織斑一夏のハイパーゴッドフィンガー (セレル人)
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第一話:男の叫びはパンツと共に

調子にのって連載版。
前作の方をまだ未読の方は、 そちらの方を見てからだとより楽しめます。 かも。



ーー千冬ねぇ! ほら、 僕こんなに上手になったよ!!

ーーあぁ! すごいぞ一夏ぁ! こんなのは初めてだぁっ!

ーーほんとに? やったぁ! だったら僕、 もっともっと上手になるよ! それでね、 千冬ねぇにりらっくすしてもらうんだ。

ーーふふ、 あぁ、 ありがとう一夏。 私も楽しみにしておくよ。

ーーうん!

 

衝撃。 世界が暗転する。

 

窓から入り込む光に目を焼かれ、 無意識に手を翳した。

それでもなお、広げた指の間から光がすり抜け、 思わずと目をほそめる。

これはどうしたことか。 先程まで自分は愛する姉と二人きり、 マイホームで甘い蜜月の時を過ごしていたというのに。

とりあえず、 現状を確認しなくては。 そうして視線を上げ、辺りを見渡そうとしたのだが。

ーー視線を上げた先に、 黒髪長髪のバリバリキャリアウーマン、 っぽい女がいた。

「……おぉ、 四十肩!」

 

振り抜かれた出席簿が頭を机に叩きつける。 発生した真空波が突風を巻き起こし、 辺りの女生徒のスカートをはためかせる。 顔を赤く染め両手でスカートを押さえる様はなんとも扇情的である、 のだが。

残念なことに現在俺の頭は明後日の方向を向いていた。 あまりの速度で叩きつけられた頭は、 机の天盤の上でバウンドし後ろの女子の顔がしっかりと確認できるぐらい仰け反っていた。

 

「やぁ。 おはよう名も知らぬ女生徒よ」

「いやぁぁぁっ!?」

 

泣かせてしまった。 こりゃいかん。

ひんまがった首を勢いよく戻す。 定位置に収まる首。 放射状に飛び散る赤い液体。 耳障りな悲鳴が辺り一面に響き渡った。

 

「痛いよ」

「黙れ。 誰が四十肩だ」

「何で怒るの。 魅力的でいいじゃない」

「死ね」

 

また殴られた。 血塗れになってしまったじゃないか。 後ろの女子が。

さて、 寝坊助がすっきりしたしたせいかだんだんと思い出してきた。

俺の名前は織斑一夏。 町中で見渡せばそこら中に居そうな一般人だ。 ただ一つ、 世界最強の生物を姉に持っている以外は。

此処はIS学園。 世界最強の機動兵器インフィニット・ストラトスに関するあらゆることを学べるただ一つの学校だ。 インフィニット・ストラトス。 通称ISとは天才、 篠ノ之 束が開発した……えーと、 なんかすごいやつだ 。

本来ISとは女性のみしか機動させることができる。 理由は篠ノ之 束が知っている。

そしてIS世界に四百といくらかしか製造されていない。 理由は篠ノ之 束が知っている。 正確な数は覚えてない。

そして女性しか使えないはずのISの学校に俺が居る理由はというとーー篠ノ之 束が知っている。

そんな訳で、 ぐるりと周りを見渡せばそこにあるのは女子の顔。 知ってる人はあんまいない。

仕方がないので前を向けば、 ムッツリした顔の姉がいる。 あぁ、 相も変わらずいい身体をしている。 と、 もう一つなにやら姉の後ろで隠れている物体が。

 

「……山田先生、 なにをしているんです」

「お、織斑先生! 今さっき首がっ!」

「大丈夫です。 こいつはとても頑丈ですから。 ほら、 しっかりと直ってるでしょう?」

姉の言葉に合わせて首を上下に振ってみる。 ちと痛むがまぁ、 問題はないみたいだ。

それを見ておずおずと姉の影から出てくる小動物。 姿を表せばあらビックリ!

 

(いい胸だ。 肩がこる事だろう)

 

小動物だなんてとんでもない。 あれは牛だ。 ンモーである。

そんな牛女に促され、 俺は立ち上がり体を後ろに向ける。

「織斑 一夏です。 予想外の入学だったため、 何の予備知識もありません。 ですが、 皆さんに置いていかれぬよう精一杯努力しますのでどうか宜しくお願いします」

静寂。 これはどうしたことかと辺りを見回す。

右端前から三番目の彼女。 それで! それで!? と目で語っている。

真ん中一番後ろの彼女。 後は何があるの!? と雰囲気を醸し出している。

窓際ポニーテールの彼女。 こちらを見てすらいない。

俺は後ろを振り返り、 じっと腕を組んでいる姉を見つめた。 顔を反らしおった。

俺はじっと姉を見つめた。 こちらをチラリと見た。

俺はじっと姉を見つめた。 忙しなく手を組み替えている。

俺は涙目で姉を見つめた。 冷や汗を流しながらフォローしてくれた。

 

「あー、 お前ら、 時間がないので後は各自で済ませておけ。 命令だ」

 

お姉ちゃんって優しいよね。

 

時は移って休み時間。 俺はパンダになったようだ。

四方八方から放たれる視線のビーム。 何だ、 何が気になるのだ。 俺はただ、 こうして練り消しを捏ねているだけなのに。 しまった! 手にこびりついた!

おててがねばついて実に気持ち悪い。 仕方がない、 水道でも探そう。

「……おい」

 

そう言えば、 俺はこの学校の水道がどこにあるか知らない。 これは困った、 さて、 どうしよう。

「……おい!」

 

誰かに聞こうか。 でもなぁ……、 皆遠巻きに見てるだけで全然寄ってこないし、 話しかけ辛いんだよなぁ。

 

「お、おい! まて!」

 

まあ、 他の学校と大して変わらんだろ。 しらみ潰しに探してみよう。

 

「このっ……! まてっ! ……まってよぉ……!」

 

声がしたので後ろを振り返ってみると、 涙目の女の子が此方に駆けてきている。 超怖い。 何事?

此処は屋上、 そして目の前で此方を睨んでいるのは篠ノ之 箒。

朝礼の時、 俺を無視しやがったシャイガールだ。

長い髪の毛を後ろで括ったポニーテールがキュートな美人さんであるが、 如何せん人付き合いがダメダメなのでぼっちである。 昔からぼっちである。 年期の入ったぼっちである。

 

「……相も変わらず、 馬鹿をやっているな」

「第一声がそれかよ。 だからお前はぼっちなんだ」

「ぼっちじゃないっ! お前こそ昔っから千冬さんに迷惑ばっかかけてるじゃないか!」

「俺達のは一種の愛情表現だから。 何も問題無いから」

 

それを聞いた箒は、 理解できないとばかりに口をつぐんだあと、 小さなため息を一つついた。

 

「本っ当に、 相変わらずだ……」

「そうかな」

「そうだ 。 ……変わらんと言えば、 お前もまだ剣は続けているのか?」

ガタタターン!!

 

「ひっ! な、 なに!?」

「……お前"も"って」

 

俺は今、屋上のフェンスに寄りかかるようにして倒れ込んでいる。

倒れた際、 腰を強打したようで鈍痛が広がっていくが、 今は気にならなかった。 それよりもーー

 

「な、なぁ。 箒さん?」

「え……。 な、 何だ?」

「お前さぁ、 剣道続けてたり、 する?」

「そうだが……」

「じ、 じゃあさ。 当然疲れてないか? その、 肩こりとか」

「な、何だ。 そんなことか。 私はいたって健康だぞ! 毎日気を使っているからな!」

ーーんなっ!?

 

「なん……だと……!」

「い、いちか?」

 

こんな…… こんな事があっていいのか。

箒は剣道をしていると言った。 確かに言った。 ならば当然、 身体を人並み以上に使っているはずである。 いや、 コイツの性格なら虐めていると言っていいぐらいには酷使しているだろう。

だが、 今コイツはなんと言った。 健康? 健康だと?

いや、健康なのは良い事だ。問題は、コイツの身体には"こり" の一つも見当たらない、 と言うことだ。

俺は自分の審美眼には絶対の自信を持っている。 だがしかし、 もしかしたら何かしらの見落としがあるかもしれない。しっかりと確認しなくては。

まずは足からだ。 学園指定のローファーに包まれたそれは、 しっかりと屋上のタイルを踏みしめ、 身体の軸をずらすことなくバランスを保っている。 無粋な動物の革に隠されたそれは、 綺麗に纏まった指が揃えられているのだろう。 そこからすらりとした脚が箒のよく発達した身体を支えている。 しみ一つない白い肌に、 カモシカのように鍛え上げられた筋繊維が包まれているのがよくわかる。 ムッチリとしたそれは、 世の男共は放って置けないのではないのだろうか。 また足首からぷっくりと膨れたくるぶしがアクセントだ。 そこから目線を上げればキュッと引き締まったウエストが目につく。 制服で隠されてはいるが俺にはわかる。 そこには爽やかな風が流れる白い平原のような肌に、 たった一つ窪んだおへそ。 実に指を突き入れたくなることだろう。 そして何よりも興味を引くのが。 年不相応に成長した規格外の胸である。 これは要観察だ。しっかりと見ておかねば。 ーーと、 その観察対象を二本の腕が覆い隠してしまっている。 何だこれは、 邪魔でしょうがない。 俺は二本の障害物を腕力に任せてこじ開けた。

ーーおぉ、 これは素晴らしい!

それは、 天から与えられし男のロマン。 夢と希望と欲望がはちきれんばかりに詰まっていた。

良いものを見せてもらった。 この感動をなんと言い表せば良いのだろう。

俺は箒に生まれてきてくれたことの感謝を告げようとし、 慈母神のような笑みを浮かべ上を見上げたのだが。

 

「…ひっく」

「え?」

「う、 わぁぁあぁんっ!」

 

数分後。

 

「なぁ、 俺が悪かったからさ、 許してくれよ。 な? な? ……ちょっと、 興奮しちゃったんだ」

「余計に変態じゃないかぁ……。 昔より更にひどくなってるよう……」

「あー、 うん。 ごめん! この通り!」

 

こう言う時には笑顔で押しきるしかない。 今出来うる限りのスマイルを……!

 

「うー……」

 

ニコニコ。

 

「……ふん、 そんなだから毎回毎回千冬さんに殴られるんだ! 今におかしくなってしまうんだからなっ!」

「お、 調子戻ってきたな? ……まぁ、 すでにコブくらいはできてるかもな」

 

そう言って俺は、 確認するようにいつも殴られている箇所を手でおさえた。

 

 

 

 

 

 

ペコン。

 

「え?」

 

 

 

心魂が震える。 五臓六腑から駆け巡った恐怖が手足を拘束し、 立つことすらおぼつかなくなった身体が地面に倒れ付した。

 

「どうした一夏!? な、 何かあったのか!?」

「な……なんにもないよ? どきょもおかしくはない。 ……そうだ、 そうだよな? 俺の頭が……」

 

俺の頭はどこにも異常はなかったし、 ましてや陥没しているなんてことはあり得ない。

 

「そうさ! 俺の頭がおかしい訳がない!!」

「いや、 ソレはおかしい。」

 

……。

 

 

「ひっく…、 ひっく 」

 

精神的にズタボロでプルプル震えていた俺に、 幼馴染みはこれ以上ないとどめをさして行った。

 

(ちくしょう! これだからぼっちはいやなんだっ!)

 

人の気持ちを考えない発言ばっかしやがって! くそっ! くそぅ……。

チラチラと周りから視線を感じるが、 それに気付くほど今の俺に余裕はない。 ぐずぐずと鼻を鳴らしながらこれ以上傷付かないよう、 耳を塞ぎ机にへばりついていた。

 

「…きろ …り…ら」

 

誰かの声が聞こえたが、 無視してシャットアウト。 お外は怖いところなんだ。 渡る世間は鬼ばかりなんだ……!

「お…ろ おり…ら」

 

俺はいやいやと頭を振る。 もう傷つきたくない、 痛い思いはしたくないのだ。

 

「そうか、 なら此方にも考えがある」

 

ビュン!

感じ慣れた殺気に反応し、俺は机を蹴り飛ばし全てを投げ出して椅子から転げ落ちた。

 

ゴロゴロ、バッ! シュタッ! プルプル。

 

「……は?」

「もうやめてぇ……。 もうウチをいぢめんといてえ……っ!」

涙を流し、 小動物のように丸まる。 心を折られた敗北者の姿がそこにあった。

ヒソヒソと囁きあうクラスの女子たち。 親近感を感じたのか、 子供を心配する母親のような眼を向ける山田先生。 口を引きつらせる千冬ねぇ。

 

「……まぁ、 いい。 授業を開始してください、 山田先生」

「え……。 あ、はい」

 

授業開始の声を聞き、 這いずるようにして席に戻る。 閉じ籠っていても結局は殴られるようだ。 これ以上頭を変形させる訳にはいかない。 さすがにそんな特殊能力は持ってないのだ。

「ーーここまでで、 何か分からない所はありますか? 質問があればどんどん言っちゃってください。」

 

只今授業中。 意外や意外、 山田先生の授業は分かりやすく、 とてもためになる。 はず、 なのだが。

 

「織斑君はどうですか? 分からない所は遠慮なく言ってください」

「全部分かりません」

「え?」

「何一つとして、 分かりません」

「……まて、 織斑、 入学前に渡された参考書があったはずだ。 あれはどうした?」

その言葉を聞き、 俺は鞄から辞書のような分厚い本を取りだし、 千冬ねぇに渡した。

 

「……」

「……」

「……山程、 使い込まれているな」

「はい」

そうである。 章の節目節目には適度にしおりを、重要な語句には赤い蛍光ペンでマーキングされており、 端の空白にはそのページの単語の意味などが余すことなく記入されている。

 

「……全て、 何度も読み返したのか」

「はい」

 

一から十まで読み返し、 それが終わればまた一から。 よく読んだページは端が折れ曲がっており、 文字のインクが掠れている所もあった。

 

「……一つも、 理解できないのか」

「……はい」

 

そこまでして、 ただの少しも記憶出来ないこのスペック。 山田先生が涙目になり、 千冬ねぇが目頭を押さえ天を仰ぐ。 クラスの全員からの哀れみの視線。 いっそ殺せ。

 

 

その後、 可愛そうな物を見るような目で見られ続け、 そのまま一日の授業が終わった。 ちくしょうちくしょう。 本当は無口でピュアな、 最近流行りの草食系男子でこの一年通そうかと思っていたのだ。 それが今や、 頭頂部改造済みの猛烈に馬鹿な怪人である。 どうしてこうなった。

 

「あ、 いたいた! おーい、 織斑くーん!」

「ん? ……あ、 どうしたんですか? 山田先生」

 

とぼとぼと廊下を歩いていると、 後ろからンモー先生の声がした。 何か用だろうか、 呼び出される様なことはしていないはずだが。 まだ。

 

「良かったぁ、 もう学校出ちゃったかと思いましたよ。 ……実は、 寮の部屋の事でお話があるんです。」

「寮? えっと、 確か俺って準備が出来るまで家からの通学じゃなかったですっけ」

「本当はそうだったはずなんですけど、 実は上の方で色々ありまして。 ……織斑君、 その辺りのこと何か聞いてます? 」

 

そう言って此方に身体を寄せてくるンモー先生。 溢れる胸がむぎゅっと潰され危うい。 自然と、 視線は上半身の方へと向く。

 

「いえ、 何も聞いてないです。 そうだ、 良ければ部屋まで案内してくださいよ。 そこでお茶でもしましょう、 山田先生」

「えぇ? いや、 いけませんよ、 そんな……」

「いいじゃないですか。 そうだ! 勉強教えてくださいよ。 まだ、 分からない所が一杯あるんで。 ーー俺も、 色々と教えてあげますから」

「え、 ……あ、 駄目です。 そんな、 先生押しに弱いんですから……。 で、でも、 織斑先生の弟さんなら、 私……」

顔を赤らめ、 両手で頬を押さえながら首を振るンモー先生。 ちょろい、 あと一押しだ。

 

「大丈夫ですよ、 怖い事なんてありませんから。 さあ、 俺が身も心も(ほぐ)してあげあべしっ!?」

「教員に対してナニをやっているキサマッ!?」

「……あ、 織斑先生」

 

息も荒く、 出席簿を振り抜いた格好の千冬ねぇと我を取り戻したンモー先生。 なんて事を! せっかくの獲物だったのに邪魔をするなんて!

 

「ちょっと、 ちーー」

 

千冬ねぇ、 と言おうとしたところで気がついた。 放課後とはいえ此処は学校であり、 千冬ねぇは教師で俺は生徒である。 今更ながら、 この呼び方は色々と不味いのではないか。

顔が青ざめる。 もしかして、 俺は千冬ねぇにとんでもない迷惑をかけていたのではないか。 いけない、 今からでも直さないと!

 

「織斑先生、 いきなりひどいですよ」

 

ガタタターン!

 

「え?」

「へ?」

 

盛大な音を立てて倒れ込むマイシスター。 唇をわなめかせ真ん丸に見開かれた目で信じられない、 と言った風に此方を見ている。 何事だ。

 

「わ、私は、 そんなに怒るような事をしたか?」

 

いや、特にそこまで怒ってる訳じゃないけど。 一体どうしたんだろう?

 

「……いや、 もういい。 お、 お前の荷物は、 もう部屋に送ってあるから……」

 

そう言ってふらふらと立ち上がり、 時折壁にぶつかりながら去って行く千冬ねぇ。 それをンモー先生が慌てて追いかけていく。 疲れているのだろうか。 近いうちにリラックスさせてあげないと。

 

今は寮の中、 とある部屋の前に到着した。 どうやらここが自分の部屋のようだ。 俺は部屋と鍵のナンバーを何度も見比べ、 しっかりと確認してから入室した。

「ーーこりゃすごい」

 

所詮は寮の部屋、 と期待していなかった俺を良い意味で裏切ってくれた。

流石は天下のIS学園、 そんじょそこらのホテルより全然良い作りをしている。 俺は顔をにやけさせながら、 自分の荷物を探して部屋の中へと入って行く、 と、 ベッドの脇に可愛らしいボストンバッグが置いてあった。 流石は千冬ねぇ、 年に似合わず少女趣味である。 微笑ましさを感じながら、 俺はバッグのファスナーを開けた。

 

「えっ」

 

出てきたのは、 フリルのついたピンクのブラジャー。 え、 何、 どういう事?

さらにはブラジャーの下には、これまたフリルのついたプリントアウトのキャラパンツ。 俺はそれぞれ両手でつまみ上げ、 目線の高さまで持ち上げる。 左右の布切れを交互にじっと見つめたあと、 落涙しながら天井を仰ぎ見た。

 

(俺には、 千冬ねぇが分からない)

 

ガチャっ

 

「あぁ、 同室になった者か? こんな格好で済まないが、 私は篠ノ之 箒だ。 これからよろしくたの……」

 

そこで見たのは、 自分のお気に入りの下着を握り閉めながら、 身体を震わせ涙を流す初恋の男の姿だった。

 

「……? ……!? ……!?!?」

「…あ、 箒、 か?」

 

意味が分からない。 シャワーを浴びていただけなのに、 どうしてこんなことになっているのか。

 

「これ、 もしかして箒のか?」

 

コクコク。 現状が理解できないまま頷く。 誰のだと思っていたのか、 まさか自分のだとでも思っていたのか。 まさか、 それこそ変態じゃないか。

 

「良かった……。 いやぁ、 自分の荷物と勘違いしちゃってさ」

「へ、変態だーーーーっ!!」

 

 

 

 

「うぅ、 ぐす……。 うー……」

「わ、悪かったって。 事故なんだよ、 事故」

「事故っ!? 何をどうしたら間違えるんだ! まさかお前が持っているとでも言うのか!!」

「い、 いや。 千冬ねぇが同じようなやつ持ってて……」

「お前は姉の下着を持ってくるのか!?」

「あー! 違う! 誤解なんだよ、 誤解!」

 

困ったなぁ……。 どうにかして誤解を解かなきゃいけないのだけれど、 なんていったら良いのか分からない。 こうなったら全部姉のせいにしてしまおうか。 俺は大きくため息をついた。

 

「頼むから、 信じてくれよ……」

「……分かった。 信じる。 ……ひっく」

「え?」

 

俺は箒の言葉に驚き、 思わず声を漏らしてしまった。

 

「ひっく……。 ……お前は、 こんな事をする人間じゃ無かったから。 だから、 一度だけ、 信じてやる」

「……」

 

俺の幼馴染みは、 大変良い女に育ったようです。

 

「そ、 そうか、 ありがとな」

「うん……。 そういえば、 何でこの部屋にいるんだ? 此処は女子寮のはずだが」

「あー、 いや、 なんと言うか。 俺もこの部屋に住むことになったみたいなんだ」

「へ?」

「多分ほら、 お互いに難しい立場じゃないか。 だからその、 上の方で色々あるんだよ。 きっと」

「え、 それって、 そんな……」

 

そう言って箒は、 二つ並んだベッドをじっと見たあと、 真っ赤な顔で此方を振り向いた。

 

「あ……」

 

そのまま俯いて黙りこんでしまう。 どうしよう、 こっちも色々予想外で何と声をかけたら良いのか分からない。

取り敢えず、 何か行動を。 そう言えば俺の荷物は結局何処にあるのだろう。 俺は部屋の中を見渡した。

あった。 もう一つのベッドに隠れて見えなかったが、 黒いバッグがポツンと置いてある。 俺は中身を確認しようとして、 ぴたりと動きを止めた。

 

(へ、変なモン、 入ってないよな?)

 

震える手でゆっくりとファスナーを動かしていく。 バッグが徐々にその口を開いていき、 ついにはその中身をさらけだした。

 

ーー良かった。 本当に、 良かった!

 

ちゃんとした男物のシャツを確認した俺は、 大きなため息を一つ。 気を取り直しバッグの中を確認していく。

(えーっと、 Sh○tで買ったヴィンテージっぽいTシャツと、 シマ○ラで買った靴下と。 お?)

 

出てきたのは、 買った覚えのない真っ白なブリーフ。 これは千冬ねぇかな? 全く、 よりによってこんなものを。

 

(しょうがないなぁ。 取り敢えず、 予備として閉まっておくか)

 

思わず苦笑し、 後で分かりやすいようにバッグの横に置いておく。 そして次々と中身を整理していった。

 

真っ白いブリーフを取り出した。 バッグの横に置いておく。

真っ白いブリーフを取り出した。 バッグの横に置いておく。

真っ白いブリーフを取り出した。 バッグの横に置いておく。

真っ白いブリーフを取り出した。 バッグの横に置いておく。

真っ黒なセクシーパンツを取り出した。 力強く握り閉め、 思わず天井を仰ぎ見る。

 

「ーー俺には、 千冬ねぇが分からない!!」

 

男の叫びは夜に溶けていき。 波乱の一日が終わっていった。




主人公にはやっぱり悲しいバックボーンが欲しいよね!!
→脳に重大な損傷を負った改造人間

改造したけりゃ物理で殴れってことですね、 わかりません!

あと、 ゴッドフィンガー炸裂まではもうしばらくかかります。 早ければ次話、 遅くてもその次あたりにはイク予定なので、 少々お待ちください。


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