イタチさんとサスケさんと (EKAWARI)
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イタチさんとサスケさんと
とうとう原作ではNARUTOが完結しましたね。遅れながら岸本先生お疲れ様でした、の気持ちを込めて書いてみましたうちは兄弟ギャグコメディです。
それにしても本当は完結した週にアップしたかったんですが、何故書いているうちにこう長くなるのか。まあ、ネタ的に本来は3000~5000文字ぐらいが適している話だと思いますので、多少長くなりすぎた感がありますが、楽しんで頂けましたら幸いです。かしこ。
オレはうちはサスケ、16歳。
突然だが語らせて欲しい。
オレは幼い頃兄さんに憧れてた。
その昔、兄は完璧だった。
教師共は揃いも揃って兄を『アカデミー設立以来の天才』と称し、齢11で既に父よりも手裏剣術に長けており、主席を維持したまま、たった1年でアカデミーを卒業してしまった、まさに神童の名に恥じぬ怪物のような才能の兄だった。
眉目秀麗、文武両道。優しくて厳しくも、強くてかっこよかった兄さん。
オレの自慢だった。あまりに出来の良すぎる兄に嫉妬しつつもいつかあの背中を越えたいと思っていた。
……そう、そう思っていたのに。
「もぐもぐもぐもぐ……どうしたサスケ。あ、そこの女中さん、みたらし3っつ追加で」
「なのに、なんでこうなってしまったんだあああーーー! あの頃のオレの兄さんを返せーーー!!!」
いや、本当、一体どうしてこんなことになったんだ!
兄は……あの頃オレがあれほどに憧れ嫉妬したあの完璧な兄は、すっかり霧散し、残っているのは毎日甘味をモグモグモグモグ見ているこっちが胸焼けするほどに喰いまくるだけの、どこかボケた変人兄貴だけだった。
っていうか、昨日夫婦揃って温泉旅行に出かける前に母さんに「イタチ、母さんがいないからって、間食ばかりするのはやめなさい。兄弟仲良くね」と注意されたばっかりなのに、両親がいなくなるなり早速甘味屋で馬鹿みたいに団子アホ食いしてんじゃねェよ!! クソ兄貴ィ!!
「ええい、いい加減甘いもんばっか食ってんじゃねえ! そのうち太るぞ!」
そうオレが怒鳴りつけると兄さん……イタチ、もう呼び捨てでいいな、うん、は太るという単語に反応したのか、ピクリとほぼ無表情なポーカーフェイスの中、僅かに眉を上げてこんな主張をしてきた。
「サスケ、これでもオレは薄幸の天才で、病弱な美青年枠にいる人間だぞ。そのオレが……もぐもぐ、太るわけがないだろう……あ、すみません。汁粉と豆大福追加で」
「自分で薄幸の天才とか美青年とか言うな! なんでだよ、イタチィ! 昔のアンタはそんなじゃ無かった筈だろ。ガキじゃあるまいし団子馬鹿食いすんなよ、見てるこっちが胸焼けするわ!!」
そうオレが嘆けば、馬鹿兄もとい、元神童イタチは団子を口に頬張ったままこう言った。
「昔のオレはそうじゃなかった、か」
「な、なんだよ?」
「サスケ……お前ももう16だ。いい加減……もぐもぐ、オレに夢を見るのはやめろ」
「……!?」
もしかして兄さん、オレが兄さんの背中を追いかけてばかりいたことを気にして……嫌われようとぐうたら兄貴を演じているのか?
「この世に完璧な人間などいない。居たとしたらそれはそう見えるように振る舞っていただけだ……お前もいい加減
完璧な兄という幻想から覚めろ……ズズズッ……む、茶柱か、縁起が良いな」
いや、違う! こいつ、素だ!!
「オレの夢を壊した張本人が言うなッ! ていうか、アンタは食うか飲むか喋るかどれかにしろ!! これ以上オレの幻想を壊すなァーーー!」
「ふ、耐え難い痛みに耐え現実を見る。それが大人になるということだ、サスケ」
なんだ、そのどや顔! 弟イジメがそんなに楽しいか!!
「違ェだろ!? なんかそれは違ェだろ!? 少なくともオレのこのストレスはアンタのせいだァ!!」
「サスケ、人のせいにするのはやめなさい。あ、すみません、お茶のお代わりを」
もうヤダ、このマイペース兄貴。
オレは思わずガックリと膝を落としながら呟いた。
「なんでだ……どうしてだよ、兄さん。昔はあんなにかっこよかったのに、どうしてこんな甘味をむさぼり食うダラ男になっちまったんだ。友達はいねーし、オレの保護者気取りだし、なんか発言一々天然だし、しかもいつも見る度連れている女変わっているし……」
「む、人聞きの悪いことを言うな、サスケ」
さめざめとしたオレの嘆きを前に、相変わらずどこかとぼけたようなポーカーフェイスのまま、イタチは友達はいないという部分に反応したのかこう反論した。
「オレにだって友人はいる。瞬身のシスイとは幼い頃からの親友だ。それにオマエは知らなくて当然だろうが、里外にだって仲良くしている相手はいる。少なくとも女子にキャーキャー騒がれた挙げ句同年代の男を敵にまわしまくっているオマエよりはオレのほうが友人は多い……筈だ」
「おい、なんだその心底心外そうな顔。アンタひょっとしてオレに友達皆無だと言いたいのか? 言いたいんだな? ふざけんな、バカヤロウ。オレにだって友達居るわ」
主にナルトのバカとか、ナルトのバカとか、ナルトのバカとか。
サクラは……まあ、チームメイトだな。
……ウスラトンカチ以外の友人が思い付かなかったのは、この際思考から省いておこう。
「それにいつも連れている女が変わっているというが、オレは別にスケコマシではない。オマエと違ってな」
「おい! そこ無視かスルーか、それとさり気なくオレをスケコマシ扱いしやがったな!? ざけんなオレはアンタと違って女連れ歩いたりしてねェぞ。女のほうがキャーキャー騒いでるだけだ」
そんなオレの発言を華麗に全スルーして、イタチは言い聞かせるような声でこんな情けないことを、深刻な表情と声音で語った。
「良いか、サスケ。彼女達とは告白され付き合ったその日に『なんか思っていたのと違う』とフられてその日のうちにいつも別れているだけだ。一度試しにデートしているぐらいでオレは彼女達に何もしていない。だというのにお前の言い分だとまるでオレがヤリ○ンのようじゃないか」
「情けない事を堂々と言うなッ! プレイボーイよりそっちのほうがよっぽど男として情けないわ!」
あと、真面目な顔してヤリチ○とかゆーな。
「フ……まあ、そこで別れを切り出すということは、所詮そこまでの女だったということだ」
とかなんとか言ってるけど、んな涼しいクールな顔して言っても、内容は間違いなく情けな男だからな!? とは思いつつ、そっか、毎度兄さんの連れている女が違うのって付き合った其の日にフられてたからなのか……と思えば、まあ同情がないこともないわけで、しかし新たな疑問も湧いてきたので、脱力気味ながらも訊ねることとした。
「……なあ、結局別れることになるのに、なんでアンタ告白受けて一度は付き合っているんだ?」
「決まっている。 オレが相手の事をよく知らないからだ」
「は?」
いや、よく知らなかったら、断るだろ、ふつー。
「ああいうのは付き合ってみないとわからないこともあるだろう。最初はなんとも思わぬ相手でも、もしかすれば逢瀬を重ねれば愛情が湧く場合もあるかもしれないからな。オレもいい加減21だ。そうなればそうなったで良い頃合いだと思っている」
つまり、要約したら、イタチは結婚相手を探しているから告白を断らない……ってことか?
いや、だからって誰彼構わずほいほい告白受けるのはどうなんだ、兄さん? いや、1日で破局してるってことは、別に二股とかそういうのをしてるってわけじゃないんだろうけどさ……というか、意外とまともな返事が返ってきたことに吃驚した。そうか、兄さんなりに考えてたのか……昔はともかく、今は専ら任務中以外は駄目兄貴だからな。意外。
でも……真面目な話してる癖に団子食い続けるのをやめないってのはやっぱりどうなんだ、兄さん。
「なあ、兄さん」
「なんだ、サスケ」
「ところで、兄さんはどういうところでデートしてるんだ」
「主にここだ」
って、甘味屋かよ!!
「まさかとは思うけど、兄さん、女連れにも関わらず女を半ば無視していつもの調子で団子を馬鹿食いしてたりとか……しないよな?」
そうオレが訊ねたら、イタチはさっと目線を横に逸らした。其の横には山のように積まれた皿の姿がある。いかにも大食漢然とした奴が食ったんなら違和感はないかもしれないが、どう見ても線の細い美形である兄のイタチとはイメージ的にそぐわないような光景だ。
女どころか弟であるオレもドン引きなその光景。
「……なぁ、兄さん。アンタ、デート中にちょっとだけでも女のほう気に掛けてやったのか?」
嫌な予感に包まれつつ、オレがそう訊ねれば、イタチの奴は開き直ったのか、いつもの調子でこう答えた。
「良いか、サスケ。付き合ったばかりでよく知りもしない女と、目の前の甘味。どちらを優先するかなど聞くまでもなく……目前のおやつに決まっているだろう?」
「だから、フられるんだよ! どう考えても1日で破局する原因それだろ!?」
「フッ、お子様のオマエにはまだ早い話だったか。まあ、そういうわけだからな、サスケ。別にオレはスケコマシではない」
「どう考えても子供舌で今現在お子様みたいな態度取ってんのはアンタのほうだぁああああ! あとスケコマシのほうがもっとマシだ! アンタの女に対する態度、ぜってーアカデミー生の子供以下だぁあああ!! どや顔してんじゃねェよ、このボケボケ若年寄兄貴ィイイ!!!」
そう思わずイタチの奴をガクガク上下に揺らしながらキれた。
「おやぁ? イタチさんじゃないですかァ。 今日はこっちだったんですねェ。探し回りましたよー」
「……鬼鮫」
と、そんな風にオレとイタチがやりとりを繰り広げていると、そんな感じの聞き慣れない男の声とチャクラ反応がして、オレは振り向いた。どうやら双方の言動からして知り合いらしいが……思わず、其の男の容姿に驚きオレは声を漏らす。
「さ、鮫、いや人間!?」
なんかヘラヘラ笑っていやがるけど、ええ!? なんだあの青い肌、鮫か人間か、どっちだよ!?
そんな風に半ば混乱しているオレを置いて、イタチは涼しげな声で届いたばかりの汁粉を啜りながらこう男を紹介した。
「サスケ、紹介しよう。こちらは他里で知り合ったオレのげぼk……ごほん、友人の干柿鬼鮫だ」
「ちょ、え!? アンタ今なんか凄いこと言わなかったか?」
他里の人間がなんでこんな木の葉の団子屋うろついてんだよ、つか今下僕って言いかけてなかったか!?
しかし、そんなオレの疑問なんてどうでもいいのか、鬼鮫と呼ばれた男なんだか鮫なんだかわからない魚人ヤロウはヘラヘラと顔を笑いに歪めながら、側頭部に手をやりどことなく照れたような仕草……大男がやってもキモいだけなんだよ! をしながら、こう自己紹介してきた。
「むふふ……イヤァ、紹介にあずかりました。イタチさんの友人の干柿鬼鮫です。アナタがイタチさんの弟のサスケくんですかァ? 噂は聞いてますよォ」
「鬼鮫」
そうヘラヘラ笑いながら自己紹介初めやがる鮫ヤローを前に、イタチの奴はいつも通りの声音と表情で、じっと青い肌の怪奇鮫男へと視線を向ける。
そんな兄の態度を前に、何か思い当たるところがあったのか、干柿鬼鮫と名乗った男はヘラッとさらに笑いながら手に提げていた袋を前へと突きだした。
「おっと、すみません。約束の品です。ちゃんと要望通り、水ようかんと抹茶餡蜜は三袋ずつ用意していますよォ。1日限定10食の霧隠れ自慢の逸品ですからねェ。手に入れるのに苦労しましたよ」
そういって鮫野郎は見た目にそぐわぬ繊細な手つきでさっと水ようかんの一つを取り出し、切って皿に盛りつけると、イタチの奴の前へと静かに置いた。
イタチはもぐもぐとさっそく咀嚼を開始する。
「イタチさん美味いですかァ?」
「ん、鬼鮫」
「おや、私としたことがこれは気が利かずすみませんねェ。はい、緑茶ですよ、イタチさん」
そういって男は、今度は自然な動作でこれまた持参したらしき緑茶をイタチの奴の目の前に差し出して……ってちょっと待て!
「って、パシられてるだけじゃねえか! アンタなんでイタチの奴にそんな従順に付き従ってんだよ!! アンタのが一回り年上だろ!!」
そうだよ、あまりに自然な動作で慣れたような感じだったからつい実況しちまってたけど、どう見てもこの馬鹿でけェ鮫野郎のほうがイタチより一回り年上じゃねえか!
だってのになんでイタチの奴に敬語使っている上に、こんな従順なんだ、おかしいだろ、普通! 大体他里の忍びだってんなら例えイタチの奴のほうがランク上だったとしても関係ねェんだから余計におかしい、どう考えても変だろうが。
……この際、オレが上官相手でも敬語使わないってのは置いておく。今はオレのことはどうでもいいしな。
とにかくおかしいと、そう上げたオレの声を前に、全く「何がおかしいのかわからない」っていうかのようなポーカーフェイスを貫くイタチの野郎を尻目に、青い肌の鮫野郎は無い眉を顰めながら、まるでオレを聞き分けのない子供か何かにものを言う時みたいな声と態度でこう答えた。
「おや、パシられてるとは人聞きが悪いですねェ。私は友人のイタチさんの要望を叶えてやりたいだけですよ。なにせ、イタチさんは私の恩人ですからねェ」
「……恩人?」
兄さんがこいつの?
「なにせ、私はこの外見、どいつもこいつも私のことを鮫だの海洋物だの、マトモに人扱いしやしませんでした。ところが、イタチさんは私のことを「人間」と認め、「友」と認めてくれたのです。イヤァ、あれは嬉しかったですねェ」
そう如何にも感動しました的な表情で語る鮫野郎に続き、いつもの調子でイタチも言葉を続けた。
「そうだ、もぐもぐ……鬼鮫は、オレの大事なげぼk……友だ。もぐもぐ……サスケ、お前もあまり失礼なことを言うな」
「2回も下僕って言いかけてるじゃねェか!?」
「煩い小僧ですねェ、削りますよー?」
って、なんか軽いタッチではっはっはと笑いながらこの青肌男、背中からばかでかい刀、いや刀なのかあれ? 取り出しやがった! クソ、そっちがその気なら臨戦してやるぞ、この怪奇青肌鮫野郎!
そんな風に構えるオレを前に、兄は静かな声で茶を啜りながら一言、鮫男の名を呼んだ。
「鬼鮫」
「やだなァ、冗談ですってば、イタチさん」
いうなりコロリと殺気を霧散させて、刀を仕舞う鮫男。
だからなんでアンタはそんなにイタチのヤロウに従順なんだよ!!
「うっ……!」
そう思っていると、突如兄は胸を押さえ、膝を崩し座り込む。
顔色は青い。
「イタチ!? どうした、兄さんッ」
そういえば、自称病弱の美青年だったな、兄さん。
まさか自称じゃなくて本当に体悪かったのか!?
「鬼鮫……気持ち悪い」
「イタチさん、大丈夫ですかー。イタチさーん」
って、なんで兄さんオレじゃなくてこの鮫野郎頼ってンだよ!
あとこいつもなんで兄さんが具合悪そうなのにそんな呑気っぽい返事なんだ!!
「あー、さては悪阻ですかァ? 悪阻ですねェ? ほら、落ち着いて、深呼吸して」
こ、このアンポンタンのウスラトンカチ!
「なんでだよ!? イタチはオレの兄貴だッ! つまり男だ、悪阻なわけねーだろッこの唐変木」
「ほら、ヒッヒフー、ヒッヒフー」
「無視か!? オレは無視か!?」
「うぷ……」
「ほらほら頑張ってー、ヒッヒフー、ヒッヒフー」
「だから何ラマーズ呼吸させようとしてんだよッ! そんなことしている暇あったら医者呼ぶか病院に運べ、この海洋哺乳類ィ!!」
結局兄さんはオレが病院まで抱えて連れて行った。
が、そこで受けた診断結果は……。
「ただの食べ過ぎですね」
へ? 食べ過ぎ?
ああ……確かに原因は心当たりありすぎるけど。
それだけ?
「ただ、血糖値がやや高く、将来糖尿病になる可能性もありますので、偏食には注意してください。胃薬のほう後で出しておきますから。それではお大事に」
そう言われ、胃薬だけ渡されて早々に診察室から追い出された。
因みにイタチの奴が訴えた腹痛は便所に10分ほど籠もった結果治ったらしい。
「そんな馬鹿な」
病院から出た後イタチの奴は食べ過ぎと言われた事か、糖尿病に将来なるかもと言われたことにか、珍しくもショックを受けて狼狽していた。こういう姿を見ると、いかに朴念仁ボケボケ想い出クラッシャー兄貴とはいっても、慰めたくなるのが身内としての情ってやつだろう。
「な、なぁ兄さん、そんなに落ち込むなよ。確かに甘い物は自粛しなきゃかもしれないけど、その代わりほら、毎日出来るだけキャベツやこんぶにぎりが食卓に上がるようオレからも母さんに言ってやるからさ」
そう落ち込むイタチの肩にポンと手を置き、甘味の代替え品として、兄の好物の名を出す。
不幸中の幸いというべきなのか、兄さんの趣味は甘味処巡りであり甘い物がそれはもう好きだが(甘い物が嫌いなオレとしては理解出来ないほど)、通常の食事に置けるイタチの好物は、こんぶにぎりとキャベツという、まあ糖尿病だったとしても問題無く摂取可能そうな健康なメニューだ。いや、もしかしたらこんぶにぎりはアウトの可能性もあるかもしれないけど、それでも四六時中甘味食いまくるよりはそっちのほうがよっぽど健康的だしな。
だが、そんな風に慰めにかかったオレに対し、兄はこう言った。
「ふ……愚かなる弟よ」
「おい?」
「確かにオレはキャベツやこんぶにぎりが好きだ。はっきり好物と言っていい。だが、甘いものは別腹だッ!」
「女子かッ!!」
「愚かなる弟よ、オレはお前と違うのだ。甘い物がない人生なんて、あんこの入っていない大福のようなものだ」
ぬぁあああ、そのどや顔ムカツクゥ!!
上手い事言ってるつもりっぽいのが更にムカツク! それがわざわざ心配して慰めにかかった弟に言う言葉と態度かよォ!
「知らねェよ! 例えまで甘味オンリーなのかよッ! いつもいつも甘ったるい匂いばっかり振りまきやがって。大体、別にそんなもん無くても生きてけるだろッ。あとなんでオレをディスった!?」
「なんとなくだ、お馬鹿さんめ」
「よし、其処に直れ。お望み通りカカシの野郎直伝の千鳥の餌食にしてやる」
これはもう殴っても赦されると思う。
「こら、サスケ。カカシさんはオマエの上忍師だろう。上忍師にぐらい敬意を払いなさい。確かにカカシさんはオレよりは弱いかも知れないが、今のオマエよりはまだ強いのだからな」
「そういうアンタの言い分のほうがよっぽどカカシの野郎、コケにしてんだろッ! 大体素で無礼千万を地で行くアンタに礼節についてとやかく言われたくねェ!」
マジで不貞不貞しすぎだろ、このポーカーフェイスクールビューティー男。
実力下に見てるくせにさんづけなのが却って慇懃無礼過ぎて、ちとカカシのヤロウに同情しちまったじゃねえか。
「何を言う。オレは事実を言ったまでだ。そしてオレが薄幸の天才美青年なのも事実だ」
「自分で自分の事を薄幸の天才美青年とかいうな! 腹立つから!! 何どや顔してんだよッ上手くねェよ」
「美味く……そうだ、鬼鮫、抹茶餡蜜と残りの水ようかんを……鬼鮫?」
そこではっと上手いから美味いで食い物へと思考転換させる辺りが駄目兄貴過ぎる。
しかし、そういやあ病院を出てからやけにあの鮫人間大男が静かだなと思い返し、オレもまたそいつのいる方向に振り向き、ぎょっとした。何故なら……。
「ううう……」
何故か奴がさめざめと泣いてやがったからだ、それはもう悔しそうに!
「イタチィさァん!!」
言うなり奴はガッシリとイタチの肩を掴み、涙もそのままに凄い気迫を浮かべたまま兄へと詰め寄った。
「私、言いましたよね。アナタ、自分のことはわりとちゃらんぽらんなんですから、ちゃんと健康管理してくださいよー。出来ないなら私がしますよーって」
「……そんなこともあったな」
「そんなこともあったなじゃありませんよ! 大事なお体なんですから、気をつけてくださいって私散々言って聞かせたじゃあないですか。甘い物もいいですけど、取りすぎは体に毒ですよーとも言いましたよねェ? しかしアナタ大丈夫だ、管理ぐらい自分でしてるの一点張りで、まあイタチさんがそういうなら私がそれ以上口出しするのもと思って甘やかしてきましたけど、食べ過ぎの腹痛だけでなく糖尿病予備軍ってどういうことですか、糖尿病予備軍って。アナタ自分でなんとか出来ると言っていたでしょう!」
「鬼鮫、医者は大げさに言ってるだけだ。オマエの心配の程ではない。あとオレは本当に自分1人で平気だ」
……なんかあの鮫野郎、言ってることがまるで母親みたいだな。オマエはイタチの保護者か。
あと、このクソ兄貴、病院送りになったのに全く懲りてねえ。
「いいえ、今度の今度という奴は堪忍なりません。アナタの平気という言葉ほど信用出来ないものはありませんからねェ。さようなら、イタチさん。この水ようかんと抹茶餡蜜は没収です。この結果には私も些か残念ですが、次に会うときは完璧なアナタの健康補完プランを作ってきてみせますよォー!!」
そう言うなり、青肌怪奇鮫人間は水ようかんの残りと抹茶餡蜜を抱えたまま、猛ダッシュで里の彼方へと去っていった。
「待て、鬼鮫。せめて抹茶餡蜜だけは置いていけっ」
「病院の世話になった直後にまで甘味求めんなッ! この馬鹿兄貴ィイイイ!!」
そう思い咄嗟に出たチョップをぱしっと受け止め、兄がオレへと視線を向ける。
その瞳の色は……。
「って、何アンタ真っ昼間から写輪眼晒してんだ」
「ふ……先に手を出したのはオマエだろう、サスケ。オレは暴行には暴行で返す主義だ」
いうなり、実の弟を初っぱなっから幻術に嵌めようとする兄。
その切欠がシリアスなものならともかく、甘味に端を発している辺り、かつて憧れだった兄さんの大人げなさやら情けなさにちょっと心折れそう。だが、無理矢理己を奮い立たせて応戦した。
「へ、オレだっていつまでも幼かったままのオレじゃねェんだよ! 舐めんなッ」
愛用している刀に雷の属性変化を付け、千鳥流しの応用で幻術を破る為にも兄に切り込めば、切り捨てたイタチは数多の烏となって四散する。兄の得意忍術の一つである烏分身だ。
そして斜め後ろでオレを見ていたであろう兄貴本体に向かって、オレはそれを決めた。
「火遁・豪火球の術!」
貰った!
「水遁・水陣壁」
って、なにィ!? あの鮫野郎が置いていった水筒の茶で水遁を作るだとぉ!? って、隙なんて見せたらまずい……くそ、兄貴お得意の投げ手裏剣か。けど、こんなのお見通しなんだよ! こんなの愛刀で一層……って、ええ!
「火遁・鳳仙火の術」
……からの。
「火遁・鳳仙花爪紅」
だと!? アンタ弟相手にどんだけ大人気無……って、後ろからも上からもクナイって、360度囲みやがった。
「トドメだ、サスケ」
その言葉を合図に襲いかかる容赦ない無数の火の玉。アンタは鬼かァ! ぎゃあああああ。
「ふ、まだまだ甘いな、サスケ。その調子ではあと10年はオレに勝てないぞ……サスケ? サスケェ!」
* * *
『兄さん、遊ぼうよ、兄さん』
『許せサスケ、また今度だ』
その光景を覚えている。何度も見た光景だ。
兄はそう言って、何度も一緒に遊ぶ事や修行することをせがむオレに対して、仕方なさそうに、でも優しく大人びた微笑みで笑って、オレの額を指で小突き、約束を先延ばしにし続けた。
多分、本当に任務などで忙しく、幼い弟と遊ぶ暇など兄さんには存在していなかったんだろうことは、中忍となった今のオレには理解出来ている。早熟だった兄は早熟だった分だけ早く大人の世界へと放り込まれ、青二才と侮蔑されながらもそう扱われ続けていたのだから。
でも、当時のオレじゃそれじゃ足りなくて、不満で、もっと構ってほしくて、時々兄と比べられる周囲の視線から鬱陶しく疎ましく感じることもあったけど、それ以上にたった1人の兄のことが自慢で大好きだったのだ。
幼いオレの目には、キラキラと兄さんのことが誰よりも眩しく映ったんだ。
鬼才、神童と呼ばれ続けてきた兄さん。
『サスケ』
でもそうやってオレを呼ぶ声はいつだって優しくて、そしてそして……。
『サスケ……お前ももう16だ。いい加減……もぐもぐ、オレに夢を見るのはやめろ』
ん? いやいやいや、いくら子供の頃に子供出来なかったからって、大人びていて格好良かった兄さんがあんなダラ兄に成長したわけないって。
『ふ、耐え難い痛みに耐え現実を見る。それが大人になるということだ、サスケ』
いや、だからこんなどや顔駄目兄なんてただの幻想だって。
ああ、そうかわかったぞ、きっとこれは夢だ。
今までのボケボケ天然我が儘兄は夢だったんだ。
そうか、そりゃそうだよな!
兄さんは昔からしっかり者で、大人びていて、かっこよくて、強くて、美しくて、オレの自慢で、厳しくも優しいパーフェクトな兄で、だから断じてあんな体が甘味で出来ているような男でもなく、意外と我が張っていて天然我が儘で、なんか幼稚返りしている、ぶっちゃけ仕事は出来るけどそれ以外は総じて駄目人間の駄目兄貴なんかじゃないはずだ! きっとそう。
だから目が覚めたら兄さんはきっと、優しくも厳しい声で「サスケ」とオレの名を呼んで、仕方ない奴だとか言いながらオレにだけ見せてくれる笑顔で額を小突きながらクールにかっこよく鮮やかに色んな忍術や体術を教えてくれるはず、きっとそのはず!
だから早く悪夢から覚めるんだ!!
『サスケ』
ほら、兄さんは今もこの通り、優しい声でオレを呼んでる。
きっと、目から覚めたらあの頃のようにオレに接してくれる筈だ。
だから、目を覚ますんだ。
* * *
「……兄さんッ!」
「サスケ、漸く目が覚めたか、中々起きないからな、心配したぞ」
そう言いながら、ほっとしたように微笑みオレを見る顔は、幼少期に見慣れた兄のかつての表情そのもので、オレはこみ上げる感情の侭に言葉を吐きだした。
「良かった、やっぱりあれは夢だったんだね、兄さん」
「…………?」
「そりゃそうだよな、兄さんがあんなダラダラ自堕落体は甘味で出来ているまったりハイパー駄目兄貴に成長するわけないもんな! ああ、夢で良かった、よか……げぶらっ!?」
ベシコンッ!
そんな感じの強烈な音と共に額へと鋭い痛みが襲う。
ぬおおと内心でのたうち回りつつ、よくよくその発生源へと目を向けてみれば、兄イタチは、いつも通りの表情を浮かべながら、指を前へと突きだしていた。どうやら先ほどの強烈なのは、イタチによるデコツン強化バージョンだったらしい。
そのことに思わずオレは動揺する。
「に、兄さん?」
「どんな夢を見たかは知らないが、現実逃避はやめろサスケ。あとオレはそんなことよりオマエに話がある」
オレの全力の希望的観測を、そ、そんなこと扱いしやがった!?
「実はこれからの予定なんだが……」
いうなり、なんだかイタチは無表情の侭酷く空気がうきうきしている。
オレの勘が碌でもねェと告げる中、兄はそわそわと、身内しかわからない程度に嬉しそうにこんなことを言った。
「サスケ、兄さんはこれからみたらしアンコ特別上忍と先月オープンした甘味屋に行ってくるので留守を頼む」
「え……」
ちょっと冗談だろ…………こっちが現実?
このかつての大人っぽさが嘘みたいなガキじみた兄が?
そんな馬鹿な……!
「その後は甘味処食べ歩きツアーで2、3日留守にするが、何サスケなら1人でも大丈夫だ。フフッこのために本来1週間かかる任務を昨日1日で終わらせ休暇をもぎ取った甲斐があるというものだ」
……誰か、嘘と言ってくれ。
「明日帰宅予定の母さんにはオマエのほうから適当に言っておいてくれ。とりあえずこの烏を1羽置いていくから、もし何かがあればこの烏を通じてオレに連絡を……サスケ、サスケ?」
「うううっわああああああああああーーーーん!!!」
頼むから誰か、あのクールで優しくて強くてエリートで格好良かったオレの兄さんを返してくれ!!
終われ
ご覧頂き有難う御座いました。
因みにこの話のイタチさんがなんでこんなキャラだったのかっていったら、あれだ。イタチさんは里が平和だった場合、幼い頃しっかりしてて子供時代が存在しなかった反動でなんか幼児返りしそうなタイプというか、大人になってからガキっぽいところが出てきそうなタイプだと思ったからだよ!
まあ、本編ではあの通りな方なわけですが、せめてIFの中だけでも幸せに過ごしてもらえたらなあと思います。
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イタチさんとサスケさんと2
続かないつもりでいたのに、続きが浮かんでしまって2年ぶりの更新です。
というわけでいっそのことチラシの裏から引っ越ししました。
オレの名前はうちはサスケ、16歳。
木の葉隠れが誇るエリート一族うちは一族の1人であり、木の葉警務部隊長うちはフガクの息子で、かつてアカデミーはじまって以来の神童だと謳われたうちはイタチ(現・暗部の隊長)を兄に持つ、エリート一族のサラブレットってわけだ。
エリートっていっても、勿論、血筋だけにかまけてきたわけじゃねェぞ。
オレだってアカデミーは主席で卒業したし(兄さんみたいに1年で卒業とかはしてないけど!)、順調に中忍、上忍と昇進してきたし、同期でも実力はかなり上のほうだ、と思う。これはオレの努力の賜なんだ!
学生時代から毎日遅くまで修行に明け暮れてきたし、修行は既にオレのライフワークだ!
ていうか、幼少の頃からオレの面倒見つつ学業優秀、眉目秀麗、1聞いたら10理解して、ほいほい出世して、13歳で暗部の分隊長まで成り上がった兄さんがちょっと化け物過ぎるだけなんだ!!
そんな兄・イタチだが、昔はとても格好良くて、オレの憧れそのものだった兄さんだったんだが、最近は平和なのも手伝ってか、子供の頃大人過ぎた反動がきたのか、天然ボケボケ甘味大好き変人兄貴化しているイタチのヤロウなんだが、最近オレはあることが気になって仕方がない。
「~フン、フフ~ン、~ン♪」
ヌリヌリヌリ。
なんか最近になって兄さんが指にマニキュアつけはじめたんだけど、これは一体どういうことなんだ?
おかしいな、オレの認識じゃマニキュアって女がつけるものだと思うんだけど、このオレの認識が間違ってたのか?
ていうか、よく見たら最近になってイタチの奴は首飾りとか、『朱』って文字入ったダッセェ指輪とかまでつけてやがる。これはなんだ、どういうことだ?
昔は兄さんの奴そんなのつけていなかったよな?
ていうか昔はオレと同じで首が隠れるタイプのうちはらしい伝統的な格好していたのに、最近になって兄さんは鎖骨が見える服装を好んでしたりとか、服の趣味も変わってきたような気がする。この前なんて赤雲模様の黒コートなんてものを嬉しそうに洗濯に出していたけど、あれはなんだったんだ。
は、まさか……!
(まさか、イタチの奴とうとう春がきたのか!?)
兄さんは弟のオレがいうのもなんだが、整った目鼻立ちに長い睫の美形だ。
顔立ち自体はオレも兄さんも母さんの遺伝で似た系統ではあるけど、兄さんとオレでは雰囲気と睫の量が違うし、兄さんはオレと違って髪質も母さん譲りの真っ直ぐで綺麗なストレートの髪をしており、それを後ろで赤い紐で結っている。
そのせいもあってか、同系統の顔なのに、オレよりも兄さんのほうが中性的な面差しになっているし、もしもイタチの奴の顔に渋みを出す父さん譲りのほうれい線がなかったら、外見だけなら性別を間違えてくる奴もいたかもしれない。
まあ、ともかくイタチの奴は中性的で涼しげな美形の持ち主ってわけだ。
おまけに頭脳明晰、文武両道、幻術・忍術・体術全てが一定の標準値を超えており、普通うちは一族なら切り札として使う筈の写輪眼すら、兄さんにとってはただの手駒の1つに過ぎない。ようはそれくらい引き出しが多いってことだ。とくに手裏剣術の扱いで兄さんを上回れる相手をオレは知らない。
……で、ここまで条件が揃っているんだ、モテてもおかしくない。なにせ兄さんだってあれで年頃の21歳なんだから。おかしくないんだが……。
(いや、でもねェだろ)
と思うのは先日判明した事実だ。
なんでも兄さんは、結婚相手が見つかるかも知れないからと、告白受けたら1度は女の子と付き合うものの、其の日のうちに毎回振られているらしい。
というのも兄さんのイメージと相反する甘味大好き&女無視の甘味馬鹿食い癖のせいで。
まあ、そりゃ振られるって話だろ。
だってどっからどう見ても線の細い、クールビューティーみたいな外見したイケメンが、どこの大食い王だお前はと言いたいぐらいの団子やら汁粉やらを馬鹿食いして空皿積み上げてんだから、そりゃドン引きされるだろ。しかも甘味食ってる最中のイタチのやつ、連れの女ガン無視で甘味に夢中だし。オレが女でも付き合いたくねェよ!
そんなイタチの奴に指輪や首飾り、マニキュアを送る女なんているのか?
ていうかよく考えなくてもそれって女が送られる側なんじゃないのか?
女が身につけるような装飾品なんじゃないのか?
そういえば兄さんはアカデミー卒業した頃からずっと髪が長かった。
母さん譲りの長くて真っ直ぐで綺麗な黒髪は、オレにはないものだから少し羨ましく思ってた時期もあった。そう兄さんの後ろをひたすら追い回してた頃のことだ。
そうしてオレに振り向いて仕方なく優しく笑う兄さんは、まるで母さんとよく似ていて……。
(はっ、まさか……!)
「兄さん……!」
「? どうした、サスケ。丁度良かった。左手にこれをつけてくれないか。どうも自分ではやりにくくてな、先ほどもついはみ出た」
とか言いながら天然ボケボケ星人はズイッと先ほど塗ってたマニキュアをオレに差し出してくるが、そんなもん知ったこっちゃない。
ガシッ。
「兄さん!」
「?」
オレは兄さんの肩を掴んで真剣な赤い目でしっかり兄さんを見ながら言った。
「兄さん早まるな、性転換は、性転換だけはやめとけ! 生まれた体を弄るなんて母さんが泣くぞ、どうしても女になりたいっていうんなら、オレがウスラトンカチのやつに完璧なお色気の術の使い方を聞いてくるから、だから早まるのだけはやめ……ゲブラッ!」
メリッ。
突然、額に思いっきり石をめり込まされたような痛みが襲い、オレは思わず床をのたうち回った。
「愚かなる弟よ……」
スゥ。
一方イタチの奴は静かなる怒気を湛えながら、その目を写輪眼に変えつつ立ち上がり、未だイタチより頭半個分背の低い
「どうやら、オマエは最近たるんで頭の中まで平和ボケを抱え始めているらしいな」
いや、普段天然ボケボケ星人と化しているアンタが言うなよ!
というオレのツッコミが届くはずもなく。
その後オレは30分に渡って「修行の扱き」という名の容赦ないボコりを受け続けたのはいうまでもない。
写輪眼による幻術使った精神攻撃も混じっていたから肉体の損傷は少なかったが、最終的にピクリとも動けなくなったオレ相手に「印も結べぬ分際が」と吐き捨てていった声は暫くトラウマになることになった。
兄さん……アンタは鬼か。
そして其の日、オレは寝込んだ。
一方、その夜某居酒屋では。
「ひっく、ひっく……サスケが、サスケが……オ、オレのことをオカマ呼ばわりしてきたんだ……!」
「はいはい、哀しかったんだな。それでも動けなくなるまでフルボッコなのはどちらにせよやりすぎだぞ」
「だって、サスケが……サスケェ!! グス、グス」
「はいはい、オカマと思われて哀しかったのはわかったから、明日はサスケに謝りに行こうな」
「……ジズイィ……」
「あとお前飲み過ぎだから、普段の面影ゼロだから」
とそれほど得意ではない酒を飲みながらエグエグ泣いている兄イタチの姿があることなんて勿論、知る由もなかった。
因みに、オレがイタチのつけていたマニキュアや指輪がなんだったのか、その正体を知ることになるのはこの10日後、アカデミー生による砂との合同文化祭でのことだった。
終われ
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イタチさんとサスケさんと2(イタチさん視点)
前回投稿した話ですが、イタチさん視点で見ても面白いんじゃないかなーと思ったので、イタチさん視点も書いてみました。
かっこいい兄さん好きな方は注意。かっこいいイタチさんはいません。(今更
とくに後悔はしていない。(キリッ
オレの名前はうちはイタチ。火の国木の葉隠れの里で、火影様の暗部直轄部隊を束ねている木の葉の忍び、年は21だ。
まあ、そんなことはどうでもいいだろう。
どうせオレは実年齢通りに見られたことはないからし、仕事は仕事、プライベートはプライベートで、今はプライベートの時間だからな。
昔のオレは若く、その辺りの違いが曖昧だったが、一流の忍びたるもの公私の区別を明確につけることはとても大事なことだ。その辺りが未だうちの愚弟はわからないらしく、全く困ったものだ。
なんでも普段のオレのはっちゃけ具合についていけないらしく、昔のように公私通して一貫した態度のオレに戻って欲しいらしい。フッ、まだまだ青いなサスケ。
麒麟児、神童などと色々な呼び名を欲しいままにして育ったオレだが、結局はオレだって一人間だ。孤高の天才だのなんだのいわれようが、個人の力に限界はあり、人間は1人で生きていけるものではない。人間の人という字は互いに互いを支え合う形で作られているのがどうしてなのか何故わからない。
孤高の天才エリートだと?
クールでかっこいい一匹狼?
そんなものただの偶像だ。結局の所オレだって色々な人に支えられ生きている。それに早熟だったオレは昔から特別視されていたから友達も作りにくくて、というか作ろうとしても相手から逃げていったし、アカデミー飛び級なんてことをしてしまったから余計に同世代の友人が少なくて、結果的に孤高の天才像にオレは収まっていただけだというのに、何故そんなことがわからないのか。
お馬鹿だからか? 嗚呼、お馬鹿だからだな。(断言)
いや、サスケはそんなお馬鹿なところが可愛いんだが、それでも孤高の天才だのなんだのに憧れるとか、それは厨二病のはじまりだぞ、サスケ。心なしか服のセンスもそれっぽいし。
オマエは何故かオレを嘆くが、兄さんはお前の将来のほうが心配だ。
まあ、ナルトくんみたいな明るい良い子もついていてくれていることだし、大丈夫……か?
どちらにせよ、オレはオマエの希望を叶えてやることはないけどな。
これも兄の愛だ、許せ、サスケ。
大体昔みたいに周囲の望むうちはイタチ像をプライベートでまで演じていたら、オレのストレスがマッハでヤバイし、父さんより先にオレのほうが老けてしまうじゃないか。
冗談じゃない、いくら老けて見えるとはいえ、オレはまだ華の20代だぞ。
まだ10歳前後だったというのにストレスのあまりほうれい線が浮いてきた時、オレがどれだけショックを受けたかお前にはわからないだろう。いや、わからないに決まっている。何故ならお前は昔からプニプニもち肌で、皺なにそれ? な母さん譲りのツルッとした肌だったからな!
どうやらオマエはオレのほうがお前よりも美男子だと思っている節があるが、オレと違ってほうれい線も浮いてない瑞々しい肌をしているし、世間的にはオマエのほうが正当派の美形だと思うぞ、サスケ。
とはいえ、プライベートでまで願望とかを押し殺したりしなくなったお陰で、ストレスが減ったのか、昔に比べるとオレもほうれい線が大分薄くなってきた……というか父さんと同じくらいになってきた。
それでも完全には消えない辺りやっぱりオレは老け顔なんだろう。
…………気にしてなどいないからな。
とにかく、ストレスとはそれぐらい大敵だということだ。
堪え忍ぶ者が忍びであるとはいえ、時と場合による。
特に今は平和な時勢だ。砂との同盟関係も上手くいっているし、他の忍び里ともそこまで険悪な関係というわけでもなく、ある程度交流がもてている、この調子でいくとオレの望みである世界平和が叶う日も近いな。
昔は友人も、年上かつ同じ一族のシスイくらいしかいなかったオレだが、平和で大きな争いがない現在、他国にも友人が出来た。全く良い時代だ。というわけで、折角仲間が出来たのだ。子供の頃出来なかった分今遊んで何が悪い。ちゃんと与えられた仕事は仕事で済ませている。
それに他国の忍びと交流を持つということは、里同士の交流が増えるようなものなんだ。
異文化歓迎! 人と人は支え合って生きている。それが忍界全部に広がる日も近い。
故にオレが里と里を越える平和組織「暁」に加入したのもその一貫だ。
断じて楽しそうだから、とかそんな私情だけで選んだわけじゃない。
……本当だ。
「~フン、フフ~ン、~ン♪」
ヌリヌリヌリ。
もうすぐ風の国でアカデミー生による木の葉との合同文化祭が行われることになっている。
砂隠れと木の葉隠れの里は昔は戦争もしたものだが、平和条約が結ばれて長く、四代目の尽力もあり、今では1番の盟友となっており、文化交流も盛んな間柄だ。
とくに風影の息子で砂の人柱力である砂の我愛羅と、四代目の息子で、木の葉の人柱力であるうずまきナルトが中忍試験を切欠に友人になって以来、更に結束が強まっている。
それを受けて、今までは中忍試験を合同で行う程度だったのが、去年からアカデミー生規模の文化交流を行うこととなった。
全く、ナルトくんは大した子だ。明るく太陽のような笑顔で周囲を引っ張るその魅力は、オレにはないものだからより好ましい。そうやって明け透けな態度で平和の架け橋を打ち立てる様は、うちの愚弟にも見習わせたいぐらいだ。
周囲の評判はサスケよりナルトのほうがお馬鹿とのことだが、オレにしてみればサスケのほうがナルトくんよりも染まりやすくて純粋で、人の言葉に惑われやすいアホの子だと思う。(だがしかしそこが可愛い)
ナルトくんは馬鹿だと思われやすいが、あれでいて中々頭のまわる察しの良い、いい子だぞ。
どちらにせよ、ナルトとサスケはライバルとして、友として切磋琢磨しているようだから、そのうちあの子の不安定なところも治るんじゃないのか、と兄として期待しているのだがさてどうなるのか。
まあ、それは余談だ。
ともかく、もうすぐ砂との合同文化祭となっており、砂側の実行委員、顧問を努めるのは同じ「暁」仲間であるサソリさんだ。同じくオレも木の葉側の実行委員顧問を務めることになっているのだが、これはまだ愚弟やその仲間達には内緒にしている。
ここに暁メンバーが2人揃うわけだ、ここで何も仕掛けないという選択肢はない。
そこでオレとサソリさんが考えたサプライズにリーダーも乗り気だ。
久々に暁全員が揃う日も近い。これは幻術の中で決めポーズの練習に精が出るというものだ。
当日、何も知らずにアカデミー生を率いてやってくるだろうサスケ達の呆気にとられた顔を想像すれば、サプライズにもやる気が出るというものだ。
クックック。
楽しみだ。
と、そんなことを暁支給品の仲間の証である、青紫色のマニキュアを塗りながら考えている時だった。
「兄さん……!」
と、どこか真剣な切羽詰まったような顔で、弟がオレに話しかけてきたのは。
「? どうした、サスケ」
オレは何故サスケがそんな真剣な目でオレを見ているのかわからず、色々な可能性を脳裏に浮かべる。
明日のおやつのうちはセンベイをオレが全部食べてしまったのがバレたか?
いや、しかしサスケは甘いものが好きでない関係上、そこまで間食をしないからな。まだバレてはいないはずだ。あとで母さんに見つかる前に買い直して元通り戻しておけば問題無い。
それとも、この前勝手にサスケの部屋を掃除して、ついでにエ○本も整理し直してやったことか?
いや、サスケは気付いていないはずだ。気付いていたらとっくに騒いでいた筈。
じゃああれか? 今度サスケら3人が引率として配属される予定の、砂との合同文化祭実行委員顧問にオレがなることがバレたのか?
いや、しかしバレるヘマをした覚えがないな。大体サスケが気付けるとも思えない。
じゃあなんだ……? 何故弟はこんな顔をしている?
……まあ、いいか。
それよりマニキュアを塗るのにも飽きた。
いつもならげぼk……ごほん、友人であり暁のパートナーである干柿鬼鮫にさせるところだが、生憎あいつも10日後に控えた砂との合同文化祭におけるチーム暁でのイベントに向けて、霧隠れの里に帰って決めポーズの練習中の筈だ。見た目は魚人みたいだが、あれでいてアイツは真面目で良識派の鮫……じゃなかった忍びだからな。その辺り抜かりはない。
おかげで自分でこれを塗らないといけないのが面倒臭いが、こういう時こそ弟をたまにはアテにしてみるか。
「丁度良かった。左手にこれをつけてくれないか。どうも自分ではやりにくくてな、先ほどもついはみ出た」
そうオレは声をかけながらマニキュアと左手を弟にズイッと差し出した。
「兄さん!」
けれど相変わらずサスケはオレの挙動が目に止まっていないといわんばかりの態度で、いつの間にか写輪眼の赤を宿した目でオレを見ながら、ガシッと座っているオレの肩を掴み、言った。
「?」
「兄さん早まるな、性転換は、性転換だけはやめとけ!」
……んん?
…………何言ってんだ、この愚弟?
「生まれた体を弄るなんて母さんが泣くぞ」
おい? オレがいつ生まれた体を弄った?
性転換、早まるな、と言ったな。
ええと、認めたくないが、つまりアレか。
「どうしても女になりたいっていうんなら、オレがウスラトンカチのやつに完璧なお色気の術の使い方を聞いてくるから」
誰が女になりたいって?
オレが?
オレは女になりたがっているようにサスケの目には見えたということか?
つまり、サスケの目には……オレがオカマか何かみたいに見えた……と?
つまりオレは今、サスケにオカマ扱いをされている、ということか?
オカマだと?
つまりあれか? オレはサスケの体を狙っているあの変態、大蛇丸と同類扱いを今受けているのか?
あの変態危険物とオレが同じだと、そうサスケ、お前は思っているのか?
そうなのか?
「だから早まるのだけはやめ……ゲブラッ!」
メリッ。
理解した瞬間、オレは弟の額を陥没させる勢いでデコツンを繰り出した。
それに対し、よりにもよって実の兄をTS願望ありの変態扱いしてきた愚弟は、「ぐおおおおお」とか洩らしてのたうち回っているが知ったことか。
これでもオレはこれまでサスケを可愛がってきて、幼少の時はそれこそ良い兄を務めてきた筈だ。
忙しさの合間を縫いながら修行には付き合ったし、くじけて歩けなくなったときには背中におぶり、狩りの仕方だって教えた。年が離れているのもあり、世間の兄より余程オレはサスケに尽くしてきた筈だ。
その尽くしてきた兄にする仕打ちがコレか!?
よりによってサスケに、実弟にオカマ呼ばわりされる……だと。
情けない、兄さんは哀しいぞ、サスケェ!
演技は得意だが、そうでなけりゃ兄さん泣くぞ、泣いちゃうぞ。
「愚かなる弟よ……」
スゥ。
その両目を黒から写輪眼の赤に変えながら、オレは立ち上がり、未だに動揺駄々漏れな愚弟を睨むように見下ろしながら、オレは冷ややかなチャクラと声音を出し、言った。
「どうやら、オマエは最近たるんで頭の中まで平和ボケを抱え始めているらしいな」
弟の額からはタラタラと冷や汗が流れているが、いくらオマエが可愛いからって、今日の兄さんはそんなもので許しません。お前に今必要なのはお仕置きだ。
そうだろう?
ここは教育的指導が必要だとは思わないか?
鍛え直す良いチャンスだ。これも兄の愛だ、受け取るが良い、サスケェ!!
「ぎゃあああああああ!」
やるときは容赦なく、相手の戦意が完全に消え去るまで、それもまた忍びの鉄則。
サスケが動けなくなる時までかかったのは、たった30分だった。
* * *
「はぁ……」
あれから3時間が経った。
サスケはフルボッコにしておいてきたが、終わった今としてはこの胸の中に怒りはどこにもなく、ただ哀しみだけがどこまでも溢れてくる。
(オレは今までサスケに女みたいだと思われていたんだな……)
そう考えるととても哀しい。
服屋のショーウィンドウに写った自分の姿を眺める。
そこに写るのはいつも通り……よりも落ち込んだ自分の姿だ。
男にしては長く量の多い睫に縁取られた切れ長の目に、通った鼻筋と整った唇の形。髪は真ん中わけで肩よりも長い黒髪を赤い紐で1つに結んでいる。自分で言うのもなんだが母親似で、体型の印象も顔立ちも顔の形も髪質まで母と似ているのだが、唯一目の下にあるほうれい線だけが父親譲りで、これがあるからこそ、中性的な印象を打ち消して自分を男に見せているんだということは、なんとなく察してはいる。
(同じ兄弟でも弟のサスケはオレと似た面立ちだろうに、ほうれい線など無くても少年らしく見えるのにな)
やはりあれか、長髪なのが悪いのか。それとも細身なのが悪いのか。
しかし長髪というのなら、初代火影だった千手柱間や、うちはの祖であるうちはマダラだって長髪だったわけだし、忍界では男で長髪なんて別に珍しくないだろ。長髪は女の特権じゃないんだ、そんなのサスケだってわかっているはず。
じゃあ細身だからか。いや、それをいったらサスケも人のこといえる体型していないし、そもそもオレは太らない体質だ。体型に文句をつけられても困る。オビトさんやシスイみたいな体型にオレがなれるわけないだろ。
……じゃあなんで女になりたがっているなんて不名誉な誤解受けたんだ。
兄さん、わからない、わからないよサスケ。
とか考えている時だった。
「イタチ、お前そんな顔してどうしたんだ?」
「シスイ」
と、幼馴染みであり兄貴分の親友、うちはシスイに話しかけられたのは。
シスイは任務帰りらしい、少しだけ汗の臭いをさせながら爽やかな顔でオレを見ている。
ふむ、そうだな。
「シスイ、オマエ今暇か」
「ああ、先ほど報告を終えたところだ。今空いてる」
「ならば、今晩付き合え」
といって、珍しく居酒屋へと向かった。
普段酒は飲まないが、飲みたい気分だった。
そんなオレを察したのだろう。わかったと簡潔に伝えついてくるシスイ。
フッ、やはりオマエは良い奴だな。
持つべきは友だ。サスケも早くそのことに気付けばいいのだが、意地っ張りだから無理なのかもしれないなんてことを思った。
カランッ。早速カウンター席に通された、見れば隣でシスイは慣れた調子でビールとつまみに枝豆、ポテトフライを注文している。
オレもメニューを決め、言った。
「カルーアミルクと、蜂蜜酒と、黒糖梅酒と、スパーリング白ブドウカクテルを頼む!」
「おい、イタチ!?」
普段酒を飲まないオレが4種類も一気に注文したことに驚いたのか、ギョッとした顔でシスイがオレを見る。
フッ……オレをいつまでも子供舌だと思えば大間違いだ。オレとて大人だ、酒を飲むときは飲める。あまり好んで飲まないだけだ。ビールなんてもっての他。あんな苦いものを好んで飲む奴の味覚がどうかしているだけだ。
「つまみもなしに酒をそんなに飲む気か!?」
なんだそんなことか。
「ではすみません、抹茶パフェと豆乳プリンも追加で」
確かに酒ばっかり飲むと肝臓に負担をかけるか。全くシスイは気が利くな。
まだ何か横でシスイはゴチャゴチャ言ってたが、大したことじゃないと聞き流し、オレはカルーアミルクをごくごくと口にするのだった。
2時間後、へべれけになったオレが、シスイ相手に「サスケがオレのことオカマ扱いしてきた~」と泣き喚き、酔っぱらいの泣き上戸化し、ゲロ吐いて出禁になり、自宅まで送り届けられ、散々母さんに雷を落とされることになる未来なんて、知る由も無かった。
終われ
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