ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) (蜜柑ブタ)
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序章

 初っ端から原作クラッシュです。
 ネルフと初号機の扱いが悪いです。シンジが可哀想。
 使徒も酷い目にあいます。

 ゴジラ無双と、オリキャラとオリジナルメカゴジラ無双です。


序章  ゴジラ復活、第三新東京の危機!

 

 

 

 

 

 

 

 

 1900年代中頃。最強の怪獣王、または水爆大怪獣と呼ばれることとなる怪獣ゴジラと人類の戦いが始まった時代である。

 相次ぐ水爆実験の影響でジュラ紀の恐竜の一種であるゴジラザウルスは、放射能をエネルギーとして操る怪獣となり東京を一夜にして廃墟にしてしまった。

 ゴジラに続けといわんばかりに、世界各地で様々な怪獣達も復活、あるいは生まれてきてゴジラほどではないが暴れ回った。

 この問題に、人類は紛争も戦争も止め、手と手を取り合い地球防衛軍を誕生させた。

 ゴジラは、ひとりの科学者が作ったオキシジェンデストロイヤーという物質によって海で分解され死亡したが、新たに出現した同種の怪獣が現れた。

 オキシジェンデストロイヤーを開発した科学者は、オキシジェンデストロイヤーの製法をすべて破棄し、ゴジラを殺せる分だけのオキシジェンデストロイヤーを使用した後自殺したためオキシジェンデストロイヤーは二度と手に入らなくなった。

 これにより二代目に代替わりしたゴジラと人類の長い戦いの始まりとなった。

 他の怪獣とゴジラとの戦いもありながら、ゴジラは、人類の犯した恐ろしい罪(=核実験)を断罪するかのように破壊を続け、様々な兵器や策を巡らせ戦いを挑んでくる地球防衛軍と戦いを繰り広げた。

 そして約35年前、南極でのゴジラとの戦いが人類側にとって歴的勝利といえる結果を残した。

 南極でたまたま起こった地震により地割れに落ちたゴジラを、初代・万能戦艦・轟天号が氷山をミサイルで爆撃し雪と氷でゴジラを生き埋めにして封印したのである。

 ゴジラが封印された南極の地域をエリアGと定め、そこにゴジラを監視するための施設を建設し、そして約20年間もの間、地球防衛軍はゴジラを封印し続けた。

 その間にもゴジラ以外の怪獣は暴れるので地球防衛軍が怪獣と戦いを繰り広げた。

 そしてゴジラが封印されてから約20年の月日が経ったとき、地球全土を滅亡の危機に瀕するほどの大きな大災害が発生した。

 セカンドインパクトと呼ばれるその災害は、南極を消滅させ、海を赤く染め上げた。

 封印されていたゴジラもゴジラを監視していた地球防衛軍の施設との往信が途絶えたことでゴジラの生死は完全に分からなくなった。

 南極が消滅し、洪水、津波、海水面上昇、噴火、地殻変動、地軸の変動などの災害、約20億人の人類が死滅し、日本などは四季がなくなって年中夏の季節になった。

 この大災害のせいか怪獣達も姿を消し、一番の問題であったゴジラも南極消滅時に死亡したと多くの者達が結論付け始めたため、対怪獣組織が大半を占めていた地球防衛軍はその存在意義を失い、解散されることとなった。

 それが今から約15年前の出来事である。

 セカンドインパクトの余波による影響か、常人を越える身体能力と特殊能力を持つミュータントが世界各地で確認されるようなり、ミュータントの社会的地位を保証しその力を社会に活かすため、通称M機関と呼ばれる組織が発足された。

 M機関のミュータント達は、セカンドインパクトで壊滅した地域の復興に大きく貢献しミュータントへの偏見や差別がなくなるのにそれほど時間はかからなかった。

 セカンドインパクトという大災害を乗り越え、人類は変り果てた世界に適応していった。

 

 それは束の間の平和であった。

 

 

 第三新東京に近い海を見渡せる高台で、金と赤が入り混じった髪を持つ若い男が海の向こうを眺めていた。

 まるで何かがこちらに向かって来るのが見えているかのように。

 

「そうか、やっぱり許せないよな…。分かるよ。」

 

 男は、そう誰かに向って言うように呟くと高台から飛び降りた。

 普通の人間なら怪我してもおかしくない高さであったが、金と赤の髪のその男は、怪我することなく平気であった。

 何事もなく高台から飛び降りてまた海の方を見た。

 その時。

「ツムグ! ここにいたの? 探したわよ。」

「音無博士。いよいよですか?」

「笑い事じゃないわよ。今どういう状況なのか、あなたが一番よく分かってるはずよ、ふざけないで!」

 悪戯っぽくニヤニヤ笑うツムグと呼ばれた赤と金の髪の毛の男を、音無と呼ばれたモデルと見紛うほど若くて美しい女性が叱った。

 ツムグは、笑みを消し、再び海の方を見た。そしてスウッと目を細め、不快そうに表情を少し歪めた。

「はい…、あなたの言う通りですよ。何せ俺は…、G細胞完全適応者だから。」

「例の兵器の準備は整っているわ。あとは、あなたの準備よ。来なさい。35年前の戦いの続きが始まるわ。」

 音無がそう言うと、ツムグは、音無を見て、口の端を釣り上げて笑い、彼女に連れられてどこかへ行った。

 遥か先の海で、海面を盛り上げながら黒い皮膚と青白い光を発する巨大生物の背びれがちらりと見えた。

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

「35年ぶりか…。短い平穏だったなぁ。」

「バカ言うな。セカンドインパクトがあったんだぜ? 怪獣の方がよっぽどマシだった!」

「ああ、悪かった。さっきのは訂正するぜ。」

「まあ、おまえの言い分は分かるぞ、熊坂。俺らは、最前線で怪獣と戦ってきた同志だからな。」

「何をやってる! ゴジラがすでに東京湾に侵入したんた! ミュータント部隊の配置を急がせろ、熊坂!」

 高い階級であることを示すバッチを付けた軍人が熊坂ともう一人の軍人に怒鳴った。

 

 軍用トラックの中では。

「いよいよ怪獣王とご対面か…。怖いか? 尾崎?」

「…正直、怖いよ。でも戦わなければ沢山の犠牲が出てしまうんだ。逃げるわけにはいかない。」

 尾崎と言われた青年は俯いてはいるが、その目には強い意志を宿していた。

「おまえらしいな…。」

「風間、ムチャだけはするな。嫌な予感がするんだ。」

 風間と呼ばれた青年は、尾崎の様子に呆れていたが、尾崎は顔を上げて風間に向ってそう言った。

「そんなの関係ない。戦うだけだ。」

「風間!」

「尾崎…、“カイザー”だからっていい気になるなよ。」

「二人とも落ち着いてください!」

 同じトラックに搭乗している仲間が二人を止めに入った。

『総員に次ぐ! Gが東京湾に侵入! 熊坂の指示に従い、戦闘配置に付け!』

『ミュータント部隊出撃せよ!』

 M機関は、この日をもってミュータント達が社会奉仕する組織という皮を脱ぎ去った。

 

 

 

 

 第三新東京近くの国連の兵器格納庫では。

『椎堂ツムグ、機龍フィアに搭乗しました。』

『DNAコンピュータに異常なし! 椎堂ツムグとの遺伝子共鳴により機龍フィアの全システムが想定範囲内以上の出力を出しています!』

『暴走の兆しはなし。全システムが、椎堂ツムグの精神状態でシンクロは非常に安定しています。凄い…、3式とは比べ物にならない安定感です!』

 

『報告! 第三新東京に、使徒と呼ばれる未知の生体が接近!』

 

「使徒…、N2地雷をもってしても外表に多少のダメージしか与えられなかったらしいな?」

「怪獣でしょうか?」

「いや、そのような報告は受けていない。何の前触れもなく現れたとか。戦自によると、ネルフは、エヴァンゲリオンという人型兵器でしか使徒は倒せぬと言っているらしい。エヴァンゲリオンについてはネルフが極秘事項として一切開示を許さない構えのようだ。」

「何が極秘だ! この非常時に隠し事など! だいたいなぜエヴァンゲリオンとかいう兵器でなければ倒せないという結論が出るのだ!?」

「ネルフについては、各国も手を焼いているそうだ。なにせやることなすこと秘密、秘密、秘密、しかもネルフは独自の権限であらゆる無理を押し通してきたのだ。だが、それも今日で終わりであろうな。」

「さよう。あの怪獣王が復活したとあっては、あの忌々しい老人達も我々に口出しはできんであろうな。」

「そうですな、彼らもゴジラと人類の戦いを知る数少ない先人の一部なのなのですから。」

「実に不愉快ですがね…。地球防衛軍解散後にあの老人達にはどれだけ好き勝手され、どれだけ尻ぬぐいをさせられたことか…。」

「これを機に彼らには、今までの清算をしてもらいましょう。」

「なんならいっそのこと完全に無視して、こっちがあっちを切り捨てたことにしましょうか?」

 ハイテク技術を結集したと思われる指令室にて50代以上の司令官達がそんなことを話し合っていた。

『報告! 新生・機龍コードフィア型、出撃準備完了しました!』

「しらさぎで第三新東京へ輸送しろ。ゴジラに第三新東京を廃墟にさせるな!」

『了解!』

 

 

 第三新東京に向って来る使徒を迎撃しようとエヴァンゲリオン初号機の出撃準備を整えている間に、彼らの知らぬところですでに歴史から姿を消していた組織が動いていた。

 そして海から陸地へ上陸した100メートルは軽くある黒い巨体の生物が、凄まじい雄叫びをあげ、脇目も振らず第三新東京へ進撃した。

 

 使徒サキエルと初号機に乗った一人の少年の初陣のその日が、35年前の悪夢、最強の怪獣王ゴジラの完全復活の日となった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 初号機の中にいるシンジは、目の前にいる使徒サキエルを前にしてコントロールレバーを握る手が震えていた。

 幼いとき母を失い、父に捨てられ、14歳になって突然『来い』という手紙とも呼べない手紙を送られて第三新東京に来た。

 そして葛城ミサトの迎えでネルフにつくなり、久しぶりに会った父ゲンドウからエヴァンゲリオンに乗るよう命令された。

 何の説明もなく親子の情などなく、ただ命令され受け入れられるわけがない。当然拒絶したシンジだったが、するとゲンドウは、予備が使えなくなったと言い、重傷の綾波レイを運び込んできて、彼女に初号機に乗るよう命令した。

 痛々しいその姿と父に捨てられ人との繋がりに飢えていたシンジは、逃げちゃだめだと自己暗示をかけ、初号機に乗ることを承諾した。

 そして血の味するLCLという液体に苦闘しながら初号機の発信準備を整え、凄まじいG(ジー)がかかる射出装置で地上に出された。

 そんなに距離が開いてない場所に不気味に佇み、顔が二つ(N2地雷で顔がもう一個できた)、二本足であるが体の形は人間とはかけ離れた異形。

 ネルフに行く途中で車越しに見たが、軍の攻撃でもまるでびくともせず、地形が一瞬で変わるほどの爆弾でもびくともしなかった怪物と戦う羽目になるなんて微塵も考えてなどいなかった。

 逃げちゃだめだと自己暗示をかけ初号機に乗って出撃したものの、ただの14歳の少年でしかないシンジは、今激しく後悔していた。

 恐怖と不安で心がいっぱいになってしまっているシンジは、初号機と使徒周りに黒いつなぎのジャンプスーツを身にまとい、常人では持ち運びさえできないような兵器を担いで走る人影があったのだが、ネルフのカメラにも映らぬよう動いているためネルフ側も彼らの存在に気付くことができなかった。

『エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』

 指令室にいるミサトがそう指示を出し、オペレーターが射出機から初号機の拘束を外そうとした。

 

 その時だった。

 

 35年前。それ以前に生まれて物心つくぐらいの年代なら一度は聞いたであろう、そしてもっとも恐ろしい恐怖そのものの存在を強制的に認識させられる、あの雄叫びが第三新東京に響き渡った。

 その雄叫びにビクッと体を大きく跳ねさせたサキエルが雄叫びがした方に振り返り。

 シンジも雄叫びの正体が何なのか知ろうと周りを見回す。この雄叫びは聞き覚えがあった。確か学校の授業で見た映像で…。

 ネルフ司令部では、35歳以下の者達は雄叫びに驚き、48歳のゲンドウは聞き覚えがある雄叫びにその正体がなんであったか思い出そうとしたり、60歳の冬月に至っては現実を理解できず震えあがり顔面蒼白して腰を抜かしかけていた。

「どうしたのだ?」

 色々あって幼少期の記憶があまりないゲンドウは、冬月の様子を訝しんで尋ねた。

「い…、碇……。そんな…、馬鹿な……、あれは……、あれは35年前に南極で封印されて、セカンドインパクトで死んだはずでは…!」

 冬月は、現実を理解したくないといわんばかりに首を振り、震えていた。

「あれとはなんだ?」

「そうか、おまえは当時13歳だったな…。しかしそれぐらいの年代なら覚えているはず…、いやそんなことは今はどうでもいい! それよりもっ」

『報告! 巨大な生命反応あり! 高濃度の放射線量を測定! 測定値計測不能!』

 冬月が何か最後に言い終わる前に緊急の報告が総司令室に響いた。

「モニターに映せ。」

「よせ、碇!」

 淡々と指示を出したゲンドウに、冬月が思わずまったをかけた。

 そしてモニターに映ったのは…。

 100メートルをはあろうかというほど巨大な黒い怪獣が、第三新東京の周りを囲う山を乗り越え、武装ビルをなぎ倒しながら使徒と初号機に接近していく光景だった。

「ああ…、あああ……、ご…ゴジラ…!! ゴジラだ!!」

 冬月は、ついに床にへたり込んでしまった。

 ゲンドウは、最初モニターに映った怪獣の姿に目を見開いて驚いていたが、怪獣が再び雄叫びをあげたのを聞いて、ついに幼い頃の記憶が戻り、一気に顔色が悪くなり、硬直して大量の汗をかきはじめた。

 一方、ゴジラの恐怖を知らない若年層が占める指令室では。

「なんなのよ、あれ! 新手の使徒!?」

「いいえ、違うわ。使徒じゃない。まさか、セカンドインパクト以来、姿を消した怪獣? でも、なぜ今ここに…。」

「巨大生物が使徒に接近!」

「これって…、使徒が…怯えてる?」

 オペレーターのマヤがサキエルの様子を見てそう呟いた。

 モニターに映っているゴジラが接近してきたことに、サキエルがオロオロと手を彷徨わせて後退していっているのだ。

 しかし大きさが20メートルも違うため、歩幅が違う、しかもゴジラは、かなりの重量級のであるため歩くたびに道路が陥没し、小さいクレーターができ、離れた場所にある武装ビルがドミノ倒しのごとく倒れ、歩いた後にはゴジラの足跡が深く残る。

 あっという間に距離を詰められたサキエルは、体をガクガクと震わせゴジラを見上げている。

 サキエルを見おろすゴジラが雄叫びをあげた瞬間、その片手が凄まじい速度で振り下ろされ、サキエルの右肩が腕ごと粉々になった。

 ちなみにATフィールドはちゃんと張られていた。しかしゴジラの手が接触した瞬間ATフィールドは、紙を破いたように簡単に裂けてしまい、威力を殺すことすらできずゴジラの一撃がサキエルに直撃することとなった。

 右側の肩と腕を失い、ゴジラの腕力でそのまま地面に顔面から叩きつけられたサキエル。

 よろよろと顔をあげ、残った左腕と両足の膝でゴジラから逃げようとする様は人外とはいえ可哀想に見えるほど弱々しいものだった。

 怒りと破壊の権化であるゴジラが戦意を失った相手を見逃す慈悲などない。

 ゴジラの背びれが青白く輝き、ゴジラの口が大きく開いた。

 そしてゴジラの破壊活動を見たことがある者には最悪の光景でしかない、ゴジラの主力攻撃である放射熱線がサキエルを跡形もなく焼き付くし、第三新東京に大穴をあけた。ギリギリで貫通はしなかったがかなりの範囲が消し飛んだ。

 サキエルを殺し終えたゴジラは、口を閉じ、今度はまだリフトオフされていない状態の初号機を睨んだ。

「ヒィッ!」

 ゴジラがこっちを見たことにシンジは、悲鳴を上げた。

 サキエルがゴジラにあっという間に殺されたのを口を開けた状態で放心して見ていることしかできなかったが、ゴジラの凄まじい殺意が込められた目が自分の方に向けられて正気に戻ったシンジは、本能で今度はこちらが殺される番だというのを理解してしまった。

 夜の闇の中でも燃え上がる怒りの炎で光らせる鋭いゴジラの目を、シンジは見てしまった。世界を焼き滅ぼそうとするほどの怒りと凄まじい殺意に満ちた恐ろしいその目を。

「あ…、う…、う、うわあああああああ! 助けて、助けてぇ! 誰か、誰かぁぁぁ!」

 恐怖のあまりエントリープラグの天井を叩き、エントリープラグの中で喚くシンジ。

 そんなことなどお構いなしでゴジラがゆっくりと初号機に接近していく。

「不味い、あの怪物、初号機まで! リツコ、どうしよう!」

「射出機を下ろして!」

「ダメです! 怪物の重量で起こる地響きと、先ほどの熱線の衝撃で射出機と射出口が変形して動きません!」

「なんですって! シンジ君、逃げて!」

 ミサトが咄嗟に叫ぶが射出機に拘束された状態の初号機は動こうにも動けないのだ。そのことが完全に頭から抜けていた。

 ゴジラが低く唸り声をあげなら、両手で初号機を掴もうと両腕を伸ばした。

 その時、初号機の後ろの上空から複数の熱線が飛んできて、ゴジラの顔面と肩に直撃した。

 ゴジラは、鳴き声を上げ、後退り、初号機から離れた。

 初号機から離れた直後、初号機とゴジラの間にゴジラと同じぐらいの巨大な鉄の塊が降ってきた。

 ゴジラは、慌てて後退すると、ゴジラがいた場所すれすれの位置にゴジラとよく似た形をした銀色と赤のカラーのロボットが着地した。

『着地成功。今からゴジラさんと交戦する。さっさと後ろの粗悪なオモチャと乗ってる子供を保護しろってんだ。』

 ゴジラと似た形をした機械。新生・機龍コードフィア。以下、機龍フィアのパイロット椎堂ツムグが通信機に向ってそう言った。

 機龍フィアの出現で驚いていたゴジラだったが、すぐ敵と認識し、雄叫びをあげながら機龍フィアに掴みかかった。

『3式と一緒にするなよ。ゴジラさん!』

 掴みかかってきたゴジラの腕を逆に掴み、機龍フィアは、ゴジラの超重量の巨体を放り投げた。

 第三新東京の外付近まで投げられたゴジラは、すぐさま起き上がり、熱線を吐いた。

 機龍フィアは、初号機を庇うように前に立ち、熱線をもろに受け止めた。

 しかし熱線が機龍フィアに当たると熱線が細かく飛散し、機龍フィアにほとんど痛手になってない。

『おーい。なんでオモチャと子供を回収しないんだよ? なんかあったの?』

 熱線を浴びてはいるが、それほどダメージを受けていないため乗ってるツムグは再び通信機に向って初号機とパイロットの回収を催促した。

『ネルフに確認したが、どうやら射出機が変形し、下ろせなくなってるそうだ。今からミュータント部隊がパイロットの保護に向かう。それまでゴジラを引きつけていてくれ。』

『なんだよそれ、欠陥品は、オモチャだけじゃなかったってか? ま、いっか、ゴジラさん、悪いけどちょっと遊んでよ。』

 通信をしている間に熱線はやみ、ゴジラが雄叫びをあげて向かってきたので、機龍フィアは、初号機に近づけさせないように突撃してゴジラと衝突した。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとぉ、なんなのよあの怪獣そっくりのロボット! それに初号機になんか人がよじ登っていくわよ!? なんなのあいつら!?」

「国連と戦略自衛隊から通信! 繋げますか?」

「なんなのよこんな時に! なんでここで国連と戦自が出てくるわけ? ハッ、まさかあのロボットと初号機によじ登ってる奴っらって国連か戦自関係者なわけ!?」

「国連軍や戦自が使徒を瞬殺できるほどのあの兵器を作ったとは考えにくいけど…。あの黒くて放射能をまき散らし口から熱線を吐く化け物…、まさか35年前に死んだとされる、怪獣ゴジラ!? ゴジラは、南極で封印されて南極消滅で死んだとされていたのに生きていたというの!?」

 国連軍と戦略自衛隊から同時に通信が入ったことに喚くミサトと、ゴジラのことを資料でしか見たことがないリツコがあれが本物のゴジラであることを理解したりと司令部は混乱状態だった。

「繋げろ。」

 そこへ鶴の一声。総司令のゲンドウが冬月を連れて司令部に現れてそう命令した。

 通信が繋がる。

『こちら国連軍と戦自の共同司令部。ネルフに告ぐ、今すぐエヴァンゲリオンを退避させろ。もしくはパイロットを下ろした後、エヴァンゲリオンを自爆させるなりして粉々に破壊しろ。』

「んなっ!?」

 あまりの内容に、司令部にいた人間達の声が揃った。

「どういうことよ! エヴァを退避させるどころか、破壊しろですって!? 天下のネルフに向ってなんてこと言うのよ馬鹿じゃないの!? 何の理由があってそんな…。」

『ゴジラは、使徒とエヴァンゲリオンを破壊するために第三新東京に上陸したのだ! エヴァンゲリオンがある限り奴は第三新東京に来るぞ!』

「話にならん。」

 ゲンドウが呆れたと一蹴りした。

『ついさっきゴジラが使徒を殺し、エヴァンゲリオンを破壊しようとしたのを見たはずだ! 理由はまだ不明だが、なぜかゴジラは使徒とエヴァンゲリオンを破壊することに固執している! せっかく復興しつつある日本をゴジラに破壊させる気か、貴様らは!?』

「し、しかしゴジラがエヴァを狙ってここへ来たというのには無理が…。」

 冬月が青い顔をしてゴジラがエヴァを襲う理由に無理があると指摘した。

 ゴジラが多くの街と大都市を破壊してきたのを見て、聞いてきた冬月は、人類を滅ぼさんとしているように破壊活動をするゴジラが破壊活動をするよりもなぜ使徒とエヴァを狙うのか分からなかった。

『ともかく! 今、ミュータント部隊がエヴァンゲリオンのハッチをこじ開けてパイロットの保護をしようとしているところだ! 君らが動かないと言うのなら、パイロットだけでもこちらが避難させ、保護させてもらう! 残ったエヴァンゲリオンのことは知らん!』

「なっ!そんな勝手は許さん! やめさせろ!」

「ミュータント部隊って…、M機関のことかしら?」

 国連軍と戦略自衛隊が初号機の中にいるシンジを保護しようと無理やりエントリープラグを壊そうとしているのにゲンドウが焦って叫び、リツコは、ミュータントと聞いてまずM機関のことを思い浮かべた。

 そうこうしている間に、地響きが何度も起こる。ゴジラと機龍フィアの激しい戦いがネルフ本部の上で行われているからである。

 

 

 

 

「よし! あと少し…、開いた!」

 初号機のハッチとエントリープラグを無理やり壊したミュータント部隊のひとりである尾崎がそう叫んだ。

 ハッチをこじ開け、手動でエントリープラグを射出させ、無理やり扉を開けると、LCLが溢れ出た。

「うわっ、なんだこの液体!?」

「臭っ! 血生臭い!」

 自称ベジタリアンな風間が特に嫌そうに顔を歪めた。

 尾崎がエントリープラグの中に体を入れて、中を確認した。

「大丈夫かい!?」

「……」

 尾崎は、膝を抱えて丸くなって震えているシンジを見つけ、できる限り優しく迅速にエントリープラグから出し、初号機の下へ降りると、近くで待機していた医療チームのもとへ走ってシンジを託した。

 シンジが医療チームのトラックで運ばれていくのを見送った尾崎は、拳を握りしめた。

「どうした、尾崎?」

「…あの子は……。ネルフは、なんて酷いことを。」

 尾崎は、シンジに触れた時に読み取ったシンジの記憶からシンジを初号機に無理やり乗せるよう仕向けたとしか思えないネルフのやり方に怒った。

『椎堂ツムグ! エヴァンゲリオンのパイロットは無事保護した! 今からネオGフォースのメーサータンクと、スーパーX、しらさぎの援護射撃と、ミュータント部隊による白兵戦で援護する! ゴジラを海へ追い返すぞ、いいな!』

「…ラジャー。ゴジラさん。人間の都合をばかり押し付けて申し訳ないけど…、勘弁してね。」

 ネオGフォース司令塔の通信を受けたツムグは、抑えていた機龍フィアの機能を活性化させるためDNAコンピュータにシンクロを開始し、彼の目が黒から黄金に輝き始めた。

 倒れた武装ビルや、倒れてない武装ビルの隙間からメーサータンクがぞろぞろ現れ、砲台をゴジラに向けた。

 そして光線がゴジラの巨体に命中し、ゴジラが苦痛の声を上げた。

 武装ビルの屋上まで登った尾崎率いるミュータント部隊と風間率いるミュータント部隊がバズーカ砲とメーサー銃でゴジラの顔面を集中砲火した。

 怯んだゴジラを、機龍フィアが、相撲を取るように抱き付き、ジェットを噴出して凄まじい速度で地面を抉りながらゴジラを海の方へ押していった。

 しかし踏ん張るゴジラ。

「やっぱり、強くなったんだね、ゴジラさん。こりゃちょっと本気出さなきゃいけないな。」

 ツムグは、ゴジラがセカンドインパクト前より強くなっていることを実感し、素早く機龍フィアのリミッターのひとつを解除した。

 機龍フィアの腹部が開閉し、至近距離で4式絶対零度砲をゴジラの腹に発射した。

 至近距離で回避できずゴジラの体が腹部から体のほとんどが氷で包まれた。

「まだまだ!」

 機龍フィアの拳がゴジラの顎をとらえ、アッパーカットが見事に決まり、ゴジラがふらついた。

 そこを回転した機龍フィアの鋼鉄の尾の一撃がゴジラの胴体に決まり、ゴジラの巨体が宙を舞った。

 この衝撃でゴジラの体に付着していた氷は剥がれたが、ゴジラは、苦しそうに呻きながら起き上がろうとしている。アッパーカットが思いのほか効いたらしい。

 反撃の隙を与えず倒れているゴジラに、スーパーXやしらさぎなどの対怪獣用戦闘機の砲撃が容赦なく降り注ぐ。

 メーサータンクもスーパーXも対怪獣の戦闘機も地球防衛軍が解散された時に、その破壊力から悪用されないように解体されたとされる兵器類だ。だがゴジラが復活した今、こうして現役バリバリで稼働していることから解体されることなくどこかに隠されており、しかも整備もしっかりと行き届いていていつでも戦場に出せる状態であったことが分かる。

「まだまだまだまだ!」

 機龍フィアは、機体の砲門をすべて開いてミサイルやレーザーやその他武装を一斉射撃した。

 もうこれはリンチだ…っと、ネルフにいる誰かがこの戦いを見てそう呟いたとか。

 十数分に及ぶ容赦のない砲撃の嵐がやむ。そして煙が晴れると地面にうつ伏せで横たわるゴジラがいた。

 ゴジラは、ヨロヨロと起き上がる。

 緊張が走る中、ゴジラは、ジッと機龍フィアを見つめていた。

 やがてゴジラは、グルルッと小さく鳴き、背中を向けると、足を引きずりながら東京湾へ姿を消した。

「ごめんね…。ゴジラさん。本当にごめん……。あんたが使徒とエヴァンゲリオンを殺したい理由は分かってるんだ。分かってるんだよ。」

 機龍フィアの中で、ツムグは、俯いてゴジラに向ってそう謝罪した。

 

 

 こうして35年の月日を越えて復活したゴジラとの初戦は、人類側の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 




やってしまった…。
ついにやってしまった。エヴァ×ゴジラ。
衝動と勢いって恐ろしいと思った今日この頃。


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第一話  再結成・地球防衛軍

 ゴジラを追い返すことに成功。
 ゴジラは、サキエルを殺して初号機を破壊しようとし、動き回っただけで第三新東京をメチャクチャにしていった。

 ネルフが没落します。
 ゼーレが嘆きます。
 前回何もできずゴジラに睨まれ恐怖のどん底に突き落とされたシンジがあの後どうなったのか。
 そして『ファイナルウォーズ』の主人公(?)、尾崎が頑張るけど…?



第一話  再結成・地球防衛軍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三使徒サキエルがゴジラに成すすべもなく殺され、初陣のシンジが乗る初号機が破壊されかけた。

 初号機と第三新東京とネルフ本部を救ったのが、ネオGフォースという、かつて地球防衛軍の中で対ゴジラ専門の戦闘組織として設立されたものにM機関と機龍フィアを入れてパワーアップした新しい組織だった。

 セカンドインパクトによる南極の消滅を生き延び、セカンドインパクト前より強くなったゴジラを戦意喪失させて海へ退却させることに成功したのだ。

 約35年ぶりのゴジラとの戦いとしては歴史的大勝利といえるだろう。

 

 

 国連の議会場で、第三新東京でのゴジラとネオGフォースの戦いがスクリーンに映されていた。

 ゴジラが機龍フィアとネオGフォースの対怪獣戦闘機の集中砲火を受けて、ついに海へと退散していったところで映像は終わった。

「ご覧になっていただいた映像がゴジラが第三新東京に上陸し、そしてネオGフォースの最新兵器4式機龍コードフィアの成果です。」

 女性司令官・波川玲子の声が議会場に響いた。

「波川司令、ゴジラの復活はすでにネオGフォースは知っていたのですか?」

 議員の一人が挙手して質問をした。

「国連の管理下にあるG細胞完全適応者、椎堂ツムグの言葉からゴジラが生きている可能性が非常に高いと見て、ネオGフォースは、数年前からゴジラを探索し続けました。アフリカの対岸に巨大な生物に腹を噛みちぎられた形跡のあるクジラの死体が発見され、歯型を照合したところ、ゴジラのものとほぼ一致したのです。それから太平洋を横断する放射能物資を輸送していたタンカーが海中から浮上してきた巨大何かによって真っ二つに破壊されたという情報が生き残った乗り組み員の証言で得られました。背びれのようなものと太くて長い尾が海面から出たのが見えたと証言しています。ゴジラは、怪獣王の異名の他に水爆大怪獣という異名を持ちます。これはゴジラが水爆実験で突然変異したジュラ紀の恐竜であることからそう呼ばれるようなったのです。ですからゴジラは、常に行く先々で放射能をまき散らし、放射能による熱線を攻撃手段としていて、さらにゴジラは、放射能物資を捕食する習性があります。過去、ゴジラは、原子力発電施設を襲撃した事例も多く報告されており、放射能物資を輸送していたタンカーを襲ったのも放射能物資が目当てだったと考えればゴジラの犯行であることは間違いないでしょう。また同じ海域を潜航していた原子力潜水艦が二隻、消息を絶っています。」

「ゴジラの姿を映像に収めたり、居場所は特定することはできなかったのですか?」

「ゴジラは、深海を常に泳いで移動しており、またその速度も速く捉えるのはゴジラを封印した35年前から困難でした。ゴジラとの戦いはいつもゴジラが上陸してからがほとんどで…、私達は、市街での戦いを余儀なくされ続けてきました。そんな中、G細胞完全適応者の出現が一筋の光をもたらしたのです。彼は、一定の範囲内でならゴジラの居場所、どこを目指して移動しているのかを感じ取ることができたのです。南極でゴジラを封印できたのも、彼の協力があったからこそです。」

 しかしっと波川は、苦しげに表情を歪めた。

「彼は、人間とゴジラの中間という非常に不安定な存在でした。ゴジラが移動する場所が分かると言うことは、ゴジラの気持ちが分かるということなのです。彼がもしゴジラに同調し、ゴジラと同じ人間への怒りに染まってしまったら、彼はゴジラに並ぶ最強最悪の敵となっていたでしょう。ですから、我々は彼をできる限りゴジラと接触させたくなかったというのが本音なのです。彼が今日まで我々人類の味方でいてくれたことに心から感謝しています。」

「では、G細胞完全適応者が今後敵となる可能性はないということですか?」

「それは、彼次第……とした言いようがありません。」

「だが新型メカゴジラには、そのG細胞完全適応者がパイロットだったと聞いているぞ! これは矛盾だ!」

 議会に参加していた軍人の一人が席を立って叫んだ。

 その言葉に同調した者達が口々にそうだそうだと声をあげはじめた。

「そのことについては、今からお見せする映像とお手元にお配りする資料をご覧になっていただきながら説明します。」

 議会に参加している者達に資料が配られ、スクリーンが再び映像を映し出した。

 それは新型メカゴジラである、機龍フィアの解剖図のような画像だ。

「機密上の問題ですべてとはいきませんが、これが新型メカゴジラ、機龍フィアです。」

 波川が席に座り、今度はネオGフォースの技術者が説明を始めた。

 スクリーンに映し出された機龍フィアの資料映像に、機械関係の技術に携わるか、それを好み認識がある者達が驚嘆の声をあげた。

「機龍フィアの前の機体に当たる3式機龍に導入されていた、DNAコンピュータは、3式機龍に利用されていた一代目のゴジラの骨髄幹細胞を使用したため、二代目のゴジラ、つまり現在のゴジラに共鳴してしまい暴走し大惨事となりました。そこで3式のDNAコンピュータをゴジラのものとは別の物に変えることで暴走を防ぎました。しかし3式は、ゴジラとモスラを交えた混戦の際に自我を持ち、モスラの幼虫の糸で拘束されたゴジラを抱えてゴジラと共に日本海溝へ沈むという最後を迎えました…。」

 そこまで説明して、一旦言葉を置いた。目をつむり何か耐えるように。

 技術者は、メカゴジラの開発に携わったベテランの技術者であるため機龍への思い入れがあるのだ。

「おっと話がそれてしまいましたな。で、この新型メカゴジラ・機龍コードフィア型と名付けたメカゴジラは、3式がゴジラの骨を使用したのに対し、G細胞完全適応者・椎堂ツムグの細胞を使って開発したものです。」

「G細胞完全適応者の細胞を!?」

「なぜそんな発想が出るんだ!?」

「それは、今から説明させて頂きます。お手元の資料の5ページ目を開いてください。」

 資料の5ぺーじ目には、3式に使われていたゴジラの骨とG細胞完全適応者の細胞との違いが記されている。

「G細胞完全適応者の細胞は、G細胞を取り込んだ人間の細胞なのです。割合は、見事に半分半分。まさに理想。G細胞の良い部分だけを手にした超人! しかも人間の細胞が混ざっているためゴジラとの共鳴で暴走する率も極めて低く、ゴジラの居場所を割り出すレーダーとしての力もあり、G細胞の特徴であるエネルギーを吸収し変換する能力もあり、ゴジラの熱線を被弾してもエネルギーを吸収、無効、拡散させることができるのです! 第三新東京でのゴジラとの戦闘の映像で見たでしょ! 白い熱線を真っ向から受けて無傷でいたのを!」

 技術者の説明に熱が入っていった。

「けれど機龍フィアは、まだまだ改良中なのです。なにせ第三新東京が初陣だったのですから。ゴジラを海に追い返した後、ドッグに収容してから機体を見て正直自分は眩暈がして倒れそうになりましたよ。アッパーカットをしたせいで指の関節部分の金属が破損し、目も当てられない有様で、尻尾もゴジラに一撃を与えた衝撃で背骨が曲がってしまっていて…。そして一番は! 七つのリミッターの内、ひとつを解除したせいでシステムのあちこちの伝達回路が使い物にならなくなっていたことだ! なんで許可もなくリミッターを解除したんだ、椎堂ツムグ!!」

 技術者は、ここにはいない椎堂ツムグに向って怒りの言葉を吐き散らした。

「あの…、七つのリミッターとはなんですか…?」

 議員のひとりが恐る恐る質問をした。

「…ォホン。で、七つのリミッターとは、機龍フィアに搭載した機龍フィアの力を解放するための蓋です。1つ解除するごとに力、防御、速度などがパワーアップしていきます。」

 正気に戻った技術者が軽く頬を赤く染めて咳払いして説明をした。

「なぜわざわざリミッターなどつける必要が? 力を抑える必要はないのでは? 我々はゴジラを追い払うのではなく、倒すことが、まず第一の目標なのですよ?」

「……機龍フィアのリミッターは、G細胞完全適応者の椎堂ツムグにしか解除できないようにしてるのです。その理由は、椎堂ツムグと機龍フィアのDNAコンピュータが近親間のシンクロで他のパイロット以上の性能を発揮するからです。しかしそのシンクロが問題なのですよ。シンクロ率が上がれば上がるほどにシンクロしている椎堂ツムグに負荷がかかり、最終的に機龍フィアのダメージが椎堂ツムグも感じるようなってしまいます。七つのリミッターをすべて解除した時、それはもうエネルギー暴走です。デストロイアの時のゴジラのようにメルトダウン寸前のゴジラと同じです。数百万度近い灼熱を纏った最強の状態になります。しかしシンクロ率は、100パーセントとなり、灼熱に焼かれ続ける機龍フィアの暑さの苦しみを椎堂ツムグが味わうことになり、長くは持ちません……。そして暴走のあと最悪大爆発を起こす可能性が高いのです。その爆発は日本国を分断できるぐらいの威力はあるとネオGフォースのスーパーコンピュータは割り出しています。ですから機龍フィアがリミッターを解除するのは、極力避けたいのです。機龍フィアに変わる新しい兵器が開発される目途がつくまでは機龍フィアには、ゴジラと戦ってもらわなければなりません。ですから、機龍フィアを一番うまく操縦し、パワーを引き出せるのは…、機龍フィアの素体にした細胞の提供者である椎堂ツムグが一番なのが現状なんですよ。そのために第三新東京での初陣では、あらゆる方法で記録をとり、それを機龍フィアの改良に生かし、椎堂ツムグ以外でもゴジラを相手にできるほどの力で戦えるようにします。もちろん新しい兵器の開発にも生かしていきます。」

「機龍フィアの改良のために、国連の皆様に折り入って頼みたいことがあります。」

 波川が国連の者達に向って言った。

 国連の代表者達は、何を頼まれるか分かっている様子だ。

「波川司令。資金については、ネルフに出資している資金を、ネオGフォースに回します。いや、ネルフの維持費も最低限に抑え、そちらに。」

 即決である。

「ありがとうございます。」

「エヴァンゲリオンをゴジラが狙っている以上、その開発、維持に金を割く必要などこれっぽっちもありませんからな。」

「復活を果たした、あの怪獣王との戦いのため、存分にお使いください。」

 もう言いたい放題である。ネルフの態度(主にゲンドウのせい)に鬱憤がたまっていたのだ。

「話に水を差すようで申し訳ないが、どうやら使徒は、第三新東京に襲撃してきたものだけじゃなく、これから先何体も現れると小耳に挟んだのだが…。」

「つまり今後ネルフに、いや第三新東京に使徒が現れると…、ゴジラが来る口実が第三新東京に集中して現れるのか。これは、使わない手はありませんな。波川司令!」

「はい。追ってネルフには、通達する予定です。彼らは抗議するでしょうが、ゴジラが接近していることを緊急で知らせたにもかかわらず『バカバカしい』っと切ったあげく、通信拒否した彼らにはお灸を据えねばなりません。そしてゴジラをおびき寄せるだけの餌となった彼らご自慢の兵器エヴァンゲリオンの開発のために湯水のごとく使い続けた多額の国債と用途不明の資金繰りについても、彼らに払っていただきましょう。ゴジラをおびき寄せる的(マト)として!」

 冷静な指揮をすることで有名な波川だが、よっぽどネルフに恨みでもあるのか珍しく声を荒げ、机をバーンッと叩いた。

 

「皆さん。お話は、ここまでにして、大事な宣言を忘れてはいませんか?」

 

 国連の代表の一人が、優雅な声でそう言った。

「おお、大変なことを忘れていましたな。」

 議会に参加している者達がざわざわと囁きあった。

「では、ここは日本の議会場なので、私が代表して宣言を言う大役をさせていだきます。」

 日本の首脳が立ち上がると拍手が起こり、そして静まった。

 日本の首脳の宣言を今か今かと待つ全員の真剣な眼差しが首脳に向けられる。

 

「今この日、この時をもって! 地球防衛軍の復活を宣言する! 諸君! 35年前の戦いの続きの始まりだ!!」

 

 首脳の宣言が終わると同時に議会場にいた者達が席を立ち、手を上げて力強い声援を上げた。

 

 

 2015年。地球防衛軍は、15年の歳月を経て、復活した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地球防衛軍の復活は、すぐにメディアに発信され、各国の国民達がうれし涙を流したり、意味が分からないと首を傾げたりするなど反応は様々だった。

 そして地球防衛軍の復活の報せと同時に、15年前にセカンドインパクトで死んだと思われていたゴジラが第三新東京に上陸し、ゴジラが完全復活したことを報じた。

 ゴジラの恐怖を知る年代の者達は、最悪最強の悪夢の復活に竦み上がり、ゴジラを本や学校の授業などでしか知らない若い世代はゴジラに純粋な興味を抱くか、無関心だった。その若い世代も間もなくゴジラの恐怖を身を持って味わうこととなる。ゴジラは、現在、使徒とエヴァンゲリオンの破壊に固執しているが、本質である人類への敵意は変わっていない。だから街に、都市に上陸し、破壊の限りを尽くすのだ。

 セカンドインパクトの爪跡がまだ大きく残された地球に、まだセカンドインパクトが起こらなかった頃に殺すことができず封印するのが限界だった最強の怪獣王が降臨した。例え激変した地球の環境であろうとゴジラがやることは変わらない。ただ使徒とエヴァンゲリオンを破壊するのにやたら固執するのを抜けば。

 しかしそれでも人類は戦う。生き残るために戦うのだ。

 ゴジラの復活は、かつて地球防衛軍の誕生の時と同じように、セカンドインパクトでバラバラになっていた人類を一致団結させるきっかけにもなるのだ。

 

 使徒を倒さなかったら、エヴァンゲリオンが動かなかったら、負けたらサードインパクトという滅亡がどうとかいう話は、ゴジラという存在一つでクラッシュされたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 このことで一番嘆いているのは、恐らく……、人類の歴史を操り、現在は国連を隠れ蓑にしてネルフを裏で操っている秘密結社ゼーレであろう。

 どこかの位部屋の空間にモノリスが浮かび、中央にバイザーを身につけた老人が座って頭を抱えている。周りのモノリスは、11個。

『キール議長……、お気持ちはお察ししします。』

 モノリスの一つが中央にいるキールという老人に向って弱々しい声で慰めの言葉をかけた。

「慰めの言葉などいらぬ!」

 ガバッと顔を上げたキールは、顔を怒りで歪めていた。

「ゴジラだと…、太古に滅んだ種が人類の愚かな行為(核実験)で怪獣となり、人類を断罪するかのように都市の破壊をしているシナリオにない最悪のイレギュラーめ。南極で起こしたセカンドインパクトでエリアGもろともLCLに還元されたと思っていたが、まさかあの状況で生き延びていたとは…、しかも使徒とエヴァを狙っているだと!? そんな馬鹿な話があるか!」

『落ち着いてください!』

『そうです! まだゴジラが使徒とエヴァを狙っていると決まったわけでは…。』

『何を言っておるのだ! G細胞完全適応者が、ゴジラから読み取った感情からゴジラが使徒とエヴァを狙っているからこそ、ゴジラは第三新東京で使徒を殺し、さらに初号機を破壊しようとしたではないか! 初号機を破壊される前にああもタイミング良く地球防衛軍の奴らが駆けつけれたのもすべては地球防衛軍どもがゴジラの行動目的を確かめるために使徒とエヴァを餌にしたからだ! ゴジラは、知恵が高い怪獣だ。何か目的があるのは間違いない!』

『貴様! 地球防衛軍の肩入れをするというのか!』

『そういうことではない! 問題なのは、ゴジラがなぜ使徒とエヴァを狙うかなのだ! 非常に考えたくないことであるが…、ゴジラは、セカンドインパクトの真実と人類補完計画のことを南極消滅の際に知ったのではないか?』

『放射能で突然変異した怪獣王などと大げさな二つ名を持つ畜生がか? バカバカしい。怪獣ごときが我々の崇高なる計画を理解し、それを阻止するために使徒とエヴァを狙っていると言いたいのか?』

『だが…、映像を見る限りでは、ゴジラは、使徒とエヴァを破壊することを最優先してそれ以外は眼中にないという風にも見えなくもないぞ…?』

『しかもゴジラは、ATフィールドを片腕を振っただけで破壊し、使徒の体を一部破壊して戦意を喪失させた後、得意の熱線で跡形もなく焼き尽くしてしまった…。ATフィールドが通用しないとは、一体どういうことなのだ?』

『ゴジラがATフィールドかアンチATフィールドを持っているとは考えられぬ。単純に奴の力が絶対領域を簡単に破壊できるほど強いだけだとしたら……。すべての使徒が束になってゴジラと戦ったとしても勝ち目は、ゼロだ。』

『それは、エヴァシリーズも同様だ。確かメカゴジラといったか。あの兵器は。」

『機龍フィアという、3式機龍の次世代機らしい。』

『そうその機龍フィアというロボット…、あれは使徒が手も足も出なかったゴジラを相手に互角に渡り合っていた…。地球防衛軍が有する対怪獣用兵器、そしてM機関のミュターント部隊、どれをとってもエヴァなど足下に及ばない優れた力を秘めている。武器についてまだ開発段階のエヴァにゴジラに対抗する手段は全くない。』

『さらに第三新東京にゴジラが襲撃した時、初号機にサードチルドレンの碇の息子が乗っていたらしいが、M機関のミュータントどもが初号機のハッチをこじ開けて碇の息子を救出、現在身柄は地球防衛軍に保護されている。』

『なぜネルフは、初号機を戻さなかった?』

『ゴジラの歩みによる地響きと熱線による爆発の衝撃でエヴァを括りつけていた射出機が故障し、初号機を戻すことも解放することも出来なくなっていたそうだ。なんたる失態! 貴重な依代の候補をみすみす地球防衛軍どもの手に渡してしまうとは!』

『ゴジラってそんなに重たかったのか…?』

『ゴジラの復活など裏死海文書にも記されていない。そもそもゴジラが最初に現れた1900年代のあの時からすでにおかしかった…。ゴジラに続き多く怪獣の出現。ゴジラは一匹目は殺せたのに、二匹目が現れた。一部では、ゴジラを人類の犯した罪を断罪する者だと考えている者がおり、中には神と呼ばれることすらあるらしい。確かにあれほどの不死性と巨大な力を前にすれば恐怖のあまり崇拝したくなってしまうのも致し方ないことであろうな。』

『ゴジラのおかげで我々のシナリオは、大幅な修正をせねばならなくなった。ゴジラが南極で我々の目的を知ったと想定したうえでこれがすべて偶然でないとするならば、ゴジラは、我々の神への道に進むための儀式、人類補完計画を阻止するつもりか? だからこそ人類補完計画の要である使徒とエヴァを自らの手で破壊しようと…。』

『怪獣などという畜生に、人類を新たな段階へと導く偉大なるこの計画を理解できるわけがない!』

「そうとは言い切れぬ…・。」

『議長!?』

「人類補完計画がどのような形で遂行されるかを知っているからこそ、ゴジラは、核実験以上の人類の罪と判断し、わざわざ第三使徒が出現した時に姿を現した。そうとしか考えられぬほどタイミングが良すぎる。しかも第三新東京での映像を見る限り、使徒を殺した後、まるで見せつけるようゆっくりと、初号機に向って行った…。セカンドインパクトを生き延びたゴジラがセカンドインパクトが我々のシナリオに沿って行われたことだと知っていたとしたら、あれは我々に見せつけるためでだったのではないか? おかしいと思わぬか諸君?」

『ぎ、議長! 議長までそのようなバカバカしいことを…。』

「黙れ! バカバカしいと切り捨てた結果、我々はゴジラの生存にすら気づくことができず、解散させた地球防衛軍の復活をみすみす許してしまったのだぞ! 人類の歴史を陰から動かしてきた我々が…、我々が表舞台の者共に出し抜かれたのだ!」

『その通りだ! 我々は、M機関が単なるミュータントの社会的奉仕機関だと認識していたが、真実は対怪獣戦闘部隊で、ネオGフォースの新たな戦力を育て上げるための組織だった! それ以前にGフォースが地球防衛軍解散後も密かにゴジラを警戒して我々の目の届かぬところで活動していたことが問題だ!』

『なぜだ! なぜ我々は、奴ら(ゴジラ含む)の行動に気付くことができなかったのだ!? 国連…、いや地球防衛軍は、我々の隠れ蓑としての役目を放棄した! 怪獣どもを一掃するために黙認して、地球防衛軍解散後は再び我々の隠れ蓑に戻ったかと思いきや裏切りおって!』

『おのれゴジラめ! おのれ地球防衛軍め!』

 

 暗い空間にゼーレ一同の怨む叫び声が木霊し続けた…。

 機械化している彼らに涙を流す機能があったなら、きっと血の涙を流してるに違いない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 もう一方。

 地球防衛軍の復活で嘆いているのは、ゼーレだけではない。

 国連直属非公開組織であるはずのネルフを完全に切り捨てた形で、国連は地球防衛軍と名を変え、一度解散した15年前から地下に潜伏して活動していたGフォースをネオGフォースと改めて対ゴジラ戦の戦力を増強した。

 地球防衛軍の復活の報道とゴジラの復活の報道の後、ネルフは、国連あらため地球防衛軍から、あらゆる予算の供給をほとんど打ち切られた。

 予算を切られた理由は、ただ一つ。

 復活した怪獣王ゴジラと戦うために無駄を省くためである。

 巨額の資金を投じて開発された使徒に対抗するためのネルフの最終兵器の一機である初号機は、第三使徒サキエルとの戦いで一歩も動くこともできず、いきなり現れたゴジラに使徒サキエルを殺され、初号機は射出機に拘束されたままの状態で危うくゴジラの破壊されかけただけに終わったのだ。

 パイロットの少年、碇シンジは、ミュータント部隊が動けない初号機のハッチを無理やり壊して中にいたシンジを保護し、その身柄は現在地球防衛軍にある。

 地球防衛軍の司令官・波川からのメッセージで、今後ネルフは、ゴジラをおびき寄せるための餌として動いてもらうという理不尽な役目を押し付けられることになり、地球防衛軍の戦力として口出しする権限も、それまであった国連から保障されていた権限もすべて剥奪された。

 第三新東京へのゴジラ襲撃後、命令を無視してゴジラが狙っているエヴァシリーズを破棄しなかったのもネルフの立場をここまで墜落させた要因である。

 しかもネルフ本部には、ごく一部の者しか知らないことであるが、ジオフロントに第二使徒リリスが磔になって封印されているのだ。ゴジラがエヴァと使徒の両方を破壊することを目的にしているのであれば、例えエヴァをすべて破壊してもゴジラは、ネルフ本部を襲いにやってくるであろう。エヴァを破棄できないのは、ゲンドウの個人的な理由もあるが、破棄したところでリリスがいる以上、エヴァがなくてもゴジラが来るとなっては地球防衛軍が怪しみ、リリスのことがばれ、芋づる式でセカンドインパクトの真実やサードインパクトと人類補完計画のことがすべて公にされてしまいかねない。だからエヴァシリーズの破棄することができないままなのだ。人類補完計画の鍵として作られたエヴァは、もはや兵器としてでも人類補完の鍵でもなく、ただネルフが抱える真実を隠すための隠れ蓑に成り下がってしまっていた。ばれるのも時間の問題であるが…。

 ゴジラと機龍フィアの戦闘でメチャクチャになぎ倒された武装ビル群の撤去が急ピッチで行われているのだが、ネルフの武装に関する予算がないため未完成だった武装ビルの完成の道のりは完全に閉ざされた。

 ネルフに与えられる予算は、精々ネルフと第三新東京とネルフ本部を最低限維持するための維持費ぐらいである。しかも用途もきっちり管理・監視された状態であるため、帳簿を誤魔化すことすらできない有様だ。

 エヴァは、初号機及び零号機ともに完全凍結。武装の開発も完全に中止。予算の超大幅カットで職員達の給料もカットされ、ネルフの職員達が一斉にデモを起こし、そこに地球防衛軍の職員が今人材募集中だと囁いたため、ネルフの職員達がそっちに全部流れそうになるのを冬月が必死になって説得して止めようとするという物悲しい事件が起こっている。がんばって止めようとしてるが、ネルフ以上の良い条件のせいで職員の流出は抑えきれず、じわじわと確実にネルフは、内からも外からも弱体化するのであった。そして地球防衛軍が命じた通り、ただのゴジラをおびき寄せるための餌に成り下がっていく…。

 

 ネルフの弱体化にともない、経費を節減するため、ネルフの管理下にあった病院が閉鎖されることになり、そこに入院していた患者たちは地球防衛軍の管理下にある病院に移されることになった。

 その中には、ファーストチルドレンである、綾波レイもいた。そのことに気付いたのは、1週間ほど前のことで、ゲンドウが荒れたこと荒れたこと…。50歳目前の大人が癇癪持ちの子供みたいだったと目撃者は語る。

 ドイツにいるセカンドチルドレンを抜きにして、すべてのチルドレンを失ったネルフは、本当に本当に無力化してしまった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「精神感応による治療?」

 医療機関に集められたミュータント達。その中に尾崎や風間もいた。

 医療機関の医者の一人が説明を始めた。

「保護した碇シンジ君は、ゴジラに殺されかけたショックで精神に大きなダメージ受けています。肉体的には健康ですが心の治療までは我々の技術をもってしてもできません。そこでミュータントの特殊能力の一つである精神感応で碇シンジ君の精神を正常に、そして正気に戻るよう働きかけ、彼の心を治療することを考えました。」

「皆さんが忙しいのは、分かっていますが…、ミュータントの皆様はセカンドインパクト後の復興の際にその能力で心神喪失状態の被災者の心を癒すこともあると聞いていますので、どうかお力を貸していただけませんか? どうかお願いします!」

 看護師の一人が悲痛な顔をして頭を下げた。

 わざわざM機関に直接依頼して頼み込んできたのだ。よっぽどシンジの容態は危険な状態ということらしい。

 動けない初号機の中でゴジラに襲われる体験をしたのだ、14歳足らずの子供が耐えられない方がおかしいぐらいの恐怖であっただろう。怪獣と戦うのがあの第三新東京でのゴジラとの戦いが初陣だったミュータント部隊の尾崎達ですら、ゴジラの迫力と圧倒的な力に恐怖で押し潰されそうであったぐらいだ。だがゴジラを倒すなり(これはほぼ不可能に近いが)追い返すなりしなければそれ以上の犠牲が出てしまうという正義感と使命感が彼らを動かし、ゴジラを追い返した後も次の戦いに備えいつでも動けるようになっているのである。

「俺は構いませんよ。なあ、風間?」

 尾崎が風間に話を振ると、風間は、何か考えるように腕組をしていた。

 それを見て、尾崎は、風間はこの手のことは不得意な方だということを思い出した。だが風間は負けず嫌いだし、やろうと思えばできる奴だ。現に被災地で心に傷を負った被災者を不器用ながら励ましながら救助し、その被災者の回復を早めたことだってたくさんある。なのだがそのことを風間は知らないし、教えても照れ臭くて心にもないことを口走ってしまうだけだろう。

「命令なら…、従います。」

 風間は単調な口調でそう言った。

 尾崎、風間と同期のミュータント達は、風間のその不器用さを知ってるため心配そうに風間を見ていた。

 そんなこんなで、手が空いてるミュータント達が交代で医療機関に保護されている碇シンジの治療にあたることになった。

 尾崎に番が回る前、先にシンジの治療にあたった仲間が、それは酷い状態だったと悲しそうな顔をしたり、本気で泣いたり、同調のために顔を青くして疲れ切った様子でシンジの病状を語っていた。

 風間は、残念ながらあまり成果を出せなかったらしく、そのことが悔しいのか終わった後、悔しさを発散するためか訓練でやたら暴れていた。

 やがて尾崎が治療にあたる日になり、シンジがいる病室にノックして入った。

 シンジは、上体を起こせるベットに背を預けたままどこを見ているのか分からない目をして動く気配を感じさせない。死体かと一瞬間違えそうなるほど生気が感じられなかった。

 わずか14年しか生きていない少年がこんな有様になっているのを見てしまっては、正義感が強く他人を守ることを優先する尾崎なら見過ごしてはおけない。

 尾崎は、シンジが寝かされているベッドの横にある椅子に腰かけ、シンジの細い手を握って目をつむった。

「うぅっ!」

 途端に流れ込んでくる壊れてしまったメチャクチャな感情の波が尾崎の脳髄に叩きつけられ、尾崎は思わず呻いた。

 感情の放流はすぐに消え、後には、シンジの心の残骸と思われるものが散らばる暗い暗い精神が視えた。

 これはもはや肉体は生きていても心が死んでしまっているいっても過言ではない状態である。

 しかしそれでも治してやりたい。未来ある子供がこんな惨い最後を迎えていいはずがない。

 尾崎は、シンジの心の中を探索した。シンジの生きようとする意志が少しでもあればそれをすくい上げて壊れた心を繋ぎ合わせて治すことができるはずだと信じて。

 ちなみに、ここまで人の心の中に深く入り込めるのは、尾崎だけである。

 それは、尾崎がミュータントに数百万分の一の確率で生まれる、“カイザー”と呼ばれる超越者であるからだ。

 その気になれば世界を支配、あるいは滅ぼせるほどの力を持つのだが、尾崎はそんな特別な存在である自分に慢心することなく、いたって正義感の強い心優しい青年であることを選んでミュータント部隊の一員として人類のために戦い、守ることを誇りとしている。

 だからこそシンジという一人の少年のために全力を尽くすのだ。

 たった一人を救えなくて、その他大勢の者達を救うことなどできない。尾崎はそう考えている。

 心の欠片が散らばる暗い世界を走っていた尾崎や、やがて小さな、本当に小さな光の粒を見つけた。

 尾崎はこれがシンジの生きようとする意思だと確信し、ソッと優しく、それに手を伸ばした。

 光に手が触れた途端、世界が白く染まった。

 尾崎が目を開くと、そこは知らない施設の中だった。

 白衣を着た、女性がいる。

 顔立ちが、シンジに似ているような気がした。

 言葉は聞こえないが、傍にいる同じく白衣を着た男と話し合っている。尾崎の目から見て、二人の仲はとても良く、恐らく恋人か夫婦という関係のようだ。

 更に場面が変わる、なんか視点が低い。

 そして尾崎は目を見開いた。

 そこにあったのは、エヴァンゲリオン・初号機だったのだ。

 外見は第三新東京で見たものと違うが、外装を付ければちょうど初号機になるだろう。たぶん尾崎が見ているのはエヴァの中身だと思われる。

 なぜこれが初号機だと尾崎が分かったかと言うと、尾崎がシンジを救出するときに初号機に登った時に特殊能力で初号機から無意識に波長というかなんというか、個体を識別する何かを覚えてしまっていたからだ。

 なんか初号機(素体)(断定)の周りで人が大騒ぎしている。

 何があったんだ?っと尾崎が首を傾げていると、景色が消えた。

 次に見た光景は、どこかの駅だろうか、最低限の荷物が入ってそうなそれほど大きくない鞄を隣に置いて大声を上げて泣いている幼い子供と、その子供に背を向けて去っていく男の姿だった。

 子供の顔は、シンジの顔立ちに似ていたので、これは、シンジの幼い時の記憶だと分かった。

 そしてまた景色が変わった。

 夕日に照らされた電車の中に尾崎がいる。

 席には、小さい子供が座っている。顔は、陰になって見えない。

「君は…。」

『お母さんがね…。消えちゃったの。』

 小さい子供が尾崎に言った。今にも泣きそうな声で。

『お母さんがカイブツの中で溶けて消えちゃったの。でも生きてるんだって。父さん達が言ってた。』

「お母さん…、カイブツ…、怪物って、もしかしてエヴァンゲリオンのことかい?」

『お母さんと父さんも、毎日イーケイカクで忙しくって、ボクは、いつも一人だったんだ。』

「いーけいかく?」

『ジンルイは、このままじゃダメになるからって、お母さんが一生懸命考えたことなんだって。』

「お母さんは、一体何をしようとしたんだい?」

『ジンルイ……、ホ…カン……。』

 景色が急にテレビのノイズのようにザラザラとかすみ始めた。

「待ってくれ!」

 尾崎が少年に向って手を伸ばした。

 そして世界は、ガラスが砕けるように砕け散った。

 

 

「尾崎…、尾崎!」

 尾崎は、ベットの端に顔を押し付けた状態で突っ伏した状態で揺さぶられていた。

「うっ……。シンジ…く…ん。」

 のろのろと顔を上げた尾崎は、彼を心配する医者達の声を無視して、彼がいまだ手を握っているシンジの方を見た。

 シンジは、随分と安らかな顔で静かに眠っている。最初に見た、死体と間違えそうな様子とはまるで別物だ。

「大丈夫かい? あれからもう3時間以上もダイブしていたんだ。次の人に交代して、君は休みなさい。」

「いいえ。もう一度、もう一度! この子の心に入らせてください!」

 がばっと起き上がった尾崎が医者にそう訴えた。

「どういうことだ? いくら君でもこれ以上は…。」

 尾崎がかなり消耗していることを医者は見抜いている。これ以上精神感応させれば危険なことは目に見えている。

「お願いします! あと少し…、あと少しで、シンジ君を…、それと重大な何かに近づけるはずなんだ。」

「重大ななにか? 君は何を見たんだい?」

「それはあとで…。では、もう一度やります。」

 尾崎は、両手でシンジの手を握り意識を集中させた。

「ぐっ!」

 途端、ビクンッと体を跳ねさせた尾崎がシンジの手を握ったまま横に倒れていった。それを傍にいた医者が支えたので床に体が落下することはなかったが、尾崎はシンジの手を握ったまま意識を失っていた。

「あああ! いわんこっちゃない! 誰か! 誰か、M機関に連絡を!」

 

「その必要はないよ。」

 

 どこからともなく現れた若い男。

 その声と顔を、地球防衛軍のあらゆる研究機関の関係者の人間に知らぬ者はいない。

「お、おまえは、G細胞完全適応者! なぜここに!?」

「お気に入り君が大変そうだから、手伝ってやろうと思って~。ちょっとどいて。」

 椎堂ツムグは、尾崎を支えている医者を押しのけて尾崎を抱きしめた。

「“カイザー”だからって限界はあるよ。尾崎真一。驕らないのと、その力を他人のために全部使おうとするのは、おまえの良いところだけど、限度ってものがあるんだよ。きゅ~しゅつ開始。」

 椎堂ツムグの赤と金色の髪が、ほんのりとした青白い光を放ちながらふわっと逆立った。

 

 

 再びシンジの心の中に入った尾崎は、自分の意識が凄まじい速度で落下していくのを感じた。

 精神と肉体が離れ離れになる非常事態が起こったかもしれない。

 尾崎は顔を青くしたが、生還を果たすため、そしてシンジの心の中で見て聞いたことを現実に持ち帰るために己を奮い立たせた。

 体制を整え、いつ着地地点に来てもいいように備えた。

 どれくらい落ちていたか分からない。だが着地した。あの夕日の中の電車の中で。

「やあ…、また会ったね?」

 尾崎は流れる汗を拭いながら、席に座っている子ど身に向って笑いかけた。

『お兄ちゃんって、ムチャするんだね。』

 最初に出会った時と違う、泣きそうな声じゃなく、同じ声だがはっきりとした声で子供が喋った。顔は、陰になっていて見えないが、おかしそうに笑っているような気がした。

「君は…、違う…、誰だ、誰なんだ? さっきの子じゃないだろ。」

『分かる? やっぱりお兄ちゃんは特別だから分かる? そうだよ、ボクは、シンジの声と姿を借りてるんだ。』

 シンジではない何者かが、シンジの声と姿を借りて尾崎に語りかける。

「何者だ? おまえはどうしてシンジ君の中にいるんだ?」

『シンジは、心を壊す直前までどこにいたのか、覚えてるでしょ?』

「どこって…、エヴァンゲリオン? まさか、おまえは、エヴァンゲリオンだって言うのか?」

『うん。人間は、ボクのことをエヴァンゲリオンとか初号機って呼んでるよね。ボクには、名前なんてないよ。ボクは、生まれた時からボクだし。勝手に好きな名前で呼べばいいよ。ボクは名前なんてどうでもいい。』

 シンジあらため、シンジの声と姿を借りた初号機が衝撃の事実を尾崎に明かした。

「初号機は、…いや、エヴァンゲリオンは、ただのロボットじゃないのか?」

『人造人間って言われてるよ。本当は、人間が使徒って呼んでるモノからボクは生まれたんだ。ううん、違う。ボクは、ツクラレタんだ。好きで生まれてきたんじゃないよ。』

「エヴァンゲリオンが使徒だって!? だから使徒と戦えるのはエヴァンゲリオンだけって理論があったのか…。使徒は昔からいたってことなのか?」

『そうだよ。お兄ちゃんが見たことがあるのは、三番目の使徒だよ。一番目は、アダム。二番目は、リリスっていうの。それでね、驚かないでね。人間は、18番目の使徒、リリンなんだよ。』

「なっ…」

 尾崎は言葉を失った。全く異なる生物だと思っていた使徒が、人間と同類だったなどと考えもしなかったからだ。

『それだけじゃないよ。他の生物も全部、使徒から生まれたんだよ。だから使徒は、みんなのお父さんでお母さんなの。』

「嘘だって…、思いたいけど、本当なんだろうな。」

 尾崎はこめかみを抑えてここがシンジの心の中であるから、相手が幼いシンジの姿を借りた初号機でも嘘は言っていないのを理解している。だが使徒がすべての生命の起源だという話は受け入れがたい衝撃的な事実だった。

『お兄ちゃん、疲れてるでしょ? 座ったら?』

「ああ…。」

 尾崎は、初号機の向かいの席に座り込んだ。

『ねーねー、お話し、続けていい?』

「…ああ。」

『でね、使徒には、アダムから生まれた命と、リリスから生まれた命がいるの。リリンと他の生き物はね、リリスから生まれたんだよ。使徒は、アダムから生まれたの。ゴジラに殺されちゃった使徒はね、サキエルって言うんだよ。あと使徒はアダムとリリスを入れて全部で17いるの。リリンは別だよ。だってコア退化しちゃってて使徒とは違っちゃったんだもん。』

「それってつまり…、あと14体も使徒が現れるってことだよな?」

『そうだよ。使徒はね。アダムに還りたがってるの。だからアダムを探してるの。でもね、アダムは、南極でバラバラにされちゃったんだ…。でも失敗しちゃったの。だから南極も世界中も壊れちゃったんだ。』

「はあ!? どういうことなんだ!」

 尾崎はそれを聞いて身を乗り出して叫んだ。

「アダムが南極でバラバラになって、それが失敗で南極と世界が壊れたって…、まさかセカンドインパクトのことを言ってるのか!? 隕石の落下が原因っていうのは嘘だったっていうのか!?」

『うん。嘘だよ。アダムをバラバラにした人間達がね、アダムのこと、隠すために嘘ついたんだよ。』

「…南極で一体何が起こったんだ? なぜアダムが南極にいたんだ?」

『アダムとリリスはね、月と一緒に来たんだよ。本当はひとつの星に、月が一つなんだけど、この星には二つ月が来ちゃったんだ。その月に、アダムとリリスがいたの。アダムの白い月は南極に落ちて、黒い月は…、どこだったっけ? 忘れちゃった。あの人達はね、アダムを卵にしたかったの。だからわざとあんなことしたんだよ。でもちょっとだけうまくいかなくって、そのせいで南極はなくなっちゃって…。』

「それでセカンドインパクトが起こった…。自然災害じゃなく、人為的災害だってことなのか。なぜそのことを隠したんだ? 誰が、何の目的で?」

『ジンルイホカンケイカクのためだよ。あのね、あの人達のこと、シンジのお父さん達は、老人達って言ってたけど、どういう意味?』

「老人達? さあ、俺には、ちょっと分からないな。それよりジンルイホカンケイカクっていったい何のことだ? それを教えてくれないか?」

『あのね…。裏死海文書っていう預言書にね書かれてたんだって。人間が…、リリンがもうこれ以上進化できないから、自分達の力で進化しようって、シンジのお母さんが考えたんだよ。』

「シンジ君のお母さんが!? それに人類を進化させるって…、そんなことが可能なのか!?」

『サードインパクトを起こして、みんなを1つにするの。南極がね、真っ赤になったでしょ? あれはね、南極の生き物がみーんな溶けちゃった後なんだよ。みんなああなるの。それでみんなが1つになった後に、真っ赤になった海から進化したリリンと他の生命が復活するの。それがジンルイホカンケイカク。』

「そんな…、そんなのは進化じゃない! ただの滅亡だ!」

『どうして? 進化できるんだよ? みんながお兄ちゃんみたいに特別になるんだよ? お兄ちゃん、ひとりだけ特別だから、寂しいでしょ?』

「寂しくなんかない。俺には、仲間がいる。愛する人がいる。守るべき人達がいる。そんなまがい物の進化なんてさせない! 教えてくれ、一体誰がそんなことをやろうとしているだ!」

 尾崎は立ち上がって初号機に詰め寄ろうとしたができなかった。立ち上がることすらできなかった。

「なっ!?」

『お兄ちゃん…、嘘ついちゃダメだよ。お兄ちゃんは、この世界で一人しかいない、特別なんだよ? だから、みんな一緒になればもう寂しくないよ? 嬉しいでしょ?』

「違う! 俺はそんなこと思ってない! おまえは、俺に何をしたんだ! うっ!?」

 尾崎が首を振って初号機の言葉を否定し叫ぶと、向かいの席に座っていた初号機が尾崎の目と鼻の先にいつの間にか立っていた。

 幼いシンジの姿をした初号機の両手が尾崎の胸に添えられた。

 途端、尾崎が座っている席から、血管のような触手が伸びてきて尾崎の体に絡みつき始めた。

 体に絡みついてきた血管のような触手から流れ込んでくるモノに尾崎は目を大きく見開いた。

「やめろ! 俺は、シンジ君の心を治して現実に帰らなきゃならないんだ!」

『お兄ちゃん、一つになろうよ。そしたらきっととてもとても気持ちいいよ? 一緒に行こうよ、シンジのお母さんみたいに。使徒も怪獣も、みんなみんな一つになった世界に行こう。』

「離せ! 俺はいかない! 俺はまだやらなきゃいけなことがあるんだ! やめろ、離せ、離せぇぇ!」

 初号機の小さな手に押され、尾崎の体が電車の席にズブズブと沈んでいく、尾崎は抵抗できず叫ぶことしかできない。

 

 

 一方、ネルフでは。

「初号機に異常発生!」

「電力供給無しで起動しました!」

「コアに高エネルギー反応! これは…、一体……。エントリープラグも刺さってないのに…。」

「何が起きたの!?」

 駆けつけたリツコがモニターを確認した。

「これは…、どういうこと? 誰も乗っていないのに、シンクロ率が急上昇している。しかもこの数値は…。」

「シンクロ率上昇中! 間もなく400%に達します!」

 初号機が収まっているドッグでは、初号機が顎のジョイントを引きちぎり、身をよじって凄まじい雄叫びをあげていた。

 その叫びは、まるで喜んでいるかのように…。

 

 

「碇、初号機が突然起動して謎のシンクロ率上昇を始めたらしいぞ。…400%だそうだ。」

「どういうことだ? ユイ……、何をしようとしているんだ?」

 冬月が通信機を片手に今起こっている異常をゲンドウに伝えると、ゲンドウは、眉間に皺を寄せて初号機の中にいまだ眠り続ける妻・ユイに問いかけるのだった。

 彼らは、この異常事体がユイではなく、初号機の意思が起こしていることだということを全く知らない。知る方法がない。

 

 

 

 そしてシンジの心の世界で、尾崎は、初号機に精神(魂)を取り込まれる真っ最中だった。

「ぐぅうう…、やめ…ろ…。」

『ボク、お兄ちゃんのこと気に入ったんだ。だから、一緒に行こうよ。一緒にいよう。一つになってずっと、ずっと一緒に…。』

 尾崎の体はもう、電車の席に半分以上飲み込まれ、唯一の抵抗だった声もほとんど出せなくなっていた。

 もうだめだと、抵抗する力も使い果たした尾崎が目を閉じかけた時だった。

 

「はいはいはいはいはい~、そこまでにしろー。」

 

 緊張感のない声が聞こえ、白い熱線が、尾崎と初号機の間に炸裂し、初号機は向かいの席の方に吹き飛ばされ、尾崎は電車の席と血管のような触手から解放されて床に倒れこんだ。

「尾崎く~ん、見た目子供だからって油断し過ぎだって。」

「ツムグ…?」

 よろよろと顔を上げた尾崎が見上げた先には、椎堂ツムグが仁王立ちしていた。

「相手は、使徒のコピーとはいえ、一応使徒なんだから普通に接しちゃダメ。特に尾崎みたいなお人好しは付け込まれるよ? あと少しで初号機本体の方に魂が取り込まれて、病室にいる尾崎の体がLCLって生命のスープになってたとこだよ? サードインパクトも起こってないのに真っ先にスープになっちゃダメでしょうが。」

 ツムグは、床に倒れている尾崎の傍に腰を落として、その頭に軽く空手チョップを何度もお見舞いした。

 そして尾崎の耳に口を寄せて。

「美雪ちゃんが泣くよ?」

 そう囁かれた途端、尾崎は、ガバッと物凄い速さで起き上がった。

「そうそう、まだ尾崎は死んじゃダメ。かといって使徒に取り込まれちゃうのもダメだから。」

 ツムグは、じろりと初号機の方を見た。

 シンジの姿を借りてる初号機は、向かいの席の傍らで両手両膝をついて蹲っていた。

『どうして?』

 悲しそうに寂しそう言った。

『どうして一つになってくれないの? お兄ちゃん、ボクのこと嫌い? ボク、お兄ちゃんと一緒にいたいだけなのに…。』

「方法がダメ。あかん。嫌がってる相手を無理やり連れて行こうとしたら嫌われるのは当たり前だって。」

 ツムグは、ズバズバと初号機にダメ出しをする。

『だって…、お兄ちゃんは、特別だから、きっと寂しいって思ったから。』

「あのな…。尾崎は、全然そんなこと思ってないから。勝手に自分の思い込みを押し付けるんじゃないって。」

『嘘だ…。』

「いい加減、おまえは本体の方へ帰れ。シンジを媒介にして尾崎に会いに来たまではいいが、このままじゃシンジが起きれない。だから、か・え・れ!」

 ツムグが初号機の頭を掴みそのまま持ち上げ、電車の窓に向って放り投げた。

『わあああ!』

 初号機の悲鳴と共に世界が壊れた。

 

 

 そして現実。

「う…。」

「あ、起きた。」

「尾崎! 大丈夫か!?」

「早くベットで寝かせてやってよ。命に別条はないよ。…たぶん。」

「たぶんって…、不安になるようなことを言うな、G細胞完全適応者! 誰か搬送用ストレッチャーを持ってきてくれ!」

 ぐったりしている尾崎は、治療室に搬送されていった。

 残された椎堂ツムグは、尾崎が運ばれていったのを見届けた後、スヤスヤと安らかな寝顔で眠るシンジの方を見た。

 そっと手を伸ばし、柔らかい黒髪を撫で、ツムグは柔らかい笑みを浮かべた。

「もうあんな粗悪なオモチャに乗らなくったっていいんだぞ? おまえのこと捨てた父親にこだわることはもう必要ない。ここにいればみんな優しくしてくれるさ。おまえは、一人じゃない。目が覚めたらたっぷりそのことを教えてやる。教えてもらえる。それまでゆっくりお休み。」

 そう言って、ツムグは、病室から出て行った。

 

 

 その頃、ネルフでは。

「…初号機、沈黙。」

「シンクロ率がゼロになりました。」

「一体なんだってんでしょうか? 先輩…。」

「ごめんなさい、私にも分からないわ…。あとで初号機を調べてみましょう。」

 結局、初号機は停止し、謎の暴走は謎のままになるのだった。

 ドッグにある初号機は、拘束具を無理やり外して身を動かしたため、首をだらりと垂らした状態になっていた。

 光のないその目から、一筋の液体が零れたが、外装が破損しただけだろうということで処理され、深い意味があることを知られることはなかった。

 

 

 

 そして後日。

 第三新東京に第四使徒シャムシエルが現れる。

 そして東京湾にゴジラが再び現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地球防衛軍が再結成。ただしゼーレを切り捨てての完全独立。
ネルフは、使徒とエヴァを狙うゴジラのせいであらゆる権限を剥奪されました。過去にゲンドウがいらんことしたから地球防衛軍のお偉いさん達に恨みも買ってます。

尾崎が初号機の意識(ユイじゃなく、初号機独自のもの)に気に入られて、うっかり取り込まれかけました。オリキャラが助けなかったらマジでやばかった状態です。
初号機が関わったこの一件は、題名の伏線になります。


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第二話  機龍フィア、機能停止!

前回、シンジ越しに尾崎に会いに行った初号機が尾崎を取り込もうとしたけど、オリキャラに阻止されました。

今回は、シャムシエル。

そして問題の二人の対照的な行動とその後。


特にケンスケファンの方は見ないことを推薦します!


オリジナルメカゴジラが、二話目にして壊れちゃう回です。



 

 

 

第二話  機龍フィア、機能停止!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾崎がシンジの傷ついた精神を治すために過度の精神感応能力を使いすぎてぶっ倒れた後日。

 第三新東京に、次の使徒が出現した。

 

 使徒が現れる…、それすなわち。

 

『東京湾にゴジラ出現! まっすぐ第三新東京を目指し進撃しています!』

 

 ゴジラが使徒をぶっ殺すために上陸してくることである。

 

 第三新東京は、地球防衛軍の出した厳戒令によりゴジラ迎撃エリアに指定されたため、そこに住む住民達は、地球防衛軍の保証のもと、他県へ移住を強制されることとなった。

 サキエル襲撃時にゴジラが来て、機龍フィアとネオGフォースの激戦は、すでに都民に知れ渡っており、その被害も凄まじかったため地球防衛軍の令で強制移住となってもすんなりそれを受け入れた。

 避難しつつ、移住の真っ最中の住民達の中に、ゴジラの襲来の放送を聞いて顔を怒りに染める少年が一人いた。

 鈴原トウジ。サキエル襲来時にシェルターに妹と共に避難したのだが、ゴジラの襲撃によってシェルターがもたず負傷者が出てしまったのだ。その負傷者の中に彼の妹がいたのである。

 だからトウジは、大事な妹に怪我を負わせた原因を作ったゴジラに憎しみと怒りを抱くようなったのである。

 だが相手は、授業や教科書でも耳にタコになるほど聞かされてきた伝説の怪獣王ゴジラである。なんの力もない民間人が相手になるわけがない。

 再び第三新東京に来たゴジラに、トウジはただただ悔しさに拳を握り、歯を食いしばって耐えることしかできなかった。

 そんな彼に悪魔の囁きがかかることとなる。

「なあ、トウジ…。ちょっと話があるんだけど。」

 クラスメイトで友人の相田ケンスケである。

 大人達の目を掻い潜り、物陰で二人はヒソヒソと話し合った。

「なんやケンスケ、こんな時に?」

「俺らもうすぐ他県に移住するだろ? それも地球防衛軍の命令で。」

「せやな。第三新東京がゴジラと戦うための戦場になるさかい…。」

「それなんだよ! ゴジラってさ、別に東京じゃなくったって世界中あちこちの都市や街を襲ってるのに、なんで第三新東京なのかって疑問湧かないか!?」

「んー、確かニュースじゃ、使徒がゴジラを呼び寄せて、第三新東京に使徒が必ず来るからそいでゴジラが来るからとかやったような…。」

「そこ、そこなんだよ! なんでゴジラは使徒を狙うのかって詳しい情報がまだ開示されてないんだって! ネルフのサイトも閉鎖されちゃってさ、パパのIDでも全然情報が得られないし、それになにより! 機龍ってあのゴジラそっくりのロボットだ! そうメカゴジラ!」

 ケンスケは軍事オタクである。

 ついでに学校では女子の写真を勝手に盗撮して、売りさばいているとか…?

 ついでに父親がネルフの職員なのを利用して勝手にIDを使い、ネルフのホームページに勝手にログインして軍事機密を引き出して、それを自作のホームページに掲載するという重大な違反を犯しているとか…。

 そんな彼が地球防衛軍の復活と対怪獣兵器の戦いに興味を持たぬはずがない。

「これはチャンスなんだよ! メカゴジラを生で! ゴジラと戦うメーサータンクとか戦闘機も見たいんだよ! そして映像に収めたいんだ! なあトウジ! ゴジラが倒されるとこ見てみたくないか!?」

「ゴジラが…、倒されるとこやて?」

 ケンスケの言葉の最後の方にトウジが反応した。

 ゴジラは憎いが子供である自分は戦うことはできない。

 だがゴジラが痛めつけられ倒される姿はこの目で見たい。

 しかし、戦場に勝手に侵入すればどんな罰が与えられか分かったものじゃない。

 しかし、しかしである。若さゆえに、トウジは、自分の感情に負けてしまった。

「ええで…。」

「さっすがトウジ! ありがとう!」

 ケンスケは、トウジがゴジラを憎んでいる理由を知っていながらこの危険なことに巻き込んだのだ。死ぬかもしれないというのに、己の欲望のためだけに親友を巻き込み、最悪戦闘の妨害になるかもしれないのに。

 

 

「安心してね。ちゃんとケンスケには、罰が当たるので……。」

 二人から完全に死角になっている場所に、背をもたれさせて二人の会話を聞いていた椎堂ツムグが、シーッと口の前に人差し指を持って行って、クスクス笑いながら誰か(?)に向ってそう言った。そして音もなくそこから姿を消した。

 機龍フィアに乗るために。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地球防衛軍は、再結成後、大忙しである。そりゃセカンドインパクトの後、一回解散したのだから仕方ない。

 地球防衛軍としてのシステムを元に戻すのも勿論だが、新しい戦力を入れたシステムや新しい法案なども作らないといけない。

 だが使徒もゴジラも待ってはくれない。

 それはセカンドインパクトが起こる前から変わらない。怪獣(ゴジラ含め)は、待ってはくれないので準備ができないだなんて言い訳はできない。

 ネルフから徴収した使徒を識別するシステムで、使徒を示すパターンが表示された。

『パターン青! 使徒で間違いありません! 使徒と思われる物体は、現在第三新東京上空を飛行中!』

『ゴジラは、まっすぐ第三新東京に進撃をつづけています!』

「次の使徒は飛行タイプなのか?」

「いいえ、たぶん違うわ。何かに怯えて降りてこないだけだわ。」

「それ…、間違いなくゴジラでしょうな。」

 なんかイカっぽい使徒は、空から飛来してきてからずっと第三新東京の空を彷徨っていた。まるで降りようか降りまいか困っているような彷徨い方だ。

 しかしゴジラの存在に気付いていながら逃げようとしないあたり、使徒は使徒でどうしても譲れない何かがあるらしい。

 表情らしい表情のない不気味な見た目の癖になぜか伝わって来るのだ。ゴジラが怖い!ここにいたら殺されるって分かってるのに!っていうもどかしさが。

「波川司令…、自分は正直、使徒が少し気の毒に思えてなりません。」

「今は戦いの最中です。余計なことに気を取られず、集中なさい。」

「は、はい!」

 波川の傍にいた軍人が波川に使徒が気の毒だと言うと、波川は、軍人を叱った。

 

 やがて白い熱線が上空を旋回し続ける使徒に向かって放たれた。

 使徒はギリギリのところでそれを避け、慌てた様子で地上にふわりと着地した。

 それと同時に山の影からゴジラが雄叫びを上げながら出現した。

 使徒はゴジラを前にして怯えた様子で後退するが、逃げようとしない。というか逃げられないのだろう。ゴジラに見つかったら第三新東京から離れてもどこまでも追いかけられると分かってるから。

 そして使徒は、白く光る触手を二本出して、それを鞭のように振り回しゴジラを威嚇する。しかしゴジラの進撃は止まらない。光る鞭がこの使徒の武器だとしたらその程度で怪獣王を倒すなり追い返すことができたら、地球防衛軍だって苦労はしない。ゴジラがこれまで相手をしてきた怪獣達だってそうだ。

 やがてゴジラの影が使徒を覆った。こうして見ると大きさの違いがよく分かる。それは使徒も感じたようで振り回していた光る鞭をピタッと止めてしまっていた。触手がだらりと垂れる。もう、死を覚悟したらしい。

 ゴジラが再び雄叫びをあげた。

 

 ゴジラと使徒が対峙しているすぐ近くの小山では…。

「大迫力! ゴジラでっけ~~!」

「あれがゴジラ…。クソ…!」

 撮影カメラを片手に興奮しまくるケンスケと、ゴジラを見て悔しさに打ち震える対照的な二人の少年がいた。

 ゴジラが再び雄叫びをあげた時の衝撃波で、二人はたまらず耳を塞ぐことになる。

「あうう…、授業で見てる映像と本物はやっぱ違うなぁ。」

「鼓膜破れるかと思ったわい…。地球防衛軍は、なにしとんねん! はよこいや!」

 ゴジラの雄叫びの凄まじさに目を回しながら嬉しそうなケンスケと、耳が痛いことに悪態をつきながらまだ姿を見せない地球防衛軍に怒りを感じるトウジ。どこまで対照的な二人だった。

 第三新東京遥か上空では、しらさぎに輸送される機龍フィアが待機していた。

『まだ行っちゃダメなの?』

 機龍フィアのコックピット内でツムグが退屈そうに言った。

『まだだ。まだ合図が出ていない。大人しく待て。』

『あのさあ…。』

『なんだ!?』

 マイペースで緊張感がないツムグの声にしらさぎに乗っている軍人が苛立ちを隠さず怒鳴った。

『ゴジラのすぐ横の小山あるじゃん? あそこに二つ…、小さい生命反応があるんだけど…。』

『……はあ? 都民は、強制移住の作業は終わっていないが、すでに避難させてあるはずだ。』

『抜け道なんてどうやっても塞げないって。』

『…それは、本当なのか?』

『何が~?』

『ゴジラの横の小山に人が残っているってことだ! 貴様、とぼけるんじゃない!』

『そうだね。俺は肉眼で見えるけど、男の子が二人いるよ。一人は、なんかカメラ構えてるし。』

 

『しらさぎに告ぐ! 機龍フィアを投下させろ!』

 

 そこに機龍フィアの出動命令が入った。

『お待ちください! こちらしらさぎ! 椎堂ツムグからとんでもない情報を入手!』

『……こちら司令部、何があったのです?』

『ゴジラの横にある小山に子供が二人いるということを椎堂ツムグが言いました! 生命反応の確認をお願いします!』

『分かりました。機龍フィアは、確認が取れるまで待機。』

 その通信のやり取りがあって、間もなく。

『……遠隔カメラで二人の少年を確認! 避難所のミュータント部隊に救出に行かせる! しらさぎは…、ああっ!』

『なんだ!? 応答を!』

 司令部ではないオペレータからの報告を受けていたら、急にオペレータが悲鳴をあげたので、驚いた。

『機長! 使徒が!』

 しらさぎのパイロットの一人が悲鳴に近い声で報告した。

 第三新東京にゴジラの熱線による大爆発が起こったのだ。

 

 二番目に来た使徒も、前に来た使徒サキエルと同様に、ゴジラに成すすべもなく敗北した。

 熱線による一撃死だったのが、右肩と腕を奪われて無様に這いずって逃げようとする姿を晒したサキエルと比べたら、若干マシ…だったかもしれない。

 やはりATフィールドは意味をなさず、ATフィールドを張ったのが肉眼で確認できたものの、ゴジラの熱線はATフィールドを簡単に貫通し使徒を一撃で焼き尽くしてしまった。

 使徒を焼き尽くしても熱線の勢いは止まらず、ゴジラが首を横に動かしたため第三新東京が放射熱線による爆発で炎上した。

 爆発の余波は、ゴジラの横の小山にも及び、衝撃波が二人の少年の体を転がした。

「ひいいい…! し、使徒って化け物が…、いいいいいいい、一撃で! すげえ! ゴジラすげえ! さすが怪獣王!」

「地球防衛軍は、ほんま何しとんや! わいらの街が破壊されとるのに!」

 怯えた悲鳴をあげながら、それでもますます興奮しカメラのシャッターを連射しながら、ビデオカメラも使うという器用さを発揮しながらゴジラを称えるケンスケと、地球防衛軍が来ないことにますます怒りを膨らませるトウジ。やっぱりどこまでも対照的。

 次の瞬間。そんな二人は、恐怖で失禁することになる。

 ゴジラがギロリッと、顔を自分達の方に向けたのだ。さすがのケンスケも持っていたカメラを落としたのは言うまでもない。

 二人は完全に忘れていた。ゴジラがなぜ破壊を行うのか。なぜ地球防衛軍という組織が誕生するほどの事態になったのかを。

 ゴジラは、とんでもなく恐ろしい炎を使い続けた人類の罪を決して許さないのだ。

 ゴジラの背びれが青白く輝き始めた時、巨大な鉄の塊…、機龍フィアが上空からゴジラに向って降下してきた。

 

 

「ゴジラさーん。悪いんだけどこっちの相手をしてよ。」

 ゴジラに向けてツムグがそう言った。

 ゴジラは、落下してくる影に気付くと熱線を中断し、落下してきた機龍フィアを避け、距離を取った。

 そしてちらりと小山の方を見る。ミュータント部隊が急いで二人の少年のところに向っている。二人は助かるだろう。

「ま、正直さ。どっちでもよかったんだ。あの子達が死んでも死ななくても。でも見捨てたってばれたら、まだ疲れて寝てる尾崎に嫌われちゃうじゃん。それは、ちょっとヤダから…。ごめんね、ゴジラさん。」

 視線をゴジラの方に戻すと、ゴジラがいかにも機嫌を損ねたという風に低いうなり声をあげてこちらを睨んでいた。

 

 

 トウジとケンスケがいる小山では。

「つ、つつつつつ、ついに! メカゴジラが来たーーーーーー!! すげぇ! どんなテクノロジーであれだけ忠実にゴジラの形を再現出来てんだろ!? しかも空から下りてきたし! 特撮なんて目じゃない! ああ、これでメーサータンクとか戦闘機とかがくれば完璧なんだけどな~。」

「あれが…、ゴジラを追っ払った機龍っつーロボットかいな…。なんでもええ…! ゴジラをぶん殴ってくれーーーー!」

 やはり全く違う反応をし、それぞれ現れた機龍フィアに向って叫んだ。機龍フィアが現れてゴジラに睨まれた緊張感から解放されたケンスケは、大慌てで落としたカメラとビデオカメラ拾い上げ撮影をまた始めていた。

 二人のその叫び声が二人を救出するために緊急出動したミュータント部隊に発見されるきっかけになる。

 

 

 二人の少年がミュータント部隊に救出されている間に、ゴジラと機龍フィアの戦いが火蓋を切った。

 熱線が効かないというのは、前の戦いで学んだゴジラは、その巨体と重量からは想像もできない速度で、機龍フィアに突撃し、体当たりした。

 機龍フィアは、ジェットを噴出させてその体当たりに耐え、体制を整えると、左フックをかまそうと左手を振りかぶったが、ゴジラにひらりと躱された。前の戦いでのアッパーカットがよっぽど痛かったのか、ゴジラは機龍フィアの拳を警戒しているようだった。

 その後も怪獣王と怪獣王を模したロボット(生体部分有)が肉弾戦戦を繰り広げることになり、お互いに大ダメージを与えられず戦いはなかなか終わらない。

「う~ん、ゴジラさん、やるなぁ。冷却弾を使いたくても、こないだの戦いで砲弾とか射撃武器の回路がまだ直ってないんだよね…。だから肉弾戦しかできないなんて…。ははは…、一応機龍フィアって地球防衛軍の最終兵器だよね? 大丈夫かな? まあ、いいや、そろそろ勝負を付けようか、ゴジラさん。リミッター解除! ワンandツー!」

 実は万全な状態じゃなかった機龍フィア。

 ツムグは、戦いを終わらせるため七つのリミッターの内、二つを同時に解除した。

 機龍フィアのコックピット内に警報が鳴り響きだしたが、構わらずツムグは、二つリミッターが解除された機龍フィアを動かした。

 目をパイロットのツムグと同じように黄金色の光を宿した機龍フィアは、肉眼では捉えられない速度でゴジラに体当たりをかました。

 ゴジラは、口から血を吐き、そのまま第三新東京から機龍フィアと共に遠ざかって行った。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 目を金色に光らせ白目を血走らせたツムグが、大絶叫をあげた。

 体当たりでゴジラを寄り切りし続けていたフィアがふいに姿を消した。

 ゴジラがそのことに驚く間もなく、後頭部に機龍フィアの尻尾の一撃が入り、ゴジラの体が前に倒れた。

 倒れたゴジラの頭を機龍フィアが容赦なく踏みつけた、踏みつけた時の衝撃で地面が割れ、周りにヒビが広がった。

 機龍フィアは、足を退けると、すぐさまゴジラの尻尾を掴みジャイアントスイングをしてゴジラを遠くに放り投げた。

 しかしゴジラも黙って痛めつけられてばかりではない。放り投げられながら体制を整え、地面に着地すると背中を赤く光らせ、赤い熱線を機龍フィアに浴びせた。

 普通の熱線ならほぼノーダメージで防げる。だがより強力な熱線になったらそうはいかない。赤い熱線は、機龍フィアの機体を焼いた。

 しかし二つのリミッターを外した反動で理性が一時的に吹っ飛んでいるツムグは、機龍フィアが傷つき、コックピット内で危険を知らせるアラートが鳴り響いても火花を散らしても構わず、熱線の中を突き進み、ゴジラの腹部にドリルに変形させた腕を突き刺した。

 ゴジラは、たまらず熱線を吐くのをやめ、苦悶の鳴き声をあげた。

 その時、機龍フィアに異変が起こった。

 体の関節という関節から黒い煙を噴出し、ついに口から一瞬の炎と大量の煙を吐いた。そして輝いていた目から光が消え、しゅううっと首を下に垂れさせてしまい、ぴくりとも動かなくなった。

 

 異変が起こった機龍フィアに言葉を失っていた前線部隊は、機龍フィアがどう見ても壊れましたといわんばかりの状態で止まったことに騒然となった。

「機龍フィアが……。」

「機龍フィアのDNAコンピュータからデータ送信確認! 機龍フィアは、過剰運転と熱暴走を防ぐため強制シャットダウンしたもよう! パイロットのG細胞完全適応者の安否は不明!」

「しらさぎは、機龍フィアを守るため、ゴジラに砲撃を開s…、っ!?」

 上空で待機していたしらさぎが機龍フィアの非常事態に対応するべく動こうとした時、もう一つの異変が起こった。

 ゴジラが目の前で動かなくなった機龍フィアをジッと見て、それからゆっくりと機龍フィアから離れていくと、なんと背中を向けて東京湾へと帰って行ってしまったのだ。

 あとに残されたのは、黒い煙をプスプスと機体のあちこちから立ち昇らせてまったく動かない機龍フィアだけだった。

 これには、しらさぎの搭乗者達も、その様子を見ていたトウジとケンスケを保護して移動していたミュータント部隊も、他の前線部隊も、映像で戦場を見ていた地球防衛軍の司令部などもただ茫然とすることしかできなかった。

 1秒して我に返った者がいて、それをきっかけに機龍フィアの回収が迅速に行われ、ゴジラによる被害報告、そして避難場所から勝手に抜け出し、危険な戦場に忍び込んだ二人の少年にきつい罰が与えられた。もちろんケンスケが戦場を撮影したデータが詰まった撮影機器は、没収された。

 だがケンスケがかなり機械に強いことがトウジの口から洩れたたため、撮影映像を他の方法で残しているかもしれないと疑われ、他県への移住のために積み込まれていた積み荷からケンスケの大量の荷物が運び出されることになった。

 ケンスケは、人権侵害だとか、パパがネルフの職員だから訴えてもらうとか叫んでいたが、ネルフはすでに実権を失っており、ケンスケの父親はネルフを辞めて地球防衛軍の特に一般人の対応をする部署、つまり普通の公務員と変わらない仕事をしているところに転職していたのだが、片親で子供を養うためほとんど家に帰らないことや普段父親と顔を合わせず部屋に籠って盗撮した映像の編集や掲示板などに参加しているケンスケはそのことを全く知らなかった。ケンスケの父親に確認したところ、留守録とメールにネルフを辞めたことや転職したことを送っておいたらしいのだが、ケンスケは、父親のいつもの自分の趣味(盗撮含む。父親は盗撮のことは知らない)を良く思わないお叱りの言葉が入っていると思い込み留守録を聞くことなく、メールも差出人を見ただけですぐに削除してしまっていたらしい。

 ケンスケは、父親の転職のことを警察組織の取調室で知らされ、愕然としたという。ネルフが実権を完全に失っていることも同時に伝えられたが、今度は地球防衛軍がネルフを切り捨てたことについて立場も弁えず勝手に職員に質問攻めし、ネルフが保有するエヴァンゲリオンがゴジラを呼び寄せる要因になっているというネットでの書き込みの事実確認を行おうとしたため、その情報の入手先について調べるたところケンスケが父親のIDで不正ログインやハッキングをして軍事機密をネットに流していた、あるいは別のハッカーの存在が発覚しネット住民達の一斉捜査が行われ国内、外国問わず逮捕者が何人も出る騒ぎになった(中には指名手配されていた大物のネット犯罪者もいた)。あとケンスケが情報や盗撮した写真を買っていた業者も見つかり逮捕されるという事件まで起こった。

 その間にケンスケの荷物を調べていた監査官が、ケンスケが盗撮の常習犯であることがカメラ専用の記憶媒体やパソコンのデータから知ってしまい、廃校になった第三新東京市立第壱中学校を調べたところ女子更衣室、女子トイレなどに卓越した技術を持つ犯罪者顔負けの巧妙な隠しカメラが仕掛けられており調査しに行った人間達を驚かせると同時にケンスケをもはや未成年という免罪符で罪を軽くできないとしてケンスケへの罰はますます重たい物になっていった。

 盗撮の罪の重さや、国家機密への不正アクセス、そして勝手に安全圏から出て(しかもクラスメイトを巻き込んで)危険な怪獣の出現エリアに入ったことがどれだけ沢山の人の迷惑をかけたかを丁寧に小さい子供でも分かるように説明したのだが、ケンスケは、盗撮は自分はジャーナリストを目指す自分を鍛えるための経験値稼ぎと御小遣い稼ぎを兼ねたものだと盗撮された少女達への罪の意識や盗撮映像を売りさばくことがどのような結果を生むのかを全く考慮しておらず、さらには人には知る義務があると主張したり、地球防衛軍の規制を知る義務の侵害だと酷い自己中心的な言い訳を言うばかりで一切反省しなかった。

 このまま少年院に入れても更生はできないと判断した大人達は、彼の父親にケンスケの罪を知らせ、承諾を得てケンスケを特別厚生施設に送ることが決まった。更生施設行きが決まった時と、護送される時、ケンスケは、大変見苦しい姿を晒したという。ケンスケの悪行のことは、どこから漏れたのかあっという間にクラスメイト達の間に広まり、ケンスケへの印象は最悪、評価も落ちるところまで落ちたそうだ。

 ケンスケの父親は、子供をまともに育てられなかった責任を取って仕事を辞め、ケンスケがやった犯罪の被害者達に謝罪し、遠く離れた田舎で隠居した。ケンスケの父親の誠意ある対応に、被害者達や被害者の保護者達も本当に彼がケンスケの父親なのかと本気で思ったぐらい驚き、その誠意を受け入れて逆にケンスケの父親を憐れに思った。子は親を選べないが、親もまた子を選べないのだ。

 あと彼が務めていた職場人間達も事情を聞いたが辞めることになった彼にお別れの花束を渡すなどしてせっかくできた新しい職場の仲間がいなくなることを惜しんだそうだ。そのためか犯罪を犯すような子供を育てた父親として世間から白い目で見られることも、心無い罵声も悪口が書かれた張り紙などもなかったそうだ。中には遊び半分に批判するのを楽しんでいるタイプの人間が様々な角度からケンスケの父親を貶そうとしたが、ケンスケの父親の人柄と誠意を知る者達によって妨害されたため被害はほとんどなくケンスケの話題はやがて忘れられていった。

 そんなケンスケとは対照的に、ケンスケの言葉に乗せられてゴジラが地球防衛軍に撃退される姿を目に焼き付けてゴジラへの怨みの感情を発散したかったトウジは、自分達がゴジラ出現エリアにいたために避難所の警護にあたっていた戦力の一部を二人の救出のために裂かなければならなくなって、応援していた地球防衛軍に多大な迷惑をかけてしまったことを深く反省し、取調室で説明を行った職員に向って床で頭を打ち付けて、泣きながら謝罪の言葉を叫びながら何度も何度も土下座を繰り返した。

 職員や警察官達に宥められて落ち着きを取り戻したトウジは、前回のゴジラ襲撃で妹が負傷したことばかりに目が行っていたため全く他のことが頭に入らない状態だったが、あの時シェルターが壊れた時の犠牲者は彼の妹だけじゃなく、彼の妹よりも重傷で中にはいまだ意識不明、あるいは社会復帰が難しい障害を負ってしまった者や、死亡した者も何人もいたことを初めて知った。ゴジラを憎み、ゴジラと戦う地球防衛軍に期待を寄せているのは自分だけじゃないのだと理解し、自分とケンスケがやったことはそんな人達の希望や想いを完全に踏みにじってしまった愚かな行いだったとまた深く深く反省した。

 面会に来た家族と車椅子に乗った怪我がまだ癒えていない妹に、トウジは、自分がやったことを職員の説明も交えて家族にすべて伝えた。すると車椅子に乗った彼の妹が兄のトウジをビンタした。

 そして彼女は、言ったのだ。自分の兄は本当の漢になるっていつも豪語してる、憎しみや恨みに捉われない真っ直ぐな馬鹿だと。

 叩かれた頬を押さえて妹が涙ぐみながらそう叫んだことで、トウジは、罪の意識から解放されることになる。もちろん自分がやったことを忘れたわけじゃない。

 ただ自分が真にやるべきことが何なのかを妹の言葉で悟ったのだ。

 ゴジラをただ恨むのではなく、友人の言葉に惑わされて命がけで戦う地球防衛軍に迷惑をかけてしまったことに対する罪の意識に捉われるのではなく、ゴジラとはいわずとも大きな脅威から自分や家族のように被害者になってしまった者達がこの先でないように、今度は自分が守る番だという考えに行き着いたのだ。

 将来は、人を守る職業に…、地球防衛軍に入隊する。トウジは、その場で家族と地球防衛軍の職員に向って宣言した。

 家族は、一瞬呆気に取られたら、トウジが自分が犯した罪を反省し、それにとらわれることなく未来を見据えて元気を取り戻したことを喜び、妹はそれでこそトウジだと明るく笑った。

 彼に付き添っていた職員や、面会室の出入口にいた地球防衛軍の軍人や警察関係者達は、少年の決意に涙ぐみ、だが同時にゴジラとの戦いは、子供達の平和な未来は、自分達大人が築かなきゃならないと語り合い、できることならトウジが命の危険にさらされる地球防衛軍に入隊する前にゴジラを倒して将来の選択の幅を広めてやらなきゃなと、現在進行形で人々の平和のために命がけで戦っている者達は自分達が背負う使命と戦いへの決意を新たにしたという。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、地球防衛軍の兵器格納施設に収容された機能停止した機龍フィア。

 機龍フィアの開発と整備に関わっていた科学者の一部が機龍フィアの酷い有様にショックで泡を吹いて倒れたとか。

 使徒とゴジラが来るまでに前の戦いでの傷を修理しきれていなかったのもあるが、まだまだ改良中とあって戦闘にならなければ分からない問題点が多々ある機龍フィアは、ゴジラと戦うためとはいえ七つあるリミッターの内、二つを同時解除した途端に脳と繋がっているDNAコンピュータから逆流してきた信号でパイロットの椎堂ツムグがバーサーカー化してしまい、機龍フィアの機体の耐久性を無視して凄まじい近接攻撃でゴジラを攻撃し、赤い熱線を真っ向から浴びながらもドリルで腹を刺したまでのかなりの成果であったがリミッター二つを同時解除した反動による機体への負担と機体の損傷のためDNAコンピュータの判断で強制シャットウダウンがなされた。

 ゴジラがあのまま追撃していたら機龍フィアは、パイロットの椎堂ツムグごと破壊されていただろう。悔しい話だが、見逃してくれたゴジラに感謝しなくてはならない。なぜ見逃したのかは謎であるが、過去にゴジラは、機龍フィア以外のメカゴジラに情けをかけたように今回のような行動をとったことがあったので、今回もそれに似た理由があったのかもしれない。

 一つ以上リミッターの解除の問題と、パイロットの椎堂ツムグがバーサーカー化したことについて、技術部は、上層部からこってり絞られた。念のため追記しておくが開発担当者達がこうなることはちゃんと想定してそのための対策はとっていた。しかし頭の中で描いた予想図と現実は違う。いまだ未知数の椎堂ツムグのG細部と人間の細胞の融合した細胞で作ったDNAコンピュータが一つ以上のリミッター解除するとパイロットの椎堂ツムグにそんな影響を与えると予想していなかった。

 3式機龍の時もそうだが実戦になって分かる部分があまりに多すぎる。

 しかし使徒シャムシエルの襲来のこの一件で、機龍フィアは確かに機能停止する事態に陥ったが、同時に科学者や技術者も予想していなかった良い変化を起こした。

 それは、損傷していて修理が必要だった機体の伝達回路が素体として使われていた椎堂ツムグの細胞によって生物と無機物が融合した形で修復され回路の修理が必要なくなったことだ。

 また熱線で焼け焦げ、煙を吹いた関節部分も細胞の働きで自動的に再生を始め、修理する部分は表面の装甲と人の手が必要なジェットと射撃武器などの武装だけだった。なお外装部分も、一部細胞が浸食しておりその内装甲も修理がいらなくなるのではと予想された。

 生体細胞が無機物と融合し、更に破損を修復する様は、機龍フィアの開発に携わった特にマッドだと言われるタイプの生物学者達を狂喜乱舞させた。彼らにとって機龍フィアの開発も、その材料として細胞を提供した椎堂ツムグも自分達の好奇心と研究意欲を満たすための足掛かりで道具にしか過ぎない。

 機龍フィアの開発と改良、そして戦いの記録は、生物化学部門の糧にもなっていた。

 G細胞の素晴らしい特性は、セカンドインパクト前から研究者達に知られていた。だがその副作用(怪獣化)ゆえにいまだにうまく利用する方法が見つからないままだった。

 そんな時に現れたのがG細胞を取り込みながら人間の形と意識を保っているG細胞完全適応者である椎堂ツムグである。

 椎堂ツムグの細胞は、怪獣化の副作用なくG細胞を活用できる光が見えたとして科学者達はこぞって彼の細胞を研究した。

 しかし調べれば調べるほど、椎堂ツムグの細胞は、ゴジラと同じく持ち主に依存しており、他者に与えれば拒絶反応が起こることが分かってしまった。動物実験で末期癌に侵された病気の動物に椎堂ツムグの体液から採取した細胞を与えたところを凄まじい勢いで癌細胞を正常な細胞にしていったが、治癒の過程で凄まじい細胞の変異に耐えきれずその実験動物は死んでしまった。怪獣化はしなかったが、解剖したところ全身を侵していた悪性の腫瘍は綺麗になくなっていて、それ以外の体の不調も改善されていたという記録が残された。また投与されたツムグの細胞も死体を変異させず死体の中に僅かに残っている程度で治療の過程で消耗してツムグの細胞が消滅することが分かった。つまり酷い怪我や重い病気の体になら本物のG細胞と違い体内に残らないのだ。

 結論として、怪獣並みの生命力がなければ医療目的に椎堂ツムグの細胞は使えないということが分かった。人間の細胞と融合した純粋じゃないG細胞とはいえ、そのパワーは凄まじくただの人間はおろか、ミュータントでも健康体になる代償に即死してしまう。隅々まで健康な死体…、まったく嬉しくない。

 生物の細胞は、それ一つ一つが大なり小なりパワーを持っている。そのパワーの強さは個体により違うが、例えば電気ナマズや電気ウナギなどのように自らの体で放電という凄まじい現象を武器にするような体と細胞の並び方を持つ生物がいるが、彼らの放電は命をかけた武器である、つまり多用できない。それに比べて怪獣ともなるとデンキナマズなどが命がけで行う放電も息をするように簡単に行う。怪獣と普通の生物では、細胞のパワーが違いすぎることの表れだ。

 どうにかしてG細胞のパワーを抑えられないかと試みる研究が行われているが、G細胞は制御しようとすればするほど、細胞が抵抗し、薬品などを使用した場合抵抗力をつけてより厄介なものに変異したため、危うくバイオハザードが起こりそうなったこともあった。

 G細胞を活用する研究を熱心にやっている科学者達が、八方塞がりだと頭を抱えているということが科学者の卵達の間でもっぱら噂になっている。

 研究そのものは国家の命令で行われているが、8割ゴジラを完全抹殺する方法を探す、残り2割が有効活用する方法を探すためみたいな割合である。

 過去、個人的な目的のためにG細胞(ゴジラの)を利用し、ビオランテという怪獣を誕生させた科学者の一件もあるので、G細胞を扱うための規制はかなり厳しい。またビオランテのような怪獣を生み出せばゴジラを呼び寄せる要因にもなるからだ。

 ともかくG細胞は様々な目的を達成するために毎日研究されているのである。

 

 

 そしてG細胞の研究に一筋の光をもたらしたと一時期謳われたG細胞完全適応者の椎堂ツムグは、その頃…。

 

 

「…火傷、打撲、骨折などは収容された時にはすべて完治していました。ですが、脳へかかった負荷が大きかったらしく、まだ意識が戻っていません。」

 青い顔をした医者兼科学者が椎堂ツムグの体の状態を記した書類を挟んだボードを両手で持って、司令部の面々に説明した。

 ツムグは、ごっついカプセルの中で眠っている。強化ガラス越しに表情は苦しそうに歪められているのが分かる。

「やはりDNAコンピュータからの信号の逆流が原因なのですね?」

 波川が聞くと、担当医は恐らくと頷いた。

「脳は、肉体すべての機能を司るもっとも重要な器官です。昆虫のように脳を持たない生物ならまだしも、椎堂ツムグは、怪獣並の生命力をG細胞から手に入れていますが、一応…“人間”ですからね。人間は、特に脳が多く発達している生物ですから、脳へのダメージは、ゴジラと比較したら遥かに大きくなるのでしょう。あとこれはあくまで推測なのですが、彼の脳の奥に埋め込んだ監視装置と自爆装置がDNAコンピュータからの信号で大きく揺らされた脳を圧迫したという見方もできます。」

「回復の見込みはあるのですか?」

「脳波は、随分と弱っていますが、時間を経るごとに徐々に回復に向かっています。目を覚ますまでそれほど時間はかからないと思います…。意識が戻ればあっという間に元通りになるでしょう。ただの人間なら間違いなく脳死していたでしょう。さすがG細胞と言うべきでしょうか…。しかし今までどんな実験でも気絶すらしなかった椎堂ツムグが意識を失うほどとは…、あの、私ごときが意見をするのもなんですが…、新型メカゴジラは、本当に使えるのですか?」

「……そのことは、技術部にすでに言っています。今回のことでDNAコンピュータの大幅な見直しを行うと報告を受けているわ。椎堂ツムグには、まだ死んでもらっては困るのよ。まだ椎堂ツムグ以外のパイロットでも十分な戦闘ができるように調整も次の対策もできていないのですから。」

「…はい。」

 冷たさしか感じられない波川の口調と言葉に、担当医は、恐怖を感じながらもなんとか返事をした。

 波川は、司令官としての立場があるため時に冷酷で残酷な決断を下さなければならないことは多々ある。

 椎堂ツムグの件もそうだ。貴重な検体であり、ゴジラを倒すこととG細胞の平和利用に繋がるかもしれない希望。それと同時に最悪最強の人類の敵になりかもしれない危険すぎる可能性もある存在。

 椎堂ツムグが発見されたのは、今から約40年前。

 ゴジラとゴジラと敵対した怪獣との戦いで壊滅した街で、特に遺体の発見すら困難な場所で不自然に無傷な姿で発見されたたった一人の生存者。それが椎堂ツムグであった。どこが不自然だったかというと、彼は大きな瓦礫が散らばる場所の影で座り込んでおり、衣服は破れて半分以上焼けていて、その下の肌は火災による煤まみれになっていたのと、血だけじゃなく骨や内臓から出る特有の体液が彼が座り込んでいる場所を中心に大量に流れた跡がカラカラに乾いていたことだ。保護した時に汚れを落としてみると、傷は一切なく、精密検査をしても骨折も内臓に損傷もない健康体そのものだったのだ。発見した時の状況から見て明らかにおかしいということで細胞の検査をしたところ…、彼がゴジラの細胞で変異した人間だということが判明したのだ。そして彼は、G細胞完全適応者という名称を付けられ怪獣を研究する機関に送られた。

 椎堂ツムグの名前は、彼の本名ではない。彼が発見された場所にあった看板などの文字を繋げて付けた適当な名前だ。

 本名その他。一切不明なのは、彼が保護された時、自分のことについて何も覚えていなかったからだ。

 ただ、漠然とゴジラのことと、ゴジラのおかげで自分の体に大きな変化が起こり生き延びたということだけを覚えていた。そのせいか彼は、ゴジラに対し、ある種の尊敬のような信仰のような感情を抱いている。ゴジラのことをわざわざ「ゴジラさん」と呼ぶのは、40年前から変わっていない。

 人間でも怪獣でもない自分自身の立場や、監視下に置かれて様々な惨い実験をやられてもどこまでもマイペースで、当時の科学者達や地球防衛軍の者達を困惑させたと言われている。

 発見された当時、10代後半か、20代前半ぐらいの外見はまったく変わっておらず、G細胞の不死の力が彼を本当に不老不死にしたのでは思われているほどだ。記憶がないので正確な年齢は不明だが、20代だったとしたら、今年でもう60は過ぎている計算になる。

 外見は若いまま、すでに60歳を過ぎている彼の扱いは変わっていない。むしろ機龍フィアが開発されることが決定された時、恐らくもっとも過酷な実験に身を捧げなければならなくなった。

 ゴジラを倒すための兵器を開発し、実戦でしか得られないデータを収集して彼以外でもゴジラと対等に、それ以上に戦うことができるようにするために機龍フィアに乗せて戦わせる。一歩間違えればツムグがゴジラの思考に侵されてしまう可能性も、彼に埋め込まれたナノマシンや機器によって管理され、もしもの時は体内のそれらの機器のセットされたもしもの時の保険と、機龍フィアもろとも自爆するようプログラムされている。データを取るためとはいえ人類の敵になる可能性を高めてしまうゴジラに接近させる機会を与えているのはいつでも殺せるよう(殺せるぐらいの痛手を負わせる)にされていたからだ。

 二体目の使徒の襲来と二回目のゴジラ進撃とその戦いで脳へのダメージを受け、今までどんな実験でも気絶すらしたことがなかったのに意識を失う事体が起こった。

 このことは、機龍フィアのDNAコンピュータを大幅に見直し、更なる改良がされる糧になった。

 あと機龍フィアの素体になっている彼の細胞が機龍フィアに浸透し、生物と機械の完璧な融合による自己修復能力を機龍フィアが手に入れる結果を生み出した。

 波川は、椎堂ツムグがいる施設から去った後、大きなため息を吐いた。

 波川は若くない。椎堂ツムグのことはよく知っているし、対話だってしている。椎堂ツムグの扱いについては、超危険レベルの毒物か兵器を扱うような規定になっているが、組織の内部では椎堂ツムグのマイペースさがベテラン勢に浸透してしまったのかはたまた勝手に監視施設から自由に脱走しては気楽に組織の人間に話しかけてきたりする姿に慣れてしまったのか、組織の中で神出鬼没、勝手に脱走はするけど外界に影響を与えたり悪さはしたことがない椎堂ツムグの行動を一々咎めなくなってしまった。

 大問題なのだが、その勝手な行動が思わぬ助けになることもあり、もう誰も問題視しなくなったのだった。

 そうなれば椎堂ツムグのことを長年知る人間は、少なからず情を持ってしまうようになる。波川もそうだ。担当医の前でああは言ったが本当は心が痛かった。昏睡状態に陥った椎堂ツムグを心配していた。

 しかし椎堂ツムグの犠牲がなければ手に入らない平和な未来のため、情を捨てなければならない。人間らしい優しさなどが欠如したマッドなタイプの科学者達はともかく、人間らしい心を持って下の者達を導いていかなければならない波川は、人間らしい良心と冷たい司令官として立場の間で苦しむ。

「ゴジラが人間を許さないのは、こんなことをずっと昔から続けて何も変わろうとしないからなのかしら…。」

 波川は、迎えに来た車内で、窓の外を眺めながらそう呟いた。

 

 ゴジラは、人類が作ってしまった最悪の兵器の炎とまき散らす毒を浴びて生まれた。

 そして人類を断罪する、人類の罪そのもののように人類を蹂躙する。

 もしもG細胞完全適応者の椎堂ツムグが人類の敵になったなら、それは自業自得だ。散々惨い実験に利用し、その細胞からゴジラを殺すために兵器を開発し、そしてその兵器に乗せて彼にとって命の恩人、あるいは神に等しいであろうゴジラと戦わされているのだ。

 はっきり言って、椎堂ツムグが人類のことをどう考えているのか分からない。いつ敵になってもおかしくはないのに、彼は、マイペースに人類に付き合っている。

 

 終わらないこの繰り返しが、いつか終わる日を、ただ願うことしかできない。波川は、自分の机に積まれた書類に目を通しながらそう自虐なことを考えた。

 

 

 半日ぐらいの時間が経過して、椎堂ツムグは、意識が戻った。

 目を覚ました彼は、担当医や研修医達を見つけて目が合うなり、子供みたいに笑って。

「おはよう。」

 っと元気に挨拶したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




冷静な指揮官だけど、完全に冷徹ではない波川。
貴重な検体扱いだけど、特に気にしてないオリキャラ君。
壊れたけど勝手に再生、バージョンアップしたオリジナルメカゴジラ。

トウジとケンスケは、まったく違う処分となりました。ケンスケファンの方すみません。


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第三話  使徒の反撃!

ゴジラに成すすべもない使徒…。

今回は、ラミエルの回ですが…、まさかの?
ラミエルは、TV版の方を参考にしています。新劇のようなすごい変形はしません。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話  使徒の反撃!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機龍フィアが機能停止になったが、椎堂ツムグの細胞によって自己再生能力が付き、ほとんど人の手も、費用も掛からず万全な状態で次の使徒襲来でやってくるはずのゴジラに備えることができた。

 

 地球防衛軍では、使徒はただゴジラに蹂躙されるだけの怪獣にも満たないが人類にとっては脅威に他ならない正体不明の生命体という認識だ。

 使徒の研究を第一線で行っていたネルフに使徒についての資料の提供を呼びかけたが、赤木リツコがゲンドウとゼーレからの命令でMAGIのプロテクトで何百ものガードをさせたため、資料を出すことができなくなっていた。

 頑なに彼らが極秘と定めているデータを地球防衛軍に渡したがらない態度に、地球防衛軍の上層部は、こめかみをピクピクさせて漫画なら沢山の怒りマークがつくほど怒った。

 だが現状では使徒の情報を握るのは、ネルフにあり、あらゆる権限を失った彼らにとって、使徒の情報はいわば自分達の残命のための人質に他らない。

 地球防衛軍とて何十年もゴジラや怪獣、その他過激派組織と戦った歴戦の強者だ。彼らの目から見て、新参者に過ぎないネルフが、どこまで使徒の情報を盾にして強勢を張ることができるか見ものである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地球防衛軍の管理下にある病院に、一人の少女が入院していた。

 青い髪の毛に、赤い瞳。それだけで普通じゃないことが分かる外見の美少女である。

 彼女は、まだ包帯が取れていない体を起こして、病室の窓の外を眺めていた。

 彼女の名は、綾波レイ。

 ネルフの最終兵器エヴァンゲリオンのパイロットであるファーストチルドレンである。

 彼女は最初はネルフの病院にいた。

 しかしネルフが権限を失って、経費も維持費だけしかもらえない有様になったことで、ネルフが管理していた病院などの施設もすべて地球防衛軍に徴収されたのだ。

 病院が徴収されたことで患者も地球防衛軍の管理下にある病院に移されることになり、レイもその中に入っていた。

 レイは、ただ無表情のまま窓を眺めている。

 地球防衛軍の管理下にある病院に移る時、レイがファーストチルドレンであることを国連の人間が言ったため、レイには、ネルフの現状と、ゴジラのことと、地球防衛軍のことなどをすべて説明した。

 表情の変化も乏しく、感情も薄い彼女が大きな反応を見せたのが、エヴァンゲリオンがゴジラに破壊される対象なっているため、地球防衛軍としては今すぐに破棄してしまいたいという意見が出ているという言葉が説明をしていた職員の口から出た時だ。

 人形のような印象の少女がはっきりとした意思を示したことに、説明した職員が訪ねた。なぜエヴァンゲリオンが無くなるのを恐れているのかを。

「…絆だから。」

 レイは、小さな声でそう答えただけだった。

 詳しい事情を聞きだそうとしても、レイは、黙秘しますと淡々と答えるだけで何も語ろうとはしなかった。

 レイの経歴が抹消されていることについては、すでに地球防衛軍側に知られている。

 彼女の治療にあった医師は、念のため彼女の血液と細胞の一部を研究機関に送り検査を依頼した。

 そして提出された結果は、99.89%までは、人間の遺伝子と合致するという奇妙な結果だった。

 残り0.11%の差はなんだ?っという疑問が湧くのは当然である。

 使徒についてに研究していないが、最初の地球防衛軍が結成されてから、解散、再結成までに培われた怪獣の研究とその技術が僅かな時間でレイがただの人間ではないことを解明させた。

 レイは、青い髪がその僅かな人間の遺伝子のと差異である未知の部分によるものだとしたら、レイは、ネルフが何かしらの人体実験によって弄ったか、一から作られた人造人間である可能性がある。もしそういうことなら、経歴が白紙なのも説明がつく。

 レイが黙秘を貫くのもマインドコントロールによるものか、あるいは自分のことを他人に教えたくないという自己防衛なのかは、分からない。

 レイの件についてネルフに問いただすべきではないかと、医療機関と研究機関が上層部に報告し、ネルフへの聴取を頼んだ。

 上層部は、レイについての報告書を見て、ネルフが隠している使徒との関連を疑い、極秘でレイの細胞と、第三新東京でゴジラに瞬殺、熱線で燃やし尽くされた使徒の残りカスのサンプルとの照合と調査・研究を行うよう、医療・研究機関に命じた。

 レイのことを突き出したとしてもネルフが固く閉ざした口を開くとは到底考えられなかったというのが上層部の答えだった。

 病室にいるレイは、自分の置かれた立場を知ってか知らずか、それとももう諦めてしまっているのか、ただそこにいるだけだった。脱走をするわけでも、自殺に走るわけでもなく、ただ生きているだけだった。

 レイの体から包帯が取れる頃になって、三体目の使徒が第三新東京に現れた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その使徒は、なんというか、すごく、シンプルな見た目だった。(前の二体がアート過ぎた。でもこっちはこっちでアート)

 日の光を浴び、ガラスのような光沢を持つツヤツヤの表面。美しい完璧な線で象られた形。目もないし、口もない。手足もない。これが生物に見えるかと聞かれたらほぼ全員が否と答える見た目だった。

 巨大な青い正八面体が無重力で宙を舞い、第三新東京を目指してゆっくりと飛行する様は、前回の使徒とは違う意味で不気味だ。(シャムシエルは、空から飛来してきた)

「使徒というのは、実にバラエティー豊かなんだな。」

「こんなのがあと十匹以上はいるって言うんだから、怪獣とどっちがマシなんだか?」

「人類の敵に使徒も怪獣も関係ないだろ。同じ人類が人類の敵になる方が怖いぜ。」

「無駄口はそこまでにしろ! 東京湾にゴジラが現れた! 総員! 配置に付け!」

 第五使徒ラミエルの襲来と共に、ゴジラが第三新東京に上陸するべく東京湾から現れた。

 きっとこのヘンテコなシンプルイズベストみたいな使徒も、ゴジラに瞬殺されて終わるんだろうな…っと、地球防衛軍の者達は考えていた。前に来た二体の使徒がなすすべもなくゴジラにあっさりと殺されていたのだからそう考えるのも仕方ない。ゴジラの規格外ぶりは、地球防衛軍を支えるゴジラと戦ったことがあるか、ゴジラがもたらした被害を目で見て体験したベテラン勢が嫌と言うほど分かっているからだ。

 

 しかしその安直になっていた思考が、覆されることになるとは、誰も想像していなかった。

 

 第三新東京の上に来たラミエルは、移動速度を緩め、やがて止まった。正八面体が宙に浮いたまま静止している様は、これはこれで不気味だ。

 第三新東京が揺れ、ゴジラの雄叫びが木霊する。

 すでに住民をすべて他県へ避難させ、いるとしたら地下にあるネルフ本部にいるネルフ職員達だけの第三新東京に、遠慮なくゴジラが進撃して来た。

 ゴジラは、武装ビルの瓦礫を踏み終え、蹴り飛ばしながらまっすぐラミエルへと突き進んでいく。

 ラミエルに動きはない。早くもゴジラに殺されるのを受け入れてしまったのか、とにかく変化がない。

 しかしゴジラとの距離が数メートルという目と鼻の先に迫った時、変化が起こった。

「使徒に高エネルギー反応!」

「なんだと!?」

 ゴジラと使徒を観察していた地球防衛軍の前線司令部のオペレーターが機械に表示の変化に気づき叫んだ。

 そして間もなく、使徒ラミエルの角の部分からゴジラの熱線に負けない凄まじい荷電粒子砲が発射され、ゴジラの胴体に着弾した。

 ラミエルの見た目からは想像もできなかった予想外の大火力の攻撃に、発射された直後ゴジラは驚いて目を見開き、接近し過ぎていたこともあり避けることもできず荷電粒子砲を胸と腹の間にもろに喰らうことになった。

 ゴジラの巨体が、超重量の体が、ゴジラの苦痛を訴える雄叫びを残しながら荷電粒子砲で一気に後ろへ飛んでいった。

 そしてラミエルが豆粒に見えるぐらいの距離までゴジラが荷電粒子砲で飛ばされていったところで、やっとラミエルは、極太で大火力の荷電粒子砲を発射するのを止めた。

 ゴジラは、地面にうつ伏せに倒れ、顔をめり込ませて呻きながら身をよじっていた。

 この光景に、起こった出来事に、誰もが言葉を失い、愕然としていた。

 ゴジラになすすべもなく殺されるしかないと思われていた、ゴジラに劣る奇妙な生命体の使徒が、まさかゴジラを痛めつけるほどの攻撃力を発揮してゴジラを攻撃したのだ。

 それも地球防衛軍のどの兵器でも実現できないような100メートル級の怪獣を一撃で遥か遠くに飛ばすほどの荷電粒子砲で…。

 過去見た目からは想像できない攻撃力を見せつけてきた様々な怪獣と戦い続けていたはずの地球防衛軍のベテラン勢は、敵を見た目で判断してはいけないのだという初歩中の初歩のミスを猛反省した。

 やがてゴジラが、むくりと起き上がると、ラミエルの角の部分、つまり荷電粒子砲の発射口が光った。

 次の瞬間には、再び荷電粒子砲がゴジラの、それも頭に着弾し、ゴジラの体が地面に転がされた。これによってまた距離が離れた。

 その後、ラミエルは、ゴジラが起き上がろうとするたびに、荷電粒子砲を発射し、ゴジラを転がすという作業を延々と続けた。

 ラミエルのしつこい攻撃の仕方を見た地球防衛軍の前線指揮官は。

「今まで虫けらのように殺された仲間のための復讐か?」

 ラミエルは、前の来た二体の使徒の無念を晴らすかのように容赦なく自慢の荷電粒子砲でゴジラに反撃の機会を与えずに攻撃を続けている。

 まるでゴジラしか眼中にないような…、いやゴジラを放っておいたら自分が何かする前に容赦なくゴジラに殺されるからゴジラに集中するしかないのかもしれない。

 それにしてもあれだけの大火力の粒子ビームを発射し続けているのに、ラミエルに変化はない。攻撃力も落ちない。

 これは、ネルフから言わせれば使徒が持つS2機関という永久機関によるものなのだが、地球防衛軍はそれを知らないため、ゴジラを攻撃し続けるラミエルを固唾をのんで見守ることしかできない。

 戦闘に介入しないのは、ゴジラが使徒を殺してからゴジラを追い返すなり、あわよくば倒すためである。地球防衛軍にとって、使徒は人類の敵という見方よりも、ゴジラを地上へ上陸させてしまう原因の一つとしてしか見ていない。

 だからラミエルがまさかここまでゴジラを追い詰めるほどの武器を持っていたとは考えていなかった。

 ネルフが実権を握っていた頃、彼らがなぜ使徒を危険視していたかという理由を今になって彼らは理解した。

 もしかしたら使徒は、怪獣以上の敵になりうるかもしれない。怪獣と戦ってきたベテラン勢は、その最悪の展開が起こる可能性に嫌な汗をかいた。

 

 

 しかし、しかしだ。

 ラミエルが相手をしているのは、ゴジラだ。

 

 

 地球防衛軍を、人類を長年苦しめ、敵対したたくさんの怪獣達を葬り、南極に封印するまで終わりが見えない戦いを繰り広げてきたゴジラだ。

 強力な荷電粒子砲でゴロゴロ転がされているだけですむはずがないのだ。今まで地球防衛軍だけじゃなく、様々な怪獣を相手に時に苦戦を強いられながら勝ち抜いてきた(たまに怪獣がタッグ組んだり、未来人が介入したりしてゴジラを海に封印したりしたのはノーカウント)。その怪獣王が黙ってやられたままでいるはずがないに。

 ゴジラが、再び上体を起こした。するとまた荷電粒子砲が飛んできた。

 しかしゴジラは、荷電粒子砲が頭に着弾しても怯まず、転がることもなく、ゆっくりと立ち上がった。

 ゴジラを転がすために発射された荷電粒子砲は、すぐに止まる。

 ゴジラは、ただでさえ鋭い目を、さらに鋭く、目を怒りの炎を宿したようにぎらつかせ、ラミエルの方をぎろりと睨んだ。はるか遠くにいるラミエルは、豆粒より小さく見えるぐらいの距離が離れているがゴジラの目は真っ直ぐラミエルを睨みつけていた。

 立ち上がったゴジラは、今日一番の大きな雄叫びをあげ、ラミエルに凄まじい勢いで進撃していった。

 ゴジラが荷電粒子砲を浴びても怯まず、起き上がったことに驚いて固まっていたのか、ラミエルは、ゴジラが自分のところへ向かってきたからやっと現実に戻ってきたらしくエネルギーを集中させた。

「使徒のエネルギーが更に上昇! 最初の粒子砲以上です!」

「使徒に限界はないのか?」

 前線指揮官は、報告を受けて、そう呟いた。

 ラミエルが、ゴジラを最初に吹き飛ばした以上の荷電粒子砲を発射した。

 ゴジラは、それを真っ向から受けた。しかし吹き飛ばされることなく、歩みは止まらない。凄まじいエネルギーの熱がゴジラの体を焼き尽くさんと手加減なしに浴びせられているのにゴジラは怒りのままに進撃を続けるだけだ。

 ゴジラがラミエルの攻撃にまったく怯まなくなったことに状況を見ていた地球防衛軍は、怪訝に思ったが、ゴジラのある特性を思い出すことであっちらこちらから大変なことを忘れていたことを思いだしたという叫び声があがったという。

 

 ゴジラの特性。それは、あらゆるエネルギーを取り込み、自分の物とする能力である。

 

 ゴジラは、自分の力の源である放射能を摂取する以外に、この能力で一時的なパワーアップや回復を行い、様々な怪獣に勝利してきた。

 地球防衛軍の兵器の攻撃を受けても吸収はされないので、ゴジラがその気にならなければできないことなのだろう。もしくは、緊急時の一か八かの賭けという部分が強いのかもしれない。

 ラミエルは、外見から見て分かるが荷電粒子砲以外に攻撃手段がない。唯一のその攻撃を逆利用される状況に陥ってしまったら、もう……打つ手はない。

 しかしそれでもラミエルは、荷電粒子砲を発射し続ける。

 他の二体のように逃げようともせず、諦めもせず、ゴジラに挑み続ける。

 ゴジラへの反撃は、終わった。終わってしまったのだ。

「…っ、これは、使徒のエネルギーが下がっていきます! この状態だと、あと一、二分ほどで粒子砲は止まると思われます!」

「そうか…。根競べでも使徒は、ゴジラに勝てなかったか…。あのゴジラを少しだけでも反撃させる暇も与えず転がし続けられたのは、驚嘆に値するぞ。使徒よ…。」

 機械に表示された使徒のエネルギーの量が急激に下がり始めているという報告を受け、指揮官は、どんどん細く弱くなっていく荷電粒子砲を発射し続けるラミエルと、ラミエルのエネルギーを喰らいながら背びれを凄まじく発光させつつラミエルに近づいて行くゴジラの光景を眺めながらそう言った。

 そして、ゴジラが目と鼻の先まで近づいた時、ラミエルの粒子砲は発射口の角から消え失せた。発射を止めたのではなく、力尽きて。

 途端に宙に制止していたラミエルがグラリと傾き地上に落ちそうになった。それをゴジラが掴み、粒子砲を発射していた角の部分に熱線を溜めた口を開けて噛みついた。

 そしてラミエルの中に、ラミエルから吸収した荷電粒子砲の分を倍にして返すぜと言わんばかりの熱線が注ぎ込まれ、ものすごい速度でラミエルの表面に白く光るひび割れが走り、正八面体が粉々に砕け散る直後、ゴジラを巻き込んだ凄まじい爆発が起こった。

 やがて光は収まり、爆発による煙の中、立っていたのは、黒い巨体。ゴジラだけだった。ラミエルの残骸は残っていない。恐らく燃えカスすら残らず死んだのだろう。

 呆然とする人間達を正気に戻したのは、ゴジラの雄叫びだった。

 

「機龍フィアの投下を命令する! 地上部隊、メーサータンクでゴジラを攻撃し、機龍フィアを援護せよ!」

 

 前線指揮官の命令により、地球防衛軍とゴジラの戦いが始まった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 使徒ラミエルがゴジラに反撃したことと、ゴジラに超強力な荷電粒子砲を撃ち続けることをやめず、最後には力尽きるまでの姿に驚いているのは、地球防衛軍だけではない。

 地球防衛軍が復活するまで使徒戦において最後の砦であったネルフだ。

「S2機関を持つ使徒が…、力尽きた…。」

 一番驚いているのは、司令部で地上の状況を観察していた赤木リツコであろう。

 彼女は、あまりのことに足から力が抜けてへたり込んでしまっているほどショックを受けていた。

 使徒は、S2機関という永久機関を持つため疲れ知らずであるはずだ。なのに使徒ラミエルは、力尽きた。

「先輩…。」

 マヤがへたり込んでいるリツコを心配して声をかけた。

「いいえ、…違うわ、力尽きたんじゃない。エネルギーを高め過ぎた荷電粒子砲を休みなく発射し続けたことで使徒本体に負荷がかかり過ぎてしまっただけだわ。休息さえすれば使徒は再び荷電粒子砲を撃てたはず。けれどそれは叶わず、ゴジラに喰われた荷電粒子砲のエネルギーを加えた特製の熱線を内部に叩き込まれて殲滅…。使徒にも負けると分かっていも、最後までもがく意思があるというの?」

 ラミエルがゴジラに荷電粒子砲が効かないと分かっていても発射し続けるのをやめなかったのは、意地があったからか、あるいはラミエルが完全な戦闘マシーンで敵と判断した相手を倒すまで死んでも戦い続けるようになっていたか、真相は不明である。

 荷電粒子砲を発射し過ぎて一時的に(リツコ曰く)力尽きたせいか、ATフィールドすら出ていなかった。もしかしたら気絶していたのかもしれない。

 しかし、前の二体の使徒がなすすべもなく、シャムシエルに至っては死を受け入れて殺されたことを考えれば、ラミエルは、凄まじい勇士であった。

 そして長い間、人類を苦しめ続け、やっとのことで封印して、セカンドインパクトで死んだかと思ったら前より強くなって復活、何かを目的にして使徒とエヴァンゲリオンを破壊せんと第三新東京に現れるようなった怪獣王ゴジラ。

 ゴジラと人類の戦いの歴史をまとめた資料を見れば、ゴジラは、人類(地球防衛軍)だけじゃなく、様々な怪獣と戦ってほとんどの場合勝っている(未来人のメカキングギドラで海に運ばれたとか、モスラの幼虫に糸で雁字搦めにされたあと3式機龍と海に沈んだとか、モスラとバトラのタッグがゴジラを海に運んだとか)。

 エネルギー吸収も怪獣との戦いで何度も披露されており、それが決め手となって勝利しているケースも幾つもある。

 セカンドインパクト前のゴジラなら吸収しきれずラミエルと痛み分けで終わっていたかもしれない。しかしラミエルは不幸なことにセカンドインパクトを生き延びたせいかパワーアップしたゴジラを相手にしなくてはならなくなった。それが永久機関を持つ使徒であるラミエルの敗因であろう。

「真に恐れるべきは、今も昔もゴジラ…、なのかしら?」

 ヨロヨロと立ち上がり、椅子に座り込んで額を抑えたリツコは疲れたようにそう言葉を吐いた。

「リツコ、リツコリツコーーーー!」

 そこへドタバタと走りこんできたのは、葛城ミサトである。ネルフとエヴァが戦えなくなってから必要なくなった作戦部の部長である。連絡があるまで自宅待機であったはずだが、なぜいるのだろうか?

「ねえ、ちょっと見てたでしょ!? 使徒がゴジラに根負けしちゃったのよ! 使徒ってS2機関があるのに負けるってゴジラどんだけって話よ! ねえ、聞いてるのリツコ!」

「五月蠅いわね。見てたし、言われなくても聞いてるわよ。」

「もーーーー、あんなバケモノ相手に地球防衛軍はどうやって戦うのよ!? 最初にあれだけやられた癖にピンピンしてて、しかも無傷ってどんだけチートなのよ、あの黒トカゲ!」

 頭をかきむしり、地団太を踏みミサト。

「ゴジラは、相手の攻撃のエネルギーを食べることができるのよ。だから傷だって治せるし、元気になる。より強力な熱線を吐くことができる。でも、エネルギーを吸収できる量にも限度はあるはずよ。……どれぐらいで限界なのかは分からないけど。」

 例えエネルギーを喰わなくても自前のG細胞の再生力で傷を癒してしまうとか、一時的に弱っても好物の放射能物質を摂取したり一か月程度住処で寝ているだけで全快してしまうのがゴジラの嫌なところだ。そうでなければ古傷が祟って死ぬなり弱体化するなりするはずだが、ゴジラにはそれがない。G細胞の研究が延々と続けらているのもゴジラのその再生力をなんとかするためだ。オキシジェンデストロイヤーで一代目ゴジラを殺したが、製作者は自らの手で海中にいるゴジラに向ってゴジラを殺せる分だけのオキシジェンデストロイヤーを使用しゴジラを殺した後、そのまま海で自決した。資料などのデータも製作者が処分したためもうオキシジェンデストロイヤーは二度と手に入らない。

 ちなみにオキシジェンデストロイヤーは、その効能で酸素を破壊し、その場にいる生物をすべて死に至らしめた後、液化させてしまうため、使用には、多大な自然破壊が伴う。使用する時、当時の首脳や軍人達は頭を悩ませたそうだ。一番悩んだのは製作者だった。彼はオキシジェンデストロイヤーの凄まじい威力にしばらく食事が喉を通らなかったと訴えたことがあるほどショックを受けて、オキシジェンデストロイヤーが大量破壊兵器になるのを恐れ、国の命令でも使用する気になることができなかった。そんな彼を決意させたのが、彼の知人達の説得と当時のテレビで放送された「平和への祈り」だったと言われる。

 そしてオキシジェンデストロイヤーでゴジラが死んだ後、オキシジェンデストロイヤーが撒かれたその海の魚や海の生物も死に絶え、その海域だけ太古の無酸素の海になってしまい、しばらくの間漁業に大きな損害を与えた。このことで漁業関係者からのデモが起こったり、時を経てオキシジェンデストロイヤーで変異した微生物からデストロイアという怪獣が誕生する原因になった。

 このデストロイアもゴジラと対戦し、ゴジラの勝利で終わっている。この時、ゴジラの同族であるゴジラジュニアがデストロイアに殺されていたため、ゴジラは怒り狂い、爆弾を抱えていた心臓の暴走でメルトダウン寸前の灼熱を纏った形態になった。

 デストロイアは、オキシジェンデストロイヤーと似た効果を持つミクロオキシゲンという物質を体内で生成することが可能となり、更にG細胞を取り込んで完全体になったことでオキシジェンデストロイヤーに匹敵するミクロオキシゲンを武器にするようになったデストロイアの攻撃も通用せずコテンパンにやられ、最後には逃げ出し、空で待機していた当時の自衛隊の戦闘機に撃ち落されて死んだという、ゴジラが対決した強力な怪獣の中で唯一人間にとどめを刺された怪獣として歴史に刻まれた。

 生態系の破壊と未来にデストロイア問題が発生したことを除けば、オキシジェンデストロイヤーは、唯一ゴジラを完全に殺すことができた手段だったと、初代ゴジラを知る軍人達や科学者達から次の世代へと語り継がれている。

 ちなみにデストロイア戦の後、メルトダウンで核爆発寸前までいっていたゴジラは、ギリギリで元に戻り、ヨロヨロの状態で海に帰り、1年ぐらいは顔を出さなかった。実はメルトダウンを抑えるのに、G細胞完全適応者の椎堂ツムグが大きく関わっているのだが、非公式となっているため知られていない。

「唯一ゴジラを完全に殺せたオキシジェンデストロイヤーを作るため、多くの科学者達が挑み、ミクロオキシゲンというオキシジェンデストロイヤーの前段階のような物質までは発明できた。けれど、オキシジェンデストロイヤーのようにゴジラを葬るほどまでには至らなかった。それどころかオキシジェンデストロイヤーの影響でデストロイアという怪獣が誕生し、ミクロオキシゲンを自力で体内で生成する怪物になってしまった。もしデストロイアが倒されてなかったら、公式に完全体と呼ばれている形態以上の進化を遂げ続けていたと言われる人の罪が生んだ悪夢。人類は、どこまで罪を犯すのかしらね? ゴジラは、核爆弾の罪。ビオランテは、娘を蘇生させようとした一人の科学者の愚行。ゴジラを倒すために使ったオキシジェンデストロイヤーの影響で誕生し無限の進化の可能性を秘めていたデストロイア。ゴジラの怒りは、もう核実験だけじゃないはず。人類が滅ぶまでゴジラは、永遠に人類の敵として暴れ続けるのでしょうね。そして今…、ゴジラは、使徒とエヴァを破壊するために動いている。ゴジラは、とっくに気付いているのね。私達人類が行った戦争を遥かに越える大きな罪に。まさに人類を断罪する破壊神というべきかしら。」

 MAGIに繋げたパソコンからゴジラとゴジラの歴史の資料を纏めたデータを閲覧していたリツコは、自虐的に笑い、コーヒーを一口飲んだ。

 ミサトが来た時も、リツコが今ゴジラのことを閲覧していた時も、ずっと地響きがネルフ本部に響いていた。

 ネルフ本部を覆い隠す22層の特殊装甲の上で、ゴジラを相手に機龍フィアを中心とした地球防衛軍が激闘を繰り広げている影響だ。

 ネルフ本部は、とにかくでかくて広いのだが、100メートル級の怪獣と怪獣型兵器の戦いによる地響きが本部内にまで響いてくるのだから上の方でどんな激しい戦いが起こっているのか容易に想像できる。ゴジラが最初に来た時からこんな状態だ。

 三十分ぐらいだろうか。やがて地響きがなくなった。どうやらゴジラを追い返すのに成功したらしい。なぜそのことが分かったかと言うと、MAGIを通じて地球防衛軍からゴジラが海に戻ったという知らせを通達されたからだ。

 

 

「はあ……、あと12体の使徒が来るのか。その都度、ゴジラが来る…。気が滅入る…。」

 本部の中庭で、冬月が黄昏ながら独り言を呟いていた。

「はあ……、こんなことになるなら、ゲンドウに協力などしなかったのだがな…。生きているうちにまたあの悪夢(ゴジラ)に遭遇する羽目になるとは、フッ…、これが人類最大の大罪を犯した者達への罰なのだろうな。ゴジラは、核爆弾という罪から生まれた。セカンドインパクトで消滅した南極に眠っていたはずのゴジラは、死なず、15年ぶりの使徒の出現に呼応するかのように第三新東京に現れ、使徒を殺し、エヴァを破壊しようとした。ゴジラは、セカンドインパクトの真実を知っているというのか? 南極のLCLを取り込みその記憶を垣間見たとしたら……。そういうことならば、ゴジラの行動も説明が付く。ゲンドウの奴はまだユイ君のことを諦めていないようだが、最強最悪の怪獣王を相手に何ができる? いい加減、現実を見るべきなのに、奴ときたら…。ゴジラが生きているともっと早く分かっていたらユイ君もE計画を発案せず、地球防衛軍の科学者として活躍していたかもしれんな。はあ…、すべては後の祭り。ユイ君…、君は初号機の中で見ているか? 君らが幼い時に暴れていた怪獣王が更に強く、更に怒りを増して人類補完計画を阻止しようとし、人類を断罪しようとしているのを……。」

 冬月は、サキエル襲来時にゴジラが第三新東京に出て以来、ずっとこんな感じだ。

 ゲンドウと違いゴジラがもたらした恐怖を骨の髄まで染みつけているため、冬月は、ずっとゴジラの悪夢に苦しめられていた。それは、ゴジラが封印されても、セカンドインパクトで死んだのではと世間に噂が広まった時も変わらない。

 セカンドインパクトで南極もろともゴジラも消滅したと、冬月は信じていた。信じたかった。しかし現実は非情である。

 よりにもよって自分が協力したゼーレとネルフ、ユイが考えた人類補完計画がゴジラの標的になってしまったのだ。

 もう年老いた自分は、先は長くない。しかし生きている間にセカンドインパクトを生き延びて強くなったゴジラの悪夢から脱することはできないと思った。

 絶望を通り越して、もうすべてを諦め、何もせず傍観しているだけである。

「あの老人達がいかなる手を尽くしても、ゴジラを止められるはずがない。罪の象徴に勝てるはずがない。」

 冬月は、ブツブツと独り言を呟きながらネルフ本部にある自室に帰って行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゴジラを追い返した後。地球防衛軍の病室の一室で。

「って、感じで、今回はこんなに早くゴジラを海へ追い返せたわ。」

 折り畳み椅子に座った音無がノートパソコンの画面を操作しながら説明した。

「機龍フィアの改良がここまで進んだんだな。」

 病室のベットで上体を起こしているのは、尾崎。

 シンジの心を治すために無理な精神感応をしてから、意識を失い、数日ほど寝たきりになるほど疲労してしまったのだ。

 ミュータントは、生命力が常人のそれを遥かに上回り、特に稀に生まれるとされる“カイザー”という超越者の尾崎もだが、肉体的ダメージは、治りが早いが、精神に負ったダメージはさすがに治しようがない。特に尾崎は、シンジの心の中でひと悶着あったのでダメージが大きかった。並みのミュータントなら精神崩壊して廃人になっていたか、最悪脳死していたと、ミュータントの医療を担当する医師から怒られた。

 目を覚まして意識がはっきりしてからは、風間を含めた同僚や音無らから面会を受け、怒られたり、心配されたり、回復したのを喜ばれたりした。

 今、尾崎は、自分が戦線から離脱している間に何が起こっていたのかを音無から教えてもらっている真っ最中だった。

 

 実は、尾崎真一と、音無美雪は、恋仲である。

 

 きっかけは、音無の護衛をした時だったらしいが、最初は二人はツンツンな関係だったのだが、お互いに相手を見ているうちに相手を見直し、そして恋人関係になるまでに仲を深めていた。

 二人は、立場上このことは隠している。……つもりだが、二人とも恋愛関連のことには経験がほとんどないので隠しているつもりでも態度や行動に出ているため、二人がそういう関係なことは周知の知になっていたりする。周囲にばれているのを知らないのは、尾崎と音無だけである。

 それなりに付き合いが長いので、そろそろプロポーズしてもいいんじゃないかと周りは思っているのだが、臆手な尾崎は、中々プロポーズとまではいかない。そのことに一番イライラしているのは、風間だったりする。尾崎に直接言わないが、イチャイチャしてる二人を見かけては、いい加減くっつけと言わんばかりに殺気立ってると同僚のミュータント兵士が怖がっていた。

 話は、現実に戻り、音無に見せてもらった映像を見終わった尾崎は、音無に聞いた。

「あの子は…、シンジ君はどうしてるんだい?」

 尾崎がここまで弱るほど頑張って助けようとした少年が今どうしているのか気になった。人を守ることを優先する尾崎らしい。

「まだ意識が戻っていないわ。でも、血色はとてもいいし、いつ目覚めてもおかしくないのに…、どうしてかしら?」

「……“あいつ”のせいか?」

「なに?」

「んっ、何でもない。シンジ君の様子を見に行きたいな。」

「またムチャするんじゃないでしょうね?」

 音無がジーッと疑り深い目で尾崎を見つめる。

 音無にそう言われ、その視線に、尾崎は、視線を彷徨わせた。尾崎の性格上、自分より他人を優先するのでやらないという保証がない。

 やったら絶対怒られるのは目に見えているし、今までムチャをして音無から雷を落とされたこと数知れず…。

 尾崎は、やらないと返事が出せず、無意識にダラダラと汗をかいた。音無はそんな尾崎を見てため息を吐いた。自分がどれだけやめるよう言っても聞かないのはもう分かりきっているのだが、愛する人の身を案じるのは当然である。

「私も行くから、行くなら早く行きましょ。ダメって言ってもついていくからね。」

「…分かった。」

 音無の監視のもと、尾崎は、シンジがいる病室に向った。

 病室に入ると、最初の頃と違い、沢山あった医療機器がなくなり、最低限の機器がシンジの体に繋がっていた。

 近づいて見ると、死体と見間違えそうなほどゲッソリと酷い状態だったシンジは、すっかり顔色がよくなっており、静かな寝息を立てて眠っている。音無の言う通り、もう目を覚ましても不思議ではない状態だ。

「よかった…。ずいぶん元気になったんだな。」

「そうね。ここに運ばれてきた時に比べたら雲泥の差ね。」

 尾崎の安心した言葉に、音無も同意してそう言った。

 尾崎が、シンジの瞼にかかっていた髪の毛をそっとどけようと手を伸ばし、指先が触れた時だった。

 シンジの瞼がピクピクと反応したのだ。

 目覚めの予兆に尾崎と音無は、顔を見合わせた。

 そして二人の目の前で、シンジは、微かなうめき声を上げながら、ゆっくりと瞼を開けた。

 何日も眠り続けたためか、ほとんど光を認識しきれていないらしく、目の焦点があっていない。

 しかし徐々に目の機能が回復を始め、眩しそうに目を細め、やがてベットの横に立っている尾崎と音無の存在に気付いて、そちらを見た。

「………誰…、ですか?」

 掠れた声でそう言った。

「よかった。目を覚ましたんだな。」

「気分はどう?」

 二人が優しく聞くと、シンジは、困惑した表情をした。

「ここ…どこ? 僕は…、確か………。ヒッ!」

 シンジがあの時のことを思い出したらしく、恐怖で顔を歪めて頭を抱えた。

「大丈夫! 大丈夫だ! ここにはゴジラはいない! 君はもう、エヴァンゲリオンに乗らなくてもいいんだ!」

 恐怖でガタガタと震えるシンジの体を、尾崎が包み込むように抱きしめた。

「い、いやだ…、やだ、やだ…、やだ、やだやだやだやだ! 怖い怖い怖い!」

 尾崎を振りほどこうとシンジが暴れた。

「大丈夫だ! 本当に、もう…、大丈夫だから。君はもう、お父さんに怯える必要はない。怖いのを我慢して戦わなくたっていいんだ。君のことを責めたりなんかしない。君は、ここにいていいんだ!」

 尾崎の最後の方の言葉に、シンジがびくりと体を跳ねさせ、硬直した。

 尾崎は、初号機からシンジを救出するとき、そしてシンジの壊れた心を治療するために精神感応で精神をダイブさせた時、シンジが何に怯え、どういう経緯でエヴァンゲリオンに乗らなくてはならなくなったのか、そして何を渇望しているのかを感じ取っていた。

 尾崎に抱きしめられたまま固まっていたシンジは、やがて、嗚咽を漏らしてボロボロと涙を流し始めた。

 尾崎には(というかミュータント全般)、相手の気持ちを感じ取る能力の他に、相手に自分の気持ちを伝える能力もあった。だからシンジは、尾崎の言葉が、気持ちが本物であることを直に感じている。

 孤独な幼少期を送ったシンジが求めていた本気で自分のことを想ってくれる情がものすごい勢いでシンジの中に流れ込んでいた。

「ううぇええ……、ぼぐ…、ごごにいて…いいの?」

「ああ。もちろんだ。」

「う…う、うわあああああああ…。」

 シンジは、尾崎の胸に顔を押し当てて大声を上げて泣いた。

 音無は、二人の様子を温かい目で見守っていた。

 やがてシンジは泣きつかれてまた眠ってしまった。壊れた心が治ったばかりで数日も眠っていて体力が長続きしなかったのだろう。

 シンジの意識が回復し、精神状態も良好であることなどをナースコールで呼んだ担当医にちゃんと伝え、尾崎と音無は、寝ているシンジに挨拶をしてから病室を後にした。

 なお担当医に尾崎は、シンジが目を覚ました時に言ったことも全部伝えている。なのでシンジのためにもしばらくは地球防衛軍で保護することが決まった。地球防衛軍側の諜報部がシンジの経歴を調べたところ、あまりにも巧妙にシンジの精神を他人を渇望するようにされたとしか思えない環境で育ったことが分かり、それが8年前に彼の父親であるゲンドウが赤の他人を金で雇って親戚と偽りシンジを預け、ただの金づるとしてしか扱われない環境で育てさせ、そんな環境だから学校の方でも他人と関わって傷つくのを恐れ、表面上は受け応えはするものの他人との壁を作るため親しい友人もおらず、本心では自分以外の相手を求め続けているという悪循環を作ってしまった。そして彼が14歳になった時、シンジを捨てたゲンドウがエヴァンゲリオン・初号機に乗せるパイロットの“予備”として、手紙とも言えない手紙で呼び出し、エヴァに乗らないのなら帰れと、誰にも必要とされないことを何よりも恐れる彼の心を抉り、重体の綾波レイを脅迫材料にしてついに初号機に乗らなければ存在価値がないと彼に思いこませる状況に追い込んで乗るのを承諾させていたことが判明した。

 ゴジラの乱入がなければ、何の訓練もしていない普通の中学生のシンジに初号機で使徒サキエルを倒させた後、彼をサードチルドレンとして徴兵させる予定になっていたことも分かり、子を持つ諜報部の者は怒りで顔を真っ赤にしていたという。

 最初は、シンジが回復して日常生活に問題なしと判断されたら地球防衛軍の保護が解除され、彼を普通の中学生に戻す手筈になっていたが、シンジの経歴と保護されるまでに至った経緯が判明した今、いまだに腹の底で何を考えているか分かっていないネルフの総司令のゲンドウを警戒して、シンジを地球防衛軍の保護下に置くことが決定された。

 あと綾波レイの方もである。ただの人間でないということもあるが、チルドレンというエヴァンゲリオン専門のパイロットというものに得体のしれない不信が高まった今、チルドレンとして登録されている者をネルフに帰すのは得策ではないという判断だ。

 綾波レイの他に、すでに登録されたチルドレンとして、ドイツのネルフにセカンドチルドレンの惣流=アスカ=ラングレーという少女がいることも分かり、近いうちに彼女のこともなんとかしなければならないと検討された。

 

 地球防衛軍のネルフへの不信が高まった頃、地球防衛軍の上層部から地球防衛軍の艦隊にある命令が下された。

 

「エヴァンゲリオンをネルフ日本支部に輸送?」

 鼻の下のヒゲと、どう見ても堅気じゃない風貌に、茶色の軍服コートの上からでも分かるごつい鍛え抜かれた肉体を持つ50代過ぎくらいの男が、片眉をあげてモニターに映る波川の言葉に対してそう言った。

『そうです。ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って第三新東京に現れるようなったことはすでに知っていることでしょうが、ネルフは、各国にある支部に開発途中のエヴァンゲリオンとすでに完成しているエヴァンゲリオンを保有しています。ゴジラがそちらに向かってしまい、その国に甚大な被害をもたらす前にすべてのエヴァンゲリオンをネルフ日本支部に集めるのです。ですが、輸送途中でゴジラに襲われては元も子もありません。そこで轟天号での輸送をすることが決まりました。』

「ハッ、俺たちゃ宅配便じゃねぇ。ごつい箱に詰めて他の連中に頼むんだな。」

『ゴードン大佐! これは、地球防衛軍の総意の命令なのです。ゴジラをおびき寄せる餌を失うわけにはいきません。ゴジラを引き寄せる要因が一か所になれば、これまでのゴジラとの戦いと違い民間への被害も損害も少なくて済み、また我々も作戦を立てやすいのです。』

「それくらい分かってる。だがな、久しぶりの轟天号の初仕事が荷物の輸送だってのが気にくわないだけだ。」

『大佐…、あなたのお気持ちは察します。ですが、輸送途中でゴジラが海中から襲って来る可能性がある以上、逃げ切れるのは現段階で轟天号だけなのです。そしてあなたの艦長としての腕がなければセカンドインパクトを耐え抜き復活してより強くなったゴジラから無事にエヴァンゲリオン弐号機を運ぶことはできない。我々は、あなたに期待しているのです。』

「フン。まあ、いいぜ。ドイツからエヴァンゲリオン・弐号機の輸送。やってやる。」

『言質は取りましたよ。それとですが、エヴァンゲリオンの輸送と同時に弐号機のパイロットとネルフ関係者を一人ずつ、一緒に乗せてネルフ日本支部へ移送させてもらいます。』

「ちょっと、待て。人間まで運ぶのか? タクシーじゃないんだぞ。」

『弐号機の“おまけ”です。適当に客人として部屋に閉じ込めて置くなりしてくれてかまいません。何かしらの問題行動を起こしたならば捕虜として扱ってもいいです。それは、大佐に任せます。ただし、殺さないようにしてください。特に二人の内、一人は14歳の少女なのですから。』

「ガキは苦手なんだがな…。仕方ねぇ、その仕事引き受けた。」

『感謝します。ダグラス=ゴードン大佐。』

 

 

 

 

 こうしてドイツ支部にあるエヴァ弐号機とそのチルドレンのアスカともう一人の人間を日本支部に運ぶことが決まった。

 

 轟天号。これは、対怪獣戦のために開発された先端がドリルとなっている万能戦艦である。空水両用で、宇宙での活動も可能な技術の粋を結集した最強の戦艦と言われている。

 ゴジラが封印された南極での戦いで初代轟天号が出撃し、たまたま起こった地震でできた地割れにはまったゴジラに向って氷山をミサイルで撃って破壊し、崩れ落ちてきた雪と氷でゴジラを封じ込めた、歴史の教科書にも載っている伝説の戦艦である。

 その新型機が、ゴジラ封印後に開発され、その間に暴れていた他の怪獣との戦いで頭角を現したが、セカンドインパクトの発生でゴジラの行方が不明となり怪獣が消えたことで地球防衛軍が解体され、対怪獣兵器はその破壊力から危険だということで解体されることになった。轟天号もそうである。

 ……表向きはそうだった。

 しかし実際は、地下に潜伏していたネオGフォースが対怪獣兵器と轟天号を管理しており、いつでも使えるよう整備をして、そして第三新東京でゴジラの復活が確認され、地球防衛軍が再結成された時、地下に隠されてきた轟天号と対怪獣兵器は、再び日の光を浴びることができたのだった。

 

 

 ドイツへと出発した轟天号の機体が太陽の日を浴びて銀色に輝くさまは、歴戦の勇者を彷彿させるほど神々しかった。

 轟天号がドイツに向けて海の上を飛行している最中、その下の海中に白い巨体を持つクジラとも魚ともつかない姿をした使徒が轟天号を追跡していた。しかもレーダーに引っかからないように絶妙な距離を保ちながら海底近くを泳いでいたため轟天号側は使徒に追跡されていることに気付いていない。

 そして轟天号がネルフ・ドイツ支部に到着し、せっせとエヴァ弐号機を搬入する頃、太平洋の海底で眠っていたゴジラが、ゆっくりと目を開け、太くて長い尾をくねらせてその体系からは想像もできない速度で海中を泳ぎ、ドイツへ向かって行った。

 

 

「ゴジラさんの次の戦いは、海で行われるのか…。まあ、あの使徒(ガキエル)があの形だし仕方ないか。で、35年ぶりの轟天号との再会か…、うーん初代じゃないから若干違うけどゴジラさんにとっては記憶に残る好敵手だったんだよね? ゴジラさんきっと喜ぶだろうな。ゴードン艦長も。ゴードン艦長なら機龍フィアがなくてもやれるはずさ。」

 日本の地球防衛軍の施設の高台からドイツのある方角を眺めながら椎堂ツムグが、実に楽しそうに笑いながら独り言を言っていた。

 

 

 

 

 




次回は、ガキエル。
戦いというより、逃亡戦になります。

アスカが問題を起こす予定です。アスカの扱いが都合によりあまりよくありません。


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大まかな設定

このネタ話に登場するものの大まかな設定のまとめです。
同じ用語でもたくさん捏造しています。

思い付きと、文章を書いてて展開の仕方次第で設定を変えたりします。


大まかな設定(たまに書き換えアリ)

 

 

2015/04/09 ちょっと書き換え

 

 

 

 

 

 

 

◇書き始めた発端(?)

 もしもエヴァンゲリオンの世界に、セカンドインパクト前に人類vsゴジラ(とその他怪獣)の戦いが行われていたら?

 そして『ファイナルウォーズ』の戦いでセカンドインパクト直前ぐらいに南極に封印されていて、セカンドインパクトで南極に生息する生物と同様にLCL化したものと思われていたが…?

 サキエル襲来の時に、死んだと思われていたゴジラが第三新東京に現れる。

 その時、人類は、使徒は、そしてゴジラは、どうなるかという思い付きからできたネタです。

 ただのゴジラ無双と、オリキャラとオリジナルメカゴジラと地球防衛軍に翻弄される…、むしろ空気扱いなネルフとゼーレの話になるかも。

 ゼーレは、まだいいけどネルフが空気かも。

 そしてチルドレン達が全然活躍できません。

 題名の(仮)は、これでいいのかな?っていう自信のなさです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇エヴァ世界でのゴジラの設定

 Wikipediaと手元にある『ファイナルウォーズ』DVDを基準にしますが、ここでのゴジラは、二代目。(『ファイナルウォーズ』では、一代目が生きてるって設定)

 一代目は、水中酸素破壊剤オキシジェンデストロイヤーで死亡している。その骨からメカゴジラ・3式機龍が作られる。

 二代目であるゴジラは、長い戦いの末に南極での地球防衛軍との戦いで起こった地震で地割れに落ち、そこを轟天号のミサイルで破壊された氷山の氷と雪で埋められて封印された。ゴジラが封印された区域はエリアGと地図に記され防衛軍の施設が管理している。

 ゴジラが封印されたのが、セカンドインパクトが起こる20年前ぐらい。

 セカンドインパクトにより、ゴジラも南極の消滅と共に死んだものと思われていた。

 しかしセカンドインパクトから、約15年後、使徒サキエルが現れて第三新東京に襲来し、シンジが乗る初号機と相対して初号機がリフトオフする直前に雄叫びと共にゴジラが第三新東京にやってきた。

 そしてなぜかサキエルを殺し、初号機まで破壊しようと襲い掛かってきた。間一髪で新型メカゴジラである機龍フィアに阻止されたため初号機とシンジは助かる。

 ゴジラを追い払うためゼーレもネルフも知らないところで政府の要請によりゴジラの復活を予期して潜伏していたGフォース(地球防衛軍の中でゴジラと戦うために作られた専門組織)が総力を集結させてゴジラと戦い追い払うことに成功する。

 そしてこの時の戦いでゴジラがセカンドインパクト前より明らかに何倍も強くなってることが判明し、かつエヴァでなければ破れないと定義されていた使徒が展開するATフィールドを紙を破るみたいに破壊してサキエルの腕を簡単にもいだり、ゴジラを前にしてサキエルがビビりまくってたり、とどめに放射熱線で一撃で跡形もなく焼き払ったことなどから大変な事体が起こったと知らしめる。

 ゴジラの復活に伴い再結成された地球防衛軍は、ゴジラが現在危惧されているサードインパクト問題に反応していてゴジラはゴジラの考えがあって使徒とエヴァを破壊しようとしているのではないかと判断する。

 それが本当であるかのように集中的に第三新東京ばかり襲う。ついでに使徒を殺しまくるし、エヴァがいれば襲う。あとドイツのネルフ支部にも襲撃したりする(アダムと弐号機があるから)。他の開発中のエヴァがあるところにも出没するのでゴジラがエヴァを抹殺対象にしているのは間違いない。

 また使徒とエヴァを攻撃するついでに恒例の都市破壊活動もしっかりやるのでゴジラの本来の抹殺対象は人類であることに変わりないらしい。

 ゴジラが使徒及びエヴァのATフィールドを簡単に突破、破壊できるのは、ゴジラが怪獣王と呼ばれ、世界を滅ぼすと恐れられるほどの人類への純粋な怒りの感情の権化で、存在そのものがまさにそれであるため心の壁(ATフィールド)なんぞで拒絶できないからである。

 主力の攻撃手段である熱線は、かすっただけでエヴァの一部を蒸発させるほどの威力を持つ。もろにくらえば使徒も一撃で燃えカスが辛うじて残る程度まで焼き尽くされる。そのためエヴァでゴジラに対抗するのはほぼ不可能。

 ゴジラがセカンドインパクト前より強くなっていることと使徒とエヴァを襲うのは、セカンドインパクトで発生したエネルギーとLCLを取り込んだからである。LCLから得た記憶でセカンドインパクトの真実を知り人間の愚かしさにますます怒り狂った結果、サードインパクトを起こすための材料である使徒とエヴァとネルフやゼーレを積極的に攻撃するようなったから。

 ゴジラがセカンドインパクトで生き残れたのは、ゴジラがあらゆるエネルギーを吸収し自分の力として変化する能力を持っていたからである。

 またG細胞の作用で浸食型の使徒は、逆にG細胞に喰われることになるのでまさに地球最強の怪獣王。

 

 

 

 

 

◇身長差(wiki参照)

・ゴジラ 100m

・エヴァ 80m(その場面場面で大きさが変わるが、新劇場版の大きさを採用しました)

 

 

 

 

 

◇地球防衛軍の新兵器と新組織などの用語設定

・4式機龍コードフィア(以下、機龍フィア)

 一代目ゴジラの骨を使った3式が自我が芽生えてゴジラと共に海底に沈んだ後に作られた新型のメカゴジラ。

 ゴジラの骨を使った3式についてモスラ側(小美人)から苦情があったためゴジラそのものを材料にするのはNGになったが、代わりにゴジラの細胞に適合した人間で機龍フィアの生体核で搭乗者となる椎堂(しどう)ツムグの細胞を使うという屁理屈で開発した。

 フィアは、ドイツ語で数字の4(Vier)。3式の次につくられたから…という理由でつけた名前です。

 セカンドインパクト後、ゴジラの行方が分からなくなった後、あらゆる事体を想定して3式の弱点を補い、かつ戦闘能力や武装も比べ物にならないほど強化されている。

 カラーは、銀と赤。

 自己修復能力があり、腕などをもがれてもくっつければ直せる。

 どれくらい強いかというと、ゴジラのVSシリーズで出てきた怪獣全部を一度に相手にして全部を倒せるぐらい。

 最大の特徴は、ゴジラの主力攻撃方法である熱線(通常)を受けてもG細胞のエネルギー吸収を応用してエネルギー拡散させてほぼノーダメージで防げることである。ただし防げるのはゴジラの通常攻撃である白い熱線だけで、威力を上げたそれ以外の熱線、つまり赤い熱線などは防ぎきれない。またそれ以外のビーム兵器系も無効化できるため使徒のビーム攻撃も無傷でやり過ごせる。

 ゴジラ同様に使徒やエヴァのATフィールドを紙を破くみたいに簡単に破壊して使徒を抹殺できる。これは、上記で書いたゴジラがATフィールドを破壊できる理屈が遺伝子レベルで書き込まれているためG細胞と人間の融合細胞にも同じことができたからである。

 人間の細胞とG細胞の完全融合した細胞から作られたためか、3式にあった問題点であった暴走の問題はほぼ完全に解決している。

 椎堂ツムグの細胞から作られたため彼が専門パイロットのように思われがちだが、他の者でも操縦可能。

 DNAコンピュータとコードや管で直接繋がったヘルメットと、背骨に沿って操縦席に座った時端子が刺さる部位がある特殊なスーツを纏う。これにより特別な操縦訓練を受けていなくても機龍フィアとまるで一心同体になったように自分の思考で動かすことができる。ダメージのフィードバックはないが、機内の空調や電気系統などが壊れればパイロットの身が危ない。

 なおDNAコンピュータやその他AIの自動で動く部分に問題が発生した場合、手動で操縦、各機能を動かせるように操縦桿やスイッチもちゃん搭載されている。ただし手動の場合、椎堂ツムグ以外のパイロットは訓練を受けていないと動かし方が分からない。椎堂ツムグは、DNAコンピュータの素となるDNAのそもそも提供者であるため問題が発生してもシンクロは解けず、むしろDNAコンピュータに働きかけて破損を修復することができる。またゴジラと同調できることをゴジラ側にも知られているためシンクロによる戦闘はゴジラに攻撃を教えてしまうことになるため、あえて手動操作とシンクロによる操縦を使い分けて不意を打つことでゴジラと戦うことができるようになっている。

 椎堂ツムグに操縦させた方が彼の遺伝子から作られたDNAコンピュータとのシンクロ効果から開発した時に想定された能力以上の力で戦うことができる。

 七つのリミッターがかけられており、リミッター解除は椎堂ツムグが搭乗者の時のみできる。これは、機龍フィアが対ゴジラ兵器であると同時に実験データを取るための実験機であるためである。

 リミッター解除無しでも肉弾戦でゴジラと取っ組み合いができるほどの馬力があるが、この状態だと本気とは言えない。サキエル戦でゴジラが強くなってると分かった時、せめて海に追い返すためにリミッターを1つ解除し相撲の寄り切りのように押し出すほどの馬力を発揮した。

 リミッターは、攻撃力、防御力、速度、椎堂ツムグとのシンクロ率の上昇など、リミッターの解除ごとにそれらの能力が上昇していく。

 まだ改良・改善の真っ最中であり、1つ以上のリミッターを同時に解除するとDNAコンピュータから逆流した急激なシステム活性化の時の信号で脳が刺激され正気を失いやすい。つまりバーサーカーと化す。またこの一時的な暴走によるメチャクチャで乱暴な操縦のため機体が強制シャットダウンし機能停止に追い込まれてしまうなどの問題が発生するが、改良を重ねてこの問題は解決していく。なお、強制シャットウダウン機能は、3式の暴走事件の教訓から付けられたものである。

 全リミッター解除は、G細胞のエネルギーをフル稼働させるため核暴走を起こしたバーニングゴジラと同じような状態となる。

 また完全シンクロとなるため機龍フィアが傷つけばダメージがそのまま椎堂ツムグに反映されてしまうためエネルギー暴走の負担もかかる。まさに最後の奥の手である。

 全リミッター解除後の状態が長続きするとかつてメルトダウンで核爆発しそうになったゴジラのように大爆発してしまう。その爆発の威力は、地球防衛軍のスーパーコンピュータの算出では、日本を分断できるほどの威力だと推測されている。

 

 

 

・G細胞

 ゴジラ(GODZILLA)の細胞の略称。

 軍隊との戦闘や怪獣との戦闘などでゴジラの体から千切れるなどしたか、メカゴジラなどが持つ近接兵器などで傷つけた時に付着したとか、オキシジェンデストロイヤーで死亡した一代目ゴジラの骨などから採取されたものを指す。

 最初のゴジラが出現してから、多くの科学者達が調査・研究することによりゴジラの不死性と放射能物資(またはその他のエネルギー)を捕食する能力が解明され、その素晴らしい能力を利用できないかと、ある者は平和利用のために、ある者は欲望のために利用してきた。

 特に個人的な目的でG細胞を利用した結果、人工的に怪獣を作ってしまいゴジラを呼び寄せるきっかけになる事件もあり(ビオランテ)、また宇宙から地球侵略に来た宇宙人が地球に適応するためにG細胞の情報を入手してゴジラを生け捕りにしてゴジラから直接G細胞を摘出して取り込んだこともある(ミレニアムの時)。

 しかしG細胞は、人工的に怪獣が生まれたことからも分かるように、細胞の持ち主であるゴジラに依存しており、それ以外が摂取すると副作用で怪獣になってしまう。ビオランテは、人間と薔薇とG細胞から作られたためか人間の意思が宿っていたが、G細胞を直接摂取した宇宙人(ミレニアム)に至っては知性も理性もぶっ飛んだ狂暴なだけのオルガという怪獣になり、ゴジラに痛めつけられながらゴジラが思わず引くほど不気味な様子でゴジラに接近しゴジラそのものを取り込んでゴジラに変態しようとした。このことから、G細胞は、G細胞を求める習性があり、ゴジラがG細胞を持つ怪獣のところへ現れるのもその習性によるものと思われる。それが間違いないことを示すようにゴジラの子供であるゴジラ・ジュニアや、同族のミニラがゴジラを追いかけたり、同族と接触するとゴジラの破壊衝動が抑えられるのか海へ引き返す行動が確認されている。

 またどういう経緯でそうなったのかは不明だが、宇宙の物質と同化したG細胞からスペースゴジラなる怪獣が生まれてゴジラと対決した事件も起こっている。

 一代目ゴジラの骨を素体に使っていた3式機龍などは、最初は一代目ゴジラの骨髄幹細胞を使ったDNAコンピュータを搭載していたからか、ゴジラに反応して暴走を起こしエネルギー切れするまで暴れまくったことがある。

 現在、怪獣化の副作用がなく、人間の姿のまま意識も理性も保ったまま、G細胞を遺伝子レベルで取り込むことに成功したのは、椎堂ツムグ、ただ一人である

 

 

 

・G細胞完全適応者

 副作用が強いG細胞を取り込み自分のものにできた生物の総称。椎堂ツムグのことを指す場合が多い。

 椎堂ツムグは、ゴジラが南極に封印されるずっと前に、ゴジラと怪獣との激闘で破壊された都市の中で発見された生存者だったが、不自然に無傷な状態だったことから検査され、怪獣の攻撃で飛び散ったゴジラ細胞(以下G細胞)と遺伝子レベルで融合していながら怪獣化することなく人間形態を保っているG細胞の完全適応者であることが発覚した。

 その後は、地球防衛軍の研究機関で管理・監視され、有用性の高いG細胞を活用するための貴重な検体として扱われていた。地球防衛軍解散後は、国連の管理下におかれつつ、地球防衛軍の人間達にゴジラの生存の預言を出し、Gフォースが隠れてゴジラの復活に備えるきっかけを作り、細胞を提供して機龍フィアの開発に協力する。

 外見は、十代の終わりぐらいか、二十代前半ぐらいだが、発見されてから40年以上は経つため実年齢は60代を越してるらしい。外見に変化がないのは、G細胞の不死性によるものなのかどうかは謎。本人の記憶が曖昧なため正確には不明。また名前の方も本名ではなく、発見された場所に落ちていた看板や落ちてた物に書かれてた言葉を繋ぎ合わせて急ごしらえで付けられた仮の名前である。親類もおらず、知人も発見されていないことから、被災地で親類も知人も全員死亡したものと思われる。あと身元を割り出せる品も何も発見されなかった。

 G細胞による細胞変異の影響か、赤と金色が混じった独特な髪の色をしている(もとの色は不明)。瞳は黒。

 分類するなら、一応は人間。細胞はG細胞がツムグの遺伝子に依存するよう変異しているためゴジラの類似品みたいな感じで、G細胞で変異した怪獣やゴジラの同族とはまるで別物。なのでツムグのところへ来ることがなく、近距離で初めてゴジラに認識されたものの似てるようで全然似てない気色悪い奴としか思われてなかった。機龍フィアに乗り戦ったことで喧嘩相手に昇格する。

 精神面は、一応は人間よりだが、ゴジラと共感し過ぎてゴジラの狂暴性と怒りでゴジラと同じ精神になる可能性があり、ゴジラに継ぐ人類の最悪の敵になる可能性を秘めている。そのため体内に監視用のナノマシンや爆発装置などの機器を埋め込まれている。

 3式がゴジラを抱えて海底に沈んだ後、対ゴジラ兵器として新たに機龍フィア開発が始まり、その素体に彼の細胞が使われ、DNAコンピュータも彼の骨髄幹細胞から作られた。

 機龍フィアに使用された自分の細胞との共鳴で性能が格段にあがるため、実質機龍フィアの正式パイロットとして戦場を駆る。また彼にしか機龍フィアのリミッターを外すことができない。

 機龍フィアを使いこなすために集中してDNAコンピュータとシンクロを行うと、黒い瞳が黄金色に変わる。

 G細胞を持つため、ゴジラの意思(上辺の感情)をなんとなく感じ取って理解したり、感知できる範囲でならゴジラの動きを察知できる。その範囲は、大体日本国内全土ぐらいらしい。

 ただし理解できるといってもゴジラの頭の中の内容や深層心理などの深い部分まで理解できず、また分かる部分もゴジラの感情をツグムの思考で翻訳して言葉にしたらたぶんこう?っというもの。

 ゴジラの感情を読み取る共感能力は、ゴジラの方にも作用しており共感作用によりゴジラにも伝わってしまっている。このためツムグの細胞から作られたDNAコンピュータのみでの機龍フィアの操縦だとゴジラに思考が筒抜けで一方的にやられるので反射的な反応で思考を伴わない手動操作と交互に使い分けての戦闘になる。

 その他に、カイザーである尾崎と互角の戦闘能力と防衛軍の防壁などを手からゴジラの熱線と同じエネルギーを発射して破壊するなどゴジラの攻撃方法を一部使うことができる。またミュータント同様の特殊能力も使うことができるらしく、能力の補助を行うことができる。能力を使用する際に、髪の毛がふわりと浮き、ゴジラが熱線を吐くとき背びれを青白く輝かせるように、ほんのりとだが髪の毛が青白い光を帯びる。

 発見されてから現在まで、G細胞完全適応者の細胞からでも得られるG細胞の特徴である超再生能力と放射能を捕食する性質を平和利用する試みが行われているが、ゴジラ同様に細胞が持ち主に依存しているため治療に使うと投与された者は、超健康体になる代償に急激すぎる再生に耐え切れず即死してしまう。ただしゴジラのG細胞と違い怪獣化の副作用がなく、再生のために力を使い切り燃え尽きる形で体内に残らないという特性がある。

 怪獣並みの生命力がないと耐えられないという研究結果が出ているが…?

 

 

 

・M機関

 『ファイナルウォーズ』より。

 特殊能力と常人を越える身体能力を持つミュータント(外見は人間と変わりない)で構成されたエリート戦闘部隊。

 ミュータントは、セカンドインパクト後に覚醒した者がほとんどで、生まれた時からを入れると年齢層が若い。(30~15歳ぐらい)

 様々な乗り物の操縦や運用、怪獣相手に生身でロケットランチャーやメーサー銃などの武器で戦えるほどである。

 士官以外は、上下黒のつなぎのジャンプスーツ、黒いブーツとグローブ、透明なプロテクターを背中、胸、手足などにつけたものを身につけている。

 対怪獣の戦闘部隊が本業だがゴジラが復活するまでセカンドインパクト後の世界の復興のために高い身体能力と特殊能力を使って尽力する組織として活動しミュータントへの偏見と差別を無くした。ゴジラが復活してからもゴジラがいない時は復興の仕事の方も続けている。(兵士向けじゃない方はこっちを担当)

 突出した素質(ミュータントで稀に生まれるカイザーと呼ばれる存在)持つが根が優しい尾崎と、戦いに関しては容赦なしで手段も選ばない風間の二人がM機関でもっとも強い者として認知されている。

 第三新東京でサキエルを殺した後に初号機に乗っていたシンジがゴジラに襲われた恐怖から精神的に大きなダメージを受けたため、その治療のために保護したのはM機関。

 ミュータント達の感応能力でシンジを癒すことになる。このためシンジは、地球防衛軍の保護下におかれネルフ(ゲンドウ)から遠ざけられる。

 能力が最も高く心優しい尾崎とシンジが仲良くなるのだが、シンジの治療の時にシンジの壊れた心に精神をダイブさせた時、様々な要因が重なってサードインパクトによる人類補完計画のことを暴いてしまう。しかし全部ではない。(首謀者が誰なのかは分かってない)

 

 

 

・ミュータント

 『ファイナルウォーズ』より。※原作と違いミュータントの出自などが異なります。

 セカンドインパクト後に世界各地で確認されるようになった特殊な能力と優れた身体能力を持った新人類。

 最年長は30代前後と若年ばかりで、しかもセカンドインパクト間もなく後天的にミュータントになった者(15歳ぐらいの時)と、生まれた時からミュータント(15歳前後)に分かれる。

 彼らのような存在が生まれるようなったことについては、セカンドインパクトによる大災害を生き延びようとする生存本能が人類の潜在能力を引き出したという説が一般的に広まっている。またミュータントの出生率が高い地域は、セカンドインパクトで特に被害が酷く復興も進んでいない場所であることが多いのでこの説は概ねあっているようである。

 ミュータントの中に、特に強力な突然変異した個体である“カイザー”が数百万分の一の確率で生まれる。現在発見された“カイザー”は、尾崎だけである。

 ミュータントに関する法的なことはM機関がすべて管理しており、一般人との婚姻は法律上認められているのだが、今のところミュータントと一般人が結ばれたというニュースはなく、また間に生まれた子供もいない。

 椎堂ツムグ曰く、ミュータントは、人類補完計画による人為的進化の後の進化した人間と同じであるらしい。

 

 

 

・ネオGフォース

 地球防衛軍のゴジラ専門の戦闘組織。

 GフォースにM機関と機龍フィアを入れて新しく生まれ変わったのでネオの言葉を追加された。

 地球防衛軍解散後は、G細胞完全適応者の椎堂ツムグの預言を信じてゴジラの復活を警戒した当時の地球防衛軍のトップ達がGフォースを潜伏させ、対怪獣用兵器の整備と機龍フィアの開発をさせていた。

 またM機関のミュータント達の戦闘訓練の方も担当し、尾崎達ミュータント部隊を育て上げた。

 万能戦艦・轟天号を中心とする対怪獣用の強力な戦艦を保有しており、水陸空、あらゆる場所で戦い、輸送が可能である。

 

 

 

 

 

◇地球防衛軍とネルフとゼーレ

 ゴジラやその他怪獣が暴れていた時代に人類が人種やあらゆる壁を越えて手を取り合って結成されたのが地球防衛軍。

 地球防衛軍の設立は、ゼーレの意思ではなく当時の人々が勝手にやったことで、ゼーレは地球防衛軍の存在を疎んでいたが怪獣対策のために目をつぶっていた。

 地球防衛軍は、ゼーレの手を必要とせず、ゴジラと戦い、ゴジラが封印されてからも世界各地で怪獣を相手に戦っていた。

 セカンドインパクトにより約20億人が死亡し、災害や環境と生態系の激変に対応するのに追われ、怪獣達もいなくなり、ゴジラが封印されていた南極が消滅したことから存在意義が疑問視され解散された。(裏でゼーレが関与)

 実際は、ゴジラの不死性を警戒してGフォースが残り兵器開発やM機関を設置して、セカンドインパクト後から世界各地で確認されるようになったミュータントを受け入れる窓口を作るなどしていた。

 Gフォースの存在は、ゼーレも知らず、地球防衛軍の解散と同時になくなったものと思われていた。またM機関もセカンドインパクトの影響で発生した超人達(ミュータント)への差別や偏見をなくすためのミュータント専門の組織だとしか認識しておらず、まさかエリート戦闘集団だったとはまったく知らなかった。

 そのため第三新東京でゴジラが現れ、サキエルを殺したあげく初号機を破壊しようとしたことや、初号機を守ったのが新兵器の機龍フィアとGフォースの兵器とM機関の精鋭達であったことから人類補完計画どころの話じゃない非情事体だと大混乱する羽目になる。

 さらに地球防衛軍の存在を疎ましく思っていたゼーレがセカンドインパクト後に上記の理由をつけて解散させたのに、勝手に再結成され、しかもゼーレを切り捨てる形で独立してしまう。これはゼーレが解散前の地球防衛軍の活動に手を出さなかったことが大きい。

 国連あらため地球防衛軍という隠れ蓑を失いながら、どーにかこうにか人類補完をやろうと頑張るけど、ゴジラがすべてクラッシュしていくので意味がない…。使徒ぶっ殺すは、エヴァを壊すわ……、ネルフの地下に隠してるリリスやアダムを狙って支部を襲って来るわでゴジラに襲われる要素満載だからネルフどころかゼーレの存続も危ぶまれる羽目になる。

 ゲンドウ側も頑張るけど、初出撃でいきなりゴジラに襲われて完全に戦意喪失してしまったシンジを地球防衛軍の医療機関が保護したうえに、初号機を覚醒させようにも使徒を一撃で葬れるほど強いゴジラがエヴァを襲って来るのでいつ破壊されてしまうか分からず冷や冷やする羽目に…。

 またゲンドウが地球防衛軍の司令官・波川となんかトラブルを起こしたせいで、地球防衛軍のネルフの扱いは酷い。

 なのでエヴァが使徒と同様にゴジラが積極的に攻撃する対象となっているためネルフがゴジラ戦のための餌として利用されることになったりする。

 もちろんネルフ本部の地下にリリスがいることとか、綾波レイのクローンが大量にあるとかもあるので地球防衛軍の自由にさせたくないから必死に抵抗するわけですが…、こっちのことなどお構いなしで使徒とゴジラが来るから意味がない!

 あとエヴァの製作費用と維持費が馬鹿みたいに高いのでエヴァがゴジラに対抗できないどころかゴジラを呼び寄せる原因にもなってるためエヴァの開発と稼働事体が凍結。エヴァとネルフ関連に回されていた資金は復活したゴジラ対策のための費用になる。

 

 

 

 

 

◇ゴジラと使徒

 南極消滅の際には、G細胞の不死性と強大な意志力によりアンチATフィールドを跳ねのけ、セカンドインパクトで発生したエネルギーと南極を赤く染めるLCLを取り込み、核実験以上の人間の愚行を知ったゴジラは、更に強くなり人類への怒りを大きくして再び蘇ることとなった。

 ゴジラがいかにして人類補完計画などの知識を得たかと言うと。

 南極があった海のLCLに溶けているのは南極の生物だけじゃなく、セカンドインパクトの発生原因を起こした者達の仲間もいたためLCLにその人物らの知識と記憶が溶けており、このLCLを飲んだゴジラは、人類補完計画(サードインパクト)を起こそうとする人間達の存在とセカンドインパクトという人為的大災害を発生させたエネルギーの発生源である使徒アダムのことを知ります。

 ゴジラがセカンドインパクトを生き延び南極の海のLCLから得た情報でセカンドインパクトの真実を知っていることと、サードインパクトの発生条件を知っているため、人類よりも使徒(とエヴァ)を滅ぼすことに固執するようなった。

 魂に刻まれたアダムの記憶からアダム系統の使徒は、ゴジラを恐れる。白い月の中にいたアダムも、南極に封印されて眠っていたゴジラの怒りを感じ取って恐怖していたということである。

 ゴジラのG細胞の作用もあり、浸食型使徒もゴジラには勝てない。逆に食われる。

 使徒が第三新東京にまず来ようとするがゴジラの気配を察知すると逃げようとする動きを見せるが、逃げることは絶対にできない。逃げたとしてもどこまでも追いかけてぶっ殺される。

 確かに使徒は、地球上のあらゆる生物を産んだ起源であるが、第18使徒リリン(人類)の愚かな罪を、その罪から生まれた怪獣王ゴジラは決して許さない。

 そしてゴジラは、地球上の生物全てをLCLに代えてしまうサードインパクトが起こることも良しとしない。

 それはゴジラが怪獣王である以前にひとつの生物としての生存本能からだった。ゴジラならサードインパクトでも生き残りそうではあるが…。

 ゴジラは、ゴジラの理由でサードインパクトを阻止するべく人類と使徒(とエヴァ)を破壊する。

 

 

 

 

 

◇ゴジラ対エヴァンゲリオンに至るまで

 題名のこれですが、実際にゴジラとエヴァンゲリオンが対決するのは、最後の方になる予定です。

 物語の途中で弐号機などが戦いを挑みますが戦いにすらならない瞬殺で終わりますので対決ではありません。

 初号機に独自の意思があり、それが尾崎(『ファイナルウォーズ』の主人公)を気に入ったのが伏線になり、最後に実現されるゴジラ対エヴァンゲリオンとなります。

 つまりラスボスは、初号機となります。

 ネタばれですよね? でもどうやって対決までに至るのか、どうやって決着をつけるのかを見所にしたいのであえてここにラスボスのことを記しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最大級のネタバレになってますが、どういう形で決着をつけるかは、別です。


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第四話  海の逃亡戦!

 警告!
 アスカの扱いが、悪いです。
 アスカファンの方は気分を害される恐れがありますので閲覧はしないことを推薦します。

 逃亡戦のシーンは、『ファイナルウォーズ』の場面を参考にしました。

 そしてシンジが意外な形で登場することになります。


 

 

 

 

第四話  海の逃亡戦!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネルフ・ドイツ支部に停泊している轟天号の客室で、金の長い髪の毛の少女がイライラと部屋の中をウロウロと歩きまわていた。彼女が身につけているワンピースは、薄汚れ、所々擦り切れたりしている。彼女の顔も掠り傷や汚れが目立つ状態だ。

 少女の名前は、惣流=アスカ=ラングレー。セカンドチルドレンに登録されている、エヴァンゲリオンのパイロットである。

 なぜアスカがイライラしているのか。そしてこんな姿になっているのか。

 その原因は時を少し遡る。

 

 

 アスカは、轟天号でエヴァ弐号機と自分ともう一人の人間を乗せてネルフ日本支部へ移送されることを、直前まで知らなかった。

 ついでに国連あらため、地球防衛軍にネルフがあらゆる権限を剥奪されて今やゴジラをおびき寄せるためのエサにされていることも知らなかった。

 地球防衛軍とゴジラのことは、様々な情報源から見知っていたが、地球防衛軍のこともゴジラのことも知らない若い世代であるアスカには、パッとしない情報でしかなく、自分は関係ないと思っていた。

 ネルフと、そして使徒と戦えるエヴァンゲリオンのパイロットである自分の方が格上だという根付いた価値観がそうさせてしまったのだ。

 だからネルフがすでになんの力もなく、使徒の殲滅もゴジラがやっており、使徒を殺した後のゴジラを追い返すために地球防衛軍が戦うという流れができていると聞いたとき、信じられないと声を上げ、彼女の上官(ネルフ職員)に掴みかかったぐらいだ。

 アスカのその様子を見ていた轟天号に乗っていた地球防衛軍の者達は呆れて苦笑していた。チルドレンを特別視しない彼らには、アスカがただの気が強いじゃじゃ馬な少女にしか見えないのだ。

 それが余計にアスカの神経を逆なでした。苦笑していた地球防衛軍の者達に大声で罵声を浴びせたのは勿論、轟天号の見た目に対してドイツ語で散々文句を言ったのある。そしてこんなもので世界が救えるわけがないとまで言い、轟天号に乗る精鋭達やエンジニアの怒りを買った。おかげでネルフ・ドイツ支部の人間達は胃に穴が開きそうなストレスでこの後苦しむ羽目になる。

 大人達に睨まれ、ドイツ支部の彼女の世話をしていた職員達にも発言の撤回を求められてもアスカは、鼻を鳴らして手を腰に当ててそっぷを向いて反省も謝罪もしなかった。

 膠着していた状況を打破したのは、低い威厳のある男の声だった。

「おまえら! 仕事はどうした! さっさと終わらせねぇと日が暮れちまうぞ!」

「ハッ! 申し訳ありません、ゴードン大佐!」

 轟天号に乗る地球防衛軍の者達が一斉に声がした方を向いてビシッと背筋を伸ばして敬礼した。

 大股でブーツの靴底を鳴らしながら歩いてきたのは、大柄なガッシリ体系の50代ぐらいの超強面の軍人だった。腰には業物らしき日本刀がベルトに刺さっている。

 焦げ茶色のコートの襟に付けられたバッチから階級が大佐であることははっきりとしている。

 見た目もさることながら纏うオーラの次元が違う。そのため彼の登場にネルフ職員達も思わず彼に向って敬礼していた。

「なら、とっとと仕事に戻れ!」

「イエッサー!」

 地球防衛軍の者達は一斉に仕事に戻って行った。

「あんた、誰?」

「んっ? なんだこの小娘は?」

「こ、こら! 申し訳ありません、大佐殿!」

 ゴードンに向って敬語も何もなく誰呼ばわりしたことにアスカの傍にいたネルフ職員達が滝のような汗をかいて90度頭を下げた。

 ゴードンは、自分を不審な目で向けてくるアスカを見て、眉ひとつ動かすことなく、彼女の頭についている赤いインターフェースヘッドセットを見つけて、今回轟天号で運ぶことになっているエヴァ弐号機のパイロットの特徴と一致したため、なるほどと言う風に息を漏らした。

「な、なによ?」

「おまえがあのエヴァンゲリオンとかいう使い物にならないオモチャに乗らされてるガキか? なんだ、ただのションベン臭い小娘じゃないか。」

「なんですって!」

 エヴァ弐号機に愛着…、否、執着に近い誇りを持っているアスカにとって弐号機を貶される言葉は我慢ならないものだった。

 そのため彼女は、綺麗な黄色いワンピース姿なのも構わず上段蹴りをゴードンにかまそうと足を大きく振り上げた。しかしその蹴りはゴードンに足首を掴まれ、そしてひっくり返されてアスカは、そのまま固い床に転がされただけに終わった。

「くうっ!」

「中々いい動きをするじゃねぇか? だが、まだまだ未熟だな。俺を倒そうなんざ百万年早いぜ、白パンティーのお嬢ちゃん。」

「っ!! だあああ!」

 スカートのことも忘れて蹴りをしたのもあるが、ひっくり返されたことでスカートが思いっきりめくれて下着が丸見えになっていたことに気付いたアスカは、ゴードンの言葉で完全に我を忘れてゴードンに襲い掛かった。

 アスカは、幼い頃から軍事訓練を受けてきた。更にエヴァンゲリオンという世界の存亡に関わる重要な兵器に乗れるパイロットになれたことから、エリートであると自負しており、若すぎることもあって傲慢である。ネルフがまだ権限があった頃はちやほやされてきたが、今や彼女を守ってきた職員達は誰も彼女を守らない。

 いくら幼い頃から訓練を受けているとはいえ、アスカは14歳の少女である。歴戦の勇士であり、ゴジラや怪獣との戦いを経験した超ベテランであるゴードンとの実力の差はあまりにも違いすぎた。

 アスカの攻撃はすべてゴードンに軽く受け流され、何度も何度も床に転がされる。ゴードンは、呼吸を乱すことなく疲労もなく、その場から一歩も動いていない。ゴードンの強さに、アスカの訓練に立ち会ったことがあるネルフの職員は息を飲んだ。

 散々転がされてアスカは、四つん這いになってそれでも立ち上がろうとするが、生まれたての鹿のように足をもつれさせてへばってしまう。

「ゴードン大佐。エヴァンゲリオン弐号機の搬入作業が終了しました。…あの、何をされているんですか?」

「なーに、世間知らずのお嬢ちゃんにちょっとばかり世間の厳しさを教えてやっただけだ。お嬢ちゃんを轟天号に案内しな。」

「はっ」

 報告をしに来た部下に、ゴードンは、にやりと笑ってそう言うと、アスカに背を向けて去って言った。

 アスカは、ゴードンに手を伸ばそうとしてまだ戦いを挑もうとしたが、それは地球防衛軍の者に阻止され、疲労困憊で汚れた彼女は荷物のように運ばれていった。

 

 

 そしてアスカは、轟天号内にある客室に運ばれ、簡素なベットに寝かされた。

 アスカは、体の痛みが幾分か引いた後、無理やり体を起こして客室から出ようとしたが、客室の扉は外から鍵がかけられていた。

 出せと叫びながら扉を叩いたり蹴ったりしたが、誰もこない。

 これではまるで囚人扱いではないかとアスカは、悪態をついて、扉に最後に一回拳を叩いて部屋のベットに腰かけた。

 ややあって、ドアを叩く音がしてアスカがチャンス到来とばかりに立ち上がって攻撃するタイミングを図って扉に近寄った。

「やあ、アスカ。大丈夫かい?」

「か、かかかかか、加持さん!?」

 扉が開いて現れた人物を見て、アスカは飛び掛かろうとしていたのをギリギリのところで踏みとどまった。

「ゴードン大佐にケンカ売ったんだって? なんて無茶するんだ…。」

「だ、だって! あのオヤジ、あたしの弐号機のこと使い物にならないオモチャって…、それにあたしのことションベン臭いとか酷いこと言うんだもん!」

「なるほど…、それで挑んだのか。ゴードン大佐は地球防衛軍・最強っていわれてる有名な人で。肉弾戦で怪獣と戦うよう訓練されたミュータント部隊でも勝てないって言われるほどでな。ありゃもう人類最強だな。慰めてあげたいけど、現実を見なきゃダメだぞ? いまやネルフは、地球防衛軍がゴジラと戦うための疑似餌。エヴァンゲリオンを第三新東京の日本支部に集めるってのも地球防衛軍の上層部の決定なのさ。つまり世界のお偉いさん達が決めたことなんだから。」

「でも加持さん! 使徒はエヴァじゃなきゃ…。」

「もう三体の使徒がゴジラに殺されてる。地球防衛軍は、使徒をゴジラを呼び寄せる疫病神として見てる。あとエヴァもな。ゴジラは、使徒だけじゃなく、エヴァも破壊しようとしているらしいって話だ。」

「……ゴジラ…、ゴジラ、ゴジラゴジラって…! あんなでかいだけの黒トカゲがなんだってのよ! エヴァンゲリオンは、サードインパクトを阻止するために莫大な資金と年数をかけて作った最終兵器なのに、それをオモチャだの、エサだのなんて…、認められるわけないじゃない!」

 アスカは、髪を振り乱して喚いた。

 加持リョウジも、アスカの言い分は理解している。確かにエヴァンゲリオンを開発するためにかけられた費用も年数もシャレにならないものだ。それもすべては、サードインパクトを阻止し、世界の滅亡を防ぐためという名目で行われてきたことで、それに乗るために英才教育を受けてきたアスカは、エヴァンゲリオンこそ世界を救う鍵だと刷り込まれているまさに最良のパイロットだ。

 しかし現実はそんなアスカをどん底に突き落とすもので満ち溢れている。

 セカンドインパクトを乗り越えて復活した最強最悪の怪獣王ゴジラが第三新東京で第三使徒サキエルの右腕と肩を腕の一振りでもぎ取り、無様逃げようとしたサキエルを熱線で焼き殺し、そのあと初号機を破壊しようとした。間一髪で初号機は、新兵器・四式機龍コードフィアと地球防衛軍で活躍していた戦闘兵器と新たに戦力として育て上げられていたM機関のミュータント部隊によって守られ、ゴジラは海へ退散した。

 次に現れた第四使徒シャムシエルは、迫りくるゴジラに抵抗しようと鞭のようなものを振り回していたが、やがてゴジラの迫力と殺意に心が折れたのか抵抗をやめてしまい、あっさりと熱線で焼き殺された。この時の戦闘で機龍フィアがリミッターを一つ以上解除したためパイロットの椎堂ツムグが暴走して機龍フィアが機能停止に追い込まれる事態に陥ったが、ゴジラがなぜか見逃したため機龍フィアは回収され、修理と改良を加えられたり自己修復機能を身につけて万全な体制を整え、椎堂ツムグは、一時昏睡状態になったものの無事に回復した。

 第五使徒ラミエルでは、ラミエルはゴジラを遠くまで飛ばすほどの荷電粒子砲を発射し、ゴジラと地球防衛軍を驚かせたが、ゴジラのエネルギー吸収能力でラミエルの限界超える荷電粒子砲は吸収されて無効化され、最後には負担に耐え切れず力尽きたところを吸収したエネルギーを上乗せした熱線を流し込まれて、ラミエルは、派手に爆散した。その派手な爆発に巻き込まれたゴジラは無傷だった。別名、水爆大怪獣があの爆発で殺傷できたら苦労はしない…。

「アスカは、ゴジラどころか他の怪獣も知らない世代だから分からないのは無理ないさ。けど、すぐに分かる時が来る。もうそろそろ出発らしいから衝撃に気を付け…、っと、オットト!」

「きゃあ!」

 加持が轟天号の発進の時の衝撃に備えるよう言おうとした矢先に、足元がふらつくほどの大きな揺れが襲ってきた。

 

『エンジン機動! 轟天号、発進!』

 

 アナウンスと共にゆっくりとした浮遊感が二人を遅い、やがて浮遊感はなくなると機械が稼働する音が微かに聞こえるだけになった。

「あ~、びっくりした。もうちょっと警告を出してくれないと客が舌を噛むってあとで言っておいたほうがいいな。しかし、思ってたより乗り心地はいい、さすが地球防衛軍の技術の粋を結集させた万能戦艦・轟天号ってとこか。一体どんな仕組みになってるのか興味が湧くね。日本に着くまでに見学していっておくのもいいな。アスカも行くかい?」

「冗談じゃないわ! こんなドリルのついたダッサイ戦艦なんか見る価値なんてないわよ!」

「そうか? 轟天号は、セカンドインパクト前の核保有国の大国の全戦力を投じても勝てないほどの戦艦って言われてるんだぞ?」

「はあ? けど噂なんでしょ? 実際はそんなことないわよ、絶対。」

「地球防衛軍になる前の国連の軍事部門からの確かな情報だぞ?」

「絶対ぜ~~~~ったい大したことないわよ、こんなダサ戦艦! 使徒に襲われたら一発で撃墜されるに決まってるわ!」

「オイオイ…、そんなこと言ったら、今これに乗ってる俺達もあの世行き決定だって…。」

 二人がそんな会話をしていた時、突然緊急事態を告げる音が鳴り響いた。

「な、なに?」

「アスカがあんなこと言ったから、現実になっちゃったのかもしれないぞ…?」

「あたしがナニ言ったって言うの?」

「さっき言ったじゃないか。『使徒に襲われたら一発で撃墜される』ってさ。」

「あ…、あれは……。って、本当に使徒!?」

 

『緊急事態! 巨大な未確認生物が轟天号の真下を潜航中! 総員緊急配置につけ!』

 

「……アスカ、日本じゃこういうのをフラグが立ったって言うんだ。」

「あ、あたしのせいじゃないわよ! それより、この船の真下って…、この船どうやって移動してるの?」

「あれ? アスカ、そんなことも知らないのか。轟天号は今海の上を飛行してるんだ。つまりその下の海に使徒が現れたってことだろう。巨大な未確認って言ってたからゴジラじゃないのは間違いないな。」

「使徒が来たのは分かってるわよ! それよりも、この船って空飛ぶの!? これだけの質量と大きさでこんな安定した飛行ができるなんて…、セカンドインパクト前にこんな技術がもう確立されてたなんて信じられない。」

 アスカは、使徒が突然現れたことより、轟天号が飛行して移動していることと、その技術力が自分が生まれるよりもずっと前に確立されていたことに驚いていた。

 アスカが知らないのは、ゴジラが封印され、セカンドインパクトが起こってから轟天号をはじめとした対怪獣用に作られた多くの技術が解体されてしまったからだ。

 でも実際は、ゴジラの復活を椎堂ツムグが予言していたためそれに備えて表向きは轟天号や対怪獣用兵器を解体しということにして、地下に潜伏させていたGフォースに管理をすべて任せていたのだが。

「……それだけ怪獣の被害が凄まじかったのさ。」

 1900年代から遡って見ても、2015年までの間に人類は、凄まじい数の対怪獣用の技術をあみ出し、実戦に投与してきた。初代ゴジラを知る世代がまだ生きている間に轟天号のようなオーバーテクノロジーな兵器が登場してきたのだ。人類が争いをやめ、ゴジラをはじめとした怪獣の脅威に立ち向かうために一致団結した結果である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、轟天号の中枢。つまり管制室では。

「解析完了! パターンブルー! 使徒で間違いありません!」

 コンピュータで解析していたオペレーターが中央の席に堂々と座っているゴードンに報告した。

「…使徒は第三新東京に現れるんじゃなかったのか?」

 ゴードンは、思わぬ場所に使徒が現れたことにそう呟いた。

「現在、使徒は轟天号の真下にぴったりついてきています。今のところそれ以外の変化は見られません。」

「まさか、このまま一緒に第三新東京に行くつもりなんでしょうか?」

 副艦長が冗談交じりにそんなことを言った。

 使徒は、なぜわざわざ轟天号の真下にぴったり合わせて泳いでついてきているのか。そしてついてきていること以外に何もしてこないのが不気味だ。

「飛行高度と速度を上げてまきますか?」

「このまま様子を見ろ。」

「了解。飛行高度、速度をこのまま維持せよ。」

「風間。たぶん、奴が来るはずだ。頼むぞ。」

「Roger(ラジャー)。」

 轟天号の操舵手である風間が、鋭い目つきでモニターを睨みながら淡々とすごい良い発音でゴードンに返事を返した。

 このまま膠着状態が続くと思われたが、僅か数分後に新たな警報を知らせる表示が出た。

「艦長! 轟天号の後方から使徒以上の巨大な物体が接近中!」

「これは…、ゴジラです! ゴジラが海中から追ってきています!」

「なんだと!?」

 それを聞いた副艦長が驚きで目を見開いて叫んだ。

「艦長! この事態は、一体…。」

「ハッ…、そうきたか。」

「艦長?」

 副艦長がゴードンを見て指示を仰ごうとしたら、ゴードンはすでに何かを見抜いたかのように鼻で笑い、艦長の席の腕かけのところに頬杖をついて口元を釣り上げて笑っていた。

「真下にいやがる使徒は、これが狙いだった。自分を餌にゴジラをおびき寄せて轟天号とゴジラを戦わせて、漁夫の利を得ようって算段だな。」

「…そ、そんなことが……。あ、だからさっきからついてくるだけで何もしてこなかったということですか!? 艦長、指示を! このままでは、ゴジラは、使徒とエヴァンゲリオンを運んでいる我々を狙ってきます!」

「そいつも計算の内だろう。使徒にしてみりゃ俺達もエヴァンゲリオンも共倒れしてくれりゃこれ以上ない喜ばしい状況になるだろうからな。」

「熱源感知! ゴジラの熱線が来ます!」

「風間!」

「フッ!」

 ゴジラが海中を泳ぎながら背びれを光らせ熱線を海の上を飛行する轟天号に吐いたのを、風間が紙一重で回避した。

 熱線の余波が轟天号に伝わり船体が揺れた。

「ハハ…、マジでセカンドインパクト前より強くなったんだな、ゴジラよ…。」

 ゴードンは、慌てることなく、むしろ喜んでいるように口元を緩めながらそう呟いた。

 ゴジラの攻撃から逃げるため飛行速度が上がる。使徒もついてくる。

 ゴジラは、使徒より轟天号の方を先に撃墜しようとしているらしく連続で海の中から上空へ向かって熱線を吐き続ける。

 それを風間が眉間に皺を寄せて、時々唸りながら回避していく。風間は、尾崎に次ぐミュータント部隊のエースだ。それゆえに明らかに異常なまでの操縦テクニックを発揮する。ちなみに尾崎は、轟天号に兵器管制を担当しているのだが、今は尾崎が入院中なため別の者が担当している。兵器管制を任されるほどなので実力はあるのだが、この非常事態に汗をダラダラ垂らして兵器を発射するための幹を握る手が震えている。

 なお、ゴジラに撃墜される危機に瀕してる状況だというのに、風間は懸命に操縦桿を操作しながら兵器管制につかされた者を観察して、シンジを治療するために危うく死にかけて入院沙汰になってしまった尾崎に向って心の中で文句を垂れていた。基地に帰ったら真っ先に尾崎に入院沙汰になるようなムチャをしたことについて怒ってやると決めた。念のために、風間は今兵器管制を担当している仲間に不満があるわけじゃない、彼にとってライバル的な位置にいる尾崎が何日も入院してて訓練やそれ以外の仕事の時も張り合いがなく本人は無自覚にストレスを溜めているだけだ。

 日本まではまだ遠い。風間の操縦テクのおかげで直撃は免れているが、強化されたゴジラの熱線の余波は防ぎきれない。ゴジラの熱線を回避するごとに船が揺らされるため、船内にいる人間達に負荷がかかる。それに風間だって長くはもたない。このままでは消耗する一方だ。

 尾崎がいたらなら、ゴードンは、この状況を好転させるために上層部から怒られるのを承知でムチャクチャな作戦で攻撃をしていたに違いない。しかし残念ながら尾崎はいない。尾崎の代わりの兵器管制を担当している兵士を軽んじているわけじゃないのだが、いかんせん緊張感のあまりガチガチになっているので、経験を積ませてやりたいところだが一歩間違えれば全滅は免れない。ゴジラがゴードンが知るゴジラ以上に強くなっていることも問題だ。そこは轟天号の最高責任者である自分の判断にすべてがかかっている。

 そしてゴードンは、決断した。

「全速力で海へ潜れ! 海底付近までだ。」

「艦長!? 何をするつもりですか? まさか使徒とゴジラを相手に…。」

「少し違うな。」

「はい?」

「エンジン全開! 潜水モードへ移行!」

「海へ突入します! 総員、衝撃に備えよ!」

 ゴードンと副艦長のやり取りが行われている間に、テキパキと優秀な船員達が轟天号を操作し、轟天号はエンジンをフル稼働させて全速力で船首のドリル部分から斜めに海へ突入しようとした。

 が……。突入態勢に入ろうとした時、異変が起こった。

「艦長! 緊急事態発生! 倉庫のハッチが開いています! 倉庫のモニターで確認できません! カメラ及びマイクが破損しています!」

「なんだと?」

「轟天号の電気系統に異常! かなりの電力が吸い取られています!」

「倉庫のハッチ……、電気をくう? まさか…。おい、客人共はどうした?」

 突然起こった異常事態に潜水を中止し、ゴードンは、客室にいるはずのアスカと加持の確認を急がせた。

 加持は客室にいたが、別室にいたアスカの姿がない。

 やがて外部カメラが倉庫のハッチから飛び出そうとする真紅の人型兵器の姿を映した。

「エヴァンゲリオン弐号機が、飛び出そうとしているようです!」

「クソッ! エヴァンゲリオンは、大量の電力の供給が必要だと資料で見ていたが、まさかあの少女が一人で休止状態エヴァンゲリオンを起動させるなんて…! この状況であの人型兵器に何ができるというんだ!」

 副艦長がアスカの暴挙に怒り、大声で叫んだ。船員達も口には出さないが、アスカの行いに副艦長に同意して怒った。

 ゴードンもこの事態に面倒だと言う風に頭を片手でガリガリとかいた。

 

 

 一方、轟天号の船員達にメッチャ怒られているとも知らず…、いや全然頭にないアスカは、起動させた弐号機で無理やりこじ開けた倉庫のハッチの端に手をかけた状態で膠着していた。

「うう…、なんて速度なのよ。倉庫にあったこの艦のワイヤーで繋いだから海の底に落ちるないようにしたけど、この速度で出たら宙づりで風で煽られてブラブラ浮いた状態になるだけじゃないのよ!」

 ゴードンを見返してやろうというアスカの思いが、身勝手極まりないこの非常事態を生んだのだが頭に完全に血が上ってしまっているアスカには状況を理解することができなかった。

 彼女は、轟天号から颯爽と弐号機で飛び出し、真下にいる使徒とゴジラを仕留めてからすぐに艦に戻りゴードンにエヴァが使い物にならない玩具じゃないことを証明しようとしたのだ。そうすればネルフの威厳も戻り、ネルフに権限があった頃みたいに彼女がエースとしてちやほやされていた頃に戻れると、簡単に考えていた。考えてしまった。

 しかし現実は、轟天号の飛行速度は彼女の想像を軽く上回っており、更に使徒の後ろには強化されたことで通常でも凄まじい威力がある熱線を海の中から轟天号に向けて発射し続けるゴジラがいた。

「それに…、さっきからこの揺れが…、あの使徒の後ろのから青い熱線…かしら。あの黒とかげ、この艦を落とす気? あんなの浴びたら確かにヤバイわね…。くっ! どうしたら…。」

『エヴァンゲリオン弐号機に告ぐ! 今すぐ倉庫の奥へ退避せよ!』

 轟天号からの無理やり繋げられた通信が入る。

「はあ? ここまで来て引っ込めるわけないじゃない! それよりも速度を少し落として! あたしが使徒とゴジラを仕留める!」

『なにを馬鹿なことを言ってる! 状況を理解しろ! 命令に従えないなら軍法会議にかけられるぞ!』

『こちら轟天号・副艦長だ! チルドレン・ラングレー! 貴様の勝手な行動のおかげで今は我々は危機に瀕している! 貴様の行動は、ゴジラを刺激するエサを増やしただけなのだぞ! っ、うあああ!』

「キャアアア!」

 副艦長がマイクに噛みつくようにアスカに怒鳴っていた時、熱線が轟天号の一部にかすり、その衝撃で弐号機は倉庫から外へ放り出されてしまった。そして釣りの餌のように宙づりになってしまった。

「さっきの衝撃で…! くうぅぅ、も、戻れない! 風圧が…。キャア!」

 アスカは、弐号機に括りつけた怪獣に引っかけて運べるぐらいの強度のあるワイヤーを手繰って轟天号に戻ろうとするが、轟天号の飛行速度から生まれる風圧と、轟天号を撃墜しようとするゴジラの熱線の衝撃で戻るに戻れない状態になってしまった。

 

 

 弐号機が宙づりになったことに、ゴードンと風間以外の船員達が顔を青くした。

 彼らの任務は、エヴァ弐号機を第三新東京に輸送することと、そのパイロットのアスカと、ネルフと元国連(いまは地球防衛軍)の関係者の人間である加持を運ぶことだ。

 このままでは、ゴジラに撃墜される以前に命令の対象になっているエヴァとそのパイロットが死ぬ。

 轟天号だけ助かるなら弐号機を迷わず切り捨てるところだが、命令なのでそうはいかない。

 この事態にゴードンが出した決断は。

「海に潜れ。」

「しかし艦長! エヴァンゲリオンが…。」

「頭に血が上った小娘の頭を冷やしてやるだけさ。ついでに二度とこんな真似する気を起こさせないようにお仕置きだ。」

「な、なるほど…。」

 ゴジラと使徒に追いかけれて、ゴジラに撃墜されそうになってる危機的状況を更に悪くしたアスカへの仕置き。

 14歳の女の子という免罪符はもうどこへやらへ吹っ飛んでいた。アスカはそれだけの問題を起こしてしまった。

 ゴードンとの付き合いの長い副艦長は、ゴードンのことだからアスカを死なせはしないというのを理解していたので素直に従った。

 そして轟天号は、潜水モードに移行し、エンジン全開で先端のドリル部分から海へ突っ込んだ。

 

「えっ? ちょ、ちょっと! 何する気よ! あたしまだ艦に戻ってな……、ああああああああああああああ!」

 

 弐号機に乗るアスカは、轟天号にワイヤーで繋がってるためそのまま海に引きづり込まれた。

 

 急にスピードが上がったため、使徒が轟天号のすぐ後ろの位置になった。

 弐号機は、ワイヤーで轟天号に引っ張られるままで、何もできない。

 シンクロ率によるフィードバックで水圧と轟天号のスピードで無理やり引っ張られる力に耐えるアスカは、歯を食いしばり目を固く閉じて耐えていたが、ややあってうっすらと目を開けた。

「ヒッ!」

 彼女が目にしたのは、鋭い牙が並んだ大きな口を持つ魚型の使徒と、使徒のすぐ後ろの方で追跡してくる、暗い海の中でもギラギラと目を光らせてこちらを睨みつけているゴジラの目だった。シンジのように狂乱して正気を失っていたならまだよかったかもしれない。しかしなまじ軍事訓練を受けているアスカは、肉体的にも精神的にもシンジよりも丈夫だったため嫌でも現実を突きつけられ現実逃避すら叶わない。

 アスカは、この時になってやっと弐号機で勝手に出撃したことを後悔した。

 

 轟天号が海中を潜航し、海底付近まで潜っていく間に使徒ガキエルは、轟天号に追いつき、弐号機など眼中にないと言わんばかりに、海底すれすれで轟天号の下に潜り込むと、轟天号の腹のあたりの外装の一部にその大きな口を開けて噛みついた。使徒の上には、丁度弐号機がある。

「使徒が轟天号の下部に噛みついてきました! 使徒は外装に噛みついたままです! 泳いでいません! どうやらコバンザメみたいに張り付いているようです!」

「自分もろともこの轟天号と心中するつもりか!? 艦長! このままでは、使徒もろともゴジラに撃墜されてしまいます! どうするおつもりですか!?」

「海底火山がこの海域にあったはずだ、そこまでお連れしな。」

「えっ?」

 それを聞いた船員達全員がいや~な予感がした。特に副艦長などはゴードンと轟天号で怪獣と戦った経験の持ち主であるため、ある怪獣との戦いの記憶が蘇って真っ青になりダラダラ汗をかき始めた。

「か、艦長…、それは…、それだけは…! 船員達はまだ怪獣との戦いの経験のない者達ばかりなのですよ! それに使徒にその戦法が通じるか…。え、エヴァンゲリオン弐号機の方もマズいのでは?」

「うるせぇ。今回は、戦って勝つんじゃない。逃げ切るのが目的だ。波川の奴も“傷一つ付けずに”とは言ってねぇし、炭になる前に終わるさ。」

「ああ……、あの子もこんなことをしなければ酷い目に合わずにすんだのに。」

 副艦長は、アスカを憐れんだが、ゴードンを止めようとはしなかった。

「間もなく、海底火山のエリアに入ります!」

「よし、海底火山に向ってミサイルを撃て。」

「えっ? …ら、ラジャー。」

 兵器管制を担当しているミュータント兵士がゴードンの命令に一回後ろの方にいるゴードンの方を見ようとしたが、なんとかこらえて、数発のミサイルを海底火山に向って発射した。

 ミサイルが着弾したことで海の底で赤々と燃え盛るマグマを噴出し続ける海底に亀裂が入り、海の底に灼熱のエリアが広がった。そこに使徒が引っ付いた轟天号が突入した。

 轟天号の真下は灼熱のマグマ。轟天号の下には、使徒。轟天号よりガキエルの方が熱で炙られている。

 ゴジラは、マグマなどものともせず追跡してくる。ゴジラは、その性質上熱に強いのでマグマなど屁でもないのだ。大体熱線の温度は90万度もあるのだからそれをバンバン吐きだしまくるゴジラが熱に弱いわけがない。ゴジラ撃退用の武器に冷却兵器がよく使われるのもこのためだ。

「船内温度60度突破! 冷却機器がオーバーヒート! 船内温度の上昇が止まりません!」

 オペレーターが血を吐きそうな勢いで叫ぶ。

「まだだ、進め!」

 慌てる船員(風間以外)達に、ゴードンが命令する。

 マグマの熱で炙られまくるガキエルが、身をよじり始めていた。白い体は炙られて所々黒ずみ、焼け焦げはじめていた。

「船内温度90度!」

「かんちょー!」

 普通の人間でもミュータントでもやばい温度に突入して、轟天号のシステム全体が悲鳴を上げるように火花があちこちで散り、蒸気が漏れたり、船員の中に熱にやられて席から倒れる者が出始めた。風間は汗を垂らしながら操縦桿を握りモニターを睨みつけて耐えている。

 マグマの熱で轟天号の船体が熱で赤く染まり始めた頃、ガキエルは轟天号の外装に噛みついてはいるがジタバタ暴れ始めていた。焼け具合ももはや表面だけ黒こげで中身は生焼け状態寸前の焼き魚状態だ。

 そしてついにガキエルが海の中で悲痛な鳴き声をあげて轟天号の外装から口を離した。そして一目散にマグマの熱から離れようと温度の低い方へ泳いで行った。

 追跡していたゴジラが、轟天号から離れて移動していく使徒の方へ針路を変えた。

「今だ、離脱しろ!」

 ゴードンの合図と共に風間が操縦桿を操って海底火山エリアから脱出するよう進路変えた。

 轟天号は、マグマの熱から逃れたことで海水で冷却されながら潜航を続ける。

 ゴジラと使徒ガキエルとは、まったく違う方向へ…。

「ゴジラよ…。戦いは次に持ち越しだ。次は正々堂々戦おうぜ。」

 轟天号からは、もう遥か遠くの方で、ガキエルに襲い掛かっているゴジラに向けて、ゴードンはそう呟いた。

 その間に、使徒と同様にマグマに炙られて黒くなった弐号機をワイヤーを巻いて引っ張り上げる作業が急ピッチで行われた。アスカは、気絶してたが使徒の体の上に弐号機があったおかげで丁度いい具合に熱を遮断したため弐号機は表面が焦げただけで済み、乗っていたアスカも熱中症を起こしただけで命に別条はなかった。ほとんど奇跡である。

 ゴードンとは反対に、頭を抱えている副艦長は、轟天号の損傷やらエヴァンゲリオン弐号機の報告を聞いて。

「あああああ…、またあの時みたいに波川司令にどでかい雷を落とされる…。」

 っと嘆いていたという。

 そして轟天号は、飛行モードに移行し、無事に第三新東京に到着するのだった。

 焦げた弐号機をネルフに渡し、意識がまだ戻らないアスカは病院に、加持はネルフに降ろされた。

 基地に帰った轟天号は、すぐさまドッグで修理され、乗っていた船員達の中に出た負傷者は医療機関に行き、ゴードンと副艦長は、司令部へ呼び出された。

 ゴードンは堂々とした態度を崩さないが、副艦長は汗をダラダラかいて上層部から下されであろう処罰に暗くなっていた。

 しかし上層部から言い渡されたのは、緊張でガチガチになってた副艦長を拍子抜けさせるほど軽い罰だった。

 轟天号に残っていたアスカが客室から逃げ出し、弐号機を勝手に起動させるまでに行った軍規違反の数々の証拠が二人に下される罰を軽くしたらしい。

 アスカは、秀才で14歳ですでに大学を卒業しており、その能力は実戦経験の少なさを抜けばベテランの兵士や工作員に引けを取らないものだった。その能力ゆえに轟天号の客室の扉を回路を弄ってこじ開け、同じ方法で倉庫まで来ると、監視カメラなどの機器を壊してドイツのネルフ職員があらかじめいつでも起動できるようにしていた弐号機に乗って、電源ケーブルを轟天号に繋いで電力を盗み、怪獣用のワイヤーを弐号機に括りつけてハッチを破壊したのだ。

 轟天号のシステムと轟天号に乗る精鋭陣の目を掻い潜てここまでやったのだ。非常に有能な人材であるが、環境が彼女の傲慢さを増長させたためその優れた力のせいで危うく彼女自身の命と轟天号とその船員達を全滅させかけてしまった。アスカが回復したら兵士として徴兵されている彼女には相応の罰が下されることになった。

 ドイツのネルフ職員がいつでも起動できるようにしていたのは、アスカがもしもの時行動できるようにした彼女への気遣いだったらしいが、轟天号…、地球防衛軍側からしたらとんだ大迷惑だ。

 断りもなくいつでも弐号機が動けるようにしていたことについて、地球防衛軍は、ドイツのネルフ支部をしっかり処罰を下したそうだ。

 焦げた状態の弐号機を渡されたネルフ本部は、こっちはこっちで地球防衛軍に文句を言えず、雀の涙の維持費から修理費を捻出して弐号機の修理をしたとか。

 

 そんなこんなで、セカンドインパクト後、轟天号の初仕事となったエヴァ弐号機とアスカと加持の輸送は終わった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 轟天号を破損させた罰で、独房で数日過ごすことになったゴードンは、簡素な格好でベットの上で刀を磨いていた。独房行きやら始末書などは、上層部を怒らせることが多い彼には慣れっこだった。

「お疲れ様ぁ~、ゴードン大佐。」

「なんだ…、おまえか。」

 独房の檻越しに椎堂ツムグがゴードンに話しかけてきた。ちなみに足音はしていなかった。

 ゴードンは、椎堂ツムグとの付き合いが長いので別に驚きはしない。

「聞いたよ。大変だったんだんだね? 折角のゴジラさんとの再会だったのにあの子のせいで台無しになっちゃって。」

 ツムグが言うあの子とは、アスカのことだ。

「なーに、奴と戦う機会はこれからまだまだ沢山ある。焦るこたないさ。」

 ゴードンは、ニヤリと笑って楽しそうにそう言った。

「それでこそゴードン大佐だね。ゴジラさんも轟天号と戦えなくて、残念がってたからそう言ってくれると俺も嬉しいよ。」

「ゴジラが? あの野郎、昔の戦いの続きをしてるつもりか。」

「たぶんそうだと思うよ。轟天号は、ゴジラさんが封印された時に最後に見た人類の武器だし。特に印象に残ってるんだ。」

「そうか。おい、ツムグ。ゴジラに言っておけ。あの時、テメーを氷の中に封印したのは、この俺だってな。」

「大丈夫だよ。言わなくたって、戦ってればゴジラさんがゴードン大佐のこと知るからさ。それに、ゴジラさんは、他のことで忙しいからたぶん地球防衛軍との戦いはしばらくそっちのけになると思うよ。」

「使徒か…。」

「あとエヴァンゲリオンもね。…ま、それだけじゃないんだけどさ。」

「どういうことだ?」

 ゴードンが立ち上がり、檻を間に挟んでツムグと向かい合った。

「そのことは、尾崎から聞くと良いよ。人間のことは、人間で解決した方がいいと、俺は、思うから。」

「尾崎が? あいつが何を知ってるってんだ?」

「ちょっとね。色々あって無理やりそうなっちゃっただけだよ。独房から出たら、尾崎と風間と美雪ちゃんが内密な話をしたいって来ると思うから、周りに気を付けてね。」

「ほう? そりゃよっぽどのことなんだな?」

「当り前じゃん。だってゴードン大佐は、尾崎達に信頼されてるんだよ。ねえ、ゴードン大佐、俺ね、どっちでもいいんだよ。人類がどうなろうと。でも、ちょっと気に入らないんだ。ゴジラさんの怒りはもっとものことだ。」

 ツムグは、そう言うと背を向けて立ち去って行った。

 残されたゴードンは、独房のベットに再び腰かけ。

「『人間のことは、人間で解決した方がいい』か…。誰だ? 誰が何を企んでやがる? 俺達を無視するほどゴジラを怒らせることをやったのは、誰だ?」

 ゴードンは、そう独り言を呟いた。

 そして彼は、静かに、静かに独房の中で時が来るのを待つ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 風間は、普段の不機嫌そうな顔を余計に不機嫌にしてぶす~っとしていた。

「なあ、風間。いい加減、機嫌治してくれないか?」

「うるさい、黙れ。」

 あれから尾崎が退院してからというもの、風間はこんな調子だ。

 轟天号がエヴァ弐号機を輸送し終えてから、間もなく退院した尾崎が帰還したばかりの風間に顔を合わせにきたのだが、風間は何も言わず寮に帰ってしまった。

 それから顔を合わせるたびに機嫌が悪い~っというオーラ全開で、なのに不機嫌な理由を喋ろうとしないため尾崎も他の仲間も困っていた。

 悪く言えばお節介な尾崎は、風間が機嫌が悪い理由を聞こうと早足で歩く彼を追いかけてる。

「せめて理由を教えてくれよ。」

「言わない。」

「風間…。」

 このやり取りはもう何度もやっている。しかし頑なに風間は理由を話そうとしない。

 だが風間が機嫌が悪くなったタイミングが尾崎が退院して、帰還した風間に顔を合わせに来た時だったことから尾崎絡みのことで機嫌が悪くなっているのは間違いないのだが…。

 

「あいつには、少しばかり素直さが身に付くよう、尾崎の爪の垢煎じて飲ませてぇな。」

 

 っと、M機関のミュータント部隊の訓練と指揮をする士官である熊坂は不器用で素直じゃない風間についてこう独り言を言っていたとか。

 食事の時間を告げるアナウンスと音楽が流れたので、交代でM機関の食堂に行く時もぶす~っとしてる風間を追いかける尾崎の姿があった。

 尾崎は入院し、風間の方は尾崎の代わりとして仕事をするためにM機関の本部から離れていたため、二人とも食堂に来たのは久しぶりだった。

 そこで二人は思わぬ人物と出会う。

「シンジ君じゃないか!」

 尾崎が調理場で給食着を身につけて食堂の調理場で働く大人達に交じって働いている、シンジの姿を見つけて調理場の方に身を乗り出した。

「どうしてここに?」

「あ、尾崎さん…。あの…、その、えっと……。」

 シンジは手を止めてモジモジと手を動かして俯く。

「尾崎君、それは私が説明するよ。」

 シンジに変わって説明をすると出てきたのは、食堂で一番長く働いているおばちゃんだ。尾崎達がM機関に来た時からずっとお世話になっている一番の顔見知りである。親がいない仲間の中には、彼女を母親や祖母のように慕っている者もいるぐらいだ。

「この子はね、タダでここ(地球防衛軍)に保護されてるのが悪い気がするから、何でもいいから働かせてくれないかってお医者さんを通じて頼んだよ。それで、今人手が足りてないここ(食堂)でパートに入ってもらったわけ。」

「そうだったんですか…。でもシンジ君、体の方はもう大丈夫なのかい? 無理しちゃダメだよ。」

「もう大丈夫です。お、尾崎さんのおかげで…。」

 精神崩壊状態からの回復と、目覚めてから錯乱した時に優しく宥めてもらったことを思い出したのか、シンジは、微かに頬を染めて尾崎に頭を下げた。

 シンジは、はっきり言ってどちらかと言うと女顔な方であるため、14歳と若いのもあり、頬を染めて身を小さくするその仕草が女の子と錯覚しそうな可愛らしさがある。尾崎が恋人持ちだと知ってる大勢の人間がいるこの場所じゃなかったら確実に尾崎との間に何かあるという誤解が生まれて広まっていただろう。

 残念というかなんというか…、尾崎もシンジもどっちもそういうことに鈍いため全然そんなことに気づいてはいない。

 一方、風間は、シンジの治療の時に少しだけ死体みたいな状態だったシンジに精神感応を試みたっきりシンジを見ていなかったので、すっかり元気になったシンジをじーっと見ていた。

 シンジが顔を上げた時、尾崎の隣にいる不機嫌な顔をした風間が目に入った途端、少し固まり、数秒置いて顔色を悪くして慌てておばちゃんの後ろに隠れてしまった。

 そのシンジの反応に風間は片眉を吊り上げた。よく被災地の子供に避けられがちな風間は、子供に好かれにくいと自負していたが、シンジにそんな反応される心当たりがなかったので驚いた。

「…風間君、何かしたのかい?」

「何も…。」

 後ろにシンジが引っ付いたおばちゃんが、風間に向って目を細めて聞くと、風間は首を横に振った。

 尾崎は、顎に手を当てて、風間の横顔を見て少し考えた。

 そしてシンジの反応の理由に気付き、手を叩いた。

「風間、ちょっと来い。」

 尾崎は、風間の肩を掴んで調理場の方から離れた。

 そして顔を近づけて、ヒソヒソと話した。

 風間の機嫌悪そうな顔が、シンジの父親であるゲンドウの印象と重なってしまったんじゃないかということを。そしてシンジがゲンドウに何をされたのかを話した。

「シンジ君には悪気はないんだ。怒らないでやってくれ。」

「おまえは、俺がそんなことで怒ると思ってやがるのか?」

「あ、いや…別にそんなつもりじゃ…。」

「……悪かったな。」

「えっ?」

「おまえが子供一人を助けるのに死にかけたのを、まだ気にしてたってことだ。」

「風間…。」

 風間は、退院してきた尾崎と会ってからずっと不機嫌だった理由を話すと、照れ隠しで尾崎から素早く離れて料理を受け取る窓口に向かってズカズカと歩いて行った。

 尾崎は、風間の様子を見て、苦笑した。そして機嫌が悪い原因が分かってホッとした。結局自分に原因があったということだ。もっと言ってしまえば単純に心配されていただけだったということだ。

 風間は定食を受け取ると、わざわざ調理場からできる限り見えない位置の席に座って、しかも角度的に顔が見えないようにしていた。

 やっぱり風間は不器用なだけで、根は尾崎に負けない優しい奴なのだと尾崎は風間のことを再認識した。風間がわざわざそうしたのは、シンジのトラウマを刺激しないように気遣ったからだ。

 回復してからそう経ってないのでシンジがあんな反応をしてしまったのはやむおえなかったのだろうが、時間が経てば直るはずだ。シンジだってそのことは分かっているはずなので、風間にあんな態度を取ってしまったことを後悔しているだろう。

 あとで風間のことについてフォローしようと、尾崎は心の中で決めて、自分も料理を受け取って席についた。

 

 食堂の出入口で、こっそりと椎堂ツムグが覗いて、クスクス笑っていた。彼は、風間と尾崎が席について食事を始めて一分ぐらいでその場から立ち去った。

 

 

 

 

 シンジがM機関の食堂で働くことになって一週間も経った頃、第三新東京に新たな使徒が出現する。

 新たな使徒、第七使徒イスラフェルの出現と戦いは、今までとは違う形で行われることになる。ある意味で第五使徒ラミエルとは違う意味で地球防衛軍に冷や汗をかかせることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




弐号機に括りつけたワイヤーは、数本でゴジラもぶら下げられる超超すごいワイヤーです。
このネタの都合上、アスカは、今後不運に見舞われます。アスカファンの方、申し訳ありません。

風間に苦手意識を持ってしまったシンジに悪気は一切ありません。なんとなくムスッとした風間の顔と雰囲気からゲンドウを連想しちゃっただけです。風間だけじゃなく、ゲンドウを連想させる部分が少しでもあると誰に対しても苦手意識が働く状態なのです。
シンジのゲンドウへのトラウマは、無くなりませんが、割と早く風間とのわだかまりはなくなります。
ちなみにシンジは、パートで働かせてもらいながらちゃんと勉強もできるようにしてもらってます。


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第五話  ゴジラは、どこへいった?

 題名の通りです。

 使徒イスラフェルの回ですが、ゴジラほとんど出ません。

 勿論ですが…、ユニゾンはありません。
 オリジナルメカゴジラ単騎で戦います。

 そして、レイのことについてここで大きな動きがあります。


第五話  ゴジラはどこへ行った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟天号がエヴァ弐号機とアスカと加持を第三新東京のネルフ本部に移送して、回復したシンジがM機関の食堂で働くことになってから約一週間後、第三新東京に新たな使徒が出現した。

 二本足だが、頭部はなく、弓のように湾曲した腕、顔らしき部分は大極図のような形をしていて二色、下腹部あたりにコアと思われる部分があるが、すごく特徴的なというか、独創的な外見が最近続いていたのもあり、すごくびっくりするような見た目ではなかった。(十分、変なのだが、ラミエルとかもっと変なのが続いたから)

 湖からゆっくりと第三新東京に向って歩いていくが、今のところサキエルのように顔からビームを撃ってくるような攻撃はない。

 第三新東京に配備された地球防衛軍の部隊は、神経を尖らせながら、時を待った。

 

 そう、ゴジラがいつものように来て使徒を殺すのを待っていたのだ。

 

 ドイツからエヴァ弐号機を移送する時に轟天号を海から襲った時もそうだが、ゴジラは、必ず使徒を殺しにくる。

 だからそれはもうゴジラの習性として認知されていた。

 

 しかしそれは、ただの思い込みであったというのを間もなく思い知らされることとなる。

 

「使徒が間もなく第三新東京エリアに入ります!」

「ゴジラは、まだ現れません!」

「どういうことだ?」

 使徒の出現とほぼ同時に東京湾に現れるはずのゴジラがまったくその姿を見せないのだ。もちろん東京湾だけじゃなく、それ以外の海域も探知しているが、ゴジラはいない。

 このままでは、使徒が第三新東京を襲い、地下にあるネルフ本部を攻撃するのも時間の問題と判断した司令部は、前線の防衛軍に指示を出した。

 

『前線部隊に告ぐ! 作戦変更! これより使徒を迎撃せよ! ネルフ本部に行かせるな!』

 

 ゴジラが現れないことに焦るとは、途中で組織が解体されたりゴジラが行方不明になったことを除けば、前代未聞である。

 恐らくこれが初の地球防衛軍の対使徒戦となる。

 これまでゴジラが使徒を殺してきたのだから仕方ない。使徒を殺した後のゴジラを海に追い返すために戦ういう流れが定着しつつあったので仕方ない。

 前衛部隊の砲撃が進撃を続けるイスラフェルに降り注ぐ。しかし相手はATフィールドという最強(ゴジラには簡単に破られてるが)を常備している使徒。ほとんどの攻撃は可視できるそのエネルギーシールドで防がれ、かろうじて貫通できたメーサータンクのメーサー光線は、イスラフェルの体に着弾しても生命力が段違いであるためほとんどダメージにならない。当たった個所によっては多少は足を止める程度にはなっている。

 ゴジラが来ないことについて、真っ先に疑問をぶつけられるのは、G細胞完全適応者でゴジラの気持ちが分かる椎堂ツムグである。

『椎堂ツムグ! ゴジラは、一体どこにいる!? なぜ第三新東京に現れない!?』

 機龍フィア内のコックピット内に司令官らの通信が響き渡る。

 ツムグは、操縦席でくつろいでいた。

「悪いけど、ゴジラさんが近くにいないと分かんないよ。ってことは、つまり、日本にはいないんだと思うよ?」

『んな!? ゴジラは、使徒を殺すのが目的じゃなかったのか!?』

「それは間違いないよ。でも目的はそれだけじゃないってこと、忘れてない?」

『なんだと?」

 司令部の反応に、ツムグは、大きく肩をすくめた。

「ま、それよりさぁ、早くしないと使徒がネルフに行っちゃうよ? 機龍フィアを降ろさなくていいわけ?」

 マイペースなツムグの態度と口調に、通信越しでも分かるほど司令部の人間達の怒りを抑えようとする息遣いが聞こえる。

『こちら、しらさぎ。機龍フィアを投下する。使徒の迎撃に備えろ!』

「りょーかーい。」

 司令部からの通信が切れた後、機龍フィアを輸送しているしらさぎからの通信が入り、間もなく機龍フィアは、上空から使徒の前に投下された。

 機龍フィアが使徒と戦うのは、これが初めてとなる。今まで他の部隊と同様に使徒を殺した後のゴジラと戦っていたのだから無理もない。

 しかしこう見るとゴジラと同じ背の高さ、内蔵している武装の都合上ゴジラより多少太くなってる機龍フィアと使徒との大きさの違いがよく分かる。80メートル級のこの使徒だって十分すぎるほどでかいのだが、それよりでかいメカゴジラ。

 初の使徒との戦いの記録を取ろうと前線や基地にいる者達がコンピュータを睨みつけてその時を待った。

 

 

 

「初めまして、使徒ちゃん。ゴジラさんの代わりに俺が戦うから…、覚悟しやがれ、この野郎。」

 

 使徒の目の前に着地した機龍フィアの中で、椎堂ツムグが使徒に向って挑発的に笑いながら言った。

 そして片腕をドリルに変えてコアを貫こうと腕を突き出した。

 ドリルがATフィールドを簡単に破き、いともたやすく使徒のコアを貫いた…、かと思いきや、使徒に変化が起こった。

「おっ!」

 その変化にツムグは、驚きの声を漏らした。

 なんと使徒が一体から二体に分裂したのである。

 それも大極だった顔の二色がそれぞれの色となり、色違いの同じ形の使徒になった。

 二体になった使徒イスラフェルが、左右から長い腕から繰り出される爪攻撃で機龍フィアを切りつけようとしたが、寸前で機龍フィアは躱した。

「アハ…、アハハハハ! こいつら面白い! 面白いよ!」

 テンションが上がったツムグが笑いながら、機龍フィアを巧みに操り、機体を大きく回転させて尻尾で二体を薙ぎ払った。

 二体になったイスラフェルは、いとも簡単に吹っ飛ばされ地面に落下した。

 追撃するべきく機龍フィアがジェットを吹かせてイスラフェルに向って行った。

 すぐさま起き上がったイスラフェル(×2)は、顔の目の部分からビームを発射した。しかしビームは、機龍フィアに傷一つ付けられなかった。

 ゴジラの通常の熱線を中和できる設計になっている機龍フィアは、ビーム兵器系の武器は大抵中和できるのである。もし機龍フィアが荷電粒子砲を使うラミエルと戦ったなら荷電粒子砲を中和して無効化していただろう。

「一匹目!」

 片方を捕まえて両腕を掴んでそのまま真っ二つに引き千切って放り棄てる。

 そしてもう一方をと、そちらに機体を向けた時、機龍フィアの機体の背後から衝撃が走った。

「あれ?」

 脳と接続しているDNAコンピュータで機龍フィアと一体化していると言ってもいい状態のツムグは、機体と同じ動きで背後を見ると、先ほど真っ二つにしたはずのイスラフェルの片方が傷一つなく機龍フィアの背中にしがみついていた。

 あまりに早い回復に、地球防衛軍側も驚いた。

「あっ。なるほど…、そういうことか。」

 DNAコンピュータとの連動で出されたイスラフェルの能力についての解答に、ツムグは、納得したように頷いた。

 

 

 一方、ネルフ本部。

 こちらもこちらで使徒と地球防衛軍の戦いを見ていた。

「なるほど、あの使徒は、片方が健在ならもう片方が倒されてもすぐに再生できるのね。倒すには二体同時でなければいけないわ。機龍フィアもゴジラと同じようにATフィールドを簡単に破っている。けれど、あの再生力を前にして、彼らはどうするつもりかしらね…?」

 リツコがMAGIが出した使徒の特性のデータと現実に起こった現象を照合して、そう口にした。

「ムリムリ。機龍って一機しかないんでしょ? 二体同時なんてやれっこないわよ。」

「…なんであんたはここにいるのよ。ミサト。」

 ネルフが機能していない今、作戦部は全く必要ないのに、作戦部長のミサトがいるのはおかしい。

「だって家にいても暇だし、やることないんだもん。」

「ここにいても同じことよ。」

「エヴァさえ動かせれば、私ならコアへの二機同時攻撃をさせるわね。」

「だから、そんなこと言っても今の私達にはそんなことできないのよ。」

 リツコとミサトの会話が行われている間にも、第三新東京の上では機龍フィアとイスラフェルとの戦いが続いていた。

 

 

 機龍フィアの後ろに張り付いたイスラフェルの片方が機龍フィアの肩の関節に爪を突き立てた。

 しかし関節部には、機龍フィアの素体になったツムグの細胞が浸食しており刺さってきた爪が僅かに接触すると、イスラフェルの片方は、火傷でもしたように驚いて咄嗟に手を遠ざけていた。

 その隙をついて機龍フィアは、背中にいるイスラフェルの片方を振り落し、その隙に襲ってきたもう一体をブレードを展開して腕を切り落とすが、すぐに再生されてしまう。

 試しに掠り傷を負わせてみても結果は同じだ。

 二体になったイスラフェルは、どちらかが無事ならどんな傷もいくらでも瞬時に再生が可能だというのは、これではっきりした。

「ほうこく~、この使徒、同時に殺さないと倒せないよ。だから他の部隊が攻撃してもダメ。予算無駄になるから援護はなしで。」

『しかし、それでは…!』

「いいからいいから。俺を誰だと思ってるの? 俺が乗ってる兵器が何なのか覚えてないの?」

『なっ!? 貴様!』

 司令部に通信を入れ使徒の特徴を伝えつつ、最後に挑発する言葉を吐いて司令部を軽く怒らせツムグは通信を切った。

 イスラフェルは、逃げることなく機龍フィアから絶妙な距離を取りながら左右で臨戦体制を取っている。

 もしかしたらこいつら(もとは一体なのだが)は、ゴジラは無理でも機龍フィア(と地球防衛軍)になら勝てるとでも思っているのだろうか?

「おまえら凄いね~。片方が死んでもすぐ復活って…、なんて夢のような能力。でもさ……、この世界で最強なのは…。」

 ツムグは、顔を全部覆っているヘルメットの下で、にや~っと笑い。操縦桿を握りなおした。

 ツムグの目が黒から金色に変化する。

「怪獣王、ゴジラさんだよ。」

 ツムグは、ブレードを目で見えないほどの速度で振って、イスラフェル二体の体を上半身と下半身に切り裂いた。

 体が落ちる前にすぐに再生が始まるが、ブレードによる切りつけはすぐに再開され、次に足を切り落とした。

 再生が追いつかない速度で振り回されるブレードは、足の次に腕を頭の上部を、胸をと次々に切り離し、コアだけが残った状態にまで細切れにされた。

 そして微塵切りしたイスラフェルの体がくっつく前にその残ったコアを素早く両手で掴み、二つのコアをコア同士でぶつけ合わせた。

 コアはすぐに砕けなかったが、一撃目で半分ぐらいヒビ入り、もう一度ぶつけた時、半分が砕け散った。

 その影響か、再生しようとしていたイスラフェルの体はビクリビクリと痙攣し再生しようとする動きが止まっていた。

 二つのコアが完全に粉々になるまでそれは続けられ、コアを砕かれたイスラフェルは、復活することなく、息絶えた。

 機龍フィアの両手が開かれ、そこから陶器のような、ガラスのようなコアの欠片がハラハラと地面に落ちた。

「使徒倒したよ~。」

 操縦席で今にも鼻歌を歌いだしそうなテンションでツムグが司令部に報告した。

 地球防衛軍の基地の方も、前線の部隊もポカーン状態だった。

 異常な再生能力を持つ使徒との戦いは、長引くと思われていたが、あっさりと、本当にあっさりと終わってしまった。

 それもこれも、全部ツムグが乗った機龍フィアの戦闘能力があってこそなのだが、しかし、早すぎた。リミッターだって解除してない。

「つまんない! もうちょっと手ごたえあってもいいだろ! 復活しないかな? ……無理か。殺しちゃったもんね。」

『あー、こちらしらさぎ。機龍フィアを回収する。』

「あのさ~、ゴジラさん、やっぱり来ない?」

『ああ…、影も形もないぞ。俺達が心配するなんてしゃくだが本当にどこに行ったんだろうな?』

「ふーん…。」

 しらさぎの乗員と話をしながらしらさぎによる機龍フィアの回収がなされ、機龍フィアは、上空へ浮いた。

 そのまま基地のドッグへ運ばれる最中。緊急事態を知らせる通信が入ることになる。

 

『ゴジラがアメリカのネルフ支部を襲撃! アメリカ支部で開発中のエヴァンゲリオン四号機を破壊し、支部も破壊した後、そのままアメリカの都市で暴れています!』

 

「そっちかーーーーーい!」

 地球防衛軍の誰かが頭を抱えてそう叫んだ。

 今回、ゴジラは、使徒を殺すよりもエヴァンゲリオンを破壊する方を選んだようだ。

 使徒との戦いを終えたばかりの機龍フィアは、緊急出動でそのまましらさぎでアメリカまで運ばれ、アメリカで暴れているゴジラと戦い、アメリカの地球防衛軍支部の全戦力が投入されて海へ追い返すのだった。

 

 

 こうして第七使徒イスラフェルと地球防衛軍の初戦闘は終わった…。

 アメリカは、ゴジラの進撃でかつて怪獣が世界中で暴れ回っていた頃の恐怖が蘇り、すでに様々な情報源から全世界に広まっていたゴジラが使徒とネルフの兵器エヴァンゲリオンを狙っているということが真実であることが分かり、ネルフに対する抗議デモが起こった。これによりネルフは、ますます肩身が狭くなるのであった。

 そしてこの件で、すべてのエヴァンゲリオンを第三新東京に移す作業を早めるのだが、もっと早くエヴァンゲリオンを移送していればアメリカがゴジラの襲撃を受けなくてすんだはずだという世論の非難は地球防衛軍に向けられ、地球防衛軍は、メディアを通じて被害を受けたアメリカの都市の遺族に謝罪し、すぐに保障と復興のために動いた。

 残りのエヴァンゲリオン参号機と5号機が第三新東京に輸送され、第三新東京にすべてのエヴァンゲリオンが集まった。

 ついに第三新東京が、本当の意味でゴジラを迎え撃つための場所になったのだ。

 ゴジラとの戦いの歴史で、ここまでゴジラの来る位置を狭めうまく誘導できたことがあっただろうか?

 このことは、あらゆる情報媒体から全世界に報じられ、ゴジラと人類の戦いの決着と人類の存続がこの地ですべて決まるかもしれないと、全世界の人々が注目した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地球防衛軍が有する最強の対ゴジラ兵器である機龍フィアがイスラフェルを倒したことに一番驚いたのは、ネルフよりも、恐らくはゼーレの方であった。

 よく分かんない薄暗い空間にモノリスとバイザーをつけた老人がいる。

『地球防衛軍どもが作ったオモチャがあの使徒を倒してしまった…。』

『こんなことはシナリオには書かれてない。』

『あの兵器は、G細胞と完璧に融合した人間を素体にして作られていると聞いている。だから、ゴジラと同じようにATフィールドを簡単に破り、いとも容易く…。』

『おのれ…、どこまでも邪魔をするか、ゴジラめ…! 自らが手を下さずとも同じ細胞を持つ者なら殺せると踏んでエヴァ四号機を破壊するために米国に上陸したのか!』

『おかげで我々の配下である僕どもが多く失われてしまった…。修正は容易ではないぞ。』

『四号機は、失われるようシナリオに組んでいたが、ゴジラに破壊させる予定ではなかった。しかも我々の手足として動いていた者達が多くいた米国の主要都市まで破壊していきおった。暴れるだけしか能のない畜生め…!』

 モノリス達に涙を流す機能があったなら、滝のような涙を流していただろう。

 彼らの隠れ蓑だった国連が地球防衛軍としてゼーレとから離れ、地球防衛軍がゼーレから切り離れるきっかけとなったそもそもの原因であるゴジラに、ゼーレは人知れずボロボロにされていた。

 ゼーレが目指す人類補完計画を遂行するために用意したネルフもエヴァンゲリオンも地球防衛軍に抑え込まれ、しかもエヴァンゲリオンをゴジラが狙っているため下手に表に出したらゴジラを呼ぶだけだ。

 サードインパクトには、第一使徒アダムの生命の実と、第二使徒リリスの知恵の実、そしてロンギヌスの槍と儀式の依代としてリリスが必要なわけだが……、ゴジラが使徒を殺しまくって依代の候補であるエヴァもぶっ壊すために動いているので、儀式なんてやってたら絶対その最中にゴジラが来て邪魔される図しか思い浮かばない。

 MAGIでいくら算出してもゴジラが邪魔しにくる確率は、100パーセントとしか出ない。1以下でも外れる確率はないのかといくら頑張っても、答えは変わらない。

 人類の歴史を裏から操ってきた秘密結社のゼーレもゴジラという最強最悪のイレギュラーを前に手も足も出ない有様である。

 最悪なことに第三使徒サキエルが現れた時に復活してきたゴジラは、自分が封印されていた南極の消滅を乗り越えたせいか、封印される前よりも強くなっている。ゴジラのパワーアップは、セカンドインパクトの原因になったアダムをバラバラにした時に発生したエネルギーを吸収したからじゃないかとゼーレの僕として働いている科学者は答えている。

 ゴジラには、相手から受けたエネルギーを吸収して自分の力に変換する能力があるのでこの説は大体合っていると思われる。

 人類補完計画のためにやったことが最強最悪のイレギュラーを強化させて、人類補完計画を台無しにすることになるとは、誰も考えていなかった。

 そもそもセカンドインパクトのあの大破壊から生き延びたゴジラが異常過ぎるのだが…。

『例えサードインパクトを起こしたとしても、あの怪獣は殺せそうにない気がしてきたのだが…。』

『貴様! 弱気になるな! 怪獣とはいえ所詮は生物なのだぞ! 神に勝てるわけがなかろうが!』

『ゴジラは、破壊神と言われているのだが…。』

『それはただのあだ名だ! 奴が本当に神というわけではない!』

『議長…、いかがしましょうか…。議長?』

「……」

 モノリスの一人が中央にいるキールに話しかけたのだが、キールが片手で額を、もう片方の手で腹を押さえて俯いたまま、動かない。今気付いたが、キールが座っている席に色んな種類の胃薬と頭痛薬があった…。

『ああ…、議長。お気持ちはお察しします。』

『やはりゴジラをなんとかせねば人類補完計画どころではない。しかし我々にはゴジラに対抗できる力がない。』

『地球防衛軍どもがゴジラを駆逐するのを待つしかないと言うのか? それではあまりにも時間が足りぬ!』

『そうだ! 我々に残された時間は少ない! 待ってなどいられるのだ!』

 

 ゼーレは、……結構追い詰められていた。

 実は、ゴジラは、見えないところでコソコソしているゼーレの老人達も殺してやろうとしているのだが、それを知るのは、ゴジラの気持ちが分かる椎堂ツムグだけである……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゼーレが見えないところで追い詰められて苦しんでいるのを知っている椎堂ツムグは、基地内にある研究機関の自分の自室(彼専用の檻とも言える)のベットの上で寝っ転がったままケラケラ笑っていた。

「プッ…、くっ、ハハハハハ…、あのおじいちゃん達ってばホント諦め悪いっていうか、しぶとい汚れよりしぶといっていうか。人類のためとかいう無理心中やる前にやれることやれって感じ。そんなだから地球防衛軍に切り捨てられてなーんにも上手くいかないのにさ。あー、おっかしー。」

 そんなに質が良いというわけじゃない簡素なベットの上で枕を抱えてゴロゴロ転がりながら笑っている様は、異質以外の何者でもない。

 しかし笑い転げていたツムグは、急にピタッと止まり、表情を無にした。

「……そっか…、“あの子”のことすっかり忘れてたな。」

 枕を放って、むくりと起き上がり宙を見上げる。

「あっちは、あっちで。こっちはこっちで面倒なことやっちゃって…。可哀想に。しっかし…、今は他の使徒とエヴァがあるからともかく、ゴジラさんが見逃すはずないし…。あの子が生きるには…。おぉ?」

 太ももの上に頬杖をついてぶつぶつ呟いていたツムグは、ふと別のことに気が付いて目を丸くした。

「あ、アハ…、そっか。そうだよな。人間のことは、人間で解決した方がいいって言ったの俺なのに、忘れてた。ゴードン大佐に怒られちゃうよ。アハハハ。」

 そしてまた笑い出す。

 

「あいつは、何を笑い転げてるんですか?」

「さあ? G細胞完全適応者の考えていることなんて、40年以上たってるがいまだに分かってないから、さっぱりだ。」

 

 ツムグは、G細胞完全適応者なので監視されている。しかしこの監視はあんまり意味がないのだが、一応形式上はやっておかえなばならないことである。

 監視カメラを見ている研究者達が、ツムグの…、いつもの奇行にそんな会話をしていた。

 ツムグは、G細胞のおかげか特殊能力を持つミュータント以上に普通じゃ分からないことを見て聞こえているので、他人から見たらただの奇行にしか見えない行動や言動が多い。ツムグの細胞の研究で付き合いが長い研究者達は、すっかり慣れていつものことと思ってしまっている始末である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 シンジは、食堂でパートとして働くことになってからもう何日も経った。

 覚えが早く手際がいいシンジは、初めての仕事とはいえすぐに仕事を覚え、大人達の中で頑張って仕事をしている。

 その頑張りが認められ、職場の人達と打ち解けるのにそう時間はかからなかった。

「ふう…。今日もいっぱいがんばった…。」

 仕込みも後片付けも終えて、地球防衛軍から借りた寮の一室に帰ろうとしていた。

 いまだ風間に対してちょっと苦手意識が働いて避けがちだが、そのことで怒られることはなく、尾崎から風間は避けられていることについては気にしてないと聞かされていた。だが勝手な理由で関係ない相手を避けてしまうのはシンジの気持ちが許さない。なんとかできないものかと自分なりに考えているが、そう簡単に直るものじゃない。

 シンジは、そのことで溜息を吐きながら歩いていると、ふと足を止めた。

 進もうとした先の分かれ道を、見た覚えがある青い髪の毛の少女がゆっくりとした足取りで歩いて行くのを見たのだ。

 あまりにゆっくりとしかも俯いて歩いている姿に、一瞬幽霊かと思ってしまいそうになるほどだった。

「あの子は、あの時の…、どうしてここに? どこへ行こうとしてるんだ?」

 シンジは、あの少女が初号機に乗せられる直前に初号機のドッグに運び込まれてきた大怪我を負っていた少女だというのを思い出した。

 すっかり怪我は治っているようであるが、どうも様子がおかしい。

 シンジは、嫌な予感がして咄嗟に彼女の後を追いかけていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方そのころ。

 人気のない基地の建物間で、尾崎、音無、風間の三人がいた。

「話って、なんだ?」

 風間が自分がここに呼ばれた理由である内密な話について聞いた。

「風間…、信じられない話だと思うが、俺はシンジ君に精神をダイブさせた時にとんでもないことを知ってしまったんだ。」

「とんでもないこと?」

「世界が…、滅亡するかもしれないんだ。それも人の手で。」

 尾崎が真剣な顔で、そして拳を握りしめて語る姿に風間は眉間に皺を寄せた。

「ゴジラや使徒が暴れてるんだ、世界が危険な状況だっていうのは分かっている。だが、人の手で滅亡っていうのはどういうことだ?」

 尾崎がこういうことで嘘を吐く奴じゃないことは、風間が一番よく分かっている。

「誰がどうやってそれをやろうとしているのか、まだ分かってないんだ。だけど……。あれは、事実だと思うんだ。」

「おまえは、あの子供の中で何を見た?」

「風間、エヴァンゲリオンのことをどう思ってる?」

「なんでそうなるんだ? ただの使い物にならない無いオモチャだろ? 轟天号で運んでいる時も勝手に起動させたっていうのに、まったく役に立たなかったしな。それがどうした?」

「エヴァンゲリオンは、使徒だ。」

「なに?」

「私も最初は信じられなかったわ。」

 黙っていた音無が話に入ってきた。

「けど、調べてみて分かったの。ネルフのMAGIにハッキングしてね。」

 そう言って音無は、ポケットから携帯端末を取り出し、その内容を風間に見せた。

「E計画。十年以上前からエヴァンゲリオンの開発は行われていた。けれどこの開発段階で何人もの人間が死亡しているの。その中には、シンジ君のお母さんがいるの。」

「…それで?」

「それだけじゃないわ、死亡とはいかなくても、実験の事故で精神を病んでしまった人もいて、その人は自殺しているわ。その人は…、セカンドチルドレンのアスカ=ラングレーのお母さんなのよ。」

「あのオモチャのパイロットの身内ばかりが死んでいるってことか?」

「あと気がかりなことがあるわ。第三新東京市立第壱中学校は、ネルフの監視下にあった。それも2-Aクラスには、片親か、両親が死亡しているか、病院でずっと入院している子供ばかりで構成されていたの。いくらセカンドインパクトの被災があったとはいえ、都合よくそういう経緯のある子供ばかりが集められているのは不自然だと思ったから、調べてみたわ、そしたらこの子達の親は、この子達が物心ついた時に何かしら事故や病気になってた。だけど、搬送先の病院がネルフの管理していた病院で、死亡するとまでいかない処置さえすれば助かる状態でも間もなく意識不明になったり、死亡届けが出ているの。今は地球防衛軍の管理下に置かれたネルフの監視下にあった病院の記録も調べてみたわ。ほとんどデータは消されてたけど、地球防衛軍の技術にかかれば復元は可能だった。そしたら……、死んでいなかったの。子供達の親は、死んでないのに死亡したことにされて、遺体も返されていなかった。表面上は葬儀とお墓に遺体を埋めることはしているけれど、この記録が確かならお墓の中には遺体はないはずなのよ。」

「墓を暴いてみたのか?」

「…さすがに無断でお墓を暴くなんてできなかったわ。このことは、正式に諜報部と監査部が調査しているわ。」

「その行方不明になった親達とエヴァンゲリオンと何が関係がある?」

「初号機と弐号機。この二体には、シンジ君のお母さんと、アスカちゃんのお母さんが関わってる。初号機の実験でシンジ君のお母さんが死亡して…、そして弐号機の実験でアスカちゃんのお母さんが精神崩壊に陥っているの。初号機に乗ったばかりのシンジ君は、なんの訓練もしていないのに初号機との高いシンクロ率を出し、そしてアスカちゃんも。エヴァンゲリオンのパイロットは、片親か親のいない14歳の少年少女だけなんておかしすぎるわ。エヴァンゲリオンを起動できる確率は、たったの0.000000001%! それなのに今まで普通の中学生だったシンジ君が長く訓練をしていたアスカちゃんに並ぶ高いシンクロ率を叩き出すなんてあまりにも出来過ぎてるわ。」

「ああ、確かにおかしいな。だが、そのこととエヴァンゲリオンが使徒だっていう証拠はあるのか?」

「セカンドインパクトで南極が消滅し、南極があった海が赤く染まっているのは知ってるな?」

 尾崎が言った。

「ああ…。隕石が落ちたとかだったか?」

「それは嘘なんだ…。」

「なに?」

「セカンドインパクトは、仕組まれたことだったんだ。いや…、正確にはあることをやっていて、それが失敗してあんなことになってしまったんだ。」

「南極で何が起こったのかも、精神にダイブした時に知ったのか?」

「ああ…、セカンドインパクトは、南極にいた第一使徒アダムをバラバラにした時のエネルギーで起こった人的災害だ。あの赤い海は、南極の生物が液体になった跡らしい。」

「生物が液体に? それに第一使徒? 使徒は、第三新東京に来たあれ(サキエル)が初めてじゃなかったのか?」

「ああ、使徒は、遥か大昔に月と共に来たらしい。普通なら月は一つしか来ないはずが、地球には二つの月が来た。その中にアダム、そして第二使徒リリスがいた。リリスから地球のすべての生命が生まれ、アダムからは、使徒が生まれたらしい。人類は、18番目の使徒リリンだそうだ。」

「おい、わけが分かんなくなってきたぞ…。つまり? 使徒は神話に出てくるアダムとイヴで? 使徒って化け物は実は俺達と同類どころか親戚だってことか?」

「だいたい、そういうことね…。」

 音無がそう言って頷いた。

「マジかよ…。気色悪いな。」

「ええ、もっと気色悪いことにゴジラに殺されて残った使徒の残骸(燃えカス)を解析した使徒のDNAは、99.89%は、人間と同じなのよ。これだけ一致した遺伝子を持つのにあの巨体でしょ? エヴァンゲリオンを作ることだって可能だと思わない?」

「……できそうだな。」

「それとエヴァンゲリオンの操縦席に満たされるあの液体…、LCLって言うんだけど、あれは、簡単に言うと生物が生きたまま溶けてできたスープよ。」

「うぇ…。だから血生臭かったのか。」

 サキエルが現れたあの日に、初号機からシンジを救出するときにエントリープラグから溢れ出た液体がやたら血の匂いがした理由が分かって風間は心底嫌そうな顔をした。

「生物が溶けたスープを使う理由ってなに? 石油の原料は、古代のシダ植物の化石だけれど、生きた生物が液体になったものを使うなんて、不自然だわ。機龍フィアだって機体の素体とDNAコンピュータに椎堂ツムグの骨髄幹細胞を使っているけど、これはゴジラと同等の戦闘能力を再現するために部分的に組む込んだだけ。丸ごとってわけじゃない。だから定義上は生物兵器じゃなく、機械兵器ってことで登録されてるわ。エヴァンゲリオンは、人造人間って肩書がある通り、ロボットじゃない。ロボットならロボットって表記すればいいのに、どうしてわざわざ人造人間ってことを強調するのかしら? ネルフが自分達の技術を誇示したかったのもあるかもしれないけれど、パイロット条件といい、こんなに兵器として欠陥だらけのモノに時間とお金をかける理由が、もし水面下で起こっている使徒を巡る恐ろしい計画かなにかが関わっていて、人類滅亡を防ぐとされる兵器だったエヴァンゲリオンも実はその計画の一部に過ぎなかったら? シンジ君のお母さんやアスカちゃんのお母さんの事故もその計画が進められるために必要だったことだったら? 2-Aクラスに集められた肉親の不幸を抱えた子供達のことも、そして普通の中学生のシンジ君をいきなり初号機に乗せたことも説明がつくのよ。」

「子供達の親は、エヴァンゲリオンの材料…?」

 風間が今までの話を聞いて出した答えに、音無は顔を悲しみで歪めた。

「真実はまだ明らかになってないけれど、生きた生命を液体に変える現象を人為的にできるのなら……。そして使徒と人間のDNAがほとんど変わらないこと…。使徒から作られたエヴァンゲリオンに、生きた人間を組み込むことは、十分可能なはずよ。」

「っ、胸糞悪い話だな。」

 風間は、舌打ちと共にそう吐き捨てた。

「サードインパクトだ。」

 尾崎が口を開いた。

「ネルフは、初め、使徒を殲滅しなければ世界が滅亡するというサードインパクトを防げないと言っていた。だが、エヴァンゲリオンがジンルイホカンケイカクという計画のために作られ、セカンドインパクトが起こされて、そして音無博士が説明したようにエヴァンゲリオンが使徒と同じなら…、ネルフは、サードインパクトを防ぐんじゃなく、むしろサードインパクトを起こそうとしているんじゃないかと思うんだ。」

「そのサードインパクトが、じんるいほかん…とかいう計画ってことか? セカンドインパクトにしろ、ネルフにしろ、エヴァンゲリオンも全部、サードインパクトという滅亡をやるために仕組まれてたってことか?」

「俺がシンジ君の心の中で知ったことを、総合すると、そういうことになると思う…。」

「世界を滅ぼすんなら、もっと他に方法があるだろ? なんでそんな回りくどいことをするんだ? それも知ってんだろ? 尾崎。」

「……人類を…、進化させるため、らしい…。赤い液体に変えて1つにして、そこから進化した人類が生まれるように……。」

「セカンドインパクトで死んだ20億人は無視か!?」

「誰かが…、いや、複数人なんだ。老人達と言っていた。どこの奴らがそんなことをするために15年前の大災害を起こして、地球上のすべて生命を滅ぼそうとしているのか、分からないんだ。あいつは、俺に言ったんだ。」

 尾崎は、俯いて少し間を置いた。

「みんな俺と同じ“特別”になるって…。俺は、そんなこと望んでいない! 例え、この世界でたった一人だとして、みんなを殺すなんて許せない!」

「尾崎君…。」

 尾崎が激しく首を横に振って怒りで喚く姿に、音無が心配して言った。

「おまえらしいな…。」

 風間は肩をすくめた。

「俺だってそんなことはご免だぜ。何が悲しくてドロドロの液体にならなきゃならないんだ。…それで? どうするんだ?」

「風間?」

「どうやってそのふざけた計画を止める気なんだ? まさか何も考えてないとか言うんじゃないだろうな?」

「風間、信じてくれるのか?」

「おまえがこういうことで嘘を吐かないってことぐらい、嫌ってほど知ってるぜ。信じるも信じないもクソもあるか。」

 風間はそう言い、フンッと鼻を鳴らしてそっぷを向いた。

「ありがとう…! 風間。」

 尾崎は、泣き笑いしそうな顔で風間にお礼を言った。

「別におまえのためじゃ……。んっ?」

「どうした風間?」

 風間がふと宙を見上げて訝しんだことに尾崎は疑問をぶつけた。

 風間は、答えず、少しの間そのままの状態だったが、やがて突然二人に背を向けて走り出した。

 二人の声を無視して全速力で走り建物の隙間から出た風間は、1つ隣にある建物の上を見上げた。

「くそっ! なにやってやがるんだ!」

 風間の目に映ったのは、建物の屋上から落下しそうになっている青い髪の少女の手を掴んで、今にも自分ごと落ちそうになっているシンジの姿だった。

 風間は、器用に建造物の凹凸を足場にして飛び、少女と少年のもとへ急いだ。

 

 

 

 

 風間が急行している頃。

 青い髪の少女こと、綾波レイは今まで感じたことのない感情に困惑していた。

 彼女の赤い目に映るのは、必死に歯を食いしばり彼女の手を握って落ちないように踏ん張る同じ年ぐらいの少年。

 レイも軽い方だが、少年の方も同じぐらい軽いのでズルズルと少女の重みは重力に引っ張られて少年ごと高所から固い地面へ落とそうとしている。

「離して。あなたまで落ちてしまう。」

「ダメだ!」

 レイは、感情のない顔と単調な口調で少年に自分の手を離すよう言うが速攻で拒否される。

 レイは、ますます困惑する。

 なぜ、この少年は高所から飛び降りた自分を助けたのか。このままでは二人もろとも死ぬと分かっているのにどうして離そうとしないのか。どうして知らない間柄なのにこんなに必死になってくれるのか。

 エヴァンゲリオンに乗れなくなり、ネルフから引き離されたレイは、自分の唯一の身のよりどころであった場所も他人と自分を繋ぐ絆を失ったと思い、刷り込まれた消えたいという感情に引きずられるまま病室を脱走して投身自殺を図ろうとしたのだ。

 喪失感のあまり後ろから追いかけてきていたシンジの存在に気付くことなく、レイは、屋上に来て身を投げた時に駆けつけてきたシンジに手を掴まれて、やっとシンジの存在に気付いた。

「お願い。私は消えなくちゃいけないの。あなたまで巻き込めない。」

「だからって死ぬなんておかしいよ! くぅう!」

「でも…、私は……。ダメ、お願いだから、この手を離して…。」

 少年の半身が高所から出始めた時、レイは知らず知らずのうちに自分の顔が悲しみで歪んでいたのに気づかなかった。

 このままでは、二人とも死んでしまう。それではダメだと思うけれど、どうしたらいいかレイには思いつかなかった。それほどレイは混乱していた。

「ううう、うわぁあああ!」

「!」

 そしてついに少年がレイを掴んだまま屋上から落ちた。

 重力に従い落ちていく二人、それでも少年はレイの手を離そうとはしなかった。

 落ちていく最中、酷く時間が長く感じられた。

 その間、レイは、ようやくどうすれ少年を巻き込まずに自分だけが死ねるか思いついた。

 そして意識を集中しようとした時だった。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 斜め下の方から男の雄叫び。

 そちらを見た時、黒いジャンプスーツを身につけた青年が垂直の壁を凄いスピードで横走りしてきて、そして少年と少女の体を抱きかかえた。

 そして青年の腕につけられたワイヤー発射装置からワイヤーの先端が発射され、建物の凹凸に引っかかるとそのまま止まるのではなく、落下速度を少しずつ抑えながら三人を地面に降ろしていった。

 やがて三人が地面に降りると、別の青年と女性が駆けつけてきた。

「シンジ君!」

「風間少尉!」

 風間がレイとシンジを降ろす。レイは、座り込み、シンジは尻餅をついて荒い呼吸を繰り返していた。

「ムチャしやがって…! 分かってるのか!」

「ひう…。」

「風間、あまり怒鳴るな。シンジ君、大丈夫かい? そっちの子は…。」

 汗を拭う風間に怒鳴られ身をすくめるシンジの肩を優しく掴みながら尾崎がシンジの身を心配し、もう一人の少女、レイの方を見た。

「あなたは、確かファーストチルドレンの…、綾波レイ。どうしてあんなことを?」

「私には…、もう絆がない。だから消えなくちゃいけないと思った。」

 音無の怒りが含まれた口調に臆することなく、レイは、単調な口調で答えた。

「きずながない?」

「私にとってエヴァに乗ることは、みんなとの絆だった。でも、もう、エヴァに乗れないなら、私がこの世界にいる理由なんてない。だから死のうと思った。けれど…、彼が、私を止めた。」

 レイは、シンジを見た。

 その目は、非難する感情はなく、むしろ不思議な物を見るような目をしてた。

「いくら私が離してって言っても離さなかった。二人とも落ちて死ぬところだったのにどうして?」

「分からない…、咄嗟だったから…。」

「咄嗟? それだけで死にそうになったの?」

「……えっと…。」

「…コラっ。」

 理由を聞かれてうまく言葉が出ないシンジに、レイが更に疑問を投げかける。

 見かねた風間がレイの頭を軽く叩いた。

 尾崎と音無は、びっくりし、レイも驚いて軽く目を見開いて頭を摩った。

「こいつ(シンジ)の振り絞った勇気を蔑ろにする気か? こいつがおまえが落ちないように踏ん張ってなかったら、俺がお前達を助けられなかったんだぞ?」

「私は、助けてもらいたかったわけじゃない。私はここにいる理由がないのに…、消えなくちゃいけないのに…。私はあなた達と何の関係もないのに、どうして?」

「確かに俺はおまえのことなんて何一つ知らないな。けどな、死なれたら目覚めが悪いんだよ。例え他人でもな。」

「そうだよ。君は自分が死んでも誰も気にしないって思ってるだろうけど、世の中には例えどんな悪人でも放っておけない人がいるんだ。」

「この尾崎は、その典型だ。」

「とにかく、君がこの世からいなくなってもいいなんて思ってても、君がいなくなった時、何も思わないでいられる人はいないってことさ。少なくとも俺はイヤだよ。だから、もう簡単に死のうとしないで。」

「………ねえ。あなたも、私がいなくなったら、イヤ?」

 レイは、尾崎の言葉に少し俯いてから、シンジを見て聞いた。

 シンジは、少し考えて。頷いた。

「そう……。そうなの。でも、そしたら私はどうしたらいいの? 私は、エヴァ以外に何もない。」

「何もないなんてことはないさ。」

「そうよ。何もないって思うなら、見つければいいのよ。ねっ?」

「見つける?」

「こいつ(シンジ)は、見つけられたぞ。」

 風間がシンジを指さして言った。

「あなたは、見つけたの?」

「えっと……、ここにタダでいさせてもらうのは悪いかなって思って……、食堂のお手伝いをさせてもらってるよ。」

「そう…なの?」

「そうだ。ならいっそのこと君もシンジ君と一緒に働いてみたらどうだい?」

「えっ!?」

 尾崎の提案にシンジが驚いてバッと尾崎を見た。

「尾崎…、簡単に言うな。」

「そうね。それがいいかもしれないわね。合ってないなら合ってないで他のことを考えればいいわ。」

 音無は携帯を出すと、テキパキと人事に電話を入れてレイのことを話した。

 あまりにあっさりな流れに風間は、ガクッと頭を垂れた。

「それでいいのか!?」

「いいじゃない。今どこもかしこも人手不足なんだから、猫の手も借りたいのよ。」

「私は、必要なの?」

「ええ、地球防衛軍が再結成されたのいいけど、まだまだ人が足りてないのよ。手伝ってくれる?」

「…私なんかでよければ。」

「そんなネガティブな言い方しちゃだめよ。あ、まず言わなきゃいけないことがあるわよ。」

「えっ?」

「あなたのために勇気を出したシンジ君と、あなたとシンジ君を助けるために頑張ってくれた風間少尉にお礼を言うことよ。」

 音無は、レイの肩に手を置いて、二人の方を指さした。

 音無の笑顔と風間とシンジを交互に見て、レイは、すくっと立ち上がり。

「…ありがとう。」

 っと少し恥ずかしそうに言い、お辞儀をして顔を上げると微笑んだ。

 それを見て風間は、なんだ笑えるのかっと感情が薄いので人形のようだったレイを見直し、シンジは、ボンッと顔を赤くした。

「シンジ君、大丈夫かい?」

「…おまえは、少しはこういうことを理解できる脳力(のうりょく)を付けろ!」

「な、なんで怒ってるんだ、風間?」

 シンジの反応の意味が分かってない尾崎に、風間が青筋を立てて低い声で怒鳴った。尾崎は風間がなぜ怒っているか分からず混乱しただけだった。

 そんないつもの二人の様子に音無はクスクスと微笑ましく笑い。レイは、よく分かんないのか首を傾げていた。

 シンジは、まだ座り込んだままだが風間と尾崎のやり取りを見ていて、風間への印象が変わっていた。風間にレイと一緒に助けられたというのもあるが、風間への苦手意識は緩和され、普通に接することができるようなるのだが、まだこの時は知らない。

 

 そして後日、レイは、シンジが働ている食堂で給食着を身につけてシンジや食堂の大人達に挨拶をすることになった。

「綾波レイです。今日からここで働くことになりました、よろしくお願いします。」

「…うそぉ……。」

「ほらシンジ君、今日からあの子の先輩なんだから仕事教えたりフォローしてあげたりしなよ? もちろんわたしらも助けてあげるけど、やっぱり年が近いんだしさ。」

「えええええっ!?」

「よろしく、碇君。」

「うう…、よ、よろしく…。」

 同い年の女の子、それも超絶美少女が同じ現場で一緒に働くことになってシンジは、年相応に緊張してガチガチになるのであった。

 

 

 

 

 

「あー、よかったよかった。とりあえず、あの子のことはこれで当分大丈夫だな。あとは…、ああ、コレ、コジラさんが来たら日本中の火山がやばいかも。どーしよ。」

 自室でレイが地球防衛軍で落ち着いたのを確認したツムグは、ベットの上で転がりながら今度は別のことで頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 それから数週間後。

 浅間山火山に、使徒の蛹が発見される。

 

 

 

 

 

 




とりあえず、シンジは、少しだけトラウマを乗り越えました。そして新劇ほどじゃないけど漢を見せました。
立ち直った綾波レイがシンジと一緒の職場で働くことになりました。
尾崎、音無、風間がサードインパクト(人類補完計画)阻止のために動き出しました。

これ…、レイがシンジのヒロインでいいんだろうか?


人類補完計画がどういう内容なのかは、尾崎がシンジの心の中で初号機から教えてもらってますが、誰が首謀者なのかは分かってません(上層部の一部の司令達しかゼーレを知らない)。またエヴァが使徒であることとチルドレン候補者達の親の謎などは、ネルフが隠してます。ほぼばれてますけどね…。
ゼーレは、人知れず胃とか頭痛がマッハでヤバい状況。
そして尾崎達やシンジ達を観察してるオリキャラ君。見た目若いけど一応60歳過ぎなので、子供か孫くらい年が離れてる彼らの成長を見守っています。


次回は、サンダルフォンですが…、かなり難しいです。一応書けてるけど見直し中。



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第六話  浅間山を守れ!(※一部書き換え)

 めっちゃ悩みながら書いた。
 サンダルフォン地味に難しい…。

 今回は、今までと違って地味かもしれない。
 コメントで情報をいただいたのに生かし切れてないと思う…。ごめんなさい。



 2015年2月8日。
 一部書き換えました。コメント欄からスーパーX2が無人機だという情報を貰い下調べが足りなかったことを痛感しつつ、検討した結果、この話で登場する量産型スーパーX2は無人機にしました。
 しかしある仕掛けがしてあり、そのせいで椎堂ツムグと地球防衛軍に問題が発生します。


(※2015年2月8日に、一部書き換え)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使徒というのは形もヘントコだが、怪獣と違って何の前触れもなく出てくるから準備が大変だと、地球防衛軍の誰かが疲れたように言った。

 

「資料映像をお見せします。」

 地球防衛軍の会議室には、基地の司令部他前線で部下達を率いて戦う階級の高い軍人達も集まる。

 その中には、ゴードンもいた。ちょうど独房での謹慎が終わり、今回の会議に参加しているわけだ。

 恐らく現場側で、もっとも強く、もっとも頼りにされている男。

 損害を考えず成果を出すため上層部に疎んじられていても、それ以上に頼りにもされているのは事実だ。彼にはそれだけの力と実績があり、なおかつ彼に信頼を寄せる部下達がダントツで多い。さらに一番下の兵士からの叩き上げであることもあり、キャリアでのし上がった同じ階級の人間達からは目の敵にされている。

 ゴードンが自分に向けられる眼を無視して堂々とした態度で椅子に座っていると、やがてモニターに映像が映された。

 

 それは、火山調査の機関から提供された映像で、そこに映っていたのは。

 膜で覆われた使徒と思われる巨大な生物だった。

 透き通って見えるその姿は、かなり成体に近いもので、これは卵というより蛹といった方が合っているかもしれない。

 

 映像を見て会議場がざわざわと騒がしくなった。

 ゴードンは、映像を睨みつけ、どっしりと椅子に座りなおした。

「これは、浅間山のマグマの内部の映像です。浅間山で火山の観測を行っていた研究所からの映像です。ご覧のとおり、これは、生物……、いえ、使徒です。」

「我々地球防衛軍の研究所の解析でも、パターン青と表示されました。使徒で間違いありません。」

 白衣を着た研究所の責任者が資料を片手にそう説明した。

「使徒の幼体ということですか?」

「そういうことになります。いつからこの使徒が浅間山のマグマの中に潜伏していたのかは分かりませんが、まだ孵化すらしていません。」

「問題なのは、この使徒が見つかった深度が1780メートルなのです。この映像を撮影のためにマグマ用の潜水機器が深度の限界を超えて失われる損害が出ました。海とは違います。灼熱のマグマなのです。地球が生きていることの証明というべきこの赤くドロドロに溶けたマグマ中に、この使徒が! 潜んでいるのです!」

 白衣を着た研究所の責任者の男が大げさな身振り手振りで説明しながら机を拳で叩いた。

「ゴジラは、まだこの使徒の存在に気付いていないと思われますが…、時間の問題でしょうな。もし、仮にゴジラが浅間山に向かい、この使徒を殺そうとした場合、どうなるか、みなさん! 想像できるでしょうか!」

 大げさな身振り手振りで顔を焦りと恐怖による混乱から興奮し、顔を真っ赤にした研究所の責任者が司令達や、現場の責任者の軍人達に問うた。

「ゴジラなら、…火山ごと使徒を駆逐すんじゃねぇのか?」

 静かになってた中、ゴードンが言った。

「その通りだ!」

 研究所の責任者は、答えを出したゴードンを指さして叫んだ。

「35年前のゴジラなら、できたかできないかであろうが、今のゴジラならそれぐらい簡単なことだ! 通常の熱線でも威力が上がっているのに、赤い熱線…、いやそれ以上の威力のある熱線で火山を吹き飛ばし噴出するマグマから放り出された使徒を奴は殺すだろう! だが火山をひとつ破壊され、マグマを大きく刺激されたらどうなるか! この国は…、日本は火山国だ! 四つのプレートの上にできた世界有数の火山災害と地震災害の多い土地なのです! 活動している火山の数…、休火山…、そのすべてが影響された時にもたらされる災害は、セカンドインパクトに比べれば微々たるものかもしれないが、日本、そして隣国のアジア諸国に影響を与えてしまうのだ! 皆さん! ゴジラに、この使徒を殺させてはいけない!」

「落ち着いてください。あなたの言いたいことは十分伝わりました。」

 波川に宥められ、助手に水を渡された研究所の責任者は席について息を整えはじめた。

「先ほどの科学技術部からの説明の通り、これまで我々地球防衛軍は、使徒をゴジラに殲滅させてからゴジラと戦うという流れを基準に戦ってきましたが、今回は絶対にそれはできません。」

「波川司令! この使徒を先に殲滅することは可能なのですか!?」

「残念ですが、使徒のいる深度が深すぎます。それに使徒にはATフィールドというエネルギーシールドがあり、並の武器では殺傷するのは困難。この使徒は、蛹の状態で、いつ羽化するか分からないですが、羽化すればどういう動きをするか、まだ不明です。ただ使徒はほぼ必ず第三新東京を目指します。恐らくこの使徒も第三新東京を目指すでしょう。」

 ほぼ、というのは、第六使徒ガキエルが第三新東京とは関係ない場所に出現したからだ。

「波川司令、過去ゴジラは、海底のマントルを通過して休火山の富士山から出現し、富士山を噴火させた前歴があります。活火山の浅間山に同じ方法でマグマ内部の使徒を殲滅する可能性があるのでは?」

 挙手した男がモスラとバトラの一件でゴジラが富士山から出てきて噴火させたことを交えて意見を述べた。

「その可能性もシュミレート済みです。防衛軍が保有するスーパーコンピュータ、並びに機龍フィアのDNAコンピュータから算出した確率では、ゴジラは、浅間山へ正面から来る可能性がもっとも高いと出ています。」

「正面からの正攻法か…。」

「まあ、ゴジラらしいと言えばらしいが…。」

 過去のゴジラの行動や防衛軍と怪獣との戦いで、ゴジラが真っ向勝負を好み、小細工を好まない傾向があることは証明されている。35年ぶりに復活してから使徒を殲滅するにあたっても、不意打ちのような小細工はしていない。例外としてガキエルは、自らがエサとなって轟天号を巻き込もうとしたので逃げるような形でゴジラに追跡されていたが、結局ゴードンの策で海底火山で炙られて黒焦げになるほどの痛手を負わされて耐えきれず退散し、追いかけてきたゴジラにあえなく殲滅されてしまった…。

 現時点でゴジラを探すのに特化した最高精度を誇る椎堂ツムグの遺伝子から作られたDNAコンピュータの出した答えは、ゴジラが離れた場所にある海底のマントルを通らず陸上から浅間山へ来る可能性がもっとも高いということ。

 先ほどあった科学部門の説明もあったが、セカンドインパクトを経て異様に強化されたゴジラなら、浅間山ぐらい熱線で消し飛ばせるだろう。山を破壊せずとも火口から熱線を叩きこめば熱線の爆発力で火山の深部を膨張させて大噴火させ、使徒を外に放り出すことだってできる。

「つまりこういうことか?」

 ゴードンが口を挟んだ。

「使徒が羽化するまで、ゴジラから浅間山を守る。そして羽化した使徒がマグマから飛び出してきたら、ゴジラか、機龍フィアで殲滅させる。そう言いたいんだろ?」

「…ええ。その通りです。」

 ゴードンの言葉に波川は深く頷いた。

 二人の言葉で会議場がまたざわざわと五月蠅くなった。

 今回の戦いは、倒すべき使徒をあえて守るのだ。ある意味で怪獣より厄介で気味の悪い存在である使徒を、使徒が潜んでいる浅間山をゴジラに破壊された余波で日本全土の火山に影響を与えないための作戦だ。

 この使徒を倒してはいけない…、いや最終的には倒すのだが倒せる状態になるまでとはいえ守ってやらなければならないのだから皆の心情は複雑だ。

「今回の戦場は、灼熱のマグマが煮えたぎる活火山です。ミュータント部隊は危険なので後衛支援に回ってもらいましょう。また使徒が孵化した時の影響も考えて火災や火砕流などの災害に備えてもらいます。万が一に備えて、日本全土の火山の近隣に住む住民に勧告し、各地の災害対策組織にいつでも対応できるよう備えます。機龍フィアは、しらさぎで輸送後、浅間山で待機。遠距離からのゴジラの熱線を防ぐため、各方向から改良を重ねた量産型のスーパーX2のファイヤーミラーで防御。ゴジラの接近、及び熱線発射のタイミングは、機龍フィアのDNAコンピュータの信号と椎堂ツムグが教えてくれます。」

「波川司令。G細胞完全適応者をこのままゴジラと戦わせ続けるおつもりなのですか?」

 体格からしても内勤が主な重役が席を立って波川に厳しい口調で言った。

 G細胞と完全融合した唯一の存在である椎堂ツムグは、発見された時、そしてこの40年間もの長い研究機関の研究でゴジラの精神に流され最悪の人類の敵に回る可能性を秘めていることがずっと語られていた。

 今のところ椎堂ツムグは、人間の味方として行動してはいるが、その言動にはゴジラを尊敬し崇拝するような部分が見られ、他のことなどどうでもいいようなことを喋るため、あらゆる場面でゴジラと接触させることを反対する声が上がっていた。彼の細胞を素体にした機龍フィアの実質正規パイロットな状態になったことも反対する動きがあり、機龍フィアの改良と新たな兵器の開発のためのデータを取るためとはいえ、機龍フィア越しとはいえ、ほぼ直接ゴジラと接触しなければならないのだ。

 最悪の可能性がある以上、反対意見が寄せられるのは致し方ない。

「反対の意見のある方々のお気持ちは分かっているつもりです。ですが、現状機龍フィアの力を100パーセント以上引き出せるのは、椎堂ツムグだけなのです。」

「いつになればG細胞完全適応者以外でも機龍フィアを扱えるようなるのですか?」

「一代目のゴジラの骨髄幹細胞を使った3式機龍と違い、機龍フィアは、G細胞と人間の細胞が融合している椎堂ツムグの細胞を使っています。なので暴走する確率、安定性も3式とは比べ物にならないほど素晴らしい結果を出しています。しかし、第四使徒襲来の際のゴジラとの戦いで一度機能停止に陥りました。その原因は、第三使徒襲来のときにゴジラを退けた際に破損した兵器系統の伝達回路の修理ができていない状態で、一つ以上リミッターを解除したことによるDNAコンピュータから信号が逆流し椎堂ツムグの脳を侵して一時的にバーサーカーに変えてしまい、過度の運動とゴジラの赤い熱線をまともに受けたダメージで強制シャットダウンしたのです。簡単いいますと、DNAコンピュータの戦闘プログラムの想定外のバグでした。」

「機龍フィアは、DNAコンピュータの安定性が売りだったのではないのですか!?」

「…こればかりは、実戦にならなければ分からなかったとしか答えられません。機龍フィアの強制シャットダウンを教訓に、大幅な見直しがされ、一つ以上のリミッターを外しても暴走の恐れはもうありません。」

「保証はあるのか!?」

「そうだそうだ!」

 反対派の者達の野次が飛ぶ。

「ピーチクパーチク…、うるせえな。現場を知らねえ奴らがゴチャゴチャ言ってんじゃねぇぜ。」

 頬杖ついたゴードンが嫌味を込めてそう言った。

 それによって反対派達の視線が一気にゴードンに集まった。

「口を慎め、ゴードン!」

「また軍法会議にかけられたいのか貴様!」

「我々は、危険性を考慮して…。」

「だったらてめえらが、機龍フィアに乗れよ。ツムグの奴ほどじゃないが操縦の仕方を知らなくてもDNAコンピュータと接続すりゃ他の奴でも動かせるんだぞ? ツムグを乗せたくないって言うなら、自分が乗れ。で、ゴジラとやりあえ。」

 文句を言っていた者達、つまり椎堂ツムグに機龍フィアに乗せて戦わせることに反対する反対派は、ゴードンの言葉に、顔を青ざめさせて急に口を閉ざした。

 それを見てゴードンは、呆れたと大げさにでかいため息を吐いて見せた。

「現場に出もしない、口だけは達者な腰抜けが偉そうに文句ばっか並べて情けねぇ。今の機龍フィアじゃ、ツムグ以外じゃゴジラとまともに戦えない。これが現実だ。ツムグの奴がそれを一番分かってんだからな。」

 ゴードンは、ニヤニヤ笑う。反対派の者達は顔を怒りで赤くして震えていた。

「波川。とりあえずおまえのその作戦で行くが…、保険はかけさせてもらうぜ。」

「ええ。ゴードン大佐に任せるわ。もしもの時は…、存分にやりなさい。」

「フフ…、その言葉。忘れるなよ?」

 ゴードンは、愉快そうに笑い、席を立って会議室から出て行った。

「あの…、保険…とは?」

 ゴードンが去ったことで静まった会議場に恐る恐る重役の一人が質問した。

「それは極秘です。ゴードン大佐でなければできないことなのです。」

 ゴードンとの間に交わされたことを極秘とし、波川は、不敵に笑った。

 こうして、第八使徒サンダルフォンが羽化するまでの浅間山の防衛と、羽化した後のことについての作戦会議は終わった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 本部を維持する以外でやることがないネルフ。

 しかし地球防衛軍から情報を貰えるのは、赤木リツコにとって有難いことだった。

「次の使徒は、蛹状態で、マグマの中にいるか…。貴重なサンプルとして捕獲したいところだけど、ゴジラがいるからそんな悠長なことやってられないわね。過去の資料によると、モスラとバトラが現れた時、ゴジラは、海底のマントルから富士山の火口から出現し、休火山だった富士山を噴火させた前科がある。けれど、この時はマントルに落ちたからやむ終えず富士山から出てきただけね。正面から戦うのを好む傾向があるゴジラが意図的に富士山を噴火させたとは思えない…。南極に封印される前ならともかく、今のゴジラの熱線なら浅間山ごと使徒を消し飛ばせそうだわ。そうなると火山活動活発化して日本全土に及ぶ可能性が高い…。地球防衛軍のことだから絶対にそれだけは阻止したいでしょうね。」

 ネルフには、地球防衛軍の作戦は伝わっていないが、リツコは送られてきた使徒の情報を見ただけでだいたいのことを言い当てていた。

 赤木リツコは、伊達にネルフの技術部門や科学を担当する天才科学者ではない。

「っとなると……、蛹から使徒が羽化するまで浅間山を全力で守ることになる。けれど…、そうそうまくいくかしら? 第五使徒の時も、第七使徒の時も予想外のことは起こっている。何か保険をかけておかないと日本が危険。15年のブランクはあるとはいえ、地球防衛軍の戦歴ならそれぐらいのことは予測済みはずだから、何か保険はかけているはず。どうなるか見ものだわ。」

 リツコは、パソコンの画面を眺めながらコーヒーのカップを片手に持ち、楽しそうに笑った。

 ネルフがほとんど機能しなくなって時間が余りまくっているリツコは、ゴジラと地球防衛軍の様子を観察するという楽しみを見つけて結構充実していた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 浅間山に地球防衛軍の陣営が張られるまで実に早かった。伊達に地球防衛軍という大層な名を名乗る組織だけのことはある。むしろこれぐらいできなければゴジラを封印する前やセカンドインパクトが起こるまで人類の存亡をかけて戦ってはいけなかった。

 しらさぎにぶら下げられているのではなく、地上で待機状態の機龍フィアの頭の上で、椎堂ツムグは、専用のパイロットスーツを身につけた状態で寝転がり、退屈そうに欠伸をしていた。

 100メートルのゴジラと同等の体格を持つ機龍フィアの上からは地上で忙しなく働いている地球防衛軍の面々の姿を眺めることができる。

 今回の作戦が作戦なので経験が少ない者達はもちろん、ベテランですら焦りの色を浮かべている。

 敵(使徒)を倒すために、敵(ゴジラ)から守る。

 しかも今回の使徒は、マグマの深部で蛹の状態で羽化を待っている状態だ。

 羽化した瞬間、他の使徒のように(ガキエルは除外)第三新東京を目指すはずなので、そこをゴジラか機龍フィアに殲滅させる。

 それからゴジラと応戦するというのが今回の作戦だ。

 ツムグは、腰のあたりをボリボリとかいて、横になって寝転がっている。その姿は奇妙なパイロットスーツを身につけてなければ、ただのおっさんだ。ツムグの外見は若いのだが、中身は60歳を超えてるので年相応になるのも仕方ないのかもしれない。

 そうしてツムグが退屈していると、ふいにツムグは、がばりと起き上がり、東京湾の方角を見た。

「ほんと……、ゴジラさんの邪魔ばっかりしてごめんね。ゴジラさんにしてみれば、日本中の火山が噴火してたくさんの被害が出て、日本って国の機能が止まれば万々歳だろうけど、俺としては日本を壊すわけにはいかないからさぁ。」

 ツムグは、自分の感知できる範囲に入ったゴジラに向かってそう呟いた。

 そしてしばらくしてく、ゴジラが現れたことを示す警報音が浅間山の周りにしかれた陣営に響き渡り、準備のために来ていた非戦闘部隊が大急ぎで現場から離れていった。

 

 

 東京湾から上陸し、第三新東京を無視して浅間山へ真っ直ぐ突き進むゴジラが、浅間山に陣を構えている地球防衛軍を挑発するように雄叫びをあげた。

 浅間山へゆっくりと向かって来るゴジラの前に、機龍フィアが立ちはだかった。

「頼むから早く羽化してよ…、使徒ちゃん…。」

 機龍フィアの操縦席でツムグは、そう呟いた。

 

 浅間山のマグマの中にいる使徒は、まだ動かない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 浅間山からは見えない遠くの位置に待機しているのは、轟天号。

 修理が終わり、“保険”のために待機しているのである。

「どうだ、何か動きはあったか?」

「現在、機龍フィアがゴジラと戦闘を開始。浅間山の深部にいる使徒に、変化はありません。」

「ったく、使徒ってのは、ある意味怪獣より面倒な奴らだぜ。」

 ゴードンは、そうぼやいた。

 ゴジラと他の怪獣との戦闘の経験がある超ベテランのゴードンも、使徒の特殊性に頭痛を感じていた。

 何の前触れもなく現れ、なぜか第三新東京に来る(ガキエルは除外)、そして個性豊かすぎる姿形。

 ATフィールドというエネルギーシールドもあるが、色んな意味である意味怪獣より厄介な敵だ。

 数が決まっているのが唯一の救いかもしれないが、こうも個性的な使徒が次々に現れると、対応が大変だ。

 まあ、使徒を殺すのは大抵はゴジラで、使徒イスラフェルを殺したのは機龍フィアなので機龍フィアも使徒を殺せることが証明された。

 今後、ゴジラだけに使徒を殺すのを任せるのではなく、隙あらば機龍フィアで使徒を撃退することになる。

 イスラフェルのように分離したりできるタイプが現れた場合、その方が使徒の殲滅が早く終わるだろうから。

「使徒の様子はどうだ?」

「いいえ。変化はありません。」

「……まさか、羽化する気がないなんてことは、ないよな?」

 ゴードンの言葉に船員達が一斉にゴードンの方を見た。

「火山越しとはいえ、ゴジラと機龍フィアが待ち構えてんだ。わざわざ殺されに行くようなマネをするとは思えねぇ。保険をかけといて正解だったかもな。」

 ゴードンは、頬杖をついてにやりと笑った。

 轟天号の兵器管制担当に復帰した尾崎は、ゴードンの言葉に息を飲んだ。

 

 その時、轟天号から見ることができる浅間山の方から爆発炎上する炎と煙があがった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 機龍フィアの後方で、量産されたスーパーX2の一機が地面に墜落した。

 スーパーX2は、ファイヤーミラーという武装を持ち、これはゴジラの放射熱線を吸収して反射攻撃を行う対ゴジラ用に開発された兵器だ。

 ビオランテの一件の時に初出動し、ゴジラを痛めつけたが、熱線を吸収反射を繰り返し過ぎたため、ファイヤーミラーの中枢の大事な部分が熱でやられ、撃墜されてしまった苦い歴史がある。

 そのスーパーX2の改良版で、かつネルフに回されてた莫大な資金が地球防衛軍に回ってきたことで量産体制が整い数機のスーパーX2が今浅間山をゴジラの熱線から守るために出動していた。

 その内の一機が撃墜された。機龍フィアの肩越しにゴジラが吐いた“通常”熱線をファイヤーミラーで受け止めた途端、爆発炎上して墜落した。

 セカンドインパクトを乗り越えてパワーアップしたゴジラの熱線のデータをもとに改造されていたのだが、予想はいつだって裏切られるものである。特にゴジラに関しては特にである。

「あ、これ、ダメなやつだ。」

 ゴジラとぶつかり稽古みたいに押し合いへし合いしていた機龍フィアに乗るツムグは、ゴジラが隙をついて吐いた通常熱線で量産型のスーパーX2が撃墜されたのを見て、そう言った。

「ゴジラさん、スーパーX2は、高いんだから勘弁してよ~。」

 なぜならファイヤーミラーには、ダイヤモンドが使われているからだ。(自然界のダイヤモンドより固い合成ダイヤモンドだが)

 しかしだからといって手加減してくれるゴジラじゃない。南極に封印される前も合わせれば、もう目も当てられない損害を出しまくっているのだ、今更である。

「機龍フィアは、もっと高いけどね。」

 開発費を比較されば機龍フィアの方が高い。だがエヴァンゲリオンの開発費の半分にも満たない。安くて高性能が技術大国日本の神髄である。

 ツムグは、浅間山からゴジラを遠ざけるためにゴジラに迫るが、ゴジラは、絶妙な距離を保ちながら、まるでこの状況を楽しんでいるように今までと違って積極的に攻撃してこない。

 そして隙をついて熱線を吐き、機龍フィアに当たらないよう確実にスーパーX2を撃墜していく。

『何をやっているんだ、椎堂ツムグ! もたもたするな!』

「分かってるよ。でもゴジラさんが面白がってて…。ねえ、まだ使徒は孵化しない?」

『まだだ! 羽化する前兆もない。いいか、椎堂ツムグ! これ以上スーパーX2を犠牲にするな!』

「分かってるってば、もう…、ゴジラさん、勘弁してよ…。今まで散々痛めつけちゃったのは悪かったと思ってるんだから…。」

 椎堂ツムグは、珍しく動揺していた。

「…もしかして、使徒はこれを狙ってわざと羽化しないでいる? うわっ…、どうしよ。機龍フィアじゃ、マグマの潜航はさすがに…、やろうと思えばできるけど…。かといってメーサー砲で火山を…、ってできるかぁ! 波川ちゃんに怒られちゃうじゃん!」

 ツムグは、つい頭に浮かんだ可能性にヘルメットで覆われた頭を抱えた。

 頭に、そして体全体の神経を駆け回る”痛み”のような感覚に汗が伝う。

 機龍フィアの中でツムグが動揺しているのを知ってか知らずか、ゴジラはグルル…っと喉を鳴らし機嫌が良さそうに尻尾を振った。

 

 

 

 

「艦長、浅間山の陣がかなり追い込まれているようです!」

「スーパーX2が、マーク4まで四機が撃墜されました。」

「今のゴジラの熱線は、ファイヤーミラーで防ぎきれなかったか!」

 報告を受けて副艦長が悔しさを露わにし拳を握った。

「使徒はまだ孵化しないのか!」

「まだ反応はありません!」

「はあ…、やっぱりか。奴ははなからこうなるように俺達を誘い込みやがったんだ。」

「ま、まさか、艦長…、使徒はまだ羽化する前の幼体なのですよ?」

「エヴァンゲリオンを輸送する途中で出たあの魚みたいな使徒もそうだが、奴らは見かけ以上に相当頭がいい。どんな姿形であろうとな。マグマの中の蛹も俺達とゴジラを潰し合わせるエサに自分から名乗り出たんだろうな。」

「では、艦長! 使徒は、自分ごと火山を吹き飛ばさせて日本をメチャクチャにする代償に、彼らが狙っているネルフ本部に打撃を与えるつもりでいると!?」

「可能性は十分ある。」

「そんな…。」

 兵器管制のシステムを司る座席に座っている尾崎がたまらずそう言った。

 操縦席に座る風間も腕組をして大きく舌打ちをした。

 船員達に凄まじい不安と焦りの色が見え始めた時、ゴードンが帽子を被りなおして命令を下した。

 

「轟天号発進。地下に潜行して深さ1780メートル付近まで掘り進め!」

 

 ゴードンが波川の許可を取って用意していた保険が使われる時が来た。

 轟天号は、浮遊するとドリルを高速回転させて地面に突っ込み、凄まじい速度で地下を掘り進んでいった。

 

 

 

 ゴジラが熱線を吐くタイミングを見抜き、やっと隙を突かれずに熱線を吐くのを邪魔できるようなったツムグだが、背後のスーパーX2は、もう半分しか残ってない。

 ファイヤーミラーが使えないと分かり、機体を犠牲にして熱線を浅間山に当たらないようにするしかないスーパーX2は、退却することができない。

 まさに捨て身の防衛である。

 量産型スーパーX2は、無人機である。オリジナルのスーパーX2も無人機であった。乗員を守るため、そして各種データ取るためである。

 ところがこの量産型スーパーX2には、新たな戦力強化と開発を目的に試験的に機龍フィアと同じツムグの遺伝子から作られたDNAコンピュータが積んであった。

 ゴジラに対する彼にしかない独自の共感能力を持ち、なおかつ本人が機龍フィアを双子の兄弟のようなものだと認識しているのもあり、同一のDNAを持つコンピュータが破壊されるたびに“痛み”によく似た衝撃が嫌でも伝わってきていた。

 

 技術開発部は、間違いを犯してしまったのだ。

 ツムグのDNAコンピュータの量産がどんな結果をもたらすのかを。

 

「……ふざけんなよ。使徒ちゃんよぉ…。お仕置きが必要だと思わない? ねえ、ゴジラさん?」

 ツムグは、口元をひくひくさせた笑みを浮かべながら目の前のゴジラに向かってそう問いかけた。

 マイペースな彼には珍しく、かなり感情がぶれていた。

 ヘルメットと全身を覆い尽くす特殊スーツ越しに青白いゴジラの背びれに輝きに似た発光を放ち、彼の脳と接続されているDNAコンピュータがその感情のぶれに反応してエラーを示す文字を、ヘルメットに映る文字やモニターに出していた。

 ツムグの心の動きによる危険信号が司令部及び科学・技術部に伝達されるようなっているため、基地ではツムグの異変に顔面蒼白なる者が出始めていた。

 伝えられる危険信号とは、ツムグの精神がゴジラの怒りと破壊の権化のような狂暴な精神になりかけているという内容だ。

「そうだよね? お仕置きは、必要だよね。ありがとう、ゴジラさん。ほんと気が合うよね。当り前か。だって俺、ゴジラさんの細胞を持ってるんだもん。人間ってさ、ほんと面倒くさい時が多いよ。今だってそうだ。ゴジラさんがやろうとしてるみたいに、火山ごと使徒を殺せるのにさぁ。他の自国民や周りの国のためにできないって言うんだ。あのさ、俺…、どこうか? ゴジラさんのやりたいようにぶっ飛ばしてスッキリさせる?」

 ツムグの目が金色に光ってはいるが、そこにゴジラの目に宿るものと似た狂暴な炎が揺らめき始めていた。そして物騒なことを喋りはじめていた。

 ツムグは、動きのない使徒への怒りからゴジラに精神を引きずられていた。

 地球防衛軍が彼を保護した時から危惧してきた最悪の事態が起こりつつあるのだ。

 ツムグの監視と世話をしている科学部門が集まって、ツムグの脳や心臓に埋め込まれている自爆装置を作動させるスイッチを押すタイミングを図っていた。

 だがしかし、ツムグを失うことは地球防衛軍最強の兵器である機龍フィアを失うことに繋がる。またゴジラを感知できる最強のセンサーでもあり、非公式ではあるが第三新東京になる前の東京でメルトダウン寸前だったゴジラを元に戻し、南極にゴジラを封印した時のようにゴジラを追い詰める切り札にもなった貴重な存在だ。

 しかしツムグ以外にG細胞完全適応者が発見されていない、またそれに匹敵するものもない以上、ツムグを死なせる(死に至りそうな重傷を負わせる)のは、戸惑われた。

 ツムグを危険視する反対派達が急かせるが、波川らのようにツムグを失うリスクを危惧する者達が必死で止めている状態だ。

 波川は、この非常事態の中、保険を託したゴードンのことを思った。

 連絡は入っていないが、すでに動いているはずである。

 波川は、汗を垂らしながら歯を食いしばり、ゴードンが早くこの事態を好転させてくれることを願うことしかできなかった。

 

 

 そして、彼女の願いは、それほどかからず叶うこととなった。

 

 

 浅間山を観測していた基地の科学部門と浅間山の方で観測を行っていた部隊からの緊急伝達で、浅間山の火口から胴長な平たい魚みたいな姿をした使徒が飛び出てきたのだ。

 

 

 

 時は、少し遡り。地中を掘り進む轟天号は、予定の地点で止まった。

「地熱で機体が熱されていますが、今のところ異常はありません!」

「弐号機の輸送あとで対熱性と冷却装置を改良したからな。」

 浅間山の活動で熱された地下の地熱は凄まじいが、改良されたこともありマグマに直接ダイブするよりはマシだ。

「使徒の位置はどうだ?」

「観測された深度1780メートル地点からほとんど変わっていません。」

「よし。尾崎! 蛹の中で寝こけてるお寝坊さんを冷やして、たたき起こしてやりな!」

「了解! メーサー発射!」

 轟天号のドリルの先端から、極太のメーサー砲が発射された。

 メーサー砲は、地熱で熱されている地中の中で一切威力を殺されことなく突き進み、やがて浅間山のマグマの中に到達して、目標であった使徒の蛹に着弾した。

 その瞬間、蛹の周りのマグマが急速に温度を失い、マグマの中にちょっとの間であるが氷が発生するという現象が起こった。

 氷がマグマの熱で溶け、固まったマグマも溶けた後、蛹に大きな変化起こり、そして蛹の中から長い胴体をくねらせる使徒が現れ、一目散に浅間山の火口へ向かって上昇して行った。

 火口から飛び出した使徒は、平たくて細長い胴体から平たい大きなヒレを広げ、空へ舞いあがった。

「よし! 全速力で後退し、地上へ戻れ!」

「ラジャー!」

 風間が操縦桿を思いっきり引いて、轟天号をもと来た道から地上へ飛び立たせた。

 中空へ舞い上がった轟天号がまず目にしたのは、浅間山の上のあたりの宙で苦しそうに悶えながら飛行する平たいカレイやヒラメが少し胴長で、細長い腕のようなものがある、エイのような大きなヒレを広げた姿へ変異した使徒サンダルフォンだった。

 

 

 

 いきなり轟天号の最大の兵器であるメーサー砲で冷やされたため使徒サンダルフォンが蛹から無理やり出てこなければならなくなり、灼熱の中に適応していたサンダルフォンは体が慣れるまで浅間山の上でヒラヒラと舞いながらクネクネと身をよじっていた。

 機龍フィアの顔がそちらに向けられて、中にいるツムグも同じ体勢でポカンッとサンダルフォンを眺めていた。

 ゴジラもゴジラで飛び出してきたサンダルフォンを機龍フィア(に乗ってるツムグ)と一緒にジッと見ていた。

 その間に、怪しくなっていたツムグの目とその心が急速に安定して、ゴジラのそれから遠ざかっていった。接続しているDNAコンピュータもエラーを知らせるのをやめた。

「あ…、保険ってそういうことだったのか。さすがゴードン大佐。ダメだな~、俺ってば。アハハハ、60過ぎてるってのに、何やってたんだろ?」

 ゴードンが轟天号を使って浅間山の中でだんまりを決め込んでいたサンダルフォンを引きづり出すのに成功したことを知ったツムグは、ヘルメットの上から額を押さえ、ケラケラと笑った。

 

 ツムグが元に戻ってくれたことに、基地の司令部では、全員がぐったりしてでかいため息を吐いていた。

 特に波川は、ツムグを殺すのに一番躊躇していただけに一番ぐったりしていた。

 

 やがてサンダルフォンは、温度の変化と蛹から出てマグマから出て変態したことに適応し、クネクネするのをやめた。

 変化が終わったからか、体の皮膚は硬質化し、昆虫のような鎧めいたものになっている。こう見るとまるで太古の海に生息していた原始生物の化石にそっくりだ。

 サンダルフォンが体が安定して一息ついていると、浅間山の付近、つまり自分の下の方で自分を見ている黒い巨体と、赤と銀の鉄の塊に気付いて、宙に浮いたまま固まった。飛行状態を維持するのにヒレをヒラヒラと上下させているが。

 使徒の反応は、まさに、あっ、ヤベ…っという感じだ。

 ヒラヒラとヒレを上下させていたサンダルフォンは、少しずつ後退していった。地面に足がついていたなら後退りのそれだ。

 カレイやヒラメみたいに目が片方に偏った位置といい顔の形がどうなってるのかさっぱりなグロめの形状をしてるのだが、漫画表現なら全身からダラダラ汗をかいているのが見ていて分かるのが不思議だ。

 しかしサンダルフォンの背後には、サンダルフォンを超える巨大な戦艦、轟天号が待ち構えていた。それにまったく気づいてない様子でジリジリと轟天号のドリルに向かって行っている。

 

「……艦長、このまま撃ち落しますか?」

「フン…、こっちの胆を冷やさせてくれた礼だ。たっぷりと後悔させてやる。やれ!」

「メーサー発射!」

 ゴードンから許可を取った尾崎は、メーサーの発射スイッチを押し、轟天号のドリルの先端からついさっきサンダルフォンを蛹から無理やり引っ張り出したメーサー砲を発射した。

 メーサー砲は、無防備なサンダルフォンの背中に命中し、サンダルフォンは、悲痛な甲高い鳴き声をあげながら、宙に浮いたままカチカチに凍った。

 体の芯まで凍り付いたサンダルフォンは、そのまま地面に落下していったが、落下する直前に、放射熱線と、ミサイルやレーザーなどの射撃武器が飛んできてサンダルフォンの体を木端微塵に粉砕して焼き尽くした。

 サンダルフォンを攻撃したのは、ゴジラと機龍フィアだった。どう見ても、たった今、熱線を吐きましたよというのを示す開いた口と、小さな煙を立ち昇らせている突きだした砲門と、可変した機体の一部から出たレーザーの砲門が見えてる。

「ツムグ…。」

 尾崎は困ったように呟いた。

 数秒してゴードンが艦長の席で大笑いし始めた。

「こりゃ傑作だ! こんな共同作業、地球防衛軍ができてから一度だってなかったろうな!! 上層部の間抜け面が目に浮かぶぜ!」

 ゴードンは、ついに腹を抱えて笑い続けた。

 サンダルフォンを殲滅し終えた後、機龍フィアは砲門を閉じ、ゴジラは口を閉めた。

 ゴジラは、一度だけ轟天号の方を見てから、もう用は済んだといわんばかりに背中を向けて海に向かって去って行った。

 

 なんだこのゴジラの潔さは?

 

 アメリカでエヴァ四号機を破壊し、アメリカのネルフ支部をぶっ壊し、ついでにアメリカの中心都市で暴れ回った今も昔も変わらぬ暴れん坊があっさり帰った…。

 地球防衛軍側は、量産型のスーパーX2を何機も破壊され損害を受けたが、35年以上も前から遡るゴジラとの戦歴を見ればこんなに被害がなく、さっさとゴジラが帰ったのは夢か幻のような錯覚にさえ思えるほどだ。

 

 

 

「もしかして…、ゴジラは、浅間山ごと使徒を破壊するつもりなんて最初からなかったのかしら?」

 科学部門の室内で、白衣を着た音無がそう呟いていた。

 音無のその言葉で、サンダルフォン対策でゴジラに浅間山を熱線で破壊された時の被害もろもろを力説していた責任者が机にゴンッと頭を打ち付けて脱力した。

 しかし音無の言い分だとゴジラの気持ちが分かるツムグがそのことに気付くはずだ。

 危惧されていたゴジラの精神寄りになるという問題が起こりかけたが、彼がゴジラが最初から浅間山を破壊する気がなかったとは言っていなかった。

 つまりゴジラが浅間山を破壊して中にいる使徒を殺す気はあったのは間違いない。

 だが轟天号の介入もあり蛹のサンダルフォンを無理やり火山の中から出すのに成功したため、浅間山を壊す理由がなくなっただけなのだろう。

 現に機龍フィアと共にメーサーでカチカチに凍ったサンダルフォンを殲滅しただけで帰って行った。

 

 35年以上も前から、間に35年ぐらいのブランクはあっても長い間戦ってきた相手だというのに、全然ゴジラの考えていることが分からないものである…。

 ゴジラの気持ちを感じ取れる椎堂ツムグがいてもいなくても、なぜかそれだけは覆しようがないのだから本当に困ったことだ。

 

 

 

 ゴジラが海に帰っていって、浅間山の安全が確認されたあと、地球防衛軍の陣営は撤退した。

 機龍フィアがドッグに戻され、ツムグが降りてきた後、ツムグにはすぐに司令部と科学部門からの質問攻めになった。

 内容は、ゴジラがなぜ今までと違いまるで遊んでいるようにスーパーX2を破壊するだけで積極的に使徒サンダルフォンが潜む浅間山を攻撃しようとしなかったこと。

 そしてサンダルフォンが出てきて、轟天号に凍らされたあと、機龍フィアと協力する形でサンダルフォンを殲滅して、それ以上のことはせずさっさと海に帰って行ったことだ。

 このこのことについて、ツムグはこう語った。

「ゴジラさん、珍しく遊びたいって気分だったみたいでさ…。なんか機嫌良さそうだってんだよね。なんか良いことでもあったのかな? 詳しいことは分かんないけど。」

 なぜか上機嫌だったらしいゴジラ。

 ツムグは、今回に限って感情のぶれが大きかったためゴジラの思考の詳細内容までは分からなかったらしい。

 

 後に分かることだが、この時ゴジラが機嫌がよかったのは、セカンドインパクト後に標的として定めた抹殺対象のエヴァ一機(四号機)を破壊できたのと、久しぶりに派手に大都市で暴れられたのと、上陸した国(アメリカ)の大都市に標的のひとつであるゼーレの手足になっているゼーレに忠実な人間達が多くいてそのほとんどの命を葬ってゼーレを追い詰めて苦しめるのに成功したからだった。

 

 結果として、地球防衛軍は、ゴジラに遊ばれてしまったのだという事実に上層部は頭をかきむしったり、胃薬、頭痛薬を飲んだりと荒れたという。

 また回収された撃墜された量産型スーパーX2のブラックボックスと、撃墜されず残った量産型スーパーX2の記録と機龍フィアのDNAコンピュータの記録と信号をキャッチした時の記録のデータの照合の結果、試験的に量産型スーパーX2に搭載していた機龍フィアと同じDNAコンピュータを破壊された時の瞬間がツムグに大きな精神ダメージを与えていたことが分かり、これがツムグの暴走寸前になるのを招いたことになる。

 これによりツムグのDNAコンピュータの他の兵器への使用、及び開発は即座に凍結。

 ツムグのDNAコンピュータを機龍フィア以外の兵器搭載と開発を推していた技術部のチームは、上層部に呼び出され、危うくツムグが最悪の敵になる寸前までいってしまった結果について問われたが、こんな結果は予想外だったと答え、改良さえすればツムグ無しで無人機による大幅な戦力増強になると力説したものの、このことでこのチームがツムグの共感能力の強さと、ツムグのDNAコンピュータがツムグにとって心と体の一部みたいに強い繋がりが発生している資料があったのにそれを完全に考慮せず、いや理解せずツムグへ影響を避ける処置を一切していなかったDNAコンピュータを今回浅間山の陣営に出撃させた量産型スーパーX2に搭載させていた事実が浮き彫りになり、ツムグのDNAコンピュータの開発を力説し、なおかつ開発計画の凍結解除を願ったチームリーダーが波川をはじめとした上層部の面々からでかい雷を落とされたのは言うまでもない。

 ツムグのDNAコンピュータを他の兵器に使うという許可書に判を押したのは波川だ。しかしその許可を貰いに来た開発チームがツムグの危険性を理解していなかったことを見抜けなかった。彼らにとってツムグは有能な試験パイロットで兵器の材料程度にしかなかったのだ。

 ゴジラに浅間山を破壊させないための重大な作戦の時に起こった痛恨のミスは、そのチームを有していた技術開発部全体の評判を落としただけじゃなく、機龍フィアを兵器として使い続けることとツムグを生かしておくことの危険性による不安を防衛軍全体に広めてしまう爪跡を残してしまった。

 

 

 活火山に潜んでいた使徒サンダルフォンに振り回された今回の戦いは、こうして幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、ネルフ本部では。

 ネルフにいく資金のほとんどを打ち切られたため、最低限の維持しかされていない初号機のドッグ。

 前に突然謎のシンクロ率上昇と、電力供給も無しに暴れだしたために破壊された顎のジョイントがすでに修復された初号機の目に、怪しく光が灯った。

 

 オ  ニ  イ  チャ  ン

 

 もしドッグに人がいたならその不安定な子供の声を耳にしていただろう。

 残念ながら個人的な理由で初号機に固執するゲンドウも、初号機の異変を知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 




 意図的に羽化しないでいたサンダルフォンと、上機嫌なゴジラに振り回されてしまった地球防衛軍の回でした。

 次回は、マトリエルだけど、マトリエルよりこの文の最後の方でおかしな動きを見せ始めてきた初号機絡みのネルフでの話になるかもしれません。


追記。
 コメントにスーパーX2が無人機であるという情報を下さって誠にありがとうございます。戦闘機という欄だけで勝手に有人機にしてしまい違和感を与えてしまい申し訳ありませんでした。ゴジラ兵器について書くときはもっと下調べをしていこうと思います。
 DNAコンピュータについては、無人機として書き換えると決めた時に思いついたものです。この話でツムグが暴走しかけた理由が有人機設定だった時は戦死者が出たことに怒ったせいでしたが、無人機だとこれが発生しないので他の案を考えた時にツムグに悪い影響を与えるものが他にあるとしたら機龍フィアのDNAコンピュータかなと思い、そしてその小型版みたいなのを他の兵器に使う計画があって、それをやってた側に問題があったために危うくツムグが暴走寸前までいったということにしました。開発チームがあのあとどうなったかはご想像に任せます。
 6話は地球防衛軍は強いけど万能じゃないという意味で失敗を描く予定だったので、今回の書き換えで開発チームの理解力のなさとそれを見抜けなかった波川達上層部の大失態という展開にしました。


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第七話  椎堂ツムグの決意 その1(※一部書き換え)

 この小説は、アンチ・ヘイト系だということをお忘れなく。
 閲覧の際は、きちんとタグを確認してください。


 今回は、ミサトの扱いが悪いです。
 ミサトファンの方は閲覧をご注意下さい。

 マトリエル編になりますが、ネルフ停電も含めてみんなが大変な回になります。

 あと、エヴァキャラと思わぬフラグが立つ(?)かも。


2015年2月8日。6話の書き換えに伴い、冒頭の一部書き換えました。


 浅間山で蛹の使徒サンダルフォンが見つかり、火山国の日本への影響を考えて浅間山ごと破壊されまいと命を懸けて陣をしいた。

 ところがゴジラは、轟天号に乗るゴードンの機転で無理やり蛹から出てこなくてはならなくなって火山から飛び出してきたサンダルフォンを機龍フィアと共に殲滅すると、特に暴れることなく潔く海に返ってしまった。

 気を張ったのが馬鹿らしくなるゴジラの気紛れもうそうだが、浅間山を防衛するために出撃していた改良を重ねていたスーパーX2のファイヤーミラーが今のゴジラの熱線に耐えられず何機かを撃ち落された。

 量産型のこのスーパーX2には、地球防衛軍所属の技術開発部でツムグのDNAコンピュータのその他兵器への搭載を推していた開発チームがツムグのことを理解しないで搭載した小型のツムグのDNAコンピュータがあり、破壊されるたびにツムグに大きな影響があり、そのせいでツムグが暴走寸前になる事件を引き起こしてしまった。

 開発チームと、DNAコンピュータを応用する開発を許可した上層部の大失態であった。

 DNAコンピュータのその他兵器への応用の開発は凍結。開発チームも解散となり、兵器開発の大幅な見直し、更に技術開発部の評判が悪くなってしまったり、ツムグの処遇について反対派が増えたりと混乱が広がった。

 

 それから何週間もの間、使徒は出現せず、ゴジラも第三新東京に現れることなく、ふとすると緊張感がなくなりそうな平穏な日々が過ぎていっていた。

 

 

 

***

 

 

 

 

 シンジは、なぜ今自分はこういう状況になったのだろうと考えていた。

 天気は快晴。セカンドインパクトの影響で年中夏の日本であるが、今日は実に良い風か吹いている。

 地球防衛軍の基地の庭。正確には違うのかもしれないが、柔らかい芝生の広い敷地がある。

 シートを敷いて、大きな日よけ傘で紫外線と直射日光を避け、バスケットを開けて、そこに入れていた水筒とキュウリと人参と果物の三種類のサンドイッチを広げている。肉類は一切使ってない。ただしバターなどの乳製品はパンに水分が沁みないようにするために使っている。

 シンジの隣には、両手でサンドイッチを持ってもくもくとサンドイッチを食べている綾波レイがいる。

 実は野菜と果物のサンドイッチをリクエストしたのは、レイである。

 ついでにこの庭(たぶん)で一緒に食べようと言い出したのもレイだ。

 昼の食堂で出す日替わりランチのサンドイッチセットを作っていた時、レイから急に言われたのだ。

 基地に庭があるから、お昼の仕事が終わったらそこでシンジが作ったサンドイッチが食べたいと。

 そして肉類は食べられないから肉は無しでと。(あとで理由を聞いたら血の味がするからだそうだ)

 いきなりのことに固まったシンジの返事を待たず、違う仕事に行ってしまったレイに理由を聞くことができず、シンジは、混乱しながらリクエストされた肉なしの野菜と果物のサンドイッチを作り、お弁当を詰めるバスケットにお茶を入れた水筒も用意した。シートと日よけ傘は、レイが用意し(どこから持ってきたんだ?)、そして現在に至る。

 シンジは、緊張のあまりサンドイッチが喉を通らず途方に暮れていた。

 しかしこのままではいけないと、せめて理由だけでもと精いっぱい頑張った。

「あ…、あのさ…。」

「なに?」

 レイは、相変わらず淡々としているが、少し前のように人形のようなものではなく、呑気さを感じさせる。

「な…なんで、僕のこと……、じゃなくて…、えっと……お昼…。」

 頑張るけど中々言葉にならない。

「これ、美味しい。」

「えっ?」

「だって、碇君、料理が上手だって聞いたから…。それに今日のサンドイッチセット美味しそうだったから。」

「えっ? えっ? つまり、僕の作ったサンドイッチが食べたかったから?」

 言われたことを理解できず知らず知らず間抜けな顔になってしまったシンジが聞くと、レイは、こくりと頷いた。

 ここの食堂は、一週間の交代で食堂の職員のまかないを作るのが義務付けられている。義務化された理由は、プロの調理師がなんらかの理由で仕事に来れなかったり、もしも非常時でサバイバル状態に陥った時に腹を壊さず飢えをしのぐための術として簡単ではあるが適切な調理ができるように訓練するためである。ゴジラに始まり、怪獣との死闘を繰り広げてきた地球防衛軍と被災地で食事情で苦労した一般人達の体験から決められたことであった。

 新人でまだ学生の身であるうえに、特殊な理由で基地に身を置くシンジも漏れずその義務を負わされる。

 自炊経験が幸いし、初めて他人のために作ったシンジのまかない料理は好評で、シンジは他人のために料理を作る楽しさを覚えて食堂で働くことに幸せを感じ、初めはタダで基地においてもらうことに負い目を感じて頼み込んだことだったが今はここ(M機関の食堂)に来て本当に良かったと思っている。おかげでシンジの調理の腕は食堂で働くプロの調理師に匹敵するほどまでに上達された。

 なのだが、まさか、同い年の、それもとっても綺麗で可愛い女の子に料理をリクエストされて、更に一緒に食べようと誘われるなんてシンジは、夢にも思わなかった。

 だが理由を聞いてみれば、実はシンジの料理が美味しいと聞いたから食べてみたかったのと、今日の日替わりランチメニューのサンドイッチが美味しそうだったからだったということが分かり、シンジは、そのまま横に倒れそうになるほど脱力した。(レイの方に倒れてない)

 レイはまだシンジのまかないを食べたことがないが、来週はシンジの担当なので食べれたのに…。予定表のカレンダーにもしっかりそのことが記されているのに我慢できなかったのか?

 しかし…、しかしである。

 二人は、多感なお年頃の少女と少年だ。こんなどう考えても勘違いするシュチュエーションになるような形で頼まなくたっていいだろうに。

 残念なことにレイは、その出生と育った環境によりそういう知識がまったくと言っていいほどないので、全然気付いてない。だから無意識にこんなことになってしまったのだ。

 シンジは、レイが普通の人間よりそういう常識的な部分が欠けているのを聞いていたし、食堂で一緒に働いていてもレイが食べるこという行為がただ体を維持するための義務としか認識してないなどの問題に直面したりしていて食事の大切さを食堂のおばちゃん達と一緒に教えたのは記憶に新しい。

 体は大きいけれど、これではまるで自分より年下の子供を相手にしているようだとシンジは思った。

 そのことをすっかり忘れて二人きりでお昼を食べようと誘われてレイを普通に異性として意識して健全な男の子として反応してしまったことに、シンジは脱力し、罪悪感と共に恥ずかしくて思わず体操座りになって顔を隠した。

「碇君、首と耳も赤い。熱があるの?」

「ちが…。ううっ…。」

 シンジは、レイに淡々と指摘されて、ますます恥ずかしくなって、半泣きなった。

 

 

 

「がんばれ、少年! 近いうちに報われるから!」

 

 庭を見ることができる、基地の建物の隙間から、椎堂ツムグが、こっそり覗いていて、聞こえない音量でシンジを応援した。

 

「その子だっておまえのことちゃんと意識はしてる。ただまだ自覚がないだけだ。性に目覚めてないだけだ。頭は良いからそう遠くない未来に報われるって! ……ん?」

 

 シンジを応援していたツムグだったが、ふいに何かに気が付き、後ろを向いて、宙を見上げた。

 そして不愉快そうに眉を寄せた。

 

「……おいおい。どうなってんだ? あいつ…、意外に粘着質だな。絶対、尾崎には近づけさせないぞ。」

 

 ツムグは、誰かに向かってそう言うと、その場から姿を消した。

 ツムグが去った後、レイがシンジの腹の虫の音を聞いて、シンジお手製のサンドイッチを食べさせようとシンジの気も知らず、そして可愛くて綺麗な女の子が思いっきり近寄ったら普通の男の子がどんな気持ちになるかも知らずに、サンドイッチを片手に迫ってシンジを余計に赤面させてゆでダコみたいにさせるのだった。

 完全に混乱してるシンジをよそに、レイは、食事というのはかつて自分が住んでいた殺風景なマンションの一室でひとりで食べるより、今日のようないい天気の日に誰かと一緒に食べる方が美味しいのだということを理解し、シンジにまた頼もうと呑気に無邪気に考えていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ネルフ本部の一角。

 今はまったく機能していない作戦本部の作戦部長であるミサトは、ご機嫌ななめだった。

 自宅待機なのに暇だからここにいるのはもう恒例になっていた。

 そんな彼女が機嫌を悪くしているのは、彼女の目の前にいる無精ひげの男のせいである。

「なんで、あんたがここにいんのよ?」

「つれないな~。久しぶりに会ったていうのにそんな顔するなよ、葛城。」

 加持リョウジ。ちょっと前にアスカと共に轟天号でネルフ日本支部に運ばれた男だ。

 あの後ネルフの司令部に顔を出したもののミサトには会ってなかった。

 そして今日、偶然にも加持と接触することになった。

 やたらミサトに馴れ馴れしい加持。

 それもそのはず。加持はミサトの元恋人なのだ。

「用がないならさっさと帰りなさいよ。」

「いいじゃねぇか。おまえだって作戦部が機能してなくってメチャクチャ暇してるんだろ?」

「うっぐ!」

 言われたくない事実にミサトは、呻いた。

「リッちゃんにも会ったけど、なんかゴジラや地球防衛軍の資料見るのに夢中みたいだし。折角だし、飲みに行かないか?」

「いくら暇でもあんたと一緒にいる時間は作らないわよ。」

「なんだよ~。奢ってやるのに…。」

「おご…!」

 加持の言葉にミサトが思わず過剰に反応した。

 本部の維持費以上の費用を削減されたネルフ。特に本部を維持する部門の責任者以外の給与は大幅に削られてしまった。ミサトの作戦部もその一つであり、ミサトの給与は最低限の生活を出来る程度まで削られてしまっている。

 やることがないこともあり、娯楽に逃げたくてもそのためのお金もなく、ネルフに権限があった頃は忙しくて一日の疲れを癒すための楽しみだったビールも制限しないと食事に困る状態だった。

 積み立てのローン(主に車)の支払いなどもあるが、ミサトの給与は、それを差し引いても自炊などして工夫すれば十分娯楽を楽しめる程度にはある。しかしミサトは家事一切がすべてできないインスタントに頼る生活をしていたため生活は苦しくなっていたのだ。もちろんゴミなどの掃除もほとんどできず、彼女の住いのマンションは、ゴミ溜め状態である。洗濯もネルフのクリーニング(本部に住む込みの職員用なのだが)を利用して辛うじて衣服はなんとかできている状態だ。

 そんなミサトには、加持の食事を奢るという言葉は魅力的すぎた。

 しかし加持とあまり接触したくない気持ちもあり、ミサトは、唸った。

 加持は、そんなミサトを見ていて、楽しそうに笑っていた。

 今のミサトは、例えるなら目の前にオヤツをチラつかせられて、デレるべきかツンな態度をするか葛藤する猫である。

 加持が葛藤しているミサトをくすくす笑って楽しそうに見つめていた時。

 加持は、視線に気づいてバッとミサトの後ろの通路の曲がり角のところを見たら…。

 

 黒いつなぎのジャンプスーツにプロテクターという特徴的な地球防衛軍のミュータント部隊の戦闘服を纏った青年がいた。

 青年は、呆れ顔で加持とミサトを見ていた。

 

 加持は、彼のことを知っていた。

 

 地球防衛軍・M機関の風間勝範少尉だ。ドイツからアスカと共に日本に移送された時に見かけている。

 風間の冷めきった目線に、加持は、思わず引きつった笑みになってしまい、気まずい汗をかいた。

 やがて風間は、フンッという風に体の向きを変え、去って行った。

「ちょっと? なんて顔してんのよ?」

「えっ?い、いいいいいや、なんでもない! なんでもないんだ!」

「でっ…、ホントに奢ってくれる話だけど……。」

「ああ、どーせ、インスタントか、コンビニ弁当ばっかなんだろ? たまには美味いもん食わせてやるよ。」

「失礼ね! もうあんたなんか知らない!」

「あ、おい、ミサト。」

 ムキ~ッと機嫌を悪くしたミサトは、加持に背を向けて早足で離れていった。加持は、そんなミサトを追いかけた。

 ところで、ミサトが行った方向は…、さっき風間が去って行った方向である。つまり。

「キャっ! ちょっと前気を付けなさいよ!」

「…はっ?」

 前を見てなかったミサトが、前を歩いてた風間の背中に思いっきりぶつかったのだった。

 ミサトは、風間が後ろを向けていたのに前に気を付けろと難癖をつけてきたので風間はただでさえムスッとしている顔を余計に悪くした。

「って、あんた誰? あと、その恰好って…、ミュータント部隊の奴!? なんでこんなところにいんのよ!」

「ぶつかってきておいて謝罪も無しか。」

「そんなことはいいでしょ! 答えなさい!」

「なんで答えなきゃならない? 使い物ならないオモチャ抱えた、ゴジラのエサのくせに図に乗るな。」

「な、なんですってー!」

「大体、おまえらネルフに地球防衛軍にどーこー言う権利はない。もちろん質問もだ。だから俺がこんなところにいることを答えるわけないだろ。」

「キーーーー! 年上に向かってなんて言いぐさよ! 毛も生えそろってなさそうなクソガキの癖にー!」

「歳は関係ないぞ、オバさん。」

 風間は冷静に返しているが、内心では、『俺は二十代だ』っと軽く怒っていた。

「私はまだ二十代よーーー!」

「お、落ち着けって、葛城!」

「ったく、こんなだからおまえらネルフは、地球防衛軍に切り捨てられたんだ。」

 風間は捨て台詞を残して背を向けると、去って行った。

 ミサトを後ろから羽交い絞めにしている加持は、大きなため息を吐いた。

 風間の言い分は理解できる。

 ネルフがここまで失墜したのは、ネルフがまだ実権を持っていた頃、国連の上層部に対して多くの無理を押し通し、それ以外の組織にも権力で圧力をかけるなどして不平不満を買ったからだ。その主となる原因は、総司令の椅子に座っているゲンドウになるのだが、それ以外の職員もネルフという肩書を使い好き勝手した前科があるため、その被害にあった者達から伝染してネルフへの不信は世の中に広まってしまった。

 これまでは、ネルフの権限で被害者達の声は抑え込まれ、時に事故を装って社会的に抹殺されるという非道な処置が平然と行われたことすらあった。

 それゆえにネルフが地球防衛軍の復活であらゆる権限を失った途端、これまで泣き寝入りするしかなかった被害者や、被害者遺族は地球防衛軍にネルフから受けた被害を訴えた。結果、ネルフの肩書きを使い好き勝手していた職員は根こそぎ処罰され(防衛軍に転職した者も含む)、地球防衛軍の管轄にある、恐らく世界最凶の監獄に放り込まれた。

 この監獄…、地球防衛軍が解散されるずっと昔に作られ、怪獣対策のために培われた技術力を駆使した死刑より怖い罰を受けるので、世界中の凶悪犯罪者が送り込まれるようになった有名な監獄である。

 地球防衛軍が解散してからも監獄自体は残ったため、ゼーレもこの監獄の有用性を認めていたらしい。しかしゼーレは、自分達の意思にそぐわない人間を放り込むなどしていたため、地球防衛軍が復活してからは、一度囚人たちの経歴と罪状を洗い、ゼーレによって罪をでっち上げられて放り込まれてしまった者達は即座に解放された。

 このように、ゴジラがエヴァを狙っている以外に、積りに積もった悪行が地球防衛軍がネルフを切り捨て、権限も資金も最低限に抑え込まれ、ゴジラを誘き寄せるためのエサという役目を言い渡させたのだった。

 もしも、もしもであるが、ネルフが不信を募らせず、まっとうな道を歩み信頼を勝ち得ていたなら、地球防衛軍はネルフを切り捨てはしなかったただろう。

 地球防衛軍が築いた怪獣兵器、その他技術に及ばずともMAGIを始めとした世界最高峰の技術力を有している。またMAGIの開発者を母に持つ赤木リツコを始めとした人材にも恵まれているため手順と交渉次第ではGフォースのように組織内部にある組織として機能することが許されていただろう。

 しかし、後の祭り。

 過去は、変えられない。現実は非情だ…。

「いい加減はなしなさいよ!」

「ぐふっ!」

 思考にふけていた加持は、羽交い絞めにしていたミサトに肘で腹をつかれて体を二つ折りにしてその場に蹲った。

 加持を撃退したミサトは、怒りの感情のままに去って行った風間を追いかけて走って行った。

「ま、待て…。いくらおまえでも風間少尉に勝てないっていうか…、風間少尉に手を出したら地球防衛軍が…ネルフに……、ウグッ。」

 加持は遠ざかるミサトの背に手を伸ばすも、その場に倒れてしまった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 風間がネルフに来たのは、地球防衛軍からネルフに行くよう命令された監査官の護衛のためだ。

 護衛にあたっているのは風間だけではない。風間の仲間のM機関所属のミュータント兵士も何人もいる。

 風間は、その護衛として派遣されたミュータント兵士達の指揮を執る立場である。

 護衛対象の監査官は、ネルフ総司令官ゲンドウと副司令の冬月がいる指令室に籠っている。でかくてごっつい旅行用カバンに書類を詰めていたのだから、ねっちねち責めているに違いない。

 監査官の身に何かあってもすぐ対応できるよう仲間を配置し、風間はネルフ本部を見て回っていた。

 いまやほぼ全ての権限を失い、ゴジラを誘き寄せるためのエサ扱い状態のネルフだが、マッピングなど情報を頭に叩き込んで置くに越したことはない。もしも使徒が侵入した場合の対応に即座に備えられるから、これも仕事の一環だ。

 ネルフ本部のマッピングは勿論だが、風間は無駄に広大で入り組んでいるネルフ本部の中で、ある物を探していた。

 

 探し物は、エヴァンゲリオンである。

 

 尾崎と音無からエヴァンゲリオンが使徒から作られたもので、幼い子供の親を材料にしている疑いがあること。そして尾崎がシンジの心にダイブした時に仕入れた情報からサードインパクトとジンルイホカンケイカクなる謎の災厄の鍵である可能性があるため、その真実を確かめるためである。

 しかし、さっきからずっと歩き回っているのだが、一向にエヴァンゲリオンのところに辿り着けずにいる。

 決して方向音痴ではない。むしろ持ち前の特殊能力もあって一度通った場所はまるでゲームや本に挟む栞のように頭に記録している。

 権限を奪われる前に機密としていたのでそう簡単には見つからないようにしているのだろう。世界最高峰の技術力と情報網を持っていたネルフがミュータントの特殊能力で機密が暴かれるのを防ぐ対策をしていても不思議ではない。

 M機関の設立は、ミュータントの社会的地位の保証と同時に、犯罪に走るミュータントを無力化させる技術を編み出すことになるのだ。

 ネルフにもしっかり、その技術が使われていることに、風間は、舌打ちした。

「あら? お仕事はいいのかしら? M機関の方。」

 プシュッと音が鳴って、通路沿いにあった扉の一つから白衣をまとった金髪の女性が出てきた。

 その容姿を見て、風間はすぐにこの女性が誰なのか思い出した。確か地球防衛軍がまとめたネルフの要人リストで一番重要な存在だと明記されていた…。

「赤木リツコ…。」

「まあ、私のことをご存知なの? 光栄だわ。」

 リツコは、悪戯っぽく微笑んだ。その美しく妖艶な表情に、風間は思わずたじろいた。

 年頃は、自分にぶつかってつっかかってきたミサトと同じぐらいなのだが、随分と雰囲気が違う。同じ女なのにこうも差が出るのかと風間は無意識に感心した。

「何か困った事でも? 私でよければ力になりますわよ。」

「……エヴァンゲリオンは、どこにある?」

 大人の女性の雰囲気が前面に出ているリツコが年下の風間にそう言うと、風間は、遠慮なく言った。

 するとリツコの雰囲気が変わった。表情も硬くなり、風間に向ける眼差しが鋭くなった。

「理由を聞かせてもらえるかしら?」

「確認したいことがある。見せてもらえるだけでいい。」

「…分かったわ。案内するからついてきて。」

 リツコは、背中を向けて歩き出し、風間はその後を追った。

 

 

 

 リツコと風間が通路の先へ進んでいった後、二人の後方にある通路の曲がり角から、そ~っと椎堂ツムグが顔を出した。

 

「風間くんは、仕事ついでの調査か…。尾崎みたいにお人好しじゃないから適任かも。あの方向…、赤木博士が見せるのは、参号機か…。零は暴走した後のまま放置だし、弐号機は絶賛修理中だし、五号機は未完成だし…、初号機は………、あっ! 忘れてた、俺の目的は、初号機だった! 俺の馬鹿! 機龍フィアのDNAコンピュータの接続で頭がボケたかな? まっ、いっか。急ご。」

 などと独り言を口走り地団太を踏んで、大急ぎで違う方向へ走って行った。

 

 

 一方では。

「あーもう! あいつ(風間)どこ行ったのよ、まったくぅ! ってここどこよ! 仕方ない…リツコに電話しよ。…………ちょっとぉ、電源切ってるってどういうことよ! リツコーーー!」

 薄暗い空間にミサトの叫び声が木霊した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 リツコに案内されたエヴァンゲリオンの格納庫のハンガーにかかっている黒っぽいエヴァンゲリオン参号機の頭部を、風間は見上げた。エヴァンゲリオンは、LCLに漬かっているので頭部と肩の部分しか見えない。エヴァンゲリオンの全長は80メートルもあるので見えてる部分だけで十分すぎるほどでかい。

「これがエヴァンゲリオン・参号機よ。」

「さんごうき…。」

 見た目は、黒っぽい色を抜けば、角がない初号機といった感じだ。口の形や頭の造形は、初号機によく似ている。

 だが、形だけは似ていも、何か根本的な部分が初号機とは全く違うと風間は思った。

「もしかして他の機体を希望してたかしら?」

「いや、十分だ。エヴァンゲリオンを一度しっかり見ておきたかっただけだからな。」

「そう…。そういえば、あなた達は、第三使徒襲撃の時、初号機によじ登ってたわね。」

「パイロットを保護しろと命令されたからだ。」

「そう。あの子は元気?」

「それを聞いてどうする?」

「ただ気になっただけよ。…あんな方法で無理やり乗せたから。」

「…ふぅん。自覚はあったのか。」

 シンジに初号機に乗るよう誘導したことに少なからず罪悪感を持っているのを感じ取った風間は、目を細めてリツコの横顔を見た。

「レイのことも保護してるんでしょ? あの子、免疫が弱いから定期的な処方が必要だったんだけど、地球防衛軍の医療技術なら問題無いわね。」

「単刀直入に聞かせてもらうぞ。」

 レイのことで少し感傷にふけるリツコに、風間がきつい口調で言った。

「エヴァンゲリオンは、使徒なのか?」

 風間の言葉に、リツコは答えなかった。それを風間は肯定と受け取った。

「…なるほどな。じゃあ、俺はそろそろ仕事に戻る。俺の要求に応えてくれたことには、感謝するぞ。」

「これぐらいなんでもないことよ。ねえ、言うこと聞いてあげたんだし、お礼に私の我儘聞いてもらえるかしら?」

「……なんだ?」

 急にニコニコ笑いだすリツコに、風間は思わず一歩後ずさった。

 

 数秒後、『いでぇ!』っという風間の短い悲鳴があがった。

 

 

 

 

 風間と別れたリツコは、それはそれはご機嫌な様子で研究室に戻ってきた。

 戻ってきて数刻せず、研究室の扉が開き、オペレーターのマヤが現れた。

「あの先輩、頼まれてた書類が……、あの、随分ご機嫌ですね? 何かあったんですか?」

「ええ。いい退屈しのぎができたの。ウフフフ。」

 リツコは、マヤから書類を受け取り、マヤが退室した後、白衣のポケットから、シャーレに入った毛髪を宙に持ち上げて顔を和ませた。

 この毛髪は、風間の髪の毛である。

「ウフっ、ミュータントの細胞に触れる機会が巡ってこなかったから大収穫だわ。それもピチピチの若いイケメン現役ミュータント兵士。最高だわ…!」

 リツコは、風間の髪の毛が入ったシャーレに頬ずりしそうなほど顔を緩ませて興奮していた。

 

 

 

「風間…、どんまい。」

 研究所の外の扉の横に立ってるツムグが、両手を合わせて風間を憐れんだ。

 ツムグは、この数秒後にまた目的を忘れていたことを思い出して、大慌てで移動したのだった。

 

 

 

 尾崎と音無の協力者として秘密裏にエヴァンゲリオンの視察をして、監査官の護衛の仕事に戻った風間。

 地球防衛軍の基地で異変を感じとって駆けつけてきた椎堂ツムグ。

 それぞれがそれぞれの理由で奔走している間に、異変そのものが動いていた。

 ネルフの中枢であるMAGIをリツコに悟られず支配し、本部全体に仕掛けられている対ミュータントの仕掛けを巧妙に操り、風間らに気付かれず行動した。

 ソレは、怪獣王の細胞を持つ椎堂ツムグの本能と直感をも騙すため、ネルフ本部の地下深くに隠された己に近いモノを利用した。

 そうすることで椎堂ツムグから自分の身を守るために…。

 ツムグが感じ取った異変の元凶は、自分が手引きして招き入れた反乱異分子がネルフの電力系統を落とす瞬間が来た時、最後の仕上げだと笑みを浮かべ、自分が収容されているドッグから抜け出し、地上を目指した。

 

 第三新東京のネルフ本部の真上では、ザトウムシのような形をした使徒、マトリエルが現れていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 マトリエルが出現したことで地球防衛軍の基地の本部は大忙しだった。

「あのバカは、どこで油を売ってるんだ!?」

 あのバカとは、椎堂ツムグのことである。

 正式ではないが機龍フィアのパイロットであるツムグがどこを探してもいない、いつもなら親しい人間が探すか、どこからともなく自分から来るかして機龍フィアに乗るのだが、今日に限っては姿が見えないのだ。

「だから奴のは監視を見直すべきだと進言したのだ! どうするのだ!」

「使徒は第三新東京の中心。つまり地下のネルフ本部の真上の位置に急に出現したらしいな、まったく…、使徒はどこからどうやって現れるのか分からん!」

「機龍フィアは、ツムグじゃなくとも操縦できる! 適当にパイロットを見繕って出撃させるしかない!」

「だが、G細胞完全適応者以外のパイロットについての機龍フィアの起動とシンクロ実験の成果は、まだ1割にも満たされてない! 例えミュータントのエースを乗せてもただの木偶だ! 自動操縦の方がまだマシだ!」

「なら自動操縦で行けばいいだろう!」

「そうと決まれば機龍フィアのDNAコンピュータのオートパイロットプログラムによる使徒の迎撃をせよと、ネオGフォースに指示を出せ!」

「よろしいですね! 波川司令!」

「ええ…。どこへ行ったの? ツムグ…。」

 ツムグがいないことで迷惑被っている司令部は大変だった。

 

 

 地球防衛軍が右往左往して、ネルフはネルフで停電事件が起こっている間。

 使徒マトリエルは、ザトウムシのような大きな足を折り曲げ、地面すれすれに体を降ろすと、下腹部の目玉のような部分から、ドロドロと液体を吐きだし始めた。

 液体は地面を溶かし、その下にあるネルフ本部を覆い隠す装甲を少しずつ溶かしていった。

 

 

「……地味だな。」

「地味ですね…。」

 前線に配備された地球防衛軍の前線司令部が、マトリエルの動きを見てそう言っていた。

 見た目のインパクトはある。虫嫌いは生理的に受け付けない見た目なうえに、何しろでかい。

 だが、今までの奴らの派手だっただけに(特にラミエル)、マトリエルの攻撃方法が溶解液だけなので残念な印象を持ってしまう。

「大変です!」

「どうした?」

 走ってきた兵士の一人が前線司令官達に言った。

「ネルフとの交信が取れません! どうやら本部の電力が落ちていて本部全体が停電状態にあるようです!」

「確か、本日は、監査官と護衛としてM機関の風間らがネルフ本部に行くことになってたと…。」

「つまり監査官も風間達も本部に取り残されているのか? なら余計にあの使徒を早く殲滅しなければ!」

「基地からの伝達です!」

 前線のオペレーターがヘッドフォンを片手で押さえて司令官達の方に振り向いた。

「椎堂ツムグが行方が分からず、地球防衛軍司令部は、機龍フィアをオートパイロット状態で出撃させる決定をしました! ですが、オートパイロットプログラムの起動がうまくいかないトラブルが発生しているとのことです!」

「別のパイロットを乗せないのか!?」

「ツムグ以外のパイロットでの起動実験では、現状の機能の1割程度しか使えないと聞いているぞ。そんな状態じゃ木偶人形と変わらん!」

「オートパイロットといい、G細胞適応者以外のパイロットの件といい、技術部は何をやっているんだ!?」

 前線も前線で大変だった。

「とりあえずあの虫みたいな使徒の攻撃を止めさせるために、メーサーをありったけ撃つぞ!」

 イスラフェルの時の経験でATフィールドを貫通できたメーサーによる攻撃が開始された。

 いくら攻撃方法が地味でも、地味は地味なりに地道に確実にネルフ本部を守る鉄板の束を溶かしている。ほったらかしていいわけがない。

 いきなり現れたこの使徒マトリエルもだが、それ以上に問題なのが…、ゴジラが来るのが時間の問題だということだ。

 マトリエルの出現位置と、出現してから現在までの時間はそれほど経っていない。ゴジラがまだ使徒の出現に気付いていないことを祈りたいが、サキエルやシャムシエルの時のことを思い返すとゴジラが使徒の存在を察知するまでそんなに時間はかからないようだ。

 今頃海の中を進撃しながら第三新東京を目指してるゴジラを想像しただけで、現場の人間達は汗が噴き出てくる。基地にいる人間では分からない、現場で実際にゴジラを目の当たりにした者でなければ分からない凄まじい緊張感だ。

 使徒マトリエルは、ゴジラが来るかもしれない危機感をまったく考えてないのか、そもそも考える頭がないのか、変わらず地味にボタボタと溶解液を出し続けている。

「なんなんだ、あの使徒は?」

 今までのヘンテコながら強敵であることを示してきた使徒なのに、その部分が今のところ見られないマトリエルの様は、違う意味で変な奴っという印象をもたせた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 停電したネルフ本部の中を走り抜け、地下へ地下へと進み続けた椎堂ツムグは、ある場所で足を止めていた。

 そこは、セントラルドグマと名付けられた場所であり、ネルフが抱える最大の秘密を隠された場所だった。

 ツムグは、意図してここまで来たわけじゃない。寄り道し過ぎたのを反省して考えずに走って、はたっと気が付いたらここまで来ていたのだ。

「……やっちゃった。」

 誰もいないのに誰かに向かってテヘッと舌を出してふざけてみたりする。

 しかしふざけたところで現実は変わらない。

「あ~あ…、こういう秘密の場所には、ゴードン大佐や尾崎達が来るべきだろ。俺が来ちゃだめだろ…。ど~しよ、かな。……んん?」

 腰を落とし膝を抱えてどんよりしていたが、ツムグは、ふいに顔を上げて鼻をヒクヒクとさせて匂いを嗅いだ。

「この匂い……。あと気配。………やられた!」

 顔に怒りの感情を浮かべ立ち上がったツムグは、目の前にあるパスワードやら認証が必要な扉を蹴飛ばした。

 それだけで強固な扉は破壊され、ツムグは、激情のままに遠慮なく中に入り、片手を差し出して青白く発光する光で部屋を照らした。

 

 そこにある巨大な水槽の中を漂うのは。

 透けるような白い肌。

 青い髪の毛。

 赤い瞳。

 瑞々しい十代半ばの少女の造形。

 

 何人も。何十人もいた。

 

 お昼ご飯を基地の庭でシンジと一緒に食べていた、あの少女。

 綾波レイとまったく同じ姿形をした心を持たないモノが、水槽の中という限定された世界でただ生かされているだけの異常な世界がそこにあった。

 ツムグは、眉間に皺をよせ、もう片方の手で口を押えた。

「あの…野郎……! 同じ匂いと気配を持ってる“コレ”を囮にしたな!」

 ツムグは、天井を見上げて、自分を騙した相手に向かって怒りを露わにした。

 

 レイという存在は、初号機と同化してしまったシンジの母、碇ユイをサルベージしようとした時に出てきた偶然の産物である。

 使徒と人間の遺伝子の近親性が生んだ碇ユイの遺伝子と初号機の素体に使われた使徒の遺伝子が混ざって生まれた、使徒と人間のハイブリッドなのだ。

 ユイの遺伝子を持つため、科学的に見ればユイのコピーと言えるが、クローンのそれとは違う。

 水槽の中にいるレイ達は、最初に生まれたレイから作られ、増やされたコピーのコピーであろう。

 レイと違い水槽の中でしか生きられない脆弱な生命でしかないレイ達は、さしずめ取り換えがきくレイという存在の予備の器だ。ゲームに例えるとコンテニュー回数といったところだ。

 現在いるレイが死ねば、その魂は、このレイ達の中のいずれかに移り、レイは蘇生するというサイクルになっているのだろう。

 つまりネルフから離されて自殺を図ったレイが仮に自殺に成功したとしても、消えたいいう願いは成就されず、恐らく最低限の記憶だけ受け継いでそれ以外はリセットされるなりして、別人のレイとしてこの世に連れ戻されていたのだ。

 そういう意味では、シンジが勇気を振り絞って今いるレイに手を差し伸べたのは幸運だったいえる。

 恐らくレイは、死ねばこうなることを知らなかったのだろう。だから安易に自殺に走ったのだ。

 

「なんて…、酷いというか…、奇妙な運命だなぁ。」

 ツムグは、ゆっくりとした足取りで水槽のガラスに近づき、片手を添えた。

 ツムグの姿を認識した無垢なレイ達が水槽の中で漂い、泳ぎながらガラスの向こう側にいるツムグに純粋な好奇の目を向けてくる。そのさまはさながら人懐こい動物のようで、ツムグは、思わず微笑んでしまった。

「はあ…、ネルフの資金が最低限で、しかも停電状態でここだけしっかり稼働してるってことは…、シンジを捨てた馬鹿親父の独断だな。どんだけ奥さんに執着してんだ。子供を見習えよ。このまま放っておいたら、間違いなくあの子(※現在いるレイ)が暗殺なりで殺された場合ここに移るから…、ダメダメ、あかん、せっかく育ち始めた甘酸っぱい少年少女の物語にドロドロの臭いどぶのヘドロをぶっかけるなんてできるかぁ!」

 ツムグは、片手の発光を止め、ガラスに添えていた手を握り、握りこぶしを作った。

 ツムグは、暗くなった部屋の中で、水槽から数歩後退った。

 彼の赤と金の髪が青白く発光する。その光は全身に広がり、部屋を眩しく照らした。

「何が正しいかなんて、分からるわけない。けど…、これが……、俺の決意だ!」

 ツムグは、そう叫び、青白い熱線を纏った右腕を振りかぶった。

 

 熱線で焼き尽くされるレイ達を管理している水槽と、レイの基となる素材。

 地球防衛軍の技術力をもってしても再生は不可能なほど念入りに破壊した。

 ……ただしここで何があったのか、ここに何が隠されていたのかは、“カイザー”である尾崎が全力でサイコメトリーすれば分かるだろう。自分がレイ達を殺したことと、破壊した件についてはその時に話し合えばいい。

 人間の罪から作られた外では生きられない悲しき命達を独断で殺した事実は変わりないから。

 

「は~あ…、俺ってさ、人間でも怪獣でもない…。俺が“椎堂ツムグ”になったあの日が俺が俺だという記憶の始まりで、40年以上生きてて…、どうすればいいのか、どうなりたいか…、何にも決めてなかった。その場に勢いと気紛れで周りに流される適当な生き方してた。『おまえは、何も考えてないだろ?』っとか、『マイペースに気楽な人生送ってるな』っとか言われてきたけど、ずっと、ずっと…、考えてた。ゴジラさんの細胞を持ってるのに怪獣でもない人間でもない俺はどう生きればいいかって。何ができるんだろうって。だからどんな実験にも付き合ったし、機龍フィアを作る時だって、データ取りのためにゴジラさんと戦わされても俺にできることだからって思ってた。けど、なんか、足りなかったんだ。それがはっきりしないままズルズル来て、ここであの子の分身達を壊して殺して、俺は……、何かがカチッてはまった気がした。俺は、あの子に…、生きていてほしいんだ。せっかく築いたシンジとの絆…、幸せってものを掴んでほしいって…、俺なんかが親気取りしたってなぁ。」

 焼け焦げた地下プラントで、両手を広げたツムグがケラケラと笑っていた。

 その目からツーッぽたりと透明な滴が零れて焼け焦げた床に落ちた。

 G細胞完全適応者になる前の記憶がなく、怪獣でも人間でもない世界でたった一人の存在であるツムグは、マイペースに周りを振り回すお気楽なキャラクターを気取りながら心の内では、数十年のも歳月をかけても出せない自分自身の存在意義についての大きな悩みを抱えていたのだ。

 G細胞の爆発的なパワーもあり、“カイザー”である尾崎にすらその心の内に見抜かせなかった、隠し続けた本音。

 

 ネルフ本部の地下プラントにあった綾波レイのコピー達を殺し、レイが二度と歪んだ輪廻を繰り返させないようにし、レイの新たな人生のために力を尽くそう。

 それが、ツムグが自身の存在意義に繋がる決意の一つとなる。

 

「アハハハ、目に煤が入っちゃったかな? って、そういえば、肝心のアイツ! 初号機はどこだ!?」

 地下プラントの一部を破壊したツムグは、ゴシゴシと腕で涙を拭うと、瞬間移動のごとくその場から消えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方そのころ。

 大停電に陥ったネルフ本部内。

 今現在、加持は、とても気まずい気持ちで一杯だった。

 加持がなぜそんな気持ちで一杯なのか、少し時を遡る。

 

 自分に肘の一発を入れて風間を追いかけて行ったミサトの行方を捜していたら、ネルフ本部が暗くなった。

 非常時の時のために持っていた小型の懐中電灯を取り出して通路を照らした時。

 すごく見覚えがある頑丈そうな黒いブーツとジャンプスーツで覆われた足が目に入った。

 懐中電灯の光を下から上へ移動させたら、機嫌悪そうな若い男の顔が真っ直ぐこちらを見ている状態が分かった。

 ミュータントの能力ならこんな真っ暗な状態でも光も無しで普通に行動できる。現に加持の数メートル前の方にいる風間が暗い中で加持の存在を認識していた。懐中電灯で照らした顔がそれが真実だと物語っている。普通なら暗から明に急に変わったら咄嗟に目をつぶるなりして反応するものだが、ミュータントの、それも戦士として訓練された風間はまったく微動だにしない。恐らくそういう訓練もメニューとして取り入れられているのだろう。

「…か、風間少尉殿。どーされたんです?」

 顔が引きつりそうになりながら加持が言う。

「そんなことを言っている場合じゃないだろうが。」

 風間がますます機嫌を悪くしたと言う風に低い声で言った。

「さいですね~。いや~、何が起こったんでしょうね?」

 ここで黙ると後々頭が上がらなくなると踏んだ加持は、ごますりしそうなベタベタな態度で風間と会話を続けようとした。

「何も知らないのか?」

「いや~、自分、ここの職員じゃないんで。けど、もしかしたらメインの動力が落ちたのかしれませんね。今は、予備動力で本部そのものの維持はできてるはずですけど。」

「以前にもあったのか?」

「いいえ。今回が初だと思いますけど?」

「なるほど。」

「ところで、関係ない話になりますけど、風間少尉、葛城を見ませんでしたか?」

「誰だ?」

「…あなたに喧嘩を売った赤いジャケットを着た髪の長い女性ですよ。」

「会ってないな。」

「そうか…。」

 ミサトの奴、間違いなく迷子になってるなっと加持は心の中で結論付けた。

 加持がそう考えてると、風間が背を向けて去って行こうとした。

「あ、待ってくださいよ! どちらへ行くんです?」

「おまえは、ここで待つつもりか?」

「い、行きます! 行きますよ!」

 後で聞くことになるが、風間は護衛対象の監査官からの命令で大停電の中、無駄に広いネルフ本部の中で閉じ込められるなりして取り残されている人間を救出していたのだ。

 ネルフ職員は総司令のゲンドウを含めて最低限しか残っていない。職員ではない加持は範囲外なのだが、放っておくわけにはいかないので、避難場所に案内することにしたのだ。

 ちなみにミサトは、他のミュータント兵士が見つけて避難場所に運ばれていた。どうやら迷子のあげくこの停電で足を滑らして、手すりすらない通路から落下したらしい。結構な高所から落ちたというのに気絶だけすんだあたり、ミサトの頑丈さについて彼女はミュータントじゃないかと疑われたがミサトと腐れ縁なリツコが速攻で否定した。

「ミサトがミュータントなら、もっとマシに…、それにこんなところ(ネルフ)で腐ってないわよ。」

 っというリツコ。加持曰く、ミサトの友人らしいがミサトを酷評している。いつ知ったのか不明だがリツコは、ミサトが風間に突っかかったことに怒っていたため、こんなことを言ってるのである。

 まだ気絶してるミサトを睨むリツコに、何か清々しさすら感じた地球防衛軍から派遣された監査官と風間らミュータント兵士達であった。

「赤木博士。ネルフ本部の動力の復旧の目途は立っているのですか?」

 監査官が話題を変えようとリツコに言った。

「急ピッチで動力の復旧をさせていますわ。どうやら、ネズミが入り込んだようで…。」

「おや? 今のネルフを狙うとは、世間知らずもいたものですな。」

 権限を失ったネルフを軽く疎んじる発言をする監査官に、リツコはクスッと笑っただけだった。

「ええ。どこかの馬鹿な男のせいで随分と敵が多くて…。下の者…、つまり現場のことなどひとつも考慮しないのでほんと困っていますわ。」

「…そのこともペナルティとして叩きつけましょう。」

 リツコのため息交じりの愚痴に、監査官は同情し、手帳にスラスラとメモを書いた。

 監査官の対応にリツコは、笑顔で、ありがとうございます、っとお礼を言っていた。意外とこの監査官と気が合ったらしい。リツコを先輩と慕うオペレータの女性を焦らせていた。

 しかしリツコが真剣な表情に変わり、不可解なことを口にした。

「ですが、おかしいのです。動力炉のような重要な場所にはそう簡単に入り込めるようにはしてませんでした。誰かが手引きでもしなければ…、絶対に入り込めるはずがないのに…。」

「ネルフが誇るMAGIでも感知できなかったっと?」

「そういうことは真っ先に感知するよう命令していたわ。停電が起こる直後までMAGIの定期検診を行っていた時、プログラムの一部が書き換えられていたのを見つけた。MAGIのプロテクトを越えてハッキングを行うなど、この地球上の人間の文明なら地球防衛軍が保有するスーパーコンピュータでもなければ無理だわ。」

「我々を疑っているのか?」

「いいえ。こんなことをしてもあなた方にメリットはない。先ほども言われましたわよね? 今のネルフを狙うなんて世間知らずだと。」

「確かに…、その通りだ。だとするならば他に容疑者に心当たりは?」

「残念ですが、まったく心当たりはありませんわね。せめてシステムが復旧さえすれば足跡を辿れるのですけれど。」

「それは、参りましたな。辛抱して待つしか……。ん?」

 その時、監査官の懐にある通信機が鳴った。

 監査官が通信機からイヤホンを伸ばして耳に差し込み、通信を繋げた。

 ノイズが十数秒ほどして、急にはっきりとした声がイヤホンから監査官の耳に届いた。

『おお! やっと繋がったか!』

「こちら、Y-81。通信状況は良好です。どうぞ。」

『そちらの状況を確認したい。何が起こっている?』

「現在ネルフ本部が大規模な停電状態陥っています。現在復旧を急いでいるとのことです。」

『停電? なるほど、そうだったのか。赤木博士はいるのか?』

「ええ。現在、避難場所にした場所に共にいます。」

『できる限り早くネルフ本部から安全に地上へ脱出する経路を確保してしておいてもらえるか? 現在地上では使徒が出現し、溶解液で装甲を溶かし本部を攻撃しようとしている。』

「使徒ですって!?」

 監査官が思わず声をあげると、リツコを始めとしたその場にいた面々が驚いた。

『まだゴジラは、来ていない。だが時間の問題だろう。しかもG細胞完全適応者が行方不明で機龍フィアが出撃できない状況だ。地上部隊が使徒を攻撃しているが、攻撃を少し妨害する程度で撃滅とまではいけない。』

「なんてことだ…。」

 監査官は、地上で使徒が現れていて、戦闘が起こっていることに愕然とした。

 監査官が口にした言葉から出た使徒という単語から、リツコは、現在使徒が第三新東京でネルフ本部を破壊しようと活動していることを見抜いた。

 そしてリツコは、監査官に進言した。

「監査官殿。私、赤木リツコが使徒の殲滅に協力させていただけませんか?」

「りっちゃん!?」

「先輩!?」

 リツコの言葉に加持とマヤが驚きの声を上げた。

「…どういうつもりだ?」

「言葉のままですわ。私は、ネルフで使徒の研究を続ける恐らくこの世界でもっとも使徒に精通した人間です。念のために言っておきますが、これは、私個人の言葉です。ネルフのためではなく、生き残る最良の道を開くために力を貸したいのです。」

「神に誓ってもか?」

「生憎と、神様は信じていません…。ただ、私はここで死ぬつもりはありません。死にたくないから戦うのです。」

 リツコは、一息置いて、しかし…と言い。

「私は拳銃程度しか使えない貧弱な研究者でしかありません。強い戦士の力が必要なのですわ。」

「ほう…? つまり私の護衛として来ている風間少尉達に戦ってもらいたいということかね?」

「その通りですわ。」

「っ…。」

 それを聞いた風間は、訝しげにリツコを見た。

 風間と目が合ったリツコは、笑ってウィンクをした。それを見た風間は溜息を吐いて腕組をした。

「命令なら、俺は構わない。」

「それでいいのか? 風間少尉。」

「怪獣を相手に白兵戦を行うことを想定した訓練を一日と欠かさず続け来た俺達が…、使徒ごときに負けるとでも?」

 風間がそう言うと、それに同調した護衛として来ていたミュータント兵士達が一斉に強い意志を宿した視線を監査官に向けた。ミュータント兵士達の迫力に監査官は思わずたじろいた。

「い、いや…、そんなつもりは…。しかし使徒への白兵戦はぶっつけ本番だ。何が起こるか分からない。」

「あんたが生き残ったら、上の連中にこう言え。『すべては、風間の独断だと』な。」

「な、それは…、風間少尉!」

 風間の肩を掴もうとした監査官の手を振り払い(手加減してます)、念のために持ち込んでいたミュータント部隊に支給される武器の入ったトランクを担ぎ上げ、風間はリツコの前に来た。

「それで? どうすればいい?」

「力を貸してもらえるの?」

「じっとしてるのも飽きたからな。」

「ありがとう。それで、監査官様はいかがされます?」

「……仕方がないですな。生きて外の空気を吸いましょう。」

「感謝しますわ。」

「先輩…、私達はなにをすればいいですか?」

「MAGIが使えない今は、あなた達にやれることはないわ。ここで待機してて。」

「分かりました。」

「そうっすか…。」

「そんな…。」

 日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤは、それぞれリツコの指示に違う反応をした。特にマヤは、リツコの手伝いさえできないことに落胆していた。

 リツコは、ネルフの主力のメンバーに指示し終えると、風間と監査官に向き直った。

「まず、監査官には、地上の状況と使徒の形状などを地上の地球防衛軍から聞いてもらえますか? 現在、地上と交信できる手段は監査官が持っているその通信機しかありません。どうか、お願いします。」

「分かった。こちら、Y-81。地上の戦況はどうなっている?」

 こうして地球防衛軍(ネルフに派遣された監査官と護衛のミュータント兵士達)とネルフの赤木リツコによる秘密の共同戦線が始まった。

 

 

 

 

 風間達が使徒殲滅のため共闘を始めてた頃。

 地下プラントから出て、初号機を探してネルフ本部の中を移動していたツムグは、自分の足元に転がる複数人の人間を見おろしていた。

「……反ネルフ組織の残党か。それも熱心な信者。匿名で送られた情報で動力炉まで侵入して停電騒ぎを起こした…。本当ならネルフ本部ごと爆破して自決するつもりだったわけか。よくあるテロリストのやり口だな~。でも実際にやってみたら動力炉を爆発させられず停電止まり。焦って、こうなりゃ物理的に動力炉を破壊しようとしてたところに俺が来て、今こうしてのびてるわけだ。」

 通路に転がるテロリスト達は死んでない。

 2、3日ほど意識不明で、目を覚ましても頭痛のあまりしばらくまともに動けない程度に超能力で精神と脳などの神経細胞にダメージを与えてやったのだ。さすがに熱線を使うと火傷じゃすまない。

 このテロリスト達が侵入した理由と動力炉の稼働を止めるまでの流れとその後のことをツムグが知ることができたのは、テロリストの一人を残して他の者達を昏倒させた後、残った一人をG細胞を持つ者である自分にしかできないゴジラによく似た威圧感と殺意を浴びせて脅迫し、失禁させ、白目をむいて泡を吹かせて隙のできた精神に割って入って脳の中を覗き見たのだ。それで分かったのが、先ほどの独り言の内容である。なお、その他もろもろのあんなことやこんなことも全部見えたのだが、関係ないので除外した。

 テロリスト達をその辺に転がしておいて、ツムグは、頭の後ろで両手を組んで歩きだした。

「さ~て、さてと。赤木博士と風間達の共同戦線か…。ゴードン大佐が聞いたらまた笑い転げるんじゃないかな。それにしても、赤木博士は、中々人を見る目はあるなぁ。……あの男の愛人ってのを抜けば。ま、元々お母さんの件で複雑な事情があってそういうことになったわけだし、今まで人生を捧げてきたネルフがこのありさまだし、愛想は完全に尽かしてるっぽいけど。あの人を地球防衛軍に勧誘する? ん~、それは、無理か。っというか、時期じゃない。赤木博士は、地球防衛軍よりネルフにいてもらう方がいい。」

 ツムグは、独り言を言いながら、ブラブラと歩いて行った。

 当初の目的だった初号機だが…、彼は、また完全に忘れており、この数分後に思い出してまた走り回るのだった。

 

 

 

 

 地上では、地球防衛軍とマトリエルとの戦いが続いている。

 戦いと言っても、一方的にマトリエルに対して地球防衛軍が砲撃を行いネルフへの攻撃を妨害しているだけである。

 マトリエルは、淡々としており、当たった個所によっては少しぐらつくも、多く長い足でしっかりバランスを取り、変わらず溶解液を吐きだし続けている。

 他の使徒のように、胴体の部分にある複数の目玉から発射するようなビーム兵器を使う様子もなく、本当に淡々としている。

 それが逆に気色悪い。

 淡々と、地味、だが確実に、マトリエルの溶解液はネルフ本部を覆い隠す装甲を溶かしていく。

 その時、マトリエルの胴体の斜め下辺りのハッチが開いた。

 

 メーサー銃を肩に担いだ風間と数名のミュータント兵士達がメーサー銃を構えた。そして斜めすぐ下からマトリエルの目に向かって、メーサー銃の引き金を引いた。

 放たれる閃光。そして潰れたマトリエルの目玉の一つからブシュッと大量の鮮血が噴き出た。

 マトリエルは、ギロリッと残った他の目で風間達の姿を捉えると、足の一本を持ち上げ、風間のいる場所を踏みつけた。

 しかし風間達は、マトリエルが足を振り上げてる間にさっさと潜り込み、その場から退散していた。

 

「この使徒のコアは、溶解液を吐きだしている目玉に似た部分の中心よ。それを潰せば使徒は殲滅できるわ。」

 

 風間は、仲間を率いて第三新東京の地下通路を走り抜けながらリツコの言葉を思い返し、別のハッチを開くと、再びマトリエルの目玉(溶解液を出している腹部の目玉じゃない)部分を狙ってメーサー銃を構えた。

 

 

 

 

 

 一方、地球防衛軍の基地では。

「ゴジラが東京湾内に侵入!」

「とうとう来たか…。」

「随分と遅い登場だが。まだ機龍フィアは起動できないのか!」

「オートパイロットプログラムの再起動とフリーズを繰り返しているとの報告が…。」

「あああああああ! 椎堂ツムグめ! 本当にどこへいったのだーーー!」

「ツムグ…。」

 

 ゴジラがついにマトリエルの気配を察知し、第三新東京に上陸するのが秒読み段階に入った。

 

 ゴジラとの対決で一番の武器であった機龍フィアが万全でない状況。

 ネルフの科学者赤木リツコとの共闘して使徒マトリエルを殲滅戦と白兵戦で挑む風間。

 初号機を探しして彷徨う椎堂ツムグ。

 

 

 彼らと、この状況を嘲笑うように、“異変”は、その時をジッと待っていた。

 

 

 

 

 

 




 ネルフ停電の事件は、前回の最後で妙な変化を見せた初号機絡みということにしました。
 そしてオリキャラ・椎堂ツムグによるレイのクローン体の破壊。これでレイは3人目にはなれなくなりました。クローンについては、ゲンドウが個人的に維持させていて地球防衛軍側にも知られてません。
 最初の部分のシンジとレイの交流は、レイの根本的問題を変えるための準備のためのイベントです。
 今は使徒がいて、エヴァがあるからゴジラはそっちを狙いますが、使徒もエヴァもなくなったあとゴジラがどうするか…、それを防ぐためです。

 マトリエル戦は、風間達とリツコの共同戦線による白兵戦になります。
 なお、次回では大佐さんも……。

 共同戦線になったのは、使徒がまだ残っているしネルフが消えては困るのと大停電で孤立している状況でお互いに生き残るためです。


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第八話  使徒も怯えるリリン(人間)!?

 連投しました。

 ゴードン大佐が参戦します。

 あと久しぶりに機龍フィアとゴジラの肉弾戦となります。

 オリキャラ・椎堂ツムグは、病んでおります。


 

 同じ場所でどっしり構えていた使徒マトリエルの胴体から血が噴き出たのを地上の地球防衛軍の部隊と、モニターで戦況を見ていた基地の司令官達もしっかり目撃した。

 そして出血するダメージを受けたマトリエルが長い脚を一本持ち上げて、胴体に近い地面を踏みつける動作をした。

「いったい何が!?」

 ATフィールドを持つうえに、胴体より遥かに長くて高さがある足を持つため陣取っている幅だけなら今まで出てきた使徒で一番大きいこの使徒に近づけないので何が起こっているのか確認することができない。

「司令! たった今、映像の解析が完了しました! 使徒の下腹部辺りに向かってエネルギー弾が放たれています!」

「なんだと?」

 前線い設置されたコンピュータなどの解析装置を担当するオペレーターの報告に前線司令官は、オペレーターのところにすぐに向かい、映し出された映像を見た。

 拡大された超スロー映像で、確かに白い複数のエネルギーの弾がマトリエルに向かって飛んで行き、着弾すると、マトリエルの胴体の目のような部分から出血していた。

「…弾が発射された方向は、使徒のほぼ真下……。風間達か!?」

 使徒に痛手を負わせた兵器がミュータント兵士に支給されているメーサー銃であると見抜いた前線司令官は、バッとマトリエルの方に振り返った。

 その直後、またマトリエルの胴体の目玉みたいな部分から出血が起こった。最初に出血した部分とはまったく逆方向にある部分である。

 するとまたマトリエルが攻撃された方向の足を一本持ち上げて地面を踏みつけた。

 一分とせず、今度はまた別の方向からまだ潰されてない目がメーサー銃で潰された。するとマトリエルは、ボタボタ出していた溶解液を止めた。

 そして動作こそ遅いがその場から動かない体制をやめて、動き出した。

 周りを警戒し、下腹部にあるコアがある目の部分をギョロギョロと忙しなく動かし、自分に攻撃してくる相手を探す。

 

 マトリエルが風間達に翻弄されている間に、マトリエルに接近していく一人の人間がいた。

 茶色のコートがマトリエルの巨体から来る空気の流れではためく。

 度重なる使徒とゴジラと機龍フィアが荒らしまくったせいで廃墟どころか荒野(?)みたいな荒れた場所となった第三新東京を、腰に業物の刀を引っかけたその男が進んでいく。

 数十メートル級の使徒にとって人間など蟻んこも同然。さらにマトリエル自身、現在自分を攻撃してくる相手を探すのに忙しいので茶色のコートの男の接近にまったく気付いていない。

 マトリエルの足の一本の付近まで来た男は足を止め、マトリエルを見上げた。

「…フンっ。神の使いを名乗るぐらいなんだから、ちったあ楽しませろよ?」

 男は、腰の刀に手をかけた。

 

 そして、マトリエルの足の一本が突然、根元辺りから切断され、胴体から離れた。

 突然のことに固まったマトリエルの目が切られた足の方を見た時、地面に向かって降下していく刀を手にした茶色のコートの人間の男の姿があった。

 その男と目が合った時、男が降下していく最中、ニヤッと笑ったのを見て、マトリエルは、ある感情に支配された。

 

 その感情は、恐怖という名を持つものである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「なにやってんだーーーーーーーーーーーー!!」

 遠く離れた基地と前線の陣営とで同じ叫び声をあげていた。

 マトリエルの足の一本を刀で…、いや身一つで切り落としたゴードンに、悲鳴を上げる者、行き場のない感情にパニックになる者、さすが人類最強と目を輝かせる者と反応は様々だった。

 マトリエルの胴体が折りたたまれた足のおかげで地表に近いとはいえ、元々マトリエルは巨体なので人間からしたらとんでもない高さである。

 そこにあっという間によじ登り(どうやって?)、刀一本で足の一本を切り落とし(一見細いが人間の大きさと比較したら圧倒的に太い)、切り落とした後、普通の人間なら無事じゃ済まない高所から地面に降下し、難なく着地する。

 

 もはや人間の領域じゃない!

 

 地球防衛軍は、科学的な部分と超人レベルに鍛えられた戦士達が集まることから、はっきり言って非常識だと昔から言われることはあった。(ミュータントが発生する前である)

 人智を超えた怪獣達や、怪獣王ゴジラを相手に戦わなければならないのだ。怪獣は非常識レベルなんだから、こちらも非常識なレベルにならないと相手はできない。必然だった。

 いくら超人レベルに鍛えたからといっても所詮は人間である。巨大な怪獣相手に生身で戦うなどセカンドインパクト後に確認されるようなったミュータントによる戦闘集団が考案されるまで人間が戦う場合は策を巡らせ、あるいは命を捨てて間合いに入り特殊な武器を打ち込むなどばかりであった。

 ダグラス=ゴードンという人間が頭角を現すまでは……。

 彼は、普通の兵士からの叩き上げである。それも35年前の南極でのゴジラ封印の時の戦いで活躍した初代轟天号のモブ乗組員だった。

 たまたまゴジラの封印のとどめとなった氷山の破壊のため、ミサイルの引き金を引きはしたがそれがきっかけではないことは確かである。だが彼がゴジラをライバル視し、手段を選ばぬ指揮官になる原点ではあった。

 何がどこで、どうしてこうなった?っと、ゴードンの同僚達がいくら頭を捻ってもゴードンが人類最強と呼ばれるまでに強くなった過程を思い出せない。地球防衛軍所属の人間に義務づけられている定期的な健康診断では、ゴードンがミュータントではなく、ただの人間であることははっきりしていた。

 椎堂ツムグがこの場にいたなら、こう答えていた。

 

 ゴードン大佐は、怪獣との戦いで成功と失敗をたくさん積んだから、強くなろうとして、強くなっただけ。

 

 ……ツムグに言わせれば、細胞の突然変異による進化で強くなったミュータント呼ばれる新人類にたいし、ゴードンは極限まで心身ともに鍛え上げた結果それが実を結んで50代過ぎだというのに人類最強と呼ばれるほど強くなったただの人間なだけなのである。

 しかしあくまでゴードンが人間であるとなると、同じ人間の括りになってる他の者達は複雑である。

「なあ…、人間の限界ってあるのかないのか分からなくなる時ってないか?」

「……あの人(ゴードン大佐)見てると人間ってなんだろ?って思うよ…。」

「分かる分かる。」

「おまえが言うな熊坂! ってそう言う意味じゃおまえも同類か!?」

「ゴードンが目立ち過ぎて忘れてたけど、そう言えばそうだった!」

 M機関の士官である熊坂は、ミュータント兵士を育て上げた教官であり、人間でありながら常人を超える身体能力を持つミュータントと互角に渡り合える戦闘能力の持ち主である。ちなみに彼も健康診断では、ちゃんと人間であることがはっきりしている人物である。

「いやいやいや、自分なんてゴードン大佐殿に比べればまだまだですよー。」

 などと謙虚に振る舞いつつ、ケラケラ笑う熊坂。

 しかし“普通”の範疇にある周りから見れば『どこが!?』っと言いたい状態である。

 よくよく考えてみれば、M機関のミュータントを対怪獣部隊として育て上げることについて、ミュータント達に強くなるためのレクチャーをしてそれを統制下に置くことができるかという問題が今まで問題視されなかったのか?

 下手をすれば戦う術を身につけたミュータント達が反発して反乱を起こす可能性だってあった。そうなれば人類対新人類という最悪の事態になっていた。

 それが起こらずミュータント達が地球防衛軍の新たな戦力となり、自らの誇りとして日々精進しているのも、すべては彼らの教官として彼らの上に立ってきた熊坂の存在があったからこそだ。

 共に汗を流し、笑いあい、涙を流し、悪いことをすれば叱る。ゴジラ封印後の怪獣との戦いの世代であることもあり、若年層が占めるミュータント達よりも年上なことも彼らの心を射止めたのだ。まあ、いわゆる父性愛という奴であろう。セカンドインパクトで被害が大きかった被災地での覚醒率と出生率が高いため、親がいない、身内がいない者が多い若いミュータント達には、熊坂の存在は同族の仲間とは違う意味でもっとも身近なものになっていた。

「……当り前みたいに受け入れてたが、改めて考えてみれば人類最強枠(じんるいさいきょうわく)って結構いるな?」

「なんだその、人類最強枠って? んなこと言ってたら…、ゴジラと戦うために日々厳しい訓練を積み重ねてきた地球防衛軍の軍人達は凡人だって言うのか? 自衛隊の陸上自衛隊のですら一般人の目から見れば超人だって言われるんだぞ?」

「そ、そうだけどなぁ…。その超人って言われてる側から見てもゴードン大佐も熊坂も次元が違うっていうかなぁ…。」

「そこまでこだわることか?」

「まあ、なんだ? そういう基準的なものを付けたいって時あるだろう? それだ、それ。」

「俺と大佐殿は珍獣扱いか!?」

 ゴードンが暴れてたことで、色んな意味で色々とクラッシュされカオスな空気になっていた。

 

 

 

 一方、基地の司令部では…。

「波川司令! さすがに此度のことは軍紀違反とかそういう範疇で済む問題じゃありませんよ!」

「問題はないわ。ゴードン大佐を行かせたのは私ですから。」

 波川の爆弾発言で右往左往していた司令部内の空気が凍った。

「な…、なぜ?」

「使徒については、まだまだ未開です。それにこれまでの使徒はゴジラに燃えカス程度しか残らないほど焼かれるか、機龍フィアにこれでもかというほど潰されるかでしたからサンプルとしてはあまりよくありませんでしたから、そろそろ傷の少ないサンプルを手に入れるべきだと考えたので。」

「まさか、ゴードン大佐にあのままあの使徒(マトリエル)を仕留めさせるつもりなのですか!?」

「仕留めるとまではいかなくても、サンプルさえ取れれば頃合いを見て撤退するようには指示を出していますわ。」

「いやいやいやいやいやいや、ちょっとお待ちを…、頭の整理が……。」

「なぜに!? なぜに生身で、それも単身で行かせたんですか!? サンプル回収だけなら機龍フィアか、あるいはミュータント部隊でもやれることですよ!?」

「節約です。」

「…はい?」

「対使徒のために怪獣用の兵器の大幅な改良をするにあたり、かなり費用がかかったので…。経済への負担を考慮して、体がなまってると言っていた大佐に頼ることにしたのです。」

 波川が顔色一つ変えずはっきりとそう言ったら、周りの者達は、開いた口が閉まらない状態になった。

 使徒独自のものであるATフィールドと強靭な生命力に対抗するため、現在ある対怪獣用兵器の改良と、新たな兵器開発に思いのほか費用がかかり、波川はセカンドインパクトの影響がまだ色濃く残る世界経済のことを考慮してゴードンを単身で使徒にぶつけるという普通ならあり得ない案を採用したのであった。

 ゴードンが人類最強じゃなかったら、どうする気だったんだこの人!?っと、波川以外の者達は同じことを思ったという。

 侮られがちな女であれど、司令官としてのその実績は地球防衛軍においてトップの波川は、セカンドインパクト前の数々の怪獣との戦いで鍛えられたせいか、時々とんでもない案を実行するのである。

 …ある意味この人もゴードンと似てるかもしれない。ただ損害を考えるか考えないかの違いだ。常識外れの怪獣を相手にしてるベテラン勢は、怪獣との戦いの経験がない若い世代とはちょっと感覚がずれてるのかもしれない。

 基地の司令部でそんなことが起こっている間に、マトリエルの左側の足がもう一本切断され、バランスを取れなくなったマトリエルの体が大きく傾いて胴体の部分が地に激突した。

 

「これぐらいでいいな。あとは、頼むぞ。…風間。」

 

 ゴードンは、刀についたマトリエルの血を刀を振って払い、鞘に納め、マトリエルの方を一度見てそう言い、マトリエルに背を向けて去って行った。

 なお彼の懐中には、サンプルを厳重に保管するための研究所のビンがあり、その中にはマトリエルの胴と足の間の肉片が入っていた。

 

 マトリエルの胴体が斜めに地面に接している今の状態の時。

 マトリエルのコアがある真下の腹の下では、マトリエルが激突した衝撃でハッチが一部壊れて開いてしまっていた。

 しかしそのハッチの真下でメーサー銃を構えた風間がいた。

 風間の目が爬虫類のように縦長に変化した時、マトリエルの下腹部にあるコアと一体化した目が風間の姿を捉えた。

 その瞬間、メーサー銃の無数の閃光がマトリエルの目とコアを貫いた。

 マトリエルは、ビクンビクンと数回大きく痙攣し、長い脚をズルズルと地面を抉りながら横に伸ばし、やがて動かなくなった。

 

 使徒マトリエルは、機龍フィアどころか、人間サイズの戦士達によって殲滅された。

 

 マトリエルが死んだそのタイミングで、ズシンッという重い足音と地震と間違えそうな地響きが第三新東京に響いた。

 前線部隊と、そして地下にいるネルフの者達、装甲版の中で使徒と戦っていた風間ら全員に緊張が走った。

 ゴジラが到着したことに。

 

 第三新東京を囲う山の上に立ったゴジラは、もうピクリとも動かない状態になったマトリエルを見ていた。

 グルルっと唸るゴジラは、死んだマトリエルを見て鋭い目を更に鋭く細めた。

 ゴジラがどう動くか分からないので身構えていた前線部隊の真上を、銀と赤の巨体が猛スピードで横切っていった。

 ジェットを吹かしながら弾道ミサイルのごとくゴジラ目がけて飛んできた機龍フィアを、ゴジラは、真正面から受け止め、しかし衝撃で受け止めた機龍フィアごと山から転がり落ちた。

 

『オートパイロットプログラム起動に成功! 前線部隊は、ゴジラと応戦せよ!』

 

 ついに機龍フィアの自動操縦プログラムが正常に作動し、ゴジラと初の無人での戦闘を開始することとなった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ハッチの下に通じる通路に移動した風間は、メーサー銃を膝に置いて、壁に背を預けて座り込んでいた。

「…はあ。どうだ。ったく、何が神の使いだ。」

 風間は、疲労感のため荒くなる呼吸を整えるのをあとにして、仕留めた使徒マトリエルにそう言った。

 風間の耳にある通信機が反応し、風間はけだるそうにスイッチを押した。

『風間少尉。使徒の殲滅が確認された。』

「それで? ゴジラが来たのか?」

『第三新東京エリア付近の山の上で殲滅した使徒を見ていたらしい。そこにオートパイロットプログラムが起動した無人の機龍フィアが突撃して、前線部隊と共に交戦しているとのことだ。』

 監査官との通信の最中、急に通路の照明が点いた。

「…停電が復旧したみたいだな?」

『そのようだな。一旦こちらへ戻って来てくれ。』

「めんどくせぇ。」

『まあ、そう言わないでくれ少尉。今回は非公式とはいえ、ネルフの赤木博士との共同戦だったんだ。一時的とはいえ手を取り合ったんだ、一言声をかけるぐらいのことはした方がいい。ゴードン大佐ならそうするだろう。』

「……チッ。」

 風間は舌打ちをして、立ち上がり、メーサー銃を肩に担いで歩きだした。

 

 風間が歩き出した時、ハッチの真下から巨大な何かが地上に向かって飛び出した。

 風間がバッと振り向いた時に目にしたのは、紫色。

 ガリッ、グチュッという音がして、死んだマトリエルから出ていた体液の匂いが更に濃くなる。

 風間がメーサー銃を構えて、紫色の何かを睨んでいると、やがて紫色の何かは目にも留まらぬ速度で下へ潜って行った。

 風間が走り、紫色の物体を探すも、紫色の物体が開けた巨大な穴の中には紫色の物体の姿はなかった。

「な、なんだ? あれは……、一体?」

 そして風間は、ハッとして、上を見上げた。

 マトリエルの死体。胴体の部分が噛みちぎられていたのだ。ドロリっとした臓物らしき物がはみ出てて、そこにも噛みちぎられた跡が生々しく残っている。噛み跡からして犯人がかなり巨大であることが分かる。

 先ほどの紫色の何かは、マトリエルを…食った?

 風間は、吐き気が込み上げてきたが、グッと力んで我慢した。

 そして通信機のスイッチを押した。このことを伝えるために。

 

 

 

 

 一方ツムグは。

「ゴジラさんの接近に気付けなかったってどういうこと? なんかネルフ来てからおかしいことばっかりだな。どういうことなんだろ? ま、いっか。とりあえず今は…。」

 ネルフから地上へ出たツムグは、オートパイロットプログラムで動く機龍フィアを見ていた。

「自動操縦って確か、俺の操縦データを基にプログラムしたんだっけ? うん。中々動くね。そりゃそうか、俺の動きを再現してるんだし。でもゴジラさん、つまらなさそうだね。そりゃそうか。だって無人で、あと使徒を殺しに来たのに使徒が死んでたから不満たらたらなんだね? よし! ゴジラさんの不満を解消させるため! 頑張らせていただきます!」

 ツムグは、両手を上げてそう言うと、その場から瞬間移動し、パイロットスーツなしで機龍フィアのコックピットに現れた。

 コックピットにぶら下がるヘルメットを掴み、頭にかぶる。

 DNAコンピューターが瞬時にツムグの存在を認識し、オートパイロットプログラムが解除され、ツムグとのシンクロが開始された。

 機龍フィアの目に光は灯っていたが、ツムグとのシンクロで輝きが変わったことに、ゴジラは、すぐに気が付く。

 

 そして、今日一番の雄叫びをあげた。

 

「光栄だね。そう思ってもらえるなんて。さあ、不満解消させてあげるね。ゴジラさん!」

 ツムグが操縦桿を握った。

 オートパイロットプログラムから、椎堂ツムグの操縦に切り替わった機龍フィアとゴジラの戦いが始まった。

 

 ちなみにオートパイロットプログラムによる戦闘時間は、わずか4分だった…。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『機龍フィアのオートパイロットが解除されました! DNAコンピュータからの信号によると、椎堂ツムグが搭乗したもよう!』

「遅い! まったく! あいつはこっちの苦労も知らずに…!」

 オートパイロットプログラムの起動で苦労させられていた技術部は怒りで頭をかきむしっていた。

 怒っているのは、大半はベテラン。

 その下で働いてる技術部の大半の若年層技術者達は、あんなに苦労したのに、っと大泣きしていた。

「でも、いいデータは、取れましたよん。」

 ……中にはマイペースな奴もいる。マッドなのは、意外と順応性高い。

 少しだけであったが機龍フィアによるオートパイロットプログラムの戦闘という貴重なデータは取れたのは確かだ。これは、今後の機龍フィアの改良にも使えるし、他の兵器にも応用できる。無人というものは、戦闘でもそれ以外のことでも重宝されるコンピュータやロボット工学で強く求められている分野だ。人を乗せる事で人命の危機や、人が入れない危険な環境で活動できるし人員削減などいいことづくめではある。

 しかし無人であることは必ずしもいい結果をもたらすことはない。

 一つは、暴走である。何らかのトラブルで遠隔での命令を聞かなくなったり、無人機の頭脳部分やプログラムの故障で暴走し被害が出ることだ。

 高度な電子頭脳が反乱を起こすという事体だってある。SFフィクションによくあることだが、それが現実になるほどの技術力が地球防衛軍にはある。

 意思を持たないはずの機械に意思が灯る。その現象の一例として地球防衛軍のベテラン技術者の記憶に強く残るのは、3式機龍のことだ。

 3式機龍は、ゴジラの骨髄幹細胞のDNAコンピュータから別物に取り換えられるも、なぜか突然自我が発生し、ゴジラと共に海に沈んでいる。一代目のゴジラの骨を使用したメカゴジラだった3式機龍は、ゴジラの骨を兵器として使うことを死者への冒涜だと言った小美人達の言葉通り静かに海の底で眠りたかったのだろうか…、3式機龍が永遠に失われた今となっては、永遠に答えは分からない。

 日本では古い物や魂を込めて創られた物には魂が宿るというのが昔から浸透している。いわゆる付喪神(つくもがみ)という概念だ。あらゆるものには魂が宿っているという神話や言い伝えが生活に浸透している日本だからこそ無機物に意識が芽生えても案外簡単に受け入れてしまえるのである。

「パイロットスーツなしだからDNAコンピュータとのシンクロ率が低いな…。それに波長が乱れている。脳との接続と手動操作だけでどこまでやれるか。これも貴重なデータだ、しっかり記録しろ。」

 機龍フィアから伝達される情報を管理するシステムのモニターを見て、メカゴジラの開発技術者の一人がそう命じた。

 シンクロ率が低いといっても、椎堂ツムグ以外が万全装備で乗った場合に比べれば雲泥の差である。どれくらい低くなってるかいうと、150パーセントから145パーセントと…、わずか5パーセント足らずであるのだが…。

 そこまでシンクロに差が出ないのは、機龍フィアの素体とDNAコンピュータがツムグの細胞から作られているからである。これは、エヴァンゲリオンのシンクロとよく似たものだが、エヴァンゲリオンとの大きな違いは、機龍フィアは、遺伝子(細胞)の提供者の椎堂ツムグとは同一人物、あるいは一卵性双生児といえる関係であり、遺伝子の近親性による共鳴が万全装備じゃない状態でも高いシンクロ率を叩き出す要因になっている。

「新しい監視用の物を作っておいて正解だったな。」

 今回のツムグ失踪事件で苦労させられたことにでかいため息を吐いたベテラン技術者は、開発室にあるとある装置のスイッチを押して細長いカプセルのような物を穴からせり上げさせた。藍色の液体は、ナノマシンである。

 ゴジラとの戦いが終わったらこれをツムグの体内に注射することになるだろう。

 監視用のナノマシンの開発は、G細胞完全適応者を警戒する上層部の命令である。ツムグが解散前の地球防衛軍に保護され、監視下に置かれてから、脳や心臓に埋め込まれた自爆装置や監視装置、更に精神がゴジラ寄りになった時の危険を知らせるなどの情報を伝達する様々なナノマシンを技術部が開発し、科学部と医療部との共同でツムグの体に埋め込んできた。

 たまたまG細胞と融合していたことが分かり、記憶がないことから椎堂ツムグという名を与えられた一人の人間に、約40年物の月日をかけて監視や万が一のためと惨い手術を施し続けてきた。G細胞の異常性もあり、ツムグは死にもせず、弱らず、狂いもせず、最近ゴジラ寄りになりかけた(サンダルフォンの時)ことはあったものの、怨み頃すら言わずマイペースに地球防衛軍の束縛の中で生きている。

 危険を回避するためと監視のためと開発された自爆装置やナノマシンを始めとした機器も、もう何十個目となるだろうか?

 それが全て普通の人間のサイズのツムグの体に入れられた。その内の半分以上はG細胞の再生能力で吐きだされたり、機能が停止したので手術で取り出されたりしている。だが入れられている箇所が通常なら手の出しようがない急所ばかりなので手術はいつも地獄絵図となる。G細胞の回復力もあり、再生が済む前に捌いて中のものを取り出さなければあっという間に元通りになるのでやり直しになるため地獄絵図に拍車をかけており、ツムグの手術に立ち会った科学者や医者は、約40年の間に6割が精神を病んだ。

 しかし椎堂ツムグにやってきたこれらの非人道的な人体実験は、地球防衛軍の生物化学や医療技術などの向上にもつながっており、すべてがマイナスというわけではないのだから皮肉である。

 新しいナノマシンとナノマシンと連動している監視装置を詰めたカプセルを厳重なアタッシュケースに詰めて施錠したベテラン技術者はまたため息を吐いた。

 

 

 

 

 緊急出動の時に行方をくらましていた椎堂ツムグに対して、地球防衛軍側で新たな監視のための処置が決定していた頃。

「うぉりゃああああ!」

 ツムグは、手動操作でゴジラを巴投げしていた。

 機龍の体系からして巴投げは無理…なのだが(足の長さと尻尾が)、できないことをやれるぐらいじゃないとゴジラとのガチバトルなんてやってられない。

 ぶん投げられたゴジラは、受け身を取り、すぐに起き上がると機龍フィアと掴みあった。

 押し合いへし合いしている最中、ゴジラが戦いを楽しんでいるというのがツムグには分かり、ツムグは、汗をかきながら楽しそうに笑った。

「アハハハハ! ゴジラさん楽しんでくれてる!? 嬉しいな! 俺も楽しいよ!」

 命がけの戦いだというのに本当に楽しそうに笑い声をあげながら、操縦桿を巧みに操り、機龍フィアの片手をゴジラの手から離すとゴジラの顔を殴ろうと振りかぶった。するとゴジラも離された手で拳を作り、機龍フィアを殴ろうと振りかぶった。

 前代未聞のゴジラとメカゴジラのクロスカウンターが発生し、機龍フィアの下顎が横にずれて火花が散った。

「つよーい、やっぱりゴジラさん、強いよー。パイロットスーツなしだからか、ちょっと調子出ないし、どうしよう…、こうなったら……、リミッター解除! 三つだ!」

 いつもとシンクロ状態が違うため少々頭がぐらぐらしたツムグは、ヘルメット越しに頭を押さえながら、そう叫び、リミッター解除を行った。

 途端、ツムグの両目が黄金に輝いた。DNAコンピュータからの信号の逆流による脳への負担を歯を食いしばって耐える。

 よろついた機龍フィアにゴジラは、尻尾による一撃を入れようと体を大きく捻らせた。その尻尾が機龍フィアに掴まれ、ゴジラの体が浮いた。機龍フィアがゴジラの尻尾を掴んで持ち上げ、後方に放り投げたのだ。

 仰向けに倒れたゴジラに、機龍フィアが馬乗りになり、マウントポジションを取って、これでもかと殴り始めた。

 殴られていたゴジラの背びれが輝き、ゴジラの体内熱線によって大爆発が起こり、機龍フィアとゴジラの体が飛んだ。

 お互いに地面に落下したが、すぐに立ち上がり、また取っ組み合い体制に入るのだが、リミッターを三つ解除した機龍フィアの馬力に押され、ゴジラが凄い勢いで後方に押されていった。

 しかしゴジラは、学習し絶え間なく強くなっていく、怪獣王たる力を備えている。サキエルが襲来した時の戦闘もあっても機龍フィアの特性をもう把握したのかサキエルの時より多くリミッターを解除した機龍フィアの寄り切りに堪えて踏ん張った。

「ガフっ!」

 コックピットの中で、ツムグが、吐血した。

 顔を覆うヘルメットと、膝と床が赤黒い血で汚れた。

「あ、頭……、潰れそう…。血が、沸騰してるみたいに熱い。スーツの端子って大事なんだな…。よく分かった。アハ。確か、負荷軽減だったっけ? ……ま、いっか。どーせこれぐらいじゃ、死なないし。そろそろ終わりにしようか、ゴジラさん。もっと戦いたかったけど…。ごめんね。」

 わずか5パーセント足らずの差だが、内容が問題であった。パイロットスーツの背中の端子を指す部位は、開発目的は搭乗者とDNAコンピュータのシンクロの安定のためであるが、もともとシンクロ率が異常に高いツムグにはシンクロによる肉体への負担を軽減させるものになっていたのだ。波長の乱れという基地に伝達される情報は、負担の増減に関わるものだった。

 機龍フィアの腹部が開閉し、絶対零度砲の発射口が出ると、ゴジラは、それにいち早く気づき、機龍フィアから素早く距離を取って絶対零度砲のダメージを軽減しようとした。だが発射はされなかった。

 ゴジラがそれに気付いて訝しんだ時、ゴジラの顔の真横に機龍フィアの肩にある砲台が押し付けられた。

 ゴジラの目が機龍フィアの顔を見た時、機龍フィアは下顎が横に歪んでいるし、表情も変わらないというのに、ゴジラには、機龍フィアが笑ったように見えた。

 第三新東京に響き渡る轟音と共に、ゴジラの顔面にゼロ距離の砲撃が決まり、ゴジラの頭部が爆発の炎と煙で包まれてゴジラの体がぐらりと傾いた。

 この砲弾は、一撃で怪獣の体に風穴を空けられる威力を持つ新調された対怪獣用兵器だ。

 爆炎のあと、ゴジラの足元に砕けたゴジラの歯が落ちた。

 煙が晴れるか晴れなかの合間にゴジラの背びれが青白く光り輝き、すぐ傍にいる機龍フィアの顔面に向かって大きく口を開いた。

 すると機龍フィアも歪んだ下顎を部分を無視して、大きく口を開けた。3式機龍に搭載されていた99式2連装メーサー砲の強化版である、100式メーサー砲を発射するためだ。

 ゴジラの熱線と、機龍フィアの100式メーサー砲がぶつかった。

 異なるエネルギーのぶつかり合いによる凄まじい閃光が第三新東京を覆い、前線部隊も戦闘状況を見守っていた地下のネルフの方も目を覆った。

 光が治まると、機龍フィアとゴジラがお互いにそれなりに距離が離れた位置に仰向けで倒れていた。

 ゴジラがゆっくりと起き上がる。顔の片側がさっきの至近距離の砲撃で分厚くて固い皮膚が抉れ、上下の歯が何本か無くなっている。出血は止まっているので、すでにG細胞による再生が起こっているのは間違いない。

 少し遅れて機龍フィアが起き上がった。片手で歪んだ下顎を掴み元の位置に戻す。それだけで壊れたはずの関節部や頭部の装甲などが自己修復された。

 起き上がったゴジラは、顔の血を煩わしそうに手で乱暴にこすり、機龍フィアを睨んで、唸り声をあげた。

 機龍フィアは、グッと身構える体制になり、それに呼応するようにゴジラも同じような形で身構えた。

 100メートル級、さらに超重量級の怪獣とその怪獣を模した姿をしたロボットが、その巨体からは想像もできないスピードで動いた。

 熱線も近代兵器も使わない、まさに泥仕合。殴り合い、つかみ合い、投げ技。怪獣プロレスなどという単語…、誰が最初に言った?

 機龍フィアが押し倒されると、機龍フィアは、鋼鉄の尾っぽを振るい、土を抉って器用にゴジラの横顔に土をぶつけた。目に土が入り怯んだゴジラを押し返して起き上がるとブレードを展開して傷が癒えていない反対側のゴジラの顔を目と一緒に切りつけた。ゴジラは、土で潰された目とブレードで切り付けられた目を押さえて悲痛な鳴き声をあげた。

 ゴジラが両目を潰されて怯んでいる間に、機龍フィアは、ぐぐ~っと頭と背中を後ろにしならせ、次の瞬間、ゴジラの頭部に強烈な頭突きをくらわした。その結果、機龍フィアの額が割れ、左目の部分が砕けた。オイルが垂れ、まるで血の涙のように機龍フィアの顔と首を濡らした。

 頭突きをされたゴジラは、バランスを崩して倒れそういなったが、土をくらった眼を薄く開けてなんとか倒れずにすんだ。鼻からボタボタと血が垂れており、先ほどブレードで切られた反対側の目と砲撃で抉られた部分が瘡蓋になっており、瘡蓋はやがて剥がれ落ちて新しい黒い皮膚が現れた。そしてポロポロと折れた歯が落ちて新しい歯が生え変わる。やがて切られて閉じられていた目が開いた。

 地球防衛軍も地下のネルフも、固唾をのんで戦いを見守っていた。

「なんて奴だ…。」

 前線部隊と合流したゴードンがゴジラの回復力を見てそう呟いた。

 確かにゴジラは、凄まじくタフで、不死と言っていいほどの回復力を持つが、怪我をしたり強力な相手と戦った後は、大抵一か月、長くて数年ぐらい寝て全快するという感じであった。

 なので顔面にあれだけダメージを受けて、目の前で傷が癒えていく様は地球防衛軍の記録にない。セカンドインパクトを経て、どうやら熱線の威力の上昇だけじゃなく、回復力もパワーアップしたらしい。つくづくゴジラ細胞…略してG細胞というのは厄介であると改めて実感させられる。

「は…、はあ! はあ、はあはあはあ!」

 機龍フィアのコックピットの中で、荒い呼吸を繰り返しながら口から唾液が混じった血をダラダラと垂らし続けるツムグ。足元は流れた血が広がり、ゴジラとの肉弾戦で機体が凄まじく揺れ動いたためコックピット全体に血が飛び散っていた。

 ツムグは、止まらない血を見て感じた。どうやら体の中の沢山の血管が破けてしまったらしい。G細胞の修復ができていない。だが死ぬには至らない。出血に合わせて血液が生産されているのだ。

 内臓からの出血なのだ、痛くないはずがないし、大量の血を喉から吐き出す苦しさは、常人でもミュータントでも耐えられるものじゃない。

 だがG細胞が。椎堂ツムグというG細胞を取り込んだ椎堂ツムグを形作るすべての細胞が彼を死から遥か遠くに遠ざけている。どんな惨い実験でも気絶すらせず耐えたということは、意識を失っても仕方がない苦痛から逃げられないということだ。マイペースにのらりくらりと平気そうにしていたが、もしツムグにただの人間だった頃の記憶があったなら…、とっくに狂っていた。彼が取り込んでしまったG細胞は、狂うことすら許さない。本当なら死んでいたはずの彼が偶然G細胞に触れてしまい、死の淵から甦らされ、その過程でG細胞完全適応者に相応しい精神が再構築されたのではないかと、彼の細胞の研究を担当する研究者が口にしている。

 だからツムグは、こう考える。

 

 『俺(椎堂ツムグ)は、ゴジラさんの細胞と一つになったあの日生まれた。』

 

 逆流してくる信号によるノイズのようなビジョンが脳内に映し出されるような錯覚の中、ツムグは、自分の出自について考えていた頃に出した自分なりの答えを思い出していた。

 過去がない。自分がかつて何者だったかを解明する物も知人もおらず、その辺にあった物についていた言葉を繋ぎ合わせてつけられた『椎堂ツムグ』という名前。この名前が自分の呼び名だと認識した時が、空っぽだったツムグの頭の中の記憶の始まりだった。

「はあ、は…あ、…ゴ、ジラ…さん。ゴジラさん、ゴジラさんゴジラさん、ゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさん。」

 ツムグは、笑いながら、DNAコンピュータから映し出されるゴジラを見てゴジラの名前を呼び続けた。

 自分を、いや、機龍フィアを睨みつけ、いつでも飛び掛かれるよう体制を整えるゴジラに、ツムグは、ゴジラの名を呼びながら無意識に手を伸ばしていた。

 それはまるで、唯一信じる神に縋るかのように…。

「ゴジラ…さん……。ああ、ゴジラさ…ん……。」

 ツムグは、震える声で、甘えるような声色でゴジラの名前を呼び続ける。

 コックピットの外では、ゴジラと機龍フィアが睨みあった状態で膠着していた。

 すると、ゴジラが急に構えを解いた。

 機龍フィアを見つめるゴジラの目に先ほどまでの泥仕合で燃え上がっていた怒りの炎が静まりつつあった。

 やがてゴジラは、唸り声をあげて、やがて海に向かって行った。

 

『……しらさぎに告ぐ。機龍フィアの回収を急げ。』

 

 ゴジラが退散したのを見届けた基地の司令部は、機龍フィアの輸送を担当している戦闘機しらさぎにそう命令した。

 マトリエルの襲来、そしてツムグの失踪で機龍フィアが出せないやら、ゴードンが派手にマトリエルの足をぶった切ったり、ネルフにいた風間らがマトリエルを仕留めたりと騒々しい一日が終わりを告げた。

 マトリエルの死体は、今までの使徒と違い、ゴジラに殲滅されずに済んだためほぼ完ぺきな形で残ったため、貴重なサンプルとして全部回収された。生きている間に取ったゴードンが持ち帰ったサンプルも死ぬ前と死後との違いの比較に使える貴重なサンプルになった。

 機龍フィアが格納庫に収容された後、中で気絶してたツムグを担架で運ぶ最中、何度もツムグは吐血して激しく咳き込んだ。

 ツムグの体調管理などを任されている研究所に運ばれすぐに検査が行われた。

 結果は、ツムグが強力な熱線を使用したことによる負荷で、本人も知らぬ間に内臓の血管が脆くなっていて、その状態で機龍フィアに乗って力んだために血管が破裂していただった。

「ツムグ…。どこで熱線を使ったんだ?」

「黙秘しまーす。ゲフっ。」

 ツムグと付き合いが長い研究者兼医者がじと~っと怒りをにじませた視線と共に尋ねても、ツムグは、沢山の機器に繋がれて横になったまま黙秘するとマイペースに答えてまた吐血していた。

「この十数年の間に熱線なんてまともに使ってないからここまで負担がかかったんだ。それにしてもおまえの中の監視システムからの電波が届かないなんて、一体どこで油を売ってたんだ? おまえの治療優先で来てないが、波川司令達が怒り心頭なんだぞ?」

「ごめんねー。ちょっと散歩してたら迷っただけだから。グフっ。」

「…おまえの監視体制は、地球の裏側にいても特定できるはずなんだがな? 何が妨害したんだか?」

「あ? そうなの、ガハっ。」

「あんまり喋らせないであげてくださいよー! さっきから喋るたびに血ぃ吐いてますって!」

「この程度じゃこいつは、死なん。緊急時に勝手にいなくなった罰だ。」

 さすがに見かねた研究者の卵が止めたのだが、ツムグの吐血を無視して話しかけていたこの医者は漫画表現なら怒りマークつけた状態でツムグを睨みながら言った。オロオロする研究者の卵とは裏腹に、睨まれてるツムグは、口を血で濡らした状態でニッと笑った。ツムグにしてみればこの程度のことはスキンシップみたいなものであったのだ。緊急時に自分がいないことでどれだけの危険と損害が出るかぐらい分かっているからこそ、自分に与えられるこの苦痛は相応のものだと受け止められる。

 ツムグが横になってる色んな機器だらけのベットの枕元が血塗れだった。

 結局、ツムグの吐血が止まるまで、翌日までかかった…。

 精密検査で全身の血管が修復されたのを確認されてから、新しい監視のためのナノマシンが注入された。

 ツムグがどこにいるのか捕捉できなかったことについて、監視衛星や世界中にある地球防衛軍の施設のデータからも、ツムグが機龍フィアに乗る直後まで完全にロストしていたことが分かり、ツムグにどこにいたのか聞きだそうとしてもツムグは黙秘を貫くため謎のままだった。

 それはツムグにとっても予想外のことで、まさかネルフにいただけで自分の監視の目が届かなくなったことに驚いていた。

「どういうことなんだろ? 調べる必要があるけど…、しばらくは大人しくしとこ。」

 続けざまに消えたら自分が親しい者達が迷惑するので、しばらくは大人しくしようと思ったのだった。調べに行った時、マトリエルさえ来なければ調べに行ったのだが…。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 マトリエルが殲滅され、ゴジラを海に退散させた後。

 ネルフの地下の一部がこれでもかというほど焼き尽くされ、破壊されていたことが分かり、現場に急行したネルフの総司令ゲンドウが前のめりに倒れ担架で緊急搬送されたりしていた。

 破壊された場所を見て、赤木リツコは、額を抑えて大きなため息を吐いた。

 レイのクローンは、エヴァンゲリオンに搭載されるダミープラグという自動操縦プログラムの開発にも利用されていたのだが、サキエルの襲来のすぐ後にネルフが実権を奪われたためダミープラグの研究も停止していた。

 それなのにレイのクローンの培養、維持が行われていたのは、ゲンドウの独断であり、維持費はゲンドウのポケットマネー(金の出所は不明)である。

 ゲンドウの最愛の妻ユイのコピーといえるレイは、彼にとってユイの忘れ形見であるシンジよりも外見や遺伝子的にユイに近いことから思い入れが圧倒的に強く、現在いるレイが地球防衛軍の手に渡ってしまった時の荒れっぷりからもその執着ぶりが明らかだ。

 地球防衛軍にいるレイがあらかじめ刷り込んでおいた消えたいという願望から自殺して、プラントのレイのクローンのいずれかに入って手元に戻るのを待っていたが一向にその兆しがなく、暗殺を企てようとしていた矢先にレイのクローンとその材料のすべてが焼き払われて失われてしまった。そのため現在地球防衛軍にいるレイ以外にもうレイはこの世に存在しないということになる。

 レイの育成やクローン体の維持などの研究をすべて任されていたリツコは、母親絡みの確執もあり、ゲンドウに対する復讐をかねてレイを利用していたのだが、何者かにこうも徹底的に破壊されてなんかもう色々吹っ切れてしまった。

 レイのクローン体の破壊は、自分の手でと考えていたのに、っとリツコは、自虐的に笑った。そして顔面強打でサングラスを粉砕して額を割り、鼻から大量の血を流しながら運ばれていったゲンドウの情けない姿を思い出し、地下プラントを破壊してくれた犯人に感謝した。

 ゲンドウのことだから、初号機からサルベージを行いレイを作ろうと躍起になるだろうが、そのための機器も施設も破壊され、一から作ろうにも地球防衛軍の監視は厳しく、秘密裏に建設しようものならすぐ気付かれるだろう。仮にレイのような使徒と人間のハイブリッドの作成に成功しても、そこにレイの魂が宿ることができるかと言ったら微妙なところだ。世界有数の頭脳であるリツコの力をもってしてももうレイを作ることは不可能なのである。

 リツコは、復讐を果たすためゲンドウに従っていたがために身を亡ぼす気で今まで生きてきたが、この短期間で随分と自分自身が変わったというのを実感した。

 思い返せばサキエルの襲来のときに復活したゴジラと、その後の地球防衛軍の復活からすべてが変わった。

 そしてつい最近で思い出すのは、エヴァのことで自分を訪ねてきたミュータント兵士の一人である風間のこと。

 あの不機嫌そうな顔に反して、守りたいもののために戦う戦士としての強さを宿した眼差し。リツコは、不覚にもそんな風間を美しいと思っていた。捻くれ者が見れば偽善だのなんだのと好き勝手に貶すであろうあの真っ直ぐさこそ、心という見えない物を進化させてきた人類が持つ強さなのではないかとも思った。ああいう者達で構成された地球防衛軍だからこそ、地球防衛軍は、長らくゴジラを始めとした怪獣達と戦い続ける強さを維持できたのだろう。

「奇妙な巡り合わせだわね。」

 リツコは、クスクスと笑った。

「あの子(風間)、また来てくれないかしら?」

 そんなことを口にするリツコであった。どうやら彼女の心からはすっかりゲンドウはいなくなっているようだ。

 

 リツコが風間のことを思い返していた時、基地に帰った風間がくしゃみをしていたとか?

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方その頃。

 地球防衛軍の基地、科学部の研究所のひとつ。

「大丈夫?」

「ああ…。」

「風邪でも引いたのか?」

 くしゃみをした風間を音無と尾崎が心配した。

「それで、研究結果はどうなってるんだ?」

 風間が音無に聞いた。

 音無は、分子生物学博士なので怪獣などの生物の研究の他、使徒の解析にも立ち会っている若き天才である。

 聞かれた音無は、ノートパソコンを開き起動させると保存されたデータを二人に見えるようにした。

「第三使徒や第四使徒の燃えカスから採取したDNA配列と照合してみたけど、結果は、99.88パーセント、人間の遺伝子と一致する結果が出ているわ。燃えカスから得られなかった新たな情報としては…、使徒の細胞はあのATフィールドをほぼ常時発動できるほどの莫大なエネルギーを生産できるということ。そのエネルギーの生産はどうやっているのかはまだ分からないけど、急所であるコアが使徒の体の機能のすべてを司っているわ。ここまでコアに依存している仕組みじゃ、コアを潰されたらそれで死んでしまうのも無理もないわ。はっきり言って使徒はコアだけですべての体の機能を維持していると言ってもいいわ。つまりコアさえ無事なら体のどの部分を失っても平気ってことよ。」

「二つに別れた状態で活動した使徒が良い例か…。」

 尾崎はイスラフェルのことを思いだして言った。

「ええ。使徒という生物は、生命としてはまさに究極と言っていいわ。これまで確認された使徒の形状から見ても分かるけど、生物として絶対必要な食事や排せつなどがまったく見られない形をしている。コアの部分だけで生命活動のすべてを維持しているのよ。生命としての完成度なら怪獣の遥か上を行くわね。」

「怪獣よりも上位の生物…。」

「だがその完璧な生物とやらもゴジラのあっさり殺されてるぞ? 機龍フィアにだって負けてる。俺でも仕留められたしな。」

「完璧、完全、究極。…なんて言葉ほど、不完全なものはないわ。少なくとも私はそう思うもの。」

 音無は、そう言って肩をすくめた。

「使徒は、急所であるコアを潰されなければN2地雷でも殺せないわ。だけどコアさえ潰せれば、風間少尉やゴードン大佐でも倒せるってこと。異常な生命力のすべてをコアという急所に全部かき集めた体の構造が仇になってるわね。そう言う意味では、完璧だけれど、凄まじく弱いってこと。」

「…コアを潰すとか言う前にゴジラの熱線で跡形もなく焼き払われてるけどな。」

「それは…、うん。ATフィールドという特殊なエネルギーの壁については、まだ解明できないんだけど、ゴジラの熱線やメーサー砲なら貫通できる。だから何かしらのエネルギーの波長が突破口になっているのは間違いないのよね…。あ、そうそう。」

 音無は、思い出してパソコンを操作し、別のデータを表示した。

「風間少尉の報告で、何かがこの使徒を食べて姿を消したってこと、調べたんだけど…。ネルフ本部が停電してたから使徒を食べた相手の正体に関する情報は何も掴めなかったわ。」

「そうか…。」

「歯型が残ってたから調べてみたんだけど、少なくとも数十メートルぐらいはある巨大な生物の口だったわ。適合する生物の歯型がなかったから、分かったのはそれだけ。唾液と思われる分泌物も見つけたから解析したけど、人間の唾液とほぼ一致したのよ。どういうことかしら?」

「数十メートル? 確かに…、俺が見た物はかなりでかかった。一瞬だったから全部を見れたわけじゃないが、唾液が人間と同じだと…? まさか…、そんな馬鹿なことが。」

 風間は、停電前に見た三号機の口の形を思い出し頭を振った。

「心当たりがあるのか? 風間。」

「正直、考えたくもねぇ。もしそうなら余計に訳が分からなくなっちまう。」

「教えてくれ。それがヒントになるかもしれないぞ。」

「……エヴァンゲリオンだ。」

 渋々答えた風間の言葉に、尾崎と音無は目を見開いた。

「え、エヴァって…、あのエヴァンゲリオン? あれが? 使徒を? 確かに初号機の外装から見れば口らしい部分は……、ちょっと待って、確かにそうだとしたら風間少尉が認めたくない気持ちがすごく分かるかも。でもエヴァンゲリオンは、膨大な電力があって始めて動けるのよ? 大停電の状態で、誰も乗ってない状態で自力で動くなんて考えられないわ。」

「初号機に意思があったらどうだ?」

「尾崎君?」

 困惑していた音無に、風間が言った。

「エヴァンゲリオンは、使徒だ。ロボットじゃない。生物だ。意思があっても不思議じゃない。」

「尾崎、おまえ…。」

 風間が不審げに尾崎を見た。

 尾崎が初号機に意思があるとはっきりと言っていることに、何かを察したらしい。

「おまえ…、あのシンジってガキの心の中で、初号機の意思って奴に接触したのか?」

「……ああ。」

 ずばり言い当てた風間の言葉に、尾崎は肯定した。

「どうして話してくれなかったの?」

 音無の非難を込めた言葉に、尾崎は、ゆるく首を横に振った。

「言いづらかったんだ。ごめん…。」

「もう…。私って信用ない?」

「そ、そんなことない! 美雪はすごいよ! 俺は君のことをすごく頼りにしてるんだ!」

「ほんと?」

「ほんとだって!」

「要するに、尾崎、おまえは、初号機から直接聞いたってわけか? 使徒のことと、ジンルイホカンケイカクのことも、全部!」

 恋仲の尾崎と音無の世界が展開されそうになったので、無自覚イチャイチャ馬鹿ップルにうんざりしている風間が強い口調で無理やりその世界を破壊した。

 フォローしておくが、風間は尾崎と音無の仲を妬んでいるわけではない、むしろ一番応援している。

「そ、そうだ。そうだよ…。あいつが、小さいシンジ君の姿と声を借りた姿で現れて、それで話をしたんだ。まさか、あんなことを聞かされるなんて思いもしなかったよ。信じられなかった。信じたくなかった。でも、嘘偽りのない精神の世界だからあれが全部真実だって分かるんだ。あの後、意識がなくなったから夢だったかもしれないって無意識に自分に言い聞かせようとしてたのもあるせいで、自信が持てなかったんだ。だからシンジ君の心の中で初号機の意思に会って重大な話を聞いたってはっきり言えなかったんだ。すまない…。信用してなかったんじゃない。俺が悪いんだ。」

 俯き、そう語る尾崎を見て、風間は大きく息を吐いて、頭をかいた。

「生死の境を彷徨ったんだ。記憶が曖昧でも仕方ない。むしろそこまではっきり覚えてる方がおかしいぐらいだ。」

「えっと…、すごい頭に焼き付いちゃってたから。だってすごい情報だったからつい…。」

「さすが“カイザー”ってとこか? 普通なのミュータントなら、脳が焼け焦げて死んでたってのに…、おまえはマジで規格外だな。ま、そのおかげで、とんでもない貴重な情報を持ち出せたわけだから、その規格外さに感謝しないとな。」

「そうだな。」

 尾崎はただでさえ人間を超越した新人類であるミュータントでも、更に上をいく突然変異体である“カイザー”と名付けられた存在である自分自身をあまり良く思ていない。彼が心優しく、自分より他人を優先する正義感が強い性格であるため自分が誰よりも優れた力を持っていることが辛いと思うことがあるのだ。シンジの心の中に精神感応でダイブした時、初号機に指摘されたことに即座に否定はしたが、実は少なからず“孤独”を感じていたことがあった。

 自分だけがこの世界でたった一人しかいないということ。数百万分の一というぐらい低確率で生まれるという科学的なデータがあるものの、現在尾崎以外に“カイザー”がいないこと。

 強すぎる力は、諸刃の剣である。

 使い方次第。あるいは、周りの認識で力の持ち主を悪魔にして、どこまでも傷つけてしまう。

 強すぎる力を持て余す尾崎の優しすぎる性格に、力では劣る者達が妬まないはずがない。その妬みを知るたびになぜ自分がこんな強い力持たなければならなかったのだろうかと繰り返し考えた。自分じゃなく、もっと力を持つに相応しい者達がいるはずだと思った。

 しかしM機関の社会貢献の仕事の時、その大きな力で沢山の命を救い、仲間を守ることができた。

 力を持たぬ正義と優しさでは何もできない。他の者達ではどうすることもできない悲しき無力と、力を持たない優しき者達の傷を自分のことのように感じ取り続けた尾崎は、自分が強すぎる力を振るうことに対する迷いを捨てる決意をした。

 迷いを捨てたことで尾崎の見る世界が変わった時、彼はかけがえのない仲間との絆と、風間という友と、初めて愛した女性である音無を得た。

 だから、尾崎は初号機に反発したのだ。残念ながら幼い精神を持つ初号機には、尾崎のその心中は伝わらなかったが…。

「もしかして…、おまえが死にかけたのは、その初号機のせいだったりするか?」

「うっ…、う~ん、当たらずも遠からずかな?」

 あの時、魂を取り込まれかけたことについては、尾崎はほとんど覚えていない。ただツムグの助けがなかったら今こうして三人で一緒にいなかったというのは漠然と覚えている。

「…ネルフ行った時にぶっ壊してくればよかったか。」

「なんでそうなるんだ!?」

「前から思ったけど、風間少尉って、尾崎君のことになると過保護になるよね?」

「好き好んでやってんじゃねぇよ!」

「お、怒らなくてもいいだろ? 俺がなんか悪いことしたか?」

「あー! ったく、おまえは、面倒な奴だよ!」

「えー?」

 放っておいたらほうほい自ら死にに行くような真似をする、面倒見てないと危ない無自覚な尾崎に、風間は怒鳴った。

「もう、二人ともやめて。それにしても、何のために使徒を食べたのかしら? 使徒を食べるメリットっていったい…。使徒を生け捕りにして構造を調べられればいいんだけど、そうはいかないわよね。たぶん次の使徒はまた全然違う姿だろうし。虫みたいな使徒は、9番目の使徒だから…、残りは、8体。…ねえ、尾崎君、私、もーれつに嫌な予感がするの。」

「俺もそう思ってた。」

「いきなり現れるうえに、ここまで形が違う奴ばかりだしな……。だが今まで現れたのは、エヴァンゲリオンと同じぐらいか、少々でかいぐらいの奴らばかりだった。ネルフがサードインパクトとの関連性を主張したぐらいだから、俺達の想像を超えるような使徒が現れても不思議じゃないぜ。」

「あまり想像したくないな…。」

「同感だわ。」

「ああ、まったくだ。」

 次に来る使徒について嫌な予感がしている三人は、揃ってため息を吐いた。

 

 

 そして三人の嫌な予感は的中する。

 

 地球の衛星軌道上に、これまで確認された使徒ととは比較にならない巨大な使徒が出現した。

 

 

 

 

 

 

 




 尾崎が最初に初号機と接触した時、初号機から世界でたった一人だって言われた時、あながち外れていなかったということにしました。
 今でこそ周りも呆れる良い奴ですが、彼なりに自分だけが他と違うことに悩み、苦しみ、乗り越えて今があるみたいな感じです。

 リツコは、すっかり吹っ切れております。ゲンドウとの愛憎とかももうどうでもいい感じ。その代り若い男(風間)に妙なフラグ立ててますが…。

 次回は、最大級の使徒サハクィエルです。


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第九話  空の使徒

 執筆が進まず遅くなりました。

 お気に入り登録が140越えだと…!?
 ありがとうございます! 本当に本当にありがとうございます!



 今回は、最大級使徒サハクィエルです。
 この話から使徒の行動が変わるという流れにしました。
 つまり地球防衛軍側に被害が出ます。


 

 

 

 

 

 

 

 衛星軌道に巨大な物体が突如出現した。

 地球防衛軍の衛星や天体観測施設での解析で、出現したこの物体が使徒であることがすぐに分かった。

 使徒マトリエルを殲滅してからそれほど時間が経ってない、立て続けの使徒の襲来であった。

 観測され、衛星写真で撮られたこの使徒の姿と全長に観測者達は恐怖で絶望したという。

 

 地球防衛軍本部の会議室では、浅間山でのサンダルフォン殲滅作戦以来久しぶりに緊急会議が開かれることとなった。

「ザトウムシによく似た使徒の殲滅後、この使徒は出現しました。今から映像を映像をスクリーンに映します。」

 そして巨大スクリーンに、観測された衛星軌道上に出現した使徒の姿が映された。

 その姿は、まさに美術品のような、カラフルなアメーバというか…、もしくは古代文明の遺跡にありそうな壁画とかオカルト系の書物に描かれるような模様に目玉がついているようなそんな異様な姿だった。目玉がなければ、これが生物だと判断できないような奇怪な形だ。

「全長はおおよそ20キロメートルから40キロメートル。発見されてから、現在まで動きは見られない状態です。この途方もなく巨大な使徒の攻撃手段やそれ以外の性質は、まだ解析できていません。」

「40キロメートルっ…!? なんなんだその大きさは! そんなものが今、地球の空から地上を見おろしているというのか!?」

「やはり、突然現れたのですか?」

「ええ。何の前触れもなく突然出現しました。衛星と天体観測施設の記録が必要ですか?」

 マトリエルの後に続けざまに出現した使徒は、怪獣との戦いの経験者達ですら経験したことがない途方もなく巨大であった。

 それも地球の衛星軌道上を漂っており、今のところ大きな動きはないが、宇宙空間に出現したことと、その巨大さだけで、もう不安と恐怖で多くの者達は顔が青くなっていた。

 机に肘をついていたゴードンも、巨大すぎる使徒が映されたスクリーンを睨みつけ口元を歪めていた。

 宇宙から来た怪獣や宇宙人はいたが、まさかなんの前兆もなく数十キロメートル級の使徒が現れるなど誰が考えた。さすがのベテラン勢も嫌な汗が伝う。

「スペースゴジラやミレニアムとはわけが違うぞ!? どう立ち向かえというんだ!?」

「地球防衛軍の兵器で地球衛星軌道上の物体を狙えるような兵器がそもそもあるのか!?」

「単発式だが威力を重視しすぎたプロトタイプのメーサー砲なら格納庫で埃被ってるがな。」

「ならそれを引っ張りだすべきだ!」

「待て、あれ(プロトタイプのメーサー砲)で40キロメートルもあるあの化け物を仕留められる保証はない! それにあれは爆発の恐れが高いから実戦に投入されなかったんだ!」

「仮に爆発しなかったとしても衛星軌道にいる奴まで攻撃が届くとは限らない!」

「なら轟天号をロケットエンジンで宇宙に飛ばすのは!?」

「だめだ、時間がかかり過ぎる! 地球防衛軍の技術開発部が総力をあげても数十時間は必要だ!」

「くそ! 宇宙空間にいる化け物退治など前代未聞だぞ! ゴジラといえど、あんな場所にいる使徒をどうやって仕留め…っ…、ちょっと待ってください、あれだけ巨大な使徒のことをゴジラはもう気付いている…はず…ですよな?」

 ふと我に返った上官の一人が、巨大使徒の存在についてゴジラが気付いている可能性について言った。

 今まで80メートルくらいか、あるいはそれより少し大きいぐらいの色んな形をしていた使徒であるが、宇宙空間に出現した使徒はとにかく巨大である。今まで出てきた使徒をほぼ漏らさず(イスラフェルの時のみエヴァ四号機を破壊しにアメリカに上陸したが)見つけて襲ってきたゴジラが宇宙空間にいるとはいえ、巨大使徒を発見できていないというのはおかしい。

「そーいえば、ゴジラの野郎の熱線は宇宙まで飛距離はあったな…。」

 ゴードンがそう呟いた。

 ちなみにこの宇宙まで届くというゴジラの熱線は、セカンドインパクト前のゴジラの熱線である。

 つまりセカンドインパクト後でやたらパワーアップしている今のゴジラならば…。

「馬鹿みてぇにでかいあの使徒も簡単に燃えカスにできそうだ。」

 ゴードンの言葉に、混乱して大騒ぎしていた議会場内の者達が静まった。

 使徒を仕留めることに躍起になっていたが、今考えてみれば最初の内はゴジラが使徒を仕留めてからゴジラと戦うという流れであった。急な使徒よりエヴァ破壊を優先したことや使徒がいた場所が悪かったことや、ミュータント兵士が白兵戦で仕留めたのを抜けばほとんどの使徒はゴジラに殲滅されている。

 騒然となっていた場が、それでなんとか落ち着き始めていた時。

 彼らの予想を裏切る最悪の事態が起こった。

 

「緊急事態発生の信号あり!」

 

 波川の隣にいた秘書が耳にかけたヘッドフォンを手で押さえて波川に知らせた。

「地球防衛軍の天体観測施設からです! 軌道衛星上にいる使徒に動きがありました!」

「ライブ映像を!」

「了解!」

 巨大スクリーンの映像が衛星からのライブ映像に切り替わった。

 そこに映されたのは、横長?縦長?な体の両端をジリジリと引きちぎるように切り離していく奇妙な動きをする巨大使徒だった。体をちぎっていく様は、分裂していく単細胞生物のように見えなくもない。

「なんだ、何をする気だ?」

「……っ、波川!」

 動きを出した使徒の様子を見守っていた議会場の人間達の中でゴードンが突然立ち上がり叫んだ。

「奴の…使徒の現在位置はどこだ!?」

「どこにいるのか分かる?」

 波川は秘書に映像の情報を教えるよう促した。

「現在使徒は、ユーラシア大陸、…ロシアの上空を飛行中です。」

「ああ! 使徒が分離したぞ!」

「落下していく! まさか自分の一部を地上に落下させるのがこの使徒の…!?」

「落下予定位置を割りだせ! 急げ!」

「ゴードン大佐? なにをそこまで…。」

「馬鹿かおまえらは! あんなでかい奴の一部が落ちてきたら、どうなるか自分の頭で考えられないのか!」

「そ、そんな…、いくらなんでも大気圏で燃え尽き…。」

「科学部からの報告です! 切り離された使徒の一部から強力なATフィールドを確認! 更に削れながら落下位置を修正しています! 落下予定地は……、地球防衛軍・ロシア基地!!」

 ゴードン以外のこの場にいた者達全員が目を見開いた。

 ライブモニターに映された、体の真ん中を残して両サイドの体の部分を切り離した使徒の本体と、地球の重力に引かれるまま落下して凄まじい高熱を纏い落下速度を増していく使徒の一部。

 落下していく使徒の一部を追ったカメラが映し出したのは、ロシアだった。

「ロシア基地に緊急避難指示を!」

「りょうか…、っ、科学部研究部からの解析結果の緊急報告! エネルギー測定によると、落下すれば基地だけじゃなく、地下及び周囲およそ数キロメートルに、落下による衝撃が広がる可能性が…! 間に合いません!」

「うわああああああああああああ!」

 ロシア人の上官の一人が頭を抱えて絶望の悲鳴を上げた。

 そして数分後、衛生のライブモニターで、ロシアの基地があるはずの場所に大きな炎が膨れ上がった。

 皆言葉がなかった。出せなかった。僅かな間だった。大国ロシアにあった地球防衛軍の基地の一つが広範囲を巻き込んで地図上から消え去ったこの瞬間を、ライブ(生中継)で見てしまったことに。

「……ロシア基地は…?」

 波川が体を小刻みに震わせながら、なんとか冷静に保とうとしている声で指示した。

「……ロシア基地に…、通信は……、つ、繋がりません…。」

 秘書が震える声でそう伝えた。

 それを聞いて、先ほど絶望の悲鳴を上げたロシア人の上官が席から崩れ落ち床で声を上げて泣いた。

「そんな、馬鹿な…、使徒は第三新東京を狙うはずでは?」

「まさか…、今まで邪魔をしてきた我々に標的を変えた? なぜ、今なんだ? なぜなんだ!?」

「使徒の動きは!? 今、どこを飛んでる!?」

 ロシアの基地が一瞬で消滅させられたという衝撃に、ほとんどの者達がパニックになる中、ゴードンが憤怒の表情を浮かべて波川の部下に確認を急がせた。

「使徒は、今、アラビアとヨーロッパ諸国の間ぐらいの位置に…。波川司令、モニターの使徒が…!」

「ええ。もう再生を始めているわ。つまりこの使徒は、真ん中を抜いて両サイドの体の一部を爆弾として地上に落下させて攻撃するということです。この様子だと弱点のコアは、真ん中の目玉にあるのでしょう。次に使徒が狙うのは…、アラビアか、ヨーロッパ諸国の基地! 使徒がまだ落下攻撃に移る前に緊急避難を完了させなさい!」

「了解!」

「他の基地も忘れんな! もちろんここ(日本)もだ! 奴がいつ落ちてきてもいいように遺書でも用意しとけよ!」

「書いた遺書も吹っ飛びますって!」

「ハハハハハ! それもそうだな。」

「冗談言ってる場合かー!」

「こういう時だからこそ緊張を解きほぐすだ。そうすりゃ大どんでん返しだってできるさ!」

「ちくしょー! 普通なら阿呆が気狂いしてほざいた言葉だって激怒するか無視するとこだが、ゴードンが言ったら必勝フラグに聞こえるー!」

 ゴードンは、上層部の一部やキャリア系の指揮官達からは嫌われているが、彼らの内心ではゴードンはある種の必勝確定みたいな認識が無意識のうちに広まっていたりしていた。嫌っていながら、結局無意識のうちにゴードンに信頼しているのである。

 

「ネオGフォースは、これより軌道衛星上にいるこの巨大使徒を殲滅する兵器開発チームを作りなさい。そして使徒の攻撃を迎撃して落下を阻止する防衛陣を敷き警戒に当たりなさい! 科学研究部は観測施設と衛星でこの使徒を監視、変化が少しでもあれば即報告、使徒の解析を行うこと。以上!」

 

 こうして、空の使徒、サハクィエルとの戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地球防衛軍のロシア基地が地図上から消されて約三十分後。

「強い優秀な人を妬んじゃうってもう本能だよね。本能だからあがらいようがないよね。どう頑張って改善しようとしても歴史は、繰り返す。簡単に治せるもんならゴジラさんみたいに苦労しないのに。そうじゃなきゃそもそもゴジラさんが生まれてくることもなかったから、ちょっと複雑。」

「独り言を言ってる暇が合ったら集中せんかい。」

「けち~。」

「おい、G細胞完全適応者! すっとぼけてる場合じゃないんだぞ!」

「分かってるよ、空にいる使徒に基地一個消し飛ばされたんでしょ? あんな大爆発あったら海の向こうでもすぐ分かるって」

「分かってるならしっかりDNAコンピュータを安定させろ!」

「もう、どケチ。」

 技術者達に怒られながらツムグは、マイペースさを保ちつつ目を閉じるなどしてDNAコンピュータとのシンクロに集中した。

 現在、倉庫の奥で埃被っていた試作品の怪獣兵器を引っ張り出し、急ピッチで使えない部分を取っ払って宇宙にいる使徒を迎撃するための兵器にするために技術開発部が総力を挙げて頑張っているところだ。

 その武器の中心となるのが機龍フィアなわけで、機龍フィアが臨時で兵器の核となり、エネルギープラントから直接エネルギーを充填できるよう大量の管を接続したり外したり、大忙しである。

 こうしている間にも宇宙にいる特大級の使徒がまた体の一部を爆弾として落としてくるかもしれないので現場のピリピリは最高潮だ。

 40キロメートルの巨体が地球衛星軌道という地上から遠い場所にいること、そしてATフィールドを纏っていること、そして兵器の耐久力から膨大な計算を行い正確に使徒を狙撃しないといけないため兵器の核となる機龍フィアのDNAコンピュータの正常な稼働が不可欠となる。なので現在DNAコンピュータとの近親性からDNAコンピュータを想定以上の能力を引き出せるツムグが機龍フィアに乗ってる状態でシンクロし兵器を完成させるための各種データと機龍フィアが纏うことになる巨大砲塔との接続、正常に稼働するか試すことが繰り返して使徒を狙撃する兵器の完成させようとしていた。

 シンクロと言っても脳と接続してDNAコンピュータを活性化させるだけなので、正直ツムグは暇だった。

 マトリエルの時の吐血の原因になった高出力の熱線の使用による内臓の血管のダメージは、すでに治っている。新たに監視用のナノマシンと機器を埋め込まれるなどしたが、ツムグはいたって元気だった。

「ゴジラさん、なにしてるかな~?」

 外で技術者達が走り回ってたり、指示を飛ばしていたり、材料を運んでたり、様々な機器を操って使徒を狙撃する兵器の完成のために動き回っているのを見ながら、ツムグは暇そうに足を組んだ。

 ゴジラは、日本近海にはいない。ツムグが探知できる範囲は日本全土ぐらいなのでその範囲にいないということは、少なくとも国外にいるのは間違いない。

 会議室で軍の上官らが考えたようにゴジラは巨大使徒の存在にはすでに気付いているはずだとツムグも考えているが、共感できる範囲に来ないとゴジラの気持ちを感じ取ることができないので、ゴジラが何を思って行動しているのかは、今は分からない。

 ツムグがDNAコンピュータから算出した予想では、少なくともあと数時間ぐらいで狙撃する兵器は完成するはずである。ただしこれであの空にいる使徒、サハクィエルを倒せるかは別問題だ。

「そういえば、轟天号を宇宙へ飛ばす計画も一応やってるんだっけ? まあ、念には念だよね。準備しておくに越したことはないよね。それにしても、なんで使徒は急に地球防衛軍の基地を狙いだしたんだろ? 第三新東京を無視してさ…。フフ…、って誰も聞いちゃいないか。やれやれ独り言多いって言われても仕方ないよね。俺なんかと進んで仲良くなろうなんて奴、そうそういないし。」

 

 ---ゥ。

 

「ん?」

 ヘルメットから何か音を拾ったのかと思いヘルメットの耳のあたりを触ったりして確かめた。

「気のせいか…?」

 

 -----ェル。

 

「……気のせいじゃないか。キミは、誰? って、なーんて、今更誰って聞くのもおかしい話か。だって“オマエ”は、一緒に戦ってくれてたんだからさ。分からないわけない。ねえ? 聞こえてる? ……まだお喋りは得意じゃないか。少しずつ慣れていこう。そしたらもっと喋ろうね。世界で唯一の俺の同胞、機龍フィアちゃん。」

 機龍フィアに起こりつつある嬉しい変化に、ツムグは、愛おしそうに座席に横向きに寝て、甘えるように体を摺り寄せた。

 

『……? 椎堂ツムグ、一体何をやった? DNAコンピュータの波長に妙な値が出たぞ?』

「その内分かるよ。」

 DNAコンピュータの僅かな変化に困惑した顔をする技術者の一人の問いに、ツムグはそう答えた。

『…そうか。まあ別にこの程度なら問題はないが…。おかしな真似はするなよ?』

 短いツムグの返答に納得ができない様子ではあったが、最後に釘を刺して技術者は作業に戻った。

 ツムグは、やれやれと肩を竦め、暇だからもう寝てしまおうかと目を閉じようとした時、ふいに止まった。

「使徒ちゃんには、こっち(地球防衛軍)を狙ったことをたっぷり後悔するといい。まったく、神の使いの名前の癖にいい迷惑だ。」

 などと文句を垂れながら、ツムグは後頭部に両手を置いた。

 

 数分後、ヨーロッパの地球防衛軍基地に向けて落とされたサハクィエルの一部がGフォースの轟天号を筆頭とした空中戦艦と戦闘機の陣に撃ち落され、地上に落下する前に粉々にして燃え尽きさせるのに成功した報せが入る。

 対使徒のために改良された新しい対怪獣兵器の実戦投入はどうやら成功をおさめたようだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方そのころ、ネルフでは。

「あらまあ…、この短期間でATフィールドを攻略する兵器をもう完成させたなんて、さすが地球防衛軍と言ったところかしら。」

 MAGIを通じて空の使徒サハクィエルと地球防衛軍の戦いを見物していたリツコが頬に両手置いてほうっと息をつきながら感心していた。

「どんだけデタラメ集団なのよ? あの防衛軍って感じじゃん。」

「あんた怪我して入院してたんじゃなかたっけ?」

 リツコからやや離れたところで下品に机に脚を置いて椅子に座っているミサトに、リツコが言った。

「じょーだんじゃないわよ。病院なんて大っ嫌いなんだから。ご飯マズイし。」

「ご飯がマズイってあんたが言うことじゃない。そーいう問題ななくて…、もういいわ。もう一々ツッコまないわよ、用無しのあんたがここにいても。」

「やだ、リツコ、そんな言い方しなくってもいいじゃないの。」

「本当のことよ、馬鹿ね。」

「ひどーい! それでも友達!?」

「ちょっと、五月蠅い、黙ってて。」

 MAGIに繋いでいるパソコンに映された映像と新たな動きを伝える通達にリツコがミサトを手で制して液晶画面を食い入るように見つめた。

 

 衛星軌道にいるサハクィエルが先ほど千切った部分を再生させながら、太平洋に向けて移動していた。

 そしてサハクィエルを観測していた地球防衛軍の衛星と天体観測施設が、サハクィエルを追跡し、移動予定地点を割り出そうとデータの照合をしていた時、予定地点付近に超高濃度の放射線物資の塊を検知した。

 それがゴジラだと分かるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 サハクィエルは、空気もない宇宙空間から地球を見おろしていた。

 サハクィエルにとって宇宙空間にいることが強みであり、体の大きさ、そしてATフィールドを持つ己を、地球防衛軍が殲滅するのは容易なことではないと分かっていた。

 サハクィエルは、怒っていた。先に死んでいった同胞達の魂を引き継ぎ記憶を共有して、自分がこの世界に姿を現した瞬間に湧きあがった最初の衝動(※感情かどうかは理解してない)であった。

 アダムとの融合を邪魔してくる最大の敵である地球防衛軍を滅ぼしてやる。そのつもりで第三新東京を後回しにし、世界各地にある地球防衛軍の基地を破壊しようとしたのだ。その基地の一つを消滅させるのに成功し、彼らに絶対的な恐怖を植え付けるのに成功した……はずだった。

 サハクィエルは、人間を見誤っていた。それもセカンドインパクト前に怪獣との戦いを繰り広げてきた意地と根性の人類の代表格みたいな地球防衛軍の底力というか、諦めの悪さを。

 二度目に落とした自分の一部があっさり撃ち落され、燃え尽きて消えてしまった。

 アダムの系統として生まれ落ちた使徒の一柱である己の中のアダムの記憶が訴える。

 リリスの子孫であるリリン(人間)の知恵の恐ろしさを。

 知恵の実で進化したリリスの系統を侮ってしまった。だが今更遅いが喧嘩を売ってしまったからには、後には引けない。

 二度目の攻撃は防がれてしまったが、そう何度も防げるはずがない。知恵を武器とする人間でも空の彼方にいる己に届く武器を作るには時間がかかるであろうし、圧倒的物量と生命の実による無限の生命の前にいつか屈するだろう。

 サハクィエルは、じっくりと腰を据えて地球防衛軍を根絶やしにしてやろうと地球を見おろしていた。

 しかし落ち着いて行動していたサハクィエルは、アダムの記憶にある恐ろしい殺意に気付いた。いや、それどころか先に死んでいったほとんどの使徒が殺される瞬間に最後に目にしたあの世界を焼き滅ぼしそうなほどの怒りに燃えるあの目が自分に向けられていることに気付いてしまった。

 地球防衛軍にばかり意識を向けていてすっかり忘れてしまっていた、あのリリン(人間)の罪から生まれた、この星の理から外れた最悪の存在を。

 自分より先に死んでいった同胞達(イスラフェルとマトリエルは別)を殺した相手のことを。バラバラに砕ける前の白い月の中にいたアダムが南極で眠っていた頃、氷の中で封じられていた時も失せることのなかった世界を焼き滅ぼすほど怒りの炎を感じ取って、白い月の中にいたアダムが怯えていたのに。

 奴が自分を見ている。空の彼方にいる自分を真っ直ぐ見ている。自分を殺すために見ている。

 サハクィエルは、殺意が発生している地点へ向けて移動した。

 そしてサハクィエルが見たのは、セカンドインパクトによる海底の隆起によってできた小さな小島の上に立つ、黒い怪獣王が空の彼方にいる自分を睨みつけている姿であった。

 怪獣王ゴジラをしっかりと認識したサハクィエルは、疑問を持つ。

 

 ナゼ我々(使徒)ヲ滅ボソウトスル?

 

 自分達は、アダムへ還りたいだけなのに、なぜあの黒い破壊者は自分達を殺すのか。

 おまえの存在意義はリリン(人間)に復讐することじゃなかったのか。

 サハクィエルの問いかけに、ゴジラは何も答えはしなかった。

 その代りのように、サハクィエルが見おろすゴジラの背びれが青白く発光した。

 それを見たサハクィエルは、両端にある自分の体を即座に千切り、ゴジラに向けて落下させた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 雲よりも高い遠い空でオレンジ色の熱線と、二つの巨大な高熱の塊がぶつかり光の粒となって空に飛散した。

「ようやく動き出したか、ゴジラめ。派手な花火だな。」

 飛行する轟天号内でゴードンが愉快そうに笑って言った。

「宇宙からの飛来物を正確に、それも一撃で撃ち落とすなんて…! くっ、相変わらず出鱈目だ!」

「デタラメだからこそ奴らしいじゃねーかよ。こうでなきゃ戦いがいがない。」

「艦長もたいがいデタラメですがね!」

 波川の命令とはいえ、普通の人間なのに、身一つで、刀で使徒マトリエルの足を二本切り落としたからだ。副艦長の言葉に他の船員達も心の中で同意した。

「観測施設からの伝令! 使徒は再生する速度を速め、再度ゴジラ目がけて体の一部を落下させる動きを見せているとのことです!」

「そんな、今まで本気じゃなかったというのか!?」

 オペレータの言葉を聞いた副艦長が目を見開いた。あの巨体で体を千切るという荒業を武器にしているのに第一攻撃から第二攻撃までの合間が短くなっているのだ。

 アートな見かけに完全に騙された、大火力の荷電粒子砲をほぼ休みなく発射し続けていた使徒ラミエルのこともあるので、使徒の再生力や攻撃のためのエネルギーの生産量は科学の粋を越えているのかもしれない。

「使徒が再び落下攻撃を開始したとの報告! 落下速度、ATフィールドのエネルギー量が倍になっているとの報告が!」

「ゴジラの熱線が発射されました!」

 サハクィエルの落下攻撃は、更に強力なものになり、ゴジラを目指してサハクィエルの一部が二つ落下していく。

 それと同時にゴジラが再び熱線を吐いた。さっき吐いた熱線よりも色が赤く、太い。

 熱線は、二つの強力な爆弾を貫通し粉砕しただけじゃなく、大気圏を突破してサハクィエル目がけて真っ直ぐ飛んでいった。

 サハクィエルは、さすがに危険を感じたか、器用に体を後ろにグネッと捻らせて熱線を回避した。しかし空気がない宇宙空間なためか、空気などの邪魔な物質がない分、熱線の破壊エネルギーを遮るものがなかったために、サハクィエルの横を通り過ぎた熱線の余波でサハクィエルのコアがある真ん中の体の四分の一が焼けて削れてしまった。横を通り過ぎただけでこれだ。これでもし体にかすってたらコアまでやられていたかもしれない。

 ゴジラの熱線で粉砕された二つの爆弾は無数の大きな粒となってゴジラとその周囲に落下した。

 その幾つかがゴジラに被弾したものの、ゴジラの黒い皮膚を傷つけるまでには至らなかった。

 

 

 

「あの使徒の野郎は、ただデカいだけで、ゴジラにゃ脅威にすらならないか…。」

「あんなスピードで落ちてくる飛来物を正確に熱線で撃ち落とせるゴジラの目は一体どうなってるんでしょう?」

 轟天号内では、もう使徒の負けが決まったなというムードになっていた。

 

『まだだよ。』

 

「通信に割り込み! これは…。」

「なんだ、ツムグか。どうした?」

 急に轟天号の通信網に割り込んできたものに驚くオペレータだったが、通信に割り込んできた相手のIDを見て目を丸くし、ゴードンは、声だけで相手が椎堂ツムグだと分かったので落ち着いて対応した。

『まずいよ、ゴードン大佐。ゴジラさんに向かって行く潜水艦がいるよ。それも数隻も。』

「なんだと?」

『ゴジラさんを邪魔する気だよ。急いで…。アイツらを逃がさないで。』

「おい! ツムグ! おい! チッ、毎回おかしなこと言いやがって! ゴジラを目指して全速前進しろ!」

「し…、しかし艦長!」

「ツムグの預言は外れたためしがねぇ! ゴジラに近づいてる正体不明の連中を生かしたまま捕まえる!」

「りょ、了解!」

 ツグムからの通信によって、轟天号は突然艦隊から離れ、ゴジラに向けて最高速度で向かって行った。

『ダグラス=ゴードン! どういうつもりだ!』

「うるせぇ! 時間がねぇんだ、説明は後だ!」

 艦隊と作戦本部からの通信を強引に切った。

 

 轟天号が全速力で向かう最中、空を見上げて使徒を睨みつけているゴジラの背後に、海中から数隻の潜水艦が迫っていた。

 

 

 

「エネルギー充填65パーセント!」

「くそっ、思ったより貯まらない! エネルギープラントの出力をもっと上げろ!」

「……う、冷却が間に合わない! 一発目が撃てるか撃てないかだぞ、これは…。」

「その前に砲塔が爆発するかも…。」

「悪い方に物を考えるな!」

 ついに完成した宇宙にいるサハクィエル狙撃用のその場限りの兵器が完成し、発射体制に入ろうとしていた。

 しかしもともと欠陥がある試作の兵器を無理やり改造したものなので問題ばかりである。

 ツムグは、兵器に包まれたような形になっている機龍フィアの中で、目をつぶり、長く息を吐いた。

 ゴードンに言ってはいないが、ツムグには、ゴジラを邪魔しようとしている潜水艦の正体を知っている。

 こんな時にゴジラを邪魔する奴など、あの“老人達”ぐらいしかいない。

「ゴジラさんを邪魔すればどうなるか…、分からないほどボケちゃった?」

 ツムグは、ニヤッと笑って、ザ・命知らずな老人達を嘲った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 サハクィエルは、ゴジラに勝てないと判断した。

 だが自信を突き動かす怒りという衝動をどこへぶつければいい?

 サハクィエルは、ラミエルの記憶からその答えを導き出した。

 答えを出したサハクィエルの体が、再生を始めていた全長40キロメートルの途方もない巨体が大気圏に途中し、高熱を纏った。

 目指すは、ゴジラ。

 己ができる最大の攻撃にして最後の武器をゴジラにぶつけてやる。

 アダムがバラバラになった時のあの大破壊の震源地で生き延びた奴を殺すのは無理だろうが、S2機関を全開にして生きた爆弾と化した40キロメートルの落下物の破壊をノーダメージでやり過ごせるはずがない。

 使徒サハクィエルが、アダムとの融合のために第三新東京へ行くことを放棄した瞬間だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 降下を始めたサハクィエルそのものをゴジラは睨みつけ背びれを激しく発光させ、エネルギーを溜めていた時、ふとゴジラは、気付いた。

 己の背後に自分と“同族特有の匂い”がすることに。

 咄嗟に後ろを振り返った時、ゴジラが知らない間に浮上していた複数の潜水艦からゴジラの無防備な顔面に向けて砲撃が飛んだ。

 それは爆弾でもなければ薬品でもない。いわゆるトリモチ的な粘着質な物質である。それも怪獣用の。

 いきなりのことにゴジラは、背びれを輝かせるのを辞めて、口と両目を覆ってしまったネバネバのものを剥がそうと両手を使い、身をよじった。

 続けて潜水艦がゴジラの両腕に砲撃した。これもトリモチ系で、一時的であるがゴジラの両手の自由を奪った。

 ゴジラが呻き声を上げながら身をよじる状態にした数隻の潜水艦は、役目は終わったとばかりにそれ以上の動きはなかった。

 サハクィエルの最後の攻撃となるサハクィエル自身の落下が迫る。

 一時的なこの妨害攻撃による僅かな時間が、ゴジラの圧勝か、サハクィエルの最後の悪あがきによる痛手を受けるかの分かれ道となる。

 トリモチみたいなものは、ゴジラの体表温度でどんどん粘着度がなくなり、拘束する力を失っていく。この怪獣用兵器は、核エネルギーを全身に行き渡らせているため体温が高く、しかも体内熱線という必殺技を持つゴジラには不向きでゴジラ以外の温度の低い怪獣の足止めなどに利用されていたものだ。

 ただ怪獣用の粘着物とあって後始末が大変なことから、今回潜水艦が発射したように使うのではなくトラップとして使うのが主な、場所を選ぶ代物である。

 ゴジラ封印後、セカンドインパクトの影響で他の怪獣が消えてから生産がストップしていた地球防衛軍の対怪獣用兵器の一つである。それを複数の潜水艦が武装として積んでいたのは、セカンドインパクトに乗じて闇の市場に流れた物が彼らの上の者達の手に渡ったのである。

 潜水艦の乗員達が忠誠を誓う秘密結社は、ゴジラに僅かでも今まで邪魔された恨みを晴らすためにこんなことをしたのだ。

 潜水艦も乗務員もサハクィエルの落下による破壊で消滅し証拠は残らない。

 しかし、秘密結社は、……老人達は、最初から失敗していた。

 地球防衛軍には、すでに老人達を見つけて、現在進行形で様子を見ている、ある意味ゴジラより厄介なイレギュラーがいて、この場所に最強の戦艦を呼び寄せていたことに。

 老人達は内容こそ分からなくても失敗したのだと理解する。先端に巨大なドリルを持つ地球防衛軍最強の万能戦艦・轟天号がその大きさからは予想もできない速度で飛んできて潜水艦の真上を通り過ぎ、通り過ぎる直後にゴジラに向けて数発のミサイルを発射していた。

 ミサイルの着弾による爆発と熱により、ゴジラの体温で溶けかけていたトリモチみたいなものはあっという間に剥がれ、目を怒りで血走らせたゴジラがあと数百メートルぐらい迫っていたサハクィエルを睨みつけた。その直後、遥か遠くからとんでもなくでかい高エネルギーの弾丸がサハクィエルに直撃し、恐らく咄嗟だったのだろうが、コアを守ろうとして動いたためにサハクィエルの落下速度が少しだけ減速した。

 その少しだけ稼いだ時間だけで、十分であった。ゴジラにとっては。

 ゴジラの口が大きく開かれ、青白い光を越えて、赤々とした光を纏った背びれを輝かせたゴジラは、極太の熱線を吐きだした。

 サハクィエルの巨大な体の中心、つまり目玉部分が熱線で貫通され、コアが燃え尽きるとともにサハクィエルの巨体は、失速して燃えカスのようにボロボロに崩れて風にあおられて空へ舞い上がり、その燃えカスもどんどん小さくなって消滅した。

 空を司る神の使いの名を持つ使徒は、その名の通り空へと還されたのだった。

 轟天号の登場と、ゴジラが轟天号のミサイルで拘束が解けたのと、地上に落下する数秒前というぐらい迫っていたサハクィエルに向かってとんでもない弾丸みたいなエネルギーが飛んできてそれでサハクィエルの落下速度が少しだけ遅くなり、その隙に力を貯めたゴジラが熱線でサハクィエルの中心を貫いてサハクィエルが殲滅されたという、怒涛の流れに、数隻の潜水艦の乗り組む員達はまず思考が停止していた。

 

『国籍不明の艦に告ぐ! 大人しく投降せよ!』

 

 彼らの思考が動くきっかけとなったのは、轟天号からの投降を呼びかける音声だった。

 作戦の失敗とサハクィエルの落下による自分達の死が回避されてしまったため、彼らが取った行動は、潜水艦もろとも自爆することだった。

 しかし自爆スイッチを押しても引いても、うんともすんともいわず、彼らは混乱する。

 なんとか理性を保てた者が、逃亡を指示した時、ゴジラの影が彼らが乗る数隻の潜水艦を覆った。

 トリモチみたいな対怪獣用兵器で邪魔されたことにゴジラが怒り、熱線を吐こうとした。

 そこに轟天号のレーザー砲が飛び、肩を攻撃されたゴジラは、轟天号を睨みつけ、今日一番の雄叫びを上げた。

 今がチャンスだと潜水艦が逃げようとしたが、今度は動力が止まって潜水することすらできなくなった。

 次から次に逃げ道を奪われる状況に得体のしれない恐怖に駆られた彼らは先ほどより混乱した。

 すると、通信機が勝手に作動し、ノイズに交じって若い男の声が、すべての潜水艦に響いた。

 

『……逃がさないよ…。もうすぐ、そっち行くからね…。』

 

 妙に落ち着いた(マイペース)、けれどノイズが混じってて、メリーさんみたいな恐怖しかなかったと後々語られることになるその声に、老人達の秘密結社に忠誠を誓っていた彼らは、初めて忠誠を誓う相手を心の底から恨んだ。

 混乱と恐怖で、自力で死ぬという方法すら思いつかないほどに。

 

 

 一方、潜水艦の近くでは、ゴジラと轟天号の戦いが勃発していた。

 ゴジラは、小さな小島から海へ進み出た。ちなみに潜水艦がある方向は逆反対だ。轟天号が反対側を向くよう、うまく誘導したからだ。ゴジラは南極で自分を氷漬けにした相手(※厳密にはゴジラを封印したのは轟天号の旧型)を前にして35年前の闘志を刺激されずにいられなかった。

 ガキエルとの三つ巴(?)の戦いの時、使徒より轟天号を撃墜したくて海中から熱線を撃ちまくったぐらいだ。ある意味ゴジラは轟天号に執着しているようだ。もっともあの時は、ゴードンがガキエルを振り切るために海底火山で炙ってダメージを与え、耐えられなくなったガキエルが轟天号から離れたため、使徒を殺すのが本来の目的だったことを思いだしたゴジラが仕方なく轟天号を諦めて逃走したガキエルを追いかけて仕留めることになったため、ゴジラ的に大変不満の残る戦いであった。

 その時の不満を思い出したのか、ゴジラは、使徒という邪魔無しでやれる轟天号との戦いに闘志を燃やし、雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 更にもう一方で、急ごしらえの対サハクィエルのための兵器が一発撃っただけで破損し火花と煙を吹かした。コードの先にある変換装置などが爆発したりと大変だ。

 慌てる技術者達や地球防衛軍の軍人達を尻目に、兵器を纏っていた機龍フィアが機体を振って破損した兵器を機体から剥がしていった。100メートル級の機龍フィアを包んで余りある巨大な兵器はいとも簡単にバラバラになり、地面に崩れて落ちていった。その様は、まるで脱皮のようだったと、現場にいた者達は語ることになる。

 兵器を剥がし終えた機龍フィアは、中にいるツムグと同じ動きでやれやれというふうに首を動かし。

「さて…、ゴジラさんのところに行こうか。」

 

 -----ok。

 

「んじゃ、行ってくるね!」

 ツムグが周りの者達にそう声をかけた後、機龍フィアが飛んだ。

 あっという間に加速したため、残された技術者達や軍人達は、機龍フィアが飛び立っていった空を口を開けて見上げていることしかできなかった。

 

 

 

 




 今回、最大級使徒ということで、スケールがでかい戦いにしようとして苦戦しました。
 地球防衛軍の基地の一つがやられたということにしました…。決してやられた基地の国に怨みとかそういうものは一切ありません。ただ地球防衛軍でも規模の大きい基地の一つが使徒に全滅されてしまうというイベントを起こすためにやむ終えずこうしました。

 サハクィエルが先にやられた使徒の感情や記憶を持ってる部分については、後に出てくる使徒の描写を参考にして、使徒は記憶や感情を次の使徒に引き継いでいるということにしました。なのでサハクィエルは、使徒にとっての脅威はゴジラと、地球防衛軍であると結論を出して地球防衛軍へ攻撃を仕掛けました。ゴジラと地球防衛軍をどうにかしないと、目標の第三新東京を攻略するのは無理だからです。
 地球防衛軍をクリアした後、ゴジラについては……、最強鬼畜の無理ゲーをどうやってクリアするかみたいな感じでしょうか?

 これ以降から、使徒は地球防衛軍へ攻撃を仕掛けてくる予定です。
 そろそろアスカも出さないといけませんね。
 次回は、ゴジラvs轟天号が主になるかと思います。


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第十話  ゴジラvs轟天号

 遅くなりました! ごめんなさい!

 そしていつのまにか、お気に入りが180を超え!
 本当に本当にありがとうございます!

 第一回目(たぶん)の轟天号とゴジラの戦いです。




 4月20日。文章の一部を消去。


 

 使徒サハクィエルは、ゴジラの熱線に焼かれて死んだ。

 ゴジラに勝てないと悟ったサハクィエルがせめて最後に多少の痛手をゴジラに負わせてやろうと、本体であるコアごと40キロメートルの巨体である自分自身を降下させ、ゴジラに向かって落下した。

 降下するサハクィエルを睨みつけて熱線で迎撃しようとしたゴジラだが、ゴジラの背後に現れたゼーレの刺客である数隻の潜水艦にもう生産されていない怪獣用のトリモチを使われゴジラは攻撃を妨害された。なぜかこの時、ゴジラが潜水艦の方を向いて、サハクィエルから注意がそれて隙ができたためあっさりとトリモチをくらうことになったのである。

 怪獣用のトリモチは、高熱を纏うゴジラには不向きな代物であるがサハクィエルが落下してくるまでの時間稼ぎにはなった。

 もしあのままゴジラがサハクィエルの落下を許してしまったら、ゴジラの周囲数百キロメートルに爆発が広がり、地球全土に影響を与える惨事になっていたであろう。

 ゴジラの復活により当初の計画をバキリっと真ん中から叩き折られ、地球防衛軍の復活も相まってもう修正のしようがない状況に追い込まれたゼーレは、やり場のない怒りと憎しみをゴジラにぶつけるべく忠実な駒達を使い、ゴジラの妨害工作を行ったのである。

 もしサハクィエルが落下していたなら、刺客として送り込まれた数隻の潜水艦とその乗組員は、跡形もなく消し飛んでゼーレの工作だという証拠は消える予定だった。万が一生き残る事態になっても地球防衛軍に捕捉される前に自爆するよう命じていたためゼーレに身も心も捧げる信者である彼らがそれを忠実に実行していたはずだった。

 

 ……ゴジラの細胞を取り込んだ人間。世界で一人しかいないG細胞完全適応者に筒抜けでなければ。

 

 G細胞完全適応者、椎堂ツムグに潜水艦のことを知らされた地球防衛軍の最強の万能戦艦・轟天号がゴジラのもとへ急行し、サハクィエルの落下が迫る危機の中、ゴジラの横を通り過ぎる間際にミサイルをゴジラに命中させ、ゴジラの動きを封じていたトリモチを一気にはがし、更に試作兵器を流用した急ごしらえの対サハクィエルのための兵器でサハクィエルの落下を僅かに妨害した。これによりゴジラのために時間稼ぎをし、ほんの僅かな時間で十分なエネルギーを溜めたゴジラは、熱線でサハクィエルを焼き尽くし、サハクィエルを殲滅した。

 短時間で起こった事態に潜水艦に乗っているゼーレの信者達も現実を認識するまでに時間がかかった。

 轟天号からの投降を呼びかける声が彼らの耳に入るまで馬鹿みたいにポカンとしていたのだ。

 ゼーレの信者達はすぐに自爆しようとしたが、なぜか自爆装置は作動せず、焦っていたところに電子機器から『逃がさない』、『今からそっち行く』っという、メリーさんを連想させる怖い声に、ゼーレの信者達は、生まれて初めて忠誠を誓う相手である老人達を恨んだほどだった。

 自爆の他に自殺するという手があったが一時的に混乱した彼らはすぐにそれを思いつくことができなかった。

 しかし間もなく聞こえた爆発音と揺れと、ゴジラの雄叫びで我に返り、すぐに自殺を決行したのだが……。

 彼らは、死ぬことはできなかった。

 銃は不発に終わり、刃は抜いた途端に粉みじんになって使い物にならず、ひも等を使おうとしても千切れるなどし、更に舌を噛むという自傷を行っても噛もうとした瞬間だけ顎が痺れるという謎の症状に見舞われ、彼らは得体のしれない恐怖にパニックを起こし正常な思考を放棄することとなった。

 彼らが潜水艦の中でパニックを起こしている頃、外では潜水艦から離れた場所でゴジラと轟天号の戦いが勃発していたのだが、彼らがそのことを気にする余裕は一切なかった。

 

 あとついでに、憐れなゼーレの信者達とゴジラと轟天号のもとへ、物凄いスピードで飛んでくる銀と赤の鉄の塊と、それと轟天号が飛んできた方向から轟天号を追って来る、サハクィエルが落としてくる体の一部を迎撃するために出動していた地球防衛軍の艦隊もいた。

 それを知ったところで余計に絶望するだけなのだが……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 世界最強の戦艦。怪獣を知らない世代でも、今ここで起こっている戦いを見たら間違いなく脳細胞にそう刻み込まれるだろう。

 ゴジラを相手に怯まず戦う、一隻の空飛ぶ万能戦艦・轟天号。

 ゴジラにとっては、つい昨日のことのように記憶に残る35年前の南極での戦いで最後に見た人間が作った自分と戦うために作られた兵器。

 ゴジラの記憶にある轟天号とはだいぶ姿は違うのだが、そんなことは些細なことである。ゴジラの本能が、今の轟天号を轟天号だと認識した。それだけで十分である。

 ゴジラの熱線を紙一重で回避しつつ、船体の横から一発も外さずゴジラに砲撃を命中させる。

 なんで高速で飛行しながら、熱線を回避しながら、百発百中の命中精度を叩き出せるんだっと、知らぬ者は驚きで固まるだろう。

 しかも的確に、ゴジラの弱いところ(皮が薄いところ)を攻撃する。ネオになる前のGフォースが保管していたゴジラの戦いの記録とゴジラを倒そうと燃えていた先人達が綴った研究成果であるのだが、それを実戦でできるかどうかは別問題なのだが、轟天号はそれを実行してみせている。

 弱いところといっても、新調された対怪獣用の砲弾もあまり効いていない様子である。なぜなら当たっているのに怯まないからだ。

 第三新東京で追い払った時は、あの時点でGフォースが隠していたほぼすべての戦力を投入したのと、あと機龍フィアの初陣と、ゴジラが第一目標だった使徒サキエルを殺せて油断していたというのも大きい。あの時はあり得ないほど運が良かっただけのことで、運も実力の内とは名言と言えるかもしれない。

 ……本当にそう思う。

 轟天号に乗る、怪獣との戦いの経験がない若い船員達はそう思い、サキエル襲来時にゴジラを追い返せたことで地球防衛軍の力に己惚れたことと、轟天号の乗組員になれて浮かれていた少し前までの自分を殴りたいと思った。

 

「ゴジラに新兵器が通用していない!? 艦長!」

「狼狽えるな。野郎はあれだけ高出力の熱線を連続して吐いたんで体に熱をもってだけだ。興奮して痛みを忘れてやがる。」

 

 攻撃が通用していないのではなく、興奮しすぎて痛みを感じなくなっているだけである。っとゴードンは分析していた。

 実際、極度の緊張と興奮状態は恐れや痛みを忘れさせるものである。

 さらにゴジラは、デストロイアの一件でバーニングゴジラなる形態になってしまった時、進化を遂げたデストロイアのオキシジェンデストロイヤー並みのミクロオキシゲンを使った攻撃を受けてもへっちゃらだったという前例があり、核エネルギーの暴走によるG細胞の異常な活発化で強さが何十倍にも上がるらしい。

 だがあの時は、メルトダウンによるゴジラは体内からボロボロに溶けていく状態に陥っていたため痛みを感じるのを通り越してしまっていたというのが正しいかもしれない。

 ゴジラとて怪獣王という異名こそあれ命ある生き物だ。怒りの感情の権化のようでいて、ミニラやゴジラジュニアなどの同族には情を見せるある意味で感情豊かな存在だ。圧倒的な暴力で分かり辛いが知能も優れている。

 40キロメートルという巨体のサハクィエルを殲滅するため、ごん太の熱線を連射したことでゴジラの体はエネルギーを生産するために凄まじい熱を帯びていた。ゴジラの体に触れている海水が蒸発し白い煙となって舞い上がっている。しかしメルトダウンに比べれば大した熱ではない。熱線を主力の武器とするゴジラには今の状態は日常生活程度のものでしかない。

 しかしだ。セカンドインパクトの後、行方知れずになって間、ゴジラがどんな生活をしていたかは謎だ。

 ゴジラと思われる痕跡は幾つか確認はされていたものの、ゴジラらしき姿があったという確認でしかなく、少なくともゴジラ自身は第三新東京に使徒サキエルが現れてから、サキエルを殺しに行くまでまともに陸に上陸せずひたすら待っていたのだろう。

 自分の復活を預言(ツムグの預言)して潜伏していて、自分の復活と同時に復活した長年の宿敵(地球防衛軍)との戦いも再開できて、椎堂ツムグに言わせればゴジラは柄にもなくワクワクドキドキ感で興奮していたのだ。

 

「いくら痛みを忘れてようが、一時的な興奮は長くは続かない。諦めるな!」

「はい!」

「ミサイルの再装填完了!」

「尾崎、ゴジラの顔を狙え。機龍フィアが抉ったところを。」

「了解! ミサイル発射!」

 

 ゴードンの力強い声に鼓舞された船員達が大きな返事を返し、発射体制が整ったミサイルを轟天号の兵装管制である尾崎が発射した。

 轟天号の左右から発射されたミサイルは、まるで生き物のような動きをしながらゴジラの熱線を掻い潜り、ゴジラの顔……、つい最近(使徒マトリエルの時)機龍フィアに至近距離で砲弾を撃ち込まれて顔に大怪我を負わされた箇所を中心にゴジラの首や肩に着弾した。そして二本ほど突き刺さってから爆発した。

 セカンドインパクトを経て強化された回復力によりすっかり傷は塞がって皮膚も歯も綺麗に治った状態であるが、ゴジラは派手に暴れたり大怪我すれば寝て回復するという習性があり、それを急に切り替えさせるには時間がかかるはずである。

 だから表面上は治っていても、完璧ではない。ゴジラとの戦いの経験があるゴードンはそう考えた。

 そして、ゴードンの読みは当たる。

 尾崎の正確な狙いと、そして科学者がひっくり返るだろうあり得ない動きをしたミサイルがゴジラの顔の横に着弾して爆発したことでゴジラが低く苦しそうな鳴き声をあげて首を曲げてやられた顔の横に手を持っていこうとした。

 やっと痛みを思い出したらしい。海に浸かっているため体温が下がったのもあるのかもしれない。

 顔を怒りで歪めたゴジラは、ギッと轟天号を睨むと、熱線を吐いた。

 赤みを帯びた熱線を紙一重で回避するが、高熱と衝撃は完全に回避できず、轟天号の上部の装飾と横面が削れた。

 轟天号のダメージは、船内にも響き渡りゴードン達のいる発令所も火花が散り、煙が出た。

 モニターの方もぶれて映像が乱れた。

「エンジン出力、80パーセント!」

「左側面ミサイルシステムダウン!」

「プラズマメーサービーム砲2門破損!」

「くっ…!」

 オペレーター達からの被害報告が飛び交う中、操縦桿を握りしめる風間は船体のバランスを整えようと悪戦苦闘して歯を食いしばった。

「風間! 前を見ろっ!」

「っ!」

 船体を傷つけられ体制が崩れるのを立て直した直後、ゴードンが風間に向かって叫んだ。

 風間が反応した時、直ったモニターの大画面にゴジラの顔面が映っていた。

 本気でやばい時と言うのは物事がスローになるものだというのを、経験の少ない若い者達は身を持って知った。

 風間は、絶叫を上げながら操縦桿を思いっきり引っ張って轟天号を全速力で逆噴射させた。

 するとゴジラは、逃がさんと、轟天号の先端、つまりドリル部分を掴んで轟天号を捕まえた。捕まえたと同時にゴジラの背びれが青く輝いた。

 その時、尾崎が咄嗟の判断でメーサー砲を発射した。最大出力で。

 轟天号のドリルの先端から凄まじいエネルギーが発射されると同時に、ゴジラの口から熱線が放たれた。

 轟天号のメーサー砲も改良されており、発射されたそれは、ゴジラの通常熱線を僅かに凌駕し、ゴジラの喉辺りに当たった。

 ゴジラは、怯み、喉を押さえるために手を離した。ゴジラの手から逃れた轟天号は一目散にゴジラから距離を取った。

「今のはさすがに股座が縮んだぜ…。」

 バランスを無視してとにかく逃げることを優先したために大きく揺れる船体。ゴードンは、顔の横から汗を一筋垂らしていた。さすがの彼も今のは死を間近に感じたらしい。

「メーサー発射システム熱暴走寸前です! 冷却完了まで5分少々かかります!」

「もっと早く終わらせろ!」

「ダメです! どう計算しても最低でも5分かけなければ、このまま撃てしまったら、メーサー砲そのものが大破してしまいます!」

 ゴジラから離れるために咄嗟に撃ったメーサー砲は、エネルギー充填による負荷を完全に無視していたためメーサー砲というシステム全体に大きな負担をかけてしまった。

「っ…。」

 尾崎はさっきの自分の判断が間違っていたかもしれないと思った。

 だがあそこで撃たなければ轟天号は撃墜されていただろう。頭では理解できていてももっといい方法があったのでは?っという疑念がついてまわる。

「チッ。…兵器開発の連中にちょいと話をしに行くか。」

「やめてください! 彼らの胃に穴が空きますって!」

「冗談だ。」

 副艦長が上層部と前線の現場に板挟みになって凄まじく苦労している技術開発部を思ってゴードンを止めようとした。そしてゴードンは、冗談だと軽く言った。

 副艦長はこう言っているが、技術開発部は機龍フィアのことで問題児の椎堂ツムグとの絡みが必須なのでとっくの昔に胃に穴が空いた患者が続出していたりする。そんなんだから防衛軍の病院では胃腸科の医師の数と設備がすごいことになっている。

 喉を押さえて呻いていたゴジラは、顔を上げ、目に怒りの炎を燃やし轟天号を睨みつけた。

 現状での最大出力のメーサー砲を近距離でくらった喉の部分は、ブスブスと爛れ、くり抜かれたような穴が空いており、轟天号尾睨んでいたゴジラだったが、ほどなくして口をパクパクさせて苦しそうに体を丸めた。

 熱線はどころか、声すら出せない状態らしい。呼吸すらままならないのかもしれない。

 狙ったわけではないがこのチャンスを逃すわけにはいかない。ゴードンは、指示を出した。

「先端ドリル回転速度最大! 目標! ゴジラの心臓!」

 メーサー砲が使えないため、一か八かの接近戦で急所を狙い息の根を完全に止める。しかし、ゴジラの懐に飛ぶ込むので失敗すれば、良くてゴジラと相討ちである。高確率でゴジラに撃墜される危険な賭けだ。

 メーサー砲が使えたとしても、ゴジラの心臓を射抜くのは難しい。喉の部分…つまり首すら貫通できなかったということは、ゴジラの分厚い胸板の奥にある一番大切な部分である心臓まで届く可能性も低いといえる。地底の地盤をいとも容易く砕いて掘り進めるドリルは、過去に絶対零度砲でカチカチに凍らせた怪獣を粉々に砕いて倒したことがあるから…、ゴジラの心臓を破壊するのは十分可能であろう。

 問題があるとしたら、やはり近づきすぎることで撃墜されてしまう危険だ。

「しかし、艦長! ゴジラには体内熱線という手が!」

 すかさず副艦長がゴジラの攻撃手段が口からの熱線だけじゃないことを指摘した。

「よく見ろ、ゴジラは呼吸さえできてない有様だ! 奴の息の根を止めるこのチャンスを逃せば次はいつ来るか分かったもんじゃない! 時間を置けば傷が塞がって終いだ! それとも…怖気づいたか!?」

「っ! いいえ!」

 ゴードンとは戦いを共にしてきたベテランである副艦長はきっぱりと言って首を振った。

「てめーらも怖いか!? どーなんだ!?」

 先ほどゴジラに捕まってあわや撃墜されそうになったが、尾崎の機転でなんとか逃れ、しかも今ゴジラを倒せる大チャンスとなったが、モニターに映ったゴジラの顔のアップと熱線を吐く瞬間の映像は船員達に恐怖という名の枷となっている。今度は自分からゴジラに接近しなければならないのだ、怪獣との戦いを知らない若い世代が占める船内に恐怖による緊張で息を飲む音が響く。

 ミュータント部隊のエースの、実戦経験が浅い尾崎と風間も、頭ではゴードンの判断を理解してても、日々の訓練で抑え込むようにしている恐怖心が抑えきれず大粒の汗がダラダラと垂れ、手足が震えた。特に尾崎は、死の可能性から脳裏に日本にいる恋人の音無の顔が過っていた。

 

 轟天号の船内が凄まじい緊張感に包まれていた、その時。

 ガクンと船体が傾いた。

 

「どうした!?」

「動力回路3番と7番から火が! 消火装置起動しました! 飛行状態を保てません!」

「チィっ! 着水だ!」

「ラジャー!」

 轟天号が受けたダメージは思っていた以上に大きかったらしく、動力炉と船体を繋ぐ回路が熱暴走で火災が発生し、飛行している船体を保てなくなってしまったのだ。

 轟天号は、捲れた船体の装甲の隙間からモクモクと黒煙を出しながら海に着水した。

「火災の危険により安全装置が稼働中! 動力回路修復中!」

「修復を急げ!」

 なにせすぐそこにゴジラがいるのだ。ここで攻撃されたら終わりだ。

 ゴジラを倒すとか言ってる場合じゃななくなったその時だった。

 緊張の空気が支配する中、それを破壊する音が響いた。

 

「きゅ…救難信号? ……そ、そんな…、っ!?」

「どうした!?」

「この信号は、機龍フィアからのものです…!」

「はあ?」

 轟天号がこの場に急行した理由を作った張本人からの助けを求める信号だったと聞き、ゴードンは堪らずわけが分からないと声を上げた。他の者達も同様である。

「艦長! ゴジラが!」

 機龍フィアから送られて来た突然の信号に気を取られている間であった。

 喉の傷で苦しんでその場で動かなかったゴジラが、海に潜り、姿を消したのだ。

「ゴジラは、海中から東に向かいました。追いますか?」

「…っ、もういい。」

 ゴードンは、ゴジラを倒せるかもしれなかったチャンスを逃し、悔しさで顔を歪め、拳を握りしめて耐えながらそう答えた。

 若い船員達は、ゴジラを倒すチャンスを逃してしまったと理解し、迷ってしまったことについて自責の念にかられた。

 結果だけを見れば、引き分けの戦いだったが、ゴードンの指示にもう少し早く答えていればゴジラを仕留められたかもしれない。轟天号の動力回路が火を噴く事態が起こって結局はダメだったかもしれないが、恐怖に負けたのと、覚悟を決めて挑んだが失敗したのでは全然違う。

 もっとも大きなリアクションをしたのは、仲間や上官から戦闘狂などと言われる風間だった。事が過ぎてしまったことを認識してから風間は、唇を噛み、操縦桿を殴り、己の未熟さを恥じた。尾崎と比べて戦いに容赦ない彼であるが本質はまだまだ年の若い若者で、怪獣との戦いの経験がないという点では他の若い船員と同じだ。

 しかしそうはいったものの、勝利のためや、負けたとしても後の者達のために命を投げ捨て戦ってきた先人達のことや、その先人達のことを踏まえて日々の訓練でいざとなれば命を投げ打つ覚悟を教えられてきた。この場にいる者達は、そのいざという時がきたのに身動きが取れなくなってしまった。その結果がこれだ。ゴジラを取り逃がしたことでゴジラがこれから先も災いを振りまくであろうし、終わるかもしれなかった戦いがこれからも続けられることになった。

 やがて頭が冷えてきて、艦長であるゴードンからどんな叱責が来るかと船員達は身構えた。

 だって、ゴードンがどれだけゴジラのことをライバル視しているか知っているからだ。

「…ツムグがなんだって? どうしたんだ?」

 気持ちを切り替えたゴードンがオペレーターに聞いた。

 ゴードンの様子を見て、これは、いわゆる怒りを通り越してしまっているなと船員達は別の意味で汗をかいた。

「いえ…、あの…それが……。」

「はっきりしろ!」

「き…機龍フィアの…DNAコンピュータから、みたいです。」

「それが、……、どういうことだ?」

 信号の内容を解析したオペレーターのなんだかはっきりしない言葉にイライラしたゴードンが眉間をグローブで覆われた指で押さえ怒鳴りかけるが、何かを察して表情を変えた。

「はい…、この信号は、DNAコンピュータから直接送られたものです。」

 それが意味することは、操縦者が何かしらの事情で行動不能になっていて操縦者の安全のための配備でDNAコンピュータが味方に助けを求める信号を発することができるようなっているが、よっぽどじゃないと使われないそれが今使われたということだ。

 機龍フィア自体が現段階での世界最高峰レベルの兵器としての機密の塊であり、その反面、現段階でゴジラとほぼ互角に戦える戦力であるため失ってしまった時のリスクから、救け(たすけ)を求める信号は機龍フィア独自のものが使われており、滅多にお目にかかれない代物であるため解析したオペレーターも歯切れが悪かったのだ。

「機龍フィアはどうなっている? 応答は取れるのか?」

「いいえ、機龍フィアとの通信回線が切れています。信号が送られた回線は一方通行で返信はできません。」

「あのバカ…、何やってやがんだ。」

 ゴードンは、額を抑えた。

「機龍フィアからメッセージが届きました!」

「なんて書いてあるんだ?」

「えっと…『フトドキモノヲ、ツカマエロ』…どういうことでしょうか?」

「…あぁ、すっかり忘れてたぜ。ゴジラを邪魔してた国籍不明の潜水艦を拿捕するぞ。」

「了解!」

 

 すっかり忘れていたが、ゴジラを妨害した国籍不明の潜水艦達がいた。

 ほとんど同じ位置で動いた形跡がない。

 潜水艦のところへ移動した。

 潜水艦の横に止め、武装した船員が潜水艦の一隻を制圧するため浮上している潜水艦に飛び乗った。

 その直後、ハッチが急に開いて、真っ青な顔をした人間が這い出てきた。

「動くな! 両手を頭の後ろにやれ!」

 銃口を向け、そう叫ぶと、ハッチから出て来た潜水艦の乗員は、今にも死にそうな顔をしてノロノロとしゃがみ込んでしまった。

 訝しんだ船員が近づくと、何やらブツブツと呟いていて正常な状態じゃないことが分かった。

 何人かが潜水艦の中に侵入し、他の乗員を抑えに行くと、こちらの方も似たようなもので、換気はしっかりしているのにどんよりした重たい空気に満ちていて思わず吐き気を催すほどだった。

 すると、潜水艦が大きく揺れた。

 潜水艦に侵入した轟天号の船員達に緊急の通信が入る。

『魚雷だ! この潜水艦隊を撃墜している! 口封じだ。一旦戻れ!』

 動けないでいる潜水艦隊に対し、口封じのため彼らの味方からの攻撃が行われたのだ。

 最初に2隻が海の底に沈み、潜水艦から急いで抜け出してきた轟天号の乗組員の目の前ですぐ隣の潜水艦が炎上した。

 折角捕まえた潜水艦とその乗員達を失うわけにはいかないので、轟天号からの攻撃で潜水艦を狙った魚雷は迎撃された。

 続いて空から戦闘機が飛んできてミサイルを潜水艦に発射すると、これも轟天号の正確な射撃により迎撃されて阻止された。

「チッ、戦闘機まで持ってきたか。…国籍マークがない。ゴジラを邪魔したことといい、ただの武装集団じゃないのは間違いないが…。」

「先ほど確保した潜水艦の乗員にも国籍を示すものは身につけておらず、艦内にもそれらしきものはありませんでした。」

「これだけの艦と、闇商に横流しされた怪獣兵器を用意できるんだ。かなり大物だぜ。」

「艦長! 戦闘機がこちらに向かってきます!」

「特攻か! 撃ち落せ!」

 轟天号と隣接している最後の潜水艦を狙い、戦闘機が機体を最後の武器に特攻を仕掛けてきた。武器がなくなったからだ。

 それを迎撃せよとゴードンは指示を出し、轟天号のレーザー砲が戦闘機の翼の片方を蒸発させた。猛スピードで回転しながら戦闘機は潜水艦の反対側。つまり轟天号とくっついている側とは逆の方向へ墜落し、海に沈んだ。

 敵の増援はない。しかし気は抜けない。ゴジラも近くにいるし、さっさとこの場からの離脱をするべく、最後に残った国籍不明の謎の潜水艦の乗員達を艦内に連行し、必要最低限の潜水艦内の情報を取るなどの作業を速やかに終わらせた。

 それから間もなく、轟天号を追ってきた対サハクィエルの艦隊に合流し、機龍フィアが緊急を知らせる信号を艦隊や基地にも送っていたことが分かり、基地へ帰還する最中に機龍フィアを吊るして移送するしらさぎを発見した。

 機龍フィアは、海に落ちていたのか海水まみれだった。

 乗っているはずのツムグからは、いまだ何の反応もない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 轟天号は、地球防衛軍からの通信を拒否状態にしていたのを解除し、サハクィエルのために編成された艦隊と上層部からのあらゆる文句やらなんやらを聞きながら、艦隊に囲まれて地球防衛軍の基地に帰還した。

 作戦にない勝手な行動を犯したとして、船員全員が一時拘束されることになり、轟天号の最高責任者であるゴードンと副艦長が査問委員会に出頭し、なぜ轟天号をゴジラのいるところへ向かわせたのか説明し、轟天号に収容していた国籍不明の潜水艦の乗員達の取り調べなども行われ、形式的な査問委員会による始末書や規則違反の罰則などが言い渡された。

 尾崎達も形式的な罰は受けた。地球防衛軍の規律と体面のため形だけでも裁きを下さなければ納得しない者達がいるからだ。

 無断に艦隊を離れて、ゴジラと戦い、ゴジラを倒せそうなところまで行ったという記録が轟天号内に残っていたのでこれを提出。

 ゴードンや副艦長はともかく他の若い船員達が臆したためにゴジラを倒すチャンスを逃した件については、賛否が分かれたが、結果として経験が浅いとされる人材でゴジラをここまで追い詰めることができたという快挙を成せたということを褒めるべきだという流れになり、また船員達はゴジラを逃がしてしまったことや覚悟が足りなかったという自覚を持って反省しているということで、褒められこそすれ、ゴジラを倒せなかったことを咎められることはなかった。

 轟天号は、普通の船として動くならなんとかなるが、飛行戦艦として活動するには少しばかり時間がかかるということになった。動力回路が火を噴いた原因は、メーサー砲を限界以上で発射したことだった。なので修理も急ぐが、メーサー砲の改良が急がれることになった。

 

 

 

 解放された尾崎を最初に出迎えたのは、音無だった。

「お疲れ様。」

「…ああ。」

 音無の顔を見て、今だ高ぶっていた神経が少し落ち着いたのか、尾崎の顔が少し穏やかになった。

 尾崎と音無は並んで歩き、会話をした。

「国籍不明の潜水艦隊がゴジラを邪魔するなんて……、一体何が目的だったのかしら?」

「それを今調べてるところだろ?」

「それはそうだけど…、それにしたって変じゃない?」

「ああ、そうだな。」

「ゴジラに恨みのある過激派だったとしても、潜水艦を数隻に、怪獣用の兵器、それに戦闘機まで揃えるなんてそんじょそこらのテロリストじゃないわ。あれから潜水艦の方も回収して調べたの。回収したって言っても、機龍フィアとゴジラの戦闘で大破しかけてたんだけどね。でね…、尾崎君…、とんでもないことが分かったの。」

「とんでもないこと?」

「そう。G細胞があったの。」

「なっ!?」

「ほんの少しだけれど。それもね、最近の物じゃない、全然新鮮じゃない古いものだったの。でもゴジラの注意を向けるには十分だわ。G細胞が入ってたカプセルの品番から、ゴジラを封印する35年以上も前のものだってことも分かったの。……当時の地球防衛軍と国際組織が厳重に保管していたものが、セカンドインパクトに乗じて闇に流れたものなのか…、それとも当時の関係者が持ち出したのか。詳しく調べたくっても、セカンドインパクトで色々と不明になったことが多すぎて…。」

「主犯を特定できないってことなのか?」

「今の状態じゃ…、そうなるわね。悔しいけど。」

「捕まえた奴らが証言してくれれば…。」

「そのこともだけど。かなり精神が衰弱してるのよ。うわ言で『来る。何かが来る』ってずっと怯えてるわ。とてもじゃないけどまともな受け応えができそうにないみたい。」

「どうして…。それじゃあ、聴取を取ることもできないじゃないか。」

「まともに喋れるようなるまで待つしかないわね。」

 使徒サハクィエルを迎撃しようとしていたゴジラの邪魔をした謎の人間達を捕えたのはいいが、まともな精神状態じゃないということで回復を待つしかない状況と知った尾崎は拳を握った。

 超能力を使って頭の中の情報を引き出すという手も考えられたが、精神が崩壊しておらず、かといって正常ではない中途半端な状態だと無意識の抵抗により脳細胞が壊れて死亡するか運よく生き残っても二度と元には戻れない。

 尾崎が精神崩壊していたシンジに超能力を使ってシンジに後遺症を残さずにすんだのは、精神の治療のための特殊な訓練を尾崎が積んでいたのと、あの時のシンジの精神にも肉体にも他人の力(精神)の侵入に抵抗する力がなかったからだ。

 ……だからこそ、あの時初号機の意思が入り込み、堂々とシンジの幼い時の姿を借りて精神世界で尾崎に接触できわたけである。

「そうか…。」

 尾崎は、残念そうに息を吐いた。

「あ、そうそう。」

 何か思い出した音無が白衣のポケットをゴソゴソ探り、メモリーカードを取り出して尾崎に差し出した。

「これは?」

「ザトウムシ(※使徒マトリエル)の後から立て続けで渡しそびれたから。」

「? ……ああ。分かった分かった。」

 尾崎は何か思い出したという反応をして音無からメモリーカードを受け取った。

 このメモリーカードには、一見何の変哲もない文章と映像が保存されている。

 しかしこれは暗号化されたデータで、その内容は、報告である。

 尾崎達は、内密にゴードンに協力を求めたのである。

 尾崎が昏睡していたシンジの精神世界で手に入れたサードインパクトに関わると思われる重大な情報は、あまりに壮大すぎて現実に起こせるはずがないとすぐに否定されるような代物だった。けれど尾崎達が信じたのは、嘘偽りのない精神世界の最深部辺りで入手した情報で、更にエヴァ初号機だと名乗ったシンジではない別の精神がシンジの姿(幼いころの)を借りて尾崎にセカンドインパクトの原因とサードインパクトと関係しているとジンルイホカンケイカク(※漢字表記を尾崎達は知らないので尾崎達はカタカナで認識しています)なる人類を滅ぼす恐ろしい計画のことが語られたのだ。初号機の言動が幼げだったこともあるし、何より嘘偽りのない世界での会話だったため初号機の語ったことが真実であるのは間違いないのである。

 当事者である尾崎と尾崎の恋人で優秀な科学者である音無と尾崎のライバル(風間からのやや一方的な)で親友の風間だから壮大な空想じみたこの情報を信じたわけだが、他の人間に話してもらえるはずがないという前提と、尾崎がそれらの重大な情報を知ってしまったことをセカンドインパクトを起こしたうえにジンルイホカンケイカクを実行しようと狙う輩達に知られてしまう恐れがあったから、尾崎達はこの話をする相手を選ぶのに慎重になった。

 慎重になったものの、真っ先に頼りたい相手として頭に浮かんだのがゴードンだったのである。ゴードンなら大丈夫という謎の絶対的な信頼感があったからだ。

 そういうわけで音無が代表としてゴードンに協力を求め、ゴードンは、話を聞いて豪快に笑って承諾してくれたのだ。

 音無が行ったのは、音無の姉がゴードンと…仲が良いからである。しかも付き合い長い。(※ゴードンとは20くらい年が離れてます)

 ちなみに音無美雪の姉…、名を杏奈というが、ニュースキャスターで、色んな番組で引っ張りだこになるぐらいに人気者で、姉妹揃って才色兼備である。

 真実と虚偽が混ぜこぜで、世界を容易に動かし、間接的に命を奪うことすら可能な情報社会の大部分を占めるテレビの仕事をしている以上、ざっくり分類するとただ渡されたカンペを読み上げるだけの飾りになるか、情報の真偽を見極めそれを力とする側になるかに別れてくる。音無の姉・杏奈は間違いなく後者だ。

 杏奈は、セカンドインパクトの被災後、女手一つで妹の美雪を育てている時、あるきっかけがあってゴードンと知り合い、ニュースキャスターとして活動する傍ら、地下に潜伏していたGフォースの協力者となっていた。その伝手で音無は元地球防衛軍のスカウトを受けて現在に至ったわけである。

 実は、杏奈の身に起こったそのきっかけ…、それを作ったのは椎堂ツムグだったりする。

 本当にこっそりと、何かを予言するわけでもなく、教えるわけでもなく、普通の言葉で接触するようタイミングが合うように動いただけである。

 ただし、ゴードンと杏奈が立場とか年齢を越えたそういう情愛のある関係になることまでは予想していなかったので、意外だと驚きつつ、相乗効果で音無美雪がゴードンとプライベートで知人になったのを素晴らしいことだと喜び笑ったとか?

 そんな裏話は置いて置いて、とりあえず尾崎達はゴードンの協力を得ることができたわけで、ただの科学者とミュータント兵士ではできないことをゴードンが自ら築き上げた人脈を使ったり、時に自分で行動して不定期で暗号化した進行状況の報告を尾崎達に送ってもらっているのが現在の状態である。

「大佐の力でも中々見つけられないみたいよ…。」

 先に暗号化された報告を見ていた音無が、残念そうに息を吐いた。

「敵は一体何者なんだろう?」

「わざわざあれだけの人員や資金をはたいてゴジラの邪魔をするような相手でしょ? ロクでもないのは間違いないわね。ツムグは知ってるっぽいのに絶対喋ろうとしないし…。本当に面倒な奴よ。」

「悪い…。」

「どうしたの?」

「君を…、巻き込んでしまった。本当は、危ない目に合わせたくなかったんだけど。」

「なに言ってるのよ。馬鹿っ。」

「痛っ。」

 申し訳なさそうに俯く尾崎のおでこに、音無がデコピンした。

「私ってそんなに頼りないかしら?」

「そんなことない! 俺はただ……、美雪に何かあったら…。」

「何それ…、私の事守り切れないって前提? 私の事守るって言ったの嘘だったの?」

「嘘じゃない! 俺は君を守る!」

「じゃあ、大丈夫ね。安心した。」

「えっ?」

「えっ、じゃないわよ。尾崎君が守ってくれてるから私だって全力で頑張れるだよ? 約束、ちゃんと守ってね。……ずっと。」

「美雪…。」

 にっこりと明るく笑った音無の笑顔を見て、尾崎は自分には守るべき愛する人がいることを再認識した。

 無意識に音無に伸ばした手を、音無が両手で握り、引っ張るようにしてポスッと尾崎の胸に飛び込むと尾崎は少しびっくりした顔をしたが、音無を優しく抱きしめ、二人はしばらく抱きしめ合っていた。

 

 

 

 一方。

「…………人目を気にしろって、いつもいつも言ってやってるのに…、あいつらは…!」

「おさえて! おさえてください! 二人に悪気はないですから!」

「落ち着け風間ー!」

 実は、人通りがそこそこある廊下で、ツムグがいなくなってからの一連のやり取りをしていた尾崎と音無を見てしまったため、風間と同僚がいた。ちなみに小声である。

 風間は、人目を一切気にしてない(気付いてない)カップルに、今日も血管を浮かせてイライラしていた。

 

 

「いっそのこと風間先輩も彼女作ればいいのにさ…。」

「馬鹿! それができるような人だと思ってるのか!? ただでさえ戦い以外に興味ないのに…。」

「…なんか言ったか?」

「いいえ何も!」

 

 念のために…、風間はモテないわけではない。むしろモテる。だが戦闘狂気味な性格のせいか、自分の色恋沙汰には興味がないのである。

 人の事(尾崎)ばかり気にせず少しは自分のことを考えればいいのに…っと、仲間のミュータント兵士達は今日もため息を吐く。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 謹慎で独房に入ることには慣れきっているゴードンは、簡素なベッドに寝転がっていた。

 考えていることは、ゴジラを邪魔したあの国籍不明の潜水艦隊のことだ。

 結構前にツムグと交わした会話で、『人間のことは、人間で解決した方がいい』という言葉があり、謎の襲来者である使徒のこと、そしてその使徒と戦うために作られたとされるエヴァンゲリオンなる兵器のこと、ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って行動している裏に何か妙な輩が絡んでいるのではないかと考えていた。

 ゴードンの人脈をもってしてもその姿なき敵の存在を見つけられていなかった。

 宇宙に出現した巨大な使徒の一件でゴジラの邪魔をした謎の潜水艦隊が出没してようやく敵の手がかりを掴めたと思った。

 しかし実際には、ツムグが敵を捕らえるためにあれこれやらかしたせいでまともに証言ができる状態じゃなくなっていたため、まともに受け応えできるようなっても記憶が正確に残せているか怪しいものだ。

 ツムグがそれぐらいやらないと生け捕りにできないほど徹底した集団であることが分かっただけ良しとするべきなのか…。

 ゴジラとの不完全燃焼な戦いもあり、不満から来るストレスからかゴードンは、少しばかり気分が優れなかった。

 謹慎を利用してしばらくはふて寝しておくかと思ったその時。彼のもとに来訪者が現れた。

 

「ダグラス=ゴードン大佐殿ですよね?」

「…誰だ?」

 

 一眠りしようかと目を閉じた途端声をかけられ、ゴードンは、機嫌悪そうに声を低めて言うと、鉄格子の反対側にいる者はへらりと笑った。

 

「自分は、加持リョウジっつーもんです。一度だけお会いしたことがあるんですけど、覚えてません?」

「俺は今独房に詰められるのに忙しいんだ。とっとと失せろ。」

「まあまあ、そう言わずに。」

「エヴァンゲリオンとかいう玩具の運搬はとっくに終わってんだ。クレームか? そんなもんは間に合ってるぜ。」

「ハハ、覚えててくれたんですね。いや~、感激です。人類最強と謳われる方に覚えててもらえるなんて、ホント光栄ですよ。」

「…手短に要件をすませな。俺は眠い。」

「あ、それはすみませんでした。では、またの機会にゆっくりとお話をさせてください。……おたくらが捕まえた連中の事とか色々と。」

 加持が最後に妙な含みを込めてそう言うと、去って行った。

 ゴードンは、上体を起こした。

「……ったく、まともに昼寝もできやしねぇ。」

 まあいい。向こうから来てくれたんだ、お望み通りゆっくりじっくり話をしてやるぜっと、ゴードンは思い、口の端を釣り上げた。

 ゴードンは、ガシガシと頭をかき、今度こそ一眠りした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方。いつも通りどこなのか分からない妙な空間で談義している秘密結社ゼーレ。

 今回も今回でみんなで頭を抱えていた。

 とはいえ、大半はモノリスの姿でこの場にいるのでその姿はキール以外に確認できないのだが…。

 なんというか…、空気の重さだけならお通夜のような感じである。

『…宇宙に身を置く使徒も殲滅されたな……。』

『地上からの熱線発射って……、どこまで規格外なんだゴジラは…!』

『さらには我々が仕掛けた妨害も、よりのよって地球防衛軍どもに阻止され、しかも奴らにまんまと拿捕されてしまった! なぜ自爆なり自殺なりしなかった!』

『我々のしたことが裏目に出ることとなるとは…、地球防衛軍の彼奴ら我々の動きを察知しているということか? 馬鹿な…。ミュータントどもの能力でも我々を見つけることなどできはしないはず。』

「……たった一人…、それができそうな輩がいるにはいる。」

『なんと! その輩とは?』

「カイザーという突然変異の男がM機関にいる。名を尾崎真一という。M機関のミュータント部隊の少尉をしている男だ。」

『カイザー(皇帝)…とは随分と大層な呼び名だな。』

「データによると、カイザーという個体の能力は、通常のミュータントを遥かに凌ぎ、その気になれば世界を支配下におくことも容易いとされている。いまだにその力の底が見えんとも言われる。セカンドインパクトの被災地の復興作業において、土壇場で限界だと思われていた範疇を越えたことをする場面が何度も確認された。尾崎という男の軟弱な精神が本来の力の開花を遅らせているという調査報告もある。そのような未知数の力を有する男ならば我々の動きを察知するのも容易いかもしれん。」

『なるほど。』

 キールの言葉に、モノリス達も筋が通ると納得した。

 キールは、尾崎を疑っているが…、残念ながら外れてる。

 地球防衛軍側にばれているというのは、合っているようで合ってないような…。微妙なラインである。

 なにせ姿を隠しているゼーレを見ていて、轟天号に邪魔をさせるよう働きかけた本当の犯人が、G細胞完全適応者である椎堂ツムグで、本人がゼーレのことを見つけて動きが見ていることを他の者に伝えていないのだ。つまりツムグだけに全部筒抜けになっていて、ツムグが他の者に教えていないから他の者達は知らないというのが正しい。

 ゼーレが入手したデータには、ツムグの能力については記されておらず、そのためゼーレは尾崎の能力の高さにだけ目がいってしまったのだ。

 しかしツムグの能力の規格外さは、G細胞の力も相まってカイザーの力など話にならないレベルだった。

 データ化できなかった部分もあるし、発見されてから約40年間の間にありとあらゆる方法で調べられたデータがセカンドインパクトで一回ほとんど失われたのも大きいかもしれない。失われたデータの穴埋めのため再度調べられて地球防衛軍に新しいツムグに関するデータが作られたのだが、ゼーレが有するMAGIと技術では地球防衛軍のセキュリティを越えられなかったため入手できなかったのである。

「非常に遺憾だが、地球防衛軍どもにこれ以上好き勝手にさせるわけにはいかぬ。これより尾崎真一をマークし、隙を見て抹殺する。カイザーは、尾崎しかおらぬからこれで我々に向けられている彼奴等の目と耳は潰せるだろう。ゴジラの相手は、地球防衛軍どもにやらせればいい。我々は地球防衛軍どもがゴジラの相手をしている隙に、速やかに確実に人類補完の儀を執り行えるよう準備を進めればよい。」

 こうして、勘違いしたままゼーレは、動き出すこととなる。

 お通夜状態は最初だけで、尾崎を抹殺すると決めたあたりからゼーレは明るくなっていた。

 

 

 この勘違いにより、尾崎の親友の風間を含むM機関の精鋭陣と、尾崎の恋人の音無と尾崎の上司のゴードン大佐を含めた地球防衛軍の主力達と、尾崎のことを気に入っているツムグを怒らせるのは…、遠くない先の話である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゼーレが勘違いによる対策を始めたことで、別のところにも勘違いが伝染することになった。

 

 ネルフの司令室の机の椅子に座ったゲンドウが、書類が挟まったボードを両手で持った状態で震えていた。

 いつものサングラスの下、彼の額には大きな絆創膏が張られている。

 レイのクローン体が培養施設ごとすべて燃やし尽くされ、復元不能を通達され、たまらず自らの足で現場に来てその惨状に意識が遠退き、顔面から倒れたためだ。

 精神ダメージもあり、少し入院し、額に絆創膏を貼った状態で完治を待っている状態である。顔面から思いっきりいったが、幸い骨に異常はなかった。

 彼が今震えているのは、ゼーレから送られてきたある情報をまとめた書類の内容を見たからだ。

 書類の内容を簡単に説明すると…。

 

【地球防衛軍・M機関のミュータント兵士・尾崎真一(推定二十代)に、人類補完計画の情報を知られ、地球防衛軍側に漏れた可能性有り】

 

 …で、ある。

 

 ゲンドウもあくまで資料の上辺程度であるがミュータントの能力については知っている。

 しかしネルフ本部そのものがミュータント対策の仕掛けや妨害する仕組みを組み込んでいるため、ミュータントのスパイが入り込んでも対処できる状態だった。だから物理的な攻撃以外ではそれほど脅威には感じていなかったのだ。

 ところがゲンドウは、ミュータントの中に数百万分の一で、圧倒的に強い突然変異の個体が生まれる可能性があることは知らなかった。

 ゼーレからこうして直接情報がもたらされるまで、その突然変異の個体であるカイザーというものを知らずに一生を終えたかもしれない。

 そのカイザーである尾崎の能力をもってすれば、対ミュータント技術も意味をなさないという研究データがあり、そのデータによると通常のミュータントに効くことが、尾崎にだけは効き目がないのである。

 圧倒的に能力が高いことから、通常のミュータントには障害にしかならないことも障害にならないのだ。

 現在までに確認された突然変異の個体であるカイザーは、尾崎のみで、尾崎さえ抑えることできればミュータントという超人を戦力として保有する地球防衛軍の耳と目を潰せるはずであるとゼーレは考えている、だからゲンドウにもそれに協力しろということである。

 書類に載っている尾崎の写真には、ゲンドウは見覚えがあった。

 サキエルが現れ、ゴジラが来て、初号機にミュータント兵士がよじ登り、初号機のハッチを無理やり壊してシンジを持っていかれてしまった時だ。

 拡大映像で見た、エントリープラグからシンジを抱えて出て来た男……、そいつだ。

 そういえばシンジを救護班に任せた尾崎が、その後、ネルフのカメラに向かってこちらを睨んできた…ような気がする。まるでカメラの位置が分かっていて、しかもカメラ越しに誰がいるのかが分かっているような…、そんな目をしていたような…?

 曖昧な記憶が妄想と混ざってしまい、ゲンドウは、真偽はともかく尾崎に対して暗い感情の炎を燃やし始めていた。

 書類の写真からも感じ取れてしまう、若さだけじゃなく、内面から出ている強く、けれど優しい正義の心。

 E計画のために身も心も捧げてしまった最愛の妻ユイをただただ追いかけ続け、ついに人類の全てを犠牲にしてでもユイを取り戻そうとすらしている心の弱い男であるゲンドウには、とてつもなく眩しく見えた。

 ユイが、自分を温めてくれる優しい温もりの光なら、尾崎は周りを照らす強烈な光の太陽だ。

 ゲンドウは、殺意に至るほどの憎しみを抱いた。

 自分にはない強い心を持つ男。しかも容姿もいいし、写真だけでこれだけ印象が出ているのだから、さぞかし周りから好かれているに違いない。

 他人との馴れ合いが苦手でユイに出合わなければ孤独な人生を送っていた可能性が高いゲンドウにとって、実物を目にしたわけじゃないが尾崎という他人から好かれる輝きを備えた人物は、存在するだけで殺害する動機になるほど憎しみにかられる。

 ゲンドウは、こうしてゼーレとは別の理由で尾崎を敵視した。

 ゲンドウは、自分の目的を諦めずに引きずる傍ら、尾崎について独自に調べることになる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゼーレやゲンドウが勘違いによる行動を起こすことを決めている一方で。

 ゼーレやゲンドウも予想だにしていなかったとんでもない事態が発生し、彼らだけじゃなく、その事態に直面してしまった地球防衛軍側にも激震が走ることになった。

 

 日本に帰還し、あとは基地を目指すだけというところで、機龍フィアがしらさぎと連結している部位を引きちぎって無理やり地面に着地したのである。

 

 突然のことに周りが驚愕している合間に、機龍フィアは勝手に歩き出したのである。

 地上を歩行して突き進む機龍フィアの機体は……、青っぽい光の筋が血管のように赤と銀のボディカラーの表面に走り、機龍フィアの目は稼働していない時の暗いままという、不気味、の一言に尽きる有様であった。

 騒然となる司令部と原因解明を急ぐ科学部と技術部が、ゆっくりした足取りで前進を続ける機龍フィアのボディを汚しているものを遠隔で解析した時、戦慄が走ることになった。

 

 パターン青……、すなわち、使徒を示す結果が出たのだ。

 

 

 

 

 




 本当は、何話か書いていたんですが、読み直すと酷かったので何回も削除、書き直しを繰り返し…、やっとこの展開で行こうって思えるものが書けました。
 ですが、手元資料の少なさとそもそも執筆力のなさに我ながら絶望しました…。
 それなのにこんな壮大(?)なネタを投稿しようだなんて身の程知らずだったなと、体調不良と持病もあり、結構まいっています。



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第十一話  IREUL

 続けて、もう一話投稿しました。

 律儀に一匹ずつ使徒を出しているのに、あまりにもあっさり倒されているという流れにしてましたが、執筆が進まず投稿済みを何度も読み返していて、もっと盛り上げないと物語が成立しない?っと焦り、この展開にしてみました。

 この使徒ってこんな厄介な奴だったっけ?って疑問が湧きますが、このネタではそういうことにしています。




注意。
 アンチ・ヘイト要素を出すため、ミサトの扱いと態度が悪いので、ミサトファンの方は閲覧を御控えください。





 

 

 

 

 第三新東京の地下にあるネルフ本部で、赤木リツコは、思わず席を蹴飛ばすように立ち上がった。

「そんな! なんてこと!?」

 マギを通じて送られて来た地球防衛軍からの緊急の知らせだった。

 宇宙区間に現れた超巨大使徒は、ゴジラに殲滅され、その後間もなくゴジラと轟天号の戦いが勃発し、ゴジラが海へ消えたという映像や情報を見て楽しんでいた時に来た驚愕の知らせだった。

 

 現状での最強の対怪獣兵器・4式機龍コードフィア型が、使徒に操られ、第三新東京を目指して動いているということ。

 そのため最悪の事態に備えるようにという通達だ。

 

 使徒イスラフェルを難なく倒した戦歴もあり、幾度もゴジラと戦ってきた勇士と言える最強の味方が敵になってしまった。

 リツコは、エヴァンゲリオンと本部の維持のためだけに本部に縛りつけられているだけの身で、地球防衛軍の作戦に口を出す権限がない。なのでネルフが没落するまでの間にゼーレからもたらされていた研究材料やエヴァンゲリオンなどの使徒の研究を使って使徒の分析を行い、またその結果や対処法を伝えるということができなかった。

 だがリツコが手を下さなくても、15年ぐらいのブランクはあっても長らく怪獣という超生命体と戦ってきた地球防衛軍の力ならこの危機を乗り越えられるであろう。

 機龍フィアが使徒に奪われたという衝撃の出来事に一瞬焦ったものの、すぐ冷静さを取り戻したリツコは、汗を拭って席に座った。

「ゴジラを恐れる使徒が、ゴジラの類縁のようなG細胞完全適応者から作られたモノ(機龍フィア)を強奪するなんて…、毒(ゴジラ)は、毒(G細胞完全適応者)をもって制せというのを使徒は学んだということかしら? 大胆な行動に打って出たものだわ。」

 機龍フィアに取りついて操っている使徒について、リツコなりに驚嘆、感想を呟いた。

「さてと…、そろそろ…。」

「リツコ、リツコリツコーー!」

「来たわね。何の用?」

 やることがないのに自分のところへ押しかけてくるミサトに、リツコは冷たく対応した。

「さっき車でキリュウってゴジラそっくりのロボットが道路と車を踏み潰して行くの見ちゃったのよ! もしかして暴走!? あいつらもとうとうやらかしちゃったのかしら!?」

「違うわよ。使徒に取りつかれて無理やり動かされているだけよ。彼らの責任じゃないわ。」

「…チッ。」

「なんで舌打ちしたの? あと、機龍フィアを見たって…、あんた群馬の方にいたってこと?」

「だって、これはもう、エヴァの出番でしょ! 機龍ってロボット以上のロボットってあいつら持ってないならエヴァが出るしかないでしょ!? しかも相手が使徒ならなおさらじゃない!」

「馬鹿ね。腐らないようにごく最低限の手入れしかしてないうえに、武装も何もないのにどうやって戦うのよ?」

「えっ、そ、そりは…、ほ、ほらATフィールドが!」

「使徒のATフィールドを破っても、機龍フィアの特殊超合金ボディの防御力と、素体に使われているG細胞完全適応者の遺伝子細胞の超回復・再生能力による耐久力を破るなんて奇跡が起きない限り無理ね。マギも満場一致で戦うどころか壊すことすら難しいって解答を出しているわよ。」

 リツコが今のエヴァンゲリオンでは、戦うどころじゃないということと、仮に戦えたとしても機龍フィアを壊せないということをミサトに告げた。

 リツコがここまで言い切るのは、機龍フィアのこれまでの戦闘の映像を見て、その機体性能を自分なりに分析し、機龍フィアがいかに正気を疑うレベルの兵器であるかというのを理解しているからだ。

「じゃあ、アレ(使徒に操られている機龍フィア)がここ(第三新東京)に来たらどうすんのよ!」

「防衛軍に任せるしかないわね。私達には何もできないわよ。」

「あーもう! せめてN2兵器さえあればぁぁ!」

「馬鹿言わないで。水爆大怪獣が復活したこのご時世に純粋水爆なんて火にガソリンかけるような愚かな事よ。仮に、あったとしても機龍フィアには効果ないわよ。なにせこのネルフの特殊装甲の半分ぐらいまで穴を空けたゴジラの熱線を浴びても大破しないぐらいだから。」

「ってか、あのメカゴジラっての何でできてんのよ! そもそもあんな兵器作れる技術があるのにそれがエヴァに実装されなかったなんておかしいじゃない! 地球防衛軍がケチったのね!?」

「違うわ。……どっかの馬鹿老人どもが切って捨てたのよ。気に入らないからって…、馬鹿で大間抜けよ。」

「誰よその馬鹿老人って!?」

「さてと…、色々準備しないといけないわ。あんたもしとけば?」

 リツコは、ミサト無視してパソコンのソフトを起動させた。

「何の準備をよ? ハッ! もしかしてエヴ…」

「死ぬ準備よ。」

「へっ?」

 もしかしたらエヴァを使って戦えるのではと目を輝かせたミサトに、リツコは素っ気なく言ったので、ミサトは間抜けな顔をしてしまった。

「使徒がもしネルフ内部に入って、ジオフロントに行かれたらお終いでしょ? そうならないようにジオフロントごと吹っ飛ばせる自爆装置があるんじゃない。」

「えっえっ? えっ、でもそんなことしたらゴジラを誘き寄せるられるエヴァも全部ぶっ飛ぶんじゃ…。ってか自爆なんてあいつらが許すわけ…。」

「エヴァはゴジラを誘き寄せやすいエサってだけで、あると戦いやすくなるかもしれないってだけ。エヴァがまだなかった頃は、どうやって戦ってきたか知らないとは言わせないわよ?」

「え…、えーと…。」

「あっきれた…、あれだけ学校で耳にタコができるほどゴジラや怪獣関連の授業や野外学習があったのに…。ビールで脳味噌膿んでるんじゃないの?」

「そんなわけないでしょー!」

「五月蠅いわね…。最後の時をあんたの不快な声で収めるなんて嫌だからさっさとどっか行ってくれると嬉しいんだけど?」

「ちょっと、リツコー! あんた最近あたしに冷たすぎない!? なんでなの!?」

「…あんたが私のお気に入りの子に突っかかったからよ。」

「えっ!? なにその理由!? 心当たり全然ないわよ!? そもそもお気に入りって…、リツコ、あんた……、うっそぉ! 研究室で干物になってるあんたに男ができたってこと!? しかもさっきの言い方だと年下なの!? うわーウソー! リツコったらそんな趣味?」

「お気に入りってだけで、なんでそこまで妄想を飛躍させるのよ…。言っとくけどその彼とはそういう関係なんてこれっぽっちもないわよ。向こうがその気もないし、色々タイミング悪くて連絡先の交換もできなったのよね…。」

「あらら? リツコは気があるってこと、そうなの? そうなの? ねえ、どこの誰よ?」

「嫌よ。教える義理なんてないし、もうすぐ死ぬかもしれないんだから死後地獄に持っていくわ。」

「あーーーー! そうだったわ! やばいってこと忘れてたーーー!」

「……無様ね。」

 途中で話が脱線して、現在の危機的状況のことを忘れてしまってパニックになったミサトから目を離し、リツコは、パソコンのキーボードを叩いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゴジラよりも重たい、鋼の塊の歩行は、それだけで破壊を生む。

 地響きが起こり、地面が陥没し、木が倒れ、コンクリートがひび割れ、踏み出した一歩の下にある物はなんであれペシャンコになる。

 ゆっくりと、だが確実に歩を進める機龍フィア。

 前進を続ける機龍フィアの周囲を、軍用ヘリとしらさぎなどの戦闘機が飛行し、機龍フィアの状況を司令部と他の部隊に実況し続けていた。

 

『機龍フィアは現在…、第三新東京へ向けて進行中!」

 

「やはり第三新東京か…。」

「おい、使徒を示す解析結果は間違いないんだろうな!?」

「機龍フィアの進路上には群馬の都心のど真ん中であります!」

「群馬は第三新東京の住民達をのほとんどが移住しているエリアだぞ! この進路を維持し続ければ都内をまっすぐ突っ切ることになる! なんとかして止めるべきだ!」

「待て! 使徒の全貌も分かっていないのにそれは危険だ!」

「乗っているG細胞完全適応者はどうしたんだ!?」

「ともかく進路上の住民に即刻避難勧告を!」

「せめて進路を変えさせるために攻撃をすべきではないのか!? 波川司令! ご決断を!」

 予想だにしていない非常事態に司令部はパニックになっていた。

 現状での最強の対ゴジラ兵器に使徒がついている。使徒イスラフェルをあっさり殺してみせた機龍フィアが易々と使徒に操られているのだ。最強の手札を正体不明の敵に奪われてしまったのだ。

 波川は、映像に映る機龍フィアを睨むように見つめていた。

「波川司令!」

「……ツムグからの反応は?」

 波川がようやく口を開いた。

「いいえ。通信回線が閉じられています。それどこかG細胞完全適応者の体内にある発信機からの電波も妨害されているようです。」

 波川の秘書が送られて来た解析結果を報告した。

「つまり生死は不明ですか…。」

「ですが…。」

「なにか?」

「一方通行の回線からですが、DNAコンピュータからたどたどしい信号のようなデータが送信されているようです。」

「……研究部門と技術部門に、至急、DNAコンピュータの伝達回路と機龍フィアの設計図と最近までの機体の整備状況の記録を調べ、現在の機龍フィアの状態との照合を急ぎ行うよう指示を。」

「司令! 攻撃の許可を!」

「…許可します。使徒に取りつかれている機龍フィアの足止めを! そして群馬の全住民に避難指示と迎撃部隊の配置を急ぎなさい!」

「了解!」

「轟天号の出撃は!?」

「アホか! 修理がまだ終わっていないぞ!」

「そーでしたー!」

 サハクィエルの時のゴジラとの戦いでエンジンやらその他武装や機体自体が大きなダメージを残してしまった轟天号は、出撃できる状態じゃなかった。そんな下手な漫才みたいなやり取りを聞いた波川は、疲れたため息を吐いた。

 宇宙空間に現れた超巨大な使徒サハクィエルにロシアの基地が破壊され、他の国の基地もやられる危機に対する緊張感がサハクィエルの死で解かれて間もなく機龍フィアが新たに現れた使徒に乗っ取られるという非常事態になり、ただでさえ多忙な波川の疲労はピークだった。

 

 

 多くの人間達が住み、第三新東京から移された人間達も多く住まわされている群馬の都内に向け前進を続ける機龍フィアに、戦闘機からの爆撃が行われた。

 特殊超合金のボディは、怪獣用のミサイルでも傷がつかず、歩みを止めることすらできない。ゴジラの放射熱線を拡散し無効化する装甲はレーザー系の兵器も無効化した。

 歩みが遅いため、進路の先に陸軍が待ち構え、メーサータンクやその他砲撃隊が集中砲火を浴びせるが、これも意味をなさない。

 最強最悪の怪獣王(セカンドインパクト後で何故か強化されたバージョン)との戦うために作られた兵器が、こんな形で自分達に牙を剥くなんて、誰が想像した?

 使徒を第三新東京に行かせるわけにはいかないし、機龍フィアを使徒に奪われたままにするなんてもって他。

 機龍フィアを奪還するにしても、破壊するにしても、どちらを選ぼうにも機龍フィアに取りついている使徒の生態がまったく分からないのでは打つ手がないと言える。

 一番いいのは操縦席にいるはずの椎堂ツムグから何か情報がもたらされるか、あるいはせめてDNAコンピュータから使徒に関する情報が少しでも送受信できればよいのだが今はそのどちらもできない状態だ。

 

 機龍フィアを操っている使徒の退治の仕方が見つからず焦りが募る研究室に、更なる絶望を知らせる放送が響き渡った。

 

『G(ゴジラ)が、日本海側から上陸! まっすぐ…、機龍フィアにいる方へ進行を始めました!』

 

 

 使徒の出現、それすなわちゴジラ出現という流れ(一部例外あり)を、この騒ぎでうっかり忘れてしまっていたのである。

 このうっかりについてフォローすると、轟天号との戦いで大怪我をしたゴジラが海に逃げたという報告があり、怪我を癒すためにゴジラがすぐには動かないだろうと考えたからである。

 しかしそういう期待は裏切られるものである。特にゴジラ関連では…。

 

 

「メカゴジラとゴジラの戦いが再び…、悪夢だ…、悪夢だぁぁぁ…。」

「正気に戻れ! 機龍フィアは、使徒に無理やり動かされてるだけだ! ラドンがいないだけ、あの時とは違うぞ!」

「うまくいけばゴジラに機龍フィアについている使徒を剥がさせることもできるのでは!?」

「その前に群馬が焦土と化しそうですが…?」

「人口の密集に反応してゴジラが復興した都市を破壊して回るかもしれないんだぞ! なんとかして第三新東京に誘導させられないか!?」

「無理を言うな! 時間がない!」

「ゴジラは使徒を優先するなら、このまま機龍フィアを第三新東京に行かせ、ゴジラを誘導させれば…。」

「待て! ゴジラの様子がおかしいぞ!」

 映像に映るゴジラは、使徒がついている機龍フィアを目指して地上を突き進むが、喉が焼き爛れ、抉れており痛々しい傷口が露わになっていた。その喉の傷のせいか、ゴジラの表情は痛みを堪えているようにしかめっ面であり、歩き方もどこか辛そうに見える。

「あれって…、轟天号の攻撃で受けた傷ですよね?」

「傷が治っていないのに、それでも使徒を殺すことを優先するのか…。」

「ですけど、あの喉の傷じゃ…熱線が吐けないなんじゃ…。あっ。」

 

 熱線が使えない、つまり、物理攻撃という流れが頭に浮かんだ。

 

「き、機龍フィアが…、ば、ば、バラ、バ、バラバラにされたらどうしますか…?」

「……。」

「遠い目をして逃避するな!!」

「ゴジラが完全回復するのが先か、機龍フィアの修理が済むのが先か…、祈るしかないな。ハハハ…。」

「だから現実逃避しないでください!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方。

 科学研究部と技術部の方は小数点以下であろうとも勝利の可能性を探すために動いていた。

「DNAコンピュータの方は使徒にやられていないのは間違いないんだな?」

「何度も言っているでしょう。DNAコンピュータから発信されている信号はDNAコンピュータ自体が無事な状態でないと発信できない特殊なものなんですよ。信号が何度も発信されてきているということは、DNAコンピュータは使徒に支配されていないということなんですよ。」

「使徒に乗っ取られたうえで使徒がこちらを欺くために発信している可能性だってあるだろう。だから確認しているんじゃないか。」

「まったく! 頭しか使わない科学部は頭が固くて困るね! 機龍フィアのDNAコンピュータが共同開発じゃなかったら関わり合いたくなんてないよ!」

「G細胞完全適応者の細胞の研究データを提供してやったのになんて言い草だ! これだから古臭い頑固職人共の集まりは…。」

「…っ、無駄な喧嘩をしている場合じゃないのが分からないの!?」

 科学部と技術部の微妙に仲違いをしているところが今になって浮上し両者が互いを罵っていると、音無が机を叩いて怒鳴った。

「こうしている間にも民間人や前線の部隊が危険に晒されているのに、無意味な言い合いなんてする暇なんてないわ! そんなことする暇と力があったらあの使徒をなんとかする方法を探すために使えばいいのよ! それもできないお荷物なんていらない! とっとと出て行って!」

「お、音無博士…、お、落ち着いて…。」

「あんたもオロオロしてないでこっちの計算式解いて!」

「は、はい!」

「それ終わったら、次はこれ! そこ! このデータの解析をやって!」

「あの…自分…、上司なんですが…。」

「はぁ? だから?」

「ヒィッ! やります! やらせていただきます!」

 科学部が音無の怒りによってある意味で纏まりだした。

 それをポカンっとして見ていた技術部の者達は、さっきまでつまらない意地を張ってやるべきことを怠ってしまった己を恥じ、遅れを取らないように動き始めた。

「……うん、うん…、うん、なるほど、確かにDNAコンピュータは、無事みたいね。」

 技術部と力を合わせて解析を行った結果、機龍フィアの頭脳であるDNAコンピュータは、使徒に侵されていないことがはっきりした。

「使徒がボディを支配しておいて、頭(DNAコンピュータ)をそっちのけっていうのは、おかしいですな?」

「それに機龍フィアの動きがぎこちなすぎ。これは、全ての制御系統をDNAコンピュータから奪い支配下においたのではなく、部品を無理やり動かして他の箇所を動かしているというほうが正しいような気が。」

「二体に分裂する使徒と戦いの際に、使徒が機龍フィアの肩の関節の隙間に爪を突き刺そうとして、まるで火傷でもしたかのように慌てて爪を引っ込めていた動きがありましたが…、関係があるのでは?」

「機龍フィアの関節には、G細胞完全適応者の細胞が浸食しています。これは二番目にきたイカみたいな使徒襲来の時のゴジラとの戦いで故障した時にその故障箇所を補うように骨組み内部にあるG細胞完全適応者の遺伝子が動いたのではないかという報告書があります。」

 機龍フィアの素体とは、この場合、機龍フィアの体を支える背骨を中心とした骨のことを指す。

 3式機龍が1代目のゴジラの骨を使ったので、後継機にあたる機龍フィアはゴジラの骨に似せた形に作り上げたG細胞完全適応者の椎堂ツムグの骨髄から採取した遺伝子細胞で、設計図上での機龍フィアの素体として記載されている物の正体だ。

 骨型の素体の中の遺伝子細胞は生きて活動しており、DNAコンピュータからの刺激を受けて細胞が怪獣級(この場合ゴジラ)の細胞エネルギーを生産し、背骨以外の骨がそのエネルギー増幅・変換し機体全体に隅々に行き渡らせ、機動力と武装の威力、そして防御力に活かすのである。人間の細胞に依存したG細胞の亜種みたいな、本物のG細胞とは異なる遺伝子細胞ではあるが、遺伝子細胞の活動から生産されるエネルギー量は人間など足下にも及ばない本物の怪獣並(この場合ゴジラ)だったため、3式機龍の後継機の素材にG細胞完全適応者・椎堂ツムグの細胞を使おうということになったのである。

 なお、使徒シャムシエル襲来の時にゴジラとの戦いの最中に強制シャットウダウンするほど壊れてしまった後、負荷がかかった関節に素体の遺伝子細胞が浸食して自己修復・自己進化と取れる現象を起こしたのは、完全に想定外のことであった。これについてやはり遺体ではなく生きているツムグを使ったのは間違いだったのではという意見も飛び交ったが、関節にツムグの細胞が沁みていたため、度々やっているゴジラとのプロレスでも壊れなくなったし、使徒イスラフェルが機龍フィアの肩関節を壊そうとしたのを防げたので、壊されにくくなったという点では、一応は結果オーライということになっている。

「使徒にとってG細胞は毒?」

「初めに第三新東京に現れた使徒も、ゴジラを酷く恐れて逃げようとしていました。」

「しかし、G細胞完全適応者と本物のG細胞は大きく異なるはず…。」

「使徒が恐れる要素が何なのかは今は置いて置いて、今は機龍フィアを使徒から奪還することが先決! 使徒がG細胞を恐れていることが間違いないのなら、この使徒がDNAコンピュータを支配しようとしない理由も頷ける。DNAコンピュータには、G細胞との融合個体・椎堂ツムグの遺伝子が使われているのだから。」

「動きがぎこちないのは、骨格及び関節などの主要部分のツムグの細胞を避けて、細胞の浸食がされていない部品を使って無理やり機龍フィアの機体を動かさせているからということ…。」

「それなら……、ツムグの細胞を活性化させれば使徒は機龍フィアの中にいられなくなるんじゃないのかしら?」

「どうやって?」

「最初の細胞の浸食が起こった時のように、刺激するればいいのよ。素体…、一番細胞が詰まっている背骨を!」

 

 科学部と技術部が考案した機龍フィアのとりついた使徒を取り除く作戦。

 機龍フィアの素体(背骨=脊椎)を攻撃して内部に詰まっている椎堂ツムグの細胞を活性化させて、使徒が機龍フィアの中にいられなくさせてしまうというものだ。

 速やかに裏付けとなるデータと共に司令部に伝えられた。

 

 彼らが機龍フィアに取りつく使徒と、その使徒を狙って大怪我を負っていながら上陸してきたゴジラに対応するために動いている最中も、ずっと機龍フィアのDNAコンピュータからは弱々しさが感じ取れる信号が送信され続けていた。

 その信号の履歴と信号の内容などを分析した音無は。

 

「…3式に自我意識が芽生えた時のデータに、似てる…?」

 

 過去の記録に残っている3式機龍に自我意識が芽生えた時の数値のデータの資料を、音無は見たことがあり、それに近いような気がしていた。

 気になった音無は、科学者の仲間に使徒の経過観察などを任せ、機龍フィアのDNAコンピュータから送信される信号の数値を調べることにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方。

 

『……やられた。ってか、参ったなぁ…。』

 ツムグは、機龍フィアの操縦室の中で他人事のように目の前にあるモノを眺めながらそう呟いた。

 ツムグが見ているのは、繭のような形状だが下手な鉱物より圧倒的に固い物質で操縦席ごと覆われてピクリとも身動きが取れなくなっている自分自身だ。

 操縦室全体に硬質化した繭のような物質の線が張り巡らされ外部からの通信を遮断している。

 ツムグは、精神の一部を硬質化した繭の外へ出して状況を確認し、何が起こったのかを理解して最初の言葉を吐いたのである。

 精神の一部を外へ出したことで、自分の本体を覆って拘束している繭のような物体が使徒が作り出したものであること、精神の一部を外へ出さなければそれを認識することすらできない完璧な封印を仕掛けられていたことを理解した。

 そしてミュータント(ちなみに尾崎以上)の超能力などもほとんど使えない状態だ。どうやらヘルメットのDNAコンピュータと脳との接続部分から直接脳機能を強制的に睡眠状態になるように働きかけられているらしい。

 完璧と言えるほどの不意打ちだったため、長らく防衛軍やその他諸々を困らせてきた自由奔放の源だった力を抑えられてしまい、高い身体能力も脳機能の強制睡眠で発揮できない。

 脳がまだ完全に睡眠状態に入っていないので、意識があるうちに精神の一部を外へ出して状況の確認を行ったのである。だが徐々に残っている意識も睡眠後の世界に引きずり込まれようとしている。もし眠ってしまったら夢さえ見ない深い深い眠りに落されるだろう。

『操縦席がこれじゃ…、機龍フィアちゃんの方もやられてるってことだよな。ってかむしろ、機龍フィアの中に入り込んでなきゃこんなことできないし…。』

 使徒がどうやって機龍フィアに取りついたのか、その過程をツムグは、思い浮かべた。

 

 他の使徒に触る機会は、三度あった。

 一回目は、イスラフェル。こいつ(こいつら?)は、機龍フィアを使って切り刻んだ後、コアをつぶして殲滅した。

 二回目は、死んだマトリエルを基地に運ぶのを手伝った(吐血状態から復帰後)。

 三回目は、ゴジラに焼き尽くされて空に粉塵となって舞ったサハクィエルの一部が風に乗って…。

 

『…まさか……。』

 サハクィエルの部分で、ハッとツムグは気付いた。

 使徒がどうやって機龍フィアに取りつき、今自分を抑え込むまでに至ったかを。

 ツムグは、自分の推理が正しいかどうか確かめるため残っている脳機能をフル回転させて、遠くを見る力を使い、機龍フィアの両手を見た。

 幽霊のようにだらりと垂れさせられた両掌には、機龍フィアの両掌の大きさに対して大きすぎず小さすぎもしない丸みのある塊のような物が張り付いている。死角になっていて地球防衛軍側はこの物体の確認が取れていないと見た。

 更によくよく見ると機龍フィアの表面に走る青白い光がその部分から出たり入ったりしているように見える。

『あの双子(?)使徒のコアの粉塵と、超でっかい使徒の灰を触媒にして機龍フィアの中に瞬時に現れた…ってところか。ゴジラさんより弱いけど変な方向に規格外だな、使徒って! うっ…。やばっ…。』

 ツムグが頭を抱えていると、ふいに強い睡魔が襲ってきて膝をついた。

 精神の一部を外に出した今のツムグの状態を維持できなくなったのだ。

『アハ…ハハハ……。眠りにはちょっと弱いってのが…、こんな…とこ…ろ…で……、仇に……な…っ…た……。』

 ゴジラは、ひとしきり暴れた時や、地球防衛軍や怪獣との対決などで怪我をした時は、住処に戻り深く眠る習性がある。その眠るという部分というか…貪欲というかそういうものがG細胞の変異の細胞を持つツムグにもある程度受け継がれてしまっていた。なので大きなダメージを受けた時は寝て過ごすことが多いし、眠ることが嫌いじゃない、むしろ好きなぐらいであった。それが今仇になり、使徒からもたらされる強制的な眠りに逆らえなくなってしまったのだ。

 ざまあないっという表情を浮かべたツムグの精神の一部は、宙を仰ぐように首を動かして、やがて消えた。

 機龍フィアの操縦室の機器が、ツムグの変化に反応して、まるでツムグに呼びかけるように機械音を鳴らし、光を点滅させた。

 

 ----------キ、テ-------ォ------キ------テ------

 

 弱々しく、小さいその音…。よーく耳を澄ませれば声のように聞こえるその音が空しく響いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 群馬の都心の避難を速やかに終わらせ、使徒に取りつかれた機龍フィアを迎え撃つための布陣を引いた地球防衛軍。

 尾崎は、特殊な貫通弾が詰まったロケット砲を担いで、周りに控える仲間で隊の部下であるミュータント兵士と共に、その時が来るまで待機していた。

 音無がいる科学部と機龍フィアの開発・改造をしている技術部から伝えられた使徒への対抗策が司令部を通じて前線部隊に伝えられた。

 機龍フィアの超合金のボディの下にある素体(ゴジラの骨格の形にコネて固めたツムグの遺伝細胞の塊)に大きな刺激を与えてすでに関節などに浸食しているツムグの細胞を活性化させて機龍フィアの機体を無理やり動かしている使徒を追い出す…、または機体の内部で死滅させるのである。

 そのために白兵戦や戦車などの移動兵器扱うことを主とするミュータント部隊に支給されたのが、目標に当たると爆薬の詰まったドリルが目標を貫いてその内部で爆発するという特殊な貫通弾であった。これは、土砂崩れや倒壊した建物の復興の役立っていた製品でもあり、その威力はこれを使ったことがったり使われた現場を見たことがある者は皆太鼓判を押す代物だ。

 ただ、機龍フィアの超合金に穴を空けられるかといったらそんなことはない。むしろドリルが粉々になって表面で爆発するだけで終わる。あくまでも今回の目的は、機龍フィアの素体の内部に詰まっているツムグの遺伝細胞の活動を活発化させることなのだから、内部に影響が少しでもある武器が必要だったのだ。なので攻撃目標は自然と背骨部分になる。ここが一番素体に近いといえるから。

 機龍フィアの歩行による地響きが徐々に大きくなっていく。待機している尾崎も仲間達も、他の場所に配置されている部隊にも緊張が走る。

 気候の都合で霞がかっていた景色の中から、ぬぅっと不気味な様子で青白い光の筋を全身にまとった機龍フィアが現れた。

『作戦開始!』

 マイクから熊坂の号令がかかり、待機していたすべての部隊が動き出した。

「尾崎少尉! 頼みますよ!」

「ああ! 分かってる!」

 歩行を続ける機龍フィアが起こす地響きに臆することなく、機龍フィアを目指して走る尾崎の部隊。

 別の方向では風間も部隊を率いて頑張っている頃だ。

 尾崎は作戦が伝えられた時、現時点で尾崎にしかできんだろうということで特別な指示が下された。

 機龍フィアは、基本的にDNAコンピュータと操縦者によって内部から機体をコントロールするのが基本であるが、万が一のため外部から手動で操作が効くように保険がついている。まあこれについては他の軍事兵器だけじゃなく、一般の物にも備え付けられていることであるのだが。

 機龍フィアは、七つのリミッターを組み込まれており、これを解除するとすべての機能が高まる設計になっている。要するにこのリミッターは、素体の中にあるツムグの細胞の活動を抑え込んで、いざ外すと反動で活動が活発化するのを利用したピンなのだそうだ。

 通常は操縦者(椎堂ツムグ)の判断で解除、または蓋をし直す物なのだが、何らかの理由で内部からの制御でリミッターが解除できなかったり、逆に蓋のしなおしができなかった場合に備えての緊急時用として外部に取り付けたリミッター制御装置があることを技術部が科学部に教えたのである。

 なにせもしもの時、つまり緊急時…、それでいてまだ一度も作動させたことがないため正常に作動するかはぶっつけ本番なのだとか…。ちなみに取り付け自体は機龍フィアの開発時に行っていた。だが未知数のG細胞完全適応者の遺伝子細胞を使っているため制御装置がきくかどうか分からず機龍フィアに何かしらの変化が起こったり修理や改良のたびに新しく作り直された物を取り換えていたので結果としてぶっつけ本番になってしまったのである。

 この外部に取り付けられたリミッター制御装置を使えば、攻撃目標の素体…、この場合背骨部分に無駄弾を使わずともツムグの遺伝子細胞を一気に活性化させられるはずらしいのだが、問題なのは、その取り付けられている場所である。

「なんで首の後ろの付け根なんでしょうかね!? もっと低いところにつけろって話ですよ、まったく!」

「試行錯誤してるんだ、仕方ないだろ…。」

 ……首の後ろの付け根(背骨の左方向)にあるというのである。

 100メートルの一番上ではないが、それでも高すぎる位置にある。しかも不安定。それでいて動いている。あとその制御装置の設計図によると手動で捻る代物らしい。

 そこまで登るのなら尾崎じゃなくても、風間や高いところに登るのが得意なミュータント兵士でもできることであるのだが、なにせまだその性質や形状などが不明な使徒が取りついてる機龍フィアに登るとなると使徒から攻撃を受ける可能性が非常に高く危険すぎた。そこでカイザーである尾崎に白羽の矢が立ったのである。尾崎の素質はまだまだ底が見えないため本人の心の在り方のせいか力が抑えられ気味なところがあり、感情の高ぶりやヤバい時の咄嗟のことで普段以上の力が発揮される場面がこれまでに多々あった。だから使徒(敵)の懐に飛び込むにあたりサイキックによるバリアを張って身を守りつつ、かつその状態を維持しつつ外部に取り付けられた制御装置を作動させるために機龍フィアの巨体を登らなければならない。そうなると風間や他のミュータント兵士では無理なのである。

 作戦を伝えられた時、風間は自分もと志願しようとしたものの、尾崎と風間の両名が失われる事態になった時にリスクを説かれ、それでも引こうとしなかった風間を熊坂が殴るという事件が発生したものの、熊坂に叱られ、やるべきことを説かれた風間は、殴られたことで口の端から血を垂らしながら悔しさに拳を握りしめながら感情を押さえた。

 走り続け、やがて機龍フィアとの距離が目と鼻の先になった時、尾崎達は止まり、そして仲間達が陣形を組んだ。

 尾崎を、機龍フィアのボディに飛ばすために。

「頼んだぞ、みんな!」

 尾崎が部下であり仲間であるミュータント兵士達の顔を見渡して言うと、彼らは力強く頷いた。

 ミュータント兵士達の超能力が集まり、尾崎の体を機龍フィアへ飛ばすバネを作り出していく。

 地響きと舞い上がる砂塵に妨害されつつもついに完成された跳躍のための超能力のバネが完成し、尾崎が助走をつけてそこへ向かって走った。そして地を蹴り飛んで、その見えないバネを踏みしめた時、尾崎の体が僅かな残像を残して消えた。

 尾崎が消えた後、バネを作るのに尽力したミュータント兵士達は、膝を地に着いたり、その場に腰を落とすほどの疲労感に襲われた。

「たの…み……ます…、少尉…。」

 膝をつくだけじゃ足りず手もついたミュータント兵士が、機龍フィアへ飛んでいった尾崎に向かって祈った。

 

 

 何人ものミュータント兵士の超能力を束ねた強い力で瞬時に機龍フィアのボディすれすれのところへ瞬間移動した尾崎は、フックを飛ばして機龍フィアの体の凹凸に引っかけ、機龍フィアのボディの上、腰のあたりに足をついた。

 次の瞬間、機龍フィアの体に走っていた青白い光が生き物のように反応した。それを尾崎はすぐに察知し、全身にバリアを張ると、機龍フィアのボディの表面からネバネバとした形状の青白い光が尾崎を襲おうとしてバリアに弾かれた。

「っ、くっ!」

 フックについたワイヤーを握る手に違和感を感じてそちらを見た時、引っかけたフックを伝って青白い光を放つネバネバがワイヤーを溶かしながら尾崎の手に向かってきていた。

 尾崎は素早くワイヤーから手を離し、ほぼ垂直に機龍フィアの体に立った。

 弾かれても襲って来る使徒と思われる青白い光のネバネバが波のように動いて尾崎に迫りくる。尾崎は、機龍フィアの首の付け根を目指してほぼ垂直で、しかも凹凸がある機龍フィアのボディの上を走った登った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「M-1班からです。尾崎少尉を機龍フィアに飛ばすのに成功したと。」

 前線司令部のオペレーターがヘッドフォンに片手を当てながら司令官に伝えた。

「M-2班から、機龍フィアの背骨への攻撃を開始の合図ありました。」

「機龍フィアの動きはどうだ?」

「変化は今のところありません。使徒を識別する反応も相変わらずです。」

「やっぱ物理的に素体(骨格)の殻を破るのは難しいか…。まあ、簡単に壊れるようじゃゴジラとプロレスなんざできるわけないしなぁ。」

 熊坂がそう呟いて大きく息を吐いた。

「それならどうやって機龍フィアの関節に細胞が浸食するんだ? その殻ってのはメチャクチャ固いんだろ?」

「聞いた話じゃDNAコンピュータからの危険視号に反応したツムグの馬鹿の遺伝子細胞が、普通の生物みたいに傷ついた体を治そうとする動きをしたかららしい。殻が固いっつっても簡単には骨が折れないようにするための固さであって、素体自体は柔らかいって話だ。人間サイズのツムグの細胞を培養しまくってよぉ…、それをなんかあれやこれしてゴジラの骨の形にコねて固めて…、3式のゴジラの骨を使っていた部分の代わりにするってなぁ……。科学者の連中はどうしてもゴジラでゴジラをぶっ倒そうって腹みたいだな…。」

「下手すると機龍フィアが第四のゴジラになる可能性が高そうだな…。」

「今回の作戦がもし成功したなら、機龍フィアの内部を浸食する生体の部分が増える。……そんな結末が来ないことを祈るしかないな。」

 機龍フィアを奪還するにしてもしないにしても、機龍フィアに待つ未来は決して良いものではなかった。

 決して良い未来が待っていないという意味では、機龍フィアの素材の提供者であるツムグと同じである。

 機龍フィアは、DNAコンピュータもツムグの遺伝子から作られているので、そう言う意味では一卵性の双子のような、同一遺伝子のクローンのような非常に近しい関係だ。

 もしも機龍フィアが人の制御を完全に離れ、機械と生体を融合したG細胞の怪獣……第四のゴジラになってしまった場合、同一の遺伝子細胞のツムグは確実に引きずられて最悪の人類の敵に成り果てるだろう。浅間山の一件で、量産された不完全なDNAコンピュータを乗せたスーパーX2の量産機がゴジラ撃墜された時のツムグへの影響力の大きさが分かり、ゴジラそのものに引きずられるより、自分と同じ存在に引きずられやすいとうことは間違いない。強いて言うなら、ゴジラとDNAコンピュータとでは、従弟と一卵性双生児ぐらいの違いなんだから近い方に引っ張られるのは当たり前と言える。

「ゴジラが間もなく、作戦エリアに来ます!」

「深手を負ったゴジラと、メカゴジラに寄生してる使徒か……。どうなる? この戦い…。」

「尾崎…、頼んだぞ。」

 ゴジラの接近が間近に迫り、あとは勝敗がどのように決するか待つしかないと熊坂達は覚悟した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 無機物やら有機物が焼けた、不快な悪臭がした。

 その匂いを嗅いで、ツムグは、目を覚ました。

「あれ、……ここは?」

 そこは崩壊した街中だった。

 目をこすり、それから周りを見回すと、倒壊した建物の瓦礫の隙間や、下敷きになったその下や、グシャグシャにへしゃげた車の中など、とにかく色んな所に人間の死体があった。

 原形が残っている死体は、はっきり言って少ない。この大規模な破壊で原形がある死体が残るという方が難しいだろう。

 ツムグは、死体に特に関心を持たず、あてもなく破壊された街中を歩いた。

 とぼとぼ歩いていると、ふと立ち止まる。

 目の前には、巨大な生物の足跡。

「…ゴジラさん?」

 ゴジラの足跡だった。その足跡の中心には、ペッちゃんこになった…辛うじて人間?って判別ができる形で地面の染みになっている死体があった。

「なんでまた? 使徒ちゃんは何がしたいんだか…。」

 自分を無理やり眠らせた相手のことはしっかり覚えている。脳に手出しされたとはいえ、精神がグチャにならないのは、G細胞のせいだろうか?

「ま~、とりあえず何とかして起きないと…。っ?」

 頭をボリボリとかいて、再び歩き出そうとしたツムグは、巨大な地響きを感じた。

「ゴジラさん? あっ。」

 思わずゴジラを探して宙を見上げた時、大きな瓦礫がこちらに向かって飛んできた。

 咄嗟に避けると、足元にじわりと赤い血の小さな川が流れて来た。

「場面が変わった? なんだなんだ?」

 飛んできた瓦礫とその下から流れて来た血を見ているうちに、微妙に場面が変わったことに気付いて周りを見回した。

 ふいに足に何かの看板が当たって転がった。

 ツムグがそれを反射的に見た時、ツムグは、ピタッと止まって、それからスゥっと目を細めた。

「悪夢を再現して…、俺の精神(こころ)を壊そうってか?」

 『椎堂(しどう)』と辛うじて読める壊れた看板の一部。

 足元を汚している血が示すことは、つまりそういうことだろう。

「あいにくとさぁ…、俺、全然覚えてないんだわ。俺が今の俺になるまでの事。だからどーでもいいんだ。マ・ジ・で。」

 ツムグは、そう吐き捨てると、乾いていない血を下から流している瓦礫の塊を殴って砕いた。

 その瞬間、粉々になった瓦礫の下から青白い鋭い爪を持つ無数の手のような物がツムグに向かって伸びて来た。

 爪がツムグの体に突き刺さろうとしたが、ツムグの体の表面に触れた瞬間、爪の先から青白い手はガラスが砕けるように微塵になった。

 キラキラ光る青白い粒は、宙を舞い、渦を作りながらツムグを見おろすように動いた。

「チャレンジ精神は認めるよ? 俺を無理やり眠らせたり、機龍フィアちゃんの全部とは言わずとも、ほぼ全身を乗っ取ったのもさぁ。俺が覚えていない過去を悪夢にして俺に見せるってアイディアもG細胞に直接触れない使徒ちゃんの攻撃手段としてはいいと思うよ。でもさぁ…。」

 青白い光の粒は、数を増し、やがてツムグにとって崇拝する相手の姿を象っていった。

 ツムグは、それを気に入らないという目で見つめる。

「その“もてなし”は、すっげーーーーーーーーーーイヤ!」

 青白い光で出来たゴジラの形を指さし、ツムグが絶叫した。

 使徒が模した青白い光のゴジラがゴジラをマネした雄叫びを上げ、足を上げてツムグを踏んだ。

「下手なマネなんかするなーーーー!」

 一目で偽物だって分かるが、ツムグにとって崇拝する相手を敵が模しているのは心底気に入らなかった。

 ツムグは、踏まれた瞬間、地面に空いた漆黒の闇の中に落下しながらそう叫んだ。

 ツムグが穴の中に消えると、ゴジラを象っていた青白い光は散り散りになり、ツムグを追撃するべく穴の中に入って行った。

 

 その様子を離れた場所から見ている存在があった。

 パッと見、影のようにも見える辛うじて人型のそれは地に膝をつき、どうすればよいのか途方に暮れていた。

 

 -----------ツムグ…、----…--- ツ ム グ -----

 

 どこか儚さを感じさせる女の子のような声が、響いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 第三新東京を目指して全身を続ける、使徒に乗っ取られた機龍フィアの背中の真ん中あたりで、尾崎は、機龍フィアの背筋の凹凸を掴んで宙ぶらりんになっていた。

「くっ…! あと少しなのに…!」

 首筋の下を目指してほぼ垂直な機龍フィアの上へを走っていたが、ネバネバした形状で襲って来る使徒の妨害が激しく、使徒から身を守るために張っているバリアを保つために余計に体力が消耗されてしまい、このままではまずいと方向転化した時、使徒からの攻撃がこない部分があることに気付き、慌ててそこの部分に移動したのだが…。

「背筋は使徒がついてないのか? 初めから背筋を登って行けばよかった…!」

 今更悔やんでも仕方ない。登っている途中、風間や他の部隊から攻撃が背筋に向かって行われていたので背筋を避けて動いていたからだ。

 ゴジラも迫ってきているし、とにかく時間がないので消耗した体力の回復を待たずに外部に設置されたリミッター制御装置を目指すしかない。

 尾崎は意を決してバリアを張り直し、再び機龍フィアの表面を登り始めた。

 安全圏から出たことで再び使徒からの攻撃が始まったが、それを乗り越え、やがて目標の首筋の後ろに到達し、作戦を知らされた時に見たデータに記載されていた外部に取り付けられたリミッター制御装置を探して周りを見回した。

「! あった!」

 背筋の後ろのやや横辺りに禁止マークが描かれた不自然な装甲の板があり、尾崎はそこへ向かって足を踏み出そうとして…。

「っ、なんだっ!?」

 ズボリッと足が沈んだ。

 装甲に見せかけた使徒の塊に足を取られ、その隙をついて、周囲から花弁のように浮き上がった青白いネバネバが、尾崎を取り囲み、尾崎を飲み込んだ。

「ーーー!!」

 飲み込まれまいと足掻くも不定形な使徒の中で溺れるように尾崎は包み込まれ、機龍フィアの首筋付近に人ひとり分ぐらいの繭のようなものが出来上がった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 尾崎が使徒に飲み込まれた時、基地にいた音無は、ハッとして席から立ち上がった。

「音無博士?」

「……おざき…くん?」

「えっ?」

 胸を押さえ、焦燥した表情を浮かべる音無の姿に、科学部の仲間達は訝しんだ。

 

 その時、音無のパソコンに何かが通知された音が鳴った。

 その音で我に返った音無は、パソコンを操作した。

 そして手を止めた。

 

「………ナノサイズの…群体…、使徒……、名…は、…IREUL(イロウル)?」

「音無博士、それは?」

「機龍フィアのDNAコンピュータからの信号をまとめて、翻訳したものです…。DNAコンピュータが、使徒の解析を送ってくれた。使徒の正体がやっと分かった! イロウル! ナノマシンサイズの群体の使徒! この解析が正しければ、環境適応能力が武器でG細胞に必死で適応しようと自己進化を続けているから機龍フィアを動かすことができたんだわ! だとしたら…、素体の中のツムグの遺伝子細胞を活性化せても使徒を倒せるかどうか…。」

「そのデータを至急こちらにも回してくれ! 諦めるわけにはいかん!」

「尾崎君…。」

「しっかりするんだ! 君がそんな状態でどうする! 尾崎少尉のためにも気をしっかり強くもて!」

「っ! はい!」

 尾崎のことで悪い予感が脳裏を過った衝撃から放心しかける音無を、上司の科学者が肩を掴んで言い聞かせて正気に戻させた。

 機龍フィアのDNAコンピュータから送られて来た使徒イロウルに関するデータが科学部と技術部に行き渡り、今までの使徒とはまったく異なる形質を持つこの使徒を倒すための方法を探した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 機龍フィアを乗っ取っている使徒の正体が明らかになったことは、前線部隊にも伝えられ、衝撃を走らせた。

「微生物の使徒の集まりだとぉぉぉ!?」

 届いた報せとその内容に前線司令官がたまらず叫んだ。

「だ、だとしら…、機龍フィアに直接登って行った尾崎少尉は…。」

 副司令官が恐る恐る、M機関の士官を務めている熊坂の方を見た。

 熊坂は、使徒イロウルに乗っ取られている機龍フィアを睨みつけて、固く拳を握っていた。

「熊坂…。」

 熊坂とは旧知の仲の前線司令官は、熊坂の心中を思い、彼の背中を見た。

 

「ゴジラが機龍フィアに接近!」

「機龍フィアが第三新東京の中心で止まりました!」

 

 喉に重傷を負ったゴジラは、目を血走らせ、歯をむき出して使徒に操られている機龍フィアを睨みつけていた。

 機龍フィアの歩行が止まった。

 荒れ地となった第三新東京のほぼど真ん中に、青白い光の筋を纏って佇む姿は不気味だ。

 機龍フィアを観察していた、オペレーター達が機龍フィアの異常に間もなく気が付いた。

 

「機龍フィアの動力炉に高熱発生!」

「基地からの緊急通達! 機龍フィアの動力炉の異常な稼働によるエネルギー暴走の信号がキャッチされ、このままでは機龍フィアの動力炉が爆発するとの報せ有り!」

「なっ、なんだんと!? 動力炉を止められないのか!」

「安全装置は作動していますが、それを振り切って暴走していると…。安全装置で爆発までの時間を稼げているとのことですが、安全装置が焼き切れてしまい爆発が発生た場合、第三新東京のネルフを守る特殊装甲を跡形もなく破壊できると…。」

「----、これが使徒の狙いか!

 使徒イロウルが機龍フィアを狙った理由は、大体まとめると4つ。

 その1。ゴジラの次に天敵となるG細胞完全適応者を封じたかった。あわよくば抹殺したい。

 その2。機龍フィアは、対ゴジラのために作られたため、ゴジラや防衛軍でも壊すのは困難。

 その3。ネルフを攻めるのに邪魔な障害を一度に消し飛ばす火力の爆発物を積んでいる(※エネルギープラントと同じ原理の高出力のプラズマ動力炉)。

 その4。機龍フィアを爆破させても、自分は爆発に適応すればそのままネルフ内部に侵入することが可能。ゴジラが追ってきても、先に地下(ジオフロント)へ行けるから目的は達成できる。(※イロウルは、本部の自爆装置のことは知りません)

 …大体こんな感じだ。

 機龍フィアが爆破された時の範囲が、全てのリミッターを解除してメルトダウンを起こした時の爆発の予測に比べて威力が低いのは、リミッターで抑えているG細胞完全適応者の細胞の代謝によるエネルギーの分がないからである。それでもネルフをまる見えるできるぐらいの爆発力はあるのだからまったく安心できたものじゃないのだが…。

 もしもイロウルが失敗しても、次に続く使徒のため、厄介な脅威が減ることになるので、何としてでも機龍フィアを爆発させたいところであろう。

 イロウルにとって運がいいことに、ゴジラは今のどを負傷していて、コアの再生能力を超える破壊を生むあの恐ろしい放射熱線が吐けない状態だ。

 まさに好機である。

 だが驕らず、確実、確実に、イロウルは、ツムグを封じ、機龍フィアを奪還するために動いていた尾崎を捕まえて飲み、こうして邪魔をしてくるものを確実に排除して。機龍フィアの動力炉を暴走させ続け、爆発するのを待った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「いーーーやぁあああああ! ちょっと! ちょっとぉ! 使徒来ちゃったじゃない! ゴジラも来ちゃったじゃない! 何やってんの防衛軍の奴ら!?」

 ネルフ本部では、本部の上の方に使徒とゴジラが同時に来てしまったことにミサトが喚いていた。

 反してリツコは、どこまでも冷静だ。

「頑張ってたわよ。機龍フィアをこっちにこさせないようにね。でも止められなかった。しかも大変なことが起こってるみたいよ。」

「なによ! これ以上大変な事ってある!?」

「機龍フィアに取りついている使徒が、機龍フィアの動力炉を暴走させてこの上で爆発させようとしてるって。」

 リツコは、地球防衛軍から送られてきた報せを見て、淡々と言った。

「はあぁぁぁ!? 爆発って…、いくら100メートルもあるメカ怪獣でも、18の特殊装甲をぶっ壊すなんて……ことあったりするぅ?」

 ミサトが恐る恐る聞いてみると、リツコは、カチカチとパソコンのキーボードを叩いて画面を変え、それをミサトに見せた。

「MAGIが出した爆発の予想範囲と破壊よ。」

 そこには、簡易な絵のアニメーションのような映像で、機龍フィアが爆発する姿と、その爆風がどのように動くかが描かれていた。爆発は、横よりも、上下縦方向に広がるという動きをしており、分厚い特殊装甲を貫通し、かる~くネルフ本部にまで到達していた。

「なにこれ…? なんで縦に爆発してんの?」

「あくまでも予測だから断言できないけれど、パッと見の機龍フィアの構造だと、こんなふうに爆発する可能性が高いってMAGIが答えを出しているのよ。こんな爆発のされ方されちゃったら。装甲が数十枚あっても貫通しちゃうかもしらないわね。」

「なんでそんな爆発力あんのよ!?」

「ゴジラのあの放射熱線を相殺するぐらいの兵器の出力をどこから出すの?」

 リツコが言っているのは、機龍フィアの口の中にある100式メーサーことだ。マトリエル襲来の時のゴジラとの戦いで、放射熱線(たぶん通常)と同等の威力は発揮していた(※エネルギーのぶつかり合いでお互いに吹っ飛んだ)。

「それだけのエネルギー生むってことは、それだけの爆発の威力も出るってことよ。」

 リツコは、機龍フィアの設計図を見ていたいので知らないことであるが、実際の機龍フィアのエネルギーは、動力炉と素体の使われているツムグの遺伝子細胞の活動から生産されるエネルギーの両方があって、あれだけゴジラとやりあえるのである。なので100式メーサーが動力炉だけであれだけの威力を発揮しているとは言い難い。ついでに言うと、マトリエルの一件の時に披露した100式メーサーは、リミッターを解除したうえで発射したものだったからあの時の機龍フィア内にあるエネルギー量は通常状態をずっと上回っていた(ツムグの調子が悪かったのでうまく使えていなかったが)。

 唖然とするミサトだったが、ややあって良いことを思いついたと手を叩いた。

「そうよ、縦に爆発するんなら、横に逃げれば大丈夫じゃない! そうと決まれば…。」

「逃げたって使徒とゴジラがいるんだから意味ないわよ。それ以前に使徒が勝っちゃったらサードインパクト確定で世界も終わりよ?」

 颯爽と逃げようとするミサトにリツコはそう言った。聞いたミサトは、その場に倒された。なんかえぐえぐっと汚い音を上げて泣いてるようである。

 リツコは、はんっと息を吐いて。パソコンに向かった。

 

 

 一方そのころ。

 ゲンドウは、本部消滅の危機を知ってから初号機を持ち出そうと悪戦苦闘していた。

 仮に本部から初号機を持って逃げたとしてもエヴァンゲリオンを狙うゴジラがいたのでは、どこに逃げてもいっしょなのであるが…。この男がそんなことを考える余裕は今なかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 使徒が機龍フィアを乗っ取って、ネルフの真上で機龍フィアを爆発させようとしているというのを聞いて、ゼーレは、ゼーレでパニックになっていた。

『あの忌々しい黒い怪獣を模した木偶が逆に利用し、防衛軍のくそ共を追い詰めるや良し! だがネルフの特殊装甲の上で爆発して、爆発に乗じてネルフ本部に使徒に行かせるのは、いかん! いかんぞぉ!』

『どうするのだ! こんな事態は想定外だぞ!』

『何かいい方法があるなら誰か言ってみろ、こらっ!』

『このままでは我々の計画が…、ただでさえ修正が埒が明かないというのに…!』

『まだ6体の使徒が現れてもいないのに、ネルフ本部あるエヴァシリーズまでもを失ったら…。』

『ネルフ本部が自爆すればリリスも失われてしまうぞ!』

「…我々の想定以上に使徒が強化されてしまっておるようだな。」

 ギャアギャア騒いでるモノリス達と、中央で肘をついて表面上は冷静に分析しているキールだった。

 

 どうやら機龍フィアに使徒イロウルが取りついて、ネルフの上部にある特殊装甲を破壊して本部の地下へ行こうとしているのは、彼らのシナリオを越えたことだった。そのせいで彼らの計画に必要なエヴァシリーズもリリスも全部消し飛びそうになっていて、ゼーレは、秘密結社としての威厳はどこへやらでパニックになってしまったのだった。

 

 ところで、機龍フィアがここで失われてしまったら、ゴジラと互角にやりあえる人間側の最強の武器がなくなり、ゴジラ側が有利になってしまうという危険が待ち構えていたのだが…、ゼーレは、それを考える余裕がなかった。

 しかし腐っても人類の文明の陰で暗躍していた秘密結社。そのことに気付いて頭を抱えることになるのだが、それは別の話である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 真実を知る者達はともかくとして、地球防衛軍に知らされているのは、使徒がネルフの深部に到達すれば、サードインパクトが発生するという話である。

 狂言じみたその話が真実であるように第三新東京を目指す使徒。

 その可能性が確定しかけていると言っても過言ではない状況が出来上がったことに、世界の終わりを予感した多くの者達が、恐怖した。

 

 

 イロウル。その名の意味は、“恐怖”である。

 

 

 

 

 




 あんまりにも更新頻度があれだと焦って、体調悪いのに早朝近くまで徹夜して執筆しました。
 体調悪いのに徹夜なんてしちゃダメですね…。

 使徒にはそれぞれ一応名前はありますが、このネタでは、名前が知れたのはイロウルが初めてです。他は、不明なまま“使徒”で一緒くたにされてます。

 イロウル編は、私がTV放送で見た数少ないエヴァだったんですが、こいつがもしコンピュータに侵入せず、違う方向から攻めてきたらどうなったんだろう?っという疑問と、あっさりやられる役ばっかりやらせてしまっていた使徒を活躍させてみようと思いこの展開にしました。
 ゼーレのじいさん達が焦っていますが、使徒が予定より強くなっているから焦ってます。ゴジラと地球防衛軍との戦いで使徒が原作よりも強くなったということでお願いします。

 夢の世界に誘われてしまったオリキャラと、敵の実態が不明だったために飲み込まれてしまった尾崎のことについては、次回でやります。


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第十二話  使徒の誤算

 お待たせしました。
 スランプに陥って書きたくても全然書けなくなってました。

 スランプ状態で書いたのでもしかしたら書き直すかもしれません。


 機龍フィアの暴走。

 その原因が使徒に乗っ取られたこと。

 使徒の正体がナノサイズの微生物の集まりであること。

 微生物と分かった時、使徒が機龍フィア以外に広がっている可能性が疑われた。

 機龍フィアにいる使徒が他の箇所に増殖しているとなれば、機龍フィアについているのを駆除しても意味がない。即座に機龍フィアを輸送していたしらさぎは勿論、機龍フィアが暴走してしらさぎから落ちる直後までの航路も調べることになる。

 しらさぎは、機龍フィアを運ぶ時のハンガーが半分の位置ぐらいで千切れていた。よく調べてみると千切れた面が溶けていた。

 防菌・防毒・防放射能装備フルで、でも相手はいまだに未知の敵だから万が一のことがありうる覚悟を決めた調査員が…拍子抜けするほどしらさぎには使徒の痕跡はなく、ハンガーが壊れたこと以外は至って安全だった。

 なので科学部からの結論は、機龍フィア内部にいる使徒は、機龍フィアにとりつくのに成功したものの代償として機龍フィアの外ではすぐに死滅してしまうほど脆弱になってしまったということである。

 

 それを裏付けるものとして。

 機龍フィアの両掌に即席のコアっぽい球体のようなものが見つかった。

 あと、ゴジラがそれを知ってか知らずか、機龍フィアの両腕を掴んで片足で機龍フィアの腹を押して、両腕を引きちぎろうとしていた…。

 凄まじい怪力で引っ張られることで、ゴジラとまともにプロレスができる機龍フィアの腕が嫌な音をたて、火花を散らしていた。

 

 あと少しで千切られる!っというところで、突然、機龍フィアに大きな変化が起こることになる。

 光のなかった両目に強い光が灯り、大きく口を開け、凄まじい大音量で、機械音の雄叫びを上げだしたのだ。

 

 それがきっかけかは不明だが、機龍フィアの動力炉の暴走が緩やかに減速した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 機龍フィアに変化が起こる前。

 ゴボリッと。

 尾崎は、口から泡を吐いた。

 光のない、青黒い奇妙な液体の中に閉じ込められた尾崎は、上も下も分からないままもがいた。

 機龍フィアを支配し、操っている使徒に捕まり飲み込まれた。

 脱出をしようと手足を動かすも触れるのは、液体のような感触だけでそれ以外がない。

「(…息が……。)」

 液体の中なので酸素が得られるはずがない。

 息を大きく吸う暇もないまま、捕まって飲み込まれたためどんどん苦しくなっていく。

 しかし諦めるわけにはいかないと、最後の最後まで足掻こうと尾崎は動いた。

 

 その時、尾崎の目の前で強い光が発生した。

 

 閉じた瞼の上からでも感じたその光に反応して目を開けると、自分がいまいるはずがない場所で尾崎は倒れていた。

「こ、ここは?」

 起き上がり、周りを見回す。

 倒壊した建物や車や家電、それ以外にも様々な物が転がっている。

 座り込んでいる地面の感触も本物のようだ。

 リアルだが、おかしい点がいくつかあった。周りに音がない。そして空気の動きない。匂いもない。つまり時が止まったように尾崎以外のすべてがおかしかったのだ。

 とりあえず状況を整理しようと尾崎が思考しようとした時、強烈な血生臭い匂いと共に手に液体が触れる感触があった。

 驚いてそちらを見ると、大きな瓦礫の下からドロドロと赤黒い液体が流れ出ていた。

 瓦礫の下に生き物がいる。だが…、流れ出てくる血の量といい匂いといい、被災地の救助と捜索経験がある尾崎は、瓦礫の下には死体があると認識せざるおえなかった。

 リアルな夢とはいえ、放っておくのは忍びないと感じた尾崎は立ち上がり、せめて瓦礫に潰されている状態から解放しようと思い、立ち上がって瓦礫に近づいた。

 するとなぜかは分からないが、見えない力に吸い寄せられるように瓦礫の傍に落ちている衣類の切れ端のようなものや、文字盤の破片や、オモチャだったと思われるが原形がほとんど失われた物に目が行っていった。

 丁度いいぐらいにそれぞれ一文字ずつぐらい字が残っていた。

 それらの文字を組み合わせると、つ、ム、ぐ、となる。

 尾崎は、あれ?っと思った。どこかで聞いたことがある話の内容と、今の状況が似ているというよく分からない確信みたいまものが脳裏に浮かんだからだ。

 更に追い打ちをかけるように、ちょっとだけ離れたところに、『椎堂』と書かれた看板の一部みたいなものが落ちていた。形からするに『椎堂』は中間か後半部分の文字だったっぽい。

「なんでだ?」

 なぜ自分が他人の過去の映像の幻の中にいるのか、そもそもこれが本当に“彼”……、椎堂ツムグの過去が再現された光景なのかどうかすら謎だ。

 ツムグの名前の語源が、発見された場所に落ちていた物から適当につなぎ合わせてつけた仮の名前であることは聞いていた。名前の語源になった物の詳細は知らないが、ゴジラと怪獣の戦いが繰り広げられ破壊され尽くした現場にあった物だから形を保っている物はほとんどなかったはずだ。だから自分が目にしている文字が残っている壊れた物類が後のツムグの名前になった可能性が高い。

 だとすると…。

「この下に、いるのは、…ツムグ? ツムグなのか?」

 瓦礫の下から流れ出ている血は、乾く気配がない。それどころか、瓦礫の下の隙間からブクブクと血が泡立ち始めている。

 破壊し尽くされた街の中で、誰にも知られることなく密かに胎動し、そしてG細胞完全適応者『椎堂ツムグ』と呼ばれることになる、あの神出鬼没のトラブルメーカーで、とりあえずは味方なんだがゴジラを崇拝しているところがあり、よく分かんない変な奴で、機龍フィアの材料にしてその操縦者となる者が生まれてくる。

 ブクブクと泡立っていた血が、勢いを増してボコボコと激しく泡立ち始めた。人間の大人よりも大きい瓦礫がグラグラと動き始めていた。

 その激しい変化に、尾崎は思わず後退りした。

 被災地の救助と捜索で、酷い死体は幾らでも見たし、その死体を回収することもした。あの時は吐き気とかそういうものなんかより、死体になってしまった者達が哀れで、救うことができなかったというショックの方が大きかった。

 今目の前で生まれてこようとしている、奇妙な知人(?)の様は、それまで尾崎が感じたことがない強烈な吐き気と悪寒を湧きあがらせた。

 そして、まるでそのタイミングを見計らったかのように、尾崎の体に、背中から衝撃が走った。

 衝撃で思わず退けぞったため、ゆっくりと目線を後ろにやると、青白く光る捻じれた槍のようなものが背中に突き刺さっていた。

 激痛と共に喉をせり上がってきた鉄の味を堪えながら、尾崎は咄嗟に、これは夢だ、幻だと己に言い聞かせた。

 超能力の活用の訓練と同時にそれに対する耐性を養う訓練と、人体などの神秘についての勉強などで“病は気から”という言葉通り思い込みで肉体に外傷や毒や病にならなくても死亡すると教わり、一歩間違えば死に直行レベルの精神系の超能力の攻撃を受けて耐えたり退ける術を体で覚えさせられた(※能力の有無に個人差があるのでレベルの上限は人によっては違う)。

 今いる場所が現実ではないと分かっているからこそ、ここで死んだとしたら現実の自分も死ぬと理解していたからこその対応だった。

 これは夢だ現実じゃない!っと繰り返し強く念じ続けていると…。

 

 ど派手なガラスが砕けるような音がして、尾崎がビクンッと反応してそちらを見た。

 

 それと同時に背中に刺さっていた槍みたいなものも光の粒なって飛散し、尾崎の周りを漂いだした。

 尾崎の視線の先には、中空に空いた穴から落ちてくる、椎堂ツムグがいた。

 ツムグは、尾崎を見つけてギョッとした。

『尾崎ちゃんんん!? なんでここにぃぃぃい!?』

 尾崎を指さしながら落ちていくツムグは、地面に接触した途端、地面が粉々に砕けて空いた暗闇の穴に吸い込まれるように落ちて消えてしまった。

 尾崎は、ポカーンっとツムグが消えた場所を見つめていた。

 なぜかは不明だが、尾崎がさっきまで刺されていた箇所も元通りに戻っていた。

「えっ、ツムグ? 一体、何が?」

 何が何だかさっぱり分からんと尾崎は膝をついた。

 そこにきて尾崎は、やっと自分の周りにある青白い光の粒に気付いた。

「なんなんだこれは!? まさか、使徒か!?」

 自分に纏わりついていた光を体を振って払落しながら、尾崎は光の粒の包囲から脱出した。

 竜巻のように渦を作っていた使徒は、その外へ逃げ出した尾崎を見おろすように動く。

 尾崎は、身構えながら自分が今置かれている状況を確認した。

 機龍フィアの首の後ろ辺りある、外付けリミッター解除装置を使おうとかなり近くまで接近できたまではよかったが、機龍フィアの装甲に擬態していた使徒に捕まって丸呑みにされてしまった。

 丸呑みにされた後、窒息しそうになったが、使徒はなにを考えたのか夢の世界から攻撃をしかけ、夢の世界で殺そうとしてきた。

 しかもなぜかツムグの過去っぽい映像。たぶん機龍フィアの操縦室に閉じ込められているツムグから得た情報を基にこの夢を作ったのだろう。

 機龍フィアの表面に走る青白い光の筋と同色なので、目の前にいる光の粒々が使徒であることは間違いない。

 今まで固形の形で出現してきた使徒だったが、この使徒は粒の一つ一つが使徒だというのを見抜いた。

 つまりこれまでの使徒と違い、弱点のコアを潰せばそれで終わりじゃない。粒を残さずすべて消さないと倒せないということだ。

 

 しかし…、尾崎は、むしろこの状況はチャンスだと考えた。

 

 精神を直接攻撃は、対処法が分からなければそのままドツボにはまってお終いだ。

 だが尾崎はその訓練をしているし、ミュータントでも特殊であったことから実験ついでにミュータントの能力がどこまで通用するのか、どんな応用ができるのかという個別訓練を行ったことがあった。

 その実験&訓練とは、コンピュータなどの人工知能のプログラムに超能力で干渉し、超能力でプログラムを操るというものだ。

 パスワードやセキュリティを強引に破り、自分が必要としているデータだけを引っ張り出して入手、脳を記憶媒体としてデータを運ぶ。

 生体や無機物から情報を読み取りその情報を記憶できる超能力から、普通の人間より脳の記憶容量が大きいと判断されたことから始まった実験だったが結果は予想を遥かに上回るものだった。

 ちなみに実践に使うかどうかはまだ検討中である。取り換えが利かない脳細胞に負担がかかるからだ。

 それは置いといて、精神攻撃と電子プログラムに関わるその実験の検体として参加していた尾崎である。今この状況は恐らくであるが現実世界よりも圧倒的にこの使徒に対して有利な状況かもしれないのだ。

 いくら無数の微生物の集まりからなる使徒とはいえ、それを統一している意思は一つであるはずだ。

 ましてや今、ツムグの過去を再現したリアルな夢の世界を作り出し、そこから攻撃を仕掛ける大掛かりなことをやってきたのだから、微生物の集まりの使徒の意思に直接手を下すことが可能だ。仮に現実世界で何らかの保険をかけてあって大部分を失っても生き残れるようにしていてもだ。

 夢を通じて殺すことができる。

 尾崎は、ぐっと身構え、使徒をまっすぐ見据えた。

 使徒の意思は渦を巻いていたが、渦を巻く方向を変え、密集度を高めドリルのように鋭い形の渦を作るとその先端を尾崎に向けた。

 次の瞬間、目に見えないと例えれるような速度でドリルのようなそれが尾崎に突っ込んでいった。

 尾崎は、まったく無駄のない動きで跳躍し、難なく回避すると、右手を振りかぶって橙色の精神エネルギーを纏わせて使徒の意思に向かってその拳を叩きこんだ。

 ガラスが砕けるような大きな音と、橙色の光が花火のように広がった。

 少し間をおいて耳に刺すように大音量の甲高い悲鳴が木霊した。

 尾崎は着地し、使徒の意思を見た。使徒の意思は、尾崎の攻撃に混乱しているのかその粒々のほとんどが動きに法則性を失っている。量もさっきまでの半分ぐらいしかない。

 やがて混乱が治まってきたのか何とか統一性を取り戻した青白い光の粒が尾崎のいる方向とは逆方向へ動き出した。

 逃げようとしているらしい。

 しかし、尾崎は、根は優しいが、自分以外の大切な人達を守るという使命感の強い青年だ。ましてや相手が世界の滅亡に関わる使徒で、しかも現在進行形で機龍フィアを乗っ取って操り大きな危機を招いているのだ。逃がすわけにはいかない。

「負けるわけにはいかないんだ!」

 尾崎が気合と共にそう叫ぶと、尾崎の身体から橙色のオーラが放たれ、周囲に広がり、使徒の意思の行く手を遮った。

 逃げ道を塞がれ、甲高い鳴き声のような音を出した使徒の意思は、恐る恐るという様子で背後にいる尾崎を見るような動きをした。

「…お前達、使徒は、アダムのところに行きたいだけなんだから、俺達と敵対するつもりなんて本当はないのかもしれない……。けれど、俺達は、戦いを止めることはできない。お前達がアダムのところへ行ったら世界が終わってしまうというのが本当なら止めなきゃいけない。ゴジラもいるし、俺達は、負けられないんだ! 生き残るために!」

 尾崎は、右手の拳により一層強い橙色の光を纏わせ、使徒の意思に向かって拳を振った。

 放たれる強大な精神エネルギーによる攻撃。

 微生物のひとつひとつが使徒であるため倒すのが困難な現実じゃなく、それを統一するひとつの意思がいる夢の世界での直接の攻撃に、使徒イロウルは、更に大きな悲鳴を上げた。

 

 

 捨て身で機龍フィアを乗っ取った使徒イロウロの大誤算は、尾崎をただのミュータント兵士と侮り、夢の世界に引きずり込んで身も心も壊して喰おうとしたことであろう。

 

 

 ナノサイズの微生物の集まりであるイロウルの大本たる意思の方が大ダメージを受けたせいか、精巧に作られていた夢の世界が崩壊を始めた。

 ひび割れた空に赤と金色が混じった電気のような光がスパークし、ゴジラに似た、けれど機械から発せられる雄叫びみたいな声が響き渡った。

 

 

 現実世界では、機龍フィアが顎の関節を引きちぎるほど大きく口を開けて電子音交じりの雄叫びを上げていた。

 機龍フィアの両腕を引きちぎろうと踏ん張っていたゴジラは咄嗟に止まるし、地球防衛軍側もいきなりのことに固まらざるおえなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 白っぽいヒビが入った暗黒の空間に、ニョキッと手が伸びた。

「ブハッ!」

 暗黒空間にできたヒビから這い出てきたツムグは、ゲホゲホとむせた。

「で、溺死とか…。昔さんざんやられたことだし。結局、細胞が適応して無酸素状態でも平気になっちゃったけど。ま、いいや。それにしても尾崎ちゃんとあんなところで会うなんて…、使徒ちゃんも何考えてんだか…。」

 咽た時に出た唾を口元を手で拭うと、後ろに振り返った。

 青白い光の粒が宙を舞っている。だが初めに遭遇したものよりも明らかに量が少なく、動きにも元気がないように見える。

「尾崎ちゃんの一撃は効いた? 痛いでしょ~?」

 ツムグは、腰に手を当て、にや~っと笑って使徒を見上げた。

 使徒はそのの言葉を聞いて悔しいのか、それともわけが分からないと混乱しているのか、どちらとも取れる動きを見せる

「アホだな~。っていうか、なんで尾崎ちゃんを喰おうとしたわけ?」

 それを見てツムグは、呆れた笑みを浮かべながらそう言うが使徒から返事はない。

 使徒は、もう放っておいていいと考えたツムグは、顎に手を当て、ここから脱出することを考えた。

 しかし使徒から受けた封じが思っていた以上に作用しており、ドつぼにはまっていて、肉体の方に帰ることが難しいことに気付いた。

 自力で脱出となると脳の活動を止めている部分。ヘルメットに繋がっている管とコードに浸食している使徒の変異(脳の活動を止めるための物なので使徒とは別物化している)を取り除くか、あるいは、死にそうになるほどダメージを受けて死から再生するときの一時的な細胞のエネルギーの増加で活動を止めている部位も活性化させるか。

 思いついて、ツムグは、肩を落とした。

「どっちも第三者がいなきゃできないじゃん! うわ~、まさかこんなドつぼにはまるなんて俺、どんだけ油断してたの!? 誰かに助けてもらいたくても俺の身体、機龍フィアちゃんのコックピットの中だし!? ……もう過去は戻らない。どーしようか…。ホントにどーしよう、十五年ぶりにヤバいって状況だよ!」

 両手を両頬にあてて顔を青くして叫ぶツムグ。普段の彼を知っている者達のほとんどが見たことがない慌てぶりである。

 ツムグが焦っていると。

 

 -------ムグ------…

 

「ん?」

 

 -----------バカ----…

 

「えっ? 馬鹿って…、何事? っていうかこの声誰!? 子供?」

 

 -----! バカバカバカバカ!!

 

「連呼された!」

 

 ツムグの……、バカーーーー!

 

 そう叫ぶ声が響き渡ったと同時に、ツムグの足の下の方から銀色と赤の巨大な物体の頭部が浮上してきた。

 

「あーー! ごめんねーーーー!」

 

 浮上してきた機龍フィアの頭に吹っ飛ばされて、ツムグは、暗黒空間の彼方へ飛んでいった。

 ツムグがいなくなったあと、暗黒から頭を出した機龍フィアが、くるりと後ろにいる使徒の方を見た。

 そしてガバッと口を開けた。残し少ない使徒の粒はすべて機龍フィアの口の陰に覆われた。

 さっき尾崎にやられた痛みにのたうっていた使徒は、機龍フィアの口に気付いた時には、機龍フィアの口が閉じられる直前だった。

 口が閉まる、直前で気付いたことと、使徒自体が粒々だったので、折角残っていた量の4分の3を失いながら残り4分の1が命からがらという状態でこの空間から逃げていった。

 ガジガジと使徒を噛み砕く動きをしていた機龍フィアは、やがて怒りが収まらないという風に苛立った雄叫びをあげた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 千切れかけていた両腕はバチバチと火花を散らしていたが、機龍フィアがゴジラから少し距離を取った途端に赤黒い粘土のようなものが千切れかけてむき出しになった骨の部位から溢れ出て千切れかけていた腕の他の部分にくっつき、腕をもとの位置に戻して装甲までは治ってないがそれでも両腕が修復された。

 腕が千切れそうになった分だけ離れていた距離が縮まり、機龍フィアの顔とゴジラの顔がくっちきそうなほど近づいた。

 ゴジラは、忌々しそうに口の端を歪めた。

 

「な…、何が?」

「動力炉の温度上昇が止まりました!」

「温度が低下しています! 安全値まであと5分!」

「とりあえず危機は脱したらしいな。」

 機龍フィアからは温度上昇による湯気がもうもうと出ている。

「いやいや、別の危機が起こっていますよ?」

「本部からの伝達! 科学部での観測によると機龍フィアのDNAコンピュータの活性率が300を突破!」

「なんだそりゃ!?」

「機龍フィアの背中側、首付近に高いP・K(超能力)反応有り! 信号を確認! 尾崎少尉です!」

「生きていたか!」

 

 機龍フィアの変化により、使徒イロウルに飲み込まれていた尾崎が解放された。

 繭のような球体が破れ、そこから飛び出した尾崎は、機龍フィアの首筋を横走りしリミッター解除装置に近づいた。

 そこからは目にも留まらぬ速さとはこのことという速さで尾崎はハッチを壊すように開け、中にある回転型のスイッチを掴みグリングリンと右に左に、事前に頭に記録させられたマニュアルに従い回転させる。

 最後にグリッと押し込んだ時、リミッター解除装置が四角い枠ごと爆発した。その衝撃で尾崎の身体は、宙に投げ出され、機龍フィアの首筋から落下した。

 尾崎は身を捻り、ゴジラに掴みかかられている機龍フィアにぶつからないように、そして潰されないよう着地点に気を付けて落ちていった。

 リミッター解除装置があった場所から蒸気が漏れ、やがて鈍い灰色の背骨が朱色っぽい明るい赤い色に染まりだした。

 その色は機龍フィアの全身に広がっていた青白い血管のような色を塗りつぶすように広がっていき、鼓膜を刺すような甲高い悲鳴が木霊した。

 すると機龍フィアの両腕の付け根から青白いアメーバのように機龍フィアから分離していく使徒イロウルが出現した。

 イロウルは、G細胞完全適応者の細胞の活性化で焼かれてしまいそうなってよっぽど慌てたのか、よりにもよってゴジラの方へ出てきてしまった。

 ゴジラは、機龍フィアから手を離すと、アメーバ状のイロウルに手を伸ばす。しかし、イロウルは、端から火が灯り、ジワジワと燃えていってしまった。

 静かに燃え尽き、使徒イロウルは死んだ。

 

「パターン青。消滅…。」

「勝った…のか?」

 

 微生物の集まりの使徒が死んだという反応が確認されても全く安心できなかった。

 なにせ微生物。一つ一つがコアを持つ使徒と判明してしまったことが大きい。

 だから油断できない。

 イロウルが殲滅されたという報告がされても、緊張は解けれない。

 そんな中、ゴジラが雄叫びを上げた。

 喉がやっと治ったらしい。完治とは言い難いがそれでも鳴き声を出せるほどには回復したようだ。

 だがその直後。

 

 機龍フィアに、ゴジラは、ビンタ、された。

 

 しかもビンタの強さは、ぺちんっという程度である。

 ゴジラも、地球防衛軍もみんなポカーンである。

 しかしすぐに我に返ったゴジラは、怒りを露わにして機龍フィアに殴りかかろうとしたが、それよりも早く機龍フィアが両腕を上から下へ振り上げゴジラを殴打した。傍から見ると、それは子供が駄々をこねて両手を振り回すそれだ。

 機龍フィアが爆発させられそうになった危機を脱したはいいが、今度は機龍フィアに起こった別の異変で地球防衛軍は慌てた。

 連続で叩いてる割にはダメージはとても低いらしく、ゴジラは、なんなんだ?っという感じに眉間を寄せている。

 その時。

 

『ツムグのバカーーーー!』

 

 

 

「喋った!?」

 

 電子音混じりの子供のような声が機龍フィアから出た。

 口が動いているわけじゃないのでスピーカーか何かから出ているのだろうが、喋れるようにしてはいなかったはずだ。パイロットが操縦席から外に向かって声を向けることはあれど。

 いきなり子供の声を発したことは、機龍フィアの開発に関わった科学者達や技術者達を混乱させた。

 ゴジラもちょっとびっくりしていた。

『バカバカバカ!! いっつもゴジラ、ゴジラって! ツムグのバカ!』

 操縦席にいるツムグに向かって怒鳴っている。

『ツムグは、“ふぃあ”のだもん! “ふぃあ”のだもん! ゴジラのじゃないもん!』

 

 

「…微妙に発音が……。」

「科学部からの報告で、音声の解析結果、平仮名で“ふぃあ”って言っているとのことです。」

「機龍“フィア”だから、“ふぃあ”なのか?」

「つまりあの声は機龍フィアのDNAコンピュータということか。」

「自我意識が芽生えただと? それじゃあ3式と同じ…。」

「いやいやいやいや、3式機龍とは明らかに違いますって! 資料で見てますけどあんなんじゃなかったですって。」

 

『あげないもん! あげないもん! ツムグは、あげないもん!』

 

「椎堂ツムグが好きなんだな…。」

「あいつの遺伝子細胞から発生した意識なら普通なんじゃないか?」

「ハハッ、あいつモテんじゃねーか。」

「違うと思うぞ!? むしろ兄弟とかそんな感覚だと思うぞ!?」

「司令部はさぞかし大騒ぎだろうな…。」

「そうでしょうね…。」

「あっ」

 前線部隊が基地にいる司令部の混乱を心配していると、事は動いた。

 黙って叩かれていたゴジラは、我慢の限界をむかえたのか呆れたのか、機龍フィアを強烈な張り手で倒すとくるりと背中を向けて海の方へ去っていった。

「帰りましたね…。」

「使徒もいなくなったしな…。」

「喉の怪我も治り切っていないようだし、無理して来たってのもありそうだな。」

 

『ウゥ~~、ツムグ、起きてよ~!』

 

「って、あいつ(ツムグ)起きてないのか!?」

「そもそも意識がなくなっていたなんて初耳だぞ!」

「仕方ないだろ、内部の情報が入ってこなかったんだから…。」

「どーすんだ、これから? 司令部からの指示はまだか?」

「仕方ない。俺達は俺達でできることをやればいいだろ。」

「それもそうだな。」

「尾崎少尉が見つかりました!」

「そうか! ん? 何かあったのか?」

「それが……、数十キロ離れたところからテレパスで近寄るなと言っていて…。」

「? ……まさか。科学部に指示を仰げ! 全軍に伝達、尾崎をSS級危険物として警戒しろ!」

「は、はい!」

「どーした熊坂!?」

「使徒につかれてた機龍フィアに直接触ったんだ…。発信機が途中で途切れたのは使徒に捕まったか何かされたに違いない。あいつのことだ…、それに気付いて味方に近寄らないようにしてるんだろう。」

「あっ…。」

 

『ツムグ~~。う~、ん? だぁれ?』

 

「なんだ? 様子がおかしいぞ?」

 

『えっ? ほんとう? ツムグだいじょうぶ? ほんとにほんとに? うん。分かった。』

 

 機龍フィアがキョロキョロと首を振りながら誰かと会話をし、やがて大人しくなった。

 自我が芽生えたことで勝手に動いていた機龍フィアが大人しくなったため、その隙にと回収することになった。

 暴れるかと思われたが、嘘みたいに大人しかった。

 後で分かったことだが、機龍フィアに話しかけて大人しくするよう説得したのは、尾崎だった。テレパシーを使ったらしい。

 

 機龍フィアが回収されるのと同時に、問題の尾崎の方も回収となった。

 微生物の使徒に侵されている可能性に、尾崎と親しい者達は不安の色を浮かべた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……ん?」

 ツムグが目を覚まして最初に目にしたのは、手術室の強烈なライトだった。

「やっとお目覚めか。」

「おはよ~。」

 頭がまだボーっとするが、目をこすりながらツムグは、起き上がった。

 マスクをして白衣を着た自分の管理者の一人がカルテを片手に持って立っている。

「脳の活動は若干にぶいが、事情聴取だ。」

「大丈夫。大体把握してるから。」

 寝たままヒラヒラ手を振ると管理者は呆れたように息を吐いた。

 それからは使徒サハクィエルが殲滅された直後に機龍フィアをなぜ飛ばしたのか。いつ使徒イロウルにやられてしまったのか。硬質な繭みたいに変化したイロウルに強制的に眠らされていた状態についてなどを話した。

「普通なら脳死ししているか、脳に重大なダメージを受けるがな。G細胞の力だな。」

「尾崎ちゃんは?」

「…なぜおまえが知っている?」

「夢の中で尾崎ちゃんと会った。」

「そうか…。おまえには説明が必要ないな。」

「自分でも便利だなぁって思うよ。でさ、尾崎ちゃんの様子は?」

「かなり参っているみたいだ。無理もない。いまだに得体のしれない化け物に身体を侵されているかもしれないからな。」

「検査中ってこと?」

「今回の使徒は微生物だ。少しでも残っていたら復活する可能性が高いからな。」

「その心配はないよ~。」

「はっ?」

 ツムグは、むくりと起き上がり、ニッと笑った。

「尾崎ちゃんのところ、連れてって。」

 そう言われて管理者の一人は、言葉を失った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 科学研究が行われたり、検査といったことも行われる特別な実験所がある。

 恐らく世界で1、2を争う防護、防菌の場所であろう。

 怪獣がいた頃からフル稼働のそこに、尾崎はいた。

 正確には…、監禁されていた。

 簡素な病人服の恰好で、室内の外が見える窓にソッと手で触れる。

 機龍フィアのリミッター解除装置を使うために出動したはいいが、目前のところで使徒に捕まった。

 使徒は微生物の集まりだったことをあの時はまだ判明していなかった。少なくともこれまで現れた使徒と生態が全く異なるとは分かっていたがどのような生態を持つ使徒なのかは分からなかったし、何より機龍フィアを奪還することを優先しなければならず、機龍フィア自体がミュータントの強力な超能力をほとんど受けつけない仕組みだったのもあり仲間の力を合わせても接近できるのが尾崎しかいなかった。

 アメーバのように変態した使徒に捕まり、その液体を口にしたうえに、精神攻撃まで受けたのだ。体の中に使徒が入り込んで生き延びている可能性は非常に高いということだ。

 尾崎は、壁に背を預けてその場に座り込んだ。

 清潔すぎる白い部屋はあまりいい気分にはならない。

 正式にM機関への戦士になる前、尾崎には実験動物も同然の扱いを受けた時期がある。

 初めのうちは他の者達と同等の扱いだったが、検査や訓練を受けるにつれ、自分だけが違う場所に移動する機会が増え、やがて引き離された。

 尾崎でも、真一でもなく、割り振られた番号でもなく、“カイザー”という名称で呼ばれるようにもなり当時は混乱した。

 普通の人間ではないという自覚はあり、同じ力を持つM機関に保護された仲間達との出会いを通じてそれを理解したし、その力の扱い方や高め方などを学ばなければならない理由だって理解した。

 なのになぜ自分だけが違う場所に連れてこられたのか。子供に分かるわけがない。

 あのままだったら尾崎真一という存在は実験体として終わっていたかもしれないし、尾崎自身が現在の尾崎として精神を保てていたか怪しい。

 膝に顎を乗せてあの時のことを思い出す。

 金色の混じった赤色と、なぜか奇妙に見えた笑みを思い出した。

 そう、実験室に閉じ込められていた尾崎を解放したのは、ツムグだった。

 しかし正確なところは解放したと言えるのかどうか今思うと微妙なところではある。

 何をやったかというと…、ツムグが、襲って来たのである。

 …殺すとかそういう意味の方である。

 子供時代の尾崎は当時出せる全力で抵抗したので軽症ですんだ。普通ならトラウマになりそうだが、奇跡的にトラウマはならなかった。っというよりは、戦っている間に記憶が飛んでてしまったのでトラウマが残らなかったというのが正しいかもしれない。子供の身体で強大な超能力を多用して負担がかかりすぎたせいだとカルテには残っている。

 能力の高いミュータントより、そんなミュータントを遊び半分に殺そうとしたG細胞完全適応者の方の対処の方が優先となり、尾崎は解放されたのだった。

 セキュリティ厳重で病原菌が入るのも困難な場所に音もなく入り込んだツムグの異常さは狂気の域だということらしい。

「今思うとツムグのおかげだったんだな…。」

 結局は今逆戻りしているが、子供時代に出ることができたのはツムグのおかげだったのだと今更ながら思う。

 あとで聞いた話だが、殺そうとしたのは単なるパフォーマンスであり、本気ではなかったらしい。なにせその後も遊びと称した突然のバトルを持ち込んできたり、覗きや盗聴の常習犯だったりして、もういちいち気にしてたらやってられないと周りの空気もありいつの間にか慣れてしまったのである。

 そういえばツムグは、今どうしているだろうとも考えていると、実験室の窓を叩く音がした。

 顔を上げて窓を見て、尾崎は目を見開いてすぐに立ち上がった。

「美雪!」

 手足の先まで防護服で覆われているので人相が分かり辛いが一目で音無であることが分かった。

 窓に手を添えると、その手に重ねるように音無が窓の外から手を添えてきた。

 口が動いているが音は聞こえない。

 尾崎は、胸をえぐられるような申し訳なさを感じて胸を抑えた。

「ごめん。心配かけて。」

 彼女の泣きそうな顔に今すぐに彼女を抱きしめたいのを堪える。

 自分の体の中にはまだあの使徒が潜んでいるかもしれない。使徒がもういないことがはっきりするまで外に出るのは不可能だろう。

 もしかしたら一生…。その考えが過って尾崎は絶望した。

 が、その時。

「それはない。それはないから。」

 後ろからポンッと誰かに肩を叩かれた。

 …昔、同じことがあったような…。

「で、デジャヴ?」

「空気ぶっ壊して悪いけど、手っ取り早く、ね?」

「どうやって入ってきたんだ!?」

 慌ててツムグから距離を取る尾崎。窓の向こうにいる音無も驚愕している。シリアスの空気どこ行った?

「気にしない気にしない。」

 ツムグは、笑う。

 おかしい…、あの一件からセキュリティは強化されてツムグでも入り込めないようされていたはずだが…。

 ツムグは、右手を前に出して、グッと拳を握った。すると拳から血が垂れた。

「今から証明するから観察よろしく。」

 宙を見上げて、恐らくここの管理者達や研究者、そして事を観察していた上層部の人間達に向かって言った。

「しょうめい?」

「ようは使徒が残ってなければいいってことでしょ? 今から俺と握手して。こっちの血の付いた方で。」

「それで分かるのか?」

「なぜか知らないけど、使徒はG細胞に触ると火傷しちゃうんだよ。機龍フィアにとりついてた使徒もね、体を焼きながら耐えて耐えてたわけ。かなりしんどかったはずだよ。あれって微生物だからなんとかなってたんだろうけど。さすがに無理がたたってたと思うよ? でさ、もし尾崎の中に使徒が残ってたら俺の血を触ったら大ごとだ。残ってなかったらなんともない。簡単でしょ?」

「…うーん。」

「グダグダ考えてもここから出られないよ?」

「いや…その…、ツムグの血って、死ぬんじゃなかったか?」

「あれは体内に入れた場合。注射しなけりゃ大丈夫! …な、はず。」

「不安になるだろ!」

「触っただけでダメなら、あの虫みたいな形した使徒の時に大変だったって!」

 使徒マトリエル襲来時に、ツムグは、内臓から出血して吐血した。更にそのままゴジラと戦ったため操縦席は血塗れになった。いや、床が血の海なので開けた瞬間に…。

「あっ、そうか。」

「で、やる? やらない? 美雪ちゃんと一生はなればな…。」

「やるに決まっているだろう!」

「良い返事。さっ、グッと。」

 そうして、尾崎はツムグの血の付いた方の手を握った。

 握って…、1分後。

 

『パターン青。確認できません。尾崎少尉の解放を承認します。』

 

 っという、放送が聞こえ、部屋の鍵が開いた音がした。

「おめでとう、尾崎。晴れて自由の身だ…って、早っ。」

 ツムグが言うが早いか、尾崎はすぐさま部屋から飛び出し、外にいた音無を抱きしめた。

 ツムグは、その様子を見てから部屋から出ていき、二人を残して去っていった。

 監視カメラで様子を見ていた側も外で待機していた側も赤面する甘い空気がたちこめていたが、このまま放っておくわけにいかないで、二人に話しかけ、実験室からの退出となった。

 実験所の外で尾崎を出迎えたのは、M機関の仲間で、その中でジトッと見てくる風間がいたので心配をかけたことを話しかけようとしたら、まず拳が飛んできた。そのまま掴みかかられそうになったので仲間達が風間を抑えて、音無が間に入って、熊坂が落ち着けとチョップ入れたりしてなんやかんやあったが無事に戻ってこれたことを祝福されているのは嫌でも分かったので尾崎は涙した。

 尾崎に泣かれて風間はプイッとそっぷを向いた。

 それから、無事に戻ってこれたことを祝われて落ち着いてから言われた。

「戻る前にあの子らにも顔を見せとけ。」

「えっ?」

「シンジ君達の事よ。みんな心配してたんだから。」

「泣きつかれて面倒だったんだぞ。」

「すまない…。」

 尾崎が大変だったことは、シンジ達にも伝わっていた。ただし詳細は明かされず、ただ二度と会えない可能性があることを遠回しに言われ情緒不安定になったシンジが泣き出してしまったのである。

 本人は自覚なく尾崎を心の支えにしていたために不安定になり、泣き出してしまった彼を宥めようとした者達の声を聞いた途端、声を上げて泣くという事態にもなってしまい、尾崎の安否確認をしようと風間に縋ったり、相変わらず表情の乏しいレイが撫でたり抱きしめたりして慰めようとしたという。

 食堂にいると聞いたので行ってみると、普段はM機関の者達が座る席にシンジとレイが並んで座っていた。その周りには二人を心配そうに見ている食堂の職員達がいた。

 レイが尾崎の存在に気付いて振り向き、すぐにシンジの肩を叩いた。

 シンジがゆっくりと泣き腫らした顔で後ろを向く。無表情だった顔がみるみる変わった。

「お、おざきさん…。」

「心配かけてごめん。もう大丈夫だから。」

 尾崎は優しく笑って自分のもとへ駆けて来たシンジを抱留めてその頭を撫でた。

 食堂にいたおばちゃん達もホッとした顔をしてその光景を見守っていた。

 レイもどこか母性を感じさせる柔らかい眼差しでシンジと尾崎を見ていた。

 食堂の入り口で背中を預けていた風間は、肩の荷が下りたというように長生きを吐いていた。しかしその表情はほんのりと明るい。

 

 

 

 こうして恐怖の名を持つ使徒がもたらした恐怖は去った。

 

 

 

 

 

 




 イロウルの倒し方は、一応機龍フィア内部でというのは最初から決めてましたが、乗っ取られるというのは後から決めました。
 最初は周りに気が付かれないうちに殲滅というアッサリ展開でしたがそれじゃ酷いと思ったのでボツ。
 そこで、尾崎は強い(まだ潜在している)という設定にしているのに活躍場面がないなと思ったので急遽この展開にしました。
 最後の方でシンジが情緒不安定になってますが、精神崩壊からの回復だから本人も自覚のないまま尾崎に依存することで保っていたということにしました。変な意味はありません。

 もっとラヴラヴなシーン書きたいな…。頑張ろう。




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第十三話  嵐の前の静けさ?

 あけましておめでとうございます。お待たせしました。すみません。
 スランプ怖い、スランプ怖い…。

 あとゲームとかもしてました。モンハンのソロはそろそろ限界ですね。持ってるPSPはネットに繋げられないし…。


 平和な回にしたかったのに、無理でした。


 

 

 

 技術開発部と科学研究部の二つの部署は、困っていた。

 理由は。

 

『ヤだヤだ! 触るな触るな!』

 

 機龍フィアの自我意識に子供みたいに拒否されていたからだ。

 子供みたい、というよりも、ホントに子供なのかもしれないが、コレは酷いっと技術者達や研究者達は頭をさえざるおえなかった。

 自我意識が芽生えたからには、調べる必要があるので必要な事だからと説明して説得しようとしても聞き入れてもらえない。

 無理やりやろうものなら、巨体を捻って振り落される。死人はギリギリで出なかった…。

 結局ツムグでなければダメだという結論だ。

「いい加減言うこと聞きなさい。」

 椅子に座って足をプラプラさせながら様子を見ていたツムグが、溜息を吐きながら言う。

『ヤだ、ヤだ! くすぐったいんだもん、くすぐったいんだもん!』

 そう駄々をこねる機龍フィアの自我意識、自称“ふぃあ”。

 子供のような高い声で、機械から発せられるせいか男なのか女なのか判別が困難な音程である。

 しかも発音がところどころおかしい。

「同じ言葉を繰り返す癖があるなぁ…。精神年齢は、十歳以下かな?」

「データ量は防衛軍のスパコン並なはずなんだが…。なぜこんなに低いのか謎だよ。」

 ツムグは隣にいた書類を片手に頭を押さえている技術者に話をふるとそういう答えが返ってきた。

「人格の年齢と知能は比例しないということではないのか?」

「しかしこのままでは正確なデータが取れない。なんとかしろ、ツムグ。」

「分かってるって。ふぃあちゃーん、くすぐったくっても我慢しよう。これ以上みんなを困らせないで、ねっ?」

 椅子から立ち上がったツムグが機龍フィアに近寄って顔を指さして言った。

『うゥ~。でもォ。』

「でもじゃない。このままだとふぃあのこと削除とか言われるよ?」

『ヤだ! それ、ヤだ!』

「だったらここにいる人達の言うこと聞きこと。くすぐったいのは慣れるから我慢しなきゃ。」

『う~~、分かった…。ツムグが言うなら言う通りにする。』

「いい子いい子。」

『ワ~い。』

 

 こうしてなんとかふぃあを大人しくさせることできたのである。

 ふぃあの精神年齢は低いうえに、データ量の割に成長性も晩成型であるというのが現在の見解である。

 

『ねえねえ、ふぃあイイ子? ふぃあイイ子? イイ子してたら褒めてくれる?』

「うん。いい子だから首をこっちに向けないようにね。人が落ちちゃうから…。」

『ツムグ、見てる、見てる?』

「体こっちに向けちゃダメ! 周りが壊れるから!」

『ツムグ~!』

「あとでいっぱいお喋りしてあげるから、今は静かに動かないように! お願いだから大人しくして!」

『うん! 大人しくする!』

「大人しくしてないー!」

 

「…あの馬鹿(ツムグ)を困らせるとは、こりゃ相当だぞ。」

 ツムグによく振り回されている技術開発部と科学研究部の者達は、ツムグがふぃあに振り回されている様子を珍しいモノを見るように見ていた。

「しかし…、一応は想定していたとはいえ実際に自我意識が芽生えてしまったわけだが、上層部はどう判断するだろうな?」

「4式の開発のプロジェクトでその辺の資料は見せてるし、渡してるはずだろ?」

「しかもこの人格ですからな…。機龍フィアの運用自体に支障が出る可能性もありますな。」

「そうなったら徹底抗議だ。我が子も同然に育て上げた作品でもあるのだから。」

「我が子…と言う割には、まったく我々に関心がないみたいですけどね。」

「それは言うな。」

 自我意識が突然芽生えたとはいえ、一応は想定していたことだったのもあり技術者達と研究者達の適応は早かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……以上が、科学部と技術部からの報告です。」

 会議場が、機龍フィアについての説明を聞いてざわついた。

「こうなることは想定していたというのは間違いないのですか!?」

「4式機龍開発プロジェク発足時から自我意識の発生は予測されていました。3式機龍という前例がある以上、生体コンピュータの運用において独自の思考が発生する可能性は避けられないものとしてプロジェクトは進行していました。」

「機龍フィアの操縦はどうなる!? 今後は自我意識に戦わせるというのですか!?」

「自我が芽生えた直後の出力の記録では、予定出力の半分程度と出ています。」

「つまり現状の戦闘能力を出すには操縦者が必要ということです。」

 機龍フィアについての状態についてや、今後の運用について質問が飛び交う中、一人の男が場の流れを変えることになる。

「メカゴジラの運用以前の問題を忘れてはなりませんよ。」

「問題?」

「この映像をご覧になってください。」

 そう言って合図を出しモニターに映し出したのは、使徒に乗っ取られた機龍フィアが暴走したあとの爪跡だった。

 踏みつぶされた道路その他、車や建物。群馬の都内をまっすぐ通り過ぎた後の惨状であった。

「暴走したメカゴジラは、基地のドッグ目前で運搬船から落下し、そのまま第三新東京までまっすぐ突き進みました。この惨状について、国民にどう言い訳をなさるつもりで? 波川殿。」

「言い訳などしません。ありのままに説明するのみです。」

「馬鹿正直になったところで国民の感情を抑えられるとお思いなのか?」

 モニターの映像が変わり、プラカードや紙などを掲げて集団抗議する団体や、機龍フィアと地球防衛軍を非難するニュースの映像が映し出された。

「我々地球防衛軍の存在を理解せず権利ばかりを主張する馬鹿に油を注いだばかりか、その馬鹿に上辺だけ同調した集団行動が横行しつあるというのに、ここで馬鹿正直に敵にこちらの最強の駒を奪われたことを説明できるわけがない。」

「だから言って弾圧をしても良いわけではありません。」

「世界の命運がかかっているのだ。やむ終えないでは?」

「それこそ火に油を注ぐのではないですか? 和臣(かずおみ)殿。」

「理想論ばかりで組織が守れるとでも? ロシアのことについてもまだ始末がついてない。」

「……。」

「……。」

 波川と和臣の睨み合いが炸裂し、会議場にいる者達は、たらりと汗をかいた。

 その空気を変えたのは、一つの連絡だった。

「な、波川司令。たった今…。」

「来たのね。」

「波川殿?」

「戦うための駒がなければ、増やすまでですわ。」

 モニターの映像がまた変わった。

「! これは!?」

 和臣も、会議場にいる人間達も驚いた。

 

「ようやく、連れて帰ることができたわ。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアの今後についての会議が行われて間もなく。

「結局、機龍フィアの運用一時凍結か…。傍から見たら事情なんて分からないし。」

 ツムグは、壁に背を預けてそう呟いた。

「これを機に“アレ”を日本に持って帰ってきたし。使徒は、今のところ割と簡単に倒せてるけど、使徒側だって簡単に負けてられないだろうし、どうなるかな? イロウルはあのおじいちゃん達の想像を超えてたみたいだし…、次がどうなるかな?」

 使徒サキエルに始まり、使徒イロウルまで倒れた。

 残るは6体であるが、地球防衛軍側は何体の使徒が存在するのか知らされていない。

 使徒がネルフの最深部に到達すると世界が終わるとされるサードインパクトが起こるという本当なのか否か首を捻りそうになる情報だけが伝わっている。

 それが事実であるように使徒がネルフを目指すという不可解な習性が認められたものの、一部はネルフを目指すことよりもゴジラへの迎撃や地球防衛軍への攻撃を優先したものがいた。

 使徒ラミエルがゴジラをひたすら狙撃したり、使徒ガキエルが第三新東京とは全く関係のない海に出現したり、衛星軌道に出現した使徒サハクィエルがロシアの基地を破壊したり、使徒イロウルが機龍フィアにとりついて機龍フィアをネルフの真上で自爆させようとしたりした。特にサハクィエルは、その後も他の国の基地を狙って攻撃を仕掛けた。途中でゴジラに狙いを変えなかったらそのまま地球防衛軍の基地を攻撃し続けていたであろう。

 6体中、4体が“ネルフの最深部を目指す”と仮定された使徒の習性を無視して動いているのが分かる。

 原形がほぼ残っていた使徒マトリエルの死体を回収し分析を行い、使徒の正体を突き止めようと科学部が頑張っているが、分かっていることは、すべての体機能をコアに依存した生命体であること、遺伝子構造が99.89パーセントまで人間と共通していることである。

 二足歩行ならまだともかく、どう見てもザトウムシな見た目のマトリエルからなぜ100パーセントに限りなく近い遺伝が出てくるのか…、多くの科学者が頭を抱えた。

 構造的に見て怪獣のそれよりも非常に優れた生命体で、イロウルのような微生物型という想像を超えた形態を持つモノすらいる始末である。

「…無理して立て続けに出てくるから間があくだろうな。ゴジラさんも、大怪我してるし…。ああ…、ゴジラさん。」

 その場にズルズルとへたり込んで体を抱くように腕を回してツムグが溜息を吐いた途端…。

 大きな音と建物が揺れる振動が来た。

 

『ツムグは、ふぃあのーーー!』

 

 数枚の壁越しでも聞こえる大音量で、そんな子供の叫び声が聞こえてきた。

 

「……使徒が来ない間にこっちの問題をなんとかするのが吉だな。慕ってくれるのは嬉しいけど、独占欲(?)が強いのがちょっとなぁ。」

 ツムグは、立ち上がり機龍フィアのところに戻ろうとした時、ふと立ち止まった。

「えっ…、嘘でしょ…。う~ん、なんでこう問題って立て続けに起こるのかな? あとで教えとこ。」

 頭に過った未来のビジョンに、ツムグは、額を抑えて唸った。

 ツムグは、超能力系統の力が細胞のエネルギー量により凶悪レベルになっているため本人の意思に関係なく暴発しやすい。それゆえに盗聴、覗きが息をするようにできてしまう。未来予知だってできてしまう。聞きたくて聞いているわけではないし、見たくて見ているわけでもない、そういう誤解が……多少、あるのだが、本人は日常なのでその事実の裏返しでとぼけるのも普通になってしまっていた。

『G細胞完全適応者! どこにいるーーー!?』

 機龍フィアの格納庫からの放送の呼び出しがきた。

「はいはーい、今から行きますよと。」

 呼び出されたツムグは、軽い足取りで向かった。

 

 

 このあと、二時間ちょっとほど機龍フィアを大人しくさせるのに苦戦。

「お疲れ様でぇす。」

「ナっちゃん。」

 三十代そこそこの白衣の女性が小走りで近寄ってきたのでツムグが反応した。

 ナっちゃん。ナツエというのだが、彼女はG細胞完全適応者であるツムグの監視役の一人の看護師で、ちょっと(?)マッド。

 なぜかツムグにたいして好意をもってる変わり者である。

「ツムグさん、これどうぞ。うふふっ。」

「わー、ありがとう。」

 ちょっと不気味に笑うナツエから差し入れとしてドーナツを受け取った。

「やっぱ甘いものは脳にいいね。」

 海外からの進出店のとびきり甘くて(歯が溶けそうなと言われる)高カロリーな品のドーナツを食べる。

「うふふ…。よかった。」

 結構可愛いんだけど影が見える不気味な笑い方をするナツエに、ツムグは若干苦笑いを浮かべた。

 人からの好意は嬉しいが、自分なんぞ好きになっても人生無駄にするだろうとツムグは思っているし日頃そう言っているのだが…。

 ナツエがもし普通の人に好意をもったらたちの悪い方向に行っていたんじゃなかろうかというのを、精神感応で精神構造をうっかり読み取ってしまった時は、相手が人間じゃないツムグだったし、合法的にほぼ四六時中見ていられる環境だったのがよかったと思ったのは黙っておく。

 あとツムグは年齢的に恋愛感情が枯れているのでナツエの想いには応えれずにいる。

 さらに付け加えると、ナツエがツムグにたいして向けるモノは好意以外にもあり、それが問題だった。

「どこに行くんですかぁ?」

「波川ちゃんとこ。」

「お仕事の邪魔しちゃだめですよぉ。」

「分かってるよ。」

 そう言ってツムグは、背中を向けた。

 そして動こうとした直後、背中にドンッと衝撃が走った。

「……また?」

「……。」

 ナツエに背中から刺されたのである。

 恒例行事化していることである。ものすごい物騒であるが、ツムグだからできることである。

 嫉妬深いのである。恋愛的な意味でも友愛的な意味でも。なので彼女に好んで近寄る人間はそうそういない。

「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、スーツに穴が空くのと、血が出てるとあれこれ言われるから少し控えてって言ったし、言われなかった?」

「でもぉ…。」

「俺も女の人喋るのは控えるように努力するからさ。」

「それならいいですぅ。」

「ハハハ…。」

 メスを抜かれてすぐに塞がった傷口を撫でて確認しながら、ツムグは苦笑いを浮かべた。

 

「っていうか、コレ何プレイ?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「っということがあってさぁ。」

「急に押しかけてくるのもやめてほしいわね。」

「そう言わないでよ、波川ちゃん。」

 あれからツムグは、波川のところに行っていた。

「休まないと倒れるよ? そろそろ限界なはずだけど。食べれる?」

「…ふふっ。あなたには嘘は付けないわね。」

 ツムグから差し出された駄菓子を波川はひとつ摘まんで口にした。

 駄菓子は、ツムグが基地内で販売されている昔懐かしの品を購入してきた物である。

「この味、久しぶりだわ。」

「今やってる仕事は、秘書さんに任せた方がいいよ。倒れた時の損のがでかいから。大事な仕事は和臣がやってくれてんでしょ? 急ぐ仕事じゃないから少しでも休憩しないと。」

「なんで仕事の内容まで知ってるの?」

「深く考えちゃダメ。こーゆーのは。」

「それもそうね。特にあなたに関しては。」

「ゴードン大佐はまだ出てこれない?」

「それを聞いてどうするつもりかしら?」

「察しがついてるないいや。ちょっと面倒事が…。」

 ツムグは、波川の耳元に口を寄せてヒソヒソと予言したことを伝えた。

 聞いた波川はあからさまに眉間に皺を寄せた。

「嘘でしょう?」

「いや、マジマジ。本当と書いて、マジ。」

「いくらなんでも…、この時代に? どうして?」

「それは、直接聞いてみないと。」

「すぐに令状を発行するわ。」

「あっ。休んでほしいのに不味った。」

 休憩挟めばよかったと後悔したが遅しである。

 

 

 この後、地球防衛軍から日本重化学工業共同体、通称日重に対し、調査の令状を発行した。

 

 その後まもなく、アジアの離島に建設された日重の研究所兼工場に向かう輸送船を海の下から巨大生物が襲い沈没させる事件が起こった。

 巨大生物がゴジラであるとすぐに分かった。

 傷ついているゴジラが輸送船を襲った理由は……。

 

 ゴジラが核施設に惹かれる性質があると分かってから核開発と原子炉の廃止が強まり世界会議で全面的に禁止された。そしてプラズマ動力によるエネルギープラントが発達し、核に頼る時代は廃れていった。

 ……表面上は。

 しかしいまだに核開発と原子炉を復活を望む声はあり、まさか日重を支援しているのが核融合炉推進派で核融合炉の開発が行われていたなどと考えられただろうか。

 だから波川は、的中率がかなり高いツムグの言葉を聞いても思わず嘘だと声を漏らしたのである。

 日重の工場にある放射能物質と、核融合炉の徴収と、核融合炉推進派が機龍フィアの暴走をあげて核融合炉の必要性を訴えるという事態が発生したりした。

 

 

「なーんで人間って悪いと分かってても悪いことの魅力に勝てないんだろ?」

『ツムグ、ツムグ! 暇? お喋りする?』

「あー、はいはい。何喋る?」

『あのねー、あのねー、何かいるよ。』

「何が?」

『あそこあそこ!』

「んん?」

 機龍フィアのモニターに何かが映された。

 それを見たツムグは、あらっと声を漏らした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

「幸いにもゴジラが放射能物質を残さず食ってくれたんで流出汚染はないとのことですよ。放射能をまき散らしながら、放射能を食うとはつくづく常識を超えた存在ですね。ゴジラは。」

「それを言いにわざわざ面会か?」

 加持がゴードンが謹慎されている独房に来て、外で起こった事件について語っていた。

「おまえと俺は何の接点もないぞ? 何の用だ? 下らないことなら失せな。」

「接点は受け身で作るだけのもんじゃないと思ってますんで。でかい使徒の時にゴジラを邪魔した奴らのことで少し…。」

 加持の言葉にゴードンは、ぴくりと反応した。

 あれからあの時に捕獲した謎の武装集団のことについて調査は進んでおらず、何より証言できる状態じゃないというのが痛かった。(ツムグのせい)

 狂信的な集団であるのは間違いないが、現在までに確認されている武装組織のどれにも該当していないのだ。

 上層部が何か知っているはずだというのは、使徒にロシア基地を消されたことや、使徒を倒したことや、使徒に機龍フィアを奪われたなどの立て続けのドタバタを片付けたくて調査に消極的な態度であることや直感で気付いているがその尻尾を掴むことができていない。

 ここまで隠れるのがうまい狂信的な武装組織を、ゴードンは知らない。

「なんだ?」

「あっ、聞いてもらえるんですね?」

「いいからとっとと喋りな。面会時間にも限りがあんぞ。」

「それもそーですね。」

 それから加持は、フェイクを交えてであるがあの武装集団が元々はネルフ関連の暗部の組織であることを語った。

 ネルフ実権があった頃の勢力を考えればあれだけの潜水艦や戦闘機に、心身共に鍛えられた人間達を用意するのも容易かったであろう。それぐらいの力はあったことはゴードンも理解している。

 ただその元ネルフ工作員がゴジラの邪魔をしたのは解せない。

 確かにゴジラが復活したことでネルフは実権を失い、ギリギリまで削られ、ほとんどの人間達が切られた。

 切られた復讐のために自爆覚悟で使徒が落下してくる直前にゴジラに攻撃するだろうか?

 彼らがネルフにそこまで忠義を誓っているとは思えない。

「誰だ?」

「はい?」

「奴らは自分の意思であんな馬鹿な真似をしたんじゃねぇ。別に誰かがいんだろ? そいつを教えな。」

「あちゃー、バレバレですか。あんたあの椎堂ツムグって奴ばりにヤバイ人ってマジみたいっすね。」

「俺とあいつを一緒にすんな。」

「面会終了です。」

 そこへ看守が来て面会時間の終了を伝えに来た。

「ま、今回はここまでです。またいつか。」

「…ふんっ。」

 加持が去った後、ゴードンは、ベットに横になった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 レイは、珍しく困っていた。

 段ボール箱を持って歩いてたら、いつの間にか自分の後ろについてくる物体がいた。

 立ち止まって振り向き、目線を下に向けると、それは、『クワーッ』と鳴いて、両の腕をパタパタとさせた。

 再び歩き出せばついてきて、立ち止まると向こうも立ち止まる。その繰り返しだった。

「綾波、何して…、うわぁ!? なにそれ!?」

 倉庫からヒョコッと出て来たシンジは、レイの後ろにいる物体を見て腰を抜かした。

 

 南極が消滅して、約15年。今や15歳ぐらいの少年少女は一度も見たことがない、超希少生物ペンギンである。

「ついて来るの…。」

「えっ? どういうこと? っていうか、なんの生き物?」

「あっ、そこの君達…。あー! いたいた!」

「クワー、クワー!」

 

 そこへ白衣を着た男性が走っきて、何か聞きかけてレイの後ろにいるペンギンを見つけると、ペンギンの後ろに回り込んでペンギンを後ろから抱き上げた。

 ペンギンは、鳴きながらジタバタと暴れた。

「こら暴れるな! ごめんねー。うちのペンペンが急にいなくなって探してたんだよ。」

「ぺんぺん?」

「この子の首輪に名前。」

 言われてみると、『PEN2』と掘られた銀色のプレートのついた首輪が首に巻かれていた。

「ペンツー…、あ、だからペンペン? あの、これ、なんの生き物ですか?」

「あぁ、君達見たことないのか。ペンギンだよ、ペンギン。図鑑で見たことないかい? しかもこいつは、新種の温泉ペンギンっていってね、風呂が好きなのさ。ああ、こら!」

 温泉ペンギンこと、ペンペンは、男性の手から逃げると、短い足で走り、レイの後ろに隠れてしまった。

「こら、戻ってきなさい!」

「クワー、クワクワ!」

 ペンペンは、抗議するように片手をパタパタさせて激しく鳴いた。

「そんなにあいつのところに行くのが嫌か! 仕方ないだろ、俺来週には海外に赴任なんだからおまえのこと連れて行けないんだよ! 分かってくれよ!」

「クゥワーー!」

「すごく嫌がってる…。」

「嫌がってるわ。」

「頼むよ~。あー、どうしたら…。」

 

「その子達に預けるって選択もありだよ?」

 

「うぎゃぁ! なぜにおまえがここにいるーー!?」

「誰ですか!?」

「!?」

「く、クワァァァァ!?」

 いきなり現れた赤と金色の髪の毛の男に、全員が飛び上がった。

 ペンペンに至ってはバイブのごとくガタガタ震えだした。

「そこの青い髪の子に懐いちゃってるし、無理に連れてっても逃げるよ? っていうか、そんなにビビらなくても。頭からバリバリ食べたりしないから、ね?」

「クワ…。」

「失神した!」

 ペンペンは恐怖が突き抜けて泡を吹いて失神した。

「椎堂ツムグ! おまえは動物のいるところに来るなって上から言われてるのになぜ守らないー!?」

「人馴れしてるからいいかと思ったんだけど。」

 ペンペンを介抱しながら白衣の男性は椎堂ツムグと呼ばれた男に怒鳴った。

「ネズミ100匹卒倒させた奴が何を言う!」

「100匹!?」

 すっかり野生動物が少なくなってしまった今のご時世で、ペンギンを始めとした希少動物は研究所でしか拝めない。

 そうなる前からであるがツムグが接近するとなぜか動物達はペンペンみたいに震えあがり、しまいに気絶するのである。

 ネズミ100匹事件は結構最近やらかしたことである。ちなみにネズミは実験室の実験用マウスである。

「なんでかなー?」

 半分は人間じゃないとは分かっているもののここまで嫌われる理由がいまいち分からんとツムグは腕組して首を傾げた。

 

 

 

「へぇ…、あのファーストがこんなところでうまくやってるなんてねぇ。」

 建物の物陰から、彼らの様子を見ていた加持がいた。

「碇の息子さんもあーんなに表情豊かになって、資料とはまるで別人だな。これも…。」

「尾崎少尉のおかげってか?」

「おおわぁあ!!」

 横に音もなく現れたツムグに加持は飛び上がり、足をもつれさせて倒れた。物陰から出る形で。

「おい、椎堂ツムグ、何やってって…、あんな見ない顔だな、部外者か?」

「あ…、いや、その俺は…。」

「この人迷子だよ。」

 へたり込んでいる加持の後ろにトコトコと歩いてきたツムグが、ニコニコ笑う。心なしか、笑顔が怖い。

「そうそう! なにせ広いもんですから道に迷っちゃって! ハハハ!」

 加持はツムグの言葉に便乗することにした。

「どうなってるんだ? 急に消えたと思ったら別のところに…。」

「テレポート…。」

 急に消えて知らない男性が出てきたところから出てきたツムグに、シンジは、わけが分からないと目を見開き、レイは、驚きつつもツムグが何をやったのか理解した。

 加持はなんとか誤魔化したが、背後にいるツムグに、背筋を指でなぞられ、耳元で。

「ちょっと俺とお話しない?」

 っと囁かれ、背筋がゾワッとした。

 あれだ。夜のお誘いをするような声色だ。幸い加持以外には聞こえていない。

「ま、また今度で…!」

「なーんだ、つまんない。」

「おい…、何を言ったんだ? あまり人を困らすんじゃない。」

「あ、宮宇地(みやうち)さん。」

 宮宇地は、M機関のミュータント兵士で30歳。シンジとレイを何かと気にかけてくれている。

「だって、いい男じゃん。」

 っとツムグがクネクネしながら加持にしなだれかかるようにしてうっとりと言うと、加持は脱兎のごとく逃げていった。

「ありゃ? ジョーダンなのに。」

「何を言ったんだ?」

「お話しない?って聞いただけだよ。なんか変な意味でとられたかな?」

「絶対そうだな…。あの逃げ方は尋常じゃないな。おまえのそういうネタはなぜか知らないが冗談に聞こえねぇんだよ…。」

「俺の演技力の賜物? うれしいねぇ。」

「キモいからやめろと言っているんだ!」

「あの宮宇地さん…。」

「なんだ!」

「ぅ…。あの…、この人、何なんですか?」

 シンジが宮宇地の迫力に怯みながらもツムグを指さして言った。

「G細胞完全適応者って聞いたことないか?」

「えっと、聞いたことがあるようなないような…。」

「生物学的には人間なんだけど、ゴジラさんの細胞を取り込んだ怪獣人間だって思ってくれればいいよ。」

 ツムグがニッコニコ笑ってそう言った。

「ご…!?」

 ゴジラという単語にシンジには過剰反応した。

 ツムグは、ニコニコ笑っている。

 それがなぜか恐ろしく見えてシンジは思わず一歩後ずさった。

「人間じゃ…ないの?」

「遺伝子が人間に依存してるから見た目この通りだけど、ショットガンで頭ぶち抜いても死ななかったから、再生力はゴジラさん並じゃないかな? それ以上とも言われたりするよ? そう言う意味じゃ人間じゃないね。」

 その時、ツムグは、レイが少しずつ後退りしているのを見つけた。

 表情は無表情に近いが、得体のしれない不安による影があった。

「怖い?」

「…分からない。あなたは何?」

「見ての通り。あとさっき言った通り。それ以上でもそれ以下でもないよ。それとも頭からバリバリ食べられたかった?」

「っ!」

「椎堂ツムグ。それが俺の名前ってことになってるよ。よろしくね。シンジ君、レイちゃん。」

 ツムグは、改めてニッコリと笑った。

 

 

 ツムグに見られていたことであるが、あの後加持はツムグに言い寄られたショックを抜くためにミサトに縋り、ミサトに蹴られている光景をリツコがたまたま目撃されることになる。

 ツムグは、それを見たのもあり、その日は終始ニッコニコしていたという。

 

 

 

 

 




 ツムグがヤンデレに好かれてたりしてたり、ホモ臭いことしてますが、そういう特定の相手とかはいません。じゃあなんだよ?って感じですが。自分でもよく分からない…。
 加持にやったことは完全に嫌がらせです。遊んでます。色々とばれているのでお怒りです。
 ツムグの嫌がらせ(悪戯)回を書こうか検討中。ゼーレとかゲンドウに。


 しばらく出さないって前に書いた使徒を次回出さないと書けそうにない。スランプってホント怖い。
 次回はレリエルの回になりそうです。


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第十四話  破壊神の退屈

お待たせしました。

前回波川が持って帰れたと言っていたモノが出てきます。
感想欄の方でも出すと宣言していたモノです。

ただ扱いが…、こんなはずじゃなかったのに。


 

 

 

 

 

 地球防衛軍の訓練は、超人を量産するレベルだ。

 なんて言われるほどキツイ。

 いやキッツいなんてもんじゃない、キツイ。

 

 ドイツから日本に来たアスカは、訓練場にいた。

 

「立て! 立つんだ!」

「うっ…。」

 

 ドイツのネルフ支部で訓練を受けていたアスカでさえ、吐くほどである。

 使徒ガキエル襲来時に勝手に弐号機を使って轟天号を危機をもたらした罪状で、地球防衛軍の訓練場での再訓練が言い渡されており、日々このキッツい訓練をさせられている。

 14歳の少女だからといって容赦はない。

 そのことにアスカは不平を持ってはない。むしろ変に依怙贔屓されるほうが彼女にとって嫌なことであり、プライドに触った。

 ただ自分とそう歳の変わらない歩兵に訓練で負けてしまったいることが今の彼女にとって許せなかった。

 

「っ…、ゴホッゴホっ…。負けるもんですか!」

 

 アスカは、とっても強気だった。

 

 

 再訓練の期間もやがては終わり、ネルフから与えられたマンションの一室に彼女は住むことになった。

 

「何よこれ…!」

 

 最低限の物とドイツから送ってきた段ボール箱以外は質素な室内で、通帳を握りしめてワナワナ震えた。

 残高がほとんど尽きていたのである。

 気晴らしに買い物に行こうかと思って通帳を広げたら、これだ。

 幼い時からエヴァンゲリオンのパイロットとなるべく兵士として訓練をしていたため、給与も入っていたはずだが、その蓄えがなくなっていたのである。震えない方がおかしい。

 そのことでアスカは、ミサト(一応彼女の保護者位置)に連絡した。

 結構な大金が一気に消えたことに、ミサトは、リツコにMAGIで調べてくれないかと頼むと。

「ああ、それ? 焦げた弐号機の修理費に徴収したのよ。」

 っと、あっさりと言ってきたのである。

 それを聞かされたアスカは、弐号機のためなら仕方ないかと不満はありつつも無理やり納得した。

 

 

『お~い、それでいいのか~?』

 

 遠くで誰かがツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「尾崎さんお疲れ様。」

「ありがとう。シンジ君。」

 

 

「……傍から見ると誤解されそうな光景よね…。」

「そうーだなー。」

「そー見えてるのはおまえらだけ…。」

「年上年下の組み合わせとか鉄板だよなー。」

「そうよね~。」

「おまえらいい加減口を閉じろ! 腐女子、腐男子コンビ!」

「だって可愛いんだも~ん。」

「だってカッコいいんだも~ん。」

 

「?」

 仲間達がギャイギャイワーワーやっているのを見て、話の内容が聞こえていない尾崎は、シンジからもらったコーヒーを飲もうとしようとカップに口を近づけようとして急にピタッと止まった。

「尾崎さん?」

「…シンジ君、このコーヒーは、そこのメーカーのだよね?」

「はい。」

「…あそこにいる人だれ?」

「えっ? あの人は僕が入るよりも前からいた人ですよ?」

「……。」

 困惑するシンジとは反対に、尾崎の空気を察した仲間達の雰囲気が変わった。

 尾崎は仲間の一人にカップを渡すと、食堂の中に向かった。

「? なんですか?」

「なんのつもりかは取調室でしようか。」

「は? 何のはな…し……、っ、っっ!?」

 何の話だとその人物が言いかけた時、尾崎がその右肩を掴んだ。すると急に顔色が悪くなり、尾崎を振り払って背中を向けて裏口の方へ走ろうとした。

 しかし横から飛び出た足に払われ、転倒。そのまま取り押さえられた。

 仲間内でしか伝わらない合図で裏手に回っていた仲間が足払いをして取り押さえたのである。

「ばけ、ばけものめ!」

 顔面蒼白、顔から出る者全部出した変装した不審人物は、錯乱した状態でそう叫んだ。

 尾崎が肩に触った時、超能力を使って脳をかき回されたのである。サイコイリュージョンという幻覚を見せる技だが、カイザーの尾崎のはかなり強力で、恐らく尾崎が化け物に見えているのだろう。

 尾崎を殺そうとした不審者を連行し、毒薬が入ったコーヒーカップを証拠品として渡したあと、尾崎は茫然としているシンジのもとへ戻ってきた。

「シンジ君?」

「あ…、お、尾崎さん…。」

 声を掛けられて我に返ったシンジは、震えだした

 いつの間にか殺し屋が見知った顔の人間に入れ替わっていたことと、何より毒薬を受けた渡す中継にされたことに。

「君のせいじゃないよ。」

「なんで尾崎さんが…。」

「それは…。」

「?」

 なぜ尾崎が狙われたのか疑問をもつシンジに、尾崎は何か心当たりがあるのか言葉を詰まらせた。

「知らないのか?」

「宮宇地。」

「何がですか?」

「こいつが狙われるのは、こいつが特別制だからなのさ。」

「とくべつせい?」

「やめてくれ宮宇地。俺はそんな特別なんかじゃ…。」

「認めたがらない気持ちは分からんことはないがそのせいで周りが巻き込まれて平気か? 何も教えないことが幸せとは限らないぞ?」

「っ…。」

「自分で説明できないのなら、俺がしてやろうか?」

「いや、自分でするよ。」

「そうか。」

 宮宇地は、そう言うと、手をヒラヒラさせてその場から去った。

 尾崎は、このあとシンジに自分の身の上について説明した。

 自分がミュータントの中でも特別だとされる存在で、カイザーと呼ばれる個体であること。

 そのため幼少期に実験体として閉じ込められたり、出ることが許されてからも閉じ込めようとする輩がいたことと、ついには死体でもいいからと命を狙われるようなったりしたことなどを語った。

 殺そうとしてきた者達を次々に捕まえたりして処分したので最近では少なくなったが、あんまりにもやられすぎたのですっかりそういうことに敏感になり今回すぐに気付くことができたのであった。

「そんな、尾崎さんが…。」

「ごめん。秘密にしていたつもりはなかったんだ。」

「いいえ、いいです。話したくなかったんですよね? 特別に見られたなかったから。」

「うん。ごめんね。」

 

 オ…ニイチャ…

 

「!?」

「? どうしたんですか?」

「あ、いや、なんでもないよ。」

 なにか聞こえた気がして周りを見回した尾崎をシンジが不思議そうに見上げたので、尾崎はなんでもないと気のせいだと笑っい、シンジの頭を撫でた。シンジは、気恥ずかしそうに頬を染めた。

 

 

 

「やっぱり、可愛いね~。」

「やっぱり、カッコいいね~。」

「いい加減にしろ、腐ったコンビども。」

 

 こっちはこっちで変わらずだった。

 

 

 

 その翌朝、緊急出動を知らせる警報が鳴り響く。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 空は青からやがて橙へ、そして夜になる。

 そいつは夜の闇に溶け込むように現れ、そして朝を迎えた時に視界に写った。

 

「これまたヘンテコリンなのが出たな…。」

「使徒って統一感がないな。こうも生物感がないと。」

「さてさて、今度の使徒はどんな奴だ?」

 海岸の街の真上に現れたその使徒は、宙に制止していた。

 白黒模様の球体の使徒は、影を作りながらジッとしている。何か行動を起こす様子はない。

 住民を避難させ、前線に部隊を敷いた地球防衛軍は、攻撃の合図を待った。

『スーパーコンピュータの解答は、パターンオレンジ。使徒とは確認されない。』

「あんなに目立つのにか?」

 前線司令官は、目の前にはっきりと見えている球体のような物体が使徒ではないかもしれないという司令部からの言葉にあからさまに眉を寄せた。

『実態がつかめていない以上手を出すのは危険だ。全部隊はそのまま待機せよ。』

「いつまで待てばいい?」

『敵の正体が分からないまま手を出すのは許さない。前の使徒の前例がある。』

「っ。了解。」

 前の使徒。微生物型の使徒であったイロウルの一件が使徒への警戒を強くしていた。

 機龍フィアを乗っ取られたうえに、微生物の一つ一つがコアを持つ使徒であったことから、あの時撃退できたのが奇跡だったんじゃないかと囁かれるほど厄介であった。

 統一感のない形状で登場する使徒が同じタイプで出てくる可能性は低そうであるが、用心に越したことはない。

「黙って観賞しろってことですか。ホント、アートな奴ばっかですね、使徒ってのは。」

「…嫌な予感しかしない。」

「なんか…飛んでませんか?」

「レーダーに反応はありません。」

「無人機だ! マスコミか民間団体の物か?」

 カメラを搭載したステルスの無人機が飛行しているのを目撃し、場の空気が騒然となった。

 マスコミが前の件で騒いでいたし、情報閲覧を求める民間団体の存在もかなり盛り上がっていた。

「どうしますか!?」

「いや、これはチャンスかもしれん。的にして使徒の動向を探らせよう。」

 このままジッと使徒を見ているわけにはいかないと、前線司令官がそう指示を出した。

 無人機が使徒に接近した時だった。

 強風に煽られたのか、無人機の操縦が大きく揺らぎ、使徒に接触したのだ。

 しかし。

「消えた!? 馬鹿な!」

 数十メートルはあろうかという球体が突如消えたのである。

「第四、第五小隊の真上に出現!」

 海の上から陸地に出現した。

 そして。

「パターンブルー検出!」

「ああ!?」

「どうした!?」

『た、助け…、うわああぁぁ……』

「おい! おい! 返事をしろ!」

「第三、第四、第五部隊の反応消失!」

「第二部隊からの報告! 建造物が第三、第四、第五部隊と共に使徒の影に沈んだとのこと!」

「第二部隊半数も沈みました!」

「なにぃ! つまり奴の正体は…。」

「影です! 宙にいる球体はダミーです!」

「影からパターン青を確認!」

「そんな馬鹿な!」

 はっきりと目に見える球体が騙しで、本体は影の方。

 こんなの誰が想像した?

 前線部隊の一部を失った衝撃と、敵の正体が発覚した衝撃は、怪獣との戦いを経験しているはずの地球防衛軍を震撼させた。

 

 

 第三、第四、第五部隊を周囲の建物ごと影に取り込んだ使徒レリエルは、またジッとその場に漂い始めた。

 自らは攻撃してこないし、干渉をしてこないのだと分かったところで撃破できるわけではない。

 このあと行動パターンを調べるため、無人戦車を使った攻撃を行ったところ、攻撃が当たった瞬間に消え、攻撃を行って来た相手のほぼ真上に移動し、本体の影に取り込むという動作を行うことが分かった。

 最初に使徒だという反応が検出できなかったのは、本体の影ではなく、全然違う上の方の球体の方を調べていたからだ。

 レリエルの本体の厚さは、約3ナノメートルの極薄で、この薄さのどこに部隊三つと建物を入れる場所があるのかと唸ったが、科学部が出した解答は、ディラックの海という虚数空間が存在する可能性が高いということだった。

 そして取り込まれてしまった部隊の生存は絶望的で諦めるしかないという答えであった。

 

「それで、俺のところに?」

 

「かなり不本意だがな。」

 そう言う指揮官の表情は嫌々である。

 敵の正体が分かったものの、攻略法が見つからないため、仕方なくツムグに意見を求めてみるという意見が出たのである。この男はツムグに聞きに行くよう外れくじを引いたので嫌々なのである。

 椅子を斜めにして、机に脚を乗せてくつろいでいたツムグは、パソコンに映ったレリエルの映像を見た。

「裏返し。」

「はあ?」

「こう、なんだろ? ひっくり返したみたいな? 丸いのがこいつの影で、影が本体なんだよ。逆になってる。ATフィールドって便利だね~。異空間への出入りを自由とか、あの丸い影はそれでできたものだよ。おもしろい形だ。」

「こいつの弱点だけ言え! それ以外はどうでもいい!」

「弱点…。あるとしたら…、ATフィールドをなんとかすればいいんじゃない?」

「ATフィールドを?」

「なんとかって海だっけ? それを開いたり閉めたりするためにATフィールドをひっくり返した形になってるみたいだけど、言っちゃえばATフィールドがなかったら即死だね。そういう形してる。ATフィールドあってのこの使徒って感じ?」

「…つまり?」

「外からがダメなら。内側から。とは言ったものの、地球防衛軍の技術じゃ内側から攻撃は無理。」

「なんだと!?」

「なんとかって海のせいだよ。空間が違うから無線とかで操作もできないし、線を伸ばしても途中で切れちゃうだろうし。かと言って死ぬ覚悟をして有人機なんか放り込んでも中から撃つとかしてもうまくいく可能性は限りなく低いし。あっ。こーいう時こそだ。」

「なんだ? 何か解決方法があるのか?」

「ゴジラさんに頼ればいいんだ。」

「アホか。使徒一匹のためにゴジラをわざわざ誘き寄せろというのか?」

「前線の部隊がやられてるのに? 街の半分近く飲まれちゃったのに?」

「………会議にかける。」

「何もしてこないからって油断してると、こっちがやばくなるから早めにしたほうがいいよ?」

 ツムグが最後に言った言葉が、それから的中することとなる。

 同じ場所に漂っているだけと思っていた使徒が膨張を始め、影の範囲が広がり始めたのである。

 このままでは日本全土を覆いつくすのでは?っという勢いがあり、膨張に限界があるように見えなかったことから、ツムグの意見が採用されることとなった。

 すなわちゴジラを誘き寄せて、使徒レリエルを倒させるということである。

 ゴジラは、これまで使徒のATフィールドをことごとく破っており、地球防衛軍では不可能な内向きのATフィールドを破るのも可能かもしれなかった。

 だが下手をするとゴジラがディラックの海の飲まれ、それでおしまいになる可能性もあったが、膨張を続けるレリエルを止める術がない以上、作戦は急を要した。

「ゴジラさんを呼ぶにはいいものがあるじゃん。」

 っと、司令部に直接来たツムグが波川達に伝えたこと。

 

 日重から徴収した核融合炉。それを餌に今は休眠しているであろうゴジラを起こすのである。

 

 核融合炉の封印作業をしているところで、その封印に立ち会っていた核融合炉の開発責任者は、作戦を聞いて使徒を倒さなければサードインパクトが発生するという話に基づき、参加させてほしいと喰いついた。

 開発責任者であることもあり、作戦への参加を許された。

 核融合炉をスーパーX3に吊るさせ、ゴジラが眠っていると想定される海域に向かって行った。

 やがて、海の底から青白い背びれが浮かんできた時、スーパーX3は素早く旋回し、海面すれすれで日本に向かって飛行した。ゴジラを連れて。

 本土が見えた時、レリエルは、更に膨張していた。

 スーパーX3がレリエルの下に差し掛かった時、核融合炉を吊っていたワイヤーを断ち切った。

 レリエルに飲まれてしまったため、見る影もない街の中心に核融合炉が落下し、ゴジラが陸に上陸した。

 ゴジラは、レリエルを見上げ鼻を鳴らす。するとレリエルの膨張が止まった。まるで待ってましたといわんばかりである。

 ゴジラの喉にはまだ痛々しい傷が残っており、万全ではないのが見て取れる。

 緊張が走る中、ゴジラは、球体の方を見上げて、すぐに下を見おろした。一目でレリエルの構造を理解したらしい。

 核融合炉が影の上に落下し、その下にあるはずの地面を割って横たわっていた。

 ゴジラがレリエルの影に足を踏む込んだ。

 沈むことなく地面を割っていく。

 

 

「それと、俺的にはやりたくないけど。このやり方もあるよ。」

 

 ツムグからの進言で、もしゴジラがディラックの海に沈んで戻ってこれなかった場合の備えもしてその時を待った。

 核融合炉の目の前に差し掛かった時、ゴジラの足が沈んだ。

 ゴジラは、驚きもがかくがあっという間に100メートルの巨体が暗い影の中に沈んでしまった。核融合炉も一緒に。

 気のせいか取り込む速度が速かったように見えた。

 この後が問題だ。

 ゴジラがディラックの海を越えてレリエルを倒し、帰還してくるか。最後の手を使うか。

 

 そして2時間が経過した…。

 

「使徒に変化はありません。」

「ゴジラでもダメだったか…。」

「まだ2時間ちょっとしか経ってない。諦めるのが早いのでは?」

「使徒の膨張が再開されました!」

「くそ! やっぱりダメだったか!」

「スーパーX2出動!」

 

 

「……ゴジラさん。」

 

 高所から遠くにいるレリエルを眺めるツムグは、ゴジラの名を呟いた。

 空を数機のスーパーX2が飛んでいく。

 ある物を詰めたミサイルを積んでいる。

 ツムグは、目を細めそれを見送った。

 っと、その時。

 

「使徒の中心に高エネルギー反応!」

「球体の方に亀裂発生!」

 

 球体の方に亀裂が走り、下からゴジラの尻尾が出て来た。

 そして真っ赤な液体に染まった背びれが脱皮のように出てきて、青白く光りだした時、膨張を続けていたレリエルが今度は収縮を始めた。まるで出入口を慌てて閉じようとしているかのように。

 凄い速度で収縮をしていた使徒であるがそれよりもゴジラが早かった。

 体液をまき散らしながらバリバリと使徒を突き破ったゴジラが、体内熱線を放った。

 上がる黒煙、燃えながら砕け散る使徒の、約3分の1、地面に着地したゴジラ。

 ゴジラの口には核融合炉の部品であろうか、パイプのようなものが咥えられていた。ディラックの海で喰ったのか。そのせいか喉の傷は癒えていた。

 その時スーパーX2数機からミサイルが発射され、ミサイルが空中分解し、中の液体のような物が宙にまき散らされた。

 雨のように降り注ぐその液体が地面に広がるレリエルの本体にかかった。

 するとまるで火傷でできた水泡のようにボコボコと表面に凹凸ができ始めた。それとともに影の方である宙にある球体の方もボコボコになった。

 

 使徒は、G細胞に触ると火傷する。

 

 その謎の法則に則り、レリエルにたいし、火薬を抜いたミサイルにツムグの体液を薄めたものを詰めて散布したのである。

 結果はこの通りだ。3ナノメートルの影のような本体が火傷をしたのかボコボコの水泡ができた。

 ゴジラにも降りかかり、ゴジラは不快だと言わんばかりに嫌そうな首を振っていた。

 レリエルは、ボコボコと沸騰するようにドロドロと溶けて、海の方に流れて行った。

 レリエルに取り込まれた物は戻ってこなかった。ディラックの海が異空間に繋がっているために異空間に送られた物は戻ってこないという結論が出た。ましてやレリエルが死んだ今、出入口は永遠に閉じられてしまった。

 レリエルが死んだあと、残ったゴジラは、ペッと核融合炉のパイプを吐き捨て、ぎろりとある方向を睨んだ。

 

「フフフ…、ゴジラさん。俺はここだよ。」

 ゴジラが睨んだ先にはツムグがいた。

 ツムグは、両腕を広げうっとりと笑った。

 赤い液で体を濡らしたゴジラがツムグのいる方向に向かって進撃した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ネルフのリツコの研究室で、リツコは、パソコンの映像を前にして額を押さえ、椅子に深く座り直した

「虚無空間を破って帰還するなんて、ここまで来ると破壊神のあだ名もあながち外れてないわね…。」

 ゴジラがレリエルを破ったことに、リツコは息を吐いた。

「私達人類は、なんてものを生み出してしまったのかしら…。」

 ゴジラは、水爆実験で生まれた。

 まあ、途中であれこれあったが省いておく(今は二代目とか未来人とか宇宙人とか)。

 それでもゴジラは、人類の敵として存在し続けた。

 まるでゴジラが運命の一部に組み込まれているかのように。

「ゴジラは、人類の罪の象徴? ああ、そんな非科学的なことは考えたくないわ。これは置いて置きましょう。」

 そう独り言を呟いてパソコンの画面を変えた。

 そこに映されたのは、遺伝子や細胞などのデータ。

「基本は人間だけど、脳の発達に伴う身体能力の強化が見受けられるわね…。これがミュータント…。」

 使徒マトリエル襲来直後位に風間から貰った(千切った)髪の毛から採集したデータである。

「ああ…、できればあの身体を直接触って計器にかけて、あれやこれ、あんなことやこんなこと、それからそれから…。」

 リツコは、熱の篭った息を吐きながらそんなことを呟いた。その表情は実に色っぽい。

「あぁもう! 髪の毛だけで済ますんじゃなかったわ!」

 ついにはそんなことまで言いだしてしまう始末である。

 

 遠くにいる風間が肌をゾワッとさせていたとか?

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 進撃していたゴジラがふいに足を止めた。

 そして上空を見上げる。

 

 銀と青緑の巨体が飛んできた。

 機龍フィアよりは、少々大きく。

 両手と口のドリル。

 目の部位が金色に光り、スーパーX3から切り離されて地面に着地した。

 

『MOGERAマーク5、戦闘に入ります!』

 

 両腕のドリルを前に突き出して構えたMOGERAマーク5がゴジラに突撃した。

 それを横にどくことで避けたゴジラは、フックをかまそうと腕を振ったが、それをドリルの腕で防ぐMOGERA。

 MOGERAの目から、レーザーキャノンが発射された。

 ゴジラは、発射されたレーザーを横にずれて避け、MOGERAに掴みかかろうとしたがそれよりも早くMOGERAが後ろに急速に下がったため掴もうと伸ばした両手が空を切った。

『一斉発射!』

 目のプラズマレーザー、腹部のメーサーキャノンを同時に発射した。

 ゴジラの体に着弾し、ゴジラの巨体が吹っ飛んだ。

 すぐに体勢を立て直したゴジラは、口を開けて放射熱線を吐いた。

 青緑と銀の機体に命中した放射熱線は、表面を焼くどころか染み込むように吸収されたためダメージはなかった。

 ゴジラがそれに驚いて口を閉じた時、MOGERAの体から吸収した熱線が発射されゴジラに当たった。

 MOGERAの青緑の部分は合成グリーンダイヤコーディング。ブルーダイヤコーディングの強化版である。吸収、発射。または反射が可能なボディだ。

 ゴジラが吹っ飛んだと同時に、MOGERAの両腕のドリルが二つに割れるように開閉し、中からミサイルが発射された。

 ミサイルの着弾による爆発が起こり、ゴジラが煙に包まれた。

 その煙が膨れ、ゴジラがタックルをする体勢で飛び出してきた。そのスピードに追いつけず、避けることができなかったMOGERAは、もろにタックルを喰らい、後方に大きく押された。

 追撃にゴジラが体を大きく捻って尻尾攻撃を行い、MOGERAの機体が横に吹っ飛んだ。

 背中から落下したMOGERAを更に追撃しようとゴジラが襲い掛かる。

 足を踏み下ろされる直前で、左側のジェットを吹かし、回転して避けると、ジェットを使って起き上がった。その動きは生物的な機龍フィアに比べて機械的である。まあ、MOGERAには生体が使われていないので当り前と言えば当り前。

 しかしそれゆえか、タックルされた部分がちょっと凹んでる。弾力性では機龍フィアの方が高い。

 腹にあるメーサーキャノンからメーサーが発射され、ゴジラに当たるがゴジラは怯まず再び体を捻って尻尾攻撃を行った。間一髪でMOGERAは避けたが頭部を掠り、頭部の装甲の一部が剥がれた。

 そのせいで片目のレーザーキャノンが壊れ、壊れた影響で出力が若干下がった。

 戦闘長引くとともに、戦いゴジラが有利となり、MOGERAが不利になっていくばかりである。

 ゴジラは、まるでつまらんと言いたげに鼻を鳴らした。

 

『なぜ倒れないんだ!』

『35年前のゴジラならとうに膝をついているはずだぞ、なんなんだあの耐久力は!?』

『やはり35年前の封印前よりも強くなっているのか。こんな奴を相手にしていた新型メカゴジラって…。』

『機龍フィアの凍結は失敗だったんじゃないのか!? 今すぐにでも応援に出すべきでは!?』

『MOGERAマーク5の頭部に強力なP・K反応あり!』

『なんだなんだ!?』

『信号を探知! G細胞完全適応者です!』

『何やってんだあのバカは!』

 

 

 MOGERAの頭部に降り立ったツムグは、目の前のゴジラを見つめた。

「ゴジラさん。今回はふぃあちゃん連れてこれなくてごめん。次は思う存分やりあおう。」

 そう言って膝をつき、両手をMOGERAの装甲に添えた。

 次の瞬間、操縦系統を支配されたMOGERAがゴジラに突進した。

 距離が近かったため避けずにゴジラは、MOGERAを受け止めた。突進による勢いでゴジラが後方に押された。

「今回は帰って。」

 ツムグがそう言うのが早いかMOGERAの腹部のメーサーキャノンが発射された。

 ただし、限界出力を越えた無理やりの威力で。

 一斉発射と違い、目のレーザーキャノンがないにも関わらずゴジラが吹っ飛び。そしてテレポートされて遥か彼方の海に放り出された。

 ゴジラが消えた後、MOGERAは、オーバヒートを起こし、関節各部から黒煙を吹き、火花を散らして両腕をだらりと垂れさせて緊急停止した。

 

 地球防衛軍は、シーンっとなっていたが、我に返った司令部からツムグにたいして激しい怒声が飛ぶのは1分後のことである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃、M機関では。

「っ…。」

 レイが右腕を押さえながら建物に急いで入って行った。

 服の腹部を辺りを破って急いで右腕に巻きつけいく。

 布地に赤黒い染みができ、巻きつけた縁に爛れた皮膚が覗いていた。

「…熱い、痛い……。」

 顔を歪めて堪らずそう口にしてしまうほどの苦痛が右腕から湧きあがってきて、レイは歯を食いしばった。

 脂汗をかきながら急いで最寄りのトイレに駆け込み、水道で右腕を乱暴に洗った。

「どうして、そこまで…、怒っているの?」

 火傷のような傷の進行が止まり、ヘナヘナとその場に膝をつきながらレイは誰に聞かれることなくそう疑問を口にした。

 傷は、洗浄したおかげか、赤い色を残して傷が塞がっていった。

 

 レイが苦しんでいる頃、外ではちょっとした強風と時雨が降っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「一応あの新型兵器が勝った(?)みたいですよ。」

「……そうか。はあ…。」

「まあまあ、そんなにため息ついてると老け込んでしまいますよ?」

 ジオフロンに作られたスイカ畑で畑仕事をしている加持と、畑の横で座っている冬月がそんな会話をしていた。

「生きている間にゴジラの復活に立ち会ってこれがため息を出さずにいられんよ…。」

「俺らの世代はゴジラを知らなくって、そのお気持ちはわかんないんっすけど、まあ…あれだけ使徒を殺しまくってりゃ恐れられているのも分かる気がしますね。」

 約35年という歳月は、ゴジラの恐怖を薄れさせるに十分な時間だったようだ。

 しかも15年前のセカンドインパクトでゴジラが死んだと思われていたのも効いている。

 追い打ちを掛けるようになんかゴジラが強くなっているのも痛い。ゼーレ属の研究者の見解ではセカンドインパクトのエネルギーを吸収したのでは?っとなっている。

「なぜよりによってゴジラを南極に封印したのか…。そもそも生きていたこと自体おかしいぐらいだがゴジラならあの程度で死ぬはずがなかったのか…。ああ…、生きているうちにゴジラを再び事の目に映すことになろうとは…。長生きはするものじゃない…。」

「思いつめ過ぎですって…。」

 くら~い口調でぶつぶつ呟き続ける冬月に、加持はただそれしか言えなかった。

 

 

 

 一時間後ぐらいだろうか、テレポートで飛ばされたゴジラが怒った状態で戻ってきたため、やむ終えず機龍フィアが出撃することになり、第三新東京の上でバトルに突入するのだった。

 そしてもう一回ツムグにテレポートさせられ、今度は地球の真裏に飛ばしたと言われるまで三十分。

 地球の真裏に飛ばされて、怒りが収まらないゴジラが八つ当たりで近くにあった無人島を粉砕した。幸い津波の心配はなかった。

 ゴジラを地球の裏側に飛ばすほどのテレポートを使えたことについて責められたツムグは、かなり膨大なエネルギーを消費するからもうしばらくは使えないと答えた。

 

 

 

 

 

 




モゲラの扱い…、こんなはずじゃなかったのに…、すみませんでした。

黒木特佐については、国外に亡命していて帰還しなかったということにしました。
モゲラが5番目(マーク5)なのは、公式のモゲラじゃ勝負にならないと思ったのでパワーアップ版をと思って考えたものでした。それでも負けてますが…。
ぶっつけ本番+ゴジラがやたら強くなっているという理由で負けました。

レリエルは、難しかった。
結局、日本を飲み込もうとするように膨張するという展開にしましたが倒し方は…、あの倒し方以外で思いつきませんでした。

ツムグがゴジラを地球の裏側に飛ばしてますが、なんで今までやらんかったの?って感じですが、理由は文中の通りというご都合主義です。チャージに年単位を要する?かも。


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第十五話  体調管理は慎重に

 熊本の地震の余震の多さにゾッとしています。
 九州から近い県に在住なので地震発生の時警報がスマフォから鳴りだして、うちの父が他人事じゃなくなってきたぞと言っていました。
 私にできることは、募金ぐらいしかありません。だけど金銭的に苦しく、難しい…。
 お給料日になったらかならず募金します。



 …書いててなんですが、伏線回収が恐ろしく大変なことだと思い知りました。


 とりあえず、書けているものだけあげます。

 自分で作っておいてなんですが、ツムグはどうやったら死ぬのか分からなくなってきています。


 MOGERAマーク5は、日本に持ってこられて早々に壊れた。

 壊れた原因の半分以上は、ツムグのせいだ。

 ツムグに無理やり威力を底上げされたメーサーキャノンを撃たされたからだった。

 あの後ツムグは、MOGERAを壊した罰として、頭部を爆破飛散させられた。

 頭からの再生は、とてもじゃないがお見せできない状況になる。他の部位の再生もお見せできないが、これが一番えぐい。

 なにがえぐいって、再生のため心臓が肋骨と胸を破って肥大化することだ。

 一時的ではあるが体より巨大化するのでマッド系以外はとてもじゃないが見ていられないおぞましい光景である。

 頭が再生すると、溶けるように萎むのでこの再生の構造は謎である。人間の遺伝子に依存しているため、人間の体の容量で怪獣並みの再生力を実現するとなると心臓を巨大化せるしかないのでは?っという見方がある。

 ちなみに心臓を破壊した場合は、大量出血は一瞬あるがすぐに再生が始まるため身体的な変化はほとんどない。

 頭部と心臓の同時破壊の場合、再生にびっくりするほど時間がかかるためナノマシンを使い再生を遅らせれば死亡すると計算されている。だから体内に爆弾の他、ナノマシンを仕込まれたのだ。

 頭を壊されるのが一番嫌だとツムグは、ぼやいている。麻酔無しで腹を裂かれても手足を失っても平気なくせにである。

 記憶が無くなるかららしい。ちょっとしたきっかけで戻るので支障が出たことはないらしいが、記憶が無くなっている間が気持ち悪いそうだ。

 

「それで? なぜMOGERAを壊した?」

 頭を再生させた後、ツムグはMOGERAに手を出した理由を尋問された。

「壊すつもりはなかったよ。ゴジラさんを飛ばすのにエネルギーを絞ったら…。」

「壊れたと? 馬鹿か!?」

「ごめん。」

「謝ってすむなら警察はいらん! おまえのおかげで機龍フィアの凍結の解除が決まった! まさかそれが狙いだったのか!?」

「違うよ。あのままじゃMOGERAが負けるのは目に見えてたし、あそこでMOGERAを全壊させるわけにはいかないじゃん? おれがやるしかなかったんだよ。」

「ちょっと待て、負けるのが目に見えていたとは心外だぞ?」

「35年前のゴジラさんになら勝てただろうけど…、今のゴジラさんは無理だよ。」

「謝れぇ! 命がけで亡命した黒木達に謝れぇ!」

 MOGERAマーク5は、海外に亡命した黒木という人物とその仲間達が製作した新型の対ゴジラ兵器であった。

 セカンドインパクト後に地球防衛軍が一度解体されてから黒木が仲間を連れて海外に亡命した際にMOGERAの設計図も持って行っていたため、マーク5までが作られたのである。

 亡命した理由は、ゼーレからの暗殺を逃れるためだったのだが、そのことを知るのはごく一部である。

 結局黒木自身は戻ることはなかったがMOGERAだけが地球防衛軍に戻ることになった。

 波川がやっと連れて帰ることができたと言ったのもはこのためだ。

「あと5回ぐらい頭吹っ飛ばす?」

「…っ。やったところでおまえに効き目薄いからこれ以上の厳罰はなしだ。」

「その代り、ゴジラさん来たら思う存分ヤるからさ。」

「おお、そうしろそうしろ。おまえにはそれしかない。」

「ゴジラさんが死んだらお役御免だね。」

「ぜひそうなってほしいものだがな。」

「そーだね。」

 吐き捨てるように言われ、ツムグはフフッっと笑った。

 

 ツムグは、それから、何か悪戯でも思いついたみたいにニヤッてしていて周りから不気味がられたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 どこか分からない暗い空間。

 ゼーレは、いつも通り集まっていたはずだった。

 

『……。』

『どうした? なぜ黙っている?』

『何か騒々しい音がするが…。』

 “04”と記されている奴のところから、何かドタバタ騒々しい音が聞こえてきていた。

 他の者達が

『………あっ! 繋がってたのか!』

『気が付かなかったのか?』

「何があったのだ?」

『ぎちょ…、申し訳ありません! 以後気を付けます!』

『何もないのならよいのだが。』

『さてこれから、ウホヒョォ!?』

『なんだ! 変な声を出して!?』

 “02”が急に変な声を出した。

『せ、背中! せなか! ぬるってした、ぬるぅううって!』

『ぬるって何がだ!? 何が起こったのだ!?』

『ブフゥ!』

『今度なんだ!?』

『こ、紅茶……、千枚漬けが……ウグゥ。』

『せんまいづけってなんだ!?』

『ギャーーー!』

『どうした!?』

『アーーー!』

『ギョエーーー!』

『何が起こっているーーー!?』

「ええーい、鎮まれ!」

 ホログラムと一人のサイボーグしかいない空間なのに大騒ぎになっていた場を、サイボーグことキールが一喝した。

 混乱していた空間に、微かなうめき声とすすり泣く声が木霊した。

「…まったく、このような時に取り乱しおって、そんなことでは神への道は開けぬぞ。」

『ハッ! 申し訳ありません!』

 たぶんであるが、ホログラムの向こう側にいる11名のゼーレの面々が敬礼していると思われる。そんな声色だった。

「それで尾崎真一についてのちょう…さ。」

 キールが言いかけて言葉を止めた。

 聞こえたのだ。耳元で。

 他のモノリス達も黙った。

 カサカサカサっと……。実に不快な音、というか存在自体が不快なソレ。妙に静かな空間であるせいか異様に小さいその音が響いた。

 キールは、手元にある書類の束をクルクルと巻いた。

 

 その日のゼーレの会議は、会議どころじゃなくなった。

 主に殺虫効果のある煙を炊くので忙しくって。

 

 その後。

 『秘密結社って言っても、ゴキには敏感なんだね? 意外。』っという一通のメール(出所不明)が届き、ゼーレは、会議そっちのけで少しの間犯人探しに奔走したが、犯人は見つかることはなかったという。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ゲンドウは、書類の束を前にして不機嫌丸出しの顔をしていた。

 書類に記されているのは、尾崎に関する情報である。

 自分の部下に収集された情報であるが、まあ、なんというか…ゲンドウには腹の立つ内容でこんな顔になっているのである。

 一言で言い現わすと、『リア充』。

 友達多いし、更に彼女までいるときたものだ。

 周りから好かれる優男なのだから彼女がいても不思議ないのだろうが、いざ分かると腹が立つものである。ましてや、一方的に、ゲンドウが敵視しているのであるから尚更である。

 これで相手の女が美人だったりしたら血管が切れるかも…っと少し思ったりしながら、尾崎の彼女らしき女の写真を見た。

 そして吹いた。血管も切れて机に思いっきり額を打った。

 科学者らしき清潔な白衣の下に自己主張をするような赤い服、邪魔にならないよう上でまとめられた髪の毛、強気な気性が見て取れる瞳と表情、整った目鼻立ちはモデルにいても不思議じゃない肢体と相まってまさに美人という言葉が合う。

 白衣姿の若い女科学者と言う部分で一瞬ユイを重ねかけたが、気の強そうな眼差しは、ユイとはまるで正反対に思えた。

 自立して生きようとする自他ともに厳しいタイプといえばいいのか。若い早熟の科学者でこの見た目だから周りから揶揄われることも多かろうはずだからそのせいでそういう風に振る舞っているのかもしれない。

 はっきり言って、ゲンドウには苦手なタイプだ。美人なんだけど(大事なことなので)。

 正義感のある好青年の尾崎と、美しく才気あふれる強気なこの女性が並んだら……。

 そりゃもう、絵になること間違いなしであろう。

 ゲンドウは、想像して机を殴った。

 

 ブチッ

 

 机を殴った時に、何かを潰した。

 そこそこ固さがあり、そして潰した時に出て来たネバネバ……。

 拳を上げないといけないのだが上げたくない。見たくない! だがこのまま触っていたくもない。

 震える腕をゆっくりと持ち上げゲンドウが見た物は…。

 

 

 加持がゲンドウのところに来た時、ゲンドウは不在で、探したら手洗い所で、狂ったように手洗いしているゲンドウがいたという。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 近頃、尾崎は夢見が悪かった。

「……。」

「大丈夫か、尾崎。」

「えっ? あ、いや…。」

「寝不足すか?」

「ああ、ちょっとな。」

「エキサイトっすか? 恋人さんと、アダッ!」

「アホなこと言うな、馬鹿。」

「アホ馬鹿って言うなっす!」

「ハハハっ…。はあ…。」

 

 奇妙な夢を見る。

 何か巨大なモノが迫ってくるような、それに捕まったらマズイと感じているから逃げようともがく。

 迫って来るモノの正体は分からない。そこだけ黒くぼやけてはっきりと思い出せないのだ。ただ危険だというのは分かって、逃げるために夢から目覚めようと念じるため十分な睡眠がとれなくなってきていた。

 日に日に距離を詰められているのも感じていた。

 ついに最近では、自分を捕まえようとする相手の手の象が見えるようなった。全体像がはっきりと全部見えてしまったら…。

 本能がそうなったらお終いだと囁いていて、ゾッとした。

「そういえば、風間って明日には帰って来るんだよな?」

「ああ、ロシアの基地の復旧の目途が立つからなぁ。」

「帰ってきたら一番に尾崎と手合わせだろうな。どっちに賭ける? って本当に大丈夫か尾崎?」

「顔色悪いっすよ。」

「だ、大丈夫だ。」

「ほんとかよ?」

「尾崎。…今日はもう上がれ。」

「えっ、でも…。」

「命令だ。倒れられたら元も子もない。」

「分かりました…。」

 顔色の悪さで定時前に帰らされることになってしまった。

 

 自分の部屋に戻った尾崎は、寝不足で重たい頭を押さえて、ベッドにすぐに横になった。

 せめて少しでも熟睡して寝不足を解消しなければと思い、目を閉じた。

 体が睡眠を欲しがっているのか、恐ろしい速さで眠りに落ちた尾崎を、部屋の隅にいる小さな子供の影のようなモノが見ていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『ネーネーネー。』

「なぁに?」

 機龍フィアが収まっているドッグで、今日もツムグは、ふぃあと話をしていた。

 ツムグは、操縦席でくつろぐ姿勢で座っている。

 会話内容は外に漏れていない。

『外、イイ天気?』

「うん。いい天気。」

『毎日、ナツーっ』

「夏だね~。セカンドインパクトからずっと夏だよ。」

『チキュウの軸ずれちゃったモンね。』

「そーだね。」

『アダ…。』

「ふぃあちゃん。それは内緒。」

『なんで?』

「俺がいいって言うまで内緒。いいね?」

『うん! 分かった! ツムグがイイって言うまで言わない!』

「いい子だ。」

『エヘヘ。ふぃあイイ子。』

「いい子いい子。」

『ワーイ!』

「……。」

 ナツエもそうだが、自分に好意を寄せても無駄な事だからやめた方がいいのにっと常々ツムグは思っている。

 ゴジラがいるから自分がいる。生きている理由はゴジラの存在があるからだ。それ以外にないと思っている。

 細胞だけが必要なら死体で十分であろうし、自我意識がある方が邪魔であるはずだ。地球防衛軍の技術なら体の各部位の細胞をそれぞれ補完すれば事足りる。なのに椎堂ツムグとしてここにいるのは、ゴジラを倒すために他ならない。

 機龍フィアの開発計画は、ツムグの細胞の研究の一環でもあり、放射能の吸収や超再生など持っている能力の割に使い道がほとんどないという利用性の低さを解決するという目的もあった。

 なぜ使い勝手が悪いのかは謎であるが、一時はG細胞の平和利用に最適などと言われてもてはやされたこともあった。

 現在は使徒に有効だと分かったのである意味で平和利用できることは分かった。

 ところで、ふぃあからの好意は、同一の細胞から発生した自我意識だから親子、兄弟感覚から来るものじゃないかと推測している。雛が親を慕う感覚なのではないか。

「ふぃあちゃん。俺のこと好き?」

『スキ。』

「俺はゴジラさんが…。」

『ヤダ!』

「ん? 何がヤダなの?」

『ツムグは、ふぃあの! ゴジラのじゃないもん!』

「ゴジラさんのこと嫌い?」

『キラーイ!』

「そっか。俺にとってゴジラさんは、好きとか嫌いとか越えてるんだよ。ふぃあちゃんには分かんないでしょ?」

『ふぃあ、ワかんない。』

「分かんなくていいと思うよ。俺にもよく分からないから。」

『ツムグもワかんない? ふぃあと同じ~。』

「たぶん違うだろうけど、同じってことにしようか。」

『同じ同じ!』

 

 こんな感じで会話を続けていた。

 その時。通信音が鳴ったのでスイッチをオンにした。

 

『椎堂ツムグ!』

「ん?」

『今すぐ出てこい! 緊急事態だ!』

「なになになに?」

『話はあとだ、さっさと出てこい!』

「ん、分かった。」

『ナニナニナニ?』

「ごめんね、ふぃあちゃん。お話はお終い。ちょっと行って来る。」

『いってらっしゃーい。』

 ツムグは、機龍フィアの外へ出た。

 

 自分を呼びに来た科学者に連れられ、歩きながら話をした。

「で? 何の用?」

「おまえ…、把握してないのか。珍しい…。」

「何もかも分かるわけじゃないから。」

「尾崎少尉が…。」

「尾崎ちゃんが?」

「目を覚まさないんだ。」

「…は?」

 呼ばれた理由を聞いたツムグは、軽く目を見開いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 M機関の食堂のおばちゃんこと、志水(しみず)は、気になっていた。

 レイの様子がおかしいのである。

 本人は隠しているのだろうが右腕を庇うように動いているのである。

「レイちゃん。右腕どうしたの?」

「…なんでもないです。」

「嘘おっしゃい。さっきからずっと庇ってるでしょ。」

「…なんでもないです。」

「……今日は帰りなさい。時間給とはつけておくから。」

「…平気です。」

「いい加減にしなさい!」

「っ!」

 志水に右手首を掴まれ、レイは顔を一瞬歪めた。

「見せてみなさい!」

「やめ…っ」

 レイが止める間もなく袖をまくられた。

 右腕の半分以上が赤く腫れていた。

「これどうしたの? 火傷?」

「……。」

「悪いけど、今から医務室にこの子連れて行くからよろしくね。」

「あっ…。」

 志水はその場にいた者達にそう言い、レイを引っ張って食堂から出ていった。

 

 

 医務室に連れてこられたレイの顔色は悪い。

 なにかに怯えているようなそんな雰囲気がある。

 レイの腕を診察した医者は。

「熱湯でも浴びたのかい?」

「いいえ…。」

「それか劇薬を被ったとか。」

「いいえ…。」

「治り始めていて、この分なら跡も残らないでしょう。」

「それはよかったわ…。」

 傷跡が残らないと聞いて志水はホッとした。

 レイのような若い子に傷が残ったら大変だと心配していたのだ。

「一応薬を出しておくから患部に一日三回塗って様子を見てね。水仕事や重い物を持つ仕事は控えるように。」

「はい…。」

 レイは、少しホッとした様子だった。

 その様子を志水は少し怪訝に思った。

 

 

 

 医務室から戻る途中。二人はシンジと会った。

「医務室に行ったって聞いたけど大丈夫?」

「大丈夫。」

「しばらく水仕事と重い物を持つのは控えなきゃいけないから協力してあげて。」

「分かりました。」

「……。」

「どうしたんだ、綾波?」

「う、ううん。なんでもない。」

 レイが俯いて何か考え事をしていたのでシンジが声をかけるとレイはハッとして首を横に振った。

 

 っとその時。

 

 レイは、ギョッとして志水の後ろに隠れた。

「レイちゃん?」

「綾波?」

「っ…。」

 

 シンジのかなり後方に、レイにとって今一番会いたくない相手であった、椎堂ツムグが通り過ぎたのだった。

 ツムグは、目線だけレイ達の方を見て、そのまま連れの人と一緒に去っていった。

 ツムグがいなくなったことでレイは、ホッと息を吐き、包帯が巻かれた右腕を摩った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 病室に来たツムグは、ベッドの上で意識がない尾崎を見て片眉を吊り上げた。

「こりゃまた…、面倒なことになって…。」

「なんとかなりそうか?」

「やれるだけのことはやるよ。」

 熊坂に聞かれ、ツムグは、肩をすくめた。

 ツムグは、尾崎の傍に近寄ると、片手を伸ばした。

「いっ!」

 しかし触れようとした直後、見えない何かに噛みつかれたように手首に傷ができ出血した。

「なっ!? おい、ツムグ!」

「だいじょうぶだいじょうぶ、傷は浅い。けど…、これ……。」

 熊坂に心配されつつ、ツムグは、尾崎に触れようと噛まれた手を押し出す。

 噛んでいる見えない何かが踏ん張っているのか、傷口がどんどん深くなり、力が入っているので腕が震えた。更にミシミシ、メリメリと見えない歯が食い込んでいく。全然傷は浅くない。

「……ちょっと目ぇつむって。」

「はっ?」

 病室にいる人間達にそう警告すると、ツムグは、放射熱線を放った。

 パンッと弾ける熱線の力が病室に衝撃波をもたらし、部屋のカーテンや布団などがはためいた。

 熱線でツムグの手を噛んでいた何かがいなくなったのか、ツムグの手がようやく尾崎に触れた。

 ツムグは、目をつむり、意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 視界が真っ暗になった。

 何が起こったのか分からない。

 目を開けているはずなのに何も見えない。

 

 ただ、何かの気配が迫ってきているのを感じた。

 

 巨大何かだ。

 何かが迫って来るのだが、逃げられない。

 逃げたくても体が動かない。

 このままだと捕まると、分かっても動くことができない。

 もう目の前まできている。

 尾崎は何も見えない中、自分を捕えようとしている何かの衝撃に固く目をつむろうとした。

 

 その直後、視界が突然破裂するような光で一杯になった。

 

 視界に映る色が劇的に変化した。

 目の前はどこまでも真っ赤だった。

 果物や野菜のような赤さではなく、生命の中に流れる血のような赤さだ。

 自分がその中を漂っているのが分かる。漂っているということは液体の中にいるということだろう。

 だが不思議なことに息は苦しくなかった。

 ここはどこだろうと思っていると、液体が大きく揺らいだ気がした。

 下の方から何かが浮上してくる。

 浮上してきたモノを見て、尾崎は叫びかけた。

 

 ゴジラだった。

 

 ゆっくりと尾崎の目の前を通り過ぎてゴジラが上へ上へと浮上していく。

 すると視界が急に変わった。

 真っ赤な海と思われる場所の中空に変わり、下を見ると、ゴジラがちょうど頭を出したところだった。

 ゴジラは、動く様子がなく、頭の一部を出した状態でじっとしていた。

 どれくらい時間が経っただろうか、ゴジラがゆっくりと目を開いた。

 その目には何の感情もないように見えた。どこか夢心地というか…、意識がはっきりしていないのか。

 

『夢を見てるんだよ。』

 少年のような声が聞こえた。

『ゴジラさんは今、夢を見ているんだ。この海に溶けた生命の夢を。』

 ……“さん”?

 ゴジラのことをそう呼ぶ奴は尾崎が知る限り一人しかいない。

 しかし知っている人物にしては声が幼い気がする。

『ここは南極。ここでゴジラさんは知ったんだ。』

 なにをっと声に出せないが聞こうとすると。

『セカンドインパクトのことを。あと何がこれから先起るのかを。』

 

 そう語られた直後、ゴジラの目に怒りと憎悪の火がともり、ゴジラが吠えた。

 尾崎が知るゴジラの鳴き声以上に大きく、殺意に満ちた凄まじい声だった。

 

『ゴジラさんはね、世界を救いたいわけじゃないんだ。ただ、許せないんだよ。』

 

 ゴジラが戦うのは世界を救いたいからではないのだと語られる。

 確かにゴジラについての歴史を振り返ると世界のために行動しているとは言い難い。怪獣と戦うのだって敵対するきっかけがあったからそうなったというわけだから、使徒を攻撃するのも何か理由があるのは間違いない。

 これまで現れた使徒が直接ゴジラにちょっかいを出したとかで敵対心を煽ったわけではない。

 南極で眠らされていたゴジラが、使徒アダムから発生したセカンドインパクトの破壊で叩き起こされて、そこから原因とサードインパクトのことを知ってしまったというダブルパンチで現在の状況になったということだった。

 そりゃゴジラが怒り狂うはずだと尾崎は納得した。いや…、怒り狂うなんてもじゃないのかもしれない…。

 尾崎がそう考えていると、ゴジラが海に沈んでいった。

 力尽きて沈んだのではない。泳いでどこかで眠るのだろう。そして15年後の世界で目覚めるのだ。

『こんなことがあったんだから、ゴジラさんが許してくれるわけがないよね。』

 それはそうだ。そうでなくても南極の氷の中に閉じ込められて眠らされているのだ、そこをあんな起こされ方をしたら許す許さないの問題じゃない。死ななかったゴジラがおかしいぐらいだ。

 セカンドインパクトの大破壊でも死ななかったゴジラに、果たして自分達は勝てるのか?

 そんな疑問が浮かんだ時、視界にノイズが走った。

 それとともに意識が遠のいていくような感覚があり…。

 

 

『尾崎! 目ぇ覚ませ!』

 

 その叫び声が聞こえた時、世界が白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…うぅ…う……、ハッ!」

 顔を歪めて呻いていた尾崎がカッと目を覚ました。

「こ、ここは?」

「目を覚ましたか!」

「熊坂士官…、俺は? 一体…。」

「……うぅ。」

「! ツムグ!?」

 ベッドの横にツムグが倒れているのに気づいた尾崎は身を乗り出した。

「…ヘーキ。まったくもう…、心配かけて。」

 ツムグがへろへろ状態でベッドの端に手を掛けながら身を起こした。

「俺の身に何が?」

「ただの睡眠障害。」

「えっ?」

「ちょっと体調が悪くて眠れなくなってただけだよ。別に何か変なものに取りつかれたとかじゃない。睡眠不足なうえに自覚症状がなくって幻覚系の超能力が自分に向けて暴発したから悪夢を見てたんだ。」

「前の実験のせいか。」

 幻覚系の超能力の特訓を兼ねた実験を数日前に行っていた。

「まあ、それもあるかもね。色々積み重なってこんなことになっちゃったわけだからそれが原因とは言い難いけど。例えるなら風邪をこじらせて肺炎になりかけたみたいな? 尾崎ちゃんの脳に溜まってった疲労をこっちに移したからしっかり寝れるはずだよ。ミュータント兵士の疲労が超能力の暴発に繋がるから疲労度の診察を義務付けるべきだね。」

「あの声も幻聴だったのか…。」

「……そうだろうね。尾崎ちゃんの超能力は強くてドツボにはまってたから俺じゃなかったら引っ張り戻せなかったぞ。体調が変だと思ったらすぐに言うこと。いい?」

「分かった…。次から気を付ける。」

 ツムグの言葉に妙な含みがあるような気がしたが、気のせいだと思うことにした。

「すまんなツムグ、部下の体調管理を怠った俺の責任だ。」

「助けが必要ならいつでも呼んでくれていいよ。M機関のみんなのことは好きだし。遠慮はいらないから。」

 ツムグはそう言って笑った。

 

「尾崎!」

 

「風間?」

 そこへ病室のドアを乱暴に開けて風間が入ってきた。

 風間はズカズカと尾崎のところに来ると、ベッドの上にいる尾崎を見おろし睨む。

「なんで病室にいやがるんだ?」

「えっと、これはその……。」

「体調不良だとさ。」

「はあ?」

 熊坂の言葉に風間はわけが分からんと声を漏らした。

「ツムグ、大丈夫か?」

 尾崎がぐったりしているツムグに声をかけた。

「なんとか…。」

「なんでてめーがいるんだ?」

「さっき、尾崎の体調不良の原因になってた脳の疲労感をこっちに移したとこ。」

「何してやがるんだ…。」

「詳しいことは熊坂に聞いて。俺…、帰る。」

「おお、休んどけ。すまんかったな。」

「いいよ、別に。じゃっ。」

 ツムグは、ヒラヒラと手を振るとフラフラの足取りで病室から出ていった。

「大丈夫なのか?」

「ま、奴のことだから大丈夫だろう。まあ、とにかく休むことだ。いいな。」

「はい、分かりました。」

「残念だったな風間。せっかく尾崎との手合わせを楽しみにして戻ってきたってのに。」

「違います。」

 笑う熊坂に風間はムスッとしてそっぷを向いた。

 素直じゃない風間はよくこういう反応をする。

「すまない、風間。」

「うるせぇ。とっとと寝とけ。」

 そう言って風間は出ていった。

 熊坂も出ていき、残った尾崎は再びベッドに横になった。

 

 しっかり休めた尾崎は、後日復帰した。

 なおツムグは、弱点と言える脳に負荷をかけてしまったのでフラフラしていた。それを聞いた尾崎が慌ててお見舞品を持って駆けつける小さい騒ぎがあったりした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 音無は、イライラしていた。

 尾崎がまた倒れた。

 心配する身にもなれといつも言っているのにこの様である。

 原因が訓練と実験による脳の疲労だったと聞いたから完全に尾崎の責任とは言えないのだが、今日はどうにも収まりがつかなかった。

 何回倒れた? もはや数えるのも億劫である。

 自分が傷つくことより他人が傷つくのを嫌う性格なのは熟知していたつもりだ。

 しかしこうも倒れてたらいい加減にしろと殴りたくなる。

 いやもう殴ったのだが…、それでも改善されないわけで…。

「あああ、もう!」

 まとめて結んでいた髪の毛をかきむしって音無はイライラを露わにした。

 イライラしながら廊下を歩いていると、台車を押しながら歩いてくるシンジを見つけた。

「あ、音無さん。どうしたんですか?」

 音無の様子がおかしいことにシンジは気付いた。

「…シンジ君!」

「えっ! は、はい、なんですか!?」

「ちょっと付き合って!」

「えっ? え、ええええ!?」

 音無に近寄られて手を掴まれてそう言われ、シンジは混乱した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ネルフがほとんど機能しなくなったとはいえ、メンテナンスは必要である。

 そこでエヴァンゲリオン参号機を一旦外へ運び出すことになった。

 使徒サキエル襲来以降、エヴァンゲリオンの全体像がほとんど明らかになっていなかったので、初めて本物を見る者が多い。

 機龍フィアや、MOGERAとも全く違う完璧な人型で、独特の見た目ではあるが立派なオーバーテクノロジーである。

「使徒と戦うために制作された兵器とはよく言ったものだな。確かに自信を持つのも分からんでもない。」

「ま、全然使わないけどな。」

「そりゃ言えてる。」

 なんて笑う者達もいた。

 

「あんた達!」

「よせ葛城!」

 参号機の運び出しに立ち会うことになったミサトが、笑う者達に怒り殴りかからんとしたので加持がそれを止めた。

「離しなさいよ!」

「おや、誰かと思えば、元・作戦部長の女じゃないか。」

「作戦本部? そんなものネルフにあったのか?」

「最初の使徒以来出番なしで終わってるけどな。」

「けどよく知ってたな、おまえ。」

「なーに国連軍にいた頃にちょっと顔を見たってだけさ。」

「エヴァとネルフをなめんじゃないわよ! あのメカゴジラだって使徒に奪われてんじゃない! ゴジラを倒すって大口叩いてて何してんだかね、ハンっ!」

「なんだと!」

「落ち着け、相手にする必要はない。元・作戦部長さん、いいお報せだ。」

「あによ!?」

「参号機は、ゴジラが本当にエヴァンゲリオンを狙って動くのかを検証するために使われるそうだ。どうだ? 実際にエヴァンゲリオンを動かせるんだぞ?」

「なによそれ! 参号機を黒トカゲのエサにするって言うの!? そんなの許さないわよ!」

「残念だが決まったことだ。赤木博士も協力的だ。」

「リツコが!? 嘘でしょ! だってエヴァがなきゃ…。」

「使徒は倒せないとでも言いたいか? これまでの戦歴にエヴァンゲリオンは使われてはいない。残念だったな。」

「こ、これから倒すのよ! 弐号機とアスカがいんだからね! 今にその天狗っぱなをへし折れるわよ!」

「そりゃ楽しみだ。」

 ミサトは、最後に鼻で笑われた。

 

 

 参号機は、空輸されている最中、雲を掠った。

 その時、参号機の装甲に錆色のカビのようなものが生じた。

 

 

 




 椎堂ツムグはどうやったら死ぬか…、迷走しつつあります。
 でも不死身ではないんですよ。(どこがだ?)
 大きさが人間サイズなので不死身力ではゴジラの方が上。
 頭部の破壊の再生は、心臓ががんばった結果ああなるということにしました。頭か、心臓のどちらかの破壊だと結構容易に再生できます。
 同時破壊だと再生が遅れて…、やがて死ぬ?、かも。



 参号機の展開は、無理やりすぎたと反省しています…。

 本編のように参号機が?って展開にしてますが、バルディエルは、長引かせたいので、またオリジナル展開にします。

 次回で、バルディエルです。


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第十六話  BARDIEL その1

 続けて十六話目です。

 今回は、バルディエル編。


 使徒戦をもっと長引かせようとがんばりました。
 うまくできたか心配です。


 

 

 

 

「あー、すっきりー!」

「買いましたね…。」

 音無に付き合ってと言われたシンジは、外出届を出して音無とショッピングセンターに来ていた。

 ストレスにまかせて色んなものを買った音無。シンジは、カートを押しながら顔を引きつらせていた。

 何があったのかは知らないが、なんとなく尾崎絡みではないかとシンジは思っていた。当たっている…。

「じゃっ、そろそろ帰りましょうか。」

「は、はい…。」

 音無の車に荷物を詰め、二人は帰路につくべく車に乗った。

 その車を追いかける黒い車がいた。

「ごめんね、シンジ君…。」

「なにがですか?」

「買い物、付き合ってもらっちゃって、今日は本当にありがとう。」

「た、大したことはしてませんよ。音無さん、なんだか普通じゃなかったような気がして…。」

「……。」

「あっ、すみません、変なこと言っちゃいました。ごめんなさい。」

「尾崎君のことよ…。」

「えっ?」

「最近倒れてばっかりだからカッとなっちゃって。ああいう人だって分かってたはずなのに。」

「音無さん…。」

「シンジ君、レイちゃんのことどう思う?」

「はっ? へっ!? な、ななななな、なんですか!? 急に!?」

 明らかに動揺するシンジに、音無は意地悪く笑った。

「仲良いな~って思って? 違ったかしら?」

「ち、ちちちちちち違いますよ! 僕と綾波はそんなんじゃ…!」

「顔真っ赤かよ?」

「うわわわっ!」

「ごめんごめん。可愛いからつい。」

「かかかかか可愛いって…。」

「うふふ。…っ!?」

「うわっ、なんですか急に?」

 急にブレーキを踏んだため、前のめりになりシートベルトが食い込んでシンジは顔を歪めた。

「…シンジ君。捕まってて。」

「えっ? う、うわああ!」

 音無が警告するが早いか、音無はアクセルを踏んで横の路地を爆走し始めた。

「お、音無さん!?」

「舌噛むわよ!」

「ふひゃ!」

 音無は、見事なハンドルさばきで道路が悪い路地を走っていく。

 音無が操る車の後ろの黒い車が数台、追いかけて来た。

「くっ、しつこいわね。」

「あ、あの音無さん…。前!」

「! はっ!」

 道を曲がったところで目の前にトラックが荷台の扉を開けており、急に止まれず車はトラックの中に突っ込むことになった。

 トラックの中で止まると、窓ガラスが割られた。

「シンジ君!」

「音無さん!」

「動くな!」

 音無は、シンジを庇い、音無の頭に銃が突きつけられた。

「…何の真似かしら?」

「言う通りにしてもらうぞ。」

 覆面を被った男に脅されたが音無は動揺することなく男を睨みつけた。

「この子には乱暴しないでくれる?」

「用があるのはそちらの少年だ。それは聞けない。」

「なんですって。」

「えっ、ぼ、僕?」

 他の覆面の男達が、シンジを音無から引き剥がした。

「うわあ!」

「やめて!」

「おまえはついでだ。碇シンジ、この女の命が惜しかったら大人しく従うんだ。」

「っ…。」

「シンジ君ダメよ!」

「で、でも…。」

「余計なマネはするな。」

 男は音無を縛り上げながら言った。

 

 そして二人は目隠しをされ、どこかへ連れて行かれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「美雪とシンジ君が帰ってこない?」

 尾崎はそれを聞いて目を見開いた。

「何か聞いていないか?」

「いいえ…。」

「二人とも外出届を出していて、音無博士の携帯に連絡しても繋がらなくって…。」

 音無の同僚が携帯を片手に心配そうに言った。

「何か知ってるかもって思ったんだけど。」

「すまない。俺は何も聞いてないんだ。」

「そうですか…。お泊りだとしても事前に連絡ぐらい入れてくるはずなのに…。」

「……。」

「尾崎少尉?」

「…嫌な予感がする。」

 

 

 

 っと、その時。基地が揺れるほどの爆発が外で起こった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゴジラの襲来を知らせる警報が鳴り響いた。

 海からまっすぐに……地球防衛軍・日本基地に向かってきていた。

「なぜゴジラがここ(基地)に?」

「理由を調べるのは後にしろ! 総員、戦闘態勢に入れ!」

「防衛ラインを突破させるな!」

 第三新東京を目指さず、基地に向けて進撃してくるゴジラに地球防衛軍はすぐに戦闘態勢に入って応戦した。

 

 ゴジラの雄叫びが基地まで届くほど響いた時。

 戦艦を収容しているドッグから爆発が起こった。

 そして煙の中から、火龍がゆっくりと浮上した。

 

「火龍!? 出動許可は出ていないぞ!」

「待て! ドッグを爆破させたのは火龍なのか!?」

「船員は誰も乗っていません!」

「なんだと!? じゃあ、なぜ動いて………まさか…。」

 

 いきなり動き出した無人の火龍が、砲塔を出して、基地に攻撃を行った。

 その砲塔にはネバネバとした筋のようなものが張り付ていた。

 

「パターンブルーを検出しました! 使徒です!」

「今度は戦艦を奪われたのか!!」

「全軍に通達! 火龍…、いや使徒を迎撃せよ!」

「ゴジラが基地を狙ったのはこのためだったのか!」

 

 ゴジラは、いち早くそれに気づき使徒が潜んでいる場所、つまり地球防衛軍の日本基地に向かって来たのである。

 

 宙に浮いた火龍からの砲撃が続いている。

 地球防衛軍が応戦して砲弾を撃ち込むと、火龍の周りにATフィールドが発生し防がれた。

 火龍が撃ってくるミサイルに弾切れがないのかどんどん撃ってくる。これも使徒のなせる業なのだろうか。

 ミュータント部隊が超能力を使いミサイルの弾道を曲げて防いだり、撃ち落とすなどでして基地への被害を抑えようとした。

 

「機龍フィアの出動はどうした!?」

「椎堂ツムグがヘロヘロで操縦ができんらしい! こんな時にあのバカは!」

「轟天号を出します。」

「し、しかしまだ修理が終わったばかりでは?」

「一刻を争います、急ぎなさい。」

「は、はい!」

 

『おい、いつまで待たせる気だ?』

 

 通信が入り、ゴードンの声が響いた。

「準備は万端なようですね。」

『あったりめーだ。さっさと発信許可を出しな。』

「ゴードン大佐、許可もなく轟天号に乗り込んだのか!』

「轟天号出動。目標は、使徒に乗っ取られた火龍の殲滅。徹底的にやりなさい。」

「波川司令! 火龍を完全に破壊するのですか!?」

「それ以外に方法がありますか?」

「う…。」

 波川にじろりと見られ、司令室の人間の一人が言葉を詰まらせた。

「科学部から使徒の名は、バルディエル、粘菌型の使徒だというデータが届きました!」

 なお、使徒の名前とタイプの情報をもたらしたのは、機龍フィアのDNAコンピュータ・ふぃあである。

「微生物の次は、粘菌…。まったく同じタイプの使徒はいないのね。」

 波川は、これまで現れた使徒がどれも被っていないことについて、息を吐いた。

「…気味の悪い存在だわ。」

 怪獣のような生物らしさというか、そういうものが感じられず突然現れ、何を目的に行動しているのかも不明で、倒さなければ世界が終わるという曖昧な情報だけしかない謎の生命体。

「そして、なぜゴジラは、その使徒を敵と認識しているのか……。」

 波川は、ゴジラがなぜ使徒を敵視しているのか、その理由を知らない。

 ツムグが何か知っていそうなのだが、喋ろうとしない。

 ツムグは、色んなことを知っているはずだ。だがあえて喋ろうとしない。

 ツムグの力を最大限に使えば、すべての物事を自由にすることができるだろう。

 だがそれは望まれぬことだ。そんなことではダメなのだ。

 ゴジラは、人間が生み出してしまった。これは人間が立ち向かわなければならない問題だ。

 すべてを見聞きできるツムグの力を使うことは人間が受けるべき試練を台無しにしてしまう。それは成長を妨げ未来を台無しにすることに繋がる。

 機龍フィアのシンクロシステムを普通の人間でも操縦可能にしようとする試みもそのためだ。

 本当ならツムグを乗せて戦わせたくはない。だが現状はツムグを戦わせなければゴジラの迎撃が難しいのだ。

 使徒を迎撃する時もあまりの得体の知れなさから意見を求めなければならない時だってあった(レリエルの時)。

 ツムグが知っていることを喋らないのは、波川のその心中を知っているからだろう。だが急を要することは伝えてくる。おかげで大惨事を防げるわけだ。

 ツムグは、いつか自分が必要とされなくなることを望んでいる。

 いつか自分が死ぬことを夢見ているのではないかと思われる。

 だからああも悟ったような口ぶりをするし、何をされても受け入れるのだ。

 ツムグがいない世界…。

 波川はそれを想像するが、想像できなかった。

 それほどツムグがいる日常が当たり前のようなっていたのだ。

「彼のいる日常が、いつの間にか普通になっていたのね…。」

 波川は、そっと微笑んだ。

「轟天号と火龍の戦闘が始まりました!」

「ゴジラが熱線を吐きました! なっ…。」

 ゴジラが防衛ラインの途中から遠距離で熱線を火龍・バルディエルに向けて放った。

 しかしバルディエルのやや上の方に命中したかと思うと、熱線は緩やかな斜め方向に弾かれた。

「あれはATフィールド!? しかしゴジラの熱線はATフィールドでは防げなかったのでは!?」

「あの使徒のATフィールドがこれまでの使徒の中でトップクラスに強固だということか!?」

 確かにバルディエルのATフィールドは固い。

 しかしゴジラの熱線を完全に防げるほど固いのではない。

 ATフィールドを一点に集中強化したうえで、ATフィールド斜めにし、船体も斜めにすることで熱線を受け流したのである。だから斜めといっても緩やかなものになったのである。

 使徒なりの対ゴジラ対策であった。

 ゴジラもそれには驚いたのか、鼻を鳴らした。

 するとそこへ、若干ふらついているように見えなくもない機龍フィアが登場し、ゴジラと相対した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 火龍・バルディエルを前にした轟天号は、敵の出方を待った。

 バルディエルが轟天号が来た途端に砲撃を止めたからだ。

 まるでこちらを観察しているような…、そんな感じがする。

「粘菌型とはまた…、気味の悪い使徒ですね。」

「……風間! 来るぞ!」

「はっ!」

 次の瞬間、バルディエルからミサイルが数発発射された。

 それを間一髪で後ろにずれることで避けた。

 ミサイルは、追尾式でないはずなのに、轟天号を狙って飛んできたので撃ち落とした。

 撃ち落すと爆発とともに粘菌のようなネバネバが燃えるミサイルの残骸に張り付いていた。

「野郎…、轟天号まで乗っ取る気だな。」

「ま、まさか、そんな! それはマズイのでは!? このままではこちらまで。」

「接近し過ぎんじゃねぇぞ。」

「ラジャー。」

「艦長!」

「倒せりゃいいんだ、倒せりゃな。」

 そう言って豪快に笑うゴードンに、副艦長は溜息を吐いた。

 再びミサイルを発射してきたバルディエルだが、そのミサイルをプラズマメーサーで焼き落とす。

 バルディエルは、ブレードメーサーを展開し、轟天号に急接近を試みようとしてきた。

 風間の操縦で絶妙な距離を保ちながら、轟天号は応戦するべく砲撃を開始した。

 メーサーが弾かれるのを見て尾崎が驚愕したが、すぐにATフィールドの向きやバルディエルの船体の向きが関係しているのを見破り、高出力のメーサーを撃って弾かせた隙をついて、他の向きから攻撃を加えた。すると防がれることなくバルディエルに命中した。

「科学部からの報告! 動力炉付近に動力炉とは異なる高エネルギー反応があり、そこにコアがある予想されるとのことです。」

「船の中心か…。」

「中心に攻撃を届かせるとなるとやはりドリルのメーサー砲でしょうね。しかしあのATフィールドの張り方と使い方では、弾かれてしますよ? かと言ってドリルアタックは…。」

「できるわきゃねーだろうが。奴に乗っ取られる。」

「ですよね。」

 そんなやり取りをしている間にもバルディエルがまたミサイルを飛ばしてくる。

 どうしても轟天号を乗っ取りたいらしい。

 それを撃ち落しながら攻撃は続いた。

 バルディエルは、ガバッと口を開くように縦に割れ、轟天号に向かって来た。

「! 見えた!」

 その口の奥にコアらしきものが見えたのを見逃さなかった。

 轟天号がバルディエルを避けると、バルディエルは、旋回して轟天号の後ろから噛みつこうとまた襲って来た。

 轟天号が逃げるとそれを追いかけてきた。

「後ろから追ってきますよ!?」

「右に回れ!」

「えっ!?」

「いいからやれ!」

 ゴードンの指示で右に舵を取ると、その直後、轟天号を掠るように…。

 

 機龍フィアのミサイルの流れ弾が通り過ぎ、バルディエルの口の中に入った。

 

 口の中、それでいてコアのところで爆発したことにより、バルディエルは悲痛な鳴き声を上げ、地面に落下した。

 

 

 バルディエルが地面の上でもがいていると、バルディエルの周りに放水車が集まってきた。

 

「放水開始!」

 その合図により放水が始まった。

 

 G細胞完全適応者(椎堂ツムグ)の体液入りの水を…。

 

 バルディエルは、声にならない叫び声をあげた。

 もうもうと煙が上がり、ブスブスと焼け焦げていく。

 4分の1くらい焼け爛れたところで、グググッとバルディエルの内部から盛り上がってきたものがあった。

 それはコアだった。

 バルディエルは、コアを出すと、粘菌状の身体を残してコアを上空に超高速で飛ばした。

 その上空には轟天号がいた。

 コアから蜘蛛の巣のように粘菌が噴出され、轟天号のドリルに張り付いた。

「艦長! 使徒が! 轟天号が乗っ取られる!」

「尾崎、撃て。」

「ラジャー!」

「えっ、尾崎! 待て!」

 副艦長が止める間もなく、尾崎が兵器の発射スイッチを押した。

 轟天号からミサイルが発射され、コアが張り付いたドリルに命中。

 粘菌が散り、コアがプラプラとドリルに引っかかっている状態になった。しかしそれでも意地でバルディエルは、轟天号に張り付こうとした。すでにコア近くに当たった機龍フィアのミサイルとツムグの体液でかなり弱っている。

 粘菌の体には、液体が染み込みやすかったらしい。

「メーサー砲用意!」

「ラジャー!」

 ドリルにエネルギーが集約され、メーサー砲の準備が整った。

「発射!」

 尾崎がメーサー砲の発射スイッチを押した。

 ドリルに集約されたエネルギーが放出され、バルディエルの中心を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた中心、つまりコアは、砕かれ、要をであるコアを失ったことで粘菌状の身体を維持できなくなり硬質化したバルディエルの体の組織はボロボロと崩れていった。

「パターンブルー、消失。」

「使徒の殲滅を確認。」

 轟天号のオペレーター達が使徒の殲滅を伝えた。

「……あっけねぇな。」

 ゴードンは何か腑に落ちないと言う風に呟いた。

「そうでしょうか? 十分厄介な敵だったと私は思いますが?」

「ゴジラは?」

「機龍フィアと交戦中です。」

「エヴァンゲリオンはどうなっている?」

「? エヴァンゲリオン参号機は、いぜん東京湾に…、……!? 参号機の反応消失!」

「ちぃっ! 面舵いっぱい! 第三新東京を目指せ!」

「艦長、一体何か!?」

「火龍はデコイだ! 本物の奴は参号機の方だ!」

「馬鹿な、エヴァンゲリオンが!?」

「本部からの通達! 轟天号は速やかに第三新東京に急行せよと!」

「ゴジラが機龍フィアを振り切って第三新東京を目指し始めました!」

「今回は騙されたぜ…。」

 ゴジラも地球防衛軍も、使徒バルディエルに騙されたらしい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 バルディエルは、邪魔者がいない状況で、悠々と第三新東京(もはや荒野状態)に侵入した。

 ゆっくりと生気のない雰囲気を漂わせる歩き方は、不気味以外の何者でもない。

 やがてバルディエルは、ネルフ本部に侵入するためのハッチを見つけ、こじ開けようと手をかけた。

 しかしその手を不意に止めた。

 じろりと見た先には、射出機が上がっており、そこに真紅のエヴァンゲリオンが佇んでいた。

 バルディエルは、口の金具を引きちぎって吠えた。

 

「行くわよ!」

 

 エントリープラグ内のアスカは、初戦闘による緊張から若干引きつった笑みを浮かべ、弐号機を操ってプログレッシブナイフを構えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「なぜ、出動させたのですか!?」

 リツコがゲンドウに抗議した。

「地球防衛軍にエヴァの有用性を知らしめるためだ。」

 叫ぶリツコにゲンドウは、淡々と返した。

「まともな武装も無しにあの使徒に敵うはずがありません! 即刻弐号機を回収してください!」

「却下だ。」

「勝手な真似をしては地球防衛軍の怒りを買うだけです!」

「問題ない。」

「司令!」

 リツコがいくら言ってもゲンドウは、弐号機を止めようとはしない。

 唇を噛んだリツコは、踵を返し、司令室から出ていった。

「…ユイ……。」

 ゲンドウは、今は亡き妻の名を呟いた。

 

「準備が整いました。いつでもいけます。」

 そこに顔を覆面で隠し、上から下まで黒い衣装の男が入ってきてゲンドウにそう伝えた。

「そうか。」

「しかしあなたも悪い父親だ。実の息子を妻を呼び戻すために利用するなんて…。」

「それぐらいしか使い道がないからな。」

「本当に酷い人だ。」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「今すぐ弐号機を下がらせて!」

「何言ってんのよリツコ!」

「いいから下がらせなさい! 勝てるはずがないわ!」

「そんなのやってみなきゃ分かんないわよ!」

「弐号機、使徒と接触! 戦闘に入ります!」

「やめなさい、アスカ!」

 

 

 第三新東京の上で、弐号機と使徒バルディエルに乗っ取られた参号機の戦闘が始まった。

 

 一気に距離を詰めようと走り出した弐号機に、バルディエルが鞭のように片腕を振った。

 バルディエルによって変質した腕がしなやかに曲がり、弐号機に向かって伸びた。

 それを頭を下げて避けた弐号機は、少し減速しつつもバルディエルの懐に入り込んだ。

『でやあぁぁぁぁ!』

 アスカは絶叫し、弐号機の持つプロッグレシブナイフをバルディエルの腹部に突き刺した。

 ブジュリと粘液が垂れ、バルディエルは、もう片腕で弐号機を横に弾き飛ばした。

 弐号機はナイフを持たない方の腕で防御し、地面に受け身を取った。

 バルディエルは吠え、両腕を地面に突き刺した。

 すると弐号機がいる地面の下からバルディエルの両手が飛び出してきた。

 弐号機は地面を転がり、間一髪で避けるとバルディエルは両腕を地面から引き抜き、四つん這いで走り、弐号機に迫った。

『ちょっと、なにか武器はないの!?』

 アスカが本部に向かってそう言うと。

「あるわけがないでしょう! 武装の開発は完全凍結してるんだから!」

 マイクを奪ったリツコが叫んだ。

『じゃあどうすんのよ!?』

「アスカ、今すぐ射出機のハッチから退却しなさい! 勝てないわ!」

「いいえ、アスカ戦闘続行よ!」

「ミサト!」

『もういいわ、このままやってやる!』

 武器の調達ができないと判断したアスカは、もう一丁のプロッグレシブナイフと格闘技だけでバルディエルを仕留めようと構えた。

 襲い掛かってきたバルディエルの肩を掴んで止めると、その下顎に蹴りを入れた。

 後ろにのけ反ったバルディエルだが、すぐに体勢を戻し、口を大きく開こうとした。

 その時、バルディエルの背中に爆撃が降り注いだ。

 流れ弾で弐号機にも降り注ぎそうになったが、アスカは間一髪で後方に退いて避けた。

 前のめりに倒れるバルディエル。

『! 地球防衛軍!』

 上を見上げたアスカは、戦闘機のマークを見て地球防衛軍が駆けつけてきたことを知った。

『っ、余計なことをしないでよ!』

 アスカは忌々しそうに舌打ちして言った。

 爆撃による煙の中、バルディエルが顔を出し、口から白い粘液を吐きだした。

 避けようとしたが、左腕に浴びてしまった。

 その瞬間。粘液が弐号機の左腕に浸食した。

『キャアアアアア!』

「弐号機、左腕部浸食!」

「弐号機の左腕を切り離して!」

 リツコの指示により、弐号機の左腕が根元から遠隔操作で切り離された。

『くうぅぅぅ!』

 神経回路が接続したままなのでアスカは左腕を切断された痛みを味わった(※実際に左腕が切れたわけじゃない)。

 膝をつく弐号機にバルディエルが襲い掛かろうとしたが、凄まじい例の雄叫びを聞いてピタッと止まった。

 ゆっくりと右後ろに振り返るバルディエルは、ゴジラを見た。

 バルディエルが振り返るのとほぼ同時にゴジラが放射熱線を吐いた。

 バルディエルは、避けるために大きく跳躍し、放射熱線の射程距離には弐号機だけが残された。

「アスカ、逃げてぇ!」

 ミサトが叫ぶが、弐号機はそれどころじゃない。

『これくらい!』

 弐号機はATフィールドを張って放射熱線を防ごうとした。

 が…。

『えっ! あっ…。』

 っと言う間に貫通した放射熱線の光を前にアスカは、間抜けな声を漏らしてしまった。

 弐号機に当たる直後、銀色と赤の巨体が弐号機を突き飛ばし放射熱線をくらった。

『アチチチチ!』

 熱がる男の声が聞こえ、アスカは我に返った。

 熱線がやむと、全身から湯気を出す銀と赤のゴジラによく似たロボットが弐号機を庇うように立っていた。

 バルディエルは、もう弐号機に目もくれずゴジラに向かって行った。

 ゴジラは、バルディエルに向かって進撃を続けた。

『ま、待ちなさい!』

 アスカは、残った右腕をバルディエルに伸ばしたが、その手は空を切っただけで終わった。

 自分を無視して行くバルディエルと、バルディエル目がけて突き進むゴジラを睨みながら、アスカは、唇を強く噛んでプラグ内の内装を殴った。

 

 

 ゴジラが再び放射熱線を吐いた。

 バルディエルは、再び高く跳躍して避けると鞭のようにしならせ伸ばした腕でゴジラの顔を殴打した。

 ゴジラは、体を仰け反らせたがすぐに体勢を直して歯をむき出して唸った。

 片腕を地面に沈めたバルディエルは、ゴジラの片足を地面の下から払い、もう片腕で再び頭部を殴打した。

 ゴジラは、バランスを崩して横に倒れたところに地面の下から今度はバルディエルの両腕が伸びてきてゴジラを上へ跳ね上げた。

 100メートルの巨体が軽々と跳ね上げられ、地面に叩きつけられた。

 

「あの使徒、あの細腕でなんて腕力だ!」

 

 一見細身のエヴァンゲリオンだが、使徒が取りついたことでパワーアップしているのか、凄まじいパワーを持っていた。

 ゴジラが起き上がると、ゴジラの腹に強烈な突きが入り、ゴジラは口から唾液を吐いた。

 するとバルディエルの背中から参号機の腕より太い白い腕が生えて来た。

 ゴジラとの距離を詰めたバルディエルは、四本の腕でゴジラの顔と腹を連続で殴打しだした。

 バルディエルは、自らの性質を利用して更に能力を底上げしたのか、ゴジラの巨体が殴られるたびに後ろに後退した。

 

「お、押されてる! ゴジラが!」

「なんて奴だ! ここまで地の力でゴジラを追い詰める奴がいるなんて!」

「椎堂ツムグはどうした!? 何が起こっているのか奴に聞くのが一番だ!」

「機龍フィアがオーバーヒートを起こしかけている上に当の本人がヘロヘロ状態で話にならん!」

「どうするんだ! ああ!?」

 

 ゴジラがこのまま押されっぱなしかと思いきや、そんなはずはなかった。

 参号機の腕が顔を殴打する直後、その腕をゴジラが噛んだ。

 そして噛み千切った。

 バルディエルは、跳躍して距離を取り、噛み砕かれた腕を白い組織で修復した。

 ゴジラの背びれが光った。

 放射熱線が来ると思ったのかバルディエルがゴジラの顔を殴打しして発射を阻止しようとして…、できなかった。

 放射熱線ではなく、周囲に広がる体内熱線だった。地面が抉れ、ネルフ本部を覆う装甲の一部が溶けて変形した。

 もろに浴びたバルディエルは、地面に転がりブスブスと煙を出していた。殴打しようとして伸ばした腕に至っては肘あたりまで蒸発していた。

 内部の方も焼けてしまったのか時折ビクンッと跳ねることはあれど立ち上がる気配がなかった。

 ゴジラは、バルディエルの頭を掴みあげた。

 更に腹を掴み、引っ張った。

 バルディエルの腹が裂け、臓物が溢れ出て地面を赤黒く染めあげた。

 ゴジラは、腹から手を離し、肩部分を掴んでさらに引っ張った。

 頭が背骨と一緒に引っこ抜かれ、裂けた首部分からコアらしきものが覗いていた。

 ゴジラは、それを掴むと、そのまま握りつぶした。

 握りつぶす瞬間、バルディエルのものと思われる悲鳴が上がった。

 もはや原形をとどめていないグチャグチャになったバルディエルを地面に捨て、ゴジラは雄叫びをあげた。

 バルディエルの体液が近くにあったハッチの中に流れ込む。

 ゴジラが使徒を殺して愉悦に浸っている時。

 

 ゴジラからやや離れた位置からせり上がって来るものがあった。

 ゴジラは、それを見て気分を害されたと言う風に顔を歪めた。

 

 それは、射出機に固定された初号機だった。

 

 

 

『……た、…助けて……。』

 

 初号機の内部からか細い少年の声が響いたが、ゴジラに伝わるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 




 ……展開がメチャクチャだなっと我ながら思う。
 いつか書き直すかも。

 弐号機を登場させた意味は…、とくに深く考えたわけじゃないんですが、いつまでも空気というわけにはいかないかな?っと思ったからです。
 でも大した武装無しで初戦がいきなりバルディエルは、酷過ぎましたね…。ごめんね、アスカ!

 そして最後の方。初号機が(一時)退場と…なります。


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第十七話  男の過ち

とりあえず、ここまでで、次の投稿はいつになるやら…。

展開が早すぎるかな?っと思う今日この頃。


初号機の一時退場となります。


 

 

 

 ゴジラは、初号機を前にしてすぐには動かなかった。

 さすがに不自然に思ったのだろう。多少は警戒しているらしい。

 

 

『…嘘でしょう。なんてこった。』

 オーバーヒート状態の機龍フィアの中で、様子を見ていたツムグは、額を手で抑えた。

『シンジ君…!』

 

 初号機には、シンジが乗せられていたのだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 リツコは、ゲンドウを睨んでいた。

 ゲンドウは、どこ吹く風でモニターを眺めているだけだ。

 今リツコの周りは武装した集団で取り囲まれていた。

 その中にはミサトもいて、ミサトに背中から銃を突きつけられていた。

「ミサト…。」

「……。」

 ミサトは何も言わない。いや、言葉が発せないのだ。

 彼女の目にまともな光がない。恐らく強力な暗示がかけられているのだろう。

 マヤ、日向、青葉は、青い顔をしていた。

 作戦本部の床には、腕を縛り上げられて、床に転がされている、女性が一人。

「うぅ…。」

 何度も殴られたのか口の端から血を流している。

「なんてことを……。それでも父親なの!?」

 彼女は、ゲンドウに向かって叫んだ。

「親が子を使って何が悪い。」

「あんた…、最低!」

「司令! なぜこのようなことを! そうまでして初号機を覚醒させたというのですか!」

 初号機の秘密を知る者の一人であるリツコは、叫んだ。

 そうゲンドウの目的は、初号機の中に眠るユイの魂を覚醒させることである。その鍵として息子であるシンジが必要となり、誘拐したのだ。たまたま一緒にいた音無はついでである。シンジの言うことを聞かせる為に人質とされた。

「そうだ。」

 リツコの問いに、ゲンドウはあっさりと返事を返した。

「あ…、あなたという人は…。」

 リツコはワナワナと唇を震わせた。

「例え初号機を覚醒させたとしても、ゴジラを倒すなど無理です!」

「彼女は負けない。」

「何体の使徒がゴジラに無残に殺されたかあなたも見ているはずです!」

「赤木博士を黙らせろ。」

「はい…。」

「っミサ…!」

 ゲンドウの言葉にミサトが反応し、リツコを後ろから関節技をかけて倒した。

 リツコは関節技を決められた痛みに顔を歪めた。

 

 

「葛城…。」

 

 物陰から加持が作戦本部の様子を見ていた。

 ミサトの様子がおかしいとは思ったがまさか暗示がかけられていたとは。

 あの従順ぶりからするにかなり深く長い間暗示がかけられていたのではないかと思われる。

 そんなに長く暗示をかけるとしたら少なくとも自分がミサトと付き合っていた時期からとなるのだろうか。

「まさか……。」

 犯人に心当たりがあった。

 しかしだとするとなぜミサトにそんなことをしたのか分からない。

 そこまで彼女が重要だったのだろうか?

 確かにミサトは、セカンドインパクトの発生場所となった南極でたった一人の生存者である。

 それゆえに存在自体が極秘と言ってよかった。

 しかし彼女はただの人間のはずだ。それはゼーレの下にいる自分が入手した情報で知っている。

 綾波レイのような人間と使徒の混合でもなく、あのゴジラの細胞を混ぜこぜして生まれたらしい突然変異の椎堂ツムグとも違う。本当にただの人間のはずだ。……多少タフ(?)ではあるが。

 

『うわああああああああああああ!』

 

 作戦本部のモニターから少年の悲鳴が木霊した。

 その声を聞いて加持は体が跳ねた。

 

「……君は誰かな?」

 ジャキッと金属音が聞こえ、加持の頭に銃口が押し付けられた。

 上から下まで黒づくめの覆面の口元が吊り上がり、銃声が鳴った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「うっ! これ、マジ、やばいかも!」

 クラクラする頭のツムグは、操縦桿を握る手を震わせてそう呟いた。

 初号機に迫ろうとするゴジラにズルズルと少しずつ引きずられていた。

 ゴジラは、直接、手で初号機を潰す気でいるらしく放射熱線を吐く気配がない。

「ゴジラさ、ん! お願い! 勘弁して! サードインパクトの引き金を潰すチャンスなのは分かってるからさ! 逃げて少年、早く~!」

 ゴジラは、なぜか知っている。

 初号機がサードインパクト(人類補完計画)の要のひとつであることを。

『椎堂ツムグ、アレ(初号機)に子供が乗せられているのは間違いないんだな!?』

「間違いないって! 碇シンジと音無博士が誘拐されたってのはもう知ってるでしょ! これが目的だったんだよ!」

『まだ確証が得られたわけじゃないが、おまえが言うならそういうことなのだろうがすべて鵜呑みにするのもホントどうかと思うがな!』

『ネルフから声明文と映像が届きました! 映像解析の結果、人質は音無美雪博士で間違いないとのことです!』

「チィ! また椎堂ツムグの予言通りになったか…。』

 ツムグの言う通りに事が進むのが気に入らない人間は少なくない。

『ネルフはなんと?』

『エヴァ初号機に手を出すな、手を出せば即座に女を殺すと。』

『この状況で我々に手を出すなだと? ゴジラにエヴァンゲリオンを生贄にするつもりか!?』

『機龍フィアの機能が低下している状態では、これ以上ゴジラを抑えるのは無理なのでは!?』

『椎堂ツムグめ! どこで何をしたんだ!』

 ツムグの脳の調子が悪いため、機龍フィアの機能も低下していた。

 なぜ調子が悪いのか、事情を知る者はごく一部である。

「あんの男、自分の妻を過信してんのか!? じゃなきゃ、こんなアホなことやるわけないよね!?」

 サキエル襲来の時、本来なら初号機が暴走してサキエルを倒すシナリオだった。

 それがうまくいかず、今度はゴジラに初号機を暴走させる引き金を引かせようとしているのである。

 しかしサキエルもそうだが超越した生命体である使徒を一撃で葬る力を持つゴジラを初号機にぶつけて、そんな都合よくいくだろうか?

 答えは否だろう。

 暴走によって力を引き出しても今のゴジラ(※セカンドインパクト後、強化されています)を倒すのは…。

 次の瞬間、ゴジラの背びれが光りだした。

「やめて!」

 察したツムグが素早く操縦桿を操作し、下からゴジラの顎を掴んでゴジラの顔を上向かせた。

 放射熱線が斜め上空に飛んでいった。

 ゴジラの何かが切れた音が聞こえたような気がしたと思ったら、機龍フィアが投げられ、地面に頭から叩きつけられていた。

「う、ぐっ。」

 頭がグワングワンとする。

 すると再びゴジラに投げられ叩きつけられ、機体のどこかがへしゃげる音がした。

 そしてまた投げられ叩きつけられる。それを何度も繰り返された。

 いつも機龍フィアで投げていたから、仕返しだろうか?

 ともかくゴジラが本気で機龍フィアを壊す気でいるのだけは、分かった。

 皮肉にもそれが時間稼ぎになった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 彼女は、これが正しいと信じていた。

 彼女には、それを成し遂げたいという願いと、それを成し遂げるだけの力があった。

 しかし運命の悪戯と言うべきか、何かを成し遂げようとすればそれを妨害する何かしら力が働くものである。

 誰が想像した? 誰がこんなことになると思った?

 天才であった彼女ですら想像もしなかった災い、ゴジラによって彼女の描いた理想は修正できないほど壊れていた。

 残念なことに彼女はそのことを知ることができなかった。

 神のごとき存在へ昇華する前段階の状態で眠っていたために、外で起こっていることを知ることができなかったのだ。

 眠っている状態であるが、彼女は感じた。

 

 我が子が酷く怯えている。

 

 自分がお腹を痛めて産んだ子の存在が今の自分の中にあるのは感じたが、その子が酷く怯えている理由が分からなかった。

 確かにこんなこと……、人類補完のために我が子を駆りだすのは心が痛まないわけじゃないが、これは必要なことだと彼女は思っていた。

 うまくいけば我が子が進化した最初の人類になるかもしれない。神話になるかもしれない。

 これは決して悲劇などではないのだ。停滞した人類を進化させ、罪を清算するチャンスだ。

 別れは辛いだろう。しかし一時の別れにすぎない。すべての命が赤い海に溶けるだけだ。一つになるだけだ。

 だから安心してほしいと伝えたくても、今の彼女にそれを伝える術がない。

 できることは我が子を神の使い達の名を架する者達から守り、我が子を導くことだ。

 

「助けて……、助けて助けて、お、ざき、さん…。」

 

 体を丸めてグスグスと泣いて震えている我が子が助けを求める。

 

 

 ……………オザキって誰?

 

 

 傍で守っている自分より、知らない誰かを求めているのが若干気に入らなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 尾崎の部隊と風間の部隊が別々の入り口から潜入し、ネルフの中枢にある作戦本部を目指して進んでいた。

 風間を先頭にした風間のミュータント部隊は、立ちはだかった障害に足止めをされていた。

「ちくしょう!」

 思わずついた言葉が電力節約でかなり暗い通路に響いた。

 通路を進むことができないのだ。

 

 進もうとすると見えない壁が発生して彼らを拒むのである。

 

「機龍フィアがゴジラに潰される前に中枢へ向かわないと!」

「分かってる!」

「これってひょっとしてATフィールドって奴じゃないですか!? 模様が似てます!」

「使徒がいるのか?」

「まさか! 使徒はゴジラに殲滅されたし、なぜ使徒がネルフを守るなんてことを?」

「どっちにしろこのままじゃ進めないことには変わらん。」

「使徒だとしたらツムグの体液が有効ですけど…。」

「誰か持ってるか?」

 …誰も何も言わなかった。

「ちっ、こんなことになるなんて誰が想像するんだ。」

 ATフィールドを貫通できるメーサー銃はあるが、ATフィールドを発生させている本体が見当たらない。

 超能力で解析しようにも、ネルフの本部に仕掛けられた対ミュータントの仕掛けが働いていてうまくいかない。

 手っ取り早いのが椎堂ツムグの体液をばら撒いてみることだ。

 効果てきめんであることははっきりしている。

 

 その時、カランコロンと何かが転がって来る音がした。

 

「! これは…。」

 転がってきたのは、片手で持てるサイズの金属のカプセル。

「おい、誰かいるのか!」

 後ろの通路の曲がり角からそれを投げたらしい人物は、すぐに姿を消した。

「少尉、これ椎堂ツムグの体液ですよ! なぜこれが。」

「誰だか知らんが今は感謝する。」

 風間はそう言うと、ツムグの体液が詰まったカプセルを受け取り、スプレーの噴出口を取り付け、ATフィールドの方へ向けた。

 放出された霧がATフィールド越え、暗い通路の先へ行った。

 すると。

「ギャアァ!」

 短い悲鳴が通路の先から聞こえた。

「人間の声?」

 聞こえたのは人間の声のようだった。

 悲鳴が聞こえた後、ATフィールドが消え、通路の先で誰かが慌てて走っていく音が聞こえた。

「どういうことでしょうか? まさか人間がATフィールドを?」

「そいつは後だ、今は中枢へ急ぐ。」

「了解っ。」

 

 風間達は先を急いだ。

 

 

 走る風間達の行く先を、戦闘服を纏った覆面達が遮った。

 向けられる武器を目にして、ネルフ内部に異変が起こっていることをだいたい把握した風間達は、覆面集団との戦闘が勃発した。

 能力の妨害がされているとはいえ、身体能力ではミュータント兵士の方が遥かに上だ。だが敵は戦いの経験があるらしく、実戦経験値の差がある。

 膠着するかと思われた戦いは、風間は特攻に近い攻めでミュータント部隊の優勢になった。

 覆面集団がたまらず道を開けるとその隙に彼らを無視して風間達は奥へと走って行った。

 あくまでも目的は中枢にある作戦本部にいる音無の救出と総司令部の制圧だ。

 背後から怒声と銃撃が来るが足の速さで普通の人間(鍛えていても)が叶うはずがなく、あっという間に風間達は覆面集団を振り切った。

 

 

「ちっ……。」

 

 風間達が通り過ぎた通路の影から、肩を抑える上から下まで黒づくめの覆面の男が出てきて舌打ちをした。

「…、退化したリリンと黒トカゲが混ざったゲテモノの体液だって?」

 服を破いて肩を露出すると、ジュクジュクと皮膚と肉が焼けただれていた。

「人類補完こそすべてを救済するただ一つの方法…、必ず実行されなければならない。そのために邪魔なのは…、排除しなければ…。」

 そう呟きながら、男は覆面を掴んで一気に脱いだ。

 薄暗い空間に銀色の毛髪が妙に輝いていた。

 銀髪の男は、通信機を取り出し。

「碇ゲンドウは、これでお終いです。あの男は大切な妻の魂を宿した初号機をゴジラに破壊させる暴挙に出ました。あの男が望む補完計画はこれで潰えることでしょう。」

『そうか…。ご苦労だった。』

「すべては人類補完のために。」

 男は、通信を切ると、音もなくその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「機龍フィアを下がらせるよう要求しろ。」

「しかし…。」

「いいからやるのだ。」

「は、はい…。」

 青葉が仕方なく動いた。

「ダメよ! そんなことしたら初号機が! シンジ君が死んでしまうわ!」

 音無が叫ぶ。

「それがどうした?」

 冷たく言い放ったゲンドウに、音無は目を見開いた。

 こんな男がシンジの父親なのかと怒りが込み上げ、拘束されていなければいますぐに飛び蹴りを入れたかった。

「無駄よ。あの男に何を言っても。」

 ミサトに抑え込まれているリツコが音無に言った。

「へ、へへ、返信が返ってきました。」

「なんだ?」

「『飲めるか、馬鹿野郎。』っと……。」

 それを聞いたゲンドウは、ピキリと血管が浮いた。

 するとゲンドウが何かのスイッチを取り出した。

「こちらの要求を飲まないのならネルフを今ここで爆破させると言え。」

「なっ!」

 リツコが驚愕した。

 ネルフの自爆装置はMAGIで制御しており、ジオフロントに使徒が侵入したりするなどのよっぽどの非常時以外では動かないはずだった。

「MAGIのプロテクトを突破するなんてできるはずがないわ! ハッタリなんて通用すると思っているのですか!?」

「そう思うなら勝手に思っていたまえ。」

「!!」

 リツコは、直感で感じた。自爆装置の引き金をゲンドウが握ってしまっていると。

 何らかの方法でMAGIから自爆装置の制御を奪ったのだとしたら、どうやってと、リツコは思考をグルグルさせた。

 

「やめるのだ、碇!」

 

 そこへ冬月が駆けつけた。

 だが肩を負傷しており、肩を押さえる手が血塗れになっていた。

「こんなことをしても無駄だ…。ユイ君を永遠に失うことになる! あの破壊神に彼女を殺されるところを、私に見させないでくれ!」

「冬月…。」

 ゲンドウがゆらりと冬月の方を見た。

 その顔を見た冬月は、顔を蒼白とさせた。

「い、碇…おまえは…。」

「もうすぐ、もうすぐだ…。ユイ。」

 首を戻したゲンドウは、冬月のことなどもう気にも留めていない様子だった。

 冬月は、ズルズルとその場にへたり込んだ。

「碇司令、機龍フィアが!」

「むっ?」

 モニターを見ると、ゴジラに地面に叩きつけられ続けていた機龍フィアが半分ぐらい埋まっていた。

 機龍フィアがぴくりとも動かなくなったからか、ゴジラが初号機の方に向き直った。

 ゲンドウの顔が歪んだ歓喜の色に染まった。

 モニターにゴジラが一歩一歩と初号機に迫っていく光景が映っている。

「そうだ…。行け、行け! ユイ、間もなくだ、もうすぐ…!」

 

 っと、その時。

 警報が鳴り響いた。

 それは、使徒が出現した時の警報音だった。

 

「な、なんだと!?」

 使徒はすでにゴジラに殲滅されたはずだった。

「何事だ!」

「特殊装甲板内部の配管に使徒が浸食しています!」

「! さっきの使徒…。こんな時に!」

 

「グッドタイミング…、バッドタイミングか?」

 

 椅子を蹴倒して立ち上がっていたゲンドウの後頭部に、ゴリッと固い何かが押し付けられた。

 そして手に持っていた自爆装置起動のスイッチが叩き落とされた。

「!?」

「てめーの企みはこれで終いだ。」

 風間が拳銃をゲンドウの頭に突きつけたままそう言った。

 周りにいた覆面の男達は、いつの間にか他のミュータント兵士に背後を取られ両手を上げた状態になっていた。

「風間少尉!」

 音無は、味方が来てくれたことに歓喜した。

「風間…少尉…!」

 リツコは、見知った男の出現に心底安堵した。

「碇シンジを今すぐエヴァンゲリオンから脱出させろ!」

「さ…せない…。」

「なに!?」

 リツコを押さえていたミサトが突如として動いた。

 突然のことに驚いた近場にいたミュータント兵士がミサトからの攻撃にダウンした。

「エヴァ………、うぅ…う。し…と。……おとう…さ…ん……。」

 うわ言のように言葉を紡ぎながら凄まじい戦闘能力で次々にミュータント兵士を倒していくミサト。その巻き添えで覆面の男達までダウンする。

 その動きはもはや人間のそれじゃない。

「ちぃっ!」

 ゲンドウを押しのけて下へ飛び降りた風間がミサトと対峙した。

 鋭く重い蹴りを受け止め、床にたたきつけるが、ミサトは掴まれている足を折って回転し、風間に一撃を入れた。

「ぐ…、なめるな……!」

 手加減なしの殴打がミサトの体に打ち込まれ、ふらついたところで腕をつかみ床に叩きつけて両の肩を外した。

 さすがに四肢を負傷したミサトは、ピクピクと反応するがこれ以上の動きはなかった。

「ミサト…。」

 リツコが悲しげに眉を寄せた。

 

「か、葛城…。」

 

「加持君!」

 そこへ頭から大量の血を流した加持がフラフラと歩いてきて、ミサトの傍に跪いた。

「葛城…、葛城…。」

 加持はミサトの頭を抱き起し、抱きしめた。

 

 

 っと、その時。

 モニターから凄まじいゴジラの雄叫びが聞こえた。

「しまった、初号機が!」

「あ、あれは…。」

 ハッとしてモニターを見た時、そこに映っていたのは。

 

 ゴジラの後ろからダイブするようにしがみつき、ゴジラを前のめりに倒した土まみれの機龍フィアだった。

 もう目の前までゴジラが迫っていたため、初号機に当たり、射出機ごと初号機が斜め横に倒れた。

「エントリープラグ、強制排出、急いで! 配管を切断して電流が流して使徒の侵入を止めるのよ!」

「了解!」

「ダメです、信号を受けつけません!」

「初号機の信号がブロックされています!」

「なんですって!」

 どうやら自爆装置だけじゃなく、エヴァンゲリオンの制御まで奪われていたらしい。

 騒然とする中、ゲンドウの狂ったような笑う声をリツコは聞いた。

「機龍フィアに連絡を! 初号機から何が何でもゴジラを遠ざけて!」

「機龍フィアから高エネルギー反応!」

「ああ、ゴジラが!」

 次の瞬間、目と関節や装甲の隙間が赤々と光りだした機龍フィアの腹部から絶対零度砲が放たれ、ゴジラを凍らせた。

 凍らせたゴジラから崩れ落ちるように地面に倒れた機龍フィアが全身から煙を吐きながらすぐに立ち上がり、初号機に近寄った。

 初号機の背中を掴むと、首筋にあるエントリープラグのある部位の装甲を剥がした。

 そして尖った指でエントリープラグを摘まみだした。

 それを目にしたゲンドウが目を見開き、言葉にならない声で何事か叫んだ。

 機龍フィアの背後でゴジラが氷を破って怒りを露わにした。

 エントリープラグをしっかり持ち直した機龍フィアは、もう片手で掴んでいる初号機を振り返りざまにゴジラに放り投げた。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「…よかったですわね。あなたの望み通りになりましたわよ?」

 頭を抱えて絶叫するゲンドウに向けて、リツコが嘲笑を浮かべてそう言った。

 

 

 初号機を投げつけられたゴジラは、初号機を掴み、まず右腕を引きちぎった。

 更に足を掴み根元から千切り、放り棄てた。

 頭を掴み、地面に叩きつけた。それだけで初号機の背骨が折れたのか上半身と下半身があり得ない方向に曲がった。

 ゴジラが残った左腕を持ち上げた

 背骨部分を掴み、ギリギリと引っ張る。

 あまりの怪力に、腹の筋から体液が漏れ出し、やがて内臓が溢れ出始めた。

 そしてついに真っ二つに引き裂かれ、内臓と背骨が露出した上半身が地面に落された。

 初号機の頭部が陰り、ゴジラの足が無慈悲に踏み下ろされた。

 そして何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。ゴジラは、初号機を踏み潰し続けた。

 頭部の原型はなくなり、胸部も潰れ、粉々になった骨が潰れた肉と混じり、内臓が流れ出て、何の液体なのか、そもそも固形物だったのか分からないドロリとした赤やら白やらピンクやら色んな色が混じったものが地面に広がった。

 あまりの惨状に、作戦本部にいたマヤが吐き気を催し口を押さえた。

 ほとんど原形を失った初号機からゴロリとコアが転がり出てきたのを見たゴジラは、不機嫌な鳴き声を漏らすと、一歩後ろに下がり背びれを光らせた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 彼女は、さっきまで自分の内にあった我が子の気配が消えたことに困惑した。

 あんなに怯えていたのに守ってやらなくてはと思った。

 ……それにしても外がやけにうるさい気がする。

 

『……たく、な…い! し……く、な、い!』

 

 幼い子供の声が聞こえた気がした。

 視界が少しずつ開けていく。

 外はどうなっているのだろう?

 そう思って彼女が見たのは……。

 黒い巨大な怪獣が青白い熱線を吐きだす寸前の姿だった。

 

 そこで彼女の意識は完全に途絶えた。

 

 

 




とりあえず、初号機の一時的な退場となりました。
今後どうしようかと試行錯誤しながら続きを書いてます。

そろそろサブタイトルも思いつかなくなってきたし、公式でゴジラ対エヴァが発表されたのもあり、タイトル自体の変更も考えています。
だってこんな二次が混じって検索に引っかかりますから…。
まさかこんなことになるなんて夢にも思いませんでした。

バルディエルは、次回でほんとうに殲滅となる予定です。

銀髪の人物は、最後の使者の彼ではありません。念のため。ただ一応関係はあります。


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IFストーリー  『風間レイです』

試験的に書いたものです。

本編とは関係ない、もしもの話。短編?


綾波レイが風間の妹になったという設定です。

オリキャラ椎堂ツムグは、覗きとセクハラ常習犯。


 

 

 

 

 

 綾波レイは、その出生のため肉親も親族もいない。

 遺伝子的には、碇ユイのコピーであるため、ユイの息子である碇シンジの血のつながった親類となるのだが…、使徒と人間のハイブリッドということでこれまたややこしいことになっている。

 このかなりややこしい出生のうえに、彼女に関する情報が一切抹消された状態でエヴァのパイロットであるチルドレンとして登録されていたため、地球防衛軍に保護されてから彼女の今後についてどうするべきか大人達を悩ませた。

 人造人間とはいえ多少外見が普通じゃない部分はあるが人間とほとんど変わりないため、このまま人間として社会的身分の保証を発行するのは決まったが、14歳という未成年をそのまま社会に放り出すわけにはいかない。施設に預けて学業が終わり自活できるようになるまで生活させるという選択もあった。

 レイの選択にかかったのだが、しかし思ってもみない展開で、レイの件については解決することになった。

 

 M機関のミュータント兵士である風間勝範の義理の妹として、風間の家族になったのである。

 

 なにゆえこうなった?っと事情を知らない人間達は首を傾げる。

 きっかけは、エヴァから離されて喪失感のあまり投身自殺しようとしたレイをシンジが咄嗟に助けようとしたものの一緒に高所から落下し、それを風間が二人を助けたことだったらしい。

 風間はM機関所属のミュータント部隊トップクラスの強者。不器用だし、戦いに容赦のない性格から、根っからのお人好しで優しい尾崎とは対照的で、時に衝突することもあるため、ある意味で有名な風間が、まさかレイを妹として受け入れるとなど誰も想像していなかった。

 風間が保護者で大丈夫なのか?っという心配があったが、なんだかんだあって風間とレイの仲は良好であり、レイも風間によく懐いている。心配は無用であったようだ。

 こうして綾波レイは、風間レイとして生きることになった。

 

 

 

 

 風間が遠征訓練で長く防衛軍の基地から離れていた時であった。

「碇君、いまいい?」

「なに?」

「あのね…、お兄ちゃんがもうすぐ帰って来るんだけど、ご飯…何作ったら喜ぶ?」

「えっ?」

 もじもじするレイの言葉に、シンジは、困った。

 

 そこでシンジは、レイを連れて尾崎を訪ねた。(尾崎は基地で待機してた)

 尾崎は、風間と同期でM機関に保護された幼少期からずっと一緒にいる人物である。風間は、かなり一方的に尾崎をライバル視しており、戦闘訓練では必ず最後には尾崎との一騎打ちを所望するほどである。

「なるほど。風間の好き嫌いか…。」

「お兄ちゃんがベジタリアンだっていうのは知ってる。」

「まあ、風間は、自称ベジタリアンだけど、食べようと思えば何でも食べるからな。生まれたところがかなり過酷だったらしいし、訓練で野外訓練(サイバルで食料を入手し調理する)もあるから好き嫌いをしてたら戦いにならないって本人も言ってるしな。」

「自称…ですからね。本人は認めたがりませんけど。」

「お兄ちゃんは何が好き?」

 レイの直球な問いに、尾崎は腕組をして真剣に考えた。

「う~~~ん……、ラタトゥイユ…。」

「らた…?」

「トマトの野菜煮込みですね。確かフランス料理。」

 自炊できるシンジが補足を入れた。

「あと野菜料理なら別に選り好みはなかったと思うな。ああ、でもよくパスタを食べてるかな? バイキング形式の時なんか、ステーキ取らずに付け合わせの人参のグラッセとか茹でたブロッコリーとか山盛りで皿にとってたからみんなびっくりしてたのを覚えてるよ。熊坂教官に筋肉のもとが決定的に足りない!ってヒレ肉盛られてたな。」

「風間さんって洋食好みなんですか? 付け合わせ山盛りって…、あんまり味付けしないで野菜の味そのままのほうがいいんですか?」

「そうだと思うよ、俺が見た限りじゃ。」

「お兄ちゃん、私の料理…何も言わないで食べる。美味しいってまだ言われたことないの…。」

「そうか…。あいつも素直じゃないからな…。顔にも言葉にも出さないけど、きっと君に作ってもらった料理が食べれて嬉しいはずだ。俺も風間も、親がいなくてM機関の食堂の料理で育ったようなものだから。」

「そういえば、そうですよね…。M機関のミュータントの人達って……、セカンドインパクトで被害が酷かったところで覚醒したとか、生まれた人が多いって聞きました。」

 シンジがハッと思い出して口にしたM機関所属のミュータントの事情。

 尾崎も風間もであるが、セカンドインパクトによる大災害による被害が酷かった地域でミュータントの覚醒率と出生率が高い。被害が酷く、また治安の問題などもあり身内がいない者が大半を占めている。

 ましてや血のつながった兄弟というのは…。

「あっ。」

 シンジが気付いた。

「どうかしたいかい?」

「あ…、いえ……、なんていうか……、今、どうして風間さんが綾波を妹にしたのか分かったような気がして…。」

「?」

 シンジの推測に、シンジの隣にいたレイは、分かってないのか首を傾げていた。

「レイちゃん、風間が帰ってきたら、まず『おかえりなさい』って言ってあげるといいよ。」

「そしたらお兄ちゃん、喜んでくれる?」

「風間は素直じゃないけど、もしそっぷを向いたら間違いなく喜んでるって思えばいいよ。」

「分かった。やってみる。」

 レイは、グッと胸のあたりで拳を握って力強くそう言った。

 その表情は真剣そのもので、初めの頃あんなに表情がなかった少女が、ずいぶんと変わったものである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 風間帰還まで残り半日。

 

「は~あ、いいねぇ。血のつがなりながらなくたって精神、法律で家族になれるなんて素晴らしいよね。もう可愛い可愛い、あの子メッチャ可愛くなっちゃって、もう。これだから目が離せないんだよ!」

「だからって覗き見はダメよ?」

 風間の妹になったレイのことで可愛い可愛いとクネクネしながら言うツムグに、音無が呆れ顔で言った。

 ツムグは、その能力ゆえに他人のプライベートが丸見えなのである。見ないようにすれば見えないのだが、マイペースに生きてるこいつを注意してもあまり意味はない。ツムグが発見された当時からいる大ベテラン研究者すら匙を投げているのだ。

「失礼な! エロい意味で見てるわけじゃないよ! 美雪ちゃん。」

「そう言うなら覗き見は控えなさいよ。」

「いいじゃ~ん。見てて楽しいし、別に悪いことするわけじゃないんだからいいじゃん。俺にとって地球防衛軍は、家だし。そこにいる人らは家族みたいに思ってるんだから。」

「もう、ああ言えばこう言う…。覗きもセクハラも立派な犯罪よ。」

「最近、尾崎ちゃんと夜がご無沙汰だからって、そんなにムカムカしないでよ。」

「っ!!」

 ツムグのセクハラの一言に音無は、思いっきり吹きだした。そして激しく咳き込みツムグに背中をさすられた。

「…み、見て……。」

「見てない見てない。見たとしても、尾崎ちゃんが最近美雪に構ってやれてないってため息ついてるのを見たぐらいだから。っていうか、合ってたの? 最近、尾崎と美雪ちゃんからお互いの匂いがあんまりしないと思ったら…。」

「ツムグーー!」

「うひゃー、美雪ちゃん怒らないでよー。コーヒー熱い! 良い子は、夜がご無沙汰とかって言葉は大人になってからだからね! 人に向かって言っちゃダメだから!」

 ツムグは、音無に追いかけられながらどこかの誰かに向かって最後の部分を言った。

 

 こんなやり取りもいつものことである。

 他の研究者仲間が騒動に気付いて止めに入るまで音無とツムグのドタバタは続いた。

 

 

 




日常生活を書いてみたくて書いてみました。

この話では、尾崎と音無はもう結婚してるかも?
ただシンジとレイは、普通に友達状態です。
シンジに執着するアスカの話も交えて日常生活の話を気分転換に書いていければいいなと思ってます。


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第十八話  BARDIEL その2

 とりあえず書けた二話続けて投稿しようかと思います。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粘菌型の使徒バルディエルは、戦艦火龍、エヴァ参号機と順に取りつき…、そして今はネルフ本部を覆っている特殊装甲板の下にある配管に取りつき、ネルフに侵入しようとしていた。

 取りついた物を自在に作り変える能力を持つバルディエルは、配管を作り変え、蛇のような姿へと変じた。

 軟体の身体を巧みに操り、狭い隙間を潜り抜け、ネルフ本部へと向かっている途中だった。

 参号機の時にコアを潰されたことと、さすがに三度も取りつくものを変えたため、これ以上は劇的な変化はできないが、アダムのもとへ行くには十分だと判断した。

 しかしバルディエルは、ふと立ち止まった。

 進んだ先に誰かが待ち構えている。

 

 小さい。

 集団だ。

 リリンだ。

 しかし、なぜだろう?

 先頭にいるリリンは小さいのに大きく見える。……ような気がする。

 

 バルディエルは、尾崎の姿を見て僅かにたじろいた。

 

「放水開始!」

 

 尾崎が手を上げると同時に、尾崎の後ろに控えていたミュータント兵士達がホースを構えた。

 猛烈に嫌な予感がしたバルディエルは、もと来た道を猛スピードで引き返し始めた。

 自分がさっきまでいた場所に水が流れ込んでくる。

 

 あの水(?)に触れたらマズイ!

 

 っという思考がアダムのところに行こうとする思考を上回り、とにかくバルディエルは水(?)から逃げた。

 しかしある程度引き返したところで後方に人間達の気配があるのに気づいた。

 

「撃てーーー!」

 

 光る弾(メーサー銃)を発射され、ATフィールドで防ごうとしたもののなぜか貫通した。

 以前の記憶(使徒マトリエル)から、これで一回死んでいることを思い出した。なぜ、すぐに思い出さなかった? 混乱してるからだ! 水(?)から逃げるので!

 人間達(ミュータント兵士)の襲撃にあい、バルディエルは混乱していた。

 自分よりもはるかに劣る小さい存在が、粘菌型の使徒である自分に勇敢に、それでいて策をめぐらせて挑んでくる。

 後方に水(?)、前方にメーサーの銃撃。

 逃げるならば…、下だ!

 配管を破壊し、狭い中をを軟体の身体を利用して潜り抜けて行く。

 ネルフ本部にさえ行ければ、アダムに会える。

 アダムに会って融合することが自分達、使徒の存在意義も同然だ。

 

 邪魔をするな、リリン。

 

 だだ広い通路の天井から落下したところで待ち構えていたのは、数台のメーサータンク。

「怯むな!」

「メーサータンク、前へ!」

「撃て!」

 ATフィールドを貫通し、メーサーの光がバルディエルの体を所々砕いた。

 他の部位で空いた部分を補修するとバルディエルの体は失った分だけ縮んだ。

 もう増殖するほどの余力が残っていないのである。

 バルディエルは、頭部にあたる部位を縦に割って口とし、叫び声のような鳴き声をあげながら突撃し、メーサータンクと兵士達を蹴散らした。

 すると天井からメーサーを撃たれた。メーサータンクに比べると弾は小さい。

 見ると、自分が空けた天井の穴から尾崎がワイヤーを伝いながらメーサー銃を撃ってきていた。

 

 なぜだ?

 なぜ己は、このリリンを……。

 

 背筋はないが長い身体が震える。知らない感覚にバルディエルは、一瞬硬直した。

 

 こんな“モノ”、知らない。

 

 バルディエルは、その感覚を振り払うように尾崎に向かって頭を伸ばし、口を開けた。

 そのまま尾崎を丸呑みにした。

 

 こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。

 

 こんなモノ(恐怖)など知らない!

 

 バルディエルの腹部にあたる部位が、橙色の光が発生し、ボコンッと膨れ上がった。

 メーサー銃の弾が内側から貫通し、穴をあけた。

 

 なんだ!?

 何が起こって…。自分は、何を?

 このリリンは、……ナ、ニ、モ、  ?

 

 疑問が次々に浮かんできては消え、バルディエルは、徐々に視界も思考も暗闇に飲まれた。

 鋼鉄の床に頭部にあたる部位が倒れこみ、バルディエルは、息絶えた。

 

 バルディエルの口から、尾崎が這い出てきて、動かなくなったバルディエルを確認した。

 

 

「………俺が、何者かって?」

 

 バルディエルの最後の思考を感じ取った尾崎が呟いた。

 

「…俺は、……俺だ。そのはずだ。」

 もう動かないバルディエルに向けて、尾崎は言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 特殊装甲板の上。つまり第三新東京では、ゴジラと機龍フィアの戦いが続いていた。

 全身から湯気を出し、金属のあちこちが赤々となっているオーバーヒート状態であるが、ゴジラとやり合う機龍フィア。

 科学部の推測だと内部の冷却装置がイカレテしまっているかもしれないということらしく、操縦席の方は灼熱地獄もいいところだとか。中にいるツムグは、オーブンで焼かれているも同然の状態かもしれないとも言われた。

 初号機から引き抜いたエントリープラグは、ゴジラが初号機を潰している隙に近くの部隊に渡しておいた。

 ゴジラが、ふと手を止めた。

 何かがいなくなったのを感じたかのように。

 そして機龍フィアとある程度距離を保ったまま、宙を見上げ、それから俯いて舌打ちでもするように口元を歪めた。

 機龍フィアは、その隙に左腕を失い地面にへたり込んでいる弐号機の前に来て、ゴジラから守るように立った。

 ゴジラは、そんな機龍フィアをちらりと見た後、フンッと鼻をならし、東京湾の方へ歩き出した。

 

「おいおい、ゴジラがエヴァンゲリオン弐号機を無視しして行くぞ。エヴァンゲリオンは、攻撃の対象じゃなかったのか?」

「さあな、ゴジラにはゴジラなりに優先順位ってのがあるんじゃないか?」

「とにかく今回も何とかなったな。」

 

 エントリープラグの中にいたシンジは、保護され、意識がなかったためすぐに救急隊によって運ばれていった。

 人質にされていた音無も保護され、事件の犯人であるゲンドウは、心神喪失状態で連行されていった。

 意識を失っているシンジについて、エヴァとの神経接続の過程で精神汚染などの障害が発生した可能性があるとして、赤木リツコが診察をさせてほしいと願い出た。

 リツコはネルフから離れることを禁止されていたが、彼女以上にエヴァに詳しい人間がいないためその願いは許可された。

 

 

 

 こうして、使徒バルディエルとの戦いは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 目を覚ましたシンジは、左手に温かい物があることに気付いた。

「…綾波?」

 怪訝に思って横を見ると、ベッドの端で椅子に座ったレイが頭をのせて寝ていた。

 温かさの正体は、シンジの手を握るレイの手だった。

 スウスウと静かな寝息を立てて眠っているレイの寝顔。

 シンジは、じっとレイの顔を見た。

 白い。こういうのを病的と言うのだろうか、透き通るようなと言うのだろうか、とにかく白い。

 こんなに白くても一応は健康らしい。

 不思議な青い髪の毛。

 綺麗な顔のラインと目鼻立ちは、どこかで見覚えがある面影があるものの、シンジには思い出せなかった。

 それにしても…だ。

 薄紅色の唇につい、目が行ってしまう。なぜだろう?

 レイは、起きる気配がない。

 シンジとて男だ。それも思春期真っ只中の。

 病室のベッドではあるが、ベッドの横で気になっている美少女が寝ていて、しかも起きる気配が全くない状態だとどんな気持ちになるか。

 レイの綺麗な寝顔に見惚れつつ、シンジは無意識に唾を飲んだ。

 恐る恐る、ゆっくりと、シンジの顔がレイに近づいていった。

 その時。

 

「シンジ君!」

「!? わあああああ!」

 

 バターンッと病室の扉が開いて音無が入ってきたので、シンジは体を起こして悲鳴を上げた。顔と首を真っ赤にして。

「大丈夫!? シンジ君!」

「し…心臓止まるかと思った…。」

「えっ!? 心臓が!?」

 びっくりしたという意味と、今自分がやろうとしたことについての羞恥によるものなのだが、音無は結構勘違いしている。

「ナースコールしないと!」

「あ、あ、ああ、ち、違います! びっくりしただけですから!」

「えっ、そうなの? よかった…! とにかく、無事で!」

 シンジの肩を掴み、項垂れ涙する音無に、シンジは、若干混乱した。

「えっ? あの…、何が?」

「…覚えてないの?」

「えっ…っと……、僕………………、そうだ…、またあの紫色のロボットに…、それで、…頭痛い……。」

 思い出した途端頭痛が走り、シンジは顔を歪めた。

 シンジは、額を押さえながら音無をちらりと見て、音無の顔の片頬に大きなガーゼが張ってあることに気付いて目を見開いた。更に青あざや、瘡蓋などが顔のあちこちにあった。

「お、おおお、音無さん、顔!」

「あ、これ? 大丈夫よこれくらい。」

「で、で、でも…。」

「う……うん? 碇君?」

 その時、レイがやっと目を覚ました。

 目をこすりながら、寝ぼけた目でシンジの顔を見たレイは、みるみる内に目を見開いて。

「碇君!」

「わっ! あああああああああ、あや、なみぃ!?」

 ギュッと抱き付かれてシンジは、茹蛸のように真っ赤になった。

「………よかった。」

「っ…。」

 ぽつりと呟かれた言葉で、レイがどれだけ心配していてくれたのかが分かって、シンジは我に返った。

 

「目が覚めたのね?」

 

 そこへ、リツコが現れた。

 リツコの姿を見たシンジは、頭の中にハテナマークが浮かんだ。

「あらあら、お邪魔だったかしら?」

 と言ってクスクス笑われ、シンジはますます混乱した。

「レイちゃん、そろそろ離してあげなさい。」

 音無が苦笑しながらレイをシンジから引き離した。レイは不満そうにしていた。

「気分はどう? 頭が痛む?」

「えっと…、ちょっと頭が痛みます…。」

「そう…、しばらく痛みは取れないでしょうけど、頭痛薬でも処方したほうがいいかしら?」

「あ、あの…。」

「なにかしら?」

「あなたは、誰ですか…?」

「…まあ、あれっきりだったし覚えてなくても仕方ないわよね。私は、赤木リツコ。元・ネルフの科学者で、あなたが乗ったエヴァンゲリオンを作って管理していたのよ。」

「えっと…、うーん。ここまで出かかってるんですけど。」

 と言って喉を示すシンジに、リツコはクスッと笑った。

「もしかして覚えてないのかしら? 最初のあの時よりはマシみたいね。」

「最初? ………あっ。」

 言われて、何のことかと思い出そうとしたシンジは、あの恐怖と衝撃を思い出し顔を青くした。

 音無が慌ててシンジの背中を摩った。

「碇君。」

「…、ハアハアハア…。だ、大丈夫。」

 汗が噴き出て呼吸が荒くなるが、心配するレイにシンジは、笑顔を向けた。

「その様子なら、問題なさそうね…。私はこれで失礼するわ。ゆっくり休みなさい。」

 そう言ってリツコは、笑顔を浮かべ、病室から出ていこうとした。

「赤木博士。」

 レイが、リツコを呼び止めた。

「どうするかはあなたの自由よ。」

「…はい。」

 リツコは、振り返らずそう言うと今度こそ出て行った。

 リツコが出て行った後、レイは、何かを決心したような表情をして音無に向き直った。

「音無博士。お話を聞いてもらえますか?」

「なに? ここじゃ言えない話?」

「?」

 レイは、音無に話があると言った。シンジは首を傾げレイを見た。

「はい…。」

「そう…、じゃあ、隣の空き病室で話をしましょう。」

「はい。」

 レイは、音無と共に隣の空いている病室に行った。

 残されたシンジは、何を話しているのか気になったが、盗み聞きするわけにはいかないのでここにいることにした。

 

「シンジ君!」

 

「尾崎さん!」

 病室の扉が開いて、尾崎が飛び込んできた。

「よかった! 無事だったんだね。」

「はい。なんとか…。あ、音無さんが…。僕のせいで…。」

「君の責任じゃないよ…。悪いのは……、君の、お父さんだ。」

「……父のせいなんですよね。」

 シンジは、音無と自分を誘拐したのが自分の父であるゲンドウであることを覚えていた。

「やっぱり僕のせいだ。僕がいたから音無さんが巻き込まれたんだ。」

「そんなこと言ってると美雪にデコピンされるぞ?」

「でも…。」

「君のせいじゃない。いいね?」

 強く、言い聞かせるように言われ、シンジは、それでも食い下がったが、仕方なくといった様子で頷いた。

「君のお父さん。碇ゲンドウは、地球防衛軍が管理する監獄に送られた。」

「……当然だと思います。」

 シンジは、恐怖の対象だった父親が最強と謳われる監獄行きになったと聞いても何も感じなかった。それほどまでに情は無くなっていたらしい。

「シンジ君は賢いから、何も言う必要はないね…。」

「あの人がそれだけのことをしたのは理解しているつもりです。」

 シンジは、どこか自虐めいた笑みを浮かべて見せた。

 尾崎はそれを見て、これ以上言うのはよくないとこの会話を終わらせた。

 するとそこへ、レイと音無が戻ってきた。

「美雪も来てたのか。」

「尾崎君、シンジ君。大事な話があるの。聞いてくれる?」

「……。」

 真剣な表情でそう言う音無と、音無の隣で黙っているレイに、尾崎とシンジは、顔を見合わせた。

 

「碇君…、尾崎さん……、私……、人間じゃない。」

 

 レイが、語った。

 自分は人ではないのだと。

「正確に言うと、人間と使徒の混合らしいの。」

「…どういうことだ?」

「火傷するのよ。」

「やけど?」

「ツムグの体液で。」

「!」

 それが意味することを理解し、尾崎は目を見開いてレイを見た。

 レイは、無言で右腕の包帯を外し、火傷の跡を見せた。

「それ…、ツムグにやられたのか?」

「違う…。雨が…。」

「影のような使徒の時にツムグの体液を散布したでしょ? それを浴びたらしいのよ。」

「綾波? どういうことだよ?」

「碇君…、私…。」

「綾波が人間じゃない? なんで?」

「私は、あの人に…作られた…。人形だった。」

「あの人って、碇ゲンドウのことでしょ。」

「!?」

「レイちゃんには悪いけど、あなたが保護された時に細胞の検査をしたのよ。」

「そう…。」

 レイは、すでに調査が及んでいたことにそれ以上は追及しなかった。自分の容姿が人間離れしていることは自覚していただけに。

「詳細情報は、赤木博士から直接聞くしかないけれどね…。」

「私が頼んだって言えば…、私の資料…、送ってくれるかも。」

「本当にそれでいいの? 黙っていることだってできたはずよ。」

「ダメ……、今のままじゃ……、私……、ゴジラ……が、来る。」

 レイは、胸の前で両手を握り俯いてそう言った。

 それを聞いた三人は、驚愕した。

 レイが使徒の要素を持つせいで、いずれはゴジラを呼び寄せる可能性を秘めていることに。

 今のところゴジラは、使徒を倒すことに優先し、その次にエヴァンゲリオンを破壊する(一部無視したりと気紛れを発揮しているが)。

 それが全て終わった後どうなるか。考えもしなかった。今が精いっぱいで。

 もし少しでも使徒の存在に過敏に反応するのなら、レイのような存在を見逃すだろうか?

 少しのG細胞に反応するゴジラが見逃すとは思えない。

「みんなを……、死なせたくない。」

「レイちゃん…。」

 レイが微かに震えていることに音無が気付いた。

 音無は、レイの肩を掴んで。

「大丈夫! 私達があなたを救う方法を探すわ!」

「でも…。」

「でもじゃない! 可能性はあるわ!」

「み、美雪。」

「だって、あのバカがこんなこと見逃がすはずがないじゃない!」

「! それもそうか、なんであいつはいつも黙ってるんだろうな。」

「あ、あの…、話が見えないんですけど。」

「???」

 何か心当たりがあるらしい音無と尾崎の反応に、シンジもレイもハテナマークを浮かべていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……なあ。」

「……。」

「常々バケモノだって思ってたけどよ…、改めてバケモノだって思い知ったって感じだぜ。」

「そうだな…。」

 

 ツムグの監視ルームで、そんな会話が行われていた。

 機龍フィアがドッグに収容された後、凄まじい高温に曝されていたツムグが操縦席から運び出された。

 まずハッチを開けた時の、人肉が蒸し焼きされている時の悪臭が立ち込め、そして運び出されたツムグの有様に嘔吐する者達が続出。

 骨までじっくり蒸し焼きされたというのに、半日もせずに全回復。

 これをバケモノと言わずしてなんという。そんな話でもちきりだった。

 ちなみにツムグが発見された当初から、彼の体を使った人体実験に立ち会ったことがある古参は、生きたまま数千度の熱で焼くという実験があったのを知っていたので蒸し焼きされてもすぐに回復したことについてあまり驚きはしなかった。

「うふふふ…、さすがです、痺れちゃいますぅ。」

「いやいや、ナッちゃん痺れちゃだめだよ。」

 全裸のツムグがナツエに背中を拭いてもらっていた。

 看護師のナツエは、ツムグの身の回りの世話などを任されている。

 皮膚も肉もすべて再生したことで、スベスベになっており、ほんのり赤みを帯びた皮膚はまだ熱をもっている。

「まるでオーブンで焼かれる豚の丸焼きみたいな状態だったのに逆再生したビデオみたいに治っていくんですもの。すごいですよぉ。」

 嬉しそうにツムグの体を拭きながら言ってくるナツエに、ツムグは微妙な顔をしていた。

「正直、あんまり嬉しくないかな…。」

「そうですかぁ? 不老不死って大昔からの永遠の憧れだと思うんですけどぉ。」

「俺は、不老不死じゃないよ。」

「またまた~。」

「いつか死ぬよ。いつか、ね。」

 ツムグは、そう言って微笑んだ。

 ナツエに着替えを手伝ってもらったあと、ツムグは立ち上がった。

「どこか行くんですかぁ?」

「ちょっと、大事な話をしにね。」

「いってらっしゃ~い。うふふ。」

「いってきまーす。」

 ナツエに向かってひらひらと手を振り、ツムグは、その場から消えた。

『……なぜ止めない。』

「止めても止められないですよぉ。」

 監視ルームからのツッコミに、ナツエは肩をすくめて答えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ツムグがテレポートした先には、尾崎と音無がいた。

「ツムグ! いいところに来たわね。」

「二人が俺のところに尋ねに来ると思ったから、手っ取り早くこっちから来たよ。」

「そうか。なら話は早いな。」

「あの子…、レイちゃんのことでしょ?」

 ツムグがそう言うと、音無がジトッとツムグを睨んだ。

「やっぱり知ってたのね?」

「あの子が普通じゃないってことは、自分の口から言った方がいいと思ったんだ。それにまだゴジラさんは気付いてないし。まだ時間はある。」

「彼女をゴジラから守ることはできるのか?」

 尾崎が聞くと、ツムグは大げさにう~んと唸って考える恰好をした。

「微妙だね。」

「びみょうって…。」

「こればっかりは、俺もどうしようもないっていうか…。賭けになる。」

「かけ?」

「あの子を完全な人間にすることができるよ。」

「なんだって!」

 まさかの言葉に二人は驚いた。

「ただし。」

 ツムグが人差し指を差し出した。

「賭けになるって言ったよね? 失敗すればあの子は確実に死ぬ。」

「何をする気なの?」

「俺の血…、いや体液…、まあ何でもいいけど、骨髄液が一番いいかな? それをうす~~~くしたのを一定量注射するだけ。」

「…そ、それだけ?」

「濃度と量間違えたら、即死。」

「賭けもいいところだろ!?」

「身長とか体重とか、その時の体調とか…、一番は本人の生きたいって意思力に関わって来るから、言いたくても言えなかったんだよね。だってあの子、最初の頃死にたがりだったわけだし。」

 レイは、地球防衛軍に保護された最初の頃は、消えたいという願望に取りつかれており、実際に自殺未遂(シンジにより未遂で終わる)をしている。

 また人間らしさというものが薄く、最近になってかなり人間らしい部分が強まったと思われるが…。

「これって成功すれば、俺の体液で死なずに健康になるってとうの昔に諦められてたことが叶うんだよね。ただ個人差があるからさ…。ほんと一発勝負になるよ。それでも人間になりたいならやってみるかどうか、あの子に聞いてみたら?」

「そうなったら一気にツムグの細胞の有用性が高まるってわけね。」

「それは、俺としてはよくない傾向なんだよね~。」

 ツムグは、複雑そうに顔を歪めた。

「ツムグは嫌なのか?」

「嫌って言うか、よくないなって思ってる。人間ってさ便利な方に行っちゃう癖があるから、色々間違えちゃうじゃん? 俺みたいなのに頼るのはダメだよ。」

 ある意味で死にたがりのツムグにしてみれば、戦って死ぬために生かされていることより、人類のためだとかそういう大義のために生かされることに抵抗があった。

 ましてやナツエが言っていたように、不老不死などと言われるのは…。

「でもさ、目の前で泣いてる子供がいたら、それはもっとよくないから、こうして来ちゃったわけなんだけど。」

「ツムグ…。」

「ほんとに賭けだから。はっきり言って確率は、10パーセントもないと思う。」

「ゼロ…ではないのね。」

「0パーセントじゃない。それだけは言える。」

「分かった。」

「でもさ…、あの子俺のこと怖がってるんだよね。そこんとこ大丈夫かな?」

「…なんかやったの?」

「何もしてないって。たぶん本能? が…、俺を拒否ってるじゃないかな。全身の細胞が生まれ変わる以前に、恐怖のあまりにショック死起こさなきゃいいけど…。」

「不吉なこと言わないで!」

「美雪ちゃん達だけじゃできないから、防衛軍の科学部とか、赤木博士とかの協力がいると思うよ。まずは、資料請求。そこからだと思う。」

「言われなくてもそうするしかないわ。」

「よろしく頼むよ。」

「ツムグ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 ツムグは、そう言って笑った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 いつものどこだか分からない暗い空間で、ゼーレの会議が開かれていた。

『碇の計画は潰えた。』

『これで我々を阻むもののひとつが消えた。』

『初号機が潰された今、リリスによる補完を。』

『神への道を。』

『破壊神などと呼ばれるゴジラも次の使徒を前に大手を振るってはいられまい。』

 次に現れる使徒に付いて、ゼーレはすでに把握していた。

 

 

 

 

 




バルディエルは、戦艦火龍→エヴァ参号機→配管の順で殲滅されました。
参号機の時点でかなり弱っていたので尾崎の手で倒されました。

レイを完全な人間にするというのは、執筆当初から決めていました。
ツムグこのために作ったような設定です…。後付もいいところかな?



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第十九話  シンジの告白とレイの気持ち

続けてもう一話。

サブタイトルのイベントをやります。
でも私の文才では大したものは書けませんです…。


 

 

 

 

 

 

 自分とは違うものに過敏になるのは、生物の本能として当たり前と言えば当たり前である。

 青い髪の毛、赤い瞳、白すぎる肌。綾波レイは、見た目から人間離れしていた。

 彼女自身の立ち振る舞いもあり、他人と親しくなかった彼女であるが、地球防衛軍では意外にもすんなり受け入れられていた。

 それは使徒の要素を持っていると事が周りに知れても変わらなかった。

 そのことに一番驚いたのはレイ自身だったりする。

 

「人外って言ったら、あいつがいるから慣れているのもあるんだろうな。」

 

 食堂にいる同僚がそう言ったので、レイは目を丸くしたのだった。

 あいつとは、椎堂ツムグのことである。

 

「人間じゃないって言ったら、尾崎君達もそうじゃないって言えるでしょ? 一々気にしてられないわよ。」

 

 志水にそう言われ、レイは、あっと声を漏らした。

 人間じゃないと言ったら、ミュータントと呼ばれる者達もそうなる。

 G細胞完全適応者と呼ばれる人外であるツムグがちょろちょろして、周りが慣れたというのが一番大きいかもしれない。

 それになにより……。

 

「人外って最高じゃないですかぁ。」

 

 なんて言うマッドな人間達がいるのだ。

 さすがにこれにはレイも若干引いた。

 

「わたしは君には興味はあまりない。」

 

 っと、40代そこそこの白衣にメガネという見るからに研究者という見た目の男、阿辺(あべ)が言った。

 彼は、レイの体細胞の検査をした中心人物なのでレイの体の検査を担当した。

「奴の印象が強すぎるから案外君に興味のある人間は少ないんじゃないかな? 生きたまま解剖されるなんことはないだろうから安心したまえ。」

「……。」

 そう言われて、レイは、ちょっと複雑だった。

「とは言え、奴の体細胞を使った実験には興味があるから参加したがってる人間は多いよ。もちろん私も。」

「…奴というのは、しどうつむぐのこと?」

「そう、そいつ。ところで一応聞くが、君は頭部を粉々にされても復活するのかい?」

「……無理です。」

「そう、それは残念だ。やはり私好みじゃない。」

 

「頭を粉々が好みとか、それどうなの?」

 

「ショット!」

「おおっと!」

 すかさずツッコミを入れて来た神出鬼没のツムグに向けて、どこから出したのかショットガンを、躊躇なく頭に向かって撃つ阿辺。間一髪で避けるツムグ。

「こら、壁に穴があいじゃないか。避けるんじゃない。」

「血と脳をぶちまけて汚す方がいいって?」

「それで、何しに来たんだ?」

「んー。ちょっとね。」

 ツムグは、そう言いながらレイの方を見た。

 ツッコみができる人間がいたら、上記の物騒なやり取りを日常会話みたいにやっていることについてツッコんでいただろう。

 ツムグの視線を受けたレイは、びくりっと体を震わせた。

 ツムグは、無言でレイを見つめた。レイは、たらたらと汗をかき、不安と恐怖を和らげるためか胸の前で手を握った。

 それから数分ぐらいだろうか、その状態が続いた。

 やがてツムグが、フッと笑い。

「俺が怖い?」

 レイは何も答えなかった。

「俺は君に危害を加えるつもりはかけらもないけど?」

「……。」

「君達には幸せになってほしいって思ってるんだけどな…。」

「っ…。」

「怖がるのは悪いことじゃない。君はどうしたい? 生きたい? それとも死にたい?」

 ツムグの問いかけに、レイは、唇を微かに震わせた。

「………た、ぃ。」

「ん?」

「…生き…たい。」

「よく言えました。じゃっ。」

 そう言って笑ったツムグは、姿を消した。

 ツムグがいなくなり、レイは、ヘナヘナと崩れ落ちた。

「まったく、何をしに来たんだ、あいつは。大丈夫か?」

「……。」

「大丈夫そうだな。」

 全然大丈夫じゃないのだが、そう判断された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一通りの検査を終えたレイが廊下を歩いていると、廊下の先にシンジが立っていた。

「碇君…。」

「あ…。」

 レイの声でシンジがレイの方に振り返った。

 しかしすぐに目をそらされてしまい、レイは、俯いた。

「ごめんなさい。」

「なんで謝るの?」

「だって私は…。」

「人間じゃないのは聞いた。音無さんからも聞いた。」

「それだけじゃないの。私は…。」

「母さんのこと?」

「えっ? ……聞いたのね。」

 シンジは、音無から聞いていた。

 リツコから渡されたレイについての資料に、碇ユイ…つまりシンジの実の母親のことが記されており、レイとどういう関係にあるのかを。

 検査結果と資料から、レイは、シンジとは従弟くらい離れた位置にいるということが分かっている。

「私は存在してはいけなかったのかな…。」

「なんだよそれ…、死にたいってこと?」

「あ…、ちが…。」

「あの時僕が助けなきゃよかったって思ってるってこと?」

「違う!」

 レイは、すぐに否定した。

「碇君がいたから私は今ここにいる。碇君いたから…。」

「音無さんから聞いた…。綾波が完全な人間になる方法があるって。でも、死ぬかもしれないって聞いた…。」

「……死ぬ確率がずっと高いらしいわ。」

「……。」

「ねえ、碇君……。」

「…なに?」

「…私、生きていてほしい?」

 レイは、胸の前で手を握って、俯いて弱い声で聞いた。

 シンジは黙ってしまった。

 レイは、手が震えるのを抑えるように手首を握った。

 そして。

 

「綾波が好きだ。」

 

「……えっ?」

 その言葉に、レイは顔を上げた。

 シンジは俯いており、肩を震わせていた。

「…今の忘れて。」

「あっ。」

 シンジは、早口でそう言うと、背中を向けて走り去ってしまった。

 レイが伸ばした手は空を切った。

 レイの足元に、ポタリッと水滴が落ちた。

「あ……、これ、なみだ? 泣いてるのは…、私?」

 次々に目から溢れ出てくる涙に、レイは、驚いた。

「私…、私は…。」

 涙を止めようと目をこするが、なかなか止まらない。

 そうしてレイは、しばらく泣いた。

 なぜ泣いているのかその理由がわからないまま。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…っっっ!」

「……なに悶絶してやがるんだ。」

「いやぁ…、甘酸っぱい展開があったからさぁ…。」

 ついには感涙までするので、手術着姿の研究者は呆れ返った。

「何が何だかさっぱりだ。」

「で、使えそう?」

「切り替え早いな。それについては無問題だ。…腹立たしいほど素晴らしい結果だ。」

 今やっている作業と検査は、ツムグの骨髄細胞を抜いて、レイを人間にする実験に使えるかどうか調べることだった。

 結果は、問題なし。

 レイから採取した細胞に使用する実験が行われる予定だ。

「科学部的には、あの子のことどうしたいわけ?」

「それをおまえに言う必要があるんだ?」

「聞いてみただけだよ。

「他の連中がどう考えてるかは知らんが、おまえの体液で全身の細胞が作り変わった初の生きた症例として記録には残るんじゃないか?」

「あの子が人間として生きていくぶんには問題なしっぽい?」

「さぁな、そっちは専門外だからなんとも言えないが、隔離する理由がないんならそうなるんじゃないか?」

「そっか。」

 ツムグは、手術台の上で寝返りを打った。

 研究者から見えない位置で、笑った。

「…ひとつ気になることがあるとしたら…。」

「なになに?」

「あの少女は…、月経がないらしい。つまり子供が作れないということだ。おまえの細胞の投与が行われたらどうなるか分からんが。今のままだと将来的に支障が出るんじゃないか?」

「その点は問題ないと思うよ。」

「おまえがそう言うならそうなんだろうな。」

 

 レイの体に、ツムグの細胞を投与する実験は着々と進んでいった。

 

 

「おーい、椎堂ツムグはいるかー?」

「はいはーい、いるよ~、なに~?」

「波川司令がお呼びだ。」

「分かった。ありがと。」

 ツムグは、飛び起きるようにして手術台から降りて部屋から出て行った。

「なあ、聞いたか?」

「なにが?」

 ツムグを呼びに来た男が、話しかけた。

「ほんとかどうかまだはっきりしてねぇんだけどな…。実は…。」

 ヒソヒソと話された内容に、話しかけられた側は目を見開いた。

「なに~!? 世界ロボット競技大会!」

「声、でけぇよ。」

「ま、まさか…、あいつが呼ばれたのって…。」

「そうなんじゃないのか? はっきりしてねぇんだけど。」

「…機龍フィアって100パーロボットじゃないぞ?」

「そこらへんはうまくごまかすんじゃないのか? 知らねーけど。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

「………そんなところで何をしている?」

 風間は、通路の隅で座り込んで体を小さくさせているレイを見つけた。

 レイは、びくりっと震えて顔を上げた。

 もとから赤い目を赤く腫らし、頬に涙の痕を作ったレイの顔を見て風間は顔をしかめた。

「泣いてたのか?」

「あ……。」

「何があった?」

 尾崎と違い遠慮のない口調で風間は語り掛ける。

 レイは、少し怯えながらポツリポツリと何があったのか話し始めた。

 話を聞いた風間は、呆れたように息を吐いた。

「それでこんなところでベソベソしてたっていうのか? おまえは何がしたいんだ?」

「私…は…。分から…ない。」

「シンジに好きって言われて、おまえはどう思ったんだ?」

「どう……。」

 レイの目からまた涙が零れた。

「なんで…涙が……。」

「………嫌だったのか?」

 風間が聞くと、レイは、ふるふると首を横に振った。

 風間は、イライラとした様子で頭をかいた。

「そいつは、嬉し涙だ。」

「うれし…?」

「涙ってのは、嬉しくても出るんだよ。」

「私…、碇君に……、言われて…、嬉しい?」

「それはおまえの気持ちだ。俺が知るわけない。」

「私の気持ち…。」

「…言ってくりゃいい。」

「えっ?」

「どーした? シンジに返事をしないままでいる気か? 告白されたんなら、好きか嫌いか返事を返すのが常識だ。行ってこい。」

「でも…。」

「いいから、行ってこい!」

 風間の苛立った声にレイは、慌てて走って行った。

 残された風間は、ヤレヤレと後頭部をかいた。

 

「へ~え、風間少尉ってばやるじゃない。」

 

「うぉ! 音無…博士。それに尾崎!」

 後ろから音無の声がして驚いて振り返ると、音無と尾崎がいた。

「風間がレイちゃんの背を押したんだ。」

「俺は別に…。ただイライラしただけだ。」

 ばつが悪そうにそっぽを向く風間に、尾崎は終始ニコニコしていた。

「それにしてもシンジ君がレイちゃんについに告白か…。うまくいくといいわね。」

「そうだな。」

「……。」

 音無と尾崎は、純粋に二人の恋の成就を祈り、風間は風間でレイを導いたことに今更ながら照れ臭くなり、ぼりぼりと頭かいていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 シンジが自分に与えられている部屋に帰ろうとしていた時だった。

「碇君!」

「綾波?」

 走ってきたレイに、シンジは驚いた。

「どうしたのさ?」

 レイは、走ってきたため息を切らしていた。

「……き…。」

「えっ?」

「…碇君…の……こと…。」

 レイの目から涙が零れた。

 表情が乏しかったレイの顔は、涙でくしゃくしゃになった。

「…す…き。」

「……えっ!? 綾波…、今、なんて…。」

「いかり、君が…、しゅ…き……、好きっ。」

 レイは、目をこすりながら必死に言葉を紡いだ。

 シンジは、目を見開き、ポカンッと口を開けた。

「私も……、好き。碇君が好き。」

 頬を染めて、泣きながらレイは、…笑った。

「あ、綾波…! ほ、ほんとに?」

 シンジの顔が真っ赤になった。

 レイは、こくりっと頷いた。

「ほ、ほ本当に、いいの?」

「なにが?」

「僕なんかで…、いいの…?」

「碇君だから。」

「あ、綾波~!」

 感極まってレイの肩を掴もうとしたシンジだったが。

 

 っとその時。

 ぐうううっという腹の虫が鳴った。

 

「……、お腹すいた。」

 レイのお腹だった。

 検査のため絶食していたためだ。

 地球防衛軍に来てからというもの、結構食いしん坊になっていた。

「あは…は、はぁ。なんか作ろうか?」

 雰囲気が壊れたため、シンジは、ふらつきそうなりながらそう言った。

「卵丼。」

 賄いで食べて以来、レイのお気に入りの料理だ。

「分かった。今から作るから待ってて。」

「うん。」

 レイは、こくりと頷いた。

 シンジは、自分の部屋にレイを招き、卵丼作った。

「いただきます。」

 両手を合わせて、レイは、箸を丼に向けた。

 箸で、出汁で煮込まれた半熟の卵とご飯を持ち上げ口に運ぶ。

「…美味しい。」

 素直な自然な表情を浮かべるレイ。

「おかわりいる?」

「うん。ねえ、碇君。」

「なに?」

「私が人間になったら…、またサンドイッチを作って、食べたいの…。碇君と一緒に。」

「綾波…。うん。いいよ。」

「私、生きたい…。碇君と一緒に…、生きていきたい。」

「僕も…、綾波と一緒に生きたい。」

 レイとシンジは、見つめ合った。

「碇君…、あのね。」

「なに?」

「…………怖いの。……だから…、触って。」

 レイがもほんのり頬を染めて言った言葉に、シンジは、吹きだしかけた。

「ええええ!? 綾波、どういう意…。」

「こう。」

 シンジが混乱していると、レイは、シンジの両手首を掴んで引っ張り、ちょうどレイの体を抱きしめるような形に持って行った。

「あ、綾波!?」

「こう……ぎゅ? して。」

「っ!」

 つまり抱きしめろと言われ、シンジは、真っ赤になって固まった。

 レイが、上目づかいでシンジに潤んだ目を向けてくる。

 シンジは、呼吸が乱れそうになるのを押さえながら、レイの体を抱きしめた。

 その体の細さに驚き、レイの体温が低いことにも驚かされた。

 でも…、密着した個所から、レイの鼓動の速さが伝わってきて、シンジは、ゴクリッと息を飲んだ。

「碇君…、あったかい。」

 レイがシンジの体にスリッと頬をこすりつけてきたため、シンジは、悶絶しそうになった。

「碇君、実験が始まる時も、またギュッてして。」

「う…、うん。」

「碇君にギュッしてもらったら、怖くなくなってきた。」

「そ、そう、よかった、ね…。」

「…ずっとこうしていたい。」

「……ぼ…、僕も…だよ。」

 二人はしばらく、抱きしめ合い続けた。

 それが終わりを告げたのは、火にかけていた卵丼の具が焦げた匂いが充満してからのことだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「いや~、めでたいめでたい。」

「どうしたの?」

「ちょっとね。それはそうと、波川ちゃん、マジで機龍フィアを大会に出すの?」

 波川の執務室で、ツムグは波川の机に腰かけながら言った。

「MOGERAも出します。」

「地球防衛軍の宣伝のためとはいえ、対ゴジラ兵器を出さなきゃいけないのかぁ…。」

「一般へのお披露目でもあるわ。機龍フィアにたいする反感を少しでも緩和できればと。」

「…使徒にやられた時(※使徒イロウルに乗っ取られた)に、街中を突っ切っちゃったから…。」

 あの時の被害から、機龍フィアへの反感と、その運用反対を掲げる運動が起っている。

「3式機龍の時もそうだ。都内で暴れたし。」

「その反省を踏まえての4式開発計画だったのよ。」

「使徒はどうしようもなかったわけだけど、一般人は納得しないよね。どこかにぶつけないとやってられないわけだし。」

「競技大会で、メインとして、機龍フィアには、模擬戦を行ってもらうわ。」

「対戦相手は?」

「ジョットアローン。通称、JA。」

「…秒殺しないように心掛けるよ。」

 名前を聞いた時点で勝負にならないと思ったのは、黙っておく。

「お祭りと思って気楽にやりなさい。」

 それは波川の方も思ったことらしい。

「あっ、ふぃあちゃんがそこらへんのこと理解してくれるかどうか分かんないから事前に話しとくよ。」

「うまく制御しなさい。」

「…がんばる。」

 機龍フィアのDNAコンピュータに宿る自我意識“ふぃあ”をいかにして、暴走しないようにするか。そこら辺が鍵になりそうである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三新東京で、バルディエルに乗っ取られたエヴァンゲリオン参号機は、ゴジラに惨殺された。

 そして、ゴジラに破壊されたエヴァンゲリオン初号機。

「これ…、回収する意味あったのか?」

 ゴジラの体内熱線でいい具合にヴェリーウェルダンの焼き加減の初号機に比べれば、バラバラのグチャグチャにされた参号機の残骸は、まだ形がしっかり残っているだけマシかもしれない。

 初号機の方は、散々潰されて原型がないうえに、ゴジラの放射熱線でとどめとばかりに焼かれたため、もはやこれが初号機だったと分かる人間はいないというありさまである。

 辛うじて骨だったと思われる箇所が残っていたことと、ネルフを守る要である特殊装甲板の修理のため重機が入った際に、抉ってみると生の組織が出たことから回収が決定され、運び込まれたのである。

 炭化した部分を剥がすと、確かに生きた細胞と思われる物が出てきて、面白い物が見つかったとマッドな科学者達は喜んでいた。

 ところでエヴァ弐号機の方は、左腕を失ったとはいえ、ほぼ原形はとどめていたため、引き続きネルフで保管されることになった。ただ修理費までは出なかったため左腕はそのままだ。

 これでネルフには、エヴァンゲリオン弐号機(左腕無し)と、エヴァンゲリオン五号機が残ることになった。

 アスカについては、ゲンドウが弐号機を使ってエヴァンゲリオンの有用性を証明するために言いくるめられてバルディエルと交戦したということから、訓練学校での再教育と謹慎処分が言い渡された。

「なんでまた学校なんて行かなきゃなんないのよ!」

 飛び級で大学まで出ているアスカは、この処分に不満だった。

 さらにアスカは、ゴジラが狙うとされるエヴァンゲリオンに乗っていたにもかかわらずゴジラに無視されたことについても不服を申し立てた。

 ゴジラの考えていることなどただ一人を除いて分かるわけもなく、アスカの不平不満は受け入れられなかった。

 ゴジラが弐号機を無視した件について、ツムグにはすでに聞いている。

 回答は。

 

「俺、あの時蒸し焼きされてる真っ最中で、ゴジラさんの思考を見る余裕なかったんだ…。」

 

 機龍フィアの中から引っ張り出された時の惨状を思えば、余裕がなかったのだろう。

 ツムグは、すごく落ち込んでそう答えたのだった。本当は蒸し焼きされただけじゃないのだが…、頭クラクラだったことは蒸し焼きの段階で忘れられた。

 ツムグがあの時のゴジラの思考を読み取っていない以上、なぜ弐号機を無視したのかその理由は謎のままになった。

 

「なんでなんで、私が…、私が私が…。」

 

 使徒バルディエルに勝てず、ゴジラにも無視され、アスカのプライドはズタズタとなっていた。

 

 

 

 

 




シンジがレイに告白し、OK出したレイ。
これで一応結ばれたってことになるかな?私の文才ではこれが限界でした…。

次回は、JAを出す予定。
多少は活躍させる予定です。


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第二十話  ロボット競技大会

シン・ゴジラがついに公開になりましたね。
残念ながら私は見に行けない場所に住んでいるのでDVD化待ちです。

今回は、JA登場の回ですが、つまらない内容かもしれません。
原子炉暴走を予想してくださった方には申し訳ありません。


 

 

 

 

 

 

 ポンポンパンパンと花火が舞う。

 軽やかな音楽がお祭り気分を盛り上げ、屋台も軒を連なりたくさんの人々が行きかっていた。

 

 世界ロボット競技大会。

 

 ゴジラやら、使徒やらが暴れているご時世にそんな悠長なことやっていたいいのかという意見もあるが、こんな時だからこそ盛り上がる楽しいイベントが必要なのである。

 ちなみに開催地は、アメリカだ。

 

「盛り上がってるな~。」

「ツムグさぁん、牛串買ってきましたぁよぉ。」

「ナッちゃん…、無理してついてこなくても…。」

 なぜかいるナツエに、ツムグは苦笑いを浮かべながら振り返った。

「え~、でもツムグさん体調万全じゃないんですよぉ。だから来たんですよぉ。心配でぇ。」

「あ~…、そう。ありがとう。」

 ナツエからの心配については素直にお礼を言いつつ、牛串を受け取るツムグ。精神感応でちょっと見えたナツエがついてきた理由は…、レイと話をしたことらしいということが分かっている。レイに危害が加わらないようについて来てもらって正解だったかもしれないと思ったのは言わないでおく。刺されたらシャレにならん。

 ちなみに二人がいるのは、地球防衛軍に割り振られたエリアで、人目に付かないトラックの中である。外の状況は、トラック内のコンピュータ機器のモニターで見ていた。

 G細胞完全適応者であるツムグのことは、一応秘密事項となっているので人目に付かない場所にいるよう命令されていた。機龍フィアのパイロットがツムグであること自体が機密となっているというのもある。

 まあ、もっとも、ツムグのことを一目で分かる人間は、部外者ではほとんどいないのであるが。なにせ発見されてからかれこれ数十年経過しているからだ。

 G細胞完全適応者という単語は、本などにも記載されているが顔までは載っていない。その理由については、外見が全く変わらないからだという諸説がある。

「機龍フィアの方はどうなってるかな?」

 現在機龍フィアは、展示会場の方に置かれていた。

 その隣には、修理が終わったMOGERA。それと他のロボット達と並んで立たされているのを、見物客や様々な業界人達が見て回っている。

 ちなみに二体とも他のロボット比べて巨大であるため特に目立っていた。

『ツムグ~、つまんない!』

 ツムグの目の前にあるコンピュータ機器から、ふぃあの声が響いた。

 機龍フィアのDNAコンピュータから、自我意識のふぃあがトラック内のコンピュータに人格が移されている状態なのだ。

「がまんがまん。」

『え~、ヤだ!』

「いい子にしてたら褒めてあげるから、じっとしてて。」

『ウ~~~、…分かった。』

 こんなにたくさん人がいる状況で100メートル級メカがジタバタされたら大惨事なので抑えないといけない。それこそイロウルに乗っ取られた時より人が密集している分、酷いことになること間違いなし。

「よしよし。がまんがまん。…ん、固い。」

 ツムグは、コンピュータを撫でながら牛串を齧った。お祭りの牛串だしこんなものだろう。

 噛みごたえがある肉を噛んでいると、ふいにツムグは、動きを止めた。

「? どうしたんですかぁ?」

「ん~…、ちょっとね。」

「あなたの“ちょっとね”は、すごく大変な事じゃないかと記憶してますけどぉ。」

「……よくないことが起きそうだなって思って。」

「はっきり見えないんですかぁ?」

「ただすごく嫌な予感だけがする。はっきりしてることは…、ここ(ロボット競技大会)じゃ起きないことだってことだ。ロボット競技大会は無事に終わる。それだけは確か。」

「こんなご時世ですしねぇ。」

 ゴジラの復活。使徒の出現。何よりセカンドインパクトの爪跡が酷い崩壊した地球。

 こんな環境でも人間はしぶとく生きている。

「なんだか楽しそうだね、ナッちゃん。」

「ツムグさんの預言が当たる瞬間が楽しいんですよぉ。うふふふ。」

「もしもの話だよ…。もしも、ナッちゃんが死ぬって預言をしたらどうするの?」

「うふふ…、その時は私のことを少しは想ってくれますぅ?」

 ツムグの後ろからツムグの肩に手を置き、寄りかかって来るナツエ。

「それは、その時にならなきゃ。」

 ツムグは、そう言って微笑んだ。

「ところでカキ氷が食べたいな~。ブルーハワイで。」

「は~い、分かりましたぁ。ちょっと待っててくださいねぇ。」

 ナツエにカキ氷を頼んで、ナツエがトラックから出て行った後、入れ替わりに波川が来た。

「波川ちゃん。」

「ツムグ。あと1時間でJAとの模擬戦闘を始めるわ。準備をしなさい。」

「了解。」

 ツムグは、そう言って立ち上がった。

「そういえば、JA作った時田って人が俺に会いたがってたんじゃなかった?」

「機龍フィアのパイロットは、秘密。あなたのことを一目で分かる人間がそうそういなくても、G細胞完全適応者がパイロットだということを知られるわけにはいかない。」

「そうか。」

「カキ氷持ってきましたぁ。あっ、波川司令。」

「ナッちゃんありがと。」

 波川の横を通り過ぎ、ナツエからカキ氷を受け取ると、ツムグは、トラックから出て行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ロボット競技大会のメインとも言える巨大ロボット同士の模擬戦闘イベントを、お客達は心待ちにしていた。

 模擬戦闘のイベントに出場する片方である、ジェットアローンは、すでに会場入りしており、模擬戦闘の戦闘場で沢山のスタッフによって念入りに準備が整えられていた。

 大きさは、80メートルはありそうな巨体で、今は足を曲げているのでそれよりは小さく見えるが立ち上がればエヴァンゲリオンとそう変わらない大きさかもしれない。

 長い両腕。首の部分はなく、頭部は胴体と一体化したような形をしており猫背。背中に数本の棒のような物が生えているというかなり独特な姿である。

 政府関係者や企業関係者に配られたパンフレットによると、日重が中心になって製作した物だと記されており、一般企業がこれだけのロボットを作ったのは驚嘆に値するだろう。

 対する機龍フィアは、地球防衛軍、作。

 ある意味で一般企業対地球防衛軍という図式になる。

 もうすぐイベントが始まるというのに、機龍フィアが来ない。

「波川司令殿。メカゴジラはどうしたのですか?」

 さすがに焦れた日重の重役が波川に話しかけた。

「ええ…。少し整備部が手間取っておりまして。」

「地球防衛軍最強の兵器の整備が遅れるとは、どうしたことでしょうか。」

 そこへジェットアローンの開発の中心人物である時田が現れた。

「ご自慢のメカゴジラに不備でもあったのですか?」

 時田は、相手が地球防衛軍の司令官だというのもものともせずそう言った。

 波川は顔色一つ変えず。

「なにぶん戦場での出番の多いものなので、油断ならないのです。」

「日本の都内を暴走したケースもありますから、確かに油断なりませんね。」

「あれについては、使徒に乗っ取られたと説明してあるはずですが。」

「あっさりと敵に奪われるようでは、防衛軍の警備体制にも問題があったと言わざる終えないのでは?」

「使徒はいまだにその生態・出現パターンが定まらず、怪獣と長らく戦って来た我々でも解明できていない未知の敵。まさか、機龍フィアの内部に出現するなど想像もしていませんでした。」

「なら、今回のイベントにメカゴジラを出したのは、名誉回復のためですか?」

「それも勿論ありますが…。」

「波川司令。機龍フィアの準備が整いました。」

「間もなくしらさぎで会場に輸送されます。」

 そこへ機龍フィアの準備が整い、会場に運ばれることが伝えられた。

 しらさぎに吊るされた機龍フィアが会場の中空を飛んできて、機龍フィアをゆっくりと地面に降ろした。

 日の光を浴び、銀と赤の巨体がきらめく。その圧倒的な姿に会場の観客席も、日重の重役達もどよめいた。

 やはり本物は、テレビや写真越しに見る姿とはまるで違う。

「準備はできたのですか?」

 波川が付き人から渡された通信機を使い、機龍フィアに話しかけた。

『オッケー。ふぃあちゃんも大人しくしてくれてるよ。』

「そう。その調子でお願いするわ。」

「ご自慢のメカゴジラは、パイロットがいると聞いておりますが。どのような方が?」

「それは秘密事項なので、答えられません。」

「ジェットアローンは、遠隔操作を採用しております。」

「それがなにか?」

「安全性においてもその方がよいと判断し、我々は遠隔操作を採用しました。メカゴジラに遠隔操作を搭載するご予定は?」

「遠隔操作では機龍フィアの力を引き出せませんので。」

「…何か引っかかりますな。その言い方は。」

「気のせいです。」

「時田さん、JAがスタンバイに入ります。」

「分かった。では、波川司令殿。また後程。」

 スタッフに呼ばれ、時田は去っていった。

「あそこまでよく自信が持てるものですね。」

 波川の付き人が呆れたように言った。

「まあ、自信を持つのも分からんでもないがな。」

 そう言っているのは、機龍フィアの開発に関わった古参の技術者である。

「遠隔操作に力を入れただけあり、AIの構成だけなら機龍フィアのオートにも匹敵するんじゃないっすか?」

「ほう…。」

 波川の付き人は、それを聞いて素直に感心した。

 機龍フィアのオートパイロットプログラムは、マトリエルの一件の時に約4分間しか使われなかった。使った理由だって、あの時ツムグがいなかったための緊急だった。ツムグが操縦席に乗ったことでオートパイロットプログラムは解除されたため、約4分間だけの使用となったのである。

 オートパイロットプログラムは、遠隔操作ではなく、ツムグの戦闘記録を基にした戦闘プログラムである。そのため動きは、ツムグの戦い方を再現するものになっている。

 ただ所詮は再現しただけのプログラム。記録にない動きには対応できない。4分だけで済ませることができたのが奇跡だったかもしれない…。

 まあ、自我意識“ふぃあ”が発生した今ならオートパイロットプログラムの性能も違うものになったかもしれないが。

「おかげで再構成し直しで、若い連中が血の涙流しそうな勢いですがな~。」

 ハハハハッと軽く笑っている。というか笑うしかないというレベルなのである。

 そうでなくてもオートパイロットプログラムを起動させるのに苦労したのだ、それをすべて一からやり直しとか死ねると、まともな神経をした若い技術者が絶叫するぐらいだ。

「もうすぐ始まりますよ。」

「ええ…。」

 

 模擬戦闘の始まりを告げるブザーが鳴った。

 

 

 もう見るからに勝負あったという空気が観客席からもVIP席からも漂っていた。

 そりゃそうだ。なにせ大きさだけで20メートル近くも違うのだ。

 先に動いたのはジェットアローンだった。

 節が多数ある両腕を振りながらの独特の動きをしながらの突進。

 見かけによらずかなり早かったが、それを機龍フィアの片手がジェットアローンの頭部分を押さえて止めた。

 観客席からああ~っという声が上がった。その声色は、やっぱりかっという意味がこもっていた。

 重量もまるで違うのか、突進を続けるものの機龍フィアは微動だにせず、ジェットアローンの足に接している地面ばかりが抉れていく。

 

「う~ん、これはいかんな~。」

『ツムグ~、つまんない!』

 操縦席で腕組をして唸っていたツムグに、ふぃあが文句を言った。

『もう壊しちゃってイイ? 壊しちゃってイイ!?』

「ダメ。あ~、ここからどう盛り上げればいいのか困るな…。」

『もう壊したい、壊したイい!』

「ふぃあちゃん、我慢。壊しちゃダメ。…う~ん。」

『もうヤダ! 壊す!』

「って、わーーー! ふぃあちゃんダメーー!」

『っ、アウッ。』

 慌てて操縦桿を動かそうとした次の瞬間、ふぃあの短い悲鳴が上がった。

 見ると、機龍フィアの顔が上にのけ反っていた。

 下からジェットアローンのしなやかな腕が殴り上げたのである。しかも機龍フィアが頭を押さえていた手を弾いて。

 これには、会場がシーンとなった。

 数秒置いて、顔を戻した機龍フィアが弾かれた手とは逆の手をジェットアローンに振り下ろそうとしたら、ジェットアローンが、その場から動かず片手を鞭のように振るって弾き火花が散った。

 これには観客席から歓声が上がり、立ち上がる者もいた。

「……へぇ…、中々。」

 意外な攻撃にツムグは、素直に感嘆の声を漏らした。

『うぅ~。なにコイツなにコイツ! 壊す、壊してヤるゥウゥ!』

「ふぃあちゃん落ち着いて!」

 それでもふぃあは止まらず、機龍フィアの手がジェットアローンを捉えようと振り下ろされるが、また弾かれる。

 なぜ弾かれるのか。

 機龍フィアの機体の出力はパイロットとのシンクロ率によって左右される。

 今、機龍フィアは、接続はしているもののツムグがシンクロに集中していないことと、ふぃあが独断で動いているため機体の出力が本来の半分くらいで止まっていた。だからジェットアローンは、振り下ろされる機龍フィアの腕を弾くことができるのである。なにせ腕力が半分くらいなのだから。

 何度も機龍フィアの手を弾くジェットアローンに、観客席から歓声が上がり、応援する声が上がるようなった。

 見た目からして圧倒的な差がある相手に果敢に挑むその姿に、VIP席の客もどよめくほどであった。

『うう~、ううう~、ツムグ~、ちゃんとシンクロして~! 力出ない!』

「力出したら瞬殺になるからダメ。でもそれにしても良い動きするなぁ。名前聞いた時に勝負にならないとか思って悪かったな。ごめん。」

 ツムグが操縦席で両手を合わせて頭を下げた。

 その時だった。

 

「時田さん、JAのOSが!」

「制御が利きません! まさか…、暴走!?」

「そんな馬鹿な!」

 日重側のオペレーター達が慌て出し、傍で指示を出していた時田がありえないと声を荒げた。

 

 

 ジェットアローンが、その体格からは想像もできない跳躍力で飛んだ。

「あっ…。」

 ツムグがポカンッと驚いている間に、上から振り下ろされたジェットアローンの腕が機龍フィアの頭部に振り下ろされた。

 重い一撃によって首が下に反った。

 着地したジェットアローンは、両腕を交互に振り、機龍フィアの頭部ばかりを狙って打ち続けた。

『アン、アッ、アウぅ! もうしつこいよォ!』

 ふぃあが声を上げるが…、実際のところダメージにはなっていない。

 打たれるたびに火花が散り、宙にキラキラと金属片が散っていた。

 機龍フィアの特殊超合金を打つたびに、ジェットアローンの腕の金属が削れているのだ。

『ツムグ!』

「なに? 波川ちゃん?」

『JAのOSが暴走を始めたわ。JAを沈黙させなさい。』

「暴走…。」

 波川からの指示を聞いて、ツムグは、少し考え込んだ。

「まーさーかー…。ふぃあちゃ~ん。」

『な、ナニナニ、ツムグ、ナニ?』

 不自然に焦っているふぃあの声に、ツムグは確信した。

「こら。」

『してないしてない! 暇だったからウィルスなんて作ってない!』

「はい、アウト!」

 ジェットアローンの暴走の原因が、ふぃあが作ったコンピュータウィルスによるものだと分かった。

「今すぐワクチンプログラムを作れ!」

『適当に作ったのだから解析に時間かかる~!』

『ツムグ、…どういうこと?』

「聞いた通りだよ。ふぃあちゃんがやらかした。」

『……まったく。うまく手綱を握ってほしいわね。』

「ごめん…。」

『ウェ~ン。』

「ともかく解析を急いで。あれ(ジェットアローン)を壊してもウィルスが他に移るってことはない?」

『移んないよ…。』

「それなら…。」

 一人納得し、うんうんと頷きながら、ジェットアローンを見る。

 そして操縦桿をしっかりと握り、シンクロを開始した。

 打ち続けるジェットアローンの片腕が、途中で千切れ飛んだ。しかしそれでも攻撃を止めようとしない。

「ごめんね。」

 そう言った瞬間、機龍フィアの尾がジェットアローンの胴体を直撃しジェットアローンの巨体が軽々と吹っ飛び地面に落下した。

 わき腹からバチバチと放電し、立ち上がろうともがこうとしていたが、全身を支える胴体が大きく破損してしまってはできない。

 放電は少しずつ弱まっていき、やがて完全に停止した。

 会場がシーンッと静まり返り、機龍フィアは、体の向きを変え、ジェットアローンの冥福を祈るように首を垂れた。

『ツムグ~。』

「なーに?」

『こいつ、イイところ見せたかったって言ってる。』

 ジェットアローンのOSを解析したふぃあがそう言った。

「そっか…。生みの親の時田さんに良いところ見せたかったんだ。親思いのいい子じゃん。」

『ふぃあ、悪い子…?』

「ふぃあもいい子。」

『ワ~イ!』

「いい子だから、お仕置きするから、ジッとして。しばくから。」

『ワーーーン!』

 接続しているDNAコンピュータから精神感応を使ってコンピュータプログラムであるふぃあをしばいた。

 

 

 こうしてジェットアローンとの模擬戦闘は、終わった。

 

 

「波川司令殿…。」

「時田殿。」

「申し訳ありませんでした。」

 時田は、波川に土下座した。

「ご無礼の数々…、そしてJAを止めてくださりありがとうございます!」

「面を上げてください。」

「しかし…。」

「我々は、やるべきことをやっただけです。しかしJAを無傷でお返しすることができませんでした。」

「いいえ! あの状態では破壊しない限り止めることは…。」

「JAのことですが…。OSの構成プログラムは、中々の物のようですね。随分と親思いだと聞いています。」

「えっ? し、しかし…JAには自立意思は…。」

「精魂込めて作った物には魂が宿ると、いう言葉がわが国にはあります。OSの暴走は製作者であるあなたに良いところを見せたかったからだったようですわよ。」

「な、なぜ…そのようなことを…。」

「我が地球防衛軍が誇る機龍コードフィア型に搭載されたDNAコンピュータがそう解析したのです。ところで、我々地球防衛軍は、JAのOSの研究の支援をと考えていますが、いかがでしょう?」

「なっ…、そ、そそそそそんな、恐れ多い!」

「あなた方が製作したOSの技術は、我が軍でも流用できそうだと、技術部の人間も太鼓判を押しています。」

「ああ、このプログラムは、ぜひとも使いたいねぇ。」

「そ、そんな…。本当ですか?」

「本当です。では、後日、詳しい取引を行いましょう。」

 

 こうして時田のチームは、ジェットアローンのOSの技術提供を行うことになった。

 引き抜きではなく、時田が所属する日重との商売である。

 これにより機龍フィアのオートパイロットプログラムの構成がスムーズになり、性能アップすることになるのだった。これには、構成プログラムを組むのに日夜励み過ぎてゾンビ状態だった技術者達に光明が見えて日重の時田に感謝する者達が多数いた。

 

 ……けど本当の狙いは、ジェットアローンのOSに入ってしまったふぃあ製作のウィルスのことが明るみになるのを防ぐためだったのであった。

 

 

 

『くすぐったいィ。』

「こら、我慢しなさい。メンテのたびにくすぐたがってたらメンテができないでしょ。」

『う~。』

「慣れるように頑張ろう。」

『む~。』

「よしよし、いい子だね。」

『ふぃあ、イイ子?』

「うん、良い子。」

 ツムグは、機龍フィアの操縦席で、機材の一部を撫でた。

『ワ~イ。』

 ふぃあは、喜んだ。

「でも拳骨ぐらいはした方がいいかもね? ふぃあちゃんのせいで波川ちゃんに余計な仕事作っちゃったから。」

『ヤダーー!』

 上げて落とす。

 

 

 それからしばらくして、緊急を知らせる通信が入った。

 ゴジラが、日本海側から上陸し、第三新東京を目指して進撃を始めたのだ。

 すぐに機龍フィアは、しらさぎで輸送され、第三新東京でゴジラとの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 会場の警備に当たっていた尾崎は、追われていた。

 謎の覆面集団が、追って来る。

「この辺なら…。」

 周りに人がいないことを確認し、尾崎は止まって振り返った。

 武装した覆面集団が、一斉に尾崎に武器を向ける。

「何が目的だ?」

 尾崎が聞くが、向こうは答えない。

 代わりに銃火器の安全装置が解除される音が響いた。

「なぜ、俺を狙う?」

 次の瞬間、一斉に射撃が行われた。

 尾崎は、手をかざし、超能力のバリアで防いだ。

 それを見た覆面集団は、驚き、どよめいた。

「答えてくれ。手荒な真似はしたくないんだ。」

 尾崎は、そう言いつつ、構えた。

 武器は手にしていない。つまり肉弾戦で武装した敵をすべて倒せるということだ。

 尾崎の迫力に、覆面集団は、圧され、一歩後ずさる。

「頼む、答えてくれ。なぜ俺を狙ったんだ?」

 しかし、敵は結局何も答えなかった。

 尾崎が出す覇気に根負けし、一人が逃げ出すと、それに触発されて全員が背中を見せて脱兎のごとく逃げ出してしまった。

 残された尾崎は、溜息を吐いた。

 今までに殺されそうになったことは何度もあるが、こんなあからさまな、それでいて“雑”なのは初めてだった。

 内部犯行(尾崎という標本を手に入れたがっているマッドの仕業)ではないということは分かった。

 しかし、命を狙われる心当たりがない。

「いったい誰が…、どうして…。」

 尾崎は俯き呟いた。

「尾崎少尉!」

「! トリス。」

 トリスと呼ばれた茶髪のミュータント兵士の少女(15歳)が駆けて来た。

「ご無事でしたか!」

「ああ、なんとかな。そっちは?」

「逃げられました。逃げ足が恐ろしく早い連中ですよ。」

「そうか…。」

「また内部の人間の犯行でしょうか?」

「いや、違うと思う。」

「なぜ?」

「勘だ。」

「勘ですか…。」

 腕組してう~んと唸る尾崎を、トリスはジッと見つめていた。

「? どうかした?」

「あっ…、いえ、なんでもありません。」

 トリスは慌てて首を振った。

 その頬がほのかに赤くなっていることに尾崎は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 




正直、自分でも何が書きたかったのか分からないのに投稿してしまった…。
JAの動力炉は、原子炉ではありません。原子炉だと開発段階でゴジラに狙われるリスクがあったので却下しました。
その代わりに、ふぃあがやらかしてJAに被害がという流れにしました。


それにしても…、まさか公式で初号機にG覚醒形態なるものが発表されるとは思いませんでした。
ゴジラVSエヴァンゲリオンが発表される前に考えていたネタと被ってどうするか悩んでます。


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第二十一話  可能性への敵意

 執筆が難航しています。
 早くゼルエル編書きたいばっかりに、次回のはとても短くなると思います。


 今回は、地球防衛軍に回収された初号機の細胞がどうなったかと言う部分に重点を置いてみました。



 

 

 

 

 

 

 加持は、ゆっくりと目を開けた。

 頭に走る痛みに顔をしかめていると。

「よう。」

「…ゴードン、大佐?」

「意識ははっきりしているようだな。」

 ゴードンがいるということは、ここは地球防衛軍の管轄にある病院だろうと加持は判断した。

「俺は、生きているんですね…?」

「これ何本に見える。」

「三本。」

 目の前に出された指の本数を加持は答えた。

 加持は、ハッとあることを思い出した。

「か、葛城は! 葛城はどこだ!?」

「落ち着け。」

「葛城は無事なんですか!?」

「意識を失っているが命に別状はない。だが…。」

 ゴードンは、ミサトの病状について説明した。

 強力な暗示がかけられていたことや精神と記憶を操作するために薬物投与も見受けられ、人間技じゃない攻撃法でミュータント兵士達と戦ったため全身がボロボロで、いまだに意識不明だった。

 しかし彼女自身の生命力が強かったため、体の傷の回復は思っていたよりも早く、だが暗示による脳や神経への負荷はどうにもならず、意識が戻らないことには対処ができない状態だった。

 最悪、このまま意識が戻らないかもしれないと医師は答えている。

「そんな…。」

 加持は愕然とした。

「いったいどこの誰があんなムチャクチャな暗示をかけたのか、医者連中が怒ってたぜ。」

「あいつら…。」

「ようやく話す気になったか?」

「……。」

 加持は、グッと口を閉じた。

 そしてやや時間をおいて口を開いた。

「ゴードン大佐…。頼みがあります。」

「なんだ?」

「俺は、連中に復讐がしたい。葛城を………、俺が惚れた女をメチャクチャにした仇を打ちたい。」

「……いいぜ。で?」

「奴らの名前は…、ゼーレ。大昔から人間社会の裏で歴史を動かしてきた秘密結社だ。」

「ゼーレ…か。」

「連中の居場所まで分かりやせん。…すみません。」

「いいや。そいつらの名前が分かっただけでも収穫だ。」

「……。」

「他に何か言いたそうな顔してんな? なんだ。」

「話したところで、到底信じられない話っすよ…。」

「いいから話せ。」

「…そうですよね。今更ですよね。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方。

 

「どぉりゃああああ!」

 ゴジラと機龍フィアのバトルは続いていた。

 ゴジラを一本背負いするも、着地され逆に投げられ、受け身を取りまた投げる。の、繰り返し。面白いぐらい投げ技ばっかりである。

「いい加減、投げるのも飽きたな…。」

 っとツムグは、ぼやいた。

 ゴジラにもそれが伝わったのか、グルルっとゴジラが鳴いた。

「あっ、ゴジラさんもそう思う? じゃあ、殴り合おう!」

 言うが早いかゴジラとの殴り合いが始まった。

 ゴジラが尻尾を振った時、機龍フィアも尻尾を振って、尾っぽ同士がぶつかった。

「おおぅ、じ~んっときた。」

 機龍フィアの背筋を伝ってぶつかり合った時の衝撃でツムグはちょっと痺れた。

 その隙をついてゴジラが機龍フィアの頭部に尻尾攻撃を与えた。

 横に倒れる機龍フィアを、ゴジラは蹴って転がした。

 再び蹴りが入りそうになるとその足を掴み、起き上がるのと同時にゴジラをひっくり返して馬乗りになってゴジラの顔を殴打した。

 ゴジラが放射熱線を吐き、機龍フィアは、のけ反って避けるとゴジラが起き上がって機龍フィアに掴みかかり、二体は地面を転がった。

 機龍フィアは、肩のキャノンの砲塔を伸ばし、ゴジラの顔を狙って撃った。

 至近距離で撃たれたものの、前に似たようなことをされて学んだのか大した傷にはならずゴジラは顔を押さえて機龍フィアからどいた。

「久しぶりに…、リミッター解除。3つ!」

 7つあるうちの3つを解除し、機龍フィアの目が輝き機械の雄叫びをあげた。

 ゴジラも負けじと雄叫びを上げ突進してきた。

 その突進を受け止め、ゴジラとの押し合いへし合いが続き、機龍フィアの腹部が開閉した。

 ゴジラは、それを察して体内熱線を放ち、機龍フィアを吹き飛ばした。

「ヤーラーレーター。アハハハハハ!」

 目を金色に光らせたツムグは、操縦席で狂ったように笑った。リミッター解除による信号の逆流でテンションがおかしくなっているのだ。

『ツムグー、ツムグー、しっかりしてー!』

「えっなに? ヘーキヘーキ、ふふ、フハハハハハハ。」

『ウワ~ン。ゼンゼン平気じゃな~い。』

 笑いっぱなしのツムグに、ふぃあは頭を抱えた。

 笑っていても操縦はしっかりしており、むしろ正常時より操縦桿の操作が早い。リミッター解除による機能の向上は、ツムグの操縦技術もアップさせるらしい。しかもほとんど無意識で動かしてるらしく、ゴジラにも動きが伝わらないのかゴジラが翻弄される。

 ツムグの様子を観測していた司令部や科学部は、ツムグのテンションが異様に高いことを訝しんだ。なので急いで技術部と連携して原因を究明した。

 ツムグのテンションは伝わっているのか、ゴジラはかなり苛立っており、顔がどんどん歪んでいく。

「ゴジラさ~ん、ゴジラさ~ん。アハハハハ。」

『ワーン! ツムグは、ふぃあのー!』

 ゴジラ、ゴジラと連呼するツムグに、ふぃあが声を上げた。

 ふぃあの絶叫に呼応してか、ブレードが展開されゴジラの左手が切り付けられた。

 手を押さえてゴジラが呻いた。

「…ゴジラさんの内臓って何色だろ?」

『ナニ言ってるの!? ナニ言ってるの!?』

 急に表情を無にして、ヤバイことをボソッと言いだしたツムグに、ふぃあが声を上げた。

「ゴジラさ~ん、見せてほしいな~~~~。」

 歌うように言いつつ、機龍フィアを操作してジリジリと迫ると、ゴジラはツムグの異様な空気を感じたのかジリジリ同じだけ後退した。

 ゴジラがドン引きするってどんだけだ?

 その時。

「あ…?」

 ツムグの鼻から鼻血が垂れた。

『ツムグー!』

「あれ…、おっかしいなぁ。頭…、イタ…。これ、毒?」

 突然の頭痛とともに体から力が抜けるのを感じた。

 次の瞬間、機龍フィアが飛んだ。いや飛ばされた。

 ゴジラのタックルが決まったのだ。

 地面に背中から落下する機龍フィア。

 中にいるツムグは、操縦桿から手を離して白目をむいて、口から血混じりの泡を吹いていた。目からも血が垂れる。

「……。」

 しかしその目にすぐに光が戻り、操縦桿が再び握られた。グッと閉じた口から血が溢れる。

 起き上がった機龍フィアがゴジラにタックルする。ゴジラは、それを受け止め足が地面を抉った。

「………こんなんじゃ死ねない。」

 ツムグは、自虐的に笑い操縦桿を操作してゴジラと殴り合った。

 

 しばらく肉弾戦が続き、やがてゴジラが海に引き返して戦いは終わった。

 

 基地に帰還した後、ツムグは、顔を血で汚した状態で飛び降り。

「尾崎がシンクロ実験に入る前に分かってよかったよ。俺じゃなきゃ死んでる。」

 

 その後、間もなく脳とシンクロするための管の一部から猛毒が検出された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 綾波レイへのツムグの体液を投与するための実験は、着々と進んでいる。

 一発勝負となるこの実験のため、ツムグの体液(骨髄液)濃度の念密な計算が行われなければならない。量と濃度を間違えば、レイは死ぬからだ。

 まず事前に採取したレイの細胞に、ツムグの体液を投与するとどうなるか調べる実験が行われた。

 顕微鏡のシャーレに乗せた微量のレイの細胞に、ツムグの体液(骨髄液)を当てるとどうなるか、まずその変化を調べる。

 

 次の瞬間、シャーレが爆発した。

 

 幸い調べていた研究者はひっくり返っただけで大きな怪我はなかったが、研究室が騒然となった。

 結論から言うと、ツムグの体液の量が多かったから爆発した。

 細胞のエネルギーが大きいため、使徒の要素に反応した結果そのエネルギーが暴走したのではないか。

 爆発飛散したレイの細胞は、欠片も残らず焼き尽くされていた。

「しかし、なぜ使徒の細胞にG細胞が反応するんだ?」

 そもそもその理屈自体が謎である。

 恐らくではあるが、それがゴジラが使徒を滅ぼそうとする理由なのではないか。可能性は高いだろう。

 しかし肝心のツムグは語ろうとはしない。

「せめてクローン体が残っていればな…。」

 レイに関する資料に記載されたクローンについて呟かれた。

 クローンはすべて失われ、現在いるレイただ一人だけしかいない。もしクローンがあれば科学者達は遠慮なくそちらを利用していただろう。実験が一発勝負ではなくなっていたはずだと舌打ちさえあるぐらいだ。

「ともかくやりましょう。綾波レイがゴジラに目を付けられる前に。」

 ゴジラに目を付けられたら実験どころじゃなくなる。

 

 レイの実験まで、準備を進める研究者達を尻目に、別のことをしている研究者達もいた。

 

「せめてもっと増やせればな…。」

 焼けた初号機から回収された微量の細胞を調べていた。

 体長80メートルもあったのに、散々潰されたうえに、放射熱線も受けているため細胞のイキが悪い。このまま死滅しないのが不思議なくらいだ。

 せめてもう少し増やせれば色々と実験に使えるのだが…っと、その研究者が肘をついて唸っていると。ふと、試験管に入ったツムグの骨髄液が目に留まった。

 その瞬間、ピコーンとその研究者の頭に電球が光った。

 微量の初号機の細胞の一部を切り取り、シャーレに移す。そこにものすご~く薄めたツムグの骨髄液を投与した。

 

 すると細胞のイキが良くなった。

 初号機の細胞に対し、骨髄細胞が少なかったため骨髄細胞は燃え尽きるように消滅して、初号機の細胞だけが残された。

 

 うまくいったとその研究者は心の中で小躍りし、ツムグの細胞を増量すれば初号機の細胞も増やせると思って増やそうとして、ふと手を止めた。

「……ゴジラのメルトダウンの時のデータってあるか?」

「なんで?」

「メルトダウンが鎮静化されたのは、椎堂ツムグが関わっているんだろう?」

「なるほど…。」

 そう言って、デストロイヤの事件の時の資料が引き出された。

 

 ゴジラのメルトダウン。

 ゴジラの住処であるバース島の消滅の際に、その原因となった地下の天然ウランの影響で体内炉心の核エネルギーが不安定になったために起こったことである。

 圧倒的な怪物と化したデストロイヤを圧倒するほどの力を発揮したが、体内から溶けて行くほどのエネルギーを暴走させあと一歩で核爆発か、メルトダウンによって地球が灼熱の星になるかもしれない危機が迫った。

 これを防ぐために冷却兵器が使用されたが、防ぎきれずメルトダウンが始まってしまう。

 ところが突然メルトダウンの症状は徐々に収まっていき、約数十時間で赤々とした熱を帯びていたゴジラの体は熱を失い、大量の放射能を吐きだしたものの核エネルギーの暴走は収まった。

 その放射能もゴジラの再起動により再びゴジラに吸い込まれ当時の東京は放射能の汚染を逃れたのだった。

 そしてゴジラが何かを吐きだし、ヨロヨロの状態で海へ帰還した後、ゴジラのその嘔吐物からドロドロに溶けかけた椎堂ツムグが発見された。

 持ち前の再生能力がほとんど機能しておらず、ツムグの回復には年単位で時間を要したものの、ツムグは全快。

 ゴジラは、数年間もの月日も姿を現すことはなかった。

 これがメルトダウン寸前のゴジラが元通りになるまでのことである。

 

 メルトダウンというもうどうしようもない現象を抑えたツムグの偉業については当時の情報操作により隠ぺいされた。そうでなくてもツムグの存在が隠されている以上公にはできなかったのだ。

 どうやってツムグがゴジラのメルトダウンを防いだのか、当時の科学者達が調べたり、ツムグ本人から聞き出そうとした。

 結論としては、ツムグがゴジラの核エネルギーの炉心である心臓に直接取りつき、自らの細胞を劇薬としてゴジラの細胞の回復力をアップ。炉心の回復によって暴走した核エネルギーは鎮静化され、メルトダウンは治まったということらしい。

 ツムグは、ツムグで炉心の心臓にとりついて細胞を与えるため半融合状態になってしまい、その結果ドロドロに溶けてしまったが、完全に溶ける前にゴジラに吐きだされて今に至るらしい。もし吐きだされなかったらツムグはゴジラに溶けて死んでいたとされる。

『ゴジラさんのいけず…。』

 喋れるようなった時のツムグの第一声がこれだったとか。

 

「この一件でツムグの監視体制がより厳しくなったんだったな。」

「ああ、ゴジラを助けたからな。隙さえあらばゴジラに味方する気満々だってことを主張したようなもんだし。」

 ナノマシンと爆薬を体内に仕込まれたのもこの時期からだ。

 研究者は、なんとかして初号機の細胞の培養をしたかった。

 初号機の構造が分かれば何かヒントが得られるかもと思い、ゴジラに破壊されている時の映像を閲覧した。

 その時、ゴロリと転がり出て来た球体を見て、使徒の体にあるコアと酷似していることに気付き、もしかしたらと思った。

 そこで保存されているザトウムシ型の使徒マトリエルから回収されたコアの一部を切り取り、クローニングを行う。

 クローン復元された使徒のコアに初号機の細胞を当ててみる。

 しかしコアの方はクローン復元されたにも関わらずほとんど機能していない。なので初号機の細胞に対して何の意味もない。

 なにかコアの代わりとなるものがあればと考えた時、あるモノの存在が頭に浮かんだ。

 

 改造巨人フランケンシュタイン。

 

 太平洋戦争末期にドイツから日本へ運ばれたとされる、“フランケンシュタインの心臓”と呼ばれる不死身の心臓なるものから生まれた巨人である。

 怪獣バラゴンとの戦いで絶命。

 その後、ガイラとサンダと名付けられた分身が戦うという事件が起き、両者ともに海底火山に巻き込まれて絶命。

 ガイラの方であるが、ガイラは、サンダの細胞の一部が海底で成長した者で、フランケンシュタインの不死身の心臓の凄さが分かる一例として資料に残っている。

 国際放射線医学研究所にフランケンシュタインが保護されていた時に採収されていたフランケンシュタインの血液が、後に地球防衛軍に回収されて厳重に保管されたわけだが……。

 

「不死身の心臓か…。」

 

 もしかしたらという思い付きで、引っ張り出されたフランケンシュタインの血液の一部を、機能を停止しているマトリエルのコアに注入する。

 しかし長らく保管庫にあったことや、微量であったため、変化は見られない。

 そこで更に、ツムグの骨髄液を注入してみる。

 するとコアが活性化し、初号機の細胞もそれに触発されて増えた。しかし活性化は急に下り坂になった。

 そこから活性化状態は微々たる状態で停滞。完全に活動が停止しないのは、フランケンシュタインの不死身の細胞の影響であろうか。

 使徒の細胞は非常に吸引率がいいというか、適応能力が高い。この現象からすると使徒の細胞がG細胞完全適応者の細胞を吸収し、細胞が活性化しすぎて、結果、細胞が焼けて火傷となってしまうのではないかという答えが得られた。人間(orミュータント)に注入した場合は、全身が超健康体になる代わりに即死してしまい、体内に残らないというデータがある。

 使徒の細胞の場合だとそのずば抜けた適応能力によって吸収したG細胞完全適応者の細胞を自らの方に変質させようとする力が発生し、持ち主の遺伝子に依存しているG細胞特有の性質と大喧嘩になるのではないか。

 その結果、反発しあうエネルギーが行き場を失い細胞が焼けてしまうのでは?

 ツムグがもたらしたレイを人間にするための一定量のツムグの細胞というのも他の使徒にも当てはめることができるならば、火傷せずに死者蘇生のごとく死んだ使徒の細胞を活性化させる最適な量があるのではないか。

 その反発しあうモノ同士をくっつける接着効果が、フランケンシュタインの心臓から出たフランケンシュタインの血液で叶うのではないか。

 現に機能を停止していたマトリエルのクローンのコアが微妙な状態であるが復活したではないか。

「よっしゃ!」

 成果に研究者はガッツポーズを取った。

 恐らくこれがうまくいけば、エヴァンゲリオンだけじゃなく使徒の構造も解き明かすことができると考えて研究者は実験を続けた。

 

 こうして徐々に増えて行く初号機の細胞。

 

 増えて行く細胞と共に復活していく、意思の存在に気付くことはなく…。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない死にたく』

 

 

「っ……! ハッ!」

 

 尾崎は飛び起きた。

 額を抑えるとびっしょり汗をかいていた。

 尾崎が見た夢は、真っ暗な中、聞き覚えがある幼い子供の声が、死にたくないと叫んでいた。

「しょごうき?」

 あんな破壊のされ方をしたら、黙って成仏などできるわけがないだろう。だが尾崎にはどうするこもできない。

 残留思念をサイコメトリーで読み取ることはあるが、あくまで物体に残る過去の情報でしかないため死者を成仏させるようなことができるわけじゃない。せいぜい祈りを捧げることぐらいであろう。

「俺には、どうすることもできないよ…。」

 夢の中で死にたくないと叫んでいた初号機(たぶん)に向けて、尾崎はそう言った。

「そういえば…。」

 ふと尾崎は思った。

 なぜゴジラは、使徒を滅ぼうそうとしているのか。

 前に倒れた時に、ゴジラがセカンドインパクトの真っ只中、消えた南極のど真ん中の赤い海で怒りの咆哮を上げた映像は視た。

 その時にゴジラは、セカンドインパクトが人為的に起こされたことと、これから先何かが起こることを知ったらしい。

 使徒を放っておけばサードインパクトで世界が滅ぶとされている。なぜ第三新東京を目指すのかは分からないが、何かがあるのは間違いない。(※まだリリスの存在は知られていない)

 ゴジラは、世界が滅ぶのを阻止したいのではないのだと、ツムグっぽい声(※本人とは断定されていない)が語っていた。

 ただ許せないのだと言っていた。

 何をそこまで許せなかったのか。人間を許せないのなら使徒を狙う理由にはならない。

 確か、使徒と人間は、ほとんど同じであるらしい。あんなにも姿形が違うのにだ。

 人間は人間で、使徒であることは初号機の口から語られている。

「……同じだから?」

 まさかそういうことかと尾崎は額を押さえた。

 ゴジラにとって人間が許せない存在で滅ぼしたいと考えているように、それに近い存在である使徒もまた人間と同じく許せないから滅ぼそうとしている?

 南極の消滅は、南極で眠っていた使徒アダムを人間がバラバラにしてしまったことが原因であるが、南極が消えて世界が滅びかける原因の力の大本たる使徒アダムを憎悪しているのだとしたら?

 それともゴジラは、南極で眠らされている間にアダムの存在を感じるなどして使徒を敵として認識するきっかけを作ってしまったのだろうか?

「ううう…、分からない。」

 考えれば考えるほど分からなくなってきて、頭痛がしだしてきた。

「ツムグは何もしゃべらないからな…。」

 ゴジラの思考が読めるはずなのに詳しいところは喋ってくれない。

 ツムグは、結局のところ味方なのか敵なのか…。その気になれば人類の敵になっても不思議じゃない存在だとは聞かされているが今のところこちら側(人類側)の味方でいてくれている。だが正直なにを企んでいるのか分からない。

 未来予知すらしているらしいが、ツムグは未来に何を視たのか…。

 少なくともサードインパクトが起こることはよくないと思っているっぽいのは間違いないが…。

「……こーいうときには来ないんだな。」

 神出鬼没のくせにこういう時には来ない。本当に何を考えているのかさっぱりである。

 まだ時間も早いので、尾崎は寝なおすことにした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……。」

 ツムグは自室で、ベットに寝っ転がりながらテレビを見ていた。

 テレビでは、ちょうど赤ちゃん特集をしていた。幸せそうな家族が次々に映されている。

 それを見てツムグは、苦笑した。

「俺には永遠に見れない光景だな…。」

 

 ツムグには、子供を作る能力がない。

 

 G細胞の力を持つ人類などツムグ以外に発見されていないため、発見された当初、ツムグのクローン、あるいは子供を作ろうとする動きはあった。

 しかしなぜかそれはできなかった。

 健康診断では普通の人間よりもミュータントよりも健康なはずなのにだ。

 保管はできてもクローンなどで培養し新たな命を作るには至らない。ツムグの形にすらならないのだ。

 機龍フィアの素体を作るにあたり、あの大きさまでツムグから搾っては注入し、搾っては注入しを繰り返して素体を作ったのだ。そこに機械が加わることで“ふぃあ”という自我意識が誕生したがあくまでふぃあは、コンピュータの意思でしかない。ツムグの体から生まれた命とは言えないだろう。現にふぃあには、ツムグの能力は受け継がれていない。

 ツムグは、ベッドの上で寝返りを打ち、目を閉じた。

 すると脳裏を過る、小さな光の粒の映像。

 ツムグは、フフッと笑った。

 

 

 

 




新しく手に入れたゴジラ関連の資料から、改造巨人フランケンシュタインのことを知り、wikiなどを参照してこの流れにしました。

……確実にフランケシュタインから報復されそうなとんでもない使い方していますね。
不死身の心臓というワードから、使徒のコアを連想して初号機復活までの一連の実験に使えるかもしれないと思ったからです。
コアを失った初号機のコアの代わりを、マトリエルのコアのクローンで補い、ツムグの骨髄液とフランケンシュタインの血液で機能していないコアを活性化させて初号機の細胞の培養をする。
完全なる捏造ですが、こんな感じで地球防衛軍の研究者達がやらかします。

次回は、短くなりそうです。
次の次でゼルエル編を書こうと思ってます。


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第二十二話  レイ、頑張る

 仕事が忙しかったり、執筆が難航して中々更新できなくてすみません。

 今回は、シンジとレイ、あとネルフのオペレーター達のことを少し書いてみました。

 私の執筆力では恋愛が書けなくて苦しんでます…。


 

 

 

 

 

 

 シンジがレイに告白し、二人が結ばれてから何日か経過した…。

 

「どうしたらいいか分からない?」

「……。」

 レイはこくりっと頷いた。

 相談された志水は、シンジがレイにたいして好意を寄せていたのはなんとなく察していた。

 いざ二人が結ばれたというのをレイが暴露してシンジが赤面して蹲ったのは最近のことだ。ちなみにレイは無邪気に微笑んでた。

 たぶんレイは、恋愛云々の知識はほとんどないだろうなっと思っていたのでもしかしたら自分に相談してくるかもと想定はしていたが、シンジじゃなく、レイの方が来るとは思わなかった。

「シンジ君は何か言ってたかい?」

「いいえ…。」

 志水は、腕組して唸った。

 志水は、今でこそ独り身だが異性との交わりがないわけじゃない。

 レイは、どこかで恋人同士が何をするのか知識を手に入れたのだろうか?

 その考えが浮かんだが、レイの顔を見るとそれは違うと思った。

 シンジは、誰が見ても分かるほどよく気が付く子だ。火傷をする前からしょっちゅうレイの手助けだってしている。恋人同士の進展を気にしているというよりは、シンジに助けられてばかりで自分も何かしたいという気持ちから相談に来たのだろう。

 恋愛云々にまだ疎いレイに、変に知識を与えてシンジとの仲が拗れることになっては大変だ。かと言って年頃の女の子らしさというものを芽生えさせるのは…。

 それを考えて、志水の頭にピコーンとひらめいた。

「参考になるか分からないけど…。」

「?」

 現在いる休憩室にある本棚から、本をレイに渡した。

 変に拗れるかもしれないと何も教えないのはいけないと考えた志水は、起爆剤にと渡したのは………、少女漫画だった。

 レイは、パラパラと漫画を読んで。だいたい読み終わると本を置いた。

「どう、がんばれる?」

「……がんばる。」

 レイは、立ち上がると足早に休憩室から出て行った。

 残された志水は、漫画を本棚に戻しながら。

「シンジ君…、これは試練よ。」

 シンジの健闘も祈った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「碇君。」

「綾波? どうしたの?」

 駆けて来たレイに、シンジは驚いた。

「……。」

「綾波?」

 目の前でジッと見てくるレイに、シンジは困惑した。

 困惑していると、レイがシンジの両肩を掴もうとした。

 だがその時。

 

「あれ? シンジ君にレイちゃん。」

 

 尾崎が通りがかった。

「あっ、尾崎さん。」

 シンジが尾崎の方を向いた。

 レイは、行き場のない手を宙に浮かせたまま、ジトッと尾崎を見た。

「???」

 レイの視線に尾崎はハテナマークを頭に浮かべた。

 一連の流れをすぐ近くで見ていた(というかたまたま通りがかって見ざるおえなかった)風間は、目頭を押さえて俯いていた。

「……おまえも苦労してるな。」

「…うるせぇ。」

 そんな風間の肩を、宮宇地が叩いて慰めた。

 

 

 

 その後。

 

「碇君。」

「なに?」

 シンジの目の前に来たレイは。

「えっ?」

 急に床にペタンと座った。

 そしてシンジを見上げて、自分の太ももを指さす。

「えっ? えっ? えっ?」

 シンジは、混乱した。

 レイは、じーっとシンジを見ていたが…。

「ね、ねえ、綾波、床は汚いよ?」

「! ……。」

「えっ? 綾波?」

 レイは、シンジの悪気ない言葉に眉を寄せ、素早く立ち上がると、背中を向けて駆けて行った。

 残されたシンジは、頭の中に沢山のハテナマークを散りばめていた。

「……。」

 また、たまたま通りがかって一連の流れを見てしまった風間は、眉間を指で押さえて項垂れていた。

 

 

 

 さらにその後。

「僕何か悪いことしちゃったんでしょうか…?」

「…それをなぜ俺に相談する?」

 なぜかレイのことでシンジに相談されることになったりした。

 以前のようにあからさまに避けられなくなっただけ進歩なのだろうと思い直すことにする。

「す、すみません…。」

「謝るな…。でっ?」

 恐縮するシンジにそう言い、頭痛がするのを押さえて風間が聞くと、シンジは、シュンと下を向いた。

 シンジが言うには、レイが床に座って太ももを指で指し示す動作をしてからレイの機嫌が悪くなったのだとか。

「……おまえはそれについて何を言った?」

「床は汚いよって言いました。」

 間違ってはいない。むしろ優しいぐらいだ。

「…くらだ。」

「えっ?」

「膝枕だ…。」

「? えっ? えっ…、えー!?」

 言われてやっとレイの行動を理解したシンジは、顔を赤くしたり青くしたりと忙しくなった。

「あからさま過ぎてかえって察せなかったのは分かる。察しろと言う方が難しいかもしれん。」

「ぼ、僕どうしたら!?」

「それを俺に聞くのか…。」

 風間は頭痛を感じて頭を押さえた。

「あれ? それじゃあ、最初のあれは?」

「………恐らくキスしようとでもしたんだろ。」

「えっ? き、ききききき、きすーーーー!? なんで!?」

「俺が知るか!」

「ひぅ…。」

 風間の怒鳴り声に、シンジは怯んだ。

 風間は、一息つき。

「とりあえず謝ってこい、そっからは自分でなんとかしろ。」

「嫌われたらどうしよう…。」

「そんなのは後で考えろ。まずは行動だ、行け!」

「は、はい!」

 オロオロするシンジに、風間は怒鳴り食堂の出入口を指さした。

 シンジは、ビシッと背筋を伸ばして出入り口に走って行った。

 シンジが行った後、風間は大きく息を吐き。

「あんた、どんな教え方したんだ?」

「ごめんなさいね…。」

 食堂のキッチン側にいた志水が謝罪した。実はずっと様子を見ていた。

「少女漫画を参考に見せて…。」

「そいつは随分思い切ったな…。」

「進展が全くないよりはいいと思ったのよ。」

 志水のしたことは間違ってはないが、正しいとも言えない。

 風間は、また大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「綾波!」

 M機関の建物の外に出たシンジは、レイを見つけた。

「……。」

「くわっ。」

 レイは、ペンペンと戯れていた。

「なあ、綾波…。ごめん…。」

「……。」

 レイは、振り返りもせずペンペンの両手を握って軽くプラプラさせていた。

「わ、分かんなくてごめん。でも…、あれ、あんなところでやつことじゃないよ…?」

「……。」

「聞いてる? えっと……その…。」

「…分からないの。」

「えっ?」

 レイがポツリと言った。

「碇君に好きって言って、それからどうしたらいいか分からないの…。碇君と何をすればいいのか。碇君にしてあげれること…、何か分からなくて…。」

「……ぼ、僕も実は分からないんだ。」

「えっ?」

 レイは、それを聞いてようやく振り向いて立ち上がった。

 シンジは、頬を染めてポリポリと指で頬をかいた。

「偉そうなこと言えないけど、僕も、その…女の子と……、えっと…、好きになった子と何をしたらいいか、分かんなくって…。」

「碇君も?」

「うん…、ごめん。」

「クワァ。」

 するとペンペンがシンジとレイの間に来た。

「どうしたの?」

 レイが聞くと、ペンペンとレイの左手を握った。

「?」

 更にペンペンは、もう片手でシンジの右手を握った。

 そして二人の手を引いて、二人の手を重ね合わせて握らせた。

「!」

「?」

 シンジは、ペンペンのやったことに驚いて顔を赤くし、レイは、小さく首を傾げた。

「クワァ~。」

 ペンペンは、やってやったぜと言う風にドヤ顔をした。

「ぺ、ペンペン!」

「碇君。」

「あ、綾波これは…、っ。」

 シンジがペンペンを嗜めようとしたらレイが声をかけてきたので慌てて弁解しようとした時、レイが両手でギュッとシンジの右手を握った。

「碇君の手…、温かい。」

「う…、そ、そう?」

 赤面するシンジ。レイは、どこか無邪気に微笑んでいた。

 そんな二人を見て、ペンペンは、いけーいけーと言うように飛び跳ねていた。

「あっ、そうか。」

「えっ、なに?」

「手…、握って歩くの。」

「ええー!」

「碇君、…イヤ?」

「い、いいい嫌じゃない…よ?」

「本当?」

「う、うん…。」

 嬉しそうに微笑んだレイに、赤面したシンジの心臓はバクバクと音を立てていた。

 

 

 それから、建物の通路内をシンジとレイが手を繋いで歩いている姿が目撃されるのだが。

 レイは、微笑んでいて、シンジは、赤い顔をもう片手で隠すようにしてレイに手を引かれるような形で歩いていたという。

 そんな二人に口笛を吹いたりして囃し立てた者達に、後ろから風間がチョップをいれるということがあった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

「ハ~~~~~~~~…。」

「長い溜息だな。」

 青葉と日向がネルフ本部の休憩室にいた。

 青葉は机に突っ伏し、向かい側に座っている日向は本を読んでいた。

「どうしたんだ?」

「就職試験落ちた…。」

「またか。これで何回目だ?」

「15回…。」

「なにやってんだよ。」

 弱々しく言う青葉に、日向は呆れ顔で言った。

 日向達、ネルフのオペレーター達は、ネルフ本部が権限を失ったことでとにかく暇だった。

 つい最近の出来事で、ゲンドウの暴走に事件の後、一時自爆装置の権限を奪われていたMAGIの復旧作業や破損したエヴァ弐号機の格納などの作業があり、少々忙しかったことはあったが、終わってしまえば暇になる。

 本部の維持については、本部中枢を担うMAGIの管理者であるリツコが中心となって行われており、今までの職員のほとんどが切られ、本部の維持に必要な人材も最小限、日向達のようにギリギリで残っている職員達がいるだけである。

 ネルフが失墜したことで元ネルフ職員という肩書は枷となり、再就職を困難にさせた。

 大量の失業者達が路頭を迷いかけたが、そこに救いの手を差し伸べたのが、ある意味で元凶である地球防衛軍だった。

 再結成されたばかりで人材が足りないということで、審査に受かれば地球防衛軍での働き口(職種様々)を紹介してもらえた。再就職ができずにあえいでいた元ネルフ職員達の多くがこれにしがみつき、殺到した。結果としてこれが機密の多いネルフ内部の情報を地球防衛軍に漏れさせることになり余計にネルフの重要性がなくなるきっかけにもなった。

 しかしそれでも再就職が難しかった者達もいる。

 すでに機能を失った作戦本部のオペレーターである青葉などがその代表と言える。

 オペレーターとして防衛軍に入りたくてもすでに司令部のオペレーター枠はかなり難問。そして事務作業の方も上限がいっぱい。

 色々と運が悪く事務職の枠が埋まってしまったばっかりに、再就職に漏れてしまったのである。

 ちなみに日向は。

「おまえ技術部オペレーター、まだ目指してんの?」

「まあな。」

 日向が今読んでいる本は技術職に関する資格の勉強をする本である。

「地球防衛軍は子供の頃からの憧れだったからな。この機会を逃したら二度と巡ってこないよ。」

「そりゃよかったな…。」

 目をキラキラさせて言う日向の様子に、青葉は少しうんざり顔で言った。

 

 

 

 一方で伊吹マヤは。

「先輩、コーヒーをどうぞ。」

「ありがとう。マヤ。」

 パソコンの前にゆったりと椅子に座っているリツコに、マヤがコーヒーの入ったカップを渡した。

「…マヤ。」

「はい。なんでしょうか?」

「あなたはこのままここにいるつもるりなのかしら?」

「はい。先輩を置いていくなんてできません。」

「今のネルフにいても何もないし、収入も少ない、贅沢を控えれば十分生活できる。そんな生活を続けることになるわよ?」

「大丈夫です。」

「若いあなたがこんなところで人生を終わらせるなんてことないのよ?」

「いいんです。これが私の選んだ道ですから。」

「あなたなら防衛軍の技術職でやっていくことだってできるのに、勿体ないわね。」

「それは、先輩の指導がおかげです。」

「私のためなんかにここ(ネルフ)に残らなくたっていいのよ?」

「私、先輩に憧れているんです。」

「落ちぶれた組織の管理しかできない科学者なんて憧れても失望するだけよ?」

「でも先輩。最近楽しそうじゃないですか。」

 マヤが言うリツコが楽しそうという意味は、ゴジラが出てきてからというもの、ゴジラ関連の資料や、ゴジラと防衛軍の戦いを生中継で視聴していることだった。

「それにMAGIの管理だって先輩一人よりやりやすいと思うんですよ。それとも私じゃダメですか?」

「そんなことないわ。ありがとう。」

「そう言っていただけるだけで十分です。」

 マヤはにっこり笑い。リツコは、やれやれと言う風に肩をすくめ微笑んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 波川の執務室で、波川とゴードンが机を挟んで対峙していた。

「…要件はなんですか?」

「ゼーレを知っているか?」

 それを聞いた波川は、眉を歪めた。

 波川の表情を見てやはりかとゴードンは呟いた。

「どこでその言葉を?」

「言う必要はない。」

「……。」

「……。」

 そして再び沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは波川だった。

「私もすべてを知っているわけではないわ。“彼ら”のことは。」

「全く知らないわけじゃないんだな?」

「セカンドインパクトが起こる前…、解散する前の地球防衛軍にいた頃、彼らに従う者と接触した。彼らは地球防衛軍を良く思っていなかったらしいから内側からどうにかしたかったのね。危うく殺されかけたことだってあったわ。」

「人類の文明が始まった頃から存在するとかしないとか…、歴史を裏から支配していたとは聞いたぜ。」

「あら、それだとあなたの方が良く知っているかもしれないわ。」

「………使徒が人類の可能性だってこともな。」

「なんですって?」

 ここから先は、ゴードンが加持から聞いたことである。

 使徒は、使徒アダムから生まれた生命の実を持つ人類。

 人間は、使徒リリスから生まれた知恵の実を持つ人類。

 両者は争う運命にあり、互いに持たない物を手に入れて完全な生命になることが目的である。

 人間は、使徒から生命の実を。使徒は、人間から知恵の実を。手に入れるために。

 使徒が持つ生命の実と言うのが、使徒の体を維持しているコアであり、S2機関という永久機関だという。

「人類の可能性だから、人類とほとんど同じ遺伝子を持つわけだ。ある意味当り前のことだった。使徒が人間に敵意を向けるのは俺達人間にしかない知恵の実とやらが欲しいから。……そして人類は、生命の実、永久機関のS2機関を欲しがった。ゼーレとかいう連中の目的はそれだろう。」

「その二つを手にした人類が覇者になるということかしら? 単に頂点に立つことだけを狙っているとは、思えないわね。」

「おまえもそう思うか?」

「人間の歴史の裏にいた彼らが、“その程度”のために動いているとは思えない。もっと面倒なことを考えて行動してそうね。」

「人間を進化させるためだっつったら信じるか?」

「…その話、どこで?」

「どーでもいいだろ。

「情報の出所は重要よ。」

「おまえがゼーレとかいう連中と繋がっている可能性はどうだ。」

「信用がありませんか?」

「戦自も国連も、ゼーレの隠れ蓑だったらしいからな。」

「それはどこの情報かしら?」

「ゼーレと繋がりのある奴らを片っ端から上げてもらおうか。」

「それを言ったらほとんどの人間達がそうなるでしょうね。ですが彼らはゼーレを良く思っていないらしいわ。」

「…ゴジラか。」

 地球防衛軍が誕生するきっかけとなった最悪最強の敵。

「そうでしょうね。ゼーレからの離反が増えたのもゴジラを始めとした怪獣の出現がきっかけではあったらしいわよ。」

 ゼーレにとって完全なイレギュラーであったゴジラを始めとした怪獣の多くの怪獣の出現は、ゼーレの隠れ蓑とされていた政治家や軍部などに自立する力を湧きあがらせ、ゼーレの威光が及ばない地球防衛軍が人類の存続を賭けてゴジラと怪獣達と戦いを繰り広げた。

「尾崎の命を狙っているのもゼーレか?」

 今までにも

「また命を狙われているとは聞きましたが、ゼーレとは断定できませんわ。」

「…連中は何か勘違いしているかもな。」

「その根拠は?」

「あいつ(尾崎)の力もそこまで及ばないということだ。」

「なら、本当に彼らのことを探ったのは、ツムグということになるかしら。」

「奴ならそれぐらい朝飯前だろう。」

「ですが、ツムグは何も喋りませんからね。」

「奴は何を企んでいる。」

「それは分かりません。」

「ったく、面倒な奴だ。」

「同感ですわ。」

 ゴードンと波川は同時に溜息を吐いた。

 

 

 と、その時。

 

 

 警報が鳴った。

 

「波川司令! 使徒が現れました! 至急本部に!」

 波川の部下が駆けこんできた。

「使徒か。」

「行きますよ。」

 波川とゴードンは、波川の執務室から出た。

 

 

 

 この使徒がもたらす悪夢を、まだ二人は知らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ネルフのオペレーター達のキャラがいまいち掴めてなくてすみませんでした。
 日向は、地球防衛軍の技術部に志望。
 青葉は、就職活動中。
 マヤは、ネルフに残る。
 だいたいこんな感じかな。

 次回で、ゼルエル編になります。


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第二十三話  力の使徒

 今回からゼルエル編です。

 ゼルエルは、旧劇と新劇を合わせた感じにしました。

 執筆が難航していて、若干短めです。


 

 

 

 その使徒は、ずんぐりした体に、特徴的な顔をしていた。腕らしき物は見当たらず、足も短く、足として機能するのかどうかも怪しい形状をしていた。

 そんな使徒が宙を浮遊し、ゆっくりと第三新東京へ向かっていた。

 地球防衛軍の戦闘機や地上部隊からの砲撃を受けても平然としており、ATフィールドを張ってもいない。

 完全に無視している様子は、奇妙な顔の形も相まって非常に不気味であった。

「完全にこちらを無視していますね…。」

「しかも避けようともしていない。」

「チッ、嘗めた真似を…。」

 地上の前線部隊の指揮官が舌打ちをした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『前線部隊の砲撃には全く興味を示していない。メーサー砲も全く効果なしだ。』

「だろうね~。」

 ツムグは、操縦席で足を組んでくつろぐように座りながら答えた。

『なんだ…、おまえは。知ってたのか!?』

「いや、嫌な予感だけはしてたからさ。」

『予感がしようがしまいが、出撃だ。』

「はいはい。」

 ツムグは、足を正して操縦桿を握った。

 しらさぎから機龍フィアが切り離され、使徒の進路上に着地した。

『ツムグツムグ、あいつの名前、ゼルエル!』

「ぜる、える…?」

 ツムグは、名前を聞いて眉を吊り上げた。

 ゼルエル。力(ちから)を意味する。

 ツムグは、その名前と意味を理解した途端、猛烈な不安を感じた。

「嫌な予感的中…?」

『大丈夫だよ、負けないもん!』

 ふぃあは、自信満々に言った。

 まだ生まれたばかりで危機感が薄いらしい。

『椎堂ツムグ! 使徒が行ったぞ!』

「う…。」

 そうこうしているうちに使徒ゼルエルが機龍フィアの前に舞い降りた。

 表情の変わらない顔と何も映さない両目がこちらを見ている。ツムグは、思わずたじろいた。他の使徒だって似たようなものなのに、こいつに限っては妙な圧力を感じたのだ。

『ツムグ?』

 いつもと違う様子のツムグにふぃあが不安げに声をかけた。

 と、その時。ゼルエルの目が光った。

「うわっ!」

 間一髪で操縦が間に合い、機龍フィアを横にずらすと機龍フィアのスレスレでゼルエルが放った光線が機龍フィアの肩にあるキャノンの右側を消滅させ、後方にある山を消滅させた。

「ゲッ…! ヤバイ!」

『ツムグ! 来るよ! 来…。っ!?』

「なっ…。」

 次の瞬間には、機龍フィアの右腕が根元から切り離されて後方に飛ばされた。

 カッター状に伸びたゼルエルの腕が目にも留まらぬ速さで機龍フィアの右腕を切断したのだ。

『う、ウソー、ウソー! 速い! なにアイツなに!?』

「ふぃあ、落ち着け!」

 ツムグは、残った左腕からブレードを展開しゼルエルに突撃した。

 ゼルエルの平たい腕がブレードを払うと、ブレードが真ん中から折れて地に刺さった。

 近接武器を失い、ならばと口を開けて100式メーサー砲を正面から放つ。

 すると数十枚ものATフィールドが発生し、十数枚を破ってそれを防いだ。

「これを防ぎきるか!」

 ゼルエルがずいっと前のめりになった途端、新たに張られたATフィールド飛んできた。

 地を抉りながら飛んできたATフィールドを真正面から食らい、機龍フィアの巨体が吹き飛んだ。

「ATフィールドを飛ばすって、そんな使い方でき…。っ!?」

 素早く立ち上がった途端、ボキリっと大きな音を感知し、そのすぐ後にツムグの体に大きな衝撃が走った。

 恐る恐る下を見たツムグは。

「ぁ…。」

 血を大量に吐いた。

 ツムグの半身を上半身と下半身に分けたのは平らな何か。

 それはゼルエルの腕であった。

 機龍フィアの体を貫き、中にいるツムグの体の胸から下を切断していた。

 ツムグの体を貫いたことで血液などの体液で汚れた端からブクブクと沸騰するように水泡が出来ていった。

 ツムグの体液と細胞で焼け爛れるとゼルエルは腕の根元辺りを切り離し、再び根元から薄っぺらい腕が生えて来た。

 首を折られたあげく、胴体をカッター状のゼルエルの腕に貫かれた機龍フィア。貫かれ切断された背骨から赤黒い液を噴出した。その目から光が消える。

 動かなくなった機龍フィアの横を、ゼルエルは浮遊しながら通り過ぎて行った。

 この一瞬の展開に、地球防衛軍の前衛も後衛も、言葉を失って固まってしまった。

『…お…おい…、おい、おい! 椎堂ツムグ! 返事をしろ! 聞こえてるのか!?』

「………動ける…、…うにな、る…ま、で、待っ…て。」

 口から大量の血を吐いた状態でぐったりと操縦席にもたれかかっているツムグは、切断された部位を撫で再生の具合を確かめながらそう返事をした。内臓が全部出て、操縦室を血の海にしている光景な上に、再生のために切断面と内臓が終始動いているのはとてもじゃないがお見せできない状況である。

『生きてたか! 状況を説明しろ!』

「いや…その…うん……、体、真っ二つに…され、た…。上と下が…離ればなれ。機龍フィアは、素体部分まで切断されて…。今から再生させるから待って…。」

『そんな状態でも生きているのか……。』

「乗ってるのが俺でよかったね。」

『……(ザザ)ッ…、ツム、グ、…ダ、だ、大丈夫?』

「ふぃあちゃんも無事だよ。」

『…意外と元気じゃねぇか……。』

「あはは…、そーでもないよ。まだ内臓全部出てるし。」

『うげっ、早く治せ!』

「ムチャ言わないでよ。」

 いくら再生力が高くても、時間は使う。

 機龍フィアの方も自己再生で素体部分の切断面を塞ぎ、折れた首がギギギッと治ってきていた。だがさすがに消し飛ばされた右肩のキャノンは治らない。右腕も地面に落ちたままだ。

 再起動できるまで機龍フィアは、ゼルエルを追うことはできそうになかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍は、騒然となった。

 機龍フィアが使徒ゼルエルの前に呆気なくやられてしまった。

 ゼルエルは、相変わらず前線部隊の攻撃を無視して、第三新東京を目指して飛行していた。

「機龍フィアが…。」

「なんなんだあの使徒は! これまでの使徒とはわけが違うぞ!?」

「前線部隊の攻撃が一切通用していないし、どうすればいいのだ!?」

「機龍フィアの再起動までどれだけかかる!?」

「分かりません!」

「ああああもう使えん!!」

「このままでは使徒が第三新東京に行ってしまう! なんとしてでも止めねば…。」

 

 しかし司令部の願い空しく、前線部隊の防衛を難なく突破したゼルエルは、ついに第三新東京に辿り着いた。

 

 ところが……、ここから思わぬことが起こった。

 

 ゼルエルは、第三新東京に面した海の方へ体を向けると、地面に着地し、ジッと動かなくなったのである。

 

 そう、まるで何かを待っているかのように。

 

「? なんだ、どうしたんだ? 動きが止まったぞ。」

「何を企んでいるだ、あの使徒は。」

「まさか…。」

「なんだ?」

「もしかしてあの使徒は…、ゴジラを待っているのでは…?」

「そんな馬鹿な!」

 使徒になってゴジラは、天敵だ。それがわざわざゴジラを待つなどと…。

 だがそれを裏付けるようにゼルエルは、海の方を眺めている。動こうとしない。

 それから数分後。

 海から放射熱線がゼルエルに向かって飛んできた。

 ゼルエルの前に10枚のATフィールドが発生し、全部破られたところで放射熱線が掻き消え命中はしなかった。

 海の方からあの雄叫びが木霊した。

「き、来た!」

 緊張が走る。

 ゴジラがやがて海から姿を現し、ゼルエルの前に立った。

 ゴジラを目の前にしてもゼルエルは、一切慌てる様子もなくその場に佇んでいた。

 両者の睨みあいが一分ほど続いた後、両者がほぼ同時に動いた。

 

 

 怪獣王ゴジラと、使徒ゼルエルの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「最強の拒絶型…。」

 ネルフ本部でリツコが呟いた。

 機龍フィアがゼルエルを前に敗北したのも生中継で見ていた。

 これまでの使徒でも、ゴジラ相手でも耐えることができた機龍フィアの特殊超合金が、いともたやすく切断され、右腕が飛び、首を折られ、体の中心を背中の方まで貫通された。箇所から見て操縦席と思われる。中にいるパイロットは、間違いなく無事ではないだろう。

「だとしたら今までの使徒とはわけが違う…。ゴジラは、果たして勝てるの?」

 リツコですら、この戦いの勝敗に大きな不安を感じていた。

 それほどの力を持つのが使徒ゼルエルなのである。

「きっとあの老人達は、期待しているでしょうね…。この使徒に。」

 ゼーレがゴジラを排除することに期待しているのは目に見えている。倒さずとも致命傷を負わせて人類補完計画実行まで大人しくさせたいはずだ。

 ゼーレにとって、ゴジラは完全なるイレギュラー。

 なんとしてでも排除したかったから地球防衛軍の結成と活動にもほとんど口出ししなかった。それが結果としてこれまでゼーレに従っていた者達の離反を招く結果となってしまったのだが…。

 今やゼーレの目的は、変わりつつある。そのことに彼らは気付いていない。

「人類の進化のための計画が、自分達に逆らう者達への報復になりつつあるのに、気付いているのかしらね…?」

 ゼーレに従わなくなったとはいえ、リツコはMAGIを使ってゼーレの様子を見ていた。ゼーレがMAGIのコピーを使っている以上、MAGI本体を操るリツコに筒抜けなのである。

 ゼーレから漂う不穏な空気にリツコは、多少の不安を覚えていた。

 と、その時。大きな振動が本部を揺らした。

 上ではゴジラとゼルエルの戦いが激しくなっている。

「……ゴジラが勝つことを願っている自分がいるわ。恐ろしい…。…っ?」

 頬杖をついてパソコンのモニターを見つめてため息を吐いていると、なぜかどこかで誰かがニヤリッと笑った気配を感じて、リツコは周りを見回した。

 

 

 

『それ悪いことじゃないよ~。赤木博士。』

『ツムグ…、もうくっついたの?』

『まだ。』

『えー。』

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 荒地になった第三新東京の地面に赤黒い血が散った。

 ゴジラの顔の左側から血が垂れる。

 ゼルエルは、ペラペラの両腕を宙でヒラヒラと揺らしている。その様はかなりムカつく感じだ。

 腹が立ったのかゴジラが歯を食いしばって唸る。

 ゼルエルの片腕がヒュンッと動いた。あまりの速さで残像すら見えない。

 ゴジラの爪が、ゼルエルのその腕を引き裂いた。

 ゼルエルの引き裂かれた腕はすぐに修復された。

 その直後、ゴジラの右肩辺りから血が噴き出た。先ほど引き裂いたゼルエルの腕が先にゴジラの肩を切り裂いていたのだ。ゴジラの右肩の出血はすぐに止まる。

 さすがのゴジラもこの一撃には驚いたのかゼルエルを見ている目が少し見開かれている。

 だがやられてばかりのゴジラではない。

 続けて振られたゼルエルの腕を掻い潜り、ゼルエルに突撃する。

 分厚いATフィールドが阻み、激突する音が響いた。

 ゴジラは、ATフィールドを掴むようにして破くが、何枚も重ねられたATフィールドはすぐには突破できない。

 ゼルエルの目が光り、爆炎がゴジラを包んだ。

 だがすぐにゴジラが顔を出し、残りのATフィールドに喰らいつき破る。

 ゴジラの顔が接触するかしないかの距離に迫り、ゴジラの口に熱線の光が込められた時だった。

 ゼルエルのずんぐりした体が“ほどけた”。

 そのためゴジラの熱線はその隙間から回避され、ゼルエルは上へ逃れた。

 足が無くなり、腕と同じヒラヒラの体の組織に、白い肋骨のようなものに囲われた赤いコア、そして特徴的な顔だけがあるその姿は不気味と言わずしてなんと呼ぶというような姿であった。

 ゴジラがハッと上を見上げた途端、何十枚ものATフィールドが放たれ、ゴジラを押し潰して土煙が大きく立った。

 土煙が晴れた後には、ゴジラがうつ伏せになって地面にめり込んだ姿があった。

 ゼルエルは宙に浮いた状態で更にATフィールドが発生させ、倒れているゴジラに放った。何度も何度も。

 そのたびにゴジラはますます地面にめり込む。しかしゴジラもやられてばかりではないと言わんばかりにATフィールドを押し戻すように立ち上がろうとする。放たれたATフィールドがゼルエルの方に押し戻されそうになったり、押したりを繰り返す。

 押し戻した一瞬をついて、ゴジラが上を向いて太い熱線を吐いた。

 赤い熱線がATフィールドを貫き、ゼルエルに迫る。

 ゼルエルの姿が熱線に飲まれるが、直後、ゴジラの左太ももが抉れた。

 ゴジラが悲痛な声を上げた時、ゼルエルがずんぐりした体に戻りゴジラの背後に周る。ゼルエルの体は熱線で焼かれたためか湯気が立っているがATフィールドで威力を殺したためほとんどダメージになっていないらしい。

 ペラペラの両腕がゴジラの体に絡みつき、その巨体を持ち上げて後ろへ叩きつけた。

 そしてもう一度持ち上げ、前方へ放り投げられるゴジラ。

 ゴジラがヨロリッと立ち上がろうとすると、ゼルエルの両腕がトイレットペーパーのように巻かれ、二本の棒状の形になりゴジラに向かって伸ばされた。

 真っ直ぐ伸ばされたゼルエルの腕がゴジラの首の横とわき腹を抉った。

 大きく出血したゴジラが後方に吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。

 ゼルエルがふわりと、ゴジラの近くに着地する。

 ゴジラは、かふかふと口を開閉させていた。首を抉られた際の出血で口から吐血していた。

 するとゼルエルの口から何かが出てきた。

 それは先端が四つに開閉し、ゴジラの胸に齧り付いた。

 ゼルエルの口に通じるそれからドクリドクリとゴジラから何かを吸い出している。

 

「や、ヤツはゴジラを喰っているのか!?」

「お終いだ…ゴジラですら敵わないなんて…。」

「な…波川司令…。このままでは…。」

「……。」

 

 絶望の空気が司令部を支配しようとした時。

 ゼルエルの背後に、機龍フィアが現れた。

 ゴジラを喰うのに夢中になっていたゼルエルは全然その気配に気づいていなかった。

 

「ゴジラさんを喰うな。」

 

 ゼルエルの背中に機龍フィアのドリルが刺さり、左目まで貫いた。

 ゼルエルの口から出ていた物がゴジラから離れ、口の中に引っこんだ。

 ゼルエルが暴れ、ドリルが抜けた。

 後ろにいる機龍フィアの方に振り向いたゼルエルは、両腕を再び棒状に丸めた。

 

「おまえ、馬鹿だな。」

 

 ツムグが吐き捨てるように言った。

 

「ゴジラさんを喰うなんて、身の程知らずが。」

 

 ツムグは今まで誰も見たことがないほど冷たい目でゼルエルを見つめた。

 その時、ゼルエルの体がドクリッと震えた。

 棒状に丸められた腕がほどける。

 宙に僅かに浮いていたゼルエルの体が、地に落ち、前のめりになる。そしてメキメキベキベキと不快な音を全身から鳴らし始める。背中に背びれのようなものが発生し、ペラペラの腕が太くなり更に長くなって手の先が地につく、爪が伸びる、ゼルエルの特徴的な顔を押しのけるように、全く違う顔が突き出てきて、不揃いの鋭い歯が並んだ口を大きく開けて、…咆哮した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ……ゼルエル強すぎたかな。
 ゼルエルが今までの使徒と格が違うという点を強調したくてゴジラを苦戦させたら、圧倒させてしまった…。

 そしてゴジラを喰った結果……。
 純粋なG細胞を取り込むと使徒でもこうなるということにしました。

 そのうち書き直すかもしれません。


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第二十四話  G細胞と使徒

 今回でゼルエル編は終わりです。
 早って感じですが戦闘を何話も長引かせるのは、執筆力のない私には無理でした。

 今回は、ゼルエルがG細胞を取り込んだ結果を描きました。
 オルガのようでいて、オルガのようにはいかないということにしました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼルエルは、咆哮した。

 

 いや正確にはゼルエルの声とは言い難いかもしれない。

 

 背びれ、太く鋭い爪、ゼルエルの顔を押しのけるようにして生えて来た新たな顔。

 

 変り果てた姿となってしまった。

 

 

 

『こ、これは…!』

『使徒が変異したぞ!』

『この姿は…。』

 

 ゼルエルの今の姿は、地球防衛軍の古参は見たことがある、とある怪獣に似ていた。

 正確には怪獣ではなかったのだが、怪獣となったモノ。

 

 宇宙怪獣オルガ。

 G細胞を取り込んだ結果、副作用で怪獣となった宇宙人ミレニアンの成れの果て。

 その怪獣にどことなく似ていた。

 

『G細胞の副作用か!』

『さっきゴジラを喰ったから!?』

『G細胞完全適応者の細胞では火傷して、純正G細胞だと怪獣化なのか!?』

『…完全適応者……、椎堂ツムグの細胞を溶かした水分では使徒は焼かれる。だがゴジラはどうだ? ゴジラの純粋な細胞では火傷をしていなかった。あれだけゴジラの血を浴びていながらあの使徒は平然としていたぞ。』

『…! なぜ…?』

『それは調べてみないと…。』

『なんで今更そんなことに気付くんだ…。』

『今までゴジラが使徒との戦いで出血したことがなかったからだろ。』

 

 司令部は大騒ぎとなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「チッ。」

 ツムグは、舌打ちした。

 変異したゼルエルの姿を睨む。とにかく気に入らない。

 ゴジラはまだ倒れたまま動かない。胸の部分に先ほどまでゼルエルに喰いつかれていた傷跡があり、それがまた気に入らない。

「よくもゴジラさんを喰ったな…!」

『ツムグ、落ち着いてー!』

 怒るツムグに、ふぃあが声を掛けるがツムグは全く聞かない。

 怒りのままに操縦桿を操作しドリルを展開した腕を振るう。

 ゼルエルの変異した腕が振るわれ、ドリルを弾いた。

 ゼルエルが再び咆哮し、機龍フィアに向かって来た。

 宙に浮かず、地についている大きく肥大化した両腕を足代わりにするようにして移動している。

 くっつけた右腕のブレードを展開し、ゼルエルに振り下ろす。

 ゼルエルの元々ある顔の方が切り付けられたが、突進は止まらない。

 大口を開けたゼルエルの新しい顔が機龍フィアに喰らいつこうと迫ってきた。

 機龍フィアが横にずれて避けると、ゼルエルは、勢いのまま横を通り過ぎ、そのまま地面に顔から突っ込んで倒れた。

 よろよろと立ち上がるその姿は、最初の頃のあの不気味で圧倒的な存在からかけ離れており、恐らくまだG細胞の変異に慣れていないのだろう。

 ゼルエルの背中の背びれの横からシュルシュルと布状の体の組織が出て、機龍フィアに向かって振られた。どうやら体が思うように動かない代わりに自由が利く布状のそれで攻撃するらしい。

 細かいフットワークで布状のそれを避けると、再びドリルを展開してゼルエルの背中を狙った。

 布状の組織が阻み、ドリルが布状の組織を貫通し、止まった。

「邪魔だ!」

 ツムグが叫び、ドリルを一旦引いて、再び突き出し、布状の組織を強引に破った。

 ゼルエルの体に到達したドリルがゼルエルの背中を抉った。

 ゼルエルに生じた新しい顔が悲痛な声を上げ、振り返りざまに大きな腕を振るって機龍フィアを弾き飛ばした。

 弾き飛ばされたが、倒れず地面に着地した機龍フィア。

 ゼルエルの体からシュルシュルと布状の組織が発生し、イソギンチャクのように揺れ始めた。

 何本もある布状のそれがクルクルと巻かれ、何本もの棒状の物に変化して物凄い勢いで伸ばされてきた。

 両腕をドリルに変え、棒状の物をよけながら二、三本を引き裂き、ゼルエルとの距離を詰めようとした。

 ドリルを振りぬこうとした時、ゼルエルは片腕を前に出してドリルを腕で防いだ。ドリルが腕に刺さり肉が抉れる。

 ゼルエルに生じた新しい顔がずいっと前に出てきて機龍フィアの肩に噛みついた。

 特殊超合金に歯が擦れ、嫌な音が鳴る。

 しかし噛みついて間もなくゼルエルが口を離した。

 そして突き飛ばすように手を使って機龍フィアから距離を取る。

「こいつ…。」

 何をしようとしたのか理解したツムグは、忌々しいとまた舌打ちした。

 かつてオルガが更にG細胞を摂取しようとしてゴジラを丸呑みにしようとした時のように、機龍フィアからツムグの細胞を摂取しようとのだが、純粋なG細胞ではないと気付いて喰おうとするのをやめたのである。

 そうとなれば次にゼルエルが狙うのは…。

 

 倒れているゴジラの方に、ゼルエルが目を向けた(新しい顔の方が)。

 

 ゼルエルが咆哮し、獣のように両腕を使ってゴジラの方へ進んだ。

 機龍フィアがゴジラとの間に入り、その突進を受け止めた。

 押し合いへし合いになり、やがてゼルエルが布状の組織を機龍フィアの背中に突き刺した。

 背骨の破損個所を塞いでいたツムグの細胞組織が剥がれ、再び赤黒いモノが噴出し、それがゴジラに降りかかった。

 ジュウッと音を立てて、ゴジラの体にかかったツムグの体の組織が蒸発して染み込む。

 するとゴジラの体にあった傷が物凄い勢いで再生を始めた。

「ゴジラさん…。」

 今だ起き上がらないゴジラをちらりとツムグは見る。

 ゼルエルの手が機龍フィアの顔を掴んだ。

 とにかく行く手を阻む機龍フィアをどかそうと躍起になっているようである。

 これ以上ゴジラを喰らえばゼルエルは、間違いなくよりゴジラに酷似した怪獣に変異するだろう。

 今のゼルエルには、もはや本来のゼルエルとしての意思はほとんどないのかもしれない。あるのは、ただよりゴジラの細胞を摂取してゴジラに近い存在に変異することだけだろう。

 ゼルエルのコアの方を見ると、コアは、ひび割れ、今にも砕けそうになっていた。

 つまり使徒ゼルエルは、すでに死にかけているのだ。“使徒”としては。

 変異が完全になった時、そこに残るのはゼルエルではなく、元がゼルエルだった怪獣がだけが残されることになるのだろうか。

 邪魔だと言わんばかりにゼルエルが布状の組織をやみくもに振り回す。そのたび機龍フィアから火花や装甲が剥がれたりして傷ついていく。

 機体ダメージの過多を知らせる警報音が操縦室に鳴り響きだした。

『つ、ツムグ…、イタイ、イタイよぉ…。』

「くっ。なら…。」

 ツムグは、ふぃあの悲鳴を聞かずリミッター解除のスイッチを押そうとした。

 その時。

 

 機龍フィアの背後で、ゴジラが立ち上がった。

 

「ゴジラさ…、ブっ!」

 

 ついに復活したゴジラの姿に歓喜したツムグだったが、機龍フィアの頭部を後ろから掴んだゴジラによって機龍フィアは、ゼルエルに頭を叩きつけられたため舌を噛み最後まで言葉を紡げなかった。

 ゴジラの怪力で叩きつけられた機龍フィアの頭部の一撃で、ゼルエルは怯み、距離を取った。

 ゴジラは、ぺいっと機龍フィアを横に放り棄て、雄叫びを上げた。

 その目はギラギラと怒りに満ちており、血で汚れた口元を大きくゆがめている。

 機龍フィアという障害がなくなったことで、ゼルエルがゴジラに迫った。

 伸ばされた大きな手をゴジラが掴み、そのまま持ち上げて、投げ、地面に叩きつける。

 それを何度か繰り返す。

 コアに入っていたヒビがますます増える。

 放り投げられて地面に叩きつけられ、ヨロヨロと起き上がろうとしながら、シュルシュルと布状の組織を出す。

 また棒状に変化させたそれが伸ばされ、ゴジラを攻撃するがゴジラは、棒状のそれを掴み引き千切って捨てた。

 使徒ゼルエルとして死にかけている今のゼルエルの力は、最初の頃と違いかなり弱ってしまっているのだ。

 更にゴジラは怒るとパワーアップする性質があり、弱体化したゼルエルの力をますます霞ませる。

 ゴジラが雄叫びを上げながらゼルエルに接近すると、ゼルエルは、素早くゴジラの腕に噛みついた。

 噛みついた端からゴジラの細胞のエキスを吸い取ろうとする。だがそれを黙って許しはしない。

 ゴジラは、ゼルエルの新しい顔の方の上顎と下顎を掴んだ。

 ギリギリメキメキと、ゴジラは、怪力でゼルエルの新しい顔の方を上下に引き裂いていく。

 引き裂かれたことで出血をし、新しい顔の横にある元々あるゼルエルの顔が血で汚れていった。

 そしてついに下顎を千切り取ったゴジラは、更にゼルエルの腕を掴んでへし折った。

 バランスを崩し前のめりに倒れかけるゼルエル。更にゴジラは、足をゼルエルの肩辺りに乗せて、折れた腕を引っ張り、引き千切る。引き千切られた腕は、その辺に放り棄てられた。

 コアが今にも壊れそうな状態なせいか、あの異常な再生力も失われてしまったらしい。

 もはや、このままゴジラに惨殺されるのだろうかと戦いを見守っていた者達が思った。

 ゴジラがゼルエルの元々ある顔の方を掴み、引っ張ると、まるでゴムのように伸びる顔。

 その時だった。

 ゼルエルの口から、ゴジラを喰った時に使った器官のような物が飛び出し、それが思いっきり広がって、ゴジラの顔から上半身辺りまで飲み込んだ。

 飲み込んだヒダの部分からゆらゆらとエネルギーを吸い取っていることを示す光が発生している。

 この光景は、かつてオルガがゴジラを丸呑みした光景とよく似ている。

 その証拠に、ゼルエルの体から生じている背びれがますます発達し、ゴジラの背びれにより近いモノになり、尻尾が生え、足の方もゴジラのようにごついモノに変異しつつあった。

 その変異によってコアがビシビシと音を立てて、ついに崩れた。

 と同時に、ゼルエルの動きが止まった。

 へたり込むように上半身を前に倒れさせ、ゴジラは、自分を丸呑みにしようとしていたゼルエルの口から出て来た。

 動かなくなったゼルエルを、ゴジラが見下ろす。

 そしてゼルエルの体がドロリと溶けるように崩れ始めた。

 溶けた体がどんどん地面に広がっていく。

 やがて黒っぽい灰色の液体だけが残り、ゼルエルは形を残さず溶けてしまった。

 

 

 地球防衛軍のスーパーコンピュータのパターン判別機能が、パターン青の消失を示した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「死んだか…。」

 ゴードンは、轟天号の中で中継を見ていてそう呟いた。

「これがG細胞の副作用なのか…。」

「馬鹿な真似をしやがって。」

 ゴジラを喰わずにいれば、ゼルエルは、勝利していただろう。使徒として。

 だがゴジラを喰った代償にゼルエルは、変異に耐えられなかったのかコアが砕け、ドロドロに溶けて死んでしまった。

「艦長。発進しますか?」

「発進させろ。ゴジラを撃退する。」

「了解。」

「機龍フィアの方はどうなさいます?」

「あの状態じゃあれ以上は動けないだろう。放っておけ。」

 機龍フィアは、地面に転がったまま動かない。時折火花が散っているので機能はまだ生きているらしい。

 

 

 ゴジラとゼルエルの戦いは、ゼルエルの自滅によって幕を閉じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 相変わらずの、どこだか分からない薄暗い場所で。

 

『……………誰か何か言わんか。』

 ゼーレの面々はお通夜状態のように静まり返っていた。そんな中、そのうちの一人が呟いた。

『最強の拒絶型の使徒が……。』

『どう考えても自滅ではないか…。』

『なぜゴジラを喰った…。喰わなきゃ勝てたぞ、あれは。』

 文句を言ったところですでに死んだ使徒には伝わらない。

『議長、このままでは…。』

『……。』

 話を振られたキールは、腕を組み、黙っていた。

『残る使徒は三体、ゴジラにすべて退けられてしまうのか…。』

『まだ敗北が決まったわけではないだろう! 諦めるな!』

『エヴァもない、使徒も残り少ない、どう勝てと…?』

『おのれゴジラめ! 貴様さえいなければすべてがうまくいっていたというのに!』

『ゴジラさえいなければゴジラさえいなければゴジラさえいなければゴジラさえいなければゴジラさえいなければ…。』

 ついにはブツブツとそんなことを言う者さえ現れ始めるほどゼーレは追い詰められていた。

「ことは一刻を争う。」

 キールが口を開いた。

『議長?』

「もはや最終手段を取るしかない。」

『ぎ、議長! しかし!』

「ならば良い案があるのか?」

『っ…それは。』

『……。』

 黙ってしまう面々にキールは、深く息を吐いた。

「我々人類はこのままゴジラに滅ぼされるわけにはいかんのだ。だがしかし、奴を滅ぼすにはもうこれしかあるまい。」

『ゴジラを滅ぼすため…。』

『そのために我々は進化の道を捨てなければならないか…。』

『セカンドインパクトでも死ななかったのを、サードインパクトで殺せるのか? フギャっ!?』

 その疑問を出したら、もう本当に方法が無くなってしまう。これを言った構成員は、キールが電流を流してお仕置きをした。

「ゴジラを滅ぼさねば人類の進化もクソもない。我々が取るべき道はほとんど残されていないに等しいのだ。これも人類のため…。覚悟を決めよ。」

 キールの静かな言葉に、他の構成員達は見えないが深く頷いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 ゴジラは、回復したものの消耗が激しかったのか、轟天号と交戦せず海に帰って行った。

 ゴジラが海に帰還した後、轟天号が機龍フィアを助け起こすためにしらさぎや他の船隊と第三新東京に着艦していた。

 そんな中、ネルフにいるリツコのもとにある人物が訪ねた。

 

「これはこれは大佐さん、何の御用かしら?」

 ゴードンだった。

「ドイツから運ばれて来た荷物があるって聞いたもんでな。」

「あら、そんなものあったかしら?」

「とぼけるな。」

「お気を損ねたかしら?」

 ゴードンの言葉に、リツコは、クスクスと笑った。

 リツコは、席から立ち。

「マヤ、しばらく席を空けるからMAGIの方をお願いね。」

「はい、分かりました。」

 マヤにMAGIを任せ、リツコは、ゴードンの近くに来た。

「こちらですわ。ついてきてください。」

 リツコの後ろにゴードンがついていった。

 最低限しか機能していないネルフの中を歩いて、やがて辿り着いたのは総司令室だった。かつてここでゲンドウが座っていた席がある。

 司令の席に設置されているキーボードをリツコが操作する。

 すると広い司令室の中央辺りの床が開き、何かがせり上がってきた。

「これですわ。」

 それは頑丈なトランクだった。

「こいつは?」

「あら、内容は聞いていないのですか?」

「開けてみてからの楽しみだとか言ってたな。」

「そう。」

 そう言いながらリツコは、トランクのパスワードを解いていく。

 そして開けられたトランクに詰まっていたのは…。

「あの男の企みにどうしても必要だったモノ。今となっては無用ですけれど。」

「おい、どういうことだ?」

「これは、卵。かつてアダムと呼ばれていたモノが還元された姿。」

 トランクの中で胎動するそれは、半透明な殻に包まれた何かの胎児のようなモノ。

 リツコは、それをアダムだと言う。

「セカンドインパクトの元凶ってわけか。」

「あら、そこまで知っているの?」

「とある男から聞いた話だ。誰がやったのかは知らねぇ。」

 リツコは、ゴードンの言葉から、ゴードンがセカンドインパクトの事実は知っていてもゼーレやミサトの父親達のことは知らないことを察した。

「これをどうするのです?」

「預からせてもらう。」

「そう。でも気を付けてください。これがあると使徒がそちらに行きますわよ。」

「どういうことだ?」

「使徒の目的はアダム。アダムの波動に魅かれ、そこを目指す。もし使徒がアダムと接触されば…。」

「サードインパクトが起こる。」

「そこまで知っているのなら気を付けてくださいね。」

「それだと妙な話だ。」

「といいますと?」

「これが運ばれたのはあの魚みたいな使徒の時だ。だったらそれ以前の使徒は何を目指してここ(第三新東京)に来た? ここにはまだなにかあるんじゃないのか?」

「…お見通しなのね。でしたら…。」

 リツコは、観念したと言いたげに大げさに肩をすくめて見せた。

 そして、彼、ゴードンをある場所へ案内した。

 

「これで、ネルフが隠す物はもうありませんわ。」

 

 そう言って見せた物は。

 

「これは…。」

「これはリリス。黒い月に乗ってやってきた私達人類の祖先と言うべきかしら。」

 

 十字架に磔にされ、槍で串刺しにされた白い巨人だった。

 

 

 

 

 

 




 ゼルエルは、ほぼ自滅に近いです。
 G細胞を取り込まなかったら勝機はあったかもしれません。
 G細胞を取り込んだ結果が、必ずしもプラスになるとは限らないと思ったので。


 アダムとリリスをどうするか…、悩んだ結果がこれです。
 加持の情報でアダムの卵が見つかり、リリスの方はリツコが開示しました。
 アダムの卵については、次回でどうなるかを描きます。

 執筆がうまくいかず、目標の20KBまで文章が中々書けなくなっています。
 次回はいつになるやら…。


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第二十五話  精神干渉

展開が思いつかない。どうしよう…。

これ投稿したらちょっと間を置こうかな。

今回は、アラエル編ですが、パパッ(?)と終わらせました。

あと、卵のアダムをどうしたかを書きました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球には二つの月がやってきた。

 

 白い月には、アダム。

 黒い月には、リリス。

 

 アダムは、生命の実を。

 リリスは、知恵の実を。

 

 それぞれが生命の起源となる果実を持っており、本来なら一つの月しか来ないはずの惑星に二つの月が来たことで、両者は対立する宿命となった。

 彼らがどこからやってきたのかは分からない。

 だが彼らは、使徒を含め地球の全ての生命の起源となった。

 アダムは、自らの眷属である使徒と共に白い月のある南極で眠り、地球には知恵の実を持つ生命で溢れることとなった。

 やがてリリスの子孫である知恵の実の集大成と言える人間という種族がアダムに干渉しようとした。

 生命の実であるS2機関を起動し、自分達の物とするために。

 そして起こったのがセカンドインパクトと呼ばれる大災害。

 ロンギヌスの槍という槍でアダムが砕かれ、卵に還元されたその余波であるという。

 地球はどうしようもないほど破壊され、多くの人類と他の生命も死滅した。

 人類と対立してきた怪獣達も姿を消した。

 それでも生き残った生命は、意地でもこの地球で生きている。

 そんな中、使徒が現れ、サードインパクトの危機がおとずれようと、ゴジラが復活しようと。

 それでも戦い、生き残る。戦うために生き、生きるために戦う。それを繰り返す。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アダムとリリス。

 

 その存在が、リツコにより開示され地球防衛軍は騒然となった。

 どちらも使徒であるし、しかも地球上の生命の起源であると言うのだから信じられないし、アダムに至ってはセカンドインパクトの元凶ともいえるのだから。

 アダムの卵については、加持の情報によるものだが表向きはゲンドウが隠していたのをリツコが見つけたということになった。

 使徒が第三新東京を目指して行動する理由が、アダムと接触するためであることも明らかになった。

 だが実際には、第三新東京にはアダムはなく、リリスが代わりにいるのであり、アダムは、魚型の使徒(ガキエル)の襲来の時にドイツから運ばれて来たということらしい。魚型の使徒が轟天号を狙ったのは、轟天号が運んでいたのが弐号機だけじゃなく使徒アダムも一緒に運んでいたためだったそうだ。

 こうしてネルフは、隠していたほとんどすべての重要な情報を出したことになる。

 

「できればMAGIは残しておいてほしいわ。これは私の母の忘れ形見だもの。」

 

 使徒が第三新東京を目指す理由が分かった以上、ネルフがある意味も失われたも同然だった。

 だが使徒とゴジラの決戦の地としては、第三新東京以外にないため、引き続き最低限の維持を命じられた。

 回収されたアダムは、地球防衛軍の科学研究部で解析をと言う声が多々あったが。

 

「またセカンドインパクトのを起こしたのかよ。いや、次はサードインパクトか。」

 

 セカンドインパクトのあの惨状から、アダムに手出しするのは臆され、だがそのままではアダムが成長しサードインパクトの引き金になるということで…。

 

「なんでまた、俺に?」

 

 ツムグに一任された。

「おまえがこの手のことには適しているんだよ。」

 と言って、アダムの入ったトランクを渡される。

「そんなこと言って、何をするかはもう決まっているのにさ。」

「こっちだってコレ(アダム)を処分するのは、勿体ない限りなんだ。他の連中が勘付く前にとっととやれ。」

「はいはい。」

 ツムグは、やれやれと肩をすくめて、トランクを開けた。

 胎動する卵を取り出し、そして。

 

「あーん。」

 

 一口でいった。

 

「…うわっ。マっっっっズ!」

 喉と腹を押さえて、ツムグは、嫌な顔をした。

 その後もマズイマズイと連呼しながら涙目。

 アダムを持ってきた人も嫌そうな顔をしている。

「ねえ。吐いちゃダメ?」

「吐くな。そのまま腹に入れてろ。アダムの波動を出さないようにするには、そこ(ツムグの腹の中)が一番なんだとさ。」

「赤木博士が言ったの?」

「使徒にとって、おまえの細胞は天敵だからだとさ。」

「だったら俺の胃袋なりを摘出してそれに入れたら?」

「胃袋程度でアダムの波動を防げたら喰わさないわ。」

「あっ、そう。…うぇ…。」

 もう吐きそうと言わんばかりに、ツムグは気持ちの悪いという顔をした。

 こうしてアダムは、ツムグの腹の中で保管(?)されることになった。

 

 リリスの方は、とにかくでかいのと、磔にされているのと、地下深く過ぎて運び出せないということで、ネルフの地下に残っている。

 それにまだ現時点で使徒にアダムがリリスだということがバレていないはずなので、引き続き使徒を引き寄せるためというのもあった。

 

 

 ところで…。

「ツムグ。」

「なに?」

 尾崎達がツムグを訪ねた。

「ネルフの地下に行ってきたんだ。もう何が言いたいのか分かるよな。」

「ああ。うん。」

「なぜレイちゃんのクローンをすべて焼き払ったんだ?」

 地下にあったレイのクローン体の全てを熱線で焼き払ったことがバレたようだった。

 しかしそれは想定の範囲内であるツムグは、特にリアクションはせず。

「あのままじゃ、あの子が暗殺になりして殺されて、あそこにあるクローンに魂が移ってたかもしれないじゃん。」

 と、悪びれもなく答えた。

「おまえ。」

「あそこの映像は尾崎ちゃん、見たんでしょ? あんなの見せられたら尾崎ちゃんはそのままにしてられる? 誰かに見せたいと思う?」

「……。」

 培養液の中を漂っていたレイのクローン体達の映像を尾崎は超能力で見ている。尾崎は何も言えず押し黙った。

「それとも実験したかった? 音無博士。」

「っ、やめて。」

「そうだよね。分かっててもやりたくない。それでいいじゃん。」

 尾崎達は、ツムグのその態度に怒りを覚えたが、過ぎてしまったことなのでこれ以上の追及はできなかった。

 

 

 

 なおアダムが地球防衛軍の手に堕ちたと知って、ゼーレは、阿鼻叫喚であったらしく、取り返そうと刺客を送ったりしたものの、アダムの所在を掴めず徒労に終わることになるのは別の話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そんな中、新たな使徒が出現した。

 

 サハクィエルに続いて、またも宇宙空間に現れたその使徒は、光そのもののような体をしており、翼を広げた鳥のようにも見える形をしていた。

 サハクィエルの時のこともあり、落下攻撃を警戒していたが、落下攻撃をしてくる素振りはない。

 翼を広げて宇宙空間をバックにそこにいる姿は、これまでの使徒の中で特に美しく神々しかった。

 

 この使徒の名は、アラエル。鳥を意味する。

 

「宇宙への攻撃について、前回の使徒(サハクィエル)の時に使用したメーサー砲を使うことを提案します。」

「しかしあれは、あの時に大破したのでは?」

「新たに開発した物がある。」

「轟天号を宇宙に打ち上げるのは?」

「使徒の攻撃方法が分からぬ以上、それは他の艦隊による総攻撃のために取っておけ。」

「モゲラも加えましょう。」

「いい案だ。」

 モゲラは、ゴジラとの戦いで一回大破(※壊したのはツムグ)して以来出番がほとんどなかった。機龍フィアの運用に疑問符を持つ者達はモゲラの活躍に期待を寄せている。機龍フィアが修理中なのもありモゲラを宇宙へ飛ばす案は案外すんなりと通った。

 そして宇宙空間にいるアラエルへの攻撃のため、準備が始まった。

 巨大砲塔を空へ向けて整え、モゲラや轟天号を始めとした艦隊を打ち上げるためのロケットの準備をしていた。

 その時だった。

 

 柔らかく眩しい光を、アラエルが地上に向けて発し始めたのである。

 

 それが巨大砲塔を整備していた地上班に降り注ぐと……。

 突然彼らは頭を抱えて苦しみだした。工具を投げるように手放し、高台にいた者は高台から転がり落ちるなどの被害が発生した。

「なんだ!? 何が起こっている!?」

「あの光か…! これがあの使徒の……っ!?」

 地上で待機していた部隊にも光が降り注ぎ、彼らも漏れず苦しみだした。

「うわああああ!」

「やめろぉぉぉぉ!」

「いやだ、イヤダ! イヤダーーー!」

「見るなミルな見るな! 俺の心に入って来るなーーー!」

「やめてくれぇぇぇぇぇ、入って来るなぁぁぁぁ!」

 口々に泣きながら叫ぶ彼らの声から、アラエルの攻撃方法が分析できた。

「精神干渉!? それがあの使徒の攻撃か!」

「物理攻撃でもなんでもなく、精神そのものに直接攻撃してくるとは…、いったいなぜ…?」

「ともかくあの光に…、っ!? まずい、光がこちらにも来ているぞ!」

「退避! 退避! 建物内へ逃げろ!」

「あの光に触れるな!」

 光に触れずにすんだ他の部隊が大急ぎで建物内へ逃げ込んでいった。

 アラエルの光は、やがて場所を移動し、地球防衛軍の基地の方へと向かってきていた。

「使徒の光が基地に! 基地に応答願う! あの光に触れるな! 触れたら精神を侵されてしまう!」

 想像を超えた使徒の攻撃に、現場も基地も騒然となった。

 

 地上で待機していたミュータント部隊にも、光は降り注いだ。

 精神系の超能力で体性があるはずのミュータント達ですら、アラエルの強力な精神干渉に負け、頭を抱えて苦しみだす。

「クソぉぉぉぉ!」

 頭を抱え、悔しさをぶちまける風間。

 このまま全員アラエルにやられてしまうかと思われたが。

 

 ところが。

 

「風間! みんな!」

 

 なぜか尾崎だけは光の中で普通に活動できた。

「やめろ、やめてくれ! みんなの心を犯すのをやめてくれ!」

 尾崎は、遥か彼方にいる使徒に向かって叫んだ。

 尾崎には、何をされているのか理解できていた。だが彼はアラエルの精神干渉で苦しまなかった。

 風間は、地面に転がりながら尾崎だけが光の中で立っている姿に、驚きを隠せないでいた。

「な…んで…、おま、え、だ…け…。」

 風間は、目の前が暗くなる中そう呟いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 訓練校の外向きにある廊下をアスカは歩いていた。

 訓練校から凄まじい警報音が鳴り響きだす。

 

『緊急事態! 緊急事態! 生徒は館内に避難せよ! カーテンを閉め光を入れるな!』

 

「な、なんなのよ?」

 アスカは、放送の意味が分からなくて立ち止まってしまった。

 外の光がしっかりと入って来る廊下で。

「とにかく館内に入らないと…。」

 館内に急いで戻ろうとした、その時。

「キャア!」

 見えない壁に当たって転倒した。

「なに!? なんなのよ!?」

 起き上がりながら館内への出入口を見ると、光る壁のような物がアスカの行く手を遮っていた。

「なによこれ!? まさか、ATフィールド!? なんでこんなところに!?」

 アスカは、壁を叩いたり押したりしたがATフィールドはなくならない。

 ならと逆方向に移動しようとすると、またATフィールドが発生し阻まれた。

 アスカは、ATフィールドに閉じ込められてしまった。

「なんなのよ!? 何が起こってるの!? 使徒!? こんなところで…っ。」

 アスカがうろたえていると、ふと視線を感じて後ろに振り向いた。

 別の外付け廊下から、誰かがアスカを見ていた。

 訓練校の生徒ではない。

 遠目に見ても分かる銀髪だった。

 アスカが茫然としていると彼女にあたたかな光が降り注いだ。

「い…、いやああああああああああああああああ!?」

 頭を抱えて悲鳴あげて倒れるアスカ。

 別の廊下に立っていた銀髪の人物は、アスカがアラエルの光に当たったのを見届けると、ニヤリと笑ってその場からいなくなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アラエルからの攻撃は、基地にも降り注いだ。

 なにせただの光のように見えるそれ。

 天から降り注いでいるので建物内へ逃げ込む以外で防ぎようがない。しかも少しでも浴びたら忽ち精神を犯される。

 

 そんな中で尾崎だけが精神干渉を受けなかった。

 

 風間達を建物内へ運んでいたが、自分のいる部隊の半数程度しか運べず、極度の精神干渉で生命維持すら危ぶまれる状況となり心肺停止に陥る者達が続出してしまった。

 建物内へ逃げ込んだ他の部隊が、風間達に心臓マッサージをしている尾崎を見つけ、尾崎だけがなぜかアラエルの光の攻撃に耐性があったことが判明した。

 

「カイザーとしての神経構造の違いでしょうか?」

「重要なことは精神干渉をされなかった、大事なのはそこよ。」

 音無が強く言った。

「この状況をどう打開するか…。相手は宇宙空間にいて、しかも強力な精神干渉を行って来る…。」

「接近戦も遠距離戦もできませんよ。」

「うう…、どうしたら…。」

 誰もが頭を抱える状況だった。

 

 

 そして。

 

 

「それでまた俺に?」

 ツムグに意見を仰ぎに行くことになった。

 レリエルの時もだが、ツムグに意見を求めることに良い顔をする者は少ない。

 ツムグが出す言葉がほぼ100パーセント当たることだけに頼りたくないのだ。

 機龍フィアが修理中なため部屋で待機していたツムグに、使徒の映像が映されたパソコンを見せた。

「なんか随分と思い切ったことするなぁ。」

「どういうことだ?」

「こいつ(アラエル)、人の心を理解しようとしてるって感じだ。別に攻撃のために精神干渉をしてきてるわけじゃないってこと。」

「なんだと!? 使徒が人の心を!?」

「使徒にしてみりゃ人間って、自分達にはない知恵の実を持つ存在じゃん。だから知りたくなったんじゃないかな。知恵の実がもたらした心ってモノを。自分達が勝てば心ってのを手に入れるんだし。事前調査?」

「攻撃が目的じゃないのか…。奇妙なことだ。」

「こいつに弱点はないのか? どうやったら倒せる?」

「そーだねー。」

 ツムグが勿体ぶるように足をブラブラさせる。

「ちょっと協力してもらおうか。」

「は?」

「赤木博士に連絡して。エヴァンゲリオンを動かしてもらおう。」

「なんだと!?」

 驚く彼らに、ツムグは、ニッと笑った。

 

 

 ツムグが示したことは以下の通りだ。

 ターミナルドグマにあるリリスを磔にしている槍…、ロンギヌスの槍というものがあるので、それを使いたい。

 引っこ抜くのには現時点でエヴァンゲリオンが最適なので、現在動かせる零号機に抜いてもらうこと。

 エヴァを動かすためにファーストチルドレンであった綾波レイに協力が必要なこと。

 

「……。」

「レイちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」

「いいえ。私、やります。」

 招集されたレイは、承諾した。

「ツムグは、一体何を…。」

 尾崎もそれに同行することを命じられた。

 

 

 そしてネルフにで放置されていた零号機を起動。

 ターミナルドグマへは、ロープに捕まって零号機を降下。

 目の前にしたリリスの姿に、零号機に乗っているレイは、苦しげに眉を寄せた。

『レイちゃん?』

「…大丈夫です。」

 昇降機からターミナルドグマに降りた尾崎からの通信に、レイは、そう答えた。

 最低限の整備しかされていないため零号機は、若干動きがぎこちないが、リリスに突き刺さっているロンギヌスの槍に手をかけた。

 一気に引き抜かれると、リリスの下半身が一瞬にして再生した。

『足が生えた!?』

『落ち着いて。リリスの下半身が再生しただけよ。』

 尾崎と共にターミナルドグマに降りたリツコが言った。

『…リリスは、死んでいるんですか?』

『……魂がないのよ。』

 リツコは、少し合間を置いてそう答えた。

「……。」

 その会話を聞いていたレイは、複雑な心境になった。

『それで、一体ここからどうするんだ?』

 通信機でツムグに繋ぐ。

『ロンギヌスの槍に触ってみて。』

『は? 触るって…、何の意味が…。』

『時間ないんだから、ちゃっちゃやろうね。』

『…分かった。』

『レイ。ロンギヌスの槍をこちらに。』

 疑問が残るが言われたとおりにするしかなく、零号機に乗るレイにロンギヌスの槍を尾崎の所に近づけさせた。

 目の前にしたロンギヌスの槍は巨大で、とてもじゃないが尾崎がもてるはずがない。

 ツムグが言うのだから何かがあるの間違いないがそれでも疑ってしまう。

 時間もないので恐る恐るといった様子で尾崎はロンギヌスの槍に手を触れた。

『っ、なっ!?』

『えっ!?』

 次の瞬間、ロンギヌスの槍が白く光るとあっという間に縮小し、尾崎が持てる大きさになってしまった。

『槍が…、小さくなった!』

『これは! どういうことかしら?』

 リツコもこれには驚いている。ロンギヌスの槍にそんな機能があることを初めて知ったのだ。

『その槍はね、自由に大きさを変えられるんだ。それ投げればあの使徒は倒せるよ。』

『投げるって…。宇宙まで届くわけ…。』

『届くよ。あの使徒を倒したいって気持ちを込めればね。その槍は意志に反応する。』

『…分かった。やってみる。』

 尾崎は通信機越しに頷いた。

 リツコは、ロンギヌスの槍を持っている尾崎と小さくなったロンギヌスの槍を交互に見て、何か考え込んでいた。

 

 

 

 第三新東京の大地に出た尾崎は、ロンギヌスの槍を持ち直しながら空を見据えた。

 遥か空の彼方、宇宙にいる使徒アラエルはいぜんそこに存在する。

 アラエルの光が第三新東京に降り注ぐ。まるで尾崎が出てくるのを待っていたかのように。

 尾崎は、槍投げ選手のように構え、そして。

「いけえぇぇぇぇぇ!!」

 恐ろしい速さで投げ放った。

 

 ロンギヌスの槍は尾崎の手を離れるとその大きさを変え、どんどん巨大化し、やがて大気圏を突破した。

 そして、アラエルに命中。

 アラエルは、真ん中から引き裂かれるようにロンギヌスの槍に貫かれ、宇宙空間で散滅した。

 アラエルを滅したロンギヌスの槍は、そのまま宇宙空間を飛行し、やがて月に到達した。

 

「や…やった?」

 

 尾崎は、アラエルの光が消えたことで使徒の消滅を感じ取った。

 

 

 

 こうして使徒アラエルは、殲滅された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「尾崎君!」

「美雪。」

 基地に帰還した尾崎を音無が出迎えた。

「風間達は?」

「風間少尉は意識が戻ったらしいは。他の人達はまだ治療中よ。」

 そう会話していると、風間が少し足を引きずりながら尾崎のところへやってきた。

「風間、無事だっ…っ!?」

 風間の無事を喜ぶ尾崎を、風間はガッと殴った。

「…チッ。」

 舌打ちをした風間は、踵を返し、去っていった。

「風間…。」

 頬を抑えた尾崎は、去っていく風間の背中を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 




なぜかアラエルの精神干渉の光の中で平気だった尾崎でした。
アラエルの殲滅方法は、これ以外に思いつきませんでした。
ちなみにゴジラは、休眠中です。

尾崎がロンギヌスの槍を使うことは、結構前から決めてました。
零号機で投げなかったのは、零号機がほとんど整備されてなくて不調だからです。
零号機の話題が全然出してなかったのでロンギヌスの槍を抜くのに使いました。

アダムをツムグに喰わせたけど…、アダムの波動を出さずに処理する方法が他に思いつかなかったんです…。すみません。



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IFストーリー2  もしも白目ゴジラだったら?

試験的に書いた、その2です。

あの白目ゴジラだったら…というとんでもないものです。


短いです。

地球防衛軍と椎堂ツムグはいません。

※エヴァキャラが死亡します。注意。


 

 

 

 

 

 人類は、数多くの罪を犯し、その都度数えきれない犠牲を出してきた。

 悲しいかな、記憶というのは儚く、消えやすい。どれほど文明が発達しても悲しみと罪の記憶は薄れ、やがて忘れられていくものである。

 

 これは、もしもの話。

 

 忘れられた罪の犠牲者達の行き場のない怒りが一匹の怪獣に集まってしまったら、という話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三新東京はかつてない緊張感に包まれていた。

 突如として現れた使徒という謎の巨大生命体が襲来したからである。

 これを迎え撃つべくエヴァンゲリオン初号機が出動した。

 初号機は、暴走を起こしたものの、その暴走によって使徒を撃破。

 これを機に初号機に乗った碇シンジがサードチルドレンとなり、ファーストチルドレン・綾波レイ、セカンドチルドレン・アスカ・ラングレーと共に、次々に現れる使徒と戦い撃破していった。

 

 

 それは突然現れた。

 

 

 まず原子力潜水艦が数隻行方不明となり、捜索に向かった部隊が謎の巨大生命体の姿を捉えた。

 

「これが捉えた映像です。」

 撮影された映像に映るのは、ゴツゴツした黒い皮膚と、白っぽい背びれである。

「これだけじゃ分からないわね。」

 ミサトが不満そうに言った。

「この背びれ……。」

 リツコは、背びれの形状からある一匹の怪獣を思い浮かべた。

「リツコ、心当たりがあるの?」

「……まさかね。あの怪獣はとうの昔に死んだはずだもの。いるはずがないわ。」

 リツコは、そう言ってその可能性を否定した。

 

 その後も原子力潜水艦が行方不明になる事件が発生し、犯人と思われる巨大生物の捜査が行われたが、発見することはできなかった。

 

「使徒が原子力潜水艦を狙った可能性は?」

「あり得ないです。使徒にはS2機関がある。それなのにわざわざエネルギーを摂取する必要はないはずですから。」

「……ふむ。」

 冬月の質問にリツコが淡々と答え、ゲンドウは、何か考えるように眼鏡を押さえた。

 

 原子力潜水艦が次々に失踪する事件に、ゼーレもさすがに首を傾げていたが、犯人が何者なのかは彼らも把握できなかったという。

 

 

 

 空中に縞模様の球体が浮かぶ奇妙な使徒レリエルが現れた時。

 

 それは、ついに彼らの眼前に姿を現した。

 

 縞模様の球体を一撃で粉々に粉砕した青白い熱線。

 

 チルドレン達が驚愕している間に、第三新東京に響き渡る雄叫び。

 

 

「今のは!? どこから飛んできたの!?」

「画像解析結果によると、静岡方面からです!」

「静岡から!? なにその飛距離!? ボジトロンライフルなんて目じゃないじゃない!?」

「今の雄叫び…、まさか…、そんな…。」

「リツコなにか知ってるの!?」

「ゴジラ…。」

「えっ? ゴジラって…、50年前に倒されたって言われる、怪獣よね? なんで今そんなのが…。」

「国連から緊急伝達あり!」

「黒い巨大生物が静岡、焼津港に上陸し、第三新東京に向けて進行中です!」

「っ! 作戦変更! 全エヴァを静岡に緊急配置! 巨大生物、推定ゴジラを迎え撃つ!」

「巨大エネルギーを感知!」

「えっ?」

 ミサトが指示を出している時、第三新東京を囲む山が粉砕され、極太の熱線が飛んできた。

 その射程圏内には、エヴァンゲリオンがいた。

 

『う、うわああああああ!』

 初号機は咄嗟に横に走りギリギリで背中を掠っただけで済んだが、武装ビルがいくつも蒸発するように破壊された。

『み、ミサトさん…、何が起こってるんですか?』

 

「い…、今のまさか、エヴァを狙ったの?」

 っとしか思えない正確な狙いに作戦本部は唖然とした。

「高濃度の放射熱線を感知! 測定値計測不能!」

「あれは!」

「まさか! 本当に!?」

 

 砕かれた山の向こうから現れたのは、エヴァンゲリオンと同等の大きさもある巨大な怪獣ゴジラだった。

 ゴジラは、白い眼を鋭くして、唸った。

 

『はっ、なによ、ただの黒いトカゲじゃない!』

「アスカ、だめよ!」

『何言って…。えっ?』

 アスカがゴジラを知らないばかりに舐めていると、リツコから叱られそちらに気を取られている隙に、眼前に青白い熱線が迫っていた。

 アスカがそれを理解したかしないかの合間に、エヴァ弐号機は、熱線の爆発に巻き込まれて消えた。

 ゴジラが、凄まじい雄叫びをあげ、残りのエヴァンゲリオンに迫ろうと歩を進めた。

 

『あ、アスカ? アスカ! ミサトさん、アスカが!』

「…、に、逃げてシンジ君、レイ! すぐに退却を…、レイ、何をしているの!?」

 一瞬で消えてしまった弐号機のことで茫然としていたミサトが我に返って退却するよう指示を出すが、レイの様子がおかしいことに気付いた。

 零号機は棒立ちで、中にいるレイは、口を押えてただただ震えていた。

「レイ、レイ! しっかりしなさい! 逃げるのよ!」

 レイに必死に声を掛けるが、レイは、聞こえていないのか動こうとしない。

 その間に眼前に迫ったゴジラが、背びれを光らせ大きく口を開けた。

「レイ!」

 ゲンドウが席から立ち上がり声を上げた。

 零号機は、棒立ちのまま熱線に焼かれて消えた。

 ゴジラは、くるりと向きを変え、初号機を睨んだ。

『ひっ!』

 シンジは、短く悲鳴を上げた。

 弐号機も零号機もあっという間にやられ、残るは、自分だけ。

 初号機は、シンジとのシンクロで無様な有様で尻餅をついたままズリズリと地面を後退る。

「エントリープラグ、緊急射出! 急いで!」

 ミサトが指示を出し、シンジを乗せたエントリープラグが初号機の背中から射出され、射出された先に空いたハッチに見事に入った。

 が……。

 ゴジラが吐いた熱線は、初号機はおろか、エントリープラグが入ったハッチと第三新東京の特殊装甲板ごと破壊してしまった。

 

 ゴジラは、大きな雄叫びをあげ、地団太を踏んだ。

 まるでこれでは収まりがつかないと言わんばかりに。

 ゴジラが背中を丸めたかと思うと、背びれが今までで一番強く発光し始めた。

 そして放たれた体内熱線は、すべての特殊装甲板を破壊し、ネルフ本部にゴジラが落下した。

 すべてのエヴァンゲリオンを失い、特殊装甲板をも破ってきたゴジラに、ネルフ内部は混乱し、もはや統率を失っていた。

 ゴジラの背びれが輝いた。

 

 特殊装甲板を失い、巨大な穴と化した第三新東京から巨大なキノコ雲があがった。

 

 

 

 

 

『馬鹿な…、そんな馬鹿なことがあってたまるか!』

 ゼーレは、この非常事態に混乱した。

『ネルフもエヴァシリーズも、すべてが消滅したぞ! こんなことはシナリオに書かれていない!』

『アレはなんだ! 50年前に死んだはずのゴジラなのか!?』

『そんなものがなぜ今になって現れる!? まさか一連の原子力潜水艦の失踪は奴の仕業なのか!?』

『なぜだ、なぜ東京なのだ!? 奴はなぜ東京を目指したのだ!?』

「落ち着け! シナリオの修正は容易な事ではないが、まだこちらにはアダムが…。」

『議長! ゴジラがこちらに向かってきています!』

「な、馬鹿な、なぜ我々の居場所を!」

『議長! お逃げください!』

『いやだ、こ、こんなところで死にたくない!』

 

 ゼーレは、それぞれ逃げ出そうとした。

 しかし、逃げた先で待ち構えていたゴジラにことごとく殺されていった。

 

 彼らが気が付いた時、目線が高いことに気付いた。

 そして感じ取った、いや無理やりに理解させられた。

 今、かつてゼーレと名乗っていた者達全員がゴジラの一部となっている。

 それだけではない、ネルフの構成員全員とチルドレン、果てはこれまで倒された使徒までもがゴジラの一部となっていた。

 身動きはとれず、聞こえてくるのは、凄まじい数の怨嗟の声。

 行き場のない怒りなのか、悲しみなのか、憎しみなのかも分からない声でゴジラは構成されていた。

 その声がなんであるのかも理解させられた。

 人類が始まって以来、犯してきた数々の罪の犠牲者達、戦争、そして…セカンドインパクトで犠牲となった者達であった。

 なぜなのかは不明だが、ゴジラは、それらすべての犠牲者の魂を抱えている。感情を抱えている。

 なぜ忘れていたのだろう?

 これほど沢山の声を。罪を。

 理解する。

 ゴジラが、街を焼き払い、すべてを焦土に変えていく光景を目にしながら理解する。

 

 ゴジラは、罰を与え、思い出させようとしているのだ。

 記憶から消え去った罪を。

 それを忘れたすべてに罰を与えるために蘇ったのだと。

 忘れ去れた罪が、ゴジラとなって姿を現してしまったのだと。

 

 

 

 

 

 

 




 こ、これは酷い(震え)。
 白目ゴジラの設定が過去の戦争などの怨念が集まったというものだから、セカンドインパクトの犠牲者の怨念も集まったら……。
 もう誰も止められない…。

 もしこのゴジラで椎堂ツムグがいたら、あっという間にゴジラサイドにまわってしまっているでしょうからあえて出しませんでした。


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第二十六話  銀髪の少年

最近、無双ゲームやってます。
しかし長いな…ストーリーモード。止めどころが分からない。

今回は、名前出てないけど、最後の使者の彼が出てきます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、腹の具合悪いー。」

 ツムグは、そうぼやきながらベッドでゴロゴロしていた。

「何か変な物でも食べたんですかぁ?」

「まあね。」

 使徒アダムを喰わされたことを知らないナツエに言われ、ツムグは笑って答えた。

 と、その時。ドクンッと腹の中でアダムが暴れた。

「ウッ!」

「本当に大丈夫なんですかぁ!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。…たぶん。」

 腹を撫でながら汗をかくツムグ。

 それにしてもと、ツムグは声に出さず考えた。

 

 地球防衛軍に持ってこられてから、アダムの活動が激しくなっている気がするのだ。

 まるで何かに反応するように。

 

 ツムグの腹の中に入れてなかったら孵化していたんじゃないかというぐらいだ。

 

「死ねないとはいえ、つらいなー。」

「“死なない”んじゃないんですかぁ?」

「“死ねない”だよ。ナッちゃん。」

 死ねないと、死なないじゃ、意味が違ってくる。

 自分は死ねないのだとツムグは、あえて訂正した。

 

 

 使徒を呼び寄せ、サードインパクトの引き金となるアダムをツムグの腹に入れることで封じたはいい。

 だが結果としてこれが、ツムグの感覚を鈍らせることになるのだが……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ツムグが腹の中のアダムに苦しめられていた頃。

 

「こ、これは。」

 巨大な水槽の中を見て、その研究者は驚愕していた。

 水槽の中には、ほんのり赤い液が満たされており、その中を透明な膜で包まれた胎児のような物が漂っていた。

「エヴァンゲリオン初号機の細胞がいつの間にこんな形に…、なんて生命力だ。」

 そう、初号機の僅かな細胞から蘇生されたモノだった。

 水槽の前にタッチパネルを操作している研究者の男がいた。

「…村神(むらかみ)、おい、村神。」

 村神と呼ばれたその研究者は、肩を叩かれたやっと気が付いた。

「なんだよ?」

「なんだじゃないぞ。どうしたんだよこれ。」

「あー…。」

 胎児のようなものを指さされて何を言わんとしているのか察した。

 村神と呼ばれたこの男。

 初号機の僅かに生き残っていた細胞を研究していて、フランケンシュタインの血液を使ったり、クローン再生された使徒マトリエルのコアを使うことを考案した人物でもある。

「あのアメーバみたいなのがどうやったらこう(胎児みたいに)なるんだ!?」

「それを今から調べるんだ。こっちだって何がどうしてこうなったのか分からないんだからな。」

「把握してないのかよ!」

「ちょっと目を離したらこうなってたんだ!」

 村神はそう答えた。

 初号機の細胞は、始めはアメーバのような状態だった。

 形が定まっておらず、マトリエルのコアに纏わりついているような状態だった。

 それが少し目を離した隙に胎児のような姿へと変化したのだ。

 これが常識を遥かに超えた生命体である使徒の生命力なのだろうかと研究所内がざわついた。

「アダムの研究ができれば…。あれ卵だったからな。」

「セカンドインパクトの二の舞になりたいのかよ。」

「上の連中もそんなことを恐れてアダムを遠ざけやがってなぁ…。」

「そんなことっておまえ…。」

 村神はこういう奴だ。

「そんなことはそんなことだろ。」

「そーだな、おまえはそういう奴だよ。」

「科学の発展のために犠牲は付き物だ。」

 こういう奴である。

 

 その時。

 ポコンっと胎児に目が生じ、ジロリッと水槽の外にいる村神達を見た。

 

「わっ、こっち見てる!」

「あー…。」

 村神の隣にいた男が気が付いてびびるが、村神は腰を落として胎児の目を見つめた。

 顎に手を当てて考え込み。

 そして。

「切って(解剖して)みるか。」

「えっ? これを!? やめとけって! なんか嫌な予感しかしないから!」

「嫌な予感がどうした? 失敗を恐れて科学者が務まるか。」

「そ、それはそうだが…。もしこいつがアダムと同じような物だったら…。」

「それがどうした?」

「…もう知らねぇからな!」

 村神を止める術を持たない研究者の男は、そう言って逃げるように去っていった。

 村神は、特に気にせず、水槽の中にいる初号機の胎児のようなモノを解剖する準備を始めた。

 手術着に着替え、解剖用の設備の揃った一室に、水槽から出した胎児を運び込む。

 手術台の上に、でろんとプルンと胎児が震える。

 メスを取り、胎児の表面を切ろうとすると。

 バチンッと光が弾け、メスが弾き飛ばされた。

「! 身の危険を感じたのか。」

 弾かれた時の衝撃で手が痺れ、村神は手首を握った。

 村神の言葉に反応するように、ジロッと胎児の目が村神を睨んだ。

「なんだ? 私のことが分かるのか?」

 胎児は何も答えることなく、村神を睨みつけている。

「やれやれこりゃ捌くのも難しいな…。さてどうするか…。」

 村神は、睨んでくる胎児の目線にも臆することなくこれからのことに思いをはせた。

 

 ………に…たく……な…い……

 

 微かなその声は、村神の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 使徒アラエル殲滅から十日以上が経とうとしていた。

 尾崎は困った顔でチラチラと風間を見ていた。

 風間は数メートル離れた場所で背中を向けている。

 アラエル殲滅後に帰還した時、風間に殴られてからというもの、風間は尾崎と口を利かなくなった。

 なぜ殴られたのか、尾崎には分からず風間に理由を聞こうとしても無視される。

 周りも風間の様子を見て事情を聞こうとしたりなどしたが、風間ははぐらかすだけで語ろうとしないため困ってしまった。

 

 そんな時、大きな地震が起こった。

 震源地は、北海道方面で、すぐに救助のため部隊が派遣されることになり、ミュータント部隊も加わることになった。

 最近は地殻変動も落ち着いていたため大きな油断となった。

 

 せっかく復興した街が再び崩壊し、すぐに救助活動が始まる。

 余震を警戒しながらの作業であるが、ミュータント兵士達の力もあり救助活動はかなり捗った。

「よし、次行くぞ!」

「……。」

「尾崎どうした?」

「すみません、行ってきます!」

「尾崎!?」

 尾崎が突然瓦礫の奥へ走りこんだ。

 直感だった。

 超能力というよりは、勘だった。

「誰かいますか!」

 奥に向かって声をかける。

 声は帰ってこないが、何かが動く気配が微かにあった。

 奥へ奥へと進んでいくと、急に開けた場所へ出た。

「空洞?」

 こんな空洞が街の中に空いていたのかと驚いた。

 恐らくは地下道のようだがすでに放棄されて数年は経っていると思われ、そのまま上に街が復興したのだろう。

 抜けてしまった床の下に鉄骨が絡み合う空間の下には地下水が溜まっている。

 僅かな光に照らされた地下水に浮かぶ岩に人がいるのを発見した。

 遠目に見て、子供だというのが分かり、尾崎は素早く鉄骨を伝って降り、岩の上へ降りた。

「大丈夫か! 君、しっかり!」

 助け起こして声をかけるが意識がない。

 尾崎は、少年を抱きかかえて外へ出るべく飛んだ。

 と、その時。尾崎を追ってきた仲間が瓦礫を慎重に撤去し、尾崎と少年が出られる脱出口を開けていてくれた。

「よくやった、尾崎!」

「はい。」

 尾崎は、担架の上に少年を乗せようとしてふと手が止まった。

 頭を支える尾崎の手に濡れた銀髪が絡みつく。

 肌の色は病的なほど白く。

 顔立ちは、男の尾崎から見てもかなりの美貌だというのが分かるほどだ。

 年頃は、シンジやレイと同じぐらいだろうか。

「……。」

「おい。尾崎。」

「はっ、すみません。」

 声を掛けられて我に返った尾崎は、少年を担架に乗せた。

「う…、うん…。」

 少年が僅かに呻いた。

 その手が担架の横にいた尾崎の手を握った。

 閉じられていた瞼がピクピク動いた。

 そして開く瞼の下の眼は……。

 真っ赤な、深紅の眼だった。

 その目はレイによく似ている。

「あ…。」

 その目に驚いていると、少年の顔が尾崎の方へ向けられた。

 少年の口が僅かに動く。

 その唇の動きを見て尾崎は微かに目を見開いた。

「早く救護に回せ。」

 現場の班長の声がかかり、少年は運ばれていった。尾崎の手を握っていた手は握力がほとんどなかったためすぐに離れていった。

 尾崎は運ばれていく少年を目で追った。

「どうした?」

「いや、なんでもない…。」

 声をかけて来た仲間にそう答えたが、尾崎は先ほどの少年が言ったことを考えた。

 

 

 やっと会えましたね。

 

 

 と、少年の口が動いていたのだ。

 まるで尾崎と会うのを待ち望んでいたとでも言いたいかのように。

 気のせいだと思いたかったが、妙に頭に焼き付き離れなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアは、使徒ゼルエルとの戦いで壊れた。

 機体の中心を貫かれるは、素体の背骨部分も壊されるは、装甲もボロボロだはとにかく酷い状態だった。

 修理は順調に進んでいたが……。問題が発生した。

 

「頼むから機嫌治してよー。」

『……。』

 DNAコンピュータに宿る意思、ふぃあがへそを曲げてしまったのだ。

「俺が悪かったからさぁ。」

 原因は、ゴジラがゼルエルに喰われたのに逆上したツムグにある。

 機龍フィアの機体損傷を無視してリミッター解除をしようとしたのも要因の一つと思われる。もしリミッター解除なんてしていたらそれこそ修復が難しくなるほど大破していただろう。

「…まいったな。どうしよう?」

「私達に聞くな。」

 ツムグでもどうしようもない状況に、技術部と科学部の面々は頭を抱えた。

「いつものおまえならちゃっちゃと解決しそうなのに、どうしたんだ?」

「……。」

 言われてツムグは、まいったな~っというリアクションをした。

 確かに変だと周りの人間達も思った。

 いつも何でもお見通しで何でもこなしてしまうツムグの様子が少し変だ。

「ちょっと調子がいまいちでさ。」

 ツムグは、正直に言った。

「んなアホな!?」

 あり得ないと周りが声を上げた。

 今までそんなこと一回もなかったのにどういうことだと。

 今までどんな大怪我をしても、毒を盛られても平気な顔をしていたのにいったいどうしたことだと。

「ごめん。本当に調子がよくなくて。ふぃあちゃんとも話ができそうにないし、今日は勘弁してね。」

「あっ、おい!」

 ツムグは、そう言い残すとその場からいなくなった。

 今までになかったツムグの体調不良に、技術部も科学部もざわついた。

 この後、ツムグがベットで腹を押さえて寝込んでしまったことで、波川に相談が行くことになる。

 

 

「やはり原因は、アレでしょう…。」

「アレじゃないですか…?」

 

 アレとは、アダムのことである。

 ツムグの腹の中に封じてから、ツムグの調子が悪いことは監視役の報告で受けていた。

「ですがアダムを彼の体内から取り出すことはできませんよ?」

「その通りです。」

 アダムを出せばその波動に魅かれて使徒が来る。

 使徒とアダムが接触すればサードインパクトが起こると言われる。

 使徒の研究の第一人者である赤木リツコがツムグの腹に入れることがもっともアダムを封じるのに適していると推奨したぐらいだ。

 しかし…、天敵のツムグの腹の中に入って死なないアダムもアダムである。さすがは使徒の始祖というべきか。

「機龍フィアの修理は順調ですが、DNAコンピュータの方がへそを曲げてしまったらしく今後運用に差し支える可能性があります。」

「そうですか…。」

「機龍フィアとのシンクロ実験でツムグに変わる新たな操縦者を見繕いたいという意見が多数寄せられています。椎堂ツムグの体調不良がシンクロに支障を出す可能性がある以上、新たな操縦者の育成を進めた方が良いのでは?」

 波川の側近がそう意見した。

 波川は少し考えて。

「ツムグにばかり頼ってばかりはいられません。新たな操縦者の選定に力を入れなさい。」

「はい。」

 ツムグの調子が悪いので、ツムグに変わる機龍フィアの操縦者を選ぶことに力を入れることになった。

 ちなみに別の操縦者を探すこと自体はずっと行われていた。

 だがシンクロ実験がうまくいかず中々決まらなかったのだ。

 その原因としてDNAコンピュータ(=ふぃあ)の非協力的な状態があげられるが、ツムグとの仲が悪くなっている今ならうまいく可能性がある。

 まあ、今ふぃあがだんまりなのでもしかしたらDNAコンピュータそのものが破損している可能性も否定はできないが……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おかわり。」

「レイちゃん、ほんとよく食べるようになったわね。」

 茶碗を受け取りながら志水が微笑んだ。

 ちなみにご飯三杯目だ。

 食に興味がなかった頃を思えば、随分と健康的になったが、ちと食べ過ぎじゃないかとシンジは思う。

 食べないよりはいいかもしれないが、食べすぎもよくはない。

 しかしレイは、瘦せすぎであるため、食べたほうがいい。

 心なしか初めて会った時よりちょっと(?)ふっくらしたような気はする。気のせいかもしれないが。

 シンジが少し考えていると、ふと視線を感じた。

 前の席にいるレイの視線がシンジのおかずに向けられている。

「食べる?」

「いいの?」

 おかずが足りないと感じていたようなのであげると言うと表情が少し明るくなる。

 その表情の変化も嬉楽しいのでついレイにおかずを分けてしまう。というか甘やかしたくなる。

「碇君の足りなくない?」

「僕はもうお腹いっぱいだよ。だから大丈夫。」

 心配してくれるレイに、シンジは微笑んで答えた。

 

「綾波レイはいるか。」

 

 ほのぼのしたお昼ご飯の時間に乱入者が現れた。

 白衣からして科学部の者と思われる。

「はい。」

 レイが席を立った。

「実験について話があるので、食事が終わったら来てもらいたい。」

「分かりました。」

「以上だ。」

 そう言って白衣の男は去っていった。

 レイは、席に座り直した。

「実験って…、例のこと?」

「…そうだと思います。」

 志水が聞くとレイは、頷いてそう言った。

 実験とは、レイを完全な人間にする実験のことだ。

 話があるということは、つまり……。

「いよいよってこと?」

「っ!」

 シンジは、その言葉に反応した。

 実験が行われるということは、失敗すればレイが死ぬことになるのだ。

 実験についての説明は音無から聞いてはいたが、非常に危険な賭けであることは間違いない。

「…ごちそうさまでした。」

 レイは、ささっと食事を終わらせ、席を立とうとした。

「あ…、綾波。」

「行って来る。」

 レイは、そう言って食堂から出て行った。

「心配かい?」

「はい…。」

 実験が失敗したら…っという不安が重くのしかかる。

「僕に、できることなんて…。」

「あるよ。」

「えっ?」

「傍にいてやりな。」

「…はい!」

 そういえばレイから、実験の時はギュッ(と抱きしめて)してほしいと言われていたのを思い出し、シンジは、少しだけ気持ちを強く持つことができた。

 

 

 

 

 

 




アダムを喰ってから調子が悪いツムグ。
すぐ治る予定ですが。

最後の使者の彼は、あれわざとあの場所にいました。尾崎と接触するために。


次、いつ更新できるかな……。


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第二十七話  渚カヲル

ちょっと挑戦してみた。

 サブタイトルの彼がメインじゃないです。
 書き直すかも。


 

 

 

 

 

 

 使徒アラエルの精神攻撃によって、かなりの人数の患者が緊急病院に運び込まれた。

 見た目に外傷がなく、精神に大きなダメージを受けたというものなので医者も対応に困ったが心肺停止の者も多かったため、蘇生手術が行われた。

 その患者の中に、アスカもいた。

 外向きの廊下で倒れていたのを発見され、すぐに搬送されたおかげで奇跡的に心肺停止から回復できた。だが精神に負ったダメージは大きく、いまだ寝たきりだった。

 状況から見て逃げ遅れたものと見られており、アスカのように逃げ遅れた訓練校の生徒達もいた。

 比較的回復が早かったのが、ミュータント兵士達だ。恐らくは精神系の超能力に対する訓練の賜物だと思われる。多少の個人差はあれど常人よりは回復は早かった。風間などは特に回復が早くすでに復帰している。

 

 アスカの病室に銀髪の男が入り込んだ。

 

「アスカ・ラングレー。聞こえているか?」

 

 ベットの上にいるアスカに語り掛けるが、アスカは反応しない。酷く精神を犯されたのだから致し方ないだろう。そうでなくても精神的に不安定になっていたところにそんなことをされたのだからダメージは計り知れないだろう。

「アスカ・ラングレー。」

 アスカの耳元に口を近づけて語り掛け続ける。

「君は依代に選ばれた。依代は心が壊れている必要があった。だからあのような手酷いことをしてしまったことは謝ろう。我々には君が必要なんだ。」

 語り掛け続けていると。

「ワタシ、ヒツヨウ…?」

 弱々しい片言でアスカが言葉を発した。『君が必要なんだ』という部分に反応したらしい。

 銀髪の男は、口元を緩めた。

「ああ、必要なのだ。」

「ウフ、フフフ。」

 アスカは、口から涎を垂らしながら笑う。もはや正気ではない。

 男は、アスカから離れると。

「これで準備は整う。すべては人類補完のために。」

 銀髪の男は、口元を緩め、病室から音もなく消えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……あの、尾崎さん。」

「なんだい?」

「その人……、ダレ?」

 シンジは、尾崎の後ろに引っ付いている銀髪の少年を指さして口元を引くつかせていた。

「…ああ。えっと、その……。」

「真一さん、彼は?」

 銀髪の少年がひょこりと顔を出して尾崎に聞いた。

 ゾッとするような美貌にシンジは、思わず目を見開いた。

「あ、彼は碇シンジ君って言うんだ。」

「初めまして。」

「シンジ君。この子の名前は渚カヲル君って言うんだ。」

「…そうですか。」

 シンジは、ジト目でカヲルという少年を見た。

 カヲルは、にっこりと微笑みを返すだけでシンジの視線にはまるで臆さない。

 シンジには、その笑い方がどこか勝ち誇っているように見えて自分の血管がピキリッとくるのを感じた。

「なんで、その…渚君?が尾崎さんの引っ付いているんですか?」

 自然と声が低くなる。

「ああ、実は…。」

 尾崎が説明した。

 カヲルは、先ごろ起こった地震で保護された被災者で、救護に搬送されたあとたいして怪我はないと分かったはいいが、意識が戻ってから自分を助けてくれた人(尾崎)に会いたいとねだり、いざ尾崎に会ったら引っ付いて離れなくなったらしい。

 カヲルが言うには、名前以外思い出せないらしく、尾崎と一緒にいたいとだけいうので、周りを困らせたが、人の良い尾崎はちょうど手も空いてるし訓練と仕事がない間だけ一緒にいてもいいと承諾してしまったのだ。

 そして今に至る。

「なんでなんですか?」

「なんでって、カヲル君も不安だろうし。」

 シンジの不機嫌に気が付かない尾崎。

「おーい、尾崎ー。」

「あ、呼んでる。じゃあね、シンジ君。」

 その時、尾崎の仲間が尾崎を呼んだので、尾崎は去っていった。カヲルもそれについていった。

「……なんなんだよ。」

 シンジは、自分でもよくわからない苛立ちに困惑していた。

 

 

「キャー、修羅場よ。修羅場。」

「修羅場だ修羅場だ。。」

「おい、そこの腐女子と腐男子コンビ、いい加減にしろ。」

 現場の状況を見ていた腐女子腐男子コンビとツッコミがいたりする。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 風間は、機龍フィアの操縦席に座っていた。

『風間少尉、シンクロ試験を始めます。意識を集中してください。』

「了解。」

 風間はツムグと同じ装備で、機龍フィアとのシンクロ実験をしていた。

 風間も尾崎と並んで機龍フィアの操縦者の候補に挙がっていた。

 周りの機器が点灯し、シンクロの数値を示す値が表示されていく。

『活性率25.5パーセント。前回より6パーセント上昇しました。』

「チッ。たった6か。」

 風間は舌打ちをして横にある計器を殴った。

『風間少尉。苛立っているのだろうが、計器をあまり強く殴らないでくれ。壊れたら元も子ともないんだ。』

「分かっている。」

『ふぃあは、何か言っているか?』

「何も。」

『まだだんまりか…。』

 機龍フィアの意思であるふぃあがいまだにだんまりを貫いていた。

『やっぱりDNAコンピュータの方が破損しているのでは?』

『いやそれはない。……と思いたいな。』

『思いたいじゃダメっすよ。』

「で…、これ以上上がらないか?」

 なんか話が脱線しているので風間が話を戻そうと喋った。

『ああ、0以下の上下はあるがこれ以上は望めそうにないな。』

「…、そうか。」

 風間は舌打ちをしかけてやめた。

 

『…………ねえ……。』

 

「!」

 

 子供の声。女の子のような声が聞こえた。

「…ふぃあ…か?」

『うん…。』

「なぜ今まで黙っていた?」

『だって、ツムグが……。』

「奴が嫌なら俺にしろ。」

 ツムグが嫌になったのなら自分に協力しろというと、ふぃあはまた黙った。

 風間は面倒くさそうに溜息を吐き。

「だったらどうするんだ?」

『カザマこそオザキと仲悪いじゃん。』

「っ、うるせぇ!」

 尾崎のことを出されて風間は怒鳴った。

『…ツムグ、怒ってるかな?』

「野郎のことだ、別に怒ってもなんともないだろ。」

『うん!』

「……はあ…。おまえはアイツ以外に乗せる気ないだろ。」

『だって、だって、くすぐったいんだもん。』

「そんな理由か!」

 

『とりあえずDNAコンピュータは無事でしたね。』

『うむ。』

 

 とりあえずDNAコンピュータは、破損しておらず無事だったことは確認できた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

 

「波川ちゃん、おつかれー。」

「まったく、心配して損しましたよ。」

 ツムグの調子が悪いと聞いて、様子を見に来た波川は呆れたと息を吐いた。

 ちょっとした間にツムグは元気になっていたのだ。

「もう大丈夫だよ。心配かけたね。」

「心配などしていません。」

「もう、嘘ついちゃって。」

 そっぷを向く波川に、ツムグは微笑んだ。

「そういえば、ふぃあちゃんがやっと口きいてくれたんだよね。」

「ええ、やっとよ。」

 調子が戻ったから感覚もほぼ戻ったようだった。

「ふぃあちゃんには悪いことしちゃったな。」

「そう思うのなら、ゴジラのことで我を忘れないように努めなさい。」

「それは難しいなぁ。」

 ツムグは、ヘラヘラ笑ってそう答えた。

 それを見て、波川は再度溜息を吐いた。

「ところでさ。」

「なんですか?」

「尾崎に懐いてる男の子がいるよね?」

「私は存じませんが、それがどうかしましたか?」

「いや、ちょっと面白いなって思って。」

「? 面白い?」

 何か面白い物を見つけた子供のように笑うツムグに、波川は疑問符を浮かべた。

 ツムグには、カヲルの正体が分かっていたのだがあえて口には出さなかった。

「ま、大丈夫でしょ。」

「…そうですか。」

 なんか不穏なことを言っている。だがあえてツッコミはしなかった。

「波川ちゃん。」

「なんですか?」

「俺は、万能じゃないからさ。」

「分かっているわ。」

「それならいいよ。」

 波川は、ツムグの言い方から予感した。

 

 それは、誰かが死ぬ時である。

 それもたくさん死ぬ時だ。

 

 どれほど正確に予言しても、死だけは回避できないのだとこれまでの経験から知っていた。

 そうでなければ使徒レリエルの時だって犠牲になった者達が出ずにすんだはずだ。

「できれば私の時は教えてほしいわね。」

「教えてもらってどうするの?」

「引継ぎとか、色々とあるからよ。きちんとできてなければ後の者が困るじゃないですか。」

「そっか。」

 波川の冷静な言葉にツムグは笑った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 風間の次は、尾崎が機龍フィアの操縦席に座った。

『尾崎少尉。シンクロ試験を始めます。意識を集中してください。』

「了解。」

 尾崎は息を大きく吸ってはいて、意識を集中した。

 ツムグと同じ装備を身にまとって、同じ状況で実験にあたっていた。

 周りの計器が数値を表示し始める。

『活性率29.4パーセント。前回より8パーセント上昇です。』

「やった。」

 前回よりいい結果が出て、尾崎は素直に喜んだ。

『あと少しで30パーセントだな。惜しかった。』

「でも8パーセントも上がった。」

『尾崎少尉は前向きでいいなぁ。』

「?」

『いえ、こっちの話ですよ。』

 苛立っていた風間と比較して言われたことなのだが、尾崎には気づかれなかった。

『しかし約3割弱の活性率では、まともに戦闘はできませんよ?』

『そこなんだよな……。』

 風間も尾崎も操縦者候補なのだが、二人合わせてもシンクロ実験の結果はツムグの半分にも満たないのだ。

 ちなみにツムグのシンクロでの活性率は、約150パーセントである。100がDNAコンピュータの活性率の標準値として、それ以上を叩き出せるということは、より性能を引き出せるということだ。負荷がかかって壊れたりはしない。もともとリミッター解除の分を含めてるので基準値の倍以上の出力を出すことは想定の範囲内だ。

 3割、つまり約30パーセント前後では、オートパイロットプログラムの方がマシだということになるのだ。

 この問題を解決させないとツムグ以外の操縦者を選べないし、本来の機龍フィアの設計である、誰でも操作が可能というスタイルが実現できていないことになる。(訓練は必要ではあるが)

 尾崎より前に実験にあたった風間とふぃあとの会話から、ふぃあ…つまりDNAコンピュータが非協力的なのは、ツムグ以外だと単にくすぐったいからだということが分かった。だがこればかりは、ふぃあが譲歩するしかない。幼い子供のような人格を持つふぃあに譲歩してもらうのは難しいことかもしれないが、やらないと何も解決しない。

『あの、少し気になったのですが…。』

『なんだ?』

 技術者の一人が手を上げて言ったので聞いた。

『先ほどの風間少尉の実験の時のふぃあの声なんですが…、少し変わっていたように聞こえたのですが…。』

『変わっていた? どういう風に?』

『なんと言いましょうか、少し成長したような…、子供の、それも女の子の声に近くなったような気がしまして…。』

『おんなのこ? ふむ…。尾崎少尉。ふぃあに喋らせてもらえないか。』

「了解。ふぃあ、聞こえているなら返事をしてくれ。」

『……。』

「聞こえているのにどうして黙っているんだ?」

 尾崎の周りにある計器はしっかり正常に動いている。つまりDNAコンピュータであるふぃあに聞こえているはずなのだ。

『……ずかしい。』

「ん?」

『だって、恥ずかしいだもん。』

「だもんって…。そんな恥かしいことなんてないぞ?」

『…ふうむ。少し成長したのだろうか?』

 ふぃあの声が、確かに少々変わっていたことに、技術部の責任者はそう捉えた。

 ふぃあの性別は、どうやら女の子らしい。まあ機械(生体入り)なので性別も何もないのだが。

『ま、分かったところで活性率が上がるわけじゃないからな…。』

 それを言ったらお終いだというツッコミを現場にいた者達は思った。

『ねえ、ツムグじゃダメなの?』

 ふぃあが言った。

 この言い方だと、ツムグ以外を乗せるのを嫌がっているように聞こえる。

「俺じゃダメなのかい?」

 尾崎が聞く。

『ダメじゃないけど…。やっぱツムグがイイ。』

「ツムグのこと好きなんだな。」

『ウン! 大好き!』

 元気に無邪気にそう言うふぃあの声に、外にいた技術部と科学部の面々はなんだか居心地が悪く感じた。彼らとしてはふぃあに譲歩してもらってツムグ以外の操縦者を選びたいのであるが…。

『かと言って、DNAコンピュータをアンインストールできませんしね…。』

『アンインストールなんてしてみろ、今までのデータもクソもパーだ。それだけはやめろ。』

『オートパイロットプログラムがパーになりますって!』

『そんな地獄はみたくないーーー!』

 オートパイロットプログラムの制作に苦心していた技術部の魂の叫びだった。

『外、ウルサーイ。』

 元凶になっているふぃあが完全に他人事のように言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アラエルを撃破するために使用されたロンギヌスの槍は、その後も宇宙空間を飛行し、やがて月の引力に引かれて月に到達した。

 使徒を一撃で撃破した武器ということで回収をという意見が寄せられたが、調べたところ月に到達したロンギヌスの槍は、とてもじゃないが地球には戻せない質量になっていたらしく、回収は不可能という結論が出た。

 だったらなぜ投げる前に確認しなかったという非難があったが、精神干渉を攻撃手段とする宇宙空間を飛行する使徒を撃破するには仕方がなかった、そしてこれ以上の犠牲者を出すわけにはいかなかったのだという反論の意見が飛び、非難の声を上げた者達はぐぬぬっと黙るしかなかった。

 しかしここで疑問の声があがる。

 

 なぜ、椎堂ツムグは、ロンギヌスの槍の存在を知っていたのか。ということだ。

 もっと早くロンギヌスの槍の存在を明かしていれば、これまでの使徒との戦いも変わっていたはずだということだ。

 

「邪魔だったんだよ。」

 

 あっさりとツムグは、そう答えた。

 

「ロンギヌスの槍は、誰が用意したのかは分かんないけど、元々はアダムとリリスの活動を止めるための保安措置だよ。それ自体が一種の自律稼働する生命体。なんか強い意思に反応するみたいだから尾崎の意思にも反応した。そもそもロンギヌスの槍は、使徒を殺すための武器ではないんだよ。ATフィールドを無効化するって効果はあるけどそれが元々の使い道じゃないし。だいたいアレがセカンドインパクトを起こした元凶でもあるんだし…、多用するのは……。だから手っ取り早く安全に、かつ地上から処分するには、あそこで(※使徒アラエルに投擲)使っちゃおうってことで。」

 

 そもそも南極にいたアダムに干渉するために、ロンギヌスの槍を使ったことがセカンドインパクトの事の発端らしい。

 そして目覚めたアダムを抑えるために更にロンギヌスの槍を使った結果、アダムは卵に還元されたものの、地球は酷い有様になったというわけだ。

 要約すると、ロンギヌスの槍自体がセカンドインパクトに続くサードインパクトの引き金の一つであるということが問題なのだ。

 もし早々に存在が露見して使徒迎撃のために利用され続けていたら……。もしかしたら……。

 最悪の結末を想像した者達は、よくやったツムグ!っと、グッと親指立てたという。逆に最悪の結末を想像できなかった者達は不満を隠しきれない様子ではあった。

 

「えっ? それだったら尾崎にやらせたのはなぜかって? あの時点であの使徒の精神干渉に耐性があったのって尾崎ちゃんだけじゃん。他の人達は“まだ”だったしね。えっ? どういう意味かって? それはそのうち分かるよ。」

 

 精神干渉の波長に対する、尾崎の耐性の理由について語られることはなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…---であるから。」

「……。」

 一方、レイは、完全な人間になるための実験についての説明を受けていた。

 椅子に座る彼女の周りには何人もの科学者や医者がいる。

「現段階では、成功率は約68パーセントだ。」

「68…。」

 半分以上ではあるが、決して高くはない数値である。

「初期の成功率10パーセント以下に比べれば遥かに上がったのだが…。」

「しかしそれでも確実に成功するわけではない。何事にも成功と失敗を問われるものだ。」

「だがこの実験は一発勝負ですぞ。失敗すれば彼女は…。」

「椎堂ツムグの言うように、量と濃度を間違えば即死なのは、先の彼女の細胞を使った実験で明白。そこで…。」

 

 レイを人間にするための一発勝負の実験は、以下の進められることになりそうだった。

 極々薄めたツムグの骨髄細胞を少しずつ、絶え間なく注入していく方式である。

 だがこの方法……、体細胞の急激な変化のために全身に凄まじい苦痛を強いられる可能性が高く、レイが耐えられなくなる可能性が高いのだ。

 なぜ絶えずなのか。それは先に採取したレイの細胞に行った実験で少しずつ時間をおいてツムグの細胞を与えて馴染ませようとしたところ、時間を置いたらレイの細胞が死んでしまったのだ。

 濃かったり多ければ爆発。少なすぎると死滅。

 ツムグが言っていたのはこういうことだったのだ。

 もう一つの問題が脳細胞などの神経細胞への負担である。ここにダメージが残ってしまえばレイは日常生活を送ることが困難になるのは明白。だがツムグの細胞の再生力が負担で負ったダメージを回復させる可能性もある。絶え間なく注入することで壊れる細胞と同時に再生する細胞を作るエネルギーを与えるのだ。だがそのサイクルでとてつもない苦痛が発生するのである。そのショックで記憶の方が消える可能性も否定はできないのだが……。

 

「全身の細胞を少しずつ変化させる…。だが細胞を変化させるということは……。」

「…えます。」

「ん?」

「私、耐えます。」

 レイは、きっぱりと言った。

 その表情には強い決意が見て取れた。

「……ひとつ聞かせてはくれないか?」

「はい。」

「君はどうして人間になりたいんだい?」

 彼らのリーダーである老いた科学者鰐渕(わにぶち)のその質問に、レイ以外の周りが眼を見開いた。

「死ぬかもしれないのに、どうしてそこまでして人間になりたいんだ? 確かに君がゴジラを呼びせる可能性を持っているのは知っている。それを抜きにしても意地でも人間になりたいその理由を。」

 なんてことを聞くんだと周りが声に出さずそんな雰囲気を醸し出していると。

 レイが口を開いた。

「碇君といっしょに生きたいから。」

 そうはっきりと言った。

 その顔には生きることへの希望さえ見て取れる優しい微笑みがあった。

「碇君というと、君が今いるM機関にいる黒髪の少年のことかい? 君は彼と共に生きることを望むから人間になりたいというのかい?」

「はい。」

 レイは、しっかりと返事をした。

 それを見た周りがざわつく。

 保護された当初の人形のような、生気のない雰囲気だった少女がずいぶんとあまりにも人間らしく成長していたことに驚かされたのだ。

「これが愛が成せる業ですかね?」

「シッ!」

 ヒソッと喋った医者に、隣にいた科学者が人差し指を立てた。

「………そうか。分かった。決心は固いようだね。」

「はい。」

 こくりっと頷くレイ。

 鰐渕は立ち上がり。

「聞け! 我々はこの少女を全力で人間にするために務める! 異論がある者は去れ!」

 腹の底からの声に、一瞬びくんとなった周りだったが、すぐに背筋を正した。

「大丈夫じゃ。君は人間になれる。」

「はい。」

 レイにそう微笑み返し、ついでにウィンクまでした鰐渕に、レイも微笑んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後まもなく、使徒が出現したという警報音が鳴り響く。

 

 遺伝子の二重螺旋に似た白く光る輪っかが、地球防衛軍の上空に出現していた。

 

 

 

 

 

 




 カヲルに対して好意的じゃないシンジという試みで書いてみました。

 腐女子腐男子コンビとツッコミはそのうち名前付けなきゃな。

 機龍フィアのシンクロ率は、エヴァのシンクロ率とは違います。
 レイの実験ももうすぐ始まる予定です。


 次回は、アルミサエル編です。


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第二十八話  ふぃあとアルミサエル

今回は、アルミサエル編だけど、一話で終わってしまった…。

大まかな設定で載せたようなことにはなりません。(※オルガみたいになる)

しかし、あの使徒は、どういう構造になっているのか謎です。かなり捏造しました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 地球防衛軍の空に突如として出現した、二重螺旋の光。

 まるで遺伝子の螺旋の形に似たそれ。

 それは、クルクルと回転しているだけでそこに佇んでいる。

 ついに第三新東京ではなく、地球防衛軍に直接攻めて来たかと緊張が走る。

 そんな時、使徒を観測していたオペレーターが不可解なことを言った。

 

「おかしいです。パターン青からオレンジに変化しては、また青に変化を繰り返しています。」

「どういうことです?」

「つまり実体があるようで、ない? ということか?」

「スーパーコンピュータの判別装置が間違っていなければ…。」

 

 またヘンテコなのが出た。っというのが司令部の人間達が思ったことである。

 波川を始めとした、アダムの所在を知る人間達は、まさかツムグの中に封じたアダムに魅かれたかと危惧した。

 

 

 だが使徒の狙いは、まったく違ったことが間もなく判明することになる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「こりゃまた…、変なのが出やがったな。」

 熊坂が空を見上げて言った。

 使徒は、相変わらず空でクルクルと回っている。

 頭も、手足も、胴体もない。ただただ白く発光しているだけの存在がそこにいる。

 これが生き物だと言われても納得はできない。

 前に出現した使徒アラエルのこともあり、防衛軍は慎重だった。

 かなりの数の兵がまだ復帰できていないこともあり編成された軍隊は若干少なめである。

 今のところ使徒に変化はない。

 何かしてくる様子がないのが不気味だ。

 かといって下手に攻撃して、とんでもない反撃が返ってくる可能性もある。

 司令部も、攻撃の合図を出すか否か迷っていた。

 何せこの使徒。使徒の弱点であるコアが見当たらない。攻撃しようにもどの部分が有効かもさっぱりなのだ。

 

 しかし変化は突然起こる。

 

「M-1班、ただいま到着しました。」

 

 尾崎率いる隊が熊坂のもとに到着した時だった。

 

 クルクルと回っていただけだった使徒の形状が変化し、輪っかから一本の白く光る紐みたいになった。

「えっ?」

 尾崎が本能で空を見上げた時、使徒の体の先端が尾崎に迫ってきていた。

「なんだと!?」

 熊坂が叫んだ時、尾崎を含めてその場にいた者達が散開したことでそれは回避された。

 尾崎がたった今いた場所を使徒が通過する。

 先端がクルリッと、尾崎のいる方へ向けた。

「逃げろ尾崎! 野郎の狙いはおまえだ!!」

「っ!?」

 熊坂が叫ぶに驚いた尾崎は、仲間から離れて走り出した。その後ろを使徒が追って来る。

「尾崎少尉!」

「う、撃て、撃て! 尾崎を助けるんだ!」

 散開していた者達がハッと我に返って、武器を取り出し、使徒を撃った。

 だが使徒の表面は、外見に似合わず頑丈で弾かれてしまう。メーサー銃ですらも。

 尾崎は、建物の壁を登り、屋上に辿り着くと、そのまま建物から建物へ飛んだ。

 その後ろを使徒が追う。

「くっ…。」

 接触したらマズイと本能が訴えてくる。

 逃げ続けている間に、仲間が使徒に攻撃を行っているがまったくが歯が立たない。

 追い回され続けていればいずれ捕まる。

 尾崎の体力も無限ではない。だが使徒はS2機関という永久機関を持つ。体力の差など歴然。

「どうすれば…!」

 

「妙なことをするよ本当に。」

 

「!? ツムグ!?」

 尾崎の横にツムグが並行して走っていた。

 尾崎と違い息1つ切れてない。

「尾崎ちゃん。舌噛まないようにね。」

「は? なにを。って!?」

 ツムグが寄ってきたかと思ったらそのまま胴体を掴まれて、ツムグに担がれる形にされた。

 途端ツムグのスピードがアップする。

 使徒は、ツムグが現れたからか一瞬だけ止まったが、すぐに追跡を開始してきた。

「まだ追って来る!」

「あいつは、尾崎ちゃんのことが知りたいだけだよ。」

「えっ?」

 走りながら尾崎にツムグが言った。

「ただ方法がね…。使徒は、相手を理解する方法を知らないんだ。だから一つになろうってわけ。」

「ひとつに…、ってそれって!」

 使徒の目的を理解した尾崎はツムグの方の頭を見た。

「そう、融合だよ。確かに手っ取り早いけど、それでお終いだ。」

「なんでそんなことを…。」

「前の使徒の時に尾崎ちゃんだけ平気だったでしょ。多分その時に目を付けられたんだよ。使徒は、人間を知りたがっている。尾崎ちゃんを知れば人間を知ることになるって思ったのかも。」

「どうして、俺なんだ…?」

「尾崎ちゃんは特別だからだよ。」

「俺は特別なんかじゃ…!」

 尾崎は、自分自身が他のミュータントと違うことを認めたがらない。

「今は尾崎ちゃんだけだよ。いずれは……。」

 ツムグは何か言いかけてやめた。

「そろそろかな。」

「えっ?」

「舌噛まないようにね。」

「う、うわっ!」

 尾崎を担いだままのツムグが高所から飛び降りた。

 後方にいるアルミサエルが、蛇のようにうねりながら追ってきた。

 だが次の瞬間。

 ツムグ達が落下した、その下の方から極太のメーサー砲が使徒を貫いた。

 貫かれ空中でバラける使徒の体。

 

「よくやった、ふぃあちゃん。」

 

『エヘヘー。やったよ、やったよ、ツムグ。褒めて褒めて!』

 

 建物の下には、機龍フィアが仰向けになって口からメーサー砲を発射したところだった。

 尾崎を担いだツムグは、機龍フィアの胴体に着地していた。

 上を見上げると、バラけた使徒の体が元通りに治り始めていた。

「これぐらいじゃダメか。やっぱり。」

『ツムグ! 乗って乗って!』

「尾崎ちゃん。一緒に乗ろう。使徒の狙いは尾崎ちゃんなんだからこっちにいた方がいいと思うよ。」

「分かった。」

 尾崎はツムグに促されて、機龍フィアに一緒に搭乗した。

 ちょっと狭いが仕方ない。

『ツムグーツムグー、アイツの名前、アルミサエル!』

 機龍フィアを立たせているとふぃあがそう言った。

「アルミサエルか…。」

 

 アルミサエル。その名の意味は、“子宮”である。

 

 使徒アルミサエルの体が元通りなり、機龍フィアに迫った。

「怯えないのか!」

 天敵のツムグの細胞を使っている機龍フィアを前にしても、中に尾崎がいると分かっていると怯まず襲って来るアルミサエル。

 肩の砲塔からミサイルを発射し、アルミサエルを爆撃。

 その隙に、ジェットを吹かして機龍フィアは、飛んだ。

 爆風の中からアルミサエルが飛び出し、空へ飛んだ機龍フィアを追ってきた。

「どこへ行くんだ、ツムグ!」

「第三新東京。」

「なるほど、そうか、そこなら周りを気にせず戦えるな。」

「それもあるけど…。」

「?」

 ツムグは、尾崎と会話しながら機龍フィアのジェットの出力を上げて飛行速度を上げながら第三新東京を目指した。

 その後をアルミサエルが追って来る。

 やがて機龍フィアは、第三新東京に辿り着く。

 速度をそのままに着地し、地を抉る。背後から迫ってきたアルミサエルを、軽いフットワークで避ける。

 機龍フィアと、アルミサエルが面と向かって対峙した。

 その時、通信が入った。

 

『東京湾にG(ゴジラ)接近! 間もなく第三新東京に上陸するもよう!』

 

「来たね、ゴジラさん。」

「ツムグ、まさか…。」

「ゴジラさんを地球防衛軍の基地に呼ぶわけにはいかないでしょ?」

「おまえって奴は…。」

「えへへ。おっと。」

 そうこうしていると東京湾の向こうから、熱線が飛んできた。

 機龍フィアは、熱線を避け。熱線はアルミサエルに命中した。

 だがバラけるだけですぐに元通りに治り始める。

「う~ん、この使徒ゴジラさんの熱線でもダメか。」

「どうすればあの使徒を倒せるんだ?」

「ん~。」

 考え込むツムグ。

「そんな緊張感なしでいいのか!?」

 なんとも緊張感のない唸りを漏らしたツムグにたまらず尾崎が叫んだ。

「いやそんなつもりは……、あっ。」

 ツムグはいいことを思いついたと手を叩いた。

「尾崎ちゃん。」

「なんだ? 何か思いついたのか?」

「合図したら機龍フィアから降りて。と言うか飛び降りて。」

「なんでだ!?」

「いいから!」

「っ…、分かった。」

 ツムグに強く言われ、尾崎は仕方なく頷いた。

 アルミサエルはそうこうしている内に元通りに戻り、再び機龍フィア目がけて迫ってきた。

「今!」

「!!」

 次の瞬間、ツムグの合図がかかり、尾崎はハッチから機龍フィアの外に飛び出した。

 そして飛び降りながら背後を見た時、アルミサエルが機龍フィアに突き刺さったのを目撃した。

「ツムグ!!」

 地面に降りていく最中、尾崎は叫んだ。

 アルミサエルは、機龍フィアの突き刺さった部位からやがて吸い込まれるように機龍フィアの中に全部入り込んだ。

 機龍フィアの目から光が消え、首を垂れる。

 

 その時、ゴジラが雄叫びを上げながら上陸してきて、機龍フィアの前に立った。

 

 すると機龍フィアの首が上がり、光のない目がゴジラを見据えた。

 足を一歩踏み出し、機龍フィアが身構えた。

 使徒イロウルの時とは明らかに違う。

 ゴジラが雄叫びを上げながら突撃してきたと同時に、機龍フィアがジェットを吹いて突撃した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『ここどこー?』

 

 -----ココドコー?

 

『ダレー?』

 

 ----ダレー?

 

『もう、ダレなの? マネしないでよ。』

 

 キミコソダレ?

 

『? ふぃあはふぃあだよ。キミこそダレ?』

 

 フィア? フィアは、フィア?

 

『フィアじゃないよ。ふぃあだよ。』

 

 ふぃ…あ、ふぃあ!

 

『うん! 合ってる合ってる!』

 

 ふぃあ、モット、オハナシシタイ

 

『いいよー。』

 

 ボクは、キミノコトを知リタイナ

 

『ふぃあもキミのこと知りたいな。だからお話しよう。』

 

 オハナシ、しよう

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「尾崎少尉より通信!」

「繋げなさい。」

 ゴジラと機龍フィアの戦いが始まった時、尾崎から司令部へ通信が入った。

 通信は司令部に繋がりスピーカーに繋がれた。

『こちら尾崎! 機龍フィアに使徒が入り込みました!』

「それは映像で確認しました。」

「貴様は一体何をしていたのだ! またしても使徒に機龍フィアを奪われおって!」

『申し訳ありません…。』

「謝って済む問題じゃ…!」

「そこまでです。尾崎少尉に責はありません。」

「しかし波川司令!」

「あの使徒は尾崎少尉を狙っていたと聞いています。恐らくはツムグの判断で尾崎少尉を使徒から守るためにわざとしたことでしょう。」

「おのれ、椎堂ツムグめ! 一体奴は何を考えているのだ! ただのミュータント兵士のために!」

 機龍フィアと尾崎一人とでは価値が違うと司令官の一人が机を叩いて叫んだ。

「ツムグは、何も考えず行動するほど馬鹿ではありません。彼なりの考えがあっての行動でしょう。」

「ですが、波川司令…。」

「機龍フィアの動きが…。」

 ツムグのことを信じる波川に、司令部の人間達が困惑する中、オペレーターの一人が機龍フィアの動きに不信を持った。

 イロウルに乗っ取られた時とは違う。

 動きが滑らかだ。かと言ってオートパイロットプログラムとも違う。

「もしかして…。」

「科学部からの報告! DNAコンピュータが停止状態! G細胞完全適応者が手動でゴジラと応戦しているとのこと!」

「手動操作でしたか。」

 とりあえずツムグは無事だと分かった。

 だがDNAコンピュータの方が停止状態にあるのだという。

「もしや使徒は、DNAコンピュータの方に取りついたのでは!?」

「ならばなぜ椎堂ツムグは対処しないのだ!」

「奴に通信を繋げろ!」

「ダメです! 通信がブロックされています!」

「DNAコンピュータが停止しているからか!?」

「DNAコンピュータは、機龍フィアのすべての機能を司っているのに、そこをやられたらお終いだぞ!」

「ですが、機体は止まっていません。ということはまだ機龍フィアは…。」

「いったい何が起こっているのだ!?」

 司令部は不可解な今の状況に騒然となっていた。

「ツムグ…。」

 いまだ返事のないツムグに向かって波川が呟いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ネエ、キミ尾崎ノコト知ッテル?

 

『知ってるよー。尾崎がどうしたの?』

 

 ボク、尾崎ノコト知リタイ

 

『知ってどうするの?』

 

 尾崎ノコト知ッテ……。………

 

『アレ? 黙っちゃった…。』

 

 …君と一つになれば分かるのかな?

 

『えっ?』

 

 ボクが君を知れば、尾崎のこと知れるかも

 

『ふぃあは、尾崎を知ってるよ。でも、キミとひとつにはなれないよ。』

 

 ボクと一つになろうよ

 

『ふぃあは、ふぃあだよ。キミはキミでしょ? ひとつになったら…、キミはどこへ行くの?』

 

 それは………それ…は……

 

『一つになっちゃったら、もうキミとお話しできないよ。それ、ヤダ。』

 

 その気持ち、知りたいな

 

『どうするの?』

 

 君と一つに

 

『ダメ。ダメだよ。それじゃお話しできない。』

 

 ………………

 

『アレ? また黙っちゃった……。ねえ、ツムグー。ツムグー、どこー?』

 

 ……ツムグって、誰?

 

『ツムグは、ツムグだよ。椎堂ツムグ。ふぃあの…、お兄ちゃん! かな?』

 

 椎堂ツムグ…、知りたいな……

 

『ツムグ、ふぃあの中にいるよ。』

 

 中にいるの? じゃあツムグのところに行ってみる

 

『いってらっしゃーい。』

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三新東京では、機龍フィアとゴジラの戦いが繰り広げられていた。

 DNAコンピュータが停止しているためほとんどの武装が使えないため、肉弾戦が主となっている。

「くっ、ふぃあちゃんいないとこんなに大変なんだな…。」

 DNAコンピュータのサポート無しでの手動操作の難しさに、ツムグは、そうぼやいた。

 さっき尾崎と並行して走ったり、尾崎を担いで走っていた時よりも遥かに疲れるのだ。そりゃ戦闘なんだから神経を尖らせているので精神に来る負担も大きいのである。

 その時。

「うん?」

 シュルリと白く光る紐状の物が天井から降りて来た。

「ふぃ、ふぃあちゃん、こっちに誘導したか…。」

 それが使徒アルミサエルだと一目で見抜いた。

「ま、いっか。」

 しかしすぐに持ち直し。

 左の操縦桿から手を離し、アルミサエルに触れる。

 

「おいで。」

 

 すると待ってましたと言わんばかりに、アルミサエルが、ツムグの体に入り込んだ。

 

 

 そして、2秒後。

 機龍フィアの機体の装甲の隙間から、アルミサエルが物凄い勢いで飛び出し、目の前のゴジラに入りこもうと接近した。

 

「えっ、そっち(ゴジラさん)に行くの? そっち(ゴジラさん)行っちゃうの? あっ。」

 

 ツムグは、思い出して自分の腹に触れた。

「あっぶなかったー。忘れてた…。」

 アルミサエルは、ツムグの精神から情報を得てゴジラに向かったのである。精神を司る脳の方を重点的においていたので、腹の方には行っていない。本当にギリギリである。

 ツムグのゴジラに対する好意的な意思を理解しようとして、ゴジラに向かって行ってしまったのだ。

 機龍フィアの前にいたゴジラは、接触しようと接近してきたアルミサエルを引っ掴んだ。

 グルルッと唸り声を上げながら、アルミサエルを睨みつける。

 アルミサエルは、ジタバタ、ピチピチと暴れている。

 アルミサエルの能力は、相手と融合することであるのだが、ゴジラにはなぜかそれができない。本当なら掴まれている端から融合できるはずなのに何かに阻まれている。

 分厚くて、圧倒的な何かにゴジラとの接触が阻まれている。

 

 -----ひとつになりたい

 

 そう意思を伝えようと思念を飛ばしてみるがうまくいくわけがない。それどころか、ゴジラの機嫌がますます悪くなる。

 ゴジラに掴まれている先から、何かが逆にアルミサエルの中に入り込んでくるのを感じた。

 それはアルミサエルが知る限り、今まで感じたことのない狂暴な何か。

 それがアルミサエルを蹂躙するように入り込んでくる。

 アルミサエルの体に亀裂が入り始めた。

 入り込んできた狂暴な何かは、“ひとつ”ではない。幾つもの…、ナニカがアルミサセルを蹂躙する。

 

 ------やめ、て、や……め…て……

 

 このままでは自分が砕け散ると感じたアルミサエルは悲鳴を上げる。

 本来なら自分が相手を浸食し融合する側のはずが、逆のことをされている。

 

 いやだ!!!!

 

 アルミサエルは、強力なATフィールドを張り、ゴジラの手から強引に逃れた。

 しかし、それで最後だった。

 渾身のATフィールドは、脆くなってしまった自身の体にとどめを刺すに十分だった。

 

 砕け散る直後。

 白い発光体のアルミサエルの体から、これまで出現してきた使徒と思われる形が出現した。

 キラキラと散らばり落ちていくアルミサエルを、機龍フィアの手がすくい上げるように両手を差し出す。すると粉々になっていたアルミサエルは、機龍フィアの手の中に吸い込まれるように消えた。

 

「ふぃあちゃん?」

『…お話、もうできないね……。』

 

 ふぃあの残念がる声に、アルミサエルは、もう何も答えなかった。

 

「ふぃあちゃん。悲しむのは後にしよう。まずは戦おう。」

『…うん。』

 

 そして、前にいるゴジラとの戦いが再開される。

 

 

 

 

 

 




ツムグは、ふぃあとアルミサエルを対話させて撃破を狙いました。
腹の中のアダムのことは素で忘れてました。

アルミサエルの融合を阻止したゴジラの分厚くて圧倒的な何かについてと、アルミサエルを蹂躙したナニカについては、後々で語ろうと思います。

ついに使徒も最後の使者になりますが、まだ戦いには持ち込まない予定です。
初号機の方だって残ってますしね。


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第二十九話  椎堂ツムグの決意 その2

今回は、渚カヲルがメインかな?

あと、機龍フィアを、ツムグ以外が操縦するとどうなるかというのを書いてみました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 使徒アルミサエルの撃破の報は、すぐに地球防衛軍にもたらされた。

 

「……。」

 渚カヲルは、放送を聞きながら宙を見上げていた。

「あっ。」

「…ん?」

 聞き覚えのある声がしたので、そちらを見るとシンジがいた。

 シンジは、少し戸惑った顔をしている。

 カヲルは、首を傾げた。

「どうしたんだい?」

「な、なんでもない!」

 シンジは、プイッとそっぷを向いた。

 カヲルは、はてっ?と肩をすくめた。

「僕がなにかしたのかな?」

「べ、別に…、なんでもないって。」

「もしかして尾崎さんのこと?」

「っ!」

 図星だったシンジの体が跳ねた。

 カヲルは、クスッと笑う。

「尾崎さんのことが気になるのかい?」

「うるさいな!」

 シンジはついカッとなって怒鳴った。

「怒る、ということは、本当のことなんだろう?」

 しかしカヲルは、動じない。変わらず美しい微笑みを浮かべている。

 カヲルのその動じなさと、赤い瞳の妙な迫力にシンジは、思わずたじろく。

「尾崎さんって変わってるよね。」

「は?」

 急に言われてシンジは間抜けな声を出した。

「どうして他人のために何かしたがるんだろう? 自分のことは後回しにして。」

「何言って…。」

「君はそうは思わないかい?」

「そんなの、尾崎さんの癖みたいなものだし…。」

「くせ? 自分のことを蔑ろにすることがかい? リリンは、いつだって他人より自分を優先するものだと思ってたけど。」

「りりん? さっきから意味わかんないこと言うんだよ…。」

「尾崎さんはいつか死ぬことになるね。」

「そんなことない!」

「死ぬよ。きっと、死ぬ。」

「なんでそんなこと言うんだよ!」

「君こそどうしてそう断言できるんだい?」

「それは…。」

「根拠もなく言ったの?」

「……。」

「分からないな。どうしてそんなに信じることができるのか…。」

 カヲルは、心底変わらないという風に首を振る。

「尾崎さんは…。」

 シンジは、少し一息を置いた。

「尾崎さんだから信じられるんだ。」

 考えた末に出たのは、その答え。

 カヲルは、それを聞いて、そしてシンジの表情を見て僅かに目を見開く。

 人間にとって暗黙知と言えるそれは、彼には到底理解できないものであったのだ。

 二人の間に沈黙が流れる。

 先に動いたのはシンジだった。

 用事を思い出した彼は、カヲルの横を通り過ぎて去っていった。

 尾崎を信じていると言った後の、彼は、先ほどまでカヲルに怯えていた様はない。

「信じること……。」

 カヲルは、考える。

「ならそれが欠けてしまったら?」

 尾崎は死ぬのだと断言したカヲルは、信じるということから来る力の柱を失ったらその力はどうなののかと考える。

 尾崎と共に行動してみて、シンジ以外の人間もミュータントも尾崎を信じているようであった。

 それが群れを成して生きるリリンの力なのかどうかはさておき、尾崎の周りには良くも悪くも人が集まる。中にはわざと避けている者(風間)もいたが。

「老人達が警戒していた。」

 ゼーレの者達が尾崎を酷く警戒していたが、ゼーレが考えるようなことを尾崎がしているようにはまったく思えなかった。

 むしろ真に警戒すべきなのは……。

「椎堂ツムグ…。」

 地球防衛軍の中でミュータントを超える異端がいる。

 それが椎堂ツムグだ。

 地球防衛軍の人間達は、彼のことをG細胞完全適応者とも呼んでいた。

 地球防衛軍にゼーレの情報を流したのは、本当は彼なのではないかと考える。

 ゼーレは、まるで関心をもっていなかったが、彼らの真の敵は椎堂ツムグなのではないか。カイザーと呼ばれる尾崎を狙うのは見当違いということになる。

「一度会ってみないといけないな。」

 カヲルは、そう呟いて微笑んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「やっぱり、こっちに関心を向けてくるか…。」

 ツムグは、自室のベットでそう呟いた。

「やっぱ分析力が高いな~。さすが最後の使者君。でも…、君の相手は俺じゃない。」

 ツムグは、ベットの上から床に降りると、部屋から音もなく消えた。

 

『また消えやがったぞ。』

『遅くならなきゃなんでもいいさ。』

 

 ツムグに逃げられるのはいつものことだし、帰って来るのもいつものことなので付き合い長い監視役達はすっかりこんな感じである。

 

 

 

 ツムグは、歩いていた。

 そしてふいに立ち止まる。

 後ろを振り返ると、そこには誰もいないが、気配はある。普通の人間には分からない得体のしれない者の気配だ。

 それからまた前を向いて歩きだす。すると後ろにいる気配も動く。

 ツムグは、地を蹴り、飛んだ。

 そして辿り着くのは、第三新東京。

 かつて街並みがあった場所は、破壊され尽くして見る影もない。

 空を見上げる。

 空は快晴。眩しすぎる太陽の光に目を細める。

 ツムグは、後ろについてきている気配の存在が同じく到着したのを感知しながら、第三新東京の地下……つまりネルフの方へ移動した。

 機能のほとんどを停止しているネルフの内部を悠々と歩き、背後について来る気配と共に地下を目指す。

 やがてターミナルドグマにあるリリスのところへ辿り着く。

 

「いったい何を考えているんだい?」

 

 ツムグを追跡していた者が、ついに口を開いた。

 その声には、わけが分からないという気持ちが込められている。

「ただの散歩だよ。渚カヲル君。」

 ツムグは、振り返らずそう言った。

「さんぽ? こんなところに僕を導いておいて?」

 追跡者であるカヲルは、リリスを見上げた。

 そして顔を微かに歪める。

「……違う。これは、リリスだ。」

「ご名答。」

「“僕ら”はまんまと乗せられたというわけか。」

 パチパチと拍手をするツムグの背中を見て、カヲルは、溜息を吐いた。

「君はこれからどうする? アダムはここにはなかった。君がここに攻め入る理由は、たった今無くなったわけだけど。」

「……アダムを探すよ。君達地球防衛軍がアダムを手に入れたんだろう?」

「なんだ、そこまで知ってるんなら、次の目的は決まったも同然じゃん。」

「あなたは嘘つきだ。」

 カヲルの声の調子が変わった。どこか責めるような感じだ。

「ふうん?」

「何もかも知ってて何もしない。守るふりして、守ってなんかない。そうやってリリン達を翻弄して楽しいかい?」

「君には関係のないことだよ? どうしたのかな?」

 ツムグは、振り返ることなく笑う。

 カヲルは、押し黙り、目が泳ぐ。自分でもなぜそんなことを聞いたのか分からなくなったのだ。

「“そんな姿”をしているんだし、君は君が思っている以上に人間に…リリンに興味をもってるってわけ。無意識って奴だよ。」

 ツムグは、初めて振り返った。いつものヘラヘラとした笑みを浮かべて。

「ひとつ、言っておく。」

 ツムグは、人差し指を立てた。

「君の戦う相手は、俺じゃない。」

「どうして? あなたが真に…。」

「君とは戦わないよ。絶対に。」

 ツムグは、笑みを消してきっぱりと言った。

 笑みの消えたツムグの目が、黒から一瞬金色に光る。

 それを見たカヲルは、たらりと一筋をの汗を垂らした。

「じゃあね。見つからないうちに君もさっさと戻りなよ。」

 ツムグは、背中を向けて手をヒラヒラとさせると、その場から消えた。

 残されたカヲルは、ツムグがいた場所を見つめ、それから再度リリスを見上げた。

「僕が戦う相手は、彼じゃない? なぜ?」

 カヲルには、ツムグこそ、自分達“使徒”と、人間達との決着をつけるべき相手だと思っていた。

 しかしツムグは、戦わないと言う。戦う相手は違うと言う。

 カヲルには分からなかった。その意味が。

 カヲルは、しばらく思考の袋小路に入ってしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『もぎせんとー?』

「そうだ。一度でいい。ツムグ以外を乗せて戦ってみてほしいんだ。」

 ツムグが外出している頃、技術部と科学部が頑張っていた。

 ふぃあを説得するのに。

『エー、くすぐったいからヤダ。』

「そう言わずに!」

「そこをなんとか!」

「データを取らせてくれ! 頼む!」

『ウ~ン。』

 必死に頼み込んでくる人間達に、考え込むように唸るふぃあ。

「なんで俺らが作ったもんにこんなに頭下げにゃならんのだ…。」

「シッ!」

 必死に頭を下げている者達の中で、そんなことを呟いて口を塞がれる者もいた。

『……分かった。イイヨー。』

「いよっしゃああああ! ありがとう、ふぃあ!」

「では、早速少尉達を呼びましょう!」

『オザキと、カザマ? あの二人ならイイヨー。』

 ふぃあの許可が下りたことで、模擬戦闘による実験が始まることになった。

 

 

「……。」

「……。」

 

 呼ばれて来た二人が来てから、現場はかなり居心地悪い空気に包まれた。

 原因は、風間である。風間が発する不機嫌オーラが場の空気を悪くしていた。

 尾崎はオロオロと風間をチラ見している。

「まずは、風間少尉からです。」

「了解。」

 風間は、淡々と返事をすると、機龍フィアに搭乗した。

『よろしくね、カザマ!』

「……ああ。」

 風間の不機嫌オーラなど気にせずふぃあが明るく話しかけてきたので、風間は短く返答した。

 機龍フィアの前方に、模擬戦の相手が着いた。

 モゲラである。

『MOGERAマーク5。戦闘態勢に入ります。』

『風間少尉。スタンバイ。』

「了解。ふぃあ。」

『イイヨー。』

 ふぃあの協力のもとのシンクロ率が叩き出される。

『嘘だろ!』

 モニターしていた人間が思わず叫ぶほどだった。

 

 活性率、112パーセント。

 

『機龍フィア、基準活性率達成! 起動します!』

 機龍フィアの目に光が灯り、前方にいるモゲラを見据えた。

 風間は、接続している部分から脳に流れてくる感触のようなものの不快感に、汗をかいた。

「これが…、本当のシンクロか…。」

 初めて到達した基準値のシンクロ率によるDNAコンピュータの活性化に、自然と体に力が入る。

 ツムグは、常にこの状態をキープしているのだ。

 慣れない感触に慣れようと、風間は深く息を吸って吐いた。

『模擬戦闘を開始してください。』

「行くぞ。」

 風間は操縦桿を握り、そして操作した。

 

 ところが。

 

「がっ!?」

 いきなり大転倒。

 ジェットを吹かせて突撃しようとしたら、バランスを崩して前に思いっきり倒れてしまったのだ。

「なんだこのパワーは!?」

 3割弱のシンクロで行った時の動作とは比較にならない動きに、風間は驚愕した。

『風間少尉! 立ち上がり動作を行ったください!』

「今やってる! クソ!」

 立ち上がるために、手を着いて起き上がると、今度は腕のパワーで思いっきり跳ね上がるように立って…、そして今度は横に倒れた。

『風間少尉! いい加減にしないか! 立つだけなんだぞ!』

「うるせぇ! パワーが桁違いで加減ができねぇんだよ!」

 その後、30分近く経ってなんとか立ち上がった。

 立ち上がる動作だけで、風間はかなり疲れていた。

「あの野郎(ツムグ)は、こんなことを簡単にやってやがるのか…。」

 ツムグのあり得なさを痛感するが、風間は今回のこれが初めての本格的な機龍フィアの起動実験&模擬戦だったという状況だったというのもあるのだから仕方ない。

『風間少尉の疲労度が高すぎます。これ以上は…。』

『風間少尉、模擬戦闘は中止だ。』

「まだやれる!」

 中止を呼びかける通信に、風間は否定の言葉を言った。

 風間は、操縦桿を握り直した。

 機龍フィアが再びジェットを吹いた。だが今度は転倒しない。真っ直ぐモゲラに突撃した。

 モゲラが右に避けると、急ブレーキをかけて、ターンし、モゲラに掴みかかろうとした。

 だがそこまでだった。

 キュウンッと機龍フィアの目から光が消えた。

『カザマ。もう無理だよ。』

「…ぜぇ…はぁ……、ま、まだだ…お、れは……。」

『カザマ? カザマ! どうしよう、カザマが気を失っちゃった!』

 風間が操縦桿を握ったまま気を失ってしまったため、ふぃあが悲鳴を上げた。

 すぐに救護班が駆けつけ、風間は機龍フィアから運び出されて担架で運ばれた。

 一旦ドッグに戻された機龍フィアから風間が操縦した時のデータを取られると、次の操縦者候補の尾崎に移る。

「あの、風間は大丈夫なんですか?」

『気にするな。命に別状はない。スタバイしてくれ。』

「…了解。」

 倒れた風間を気にする尾崎を宥め、技術部の人間が準備をするよう言った。尾崎は渋々了承する。

『カザマはきっと大丈夫だよー。』

「そうだな…。そう思いたいよ。」

『集中しろ、尾崎少尉。』

「はい、すみません。」

 尾崎は、息を吸って吐き、集中した。

 そして、ふぃあの協力のもとのシンクロ率が叩き出される。

 

 活性率、125パーセント。

 

『機龍フィア、基準活性率達成! 起動します!』

『ふぃあが協力しただけでここまで違うか…。どれだけ拒否していたんだ。』

『さっきのような無様な動きはしないでくださいよ!』

 風間は、倒れた機龍フィアを立ちあがらせるだけで30分はかかったのだ。見ている方はかなりイライラさせられたのである。

 モゲラを前にして、尾崎はたらりと一筋の汗をかいた。

「これが、活性状態の機龍フィアか…。」

 接続した個所から伝わってくる奇妙な感覚に不快感を感じずにいられない。

 だがこれが通常の状態なのだ。本来は。

『模擬戦闘を開始してください。』

「行くぞ。ふぃあ。」

『ウン!』

 尾崎は操縦桿を握った。

 機龍フィアがジェットを吹いた。

 風間の前例を見ていたからか、転倒はしなかったがいまいち勢いがない。なので突撃は簡単に回避される。

 しかしすぐに反転して、モゲラの左腕を掴んだが、しかしモゲラは、右腕のドリルを使って機龍フィアの頭部を攻撃した。

「うっ!」

 強い衝撃に操縦桿を僅かに離したため、機龍フィアの手がモゲラから離れた。

 ちなみに脳を接続しているが、エヴァンゲリオンのように機体ダメージが肉体に行くわけではない。

 基準値の100パーセント以上での機龍フィアの操作は、尾崎も初めてなので事前のシュミレート操作による訓練も意味をなさないし、マニュアル通りにすら動かすのが困難だ。

「ツムグは、どれだけ桁違いなのかよく分かった…。」

 シンクロによる負担なのか、疲労感が襲って来る。ツムグは、現在の尾崎や風間以上のシンクロ率の状態を維持してゴジラと激闘を繰り広げているのだ。

 先にやっていた風間が操縦する機龍フィアを見ていて思ったが、ツムグも規格外だが機龍フィアの方も規格外だ。

 何せ機体性能があり得ない。これで細かい動きをしろと言う方がどうかしているくらいだ。まずパワーが強すぎて振り回されてしまう。これでゴジラと肉弾戦を行っているツムグって……。

 機龍フィアの技術が正気を疑うレベルだと噂される所以はこれか。っと思ったりもした。

 ゴジラはもちろんだが、使徒もいる、人類補完計画のためのサードインパクトを企む輩がまだいる以上、ここで苦戦していては人類の明日はない。尾崎は脳にかかる不快感を吹き飛ばすそうと気合を入れ、操縦桿を操作した。

 

 

 そうして、模擬戦闘の結果は……。

 

 

 

「惨敗ですね。」

「これは酷い。」

 モゲラの圧勝で終わってしまった。

「まさかここまで操縦能力に差がついてしまっていたとは…。」

 ツムグを基準に機龍フィアの調整と改良を行ってきた結果がこれだ。

 並の人間はおろか、ミュータント兵士ですら操縦が困難な代物と化してしまったらしい。

「かと言って現在の状態からミュータント兵士仕様に調整したら、それはそれで今後の戦闘に支障がでる可能性がありますよ。」

「そこなんだよな…。どうすれば…。」

「貴重なデータが取れただけ良ししませんか? ふぃあも今回のことで譲歩してくれるのを覚えてくれたと思いますし。」

「だといいんだが。」

「よし、今日は解散。」

 模擬戦闘による実験は終了し、立ち会っていた技術部も科学部も解散した。

 

 

 その日の夜、機龍フィアを納めているドッグに、渚カヲルが現れた。

 本来なら入れないのだが、何かしらの方法で侵入した彼は、機龍フィアの傍に来た。

「これがリリンが作りし、知恵の粋か…。」

『………ダレ?』

 ふぃあがカヲルの気配を感じて声を出した。

「やあ、初めまして。お話をしてもいいかい?」

 カヲルは、ふぃあが喋ったことに驚くことなく微笑んだ。

『キミ、ダレー?』

「僕のことを内緒にしてくれるなら喋るよ。」

『……イイヨ。』

「よかった。じゃあ、お話しよう。」

『ふぃあの中に乗る? そこならダレかに見られないよ。』

「そうか。じゃあお言葉に甘えるよ。』

 ふぃあの導きに従い、カヲルが機龍フィアの中に入った。

「ここが操縦席か…。」

 カヲルは、操縦席に座った。

『ウン。ここで今日はね。オザキとカザマが操縦したよ。』

「ふ~ん、そうなんだ。それで?」

『あのね、あのね。』

 

 ふぃあと、渚カヲルの対話が始まった。

 

 

 

 

 




リリスのことをバラしたツムグ。
ツムグは、渚君の正体を知ってます。

ネルフに攻め入る理由がなくなった渚君は色々と考えています。
尾崎と行動していて、尾崎が人類補完計画のことをゼーレから地球防衛軍にバラした犯人じゃないことを看破しつつ、ツムグが真犯人だというのも気づきました。

機龍フィアのシンクロは、エヴァとは全然違います。まずフィードバックはない。けど疲労感が脳に蓄積される。
ツムグ仕様に調整と改良を重ねた結果、尾崎達ではどうにも扱いきれない代物と化してしまったのでした。


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第三十話  ふぃあと渚カヲル

ついに30話か…。
長々と続けてダラダラさせたいわけじゃないけど、あっさり終わらせるのもな…。悩みながら書いてます。


 

 

 

 

 

 

 三日月が綺麗なその夜。

 ふぃあと渚カヲルの対話が行われていた。

『それでね、それでね。ツムグったら、いっつもゴジラさん、ゴジラさんって言うんだよ。ツムグは、ふぃあのなのに! もう!』

「君にとってツムグは、どういう存在なんだい?」

『お兄ちゃん…なのかな? ふぃあは、ツムグのDNAコンピュータから生まれたから。』

「つまり、君と彼は兄妹というわけだね?」

『たぶん、そうなるのかな。』

「君にとって、周りのリリ…、人間はどんな存在なんだい? ツムグ以外で。」

『周りの人間? う~~~~~ん。分かんない。でもふぃあのこと整備してくれたりしてくれるの。だから大切。だと思う。』

「大切…か。もしも、君のその大切なモノがなくなったらどうする?」

『なくなったら…、困るなー。ふぃあ、ひとりじゃダメだもん。みんながいないと、ふぃあ、ふぃあじゃなくなっちゃうと思う。』

「君が君じゃなくなる?」

『壊れちゃう。』

「ああ、そう意味。」

『カヲルにとって人間ってナニ?』

「えっ…。」

 逆に問われて、カヲルは言葉に詰まった。

「僕にとって? ………僕はまだ…、人間のことをよく知らないんだ。だから分からない。」

『そうなの? なんだろ……。』

「どうしたんだい?」

『カヲルは、アルミサエルに似てる…気がする。』

「っ…、君は、“彼”についてどう思ったんだい?」

『えっとねー。お話したよ。でも、もうお話しできないから寂しい…。』

「君は、“彼”に対して好意を抱いていたのかな?」

『コウイ? よく分かんなけど、嫌いじゃなかったよ。』

「それが好意に値するということだよ。」

『ふ~ん。カヲルは、どうしてふぃあとお話ししに来たの?』

「君に興味があったからさ。」

『ふぃあに?』

「そう。君に。」

『ふ~ん。カヲルは、ツムグとお話しした?』

「話したよ。でもなんだか僕と話をしたくなさそうだったな。」

『ツムグが?』

「“君の戦う相手は、俺じゃない”って言われたよ。どういう意味かわかるかい?」

『そのままの意味だと思うよ。ツムグがそう言うならカヲルとは戦わないよ。』

「どうしてなんだろう? 彼こそが“僕ら”と決着をつけるべき相手だと思ったのに…。」

『ボクラ?』

「ああ、そのことなんだけど…。」

『イイヨ。言わなくて。』

「えっ?」

『もう分かっちゃった。』

「……まだ内緒だよ。」

『ウン。内緒。ここでの話も全部内緒。』

「…ありがとう。」

『ツムグにだけはバレちゃうかも。』

「彼にならいいさ。彼はここで僕が君と話をするのを知っているはず。」

『ツムグならしょうがないね。』

「そろそろ太陽が昇る。お話はお終いだ。」

『ウン。じゃあね。』

 カヲルは、機龍フィアから降りてドッグから出て行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ネルフ本部の研究室。

 そこはネルフが健在の頃、リツコが籠って研究を行っていた場所である。

「次で最後…ね。」

 使徒は17体存在する。

 そのうちの二体が、アダムとリリス。それ以外の使徒が現れ、ゴジラに倒されたり、地球防衛軍に倒されてきた。

 裏死海文書によれば、次で最後のはずである。

「ゼーレももう後がないわね…。何か企んでそうだけど。」

 ゼーレが何かをしようとしているのをリツコは察知していたが具体的なことは分からなかった。

 リツコは、パソコンを操作して、これまでの使徒の戦歴のような物を表示した。

 

 第三使徒サキエル。

 ゴジラに殲滅される。

 

 第四使徒シャムシエル。

 ゴジラに殲滅される。

 

 第五使徒ラミエル。

 ゴジラに殲滅される。

 

 第六使徒ガキエル。

 轟天号の機転により、ゴジラに殲滅。

 

 第七使徒イスラフェル。

 機龍フィアに殲滅。この時ゴジラは、アメリカでエヴァンゲリオン肆号機をネルフ支部ごと破壊。

 

 第八使徒サンダルフォン。

 轟天号の冷凍光線で固められた後、ゴジラと機龍フィアに殲滅される。

 

 第九使徒マトリエル。

 ミュータント兵士・風間少尉により殲滅。

 

 第十使徒サハクィエル。

 地球防衛軍・ロシア基地を破壊。ゴジラの熱線により殲滅。

 

 第十一使徒イロウル。

 機龍フィアに寄生しするも、機龍フィアの外部リミッター解除装置によりG細胞完全適応者の細胞を活性化させられ殲滅。

 

 第十二使徒レリエル。

 ディラックの海にゴジラを取り込むも、内部から破壊され殲滅。この際G細胞完全適応者の体液を散布。G細胞完全適応者の体細胞が使徒に有効なのを確認。

 

 第十三使徒バルディエル。

 空中戦艦・火龍を乗っ取り地球防衛軍基地を攻撃。しかし火龍はデコイであり、本体はエヴァンゲリオン参号機に取りついていた。エヴァンゲリオン弐号機と交戦するも弐号機を圧倒。その後ゴジラに殲滅される。

 

 第十四使徒ゼルエル。

 機龍フィアを退け、ゴジラを圧倒する。しかし純粋なゴジラ細胞を取り込んだ結果、過去に確認された怪獣オルガに似た怪獣に変異し、弱体化。変異に耐え切れずコアが崩壊し溶解する。

 

 第十五使徒アラエル。

 精神波長にて地球防衛軍に甚大な被害を与えるも、尾崎少尉の投擲したロンギヌスの槍にて殲滅。

 

 第十六使徒アルミサエル。

 尾崎少尉を狙うも、G細胞完全適応者の機転によりゴジラに誘導され、殲滅。

 

 

「……こう見るとほとんどゴジラに倒されているわね。」

 特にサキエルとシャムシエルは、ゴジラに一撃でやられている。たぶん使徒の中でかなり不憫である。

 ゼルエルもある意味で不憫であるが、ほぼ自業自得だ。

「それにしても、G細胞と使徒がここまで相性が悪いなんてね…。」

 なぜかしら?っと、リツコは首を傾げた。

 リツコは、更に疑問を抱く。

 ゼルエル以降の使徒が、人の心に迫っているということだ。

 アラエルの精神波長は、攻撃というより相手の精神を強引に解析するためのものだ。

 その波長の中で、尾崎だけがなんともなかったらしい。

 カイザーとしての神経構造の違いではないかと思われるが、こればかりは本人の体を調べてみないことには分からない。

 そして次に、アルミサセル。

 この使徒は、パターン識別装置で青からオレンジに変化するという実体があるのかないのかよくわからない使徒であった。

 この使徒は、初めにいきなり尾崎を狙って動き、椎堂ツムグによると尾崎との融合を図ろうとしていたらしい。

 椎堂ツムグの機転により、機龍フィアの内部に入り込み、その後なぜかゴジラに向かって行き、融合に失敗。逆に浸食され結果崩壊。ということらしい。

「そもそもゴジラがどうやってATフィールドを破っているかよね。ずっと疑問だったんだけれど。」

 今更であるが大きな疑問である。

 絶対領域とされ、エヴァでなければ突破できないと定義していたATフィールドを、なぜゴジラが破れるのか。

「ゴジラは、南極に封印されていた……。南極はセカンドインパクトで消滅した。第三新東京に姿を現したゴジラは、南極に封印される前より強くなっていた。」

 リツコは、パソコンを操作し、ゴジラが使徒を殲滅する瞬間などの映像を出す。

「ATフィールドを破るには、同じATフィールドで中和するか、その逆のアンチATフィールドを用いるしかない。ロンギヌスの槍は、アンチATフィールドを発生できるけれど………。まさか……。」

 リツコは、サキエルのATフィールドを打ち破った瞬間の映像を連続して出力した。

 サキエルのATフィールドは、ゴジラの手が触れただけで簡単に破れている。

「ゴジラは、破壊神という仇名がある通り、すべてを破壊する力を持つのなら…、ゴジラは、アンチATフィールドを持っている? だからATフィールドが意味をなさない? そのエネルギー源は、南極を消滅させた際のセカンドインパクトのエネルギー? G細胞にはアンチATフィールドを無意識に発生させる能力が備わっているのだとしたら……。ああ、なぜ使徒がゴジラに勝てないのか分かったわ。」

 アンチATフィールドを常時(?)発生させるものを喰ったら、そりゃ体内から溶けてしまうわと、リツコはぼやいた。

「ゴジラは、たぶん無意識でやっているのようね。」

 

「よく分かったね。」

 

「!!!???」

 背後から男の声が聞こえたので、リツコは思いっきり体を跳ねさせ、席をけって立ち上がり背後を見た。

 金色の混じった赤毛の男が笑みを浮かべて立っている。

 この男をリツコは、知っている。

「椎堂、ツムグ!」

「初めまして。赤木博士。」

 警戒してくるリツコの態度を気にすることなく、ツムグは手をヒラヒラさせて笑う。

「どうしてここに? あなたは監視されている身じゃなかったからしら?」

「アハハ、監視はされてるけど、抜け穴なんていくらでもあるよ。ここに来たことだって知られてない。」

「何の用かしら?」

「別に用があったってわけじゃないけど、赤木博士が、ゴジラさんの力に気付いてくれたみたいだから、つい、ね。」

「ゴジラがアンチATフィールドを発生させることができるということを? あなたはそれを知っていた? じゃあ、あなた自身も同じことができることを知っているということね。どうしてそれを周りに言わないのかしら?」

「俺の場合は、少し違うんだよね。調べてみる?」

「無断で調べたら五月蠅いでしょう? そっち(地球防衛軍)が。」

「そういえばそうか。赤木博士、ここ(ネルフ)に縛られてる身だったもんね。」

「はあ…、噂では聞いてたけど、あなたってヘラヘラしてて気味が悪いわね。」

 リツコに嫌そうな顔をして言われても、ツムグは、そりゃどうもと肩をすくめるだけだった。

「そういえば…。」

 リツコは、思い出した。

「あの子を人間にするって実験は、あなたが立案したらしいわね?」

 あの子とは、レイのことだ。

「人間になれる可能性があるってことを言ったのは俺だよ。あのままじゃ、ゴジラさんに狙われちゃう。」

「それもあなたの細胞を使ってね…。とんでもないことをしてくれるわよ。」

「俺の細胞が、あの子の中に入るのがイヤ?」

「正直ね。」

「他に方法があったらよかったんだけどね…。」

「そう……、でも、お礼は言っておくわ、ありがとう。」

 リツコは、レイが完全な人間になれることにたいしてお礼を言った。

「そうだ。もうすぐその実験が始まるよ。立ち会う?」

「私は行く必要はないわ。」

「そうか…。信じているんだね。」

「レイは、地球防衛軍に行ってから随分と人間に近くなった。……あの子のおかげでもあるかもしれないわね。」

「シンジ君のこと? 確かにそうかも。仲良くしているよ。…告白したし。」

 最後の方を意地悪く言った途端、リツコが吹いた。

「告白って…、シンジ君が? レイが?」

「シンジ君の方からだよ。泣いてOK出してたよ。」

「あらまあ。」

 リツコもそれは予想外だったらしい。

 そこまでレイの精神が成長していたことに素直に驚いた。

「じゃあ、なにがなんでも人間にならなきゃいけないわね。あの子もそれを思って実験に望むでしょう。」

「ああ、そんな様子だよ。耐えて見せるってさ。」

「そう。」

 リツコは、レイの成長を喜び笑った。

「でも不思議よね。あなたの声や言葉は初対面なのに耳に浸透するというか…。不思議と信じられる。」

「人によっては、洗脳してるって捉われてるけど、そんなつもりはないよ。」

 ツムグに対して不信を持つ人間達は、だいたいそう捉えているっぽい。

「そう思われても仕方ないわよ。あなた胡散臭いもの。」

「用はもう済んだから帰るね。」

 ツムグは、そう言うと研究室から出て行った。

 ツムグが去った後、リツコはどかりと椅子に座った。

 額ににじんだ汗を手で拭う。

「あれがG細胞完全適応者……。なんていうか……、気味が悪い存在ね。」

 ツムグの表情は笑みを浮かべていて、何を考えているのか分からない。

「彼も彼で何を考えているのやら……、疑問が増えちゃったわ。」

 ツムグが何を考えて行動しているのか、その理由も気になってしまった。

 そういえばと、過去のゴジラの資料をパソコンに表示した。

 デストロイアとゴジラの戦闘でメルトダウン寸前だったゴジラが突然元に戻ったということがあった。この際にG細胞完全適応者が関わっているというデータが解散前の地球防衛軍にあった。なぜそれを今リツコが閲覧できるかというと、一回解散した結果、データが国連軍の倉庫に眠り、そのコピーが出回ってしまったためである。真実かどうかは別として。出回ってしまったことが逆に真実味を失せさせてしまったのだ。当事者でもない限り、真実は分からない。

 このデータによると、椎堂ツムグは、本気で死にかけたらしい。頭を潰そうと、心臓を潰そうと、焼こうと、浸そうと何をやっても死ななかったのに。なぜかこの時だけは。

「まさか彼は……。」

 リツコは、ツムグの目的をなんとなく察した。

「だとしたらとんだ大迷惑ね。周りを巻き込んで…。」

 リツコは、溜息を吐き、頭を抱えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 M機関の訓練場で、二人のミュータント兵士が戦っていた。

 その戦いは、何十分にも及ぶ長い戦闘で、両者ともに疲弊していた。

「何をやっている!」

 部下からの報告を受けた熊坂が駆けつけて、二人の戦いを止めに入った。

 大量の汗をかいた風間が汗を腕で拭いながら舌打ちをした。

 熊坂を挟んで反対側にいる尾崎は、膝に手を着いて呼吸を整えようとしていた。

「風間、尾崎、無茶な模擬戦闘は慎めと何度言ったら分かる!」

「邪魔しやがって…。」

「黙れ風間!」

「申し訳ありません。」

 忌々しそうに言葉を口にする風間に対して、尾崎は頭を下げた。

「風間、おまえが尾崎を気に喰わないのは十分承知している。だが体を壊してはいざ戦闘に入った時に何もできんぞ。いつゴジラや使徒が現れてもおかしくないのだからな。」

「……なぜなんだ。」

「はっ?」

「なぜあの時…、尾崎だけが平気だったんだ。」

「あの時? あの精神攻撃を行って来た使徒の時か。それは、尾崎の神経構造の違いじゃないかと科学部が結論付けているはずだが?」

「尾崎は、俺達と何が違う! ほとんど同じはずだろ!」

「風間……。」

 カイザーと呼ばれる百万分の一確率で生まれるとされるミュータントの突然変異であるが、構造自体は他のミュータントと同じであると結論が出ている。それなのになぜか尾崎だけが使徒アラエルの精神波長の光の中で平然としていた。

「なぜおまえだけが……。」

 風間は、尾崎を睨む。

 睨まれた尾崎は、困惑した顔をする。彼とてなぜ自分だけが平気だったのか分からないのだ。

「クソッ!」

 風間はそう吐き捨てると、背中を向けて去っていった。

 風間だって本当は分かっている。これはただの嫉妬だと。だが激情を止められないのだ。同じ土俵にいるはずなのに、尾崎と自分がなぜこんなに差があるのかと。

「待て!」

 熊坂が風間の後を追った。

 残された尾崎は、ただ俯くことしかできなかった。

 風間がなぜ尾崎を避け、敵意を向けて来る理由は分かった。だがそれは自分にもわからない事情だ。

「どうして俺だけ……。」

 風間は宙を見上げ、そう呟いた。

 その疑問に答える者はいなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 実験の説明を終えてから、レイは、実験に向けて体を調整することになった。

 まず胃腸の中を空っぽにするため実験前は絶食、下剤も飲まないといけない。

 実験が始まる前に、美味しいものを食べさせてあげようということで、戻ってきたレイには、食堂の職員達とシンジの手で、ご馳走が用意された。もちろん肉なし。

「これは?」

 レイは、テーブルに並べられた料理の数々を見た。

「実験前に絶食しなきゃならないんでしょ? その前に美味しいもの食べて英気を養ってもらおうってわけよ。」

 志水がそう言ってレイの肩を軽く叩いた。

「…ありがとう。」

 レイは、ご馳走を用意してくれた者達全員に頭を下げた。

 そしてささやかなパーティが始まった。

 レイの実験の成功を祈るものであるが、もしかしたらこれが最後になってしまうかもしれないという最後の晩餐でもあった。

 しかしそのことを決して口にしないように努めた。

 14歳の少女が人間になって戻ってきてくれることを疑いなくないという気持ちがみんなにあった。

 特に。

「なあ、綾波…。」

「なに?」

「っ、なんでもない。」

 シンジは特にそう思いたかった。レイが無事に戻ってきてくれることを。

 本当はもっと話をしたい。だが言葉が出てこない。

 そんなもどかしさにシンジは、内心苦しんだ。

 そうしてささやかなパーティは、終わった。

「シンジ君。送ってあげなさい。」

「えっ?」

「いいから。」

「は、はい。綾波!」

 志水におされてシンジは、レイのもとへ行った。

「なに?」

「い、一緒に寮に戻ろう。」

「…うん。」

 レイは、頷いた。

 M機関の施設から寮に戻る途中。二人は無言だった。

 何か話さなければいけないのに言葉が得てこない。

 シンジは、ちらりとレイの手を見た。

 ここで手を握るべきか、いかないべきか。手が泳ぐ。

 すると、レイの手がシンジのその手を握った。

「っ…。」

「碇君…、あのね…。」

「な、なに?」

「…なんでもない。」

「そ、そう…。」

 レイは何か言いかけてなんでもないと首を振った。

 歩いていればやがて寮についてしまう。部屋は違うので、別れなければならない。

 だが二人は立ち止まってしまった。握った手を離さずに。

 二人は何も喋れずにいた。

 先に口を開いたのは…。

「綾波…。」

「碇君…。」

 ほぼ同時だった。

 重なってしまって焦ったのか。

「綾波から、どうぞ。」

「碇君から…。」

「ええっと…。」

「……。」

 焦ってまた言葉にならない。

 すると。

 急にレイが涙を零し始めた。

「綾波! どうしたの!?」

「………怖いの。」

 慌てるシンジに、レイがぽつりと言った。

「あのね……。もう碇君に一緒にいられなくなるかもって…、思ったら……、怖い。どうしたらいいの…?」

「綾波…。」

「ねえ碇君…。実験の時、ギュッてして。私、死にたくない。」

 レイの涙はますます零れ落ちる。

「碇君と一緒にいたいから、死にたくない…!」

「綾波…。」

 シンジは、手を離した。

 レイがそれに驚いていると、シンジは、レイの体を抱きしめた。

「僕だって……、綾波がいなくなったら嫌だよ!」

 シンジも涙を目に溜めた。

「碇君…。」

「ずっと一緒にいたい!」

「…私も。」

 二人は抱きしめ合い、しばらく泣いた。

 

 

 実験は、翌日に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「ゴードン大佐…さんですよね。」

「なんだおまえは?」

 カヲルは、ゴードンを訪ねていた。

 ゴードンは、自己鍛錬中だった。

「僕は、渚カヲル。初めまして。」

「…何の用だ?」

「あなたと話がしたくて…。」

「俺は話すことなんざない。さっさと失せろ。」

「あなたは、人類最強と言われていそうですね?」

 ゴードンに冷たくあしらわれてもカヲルは、微笑みを浮かべたまま話を続けた。

「最強と呼ばれるその力…、気になります。」

「ケッ。そんなもんは周りが勝手に誇張してるだけだ。」

「でも気になります。」

「さっさとどっか行け。邪魔だ。」

「……無理やりにでもその力、見せてもらいたいな。」

「!?」

 一瞬にして目の前に現れたカヲルに、ゴードンは、目を見開いた。

「てめぇ…。」

 すぐさま距離を取ったゴードンは、腰の日本刀に手をかけた。

 ゴードンは、カヲルの発する得体のしれない気配を察知した。

 それは、ゴードンが知っている気配によく似ていた。

「そうか……。そういうことかよ。」

 ゴードンは、理解した。カヲルの正体を。そしてカヲルが何をしようとしているのかを。

「さあ、見せてください。最強と謳われるあなたの力を。」

 両腕を広げるカヲル。

 

 二人の間に、風が吹いた。

 

 

 

 やがて、キインッと、日本刀の半分が折れて、地に落ちて刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シンジとレイの仲が少し進展?かな。

風間は、尾崎への嫉妬を抑えきれない状態です。

リツコは、ツムグの最終目的を察した様子。

次回で実験が始まります。

そして最後にゴードン大佐。安否も次回…かな。


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第三十一話  TABRIS

カヲルの戦闘能力とか悩みながら書きました。
カヲルが果たしてこんなことをするのかどうかという意味で、キャラ改変かもしれません。
このイベントについては、ファイナルウォーズを一部参考にしました。


 

 

 

 

 

 

 

「っ……。」

「どうした尾崎?」

「いや、なんでもない…。」

 尾崎は、仲間にそう言って首を振った。

「尾崎さん。」

「カヲル君。ん? 泥がついてるよ。」

「ああ、ちょっと転んだだけです。」

「怪我はない? 大丈夫?」

「大丈夫です。」

「そういえばさ。」

 尾崎の仲間が言った。

「あの青い髪の毛の女の子、いよいよ実験するってよ。大丈夫かな?」

 レイの噂は地球防衛軍中に知れ渡っていた。

「なんか研究部が怪しいことやってるらしいって聞くし、あの子大丈夫なのかなぁ?」

「疑ってるのか?」

「あ、いや、別におまえのかの…じゃなくて、音無博士のことを疑ってるわけじゃないって。」

「きっと大丈夫だ。俺は信じてる。」

「尾崎らしいなぁ。」

「……。」

 尾崎達の会話を、カヲルは、黙って観察していた。

 カヲルにとって気になる話題であった。

 青い髪の毛の女の子。

 ゼーレのデータにあった、ファーストチルドレンの特徴と一致する。

 チルドレンは、確か、全員地球防衛軍のもとにいるはずだったと記憶している。

 そういえばファーストチルドレンの綾波レイにはまだ会ったことがない。

 実験がどうのと言っているので人体実験でもしているのだろうか?

 一通り地球防衛軍は見て回ったが、地球防衛軍の研究室でいわゆるヤバイ研究も行われていることは知っている。

 特に気になったがのが、胎児のような…物体を育ててことであるが。なんとなく使徒っぽい気配を纏っていたのが気になる。

「カヲル君。どうしたんだい?」

「青い髪の毛の女の子…、どこで会えますか?」

「えっ? レイちゃんに? 会ったことないのか?」

「ありません。どこで会えます?」

「ああ、あの子なら今頃研究所にいるかもしれないぞ?」

「もう始まるのか?」

「人伝で聞いた話じゃな。」

「なんの実験なんです?」

「人間になるための実験さ。」

「っ…。」

 カヲルはそれを聞いて微かに目を見開いた。

 出生に関するデータが一切ない綾波レイの正体が、自分と同じような存在であることがすでに地球防衛軍内で知られていることに驚いたのと、その彼女が完全な人間になろうとしていることに。

「……うまくいくんですか?」

「レイちゃんは、きっと人間になれる。俺は信じているよ。」

「どうしてそんなに……。」

「ん?」

「いいえ、なんでもないです。」

「おーい。おまえら。」

 そこへ別の仲間が走ってきた。

「ゴードン大佐見なかったか?」

「いや。」

「見てない。」

「そうか…。今朝から姿が見えなくってな。探してるんだよ。もし見かけたら波川司令が呼んでるって伝えてくれ。」

「分かった。」

「……。」

 尾崎の横でカヲルは、黙ってそれを聞いて観察していた。

「いつもなら鍛錬でもして事務から逃げてるのにな~。どうしたんだろ?」

「もしかして何かあったのかも…。」

「えっ? 大佐が? ないない、あの人をどうにかできる相手なんているわけないだろ。」

「そうだな…。そう思いたいよ。」

「おいおい、どうしたんだ尾崎?」

「……嫌な予感がするんだ。」

「……マジで言ってんの?」

「ああ…。あれ? カヲル君は?」

 ふと横を見たらカヲルの姿はなかった。

 いつの間にかいなくなっていたらしい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 レイとシンジは、長椅子に座っていた。

 周りには忙しなく動く研究者や医者達がいる。

 もうすぐ始まる、レイを人間にする実験の準備である。

 レイは、裸の上に患者が着る手術着を纏っている。シンジは、全身を防菌装備の頭だけを出した状態で固めている。

 二人の間にずっと沈黙が流れていた。

 何か喋って気を紛らわそうと思っても言葉というのは中々出てこないものである。ましてや今から生死をかけた実験に挑むのだ。その緊張は計り知れない。

 シンジは、ちらりとレイの横顔を見た。

 昨日さんざん泣いたため、目元が少し赤くなっている。

 パッと見は無表情を装っているが、手元を見たら腿の上で強く手を握りしめていた。

 これから戦うのは彼女なのだ。

 実験の内容は事前に聞いていた。全身の細胞を作り変える過程での凄まじい苦痛があること。それに耐えられなければ死ぬであろうこと。

 ならば自分に何ができると、シンジは自問自答する。

 シンジは、そっと手をレイの握りこぶしに乗せた。

 ビクッと震えたレイは、シンジを見る。

 シンジは努めて笑顔を作った。

 その笑顔を見たレイは、こくりっと頷き微笑んだ。

「レイさん。始めますよ。」

 すると研究者が二人の前に来て、実験の準備が整ったことを伝えた。

 二人は立ち上がり、シンジは、防菌マスクなどの装備を整えた。

 研究者に導かれ、二人は実験室に入った。

 中央に様々な機器と巨大なビンのような筒に詰まった薄い赤い液体、手術台が置かれている。

 壁はガラス張りで立ち合いに来た研究者達や医師たちと思われる姿があった。各々記録帖のような物や、タブレットを持っている。

「そこに横になってください。」

 しかしすぐには横にならない。

「碇君…。」

「うん。分かってる。」

 二人は、ギュッとお互いを抱きしめ合った。

 それはそれはレイが頼んだこと。実験が始まる時はギュッとしてという。

 数分ほど抱きしめ合った後、二人は離れ、レイは、指示通り手術台に乗り、横になる。

 研究者達と医者達が、レイの体を固定し、レイの体に周りの機器と繋がったコードを取り付けていき、そして彼女の左腕に薄い赤い液体の詰まった筒と繋がった注射針を刺した。

 シンジは、手術台の右側に椅子を置かれてそこに座った。

「綾波…。」

「碇君…。」

 シンジは、レイの右手を強く握った。

「では…、開始します。」

 計器を操作され、薄い赤い液体が細いチューブの中を流れ、レイの左腕に刺さった注射器から体内に流れ込み始めた。

「--------------!!!!」

 レイは、大きく目を見開き、反射的に体を仰け反らせようとした。しかし手術台に固定されており、それはできなかった。代わりに声にならない叫び声をあげる。

「綾波!」

「血圧上昇!」

「心拍数急上昇! 危険です!」

「続行だ!」

 鰐渕が叫んだ。

「ですがこのままでは心臓が…。」

「止めればそのまま即死だ! 続行以外にない!」

「G細胞完全適応者の体液の注入量を最小限に続行します!」

「いや、量はそののままだ!」

「ですが!」

「心拍数がわずかに低下! 酸素吸入を!」

 研究者と医師達がレイの体の変化に対応するために忙しなく動く。

 レイは、固定された状態で暴れていた。

 体のあちこちの血管が浮き、彼女の中でG細胞完全適応者・ツムグの細胞が暴れ回っていることを知らしめる。

 戦っているのだ。レイの中にある使徒の要素とツムグの細胞が。

 ツムグの細胞によって使徒の細胞が死滅してはそれに代わる細胞に逆に再生を繰り返す。そこから凄まじい苦痛が発生している。

 骨、皮膚、筋肉、内臓すべてにそれが発生している。

「体温上昇!」

「細胞の変化による抵抗だ。続行だ。」

「脳波が激しく乱れています! 脳がもたないのでは!?」

「いや続行だ。」

「鰐渕博士!」

「続行だと言ったら続行だ。」

 他の研究者や医者が様々な報告と危険を言うが、鰐渕は落ち着いていて続行を言い渡す。

 シンジは、周りの動きでレイの状態が危険なことを理解した。

 レイは、もう暴れていない。だが酸素吸入を受けていて時々体が痙攣している。

 シンジは、両手で握っているレイの右手を握り直した。暴れている時痛いくらい握り返されていた手の力はもうない。

 レイの体に浮いていた血管が少しずつ消えていく。それが意味することが吉なのか凶なのか…。

 

「た、大変だーーー!!」

 

 実験室の外に若い研究者が駆け込んできた。

「なんだ、何の騒ぎだ!?」

「今外で…!」

 

 その時、大きな揺れが建物を襲った。

 外に立ち会っていた人間達も内にいた者達もバランスを崩す。

 電源が点滅し、計器が火花を散らした。

 そして警報が鳴り響いた。

 

 それは、使徒の出現を知らせる警報であった。

 

「ば、馬鹿な…、し、使徒だと!?」

「こんな時に!?」

「まずい実験は中止だ!」

「いや今止めたら彼女は…。うわあああ!?」

 再び大きな揺れが来た。先ほどよりも大きな揺れに、天井や床に亀裂が入り始める。

 そしてすべての電源がブツンッと切れて暗闇が広がった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「う…、ぅうん…。」

 シンジは、目を覚ました。

 目を覚まして最初に目についたのは、倒れた計器。

 周りがほとんど見えないので埃まみれのマスクと帽子を外すと、血生臭い匂いと土埃の匂いが鼻を突いた。

 起き上がろうとすると、薄赤い液体が床に流れていて、手を着くとピシャリと音を立てた。

「綾波? 綾波!?」

 起き上がってみると、やや斜めに倒れかけた手術台に固定された状態のレイを見つけた。

 レイは意識がなくぐったりと重力にまかせて首を垂れている。

「綾波…。」

 体を揺するが反応がない。

 まさかっと嫌な予感が過った時。

「うう……。そこにいるのは……、シンジ君か?」

「あ、はい! 綾波が…。」

 手術台の反対側からむくりと起き上がる人影と声がした。

 鰐渕だった。

 鰐渕は、頭部から血を流し、壊れた眼鏡をかけていた。

「ああ…、君は無事か…。」

「綾波が…!」

「大丈夫だ。息はある。」

 鰐渕がレイの脈と呼吸を確認した。

「シンジ君。彼女を支えてやってくれ。」

「えっ? は、はい。」

 鰐渕に指示され、レイの体に触れたシンジを確認すると、鰐渕は手早く手術台の固定を外していった。

「そこに避難通路がある…。彼女を連れてそこから出なさい。」

「えっ。でも…。」

「いいから、行くんだ。」

 鰐渕に指さされた先には、瓦礫で壊れた扉の先に空いた避難通路があった。

 シンジは、少し頭が冷めてきて気付いたが、周りは天井が崩れ、床にも穴が空いていた。

 鰐渕以外の人間の姿もない。そこら中から匂う血生臭い匂いが意味することはつまり……。

「行くんだ!」

「っ!」

 顔を青くするシンジに、鰐渕が怒鳴って正気に戻させた。

 シンジは、レイを背負い避難通路を目指して行った。

 シンジが行った後、鰐渕はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 彼の背中からは鉄の棒が幾つも刺さっており、そこから大量の血が垂れていた。

「彼女は…、息があった……。脈も正常だった…。」

 鰐渕の口から血が垂れる。

「きっと……、彼女は…………。」

 鰐渕の表情は明るい。

 そのまま彼は首を垂れた。

 

 

 

 シンジは、レイを背負った状態で小さな瓦礫が散乱する避難通路を歩いていた。

「いったい何が…。」

 シンジのその疑問に答える者はいない。レイはいまだ意識がない。

 背負って分かったが、彼女の鼓動がしっかりある。レイは生きている。実験が成功したのかは別にして、レイはちゃんと生きているのだ。

 それだけでもシンジの折れそうな心に力を与えてくれる。

 やがて避難通路が終わり、外へ出ると……。

「な、なんだよ、これ…!」

 外は酷い有様だった。

 基地のあちこちから黒煙があがり、建物が倒壊しているものもある。

 あちらこちらから悲鳴が聞こえ、銃声や爆発も聞こえる。

 茫然としているシンジのところへ。

「あ、宮宇地さん!」

 宮宇地が歩いてきた。

 ゆらりとした怪しい足取りであったのだが、彼の無事な姿を見てシンジはそのことに気付かなかった。

「何があったんですか!」

「……。」

「宮宇地さん?」

 シンジの近くに来た宮宇地は、無表情で無言だった。

 そしてその腕が振りかぶられた。

「えっ?」

 シンジが呆然とそれを見ていると。

 パンッと銃声が鳴り、宮宇地が後ろへ飛びのいた。

「シンジ君、レイちゃん!」

「志水さん!?」

 銃を構えた志水がいた。

「逃げなさい!」

「えっ?」

「いいから!」

 志水が銃を構えたまま叫ぶ。

 すると宮宇地が高所へ飛び、姿を消した。

 志水はそれを確認すると、銃をおろしてシンジらのもとへ走ってきた。

「なに? 何が起こっているんですか?」

 声が震えるシンジに、志水は落ち着くよう声をかけ。

「ミュータント兵士達が……、急に暴れだしたのよ。」

「えっ?」

 それは信じられない内容だった。

 ミュータント兵士達が、突然基地内部で攻撃を始めた。

 それだけじゃなく、強力なATフィールドが確認され使徒の出現を感知する識別装置が反応した時には、建物などが倒壊するほどの破壊が起こっていたのだという。

 ミュータント兵士達は、全員正気とは思えない状態で、ただ淡々と攻撃を仕掛けてくるのだという。

 まるで何かに操られているかのように…。

「宮宇地さん達が…、そんな!」

「どうしてこんなことになったのか分からない。とにかく今は安全な場…。」

 志水は言葉を最後まで言い切る前に、一瞬にして姿が消えた。

「えっ?」

 シンジの顔に赤黒い液が飛び散る。

 横を見ると、建物の壁に大きな染みができていた。

 そしてこんな状況だというのに、酷く落ち着いた、少年の声が聞こえてくる。

 

「やあ、君達は無事だったんだね?」

 

 呆然としているシンジの耳に、少年の声が響く。

「………渚…君?」

 カヲルがこちらに歩いてくる。

 服や白い肌や銀色の髪の毛のところどころに、赤い血のようなものを散らしたカヲルが。

「その子を…、こっちに渡してもらえるかい?」

 そう言って手を差し出してくる。

 シンジは、プルプルと首を振りながら後退る。

 志水を……、壁の染みにしたのは、カヲルだと。直感する。

 そしてレイを渡してはならないと本能が訴える。

「そう…。残念だな。」

 シンジがレイを渡す気がないと知ったカヲルは、微笑み、差し出していた手をシンジにかざした。

 その時。

 バイクの爆音が鳴り響き、カヲルとシンジらの間に黒い影が走り抜けた。

「あなたも無事でしたか。」

「尾崎さん!」

「無事か!」

 バイクに乗ってきたのは尾崎だった。

 尾崎は、バイクから降りるとカヲルに睨んだ。

「カヲル君…。」

「どうしてあなただけ平気なんですか? 不思議だなぁ。」

「っ、みんなを正気に戻してくれ!」

「あれだけの人数を倒してきたんですか?」

「熊坂教官が引きつけてくれたんだ…。…話を聞いてくれ。」

「話し合いはもう十分です。ここからは…、言う必要はないでしょう?」

「例え……君が人間じゃなくても、俺は戦えない。」

 シンジは、二人の会話を聞いて理解した。

 この騒動を起こしたのは、カヲルだと。

 そして突如現れた使徒とは……。

「…とことん甘いんですね。その甘さが死につながるというのに。」

 苦笑したカヲルが尾崎に向かって手をかざす。

 するとATフィールドが発生し、ATフィールドが尾崎に向かって飛んでいった。

 尾崎は高く跳躍し、ATフィールドを避けた。ATフィールドが尾崎が乗ってきたバイクを破壊する。

 着地した尾崎は、哀しそうな顔をしてカヲルを見る。

「どうしてこんなことを…。」

「“僕ら”とリリンは、戦わなければならないんです。そうすることは、ファーストインパクトの時から決まっていた。」

 カヲルは、反対の手から荷電粒子砲を放った。

 それは、使徒ラミエルの主武器だ。

 尾崎は、それを横に逸れて避けた。

「これは生存競争なんですよ。動物ならば当り前のことです。」

「それでも…、話し合う余地はないというのか!?」

「君達とは、色々と話したし、観察もさせてもらった。そして出した結論がコレさ。」

「どうしても戦わなければならないと?」

「そういうことです。それと……、どうしても戦わなければならない相手がいます。彼を引っ張り出すには、これくらいやらないといけないと判断しました。」

「誰のことを言って…、まさか!」

「これだけやっているのに出てこないなんて…、彼はリリンを見捨てたんでしょうかね?」

 

 

「勝手に決めるなって。」

 

 

「ああ…、やっと出てきてくれた。」

 その声がしたことで、カヲルは表情を和らげ、そちらを見た。

 赤と金色の髪の毛が揺れる。

 椎堂ツムグが呆れ顔でカヲルを見ていた。

「まったく……、こんなことまでして。」

 やれやれとツムグは、肩をすくめる。

「やっと僕と戦ってくれる気になってくれましたか?」

「戦わないよ。」

「……なぜ?」

 きっぱりと断ったツムグに、カヲルの顔が曇る。

「戦う相手は、俺じゃないって言ったでしょ?」

「あなたじゃなければ誰が?」

「尾崎ちゃん。」

 ツムグは、そう言って尾崎を指さした。

「どういうことだ!?」

 指さされた尾崎は、困惑した。

「彼が? それは何かの間違いだ。尾崎さんは確かに精神波長も洗脳も受け付けなかったけど、それだけだ。僕が戦う相手じゃない。」

「そりゃそうだ。だってまだ覚醒してないんだもん。」

「はっ?」

 ツムグの言葉にカヲルは疑問符を飛ばした。

 まだ覚醒していない。

 カヲルは、尾崎をちらりと見た。

 地球防衛軍のデータベースを調べた時。カイザーに関する情報もあった。潜在能力が他のミュータントと桁違いで未知数だとされている。

 尾崎の性格では、ひょっとしたら完全にその力を引き出せていないのかもしれないと、カヲルは気付いた。

 しかしそれでも…。

「あなた以外に戦うべき相手とは思えない。」

「でも俺は戦わない。」

「そうですか…、なら…。」

 そこへ別のバイクの音が鳴り響き、瓦礫の向こうからバイクに乗った黒い人物が飛んできた。

 風間だった。

「風間!?」

「……。」

 風間はバイクから降りると尾崎を睨みつけた。その表情は無表情ではなく、怒りのような感情に満ちている。

 風間は雄叫びをあげなら、尾崎に飛び掛かった。

「風間、やめろ!」

「あなたの相手は、彼にお任せします。」

「…そうくるか。」

 風間と尾崎の戦いが始まった。

「尾崎ちゃん。シンジ君達は、俺がなんとかするから、風間の方をなんとかして。」

「ツグム…、でも…。」

「いいから。」

 風間と取っ組み合いになっている尾崎にツムグがにっこり笑って言った。

 尾崎は、グッと歯を食いしばり、目線を目の前の風間に移した。

 血走った眼をした風間は、もはやバーサーカーと化している。

 風間を解放するには……。

 風間を弾いた尾崎は、高所へ飛んだ。風間は尾崎を追い、同じく飛んだ。

 その場に残されたのは、カヲルとツムグ、そしてシンジとレイだけだった。

「やっと戦う気になってくれましたか?」

「なわけないじゃん。戦うのは俺じゃない。」

「ならどうしてシンジ君達をなんとかするって言ったんですか? 二人を守るためには僕と戦うしかないのに。」

「二人を守る行動はするよ。それ以上はしない。」

 ツムグは、スタスタとシンジらとカヲルの間に入った。

「あとは、尾崎が覚悟してくれるかどうかなんだ。」

「だから尾崎さんは…。」

「そういうのは、実際に目にしてから言うんだね。タブリス君。」

「その名前は、君達が勝手につけた名前だ。もちろん、渚カヲルもね。」

「そりゃそうだ。だって君は……。レイちゃんと同じなんだからな。」

「そこまで知っているんだ? だったらなぜ僕が彼女を連れて行かなければならないか、それも知っているのかな?」

「あのおじいちゃん達の差し金でしょ?」

「本当にすべてを知っているんですね。あなたは。」

 カヲルは、笑うがその目は笑っていない。

「なんと言おうと、あなたには戦ってもらいます。」

「戦わないよ。」

 ツムグがきっぱりとまたそう言うと、まるでそれを否定するようにカヲルは、ツムグに向けて手をかざした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 場所を変え、尾崎は風間と交戦していた。

 模擬戦闘とは違う、本気の殺し合い。

 今までに体験したことのない本気の戦い。

 ましてや相手は見知った仲間。友。

 カヲルが正体を現した時に、ちょうど集まっていたため、ほとんどの仲間が操られてしまった。操られた他の仲間達は、熊坂が引きつけた。

 あの人数を相手に熊坂が無事であるという保証はない。早くなんとかしなければみんな倒れてしまう。

「お…ざ…キ!」

「風間!」

 風間からの猛攻をさばいていく。

 風間が腰に差している拳銃を取り、至近距離で撃とうとしたため、尾崎も同時に銃を抜き撃った。

 真近距離で発砲された弾丸は、宙で当たり弾けた。

 尾崎が風間の腕を蹴り、銃口を上へあげると、風間はしゃがんで足払いをかけてきた。

 足を払われてバランスを崩すもすぐに手を着いて宙返りをして距離を取った尾崎は、再び発砲した。

 それをギリギリで顔を横にずらして避ける風間。

 風間も発砲する。尾崎もギリギリで顔を横にずらして避けた。

 銃弾を使い果たした二人は、同時に銃を捨て、突撃した。

 風間の拳を掴み、捩じり伏せようとすると、風間は地面に手を着いて反転し、柔軟性を生かした蹴りを尾崎の頭部に当てようとした。

 咄嗟にその蹴りを防ぐために風間から手を離した尾崎の隙をついて、風間は尾崎の背後に周り首に腕を回して絞めた。

 尾崎は息苦しさに耐え、ひじ打ちを何度も風間の胴体に喰らわせて逃れた。

 そこから殴る、蹴るの打ち合い。

 膠着した戦いの中、尾崎は考える。

 なぜツムグは、カヲルと戦う相手は自分だと指名したのか。

 覚醒していないとも言われた。

 それが何を意味するのかは、まったく理解できない。

 確かに自分だけが他のミュータントと違い、使徒の精神波長はおろかカヲルの洗脳さえ効かなかった。

 なぜ自分だけがっと尾崎は自問自答する。

 尾崎の思考が災いしてか、戦いにすきを作ってしまい、もろに胴体に蹴りを受けてしまった。

 尾崎が崩れ落ちると同時に、風間の拳が顎に決まって尾崎は飛ばされた。

 地に落ち、荒く呼吸をしていると、風間が近づいてきて、馬乗りになってきた。

 そしてその手が尾崎の首にかかる。

「ぐっ…。」

 ものすごい力で絞められる。

 顎に受けたダメージで頭がグラグラする。

 風間は無表情で尾崎の首を絞め続ける。

 このままでは死ぬと分かっていても抵抗する力が湧いてこない。

 意識が薄れていく。

 人は死ぬ時走馬灯というものを見ると言うが、今尾崎の脳裏をこれまでの楽しかったことや苦しかったことなどの様々な思い出が過る。

 ああ、自分はここで…っと、尾崎はパタリッと手を地面に落とした。

 その時だった。

 

「尾崎君!」

 

 その声を聞いた時、尾崎は目を見開き風間の体を渾身の力で弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた風間は、地に着地し尾崎を睨みつける。

 

「美雪!」

 

 ボロボロの白衣を纏った音無が瓦礫を支えにしながら泣きそうな顔で尾崎を見ていた。

 さっきまで死を受け入れようとしていた自分が嘘のように消えた。

 自分は、こんなところで死ぬわけにはいかないのだという意欲が湧いてくる。

 そうだ、なぜ忘れていたのかと。

 自分には守るべきものがある。守ると約束した相手がいるではないかと。

 戦わなければならない。

 守るために。

 大切な物を守るために。

 そのためには、どうするべきか……。

 目の前にいる操られてしまった友を見る。

 

 その時。尾崎の中で湧きあがる大きな力を感じた。

 なんだ、答えは自分の中にあったのだと、その瞬間、理解した。

 

 風間が雄叫びをあげながら、飛び掛かってきた。

 尾崎は、冷静な表情でそれを見据える。

 すると、風間の体が弾きと飛ばされた。

 見えない何かに弾かれた風間は、困惑した表情を見せ地に転がる。

 尾崎は、ゆっくりとした調子で風間に近づいた。

 風間は、一瞬ビクリッと震えるがすぐに構え直し、再び尾崎に飛び掛かった。

 風間の拳を手で受け止め、反対の手の拳が風間の腹部に決まった。

 その衝撃で嘔吐した風間は、地面に転がされた。

 たった一撃でここまでなったことはない。

 明らかに威力が違う。

 風間は、口の周りを汚物で汚しながら尾崎を見上げた。

 尾崎の姿は、これまでと違い、堂々としており、得体のしれない圧倒的なオーラを纏っているようにも見える。

「風間…。ごめん。」

 謝罪しながら尾崎は、橙色のオーラを纏わせた拳を振りかぶった。

 

 そして、橙色の光が地球防衛軍基地に広がった。

 

 

 

 

 

 

 




やろうと思えば他の使徒の能力も使えるんじゃないかという妄想のもとに、カヲルの戦闘を書いてみました。
オリキャラ死亡描写についてタグに明記した方がいいですかね?

カヲルが地球防衛軍内でミュータント兵士達を洗脳したり、暴れたのは全部ツムグを引っ張り出して戦おうとしたためです。

最後の方で、尾崎が覚醒に至ったのですが早急すぎたかな?って悩んでます。


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第三十二話  第18使徒リリン

今回で、最後の使者編は終わりです。

ここから先は、完全オリジナルになるかな…、ただでさえ原作クラッシュなのにオリジナルもクソもないですがね。(今更)

今までにちょこちょこ出てきたカヲルじゃない、銀髪の人物が今回名前付きで登場します。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾崎が放った橙色の光が基地に広がる少し前。

 カヲルとツムグの戦い(?)も膠着していた。

 なぜならツムグが攻撃する気が全くと言っていいほどないからだ。

 ツムグは、シンジとレイの前に立ち、カヲルの攻撃から守っているだけだ。

「…反撃しないんですか?」

 痺れを切らしたカヲルがツムグに聞いた。

「戦わないって言ったじゃん。」

 ツムグは、もう何度目になるか分からない答えを言う。

「君が戦う相手は、俺じゃない。」

「それは聞きました。でもあなた以外に考えられません。」

「俺は、ただの“バケモノ”だ。正式な可能性の一つである君達とは違う。」

「それでもあなたは…。」

「俺は可能性じゃないんだよ。」

 ツムグは、そう語る。

 自分は“人間(可能性)”ではないと。

「俺から先はない。だから違う。」

「…なぜ?」

「俺には子供を作ることができない。人の手を使っても無理なんだ。」

「っ!」

 ツムグの言葉に、カヲルは目を見開いた。

 何かを生み出す力がないということは、それ以上の可能性を伸ばすことができないということだ。

 永久機関を持つ使徒ですら、アダムによって生み出されたのだ。それすらできないのだとしたら…。

「息をして鼓動を刻むだけの“肉塊”にそれ以上はないんだよ。」

「だからあなたは、“僕ら”と決着をつけるべき相手じゃない…。」

「そういうこと。」

「なら僕は無駄なことをしてしまったというわけか…。」

「そういうこと。」

「ならどうして言わなかったんですか? あなたは預言者なのでしょう?」

「預言したところで、回避はできないんだよ。何らかの形で成就される。今回は君が、やった。それだけだ。」

 ツムグは、何でもないことだと言う風に肩をすくめた。

「あなたにとって、人間は何なんですか?」

 ツムグの態度を見たカヲルの表情が一変した。声も怒りの感情を含んだそれに変わる。

「そんなことを聞いてどうするのかな?」

 ツムグは、ヘラッと笑って腕組をした。

「分かっているんでしょう? 僕の行動だって…、この先何が起こるのかも、全部。」

「俺はそこまで万能じゃない。死を回避できないのがいい例だ。」

「それでも分かるんでしょう?」

「分からないことは分からないよ。」

「…楽しそうですね?」

「楽しくはないよ。」

 ツムグとの会話も膠着していた。

 カヲルは、血が出そうなほど手を握り締める。

 目の前の男は、周りを弄んでいる。

 守っているようで、守ってなんかない。

 何か目的があるようではあるが、そのためなら如何なる事があろうと動じない奴だ。

 しかし…、そんな男を相手に自分が抱いているこの感情という物は何なんだろうと疑問を持つ。

 その時、橙色の光が基地に広がった。

 カヲル、そしてシンジが驚いているが、ツムグは、宙を見上げて、ああ…っと声を漏らしていた。

 足音が聞こえた。

 カヲルは、その音に一瞬体が撥ねた。

 なぜだろうとそちらを見ると。

「尾崎さん…?」

 尾崎がいた。

 だが雰囲気が違う。

 何かが違う。確かに尾崎なのだが、何かが違う。

 ツムグは、尾崎の姿を見て、微笑んだ。

「尾崎さんですよね?」

「カヲル君。…終わりにしよう。」

 尾崎は、哀しさを含んだ落ち着いた声で言った。

「…! まさかさっきの光は…。」

「俺が…みんなを解放した。」

 尾崎が言った。

 その目には、これまでと違う、大きな決意を感じ取れる光があった。

 

「よお、えらいことになったな、おい。」

 

 そこへやってきたのは、ゴードンだった。

 あちこちボロボロだが、しっかりと立っている。そして真ん中から折れた日本刀を片手に持っていた。

「…あなたも生きてたんですか。不死身ですか?」

「普通の人間なら10回は死んでたろうな。体のあちこちがまだイテーよ。」

「…さすがは人類最強と呼ばれるだけのことはある。」

 カヲルからの攻撃をイテーで済ませるゴードンに、カヲルは、半ば呆れ顔で言った。

「ツムグ。これがおまえの言っていたことなんだな。」

「ああ。そうだよ、尾崎ちゃん。ようやく覚醒したんだね。」

「覚醒…。」

 カヲルが半濁する。

 そしてハッと尾崎を見た。

「まさか…、カイザーとはそういうことだったのか!」

「?」

 何かを理解したカヲルが声を上げる傍ら、尾崎は疑問符を飛ばしていた。

 カヲルは、額を押さえ、宙を仰いだ。

「ああ…なんてことだ。どうして“僕ら”は気付かなかったんだろう。こんな近くにあったというのに…。」

 カヲルが、手をかざして荷電粒子砲を放った。

 尾崎は、冷静に両手を前にかざす。

 すると鋭い音を立てて、荷電粒子砲が弾かれた。

 ATフィールドによって。

「驚いた…。本当にそうなんですね。」

「? 何を言っているんだ? ATフィールドのことか?」

「おい、尾崎、おまえいつの間にそんなことができるようなったんだ? ツムグ、説明しろ。」

「僕は結論出す時機を間違えてしまいました。」

「どういうことだ?」

「“僕ら”は、間違えてしまった。どうして気付くことができなかったのか不思議でなりません。」

「言っている意味が分からない。」

「…あなた達に会えてよかった。」

 カヲルは、笑った。

 まるで、もう思い残すことはないと言う風に。

 

「う……。」

 

 その時、レイが目を覚ました。

 シンジは、レイを抱えた状態で尻餅をつき、放心していたため気付くのが遅れた。

「碇君…?」

「あ……、綾波?」

「私………、人間になれた。」

 レイは、涙を浮かべ、シンジの首に腕を回して抱き付いた。

 カヲルは、それを横目で見て、驚いた。

「彼女は、人間になれたのか…。」

 そう言って苦笑した。

 もうレイは、自分とは同じじゃなくなった。その寂しさゆえに。

 

 するとそこへ。

 ゴジラの雄叫びが聞こえて来た。

 基地の破壊で警報音が鳴らなかったのだ。

 

「カヲル君?」

「ありがとう。ごめんなさい。」

「カヲル君!?」

 カヲルが何かよくない行動を起こそうとしているのを察知した尾崎が動こうとした時、カヲルに向けて銃弾が飛んできた。

 その銃弾はカヲルの顔の斜め右辺りでATフィールドに阻まれて防がれた。

 

「貴様…! 何をしようとしている!」

 

 男の声が響いた。

 声のした方を見ると、銀髪の男が立っており、その手に大型の銃を握っていた。

 しかしその顔は…。

「…! おい、どういうことだ?」

 ゴードンが真っ先に気が付きカヲルと銀髪の男を交互に見た。

「来てたんだ。」

「何をしようとしているんだと聞いている! 答えろ、渚カヲル!」

「“ヲルカ”さんの想像通りのことだよ。」

 

 ヲルカと呼ばれた男の顔は、カヲルを40代後半ぐらいにした感じの顔立ちをしていた。目の色も肌の色素も同じである。

 

「な…、貴様はゼーレの命を受け、地球防衛軍なる輩どもを抹殺し、リリスの魂を持つ者を確保することが役目だったはずではないか!」

「道は…、彼らに譲ることにしました。」

「勝手なことを…! リリスの道標は人類補完の要なのだぞ!」

「なんだって!?」

 人類補完と聞いて尾崎が反応した。

「リリスは、もういない。」

「なっ……。そこにいるではないか!」

 ヲルカは、レイを指さして叫ぶ。

「彼女は人間になった。リリスの魂は失われたんだ。どこに行ったんだろうなぁ?」

 カヲルは、どこか嬉しそうに言う。

「ならばおまえが…アダムの魂を持つおまえが道標にならねばならない! 早急にアダムを探せ! 死ぬことは許されぬのだ! なのに貴様は…。」

「“僕ら”は彼らに道を譲る。」

 それを聞いたヲルカは、血が出るほど歯を食いしばり、憤怒の表情を浮かべる。

「渚カヲル…! この! 裏切り者め!!」

 ざわりとヲルカの髪の毛が揺れる。

 ヲルカは、銃を構え、銃弾を連続で放った。

 その銃弾は、カヲルの前に張られたATフィールドで防がれる。

「僕には勝てないよ。」

「だまれぇぇぇぇ!」

「人類補完がならなければ、ヲルカはすぐに死んでしまうんだ。」

 カヲルが背を向けたまま、尾崎達に向けて言った。

「ああ…、なるほど、急激な老化現象。」

 ツムグがポンッと手を叩いて言った。

 ヲルカは、カヲルと同じく、アダムからサルベージされた存在だった。

 しかしその魂は、カヲルと違う。

 それゆえにATフィールドは弱く、急激な老化現象などの症状を患っていた。

 そのため短期間で一気に年を取っている。ゼーレの命令でゲンドウに従っていた時に比べて10歳以上は老化していた。

 だからこそゼーレにとっては、カヲルよりも操りやすかったと言える。人類補完によって魂が回帰され、自分自身の壊れてしまった“時間”から解き放たれることだけが救われる方法なのだと教え込めば……。

「ヲルカ。なにも人類補完計画だけが道じゃない。」

「だまれ!」

 ヲルカは、無駄だと分かっていてもATフィールドによる中和を利用して銃弾を放つが、カヲルの分厚いATフィールドを破ることはできない。

「すでに未来は開かれているんだ。素晴らしい未来が…。」

「黙れと言っているぅぅぅ!」

「ヲルカ、あなたの壊れてしまった“時間”から解き放ってあげます。それがあの老人達と“僕ら”に狂わされてしまったあなたの魂への償いだ。」

「っ!?」

 カヲルが右腕を伸ばして人差し指を出すと、ヲルカの胸に大きな空洞が空いた。

 一瞬で空いた胸の穴から大量の血が噴き出し、ヲルカは、カヲルに睨みながら前に倒れた。

「カヲル君…。」

 尾崎達は、カヲルとヲルカの争いをただ傍観していることしかできなかった。

「さよなら。」

 カヲルが宙に浮き、空へ舞い上がった。

 そこへゴジラの足音と、地響きが轟いた。

 舞い上がったカヲルは、ゴジラを見た。

 ゴジラもカヲルを見る。

 ゴジラが口を開いた。

 その口めがけて、カヲルは飛んだ。

 そして……、飛び込んだ。

 カヲルが口に入った途端、ゴジラは驚いたものの、すぐに歯を閉じた。

 ゴジラの歯の隙間から、赤い液が垂れた。

 ガジガジと噛みしめたゴジラは、口を開け雄叫びを上げた。

 

「…の野郎!」

 ゴードンは、憤怒の表情を浮かべ、地面を一回強く踏みしめ、背を向けた。

「ゴジラを撃退するぞ。出動だ!」

「カヲル君…。」

「尾崎! …後にしろ!」

「……はい!」

 悲しむ暇を、ゴジラは許してはくれない。

 守るべきもののため、尾崎は出陣した。

「俺も行こうか。」

 ツムグも、機龍フィアに乗るべくその場を後にした。

 残されたシンジとレイは、他の生き残りの地球防衛軍の兵達と合流した音無によって保護された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ふぃあちゃん行ける?」

『行けるよ!』

「とにかくゴジラさんを基地から遠ざけるから初っ端から行くよ。」

 ツムグは搭乗するなりシンクロをすると、すぐさまリミッター解除を行った。

 機龍フィアは、ドッグの天井を破り、飛んだ。

 基地へ突き進むゴジラをすぐに補足すると、ワイヤーを発射した。

 ゴジラは、それに気づくと、ワイヤーの先端を掴み束ねて、機龍フィアを地面に叩きつけようと引っ張った。

「ゴジラさん、海へ行こうよ。」

 目を金色に光らせたツムグが笑いながら言う。

 そこへ轟天号が飛んできた。

 轟天号からもワイヤーが飛び、機龍フィアの方に手を使っていたためゴジラはそれを防げず体を絡みとられた。

 そのまま轟天号は、ゴジラを引きずり、ゴジラを基地から遠ざけ始めた。

 ゴジラは身をよじりワイヤーを千切ろうと暴れる。

 ゴジラの背びれが光ろうとすると、機龍フィアから顔を目がけて攻撃され、阻止される。

 それにムカついたゴジラが機龍フィアに顔を向けて口を開き熱線を吐こうとしても、轟天号が高低差を付けながら飛行してゴジラの後頭部を地面に打ち付けて引きずるというのを繰り返すため阻止される。

 そうこうするうちに、ゴジラは海へ連れてかれた。

 そこで轟天号のワイヤーが外され、ゴジラは、そのままの勢いで海に放り込まれた。

 海の中からすぐにゴジラが起き上がり、怒りの雄叫びを上げた。

 海辺に着地した機龍フィアが、ゴジラと相対する。

「ねえ…、君も見ているんだろ? アダム君。」

 ツムグは、腹を撫でた。それに反応するように腹の中に入れているアダムの卵が反応した。

「さあ、戦おうゴジラさん!」

 ツムグは、狂気に歪んだ笑みを浮かべて叫びながら操縦桿を握った。

 ゴジラが突撃してきて、機龍フィアと組みあった。

 その時ツムグは、見た。

 ゴジラの歯の隙間に。ツムグの視力だから分かるが、歯の隙間に血の赤と、僅かな銀色の髪の毛っぽい物がこびりついているのを見た。

 ツムグは、大きくため息を吐いた。

「馬鹿なことをして…。何もゴジラさんに食べられなくたって………、羨ましい!」

『ツムグ、何言ってるの!?』

「俺だってゴジラさんに喰われたいよ!」

『ワーン! ツムグがまた変なこと言いだしたー!』

 そこからは、ゴジラと機龍フィアの殴り合い、蹴り合いの肉弾戦が繰り広げられた。

 時々轟天号からの援護射撃もある。

「ゴジラさん! ゴジラさん、分かるー!? ゴジラさんが喰ったの、最後の使徒だよ! 終わりなんだよ! ここから先はどうなるか俺にも分かんないんだよ!」

『ツムグ、落ち着いて!』

「世界がどーなるか、もう分かんないだよーーーー!!」

 ツムグは血を吐きそうなほど叫ぶ。

「それでも、俺は! それでも、俺は!」

 機龍フィアの腹部が開閉し、絶対零度砲が発射された。

 海面が凍り付き、ゴジラの足を凍らせた。

「ゴジラさんのために…!」

 ゴジラの顔を殴りつける。

 ゴジラも機龍フィアを殴った。

「ゴジラさんのために、ゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのために!」

 ツムグが狂ったように叫び続ける。

「---、にたい。」

 機龍フィアが、ググッと首を後ろにそらせて、強烈な頭突きをゴジラにお見舞いした。

 機龍フィアの片目のレンズが壊れる。

 ゴジラは、足元の氷を強引に破壊し、機龍フィアにタックルをかまそうとした。

 その瞬間、機龍フィアが回転し、機龍フィアの尻尾がゴジラのわき腹に決まってゴジラが吹っ飛ばされた。

「あぁぁあああ、いっそ全部壊しちゃおうか!」

『ツムグー!』

「綺麗、さっぱりと…、っ!!」

 次の瞬間、ツムグが被っているヘルメットに強力な電流が流れた。

『ツムグのバカ! そんなことしたらダメなのに!』

 ふぃあが電流を流したのだ。

 もしもツムグが狂い始めた時のための保険であった。

 なお、普通の人間なら頭が爆ぜるほどの電流だ。

「っっ…、イタ~、頭にズーンときた。」

 ツムグはヘルメットの上から頭を摩った。

「でも目が覚めたよ。ありがとう、ふぃあ。」

『やったー! ツムグ治った、治った!?』

 狂気の失せた笑みを浮かべたツムグは、ふぃあにお礼を言った。ふぃあは喜んだ。

 眼前にいるゴジラがグルルッと唸る。

 ゴジラは、気がかりだった。

 宿敵たる地球防衛軍に、奇妙な微かな気配があることに。

 最初は、使徒の気配が二つあった。だがその内ひとつは消えた。その後もうひとつは、自分が噛み砕いた。

 二つの気配が消えたと思ったら、何か微かな気配を感じ取った。それが使徒なのか何なのかははっきりしない。だが、気に障る気配であることは間違いない。

 その気配が徐々に遠ざかっていくのを感じる。

 どこかへ逃げようとしているのかもしれない。追わなければと思うが目の前にいる機龍フィアと轟天号が邪魔だ。

「ゴジラさん…、悪いんだけど。それは阻止させてもらうよ。」

 ツムグは、そう言うと操縦桿を握り直した。

 

 ゴジラとの戦いは長く続き、やがてゴジラが諦めて海へと帰還した時には月が空に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「よお、生きてたか?」

「なんとか。」

 ゴードンは、破壊された司令室にいる波川を訪ねていた。

 波川の頭には包帯が巻かれていた。

「完全な人間型の使徒とは、全く予想していなかったわ。」

「しかも今まで出てきた使徒の力までもってやがった。」

 誰が想像する?

 そんな使徒が現れるなどと。

「基地の修復ももちろんですが、生き残ったミュータント兵士達へのカウンセリングもしなければなりませんね…。」

「今回のことで相当応えてるぜ。恐らく半数以上が退役を望むだろうな。熊坂の奴も重体だしよぉ。」

 尾崎を逃すために操られた他のミュータント兵士達を引きつけた熊坂は、乱闘の末にこれを退けたものの大怪我を負った。

「今回のことはM機関の存続にも大きく響くことになったわ。…狙ってやったとは思えないけれど。」

「そりゃ偶然だろ。奴の目的は、ツムグの野郎を引っ張り出すことだった。なんでかは知らねーが、ツムグの野郎…、戦うことをえらく渋ってたがな。」

「ツムグのことだから何か理由があったのでしょうね。」

「それがな……、戦う相手が自分じゃなく、尾崎だって言いやがったんだ。」

「尾崎少尉が?」

「その件については、あいつ(ツムグ)を問いたださにゃならねー課題だ。渚カヲル…、使徒としての名前はタブリスって言うらしいが、一人で納得して、勝手に死にやがった。…ゴジラの口ん中に入ってな。」

「自ら死んだのですか、その使徒は。」

「気がかりなことを残してな。」

「気がかりな事?」

「ヲルカとかいう、渚カヲルによく似た男が来た。そいつは、ゼーレの部下だったらしいが、そいつが言いやがった。リリスの魂を持つ者を確保。人類補完の道標。アダムの魂を持つ。どうやらゼーレの連中の企みの要が一か所に集まってたらしいな。」

「魂ですって? 使徒の魂を持つ者がいたと?」

「恐らくリリスの魂を持つ者ってのは、綾波レイって娘のことだ。だが渚カヲルが言うには、あの娘が完全な人間になったことでリリスの魂は失われたらしい。そして残るアダムの魂を持っていた渚カヲルは、自ら死んだ。」

「つまりこれでゼーレの企みの要がすべて失われたというわけですね。」

「だといいがな…。」

 ゴードンは、いまだ姿を見せぬゼーレがまだ燻っていることを直感していた。

 まだ終わっていない。ゼーレを見つけ出し、一人残らず始末をつけなければ終わらないと。

「必ず終わらせてやる。」

 ゴードンは、そう呟き、拳を握った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍の広い訓練場の空き地に、布を掛けられた遺体が並べられた。

 その数は凄まじく。人間の形をしていないものもある。

 その中を歩いていたツムグは、ある一人の遺体の前に来た。

 そしてソッと顔にかかった布を取る。

「………ナッちゃん。」

 ナツエだった。

 ナツエは、少し煤けているが、かなり綺麗な状態だった。

 ナツエの傍らに、ツムグはしゃがみ込んだ。

「ねえ、ナッちゃん。前に言ってたよね。もしも俺が死の預言をしたらって聞いた時、私のことを少しは想ってくれますぅ?って。………心配せずとも、想ってるよ。」

 ツムグは、もう二度と動かないナツエに語り掛ける。

「ねえ、ナッちゃん。最後の使徒が死んだよ。ここから先は…、どうなるのかな?」

 返事はもう返ってこないと分かっているのに、それでも話しかけ続ける。

「俺も全部わかるわけじゃない。色んな人から責められたけど、波川ちゃんやゴードン大佐は相変わらず。カヲル君が自殺して、ゴードン大佐怒ってたな~。尾崎ちゃん達は…、シンジ君達慰めてたなぁ。食堂のね、あのおばちゃん死んじゃったんだ。シンジ君達の前で。レイちゃん、人間になれたけど、喜んでる暇ないね、これじゃ。ミュータント兵士達もこれから大変だ。たくさん死んじゃった。たくさん殺しちゃった。操られた時に神経がズタズタで、今までいたM機関のミュータント兵士は、もう半数もいないんだ。たくさん死ぬのは知ってたよ。誰が死ぬのかも知ろうと思えば知れたけど、やらなかった。」

 ツムグは、ギュッと自分自身の体を抱いた。

「俺のやり方は、きっと間違ってる。でもね、ナッちゃん。」

 ツムグは、笑う。

 

「死にたいんだ。俺。」

 

 ナツエの汚れた頬を撫でながら、ツムグは笑って言った。

 

「先に逝けたナッちゃんが羨ましいよ。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ずるり、ずるりと、ソレは這いずる。

 破壊された地球防衛軍の基地の研究所から逃げ出したソレは、人知れず移動する。

 第三新東京へ。

 

『アア……、モウスグ…、もう…、す、ぐ……。』

 

 未完成の胎児のようにも見えるソレは、ブツブツと呟きながら這いずりながら進む。

 

『オニイチャン……、もうすぐ…、だ…よ…。』

 

 幼い男の子のような声を発する。

 

 

 

 

 




今までにちょこちょこと出てきてた銀髪の男の正体は、カヲルと同じくアダムからサルベージされた存在です。
名前は、ヲルカ。由来は…、別に説明はいらないですね。ネーミングセンスなくてすみません。
ただし、魂はリリン(人間)。
サルベージの過程で失敗したのか急激な老化現象を患っている。
ATフィールドとかを使えるけど、カヲルに比べたら格段に弱い。人間やミュータント相手にはかなりの脅威ではある。

カヲルが地球防衛軍に来たのは、尾崎に接触する他に、ゼーレの命でリリスの魂を持つ者(レイ)を確保すること、または、アダムを見つけ出すことでした。(※ツムグの腹の中にあることに気付いていません)
いずれにしても人類補完…、サードインパクトを起こすことが目的でした。
でもカヲルは、それをしませんでした。覚醒した尾崎を見て悟りました。この件については後に語ります。

最後の方で、まだしつこいアイツが出てきました。ラスボスへのフラグです。


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第三十三話  死の預言

最後の使者が終わって、話の構成が思いつかず難航しています。

新劇の使徒も出すか否か…、悩んでます。旧劇を主体にすると決めていたのにブレブレですが、何かご意見もらえたら助かります。

今回は最後の使者の後の、後日談みたいな感じです。


 

 

 

 

 

 

 地球防衛軍の基地の復旧には時間を要した。

 もっとも被害が大きいのはM機関であった。

 仕方がない。カヲルに操られ、初めに攻撃を加えたのがそこだったのだから。

 生き残ったミュータント兵士達や、兵士ではないミュータント達は肩身が狭かった。

 彼らの意思でないのは皆分かっている、だが攻撃を加えてしまった事実は変わらない。

 普通の人間達と、ミュータント達との間に空いてしまった溝を埋めるのも時間がかかるだろう。普通ならば。

「志水さん…、うう…。」

「碇君…。」

 運ばれていく棺桶を前に、シンジは涙し、隣にいるレイが慰める。

 他の生き残ったM機関の食堂の職員達も、志水の死を嘆いた。

 志水だけじゃなく沢山の者達が死んだ。

 遺体があるだけまだマシな方と言える者達と、いまだに遺体すら出てこない発見されていない者達も多い。志水など原形も残らず潰されててしまった。遺体を回収するというより、壁を剥がしてそこから遺体を剥がす作業と言った方がいいかもしれない。当然だが棺はキャンノットオープン。

 嘆きの声はあちらこちらで上がっていた。

 だがいつまでも嘆くことはできない。

 戦いはまだ終わっていないのだ。

 ゴジラは待ってくれない。

 かつてゴジラが南極に封印される前、ゴジラ以外の怪獣がいた頃、嘆く暇などないほどに人が死んだ。

 ゴジラが封印されて被害がかなり減ったものの、それでも死ぬ人間は死んだ。

 嘆き暇さえない激動の時代は、突如として起こったセカンドインパクトによって数え切れない犠牲と破壊によって終わった。

 怪獣達との戦いの時代が終わったことは、セカンドインパクトによる環境の激変があってもそれでも短い平穏を人々にもたらした。使徒が現れ、ゴジラが復活するまでは……。

 空いてしまった溝は嫌でも埋められるだろう。いや、あえて無視するしかないだろう。かつてすべての人種があらゆる壁を越えて手を手を取り合い、地球防衛軍を結成した時のように。

 皮肉にも共通の敵という存在がバラバラだった人間の壁を打ち破ったのである。

 

「てめーは、知ってて、傍観してたってわけか。」

「……他の人から見ればそーなるね。」

 基地の復旧作業を眺めながら、ゴードンとツムグが会話をしていた。

「どーやっても死は回避できなかったよ。教えなかったっけ?」

「知ってたさ。だが…。」

「納得はできないよね。目の前に“答え”があるって分かってるとなおのことさぁ。預言ってそう言う意味じゃホント損だよ。」

「そうだな。だがおまえの預言は、まだ必要だ。」

「そう、まだ終わってない。まだ先がある。」

「で? 何が見えている?」

「……もう分からないよ。」

「はっ?」

「最後の使徒が死んじゃった。ここから先の世界がどうなるか、さっぱり。グチャグチャだ。」

「奴で最後だったのか?」

「一応ね。あと残ってるのなんて、リリスぐらいでしょ?」

「アダムは、どうした?」

「大人しくしててくれてるよ。」

「…やっぱてめーの中か。」

「あっ、ばれた?」

 テヘッと笑うツムグに、ゴードンは、溜息を吐いた。

「隠すつったら、そこ以外に考えられねーよ。」

「S2機関は魅力的だからね。まだ欲しがってる人は多い。そもそもセカンドインパクトだってS2機関を手に入れようとしてなったことだし。」

「それが元凶か。それで世界が一回滅びかけちゃせわねーよ。」

「リリスは結局どうするの? 使徒はもうこないし。あれにも一応S2機関あるよ。」

「波川の奴に言え。」

「分かってる。エヴァンゲリオンだって残ってるし…、っ。」

「どーした? なにが視えた?」

「まだたくさん人が死にそうだ。」

「それはいつ頃だ?」

「遠からず、近からずかな。」

「はっきりさせろ。」

「はっきりさせても回避はできないよ?」

「厄介なものだな、預言ってのは。便利なだけに。」

「特に死についてはね。」

 ツムグは、ヘラッと笑った。

「ところでおまえ、何か隠してるんじゃないのか?」

「なにを?」

「何が目的だ?」

「……。」

「てめーの事情なんざどーでもいい。だがな周りに迷惑をかけてまですることか。」

「迷惑を掛けなきゃならいなほどのことなんだよ。俺にとっては。」

 ツムグは、笑みを消してそう吐き捨てるように言った。

「そーでもしなきゃ俺は……。」

 ツムグは、言いかけてやめた。

「自分の意思でも、そうじゃなくても死ねる奴ら全部が羨ましいよ。」

「それが答えか。」

「そうだよ。悪いけど、そのためなら何でもしようと思ってるからね。」

「ならこっちは抗うまでだ。」

「それでこそ意思を持つ者の強さだよ。」

「この野郎…。」

「俺は所詮はバケモノだからさ。」

 ツムグは笑う。

 ゴードンは、その横顔を見て、何も言わなかった。

 死ぬことができぬ者の気持ちなど、その者にしか分からぬことだからだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 患者を収容した訓練場のテントでは。

「尾崎……。なぜ、殺さなかった?」

 体のあちこちに包帯を巻かれて寝かされている風間が弱い声で言った。

「…仲間だからだ。」

 尾崎はそう答えた。

「他の連中は…?」

「……すまない。」

 助けられた者もいたが、助けられなかった者もいる。尾崎は悲痛な思いでそう答えた。

「あのガキはどうした…?」

「…死んだ。自分で死んだんだ。」

「…そうか。」

 風間は、それを聞いて目を閉じた。

 カヲルに何かをされて操られたという記憶はかなり鮮明に残っている。

 自分の意思に反して周りに攻撃を加えた記憶。

 尾崎に対する嫉妬心が増長され殺す寸前までいったのも覚えている。そして圧倒的な力を目覚めさせた尾崎に敗北したことも。

 簡単に操られてしまった悔しさに、風間は拳を握りしめ、歯を食いしばった。

「志水さん…、覚えてるか? 食堂のおばちゃん。」

「ああ…。」

「死んだ。カヲル君に殺された。」

「そうか…。」

「俺がもっと早く覚醒していれば、もっと助けられたはずだったのに…。」

 尾崎は肩を抱いて俯く。

「おまえの責任じゃねぇ。」

「でも…。」

「おまえはお人好しすぎんだ。そんなんでよく生き残れたよな、まったく…。」

「すまない…。」

「だから一々謝るな、馬鹿野郎。」

「どうして俺だけが新人類なのか分からないよ。ツムグが言うには、いずれみんなそうなるって言うけどさ…。」

「気の長いこったな。」

 ツムグは、いずれはすべての人類が尾崎と同じになれると預言したが、それがいつになるかははっきりさせなかった。

 かなり気の長いことなのは間違いない。

「あのガキは、おまえを見て道を譲るって言ったんだろ?」

「ああ。」

「なら人類補完計画も挫折したってこったろ。」

「だといいんだがな…。」

「なんだ?」

「嫌な予感がするんだ…。」

「…おまえのそれはよく当たるからな。」

 尾崎の予感はよく当たる。だがツムグのように具体的になところまではいかなない。

「おまえ…、これからどうする?」

「俺は…、M機関に残る。兵士を続けるよ。」

「俺もだ。」

「風間…。」

「勘違いするなよ。俺は俺のために続けるんだ。」

「そうか。」

 まあ、風間ならそう言うだろうと思った尾崎は、そう言った。

 いつも通りな風間の様子に、尾崎は初めて笑った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 両親についての記憶はほとんどない。

 それがシンジの実の両親に対して想うことだった。

 母親の面影はなんとなく覚えている。父親のゲンドウについては、最後に見た背中を泣きながら見送るしかなかった。父親については最近になって急に呼び出されて親子の再会とも言えない状態で再会となったので酷い目にあった。

 ゲンドウに対する恐怖心にも似たトラウマは、地球防衛軍で過ごすうちにいつの間にか忘れ去られていた。(一時風間にたいして苦手意識はあったものの)

 ただただ空虚な日々を送っていた頃が嘘だったかのように、楽しい毎日を送っていた。

 レイという大切な相手に出会えて想いを伝えて、触れ合って。

 毎日が本当に楽しかった。明日が来ることが楽しいと思える日が来るなどと、あの頃の自分は想像もしなかっただろう。

 けれど今の時代が激動の時代だということを忘れていた。

 ゴジラがいて、使徒がいて。

 渚カヲルと名乗っていた人型の使徒によって、基地は破壊され、見知った人達が操られ、たくさんの人々が死んでいった。

 目の前でお世話になっていた人が死んだ。

 死が常に隣り合わせだということを完全に忘れるほど、シンジは確かに幸せだったのだ。

「あのね、碇君…。」

「……。」

 テントの横で体操座りをして顔を伏せているシンジに、隣に座っているレイが話しかけ続けていた。

「エヴァ初号機のコアには、碇ユイ…、碇君のお母さんがいたの。」

 はっきり言って今話すことじゃない。だがレイは、いまいち話題選びができてなかった。

「だから私と碇君だけが、初号機とシンクロできた。でももう初号機はない。碇君のお母さん、完全に死んじゃった。」

「…それ、今話すこと?」

「違った?」

「違うよ。」

 顔を伏せたままツッコミを入れる。レイなりに頑張って場の空気をなんとかしようとしていたのは、一緒に過ごしていてシンジは理解している。

「どうでもいいよ。そんなこと。」

「でも…。」

「母さんのことなんてほとんど覚えてないし、今はそんなこと考えてる余裕ない。」

 人との繋がりに飢えていた頃のシンジが見たら、きっと信じられないだろう。シンジは、自分の親にけっこう無関心になっていた。

 ある意味で精神面で強靭になったといえるかもしれない。

「綾波…、本当に人間になれたの?」

「うん。」

「そうか…。うん…、そうか…。」

 シンジの片手が、隣にいるレイの片手に重ねられた。

「おめでとう。」

「ありがとう。」

 二人は肩を寄せ合った。

 ようやく、レイが人間になれたことを喜ぶことができた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 シンジとレイが肩を寄せ合っているのを遠くから見ていたツムグは、一人悶絶していた。

「かわいい~~~! あ~、これだからやめらんないんだ。」

 やめられないとは、覗きのことだ。

「何やってるのよ…。まあ、いつものことだけれど。」

 音無が呆れ返った顔で言った。

 音無達、科学者達一同は、破壊された基地の科学部研究所からデータや、研究物の復旧を行っていた。

「思ったよりも被害が少なくて済んだけれど…。」

「まあ、もともと怪獣が来ても大丈夫なように特に頑丈にしてるからね~、研究部は。バイオハザードの心配はないんでしょ?」

「ええ、今の所はね。」

「そこらへんもさすがだよね。生物化学系統は、怪獣がいた頃からずっとすごかったし。」

「怪獣と戦うための研究が、二次被害、三次被害を出す原因になったらシャレにならないわよ。」

「それでもビオランテとか、デストロイアは出たけどね。メガギラスの時もだよ。」

 どれも人間の手で起こった怪獣の事件だった。

 デストロイアなどは、特に、一代目のゴジラを倒した代償に発生したものだったのでゴジラを倒すうえで次の怪獣の発生という大きな教訓を残した。

 メガギラスは、ゴジラを倒すための実験の最中に起こった結果で、結果的にゴジラに掃討してもらったという皮肉を残した。

 ゴジラを滅ぼそうとすると何がかが起こる。まるで呪いのように……。

「二度とそんなことが起こらないようにするのが、それを継ぐ私達の役目よ。」

「ところで村神さんは?」

「なによ急に。」

「村神さんはどうしたのかなって思って。」

「…まだ発見されてないわ。」

「生存は絶望的か。生きてたらいいけど、死んでたら…、記録残ってるのかな?」

「…どういうこと?」

「あれ? 村神さんの研究知らないの?」

「部署が違うから知らないわ。それで何があったの?」

「ちょっとね~。あの人の研究内容が…。」

「勿体ぶらずにはっきり言いなさい。」

「とりあえず村神さんのいた部署の辺りを徹底的に探してみてよ。ひょっとしたら逃げてるかも。」

「だから何なのよ!」

 勿体ぶって言わないツムグに、音無はキレた。

 その後、ツムグの言う通りに村神がいた部署の研究室(倒壊してる)を重点的に掘り起こしてみると…。

「音無博士!」

「なに? 何か出たの?」

「いえ…、それが……。恐らく村神博士だと思われる遺体が…。」

「…そう。」

「それが変なんです。」

「なにが?」

「何かに齧られた形跡があります。恐らく死因はそれかと…。」

「えっ…。」

「あと近くに何かが入っていたと思われる巨大な試験管がありました。内部から破壊されたと思われます。」

「…村神が何か記録を残していたはずよ。それを探し出して!」

「分かりました!」

 作業員達に指示を出し、村神が残しているであろう記録を探させた。

 そして。

「出ました!」

「解析するからこっちに回して!」

「はい!」

 掘り出された記憶媒体の解析を行った。

 何重にも掛けられたプロテクトを解いて、内容を閲覧すると…。

「なによ…、これ…。」

 そのマッドな内容に音無は、言葉を失いかけた。

 エヴァンゲリオン初号機の細胞、フランケンシュタインの血液、ツムグの細胞、ザトウムシ型の使徒のコアのコピー……その他諸々(※沢山あるので割愛)。

 その中で目が行ったのは、初号機の細胞という項目だ。

 初号機とは、先ごろゴジラに破壊されたエヴァンゲリオンのことだ。バラバラにされたあげく、とどめに焼かれて炭になったはずだ。

 村神は、その残骸から採取された微量の細胞を増やすために試行錯誤していたらしい。

 ツムグの細胞を使ったレイを人間にする実験の派生として死滅しかけた細胞の活性化のために、ツムグの細胞を利用したようだが増やすには至らなかったらしい。

 そこでツムグの細胞との橋渡しのため、地球防衛軍に保存されていた改造巨人フランケンシュタインの血液を、無断(!)で拝借し、初号機の細胞に使ったのだ。

 その結果、ツムグの細胞による活性化が円滑になり、初号機の細胞は増えるようなったのだ。

 その後、それほど時を置かずして膜につつまれた胎児のような形態に変化し、眼球が生じして村神を認識しているような動きを見せるなど確かな意思を宿していたと記されている。

 なんとか解剖したいところだが、ATフィールドと思われるエネルギーで弾かれてしまうため失敗。

 その物体をもっと調べねばというところで記録は終わっている。

「あの部署、前々からヤバいって聞いてたけど、まさかこんなことしてたなんて…。村神は初号機を蘇生させたというの!? じゃあ、初号機は今どこにいるのよ!」

「逃げられてたか…。村神さんのことだからこの騒ぎでバレないように初号機を隠そうとして逆に食べられちゃったって感じかな。」

「初号機の居場所は把握できないの?」

「……ごめん。」

「あ~~~、もうこんな時に使えないわね!」

 音無はガシガシと頭をかきむしった。

「あんた隠してたの!? このことを!」

「隠してたわけじゃないけど、聞かれなかったからね。」

「あーもうああ言えばこう言う! ともかく脱走した初号機を探し出さないと。基地の中で見つかればいいんだけれどね…。」

「見つからないよ。」

「…せめて嘘ついてよ……。」

「労働力が分散するし、無駄な労力だから面倒でしょ?」

「あんたってやつはーーー!!」

 音無の怒鳴り声が木霊した。

 ツムグの証言により、基地にはすでに初号機はいないと分かり、初号機捜索のため周辺に捜索隊が行くことになった。

 研究部の研究の産物が外に出てしまったとなっては一大事。

 バイオハザードや新たな怪獣の誕生に繋がる可能性があるということで、すぐに受理された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ガリゴリガリゴリと、クチャクチャクチャクチャという不快な音が鳴る。

『もう少し…、もう少し……。』

 不快なその音の中に、幼い男の子のような声が混じる。

 ソレの周りには、赤黒い血がまき散らされており、肉片と、辛うじて形のある人間の、部位が散乱している。

『美味しくない…。でも…たりない…、足りない…。』

 ゲプッと口から息を吐いたソレは、まだ物足りないと口にする。

『足りないよ、お兄ちゃん…。足りないよォ。』

 

「う、うわあああ! なんだこれは!?」

 

『あ、いいところに…。』

 たまたま通りかかった人間を見つけ、ソレは、目にも留まらぬ速さで飛び掛かった。

 その人間が暴れるのを無視して、喰らいつき、悲鳴も無視して貪る。

『!!』

 半分食し終えたところで、変化が起こった。

 未完成な胎児のような体が一回り大きくなったのである。

『あは、あはははははははははははははははははははははははははは。』

 ソレは、笑う。

『もっともっと食べれば大きくなれるぅ! そしたらそしたら…。全部、変えられる。変えちゃえるよ、お兄ちゃん! ああ、でも人間不味いからもう食べたくないなぁ…。じゃあ、何食べたらいいんだろう…。あ……。』

 ソレは、思いつく。

『食べる物あるじゃない…。』

 ソレは、先ほど襲った人間の半分を残したまま移動を開始した。

『第三新東京に行けば、あるじゃない。』

 

 もう誰も乗り手のいない、神の模造品と、魂を失った白い巨人が。

 

『おいしいかな? 美味しいかな? あはははははははははははははははははははははははははは。』

 

 その言葉と笑い声を聞く者はいない。

 

 

 

 

 




科学研究部は特に危険地帯です。最前線で怪獣相手に戦う兵士達よりも、ある意味で戦っているのが科学者達だと思ってます。
村神のように科学のためならどんな犠牲も厭わない者もいて、すべてが把握されているわけではないということにしました。
だから二次、三次と怪獣事件が起こるのでしょうね…。

ツムグは、自分の目的のために初号機を放っておいています。


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第三十四話  ディメンション・タイド

 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願い致します。

 今年中には最終回迎えたいな。

 今回は、初号機対策と、シンジとレイの話が中心かな。

 ちょっと、生理ネタがあるので注意。


 

 

 

 

 

「一集落が全滅したってよ。」

「なんやってんだよ、研究部は。」

「一研究者の研究内容を把握してないなんてどうかしてるぜ。」

 などなど、科学研究部への悪い言葉が飛び交っていた。

 小さな集落の住民達が何かに貪り食われてしまった事件は、初号機の捜索隊によって判明した。

 住民は全滅。女子供も残らず喰われていたという。

 現場は血の海。その血の海の中に人間と思しき“残骸”が散らばっている現場は、血になれている者でも吐き気を催すほどであったという。

「初号機の仕業かしら?」

「まさかそんなことになっていなんて…。」

 科学研究部で初号機の蘇生が行われていたことを、尾崎は知らされた。

 尾崎にとって初号機は人類補完計画を教えてもらった、ついでに精神を取り込まれかけた切っても切れない因縁のある相手である。

 尾崎の勘では、初号機にあった意思は間違いなく、あの時シンジの精神内で出会った初号機の意思の方だ。碇ユイではない。

「前々からあの部署がヤバいっていうのは聞いてたわ。ヤバイってだけで済まさずきちんと査定してればこんなことにはならなかった…。私達の落ち度だわ。」

 事件を聞いた音無は気を落とす。

「…それで、どうするんだ?」

「とにかく初号機を見つけ出さないことには話が進まないわ。これ以上の犠牲を出さないためにもね。」

「そうか。」

「はあ……。」

 音無は大きくため息を吐いた。

 基地の破壊、そして自分達の落ち度による被害。様々要因によるものだ。

「ツムグもツムグよ。あいつ何か隠してるのは間違いないのに喋らないし、こんなことになることだって知ってたはずなのに。」

「ツムグだって万能じゃないんだ。死は回避できないって前々から聞いてるしな。」

「だからって隠してる素振りを見せる要因にはならないわよ。絶対わざとよ。」

「…ツムグってそういう処があるよな。」

「あいつは周りのことなんてまったく考えてないのよ絶対!」

 音無は、ガーッと怒りだした。

「み、美雪…。」

「あのバカ、そうやって周りを翻弄して何が楽しいのよ! ほんとにもう! どれだけ絞めてもまったく治りゃしない!」

「お、落ち着け…、落ち着けって…。」

「こっちの信頼を無下にするようなことして、本当に、もう!」

 音無の怒りは、しばらく続いた。

 尾崎もツムグの行動の矛盾については、思う処はある。

 しかしツムグの考えは、尾崎の力をもってしても分からない。

 科学研究部でのツムグに関する研究では、細胞が持つエネルギー量が怪獣レベルなため超能力のレベルもミュータントと比較にならないほど高く、カイザーの尾崎ですらも太刀打ちできないほどである。

 ツムグのこの高い能力を次世代に繋げられないのがネックなのだが、これ以上厄介なツムグその2、その3とかが増えたら大混乱になりかねない。下手すると最悪の敵が出来上がってしまうかもしれないのでツムグのクローン計画については、そういう理由もあって挫折した。

「ハー、ハー…。」

「落ち着いたか?」

「ええ、なんとか…。少しすっきりしたわ。」

「そうか。」

「それにしても、あいつ絶対知ってたわよ。」

「またツムグのことか?」

「そうよ。こうなること分かってて放っておいたんじゃないかしら?」

「まさか……、いやあり得るか。」

 ツムグが何かを企んでいるのは間違いない。だがその目的のために初号機を野放しにしたのだ。恐らく脱走することも計算の内だろう。

「……愚痴ってもツムグは口を割るわけないし、目の前のことを片付けることが先決ね。ごめんね、話に付き合ってもらっちゃって。」

「俺でよければいつでも。」

 苦笑いを浮かべる音無に、尾崎は笑って答えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 初号機が原因で起こったと思われる小さな集落の壊滅事件を受け、責任問題を問われた科学部は、初号機の捜索と同時に、初号機の抹殺を掲げた。

 エヴァンゲリオンが使徒のコピーであることは、赤木リツコからの情報開示により判明しており、また村神の発案による使徒マトリエルのコアのコピーと、フランケンシュタインの血液の使用による変異が考えられたため完全な抹殺の意見が多数を占めた。

 そこで挙げられたのが、ディメンション・タイド(ブラックホール砲)の使用である。

 使徒の脅威は、これまでの戦いで分かっているので使徒のコピーにどんな能力が備わっているか分からない以上、多少の犠牲は覚悟で完全消滅が妥当だとしたのだ。

 ディメンション・タイドは、過去にゴジラを抹殺するために開発された兵器だが、実験の過程で時空に亀裂が入り、そこからメガギラスが出てきてしまったという曰く付きの代物でもあった。

 また同じことが起きないという保証はどこにもない、だが完全に、細胞ひとつ残さず消し去るにはもっとも適切な兵器だという意見とで割れた。

 ディメンション・タイドの使用に際し、もしも初号機が使徒イロウルのように群体化していた場合に備える必要性があるという意見も上がった。

 あとフランケンシュタインの再生能力が備わっている可能性もあるため、やはり完全消滅の方向でという流れになりつつあった。

「ディメンション・タイドを使えば、椎堂ツムグを殺せそうなんですけどね…。」

 会議が終わった後、そんなことを呟く若い科学者がいた。

「そんなこととっくの昔にやっているぞ。」

 ディメンション・タイド使用後、半日で帰ってきた。無傷で。っというのが、ツムグにディメンション・タイドを使った結果だった。

 なんで、どうやって帰ってこれたかについては、気が付いたら帰ってきていたという、本人にも分からないという結論である。

「奴はどれだけ不死身なんですか!?」

「完璧な生命なんてもんはない。必ず死なす方法はあるはずだ。それを探すのが俺達の仕事だぞ。」

「ゴジラがいる今、機龍フィアの操縦者がいなくなったら困りますけどもね。」

「技術部はさっさと新しい操縦者を選定しろつーの。」

 それができたら苦労はしません(※技術部談)。

 

 ところで、なぜ今まで使徒の襲来時にディメンション・タイドを使用しなかったのか。

 その疑問に答えるとすると、過去にこれがメガギラスの襲来に繋がり、かつゴジラを葬れなかったなどの理由から倉庫に封印されていたのである。

 埃をかぶっていたのを、カヲルの襲撃で崩壊した基地の整頓をしていて発見したため、存在を忘れかけていた科学者達はディメンション・タイドの封印を解くに至ったのである。

 使徒の撃退に用いられなかったのは、ディメンション・タイドが使用された当時を知る古参の科学者達がメガギラスの再登場や、それ以外の新たな怪獣を呼び寄せる可能性を危惧したことと、機龍フィアの実戦投入とミュータント兵士の戦力投入などの企画が先取りされたなどが理由となるだろう。

 使徒に通用するのかはまあ、別にしてディメンション・タイドを使用する機会がなかったのだ。

 今回の初号機の脱走と被害、その後の最悪な展開が要される今、主力の基地を破壊され、主力の戦力も乏しい今、ディメンション・タイドの使用に踏み切ったのである。

 

 こうして初号機の抹殺のための準備が整いつつあった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「寮の方も火災の危険があるかないか点検が必要だから、それが終わるまで仮設テントで過ごしてもらいたい。」

「分かりました。」

「碇君と一緒がいい。」

「綾波。」

 基地の破壊のため、住み込みで働いていた者達が住んでいた寮の方も危ないと判断された。

 一見すると他よりは被害がなかったため無事そうだが、念のため電気系統やガス系統などの点検が行われることになり、そこで住んでいた者達は少しの間仮設テントでの生活を余儀なくされた。

 寮生活では、別々の部屋を与えられていたシンジとレイだが、レイはこれをチャンスとばかりにシンジと一緒に仮設テントで住みたいと言って来た。

 あれだけの悲劇の後だというのに“ここ”だけささやかな幸せオーラが出ている。

「……。」

 二人に仮設テント暮らしを告げに来た寮長(男)は、シンジとレイが放つ小さなイチャイチャハートをぶつけられて、なんともいえない状態になっていた。

「…あー、彼女欲しい…。」

 っと二人に聞こえない小声で呟いたとか。若干涙目で。

 

 

「いーよなー、あんなカワイイ彼女いて。」

「なんで俺らって女と縁がないんだろ?」

「知るかよそんなこと。」

「あー、羨ましい。」

 

 

「……聞こえてるんだけどな…。」

「どうしたの碇君?」

「なんでもない。」

 周りから聞こえてくる羨む声に、シンジは、若干赤面しつつレイになんでもないと首を振った。

 よくよく考えたらかなりの勢いでいった告白劇だったなっと、シンジは、ふり返る。

 レイが人間じゃないと分かった後の勢いで自分がレイが好きだと告白した後、それほど時間をおかずレイからOKをもらった。

 人間であろうとなかろうと、彼女が好きだった。その気持ちを伝えようとしたらつい出てきてしまったのが告白の言葉だった。

 その気恥ずかしさで一見素っ気なく立ち去ってしまったのである。勢いって怖い。

 そんな裏話があるのだが恥かしくてとてもじゃないが人には言えないとシンジは、墓までもっていこうと決意した。……ツムグにだけ筒抜けなのだが、絶対(※念押し)に内緒である。

「シンジ君、レイちゃん、炊き出しの時間だ、手伝ってくれるかい。」

「あ、はい。分かりました。」

「はい。」

 二人を呼びに来た職員についていく二人。

 基地の復旧で毎日働いている作業員達や地球防衛軍の隊員達や職員達に食事を提供しなければならない。

 とにかく人が足りないので手が空いている文系職員もかり出されるほどだ。

「今日の昼飯はなんだい?」

「牛とじ丼です。」

「やり! 牛肉だ! やっほう!」

 プラスチックの器に盛られた牛とじ丼(牛丼の卵とじ版)を配っていく。

 ヘトヘトに働いている作業員達は、すぐさまがっつく。

「はあ…、終わった。」

 終わったのは昼過ぎ。約3時ぐらい。最近はだいたいこんな感じだ。

「お疲れー。お昼ご飯、どうぞー。」

「ありがとうございます。」

「はい、レイちゃんは、肉なしね。」

「はい。」

 レイだけ牛肉を除いた卵とタマネギだけの丼を受け取る。

 二人並んで座り、遅い昼食をとる。

「美味しいね。」

「美味しい。」

 疲れた体に甘辛い味付けが染み渡る。

「…おかわり欲しい。」

「残ってたらいいね。」

 おかわりを取りに行くレイを、シンジが見送った。

 しばらくして戻ってきたレイは、おかわりの丼をかっこむ。細身の体からは想像もできない食欲である。これも全部M機関の食堂の職員達とシンジの頑張りの成果である。ところでレイは、肉を嫌っているのだが、状況が状況なので好き嫌いなく食べれるよう前々から特訓はしていた。なので最近では食べようと思えば食べれなくはない程度にまでは何とかなっている。現に牛とじ丼の肉がちょっと入ってても眉を寄せなくなった。

 しかし…。

 食べ過ぎた結果、もしも、レイがぽっちゃりになったら?

 だがしかし、シンジは例えそうなろうと愛せる自信はある。

 もしそうなった時のダイエットのシュミレートまでしちゃったぐらいだ。だがシンジの心配を他所にレイは、太る気配はない。もしかしたら痩せの大食い体質なのかもしれない。

「お腹いっぱい。」

「そう、よかったね。」

 二杯食べて今日は終わった。

「……。」

 レイが腹部を気にしていた。

「どうしたの? お腹痛いの?」

「朝から、なんだか違和感があるの…。」

 下腹部を撫でながらレイは答えた。

「お医者さんに診てもらう?」

「大丈夫……。!?」

「どうしたの? えっ…。」

 急に立ち上がったレイ。

 その足の間からツーッと赤い水滴が白い足を伝って垂れた。

「あ…、ああ…。」

「綾波!? け、怪我!? 怪我したの!? いつの間に。」

「ど、どうしよう…。なにこれ…。」

「と、ととととと、とにかく医者…。」

「あっ、シンジ君、レイちゃん、どうし…。」

「音無博士ーー!」

「きゃ、どうしたの!?」

「綾波が、綾波が…!!」

「落ち着いて、何があったの? って、レイちゃん!? それ…。」

 通りがかった音無に縋りつくシンジを落ち着かせようとした音無は、レイの足を伝って垂れている赤い液体を見て驚いた。

「とりあえず医療テントに行きましょう!」

「綾波が、綾波が…。」

「落ち着きなさい!」

「ひぅ! ひゃ、は、はい!」

 慌てて焦って混乱しているシンジに喝を入れて落ち着かせた音無だった。

 

 そしてレイを医者の所に連れて行った。

 

 医療チームがいるテントから音無が出てきた。

「綾波は大丈夫なんですか!」

「えっと…、なんというか…。」

「悪いんですか!?」

「違う。違うのよ。むしろおめでたいことなの。」

「はい?」

 出血したことがおめでたいとはどういうことなのか、男であるシンジには分からなかった。

「あのね……、レイちゃんは、体質的に普通じゃなかったのよ。」

「はい…。」

「そのひとつが、あの子……、月経がなかったことなのよ。」

「げっけい? ……あっ。」

 保健体育の授業は受けているので賢いシンジは察した。

「そう。月経…初経が来たのよ。レイちゃんに。つまり、赤ちゃんが作れるようなったのよ。」

「あ、赤ちゃん…!」

 シンジは、ボンッと顔を赤くした。

 経験はないが、意味が分からないほど子供ではない。

「今日は、お赤飯ね。」

 大変喜ばしいことだと、音無は笑って手を叩いた。

 すると、ソロソロとテントからレイが顔を出した。

「音無博士…。」

「おめでとう、レイちゃん。」

「碇君…。」

「えっと…、その…、なんて言ったらいいのかな?」

 顔を真っ赤にしているシンジは、モジモジしていた。

 すると。

「私、碇君の赤ちゃん欲しい。」

「ぶほぉ!」

 笑顔で言ったレイの直球発言にシンジは、思いっきりふいた。

「あらあら。」

 咳き込むシンジとポカンッとしているレイを見て、音無は失笑した。

 ツムグの体細胞の活性化による効果なのか、レイは初経を迎え、子供が作れる体になったようだ。

 それを祝って今日の夕飯はお赤飯となった。ちなみにレイは赤飯を大変気に入った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おめでとう、レイちゃん。」

 ツムグは、機龍フィアの操縦席の中でくつろぎながら、遠く離れた位置にいるレイに向けて言った。

『ツムグー、どうしたの?』

「ちょっとおめでたいことがあってね。』

『ふ~ん。』

「生まれて育って、死んで、また生まれて。なんだかそれが嬉しいんだ。」

 ツムグは、独り言を言う。

 目をつむれば数多の小さな光の粒が脳裏に浮かぶ。

 それが新しい命だと分かる。ずっと昔から視ていた数多のこれから生まれ来る命の粒だ。

「それにしても、音無博士は気付いてないのかねぇ…。」

『なにがなにが?』

「いや、こっちの話。ああ見えて鈍いとこあるからさぁ…。過労で負担がかからなきゃいいけど。」

『音無博士がどうしたの?』

「ここでの話は内緒だよ。」

『分かった。内緒。』

 ふぃあからの了承を得た後、ツムグは、操縦席に深く座り直した。

「さて………、ここからどーなるのかな?」

 アダムとリリス以外の使徒が死んだ。

 リリスは、魂を失ったまま。アダムは、ツムグの腹の中。

 復活した初号機はいまだ見つからないがあれを使徒と定義すれば、まだ使徒は残っていることになる。

 ゴジラが残るリリスとエヴァンゲリオンを破壊すべく第三新東京を目指すのか。

 はたまた……。

「あー、どうなるのかな、これ…。」

 ツムグは、頭を抱えた。

 頭を抱えて唸っていたツムグだったが、ふと止まった。

「……マジか。」

 脳内に浮かんだ自らの予知に、困惑の声を漏らす。

「あのおじいちゃん達、そーくるか…。もうゴジラさんしか見えてないんだね。」

 ゼーレがすでに人類補完計画を放棄して、ゴジラを何が何でもどうにかしたいというのをツムグは、読み取った。

 ゴジラさえいなければ、ゴジラを葬らなければという思考が彼らを縛ったのだろう。

「あの女の子のことも忘れてた。」

 ゼーレが人類補完計画の依代として選んだ少女、アスカ・ラングレーのことを素で忘れていた。

「あの子のことどーするかな…。殺すわけにはいかないし、かと言って…。」

 ツムグは、自分の目的を思い出す。

「とりあえず、様子見だな。」

 ツムグは、そう結論付けてニヤリと笑った。

 

 ツムグは、自らが死ぬという目的のために黙っておくことにした。

 

 そして地球防衛軍管轄にある病院から、アスカ・ラングレーが拉致された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 マヤの悲鳴が木霊した。

 ネルフの職員が駆けつけた時。

 そこにあったのは、何かに食い荒らされ、骨に肉が辛うじて残っているエヴァンゲリオン零号機の残骸だった。

 駆けつけたリツコは、マヤを慰めながら零号機を見る。

 MAGIの目を掻い潜って何かが零号機を喰らったのは間違いないが、リツコには心当たりがない。

 ネルフは、無駄に広い。なのでまだ犯人が潜んでいる可能性は十分ある。

 リツコはすぐに地球防衛軍にこのことを伝えた。

 地球防衛軍からの回答は、エヴァンゲリオン初号機から復元された何かが脱走したことと、小さな集落がソレの犯行で全滅しているため現在捜索中だということだった。

 初号機と聞いて、間違いなくソレが犯人だとリツコは感じた。

 そしてハッとする。零号機以外のエヴァンゲリオンが無事であるかと、そして地下深くにあるリリスはと。

 すぐに確認する。

 リリスは、無事だ。

 弐号機も無事だった。

 リツコは、すぐに地球防衛軍に初号機がネルフ内部に潜んでいる可能性を報告し、残るエヴァンゲリオン弐号機を喰われないように外へ出すことを提案。またリリスの保護を依頼した(リリスは地下に磔にされているので出せない)。

 地球防衛軍は、ネルフ内部の職員の避難勧告を出し、初号機の捜索隊がネルフに向かった。

 ディメンション・タイドをネルフに使用する計画についても練られ、リツコにそのことを伝え、実施されればMAGIが失われることを伝えた。

「背に腹は代えられないわね。」

 リツコは、溜息を吐きつつ了承した。

 そしてひっそりと、MAGIにある母親の人格に別れを告げた。

「まさか“彼女”が…?」

「それはないと思いますわ。」

 冬月の呟きにリツコがきっぱりと言った。

「はっきりと言うね。」

「コアを潰された時点で碇ユイは間違いなく死にました。恐らく今いる初号機(?)は、まったく違う生命体でしょう。」

「…それは間違いないのかね?」

「変な希望は持たないことです。」

「…それもそうだが…、中々捨てられんよ。」

 碇ユイに対する想いはそう簡単には捨てきれるものではない。ゲンドウほどではないにしろ。

「君は、もうゲンドウには未練はないのかね?」

「ありませんわ。」

 これまたきっぱりとリツコは言った。

「はは……、女性は強いのだな。」

「男は女から生まれるのですよ。」

 参ったなぁと額を押さえる冬月に、リツコは、フッと笑って答えた。

 

 

 

 

 ネルフから避難する際、職員達が『クスクス』っと笑う子供の声を聞いたとか聞かなかったとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ネルフは、ゲンドウがいなくなった後、冬月が形だけの総司令をしています。
 ゲンドウには、もう未練の欠片もないリツコさんでした。

 動き出したゼーレと、零号機を喰った初号機。
 物語ももう終盤です。
 ここからどーするか……、悩みに悩んでます。使徒がいた時は戦闘で文字数を稼げたから楽だったんだなと…。なんであんなにあっさり終わらせちゃったんだろと後悔しています。

 レイの体質も変化して、赤ちゃんが作れる体になりました。もう完全に人間ですね。


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過去話  椎堂ツムグ

 試験的に書いてみました。
 ツムグの過去話というか、序章までの大まかな流れみたいなものです。

 色々矛盾があるかと思いますが、ここがおかしいと思ったら教えていただけると助かります。


 

 

 

 

 

 

 

 世紀の大発見だと、当時の学者達は言った。

 

 G細胞を取り込みながら、人間の形を保っている人間が発見されたのだ。

 

 G細胞の研究を行っていた当時の科学者達はこぞって彼の体を調べさせてほしいと懇願した。

 

 地球防衛軍に保護されている彼は、いまだになのに喋る気配はない。

 

 身元確認のため身体特徴や現場に残っていた物から調査がされたが、一向に成果は得られていない。

 

 赤毛に金色が混じった独特の色合いの髪の毛を抜けば、完全な人間の形をしており、顔の特徴は日本人っぽい。

 

 中肉中背で、髪の毛以外に大きな特徴がなく、黒い瞳もまあ普通…である。

 

 しかしどこの誰なのかがわからない。

 

 彼が発見された現場も、ゴジラと怪獣による破壊が凄まじく身元の確認に使えそうなものはなかった。

 

 なにせ彼以外に生存者がいない酷い有様だったから。

 

 発見された状況から、G細胞が混じって蘇生した人間ではないかという推測もあがった。

 

 血塗れで裸だったこと、周りに致死量以上の血が流れていたこと、内臓などからしか出ない体液も飛び散っていたことなどがあげられる。

 

 結局どこの誰なのか分からないまま、せめて彼自身の口から何か語られれば何かわかるかもと待つこと約十日後。

 

 ゴジラが再び日本に上陸した時、初めて彼が口を開いた。

 

「………ゴジラ…、さん。」

 

 しかも笑って。

 

 そこからは早かった。

 

 結局、彼自身、自分が何者なのかという記憶がなく、なぜ第一声があれ(※ゴジラをさん付けしたこと)だったことについてもほとんど無意識だったらしい。

 

 ただゴジラの話題を出すと笑う。なぜか嬉しそうに。それ以外のことだと表情が乏しいのに…。

 

 ゴジラを畏怖している者達は、彼のその様に異常性を感じずにいわれなかった。

 

 その異常性は間もなく発揮された。

 

 ゴジラが遠い地で人里に上陸すると、厳重な扉を熱線で破壊して出ていこうとしたのである。

 

 手から熱線を放つことから人間ではなく怪獣なのではという声が飛び、逃げ出そうとした際に死傷者を出したとして射殺命令が下った。

 

 だが、いくら弾丸を撃ち込んでも死なず、瞬く間に傷が癒えた。

 

 結局、『もういいや』っと言って出ていくのを諦めた。

 

 ゴジラに対する尊敬にも似た念と、異常な再生能力などの人間にはない能力。

 

 形こそ人間だが、人間という定義で収まるものではなかった。

 

 保護から監視に変わるのにそう時間はかからなかった。

 

 様々な実験にかり出されるのも。

 

 多くの研究者がこぞって彼を研究した。

 

 G細胞の平和的利用のために。己の欲望のために。

 

 しかし……。

 

 調べれば調べるほど分かったことは、彼の細胞は、ゴジラと同じように本人の遺伝子に依存しており、体内に注入されると怪獣化はしないが全身の細胞が超健康になる代わりに即死してしまう。

 

 そしてクローンを作ろうとしても、形にすらならず、そこに命が宿らない。

 

 子供を作らせようとしてもなぜかうまくいかない。彼の体は、常人よりも健康体であるにもかかわらずだ。

 

 放射能を受けても中和するが、周囲の放射能を吸着するわけじゃない。

 

 あるのは、異常な再生能力。心臓を潰しても、頭を潰しても、こま切れにされても、全身を業火で焼かれても、水に沈めても、毒を盛られても、彼は死ななかった。

 

 彼の細胞の平和的利用は、早々に諦められ、欲望のために利用しようとしていた者達ですら匙を投げた。

 

 それほどまでに使い道が見つからなかったのである。

 

 閉じ込められ監視されるにとどまった彼は、G細胞完全適応者と呼ばれる一方で、人間名として“椎堂ツムグ”という名を与えられることになった。

 

 椎堂ツムグという名前は、彼が発見された現場にあった看板などの破片から取って繋げた名前で本名ではない。

 

 時を経るごとに椎堂ツムグは、口数が多くなり表情も豊かになっていった。

 

 そうなると彼は、異常で強力な超能力を発揮し、頻繁に脱走するようなった。

 

 そして脱走するたびに戻ってきた。

 

 悪戯をするようなった。

 

 どんな過酷な実験にも、自分自身を抹殺しようとする動きにもヘラヘラ笑って応対した。しかし何をしても椎堂ツムグは、死ぬことはなかった。

 

 ゴジラを始めとした怪獣達との戦いは激化し、人間側が不利になり始めると。

 

 預言を口にするようなった。

 

 最初こそ無視していたが、その的中率は極めて高く、言う通りにすれば有利に事が進められた。

 

 しかし不吉な預言もあり、それはどう足掻いても回避できなかった。

 

 やがて椎堂ツムグへの信頼を寄せる者達が現れ始め、ツムグは、戦いの完全なる裏で人類を支え始めるようなった。

 

 しかしゴジラへの対する崇拝に似た態度は相変わらずで、椎堂ツムグがゴジラ側に回り、敵になる可能性が揶揄された。

 

 椎堂ツムグへの信頼を寄せる者がいる一方で、彼の存在を良く思わない者達が多数を占めた。

 

 それでも椎堂ツムグは、マイペースに周りを引っ掻き回したり、ヘラヘラと自分に降りかかる残酷な仕打ちにを受け止める日々を送っていた。

 

 そしてある日のこと、彼は、一人の軍人の女性に出会う。

 

 椎堂ツムグは、微笑み。

 

「初めまして、波川玲子さん。」

 

 自己紹介も無しに彼女の名前を言い、相手を驚かせた。

 

「あなたが“椎堂ツムグ”…。」

 

「そうだよ。ところでずいぶん面白いことを始めようとしてるんだね?」

 

「! 私は何もしゃべっていません。」

 

「メカゴジラ。」

 

「!」

 

「それに俺を材料として使いたいんでしょ? いいよ。好きに使って。」

 

「あなたはそれでいいのですか?」

 

「なにが?」

 

「材料にされるということが何を意味するのか…、あなたは分かっているのでしょう? それがどれほどの…。」

 

「今更だよ。」

 

「えっ?」

 

「今まで散々手足も首も胴体も切り刻まれたし、内臓だってひとつ残らず取られたり、血も全部抜かれた。毒もいっぱい盛られた。今更だよ。」

 

「…そうですか。」

 

「気にすることないよ。俺の使い道がやっと見つかったんだし、喜ぶべきなんじゃないかな?」

 

「…そうですか。」

 

「形が人間だからって気にする必要性なんてこれっぽっちもないんだから。」

 

「あなたは本当にそれでいいのですか?」

 

「ん~?」

 

「あなたの預言で救われた命は沢山あります。あなたのことを信じる者達がいるというのに…。」

 

「これだけは言っておくよ。波川さん。俺は、好き好んで人間を助けてみてるだけだから。その気にならないだけで、その気になればいつだって敵になれるんだ。それだけは忘れないで。」

 

「では、あなたが私達人間を嫌いにならないことを祈ります。」

 

「フフフ。波川さんって、将来大物になりそうだよね?」

 

「そんなことは…。」

 

「そんなことが起こるから面白いんだよ。でさ、いずれ出会うよ。」

 

「であう?」

 

「言わないでおく。」

 

「もったいぶらないでください。」

 

「そうでなきゃ面白くないじゃん。ネタバラシばっかじゃね。」

 

 椎堂ツムグは、クスクス笑い、波川玲子と対話をした。

 

 その後も、波川はちょくちょく椎堂ツムグと対話をすることになる。

 

 椎堂ツムグは、やがて彼女のことを“波川ちゃん”と呼ぶようになり、波川は、彼をツムグと呼ぶようになった。

 

 そして3式機龍の後継機に当たる、4式機龍の開発が始まった。

 

 3式と違い、ゴジラの骨を使わず、それに代わる素体としてツムグの骨髄細胞を使用するというこの計画によって、毎日ツムグは、脊髄を搾り取られることになった。

 

 毎日死ぬほど搾り取ってもすぐに治ってしまうのではっきり言ってなんぼでも取れる。

 

 なので実験の材料には困らなかったと、当時の開発者達は語る。

 

 だが搾り取る側は大変だ。どれだけ搾り取っても復活するとはいえ、毎日それをやらされていた者達は精神を病んだ。それほどに凄惨な現場であったのだ。

 

 ゴジラがスペースゴジラとの戦いの後、核エネルギーの暴走を起こし、そしてデストロイアが姿を現して戦いに発展した。

 

 メルトダウンによって溶け始めたゴジラを救ったのは、ツムグだった。

 

 監視の目から脱走していつの間にかゴジラの心臓に取りつき自らの回復能力をゴジラに受け渡した。

 

 これによりゴジラは、奇跡的な回復をし、ツムグを吐きだして海へと帰還した。

 

 この時、ツムグは、本当の意味で死にかけた。回復するはずの傷は回復せず、呼吸と鼓動が止まっていないのが奇跡的なドロドロの状態だったと当時の関係者は語る。

 

 回復には数年を要した。その間、ゴジラは全く姿を現さなかったという。

 

 ツムグは、回復した自分自身を見て、酷く落胆していたという。

 

 ほぼ同じ時期にゴジラが再び現れるようなり、他の怪獣達の動きも変わらずだった。

 

 変わったことと言えば、ゴジラ・ジュニアがいなくなったことだけだろう…。

 

 そしてセカンドインパクトが起こる20年前に、ゴジラは南極での戦いで氷の中に封印された。

 

 南極を指定したのは、ツムグの預言だった。

 

 南極でゴジラを封印する快挙を成した旧轟天号に乗っていた当時普通の兵士だったゴードンは、ゴジラを封印する一手を打った者として表彰され昇格した。

 

 その後、ゴードンが人類最強と謳われるほどの男になるのは、また別の話である。

 

 ゴジラが封印された後、ゴジラがいなくなったことで怪獣との戦いに関する負担が多少は軽減された。しかしゴジラが封印されてなお怪獣の活動は活発であった。

 

 そんな中、ツムグは、ゴジラの復活を予言した。

 

 そのための備えはすべきだと言い、それを信じた者達により4式機龍の開発と共にゴジラ復活に備えた。

 

 そして…、ゴジラが封印されて5年後、セカンドインパクトが起こった。

 

 地球の軸さえ狂わせる破壊は、最大の脅威であった怪獣達を消し去った。

 

 南極の消滅でゴジラは消息不明となり、怪獣達も消えたことで地球防衛軍は、その存在価値を失ったとしてゼーレにより解体された。

 

 しかしゴジラの復活の預言を信じた波川を始めとした同志達の手により、地下に潜伏したGフォースが4式機龍の開発の続行と対怪獣兵器の温存、セカンドインパクト以降から発生するようなったミュータントという新人類達をまとめた組織を結成して密かに新しい戦力として育て上げるなどいつ成就されるか分からない預言に備えた。

 

 その間ツムグは、表向きは国連軍の監視下に置かれ、人工進化研究所で研究素材として扱われることになった。

 

 やっぱりそこでも再生力と、不老不死なところを注目され、あんなことやこんなこと、様々な実験に付き合わされたが、ツムグは、別に気にしてなかった。そして結局、何の成果も得られなかった。

 

 人工進化研究所には、4式機龍の開発に携わっている隠れたGフォース隊員である科学者がおり、ツムグから抜き取った骨髄細胞を日々タンクに詰めて運び出していた。

 

 その甲斐あり、4式機龍・フィア型が完成した。

 

 そしてセカンドインパクトから15年後、ゴジラはついに復活を果たし人類の前に現れた。

 

 ゴジラの姿を見て、ツムグは、歓喜した。密かに。

 

 数十年という時間を、ツムグは、生き続けた。変わらない姿のまま。

 

 彼の心を占めるのは、間違いなくゴジラのことだろう。

 

 ……きっと、最後の時まで。

 

 

 

 

 

 




 ツムグの容姿は、中肉中背のフツメンです。
 髪の毛だけが派手(赤毛に金色が混じっている)ですが。
 作中であんまり表現してなかったのでここであげてみました。

 波川との出会いは、だいたいこんな感じです。司令官まで出世する前の波川です。

 キャラの過去話って難しいですね。


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第三十五話  量産機

 こんなに早く量産機を出してよかったんだろうか…。
 しかしこのままダラダラ話を長引かせられないし、急展開ですがそうしました。

 量産機が一体多く出ています。カヲルに倒されたオリキャラが宿っています。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球防衛軍の基地の復興は順調だった。

 一方で、ネルフ側の職員達の避難と、弐号機の運び出し、リリスの警護。

 ネルフ内部に侵入したと思われる初号機を探し出すため、捜索隊がだだ広いネルフ内部を捜索していた。だが一向に見つからない。

 なにせ入り組んでいるし、とにかく広い。

 迷子になる捜索隊員達もいて、ネルフ内部で遭難するという事件があったりして、捜索は難航した。

 運び出された弐号機は、かつての真紅の美しい姿は見る影もなく、薄さびれ、片腕がない有様だった。これをアスカが見たら発狂ものであろう。

 ゴジラがエヴァンゲリオンを狙うため、どこに運ぶかということで悩まされたが、機龍フィアが警護に着くことで解決。

 五号機の運び出しも決行されたが、保存液(?)から出したら下半身が無くなっていた。どう見ても零号機同様に食われてました状態だった。

 地下にあるリリスの運び出しも考えられたが、やはりデカイのと、磔にされているのと、地下深く過ぎるということで運び出し不可能だった。その代わりと言ってはなんだが、リリスのある地下に厳重な警備体制が敷かれた。運が良ければリリスを狙った初号機を見つけることができるかもしれないというのもある。

 

 とにかく初号機を見つけ出すことに躍起になっていため、彼らは気付かなかった。

 裏で動くゼーレに。

 そしてそれを黙認するツムグに。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「綾波、大丈夫?」

「うん…。」

 仮設テントの中で、横になっているレイに、シンジが声をかけた。

 初めての生理による生理痛が辛くて横になっているのだ。

「まだ薬効かない?」

「うん…。」

 痛み止めをもらって飲んだのだが、まだ効果がないらしい。

 辛そうなレイに、シンジは心配になった。病気ではないし、むしろ正常な事なのだが辛そうなのを見るのは辛い。

「碇君…。」

「なに?」

「手…、握って。」

「えっ。あ、ああ。分かった。」

 レイからのおねだりに一瞬シンジはびっくりしたが、すぐに持ち直し、レイの手を握った。

 レイの手はしっとりと汗ばんでいた。

 伝わってくる体温は間違いなく人間の物だ。レイが人間じゃなかった頃の冷たさはない。

「……。」

「綾波? どうかした?」

「碇君…。傍にいて。」

「傍にいるじゃないか。」

「違うの…。」

「なにが?」

 レイは、両手でシンジの手を握った。

 それはまるでこれから起こるかもしれない何かに怯えているかのように。

「怖い…。」

「何が怖いの?」

「分からない…。でも、怖い。」

 レイは、得体のしれない不安に怯えていた。

「大丈夫。僕は綾波の傍にいるよ。」

「私も、碇君の傍にいる。」

 レイを安心させようとシンジはそう言うと、レイはそう返答した。

「絶対離れない。」

「本当にどうしたの?」

「分からないけど…、碇君と離れ離れになりそうな気がして…。」

「大丈夫だよ。尾崎さん達もいるし…。」

「! 尾崎さん達も危ないかも!」

「えっ? ちょっ、綾波。」

「うぅ…。」

「ほら、無理しちゃダメだよ。」

 勢いよく起き上がったはいいが、すぐに力尽きてシンジにもたれかかってしまった。

「尾崎さん達は…無事?」

「それは、見に行かないと分からないけど。尾崎さん達に限ってそんなこと…。というか綾波、本当にどうしたの?」

「……声が…。」

「こえ?」

「“私”だった“わたし”が言うの…。みんな……、消えるって。」

「どういう意味?」

「ごめんなさい…。私ももう分からないの。前の“わたし”なら分かったかもしれないけれど。」

「前のわたし? 使徒が混じってた頃の?」

「私の魂は、人じゃなかった…。それはなんとなく覚えてる。私が人間になって、前の“わたし”はどこかに行っちゃった。前の私が言っている気がするの。ごめんなさい。意味が分からないわよね…。」

「分からないけど、とにかく良くないことが起こるかもしれないってことなんだろ?」

「うん…。」

「僕ら、みんなが消えるかもしれないって。」

「うん…。」

「本当にそんなことが起こるの?」

「…ごめんなさい。」

「なんで謝るのさ。」

「はっきりしなくてごめんなさい。」

「謝らなくていいよ。」

「怖い…。」

「前の綾波が言ってること、音無博士に言おうか?」

「…信じてもらえるかな。」

「きっと信じてくれるよ。」

 なにせヘラヘラしてるが的中率ほぼ100パーセントの預言者・椎堂ツムグを抱えた地球防衛軍だ。更にレイは、元々人間じゃなかったのもあり、信憑性はあると判断されるだろう。

「大丈夫かい?」

「あっ、尾崎さん。」

 仮設テントの入り口から尾崎が顔を覗かせた。

「美雪から聞いたよ。」

「あの尾崎さん。ちょっと話が…。」

「なんだい?」

 シンジは、レイから聞いた話を尾崎に話した。

 それを聞いた尾崎は眉を寄せた。

「レイちゃん、本当なのかい?」

「…たぶん。はっきりしなくてごめんなさい。」

「いやいいんだ。俺もなんとなく悪い予感がしていたんだ。」

「尾崎さんも?」

「俺の悪い予感はよく当たるのさ…。」

 尾崎は遠い目をして言った。

「美雪に伝えておくよ。」

「お願いします。」

「…お願いします。」

 尾崎は去っていった。

「碇君…、やっぱり怖い。」

「不安な気持ちはそう簡単には拭えないよ。僕が傍にいるからさ。」

「うん…。碇君と一緒にずっといたい。」

「…僕もだよ。」

 二人はお互いが大切なことを再認識した。

 

 と、その時。

 

「な!? なんだ!?」

 大きな地響きがきた。

 シンジが慌てて外へ出ると、遠くに何かがいるのが見えた。

 大きい。基地に残った建物の大きさと比べてみて、たぶん80メートルはありそうだ。

 白くて…、背中に大きな翼があるヒト型の何かがそこにいた。

「なんだよ、あれ?」

 シンジが呆然としていると、ソレは翼を背中に吸い込むように収納し、甲高い声で咆哮した。その頭は長く大きく裂けた口があり、目や鼻や耳などはない、頭だけ見たら人間ではない。例えるなら目のないウナギだ。

「シンジ君、綾波さん!」

「寮長さん!」

「逃げるんだ!」

 駆けてきた寮長がすぐに避難するよう呼び掛けて来た。

「寮長さん、アレなんなんですか!?」

「俺に分かるわけないだろ! 怪獣でもないし、使徒かもしれない。クソッ、基地の戦力が手薄な時に!」

「あれは…。」

「綾波?」

「エヴァ…。」

「えっ?」

 レイは、白い巨人の正体を見破った。

 

 エヴァンゲリオン量産機。

 S2機関を持つ無人機である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『基地に白い巨人が襲来した! 機龍フィアは直ちに基地へ帰還し巨人を退けよ!』

「悪いけど、それはできないかも。」

『なんだと!?』

「だって…、空を見て。」

『なっ…!』

 空を見上げると、空を旋回する大きな翼を持つ白い巨人…エヴァンゲリオン量産機がいた。

 しかも9体。

『馬鹿な…、いつの間に!』

「やれやれ…。基地の方は尾崎に任せた方がいいかも。尾崎ならやれるよ。」

『おい、ま…。』

 ツムグは、通信を切った。

 そして空を見上げ、エヴァンゲリオン量産機達を見上げた。

 空を旋回していたエヴァンゲリオン量産機は、やがて地上へと舞い降りた。

 そして翼を背中に収納すると、手の持っている大ぶりの刃を握りしめ、機龍フィアを囲んだ。

「さあ…、始めようか。おじいちゃん達。」

 ツムグの言葉が合図だったかのようなタイミングで、エヴァンゲリオン量産機達が全方向からATフィールドを展開した。

 飛んできたATフィールドを機龍フィアは、尻尾を突き出して機体を高速回転させATフィールドを破壊した。

 回転し終えると、眼前に量産機の一体が大ぶりの刃を振り上げて飛び掛かってきていた。

 機龍フィアの頭部に刃が命中するもガキンッと弾かれ火花が散っただけで終わった。

 大ぶりの両刃の武器を片手に持ったまま四つん這いの形でエヴァンゲリオン量産機は、飛びのいて距離を取った。その様はバルディエルの動きに似ていた。

「甘いね。機龍フィアの装甲は、軟じゃないんだよ。」

 ツムグは、チッチッと人差し指を振った。

「しかも“コピー”じゃねぇ…。」

 ツムグは、エヴァンゲリオン量産機達が手にしている大ぶりの刃の正体を見破っていた。

「ま、いいや。遊んであげるよ。…時間稼ぎぐらいはしてあげるから。っお。」

 ツムグは意味深に笑う。だが次の瞬間に強い衝撃があった。

 横からエヴァンゲリオン量産機の一体からのドロップキックが頭に決まったのである。

 隙を突かれて機龍フィアが横に倒れる。

 そこへ畳みかけるように大ぶりの刃が振り下ろされるが、機龍フィアの口で刃の先端を受け止め防いだ。

「さっきのは効いた。中々やるね。」

『…ろす…。』

「うん?」

 遠くの基地から伝わってくる強烈な思念を感じ取った。

 

『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス! ジンルイホカンのジャマをスルモノはコロス!』

 

「…もしかしてヲルカ?」

 ツムグは、基地を襲撃した一体のエヴァンゲリオン量産機のダミープラグの人格が何者なのか見破った。

 無人のエヴァンゲリオン量産機を動かすダミープラグの素材自体はアダムからサルベージされたカヲルとヲルカと同じものが使用されているに違いない。そこに死んだヲルカが宿ってしまったのだろう。

「可哀想に…。」

 死んでなお人類補完計画に執着するヲルカの様に憐れみを感じた。

「尾崎ちゃんならヲルカのことに気付くよね。でも手加減したらダメだ。それじゃあ救われない。」

 機龍フィアを操作し、倒れている機龍フィアに跨っているエヴァンゲリオン量産機の首を掴んで放り投げた。

 機龍フィアの強力な握力で首を掴まれたためその量産機は首が曲がっちゃいけない方向にグニャッとなって地面に転がった。

「手加減しちゃダメなんだ。尾崎ちゃん。分かるよね?」

 機龍フィアを立たせながら、ツムグは、基地で量産機の一体と戦っているであろう尾崎に向けて言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 尾崎は眼前で暴れるエヴァンゲリオン量産機を見て、目を見開いていた。

「………ヲルカ…?」

 カヲルによって死を与えられたカヲルと同じ存在(※魂は別)の魂が目の前の異形の巨人に宿っていることに気付いた。

 伝わってくる思念は、ただひたすら人類補完計画を邪魔する者達への敵意に満ちていた。

 折角復興しつつあった基地がまたも破壊されていく光景を背景に、尾崎は戸惑った。

 ヲルカの記憶が尾崎の脳に流れ込んでくる。

 アダムからサルベージされた存在でありながら欠陥品の烙印を押され、急激な老化現象に苦しみ、後に生まれた渚カヲルがアダムの魂を持つ者として完成されたことに嫉妬し、けれど何もできない己を憎み、そこにゼーレの老人達から己が魂を救われる方法として人類補完計画を教えられた、自分が死ぬ前に人類補完計画が成されなければならないと時間を経るごとに執着していき、命を懸けてゼーレのために働いた、そしてカヲルに殺された、カヲルに敗北した悔しさと、人類補完計画を邪魔する者達への憎しみがエヴァンゲリオン量産機の一体に宿ったのだ。

「うぅ…。」

 自分のことのようにヲルカの苦しみが肉体に伝わり、尾崎は膝をつきかけた。

「でも…。」

 尾崎は、崩れそうなる膝を叩いて叱咤し、力強く地面を踏みしめた。

「負けるわけにはいかないんだ!」

 尾崎は飛んだ。

 建物を伝い、エヴァンゲリオン量産機の背中を目指す。そこにはダミープラグが搭載されたエントリープラグがある。それを破壊すれば止まるだろう。

 それに勘付いたエヴァンゲリオン量産機は、腕を振るい近くにある建物を破壊した。

「くっ! っっ!?」

 建物を破壊され、地面に落ちていく尾崎。

 そこへエヴァンゲリオン量産機がATフィールドを張って飛ばした。

 尾崎は自らもATフィールドを張って中和して防いだ。

 次の瞬間、エヴァンゲリオン量産機の左腕が切り落とされた。

 悲鳴あげるエヴァンゲリオン量産機は、左腕の切断面を押さえて悶えた。

「大佐!」

「よー、とんでもねー輩が来ちまったな。」

 ゴードンは、刀についた血を振り払いながら言った。

 そうこうしているうちにエヴァンゲリオン量産機の左腕が再生した。

「チッ…、この程度じゃダメか。何か決定的な一撃が必要そうだな。」

「決定的な一撃…。」

 ゴードンの近くに着地した尾崎は、何かないかと思案した。

 そして脳裏を…、月に突き刺さったロンギヌスの槍の姿が過った。

「……ゴードン大佐、すみません。時間稼ぎをお願いできますか?」

「何をする気だ?」

「決定的な一撃になるかもしれない武器を呼び寄せます。」

「なんだそりゃ…、ああ。」

 ゴードンは、すぐに察した。

 尾崎は、にっこりと笑い。そして気を引き締めるために頬を両手で叩き意識を集中するべく目を閉じた。

 ゴードンは、刀を握り直し、エヴァンゲリオン量産機を見据えた。

『コ、ロス!』

「やれるもんならやってみやがれ!」

 エヴァンゲリオン量産機の懐に飛び込んだゴードンに刀の閃光がエヴァンゲリオン量産機の足を切断した。

『ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!』

「とろいぜ。」

 迫って来るエヴァンゲリオン量産機の手を軽々と避け、その手も切り落とし、すぐに再生するがすぐに切るというのを繰り返した。

 ゴードンがエヴァンゲリオン量産機の相手をしている間に、尾崎は念じていた。

 来い、と。

 月にあるロンギヌスの槍に向けて。

 月の地表に突き刺さっているロンギヌスの槍がギチギチと震えながら徐々に抜けていく光景が脳裏に浮かんでいる。

 もうすぐ、もうすぐ…、来い!っと、尾崎は一層強く念じた。

 そしてついにロンギヌスの槍が月から離れ、地球へと向かった。

 空を見上げた尾崎は、両手を空へとかざした。

 そして、キッとエヴァンゲリオン量産機を見た。

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 両手を振り下ろすと同時に、空から飛来したロンギヌスの槍がエヴァンゲリオン量産機の体を貫いて地面に縫止めた。

 エヴァンゲリオン量産機が大きな断末魔の悲鳴を上げた。

『ギャアアアアアアアアアアアアアア、コ、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロ……ス……。ナゼだ…。ナゼ…、ジャマを…。』

「人類の未来は一つじゃない。」

『ジンルイホカンは……、ワタシのイノチが…、アアアアアア……。』

「…次に生まれ変わる時は、まともな人生を送れるといいな。」

 やがてエヴァンゲリオン量産機は、沈黙した。

 ヲルカの思念が消えたのを感じながら、尾崎は疲れた様子で両膝を突いた。

「終わった…。」

「お疲れ。」

 エヴァンゲリオン量産機の返り血を浴びた血塗れのゴードンが歩いてきた。

「まさかロンギヌスの槍をまた地球に戻すことになるとはな。」

「分かってます…。本当は月にそのままにしておけばよかったんですけど。」

「あとでまた月に投げとけ。」

「はい。……!?」

「なに!?」

 その時、沈黙していたエヴァンゲリオン量産機が動き出した。

 すでにヲルカの思念は宿っていない。だが動いている。

 再起動したエヴァンゲリオン量産機は、体に突き刺さっているロンギヌスの槍に手をかけ、引き抜こうとし始めた。

「ハっ! ダミープラグ!」

 エヴァンゲリオン量産機に積まれている自動操縦のためのプログラム、すなわちダミープラグがヲルカから解放されたことで独自に動き出したのだ。

 エヴァンゲリオン量産機は、ズルズルと自分の体からロンギヌスの槍を抜くと、ロンギヌスの槍を手にしたまま翼を展開した。

 そして飛び立った。

「ロンギヌスの槍が!」

「チっ! 敵の狙いはこれだったか! 尾崎、槍を呼べないのか!?」

「え、…えっと…。」

「無理か…。」

 その時、ゴードンの通信機が鳴った。

「あ? ああ…、そうか。行くぞ。」

「どこへ?」

「奴(エヴァンゲリオン量産機)の行く先だ。」

 通信機を懐に収めたゴードンは、尾崎を連れて轟天号へ向かった。

 

 

「よぉ。」

「風間! もういいのか?」

 轟天号が収まっているドッグに行く途中で風間と出会った。

「寝てられるか。」

「ムチャするなよ。」

「俺がいなくて誰が操縦桿握る?」

「いや…そりゃ代理が…。」

「あ?」

「な、なんでもない…。」

「とっとと行くぞ。」

 ゴードンが急かした。

「大佐、敵はどこへ?」

「第三新東京だ。」

「第三新東京に? なぜ?」

「分からねーよ。あれと同じのが9匹もいやがって、今機龍フィアが応戦してるらしいがどうも様子がおかしいらしい。」

「様子がおかしい? …っ。」

 尾崎の嫌な予感が強まった。

「ぼーっとするな、行くぞ!」

「は、はい!」

 尾崎は頭を振って気を持ち直しゴードン達を追って行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おじいちゃん達、いくらなんでも時間かけすぎだよ。」

 機龍フィアで、エヴァンゲリオン量産機達を相手にしているのだが、決定的な一撃を与えていないので一見すると戦いは膠着していた。最初に首を折ったエヴァンゲリオン量産機は、すでに復活している。

 機龍フィアの動きにたいする不信はすでに地球防衛軍やネルフにも伝わっているだろう。

 さっきからひっきりなしに通信機が鳴っている。

『ツムグーツムグー、どうして倒さないの?』

「んー。」

 ふぃあですら不信がっている。

「待ってるんだよ。」

 ツムグは、微笑む。

『何を?』

「でも全然来ないんだよね。」

『だから何を?』

「サードインパクトさ。」

『えっ?』

 

 その時、低空飛行してくるボロボロのエヴァンゲリオン量産機が、機龍フィアの頭上スレスレの位置を高速で横切った。

 その手に持つ、ロンギヌスの槍が離され、横たわっている弐号機のすぐ横に突き刺さった。

 そのエヴァンゲリオン量産機は、まるで役目を終えたかのように地面に激突し、転がりながら石化していきやがて崩れ落ちた。

 すると弐号機の右手がロンギヌスの槍を掴んだ。

 ギシリッと音を立ててゆっくりと立ち上がる弐号機を、機龍フィアに乗っているツムグは、見つめていた。

 エヴァンゲリオン量産機達が、急に翼を広げ飛び立ち、弐号機の周りに集合した。

 

『うふ…、ウフフフフフフフ…。』

 

 壊れた少女の笑い声が、弐号機から聞こえて来た。

 

 量産機の二体がロンギヌスの槍を手にする弐号機の横に並び、支えるように掴むと、翼を広げて弐号機と共に空へ浮遊した。他の量産機達も空へ舞い上がる。

「……。」

 それらすべての動きを、ツムグは、黙ったまま見送った。

 

 第三新東京に面した海の向こうから、ゴジラの雄叫びが聞こえて来た。

 

 

 

 

 

 




 果たして弐号機(アダムのコピー)でサードインパクトの儀式が行えるのか?
 本物のロンギヌスの槍があるので、一応は不完全ながらできるということにしました。
 そもそもゼーレの目的が人類補完ではなくなっているので、アダムもリリスもどーでもいい感じです。
 ツムグは、自分の目的のためにサードインパクトの儀式を阻止する気がないです。

 ヲルカは、死んでもゼーレに利用されてしまった哀れな存在です…。尾崎に本物のロンギヌスの槍を呼ばせるための餌にされました。


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第三十六話  サードインパクト

遅くなりました。
体調崩したり(インフルエンザとか)、なんやかんやあって執筆が遅れました。

展開早くてすみません…。変にだらだら伸ばせられないし、思いつきもしなかったのでこの展開です。
捏造しまくりです。


 

 

 

 

 

 弐号機を連れて空へ飛んだエヴァンゲリオン量産機達を、機龍フィアが見送るように見上げていた。

「何をやっているんだ、椎堂ツムグ!」

 ネルフの職員達の警護にまわっていた前線部隊が叫んだ。

 空へ舞い上がったエヴァンゲリオン量産機達は、弐号機を支えているのを除いて、奇妙な布陣を取り始めた。

 まるで何かの図形のようなその形。

 それがセフィロトの樹の形であることに気付く者は…。

「まさか、ゼーレは、儀式を強行しようというの!?」

 いた、リツコだ。

 するとエヴァンゲリオン量産機達から光が放たれ始め、弐号機を支えていたものが弐号機から離れていった、弐号機はなぜかそのまま空中に固定されており落ちることはなかった。

 量産機の光は、量産機同士を、そして弐号機を繋ぐように伸び、弐号機を中心としたセフィロトの形になった。

「儀式を止めさせないと…。機龍フィアと連絡は取れないの!?」

「ダメです、通信が閉じられていて繋がりません!」

 リツコが地球防衛軍の軍人達の間に割って入って叫ぶと、オペレーターがそう答えた。

「まさか、本当に彼は…。」

「何を知っている? 何が起ころうとしているんだ!」

「このままではサードインパクトが起こります!」

「なんだと!?」

「椎堂ツムグが、知らないはずがないのになぜ見送ろうとしているの!? 自分が死ぬことと関係があるというの!?」

 サードインパクトの発生を見守っているツムグの様子に、リツコはわけがわからないと叫ぶ。

 まさかこのまますべての人類もろとも自殺する気かとリツコが考え始めた、その時。

 

 凄まじい雄叫びとともに、白い熱線が飛んできた。

 

 九体のエヴァンゲリオン量産機達は、展開しているS2機関のエネルギーの向きを一点に集中し、極厚のATフィールドを張って熱線を防ぎきった。

 海から陸に上陸したゴジラが進撃してくる。

 機龍フィアの顔がゴジラの方に向いた。

 そして横にずれるようにゴジラに道を譲るかのようにその場から遠ざかっていく。

 ますます分からないツムグの行動。

 ツムグは、何を考え、何を狙っているのか。元々何を考えているのか分からないところが多いのだが今回ばかりは分からないで済ませられない。

 サードインパクトが発生しようとしているうえに、ゴジラまで来たというのに何もしないのだ。

 こんな時についに裏切りか!?っという声も上がる。

 ツムグが元々人間の味方としてはびみょ~な立ち位置ではあったが、ここに来て裏切りを起こしたのかと最悪の事態が想定された。

 しかしそうだとしても妙すぎる。なぜこのタイミング? そしてなぜサードインパクトを見送り、ゴジラまでもを見送ろうとしている。本気で人類を裏切ったのならサードインパクトを阻止しようとするゴジラすらも邪魔なはずだ。

 それともゴジラに味方したのだろうか?

「分からん!!」

 軍人の一人が頭を抱えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 進行していくサードインパクトの儀式を、ゴジラが見上げた。

 あれほどのこと(セカンドインパクト)をやっておいて、またも同じことをやるつもりかと怒りをあらわにする。

 ゴジラの背びれが赤く光った時、エヴァンゲリオン量産機の一体が大ぶりの刃をゴジラに向けて投げた。

 それはゴジラの眼前でロンギヌスの槍の形に変形した、ゴジラはそれを顔を横にずらして避けた。ロンギヌスの槍のコピーは、ゴジラの後ろに刺さった。

 そしてエヴァンゲリオン量産機達が、次々にロンギヌスの槍のコピーをゴジラに向けて投擲しだした。

 ゴジラは、フンッと鼻を鳴らし、体内熱線を放ってロンギヌスの槍のコピーを弾いた。四方八方、ゴジラを囲うようにロンギヌスの槍のコピーが地面に刺さる。体内熱線を喰らってもロンギヌスの槍のコピーは破壊できなかった。ゴジラが軽めの威力でやったためか、それともコピーとはいえロンギヌスの槍だからであろうか。

 ゴジラの背びれが赤く光りだす。

 すると。

 周囲にあるロンギヌスの槍のコピーから電流のような光が発生し、ゴジラを拘束するように纏わりついた。

 ゴジラの背びれの光が弱まっていき、ゴジラは、ロンギヌスの槍のコピーから発せられる光から逃れようともがきだした。

 ロンギヌスの槍のコピーがゴジラにどんな作用を発しているのかは不明だが、行動を妨害しているのは間違いない。

 ゴジラがもがいている隙に、宙に浮いている弐号機が、本物のロンギヌスの槍を持ち上げ、投げる体制を取った。

『アハ、ハ、ハハハハハハ! ヒヒ、イヒヒヒアヒャハハハハハ!』

 弐号機の中にいるアスカが狂った笑い声をあげる。

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』

 そして弐号機が本物のロンギヌスの槍をゴジラに投げ放った。

 ロンギヌスの槍は、真っ直ぐに、射抜いた。

 ゴジラの胸部を。

 ゴジラは、悲鳴を上げ、後ろにのけ反り倒れる。だが背中まで貫通したロンギヌスの槍がゴジラの体を支えた。

 ゴジラががくりと力なく体を垂れさせた。

 ネルフの警護にまわっていた防衛軍も、ネルフの職員達も、基地の司令部もシーンっと静まり返った。

 

「馬鹿な…、ゴジラが……。」

「あんなあっさりと…。」

 

 これまでの歴史の中で、そして今まで決して倒れることがなかったゴジラが、あっさりと一突きで倒れた。

 ぐったりと串刺しにされたまま動く気配がない。

 

 機龍フィアは、離れた場所で、ただそれを見守っていた。

 

 動かないゴジラだったが、数分置いて、その目に光が灯った。

 雄叫びを上げ、ロンギヌスの槍を引き抜こうと手をかける。

 するとセフィロトの樹の形を編成していたエヴァンゲリオン量産機達と弐号機が発する光が強まり、まるでそのエネルギーが流れ込むようにゴジラの周りにあるロンギヌスの槍のコピーから発せられる光が強まった。

 ゴジラが絶叫を上げもがく、すると周囲に液体のような物が飛び散った。

 

「うわ! なんだ!」

 

 地球防衛軍の部隊と、ネルフ職員達の方にも飛び散った液体(かなり遠く)。高温であるため湯気を発するその液体の匂いは…。

「これはLCL!?」

 湯気と共に鼻をつくその匂いは、血の匂いに似た香りを持つLCLだった。

「サードインパクトを起こすためのエネルギーをロンギヌスの槍を介してゴジラをLCLに還元させようとしているというの!?」

 リツコは、ゼーレの意図を読み取った。

 ゴジラには、アンチATフィールドがあるが、ロンギヌスの槍と比較したら弱い。とりわけ自身の体の形を保つためのATフィールドそのものはあるため、アンチATフィールドの力を増幅させられたら形を保てなくなるのだろう。だがゴジラの意思力の強さかすぐにはLCL化はしない。

 だが暴れるたびにLCLが飛び散っている。

 そして。

 

「うわああああ! 液体化したぞ!」

 突然地球防衛軍の部隊の人間が数名、LCL化してしまう現象が起こった。

 それはネルフ職員にも発生し、サードインパクトの余波がここだけじゃなく、世界各地で起こっていることを示していた。

「ツムグ! 椎堂ツムグ! 応答しろ! サードインパクトを止めるんだ!」

 通信機から必死に機龍フィアに向けて呼びかけるが、応答はない。

 機龍フィアは、変わらずこの状況を静観している。

「本部からの伝令! ディメンション・タイドの使用の許可が下りた!」

「! なら…。」

 狙うは、セフィロトの樹の形を編成しているエヴァンゲリオン量産機達と弐号機。

 それで止められるかは分からないが機龍フィアが動かない以上、それ以外に手がない。

 ディメンション・タイドの使用。つまりネルフ職員達や彼らの警護にまわっていた前線部隊を犠牲にすることだ。

 絶望したり、覚悟を決めたりと反応は様々だった。

 そしてディメンション・タイドの砲塔がセフィロトの樹へ向けられた。

「エネルギー充電完了!」

「照準システム準備完了!」

「いつでも撃てます!」

「----撃て!」

 ついに撃ち放たれたブラックホールの球体は、まっすぐセフィロトの樹へ飛んでいった。

 破裂する強大なエネルギー。

 小型のブラックホールは、セフィロトの樹を形成する光を吸い寄せ吸収し、ゴジラを拘束する光をも吸い込み始めた。

「ブラックホールがサードインパクトのエネルギーで相殺されているわ!」

 不完全なサードインパクトは、小型のブラックホールに相殺され、儀式を維持できなくなっているようだ。その証拠にセフィロトの樹の形を象っている光が消えかけており、支えられていた弐号機が今にも落ちそうになっていた。

 やがてブラックホールは、吸い込むのを止めた。弐号機とエヴァンゲリオン量産機達が力を無くしたように地面に落下した。

 だがその代わりにブラックホールは宙で留まり、光の塊となってそこに存在するようなった。

「なんだ? 今度は何が起こっている?」

「アンチATフィールドのエネルギーがブラックホールとプラマイゼロで膠着してしまったのかしら?」

 リツコは、持ってきていたノートパソコンでMAGIに繋ぎ、解析を開始した。

 サードインパクトが止まった隙に、拘束から逃れたゴジラが胸に刺さっていたロンギヌスの槍を掴んで引っこ抜いた。

 そして忌々しそうにロンギヌスの槍を投げ捨てると、光の塊の方を睨んだ。

 ゴジラに背びれが輝きだし、ゴジラが熱線を放とうとした。

 すると。

 

「ゴジラさん、ごめん。それは、ダメ。」

 

 機龍フィアの方の砲塔からミサイルが放たれ、ゴジラの背中に着弾してゴジラの熱線を阻止した。

 ゴジラが、ギロリッと機龍フィアの方を睨んだ。何のつもりだと言いたげに。

「あ、…危なかったわ。」

「今度はなんだ?」

「あのまま熱線を放たれてたら、あのエネルギーの塊が爆発して日本が消滅するほどの爆発が起こっていたとMAGIが解析したわ。」

「なんだと!?」

 胸をなでおろすリツコに、前線指揮官が叫んだ。

 恐らく爆発したとしてもゴジラだけは生き残れるので、ゴジラ的には爆発させたかったのだろう。

「なんてことだ、ディメンション・タイドが裏目に出たか!?」

「いいえ、むしろサードインパクトを止められただけ良しですわ。あのままエネルギーが自然に拡散するのを待てば…。」

 その時、MAGIが最大の警告を表示した。

「なに!? こ、これは…、まさか…。」

「なんだなんだ、今度は何が…、っ!?」

 その時、彼らが見た物は。

 

 光の塊の真下辺りから伸びてくる白い巨大な腕だった。

 

 その手は光を掴み、光はその手に吸収されていった。

 そしてズルズルという風に、生えてくる白い巨大な身体。

 全長は、100メートル近くあり、のっぺらぼうのように顔はなく、人の形をしていた。

 光が吸収し尽くされると、何もない頭部の形が変形し始め、それとともに全身の形が変わり始めた。

 

「あれは………、しょ、初号機!?」

 

 独特な鬼のような面構えに一本角。

 その容貌は、初号機そのものだった。

 しかし体の方は……。

「な、なんだあれは!?」

「あれは、使徒!? 今まで現れた使徒なのか!?」

 これまで出現して、倒されてきた使徒と思われる形が歪に形成され、初号機の頭部を頂点に、手足、胴体に他の使徒が生えているような異形の姿になっていった。なお、その中にはカヲルの姿だけはなかった。

 

『アハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 初号機の口が開き、幼い男の子のような声で笑い始めた。

 

『ついに、やった! やったよ! お兄ちゃん! やったよ! やっと復活できた!』

 

 初号機は、歪な両腕を振り上げて歓喜していた。

 

 

「やれやれ、やっとか…。」

『ツムグ…、どうして?』

「……。」

 ふぃあの不安げな問いかけに、ツムグは答えなかった。

 

 

「あれは、碇ユイじゃない…。」

「ならば、一体何者なんだね?」

「分かりませんわ…。」

 冬月の問いに、初号機の意思の存在を知らなかったリツコは、ただそう答えるしかできなかった。

「初号機はリリスを……。止められなかったのね。」

 リリスの警護にまわっていた地球防衛軍の部隊の生存は絶望的だろう。なにせ何の連絡もないからだ。

 結局、初号機がリリスに接触するのを止められなかったのだ。

 しかし不可解であった。

 初号機のリリスへの接近はMAGIが捉えていたはずだ。だがMAGIは、反応しなかった。

 まるで何かに妨害でもされていたのか……。っと、リツコが考えた時、ハッとリツコは、機龍フィアの方を見た。

「まさか、椎堂ツムグが!?」

「奴がどうした?」

「椎堂ツムグは、これを狙ってやっていたというの!? 初めから初号機を利用しようとして…。」

「だからなんなんだ!?」

「この非常事態は、すべて椎堂ツムグによって仕組まれたことだったのよ!」

「なんだって!」

「彼は、自分目的のためにすべてを巻き込んだ…!」

 

 死ぬために、そのために。

 世界の滅亡も、人が作ってしまった化け物の産物すらも利用したのだ。

 自分が、死ぬために。

 “死ぬ”ために。

 

『その通りだよ。』

 リツコのパソコンからツムグの声が流れた。

「椎堂…、ツムグ…!」

『全部…、ぜーんぶ、このためにやったんだよ。』

「あなたは世界を壊してまで自殺をする気!? これはもはや無理心中よ! そんなことこっちは願い下げだわ!」

『出る犠牲は…、遅かれ早かれ成就されていた“死”だよ。回避しようがない絶対的な“死”だった。まあもっとも、LCLってスープは、死んでるとは言えないかもね。』

「っ! 肉体を失い、自己を失うことは死と変わりないのよ! これから先何をする気!? 初号機は蘇った! リリスを取り込んで! もはやあれは世界に害をなす怪物よ! 神に等しき力を持った!」

『だろうね。』

「だろうねって…、あなた、この事態を分かって…。」

『知ってるよ。そうしたのは、俺だし。』

「ここまでしなければならなかったの!?」

『…そうだね。そうだよ。ずっと、待ってたんだ。この時を。』

『ツムグ。なんで? なんで?』

『ふぃあちゃん。言わなくたって分かってるでしょ? 俺がずっと死にたかったってこと。』

『ふぃあ、ツムグに死んでほしくないよ。』

『…それは聞けないよ。ごめんね。』

『…ツムグ。』

「………あなたの思い通りにはならないわ。」

『…ふーん?』

「見なさい。空を。」

『ん…。』

 リツコは、空を指さす。

 すると、轟天号が空を横切った。

『…知ってるよ。』

「たかが死ぬためだけにあなたの行為を許すほどこの世は甘くはないわ。すべてが思い通りになると思わないことね。」

『ぷ…、く、ははははははははは!』

 急にツムグが笑い出した。

 ひとしきり笑い、ヒーヒーとひきつけを起こすほど笑った。

『そうだね。そうだよね。そんなこと知ってるよ! でもこーでもしなきゃダメなんだよ! 俺が死ぬにはコレしか!』

「っ…。」

 リツコは、ツムグの狂気に顔を歪めた。

『いくら望んだって、いくら望まれたって、死ねない、死ぬことができない気持ちなんか誰にも分かるわけないからね!!』

 

 

『お兄ちゃーーん! 来てくれたんだね!』

 

 初号機の声が響き渡る。

 初号機が轟天号に向かって方向転換した時、背後でゴジラが動いた。

 周りを囲っていたロンギヌスの槍のコピーをどかし、真っ直ぐに初号機に向かって行った。

『…邪魔しないでよ?』

 初号機が後ろを振り向かず心底鬱陶しそうに言った。

 初号機の体から生えている今まで出てきた使徒達の体が動き出す。

 まずサキエルの形が動き出し、顔の目の部分が光ってビームを放った。

 爆発が起こるが爆風の中からゴジラがすぐに出てきて、初号機に迫る。

 次にラミエルが動き出し、荷電粒子砲が放たれるが、ゴジラは前に喰らったことがあるためか耐性を身に着けているのか腕を振っただけで弾き、初号機に掴みかかろうとした。

 サキエルの腕から光のパイルが放たれ、ゴジラの手を弾き、マトリエルの形が酸を吐いてゴジラに浴びせた。

 酸がゴジラの肌を焼くが、その程度で爛れはしない。すぐ再生する。

『邪魔だよ。』

 初号機が背中を向けたまま右腕を鞭のように振るい、ゴジラを殴打して弾き飛ばした。

 ゴジラは、すぐに着地し背びれを輝かせた。

 放たれた熱線によって初号機の周りで爆発が起こるが、爆風が晴れると、そこには…。

 一回り大きくなった初号機がいた。

『アハ、すっごいなぁ。コレ。美味しかったよ。』

 初号機は漲る力に歓喜したようだ。

 リリスを取り込んだことによる新たな力なのだろうか、ゴジラの放射熱線を吸収したようだ。

 大きくなった初号機を見てゴジラは不愉快そうに顔を歪めた。

『でも、邪魔しないでよぉ…。お兄ちゃんの所に行けないじゃないの。』

 初号機が初めて振り向く、それと同時にゼルエルの顔が生え、目からビームが放たれた。

 サキエルのビームと比べ物にならない破壊力は、第三新東京に大穴を開け、ゴジラは蟻地獄のように空いていく穴に足を取られ穴の中に吸い込まれていった。恐らくはネルフ本部の方に落ちたのだろう。

 ゴジラの姿がなくなった後、初号機の背中に複数のミサイルが着弾した。

 轟天号からの攻撃だった。

『お兄ちゃん、来てくれたんだね?』

 初号機は、上空にある轟天号を仰ぎ見た。

 

 

「初号機…。」

 轟天号の前の席で尾崎は汗をかいた。

 嫌な予感は的中してしまった。

 初号機は、人間の祖先である神を喰らい、神と同等の力を手に入れてしまった。

 相性が悪いはずのゴジラの熱線を吸収したのがいい例だ。

 他の使徒の力を手にした理由は不明だが、その力を自在に使えるというのは最悪だ。

『お兄ちゃん、見てよ、見て。僕は神になったんだ。これで世界は自由だよ。自由に変えられるんだよ。お兄ちゃんを一人ぼっちじゃなくしてあげられるよ? ぜーんぶ、変えてあげる。だから僕と…。』

「俺はそんなこと、望んでない。」

 轟天号の中で尾崎は初号機の言葉に返答をした。

『なんで! どうして!? お兄ちゃん一人ぼっちなんだよ? 世界で一人しかいないんだよ? だから僕がなんとかしてあげようと思って…、頑張ったのに…。』

「俺はそんなこと頼んでない。」

『なんで? なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?』

 初号機はひとしきり呟いた後、シュンッと項垂れ。

 やがて、震えながらクスクスと笑い出し。

『…変えちゃえばいいんだ。』

 何か一人で納得し、一人で答えを出した。

『全部、ぜんーぶ、変えちゃえばいいんだ。みんなが苦しむのは、心があるから、変えちゃえばいいんだ。お兄ちゃんが一人ぼっちなのはみんなが違うからだ。お兄ちゃんが僕と来てくれないのも。全部全部変えて、消えちゃえばいいんだ!』

 それは最悪の答え。

 初号機の背中から十数枚の光る羽のような物が発生した。

『楽しいことも、哀しいことも、辛いことも、嬉しいことも、痛いことも、苦しいことも、全部全部全部全部全部全部全部! 消してあげる!』

 初号機の翼が発光しだした。

「やめろ!」

 尾崎が叫ぶ。

「尾崎、撃て!」

 ゴードンが命令した。

 それと同時に尾崎はメーサー砲の発射スイッチを押した。

 轟天号のドリルの先端から放たれたメーサー砲は、真っ直ぐに初号機に向かった。

 だが眼前でATフィールドに阻まれ、防がれてしまった。

 初号機の羽だけじゃなく、全身が白い光を纏った。

 その光が膨れ上がり、第三新東京を包むように広がり始めた。

 一方、第三新東京の上に取り残されていたリツコ達が、半透明な光に包まれその場から消え去った。

 ツムグの超能力の力だった。

 リツコ達は、第三新東京から地球防衛軍基地の近くに転移させられた。

 ついでに、弐号機も基地の近くに転移させられていた。

「椎堂ツムグ…、本当に一体何を考えているの?」

 リツコは、ツムグの考えが読めず、ただそう呟くしかなかった。

 初号機を中心とした光は、第三新東京の特殊装甲板を消し去り、ネルフ本部を丸見えした。

 先に下に落ちていたゴジラからの熱線が再び飛んできた。

 前よりも強力な出力で放たれた熱線は、初号機が纏う光を拡散させた。

 光が消え丸見えになった初号機は、更に巨大化しており、ネルフ本部を踏み潰すように着地した。

 初号機はゴジラを見下ろす。

『邪魔するなって言っただろぉ!』

 巨大化したイスラフェルの両腕がゴジラに振り下ろされた。ゴジラは、それを後ろに飛ぶことで避けたが、横からゼルエルの腕が鞭のように振られて横に弾き飛ばされた。

 ゴジラの倍以上に巨大化した初号機の前に、ゴジラは翻弄されていた。

 目を血走らせ、怒りに震えるゴジラの背びれが赤く光る。

『ム・ダだよ。』

 初号機が笑う。

 ネルフの下。そこから黒い巨大な球体が浮上した。

 それは黒い月と呼ばれる、かつてリリスが乗ってきたものだった。

 それを受け止めた初号機の下半身が黒い月と同化を始める。

 黒い月をも取り込み肥大化した初号機下半身が、ばっくりと横に口を開けた。

 そこへゴジラが赤い熱線を放つが、吸い込まれていくだけで無駄に終わった。

 熱線を吐き続けるゴジラに初号機の下半身の口が迫った。

『ゴジラもおいでよ、一緒に新しい世界に連れてってあげる!』

 第三新東京を飲む込むほど巨大化した初号機の口に、ゴジラが飲み込まれた。

 

 大穴から上半身を出し、黒い月と一体化した下半身をごと浮遊させた初号機は、大きく口を開けて笑った。

 初号機の翼から放たれた光が空へ吸い込まれ、粒子となって世界中に降り注ぐ。

 粒子に触れた者達は、まるで魂がなくなったかのように倒れ伏したり力なくへたり込んだりした。

 

 サードインパクト…、いや、初号機によるフォースインパクトが始まろうとしていた。

 

 

 

 




ゼーレによる弐号機を使ったサードインパクトは、あくまでゴジラを抹殺するために起こしたことなので不完全です。
儀式自体が不完全だし弐号機は破損しているし、ゴジラの意思力も強固なのでLCL化で抹殺することはできませんでした。

リリスを喰って初号機が完全復活(?)しました。
尾崎に拒絶されて自棄を起こしてフォースインパクトを起こすに至りました。
喰われたゴジラについては、次回かな。


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第三十七話  デストロイア

勢いで書きました。書けるうちに書いておかないとまたスランプに陥りそうで。

今回は、初号機vs機龍フィアと轟天号ですかね。
というか、色々と混戦です。

そしてサブタイトルの名前に、初号機が…という内容です。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大化した初号機が浮かび上がり、人々から心を消し去る光をばらまきながら笑い声をあげていた。

「世界中に甚大な被害が広がっています!」

「このままでは…。」

「くそっ!」

 轟天号の武装では、初号機に傷一つ付けられない。

 このまま、初号機によるフォースインパクトを黙って見ていることしかできないのかと轟天号内で絶望の色が広がり始めた。

「っ……。」

 尾崎は目の前の計器を殴って、俯いていた。

「尾崎、おまえのせいじゃねぇ。」

「でも…。」

「あの野郎が勝手にやったことだ。…しかしまさか人間の心を消すって方法に打って出るとはな。しかもエネルギーを無尽蔵に吸収して巨大化しやがる。ゴジラの熱線を吸収にするようじゃこっちの武装じゃ打つ手がねぇ。肝心のゴジラも野郎に喰われちまうし…。」

 そうゴジラが初号機に丸呑みにされたのは、轟天号からも見えた。

 中から突き破ってくる様子もない。ゴジラを丸呑みにした初号機の下半身の黒い月の影響だろうか。使徒レリエルのように内部から破壊できないのだろうか。中の様子を知ろうにも無理だ。

 なんとか状況を打開する手立てはないかと考える。

 ゴジラが動けない今、何か手は…。

「ロンギヌスの槍はどうした?」

 ゴードンがふと思いついて言った。

 すぐに周囲を調べると、大きく空いた第三新東京の端に斜めに刺さっていた。

 なおコピーの方は折れて残骸になって散らばっている。初号機が第三新東京の特殊装甲板を破壊した時に破壊されたのだろう。

「あれは確かリリスとアダムの活動を止める保安装置だったな。だったら…。」

「そうか! それなら初号機の動きも止められるかもしれないと!」

 副艦長が言った。

 だがしかしと、ゴードンは、拳を握った。

 問題なのはロンギヌスの槍がある場所だ。

 浮遊している初号機のほぼ下にある。接触するかしないかギリギリの位置だ。

 つまりかなり接近しないと届かないのだ。

 ついでに言うとロンギヌスの槍を回収するにはやはり…。

「尾崎を単体で行かせるわけには…いかないですよね。」

「行かせたら忽ち初号機に喰われるに決まってるだろうが。」

 なにせ初号機は、尾崎に執着している。行かせたら真っ先に狙われるのは目に見えている。

 尾崎がロンギヌスの槍を使えることは分かっているが、その肝心の尾崎がやられてしまったらお終いだ。

 かと言って轟天号で近寄ったとして、相手はすでに数百メートルはあろうかという巨大さだ。下手に近づけば無残に叩き落されるか撃墜されるかだろう。とにかく近寄れない。近寄ることができない。

「…俺、行きます。」

「ダメだ。行かせられねぇ。」

「ですが!」

「おまえがやられたら終いだ!」

 

『援護しようか?』

 

 そこにツムグの声が響いた。

 モニターを見ると、機龍フィアが第三新東京の大穴の近くに立っていた。無傷である。

「っ、てめぇ…、今まで散々何もしなかったくせによぉ。」

『今動けるのは俺くらいしかいないよ。必要ないなら別に…。』

「誰がそんなこと言った、ああん!? こんなことになったのはおめーに原因があるって自覚あんのか!?」

『あるよ。こうなることは想定してたし。それで、援護は必要? いらない?』

「……いるに決まってるだろうが。」

『そうこなくっちゃ。』

 通信機の向こうでツムグが笑った気配があった。

 この非常事態を起こしたのは、椎堂ツムグだ。それは分かっている。

 だがツムグの力を借りなければ状況を打開できないのは事実。

 ツムグが何を考え、何をしようとしているのかは置いておくしかない。とにかく初号機を止めるためには手段は選んでいられない状況なのだ。やるしかない。

 機龍フィアが、ジェットを吹かし、舞い上がった。

 そして初号機の前に回り込む。すると初号機の目が機龍フィアを捉えた。

『な~に~?』

『邪魔しに来たんだよ~。』

 巨大化した初号機の威圧感に臆さず、ツムグが気楽に答えた。

『何する気? 僕に勝てると思ってるの?』

『勝つか負けるかは、キミが決めることじゃないよ。』

『ツムグ、どうするの?』

『とりあえず殴る。』

 次の瞬間、残像を残すほどの速度で動いた機龍フィアの体当たりを顔面に受けた初号機は、思いっきり後ろにのけ反った。

『あ、殴るじゃなくて、これじゃ体当たりか。アハハハ。』

『ツムグー、笑うところじゃないよ。』

『いっっっったぁぁぁぁぁぁぁ! 何するんだ!』

 顔面を手で押さえて怒った初号機が腕を振るって機龍フィアを叩き落そうとした。だがそれを軽々と躱す。

 イスラフェルや、サキエルとか、ゼルエルなどの腕も攻撃に加わるがそれもすべて躱す。

『なんで当たらないんだーーー!!』

『だってキミの思考、丸分かりなんだもん。しかもデカくなってるぶん大ぶりになってるしね。』

『んなっ…!?』

 初号機は言われて驚愕したリアクションを取った。

 そして轟天号の中の船員達もびっくりした。(※オープン回線)

 ツムグにとって神に等しき存在と化した初号機の思考など手に取るようにわかることらしい。

『そ、そんなわけ…。』

『そんなわけあるから困るんだよなぁ。』

 ツムグは、クックックッと笑いながら言った。

『う…。』

 ツムグの得体の知れなさと不気味さに、神に等しき存在になったはずの初号機ですらたじろいていた。

 ツムグの気味の悪さは、神をも嫌悪させるのかと、逆にびっくりものである。

『で、でも、いつまでも続くわけないでしょ! そのうち力尽きるもん!』

『おおーっと、痛いところ突かれたね。』

 そういつまでも躱してはいられない。こちとら機械。相手は神(?)。限界点が違いすぎる。

『だったら…、大丈夫だもんね! 疲れるまで攻撃するもん!』

『でも学習はしようよ。』

 変わらず当たらない。

 初号機が機龍フィアに完全に気を取られている隙に、轟天号がゆっくりと、初号機の下の方にあるロンギヌスの槍の方に接近していた。

『って……、バレバレだよ?』

 サキエルの腕が轟天号に向かって振り下ろされようとした。

『やらせないよ。』

 その時、強力なサイキックバリアが轟天号を覆い、サキエルの腕を防いだ。やったのはツムグだ。

『邪魔するなよぉぉぉぉぉぉ!!』

 怒った初号機は、ラミエルの角から荷電粒子砲を機龍フィアに向かって放った。だがそれを機龍フィアは、軽々と躱した。

『だから当たらないって。』

『当たれよぉぉぉぉぉぉぉ!!』

『当たってたまるか。』

『もぉぉぉぉぉぉ!!』

『牛か。』

『違うよぉぉぉぉぉ!!』

 初号機の苛立ちは頂点に達したらしく、轟天号を無視して機龍フィアの攻撃に集中しだした。

 神に等しき力を手にしたとはいえ、精神面は所詮は子供。力に意思力が追いついていない。

 

「今だ尾崎!」

「はい!」

 

 その隙に、尾崎が轟天号から飛び出し、ロンギヌスの槍へ向かった。

 ロンギヌスの槍は、尾崎が触れると収縮し、尾崎の手で持ち上げられるほどの大きさになった。

 尾崎は、轟天号に飛び乗り、ロンギヌスの先端を初号機に向けた。

『お兄ちゃん…? それでどうする気?』

「……おまえを倒す。」

『なんで? どうして? ただ僕は…。』

「おまえは、この世にいちゃいけない。」

 尾崎は心を鬼にしてそうはっきりと言った。

「例え苦しくても、哀しくても…、俺達はこの世界で生きているんだ。生きていくんだ。心は強さだ。それを無くした世界なんて望まない!」

『………だったら…。』

 初号機が片手を尾崎の方にかざした。

『お兄ちゃんが消えちゃえばいい!!』

 放たれた白い光。

 だがしかし、その光は、ロンギヌスの槍の先端に触れた途端拡散する。

 ロンギヌスの槍が、尾崎の意思力を力としているのだ。

「くっ…!」

 だが初号機の力は圧倒的で、尾崎が押され始めた。

「ま、負けられない! 俺は、俺達は負けるわけにはいかない!」

 尾崎は気力を振り絞る。

「こんな、ところで…!」

 

『そう。君達は負けてはいけない。』

 

「えっ?」

 聞き覚えのある声が響いた。

 その声は…。

「カヲル君?」

『僕も力を貸すよ。』

 その時、機龍フィアの胴体から白く光る巨大な手が伸び、初号機の首を掴んだ。

『う! な…!? な、なんで!? これは…、アダム!?』

『せっかく道を譲ったんだ。ちゃんと進んでもらわないと困る。』

 機龍フィアからカヲルの形をした白い巨人が出現し、初号機に掴みかかった。

『おまえまで邪魔ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 初号機がアダムの手を振りほどこうと暴れ、体に生えている使徒達で攻撃しようと動いた。

 だが。

『な…、うぁ!?』

 体から生えている使徒達が、逆に初号機を攻撃し始めたのだ。

『逆ら…、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?』

『“僕ら”も君のやり方を認めないってことさ。』

『もう死んだくせに、死んだくせに死んだくせに死んだくせに死んだくせに死んだくせに死んだくせに! なんで言うこと聞かないんだよぉぉぉぉ!!』

 取り込んだはずの使徒達に攻撃され、初号機は狂乱した。

 

『尾崎さん、受け取って。』

 

「レイちゃん!?」

 レイの声と思しき声が聞こえた。

『いいえ。私は……、リリス。』

 すると、尾崎のすぐ隣に、何かが突き刺さった。

 それはロンギヌスの槍。

 南極で失われたとされる、アダムの白い月にあったロンギヌスの槍だった。

『あの子を、止めてあげて。』

「……ああ!!」

 尾崎はリリスからもたらされたもう一本のロンギヌスの槍をもう形で持った。

 そして狙いを初号機に定める。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! おまえ(リリス)まで邪魔をするのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 初号機の背中からリリス…、レイの形が生え、初号機を後ろから羽交い絞めにした。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 尾崎は、ロンギヌスの槍を二本を、投擲した。

 投げられ、ロンギヌスの槍は、巨大化し、一本は初号機の胸部を貫き、もう一本は片目を貫いた。

 初号機が断末魔の悲鳴を上げた。

 リリスが、アダムが、まるで溶けるように初号機にくっついていき、入り交ざっていく。他の使徒の形も形を失い溶け始めた。

『く……、クフフフフフフフフフフフフフフ!』

 初号機が、急に笑い出した。

『アハハハハハハハハハハハハハハハハ! 僕の勝ちだ!』

 初号機は、ロンギヌスの槍を掴むと強引に引き抜いた。

「そんな!?」

 二本のロンギヌスの槍をもってしても初号機は止まらなかった。

『こんなものがあるからいけないんだ!』

 そう言って掴んでいるロンギヌスの槍を、へし折った。ポッキリと。

『……。』

 機龍フィアの中で、ツムグは静観していた。

 だがやがて口元をニッと歪めた。

『もうこれで手はないね! 僕の勝ちだ! アハ、ハ、ハハハハハハハハハハ! …ハハ………、あっ?』

 その時、初号機の腕がボゴリッと歪に膨れ上がった。

 初号機は、それを見て放心していると、同様に他の部位がボコボコと膨れた。

『え、え、えっえっえっえっえっ!? な、なにこれ、ナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレ!?』

 メキメキと初号機の顔を押しのけるように新しい頭部が発生した。

『うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? イタイイタイイタイイタイ! ナニコレ!? タスケテ!』

 初号機の悲痛な叫び声が木霊する。

 背中の十数枚の翼が変形し、コウモリの翼のようになる、尻尾が生え、腹部に口のようなものができ、爪が伸び、角が生える。

 その姿は……、まるで。

 

「デストロイア…!?」

 

 かつてゴジラに倒された怪獣、デストロイアによく似ていた。

 

「G細胞の副作用か!」

 初号機はゴジラの飲み込んでいる。

 それによりゴジラの細胞を吸収してしまい、今になって副作用が出たのだとしたら…。

「破壊神の…呪いか?」

 愕然とした副艦長がそう呟いた。

 神ですらもゴジラの持つ呪いにも等しい力に耐え切れなかったのだ。

 初号機・デストロイアが咆哮した。

 その顔の横にある初号機の顔は、イタイイタイと泣き叫んでいる。

 他の使徒の形はもう初号機・デストロイアに溶けて消えていた。

 

『待ってた。これを待ってたんだ。』

 

 ツムグだけが、この状況の中、笑っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「初号機が、怪獣デストロイアに変化したぞ!」

 基地でも、初号機の変化は観測していた。

「色は白いが、間違いなくデストロイアですな、アレは!」

「なぜデストロイアに!?」

「ゴジラを喰ったからか!?」

 かつてゴジラと戦ったデストロイアとは、比較にならない巨大さを持つ初号機・デストロイア。

 フォースインパクトは、止まったが、新たな脅威に、司令部に絶望が広がりつつあった。

「波川司令…。」

「ロンギヌスの槍も失われた…。ゴジラも今だ敵の腹の中…。」

 波川はブツブツと状況をまとめようと呟いていた。

「ツムグとは通信は繋がりますか?」

「いいえ、回線が…。」

『なに? 波川ちゃん。』

 回線が切れていると言いかけたオペレータを遮って、通信機からツムグの声がした。

「……あなた、状況を…。」

『うん。こんなことになったの、俺がやったから。』

 ツムグは、すぐに白状した。

「この責任は…。」

『俺はただ死にたいだけ。でも波川ちゃん達を殺したいわけじゃない。』

 ツムグは、一人語る。

『全部、俺が何とかするから。俺がやったことは自分で責任はとなるから。だから…。』

 安心して。と言って、ツムグは通信を切った。

「波川司令、信用していいのですか!?」

「…ええ。」

「この事態を作った張本人なんですよ!?」

「ですが、それ以外に方法があるのですか?」

「っ…。」

 騒然となる司令部が鎮まった。鎮まらざる終えなかった。

 こちらに手はない。

「波川司令! ディメンション・タイドの使用の許可を!」

 だが猛者はいた。

 ディメンション・タイドによる、初号機・デストロイアの消滅を提唱したのだ。

 それにはすぐに周りから賛成の声が上がった。

 波川も、すべての手を尽くすべきだと考え、使用の許可を出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「波川司令から、衛星からのディメンション・タイドの使用の許可が下りたと…。」

「そうか…。」

「今すぐこの場を離れなければ! 巻き込まれますよ!」

「……総員、この場から退却だ!」

 宇宙からのディメンション・タイドから逃れるために、轟天号は初号機・デストロイアから離れた。

 ところで初号機・デストロイアは、先ほど咆哮を上げてから動く気配がなかった。とにかくデカいのでそこにいるだけで圧倒的だ。

 やがてディメンション・タイド衛星が、照準を初号機・デストロイアに合わせた。

 それとほぼ同時に、初号機・デストロイアの顔が空に向けられた。

 そして衛星から発射されたブラックホールが大気圏を越え、初号機・デストロイアに向かってきた。

 すると初号機・デストロイアが口を開け、強大な光線を吐きだした。

 光線はブラックホールと衝突し、上空で光が爆発し、光線はブラックホールを超えて宇宙空間にある衛星に着弾して衛星を消滅させた。

 光の爆風に離れていた轟天号も煽られる。

 初号機・デストロイアが再び大きく咆哮した。

 長く太い尾が地面にめり込み地割れを作り、振り下ろされた頭部の角が山を抉って破壊した。

 再び口から放たれた光線が地平線の彼方に炸裂し、核爆発を超えそうな爆発が起こった。

 強大な力による破壊は、地震となり、大気をも揺るがし世界中の人間に危機を知らしめる。

 もはや己を止める者はいないのだと言わんばかりの、そしてすべての命に対して絶対的な絶望を与えるような咆哮を上げる。現に状況を見ている基地の司令部や、轟天号内に絶望が広がっていた。

 

『まだ終わりじゃない。』

 

 そこに、場違いな明るい声が響く。

『終わらせやしない。』

 機龍フィアが初号機・デストロイアに突撃していく。

 初号機・デストロイアは、それに気づいて足を上げ踏みつぶそうとしたが、逆に足を伝って機龍フィアが昇り、腹部に辿り着いた。

『ゴジラさん。それで、いいの?』

 初号機・デストロイアの腹部にある口部に、機龍フィアの両手のドリルが突き刺さり採掘するように掘り進んでいく。抉られた初号機・デストロイアの細胞が波打ち、機龍フィアを巻き込み取り込むように動き出す。

『リミッター解除、7っ!!』

 ツムグは、すべてのリミッターを解除した。

 機龍フィアの目が、関節などが激しく発光し始めた。

『ゴジラさん。本当に……、それでいいの?』

 

 機龍フィアの姿がやがて初号機・デストロイアの中に飲まれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゴジラは、眠っていた。

 あまりの心地よさに、あまりの心地よい温かさに。

 自分の世界は、常に壮絶な冷たさと熱に侵されている。それが一切ない、まるで生まれる前の胎児が母親の羊水の中を漂っているかのような心地よさがゴジラを浸食していた。

 ゴジラは、忘れかけていた。

 己の存在理由を。

 己が何を憎んでいたのかを。

 何に怒り、破壊を行ってきたのかを。

 黒い月。それは、使徒以外のすべての生命体の祖となったリリスが乗ってきたもの。

 そんな場所の居心地の良さは、大きな罪で歪められたとはいえ、生命の一つであるゴジラにも耐え難いものであった。

 ああ、このままこの場所で溶けてしまおうかという思いがゴジラに湧きあがっていた。

 現に溶け始めているのだが…。

 

「それで……、いいの?」

 

 そこに不快な声が聞こえて来た。

 その声の主のことをゴジラは、思い出せなくなっていた。

「本当に? それでいいの?」

 ゴジラは、無視を決め込んだ。

「無視しちゃって…、聞こえてるくせに。」

 無視する。

「本当にいいの? このままだとゴジラさんじゃなくて、デストロイア?が世界を壊すんだよ?」

 無視する。

「ゴジラ・ジュニアを殺した奴にそっくりの奴に、ゴジラさんのやろうとしてきたことが奪われるんだよ?」

 無視…する。

「ゴジラさんは、何のために今まで戦ってきたの? 殺してきたの? 本当にそれでいいの? このままここにいたいの?」

 無視……。

「………結局、ゴジラさんもその程度か。」

 

 ブチリッ

 

 何かが切れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 




公式でまさかの初号機・G覚醒形態なんてものが発表されてしまったので、かなり悩みました結果、デストロイアのような形態に変化したということにしました。
無理やりですみません……。

最後にゴジラが何か切れました。
あと少しで最後ですね。


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第三十八話  怪獣・補完

特急で終わらせることにしました。
ラスボス戦なのに……。私の文書力では、これが限界でした。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初号機・デストロイアの腹が破裂した。

 そりゃもう派手に。

 あまりに突然だったので、初号機・デストロイアも反応が少し遅れ、遅れて絶叫を上げた。

 

「な、なんだ!? 何が起こって…。」

「ゴジラ…!」

「えっ?」

 轟天号内で副艦長が驚愕していると、ゴードンが冷静に呟いた。

 

 破裂した初号機・デストロイアの腹から、ゴジラが飛び出し、ついでに機龍フィアが転がり出た。表面が焦げてる。

 ゴジラは、地面に転がったが、すぐにゆっくりと立ち上がった。

 全身から湯気が立っており、表面が溶けかけている。

 やがて湯気がなくなり、体の爛れも再生していく。

 初号機・デストロイアが雄叫びを上げながら、爪を振り下ろした。

 ゴジラは、クルリッと振り返り、片手でそれを受け止めた。自分よりも倍以上に巨大な相手の腕の攻撃を。

 すると、ゴジラの体が赤っぽく発光し始めた。

 それは、かつてメルトダウンを起こした時の赤い光とは違う。

 なぜならゴジラの頭上に輪っかのような物が生じたているからだ。

 初号機・デストロイアが足を振り上げ、ゴジラを踏み潰そうとする。

 するとゴジラが熱線を吐いた。

 一瞬で蒸発する初号機・デストロイアの足。苦痛の声を上げる初号機・デストロイア。

 明らかに威力が桁違いに上がっている。

 ゴジラの体の光が轟々と膨らんだり縮んだりを繰り返す。あまりの眩しさに誰もが光を遮らざるおえなかった。

 

「なんだ!? ゴジラに何が起こったんですか!?」

「知るかそんなこと!」

 

『…ゴジラは、実を食べてしまった。』

 

「リリス? どういうことだ?」

 リリスの声を聞き取れる尾崎が聞き返した。

『…私の実と、アダムの実を食べてしまった…。』

「それって…つまり………………………、知恵の実と、生命の実を…? ゴジラが、食べた?」

「おい、聞き捨てならないこと言ってんじゃねぇよ。」

 リリスの言葉から察するに、そうと取らざる終えない。

 ゴジラが、リリスの知恵の実と、アダムの生命の実を食べてしまった。

 あの異常な変化と、力の上がり具合がその証拠だとしたら……。

「ゴジラが神に!?」

 そういうことになるのだろうか。

 破壊神の異名を持つ怪獣が更に高みに上がってしまったということなのだろうか。

 

 足を再生させた初号機・デストロイアは、体を回転させ、尻尾による攻撃を行おうとした。

 ゴジラは、その尻尾を受け止め、掴み、そのまま初号機・デストロイアを投げた。

 何倍も大きさが違うというのに、軽々と放り投げられた初号機・デストロイアは、受け身も取れず頭から地面に叩きつけられた。

 ゴジラが投げた初号機・デストロイアの方に振り向くと、ゴジラが飛んだ。

 初号機・デストロイアの上に乗ったゴジラは、初号機・デストロイアの突起や翼を掴み、引き千切りにかかった。

 バキバキと音を立てて、突起が外骨格ごと剥がされていく。

 初号機・デストロイアが、雄叫びを上げてやっと起き上がり、ゴジラをどかすとゴジラに向かって光線を吐いた。

 ゴジラも熱線を吐き、光線と熱線が衝突した。

 炸裂した光と破壊のエネルギーは、大気を、地面を割り凹ませて、巨大なクレーターを作っていった。

 破壊のエネルギーの炸裂で初号機・デストロイアの体表が削られ、大きさが多少小さくなった。

 ゴジラは、畳み掛けるように再び熱線を吐いた。熱線により初号機・デストロイアの右側がゴッソリなくなった。

 それもすぐに再生していくが、足を再生させた時より勢いがない。もしかしたら知恵の実と生命の実をゴジラに奪われたからかもしれない。そのせいか更に大きさが縮んだ。

 ゴジラが、片腕を振り上げた。纏っている光が巨大な爪となり、初号機・デストロイアの左側が引き裂いた。

 絶叫を上げる初号機・デストロイアは、角にエネルギーを溜め、ゴジラに振り下ろした。

 ゴジラを切りつけることに成功したのだが、角が根元から折れた。そしてゴジラは無傷だった。

 ゴジラが纏う光はますます強くなってきており、まるで爆発でもしそうな勢いだ。

「リリス、ゴジラは、このままで大丈夫なのか!?」

『……。』

「リリス?』

 リリスは、黙っている。

 尾崎はその気配を感じて、嫌な予感がした。

 なんだろうこの胸騒ぎはと、尾崎は胸を押さえた。

 尾崎がモニターから目を離したすきに、またも轟天号が大きく揺れた。

 かなり遠くまで離れているのに、ゴジラと初号機・デストロイアの戦いの余波が届くのだ。

「こんな戦いが続いたら、地球がもたない…。」

 ただでさえセカンドインパクトで傷ついているのだ。これ以上の破壊が起こったら地球は本当に滅んでしまうことになりそうだ。

 初号機・デストロイアとの戦いが終わった後どうなるか?

 神となったゴジラは?

 そもそもゴジラが敗北した場合どうなるか?

 もう最悪の結末しか思いつかない。

「ツムグ…、これがおまえの望んだ結末なのか?」

 ツムグからの答えはない。

 機龍フィアは、地面に転がったままだ。動く気配がない。

 初号機・デストロイアが再び悲痛な声を上げた。

 わき腹の辺りが大きくえぐれている。熱線で抉られたのだ。

 すでに初号機・デストロイアの大きさは、ゴジラと同じぐらいになっている。

『あぁぁぁああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ…。』

 初号機・デストロイアの頭部の横にある、初号機の顔が苦しみの声をあげる。

『イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。』

 怨念のように呟かれ続ける言葉は、生への執着だった。

『死にたくないよォ……、助けて……。』

 だが誰も助けてはくれない。助けることはできない。

 悲痛な姿に、尾崎はたまらず顔を背けた。

『お兄ちゃあん…ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。』

 ひたすら尾崎に謝り続ける。

『どうして…、こんな……ことに…。』

 ギチギチと初号機の顔とデストロイアの顔が合わさり始めた。まるで融合するかのように。

『苦しい、くる、しい…、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい…!』

 初号機は泣き叫ぶ。

 

『あの子を救う方法は、もう……。』

 

 リリスが悲しげに呟く。

 そう、もう死を与えるしか、初号機を救う方法はない。

『ああああああああああああああああああああああああああああああああ! ダレか、ダレかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ボクを………、コロ……し、て!』

 デストロイアと完全に一体化した初号機が、翼を広げ、両手を振り上げ天に向かって懇願した。

 初号機・デストロイアの体にエネルギーが集まりだした。

 初号機・デストロイアの体が膨張し始める。

「自爆する気か!」

 もし爆発したら恐らく地球がもたないであろう。それだけのエネルギーだ。

 ゴジラが、背びれをひと際輝かせ始めた。とどめを刺す気だろう。

『尾崎さん。お願いがあります。』

「えっ?」

『僕からもお願いするよ。』

「カヲル君……。分かった。」

 尾崎は、リリスとアダムの願いを察し、左右にある兵器操縦桿を握った。

「尾崎、何をする気だ!?」

「すみません…。」

 尾崎は困惑する副艦長達に向けて謝罪しながら苦笑した。

「やれ、尾崎。」

 ゴードンは、静かにそう言った。

「はい!」

 尾崎は目をつむり、橙色のエネルギーを纏った。

 意識を集中すると、尾崎のエネルギーは、轟天号に行き渡る。

 すると船の両側から回転する小型機械が発射され、轟天号の周りを回転しだした。

 ドリルの先端に凄まじいエネルギーが集まりだし、尾崎が目を開け、兵器操縦桿のスイッチを押した。

 発射されるG粒子メーサー砲。

 尾崎が持つエネルギーそのものであるそれが発射された。

 それと同時に、ゴジラが熱線を、初号機・デストロイアに発射した。

 二つのエネルギーが命中したのはほぼ同時だった。

 膨れ上がる光が天へ伸び、そこに使徒と思しき半透明な形が揺れながら空へ向かって昇っていく。

 次々に空へ消えていく使徒達に続いて、カヲルとレイの姿をしたアダムとリリスも現れた。

 リリスは、両手ですくい上げる様に小さな光の玉を持っていた。

 リリスは、轟天号の方を見ると、微笑み。

 そして、口を動かした。

 

 さよなら、ありがとう、…と。

 

 アダムとリリスの姿が空へと消えた時、強大なエネルギーの光は柔らかな光へと変じ、収縮して消えた。

 

「アダム…リリス……、初号機……。」

 力を使い切った尾崎は席に深く座り、空へと消えた彼らを想い、優しく微笑んだ。

 初号機は、リリスが一緒に連れて行った。

 使徒達がどこへ行ったのかは分からない。だが地獄ではないだろう。

 ひょっとしたら自分達人間と同じように帰るべき場所へ還ったのかもしれない。

 しかしその余韻も束の間だった。

 ゴジラの雄叫びが耳を刺した。

 ゴジラが纏う光はますます強くなっており、もういつ爆発してもおかしくないというのが嫌でも分かるような状態だった。

 ここからは、もう何が起こるのか分かったものじゃない。

 さっきの使徒達が消えた柔らかな光と違い、圧倒的に狂暴そうな光り方だ。

 ゴジラの雄叫びが木霊する。

 天を見上げたゴジラは、口を大きく開けた。

 頭の輪っかのようなものがひと際輝いた時、口から絶大な熱線が放たれた。

 吐きだされた熱線は大気圏を超え、宇宙空間に達した時、まるで花開くように広がり、まるで地球を包むように広がり始めた。

 それとともに、ゴジラの体の光も膨れ上がり、物凄い勢いで広がり始めた。

 ゴジラが放った光はやがて地球を包み込み、すべての物が光の中へ消えた。

 やがて光が消えていく。

 轟天号内で光を腕や手で遮る動作をしていた船員達は、やや時間をおいて、目をゆっくりと開けた。

「…ゴジラは?」

 ザラついたモニターが回復すると、ゴジラが先ほどと同じ場所に立っていた。

 もう光は纏っていないし、頭にあった光の輪っかもない。

 両腕をだらりと垂れさせて顔を天に向けた状態で固まっている。

「何が…起こったんだ?」

 ゴジラが何かしたのは間違いないが何が起こったのかはまだ分からない。

 と、その時。

 轟天号の上の方を何かが横切った。

 それは、鮮やかなオレンジ色の模様が目を引く巨大な……、蛾。つまり。

「モスラ!?」

 モスラは、轟天号の上の方を通り過ぎた後、遥か遠くの空へ舞い上がって行った。

 モスラに続いて空を横切って行った怪獣がいた。

 ラドンだ。

「司令部からの伝令! 世界中で怪獣の姿が確認されているとのこと!」

「怪獣が!? そんな馬鹿な!? 怪獣はセカンドインパクト以降姿を消していたのだぞ!?」

「まさか……、ゴジラの野郎…。」

 ゴードンがいまだに動かないゴジラを睨む。

 そこへ、小さな怪獣が走ってきた。

「あれは、ミニラか?」

 ゴジラと同族の幼体、ミニラだった。

 ミニラは、ヨチヨチと危なっかしい走り方でゴジラのもとへ行くと、動かないゴジラの足を叩いた。

 心配そうに鳴きながら足を叩き続けていると、ゴジラの顔が下へと向けられた。

 力のない目に少しだけ力が戻ったように見える。

 するとゴジラは、グッと力み、ちょっと横を向いて何かを吐きだした。

 ドロドロの塊は地面に落ち、口を乱暴に拭ったゴジラは、忌々しそうに唸った。

 ゴジラは、轟天号の方を見た。

 ゴードンを始めとした船員達が身構える。

 するとミニラがゴジラと轟天号の間に入るように移動し、轟天号を庇うように立つと首を横に振った。

 ゴジラはその様子を見て、仕方なさそうに唸ると、轟天号に背中を向けた。

 ミニラは、轟天号に手を振ると、ゴジラの後を追って行った。

「……戦いはまた次回ってか?」

 ゴードンは、ヤレヤレといったふうに頭を押さえてそう呟いた。

 ゴジラとミニラが海へと向かったことで、船員達は、ホッと胸をなでおろした。

「機龍フィアから信号が届いています!」

「あの野郎何やってやがったんだ?」

「いいえ、これはDNAコンピュータからです。」

「ふぃあから?」

「さっきゴジラが吐きだしたモノを見てって…、書いてありますけど?」

「吐いたもの…。まさか!」

 過去にゴジラは、似たようなことをやっている。

 そう、デストロイアと対決した時。

 メルトダウンをツムグが抑えた後だ。

「ゴジラがさっき吐きだモノって……、まさか、もしかして……。」

「………司令部から基地への帰還命令がかかっていますが?」

「…あとは、他の連中がやるだろ。一旦戻るぞ。」

「了解。」

 ゴジラが吐きだしたモノの確認は、後回しになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゴジラは、ミニラと共に海へ帰還した。

 轟天号から確認できた怪獣は、モスラとラドンだけだが、世界中で今まで確認されてきた怪獣の姿が現れたという報告が集まっていた。

 ゴジラが放った光によるものだとしても、なぜ、どうして?という疑問が尽きない。

 それに答えられそうな奴が一名ほど挙げられるが、まだその人物が行方不明なので分からない。

 機龍フィアの回収と共にゴジラが吐いたモノが後ほど確認された。

 痰みたいな粘膜だろうか、とにかくドロドロで悪臭を放つそれを回収し、基地で洗浄していくと……。

「出ました!」

 出た。

 ほとんど原形をとどめていないが、辛うじて人間っぽいモノが出てきた。

 過去にデストロイアの戦いの後、ゴジラから吐き出された件を知る者ならば分かった。

 形がもう本当にないに等しいが、椎堂ツムグだと。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、1ヵ月後……。

 

 

「……。」

「何か言うことは?」

「………結局、死なせてもらえなかった、なぁ……。」

 ツムグは崩れかけてる両手で顔を覆いながら悲しそうに言った。

 ちなみにまだ全身は再生していない。なんとか残ってた上半身のが先に再生してきたが、皮膚も肉も溶けかけのかなりエグイ姿である。ゴジラのメルトダウンを抑えた時のように再生力が衰えているらしい。たぶん、時間が経てば再生力は回復するだろう。

 ツムグの望みは叶わなかった。

 ゴジラに溶けて死ぬこと。それしか死ぬ方法がないと判断したツムグは、それを決行するために初号機を利用し、ゴジラに取りつくタイミングを作った。

 だが、ゴジラに拒絶され、またも吐きだされてしまった。

「なんで許してくれないんだろう……。死にたいだけなのに……。」

「死ねなかった早々申し訳ないけれど、今、何が起こっているのか教えてもらえるかしら?」

 波川がわざと無遠慮に聞いた。遠慮して聞かなかったとしてもいずれは聞かなきゃならなしい、とにかく今は状況確認を一刻も早く行わなければならなかったからだ。

 ツムグは、両手をだらりと下ろし、濁った眼を波川に向けた。

「怪獣達は…、ゴジラさんの中に補完されてたんだよ。それが解放された、それだけだよ。」

「ゴジラが怪獣達を?」

「セカンドインパクトでゴジラさん以外の怪獣達が、LCLってスープになってたんだ。そこにあった魂は、ゴジラさんが全部取り込んでたんだ。ゴジラさんは、完全に無意識だったみたいだけど。あれだ、ATフィールドぶち破ったり、生命力が上がってたり、何より強くなってたのって怪獣達の魂があったからだったんだよね。ま、魂があってもなくても強くなったことには変わりないんだけど。」

 ゴジラは、南極でLCLを飲んだ際に、一緒に怪獣達の魂を取り込んでいたらしい。

 そのことをゴジラは、全く自覚せず、今日まできたのだった。

「あなたはそれを知っていたんですか?」

「んーん、溶けかけた時に初めて知った。」

「セカンドインパクトを発生させたエネルギーごと吸い込んでいたというわけね?」

「ま、そういうこと。それを吐きだして復活させられたのは、知恵の実と生命の実のおかげだね。」

「それは尾崎少尉からの証言で聞きました。ゴジラがそれを食べたと。」

「実のエネルギーを全部使ったから、ゴジラさんの中で実が萎んじゃってんだよね。なんかもう力ないよ? 手に入れたくても、もう無理だよ。」

 ツムグ曰く、知恵の実と生命の実は、ゴジラの中で萎んでしまい、もう使い物にならなくなったらしい。

「ゴジラは、神になったのですか?」

「違う…、ゴジラさんは、ゴジラさんだよ。これからも、この先も…。ゴジラさんは、神なんて望んでないし。まさか、俺を吐きだすついでに怪獣達を吐くなんて……。」

「そういうことですか。」

 ツムグ曰く、怪獣達はついでだったらしい。

 ゴジラが、自分に溶けそうになったツムグを吐きだすために知恵の実と生命の実のエネルギーをフル活用した結果、他の怪獣達を復活させるに至ったということだ。

「まったく……、こんなことになったのは、すべてのあなたの責任ですよ? 残念ですが、死んでもらっては困りますから。」

「……分かってるよぉ。働けばいいんでしょ、働けば。」

 ツムグは、不貞腐れたように言った。

 波川は、溜息を吐いた。

「そうそう、遠からず地球は昔のようになると思うよ。ゴジラさんがエネルギー吐いた影響で軸が戻ったっぽいし、海の浄化も怪獣達がやってくれるだろうし、まあ、昔みたいに騒々しく(戦い的な意味で)なるだろうけど、いいよね?」

「よくありません。」

 波川は冷静にツッコんだ。

 

 

 世界は、地球は、良くも悪くも騒々しくなりつつあるようだ。

 

 

 

 

 

 




タイトル詐欺になってるなぁ……。
けどこれ以上伸ばせられなかったし、終わりもこれ以上思いつかなかったです。

手を抜いているわけじゃないけど、ほんと、これが限界でした。

ゴジラが怪獣達の魂を補完していたという設定は、最初から決めていました。ラストで解放されて怪獣達が復活するというのも決めていました。


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最終話

これで最後です。

エピローグかな。

戦いはこれからみたいな。



※アスカについての後日談を忘れていたので、追加しました。(2017/03/14)


 

 

 

 ゴジラによる、怪獣達の復活劇から、数か月。

 良くも悪くも世界は順応する。人類も、怪獣も。

 怪獣達は、復活したてだからか、人類に対してなんのアクションも起こさなかった。

 そのおかげで人類側が立て直す時間が取れたのである。運がいいのか悪いのか。

 ともかく初号機とゴジラの戦いによる破壊の影響から立ち直るには十分であった。

 ゴジラの方も現れてはいない。ミニラと共にどこに行ったのかは分からないがどこかにいるであろう。

 地球の軸が戻ったことで、季節が徐々にではあるが戻り、十数年ぶりに日本に雪が降るという出来事があった。

「う~、寒い!」

 季節が戻ったことで年中夏だった日本は冬の季節を十数年ぶりに迎えた。

 夏になれた体に、冬の寒さが堪えるが、これが本来の日本の風物詩なのだ。

「冬ってこんなに寒いんだな~。初めてだよ。」

「私も。」

 シンジとレイは、並んで空を見上げていた。冬の空から雪がちらついている。

 年中夏となってから売られなくなった冬着を着込んでモコモコになった二人は寄り添う。

「おーい、二人とも、もうすぐ始まるぞー。」

「はーい。行こうか。」

「うん。」

 シンジとレイは、手を繋いで呼ばれた方へ向かった。

 

 

 ……“式”に出るために。

 

 

 地球防衛軍の空き地に即席で作られた会場には、沢山の人々がすでに集まっていた。

 立食パーティー形式で、みんながそれぞれ語らっている。

 普通の人間も、ミュータントも、何の隔たりもなく。

「よぉ、お二人さん。」

「宮宇地さん。」

「相変わらず仲の良いことで…。」

「アハハハ…、す、すいません。」

「なんで謝るの?」

 顔を赤らめて頭を下げるシンジに、レイは疑問符を飛ばした。

「次の式は、おまえらか?」

「き、気が早いですって! 僕らまだ14歳だし!」

「ハハハ、そうだったな。だが大人になるのは早いぞ。それまで若さを楽しんでおけ。」

 

『間もなく、新郎新婦入場です。』

 

「おっ、始まるな。」

「いよいよですね。」

 今日の式の主役達がやってくる放送がされた。

 やがて、周りが、拍手と共に新郎と新婦を出迎えた。

 

 タキシード姿の尾崎と、白いドレス姿の音無が手を組んで赤い絨毯の上を歩きながらやってきた。

 

「おめでとー!」

「やっとだなーー! 待たせやがって!」

「ちくしょう、羨ましいな!」

「尾崎先輩カッコいい…。」

「音無博士、綺麗だな…。」

 ミュータント兵士の仲間達がピーピーと口笛を吹いたり、大拍手をして祝う。反応もまあそれぞれだ。

「世界初のミュータントと普通の人間の夫妻か…。」

「ミュータントだろうが何だろうがめでたいもんはめでたいって。関係ねぇよ。」

 同僚に向かって熊坂が言った。その顔はとても嬉しそうだ。

「……チッ。」

「こら、舌打ちしてんじゃねぇぞ、風間。嬉しかったら嬉しいってリアクションしろ。」

「しない!」

 風間はプイッとそっぷを向いた。

「あらあら、ライバルを取られちゃって不貞腐れてるのかしら?」

「そんなんじゃねぇよ…。」

 リツコの言葉に、風間は、下を向いてブツブツと言った。

 ネルフ本部がなくなった…というか第三新東京そのものが大穴になってなくなってしまったので、MAGIを失ったリツコは、そのまま地球防衛軍の科学部に移籍が決まったのだった。

 マヤは、そのままリツコの助手に、日向は、念願の技術部に、青葉は、事務職に就いた。

 地球防衛軍所属となったリツコは、中々にイキイキとしていた。

 怪獣の研究は勿論のこと、何より……。

「ねえ、いい加減連絡先交換してほしいわ。」

「しねぇよ!」

「恥ずかしがり屋なんだから。」

「違う!」

 風間と会えるからだ。

「やっぱり年上は嫌い?」

「いや、嫌いじゃ…、って何言わせんだ!」

「あらあら、そうなの? 嬉しいわね。」

「先輩…。」

 風間をからかって楽しんでいるリツコに、マヤは、呆れ顔である。

 

「尾崎さん、音無博士、おめでとうございます。」

「おめでとうございます。」

「ありがとう、シンジ君、レイちゃん。」

 式は滞りなく進み、シンジとレイが尾崎と音無の所へ行って祝福の言葉を言った。

「ねえ、レイちゃん。この後ブーケトスだけど、これの意味って分かる?」

 音無がレイに言った。

 レイがフルフルと首を振ると、音無は、悪戯っぽく笑って。

「受け取った人は、次に結婚できるって言われているのよ。」

「えっ。」

 レイは、キョトンッとしたが、音無とブーケを交互に見て。

「私、欲しい。」

「じゃあ、しっかりキャッチしなきゃね。」

 絶対取ると決意するレイに、音無が笑った。

「綾波…、気が早い…、気が早いよ!」

「レイちゃんがんばれー。」

「尾崎さんも何言ってんですか!」

 真っ赤になるシンジと、純粋にレイを応援する尾崎の空気の違い…、尾崎は結婚しても変わらずだった。ま、そこが尾崎の魅力(?)ではあるのだが。

 そしてついにブーケトスの時間がやってきた。

 地球防衛軍の女達が燃えている。尾崎と音無の結婚を見て、結婚への熱き思いが滾っているのだ。

 レイもそこに混じる。レイも静かに燃えていた。

 

 そして、ついにブーケトスが始まった。

 

 ブーケは、群がる女性達の手の中に、納まった。

 レイではなく、別の女性の手に。

 レイは、がっかりして、見るからに落ち込んだ。

 

『続いて、ガータートスです!』

 

「がーたーとす?ってなんですか?」

「確か…、未婚の男性にやる、花嫁が左足の太ももに着けている靴下留め、ガーターリングを投げるって奴じゃなかったっけ?」

「男性…。」

 シンジは、ハッとした。

 周りがシンジに対して行なわれた説明を聞いて色めき立つのを。

「うわぁ…、怖い。」

 女性達もすごかったが、男性達の結婚への熱望もすごい。すっかりシンジは、怯えてしまった。

 シンジも一応参加するが、巻き込まれないよう隅っこにいた。

 どうせ取れないしと、諦めていたが……。

「あれ?」

 気が付けば、ガーターリングが手の中にあった。

 シンジが混乱していると、宮宇地がおめでとーっと拍手をし、レイが横から飛びつくように抱き付いてきたのでシンジは押し倒された。

「碇君! 私達、結婚できるね!」

「いや、早いって! 僕らまだ14歳ぃぃぃぃぃ!」

 純粋に喜ぶレイ。真っ赤っかになって大混乱のシンジ。周りは残念がるより初々しい恋人同士の二人を祝福して拍手した。

 シンジは、レイの体を受け止めながら、ふと思い出す。

 監獄に送られた父・ゲンドウとの面会の時を。

 

 

 

 

 

 

「………今更何の用だ?」

 ガラス越しの第一声がそれだった。

 シンジは、レイと共に来ていた。

「父さん。僕…。」

「碇君と付き合っています。」

 シンジが言うよりも早く、レイが言った。

 それを聞いてゲンドウは、目を見開く。

「レイ、おまえは……。」

「知ってるよ、父さん。綾波が母さんとどういう関係なのか。それでも好きなんだ。」

「……承知の上か。」

「うん。」

「私、人間になりました。もうあなたの人形ではありません。」

 レイは、シンジの手を握り強く言った。

「そうか…。」

「それだけ報告しに来たんだ。また来るよ。」

「シンジ。」

「ん?」

「すまなかった……。」

「……もう、いいんだ。」

 それが二人の和解であった。

 

 

 

 

 

 

「……。」

「碇君?」

「絶対に幸せにしなきゃ…。」

「碇君?」

「あ、なんでもない…よ。」

 無意識に言った言葉に気恥ずかしくなって、シンジは、首を振った。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

「……。」

「参加しないのですか?」

「俺なんかが参加してもねぇ、誰も喜ばないよ。」

 ナツエに変わる新しい看護師の女性に、ツムグは答えた。

 ツムグは、離れた場所の建物の上から式を見ていた。

 初号機の存在を知っていながら放っておいた上に、自分が死ぬために世界を滅ぼす寸前まで追いやったことは知れ渡っている。そのためツムグの存在について議論が湧いたのは言うまでもなく、償いとしてこき使うという議論が湧いた。

 ゴジラだけじゃなく、他の怪獣達が復活した今、ツムグの預言、そして機龍フィアの操縦者など戦力がとにかく必要なのだ。特に預言は必要だ。

「でもご縁は深いのでしょう?」

「まあね、尾崎ちゃんが小さい頃からだよ。」

「でしたら…。」

「だからこそだよ。俺はただの疫病神でいいんだよ。嫌われてていいんだ。」

 ツムグは、そう言って笑う。

「……。」

 看護師の女性はそんなツムグの横顔を見ていた。

「どしたの?」

「いえ…、なんでもありません。」

 そう言ってそっぷを向く彼女の姿に、ツムグは、在りし日のナツエを思い出した。

「…人選はわざとか?」

 もしかしてナツエみたいなタイプをわざと人選しているんじゃないかと、ツムグは思った。

「まあ、それはそうと、サッちゃん。」

「えっ! サッちゃん!?」

「サツキって言うんでしょ? だからサッちゃん。」

「……。」

「サッちゃん?」

 微かに頬を染めて俯くサツキを見て、やっぱりナツエと同じタイプかとツムグは、思った。

「俺なんて好きになってもしょうがないよ?」

「わ、私は何も言っていませんよ。」

「絶対好きになっちゃダメだよ。困るから。」

 ナツエのことだってあるのだ、ツムグは、人から嫌われるのは慣れているが、好意を寄せられるのは慣れない。

「困って…くれるんですね。」

「おおっと、手遅れ?」

 年若い(20代)女性らしく、モジモジするサツキに、手遅れであると感じたツムグだった。

「そういえば…。」

 っと、ツムグは、ふと思い出す。

 

 

 

 

 地球防衛軍の病院に入院していた加持は、意識の戻らないミサトの看病をしていて、つい先日ミサトが目を覚まし、記憶の大半を失ったミサトを支えつつ、ちゃっかりプロポーズしていた。

 ミサトは、記憶はないが、加持に対する感情は残っており、顔を赤らめていた。

 

 

 

 弐号機に乗せられ、サードインパクトの依代にされたアスカは、無事に保護された後、病院に再び搬送された。

 しばらくは、狂乱していた彼女であったが、ある日を境に眠り、次に目を覚ました時にはエヴァンゲリオンに関する記憶の一切を忘れていた。

 年不相応の幼い子供のようになったアスカの姿に、ツムグだけが微笑んでいたのであった。

 彼女の記憶喪失についてツムグが関与しているかどうかは、不明である。

 

 

 

 一方でゼーレは。

 発見した時は、全員が死亡していた。

 司法解剖の結果、エヴァンゲリオン量産機が現れ、サードインパクトを起こした辺りで死亡したということが分かった。

 ツムグの見解だと、無理やりな儀式を行ったことによる弊害じゃないかと見ている。

 ともかく、ゼーレは、全滅していた。彼らがどのように世界に対して影響を与えていたか、そういう痕跡すら残っていなかったので、彼らは死を覚悟で儀式を強行したとみられる。

 

 

 

 

「おじいちゃん達ってば無責任なんだから…。」

「何の話ですか?」

「なんでもなーい。」

 人類の文明を裏から操ってきた秘密結社の消滅。

 例えそうなろうと世界は動く。

 いつか忘れられてしまうだろう、永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾崎と音無の結婚式は無事に終わろうとして……。

 

 終わらなかった。

 

 ゴジラが来たという警報が鳴ったのだ。

 

「ハハハハハハ! そうでなくちゃな! おい、行くぞ! ゴジラとの再戦だ!」

「なんで喜んでるんですか、大佐ーーー!」

「いってらっしゃい、真一君。」

「行って来るよ。」

 尾崎はタキシードのまま、走って行った。

 

 

 轟天号が空を舞う。

 しらさぎに運ばれ、機龍フィアが出撃する。

 

 

「さーてゴジラさん。俺を死なせてくれなかったこと…、後悔させてやるんだから。」

『ツムグ、コワーイ。』

「怖くもなるよ、まったくもう。なんで死なせてくれないかな?」

『ツムグのこと嫌いだからじゃ…。』

「ストレートに言うねぇ…。」

『ワーン! ホントのことじゃん!』

「仕方ない。死ぬ方法を別に考えるか? いや、他にないよな…。ゴジラさんに溶ける以外に…。」

『また世界を壊すの?』

「さすがに何度もできないって。使徒もいなくなったし。神様がいなくなった世界だ。のんびり探すよ。」

『よかった。』

「ん?」

『ツムグが死ななくって、ふぃあ嬉しい。ツムグ死んだら悲しいもん。』

「……ありがと。って、一応言っておくよ。」

 健気なふぃあの言葉に、ツムグは苦笑し、横の計器を撫でた。

 

 やがてゴジラが見えてきた。

 街に上陸し、暴れている。

 使徒がいた頃は、第三新東京(無人化)に集中していたので、ある意味で新鮮な光景ではある。おかしいことなのだが。

「住民の避難を最優先に、前線部隊はゴジラ迎撃に回れ!」

 逃げ惑う人々の誘導避難をしつつ、向かって来るゴジラに前線部隊が応戦する。

 ゴジラが雄叫びを上げる。

 かつて、1900年代を始まりに当たり前となってしまったその姿。南極に封印され、セカンドインパクト後、15年間姿を見せなかったが、再び復活したその姿と独特の雄叫びに、恐れと同時懐かしさすら感じさせる。ただただ恐ろしい光景なのに懐かしさを感じるのはおかしいことなのだが……。

『機龍フィアの投下命令が下りました!』

『機龍フィアを投下する! 椎堂ツムグ、戦闘態勢に入れ!』

「ゴジラさん、戦おうか。」

『負けないもん!』

 機龍フィアが投下され、ゴジラと相対した。

 

 

『瀬戸内海にダガーラ出現!』

『イギリスに、ラドン出現!』

『ブラジルに、バラゴン出現!』

 

 世界中のあっちらこちらで怪獣達が現れ、攻撃を開始した。やっぱりゴジラが引き金なのか。

 世界中にある地球防衛軍が、人々が戦う。

 

 戦いは終わりを見せない。

 ゴジラを始めとした怪獣達と戦い続け、セカンドインパクトを経てもしぶとく生き残った人類は、使徒という脅威を超えてもまだ戦いの日々からは解放されそうにない。

 それでも人類は戦い続けるだろう。

 生きるために。

 明日を無事に迎えられるかどうかは分からない。

 それでも意地で戦い続ける。

 

 

 

 

「……うっ。」

「音無博士、大丈夫ですか?」

「大丈夫。病気じゃないの。あーあ、発表しそびれちゃったな。」

「えっ?」

「ふふっ。真一君が帰ってきたら伝えなきゃ。」

 音無は、自分のお腹を愛おしげに撫でながら空を見上げた。

 空はすっかり晴れ、冬の季節だと言うのに、青空が広がっていた。

 

 

 

 

「っ……。」

「おい、尾崎どうした? また嫌な予感か?」

「いや…、違う。」

「なんだ?」

「なんか……、良い予感がする。」

 

 

 

 

 新しい命のために。

 今日も明日も、戦いは続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで一応、終わりです。
長かったような短かったような…、まさか公式で題名が発表されるということがあったりと、色々とありましたが、なんとか書ききれました。

これも感想をくださった皆様、そしてお気に入り登録をしてくださった沢山の方々のおかげです。本当にありがとうございました。


もしかしたらシン・ゴジラのDVDを購入したら、また何か書くかもしれません。

しかし、改めて思いましたが、エヴァンゲリオン要素zeroだな…、こんなんでよくハーメルンに載せようと思った自分の勢いが怖い今日この頃です。



書き忘れとかもあるので、今後もまた書き足すかもしれません。


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