がんば麗羽さん!リターン!?エターナルストーリー (髪様)
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序章
コウを知る、つまるところの前口上


ほとんどそのまま。
改訂は後ほど。

10/20 取り合えず改行方法の変更


 袁本初、その名を聞くと三国志演義を知る者ならばほぼすべての人が無能と答えるかもしれない。

 だが、実際には無能であったのか?

 

 それは否である。

 

 確かに、人の使いは上手いわけでもなく、噛ませ犬的な存在に映るかもしれない。だがしかし、史実では後には敵対したが、若き曹操以外にも名だたる名士とも友誼を結ぶなど、人の話を聞かないことを除けば一角の人物であったには違いない。幽州公孫賛の白馬義従をなんか縄で倒してたし、優柔不断だったこと以外、すごいんだよ。

 

たぶん、きっと、そうだといいなぁ~

 

 「孟徳さん、またあなたは何を企んでいるんですの?」

 「あら?ただ美しい花嫁がいるという噂を聞いたから確かめに行くだけよ?

 あなたも気にならないかしら?」

 

 金髪ロールの二人組、一人は豊満な肉付きの切れ目の美女、もう一人はスレンダーでもう一人の胸元ほどの背の低い美少女。背の高い方の女性が袁本初、かたやもう一方の女性が曹孟徳である。曹操ファンには結構有名なエピソードである、この花嫁強奪であるが、このとき正史?であるなら袁紹が曹操にハメられる。

 そしてやっぱりハメられた、まあ実際は彼女の勘違いなのであるが。

 

「麗羽、ちょっとそこで待ってくれないかしら?」

 

 塀を乗り越え忍び込むまでは一緒だったのだが、それだけ言うと、曹操は返事も聞かずに屋敷の奥に入っていく。屋敷の中は大騒ぎ、やれ祝いだ、酒だ、無礼講とてんやわんやなほどに盛り上がっていたため、忍び込むのは非常に簡単であった。

 そして彼女は人が少ない庭園で一人ぽつんと立っていた、むしろ待たされていた。

こんなとこで待っていてどうしろと、別に俺いらないんじゃね、など内心思いながら庭にあった池の中の鯉?とりあえず魚を眺める。するとどうだろう、どんちゃどんちゃしていた屋敷の中がさらに騒がしくなったではないか。しかも喧騒はこちらに向かってくる。

 

 「盗ったわ!逃げるわよ麗羽!」

 

 見知った顔が人一人担いで爆走している。

 顔はニヤケ、やり遂げた感が満ち溢れている。

 

 「えっ!ちょっ待ってくださいな!」

 

 本気でいきなりである。

 人一人抱えているので鈍足になってもおかしくないハズの曹操は庭先にある岩、庭木、塀をぴょんぴょん飛んで外に飛び出す。このとき袁紹である彼女はまだ池の前である。

 

 「いたぞっ!」

 「花嫁を何処へやったのだ!」

 「城に突き出せ!」

 

 

 「なんでワタクシが!」

 

 

 少々話をそらそう。

 この袁紹本初、中身は現代人学生の元男の子であった。彼は実家から送られてきたじゃがいもを食べようとし、芽が出ているのにも構わずそのまま調理。じゃがいもの芽の毒にあたって死んだのだ。そして目が覚めると赤ん坊、目の前には自分を抱く何か巨大な人。

 目の前に居た巨人は自分のことを『麗羽』と呼び、あやすように抱えて揺らす。その時、彼はあまりの出来事に本気で現実逃避をしていた。しかし、結構心地がよかったのは本人だけの内緒である。

 

 

 だがそう言って目を背けても事実というか現実は逃げちゃくれないので、あれよあれよというまに成長した彼女。15の時には養父に字を授かったりもしたが、この時までに必死に見なかったことにした現実も多々あった。袁成とか袁隗とか袁逢とか親類とか親にいたけど全部女性だったので、

 

 「あ、うん何かどっかで見たことあるパターンだが、きっと気のせい」

 

 そう、そう信じて頑張ってきたのだ。

 

 だがやっぱり何度でも言うが、現実は待ってはくれない。

 郎、濮陽県長への任命。

 そして育て親との死別、そこから彼はどっかで見たことある三国志の中の袁紹のように父母それぞれ3年計6年を喪に服した。そしてその際に官も退いた。この時の喪とは儒教、前漢の時代に整えられた礼記をもとにして行われ、酒や肉さらにはこの時代の数少ない娯楽である音楽などもを断つ。

 

 ではなぜ三年か?

 

 子生三年、然後免於父母懐。夫三年之喪、天下之通喪也。

生まれてから三年はほとんど意識もなく、両親に唯々懐の中で抱かれ世話をされるだけに育つ、彼女の場合も意識はあったが、まだ筋肉も未発達な体は自由に動かせなかった。

 生みの親である袁成は彼女を生んだ直後になくなったが、代わりに彼女を引き取ってくれた叔母である袁逢、袁隗姉妹は彼女を袁術、袁基同様に育ててくれた故の感謝もあった。

 それ故に孔子が唱えた通りに、育ててくれた感謝を込め三年三年の喪に服したのだ。

(ちなみに本来は母が死んだあとに三年、そこで感じ入ることがあったのか、その後父三年の服喪についた)

 本来は反董卓連合を発足した際に洛陽にいた袁家は尽く誅され、その際に袁基、袁逢、袁隗等も討たれるのだが、この世界ではどちらも流行病であった。

 

 で、更にその後、今度は他の親類に私塾に行くように言われ洛陽にやってきて、花嫁泥の元凶である彼女に出会ったのだ。ちょうどこの時期には、公孫賛も洛陽に訪れており、出身地域が近いからと都での袁家の邸宅を訪問している。

 当時袁紹は、張孟卓、何伯求、呉子卿、許子遠等とも友誼を結んでいる。洛陽に来てから袁紹はうつけのフリをしていたのだが、とある出来事があったことをきっかけに上記の四名と曹操と縁を結ぶこととなったのだ。

 

 

 ある日、袁紹は洛陽の住宅街を私兵を12名ほど引き連れ歩いていた。

 

 

 「しかし、ほんとに寂れていますわねぇ」

 

 

 袁紹が周囲を見渡せるほどに散開し周りを囲み歩く兵、少々前を2名、後ろに2名、袁紹中心に3×3の正方形に8名である。既に天子の力失せいる、先帝の散財を補填するために霊帝劉宏は官位を売却したため官は乱れ、賄賂は横行した。

 なんせ曹操の父である曹嵩も霊帝に莫大な金を献上し、宦官にも賄賂を贈り太尉になったほどである。それ故、本来都を治める役人も治安の維持などほとんどの者が行わず、自らの保身と財産を溜め込むことに集中したため、漢全土その都である洛陽ですら治安が乱れに乱れた。

 

 「本初様、これより先は貧民街でございますぞ」

 「それで?さっさと行きますわよ」

(ちっ!何も知らない箱入りがっ!)

 

 

 袁紹は馬鹿なフリをしていたため思いつきで散歩と称し街を練り歩いた、実際の目的は見回りである。そのため問題が起こりそうな場所を優先的に巡るのだ、もちろん様々なことに首を突っ込むこととなる。

 目的地にたどり着けず道に迷う、おばあさんがいれば邪魔だからと称し私兵に案内させ、喧嘩があればうるさいからと仲裁させ、道端に糞尿があれば臭いからと掃除をさせる。そんな事をやらさられるモノだから当然袁紹の担当は不人気であった。

 袁紹自身は目の届く範囲で自分ができる事ならやろうとバカの振りをするならバカらしく振舞うことで、天の御使いと同じ様に警邏をしていたのだ。しかし、そんなことを知らない袁家お抱えの私兵たちは袁紹のわがままだと思っており、更に彼女の名を落とす噂を流した。

 

 

 「お助けくださいっ!これを持っていかれたら私どもは生きていけませぬっ!」

 

 

 ちょうど貧民街に入った時である、悲鳴が聞こえた。少々早足でその場所に向かう。

もちろん、お付は袁紹がまた変なことに興味を持って見物に行ったとしか思っていない。

 

 

 「ええいっそんなこと知るものかっ!我らは法に従い税を取り立てるのだ!

 貴様が生きれぬからといって税を取らぬ訳にはいかぬのだ、貴様の言い分など理が通らぬとなぜ理解できぬ!

 払えぬならば働けば良いっ!

 それでも生きてゆけぬのなら、税を収め、のたれ死ねば良いのだ!」

 「そんな殺生なッ!」

 

 そして渦中へと向かっていく袁紹。

 

 「見苦しいですわよ?おやめなさいな」

 「なっ邪魔をするというのかっ!獄に入れられても……なっ!」

 

 徴税官らしき役人の男は勢い良く声の方向へと振り返り声の主を確認すると慌て出す。独特の髪型に独特のお嬢様的喋り方、しかもバカと大人気(上手く取り入れば美味しい思いができるかもしれない、という勝手な想像から)な袁紹であったからだ。しかも名門の名は伊達ではなく、都において結構な影響力を持つ。

 

 「こ、これは袁家の袁本初殿とお見受けします、なぜこの様なところに?」

 「あら?ワタクシがどの様なところに居ても勝手ではなくて?」

 「そ、その通り!そのとおりでございますねっ!」

 

 ぺこぺこと頭を下げ手をこすり合わせる役人、先ほどとは別人と見間違うほどである。そしてそれを内心冷めた目で見つめる袁紹、だが他の人には何も考えてないようにしか見えない。

 

 「散歩ですわ」

 「は、はぁ……」

 「先ほどお聞きになられたでしょう?なんですのその反応は?」

 「そ、そうでございますね!私ごときの疑問に答えていただけるとは思わなかったもので!」

 (クソがっ!急に話を飛ばすなよっ!馬鹿(ばろく)という噂は本当か)

 

 「あら?貴方、弁えていらっしゃるのですわね?いい心構えですわ!

 なんて言っても私は名門袁家ですものね、おーほっほっほっほ!」

 

 顔では愛想笑いを浮かべてはいるが、彼女の周りにいる人間は実際には殆どの者が彼女を見下している。目の前の役人もその類にあぶれなかった。先ほど悲鳴のような嘆願を唱えていた貧民街の住人は何が起こっているのか理解できていないような反応である。学もなく文字も読めない、そんな住民にも分かることがある一つあった。それは今自分の目の前に税を取り立にきた役人よりも偉そうな奴が来たということである。ならば彼、彼女がやることは一つ、より偉そうな奴に泣きついてみるだけである。

 

 「ど、どうか話を聞いてくだされっ!」

 

 役人の前より飛び出し袁紹の前に両膝を付き手のひらを組む。本来そのようなことをすればお付の私兵に切られてもおかしくないのだが、既に役人と会話をする際に彼女の後ろに下がり、辺りを警戒している為そのようなことは起きなかった。

 

 「ええっい!黙らんか!貴様如きが話しかけていいお方ではないぞっ!」

 

 慌ててご機嫌とりも合わせ住民の肩を掴み後ろへと思いっ切り転がす。

住民は「ひっ!」と声を上げ起き上がるが、袁紹の、

 

 「そうですわ。ちょっと貴方、汚いモノを近づけないでもらえないかしら?」

 

 という一言で絶望の表情を浮かべる。

 

 「あまりにも臭いですわ。

 本来ならこの地区ごと燃やしたいほどですが、さらに臭いが広がりそうだからやめておきますわ。

 連単(護衛の一人)さん、このお方にお金差し上げてくださいな」

 

 「なっ!そのようなことをすれば他の者が不平を申しますぞ!」

 

 連単と呼ばれた彼は声を上げる、役人はこれほど馬鹿なら自分もおこぼれを確実にもらえるなと機嫌が良くなる。そして袁紹はあえて役人の思惑道理に事を運び、毎回安くはない金をばらまく。

 

 「それなら私のお小遣いでここの清掃でもやらせればいいでしょう?

 ワタクシがいる洛陽の都にこのような汚いモノがあるのは許せませんわ!

 ワタクシが住んでいるのですから、もっと相応しくなるべきそうは思いませんこと?」

 

 はっきりといって言い方は馬鹿っぽいが、言っていること、やることはは至極まともである。これはよく考えなくても、私財を投げ打ち街を整備し、職を与えると言っているのと同義である。悪名ではあるが、広まり、治を知る者はその功を知る。

墨子に「神に治むる者は衆人その功を知らず明に争う者は衆人これを知る」、人に測り知れないように事をなす者は、人はその功績に気づかない。どんな大きい難儀も始まりはいつも小さな火種から。火種の時点ですぐに消火してしまう人は最高に優秀だが人の目には触れない、とある。袁紹はこれを知らずになしていた。されど儒家は名を尊び、これを厳かにする。

 

 だが気づくものは気づく訳で、

 

 「呉と申しまするっ!呉子卿とでも呉とでも呼んでくだされ!でもシケイとは呼ばないでくだされ!

 貴方に聞きたき事ぞありまして、山超え谷越えやってきました!」

 「大げさね、呉子卿殿。ワタシ許子遠言うアルネ。よろしくヨ。

 一言、言わせてクレヨ、カネクレ、金持ち妬ましい」

 「張邈孟卓、真名は慈協ですねっ!袁本初殿の噂を聞きつけやってきました!

 人助けバンザイですよねッ!ワタシおかしくないよねッ!?」

 「とりあえず、邸の中にお入りなさいな、諸双(お付の一人)案内なさい」

 

 彼女たちは袁紹の外聞となしたことの相違に気づき、百聞は一見に如かずということで本人を見てみようと考え至ったらしい。呉子卿、ショートボブで軽い茶髪、短パンチャイナである、ちなみに130ほどと背は低い。許攸、赤髪お団子、スリット入りドレスの生粋チャイナ。最後に張邈、ほとんど曹操の2Pカラー髪の色は銀色でドリルが付いていない、しかも若干目はタレ目である。張バクに関しては、先の貧民街の出来事に痛く感動したとかで、速攻で真名を許している。他の二人に関してはこれより少しづつ関係を深め奔走の友となるわけだが、今はまだ観察段階である。

 

 「麗羽殿、あなたが何をなされるにしても何伯求に会うべきですねっ!

 今は汝南に滞在しているそうですっ!非常に人物評価に定評がある人ですよ」

 

 とは張邈の勧めである、そして袁術を茶化しに行くとかこつけて何顒の元を訪れる。

 

 「漢朝は滅びんとしている。天下を落ちつかせるのは貴方のような人物に違いないでしょう」

 何顒の邸、家の者に部屋まで通されると話し声がする、「袁氏の一方が来訪なされました」と家の者。

 「少々待たせるように」と何顒。

 「その必要はないわ、私は入ってきても構わないわよ。

 この曹孟徳が、聞かれて困るような評価を受ける筈がはないもの」

 「……お通しするように」

 「ではどうぞと」と促されるままに部屋に入ると、どっかで最近見た顔、デジャヴュ。ああ、張邈だと思い、何か大事なことを忘れていることに気づく。

 「あぁ、2Pカラーでしたわね」

 

 「「??」」

 

全く意味は通じない、北郷語はいまだ広まらず。

 

 「こちらの話ですわ」

 「そう、なら自己しょ……」

 「あなたが曹操さんですわね、噂で知っておりますわ。

 ワタクシの豪奢で美しく、優雅なヘアース……髪型を真似ているのだとか。

 いい心構えですわっ!ではもう一人が何顒さんですわね。

 初めまして、汝南袁氏次期当主の袁紹本初ですわっ!」

 

 「これはご丁寧に、何顒伯求と申しまする。

 ですが本初殿、人の言、特に名乗りをを遮るは良くありませぬ。

 除するとしましょう、五点」

 

 金髪ドリルつるぺったんの曹操と黒髪ロングの官衣を纏う片めがね。正直最初は張バクの印象の方が強かったが、だた直視するだけでにじみ出る覇気のようなもの。

 「ああ、これが曹操(ホンモノ)か」と言いたくなるほどの空気である。しかし、それに負けず劣らず独特の、清流のような雰囲気を何顒は発している。この後いくつかの「やれどこの役人は良い」、「あの店の定食は美味い」等の日常会話を三人で繰り広げた。

 

 そして袁紹、曹操二人そろって何顒邸を出る。結局人物評価は本日告げられなかったが、途中難しい話になると船をこいでいた袁紹の評価はいかほどであろうか、気になるところである。

 

 「帰りましたか、曹操125点、袁紹132点。

 曹操のゆく道は人死が多く出るでしょう、袁紹のゆく道は険しくも、いと気高き道でしょう。

 あの方は二律背反するようで芯根はよく似ておりますね」

 

 普通、何顒の評価は本人に直接告げられることなく、他人、推薦者越しに告げられることとなる。今回は両者共推薦したのは張邈であった、その後張邈と何顒は二人の人となりをよく見、考え、話し合ったのだ。

 

 「麗羽殿は優しいですねっ!」

 「友として導けば漢の世は良くなるのかもしれない、二人ともそう思える方たちでした。

 ですが、曹操は孤王である、袁紹は狐王である」

 

 そして袁紹であるが、公孫賛、曹操と出会い、この時になってようやく悟った、「ああ、やっぱり恋姫なのね」ということを……

 ちなみに話に出てきてないけどハムの人もちゃんと袁紹さんとあったんだよ?

 

 

 話はようやく戻るが、どうにかこうにか逃げ切れた彼女は曹操を睨む。態々人を待たせた挙句、結局首謀者である彼女が袁紹を見捨てたのだ。ちなみにこの日から袁紹は曹操によるトラップ祭りに強制的に参加させられることとなる。

 

 正直好きで罠に掛かるわけではないのだが、立場的に掛かっておかないと、後後左慈とか于吉とか現れて暗殺されるかもしれない、と彼女は思い違いをしていたりする。普通に賢い袁紹でも正史から外れるわけではないので、逆に彼女の有利な方向へ官渡の戦いまでは引っ張ってくれるだろう。

 

 逆に言えば官渡の戦い以降は確実にやばいわけだが。それでも正史では袁紹は官渡以降でも巨大勢力であり続けたし、彼女が死んだあとに北の袁家はあと目争いで衰退するのだ。

 

 ……あれ?これって官渡の戦い終わった後って、結局暗殺されんじゃね?

 

 

 「孟徳さん、あなたどんだけ女好きなんですの」

 「そうね、可愛い子のためなら天下をとってもいいと思えるぐらいだわ」

 「天に耳あり、地に口あり誰に聴かれても良いこととは思えない。

 滅多なことを言うべきではありませんわ、

 少なくとも城門の前に孟徳さんの首がぽんって置いてある場所なんて見たくないですわよ」

 

 

 まさしく懲りない、しかも都の中で曹操のこの発言である。後の世の日本、京の都の平家のかむろではないが、今の腐った漢王朝では簡単にお家取り潰しなどもありえる。密告を受けた役人からしてみれば、取り潰すそれだけで結構な甘い汁を吸えるのだ、この時代の合法的に。ちなみに曹操のこの言、この時代では子供にもわかるぐらいに危険だ、それ故に別段馬鹿の発言としてもおかしくはない。

 

 

 「ふふ、心配してくれるの?そうね麗羽、あなた私と共に来ない?いい夢を見せてあげるわよ」

 「遠慮しておきますわ、ワタクシ今は烏丸を抑えるのに精一杯ですの」

 「ちなみに天に口あり、地に耳ありよ」

 「も、もちろんわかっていますともっ!孟徳さんを試したのですわっ!」

 「ふふふ、そうね」

 

 

 実際彼女もあまり曹操のことが好きではなかったが、なんせ結構弄ばれているし?流石に治安も良くない世の中なので人死にも結構見たことがあるのだが、それでも親しいとも言える悪友の青白い首が無造作に転がされるのは見たくない。ちなみにさっきのミスは演技ではなかったりする。

 

 

 そしてこの一年後に彼女は侍御史・虎賁中郎将に任じられ、

 その翌年には曹孟徳と共に西園八校・中軍校尉に任じられる。

 時は後漢、更には三国時代と呼ばれ黄巾等さまざまな大乱が巻き起こる時代であった。




不思議なことがある、袁紹と打てば一発変換。
えんしょうがと打てば演唱が、もしくは炎症がとなり、えんほんしょと打てば、袁本書、もしくは袁本初、遠本初となる私のPC。

なんど訂正したことか。


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ランを知る

なんか、ルビが若干おかしくなっていたので、メモ帳で訂正して差し替えしました。
でもなぜか、可笑しなところが変わらないという現象が出ましたが、少しと気をおいてちゃんと表示されるようになったところを確認。


 そして何顒と出会ってから少し時を進ませる。

 

 昨今の国の乱れは著しいものであったが、さらなる混乱が漢の時代を襲う。後の世に言う、黄巾の乱であり、黄巾賊という呼称は三国志演義での呼び名である。

 

「みんなー!今日はてんほー」

「ちーほう」

「れんほうの」

 

 

 黄色の巾?を頭部に装着した集団が南皮付近で大量に目撃された、その噂を聞き袁紹は幾人かの配下を連れ様子を見に来ていた。今はまだ冀州牧である韓馥の治める地であるが、既に袁氏についた田豊の策によりある程度は民の掌握に成功している。

 

 

「「「土天舞台に集まってくれて!」」」

 

「「「本当にありがとっ!」」」

 

「愛してるぜぇー!」

「てんほーちゃんのためなら死ねるぅ!」

「いつもく〜るなれんほうちゃーーんっ!」

 

 集まった人間が彼女たちに思い思いに言葉を放つが、何故か内容は聞き取れる。なんと不気味なことか、他者の発言を邪魔しないように譲り合いながら叫んでいるみたい。

 

 

「「「ほぁぁぁぁぁぁ−ー!ほぁぁぁぁー!」」」

 

 

「……何ですの、あの集まりは?」

 

 

 そしてそれを唖然として見つめる袁紹、黄巾が元々はただのフォンクラブ?だったと記憶のなかで知っていた為、今はまだ黄巾党として各地を荒らし回る前に見学に来たのだ。

 

 正直唖然、アイドル系に興味もなく生きるための不自由のなかった前世、どちらかと言えば乱世の世の一歩手前まできている世界であっても、非常に裕福に育った彼女は蝶よ花よと育てられてきた今世、歌に救いを求める彼らの声を理解するには少し足りない。自分が行なってきたモノの正しさも分からず、未だ迷い続ける彼女。何をすればいいのか、何をしてはいけないのか、目標すら立てること叶わず。それを少しばかり変えたきっかけは?FB○……何顒のとある発言からである。

 

「なさぬ悪と、なす偽善。どちらが正しいかは誰にもわかりませぬ。なせねば民草は死に耐え(誤字にあらず)、なせば諸氏には指指されましょうぞ。本初殿、張孟卓ほどの慈愛をもてとは申しませぬ。ですがこの何伯求、いえ、真名を……真名で想智(ショウチ)とお呼びくだされ。わたくしめの願いは貴公が仁君へと成長することでございます。世を治めるは曹孟徳殿かもしれませぬ、なれどその過程での被害は計り知れぬものでしょう。あの者が剣を掲げ振り下ろすだけで、民草は望んで死へと向かいまする。何故、あなたが周知を偽るか問いませぬが、民への三考を得られよ、一つ公、一つ幸、一つ功。自ずと行く末は決まりましょうぞ」

 

 いつもの如く、近頃の課となった何顒邸訪問。そして袁紹が彼女とこれまたいつもの如く他愛ない会話をしようと向かい合ってのこの言であるが。彼女は、いつもの崩した座りではなく、両膝を付け待ち構えていた、とりあえず正座であるな。

 

 「……何を言っているのか、解らないといっても無駄なのでしょうね。想智殿の言い回しはくどく分かりづらいですが、心に留めておきましょう。今後私のことは麗羽とお呼びください」

 

 少々呆気にとられた、なにせ自分でも満足行くほど上手い具合にアホな袁紹っぽい発言や行動が出来ていると思っていたのだ。そして今まで誰にも、あれ以来洛陽で度々会うようになった曹孟徳にすらバレていないのだ。

 

 呉しかり、許しかり、張しかり、知に優れるモノをもってしてもたどり着けていない。彼女たちは袁紹と奔走の友となるに至ったが、それは彼女の成した事に対してで、彼女自身の評価は一番袁紹へ好印象を抱いてある張バクにおいてもそこまで高くない。確かにやっていることは素晴らしいと感じてはいるが、袁紹自身の気まぐれ的ものだと知り落胆したのだ。

 

 

 「麗羽殿、それがあなたの素でありますか。ご安心を、私しか知らぬはなしであり、此度の話はは慈協との間でも解することはありませぬ」

 

「ひとつ聞かせて欲しいのですが、どこでお気づきに?」

 

「貴方の成すこと全てに筋があります。

 貴方の為すこと全てに結果があります。

 貴方の生すこと全てに人がおります。

 貴方の為すこと全てに笑者がおります。

 それに気づけばそこでわかります。

 名を惜しむものは貴方の本懐には気づきませぬ」

 

「……そうですか、私にはあまり意味がわかりませんが。しかし、勝者ですか?」

 

「いえ、恐らく貴方の言っているものは違うという前提で言いますが、笑う者でしょうしゃです。慈協は貴方の心根は良いものと知っておりますが、あなたの自己愛発言に気落ちしておりました。されど、慈協は知るべきです、彼女がやっていることもまた結局は自己愛(じこまんぞく)の結果に過ぎないことを。貴方はうつけの振りのまま仁君となるがよいでしょう、であれば漢の世はまだ続けることができる。十常侍……、中常侍しかり濁流に潜む宦官に清流は勝てませぬ。まずは王佐の才を手に入れられよ、南皮を拠点に北方の雄となり、力を蓄えなされ」

 

 

これで彼女にもやることができた。ここからは何時もの袁紹、わがままを言う様に遠まわし?に付き合いのある役人へと根回し?をする。

 

「張再さん、わたくし暑い領地はいりませんの、できれば……そうですわね、冀州などがいいかと思いますわ」

「本初殿、それは冀州牧にとのお言葉ですかな?」

 「ワタクシ、そんなことは言っておりませんわ。ただ、冀州、特に南皮なんかワタクシにお似合い、そうは想いませんこと?」

 

 これぐらいなら周囲の人間も「何時ものわがまま」か、どうせすぐに忘れるだろうとすれば良かった。しかし、袁紹自ら冀州へ向かうお決まりな言い訳として、遠縁の親族に会いに行くと称し、馬に乗って向かうほどである。更に事あるごとに冀州、冀州と呟くものだから流石に何かしらの対策を建てねばと、周りは奔走することとなった。

 

 「何をのろのろとしているのですかっ劉慶さん!早く行きますわよ!」

 「はぁ〜、……分かっております」

 

以前のお付は交代、また新しいお付へと変更されていた。最近は暇さえあれば馬車と私兵を用立て、冀州の豪族、有力者の邸を訪問し彼らの懐に金銭を落とした。そんな中である。

 

「お待ちをっ!」

 

 一人の将兵が駆け込んでくる。袁家とも元々仲が良く、洛陽の守備を任されている一人である。今は珍しくそこそこ真面目で義理堅い、男であった。

 

「なんですの、徐双さん?ワタクシ今から、」

 

 「それどころではありませぬ!黄巾を身につけた賊徒の手によって中常侍の封諝、徐奉が内応!幸い、蜂起計画は内輪揉めで潰えたようですが、1000人余りが処刑されるようです!本初殿も虎賁中郎将としての役目が下されることになりますぞ」

 

「なるほど、最近都が騒がしく華麗でなかったのはそういうことでしたのね?ええ、気づいてましたとも、この袁本初に知らないことなどなくってよっ!おーほっほっほっほっ!」

 

((……ホントかよ))

 

 

 態とらしい、でも逆にそれが今では効果的である。

 

 

「えんしょぉーほんしょぉー、貴ぃ様ぁの役目ぇーはー洛陽近辺の守護であ〜るぅ。励むようーにぃ」

 

 十(中)常侍の一人、12人 張讓、趙忠、夏惲、郭勝、孫璋、畢嵐、栗嵩、段珪、高望、張恭、韓悝、宋典。その中の一人、夏惲がこの言葉である。

一応勅命としての命令だが、ここに霊帝の意思は一切入っていない。袁紹と関わりのある低位宦官の計らい、というよりもイランお世話で一番守備を厚く、つまり兵を置くことのできる洛陽の守護を任されたのだ。その他にも討伐に行っても大して役に立たないだろうとの判断で十常侍も納得している。正直黄巾がその大兵力で襲来し、もし万が一洛陽を落とされたりしたら確実に霊帝と宦官連中は残さず殺される、そして搾取するため人間を奪う目の上のタンコブであるからして早々の討伐を望んでいるのだ。金づるが死ぬのもアレだし、大きな力を持たせてアホに好き勝手させるのも馬鹿らしいというわけである。

 

 「想智さん、お願いがございますわ。私が金を出すので商人経由でとある方々を援助して欲しいのですわ」

「はて、どういった経緯でそのようなことを?麗羽殿の周囲に曹操殿以外にそのような援助をする程の勇を持つ御仁は……面識の無い方ですか?」

 「そうですわね、琢郡にいるとだけ申しておきますわ。想智さんの信用置ける商家の方にお願いして、装備と馬を援助してくださいな。それと曹操さんには既に騎兵2000と歩兵3000を渡しておりますわ。使い潰しても、数を減らしてもいい、その代わり袁家にふさわしい華麗で精強な兵士にして返してくださいな、そう言っておきましたわ。まぁあとは、彼らが曹操さんから離れたくないと言わないよう望むだけですわ」

 

 ちなみに曹操であるが袁紹と違い、黄巾討伐の役目をおい官軍5000、袁紹の私兵5000を持って陳留へ出向いていいる。宦官に嫌われて、様々なことをやらかしてきた曹操は確かに少数軍勢の場合もあるが、ほとんどが大きく固まって行動する黄巾を相手にするには、少々心もとない兵数しか与えられず、都を出発した。それに恩を売ることも含め、少々心配だった袁紹は彼女に兵糧と兵を自らの私財で融通したのだ。

 

 「その件に関しては問題ない程度に曹操殿なら抑えてくれると思いますが、彼女の野心のことを考慮すればどう行動するか判断付きませんね。義に従うか、大義をなす前の小義と割り切るか 話を戻しますが、それだけでは誰を援助すればいいのかわからないのですが……」

 「見れば分かります、とだけ言っておいてくださいな。私の考えている通りの人物なら直感に従えば簡単だと思いますわ。なんせ、ワタクシが援助を考えている方は生粋の人たらしですわよ?もしそれでも見つけられない、そうなるのであればワタクシの期待が間違っていた。その商人に全て差し上げてくださいな」

 「態と見つけないということもありうるかもしれませんが?」

 

 いつもより目を細め何顒は袁紹を見る。何かを試すような、何かを考えそこに上がった疑問を除くための質問である。

 

「またまた、ご冗談を。想智さんのことも想智さんが選ぶ商人のことも間違いがあるとは思いませんわ。もしそうなったとしたなら、そうですわねぇ〜想智さんをワタクシの侍女にでもさせてもらいますわ」

 

 何顒にとってはある意味正解、ある意味予想通りの回答が袁紹より得られる。ため息をつきながら「やはりか」と納得し頭を下ろすが、すぐに袁紹の方を向き直し、その目を見つめる。そして袁紹はいつも他の人間に見せる何かぼっけっとした雰囲気の顔や、態とらしいニコニコ顔ではない本当の笑顔で何顒を見ていた。

 

 「信頼は嬉しく思います。ですが、気をつけてください。今は乱世、何が起こるかわかりませんし、もちろん私も人間、失敗もあります。あなたは本当の身内には気づかない内に甘やかすくせがあります。残念ながら甘やかす方も甘やかされる方も貴方があまりに自然に振舞うために気づきませんが。いつか、気づかないものがあなたに恩を返すことはなく、情も義理も感じることはありません。そのような意図はなくとも、貴方は貴方の首を自分で絞める事になるやもしれない。何もするなというわけではありませんが、一応心に留めておいてください」

 

 本来より潤沢な装備を持って参戦した劉備、本来より多勢をもって参戦した曹操。彼女が知る外史の道筋より大きく離れたところにはまだない。官軍も順調に負けたり勝ったりを繰り返しながら黄巾の弱体に成功している。そのような中ひとつの占い、噂が世間に流れた。

 

 「天の御使い?」

 「はい、管路の予言です。なんでも流星にのって乱世を鎮めるために漢土に降りるそうです」

 「……そうですか」

 「……意外です、“天”その言葉にもう少し反応があるかと思いました」

 「何も思うことがない、と言えば嘘になりますわね。ですが、“やはり来たか”という気持ちの方が遥かに大きい。天の御使いは誰のもとへと行くのでしょうか?その程度の疑問しかないですわ」

 「誰のもとへですか……、旗揚げすることも十分考えられるのでは?」

 「それこそ、天のみぞ知ることでしょう?漢という国のみを救う天なのか、」

 「民含め漢土の全てを救う天なのか」

 「まさしく見ものです」

 「貴女は人ごとですわね」

 

 

 2月も経たずに黄巾敗北の知らせが都へと届く。

 

 『曹孟徳、黄巾本隊を降す』

 

 その際、張角、張宝、張梁は首を討たれたらしい。なんでも三兄弟()は一間三尺程の大男で腕が六本とか手に持つ竹簡を振るうだけで落石を起こすとか、非常識なことばかりが書かれた手配書と全く同じような人間だったらしい。正直馬鹿らしいが、兄弟それぞれ三枚の手配書の顔と同じ首が送られてきたのである。その確認のために、以前張角たちを見たことがあると漏らした袁紹は宦官共に呼ばれている。

 

 「ええ、このような顔でしたわねぇ。汚らしい顔(……)が雁首揃えて吠えていましたもの、よく覚えていますわ」

 

 珍しく、いつもの金ぴかな服装ではない、質素な官衣を纏い宮へと向かう。知る人が見ていればおそらく驚くであろう。

 

 

 「ふむ、袁本初よ、なぜその時にこ奴らを討たなかった。そこでこ奴らの首を落としていれば、これほどの被害は出なかったのではないかっ!」

 

 

 冕冠をじゃらじゃらと鳴らし立ち上がる男。そしてそれを囲む十常侍含める宦官連中。

 

 「その通りでございますわ、この袁本初言い訳のしようもございません。あまんじて罰を受ける所存でございます」

 「陛下、お言葉ですが此度、袁本初殿はそれを補って余りある功を立てておりまする。洛陽の守護はもちろんのこと、此度の第一勲である曹孟徳へ兵の貸渡、そのほか風の噂では大勲を挙げた義勇軍にも援助をしていたとか。ご存知の通り兵法の基本は敵より多くの兵を集めることです。あの場で陛下のために袁本初殿があやつらに斬りかかっても多勢に無勢、討ち取られた挙句火に油を注ぐだけとなっておりましたでしょう」

「……良い、袁本初よ此度は見逃す。次はないと思うがよい」

 

 

 その後すぐに漢土を揺るがす報が知らされる。

 

 『霊帝崩御』

 

 黄巾、治まって半月後のことであった。もとより長くはないとされていた霊帝、黄巾の乱が治まり気が緩んだせいであろう。袁紹に向け次はないとし吠えたが、先に舞台を降りたのは霊帝であった。

 

 

 さて、話は張角たちのことに移るが、もちろん彼女は曹操の送ってきた首か違うことがわかっていたし、事前の知識で張角たちが曹操のもとへ身を寄せていることを知っていた。そして宦官の一人が袁紹にあの時あの場で行なった質問はこうである。

 

 「この者たちが黄巾(・・)で間違いないか?」

 

 その宦官は張角たちが首謀者であるから、天を現すは皇帝と同じように彼らを現す黄巾という言葉で張角達のことを尋ねた。三つの首は確かに黄巾の者である、だが、張角たちではない。あの場にこの三つの首が居たのも本当であるし、汚らしい格好のものが多かったのも確かである。それ故に彼女は聞かれたことに嘘はついていないが、言わなければならない本当のことも言っていない。何人かは気づいていたかもしれないが、黄巾の乱はこれにて一応の治まりを見せることとなる。

 

 

 袁紹はある程度の未来を、英雄たちが女性に変わった世界のことをこの世界に来る前から知っている。そこまで思い入れがあるわけでもなく、ある程度の流れと人物を知っているという利点だけであったが、それでも十分すぎるアドバンテージであった。彼女は潤沢な袁家の資金と農業改革、職人の抱え込み攻城兵器の開発などを片手間に対処できる程度の黄巾賊を相手にしながらおのが領地(既に韓馥は手回しにより左遷されている)に半ば引きこもるように行なっていた。

 

 

 ある日のことである、曹孟徳と共に黄巾の乱での功績として中級宦官たちの手回しで西園八校・中軍校尉に任じられた袁紹は何進に領地より呼ばれていた。

 

 「久しいな袁本初、どうだ私のものにならんか?」

 「お戯れを、それより洛陽に呼び出す程のことです、何か大事でもございますのですか?」

 「……宦官を討つ、でなければ我が首が危ない。何か案は無いものか、そう考えヌシを呼んだ」

 

 

 この発言、袁紹が無能と思っている者には本来出せない質問である。ではなぜ、何進は袁紹にこの質問をしたのであろうか?答えは単純、たんに袁紹のそのたわわな胸と黙っていれば美人な袁紹にベタ惚れであるからだ。袁紹としては鳥肌ものであったっが、お金お金と言いながら寄ってこない人間は久しぶりであったし、彼女に気に入られようと何進は彼女へよく気配りをしてくれた。この何進将軍、確かに俗物であったし、小太りの中年のおっさんでもあった。洛陽という地はまさに魔窟であった。己が望もうと望まないとも周囲の人間は、彼女の持つ資金迷声をあわよくば手に入れようと寄ってきたのだ。別にお金が惜しいわけでも地位が惜しいわけでもなかったが、目が銭の輩に付き合うのは非常に億劫であった。そして人間不信になりかけた時に、それを対処してくれたのが何進であったのだ。

 

 「安心しろ、人払いは済んでおる。おヌシが嬌声をあげようとも何をつぶやこうとも漏れることはない」

 「……まず洛陽の守護には董卓殿はどうでしょうか?異民族との戦を続け精強であると聞いておりますわ」

 「そうか、では早速その様にしよう!」

 

 誰かが聞いていれば確実に早っ!と思うほどの即断即決である。しかも、あからさま過ぎる話題のすり替えすらも成功している気がある。

 

 「各地に散らばる諸侯にも呼びかけるべきでしょうが、あまり多くは。丁原殿辺りが一騎当千の勇将を抱えているとのお話も聞いておりますわ」

 「では、董卓と丁原だけでかまわぬのか?」

 「あまりに派手に諸侯を動かせば変に思われますわ。幸いその二名だけであれば言い訳が聞きますわ。今陳留にいる曹操さんや、ワタクシが抜けた穴を埋めるとでも言っておけばよろしいかと」

 

 

 ここまでペラペラ案を出していれば袁紹アホの子じゃないとバレてしまうかもれない。でも実際にはそんなことはなかった。将軍としては中途半端に無能、人心には機敏、思い切りがかけ常に人に対し疑心暗鬼であるという、それが何進の評価であるが、袁紹の言葉にだけは何故かハイハイと従うほどにベタ惚れであるらしい。もちろん中身元男であった袁紹は生理的に受け付けないとこもあったが、性的なことを除けば袁紹にとって何進は話の分かるおっちゃん、それだけだ。

 

 

 その後、何進の呼びかけに応じ丁原が2000騎の騎馬を従えてやってくる。だがしかし、丁原が都に呼ばれてすぐ、何進と丁原は十常侍の手によって宮中で暗殺される。すぐさま董卓軍がと丁原軍の後続であった呂布軍1000騎が到着して治安維持に努めていなければ洛陽は再び荒れていたかもしれない。そして何進たちが暗殺されたのは、ちょうど袁紹が一区切り付け、南皮へと戻っている時であった。袁紹はすぐさま500の兵をつれ南皮を発ち、都へと向かう。もとより彼女は何進に宦官からの呼び出しに安易に応じないように言い含めていたのだが、共には丁原もいるからと安心して宮へと向かってしまった何進。結局もろとも討たれてしまい、彼が殺されたと聞き彼女はまず驚いた、そして知っていながらと自分にも宦官にも憤怒した。呂布も当初激怒していたのだが、董卓の説得で丁原のあとを継ぎ洛陽に駐屯することとなったのだ。ちなみに曹操に貸与していた兵はすり減った分も補充、更には1000名程追加されて袁紹へと返還されている。先の件、曹操はこのままで行くと借りを作ったままになり、後に大変なことになると考え、少々財政は厳しかったが全てを袁紹へと返したのだ。

 

 

 その場は自らの権に物を言わせ、宮に兵を進める。

 

 

 彼女が高々と掲げ振り下ろした剣に従い、兵が門に取り付く。まず、近衛の兵を問答無用で切り捨て中へと押し入る。途中出会う者は全てがなで斬りとなった。もちろん宦官の中にそこそこ親しくしていた者もいたのだが、その者たちは袁紹が洛陽に到着してすぐに自らの屋敷に引きこもっている。

 

 

 

「袁本初よ、ここを何処と心得る!宮中であるぞ!

 剣を引け!そして今その己が首を自らの剣で掻ききれば一族は見逃そうぞ!」

 

 

 一人の宦官が叫ぶ。そちらに目を向ける袁紹、一旦血に濡れた剣をを降ろし、男を見つめる。他の兵はすぐさま宮の中に二人一組となり散開し宦官の殲滅をはじめる。近衛もそこそこの精鋭を揃え袁紹配下の兵を迎え撃つが、いかんせ今この地に連れてきている兵は田豊の手によって育てられ、冀州で黄巾と戦い続けてきた兵の中でも更に腕が確かなものたちである。ましてや実戦を行う事がない、宮中剣技の近衛兵では少々話にならなかった、精々いないよりマシ程度なのだ。剣を下ろした袁紹が宦官側の話を聞く気があると見るやすぐに叫ぶ。

 

 「なぜ、何進ごときに、なぜそう忠を誓うのだ!」

 

 「確かに彼は俗物で、ワタクシを目で犯すような下卑た男でございましたわ、ですが彼に救われたのも事実。この袁本初、受けた恩は返すと決めておりますの。

 

 お世辞といえども、我が救われたのは事実!

 だた人より財を喰らう獣である貴公等には理解できまい!

 少しの恩も返せずうちに恩人を失う空虚さを!

 かまわん、我が全て責を背負う、殺すのだ!

 宮に巣食う悪鬼どもを討ち取れ討ち取るのだ、この袁本初がさらなる大乱の引き金となろうとも!」

 

 

 目の前にいた宦官を切り捨てる。それが片付くとすぐさま奥へと押し入り、彼ら兵士の目に映った宦官全てを善悪問わずに切り捨てさせる。だがそれも終わりに近づく。

 

 「都を騒がす逆賊よ!すぐに剣を置くがいい!さもなくばこの董仲穎が配下、華雄が討ち取ってやろう!」

 

 董卓配下の兵を引き連れた華雄が、宮へと到着したことがきっかけである。すぐさま未だ兵が回っていない場所、もしくは少ない場所を突破し袁紹は逃げ出す。

 

 「厄介なのが来ましたわね、目的は果たせませんでしたが、ここは引いておきましょう」

 「はっ!上東門より駆け抜ける。よいな!誰一人捕まるなよ!」

 

 

 彼女はそのまま連れていた手勢を引き連れ洛陽を出る、田豊の手によって手に入れることができた冀州の本拠に飛び込んだのだ。




ルビが意味のわからないところについている現象。
何回かやり直したが、訂正されず。
……なぜに?


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閑話 ヒトを知る

いつの頃であっただろうか?

幼い頃、母に連れられ名門である袁家を訪れたのは。

 

 

『えんしょうさま、吉利ともうします』

 

『そうですか、では吉利ワタクシと遊びましょう?』

 

 

そうあの時なのだろう、当時はまだ生きていた袁隗様に彼女を紹介された。

一つか二つ上らしいが、非常に聡明であると聞いた。

袁隗様が彼女に話しかけるまで、彼女は庭園の池の隅にある岩に腰掛けボーっと鯉を眺めていたことを覚えている。

何を考えているのだろう?そう思った。

 

 

『えんしょうさまは何をしているのですか?』

 

『堅苦しいですわね、麗羽でいいですわ。』

 

 

彼女は初対面の私にすぐさま真名を教えた、その時の私はまだ常識を習っている最中でその重みなど対して知らなかった。

そのためなんの考えもなしにそのことを受け入れたものである。

いつになったら遊ぶのだろう?

 

 

『れいはさま?何を見ているのですか?』

 

『何も、何も見ていませんわ。見えているものはありますが、見てはいない』

 

 

何を言っているのだろうか?全くわからなかった。

だけど、何か池を眺め、時折空を眺める彼女が非常に綺麗に思えた。

最初は遊ぶように言われていたはずだが、気がついたら一緒になって池を眺め、空を眺めた。

 

 

『吉利、あなたは何を見ているのですか?』

 

『水と空です』

 

 

突如彼女が声をかけてきた、意趣返しなのだろうか?

その時は何も考えずに答えていた。

 

 

『そうですか、水は、空は何色ですか?』

 

『水はとうめいです。空は水色です』

 

『そうですか』

 

 

一言だけであった、結局は何が聞きたかったのかもわからない。

 

 

『水は透明、空は水色、ならば空も透明なのでしょうね』

 

 

水色は水色、透明は透明ではないか?何を言っているのだろう?何度目かわからないがそう思った。

でも今になって思えば非常に笑えてくる話だ。

よくわからない話をした。

結局お母様と袁隗様が呼びに来るまで彼女とずっと池と空を眺めたのだった。

私にとって、忘れられない出来事。

彼女のどこに惹かれたのか、わからない。

でも気がついたら、それまではお母様と同じように真っ直ぐに下ろしていた髪を彼女と同じように巻いたのだった。

 

 

 

「華琳、実際のところの袁紹さんってどんな人なんだ?」

 

 

白銀に輝く服を着た、中性的な顔を持つ男性。

背丈はそこそこ高く、体も結構がっしりとしている。

そして彼の前にはドリルツインテールのまない……、可憐な美少女。

男性は北郷一刀、天の御使いと呼ばれる青年である。

少女は以前袁紹と花嫁泥棒をやろうとして結局失敗した曹操である。

 

 

「そうね、わからないわ」

 

「ん、わからない?どういうことだ、幼馴染で仲はよかったんだろ?」

 

 

彼女たちが今いるのは曹操の執務室、昨日袁紹からの檄文を受け取り朝議にて参加の旨を発表したとこである。

ちなみに使者は荀文若であった。

この後彼女は曹操に熱烈な歓迎と勧誘を受けることとなるのは余談である。

 

 

「そうは言われてもね、一刀。普段は馬鹿みたいな高笑いをしていたり、私とか春蘭の仕掛けた罠に簡単にハマるようなアホ……に見えるのよ」

 

 

心底意味がわからない、といった感じにため息をつきながら北郷の方を見る。

実は彼女が執務室で筆を持って竹簡に向かっていないことは珍しい。

 

 

「はぁ……?華琳がアホと思ったのならやっぱり頭はゆるいんじゃ?」

 

「でもね、一刀、あの子罠に引っかかる前に少しだけ目を細めるの」

 

「それがどうしたんだよ」

 

「はぁ〜、いい?一刀。彼女は罠の前で目を細めて、そのまま罠の前まで進み引っ掛かるの。

 どう考えても気づいているんじゃないか、と疑うのが当然でしょ」

 

「わざわざ自分から引っ掛かるのっておかしくないか?

 今の時代は名声こそが大事、今の袁紹さんみたいな外聞やあだ名は、名士を勧誘する際にも非常に困るんじゃないのか?」

 

「そうね、不利が多くて利が少ない。

 彼女が私たちを油断させようとしているなんて事も考えられるのだけど、ここまで逆の意味での名声は命取りだわ」

 

「じゃあやっぱりアホって評価に間違いはないんじゃないの?」

 

「……そうね」

 

 

本当にそうだったらどれだけ楽な事だろうか?

本来なら彼のことを呆れた目で見るのであろう、でも彼女には北郷のことを馬鹿にできない理由があった。

 

 

以前の彼女、二度目に彼女にあった時には私のこと忘れていたけれど、あの出会いを忘れられない私はどこかで彼女の噂を信じきれないでいた。

だが、噂通りの人物ゆえに私に出会ったことすらも忘れていたのではないか?そう考えたこともあった。

最初の出会いを今でも夢に見ることがある私には、あの時のように彼女が何を考えて何がやりたいのか、全くわからなかった。

 

 

でも、覇王を目指すかの彼女はそこで思考を止まることは出来ない。

 

 

「彼女が生き残っている限り、いずれか道は交わるわ、そのとき判断すればいい」

 



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サクを知る

……少しの間だけ、評価がなんか真っ赤になってた。
今後変わるかもしれないけど、びっくり。


 幾時ばかりかが過ぎた。

 

 このとき袁紹は洛陽に残してきた耳より、汝南より何顒が洛陽に入ったことを聞いた。この世界で党錮の禁があったのは、ちょうど袁紹が喪に服していた頃、曹操と袁紹が何かしらの問題(先の花嫁強奪事件など)を起こしていた以前の時期(つまり曹操と出会う前)でもあり、その時何顒は洛陽より離れ官を正すための行動をしていたとのことだ。

 

 すぐさま戻らなかったのは、おそらく彼女の知り合い、清流派であったか、党錮の禁自体は黄巾の乱が大きくなった際にすぐさま解除されたが、洛陽にすぐさま戻らず今の今まで静かだったのは、彼女が準備をしていたからであり、以前の繋がりをもってして今の漢の政治を幾分ばかりか正そうとしているのではないだろうか?

 

 

 党錮の禁の際に誅されたらしい司隷校尉・李膺や太傅陳蕃とも仲が良く、身分差ありながらの友誼もあったとの話を洛陽に来る以前の噂でも聞いたことがある。なんせ何顒、人のことはバカスカ言うくせに自分のことは棚に上げる性格で、非常に義に厚いことでも有名である。彼女何顒がまだ一諸生であったころ、虞偉高(ぐいこう)という友人がいたそうだ、その者が病に伏せた際に少しつぶやいただけである「父の仇を討てない事が無念だ」との言葉によりその仇であり当時財を持つことで名が知れた者を討ち、虞偉高の墓前に首級を添えたらしい。

 

 

 あの顔でその過激さである。

 

 

 さらには郭泰(かくたい)、賈彪(かひょう)等の親しき友人も党錮の禁よりそのあと少しで連座する形に亡くしている。宦官共にかける恨みもを一入のものであろうので、成功したのならば確実に皆殺しにするだろう。

しかし、奴らも馬鹿ではない、袁紹も一応の忠告をしたが熱くなった彼女を知らないのでどうなるかもわからない。本来の正史であれば彼女は董卓に殺されることになるのだろうが、袁紹は恋姫世界の董卓が傍若無人でないことを知っている。……が、それを補って余りあるほど宦官共が腐っていることも知っている。もし彼女が死ぬのならば企てが失敗し返り討ちにあった時であろう。

 

 

 

「袁本初、先の騒乱の罪に問わぬ。

 が、各地に檄を飛ばし董卓を討て、これは勅命である」

 

「謹んでお受けいたしまする」

 

 

 豚のように肥え太った(このとき袁紹は歩くのも大変だろうなと思った)、文官に読み上げられる勅。正しく玉璽の印が押されたこれは確かに勅命となるのだろう。だが実際は袁紹がいなくなった洛陽で宦官たちに請われ相国についたはずの董卓は、都で善政を敷くがあまりに宦官にとっては目の上のたんこぶとも呼べる存在になっていた。喉元過ぎれば熱さを忘れる。彼ら宦官にとっては恩義も自分たちに有益かどうかですぐさま捨ててしまえるものなのであろう。……そこまで考え違うことに気づく。

 

 

「なるほど、想智さん考えましたわね」

 

 

 そう、何顒は上手いこと宦官を謀ったのだろう、董卓を討つように唆した。おそらく、おそらくであろうが、宦官自身を使って宦官を排除させようということか。

 

 ワタクシが董卓さんよりも宦官を討つことを優先させると知っているか……使えるならば友でも使う、ましてや利害も一致している。洛陽に入場する際にどさくさに紛れて焼き討ちにし彼女らは長安に移るのだろう。おそらくは全てを董卓に押し付けて……。清流では濁流に飲み込まれるのなら、それを飲み込む海を用意すればいいということであろうか?

 

 

「貸しがひとつですわよ、想智さん」

 

 

 ならば道化を演じましょう。

 

 

 

 

”おーほっほっほ ちょっと董卓さんが洛陽で悪政を敷いているそうですので、

 みなさんで懲らしめますわよ、だから河内に集まりなさいな“

 

 

 檄文を発するのにでもこれである、本当に馬鹿みたいに思えるかもしれない。彼女は一部の人間の前を除いてある意味猫をかぶっているのだ。ほとんどの場合彼が知る原作の袁紹のように高笑いばかりしてアフォのフリだ。ついたあだ名は名門(笑)、袁家の二大看板、うつけ。彼女が俗人に理解できない開発や改革を領地で行い、それが財を食いつぶすように見えたこともそれに拍車をかけた。他の雄たちは彼女が野心のため、董卓に嫉妬したために兵を起こしたと思うことであろう。ならばかぶる汚名はさらに増えるが、どうせやらねば公式チートに殺される、いまさらである。

 

 

「……安穏が欲しい」

 

 

「姫〜、持っていくのはこれだけ〜」

 

「そうですわね。元皓さん、文若さん兵糧はこれだけですの?」

 

 

 人の気も知らないでとも思わないでもないが、正史、もしくは演義世界を望むであろう左慈達に対抗するには武は必須である。催眠であったか、そのようなものも使えたはずだがそれの対処はどうしようもあるまい。ならば恋姫でも演義でもどちらにでも居た顔良、文醜は必須。うまくいけば恋姫のように漢土を旅するルートになるかもしれない。そうなれば三国が興ったあとに蜀にでも行ってのんびりすればいい。

 

 

「はっ!我軍の糧はこれだけであります!これとは別に諸侯にせびられるであろうものは別に確保しているであります!」

 

 

 自分の頭の大きさよりもさらに長い冠をかぶる幼女、彼女の名前は田豊元皓、真名は老老。白髪、合法ロリな元不遇の武将である。我らが麗羽様はもちろん死ぬのは嫌なので身内の話はよく聞くようにしている。田豊さんは裏切るようなお人でないが、荀彧さんはすぐに出奔しそうなので、常日頃気を使っているのだ。

 

 

「せびるってあんたねぇ……

 はぁ〜本初様、本当に攻城兵器を持っていかなくてよろしいのでしょうか?

 おそらく、いえ確実に虎牢関を攻略するならばあれらは必要になるでしょう」

 

 

 我らがツンデレ猫耳軍師の荀彧さん、登用されてから今まで、袁家にてその敏腕を思う存分揮っている。本来の恋姫なら既に曹操の下に去っているのだが、今のところはこの地に落ち着いているようだ。この二名のおかげで本来の恋姫袁紹の数倍の資金と国力を得ている。兵に関してもそこそこ精強、袁紹直属の親衛隊や顔良文醜の兵に至っては虎豹騎並みの精鋭ぞろいとの評判である。

 

 

「何を言っていますの?そんな面倒なことは他の方々にお任せすればいいのですわ。

 ……ん〜ですが、文若さんの言いたいこともわからないでもないですわねぇ〜。

 少しぐらいは持って行っても構いませんことよ?」

 

「では一軍団ほど用意させます」

 

 

 バカのフリのためあまり派手なことは出来ない、だがヤりすぎると荀彧はささっと出奔してしまう。結構、非常に胃の痛い話である。

 

 

「文ちゃん!どこにぃって!こんな所にいた!面倒臭いからって細かいこと私に押し付けないでよ!」

「げっ!顔良っ!?ひめっひめっ!助けてっ、斗詩に殺される!」

「文ちゃん!人聞きの悪いこと言わないでよ!」

「あんな文字の羅列をあたいにみせたら死んでしまう!」

 

「「またはじまった」」

 

 

 ため息をつく、軍師達とそれを少々冷めた目で見る一人の女性。そこには多分の諦めも混じっていた。

 

 

 その後、荀諶、許攸等に留守を任せることにして彼女本人の出立の準備を開始する。許攸は袁紹が洛陽にて一暴れしてすぐに彼女の下にやって来た。どうせ許攸のことである、金蔓が居なくなったのが嫌か、董卓の下での金策が難しかったかしたのであろう。本人も「金さえあれば裏切らないアルね」といっそ清々しいまでに豪語している。まぁ、それ相応の働きをするから別によいのであるが。結局八万ほどの兵を、本来ならばさらに三倍を優に越す兵を動員できるわけだが、正直金もかかるし他の諸侯に睨まれるのも面倒なので殆ど置いていく。将兵に関しても結構な数がいるが、連れて行くのは田豊、荀彧、文醜、顔良で、それ以外の将は全て無名の者ばかりである。他の袁家の有名どころは基本守備を任せ置いていく。

 

 

 

 

 

 

 

烏騅(うすい)や、もう少しゆっくり歩きなさいな。

 他の者を置いてゆけば、ワタクシが狙われますのよ」

 

 

 黒馬踵が白き、名馬あり。

 

 その黒きの濃きは、本来彼女がいつも話す優雅とは程遠い色である。それこそ彼女が本当に優雅を目指すならば白馬なのだろう、だが彼女はそうはしなかった。彼女周りを囲む親衛隊の馬も全て黒馬、彼女の乗る馬はそれより一回り二回り大きいがやはり黒馬である。その上に金の細工がされた鞍を装備し、馬の胴体を足で挟んで騎乗している。

 

 

「姫様、此度は鐙を用意せんでよろしゅうございましたか?」

 

 

 30代半ば程、口髭と顎鬚を見事にの伸ばした一人の男が袁紹の話しかける。男の名を呂誕という、兗州東平郡の生まれで後の袁家の主将呂翔、呂曠の父である。先代より袁家に仕え、袁紹が袁家を継いだ際に汝南よりこちらに移ってきた(生家があちらのため子ら二人は兗州東平郡にいるらしい)。数少ない、袁紹自身を知る人間である。他には、何顒、田豊(少々前にバレたが袁紹は気づいていない)、郭援、郭栄、劉単等である。ちなみに前者二人以外は親衛隊の隊長格であり、袁家に仕えて長いものばかりである。

 

 

「構いませんわよ、別に乗れないわけでもありませんですし。今はあまり派手なことはしない方がいいですわ。まぁ、ワタクシが広めなくとも同じものを天の御使い様が広めますわよ」

 

「天の御使いですか、恐れ多い者ですな。占家管路は何を思ったか、私は奴が気でも狂うたのではないかと、そう思いましたな」

 

「既に龍も息断える寸前、民にとっての天は龍にはないのでしょう」

 

「誰が聞いておるかわからぬのです。あまり派手なことは申さぬほうがよろしいかと」

 

「……そうですわね。ああ、もうそろそろ御輿を用意してくださいな。烏騅は後ろに回しておいてください、演技も面倒くさいものですわねぇ」

 

 

 ならば止めればいいだけの話であるが、それをしないのは何かしらのこだわりが既に彼女の中にあるのだろう。少しばかりしてやって来た御輿、地に下ろされたそれに乗ると備え付けられた座に足を組んで座る。前六人、後ろ六人の計12二人によって抱えられたそれは実は馬車よりも乗り心地が良い。

かと言って移動が遅すぎるので普段は全く使えないのであるが、彼にとっては恋姫の袁紹の乗り物=御輿で繋がれてしまっている。個人的にはこれって格好の的だよなと思い、狙ってくださいって言ってるようなものだと、ある意味原作の袁紹の大物さに感心していた。そこまでするなら乗らなければいいのに。

 

 

 ここで親衛隊の話をしよう。

 

 他の袁紹軍の兵は鱗一枚が厚さ一ミリもない粗鉄の魚鱗甲に真鍮メッキである、いわゆる太陽にすら反射する金ぴかで、晴れの日は目が痛いことこの上ない。だが、親衛隊に関しては三ミリほどの鍛造甲冑に漆を塗り、さらに甲冑に穴を開け糸に針金を巻き込んだもので更に魚鱗を繋いであるのである。

更には魚鱗にはセメントに黒を混ぜ込んだモノを薄く塗りつけている。全員が甲冑面を付け黒ずくめ、装備品、剣、槍、諸葛弩の三点セットをそれぞれ与えられ、それらまでも全てが黒く塗られ、もちろん相当な金がかかっている(剣の刀身は別)。

※諸葛弩は10連装式の弩、三国志時代一般の設置型の複数発射のものや複数装填複数発射のモノではない。ちなみに連弩と諸葛亮の関係は有名であるが、諸葛弩と諸葛亮は関係なく、両方とも連弩扱いである。

 馬も黒に統一、普通の中国馬よりも優秀な夷狄の馬を莫大な食料と引き換えに手に入れている。ついでに蹄鉄も装備済みである|(蹄鉄工の育成、未だ研究中)。親衛隊1000騎で普通の騎兵の5倍近くの金がかかっているのだ。

 

 

 そこまで金がかかっているのならば、さぞ強いのだろう。もちろん強い、元々曹操に貸し出した兵や黄巾の軍に少数突貫させた兵の生き残りで構成されており、一振りで人間を弾き飛ばす公式チート共には流石に敵わんが、それでも時間稼ぎと盾にはなる。(余談だが曹操は兵の返還の際、新兵と入れ替えて返還するかどうか迷った。)甲冑の性能で言えば、流石に強弩は無理だが、普通の弓矢ならばほとんど通さない。蹄鉄の打ち直しやらなんやらで維持費も馬鹿にならないが、虎の子であり実戦訓練以外では殆ど使われていない。今回もついでに長距離行軍の訓練ついでに同行はさせている、がおそらく出番はないだろう。

 

 

 御輿に移ってからは袁紹は軍の前方に移る。代わりに親衛隊は後陣に移り袁紹直下の兵と悟られない様にする。もちろん口止めはほとんど安心してよい。なんせ親衛隊員の全てが警邏(ある意味監視)付の一等地に住居を構えているのだ。

 

 

「目的の集合場所まで、あとどれほど時間がかかりますの?」

 

 

 金ピカ装備の前を行く袁紹軍では普通の騎兵に尋ねる、もちろん先ほどまでの会話の呂誕ではない。前方というが流石に先頭ではない、彼女の前には騎兵が三百騎が索敵合わせて展開している。

 

 

「二日ほどでしょう、今日はそろそろ夕刻、日が暮れ始めますのでもう少し開けた場所に出たら野営します」

 

 

 宣言通り、その後二刻ほどで開けた場所に出、簡易設営をはじめる。丸太でできた、差込式の簡易馬坊柵やら二メートルほどの見張り台などである。見張り台等を組み立ても実際は殆ど今のところ役には立たない、なんせ奴さんは洛陽付近の関に閉じこもり出てこないはずだからである。これが集結する前に各個撃破等でも試みれば、地形的周囲の地理においても待つのは挟撃であり、そうなった場合敗北が確定するのでまずない。と言っても、今の段階で袁紹軍が壊滅すれば連合結成すらもおぼつかないだろう。流石に賭けの要素が強すぎるので、董卓軍の軍師であり、できる限り確実な結果を求めるであろう賈詡等は絶対に繰り出さないことが分かっている。これがもし曹操ならば一か八かに賭けて出撃したかもしれないが……

 

 

 そして二日、同じように行軍し続け、宣言通りに目的の場所へと到着した。まだほとんどの諸侯が到着しておらず、孫旗と鮑旗、陶旗が翻るばかりである。袁紹はそのまま設営を命じると、親衛隊の数騎のみを従え虎牢関へと向かう。

 

 

「……関というよりは城塞ですわね」

 

「ふむ、姫様は見たことがありませんでしたかな?」

 

「洛陽を出た時は、見つかりにくい獣道に毛が生えた程度のものを選びましたわ。あの時はそこまでの数がいたわけではございませんもの。まあ、おそらく塞がれているでしょうし、兵も置かれているでしょう。何よりその道を通れば時間がかかりすぎますわ」

 

「ですが、相手は天下に名高い虎牢関、順当に攻めれば被害が大きくなりませぬか」

 

「諸侯は名を得るためにこの地に集まっておるのですわよ。関を落とす役目を誰かに押し付けるならまだしも、董卓の将が守る城を回り道をしたら臆病風に吹かれたかと、こぞって笑うでしょう。それこそただの侵攻ならば、これらも気にする必要がなかったのでしょうけれどもね」

 

 

 それから二刻馬を走らせたであろうか、ようやく目的の虎牢関の姿が見え始める。なるほど、関とはよく言ったものか、谷間の中央に要塞を置き左右の隙間を城壁で埋めている。※本来後漢の時代では虎牢関は関ではなく、城塞であったらしい。汜水関と虎牢関は今回同一の物の別称として扱う。左右の薄い城壁を攻めようとすれば城壁と要塞からの攻撃、普通に前方から真っ向に攻めても高く頑丈な門扉。難所の名を欲しいままにしておろう。

 

 

「そろそろ戻りますわよ、これ以上は目立ちましょう。いつ他の諸侯も着陣するかわかりませんし、挨拶に来たときいなければあとが面倒ですわ」

 

「ふむ、そう言ううちに遠目にて気づかれたようですな、非常に目が良いものがいるようです。広目天の千里眼もかくやとこそ、これで顔まで判別されていたら笑えましょうな。今はまだあちらも様子見のようですが……、これ以上滞在すると向かってくるでしょう」

 

「広目天ですか?」

 

「遥か西より伝来した教えにある千里を見渡す者の名です。あまり広く知れ渡っているものではないので、知らなくてもよろしいでしょう」

 

「そうですわね、興味も殆どないですし」

 

 

 そこまで呟き共に踵を返す。元々そこまでの情報は必要ない、単に興味がてらに有名な戦場を眺めに来ただけである。彼女と話す呂誕、そして少し離れた位置よりそれを眺める親衛隊。このとき袁紹は外套をまとい、その目立つクルクル頭|(髪型であり中身の話ではない)をストレートに降ろしていた。金髪は目立つが、これだけでも結構印象が違う。虎牢関にもそこまで|(人影がギリギリ見えるぐらい)近づかなかったので、彼の言ったようにおそらく誰かという所までは気づかれていないだろう。

 

 

「しかし、自分でやったとはいえ、あの鎧は目立ちますわねぇ〜」

 

「ここからも光の反射が見えますな。ですがよろしいのでは?晴れの日ならば弓で狙われた際には目くらましになるやもしれません」

 

 

 そう簡単に董卓軍の兵が出撃しても追いつけない位置まで馬を走らせ、その後は歩かせる。毎度のごとく呂誕は横に、残りは前に三騎、後ろに四騎である。

 

 

「……確かにそうかもしれませんが、朝駆、夜駆には絶対使えませんわね。普段は私のように外套を用意させましょうか?全く、軍とはお金がかかりますわ」

 

「ならば軍が必要のない、姫様が漢を再び立て直せばよろしいでしょう。あなた様が立ち、天下に名を轟かせるのはそれこそ袁家に使える者たちの悲願でありましょうぞ」

 

 

「……そう簡単にそれができたら困りませんわよ」

 

 

 消え入りそうな、隣に居る呂誕には聞こえるか聞こえない程度に呟き、最後に袁紹は烏騅を駆けさせ、前をゆく三騎を追い越し陣へと走り去る。もちろん他の者も慌ててそれを追うが、かたや名だたる馬に匹敵する烏騅、もう一方もそこそこ名馬であるが、流石に烏騅には及ばない。彼らはあっという間に引き離され置いてかれてしまった。結局彼らが彼女に追いついた?のは、陣の入口の前で袁紹が勝ち誇った目で親衛隊員を眺めている所であった(人はそれを最後まで追いつけなかったと言う)。



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トキを知る

グダグダ、何か足りないのはいつものことであります。
ご指摘された、炎症→袁紹に訂正。
ついでに探している時に見つけた、遠→袁に訂正。

……追記に対しての感想返しって、できないんですよね。
さて、張郃さん?まあ、待ってください。登場してない方は本拠地で居残りなんですよ、多分。
四話より、他の袁家の有名どころは基本守備を任せ置いていく←これ


 いくつかの天幕を無理矢理つなぎ合わせたような大天幕、その中に数多の諸侯が集まっていた。北は公孫、南は袁術、東は陶謙、西は馬騰といった具合である、もちろんその中には曹操、劉備、孫策と言った三国志での英雄も居るには居るのだが、今はまだそこまでの地位にはいない。曹操の後ろには北郷一刀、夏侯淵、劉備の後ろには関羽、諸葛亮、孫策の後ろには周瑜、黄蓋といった名だたる将も控える。もちろん他の諸侯の後ろにもそこそこ名の知れた人が控えている。そして天幕に入っていく袁紹、彼女の後ろには田豊、文醜が付き従う。

 

 

「おーほっほっほっほっほっほっごぉごっほぉごっほぉ、(ふぅ慣れないことはしないほうがいいですね)。

 みなさん、良くワタクシ、そうワタクシ袁本初の檄に集まってくれましたわ!」

 

 

 高笑いする袁紹を冷めた目で見る諸侯、若干青筋が立っているのは気のせいではないであろう。それは何故かというと、彼らが集まって一刻、諸侯が使者を立て彼女を呼びに天幕まで向かって更に一刻ほど経っているのである、待たせ過ぎであった。もちろん態とであったのだが、彼は内心申し訳なさでいっぱいであった。

 

 

「どうでもいいけど、麗羽、さっさと軍議を始めましょ。いい加減待ちくたびれたわ、いくら名門とはいえやりすぎとは思わなくって?」

 

「何を言うのですか、孟徳さん、ワタクシそこまでみなさんを待たせたつもりはなくってよ?本来なら半日はかかるところをここまで急いて来ているのですわ」

 

「はぁぁぁ~、そうね。それでは袁本初殿、開議をお願いしますわ」

 

「これより反董卓連合の軍議を開始いたしますわ!

 おーほっほっほっほっほっほっほごぉっごほっごほっ」

 

 

この時ほとんどの人は思った、毎回失敗するならやらなければいいのにと……

ついでにやっぱり袁家は馬鹿なんだな~とも……

 

 

 それから軍議が始まり数刻、諸侯は未だに方針を決めかねていた。とりあえず盟主すらまだ決まっていないのである、何も決定しようがない。誰もが名声は欲しいが厄介事はゴメンなのである。袁紹としては袁術あたりが名乗り出てくれないかな~、やっぱり自分でやらないといけないのかな~なんて考え、欝になりながらも態とらしく自分やりたいですよオーラ(偽)とそれっぽい微妙な発言を発していた。

 

 

「そんなことなら袁本初さんがやればいいと思いますっ!」

 

 

 突然席より立ち上がり叫ぶ劉備、そしてそれを見つめる諸侯。誰だお前的な視線によく言ったぜ的な視線を一気に向けられた劉備は、小さく「うっ」と身じろぐがすぐに体勢を元に戻す。後ろでは諸葛亮が「やっぱりやっちゃたよ、この人」と、こめかみを抑えて頭を左右に振っていた。おそらくほぼ全員が彼女を盟主にしようと当然のごとく考えていたが、彼女を推せば「袁紹のことだ、厄介事を押し付けるに違いない」とこれまた当然の如く思っていた。それ故の賛辞の視線で、ほとんど名前が売れていない故の誰だ的な視線である。

 

 

「え~確かあなたは~」

「劉玄徳よ、麗羽」

「ああ、そうそう劉玄徳さんでしたわね」

 

 

 態とらしく知らない名前を思い出そうとする彼女にすぐに割り込む曹操。この時、劉備としては、檄の内容(実は袁紹の書いたものと田豊の注釈合わせて一組で届けられた)勅命であることと、洛陽の現状(悪政は袁紹が使者から聞いた内容であるが)に憂いてここまで来たのだ。早々に開放したいと考えここまで来ているのに、今の何も話が進まない状況は問題である。

 

 

「そうね、劉玄徳の言うとおりだと思うわ、麗羽、貴方なら十分盟主として諸侯を纏めることが可能なのではなくって?」

 

 

 気持ち悪いぐらいニコニコし、劉備の考えを推す曹操。もうめんどくさいしようやく生贄が出てきたんだからからさっさと決めろよ、的な笑みである。

 

 

「え~それでは不本意、不本意ながらっ!劉玄徳さんがそこまで言うならばワタクシ、そうワタクシが盟主を務めさせてもらいますわ!」

 

 

 ぶっちゃけやりたくないが、さもとてもやりたかったですよ的にテンションを上げる。正直袁紹本人、彼女は彼女でさっさと自分の本拠地に帰ってベットに飛び込んで惰眠を貪りたかった。それでもお話的にやらなければいけないのが、非常に頭が痛いところである。では今度はお話無視してやらなければいいというだけだが、そうしてしまうと今の董卓のポジションは確実に袁紹となっていたであろう。過去にマジギレして宮内で大立ち回りしたことを普通逆だが「己がやったことに反省はしていない、でも後悔はしている」的に思っていたのだ。この時少しばかり何顒のムチャぶり(反董卓連合結成の原因)に頭を抱えたい気分になった。

 

 

「それではっ!そんな劉玄徳さんに先鋒という名誉を!名誉を!与えますわ!感謝してくださいなっ!」

 

 

 劉備如き弱者ができるはずがない、やはりそうなるのかと他の者たちは思いつつそれを命じた袁紹をある者は馬鹿めと見つめ、ある者は劉備へと哀れみの視線を向ける。なんせ、名だたる優将である張遼に華雄が虎牢関には篭っているのだ。真当に当たれば、たかが平原の相と義勇兵しか抱えない劉備では一瞬で壊滅させられかねない。その他の大勢力の諸侯でも下手をすれば、正面切手城に挑めば大被害をうける恐れがあるのだ。劉備は自分の発言でやらかした失態に青ざめた。

 

 

「も、申し上げましゅっ!」

 

 

 見ていられないと思わず声を上げる諸葛亮、その顔は劉備と同様真っ青である。低いながらも地位を得、ようやく見えてきた理想への架け橋が無くなりそうなのだ。諸葛亮的には自分の首を賭けてでも、次につなげればいけないのだ。

 

 

「あら?貴方は?」

 

 

 そしてわざとらしく視線を移す袁紹。内心ではやはり来たかと、しかしこなければどういった風に兵を貸し出そうかと考えていたところである。

 

 

「劉備旗下の諸葛孔明と申しましゅっ!」

 

 

 こんなところでもカミカミである、流石はわわ軍師。もちろん本人的には笑い事ではなく、衆目に失態を晒してしまった、状況合わせて蒼白ものである。

 

 

「それで諸葛さんは何を言いたいのかしら?」

 

「私たちは一回の相でしかありましぇん!どうか袁本初さんに援助をしてもらえないでしょうか!名門である袁本初さんならきっと簡単なことだと思うんでしゅっ!」

 

 

 内容を確認し、心の中では微笑ましそうに彼女を見る袁紹。諸葛亮は結構な萌えポイントであったのであろう、本来なら絶対に蹴るようなお願いである。まあ、演義や横山三国志の影響で劉備好きの袁紹としてはもちろん融通利かせるつもりであるが。

 

 

「そうっ良くわかってますわ!え~と諸葛ほうめいさん!

 この、この名門である袁本初に何でも言ってごらんなさいな!」

 

 

 言質をとらせて、やっぱ馬鹿だわと思いつつ彼女をみる曹操達。ある意味彼女の手のひらで踊っているとも知らずにである。この中で田豊のみ、南皮の城壁の上で一人こっそり盃をかたむけ呟く袁紹を見たことがある。本来の彼女そのままで言えば、なかなかに聡明、民のことを思い、知らない者まで気にかける姿も知っている故か、とても優しい目で見つめる。優しいが何か勘違いしてる袁紹だからこそ、いつも話を聞いていないように振舞う袁紹の元に田豊はいるのだ。

 

 馬鹿のフリをする、それがお芝居であると、自分がわざと不遇に扱われているようだが、実際には田豊長年の経験もあり、田豊彼女が進言したことで民のためになることは、ほぼ全て気づけば実行されているのである。そして彼女は軍師である自分が、そんな彼女のある様に、黄昏る袁紹の姿を見るまでは気付けなかったことに恥じていた。

 

 それ故、本来の彼女の功績がなかった事になっている事にも目をつぶり、彼女がなぜ演技するのかは知らないが、袁紹が満足するまでは、もしくは自分に話してくれるまでは、袁紹を以前の馬鹿な子を扱う様に努めていた。本来なら遥かに年上である彼女は袁紹を抱きしめて優しく甘やかしてやりたかったが、それをすれば何をしようとしているかわからないが、彼女の考えを否定するかもしれないと、そうすることも抑えて……

 

 

「そ、それでは兵一万と兵りぃうと装備をお願いでますでしょうか!」

 

「へ、兵一万ですって!?」

「できるわよね、麗羽。なんたって名門なんですもの」

「曹操さんあなたねぇ!ワタクシの兵力の八分の一ですわよっ!」

「へぇ~できないの、あ、あ、あ~、名門て行っても」

「も、もちろんできますとも!」

「そ、よかったわね劉備、袁紹が一万貸してくれるそうよ」

 

 

 もちろん一万はさすがに多いな~と思いつつ、元々貸すつもりであったので、いかにも乗せられた様にする。ここまで騙せていればある意味演技チートである。ダメな方向にしか使えていなのが非常に残念な話であるが。と言っても、ただ適当に生きるだけで良いので、身の丈に合っていない賢人のふりをするよりは普通に楽である。

 

「あ、ありがとうございます、袁紹さんっ!わたし袁紹さんのことあまり良い」

「桃香さまっ!」

「いい人だってずっと思っていましたっ!」

 

 

 また、危ない発言をしそうになった劉備を諸葛亮が一喝する。本来彼女が言おうとしたことの内容に当たりが付くゆえにコントをしているふうにしか見えないが、あえて其のへんは無視して機嫌を良くする。しかし、分かっているのだろうか?以前彼女は袁紹に旗揚げの援助をしてもらっているのである。あれのおかげで本来の苦労の数分の一しかしていないことを。

 

 

「うふふ、劉備さんこれ以上ワタクシを褒めても何も出ませんことよっ!」

 

 

既に中の人は精神年齢30代(笑)の大台に乗っている、感謝されたいわけでもなかったが、流石に劉備のこの扱いには(別にオレ悪いことしてなくね?)と心の中で涙した。

二度目になるが、恋姫含め彼女は劉備好きなのである。

 

 

「七乃~これはいつになったら終わるのじゃ~?」

 

「さっすが、お嬢様!毎度のごとく空気が読めていませんっ!大丈夫ですよ、お嬢様の可憐なお声で麗羽様にお願いしたらすぐに終わらせてくれますよ!」

 

 

 ほとんど空気であった袁術、彼女の性格からしてはよく持ったほうである。袁紹が余計なことは言わないように張勲へ蜂蜜の壷を渡して交渉していたのである。本来は騒ぐなという意味で渡したのだが、まあ、それを張勲は袁紹が盟主になりたいからと、そう受けとってしまったわけだが。

 

 

「のぅー麗羽姉さまー、さっさと終われせてたもー」

「どこまでも棒読み!お嬢様のそこに痺れる憧れるっ!」

「わはははは、七乃~そう妾を褒めるでないっ!わはははは~」

 

 

「……し、仕方ありませんわねぇ。公路さんがそこまで言うなら閉議しますわ」

 

 

 結局殆ど何も話し合ってないのだが、他の優秀な諸侯と優秀な部下が勝手にやってくれるので、問題はない。袁術の発言にて頬を引きつらせ更に頭を抱えたくなったりもしたが、そのまま袁紹は天幕を出る。

 

 

 

△▼

 

 

 

 袁紹が天幕を出ると袁術もあとに続くように出るが、他の諸侯はそのまま立たずに天幕に残ったままである。ついでに言うと文醜は天幕を出、田豊もそのまま残り、袁紹達と入れ替わりに荀彧が入ってくる。

 

 

「さて、厄介なのが全員出たところで軍議を始めましょうか」

 

 

 曹操の発言であるが、非常に喧嘩を売っている。とは言っても彼女には、彼女なりに思うところがあって袁紹を退室させたのだが、それを諸侯は知る由もない。それゆえ単に、厄介払いをしたのだろうと、本当にそうとだけ思っている。

 

 

「袁家の軍勢が戦い、劉の旗印がそれを率いる、此度の戦名を得るのにはうってつけでしょう。でもね、正直物足りないと思うの、虎牢の城を落とした先にはおそらくすぐに陣があるわ。ましてや城の先は開けた地、騎馬を操る彼らの独壇場でしょう」

 

「何が言いたい、曹孟徳殿、我ら足りぬ頭に教えてはくれないものだろうか?」

 

 

 曹操の前口上を遮り、孫策が挑発混じりの質問をする。ちなみに孫堅は未だ生きており、長沙の太守をしている、策では劉表相手に留守をまかせるには少々駆け引きが心もとなかった為、堅自らが睨みを聞かせているのだ。緩く、そして軽くなっていた空気を引き締まるための曹操の前口上である。孫策まだ若く、気が短い、そのため少々空気が読めなかった。ある意味孫堅の考えは正しく、間違っていた。

 

 

「貴方は確か、袁公路の配下についている、自称孫子の末裔だったかしら。あなたの先祖の孫子の教えには礼儀がないのかしら?もしそうならば、私の知る孫子ではないわね、いえ、ここにいるどの方々が知る孫子でもないと思うわわかったのなら、出口はあちらよ?あなたの飼い主と同じくさっさと退席するのね」

 

「華琳さん、落ち着いてくださいっ!優しく、優しくっですねッ!」

 

 

 曹操も口では相当なことを言っているが、実はそこまで怒ってはいない。内心はため息をつきながら、他の諸侯の仲裁を待っていた。一応のけじめの姿勢を見せる必要がるので、そのためだけである。そしてそれを真面目にとった張邈によって取り押さえられそうになっているのはギャグなのだろう。孫策に関しては、隣に控える周瑜によって前口上の説明を受け、己のしでかしたことに顔を真っ赤にしている。

 

 

「……慈協、あなたも麗羽の後に付いていかなかったのね。と言うよりいつもに比べて静かだから、気づかなかったわ、寝てたの?」

 

「ひどいっ!?華琳殿の中で私の扱いがひどいっ!?」

 

「……はぁ、まあいいわ、その顔を見ればだいたいの察しがつくから。本題に入りましょう、袁家との詳細の打ち合わせを劉旗の者はしていただきたい、荀文若殿が任されているそうよ。

 それと、……そうね」

 

 

 少しあくどい顔をしてみせる曹操、なにか思いついたようである。さて、ここでこの場に集まった諸侯を紹介しよう。公孫家、馬家、曹家、鮑信、劉旗、劉岱、劉子恵、許攸、劉祥、孔融、張家である。参加したものはさらに居るのだが、直接参戦ではなく後方の睨みを聞かせているのみである。

 

 

「孫伯符殿、劉玄徳殿と同じくして先鋒を受け持ってもらいたい。ふふふ、どうせ、自薦するつもりだったでしょうから、大丈夫よね?」

 

腹黒華琳さん、降臨。

 

 孫家としては、出来レースとわかっている戦において兵を無闇に減らしたくはない、この戦いが終わったあとには劉表との一戦も控えているのだ。そのため彼女は、無難に戦場の後方で補給でも受け持つように母よりは言いつけられていた。曹操もそのようなこと(矢面に立ちたくないこと)は分かってはいる、だが前口上を駄目にされた仕返しをせねば気がすまないだけであった。

 

 

「……くっ!承知した」

 

「では、残りはそうね、張孟卓殿、此度の盟主である袁本初殿の奔走の友であるらしいから、煮詰めていってくださいな」

 

「ちょっ!?華琳殿っ!?許子遠殿もいるのですがっ!?」

 

「……ヒトに押し付けないで欲しいアルネ。賃金払うなら別ヨ」

 

「味方がいないっ!?」

 

 

 恋姫の主人公たる北郷一刀や、他の諸侯も結構数がいたのだが、始終空気であった、気にしてはいけない。皆、惰性で集まったいるだけ、あわよくば名声を高めようと、もしくは参加しなかったことで変な悪名など流布されては困るのだ。基本、こういうものは音頭をとって話をした者が順に利か不利を得ることができる。前者は曹操、袁紹、袁術で、後者は劉備、孫策である。だがしかし、こういったものは加減が必要であまり必要以上に不利ばかりを押し付けると、下より突き上げが来る。これは兵を要求された袁紹である。孫策の場合、先に落ち度を作ってしまったし、一番槍自体はそう悪いものではないのだ、そのため何か付けなくとも納得させられた。ここらが上手くなければ、損をするのだ。

 

 

 この後、虎牢までの先鋒とそれ以降の陣地作成の役割分担、夜の警備の分担だけを決め軍議を終えた。策などはその場の者たちが臨機応変に組み立てるのだ、備えのみ準備してその他は放置である。そして、後方からの補給が一旦届くまで、二日後を目処に開戦の狼煙が上がる。

 

 

 

△おまけ▼

 

 

田「……いや待て、許よ。なぜ貴公がいるのですか?」

 

許「甘いアルネ、お金の匂いするところに我アリ。

 自分たちだけ旨い汁を吸おうなんぞ、天帝が許しても、この許子遠は許さないアルネ」

 

華「……そういうん問題なのかしら?」

 

 

注1、うちの麗羽さんじゃなければ、さらし首ものです。

注2、というより、付いて来ていることに麗羽さん気づいてません。




テラ劉備スキーの麗羽さん。
今後、どうなるかは見ものであります。


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シンを知る

 程なくして汜水関から華雄を引きずり出し、打ち取った劉備軍。この時わずか開戦より二刻であった、……何があったし。いつの間にか彼女(えんしょう)の知らないうちに、孫策軍が加わっていたため、矢面に立たされた袁紹配下の兵の被害も少なかった。

ので、袁紹彼女としては非常に満足である。

 そしてちゃっかり戦場にて、深手を追っていたが生きていた華雄を確保した袁紹、今までこっそりと援助をしていた華佗にお願いして彼女と重傷な兵の治療をしてもらう。援助してくれていた相手が何人かの者を通していたために袁紹と知らなかった華佗は、呼びつけられた天幕に入って袁紹、彼女がいたことに驚いて、

 

 「あなたが華佗さんですわね?彼女と兵達をよろしくお願いしますわ。貴方の成したことへのお礼なら、しっかりと考えていますので」

 

と頭を下げられたことに二度驚いた。

 

 噂ではどうしようもない人間と聞いていたのだから仕方がないがしかし、華佗が彼女の傘下である州を巡っていた時の彼女の領内の治安の良さと民の笑顔を見て唖然としながらもひとり納得していた。だが他の諸侯はそうではない、彼女の領内の繁栄は彼女の部下の手腕であると思っていたし、彼女自身はバカだとそう決めつけていた。

 

 「なにを惚けていらっしゃるのかしら?何かおかしいことでもあったのですか?」

 

思わず、素に戻った袁紹のつぶやき、それを聞いて華佗は我に戻る。

 

 「いや、なんていうか、噂なんてあまり当てにならない物、なんだなぁと思っていたところさ」

 

 本来なら改まった話し方をしようと決めていたが、彼女なら大丈夫だろうといつもの口調で話す。実際、それを聞いて彼女は「はい?」と不思議そうな顔をしたかと思うとクスクスと笑い出す。そしてそれを見て華佗はやっぱり大丈夫だったかと微笑み頷く。

 

 

 「そうですわね、他の方からの評価ではワタクシは馬鹿だったのですわね、できれば黙っていてくださいな。誰も信じないかもしれませんが、もし曹操さんにでも気づかれたら困りますから」

 

 「でも君はなぜそんなことを……、いや聞くべきではないな、済まない忘れてくれ。それでは治療をはじめようか」

 「ああ、申し訳ないのと思うのですけれども、彼女の治療が終わったら拘束しておいてくれませんか?きっと元凶であるワタクシの陣だと知れば激昂しても仕方ありませんから」

 「いやしかし、それを言うなら君はなぜこんな戦いを……いやこれも余計なことか」

 「いえ、そうですわね、これを見てくださいな」

 

 彼女は華佗にひとつの竹簡を手渡す。中身はもちろん帝、いや十常侍からの勅命である。

 

 「そうか、そういうことか、君はつくづく嫌な役回りなんだな、そうだ」

 「うふふ~華佗ちゃ~ん、こんなところにいたのぉ~」

 

突如現れるガチムチ筋肉の巨漢女、貂蝉。

 

 「誰が三日三晩うなされるようなグロデスクな野獣な変態よっ!」

 「おい、貂蝉、袁紹殿はそんなこと、というかお前が登場してから、一言も喋っていないぞ」

 

 

 珍しく呆れたふうに漢女(かのじょ?)にジト目を向ける華佗。実際少し袁紹も突如現れた貂蝉に対し悲鳴を上げようになったが、寸前のところで飲み込んだ。彼がいるところに奴がいても別段おかしくないことを知っていたからである。一応心構えはしていても声を上げそうになるのは、げに恐ろしき漢女であるが、努めて顔には出さず無表情を貫いた。もしかしたら、頬、目の辺りが若干ひきつっていたかもしれないが、許容範囲であろう。

 

 「……あれ?」

 「ごほっん、華佗さん彼女を紹介してくださいませんか?」

 「……ああ、そうだな、彼女は貂蝉、そして貂蝉、彼女が援助者の袁紹殿だ」

 

と言うより貂蝉としては、既に酷評され続けていたので、逆に反応がないのは珍しすぎた、それ故いつものノリで突っ込んでしまったのである。そして、彼は既に慣れたものだが、袁紹が彼女の登場に声を上げないどころか兵を呼ばないことに戸惑い?を覚える華佗。今まで何度治療中の患者から衛兵を呼ばれそうになり、なだめるのに大変だったか。医療しか考えていなさそうな、医療バカな華佗の唯一の悩み出会った故である。

 

 「袁本初と申しますわ、挑戦さん」

 

 「なんか字が違う気がするワン、でもいいわこちらこそよろしくお願いねぇん、くねくね」

 (これまた不思議な外史ねぇん、はぁぁ早くご主人様に会いたいわぁん、くねくね)

 

 

 そして華雄の治療が終わる、華佗が言うには目覚めるには少々時間がかかるとのとのことだったが、彼が治療を終え退席していた袁紹にその旨を報告して、戻ってきた時には既に華雄は目覚めていた。彼女の生命力に驚きながら(この日は華佗にとって生涯で一番驚いた日になった)当初の予定通りに話を進める。

 

 「それでは彼女は悪くないとあなたはおっしゃるのか……」

「ああ」

 

猪武者と有名な華雄も突進グセと激昂しやすい性格がなければ本来優秀な将なのだ。最初に見せた竹簡を読み全てを悟った彼女はもう少し暴れるかと思った華佗の予想とは異なり、大人しいままであった。彼のその後の説明も淡々と聞き、彼の顔を見つめる華雄、既に拘束は必要ないと外してある。

 

「いや、しかし俺が言うのもなんだが暴れないのか?」

「ん?そうだな、袁紹の名前を聞いたとき一瞬、カっとしたが、よくよく考えればと納得したのだ。月様と同じく彼女は漢に負い目があったし、良くも悪くも漢の臣、ましては洛陽から奴を追い立てたのは呂布と私達だ、お前の言う袁紹があの時から今まで我らを恨んでいないかったということも分かっていた、ならば私がグダグダ言うのもおかしいだろう。袁紹は全ての元凶は自分だと思っているのだろうが、これは仕方ないとは分かる。奴を恨むのではなく、恨むならこの世だろうさ、ああこれは我らが軍師賈詡には内緒だぞ」

「そうか、わかった、袁紹を呼んできても大丈夫か?」

「ああ、安心しろ、奴に掴みかかったりしないさ」

 

「その心配はしていないさ」

 

華佗は一応(袁紹も彼に対しては、そこまで必要あるものとは思っていなかったが)、警護として配備されていた兵に袁紹への言付けを頼む。その後程なくして袁紹は兵に連れられこの場に戻ってくる。

その際、流石に心配した兵が着いてこようとしたが、

 

 

「何を言ってますの?今から敗軍の将に袁家の素晴らしさを教授させるのですわよ?護衛なんぞ必要ありませんわ」

 

 

と言ってそのまま追い出してしまった、華佗はそのまま放置である。彼がこういった話を言いふらすことはないと分かっているし、どちらにしてもおそらく、華雄に無理をさせないためにテコでも動かないだろう。彼の心象を悪くすることは避けたい、まあ、自分は追い出されるのに彼が残ることにも、兵からしては心穏やかになれない(ひきさがれない)原因だったのだが。もちろん兵も引き下がったが、親衛隊を幕外に待機させることを条件に引き下がる、今は呂誕とその配下周囲を警護している。本来なら親衛隊を目立つこと(人が集まる場所で分かりやすい密会等)には使いたくはなかった、曹操より返却された兵の中に、ほぼ必ず密偵がいるからである。このような事をするのは曹操だけではない、袁紹も兵を貸し与えた時に密偵を送り込んでいるし、袁紹が命じたとは考えてないが、彼女の配下の誰かが命じているだろうことなぞ、曹操もそれぐらい承知している。劉備に援助する際も、商家を通じて何顒伝いに袁紹は情報を得ているのだ。

だが、妥協せねば流石に(へい)も納得しまい、ついでに(へい)は袁紹が度胸が座っている人間、駆け引きが上手い人間とは思っていないので、「自分の命が危ないと、そんな事もわからないのか」と単純に馬鹿にされている。

 

「初めましてですわね、華殿」

「いや、一度会っているぞ?貴様を洛陽から追い立てたのは私だ。もっとも顔を一瞬見ただけで会話なぞはしていないがな、……どうだ?恨むか?」

「あら?何のことでしょう?ワタクシそのような事覚えていませんわ」

 

これは少し遠まわしであるが、気にしないの意である、そして本題に入ろうとの意味でもある。袁紹としては宦官を消すために宮内の情報を早急に集めなければならない。洛陽に潜り込んでいる、密偵もいるが、どうしても市井に紛れ込むだけのため、宮中の話など噂に毛が生えた程度しか入らないのだ。それに比べ、董卓の配下であった彼女は宮中に入ることもあっただろう、なくとも洛陽民より深い話を知っているはずである。

 

「ふむ、では何が欲しい。あいにくだが、我軍の構成や守備に関しては話せんぞ、治療してもらってなんだが、早々に殺せ。たとえ拷問されても話す気にはならん」

「要りませんわよ、戦うのは他の皆さんの役目ですもの、ワタクシには関係ありませんわ。そうですわね、ああ、今から話すのは独り言なのですが、今回の戦い二つ意味がございますわ。一つは宦官による貴方達への謀、もう一つは清流派による宦官への謀」

「……それは、いや、まさか、だが」

 

 

これだけの話の内容がわかったのか、華雄は少々考え込む。清流派の噂も、彼らが何を成そうとしているのかも少し中央に入れば自ずと耳に入るのだ。彼ら清流派が望むことは一つ、濁りきった汚職はびこる宦官共を排し、宮中へ新たなる流れを作ることである。ならば彼らが謀ることは一つ、宦官の根絶やしであろう。

 

「一つ、条件がある、董仲穎様の身柄の安全を確保していただきたい。他の者は臣である、覚悟は出来ているだろう。戦いに出てくる彼女(やつ)らの命乞いは無理だろうからな、どうか彼女(ちゅうえい)だけでも今後をお約束願いたい」

「おそらくそれに関しては問題ありませんわ。非常におせっかいな方が軍中にいますもの、真実を知ったら助けようとするでしょう。まあ、ですがワタクシの手の中に飛び込んでくるのならば、命含め今後の生活も不自由させないと誓いましょう」

「そうか、ありがたい」

 

袁紹よりは詳しいといっても華雄の知ることはそこまで多くはない、人を疑うことが大好きな宦官どもは警備の穴など敵になるやもしれぬ者に渡さぬのだ。華雄が知るのは、袁紹が洛陽から立ち去ってのちょっとした人事異動や、董卓主導で行われた城壁の補修や区画整理だけである。もちろん、これは兵を配置し、城壁の中に何を詰めるかなどを周囲に知られないようにしている。

城壁の中身が岩か、はたまた土かで若干強度が変わるのだ、未だに新たに作られた城壁は警備の兵が多く配置され(・・)があるのか知られていない。袁紹はおそらく区画整理と城壁の補修で、隠し通路、宦官の脱出経路でも掘らせているのだろうと、当たりを付ける。生き汚いのだ、奴らが建物を建てるようの命じたら基本そういったものを作る。董卓主導といっても、董卓は金を出しただけであろう、全て職人と子飼いの者たちが手がけていると見た。出来上がったら職人も子飼いも消される確率が高い、洛陽に入ったら真っ先にその城壁と区画整理付近を抑え、職人も子飼いも確保すべくであろう。運が良ければ逃げようとするゴミ共を排除できるのだ。

 

「ありがとう、これだけ分かれば十分ですわ。さて、話は変わりますが、貴方は今後どうするのですか?」

「どうするとはいかに?」

 

これには非常に困る華雄、なにせ敗将に今後を決めさせようというのである。いらぬ事まで知った(袁紹の本性)華雄は邪魔物以外ではなかろう、彼女による最後の願いとしての董卓の助命も通じた今、このまま始末されるものと考えていたのだ。だが、袁紹はどうするかと聞いた、華雄は袁紹が自分を試しているのではないかと考えた、まさか、華雄が望めば開放する等思いもしない。

 

「二君に仕えるは恥であろうか?」

 「そのようなこと私が知るはずもありませんわ、周りの人に聞いてくださいな。でも、我が陣営に来ると言うならば歓迎しますわ。この場、あなたを切った美髪公の陣、劉軍ならば我が陣を西より出て少し行けばありますわ。ああ、そう言えば、また何か要求されそうですわねぇ~。劉青州平原相はともかく、諸葛孔明は狸もいいとこですもの」

 

 「……それを何故私に愚痴るかわからんが、私は貴殿に仕えたい。

 袁本初殿、敵である我が身を救ったばかりか、我が願いを聞き届けてくださるという。

 我は華、真名も、字も持たぬ、董家により市井より取り立てて貰い、華のようで雄々しき者と称され申した。

 華とは恐れ多く、学も無き雑草にございますが、どうぞ貴君の下にて残りの生を過ごしとうございます、返答やいかに」

 

 両膝を付き、右手を握り、左手を包み込む抱拳礼、武官の恭順の礼の一つである。他にも礼には天揖等や土下座のようなものもあるのだが、彼女が知るのはこの礼のみである。頭の回りは早くとも、血気逸く(けっきはやく)、軍学しかないのだ、儒教の教えなどほぼ知らぬ。

 

 

 「華よ!これより姓を華、諱を雄、字を雄葉(ゆうしょう)、真名を順羽とせよ。

 我に仕えるのだ、よもや異論はなかろうな!」

 

 「承知!これより、華雄葉身命に注ぎ忠節を誓いましょう!」

 

 

 こうして、新たなるの心強き忠義の士を得た、麗羽さま、はたまた何処へとゆくのでしょうか?

たゆたう命の儚火の如く、進むははてなき天の道。

これより先は悪鬼はびこる悪の道、ああ、進むはどこまで死への道。

いかにして袁家の本初は天を盗る。

 

 

知るは知らぬは偏に北斗、南斗の仙。

語るは管路、消えるは羽が、散る火も美し、栄華を誇るは三国の、浅き夢見し胡蝶の夢を。

儒は知らずとも、義は知ろうぞ、義は知らずとも、主は知ろうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△おまけ?▼

 

 

 人払いを終える、すぐさま外に待機していた親衛隊に兵を一般に交代させるように命ずる。程なくして、天幕周囲の人払いよって離れていた声が、元に戻り出す。おそらく、報告も緊急以外は控えさせていたので、何かしら挙ってくるだろう、喧嘩などは多めに見るように言っているが、人傷沙汰も軍中では少なくないのだ、剣を使わねば良いのだが、それ以上は許せない。

 

 

「やめるアルねー、離すアルねー」

 

「元皓さん、なんでそいつがいるんですの?」

 

「……本人に聞くべきでしょう、どうせ下らんですがね」

 

 

 襟元をもたれ、田豊に引きづられる許、であるが、体格差を考えれば当然、ほぼ背中の全てが引きずられている。恐ろしきは恋姫世界の服飾であろうか、汚れはしているが、破れてはいない。ポリエステル以前に、こっちのほうがすごいと思うのは袁紹だけであろうか?そして残してきた人間がなぜかいることに驚く、袁紹、その斜め後ろには華雄が早速立っている。それを一瞥するだけで、なんとなく納得する田豊、己が主のことだ、それぐらいはわかろう。だが、若干目の光が消えた田豊、本気で切れている。

 

 

田「本初様、此度の命違い、許せるものではありませぬ。

  本拠地の守護という大役を授かっておきながらのこの行為、打ち首では足りぬかと」

 

麗「そうですわね~、……許よ、申開きはありませんか」

 

許「ワタシハワルクナイネー、ワタシハワルクナイネー」

 

華「本初殿、新参なる私が言うのもなんだが、このふざけた奴は一族郎党切ってもよいのではいか?」

 

麗「……許よ、もう一度聞きますわ」

 

許?「くっ!バレてしまっては仕方がないアルねっ!私は許は許でも曹家に仕える許褚アルねっ!

   許攸なんて美しく可憐な美女ではないアルねっ!」

 

麗・田・華「「「な、なんだってぇ!?」」」

 

許(ふふ、計画通り)

 

田「では本初様、打ち首でよろしいですか?」

 

麗「そうですわね、華よ、貴方の武にて一断ちしなさいな」

 

華「承知!」

 

許「ひぃぃぃぃ」

 

 

この後、機嫌がいいことを理由に一応許された許攸、あとにも先にもあの時の田豊は怖かったと語る。

あれだよ?これが後の許攸の出奔フラグなんて事は……ないよ?多分。




もちろん冗談です、ちゃんと続きます。


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ホシおちる

ようやく?完成。次回の更新は未定。そろそろ小競り合いは始まる予定。次は追撃戦でも少し書いて、内政(笑)少し書いてVS曹操書く予定ですが、忙しい合間で執筆するので期待はしないでください。


 いかに勇将揃おうとも精鋭であろうとも敗れるときにはもちろん敗れるものである。今まさに洛陽は完全包囲され鼠一匹通さぬとばっかりの風体をなしていた。

 

「本初さまが総大将でありつつも、我が軍は体良く扱われ何ら一つの戦果を挙げておりません」

 

 此度の作戦に参加した将兵のうちの一人である。

 

「黒騎を使いなさい、少々の家探しならば許可します。盗みはないように」

 

 そう簡単に命じ、開門した洛陽へと兵を進める。劉備達主だった武将たちはおそらく既に場内へと侵入しているだろう。彼らより先に董卓の身柄を確保しなければならない。懸念は一つ、呂布である。劉備達はその性格からして彼女(りょふ)の動物たちに敵対されることなく、主だった戦闘もなく言い方は悪いが、口先だけで董卓直下を丸ごと収めた。しかし、袁紹の配下の黒騎は良くも悪くも訓練された純粋な兵士である。このことがアダにならなければ良いがと袁紹は考えた。

 

 そしてその嫌な予感は当たった。

 

「報告!劉玄徳配下により黒騎が壊滅!死者はおらずも、重傷者多数!」

「……やってくれましたわね」

 

 数万の本隊には城外待機を命じ、すぐさま袁紹は一部の精鋭を連れ立って洛陽の門をくぐる。足止めするようには既に伝えてあるので、劉備たちはその場所に董卓たちと居るだろう。

 

 華雄を得たことによって、ここに来て欲が出た、少し前までは劉備達に任せることにしていたのだが、恋姫における黒幕連中を相手に逃げ切るには有能な将は多くいてもらいたからである。上手くいけば彼女ら全てを傘下に加えることができるが、いくつか問題がある。彼女たちに道理が通じるのだろうか?しかも、伏竜鳳雛も両脇に居よう。口先に翻弄され上手いようにあしらわれないだろうか?そんな心配もあるが、まずは兵が足止めできている間、逃げられる前にたどり着かねばなるまい。

 

 ほどなくして目的の場所、洛陽市街の一角へとたどり着いた。そこには黒騎に所属しているものが、どこかしこに伸びている。仰向けになったものや動けなくなったもの、死者はいないようだ。救援として向かった者も粗方のされているらしく、今現在の動ける黒騎は袁紹の隣に立つ二人呂誕、郭援のみである。その他の隊長格は現場指揮をしている際に今ここに転がる者立ちと同様に吹き飛ばされていた。

 

(舐めている、確実に。この(オレ)が率いる兵だからこそ、無体を働くとも口先だけでどうにかなると思っているのだろうか?)

 

 「さて、これはどう言うことでしょうか?劉玄徳さん?」

 「あ、私の名前覚えてくれたんですね!」

 「桃花様!このような時に!」

 

 悪びれた様子もない、いい事をしたとそう思っているのだろう。彼女からしたら董卓達を探すためとは言え家探しをしてた黒騎達は賊にも等しいのだろう。強制捜査であるから勿論押し入る形にもなる。パッと見では強盗が金目の物を探しているのと何ら変わり無い。ましてや、弱卒ばかりと侮られることが多い袁紹軍である。此度のことは規律の取れていない者がおこした、指示に背いた略奪と彼女たちが判断しても何らおかしくない。

 

 だがしかし、それが何より袁紹には悔しかった。黒騎達は自らが手塩にかけ育てた精鋭、しかも論理も道徳も持ち合わせ、悪であっても正義であっても必要ならばと割り切れる非常に優れた存在。自らの指示が原因であるとは言え、綺麗な幻想を抱く彼女たちには賊と勘違いされたのだ。それが何より悔しかった。華雄の願いもあった、呂布等を手に入れるため董卓を無傷に押さえておきたかったという思惑があったにせよ、あまりに納得しがたい。さらに言えば常人よりも遥かに格上であったとしても、恋姫には敵わないのが分かってしまった。あれだけ装備にも気を遣い、死傷し難い装備を与えてもコレである。彼女たちが黒騎を斬ろうと思えば甲冑ごと真っ二つにできるのであろう。

 

 「袁紹さん、この黒い人たちは、えと、」

 「言い辛いのならば、桃花様代わりに私が話しましょう、袁本初殿にはこの痴れ者たちの処分をお願いしたい」

 

 この時袁紹は思わず猫をかぶることをも忘れて自らの唇を思いっきり噛んだ。それに気づいた呂誕が彼女の裾を小さく引く。呂誕の方を向けば、僅かに首を振る。

 

 (気にしないでください)

 

 彼の目がそう言っていた、思わず隣の郭援を見れば頷く。袁紹もそうだが、彼らの部下が痴れ者と称されたのだ。腸煮えくり返る思いで溢れていても可笑しくはない、それであってもこの忠君。袁紹はここで終わらせてはいけないと、いつもの調子を取り戻す。

 

 「まぁ~、劉玄徳ありがとうございますわ。あとは適当に元皓さんにでも任せますので」

 「……それでいいのですか?」

 

 適当に流し、目的の人物を見つけようと劉備たちの後ろを観察していた袁紹に声がかかる。そこにいるのは伏龍、諸葛孔明その人であった。そこにはいつもの気弱そうな彼女の姿はない。

 

 「……何がでしょう?」

 「君主としての役目果たさずして、この乱世においてそのような生き方。恥ずべきことと

お考えにならないのですか?上に立つ者には責任があります、民草をよくまとめ帝より授かった君主として君臨するのであれば、自ずとやるべき事は見えてきましょう。ですが、今ここであなたを見る限り何かを成す気概すら伺えない。名門と謳われ、それを誇るのならばなぜ、」

 「あまり長くお話されても、聞き取れませんわよ?何か言いたいことがあるなら、後で書面で纏めなさいな。気が向いたら読んで差し上げますわ」

 

 諸葛亮は絶句する、袁紹を見かねての忠告をバッサリ切り捨てられたからである。これはお前の話は聞くに値しない、とそう言われたに等しいモノ。その他の劉備軍の面々の袁紹を見る目も劉備その人と何も理解していない張飛を除いて冷たい。

 

 「……貴方に道理をとこうと思った私が愚かでした」

 「そう、ならばいいですわね?ああ、そうですわ。貴女たち動物の群れを見ませんでしたこと?」

 

 突如して変わった話の流れ、心当たりがあるのか袁紹の言葉に過剰に反応する。その剣呑な雰囲気に黒騎の二名は剣の柄に手をかける。

 

 「なぜそんな事を聞くのですか?」

 「簡単なことですわよ、ワタクシが洛陽にいた頃にこの辺に動物の群れがいましたの。ふと思い出したので彼らに探させていたのですわ。まぁ、失敗したようですが」

 

 そこらに転がる黒騎を一瞥する。ちなみにこの辺りで動物の群れを見たのは事実である。それ故にこのあたりに呂布たちもいるだろうと辺りをつけて黒騎を送ったのだ。そして、劉備たちの後ろで存在なさげにビクビクと怯える侍女服の少女二人。やはりそこには動物たちはいないことから呂布はいないように思える。ここで袁紹は漸く目的のものを見つけるに至ったが、彼女たちをどうやってこちらに渡してもらうか考える。おそらく彼女たちが董卓だと既に劉備軍は知っているのだろう。それゆえの先の反応。普通に渡せと言って渡すとは思えない。

 

 「劉玄徳さん、ワタクシ今、現在散り散りになって逃げ出した宮の者達を保護していますの。彼女たちを渡してははくれませんこと?御礼はしますわよ?まぁ、渡さなくても痛い目を見てもらうことになるだけですから、それでも良いのですが……」

 

 劉備がすぐさま断ろうとするのを隣の鳳統が声を出す前に慌てて止める。ちなみに既に洛陽外にある彼女たちの1万800人程の陣は呂布が逃げ込まないように包囲してあるし、今の劉備軍の9千は袁紹の持つ軍の中でも中堅程度の強さを持っている。残りの劉備軍を捕縛なり撃破するなりするのは流石に容易い。面倒な恋姫たちはここにいる。そして彼女たちが今袁紹に手を出すことはまず確実にありえない。袁紹が原因とはいえ兵を借りている、名声のために反董卓連合に加わったのだから、本来なら先鋒を命じられても彼女たちは文句を告げる資格はないのだ。戦において弱小勢力から使い潰すのは当然であるし、この戦に参戦することを献策した伏竜鳳雛が理解していないわけがない。城攻めの戦力の殆どをこちらが担っていた事だし、つまり、こちらに借りがある。仁義に反するからだ。

 鳳統が劉備の耳元で何かを告げるのが見て取れる。まぁ自ずと内容の予想はできるが。

 

 「お願いがあります、彼女たちの素性は聞かないであげてください。彼女たちはどこぞの落胤であり、あまり人に知られたくないようなのです。それと、図々しいとは思います、兵はお返ししますが、余りの兵糧はそのまま譲っていただきたい。それが可能なら彼女たちをお渡しします」

 「……構いませんわよ、呂誕!聞いたな、兵に告げよ。劉備軍へ供与した兵の接収、及び包囲の解除を。それと中軍のよりすぐり500騎をここに送りなさいな。その後路地を固めていた兵は治安維持に当てよ」

 

 「「「……」」」

 

 「懸命な判断ですわ、ワタクシ少々イライラしていましたの。お猿さんたちの処分は終わりましたが、どこぞの誰かさんが御せていなかった将が帝を長安へお攫いしたものですから。良かったですわね?ここで終わらなくて」

 

 少々爆発気味だったのだろう、ここに来て最後の最後で袁紹はかなり猫を被るのをやめていた。以前(ぜんせ)のお気に入りの恋姫たちが、こちらを嫌悪してきたこともそうだが、情の湧いていた黒騎を賊呼ばわりにした事、結局のところそうまでして猫を被る理由はなかった。もちろん彼女達に今知れても何の問題もないことも理由に含まれる。最後に言えば、華雄のお願いを聞けないことのほうが今現在の袁紹にとって頂けないことであった。ここに来て一部の敏い者がようやく自分たちの間違いに気づく。今頃軍師連中そこにいる董卓軍軍師の賈詡含め『やられた』と思っていることであろう。

 

 当然、董卓達も劉備達も騙されていたことに気づいたが、袁紹の様子から二人が董卓と賈詡であると気づいていることまでもは察してはいない。つまり、大人しくして嵐が通りすぎるのをやり過ごすしかないと思っているのだ。賈詡の内心としては、今ここで懐に持った短刀を袁紹に突き刺す為に走り出したいものだが、そんな事をすれば確実に董卓は死ぬ事になる。そのために今は抑えていた。

 

 

 

 そして、援軍の到着を以て袁紹は実際に先ほどの言葉を本当にするために、宮廷の侍女や文官の生き残りを保護し陣へと連れ立つ。陣に着くなり、すぐさま呂誕に命じ、袁紹が「飽きたから帰りたい」と言っていると、主だった将兵に伝わるように告げる。これでほどなくして陣払いが開始されることであろう。報告をさり気なく聞くに、曹操と一部の者たちは献帝の保護とそれを連れ去った者たちを追撃するために兵を動かし始めているらしい。

 

 歩くうちに華雄が待つ天幕へと訪れる、もちろん縛ってはいないが、ほぼ拘束気味に董卓達は彼女の後ろにいる。

 

 「華雄さん、連れてきましたわよ」

 

 後ろの方で、袁紹に告げられた名に董卓達は驚いていることであろう。華雄もまさか袁紹が董卓達をそのまま連れてくるとは思っていなかったので、何のことだか理解していないらしい。人払いをし、周囲を直属のみで固める。田豊達が訪れた際には一拍置くように出入り口を警護するものには告げる。

 

 「さて、董卓さん、賈詡さん、お入りなさい」

 「全部知っていたのね、やられたわ」

 「……詠ちゃん」

 「大丈夫よ、月。袁本初そうでしょう?華雄を態々生かしているくらいですもの。何の目的かは知らないけどね」

 

 入ってきた人物を見て、大泣きし出す華雄。慌てて董卓は華雄へと近づき慰め始める。それでも華雄は袁紹に礼を告げながら泣き止まない。そしてそれを溜息つきながら苦笑いする賈詡。

 

 「おかしな話ですわ、今回はワタクシが激を飛ばしたことが発端ですのよ?」

 「袁本初、その言葉で大体察したわ。アンタに恨みがないと言ったら嘘になるけど、忘れてあげる。そもそも月はあんたを恨むなんてこと、日輪が落ちてもないだろうしこれで一件落着よ、良かったわね」

 「言葉の端々に刺がありますわよ」

 「当たり前でしょう、仕方ないとは言え涼州も結局流れから言って失う事になるだろうし、アンタのせいで兵も代々の土地も全部失ったのよ。少しぐらいは甘んじて受けなさい」

 

 そうこうするうちに漸く話ができる程度に華雄が治まる。未だに鼻声でグズグズ言っているが、この調子だとふとしたことでまた感涙しそうなので、話を無理やりに進める。

 

 「董卓さん、賈詡さん、貴女たちに選択肢を上げますわ。このまま本当に侍女になるか。華雄さんと同じように名は変えることになるでしょうが、ワタクシが傘下に加わるか……どちらを選んでも何不自由ない暮らしは保証しますわよ。ワタクシとしては将になって欲しいところですが」

 「ボクは軍師として使ってくれるというなら、下についてもいいわよ。月は侍女にしてもらえる?荒事は向かない子だから、矢面に立つようなこと今後無いようにしたいの」

 「それで董卓さんはいいのですか?」

 「はい、詠ちゃんは軍師として働きたいようですし、私は政治にも軍事にもあまり向いていませんから」

 「謙遜を、貴女の操る騎馬隊は屈強であることは知っておりますのよ?まぁ、性格が荒事に向いていないのでしょうけど」

 

 「うんうん、良かった良かった!麗羽殿感謝するぞ!」

 

 完全復活を果たした華雄。ここでようやく会話に参加しだした。若干なぜか、喧嘩をした子を見守る親目線な気もするが。といっても話の内容はあらかた終わっているので、後は本拠地に帰ってから詳しい登用内容は決めないといけないだろう。袁紹としては賈詡と華雄は黒騎の将にするつもりである。今回の劉備軍のことで如何に一般と恋姫たちの格差があるか理解できたことは不幸中の幸い、僥倖?である。

 

 その後、負傷した黒騎たちの問題もあるので、天幕に彼女たちと警護を残し後にする。あまり田豊を放っておいても後々面倒くさいことになるからだ。今頃洛陽に袁紹自ら入ったことでオロオロしていることであろう。あの見た目で一応老婆?であるので心臓に悪いことは余りしていないつもりだが、今回のことは田豊卒倒レベルなので実は結構袁紹も慌てていたりする。気づけば大分早足で本陣の天幕へと向かっていった。

 

 

 予想通りというか、

 

 「あやあやあやあや!麗羽殿、麗羽殿!ご無事でありましょうか!」

 「老老~、姫なら大丈夫だって~、何だかんだいって雑兵ぐらいなら斬り捨てる能力持ってんだからさ~」

 「ちょ、ちょっと、文ちゃんあんまり適当なこと言っちゃダメだよ。麗羽様に何かあっても困るんだから!」

 

 天幕の中を歩き回る白髪幼女に、足組んで偉そうに座る文醜、それを見かねて諌める顔良。いつもどおり?の光景であった。それを見て少し微笑みため息をつきながら、気分を入れ替える。

 

 「そのっとおりですわよ!文醜さん!ワタクシがそこらの雑兵に倒されることなどありませんわ!」

 「麗羽様!?おぉ!よくぞご無事でありました!この老害をあまり心配させないで欲しいであります!」

 「おかえり~姫、洛陽土産ありますか~」

 「ぶ、文ちゃん!!いい加減にしなって!」

 「あるわけ無いでしょう」

 

 感極まったのか、袁紹に飛びつく田豊。それを優しく受け止める袁紹。観光ではない事を分かっているのにボケ始める文醜に、それを叱る顔良。それを見て劉備たちとの会話や洛陽内での出来事によって、イヤに痛んだ心が癒されるような気がした、そんな袁紹であった。

 

 

 

 「そろそろですわね、曹孟徳。彼女を上手くいなして早々(・・)に退場ってね。……自分で言ってなんですけど寒いですわね」




ただいま、改行変更中です。その際に気づいたら誤字訂正とちょいと加筆するかも?


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イマは成らず

うむ、書き上げた。文の書き方変わってきていますね。段落付けをと改行をまた調整しないと。後半は所謂恋姫でお約束の日常パート?


 曹操、鮑信が徐栄の追撃に出たと、撤収間際の袁紹陣営に報告が上がる。そしてそれにも係らず、行われる袁紹軍撤退を聞いていてもたっても居られなくなった将がいた、張邈である。

 

 「麗羽殿!なぜ、華琳殿の呼びかけに答えないのですか!余りにも危険すぎます!」

 「張邈さんに、確かあなたは衛茲さんでしたわね?」

 「はっ!お久しゅうございます、本初殿」

 

 声の方へ振り向けば、そこには張邈とその直属の部下である衛子許がいた。衛茲は黒髪を頭頂部で結った、キツめの眼つきの少女であった。曹操とも仲がよく、今回の出兵の際にも曹操へと相当の援助を個人的にした程である。張邈と彼女は、追撃の準備を整えた曹操と共に長安方面へと進撃を行おうとしていた最中で、袁紹が突如退却を始めたのを聞いて袁紹にも参戦してもらおうと慌てて戻ってきたのである。

 

 「未だ董卓軍残党は大きく、指揮系統に陰りが見えるとは言え、華琳殿の兵力では少々無理があるのですよ!?」

 「張邈さん、ワタクシは曹操さんを止めましたわよ?そもそも董卓さん本人が居ないのに追撃する意味なんてないでしょう?中常侍は片付けましたが、帝を確保できなかった今、これ以上は旗色が悪いのではなくて?」

 「で、ですが!」

 

 袁紹からしてみれば、これ以上本拠地を開けるわけにはいかない理由もある。異民族とのいざこざも片付かぬままにこの地に訪れたからだ。既に、それも無視できぬほどに大きくなってきているため、これ以上彼女が本拠地を離れるわけにはいかない。

 

 「諄いですわ、ワタクシも領主。曹操さんも領主でしょう。そして自らのツケは自ら払うもの。これ以上は言わずとも分かりましょう?大義の前の小義、民草の危険を差し置いて感情に走る訳にはいかない」

 「っ!……では一つだけ教えてください!貴方は華琳殿をどう思って居るのですか?」

 「……貴方の思うように」

 

 そうとだけ伝え、明確な答えもせぬまま袁紹はその場を立ち去ろうとする。それを止める術を持たぬ張邈はやはりそれを見送る。少し離れて諦めたのか、両名は背中合わせに歩き出す。

 

 「……よろしいので?」

 「曹操さんは負けませんわ、時代がそれを許さないのですもの。でも私は違う、縛られない。だから死ぬし、すぐに滅びることもある。だから只なぞるしか今はないのですよ。貴方にも迷惑をかけますね」

 

 ただ、今言えるのは確実に確執を残してしまったことだろう。とはいえ、領地を放っておけるはずもなく、帰らないという選択肢はない。弱みを他領主に見せるわけにもいかないので、詳しく話せるものでもない。結局の所起こるべくして起こったのが今回のことである。

 

 「引きますわ、彼らの融和策も進めなければなりませんことですし、彼らの一部を黒騎に組み込みたい理由もあります」

 

 来たるべき時に備えて、勝てなくとも一定以上の力を見せねば、曹操は彼女の首を斬るだろう。滅びは避けられずとも、死だけは避けられる。それだけを信じている。とは言え、彼女も生きるか死ぬかよりも、心は既に違う場所に向いてしまっている。

 

▽▲

 

 

「……良かったんですか?」

 

黒騎の中央に居ればまた、袁紹はこうして尋ねられる。そこまで酷い顔だというのか?そう思わずにいられなかった。其れゆえだろう、少しばかり顔をしかめてしまう。

 

「私達の力が無いばかりにご免なさい」

「それを言うならワタクシの力が無かったからこうなったのですけれども?」

 

 袁紹からしてみて、正直に言えば彼女はやはりすごいと思う。どれほど心が広ければ、今のこの状況で怨敵を気遣う余裕などが出来るのだろうか?彼女の言は、董仲穎の力がなかったからこうして戦争が起こってしまったとこれを恥、謝っているのである。

 

「あ、いえ、そういう意味で言った訳ではないのですけど……」

「分かっていますわ、これは子供じみた八つ当たり。軽く流してくださいまし。ふぅ、お互い無力が嫌になりますわね。何れも此れも見せ掛けばかりの権力ばかり」

 

 彼女であれば気を使う必要がない、本来の自分ではない、いつも気を遣う猫かぶりをしなくてもいい。まず彼女は袁紹のこれを言いふらすこともしないとの確信もある、更にしても意味がないと分かっている。

 

「もう少し皆、仲良く出来たらもっと漢は良くなったんでしょうか?」

「貴女は優しいですわね、心で抑えるのではなくワタクシと共にあっても自らの不幸を嘆こうともしない」

「私もそこまで出来た人ではないですよ?ただ、貴女を見て、この人も私みたいに戦いたくないんだって。私が優しいなら、きっと貴女も優しいんだと思います、こうして友達の役に立てないことを悔いているぐらいですから」

 

 苦笑いの様に微笑む董仲穎を見て、少しばかり彼女の良い様に捉え過ぎだと思った。元々、ただこんな場所で死にたくないから、良い様に身の回りの物を使ってやろうとの考えが、袁紹の中核にあった。今もそうであるかと言えば、既に色々と情がわいてしまっているので、違うと断言できるが、やはりそこまで崇高な彼女の様に崇高な心からは始まっていない。

 

 「……仲穎さん、貴方に良いモノをあげましょう、きっと貴方が望む全てを手に入れる力になりますわ」

 

 

▽▲

 

 

 『主力軍を彼女に委任する』

 

 

 袁家に激震が走った。勿論直下の臣が袁紹に問いただせば、『おーほっほっほー』で誤魔化される。袁紹は直属の黒騎以外のすべてを新しく登用した者に預けたのである。これには全ての者がやはり狂っていると袁紹を嘲笑った。

 

 『今現在、国力は涼州の3倍、現状では他勢力を遙かに凌ぐ財力と動員力がありますわ』

 

 しかも、その人物はとても武力に秀でているようには見えない。多くの臣下が見切りを付けようと真面目に考えた。だが、そうはならなかった。彼らが諫言状を束ねて袁紹の元へ届けるよりも先に、件の彼女は瞬く間に領内の異民族をまとめ上げると、それを袁紹軍へと吸収して見せたのである。

 

 『貴方の相方を黒騎の参謀に置こうかと思っておりましたが、貴方の隣につけましょう』

 

 勿論、それを良く思わないモノもいる。が、袁紹の考えなしにも思える、『では、貴方に同じことをやらせてみましょう』との一声でこれらもすぐに鎮静化する。新参が与えられた地位と権力は確かに魅力だが、誰もあの仕事量はこなしたくはない。()()には捌ける量ではないと分かっているからである。

 

 「……で、貴方は何をしているのかしら?袁本初殿?」

 

 ふと賈詡が執務を片づける傍ら、そこで仕事をしているはずの新たな主を見る。どう見ても仕事は何もしていない。むしろ、彼女は董卓を膝に乗せ、ぬいぐるみのように抱きしめると、董卓の頭に顎を乗せ和んでいる。

 

 「……気持ちいいですわ」

 

 子供の暖かさと、なんかこう落ち着く感じが、と付け加えると董卓の頬を指先でむにる。董卓も苦笑いしながらなされるままに、そこに座る。ちなみに董卓は誰が何と言おうと成人である。

 

 「あっ、そう……っていうと思ったか!何やってんのよアンタは!?仕事、これアンタの仕事だから!」

 

 竹簡の束を片づけながら、それを持ち上げ、ひらひらとさせる。袁紹はそれをチラリと見るだけして、再び董卓をむにる。それを見て、賈詡は地団駄を踏み、それを申し訳なさそうに董卓が再び見る。これが最近の袁紹たち三人の日課であった。

 

 「……アンタねぇ、いまどんなふうに自らが呼ばれているのか知っているのかしら?」

 「キラキラお飾りですわ」

 「明らかな侮蔑と知っていながら、どうしてそんな御座なりなのよ?」

 「君臨すれども統治はせずって中々にいい言葉ではありませんか?」

 「アンタ其れ無職だから」

 

 鼻でそれを笑うと、お菓子でも食べましょうかねぇーとやる気なさげに執務室を出る。それを見て賈詡はこの国乗っ取ってやろうかと敢えて聞こえる呟きを吐く。それに振り向くことさえせず、手を上げてひらひらさせるだけで袁紹は立ち去る。これは、両者ともに出来る訳がないと分かっているからだ。

 

 袁紹の治める地は袁紹の名のもとに集った清流派の生き残りで政治が回されている。袁紹ありきの統治である。確かに賈詡は相当の権限を得ているが、これら清流派の政治家たちの意見全てを跳ね除けることは出来ない。しかし、袁紹の彼らに対しての影響力はすさまじいモノで、彼女彼らの声をほぼ全て抑えることが出来る。とは言え、今現状はやり過ぎなことをしている自覚があるため、これ以上の要求は流石にしないのであるが。

 

 賈詡の権力は実力に伴ったものではあるが、そこは袁紹という存在があって初めて成り立つものなのだ。

 

 「本初さん、うちの賈詡をあまりいじめないで下さいね?」

 「いじめているように見えます?」

 「いえ、見えませんよ」

 

 くすくすと笑いながら袁紹の後を歩く董卓。彼女からしてみても当然二人がじゃれているのは分かっている。賈詡も信用されて仕事を任せられている。そうと分かっているからこそ、袁紹へと一応の文句をつけてはいるが、正直自らの力を思う存分に活用できる現状は、彼女にとっても非常に心踊らされるものがあるのだ。

 

 「って、何が三倍よ!!」

 

 ふと、和みながら茶菓子を食べていれば、再び賈詡が現れる。どうやら、何か気付いたようであるが、正直意味が分からないのが袁紹の心境である。で、何が三倍なの?

 

 「これよこれ!ふざけんな、こんにゃろう!!これで三倍、三倍なわけあるか!!」

 

 と、見えられたのは様々な数値、兵の動員力やら、経済力やら国力やらである。具体的に現状で分かっている調査を終えた総合数値であった。

 

 「いい?これ、まず資本力ね?単純計算で涼州の20倍」

 

 一つを指さす、ご丁寧に涼州の数値も新たに書き込まれている。

 

 「で、動員力ね、15倍」

 

 赤筆で態々何本か横に線が引かれ、一見棒グラフのようにも見えなくもないモノがある。

 

 「で、好きに動かせる、資金ね、34倍」

 「「……で?」」

 

 仲良く袁紹と董卓が頭をかしげる。多くて何か悪いことでもあるのだろうか?とは袁紹談である。生憎と董卓も袁紹も軍師達と比べてしまえば、おつむは優れているほうではない。何が言いたいのか具体的に言われないと理解できないのだ。

 

 「今現在の漢でこれほど富んだ国はいません、おわかりかしら?」

 「それで、なんで怒っているのかしら?良いことではありませんか」

 「詠ちゃん?どうしちゃったの?」

 「何が、強国を相手にするには足りないよ!?いや割と本気で、これだけあれば蹂躙できるわ」

 

 あまりの国力差に急に怒りが収まり、素面になる賈詡。「ボクの努力って、なんだったのかしら」とブツブツと呟き割と本気で落ち込んでいる。まぁ、要するに一周の絶望を通り越して怒りが湧いてきて思わず駆け込んできただけである。

 

 ついでに言えば、袁紹がこれでは勝てないと呟いた曹操や孫家、劉備軍が恐ろしくなる。あいつらどんだけ化け物いんのよと。袁紹はそしてこれを応える。

 

 「呂布さんには敵わないにしても、それに順じた武将が何人もいる」

 

 それを聞けば賈詡は納得してしまう。確かに袁家は人材こそ豊富であるが、残念ながら突き抜けた存在はそこまで多くない。顔良文醜は確かに強いが、劉備軍の主力の手にかかれば一撃だと聞いて思わず賈詡も「あっそれは無理だわ」と告げるほどである。

 

 そしてこの日からお茶飲み仲間に賈詡も加わるのであった。

 

 「とりあえず、できる限りのことやってれば、なるようになるでしょ」

 

 と、一端の諦めの境地を手に入れたのであった。

 

 

▽▲

 

 

 賈詡は思った、正直あの目に痛い袁紹軍の鎧はどうにかならないモノかと。そして、袁紹が使い分けている黒色の鎧を見ても思った。何故そちらに統一しなかったのかと。一応聞いてみたが、納得のいく回答は得られなかった。だがしかし、効果的だとは思う。晴れの日だけは。

 

 実際に袁紹軍は()()()いやにピカピカしていたので、見つけやすかったが、狙い難かった。ただ、絶対に伏兵は出来ないとは思っている。あんな目立つ伏兵が居てたまるかと。しかも、あの鎧、真鍮鍍金という二層の構造が功を成してか、実は高性能だ。他軍の一般兵にはない防御能力を持っている、他軍が木をつないだだけの鎧であるから仕方がないと言えば仕方がない。あの鍍金は火矢に対しても少々の意味があるのだ。

 

 だからこそ頭が痛い。財政の圧迫になる可能性が大いにあるからだ。だがしかし、先ほど得た数値を見てそれは涼州基準であることに気付く。そして、冀州の財力であれば何も問題ないことに。そう、当初よりの節制計画全てがほぼ必要のないモノとなったのだ。こうして、色々と考えているうちにもこの州は黒字となっている。何がどうなってこうなったのかは分からないが、とりあえず、袁紹には商才?のようなモノか、その何か、そういった良く分からない才能があるのかもしれない。

 

 ふとここで賈詡は気付く、確かに袁家にはずば抜けてスゴイ武将居ないけど、袁紹もある意味色々と凄くない?と。此処で何度も考える、普通って何だろうと。いや、此処もすごいけど確かにそれを一瞬でひっくり返す奴らがいるのだ。何それ怖い。まともな人間っていないのかしらとも思った。

 

 が、実際には賈詡、貴方もどちらかといえばヤバい側の人間ですから。袁紹がこの話を聞いていればそう思っただろう。

 

 賈詡は無駄になってしまった竹簡を端に避けると、今日のお茶菓子何かしらとテクテクと歩いてゆく。完全な平和ボケであった。

 

 

▽▲

 

 

 董卓はいつも通り袁紹と行動を共にし、せくせくと茶酌み娘に精を出していた。だがしかし、この見た目でこの娘も非常にヤバい部類の人間である。

 

 彼女は、今日は林檎のお菓子でも作ろうと拳で皮をむいた()()を握る。くしゃりと容易く砕けたリンゴの果汁と果肉が盆の中に広がる。その中より種や余分な部分を取り出し、はちみつを加え、饅頭の生地で包む。林檎饅頭である。

 

 そして出来上がったそれを持ち、袁紹の元へ向かう。時折田豊や二武将、許攸も訪れる。そのためいつも多くお菓子は作っている。本来なら荀彧も此処に加わっても良いのだが、董卓は彼女をあまり見ることはない。荀彧は董卓戦にて曹操に勧誘され以来、執務にも力が入らなくなっていたのである。元より袁紹との仲は不仲とまで行かなくとも、不満しかない荀彧であった。しかも冀州は文官がそろいすぎて、荀彧にとってやることのない面白みのない場所である。

 

 軍事に関してはあまり袁紹は荀彧に関わらせていない。袁紹としてはいなくなる可能性に高い有名武将にそんな大事なものを任せたくなかったのであるが。荀彧としては新参に良い所取りをされている現状である。やる気なぞ出ようはずもなかった。

 

 こうして、荀彧の出奔が加速していくのである。とは言え、彼女が賈詡に大規模な軍権を任せていなくとも荀彧は曹操に引き抜かれていたことは間違いないのであるが。荀彧にとってはこの国は彼女の実力を振るうには全てが整いすぎているのである。これでは思うように羽ばたけぬと未だ政治に成長の余地のある曹操の元へ赴こうとするのは彼女にとってはごく自然なことであった。

 

 ちなみに、彼女(じゅんいく)にとっては大したことがない仕事量であったが、彼女が抜けた穴を埋めるのには文官を新たに8人用意する必要があったことを明記しておく。



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