは・・・」

 「おう。 今後から二階にある工房は特別にお前達トーナメント参加者専用で使うことになった!」

 

セイとシュガレットは部屋の中に入る。

部屋の中は、とても広く、奥には剣を鍛えるためのタタラなどがあり、セイにとったら見慣れた光景に思えた。

 

 「どうだ? 気に入ったか?」

 「はい。 ありがとうございます、ブロンさん」

 「おう! そいつは良かったぜ。 ・・・あー・・・言っておくが、今日からここがお前の寝起きする場所になるからな?」

 「あ、さっき言ってた 『今後はそうじゃない』 ってそういう意味だったんですね? でも、それだとアマリエさんに・・・」

 

『アマリエ』 ――――――

セイは薄々気が付いていたが、その単語が出た時にシュガレットが少しだけ反応していた。

 

 「心配無用だ、一応アマリエさんからは了解済みだ。 」

 「そうですか・・・。 (ああ。 だから、出かける時にあんな寂しそうな顔をしてたのか・・・)」

 「それじゃあ、未来ある鍛聖目指してがんばんな!」

 「はい!」

 「――――っというわけで、いよいよお待ちかね、このブロン様から武器作りの秘伝を・・・」

 「いよいよですね」

 「――――っといきてぇところなんだが、生憎オレっちも色々忙しくてな。 お前にばかり、かまっちゃいられねぇんだ」

 「焦らしますねぇ・・・」

 「まぁそういうなって、準備が出来たら知らせるから、それまで自由にしてな」

 「了解です」

 

「それじゃあな」 と言い、ブロンは部屋を後にした。

工房にポツリと残ったのは、セイとシュガレットだけになり、少し静寂が訪れていた。

 

 「――――ここで二人の新しい生活が始まるのですね、セイ様・・・」

 「そうだね」

 「私、とっても楽しみです。 セイ様とご一緒になられるのが・・・」

 「うん。 よし! じゃあ、一段落ついたことだし、お散歩に行こうか」

 「いいですね! 私、海が見たいんです!」

 「そう? まぁ今日は色々あったからね・・・良いよ、行こう」

 「ありがとうございます、セイ様」

 「それじゃあ、行こうか」

 「はい」

 

二人は工房を後にし、ワイスタァンの港へと向かっていく。

 

 

--------------------------------{港}--------------------------------

 

港にたどり着くと同時に潮風が出迎えるように吹いた。

 

 「港に来るのは久しぶりです」

 「あ、丁度空きの船があるね、ちょっと甲板に上がってみよっか」

 「あの・・・そんなことしたら、怒られますよ・・・?」

 「いいの! いいの! 大丈夫だよ、おいで。 (まぁ、実はと言うとこの船が誰の物か知ってるけどね・・・)」

 

二人は船の甲板に立つ

さわやかな潮風が吹き、波は小さく鳴り、自分らが立つ場所を安らぎの空間に作り上げていた。

 

 「――――気持ち良いですね」

 「そうだね。 う~ん! 今日はなんかドッと疲れたなぁ・・・」

 

セイは背伸びをしながら言った。

そんなセイをシュガレットはジッと見つめる・・・

 

 「…………。」

 「ん? どうしたの?」

 「あ、いえ・・・改めてよろしくお願いします、セイ様」

 「うん、よろしくね」

 

挨拶の後、二人は少しだけ話をした。

今後のこと、銀の匠合のこと、トーナメントのこと――――色々な事を話し合った。

 

 「あのさ? その~・・・ 〝セイ様〟 ・・・っていうのはちょっと止さない? なんかくすぐったくって・・・」

 「そうですか?」

 「うん、僕のことは普通に呼び捨てで構わないよ。 〝セイ〟 って呼んで」

 「えっ・・・ですが・・・あっ! それでは 〝セイさん〟 ・・・っというのでは駄目でしょうか?」

 「――――もう、様付けで良いです・・・。」

 

純粋ながらもめげないシュガレットの反応に小さく苦笑いをしてしまった。

 

 「はい。 ――――ところで、あの・・・セイ様?」

 「何?」

 「やさしく・・・してくださいね?」

 「うん。 勿論だよ、心配しなくても大丈夫だから (あんな奴みたいな事は絶対しないから)」

 「よかった・・・私の旦那さまになる方がやさしくてステキな方で・・・」

 

シュガレットの突然の発言にセイは一瞬固まり、次に驚いて後ろに大きく下がるリアクションをとった。

 

 「だ、旦那さま!? えっ?! ええええ!!?」

 「お聞きになってないんですか? シュガレットはセイ様の許婚なんですよ?」

 

頬を少し赤らめ、照れくさそうにシュガレットはとんでもない事を言ってくる。

 

 「えっ!? 聞いてないよ?! 一つも! というか・・・言ってたの? シンテツさんが僕を許嫁にするって!?」

 「はい。 確かにシンテツ様は 「俺の子供をお前の婿にやる!」 ・・・っと・・・」

 「いや、いやいやいや・・・! 僕、シンテツさんの子供じゃないってさっき言ったよね? 血筋通ってませんよ、シュガレットさん!?」

 「いいえ、同じです」

 

そうキリッとした表情を見せながら、シュガレットはズイッとセイに接近する。

 

 「ど、何処が?! (近い!どうしてか胸に眼が行く!)」

 「私、セイ様のようなステキな殿方が好みですから・・・」

 「えっ・・・へええぇぇ!? (は、初めてだよぉ・・・こんな真剣な眼差しで告白されるのぉ・・・)」

 「セイ様、心が決まったら教えてくださいね」

 「は、はい・・・ (なんか・・・このまま勢いに負けちゃいそう・・・)」

 

少し戸惑いながらも返事を返したセイに対し、シュガレットは何も言わず、ただニッコリと微笑んだ。

 

 「あはは~・・・ (・・・でも・・・いいのかな・・・私・・・なんかで・・・)」

 

――――――その微笑みは、本当に自分の事が好きなんだな。 ・・・と思える笑みだった。

 

 

--------------------------------{セイの工房}--------------------------------

 

――――――それからして、翌日の朝。

 

セイは目を覚ました。

・・・が、昨日送った朝と違っており、普段は甲冑を外して眠る手筈なのだが、どういうわけか甲冑を着たまま眠りについていた。

そこのところの疑問はシュガレットに聞かれたが、 「う~ん・・・〝癖〟・・・かな?」 と、やや苦しい言い訳で流された。

体に負担は掛からないのか、と疑問視されたが・・・セイの元気で軽々とした動きに大丈夫だと納得した。

 

 「さて、爽やかに起きたものの・・・これからどうしようか、ブロンさんから武器作りの秘伝を教えてもらえるって話だったけども・・・」

 「そうですね、準備が出来ているか、聞きに行きましょうか?」

 「それもそうだね、親方に聞きに行こうか」

 

二人は、そう決め、ブロンに会いに行こうと部屋の入り口まで足を進むと、そこに丁度ブロンが入ってきた。 

 

 「あ、ブロンさん」

 「おう! セイ! 起きてたか!」

 「はい。 それより丁度良かった、今からブロンさんに会いにいこうと思っていた所です」

 「おう、昨日の話の続きだな。 だが、その前に中央工城の人が来てんだ、シャキっとしろぃ!」

 「あの~? もう良いですか~? それでは、おじゃまするのですよ~」

 

腑抜けた・・・いや、柔らかい声と共にペコペコと一人の青年が入ってきた。

語尾には 「です」 と付けて喋っており、笑顔も眩しいほどにニコニコしており、さらに身長も少し低く、他の役人達よりも人一倍は存在感が目立つ人だった。

 

 「どうもセイさん、お届け物なのです!」

 

そう笑顔のままでハキハキと喋り、 敬礼をする。

 

 「あ、はい・・・」

 

思わず、セイも少し戸惑ったように微笑で敬礼する。

 

 (――――何か、こういうキャラの人をどっかで毎回見ているような気が・・・既視感というか・・・)

 

そう戸惑うセイを置いて、青年はポケットから小さな袋を取り出した。

 

 「はい! 〝地下迷宮のカギ〟 なのです!」

 

セイは袋を貰い、中から何ら特徴の無い・・・上が輪で、下がF字の絵に描いたような普通のカギを貰った。

 

 「ありがとうございます。 (うわぁ・・・まんま絵に描いたようなカギだよ・・・私、始めてみたよ・・・)」

 「中央工城一階の係の者に、そのカギを見せれば、地下迷宮に入れるようになりますですよ! それでは、失礼します!」

 

青年は颯爽と去っていった・・・、そんな青年をセイはジッと見ていた。

 

 「どうしました?」

 「いや・・・気のせいかもしれないけど・・・あの人、最後ら辺でしっかりと喋ってたような・・・いや、まさかなぁ・・・」

 「セイ様、それは 〝気にしたら負け〟 ・・・という物では?」

 「うん、まぁ・・・そうだね・・・シュガレットの言うとおりだね・・・」

 「まぁまぁ、とりあえず地下迷宮へのカギを手にしたんだから良かったじゃねぇか。 中央工城の地下にある迷宮は、鍛冶師にとっちゃ宝の山だ。 武器の材料が色々手に入るからな! それに一人前の鍛冶師になる為の特訓場には丁度良い場所だ」

 「特訓場・・・ですか・・・」

 「なーに、おめぇさんのことだ、大丈夫だろうが・・・しっかりと材料集めと実力上げ目指して頑張れよ!」

 「はい!」

 「うし! それでは・・・いよいよ! このブロン様直々に武器作りの秘伝を伝えてやる!」

 「待ってました!」

 「おっ! ノリ良いな、セイ。 よーし、まず最初にお前が作る武器は・・・これだっ!!」

セイはブロンから武器作りの秘伝を貰った。

材料だけ書いてあり、詳しい武器の形状とかは特に描かれていなかった。

 「これが秘伝・・・分かりました、頑張ります!」

 「気をつけろよ、一回戦で負けました・・・なんてことがねぇようにな!」

 「大丈夫です。 シュガレットがついている限り、セイ様を危ない目に逢わせはしません!」

 「っとぉ・・・張り切って武器集めに行く前に・・・ちゃんと武器の作り方は覚えてるだろうな?」

 「大丈夫ですよ」

 

――――まず、武器の材料となるアイテムを集める。

次に、集めてきたアイテムをタタラで4種類の材料に分解します。

こうして出来た4種類の材料を武器の秘伝に書かれた分量に分けてタタラにくべて合成を行い、ハンマーで鍛えれば完成。

 

セイは、スラスラと鍛冶についてブロンに答える。

 

 「これで間違いはありませんね?」

 「おうよ、基礎はちゃんとしてるな! やっぱ、セイは記憶力だけは人一倍良いから色々と助かるぜ」

 「 〝だけ〟 って・・・それ、どういう意味ですか?」

 

セイはブロンの台詞に少し睨みを利かして質問する。

・・・が、それに対してブロンは顔を反らした。

 

 「ま、まぁ・・・そんなわけで、まずは材料集めだ。 今回は 〝鉄鉱石〟 を道具屋で仕入れてこい」

 「あれ? 材料となるアイテムは中央工場の地下迷宮で集めるのでは・・・?」

 「まぁ、基本的にゃそうなんだが・・・お前さん、武器も何も持たずに潜る気か?」

 「下級のはぐれなら格闘術で何とか・・・ (まぁ、 〝アレ〟 を使えば早い話だけど・・・、・・・まぁアレは大会で使わないようにって決めてるし・・・)」

 「・・・あのよぉ・・・お前、そんなに野生的だったか?」

 

ブロンは少し冷や汗を掻きながら質問する。

それに対してセイは 「違いますよ!」 と強く推して答えた。

 

 「まぁ、お前にもしもがあったらアマリエさんに顔向けできねぇ・・・、だから、今回ばかりは、お前さんに地下迷宮に入る前の下準備として武器を作ってもらうぞ?」

 「ん~・・・了解しました」

 「うっし! ・・・っとまぁ、実は買ってこいって言った理由は他にもあってな・・・お前さんに朗報だ。 なんと・・・今、道具屋が今回のトーナメントに乗じて鉄鉱石の安売りセールをやってんだよ!」

 

ブロンはそう言って、道具屋が配ったビラを見せた。

そこには、 「本日のみの限定セール! 武器づくりの御供、鉄鉱石――――御一つ10パーム!!」 ・・・と下に鉄鉱石のイラストを載せて書いてあった。

 

 「バーゲンセール・・・ですと・・・!?」

 「行かなきゃ損だぜぇ~? 普通、鉄鉱石が10パームで買える機会なんざ、これぐらいだろうからな!」

 「行きましょう、すぐさまに、駆け足で、音の速さで行こう!」

 

セイは先ほどの役人より負けじの凄くイキイキした口々で早歩きで急いでいこうとする。

見えはしないが、甲冑の中のセイの眼は絶対輝いているに違いないと、ブロンは思った。

 

 「あー、まぁ待ちな。 ほれよ、今月の給料分・・・これで買えるだけ買ってきな」

 

ブロンは1000パームが入った財布を手渡した。

 

 「ありがとうございます!」

 「よし! さぁ、今回の安売りを狙うやつは多い――――」

 

セイはブロンの台詞の途中で目にも止まらぬ速さで部屋を出た。

工房にはポツーンと残されたシュガレットと、あまりのセイの素早さと完璧にすっぽかされてしまい、小さく唖然とするブロンだけが残った。

 

 「セ、セイ様! お待ちください!」

 

シュガレットはセイを追いかけるように部屋を後にした。

 

 「――――あいつ、変な所でキャラ変わんなぁ~・・・」

 

 

--------------------------------{道具屋}--------------------------------

 

銀の匠合を後にしたシュガレットは、やっとの事でセイが向かった道具屋にたどり着いた。

その時、セイは丁度店主と話をしていた。

 

 「あー悪いねぇ~・・・鉄鉱石は、たった今在庫切れになっちまったんだよ・・・」

 「なん・・・ですと・・・!? (ガーンだな、出鼻を挫かれた・・・!)」

 「あーほら、そこの赤毛の女の子。 全部あの子に売ってちゃったよ。 この為にお金を用意したって感じで大人買いしてくれたよ」

 

店主が指差す方に赤い髪をした女の子が買い占めた品をチェックしていた。

 

 「あれ? あの子は確か・・・ (トーナメントの開会式で私の前に居た・・・?)」

 「セイ様ぁ~!」

 

考えるセイのところへ先ほどやっとの思いで追いついたシュガレットが寄ってきた。

 

 「あっ、シュガレット・・・」

 「もう・・・妻を置いていくなんて・・・迷子になったら責任とってくださいよね?」

 「あはは・・・ごめんごめん・・・それより、鉄鉱石は残念ながら品切れだって・・・」

 「えぇ、先ほど小耳に挟ませてもらいました。 あの赤毛の方が買い占めたんですよね?」

 「うん、そう。 やっぱ買い物勝負は女が一番強いなぁ・・・」

 「ですかねぇ~・・・セイ様、もしかしたら、あの赤毛の方に頼んだら少しぐらいは分けていただけるのでは無いでしょうか?」

 「えっ? ・・・いやいや、買いそびれた僕が悪いんだし、折角買った物を易々と分けてもらうのは虫が良すぎるよ・・・」

 「でも、頼めるだけ頼んでみましょうよ、何でしたら私が頼んでみますね」

 「えっ、ちょっ・・・ちょっと!?」

 

シュガレットは赤い髪の女の子に近づき、交渉を試みた。

 

 「あの、すみません・・・」

 「ん? 何よ?」

 「私、あちら方の護衛獣をしている者なのですが・・・いきなりで申し訳ないのですが、宜しければ、その鉄鉱石・・・少しだけ分けてもらえませんか?」

 「あーあ・・・」

 

もはや 〝当って砕けろ〟 と言わんばかりの交渉に苦笑で肩を落とすセイが居た。

 

 「何よ急に・・・、・・・って、 あら?その甲冑姿・・・あぁ、開会式の時に居た・・・」

 

赤毛の女の子は、セイの甲冑姿を見た瞬間、開会式でのことを思い出す。

 

 「やっぱり、あの時前にいた女の子だね、覚えててくれたんだ」

 「まぁね。 甲冑を着たヘンチクリンな奴だから嫌でも脳裏に焼きついてるわよ、それよりも・・・」

 (ヘ、ヘンチクリン・・・)

 「珍しいわね。 あんたみたいなボッーとした奴でも大会に出れるのね、驚きだわ」

 

赤毛の女の子は、セイを小馬鹿にするように鼻で笑う。

 

 「・・・それはどういうことかな? ・・・大体の返答は検討がつくけど・・・」

 「そのままの意味よ、あと鉄鉱石は分けてあげない。 鈍いあんたがいけないの」

 (まぁそうだけどね・・・)

 「それじゃあ私は忙しいの、これから地下迷宮に潜るんだから」

 「あ、はい・・・御気を付けて」

 「どうもね。 それじゃあね~」

 

女の子は荷物を持って道具屋から去っていた。

去ってから数秒足らずで、セイは 「フゥー・・・」 と息を吹くようにため息を付いた。

 

 (我ながら・・・ちょっと大人気なかったな・・・)

 「大丈夫ですか?」

 「うん・・・それより、これからどうしようか?」

 「そうですね。 とりあえず、鉄鉱石が売れ切れていたことをブロンさんにお話しをしたらどうでしょうか?」

 「うん、それが良いね。 とりあえずブロンさんに相談してみよっか、何かアドバイスぐらいくれるだろうし・・・」

 

二人はブロンに会う為、道具屋を後にして銀の匠合にへと戻っていった。

 

 

--------------------------------{ブロンの部屋}--------------------------------

 

二人は銀の匠合に戻ってきて、ブロンの部屋に入る。

 

 「おう、首尾はどうだ?」

 「いえ・・・それがですね――――」

 

セイはこれまでの経緯を全てブロンに説明した。

 

 「なにぃ? 全部買い占められてた? しかも根性の悪い娘だぁ?」

 「根性が悪いとまでは言ってませんよ・・・ 〝少し気が強い女の子〟 ・・・と言ったんです」

 「それを根性が悪ぃって言うんだよ」

 「 「あんたみたいなボッーとした奴でも大会に出れるのね、驚きだわ」 って言われちゃいましたよ」

 

セイはため息交じりで言った。

その言葉を聞いてブロンはパッと思い出す。

 

 「・・・あぁ、今の台詞で誰だか分かったぞ。 そいつぁ 〝サナレ〟 だな」

 「知り合いなんですか?」

 「おうよ、サナレはこの銀の匠合の鍛冶師見習いで今回のトーナメントにも出る・・・、・・・まぁ、ようはおめぇと同じってこったな」

 「なるほど。 (そうか・・・なら、大人買いも可能だな・・・いや、でも待てよ? ・・・たった10パームでも割が合わないような・・・)」

 「あいつにも安売りの話はしたからなぁ・・・」

 「良かった、ブロンさんが公平な人だって改めて実感できましたよ」

 「あっあー・・・そいつは、今までオレっちの事を公平じゃない人間だと思ってたのか?」

 「〝いいえと言えば嘘になる〟 ・・・っとだけ言っておきます」

 「(まんま答じゃねぇか・・・) ・・・まぁいい。 当然、オレっちもお前だけにってわけにはいかねぇからな」

 「当然です。 八百長みたいな真似事は嫌いですし」

 「まぁ・・・なんだ・・・サナレは、あれで結構きっつい奴だからなぁ、お前がヘコんじまうのは分からんでもねぇ」

 「嫌、ヘコんでませんよ? それに大会が始まった以上はパートナー以外は全て敵・・・それを味方につけるか、排除するか・・・大会というのは泥沼みたいなもんですよ」

 「随分とキツイ言い方で言うじゃねぇか、そうだなお前の言い分は確かに正しいかもしれねぇな、鍛冶師たちにとって鍛聖の椅子は最高の名誉だ・・・そいつを奪う為に汚ねぇ真似する奴は出てくるだろう」

 「極限まで作戦を練り、苛立ちながらも道を見つけ、ボロボロになりながらも勝利を掴む・・・戦いって大体がそういうもんです。 ――――この大会もです (・・・なーんて、教えてもらったことを、まんま口に出してるけど、私はそっちの方には向かわない。 〝あの人〟 も向かわなくて良いって言ってくれたもんね)」

 「サナレはお前がライバルだからこそ、鉄鉱石を渡さなかった」

 (まぁ、バーゲンという単語で動いたようなものだし、鉄鉱石無くってもそのウチ手に入る・・・)

 「――――とはいえども・・・材料がねぇとなると、しかたねぇ・・・こうなった以上は地下迷宮に潜るしかねぇな・・・」

 「ほら、やっぱり最後は己の拳とパートナーが頼りになっちゃうじゃないですか」

 「私、頑張ります! セイ様は何があろうとお守りしますよ!」

 「待て待て待て! 先走んなって!」

 

先走るようにやる気満々のシュガレットと共に工城の地下迷宮へと向かおうとした二人をブロンが止める。

 

 「こんなことでもあろうと思ってな・・・お前に手渡すもんがある」

 「はい?」

 

ブロンは後ろにある箱から一つのスレッジハンマーを取り出した。

 

 「・・・これって・・・スレッジハンマーじゃないですか?」

 「おうよ、丁度倉庫ン中に入っててな、引っ張り出してきたってわけよ。 耐久性は問題なし、調整もしといたから、まず折れるこたぁねぇ」

 

セイは 『へぇ~』 と言いながらスレッジハンマーを握って持ち上げる。

その時、シュガレットは驚いた。

通常、スレッジハンマーは大人一人でも持ち上げるのに両手で持ち、踏ん張って持ち上げるものなのに対し、セイは片手でヒョイと持ち上げてみせた。

 

 「・・・材料となるアイテムではなく、ハンマー・・・ですか・・・」

 「俺っちもそんなに裕福な訳がねぇんだ。 武器代わりになるハンマーがあるだけマシってもんよ」

 「――――うん。 柄は木製じゃなくて金属塊と一緒になるように溶接されたゴツめの太い鉄棒。 これなら大げさに力を入れてぶつけても折れそうにないな」

 「おう、気に入ったか?」

 「えぇ。 すみませんブロンさん、ちょっとここで素振りしても良いですか?」

 「ん? おぉ、いいぞ。 だが周りのもん壊すなよ?」

 

「はい」 と言って、セイはブロンとシュガレットから少し離れ、部屋の中央に立ち、ハンマーを振るった。

 

――――――目の前の光景にシュガレットは目を疑った。

 

普通は振り上げて、下ろすだけでも大変であろう重いハンマーを、まるで棒切れを振るうように器用に振りまわしてみせた。

しかも、ただ振り回すだけではなく、勢いよく回転させながら、背中で右手から左手に移す技を見せ、最後にハンマーの先を床にドンッと置き 「ふぅ・・・」 と小さな一息を吐いた。

 

 「うん、下級のはぐれ相手には引けを取らない武器ですね、ブロンさん、ありがとうございます」

 「おう。 でも気ぃつけていけよ? ”油断大敵” ってぇ言うしよ?」

 「はい」

 

そう爽やかな会話をしている二人の横で、まだ唖然としているシュガレットが居た。

 

 「・・・シュガレット?」

 「は、はいぃ!?」

 「だ、大丈夫?」

 「だだだ、大丈夫ですよ?! (お、驚きです! ・・・セイ様って・・・普通の人間以上の力持ちなのですね・・・!)

 

 

--------------------------------{工城:地下迷宮入り口前}--------------------------------

 

 「すみません、大会に参加する者なんですけど・・・」

 「参加者だね、カギを拝見させて」

 

セイは工城の役人に貰ったカギを見せた。

 

 「うん、確かに。 ・・・でも、キミ・・・武器を持って無さそうだが・・・一旦戻ったらどうだい? 地下迷宮には危険がいっぱいなんだ、いくら鍛聖候補で護衛獣がついているとは言え・・・丸腰の人間を通すわけにはいかないな」

 「武器ならちゃんとありますよ」

 「何処に?」

 

セイは背中に背負っていたハンマーを役人に見せるように置いた。

 

 「このハンマーです!」

 「い、いや・・・それは武器を鍛えるためのハンマーでしょ? 道具は大事に扱わな――――」

 

セイは無言でハンマーを軽く浮かせ、地面にドンッと叩きつける、・・・今度は地面から波紋の如く強い衝撃が伝わり、叩いたところには小さな凹みが出来ていた・・・。

 

 「通してくれますよね?」

 

甲冑の下からではイマイチ分からないと思うが、シュガレットと役人は途轍もない覇気を一瞬だけ感じた。

その覇気に役人はビビると思ったが・・・意外にも先ほどと違って真剣な面立ちになっていた。

 

 「――――よし、分かった。 お前の度胸と覚悟、しかと受け止めた! ・・・但し、命の保障はしないぞ? いいな?」

 「重々理解してます」

 「よし、通んな! 骨は拾ってやるぜ! 幸運を・・・!」

 「感謝します」

 

親指を立てて先ほどとは違って力強く言う役人にセイは一礼をし、先へと進んでいく。

シュガレットも同じく、セイの後についていく・・・、・・・少し困惑しながら・・・

 

 

--------------------------------{地下迷宮一階}--------------------------------

 

階段を下りていくと、レンガで出来た壁にちょくちょくと真っ赤に燃え滾るような結晶が目立つ場所に出た。

 

 「ここが、地下迷宮か・・・意外と広いね」

 「そうですね。 ・・・あっ、セイ様、あれは・・・」

 「ん?」

 

シュガレットが指差す方に、緑に輝く床があった。

 

 「あれは確か 〝転送装置〟 だね。 数階に渡って所々に同じ装置があって、それをハンマーなどで叩いて衝撃を与えると起動する代物だね」

 「つまり、今は使っても意味がない・・・っというわけですね」

 「そういうことだね、まぁ後々お世話になるだろうし、先を急ごうか」

 「了解しました」

 

二人は少し進み、小さな橋を渡ると、そこに先ほど見かけたサナレが立っていた。

 

 「あら、貴方達・・・」

 

サナレは何を思ったのか、ため息をついた。

 

 「貴方達もしつこいわねぇ、言っとくけど鉄鉱石はあげないからね」

 「いや、別に欲しいとは言ってないよ・・・自己紹介が遅くなったね、僕の名はセイ、そしてこっちがシュガレット」

 

セイの紹介にシュガレットは小さくお辞儀をする。

 

 「ふぅん、それよりもなんで、そんな大きなハンマーだけ持って迷宮探索してるの?」

 「甘く見てはいけなよ、サナレ。 ハンマーは一つ使い道を変えれば生き物を殺す凶器になるんだよ? (漫画やゲームとかでこういうスレッジハンマーが最強だったりするんだよね!)」

 「・・・あんた、気は確か?」

 「至って正常、精神状態に異常は来たしてないよ」

 「そう・・・。 ――――あっそうだ、じゃあ私がクイズを出してあげる、もし全部正解したら、さっき見つけた材料となるアイテムをあげるわ」

 「クイズ?」

 「そうよ、それじゃあ第一問!」

 

そういうことで・・・何故か半強制参加でサナレとのクイズが始まった。

第一問は、 〝男の子の鍛冶師より、女の子の鍛冶師の方が偉い!〟――――という問題。

 

 「ん~・・・そうだね、女の方かな? 女性でも男に負けない一面あるし (最近の女の人って、大抵が乱暴な一面多い人ばかりだけど・・・)」

 「あら、分かってるじゃない・・・じゃあ二問目行くわよ」

 

続いて、第二問は―――― 〝男の鍛冶師よりも女の子鍛冶師の方がかっこいい!〟

 

 「うん、確かに女の人でもカッコいい人居るよね、〝クールビューティ〟とかいう言葉もあるし (私も、そういう人に憧れてたし・・・)」

 「そうよねぇ~、男の鍛冶師なんてどいつも脳みそまで筋肉だもんね」

 「ああ、所謂―――― 〝脳筋〟 ・・・という奴?」

 

「あはは!」 とセイの言葉にウケたのか、笑いながら最後の質問に入る。

〝大会に優勝するのは、このサナレ様?〟

 

 「あっ。 悪いけど、その答えだけは気持ちのまま言わしてもらうよ。 〝優勝は僕の方だ〟」

 「ふ~ん、男のクセして随分な言い草じゃない? ・・・まぁいいわ、なんかアンタ気に入ったわ、今回は特別に正解扱いにしといてあげる♪」

 「それはどうもね」

 「よし、良いわ。 それじゃあ全問正解だから、これあげる、中身はお楽しみよ♪ そんじゃねぇ~」

 

サナレはセイに小さな袋を手渡すと、そのまま奥にへと立ち去っていった。

 

 「あの・・・あの方は、何であんなにピリピリしてるんでしょうか?」

 「え? そうかな・・・う~ん・・・まぁ大会じゃない・・・?」

 「そう・・・なんでしょうか・・・? (でも、あの魂の輝きは・・・)」

 

シュガレットは一瞬だが見えたサナレの魂の輝きに少しだけ疑問に思えた

サナレがセイに対してクイズをしている中でのサナレは安定した輝きを見せていた・・・だが、出会った瞬間のサナレの魂の輝きは、とても揺らいでいた。

 

 「まぁ、色々と事情があるんだよ。 それよりも貰った袋の中身を確認しようか、何が入ってるだろう?」

 

そういって袋に手を入れて取り出した中身は・・・少し大きめの 〝マッチ箱〟 が入っていた。

二人はそれを見て少しだけ無言になる・・・。

 

 「――――まぁ、これも立派な材料だよね、うん、材料だ」

 

少し前向きすぎる考えでマッチ箱を懐に入れた。

 

 「セイ様、お気を落とさずに・・・」

 

少し一息をつけて、再び歩き出すと、途中で 〝スライム〟 という、緑色のジェリー状の体をしている、はぐれ召喚獣と出くわす。

・・・が、セイは気にもせずに躊躇いなくハンマーでスライムを一撃で吹き飛ばした。

ゴルフのようにスイングし、ジェリー状で少し固体化しているスライムは、そのまま良い具合に吹き飛び、壁にベチャッと大きな音を立てて張り付いた。

 

 「うん、ナイスショット!」

 「セイ様・・・ハンマーってそういう振り方をしましたっけ?」

 「ん? 普通はしないよ? 今回は特別」

 

その後、スレッジハンマー片手に次々と道中で出てくるスライムを片手で振るい、弾き飛ばしていく

先ほどの居た場所から少し歩いて進むと、水族館のように大きなガラス板で固定され、海底の姿が見える水槽があり、その傍にサナレが居た。

 

 「ん・・・あれ? サナレ? どうしたんだろう? 水槽なんて見つめて・・・」

 「セイ様。 また、サナレさんに色々言われるかもしれませんよ?」

 「いや・・・大丈夫っぽい? なんか様子が・・・」

 「――――誰?」

 

二人が向き合って話している横でサナレの声が聞こえた。

 

 「貴方たち・・・」

 「あっ・・・、ごめん・・・別に覗き見とか、そんなんじゃなかったんだけど・・・」

 「・・・別に。 ここは私の持ち物じゃないもの、覗き見されたなんて思ってないわ」

 「そう? なら良いけど・・・」

 

サナレは後ろにあるガラス張りの水槽のような窓の先に見える魚を見つめる。

 

 「綺麗でしょ? ここ、海の中が見えるの」

 「本当だ! 水槽かと思ったら、これって 〝海中展望台〟 なんだ!」

 

セイは 「凄い・・・」 と小さく呟きながらガラスの向こうで泳ぐ魚たちの様子を見ていた

 

 「ふふっ・・・昔ね、何年か前に姉さんに連れてきてもらったのよ、この場所。 ・・・もう一度来たいって思ってた・・・、次は姉さんの力を借りずに、自分一人の力でここまで来たいって・・・だから、ここは私にとっても大切な場所なの。 ここに来れば、姉さんに少しでも近づいてるって思えるから・・・」

 

先ほどとはまったく違う風貌でサナレは喋る。

シュガレットから見た彼女の魂の輝きも安定しており、海中展望台のおかげと捉えている。

 

 「サナレって、お姉さんの事が好きなんだね」

 

そう、セイの言葉を聞いた次の瞬間、サナレの顔が辛そうな顔に見え、魂の輝きも歪んで見えた。

 

 「まぁ・・・そんなところかな? ――――何か話しすぎちゃったみたい、それじゃあ、私もう行くね?」

 

そういってサナレは近くにある階段を伝って、下の階にへと足を進めた。

 

 「――――サナレ・・・今、凄く悲しい目をしてた」

 「セイ様も気づきましたか・・・」

 「うん・・・確か、シュガレットは人の魂を輝きで見抜けるんだよね?」

 「はい」

 「サナレの魂の輝き・・・大丈夫だった?」

 

シュガレットは首を横に振った

 

 「そう・・・うん・・・分かった、ありがとう・・・」

 

セイの声色が少しだけ揺らいだ。

 

 

--------------------------------{セイの工房}--------------------------------

 

それから――――

地下迷宮の地下一階のフロアを調べ切った結果、ひっそりと置かれてあった鍵の掛かった宝箱を見つけ、ハンマーで壊して開けると、中には鉄鉱石が一つだけだが、入っていた。

このまま先に進もうかと思ったが、材料となるアイテムも手に入った事もあるので、一旦武器づくりの為に自分の工房に戻ってきた。

 

 「よし、それじゃあ回収したアイテムを材料に変えて武器を作ろう。 地下迷宮の散策中に運良く鉄鉱石が一個手に入ったことだしね」

 「了解しました。 お手伝い致します」

 

セイは、まず最初にタタラに鉄鉱石など、迷宮で集めた材料を木材は木材で、鉄材は鉄材で分ける。

そこからブロンから手渡された秘伝のレシピ通りの分量に分けていく。

鉄材は一度タタラにくべて溶かし、その間に鍛冶師達に伝わる技法で木材を握り部分になるようにしていく。

少しして見事に溶けた鉄材を、取り出し、延べ棒の形状のようにしていき、そこからハンマーで叩いていく。

その間、セイはハンマーで、シュガレットは魔力を込めて、熱された鉄を鍛えていき、あらかた鍛えたら冷水に浸し、よく冷えた所で用意した柄を取り付けて武器が完成した。

 

 「よし、出来た。 秘伝の書によると・・・これは 〝ラグズナイフ〟 っていうのか、この武器・・・」

 

完成したラグズナイフは、その名の通りで短剣であり、セイがよく知るダガーナイフと類似していた。

 

 「やりましたね、セイ様」

 「うん!」

 

そう二人が話していると、そろそろかとやってきたブロンが二人の工房へ入ってきた。

 

 「おう! 完成したみてぇだな!」

 「ブロンさん、ナイスタイミングですね、こちらが貰った秘伝から作り出したラグズナイフという武器です」

 「ほうほう、見せてみな?」

 

手渡されたブロンは真剣な眼差しでラグズナイフを見つめる。

その目は普段のおちゃらけた感じをそっちのけで、プロの鍛冶師としての見極めをしていた。

 

 「いかがですか? ブロンさん」

 「う~ん・・・まぁ、合格点だな。 これで今後は上階層の地下迷宮には問題なく潜れるだろ」

 「よかった。 シュガレットがサポートしてくれたおかげだね」

 「いえ・・・そんな事ありません、セイ様は私が働きやすいようにしっかり気を使ってくださってます。 感謝するのはこちらの方ですよ」

 「召喚してから少ししか経ってねぇが、問題なく打ち解けれてるようだな! いいパートナー持てたな、セイ」

 「はい!」

 (私はセイ様を許婚という意味で 〝よいパートナー〟 ――――と、捉えているんですがね・・・)

 

そう楽しそうに会話をしていると、地下迷宮から帰ってきたサナレが入ってきた。

 

 「帰って早々に、親方さんは居ないわ、上が騒がしいわと思ったら・・・あんた達だったのね」

 「あ、サナレ。 今戻ったの?」

 

サナレはセイが持っているラグズナイフに目が行く

 

 「あら? ・・・何、あんた・・・今ごろになって一本目が完成?」

 「え? じゃあ、サナレは・・・」

 「ええ、同じくラグズナイフを作ったわ。 二本必要かと思ったけど・・・携帯用砥石で何とか乗り切ってやったわよ」

 「凄いねサナレ。 僕はスレッジハンマーを勢い余ってへし折らないようにするのに大変だったよ」

 

それを聞いたシュガレットは、探索中に起きた戦闘を思い返す。

 

 ( 〝あれで〟 ――――ですか・・・)

 「ふーん、案外あんた力持ちなのね? 重たそうな甲冑着てるぐらいだから力はあるんだろうと思ったし・・・」

 「まぁね。 でも、ここからは、このラグズナイフで乗り切ってみせるよ!」

 「あんたねぇ・・・それは初心者用の武器よ? あくまで護身用でそれを持ってやっとスタート地点に立てた所に 『これ一本で乗り切る』 だなんて・・・アホの極みよね」

 「あはは・・・僕は、正常だよ。 あはは・・・」

 「――――そうね。 地下迷宮の時にも言ったけど、貴方が気に入ったわ。 何かあったら聞きなさい。 ステキなお姉さんが教えてあげる♪ でも、戦う時は容赦無しよ!」

 「うん!」

 

そんな二人の様子にブロンはニヤニヤと笑う

 

 「・・・なんですか? 親方さん、気持ちの悪い・・・」

 「いや、なんだ、サナレにしちゃあ珍しいこともあるんだなぁーと思ってよ?」

 「ちょっと、それどういう――――」

 

そこに 「なのです」 が語尾の役人がやってきた。

 

 「セイさん! どうもなのです!」

 「あ、役人さん」

 「おや、皆さんお揃いで・・・楽しそうなのです!」

 「おうよ! 共に働く仲間同士、仲がよいところ見ちゃあ誰だって微笑ましくなるもんだろぅ?」

 「そうですね。 僕もそう思います!」

 (あの時の違和感・・・ッ! そうか、この役人さん 「なのです」 ・・・って言わないから、真面目に聞こえて違和感に思えたのか・・・!)

 「がははっ! そうだろう、そうだろう! んで? もしかして、セイの対戦相手でも決まったのか?」

 「はいなのです! こちらが 〝対戦通知〟 なのです!」

 

そう言いながら青年はセイに対戦通知を手渡し、さっそく手渡された対戦通知の封を解く

 

 「えーっと・・・? 第一戦目、金の匠合所属 〝チェベス〟 ・・・?」

 「はいなのです! 準備が整い次第、そちらに書かれている指定の時間以内に試合会場となる中央工城の一階奥の広場に来てください! 出入り口に居る役人さんに話し掛けていただければ、試合会場の広場までご案内します!」

 「分かりました (また違和感・・・)」

 「あっ! それから、忘れちゃいけないことがあるなのです!」

 「なんでしょうか?」

 「御前試合は一本の武器しか使用できないなのです!」

 「ああ、そちらはご心配無用です。 ちゃんと記憶してますよ? 鍛聖の方が申してた通り、 〝武器を破壊するか、相手を再起不能にするかのどちらか〟 でしたね。 その為、互いに使用する武器は一本のみ・・・これで良いですよね?」

 「はい! その通りなのです! セイさんは覚えがちゃんとしていて助かります!」

 「は、はぁ・・・ (なんだろう、この人が言うと自分以外が記憶力無さそうだって言ってる感じがする・・・)」

 「やっぱ、おめぇは頭の回転がめっぽう早ぇなぁ・・・俺なんて紙にでも書いとかなきゃまったく覚えきれねぇぜ」

 「それは単純に親方さんの記憶力がセイよりすっごく衰えてるからじゃない?」

 「なんだとぅ!?」

 「まぁまぁ・・・ (でも、確かにブロンさんって記憶力足りないよね、よく忘れ物したりして引き返す事が多いし・・・サナレの気持ち、分かる分かる・・・)」

 「あの、もう私は行ってもいいですか?」

 「あっ、すみません・・・! ありがとうございます! お仕事頑張ってくださいね!」

 「はい! では失礼しましたなんです!」

 

役人は出入り口付近で敬礼をして、そそくさと次の仕事に向かっていった。

 

 「まぁ・・・しかし、しょっぱなから対戦相手がチェベスとわねぇ・・・しかも、金の匠合相手となると・・・」

 「ん? 知ってるの?」

 「えぇ、まっ、せいぜいガンバんなさいよね~」

 

そういうとサナレは手をひらひらと振りながらその場を去っていった。

 

 「・・・どんな人なのだろうか、チェベスという人は・・・」

 「ふむ・・・強敵ってほどでもねぇな。 あの金の匠合だしよ」

 「そうなんですか? ブロンさん」

 「おう、だが・・・今のセイの武器じゃあ心細いもんがあるなぁ・・・つっても、試合時間までに次の武器作れってーのは少し時間が足りねぇなぁ・・・」

 「そうですね、幾ら私とセイ様との愛の共同作業で出来た武器とはいえ、実戦ではまだ・・・」

 「大丈夫だよ」

 「えっ?」

 「はっ?」

 

セイの言葉に二人は空かした顔と声で振り返る。

 

 「自分で作った武器ぐらいは何となくだけど分かる。 この子はしっかりとした武器なんだって・・・、・・・どんな武器にも負けない、僕の戦い方次第で強くなる。 ・・・僕は、この武器で出場するよ」

 「おいおい、サナレに言った冗談をマジもんにする気かよ、おめぇは・・・」

 「あれ? ブロンさん、僕その時言いましたよね? 「僕は、正常だよ」 って」

 「いや、言ったけどよぉ・・・」

 「大丈夫、必ず勝ちますよ。 ・・・必ずね・・・」

 

 

--------------------------------{銀の匠合:一階フロア}--------------------------------

 

試合開始時間まで少しだけ間があるので、緊張をほぐす為に一階に下りたセイは、そこで見覚えのある人を見つけた

 

 「あれ? あれは――――」

 

一日程度しか間が空いてないが、久々にアマリエの姿を見たセイは嬉しそうにアマリエの傍に近寄った。

 

 「どうしたんですか、アマリエさん。 何かご用事でも?」

 「あらセイちゃん。 ええ、ちょっと様子を見に来たのよ」

 「セイ様――――、あっ・・・」

 

そこへ工房に居たシュガレットが降りてきた。

その時、アマリエの顔を見た瞬間にシュガレットの顔つきが少し変わった。

 

 「あら、パートナーが決まったのね、セイちゃん! しかも驚いたわ! まさか、シュガレットちゃんが護衛獣だなんて。 お久しぶりね♪」

 「お、お久しぶりです・・・」

 

いつもどおりに明るい素振りを見せてニコニコと喜ぶアマリエ・・・だがしかし、シュガレットは気まずそうな顔でアマリエに微笑を見せる

 

 「 (えっ・・・シュガレット・・・?) アマリエさん。 シュガレットとは、知り合いなんですか?」

 「あら! 知り合いも何も、シュガレットちゃんはシンテツの護衛獣だったんだもの」

 「ああ。 そういえば・・・僕はてっきり面識がないとばかり・・・」

 「うふふ・・・♪ そういえば、ブロンさんから聞いたわよ~?」

 「な、なにをです?」

 「ハグのお・は・な・し♪」

 

それには、先ほどまで冷静だったセイも思わず取り乱した。

 

 「な、なななっ! 何を急に?! というか、どうしてそれを!?」

 「ブロンさんから聞いたのよぉ~ 「シュガレットの奴、出会って早々にべったりハグした」 ってね」

 (あん人はぁ~・・・)

 「このままだと、セイちゃんのファーストキスまで持ってかれそうだわ~」

 「アマリエさん・・・、勘弁してください、僕の精神が持ちませんって・・・」

 「うふふっ♪ ごめんなさいね」

 

もう色々とありすぎて、セイの精神はいっぱいいっぱいになっていた。

 

 「セイ様、そろそろ行きましょう・・・お時間が・・・」

 

二人が話をしている中、シュガレットがセイの腕を掴んで話し掛けてきた。

 

 「ん・・・そういえば、そうだったね (あれ? シュガレット、さっきから元気が・・・)」

 「あら? これから試合なの? シュガレットちゃんが一緒なら、大丈夫ね! 頑張っていってらっしゃい! セイちゃん!」

 「あ、はい!」

 

アマリエは笑顔で手を振りながら二人を見送った。

出て行って早々、道中でシュガレットに話しかける。

 

 「どうしたの? シュガレット、いきなり元気無くしちゃって・・・?」

 「――――――。」

 

シュガレットの顔を覗くと・・・その顔は酷く落ち込んでおり、工房での笑顔が消えていた

 

 「シュガレット・・・? (悲しい顔・・・、アマリエさんとシュガレットに何が・・・?)」

 「あの人・・・嫌いです」

 「えっ・・・何で?」

 「シンテツ様と・・・」

 「シンテツさんと? なにがあったの・・・?」

 「――――いえ、なんでもありません。 ・・・今の私にはセイ様がいますから・・・だから、忘れてください」

 「分かった、忘れるよ。 シュガレット (嫉妬・・・には見えない、もっと辛い・・・悲しい何かをシュガレットは隠してる)」

 「ありがとうございます・・・では、改めて行きましょう」

 「うん。 (今は私の記憶の奥に残しておこう・・・)」

 

 

--------------------------------{試合会場}--------------------------------

 

試合会場となる広場には、幾つか観客が居るが、金の匠合、銀の匠合に所属する人達は、共に誰一人と見に来ていると思える者は誰も居なかった。

審判には、鍛聖のサクロが立ち、セイが立つサイドと対する側の相手サイドにはトゲのように尖ったリーゼントをしてゴーグルを掛けた大男が立っていた。

 

 「それではこれより、鍛聖選抜トーナメント第四試合を始める!」

 「――――――。」

 

大男は黙っており、対するセイも黙っていた。

 

 (――――なんだろう、私初めて見たよ、あんな漫画やアニメみたいに尖りに尖ったリーゼントをした人・・・)

 「セイ様・・・」

 

シュガレットは黙っているセイを見て、何を勘違いをしたのか・・・心配そうな顔でセイの名前を呼んだ。

 

 「金の匠合、チェベス。 護衛獣の召喚を行うか?」

 「いえ・・・子分なんぞ必要ありません。 オレ一人で十分です」

 

サクロの問いにチェベスは否定し、それに対してセイも少しだけムッときた。

必要ないという部分ではなく、パートナーである筈の護衛獣に対しての態度に苛立ちを覚える。

 

 「――――シュガレット」

 「はい?」

 「サポート、よろしくね!」

 「・・・勿論です!」

 

そう会話していると、サクロが二人の間に立つ、いよいよ試合開始の時が来る。

 

 「両者、準備はいいな?」

 「はい!」

 「・・・はい」

 

セイ、チェベス、両者共に問いに答えた。

二人は共に自身の武器を構える、セイはラグズナイフを、チェベスはバスターソードを構える。

 

 「鍛冶師としての誇りを懸けて、悔いのない試合を! 御前試合第四戦目! チェベス対セイ・・・」

 

 

――――――「はじめッ!」

 

 

--------------------------------{対、チェベス}--------------------------------

 

――――――…サクロが剣を抜き 上に掲げると 共に試合は始まった。

 

まずはセイが先手を取った、甲冑を着ているにも関わらず、アサシンやシーフのようにチェベスの懐に素早く接近し、ラグズナイフの先でチェベスの剣を突き刺す。

 

「ちぃ・・・!」

(なんとか懐に潜り込めた、あとは剣の軌道を見極めながら剣を攻撃していけば・・・!)

 

ナイフ相手だというのに、セイの力強いパワーの衝撃に剣を弾かれたチェベスは、巨体に似合わぬ素早さで後ろに後退し、巨大な剣を振り下ろす。

しかし流石に武器も巨大な為か振る速度が遅く、上手く見切り、横に避けて回避した。

その間、ナイフを後ろに構え、勢いよく、かつ素早く振るい、下ろされたバスターソードに目掛けて強烈な突きを決める。

ラグズナイフとバスターソードでは、差があると思えたが・・・セイの力も加わり、バスターソードが大きく震えた。

 

 「くっ・・・! 貴様、俺の武器破壊が目的か?! (なんだ、この威力・・・!? 本当にこいつ人間か!?)」

 「そういうこと・・・!」

 「くそっ! 舐めた真似を・・・!」

 

それから、数分程度だが、猛攻が続いた。

チェベスは焦りも出たのか、バスターソードをがむしゃらに振り始め、攻撃の出数で押し始めた。

だが、セイには通用せず、攻撃を全て見切りながら回避しつつ、こまめにだが確実に重い一撃をバスターソードに集中させて当てていく

 

 「くそっ! なんでだよ! これだけ攻撃を出してるのにどうして当たらねぇ!」

 (単純明快な攻撃ばかりしてるから容易に攻撃の軌道が見える・・・! それにこの人は、戦いは素人だ・・・!)

 

斬りを一旦止め、突きに転移してきたチェベスの攻撃を体を回転して回避し、その勢いと共にラグズナイフでバスターソードを突いた。

あれから何度もバスターソードを攻撃された影響か、武器を握るチェベスの手が衝撃の痺れで震え始める。

バスターソードも、そろそろ砕けそうなほどにまでなっており、剣身の中央には切り傷と突き傷などと共にヒビが入っていた。

 

 「くっそおおおぉぉぉぉ!!!」

 「シュガレット!!!」

 

声と共にチェベスの目の前にシュガレットが現れ、それに驚いたチェベスは思わず後ろに下がってしまう。

 

 「アクアトルネード!」

 

相手の隙を逃さず、魔法を唱えた。

地面から二つの水の渦が発生し、巨体のチェベスを一飲みにし、そのままの勢いに任せて天高く放り上げ、重力で自然と落ちてくるチェベスの下にセイがナイフを構えて待つ。

 

 「う・・・ああああああああ!!」

 

そう叫ぶチェベスの体が攻撃が入る圏内に到達した。

 

――――――見えた・・・!

 

その心の一声と共にセイは素早く接近し、チェベスが握りしめるバスターソードに斬りかかった。

そのまま通り過ぎ、後ろを振り向くと、チェベスのバスターソードは綺麗に真っ二つに砕けており、チェベスは地面に叩きつけられて倒れたままで居た。

 

――――――「試合終了ッ! 勝者、〝銀の匠合のセイ〟!!」

 

審判のサクロの声と共に試合は、セイの勝利で終わった。

 

 

--------------------------------{試合を終えて・・・}--------------------------------

 

サクロは剣をセイの方に向け、勝利を言い渡す。

 

 「ふう・・・、なんとか勝てたか・・・」

 「セイ様~!」

 

ナイフをしまうト同時にシュガレットがいきなり抱きついてきた

 

 「わっ!? ちょっ・・・! シュガレット・・・」

 「凄かったですぅ~! セイ様~!」

 「あははっ・・・これもシュガレットのおかげだよ・・・」

 「――――ちゅくしょう・・・」

 

倒れていたチェベスが起き上がり、壊れたバスターソードを手にする。

 

 「この試合は無効だ!」

 

そう豪語しながらバスターソードを振るい、無効試合を要求してきた。

 

 「金の匠合、チェベス、君の負けだ! 直ちに会場から立ち去るんだ!」

 「うるさいっ! こいつ、化物みたいな力をしてるじゃねぇか! 絶対に甲冑に仕掛けしてるに違いない! それに召喚獣を使うなんて反則だ! こんな試合は無効! 無効だぁッ!!」

 

そう無茶苦茶な事を言うチェベスは、怒りに身を任せ、突然セイに向かって折れた剣を振るった。

 

 (不味い! この至近距離じゃ・・・!?)

 「セイ様!」

 

いきなり不意を突かれ、ダメージを覚悟した・・・その時だった。

 

 

――――――〝やらせるかよ〟

 

 

 「えっ――――? うわっ! な、何?!」

 

突然、声がしたと思ったら、セイの持つラグズナイフから眩い閃光を放ち出す。

 

 「この光・・・! ――――!? 僕が作った・・・ラグズナイフから・・・?!」

 「なんだ・・・!? これはッ!!」

 

やがて、光が止むと・・・セイの手にラグズナイフを握る感触が無くなっており、代わりに目の前にチェベスやサクロ等とは違う人の気配を感じた。

よく見ると、そこには一人の男性が立っていた。

 

 「だ、誰だてめぇ!」

 

チェベスが動揺しながらもそう叫んだ。

 

――――――その一瞬だった。

 

突然、チェベスの前に移動すると、砕けたバスターソードを手に取って思いっきり引っ張り、装備などで結構な重量があるであろうチェベスの巨体を、足払いで小さく浮かせ、そのまま片手を思いっきり振るい、チェベスの頭に効果音が響くほどの拳骨をした。

 

 「ぎゃっ?!」

 

この世の物とは思えぬ激痛と共にチェベスの意識が一瞬で吹き飛び、そのまま深い眠りについた。

 

 「ふぅー・・・」

 「き、君は・・・?」

 

薄い一息を吹く男の後ろでセイが問うと、男はセイの方を振り向くと共に跪き、こう答えた・・・

 

 

―――――― 「問おう、貴方が俺のマスターだな?」

 

 




《あとがき》

どうも、この度はこちらのweb二次創作小説を見ていただき、誠にありがとうございます。
今回のみ、こちらであとがきを載せますが、今後は特にあとがきはしません。
主な小説の裏話などを活動報告でしています、是非ともそちらもご覧ください。
あと、活動報告でも書いときましたが、何時になるか未定ですが、後々にキャラ設定を掲載したいと思います。
それと、こちらの方でちょっとしたおまけ話を載せていきます。
他愛ないワンシーンを載せてる程度なので、見たい方のみご覧ください。
最後になりましたが、完結まで長くなりますが、それまでのお付き合いをお願いします。
ご感想・誤字、脱字報告・・・などございましたら、どうぞです。 (※但し、私の精神が耐えれる程度の感想でお願いします。)



《おまけ: 「セイの力」 》

――――――地下迷宮での探索中...。

 「あの・・・セイ様、お一つですけども・・・ご質問よろしいでしょうか?」

そうシュガレットが良い、セイは立ち止まる。

 「うん? 何かな? 何でも言ってよ」
 「じゃあ、率直に申しますが・・・セイ様。 貴方はどうしてそんなに人以上に力持ちなんですか?」

シュガレットの、その質問にセイの周りの空気だけが一瞬だけ固まった。

 「・・・あ、やっぱり疑問に思ってた?」
 「あ。 よかった・・・セイ様もブロンさんも平然とされていたので私だけおかしいのかと思ってました」
 「あー・・・うん・・・ブロンさんの場合は、 『おめぇさん、いっつも甲冑着てるから力持ちだと思ってたぜ』 って笑いながら答えてたから・・・」
 「・・・まぁ・・・あのブロンさんですからねぇ・・・シンテツ様の時もお世話になったのですが、相変わらず変わっていませんでしたし・・・」
 (やっぱ、ブロンさんのおバカっぷりは昔ッからなんだ・・・)
 「それでセイ様。 本題に戻るんですけど・・・どこでそんなお力を?」

シュガレットの質問にセイは 『う~ん・・・』 と腕を組んで顔を鎮めて質問の答えを探す

 「 ”気がついたら身に付いてた” ・・・じゃあ駄目・・・? もうそれぐらいしか回答ないんだ・・・」
 「・・・あ、はい。 それで十分ですよ。 ・・・」
 (気がついたら身に付いてた? どういうことなんでしょうか? それにセイ様、なんか異様に戸惑ってるような・・・)

そう疑問を抱きながら、地下迷宮を探索していく・・・。


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