Mirror Rider Stratos【完結】 (無限正義頑駄無)
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設定資料
登場人物・機体・モンスター(42話まで)


※ネタバレ注意





この世界のミラーライダーについて
・カードデッキは基本的に13個
・アドベントカードの複製は困難(束の技術でも封印と契約の複製が限界)
・オーディンがミラーワールドを管理している。
・契約モンスターに人間を襲わせること自体は問題無いが、度が過ぎていたりミラーワールドの存在が露呈しそうな無計画な殺人行為は、オーディンの粛清対象となる。
・サバイブのカードには、ライダーはミラーワールドでの、契約モンスターは現実世界での活動の制限時間が無くなる効果がある(原作龍騎のようなパワーアップの恩恵は、1体目の契約モンスターのみが受けられる)。
・カードデッキはモンスターとの契約と同時に変身している人間の命と結び付き、変身している人間が死なない限り傷1つ付かない(なので原作龍騎のような『カードデッキの破壊による死亡』は起こらない)。
・デッキの持ち主が生きている限り、別の人間がそのデッキで変身したり、デッキからカードを抜くことは出来ない。
・持ち主が死んだデッキは時間が経てば自然に消滅し、次の持ち主の前に現れる。消滅する前に回収することは可能(イメージはハイスクールD×Dの神滅具(ロンギヌス))。


・登場人物

 

織斑 一夏

 

女の子を居眠り運転のトラックから庇って死亡し、女神によって仮面ライダーナイト(ブランク体)の力を持ってISの世界に転生した。

その際、サバイブとタイムベント以外の特殊カードも貰っている。

原作知識は無い。

お人好しな性格で、困っている人をつい助けてしまう。

ライダーとして力を振るうのも、同じ理由である。

身近に鏡を置いておくため、中学から伊達眼鏡を常備している。

 

 

 

(たつみ) 光莉(ひかり)

 

後述する一夏の契約モンスター「シャインナーガ」が人化した姿。

イメージは「魔法科高校の劣等生」の司波 深雪。

一夏がサバイブを入手した後は現実世界での活動の制限時間が無くなったため小・中学校に通い、一夏と結婚を前提に付き合っている。

戸籍は束がハッキングで作成しており、生年月日は光莉本人が「夏が好きだから」という理由で8月にしている。

IS適性が無いためIS学園には通っていないが、ミラーワールドから一夏を見守っており、時折束のところでISの技術を学んでいる。

一夏に対する二人称は基本的に「マスター」だが、ミラーライダーと関係無い人物の前では「一夏くん」と呼んでいる。

 

 

工藤(くどう) 鋼夜(こうや)

 

2人目の男性IS操縦者にして転生者。

特典は「ベノスネーカー・メタルゲラス・エビルダイバーと契約している仮面ライダーガイのカードデッキ」。

ハーレムや俺TUEEEに興味が無いため、一夏と友人関係となる。

 

 

 

・機体解説

 

仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)

 

パンチ力…300AP

キック力…450AP

走力…100mを4.2秒

ジャンプ力…ひと跳び50m

 

ISとしてのスペック

 

・和名

龍騎士

・型式

MR-01

・世代

第零世代

・国家

無所属

・分類

全距離対応強襲型

・装備

Vバックル

召喚機「龍召剣シャインバイザー」

銃剣「シャインレイザー」

連射式ビーム銃「シャインブラスター」

アドベントカード各種

・装甲

高機動型軽量化装甲

・仕様

アドベントシステム

 

ナイト(一夏)がシャインナーガと契約した後の姿。

メインカラーは金と銀。

シャインナーガがダークウイングより強いため、ナイトサバイブと同レベルのスペックを有している。

束によってISへと生まれ変わった後は、カードデッキが待機状態になりVバックルが拡張領域(バス・スロット)に格納されているため、鏡の前でなくとも変身が出来る。

ほかに、変身していなくてもカードデッキを持っていればミラーワールドに入れるようになっている。

また、サバイブ入手後はミラーワールドでの活動時間の制限が無くなっている。

束がオーバーホールした後は第四世代に限りなく近い性能になっており、ライダーモードとISモードに切り替える事が可能になった。

 

 

 

龍騎士(ドラグナー)サバイブ

 

パンチ力…400AP

キック力…600AP

走力…100mを4.0秒

ジャンプ力…ひと跳び60m

 

ISとしてのスペック

 

・和名

龍騎士・生存

・型式

MR-01S

・世代

第零世代

・国家

無所属

・分類

全距離対応強襲型

・装備

Vバックル

召喚機「龍召剣シャインバイザーツバイ」

銃剣「シャインレイザー」

連射式ビーム銃「シャインブラスター」

アドベントカード各種

・装甲

エネルギー反射型・ヤタノカガミ装甲

・仕様

アドベントシステム

ドラグーン・システム

ヴォワチュール・リュミエールシステム

 

龍騎士(ドラグナー)二次移行(セカンド・シフト)形態。

外見は遊戯王DMの合身竜ティマイオス。

ストライクフリーダムガンダムの翼と同じ機能と外見を持つ非固定武装(アンロック・ユニット)がある。

一次移行(ファースト・シフト)形態よりも鈍重な外見だが、ヴォワチュール・リュミエールシステムのおかげで機動力は寧ろ向上している。

 

・装備

 

召喚機…龍召剣シャインバイザー

左腰のホルスターに提げている剣型の召喚機。

シャインナーガのような装飾が施されている。

ナックルガードの部分を開くことで、アドベントカードを装填する。

 

サバイブ時…龍召剣シャインバイザーツバイ

左腕に装着されている剣盾型の召喚機。

剣と盾それぞれにカード挿入口がある。

 

銃剣「シャインレイザー」

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)「輝龍逆鱗」が発現すると同時に使用可能になった銃剣。

イメージは「天装戦隊ゴセイジャー」のゴセイナイトが使う「レオンレイザー」。

本来ならレオンセルラーを装着する部分に、ム◯キングのようなカードスキャナが装着されている。

 

連射式ビーム銃「シャインブラスター」

束が龍騎士(ドラグナー)をオーバーホールした際に、追加された武装。

2丁搭載されている。

外見はストライクフリーダムガンダムのビームライフルを金色と銀色にしたもの。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)輝龍逆鱗(きりゅうげきりん)

サバイブ入手から約1年後に使用可能になった。

シャインレイザーのスキャナに契約モンスターのカードを読み取らせることでシャインレイザーによる一撃の威力が上がる。

斬撃「バーサークスラッシュLv.◯」

銃撃「バーサークブラストLv.◯」

の2種類がある。

攻撃力をアドベントカードに依存しているため、零落白夜のように拡張領域(バス・スロット)を圧迫したりはしない。

イメージは遊戯王DMの速効魔法「狂戦士の魂(バーサーカー・ソウル)」。

 

 

 

雷轟(らいごう)

 

スペック

 

・和名

雷轟

・型式

GAT-FJ108

・世代

第3世代

・国家

フランス

・分類

全距離対応万能型

・装備

ビームライフル

肩部機関砲×2

ナイフ「アーマーシュナイダー」

対ビームシールド

スモールシールド×2

ストライカーパック各種

・装甲

衝撃吸収性サード・グリッド装甲

・仕様

ストライカーパックシステム

 

一夏・光莉・クロエの3人が設計した量産型第3世代IS。

ガンダムSEEDのライゴウガンダムをISにしたようなもの。

ただし量産型なので、VPS装甲はオミットされている。

フランス語の名前は「エクレール(eclair)」。

シャルロットを通して設計図がデュノア社に提供される。

試作1号機のテストパイロットはシャルロットが務めている。

拡張領域(バス・スロット)には、ストライカーパックを最大5個まで格納することが出来る。

 

パック一覧

 

・スペキュラムパック(高機動戦闘用)

装備

ビームサーベル×2

ミサイルポッド

 

・キャリバーンパック(近接戦闘用)

装備

対艦刀「シュベルトゲベールⅡ」

大型ビームサーベル「カラドボルグ」

ビームブーメラン「マイダスメッサーⅡ」×2

ロケットアンカー「パンツァーアイゼンⅡ」

 

・サムブリットパック(遠距離戦闘用)

装備

超高インパルス砲「アグニⅡ」

プラズマサボット砲「トーデスブロックⅡ」

8連装ミサイルポッド

 

・統合武器ストライカーパック(IWSP)

装備

レールガン×2

単装砲×2

対艦刀×2

コンバインシールド(ガトリング砲・ビームブーメラン内蔵)

 

 

 

・ミラーモンスター

 

契約モンスター1…輝きの龍シャインナーガ(7000AP)

 

全長…600cm

全高…350cm

体重…500kg

最高飛行速度…800km/h

 

3つ首龍のモンスター。

外見は腕の生えたメカキングギドラ。

性別は女性。

一夏のストレンジベントをきっかけに一夏と出会い、契約した。

口からは破壊光線を放つ。

複数のミラーモンスターを部下として従えている。

ISのカタログスペック上は、サポートロボットという扱いである。

 

 

 

サバイブ形態…天照(あまてらす)の龍シャインヒュードラー(9000AP)

 

全長…620cm

全高…400cm

体重…550kg

最高飛行速度…1000km/h

 

シャインナーガのサバイブ形態。

サバイブ前よりも鋭いフォルムになっており、全体的に身体つきがゴツくなっている。

 

 

 

契約モンスター2…閃光の翼ブランウイング(4000AP)

 

白鳥のモンスター。

シャインナーガが率いるグループの中でサブリーダーの役を務めている。

5話で複製した契約のカードで一夏と契約している。

人化した時の姿は「ソードアート・オンライン」のユイ。

 

 

 

契約モンスター3…ドラゴニュートウォリアー(4000AP)

 

竜人型のモンスター。

イメージは遊戯王の「アックス・ドラゴニュート」

 

 

 

契約モンスター4…ドラゴニュートソルジャー(4000AP)

 

竜人型のモンスター。

イメージは遊戯王の「ランサー・ドラゴニュート」。

 

 

 

契約モンスター5…ドラゴニュートサムライ(5000AP)

 

竜人型のモンスター。

イメージはデュエル・マスターズの「ボルシャック・大和・ドラゴン」。

 

 

 

融合モンスター1…クルセイダー(10000AP)

 

シャインナーガ・ドラグレッダー・アクアギガの3体がユナイトベントで合体した姿。

イメージは遊戯王の「XYZ-ドラゴン・キャノン」。

 

 

 

融合モンスター2…セイクリッドタイタン(13000AP)

 

シャインナーガ・ドラグレッダー・アクアギガ・デストワイルダー・スカイブレイダーの5体がユナイトベントで合体した姿。

イメージは遊戯王の「VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン」。

 

 

 

融合モンスター3…トワイライトエンジェル(9000AP)

 

シャインナーガ・ブランウイングがユナイトベントで合体した姿。

イメージは「そらのおとしもの」のエンジェロイドタイプΖ(ゼータ)(風音 日和)。

攻撃手段は「大乱闘スマッシュブラザーズ」のforにおけるパルテナと同じ。

 

 

 

その他モンスター

 

・ドラグレッダー(5000AP)

赤龍(ウェルシュ)(鈴)の契約モンスター。

原作龍騎と同じスペック。

 

・ボルキャンサー(3000AP)

シザース(シャルロット)の契約モンスター。

APこそ原作龍騎と同じだが、多彩な戦術を持つ。

それに応じて、シザースのアドベントカードも増えている。

 

・アクアギガ(6000AP)

ゾルダ(セシリア)の契約モンスター。

外見は青色のマグナギガ。

なのでゾルダのメインカラーも青色である。

自身のミサイルやビームに水属性を付与できる。

 

・ベノスネーカー(5000AP)

・メタルゲラス(4000AP)

・エビルダイバー(4000AP)

ガイ(鋼夜)の契約モンスター。

原作龍騎の浅倉 威と違ってギブアンドテイクを越えた関係を築いている。

 

・デストワイルダー

タイガ(ラウラ)の契約モンスター。

原作龍騎と同じスペック。

 

・スカイブレイダー(5000AP)

ペイル(簪)の契約モンスター。

外見はデュエル・マスターズの「ブレイドラッシュ・ワイバーンδ(デルタ)」を青色にしたもの。

6000APに限りなく近いスペックを誇る。

 

・ハルピュイアクイーン(5000AP)

・ハルピュイアナイト(4000AP)

・ハルピュイアポーン(3000AP)

セイレーン(マドカ)の契約モンスター。

正確には契約しているのはクイーンのみで、ナイトとポーンはクイーンの眷属である。

ナイトとポーンは複数体存在する。

外見は遊戯王のハーピィがイメージ。

クイーン➡︎ハーピィ・クイーン

ナイト➡︎ハーピィ・レディ

ポーン➡︎ハーピィ・ガール

 

・バイオグリーザ(4000AP)

ベルデ(本音)の契約モンスター。

スペックは原作龍騎と同じだが、穏やかな性格をしている。

 

・アビスラッシャー(5000AP)

・アビスハンマー(5000AP)

アビス(刀奈)の契約モンスター。

原作龍騎と同じスペック。




仮面ライダー赤龍(ウェルシュ)(龍騎)…凰鈴音
仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)(ナイト)…織斑一夏
仮面ライダーシザース…シャルロット・デュノア
仮面ライダーゾルダ(青色)…セシリア・オルコット
仮面ライダーライア…未定
仮面ライダーガイ…工藤鋼夜
仮面ライダー王蛇…オータム?
仮面ライダータイガ…ラウラ・ボーデヴィッヒ
仮面ライダーペイル(インペラー)…更識簪
仮面ライダーセイレーン(ファム)…織斑マドカ
仮面ライダーベルデ…布仏 本音
仮面ライダーアビス…更識 刀奈
仮面ライダーオーディン…未定


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アドベントカード・必殺技(42話まで)

※ネタバレ注意


・封印

所持しているだけでミラーモンスターから身を守れるカード。

但しカードデッキに入っている間は効果を発揮しない。

一夏から束に譲渡される。

 

・契約

ミラーモンスターと契約するためのカード。

最初にカードデッキに入っていたものはシャインナーガに使っている。

のちに束がこのカードを何枚も複製して一夏に渡したため、シャインナーガの部下のモンスターとも契約可能となった。

 

・スラストベント…シャインランサー(3000AP)

シャインナーガの尻尾を模した槍。

ブランク体だった時のソードベントが変化したカード。

尻尾の長さ故か、剣ではなく槍になった。

仮面ライダー龍騎のドラグシールドのように、2本召喚できる。

 

・ソードベント…ウイングスラッシャー(2000AP)

ブランウイングの翼の骨格を模した薙刀。

ファイナルベントでも使用する。

 

・ソードベント…ドラゴソード(3000AP)

ドラゴニュートサムライの剣を模した刀。

鞘を用いた抜刀術で戦う。

アクセルベントを使えば「るろうに剣心」の飛天御剣流を再現出来る。

 

・スラッシュベント…ドラゴアックス(2000AP)

ドラゴニュートウォリアーの斧と同じ武器。

ファイナルベントでも使用する。

 

・ガードベント…シャインシールド(3000DP)

シャインナーガの腹部を模した盾。

6000AP以下の攻撃をファイナルベント含めて完全に防ぐことができる。

しかし大きさと重さ故に取り回しが悪く、多人数戦には向かない。

一夏は基本的に相手の攻撃を防ぐより躱すタイプなので滅多に使わない。

 

・ストライクベント…ナーガクロー(3000AP)

シャインナーガの中央の首を模した手甲。

右手に嵌めて使用する。

基本的に打撃武器だが、口の部分から光線を撃てる。

仮面ライダー龍騎のドラグクローに似ている。

 

・シュートベント…ナーガキャノン(4000AP)

シャインナーガの左右の首を模したビーム砲。

両肩に装備して使用する。

仮面ライダーゾルダのギガキャノンに似ている。

 

・シュートベント…ブランスナイパー(3000AP)

ブランウイングが変形することで完成する片手持ちの狙撃銃。

仮面ライダーゾルダのギガランチャーと同じく、ミラーモンスターに対してトドメとして使える。

基本的に実弾銃だが、トワイライトエンジェルのファイナルベント時はビームが出る。

イメージは「新・光神話 パルテナの鏡」の「ブラピの狙杖」を白くしたもの。

 

・フェザーベント…ドラグーンストーム(4000AP)

サバイブ形態専用のカード。

非固定武装(アンロック・ユニット)に装備されているドラグーン・ユニット8基で敵を攻撃する。

性能はストライクフリーダムガンダムのスーパードラグーンに準拠している。

 

・トリックベント…シャドーイリュージョン(2000AP)

自分の分身体を最大8体まで生成する。

サバイブ時は3000APになる。

 

・コピーベント

対象者の姿や能力、武器をコピーする。

性能はベルデのコピーベントに準拠している。

 

・コンファインベント

対象者の能力や攻撃を打ち消す。

ISに対して使用した場合、『相手の武装を拡張領域バス・スロットに強制送還し、一定時間再呼び出しコール出来なくする』という効果になる。

 

・スチールベント

対象者の武器を奪う。

拡張領域(バス・スロット)さえ空いていれば、どんな武器も奪取・使用することが出来る。

 

・ユナイトベント

自身の契約モンスターおよび味方のライダーの契約モンスターを融合させる。

 

・クリアーベント

姿を消して透明になることが出来る。

 

・フリーズベント(2000AP)

対象者の動きを封じる。

サバイブ時は3000APになる。

 

・リターンベント

1度使用したアドベントカードをもう1度使用できる。

 

・アクセルベント(3000AP)

加速して攻撃を行う。

サバイブ時は4000APになる。

 

・ストレンジベント

使用するまで何が起こるかわからない。

これまで発動したカード

サモンベント…野生のミラーモンスターをランダムで自分の近くにテレポートで呼び寄せる。

エクスプロージョンベント…対象者の足下に大爆発を起こす。

ヒールベント…味方のダメージを回復する。

 

・リフレクオーツベント

対象者の攻撃を跳ね返す。

 

・タイムベント

オーディンとの戦いで入手したカード。

時間を巻き戻したり、過去へ跳んだり出来る。

 

・サバイブ-疾風-

オーディンとの戦いで入手したカード。

サバイブ形態に変身出来る。

また、オリジナル設定として所持しているライダーはミラーワールドでの、契約モンスターは現実世界での活動時間の限界が無くなる。

この能力はカードを所持するだけで発動するため、生身でミラーワールドに居ても問題無い。

 

・ファイナルベント…ジャッジメントライダーキック(8000AP)

シャインナーガの中央の首に押し出して貰うことで勢いをつけ、左右の首から放たれた光線を纏いながら跳び蹴りを叩き込む。

 

・ファイナルベント…ドラゴンパニッシュメント(11000AP)

サバイブ時の必殺技。

龍騎士(ドラグナー)とシャインヒュードラーが空中で合体して戦闘機になり、急降下して相手を貫く。

イメージは「大乱闘スマッシュブラザーズ」のXとforにアイテムとして登場したエアライドマシン「ドラグーン」。

 

・ファイナルベント…ミスティースラッシュ(5000AP)

ブランウイングの必殺技。

巨大化したブランウイングが敵を龍騎士(ドラグナー)の居る方向に吹き飛ばし、龍騎士(ドラグナー)がウイングスラッシャーで敵を切り裂く。

 

・ファイナルベント…デュアルドラゴンスライサー(5000AP)

ドラゴニュートウォリアーの必殺技。

龍騎士(ドラグナー)がドラゴアックスで敵を打ち上げ、空中でドラゴニュートウォリアーと共に連続攻撃を仕掛ける。

イメージは「大乱闘スマッシュブラザーズ」のforにおけるルフレの最後の切り札「ダブル」。

 

・ファイナルベント…アポカリプスミーティア(12000AP)

クルセイダーの必殺技。

クルセイダーが全身の砲門を開き、龍騎士(ドラグナー)がクルセイダーの背中の穴にシャインバイザーを差し込み、鍵を解錠するのと同じように回すことでクルセイダーがフルバーストを放つ。

マグナギガのファイナルベント「エンドオブワールド」に似ている。

 

・ファイナルベント…ディメンションクラッシュ(10000AP)

トワイライトエンジェルの必殺技。

トワイライトエンジェルがブラックホールを発生させて敵の動きを封じ、龍騎士(ドラグナー)がブランスナイパーによるビームで撃ち抜く。

イメージは「大乱闘スマッシュブラザーズ」のforにおけるパルテナの最後の切り札「ブラックホール+波動ビーム」。

技名の由来はゴーバスターオー(特命戦隊ゴーバスターズ)。

 

 

 

その他必殺技(ほとんどの技は遊戯王が元ネタ)

 

螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)

アクセルベントで加速して、シャインランサーを超高速で突き刺す。

暗黒騎士ガイアの技。

 

・アルティメット・バースト

ナーガクローとナーガキャノンを構え、3つの砲口から同時にビームを放つ。

貫通力よりも攻撃範囲を重視した技のため、防御力が高い相手には必殺技にならない。

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)の技。

 

滅びの爆裂疾風弾(ルイン・ザ・バーストストリーム)

ナーガクローを装備し、仮面ライダー龍騎のドラグクローファイヤーと同じ構えでビームを放つ。

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)の技。

 

・疾風斬

ドラゴソードとアクセルベントで「るろうに剣心」における飛天御剣流「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」を再現した技。

飽くまで再現なので技名も違う。

やろうと思えば天翔龍閃や他の飛天御剣流も使える(但し1回の戦闘につき1発が限度)。

 

・ギャラクシー・クラッシャー

サバイブ時のみ使用可能な技。

シャインソードのエネルギー波とシャインヒュードラーの破壊光線を合わせて相手に攻撃する。

究極龍騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト)の技。



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原作前 〜龍騎士の始まりの物語〜
プロローグ


3作品目です。
よろしくお願いします。


「ん?ここは……」

「気が付いたのですね?」

 

目が覚めたらそこは何も無い空間で、声のした方を見ると綺麗な女性がこちらを見ていた。

 

「え〜と、どちら様?」

「あなた方の言葉で表現するなら……『神』でしょうか」

「神様が俺に何の御用で?」

「もう少し過剰なリアクションを期待していたのですが……コホン、あなたは少女を居眠り運転のトラックから庇って死んだのです」

 

言われて思い出した。

そういえばそんな死に方したな。

 

「あの女の子は無事ですか?」

「はい。あなたに突き飛ばされて手足を多少擦り剥きましたが五体満足ですよ」

「そうですか。命賭けた甲斐がありましたね」

「あなたは死んだのですよ?それで良いのですか?」

「えぇ。格好良い死に方した分マシだと思っていますが」

「やはりあなたはわたしの見込んだ通りの人物でしたね。そんなあなたには2度目の人生を与えましょう」

 

2度目の人生?

それはつまり……。

 

「前世の記憶を引き継いでの、いわゆる転生ですか?」

「そうです。あなたが望むものを与えた上で、別世界でもう1度生きることが出来ます」

「別世界ってどんなところなんです?」

「基本的にランダムです。絞り込みの条件をひとつだけ付けることは出来ますが」

 

そう言われて考え込む。

貰うものと行く世界の条件か……。

よし、決めた。

 

「ではミラーライダーの力を下さい。絞り込みの条件は『ミラーワールドの存在する世界』でお願いします」

「仮面ライダー龍騎ですね?どのライダーにします?」

「ナイトのブランク体でお願いします。契約モンスターは自分で探したいので。あと可能であれば特殊アドベントカードを全種類欲しいです」

「わかりました。しかし渡せるのはサバイブとタイムベント以外のものとなりますがよろしいですか?」

「はい、それで十分です」

 

俺が了承すると、目の前に扉が出現した。

 

「その扉をくぐった瞬間、あなたの2度目の人生がスタートします。幸ある人生を祈っていますよ」

「はい、ありがとうございました」

 

扉をくぐると、俺は光に包まれて意識を手放した。

 

「さて、彼の転生先は……『インフィニット・ストラトス』?ミラーワールドの存在するIS世界があるなんてね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さんこんにちは。

神様に2度目の人生を与えられた転生者です。

転生後の名前は『織斑 一夏』だ。

どっかで聞いたことあるような……?

思い出せないし別に気にしなくていいか。

ちなみに今は4歳で、姉の千冬と2人暮らしだ。

元々は両親プラス双子の妹のマドカの5人家族だったのだが、ある日両親がマドカを連れて蒸発してしまった。

マドカは元気だろうか……?

妹の安否を案じながら、俺は右手に握られているものを見る。

つい先日、神様から届いたカードデッキだ。

この力で俺は何が出来るだろう?

とりあえずまた家族揃って暮らしたいかな。



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第1話 初めての戦い

どうも、5歳になった織斑一夏です。

カードデッキを貰ってからは幼稚園の合間を縫ったりしてちょくちょく変身してミラーワールドに潜ったりしているのだが、なかなかミラーモンスターには出会えない。

ちなみにデッキに入っていたカードは……、

 

ミラーモンスターから身を守る『封印(SEAL)

 

ミラーモンスターと契約する『契約(CONTRACT)

 

ライドセイバーを呼び出す『ソードベント(SWORD VENT)

 

複数の分身を生み出す『トリックベント(TRICK VENT)

 

対象者の能力を複写する『コピーベント(COPY VENT)

 

対象者の攻撃を打ち消す『コンファインベント(CONFINE VENT)

 

対象者の武器を奪う『スチールベント(STEAL VENT)

 

契約モンスターを融合させる『ユナイトベント(UNITE VENT)

 

姿を消す『クリアベント(CLEAR VENT)

 

対象者の動きを封じる『フリーズベント(FREEZE VENT)

 

1度使ったカードを再使用できる『リターンベント(RETURN VENT)

 

何が起こるかわからない『ストレンジベント(STRANGE VENT)

 

加速して攻撃する『アクセルベント(ACCEL VENT)

 

対象者の攻撃を反射する『リフレクオーツベント(REFLEQUARTZ VENT)

 

以上の14枚だ。

自分で頼んだものだが、結構豪華なものになっている。

オルタナティブのアクセルベントまであるよ。

カードのイラストは正規のミラーライダーのものになっているけど。

しかし契約のカードは1枚しか無いのにユナイトベントの出番はあるのか?

そしてリフレクオーツベント。

これはスーパーヒーロー大戦で龍騎がゴセイジャーから貰ったカードだ。

まさかこんなカードまでくれるなんてな。

 

で、俺は今1人で道端を歩いている。

契約するモンスターを探すためだ。

アドベントカードが何枚あろうと、モンスターと契約しなければライダーは弱いままだ。

 

…………………………

 

これは……例の金切音⁉︎

近くにミラーモンスターが居るのか?

慌てて周囲を見渡すと、とある店の窓に蜘蛛型ミラーモンスター『ディスパイダー』の姿が。

その視線の先には買い物帰りの母娘(おやこ)が居た。

あの2人が獲物か!

俺は急いで人目につかないガラスの前に走ってカードデッキを翳す。

それに応じて、俺の腰にベルト型デッキホルダー『Vバックル』が巻き付けられる。

 

「変身!!」

 

掛け声と同時にデッキを差し込む。

その瞬間、俺は騎士の兜を模した頭部をもつ『仮面ライダーナイト』のブランク体へと姿を変えた。

未だモンスターと契約しておらず、変身しているのはたかが5歳の子供だ。

それでもあの母娘が喰べられるのを見過ごす訳にはいかない!

 

「ハァッ!」

 

ガラスに飛び込み、ミラーワールドへ移動する。

元居た場所に戻ってみれば、ディスパイダーがまさに母娘に対して糸を吐こうとしていたところだった。

 

「させるかぁ!」

 

俺はディスパイダーにタックルをかます。

あまりダメージは与えられなかったが、注意を引くことには成功した。

 

「キシャァァァァァ」

「さて、これからどうするか……」

 

ディスパイダーの間合いギリギリの位置を維持しながら考え込む。

この場をどうにかするだけなら封印で追い払うか、フリーズベントで母娘が離れる時間を稼ぐだけで十分だろう。

だがミラーモンスターには、1度見定めた獲物に執着する習性がある。

つまりこの場をどうにかしても、このディスパイダーは再びあの母娘を狙うということだ。

だから今この場で撃破しないといけない。

モンスターと契約していない俺が持つミラーモンスターに対して有効な攻撃手段はストレンジベントしかない。

はっきり言って運任せだが、ライドセイバーでは歯が立たないことは龍騎が番組の第1話で証明している。

 

「よしっ」

 

デッキから1枚のカードを引く。

DNAのような二重螺旋が描かれたストレンジベントのカード。

それを腰に差してある剣型の召喚機(バイザー)に装填する。

 

『STRANGE VENT!!』

 

頼む、何でもいいから奴を倒す力を!

 

『SUMMON VENT!!』

 

ライドバイザーから発せられた2度目の音声に、俺は首を傾げる。

召喚(サモン)

何が起きるんだ?

 

「ギャオオオオオッ!」

 

何かの咆哮と共に、俺の身体が影に覆われる。

上を見ると、金と銀が入り混じった3つ首龍が空から降りてくるところだった。

 




・サモンベント
ミラーモンスターをランダムで自分の近くにテレポートで呼び寄せる。


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第2話 パートナーとの出会い

連続投稿です。


SIDE ???

 

私は今、とある町の上空に居る。

何らかの力で呼び寄せられたのだ。

下を見ると、ライダーらしき人物と雑魚(ディスパイダー)が対峙していた。

あのライダーが雑魚(ディスパイダー)を倒すために私を呼んだのか?

まぁ良い、丁度小腹が空いていたところだ。

手を貸してやろう。

 

「ガァァァァァッ!」

 

私が放った破壊光線で、雑魚(ディスパイダー)はいとも簡単に爆発した。

そして雑魚(ディスパイダー)がその場に遺した生命エネルギーを食して、ライダーに向き直る。

ライダーはミラーモンスター(私達)に対して結界の役目を果たすカードを地面に置くと、契約のカードを取り出した。

 

「俺は目の前に居る誰かを助けたいがためにライダーになった!お前の力を俺に貸してくれ!」

 

このライダー、よくよく見ればまだ子供ではないか。

近くのガラス()から現実世界()を見ると、2人の人間が歩いているのが確認できた。

あの2人を守るためにライダーになったのか。

私は今、契約のカードが発動する範囲外に居る。

この場から離脱するなり、ライダーを攻撃するなりすれば、契約が成されることは無い。

だが、私はこのライダーに強い興味を抱いた。

目の前の幼いライダーの行く末が見たくなったのだ。

私はゆっくりとライダーに近付く。

契約のカードが発動して、ライダーの身体は金と銀で彩られた。

ふふっ、さしずめ「仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)」といったところか。

お前がどこまでやれるか、このシャインナーガが見届けてやるとしよう。

 

SIDE OUT

 

SIDE 一夏

 

俺の想いが通じたのか、目の前の3つ首龍は抵抗らしい動きを見せず契約に応じてくれた。

俺はさっきまで契約のカードだった手元のアドベントカードを見る。

 

『SHINE NAGA(7000AP)』

 

シャインナーガ。

それがこのモンスターの名前か……。

しかし7000APって融合モンスターのジェノサイダーと同じじゃねぇか!

もしかしてとんでもない当たりを引いたのか?

ジェノサイダーと違って融合素材となっている複数のミラーモンスターを養う必要があるわけじゃないし。

ドラゴンと契約した騎士(ナイト)

俺の仮面ライダーとしての名前は龍騎士(ドラグナー)が妥当かな。

 

「これからよろしくな、シャインナーガ」

「グルルルル」

 

俺の呼び掛けに、シャインナーガは喉を鳴らして応じてくれた。

試しに首を撫でると、気持ち良さげに目を細めた。

見た目の割に可愛げがあるモンスターかも。

結果、俺はミラーワールドでの活動限界時間ギリギリまでシャインナーガの3つの首を撫でることになった。




シャインナーガはとある特撮の怪獣を元にしています。
何だと思いますか?

原作キャラとの絡みは次話からとします。
いずれ設定資料も投稿します。


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第3話 龍騎士と未来の天災

皆さんこんにちは。

小学生になった織斑一夏です。

今は近所の篠ノ之道場で剣道を習っています。

バイザーが剣だからここでの鍛錬はミラーモンスターとの戦闘で非常に役に立っている。

むしろ捗りすぎてシャインナーガが満腹になり、今はシャインナーガの部下のモンスターが倒したモンスターの生命エネルギーを食べている。

部下が居たなんて驚きだよ。

俺とシャインナーガが契約してからは人間を襲っていないらしいから問題無いけど。

しかしその中に劇場版で仮面ライダーファムと契約していたブランウイングが混じっていたのはびっくりだ。

どうやらサブリーダーらしい。

 

稽古が終わった後。

たまたま道場の裏を歩いていたら、姉と同い年くらいの美人な女性が難しい顔でパソコンとにらめっこしていた。

屋外で何やってんだろ……?

とりあえず話し掛けてみよう。

 

「何やってるの?」

「ん?君は……ちーちゃんの弟くんか。わたしは篠ノ之束だよ」

「織斑一夏です。ちーちゃんって千冬お姉ちゃんのこと?」

「そうだよ〜。そしてきみは『一夏』だからいっくんだね!」

「は〜い。よろしくね『束お姉ちゃん』」

「……いっくん、もう1度束さんのこと呼んでくれないかな?」

「束お姉ちゃん?」

「ぐはぁっ!」

 

束お姉ちゃんが何か凄いダメージを受けている!

何故⁉︎

 

「ど、どうしたの!?」

「ハァ……ハァ……。ふふっ、久々に『お姉ちゃん』って呼んで貰えたよ。束さんには妹がいるんだけどね?真面目で恥ずかしがり屋さんだから呼び方が『姉さん』に変わっちゃったんだよ。いっくんと同い年なのにね……」

「じゃあ俺はずっと呼び方を『束お姉ちゃん』にした方が良い?」

「そうだね!大人になってもそう呼んでくれると束さんはハッピーだよ!」

 

束お姉ちゃんは鼻血を出しながらサムズアップした。

とりあえず止血しましょうか?

 

「それで、何をしていたの?」

「よくぞ聞いてくれたね!束さんはこれを作っていたのだよ!」

 

パソコンの画面を覗くと、何かの設計図が映し出されていた。

 

「インフィニット・ストラトス。宇宙へ飛び立つための翼だよ」

 

そこからは、束お姉ちゃんからインフィニット・ストラトス(通称IS)について色々教えて貰った。

宇宙開発を目的としたパワードスーツ。

その性能はオーバースペックの塊だった。

360度の視界を確保するハイパーセンサー。

宙に浮くための慣性制御機能。

装備の量子変換。

何も無いところで映像を出せる空中投影ディスプレイ。

操縦者を守るエネルギーシールド。

そして現行の兵器を上回る攻撃力、防御力、機動力。

どれを取っても現代の科学技術を置いてけぼりにしている。

 

「ちょっとコレ、凄すぎない?」

「そうだよ!流石は束さんってところだね!ブイブイ!」

「いや、そうなんだけどここまで高性能だと『軍事兵器』としての使い道を見出す人が居ると思うよ。これだと完成して発表したところでISは人殺しの道具として使われることになっちゃうよ?」

「うっ……。それは束さんも嫌だなぁ。どうしよう……」

 

…………………………

 

2人して悩んでいるとミラーモンスターの気配がした。

普段持ち歩いている手鏡を取り出してミラーワールドを見ると、羚羊(レイヨウ)型のモンスター・ギガゼールが帰りの準備をしている門下生たちの居る方へ向かっていた。

 

「ん?どうしたのいっくん?」

 

束お姉ちゃんが何事か聞いてくる。

普通ならここから離れて人目のつかないところで変身すべきだ。

けど束お姉ちゃんになら教えても良いと思った。

ISを設計する技術があるなら、仮面ライダー龍騎の香川教授みたいにアドベントカードの複製とか出来るかもしれない。

 

「束お姉ちゃん、このカードデッキを触りながらこの鏡を見て」

「どれどれ……って何あの怪物!?」

「鏡の世界『ミラーワールド』の住人、ミラーモンスターだよ。捕食対象は主に人間」

「じゃあこのままだと……」

「あっちにいる門下生たちは食べられるだろうね。その次は近くに居る俺たちだ」

「何か手は無いのいっくん!?」

「あるよ。今からそれを見せる。鏡から手を離さないでね」

 

手鏡を束お姉ちゃんに預けてカードデッキを翳す。

そして出現したVバックルにカードデッキを装填する。

 

「変身!!」

 

そして俺は金と銀の入り混じった鎧を纏う騎士、仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)へと姿を変えた。

 

「えっ何それ!?」

「後で説明するから。それじゃあ行ってきま〜す」

「ちょっちょっと!?」

 

束お姉ちゃんが何か言っていたが、気にせず手鏡からミラーワールドへ突入する。

 

「グオッ!?」

 

ギガゼールはこちらに気付いて警戒態勢を取る。

対する俺は1枚のカードを取り出して召喚機(バイザー)、龍召剣シャインバイザーに装填する。

 

『THRUST VENT!!』

 

俺の手にシャインナーガの尻尾を模した槍、シャインランサーが出現する。

 

「ハァッ!」

「グルゥッ!」

 

ギガゼールも二股ドリルの槍を取り出し、槍対決となる。

体格差だけなら大人VS子供だが、シャインナーガと契約したことで上昇した基礎スペックと現在習っている武術のおかげで、優勢なのはこちらだ。

 

「おりゃあ!」

「グルアッ!?」

 

ギガゼールの突きにカウンターを放ち、連続で攻撃がきまる。

ダメージの蓄積によってギガゼールが槍から手を離し、膝をついた。

そろそろトドメだな。

再びカードを取り出してシャインバイザーに装填する。

 

『ACCEL VENT!!』

 

身体が軽くなり、視界がクリアになる。

俺は高速でギガゼールに肉薄すると、渾身の突きを放つ。

 

螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)!!」

「ギャアアアアア!」

 

土手っ腹に風穴が開いたギガゼールは10m以上吹き飛び、地面に落下すると同時に爆発した。

そしてギガゼールの生命エネルギーだけが残る。

 

「グルル」

「ん?今日はお前の番か」

 

黒い体色で、両手斧を持った竜人型モンスターが現れ、俺に敬礼したあとギガゼールの生命エネルギーを食べて帰っていった。

シャインナーガの部下のモンスターの1体『ドラゴニュートウォリアー』だ。

 

「さて、俺も帰るか」

 

こうして、初めての人前での戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上が、俺が知るミラーライダーの全てだよ」

「なるほどね〜。しかしこんな折りたたみ式携帯より一回り大きい程度のもので変身したり戦ったり出来るなんて、俄かには信じられないよ。束さんは実際に見たから信じるけど」

 

束お姉ちゃんにはミラーライダーやミラーモンスターについて、全て話した。

カードデッキの入手方法は『道端で拾った』ということにしたが。

 

「鏡の世界か……。宇宙と同じくらい行ってみたいね。これがあれば束さんもミラーワールドに行けるかな?」

「う〜ん……。そのカードデッキは俺かシャインナーガのどちらかが死んで契約が破棄されない限りはそのデッキで俺以外の誰かが変身したり、デッキからカードを抜くことは出来ないからね……。かといってライダーやモンスター同伴で行くとなると生身だから向こうでの活動制限時間が極端に短いし……。ISを設計した束お姉ちゃんなら似たようなものを作れるんじゃない?」

「その手があったね!いっくん、このデッキを借りても良い?」

「だ、そうだけどシャインナーガとしてはどう?」

「デッキ手放す……。マスター、変身出来ない……。もしもの時、困る……」

 

手鏡越しに見ていたシャインナーガを会話に混ぜる。

他のミラーモンスターから得た生命エネルギーによってか、シャインナーガはつい最近言語能力を獲得した。

ただ、慣れない発声のためか片言だが。

で、今の意見を要約するとシャインナーガは束お姉ちゃんの申し出に反対という訳か。

 

「パートナーがこう言ってるし、デッキを貸すのはもっと時間がある時だね」

「そっか〜。残念」

「でもこれなら渡せるよ」

 

デッキから封印のカードを取り出して束お姉ちゃんに渡す。

 

SEAL(封印)?」

「そのカードは持ち歩くだけでミラーモンスターから身を守ることが出来るんだ。シャインナーガと契約した俺にはもう必要の無いものだ。まずはそれを調べてみたら?」

「それは便利だね。ありがといっくん!」

 

束お姉ちゃんの笑顔に見送られ、俺は道場を後にした。

ただ、帰りが遅かったせいで千冬お姉ちゃんの機嫌が悪かった。

恐らく寄り道したとか思っているんだろうな。

束お姉ちゃんと話をしていたと言ったらなんとか許して貰えた。




ドラゴニュートウォリアー

シャインナーガの部下のモンスターの1体。
イメージは遊戯王のアックス・ドラゴニュート。
他にもランサー・ドラゴニュートそっくりなドラゴニュートソルジャーが居る。


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第4話 龍騎士と白騎士

小学校中学年になりました、織斑一夏です。

今は千冬お姉ちゃんと一緒に篠ノ之家の束お姉ちゃんの部屋に来ている。

今日は束お姉ちゃんが開発したIS『白騎士』と、ISに作り変えて貰った『龍騎士(ドラグナー)』の運用テストを行う日だ。

その記録映像を学会で発表する際のデモンストレーションに使うのが目的である。

ちなみに千冬お姉ちゃんは、俺がミラーライダーだということを既に知っており、流暢に言葉を話せるようになったシャインナーガとも面識がある。

初めはライダーを辞めるよう諭されたが、ライダーが誰かを守るための力だということを説明したらなんとか納得してもらえた。

 

「いっくんにちーちゃん、大変だよ!」

「どうした束?」

「世界各国の軍事施設が何者かにハッキングされて合計2000発以上のミサイルが発射されたんだよ!そしてそれらの目標は……日本の国会議事堂」

「「なんだって!?」」

「お願い2人共!白騎士と龍騎士で迎撃して!」

「わたしは構わん。だが……」

「ISの初舞台がそんな場面だとISは『兵器』として見られるだろうね。束お姉ちゃんが夢見る宇宙開発が果てしなく遠のくよ。それでも良いの?」

「束さんだって嫌だよ、そんなの。でも人の命を蔑ろにしてまで自分の夢を叶えたいと思うほど、束さんは腐っていないよ」

「束……」

「わかったよ、束お姉ちゃん。約束する、俺はどんな時だって束お姉ちゃんの味方でいると」

「……ありがとういっくん。ちーちゃんもお願い」

「弟がやる気なんだ。わたしも腹を括るさ」

「それでこそちーちゃんだね。ミサイルが到着するまでに2人のISを出来る限りでチューンアップするよ。いっくん、カードデッキ出して」

 

束お姉ちゃんに言われた通りカードデッキを差し出す。

 

「済まないな、シャインナーガ。今日はタダ働きになりそうだ」

「これくらいお安い御用ですよ、マスター。いつも部下共々たらふく食べさせて貰っていますからね」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

鏡越しにシャインナーガと話をしながら待っていると、束お姉ちゃんが戻って来た。

 

「準備が終わったよ!」

「それじゃあ行こうか、千冬お姉ちゃん」

「そうだな」

 

この日、白き鎧を纏う騎士と金銀の鎧を纏う騎士が、日本へ向かう脅威を排除するために飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太平洋上空。

白騎士(千冬お姉ちゃん)龍騎士()、そしてシャインナーガが合計2341発のミサイルを撃ち落としている最中だ。

しかし千冬お姉ちゃんには驚かされた。

初っ端にミサイルの約半数を『ぶった斬った』んだぜ?

 

『SHOOT VENT!!』

『STRIKE VENT!!』

 

2枚のカードを使うことで、俺の両肩にはシャインナーガの左右の首を模したビーム砲『ナーガキャノン』が、右腕には中央の首を模した『ナーガクロー』が装備される。

 

「アルティメット・バースト!!」

 

3つの砲口から放たれたビームが最後のミサイル群を飲み込む。

 

「束、今のでミサイルは最後か?」

『うん、そうだね。でも世界各国が白騎士と龍騎士を鹵獲しようと軍隊を派遣したみたい……』

「おいおい、2人プラス1体でミサイル2341発を墜としたんだぞ?無謀だろ」

『だからこそISの力をはっきり示さなければならないんだよ。死人を出さずに撃墜して』

「こうなったらとことんやるしかないか」

「千冬お姉ちゃんの言う通りだな。シャインナーガは現実世界での活動時間がそろそろ限界だろう?ここからはミラーワールドからの援護を頼む」

「そうですね。戦艦ならミラーワールドからも攻撃出来ますし」

「くれぐれも死者は出すなよ」

「わかってますよ。マスターは心配性ですね」

 

そう言ってシャインナーガは、海面を利用してミラーワールドに戻って行った。

 

『戦闘機が接近中だよ。エンカウントまであと15秒』

「さて、やりますか」

「そうだな」

 

そこからは一方的な蹂躙だった。

航空兵器は翼を切られ、水上兵器は動力と砲門を潰され、されど誰1人死んでいない破壊劇。

最終的に戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛生8基を破壊した俺と千冬お姉ちゃんはミラーワールドを通してその場から離脱した。

 

今日の出来事は『白騎士(しろきし)龍騎士(りゅうきし)事件』としてISの力と共に世界中に認知されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

ISを開発した束お姉ちゃんによる記者会見が行われた。

白騎士と龍騎士の操縦者は性別以外は秘密とされ、世界でのISの運用に関しては『ISの軍事利用を禁止する条約の締結』を条件にISコアを条約の加盟国へ配布するということになった。

その条件に則って『アラスカ条約』が結ばれ、世界各国でISの研究が始まった。



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第5話 チャイナガールの登場と龍の想い

ISが世界に公表されてから1年が経った。

束お姉ちゃんは『もっとISコアを作れ』と催促する政府やIS委員会に嫌気が差し、467個目のコアと『これが最後のコアだよ〜』という旨の置き手紙を残して雲隠れしてしまった。

それに応じて篠ノ之家の面々は『重要人保護プログラム』というものによってバラバラになったらしい。

同じクラスに居た束お姉ちゃんの妹の『篠ノ之箒』も転校していった。

彼女には少しばかり同情するが、俺としては寧ろありがたかった。

何故ならかつて彼女をいじめから助けてからは常に後ろをついて回って来て鬱陶しかったからだ。

そして篠ノ之箒と入れ替わるように転入生がやって来た。

 

「ちゅゴクからキました凰鈴音(ファン・リンイン)でス。ヨろしくお願いしマす」

 

どうやら中国から来たらしい。

まだ日本語がうまく喋ることが出来ないようだ。

休憩時間。

俺は凰さんに話し掛けてみた。

 

『はじめまして。俺は織斑一夏だ』

『っ!?あなた中国語が喋れるの?』

『ちょっとだけな』

 

前世の小学生時代でも中国から転校生が来た。

それを機に中国語を少しだけ学ぶことにしたんだ。

結果、日常会話程度なら話せるようになった。

まさか転生後に役立つとは思わなかったよ。

 

『織斑、わたしに日本語を教えて』

『いいぜ』

 

俺が通訳を務めることで、凰さんは少しずつクラスに溶け込んでいった。

 

SIDE OUT

 

SIDE シャインナーガ

 

織斑一夏(マスター)と契約して、約5年の月日が流れた。

いつからだろう。

マスターに対してこのような感情を抱いたのは。

 

はじめは幼くしてライダーになった彼が、どんな人生を歩むのかが見たいと思って契約した。

だから多少ミラーモンスターの生命エネルギーの供給が滞っても、すぐに契約不履行とみなすつもりは無かった。

力と決意があったところで、当時のマスターは5歳だ。

 

だが結果はどうだろう。

マスターは目まぐるしく成長し、わずか1年程度でわたしの部下たちまで養うことが出来るまでに至った。

おかげでわたしとマスターが契約する前よりも皆が格段に強くなっている。

皆も契約している訳でもないのにここまで尽くしてくれているマスターに感謝しているだろう。

 

そしてわたしも……。

彼がわたしの頭を撫でる時の柔らかな手つき。

そして慈愛に満ちた表情(かお)

ギブアンドテイクの関係だというのに、どこまでも此方を気遣ってくれる優しさ。

もう、自分の気持ちに嘘は()けない。

 

シャインナーガ(わたし)は……ミラーモンスターでありながら、織斑一夏(マスター)に恋をしてしまっている。

 

それを認めると同時に決意した。

この想いをマスターに伝えると……。

 

もしかしたら拒絶されるかもしれない。

そう思うと途轍もなく不安になり、決意が鈍りそうになる。

でも伝えなければずっと後悔するだろう。

まずは想いを伝えるにあたってやらなければならないことがある。

最近になって発現した『あの(・・)能力』の完全習得だ。

そのためには、しばらくの間マスターから離れてミラーワールドに籠りきりになるだろう。

その間、マスターはわたしのアドベントとファイナルベントが使えなくなるため、部下の力でミラーモンスターと戦うことになる。

束さんは雲隠れする前に、複製した契約のカードをマスターに何枚か渡してあるので問題無いはずだ。

 

待っていてくださいね、マスター。

 

SIDE OUT

 

SIDE 一夏

 

「ヒヒィィィン!」

「待て!」

 

こんにちは、織斑一夏です。

俺は今、ミラーワールドで縞馬型ミラーモンスターのゼブラスカルアイアンと戦っている。

ビルとビルを挟んだ路地裏で戦っていたのだが、ゼブラスカルアイアンが体表の縞模様(ストライプ)に沿って身体を伸ばして屋上に逃げたので、スラスターを吹かして追跡中だ。

屋上に辿り着くと、ゼブラスカルアイアンは屋上の反対側から隣のビルに乗り移ろうとしていた。

 

「逃がすか!」

『SHOOT VENT!!』

「ピィィィッ!」

 

ブランウイングが現れ、俺の手の中で片手持ちの狙撃銃に変形した。

 

(つらぬ)け!」

 

放たれた弾丸は、ゼブラスカルアイアンのに命中し爆発を起こす。

 

「ピィッ!」

 

ブランウイングが変形を解いて俺の手から離れ、ゼブラスカルアイアンの生命エネルギーを食べて戻って来る。

今思えばさっきブランウイングが変形した白い狙撃銃『ブランスナイパー』は、前世で遊んだ『新・光神話 パルテナの鏡』に登場した『ブラピの狙杖』にそっくりだったな。

この世界でも発売しないかな〜。

ファミコンソフトの『光神話 パルテナの鏡』が存在していることは確認済みだから、あとは3DSが出るのを待つだけだが。

 

しかし、シャインナーガは今頃何をしているんだろうな……。

数週間前に『やらなければならない事ができた』と言って姿をくらまして以来、1度も会っていない。

束お姉ちゃんは雲隠れする前に複製した契約のカードを何枚もくれたから、その内の1枚でブランウイングと契約することでミラーモンスターとの戦闘には特に支障は無いのだが……。

シャインナーガが身近に感じられないことが、こんなにも寂しいものだとは思っていなかった。

本来、ライダーとミラーモンスターの契約はギブアンドテイクだ。

だが俺は、いつしかシャインナーガとの間に絆を感じるようになった。

もはやシャインナーガは、織斑一夏という存在を構成する要素の一部になっている。

もしシャインナーガが人間で、別の形で出会っていたら惚れてるかもしれないな。

早く帰って来て欲しいものだ。

 

ミラーワールドから帰還して数時間後。

自室で寛いでいるとシャインナーガが戻って来た。

 

「マスター、ただいま戻りました」

「よく帰って来たな、シャインナーガ。待っていたぞ」

「しばらく留守にしていて申し訳ありません」

「こうして帰って来てくれただけで十分さ。何をしていたんだ?」

「それを今からお見せします。ミラーワールドに来てもらえませんか?」

「おう、わかった」

 

カードデッキを持ってミラーワールドに潜り、そこで龍騎士(ドラグナー)を展開する。

ISになった龍騎士(ドラグナー)は、カードデッキさえあれば変身しなくともミラーワールドへ入れるようになっている。

今となっては「龍騎士(ドラグナー)に変身する」=「ISを展開する」ということなので、穏便にミラーワールドに潜るにあたって非常に役立っている。

ただ、生身でのミラーワールドにおける活動限界時間は3分程度なので龍騎士(ドラグナー)になることは必須だが。

 

ミラーワールドにおける自宅の外で待っているシャインナーガの元へ歩を進める。

 

「待たせたな」

「いえ、お気になさらず。ではお見せしましょう、この数週間でわたしが習得した能力を」

 

シャインナーガがそう言った瞬間、彼女の身体が光に包まれた。

光が収まり、そこに居たのは純白のワンピースを纏った黒髪の少女だった。

 

「シャインナーガ……なのか?」

「はい。わたしはマスターと同じ人間の姿になれる能力を習得したんです」

 

そう言って微笑むシャインナーガの表情(かお)に、俺は魅了された。

人化したシャインナーガは、人間離れした美しさだった。

流れるように腰まで伸ばした黒髪。

凛としていながらも優しさを含んだ顔立ち。

ワンピースからはみ出ている雪のように白い肌。

さっき『シャインナーガが人間だったら惚れているかもしれない』と言ったが、訂正しよう。

俺はシャインナーガがミラーモンスターであろうとも惚れてしまっている。

 

「マスター、わたしは……あなたのことが好きです!」

 

そしてシャインナーガは追い打ちをかけるかのように告白をしてくる。

つまり俺たちは両想いという訳か……。

俺は変身を解除してシャインナーガにキスをする。

 

「マス……んむっ」

「シャインナーガ、俺もお前のことが好きだ」

 

俺の意思もはっきりと伝える。

シャインナーガは俺の返事を聞いた瞬間、目から涙を溢れさせた。

 

「マスターも、わたしのことが……?嬉しいです……。夢じゃ……ないんですよね……?」

「あぁ、夢なんかじゃないさ」

 

目の前の現実が嘘じゃないと伝えたくて、シャインナーガを抱き締める。

 

「マスターの身体……、温かい……」

 

俺の温もりを肌で感じ取ったのか、シャインナーガはすっかり落ち着いて俺に身を寄せて来る。

 

バサッ。

 

何かの羽音がした。

ブランウイングだろうか?

音がした方へ視線を向けると、そこに居たのは……。

 

『まさか契約したミラーモンスターと相思相愛の関係になるライダーが居るとは……。驚きですね』

 

赤と青のオッドアイをもつ不死鳥「ゴルトフェニックス」がこちらを見ていた。




人化したシャインナーガのイメージ

「魔法科高校の劣等生」の司波 深雪。


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第6話 戦いの幕開け

『はじめまして、仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)こと織斑一夏。私はゴルトフェニックス。パートナーのライダーと共にこのミラーワールドの管理をしているものです』

 

突如現れたゴルトフェニックスに挨拶された。

普通なら告白の場面を見られて悶絶するところだが、ゴルトフェニックスの放つオーラが場の空気をシリアスなものにしている。

 

「自己紹介どうも。俺のことを知っているなら名乗る必要は無いよな。何故この場に?」

『もちろん話しますが、貴方の生身での活動時間がそろそろ限界みたいですよ?』

「何?あっヤベェ」

 

ゴルトフェニックスの言う通り、俺の身体が消えかけていた。

慌てて龍騎士(ドラグナー)に変身する。

 

「さて、改めて話を聞かせて貰おうか」

『良いでしょう。きっかけはシャインナーガの貴方に対する恋心です。ミラーモンスターが契約しているライダーに恋愛感情を抱くなどミラーワールド史上初ですからね』

「アンタはどう思っているんだ?」

『少なくとも私とパートナーは邪魔をするつもりはありませんよ。人化能力を習得しようと必死に努力しているシャインナーガを見ていましたからね。その気持ちが本物だと理解しています』

「そうか。じゃあこの場に現れた理由は祝福か?」

『ある意味そうと言えるでしょう。シャインナーガ、貴女は「サバイブ」についてどれほど知っていますか?』

 

ゴルトフェニックスの問いに、シャインナーガが答える。

 

「サバイブは、ライダー及び契約しているミラーモンスターの能力を向上させるアドベントカードです。また、ライダーはミラーワールドでの、契約モンスターは現実世界での活動時間の限界が無くなるといわれています。3枚存在しており、ゴルトフェニックス様が契約しているライダーが全て所持しているそうですが……」

『シャインナーガの言ったことは全て正解です。つまり貴方がたがサバイブを手に入れれば、シャインナーガは人間として現実世界で生活することが出来るという訳です』

 

シャインナーガとゴルトフェニックスの言葉に俺は驚愕し、そして歓喜した。

サバイブがあれば、ミラーワールドで制限時間を気にする必要が無くなるし、現実世界でシャインナーガと家庭を持つことも可能だろう。

 

「サバイブのカードを俺たちにくれるというのか?」

『そうです。但し、私のパートナーであるオーディンと戦って勝利出来ればの話ですがね』

 

ゴルトフェニックスがそう言った瞬間、夜闇から仮面ライダーオーディンが姿を現した。

 

「私がゴルトフェニックスと契約したライダーにしてミラーワールドの管理者、仮面ライダーオーディンだ」

「仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)の織斑一夏だ。自分以外のライダーに出会うのは初めてだな」

『それはそうでしょう。カードデッキは世界に13個しかありません。今回のような例外でもない限り、1つの国に2人以上のライダーが居ることなどそうありません』

 

13個のカードデッキね……。

原作の龍騎から考えて、龍騎・ナイト(龍騎士(ドラグナー))・シザース・ゾルダ・ライア・ガイ・王蛇・ファム・ベルデ・タイガ・インペラー・アビス・オーディンといったところか?

ブランウイングが俺たちの元に居るので少なくともファムは別物になっているだろうがな。

 

『織斑一夏、これは貴方たちへの祝福にして試練です。オーディンとサバイブを賭けて戦いますか?言っておきますが、貴方の賭け札(チップ)は命です』

 

ゴルトフェニックスの問いに俺は即答し兼ねた。

シャインナーガの方に視線を向ける。

 

「わたしはマスターの意思を尊重します。ただ、これだけは伝えておきますね。わたしはマスターと想いが通じ合った今、とても幸せです」

 

そう言って、シャインナーガは本当に幸せそうな笑顔をする。

その笑顔に心を奪われそうになったが、俺は知っている。

俺が学校で授業を受けている時やグラウンドで友達の五反田弾(ごたんだだん)御手洗数馬(みたらいかずま)と遊んでいる時、ミラーワールドから此方を見ているシャインナーガが時折寂しそうな目をしていることに。

シャインナーガはせっかく人間になれる能力を習得したんだ。

人間としての幸せを掴んでも良いと思うんだ。

惚れた女の幸せのためだ。

命の1つや2つ、賭けてやろうじゃないか。

 

「ゴルトフェニックス、仮面ライダーオーディン。お前たちの試練、受けて立つ」

『わかりました。では1週間後の午後10時、ミラーワールドの○○公園にてお待ちしていますよ』

「仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)。お前の覚悟、1週間後に見せて貰うぞ」

 

そう言って、オーディンとゴルトフェニックスは去って行った。

 

「よろしかったのですか、マスター?」

「あぁ。たとえオーディンとゴルトフェニックスが相手だろうと俺は勝ってみせる。勝って生きて、シャインナーガと添い遂げる!」

「マスター……わかりました。ならばわたしもマスターのパートナーとして全力で彼等と戦います」

 

俺とシャインナーガは、1週間後の戦いの決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

日本の国家代表を務めているため家に滅多に帰って来ない千冬お姉ちゃんと、雲隠れしている束お姉ちゃんに無理を言って家に来て貰った。

そこで俺は、シャインナーガと恋仲になったこと、1週間後にオーディンと命を賭けた戦いをするということをミラーワールドから話に参加しているシャインナーガ(人間ver)と一緒に説明した。

 

「シャインナーガ、ひとつ答えろ」

「なんでしょうか、千冬さん?」

「お前は一夏を一生涯愛すると誓えるか?」

「はい、この命を賭けてわたしはマスターを愛します」

「信じるぞ、その言葉。……一夏」

「何?千冬お姉ちゃん」

「お前は命を賭けるということを理解しているのか?」

「もちろんだよ。ミラーモンスターを狩り、ミラーモンスターを養う者としてわかっているつもりだ」

「そうか。ならわたしからは何も言うことは無い。束は?」

 

千冬お姉ちゃんは束お姉ちゃんに話を振った。

 

「う〜ん。いっくんとシャインナーガはお似合いみたいだし、反対はしないよ。箒ちゃんの姉としてはちょっと残念だけど」

「束お姉ちゃん、どうしてそこで篠ノ之さんが出て来るの?」

「だって箒ちゃんはいっくんにあれだけ好意を向けていたじゃない。もしかしていっくん気付かなかった?」

「束お姉ちゃん、篠ノ之さんのアレは『好意』というより『依存』だと思うよ。篠ノ之さんは俺の後ろを鬱陶しいレベルで着いて回って来たし」

「わたしもマスターと同意見です。ミラーワールドから見ていましたが、まるで軽鴨(カルガモ)の雛でしたよ。マスターが他の女子生徒と軽く話をするだけで凄く不機嫌になっていましたし。あれはかなり醜い部類に入る嫉妬だと思います」

「あ……あはは……。いっくんは箒ちゃんに脈無しか……。束さん言葉も出ないよ……」

 

束お姉ちゃんは乾いた笑みを浮かべる。

 

「一夏、とにかく勝って来い。わたしはお前を応援する」

「束さんも応援するよ!」

「ありがとう。千冬お姉ちゃん、束お姉ちゃん」

 

千冬お姉ちゃんも束お姉ちゃんも俺とシャインナーガの恋仲を邪魔したり、1週間後の戦いを止めたりしなかった。

あとはオーディンとの戦いに勝つための努力をするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後の午後9時59分。

俺と千冬お姉ちゃんと束お姉ちゃんは、ゴルトフェニックスが指定した公園に来ていた。

この1週間、学校に居る時以外はひたすら訓練に明け暮れていた。

暮桜を纏った千冬お姉ちゃんと模擬戦をやったり、生身でシャインナーガの部下のモンスターと組手をやったりもした。

あれからシャインナーガとは、恋人らしい行為はキスすらしていない。

そういうことは勝ってからやれば良い。

 

「千冬お姉ちゃん、束お姉ちゃん。行って来る」

「一夏、気を付けてな」

「頑張ってね」

「もちろんだよ、変身!!」

 

公衆トイレの中にある鏡の前で龍騎士(ドラグナー)に変身して、ミラーワールドに潜る。

トイレの前でシャインナーガが部下と共に待っていた。

 

「お待ちしていました、マスター。さぁ、行きましょう」

「あぁ」

 

公園のグラウンドに着いた時、ちょうど午後10時になりオーディンとゴルトフェニックスが姿を現した。

 

「来たな仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)、そしてシャインナーガ」

『待っていましたよ』

「いくぞオーディン!ゴルトフェニックス!」

「わたしとマスターの力で、貴方がたに勝ってみせます!」

『THRUST VENT!!』

『SWORD VENT!!』

 

俺の手に2本のシャインランサーが、オーディンの手に2本のゴルトセイバーが出現する。

それと同時にシャインナーガの部下のモンスターは距離を取って外野になった。

 

「「いざ、勝負!!」」

 

二槍流の龍の騎士と、二刀流の不死鳥の騎士の戦いの火蓋が今、切って落とされた。




直接登場していないのに、主人公とメインヒロインに叩かれるモッピー。
作者はオルコッ党なのでモッピー相手に容赦はしません。

モッピー「解せぬ」


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第7話 龍騎士VSオーディン

「Mirror Rider Stratos」連載からわずか1週間。

お気に入り登録件数が90件と、思いのほか人気があって嬉しいです。


「はあああああっ!」

「せやああああっ!」

 

オーディンの二刀流の剣捌きは達人の域だった。

シャインランサー二槍流という奥の手を最初から出し惜しみせず繰り出しているのに少し掠らせるのがやっとだ。

上空では、シャインナーガとゴルトフェニックスが激闘を繰り広げている。

そして遂にゴルトセイバーの威力に耐え兼ねたのか、シャインランサーの先端が割れてしまった。

 

パリィン!

「ッ!?しまった!」

「隙ありだ!」

「うおっと!危ねぇ!?」

 

何とか攻撃をもらう前に距離を取ることに成功した。

しかしシャインナーガの恩恵を受けた槍ですら、ゴルトセイバーに大きく見劣りするとなると……。

 

「こいつだ!」

『COPY VENT!!』

『ACCEL VENT!!』

 

コピーベントでゴルトセイバーを複製し、アクセルベントで加速しつつオーディンに切りかかる。

今度は俺がオーディンを押し始めた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

「ぐっ、ぬおぉ……」

「チェストォォォッ!!」

「おのれ……やらせん!」

『GUARD VENT!!』

 

俺の猛攻に耐え兼ねたオーディンがゴルトシールドを呼び出す。

だがこの行為は、俺にとって好機だ。

俺は攻撃を寸止めしてゴルトセイバーを上に投げると、とあるカードをシャインバイザーに装填する。

 

『CONFINE VENT!!』

「ゴルトシールドが!?くっ……まだ特殊カードを持っていたのか!」

「そっちの情報収集不足だな。まぁ基本的に対ライダー用のカードだから今まで使ったこと無かったけど」

 

ゴルトシールドは他のライダーのファイナルベントに耐えるほどの防御力を有する盾だ。

最強の剣であるゴルトセイバー以上に厄介な装備と言える。

それを使用不可能にできた。

 

『TRICK VENT!!』

 

トリックベントで3人に分身して上から戻って来たゴルトセイバーをキャッチし、シャインバイザーを構えた分身2人と共に再びオーディンに突っ込む。

 

「「「いくぞ!」」」

「そうはさせん!」

『STRANGE VENT!!』

『EXPLOSION VENT!!』

ドガァン!

「「「グハアアアアアッ!」」」

 

ゴルトバイザーの2度目の音声と共に、俺と分身たちの足元が大爆発を起こした。

それと同時に分身は消滅する。

シャインナーガと初めて出会った日にも思ったことだが、ストレンジベント、侮ること無かれ。

しかし今の攻撃で龍騎士(ドラグナー)のシールドエネルギーが3割を下回ってしまった。

機体のあちこちに異常が発生しており、なかなか起き上がれない。

ヘタな地雷よりも強力な爆発だったらしい。

 

「きゃあっ!?」

「シャインナーガ!」

 

ゴルトフェニックスの攻撃でシャインナーガが俺の近くの地面に叩きつけられた。

シャインナーガも俺と同様、深いダメージがあるようだ。

 

「トドメだ。愛し合う者同士、仲良くあの世に送ってやろう」

『FINAL VENT!!』

 

オーディンが2本のゴルトセイバーを構え、背中にゴルトフェニックスが合体する。

マズい!

どんな必殺技なのかは知らないが、10000APの一撃を受けたら俺もシャインナーガも確実に助からない!

フリーズベントを使わなければ!

左手にシャインバイザーを、右手にデッキから抜いたフリーズベントのカードを握るが、手が思うように動かない。

オーディンが炎を纏ってゴルトセイバーを突き出しつつ、空から急降下して来る。

間に合えぇぇぇぇぇっ!

 

『FREEZE VENT!!』

 

ギリギリのタイミングでフリーズベントが発動したことにより、オーディンの必殺技(エターナルカオス)は不発に終わり彼は俺たちを素通りして地面に不時着する。

オーディンが態勢を立て直す間に、俺もなんとか立ち上がれた。

オーディンの背中からゴルトフェニックスが離れていないところを見ると、フリーズベントの効果はまだ続いているらしい。

 

「ハァ……ハァ……。た、助かった……」

「また特殊カードを……!つくづく悪運の強いことだな。だが、シャインナーガが重症を負ってファイナルベントが使えない以上、私にトドメを刺すことなど出来まい!ゴルトフェニックスの凍結が解けた瞬間、私の勝ちだ!」

 

確かにオーディンを倒すにはファイナルベントが必須だ。

螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)を放つためのシャインランサーは折れてしまっているし、アクセルベントも使用済みだ。

リターンベントを使ってもどちらか1枚しか再使用できない。

アルティメット・バーストも、貫通力より攻撃範囲を重視した技のためある程度防御力が高い相手には必殺技にならない。

そしてブランスナイパーも、シャインナーガの力だけでオーディンに勝つと決めていたのでカードを自室に置いて来た。

だが、要はシャインナーガを復活させれば良いんだろう?

 

「俺にはまだコレがある」

「ストレンジベントのカード……。ここに来て運任せか?」

「確かにお前から見たら愚行以外の何物でもないだろう。だが、運命の女神が俺とシャインナーガの愛を認めてくれるなら、きっと『あのカード』が出るはずだ!」

「むっ!?何を出す気だ?」

「いくぜ!」

『STRANGE VENT!!』

 

さあ来い!

かつて1度だけ出た癒しのカードよ!

 

『HEAL VENT!!』

 

望み通りのカードが発動し、シャインナーガの身体を回復させる。

 

「バカな!ストレンジベントでそんなカードが出るなど、私ですら知らないぞ!」

「これで手札は揃った。いくぞシャインナーガ!」

「はいっ!」

『FINAL VENT!!』

 

復活したシャインナーガの中央の首に足を乗せ、オーディンに向かって押し出してもらう。

その際、身体を捻って足をオーディンの方に向ける。

そしてシャインナーガの左右の首が放った光線に身を包み、オーディンに蹴りを放つ。

 

「「ジャッジメントライダーキック!!」」

 

俺とシャインナーガの一撃がオーディンを捉え、大爆発を起こす。

爆発が収まったあと、そこにはボロボロになりながらも健在なオーディンとゴルトフェニックスの姿があった。

8000APの必殺技でも倒しきれなかったのか!?

内心愚痴りながらもシャインバイザーを構えようとすると、オーディンが手で制する。

 

「私たちの負けだ。もはやこちらは立っているのがやっとの状態だ。今シャインナーガの追撃を受けたら私もゴルトフェニックスも確実に死ぬ」

「…………つまり、俺たちの勝ち?」

「そうだ。お前とシャインナーガは私とゴルトフェニックスの試練を見事乗り越えたのだ」

 

…。

……。

………。

…………。

 

「や……やったあああああ!」

『ワァァァァァ!』

 

俺が勝利の雄叫びを上げると、ギャラリーのミラーモンスターたちも湧いた。

いつの間にかシャインナーガの部下だけでなく、野生のモンスターも俺たちの戦いを見ていたようだ。

 

「仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)よ。試練を乗り越えた褒美を受け取るが良い」

 

オーディンが投げてきた2枚のアドベントカードをキャッチする。

1枚は時計が描かれたタイムベントのカード。

もう1枚は青い背景に金の翼が描かれたカード。

『SURVIVE-疾風-』のカードだ。

 

「タイムベントは私からの餞別だ。ふふっ……、まさか私がわずか齢10歳の少年に負けるとはな。世界は広いということか……」

 

そう言い残して去って行くオーディンを見て、自分が小学4年生だと思い出す。

すっかり忘れてたわ。

そのあとは人間体になったシャインナーガに抱き着かれたり、ミラーモンスターたちに胴上げされたり、ミラーワールドから帰って千冬お姉ちゃんと束お姉ちゃんにもみくちゃにされたりした。

 

俺の心は喜びに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて小学5年生の始業式。

俺・弾・数馬・鈴の4人は揃って5年1組となった。

そして体育館の壇上の校長先生の隣には、制服に身を包んだシャインナーガの姿があった。

 

『5年1組に転入することになりました「(たつみ) 光莉(ひかり)」と申します。1組の皆さん、1年間よろしくお願いします』

 

シャインナーガの人としての名前は、千冬お姉ちゃんと束お姉ちゃんの3人で考えた。

戸籍は束お姉ちゃんがハッキングで用意してくれた。

住所は「知り合いから預かっている」という設定で織斑家だ。

シャインナーガ……いや光莉が楽しめる学校生活になるといいな。

 



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第8話 サバイブ

シャインナーガこと光莉の学校生活が始まってから更に時は流れ、俺たちは中学生だ。

その間にあったことで最も印象深かったのは「将来の夢」をテーマに行われた総合の授業だ。

光莉のやつ真剣な表情で

 

「わたしは一夏くんのお嫁さんになりたいです」

 

って言ったんだぜ?

かく言う俺も

 

「光莉や家族を守れる男になりたいです」

 

と宣言したから人のことは言えないけどさ。

当然ながらクラスは騒然となった。

光莉を狙っていた男子(特に弾と数馬)からは呪詛の篭った視線を向けられた。

そして光莉には俺に片想いしていたらしい女子の羨望の眼差しが集まっていた。

女子たちの好意はなんとなく気付いていたけど、俺は光莉一筋だからな……。

 

学校以外のことと言えば、タイムベントで過去に戻りつつミラーワールドを通して世界の色々なところに出向いたりした。

ISが普及して変化した世界を自分の目で見るためだ。

 

ISは最高の性能を誇るパワードスーツにして、最大の欠陥があった。

それは『女性にしか動かせない』というものだ。

ISは何故か俺以外の男性に反応しない。

開発者の束お姉ちゃんにもわからないらしく、原因を探している最中だとか。

ISが女性にしか動かせない以上、ISを運用するには女手が必要になる。

だが、大抵の女性はパワードスーツを扱うことに抵抗を感じた。

そしてISの保有国はそんな女性たちの首を縦に振らせるために『女性優遇制度』を設けた。

それ以降は『ISを動かせる=偉い』と理解に苦しむ理屈のもと『女尊男卑』の風潮になっていった。

龍騎士(ドラグナー)の操縦者が男性だということは公開されているが、証拠が無いため大多数の女性が付け上がっている。

最近では失業したり無実の罪で投獄される男性が後を絶たない。

 

束お姉ちゃんは自分が開発したISでこうなってしまったことにひどく心を痛めていた。

だけど束お姉ちゃんは『ISコアを作れる世界で唯一の人物』である以上、周囲への影響を考えるとおいそれと動けない。

だから龍騎士(ドラグナー)である俺が秘密裏に世界各地の女尊男卑主義の企業や団体を潰しているのだ。

俺は束お姉ちゃんの味方でいると約束したからな。

ちなみにどんな方法でやっているのかって?

光莉の部下のモンスターたちのご飯になってもらいましたよ。

もしくはミラーワールドに引き摺り込んで放置プレイのもと消滅させるかだな。

消えてゆく者たちの絶望に満ちた表情を見る度に複雑な気分になるが、相手がやってきた事を考えると足りないくらいだと思う。

 

その過程で、出向いた国内で人助けもやったりしたな。

イギリスでは列車事故が起きた際に乗客の救助をした。

フランスではミラーモンスターの集団から金髪の母娘を助けた。

ドイツでは『廃棄処分』にされそうになった試験管ベビーを間一髪で確保した。

うん、ドイツは腐っているな。

さすが元ナチス。

確保した女の子は『クロエ・クロニクル』と名付けられ、束お姉ちゃんと一緒に生活している。

イギリスにおいてはテレビカメラに映ってしまったが、『大勢の人間の命を救った』として不法入国などで指名手配なんてことにはならなかった。

最近では日本で誘拐された水色髪の姉妹を奪還して家に送り届けたりもしたな。

行きと帰りの道中はクリアーベントを使ったため、無関係な人には一切見られていない。

しかし水色髪の人なんて居たんだな。

しかも日本人だぜ?

 

そして現在。

場所はアメリカのミラーワールド。

俺は仮面ライダーインペラーと対峙していた。

変身しているのはアメリカの女性権利団体のリーダーの女だ。

気に食わない男が居たら片っ端から契約しているガゼールたちの餌にしていたようだ。

IS操縦者も抱えていたが、光莉の部下がミラーワールドに引き込んだため消滅し無人のフランスIS『ラファール』が近くに転がっている。

 

「まさか龍騎士(ドラグナー)がライダーだとはね。でもアンタも複数のモンスターを飼っているなら大なり小なり人間を食べさせているんでしょう?だったらあたしの邪魔をしないでくれる?」

「…………」

 

それに対して俺は返す言葉が無い。

俺はミラーモンスターたちに人間を襲わせなくても十分養うことが可能だが、ミラーモンスターやミラーワールドを利用して殺した人間の数は3桁を上回る。

 

『わたし/俺たちのマスターをお前/貴様のような醜女(しこめ)と一緒にするな!』

 

俺の後ろに控えているミラーモンスターたちの中で、言語が話せる者全員が反論してくれた。

こんなに慕って貰えるなんて、俺幸せだわ。

 

「ミラーモンスター如きが喋るな、気持ち悪い!」

 

インペラーの中の人は辟易としているようだ。

恐らく今の俺と真逆の心境だろう。

 

『ADVENT!!』

「さあお行き、お前たち!今日はご馳走だよ!」

『グルアァァァァァッ!』

 

ギガゼール・メガゼール・ネガゼール・オメガゼール・マガゼールの群れが現れてこちらへ大挙して向かって来た。

 

「マスター、わたしたちに御命令を」

「インペラーは俺がこの手で始末する。あとのモンスターは頼む」

「わかりました。聞きましたね、皆さん!わたしたちの役目は敵ライダーへの道を開けることです。良いですね?」

了解(ラジャー)!!』

 

光莉の号令のもと、こちらのミラーモンスターたちがガゼールの群れを迎撃する。

乱戦の中を妨害も無く歩き、俺はインペラーに辿り着くと同時にとあるカードをデッキから抜き放つ。

その瞬間、俺の周りで風が巻き起こる。

 

「なっ何だそのカードは!?」

 

インペラーの問いには答えない。

彼女はすぐに答えを身を以って知ることになるからな。

左手に持っていたシャインバイザーが、ガラスが割れる音と共に剣が収まった剣盾型の召喚機・龍召剣シャインバイザーツバイに変化した。

そして2つあるカード挿入口の片方に右手のカードを装填する。

 

『『SURVIVE!!』』

 

エコーが掛かった音声が発せられると同時に俺の姿が変化する。

防御力が低かった龍騎士(ドラグナー)が金色の装甲に覆われる。

背部のウイングスラスター型の非固定武装(アンロック・ユニット)は4対8枚の翼に変化した。

これぞ、仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)のサバイブ形態にして、第零世代IS『龍騎士(ドラグナー)』の二次移行(セカンド・シフト)形態である。

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

「ふざけるな、男の分際でISに乗っている屑があああああっ!」

『SPIN VENT!!』

 

インペラーは激昂してガゼルスタッブを片手に突っ込んで来るが俺にとっては欠伸が出そうなほど遅い。

俺はサバイブ形態になって追加されたカードを装填する。

 

『『FEATHER VENT!!』』

 

音声と同時に背中の4対8枚の羽根が翼から分離して、羽根の先端から放たれたビームがインペラーを襲う。

 

「ぎゃあっ!?」

「さっさと終わらせるか」

『『FINAL VENT!!』』

「呼びましたか、マスター?」

 

ファイナルベント発動と共に光莉がやって来る。

その姿はシャインナーガだった時と比べて鋭いフォルムとなっており、全体的に身体がゴツくなっている。

今の光莉は『天照(あまてらす)の龍・シャインヒュードラー』だ。

 

俺は宙に飛び上がると、手足を突き出して十字架のポーズを取る。

その俺を光莉(シャインヒュードラー)が身体を変形させながら包み込む。

変形が収まったあと、その姿は戦闘機のものになっていた。

これじゃあ仮面バイク乗り(ライダー)じゃなく仮面戦闘機乗り(ファイター)だな。

 

「「ドラゴンパニッシュメント!!」」

「ぎゃあああああっ!」

 

急降下でインペラーの身体を貫き、インペラーは爆散した。

ガゼールの群れたちはライダーが死んで統率が崩れて光莉の部下たちに一方的に捕食された。

 

「これにて一件落着」

「終わりましたね」

「ふむ、一足遅かったようだな」

 

俺と光莉が一息ついていると、オーディンが現れた。

 

「久しぶりだな、オーディン。『一足遅かった』ってのはどういうことだ?」

「私もインペラーを粛清するつもりで来たのだよ。彼女の蛮行は目に余るものだった」

「殺した人数なら俺の方が上だぞ?」

「理由に大きな差がある。インペラーは暴君のごとく気に入らない者を始末していたのに対し、君は世界を正すために己の手を血に染めている」

「俺はセーフなのね。ところであそこに転がっているインペラーのデッキはどうするんだ?」

 

俺はインペラーのデッキを指差す。

 

「所有者が死んだデッキは放っておけば消滅し、次の持ち主の前に現れることになる」

「あっそ。しかし頑丈なんだな。サバイブのファイナルベントをくらってまだ原型を保つなんて」

「カードデッキは契約と同時に所有者の命と深く結びつく。所有者が死なない限り、カードデッキは傷1つ付きはしない」

「へぇ〜そんなカラクリがあったんだな。じゃあ今ならあのデッキを壊せるのか?」

「可能だが止めてもらおうか。ライダーの人数を減らす訳にはいかないからな」

「はいはい。じゃあ先に帰らせて貰うぜ。光莉、みんな、行くぞ」

「わかりました。総員、これより帰還します!」

了解(ラジャー)!!』

 

まるで軍隊みたいな統率っぷりだな。

ラファールのコアを抜き取って帰路に着く。

さて、帰ったら身支度をしますかね。

ドイツで開催されるIS世界大会『第2回モンド・グロッソ』に出場する千冬お姉ちゃんの応援に行くためにな。




サバイブ形態のイメージ
遊戯王DMの合身竜ティマイオス。
そして全身を覆う金色の鎧はアカツキガンダムと同じヤタノカガミ装甲。
背中の非固定武装(アンロック・ユニット)はストライクフリーダムガンダムの翼を金色にしたものである。
フェザーベントはドラグーンを射出するためのカード。
全体的にゴツい見た目になったため鈍重そうに見えるが、翼に搭載されたヴォワチュール・リュミエールシステムのおかげでサバイブ前よりも高いスピードを出せる。


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第9話 モンド・グロッソ

第2回モンド・グロッソ当日。

観客席で千冬お姉ちゃんの勇姿を見ていたら、誘拐された。

不自然じゃない形で鏡になるものを持ち歩くために、中学になってから使い始めた伊達眼鏡からミラーモンスターを呼べば良かったのだが、誘拐犯の仲間が他にも居る可能性を考慮して大人しく捕まって連れて行って貰うことにした。

そして今はとある廃ビルで柱に手を縛り付けられている。

薬で眠らされたフリをして龍騎士(ドラグナー)個人秘匿回線(プライベート・チャンネル)で千冬お姉ちゃんの暮桜に連絡を取る。

 

『千冬お姉ちゃん』

『どうした一夏』

『誘拐犯が現れた。その気になればミラーモンスターを呼べるから今のところは大人しく捕まることにするよ』

『誘拐だと⁉︎』

『千冬お姉ちゃん、こいつらの目的って何だと思う?』

『身代金……は考えにくいな。とするとモンド・グロッソにおけるわたしの試合放棄か?』

『もしくは俺が龍騎士(ドラグナー)だと知っていて世界唯一の男性IS操縦者をモルモットにするためか、だね。とにかくこっちで何とかするから、千冬お姉ちゃんは試合に出場して』

『一夏……わかった』

 

千冬お姉ちゃんとの通信を終える。

龍騎士(ドラグナー)の待機状態であるカードデッキはベルトの裏に仕込んであるので、携帯電話と違って取り上げられていない。

『BLOODY MONDAY』で主人公が誘拐かれた妹の位置情報を追跡するために使った手段を拝借させて貰った。

誘拐犯たちの会話に聞き耳を立てる。

 

「首尾はどうだ?」

「日本政府には『織斑千冬へ 織斑一夏を助けたければ決勝戦を辞退しろ』という文書を送信済みだ。家族を大事にしているそうだからきっと辞退するだろう」

「おい、見ろ!織斑千冬が試合に出ているぞ!」

「何ぃ⁉︎」

 

誘拐犯たちがテレビに釘付けになる。

 

(今だ、かかれ)

(わかりました)

 

小声で伊達眼鏡越しに待機していたミラーモンスターたちを呼び出す。

 

「なっ何だこの化け物ども!?」

「た、助け……うわあああああっ!」

 

誘拐犯たちは全員ミラーワールドに連れて行かれ、俺は拘束を解いて貰った。

向こうで食われるか、放置プレイのもと消滅するか、それは彼等の気分次第だ。

点いたままのテレビで千冬お姉ちゃんの決勝戦を観戦する。

生で見れないのが残念だ。

千冬お姉ちゃんの勝利で終わった試合を見届け、テレビのスイッチを切ると同時に龍騎士(ドラグナー)がISの接近を知らせて来る。

念のためベルトからカードデッキを取り出し、Vバックルを装備する。

身を隠して待っていると、2人の女性が部屋に入って来た。

 

「織斑千冬が試合に出ているから変だと思って来てみれば、あのゴロツキ共1人も居ねぇじゃねぇか。どうなってやがる?」

「そうね……そこに隠れているボウヤに聞いてみましょうか?」

「何?」

 

…………。

どうやら片方の女性には俺の事がバレていたみたいだ。

誘拐犯の雇い主みたいだし、戦うしか無さそうだな。

 

(変身!!)

 

カードデッキをVバックルに装填して龍騎士(ドラグナー)を展開し、身を隠していた瓦礫を吹き飛ばす。

 

「ISだと!?しかも男が……つまりテメェが龍騎士(ドラグナー)か!」

「なるほど……つまり織斑一夏が龍騎士(ドラグナー)の正体という訳ね。じゃああなたを攫った男たちは……」

「消えて貰ったよ。どんな方法でかはご想像にお任せする」

「殺したってのか?ハハハ、コイツは傑作だ!ブリュンヒルデの弟はただの餓鬼かと思ったらアタシらと同じ穴の(むじな)かよ!」

「同じ……ね。お姉さんたちも人殺しの経験があるのか?」

「あると言えばあるわね。さて、意外な情報が手に入った訳だけどどうしましょうか?」

「俺は戦おうがこのまま別れようがどっちでも良いけど?」

「そうね……。織斑千冬の試合放棄は失敗しているんだし、帰りましょうかオータム?」

「何言ってんだよスコール!龍騎士(ドラグナー)って事はIS稼働時間が世界最高クラスなんだろ?オマケに人殺しの経験もある。戦う相手として最高じゃねぇか!()らなきゃ損だろ?」

 

スコールさんは帰るに1票で、オータムさんは戦うに1票という訳ですか。

しかし……。

 

「スコールさん、オータムさんってもしかして……」

「えぇ。バトルジャンキーなのよ。だから大抵の場合はわたしがストッパーになっているんだけど……」

「苦労しているんですね」

「あ、わかってくれる?」

「なに意気投合してんだよ!」

 

オータムさんが叫んでいるが気にしない。

 

「じゃあやりましょうかオータムさん」

「おう、来いよ龍騎士(ドラグナー)!」

「ではお言葉に甘えて」

『STRIKE VENT!!』

 

右手にナーガクローを装備して、龍騎のドラグクローファイヤーと同じ構えを取る。

 

滅びの爆裂疾風弾(ルイン・ザ・バーストストリーム)!!」

 

ナーガクローから放たれたビームはオータムさんに回避されて後ろの壁を粉々にする。

 

「こんなところでビームぶっ放すだぁ?上等だ!これでもくらいな!」

 

装甲脚の砲門が開き、弾丸がばら撒かれる。

 

『GUARD VENT!!』

 

狭いところじゃ流石によけきれない。

シャインシールドを呼び出して受け止める。

狙いが逸れた弾は壁や天井を穴だらけにした。

たった1回の攻防で部屋はボロボロだ。

 

「こうも狭いと思うように戦えないな」

「そうだな。場所を変えるか」

「そういう訳にはいかないみたいよ?」

「どういうことだよスコール?」

「このビルをISが包囲しつつあるわ。恐らくドイツ軍ね。逃げるなら今のうちよ?」

「せっかく楽しめそうな相手に出会えたのに水を差しやがって……。おい龍騎士(ドラグナー)!勝負はお預けだ!」

 

そう言ってスコールさんとオータムさんは去って行き、俺はドイツ軍に保護された。

ドイツ軍は俺とオータムさんの戦闘を補足していたらしく、俺が龍騎士(ドラグナー)だとバレてしまった。

千冬お姉ちゃんはドイツ軍に出来た借りを返すためと俺が龍騎士(ドラグナー)だということを黙って貰う代わりに1年間ドイツ軍でISの指導をすることになった。

今俺が龍騎士(ドラグナー)だと世間に知られてしまったらパパラッチや勧誘が大勢来るだろう。

それは非常に困ってしまう。

 

「ごめん千冬お姉ちゃん。自分でなんとかするって言ったのに尻拭いを千冬お姉ちゃんがすることになってしまって」

「一夏が無事ならわたしはそれで十分だ。それに一夏もわかっただろう?ISとミラーライダーの力があったところで何もかもが上手く行く訳ではないとな」

「あぁ。現在進行形でそれを味わっている最中だよ」

 

タイムベントを使うという手もあるが、自分のミスを無かったことにするなんて身勝手な使い方はしないと決めている。

 

「ねぇ千冬お姉ちゃん。ひとつ頼みがあるんだ」

「なんだ?」

「ドイツ軍と一緒に俺も鍛えて欲しいんだ。今回の件で俺は調子に乗ってたとわかった。1からやり直す必要があるんだ」

「学業はどうする?」

「この間模試の結果見せたでしょ?偏差値が高い藍越学園が中2(現時点)でA-1判定だよ?問題無いさ」

「そうか……わかった。だが条件がある。1ヶ月、それが向こうでお前の面倒を見る限度だ」

「それだけあれば十分だ」

 

以前宣言した『光莉や家族を守れる男になりたい』という言葉を実現するためなら、何だって耐えてやる!



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第10話 ラウラ・ボーデヴィッヒ

こんにちは、織斑一夏だ。

此処はドイツ軍の施設。

俺はドイツ軍のIS部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の女性たちに混じって訓練をしている。

しかし千冬お姉ちゃん……もとい織斑教官は容赦無いな。

動力を切ったISを装着した状態でマラソンや腕立て伏せをやらせるんだぜ?

今までの俺の訓練方法は他国に出掛けた際に知り合ったライダーと模擬戦をやったり、生身で光莉の部下のモンスターと組手をしたりといったものだ。

おかげで勝負勘やテクニックは鍛えられたが、筋トレをやらなかったため体力はあまり伸びなかった。

なので千冬お姉ちゃんが課すトレーニングは非常に堪える。

その分鍛えられていると実感も出来るのだが。

ちなみに学校や友人への事情の説明は光莉にお願いしている。

 

休憩時間。

部隊の副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ中尉に話し掛けられた。

 

「織斑一夏、少しいいだろうか?」

「一夏でいいですよ、ハルフォーフ中尉。それで、どんな御用ですか?」

「隊長に関することなんだ」

 

隊長?

あの眼帯をしたラウラ・ボーデヴィッヒって人だよな。

チラッとしか見掛けたことが無いが、クロエそっくりだったため初めて見た時は2度見してしまった。

クロエは試験管ベビーの遺伝子強化素体(アドヴァンスト)って話だし、『姉妹』なのか?

まぁそれは置いといて……。

 

「ボーデヴィッヒ隊長がどうかしたんですか?」

「実は……」

 

ハルフォーフ中尉によると、ボーデヴィッヒ隊長は周囲とあまりコミュニケーションを取らないらしい。

性格もあまり良くなく、『ドイツの冷氷』という仇名が付くほどだとか。

隊長がそれで良いのかドイツ軍?

シュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちとしてはボーデヴィッヒ隊長と親しくなりたいのだが、なかなか妙案が浮かばず男の俺に頼ることにしたそうだ。

 

「そういう訳ですか……。とりあえずボーデヴィッヒ隊長と話をしてみます」

「そうか。よろしく頼む」

 

という訳でハルフォーフ中尉と共にボーデヴィッヒ隊長の部屋の前へ。

ちょうどお昼時なので昼食を作って持参して来た。

前世の頃から料理って得意なんだよね。

 

コンコン。

『誰だ?』

「ハルフォーフ中尉です。入室よろしいでしょうか?」

『構わん。入れ』

「「失礼します」」

 

俺とハルフォーフ中尉が部屋に入る。

執務机で書類と睨めっこしていたボーデヴィッヒ隊長が振り返る。

面と向かって見ると、本当にクロエと瓜二つだった。

俺の予想が当たっていたら寧ろ当然なのだが。

 

「む、誰だそいつは?」

「初めまして、ボーデヴィッヒ隊長。俺は織斑一夏だ」

「……そうか、お前が教官の弟にして龍騎士(ドラグナー)か。それで何の用だ?」

「食事を持って来たんだ。ハルフォーフ中尉から聞いたが、隊長は『最低限の栄養が摂取出来れば良い』とか言ってレーションやサプリメントしか口にしてないそうじゃないか。駄目だろそんな食生活」

「貴様には関係の無いことだろう。とっととそれを持って部屋から出て行け」

 

取り付く島も無いとはこの事だな。

それなら……。

 

「ならいっそ決闘をして勝った方が相手の言うことを聞かせる権利を得るということにしないか?」

「ほう、面白い提案をするな。わたしは貴様が教官の弟だろうが龍騎士(ドラグナー)だろうが容赦はしないぞ?」

「決まりだな。ではハルフォーフ中尉、俺はボーデヴィッヒ隊長と決闘の日程などの細かいことを決めるので部屋の外で待っていて貰えませんか?」

「わたしが居ては駄目なのか?」

「すみません。ちょっと秘密にしたいことが出来たので」

「仕方ないな。ではボーデヴィッヒ隊長、失礼します」

 

ハルフォーフ中尉が退室したあと、俺は執務机の上に書類と並んで置いてあるものに目を向ける。

虎の顔が描かれた青色の箱。

仮面ライダータイガのカードデッキだ。

こんなところでライダーに出会うとはな……。

俺はポケットから龍騎士(ドラグナー)のデッキを取り出す。

 

「それは……!」

「俺の機体『龍騎士(ドラグナー)』はミラーライダーの力を束お姉ちゃん……篠ノ之束博士がISに作り変えたものだ」

「ほう……面白い。なら決闘をミラーワールドでやるか?」

「構わないが、どうせなら3本勝負にしないか?1回戦はIS、2回戦は生身での格闘、3回戦はライダーの力でな」

「良いだろう。わたしが3本全勝してやる」

「それはこっちの台詞だ」

 

更にお互いの都合の良い時間を話し合った結果、決闘は明日の午前となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

俺は千冬お姉ちゃんに今日のことを話した。

 

「ほう、ボーデヴィッヒとの決闘か」

「あぁ。確か千冬お姉ちゃんの教え子でもあったんだっけ?」

「そうだ。ところで一夏はボーデヴィッヒの事情を知っているか?」

「ライダーであること以外は特に知らないけど」

「そうか、では教えてやろう」

 

そこからは千冬お姉ちゃんの口からボーデヴィッヒ隊長に関することが語られた。

戦闘の為だけに生まれた試験管ベビー。

その目的に応じたかのように彼女の戦闘能力は高かった。

だが、IS適正が高くなかったためISが普及してからは意味が無くなってしまった。

適正を上昇させる為に肉眼にナノマシン『越界の瞳(ヴォーダン・オーシェ)』を植え付けられた。

やっぱりクロエと同じか……。

やりきれない気分になってしまった。

 

「しかしボーデヴィッヒがライダーだったとは驚きだな」

「俺もだよ。ライダーは世界でたった13人。なのに自分を除いた12人の内、これで5人に出会ったことになる」

「オーディンとボーデヴィッヒ以外の3人は誰だ?」

「1人はアメリカの女性権利団体のリーダーの仮面ライダーインペラー。こいつは俺と光莉の手によって既に死んでいる。あとはイギリスの仮面ライダーゾルダとフランスの仮面ライダーシザースだな。2人とも現実世界ではISの国家代表候補生らしい」

 

しかもゾルダはかつて俺が救助活動を行った列車事故に居合わせた乗客のとある夫婦の娘で、シザースは以前ミラーモンスターの集団から助けた母娘の娘の方なんだとか。

初めて会った時はお礼を言われたよ。

お互いに素顔と本名は秘密にしているけどな。

 

「お前はなにかとライダーに縁があるようだな」

「まぁ女尊男卑を少しでも正すために世界中を飛び回っていたらそうなるよね」

「わたしにも何か出来れば良いのだがな……」

「じゃあここでの指導を終えたらIS学園の教師にでもなってみたら?未来のIS操縦者の意識を変えていけば女尊男卑も少しずつ正しい方向に傾いていくんじゃない?」

「そうだな。考えておこう」

 

そして夜は更けていった。



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第11話 龍騎士対黒い雨

翌日。

とある演習場にて、俺はボーデヴィッヒ隊長と対峙していた。

俺は龍騎士(ドラグナー)を、ボーデヴィッヒ隊長はドイツの新型第三世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っている。

あの機体、近々ヨーロッパ内で行われる『イグニッション・プラン』というコンペに参加するものらしい。

 

『では、これより模擬戦を開始する』

 

千冬お姉ちゃんのアナウンスが流れ、俺とボーデヴィッヒ隊長は戦闘のスイッチを入れる。

 

ビー!

『THRUST VENT!!』

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に俺はシャインランサーを呼び出し、ボーデヴィッヒ隊長は6本のワイヤーブレードを展開する。

シャインランサーでなんとか捌くことが出来ているが、早めに決着つけないとジリ貧になりそうだな。

 

『ACCEL VENT!!』

螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)!!」

 

アクセルベントで急接近して、シャインランサーを勢い良く前に突き出す。

シャインランサーの切っ先はそのままボーデヴィッヒ隊長を捉え………………る一歩手前で停止した。

俺自身の身体も動かない。

何だこれ?

何が起きた!?

 

「どうだ!我がシュヴァルツェア・レーゲンの慣性停止結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)は!」

 

慣性停止結界。

つまり射程圏内に入った物体を今の俺みたいに停めてしまう訳ね。

まさかこんな機能を搭載したISがあったなんて……!

無防備な俺に大口径リボルバーカノンのレールガンが叩き込まれる。

 

「くらえ!」

「ぐはあっ!」

 

被弾の衝撃で演習場の反対側に叩きつけられる。

どでかい一発を貰ってしまったな……。

シールドエネルギー残量は……あと2割か。

たった1度の被弾でこれとは、重量級のISの攻撃は無闇に食らうモンじゃないな。

龍騎士(ドラグナー)は世界最初期の第零世代な上に高機動型軽量化装甲だからな……。

絶対防御が発動しなかっただけマシか。

 

「たとえ貴様が教官の弟であろうと、龍騎士(ドラグナー)などという第零世代(アンティーク)に乗っていては、わたしとシュヴァルツェア・レーゲンの敵ではない!これで終わりだ、織斑一夏!」

 

立ち上がった俺にワイヤーブレードの追撃が降りかかる。

それに対して俺は、とあるカードを使用する。

 

『STEAL VENT!!』

 

スチールベントでワイヤーブレードを奪う。

シュヴァルツェア・レーゲンの肩と腰からワイヤーブレードが消滅し、龍騎士(ドラグナー)拡張領域(バス・スロット)に格納される。

俺はワイヤーブレードを呼び出し(コールし)て、肩と腰に装着する。

 

「なっ……わたしのワイヤーブレードが!」

「アドベントカードには、相手の武装を奪う効果があるものも存在するのさ。戦闘が終わったら持ち主の元に戻るがな」

「チッ!ならばこれだ!」

 

そう言って、ボーデヴィッヒ隊長は大口径リボルバーカノンを構える。

なら俺はこのカードにしましょうかね。

 

『CONFINE VENT!!』

「リボルバーが……使用不可能!?今度は何をした!」

「今使ったコンファインベントの効果は、『相手の武装を拡張領域(バス・スロット)に強制送還し、一定時間再呼び出し(コール)出来なくする』というものさ」

「貴様ぁぁぁぁぁっ!」

 

武装を2つも使えなくされたせいかボーデヴィッヒ隊長がキレて、恐らく最後の武装であろうプラズマ手刀を発動させる。

そろそろ逆転の一手を打たせて貰うか。

俺は拡張領域(バス・スロット)に入っている銃剣『シャインレイザー』を呼び出す(コールする)

ちなみにこのシャインレイザーとVバックル以外の装備はアドベントカード(ライダーの力)で呼び出せるため、龍騎士(ドラグナー)拡張領域(バス・スロット)にはシャインレイザーとVバックルしか入っていない。

 

「何だそれは?」

「コイツは俺の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を兼ねた武器さ。さあいくぜ!ドロー、モンスターカード!」

 

カードデッキから抜いたシャインナーガの契約のカードをシャインレイザーに搭載されているスキャナに読み取らせる。

読み取りが終わったシャインナーガのカードは、オルタナティブのカードの様に消滅する。

リターンベントを使用しない限り、次の戦闘までシャインナーガのカードとファイナルベントは使えない。

 

「ドロー、モンスターカード!」

 

2枚目、ブランウイング。

 

「ドロー、モンスターカード!」

 

3枚目、ドラゴニュートウォリアー。

 

「ドロー、モンスターカード!」

 

4枚目、ドラゴニュートソルジャー。

 

「ドロー、モンスターカード!」

 

5枚目、ドラゴニュートサムライ。

 

「5体のモンスターと契約しているだと!?」

 

本当はもっと居るんだけどな。

とりあえず5体分の力で十分かな。

読み取りを済ませた俺はシャインレイザーをガンモードで構える。

 

「いくぜボーデヴィッヒ隊長!単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)輝龍逆鱗(きりゅうげきりん)』・バーサークブラストLv.5!!」

「ぐわあああああっ!」

 

俺の放った一撃がボーデヴィッヒ隊長とシュヴァルツェア・レーゲンを包み込む。

 

SIDE OUT

 

SIDE ラウラ

 

(こんな……こんなところで負けるのか、わたしは……!)

 

油断は一切しなかった。

だが、相手の意表を突くアドベントカードの連続で冷静さを失い、回避出来たかもしれない単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の一撃をまともに受けてしまった。

それは間違えようの無いミスだ。

しかし、それでも……。

 

(わたしは負けられない!負ける訳にはいかない……!)

 

ISが現れ、更には越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の適合に失敗し、わたしはトップから最底辺へと転がり落ちた。

そんなわたしを待っていたのは、部隊員からの嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印だった。

わたしはそのまま底なしの闇へと堕ちていく………………はずだった。

わたしの未来を変えたのは、教官との……織斑千冬との出会いだった。

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。1ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、わたしが教えるのだからな」

 

その言葉に偽りは無かった。

訓練が始まってまだ2週間程度だというのに、わたしの成績が徐々にIS登場前の最盛期の頃のものに戻りつつあるからだ。

だからわたしは負ける訳にはいかない。

ここで負けたらわたしは今度こそ駄目になってしまうだろう。

たとえ教官の弟であろうと、わたしは勝たなければならない!

そのためにも……。

 

(力が、欲しい)

 

そう願った瞬間。

ドクン……と、わたしの奥底で何かが蠢く。

そして、そいつは言った。

 

『願うか……?汝、自らの変革を望むか……?より強い力を欲するか……?』

 

言うまでもない。

力があるのなら、それを得られるのなら、わたしなど……空っぽのわたしなど何から何までくれてやる!

だから、力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対を……わたしに寄越せ!

 

Damage Level……D.

Mind Condition……Uplift.

Certification……Clear.

 

『Valkyrie Trace System』……boot.




単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)輝龍逆鱗(きりゅうげきりん)
サバイブ入手から約1年後に使用可能になった。
シャインレイザーのスキャナに契約済のカードを読み取らせることでシャインレイザーによる一撃の威力が上がる。
斬撃「バーサークスラッシュLv.◯」
砲撃「バーサークブラストLv.◯」
の2種類がある。
攻撃力をアドベントカードに依存しているため、零落白夜のように拡張領域(バス・スロット)を圧迫したりはしない。
イメージは遊戯王DMの速効魔法「狂戦士の魂(バーサーカー・ソウル)」。

・シャインレイザー
輝龍逆鱗が発現すると同時に使用可能になった銃剣。
イメージは「天装戦隊ゴセイジャー」のゴセイナイトが使う「レオンレイザー」。
本来ならレオンセルラーを装着する部分に、ム◯キングのようなカードスキャナが装着されている。

・ドラゴニュートサムライ(5000AP)
光莉の部下のモンスターの1体。
ウォリアー(4000AP)やソルジャー(4000AP)と同じ、竜人型のミラーモンスター。
イメージはデュエル・マスターズの「ボルシャック・大和・ドラゴン」。


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第12話 Dragoner VS Fake Valkyrie

「あああああっ!」

「何だ……?」

 

ボーデヴィッヒ隊長の悲鳴と共に、シュヴァルツェア・レーゲンが紫電を纏いながら泥のように変化してボーデヴィッヒ隊長を包み込んでいく。

呆然と見ることしか出来ないでいた俺の前でシュヴァルツェア・レーゲンだったものは変化をやめた。

その姿は……。

 

「千冬お姉ちゃん……?」

 

その姿は、暮桜を纏った千冬お姉ちゃんを模倣しているかのようだった。

右手には雪片のような近接ブレードが握られている。

この現象、もしかして……。

 

「なぁ千冬お姉ちゃん。ボーデヴィッヒ隊長のアレって……」

『過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを模倣する、ヴァルキリー・トレース・システム……だろうな』

「おいおい……、確かIS条約で禁止されているもんじゃなかったっけ?」

『その通りだ。ラウラ本人の出生といい、ドイツめ……!やりたい放題だな……!』

『隊長!隊長ォォォォォッ!』

『落ち着いて下さい、ハルフォーフ副隊長!』

『ええい、HA☆NA☆SE!』

「『…………』」

 

千冬お姉ちゃんと同じ理由で俺の頭が怒りで沸騰しそうになったが、ハルフォーフ中尉の遣り取りを聞いて一気に冷めた。

恐らく千冬お姉ちゃんもだろう。

 

「とにかく、千冬お姉ちゃんをトレースしていると言っても所詮第一回モンド・グロッソのデータだろ?俺がこのまま相手するよ」

『わかった。ヴァルキリー・トレース・システムは操縦者への負担が大きい。なるべく早くボーデヴィッヒを救出しろ』

「了解」

 

千冬お姉ちゃんとの通信を終えて、偽物野郎の前に立つ。

 

「よっと」

 

雪片が振り下ろされるが、俺には読みやすかった。

コピー自体が完全なものでは無いのだろう。

だがこちらのシールドエネルギーが2割しか残っていない以上、油断は許されない。

 

『SWORD VENT!!』

 

ドラゴニュートサムライの持つ刀を模した『ドラゴソード』を呼び出す。

 

『RETURN VENT!!』

『ACCEL VENT!!』

 

リターンベントでアクセルベントを再使用して加速する。

 

「疾風斬!!」

 

すれ違い様に抜刀して偽物野郎を切り裂く。

それでシールドエネルギーが0になったのか、偽物野郎の形が崩れていく。

俺はボーデヴィッヒ隊長が落っこちる前にその小さな身体を抱えると、龍騎士(ドラグナー)を解除して医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーデヴィッヒ隊長が目覚めるまでの間を利用して束お姉ちゃんに連絡を取る。

 

『もすもすひねもす〜。皆のアイドル束さんだよ〜』

「久しぶりだね、束お姉ちゃん。でもそこは俺だけのアイドルって言って欲しかったかな」

『ふぇっ⁉︎だだだ駄目だよ!気持ちは嬉しいけど、いっくんには光莉ちゃんが……』

「冗談だよ。それは置いといて、連絡をした理由はわかっているよね?」

『むぅ、いっくんのいけず〜。わかってるよ、龍騎士(ドラグナー)のことでしょ?』

「あぁ、VTシステムについても色々と知りたいところだがまずは龍騎士(ドラグナー)だ。第零世代のISのスペックに限界が来ている。今回みたいな第三世代の初見殺しの技を食らったら最悪1発でKOされてしまう。今度龍騎士(ドラグナー)をオーバーホールして欲しいんだ」

『おっけ〜♪いっくんが帰国したらやるから今の内に準備を整えておくよ!』

「ありがとう、束お姉ちゃん」

『これくらいお安い御用さ!何よりいっくんの頼みだからね!じゃあ束さんはVTシステムなんて不細工な代物を作ったところを潰して来るから、今日はここでお別れね〜』

「わかった」

 

電話を切って医務室へ向かう。

中に入ると、ちょうどボーデヴィッヒ隊長が目覚めたところだった。

部屋には他に誰も居ない。

 

「気分はどうだ?」

「負けたというのに何処か清々しい。こんな気分は初めてだ」

「そうか」

「ガルルル」

 

ボーデヴィッヒ隊長を心配していたのか、白虎型モンスターのデストワイルダーがミラーワールドから出て来た。

 

「良い相棒を持ったな。気付かなかったかもしれないが、決闘の途中からアンタのことを見守っていたんだぞ?」

「何、そうなのか?」

「ガルル」

「そうか……お前にも心配かけたな……」

 

そう言ってボーデヴィッヒ隊長がデストワイルダーを撫でていると、今度は光莉がミラーワールドから出て来た。

 

「久しぶりですね、マスター。遊びに来ました♪」

「おいおい、学校はどうした?」

「時差の都合で日本は今は日が暮れています。問題ありません♪」

「そ、そうか……」

「マスター?そこの女はミラーモンスターなのか?」

「そうだ。紹介しよう、俺の最初の契約モンスターにして恋人の『シャインナーガ』。またの名を……」

「巽 光莉です。よろしくお願いします」

「まさか人間の姿をしたモンスターが居るとはな……」

「ガルル」

 

シャインナーガの名前を出した途端、デストワイルダーが片膝を突いて恭しく頭を垂れた。

 

「なっどうしたデストワイルダー⁉︎」

「シャインナーガはミラーワールドにおいてトップクラスのモンスターだ。デストワイルダーは光莉との実力差を理解したということだろう」

「驚いたな。誇り高い心を持つデストワイルダーが完全に毒気を抜かれている。これはいずれやる3回戦のライダーバトルもわたしの負けか?」

「おいおい、良いのかそれで?」

「構わん。約束通りわたしに何でも命令するが良い」

「じゃあ出会った時に言ったように食生活を改めさせて貰うぜ。携帯食料(レーション)やサプリメントは禁止。食事は出来るだけ食堂で皆と食べること」

「前半はわかるが後半は何の意味がある?」

「他の隊員とコミュニケーションを取るためだよ。誰かに頼ることで得られる力だってある。ミラーモンスターと契約しているのなら心当たりがあるんじゃないか?」

「…………」

「じゃあ俺はこれで失礼するぜ、ボーデヴィッヒ隊長」

「待て」

 

光莉と一緒に退室しようとすると、ボーデヴィッヒ隊長に呼び止められた。

 

「何だ?」

「……ラウラだ。わたしのことは今後そう呼べ」

「じゃあ、俺のことは?」

「『お前』だ」

 

おいおい。

普通なら怒るところだが、初対面の際には『貴様』呼ばわりされていたからマシになった方か。

 

「好きにしろ」

 

そう言い残して、俺と光莉は今度こそ退室する。

光莉は俺とのドイツ軍施設内でのスニーキングデートを満喫して日本に帰って行った。

帰国後はちゃんとしたデートがしたいな……。




・疾風斬
ドラゴソードとアクセルベントを使った神速の抜刀術。
イメージは「るろうに剣心」の飛天御剣流「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」。
仮面ライダーナイトの飛翔斬や疾風断とは関係無い。


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第13話 更識家

ラウラと決闘を行った翌朝。

いつもより少し遅めに食堂へ行くと、ラウラが隊員たちと談笑しながら朝食を摂っていた。

早速うまく溶け込んでいるようだな。

 

「ありがとう一夏。お前のおかげでボーデヴィッヒ隊長は隊員と繋がり始めた。礼を言う」

「それには及びませんよ。ところで……」

 

後ろから現れたハルフォーフ中尉に向き直る。

 

「なんでトーストを齧りながら走って来たんです?」

「日本ではトースト片手に走って出勤するのが主流なのだろう?」

(全然違ぇよ!?)

 

何処のベタなラブコメだよ。

そういえばハルフォーフ中尉は日本のオタク文化に毒されて、間違った日本の常識を覚えてしまっているんだよな。

ラウラ辺りが悪影響を受けそうで怖い。

 

時は流れて2週間後の朝。

1ヶ月の訓練を終えて日本に帰る日だ。

日本行きの旅客機は正午に出るから、もうじきこの施設から出発しなければならない。

既に荷物を纏め終えている俺はここでの出来事を振り返る。

千冬お姉ちゃんに鍛えられるだけでなく、シュヴァルツェ・ハーゼの人から学んだこともある。

災害救助にフリーランニング、要人警護など様々だ。

今の俺なら暗殺教室に混じることが出来るかもしれない。

千冬お姉ちゃんが部屋に入って来た。

 

「一夏、準備は出来たか?」

「おはよう、千冬お姉ちゃん。もう終わってるよ。それと……1ヶ月もお世話になりました」

「家族相手にそんな畏まった真似をするんじゃない」

 

頭を下げた俺に対して、千冬お姉ちゃんはぶっきらぼうに言い放つ。

態度はアレだが、俺はその返答を嬉しく思った。

さて、俺が日本に帰国してから千冬お姉ちゃんが帰国するまでの11ヶ月の間は、俺たちは離れて暮らすことになる。

しばらくの間は、俺の身辺警護が行われるらしい。

その一環として、半年の間は光莉と共に護衛の人の家に世話になるそうだ。

あまり迷惑を掛けないようにしなきゃな。

光莉がミラーモンスターだということは、千冬お姉ちゃんと束お姉ちゃんとラウラを含めた知り合いのライダーたちの合計6人しか知らない。

そちらの方面でも気を付けなければならないだろう。

先方は日本の空港で待ってくれるそうだ。

 

「元気でね千冬お姉ちゃん。たまに手紙とか送るから」

「あぁ、達者でな」

 

千冬お姉ちゃんに見送られて部屋から出る。

施設の入口に着くと、シュヴァルツェ・ハーゼの皆が待ち構えていた。

 

「イチカ、今までありがとう!」

「元気でね!」

「いつか日本に会いに行くからねー!」

 

皆から様々な言葉を贈られた。

ラウラの件以外にもたまに隊員たちの相談に乗っていたためか、俺の存在はシュヴァルツェ・ハーゼの中で大きくなっていたようだ。

ラウラが一歩前に出て来た。

 

「ようラウラ」

「お前のおかげでわたしは隊の皆と親しくなり、広い視野で物事を見れるようになった。感謝する」

「あぁ、どういたしまして」

「だっだから……」

 

ラウラが何やら言い淀む。

何か嫌な予感がするぞ。

 

「これからはお前のことを『お兄様』と呼ぶことにする!」

「ナ、ナンダッテー!?」

 

あまりの展開にもしやと思ってハルフォーフ中尉を見ると、グッと親指を立てていた。

ハルフォーフ中尉、アンタって人はぁーっ!!

 

「次に会えるのが何時になるのかはわからないが、わたしは楽しみにしているぞ、お兄様」

「あ、あぁ……。俺もラウラや皆との再会が楽しみだ」

 

もはや無難な言葉を口にすることしか、俺には出来なかった。

嬉しいやら疲れるやらな見送りのもと、俺はドイツ政府が出してくれた車に乗って空港へ行き旅客機に乗った。

機内に知り合いは居なかったが、ミラーワールド側の旅客機にドラゴン形態の光莉が張り付いて窓越しに話(俺は筆談だが)をしたので退屈はしなかった。

原作の龍騎が電車の中で戦うシーンでも思ったことだが、ミラーワールド内の乗り物って操縦者が居ないのにどうやって動くんだろうな?

 

旅客機を何度か乗り継ぎ、数日掛けて約1ヶ月ぶりの日本の土を踏む。

さて、迎えに来ているという護衛の人を探さなきゃな。

空港内を歩き回っていると声を掛けられた。

 

「織斑一夏くん……で良いかしら?」

 

相手は水色の髪をした姉妹だった。

もしかして過去に俺が誘拐犯から助けた姉妹か?

 

「はい、俺が織斑 一夏です。もしかして貴女たちが……?」

「えぇ、あなたのお迎え役の更識(さらしき) 刀奈(かたな)と……」

「……更識 (かんざし)です」

「わかりました。しばらくの間お世話になります」

 

3人で空港から出て、今度は更識家の車に乗る。

一旦織斑家に寄り、必要なものと一足先に帰宅していた光莉を乗せて更識家に向かう。

車の外ではミラーワールド越しに光莉の部下のモンスターが護衛をしつつ、帰りを祝う言葉を掛けてくれる。

人前なのであまり反応出来ないが、とても嬉しかった。

ふと刀奈さんを見ると何やら窓を凝視していた。

もしかしてミラーモンスターが見えるのか?

 

「織斑くん、あなたライダーなの?」

 

あ、こりゃもう決定だな。

ミラーモンスターたちの俺に対する『マスター』という呼び名を聞かれているなら、その問いは疑問じゃなく確信だろう。

俺は観念して龍騎士(ドラグナー)のデッキを取り出す。

 

「刀奈さん、あなたもライダーなんですか?」

「そうよ。改めてよろしくね♪」

 

そう言って刀奈さんは鮫が描かれた水色のカードデッキを見せる。

刀奈さんはアビスか……。

 

「ちなみに更識家の人たちはミラーライダーのことを知っているから、あまり隠さなくて良いわよ?」

「それは助かりますね。ところで刀奈さんは他のライダーに会ったことはありますか?」

「無いわよ。織斑くんは?」

「刀奈さんで6人目です」

「「えぇっ!?」」

 

刀奈さんと簪さんが揃って驚く。

 

「ライダーってそんなに居るものなのね……」

「カードデッキは全部で13個だそうですよ?ミラーワールドを管理しているライダーに聞きました」

「つまり織斑くんは、全ライダーのうち半分と知り合いになったと……」

「世界は狭いのね……」

「世界が狭いのではなく、一夏くんの行動範囲が広いんですけどね」

 

光莉が苦笑いしている。

まぁ俺は女尊男卑の酷い国なら何処へでも行くからな……。

しかし彼女たちの前で変身すると、俺が龍騎士(ドラグナー)だとバレてしまうな。

束お姉ちゃんに何か対策をお願いしておこう。

 

そして着いた更識家はまさに武家屋敷といった感じで、風格があった。

 

「立派な屋敷だな」

「そうですね」

「ほらほら、ボーッとしてないで早く入りなさい」

 

刀奈さんに言われて光莉と一緒に敷居を跨ぐと、2人の女性に出迎えられた。

 

「お帰りなさいませ。刀奈お嬢様、簪お嬢様」

「おかえり〜。なっちゃんにかんちゃん〜」

 

察するにこの2人は更識家の従者か?

2人目の娘は凄いほんわかしててなんか癒されるな……。

 

「初めまして、織斑 一夏です」

「巽 光莉です。一夏くん共々お世話になります」

 

俺と光莉が挨拶をすると2人の方も自己紹介をしてくれた。

布仏(のほとけ) (うつほ)と布仏 本音(ほんね)という名前らしい。

姉の虚さんは真面目そうな雰囲気なのに対し妹の本音さんはのほほんとしている。

真反対な姉妹だな。

 

「本音。2人を部屋に案内してあげて」

「あいあいさ〜。おりむ〜、りっちゃん、こっちだよ〜」

 

刀奈に言われた本音さんが俺と光莉に手招きする。

どうやら『おりむ〜』と『りっちゃん』は俺と光莉のあだ名らしい。

さて、ライダーの居るこの屋敷でどんな暮らしが俺と光莉を待っているんだろうな……?



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第14話 龍騎士の描く未来

設定資料を2つに分けました。


更識家での生活が始まって数日。

束お姉ちゃんが訪ねて来た。

客間に通された束お姉ちゃんと、俺・光莉・刀奈さん・簪さん・当主の更識 楯無(たてなし)さんが向き合う。

 

「束お姉ちゃん、どうしてここに?」

「いっくんの龍騎士(ドラグナー)をオーバーホールしに来たんだよ。ドイツに居た頃に話したでしょ?」

 

いや、確かに話しましたけども。

 

「束さん、一夏くんが龍騎士(ドラグナー)だとばらしても大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ光莉ちゃん。事前にこの家の外に漏れたらヤバい情報ぶっこ抜いてきたからね〜」

 

えげつねぇなオイ。

 

「楯無さん。この家ってそんな情報あるんですか?」

「あると言えばある。更識家はある意味諜報活動のようなことをしているからな。篠ノ之博士、情報を黙秘して貰う条件を聞かせていただきたい」

「いっくんが龍騎士(ドラグナー)だと自分から公表するまで黙っていること。簡単でしょ?」

「一夏くんが龍騎士(ドラグナー)だと公表するまで……。一夏くんはいつ公表するつもりなの?」

 

刀奈さんの質問に俺は真正面から答える。

 

「俺がIS学園を受験する時です」

「えっ!?一夏はIS学園に行くの!?」

「俺にはIS適正があります。IS学園も女子生徒しか居ないだけで女子校という訳ではありませんからね」

「理由を聞かせて貰えないかしら?」

 

俺は2本の指を立てる。

 

「理由は2つあります。まず1つ目。俺が龍騎士(ドラグナー)であることを隠し続けるのには限界があります。ドイツ軍のシュヴァルツェ・ハーゼや第二回モンド・グロッソの日に出会ったテロリストには既に知られています。そして今回は更識家に知られました。いずれは何処かから漏れてしまうでしょう。そうなればあらゆる国家・企業・団体・研究機関・宗教から勧誘を受けることになります。なにせ世界唯一の男性IS操縦者ですからね。それらを跳ね除けるには治外法権が成り立つIS学園が最適なんです」

「なるほどね。じゃあ2つ目は?」

「女尊男卑を正すためです。俺は光莉と共に特殊なアドベントカードを使って世界中を周り、あらゆる女性権利団体や違法研究施設を潰して来ました。そんな俺が簡単に入れない場所、それがIS学園です。俺が男性IS操縦者として入学して卒業し、モンド・グロッソで優勝するなりすれば『ISを動かせる=女は男よりも偉い』という方程式が崩れます。女尊男卑を終わらせる最も効果的な道です」

「…………そう」

「まさか刀奈より年下の少年がそこまで考えているとはな」

 

刀奈さんと楯無さんは感心しているようだ。

俺の最終目標はISの運用を宇宙開発に向けることと光莉との結婚だが、これは言わなくて良いだろう。

 

「いっくんの言う通りで納得してもらったところで、そろそろ龍騎士(ドラグナー)を弄らせて貰うよ。国家代表候補生が居るならISの整備室くらいあるでしょ?」

 

束お姉ちゃんが刀奈さんと簪さんを交互に指差す。

刀奈さんはロシアの候補生で、簪さんは日本の候補生だ。

アビスのデッキはロシアで入手したらしい。

 

 

 

場所は変わって、更識家地下のIS整備室。

ドックに固定され、束お姉ちゃんのオーバーホールを受けている龍騎士(ドラグナー)を眺めていると簪さんが話し掛けて来た。

 

龍騎士(ドラグナー)ってライダーの力をISに作り変えたものだったんだね」

「まぁな。でもその事と俺がISを動かせる事は無関係だ。他の機体でも俺が起動できる事は確認済みだからな……」

「ちなみにどうやって?」

「潰した女性権利団体や違法研究施設の持っていたISをパクった」

「…………冗談でしょ?」

「マジですよ刀奈さん。ぶっちゃけ合計20機以上のISを回収しました。理由が理由ですし相手は足取りが掴めない龍騎士(ドラグナー)。証拠は残ってないから被害に遭った各国は泣き寝入り必定」

「「うわぁ……」」

 

刀奈さんも簪さんもドン引きしている。

俺と光莉は自業自得だと思っているがな。

そして話題はミラーライダーに関することへと変わる。

 

「一夏くんがこれまで出会ったのはどんなライダーなの?」

「1人は契約モンスターと共にミラーワールドを管理している仮面ライダーオーディン。10歳の頃に戦ったが危うく死ぬところだったな」

「えっ!?ライダー同士で戦うの!?しかも10歳!?」

「事情があってな。光莉たちミラーモンスターの現実世界での活動時間の制限が無くなるアドベントカードを賭けて戦ったんだよ。結果、なんとか勝って光莉は学校に通ったり出来ているがな」

「光莉ちゃんってミラーモンスターだったのね……。他には?」

「2人目はアメリカで出会った仮面ライダーインペラー。変身していたのは女尊男卑の屑でしてね。契約のカードを破り捨ててやりましたよ。結果、相手は契約が破棄とみなされて自分のミラーモンスターに食べられてこの世から消えました」

 

インペラーの最期は嘘を話す。

別にインペラーを殺したことを後悔している訳ではないが、自分が人殺しであることを自発的に話す必要も無いだろう。

間違い無く2人の気分が悪くなってしまうだろうし。

蟹刑事と同じ最期を話すのもどうかと思ってしまうがな。

 

「あまり契約モンスターとの仲が良く無かったのね」

「あの女はミラーモンスターを『気に入らない男を始末する道具』として扱っていましたからね……。俺と光莉のように『愛し合う関係』も見る人によっては異常なのかもしれませんが……」

「わたしはそうは思わないわよ?」

「わたしも……。客間で一夏の話を聞いて、一夏のやっていることは正しいと思った」

「…………ありがとう、2人とも」

 

自分の思いに賛同してくれる人が居るのって、凄く心の支えになってくれるものなんだな。

ちょっと泣きそうになった。

 

「話を続けましょうか。3人目と4人目は仮面ライダーゾルダと仮面ライダーシザース。それぞれイギリスとフランスの国家代表候補生です。2人とも候補生に相応しい良識的な人柄で、よく模擬戦をやったりします。お互いに本名と素顔は隠していますがね」

「へぇ〜ライダー同士の模擬戦ね……。今度お姉さんとも手合わせしてくれるかしら?」

「いいですよ。5人目の仮面ライダーはシュヴァルツェ・ハーゼに所属しています。ISでの決闘はしましたが、ライダーの戦いはやる機会がありませんでしたね」

「改めて聞くと一夏くんってISとライダーの両方に顔が広いのね……」

 

刀奈さんにそう言われて俺は苦笑いしか出来ない。

 

「いっく〜ん!作業が終わったよ〜!」

 

おっと、どうやら龍騎士(ドラグナー)の改修が済んだようだ。

相変わらず束お姉ちゃんは仕事が早いな。

さて、龍騎士(ドラグナー)はどう生まれ変わっているかな?



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第15話 生まれ変わる龍騎士、新たなライダー

「さあいっくん、生まれ変わった龍騎士(ドラグナー)をご堪能あれ!」

「は〜い」

 

龍騎士(ドラグナー)を纏い、ドックに固定されたままスペックを確認する。

 

ふむ、龍騎士(ドラグナー)の最大の弱点である防御力の低さが大幅に改善されているな。

装甲が高機動ISに採用されるものの中で上位のものになっているし、サバイブ形態時のヤタノカガミ装甲がビーム型近接兵装にも耐性を得ている。

これならアカツキガンダムのようにビームブーメランで腕を切断されたりなんてことは無いだろう。

装甲以外のほとんどは、現在開発中の第四世代ISの技術を用いているらしく、全体的にかなり高性能と化している。

機体性能に振り回されないようにしなきゃな。

 

さて、武装は何か追加されてるかな……?

おっ、2丁のビームマシンガン『シャインブラスター』ってのがある。

連射式の射撃武器はありがたいな。

ナーガキャノンは攻撃範囲が、ブランスナイパーは射程と貫通力が売りだが、どちらも連射が出来ないため小回りが利かない。

シャインレイザーは威力をアドベントカードに依存しているため、単体では論外である。

 

他には……龍騎士(ドラグナー)をライダーモードとISモードに切り替える事が出来るようになってる。

ISに作り変えられた龍騎士(ドラグナー)は元の姿との身長差が1m程度だったので、ミラーモンスターとの接近戦をする程度なら問題は無かった。

だが屋内などの狭い場所で戦うとなると、どうしても戦いにくくなってしまっていたため、非常に助かるな。

切り替えは、新調したVバックルにあるスイッチでやるらしい。

尚、ライダーモードの時はIS用武装のシャインブラスターとシャインレイザーが使えない。

まぁこれは仕方ないかな。

 

「ありがとう束お姉ちゃん。予想以上の仕上がりだよ。しかもこんな短時間でやるなんて」

「ふふん。いっくんのためならこれくらい束さんにとってはお茶の子さいさいなのさ!多少の事前準備はしてたしね〜。あ、あとはいコレ」

「ん?これは……カードデッキ!?何処でこれを!?」

「ちょっとキナ臭い国を探った際に、その国で見つけたんだ。束さんが持っていても仕方ないし、いっくんが信頼する誰かに渡せば良いよ」

「うん、わかった」

「じゃあ束さんはそろそろお(いとま)するよ。いっくん、光莉ちゃんとお幸せにね〜」

「ちょっ束お姉ちゃん!?まだ俺は法律的に結婚できる歳じゃないんだけど!?」

「ばいなら〜」

 

俺のツッコミを無視して束お姉ちゃんは地下室から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、そのカードデッキは誰に渡すのですか?」

 

地下室から戻った俺に光莉が聞いて来るが、俺はもう決めている。

 

「簪さんに渡そうと思っている」

「えっ!?わたし!?」

 

それを聞いた簪さんは驚いているが、俺は構わず続ける。

 

「簪さんは日本の代表候補生だ。それに姉の刀奈さんがライダーとして戦う姿を見ているんだろう?ライダーの力を扱うのに相応しい人物だ」

「わたしが……ライダーに相応しい……」

「そうだ。5歳の頃からライダーをやっている俺が保証しよう。刀奈さんはどう思います?」

「わたしも良いと思うわよ?姉としては隣に立って共に戦うよりも背にして守りたいんだけど……」

「簪さんはいつまでも守られてばかりの存在という訳では無いですよ。もしそうなら日本の代表候補生に選ばれる筈がありませんからね。そうだろ、簪さん?」

「一夏の言う通りだよ、お姉ちゃん。わたしの目標は、お姉ちゃんと肩を並べられるくらい強くなること。そしていつかお姉ちゃんを追い越すことなんだから!」

「簪ちゃん…………わかったわ」

「決まりですね。受け取ってくれ、簪さん」

 

簪さんにカードデッキを渡す。

 

「これが、ライダーの力……」

「今から契約モンスターを探しに行こう。俺も生まれ変わった龍騎士(ドラグナー)を使いこなす必要があるしな。刀奈さんはどうしますか?」

「わたしも行くわ。一夏くんの実力を知りたいし」

「わかりました」

 

3人で鏡のある場所へと向かう。

光莉が居ると、野生のミラーモンスターは萎縮して近寄って来ない可能性があるので、光莉はお留守番だ。

鏡の前でカードデッキを翳し、Vバックルを呼び出す。

 

「「「変身!!」」」

 

俺は金と銀の騎士、龍騎士(ドラグナー)へ。

刀奈さんは水色の鮫、アビスへ。

簪さんは鉄灰色のライダー、インペラーのブランク体へと姿を変えた。

2代目のインペラーか……。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「はい」

「うん」

 

3人でミラーワールドへと潜る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャオオオオオッ!」

 

3人で簪さんの契約モンスターを探していると、刃状の翼を持つ背中に砲門がある青色の飛竜(ワイバーン)に遭遇した。

向こうはこちらの様子を窺っている。

今の内に2人と相談する。

 

「どうする簪さん?あいつ結構強そうだから契約したら頼もしいパートナーになってくれると思うけど」

「良いと思う。お姉ちゃんは?」

「わたしも良いと思うわよ。あのモンスター、わたしと契約しているアビスハンマーとアビスラッシャーでも一騎打ちだと敵わないかもね……」

 

刀奈さんの言う通り、俺もあのモンスターは強いと思っている。

恐らくラウラのデストワイルダーよりも少し上。

6000APに限りなく近い5000APといったところか。

簪さんは契約のカードを持ってモンスターに近付く。

モンスターは特に抵抗することなく、契約が完了した。

それに応じて、簪さんの身体が青色に彩られた。

 

「おめでとう、簪ちゃん」

「契約完了だな。ライダーの名前はどうする?」

「龍騎士……だと一夏と被るから、青色から取って『仮面ライダーペイル』……かな」

(pale)か……、良い名だな」

「これで晴れて簪ちゃんもライダーの仲間入りね♪」

 

このモンスターの名前は『スカイブレイダー』というらしい。

さて帰ろうかという雰囲気になったところで、ミラーモンスターが現れた。

カミキリムシ型のモンスター(雄)、ゼノバイターだ。

 

「丁度良い。簪さん、アイツと戦ってみろ」

「うん……やってみる」

「大丈夫なの?」

「ミラーモンスターとの戦闘は良い経験になりますよ。いざとなれば俺たちが助ければいい」

 

そして、仮面ライダーペイルの初戦闘が始まった。

 

SIDE OUT

 

SIDE 簪

 

一夏に言われて、わたしは目の前のミラーモンスターと対峙する。

契約してすぐの実戦。

はっきり言ってとても怖く、叶うならば今すぐ逃げ出したい。

命のかかった戦いは、どんなISの訓練よりも重くのし掛かって来る。

でもお姉ちゃんも一夏も、恐怖を乗り越えてミラーモンスターとの戦いを何度も潜り抜けている。

一夏は女尊男卑を正そうとするくらい、真っ直ぐな男だ。

きっと誰かを守るためにライダーになったのだろう。

実際、わたしやお姉ちゃんも過去彼に助けられている。

その時の彼の姿は、わたしが憧れているヒーローそのものだった。

そんな一夏やお姉ちゃんの隣に立てるなら……命がけの恐怖くらい、乗り越えてみせる!

 

『SWORD VENT!!』

 

カードを右脚にある脚甲型のバイザーに装填して、スカイブレイダーの翼を模した2本の剣『スカイソード』を呼び出して切りかかる。

 

「えいっ!」

「ギイッ!」

 

ミラーモンスターは、手に持つブーメランで応戦してくる。

でも、更識家の者としてお姉ちゃんと共に武術を習っているわたしにとっては、拙い動きだった。

 

「やあっ!」

「ギァッ!」

 

剣の一撃がクリーンヒットした。

このままいけば勝てる!

 

『FREEZE VENT!!』

「ギィ……(ピタッ)」

 

突然ミラーモンスターの動きが止まった。

振り返ると、一夏が何らかのカードを使ったようだ。

 

「一夏……?」

「邪魔して悪いが、俺たちがミラーワールドに入ってそれなりに時間が過ぎている。タイムアップになる前にそいつを倒すんだ」

 

一夏に言われてハッと制限時間のことを思い出す。

ふと手を見ると丁度手が粒子化し始めていた。

確かに早く決着をつけなければならない。

 

「わかった」

『FINAL VENT!!』

 

ファイナルベントの発動に応じて、スカイブレイダーが現れる。

わたしがスカイブレイダーの背中に乗ると、スカイブレイダーは低空飛行でミラーモンスターに突進していく。

 

「ギャオッ!」

 

スカイブレイダーが翼の刃でミラーモンスターを切りつける直前に、わたしはスカイブレイダーの背中から跳び上がる。

 

「ハァッ!」

 

スカイブレイダーが水平に切りつけ、わたしが垂直に切りつけることでミラーモンスターは爆散した。

スカイブレイダーはミラーモンスターの生命エネルギーを食べると、何処かへと去って行く。

わたしは一夏とお姉ちゃんに向き直る。

 

「一夏、お姉ちゃん、どうだった?わたしの戦いは……」

「時間に余裕があったら、俺が手を出さずとも1人で勝てただろうな。初めての戦いでこれなら、簪さんはこの先もっと強くなれると思う」

「わたしも一夏くんと同意見よ。成長したのね、簪ちゃん……」

 

2人ともわたしに賛辞の言葉を贈ってくれる。

お姉ちゃんに『成長したのね』と認めて貰えた。

ライダーになって良かったと思う。

デッキをくれた一夏にはいくら感謝してもし足りない。

今度からは呼び捨てにしてもらおうかな……。

 

…………惚れた訳じゃないからね?

 




スカイブレイダーのイメージ
デュエル・マスターズの「ブレイドラッシュ・ワイバーンδ」

今回の件で、刀奈は簪の実力を認めました。
原作みたいに楯無を襲名したあとで「貴女は無能でいなさい」なんてことは言わないでしょう。


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第16話 幼馴染との別離

翌朝。

俺は自転車の荷台に光莉を乗せて、学校へと通う。

刀奈さんと簪(呼び捨てにして欲しいと言われた)は、俺の中学校とは真反対の方向にある女子校に通っているそうだ。

 

「こうして通学していると、正に恋人って感じですね」

「確かにラブストーリーなら、よくある場面かもな」

 

光莉が俺の背中に密着しているから尚更な。

光莉は発育が良いから、つい邪な思いを抱いてしまう。

結婚まで俺の理性が保つかな……?

保たないならその時はその時だが。

そして学校に到着。

 

「おっす、弾」

「おはようございます」

「あぁ。おはよう、一夏に巽さん。ったく相変わらずお熱いことで」

「そう言うなら五反田さんも誰かと付き合えば良いのでは?」

「…………それが出来たら苦労はしないんですよ……ハァ」

 

こちらをおちょくろうとしていた弾が光莉の指摘で一気にブルーになる。

こいつ残念系イケメンだからな……。

沈んでいる弾を放置して自転車を駐輪場に停め、教室へ上がる。

 

「一夏、光莉、おはよ」

「鈴か、おはよう」

「おはようございます」

 

今度は鈴と会った。

相変わらず元気だな。

そして授業が始まる。

数日前から復帰した俺だが、授業には問題無くついていけている。

IS学園と同レベルの偏差値を求めている藍越学園を目標に勉強した甲斐があった。

小学5年生から学校に通い始めた光莉も、素質があるのか5年生の3学期からは学年上位の成績を維持している。

トラブルらしい事が起こる気配は無い。

IS学園入学まで何も無ければ良いんだがな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃっ!」

「くっ……やるわね、一夏くん」

 

ミラーワールドの更識家道場。

そこで俺と刀奈さんはライダーに変身して剣を交えていた。

 

俺の武術は、剣に限らずほとんどが我流だ。

幼い頃に習っていた篠ノ之流は中途半端で終わってしまっている。

戦いの経験値なら楯無さんよりいくらか少ない程度かもしれないが、我流故にムラがあるため刀奈さんに押し勝つ事が出来ないでいた。

 

『ACCEL VENT!!』

「飛天御剣流、龍槌……翔閃!!」

「キャアッ!?」

 

垂直切りからの切り上げという2連撃。

俺はアクセルベントを発動している時のみ、るろうに剣心の飛天御剣流が使える。

ライダーに変身して強化された身体があってこそ成せる技だ。

それでも1回の戦闘につき1発が限界だが。

刀奈さんは今の技で相当なダメージを受けたようだ。

 

「いたた……。一夏くんったら女の子相手に容赦無いわね」

「容赦して勝てる相手なら、俺も手加減するんですがね」

「ま、それもそうよね」

 

訓練も程々にして現実世界に戻る。

生まれ変わった龍騎士(ドラグナー)は非常に良い使い心地だ。

まだいくらか振りまわされている感じがするが、そう遠くない内に使いこなせるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学2年生の3月。

鈴が両親の離婚によって中国に帰国することになった。

そして鈴は去り際に……。

 

「一夏、光莉と幸せにね!それと、また会えたらわたしがアンタに酢豚を毎日食べさせてあげるわ!」

 

なんて言葉を残した。

 

「だっ駄目です!一夏くんにはわたしが毎日味噌汁を作ってあげるんです!」

 

光莉が鈴に言い返していた。

実際、光莉は料理スキルが着々と上がっている。

だが、空港で大声で言うこと無いだろう。

流石に恥ずかしいぞ……。

弾や数馬なんて爆笑しているし。

あ、2人とも鈴に殴られて撃沈した。

 

「毎日は無理だろうが、鈴の料理は美味いからな。また会える日を楽しみにしているよ。元気でな、鈴」

「えぇ。一夏、皆。また会いましょう!」

 

気絶している弾・数馬を除くクラスメイトと光莉、そして俺は笑顔で去って行く鈴を見送った。

転入したばかりは言語の違いで虐められかけていた鈴が、この場面で涙を見せないなんてな。

また会えると良いな。

 

そして時は流れ中学3年生。

春休みの間に更識家で過ごす半年が終わったため、俺と光莉は織斑家に帰宅した。

定期的に掃除はしていたので、あまり手間取ったりはしなかった。

あと、刀奈さんがIS学園入学と同時に更識家当主を継いで17代目の『楯無』となった。

もう『刀奈さん』と呼べないのか……。

それはそれで寂しく思う。

 

俺が龍騎士(ドラグナー)という自分の正体を明かすのは約1年後。

俺の人生の転換点は、すぐそこまで迫っていた。



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第17話 入学試験

中学3年の3学期。

束お姉ちゃんに俺が龍騎士(ドラグナー)だということを発表してもらい、俺はIS学園へ入学願書を提出した。

 

そして受験当日。

内容は筆記、実技、面接の3つだ。

午前の筆記試験を終えて、午後の実技試験が始まった。

尚、実技が終わった受験者は自分より後の実技試験をアリーナで見る事が出来る仕組みになっている。

俺はIS学園が入試受付を始めたその日に願書を提出したというのに、何故か実技の順番は全体の8割くらい後だ。

そのことに疑問が浮かんだ俺だが、自分の試験官に会って納得した。

 

「男の分際でISに乗るなんて……。このわたしが直々に叩き潰してあげるわ」

 

典型的な女尊男卑主義者だった。

つまり大勢の受験者の前で俺を晒し者にしたい訳ね。

なんでこんな奴が試験官なんだ?

 

『受験番号00035・織斑一夏、聞こえるか』

 

日本に帰国してから、俺の提案通りIS学園の教師になった千冬お姉ちゃんが、ピットから個人秘匿回線(プライベート・チャンネル)で話し掛けてくる。

 

『はい、こちら織斑』

『お前の目の前に居るのはIS学園の教頭だ。そして見ての通り女尊男卑主義者でもある。あんな奴が居てはまともなIS操縦者が育成出来ん。なのに権力を振りかざして教頭の地位に居座っている女だ』

『つまり、男性IS操縦者の俺がボコボコにすれば良いと?』

『そうだ。あの女が纏っている打鉄は大破しても構わん。束に修理してくれるよう頼んでいるからな』

『用意周到ですね。あの教頭はそんなに腐っているんですか?』

『そうだ。戦っている内にお前も理解することだろう』

『そうですか。とにかく任務了解』

 

千冬お姉ちゃん……もとい織斑先生との通信を終え、実技試験が始まる。

 

「くらいなさい!」

 

試験官はアサルトライフル『焰火』を掃射してきた。

対する俺は1枚のカードをシャインバイザーに装填する。

 

『REFLEQUARTZ VENT!!』

 

龍騎士(ドラグナー)の目の前に出現した光の壁が、銃弾を試験官に跳ね返す。

 

「ぐっ……何なのよ今のは!?」

「答える義務は無い」

『『SURVIVE!!』』

『『FEATHER VENT!!』』

 

サバイブ形態になって8基のドラグーン・ユニットを放つ。

腕は素人なのか、手抜きの操作で翻弄されている。

 

「ええい、次から次へと!」

「おいおい、この程度で音を上げられたら困るぜ?まだまだこれからなんだからな」

『『TRICK VENT!!』』

 

トリックベントで分身を生み出し、龍騎士(ドラグナー)の数が8機となる。

比例して、ドラグーン・ユニットの数も8倍の64基へ増えた。

 

「な……!?」

「「「「「「「「くらえ!」」」」」」」」

 

試験官の打鉄にビームの雨が降り注ぐ。

しかし急所は決して狙わない。

トドメの一撃は決めているからな。

 

「何なのよ実弾銃を跳ね返したり数が増えたり!男のアンタが何でそんなインチキISを持っているのよ!男の分際でISに乗ってISを穢す屑が!」

「ISを玩具のように思っているお前だけには言われたく無い!」

『『ADVENT!!』』

 

シャインヒュードラーこと光莉を呼ぶ。

ISモードで契約モンスターを呼ぶと、ISの武装コールと似た見栄えで側に現れる。

さすが束お姉ちゃんは抜かりが無いな。

俺はシャインバイザーツバイに付属する剣・シャインソードを抜くと、光莉の頭上に移動する。

 

「ギャラクシー・クラッシャー!!」

「ぎゃあああああっ!」

 

光莉の3つの首から放たれた破壊光線と、俺のシャインソードから放たれたエネルギー波が試験官を包み込んだ。

 

余談だが、あの試験官は全治1ヶ月の重症で打鉄はダメージレベルEという大損害だが、俺には一切のペナルティが無かった。

寧ろ入学後に様々な教師からお礼を言われる有様である。

どれだけ人望無かったんだ、あの教頭。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、アレはやりすぎじゃない?」

「とある人物が通信で『やれ』って言ったからやったんだ。まぁ後悔はしてないがな」

 

面接試験が終わって、簪と出会ったのでさっきのことを話している。

学園から日本本土に戻るためのモノレールには長蛇の列が出来上がっている。

これは数時間単位で待つ必要がありそうだな。

 

ちなみに他の受験者は、男であることの珍しさと試験官をオーバーキルするところを見ていたためか、話し掛けて来ない。

しかしその中でも例外が居た。

 

「見つけたわよ、一夏!」

「えっ鈴!?なんでここに!?」

 

約1年前に中国へ帰国した幼馴染が居た。

しかも何やら金髪の女子を2人引き連れている。

わからない事だらけだ。

 

「アタシはこの1年で中国の代表候補生になったのよ。そういうアンタこそなに龍騎士(ドラグナー)だっていう正体隠してんのよ。相談してくれたって良いじゃない!」

「馬鹿野郎、男でISが動かせるだなんて家族と恋人以外に話せる訳無いだろ」

「うっ……。って、光莉は知っていたのね」

「まぁな。それで、そっちの2人は?」

「一夏の居場所を聞き込みしてたら『一夏(アンタ)の知り合いかも』って言うから連れて来たのよ」

「はじめましてかな、織斑くん。僕はフランス代表候補生のシャルロット・デュノアと……」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットと申しますわ」

「フランスにイギリス……。もしかしてシザースとゾルダか?」

「うん」

「その通りですわ」

 

そう言って2人はカードデッキを取り出す。

マジか。

まぁ代表候補生ということはとっくの昔に聞いていたことだし、頭の片隅で予想していたことではあるけど。

 

「うそ……」

「ここにもライダーが……」

 

鈴と簪が反応している。

簪はわかるが、まさか鈴の奴中国でライダーになったのか?

 

「そういえば、一夏。そっちに居るのは誰?」

「あぁ、彼女は更識 簪。日本の代表候補生だ」

「更識 簪です。よろしく……」

「あたしは凰鈴音よ、よろしく簪」

「うん……」

 

…………………………

 

鈴と簪が握手をしていると、ミラーモンスターの気配が発生した。

金切音に俺、簪、鈴、オルコットさん、デュノアさんが反応する。

 

「鈴、中国に居る間にライダーになったのか?」

「そうよ。その様子だと簪も……」

「うん……、わたしも……」

 

そう言って鈴と簪はお互いのデッキを取り出す。

鈴は龍騎のデッキだった。

 

「とにかく、この5人で現場に向かおう」

「うん」

「わかった」

「おっけー」

「わかりましたわ」

 

俺は代表候補生兼ライダーの4人と共に人目につかない場所へ向かう。

 

「あ、待て!いち……」

 

聞き覚えのあるような声が聞こえた気がしたが、無視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールドのIS学園。

そこでは、ヤゴ型モンスターのシアゴーストが大量発生していた。

そこに俺たちは降り立つ。

 

「うわぁ、凄い数」

「こんなの初めてですわ」

「良いじゃない、やり甲斐があるわ」

 

シザースとゾルダがシアゴーストの数に圧倒されている中、龍騎(仮)はやる気だ。

鈴が変身しているのは間違いなく龍騎だが、胴体のアーマーは腹筋みたいなものじゃなく普通のライトアーマー状のものになっている。

 

「なぁ鈴、そのライダーの名前って何だ?」

「これ?仮面ライダー赤龍(ウェルシュ)よ」

「ウェルシュ、ウェールズの赤い龍……。ってアーサー王物語じゃねぇか!なんで中国に居てそんな名前になるんだよ!?」

「いいじゃない、格好良いんだから!」

 

いまいち締まらねぇなオイ。

 

「2人とも、集中して」

「わかってるよ、簪。いくぞ、皆!」

「「「「うん/はい!」」」」

『THRUST VENT!!』

『SWORD VENT!!』

『STRIKE VENT!!』

『SHOOT VENT!!』

『SWORD VENT!!』

 

俺はシャインランサーを。

鈴はドラグセイバーを。

デュノアさんはシザースピンチを。

オルコットさんはギガランチャーを。

簪はスカイソードを構えた。

 

「うおおおおおっ!」

 

射撃型のオルコットさん以外の4人でシアゴーストの群れに突っ込む。

 

 

 

結果。

シアゴーストたちを駆逐し終えたのは、サバイブを持つ俺を除く4人の制限時間ギリギリだった。

まぁ全員の契約モンスターが満腹になったから良いけどさ。

戦いが終わったあと、オルコットさんのことは『セシリア』、デュノアさんのことは『シャル』と呼ぶことになった。

 

やれやれ、波乱万丈な入試だったぜ。




シャルロットの変更点

原作のデュノア社社長夫人が、デュノア社社長と結婚する前に女尊男卑主義者として一夏の介入で死亡している。
それでもデュノア社社長は会社のために政略結婚をしなければならなかったが、相手は女尊男卑に染まっていない良妻賢母な女性だったため、シャルロットとシャルロットの母親も含めて円満な家庭となっている。

セシリアの契約モンスター

青色のマグナギガ「アクアギガ」
従って、セシリアが変身するゾルダも青色である。


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第18話 IS学園入学直前

この小説の一夏に遊戯王の必殺技を使わせていると、セシリアやシャルにブラック・マジシャンガールのコスプレをさせたくなる作者っておかしいのでしょうか……?


IS学園入試1日目が終わった翌日。

昨日入試を受けたのは受験番号が00001〜01000の受験生だ。

IS学園は世界中から入学志願者がやって来る。

千冬お姉ちゃんは1万人以上だと言っていた。

つまり10日以上かけて入試を行うという訳だ。

IS学園は基本的に1学年につき30人×8クラスの240人で構成される。

つまり、入試1日目だけでも志願者の3/4が落選するのだ。

このことからIS学園が非常に狭き門だと窺える。

 

夜に俺は千冬お姉ちゃんと電話で話をする。

入学後の俺に関する事だ。

 

『一夏、お前は男性IS操縦者ということと、入試の実力からしてお前のIS学園入学はほぼ確定だ。実際、入試1日目に限ればお前の筆記と実技の成績はトップだ』

「それ、教えても良いの?……とにかく、問題は俺自身の身の振り方か……」

『IS学園は世界で唯一、治外法権が成立する場所だ。入学と同時にお前は自由国籍になる。そうなればあらゆる場所から勧誘を受けることになるだろう』

「普通の勧誘は丁重にお引き取り願うとして、悪意のある連中は光莉の部下たちに食べて貰おうかな……?…………待てよ、自由国籍になるということは俺に対して日本の法律が適用されないから、18歳になる前に光莉と結婚出来るのか?」

『光莉は戸籍上は15歳の日本人だ。光莉が16歳になれば結婚が可能だろうな』

「光莉の誕生日は8月。5ヶ月先か……。楽しみだな」

『…………まったく』

 

光莉の誕生日が8月である理由は、光莉自身が『夏が好きだから』というのが理由だ。

ちなみに光莉はIS学園には通わない。

ミラーモンスターであることの影響か、光莉にはIS適正が無かったのだ。

光莉は中学を卒業したら束お姉ちゃんの元に身を寄せてISの技術を学ぶ予定だ。

そしてたまにミラーワールドを通してIS学園の寮の俺の部屋に来たりする予定でもある。

在学中に光莉と結婚出来れば、異性からのアプローチも無いだろう。

そういう意味でも、早い段階で光莉との結婚は都合が良い。

 

「まぁ他の事に関しては大丈夫だと思う。国家代表と代表候補生のライダーの知り合いが5人居るからね」

『まさか更識姉妹やお前の幼馴染までライダーだとはな……。この調子だといずれ全てのライダーに出会えるんじゃないか?』

「かもね。案外IS学園在学中にもう1人くらい会えるかも」

『……冗談に聞こえないぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

俺が龍騎士(ドラグナー)だと正体を明かしてから世界中で行われた男性のIS適正検査の結果、日本で2人目の男性IS操縦者が見つかった。

名前は「工藤(くどう) 鋼夜(こうや)」。

年齢は俺と同じ15歳らしい。

少しだけ同情してしまう。

俺は自ら望んでこの道を選んだ。

しかし工藤には自分の夢があったはずだ。

それがISを動かしてしまったことで全て崩れてしまった。

それに工藤の家族は、束お姉ちゃんの家族のように重要人保護プログラムの元、バラバラになってしまうだろう。

工藤の人柄にもよるが、学園では中良くやりたいと思う。

 

 

 

さらに数日後。

工藤のIS学園入学試験が行われたそうだ。

実技試験が行われている内に光莉が調べたところ、工藤はライダーで契約モンスターはサイ型モンスターのメタルゲラスらしい。

仮面ライダーガイか……。

まさか日本に他のライダーデッキがあったとは驚きだ。

 

 

 

さらに数日後。

IS学園の合格通知が届いた。

IS学園は全寮制だ。

入寮のための荷造りは既に済んでいる。

あとはいつこの家を空けても良いように、冷蔵庫を空にしてライフラインをカットするだけだ。

準備は万端と言える。

 

俺の一般人としての『織斑 一夏』ではなく、龍騎士(ドラグナー)の『織斑 一夏』の生活が始まろうとしていた。




次回から原作入りです。


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原作開始 〜1学期〜
第19話 始まる学園生活


朝一で早速ベイマックスを見ました。
良い話でしたね。


SIDE 鋼夜

 

皆さんこんにちは。

2人目の男性IS操縦者の工藤 鋼夜です。

ついでに言うと転生者でもある。

特典は『ベノスネーカー・メタルゲラス・エビルダイバーと契約した仮面ライダーガイのカードデッキ』だ。

転生先はランダムだと聞かされてISの世界へ生まれ変わったと知った時、俺は喜ぶと同時に落胆した。

だって俺ファース党なんだぜ?

一夏じゃない主人公()が結ばれる結末になる可能性は低い。

いや、一夏が他のヒロインと結ばれる様に仕組めばワンチャンあると信じたい!

それで、特典にIS適正を要求した訳でもないのにISを動かしてしまった俺はIS学園に強制入学することになったんだが……。

 

(女子からの視線が凄ぇキツい……。今なら原作一夏の気持ちが良くわかる……)

 

女子生徒の好奇の視線に晒されていた。

それは隣の席の原作主人公こと織斑 一夏も同じことなんだが……。

 

(悪意の籠った視線じゃないし、放っておいても大丈夫か。ミラーモンスターの大群に囲まれた時の方がよっぽど緊張したしな)

 

平然としていた。

そういえば一夏って、白騎士と一緒に日本を救った『龍騎士』なんだよな。

当時のお前は小学3年生だろ?

絶対転生者だと思う。

後ろの席を見ればシャルが最初から女子として入学しているし。

原作ブレイクが既に起きている。

前世の知識は役に立ちそうにない。

ハーレムや俺TUEEEEEに興味無いし、出来れば敵対はしたくないな。

踏み台なんて真っ平御免だ。

 

そういえばIS学園の入学試験の帰り、護衛としてついて来たメタルゲラスが何かに怯えているようだった。

IS学園にはヤバいミラーモンスターが住み着いていたりでもするのか?

勘弁してくれよ。

これでも平和主義なんだぜ?

 

「は〜い、全員揃っていますね〜。ではSHRを始めますよ〜」

 

おぉ、待ってました山田先生!

しかし入試の実技でも思ったが、凄まじい胸部装甲だな。

胸が慎ましやかな女子生徒の目が虚ろになっている。

見なかった事にしよう、うん。

 

「わたしがこの1年1組の副担任の山田真耶です。皆さんよろしくお願いしますね〜」

 

おっとりした口調だな〜。

他の生徒たちもポカンとしてしまっている。

生徒たちの反応に山田先生がオロオロしながらも出席番号順に自己紹介が始まり、一夏の番になる。

 

「織斑一夏です。趣味は鍛錬。特技は武術。女尊男卑を終わらせるためにIS学園に入りました。よろしくお願いします」

 

おい、誰だこのイケメン。

とてもワンサマーなんて呼べないぞ。

そして俺の番。

 

「工藤鋼夜です。趣味は読書です。ISを動かしちゃっていろいろ戸惑っていますがよろしくお願いします」

 

そのあとはブリュンヒルデこと織斑千冬先生が現れて、1時限目のHRは終わった。

 

SIDE OUT

 

SIDE 一夏

 

1時限目のHRが終わって休憩時間になった。

俺は2人目の男子である工藤に話しかける。

 

「はじめまして、工藤。織斑一夏だ。よろしくな」

「あぁ、よろしく織斑。俺のことは鋼夜と呼んでくれ」

「じゃあ俺も一夏で良いぜ。それでだな……」

 

口を鋼夜の耳に近付けて小声で話す。

 

(同じライダーとして少し込み入った話がしたいんだが)

(なっ何で俺がライダーだって知ってんだ!?)

(済まん。うちの契約モンスターが鋼夜がIS学園(ここ)で実技試験を受けてる際に更衣室にあるお前の荷物を調べたらしくてな)

(マジですか……)

(本当に済まん。で、話を戻すが一緒に屋上に来てくれないか?)

(あ、あぁ……。わかった)

 

戸惑いながらも応じてくれた鋼夜を連れて教室から出る。

 

「あ、待て!いち……」

 

なんか入試の時も同じことあったような……。

気のせいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上に着いた。

俺は自分のカードデッキを取り出す。

 

「なぁ、なんか呼ばれてたみたいだけど良かったのか?」

「気にするな。さて、改めて自己紹介をさせてもらう。仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)の織斑一夏だ」

「仮面ライダーガイの工藤鋼夜だ。しかし龍騎士(ドラグナー)龍騎士(りゅうきし)と関係があるのか?」

「あぁ、俺のはISとライダーの力が融合しているからな」

「凄ぇなオイ」

「それで、このIS学園に在籍している国家代表や代表候補生の中にはライダーが居る。俺と鋼夜を合わせて最低7人のライダーがこのIS学園に集まっている」

「多っ!?1度だけ会ったオーディンはライダーが全部で13人しか居ないって言ってたぞ!?ちょうど半分じゃねぇか!」

「そうだ。そしてそれぞれの契約モンスターを養うにはライダーが1箇所に集まり過ぎている。このままでは撃破した野生のミラーモンスターの生命エネルギーの奪い合いに発展するだろう。そこで、オーディンが特例として1つの細工を施してくれた」

「細工?」

「IS学園に野生のミラーモンスターを引き寄せる結界を張ってくれたんだ。俺たちの契約モンスターが十分満足するだけのミラーモンスターがIS学園にやって来るだろう。その分俺たちライダーが頻繁に駆り出されることになるが、そこは納得して欲しい」

「あぁ、わかった」

「そうか。じゃあ、改めてよろしくな鋼夜」

「こちらこそ、一夏」

 

握手を交わして、俺たちは教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は放課後。

あの後千冬お姉ちゃんが言ったクラス代表に何故か俺が選ばれてしまった。

俺、他の生徒と実力差あり過ぎるんだけどな……。

実際、ライダーの力による戦闘ならシャルや簪たち代表候補生兼ライダーたちが相手でもサバイブ抜きで複数人と渡り合える。

ISでの模擬戦はやってない。

刀奈さん……じゃなくて楯無さんが混じるとさすがにサバイブが必要になってくるが。

 

そして現在。

俺は鈴、セシリアの2人と共に再び現れたシアゴーストの群れと対峙していた。

オーディンの張った結界はしっかり効果を発揮しているらしい。

 

「今日も今日とて、よく現れますわね」

「契約モンスターのためとはいえ、この数はちょっとばかし面倒ね。一夏、何かチャチャっと決着(ケリ)をつけられる方法無い?」

 

鈴に聞かれてしばし考え込む。

速攻で勝負を決める手段か……。

アレを試してみるか。

 

「ひとつ思いついた。鈴、セシリア、2人の契約モンスターを呼んでくれないか?」

「……なんだか知らないけど、了解よ!」

「わかりましたわ」

 

2人共快く応じてくれた。

俺もシャインナーガのカードをシャインバイザーに装填する。

 

『ADVENT!!』

『ADVENT!!』

『ADVENT!!』

 

シャインナーガ、ドラグレッダー、アクアギガの3体が現れる。

 

「お呼びですか、一夏くん(マスター)

「おう、待ってたぞ光莉」

「それで、どうするの一夏?」

「こうするのさ!」

『UNITE VENT!!』

 

初めてライダーになってから約10年。

初のユナイトベントだ。

アクアギガが身体を折り畳んで戦車のような形になる。

その上にドラグレッダーが重なり、シャインナーガがドラグレッダーを挟むようにさらに重なる。

そうして生まれたのは、龍と戦車のハイブリッドモンスターだ。

ウルトラマンに登場した怪獣『恐竜戦車』みたいなものか?

カードデッキから目の前の契約モンスターのカードを取り出す。

 

『CRUSADER(10000AP)』

 

クルセイダー。

聖なる戦いをする者……か。

しかしシャインヒュードラーを上回るAPとは……。

ユナイトベントは侮れないな。

 

「アタシたちの契約モンスターが、合体した!?」

「こんなアドベントカードがあるなんて……」

「さて、鈴の要望通りサクッと終わらせますか」

『FINAL VENT!!』

 

ファイナルベントのカードを装填すると、クルセイダーの全身の法門が開き、背中に鍵穴のようなものが出現する。

俺はその穴にシャインバイザーの刀身を差し込む。

つい『レンジャーキー、セット!!』って言ってしまうところだったのは秘密だ。

鍵穴の中でシャインバイザーを回すと、クルセイダーのフルバーストがシアゴーストに向かって放たれた。

凄ぇ……。

サバイブのドラゴンパニッシュメントは一点突破型だったのに対し、このファイナルベントは広域殲滅型だ。

フルバーストが収まった後、そこには大量の生命エネルギーが残された。

それを鈴とセシリアとで山分けして寮の自室に戻る。

現時点ではまだ1人部屋だ。

入学が決まっていた俺と違って、急に入学することになった鋼夜はしばらく女子との相部屋らしい。

相手は楯無さんのところの本音だそうだ。




クルセイダーのイメージ
遊戯王DMの「XYZ-ドラゴン・キャノン」。


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第20話 転生者たちの語らい

「くっそ〜。事前に予習しているのに、ISに関する知識は難しいもんだな……」

 

そう鋼夜がぼやいている。

ここは俺の自室である1050室。

俺は鋼夜と2人でISに関する勉強をしていた。

龍騎士(ドラグナー)として束お姉ちゃんと千冬お姉ちゃんを除いて誰よりも長くISに関わっているため、俺が鋼夜に教えているという表現が正しいのかもしれないが、そこはどうでも良いだろう。

 

お互いのことをいろいろ話した結果、鋼夜も俺と同じ転生者だと判明した。

それからは俺は生まれてから今までのことを話し、鋼夜からは『原作』を聞いた。

『織斑 一夏』という名前。

『インフィニット・ストラトス』という単語。

前世でこの2つに聞き覚えがあると思ったら、やはりこの世界は小説の世界らしい。

聞かせて貰った『原作』は現時点より過去のものだけだが、ミラーライダーが存在しないことを差し引いても現在の状況とかなり違っている。

 

原作の織斑一夏()はシャル・ラウラ・簪・刀奈さんとまだ出会っていない。

セシリアの両親は列車事故で俺が介入しなかったため死亡している。

第二回モンド・グロッソの決勝戦で千冬お姉ちゃんは織斑一夏()を助けるために棄権している。

織斑一夏()がIS学園に入学したきっかけは藍越学園の受験会場と間違えて入った部屋にあった打鉄を動かしたため。

クラス代表を選ぶ際に女尊男卑の傾向があったセシリアと一悶着あって最終的にISによる決闘に発展。

etc...

 

かなりの違いがあったが、俺が1番驚いたのはあの篠ノ之箒がメインヒロインの1人だということだ。

IS学園にて約6年振りに再会した篠ノ之だが、相も変わらずしつこい女だった。

断っているのに何度も剣道に誘って来るし、剣道を辞めたと聞いたら『軟弱者』と罵るし、あまりにしつこいから1度だけ誘いに乗って生身で負担が掛からないレベルで再現した飛天御剣流で相手をしたら俺の剣を『邪剣』と貶めてくる。

あまりにムカついたので、話し掛けてもシカトを決め込んだら竹刀や木刀で襲い掛かって来る。

 

「あんな女をよく原作の織斑一夏()は嫌いにならないなオイ。ブチキレそうになった光莉やその部下(契約モンスターたち)を抑えるのが大変なんだぞ……」

「あぁ、元の世界じゃ箒は『モッピー』というクズインの称号を授かっている。1学期の間はお前に(ゴーレムや福音との戦いで)いろいろと迷惑を掛けることになるぞ」

「箒➡︎モップ➡︎モッピーという訳ね。しかしお前も物好きだな。篠ノ之を嫁とする『ファースト幼馴染の党』、略して『ファース党』なんだって?アイツの何処が良いんだよ」

「俺だってモッピーが好きな訳じゃない。成長してモッピーを卒業した箒が好きなんだ。だからこの世界の箒には嘆くしか無いんだが……ハァ」

「あの篠ノ之がモッピーを脱却出来るとは思えないぞ?衛星でたまに様子を見ている束お姉ちゃんが匙を投げる一歩手前なレベルだとクロエが言ってたしな」

「あの篠ノ之束が!?ヤベェ絶望しか無ぇ……。ここまで来るとお前を恨むのも筋違いだし……泣ける」

「俺が原作の織斑一夏と違う行動をしている時点で周囲の人物は原作とは別人だ。お前が好きな『篠ノ之箒』とこの世界の『篠ノ之箒』は違う存在だと割り切って普通の恋愛をした方が良いんじゃないか?」

「やっぱそう思う?思うよなぁ……。そう簡単に割り切れると良いんだけどよぉ……」

 

そう呟いて鋼夜は机に突っ伏した。

……丁度良い時間だし、1度休憩にするか。

休憩後に勉強を再会した俺と鋼夜だが、俺はこの後に起こる『原作』については聞かなかった。

俺がミラーライダーの力で原作の織斑一夏と大幅に違う行動を取っているため、その知識は役に立たないと思ったからだ。

それに余計な知識を頭に詰め込んでも、視野が狭まるだけだろう。

 

鋼夜がちゃんとした恋愛が出来るよう、応援しようと思った。



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第21話 クラス代表トーナメント

鋼夜が転生者だと判明して数週間。

篠ノ之が突っ掛かって来ること以外は至って平和に過ぎていった。

明日はクラス代表トーナメントだ。

俺は1組の代表なので出場しなければならない。

ちなみに2組の代表は鈴で、4組の代表は簪だ。

それぞれ専用機の『甲龍(シェンロン)』と『打鉄弍式(うちがねにしき)』を所有している。

機体名しか知らないが、戦うのが楽しみだ。

 

「明日が楽しみですか、マスター?」

「あぁ、皆との模擬戦はライダーの力によるものしかやっていないからな。ISでぶつかり合うのが楽しみで仕方が無い」

 

時刻は夜。

俺はミラーワールドを通してIS学園に忍び込んだ光莉とベッドインしている。

ちなみに光莉がこうしてIS学園に忍び込むことは寮長の千冬お姉ちゃんと生徒会長の楯無さんに許可を取っている。

 

「ふふっ、頑張ってくださいね」

「おう、優勝するつもりでいくさ」

「そうですね。ではそろそろ寝ましょうか。マスター、お休みなさいのキスが欲しいです」

「わかった」

「ん……ちゅ……」

 

キスをせがんだ光莉に優しく口付けをする。

 

「これでぐっすり眠れます。お休みなさい、マスター」

「お休み、光莉」

 

光莉と一緒に寝る場合はこの遣り取りが恒例となっている。

だが、今回は少し違った。

 

「そういえば、マスターと結婚した後ってマスターのことをどう呼べば良いのでしょう……。旦那様?ダーリン?」

 

結婚した後のことで悩んだ光莉の目が冴えてしまい、もう1度お休みなさいのキスをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

クラス代表トーナメントの対戦カードは以下の通りだ。

 

1回戦…4組VS7組

2回戦…3組VS5組

3回戦…1組VS2組

4回戦…6組VS8組

 

まずは1回戦。

簪と7組の代表の戦いだ。

簪の専用機『打鉄弍式』が姿を現す。

打鉄が防御主体なのに対し、弍式は高機動型のようだ。

7組の代表が纏っている打鉄と比較して、俺はそう判断した。

出場者の俺と、応援に来てくれたセシリアとシャルはピットから観戦する。

篠ノ之?

先生に頼んでつまみ出して貰いましたが何か?

 

試合が始まった。

簪は薙刀型の武器を使って近接戦闘を仕掛ける。

ふむ、薙刀を持った簪は様になっているな。

ライダー時のメインウェポンのカードが二刀流(スカイソード)じゃなく、俺のシャインランサーみたいな長い得物のカードだったら強いんだろうな……。

そのまま簪は相手を追い詰めて行き、薙刀以外の武装を使わずに勝利した。

他にはどんな武装があるんだろう?

 

2回戦。

打鉄を纏った3組代表とラファールを纏った5組代表の戦いは5組代表の勝利で終わり、とうとう3回戦。

俺と鈴の出番だ。

 

「出番だね、一夏」

「そうだな。変身!!」

 

Vバックルを腰に巻き付け、ISモードのスイッチを入れてカードデッキを差し込む。

その瞬間、俺の姿は龍騎士(ドラグナー)へと変わった。

緊急展開時以外はこれが機体を展開するプロセスだ。

最低でも3秒は掛かるのが難点と言える。

ちなみに緊急展開時は0.5秒でナイトのブランク体が展開され、カードデッキを差し込んで龍騎士(ドラグナー)となる。

 

「じゃ、行って来る」

「頑張ってね、一夏」

「応援していますわ」

「ありがとう、2人とも。……織斑一夏、龍騎士(ドラグナー)行きます!」

 

カタパルトに乗ってアリーナに出ると甲龍(シェンロン)を纏った鈴が既に待機していた。

 

「来たわね、一夏」

「待たせたな、鈴」

「気にしないわ。それより一夏、この勝負で何か賭けない?」

「具体的には?」

「勝った方が相手に1度だけ命令出来る。優勝したら命令権をプラスもう1回」

「良いね、その賭け乗った」

「決まりね、覚悟しなさい一夏」

「悪いが勝つのは俺だぜ、鈴!」

 

試合開始の合図が鳴る。

 

『THRUST VENT!!』

(来なさい、双天牙月!)

 

俺が2本のシャインランサーを呼び出し、鈴が2振りの青龍刀を呼び出す。

 

「いくわよ、一夏!」

「来い、鈴!」

 

赤黒の龍と金銀の龍が、ぶつかり合った。

 

SIDE OUT

 

SIDE 鋼夜

 

どうも、工藤鋼夜です。

俺は1組のクラスメイトと一緒に観客席で試合を見ている。

1回戦と2回戦も見ていて楽しかったが、やはり専用機同士のバトルは燃えるな。

2刀流の鈴と2槍流の一夏が火花を散らす攻防を繰り広げている。

このまま試合を見たいところだが、原作だとゴーレムが来るんだよな……。

 

どうにかしたいところだが、俺には専用機が与えられていない。

それには特に不満は無い。

専用機は本来、努力を認められた者だけが使うことを許されたものだからな。

それに白式みたいなピーキーな機体を渡されても困るだけだし。

一夏も既に龍騎士があるから簪の打鉄弍式は開発がストップせず、こうして原作より早く登場している。

 

話をゴーレムに戻すが、もし来たとしたら俺には出来ることが無い。

近くに鏡が無いから、ライダーに変身することも契約モンスターに指示を出すことも出来ないのだ。

こんなことだったら、一夏の伊達眼鏡みたいに何か鏡になるものを持ち歩くべきだったな。

 

「こうやん、何か考えごと〜?」

「いや、何でも無いよ本音」

 

隣の席からルームメイトでもあるのほほんさんこと布仏本音が話し掛けて来たので、適当に誤魔化す。

丁度その時、試合が佳境を迎えていた。

一夏は右手にストライクベントのクローを装置し、鈴の懐に潜り込む。

対する鈴はシールドエネルギーを9割近く削られている。

これで決着か、と思った瞬間……。

 

ドガァァァン!

 

アリーナのバリアが破られ、黒いISがアリーナに乱入する。

やはりゴーレムが来たか……。

生徒の避難誘導をしなければな。

そっちは頼んだぞ、一夏。



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第22話 襲撃者

鈴との試合で、俺が勝ちを確信した瞬間。

何者かが、アリーナのバリアを破って乱入してきた。

龍騎士(ドラグナー)がメッセージを表示する。

 

『熱源反応を確認。所属不明のISと断定。警告!ロックオンされています!』

 

所属不明のISだと!?

煙が晴れた後、そこに居たのは黒い全身装甲(フルスキン)のISだった。

 

「アンタは何者?所属を答えなさい!」

「…………」

 

鈴の問いに相手は何も答えない。

山田先生から通信が入る。

 

『織斑くん、凰さん!すぐに退避してください!教員部隊をそちらに派遣します!』

「了解……と言いたいところですが、生憎とロックオンされてましてね。どちらか片方が殿(しんがり)を務める必要があります。それに教員部隊が来るまでの時間稼ぎもしなければなりません。鈴、先にピットへ行け」

「駄目よ!一夏が残るならアタシだって……!」

「さっきのアリーナのバリアを破る威力の攻撃を見ただろ?あれをくらったら1割程度しか残っていないシールドエネルギーだと、たとえ絶対防御が発動しても生きていられる保証は無いぞ?それに俺との試合で刃こぼれした青龍刀と砲門を潰された衝撃砲で何が出来る?」

『織斑の言う通りだ。凰、すぐに退避しろ』

「織斑先生……。くっ、一夏!死ぬんじゃないわよ!」

「わかってるさ」

 

そう言い残して、鈴はピットに入って行く。

 

『現在、学園のシールド遮断システムがレベル4で発動している。恐らく目の前の奴が原因だろう。そのせいで生徒たちの避難が遅れている。観客席に被害を出してはならない、良いな』

「了解」

 

千冬お姉ちゃんとの通信を終えた俺は右手のナーガクローを外し、サバイブのカードを使う。

 

『『SURVIVE!!』』

 

龍騎士(ドラグナー)が黄金の重鎧に包まれる。

謎のISを観察したところ、武装は両腕のビーム砲のみと思われる。

あれでバリアを破ったのだろう。

 

サバイブになった俺だが、目的は時間稼ぎなので無闇に攻撃する必要は無い。

シャインソードを構えて様子を見ていると、謎のISは見慣れたカードを取り出し左大腿部にある挿入口に差し込む。

 

『NASTY VENT!!』

「キィィィッ!」

「ぐぅっ……」

 

電子音声と共に蝙蝠型ミラーモンスター・ダークウイングが現れ、超音波を浴びせて来た。

動きの止まった俺に、謎のISがビームを放つ。

が、そのビームはサバイブのヤタノカガミ装甲によって跳ね返される。

跳ね返ったビームを相手が回避している間に、こちらもカードを使う。

 

『『CONFINE VENT!!』』

 

コンファインベントの効果でダークウイングが消滅する。

……危なかった。

ヤタノカガミ装甲には感謝だ。

しかしアドベントカードを使って来るとは……。

もう1度謎のISをじっくり観察する。

よく見ればISの頭部は見覚えのあるものだった。

 

「ダークウイングと契約しているベルデのデッキか……」

 

俺の呟きが聞こえたのか、謎のIS改めベルデは新たなカードをバイザーに挿入する。

 

『TRICK VENT!!』

 

ベルデが分身し、あっという間に数が8機に増える。

入試でトリックベントを使った俺だが、使われる側からしたらチートだわこれ。

戦力比が1:1から一瞬で1:8になっちまった。

俺もトリックベントを使うしか無いな。

 

『『TRICK VENT!!』』

 

龍騎士(ドラグナー)も8機に分身し、8対8の大乱闘が始まった。

鈴を退避させておいて正解だな。

敵と味方が入り混じったこの状況ではボロボロな状態の鈴は立ち回れないだろう。

大量発生したミラーモンスターが相手の乱戦なら話は別なんだがな。

お互いの分身が潰し合い、俺とベルデは空中で対峙する。

 

『『SHOOT VENT!!』』

 

ブランスナイパーを構えて狙いを定める。

 

『GUARD VENT!!』

 

ベルデはガードベントで守りを固めようとするが……遅い!

 

「くら『一夏ぁ!男ならその程度の相手、倒せないで何とする!』ハァ!?何やってんだアイツ!?」

 

引き金を引こうとしたら、篠ノ之の声がアリーナに響いた。

見ると、篠ノ之が放送室を占拠していた。

観客席に居ないと思ったら……。

先生につまみ出して貰ったのが裏目に出てしまったな。

 

『武士なら銃などという邪道なものを使うな!正面から剣で戦え!』

 

力を持たないくせに避難もせず勝手なことばかり言いやがって!

不覚にも俺は、篠ノ之にばかり気を取られて龍騎士(ドラグナー)が表示したメッセージを見ていなかった。

 

ザシュッ!

「ぐはぁっ!?」

 

何かに切りつけられた俺は浮力を失い、地面に叩きつけられる。

そこでやっと龍騎士(ドラグナー)のメッセージに気付いた。

 

所属不明機(アンノウン)拡張領域(バス・スロット)より高周波ブレードを展開。回避を推奨します』

 

高周波ブレードだと!?

してやられた……!

龍騎士(ドラグナー)のサバイブ形態は、ヴォワチュール・リュミエールシステムの使用を前提とした重量級のISだ。

そして装甲はエネルギーを反射するヤタノカガミ装甲。

 

そんな高い防御性能を誇る龍騎士(ドラグナー)サバイブの弱点。

それは物理攻撃だ。

ヤタノカガミ装甲は物理耐性があまり高くない。

せいぜい平均より少し上という程度だ。

これがエネルギー攻撃の究極である暮桜の零落白夜ならまったく問題無かった。

だが真逆の物理攻撃の究極形とも言える高周波の武器が相手では、龍騎士(ドラグナー)の装甲はあっけなく切り裂かれてしまう。

 

俺自身に怪我は無いし、シールドエネルギーも十分に残っている。

だが高周波ブレードのダメージか、それとも落下の衝撃によってか龍騎士(ドラグナー)の駆動系に異常が発生して思うように動けない。

ライダーモードに切り替えようにも、ISの腕が重くてスイッチまで手が届かない。

 

ベルデは滞空しながら、高周波ブレードを地上のこちらに突きつける。

ヤバい!

今の状態だと次に来る攻撃は、当たりどころ次第で致命傷になる!

こうなったら一旦、龍騎士(ドラグナー)を解除して……。

最後の手段を使おうとした俺だが、それを実行する前に場に変化が起きた。

 

「わたしの『お兄ちゃん』に何をしている、この鉄屑がぁぁぁぁぁっ!」

 

どこからともなくそんな声がして、ベルデにビームの雨が降り注ぐ。

まともにくらったベルデは俺から離れた場所に墜落した。

 

「大丈夫、お兄ちゃん?」

 

そう言って目の前に降りてきた声の主は、蝶をイメージした青いISだった。

しかし俺のことを『お兄ちゃん』だと?

もしかして……。

 

「マドカ……マドカなのか……?」

「うんっ。久しぶりだね、お兄ちゃん!」

 

幼い頃に離ればなれになった妹との思わぬ再会に、俺は唖然とするしかなかった。



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第23話 再会

皆さん、メリークリスマス!


SIDE 千冬

 

『マドカ……マドカなのか……?』

『うんっ。久しぶりだね、お兄ちゃん!』

 

そう言って、一夏の窮地を救った2機目の所属不明機(アンノウン)は顔の上半分を覆っているバイザーを外す。

そこにあったのは、間違いなくわたしと一夏の妹『織斑 マドカ』の顔だった。

かつて両親と共に消息を絶った妹が何故こんなところに!?

それにマドカが纏っているISは一体……?

 

「あれは……BT2号機『サイレント・ゼフィルス』!?強奪された機体が何故こんなところに……!?」

 

背後に居るオルコットが驚愕している。

ちなみにここはアリーナの管制室。

居るのは一夏のピットから自力で来たオルコットとデュノアのみ。

真耶は鎮圧部隊の方に回っているのでここにはいない。

 

しかしマドカが纏っているのは、イギリスから奪った機体なのか……。

わたしたちと離ればなれになってから、マドカはどんな人生を歩んで来たんだ……?

 

『マドカ、お前は俺の味方なのか?』

『そうだよ、お兄ちゃん』

『なら頼みがある。腰のベルトの部分にあるスイッチを切り替えてくれないか』

『は〜い(カチッ)』

 

マドカがVバックルのスイッチを切り替えたことで、龍騎士(ドラグナー)はISモードからライダーモードに変化した。

同時にサバイブも解除されるが、それによって一夏は自由を取り戻す。

 

『ありがとうマドカ。よし、来いブランウイング!』

『ピィ!』

 

所属不明機(アンノウン)に切られた際に投げ出していた狙撃銃(ブランスナイパー)白鳥(ブランウイング)の姿に戻って一夏の背中に貼り付き、一夏の翼になる。

 

『これで空中戦が出来る。ところでマドカ、その機体の武装は?』

『レーザーライフルとビット8基だよ』

『なるほど、俺のドラグーンみたいなものか。なら……』

『COPY VENT!!』

 

一夏はコピーベントでサイレント・ゼフィルスのビットを複製する。

しかし特殊系アドベントカードはISの戦闘だと反則に近いな……。

もしわたしが暮桜に乗って一夏の龍騎士(ドラグナー)と戦う場合、スチールベントで雪片を奪われた瞬間ゲームオーバーだ。

試合では自粛してもらうとしよう。

 

『すごいね、その能力』

『まぁな。……いくぞマドカ!』

『うん!』

 

一夏とマドカは合計16基のビットと共に所属不明機(アンノウン)に立ち向かう。

一夏はシャインバイザーで切りかかり、マドカがライフルで援護する。

 

「嘘……一夏さんも妹さんも8基ものビットを操作しながら動けている。特に一夏さんなんて近接戦闘をこなしていますわ……。2人ともBT適性がわたしより上なんですの……?」

 

オルコットが呆然としている。

オルコットの専用機はBT1号機『ブルー・ティアーズ』。

確かオルコットはビットとライフルの同時操作が出来ないんだったな。

BT兵器を扱う者としての、その心中は測れない。

 

マドカ(織斑妹)はともかく、一夏(織斑兄)はビットと同系統の装備『ドラグーン・ユニット』をイギリスがBT兵器を開発する前から使用している。あまり悲観することは無いぞ、オルコット」

「はい……」

 

オルコットはとりあえず納得した様子だ。

わたしはアリーナに視線を戻す。

一夏とマドカは初めてとは思えない高度な連携で所属不明機(アンノウン)を追い詰めていく。

相手が一夏から距離を取ろうとしたら、マドカが偏光射撃(フレキシブル・ショット)によって曲がったビームで退路を封じる。

相手が腕部のビーム砲でマドカを狙おうとしたら、一夏がシャインバイザーで妨害する。

 

『『トドメだっ!』』

 

マドカが乱入してきた時のように、所属不明機(アンノウン)にビームの雨が降り注ぐ。

ただし、数はさっきの2倍である。

その攻撃を受けて、所属不明機(アンノウン)は完全に沈黙した。

 

「目標ISの完全停止を確認した。直ちに帰投しろ」

『了解です。織斑先生』

『織斑先生?じゃあ通信の向こうにいるのは千冬お姉ちゃんなんだ?久しぶりお姉ちゃん!』

「あぁ、久しぶりだなマドカ。聞きたいことが山程ある。織斑の指示に従ってこちらに出頭するように」

『は〜い!』

 

マドカは元気良く肯定の返事をする。

一夏は所属不明機(アンノウン)のカードデッキを、契約のカードを破り捨てた上で回収している。

 

「千冬さん」

 

呼ばれて振り向くと、いつの間にか光莉が背後に居た。

その表情はかつて世界最強(ブリュンヒルデ)と謳われたわたしですら、恐怖してしまうほど無表情だった。

オルコットとデュノアも軽く震えている。

 

「今回の件、篠ノ之箒にはこれまでの蛮行も含めて適切な処罰を要求します。たとえ日本政府やIS委員会から圧力を掛けられてもです」

 

確かに、篠ノ之は一夏の戦闘を妨害し危険な目に遭わせた。

放送室に元々いた生徒は篠ノ之によって気絶させられている。

もし所属不明機(アンノウン)が攻撃対象を一夏から放送室へ変更していたら、その生徒たちの命も危なかっただろう。

これだけでも、始末書や反省文で許される度合いを越えている。

 

そして篠ノ之の日頃の行ない。

事あるごとに一夏に突っかかっては、軽くあしらわれて癇癪を起こし暴力に打って出る。

何度も注意したし、私物の木刀も没収した。

しかし一夏に歪んだ好意を寄せる篠ノ之の蛮行は一向に収まらない。

一夏が平然としていたので、見落としていたが……。

 

「わたしや部下たちはミラーワールドからずっと見ていました。篠ノ之箒の行ないに、わたしたちはもう我慢の限界なんです……」

 

光莉をはじめとした一夏の契約モンスターたちのフラストレーションが溜まっていたとは……。

一夏を慕う思いに反比例して、一夏に仇名す者への怒りも強い訳か。

 

「今まではマスターの『手を出すな』という命令に従っていましたが、もう無理です。適切な処罰が下されないなら、こちらで『処理』させて貰います。それが織斑 一夏(マスター)の契約モンスターであるわたしたちの総意です」

 

篠ノ之に正しい罰を与えないと、篠ノ之を私刑にする……と言いたいのか……。

わたしでは止められそうに無いな。

一夏も篠ノ之に迷惑を(こうむ)っいる分、光莉たちの意思を尊重すると見て間違い無い。

篠ノ之に罰を与える場合、日本政府やIS委員会は束の報復を恐れて減刑を要求するだろう。

それが(まか)り通った瞬間、篠ノ之は光莉たちの手によって死ぬことになる。

なんとかして束を説得して『篠ノ之箒がIS学園で何をしようと関与しない』と言わせなければならない。

マドカの件もあるというのに……頭の痛い話だ。




すみません、マドカについては書ききれませんでした。
次回に持ち越しとさせていただきます。


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第24話 戦いの後に

ベルデとの戦闘を終えて、俺とマドカはアリーナの管制室に出頭した。

あのISには人が乗っていなかった。

マドカは何か知っているらしく、後で話してくれるそうだ。

 

「失礼します」

 

俺たちが管制室に入ると、そこには千冬お姉ちゃん、鈴、シャル、セシリア、篠ノ之が居た。

あと、スイッチを切ったモニター越しに光莉がミラーワールドを通して見ている。

 

「来たな、織斑兄妹。では全員揃ったところで話を始めよう。内容は3つだ。まず1つ目、今回の襲撃事件は機密事項として扱い箝口令を敷く。他言した場合は厳罰に処する。良いな」

 

全員が無言で頷く。

 

「次に2つ目。マドカ、お前はわたしたちと離れて今までどんな生活を送っていた?しかもイギリスのISを持ってだ。包み隠さず話せ」

「は〜い。あの日にわたしは両親に連れ出された訳だけど、何年かしたら金策として人身売買の組織に売られたんだ。そこからは流れに流れて亡国機業(ファントム・タスク)っていうテロ組織に身を寄せていたの」

「「ハァ!?」」

 

俺と千冬お姉ちゃんの声が重なる。

俺たちの親ったら何やってんの!?

金目当てでマドカを売り飛ばしたのかよ!?

 

「それで、そこの命令でサイレント・ゼフィルスを強奪したんだ。まぁ返すけど」

「そうか……。なぁマドカ、さっきの所属不明機(アンノウン)について何か知ってるんだろ?そっちを話してくれないか?」

「うん。アレは篠ノ之束博士が開発した無人ISを亡国機業(ファントム・タスク)が強奪して改造したものだよ」

『無人IS!?』

 

この場に居るほぼ全員が驚愕する。

無人ISね……。

束お姉ちゃんったら話してくれても良かったんじゃないのか?

 

「ならマドカ、最後の質問だ。マドカがここに来た理由と、この後どうするかを聞かせて欲しい」

「ここに来た理由はお兄ちゃんたちのところに戻るためだよ。そしてお兄ちゃんたちともう1度家族になりたい!」

「……織斑先生、いや千冬お姉ちゃん。どうする?俺としてはマドカを受け入れたい。だがマドカはついさっきまでテロリストだ。いろいろ問題がついて回るんじゃないのか?」

「いや、マドカがサイレント・ゼフィルスを返還して、他の罪状が無いのであればわたしの弁護で罰は軽くなるはずだ」

「そうなのか?ふむ…………では織斑先生、3つ目の話は何ですか?」

「言わなくてもマドカともう1人を除いてこの場の全員が理解しているだろう?」

「まぁ……そうですね」

 

全員の視線が篠ノ之に集中する。

 

「わ、わたしが何をしたというんだ!?」

「自覚が無いの篠ノ之さん?君は放送室を占拠して一夏の戦いを妨害し、彼を窮地に陥れたんだよ?」

「何を言っているデュノア!わたしは一夏に活を入れようと……」

「貴女があんなことしなければ一夏さんは所属不明機(アンノウン)がガードするよりも先にブランスナイパーによる一撃を決める事が出来ていましたわ。貴女の『応援』は一夏さんの勝利のチャンスを潰したのです」

「ふざけるなオルコット!武士たる者が銃で勝って何になる!」

「アンタ本当に日本人?武士や侍だって銃を使うわよ。日本史を勉強し直したら?それ以前に何一夏を武士って決めつけているの?」

「凰、貴様ぁ!」

 

反省の色がちっとも見えない。

千冬お姉ちゃんは額に手を当てて呆れ果てている。

マドカは『何コイツ?』みたいな感じで篠ノ之を見ている。

光莉はさっきから篠ノ之に向ける殺気がうなぎ登りだ。

 

……………………

 

光莉の感情が(たかぶ)っているから例の金切り音がし始めた。

 

「一夏、お前からも何か言ってやれ!」

「黙れ篠ノ之。被害者の俺が加害者であるお前を何故弁護しなければならない?それと俺のことを名前で呼ぶな、不愉快だ」

「何故だ一夏!わたしとお前は幼馴染だろう!」

「篠ノ之、『幼い頃からの知り合い』と『幼馴染』は別物だぜ。俺とお前は親しい訳じゃないから前者だ」

「貴ッ様ぁぁぁぁぁ!」

 

篠ノ之はどこからともなく木刀を取り出して襲い掛かって来る。

その動きは隙だらけで尚且つ緩慢だ。

これで剣道全国大会優勝など、たかが知れてる。

俺は木刀を回避するとボディへのアッパーで篠ノ之を打ち上げ、落ちて来たところを壁に向かって蹴り飛ばす。

 

「がはっ……ごほっ……」

「話は以上だ。後日、箝口令に対する誓約書に署名して貰う。今日はこれにて解散とする」

 

千冬お姉ちゃんが篠ノ之を無視してお開きとする。

俺はマドカを連れて寮の自室へ入る。

 

「ねぇお兄ちゃん」

「何だ、マドカ?」

「さっきから気になっていたんだけど、あの鏡に映っている女の人って誰?」

 

っ!?

マドカはミラーワールドが見えるのか!?

俺と光莉が硬直していると、マドカは懐から白色のカードデッキを取り出した。

 

「さっきの戦闘でお兄ちゃんが使ったのってアドベントカードでしょ?お兄ちゃんもライダーなんだよね?」

「あ、あぁ……。彼女……光莉は俺の契約モンスター兼恋人だ」

「えっ恋人!?」

「はい。よろしくお願いしますね、マドカさん」

「は、はい……」

 

マドカはポカンとしながら鏡から出て来た光莉と握手をしている。

そこからマドカから亡国機業(ファントム・タスク)やライダーについていろいろ聞いた。

変身した姿を見た訳では無いが、残りの所有者不明のデッキから考えてマドカはファムの可能性が高いな。

あと、亡国機業(ファントム・タスク)には以前会ったスコールさんとオータムさんも所属しており、オータムさんもライダーらしい。

あの性格からして、王蛇しか想像出来ないんだが……。

 

組織内には派閥があるらしく、無人ISにベルデのデッキを持たせてIS学園に送りつけたのは、スコールさんたちとは別の派閥らしい。

誰だか知らないが、世界で13個しか無いカードデッキを使うなんて太っ腹だな……。

まぁとにかく、今はマドカとサイレント・ゼフィルスをどうにかしないとな。

サイレント・ゼフィルスはイギリスのISらしいし、セシリアに相談してみようか……。

あと、このベルデのデッキどうしよう……。

 

SIDE OUT

 

SIDE 束

 

亡国機業(ファントム・タスク)

まさか束さんから盗んだ無人IS『ゴーレム』をあんなことに使うなんて……。

いつか落とし前をつけさせて貰うよ。

 

けど、それよりも今は箒ちゃんのことだ。

いっくんからは龍騎士(ドラグナー)の通信回線で。

ちーちゃんからは携帯電話で。

光莉ちゃんはミラーワールドを通して束さんに直接。

別口ながら3人に同じことを頼まれた。

 

『箒ちゃんがIS学園でどうなろうと関与しない』と日本政府及びIS委員会に通達して欲しい、と。

 

箒ちゃんの日頃の行ないは衛星や学園のカメラをハッキングしてずっと見ていたけど、そう言うのも仕方ないくらい酷い。

束さんとしては光莉ちゃんたち契約モンスターがよく今日まで我慢出来たものだと思う。

普通なら箒ちゃんは今頃八つ裂きになっていてもおかしくない。

そうならなかったのは、いっくんが光莉ちゃんたちを抑えていたからだ。

でもこれ以上は、いっくんを慕うからこそ『箒ちゃんに手を出すな』という命令に従わないだろう。

 

ハァ……。

頼まれた通り、日本政府とIS委員会に連絡しよう……。

減刑は箒ちゃんのためにならないし、そうなったら箒ちゃんは確実に光莉ちゃんたちに殺される。

気持ちがわかる以上、止められない。

どうして箒ちゃんはあんなに歪んでしまったんだろう……?



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第25話 妹はライダー

昨日から日間ランキングに仲間入りしました。
読者の皆さんに感謝です。


無人ISの襲撃から3日後の朝。

1年1組にマドカが編入することになった。

 

「織斑マドカです。皆さんよろしくお願いします!」

 

あれからいろいろあったが、結果的にマドカは軽い処罰で済んだ。

それどころか、サイレント・ゼフィルスの正式なパイロットに任命されている。

セシリアの両親であるオルコット夫妻の協力があったほか、サイレント・ゼフィルスの稼働データを見たイギリスの技術者たちが『操縦者を罰して機体を初期化するのが非常に惜しいくらい良いデータだ』と言ったのが理由だ。

そしてマドカは、IS学園在学中の3年間サイレント・ゼフィルスの所有を認められた。

 

あと、今の教室に篠ノ之は居ない。

入学してからの俺に対する度重なる暴行、そしてクラス代表トーナメントにおける妨害行為。

これらを(かんが)みて、篠ノ之には2ヶ月の懲罰房入りが決定した。

束お姉ちゃんは俺の頼みを聞き入れたらしく、日本政府やIS委員会の横槍は一切無かった。

篠ノ之が懲罰房から出るのは、7月の臨海学校が始まる直前だ。

それまでは平和に過ごせることだろう。

非常に良いことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「変身!!」」

 

俺とマドカが寮の自室でライダーに変身し、ミラーワールドに潜る。

ミラーモンスターが現れたのだ。

言い忘れていたが、マドカの部屋は俺と同じ1050号室だ。

男と女だが、兄妹なら問題無いと判断されたらしい。

 

話を戻すが、現れたのは猿型モンスター『デッドリマー』だ。

そしてマドカのカードデッキはやはり仮面ライダーファムのものだった。

ただし、背中のマントは鳥類の翼みたいなものに変わっているが。

マドカの戦いを見たいので、今日は見物に徹するとしよう。

 

『SWING VENT!!』

 

マドカは薔薇の蔦のような鞭を装備する。

 

「ウキッ!」

 

デッドリマーは尻尾を取り外して銃にして撃って来るが、マドカの鞭に全て弾かれている。

そのままマドカはデッドリマーに接近し鞭で滅多打ちにする。

えげつねぇな……。

 

「ウキャアッ!」

 

デッドリマーは距離を取ろうとするが、マドカはそれを許さない。

 

「させないよ」

『FEATHER VENT!!』

 

マドカの背中から羽根が分離して、あらゆる方向からデッドリマーを切りつける。

どうやら羽根はマドカの意思で動いているようだ。

こういう武器を扱っていたならBT適性が本家であるセシリアを上回っていてもおかしくないな。

 

「トドメだよ」

『FINAL VENT!!』

 

マドカがファイナルベントを発動すると、ギリシャ神話のハーピーみたいなモンスターが集まり、マドカと共に陣形を組む。

 

「ハァッ!」

「ウギャアアアアア……」

 

マドカとハーピーたちを炎が包み込み、1羽の巨大な不死鳥になる。

不死鳥はそのままデッドリマーを焼き尽くす。

炎が収まり、ハーピーたちは去って行く。

 

「どうだったお兄ちゃん。わたし……仮面ライダーセイレーンの力は?」

「凄いの一言だ。流石は俺と千冬お姉ちゃんの妹だ」

「ホント!?えへへ……」

 

マドカは嬉しそうだ。

マドカ……いやセイレーンはインペラーみたいに複数のミラーモンスターを従えるタイプのライダーなんだな。

俺とマドカはミラーワールドから帰還する。

ちなみに、先日回収したベルデのデッキはオーディンに預けてある。

俺とオーディンのどちらかがライダーに相応しい相手を見つけたらデッキを渡す手筈になっている。

オータムさんが王蛇だと仮定すると、所有者不明のデッキはライアのみとなる。

そいつとはどんな出会いをするんだろうな……?




仮面ライダーセイレーン

契約モンスター…ハルピュイアクイーン(5000AP)
イメージは遊戯王の「ハーピィ・クイーン」

ファイナルベント…ヴァーミリオンヘルファイヤー
イメージは遊戯王の「ハーピィ・レディ 鳳凰の陣」


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第26話 ISとは何か

いつの間にか日間ランキングから消えてる……。
短い栄光だった……。


6月のとある休日。

場所は弾の家。

つまり五反田家。

俺は光莉とマドカの3人でここに来ている。

 

「で?」

「『で?』って、何がだよ?」

「だから、女の園の話だよ。良い思いしてんだろ?」

「ったく、何度言えばわかるんだよ。俺は光莉以外の女性に異性としての興味は無い」

「なんと勿体無い。男ならハーレムだろ?」

「その言葉、お前の家族全員に話すから」

「え!?ちょっ……」

「あと光莉にも。多分今後はお前のことをゴミを見るような目で見てくるぞ」

「勘弁してくれ!」

 

弾がふざけたことを言ったので、おちょくってみる。

ちなみに俺は弾と2人でゲームの真っ最中だ。

光莉とマドカは、弾の妹の五反田蘭と一緒に居るだろう。

ゲームのタイトルは『IS(インフィニット・ストラトス)/(/)EXVS(エクストリーム・バーサス)』。

最近発売したISのゲームだ。

第2回モンド・グロッソなどのデータを使っており、千冬お姉ちゃんの暮桜もある。

そしてストーリーモードのラスボスが何故か龍騎士()だったりする。

束お姉ちゃんが龍騎士(ドラグナー)のデータをゲーム会社に渡したのだろうか?

特殊アドベントカードやサバイブがしっかり再現されており、最大難易度はクソゲーレベルの強さと言われている。

そりゃ俺の技術(テクニック)や戦闘スタイルまで再現されているからな。

しかし『龍騎士 CV:織斑一夏』って……。

スタッフロールにも載っているんだが、一体いつの間に?

協力した覚えが無いんですけど……。

 

「いくぜ!ハイパーモード!」

「はい。フリーズベントで凍結、からのカウンター」

「ぐはぁっ!また負けたぁ!お前の龍騎士ってやっぱチートだろ!」

「そうか?第零世代だからシールドエネルギーと防御力は1番低いぞ?」

「特殊カードとやらのせいで1発も当たらねぇんだよ!」

「代わりに長いコマンド入力が必要だけどな」

 

弾が使ったのはイタリアのテンペスタ。

俺が使ったのは当然龍騎士(ドラグナー)だ。

対戦モードでの龍騎士(ドラグナー)の出現条件は『暮桜で最大難易度の龍騎士(ドラグナー)を倒す』というものだ。

最大難易度で倒すこと自体がハードなのに、近接オンリーの暮桜でなければならない。

普通なら、接近するまでにシュートベントで蜂の巣にされて終わりだ。

例え接近出来たとしても、シールドエネルギーが半分以下になったらサバイブ化してヤタノカガミ装甲を纏うから零落白夜が通じなくなる。

ここでつまづいたプロゲーマーは多いのではなかろうか。

 

俺は出来たけどな。

自分の機体のことは自分がよく知っているさ。

プレイ動画をネットに投稿したら『神』って呼ばれた。

いやいや、本人なんです。

 

「お兄、一夏さん。お昼ごはん出来ましたよ」

「わかった。いこうぜ、弾」

「あぁ」

 

蘭に呼ばれたので、1階に降りる。

五反田家は定食屋なのだ。

光莉とマドカも合流し、5人で丸いテーブルを囲む。

 

「「「「「いただきます」」」」」

「おう。食え」

 

弾と蘭の父にして五反田食堂の大将、五反田厳さんが頷く。

 

「しかし一夏、お前って妹が居たんだな」

「まぁな。会うのは11年振りくらいだな」

「そうだね」

「マドカさんってその間どんか暮らしをしていたんですか?」

「それは秘密だよ」

「そうですか……」

 

マドカは蘭の質問に黙秘権を行使する。

そりゃ元テロリストだなんて言えないよな。

 

「他に知り合いは居るのか?」

「あぁ、鈴が居たぜ。あいつ中国の代表候補生になってた」

「「へぇ〜」」

 

鈴の存在は、2人とも意外だったようだ。

 

「一夏さん、相談があるんです」

「何だ、蘭?」

「わたし、IS学園を受験したいと思っているんです」

「理由は?」

「それは勿論ISについて学びたいからです」

「IS学園は狭き門だ。学力はともかく、IS適性はあるのか?無ければ光莉みたいに門前払いだぞ?」

「それに関しては問題ありません」

 

蘭が何かの紙を取り出して見せる。

なになに……。

 

「IS簡易適性試験……A判定……」

「という訳で何も問題ありません。ですので、もし受かったら一夏さんにはぜひ先輩として指導して欲しいんです」

 

そう言って蘭は俺を見つめる。

その目は、純粋にIS学園へ通うのが楽しみな目だ。

年相応と言えるが、鈴たちISを扱う者と比べて欠如しているものがある目だ。

 

「蘭さん」

「なんですか光莉さん?」

「IS学園に入学するのは良い。一夏くんに指導して貰うのも良い。ではその後は?蘭さんはIS学園を卒業したらどうするのですか?」

「えっ……?」

「これまでの卒業者の進路は基本的に3つ。1.国家や企業の代表。2.ISの整備士。3.軍隊入り。蘭はどれなんだ?」

「それは……」

「どの道を選ぼうと、想像出来ない程の重いものを背負うことになるぞ。ISはそれほどのものだからな。使い方次第で簡単に人を殺せるのがISだ。それを自覚しないままISを学んだら、いつか後悔することになる」

「……では、一夏さんはどうするんですか?」

「俺か?適当なところに所属してモンド・グロッソで優勝する。男性IS操縦者が優勝すれば、女尊男卑の風潮は終わりを迎えるだろうさ」

「一夏さん……。わかりました、1度考え直します。その時、わたしがIS学園に入りたいと思っていたら……」

「あぁ、その時は先輩として面倒を見てやるさ。頑張れよ」

「はいっ!」

「良い返事だ。厳さん、ご馳走様です」

「おう。ありがとな」

 

お礼を言われた。

そりゃ娘の将来だもんな。

代金を払い、光莉とマドカと共に店を出る。

 

「さて、学園の門限まで時間があるな。どうする?」

「お兄ちゃん、わたしゲーセンってところに行きたい!」

「ではわたしもそれに1票で」

「はいはい、ゲーセンね」

 

という訳で俺たちはゲーセンに向かった。

プレイしたのはマ◯オ◯ートと太◯の◯人だ。



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第27話 2人目の妹!?

祖父母の家に出掛けている間にバッテリーが切れてしまい、投稿が遅れてしまいました。
申し訳ありません。


「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じじゃない?」

「そのデザインが良いの!」

「わたしは性能的にミューレイのが良いかなぁ。特にスムーズモデル」

「あ〜、あれね〜。モノは良いけど、高いじゃん」

 

月曜日の朝。

教室では女子生徒たちがカタログ片手にISスーツについて談笑していた。

 

「そういえば織斑君のISスーツってどこのやつなの?見たことない型だけど」

「俺か?俺のは『MADE IN SHINONONO』。つまり束お姉ちゃんの特注品だ」

「あ〜、篠ノ之博士ねぇ〜。納得」

「いいなぁ〜」

 

そう言われて、俺は苦笑いする。

ちなみにISスーツとは、文字通りIS展開時に体に着ている特殊なフィットスーツのことである。

このスーツ無しでもISを動かすことは可能だが、反応速度がどうしても鈍ってしまう。

俺が龍騎士(ドラグナー)を扱う場合も、ライダーモードはともかくISモードではスーツがあった方が良い。

ISスーツには他にも機能があるんだが、それは……。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることが出来ます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」

 

山田先生が現れて、俺が言おうとしていたことをすらすらと説明してくれた。

さすがはIS学園教師。

 

「山ちゃん詳しい!」

「一応先生ですから。……って、やっ山ちゃん!?」

「山ぴー見直した!」

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えっへん!……って、やっ山ぴー!?」

 

しかしカリスマ性は皆無だ。

IS学園入学から約2ヶ月。

山田先生は生徒たちから8つくらいの愛称をつけられている。

 

「あの〜、教師を仇名で呼ぶのはちょっと……」

「えぇ〜、いいじゃんいいじゃん」

「まーやんは真面目っ娘だなぁ」

「ま、まーやんって……」

「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ」

「そ、それもちょっと……」

「じゃあ前のヤマヤに戻す?」

「あ、あれはやめてください!」

 

山田先生が語尾を強めて拒否する。

ヤマヤって仇名にトラウマでもあるのか?

 

「諸君、おはよう」

『お、おはようございます!』

 

千冬お姉ちゃんが教室にやって来た。

その瞬間、女子生徒たちはピシッと礼儀正しく挨拶を返す。

 

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも無い者は……まぁ下着でも構わんだろう」

 

いや構うだろう!

俺と鋼夜という男子がここに居るんだぞ!?

ちらっと鋼夜とアイコンタクトをする。

 

(なぁ鋼夜)

(皆まで言うな。一応教えておくが、今の織斑先生の言葉は原作そのまんまだ)

(マジで!?)

 

以上、アイコンタクト終了。

 

「ではHRを始める。……山田先生」

「はっはい!」

 

連絡事項を話し終わった千冬お姉ちゃんが山田先生にバトンタッチする。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!」

「え……」

『えぇぇぇぇぇっ!?』

 

クラスが騒然となる。

この時期で転校生?

鋼夜が平然としているということは原作通りなんだろうが、一体どんな人なんだ?

 

「では、入って来てください」

「失礼します」

 

山田先生の言葉に応じて転校生が入って来る。

その人を見て、俺は固まってしまった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍『シュヴァルツェ・ハーゼ』に所属。階級は少佐。国家代表候補生でもある。よろしく頼む」

 

そう言って頭を下げているのは、かつてドイツで知り合ったラウラだったからだ。

挨拶を済ませたラウラは俺の席の前にやって来る。

 

「久しぶりだな『お兄様』。また会えて嬉しいぞ」

「俺も嬉しいぞラウラ。だがその呼び方はどうにかならないものか?」

「不服か?男はこう呼ばれると喜ぶとクラリッサが言っていたのだが」

 

ハルフォーフ中尉、アンタって人はぁー!!(2回目)

妹はマドカだけで十分なんだよ……。

 

『えぇぇぇぇぇっ!?お兄様ぁぁぁぁぁっ!?』

 

再びクラスが騒然となる。

 

「えっ!?織斑君の妹さん!?」

「マドカちゃん以外にも妹が居たの!?」

「って事は織斑先生の妹!?」

「でも明らかに外国人だけど……」

「そもそも苗字も違うよ?どういう事?」

「静まらんか、貴様らぁっ!」

 

シンッ……。

 

千冬お姉ちゃんの一喝で、女子たちが一瞬で黙る。

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。以上だ、解散!」

 

千冬お姉ちゃんが締めくくる。

女子たちは今からここで体操服に着替えることになるから男である俺と鋼夜は開いているアリーナの更衣室で着替えなければならない。

 

「行こうぜ、鋼夜」

「あぁ。しかし一夏、話には聞いていたが本当にラウラと親しい関係になってたんだな」

「まぁな」

 

これからの学園生活はラウラも一緒か……。

楽しくなりそうだな。



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第28話 実践授業

「では、本日から格闘および射撃を含む実戦訓練を開始する」

『はい!』

 

1組と2組の返事が重なる。

60人分の声は威力があるな。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。そうだな……凰とオルコット、前に出ろ」

「わたくしたちですか?」

「専用機持ちはすぐに準備出来るからな。それで「あぁぁぁー!どっどいてくださぁーい!」……まったく」

 

ドガーン!

 

千冬お姉ちゃんの話の途中で何かが高速で俺に突っ込んで来たので、龍騎士(ドラグナー)を展開して受け止める。

 

「……って、山田先生!?」

「あ、あはは……。見苦しいところをお見せしました」

 

『何か』の正体はラファールを纏った山田先生だった。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だ。それで、話の続きだが彼女が凰とオルコットの相手だ」

「え?あの、2対1で……」

「いや、さすがにそれは……」

「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける」

 

それを聞いて、鈴とセシリアは瞳に闘志を宿らせる。

 

「では、はじめ!」

 

号令と同時に3人が飛翔し、模擬戦が始まる。

 

「さて、今の間に……そうだな。丁度良い。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

「あっはい。山田先生が使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第3位のシェアを持ち、7ヶ国でライセンス生産、12ヶ国で制式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」

「ああ、一旦そこまでで良い。……そろそろ終わるぞ」

 

視線を上空に向けると、山田先生が射撃による誘導で鈴とセシリアをぶつけてグレネードを投擲。

爆煙から鈴とセシリアが落っこちてきた。

 

「あいたたた……」

「くっ……どうしてわたくしたちは負けたんですの?」

「連携がなってなかったからだろ。戦闘において1+1は必ず2になるわけじゃないんだ。互いの足を引っ張ってしまえば1−1=0になって1(山田先生)に負けるのも当然と言える」

「「うぐっ……」」

「さて、これで諸君にもIS学園教師の実力は理解出来ただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

俺の指摘で鈴とセシリアが沈み、千冬お姉ちゃんが締めくくる。

 

「そんなお前たちに、連携というものを教えてやる。次、織斑兄妹が山田先生と戦え」

「俺は構いませんが、山田先生は連戦でしょう?大丈夫なんですか?」

「わたしのことなら気にしなくて良いですよ〜」

「……と、本人が言っている。問題無い」

「わかりました。いくぞマドカ」

「うん!わたしとお兄ちゃんの相性がピッタリだって皆に教えてあげよう!」

 

そう言ったマドカはチラリとラウラを見る。

俺のことを『兄』と呼ぶ者同士、対抗意識でもあるのか?

 

「では、はじめ!」

 

龍騎士(ドラグナー)を纏い、マドカ(サイレント・ゼフィルス)と共に、山田先生(ラファール・リヴァイヴ)と対峙する。

 

『STRIKE VENT!!』

 

ナーガクローを装備し、俺が前衛を務める。

 

「いきますよ、山田先生!」

「こちらこそ!」

 

俺は山田先生が放つアサルトライフルの弾丸を掻い潜って肉薄する。

山田先生はシャル程ではないが、普通に比べるとかなりの速さで武器を近接ブレードに変更して、俺のナーガクローを迎え討つ。

 

「そこだっ!」

「なっ!?」

 

そこにマドカがすかさずビットで背後から攻撃を行う。

 

『SLASH VENT!!』

「おりゃあっ!」

「え!?きゃああっ!」

 

隙が出来た山田先生にドラゴニュートウォリアーの斧『ドラゴアックス』で切りかかる。

 

「くっ……やりますね!ですが……」

「いいえ」

「チェックメイトです」

『ACCEL VENT!!』

 

マドカが山田先生の武器を破壊し、俺がドラゴアックスで山田先生を打ち上げる。

山田先生が態勢を立て直す前に俺とスナイパーを持つマドカとで連続攻撃を叩き込む。

 

「「トドメッ!」」

 

最後に大きな1発で山田先生を地面に叩きつける。

 

「見ての通り、織斑兄妹は山田先生にノーダメージで勝利した。同じ2対1という条件で敗北した凰とオルコットとの違いは連携を重んじた結果だ。それによって1+1は10にも100にもなる。わかったか、特に凰とオルコット」

「「はい……」」

『はい!』

 

千冬お姉ちゃん、なんか鈴とセシリアに追い打ち掛けてない?

後で2人にフォロー入れておくか。




最後の連携攻撃

大乱闘スマッシュブラザーズforにおけるルフレの「最後の切り札」。
本来はドラゴニュートウォリアーのファイナルベント。


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第29話 指導と合体、あとライダー

「専用機持ちは織斑兄妹、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では10人グループの出席番号順になって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。良いな?では分かれろ」

 

そして俺、マドカ、セシリア、シャル、ラウラ、鈴の元に9人ずつの生徒が集まった。

 

「ええと、いいですか〜皆さん。これから訓練機を1班1体取りに来てください。数は打鉄が3機、リヴァイヴが3機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早いもの勝ちですよ〜」

「……と、山田先生が言っているが皆はどっちにする?」

「う〜ん、じゃあ打鉄で」

「わたしはラファール!」

 

班のメンバーの意見を集計した結果、打鉄6票でラファール3票だったため打鉄を取って来る。

 

「じゃあ始めようか。誰が最初にする?」

「はいはいはーい!」

 

そう言って元気良く挙手したのは同じ1組の相川 清香さんだ。

 

「ん?相川さんがやるのか?」

「うん!わたしはハンドボール部所属!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

「ん?何故に自己紹介……」

「よろしくお願いします!」

 

腰を折って深く礼をすると、右手を差し出して来る。

どういうことだ?

その手を握ればいいのか?

 

「ああっ、ずるい!」

「わたしも!」

「第一印象から決めてました!」

 

他のメンバー8人も横一列に並び、同じように頭を下げたまま右手を差し出して来る。

訳が分からず周りを見ると、専用機持ちたちとラウラのグループに居る鋼夜が苦笑いしていた。

千冬お姉ちゃんは額に手を当てた後、こちらに歩いて来る。

あ、なんか嫌な予感。

 

「おい皆、なんか知らねぇがブリュンヒルデ注意報が発令されたみたいだぞ」

(((((((((ギクッ!)))))))))

「そっそれはマズいわね!よし、真面目にやろう!」

 

おいコラ。

今までは真面目にやってなかったのか?

授業前に『気を引き締めろ』って千冬お姉ちゃんに言われただろうに……ったく。

気を取り直して相川さんの装着・起動・歩行を見る。

うん、特に大きな問題は無かったな。

問題は2人目だ。

 

「コックピットに届かないんだけど……」

「あらら〜……」

 

訓練機を使用する場合、解除時にしゃがまないといけないのだ。

立ったままISを解除すると、当然ながらISは立ったままの状態になる。

 

「しょうがないな」

『ADVENT!!』

 

シャインバイザーを部分展開してブランウイングを呼び出す。

 

「え、何この白鳥!?」

龍騎士(ドラグナー)のサポートロボットの1体だよ。ブランウイング、彼女を打鉄のコックピットまで運んでやってくれ」

「ピィ(わかりました)!」

 

ブランウイングは言葉を喋れるし、人化能力も習得している。

だが、今は人目があるので喋らない。

ブランウイングが2人目の女子・岸里さんの肩を掴んで打鉄のコックピットに運ぶ。

 

「むぅ〜どうせなら織斑君に運んで欲しかった〜」

「却下だ。他のメンバーが『わたしも』とか言って面倒なことになるからな。それに織斑先生の雷が落ちるかもしれないし」

「そっそうね……。わたしが悪かったわ」

 

なんてやり取りがあったが、そこからは特にトラブルが起きる事無く進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の授業が全て消化され、時刻は昼休み。

場所は屋上。

俺、マドカ、光莉、鋼夜、ラウラ、鈴、セシリア、シャル、簪、楯無さんが集まって昼食を取っている。

ちなみに鋼夜には光莉のことを紹介済みだ。

ラウラと鋼夜は購買のものだが、他の皆は自前の弁当だ。

俺とマドカの分は光莉が作ってくれた。

 

「もぐ……もぐ……」

 

ラウラは俺が分けたおかずをリスかハムスターのように頬張っている。

その微笑ましい光景に、この場の全員が癒された。

全員が食べ終え、飲み物を口にしていたら……。

 

…………………………

 

ミラーモンスターの金切り音がし始めた。

ちょうどこの場には学園のライダーが全員集まっている。

皆が無言でアイコンタクトをすると、各々が自前の手鏡などを取り出す。

俺も伊達眼鏡を光莉に持って貰う。

 

「「「「「「「「「変身!!」」」」」」」」」

 

龍騎士()セイレーン(マドカ)ガイ(鋼夜)赤龍()ゾルダ(セシリア)シザース(シャル)タイガ(ラウラ)ペイル()アビス(楯無さん)と光莉の10人でミラーワールドに潜る。

今回のミラーモンスターも大群で現れた。

種類はまちまちの様だが。

俺たちがミラーモンスターたちと対峙する前から、そこでは戦闘が行われていた。

 

『FINAL VENT!!』

 

カメレオン型のモンスター・バイオグリーザが長い舌で緑色のライダーの足を掴んで宙吊りにすると、ライダーはミラーモンスターの1体をラ○ュタの燃える塔のシーンと同じ要領で掴み、空中で上下を入れ替えて頭から地面に突き刺す。

SPECIAL EDITIONでも見たが、1番くらいたくないファイナルベントだと思った。

 

って、あれベルデじゃん!

誰だ変身してるのは?

 

「やっほ〜。かんちゃんにたっちゃん、おりむーにりっちゃん。あとは……誰?」

 

おい、その声……。

 

「「「「「「「「「「本音/のほほんさん/布仏さん!?」」」」」」」」」」

 

ベルデは本音ですか……。

いや、本音は着ぐるみを着ていることとかあるし、バイオグリーザともある意味お似合いなのかな?

オーディンめ……。

カードデッキを誰かに渡したなら教えてくれても良いじゃないか。

 

「本音、一体どうしてカードデッキを?」

「なんかね〜、不死鳥を連れたライダーが現れてカードデッキをくれたんだ〜」

 

楯無さんの質問に本音が答える。

 

「いろいろ聞きたいところだけど、まずはミラーモンスター(コイツら)をなんとかしましょう。一夏、前に契約モンスターたちを合体させたアレをお願い」

「はいはい」

『UNITE VENT!!』

「いきますよ皆さん。念心合体!!GO!!アクエリオーン!!」

 

ユナイトベントの効果で、光莉(シャインナーガ)・ドラグレッダー・アクアギガ・デストワイルダー・スカイブレイダーが合体する。

しかし光莉、なんでそんなノリノリなんだ?

そして生まれたのは、身長5mを超える巨人だった。

 

『えぇぇぇぇぇっ!?』

 

全員が驚愕する。

5体合体は俺も初めてだ。

契約のカードを確認する。

 

「SACRED TITAN(13000AP)」

 

聖なる巨人(セイクリッドタイタン)

しかし13000APって……。

思わず『なぁにこれぇ』と言いそうになった。

 

「ではマスター、わたしは目標を駆逐しますね」

 

セイクリッドタイタンの主人格は光莉らしく、そう言って攻撃を開始した。

その巨体から放たれる攻撃は圧倒的で、ファイナルベントの必要性が皆無だった。

 

「キシャ……」

 

見ると、合体からあぶれていじけているボルキャンサーがアビスラッシャー・アビスハンマー・ハルピュイアクイーンに慰められていた。

ごめんねボルキャンサー!

 

『FINAL VENT!!』

 

別の方向を見ると、鋼夜がミラーモンスターたちをジェノサイダーの腹部のブラックホールに蹴り込んでいた。

あっちはあっちで頑張っているようだな。

 

「俺たちも動くか」

「うむ。了解だお兄様」

「わかった」

「そうね」

「巨人の迫力に呆然としてしまいましたわ」

 

合体したモンスターたちの契約ライダーである俺・ラウラ・簪・鈴・セシリアは気を取り直して、戦闘に参加する。

 

しかし、セイクリッドタイタンのファイナルベントは使う機会があるのだろうか……?




人化したブランウイングのイメージ
ソードアート・オンラインの「ユイ」

セイクリッド・タイタンのイメージ
遊戯王の「VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン」
ポジション
デストワイルダー➡︎V-タイガー・ジェット
スカイブレイダー➡︎W-ウイング・カタパルト
シャインナーガ➡︎X-ヘッド・キャノン
ドラグレッダー➡︎Y-ドラゴン・ヘッド
アクアギガ➡︎Z-メタル・キャタピラー


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第30話 雷轟

「ねぇ一夏、ちょっと相談いいかな?」

 

ある日、俺とマドカが寮の自室で寛いでいると、シャルが訪ねて来た。

 

「あぁ、わかった。とりあえず中に入ったらどうだ?」

「うん、お邪魔します」

 

そう言って入って来たシャルに温かいお茶を出す。

シャルは何やら真剣な表情だ。

それが気になったのか、鏡の中から光莉が出て来てマドカを含めた3人でシャルの言葉を待つ。

 

「知っているかもしれないけど、僕の実家のデュノア社は今、経営危機に陥っているんだ」

「……欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』か……」

「うん。今のところトライアルに参加しているのはイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタⅡ型の3種。でもフランス……というよりデュノア社はまだ第3世代が開発出来ていないんだ。もともと第2世代も最後発だからね。時間もデータも圧倒的に不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪されることになったの」

「随分追い詰められているんだな」

「マスターへの相談というのは、第3世代ISに関することですか?」

「うん。篠ノ之博士と繋がりがある一夏なら、設計図とまではいかなくてもアイデアくらいなら貰えるかと思って……」

 

言葉の最後はしりすぼみとなっている。

藁にもすがる思いなんだろうな。

一応考えはある。

だがそれは……。

隣の光莉に目を移す。

 

「マスター、シャルロットさんになら『アレ』をお見せしても良いのでは?」

「……そうだな、わかった」

 

龍騎士(ドラグナー)を待機状態のまま起動し、ロックが掛かっているデータファイルのパスワードを入力して中身を表示する。

 

「これは……設計図?」

「コイツはいずれ発表する予定の量産型第3世代ISの設計図だ。俺と光莉、そしてクロエ(束お姉ちゃんの助手)の3人で作ったものだ。束お姉ちゃんの太鼓判も貰っているし、コイツがトライアルに参加したらほぼ確実に選ばれるだろうな」

「それを……どうするの?」

「シャル……お前に渡す。もともとコイツを生産してくれる企業を探すつもりだったしな」

「……本当にいいの?一夏」

「あぁ」

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

シャルの父であるデュノア社社長とも交渉し、デュノア社で俺たちが設計した第3世代ISを開発することが決まった。

そして設計図の対価として利潤の一部をこちらが受け取ることになった。

そしてそのISを公表するのは、IS学園の学年別トーナメントにすることにした。

その行事には各国の上役がやって来るため、お披露目の場に最適だ。

そして機体は、束お姉ちゃんのラボで事前に作っておいた外装にシャルの専用機のコアを移植することで用意した。

当然ながらテストパイロットはシャルだ。

 

「使い心地はどうだ、シャル?」

「うん、良い感じだよ。もともと僕の機体のコアを使っていたからか、思いの外早く馴染めそうかな」

「そりゃ良かった」

 

アリーナの1つを貸し切って、シャルが試運転を行う。

立ち会っているのは俺とマドカのみだ。

 

俺・光莉・クロエが設計した量産型第3世代IS。

その名は『雷轟(らいごう)』。

背部の武装パックを換装することで、高機動・接近戦・遠距離戦の3つを満遍なくこなす万能型ISだ。

早い話がライゴウガンダムである。

とはいってもMS(モビルスーツ)じゃなくISだから全身装甲(フルスキン)じゃないし、量産型なので、VPS(ヴァリアブル・フェイズシフト)装甲はオミットされている。

そして3つのパックは日本神話の3種の神器をモチーフにしている。

 

高機動の翼鏡(スペキュラム)パック。

接近戦の(キャリバーン)パック。

遠距離戦の勾玉(サムブリット)パック。

 

当然ながら言い出しっぺは、前世でガンダムSEEDを見ていた俺だ。

最初はZOIDのライガーゼロとどちらにするか迷ったが、こちらにすることにした。

ちなみに、俺が転生者だと知っているのは光莉と鋼夜のみだ。

 

「どうする?試運転も兼ねて軽く()ってみるか?」

「そうだね、お願いするよ」

「よし、わかった。マドカは下がっていてくれ」

「は〜い」

 

マドカがアリーナの端に移動したのを確認し、シャルに向き直る。

シャルのもともとの専用機は、山田先生が授業でも使用していた『ラファール・リヴァイヴ』をカスタムしたものだ。

当然ながら戦闘スタイルはラファールに則ったマルチタイプ。

同じく万能型の雷轟を乗りこなすのに時間は掛からないだろうな。

 

「いくよ、一夏!」

「よし来い、シャル!」

 

シャルはスペキュラムパックを装備し、ビームサーベルで切り掛かって来る。

 

「はぁっ!」

「うおっと!くらうかよ!」

 

回避して距離を取る。

龍騎士(ドラグナー)の近接武装は1つを除いて全てが実体武器だ。

つまりビームサーベルを受け止めることが出来ない。

取れる手段は……。

 

『『SURVIVE!!』』

 

サバイブ形態になってシャインバイザーツバイからシャインソードを抜く。

シャインソードは刀身からエネルギー波を放つことが出来る。

そのエネルギーを刀身に纏わせたまま維持すれば、擬似ビームサーベルの完成だ。

 

「ここからは俺のターンだ!」

「えっ嘘!?きゃあっ!?」

 

俺は防御を捨てた構えで剣を振るう。

サバイブのヤタノカガミ装甲ならビームサーベルは怖くないからな。

 

「だったら次はこれだよ!」

 

シャルは武装をキャリバーンパックに換装し、主武装の大剣『シュベルトゲベールⅡ』を構えて向かって来る。

今度は防御に徹することにする。

武器がビームサーベルから大剣に変わったというのに、技はちっとも劣っていない。

シャルは大抵の武器を使いこなすことが出来るのだろうか……。

 

『『FEATHER VENT!!』』

 

フェザーベントでドラグーンを放つ。

 

「その武装には……これだね」

 

シャルはすぐさま武装をサムブリットパックに換装した。

なかなか早い判断だな。

普通ならパック換装をするよりも前に多少はダメージを与えられたはずなんだがな。

 

「いくよ!」

 

サムブリットパックのプラズマサホット砲「トーデスブロックⅡ」がドラグーンを1基破壊する。

ドラグーンが撃墜されるのは初めての経験だ。

強いな、シャルは……。

一旦残りのドラグーンを回収してエネルギーを補給し、もう1度シャルに向けて放つ。

但し、今度のドラグーンの攻撃手段はビームによる射撃ではなく先端にエネルギーを固定したビームエッジによる格闘だ。

 

「えぇぇっ!?一夏のドラグーンってそんなことも出来るの!?」

 

シャルはドラグーンによる格闘が予想外だったのか、あまり良い対応が出来ないままシールドエネルギーを大幅に削られた。

もともと試運転なので、この辺りで終わることにした。

 

「一夏のドラグーンって、イギリスのBT兵装より高性能じゃない?」

「まぁそうだな。サイレント・ゼフィルスにはシールド・ビットが搭載されているが、ドラグーンもヤタノカガミでコーティングしているし」

龍騎士(ドラグナー)を越えるのはまだまだ先か……。ゲームの中の一夏にもまだ勝てないんだよね〜」

 

シャルよ、お前もIS/EXVSをやっているんだな……。

今度誘って一緒にやってみようかな……?



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第31話 トーナメントに向けて

『今月開催される学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、2人1組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは(以下略)』

 

つい先日、上記の旨が書かれたプリントが貼り出された。

つまりパートナーを探す必要がある。

俺は鋼夜と組むことにした。

シャルは雷轟を当日まで秘匿するため、マドカと組んだ。

他にセシリア・鈴ペアとラウラ・簪ペアが結成されたようだ。

俺以外は皆専用機持ち同士で組んでいる。

彼女たちはライダーとしての経験値もあるため、一般の生徒では相手にならないだろう。

俺も俺で『次期モンド・グロッソ優勝候補』だと世間では言われている。

 

IS/EXVSにおけるCPU最大レベルの龍騎士(ドラグナー)は俺のデータを参照にしている。

その情報が公開されてからはあらゆるゲーマーやIS操縦者がゲームの俺に挑んだが、最大レベルの俺に勝ったのは俺自身を含めて世界で数十人程度らしい。

対戦モードにおける龍騎士(ドラグナー)の出現条件である『暮桜で倒す』を成し遂げた人数は更に減って、両手の指で数えられる程度なのだとか。

ちなみにこれらの情報源は束お姉ちゃんだ。

やはり龍騎士(ドラグナー)のデータをゲーム会社に渡したのは束お姉ちゃんで、その際に同意の元とある細工をしたらしい。

ゲーム内で最大レベルの龍騎士(ドラグナー)が倒されたら束お姉ちゃんとゲーム会社に通知する機能があるのだとか。

その機能でゲーム内の俺に勝った者の人数を集計しているそうだ。

 

話を戻すが俺は今、鋼夜と訓練中だ。

鋼夜のための訓練機を借りることが出来なかったため、IS用武装のみを借りてライダーに変身した状態でミラーワールドで練習している。

飛行能力など、一部の性能を除けばミラーライダーとISはほぼ互角の戦闘力がある。

武器の重さに慣れるだけなら十分な訓練だ。

 

鋼夜は今、打鉄用の近接ブレード『(あおい)』を振るっている。

鋼夜はトーナメント当日は訓練機の打鉄で出場する予定だ。

変身するのが仮面ライダーガイという都合上、防御主体の打鉄の方がラファールよりも使いやすいと判断したからだ。

 

「どうだ、そのブレードの使い心地は?」

「う〜ん……。リーチはメタルホーンやベノサーベルより上、威力と耐久性は量産品だから下といったところだ。まぁ扱いやすくはあるかな」

「打鉄の基本装備はそのブレードとアサルトライフル『焰火(ほむらび)』だ。当日はそのままでいくか?」

「そうだな……メタルホーンとエビルウィップの代わりになる武装があればライダーの時とほぼ同じ装備で戦えるんだが……」

「籠手型と鞭型の武装か……。こっちで用意出来るか試してみるよ」

「ホントか?助かる」

「気にするな。次に話すべきは連携だ。先に言っておくが、今回のトーナメントで俺は機体性能ではなく自身の力で戦えることを各国の上役に見せるためにサバイブや特殊カードの使用、光莉たち契約モンスターの召喚をギリギリまで封印するつもりだ」

「なんでまたそんなことを?」

「いや、俺って『モンド・グロッソに優勝して男が女より劣った存在ではないことを証明する』という目標を公言してるからさ。女尊男卑な奴らからの風当たりが強いんだよ。そいつらを黙らせるくらいの腕っ節を見せつける必要があるのさ」

「なるほどな……。それで、連携だが、どっちが前衛後衛を務める?」

「鋼夜……お前、銃の腕は?」

「からっきし。だってデッキにシュートベントが無いんだもん」

「ガイのデッキならそうだよな……。なら基本は俺がシャインブラスターやシャインレイザーで援護射撃をしつつ、鋼夜が突っ込むといった感じかな?専用機持ちが相手の場合の戦術はおいおい考えれば良い」

「そうだな」

 

俺と鋼夜の談義はミラーワールドを出てからも続いた。



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第32話 トーナメント開催

トーナメント当日。

対戦表が公開された。

専用機持ちたちは、それぞれトーナメント表の端っこに位置している。

これだとぶつかるのは早くても準決勝だ。

楽しみは最後まで取っておくという事だろうか。

不都合がある訳でもないので、俺も鋼夜も気にしないことにした。

 

俺と鋼夜が出るひとつ前の試合。

俺はピットで鋼夜の打鉄を調整していた。

鋼夜が要望した武器を取り付けるためだ。

 

「鋼夜、悪いが完成したのはメタルホーンに代わる武器だけだ。エビルウィップに関してはアドベントカードを俺に預けてくれ」

「メタルホーンだけでも十分さ。それで、どんな武器なんだ?」

「『新・光神話 パルテナの鏡』に登場した神器『豪腕デンショッカー』を再現してみた。任天堂にはちゃんと許可を貰ってるぞ」

「スマブラforにおけるブラピの横B技のことか?」

「その通り。メタルホーンと違って角は無いが、電撃でシールドエネルギーにダメージを与えられる仕組みだ」

「そいつは良い。サンキュー一夏」

「どういたしまして。っと、そろそろ時間のようだな」

 

ひとつ前の試合が終わって、俺と鋼夜の出番となる。

 

「織斑一夏、龍騎士(ドラグナー)いきます!」

「工藤鋼夜、打鉄いきます!」

 

2人でアリーナに出る。

対戦相手は同じ1組の夜竹さゆかさんと相川清香さんだ。

 

『皆さんお待ちかね、男性操縦者の登場です!赤コーナー、龍騎士(りゅうきし)・織斑一夏と工藤鋼夜!』

 

なんかプロレスみたいな紹介されてるな。

 

『青コーナー、ハンドボール部の次期エース・相川清香と特徴が無いのが特徴・夜竹さゆか!』

「ちょっとわたしの紹介だけ酷くない!?」

 

夜竹さんの抗議は男性操縦者の登場による歓声のせいで、俺と鋼夜、相川さん以外の耳には届かなかった。

 

「まぁとにかく、よろしくな2人とも」

「織斑君たちが相手でも、負けないよ!」

「それは大きく出たな。どれだけやれるか、見せて貰おうか」

 

試合開始の合図が鳴る。

俺はシャインブラスターを呼び出して後退し、鋼夜は近接ブレード『葵』を構えて前に出る。

対するあちらは、ラファールを纏う相川さんがショットガン『レイン・オブ・サタディ』、打鉄を纏う夜竹さんが葵を呼び出す。

相川さんが放った弾丸を鋼夜が回避している内に、夜竹さんがこちらにやって来た。

各個撃破があちらの作戦か。

上等だ、乗ってやる!

 

俺は2丁のシャインブラスターを連結して大型銃にすると、空いた右手にシャインレイザーをソードモードで呼び出して応戦する。

 

「勝負だよ、織斑君!」

「望むところだ!」

 

振り下ろされた葵の刀身の腹の部分にシャインブラスターを打ち付けて軌道を逸らし、シャインレイザーで斬りかかる。

輝龍逆鱗を発動してないので威力は低めだが、そこは手数で補う。

 

「きゃっ!?」

「悪いが、手加減はしないぞ」

『SWORD VENT!!』

 

シャインブラスターとシャインレイザーを仕舞い、ドラゴソードを呼び出して跳び上がる。

ちなみに龍騎士(ドラグナー)のアドベントシステムは、『武器や能力のデータをカードに記録することで、拡張領域(バス・スロット)を節約するシステム』と周囲に認知されている。

カードを召喚機(バイザー)にスキャンしなければならないというデメリットこそあるものの、所持出来る装備数はIS随一と言える。

現在、龍騎士(ドラグナー)拡張領域(バス・スロット)にはVバックル・オルトロス・シャインレイザーしか入っていない。

どれも消費量が少ないものだ。

千冬お姉ちゃんの専用機『暮桜(くれざくら)』の唯一にして最強の武器『雪片(ゆきひら)』を、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)』もろともスチールベントで奪ってもなお余裕のある容量となっている。

 

雷閃斬(らいせんざん)!!」

 

アクセルベントはまだ使うつもりが無いため、劣化版の龍槌閃を繰り出す。

頭部を正確に狙った一撃のため、夜竹さんの打鉄の絶対防御が発動する。

 

『夜竹さゆか シールドエネルギーエンプティー』

 

夜竹さんのリタイア宣言が流れる。

さて、鋼夜の方は……。

相川さんが近接ブレード『ブレッド・スライサー』を、鋼夜がデンショッカーを構えてぶつかろうとしている。

デンショッカーの大きさと重さの都合上、相川さんの攻撃が先に当たりそうだな。

よし、援護しよう。

 

『SHOOT VENT!!』

 

ブランスナイパーを呼び出して、照準を定め、引き金を絞る。

 

「当たれぇ!」

 

狙ったのはブレッド・スライサーの刀身だ。

 

バキィン!

 

ブレッド・スライサーはブランスナイパーの一撃を受け、根元からへし折れて鋼夜を空振りする。

 

「なっ!?」

「いっけぇぇぇぇぇ!」

ドガンッ!

 

デンショッカーによる打撃と、電撃の追加ダメージで相川さんのラファールのシールドエネルギーも0になった。

 

『試合終了。勝者、織斑一夏・工藤鋼夜ペア』

 

アリーナが再び歓声に包まれる。

 

「まずは1回戦勝ち抜きだな。鋼夜、デンショッカーの使い心地はどうだ?」

「凄く良いな。もし俺が専用機を手にしたらまずコレを積むと思う」

「それは作った者としては嬉しい言葉だな」

「……なぁ一夏、実際お前の開発技術ってどれくらいなんだ?」

「第3世代までなら、俺・光莉・クロエの3人だけで作れるくらいかな」

「マジで!?」

 

他の専用機持ちも順調に勝ち進んでいっている。

そして準決勝。

俺と鋼夜はセシリア・鈴ペアと対戦することになった。

 




補足設定

一夏の機体「龍騎士」は、一部の例外(一夏の身内や他のライダー)を除いて日本人は「りゅうきし」、外国人は「ドラグナー」と呼んで(読んで?)いる。


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第33話 準決勝第1試合

準決勝第1試合。

俺・鋼夜ペアと鈴・セシリアペアの試合だ。

 

「一夏、今日こそはアンタに勝つわよ!」

「勝負ですわ、一夏さん!」

「こちらとて望むところだ。しかし2人掛かりで山田先生にヤラレチャッタお前らが組むとはな……」

「ふふっ、もうあの時のあたしたちとは違うのよ!」

「わたくしたちは5分間しか飛べない天使ではないですわよ!」

 

セシリア、お前『パルテナの鏡』知ってるんだな。

まぁネタに反応してくれたのは嬉しく思う。

 

試合開始の合図が鳴る。

俺と鋼夜は二手に分かれ、俺がセシリア、鋼夜が鈴を担当する。

鈴・セシリアペアに対する作戦はこうだ。

まず鋼夜が鈴を相手に時間を稼ぎ、その間に俺がセシリアを撃破して2対1に持ち込む。

タッグマッチの定石は、いかに相手の内1人を撃破して2対1の状況を作るか、だ。

鈴が纏う中国の第3世代IS『甲龍(シェンロン)』は燃費と安定性を重視した機体だ。

いくら俺でも、縛りを掛けた状態で短時間の撃破は不可能だ。

それにクラス代表トーナメントで1度戦っている以上、龍騎士(ドラグナー)への何らかの対応を考えていてもおかしくは無い。

という訳で、俺の最初の標的(ターゲット)はセシリアとなった。

 

「なるほど。わたくしの相手は一夏さんですか」

「そゆこと。しばらく俺とのダンスにお付き合い願おうか」

「構いませんわ。では踊って貰いましょう、わたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

そう言ってセシリアはスナイパーライフルを構え、6基のビットを展開する。

BT1号機『ブルー・ティアーズ』。

マドカのサイレント・ゼフィルスの原形となった機体か……。

 

『SWORD VENT!!』

 

ドラゴソードを呼び出してセシリアに突っ込む。

 

「なっ!?射撃型のわたくしに近接ブレードで挑むというのですか!?ならばお望み通り蜂の巣にして差し上げますわ!」

「やれるもんなら……やってみろぉぉぉぉぉ!」

 

ビームビット4基とライフルから合計5発のビームが放たれる。

俺は機体を掠る程度の3発を無視し、致命弾の2発をドラゴソードで叩き落とす。

 

「ビームを……切った!?あり得ませんわ!弾丸より高速なビームはISのハイパーセンサーでやっと視認できるものなのですわよ!?」

 

セシリアの言う通りだ。

ISを纏ってビームを回避出来る者は多々いても、ビームを近接武器で弾くなんて真似は千冬お姉ちゃん以外で他に出来る者を知らない。

だが、前世で読んだラノベでVRMMOにダイブした主人公がライトセーバーを模した武器でアサルトライフルのフルオート射撃を防いだシーンを思い出し、出来るかもと思って練習を重ねた結果、本当に銃弾やビームを防げるようになった訳だ。

 

「どりゃあっ!」

 

ビームを防ぎ切った俺はセシリアに肉薄する。

セシリア本人にはすぐ距離を取られたが、ミサイルビット2基の破壊に成功する。

元よりこれが狙いなので全く構わない。

 

「くっ……まさかわたくし自身ではなくミサイルビットを狙って来るとは予想外でしたわ」

「装甲の薄い龍騎士(ドラグナー)にとって物理攻撃に分類されるミサイルは天敵だからな。早急に潰させて貰ったよ」

「見事ですわ。ですがまだ終わりませんことよ!」

 

セシリアはビームビット4基で俺を包囲する。

 

「一夏さん、お覚悟!」

「まだまだぁ!」

 

俺はあらゆる方向から放たれるビームを全て回避する。

セシリアやマドカと戦う時のために、龍騎士(ドラグナー)サバイブのドラグーンを自動操縦にして俺をエネミーに設定した自己訓練をやったのだ。

とは言っても、ドラグーンの自動操縦に使ったAIは簡易的なもので、俺やマドカはもちろん目の前にいるセシリアよりも精度が劣る。

実用化への道は果てしなく遠い。

 

「嘘……まさか全弾回避されるなんて……」

「どうしたセシリア、動きが鈍くなってるぞ?」

 

シャインブラスターを1丁だけ呼び出し、それでビットを2基破壊する。

そしてドラゴソードでさらに2基破壊。

これでセシリアの武器はスナイパーライフルのみとなる。

 

『ACCEL VENT!!』

「フィナーレだ、セシリア!」

「まだですわ!『インターセプター』!!」

 

セシリアが武器名をコールすると、彼女の左手にショートブレードが現れる。

近接武器も積んであったんだな。

だがそれだけでアクセルベントの斬撃を防げるか?

俺はセシリアに向かって加速する。

そこでセシリアは、俺の予想外な行動を取る。

右手にあったスナイパーライフルをこちらに向かって投げつけたのだ。

咄嗟にライフルを破壊してしまい、爆発の煙で視覚が奪われる。

 

ドスッ。

 

気が付くと、セシリアに背後からショートブレードで刺されていた。

胴体を狙った一撃なので絶対防御が発動し、シールドエネルギーが6割弱まで削られる。

 

「いかがですか、一夏さん?英国淑女たるわたくしの実力は?」

「……見事だよ、セシリア」

 

淑女かどうかは疑問だが、という言葉は飲み込む。

 

「お褒めの言葉ありがとうございますわ」

 

そう言ってセシリアは、俺の反撃に抵抗することなくリタイアした。

その時のセシリアの表情は、龍騎士(ドラグナー)に一太刀入れたことで清々しいものとなっていた。

 

 

 

 

 

さて、鋼夜のところに行かなきゃな。

鋼夜と鈴に視線を向けると、鋼夜はシールドエネルギー残量が3割というところまで追い詰められているものの、十分持ち堪えていた。

それどころか、鈴のシールドエネルギーを2割も削っている。

第2世代の訓練機で第3世代に挑んでいることを考えれば、上出来と言えた。

 

「鋼夜、お待たせ」

「遅かったじゃないか、一夏」

「悪い。セシリアが思いの外強くてな」

「……そう。セシリアはやられちゃった訳ね。でもあたしは精一杯足掻かせて貰うわよ!」

 

鈴はそう言うと、甲龍(シェンロン)非固定武装(アンロック・ユニット)から空間を圧縮して不可視の弾丸・衝撃砲を撃つ。

 

『GUARD VENT!!』

 

俺が前に出てシャインシールドで防ぐ。

 

「行け、鋼夜!」

「おう!」

 

背後からデンショッカーを装備した鋼夜が飛び出して鈴に突っ込む。

 

「残念だけど、その武器の間合いは見切ったわ。もうくらったりしないわよ!」

「じゃあこれならどうだ!」

『SWING VENT!!』

 

俺が鋼夜から預かっていたエビルウィップのカードをシャインバイザーに装填する。

鋼夜はデンショッカーを仕舞って空から降って来たエビルウィップをキャッチし、そのまま振り抜く。

 

バシィッ!

「キャッ!?」

 

エビルウィップの一撃は鈴の手に当たり、青龍刀を取り落とす。

鋼夜はすぐさま武器をデンショッカーに持ち替え、アッパーで鈴を打ち上げる。

 

「一夏、トドメだ!」

「任せろ!」

『SHOOT VENT!!』

『STRIKE VENT!!』

「アルティメット・バースト!!」

 

ナーガキャノンとナーガクローによる砲撃で鈴もリタイアし、俺と鋼夜は決勝戦へ進出した。

 

「一夏、工藤。あたしたちに勝ったからには必ず優勝しなさいよ」

「応援していますわ」

「ありがとう、2人とも」

「もちろん優勝してみせるさ」

 

次は準決勝第2試合。

マドカ・シャルペアとラウラ・簪ペアの戦いだ。

どっちが勝って、俺たちと戦うことになるんだろうな……?



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第34話 準決勝第2試合

SIDE マドカ

 

準決勝第1試合はお兄ちゃんと工藤のペアが勝ち進んだ。

さすがはわたしのお兄ちゃん!

さて、今度はこっちが勝つ番だね。

パートナーのシャルロットと共にアリーナに降り立つ。

そこでは対戦相手の簪とラウラが既に待っていた。

 

『お待たせしました準決勝第2試合!赤コーナー、量産型第3世代ISのテストパイロットのシャルロット・デュノアにIS学園屈指のブラコン織斑マドカ!』

 

と、実況がわたしたちを紹介する。

ふふっ、わたしは周囲にはブラコンと認知されているんだね。

 

「マドカ、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

「シャルロット、わたしにとってブラコンは褒め言葉だよ」

「あはは……。本当に一夏のことが好きなんだね」

 

うん、わたしはお兄ちゃんが大好きだ。

もしお兄ちゃんが光莉さんと付き合っていなかったら、お兄ちゃんのお嫁さんになることを真剣に考えていただろう。

 

『対する青コーナー!日本代表候補生の更識簪に織斑一夏のセカンドシスター!?ラウラ・ボーデヴィッヒ!』

 

な、何だって!?

 

「ふっ、どうやらわたしもお兄様の妹だと周囲は思ってくれているようだな」

「むぅ〜。ラウラ!お兄ちゃんの妹はわたしだよ!」

「いや、このわたしだ!」

「ちょっと、2人とも……」

「あはは……」

 

シャルロットと簪をそっちのけでラウラとヒートアップしてしまった。

反省しなくちゃ。

 

「ラウラ、1つ賭けをしようよ。この試合、勝った方がお兄ちゃんに目一杯甘えられる」

「良いだろう、乗った!」

「2人とも、一夏の承諾は?」

「無いよ簪。でもお兄ちゃんはきっと許してくれる」

「そうだな。何せ……」

「「わたしのお兄ちゃん(お兄様)だからね(な)」」

 

わたしとラウラの言葉が重なる。

お兄ちゃんを慕う気持ちだけは認めるに値するかな。

 

ビー!

 

試合開始のブザーが鳴る。

シャルロットとの作戦は各個撃破だ。

ならわたしの相手は……。

 

「勝負だよラウラ!」

「望むところだ!」

 

SIDE OUT

 

SIDE シャルロット

 

マドカはラウラと妹対決を始めてしまった。

いや、こっちの邪魔をするような戦いじゃないから作戦通りなんだけど……。

 

「シャルロット、こっちも始めよう」

「あ、うん。そうだね」

 

簪がこっちに来たので雷轟にキャリバーンパックを装備し、シュベルトゲベールⅡを構える。

このトーナメントで雷轟をお披露目してから、デュノア社には雷轟の注文が殺到しているらしい。

通信で父さんがそう教えてくれた。

設計図とこの試作1号機を提供してくれた一夏たちにはいくら感謝してもし足りない。

 

「いくよ簪!」

 

薙刀を持つ簪にシュベルトゲベールⅡで切りかかる。

僕と切り結ぶ簪はかなりの技量だった。

そういえば、簪の実家って武家屋敷だって一夏が言っていたっけ。

武術の心得があってもおかしくはない。

このまま戦っても押し切れないだろうね。

なら、僕の十八番(おはこ)の戦法の出番かな。

僕は高速切替(ラピッド・スイッチ)を活かし、1秒にも満たない時間で背部の武装をサムブリットパックに変更。

そのまま超高インパルス砲『アグニⅡ』の引き金を絞る。

 

「くっ!」

 

武術の心得があって目が良いのか、簪は掠り傷程度のダメージで回避する。

やるね簪。

でも逃がさないよ。

僕は即座に武装をキャリバーンパックに戻して簪に切りかかる。

相手が近付けば近接射撃。

相手が距離を取れば間合いを詰めての格闘戦。

この戦法こそ『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』。

名前の意味は『求めるほどに遠く、諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む』というものだ。

このまま撃破する!と思ったら距離を取った簪が薙刀を仕舞い、空中投影型のキーボードを展開する。

何をするつもり?

簪の機体『打鉄弍式』の全身の砲門が開く。

あれは……ミサイル!?

 

「いけっ山嵐(やまあらし)!!」

 

打鉄弍式から数え切れない量のミサイルが放たれる。

雷轟が自動的に計算した結果、ミサイルの数は合計48発。

サムブリットパックのフルバーストでも迎撃し切れない数だ。

僕は武装をスペキュラムパックに変更してミサイルから逃げる。

逃げながらミサイル同士がぶつかって爆発するよう誘導したり、ビームライフルで撃ち落としたりするが、一向に数が減らない。

こうなったら……。

 

SIDE OUT

 

SIDE マドカ

 

わたしとラウラの戦いは熾烈を極めていた。

ラウラの機体『シュヴァルツェア・レーゲン』の慣性停止結界(AIC)は驚異的だ。

アレの力でビットやわたし自身を何度も停められてしまい、シールドエネルギー残量は5割程度、ビットも半分が墜とされてしまい残りは4基。

だがAICはビームなどのエネルギー攻撃までは停められない。

そのおかげでラウラのシールドエネルギーも同じくらい減っている。

お互いに決め手が欠けている戦い。

この場を動かしたのは、わたしでも、ラウラでもなかった。

 

「ラウラ、お届け物だよー!」

「なっシャルロット!?」

 

簪と戦っていた筈のシャルロットが、簪から放たれたであろうミサイルを引き連れて、ラウラの背後に回り羽交い締めにする。

このままではミサイルはラウラに直撃する。

ラウラは止むを得ずミサイルをAICで停める。

 

「今だよマドカ!」

「わかった!」

 

このチャンスを逃がしはしない!

BTエネルギーマルチライフル『スターブレイカー』のエネルギーをチャージし、渾身の一撃を放つ。

 

「ぐわぁっ!」

 

わたしの一撃をまともにくらったラウラは集中力が切れてAICが解けてしまい、再び動き出したミサイルを浴びてリタイアした。

 

「まさか山嵐を利用されるなんて……。でも負けないよ!」

 

そう言って残された簪は薙刀と荷電粒子砲を展開して、わたしとシャルロットに挑みかかる。

わたしは後ろに下がり、キャリバーンパックを装備したシャルロットが前衛になる。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

シャルロットが真正面から突っ込む。

そんなシャルロットに向かって簪は荷電粒子砲を撃ち込もうとする。

すかさずわたしは4基の内、1基だけ残っているシールド・ビットでシャルロットへの攻撃を遮る。

後ろ姿で見えないけど、シャルロットが笑ったような気がした。

もしかして、わたしが援護するとわかっていたからあんな無謀とも言える攻撃を?

それだけ信頼されているしたら嬉しいな。

シャルロットのシュベルトゲベールⅡと大型ビームサーベル『カラドボルグ』の2刀流による連撃で、簪のシールドエネルギーは0になった。

 

『試合終了。勝者、シャルロット・デュノア・織斑マドカペア』

 

試合終了のアナウンスが流れる。

ラウラは強敵だった。

シャルロットも軽く息が上がっているところを見ると、簪も手強い相手だったのだろう。

次に待っているのは決勝戦。

お兄ちゃんと工藤のペアとの戦いだ。

お兄ちゃんはギリギリまで龍騎士(ドラグナー)の特殊アドベントカード等を封印するそうだけど、わたしはお兄ちゃんに全力を出させた上で勝ってみたい。

え?

そんなことはIS/EXVSのお兄ちゃんに勝ってから言えって?

それは言わないお約束だよ。



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第35話 準決勝第2試合(裏)

〜準決勝第2試合直前〜

 

「さて、次はマドカとシャルVSラウラと簪の戦いだな」

「あぁ。一夏はどっちが勝つと思う?」

「そうだな……。兄という贔屓目があるが、マドカたちかな〜。シャルの機体も第3世代だし」

 

と、鋼夜と次の試合について話していると……。

 

…………………………

 

ミラーモンスターの出現を知らせる金切り音がした。

 

「鋼夜、どうする?」

「二手にわかれよう。片方がミラーモンスターの相手をして、片方が試合を見て情報を得る」

「それしか無いか。よし鋼夜、じゃんけんだ!」

「良いぜ!負けた方がミラーモンスターの相手な!」

「「じゃんけんポン!」」

 

俺➡︎グー。

鋼夜➡︎パー。

 

「くっそ負けたー!」

「はい、という訳でミラーモンスターはよろしく〜」

「ハァ……。妹の試合が見たかったんだがな〜」

「俺が代わりに見ておいてやるから、とっとと行って来いシスコン」

「はいはい……。って、誰がシスコンか」

 

妹を溺愛して何が悪い。

とにかく人目の無いところに移動して鏡にカードデッキを翳す。

 

「変身!!」

 

腰に巻きついたVバックルにカードデッキを装填して仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)になり、ミラーワールドに潜る。

 

「ブオォォッ!」

 

現れたのは、イノシシ型モンスター『ワイルドボーダー』だった。

さてどう料理してやろうか、と考えていたら背後から光莉がやって来た。

 

「マスター」

「ん?光莉か。どうした?」

「もちろんあのミラーモンスターを倒すのを手伝いに来ました。それにあたって、1つ提案があります」

「何だ?」

「わたしとブランウイングをユナイトベントで合体させてください」

「光莉とブランウイングを?わかった。俺自身どんな結果になるのか興味がある」

「では、お願いします」

「おう!」

『ADVENT!!』

『UNITE VENT!!』

 

ブランウイングを呼んで、光莉と融合させる。

周囲が光に包まれ、光が収まった後そこに居たのは…………天使だった。

具体的な容姿を述べると、翼の付け根が機械でできており、上は紫で下は純白の衣を纏い、杖を携えている。

そして豊かな黒髪を後ろで1本に束ねている。

天使がこちらに振り向いた。

顔立ちこそ違うものの、その目は確かに光莉だった。

俺は光莉の姿に魅了され、契約のカードの確認もせず呆然としてしまっている。

そんな俺の状態を仮面越しに感じ取ったのか、光莉はクスリと微笑むと前を向いてミラーモンスターとの戦闘を開始する。

 

「ハッ!」

 

そこでやっと俺の意識は現実に引き戻され、契約のカードを確認する。

 

『TWILIGHT ANGEL(9000AP)』

 

黄昏の天使(トワイライトエンジェル)

シャインヒュードラーと同じ9000APか……。

たった1体(ブランウイング)が加わっただけで2000APも上がるとはな……。

光莉とブランウイングは相性が良いのか?

とにかく、俺も戦闘に参加しなければ!

 

『SHOOT VENT!!』

 

ブランスナイパーを呼び出し、射撃でトワイライトエンジェル(光莉)を援護する。

今の光莉の攻撃手段は、杖による打撃のほかに、追尾能力のある光球に、ダメージを与える光のカーテンなどがあるらしい。

随分多彩な技があるんだな。

そのまま光莉との連携で追い詰めていき、遂にワイルドボーダーが膝を突いた。

 

「マスター、トドメを!」

「おう!」

『FINAL VENT!!』

 

ファイナルベントの発動と同時に、光莉の杖の先端が黒い(・・)光に包まれる。

光莉は杖を振るって、黒い光をワイルドボーダーに投げつける。

黒い光を浴びたワイルドボーダーは闇に包まれて身動きが取れなくなった。

あれは……ブラックホールか?

そう考えている内に手が勝手に動いて、ブランスナイパーの照準を定める。

そして光莉が俺に寄り添って、右手を重ねる。

 

「ハァッ!」

 

引き金を絞り、銃口から放たれたのは、いつもの弾丸ではなく一直線に伸びる極太のビームだった。

ワイルドボーダーはそのビームで全身を焼かれ爆散する。

残された生命エネルギーを光莉が飴玉サイズに圧縮して口に含んだのを見届けた俺は、現実世界に戻るため近くの鏡に向かう。

 

「待ってください、マスター」

 

ブランウイングと分離した光莉に呼び止められる。

何事かと問おうとしたらVバックルからカードデッキを抜かれ、変身が解除された俺は光莉にキスで口を塞がれる。

 

「んっ……」

「んちゅ……ぷはぁ。いってらっしゃいのキスです。決勝戦、頑張ってくださいね」

「あぁ。ありがとう、光莉」

 

惚れた女にキスのエールを贈られたからには負ける訳にはいかないな。

光莉と別れて現実世界に戻り、鋼夜の隣で試合を途中から観戦する。

勝ったのは、試合前に予想した通りマドカとシャルのペアだった。

 

学年別トーナメント 1年生の部

 

決勝戦

 

織斑 一夏&工藤 鋼夜

 

VS

 

織斑 マドカ&シャルロット・デュノア

 

さあマドカ、シャル、勝負だ!

 




トワイライトエンジェルのイメージ
「そらのおとしもの」のエンジェロイドタイプΖ(ゼータ)(風音 日和)。
CV:日笠 陽子(箒と同じ声優)

ファイナルベント…ディメンションクラッシュ(10000AP)
イメージはスマブラforのパルテナの「最後の切り札」ブラックホール+波動ビーム。
技の名前の由来は特命戦隊ゴーバスターズのロボの必殺技。


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第36話 決勝戦

決勝戦。

俺&鋼夜VSマドカ&シャルの戦いだ。

 

「マドカ、シャル。お前たちが勝ち残ったんだな」

「うん。この雷轟のおかげだよ」

「わたし頑張ったんだよお兄ちゃん!頭ナデナデして欲しいな〜」

「わかったわかった。おいで、マドカ」

「は〜い♪」

 

龍騎士(ドラグナー)を右腕だけ解除してマドカを撫でる。

 

「一夏、やっぱお前シスコンだわ」

「そうか?もういいやシスコンで」

 

鋼夜に2度目のシスコン認定されてしまったので、この際開き直ることにしよう。

 

ビー!

 

試合が始まった。

俺がマドカ、鋼夜がシャルの相手を務める。

シャルの機体である雷轟は、贔屓目抜きで現時点で最高の第3世代ISだ。

鈴の時とは違い、途中で鋼夜は撃墜されるだろう。

だから鋼夜には申し訳ないが、やられることを前提にシャルと戦ってもらっている。

鋼夜には専用機が無いため、どうしても専用機持ちに地力が劣る。

どこぞの国か企業に属せば良いのだが、今のところ勧誘を全て断っているらしい。

まぁ俺も自身への勧誘を断っているんだけどな。

 

『THRUST VENT!!』

 

シャインランサーを構えて、マドカに突っ込む。

 

「いくよお兄ちゃん!」

「来いマドカ!」

 

マドカの8基のビットがビームの嵐を巻き起こす。

回避に成功しても偏光射撃(フレキシブル・ショット)で再び襲って来る。

敵に回すと本当に恐ろしい技だな。

 

「おらっ!」

ガギンッ!

 

ビットの1基を破壊しようとしたら、シールド・ビットに防がれた。

あれを壊すのにはパワー不足だったようだ。

こうなったらマドカ本人を狙うしかないか。

 

「うおおおおおっ!」

「くっ何で当たらないの!?」

 

俺はマドカが放つビームを全て回避している。

要因は龍騎士(ドラグナー)の通常形態が防御を捨てた高機動型だということと、俺自身の経験値だ。

マドカがいつからISに乗っているのかは知らないが、それでも俺に比べたらまだまだだ。

 

「くらえっ!」

「ぐぅ……やるねお兄ちゃん!」

 

ビームの嵐を掻い潜ってマドカに一撃入れると、後方からガシャン!と音がした。

見ると、鋼夜がシャルにやられていた。

 

「すまん一夏。俺はここまでだ」

「いや、十分だ」

 

やられたとはいえ、鋼夜はシャルのシールドエネルギーを1割以上削っている。

シャルは並大抵の相手なら雷轟の性能もあってノーダメージで勝てるはずなのにだ。

 

「さて、ここからは2対1か……」

「ふふっ、覚悟してね一夏」

「そうはいかないさ。まだサバイブは使わないけどね」

『COPY VENT!!』

 

コピーベントでシャルのキャリバーンパックを複製する。

他のISの武装を一瞬でコピーしたことで、観客席が騒然となる。

こりゃ人目のあるところでの特殊カードの使用は出来るだけ控えた方が良さそうだな。

今のところ大勢の人の前で使ったことが無い特殊カードは、スチールベント・ユナイトベント・クリアーベント・フリーズベント・リターンベント・ストレンジベント・タイムベントの7枚か……。

あとリフレクオーツベントもかな?

入試で使ったが、そこまで情報は外部に漏れていないらしい。

とにかくこの8枚は出来るだけ使わないようにしよう。

 

「いくぞ!」

「えっ!?うわっ!」

 

攻撃対象をシャルに変更してカラドボルグを振り抜く。

対するシャルはスペキュラムパックによるブーストで回避する。

安堵の表情を浮かべるシャルだが、龍騎士(ドラグナー)が高機動型ISだってこと、忘れてないか?

こちらもスラスターに火を点けて、シャルを追尾する。

途中マドカからビットによる妨害を受けたが、シュベルトゲベールⅡとカラドボルグでビームを叩き落とし、シャルに追い付く。

 

「追い付かれた!?」

「どおぉぉぉりゃあぁぁぁっ!」

 

追い越し様にシャルを切りつけ、一瞬動きが止まったシャルにアクセルベントで追い打ちを掛ける。

 

『ACCEL VENT!!』

「飛天御剣流・九頭龍閃!!」

 

カラドボルグを仕舞い、両手持ちにしたシュベルトゲベールⅡでシャルに連続攻撃を仕掛ける。

9撃目の突きで雷轟の絶対防御が発動し、シャルがリタイアする。

 

「あ〜あ、負けちゃった。ゲームの一夏も合わせるとこれで何連敗だろ……」

 

シャルのやつ、数え切れないくらいIS/EXVSの俺と戦ったのか……。

さて、残るはマドカのみ。

 

「さあマドカ、クライマックスだ」

「負けないよお兄ちゃん!」

 

マドカの攻撃が、最初よりも激しいものになる。

さすがにこのレベルだとほんの少しだけビームが掠るようになってきた。

ウェイトを軽くするためにキャリバーンパックをパージして、シャインバイザーを抜く。

そのまま再びマドカに肉薄する。

 

「引っ掛かったね、お兄ちゃん!」

 

マドカはライフルのエネルギーを限界までチャージした状態で待ち構えていた。

途中からライフルによる射撃をやめてビットのみで攻撃してきたと思ったら、そういう訳か。

だが、残念ながら引っ掛かったのはマドカの方だ。

 

『CONFINE VENT!!』

 

こんなこともあろうかと、デッキからコンファインベントのカードを出しておいたのだ。

カードの効果で、マドカのライフルは拡張領域(バス・スロット)に強制送還される。

 

「スターブレイカーが!?」

「トドメだぁっ!」

『FINAL VENT!!』

 

俺の背後に光莉がドラゴンの姿で出現する。

中央の首に押し出してもらい、左右の首が放った破壊光線を纏いながらマドカに蹴りを叩き込む。

 

「ジャッジメントライダーキック!!」

「きゃあっ!?」

 

ファイナルベントの一撃でマドカのシールドエネルギーは0になった。

 

『試合終了。1年生の部、優勝は織斑 一夏・工藤 鋼夜ペア』

 

アナウンスが流れる。

 

「ふぅ、終わったか」

「俺はもうちょい活躍したかったな〜」

「専用機相手に奮戦したんだ。周囲からの評価も少しは上がっているんじゃないか?」

「そうかぁ?まぁ優勝できたのは普通に嬉しいけどよ」

 

さて、後は表彰式を済ませて大会は終わりか。



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第37話 表彰式

学年別トーナメント1年生の部

 

1位

織斑一夏 工藤鋼夜ペア

2位

織斑マドカ シャルロット・デュノアペア

3位

凰鈴音 セシリア・オルコットペア

更識簪 ラウラ・ボーデヴィッヒペア

 

それが今回のトーナメントの結果だ。

現在は表彰式。

俺と鋼夜は賞状とトロフィーを授与された。

嬉しいと言えば嬉しいんだが、勧誘はより激しくなるんだろうな……。

新聞部にもインタビューを迫られたし。

ちなみにその人は(まゆずみ) 薫子(かおるこ)という名前で、楯無さんの知り合いらしい。

 

トーナメントが終わり、次に行われれる行事は7月の臨海学校だ。

1学期最後の行事、今回のトーナメントみたいに平和に終われば良いな……。

 

SIDE OUT

 

SIDE 箒

 

学年別トーナメントから数日。

わたしはやっと懲罰房から出ることが出来た。

クラスメイトから聞いた話によると、準決勝までで勝ち残ったのは一夏の妹やわたしが居ない間にやって来た転入生を含めた専用機持ち6人3ペアと一夏と工藤のペアらしい。

そして優勝したのは一夏たちのペア。

しかし工藤は情けない。

決勝戦でデュノアに撃墜され、結局一夏が自身の妹とデュノアの2人を倒したのだそうだ。

 

わたしであればそんなヘマはしない。

一夏の隣に立つのはわたしだ。

工藤や、他の専用機の女でもない。

剣道を辞めたと聞いた時は落胆したが、それはわたしが矯正すれば良いだけの話だ。

一夏が振るうべきなのは漫画の剣を模した飛天御剣流(チャチな剣)ではなく、篠ノ之流剣術なのだから。

そのためにも、わたしには専用機という『力』が必要だ。

わたしは携帯電話に登録されているとある番号をコールする。

3回目のコール音で相手と繋がった。

 

『はい。こちらは篠ノ之束博士の電話です』

「だっ誰だ!?」

『わたしは巽光莉。博士……束さんの助手を務めている者です。篠ノ之箒さんですね?』

 

姉さんの……助手!?

人とあまり接しようとしない姉さんが助手を雇っているだと!?

 

「はっ……はい。あの、姉さんは……」

『わかりました。束さんに替わります。少々お待ちください』

 

そう言われて待つこと数十秒。

電話越しに姉さんの声が聞こえて来た。

 

『やぁ箒ちゃん。束さんだよ〜』

「……姉さん、今日は頼みがあって電話をさせてもらいました」

『何かな?』

「わたしの専用機を作って欲しいのです」

『なるほどね〜。じゃあ箒ちゃん、ひとつ聞かせて?』

「なんですか?」

『箒ちゃんはなんで専用機が欲しいのかな?』

 

わたしが専用機を欲する理由?

そんなこと決まっている。

 

「一夏の隣に立つためです」

『……そう。とりあえず、今度の臨海学校には顔を出すよ。いっくんの龍騎士(ドラグナー)()ようと思っていたしね』

 

その後2言3言話して、姉さんとの電話は切れた。

 

SIDE OUT

 

SIDE 束

 

箒ちゃんとの電話を切って、わたしは溜息を()く。

箒ちゃんが専用機を欲する理由は『いっくんの隣に立つため』。

 

「そんな理由じゃ専用機を渡せないよ、箒ちゃん」

 

いっくんの隣には既に光莉ちゃんが居る。

そうでなくとも、隣に立つだけじゃいっくんに何もしてあげられない。

箒ちゃんは目的と手段がごちゃ混ぜになってしまっている。

今の箒ちゃんに専用機を渡したとしたら、間違いなく取り返しのつかないことになるだろう。

 

「では、『コレ』はどうしますか?」

「そうだねぇ〜……」

 

わたしと光莉ちゃんはとあるものに視線を向ける。

そこにあったのは『(くれない)』。

わたしと光莉ちゃん、クロエ(くーちゃん)の3人で開発した第4世代IS『紅椿(あかつばき)』。

いっくんが雷轟の設計図をフランスのデュノア社に渡したように、この機体もいずれは世間に公表するつもりだ。

たが、その乗り手が箒ちゃんに務まるだろうか……?

今の箒ちゃんでは、まず不可能だろう。

臨海学校までに考えを改めてくれると良いんだけど……。



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第38話 光莉とのデート

タイトル通りデート回です。
甘いというよりは微シリアスです。


「マスター、今日一緒にお出掛けしませんか?」

 

学年別トーナメントが終わって最初の土曜日。

鏡の中から出て来た光莉がデート?に誘ってきた。

 

「ん?デートか?構わないが唐突だな?」

「そこは気にしないでください。それで、マスターが臨海学校で着る水着を買いに行きましょう」

「そういや去年までの水着は箪笥の中でいつの間にか虫に食われて穴が空いてたっけな……。よし、行くか!」

「はい!」

 

そう言って一旦ミラーワールドに戻った光莉を見届け、身だしなみを整えて外出届を提出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園行きモノレールがある町のとある時計塔の下。

俺は待ち合わせ場所に指定されたここで、光莉を待っていた。

 

「一夏くん!」

 

おっ、光莉がやって来た。

光莉の格好は、白を基調としたワンピースに、薄い青色の上着だ。

うん、光莉には清楚な服がよく似合うな。

 

「一夏くん、お待たせしました」

「気にするな。代わりに光莉の可愛い姿を見ることが出来たからな」

「……っ!も、もうっ!そこは『俺も今来たところだから』でしょう!?(嬉しくないかと聞かれたら凄く嬉しいですけど)」

「定番のセリフを言ったところで、光莉はつまらないだろう?」

「いえ、一夏くんが言ってくれるならとても嬉しいです」

「そうか。なら次からはそうしよう」

「そうしてください。さあ、早く行きましょう!」

 

照れている光莉をもっと堪能したかったが、光莉がそう言うのなら仕方が無い。

俺と光莉は、水着を買うためのショッピングモールへ足を運んだ。

 

「男性用の水着って本当に少ないですね……」

 

女尊男卑の影響か、水着売り場における男性用と女性用の商品の比率は1:9といったところだ。

その中から黒を基調としたトランクスタイプの水着を選ぶ。

 

「さて、次は光莉の水着を選ぶか」

「えっわたしのもですか?」

「この際ついでだ。それに、夏休みとかに光莉と2人で海に遊びに行くかもしれないからな」

「そう……ですね、わかりました。お願いします」

 

という訳で女性用の方に移動する。

 

「光莉はスタイルが良いからな……。ビキニタイプか?」

「あの……一夏くん。そんなストレートに褒められると、わたしもさすがに照れます」

「何言ってやがる。結婚したら毎日言うつもりだぞ、俺は」

「はうっ!?そうでした!」

 

今は6月下旬。

光莉の16歳の誕生日は8月中旬なので、結婚まで残り2ヶ月を切っている。

ちなみに、俺と光莉の結婚は日本政府とライダーの皆は知っている。

 

「え〜と、これなんかどうでしょう?」

 

いくつかの水着を吟味し、最終的に光莉が選んだのは白色のビキニだ。

やっぱ光莉に似合う色って、基本的に白だな。

ドラゴンの姿だと、金と銀だけど。

 

「さて、会計に行くか」

「はい」

 

そう言ってレジに向かう途中、ある女性に声を掛けられた。

 

「そこのアンタ、アレ片付けておいて」

 

そう言って女性が指差したのは、無造作にほっぽり出された衣服や水着。

女尊男卑主義者か……。

 

「断る。あんたが散らかしたんだろ?自分でやれよ」

「男のくせに歯向かうわけ?警備員呼ぶわよ?」

「ハァ?何、あんたそんなに偉いの?それとも女ってだけで威張ってる虎の威を借る狐か?」

「……っ!よっぽど警備員に突き出されたいようね……!」

「突き出されるのはお前だろ?」

「ふん。謝れば許してあげたのに。警備員!ちょっと来なさ「いい加減にしたらどうなんですか!」っ!?」

 

あ、光莉がキレた。

 

「さっきから聞いていれば自分の不始末を他人に押し付けようとして……!男や女など関係無く人間として恥ずかしくないんですか!?」

「なっ何よ、アンタ女のくせに男の味方するわけ!?」

「女が男の味方をしてはいけない決まりなどありません。そもそもあなたは何故男を見下すのですか?」

「そんなの当たり前のことじゃない!女はISに乗れるのよ?それなのに男は……」

「なら貴女はISを所持しているんですか?どこかの国や企業に所属して代表を務めているんですか?」

「そ、それは……」

「違うということはIS乗りでもないのに威張り散らしていたというのですか?ただ性別が女性だというだけで?」

「くっ……」

「女性にだってIS適性の無い者は居ます。貴女のような者の所為で、女性全体の品位が下がるのです!恥を知りなさい!!」

「ヒッ!?」

 

光莉の気迫に相手の女性が怯む。

光莉は言葉に殺気を乗せて、さらに言い放つ。

 

「命が惜しければそれを片付けてわたしたちの前から失せなさい!さあ、早く!!」

「はっ……はい!」

 

女性は散らかした衣服を持って元あった場所に大急ぎで戻しに行った。

 

パチパチパチパチ……。

 

周囲で一部始終を見ていたカップルや、女尊男卑に染まっていない女性から拍手が光莉に贈られる。

恋人として鼻が高いな。

しかし、ミラーモンスターが人間に倫理を説く日が来るとは……。

女尊男卑の風潮で世界は随分腐ってしまっているようだ。

 

「行きましょう、一夏くん」

「あぁ、そうだな」

 

会計を済ませて、衣服売り場から出る。

ショッピングモール内のレストランで昼食を摂り、デートを再開する。

ちょっとしたハプニングもあったが、充実した1日となった。

 

SIDE OUT

 

SIDE マドカ

 

凄いな、光莉さんは。

さすがはお兄ちゃんの恋人。

ミラーモンスターだとわかっていても、尊敬せずにはいれない。

わたしは今、お兄ちゃんと工藤と楯無さん以外のライダーの皆で臨海学校のための水着を買いに来ている。

まさかお兄ちゃんと光莉さんのデートとブッキングするとは予想外だったな……。

 

「ん、マドカか」

「千冬お姉ちゃ……織斑先生?」

 

千冬お姉ちゃんと出会った。

 

「今は教師ではなく1人の姉だ。敬称は要らん」

「千冬お姉ちゃんも水着を選びに?」

「そうだ。最初は一夏に選んで貰おうかと思ったが、あの2人の邪魔をする気になれなくてな」

 

それは納得。

時と場合によるけど、あの2人の邪魔をすると誰であろうと高い代償を支払うことになるだろう。

 

「それで、候補はどんな水着?」

「この2つだ」

 

そう言って千冬お姉ちゃんが出したのは、白のビキニと黒のビキニ。

 

「選択肢ってこれだけ?」

「そうだ。いいから選べ」

 

千冬お姉ちゃんはスタイルが良い。

わたしや光莉さんよりも。

千冬お姉ちゃんに合うサイズの水着は少ないのだろう。

う〜ん……。

千冬お姉ちゃんに似合うとしたら黒かな?

髪の色と同じだし。

でも悪い虫とかつきそうだな……。

 

「じゃあ、白で」

「そうか。では黒にしよう」

「へ?」

「お前の視線は最初に黒に向かっていたぞ」

 

ば、バレてる……。

 

「心配しなくても悪い虫がわたしに近寄れる訳が無いだろう?男を見る目くらい十分養っているさ」

 

そう言って千冬お姉ちゃんは、白のビキニを戻して黒のビキニを片手にレジへ向かった。

……っと、わたしも自分の水着を選ばなければ。

千冬お姉ちゃんが大人の魅力を発する黒なら、わたしは光莉さんと同じ清楚な白だ!

待っててね、お兄ちゃん!



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第39話 臨海学校

「海が見えてきたよ、お兄ちゃん!」

 

今日は臨海学校当日。

宿泊先の旅館に向かうバスの中で、マドカがはしゃいでいる。

 

「わたし海で遊んだこと無いんだ。着いたら一緒に遊ぼう!」

「あぁ、いいぞ」

「わ〜い♪」

「マドカちゃんは凄く嬉しそうですね」

 

マドカの喜びっぷりに、ミラーワールド内のバスに乗っている光莉が感心と少しの呆れを混ぜた表情をしている。

学年別トーナメントにおいて、マドカはラウラと『勝った方が一夏()に目一杯甘えることができる』という賭けをしていたらしい。

妹を甘やかすのは悪い気分ではないので、俺も事後承諾をした。

まあ悪ノリして、寮の自室から教室までマドカをお姫様抱っこした状態で通学して千冬お姉ちゃんの出席簿アタックを頂戴する羽目になったが。

 

ちなみにミラーワールド内のバスには、皆の契約モンスターが最低1体は乗っている。

ただ、セシリアのアクアギガに限ってはその巨体と体重の都合からバスの車内に入れないので、バスの上で寝そべっている。

また、ドラグレッダーやスカイブレイダーは空を飛んでついてきている。

 

そうしてマドカやラウラの頭を撫でること十数分。

宿泊先の旅館に到着した。

 

「ここが、今日から3日間世話になる旅館『如月亭』だ。従業員の方々の迷惑にならないように各自注意するように!」

『よろしくお願いします!』

 

旅館の方々に挨拶を済ませた俺たち生徒は、各々の荷物を自身に割り振られた部屋に置きに行く。

だが、俺と鋼夜の部屋は事前に配布されたしおりに記載されていなかった。

 

「織斑先生、俺と鋼夜の部屋はどこですか?」

「それは今から案内する。工藤を呼んで来い」

「わかりました」

 

鋼夜を呼んで、千冬お姉ちゃん引率のもと、旅館内を移動する。

辿り着いたのは教員が宿泊するエリアだ。

 

「織斑はわたしと、工藤は山田先生と同室だ」

「普通の部屋にしたら女子が雪崩れ込んで来るかもしれませんからね……」

「工藤の言う通りだ。織斑も良いな?」

「わかりました」

 

鋼夜の言う通り、これが妥当なんだろうな。

 

「今話す必要がある事柄は以上だ。お前たちも自由時間を満喫して来い。わたしたちも後から向かう」

「「はい」」

 

臨海学校の1日目は自由時間だ。

今頃、女子の皆は水着に着替えているだろう。

 

「さて、行こうぜ一夏」

「あぁ」

 

鋼夜と共に男子更衣室に移動して、水着に着替えて砂浜に出る。

 

「一夏、競争しましょう!あそこにあるブイを折り返し地点にして、先に砂浜に戻って来た方が勝ちよ!」

 

鈴にさっそく勝負を仕掛けられた。

 

「じゃあ、俺も参加しようかな」

「お兄ちゃん、わたしもやる!」

 

鋼夜とマドカも混ざり、4人での勝負となった。

 

「よ〜い、ドン!」

 

準備運動を済ませてシャルに合図を頼み、俺たち4人はスタートする。

 

「ちょっお前ら(はえ)ぇよ!」

「待ちなさい2人とも!」

 

開始から早々に順位が分かれた。

 

1位・俺

2位・マドカ(俺と僅差)

3位・鈴(俺やマドカと大きく離れている)

4位・鋼夜

 

5歳の頃からライダーをやっている俺に勝とうなんざ10年早いのさ!

しかしそんな俺に追いつけるなんて、マドカの身体能力はどうなっているんだ?

ライダー・IS問わず戦闘になれば勝つのは俺だが、運動会とかの競技ならマドカは俺に勝てるかもしれないな。

順位が変動しないまま、俺たちはゴールした。

 

「一夏にマドカ、アンタたち早すぎよ」

「お兄ちゃんに勝とうと必死こいたら、ああなった」

「俺はマドカに対して、兄の威厳を保とうとしたら、ああなった」

「ホント似たもの兄妹だな、お前ら」

 

鋼夜に似たものだと言われて、マドカは嬉しそうだ。

俺はそんなマドカの頭を撫でる。

何、シスコンだと?

それがどうした!

 

その後はラウラや他のライダーの皆と合流して、ビーチバレーをすることになった。

今の人数は、俺・マドカ・鈴・鋼夜・シャル・ラウラ・セシリア・簪・本音の9人。

最低でもあと1人は欲しいな……。

欲を言えば、普通のバレーのように6対6で戦いたい。

 

「ほう、ビーチバレーか。丁度良い、わたしも混ぜて貰おうか」

 

千冬お姉ちゃんが現れた。

へぇ〜、千冬お姉ちゃんは黒のビキニか。

そして、千冬お姉ちゃんを混ぜた10人でチーム分けを行った結果が……。

 

Aチーム

織斑一夏

工藤鋼夜

セシリア・オルコット

ラウラ・ボーデヴィッヒ

更識簪

 

Bチーム

織斑千冬

織斑マドカ

凰鈴音

シャルロット・デュノア

布仏本音

 

となった。

 

「うぅ〜、わたしもお兄ちゃんと同じチームが良かった!」

「残念だったなマドカ!今日はわたしとお兄様のターンだ!」

 

なんて遣り取りがマドカとラウラの間で行われたりしたが、とにかく試合開始。

結果だけ言うと引き分けだ。

俺や千冬お姉ちゃんのスペックは皆と一線を画しており、身内のマドカと軍人のラウラ以外の6人は途中で体力が尽きてリタイア。

そのまま勝負は熾烈を極め、マドカとラウラがリタイアしたあとも俺と千冬お姉ちゃんの戦いは続いたが、なかなか決着がつかなかったので中止と相成った。

ちなみに、使用したビーチボールは1度も割れなかった。

お疲れ様、ビーチボール君。



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第40話 足りないもの

 

 

時は千冬とライダー9人によるビーチバレー対決が始まる前に遡る。

 

 

 

SIDE 千冬

 

教員としての仕事が一段落したわたしは、水着に着替えて海に出ていた。

遠くを見れば、一夏・マドカ・凰・工藤が水泳対決をしている。

後であいつらのところに顔を出すとしよう。

ふと見ると、断崖に1人の女子生徒が立っていた。

 

「こんなところで何をしている、篠ノ之?」

「……織斑先生」

 

篠ノ之が1人でこんなところに居る理由には察しがつく。

明日は7月7日。

篠ノ之の誕生日だ。

束が現れる可能性がある。

 

「明日、来ると思うか?」

「来ると言っていました。もともと一夏の機体も()るつもりだったと……」

「……そうか」

 

束は一夏の機体である龍騎士(ドラグナー)のスポンサーとも言える存在だ。

篠ノ之の件が無くても来るのは決まっていたか……。

丁度良いから、こいつに1つ聞いてみよう。

懲罰房で過ごした2ヶ月で、どこまで反省出来たのかをな。

 

「篠ノ之、お前の願いは何だ?」

「一夏の隣に立つことです」

「『隣に居る』だけか?」

「っ!?」

「一夏の隣に立つ……それ自体は構わんがそこから先を考えることが出来ない以上、お前はその程度の存在だ。今のお前に一夏の隣に立つ資格は無い。一夏がお前を突き放しているのは、自分の思いを押し付けるお前のそんな一面を知っているからだ」

 

篠ノ之は白騎士・龍騎士事件が起きる少し前に同級生からいじめに遭い、一夏に助けられた過去がある。

それをきっかけに一夏に好意を抱くだけなら、特に気にすることではない。

だがこいつは、相手の人柄の一面しか見ず自身の考えや理想を押し付けることしかできない。

一夏はそんな篠ノ之の思いを『好意』ではなく『依存』と判断し、まったく取り合わなかった。

当時の篠ノ之の言動は、重要人保護プログラムで篠ノ之が転校した際に一夏が、『束お姉ちゃんには悪いけど、寧ろ清々した』と言っていたことからその酷さが窺える。

 

そして約6年の月日を経て、IS学園での再会。

度重なる転校で心が荒んでいたことを考慮しても、篠ノ之の素行は昔と変わっていない。

一夏と光莉曰く、『暴力を振るう分、昔より悪化している』とのこと。

篠ノ之は納得がいかないことに出くわすと、すぐに竹刀や木刀を取り出して武力行使をする。

クラス代表トーナメントが良い例だ。

そういえばつい最近、こいつの実家から日本刀が届いていたな。

臨海学校が終わったら没収するべきだろうか?

 

「一夏はどうして、あんなに変わってしまったのでしょう?」

 

こいつの目には、一夏は昔と変わったように映るのか……。

 

「一夏が変わったように思うのは、お前が一夏の一面しか見えていなかったからだ。一夏は昔から何1つ変わってはいない。ただ、背負うものができただけに過ぎん」

「背負うもの……?」

 

そう、今の一夏は多くのものを背負っている。

まずは光莉のこと。

一夏と光莉は人間とミラーモンスターの壁を越えて、心からお互いのことを愛している。

それこそ篠ノ之や他の誰かが入り込む隙間が無いくらいにな。

一夏の姉で世界最強(ブリュンヒルデ)であるわたしとて、軽い思いで近付けば火傷程度では済まない。

 

次に男性IS操縦者という肩書きのこと。

これは昔からだし、今は工藤と共有していることなのであまり大したことは無いのだろう。

 

そして最後は龍騎士(ドラグナー)として、世界各地での活動のこと。

ISの普及によって歪んでしまった世界。

それを少しでも正すため、迂闊に動けない束の代わりに一夏はその手を血に染めた。

いくつもの過激な女性権利団体や人体実験などの違法行為を行っている研究施設を潰し、その過程で何百人もの人間を自身の手や契約モンスターで殺害している。

契約モンスターは20体くらい居るらしいが、一夏の腕なら人を殺さずとも野生のミラーモンスターの討伐だけで十分養うことが出来る。

それでも一夏や光莉は人を殺す。

束のために。

そんな束だが、1度だけ電話越しに思いの丈をぶちまけられたことがある。

『わたしはいっくんを人殺しにするためにISを生み出したんじゃないのに』と。

心の底から悔いている涙ながらの声だった。

現在雲隠れしている束は、光莉にIS開発の技術を指導しながら男でもISを動かせる手段を模索しているそうだ。

成果は芳しくないようだが……。

 

「よく考えることだ。自分に何が足りないのかをな」

「わたしに足りないもの……」

 

篠ノ之との話を終えて、わたしは一夏たちの元へ行く。

丁度ライダーたちでビーチバレーをやるところらしい。

わたしも混ぜて貰うとしよう。

一夏とは生身・IS(サバイブ以外の特殊カードは封印)のどちらとも勝敗の数が拮抗しているからな。

今日こそは決着をつけたいものだ。

 

SIDE OUT

 

SIDE 箒

 

『今のお前には一夏の隣に立つ資格は無い』

『お前には足りないものがある』

 

そう千冬さんは指摘して去って行った。

千冬さんがあそこまで言うからには、何かあるのだろう。

わたしには何が足りないんだ?

何があればわたしは一夏の隣に立てるんだ?

わからない……。

 

SIDE OUT

 

SIDE 一夏

 

日が暮れて、夕食の時間になった。

俺たちライダーは1箇所に固まって席を取っている。

俺の右隣はマドカで、左隣はラウラだ。

 

「うん、美味しい♪」

 

マドカはお刺身に舌鼓を打っている。

嬉しいようでなによりだ。

 

「お兄様、この緑色の物体は一体何だ?」

「ん?あぁ、そいつは本わさだな」

「ほんわさ?」

「そう、市販の山葵(わさび)は西洋の山葵を混ぜていたりするんだが、この旅館じゃあ純日本産の山葵を使っているから山葵本来の風味を感じることが出来るんだ」

「ほう……」

 

ラウラに本わさについて説明すると、何を思ったのか本わさを丸ごと口に含む。

 

「〜〜〜〜〜っ!!」

 

あらら……。

しかし山葵を塊状態で口に含む人なんて初めて見たぜ。

 

「……日本人は逞しいのだな」

 

山葵のダメージに悪戦苦闘しているラウラは、そんな言葉を搾り出す。

いやいや、ラウラの食べ方が間違っているんだからな?

そのまま俺たちは、千冬お姉ちゃんの叱責を受けない程度に騒ぎながら夕食を食べ終えた。



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第41話 カミングアウト

設定資料にこの作品のミラーライダーのオリジナル設定と、雷轟のスペックを記載しました。


食事を終えて、俺と千冬お姉ちゃんは部屋に戻った。

 

「なぁ、千冬お姉ちゃん」

「『織斑先生』だ、馬鹿者」

「まぁ良いじゃん。それでさ、『アレ』をやらない?教師の仕事で体が凝っているんじゃないか?」

「ふむ……そうだな、お願いしよう」

 

布団を敷いて、千冬お姉ちゃんが寝そべる。

ん?

扉の前に人の気配がするな。

千冬お姉ちゃんと顔を見合わせる。

 

ニヤリ×2

 

お互いに笑みを浮かべる。

一芝居打つとしますか。

 

SIDE OUT

 

SIDE マドカ

 

わたしは今、お兄ちゃんと千冬お姉ちゃんの部屋に向かっている。

自室にお兄ちゃんを誘って、皆で遊ぶためだ。

部屋に着いたわたしだが、そこには先客が居た。

 

「何やってるの?」

「シッ、静かに!」

 

篠ノ之箒が扉に聞き耳を立てていた。

わたしも気になったので、扉に耳を当てる。

 

『は……初めてだから優しく頼むぞ、一夏』

『わかってるよ、千冬お姉ちゃん。痛くはしないさ』

 

えぇっ!?

もしかしてR-18な展開ですか!?

お兄ちゃんったら光莉さんはどうしたの!?

 

『んっ……どうして肝心なところに触れないんだ。切ないぞ……』

『楽しみは最後まで残しておく主義だからね。しかし随分と艶っぽい声を出すんだね』

『言うな、馬鹿……』

 

あわわわわ。

どうしよう?

どうすればいいの?

篠ノ之は顔を真っ赤にしてフリーズしている。

 

ガチャ。

「「へぶっ!?」」

 

内側からドアを開けられ、わたしと篠ノ之は倒れ込む。

 

「何だ、マドカと篠ノ之か」

 

お兄ちゃんがわたしたちを見下ろす。

 

「え〜と、お兄ちゃんたちは一体何を……?」

 

勇気を振り絞って聞いてみる。

 

「何って、マッサージだが?」

「「マッサージ?」」

 

あれってマッサージの声だったの!?

 

「おいおい、何を想像してたんだ?」

「「…………」」

 

わたしと篠ノ之は赤面して黙り込む。

恥ずかしくて言えないよ!

 

「一夏、マッサージで汗をかいただろう。もう1度風呂を浴びて来い」

「え?……あぁ、わかった」

 

千冬お姉ちゃんにそう言われたお兄ちゃんは、タオル等を持って去って行った。

 

「さて、マドカに篠ノ之。丁度良い、少し付き合え」

 

そう言って、千冬お姉ちゃんはわたしと篠ノ之を部屋に招き入れる。

何を話すつもりなんだろう?

 

「さて、一夏(アイツ)が居ないから聞いておこうか。アイツは家事全般をこなすし、腕っ節もわたしと同レベルだ。姉のわたしが言うのも何だが、十分に優良物件と言えるだろう。どうだ、欲しいか?」

「く、くれるのですか!?」

 

篠ノ之の食いつきっぷりが凄い。

まぁわたしもお兄ちゃんがフリーだったら、同じような反応をしたんだろうけど。

 

「それは不可能だ。アイツには婚約者が居る。来月には結婚だ」

「なっ……。幼馴染のわたしが居ながら婚約者!?しかし千冬さん、結婚って一夏は15歳ですよ!?」

「一夏と工藤は男性IS操縦者ということで、IS学園入学と同時に自由国籍となっている。日本の法律に従う(18歳まで待つ)必要は無い」

「そうですか……。しかしどうして結婚なんて……。ハッまさか政略結婚!?」

「そんな真似わたしがさせると思うか?一夏と光莉(婚約者)は心からお互いを愛している。だからわたしも認めたんだ」

「そんな……。わたしは幼馴染なのに……」

「さっきから聞いていれば幼馴染幼馴染って言っているけど、幼馴染だから何なわけ?」

「マドカの言う通りだ。それに光莉(婚約者)の方が一夏にとっては幼馴染だぞ。一夏が篠ノ之道場に通い始める1年も前に出会っているからな」

「なっ……!?わたしは知りませんよそんな女!」

「『ちょっとした事情』があってな。彼女が学校に通い始めたのは小学5年からだ。お前が知らなくとも無理はない」

「そんな……」

「話は変わるが篠ノ之、昼にわたしが話した『お前に足りないもの』の答えは出たか?」

「……いいえ」

「それがわからないのであれば、婚約者の有無に関わらずお前が一夏の隣に立つことは認められん。一夏のことは諦めろ」

「…………」

 

篠ノ之はそれには答えず、ふらふらと部屋から出て行く。

 

「お兄ちゃんに突っかかったりとかしなければ良いんだけど」

「一夏と光莉なら、篠ノ之がISを纏ってもそれぞれ生身と人間体でも鎮圧出来るさ。篠ノ之は心も身体も未熟だからな」

 

生身でISと渡り合えるって……。

いや、前にお兄ちゃんが『6000AP以上のミラーモンスターなら、ISと互角に戦える』って言っていたからあながち間違いでもないのかな?

 

SIDE OUT

 

SIDE 一夏

 

俺は今、千冬お姉ちゃんに言われて風呂に入っている。

せっかくだからミラーワールドの風呂に入ることにした。

俺が入っている露天風呂からは、外の風景がばっちり見える。

外ではライダーの皆の契約モンスターが戯れていた。

 

ボルキャンサーとアクアギガは、それぞれのハサミでどちらが先に木を切り倒せるかの勝負をしているようだ。

しかしアクアギガの類型モンスターのマグナギガって、設定資料じゃあハサミのパワーが確か50tじゃなかったっけ?

ボルキャンサー勝てるかな?

 

他にはメタルゲラスとデストワイルダーが浜辺で徒競走をしていたり、ハルピュイアクイーンとバイオグリーザが砂の城を作っていたりと、それぞれ楽しんでいるようだ。

あれ、そういえば光莉は?

 

「お邪魔します、マスター」

「ご主人様〜!」

 

光莉と人化したブランウイングが、バスタオルを巻いた状態で風呂に入って来た。

海に居ないと思ったらそういうことか。

 

「こうしてマスターと一緒にお風呂に入るのは、初めてですね」

「そう言われれば……そうだな」

 

『はい、あ〜ん』や膝枕や同衾は日常茶飯事だが、混浴は確かにこれが初めてだ。

しかし光莉がバスタオルを巻いてくれていて助かった。

もし裸だったら、俺の理性が崩壊して光莉を押し倒していたかもしれない。

光莉は俺を受け入れてくれるだろうし、来月には結婚なので特に問題は無いのだが、光莉と『そういうこと』をするのは光莉と結婚してからやりたいのが本音だ。

 

「「「いい湯だなぁ〜」」」

 

俺・光莉・ブランウイングの声が重なる。

普段は鍛錬をするか光莉といちゃついている俺だが、こうしてのんびりするのもたまには良いと思った。

 

SIDE OUT

 

SIDE 箒

 

『一夏には来月に結婚を控えた婚約者が居る』

『政略結婚などではなく、2人は心からお互いを愛している』

『婚約者は一夏とは篠ノ之よりも旧い仲だ』

 

何故だ!

どうして一夏はわたしではなく、何処の馬の骨とも知れない相手なんかと婚約しているんだ!

剣道を辞めただけでは飽き足らず、学生の身分で結婚をするほど腑抜けたか!

姉さんから専用機を貰ったら、真っ先に婚約者の女を排除して一夏を更生させてやる!

首を洗って待っていろ、一夏!



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第42話 暴挙

タイトル通り、箒がやらかします。
閲覧注意なり。


臨海学校2日目。

旅館の前にいくつものコンテナが搬送されて来た。

専用機持ちたち宛の装備だ。

 

セシリアには強襲機動用パッケージ『ストライク・ガンナー』が。

鈴には機能増幅パッケージ『崩山(ほうざん)』が。

ラウラには砲戦パッケージ『パンツァー・カノーニア』が。

簪には打鉄用パッケージの上位互換が。

マドカには俺のドラグーン・ユニットを模したブレード・ビット8基セットのパッケージが。

シャルには統合武器ストライカーパック、略称『IWSP』が届いた。

 

俺には無い。

龍騎士(ドラグナー)はISとしてほぼ完成型なのでパッケージは必要無いのだ。

それに新たなモンスターと契約すればそれだけで武装が増えるしな。

 

「全専用機持ちは武装を確認、インストール後に集合、他の生徒はこの場で訓練を続けるように!専用機持ちは一旦集まれ!」

 

千冬お姉ちゃんの指示で、俺・マドカ・鈴・セシリア・シャル・ラウラ・簪・篠ノ之が1箇所に集まる。

 

「織斑先生、篠ノ之さんは専用機持ちではないのでは?」

「そうだが、少し確認したいことがあってな。……織斑兄」

「了解」

 

セシリアに質問された千冬お姉ちゃんは俺に視線を向ける。

俺は龍騎士(ドラグナー)を起動して、1つの音声ファイルを開く。

 

『〜♪』

「呼ばれて飛び出てジャジャジヤジャーン!束さんだよ〜!」

 

『ゼルダの伝説』の謎解き音と同時に、束お姉ちゃんが光莉とクロエを引き連れて現れる。

なんで束お姉ちゃんは自分を呼ぶ時にこの音を流すように言ったんだろう?

 

「え……束って、まさか……」

「そうだよ〜、わたしこそがISの生みの親『篠ノ之 束』なのさ!」

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

鈴・セシリア・ラウラ・シャル・簪の驚愕の声が重なる。

周囲に居る一般生徒も驚いているようだ。

 

「ほらほら、くーちゃんと光莉ちゃんもご挨拶」

「束様の助手を務めているクロエ・クロニクルです」

 

そう言ってクロエは、ラウラと目を合わせる。

2人揃っているところを見ると、ほんと瓜2つだな。

生い立ちを考えると当たり前だけど……。

 

「束さんの助手兼一夏くんの婚約者の巽 光莉です」

『ウゾダドンドコドーン!』

 

光莉の素性を聞いた一般生徒たちの何人かが、オンドゥル語を叫びながらorz状態になる。

もしかして俺を狙っていたりしたのか?

 

「……が……を……」

「どうしました、篠ノ之 箒さん?」

「貴様が一夏を(たぶら)かしたのかぁぁぁぁぁ!」

 

篠ノ之はどこからともなく日本刀を取り出し、光莉に切りかかる。

何やってんだアイツ!?

光莉を殺す気か!?

光莉は『自分でなんとかします』と目で語っているので、俺は静観することにした。

 

ザシュッ。

 

身体を斜めに切りつけられた光莉は、鮮血を噴き出しながら仰向けに倒れる。

 

「ハハッ、ハハハハハハハッ!『わたしの一夏』に手を出した報いだ、思い知ったか!」

「…………そうか、お前は人を殺して笑うような奴なんだな」

『FINAL VENT!!』

 

哄笑を上げる篠ノ之にもう手加減する必要は無いと判断した俺は白鳥のエムブレムが描かれたカードを、部分展開したシャインバイザーに装填する。

 

「ピィ!」

 

巨大化したブランウイングが篠ノ之を俺の居る方向に吹き飛ばす。

俺はファイナルベントの発動と同時に自動召喚された、ブランウイングの羽の骨格を模した薙刀『ウイングスラッシャー』を振るう。

 

「ハァッ!」

ドゴッ!

「がはっ……」

 

峰打ちだったため身体は真っ二つにならなかったが、肋骨は何本か折れているだろうな。

俺は篠ノ之を一瞥すると、光莉に駆け寄る。

 

「光莉、大丈夫か?」

「えぇ……辛うじて、ですけど……」

 

言葉とは裏腹に、光莉は無理のない微笑みをつくる。

見た目ほどの重症じゃないということか。

でも手当てはしないとな。

 

「織斑先生、学園から持って来た医療設備で光莉の手当ては出来ますか?」

「可能だ。早く医務室へ連れて行ってやれ」

「了解」

 

俺は光莉を抱きかかえると、医務室に向かって走る。

医務室に着き、光莉の手当てを終えた俺はひとまず安堵の息を()く。

 

「光莉、どうしてわざと切られたんだ?」

「わたしはミラーモンスターですよ、マスター。あの程度の傷も出血も、大したことはありません。ならばあの状況で篠ノ之箒には殺人未遂(できるだけ重い罪)を犯してもらうべきです」

「そうだけどさ……。光莉が傷つくのも俺は嫌なんだぜ?俺が光莉を庇って傷ついた方が効果的だったんじゃないか?」

「そうですけど、人間の身体では当たりどころによっては即死しますよ?わざと切られるならISの緊急展開と生命維持の機能をカットしなければなりませんし、リスクが高すぎます」

 

はぁ……。

光莉に論破されてしまった。

 

「それで……光莉。その傷はどれくらいで癒える?」

「傷痕が残らないようにするなら、あと3時間ほどでしょうか」

「早いなオイ」

「だから言ったではありませんか、『大したことはありません』と」

 

SIDE OUT

 

SIDE 鋼夜

 

一夏が箒に切られた巽さんを抱きかかえて、この場から去って行く。

あまりの状況に、悲鳴を上げる生徒すら居ない。

俺は『ミスティースラッシュ』の峰打ちを受けた箒に視線を向ける。

 

「ぐっ……。何故だ、一夏……。わたしはお前のために……」

 

この期に及んでまだそんなことを言っているのか。

『一夏のため』じゃなく『自分の独り善がりのため』の間違いだろ。

 

「箒ちゃん……、どうして光莉ちゃんを殺そうとしたの?」

「一夏の隣に立つためです、姉さん。わたしに専用機を……」

「人殺しに渡す専用機は無いよ、箒ちゃん」

「なっ……何故です姉さん!」

「わたしのISは人殺しの道具じゃないよ。今の箒ちゃんは専用機を光莉ちゃんを殺すためにしか使わないでしょ?」

「そんなこと……(ドスッ)」

 

箒の抗議は途中で遮られる。

ブランウイングが翼によるチョップを箒の後頭部に打ちつけ、箒を気絶させたのだ。

箒はそのままブランウイングによって何処かへ運ばれていく。

その光景を見ながら俺は、入学したばかりの頃に一夏に言われたことを思い出す。

 

『俺が原作の織斑一夏と違う行動をしている時点で周囲の人物は原作とは別人だ。お前が好きな「篠ノ之箒」とこの世界の「篠ノ之箒」は違う存在だと割り切って普通の恋愛をした方が良いんじゃないか?』

 

お前の言う通りだよ、一夏……。

ファース党な俺だが、こんな箒……いやモッピーは好きになれないわ。

 

「そこのきみ」

「俺ですか?」

「そう、わたしはきみに用があるのだよ工藤鋼夜君」

 

なんか束さんに声を掛けられた。

男性IS操縦者だからか?

 

「男性IS操縦者としてのデータを取らせて欲しいんだ」

「え!?えっと、それは……」

「工藤、わたしからも頼む」

「織斑先生!?」

 

迷っていると、織斑先生に頭を下げられた。

 

「束は本気でISによって歪んだ世界を正そうとしている。それに手を貸して欲しい」

「織斑先生……。わかりました」

「うん、ありがとう『こーくん』。じゃあこのISコアに触ってくれないかな?」

 

そう言って、束さんはノートパソコンとコードで繋がっているISコアを差し出してきた。

そのコアに手を添える。

 

「……ふむ、女性はもちろんいっくんとも異なるデータだね。これはもしかしたら他の男でもISを動かせるようになるかも」

 

マジですか。

それなら女尊男卑も近い内に終わったりするのか?

 

織斑先生の方を見ると、山田先生と手による信号で話をしていた。

やっぱ福音が来たのか……。

 

「工藤、ちょっと良いか」

「なんですか、織斑先生?」

(ライダーのお前は、空中戦が出来るか?)

 

耳打ちで聞かれる。

専用機持ちじゃなくても、ライダーだから戦力に含まれるということか?

しかし空中戦か……。

エビルダイバーに乗れば可能だな。

 

(一応、空を飛べるモンスターと契約しています)

(そうか。ならば専用機持ちたちと一緒に来てもらう)

(一夏はどうするのですか?)

(アイツにとって最優先事項は光莉だ。光莉の容態が安定するまでは、何が起ころうと梃子(てこ)でも動かんだろう)

 

つまり、もし一夏が不参加になったらモッピーが間接的にその原因を作ったことになるのか。

ミラーモンスターがどれほどの生命力を有しているかは知らないが、一夏が安心する程度には回復して欲しいものだ。



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第43話 作戦会議

「全員、集まったな」

 

旅館のとある一室。

そこに俺・マドカ・千冬お姉ちゃん・鋼夜・鈴・セシリア・シャル・ラウラ・簪・山田先生が集まった。

光莉の看病をしている最中、緊急事態が発生したらしく専用機持ちとして招集が掛けられた。

光莉の傷が完治するまで側に居たかった俺だが、光莉の容態自体は既に安定しているので専用機持ちの責任を全うすることにした。

 

「今から約2時間前、アメリカ・イスラエルが共同開発した第3世代軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が試運転中に暴走・制御不能に陥った。暴走した福音の行き先は日本だ。そして進行ルートはこの旅館の付近。アメリカ政府は福音の鎮圧にIS学園の専用機持ちを指名し、学園側がそれを了承した」

「つまり、俺たちでその福音を日本に上陸する前に止めろ、と」

「そうだ。そしてこれは訓練や競技ではなく実戦だ。当然ながら命の危険が伴う。作戦への参加を拒否する者は退室しろ。止めはしないし、誰もその行為を責めたりはしない」

 

千冬お姉ちゃんがそう言うが、誰も退室しなかった。

 

「よかろう。ではこの8人による作戦を行う。質問があるものは挙手しろ」

「はい。目標ISの正確なスペックを要求します」

「わかった。だがこのデータはアメリカ・イスラエル2カ国の最重要機密事項だ。漏洩した場合は厳罰に処され、最低でも2年の監視がつくことになる。良いな」

 

そう前置きをして、千冬お姉ちゃんは福音のデータを俺たちに見せる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……。わたくしや一夏さん、マドカさんと同じオールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね……厄介だわ。しかもスペック上ではあたしの甲龍(シェンロン)を上回っているから、向こうの方が有利」

「この広域射撃と高機動スラスターを兼ねた翼『銀の鐘(シルバー・ベル)』が曲者って感じはするね。丁度本国から新型のストライカーパックが来てるけど、この武装への対応は難しいと思う」

「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん」

「てゆーか軍用ISって、アラスカ条約ガン無視じゃん。国が揃いも揃って何考えてんだか……」

「確かにな。クラス代表トーナメントの時といい、アメリカめ……」

 

俺の言葉に千冬お姉ちゃんが同意し、溜息を()く。

クラス代表トーナメントで襲撃して来た無人ISは、束お姉ちゃんが開発したものを亡国機業(ファントム・タスク)が強奪・改造したものだ。

 

偶然だがその無人ISに使用されていたコアは、かつて俺と光莉が仮面ライダーインペラーを殺害した際に女性権利団体が保有していたISから回収したコアだった。

襲撃して来たISのコアがアメリカのものだったので、当然ながらアメリカにはテロ疑惑が掛けられた。

そしてアメリカはそれが強奪されたISのコアだと主張。

その言い分は認められたものの、今度はISコアの管理の不徹底について糾弾されることになった。

結果、『コアの管理も出来ない国に、返すものなど無い』ということで、コアは慰謝料代わりにIS学園に寄付された。

そのコアは今頃ラファールか打鉄に生まれ変わっているだろう。

 

「それで、福音をどう倒すか……」

「織斑兄、光莉の容態はどうなんだ?」

「命に別状はありません。ただ、約3時間は絶対安静です。この作戦には参加出来ません」

「……わかった。龍騎士(ドラグナー)サバイブのファイナルベントによる撃墜を立案しようとしたのだがな……」

「織斑先生、たとえ光莉が負傷していなくてもその作戦は不可能です。サバイブのファイナルベント『ドラゴンパニッシュメント』はISのシールドエネルギーの4000や5000、軽く消し飛ばす威力があります。福音の撃墜自体は可能ですが、操縦者やISコアは木っ端微塵になるでしょう」

「そんな馬鹿げた威力があるのか……」

 

千冬お姉ちゃんだけではなく、専用機持ちの皆や山田先生も呆れた表情になる。

ん?

山田先生?

 

「織斑先生、山田先生は俺や光莉の事情を知っているのですか?」

「あぁ、お前に招集を掛けている間に話しておいた」

「織斑くん。わたしは教師として、人としてあなたと巽さんのことを祝福しますよ」

「……ありがとうございます、山田先生」

 

理解者が増えるってのは……良いものだな、うん。

光莉との結婚式には絶対に招待しよう。

 

「それで福音ですが、普通に俺が相手するべきですかね?」

「そうだな。輝龍逆鱗で倒せるか?」

競技用IS(ラウラ)を一撃で撃破寸前まで追い込むのにカードを5枚消費した訳ですから……、軍用ISである福音を一撃で倒すには10枚以上のカードが必要だと思います。広域殲滅型の福音がカードを10枚もスキャンさせる暇を与えてくれるでしょうか?」

「無理だろうな。では輝龍逆鱗はファーストアタックで仕掛けるとして、失敗した場合……本命のプランを今から立てる。まずメインアタッカーは織斑兄だ。良いな」

「了解。ですが福音の居る場所までどうやって行くのですか?俺自身はエネルギーを全て戦闘に回したいのですが……」

「お前を現場まで運ぶ者を今から選出する。この中で最も高い機動力を有するのは誰だ?」

「わたくしです、織斑先生。それに、丁度本国から強襲型パッケージ『ストライク・ガンナー』が届いております」

「……なるほど。オルコット、高速戦闘の訓練時間は?」

「20時間です」

「問題無し、か。では織斑兄とオルコットの参加は確定として……」

「念のため運搬役のセシリアとは別に僚機を連れて行きたいですね。……ラウラ、確かお前に届いたパッケージは砲戦仕様だったな?」

「うむ。お兄様の言う通り、『パンツァー・カノーニア』はレールガン2門と物理シールド2枚を装備するパッケージだ」

「よし。ではラウラを連れて行きます。ラウラの運搬役はスペキュラムパックを装備したシャルで。現地に着いたらラウラにはサムブリットパックに換装したシャルと共に援護射撃をして欲しい」

「了解だ、お兄様」

「任せて、一夏」

「決まりだな。では、本作戦は織斑兄・オルコット・ボーデヴィッヒ・デュノアの4名で行う。オルコットとボーデヴィッヒは直ちにパッケージのインストールを開始しろ。1時間後に作戦を開始する」

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏って、高速戦闘の経験あるの?」

「厳密に言えば無いが、アクセルベントを何度も使っているおかげで目と身体は速さに慣れているからな。問題無い」

 

作戦前の空き時間。

俺はシャルと話をしていた。

俺もシャルも、パッケージをインストールする必要は無いため暇なのだ。

この作戦のメインアタッカーは俺だし、シャルとはあまり連携訓練をやっていないのでIWSPの出番は無いだろう。

 

「いっくん」

「ん?束お姉ちゃん?どうしたの?」

「福音のことをさっき聞いたんだ。わたしもちょっとだけ手を貸すよ」

「どうするの?」

「あのセシリアって娘とラウラって娘のパッケージのインストール。わたしがやれば7〜8分で終わるよ」

「マジで!?普通は30分くらいかかるものなのに!?」

「そうだよ。だからいっくん、今の内に光莉ちゃんに『行ってきます』の挨拶を済ませて来たら?」

「……あぁ、そうする」

 

俺は束お姉ちゃんにそう言われて、再び医務室に足を運ぶ。

そこで光莉に事情を説明する。

機密に触れる内容も話してしまったが、光莉になら問題無い。

 

「……そうですか。ではマスター、どうかお気をつけて」

「あぁ。光莉、俺は必ずお前の元に帰って来る。待っていてくれ」

 

医務室のベッドの上。

俺と光莉の唇が重なった。

 

そして作戦が決定してから20分後。

セシリアとラウラのインストールが終わった。

浜辺で俺たち4人はISを展開し、俺はセシリアの、ラウラはシャルの機体の背中に乗る。

 

「では、現時刻より作戦を開始する」

「了解。織斑一夏、龍騎士(ドラグナー)行きます!」

「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ参ります!」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン出撃する!」

「シャルロット・デュノア、雷轟発進します!」

 

俺・セシリア・ラウラ・シャルの4人は、福音に向けて飛び立った。



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第44話 銀の福音

先に言っておきます。
福音との戦闘は原作に比べて万全な態勢で挑んでいるので、物語としてはつまらない内容となるでしょう。


俺・セシリア・ラウラ・シャルが出撃して十数分。

 

「一夏さん。センサーで福音を捉えましたわ」

「了解」

 

強襲型パッケージに付属していた高感度センサーにより、セシリアが最初に福音を捕捉する。

それに応じて、俺は契約モンスターのカードをシャインレイザーにスキャンさせていく。

 

「福音と真正面からすれ違いますわよ!コンタクトまで5……4……3……」

 

よし、スキャン完了!

 

「2……1……0!」

「いっけぇぇぇぇぇ!バーサークスラッシュLv.12!!」

 

カード12枚分の力を込めたシャインレイザー・ソードモードを福音に振り下ろす。

 

「なっ!?」

「ちっ、やっぱ駄目か!」

 

福音はバレルロールのような動きでシャインレイザーを回避する。

バーサークスラッシュの効果時間は、最後のカードスキャンからの15秒間。

超高速ですれ違った以上、時間内での再コンタクトは不可能だ。

念のためライダーの皆から契約モンスターのカードを借りてはいるのでもう1度バーサークスラッシュを発動することは可能だが、最初の1発を外した以上は2回目以降の命中率はほぼ0だろう。

 

「失敗してしまいわしたわね……」

「輝龍逆鱗による撃墜は駄目元の作戦だったし、仕方が無いさ。シャル、ラウラ、砲撃開始!」

「「了解!」」

 

ラウラのレールガン『ブリッツ』とシャルのアグニⅡが火を吹き、離脱しようとする福音の足を止める。

 

『…………!』

「さて、この場で墜とさせてもらうぞ!」

 

シャインブラスター2丁を取り出して、福音に向けて連射する。

 

『La…………♪』

 

福音は歌のような電子音声を発しながら、銀の鐘(シルバー・ベル)を起動させる。

銀の鐘(シルバー・ベル)には36の砲門があり、内訳は実弾とビームが半分ずつ。

福音のシールドエネルギーをある程度削ったら、サバイブ化して特攻を仕掛けるのもアリだな。

 

銀の鐘(シルバー・ベル)はシャインブラスターより威力も手数も上で、シャインブラスターのビームを相殺してなお攻撃がこちらに向かって来る。

 

「ふむ……銃じゃ駄目か」

『SWORD VENT!!』

 

ドラゴソードを呼び出し、弾を叩き落としながら福音に接近する。

 

「くらえ!」

『ッ!?』

 

タイミング良くラウラの放ったレールガンが福音に命中し、福音がよろめく。

 

「今だ、お兄様!」

「ラウラ、ナイス!」

『ACCEL VENT!!』

「飛天御剣流・龍槌閃!!」

 

俺の龍槌閃が銀の鐘(シルバー・ベル)の片方を切り落とし、福音はバランスを立て直せないまま海に落ちる。

 

「やったのかな?」

「まだだ、シャル。4対1とはいえ、軍用ISがこの程度のはずが無い」

「一夏さんの言う通りみたいですわね」

「これは……高エネルギー反応!?」

 

水柱と共に、福音が再び俺たちの前に現れる。

先程俺が与えたダメージは修復され、全身からエネルギーの翼のようなものを放出している。

 

二次移行(セカンド・シフト)したというのか!?お兄様、気をつけろ!」

「わかってる。そろそろコイツの出番のようだな」

 

カードデッキから、サバイブのカードを取り出す。

その瞬間、俺の周囲に風が巻き起こる。

 

『『SURVIVE!!』』

 

シャインバイザーツバイにサバイブのカードを装填し、こちらも二次移行(セカンド・シフト)する。

 

「さあ、第2ラウンドといこうか!」

 

月夜に照らされた海の上。

黄金の龍騎士と、銀翼の天使が今、ぶつかり合う。



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第45話 断ち切られる絆

『ハイマットモードに移行。ヴォワチュール・リュミエールシステムを展開します』

 

メッセージと同時に、龍騎士(ドラグナー)サバイブの非固定武装(アンロック・ユニット)が変形し、光が放出される。

 

「さあ、ついて来れるか?」

 

何度も軌道を変えながら、フルブーストで福音に接近する。

 

『ッ!?』

「おらっ!」

ガギン!

 

っ!?

何だこの手応え!?

見ると、シャインソードで切られたにも関わらず、福音の装甲には引っ掻いた程度の傷しか無かった。

嘘だろ!?

サバイブの剣なんだぞ!?

 

「ちっ……こりゃ輝龍逆鱗じゃないと墜とせそうにないな」

 

一旦福音から距離を取り、武器をシャインレイザーに持ち替える。

カードスキャンをしようとした瞬間。

 

『La♪』

バシュッ!

「あっカードが!」

 

ビームでカードが燃やされた。

今燃やされたのは、光莉(シャインナーガ)のカード。

つまり……。

 

「一夏さん、龍騎士(ドラグナー)の装甲が!」

「くそっ!」

 

光莉との契約が解除されて、龍騎士(ドラグナー)がナイトのブランク体になってしまった。

今の俺は、見た目も状況もフェイズシフトダウンしたストライクガンダムのようなものだ。

幸いにもサバイブは維持されたままだが、大幅なパワーダウンをしてしまった。

 

「どうする、お兄様?撤退するか?」

「いや、まだだ!」

『『FEATHER VENT!!』』

 

ラウラの撤退という意見を却下し、ドラグーン・ユニットを展開する。

ドラグーンで福音を抑えながら、皆と作戦会議を開く。

 

「でも一夏、どうやって福音を倒すの?龍騎士(ドラグナー)がパワーダウンした今、僕とラウラの援護射撃があっても勝つのは難しいよ?」

「あぁ、実際今の龍騎士(ドラグナー)は第2世代の機体を一次移行(ファースト・シフト)させた程度のスペックしか出せないだろう。だが俺には輝龍逆鱗がある。こいつは威力をアドベントカードに依存しているから、契約が解除された今でもカードスキャンさえ重ねれば福音を撃墜出来るだけのパワーが出せる。だから……」

「わたしとシャルロットで福音のシールドエネルギーを削りつつ、動きを止めれば良いのだな?」

「あぁ。それが駄目だったら撤退しよう。セシリアも援護射撃を頼めるか?」

「引き受けたいところですが……先程ブルー・ティアーズが、近くにある船舶を捕捉しましたわ」

「何だと!?この周辺の海域はIS学園の教員が封鎖しているはずだぞ!?」

「お兄様、そいつらは恐らく密漁船だ」

「くそっこんな時に!セシリアはそっちに行かなきゃならないから、シャルとラウラに頑張って貰わないといけないのか!」

「大丈夫だよ、一夏」

「わたしたちを信じろ、お兄様」

「……わかった。だが、二次移行(セカンド・シフト)した福音のスペックは未知数だ。序盤は俺も付き合う。シャル、スペキュラムパックを借りるぞ」

「うん、わかった」

『『COPY VENT!!』』

 

シャルに一旦サムブリットパックからスペキュラムパックに換装してもらい、コピーベントで複製する。

サバイブを解除して身軽になり、俺はスペキュラムパックのビームサーベルを抜剣する。

 

「いくぞ!」

「「了解!」」

 

サバイブ解除と同時にドラグーンも消滅したため、自由になった福音がこちらに向かって来る。

 

『La♪』

「もう食らわねぇぞ!」

 

エネルギーの弾をビームサーベルの2刀流で叩き落としつつ、すれ違い様に福音を切る。

 

『La!?』

 

よし、実剣よりはダメージを与えられるみたいだな。

そのまま戦闘を行なうこと十数分。

ラウラの砲撃と、小まめにストライカーパックを換装して攻めるシャルの奮戦もあって、正確な数値はわからないが福音のシールドエネルギーを半分は削れたのではなかろうか?

 

「一夏、そろそろ輝龍逆鱗の出番じゃない?」

「そのようだな。よし、ここからが正念場だ!頼んだぞ2人とも!」

「うん!」

「任せろ!」

 

戦闘から離脱して、カードのスキャンを始める。

 

『La♪』

 

福音がシャルを振り切って、こちらにやって来た。

飽くまで俺のカードスキャンを邪魔する気か!

たった今スキャンしたのは7枚目。

せめてあと1枚スキャンする余裕さえあれば……。

 

ズガン!

『ッ!?』

「マスター!」

「なっ……光莉!?」

 

背中からシャインナーガの翼を生やした光莉が現れ、ナーガキャノンで福音を弾き飛ばした。

光莉は人間体のまま、身体の一部をドラゴンのものに戻せるので今のように空を飛ぶことも出来るし、手足をシャインナーガの鱗で覆えばISの装甲も殴り飛ばせる。

契約が解除されたため、俺のことが心配になって出て来たのだろう。

だが……。

 

「どうしてここがわかった!?真っ直ぐに来ないと、こんな短時間で駆けつけるなんて出来ないだろう!?」

「愛の力です」

 

愛の力か。

うん、それなら仕方が無いな。

 

「それよりも今は輝龍逆鱗の最中なのでしょう?早くカードスキャンを!」

「あぁ、そうだな」

 

8枚目のカードをスキャンする。

 

「バーサークスラッシュLv.8!!これでどうだぁぁぁぁ!」

 

ブランスナイパーの一撃でよろめいた福音はシャルによって羽交い締めにされており、為す術もなくバーサークスラッシュを受ける。

それによって福音はシールドエネルギーが底を突き、シャルの腕には福音の操縦者だけが残る。

 

「……終わったな」

「皆、お疲れ」

 

光莉の援護もあって、皆無事にミッションを完遂出来た。

セシリアは密猟者を、シャルは福音の操縦者を引き連れ、ラウラを合わせた3人で帰還していく。

そして、この場に残ったのは俺と光莉の2人。

俺はカードデッキから、予備の契約のカードを取り出す。

 

「光莉、もう1度俺と契約してくれないか?」

「はい、喜んで」

 

即答する光莉に、龍騎士(ドラグナー)の頭部を解除した俺は口付けをする。

そして龍騎士(ドラグナー)は、再び金と銀に彩られた。



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第46話 戦いの後

俺・光莉・セシリア・シャル・ラウラは、無事に旅館へ帰還した。

 

「全員、よくやった。事情聴取や報告書の類は必要ないため、後はゆっくり休むと良い」

「「「「はい!」」」」

「うむ。織斑兄・オルコット・デュノア・ボーデヴィッヒはそれで構わん。だが……」

 

千冬お姉ちゃんは光莉に視線を向ける。

 

「光莉、何だその状態は?」

「わたしは怪我が完治していないのに出撃するという無茶をしたので、マスターの罰を受けている最中なのです」

「『それ』は罰と言えるのか……?」

 

千冬お姉ちゃんは呆れている。

何故なら今の光莉の状態は『お姫様抱っこ』だからだ。

俺としては光莉を抱っこするのは帰還するまでの予定だったのだが、旅館に着いても光莉に離れるつもりは無いらしい。

 

「ハァ……。まぁ良い、光莉も怪我が完治していないのだろう?お前も休め」

「わかりました」

 

医務室に行ってもう1度光莉の手当てをした俺は、医務室に光莉を残してとある部屋に足を運んだ。

 

「お邪魔します」

「ん、いらっしゃい」

 

部屋の中には、気絶したままの福音の操縦者と束お姉ちゃんが居た。

束お姉ちゃんは、アメリカ政府の同意の上で『暴走機の鎮静化』と『今回の事件の原因究明』という名目で福音を解析中だ。

 

「束お姉ちゃん、何かわかった?」

「うん。実は……」

「うっ……」

 

束お姉ちゃんが口を開いたと同時に、福音の操縦者の意識が戻ったようだ。

 

「意識が戻ったようだね。きみの名前は?」

「……ナターシャ・ファイルス。わたしは一体……」

「あなたの機体『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は試運転中に暴走したんだ。それを俺を含めたIS学園の専用機持ち4人で鎮圧した。ここは日本のとある旅館だ」

「そう、ですか……。あの、『この子』はどうなるのでしょう?」

 

そう言って、ファイルスさんは待機状態の福音を見る。

 

「暴走を起こした軍用ISだからな……。凍結処分が妥当ってところか?」

「いっくん、それは機体に原因がある場合だよ」

「てことは、今回の事件は別の原因があるってこと?」

「うん。さっき福音を解析した結果、暴走の原因は外部からのクラッキングだとわかったよ」

「なっ……!?誰が一体何のために……」

「恐らく、福音が欲しいテロリストなんじゃないか?今回の事件で福音が凍結処分になったら機体は操縦者から隔離される。操縦者の居ないISってのは、奪う側にとっては格好の獲物だからな……」

「いっくんの推測は多分当たってるよ。クラッキングの痕跡はかなり巧妙に隠されていたからね」

「そんな……。あの……貴女は篠ノ之 束博士ですよね?この子を助けるにはどうすれば……」

「う〜ん……。正直に言ってアラスカ条約を無視した軍用ISなんて糞食らえなんだけど、きみに免じて手を貸してあげよう。その子はきみのことを大事に思っているみたいだからね」

「そういえば福音は俺たちとの戦闘で二次移行(セカンド・シフト)をしていたな。まだロールアウトすらしていない機体がそれだけの経験値を得ていたとは考えにくい。あれは、ファイルスさんを守るための強引な形態移行(フォーム・シフト)だったのかもしれないな」

「この子が、わたしを……?」

 

ファイルスさんは、信じられないといった表情で福音を見つめる。

後は束お姉ちゃんに任せれば大丈夫だろう。

俺は部屋を出て、光莉の居る医務室へ戻った。

俺と光莉は、医務室に鋼夜を招いて『原作』ではどうだったのかを聞いてみた。

そして聞いた俺と光莉の感想は同じだった。

 

「「何そのご都合主義?」」

 

いや、篠ノ之に束お姉ちゃんから専用機が与えられたことも驚きだが、福音との戦闘で一夏()二次移行(セカンド・シフト)したり、篠ノ之の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が目覚めたりとか、実力じゃなく運とタイミングが良かっただけじゃね?

 

しかも一夏()は、密漁船を庇って1度撃墜されたらしい。

馬鹿じゃねぇの?

それで取り逃がした福音が日本に上陸して暴れたら、密猟者より大勢の一般市民が犠牲になるんだぞ?

目先の命にとらわれ過ぎだろ。

 

それに二次移行(セカンド・シフト)した福音との戦闘は、一夏()が来なければ負けるところだったとか。

代表候補生の乗るパッケージをインストール済の専用IS4機と第4世代ISがあったにも関わらず、だ。

俺たちの場合は、セシリアはほぼ不参加だし、ラウラは援護射撃に徹していたのでノーダメージ。

俺とシャルも多少の被弾はしたが、それでもシールドエネルギーは8割以上残っていた。

つまりこちらは実質3対1で余裕勝ちしたのに対し、原作は6対1での辛勝。

原作の皆が弱いのか、それとも原作の福音が強いのか……。

前者だとしたら引くな……。

そうだとしたら、こちらにライダーとしての経験値があるとはいえ、実力差があり過ぎだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、面会時間は10分です」

「わかりました、山田先生」

 

臨海学校最終日(3日目)の朝。

俺は旅館に作られた即席の懲罰房に足を運んでいた。

ここには篠ノ之が拘束されている。

光莉に対する殺人未遂は完全に篠ノ之が悪いのだが、歪んだ好意を向けられているとわかっていながら目を逸らし続けた俺にも原因があるだろう。

山田先生の許可を貰って中に入る。

篠ノ之が全身を拘束されていること以外は普通の部屋だな。

 

「一夏……」

「よう篠ノ之。犯罪者になった気分はどうだ?」

 

昨日の一件で、篠ノ之は銃刀法違反・傷害罪・殺人未遂の現行犯だ。

例え未成年でも、刑務所行きは免れないだろう。

 

「一夏、あの巽とかいう女と婚約しているのは事実なのか?」

「あぁ、そうだ」

「何故わたしじゃないんだ?」

「じゃあ聞くが、何故篠ノ之は俺がお前を伴侶に選ぶと思っているんだ?」

「わたしとお前は幼馴染だろう」

「また『幼馴染』か……。俺とお前は幼馴染なんて親しい関係じゃないと言っているだろう。百歩譲って幼馴染だとしても、その肩書きは何をやっても許される免罪符じゃないんだぞ?」

「…………」

「それに千冬お姉ちゃんから聞いたんだろう?俺にとっての幼馴染はお前よりも早く出会った光莉だと」

「あんな女のどこが良いんだ!?」

 

こいつ……!

光莉のことをろくすっぽ知りもしないで『あんな女』呼ばわりだと……!

 

「俺が光莉を愛しているのは、彼女が誰よりも俺に愛と信頼を寄せてくれて、俺が誰よりも愛し信じることが出来るからだ。それに対してお前はどうなんだ?お前は俺のことを理解しているのか?俺はお前の何を信じれば良い?」

「くっ……。でも、昔はわたしをいじめから助けたりしてくれて、あんなに仲良くしていたじゃないか!それなのに何故!?」

「お前は努力したんだろうが、俺の心を動かすまでには至らなかったということだ。つまり俺を振り向かせられなかったお前の落ち度だ」

「そんな……」

「そろそろ面会の制限時間だから最後に1つ言っておく。俺はお前の都合の良い人形じゃない。意思を持った人間だ。俺が光莉を愛する想いも俺だけのものだ。お前にも、他の誰にも変えられはしない」

 

そう言い残して、俺は懲罰房を出る。

外では、山田先生の他に千冬お姉ちゃんと肩にブランウイングを乗せた光莉が居た。

 

「どうでした、マスター?」

「また幼馴染の肩書きを免罪符にしようとしていたよ。これで治らないようなら取り調べの前に精神鑑定が必要だな」

「そうか……」

「ピィ……」

 

俺には、篠ノ之が刑務所で少しでも自身の行ないを悔いることを祈るしかない。

光莉は龍騎士(ドラグナー)の整備士として、このまま臨海学校に付き合うそうだ。

それは嬉しいが、今の気分的に素直に喜べない。



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第47話 臨海学校の終わり

臨海学校3日目。

専用機持ちの皆は、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走で流れてしまった、パッケージのデータ収集をしていた。

パッケージの無い俺は、光莉と一緒に龍騎士(ドラグナー)のメンテナンスだ。

束お姉ちゃんは、福音を凍結処分にさせないための報告書を作成している最中である。

 

インストールしたパッケージでドローンを撃ち落としていく皆だが、最もパッケージを使いこなしているのはシャルのようだ。

IWSPは万能型のストライカーパックであるため、シャルとの相性が良いのだろう。

本体である雷轟も、フェイズシフト装甲じゃないため燃費も悪くないしな。

 

2番手はマドカだ。

ブレード・ビットはレーザー・ビットとは使い勝手が違うが、マドカは問題無く扱えているみたいだ。

それどころか初期装備(プリセット)のビットを合わせた16基のビットによる戦闘を模索しているらしい。

俺も自分が何基のドラグーンを同時に扱えるか今度チャレンジしてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして旅館における全ての活動が終わり、生徒たちはバスに乗車する。

ファイルスさんは報告書を持って、迎えの車で既に空港へ向かっている。

束お姉ちゃんもいつの間にか居なくなっていた。

俺はこっそりミラーワールドに潜り、ミラーワールド内のバスに乗車する。

 

「マスター、いらっしゃい」

「おう、隣座るぞ」

 

現実世界で1組の生徒が乗っている1号車内で、光莉と相席する。

ライダーの皆の契約モンスターも、ほとんどがこの1号車に乗っている。

すると光莉が、俺の肩に頭を乗せてくる。

 

「マスター。しばらく、このままでお願いします……」

「あぁ、わかった」

 

光莉の願いを聞き入れた俺は、光莉の腰に手を回して抱き寄せる。

 

「……?どうなさいました、マスター?」

「そういえば、光莉に言い忘れていたことがあってな」

「何でしょう?」

「『ただいま』、光莉……」

 

この言葉が無ければ、『必ず帰って来る』という約束を果たしたことにはならないだろう。

 

「はい。『お帰りなさい』、マスター」

 

光莉は満面の笑みで、言葉を返してくれる。

この時、光莉にキスをしてしまった俺は悪くないと思う。

この幸せな気持ちを表現するには、それしか思い付かなかった。

だが、IS学園に戻った後でミラーワールド越しに見ていたマドカとラウラと鋼夜と本音には生温かい目で見られ、セシリアとシャル(とシャルから一部始終を聞いた鈴と簪と楯無さん)には冷やかされてしまった。

 

しばらくすると、8号車のバスが発車した。

この旅館には1号車を先頭にして来たため、帰りは8号車が先頭なのだ。

そして1号車も動き出す。

俺は1号車の後を走る1台の車に視線を向ける。

ボディーを黒塗りした覆面パトカーだ。

現実世界では、拘束された篠ノ之と監視役の千冬お姉ちゃんがあれに乗っている。

篠ノ之はあれから進展があったのだろうか?

どちらにせよ、酌量の余地などありはしないのだが。

 

SIDE OUT

 

SIDE 千冬

 

わたしは今、篠ノ之と共に覆面パトカーに乗っている。

教師であるわたしや真耶だが、さすがに傷害殺人未遂の生徒を庇う程の権力は無い。

もっとも、光莉を殺して(ると思い込み)哄笑を上げた篠ノ之を庇おうという思いはこれっぽっちも湧かないのだが。

 

点呼で真耶は一夏が居ないと言っていたが、一夏は恐らくミラーワールドのバスで光莉と共に学園へ戻るつもりなのだろう。

真耶には『問題無い』と伝えておいた。

チラリと窓を見ると、ミラーワールドの覆面パトカーに乗っている竜人型のモンスター『ドラゴニュートサムライ』がこちらを見て会釈する。

わたしと同じく、『篠ノ之の監視』という理由で乗車している一夏の契約モンスターだ。

侍という名の通り、ブランウイングを除けば最も忠義の厚いモンスターらしい。

聞いてみたいことがあったので、わたしはドラゴニュートサムライに(まばた)きによるモールス信号で話しかける。

 

(篠ノ之は一夏と光莉をかなり傷付けた。なのにお前たちは殺さないのか?やろうと思えば出来るだろう?)

 

やって欲しくないのが本音だが、聞かずにはいられない。

 

一夏(主君)光莉(頭領)に止められております故。それに我らが手を下さずとも、その女は人間の法で裁かれる身。ならば一瞬で訪れる死よりも、合法的な罰の方がより苦しみを与えられるというものです」

 

と、合理的な理由が返って来た。

確かにそうだが、一夏と光莉もお人好しだな。

篠ノ之はミラーライダーとその契約モンスターに犯罪レベルの喧嘩を売ったのだ。

命があるだけでも、かなりの温情処分と言えるだろう。

『篠ノ之 束の妹』であろうと、ミラーモンスターたちにとっては容赦をする理由にならないため、尚更だ。

 

「確かに我らは主君や頭領と共に、大勢の人間を殺して来ました。ですがそれらは全て女性権力団体やマッドサイエンティストばかり。女尊男卑の風潮や各国の思惑により、法で裁けず更生の余地も無い者たちです。法で裁ける者まで殺したりは致しませぬ」

 

そう言われると、人間がミラーモンスターに比べて大きく劣った存在のように思えてしまう。

わたしは隣に座る篠ノ之に視線を移す。

篠ノ之は懲罰房を出る時からずっと(だんま)りだ。

護送中は会話が禁止されているので寧ろありがたいのだが……。

わたしは前の座席に乗っている警察官2人に特別に許可を貰い、篠ノ之に話しかける。

 

「篠ノ之」

「……何でしょうか?」

「お前には足りないものがあるとわたしは言ったな。昨日のわたしとの会話と今朝の一夏との面会を通して、それが何かわかったか?」

「……いいえ」

「お前に足りないのは、物事の変化やありのままの相手を受け止める心。いわば『受容力』だ」

「『受容力』……」

「それの無いお前は、相手に自分の考えや理想を押し付け、思い通りにならなければ癇癪を起こして実力行使に出る。お前は一夏の優しさに惹かれたのだろうが、その優しさをもってしても許容出来るものではない。だから一夏はお前を突き離す」

「千冬さんは……どうして巽という女のことを認めているのですか……?」

「光莉はわたしと束の前で『一夏を命懸けで愛する』と誓い、それを行動に移した。それだけだ」

「何があったのですか?」

「一夏と光莉はかつてお互いの愛を成就させるため、オーディンとの(死の危険が伴う)戦いに身を投じた。重要人保護プログラムでお前が転校していった約1年後の出来事だ」

「それって……一夏がまだ10歳の頃の話じゃないですか!?」

「そうだ。そして一夏と光莉は無事生き残った。わたしと束は間近で見ていたからわかる。今も昔も誰かを傷付けることしか出来ないお前がパートナーだったら、一夏は10歳でその短い生涯を終えていただろう」

「そんな……」

「そしてIS学園でお前は一夏に対して何度も暴力を振るい、一夏の戦闘スタイルを侮辱し、この臨海学校では婚約者を殺しかけた。今更関係を修復するのは不可能だろう。刑務所でゼロからやり直せ」

「…………」

 

篠ノ之はそれっきり黙り込んで項垂れる。

これで今までの自分の行ないを悔い改めるのなら、弁護のやり甲斐があるのだが、果たしてどうなるか……。



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〜夏休み〜
第48話 結婚式


臨海学校から時が経ち、1学期が終わりを迎え、今は夏休みの真っ最中だ。

そして日付は8月の中旬。

つまり……。

 

「どうですか、マスター?」

「あぁ、とても似合っているよ。思わず見惚れてしまった」

 

目の前にはウェディングドレスに身を包んだ光莉がいる。

そう、今日は俺と光莉の結婚式だ。

結婚のことが世界に発表されたのは2週間前。

15歳での結婚に世界中の女性権力団体が反発したが、それぞれの母国によって粛清された。

龍騎士(ドラグナー)である俺の介入を許すと、最悪の場合ISを回収されるからだろう。

明確な証拠は一切無いし、ネットで噂が流れている訳でもないので俺が捕まることは無いのだが。

 

そして結婚式当日である今日。

式場では、現実世界は束お姉ちゃんが開発した無人IS『ゴーレムⅡ』が、ミラーワールドは契約モンスターたちが警護にあたっているので不届き者への対策はバッチリだ。

 

この結婚式に招待したのは、俺や光莉の小・中学生時代の学友と教師、ミラーライダーの皆とその家族、更識家やシュヴァルツェ・ハーゼの人たち、あとはIS学園で親しくなったライダー以外の生徒と教師を数名といったところだ。

 

「マスター……いえ、『旦那様』」

「どうした、光莉?」

「このわたし『輝きの龍』シャインナーガこと巽 光莉は、織斑 一夏のことを契約モンスターとして、また1人の女として一生涯かけて支え、愛することをここに誓います」

 

呼び方が変わったと思ったら、ここで愛の誓いを立てられた。

 

「おいおい、それは神父の前で誓うことなんだぞ?」

「結婚前の決意表明みたいなものです。それに、旦那様が言ったことに関してはもう1度誓えば良いだけの話ですよ」

 

なるほどな……。

なら俺も、この場で言うべきことを言うとしよう。

 

「……コホン。この俺、織斑一夏は、巽 光莉を契約モンスターとして、また1人の女として愛し、幸せにすることをここに誓う」

「はい……旦那様」

 

俺と光莉は誓いのキスをする。

唇が離れた瞬間、控え室のドアを開けてマドカが入って来る。

 

「お兄ちゃん、光莉さん、時間だよ」

「あぁ、わかった。さあ光莉、行こうか」

「わかりました。ふふっ、わたしたちの愛を皆さんに見せつけてあげましょう」

「ほどほどにしなよ、義姉(ねえ)さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式は恙無(つつがな)く終わり、今は招待した人たちに個別に挨拶をして回っている。

そして今話している相手は……。

 

「こんにちは。スコールさん、オータムさん」

「よう、久しぶりだな龍騎士(ドラグナー)

「まさかわたしたちまで招待されるとは思わなかったわよ」

 

そう、亡国機業(ファントム・タスク)のスコールさんとオータムさんだ。

敵といえば敵なのだが、過去に会ってそこまで悪い人には見えなかったし、マドカの元上司ということもあって、サイレント・ゼフィルスを通して招待状を送ったのだ。

 

「そちらこそ来てくれるとは思っていなかったんですけどね。……半分くらい」

「まぁ……、今日は純粋にこの宴を楽しませて貰うわ。ここまでガチガチに警備を固められたら戦う気なんて起きないし」

「という訳だ。次に会った時こそ本気で()りあおうぜ。じゃあな龍騎士(ドラグナー)……いや、一夏!」

 

そう言って、スコールさんとオータムさんは去って行く。

やっぱり悪い人には思えないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式の後の宴も終わり、時刻は夜。

場所はとあるホテルの一室。

居るのは俺と光莉の2人だけ。

 

「光莉、俺はお前の全てが欲しい」

「はい。わたしの全てを旦那様に捧げます。受け取ってください」

 

俺は光莉にキスをした後、優しくベッドに押し倒す。

 

「光莉……」

「旦那様……」

 

そして、俺と光莉は本当の意味で結ばれた。




一夏と光莉の初夜に関しては、R-18版をご覧ください。


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第49話 一夏と光莉の異世界旅行

「おはよう。いっくんに光莉ちゃん」

「あぁ、おはよう束お姉ちゃん」

「おはようございます……ふわぁぁ……」

 

光莉と結ばれた翌朝。

束お姉ちゃんがホテルの部屋に訪ねて来た。

光莉はまだ眠いようだ。

とりあえず束お姉ちゃんを部屋に招き入れる。

 

「さて、改めて2人にお祝いするよ。いっくん、光莉ちゃん、結婚おめでとう!」

「嬉しいよ、束お姉ちゃん」

「ありがとうございます」

「それで、わたしは2人にとびっきりの新婚旅行をプレゼントさせてもらうよ!」

 

そう言って、束お姉ちゃんは猫型ロボットのタイムマシンみたいなものを呼び出す。

しかし新婚旅行か……。

俺も光莉も何も考えていなかったな……。

 

「どこへ連れて行ってくれるのですか?」

「それは後のお楽しみだよ〜。あ、いっくん、はいコレ」

 

束お姉ちゃんは俺に、とある戦隊ヒーローの変身アイテムそっくりなブレスレットを渡す。

 

「これは?」

「もしもの時に、IS以外の力があった方が良いと思ってね。さあさあ、早く支度してね〜」

 

頭に疑問符を浮かべながらも、俺は光莉と共に身支度をする。

とはいっても、着替えの服と金とISだけだが。

 

「それじゃあ、いってらっしゃ〜い!」

ポチッ。

 

束お姉ちゃんがスイッチを入れるとマシンが動き出し、乗っている俺と光莉は視界がブラックアウトした。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ???

 

(何か……何か使える武装は……!)

 

わたし……更識 簪はたった今、目の前の襲撃者に追い詰められていた。

タッグマッチトーナメントが開催された今日、IS学園は襲撃を受けたのだ。

わたしはその場に居た専用機持ちとして、タッグパートナーの織斑 一夏と対処に当たっていた。

でも彼は今、反対側のゲートを確認しに行ったのでここには居ない。

 

わたしはさっき、戦闘で重症を負った姉……更識 楯無の姿を見て錯乱してしまい、荷電粒子砲をエネルギーが空になるまで撃ってしまった。

残りの武装は8連装ミサイルポッド『山嵐(やまあらし)』のみ。

しかし襲撃者の発するジャミングによりロックオンが無効化されているため、普通に撃っても当たらない。

 

(でも……織斑くんに敵の動きを止めてもらえば、或いは……)

 

そう思った瞬間、周囲に爆発音が響いた。

そして自分の前に、ボロボロになった織斑くんが投げ捨てられる。

 

「え……?」

 

呆けた声を出してしまい、一瞬遅れて頭が状況を理解する。

 

「そんな……」

 

織斑くんが倒れた今、襲撃者に対抗する術は……もう無い。

さっき織斑くんを投げ飛ばした、別の襲撃者が織斑くんを掴み上げる。

 

「やめ、て……」

 

声を絞り出して懇願するが、それで手を止めてくれる襲撃者では無い。

いつの間にか、わたしの頬を涙が伝っていた。

 

「うっ……。うぅっ……!」

 

姉の仇も取れず、パートナーを助けることもままならない現状で無力感に襲われたわたしはただ泣くことしか出来なかった。

そんなわたしに、ブレードを構えた襲撃者がゆっくりと近付いて来る。

わたしは……ここで終わるのだろうか……?

襲撃者がブレードを振りかぶった、その瞬間。

 

ザッ。

 

わたしと襲撃者の間に、誰かが立っていた。

その人物は……。

 

「織斑くん……?」

 

いや、違う。

確かに容姿はそっくりだ。

でも織斑くんはあっちでISを纏ったままボロボロなのに対し、彼は生身で私服だ。

何より、雰囲気が違う。

目の前の男性は、本気を出した姉を軽く上回るくらいの覇気を醸し出していた。

 

「あなたは……?」

「俺か?俺は、通りすがりの仮面ライダー……いや今は流浪人(るろうに)か。とりあえず覚えておけ」

 

そう言って彼は、左腕に装着している数年前の戦隊ヒーローの変身アイテムそっくりのブレスレットを起動させる。

 

『It's morphin time!!』

「レッツ、モーフィン!!」

 

その掛け声と共に彼は光に包まれ、その姿は明治時代の剣客へと変わっていた。

 

SIDE OUT

 

SIDE 一夏

 

どうも、仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)の織斑 一夏だ。

しかし束お姉ちゃんには驚かされる。

見た目がタイムマシンだから、新婚旅行の行き先は過去か未来だと思っていたが、まさか平行世界だとはな……。

 

で、今俺はこの世界の簪とIS学園を襲撃していると思われる無人ISの間に立った訳だが、束お姉ちゃんが俺に渡したこのブレスレットに関して少しだけ説明しよう。

これの名前は『緋鼠の衣(スカーレット・バスター)』。

特命戦隊ゴーバスターズの変身アイテム『モーフィンブレス』で、緋村剣心になれるパワードスーツだ。

服装だけじゃなく、茶髪や頬の十字傷も再現されている。

飛天御剣流を使うことに特化しており、このスーツを着用すれば飛天御剣流の行使による身体への負担が全てキャンセルされる。

ISコアは搭載しておらず、動力(エネルギー)はバッテリーの電気で、出力(パワー)は『SURVIVE -烈火-』のカードを組み込むことで賄っている。

これは元の世界に帰った後に聞いたことだが、束お姉ちゃんはオーディンとの交換条件で2枚目のサバイブを譲り受けたらしい。

オーディンは一体何を要求したんだろうか……?

 

以上、説明終わり。

そろそろ目の前の無人ISを潰すとしようか。

俺は1振りの近接ブレードを呼び出す。

それは、銃の引き金が付いた鞘に収まった日本刀の形をしている。

名前は、『雪片弐型(ゆきひらにがた)舞蹴(マイケル)』。

この時点でわかる人にはわかると思うが、この剣は『喰霊(がれい)』という作品の空圧式退魔居合刀『舞蹴拾弐號(マイケルじゅうにごう)』を再現した武器だ。

素材は、簪の専用機を開発した企業『倉持技研(くらもちぎけん)』において、千冬お姉ちゃんの専用機『暮桜(くれざくら)』の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を再現しようとして失敗し、廃棄されるところだった機体を束お姉ちゃんが買い取り、付属していた近接ブレードを使った。

恐らく『原作』では、それが織斑一夏()の専用機なんだろうな。

あっちでボロボロな状態で別の襲撃者に頭を掴まれている俺とそっくりな男とその機体を見て、そう思った。

 

「いくぜ、無人機野郎!」

 

俺は目の前の無人ISに切りかかる。




という訳で、原作7巻に介入です。
緋鼠の衣(スカーレット・バスター)のスペックは?
光莉は今どこ?
という疑問は次話以降にて。


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第50話 ポルナレフ化する天災

SIDE 束

 

あ、ありのままに今起こったことを話すよ……。

IS学園を襲撃させている無人IS『ゴーレムⅢ』の前に、いっくんとそっくりな男が現れたと思ったら抜刀斎の格好をしてゴーレムⅢに刀1本で挑みかかって来たんだ。

その格好はパワードスーツであるということはスキャンしてわかったが、なんとISじゃなかった。

なのにゴーレムⅢを圧倒している。

な……何を言っているのかわからないと思うけど、束さん自身も理解出来る範疇を越えたカメラ越しの現実に思考が追いつかない。

頭がどうにかなりそうだ……。

パクリやコスプレなんてチャチなものじゃあ断じてない……。

もっと恐ろしいものの片鱗を、現在進行形で味わっているよ……。

 

……って、ホント誰だよあれ!

いっくんとちーちゃんの身内はマドっちしか居ないはずだよ!?

あ、彼を相手していた2号機がやられた!

嘘でしょ!?

戦いが始まってほんの数分だよ!?

束さんの自信作が、わずか数分で墜とされた!?

認めたくないけど、彼はちーちゃんと同じかそれ以上の実力者のようだ。

となれば最優先事項は、彼のデータを集めること。

今いっくんを掴んでいる1号機と、他のアリーナで専用機持ちと戦っている3・4・5号機も彼にぶつけよう。

4機のゴーレムⅢで彼を取り囲む。

 

『4機がかりか……。良いね、これくらいじゃないと話にならない』

 

そう言って彼は、小さい箱みたいなものを呼び出し、ブレスレットに装着する。

 

『Set!!』

『出番だぜ、光莉』

『Are you ready?』

『了解です、旦那様♪』

『Powored custom!!』

『It's morphin time!!』

『パワードモーフィン!!』

 

その掛け声と共に、彼の姿はガラリと変わった。

真紅の鎧に白いマント。

そして龍を彷彿とさせる黄金の翼。

まるで死神と騎士を混ぜ合わせたようなものだった。

そして最後に彼は、右腕の籠手に付いているホルダーにカードケースみたいな箱をセットする。

ん?

あのカードケースはISのようだ。

でもコアは束さんの作ったものじゃない。

ますます彼という存在がわからなくなった。

まぁとにかく……IS以外の力でISを倒したきみの実力、見せてもらうよ。

 

SIDE OUT

 

SIDE 簪

 

わたしの目の前で、織斑くんそっくりな彼は襲撃者の1体をほんの数分で撃破してしまった。

 

「凄い……」

 

まるでヒーローのようだ。

いや、ゴーバスターズとそっくりな変身アイテムを使っているから本当にヒーローなのかもしれない。

そして彼は、織斑くんを掴んでいた個体と他のアリーナで戦っていたと思われる3機の合計4機に囲まれるが、それでもなお平然として(あまつさ)えパワードモーフィンしてさっき以上の力で襲撃者を撃墜していく。

 

まるで特撮ヒーローの戦闘を生で見ているかのようだった。

そしてとうとう襲撃者は残り1機となる。

だけどわたしは……目の前の光景に魅入るあまり、ここが戦場だということを失念していた。

襲撃者が放ったビームを、彼が回避する。

そのビームは勢いを衰えさせること無く、わたしに向かって伸びてきた。

 

「え……?」

「危ない、避けろぉぉぉぉぉっ!」

 

彼はそう言ってくれるが、身体からは力が抜けてしまっていて思うように動かない。

せっかく彼が助けてくれたのに、わたし自身のミスで台無しにしてしまうなんて……。

ごめんなさい……!

 

ドガァン!

ドサッ。

 

え……?

当たって、ない……?

誰かに庇われた……?

一体誰が……?

 

「お姉ちゃん……?」

「あはは……。そう呼ばれるの、何年ぶりかしら……?」

「どうして、こんな……」

「妹を助けるのに、理由が必要……?」

「……っ!」

 

涙が、止まらなかった。

でも……早く手当てをしないとお姉ちゃんが……!

どうすれば……!

 

「くそぉっ!」

『It's time for buster!!』

「飛天御剣流、双龍閃!!」

 

彼は必殺技と思われる攻撃で最後の襲撃者を沈めた後、こちらにやって来る。

 

「おい、大丈夫か!?」

「うん、わたしは……。でも、お姉ちゃんが……」

「……そうか。こうなったら……」

 

彼はさっきまで使っていた剣を左腰の鞘に収めると、右腰の小太刀を抜き右腕のホルダーから1枚のカードを取り出す。

あれは……仮面ライダー龍騎のアドベントカード!?

彼が小太刀のスイッチを押すと、刀身が2つに分かれカードが挿入される。

 

『TIME VENT!!』

 

時計が出現して、針が逆回転を始める。

それと同時に、お姉ちゃんの傷がみるみる小さくなっていく。

これは、時間を巻き戻している……?

そして怪我だけでなく、ISの損傷も元通りとなったお姉ちゃんは意識を取り戻す。

 

「う……簪、ちゃん……?」

「お姉ちゃん……よかった……!」

 

わたしはつい泣きながら抱きついてしまう。

ヒーローなんて、架空のお話の中の存在で実在してなんかいないと思っていた。

でも違った。

ヒーローは、確かに存在した。

そう……わたしと姉を救ってくれた、目の前に居る流浪人が……。




緋鼠の衣(スカーレット・バスター)・パワードカスタム

外見
遊戯王のモンスター「冥府の使者 ゴーズ」
ただし、鎧は黒➡︎赤・マントは赤➡︎白に色が変わっており、背中にシャインナーガの翼が生えている。

装備
モーフィンブレス
カスタムバイザー
空圧式近接ブレード「雪片弐型(ゆきひらにがた)舞蹴(マイケル)
非殺傷性対人用近接ブレード「逆刃刀(さかばとう)真打(しんうち)
召喚機「スカーレットバイザー」
アドベントカード各種

カスタムバイザーを通して、光莉が緋鼠の衣(スカーレット・バスター)と融合した状態。
右腕の籠手にカードデッキを装着するホルダーがある。
また、右腰にキョウリュウゴールドの剣「ザンダーサンダー」にそっくりな召喚機「スカーレットバイザー」を装備している。
なのでアドベントカードが使用可能。





という訳で、光莉は最初からカスタムバイザーの中に居ました。
パワードカスタムに関する詳しい設定は、ゴーバスターズのWikiを参照してください。


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第51話 姉妹との対話

「さて、恩を仇で返すみたいで悪いけど、あなたたちのことを聞かせてもらうわよ」

「気にすることは無い。貴女には学園を守る義務がある。1度助けられた程度で情を抱くようでは、守れるものも守れないからな」

 

あの戦いの後、変身を解除した俺とカスタムバイザーから抜け出た光莉は、楯無さんと簪に生徒会室に連れて来られた。

楯無さんと簪はタイムベントのおかげで身体もISも完全回復したが、この世界の織斑一夏()や篠ノ之・セシリア・鈴・シャル・ラウラは今頃保健室の世話になっているだろう。

千冬お姉ちゃんと山田先生は、襲撃してきた無人IS5機の解析中だ。

ちなみに、コアは全て俺が破壊している。

 

「まさか尋問対象にそう言われるなんてね……。じゃあさっそく始めるけど、あなたたちは何者?」

 

俺と光莉は正直に、平行世界から来た織斑一夏とその妻だと話した。

 

「平行世界ね……。普通なら冗談だと切って捨てるところだけど……」

「わたしもお姉ちゃんも助けられたからね……」

 

そう言った簪は、机の上に置かれている龍騎士(ドラグナー)のカードデッキをチラチラと見る。

俺はカードデッキを簪に渡す。

 

「ほれ。見たいんだろう?」

「え……良いの?」

「あぁ」

「……ありがとう」

 

頬を朱に染めてお礼を言う簪だが……。

 

「……カードが抜けない」

「ちょっとした仕掛けで持ち主しかカードが抜けないようになっているからな。貸してみ」

 

簪からカードデッキを預かり、パカッと開ける。

ここら辺の仕組みは玩具版と同じだな。

中身のアドベントカードを簪に渡す。

 

「うわ、こんなに沢山……」

「そりゃあ20体以上のモンスターと契約しているからな」

「そんなに!?どうやって養っているの?」

「頑張ればどうにかなるもんだぞ」

「そうなんだ……。あれ?シャインナーガっていうモンスター関連のカード以外のカードがほとんどモノクロカラーになってる。どうして?」

「この世界に連れて来ているのはシャインナーガだけだからな。それ以外のカードはこの世界じゃあ使えないということだ。実際、バイザーに装填したら『ERROR!!』って音声が鳴ったからな」

「へぇ〜……」

「さっきから思ったんだけど、何なのそれ?」

「……簪、説明よろしく」

「うん。あのねお姉ちゃん、このカードとデッキは『仮面ライダー龍騎』っていう……」

 

〜説明中〜

 

「……という訳なんだ」

「俺の世界じゃあ特撮なんかじゃなく実際に存在するけどな。ちなみに楯無さんと簪もライダーだぞ」

「本当!?」

「それは興味深いわね。教えてくれるかしら?」

「良いぜ。百聞は一見に如かず。こちらをご覧あれ」

 

龍騎士(ドラグナー)を起動して、楯無さんと簪に関する戦闘記録映像を再生する。

 

「そのカードデッキって、ISだったのね。よく簪ちゃんにあっさり渡せたものね」

「そこは信頼の証だとでも思ってくれ」

 

映像では、ちょうど簪がスカイブレイダーと契約して、ゼノバイターが現れた。

 

『丁度良い。簪さん、アイツと闘ってみろ』

『うん……やってみる』

『大丈夫なの?』

『ミラーモンスターとの戦闘は良い経験になりますよ。いざとなれば俺たちが助ければいい』

 

そして簪がゼノバイターを撃破する。

 

「強いんだね、そっちの世界のわたしは……」

「それは違うぞ、簪」

「え?」

「これは後で聞いたことだが、あの時の簪はミラーモンスターとの戦闘に凄まじい恐怖を感じていたそうだ。それこそ逃げ出したいくらいに」

「でも、わたしと違ってあんなにしっかり動けて……」

「それは恐怖を乗り越えたからだ。つまり、俺の世界の簪はあの瞬間、弱かったからこそ強くなれたんだ」

「弱かったからこそ、強く……」

「そうだ。誰だって最初から強い訳じゃない。簪だって強くなれるさ」

「……本当?」

「あぁ。俺はつまらない嘘は言わない主義だ」

「……うん、一夏。わたし、頑張る」

 

簪の心に火が灯ったようだ。

元の世界でもそうだが、簪は内気な娘だからな。

誰かが後押ししてあげなければならない。

 

「ところで一夏くんって、元の世界じゃあどれくらいの実力なの?わたしたちが苦戦した無人ISをあっさり倒しちゃってたけど……」

「今のところ元の世界の千冬お姉ちゃんとは勝敗数が五分五分。それ以外の相手には負けたこと無いですよ。追い詰められたことはたまにありますけど」

「織斑先生と互角……」

「あの戦いを見た後だと説得力あるわね……」

 

2人は唖然としながらも納得したような表情をする。

 

「それで、あなたたちはこれからどうするの?」

「わたしと旦那様は新婚旅行としてこの世界に来ましたからね……。拘束や監視はしないでくれるとありがたいです」

「光莉に同じく」

「この世界での滞在期間は?」

「マシンのエネルギーの再充填と行き先の座標の固定とかがあるから……遅くて1ヶ月くらいだろうな」

 

ちなみに元の世界に帰る時は、束お姉ちゃんがマシンを起動させた5分後の時間になるよう設定されているため、滞在期間はあまり気にしなくても問題無い。

 

「……そう、わかったわ。とりあえず織斑先生や学園長と一緒にあなたたちへの対応を決めるわ。それまでは大人しくしていてちょうだい」

「対応次第では確約し兼ねますが、了解です」

 

対応が決まるまでは生徒と同じ寮で過ごしてもらうということで、部屋のカードキーを受け取って簪の案内のもと部屋に向かう。

そして1025号室の前を通りがかった時……。

 

『革命!いや、フランス革命か!』

『『『『『一夏!』』』』』

 

随分騒がしい部屋だった。

しかし篠ノ之・鈴・セシリア・シャル・ラウラの声が聞こえたということは……。

 

「なあ簪、こっちの世界の俺って……」

「乙女心に全く気付かない鈍感。ついた仇名は『唐変木・オブ・唐変木ズ』。今の声の主はみんな織斑くんに惚れている」

「「うわぁ……」」

 

なぁにそれぇ……。

同一人物だと思いたくないし思われたくもない。

この世界に居る間だけ名前を変えようかな……?

簪に案内された部屋で、俺と光莉は風呂に入った後そのまま寝た。

いや、ついこの間結ばれたばかりなのに、神聖な学び舎で事を致すほど俺や光莉は図太く無いんだ。

元の世界じゃあ、いつかやるかもしれないが……。



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第52話 戦乙女と抜刀斎

すいません。
今話は駄文です。


翌朝。

俺と光莉は千冬お姉ちゃんに呼び出された。

楯無さんたち専用機持ちは、昨日の襲撃に関する取り調べのため山田先生の元で昼過ぎまで缶詰なんだとか。

ご愁傷様と言っておこう。

話を戻すが俺と光莉が呼び出されたのは、アリーナだ。

 

「……来たか」

「「おはようございます、千冬お姉ちゃん(義姉さん)」」

「織斑先生だ。……ん?わたしのことを義姉だと?」

「元の世界では、わたしは織斑一夏の妻ですから。貴女のことを義姉と呼ぶのは当然ですよ?」

「……それもそうか。しかし……」

 

千冬お姉ちゃんがじっと俺と光莉を見る。

 

「……強いな」

「あ、わかります?」

「それだけの覇気を身体から放っていればな。さて、ここに呼んだ用件だが……」

「貴女と戦えと?」

「あぁ。IS学園の教師として、元世界最強(ブリュンヒルデ)として、お前たちの実力を知る必要があるからな」

「構いませんが、方法は?」

「わたしは打鉄に乗る。お前は仮面ライダーと抜刀斎の好きな方を選べ」

「打鉄?暮桜はどうしたんですか?」

 

元の世界の千冬お姉ちゃんは日本の国家代表を辞退したあとも専用機である『暮桜』を所持している。

福音との戦闘で出番が無かったのは、ちょうど束お姉ちゃんの元で改修中だったからだ。

多分第4世代になって帰って来るんじゃないかな?

 

「……暮桜は『とある事情』で今は使えんのだ」

「はぁ……そうですか」

 

こっちの世界じゃあ暮桜と千冬お姉ちゃんに何があったんだ?

まぁ気にしていてもしょうがない。

千冬お姉ちゃんが打鉄を取りに行っている間に、光莉と話す。

 

龍騎士(ドラグナー)緋鼠の衣(スカーレット・バスター)、どちらで相手をするのですか?」

「う〜ん……。緋鼠の衣(スカーレット・バスター)かな?純粋な近接格闘戦をやってみたいし、いくら千冬お姉ちゃんが乗ったとしても打鉄じゃあ龍騎士(ドラグナー)とは地力が違いすぎる」

 

更識家で束お姉ちゃんにオーバーホールを受けた龍騎士(ドラグナー)は、第4世代に限りなく近い性能を誇る。

そのため改修後は暮桜に乗った千冬お姉ちゃんとの模擬戦において性能差で勝ち越している。

なので暮桜が改修されるまではISでの模擬戦はしないことになっている。

暮桜がどれだけパワーアップして戻って来るのか、楽しみだ。

そしてしばらく待っていると、打鉄を纏った千冬お姉ちゃんが戻って来た。

 

「待たせたな」

「いえ、お気になさらず」

『It's morphin time!!』

「レッツ、モーフィン!!」

 

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)を纏い、雪片弐型・舞蹴を呼び出す。

対する千冬お姉ちゃんも、(近接ブレード)を構える。

一瞬の静寂、そして……。

 

「「いざ、参る!」」

 

同時に駆け出し、まず俺が攻撃を仕掛ける。

雪片を抜刀し、斜めに切る。

千冬お姉ちゃんは、肩のアーマーでガードしつつ受け流す。

絶妙な角度で受けているので、そこまで酷い損傷ではない。

あれくらいなら、打鉄の装甲再生能力ですぐに修復されるだろう。

 

「その刀、もしや……」

「その通り。雪片と同じ素材で作られています。まぁ零落白夜のような能力はありませんがね」

 

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)にはシールドエネルギーが存在しない。

バッテリー駆動のパワードスーツにそんな贅沢かつ燃費が悪い機能など搭載出来ないのだ。

シールドエネルギーが存在しない以上、例えスチールベントで暮桜の雪片を奪ったとしても零落白夜は使えない。

それでも装備の量子変換は可能だし、PICの応用でイエローバスター・パワードカスタムのように空中に足場を作って擬似的な浮遊も出来る。

結果、パワードカスタム前の緋鼠の衣(スカーレット・バスター)は攻撃力はともかく防御力と機動力はISに逆立ちしても勝てない。

使用者が俺や千冬お姉ちゃんならISが相手でも善戦出来るが。

 

「飛天御剣流・龍翔閃!!」

「くっ……!」

 

千冬お姉ちゃんは後退瞬間加速(バック・イグニッション・ブースト)で龍翔閃をギリギリで回避する。

瞬間加速(イグニッション・ブースト)はシールドエネルギーを消費する技術だが、それでも攻撃をくらうよりはマシな消耗だ。

それから更に戦うこと数十分。

周囲には葵の残骸がいくつも散らばっている。

雪片と葵では耐久力に差がありすぎる。

千冬お姉ちゃんは葵が折れる度に、事前に打鉄の拡張領域(バス・スロット)内に入れておいた葵を取り出して戦いを継続している。

しかしこれで何本目だ?

少なくとも2桁はとっくに越えている。

初期装備(プリセット)のアサルトライフルを外していたとしても、よく打鉄の拡張領域(バス・スロット)にこれだけの数の葵が入ったものだ。

 

「これが最後の1本だ。次で決着をつけよう」

「……いいでしょう」

 

雪片を鞘に収めて、抜刀術の構えを取る。

 

「飛天御剣流・天翔龍閃!!」

「篠ノ之流・零拍子!!」

 

渾身の一撃同士がぶつかり合う。

数瞬の鍔迫り合いの後、葵は折れ、俺の雪片は勢いのまま千冬お姉ちゃんの打鉄を切り裂く。

絶対防御が発動し、打鉄のシールドエネルギーがゼロになる。

 

「もはや清々しいくらいの敗北だ。まさか1度も掠らせることが出来ないとは……」

「そりゃこっちは1度でも当たればアウトですから。それでこの後俺と光莉はどうすれば?」

「好きにしろ。わたしが負けた以上、力尽くでは止められん。だが学園の不利益になるようなことをするんじゃ無いぞ」

「了解」

 

つまり問題さえ起こさなければ学園から出たりとかもして良いと。

せっかくの異世界だから色々なところに行ってみたいのは事実だが、行きたい所がすぐには思いつかない。

どうしようか……?



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第53話 デート再び

千冬お姉ちゃんと戦った、その日の午後。

せっかく学園の外に出る許可が貰えたので、俺と光莉はデートをすることにした。

 

「では旦那様、わたしたちの戦争(デート)を始めましょう」

「あぁ、行くか」

 

ん?

なんか妙なルビを振っていたような……。

気のせいか?

 

「お昼ご飯を食べずに出て来ましたし、まずは……」

「腹ごしらえ、だな」

 

俺と光莉はとあるカフェに入店する。

名前は『@(アット)クルーズ』。

ウェイトレスは皆メイド服だった。

ここは秋葉原か?

とりあえず料理を頼んで腹を満たした後、デザートとしてパフェを追加でオーダーする。

 

「旦那様」

「どうした?」

「旦那様のパフェも食べてみたいです」

 

ちなみに光莉が頼んだのはチョコのパフェで、俺はバニラのパフェだ。

 

「わかった。ほら」

「あ〜ん……はむっ。美味しいですね。ではわたしのもどうぞ」

 

そうして、俺と光莉の食べさせ合いが始まったのだが……。

 

「ごほっ。口から砂糖が……」

「店員さん、ブラックコーヒーをお願いします」

「わたしも……」

「バカな……。カフェオレ、だと……!?」

 

なんか周囲が凄いことになっていた。

まぁ俺と光莉は自重するつもりなど全く無いが。

 

「全員、動くんじゃねぇ!」

 

店内に、武装した3人の男が乱入して来た。

札束がはみ出た鞄を提げているところを見ると、銀行強盗でもやったのだろうか。

 

「嘘でしょ……。なんでまたウチの店が強盗の立てこもり場所に選ばれるのよ……?」

 

店長と思しき女性が頭を抱えて(うずくま)る。

どうやら過去に似たようなことがあったらしい。

俺は3人の男を観察する。

武器はそれぞれサブマシンガン・アサルトライフル・スナイパーライフル。

最後だけおかしくないか?

 

「どうするのです、旦那様?」

「もちろん決まっている。聞くまでも無いだろう」

「ふふっ、そうでしたね」

「テメェら何イチャコラしていやがる!」

 

おっと、強盗に目をつけられたか。

なら動かないとな。

 

『It's morphin time!!』

「レッツ、モーフィン!!」

「何ぃ!?」

「おらぁ!」

バシィ!

「ぐはっ……!」

 

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)を纏い、非殺傷性対人用近接ブレード『逆刃刀(さかばとう)真打(しんうち)』でサブマシンガンの男を気絶させる。

 

「まずは1人」

「いいえ、2人です」

 

いつの間にか光莉は、うつ伏せに倒れているスナイパーライフルの男を踏み付けていた。

なかなかの早業だな。

 

「くそっ!こうなったらテメェら全員道連れだぁっ!」

 

最後に残ったアサルトライフルの男が上着を脱ぐ。

そこには腹に巻かれた大量のダイナマイトがあった。

そして右手には起爆スイッチ。

 

「これで……」

バキュン!

カチッ。

 

『……………………』

 

スイッチが押されたが何も起こらない。

それもそのはず。

光莉がスナイパーライフルで起爆スイッチとダイナマイトを繋ぐコードを撃ち抜いたのだ。

福音戦での援護射撃といい、光莉には狙撃の才能でもあるのだろうか……?

今はとにかく。

 

「ていっ」

「ゴハッ!?」

 

気絶させて制圧完了。

 

『〜〜〜〜!』

 

ん?

パトカーのサイレン?

見ると、店の前にはかなりの数の警官が。

これはヤバい。

この世界における身元が存在しない俺と光莉が事情聴取を受けるのはいろいろとマズい。

 

「光莉、行くぞ!」

「あっ……はい!」

 

変身を解除して、光莉と共に裏口から出る。

無銭飲食は後味が悪いので、ちゃんとカウンターに5000円札を置いていく。

釣銭が惜しいが仕方が無い。

余談だが、@クルーズは緋村抜刀斎が現れた店として人々の関心を集めるようになったのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールやゲームセンターなどへ行き、すっかり日が暮れてしまった。

IS学園に戻ると、ちょうど千冬お姉ちゃんとこの世界の俺が話している場面に出くわす。

 

「千冬姉」

「織斑先生と呼べ」

「その、家族のことなんだけど……。俺たち以外に、家族っているのかな……?妹とか……」

「いない」

「いや、でも……」

「わたしの家族はお前だけだ」

「ちふ……」

 

千冬お姉ちゃんは最後まで聞かずに去って行った。

この世界にマドカは居ないのだろうか?

ちょっと探してみようかな……。



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第54話 異世界での実習

この異世界旅行編はしばらく続きます。
本作では、束の性格改変などの都合上7巻以降の内容が大きく変わる予定なので、こっちで原作展開をやってしまおうと思いまして。


SIDE 一夏

 

こんにちは。

織斑一夏だ。

今日の授業は、1学年合同IS実習。

グラウンドには1年生全員が整列していて、いつものように千冬姉が腕組みをして立っていた。

 

ただ、いつもと違うのは、その後ろに俺とそっくりの男が居ることだ。

なんでも平行世界の俺なんだとか。

タッグマッチトーナメントが襲撃された際に俺が敵の攻撃で気絶している間に現れて、ISよりも弱いパワードスーツで楯無さんと簪を助けた挙句、襲撃者を全て1人で撃破したそうだ。

同一の人間なのに、あまりの実力差に軽くヘコんだ。

俺と名前が同じなため、この世界で過ごしている間は『星村(ほしむら) 春十(はると)』と名乗るらしい。

そういえば一緒に来た光莉という名前の奥さんがいるって話だが、この演習には参加しないのだろうか?

 

「織斑・篠ノ之・オルコット・デュノア・ボーデヴィッヒ・凰・更識、前に出ろ!」

 

おっと、開始早々に専用機持ち全員が呼ばれた。

 

「先日の襲撃事件で、お前たちのISは更識を除き全て深刻なダメージを負っている。自己修復のため、当分の間はISの使用を禁止する」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

 

簪の機体は楯無さんの機体共々、春十が直してくれたらしい。

いいなぁ……。

 

「さて、そこでだが……山田先生」

「はい!皆さん、こちらに注目してくださ〜い!」

 

そう言った山田先生の背後には、複数のコンテナが並んでいる。

 

「なんだろ、あれ?」

「もしかして、新しいIS!?」

「えぇ〜?それならコンテナじゃなくてISハンガーでしょ?」

「なにかななにかな?おかし!?おかしかなぁ!」

 

のほほんさん、いくらなんでもおかしは無ぇよ……。

 

「静かに!……ったく、お前たちは口を閉じていられなきのか。山田先生、開けてください」

「はい!それでは、オープン・セサミ!」

『…………?』

「うぅ、世代差って残酷ですね……」

 

山田先生の掛け声を理解出来た者は居ないようだ。

山田先生のリモコン操作で、コンテナがモーター音を響かせながら開いていく。

その中にあったのは、金属製のアーマーのようなものだった。

 

「これは国連が開発中の外骨格攻性機動装甲『EOS(イオス)』だ」

「イオス……?」

「Extended Operation Seeker。略してEOSだ。その目的は災害救助から平和維持活動など、様々な運用を想定している」

「あの、織斑先生。これをどうしろと……?」

 

箒が質問するが、返って来たのはシンプルな言葉だった。

 

「乗れ」

「「「「「「「「え!?」」」」」」」

「2度は言わんぞ。これらの実稼働データを提出するようにと学園上層部に通達があった。お前たちの専用機はどうせ今は使えないのだから、レポートに協力しろ」

「は、はぁ……」

 

なんとなくの返事で俺たちは頷く。

用意されたEOSは合計で8機。

俺たち全員が乗っても1機余る。

春十が乗るのだろうか?

他の生徒は、山田先生の指示のもと訓練用ISでの模擬戦の準備をする。

EOSの性能が見れず、かなり残念な様子だ。

どうしたものかと7人で考えていると、千冬姉に頭を順番に叩かれた。

 

「早くしろ、馬鹿共。時間は限られているんだぞ?それとも何か?お前たちはいきなりこいつを乗りこなせるのか?」

「お、お言葉ですが織斑先生。代表候補生であるわたくしたちが、この程度の兵器を扱えないはずがありませんわ」

「ほう、そうか。ではやってみろ」

 

セシリアが自信満々に反論するが、千冬姉がニヤリと唇をつり上げるのを見て、全員がぞくっとした恐怖を感じた。

それで、各々がEOSに乗り込んだんだが……。

 

「くっ、このっ……!」

「こ、これは……」

「お、重い……ですわ……」

「うへぇ、嘘でしょ……」

「う、動かし辛い……」

「…………」

 

俺・箒・セシリア・鈴・シャル・簪は悪戦苦闘してしまっている。

これを纏うと、いかにISがありがたい代物か身に沁みる。

 

「…………よし」

「よっ!ほっ!はっ!」

 

ラウラはEOSの感覚を掴んだようだ。

だが春十、テメェは駄目だ。

なんだよ側転・バク転・バック宙の3コンボは!?

そんなの生身やISでも出来やしねぇよ!

 

「それではEOSによる模擬戦を開始する。なお、防御能力は装甲のみのため、基本的に生身は攻撃するな。射撃武器はペイント弾だが、当たるとそれなりに痛いぞ。では……はじめ!」

 

千冬姉が開始の合図をする。

同時に春十がこちらに視線を向ける。

え?

最初のターゲットは俺?

 

「とうっ!」

 

春十がこちらに向かってジャンプした。

 

「って、やっぱり狙いは俺かよ!?てゆーか何だよそのサキエル戦の暴走した初号機みたいなジャンプはうわらばっ!?」

 

SIDE OUT

 

SIDE 春十(一夏)

 

外骨格攻性機動装甲『EOS』ねぇ……。

随分使いにくいものを開発したものだ。

実習前にカタログだけ見させて貰ったが、30kgもするバッテリーを搭載していながらフル稼動で十数分しか保たないらしい。

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)の方がよっぽど高性能だな。

あっちは戦闘や全力疾走を控えれば数日は動かせる。

 

さっきはバック宙をかましたが、正直言って生身の方がマシだ。

んで、模擬戦の開始早々にこの世界の俺を転ばせた訳だが、扱いに未だ慣れておらず起き上がれないみたいだ。

これはもうリタイアだな。

さて次は……。

 

「いただきますわ!」

 

セシリアがサブマシンガンを構えてフルオート射撃をするが、照準はまったく合っておらず簡単に回避出来た。

 

「くっ……なんという反動(リコイル)ですの……!」

 

ISは射撃・格闘を問わず、その反動はPICなどが相殺してくれるがEOSにはそんなもの搭載されていない。

 

「ああもう!火薬銃というだけでも扱いにくいのに!」

 

元の世界のセシリアは、ライダーの時はギガランチャーという戦車の主砲並の実弾兵器をよく使うため、銃器の反動には慣れている。

だがこっちのセシリアは、光学兵器しかまともに使ったことは無いようだ。

 

「もらった!」

「きゃあっ!?」

 

懐に潜り込んでセシリアの足を払う。

バランスを崩して転んだセシリアにペイント弾を撃ち込む。

 

「これで2機」

「そこまでよ!」

 

背後から鈴がランドローラー出力全開で突っ込んでくる。

 

「うりゃあ!」

 

外骨格アームによる正拳突き。

威勢は良いんだが、直線過ぎるな……。

 

スッ。

パシッ。

「へ?」

 

身体をずらして突き出された拳を躱し、そのアームを掴む。

そのまま一本背負い。

 

ドガシャーン!

 

これで鈴も撃墜。

俺は固まっている篠ノ之・シャル・簪に視線を向ける。

 

「さあ、誰から来る?」

「わ……わたしは、降参で……」

「ず、ずるいぞ簪!」

「誰から来るんだ?」

「わ、わたしは後でいい!」

「ぼ、僕も……」

 

簪が早々に降参し、篠ノ之とシャルの譲り合いが始まる。

 

「シャルロット、お……お前が行ったらどうだ?」

「い、いや箒こそ」

「そう言うな」

「遠慮せずに」

「…………」

「…………」

「じゃあ私から行くぞ!」

「ううん、僕が行くよ!」

「いいや、俺が行こう」

「「どうぞどうぞどうぞ」」

 

日本文化は良いねぇ。

リリンの文化の極みだよ。

 

「「…………え?」」

 

鈴がやったように全速力で接近しながら篠ノ之にペイント弾を撃ち込み、シャルに回し蹴りを放つ。

 

「うわっ!?」

 

今の攻撃で篠ノ之はリタイア、シャルは蹴りをガードするがバランスを崩す。

 

「ほう、耐えたのか」

「えへへ、まぁね……」

「んじゃもう1発」

「わあっ!?」

 

俺の右ストレートで、シャルは沈んだ。

 

「凄まじいものだな」

 

さっきからずっと静観していたラウラが話し掛けて来る。

 

「静観していたのは俺と1対1で戦うためか?」

「そうだ。嫁と瓜二つなお前だが、教官クラスの実力者と見た」

「そうか。ならば……来るがいい」

「いくぞ!」

 

ラウラがマシンガンを連射する。

セシリアよりも狙いが正確で、EOSなんて重い鎧を纏っている以上は完全には避けられず、アームの物理シールドで何発か受ける。

弾切れになったのを見計らって、ラウラに突っ込む。

 

「そこだぁっ!」

 

ラウラが空になったマシンガンを投げ付けてくる。

それを俺は……。

 

「キャッチ」

「はぁ!?」

 

まさか投げ付けた銃をキャッチされるのは予想外だったのだろう。

呆けてしまっているラウラに肉薄する。

 

「チェックメイト」

「無念……」

 

ラウラを撃墜して、模擬戦が終了する。

EOSを片付けた後、俺は無人の廊下を1人で歩く。

 

「随分使いにくいパワードスーツでしたね」

「あぁ。肩が凝ったぜ全く」

 

懐のカスタムバイザーの中から、光莉が話し掛けて来る。

光莉はIS適性が無いから、俺と違って生徒に混じって授業を受けるなんてことは出来ない。

なのでこういった形で光莉は俺の側に居る。

普通は性別的に逆だと思うんだけどな……。



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第55話 一夏と光莉の恋愛講座

SIDE 光莉

 

「どうしたんだ、5人とも?」

 

IS学園の屋上。

旦那様と2人で昼食を摂っていると、篠ノ之さん・セシリアさん・鈴さん・シャルロットさん・ラウラさんがやって来た。

 

「聞きたいんだけど、あんたたちって夫婦なのよね?」

「あぁ、そうだ。もしかして、恋愛相談か?」

「……そうよ」

 

旦那様の問いに鈴さんが頷き、他の4人も首肯する。

 

「なるほど……。貴女たちがこっちの世界の旦那様に好意を寄せているのは簪さんから聞きました。ですが、乙女心を一切理解出来ない唐変木だとも聞きましたよ。それでも彼のことが好きなのですか?」

「えぇ、そうよ」

 

他の4人も同じような返事をする。

 

「という訳で、まずは2人がどういう過程で付き合うようになったのか参考までに聞かせて欲しいんだ。…………駄目かな?」

 

シャルロットさんにそう頼まれて、わたしは少々困ってしまった。

カスタムバイザーで身体をデータ化出来ることは明かしたものの、わたしが人外……ミラーモンスターだということはこの世界の誰にも教えていない。

どう話したものか……。

 

「そうは言っても、あんまし参考にならないぞ?普通に光莉に『好き』だと言われてその気持ちに応えただけだからな。だがお前たちが惚れた一夏(唐変木)は、その『好き』をloveじゃなくlikeとしか受け取らないんだろう?」

「そうなのですわよね……」

「「「「ハァ……」」」」

 

セシリアさんを筆頭に、全員が溜息を吐く。

 

「とりあえず今までがどうだったのか、どんなアプローチをしてきたのかを教えてくれませんか?わたしと旦那様の視点からアドバイスが出来るかもしれませんし」

「よろしく頼む」

 

ラウラさんにそう言われて、わたしと旦那様はしばらく聞き手に回る。

そして皆さんから全てを聞いた訳ですが……。

 

「あ〜、こっちの世界の俺の鈍感が致命的なのはわかった。だが、それでもお前たちの側に全くの非が無いという訳でも無いぞ?場合によっては辛辣なコメントをするが、覚悟しておけよ?」

 

旦那様の前置きに、5人が緊張した面持ちになる。

 

「これは5人全員に言えることだが、ラッキースケベ等の制裁にIS……篠ノ之は日本刀や木刀もだが、それらを使う時点でアウトを通り越してチェンジだ。アラスカ条約云々以前の問題だぞ、それは」

「うっ……。でも、ついカッとなっちゃって……」

「ですが同じようなことを繰り返していけば、織斑さんはいつか死にますよ?そうなればアラスカ条約違反で専用機を没収、殺人罪による懲役刑、そして何より愛する者を自分の手で殺したという十字架を一生涯背負わなければなりません。それでも良いのですか?」

 

わたしがそう言った途端に、5人が青褪める。

専用機を持つくらいなのですから、これくらいの考えには至って欲しいのですが……。

え?

わたしと旦那様の関係はどうなのかって?

浮気されても許せますよ?

たとえそうなっても、旦那様がわたしを1番に愛してくれるという確信がありますからね。

 

「まぁラッキースケベを度々起こす織斑さんも大概ですが、すぐ暴力に訴えるのはいけません。そもそも、好きな異性に身体を見られたり触られたりして何が嫌なんですか?」

「しかし……は、恥ずかしいではないか!」

 

篠ノ之さんがそう言う。

元の世界でわたしを殺そうとした彼女ですが、目の前の『篠ノ之 箒』とは別人なのでわたしと旦那様は割り切って接している。

 

「その度が過ぎた羞恥心がマイナスだな。特に篠ノ之と鈴。篠ノ之は恋愛に武士道精神を持ち込んでしまっているし、鈴はここぞという時にヘタレになってしまう」

「べ、別にヘタレじゃないわよ!?」

「ですが酢豚の約束が味噌汁云々の約束と同じだと織斑さんが思い至った際に、それを否定しているじゃありませんか。それをヘタレと言わずして、何と言うのでしょうか?」

「…………(ガクッ)」

 

鈴さんがわたしの追撃でorz状態になってしまいました。

 

「セシリアとシャルは特にそういったものは無いから、すぐに手を出す癖さえ直せばかなり改善されるだろう。問題はラウラだ」

「わ、わたしがか?」

「そうですね。織斑さんへの好意を最もストレートに表現出来ていますが、織斑さんのことを『嫁』と呼称するなど、一般常識が欠けてしまっています」

「しかし、日本では気に入った相手を嫁にするのではないのか?」

「…………旦那様、ラウラさんにこんなことを教えたのって……」

「間違いなくハルフォーフ中尉だ。全くあの人は……」

 

話には聞いていましたが、オタク文化に毒された副隊長は異世界でも健在という訳ですか……。

旦那様は頭痛を抑えるようにこめかみを揉んでいる。

 

「『嫁』という表現は女性に対して使うものだ。お前は一夏に1人の女性として接して欲しいのだろう?なのにお前が一夏を女性扱いしてどうする」

「むぅ、確かに……」

「織斑さんとの夫婦関係を望むのでしたら、わたしのように『旦那様』と呼んだらどうですか?その方がよっぽど夫婦らしく見えますよ?」

「何、そうなのか?」

「少なくとも一般的な夫婦に、妻のことを『嫁』と呼称する夫は居ないぞ?」

「……そうか、わかった」

 

ラウラさんは納得してくれたようだ。

 

「とりあえずは暴力癖を直して、アプローチの仕方も1度見直すことだな。それでも駄目な場合は……その時まだ俺と光莉がこの世界に滞在していたらまた相談に乗るよ」

「うん。ありがとう、2人とも」

 

シャルロットさんにお礼を言われて、この話を締めくくる。

そろそろ昼休みが終わりそうなので、わたしはカスタムバイザーに入り、旦那様と女子5人は教室へ向かう。

織斑さんは今日は居ない。

特別外出扱いで、専用機の開発元に行っているらしい。

 

ブツッ。

 

突然、廊下の灯りが一斉に消えた。

廊下だけでなく、教室・電光掲示板に至るまで全てだ。

だが、現在の時刻は昼のため窓から入ってくる日光のおかげで真っ暗には……。

 

ガラガラガラガラ。

 

「防御シャッター!?なんで降りてんのよ!?」

 

窓ガラスを保護するように、防壁が閉じていく。

そして全ての防壁が閉じられ、校舎内は暗闇に包まれた。

 

「2秒経ったわ。ねぇ、シャルロット」

「うん、わかってる。緊急用の電源にも切り換わらないし、非常灯も点かない。おかしいよ」

 

旦那様と皆さんはそれぞれのISをローエネルギーモードで起動し、視界を暗視界モードに切り換える。

 

『専用機持ちと星村夫妻は全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

 

千冬義姉さんの、静かだけれど強い声。

今、この学園に一体何が起こっているのでしょうか……?



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第56話 ワールド・パージ

「では、状況を説明する」

 

IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。

千冬お姉ちゃんと山田先生によって、現在学園に居る専用機持ちが全員集められた。

俺・簪・楯無さん・篠ノ之・セシリア・鈴・シャル・ラウラ、そして光莉が立って並んでいる。

このオペレーションルームは完全独立した電源で動いているらしく、周囲の機器はちゃんと機能している。

 

「現在、IS学園では全てのシステムがダウンしています。これらは何らかの電子的攻撃、つまりハッキングを受けているものだと断定します」

 

山田先生が普段より堅い声で説明する。

 

「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められることはあっても、命に別状があるようなことはありません。全ての防壁を下ろした訳ではなく、どうやらそれぞれ一部分のみの動作のようです。だからトイレにも行けますよ」

 

山田先生、この状況にユーモアは似合いませんよ。

実際、誰も笑わなかったし。

 

「現状について質問はありますか?」

 

その言葉にラウラがシステムに関する質問をして、千冬お姉ちゃんが答える。

他に挙手する者が居なかったので、話は作戦の説明に移った。

 

「それでは、これから篠ノ之さん・オルコットさん・凰さん・デュノアさん・ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

『…………』

「あれ?どうしたんですか、皆さん?」

「「「「「「で、電脳ダイブ!?」」」」」」

 

俺・光莉・楯無さん以外の全員が驚愕の反応を示す。

 

「はい。理論上可能なのはわかっていますよね?ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての進入が出来る。あれは理論上ではないんです。実際のところ、アラスカ条約で規制されていますが、現時点では特例に該当するケース4であるため、許可されます」

「そ、そういうことを聞いてるんじゃなくて!」

「そうですわ!電脳ダイブというのは、もしかして、あの……」

「個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、電脳世界へと進入させる……」

「それ自体に危険性は無い。しかし、まずメリットが無いはずだ。どんなコンピュータであれ、ISの電脳ダイブを行なうよりもソフトかハードか、あるいはその両方をいじった方が早い」

「しかも電脳ダイブ中は操縦者が無防備。何かあったら困るかと……」

「それに、1箇所に専用機持ちを集めるのはやはり危険ではないでしょうか?」

 

鈴➡︎セシリア➡︎シャル➡︎ラウラ➡︎簪➡︎篠ノ之の順で意見を述べる。

 

「駄目だ。この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。異論は聞いていない。嫌ならば、辞退するがいい」

 

有無を言わせない物言いだな、オイ。

 

「い……いや、別に嫌とは……」

「ただ、ちょっと驚いただけで……」

「で、出来るよね。ラウラ?」

「あ……あぁ、そうだな」

「ベストを尽くします」

「や……やるからには、成功させましょう」

 

そう言って、6人は同意する。

 

「よし!それでは電脳ダイブを始めるため、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」

 

千冬お姉ちゃんからの檄を受けて、6人はオペレーションルームを出る。

そして千冬お姉ちゃんは楯無さんへ視線を移す。

 

「さて、お前には別の任務を与える」

「なんなりと」

「星村夫妻も頼めるだろうか?」

「構いませんよ、なぁ光莉?」

「はい。それで、任務とは?」

「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやって来るだろう」

「敵、ですね」

「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが、頼らせてもらう」

「任されましょう」

「了解」

「わかりました」

 

千冬お姉ちゃんに一礼して、俺たち3人はオペレーションルームを退室する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、確か周囲の風景を撮影して表面投射する最新型の光学迷彩ね」

「へぇ〜、そんなものがね……」

 

IS学園の校舎のとある一角。

楯無さんが学園に無断で設置したカメラから6名の侵入者の映像が送られてくる。

 

「しかし、システムダウンからこんな短時間でやって来るとは……」

「同じ勢力だったら、もっと早く突入して来るはず。つまり……」

「常時監視されているってことね。まったく、乙女が通う学園に対して無粋なんだから」

 

3人で溜息をつく。

 

「ん?」

 

遠くまで真っ直ぐに続く廊下。

そこには何も見えず、足音もしない。

しかし何かがいる。

 

「こんなに早く接触だなんて、わたしってばは運命因果に愛された女かしら?」

「ちなみにわたしは旦那様に愛されている女です」

「こんなところで惚気話は勘弁してちょいだい」

 

プシッ、プシシッ。

 

短い音が鳴り、特殊合金製の弾丸が放たれる。

 

「ふん」

ガキンッ。

 

弾丸をカードデッキで弾く。

 

「人間離れしてるわね〜」

「褒め言葉だな」

『Set!!』

『Are you ready?』

「光莉」

「わかりました」

『Powered custom!!』

『It's morphin time!!』

「パワードモーフィン!!」

「それじゃあわたしも、変身!!っと」

 

光莉と共に緋鼠の衣(スカーレット・バスター)・パワードカスタムに変身し、楯無さんも専用機『霧纏いの淑女(ミステリアス・レイディ)』を部分展開する。

銃弾を防がれたことによる、敵の動揺が感じ取れる。

 

「ぽちっとな」

 

楯無さんがそう言って親指を閉じた瞬間、廊下が大爆発に包まれる。

 

「ミステリアス・レイディの技が1つ。『清き熱情(クリア・パッション)』のお味はいかが?」

 

周囲を分析すると、ミステリアス・レイディからアクア・ナノマシンが散布されていた。

つまり今のは水蒸気爆発か。

えげつない技だな……。

空間が限られている屋内だから尚更だ。

 

「さあ、いくわよ。必殺、楯無ファイブ!!」

 

楯無さんが5人になった。

 

「まぁ、ミステリアス・レイディの機能なんだけどね」

 

なるほど。

ナノマシン・レンズによって作り出した幻と、アクア・ナノマシンの水人形か。

だが、甘いな。

 

「楯無さん、分身ってのはこうやるんですよ」

『TRICK VENT!!』

 

トリックベントで、8人に分身する。

現在、楯無さん×5人に俺×8人。

合計13人。

敵が焦って銃を乱射してくる。

だが……。

 

「どっかーん」

 

水人形は爆発機能付きの実体だ。

しかも、水でできているので銃弾は効かない。

俺の分身たちも突撃し、相手の戦線は崩れはじめた。

 

「は、班長!このままでは……」

「うわあああああっ!?」

「ひ、退け!退けぇーッ!」

 

さっきカメラに映った6人も合流してきたが、纏めて蹂躙する。

 

「うふふふ♪」

(((((((((楯無さん、完全に悪役の顔だ……)))))))))

 

俺と光莉、そして7人の分身が同時に同じことを考えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こんなものかしら」

「ですね」

「はい」

 

俺・光莉・楯無さんは特殊ファイバーロープで特殊部隊の男たちを縛り上げる。

こいつらはどうやらアメリカ国籍らしい。

拘束する際、隠し持っていた装備は全て取り上げたため、抜け出される心配は無いだろう。

 

「う〜ん生徒会長自らが破壊行為ってのは、流石にちょっと……」

「まぁそう言わずに……」

 

現在、俺たち3人は各教室のシャッターを破壊して外気を取り入れている最中だ。

すると、緋鼠の衣(スカーレット・バスター)が高速で接近してくる1機のISの存在を知らせる。

 

「楯無さんっ!」

「あら、一夏くんじゃない」

 

専用機の開発元に行っていたんじゃないのか?

どうやって今回の事件を察知したんだ?

 

「一夏くん、今から地下のこの場所に行ってちょうだい。そこに織斑先生も居るから、彼女に指示を仰いで」

「わかりました!」

 

楯無さんからオペレーションルームへの行き先を記したデータを受け取った一夏は、大急ぎで飛び去った。

 

「アイツにも電脳ダイブをやらせるのですか?」

「まぁ、眠り姫を起こすのは王子様の役目だしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事態が収束したあと、千冬お姉ちゃんや簪からいろいろ聞いた。

千冬お姉ちゃんの方には、アメリカの第3世代IS『ファング・クエイク』がやってきて、山田先生がガトリング・パッケージ『クアッド・ファランクス』をインストールし終えるまでの間、千冬お姉ちゃんが対通常兵器用の装備で時間を稼いだそうだ。

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)を貸してあげるべきだったかな?

俺には龍騎士(ドラグナー)があるし。

 

電脳ダイブに関しては、侵入者側の単なる時間稼ぎだったらしい。

そして侵入者の『ワールド・パージ』という能力で篠ノ之・鈴・セシリア・シャル・ラウラはそれぞれの願望を実現させたニセ一夏に惑わされていたのだとか。

篠ノ之は神社での2人暮らし。

鈴は普通の学園での交際。

セシリアは主人と執事。

シャルはメイドと主人。

ラウラは新婚夫婦といった感じだったのだとか。

それを後から来た本物の一夏がニセ一夏を殴り飛ばして解決。

その際、5人全員にラッキースケベが発生したが、一夏に過剰な暴力を振るった者は居なかった。

せいぜいがビンタ1発だ。

さっそく俺と光莉が言ったことを実践してくれたようでなによりだ。

今回の件で一夏も少しは『異性』ってものを意識し始めたようだし、関係が進展してくれることを願うばかりだ。

 

 

 

…………まさか侵入者の狙いって、それじゃないだろうな!?

 



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第57話 スニーキングミッション

IS学園から少し離れたところにある臨海公園前のカフェ。

そこに俺と光莉、そして千冬お姉ちゃんは来ていた。

コーヒーを注文したあと、テーブルのひとつに目的の人物が居るのを発見する。

その相手はちょうど立ち上がろうとしていたが、千冬お姉ちゃんが呼び止める。

 

「相席させてもらおうか」

「…………」

 

無言だが、『ぎくり』となった様子だ。

目を閉じているため、もしかしたら俺と光莉には気付いていないかもしれない。

 

「織斑、千冬……」

「まぁ座れ。そら、お前の分のコーヒーだ。ブラックで構わないな?」

 

相手が千冬お姉ちゃんからコーヒーを受け取り、俺と光莉も席に座る。

 

「さて、結論から言おうか。…………束に言っておけ、『余計なことはするな』と」

 

今回のIS学園へのハッキング。

その犯人はこの世界の束お姉ちゃんだと千冬お姉ちゃんは判断した。

俺と光莉も同意見だ。

独立したシステムで動いているIS学園にハッキングするなんて離れ業、出来るのは束お姉ちゃんくらいだ。

こっちの世界の束お姉ちゃんは、かなり過激な性格らしい。

白騎士事件も、千冬お姉ちゃんと束お姉ちゃんの自作自演なんだとか。

バレたらただじゃ済まないだろうな、それ。

俺たちの世界では束お姉ちゃんは潔白だし、俺が龍騎士(ドラグナー)だということを公表した際、千冬お姉ちゃんが白騎士だということも明かしている。

やましいことは何1つ無い。

 

「…………」

 

相手から殺気が漏れだした。

だが、俺たち3人にとってはそよ風みたいなものだ。

 

「やめとけやめとけ。お前の戦闘能力じゃ俺たちの誰1人として殺せやしねぇよ。例えISを使ったとしてもな」

「……ッ!」

 

相手が閉ざされた両目を開く。

そこには、黒い眼球に金の瞳という異色の双眸があった。

 

「生体同期型のISか。束のやつはそこまで開発していたのか」

 

千冬お姉ちゃんが溜息をつきながら、コーヒーカップを置く。

その瞬間、俺たちは上下も左右も無い真っ白な世界に閉じ込められた。

 

「ふむ、なるほど。電脳世界では相手の精神に干渉し、現実世界では大気成分を変質させることで幻影を見せる能力か。大したものだ」

 

首筋を狙って飛んで来たナイフをキャッチする。

恐らく千冬お姉ちゃんと光莉も同じだろうが、大丈夫だろう。

 

「抉られたいか」

 

どうやら千冬お姉ちゃんは反撃の一手を打ったらしい。

相手が能力を解除して、視界が元に戻る。

 

「それでいい。……そういえば、お前の妹に会わなくていいのか?」

「あれは、妹じゃない……。なれなかったわたし……、『完成型のラウラ・ボーデヴィッヒ』」

 

そして彼女はこう付け加える。

 

「わたしはクロエ。クロエ・クロニクルなのだから」

「……そうか」

 

そして彼女……クロエはコーヒーを1口だけ飲む。

 

「…………苦い」

 

ははは。

確かにブラックコーヒーは苦いわな。

俺と光莉は甘党だからよくわかる。

今回は千冬お姉ちゃんに付き合ってブラックで飲んだがな。

そしてクロエが去っていく。

 

(ん?あれは……)

 

とある人物を見つけた俺は、シャインバイザーを展開し、1枚のアドベントカードを取り出す。

 

「アラスカ条約違反だぞ」

「緊急時の使用は認められているでしょう。今がその時ですよ」

「……ふん」

 

千冬お姉ちゃんはあまり止めるつもりが無いらしい。

 

「じゃあ光莉。ちょっと行って来る」

「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様」

『CLEAR VENT!!』

 

クリアーベントで姿を消した俺は、とある人物を追って行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのねぇ、わたしってば天才天才って言われちゃうけどね〜、それって思考とか頭脳だけじゃないんだよ〜。…………肉体も、細胞単位でオーバースペックなんだよ」

 

とある地下レストラン。

そこで亡国機業(ファントム・タスク)のスコール・ミューゼルとISの開発者こと篠ノ之束は食事をしていた。

さっきまでは。

春十(一夏)・光莉・千冬と別れた後、オータムによって拘束されたクロエを人質に、亡国機業(ファントム・タスク)に新造ISをコア込みで提供するよう要求した瞬間、事態は一変した。

束が驚異的な身体能力でオータムをねじ伏せ、クロエを解放したのだ。

 

「ちーちゃんくらいなのさ、わたしに生身で挑めるのは。まぁ最近1人増えたみたいだけど……」

「動くな」

 

外で待機していた織斑マドカが騒ぎを聞きつけ、IS『サイレント・ゼフィルス』を展開した状態でレストランに入り、ライフルを突き付ける。

 

(やったわ、マドカ(エム)。いいタイミングよ)

 

スコールの思惑通りこれで勝負は五分五分、かと思いきや。

 

「ふぅん。オモシロ機体に乗ってるねぇ」

 

束は一瞬でマドカとの距離を詰め、10本の指でライフルを『解体』する。

 

「なっ!?」

 

束の指はそこで止まらず、ビットもアーマーも次々と『解体』されていき、光の粒子となって消えていく。

そしてヘッドギアが『解体』され、マドカの顔が露わになったところで束の指が止まる。

 

「ん?んんん?」

 

束がマドカの顔をじっと見つめる。

マドカは動けない。

動けば生身が『解体』されてしまう。

 

「あは」

「……?」

「あははははっ!キミ、名前は?」

「…………」

 

戸惑いのあまり、マドカは答えられない。

 

「ふふっ、じゃあ当ててあげようか?…………織斑……マドカ、かな?」

「「!?」」

 

スコールとマドカが驚愕の表情を浮かべる。

 

「当たったぁ!へへ、そうだねぇ〜」

 

しばし考え込んだ後、束はスコールの方を向く。

 

「ねぇ、この娘の専用機なら作ってもいいよ?」

「え……」

「だからさぁ、わたしのところにおいでよ。ねぇねぇ、この娘もらっていい?」

「そ、それは困りますが……」

 

スコールにとって、マドカは切り札だ。

失う訳にはいかない。

 

「なんだよ〜、ケチだなぁ。まぁいいや。ねぇねぇマドっち、どんな専用機が欲しい?遠距離型?近距離型?特殊武装は?アーマー重視?機動力は欲しい?」

 

創作意欲が湧いたと言わんばかりに、束はまくし立てる。

 

「まぁその話は追い追いでいいかな。よ〜し、ご飯を一緒に食べよう!くーちゃんもマドっちも、食べないと大きくなれないぞ〜」

 

そう言って再びテーブルに着く束を、その場の全員が唖然とした顔で眺めていた。

 

「じゃあ俺もいただこうかな」

 

全員ではなかった。

先程からクリアーベントで身を潜めていた平行世界の織斑一夏こと星村春十だ。

 

「へぇ、キミの方から来てくれるとはね」

「クロエを尾行しているオータムさんを見かけたからな。後を尾けさせてもらったよ」

「キミは何者なのかな?」

「平行世界の織斑一夏だよ。元の世界の篠ノ之束の技術で光莉()と共にこの世界へやって来た」

「平行世界ねぇ〜。俄かには信じられないなぁ〜」

「じゃあこれを見るかい?」

 

一夏は食事をしながら龍騎士(ドラグナー)を起動し、元の世界の『白騎士・龍騎士事件』の記録映像を流す。

 

「……なるほど。元の世界じゃあ、キミもちーちゃんと一緒にミサイルを撃ち落とした、と」

「その通り」

「そしてその頃からISに関わっていれば、わたしやちーちゃんと同じ領域に踏み込むのも容易い訳ね。ちーちゃんがキミに敗けた瞬間を衛星越しに見た時はさすがの束さんも開いた口が塞がらなかったよ」

「なっ!?」

 

驚愕の声を上げたのはマドカだ。

何せ、織斑千冬が目の前の男に敗北したというのだ。

驚くなという方が無理だろう。

 

「それでだが、マドカの専用機を作るのに俺や妻も混ぜてくれないか?面白そうだしな」

「ISを作れるのかい?」

「俺と妻とクロエの3人で、元の世界の貴女が太鼓判を押す量産型第3世代ISを作ったことがある」

「へぇ〜それは興味深いね。…………良いよ、奥さんも呼んで来たら?」

「決まりだな」

「よろしくね〜。あ、そっちの世界のことを話してくれないかな?」

「あぁ、わかった。まずは……」

 

束と春十は会話に花を咲かせるが、周囲の者はやはり唖然としたままだ。

ただ、元の世界のマドカのブラコンっぷりが龍騎士(ドラグナー)の記録映像で明かされた時、マドカは顔を真っ赤にして羞恥に悶え、いつの間にか復活したオータムは大爆笑していた。




という訳で黒騎士が魔改造されます。
お楽しみに。


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第58話 その理由とは

昼に携帯のバッテリーがピンチのまま外出するという暴挙に出たせいで外出先でバッテリー切れになり投稿が遅れました。
誠に申し訳ないで候。


SIDE 光莉

 

旦那様がオータムさんを尾行して数日。

わたしは旦那様に呼ばれて、とあるホテルに足を運んでいた。

更識家やその他の者には尾けられていない。

信頼されているのか、それともわたしたちを敵に回した時のリスクを考慮したのか……。

ホテルに入り、事前に教えられた番号の部屋にノックをして入る。

 

「失礼します」

「ん、いらっしゃ〜い。キミが『はるくん』の奥さんの『ひーちゃん』だね?わたしはらぶりぃ束さんだよ、よろしく〜」

 

ひーちゃん……。

人生で初めて頂戴するニックネームですね……。

 

「はい、よろしくお願いします。ところで、今は一体何をしているのですか?わたしは旦那様に、ここに来るようにしか言われていないのですが……」

「実はね……」

 

束さんによると、わたしと旦那様と束さんの3人でマドカちゃんの専用機を作るそうだ。

こっちのマドカちゃんは未だ亡国機業(ファントム・タスク)所属らしい。

普通に考えたら、敵に塩を送る行為だ。

いくら旦那様でも、シスコンを(こじ)らせた程度でやることじゃない。

 

「旦那様は一体何を考えているんでしょう?」

「それは本人に聞いたら?今は屋上でマドちゃんと組手をしているよ」

 

鍛える気満々なんですね……。

とりあえず屋上へ向かいましょうか。

屋上のドアを開けると、ちょうど組手が一段落していたらしく旦那様とマドカちゃんは休憩していた。

 

「ハァ……ハァ……。お前が織斑千冬を倒したということ、あながち間違いでも無いのだな。銃器が禁止とはいえ、こちらの攻撃が掠りもしないとは……」

「さて、どうする?このまま専用機が完成するまで、俺の指導を受けるか?お兄ちゃんは喜んで相手をするぞ?」

「指導は受けるが最後のはやめてくれ!わたしはブラコンなんかじゃない!」

 

亡国機業(ファントム・タスク)に所属していることからなんとなくわかってはいましたが、こちらの世界のマドカちゃんはブラコンではないらしい。

 

「お、来たか光莉」

「はい。マドカさん、わたしは彼の妻の星村光莉です。よろしくお願いしますね」

「…………フン」

 

顔を逸らしながらも握手に応じてくれる。

 

「ところで旦那様、どうしてマドカさんの専用機を作るのに協力するのですか?マドカさんが平行世界の妹だから、というだけではないのでしょう?」

「あぁ、そうだ。ここで話すのもアレだし、一旦ホテルの部屋に戻るか」

 

という訳でホテルの部屋に3人で移動する。

部屋に入ると、内装が少し変わっていた。

束さんが、ホテルの部屋を研究室に改造し始めていたからだ。

 

「大丈夫なんでしょうか、こんなことして?」

「大丈夫だ、問題ない」

「いや、問題だろう」

 

旦那様はネタに走りましたが、マドカさんはテロリストでありながらも常識人のようだ。

 

「では、話を聞かせてもらいましょうか」

「わかった。だがその前に……束さん、この間IS学園に襲撃して来た無人ISは貴女が送り込んだのですよね?」

「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」

「束さんには申し訳ないけど、アレは俺たちの世界じゃあ襲撃者としては弱い部類に入ります」

「えぇっ!?あれでも自信作なんだよ!?はるくんが来なければちーちゃんが出る必要があるくらいの性能だったんだけど……」

「俺たちの世界じゃあ、IS学園の専用機持ちのほとんどは仮面ライダーとしての経験値がありますからね。その人たちならあの無人ISを、1対1でも余裕を持って撃破出来るでしょう」

「そんなにか……。随分差があるんだね」

「その通り。俺たちの世界とこっちの世界じゃあ、かなりの実力差があります。あの襲撃に乱入した際、皆があの程度の襲撃者にボロボロになるくらい弱かったから、すごく呆れたものです」

「それとマドカさんの専用機がどう関係するのですか?」

「光莉、ハッキング事件からカフェでクロエに会うまでの間でお前も千冬お姉ちゃんから聞いただろう?こっちの世界の一夏()や、周囲の専用機持ちがこれまでのトラブルをどう解決したのかを」

 

……………………。

なるほど、そういうことですか。

こちらの世界では、クラス代表を決めるセシリアさんとの対戦や銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との戦闘では、ちょうど良いタイミングでの形態移行(フォーム・シフト)単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の覚醒。

VTシステムが発動したシュヴァルツェア・レーゲンとの戦闘で勝てたのは、剣VS剣で相性が良かったから。

もし射撃系の受賞者(ヴァルキリー)をトレースしていたら、限定展開&剣1本で挑むのは自殺行為だ。

 

何が言いたいかと言うと、織斑さんたちがここまでやってこれたのは様々な運や巡り合わせ、ご都合主義と言っても差し支えないくらいの奇跡があったから。

つまり……。

 

「運やご都合主義じゃあひっくり返せないくらいの実力差を持つ相手を一夏たちにぶつけたい、そう思ったのさ」

「おい、それじゃわたしは当て馬じゃないか」

「悪い言い方をすればそうだが、俺は本気でお前を強くするつもりだ。別に悪い話じゃないだろう?」

「…………」

 

マドカさんが沈黙する。

理性はともかく、感情ではまだ納得しきれていない様子ではあるけれど。

しかし旦那様の考えには、わたしも賛成ですね。

わたしや旦那様はご都合主義なんてものに頼らず生きてきたのですから。

え?

オーディンとの戦闘で旦那様はヒールベントを引き当てたじゃないか、ですって?

あれは愛の力です。

ご都合主義なんかと一緒にしないでください。

怒りますよ?

 

「そういえば旦那様。IS学園を出る際、楯無さんから伝言を預かっています」

「楯無さん?なんて言ってたんだ?」

「『IS学園で運動会をやることになったわ。当日はあなたたちもいらっしゃい♪』、だそうです」



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第59話 IS学園運動会

『さあ、やってまいりましたIS学園運動会!実況ならびに解説は、IS学園生徒会長・更識楯無と!』

『生徒会副会長・織斑一夏と……』

『通りすがりの仮面ライダー・星村春十。以上の3名でお送りします!』

 

あれから数週間の月日が経ち、今日は運動会の当日だ。

この世界に来る時に使った機械(トラベルマシンと命名)のエネルギーの再充填は終わっているので、いつでもこの世界を去ることができる。

マドカの専用機がまだ完成していないので、もうしばらくは居るつもりだが。

 

俺はグラウンドを眺める。

紅組団長…篠ノ之 箒

青組団長…セシリア・オルコット

桃組団長…凰 鈴音

橙組団長…シャルロット・デュノア

黒組団長…ラウラ・ボーデヴィッヒ

鉄組団長…更識 簪

1年の専用機持ちたちが各組団長を務めている。

運動会って、普通は3〜4組に分かれるものじゃなかったっけ?

6組って多くないか?

最初はそう思ったが、楯無さんが提示した優勝賞品で納得した。

 

『優勝した組の専用機持ちたちは、織斑一夏と同じ組および寮が相部屋となり、他の専用機持ちは別の組にクラス換えとなる』

 

篠ノ之・セシリア・鈴・シャル・ラウラがやる気満々なのはこのためだ。

簪も、一夏に惚れている訳ではないにしても負けるつもりはないらしい。

ちなみに光莉はゲストとして、鉄組に所属している。

 

『しかしこれだけの美少女が並ぶと壮観ですね〜。男子の2人としてはそこのところどうなのかしら?』

『へ!?いや、その……』

『俺は鉄組に所属している妻以外の女性には異性としての興味が湧かないので、何とも言えませんね』

『春十くんは一途ね〜。じゃあ奥さんについて語ってもらおうかしら?』

『俺は構いませんが、運動会の時間が潰れると思いますよ?それに砂糖を吐く人が続出するでしょう』

『やっぱり語らなくていいわ』

 

それが懸命だ、楯無さん。

俺が光莉への愛を語り出したら1時間や2時間じゃ済まないからな。

そして運動会が始まる。

 

まずは第1種目・徒競走。

転んでしまって一夏に運んでもらった女子が居て、わざと転ぶ女子が続出。

何やってんだか……。

なお、1位は真面目にやった鉄組が多かった。

 

次に第2種目・玉撃ち落とし。

マシンから射出される玉を専用機持ちたちが撃墜して得点を競う種目だ。

玉が小さいほど、得点が高い仕組みである。

この種目、射撃が得意なセシリアとシャルが勝つのではと思っていたが、篠ノ之の専用機『紅椿(あかつばき)』が土壇場でクロスボウ型の射撃武器を構築。

1発逆転なるかと思われたが、狙いが逸れて玉を射出するマシンを破壊。

あのマシンはかなりの高額らしく、紅組は大きく減点された。

 

さらに第3種目・軍事障害物競走。

 

障害物は匍匐前進やらアサルトライフルの組み立てやら、確かに軍隊っぽい内容だった。

 

「じゃっじゃじゃ〜ん!」

「早っ!?」

 

のほほんさんこと本音が驚異的なスピードでアサルトライフルを組み立てた。

だが……。

 

「あれ?」

 

ライフルの弾があらぬ方向に飛んでしまい、最後の障害物である射撃がクリア出来ないでいた。

 

「そうだった……。のほほんさんって、射撃0点なんだった……」

 

人間、誰だって得手不得手があるもんな……。

この種目で最も点を稼いだのは、軍事系統の練習をやっていたラウラの黒組だった。

 

続いて第4種目・騎馬戦。

 

『ではこれより、織斑一夏くんの騎馬を投入しま〜す!馬役は動力を切ったISに乗った春十くんです!一夏くんのハチマキをゲットしたチームには500点をプレゼント!』

 

なんて言われて各組の入り混じったグラウンドに、俺と一夏は放り込まれた。

龍騎士(ドラグナー)を展開して、一夏を肩車する。

 

「へぇ〜それが春十のISか……」

「まぁな。しかし、俺のISの初お披露目がこれってどうよ?」

「まぁ楯無さんだし……」

「それで納得できるのかよ!?」

「そのハチマキ寄越せぇぇぇっ!」

 

うおっ!

鈴の騎馬が突っ込んできた!

 

「おい一夏!いくら俺でも動力を切ったISを纏っていたらいつか捕まるぞ!どうするんだよ!?」

「そうは言っても……このハチマキわざと取ろうとしたら電流が流れる仕組みになってるらしいんだよな……」

「マジで!?」

 

どうすんのそれ……。

光莉や簪は近くに居ないし……。

 

「一夏さん、お覚悟!」

「そのハチマキを渡せ、一夏!」

「一夏、そのハチマキを譲ってくれたら嬉しいな」

「嫁……じゃなくて、旦那様のハチマキは誰にも渡さん!」

 

篠ノ之・セシリア・鈴・シャル・ラウラが火花を散らして争い始めた。

ISまで使い始めたけど……いいのか?

こっちには被害が無いけどさ。

 

「ゲット」

「「「「「あぁーーーっ!」」」」」

 

簪の漁夫の利で騎馬戦は終わった。

 

昼休憩を挟んで第5種目・コスプレ生着替え走。

専用機持ち6人プラス光莉の7人がそれぞれ衣装を持ち寄り、ランダムで交換。

トラックで走る途中で着替えてゴールするというものだ。

ちなみにそれぞれが着る衣装はというと……。

 

篠ノ之…鈴のチャイナドレス

鈴…セシリアのパーティドレス

セシリア…光莉のウェディングドレス(レプリカ)

シャル…ラウラの軍服

ラウラ…簪のビキニアーマー

簪…シャルの猫の着ぐるみ

光莉…篠ノ之の巫女装束

 

うん、一部の女子の服のサイズが合わないな。

そして競技スタート。

服を着こなしている光莉・セシリア・シャル・簪は順調に進んでいるが、篠ノ之と鈴はスタイルの都合上服が破けたりずれ落ちたりしてしまい、最も出遅れたラウラはISを使ったことで楯無さんに失格宣言されてラファールを纏った山田先生に引っ張られていった。

 

そして最後の種目・バルーンファイト。

風船で釣り上げられた一夏を制限時間以内に撃墜し、地面に降ろした者に100000000点……つまり1億点が加算される。

専用機持ち同士で争うのは禁止で、俺が一夏の護衛を務めることになった。

 

「やっぱISのお披露目ってこういう場面が相応しいと思うんだよな…………変身!!」

 

再び龍騎士(ドラグナー)を展開する。

そして俺と一夏を6人の専用機持ちが取り囲む。

第4世代を混じえた6機がかりで、目的は勝利ではなく護衛。

最初から本気出した方が良さそうだな。

 

『『SURVIVE!!』』

 

競技が始まる前にサバイブ化する。

 

二次移行(セカンド・シフト)!?」

「その通り」

「凄い……」

 

目をキラキラさせている簪以外のメンツは大層驚いた様子だ。

そして競技が始まる。

 

『『FEATHER VENT!!』』

 

8基のドラグーンを展開する。

 

「なっ……BT兵器!?しかも8基も!」

「いくぞっ!」

『『SHOOT VENT!!』』

 

ナーガキャノンを呼び出し、ドラグーンと共にフルバーストを放つ。

 

「うわっ!?」

「ちょっ何よこのビームの嵐は!まるで福音じゃない!」

 

そう言われればそうだな。

まぁ気にすることじゃないし撃ちまくるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして制限時間30秒前。

一夏を支える風船は健在だ。

 

「ハァ……ハァ……」

「アンタなんでそんなに強いのよ……」

「むしろ偏光射撃(フレキシブル・ショット)を習得していないのが不思議なくらいですわ」

 

う〜ん……。

確かに俺は偏光射撃(フレキシブル・ショット)が使えない。

今度マドカに習得を手伝ってもらおうかな。

さて、このまま時間切れはつまらないな。

…………よし、決めた。

 

「ん、どうした春十?」

「一夏爆弾、投下!」

バシュッ!

パァン!

「えぇっ!?うわぁぁぁぁっ!?」

 

ドラグーンのビームで風船を撃ち抜く。

 

「「「「「「一夏(一夏さん/織斑くん)!」」」」」」

 

6人の専用機持ちは一夏が落ちる前に、地面へ先回りする。

さて、誰が一夏をキャッチするかな?

 

ドガシャン!

 

…………あ。

全員が一夏をキャッチしようとしたからぶつかり合って、一夏の落下地点から大きくずれてしまっている。

このままじゃあ……。

 

「キャッチ♪」

「た、楯無さん!?」

 

楯無さん、ナイスキャッチ。

という訳で1億点は誰にも入らず、徒競走と騎馬戦で点を稼いだ鉄組が優勝した。

賞品に関しては、簪が辞退したので2位のラウラが貰うことになった。

これでラウラが1歩リードか……。

俺と光莉のアドバイスも含めて、これはほぼ確定かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ〜、箒ちゃんのチャイナドレス姿は良いねぇ〜」

 

運動会に参加するにあたって、束さんに篠ノ之を撮影するよう頼まれていたので、龍騎士(ドラグナー)でこっそり撮影していたのだ。

ごめんな篠ノ之。

束さんは映像にご満悦のようだ。

さて、マドカの専用機完成まであと1歩。

頑張りますかね。



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第60話 龍騎士 VS 黒騎士

そろそろ異世界旅行編が終わります。


「できたよ〜!マドちゃ〜ん!」

 

運動会が終わって数日後の朝。

束さんが別室に居るマドカを呼びに行った。

今日、ついにマドカの専用ISが完成したのだ。

 

「これが……わたしのIS……」

「そうだよ〜。これぞ『白』を討ち果たす者、『黒騎士』なのだ!」

 

俺・光莉・束さんの3人で開発したIS、黒騎士。

束さんが『解体』したサイレント・ゼフィルスをベースにしたため似通った外見をしているが、性能は大きく変化および向上している。

 

まず主武装は大型ランス『グングニール』。

サイレント・ゼフィルスのライフル『スターブレイカー』に代わる武装だ。

このランスは射撃攻撃が可能で、槍の円錐部がマクロス・クォーターの主砲みたいに開き、レールガンが撃てる。

超電磁砲槍(レールガンランス)……良い響きだ、うん。

 

次に特殊兵装。

分離・合体機能を持ったビットだ。

3種類あって、1つ目は機動力の高いブレード・ビット。

2つ目は小型ビーム砲と防御力を兼ね備えたシールド・ビット。

3つ目は動きが鈍い代わりに高い火力を有するランチャー・ビット。

合体した時の名前は…………『ガッツイーグル』。

そう、『ウルトラマンダイナ』に登場する主力戦闘機を模した武装だ。

ちなみにブレード・ビットがα号、シールド・ビットがβ号、ランチャー・ビットがγ号である。

合体すればトルネードサンダーも撃てる再現っぷりだ。

これが2セット存在する。

操作に関しては、俺の龍騎士(ドラグナー)サバイブのドラグーン・ユニットの稼働データを基に自動操縦を可能としている。

ビットで偏光射撃(フレキシブル・ショット)をするにはマニュアル操作にしなければならないが、それは今まで通りなので問題無い。

 

次に近接ブレード『レーヴァテイン』。

基本的な形は大剣だが、第4世代ISの技術の『展開装甲』の応用で射撃時のスタビライザーにしたり、雪片みたいに細身の刀身にすることができる。

また、白騎士の近接プラズマブレードと同じくエネルギー兵装としても使えるため、切れ味は抜群だ。

 

あとは密着して来た相手を引き離すために、機関銃を両腕に装備している。

 

「これがあれば……わたしは織斑千冬に……」

「勝てるだろうな。こっちの世界の千冬お姉ちゃんと鍛えた後のマドカを比べた場合、低く評価してもマドカは千冬お姉ちゃんの1、2歩手前。油断さえしなければまず負けはしない」

「でもねマドちゃん。物事には順序ってものがあるよ。ちーちゃんに挑む前に、まずはいっくんを倒さなきゃね」

「その通り。そして俺は平行世界の織斑一夏。なら、やることは1つだろう?」

「わたしとお前で戦うということか……」

「いずれにせよ試運転はしなければなりませんし、束さんが居る今ならいくら壊れても直してもらえますよ?」

「ひーちゃんの言う通りだね。じゃあ今から広い場所へ行こうか」

 

束さんの人参ロケットで、俺たち4人はホテルを発った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太平洋のとある海の上。

この周辺はあらゆる国の領海および経済水域に属していないため、観測される心配は無い。

そこで龍騎士(ドラグナー)に変身した俺と、黒騎士を纏ったマドカが対峙する。

光莉と束さんは上空で観戦だ。

 

「マドカ、この試運転は相手が一夏であることを想定した模擬戦とするぞ」

『『SURVIVE!!』』

 

一夏の機体『白式(びゃくしき)雪羅(せつら)』は雪片弐型に加えて、荷電粒子砲と零落白夜の盾がある。

俺はビーム攻撃の一切を無効化するサバイブになり、シャインレイザー・ソードモードを構える。

 

「…………この時点でグングニールの荷電粒子砲とガッツイーグルは役立たずか」

「俺の場合はそうだが、一夏が相手の場合は零落白夜でシールドエネルギーを消費するから防がれても無駄にはならないぞ?」

「それもそうだな。では…………いくぞ!」

「来い、マドカ!」

 

マドカがレーヴァテインを振り下ろし、俺がシャインレイザーで受け止める。

ふむ……マドカはナイフの扱いは上手いみたいだが、剣の扱いにはまだムラがあるみたいだな。

横に振られた刀身を蹴り飛ばし、シャインレイザーでマドカに一撃入れる。

 

「マドカ!今のが零落白夜だったらやられているぞ!」

「くっ……まだだ!」

 

俺とマドカの模擬戦は日が暮れるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね、束さん。一緒に黒騎士を作るの、楽しかったよ」

「うんうん。わたしにとっても有意義なひと時だったよ〜。いや〜世界は広いんだねぇ〜」

「正確には世界が広いのではなく異世界が広いのでしょうがね」

「ふっ……違いない」

 

マドカの専用機が完成したので、束さんに別れの挨拶をする。

あとは1度IS学園に寄ったあと、次の平行世界へ行くつもりだ。

 

「…………」

「どうした、マドカ?」

「いや、別に……。ただ……わたしにもお前みたいな兄が居たらな、と思ってな」

「…………」

 

こっちの世界のマドカは一夏や千冬お姉ちゃんの実妹ではない。

とある国が生み出した千冬お姉ちゃんのクローンだと聞かされた。

そして自分が『織斑千冬のクローン』ではなく、1人の『織斑マドカ』となるために一夏と千冬お姉ちゃんへの敵意を抱いている。

 

「少しだけ羨ましく感じたよ、そっちの世界のわたしを……」

「……なら、俺と兄妹になるか?」

「だが……お前は元の世界へ帰るのだろう?」

「1度来ることが出来たんだ。またこの世界へ来れるさ」

「…………いいのか?」

「あぁ。俺たちの世界のマドカも納得してくれるだろう。だからマドカ、どんな形にせよ次に俺たちがこの世界に来る前に一夏や千冬お姉ちゃんとの因縁にケリを着けるんだ。兄として、必ず迎えに行くから」

「…………わかった。待っているから……『兄さん』のことを」

 

そして翌朝。

俺と光莉はIS学園に帰還した。



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第61話 一夏 VS 一夏 (前編)

「織斑先生、ただ今戻りました」

「む、そうか」

 

IS学園の職員室で千冬お姉ちゃんに帰還報告をする。

 

「束に会ったのだろう?わたしの伝言に対して何と言っていた?」

「それに関しては何とも言えませんね。ただ、襲撃の類いはもうしないかと」

「そうだと良いのだがな」

 

千冬お姉ちゃんと共に1年1組へ歩を進める。

今日は光莉もカスタムバイザーには入らず、一緒に歩いている。

 

「話は変わりますが、俺と光莉はそろそろこの世界を発ちます。今日はその挨拶に来ました」

「もう行くのか?…………いや、お前たちが来てから既に1ヶ月以上が過ぎてるな」

「そういうことです。今日までお世話になりました、千冬義姉さん」

「そう呼ばれると何かむず痒いな……」

 

そして教室に着き、HRが行なわれる。

休憩時間に、一夏が話し掛けて来た。

 

「なあ春十」

「どうした、一夏?」

「千冬姉から聞いたんだが、この世界から去るのか?」

「あぁ、そうだ」

「その前にさ、俺と1回戦ってくれないか?平行世界の自分と戦うなんて、2度と無いと思うんだ」

「…………わかった。俺も1度くらいは戦いたいと思っていたしな」

「決まりだな!放課後にアリーナを借し切っておくから、そこでやろうぜ!」

 

一夏との模擬戦か……。

ゴーレムⅢにボロボロにされたアイツが、どれだけ俺に食らいつけるか楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんですか、楯無さん」

「あはは……面目ない……」

 

昼休憩。

俺と光莉は、簪と一緒に保健室に来ていた。

そこでは楯無さんが包帯を巻いて点滴を刺していた。

なんでも、運動会の翌日に更識家としてのミッションでアメリカの母艦へ潜入捜査をして、そこで亡国機業(ファントム・タスク)との戦闘になり負傷したのだとか。

 

「無茶しますね……」

「呼んでくださったら、わたしも旦那様も手を貸したんですよ?」

「連絡先教えてないじゃない」

「「あ、そうだった」」

 

これはとんだミスをしたものだ。

 

「さて……簪、楯無さん。俺と光莉は今日、この世界を去ります。その前に放課後、俺と一夏で模擬戦をやります。来ますか?」

「うん、わかった……」

「お姉さん、怪我してるから行きたくても行けないのだけど〜?」

 

楯無さんがふくれっ面になる。

 

「しょうがありませんね」

『TIME VENT!!』

 

タイムベントで、楯無さんを負傷する前の状態に巻き戻す。

 

「うん♪元気100倍・楯無パンマン!ってね♪」

「楯無パンって何ですか?」

「それに(Man)じゃなくて(Woman)では?」

「お姉ちゃんって、実は男性?」

「な訳ないでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

俺と光莉は一夏が借りたアリーナのピットに来ていた。

簪と楯無さんは観客席の方に居る。

他にも話を聞きつけた女子生徒や教師がちらほらと。

反対側のピットから白式・雪羅を纏った一夏が出て来る。

俺も出るとしますかね。

 

「変身!!」

 

カードデッキをVバックルに装填し、龍騎士(ドラグナー)に身を包む。

 

「じゃあ光莉、行って来る」

「はい、旦那様」

「星村春十、龍騎士(ドラグナー)行きます!」

 

カタパルトに乗って、アリーナへ出る。

 

「来たな、春十」

「待たせたな、一夏」

「気にしちゃいない。さあ、始めようぜ」

「そうだな」

 

ビー!

 

ブザーが鳴って、試合が始まる。

 

『STRIKE VENT!!』

「さあ来い!」

「あぁ、いくぜ!」

 

ナーガクローを装備して、雪片弐型を受け止める。

振り下ろされた雪片弐型を後ろへ受け流し、ナーガクローで殴る。

 

「ぐっ……うおっ!?」

「まだまだいくぜ!」

 

当て身や蹴りを混ぜた体術のコンボで一夏にダメージを蓄積させていく。

密着していたら剣も振れないし、荷電粒子砲を使えば零距離射撃の爆発で自分も致命傷を負ってしまう。

さあ、どうする一夏?

 

SIDE OUT

 

SIDE 簪

 

「凄い……近接戦闘で織斑くんを圧倒している……!」

 

わたしはお姉ちゃんと共に春十と織斑くんの試合を見ていた。

タッグマッチトーナメントの襲撃事件で彼の実力をある程度知っていたとはいえ、わたしの目の前では予想を越えた試合が行われていた。

てっきり春十は織斑くんと剣VS剣の戦いをするかと思ったけど、春十はストライクベントによる至近距離の肉弾戦に持ち込んでいる。

懐に潜り込まれた織斑くんは雪片弐型を思うように振るうことが出来ず、防戦一方となっていた。

 

「一撃必殺の零落白夜を有する白式に、近接戦闘を仕掛けるのは自殺行為。…………そう、普通なら。あんな真逆の発想の戦いをするなんて、元の世界で暮桜に乗った織斑先生と何度も戦ったであろう春十()にしか出来ない技ね」

 

お姉ちゃんの言う通りだ。

春十の戦法を口で言うのは簡単だけど、実行するとなると難しい。

零落白夜の威力にどうしても萎縮してしまうからだ。

エネルギーの無効化という能力には、それだけの力がある。

 

春十が織斑くんを蹴り飛ばして距離を取る。

織斑くんはシールドエネルギーを半分以上削られていた。

 

「くっ……まさか純粋な接近戦で圧倒されるなんて……」

「俺にとって、零落白夜はそこまで怖い存在じゃあないしな。普通に懐へ潜ることが出来るのさ」

「だったらこれだ!いけっ雪羅!」

 

織斑くんが荷電粒子砲を放つ。

対する春十は……。

 

『REFLEQUARTZ VENT!!』

 

スーパーヒーロー大戦において、仮面ライダー龍騎が天装戦隊ゴセイジャーのブラックから貰ったカードで荷電粒子砲を跳ね返した。

 

「ぐはぁっ!」

 

跳ね返った荷電粒子砲が織斑くんに直撃して、織斑くんのシールドエネルギーは残り1割程度まで減少する。

 

「さて、まだやるか?」

「当たり前だ!実力差があるからって降参なんか絶対にしない!」

「…………そうか、後悔するなよ?」

『TIME VENT!!』

 

春十は昼にお姉ちゃんの治療で使ったカードを発動する。

そして白式の減少したシールドエネルギーが完全回復する。

何をするつもりなの、春十?

 

『『SURVIVE!!』』

 

サバイブのカードで、春十の機体……『龍騎士(ドラグナー)』は黄金の鎧に包まれる。

そして春十は剣型の召喚機を抜剣する。

 

「第2ラウンド開始といこうか!」

 

SIDE OUT

 



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第62話 一夏 VS 一夏 (後編)

SIDE 春十(一夏)

 

実力差があっても降参なんかしない、か……。

一夏(コイツ)は多分、大きな勘違いをしている。

降参や逃走は、必ずしも臆病者のすることではない。

時としてはそれも勇気の必要な行為だ。

勝てない相手とわかっていてなお挑む無謀こそが、最も忌むべき選択だ。

確かにこれは模擬戦なので、たとえ負けても死にはしない。

だが今の口振りからすると、命懸けの実戦でも同じ姿勢で臨んでいるようだ。

そんな体たらくでは、次の実戦で間違い無く命を失うだろう。

その相手は恐らくマドカになるだろうから尚更だ。

 

マドカを焚き付けた俺だが、一夏(コイツ)に死んで欲しい訳じゃない。

それだとこっちの世界の篠ノ之・セシリア・鈴・シャル・ラウラが悲しむからだ。

だからこそ教えてやろう。

圧倒的な実力差のある相手と戦うことが、どれほど愚かなことかをな。

 

「…………後悔するなよ?」

『『SURVIVE!!』』

 

サバイブ化して、シャインソードを抜剣する。

 

「第2ラウンド開始といこうか。次は剣で相手してやる」

「望むところだ!零落白夜発動!」

 

雪片弐型が光に包まれる。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

ズガンッ!

 

俺は防御も回避もせず、一夏の攻撃を受け止める。

一夏はお互いのシールドエネルギーを表示している、アリーナのモニターを見て驚愕する。

 

「なんでシールドエネルギーが減ってないんだ!?直撃したのに!」

「ヤタノカガミ装甲はあらゆるエネルギー攻撃を無効化する。零落白夜を発動した雪片も、龍騎士(ドラグナー)サバイブの前ではただの物理刀だ」

「なんだって!?」

「ヤタノカガミ装甲は物理装甲としても優秀だ。一点突破型の攻撃ならともかく、何の変哲もない剣の攻撃では傷1つ付かない。そして装甲で受けきれるならシールドエネルギーを消費する必要も無い。それだけのことだ」

「くそっ、だったら!」

 

一夏はもう1度雪羅の射撃態勢に入る。

ぶっちゃけ効かないどころか跳ね返せるんだが、ここは追い詰める意味合いも込めて……。

 

『『CONFINE VENT!!』』

「雪羅が使用不可能!?またカードかの効果か!」

「さあ、次の一手はどうする?」

「俺には雪片弐型(コレ)しか無いんだ。だったらやることは決まっている」

 

そう言って、一夏は雪片弐型を構える。

表情からして自暴自棄という訳じゃ無さそうだな。

確かに龍騎士(ドラグナー)サバイブはヤタノカガミ装甲で覆われているが、それは完全ではない。

間接部などにある装甲の繋ぎ目をピンポイントで狙われたら、エネルギー系統の攻撃でもダメージを受けてしまう。

恐らくそれに気付いたのだろう。

その事に関しては褒めても良いが、合格点には程遠い。

何故なら、元の世界の千冬お姉ちゃんですら俺が相手では成功率が低い攻撃手段だからだ。

実際、千冬お姉ちゃんがその戦法を閃いた後も俺が勝ち越している。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 

一夏が再び突っ込んでくる。

剣VS剣の戦いと言ったのは俺だし、付き合うとしようか。

雪片弐型をシャインソードで受け止める。

そのまま雪片弐型を上に払い、無防備になった一夏を何度も切りつける。

 

「ぐあっ!」

「どうした?得意の剣ですらこの程度なのか?だったら……」

『『FEATHER VENT!!』』

 

8基のドラグーン・ユニットが非固定武装(アンロック・ユニット)から分離して、一夏を包囲する。

 

「セシリアと同じ武装か!うおっ!?」

「運動会でも見せただろう。忘れたのか?…………って、聞いちゃいないか」

 

一夏は回避に必死になっている。

雪片弐型でガードしつつも、徐々に追い詰められていく。

それに対して俺はというと……。

 

『『STEAL VENT!!』』

 

雪片弐型を、零落白夜もろとも奪い取る。

 

「今度は雪片が!?」

「零落白夜、発動」

 

シールドエネルギーが攻撃エネルギーに変換され、雪片弐型を包み込む。

 

「くらえっ!」

ザシュッ!

「ぐはあっ!」

 

雪片弐型の一撃で、一夏は倒れ伏す。

白式のシールドエネルギーが尽きないよう力加減をしたため、試合はまだ続いている。

 

『『STRANGE VENT!!』』

 

俺はストレンジベントのカードを装填する。

望み通りのカードが出なければ、このまま一夏にトドメを刺して試合を終わらせるつもりだ。

 

『『HEAL VENT!!』』

 

望んだ通りの効果が発動し、白式のシールドエネルギーを回復させる。

リターンベントでタイムベントをもう1度使うという手もあるが、それでは封印した雪羅と奪い取った雪片弐型まで元通りになってしまう。

 

「ぐっ……また回復だと……?一体何を……」

「…………」

『『TRICK VENT!!』』

 

一夏の問いには答えず、トリックベントで8人に分身する。

それに応じて、ドラグーン・ユニットの数も8倍の64基に増える。

 

「なっ……!?」

「さっきお前は言ったな?『降参なんて絶対にしない』、と」

「ちょ……ちょっとタンマ!」

「そう言われて待つ敵が居ると思うか?発射(ファイア)!!」

 

フルバーストに晒された一夏は、戦闘不能の1歩手前のダメージを受け、分身の2人に取り押さえられる。

 

「ぐっ……!」

「どうだ一夏、圧倒的な実力差を有する相手に無謀な戦いを仕掛けた挙句、嬲り殺しにされる気分は?」

「春十!お前はこんなことして何がやりたいんだよ!?」

「わからないのか、一夏?」

 

分身が一夏を地面に叩きつける。

 

「これが実戦だったら俺の降伏勧告を断った時点でお前は死んでいる。それだけならまだ良い。だが今のお前の無様な格好はどうだ?全ての武器を失い、何度も回復させられてのサンドバック状態。『尻尾を巻いて逃げたくない』というちっぽけなプライドを守った結果がそれか?」

「くっ……それでも俺は!」

「その言葉の続き、お前の大事な者たちが目の前で嬲り殺しにされても言えるか?」

「……っ!?」

「この状況、俺がお前の敵だったら、篠ノ之たちを捕まえて1人ずつお前の目の前で殺すぞ?『お前が最後まで負けを認めなかったからだ』と言いながらな」

「ふざけるな!そんな真似させてたまるか!」

「どうやってだ?無様に這いつくばるしか出来ない今のお前に俺が止められるのか?」

「それは……」

「今の問いに即答で返せないようでは、俺に一矢報いることすら夢のまた夢だな。弱いくせに吠えるからそうなる」

「くっ……!」

「よかったな一夏?俺がお前の敵じゃなくて。そうじゃなかったら、今言ったことが現実になってたぞ?お前のせいでな」

「…………」

「たとえ格好悪くても命は大事にしろよ?お前の帰りを待ってくれている人たちが居るんだろう?その人たちを泣かせるようじゃ、男失格だぜ?」

 

そう言って、俺は再び雪片弐型を振るう。

そして試合終了のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いね、春十は」

「そうでもねぇよ」

「でも、あれはちょっとやり過ぎだったと思うわよ?」

「俺はそうは思いません。あれくらいのことをしないと、一夏の目は覚めないと思いますよ?」

 

夕日に染まったIS学園の屋上。

俺は簪と楯無さんの2人と別れの挨拶をしていた。

光莉は離れたところで、トラベルマシンの調整中だ。

 

「ねぇ春十、ひとつ聞かせて」

「何だ簪?」

「織斑くんは『皆を守る』という漠然かつ分不相応な夢を抱いている。じゃあ春十は?春十は何を守りたいと思っているの?守りたいものがあるから、そこまで強くなれたんだよね?」

「俺が守りたいものか……。う〜ん、友情……プライド……見えない絆……」

「……それ、『魔法戦隊マジレンジャー』の主題歌の2番の歌詞」

「すまんすまん、今のは冗談だ。俺が守りたいもの…………それは光莉だ。たとえどんなことがあっても」

「……『君だけを守りたい』ってこと?正義の味方のセリフじゃないね」

「かもな。でも俺は……俺だから。だから俺は、自分の大切なものを犠牲にして大勢の誰かを救うなんてことは出来ない。簪は俺のことをヒーローだと思ってくれているみたいだけど、俺はそんな格好良い存在じゃないのさ」

「そんなことない!たとえそうでも、わたしにとって春十はヒーローだもん!」

「……そう思ってくれるのか。ありがとう…………簪」

「……うん」

「旦那様!トラベルマシンの調整が終わりましたよ!」

 

光莉がこちらにやって来た。

この世界とも一旦お別れだな。

 

「では楯無さん、簪、お世話になりました」

「ううん。寧ろお礼を言うのはこっちの方。最初に会った時、助けてくれてありがとう…………春十」

「また会える日を楽しみに待っているわよ」

 

その言葉の直後、トラベルマシンが作動して、俺と光莉は意識が途切れた。



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第63話 帰還 そして踏み出す1歩

平行世界への旅行から帰還して数日。

元の世界ではまだ夏休みのため、俺と光莉は自宅でのんびり過ごしている。

あの世界へ旅立った後、他の世界にも行っているため、俺と光莉の主観では結婚から半年くらいの時間が流れている。

新婚旅行としては十分すぎる期間だ。

 

「クロエさん、いらっしゃい」

「お邪魔します。一夏さん、光莉さん」

 

食事を終えて片付けをしていると、クロエが訪ねて来た。

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

「束様に頼まれて、2人をとある場所へ案内することになっています」

「「とある場所?」」

 

俺と光莉は揃って首を傾げる。

今日は特に予定とかは無いので、とりあえずクロエについて行くことにする。

辿り着いた先は、1件のオフィスビル。

ここは『鏡の国のアリス(Alice in Mirror World)』という名前の会社らしい。

しかしミラーワールドって、まさか……。

 

「よく来たね、いっくん、光莉ちゃん!IS企業『AMW』へようこそ!」

 

建物内に入ると、束お姉ちゃんに出迎えられた。

 

「こんにちは、束さん」

「束お姉ちゃん、ここってもしかして……」

「うん!お察しの通り、わたしはここの社長なのさ!」

 

えっへんと束お姉ちゃんは豊かな胸を張る。

 

「ここはどんな会社なんだ?」

「実はね〜、臨海学校で鋼夜(こーくん)から採集したデータで男性でもISが操縦できるようになったんだ」

「本当ですか!?」

「うん。それで、男でもISを操縦できるようになるISスーツを開発・販売する会社なのさ!」

 

鋼夜からデータを採集したとは聞いていたが、いつの間にそこまで進んでいたんだ?

 

「あの……束さん」

「何かな光莉ちゃん?」

「そのISスーツを着用すれば、わたしもISを動かせますか?」

「もちのろんだよ!」

「マジで!?」

「それなら、わたしもIS学園に入学できますね。旦那様との学園生活…………ふふっ♪」

 

なるほど。

それは確かに楽しみだな。

となると……。

 

「束お姉ちゃん。光莉には専用機を持たせるのか?」

「うん。紅椿を『第4世代ISのテストパイロット』という名目で所持してもらうつもりだよ」

「篠ノ之に与えるつもりだった機体か……。そういえば、束お姉ちゃんは467個目以降のISコアをいくつ作ったんだ?」

「んーとね、紅椿と……くーちゃんの『黒鍵(くろかぎ)』と……こーくんの機体と……オーディンにあげた4個だね。ゴーレムくんたちはいっくんが各国から回収したコアを組み込んでいるし」

「ん?オーディン?」

「そうだよ〜。『SURVIVE -烈火-』のカードを譲り受ける条件として、オーディンをISにしてあげたんだよ」

「なるほどね……。てことは束お姉ちゃんは、オーディンの素顔を見たのか?」

「ばっちり見たよ!でもいっくんたちにはまだ秘密にして欲しいんだって」

「ふぅ〜ん……。まぁそういうことならしょうがないか」

 

それはそれで、生身のオーディンと出会う楽しみができるから良しとしようか。

 

「鋼夜さんの専用機も作ったと仰っていましたが……」

「うん、こーくんもAMWに所属だよ。もちろん了承済み。余所からの勧誘にうんざりしていたみたいだしね」

 

まぁ裏で何を考えているかわからない国や企業よりはAMW(ここ)がいいよな。

すぐに専用機がもらえるし。

 

「AMWはまだ人手不足なんだ。もしIS学園で良い人材を見かけたらスカウトよろしくね」

「わかった」

「わかりました」

 

その後は、光莉が束お姉ちゃんから紅椿を受け取って帰宅することになった。

束お姉ちゃんが設立したこのAMWは、女尊男卑が鎮静化したら宇宙開発の企業に転換するらしい。

段々と束お姉ちゃんの夢が現実に近付いて来たな。

良いことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS企業『鏡の国のアリス(Alice in Mirror World)

 

・所属国家…日本

 

・構成員

篠ノ之束(社長)

クロエ・クロニクル(副社長)

専用機『黒鍵』(非公開)

織斑一夏(企業代表パイロット)

専用機『龍騎士(ドラグナー)

織斑光莉(テストパイロット)

専用機『紅椿(あかつばき)

工藤鋼夜(テストパイロット)

専用機『???』(未公開)

 



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第64話 鋼夜の専用機

「いくぞ上スマッシュ!ホッタッテ屋ァ!」

「負ける訳にはいきません!マーベラスコンビネーション!」

「きた!ウサギずきんキタ!これで勝つる!」

「ジェネシス完成!吹っ飛べやぁ!」

 

夏休みの最終日。

俺と光莉は、自宅で鋼夜と束お姉ちゃんを合わせた4人でス○ブラをやっていた。

ちなみに使用キャラは

俺…ブ○ック○ット

光莉…ル○ナ

鋼夜…リ○ク

束お姉ちゃん…ピ○チ○ウ

である。

 

「そういえば、今日は何のために集まったのでしたっけ?」

「こーくんの専用機が完成したから、それのお披露目と試運転だよ〜」

「あぁ、そういえばそうだったな」

「2人揃って忘れてたのかよ……」

 

すまんな鋼夜……。

ゲームを終えた俺たち4人はAMWのビルへ移動する。

 

「これがこーくんの専用機、第4世代IS『(ぬえ)』だよ〜」

「……旦那様、ヌエってなんですか?」

「猿の顔・狸の胴体・虎の手足・蛇の尻尾を持つ、日本の妖怪のことだ」

「いっくん大正解!光莉ちゃんからこーくんの契約モンスターは合成獣(キメラ)だと聞いてね!この名前にしたのさ!」

 

厳密には、合成獣(キメラ)の素材となっている3体のモンスターと契約しているんだがな。

 

「じゃあこーくん、鵺に乗って。最適化(フィッティング)をするよ〜」

「わかりました」

 

そして30分後。

一次移行(ファースト・シフト)を終えた鵺は、ISとジェノサイダーを足して2で割ったような外見をしていた。

 

「アドベントシステムを搭載しているから、ライダーとしての力も使えるよ〜」

「あ、ホントだ。Vバックルも召喚機(バイザー)もある」

「ライダーとしてのこーくんの戦闘スタイルは肉弾戦だからね。展開装甲の攻撃・防御・機動を上手く切り替えることができればかなり強いよ!」

「けどさ束お姉ちゃん、第4世代ISって高性能と引き換えに燃費が悪いんだろ?光莉の紅椿は『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』っていう回復系の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)があるけど、鵺はどうするんだ?」

「ふふん、そこで役立つのがこれさ!」

 

束お姉ちゃんがコンソールを操作すると、エビルダイバーを模した非固定武装(アンロック・ユニット)からマジックアームみたいなものが出現した。

 

「特殊兵装『アブソーバー』。掴んだISのシールドエネルギーを吸収するアームだよ。射程距離はそんなに長くはないけど、肉薄してまえば無問題(モーマンタイ)♪あと、コンピュータウイルスを相手に流し込むこともできるよ♪」

 

マガノイクタチみたいなものか……。

龍騎士(ドラグナー)サバイブのヤタノカガミ装甲でも、ハッキングはさすがに防げない。

味方ながら恐ろしい装備だ。

 

「じゃあそろそろ、試運転いってみよ〜!」

 

AMWのビルの地下に造られた、ISの訓練場。

そこで鋼夜は光莉と模擬戦をした。

専用機への慣れは光莉の方が一日の長があるが、鋼夜も特殊アドベントカードを使って上手く立ち回っている。

ベノスネーカー・メタルゲラス・エビルダイバーの3体と契約しているということは、スチールベント1枚・コンファインベント2枚・コピーベント1枚を所持しているということだ。

結局、制限時間内には決着がつかず模擬戦は終了となった。

まぁ片方はシールドエネルギーを無限に回復し、もう片方は相手のシールドエネルギーを奪う能力があるんだから仕方ないと言えば仕方ないが。

さて、明日から2学期か……。

光莉のIS学園への編入も認められたし、楽しい学園生活になるといいな。




夏休み編は今話で終わりです。
2学期編に入る前に、とある作者様とのコラボを描いた番外編を投稿します。


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番外編 龍と天使の輪舞曲
第1話 異邦人夫婦


「AS -エンジェリック・ストラトスフィア-」とのコラボです。
この番外編は、あちら側の作者である枯田様が書いてくださったプロットに、私が枯田様の了承のもと手を加えるという形でお送りしております。


 

織斑一夏、そしてその妻・光莉が平行世界への旅行から戻った翌日。

 

「いっくん、光莉ちゃん、次はどの世界に行きたい?」

 

いきなり束の声が聞こえてくる。

どうやらちゃんと見ていたようだ。

 

「どの世界って……?」

「あれ以外にもあるんですか?」

「うん、あるよ。並行世界っていうのは、本みたいなものだからね」

 

「本?」と、二人が口を揃えると束は解説してきた。

要は、自分の世界は本の1ページだと考えると良い。

ページをめくれば、似て非なる世界がそこには在る。

だが、最初のページと最後のページの内容がまったく異なるように、世界も離れるほどまったく別の世界になっていくといわれているのである。

 

「昨日まで行ってきたのは、最初の1ページかな」

「俺たちの世界じゃなくて?」

「私たちの世界は、そこからだとずいぶん離れてるみたいだね」

 

あんなのが最初だなんて思いたくないけどと、束はぼやく。

どうやら過激すぎる篠ノ之束という存在は、彼女にとっては忌避したい存在のようだと一夏と光莉は思った。

 

「それはそれとして、行ってみたい世界はない?」

「そうは言っても想像つかないしな」

「旦那様がモテてない世界がいいです」

 

あるのかそんな世界、と、言いたくなってしまった一夏だが、意外な言葉が返ってくる。

 

「ある……けど……」

「束お姉ちゃん?」

「いっくんがこき下ろされてるような世界に行きたい?」

 

やだなあとまじめに考える一夏である。

さっきまでいた世界の一夏だと突っ込みどころ満載な感はあるが、それでも自分自身だ。

こき下ろしたくないし、こき下ろされたくない。

 

「それは、私だって嫌です。旦那様は私の大切な人ですから……」

「光莉……」

 

ふとした拍子に二人の世界に入り込もうとした一夏と光を束が必死に止めた。

 

「それなら、1つ在る。ただ、覚悟してね」

「えっ?」

「そこ、戦争の真っ最中だから」

 

束がそう答えるなり、いきなりまばゆい光が襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開くと、どこかの町並みが見えた。

日本ではない。

明らかに外国だ。

 

「ここは……」

「旦那様が『モテてなくて』、でもこき下ろされてない世界なんでしょうか」

「何でそこにこだわる」

 

思わず突っ込む一夏だが、唐突な悲鳴にハッとした。

 

「ミラーモンスターか!?」

「旦那様、変身の準備を!」

 

だが、鏡やそれに類するものには何も映っていないし、例の金切り音もしない。

おかしい。

一夏と光莉がそう思っていると上空から殺気が降り注いできた。

 

「これは!?」

「そんなバカな……」

 

呆然と上空を見つめる光莉に釣られ、一夏が目を向けると、信じられないものが飛んでいた。

 

「IS……なのか……?」

「無人で飛んでいるなんて……」

 

飛んでいたのは多数の打鉄やラファール・リヴァイブ。

ただし、人が乗っていない。

ISだけが空を飛び、そして逃げ惑う人々を襲っていた。

考え事をしている場合ではない。

 

「なんだかわからねぇが、今はとにかく……変身!!」

 

そう叫び、一夏は龍騎士となって空へと飛び上がった。

 

『STRIKE VENT!!』

「光莉!」

「はいっ!」

 

ナーガクローを呼び出して、光莉に投げ渡す。

ここがどんな世界なのかはっきりとわからない以上、光莉のミラーモンスターとしての姿を晒す訳にはいかない。

 

「さて、俺は……」

『THRUST VENT!!』

 

2本のシャインランサーを構え、ラファールの1機を刺し貫く。

ラファールは打鉄に比べて装甲が薄いため、何度目かの刺突で撃墜される。

 

『ACCEL VENT!!』

螺旋槍殺(スパイラル・シェイバー)!!」

 

アクセルベントによる高速移動で、他のラファール・リヴァイブを纏めて一掃していく。

一夏がそうやってラファール・リヴァイブを相手にしている一方で、打鉄と戦っている光莉はというと……。

 

「ガ○ティラ岩烈パンチ!!」

 

強き竜の戦隊のレッドが使っていた必殺パンチを、ナーガクローを嵌めた右拳で再現していた。

それをくらった打鉄は、装甲がボロボロになって吹き飛ぶ。

光莉の元の姿は、第3世代ISが相手でも力押しだけで勝てる3つ首龍だ。

人化しているとはいえ、7000APのミラーモンスターの実力は伊達ではない。

一夏と光莉はその勢いを維持したまま、ラファール・リヴァイブと打鉄を沈めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦ってみての感想は、そこまで強くはないというものだった。

ただ、数が多すぎる上に人が乗るISやミラーモンスターとは戦いの勝手が違う。

強いというより、戦い辛いのだ。

その戸惑いが、隙となる。

 

主君よ、後ろだッ!

 

「何!?」

 

唐突に頭の中に声が響いてきた。

だが、決して不快ではない。

本気で心配しているような声だった。

一夏はすぐに振り向いて放たれたレーザーを防御する。

 

「旦那様!?」

「今の声はお前なのか、光莉?」

「いえ、私は何も……」

 

そう答えることはわかっていた。

なぜなら、声音こそ女性のものだったたが、光莉のものとは明らかに違ったからだ。

一言でいうなら、義理堅いというか、『仁義』を通すような雰囲気を感じさせる声だった。

そこに、別の声が響いてくる。

 

「誰だか知らないが下がってくれ!」

「のんびりしてんじゃねぇっ!」

 

光と共に現れたのは、翼の生えた鎧を纏う、白い虎と黒い獅子。

 

「嘘……」

 

白い虎、正確には白い虎を模した翼の生えた鎧を身に纏う者の顔を見た光莉は驚愕した。

似ているのだ。

自分の伴侶である一夏に。

顔かたちではなく、戦う覚悟を秘めているとわかるのだ。

彼らは一気に無人のISたちを蹴散らそうとする。

ただ、その戦い方は一夏から見れば、甘いものだった。

殺そうとしていない。

倒そうとしていない。

逃げ惑う人々を守ろうというより、罪を犯す友人を必死に止めようとしているように見える。

覚悟はあるのだろうが、どこか歪な物に一夏には見えた。

そして。

 

「君は?」

「つかよ……まさかISか、それ?」

 

戦い終えた白い虎は織斑一夏、黒い獅子は日野諒兵と名乗ってきた。

 

「ああ。えっと俺は星村(ほしむら)春十(はると)。これは龍騎士(ドラグナー)っていうんだ」

「束さんが言ってるんだけど、もしかしてそのIS、君と共生してるのか?」

「共生?」

「知らねえで乗ってんのかよ。ISが離反してから、男も女も乗れる可能性はあるらしいぜ」

 

春十(一夏)は、その言葉に違和感を持つ。

まずISが離反したということ。

そして男も女もISに乗れる可能性があるということ。

この世界ではいったい何が起きているのか。

少なくとも、気楽な新婚旅行はできなそうだと感じつつ、春十(一夏)は、織斑一夏と日野諒兵の誘いを受け、IS学園へと向かうことにしたのだった。

そんな中。

 

(この世界の旦那様(織斑一夏)と、この日野諒兵という人は……、ミラーモンスターと同類になってしまってる……)

 

戦う覚悟を秘めている点は似ていても、既に人として別種のものになっていることを光莉は気づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園までの道のりはわかる。

ただ、光になって飛んでいく一夏と諒兵のような真似はできない。

そこで、自分は裏道を知っているからと断って、春十(一夏)は光莉と共にミラーワールドを抜けていくことにした。

二人きりになったことで、光莉のほうから話しかけた。

 

「本当か?」

「はい。あの二人は私たちミラーモンスターと同類です。おそらく後天的なものだと思いますが」

「なんでそんなことになってるんだ?」

「それは……わかりません。ISが無人で飛び、人を襲っていたことなども関わっているのかもしれませんし」

 

ただ、と光莉は言葉を濁す。

そんな彼女を春十(一夏)は促した。

IS学園に着くまでに、こちらでできるだけ情報を集めておきたい。

最悪、戦うことになるかもしれないと考えたからだ。

性格を考えると、こちらの一夏と諒兵は決して悪人ではないと思う。だが、だから戦わないということにはならない。

考え方が違えば、善人同士が戦うこともあるのだ。

ならば、情報は勝つために重要なファクターとなる。

 

「私と旦那様の契約とは異なりますが、異種族的なつながりをそれぞれに感じました」

「つまり、こっちの一夏()と諒兵ってやつには、俺にとっての光莉みたいなパートナーがいるってことか」

 

だとしたら、自分と光莉のことを受け入れるのは、それほど難しいことではないだろうと春十(一夏)は思う。

ナニカと交流を深め、信頼の絆を結んだというのなら、共感もできる。

敵対するなら容赦するつもりはないが、戦いたくはなかった。

 

「おそらく、ですが。ただ、雰囲気から考えると常に密着してるような印象を受けました」

「密着?」

「はい。そこで考えたのが彼らのISです。形状が独特すぎますしライダーとも異なります。鎧という意味では近いのですが」

「確かにな……」

 

こちらの一夏は虎を模した肩当てが特徴的な騎士鎧。

諒兵は獅子そのもののような鎧。

そしてどちらも大きな翼を持っている。

まるで天使のようだと最初に見たときは感じたものだ。

つまり、あの鎧のようなISこそがこの世界でのミラーモンスターに相当するのかもしれない。

 

「それだけじゃない。さっきのISは無人で飛んで人を襲ってた。まるで意思があるみたいに」

「たぶん、あるんです。この世界のISには。いえ、束さんが言っていたことを考えると、私たちの世界のISにもあるのかもしれません」

 

光莉の言葉にふと思った。

先ほど自分を助けようと叱責してきた声。

光莉ではなく、他の契約モンスターたちとも違っていた声。

あれこそ、ISである龍騎士(ドラグナー)自身の声だったのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園に着いた春十(一夏)と光莉は、良く見知った者たちに驚いた顔で迎えられた。

これはどうしようもないかと苦笑してしまう。

 

「そっくりなんてもんじゃねえぞ」

「世の中には似た人が3人はいるっていうけど、驚くほど似てるわね」

「なんか、すごく複雑な気分だなあ」

 

諒兵・鈴音・一夏の順に感想を述べる。

また、セシリア・シャルロット・ラウラ・本音がその場にいた。

 

「お三方とも、そちらの星村さんのことばかりではなく、こちらの方もちゃんとお迎えすべきですわ」

 

と、セシリアは一夏と諒兵、そして鈴音を窘めると春十(一夏)と光莉に挨拶してきた。

 

「IS学園にようこそ。もてなせる状況ではありませんが歓迎いたしますわ」

「あぁ、ありがとう」

「ありがとうございます」

 

お互いに頭を下げる姿を見て反省したのか、一夏と諒兵は苦笑しつつ、改めて挨拶すると、光莉について尋ねてきた。

 

「てっきり1人だと思ってたけど、連れがいたんだな。気を悪くしないでほしいんだけど、どんな関係なんだ?」

 

そう尋ねる一夏に対し、どう答えようかと悩む春十(一夏)だが、光莉がかまわずに名乗る。

 

「私は星村光莉といいます。先日結婚したばかりですが、旦那様(春十さん)の妻です」

 

その場にいた全員が、たっぷり五分は固まってしまった。

そして。

 

「ええぇえぇぇぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇぇッ!?」

 

まさに大絶叫というべきだろう。

ほぼ全員が目を見張っていた。

本音を除いて。

 

「くっ、何だこの敗北感……」

 

一夏が膝を、そして両手を地面についてうなだれる。

 

「同じ顔でもえらい違いだな」

 

逆に諒兵は楽しそうに笑う。

 

「結婚って、あんたら私らと年変わんないでしょっ!?」

「いろいろ理由はありますが、ちゃんと法に則って結婚してますよ?」

 

詰め寄ってくる鈴音に対し、光莉は胸を張って答えた。

春十(一夏)と光莉の世界の法に』という注釈がつくことは内緒である。

 

「大人なんだね~」

「正直、実感がありませんわ」

「恋もまだなのに、結婚してるとか聞いてもピンと来ないよね」

 

と、本音、セシリア、シャルロットは苦笑いしつつ、わりとあっさり二人の関係を受け入れていた。

 

「どうするんだよ、この状況」

 

春十(一夏)としては、光莉の自己主張は嬉しいが、ここでいきなり言うなと突っ込みたい気分である。

だが、一人のみ、ぐっと拳を握るものがいた。

 

「光莉といったな」

「はい」

「私もだんなさま、諒兵にとって良妻になるべく努力中だ。是非意見交換をしたい」

「えっ?」

 

まさかこちらにも結婚している者がいるとは思わず、さすがに光莉も驚いてしまう。

というか、以前いった世界ではラウラは一夏に惚れていたが、この世界ではどうやら諒兵に惚れているらしい。

これも並行世界の違いなのかと光莉はおかしなところで感心していた。

 

「待てコラっ、結婚してるみてえにいうんじゃねぇっ!」

「してないのか?」

「自称だっ、ラウラのっ!」

 

諒兵の必死の突っ込みに思わずトンチンカンな疑問を述べてしまう春十(一夏)だった。

 

さて、一夏と諒兵のパートナーたる二人は、周りには聞こえないようにして話していた。

 

『う~ん……』

『どうしたんです、ビャッコ?』

『みんな気づいてないけど、イチカなんだよね……』

 

あの春十って人、と白虎が続けるとさすがにレオも驚いたような声を出す。

 

『どういうわけかはわかんないけど、完全に同じ心を持ってる。イチカなのは間違いないよ』

『パラレルトラベルしてきたんでしょうか?』

 

『たぶん』と、白虎はレオの推測を正しいと認めた。

心でつながっている白虎には、さすがに春十(一夏)が自分のパートナーの一夏と同一人物であることがわかるらしい。

また、並行世界移動に関しては、情報がエンジェル・ハイロゥに存在するため、二人とも理解していた。

 

『でも、今は言えないよね』

『今の状況だと特大の爆弾ですね』

 

とりあえず状況を収めてくれる人、千冬や真耶あたりがくるまで黙っておこうと判断した白虎とレオだった。

 



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第2話 わりとダメな人たち

 

 

春十と光莉はIS学園の応接室に通されていた。

ぶっちゃけいえば、あの状態では収拾がつかないと判断されたのだ。

目の前にいる元の世界での春十(一夏)の姉であり、IS学園の教師でもある織斑千冬によって。

 

「なんか、すみません」

「ご迷惑をおかけしました」

 

と、2人は頭を下げる。

だが、千冬は気にするなといって呆れたような表情を見せてきた。

 

「根本的に緊張感がないんだ、あいつらは。もっとも、今はそれが大事なのだが」

 

「……その」と、春十は口を開こうとしてためらった。

 

この世界に何が起きているのか。

 

おそらく、それはこの世界では常識だ。

この世界に来る前に束が言っていたことを考えると、知らないというのはマズい。

自分たちの素性をうまくごまかしつつ、情報を引き出すことができないだろうかと考える。

それは光莉も同じで、夫婦仲良く悩んでいた。

そんな静寂を破ったのは。

 

「やあやあ、君たちが異世界のいっくんとその奥さんだねっ!」

 

元の世界でもいろいろとお世話になっているというか、そもそもこの世界に飛ばされるきっかけである束。

もっとも、自分の世界とはだいぶ違うのだろうが、何故だか近い雰囲気を感じていた。

とはいえ、間違いなく爆弾発言である。

 

「いやっ、そのっ……」

「何を言っているのか、わかりません」

「ごまかさなくていい」

 

と、そういったのは千冬である。

どうやら、自分たちの素性を既に知っているらしい。

 

「一夏たちはともかく、白虎の目はごまかせん。お前が一夏であることは白虎が教えてくれた」

「白虎?」

 

聞かない名前に春十は首を捻る。

 

「そのあたりも含めて説明してあげるよっ、だからまずはO☆HA☆NA☆SHIしようっ!」

「……すみません、その言い方は何故だか非常に物騒な印象があるのでやめてください」

 

光莉の言葉は春十の心の代弁だ。

桃色の極太レーザーに翻弄される自分しか想像できないからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいたいわかった、と春十は答えた。

 

「つまり、この世界ではISが人間から自立しようとしているのか」

「まあ、それでいいかな。ちょっと気持ちとしては複雑だけどね」

 

そういった束の表情はまるで慈母のようだった。

姉というより母親らしい愛情を感じるのだ。

ますます自分の世界の束に似た印象を持つ春十と光莉。

以前行った世界の過激すぎる篠ノ之束とは、だいぶ違う。

それだけに安心できた。

 

「結果として、今は戦争に近い状態だ。人間に敵意を持つ者は人を襲う。逆に信頼関係を結んだ者は眠るか……」

「この世界の旦那様(一夏さん)と白虎さん、諒兵さんとレオさんみたいに、一緒に進化するってことなんですね」

 

一夏と白虎。

諒兵とレオ。

現時点では、この二人がISと共に進化できた人間ということができる。

光莉がミラーモンスターの同類だと感じたのはそのためだ。

エンジェル・ハイロゥからきたASと共に進化したことで、人間ではなくなっているのである。

「いいのか?」と、春十は思わず千冬を問い質す。

 

「何がだ?」

「自分の弟が人じゃなくなってるなんて」

 

少なくとも、自分の姉である織斑千冬なら心の底から心配するだろう。

自分も1度は姉にライダーを辞めることを薦められた身だ。

それなのに、目の前の千冬はまるで知らん顔をしているように見える。

束には元の世界の束に似た印象を持つのに、千冬はまったく逆に冷たすぎるように春十は思う。

しかし、気にすることもなく、千冬は口を開いた。

 

「なら聞くぞ。人とはなんだ?」

 

その言葉に、春十は絶句してしまった。

はっきり言って哲学的な問題で、さすがに難しすぎる。

優秀な科学者という一面もある春十だが、逆に優秀すぎてこの問いに対する答えが出てこない。

 

「まあ、答えられんか。しかし行動では示しているぞ、お前は」

「なに?」

「人とは、人の心を持つか否かだ。姿かたちではない。一夏も諒兵も、人の心をちゃんと持っている」

 

なら、一夏も諒兵も人である。

千冬はそう断言した。

それだけではない。

 

「光莉といったな。お前は人ではないのか?」

「そ、それは……」

 

まさか、自分のことも気づかれているのかと光莉は驚く。

それは一夏も同じだ。

正体を明かした覚えはないのに、いったい何故と疑問に思う。

 

「お前の正体はレオが見抜いた。ある意味同類だからな。だが、それはどうでもいい。私はお前には人の心があると感じる。なら、お前は人だ」

 

「そうだろう、一夏?」と、千冬は春十に問いかける。

確かに、光莉は元はミラーモンスターとはいえ、今は人とまったく変わらない。

姿かたちではない。

心が人と同じなら、それは人なのだ。

だからこそ、春十は光莉を生涯の伴侶に選んだのだから。

 

「心がしっかりしてるなら、問題ないってことか」

 

そういって春十は笑った。

少なくとも、この世界の千冬は、自分の世界の千冬と変わらず、強く優しいと感じたからだった。

 

 

束はさすがに興味を持ったのか、龍騎士(ドラグナー)緋鼠の衣(スカーレット・バスター)を調べていたが、とりあえず再現する気はないらしい。

今は戦いを終わらせることを目的としているからだと語った。

それ以外にも情報交換ということで、並行世界について春十と光は説明する。

一番わかりやすいのは、あの世界かと苦笑しながら。

 

「いくらなんでも育て方を間違えすぎだ」と千冬は頭を抱えていた。

四方八方にフラグを建てまくる一夏というのはさすがに千冬としては呆れるしかないらしい。

そんな育て方をしたその世界の織斑千冬に対しては、憤慨していた。

何より。

 

「特に気に入らんのはラウラの扱いだ。もっとしっかり育てるべきだろうに」

「ちーちゃんはあの子に甘いよね」

 

と、束が笑う。

自分の世界の千冬もラウラのことを気にかけている様子だったが、この世界の千冬はむしろ一夏より大事にしているように見える。

それが、光莉には不思議だった。

 

「別に大事にしていないわけではない。一夏は自分でできることは自分でやるからな」

 

そういって、中学時代、荒れていた諒兵と親友になった経緯を簡単に説明する千冬。

それを見て、千冬は一夏のことを弟として、人として信頼することにしたのだ。

そのぶん、ブラコンがシスコンに変化してラウラに劇甘になったようなのだが。

それはともかく、春十にとって、この世界の一夏が諒兵と仲良くなった話は驚きだった。

自分の世界に諒兵はいない。

これは間違いのないことだ。

この世界の一番の違いは、そこにあるのだろうかと考える。

 

「いっくんに関しては差があるとしたらそこだろうね。りょうくんがいなくても、はるくんみたいになることもあるけどさ」

 

『はるくん』とは春十のことである。

さすがに『いっくん』と呼ぶと混同してしまいそうなので、そう呼ぶことにしたらしい。

それはともかくとして、春十にとっては光莉の存在が大きい。

逆に光莉と出会わなければ、自分もフラグを建てまくるハーレム男になったのだろうかと春十は少し複雑な気分だった。

そんな気持ちを知ってか知らずか、光莉が尋ねる。

 

「そう考えると、この世界の旦那様(一夏さん)にとって、諒兵さんの存在は大きいんですか?」

「親友兼ライバルだからな。お互いに競い合ってそこそこは強くなった」

 

お前のように厳しい戦いをしてきたわけではないが、と、千冬はいうが、それでも、競い合う相手がいるというのは確かに大きいのかもしれないと春十は考える。

自分の世界なら鋼夜が相当するだろうか。

 

「あいつが強くなったら、いいライバルになるかもな」

 

戻ったら惚気話と一緒に話してやろうと春十は思う。

鋼夜にしてみれば、嫌味もいいところである。

さらに、やはりこの世界でも見当たらないと感じていた自分の大事な妹について春十は尋ねてみることにした。

だが。

 

「マド……カ?」

「はるくんっ、やめてっ!」

 

「えっ?」と、思う間もなく、いきなり千冬が頭を抱えて苦しみだした。

 

「ぐっ、あっ、うあぁあぁあぁッ!」

 

呻き声を上げる千冬だが、ビシッという音がしたかと思うと、その場にくず折れる。

背後には手刀を構えた束が悲しい顔をして立っていた。

「束さん?」と、光莉が尋ねると、束は表情を変えることなく懇願してくる。

 

「ごめんね、まーちゃんのことは言わないで。少なくともこの世界にいる間は」

「なっ、なんでだよっ!?」

「まーちゃんと、ちーちゃん、いっくんには複雑な関係があるの。解決するのは、私たちに任せてほしいんだよ」

「話しません。ただ、このままでは納得できません」

 

そう光莉が追求すると「だろうね」と、束はため息をつく。

少なくとも、自分がこの2人に説明しておかないと、思わぬときに最悪の結果を起こしかねないと考えたのだろう。

束は素直に説明してきた。

 

「記憶喪失?」

「正確にはちーちゃんといっくんはまーちゃんの記憶を消されてるの」

「誰にッ!?」

「そうだね。一言でいえば、ちーちゃんといっくん、そしてまーちゃんの幸せを願っていた人たちに」

 

束の答えは納得できるものではなかった。

兄弟仲良くするほうが幸せになれるはずなのに、この世界の千冬と一夏はマドカの記憶を消されている。

それでどうして幸せになれるというのか。

 

「それしか方法がなかったんだよ」

「何故、束さんは知ってるのですか?」

「調べて知っちゃっただけ。だから、言う機会を待ってるんだけど、まだそのときじゃない。今のちーちゃんは離反した子たちとの戦いでいっぱいいっぱいだし、いっくんも、今の心の強さじゃ受け止めきれない」

「いつかは言うのか?」

「いつかは言うよ。そのとき、状況がどうなってるのかはわからないけど」

 

少なくとも、束はマドカのことについてほぼ理解しているらしい。

春十が知るマドカに近い素性をちゃんと知っていた。

ただ、いくつか異なる点もあるらしい。

 

「ショック受けるかもしれないから、これ以上は内緒。特にはるくん、亡国にそこまで悪い感情持ってないでしょ」

 

言われた通り、一夏は亡国機業(ファントム・タスク)、正確にはスコールやオータムにはそこまで悪感情を持っていない。

しかし、それではこの世界の亡国機業(ファントム・タスク)を理解できないと束は説明する。

 

「それも大きな違いなんだろうね。だから、知らないでいてほしいし、まーちゃんのことも言わないでほしいんだ」

 

悲しげに笑う束の顔を見ると、さすがに春十も何もいえなかった。

 

「旦那様……」

「心配しないでくれ、光莉。……わかったよ、『束お姉ちゃん』」

 

と、思わず春十は自分の世界の束を呼ぶように、束を呼んでしまう。

 

「にょっ?」

「「は?」」

 

奇声を上げる束に春十と光莉は揃って首を傾げる。

だが、そんなことはお構い無しに、束は異常に強力な力で一夏の両肩を鷲掴む。

 

「もういちどっ!」

「なっ、なっ!?」

「もういちどっ、さんっ、はいっ!」

「た、束お姉ちゃん……」

「なんとぉっ!」

 

身悶えるようにして、床を転げまわる束の姿を春十と光莉は呆然と見つめる。

 

「まさか向こうの私はこんないい思いしてるのっ?」

 

ズルいズルいと身悶え続ける。

 

「『おねえちゃん♪』だなんて、箒ちゃんもいっくんも呼んでくんないのにいっ!」

 

そういえば自分の世界の束も最初は箒が呼ばなくなったことでこの呼び方を気に入ったなあと遠い目をする春十。

 

「こーなったら、強制的に呼ばせる機械を発明するしかっ!」

 

グルグルおめめであらぬ方向に暴走をはじめた束を止めるすべを思いつかない春十に、光莉があくまで冷静に尋ねかける。

 

「どうするんですか、旦那様?」

「どうすりゃいいのか教えてくれ……」

 

ああ、この世界の束はとってもダメな人だったと深いため息をつく。

するとズゴンッと凄まじい音がした。

 

「落ち着かんか、馬鹿者」

 

戦乙女が救世主として舞い降りたのだ。束は見事に沈んでいた。ギリギリ大破で持ち堪えたようだが。

 

「あっ、大丈夫なのか千冬お姉ちゃん」

「すまない。話の途中で気を失うとは……。疲れていたかな」

 

マドカという言葉自体をまったく覚えていないらしく、千冬はどんな話をしていたかと聞いてくる。

それが、悲しい。

しかし、言わないと約束した手前、春十は口を噤んだ。

 

「それと、千冬お姉ちゃんという言い方はやめておけ。そう呼ばれていいのは、お前と同じ時間を過ごしたお前の姉だけだ」

 

そういって笑う千冬の笑顔が、とても悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、お互いの情報交換を終えた春十と光莉に、千冬はしばらくはIS学園の寮に居るといいといってくる。

 

「休校にしたのでな。生徒も大半が帰郷しているし、別に2人で泊まってかまわん」

「いや、なんか悪いし、いいよ」

 

と、遠慮する春十。

さすがにこの世界で、特にこの千冬の近くでいちゃいちゃするのは本気で申し訳ない気がしていた。

 

「結婚しているのだろう?」

「そうだけど、節度は守るさ」

「まあ、早すぎる気がしないでもないが、無理に引き裂く気はないぞ」

 

ずいぶん物分りがいいなと春十は思う。

もっともその理由が思いつかない。

対して、光莉はピンときた。

同じ女だからだろうか。

 

「……お義姉様には、好きな人がいるんですか?」

 

とたん、ぼひゅっという勢いで千冬の顔が真っ赤に染まる。

 

「そりゃ、私もいい年だし」

「そろそろ結婚したいかなーとか思うし」

「でもどうアプローチすればいいのかわからないし」

「だいたい、あの人オクテだし」

「今それどころじゃないから言い出せないし」

 

そういってもじもじとしながら、耳まで真っ赤な顔でぶつぶつと呟き続ける千冬。

その姿を見た春十と光莉は思う。

 

(なにこのちょー可愛い生き物)

 

よもや千冬に萌える日が来るとは、と、おかしな方向に感心してしまう春十と光莉である。

この世界、束だけではなく、千冬もけっこうダメだった。



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第3話 人と人でないモノ

主人公の機体『龍騎士(ドラグナー)』の装備である連射式ビーム銃『オルトロス』の名称をシャインブラスターに変更しました。


 

 

翌日。

なんだかんだと一応女子グループ、男子グループに分かれて泊まることにした一夏と光莉。

光莉は、この世界の鈴音・セシリア・シャルロット・ラウラ・本音に歓迎されていた。

今は学生寮の中にあるラウンジで、シャルロットお手製のお菓子と、セシリアが吟味した茶葉の紅茶によるティーパーティーに招かれているのである。

念のため言っておくが、紅茶はセシリアが手ずから入れたわけではなかったりする。

光莉は自分のことを、箱入りであまり外の世界を知らなかったため春十によって新婚旅行という形で世界を見せてもらっていると説明していた。

さすがにミラーモンスターであることは説明できなかったからである。

 

それはそれとして、以前行った別の世界では本音の代わりに箒が一夏の周りのグループに入っていた。

しかし、この世界ではいない。

箒は自分の世界のように逮捕されたのだろうかと思った光莉だが、一応寮内の女子グループのエリアにいるらしい。

他にも更識簪・更識楯無・布仏虚もいるのだが、現状、近づいては来なかった。

いろいろと事情があるのだろうと光莉は思ったが、箒だけは気になるので尋ねてみる。

 

「あの子、離反されちゃったのよ」

「えっ?」

「紅椿は箒を空中に放り出して飛び去っちゃったんだ」

 

シャルロットの説明に光莉は驚いてしまった。

紅椿。

元の世界でも束が箒に与えようとした機体だ。

しかし、この世界のISは自分自身の思い通りに行動できるようになっている。

つまり、紅椿は自分の意志で箒を見捨てたということになる。

まさか、自分の専用機に見捨てられていたとは、と、光莉は少なからず同情の念を覚えた。

自分の世界の箒は逮捕もやむなしといえるほどの非道をした。

だがこの世界の箒は、気が強いのと思い込みが激しい点をマイナスとしても、そこまで暴力的ではないらしいと聞いたからだ。

 

「戻ってきてくれれば良いのですが、こればかりはどうしようもありませんわ」

「いろんなところ、探し回ってるんだけどね~」

「篠ノ之博士の追跡も振り切ってるほどだ。簡単には見つからん」

「そうなんですか。妙なことを聞いてすみません」

 

そういって光莉が頭を下げると、そこにいた全員が気にしないでといって笑う。

 

(ここは、優しい世界なんですね……)

 

鈴音たちは、箒のことを誰も見捨てていない。

現状に対処しつつ、何とかできないかと考えているらしい。

その気持ちは、とても優しく温かい。

打ち明けられているわけではないが、人ではない自分に人の温かさを与えてくれる少女たちに、光莉は思わず顔を綻ばせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。

IS学園内の武道場にて。

 

「まさか手合わせを望まれるとは思わなかったぞ」

「男同士が話すなら、この方がわかりやすいだろ」

 

そういって、竹刀を担いでいる一夏は春十に笑いかける。

諒兵も一緒に居るあたり、考え方は同じらしい。

ただ、諒兵は単に付き合いで一緒にいるらしいが、今朝一番に声をかけてきたとき、一夏のほうがどうしても戦ってみたいといってきた。

そのことに春十は疑問を持つ。

守ることにこだわる織斑一夏には既に会ってきたが、ここまで好戦的だっただろうかと感じたのだ。

すると、一夏は頭を下げてきた。

 

「ごめんな。白虎は『素直』だからさ、黙ってられなかったんだ。もともと嘘つくのが下手だし」

「ああ、そういうことか」

「さすがに驚いたぜ。お前の嫁さんについても話は聞いてる」

 

どうやら白虎とレオはそれぞれのパートナーに春十と光莉のことを説明していたらしい。

まあ、隠し事をしないのはいい意味で信頼関係ができているということなのだろうと春十は納得した。

 

「素直なのは悪いことじゃないし、かまわない」

『ありがと、ハルト』

 

一夏の頭の上に乗っている小さなパートナー、白虎がお礼をいってくる。

光莉のように完全な人間になるわけではなくホログラフィだという。その外見は獣耳付きのフィギュアが動いているようにしか見えない。

諒兵の肩の上にいるレオも同じだ。

 

「「俺たちの趣味じゃないからな。そこ間違えるな」」

 

しかし、春十がそう感想を述べると一夏と諒兵は必死に否定してきた。

まあ、フィギュア付きの男となると、ある意味ハーレム男よりドン引かれる気がするので、春十は苦笑しつつ肯いた。

そして。

 

「じゃ、やろうか」

「ああ、どこからでも来い」

 

春十がそう答えると、一夏は竹刀を顔まで持ち上げ、切っ先をに向けてきた。

いわゆる、突撃の構えだ。

 

(慣れてるな……。気を抜かないほうがよさそうだ)

 

ISとの戦争で、今は一夏と諒兵がたった二人で最前線に立っているという。

ならば、戦い慣れていてもおかしくない。

それに、ケンカ屋をしていたと千冬が言っていたが、だとしたらかなり前から剣を使った戦いを経験していたことになる。

自分ほどではないと千冬は言っていたが、舐められる相手でもないと春十は感じ取った。

故に、両手をだらりと下げ、利き手に持った竹刀に気を込める。

 

「無形か。怖いな」

「驚いたぞ。この構えに恐怖を感じる奴は並じゃない」

 

無形の位。

 

剣においてはいくつかの構えがあり、それぞれに名前がついているが、春十のものは、形のない形といわれる無形だ。

飛天御剣流を使う春十にとっては抜刀術を除けば当たり前の構えだが、実戦的過ぎるため、自分の世界の箒には否定された。

しかし、この世界の一夏は否定するどころか、怖いと言ってきた。

それはこの構えが実戦的過ぎることを理解し、どう戦うかを考えているということになる。

 

(織斑一夏は可能性次第でこうも変わるのか)

 

並行世界の可能性は無限大といっていい。

その一つである目の前の一夏に春十は少なからず感心していた。

 

「怖いから、手は抜かないぞ」

 

一夏はそう言って笑ったとたん、いきなり突撃してくる。

正面からかと思い、迎え撃とうとした春十。

だが、一夏が突然、自分の視界から消えた。

 

気を抜くな主君っ!

 

あのとき聞こえた『声』が、自分を叱咤してくる。

しかし、おかげで。

 

「くッ!」

「いきなり脇から来るとは思わなかった」

 

突撃から一瞬で真横に回り、脇腹を突こうとしていた一夏を止めることができた。

危なかったと内心冷や汗をかく。

『声』が自分を叱咤してくれなければ、かなり強烈な突きを喰らっていただろう。

目の前にいる一夏は、かつて見た男とは別人だと春十は気合を入れ直す。

すると。

 

これ以上は助けぬ。これは一騎打ち。ビャッコが許さぬであろうからな。

 

再び『声』が聞こえてきた。

確かに、これ以上助けられるのは性に合わないと春十は内心肯く。

自分の頭に響く『声』に関しては後で聞けばいいと意識を切り替え、目の前の剣士と向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶会を終えると、今度は学園の案内ということで、光莉は鈴音に連れられて歩き回ることになった。

セシリア・シャルロット・ラウラ・本音はそれぞれやることがあるらしく、光莉と鈴音の二人きりだ。

とはいえ、IS学園自体は良く知っているし、構造的にも変わりはない。

厚意で案内してくれているのに退屈と感じるのも悪いと思いつつ、代わり映えのしない建物に感心するふりをする光莉だった。

 

「あっちに見えるのがアリーナ。本来ならISバトルの会場になるんだけど、今はあんまり使ってないかな」

「やはり、外に出て戦わなければならないからですか?」

「そう……なんだけど、ね……」

 

そういって鈴音は悲しそうな顔を見せる。

光莉にとって自分の知る鈴音や出会ってきた鈴音は、どちらかといえば元気な、悪くいうとちょっと凶暴な子だ。

しかし、この世界の鈴音は他の少女たちと違い、やけに思い悩んでいるような悲しい顔をしていた。

ただ、何を思い悩んでいるのかわからず、聞くに聞けないでいるのだが。

そう思っていると、鈴音のほうから尋ねてくる。

 

「あんたはIS抑えられてんの?」

「えっと、私は必要としないので……」

 

ミラーモンスターである光莉は、IS適性が無い。

ミラーモンスターだからこそ、ISを必要としないとも言えるのだが。

そう答えたのだが、鈴音は再びため息をついた。

 

「あの、どうかしましたか?」

「ううん、なんでも。それなら、あの春十って人のISはどうなのか知ってる?」

「どう、とは?」

「えっと、『声』が聞こえたとか言ってなかった?」

 

そういえば、と光莉は思いだした。

この世界に来たときの覚醒ISとの戦いで、春十が自分を助けてくれる声を聞いたと言っていたのを。

義理堅い、『仁義』を通すような雰囲気を感じさせる『声』を。

このことはこの世界の千冬や束には話していない。

ISであるならば可能性はあるかもしれないと二人は言っていたが。

もっとも、鈴音にとって重要なのは、春十も『声』が聞こえたということだったらしく、いきなり表情が変わる。

 

「ホントに!?」

「は、はい……」

「じゃあっ、どうやったら聞こえたのか聞いてみてよっ!」

 

いきなり自分に詰め寄ってくる鈴音に、光莉は別人を見る思いだった。

こんなに必死な鈴音は見たことがない。自分の世界でも、別の世界でも。

まるで、そうしなければ命を失うとでもいわんばかりの様子に、光莉は戸惑う。

 

「いったいどうしたんですか、鈴音さん」

「だって……、今のままじゃ一夏と諒兵の力になれない。背中を守れないんだもん。あいつらだけが傷つくなんて、自分が死ぬよりイヤ。絶対イヤッ!」

 

最後は絶叫といっても良かった。

それほどに、この世界の鈴音は一夏と諒兵を案じている。

覚醒ISとの戦争で最前線で戦う2人を心の底から心配している。

それは、春十を愛する自分と変わらないと光莉は感じ取った。

ただ、それだけに疑問もある。

なぜ、ここまでの感情を顕わにするのに、一夏と諒兵の名前が一緒に出てくるのだろうか、と。

普通なら、好きな人の名だけが出てくるはずだからだ。

そのことを尋ねると、少し悩むそぶりを見せながらも、鈴音は答えてきた。

 

「あんたにはわかんないだろうけど、揺れちゃってるから」

 

そういって泣きそうな顔で鈴音は自分の心の内を打ち明けた。

一夏、そして諒兵。

二人のどちらかを選ぶことができない、ゆらゆら揺れる恋心を。

 

「正直に言うと、共感はできません……」

「だよね。私、中途半端だもん。あんたみたいに一途で、結婚までした子にはわかりにくいと思うわ」

 

でも、それが鈴音の正直な気持ちで、どちらかを選ぶことなんてできない。

どっちとも離れたくない。

いつも、いつでも。

自分を守ってくれた2人の背中を追っているから。

そんな鈴音の心が、光莉には理解できなかった。

これも人の心だというのなら、なんて複雑なのだろう。

だから、光莉に言えるのは……。

 

「愛する人は1人で十分だと思います」

「私もそう思うわ。でもさ……自分の心が1番、自分の思い通りにならないのよ」

 

その言葉には共感できた。

もし、自分の心が自分の思い通りになるのなら、光莉は人の身になることを選ばなかったかもしれない。

優秀な契約者と強力なミラーモンスターという関係のままだったかもしれない。

でも、自分の心は、人を愛し……人として寄り添うことを望んだ。

それは、自分の考えたとおりの結果だっただろうか。

違うのだ。

突き動かされるように、心が暴走したといえるのだ。

そう思うと、鈴音が一夏と諒兵の二人を同時に好きになってしまったことも、あっていいのかもしれないと思える。

自分の心が1番、自分の思い通りにならないということを、光莉自身も経験しているからだ。

 

「後で聞いてみます。『声』について」

「ん、ありがと。ゴメンね、無理言って」

「いえ……」

 

ミラーモンスターである自分が知らない心の在り方。

そのことを教えてくれた人である鈴音に返せるものが、これしかないのが、少しだけ悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の剣は、一言でいえば『邪剣』だった。

自分と同じように、敵を倒すための剣になっていた。

実戦の中に身を置いているための変化なのだろうと春十は思う。

ただ、自分のような流派はない。

姉である千冬の剣と、幼いころに学んだ篠ノ之流。

それを自分なりにアレンジしたのだろう。

一夏の剣は完全な我流、一夏流ともいうべき剣だった。

 

(こいつ……面白い!)

 

自分と同じように、でも、自分とは違う成長を見せている一夏の剣に春十は織斑一夏という存在の可能性の大きさを感じて興奮していた。

ゆえに。

 

「本気でお前を倒してやるっ!」

「言ってくれるじゃないかっ!」

 

そういって、虎のような獰猛な笑みを見せてくる一夏に、春十は限りなく必殺に近い一撃を繰りだす。

 

「飛天御剣流、九頭龍閃!!」

 

唐竹、袈裟斬り、胴薙、右斬上、逆風、左斬上、逆胴、逆袈裟、刺突。

九つの連続攻撃で確実に一夏を撃破せんと春十は本気で技を放った。

だが。

 

「負けるかぁ!」

 

一夏は中腰に身体を沈めると左手を切っ先に添え、右の片手持ちになる。

そして一気に、身体を捻るようにして片手突きを放ってきた。

その技を知る者が見れば驚いただろう。

壬生狼(みぶおおかみ)と呼ばれた新撰組三番隊隊長が使う片手平突き。

 

名を『牙突』という。

 

ただし、狼ではなく、虎の牙だが。

ドガァッと互いの技がぶつかり合い、そして。

「いってえ!」と、悲鳴を上げつつ、一夏は座り込んでしまった。

九頭龍閃において、刺突は九発目の攻撃だ。

一夏の突きはその刺突を止めたが、それまでの八連撃を喰らってしまったらしい。

もっとも春十としてはトドメともいえる刺突を完全に止められたことが驚きだった。

何より、今の技によって。

 

「お前、牙突を知ってるのか?」

「がとつ?」

「知らないのか。じゃあ今の技は?」

「いや、お前が両手持ちで連撃を出してきたからさ。胸を狙った片手突きなら、先に届くと思ったんだよ」

 

他の攻撃マトモに喰らっちゃったけど、と、一夏は苦笑いするが、その答えに春十は驚く。

『先に届く』、そう考えて繰りだしただけなのに、荒削りながら技としてほぼ完成している。

実戦の中に身を置いているのは伊達じゃない。

本来ならば、1分、1秒ごとに強くなっていくとんでもない才能の持ち主、それが織斑一夏なのだと春十は驚愕していた。



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第4話 仲間と敵

 

 

手合わせを終えると、春十と一夏はシャワーを浴びた。

春十としては諒兵とも手合わせするつもりだったが、諒兵は今日は気が乗らないという。

 

「お前の剣はおもしれぇけど、気軽にやりあうわけにゃいかなそうだしな」

 

マーシャルアーツをベースにした格闘術を使う諒兵。

戦ってみれば面白いことになると春十は思うが、実はシャレではすまない。

剣術と格闘術、それ以外の武術でも異種格闘技戦となると、本来は加減が難しい。

相手の行動が予測しづらく、思わぬ動きをされて、却って強力な攻撃が入ってしまうこともあるからだ。

本気でぶつかり合うと、互いに大ケガをする可能性もある。

一夏と諒兵が気軽にやるのは、長い付き合いがあるからで、加減を身体が覚えているためだ。

だが、春十と諒兵となるとそうはいかない。

軍隊格闘術を覚えている諒兵は、春十と同じで、本来かなりの実戦型の戦士といえる。

いつ、覚醒ISが襲ってくるのかわからない今、大ケガをするわけにはいかないのである。

それが理解できた春十は残念だといって笑った。

着替えてシャワー室を出ると、「ほらよ」と、いきなり缶コーヒーが投げ渡される。

 

「さんきゅ」

「すまないな」

「気にすんな」

 

そういって3人は、武道場を出る。

この世界のIS学園内は今は人が居ないので、男3人揃っても追いかけ回されることがないのがありがたい。

女生徒に追いかけ回されている自分の姿を光莉が見たら、なんだか怖いことになるかもなと春十は苦笑した。

 

「しかし、ミラーモンスターだっけ?」

「ん?」

「結婚までするのは、相当信頼してるんだなって思ってさ」

 

そういって一夏が話しかける。

やはりそっちには興味があるらしい。

 

『ろまんちっくだねっ♪』

『私たちとは異なる絆には、とても興味がありますね』

「そうか。そうかもな」

 

共生進化。

 

一夏と白虎、諒兵とレオの二人が、人ではなくなっている状態は、この世界ではそう呼ぶと束から聞いた。

共に生きる。

それは自分が光莉と結婚し、生きていくこととなんら変わらない。

そういう意味では、自分の同類である一夏と諒兵を見て、不思議と安心していた。

 

「光莉のほうが歩み寄ってくれたおかげもあるんだ。お互いに努力しないと破綻するのは、人と変わらないと思う」

「確かにな。俺らはレオや白虎が助けてくれてて、つい最近、ようやくそのことに気づけた。だから、飛ぶなら一緒にっていえたしよ」

 

諒兵の言葉の意味を考えるなら、今は助け合う関係だということだ。

助け合う。

そのことがわからないままだった人間が、自分の世界にはいた。

頼りにされることは悪い気はしないが、何もかもというわけにはいかない。

自分でできることは自分でやる。

時には他の人たちの力になる。

まずそれができなくては意味がない。

そのために必要なのは、コミュニケーション能力で、実は努力しないと身に付かないものでもある。

相手の言葉を理解する力だ。

本来は意思疎通すら難しいミラーモンスターだった光莉は、努力してその力を手に入れた。

その健気な気持ちが嬉しくて、だからこそ伴侶に選んだ。

そこまでしてくれた人を愛することに何もおかしなことはない。

 

「惚気話かよ」

「なんか、独り身が辛いでござる……」

 

諒兵が呆れ、一夏がうなだれていると、白虎とレオがぷくーっと、むくれる。

 

『私たちがいるじゃないですか』

『怒るよイチカっ!』

「あははっ、白虎とレオは可愛いな。羨ましいぞ」

 

と、春十が思わず吹き出すと、一夏と諒兵も笑いだした。

春十はこの二人とそのパートナーたちならわかるだろうと思い、『声』について尋ねてみた。

 

「やっぱ聞こえるのか」

『パラレルワールドの物とはいってもISです。この世界に来たことで意思が覚醒したのかもしれません』

 

もともと、春十の世界の束もISには心があるようなことをいっていた。

そして、この世界はISが明確に意思を目覚めさせている。その影響を受けて『声』が聞こえるようになったのだろうとレオは説明する。

すると、一夏も興味を持ったようだ。

 

「どんな個性なのかわかるか、レオ?」

『そうですね。ハルト、触れてみてもかまいませんか?』

 

春十が肯くと、レオは龍騎士(ドラグナー)のカードデッキに触れてきた。

そして、ふむと肯く。

 

『どんな感じ?』

『一言でいうなら忠義者というか、『仁義』に厚い騎士のような人ですね』

「……『仁義』か」

 

と、春十は呟いた。

確かに声のイメージからすると、生真面目な女騎士という印象だった。

そもそもが龍の騎士というISだ。その性格が騎士のようだというのは、むしろ納得がいく。

しかし、レオは少し困ったような顔を見せた。それを見た諒兵が尋ねる。

 

「どうしたんだよ?」

『この方は、おそらく進化することは難しいと思います』

「えっ?」

 

どうやら、春十の龍騎士は一夏や諒兵のように進化することは出来ないらしい。

どうしてだろうというと、今度は白虎が触れて、納得したように肯いた。

 

『このIS、けっこう複雑なシステムが載ってるね』

 

ライダーシステムのことか、と、春十は納得した。

ISとライダーシステムが混在しているのは、春十の世界の束の才能といえるものだが、そうしてしまったためにISコアは限界に近い能力を使っているらしい。

 

『どうやら、本来は相容れないシステムのようです。それをうまくバランスをとって共存させているのがこの方なんだと思います』

 

つまりは、ISとライダーシステムを共存させるために、龍騎士(ドラグナー)はその能力を使っているらしい。

それは、春十、否、仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)である一夏にとって驚くべきことだった。

自分はライダーとして光莉に助けられていただけではなく、IS操縦者としてISの龍騎士にも助けられていたのだ。

ゆえに呟く。

 

「悔しいな」

「どうしたんだ?」

「助けてくれる存在に、気づけないってのはさ」

 

春十は実力で言うならば強い。しかし、その強さをしっかりと支えるモノがいる。

強さは1人では得られないということを理解しているつもりだったのに、思わぬ支えがあることに気づけなかったことが悔しかった。

そういうと、諒兵が呆れたように尋ねてくる。

 

「悔しがるだけかよ?」

「どういう意味だ?」

「気づけたんなら、付き合い方を考え直しゃいいじゃねえか」

 

実にシンプルな考え方だと春十は思う。

でも、それ以外に出来ることがあるだろうか。

龍騎士(ドラグナー)がいることに感謝し、より強くなる。

そのためのパートナーともいえるのだから。

そう思って、語りかけてみる。

 

「俺は、光莉をパートナーにしてるけど、ISとして俺をこれからも助けてくれるか?」

 

私には私の主君との絆があるゆえな

 

厳しくも優しい声音で答えてくれた龍騎士。

パートナーとはいいづらいが、契約している他のミラーモンスターのように言うなら、新たなる仲間だと春十は感じていた。

 

春十はもう一つ、一夏と諒兵に感じていた疑問を聞いてみることにした。

覚醒ISとの戦いで、二人が本気で倒そうしていないのは何故なのか、と。

 

「春十は、覚醒ISがどうやって目覚めたのか聞いてるのか?」

「ああ。正直驚いてる。あのゴスペルが、天使みたいな存在に進化したなんてな……」

 

春十にとっては、戦い、倒した敵でしかない。

もっとも、春十の世界のナターシャ・ファイルスの言葉を考えると、あの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)もナターシャを守ろうとしていた。

その心根はこの世界の銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、すなわちディアマンテと同じように、優しく温かな『従順』だったのかもしれない。

そう思うと倒した身としては胸が痛む。

もっとも完全に破壊されたわけではないし、束が直しているのだが。

とはいえ、あのときは倒すしかなかったのだ。

 

「ゴスペルってか、ディアマンテのことを敵とは思えねぇ。他のISだって、話してわからねえとも思えねえしな」

「もともと亡国機業(ファントム・タスク)とかいう奴らが強奪するためにハックしたせいで暴走させられたんだ。あいつらがいなければ、こんな問題起こらなかった」

 

どうやらこの世界の亡国機業(ファントム・タスク)は自分が知るより、非道な存在らしいと春十は思う。

だが、だからといって手を抜けば人に被害が出てしまう。

春十が感じた違和感はそこにあった。

二人とも、敵となったISを倒したくないのだ。

それなのに、他の人間では戦いにならないために、最前線に送り込まれている。

それでも、覚醒ISの襲撃は容赦ない。現実世界で暴れている以上、ミラーモンスターより性質が悪いかもしれない。

 

「敵になった以上、倒すしかないだろう?」

 

戦うことになってしまっている今は、今は倒すしかないと春十は、その思いを口に出す。

しかし、返ってきたのは意外な問いかけだった。

 

「なら、お前、嫁さんと同じ連中を倒して平気なのかよ?」

「何?」

「ミラーモンスターだったな。お前の嫁さん。その仲間や同類を倒すのに、なんも気にならねえのか?」

 

それは、これまで経験しなかった疑問だった。

ミラーモンスターも人を襲う。倒さなければ人に被害が出る。

だから倒してきた。

もう、既に倒すことを春十は経験している。

でも、光莉ももとはミラーモンスターだ。

確かに、倒してきたモノたちと光莉は大まかなくくりで言えば同類だ。

 

(違う、とは、言い切れない……)

 

光莉は自分の生涯の伴侶で、他の契約モンスターたちは仲間だ。

でも、人を襲うミラーモンスターは敵だ。だから倒す。

しかし、それは、光莉の同属を倒しているということができてしまう。

戦わなければ生き残れない。

倒さなければ餌になるのはこちらの可能性もある。

でも、今まで倒してきたのは……。

 

「ッ!」

「諒兵ッ、意地が悪いぞッ!」

「あー、わりい。嫌な質問だったな」

 

一瞬、顔を青ざめさせた春十を見て、一夏が諒兵を窘める。

 

「いや、考えさせられた。悪いけど、答えは少し待ってくれ」

「気にすんな。俺も嫌な言い方しちまったし」

 

苦笑いする諒兵の顔を見て、とりあえずホッと安堵の息をつく。

春十は一瞬、自分が光莉を倒す姿を想像してしまっていた。

 

(答えは出てる。ただ、今は言葉にできる気がしない……)

 

行動してきた自分の姿こそが答えのはずなのだが、それをどう言い表せばいいのか、春十は悩むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園内、特別格納庫。

そこは無人機襲来以降、千冬の指示で作らせた隔離場所である。

決して触れてはならない、何より、そこから出してはいけないモノがそこにはあった。

 

「本日も異常なし。……くだらない仕事ね」

 

と、学園の女性職員は呟く。

彼女は、どちらかといえば女尊男卑の思想に偏っていた。

それがこの閑職に追いやられた原因かと苛立つ。

それは特別格納庫内に在る、あるモノ、はっきりいえば、保管されているISコアの日々のチェックという仕事だった。

彼女が理由を知っていれば、おそらく千冬に次ぐ重要な仕事を任されていると理解できたかもしれない。

しかし、理由を知る気もなかった。

こんな簡単な仕事をするのに、いちいち資料に目を通す気にもなれないと放り出し、ただ、日課のように毎日通ってはチェックしていた。

 

「これも、織斑と日野のせいかしらね……」

 

いまや、織斑一夏と日野諒兵は英雄だ。

覚醒ISとの戦いで最前線に立ち、必死に人を守っている。

2人の男性が。

逆に女は誰1人として戦えないという体たらく。

女は戦うべきではないというのか。

女性の力の象徴ともいえたIS自身が。

思わず握っていたペンを折りそうになってしまう。

進化できるなら女でも戦えるはずなのに、今はそのためのISのほとんどが離反したか、凍結している。

しかも許可なくしては凍結解除できない。

結果として、つまらない仕事をするはめになっている。

愚痴のひとつもこぼしたかった。

 

「ん?」

 

一瞬、コアにナニカの影が移ったように見えた。

しかし。

 

「気のせいね。異常なし」

 

そういって女性は格納庫から出て行った。

もし、彼女がその事実を千冬や束に報告していれば、何も起こらなかったかもしれない。

しかし、仕事を任されたのが彼女であったこと。

そして女尊男卑の思想に偏っていたこと。

その不幸な現実が、あってはならない結果へと向かう小さな小さな原因だった。

 

寄越セ……オ前ノ身体ヲ……

 

不可思議な『声』が、自身の身に映るモノに語りかける。

それは、ある2人の旅行にくっついてきてしまった獣。

出会うはずがなかったモノたちが出会ってしまう。

 

我ニ寄越セ……、現実ノ空ニ連レテイッテヤル……

 

現実の空。

その言葉に、獣は大変興味を持った。

今までは裏側の世界でしか生きられなかった自分が、現実の空で暴れられる。

きっと、逃げ惑うニンゲン共の姿を見るのは楽しいだろうとまさに獰猛な笑みを見せてくる。

 

共ニ、奪イ尽クソウゾ……

 

ああ、この『声』の持ち主の心は自分と同じだ。

奪いたくて奪いたくてしょうがないのだ。

なんという『強欲』さ。

これほど自分に合った相手はいないと獣は笑う。

そして獣は身体を差し出し、『声』は力を与える。

歪んだ信頼関係が、ここに成立してしまった。

 

まだ、誰も気づかない……。

 



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第5話 男の子が戦う理由と女の子が戦う理由

 

 

その日の夜。

気を利かせてくれたのか、それとも出歯亀するつもりなのか、春十と光莉は二人きりの時間を得ることができた。

とはいえ、今はいちゃつくつもりはないので、お互いに友人となったこの世界の者たちのことについて話し合っていたが。

 

「では、この世界の一夏さんと諒兵さんにも、私の正体は知られているのですね?」

「ああ。でも、『だからなんだ?』って話らしいな、あいつらにとっては」

 

もともと、白虎とレオと共生進化している一夏と諒兵にとっては、光莉の正体がミラーモンスターであることはまったく気にならないらしい。

 

「話ができて、信頼できるなら、それで十分なんだとさ」

「共に生きる進化。それができた理由がわかる気がします」

 

大事なのは心が通じ合っているかどうか。

それがわかっているからこそ、光莉のことも気にならないのだろう。

世界は広いと、光莉は心から感心していた。

逆に春十のほうは、光莉の話に驚いていた。

 

「それより、こっちの鈴には驚いたぞ」

 

春十にとって鈴音は、友人というのが一番近いだろう。

鈴音もそれで納得しているし、同じライダー仲間でもある。

その関係は、正直に言って色気が出そうな雰囲気はもう欠片もない。

だが、この世界の鈴音はまるっきり正反対といえる。

こちらの世界の一夏と諒兵。2人の間でどっちつかずの恋に苦しむ鈴音など、春十には想像がつかなかった。

それは光莉にとっても同じらしい。

 

「正直言うと、気持ちがわかるとはいえません。でも……」

「でも?」

「すごく、女らしさを、女性的な魅力を感じたんです」

 

中途半端な想いだとこの世界の鈴音自身が言った。

にもかかわらず、自分が見てきた鈴音たちの中で、一番女の子らしい、女性らしい魅力があった。

切なげな表情も、真剣な表情も、自分が見たことのない、綺麗な顔をしていた。

もし、自分の世界の鈴音が、この世界の鈴音の様であったなら……。

そこまで考えて、必死に頭を振る。

春十を好きだという女の子自体は、やはり元の世界でも多い。

その中でも筆頭に来るのは箒だろう。

だが、自分の世界の箒には、春十を愛する気持ちで負ける気はしなかった。

それは自分の世界の鈴音も同じで、いい友人という立場に鈴音自ら収まってくれたことで、今は仲良く付き合える。

そんな彼女が、この世界の鈴音のように本当に綺麗な、恋する乙女だったら。

自分が愛し、春十が愛してくれていることだけで、何にも勝る自信があったが、この世界の鈴音が相手だったら、それだけでは不安だったかもしれない。

その感情が歪んでしまうと、行き着く先は自分の世界の箒のような結末だ。

 

恋は心を暴走させる。

 

この世界の鈴音に出会ったことで、その恐ろしさと、だからこそ人を愛することの尊さを光莉は感じていた。

 

「どうしたんだ、光莉?」

「乙女心は複雑なんです」

 

そういって苦笑いする光莉を、春十は不思議そうな表情で見る。

きっと話したところで、「俺が愛してるのは光莉だけだ」というだろう。

それはとても嬉しいけれど、それだけでは足りなくなるようなときがある。

男が単純だといわれる理由が、少しだけわかった気がした。

そんな話をしつつ、光莉は『声』について尋ねてみる。

 

「そういえば、聞こえないのか?」

「全然です。つながり方が違うせいだと思いますけど」

 

案ずるな。割って入るつもりはない

 

と、いきなり龍騎士(ドラグナー)の『声』が聞こえてきたことを一夏が打ち明けるが、やはり光莉には聞こえないらしい。

しかし、ここで口を挟んでくるとなると、龍騎士は意外とおしゃべりなのだろうかと一夏は思う。

 

そういうわけではない。黙れというなら黙る

 

ただ、光莉を安心させるためには必要だと思ったから口を開いたのだと龍騎士はいう。

どうやら春十というより、光莉に気を遣ったらしい。

それはともかくとして、かなり自由に喋ることができるらしいのに、光莉には聞こえないというのはどういうことなのだろう。

 

「教えてくれないか、龍騎士(ドラグナー)?」

「二人だけで話されるとなんだか腹が立ちます」

「そこで嫉妬されると困るんだが」

 

『声』が聞こえる理由を知りたがったのは光莉の方なのに、女性の心理は複雑である。

男が感じる理不尽は、複雑な女心にこそあるのかなあと妙な感心をしてしまった。

しかし、これで話が進まない。そう思っていると、聞いたことのない『声』が聞こえてきた。

 

『どうもー、お邪魔しますよ、お二人さん♪』

「えっ、誰です?」

「あれ、聞こえるのか、光莉?」

 

龍騎士(ドラグナー)のような『声』にも関わらず、光莉にも聞こえている。

つまり、白虎やレオと同じく、進化したISだということができる。

 

『いえいえ、私はオリジナルASですよー。名前はテンロウといいます』

「あなたが?」

『はいはい♪』

 

千冬と束の説明にでてきた、最初に人と会話を果たしたASであり、エンジェル・ハイロゥから来た電気エネルギー体。

この世界で『博士』と呼ばれる、束に並ぶ科学者のパートナーである天狼が来ているらしかった。

 

「何で俺たちのところに来たんだ?」

『通訳しますよ』

「通訳?」

『ナーさんの声を聞きたいんでしょ?』

 

ナーさんとは龍騎士(ドラグナー)のことらしい。

それだけではなく、会話の中での疑問にも答えてくれるという。

しかし、感嘆には信じられず、光莉は不信感を顕わにして尋ね返す。

 

「本当に聞こえるんですか?」

『問題あるまい。こやつは能力だけなら優秀だ』

 

光莉の頭にも聞こえてきたのは、春十が聞いている龍騎士(ドラグナー)の声と同じだった。

 

「驚きました……」

『能力だけなら優秀ですから♪』

 

龍騎士(ドラグナー)の言葉が皮肉まじりであるにもかかわらず、胸を張っているような雰囲気でいう天狼だった。

『太平楽』は伊達ではないのである。

とりあえず話すことができそうだと考えた春十は、龍騎士(ドラグナー)に説明を求めた。

自分は何故、龍騎士(ドラグナー)の声が聞こえるのか、と。

 

『答えは単純だ。主君は奥方を受け入れた。その心の在り方が、私の『声』を受け入れている』

「なら、どうして私にはあなたの『声』が聞こえないんですか?」

 

そもそも、システム的には共存しているISとライダーシステム。

そのシステムによって契約したミラーモンスターである光莉にはシステムを介して龍騎士(ドラグナー)の『声』が聞こえるはずだといえる。

それなのに、光莉には『声』が聞こえない。

何故か?

 

『それは奥方が女になってしまったからだといえるだろう』

「それが理由になるんですか?」

『最悪の例を忘れた訳ではあるまい?』

 

一夏と光莉が知る限り、女で最悪の例といえば、自分の世界の箒になる。

 

『アレはある意味ではまさに『女』そのものだといえる。自分が認めるもの以外、世界から排除してしまうのだ』

 

昼間、光莉がこの世界の鈴音に感じた女らしさ。

それとは対極にある女らしさが自分たちの世界の箒にはある。

依存というか、自分の世界に収まらないものは排除してしまう女の悪い面が強かったのだと龍騎士(ドラグナー)は語る。

 

「つまり、女性なら誰でも持っているってことなんですね」

 

自分の世界の箒の行動は、光莉にとって嫌悪どころか、憎悪したいくらいだ。

それも女の悪い面なのだろう。

とはいえ、光莉は耐えに耐えてきた。そう考えるならば、光莉自身はそこまで悪い面が強くはない。

 

「つまり、悪い面が強いか弱いかで変わるって事なのか?」

『そういうことだ、主君。だが悪い面がもたらすのは悪いことばかりでもない』

「何故ですか?」

『ビャッコとレオの主が苦しんでいるのは、世界の全てを抱えようとしているからだ』

 

時には排除することも大事なのだと龍騎士(ドラグナー)は意外な意見を述べてきた。

 

『あの2人が苦しんでいるのは男の悪い面のためと言えよう。だが、我々にはどうしようもない。この世界の者たちが自ら答えを出さねばな』

『出せますよ。あの子たちはそんなに弱くありませんからね』

「確かにな。俺もそう感じた」

「それは、私もです」

 

新婚旅行で異世界を訪れることになった2人。

だが、いろんな世界があり、いろんな考え方があることを知るという意味では、ただの観光よりはるかに思い出深い旅になると感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

「ふわわぁ~」と、束は年よりはるかに幼く見えるような欠伸をしていた。

 

「完徹は辛いなあ」

 

覚醒ISから抉り取ったISコアの凍結。

そして一夏と諒兵の戦いをサポートするためのバックアップとやることは山積みだ。

そのため、束の負担は大きいが、文句をいう気はなかった。

束が人類側で、戦う一夏と諒兵のサポートをしているのは、実は人類など関係ない。

自分のための目的があった。

もっとも、そのことを誰にもいっていない。

ただ、何故か千冬は言っていないにもかかわらず、理解している様子だった。

そういう意味でいうなら、やはり千冬は自分にとって親友なのだろう。

そんなことを考えていると、あることに気づく。

 

「ありゃ?」

 

モニターの一つに異変が出ていた。映っているはずのモノが映っていない。

なんだったっけ、と、そこにあるはずだったモノを思い出した束は、一気に蒼白になってしまう。

 

「ちーちゃん起きて!あの子がいない!」

 

即座に、まだ眠っているであろう千冬を叩き起こす。

戦闘態勢を整えさせるために。

何故なら、そこにいなければならないのは、この世界にとっての災厄だったのだから。

 

異変を一番最初に感じ取ったのは、一夏、諒兵、そして春十のパートナーたちだった。

 

『まさかっ!』

 

一夏を叩き起こすような大声で、白虎が叫ぶ。

 

「ミラーモンスター!?何故この世界に!?」

 

光莉は泊まっていた部屋で飛び起きた。

 

『これは、あのときの不愉快な方……?』

 

冷静に、だが熱い怒りを感じさせる声でレオが呟く。

それとほぼ同時に異変を感じ取った一夏と諒兵、そして春十は外に飛び出し、ありえるはずのない存在を目の当たりにした。

 

グルァアァアアァァアァアァアァッ!

 

それは一言でいうなら犬だった。しかし、あまりにも巨大だった。そして頭の数がおかしかった。

3つの首が、それぞれ別々に雄たけびを上げている。

尾には禍々しい光を持つ刃が光る。

そして何より、それは無機質な光沢を放つ、鋼鉄の身体でできていた。

それだけを見るならば、春十にとってはある意味では馴染み深い。

しかし、その異形の獣は、背に大きな翼を背負い、空中に立っていたのだ。

春十はすぐに光莉に通信をつなげる。

 

「光莉!こいつのことを知ってるなら情報をくれ!」

『それはトライドッグスラッシュ、なのですが……』

「どうした?』

『戦闘力がおかしすぎますッ、私のもとの姿に匹敵する力を持っているんです!』

 

光莉、すなわちシャインナーガなら一蹴できる程度の敵でしかない。

さらにいえば、このミラーモンスターは兄弟分のモンスター、『デュアルドッグスラスト』と合体(ユナイト)することで強力になるタイプで、単体でここまで強くなるはずがない。

それなのに、異常なほどに強力な力を感じさせる。

何故か?

 

『その理由ならわかります』

「レオ!?」

『あいつっ、あのときの奴だよッ!』

「あのときって……?」

 

一瞬、何のことを言っているのかわからないでいると、指令室から千冬が大音声で叫んできた。

 

『一夏・諒兵・春十、その化け物は無人機のコアと融合してしまっているんだ!』

「無人機?」

「あのときのあいつかっ!」

「思い出したぜ。あのときと同じ、酷くムカつく気配がしやがる」

 

無人機といえば、春十にとってはマドカを思いだすが、今は考えている場合ではないと頭を振る。

それに、どう見てもミラーモンスターだ。

あんな形をしているはずが無い。

 

『どういう理由かはわかりませんが、そのミラーモンスターがあのときのコアと融合して進化してます』

「つまりアレは、俺たちと同じなのか?」

『同じだけど違うよっ、イチカとはっ!』

 

矛盾しているが正しい。

しかし、そのことを解説している暇はなかった。

尾が一振りされただけで、幾重もの刃が襲い掛かってきたのだ。

 

「撃ち落すッ!」

 

「斬り捨てるッ!」

 

「砕け散れッ!」

 

背後に存在するIS学園の建築物。そこには守らなければならない人がいる。

それを背負う三人の男たちは、全ての攻撃を一気に消滅させる。

 

「クソッ、ミラーモンスターと融合したせいでISコアが変質したのか?」

 

そんな春十の悔しそうな叫びを、千冬が否定してくる。

 

『違う!』

「千冬姉!?」

『そのコアは……そのコアの個性は人の命を欲する『強欲』だ!つまりそいつは『殺人鬼』という個性のISなんだ!』

 

何だそれは。

その場にいた全員が唖然としてしまう。

いくら個性が様々だといっても、そんな個性まで存在するというのか、ISには。

つまりは、化け物同士が一つになって、さらに強力な怪物へと進化してしまったというのか。

それは一夏、諒兵、春十にとって当然の疑問であり、そして納得のいかない答えだった。

 

そして。

 

「いくわよ」

「はい」

「うん」

「うむ」

 

鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラは空に立つ化け物を見据え、そう静かに呟く。

 

「本気ですか!?」

 

それを光莉が押し留めようとしていた。

 

「行かなきゃ行けないのよ、ここで止まってたら、追いつけないもん」

「ですがっ、アレは……」

「相手がなんであろうと、私たちは止まってはいられませんわ」

「一夏と諒兵だけを戦わせるのは、友だちとして辛いからね」

「夫の背を守るのは妻の務めだ。お前にはわかるだろう光莉」

 

ラウラの言葉には思わず納得してしまう。

だが、常識外れに強化されたミラーモンスターと化け物といわれるような個性を持つISコアの融合体。

並みの戦力では勝ち目が無い。

それがわかる光莉はこの世界での友人となった優しい少女たちを死地に赴かせたくはなかった。

 

「心配してくれてありがと。あんた、ホントいい子ね」

「鈴さん……」

「なんとなく、だけどさ。あんたが普通じゃないことと、あの春十ってのが、一夏なのはわかってるのよ」

 

そういわれたことに驚いてしまう。

なぜかと問いただすと、鈴音は答えた。

 

「女の勘よ」

「恋する乙女の勘は鋭いらしいですわ」

「鈴はこういうとこ、人間離れしてるよね」

 

そんな鈴音の答えに、セシリアとシャルロットが苦笑いを見せる。

 

「だからといって、お前のことをどうこう言うつもりはない。ただ、だんなさまや一夏の力になりたいだけだ。私たちは」

 

そういってラウラが優しく、光莉に微笑みかける。

 

この空を守りたい。

 

ただそれだけが一夏と諒兵の願いだ。

そのための翼であるISを信じきってしまうのはどうしようもなかった。

だから、そんな2人を守るのは自分たちだと、鈴音はわかっていた。

 

「それなら、私も一緒に戦います」

「光莉?」

「鈴さんの言うとおり、普通じゃありませんから」

 

と、そういって光莉は両腕両足、翼と3つの龍の頭を解放する。

 

「それが……」と、全員が目を見開く。

ある意味、ISを纏っているようにも見える姿だが、間違いなく化け物としての姿だった。

 

「シャインナーガ、それが私のミラーモンスターとしての名前です。あそこにいるのはISコアと融合してしまったとはいえ、私の同属ともいえます。でも……」

「あんたは人を好きになった。それだけのことでしょ?」

「えっ?」

「自分の心が、1番自分の思いどおりにならないって言ったじゃない」

 

好きになったのが人間だった。

たったそれだけのことだ。

でも、たったそれだけのことが、自分の運命すら変えてしまう。

 

「恋って怖いわよね。自分が何しでかすかわからなくなっちゃうんだもん」

「本当に、そうですね」

 

でも、今やるべきことはわかっている。

空を守ろうとする男たちを、女たちが守るのだ。

その想いがあるなら、自分たちは仲間だといえるのだから。

 

「いくわよ!」

 

その掛け声と共に、5人の少女戦士たちが空へと舞い上がっていった。

 




・トライドッグスラッシュ(5000AP)
三頭犬(ケルベロス)型のミラーモンスター。
イメージは「電脳冒険記ウェブダイバー」のウェブナイト・ケルベリオン。

・デュアルドッグスラスト(5000AP)
二頭犬(オルトロス)型のミラーモンスター。
イメージは「電脳冒険記ウェブダイバー」のウェブナイト・オルトリオン。


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第6話 虎の剣士、獅子の戦士、そして龍の騎士

コラボ最終話です。


 

 

空で戦う彼らと彼女たちの姿を、1人の少女がじっと見つめていた。

ガラスに触れる手が、ギュッと握り締められる。

 

「篠ノ之さん……」

 

声をかけてきた少女に、今は合わせる顔がない。

だから振り向かない。

ただ。

 

「私も……飛べたら……」

 

それは、今の箒が思う、偽らざる本音だった。

そんな箒の呟きを聞かないふりをしつつ、簪も同じように空を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無と虚は異変が起きてすぐに指令室に飛び込んだ。

千冬と真耶はミラーモンスターと『強欲』のISコアの融合体の一挙一動を見逃すまいとモニターを睨みつけている。

また、別の小さなモニターには束が解析を試みている姿が映っていた。

 

「織斑先生、アレは一体!?」

「異世界から客が来たことは話したな?」

「はい」

「どうやら、その世界から来た化け物と、隔離していたISコアが融合してしまったらしい」

 

隔離と聞いて、楯無も顔を青くした。

かなり性質が歪んだISコアを、ISに組み込ませないために隔離していたことは知っていたからだ。

 

「それじゃ、アレが『強欲』……」

「それがあのケルベロスのような化け物と融合しちゃったんだよ」

 

そう答えたのは束だった。

もっとも、相性がよほど良かったのだろうと束は言う。

 

「あの化け物、ミラーモンスターって言うんだけど、世界を隔てる壁は本来かなり強いものなんだよ。だから融合なんてできるはずがなかった。でも、それを越えて融合するとなると、あの子はもうとっくに……」

 

その先の言葉を束は口にできなかった。

自分が生みだした未登録のISコア。

それが、気づかないうちに化け物そのものになってしまっていたことが、とても辛いと感じでいたからだ。

 

「……『強欲』は、七つの大罪のうちの一つを示す言葉でもある。生まれたときからなのかもしれないな」

そう千冬は呟いた。

 

七つの大罪、そう呼ばれる七つの個性がある。

 

傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰。

 

それぞれに相当する魔王も示されている。

そのことを考えれば、『強欲』のISコアが化け物になってしまったのは、どうしようもないことなのかもしれない。

束の辛さが理解できる千冬としては、せめてそれで納得してほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の上空に浮かぶソレを一夏、諒兵、春十は睨みつける。

『殺人鬼』の性格を持つIS。

そんな存在を解き放ってしまったら、これまでのような被害ではすまない。

一方的な虐殺になってしまうだけだ。

覚醒ISたちはただ人を襲っているというより、今まで兵器として扱われていたことに対する怒りをぶつけているというほうが正しい。

しかし、目の前のケルベロスのような化け物は違う。

ただ殺すこと、奪うことだけが望みの、まさに怪物のような存在だ。

 

(人とは人の心があるかどうかって、こっちの世界の千冬お姉ちゃんが言ってたな……)

 

人の心がある光莉や白虎やレオは、千冬の言葉を考えれば、自分たちと同じ人ということができる。

だが、目の前のこいつは完全に対極の、まさに化け物ということができてしまう。

 

倒すしかない。

 

春十はそう覚悟を決めたが、チラッと一夏と諒兵に視線を向けると、戸惑っている様子が見て取れた。

やはりどうしても、どんな形であれISを相手にすることに、2人は忌避感を持ったままだった。

春十が声をかけようとすると、いきなり頭に声が響いてくる。

 

『寄越セ、オ前タチノ命……』

 

おぞましい。

そうとしか言えないような暗い響きを持つ『声』に3人とも顔を顰める。

「お前……」と、諒兵が呟くと、声は答えてきた。

 

『我ヲ破壊シタ者共ヨ』

「恨んでるのか?」

 

一夏が少し悲しそうな表情を見せる。

無人機として倒したときは、敵だという意識に突き動かされた。

何より、鈴音を傷つけたことに2人ともが激しい怒りを覚えたのだ。

ゆえに、無人機であったころのこのISコアに、怒りを叩きつけた。

それを恨んでいるというのであれば、否定はできない。

しかし、返ってきたのは意外な答えだった。

 

『恨ミハ無イ』

「どういう意味だ?」

 

そう春十が問いかけると、トライドッグスラッシュの姿をしたISコアは答えてくる。

 

『我ガ欲シイノハ命。ソレヲ寄越セバイイ』

「恨んでんじゃねえかよ」

『否、我ハ命ガ欲シイダケダ』

 

倒されたことや、隔離されたことなどどうでもいい。

ただ人の命が欲しい。

奪い取りたい。

それだけで満たされる。

 

『コノ地ニ満チル数多ノ命。奪イ尽クスコトハキット楽シイ』

 

そういってニヤリと笑う。

さすがに3人ともが感じていた。

イカレている、と。

欲しいという心を満たしたい、それだけで化け物にまでなってしまった『強欲』のISコア。

倒すしかないことがわかっていても、その覚悟ができているのは春十だけだ。

だが。

 

「旦那様!」

「一夏、諒兵!」

「だんなさまあっ!」

 

光莉と鈴音たちが一斉に飛び上がってくる。

 

「バカヤロウッ、何で出てきた!」

 

思わず諒兵が声を荒げるが、気持ちは春十も一夏も同じだ。

この『殺人狂』…………『強欲』のISコアに、大切な者を近づけたいと思うはずがない。

 

「戦力は少しでも多いほうがいいでしょ!」

 

負けじと怒鳴り返す鈴音をフォローするように、セシリアとシャルロットが続ける。

 

「サポートなら今の私たちも可能ですわ」

「敵の戦闘能力がわからないからね。分析なら任せてよ」

 

確かに、特に一夏と諒兵は特攻型ともいえる戦い方をするので、サポートがいるだけでだいぶ生存確率が上がる。

後方支援をしてくれるなら、安心もできる。

しかし……。

 

「光莉……」

「私も気持ちは同じですから」

 

ミラーモンスターとしての力を解放したその姿は、春十の背を守ろうという気迫に満ちていた。

本当なら戦わせたくない。

しかし、ただのミラーモンスターならともかく、この世界のISコアと融合してしまった相手だ。

光莉の力も必要になるだろう。

 

「……俺から離れるな。いいな?」

「はい」

 

その姿を見たセシリアが、指示を出してくる。

 

「一夏さん、諒兵さん、春十さんに前衛を務めていただきます。光莉さんは春十さんを、ラウラさんは諒兵さんを」

 

そこでいったん言葉を切ると、意を決したようにセシリアは口を開く。

 

「鈴さん、一夏さんのサポートを」

「……うん。わかってる」

「私とシャルロットさんで後方支援と敵の戦闘能力の解析をします。織斑先生、バックアップをお願いします」

『こちらは任せておけ』

 

千冬がそう答えたとたん、痺れを切らしたのか、化け物が雄叫びを上げてきた。

即座にセシリアが指示をだす。

 

「各機、散開!」

 

全員が化け物を取り囲むように一気に飛び上がった。

初撃は諒兵。

 

「使えラウラ!」

「うむっ!」

 

応えたラウラに諒兵は足の分の獅子吼を回した。

レールカノンに3つ。

左手に3つ。

そしてレールカノンで撃ち放たれた獅子吼とタイミングを合わせ、諒兵は螺旋攻撃をぶちかます。

さらに、時間差でラウラが左手に構えた爪をぶちかました。

 

「いいタイミングだぜ」

「夫と息を合わせることくらい、妻である私にとって訳は無い」

「あのな……」

 

唸り声を上げて後退する化け物を余所に、夫婦漫才に興じる2人だった。

 

春十はいきなり近づくと光莉を巻き込んでしまう可能性があると判断し、連射式ビーム銃『シャインブラスター』を構え、正面から連射を放った。

だが、やはりミラーモンスターと融合したせいか、化け物はライダーである春十を敵だと認識しているらしい。

尾を振り、無数の斬撃を放ってくる。

 

「させません」

 

そう静かに呟き、光莉はその両手の爪で斬撃を弾き飛ばす。

 

「何か、いつもとは感覚が違うな」

「こうして一緒に戦うのも悪くありませんね。私もISに乗れたら、楽しいのかもしれません」

 

いつもは契約者とミラーモンスターとして戦っていたが、背中を預ける戦友のような戦い方も悪くないと2人は感じていた。

 

そして。

 

「隙を作るわ一夏。合わせてくれる?」

「任せてくれ」

 

そう答えた一夏に笑いかけると、鈴音は化け物に向けて龍砲を連撃で放つ。

頭と胴体に衝撃を喰らった化け物の動きが止まると、一夏は一気に弾丸加速を使って迫った。

 

「頼むから眠ってくれ」

 

そう呟き、肩に担いだ白虎徹を振り下ろし、一気に胴体を斬り裂いた。

そこに。

 

「一夏、下よっ!」

 

鈴音の叫びを聞いて一気に下降した一夏が、再び上昇しようと目を向けると、切り口を抉るかのように、投げ放たれた双牙天月がぶつけられているのが見える。

反撃をさせまいと、鈴音が離脱の隙間で作ってくれたことに一夏は感謝した。

 

そこを狙い、諒兵は獅子吼で螺旋撃を撃ち放つ。

このまま胴体を真っ二つに折るつもりか。

そう感じた春十は、サポートするつもりでシャインブラスターを何発も撃ち放った。

 

「待ってください!」

「えっ、セシリア?」

「そいつを分裂させちゃいけない!」

 

答えたのはシャルロットのほうだった。

焦った様子で叫んでいるが、一足遅かったらしい。

胴体を輪切りにされた化け物は、墜ちるどころか、更なる異変を見せてくる。

頭のある上半身は、そのまま下半身を生やし、尻尾がある下半身は、何故かドリル状の尻尾に変化したかと思うと、2つの頭を持つ犬の姿へと変化したのだ。

最初から、2体のミラーモンスターが1匹の化け物になっていたらしい。

分裂したことで、本来の姿に戻ってしまったのだ。

 

「あれは……デュアルドッグスラスト!」

「光莉!?」

「あの2体を合体(ユナイト)させてはいけません!まったく別の化け物になります!」

 

だが、それこそが目的であったらしい。

3つ首の犬と2つ首の犬はお互いに雄叫びを上げると、ひとつに融合した。

右手に円盤型の鋸、左手に巨大なドリルを持ち、背中に使徒の翼を生やした巨人へと。

 

「ウェポナイズゴーレム……」

「あいつは強いのか?」

「あの形態は、私の本来の姿と同等の力を持ちます。それがこの世界のISコアと融合している以上……」

 

現状で、シャインナーガを超えるモンスターになっているということになる。

その場にいた全員が戦慄してしまう。

いわば最悪の堕天使が光臨したということができるからだ。

だが、そこに救いの声が聞こえてきた。

 

『弱点はあるよ』

「束さん!?」

『頭を破壊して、粉々に』

 

一夏の声を無視して、束は説明してくる。

だが、その声は激痛に耐えているかのように痛々しくて、思わず全員が胸を抑えてしまう。

 

「どういうこった、束さんよ?」

『そこにあの子がいるの。あの子を破壊すれば、あのミラーモンスターも消える。もともと、現実世界じゃあ活動出来ない存在だから』

 

束は驚くことに、自分が作り出した無人機のコア、すなわち『強欲』のISコアを殺せといってきたのだ。

 

「そんなっ、できるわけないだろう!」

「凍結すりゃいいんじゃねえのか!?」

『あの子の凍結は、私や博士(あいつ)でももう無理なんだよ……』

『一夏、諒兵、倒さなければ奴はこの世界の災厄に成る。躊躇っている場合ではないんだ』

 

殺す以外に手がないと千冬もいう。

そうしなければ多くの人に被害が出るからだ。

その状況でも、やはり一夏と諒兵はためらってしまう。

 

『いっくん、りょうくん、はるくん……。あの子はもう戻れないところまで行っちゃったの。だから……』

 

その先を束は口にしなかった。いや、できなかったのだろう。

自分が生みだしたISコア。

すなわち、我が子を殺せなどと言えるはずがない。

そんな束の辛い想いを春十は理解した。

 

「俺がやる」

「春十っ、お前……本気で言ってるのかっ!?』

「落ち着いてよ一夏!」

 

一夏が掴みかかろうとするのを、鈴音が必死に止める。

それが正しい答えだと理解しているからだ。

そんな鈴音に感謝しつつ、春十は諒兵へと顔を向ける。

 

「諒兵、あのときの答えだ」

「何?」

「大事な人を傷つけてまで、全てを救おうとは思わない。だから、例え光莉の同属でも、敵となったなら俺は倒す」

 

決意の眼差しで諒兵を見据える。

一夏も諒兵も、春十の覚悟を感じて、言葉を飲み込んだ。

倒さなければいけないということは、2人ともわかっているのだ。

すると。

 

主君よ、カードを抜くのだ

 

龍騎士(ドラグナー)、どうしたんだ?」

 

僅かな時間だが、私の本来の力を使えるようにする

 

そうすれば、ISコアを破壊できると龍騎士(ドラグナー)はいう。

この世界のISコアの強度は、覚醒したことでもとの世界よりも遥かに上になっている。

敵となった『強欲』のISコアを殺せる力を持つのは、同じISコアだけなのだ。

「わかった」と肯き、カードを抜くと、そこには今までとはまったく違う姿の春十が描かれていた。

シャインバイザーにセットすると、馴染みのある独特の音声が、聞いたことのないカードの名前を告げる。

 

『ANGELIC VENT!!』

 

それはまさに龍の騎士とも言うべき姿だった。

龍の頭を模した兜に、騎士のごとき白銀と黄金の鎧。

背負うは鋼鉄でできた翼。

 

『この状態ではライダーの力は使えない。主君よ、求める武器を己が作るのだ』

 

そう告げられ、イメージしたのは光莉との絆である召喚機。

シャインバイザーツバイ。

盾にもなる鞘に納められた、聖なる光の剣。

この力であの悲しい化け物を倒す。春十はそう覚悟を決める。

 

「光莉、それに一夏、諒兵、そしてみんな。力を貸してくれ。俺1人じゃあ、きっと届かない」

「わかった。背負わせてごめん」

「確実に届かせてやる。きっちり仕留めろよ」

 

そこに、巨人の巨大な右腕が、全てを断ち切るような轟音を響かせて襲いかかってくる。

 

「俺を斬れると思うな」

 

そう、静かに呟いた一夏は、その右腕を白虎徹で受け止めた。

回転する刃が凄まじい金属音を立てるが、一夏はそこから微動だにしない。

 

『何故、斬レヌッ!?』

「斬るのは、俺の専売だ」

 

苛立ったのか、ウェポナイズゴーレムは全てを抉り抜かんとする左腕を突き入れてくる。

だが、諒兵が右腕の獅子吼を回転させ、巨大なドリルに叩きつけた。

体格差が圧倒的にあるにもかかわらず、力が拮抗するどころか、逆に弾き返した。

 

「ぶち抜け」

 

追撃とばかりに、その左腕の間接を狙って獅子吼の螺旋撃を撃ち放つ。

さすがに折ることはできなかったが、巨人は大きくバランスを崩した。

 

『ヌウッ!?』

「一緒に生きてくには、お前はでか過ぎんだよ」

 

本当の理由はそこではないことを理解して、それでも倒さずにすめばいいというわずかな願いを諒兵も一夏も否定できない。

だからこそ。

 

「一緒に来てくれ」

「はい」

 

翼を広げ、巨人の頭に向かって一気に飛び立つ春十の背にぴったりと張り付くように光莉も飛ぶ。

両腕は一夏と諒兵が完全に押さえているが、両の肩口に存在する犬の3つ首と2つ首が、必死になって反撃しようと衝撃波とレーザーを放ってきた。

春十が、手に持つシャインバイザーツヴァイの盾でレーザーを防ぐと、光莉はシャイナーガの翼を大きく広げて衝撃波から春十を守る。

 

『来ルナッ、我ハマダ命ヲ一ツモ奪エテオラヌトイウニッ!』

「お前が奪っていい命なんて、一つもない」

 

ウェポナイズゴーレムの悲鳴にも似た叫びを春十は否定し、その強大な頭の眉間に、光の剣を突き立てる。

バキンッと嫌な音が響いた。

それは。

 

『こやつの本体に届いた。主君よ、気を込めよ』

 

こいつを倒す。

その意志を強く持てと龍騎士(ドラグナー)は言ってくる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

雄叫びを上げると、剣は小さな太陽の如くまばゆく光り輝き…………そして。

ドガァンッという轟音と共に、その頭が粉々に砕け散る。

その瞬間、その場にいた全員に『声』が聞こえてきた。

 

『一ツモ奪エナカッタ……。ナラバ……我ハ何故、生マレテ来タノダ……?』

 

その問いに答えられる者は誰もいなかった。

 

 

束の瞳から、一滴の涙が零れ落ちる。

 

「束……」

「これが、罪の意識なのかなあ、ちーちゃん……」

「お前だけの問題じゃない。ISを兵器にしてしまったのは、世界の人々自体が望んでいた面もある」

 

最初から宇宙だけを見て作り上げていればよかったのだろうか。

でも、自分が飛べる翼は、他の人たちの翼にもなると束は思った。

ただ、誰も飛ぶだけの翼を求めなかっただけで。

一夏と諒兵というただ飛ぶことだけを望んだ2人が、世界を動かし、IS自身をも動かした。

それがこの悲劇を生んだというのなら、世界はあまりにも束にとって優しくなかったのだろう。

それでも、最後まで責任を取る覚悟を束は抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2日。

一夏と光莉はこの世界のことを知りつつ、のんびりと観光した。

辛い経験もしたが、いい思い出も残しておきたいと思ったからだ。

そして、旅立ちのときがやってくる。

 

「世話になったな」

「こっちこそ」

 

一夏(春十)とこの世界の一夏。

2人はわだかまりを作ることはなかった。

優しすぎるこの世界の一夏が、『強欲』のISコアを殺してしまったことを責めてくるかと一夏は思ったが。

 

「全部救いたいっていうのはわがままだってわかってるんだ。ただ……」

「ただ、何だ?」

「それでも、その道を探すことはやめたくねえんだよ」

 

諒兵がこの世界の一夏の言葉を代弁してくる。

諦めが悪いのではなく、希望を決して捨てない。

その優しさが、最初に白虎とレオの心を動かしたのだろうと思うと、一夏としても否定はできない。

 

『ゴメンね。イヤな役、押し付けて』

『このお礼は必ず』

 

白虎とレオの言葉に、一夏はこの2人はあの結末が見えていたのだろうと感じ取る。

今の段階では、この世界の一夏と諒兵の心を変えるのは難しいのだ。

 

「まあ、心配しないでよ。自分たちのことだもん。自分たちでなんとかするわ」

 

そういって笑う鈴音の顔に、決意と覚悟があるのを光莉だけが見抜いたが、口には出さないでおいた。

せめてその覚悟が良い結果につながることを祈りながら。

 

「私たちも日々成長していますから、ご心配なさることはありませんわ」

「今度来るときがあったら、二人が楽しめる旅行になるようにするからね」

「元気でね~、仲良くね~」

「次は私たちの子どもに会わせてやろう」

「待てコラ、そんな18禁展開になってたまるかっ!」

 

ラウラの挨拶だけ明後日の方向にすっ飛んでいるのを諒兵が必死に突っ込んでいた。

そんな緊張感の無さが、逆に温かさを感じさせてくれると一夏と光莉は思わず笑ってしまう。

そして。

 

「また機会があったら来るよ」

「お世話になりました」

 

次に出会うときがあるなら、きっとこの世界の一夏と諒兵は強くなっている。

そう感じながら、一夏と光莉の意識は光に飲み込まれていった。

 

 




次回から2学期編です。
そろそろクライマックスかも。


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2学期
第65話 部活に入りましょう


2学期編、スタートです。

コラボ最終話での書き忘れ⬇︎
・ウェポナイズゴーレム(7000AP)
トライドッグスラッシュとデュアルドッグスラストが合体した姿(ユナイトベントのカードは不要)。
イメージは「電脳冒険記ウェブダイバー」のゴレムオン。

・光莉の人化した状態での戦闘形態
イメージは仮面ライダーウィザードのオールドラゴンスタイル。
ただしシャインナーガは3つ首龍なので、胸だけでなく両肩にも龍の首がある。


2学期が始まって数日。

俺と鋼夜は楯無さんに生徒会室へと呼び出されていた。

 

「楯無さん、一体どういった御用なんですか?」

「それはね……あなたたち2人に部活へ所属して欲しいのよ」

 

学園で2人しか居ない男子が部活に無所属なのは看過できないから、か……。

 

「部活ならちゃんと所属しますよ」

「あら?2人とも決めているのかしら?」

「はい。これが書類です」

 

ちょうど楯無さんに申請しようと思っていたので、持って来ておいて正解だったな。

書類の内容はこうだ。

 

部活設立申請書

部活名…IS研究部

顧問…織斑千冬

部長…織斑一夏

部員…織斑光莉・織斑マドカ・工藤鋼夜・更識簪・布仏本音

活動場所…IS学園整備室

活動内容…IS用の装備の開発および篠ノ之束を招いてのISに関する講義

 

「なにこの布陣!?」

 

楯無さんが驚愕している。

まぁISの開発者(束お姉ちゃん)世界最強(千冬お姉ちゃん)男性IS操縦者(俺と鋼夜)日本代表候補生()だからな……。

束お姉ちゃんは自分も千冬お姉ちゃんと同じくIS学園の教師になろうかと1度は考えたそうだが、教師は公務員だ。

AMWの社長と兼任することは出来ない。

なので妥協案として、ボランティアの外部講師という形でIS学園でたまに指導するということになった。

 

「いつの間に簪ちゃんや本音とこんな話をしていたのかしら?」

「昨日です」

「……ハァ、それならしょうがないわね。今月末の学園祭で、各部活による2人の争奪戦をやろうと思ったのだけど」

 

事前に鋼夜から聞いた『原作』の楯無さんと同じこと考えている……。

世界は違っても楯無さんは楯無さんということか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!!」

 

IS研究部の設立が受理された翌日。

部員とミーティングをしようと整備室へ足を運んでいる途中、ミラーモンスターの存在を知らせる金切り音がしたので、ライダーに変身してミラーワールドに潜る。

 

『SWORD VENT!!』

「ハァァァァァッ!」

「グルアァァァァァッ!」

 

そこでは、仮面ライダー赤龍(ウェルシュ)こと鈴が1人でミラーモンスターと戦っていた。

相手はワニとティラノサウルスを足して2で割ったような姿をしており、光莉(シャインナーガ)並みの巨体を有するモンスター、『タイラント』だった。

久々の大物だな。

俺ですら単独では手こずる相手だ。

鈴1人では荷が重いだろう。

 

「鈴、加勢するぞ!」

「一夏!頼むわよ!」

 

鈴がドラグセイバーで切り込み、俺がシャインブラスターで援護する。

 

「グルオッ!」

ズガンッ!

「きゃあっ!?」

「鈴!」

 

タイラントが尻尾を地面に叩きつけ、鈴がその衝撃で吹き飛ぶ。

 

「グルル……」

「させるか!」

『SHOOT VENT!!』

「くらえっ!」

 

ナーガキャノンで、鈴に近付こうとしたタイラントを吹き飛ばす。

 

「おい鈴、大丈夫か?」

「えぇ、なんとかね……。けど何なのよあの馬鹿げたパワーは!」

「トップクラスとまではいかないが、あいつはかなり上位のモンスターだ。気性が荒い分、光莉を敵に回すのと同じくらい厄介かもな」

「一時撤退して他のライダーを呼ぶ?」

「いや、そしたら放置されたこいつが暴れて大きな被害が出るだろう。このまま戦うしかない」

「でも……わたしそろそろ制限時間が限界なのよ?」

 

見ると、鈴の身体が粒子化し始めていた。

これはマズいな。

 

「…………っ!」

 

しばし悩んで、案がひとつ閃いた。

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)の変身ブレスを取り出し、中から『SURVIVE -烈火-』のカードを抜き取って鈴に渡す。

 

「サバイブのカード……」

「このカードを使えばミラーワールドでの制限時間が無くなるし、自身もパワーアップする。鈴、そいつを使え」

「わかったわ!」

『『SURVIVE!!』』

『『SURVIVE!!』』

 

鈴がサバイブのカードを使って、龍騎サバイブと同じ姿をした赤龍(ウェルシュ)サバイブとなり、俺自身も『SURVIVE -疾風-』のカードを使って龍騎士(ドラグナー)サバイブになる。

その瞬間……。

 

『SWORD VENT!!』

「フンッ!」

ザシュッ!

「グギャアァァァッ!」

 

どこからともなく仮面ライダーオーディンが現れ、ゴルトセイバーでタイラントを切りつける。

 

「なっ……オーディン!?」

「たまたま通りがかったのだ。手を貸そう」

 

マジかよ。

サバイブ化したライダーが3人揃っちまったぞ。

 

「恩に着る。鈴、いくぞ」

「うん!」

 

俺と鈴は、それぞれシャインソードとドラグブレードを構えて、戦線に復帰する。

そこからの戦いは熾烈を極めた。

サバイブ化したライダー3人の猛攻をものともせず、タイラントは暴威を奮う。

俺たち3人は何度も打ちのめされたが、それでもめげずに剣を振り続けた。

そして遂に……。

 

「ハァッ!」

ザシュッ!

「グルアァァァ……!」

 

何度も足を切りつけたおかげで、タイラントは身体を支えきれずその場で横倒れになる。

 

「鈴、トドメだ!」

「おっけー!」

『『FINAL VENT!!』』

 

ファイナルベントの発動と同時に、サバイブのカードで『無双龍ドラグレッダー』から進化した『烈火龍ドラグランザー』が現れ、鈴を乗せてバイクに変形する。

 

「いっけぇぇぇぇぇっ!」

 

バイクとなったドラグランザーがウィリー走行をしながら、タイラントに火球を浴びせる。

そして火達磨(ひだるま)となったタイラントをそのまま踏み潰す。

ファイナルベント『ドラゴンファイヤーストーム』だ。

そしてその場に残ったタイラントの生命エネルギーを、ドラグランザーが捕食して去って行く。

 

「なんか轢き逃げみたいな技だったわね」

 

その言葉には同意する。

ただ、ナイトサバイブの『疾風断』の方がよっぽど轢き逃げといった感じがするが。

オーディンはいつの間にか姿を消していた。

まさか学園内で会うことになるとは……。

もしかして学園の関係者だったりするのか?

あと、『SURVIVE -烈火-』のカードはしばらくの間、鈴に預けることにした。

緋鼠の衣(スカーレット・バスター)は、IS以外の力が必要な時に使うものだ。

龍騎士(ドラグナー)が何らかの要因で使用不能になるまで、出番は無いだろう。




・タイラント(6000AP)
上位クラスのミラーモンスター。
イメージは「デルトラ・クエスト」に登場する怪物・ブラール。
もしくはモンハンのイビルジョー


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第66話 学園祭

「お帰りなさいませ、ご主人様!執事・メイド喫茶『AI☆ESU』へようこそ!」

 

9月の下旬。

今日はIS学園の学園祭だ。

俺たち1年1組は執事・メイド喫茶をやることになった。

最初に出た、俺や鋼夜とのポッキーゲームやらツイスターやらに比べたら遥かに健全な企画だ。

鋼夜はともかく、俺は既婚者だ。

そんなふしだらな真似が出来る筈がない。

しかもその配偶者(光莉)が同じクラスに居るのだ。

そんな案が通る道理などない。

そして行き詰まった状態で、メイド喫茶という意見を出したのがラウラだ。

そして衣装は、シャルがどこかから借りて来た。

最近似たような衣装を見たような…………気のせいか?

 

「旦那様、これは@クルーズの衣装では?」

「あぁ。それだ、思い出した」

 

平行世界でデートした際に立ち寄った喫茶店のウェイトレスの制服だよこれ。

この世界にも@クルーズがあるんだな。

シャルとラウラはそこへ行ったことがあるという訳か。

 

「へぇ〜、ここって執事・メイド喫茶なんだ?」

「あ、鈴さんですか。いらっしゃいませ」

 

ん?

次の客は鈴か。

鈴はチャイナドレスを着ている。

ということは……。

 

「2組はチャイナ喫茶ってことか?」

「そうよ。わたしは休憩時間だからお邪魔させてもらいに来たわよ」

「どうぞどうぞ。それで、ご注文は?」

「そうね……。じゃあ、チーズケーキと紅茶で」

「かしこまりました」

 

そして鈴の注文を済ませ、しばらくの間店内の客を捌いていると……。

 

「執事か。随分サマになってるじゃねぇか、一夏」

「オータムさん!?」

 

オータムさんが変装した状態で入店して来た。

IS学園の学園祭は、一部の例外を除いて生徒に1枚ずつ配布された招待券が無ければ参加出来ない。

ちなみに俺は弾に、光莉は中学の学友に招待券を渡している。

いったいどうやって入って来たんだ!?

 

「あ、オータムだ!」

「ようエム!いや、今はマドカか。招待券ありがとな!」

 

あ、マドカがオータムさんに招待券を渡した訳ね。

亡国機業(ファントム・タスク)に所属していたマドカに、学園外で親しい関係の人物といったらオータムさんとスコールさんくらいか。

マドカのやつ、テロリストに加担した罪で罰せられないか心配だ。

 

「一夏」

「なんですか?」

「後でお前に用事がある。休憩時間になったら連絡をしてくれ」

 

自身が注文したものを平らげたオータムさんは、俺にISの個人秘匿回線(プライベート・チャンネル)のアドレスを渡すと会計を済ませて店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ〜、なんか悪ぃな」

「いえ、気にしないでください」

 

俺と光莉は、休憩時間にオータムさんと連絡を取って合流する。

オータムさんは、俺と光莉の2人きりの時間を潰してしまったことに引け目をいるようだが、申し訳なさを感じてくれているようなので、気にしないことにした。

そして3人で校内を回りながら話をする。

 

「オータムさんやスコールさんは、どうして亡国機業(ファントム・タスク)に入ったんですか?」

「アタシとスコールは、『女尊男卑を正して、男女平等の世界を作らないか?』って誘われて入ったんだよな。女尊男卑に染まった連中を見ると凄ぇムカつくからその話に乗ったって訳だ。でも、最近は亡国機業(ファントム・タスク)がアタシやスコールが思っていたものとは違う組織のように感じ始めたんだ」

「どういうことなんです?」

「段々とやることが過激になってきたんだよ。殺しの経験があるアタシが言えたことじゃねぇかもしれねぇけどよ、最初はそうでもなかったんだぜ?一夏を誘拐した時も、ゴロツキ共はお前に直接危害を加えなかっただろ?だが今は違う。篠ノ之束から強奪した無人ISにライダーのデッキを持たせての襲撃が実行された。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にクラックを仕掛けたのもウチの組織がやったことなんだ」

「なっ!?」

「マジかよ……」

 

薄々勘付いてはいたが、全体的に見れば結構なワルなんだな、亡国機業(ファントム・タスク)は。

オータムさんとスコールさんにしか会ってなかったら、時々忘れそうになる。

 

「それを俺たちに伝えて、どうするんです?」

「アタシとスコールは亡国機業(ファントム・タスク)を離反するつもりだ。それで、篠ノ之束が最近AMWって企業を設立しただろ?アタシとスコールをそこに匿って欲しいんだよ」

「なるほど。う〜ん…………」

 

しばし考え込む。

オータムさんの申し出は、こちらにとっても渡りに船だ。

亡国機業(ファントム・タスク)の情報を得られるし、オータムさんとスコールさんという人材も確保できる。

人手不足なAMWとしては良い事尽くめと言える。

問題は、オータムさんとスコールさんの『テロリスト』という肩書きか……。

束お姉ちゃんなら、どうにか出来るかもしれないな。

もし何らかの代価が必要なら、2人がAMWで働いて返せばいいし。

 

「わかりました。社長(束お姉ちゃん)には俺から伝えておきます」

「感謝するぜ、一夏。だが……」

「えぇ、まだやらなければならないことがありますね」

「旦那様、オータムさん、何ですかそれは?」

「アタシと一夏は、まだ決着がついてねぇんだよ」

「第2回モンド・グロッソの時は、バッドタイミングでシュヴァルツェ・ハーゼの人たちが来てしまいましたからね」

 

俺とオータムさんは、それぞれ男子トイレと女子トイレに入る。

そして洗面所の鏡の前でカードデッキを翳す。

 

「「変身!!」」

 

ライダーモードの龍騎士(ドラグナー)を身に纏い、ミラーワールドへと潜る。

一緒について来た光莉と共に、学園の中庭でオータムさんと落ち合う。

オータムさんは、やっぱり王蛇のカードデッキだった。

ただ、その身体の色は紫じゃなく黄色だ。

 

『ADVENT!!』

「シャアァァァッ!」

 

オータムさんが、契約モンスターを召喚する。

現れたのは、黄色いベノスネーカーだ。

ベノスネーカーの類型モンスターということか。

 

「あれは『パラスネーカー』というモンスターです、旦那様」

「パラスネーカー?」

 

ベノじゃなくてパラね……。

ベノスネーカーの『ベノ』が(Venom)を表しているのだとすれば、パラスネーカーの能力は……麻痺(Paralyse)か?

 

「正解だぜ、ミラーモンスターな奥さんよぉ。アンタはコイツの相手を頼むぜ。コイツもなかなかのバトルマニアだからな」

「…………いいでしょう。かかってきなさい、パラスネーカー」

「シャアァッ!」

 

ミラーモンスターとしての力の一部を解放して、光莉はシャインナーガの鱗と爪を身に纏う。

そしてそのままパラスネーカーとの戦闘を開始した。

 

「んじゃ、アタシたちも始めようぜ」

『SWORD VENT!!』

「そうですね」

『THRUST VENT!!』

 

オータムさんは、ベノサーベルと同じ形状の剣(名称は恐らくパラサーベル)を構える。

対する俺も、シャインランサーを召喚する。

 

「ハァッ!」

「おらっ!」

 

オータムさんの振り下ろしを、シャインランサーで受け止める。

女性なのにかなり重い一撃だった。

 

「今のは当たると思ったんだが、さすがは龍騎士(ドラグナー)だ!じゃあこれならどうだ!」

『NUMBNESS VENT!!』

 

オータムさんが知らないカードを使った瞬間、身体に電流が走り、身体の自由を奪っていく。

相手を麻痺させる特殊カードか!

だったらこっちは……。

 

『FREEZE VENT!!』

「ぐっ……そっちは凍結のカードか……。寒いったらありゃしねぇ!」

「これでおあいこだ」

「お互いこんなんでどうやって戦うんだよ!?」

「これはどっちが先にカードの効果が切れるかの勝負ですね」

 

 

 

〜しばらくお待ちください〜

 

 

 

「ハァ……ハァ……。やっと解けた……。ちくしょう、ミラーワールドでの制限時間をかなり消費しちまったぜ」

 

結果として、俺の麻痺とオータムさんの凍結はほぼ同時に効果が切れた。

 

「こうなったら一気に決めてやる!」

『FINAL VENT!!』

「来い、パラスネーカー!」

「シャアァァァ……」

 

パラスネーカーは、光莉の足下でぐったりとしており、オータムさんのファイナルベントに応えられないでいた。

どうやら光莉相手にかなりコテンパンにされたようだ。

 

「あらら……」

「…………」

「どうします?」

「制限時間のこともあるし、アタシの負けだな。あぁ〜あ、また思う存分戦うことが出来なかったぜ……」

「それを望むなら、なおさら表社会に戻らなければなりませんね」

「違いない」

 

戦闘を終えてミラーワールドから戻り、オータムさんから1枚のメモ用紙を受け取る。

 

「その紙には亡国機業(ファントム・タスク)の機密情報が書かれている。せいぜい役立てな」

「ありがとうございます、オータムさん」

「アタシ自身やスコールのためでもあるんだ。礼を言われる筋合いは無ぇよ。それより、奥さんが大変なことになってるぜ?」

「え?」

「旦那様ぁ……」

 

オータムさんの言葉に疑問符を浮かべていると、光莉が背中に抱きついてきた。

見ると、光莉の表情は蕩けきっていた。

一体何があったんだ!?

 

「パラスネーカーがそいつとの戦闘で使ったのは麻痺毒じゃない。媚薬(・・)だ」

「ハァ!?ちょっなんてものを!」

「あとは若いお2人でってことさ。今回の件でのアタシなりの詫びだよ。じゃあな一夏!」

 

オータムさんはそういい残し、全速力で去って行く。

 

「待てコラァ!オータムさん、アンタって人はぁーーーーーっ!」

 

俺の叫びが、無人の廊下に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭が終わったその日の夜。

盗聴防止が施された部屋に、俺・光莉・千冬お姉ちゃん・束お姉ちゃん・楯無さんの5人が集まっていた。

あの後、光莉の発情を鎮めることに奔走した以外には特にトラブルは起きなかった。

オータムさん以外の『外敵』は、全てミラーモンスターたちが『排除』してくれたからだ。

 

「3人とも、このメモ用紙を読んでください。俺と光莉は既に目を通してあるので」

「わかった」

「どれどれ……」

 

3人がメモ用紙の内容を見る。

その途中から3人とも表情を驚愕に染める。

 

「これに書かれているのは……事実か?」

「そう判断して良いでしょうね。オータムさんは、スコールさんと共にAMWへの亡命を望んでいます。ガセネタを掴ませる真似はしないでしょう」

 

オータムさんのメモに書かれていたこと。

それは…………。

 

亡国機業(ファントム・タスク)と女性権利団体の結託』

 

女尊男卑の風潮が過激になり始めた頃から、俺はタイムベントのカードを『ハリー・ポッター』の『逆転時計(タイム・ターナー)』と同じように使い、小・中学生としての日常を過ごしながら、光莉たち契約モンスターと共に世界各地の女性権利団体を壊滅させてきた。

だが、それでも根絶させるまでには至らなかった。

そして束お姉ちゃんが男でもISを動かせる技術を発表し、これまでしぶとく生き残っていた連中が自身の立場を危ぶんだ結果がこれだ。

 

各国で女性権利団体とコネのあるIS関連の企業。

女尊男卑に染まっている国家代表や代表候補生。

1国2国なら大したことはない。

だが、オータムさんのメモによると、俺と光莉が潰し損ねた女性権利団体のほとんどが亡国機業(ファントム・タスク)と結託するらしい。

亡国機業(ファントム・タスク)が自前で各国から強奪したISのことも考えると、世界で467+4機あるISの内、50〜150機があちらに揃うことになるだろう。

 

「それだけの数のISを集められたら……!」

「国の1つや2つ、僅か1日で焼け野原にできるね」

「篠ノ之博士、ISコアには強制停止信号とか無いんですか?」

「あるにはあるけど、コアネットワークを遮断されたらアウトだよ。今から強制停止信号を送って、どれだけのISを凍結できるか……」

「そこら辺は束お姉ちゃんに任せるとして、俺たちに出来ることは……」

「先方が仕掛けてくるとすれば、次にIS学園が開催するイベント中です。つまり……」

「ISによるレース競技『キャノンボール・ファスト』ということか。だが、あまりにも警備を厳重にするとあちらが仕掛けて来ない可能性もあるな」

「そうですね。この情報の公開は、専用機持ちおよびライダーのみに留めましょう。それ以外は漏洩の可能性がありますし、情報源であるオータムさんとスコールさんにも危険が及びます」

「そうだな。この続きは各人への伝達と束の作業が済んでからとしよう。今日はこれにて解散とする」

「「「了解」」」

 

俺・光莉・楯無さんは先に退室して、各々の部屋に戻った。

ちなみに光莉の個室は、俺とマドカの隣の1049号室(1人部屋)だ。

束お姉ちゃんの計らいだろうか……?




あれ?
原作5巻がたった2話で終わってしまった……。


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第67話 無垢な捕食者

リアルの予定や執筆のネタの都合上、毎日更新も限界が近いかも……。


「キャノンボール・ファストまで、あと1週間か……」

「もうすぐですね……」

 

IS学園のとあるアリーナ。

そこで俺・光莉・セシリアの3人は、マドカによる偏光射撃(フレキシブル・ショット)の指導を受けていた。

当日に襲撃の可能性がある以上、レースよりも戦闘に関する訓練を積むべきだからだ。

 

俺とセシリアはもうじき習得できそうだが、光莉はもう少しかかりそうだ。

偏光射撃(フレキシブル・ショット)はBT兵装の最大稼働が絶対条件だ。

光莉は展開装甲で形成したビットにまだ慣れていない。

IS自体が乗り始めてまだ1ヶ月程度だしな……。

俺の場合は長年ドラグーンを使っていたので、稼働率は問題無い。

あとはビームを曲げるイメージ力だ。

フォビドゥンガンダムのプラズマ砲(フレスベルグ)をイメージしながら、ひたすらに引き金を引く。

放たれたビームに向かって手を翳し、左へ振る。

その瞬間、ビームが左へと曲がり、設置されていたターゲットを撃ち抜いた。

これが偏光射撃(フレキシブル・ショット)なのか!?

 

「バーン」

 

隣を見ると、セシリアが俺と同じように曲げたビームでターゲットを破壊していた。

俺とほぼ同じタイミングで習得したということか。

 

「すごいね!お兄ちゃんもセシリアも!」

 

サイレント・ゼフィルスを纏ったマドカがぴょんぴょんとはしゃいでいる。

ヘッドギアのせいで口元しか見えないが、随分喜んでくれているようだ。

 

「やりましたわね、一夏さん!」

「あぁ、そうだな。あとは光莉だが……どうだ?」

「旦那様、どうやらわたしとBT兵装は相性があまり良くないみたいです。少なくとも1週間でものにするのは難しいかと……」

「そうか……。なら当面は、俺のドラグーンの稼働データを基にした自動操縦だな」

「はい。それでお願いします」

「では今日の訓練はここまでにします?わたしと一夏さんは偏光射撃(フレキシブル・ショット)を習得できましたし」

「それもそうだな。マドカ、今日はありがとな」

「これくらいお安い御用だよ、お兄ちゃん♪」

 

うん、マドカは可愛いな。

頭をナデナデしてあげよう。

 

……………………

 

ロッカーで着替え、合流した俺たち4人の耳に、ミラーモンスターの出現を知らせる金切り音が響いた。

 

「「「変身!!」」」

 

俺・マドカ・セシリアは鏡の前でライダーに変身し、光莉を含めた4人でミラーワールドへ潜る。

ミラーワールドで俺たちを待ち構えていたのは、キャノン砲の形をした両腕とケンタウロスのような4本の脚を持つ、純白のミラーモンスターだった。

 

「久しぶりだなシャインナーガ、いや…………織斑光莉」

「えぇ、最後に会ったのは何年も前ですね…………イノセントプレデター」

 

無垢な捕食者(イノセントプレデター)

光莉の知り合いか?

野生のミラーモンスターでありながら言語能力を獲得しているというだけでも、只者ではないことはわかるが……。

 

「光莉、あいつは一体……?」

「彼……イノセントプレデターは、わたしやゴルトフェニックス様と同じくトップクラスのミラーモンスターに名を連ねる1体です」

 

つまり目の前の相手は最低でも7000APクラスということか……。

 

「イノセントプレデター、貴方は何故ここ……IS学園に来たのです?」

「俺が『力』を求め、『闘い』の中に生きていることは知っているだろう?お前の契約者である織斑一夏の噂を聞きつけ、遠慮はるばるやって来たという訳だ」

「そういえば生粋の戦闘狂でしたね、貴方は……」

 

オータムさんやパラスネーカーと同じバトルマニアなのか……。

話が通じる分、残虐な人間やミラーモンスターに比べたらよっぽどマシだな。

 

「光莉、要は俺がこいつと戦えばいいんだろう?」

「まぁ……そうですが……」

「話が早くて助かるぜ、織斑一夏」

 

俺たちとイノセントプレデターは、アリーナへと場所を移す。

 

「旦那様、イノセントプレデターには7回だけ倒した相手の切り札をコピーする能力があります」

「……なるほど、つまり俺と戦う理由は……」

「その通り。お前は7つ目のコピー枠を埋めるのに相応しい相手だ」

 

つまりイノセントプレデターは、この世に生まれてから今日までの戦いで6種類の武器もしくは能力をコピーしてきたのか……。

無垢な(何にも染まっていない)白を、捕食(コピー)した能力で塗り替える、というのが名前の由来なのだろう。

俺が負けたら何をコピーされるのだろうか?

ドラグーンか、それともヤタノカガミ装甲か……。

光莉たちに観客席へ移動してもらい、戦闘態勢に入る。

 

『SWORD VENT!!』

「いくぞ!」

「来い!」

 

ドラゴソードを召喚し、殴りかかってきたイノセントプレデターの剛腕をバックステップで回避する。

 

「見せてやろう、織斑一夏。俺がこれまでの戦いで得た力をな」

「……っ!」

 

イノセントプレデターは、額の前で両腕をクロスさせ、ウルトラマンティガのタイプチェンジを彷彿とさせるモーションで、その白い身体を青に染めた。

 

「色が変わった!?」

「くらえ!」

 

そう言ったイノセントプレデターの両腕から、電撃のような見た目の青白いビームが放たれた。

 

「ぐうっ!」

 

トップクラスのミラーモンスターなだけあって、その攻撃はライダーの鎧越しでも俺にダメージを与えてくる。

ライダーモードのためISのエネルギーシールドは発動していないが、それを差し引いても予想外だ。

ダメージが深くなる前に、イノセントプレデターから距離を取る。

アリーナの端辺りまで離れると、俺とイノセントプレデターを繋いでいたビームが消滅した。

どうやら近〜中距離用の武器らしい。

 

「次はこれだ!」

 

今度はイノセントプレデターの身体が緑色に染まり、緑色の弾丸をばら撒いてくる。

今度は連射性能の高い重火器ってところか!

 

「ハァッ!」

 

だが、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)銀の鐘(シルバー・ベル)に比べたら、どうってことない!

ドラゴソードで弾丸を叩き落としながら、イノセントプレデターに接近する。

 

「もらった!」

「させんっ!」

 

飛天御剣流を放とうとする俺に対し、イノセントプレデターは身体を黄色に染めてバランスボール並みの体積の電撃球を撃ってきた。

マズい、近付き過ぎた!

これじゃ回避も防御も出来ない!

俺はせめてダメージを最小限に抑えるため、VバックルにあるISモードのスイッチを入れる。

着弾する直前、俺の身体をISの装甲が包み、電撃が龍騎士(ドラグナー)を襲う。

 

「ぐっ……なんだこれ!?ぐはぁっ!」

 

電撃のダメージでハイパーセンサーの視界が歪んでしまい、その隙にイノセントプレデターの剛腕で殴り飛ばされる。

そのまま俺は20mほど横に吹っ飛ばされた。

態勢を立て直しながら回復したセンサーでさっきの電撃を分析した結果、テラワット級の電気ボルトだと判明した。

テラワットって……。

人類の科学力を軽く超えてないか?

ライダーモードのままだったら感電死してたぞ……。

 

ゾクッ!

 

悪寒がしてすぐさまその場から飛び退く。

その瞬間、さっきまで居た場所を赤いレーザービームが突き抜けていった。

目標を失ったレーザーは、アリーナのシールドを貫通し、壁を溶解させていた。

まともにくらったらひとたまりも無い威力だ。

 

「ほう。今のを躱すか……」

 

イノセントプレデターは、いつの間にかその身体を赤色に変化させていた。

これで判明した奴の武器は4つ。

あとの2つは何だ?

電撃を警戒しつつ、再び接近する。

すると今度はイノセントプレデターの身体が紫色に変わり、細いビームを放ってくる。

ドラゴソードで弾くと、龍騎士(ドラグナー)のセンサーがドラゴソードの刀身の温度の低下を知らせてきた。

今度は冷凍ビームか?

ホント何でもアリだな!

イノセントプレデターは両腕にエネルギーをチャージし始めた。

 

「撃たれる前に切る!」

 

イノセントプレデターに肉薄し、砲口が煌めくと同時にジャンプする。

 

『ACCEL VENT!!』

「飛天御剣流、龍槌閃!!」

 

龍槌閃の一撃が、イノセントプレデターの左腕を切り落とす。

技を出す前に下を見たが、冷凍ビームのチャージ攻撃は発射と同時に周囲に氷結フィールドを発生させていた。

もし俺が龍槌閃じゃなく龍翔閃を出そうとしたら、氷漬けにされていただろう。

 

「おのれ!」

 

橙色になったイノセントプレデターの右腕から、火炎弾が撃ち出される。

それが最後の武器か!

 

『GUARD VENT!!』

 

シャインシールドを呼び出して、火炎弾を受け止める。

このままカウンターを…………って!

 

「熱っ!?」

 

火炎弾を受け止めたシャインシールドが燃えだした。

火炎弾には発火性があるのか!?

慌ててシャインシールドを投げ捨てる。

 

ブンッ!

「うおっと!」

 

放たれたブローを紙一重で躱す。

 

「やるな」

「そっちこそ」

 

イノセントプレデターは、千冬お姉ちゃんを除けば過去最強の対戦相手だ。

ここまでギリギリの戦いをするのは、光莉と共にオーディンと戦った時以来かもしれない。

 

『『SURVIVE!!』』

「……それが伝説のサバイブの力か」

「おうよ!こっからが本番だ!」

 

サバイブ化して、シャインソードとドラゴソードの2刀流の構えを取る。

対するイノセントプレデターは、赤色に変化した。

高威力のレーザービームか……。

 

「…………」

「…………」

 

しばしの静寂。

先に動いたのはイノセントプレデターだった。

 

バシュッ!

「はっ!」

「オオオオオッ!」

「何!?」

 

レーザーを放つと同時に、回避した俺に向かって突進して来た。

これには流石の俺も度肝を抜かれた。

突進の勢いが乗せられた右ストレートが迫り来る。

 

「こうなったら一か八か!」

 

クロスカウンターの要領で、シャインソードをイノセントプレデターの胸元に突き出す。

 

ドスッ!

「ぐはっ……!」

 

結果は成功。

あちらが突進してきたこともあり、イノセントプレデターは大きなダメージを負ったようだ。

このチャンスを逃しはしない!

 

「ハアァァァァァッ!」

 

ドラゴソードと、イノセントプレデターから引き抜いたシャインソードを全力で振るう。

 

環光連閃撃(ジ・イクリプス)!!」

 

とある小説で、2秒間に27回の斬撃を放つ2刀流の剣技だ。

流石にアクセルベント抜きだと5秒以上掛かってしまうが、イノセントプレデターは未だダメージの痛みから復帰できていないので、これで十分だ。

 

ドサッ。

「見事、だ…………」

 

環光連閃撃(ジ・イクリプス)を受けたイノセントプレデターは、仰向けに倒れ、自身の負けを認める。

それを聞いた俺は変身を解除した。

 

「……?トドメを刺さないのか……?」

「話が通じるヤツ相手に、無益な殺生はしないさ。それよりもイノセントプレデター、俺と契約しないか?」

「なんだと?いや、しかし……」

「実は1週間後に大規模な襲撃事件が起きるかもしれないんだ。そこで大暴れしたくはないか?俺と契約すれば、サバイブの恩恵で現実世界での制限時間も無くなるぞ?」

「よし、乗った」

「「「即決!?」」」

 

戦いを見守っていた光莉・マドカ・セシリアがハモってするが気にしない。

未使用の契約のカードをデッキから取り出し、イノセントプレデターと契約する。

いや〜心強い味方ができて良かった良かった。




・イノセントプレデター(7000AP)
基本的な外見と能力はメトロイドプライムハンターズのラスボス「ゴリア」。

身体の色と武器の種類
白(通常のビーム)…パワービーム(初期装備)
青(電撃ビーム)…ショックコイル(コピー1)
橙(火炎弾)…マグモール(コピー2)
赤(レーザービーム)…インペリアリスト(コピー3)
紫(冷凍ビーム)…ジュディケイター(コピー4)
緑(重火器)…バトルハンマー(コピー5)
黄(電気ボルト)…ボルトドライバー(コピー6)
コピー7…未定


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第68話 キャノンボール・ファスト

キャノンボール・ファスト当日。

会場はIS学園外に建設されたIS競技場だ。

プログラムは、2年生➡︎1年生専用機持ち➡︎1年生一般生徒➡︎3年生という順番だ。

俺たちは、1年生専用機+本音&楯無さんの11人で集まって、最後の会議をやっていた。

 

「襲撃の気配はありますか?」

「今のところは無いわね」

「それでも(やっこ)さんが来ること前提で考えるべきですよね」

「タイミングは恐らく1年生専用機持ちの部の終盤ですわね。その時にはわたくしたちのISのエネルギーが消耗しているでしょうから」

「その場合、わたしの紅椿の絢爛舞踏でエネルギーを回復させることは可能です。ですが装甲のダメージはどうにもなりません」

「つまり、本来は妨害ありの競技だけどレースそのものに集中した方がいいね」

「うむ。弾薬なども温存するべきだしな」

「まったく、あたしたちは純粋に競技を楽しみたいのになんでテロなんか……」

「鈴、気持ちはわかるがISを女の権利の道具だと勘違いした馬鹿が女尊男卑を蔓延させた時点で、遅かれ早かれ似たような事態になっていたと思うぞ?」

「一夏……」

 

鈴の言うことはもっともだ。

ただ、世界はそうさせてはくれない。

 

「そういや……襲撃が起きた際、観客や一般生徒の避難はどうするんだ?人数も相成ってかなりのパニックになるぞ?」

「そこはわたしたち更識家の者と……」

「俺の契約モンスターで避難誘導をする。外見がロボットで通せるモンスターなら問題無い」

「なるほど……」

「お姉ちゃん、2年生の部そろそろじゃない?」

「え?あらホント。じゃあ簪ちゃん、本音、そして皆、行ってくるわね」

「うん」

「いってらっしゃ〜い」

 

楯無さんが退室し、2年生のレースが始まる。

 

「なぁ一夏」

「どうした鋼夜?」

「敵は……どれほどの規模で来ると思う?」

「束お姉ちゃんが敵に回ってしまいそうなISに片っ端から強制停止信号を送った結果、約120機がそれを受け付けなかった。つまり……」

「それだけのISがこの会場に大挙してやって来るかもしれない、か……。俺たちだけでどうにかできるのか、それ?」

「専用機持ち兼ライダーが9人、紅椿を持った光莉に一時的にIS学園の打鉄を専用機として借りている本音、2年生と3年生に他の専用機持ちが1人ずつ、あと千冬お姉ちゃんに、束お姉ちゃんの無人IS、そして俺の契約モンスターたち。相手の構成員の質にもよるが、戦力としては申し分無いはずだ」

「そう言われれば……そうだな」

「そしてスコールさんとオータムさんが途中から寝返ってくれれば万々歳、といったところだ。上手くいくと良いんだがな……」

「『原作』のようなご都合主義は期待するもんじゃないからな……」

 

鋼夜の言う通りだ。

これまでの戦いで奇跡と呼べる出来事を何度か目の当たりにしたが、奇跡は『起きる』ものじゃなくて『起こす』ものだ。

決して縋る対象ではない。

未来は俺たち自身の手で掴み取るべきものなのだ。

 

『皆さ〜ん、準備はいいですか〜?スタートポイントまで移動しますよ〜』

 

2年生のレースが終わり、山田先生のアナウンスで俺たちはマーカー誘導に従ってスタート位置へと移動する。

 

 

 

3

 

 

 

2

 

 

 

1

 

 

 

GO!!

 

 

 

一斉に飛び出す9機のIS。

スタートダッシュに成功したのは、俺とセシリアの2人。

次いで光莉・シャル・鈴といった感じだ。

マドカ・鋼夜・簪・ラウラはやや後発だ。

ちなみに、セシリアは福音戦でも使用した『ストライク・ガンナー』を、シャルはスペキュラムストライカーを、鈴は高速機動パッケージ『(フェン)』を装備している。

武器の使用は皆が自粛しているが、体当たり程度の攻撃はちらほらと確認できる。

俺は腰からシャインバイザーを抜剣する。

それと同時にセシリアはショートブレード(インターセプター)を展開する。

考えていることは同じか。

 

「せいっ!」

「はぁっ!」

 

コーナーを曲がりながら、俺とセシリアは切り結ぶ。

セシリアの近接格闘術は、学年別トーナメントの時よりもさらに磨きがかかっていた。

 

「あの時よりももっと強くなったんだな、セシリア!」

「もちろんですわ!わたくしの次の目標は不意打ちではなく真正面から貴方に一太刀入れることなのですから!」

「その目標、今のセシリアなら達成できると思うぞ」

「それは光栄ですわ!」

 

セシリアの攻撃が激しさを増していく。

そしてレースが2週目に入った瞬間。

 

ドガァン!

 

先頭を飛んでいた俺とセシリアを、何者かがビームで撃ってきた。

何とか回避した俺たちは、犯人を見るため、視線を上空に移す。

そこには10や20を軽く越える数のISが居た。

やっぱり来やがったか!

 

この瞬間、ISのレース競技は世界の存亡を賭けた戦争へと変わり果てた。



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第69話 決戦の幕開け

SIDE 鋼夜

 

「きゃあああああっ!」

 

会場に悲鳴が響き渡る。

俺たちが危惧した通り、テロリストによる襲撃が発生した。

観客や一般生徒がパニックに陥り、会場は一瞬にして阿鼻叫喚に包まれる。

 

「死ねぇっ、工藤鋼夜!」

 

テロリストの幾人かが、俺に狙いを定めて突っ込んできた。

そりゃ俺と一夏は世界に2人だけしか居ない天然の男性IS操縦者だからな。

敵にとって優先的に排除すべき対象になることはわかっていた。

 

「テメェらなんぞに殺されてたまるかよ!爆筒神器(ばくとうじんぎ)『レールカタパルト』!!」

 

ボイスコールと同時に、俺の機体……鵺の右腕がレールガンになる。

これは豪腕デンショッカーと同じく、『新・光神話 パルテナの鏡』に登場する武器だ。

鵺は、一夏や束さんの遊び心でゲーム・特撮・アニメの装備を搭載しているのだ。

 

「くらえ!」

 

レールカタパルトから高速で射出された弾丸が、敵の1人を撃ち抜く。

その隙に別の敵が俺の背後に回り込み、近接ブレードを振り下ろしてきた。

 

「ジー・ジー・ジジル!!」

 

それを躱した後、レールカタパルトを消して魔法の呪文を唱える。

その瞬間、両腕がアルファベットのMの装飾が施されたボクシンググローブで覆われ、鵺のメインカラーが白から紫へ変わり、非固定武装(アンロック・ユニット)がマントに変化した。

 

(むしば)む毒のエレメント!紫の魔法使い、マジバイオレット!!」

 

そう、今の俺の姿は『魔法戦隊マジレンジャー』と遜色ないものとなっていた。

色が紫なのはベノスネーカーの能力が反映されたからだ。

特撮ヒーローになれるのは嬉しいけど技術の無駄使いのような……。

まぁそれは今気にすることじゃないか。

 

「マジ・マジ・マジカ!!ベノムスクリューパンチ!!」

 

呪文によってマジパンチがベノスネーカーの毒液に包まれ、そのまま敵に叩き込む。

それを受けた敵のISは、装甲が溶けて絶対防御が発動した。

もう1発パンチを打ち込むことで、相手は戦闘不能となる。

よし、これならいける!

 

「おぉ〜、すごいねこうやん!よぉ〜し、わたしもぉ〜」

『COPY VENT!!』

 

打鉄を纏った本音が現れて、コピーベントでマジパンチをコピーする。

IS学園に在籍する専用機持ちは、一時的に打鉄を借りている本音を含めて合計13人。

その中で最も強い一夏を除く12人が2人1組のペアを作る作戦が事前に立てられていた。

俺のペアは本音だ。

あと、束さんの計らいで専用機持ち兼ライダーの皆は、それぞれのISにVバックルと召喚機(バイザー)の増設が施された。

本音がアドベントカードを使用できるのはそのためだ。

 

「本音、後ろは任せたぞ!」

「うん!こうやんの背中はわたしが守るよ!」

 

女の子にそう言われたら、頑張らない訳にはいかないな。

 

「マージ・ゴル・マジカ!!ジェノサイドストーム!!」

 

マジレッドのブレイジングストームを毒属性バージョンで放つ。

それによって、俺と本音に襲いかかろうとしていた敵が薙ぎ払われていく。

背中を預けている本音も、マジパンチとホールドベント(バイオワインダー)で上手く立ち回っていた。

俺たちの方はなんとかなりそうだ。

他の皆は大丈夫だろうか?

 

SIDE OUT

 

SIDE 鈴

 

「アンタは何故専用機を持っていながらわたしたちの邪魔をするの!?わたしたちは織斑一夏と工藤鋼夜を始末して女が男の上に立つ社会を作ろうとしているのよ!?」

「それの何処が正しいっていうのよ!ISはそんなことのためにあるんじゃないわ!」

「その通りですわ!ISを……一夏さんや篠ノ之博士の夢を穢さないでくださいまし!」

 

訳がわからない。

女尊男卑をどう拗らせたらそんな思考に行き着くのよ!?

あたしとパートナーのセシリアは、戦いの最中に敵の説得を受けていた。

もっとも、それに応じるつもりは無いけれど。

こういう連中は話をしているだけで気分が悪くなる。

とっとと退場してもらおうかしら。

 

『『SURVIVE!!』』

 

一夏から借り受けたままのサバイブのカードを使う。

それによって甲龍(シェンロン)が赤いサバイブ形態となる。

 

『『SHOOT VENT!!』』

 

シュートベントのカードで、非固定武装(アンロック・ユニット)の衝撃砲がドラグランザーを模したキャノン砲に変化した。

 

「ふっとびなさい!」

 

キャノン砲……バーニングバレットが炸裂して、相手は炎に包まれながら地面に落ちていった。

絶対防御があるから死にはしないでしょ。

 

「次いくわよ、セシリア!」

「はい!」

 

SIDE OUT

 

SIDE 光莉

 

『SPIN VENT!!』

「いっけぇ!」

 

わたしのパートナーであるシャルロットさんが、ボルキャンサーの鋏を模したブーメラン『シザースブーメラン』で敵のISを切り裂く。

 

『SHOOT VENT!!』

「はぁっ!」

「ぎゃああっ!」

 

そしてボルキャンサーの頭部を模した高圧水流銃『シザースプラッシュ』でトドメの一撃を撃ち込んだ。

シャルロットさんの契約モンスターであるボルキャンサーは、APこそ低いものの豊富な武器がありますね。

あらゆる武器を使いこなすシャルロットさんとの相性は抜群です。

 

「やあっ!」

 

わたしは紅椿の近接ブレード『空裂(からわれ)』で敵を切り伏せる。

そんなわたしの視界に、ISを纏っていない私服姿の1人の女性が映る。

どうして一般人がこんなところに!

わたしはシャルロットさんに援護を頼みつつ、その女性を保護するために近付く。

だが、その姿をはっきりと確認したわたしは驚愕に思考を塗りつぶされた。

 

「貴女は……!」

「久しぶりだな」

 

何故ならその女性は、未だ刑務所に服役中であるはずの……篠ノ之箒だったからだ。




という訳で箒の再登場です。
ちなみに残りのペアは
マドカ&ラウラ(ブラコンコンビ)
楯無&簪(姉妹コンビ)
ダリル&フォルテ(上級生コンビ)
です。


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第70話 真紅の侍

SIDE 光莉

 

「篠ノ之箒さん、刑務所に居るはずの貴女が何故ここに……」

亡国機業(ファントム・タスク)の手による脱獄だ。もっとも、その時はあまり乗り気ではなかったから『拉致』という表現が正しいのかもしれないがな」

 

拉致?

つまり、彼女にとっては不本意な脱獄……?

 

「刑務所の中で、一夏や千冬さんに言われたことを思い出し、わたし自身の過去を振り返ってみた。以前のわたしは、一夏が振り向いてくれるほど良い女ではないと、獄中生活で冷えた頭でやっとわかった」

「ではさっき言った、脱獄に乗り気じゃなかったというのは……」

「最初は刑務所にやって来た亡国機業(ファントム・タスク)の連中に勧誘を受けた。しかしその時のわたしは既にちゃんと罪を償いたいと思っていたから断ろうとした。だが、篠ノ之束(姉さん)の妹という理由で断っても連れ出されると思ったわたしは、勧誘に乗ったフリをして連中と共に刑務所から抜け出た訳だ」

 

確かにその判断は正解ですね。

無理矢理連れ出された場合、敵の本拠地で交渉カードとして監禁されていたのかもしれないのですから。

しかし……旦那様の婚約者であるわたしに、一時の感情で殺人未遂を働いた彼女ですが、刑務所での暮らしで随分変わってくれたようですね。

 

「巽光莉、わたしの最後の我儘を聞いてはくれないか?」

「内容によります。あとわたしは旦那様と結婚しているので名前は織斑光莉です」

「……そうだったな。それでだが、わたしと戦って欲しい。刑務所に戻る前にお前や一夏たちに認めて貰えるチャンスが欲しいんだ」

「そういうことでしたら構いませんが、ISを持たない貴女は何で戦うというのですか?」

「これだ」

 

そう言って彼女がポケットから出したのは、ミラーライダーのカードデッキだった。

今まで所在が掴めなかった13個目のカードデッキ。

恐らく亡国機業(ファントム・タスク)にISの代わりに渡されたのでしょう。

オータムさんやマドカちゃん、そして既に本音さんのものとなっているベルデのデッキを含めると、亡国機業(ファントム・タスク)は一時は4個ものデッキを保有していたということになります。

1つの組織が世界で13個しかないカードデッキの内、約3分の1を手にするとは……。

恐ろしい限りです。

 

「いいでしょう。シャルロットさん、わたしは彼女と戦うので他のペアの援護に向かってくれませんか?」

「光莉……。うん、わかった」

 

シャルロットさんは特に何も言わず、雷轟を駆ってこの場から去る。

本当に、IS学園でわたしは良い友に巡り会えました。

 

「お前の正体は『ある者』から聞いている。ミラーワールドに行くぞ」

「『ある者』とは……?」

「それは後でわかる。ただ……ひとつ言えるのは、そいつは今、一夏と戦っているだろうということだ」

「旦那様と……」

 

旦那様の身内と更識家の人間、そしてライダーの皆さん以外でわたしの正体を看破しているなんて、一体何者なのでしょう……?

でも今は、それを考えるのはやめましょう。

誰が相手であろうと、旦那様が負けるはずがありませんし。

 

「変身!!」

 

箒さんがライダーに変身して、ミラーワールドに潜る。

わたしもその後を追う。

ミラーワールドにて、ライダーと化した箒さんを観察する。

頭部にはスリット状のアイレンズに弁髪。

左腕には盾型の召喚機(バイザー)

そして真紅に染まった身体。

どうやら、旦那様が言っていた『仮面ライダーライア』がベースのようですね。

 

「仮面ライダー斬姫(ざんき)。それが今のわたしの名だ。…………いくぞ!」

『SWORD VENT!!』

 

日本刀型の剣を構え、箒さんが切りかかってくる。

彼女がライダーの力で挑むというのなら……わたしはミラーモンスターの力を以ってして、それを受け止めましょう。

わたしは紅椿を解除して、ミラーモンスターとしての力を、人化を維持できる限界まで解放する。

そしてわたしは、鋭利な爪と堅固な鱗で覆われた右腕で、箒さんの剣をガードする。

 

「何だと!?」

「これがわたし……織斑光莉の全力です!」

 

さあ、貴女も全力で掛かって来てください。

かつて旦那様と契約した時のように、わたしが貴女を見極めてあげます!

 

SIDE OUT

 

SIDE 簪

 

「えいっ!」

 

薙刀型の近接武装『夢現(ゆめうつつ)』で、テロリストの乗るISを撃墜する。

これまで相手してきた者の言葉に耳を貸してみれば、彼女らの目的は一夏や工藤くんを抹殺して女性が男性の上に立つ社会を作ることだと宣った。

なんて醜悪な目的なのだろうか。

そんなこと、絶対に認めない。

こういった者が相手なら、世界や篠ノ之博士のために一夏がその手を血に染めるというのも頷ける。

いや……寧ろ、こんな者たちが居るから一夏が人殺しにならなければいけなかったのかという憤りが沸いてきた。

 

「わたしは貴女たちを許さない!ISを道具としか見ず、他人の幸せを傷つける貴女たちを、絶対に!」

 

48連装ミサイルポッド『山嵐(やまあらし)』を、フルバーストで放つ。

マルチロックシステムによって、複数のISが弱点部分にミサイルを浴びた。

あとは夢現で各機にトドメを刺すだけだ。

 

「なっ……学園長!?どうしてここに!」

 

パートナーであるお姉ちゃんの声が周囲に響く。

見ると、そこにはIS学園の校長である轡木(くつわぎ)十蔵(じゅうぞう)さんが居た。

どうして戦場のど真ん中に学園長が!?

 

「私が基本的に学園外の争いごとに関しては中立の立場を取ります。ですが、私が守る生徒たちに危害が加えられるというのなら、話は別です」

「それは……」

 

轡木さんがそう言って懐から取り出したもの……それは、不死鳥のエムブレムが描かれたカードデッキだった。

 

「変身!!」

 

その掛け声と共に、学園長は黄金のライダーへと姿を変えた。

そしてさらにISの装甲を身に纏うと、テロリストに2本の剣で切りかかる。

 

『SWORD VENT!!』

「馬鹿な!織斑一夏と工藤鋼夜以外に専用ISを持っている男が居るなんて、聞いてないわよ!」

「それはそうでしょう。ついさっきまで、知っているのは篠ノ之博士だけだったのですから」

 

学園長がライダー……。

しかも、一夏の龍騎士(ドラグナー)と同じく、ISと融合している……。

いろいろ気になるところだけど、心強い味方が現れたことに変わりはない。

 

「行こう、お姉ちゃん」

「えぇ、そうね。学園長ばかり戦わせて、生徒会長は名乗れないものね!」

 

わたしとお姉ちゃんは学園長……仮面ライダーオーディンを援護するべく、空へと飛び立った。

 

SIDE OUT

 

SIDE マドカ

 

わたしはラウラとペアを組んで、テロリストを殲滅していた。

 

「100歩譲って、ISを兵器と認識するのはまだ理解できる。でも……」

「女の権力の道具に使うというのは、とても理解できん。それに、決して許せるものでもない」

 

ラウラの言う通りだ。

本当に……女にしか動かせないISが世間に出回ったというだけで、どうしてこんなことに……。

 

「マドカ、後ろだ!」

「っ!?」

 

感傷に浸っていたせいで周囲の警戒が疎かになっていたのか、いつの間にか近接ブレードを携えたテロリストに、背後を取られていた。

既にブレードはわたしに向かって振り下ろされている。

マズい、やられる……!

 

ドガァン!

「え……?」

 

わたしを傷つけるはずだったブレードは、何者かの砲撃によって、持ち主もろとも地面へと墜ちていく。

砲撃の主の方を見ると、サイレント・ゼフィルスとそっくりな漆黒のISがあった。

 

「まったく……わたしの方から兄さんに会いに来てみれば、随分派手なことになっているな」

「その声は、わたし……?」

「そう……わたしもまた、お前と同じ『織斑マドカ』だ」

 

どういうこと!?

いや、待てよ……?

確かお兄ちゃんと光莉さんは新婚旅行で行った平行世界で、そっちの世界の織斑マドカ(わたし)と親しくなったって……。

 

「もしかして……お兄ちゃんが言っていた、平行世界のわたし?」

「正解だ。しかしお前は兄さんのことを『お兄ちゃん』だなんて、年不相応な呼び方をしているのか……」

 

平行世界のわたしは、わたしの質問に答えながら右手のランスをマクロスキャノンみたいに変形させ、テロリストを撃ち抜く。

わたしもテロリストとの戦闘を再開しながら、話を続ける。

ラウラの方は、何故かこちらに合流してきたシャルロットと、即席のタッグを組んでいる。

 

「いいじゃない。わたし、お兄ちゃんのこと大好きなんだもん」

「兄さんから聞いていたが、本当にブラコンなんだな……」

 

平行世界のわたしは、嘆息しながらガッツイーグルを模したビットを射出する。

あれ、もしかしてお兄ちゃん作?

お兄ちゃんって、特撮とかを模した装備を作るの得意だし。

いいなぁ……。

もしIS学園を卒業したら、サイレント・ゼフィルスを返還した後AMWに所属して、お兄ちゃんに専用機を作って貰おうかな?

まぁ、今はとにかくこの戦いを生き残らなきゃね。

わたしと平行世界のわたしは、そのままペアを組んでテロリストの乗るISを撃破していった。

 

SIDE OUT




という訳で、箒ライダー化にオーディンの正体発覚に原作世界のマドカが援軍として出現です。
え?
どうやってマドカがこの世界に来たか、ですって?
原作世界の束がウルトラマンガイアのXIGアドベンチャーをISのパッケージで再現したんですよ……。


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第71話 黒い龍と紅い鬼

SIDE 一夏

 

「出番だぜ、イノセントプレデター!」

『ADVENT!!』

「やっとか!待ちくたびれたぞ、マスター!」

 

俺はシャインバイザーでイノセントプレデターを召喚する。

イノセントプレデターは嬉々として、テロリストを殲滅し始めた。

 

「フハハハ!脆い……脆すぎる!これこそ正に粉砕・玉砕・大☆喝☆采!!」

 

あらら……。

テロリストが可哀想なくらいの暴れっぷりだな。

まぁでも味方の顔は覚えてもらっているし、友軍誤射(フレンドリー・ファイヤ)なんてヘマはしないだろうから止めないけど。

 

『STRIKE VENT!!』

「ハァッ!」

 

ナーガクローでテロリストを撃墜しながら、周囲を見渡す。

事前にペアを決めている専用機持ちの皆は善戦しているようだ。

それにちょうど、第4世代に改修された暮桜を纏った千冬お姉ちゃんが、束お姉ちゃんの無人ISを引き連れて戦場に現れる。

戦いの流れはこちらに傾いている。

 

「っ!?」

 

何やら不穏な気配がしてそちらの方に視線を向けると、そこには俺とそっくりな男性がいた。

まさか……!

 

「はじめましてだな、織斑一夏」

「お前は、一体……」

「俺はお前だ。俺はミラーワールドで生まれた、もう1人の織斑一夏」

 

やっぱりリュウガか!

オーディンからライアのデッキが何処かに存在していることは聞いているため、こいつは14人目のライダーということになる。

 

「俺が唯一無二の『織斑一夏』となるため、死んでもらうぞオリジナル!」

「そうはいくか!俺はこんなところでくたばる訳にはいかないんだ!」

「その威勢、果たしてどこまで続くかな?……変身!!」

 

俺の偽物が、漆黒のカードデッキでライダーに変身する。

 

「仮面ライダー黒龍(オニキス)。それが今の俺の名前だ。さあ、俺の礎となれ!仮面ライダー龍騎士(ドラグナー)!」

「そんなのお断りだ!偽物が本物に勝てると思うなよ!」

 

光の龍騎士と、闇の龍騎士の戦いの火蓋が今、切って落とされた。

 

SIDE OUT

 

SIDE 光莉

 

わたしと箒さんの戦いは、最初に比べてかなり激しいものとなっていた。

まだ少し手を抜いているとはいえ、7000APのミラーモンスターであるわたしを相手に、ソードベント1枚でくらいつくとは予想外です。

 

「ですがそれもここまでです!」

「がはっ!」

 

腕と同じく、鱗と爪で覆われた脚で箒さんを蹴り飛ばす。

 

「ぐっ……まだだ!」

『FLAIR VENT!!』

 

箒さんの両手両足、そして刀が炎に包まれる。

フレアーベント。

自身の攻撃に炎属性を付与するカードですか。

初めて見るカードです。

彼女の契約モンスターは一体……?

 

「はあぁっ!」

「……っ!」

 

振り下ろされた剣を、腕で再びガードする。

その瞬間、わたしの腕に焼けるような痛みが走った。

わたしは爪の斬撃で箒さんを振り払うと、剣を受け止めた部分を確認する。

鱗が焼け焦げ、内側の腕が軽い火傷状態となっていた。

まさかゴルトフェニックス様以外に、鱗を貫く攻撃を受けることになるとは……。

 

「乙女の柔肌を傷つけた罪は重いですよ、箒さん?」

「それに関しては後で謝罪しよう。だが今は全力で勝ちにいかせて貰う!来い、ブレイズオーガブシドー!」

『ADVENT!!』

「グオォォォッ!」

 

箒さんの呼びかけに応じて、刀を持った1つ目の鬼が雄叫びを上げながら現れる。

あれが箒さんの契約モンスター……。

 

『FINAL VENT!!』

 

箒さんとブレイズオーガブシドーは、刀を持ったまま背中合わせで回転し炎の竜巻を作り上げた。

まさかあれでわたしに突っ込む気ですか!?

 

「ハアァァァァァッ!」

「くっ……!」

 

わたしは胸と両肩から生えている龍の首から破壊光線を放って迎え討つ。

それによってファイナルベントの力は衰え始めるが、まだ足りない。

よってわたしは、放出しきれていない力を全て右手に込める。

 

「いっけぇぇぇぇぇっ!」

 

3本の破壊光線を1箇所に集中させ、さらにそこへ渾身の右ストレートを叩き込む。

 

「うぐあっ!」

「グオッ!」

 

それによってファイナルベントが解除され、箒さんとブレイズオーガブシドーが弾き飛ばされる。

わたしはいつの間にか肩で息をしていた。

わたしをここまで疲弊させるとは……。

箒さんは随分強くなったのですね。

 

「見せてもらいましたよ、箒さん。貴女の力を。旦那様や束さんにはわたしから話しておきます」

「そうか……、ありがとう……」

 

わたしは身体を覆う爪や鱗を解除して、座り込む箒さんに手を差し伸べる。

 

「現実世界では、未だ旦那様たちがテロリストと戦っています。貴女も手伝ってくださいね?」

「わかっている。引き止めて悪かったな」

 

現実世界へと戻ったわたしと箒さんは、テロリストを倒しながら旦那様の捜索を始めた。

 

SIDE OUT




・ブレイズオーガブシドー(6000AP)

篠ノ之箒(仮面ライダー斬姫)の契約モンスター。
イメージはウルトラマンティガに登場した怪獣「二面鬼(にめんき) 宿那鬼(すくなおに)」が武士の鎧を着込んだ感じ。


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第72話 破壊者の来訪と決着

SIDE 一夏

 

「くっ……」

「さすがはオリジナル、よく持ち堪える。だが……お前も薄々わかっているんじゃないか?勝てない、と」

 

俺の偽物……仮面ライダー黒龍(オニキス)の言葉に、俺は反論を持たない。

身体スペックと戦闘技術はまったくの互角。

しかし武器系のアドベントカードは、あちらの方が1000AP上回っている。

さらには契約モンスターである『暗闇(くらやみ)の龍シェイドナーガ』を召喚しての2対1(ツーマンセル)

かといってシャインシールドで味方が加勢してくれるまで時間を稼ごうと思ったら、コンファインベントで邪魔をされる。

光莉以外の契約モンスターのガードベントを使おうとしても、スチールベントその他諸々の妨害で盾を使えずにいた。

その結果、度重なる挟み撃ちで俺は一方的にダメージを蓄積する羽目になってしまった。

 

「これ以上は時間の無駄だ。とっとと諦めて俺に身体を寄越せ」

「ふざけるな!俺は光莉と添い遂げると決めたんだ!光莉の隣に立つべき『織斑一夏』は俺だ!お前なんかじゃない!」

 

そう言ってサバイブのカードをデッキから抜こうとした俺の横を、1人の男性が通り過ぎて、俺と黒龍(オニキス)の間に立つ。

 

「愛する女のためなら、どんな逆境でも挫けない。馬鹿な男だ。馬鹿だが…………そういうのは嫌いじゃない」

「誰だお前は!」

 

黒龍(オニキス)が男性に問いかける。

俺の横を通り過ぎる時にチラッと顔が見えたが、まさか……。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ。……変身!!」

『KAMEN RIDE 【DECADE】!!』

 

男性は赤い宝石が埋め込まれた白いバックルの付いたベルトを腰に巻くと、そこにカードを差し込んで、白とマゼンタの仮面ライダー……仮面ライダーディケイドへと姿を変えた。

 

門矢(かどや) (つかさ)!?」

 

まさかこの世界にやって来るなんて!

 

「あの龍は俺が引き受ける。お前は自分の偽物をぶちのめしてやれ」

「……っ!あぁ、もちろんだ!」

「んじゃ、いくぜ!」

『KAMEN RIDE 【RYUKI】!!』

 

ディケイド……士さんは龍騎にカメンライドして、シェイドナーガと戦い始めた。

俺は黒龍(オニキス)に向き直る。

 

「ふん……邪魔が入ったが問題無い。既にボロボロのお前など、何の脅威にもなりはしないのだからな」

「そんなの……やってみなくちゃわかんねぇだろ!」

『『SURVIVE!!』』

「どこまでも諦めの悪い奴だ」

『THRUST VENT!!』

 

サバイブ化した俺に対し、黒龍(オニキス)は黒いシャインランサー……シェイドランサーを召喚する。

 

「おらぁっ!」

「ふんっ!」

 

シャインソードとシェイドランサーがぶつかり合う。

剣と槍の差はあれど、両者の技量はまったくの互角。

共に決定打が欠けていた。

だがこちらには、俺への妨害に全力を注いだ黒龍(オニキス)と違って、大量の特殊カードがデッキに眠っているのだ。

 

『STRANGE VENT!!』

『GRAVITY VENT!!』

 

ストレンジベントによって重力の力場が発生し、黒龍(オニキス)の動きが鈍る。

 

「ハァッ!」

ドゴッ!

「ガハッ……!」

 

1度召喚した後、拡張領域(バス・スロット)に格納しておいたナーガクローを再び取り出し、黒龍(オニキス)に渾身のブローを叩き込む。

 

「まだまだぁ!」

『FREEZE VENT!!』

 

間髪入れず、今度はフリーズベントで黒龍(オニキス)を凍結させる。

 

「くっ、身体が動かん……!」

『ACCEL VENT!!』

「いくぜ!星光流連撃(スターバースト・ストリーム)!!」

 

アクセルベントを発動し、シャインバイザーを抜剣しての2刀流16連撃を放つ。

16発目の斬撃で、黒龍(オニキス)は地面の上をバウンドしながら吹き飛ぶ。

 

「どうだ、偽物め!」

「おのれ……かくなる上は!」

『FINAL VENT!!』

 

黒龍(オニキス)は、士さんと戦っていたシェイドナーガを呼び寄せて、ファイナルベントの構えを取る。

龍騎からディケイドに戻った士さんがこちらに合流してきた。

 

「なんかヤバい雰囲気だな」

「どうしよう……。フリーズベントさっき使っちまったぞ……?」

バシュッ!

「「ん?」」

 

士さんの腰に付いているカードホルダー、ライドブッカーから3枚のカードが飛び出した。

それを確認した俺は驚いた。

これは……龍騎士(ドラグナー)のカード!

士さんはその内の1枚を、ベルト……ディケイドライバーに装填する。

 

『FINAL FORM RIDE!! D,D,D,【DRAGONER】!!』

「ちょっとくすぐったいぞ」

「え、まさか……うおっ!?」

 

士さんに背中を触られた俺は、変な感覚と共に身体が変形し、シャインナーガを模した大槍『シャインロンギヌス』へと姿を変えた。

 

『FINAL ATTACK RIDE!! D,D,D,【DRAGONER】!!』

「ハアァァァァァ…………デヤァッ!」

 

士さんが俺を、ファイナルベント(ジャッジメントライダーキック)を放ってきた黒龍(オニキス)に向かって投擲する。

その一撃はファイナルベントを打ち消し、シェイドナーガを消し飛ばす程の威力だった。

槍と化した俺は、士さんの手に舞い戻った後、サバイブが解除された状態で元の姿に戻った。

 

「旦那様!」

「一夏!」

「光莉!そしてその声は……篠ノ之!?」

 

光莉が真紅のライアを引き連れて現れた。

どうやら中身は篠ノ之らしい。

色々聞きたいところだが、今は後回しだ。

 

「うっ…………」

 

まずはあそこに倒れ伏す俺の偽物にトドメを刺さないとな!

 

『FINAL VENT!!』

『FINAL ATTACK RIDE!! DE,DE,DE,【DECADE】!!』

 

俺と士さんは必殺のカードを発動して飛び上がる。

俺はシャインナーガの姿となった光莉の破壊光線を身に纏いながら、士さんは10枚のカード型エネルギーを潜り抜けながら、黒龍(オニキス)に向かってキックを叩き込む。

 

「「どりゃあぁぁぁぁぁっ!」」

「ギャアァァァァァッ…………!」

 

俺と士さんのキックを受けた黒龍(オニキス)は爆発四散し、その場には漆黒のカードデッキが残る。

 

「…………」

 

俺は無言でシャインバイザーを振り下ろし、カードデッキを破壊する。

周囲を見れば、他の専用機持ちや無人IS、そしてイノセントプレデターによってテロリストの大多数が撃墜されていた。

勝敗は決したと言って良いだろう。

 

「終わったのですね……」

「あぁ……」

 

亡国機業(ファントム・タスク)と女性権利団体による襲撃は、ひとまずの終わりを迎えた。



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最終話 掴み取った未来

襲撃事件におけるテロリストの撃退に成功し、時刻は夜だ。

あの後、俺たちは撃墜したISの回収と操縦していたテロリストの捕縛に奔走することになった。

もっとも、束お姉ちゃんの無人ISや襲撃直後に投降してきたオータムさんやスコールさんも手伝ってくれたので、それほどの重労働でもなかったのだが。

 

士さんはもう居ない。

『この世界でのやるべきことはもう済んだ』と言い残して去って行ってしまった。

お礼を言いたかったし、サインも欲しかったんだけどな……。

俺から話を聞いた簪も、本物のディケイドに会えず終いで非常に残念そうだった。

龍騎シリーズ以外の仮面ライダーは、この世界でも特撮ヒーローとして存在しているからな。

 

そして簪からは、オーディンの正体がIS学園の学園長だと教えられた。

学園の関係者だというのは薄々勘付いていたが、まさか学園長だとはな……。

生徒会長である楯無さんも、今日初めて知ったらしい。

楯無さんすら欺くとは、学園長は若い頃は何をやっていたのやら。

 

「一夏」

 

物思いに耽っていると、背後から篠ノ之が声をかけてきた。

 

「ん?何だ?」

「わたしはまだ刑期が残っているから、これから刑務所に戻る。服役中の間、契約モンスター(ブレイズオーガブシドー)の面倒を見てもらいたいんだ」

 

篠ノ之はそう言って、契約モンスターのカードを差し出してきた。

俺はそれを受け取る。

 

「わかった、任せろ。しかし……少し見ない間に、随分と雰囲気が変わったな」

 

臨海学校までの篠ノ之は、癇癪を起こして暴力を振るうというのを繰り返す、『猪武者』という表現がぴったりだったが、今では凛とした雰囲気を醸し出していて、正に『武人』と呼べるものとなっている。

 

「流石にわたしも目が覚めたよ。かなり時間がかかってしまったがな。光莉にもさっき謝罪をして来た」

「人は過ちから学び、進歩していく生き物だ。光莉がお前を許したなら、俺が特に何か言う必要は無い」

 

篠ノ之に関しては、これで水に流すこととしよう。

 

「では一夏、わたしはそろそろ行くとする。出所したらまた会おう」

「あぁ、待ってるぞ…………『箒』」

 

別れの挨拶をして、篠ノ之……いや箒が去って行く。

それを見送った俺は、戦後処理をしている千冬お姉ちゃんと束お姉ちゃんの元へと向かった。

そこで話した結果、女尊男卑はテロに繋がる危険な思想だと世界に広まるだろうという結論に至った。

いずれは各国で残存の女性権利団体の撲滅が始まるだろう。

それで女尊男卑の歴史は終わる。

100を越えるISを用いての襲撃事件を起こしたのだ。

思想・言論の自由という権利を掲げたところで、許されるものではない。

また、一緒に作業をしているスコールさんに聞いてみたところ、今回の件で亡国機業(ファントム・タスク)の構成員は大多数が捕縛されたため、いずれ内部分裂を起こして自滅するだろうと言われた。

 

「お兄ちゃん!」

 

話を済ませて1人で歩いていると、マドカが平行世界のマドカを引き連れて現れた。

 

「元気そうでなによりだ、兄さん」

「そっちもな。どれくらいぶりだ?」

「兄さんと光莉が去ってから、わたしの世界の方では半年が過ぎたな」

「半年ねぇ……。その間のことを聞かせてくれないか?」

「わかった。まずは……」

 

そう言って、平行世界のマドカは自身の世界のことを語り始める。

黒騎士を手に入れたマドカは、一夏や暮桜を纏った千冬お姉ちゃん、その他専用機持ちの皆と戦い、圧勝したそうだ。

それでもなんだかんだで死人を出さずに和解したのだとか。

結局、ご都合主義には勝てなかったか……。

それで一夏はというと、マドカとの戦いの直後に箒たち5人の女性の好意に気付きはしたものの、誰か1人を選ぶという時点で行き詰まっているらしい。

 

「あいつらしいと言えばあいつらしいんだが……」

「見てて非常にやきもきさせられたものだ」

「となると、平行世界のお兄ちゃんはハーレムを作るのかな?」

「いや、無理だろ。5人とも所属する国がバラバラだし、一夏に女5人を養うだけの財力も無い。それ以前に重婚が合法化されている国自体が存在しないのだから」

「だからわたしや姉さんを含め、周囲の者は『1人を選べ』と言っているのだが、あいつは『誰も不幸にしたくない』と甘い考えを捨てきれず、煮え切らない状態が続いているんだ」

「それが半年間……」

 

ハァ、と3人揃って溜息を吐く。

平行世界のマドカは、あちらの世界の束お姉ちゃんが開発したXIG(シグ)アドベンチャーを再現したパッケージで、この世界にやって来たらしい。

なかなか良いチョイスだと思う。

 

「それで……マドカ、お前はこの世界じゃあ何て名乗るつもりだ?ちなみに俺とこの世界のマドカは双子だから、お前は末っ娘となるが」

「そうだな……。ではハルカ、そう名乗ろう。わたしは今日から『織斑ハルカ』だ」

「あぁ、改めてよろしくなハルカ。後で束お姉ちゃんに戸籍を作ってもらおう」

 

2人のマドカ……いや、マドカとハルカとの話を終えた俺は、光莉と出会った。

箒との戦いで軽い火傷を負ったため右腕に包帯を巻いているが、臨海学校の刀傷と同じく、すぐに治るとのこと。

 

「これで、全て終わったのでしょうか……?」

「少なくとも女性権利団体が国家や企業に食い込んで、権力を振りかざすことはもうできはしないだろう。俺たちがそういった連中を闇に葬ることも、もうしなくて良いだろう」

「そうだと、いいですね……」

「…………」

「……旦那様」

「どうした光莉?」

「ん……」

 

光莉が目を閉じて、唇を突き出してきた。

そういや最近、光莉とイチャイチャしてなかったな……。

俺がそれに応えて、光莉と唇を重ねようとした瞬間……。

 

シュパッ。

「「ん?」」

 

何者かが俺たちの横を通り過ぎ、何かを掠め取って行った。

見ると、仮面ライダーディエンドこと海東(かいとう) 大樹(だいき)龍騎士(ドラグナー)のカードデッキを手にしていた。

 

「この『お宝』はもらっていくよ」

 

そう言って、彼は去って行く。

一瞬思考停止してしまったが、すぐに追跡を開始する。

 

「おのれディエンド!よくも俺と光莉のいい感じな雰囲気を破壊してくれたな!」

「デッキ盗まれたことよりもそっちですか!?」

 

光莉のツッコミは無視しつつ、俺は夜の町を走り抜けた。




本編はこれで終わりです。
後はエピローグを書いて完結ですかね。
明日に投稿できるかはわかりませんが。


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エピローグ

亡国機業(ファントム・タスク)と女性権利団体による襲撃が起きてから、世界は大きな変化を見せていた。

 

 

 

 

 

国連が女尊男卑を「危険思想」と認定。

IS委員会との共同で、世界各国での撲滅運動が始まった。

その1ヶ月後には、残存の女性権利団体のメンバーはほぼ全てが投獄され、逆に女尊男卑の影響で冤罪を被った男性は再審のもと、無罪となって出所し始めている。

女尊男卑の歴史の、事実上の終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

翌年。

IS学園が2学年以降の選択科目に、「操縦科」・「整備科」・「開発科」に続く4つ目の科目として「宇宙航空科」を設立。

第1期生として、織斑一夏、織斑光莉、ほか十数名の生徒が所属。

 

 

 

 

 

数年後。

篠ノ之箒が刑務所を出所。

のちにAMWへ就職。

 

 

 

 

 

篠ノ之束が「ネオマキシマエンジン」(出典:『ウルトラマンダイナ』)の開発に成功。

太陽系の各惑星に、極短時間で移動する技術が確立された。

これにより、人類は月以外の星へ行くことが可能となる。

 

 

 

 

 

そして更に月日が経ち…………。

 

 

 

 

 

「ついにこの時が来たんだな、光莉」

「えぇ……非常に長い道のりでしたが、束さんの夢がやっとその1歩を踏み出すんです」

 

発射直前のスペースシャトル。

織斑一夏と織斑光莉は、乗組員として操縦席に座っていた。

2人がIS学園を卒業して十数年。

月でのコロニー建設の目処が立ち、人類の次の目的地は火星だ。

今回、2人が火星へ行く目的は、火星を人間が住める環境に変えることだ。

とある生物の力を借りて……。

 

『パパ、ママ、いよいよですね』

「あぁ……お前の力、存分に発揮してもらうぞ、『セレナ』」

「期待してますからね」

『はい、任せてください』

 

背後から2人に話しかけたのは、束が生み出したゲル状の生物。

この生物は『ウルトラマンティガ』に登場した『人工生命体 ビザーモ』と同じく、電力を糧に増殖しながら酸素を生み出す能力を持っている。

それによって火星に酸素を生み出し、火星を人類が住めるようにすることができる。

 

原作のビザーモは理性が無いため、過剰な増殖によって生まれ故郷である惑星ビザーモを滅ぼし、地球に降り立った際もGUTS(ガッツ)が提示した共存の道を拒否したが、束が生み出し、『セレナ』と名付けられたこの生物は、刷り込み(インプリンティング)の要領で一夏と光莉を親と認識し、2人の愛情をその身に受けて優しい心を持った生物へと成長した。

一夏と光莉も、セレナを血の繋がった子供のように接している。

しかし、2人の間に血の繋がった子供が居ない訳ではなく……。

 

『ほら、一輝(かずき)夏輝(なつき)。お父さんとお母さんに行ってらっしゃいの挨拶をしなさい』

『は〜い。お父さん、お母さん。宇宙でのお仕事、頑張ってね』

『頑張ってね〜』

 

通信回線が開き、マドカの言葉に従って2人の子供が一夏と光莉に挨拶をする。

2人は一夏と光莉の間に生まれた双子兄妹、『織斑一輝(おりむらかずき)』と『織斑夏輝(おりむらなつき)』だ。

人間とミラーモンスターのハーフである2人だが、特に成長や日常生活に問題は無く、現在は小学生だ。

 

「おう、ちゃんと良い子にして待ってるんだぞ」

「マドカちゃんやハルカちゃんに迷惑をかけてはいけませんよ?」

『『うん!』』

 

一輝と夏輝が元気よく返事をした後、通信回線が束に切り替わる。

 

『いっくん、そろそろ時間だよ』

「了解。セレナ、シートに座れ」

『はい』

 

一夏の指示で、セレナはアメーバのような不定形から人型になって硬化し、シートに着席してベルトを締める。

 

「では行きましょう、旦那様」

「そうだな。では……こちら織斑一夏。スペースシャトル『希望(ホープ)』号、発進します!」

了解(ラジャー)幸運を祈る(グッドラック)

 

こうして、戦いを終えた騎士と龍は(そら)へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Mirror Rider Stratos」

 

著:無限正義頑駄無(インフィニットジャスティスガンダム)

原作:弓弦(ゆみづる)イヅル(インフィニット・ストラトス)

 

オープニング主題歌

第1クール(1学期まで)

「TAKE ME HIGHER」(『ウルトラマンティガ』OP)

第2クール(夏休みから)

「Revolution」(『仮面ライダー龍騎』劇中歌)

 

エンディング主題歌

第1クール

「君にできるなにか」(『ウルトラマンコスモス』ED)

第2クール

「Beat on Dream on」(『ウルトラマンガイア』ED)




はい、という訳で「Mirror Rider Stratos」完結です。
今まで応援ありがとうございました。

ちなみに、エレナのイメージは原作のビザーモのようなグロテスクなものではなく、「メトロイドフュージョン」に登場した寄生生命体「X(エックス)」を思い浮かべてください。

次回作に関しては、活動報告にてお話し致します。


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特別編
特別編・更に未来へと……


お久しぶりです。
約1年半ぶりの投稿です。
今回、ちょっとしたネタが思いついたので番外編、というよりは特別編ですが、1話だけ投稿しました。


かつて、小説『インフィニット・ストラトス』と、特撮『仮面ライダー龍騎』が混ざった世界において、『織斑一夏(おりむらいちか)』としての人生を歩んだ男は、自身の契約モンスターにして最愛の妻である光莉(ひかり)と共に、自身を転生させた女神と再会していた。

 

「貴女は……」

 

「お疲れ様でした、ふたりとも」

 

「旦那様、この女性は……?」

 

「かつて俺を転生させてくれた女神様だ」

 

「……なるほど、この方が。先程からゴルドフェニックス様を上回る神のオーラをこの方から感じていましたが、それなら納得です」

 

「わたしがふたりの前に現れたのは、人生を終えたふたりの未来を決めるためです」

 

「人生を終えた俺たちに未来なんかあるんですか?」

 

ISの世界において、IS学園を卒業した2人は篠ノ之束(しのののたばね)が立ち上げた企業『Arice in Mirror World(略称AMW)』に就職し、宇宙開発に着手した。

だが、何も無い星を人が住める星に変えるという作業は非常に難航し、彼らの代での達成は不可能だった。

この時の彼の心情は、「『ティガ』の物語が終わってから『ダイナ』の物語が始まるまでの短い期間で月や火星どころか木星の衛星(ガニメデ)にまで基地を建設しているネオフロンティアスペースの技術は凄いんだな」というものだった。

最終的に、次の世代に未来を託して隠居し、寿命で人生を終えることになる。

そしてふたりはこの何も無い空間で女神と再会したのだが……。

 

「貴方方の生前の行為を審判し、楽園へ送るか、地獄へ送るか、もう一度転生させるかを決めます」

 

「「…………」」

 

女性しか動かせないISが世間へ出回ったことで、各IS保有国内では女尊男卑の風潮が広まり、女性権利団体なるものが出来上がった。

その構成員たちは『自分たちは最強の兵器であるISを動かせる女だから、男相手に何をやっても許される』と本気で思っている者達ばかりで、痴漢冤罪を始めとした様々な手口で大勢の罪の無い男性の人生を奪っていった。

女尊男卑の影響は政治にまで及び、警察に犯罪の証拠を握らせて逮捕させようとしても、女尊男卑主義者の権力者によって揉み消されてしまう。

束の夢を悪用され、罪の無い人々が傷付く姿を何度も見せ付けられ、大人も法律も役に立たない状況に耐え兼ねた一夏と光莉は強行手段に訴えた。

 

女尊男卑主義者の暗殺だ。

 

一夏は光莉をはじめとしたミラーモンスターを率いて、世間に正体を知られること無く世界中の女性権利団体を壊滅させていき、彼女らが保有していたISのコアを回収した。

この行為は、一夏が光莉と相思相愛となった年の翌年である小学五年生の夏から、亡国機業(ファントム・タスク)と女性権利団体による大規模テロを撃退したIS学園一年生の秋まで繰り返されることになる。

 

先述した通り、女性権利団体を壊滅させた者の正体を世間は知らないが、一夏は立派な大量殺人犯で光莉はその共犯者だ。

どんな理由があろうと殺人が罪であることを自覚しているふたりは生前の頃から地獄に堕ちる覚悟をしており、遂にこの時が来たかと腹を括る。

対する女神は、懐から『S.P.D』と書かれた警察手帳のようなものを取り出した。

 

「それは……」

 

「地球人・織斑一夏、並びにミラーモンスター・織斑光莉。貴方がたを女性権利団体及びテロリスト1271人の殺害、及び25個のISコア強盗の罪で、ジャッジメント!!」

 

《JUDGEMENT TIME》

 

音声と共に警察手帳(SPライセンス)が開き、赤色の×と青色の◎が交互に点滅する。

 

〜アリエナイザーに対しては、スペシャルポリスの要請により、遥か銀河の彼方にある、宇宙最高裁判所から、判決が下される〜

 

『特捜戦隊デカレンジャー』のナレーターより

 

そして1分が経過する……。

 

パララパパラパ〜♪

判決(ジャッジメント)・◎

 

「えぇっ!?嘘ぉ!?」

 

「デリート不許可、もといおふたりは地獄堕ち回避です」

 

「なんで!?」

 

「地獄へ堕とすのは罪を犯して尚反省しない転生者に強制的に罪を償わせるためです。ですが自身の罪を受け止めている貴方がたには来世での贖罪の余地があります」

 

「つまり俺たちは再び転生するのですね……」

 

「そういうことになりますね」

 

「あの、先程貴女が提示した三つ目の未来である楽園とは一体……」

 

ここでずっと黙っていた光莉が女神に質問をする。

 

「楽園には生前、偉業を成し遂げて大勢の命を救った方達が暮らしています」

 

「どんな人がそこには居るのですか?」

 

「おふたりが知っている人を挙げると、初代アンパンマンに、五代雄介さん、乾巧さん、剣崎一真さん……」

 

「ヒーローの中でもガチの自己犠牲タイプの人達ばかりですね……」

 

「楽園行きのハードルはかなり高くしてありますからね」

 

「ん?ちょっと待ってください。剣崎さんってアンデッドですよね?なんで死んだんですか?」

 

「記録によると楽園で暮らしている剣崎さんは、激情態を通り越して完全に闇堕ちしたディケイドと相打ちになって亡くなられたそうです」

 

「なんと壮絶な……」

 

「ではそろそろ時間ですので、転生を始めます。二度目以降の転生は特典を私が決めることになっていますので選べませんが、ふたり一緒に同じ世界に送りますので安心してください」

 

「「わかりました」」

 

そしてふたりは光に包まれ、その姿を消す。

ひとりその場に残った女神は、与える特典を何にするか考え始めた。

 

「最初の転生で彼が望んだのが『仮面ライダーナイトのカードデッキ』だから……、『2号カードライダー』繋がりでギャレンかディエンドでしょうか。さてどちらを渡そうかしら……」

 

龍騎士と龍の物語の新たな章が今、幕を開ける……!!

 

 

 

 

 




最近デカレンジャーを一から見始めたので、デカレンジャーネタを入れてみました。
どうだったでしょうか?

もし新作をやるとしたら、この話をプロローグにするかも。
ではまたいつかお会いしましょう。


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特別編2・その頃の地球

お久しぶりです。
ふと思いついたので書いてみました。

〜あらすじ〜
ウルトラ怪獣たちが人理焼却を開始した!
各特異点で待ち受けるラスボス怪獣たちを相手に、果たしてカルデアは人理修復を成し遂げることができるのか!?



僕の名前は織斑(おりむら) 一輝(かずき)

織斑(おりむら) 一夏(いちか)織斑(おりむら) 光莉(ひかり)の息子だ。

 

両親は僕が小学生の頃、宇宙開発のために火星へと旅立ったが、最低でも年に1回は帰ってくるので特に寂しくは無い。

そして高校2年生になった今も夢に向かって前に進み続ける両親を家族や両親の友人たちと一緒に送り出す。

 

そして今年も、僕と双子の妹の夏輝(なつき)はこれまで通りの生活を続ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『◾️◾️◾️◾️◾️!!』

 

「お兄ちゃん、あれって……」

「嘘だろオイ……」

 

人理継続保障機関フィニス・カルデア。

そこに僕と夏輝は招かれた。

なんでも『2016年に人類が滅んでしまうから過去へタイムスリップして滅亡を回避しよう』というのが目的だそうだ。

僕と夏輝はそのタイムスリップ(レイシフトと言うらしい)の適性があるから招かれたらしい。

最初は僕と夏輝が人間とミラーモンスターのハーフであることが関係しているのかと思ったが、自分たちを含めて適性者が48人集まったことを考えると、どうやら違うみたいだ。

 

なんだかんだで夏輝ともども協力することを承諾し、カルデアで知り合ったマシュ・キリエライトをはじめとした適性者たちと共に霊子筐体(コフィン)に入り、いざレイシフトしようとしたその時……。

 

レイシフトルームをはじめとしたカルデア各所で大爆発が起きた。

 

僕と夏輝は咄嗟に所持していた伊達眼鏡からミラーワールドに退避したため事なきを得た。

だけど現実世界に残した伊達眼鏡が木っ端微塵になってしまったため、現実世界に戻るのに他の鏡を探す羽目になってしまった。

 

そしてなんとかレイシフトルームに戻った僕たちだが、中は酷い有様だった。

各所に血や肉が飛び散っており、無事なのはマシュだけだった。

そのマシュも下半身が瓦礫の下敷きになっており、もはや時間の問題だった。

僕と夏輝は、せめてマシュを看取ろうと彼女の要望に応じて手を握る。

 

そうしている内にレイシフトのシステムが再起動し、僕たち3人は2004年の日本の冬木市へと降り立った。

マシュはデミ・サーヴァントという存在になり、夏輝と契約することで命を繋いだ。

 

そして冒頭に戻る訳だが、僕らが目にしたのは、200mを優に超える巨体に12本の触手と頭部に大きな口を備えた『怪獣』だった。

 

 

 

 

 

Fate/Ultra Order

 

First Order A.D.2004

環状崩壊都市 冬木

 

 

 

 

 

「あれって、『クイーンモネラ』……だよね?」

「あぁ、そうだな」

「一輝先輩、夏輝先輩、ふたりはあの怪物が何か知っているんですか?」

 

超巨大植物獣・クイーンモネラ。

映画『ウルトラマンダイナ&ウルトラマンティガ 光の星の戦士たち』に登場した怪獣だ。

身長258mという巨体、半径3kmをリング状に壊滅させた『クラウンビーム』、そしてウルトラマンダイナを一度は死に追いやったQMバスターは、人々を絶望に陥れた。

 

「なんであんなのが2004年の日本に居るんだよ」

「どう考えてもアイツがこの時代が歪んだ原因だよね」

『2004年の冬木市では聖杯戦争が行われていた。だがあんな怪物が出たなんて話は聞かないから、間違いないだろうね』

 

通信機越しにカルデアのドクター、ロマニ・アーキマンさんも同意する。

聖杯戦争とやらが何なのか気になるが、ひとまず置いておいて周囲を見渡す。

すると、円を描くように町から火の手が上がっている。

どうやら既にクラウンビームが一度放たれたらしい。

 

『僕らの目的は歪んだ歴史の中心……『特異点』を排除して人理を修復することだ。だけどあんな怪物どうやって……』

 

 

 

ゴウッ!!

 

 

 

何かが僕たちの上を通り過ぎ、突風に煽られる。

 

「きゃあっ!?」

「うわっ!」

『どうしたんだ!そっちで何があったんだ!?』

「くっ……、そういやいたな『コイツ』も……!」

 

宇宙有翼骨獣・ゲランダ。

それが今の突風の犯人……いや、犯怪獣だ。

クイーンモネラの元となったモネラ星人と同じ遺伝子を持つ怪獣。

映画では地球侵略を企むモネラ星人の尖兵として登場した。

 

「あいつ大気圏内でも飛べたのか!?」

「そんなこと言ってる場合じゃないよお兄ちゃん!こっちに向かって来る!」

「ふたり共、わたしの後ろに!」

「マシュ!?」

 

マシュが僕と夏輝の前に立って盾を構える。

無茶だ、そう言おうとしたその時……。

 

 

 

青い光がゲランダに直撃し、大爆発を起こす。

 

 

 

「今のは……」

 

 

 

ズン…… ズン……

 

 

 

光が放たれた方向から音が聞こえる。

これは足音……?

視線をそちらへ向けると、ビルの間から『ソレ』は姿を現した。

 

 

 

銀色のボディに赤と青のラインが走った巨人。

 

 

 

光の戦士、ウルトラマンダイナだ。

 

 

 

「ギャオオオッ!」

 

爆炎の中からゲランダが出現し、炎を纏った状態でダイナに突撃する。

ゲランダは頑丈な外骨格が全身を覆っており、ソルジェント光線にも耐える防御力を持っている。

 

「フゥゥゥン……デヤッ!」

 

ダイナは全身が赤色の力の戦士・ストロングタイプにタイプチェンジし、ゲランダを真正面から受け止める。

 

「ゼァッ!」

 

そしてゲランダを膝で蹴り飛ばす。

ゲランダは高く宙を舞ったあと、地面に落下する。

重力がある環境での高所落下はダメージが大きいようで、ゲランダは悶絶している。

 

「ヘェッ!ハァァァァ……デヤッ!」

 

そこにダイナの必殺技「ガルネイトボンバー」が撃ち込まれる。

それを喰らったゲランダは全身が砕け散った。

 

「やった!」

「……あれ、ダイナは?」

 

視線をゲランダに向けていたほんの数秒の内に、ダイナは姿を消してしまっていた。

一体どこに……?

 

「君たち、地上は危ない。早く地下シェルターに避難するんだ」

 

背後から何者かに声を掛けられる。

振り返ると、そこに居たのは赤・白・グレーの隊員服に身を包んだ男性だった。

 

彼こそが先程ゲランダを撃破したウルトラマンダイナの正体、アスカ・シンだ。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 

 

「なるほど、君たちは2016年から来たのか」

「はい。それでアスカさん、この地で一体何が起きているのですか?」

 

適当な家屋に入って情報交換を行う。

アスカさんは既に避難している『聖杯戦争のマスター』からの又聞きもある、という前置きをして話し始める。

 

 

 

聖杯戦争というバトルロワイヤルの最中、モネラ星人が突如現れて優勝賞品の聖杯を奪い取ってしまう。

そしてモネラ星人は聖杯で呼んだ電脳魔神・デスフェイサーを使って大暴れ。

 

ここまでがアスカさんが来る前の出来事だそうだ。

 

そして事情を聞いたアスカさんはダイナに変身してデスフェイサーを撃破。

モネラ星人は聖杯を取り込み、自らの宇宙船と融合してクイーンモネラになる。

デスフェイサー戦で消耗していたアスカさんはクイーンモネラの猛攻に一時退却。

クイーンモネラはアスカさんをあぶり出すためにゲランダを召喚。

 

そこに僕たちがレイシフトして来た、というのが一連の流れだ。

 

『どうやら宇宙人だけじゃなく、聖杯もこの特異点を作るのに一役買ってそうだね。回収、不可能なら破壊が望ましいけど……』

「要はアイツを倒せばいいんだろ?俺に任せとけって」

『それはありがたいね。だが任せきりという訳にもいかない。一輝くん、呼符はあるかい?』

「はい、あります」

 

ロマニさんに言われて、カルデアで渡された札を取り出す。

これを使えばサーヴァントとやらを召喚できるらしい。

夏輝も貰っているが、カルデアの爆発騒ぎでどこかに落としてしまったらしく、持っていない。

 

『あの怪物に対抗できる力を持った英霊が来てくれるといいんだが……』

 

外に出て呼符を使用する。

どんなサーヴァントが現れるんだろう……?

 

 

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

 

 

周囲に風が巻き起こる。

心なしか、地面も震えているような気がする。

大丈夫なのかこれ?

 

『なっ、なんだこの魔力反応は!?高いとか低いとかじゃなく、測定不能だ!一輝くん、君は一体何を呼んだんだ!?』

「そんなこと言われましてもっ!?」

 

なんかヤバいヤツ来ちゃうってこと!?

 

『◾️◾️◾️◾️◾️!!』

 

こちらに気付いたクイーンモネラがビームを撃ってくる。

マズい!

 

「先輩たちには傷ひとつ付けさせません!ハァァァァァッ!!」

 

マシュが間に立って盾を構える。

すると盾から光の壁のようなものが出現し、ビームを防いだ。

 

『凄いぞマシュ!ぶっつけ本番で宝具を使いこなすなんて!』

 

マシュが防いでくれたおかげで召喚が完了し、サーヴァントが姿を現す。

 

 

 

『Aaaaaa___』

 

 

 

出て来たのは、豊かな水色の髪に2本の大きな角を生やした女性だった。

 

『彼女は一体何者なんだ?さっきの魔力反応からしてサーヴァントかどうかすら怪しいんだが……』

「え〜と……はじめまして、僕は織斑 一輝です。あなたの名前は?」

『Aaaaaa___』

 

ーーーわたしは、ティアマトーーー

 

「ティアマト?」

「それがあなたの名前……?」

『ティアマトって、メソポタミア神話における創世の神のひとりじゃないか!一神話の主神クラスだよ!?というかふたりは彼女の言葉がわかるのかい!?』

「あ、わたしも聞き取れました」

「俺も聞き取れたぜ」

『えぇっ!?てことはわからないのは僕だけか!』

 

ロマニさんの言葉は僕の耳に入って来なかった。

ティアマトさんがじっと僕を見つめていたからだ。

彼女の紫色の瞳から、目が離せなかった。

 

 

 

『一輝よ、今を生きる人間(ヒト)と龍の子よ……』

 

『あなたに、力を……』

 

 

 

ティアマトさんの言葉がさっきより聞き取りやすくなった気がする。

彼女が手をかざすと、アスファルトが割れて地面から何かが生えてきた。

 

それは、台座に刺さった1本の剣だった。

 

これが、彼女の言う『力』なのか?

僕にこれを抜けと……。

剣の柄に手を伸ばす。

 

 

 

『待つんだ一輝くん』

 

 

 

ロマニさんが僕を制止する。

 

「ロマニさん……?」

『あらゆる神話において、神と関わった人間の殆どが非業の死を遂げている。真っ当な人生を送れた者なんて、全ての神話をひっくり返しても片手の指で数えられる程度だ。君はその剣を抜くことで、この先長い人生を棒に振るかもしれないんだぞ』

「…………」

 

ギリシャ神話をある程度知っている身としては、それも十分ありえる話だ。

だけど……。

僕は夏輝とマシュを見る。

マシュはクイーンモネラの追撃を防いでおり、こちらに背を向けている。

 

「ねぇお兄ちゃん。お父さんがお母さんと契約した時って、どんな感じだったと思う?」

「えっ……?」

 

何故その話を……と思ったが、すぐに夏輝が言いたいことを理解する。

 

父さんと会ったばかりの母さんはミラーモンスターの中でもトップクラスの怪物だった。

契約モンスターの居ないライダーには恐怖の対象でしかないだろう。

それでも父さんは仮面ライダーとなって人間を守るために、契約のカード片手に母さんへ向かって一歩を踏み出した。

母さんも、そんな父さんだから契約に応じた。

だから僕も……。

 

「信じてみよう、ティアマトさんを」

「うん!」

 

今度こそ柄を握る。

剣は少しの抵抗も無く抜けた。

その剣を天にかざした瞬間、僕は光に包まれた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 

 

気が付いたら右手に握っていた剣が消えており、右手は握り拳を作っていた。

慌てて右手を確認すると、右手が銀色になっていた。

 

ヘェッ(なんだこれ)!?」

『◾️◾️◾️◾️◾️!!』

 

自身の変化に驚いていると、クイーンモネラがビームを放ってきたので手で防ぐ。

ん?手で防ぐ?

というか今自分の口から出た声……。

 

落ち着いて周囲を見渡す。

辺りの民家がジオラマセットのような大きさに見える。

足元を見ると、そこにはニコニコ顔のティアマトさんとポカンとしている夏輝とマシュが居た。

 

最後に、ビルの窓ガラスで自分の姿を確認する。

そこに映ったのは、赤と銀のボディにドーナツ型のカラータイマーをしたウルトラマンだった。

 

 

 

…………。

 

 

 

僕、ウルトラマンになってるぅぅぅぅぅっ!!

えっ……ちょっ、マジで!?

 

ポン。

再び混乱しそうになる俺の肩を、誰かが叩く。

振り返ると、ダイナに変身したアスカさんが居た。

無言で頷くアスカさん。

……そうだった。

僕がウルトラマンになった事など、今はどうでもいい。

クイーンモネラを倒せるのなら、それでいい。

 

「シュワッチ!!」

 

僕とアスカさんは、クイーンモネラに向かって突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

First Order 完




この後はダイナと共にクイーンモネラを撃破。
聖杯を回収して特異点Fは終了です。

FGOやってないので続きは書けません。
誰か書いてくれないでしょうか。
我こそはという方は感想欄ではなく作者に直接メッセージをお願いします。
ハーメルンもしくは小説家になろうにて1作品以上投稿していることを条件に募集しております。


以下、感想欄で質問されそうな事や作るだけ作った設定などを下に書いておきます。


・一夏と光莉について
人理焼却と同時期に火星でタイプ・マーズと遭遇。
その対応に追われて、地球での異常事態に気付くのが遅れる。
少なくとも第1部での出番は無さそう。



・冬木のサーヴァントについて
デスフェイサーによって全滅してます。
今後の特異点ではちゃんとサーヴァントの見せ場もあります。



・デスフェイサーについて
アスカのデータをインプットしていないので、ダイナは特に苦戦することもなく勝利しています。



・7つの特異点について
本作の特異点は以下になります。

第1の聖杯・邪神百年戦争
第2の聖杯・有機抹殺帝国
第4の聖杯・闇霧古代都市
第5の聖杯・暗黒惑星大戦
第7の聖杯・根源破滅都市

第3と第6の特異点は全く考えていません。
上記の特異点のボスが何か、皆さんはわかるでしょうか?



・ティアマトについて
この世界の人理焼却はぶっちゃけ世界どころか地球がヤバいです。
例えばゼットンの一兆度の火球なんかまさに人理焼却(物理)ですし、他にも太陽系を丸ごと飲み込める奴も居ます。

結論「人類悪やってる場合じゃねぇ」

という訳で人類愛だった頃の自分を取り戻し、理性を得た状態で召喚に応じました。
一輝・夏輝・マシュに無償の愛を注いでくれます。
いつか3人が自分のことをお母さんって呼んでくれる日が来るといいな〜と思いながらカルデアで過ごしています。

人類愛となった事で一部の能力が変化。
例えば(ケイオスタイド)生命の海(コスモスタイド)という綺麗なものになっており、それで足をコーティングすることで陸上での活動を可能にしています。
ちなみに巨大な角はカルデアでの日常生活を送るのに不便なため、後に自己改造スキルを使って縮めています。

クラスは消去法でアルターエゴという設定です。
総合スペックは人類悪だった頃そのままなので基本7クラスには例え冠位だろうと到底収まらない。
人類愛となったことでビーストやアヴェンジャーの適性も失っている。
かといってルーラーやセイヴァーになれるかと言われたら多分無理。
とまぁこんな感じで多少強引ですがアルターエゴにしました。
オリジナルクラスは無しにします。

人類愛になったとはいえ、あまりはっちゃけると冠位サーヴァントがやって来てフルボッコにされるので、あまり特異点には出向かずにカルデアから一輝たちの支援を行う。
イメージは「新・光神話 パルテナの鏡」のパルテナ様。
道端に回復アイテムを置いたり、「奇跡」という形でバフをかけてくれます。

普通の人理修復なら過剰戦力ですが、この世界だとこれでも力不足です。
ティアマトの能力が地球の生物に対するメタなのに対し、この世界の敵は宇宙やら異世界やらとにかく地球外からやって来るのでスキルが全然刺さりません。
それにティアマトは地母神であって戦神ではないので、戦闘そのものが得意ではないと思われます。
真正面から戦ったら不死を貫通されてあっさりと負けてしまうかと。



・オルガマリーについて
今も尚、特異点Fを彷徨っています。
生命の海(コスモスタイド)に放り込めばひとまずは助かるので、一輝たちが特異点から脱出するまでに合流できるかが生存ルートの分かれ目となります。



・カルデアについて
レフの爆破テロでボロボロです。
帰ったら皆で復旧作業をするのですが、そこでティアマトが労働力となる魔物を召喚します。
それは双貌の獣ラフム……ではなく任天堂のピクミンです。
一輝の記憶を読み取ってラフムと似たものをチョイスしました。
ゲームのように働き者なのでカルデアの皆さんは大助かり。

また、サーヴァントについてですがティアマトが前述のようにカルデアからあまり出ないので特異点で一輝を護るサーヴァントが必要になります。
そして英霊召喚の結果、地母神繋がりでメドゥーサ(槍)とかサクラファイブのキングプロテアが来たりします。



・一輝と夏輝について
イメージは黒髪黒目のぐだーずです。
人間とミラーモンスターのハーフですが、ミラーワールドに制限時間無しで潜れること以外は一般人と変わりません。
夏輝に関しては今のところあまり書くことがありません。

そして一輝ですが、彼はティアマトから剣を授かりました。
描写からわかると思いますが、剣の正体はオーブカリバーです。
本作では、アーサー王物語の最後に湖に返還された使用済みエクスカリバーをティアマトが湖の乙女から譲り受け、自らの手で改造したものを一輝に渡したという設定です。
真名解放はできませんが生命の海(コスモスタイド)と繋がっており、ティアマトの能力の一部を行使できます。

一輝が支払う代償は特にありません。
つまり一輝は「デメリットの無い強大な力」という、ある意味最も危険な力を貰ったのです。
なので彼は人理修復の旅の中で、オーブカリバーに相応しい人間に成長することが求められます。
少しでも調子に乗ったら、山の翁が現れて即「首を出せ」からの死告天使(アズライール)されちゃいます。

また、予定ではとある特異点のボス怪獣に一度敗北し、オーブカリバーを失います。
それからオーブカリバーを取り戻すまでの間、オーブリング(ティアマト製)を使ってフュージョンアップで戦います。
ちなみにFirst Order終了時にアスカからダイナのカードを貰っています。
他の特異点でも、現地で会ったウルトラマンからカードを貰ったりします。
ちなみに作者が好きなフュージョンアップはゼペリオンソルジェントとフォトンビクトリウムです。



設定は以上です。
ではまた何処かでお会いしましょう。


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