真・恋姫無双 ~海の一族~ (みずしろオルカ)
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序章 ~愚者の新遊戯~

この作品は、私の妄想を形にするだけの練習小説です。

思い付きや、更生のあまい部分、原作キャラの崩壊、原作ルートの崩壊などが多分に含まれている可能性があります。

過度な期待はせず、以上のことが許せない方、不快になる方、自分の思い通りの話しか許せない方などは読まないことを強く勧めます。

強く勧めます!


 世界は階層である。

 

 袋に入ったビー玉を想像してほしい。ビー玉を世界として考えたときに、たくさん入っているビー玉と袋の間には必ず隙間が存在する。

 どんなにぶつかり合って世界と世界がせめぎ合っていても、その隙間は必ず生まれる。

 その隙間で行動できるのが、神と一般的に考えられている存在である。

 

 しかし、その袋の外には出られない。その上の神が袋を管理しているからだ。

 袋の中の神々からすれば、檻の中の鳥って気分になるが、想像してみるといい。

 ビー玉一つが世界とすれば、その袋の中には数えきれないほどの世界が詰まっている。その上、増え続けているのだから飽きることはない。

 

 転生。

 

 それは、ビー玉から魂が飛び出して袋の中で、次のビー玉を探すという行為なのだ。

 ビー玉には別に魂の数が決められているわけではない。袋の方に決められているだけなのだ。

 それ故に偏りが出ている世界があるのも、見ている分には飽きない。

 

 その中で、転生者は記憶を保持し、世界に生まれるイレギュラーだ。

 魂に刻まれた記憶が強く、転生後も前世の人格を持つタイプ。

 そして、二次創作などでよく見かける外部からの介入によって転生者になるタイプ。

 

 前者は自然発生するだけあって、多さなどは把握しきれない。

 後者はそれこそ、星の数ほどは優にあるだろう。

 

 なにしろ、オレ自身が元々その転生者出身だからだ。

 今は、ビー玉と袋の間の世界を自由に行動できる力。いわゆる神様としての力を袋の外の神様に与えてもらえたわけだ。

 

「次の世界はどうするかねぇ」

 

 外の神様達に神としての力を与えてもらう代わりに引き受けた仕事が世界の管理。

 そう、元来オレやそれ以外にも転生者に接触する神々の一部は俺のように元が人間であり、多くの転生と世界を渡り歩いて得た力や能力を評価され、神として存在を昇華して、管理者と呼ばれる神の一端に名を連ねる。

 

 本当ならば、管理者たちは個人行動が多い。

 当然だろう。皆、世界を何度も救ったり、逆に滅ぼしたり、世界を統合して別の世界を作ったりと何度もしてきた、いわゆる主人公たちだ。一癖も二癖もある上に、何度も転生するなど、極端な性格な者が多いのだ。

 

 オレか?

 当然オレもだぜ。

 シリアスからギャグ、鬱展開からコメディ展開、バットエンドからハッピーエンドまですべて味わい尽くそうと幾度も同じ世界に転生し、幾度も違う物語と死に様を残し続けた。

 ここまで来ると、正直転生した世界の数も転生回数もうろ覚えだ。

 たぶん、1京は超えてたはずだ。

 まぁ、大部分が管理者になってからの回数だ。人間の魂じゃ耐えられずに擦り切れてただろうな。

 

 人間の魂だと転生は多くて5回。大抵は1回の転生で普通の輪廻に戻る。

 例外的な処置で人間の魂のままで10回という転生をした奴もいるが、大抵は5回も転生すれば魂の容量に記憶や経験が記録できず、オーバーフローを起こして器から崩れて消える。

 

 そうなる前に管理者たちは魂を『人間』から『神』(管理者)へとバージョンアップさせ、人間の頃よりも多くの記憶・経験を収納でき、多くの思考・観察力を備えるようになる。

 

「さすがに飽きてきた。やりつくした感ってこういう事言うんだろうな」

 

 欲望とは、いわゆる原動力だとオレは思う。

 あれが食べたい、あれが欲しい、良い異性を抱きたい、そして楽しいことをしたい。

 上位の神様がどんなのか知らんが、オレら管理者は人並みの欲望……いや、人並み以上の欲望を持っている。

 

 老成して欲望が枯渇してしまうことで、管理者の仕事を停滞させない措置なのだろうが、さすがにこの数を転生し続けてしまえば、ある程度のパターンができてしまう。

 オレが楽しみたいのに、役者として立ち続けることに飽きた。

 

 役者が同じ映画もドラマもいい加減飽きたという気持ちが強い。

 しかし、オレら管理者が得ている権利も『袋の中の魂の転生』・『転生先の世界の改変』・『自身の気に入った奴を招く世界』と、大きく分けるとこの三つ。そこに、人間の頃に手にした転生特典を添えて管理者の能力となる。

 外の神様の様に転生者から管理者へ昇華させることはできない。

 転生者が望む力は基本的に彼ら側に選ぶ権利がある。だから、滅多にオレが望む力と行動を選ぶ奴が少ない。

 ……だったら創ればよくね?

 

「そうか……、オレが転生してその世界で主人公創るってのはどうよ!?」

 

 ただ創るんじゃつまらねぇから、いろいろ別の世界の力を与えて、それでもその世界の住人であるって……いったいどんな行動するんだろうな?

 転生者は元の世界の知識や経験がどうしても行動を特殊にしがちだ。

 それに比べて現地の人間ならその世界の生の行動が見れる。異質な力をその世界で、その世界の住人がどう使う?

 

「やべぇ、久々に滾ってきたぜ!」

 

 こうしちゃいれられねえな。

 この名案を『タロット会』に提出したら、すぐに行動しないと!

 

 与える能力は、あの力がいいな。

 それだけだと危ないし、生存率上げるためにも武器も準備してやるか?

 ああ、こんなにも世界が色づいて見えるのは久しぶりだ。やはり、欲望は原動力だな。

 

「せっかくだ、他の世界の設定も世界観も混ぜこぜで作ってみるか? それこそ、世界のそこらかしこで主人公や壮大なストーリーが繰り広げられているって感じで!」

 

 はは、楽しいな。オレは楽しいことが大好きなんだ。

 

「タロット会が№0、≪愚者≫(フール)。久々の大仕事ってやつだぜ!」




いかがでしたでしょうか?

といっても序章のみ。
まだ恋姫本編には入っておりません。

入るのは……3~5話目ぐらいになると思われます。

亀更新故、気長に待っていただけると嬉しいです。

感想などなど、頂けたらモチベーションが上がる生態を持ってますので、よろしくお願いします。


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第一話 ~始まりの男~

 ひゃっはー! 亀更新にも程があらぁ!!

 遅れまして、第一話です。

 構想だと長編なのに、進みが遅い!

 この調子だと年単位になる!?

 速度上げていきます。


 苦しい。

 

 全身が、意識が、重くて仕方がない。

 瓦礫の下、隙間から雲に覆われた空が見える。瓦礫の所々に火が着いていて、焼打ちにあったことを理解する。

 

 何もない、平和な村だった。

 

 今年は不作だったから、朝廷への税を納めるのが辛い。でも少々の蓄えと、保存食があるからどうにか冬を越せそうだなっという会話を大人がしていたことを覚えている。

 

 近所の兄妹も成長していて、もうすぐ田畑の手伝いをさせられるっと子供たちの年長である僕は考えていた矢先だった。

 

 突然の盗賊たちの襲撃。

 父さんも母さんも、近所のおばさんも、守りたかったこの兄妹も。この生まれた村でさえ。

 

 守れなかった。

 

 兄妹は俺の手の中で冷たくなっていた。

 抱えて、瓦礫から庇って、炎の熱だろうか? 息苦しくなった三人とも気を失ってしまった。

 そうして、目が覚めたら僕だけが生き残っていた。

 

 二人よりほんの少し長生きしていたから、体が丈夫に成長していたから、助かった。

 

「まも……れ……なかった……」

 

 全焼した家と曇天が重苦しい。

 息苦しい。

 どうして、僕なのだろうか? 天は後悔しろと言っているのか? 死んでしまう一瞬の時まで、村を守れず、両親を守れず、僕を慕ってくれた兄妹を守れず、後悔して悔やんで、苦しんで泣いて、そうして僕は、僕の命は終わるのだろう。

 

「数多の物語じゃ、そうだったがね。この村が全滅するのは、正史の流れなのかもなぁ」

 

 聞き覚えのない声だ。

 この村で聞いたことがない。

 

「まぁ、オレがお前の人生を貰い受けるぜ。どうせここで終わるんだ。その人生、弄らせて(なおさせて)もらう」

 

 ポツッと頬に冷たいものが当たる。

 雲は雨を降らせる。

 

 その雨を遮るように男が目の前に現れた。

 

「オレはフールってんだ。末永く、楽しませてもらうぜ? 英雄候補」

 

 その日、僕の終わったはずの人生は再び動き出した。

 不思議な恩人は、僕に多くのことを教え……、いや文字通り叩き込んでくれた。

 

 そして、僕の生まれた15年目の年にフールは再び旅立ってしまった。

 僕に多くのことを残して。

 

 

**********

 

 

 黄巾党が天下を騒がせ、その後に董卓が漢王朝の実権を握った。

 世が乱れている証拠であると、識者が言うのだから僕や仲間たちは余計にそれを感じている。

 

「団長、今回は袁紹軍の顔良将軍から依頼がありますよ」

 

 放浪軍『風影の団』。

 所属兵数約200名ほどの集団で、それぞれの太守の依頼で戦に参加する。傭兵稼業をずっとやってきた。 だから、世界の情勢にはみんな敏感なのだ。

 

「袁紹軍は報奨金の払いが良いからね。無茶させられるだろうけど、それ以上の資金が手に入るか。どう思う? 副長」

 

「そうですね。現状、駆り出されるのは反董卓連合の戦。名を上げる絶好の機会です。名のある諸侯が一堂に集まるこの戦で、我々『風影の団』の実力を知らしめれば、この後にあるであろう乱世に必ずや役立ちます。あと、副長ではなく、影紗と呼んでください」

 

 彼女は、僕が傭兵稼業を始めた頃からずっと補佐をしてくれている司馬懿、真名を影紗(エイシャ)だ。

 200名の内、50名が彼女が従える隠密たちだ。僕が実働部隊、影紗が隠密を仕切ることで、この『風影の団』は成り立っている。

 

「なるほど。団員の生活も考えれば袁紹軍の依頼は是が非でも受けなくちゃいけないね。それが、乱世に一石を投じられるのならなおさら……か。依頼を受けることにしよう。影紗、顔良将軍に使いを出してくれ」

 

「了解です、団長……いえ、秀護」

 

 姓を海、名を央、字を史楚、真名を秀護。小さな村で命を救われた僕は、こうして乱世を駆けている。フールが多くの戦い方、様々な学を文字通り叩き込んでくれたおかげでこうして団長として生きている。

 彼が残してくれたのはそれだけじゃない。

 

 宝具:闘信牙。

 

 信じ、闘う牙の名を持つこの刀はフールが去る時に渡してくれた武器だ。

 丈夫で、切れ味が良いというまさに宝物に匹敵する刀。

 

「さて、僕たちが仕える主は見つかるかな?」

 

「私は秀護に仕えることができました。最高の主だと思ってますよ。他の団員もそうでしょう。貴方が選ぶ主に我々が命を懸けることに何らためらいはありません。どうか、焦って軽率な判断をしない様に」

 

「当然。僕が仕えるのは支える人だ。誰かを支え、誰かのために動く人間。そんな人を主として仕えられることが僕の夢さ。中途半端なことはしない」

 

 そりゃ、君主や太守に比べれば日陰だけどそれでいい。

 晴れ舞台は主やその周りに任せる。だから僕らは裏方、裏舞台で活躍させてもらう。

 それは主が知っていてくれればいい。

 

(なんて、少し夢見すぎかな。今のご時世、そんな人間は希少種だよなぁ)

 

 群雄割拠のこの時代、力がすべて、下克上・裏切り上等の世界だ。

 現に反董卓連合だって、袁紹が気に入らない董卓を追い出したいという私利私欲だ。帝を傀儡とする董卓を打つべしなんて大義名分を並べているが、要は気に入らないし、これを機に大陸に覇を唱える布石が欲しいのだろう。

 

 そんな時代に、支える人間なんて本当に少ないだろう。だが、そういう人間だからこそ良き主に仕えていれば大勢力へ成長させられる。

 

(できれば、大勢力に成長する前にお仕えしたいものだ)

 

 

**********

 

 

「斗詩さん、この前雇った『風枷の団』という傭兵は本当に使えますの?」

 

 尊大な態度で、玉座の上から長い髪をロールに整えた女性が気怠そうに目の前の二人の女性に問う。

 斗詩と呼ばれた黒髪を短めにまとめた女性は、困ったような表情で答える。

 

「麗羽さま、『風影の団』です。その筋じゃ有名ですよ? 200名ほどの義勇兵で黄巾党相手に幾度も勝利しています」

 

 手元の資料を見ながら説明している。これは彼女が麗羽に説明する必要があると考えて準備していたものだ。

 

「おお、それあたいも聞いたことあるぜ? あの呂布が黄巾党三万を一人で撃破したって有名な話じゃないっすか」

 

「ええ、私も知っていますわ。飛将軍と呼ばれる所以でしたわね」

 

「たった200名の傭兵団で、三万以上の大軍を籠城戦でしのぎ切り、援軍到着の際には隊長格がすぐさま出陣、援軍との挟撃でこれを撃破だっけか? 同じ三万ってこともあってそれなりに有名っすよ」

 

 印象が残るという点でいえば、圧倒的に呂布の方に軍配が上がるのだが、その呂布の知名度に乗っかる形で傭兵団の風評も民の間で広がっていた。敵兵が三万であるという点の共通項、個人の武と集団での統率力である種の対比がこの二つの風評を抱き合わせのような形で広げていったのだ。

 

「へぇ。でも顔良さん。我が袁家の軍勢に加えるにしても、それぐらいの評判はあって当然ですわ。むしろ、なぜ我々の側から頼むような形で、彼らの参戦を依頼したかですわ」

 

「それは、前も説明しましたよ~。董卓軍は都を守るための堅牢な軍勢です。それを突破するには同じく守戦に長けている将を取り入れて、なおかつ前線に立ってもらうことでわが軍の被害を抑えましょうって……」

 

「……そんなことも言いってましたっけ?」

 

 袁紹には顔良自身もあまり期待はしていなかった。

 いくら説明しても彼女に興味のない事柄はすぐに忘れてしまうのだから、こうして二度三度と説明することもある種、いつもの事として受け入れられるぐらいの付き合いの長さはある。

 

「……麗羽様、朝に説明しましたよ~」

 

 しかし、まさか数時間前の事すら忘れられるとは思ってなかった彼女は日課になってしまっているため息をつくのだった。

 

 




 いかがでしたでしょうか?

 質問、感想等々ありましたら気軽にお願いします。


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第二話 ~嫌われ役と未知の力~

 遅くなりました。

 予想より進まない!
 3000字前後だけど、結構四苦八苦したしね。

 とりあえずようやく、タグ要素が登場。
 ただし、話だけ・・・。

 活躍できるのは何話先だろう?


 反董卓連合。

 

 都で実権を握った董卓を良く思わなかった袁紹が立ち上げた有名諸侯を巻き込んだ連合だ。

 僕たち『風影の団』は、いくらその名が知られていようとも放浪軍なのだ。傭兵稼業、それ故に使おうとする諸侯は多くとも雇おうという諸侯は極端に少なくなる。

 

 影紗の調査では可能性があるのは、才能のある人材を好む魏の曹操、今はまだ袁術の客将ながら何れは独立するであろう江東の虎の娘たち孫策や孫権、新興勢力でありながらこの連合に籍を置いていて良い人材にも恵まれている劉備、万年人材不足と言われながらもその手腕で異民族を撃退し続ける白馬長史として名高い公孫賛。

 

 精々この四勢力ぐらいが、僕たちを諸手を挙げて迎え入れてくれる可能性のあるところだ。

 

 その中から僕ら……、いや僕が仕えるべき主がいる勢力を探さなくてはならない。この戦中に見つかるのだろうか?

 それとも、まだ先なのだろうか?

 

「秀護、軍議に呼ばれているわ。と言っても、袁紹の後ろで控える形でとの事よ」

 

「僕と影紗だけ?」

 

「ええ、『風影の団』を使っていると諸侯に自慢したいのでしょう。ま、ぜいぜい諸侯に顔を覚えてもらいましょ」

 

 言葉には出せないけど、めんどくさい。

 有名諸侯の前に出るのだから普段使いの鎧で軍議に出るわけにはいかない。返り血やら泥やら煤やらで汚れているからだ。

 

「誰かある!」

 

 影紗が天幕の外に声をかけると、すぐに団員の一人が入ってくる。

 

「ここに」

 

「我々二人分の正装を用意して、後は副団長補佐の指示に従ってください」

 

「かしこまりました。すぐにお持ちします」

 

 そういうと団員は風の様にその場から消えた。

 どうやら、『影』の方だったようだ。

 

「相変わらず、『風』と『影』の見分けが難しいな」

 

「当然です。私含めて『影』は秀護の文字通りの影。『風』は秀護の手足。手足にも当然影はできますからね」

 

 『影』と見抜かれないことも『影』の素質なんだろうな。

 しかし、儀礼用の鎧はあまり好きではない。戦闘に特化させた実戦用の鎧は僕の戦い方に合わせて新調させているが、儀礼用はそれこそ完全に見た目重視のものだ。

 動き辛いし、関節部分が他の所と干渉しているのか動くたびに金属音がうるさいのも減点対象だ。

 

 見た目は、普段使いの鎧を少し豪華にした感じなのだけど、使い心地は雲泥の差と言っていい。

 

「さぁ、秀護。私たちは袁紹軍にとっては捨て駒、どんな死地に送り込まれるかわからないけど、それを乗り越えて私たちの名、この天下に響かせましょう」

 

 確かに、ある程度名が知れていて、捨て駒にしやすい傭兵集団だ。

 実に分かりやすい扱いだし、他の周辺諸国も同様の扱いをするだろう。しかし、そこで袁紹側の予期せぬ活躍をしたら、当然だけど僕たちの名は天下に轟く。

 

「死地へ向かうか……。所詮捨て駒の放浪軍、そう思っているならこの戦でその認識を否応にでも改めてもらう」

 

 

**********

 

 

 反董卓軍の軍議。

 前半は、軍議というか顔合わせの会合というか、あれを軍議と言っては他の諸侯に怒られる。

 

 しかし、後半になって曲がりなりにも話が進んだ。

 

「それでは、劉備さんには汜水関での先陣を務めていただきましょう」

 

 まぁ、劉備という義勇軍にとってはかなり致命的な役目だ。

 そして、僕たちにとってはかなり嫌な任務になる。

 

「大丈夫ですわ。彼ら『風影の団』があなた方の後ろにて布陣しますので、何の心配もありませんわ!」

 

 要は彼女たちの軍勢が役目を放棄しない様に見張る役目だ。

 前線でもなければ、後衛でもない。味方の背に槍を突きつけるかなり印象の悪い役目だ。

 

「……」

 

 しかし、所詮は雇われの身だ。

 嫌われ役をこなすのも、傭兵稼業だ。慣れている。

 

「大丈夫です。おそらく、向こうの軍師二人が大変優秀でしたし、敗走したように見せかけて敵を我々に押し付けるぐらいはするでしょう」

 

 相変わらず、怖いぐらいしっかりした情報収集能力だ。

 だけど、もしそうなるなら僕らにも面倒が来るだろうな。

 

「なるほど、なら立ち位置から見て僕らが最初に押し付けられるね」

 

「ええ、しかし同時に好機です。守将である華雄将軍は強力な将ですが、同時に血気盛んで前線での戦闘を好むと聞きます。我々に押し付けられると同時に我々にいちばん近い位置に居る可能性が高いです」

 

「つまり、上手くそこで華雄将軍を討てれば、名が天下に轟くと・・・」

 

「あちら側も名声が欲しいようですが、それは我々とて同じ。名を上げる機会を向こう側から提供してくださるのです。遠慮なく、容赦なく、頂きましょう」

 

「……なあ、基本的に武名は僕が担当する訳だけど、華雄将軍と戦うの当然僕だよね?」

 

「何をあたりまえなことを? 秀護は最終的に呂布と戦ってもらうのです。ここで挫けないでください」

 

「サラッと恐ろしいことを!? お前、何最強の将軍と戦わせようとしてんだよ!」

 

「何をいまさら、止めたって単騎駆けする団長なんですから、そこを踏まえたうえで策を練るのが私の役目ですよ」

 

 何も言い返せないので、戦の準備をしようと思う。

 おかしいな、僕団長なんだけどな。

 

「団長、今回は力使いますか?」

 

 急に真面目な口調になった影紗は『力』の部分に心なしか力を入れて聞いてきた。

 心当たりはある。

 フールは僕に何度も多くの技術を教えてくれた。闘い方から生活の方法まで今の僕を形作る上で彼の影響が受けていない部分は無いと言っていい。

 

「相手次第……かな? 集団相手なら何度か使ったけど、一対一の戦いでは使ったことはないし、できれば自力でやれる所までやりたい」

 

 そして、フールが僕に与えてくれた中で最も強力なのが

 

「『波紋』の力。今のところは、秀護と師匠のふーる殿以外に使い手がいないと言ってましたか。氣を操る人間には何度か会っていますが、その上位互換っといった所でしょうか?」

 

 波紋。

 特殊な呼吸法から体の中に力を発生させる技術だ。身体能力の強化や傷の治りが格段に早くなる技だ。それだけでもないのだけど、この辺りは使う機会があったらという所かな。

 

「師匠は氣を高めた上で波紋を使ってたから発展系ではなくて、別物なんだろうね。あの時は人間の限界を垣間見た気がするよ」

 

 フール中心に暴風と電が広がって、威圧感がとんでもないことになっていた。

 それこそ、拳一つで城を落とせるのではないかと思えるぐらいに。

 

「なるほど。秀護、使うなら派手な場面で使ってください。勇名とともに良い風評の糧になります」

 

「了解。影紗も深入りしすぎて失敗しない様にね?」

 

 

**********

 

 

 オレが見せた暴風と電を纏った状態は氣と波紋、霊力と魔力の四種混合ハイブリットエネルギーってやつだ。

 

 やぁ、愚者ことフールだ。

 

 あれからずっとあいつの生き様を見てきたけど、いやはや予想外だね!

 本当は秀護の奴は次世代を生むための種のつもりだったのだけど、想像以上に主人公やってた。

 

 波紋の力を渡し、それをどのように使うか。

 幸いなことに、あいつの才能は刀と波紋に特化している。そばにいる軍師の女も良いサポートをしてくれていて本当にこれからが楽しみだ。

 

 しかも、こいつから生まれる次世代はどんな奴になるんだろうな?

 ああ、今から待ち遠しい。

 バカバカしくなるぐらい生きた時間に比べればヒト一人分の一生なんて刹那の時間だ。

 それでも待ち遠しい、分かってくれ、オレのこの高揚感を。

 

 期待していなかった、ただの序章として読み飛ばしてもいいような部分がこんなにも面白い動きをしてくれているんだ。

 例えるなら、週刊雑誌で毎回読み飛ばしていた漫画を単行本で読んだら一発ではまったってレベルの高揚感なんだよ。

 

 ああ、こいつはオレのお気に入りだ。

 末代まで見せてもらおうか? 生き様を、血族の宿命を。

 

 さって、次はいつ介入するかな?

 




 いかがでしたでしょうか?

 時たまフールの視点が入ります。

 本当は誰視点であるか明記するのがいいのでしょうが、基本的にこいつはメタい上にカタカナワード連発なのですぐわかるかと・・・。

 誤字や感想などありましたらお気軽にどぞ~。


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