魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが (神凪響姫)
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無印
第1話 自分を知りましょう


最初なのでひたすら短いですがご了承ください。


 

 

 

 

 最後に一つだけ、と聞かれた。

 

 

 

 ――もし、こことは異なる世界があったら、あなたはどうする?

 

 ……どうすることもできんよ。

 

 ――その世界が、危機に瀕していて、あなたにはそれを覆す力があるとしても?

 

 ……人間の無力さ加減は、承知している。

 

 ――それでも、あなたは人間の弱さ以上に強さを信じている。

 

 ……いずれにせよ、私にはどうすることもできんだろうさ。

 

 ――なら、もしどうにかできるなら、あなたはどうする?

 

 ……そうだね。

 

 

 

 一度くらい、人のために生きてみるのも、悪くはないのかもしれないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――なら、行って下さい。

 

 ―――どうか、救って欲しい。あなたの持てる全てを尽くして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という夢を見たのだが……」

 

 それは、夢の光景でした。

 

 真っ白な空間に、自分が漂っている感覚がありました。自分でも驚くほど意識が澄んでいて、起きているのか夢なのか定かでない状況でした。

 けれど、夢だと思ったのは、自分とまったく同じ姿をした人物が、目の前に立っていたからです。

 

 その人は言いました。救って欲しいと。

 

 だから答えました。一度くらいなら、やってみてもいい、と。

 

 それが夢の出来事とはいえ、かなり軽率な発言だったと後悔することになるのでした。

 

 

 

「うん?」

 

 

 

 思わず呟いた声が通常より幼く聞こえ、半分眠りかけていた意識を無理矢理起こしました。

 

 見慣れない天井があります。見知らぬ部屋がそこにありました。

 

 どう見ても、自分の居場所ではないと分かったのは、十秒後でした。

 どう考えても、自分の体が幼い子供だと理解したのは、触れて確認してからでした。

 

「ほほう。最近の夢は都合が良いね。触感まで実にリアルだ」

 

 半ば現実逃避した台詞でしたが、少女はすこぶる冷静でした。

 

 近くにあった机から鏡を引っ張り出し、自分の姿を見て、少女は驚いた顔をしました。

 

「いかんな。寝癖がついてるじゃないかね」

 

 どうでもいいことに気づきました。

 

 さておき。

 

 

 

「私本来の身体ではない……」

 

 

 そう、目覚めてみると、自分の身体が違っていたのです。なんということでしょう。これはびっくりなどと控えめな感想を抱いてる場合ではありません。ただ事ではないのです。

 

 しかも、

 

「いかんな。知識はあるのだが、記憶が一部欠落しているようだね」

 

 自分が本来ここにいるべき人間ではないことは分かっています。

 けれど、かつて何をしていた人間なのか、イマイチ判然としませんでした。どうやらここに至るまでの間に記憶を失ってしまったようでした。

 

「かつての私は、もうちょっとこう、大人のエロスとバイオレンス溢れる身体だったような……」

 

 記憶がないのをいいことに好き勝手推測しますが、事態は結構深刻です。

 

 だというのに、

 

「まぁそんなことどうでもいいね」

 

 少女はまず自分の状況を確認することから始めようと思いました。ご都合主義なんて言葉が吹き飛ぶ勢いでした。

 

 ここはどこだろう。そう考えると、自分の頭の中から知識が湧いてきました。

 

「海鳴市……高町家の次女・なのは。それが私の名前、か」

 

 何故か情報がすんなり出てくることに驚きを得ながら、少女はひとまず部屋から出ました。

 

 リビングに向かいながら、その少女―――なのはは、頭の中で情報を整理します。

 

「高町家は五人構成。父・母・長男・長女・次女。

 

 高町士郎。元要人のボディガード。引退済み。喫茶店のマスター。現在入院中。

 

 高町桃子。性格温厚な女性、子供を甘やかすのを好む。パティシエ担当。

 

 高町恭也。御神流を継ぐ真面目な青年。ただし重度のシスコンである。

 

 高町美由希。大人しく読書好き。兄共々稽古を怠らない。突っ込み兼任。

 

 以上。これが私の……否、『高町なのは』の家族、かね」

 

 どこか寂しそうになのはは呟きます。それはそうでしょう。確かに身体は高町なのはになりましたが、しかしそれはこのなのはという少女のものなのです。今ここにいるなのはに宿る人格は、言わば横取りしたようなもの。元いた少女の人格はどこにいってしまったのでしょう? どうでもいいですがなんだかややこしくなって参りましたね。

 

 なのはとなった少女は、多少なりとも罪悪感を抱きました。自分が夢の中でいい加減なことを言ったせいでこんなことになってしまったのかと。そのとばっちりを受けて、少女の精神は消滅してしまったのかと。

 

 暫く悩み悩んで、消えてしまった少女のことを案じていましたが、

 

「まぁなるようになるだろうよ」

 

 非常にいい加減な結論に着地するあたりにこの少女の元々の性格が垣間見えるのでした。

 

 

 

 

 

 リビングに着くと、そこには誰もいませんでした。

 これもまた日記に記されてあったことから知ったのですが、父が仕事で怪我を負ってからというもの、母だけでなく兄や姉も仕事やそれの手伝いで多忙の身となり、家を空けることが多くなっているのでした。そのため、なのはは常々寂しい思いをしており、しかしそれを打ち明けることなく明るく振舞っているのでした。

 

 が、そんなこと知ったこっちゃねぇ少女は、人がいないのをこれ幸いとばかりに家探しを開始しました。

 

「つまり合法的に何をしても許されると。最高だね?」

 

 冗談でも言ってはいけない台詞をサラッと言ってのける少女がおかしいのは言うまでもありません。

 

 とはいえ、なのはが探しているのは預金通帳や印鑑の類ではありませんでした。一応それらを発見して、通帳講座の番号などを把握し印鑑のコピーを粘土でとりました。なんという手際でしょう。絶対こやつ前世は盗人だったに違いありません。

 

 まず必要だったのは、写真やアルバムなど、『高町なのは』の過去の情報です。今ここにいるなのはは、以前の記憶を当然ながら持ち合わせておりません。なので些細なことからボロが出る可能性も高いです。それが家族相手ならなおさらと言えるでしょう。

 

「しかし九歳の子供がいきなり人格変わっても偽物云々言われまい」

 

 いけしゃあしゃあと言うなのはの顔はひたすらマジでした。

 

 ともあれ、アルバムをゲットし、過去『高町なのは』が書いたと思しき日記も数点入手できたので、首尾は上々でしょう。これに費やした時間はわずか2時間です。その間に天井の染みの数どころか兄の部屋の18歳未満お断りな本まで全て網羅し尽くしました。恐ろしすぎる手腕です。四代目ルパンの襲名もチョロ甘でしょう。

 

 夕方になると、兄や姉、母が戻ってきました。当たり前ですが家具の位置など全て元通りになっています。兄の本には張り紙として『イエスロリコン、ノータッチ』と置いといたので概ね良好でしょう。

 

 しかし、自室にこもるなのはは思案顔でした。幾ら知識を得ようと、近しい者の感はなかなか侮れません。

 

「悩んでいても仕方あるまい。ここは一つ、思いきってみようではないかね」

 

 さっきから思いきったことしかしてない人が言いました。

 

 

 

 



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第2話 状況を把握しましょう

ちょっと誤字が目立つような気もしますがとりあえず既存の分は早めに済ませておきたいところでございます(ご挨拶


 

 

 

 さて、現状を未だ完全に把握しきれないなのはは、まず誰かに聞こうと思い至り、誰にするか考えます。

 

 まずは知るべきこと、それは、この肉体の持ち主となる少女『高町なのは』についてです。

 

 家族を避けるわけにもいきません。なので、今のうちから少しずつ、慣れて行こうという算段でした。えらく計画的です。もし仮に違和感に気づかれても、成長期の子供故の複雑な心境や大人へと近づく少女の乙女心のせいと判断されるでしょう。

 

「便利なものだな、女というのは」

 

 そう言って笑うなのはの顔はR15レベルでした。

 

 とはいっても、いきなり「なのはってどういう人?」と若干哲学入った問いをしても、「君は君だ、それ以外の何者でもない」とキザで真理な返答が来ることはあり得ません。子供らしい理屈のない問いに微笑ましく思われるか、ちょっと頭が足りないのかと判断されます。この年代で後者はないでしょうが、肉体と精神の年齢は必ずしも一致するとは限らないという真理がここで証明されております。

 

 なので、事は慎重に運ばなければなりません。

 

 そして白羽の矢が突き刺さったのは、一番チョロそうな……もとい、優しい兄でした。

 

「お兄ちゃん、なのはに大事なことを教えて欲しいの……」

 

 潤んだ上目遣いでそんなSAN値直葬モンのセリフを言うもんだから、ロード・オブ・シスコンの名を欲しいままにする恭也なんぞは脊髄反射のレベルで即答しました。

 

「ハハハ任せろ! 言っておくが、保健体育はいけないぞ! なのはにはまだ早い……!」

 

 わざわざ大声で叫んだものですから、廊下にいた美由希がNFLでもお目にかかれないパワーチャージで扉を粉砕して入ってきました。

 

「恭ちゃん! なのはになんてこと教えようとしてんのよ!」

「誤解だ美由希! 俺はやましいことなど何一つしていない……!」

 

 犯罪者は皆そう言うのでした。

 

 結局、恭也は美由希に美しい三日月を描くバックドロップをキメられ、どこかへと引き摺られていきました。

 

「ふむ。なかなかままならないものだね、現実というのは」

 

 十歳にも満たない子供が額を押さえてそう呟く様は実にシュールでした。

 

 

 

 

 

「困った時にはお友達に頼るのが一番なの~」

 

 体良く使われる友人に同情が寄せられそうな言い草でした。

 

 友達の名前は机の中に合った日記に書いてあったんで、すぐに解りました。

 アニサ=バニングス、月村すずか。

 この二人が生贄……もとい、友達なようです。それも、親友と言っても差し支えない関係らしく、ほぼ毎日彼女らのことについて書かれてありました。

 

「いかんな……彼女らには感づかれるやもしれん」

 

 いざバレたらどうするべきか。割と真剣に考える辺り真面目そうに見えるなのはでしたが、

 

「話せばわかる」

 

 いい加減な結論に至る辺りさすがでした。

 

 

 

 

 

 私立聖祥大学付属小学校、というのがなのはが籍を置く学園で、そこの3年1組に所属している模様です。

 送迎バスも出ているようですが、なのはは敢えて徒歩で行きました。こうすることで自分の支配下を拡張し――街への見聞を広めようというわけです。

 いざ迷子になった際に見たこともない場所ばかりで困りました、では済まされませんからね。

 

 余談ですが、身体が弱い(というより体力がない)なのはを案じた恭也が仕事そっちのけでストーキンg―――同行を申し出ようとしていましたが、口を開いた瞬間に美由希の華麗なドロップキックが炸裂してなのはの視界から消滅しました。悪は滅びるがサダメ。

 

 てくてくと道を歩く制服姿の小学生はこの辺でも評判なようで、ときたまジョギングする男性や井戸端会議に盛り上がる主婦たちがにこやかな笑みを見せてくれます。

 そのたびに、なのはは手を振って応えています。意外なことにこの少女、マメでした。そこには悪意どころか何の謀めいたものもない、普通の笑みがありました。

 

「子供とは便利なものだな」

 

 そういう余計なひと言がなければ完璧でしたが。

 

 道を歩きつつ、問題が一つあることを思い出します。

 件のアリサやすずかも同じクラスなので、なのはは盛り上がって、否、危機感が増してきておりました。

 

「ここは普段通り、純粋無垢たる私のありのままの姿をさらすべきだな」

 

 かなり厚かましい台詞を道のど真ん中で白昼堂々言うのですから、通りすがったおばちゃんが目を剥いていますがなのはは気づきません。気づいてもスルーしていたことでしょう。

 

 

 

 

 

 学校に到着しました。

 廊下を歩きつつ、さて、どういった挨拶をかますべきか、と扉の前で腕組みします。

 

 意外性を求めて美由紀直伝のショルダータックルをかますものや、奇声を上げながら突撃するものもありますが、ここはやはり、大きな声ではっきりと挨拶するべきだという結論に至りました。フツーが一番です。当たり前です。

 

「みんな、おはよ~!」

 

 純度百パーセント、蓋を開けるとどす黒い策謀が渦巻いてそうな爽やかな笑みを携え突撃しました。直前まで腕組みしてブツクサ呟いていた姿からは想像もできません。この変わり身の早さを見た者がいたら彼女のKUNOICHIと疑うこと山の如しです。

 

 元気いっぱい、不敵さ全開のなのはが入ってくると、教室の真ん中で雑談に興じていた二人の少女が振り返りました。一人は金髪の美しい、勝ち気そうな女の子。一人は濃紺の髪を持つ、大人しそうな女の子です。対照的とはまさにこのことを指すでしょう。

 

 金髪の子は、アリサ=バニングス。通称「ツンデレちゃん」。

 紫髪の子は、月村すずか。通称「地味っ子ちゃん」。

 

「なのは、今アンタ失礼なこと考えなかった?」

「なんのことー?」

 

 すっとぼけるなのはの嘘度はオオカミ少年ばりでした。

 

 少々不機嫌になったアリサと違い、すずかは、

 

「おはようなのはちゃん」

 

 とちゃんと挨拶を返してくれるので、この子は真面目なのだなとしみじみ思うのでした。誰かこいつをなんとかしてください。

 

 それからしばらくは、年相応な会話を楽しみました。二人にばれぬよう気を使いつつあれこれと会話していて、なのはは思いました。

 

(ふむ。どうやら私に違和感を抱いていないようだな)

 

 聞く前に解決してしまった、と少々肩すかしを喰らった気分でした。

 

 少なくとも現状、普段通りと思しき反応です。なのはが何か言い、アリサが怒ったように反応し、すずかがそれを諌めるといった具合です。成程、となのはは思います。三人が自然と一堂に会するのは至極当然の成り行きなのでした。

 

 二人では上手く回らなかったであろう話のやり取りも、三人揃うことで回転するだけでなく、より一層盛り上がるようになったのです。だからこそなのはは二人と親友になれたのでしょう。

 

 なのはは少しだけ、元々いたであろう高町なのはという少女に罪悪感を抱きましたが、

 

(まぁそれはそれ、これはこれということだね)

 

 二秒でポイ捨てするのですから人でなしここに極まります。

 

 

 

 

 

 放課後になりました。

 三人は私立の生徒らしく塾に通っているらしく、勉強のことについて触れながらそれぞれ帰路に着きます。

 

 勉強など我が障害に足りえずとばかりに全力全壊、もとい、全開でやり遂げたは良いのですが、国文系を苦手とする『高町なのは』がいきなり満点をとったことに驚いたアリサに、

 

「アンタまるで別人のように勉強できるようになったわね」

 

 などと言われ瞠目してしまいました。

 

 しかしこの程度でめげるなのはではありません。

 

「認めたくないものだな。人の、若さゆえの過ちというものは」

 

 そんないい加減な台詞で自分をごまかすのでした。

 

 人間、努力すればなんとかなるものです。アリサは近頃頑張っていたなのはの努力を察したようで、あまり深く追求しませんでした。良い子ちゃんです。

 

 すずかは純粋に羨ましがっておりました。そういう邪気のない眼を向けられると困ってしまうなのはでした。邪悪な者ここに天敵と見なす。

 

 

 

 

 

 さて、公園の近くを通り、家まであともう少しというところで、

 

『助けて……!』

 

 と、切実な悲鳴のような声が聞こえてきました。

 

『誰か……助けて……!』

 

 再び、絞り出すかのような声が聞こえてきました。

 再び、ソウルフルなシャウトが聞こえてきました。

 大事なことなので二度言いました。

 

「ふむ。空耳かね」

 

 平常心という言葉がまったく揺るがないなのはでした。

 

 しかし、気になったのも事実ですので、声に導かれるまま進んでみることにしました。

 

 公園の林の奥、そこから声が届いたようです。

 なのははちょっと戸惑い気味……に見えて今にも鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で突き進みます。

 

 すると、そこにはフェレットのような動物が倒れており、それに襲いかかろうとしている、妙なケモノがおりました。ケモノとしか形容できません。ケダモノといってもいいかもしれません。淫獣といってはいけません。

 

 動物は怪我をしているのか、血を流しています。

 

 ただ事ではない、なのははそう思いました。彼女にしては真面目な思考でした。

 

 助けに行くべきかもしれない、けど、あの危ない場所に行けば自分も狙われる、けど結局次は自分が狙われるかもしれない、そうしたら……と、普通なら戦々恐々とするでしょうが、

 

「いや待て。まずは様子見すべきか。いやいや、獲物に夢中になってるうちにとっとと逃げるが吉かもしれない……!」

 

 外道な考えが真っ先に浮かぶこの少女は平常運転でした。

 

 が、さすがに殺されそうになる動物を見過ごすのは少しばかり後ろ暗いので、隙を見て走りこみ、動物を抱き上げました。

 

「き、君は……」

 

 何故かしゃべりだす動物の言葉を無視して、とりあえずといった風に言いました。

 

「別にアンタのためにここに来たわけじゃないんだからねっ!」

 

 じゃあ何のために来たんでしょうね。

 しかも何故かアリサ風のリアクションでした。

 

 原理は分かりませんが、動物はしゃべれるみたいです。

 なので、なのはは息を吸ってから、問いました。

 

「アレは何? 怪我してるの? 魔導師って? 何故君はしゃべれるの? 私はどうすればいいの? ここは危ないよ? 逃げた方がいいんじゃない? 一緒に走れる? ところで昨今の日本経済についてどう思う?」

 

 瀕死の相手に質問攻めする気概は天下一品でした。

 

「お、お願いだ……僕の代わりに、アレを封印して欲しいんだ……!」

 

 なのはの発言を総スルーして動物は息切れしながらも言いました。

 

 無視されてカチンときたなのはですが、さすがに動物相手に弱肉強食を叩きこむほど落ちぶれてはいませんでした。

 

 しかしこの動物、僕と契約して、魔法少女になってよ! と言わない辺り、なかなか真面目さ加減マックスです。

 

「ふ、ふぇ~っ!?」

 

 さも驚いたようなリアクションをするなのはでした。実際たいして驚いてないのは言うまでもありません。

 

 むしろ驚いたのは、

 

(む! このリアクション、意外と汎用性が高い……使えるな!)

 

 子供らしい言動をゲットした! と内心ガッツポーズするのでした。

 

 動物は無言の肯定と受け取ったようで、力を振り絞るように言います。

 

「じゃあ、僕の言葉を復唱して……!」

「分かったの!」

 

 いらんほど大きな声で返事しましたがそのせいでケダモノに目をつけられております。

 

「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は空に、そして不屈の心はこの胸に。この手に魔法を!」

 

 彼なりに必死になって伝えているのでしょうが、初対面の幼い子供に延々と長ったらしい呪文を伝授するのは些か無理のある話です。

 

 が、ここにいるのは常識がマッハで昇天する九歳児なので、

 

「我、使命を以下省略っ!」

 

 全て端折りました。なんですかこの設定デストロイヤー。

 

「「レイジングハート! セットアップ!!」」

 

 声を一つにし、叫びました。

 

 するとどうでしょう! 洗っても洗っても全く落ちなかった頑固な油汚れが! あっという間に落ちていって! まるで新品同様の輝きを取り戻したではありませんか!

 

 ……ではなく、日曜の朝から展開されていそうな光に包まれ回転しつつフリルがあしらわれた衣装が形成し、最後に杖が手の中におさまりました。

 

 無論、【18禁】や【18禁】の箇所にはきちんと光の帯やら不自然な発光現象やらで隠されていました。残念無念。

 

「魔法少女、高町なのは! 参上っ!」

 

 この少女、割とノリノリでした。

 

「気をつけて、まだ慣れない魔法だ。僕が誘導するから、言った通りにしてみて……!」

「ようがす!」

 

 初めての魔法。初めての戦い。見知らぬフェレットに導かれ、危ない状況に巻き込まれても、少女はその瞳に、いつもの不敵な感情を宿しています。

 

 自分は待っていたのかもしれない、こういう普段とは違うモノを。

 

 さぁ行こう。なのははニヤリといつもの、しかしどこか違う感情を含めた笑みを携え、叫びました。 

 

「なのは、行っきま~す!」

 

 キャラが違います。

 

 

 

 



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第3話 魔法を使いましょう

私が現在書いてるもう一つの小説を友人に見せた後にこの作品を見せたら、

「お前いったいどんな頭してんだ」

と褒められました(違

タグにのせましょうか『変態絶賛!』て。想像するだけで最悪ですね(自己完結



しかし人を選ぶとはいえ、警告タグみたいなものを増やすべきでしょうか。
皆さま何かご意見がありましたら是非教えて頂きたいところです。




 

 

 

 前回の出来事

 

 

「ナンタラカンタラパトローナム!」

 

 

 シュイーン。封印できました。スイーツ(笑)

 

 

 

 さて、冗談はほどほどにして、本編でございます。

 

 

 

 

   第三話 魔法を使いましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、子供が思わず目を瞑りたくなるようなR15残虐ショーが行われ……るようなことはなく、無事ジュエルシードを封印することができました。

 

「ふむ。なかなかどうして、面白いものだな。魔法というものは」

 

 偉そうな口でそう評する子供は世界中探してもこやつだけでしょう。

 

「あの……」

 

 と、ここで半ば置いてけぼりを食っていたフェレット(らしき生物)が口を開きました。

 

 そこでなのはは我に返り、自分の失態を呪いたくなりました。

 

(しまった。いつもの調子で言ってしまった)

 

 この少女、どうもテンションが上がると自我を抑えきれないようで、時折本当の自分が表に出てしまう様子でした。こう書くと厨二病のように聞こえなくもないですね。

 

(いかんな。ここで始末しておくべきか……)

 

 助けておきながらトドメを指す側に速攻で回ろうとするあたり相変わらずでした。

 

(いや待て。この不思議能力といい先程の謎の生き物といい、生かしておけば後々何らかの形で役立つやもしれん。それに邪魔になれば排除すれば良いだけのこと。フフフ私にかかれば赤子の手を捻るようなものよ……)

 

 あくどい顔で笑うのでした。

 勿論、フェレットから見えない位置で。

 

「あ、あの。危ないところを助けてくれて、ありがとう……」

 

 外見的には幼い子供を、自分のせいで危ない目に合わせたことを申し訳なく思っているらしく、しゅんとした雰囲気が漂ってきます。

 普通の人間なら誰だってそう思うでしょう。

 普通の人間なら誰でもそう考えるでしょう。

 普通の人間なら誰もがそう認めるでしょう。

 重要なことなので三度言いました。

 

 ところが、ここにいるのは普通とは紙一重どころか壁100重はある少女ですので、汗で濡れた前髪をはらいながら、落ち着かせるように言いました。

 

「何、気にすることはない。自分の力至らなさ加減を嘆く必要はない。私は寛大だよ? 庶民が危機に瀕したならば助太刀するくらいの心は持ち合わせている。代価は要るが」

 

 子供とは到底思えない発言でしたがこれはジャブにも満たないのでした。

 そしてこの上から目線です。この少女の場合女王様気質どころの騒ぎではないでしょう。

 

「なんだか君、変わってるね……」

 

 少女の芸風にフェレットは驚き半分呆れ交じりに言いますが、なのははしれっとした顔で言ってのけます。

 

「人は皆違うものだろう?」

 

 いきなり真理を持ちだしました。

 

「いずれにせよ、君には迷惑をかけてしまった。申し訳ない……」

 

 フェレットは素直に謝罪しますが、

 

「何、気にすることは無い。私は多分、平気だよ」

 

 と、屈託なく笑うのでした。

 命の危険に晒されても、決して咎めません。フェレットは救いを見出した敬虔な信者のような輝いた眼で見つめましたが、

 

「迷惑料を払ってくれれば尚素晴らしいがね」

 

 台無しでした。

 

 

 

 

 

 

 すっかり帰りが遅くなってしまい、フェレットに「家族が心配するから説明は後で」と言われ、止むを得ず服の中に収納しました。

 

 なのはが急いで自宅に帰ると、仁王立ちする恭也と美由希に出迎えられました。

 

「なのは、一体どk「なのは! 今何時だと思ってるんだ! 兄ちゃんがどれだけ心配したと思っている!」…………」

 

 何か言いかけた美由希をどかして恭也が怒鳴りました。近所迷惑になるので玄関で大声出すのは止めましょう。

 

「お兄ちゃん……ごめんなさい」

 

 涙目上目遣いで言うのですから、シスコン道にこの人ありと言わせしめた恭也は一瞬で態度を豹変させました。

 

「いいんだ気にするな! お前が無事なら俺は何も求めない……!」

 

 そう言いつつ全力でハグしようと構えたので、横から飛来した苛立ち全開の美由希によるシャイニングウィザードで一撃フィニッシュされました。

 

 後方で展開される残虐ショーを無視して、怯えるユーノを服の中に隠したまま自室へ向かいます。美由希に後で言及されるでしょうが、後で適当に言い訳でもすればいいと考えていました。

 

 自分の部屋に着くと、やっと一息つけました。

 

「今日は本当にありがとう、助かったよ。僕、ユーノ=スクライアって言うんだ。宜しくね」

 

「うむ。私は高町なのはだ」

 

 腕組んでニヤリとしながら名乗る姿は凄まじく不気味でした。

 

「して、ユーノとやら。説明くらいはしてもらえるのだろうね?」

 

 ビクッ、と身体を震わせるユーノ。それはそうでしょう。あれだけ現実離れした状況に置かれて、事情を知らないまま終わろうなどとはムシが良すぎます。

 

 そして、その状況下でなのはが巻き込まれる原因ともなったユーノは、

 

「ご、ごめん! 今は何もできないけれど、必ず元の生活を送れるよう約束するから、」

 

「否、それはどうでもいい」

 

 え? と小首を傾げるユーノは、直後、見ました。

 

 なのはの口の端がつり上がり、口が三日月を描いたのを。

 

 ―――後に彼はこう語る。ああ、これが魔王その人なんだ、と

 

「私の大事な(平和な生活とか貴重な時間を一分一秒でも割いたとかそういった)ものを奪ったのはこの際置いておこう。だが、私のあられもない(元の性分を晒した)姿を見て置いて、それに関して何の詫びもせずしかも謝罪を確約できんとは……貴様どういう了見かね? 慰謝料を請求してもよろしいかね? ん?」

 

「い、慰謝料って……」

 

「うむ。―――十億万円だ」

 

 頭の悪い数字でした。

 

「冗談だ。安心したまえ、子供から金などとらんよ。後々しかるべき機関に要求する腹積もりだ」

 

 安堵の息を吐きかけたユーノですが、今のなのはの発言に聞き流せない単語があることに気づきました。

 

「君……僕が人間だって、知ってたの?」

 

「何、君の言動を考えれば辿り着く結論だろうよ。君は人間と同程度の倫理観や思考を持ち合わせている。だから私の服の中でそわそわしていたし、子供が夜までに帰らないと家族に心配されるという結果も予想できていた。後者は人間特有の考え方だ。フェレットに人間並みの知識と思考を授けても、そういった考え方ができるとは思い難いし、加えて前者は私を意識している証拠に他ならない。人間の女に興味を抱くのは同じ人間の男だけということだよ。更には君の声音・話し方・慌て加減などを加味すれば、ほら、人間としか思えないだろう? 魔法とは実に便利なものだね」

 

 大人並みの推理にユーノは唖然としています。『見た目は子供、頭脳は大人』……というより、『見た目は詐欺師、頭脳は外道』と言っても差し支えない気がします。

 というか、れだけのことがあったというのにこの落ち着き払いっぷりは尋常ではないでしょう。これも今更でしたね。今更すぎて驚きが薄れているのは良くない兆候です。

 

「君、本当に子供……?」

 

「さてね」

 

 その誤魔化し方からして子供ではないです。そんな子供いて欲しくないです。

 

 しかし現実はハードでした。

 

「さて、落ち着いたところで話を聞かせてもらおうか。魔法というモノについて、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 

「ふむ。成程、大まかなところは把握できた。つまるところ、君はその願いを叶えるとされるジュエルシードの発見者の一人として、それの回収が責務と判断し、単身異世界にやって来た、と」

 

 話を要約すると、ユーノは頷きました。

 

 見た目はフェレットですが、責任感溢れる少年のようで、なのはは好感を抱きます。

 

 とはいえ、彼も子供のようですし、ここまで自分のせいと後ろ向きになるのはどうかと思います。常に前向きに爆走している輩がここにいますが。

 

「今の僕にほとんど力は無い……だから、申し訳ないけれど、君の力を借りたい。君には魔導師としての才能がある。その力を、どうか貸してくれないかな?」

 

 ユーノの懇願に対し、なのははさわやかな笑みをもって答えます。

 

 

 

「断固辞退する」

 

 

 

 さわやかに拒否しました。

 さもありなん。命の危険に何度も晒されるなど、幾らなのはと言えども安請け合いはできません。

 

(報酬が出るから応相談だが)

 

 眼が『$』になっていました。最悪でした。

 

 案の定、顔を暗くするユーノでしたが、しかし続くなのはの言葉に目を丸くします。

 

「とはいえ、世界の危機とやらに直面するやもしれんのだろう? 現実的な話ではないが、一笑に伏して良い話でもない。何故なら先程私はファンタジーな要素をこの目で見届けたのだから。君の話から察するに、事は重大かつ危険なものだね? ならばそれを解決できる存在が必要で、尚且つそれが私だというならば、不本意ではあるが協力せざるを得ないだろうよ」

 

 非常に回りくどい言い方ですが、つまり、少女はこう言っているも同然でした。

 

 

 

『そこまで言うなら、アンタに力を貸してあげるわ! かっ、勘違いしないでよね! 世界が滅んじゃったら大変なだけなんだから!』

 

 

 

 と、いうことでした。

 ハイハイツンデレ乙という言葉が弾幕のように飛んできそうな勢いでした。

 

「いいのかい?」

 

「良いも悪いもない。やらねばならぬ事情がある。ならばやるだけさ」

 

 フッと不敵に笑うなのはの横顔は頼りがいのあるものでしたが、

 

「世界の救世主か……フフフ、良い響きだね? 私こそ真の支配者……!」

 

 邪気百パーセントオーバーでした。

 

 その呟きはユーノに聞こえなかったようで、彼は申し訳なさそうに、しかしどこか嬉しそうにお礼を言いました。

 

 夜も遅く、そろそろ寝ようかと話が落ち着いたところで、ユーノはなのはに聞きました。

 

「ところで、君は、一体何者なんだい? 僕の話を聞いても差ほど驚いた風でもないし、子供にしては非常に達観した物言いだ。明らかに普通じゃないけど……」

 

 抱いて当然な問いではありましたが、なのはは悲しげに首を振りました。

 

「それを一番知りたいのは私だよ」

 

 ―――何せ、記憶がないものでね。

 

 続くその言葉は、とても言葉では言い表せない感情が込められていました。

 

 

 

 

 

「ところで話が変わるがユーノ君。君は男なのだろう? ならば私と半ば同棲するのは些か問題ではないかね?」

 

「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日から、魔法の特訓が始まりました。

 

 これから怪我をするかもしれない状況に追い込まれるかもしれないので、少しでも身の安全を確保するために、魔法を使いこなせるようにしよう、というのが、ユーノの意見でした。

 なのはも同意を示し、明日から早速やろうと決まり、今に至ります。

 

 昼間は学校があり、家の門限もあるため、早朝と夕方に訓練を行う方針となりました。といっても、なのはは5時には起床する(肉体的には)健康優良児だったので、あまり問題はありませんでした。中身に関しては触れないのが肝要です。

 

 魔法の扱い方について、ユーノから手ほどきを受けるなのはですが、その顔はお世辞にも明るいとは言えません。元々無表情だからじゃねーかとかそういう意味ではありません。慣れない魔法、知らない技術に、さしものなのはも戸惑い気味でした。

 

「ふむ。幾ら有能な私とはいえ、初めて見聞きしたものだ。そう容易くは扱えまい」

「あはは、そうだね」

 

 などと二人そろって気楽なことに笑っておりましたが、なのはが適当に指パッチンすると、突然光が生じ、

 

「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは次のニュースです。本日未明、海鳴市の市民公園にて、原因不明の爆発事故が発生しました。爆発の跡は半径5メートルにも及び、警察は不法投棄されていた前時代の不発弾によるものと推測しておりますが、破片の一つも見つかっておらず……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに翌日。

 

 事情があって公園は使えなくなったので、なのはの家から正反対の方向にある山の中で特訓することになりました。

 

 出会った当初からなのはに驚異的な魔力が秘められていることを察していたユーノですが、ここまで才能豊かとは思っていなかったようでした。

 

「まずは、魔力を上手くコントロールすることから始めよう」

 

 真面目さ加減大爆発な顔で言いました。

 下手すると暴発して自分も盛大に巻き込まれる可能性があるから、という意見は否定できませんでした。

 

「うむ。やはり己を律することは肝要だね。若きに負ける未熟な精神、ここで鍛え直さねば」

 

 などという台詞を9歳児が言う姿はツッコミどころ満載でした。

 

 で。

 

 特訓が本格的に開始されたのは良いのですが、ユーノとて半人前の魔導師ですので、教え方はお世辞に上手とは言えません。

 

 そのため、

 

「信じるんだ、自分の心を! 為すべきことを為すつもりで! あ、ダメだよなのは! そこはもうちょっとグイッと押し込むような感覚で! 優しく! 時に激しく! 緩急をつけて抉りこむように……そう、それだよ! イイよなのは! その調子でイくんだ……!」

 

「もうちょっと具体的に言いたまえ……!」

 

 突っ込みを入れた瞬間、制御を手放してしまいました。

 

「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続きまして、今朝のニュースです。海鳴市の××山付近で、再び爆発事故が発生しました。現場には人間がいた痕跡が残っており、焼け焦げた土の上には人型がありました。体躯は小柄でまるで少女のようにも見えますが、警察は今回の事件の被害者と断定し、また証言を求めて捜索を続けて―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとなのは、どうしたのよ? 頭焦げてるじゃない」

 

「ドーナツ作りに失敗したの~」

 

 

 本格的な特訓は夕方からとなりました。

 

 




ひとまず一日三話くらいずつ載せていきます。

拙い作品ではありますが、どうか今しばらくお付き合い下さいまし。


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第4話 休暇を満喫しましょう

ひとまずここまでは以前と同様の内容です。

問題はリニスなのですが……本編は見たのですがまだ劇場版を見ていないのでなんとも言えません。

あ、もう本編まだ見てないよ~なんて戯言は吐きません。ちゃんと拝聴しましたので。

しかし出るとしたら間違いなく頭の弱い人になりそうですが。


ともあれ、第4話を始めさせて頂きたいと思います。




 

 

 

 

 

   第4話 休暇を満喫しましょう

 

 

 

 

 

 それから少し経って。

 

 

「明日は休もう」

 

 

 土曜日、特訓を開始しようとしたなのはに、ユーノは言いました。

 

 ここ数日、連続して魔法の特訓を行っているのですから、目に見えない疲労もたまっているだろうというユーノの心配りでした。

 

 

 また暴発されたらかなわないし、という言葉が聞こえてきそうでしたが心の中で呟くに留めておくユーノでした。

 

 

「ふむ。しかし宜しいのかね? ジュエルシードとやらがどこにあるか分からない以上、のんびり構えているわけにもいくまい」

 

 

 なのはにしては順当な意見ですが、ユーノは首を振りました。

 

 

「幸い、この世界には魔法という概念が存在していない。ここの人じゃ悪用するにも扱いが分からないだろうから、暴走したりして自体が悪化しない限りは、大丈夫だよ」

 

 

 ともすれば楽観的な発言ではありますが、なのははユーノほど魔法について知りません。専門家であるユーノがそう言うからには、そうであるとしか判断できませんでした。

 

 

「そうか。ならばお言葉に甘えさせていただくとしよう」

 

 

 その厚意に甘んじることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 その晩。

 

 

「ダ、ダメだよなのは! 魔法を使って人を陥れるなんていけないよ……!」

 

 

「君は私をなんだと思っているのかね……」

 

 

 寝言がうるさいのでエルボーで黙らせました。

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日になりました。

 

 

 しかし暇すぎてやることもないので、とりあえず情報収集とばかりに街へ繰り出そうとしましたが、その直前、美由希に呼び止められました。

 

 

「なのは、お友達から連絡から連絡があったわよ。アリサちゃんとすずかちゃんから」

 

「ふぇ? なんて?」

 

「なんでもお茶会を開くから、なのはも是非誘って欲しいって」

 

 

 なのはは刹那の間に思考を張り巡らします。彼女らに付き合うと貴重な休日を消費してしまうばかりか、先日ユーノにバレたばかりの本性が二人に発覚してしまう可能性がある。が、しかし難点ばかりでもない。家に招かれるということは、お互いの距離を縮める絶好の機会でもあり、運が良ければ向こうの家族とコンタクトをとり、自分の過去の所業について少々窺えるかもしれない。向こうもこちらを数える程度しか会ってないがために抱かれる違和感はすずからに比べれば少なくて済む。もう一つ利点はある。子供の身体ゆえに体力的な問題もあり遠出ができないなのはだが、すずかの家に向かうならば町内と言えどそれ相応な距離を移動する。その際、今まで発見できなかったジュエルシードも見つかるかもしれない。いざとなればユーノと別行動をとり、発見次第封印に向かえば良いのでは?

 

 

 ……と、考えること僅か二秒。

 

 

「うん! 行ってくる!」

 

 

 ぱぺー、とでも効果音がつきそうなスマイルでした。

 

 

 その笑みを見たユーノが残像ができそうな勢いで後ずさりしていました。なのはは容赦なく蹴りを入れました。

 

 

 余談ですが、ユーノは既に家族に知られ、ペットとして高町家に迎え入れられました中身が人間ですので、賢い反応がプラス要素となったようです。

 

 

 が、美由希に全身を優しく撫でられてくすぐったそうにするユーノでしたが、中身は人間なので、

 

 

『ああっ、ダメ……そこ! そこはダメなんだよ、ひっ、あふぅ、ふぬぁっ! あらやだこの人ったらテクニシャン……!』

 

 

 という身悶えする声をいちいち念話で伝えてくるので首を軽くひねって黙らせました。

 

 

 驚く美由希と恭也でしたが、なのははだから何? とでも言いたげな顔をして言いました。

 

 

「これは一種のスキンシップなの~♪」

 

 

 動物愛護団体が総攻撃してきそうな発言でした。ちなみにユーノはピンピンしていましたので納得しました。納得せざるを得ませんでした。本人たちが良いならそれで構わないんじゃないかな? と思ったようです。それでいいんでしょうか。

 

 

 閑話休題。

 

 

 兄の恭也はすずかの姉・忍と恋仲にあるらしく、なのはと共に月村邸へ向かうことになりました。わざわざ黒塗りの外車が来るあたり、相手方の金持ち具合が窺い知れます。

 

 

 ユーノを連れ、恭也と一緒に車に乗り込みます。

 

 

 月村邸へ到着すると、メイドさんが出迎えてくれました。

 

 

(このような存在が実在するとはね)

 

 

 魔法少女に比べればリアリティのバーゲンセールでしょう。

 

 

 なのはは猫たちがくつろぐテラスへ向かい、待っていたすずかやアリサと一緒にお茶会を始めます。

 

 一方、恭也は一度忍の部屋へと向かいます。二人だけの時間を満喫するのでしょう。

 

 

 その時、進化した人類ばりの超感覚で何かを察知し、振り向きました。

 

 

 どうしたの? と言いたげなユーノに対し、ガチな顔をしたなのはは、

 

 

「あの二人……今夜は赤飯かね?」

 

 

 マジ顔でオバサンみたいな台詞を言うのでした。

 

 

 もっと清く正しい心を持ちましょう。無理ですかそうですか。

 

 

 

 

 

 

 

 月村家の人々と一緒にお茶会を楽しむこと数時間。

 

 

「ねぇ、なのは。アンタ最近、元気ないみたいだけど、何かあったの?」

 

 

 ツンデレちゃん、もとい、アリサが心配そうに話しかけてきました。

 

 

 なのはは知り由もありませんでしたが、今回の誘い、実は近頃元気がない(ように見えた)なのはを元気づけるためにアリサとすずかが提案したものでした。親しき仲であろうと話せないことはたくさんあります。なので、『できれば話して欲しいけれど、言えないならせめて楽しいひと時を満喫してほしい』というのが今の彼女らの意志でした。涙誘うお話です。健気です。健気立てしているなのはとは大違いです。

 

 

 ちなみにこの天上天下唯我独尊を地でゆくなのはが何故アンニュイになってたかというと、別に魔法やらそれに伴う疲労やらのせいではなく、

 

 

「最近お兄ちゃんがうっとうしくて困ってるの……」

 

 

 結構切実な発言でした。

 

 

 忍さんが下種を見る目を恋人に向けますが恭也は胸を張っています。

 

 

「俺はやましいことなどしていない……!」

 

 

 最早定型句でした。

 

 そして恰好つけたはいいですが恋人の視線に足が生まれたての小鹿のようです。

 

 

 と、そんな時でした。

 

 

『なのは、大変だ! ジュエルシードが……!』

 

 

 緊迫感溢れるセリフですが、本人はメイドのファリンさんに撫でられあお向け開脚状態でした。イラッときたのでチョップを叩きこみました。それも股間に。

 

 

『ああっ、玉は! 玉だけは! 女王様っ!!』

 

 

 やかましい。

 

 

 とりあえず内股で走り出すユーノを先行させ、なのはもついて行く形となりましたが、アリサがそれを目ざとく呼び止めます。

 

 

「なのは、どこに行くのよ?」

 

 

 ユーノが逃げたから、という言い訳は少々心苦しいでしょう。それだとアリサらもついてきてしまう可能性があります。

 

 

 なので、

 

 

「女の子には我慢できない時があるの……」

 

 

 大人組が一斉に茶を吹き出しました。

 

 

 よく分からないアリサは首を傾げていますが、すずかは多分お手洗いかな? と思ったのか、行ってらっしゃいとにこやかに見送りました。良い子ちゃんすぎてなのはの精神に8のダメージが来ました。すぐ回復しました。

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノを追いかけること一分ほど。

 

 

 林の中でなのはとユーノは合流し、現場に到着しました。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 片や唖然と、片や無表情で佇んでおります。

 

 

 眼前には、ジュエルシードの影響で巨大化してしまった子猫がいました。もう子猫なんてレベルを遥かに通り越してただのクリーチャーですが、その仕草は子猫のそれなのでとても愛らしいです。

 

 

 害意をまったく感じません。なのはは拍子抜けしたように肩の力を抜きました。今までの特訓は何だったのでしょうか。大したことしてない気がするのは気のせいでしょうそうでしょう。

 

 

 このまま一方的に攻撃を仕掛けるのは心が痛みます。そんな心あったのかと思わなくもないですね。

 

 

「しかし、それはそれこれはこれ。私の日々安寧のために……消えておくれ」

 

 

 正義とは百八十度違う方向にダッシュした少女の自己中心的発言でした。

 

 

「さぁ参ろうか。……凛々駆流・真剣狩留!」

 

 

 発音がおかしい気がするのは気のせいではないでしょう。

 

 

「ええと……何番だったかね?」

 

 

 しかもグダグダでした。

 

 

 と、その時でした。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーッハッハッハッハッハ、ハーッハッハッハァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 いらんほどデカい声が、どこからともなく聞こえてきました。

 

 

 思わずなのはは動きを止めてしまい、ユーノも辺りを見渡しています。

 

 けれども、人の姿はまったく窺えず、ただただ、どうでもいいくらいの音量で笑い声が響いております。

 

 

「ハァーハッハッハッハッハ! ハァーハッハッハッハッハァッ!」

 

 

 喉が枯れてしまうんじゃないかと思わんばかりの大声で、声の主は叫んでいます。

 

 

 なのははしばらく警戒心を露わに空を睨んでいましたが、いつまで経っても姿を現さないので、興味を失ったように巨大猫に向き直りました。ユーノは「それでいいのか?」とでも言いたげですが歯向かうと下剋上と見なされ地面に埋められるので黙っています。

 

 

「ハッハッハ……げふっ、ゲホゲホッ、けはっ!」

 

 

 しかもむせてました。

 

 

 こういう目立ちたがりな輩は無視するに限りますが、この騒音公害じみた笑い声とうっとうしいこと山の如しな咳の音は放置すればするほどひどくなりそうなので、なのはは嫌々渋々、構えていた杖を下します。

 

 

「……よく分からないけど、姿を現したらどうなの?」

 

 

 なのはに正論を解かれる声の主の正体や如何に!?

 

 

「よくぞ聞いた! 我、ジュエルシードを求めし者……金色の閃光、黒き雷。そう、それは、それこそは……」

 

 

 やがて上空にその姿を晒した声の主……否、少女は、声高々にして言いました。

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト=テスタロッサとは、ボクのことだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 大層なお馬鹿さんでした。

 

 

 

 

 

 







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第5話 他者を敬いましょう

リニス……どうしましょうね



 

 ●前回までの簡単なあらすじ

 

 

 

 私、高町なのはは、そこら辺に転がってるような石ころじみた無個性な人間とはちょっと違うフツーのお☆ん☆な☆の☆こ♪

 

『YOUJO! YOUJO! Yearhooooooooooo!!!』←バックコーラス

 

 うるさい。

 

 ところがある日、異次元の狭間から迷い込んだと言ってはばからない日本語しゃべるケダモノが突如言いました。

 

「君は僕と魔法です」

 

 意味がわかんねぇYO! とキックで突っ込みを入れたのがきっかけとなったのでしょうか、なのはは光に包まれ、気がつくと大人の姿になっていたのです……!

 

「その割には胸がつっかかるパーツもないズゴックのようだが」

 

 気にするな。

 

 魔法を得たなのはですが、やったストレス解消グッズktkrと言わんばかりに杖を構えてバカスカ撃ちます。環境破壊? 知らないの♪

 

『ドボォッ! ギャギィン! ドグォオオオッ! メメタァ!』←効果音

 

 ええいまどろっこしい。最早これまでと思い立ったなのはは、漢らしく肉体で語り合う北斗の道を選びます。我が拳 お話する人 おいでなさい。

 

「真の魔法を継承する者の名はなのは! このなのはより、真の魔導師の伝説は始まる……!」

 

 こうしてなのはは、僅か一日で生きる伝説となったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冗談です。

 

 

 では本編、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五話 他者を敬いましょう

 

 

 

 

 

 

 

 上空に現れたのは、黒い衣装を纏う、なのはと同年代と思しき少女でした。

 

 

 長い金髪をツインテールにし、兎のような赤い瞳を強く輝かせ、滑らかな唇の両端をぐぃと釣り上げて笑い、まだ成長期に入ったばかりで薄い胸を大きく張り、短いスカートから伸びる細い足を下へ突き出し仁王立ちしています。

 

 

 そして、その手には、長い柄の先に斧のような物体をつけた、武器のようなものがありました。

 

 

 それを見たなのはは、しばしの間沈黙し、ややあってから、心の中で一つの結論を出しました。

 

 

(この位置だとパンツが見えそうだね)

 

 

 この子の目の付けどころはおかしいと思います。

 

 

 なのはが黙っていることに気を悪くしのたか、その少女・フェイトは口を尖らせ、腕を組みました。

 

 

「なんだオマエ、リアクション薄いなー。もうちょっとこう、でっかく驚くことできないのか?」

 

 

 割と無茶な注文でした。

 

 

「まぁどうでもいいけど、それはボクがお母さんのところに持って帰るから」

 

 

 邪魔すんなよなー、と言いました。

 

 ここで普通に秘密をバラしていますが、フェイトは頭のネジが緩んでるので気づきませんでした。

 

 

 この言い分には、なのはも開口して異論を唱えました。

 

 

「ふむ。唐突に横からしゃしゃり出ておきながらその物言い……近頃の子供はなってないね? まったく近頃の若者は」

 

 

 おめぇがそれを言うのか、と言いたげなユーノは足で弾いておきました。

 

 余談ですが最後の台詞は古代エジプトから存在するようです。つまり古今東西あらゆる時代にここにいるような珍妙な若者がいたということでしょうか。嫌すぎますねそんな世界。

 

 

「とはいえ、ジュエルシードは子供の手に余る代物だ、君は手を引きたまえ。丁寧に言ってあげようか? ……ハ・ウ・ス! お分かりかね? お子様は帰って刑事コロ○ボでも見ていたまえ」

 

 

 人を舐めているにも程がある台詞でした。

 

 そしていつの時代の人間なんでしょうかこやつは。

 

 

 案の定、挑発されたフェイトは顔を赤くして怒りました。

 

 

「な、なんだとこらぁーっ! ジュエルシードはボクが持って帰るんだっ! オマエは引っ込んでろよ!」

 

 

「いや、ここはこの美しい私が素早く見事に封印してみせようではないか」

 

 

「いーやボクの方が絶対早い!」

 

「いや私の見せ場の方が駅から近い」

 

「いやいやボクの方が!」

 

「いやいや私がだね!」

 

「いやいやいやボクが!」

 

「いやいやいや君が!」

 

「オマエが! あ、間違えた! ボクが!」

 

「おや認めたね? では私の勝ちでよろしいかな? ん?」

 

「くぁあぁぁああああこいつムカツク……!」

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 

 

 などとエンドレスなやりとりを繰り返すこと十分あまり。

 

 

 

 

「……ふむ、君と話していても埒が明かないね」

 

 

 壮絶(笑)な舌戦を繰り広げても息一つ乱していないなのはは、腕を組みつつ言いました。

 

 

 対照的に、フェイトは肩で息をしています。戦う前から疲労困憊でした。

 

 

 

「もういい! さっさと終わらしてやる……!」

 

 

 勇ましい台詞ではありますが涙目です。

 

 

 一方、なのははというと、悠々としすぎて相手のやる気が霧散しそうな雰囲気でした。

 

 

「さて、参ろうか我が相棒・レイジングハート。初戦と言えど敗北を喫するわけにはいかんのでね、期待させてもらうよ?」

 

『OK.Let's stand up to the victory.』

 

 

 相方はやる気その気大好きといった気合の入りようです。

 

 

 フェイトがデバイスを構えると、宝石付近から光の弾が幾つも浮かび上がりました。

 

 射撃だと踏んだなのはは、すぐさま行動に移ります。

 

 

「レイジングハート!」

 

『Flier Fin.』

 

 

 猫目がけて連射される光弾。それを受け止めるべく、なのはは猫の元へと飛翔しました。

 

 

『Wide Area Protection.』

 

 

 飛来した弾丸を全て弾きました。

 

 

 端から見れば猫を守った正義の味方のように見えますが、

 

 

「これは私の獲物だ……!」

 

 

 目が猛禽類のようでした。

 

 

 フェイトは一瞬ビクッと身体を震わせますが、怖気づきそうになる自分を奮い立たせます。気合で恐怖を跳ね除けました。幼いのに頑張るその姿は、見る者の関心を強く引き寄せます。

 

 

 デバイスを構え、再び光弾を放ちました。今度は一発に威力を集中させたもので、バスケットボール程度の大きさがありました。

 

 

 バシュゥッ! と大きな音を立ててなのは目がけて飛びました。

 

 

 対して、容赦と手加減と常識をどこかに忘れてきた少女・なのはは、向かってくる光弾を一瞥すると、さして怖気づく様子も見せず、悠然と構えます。

 

 何故かレイジングハートも傍観しています。

 

 

 そして眼前にまで迫った、その瞬間、動きました。

 

 

 

 

 

 

「そォい!!」

 

 

 

 

 

 

 蹴り返しました。

 

 弾き返しました。

 

 

「えぇええぇぇぇええええええ!!??」

 

 

 フェイトは目玉が飛び出す勢いで驚きました。

 

 

 まさか自分に跳ね返って来るとは思いもしなかったフェイト。そりゃそうでしょう。

 

 

 

 光弾は一直線にフェイトに迫ります。が、慌てていても見事回避を行いました。なのはよりも魔法に慣れているのでしょう、機敏で無駄の少ない動きでした。

 

 

「チッ」

 

 

 露骨に舌打ちするなのはの顔は893顔負けでした。

 

 

「まぁいい。このような児戯に等しい真似で落とせる相手ではないのは承知している。次は無いと思いたまえ」

 

 

 高町なのは容赦せん! とでも言い出しそうな形相でした。吸血鬼もビックリでしょう。

 

 すると今まで茂みの中で傍観していたユーノが慌てて出てきました。

 

 

「な、なのは落ち着いて! 君ってばカルシウム不足しがちなんだから怒ってはだめだ! まさに短気は損気……!」

 

 

 雑音はキックで黙らせました。

 

 

 レイジングハートを構えると、宝石が輝きました。すると虚空から光球が現れ、次第に光を増します。

 

 

「行け!」

 

 

 次々と飛翔し、フェイト目がけて殺到しました。

 

 

 その光景は、さながら乱射されるマシンガンのようでした。

 

 

 とはいえ、フェイトは口だけではなく腕も確かなようで、間断なく放たれるなのはの光弾を軽々避けています。

 

 

「ふむ。まるで当たらないね」

 

 

 自分の行動が無駄と知るや否や、なのははため息のように一息つきましたが、

 

 

「倍プッシュだ」

 

 

 押してダメならもっと押せ、なんて言葉が誕生しそうでした。

 

 

「だ、ダメだよなのは! まずは話し合いを図らないと……!」

 

 

 手が離せないのでかかと落としで沈めました。

 

 

 全開よりも三倍以上の量が襲いかかりました。

 

 これにはフェイトも悲鳴を上げました。

 

 

「ま、待ってよ! なんでそんな急に……!」

 

 

 

「たぶん、答えても意味がないの。……何故なら君はここで撃ち落とすから」

 

 

 立場が逆な気がしますが、このなのはの性格なら至極当然の成り行きでした。

 

 

 しかしバカスカと光弾を撃ちますが、フェイトのスピードにまったくついていけません。虚空を突き抜けるばかりで、如何になのはの魔力量が人間離れしているとはいえ、無駄撃ちしては勝ちを得られません。それどころか、このままジリ貧な展開が続けば、疲労したところで反撃される可能性さえありました。

 

 

 しからば、となのはは作戦を変更します。極力上の方へ狙い、フェイトを地上付近に誘導する策をとりました。

 

 

 初心者の魔法なので当たっても防御をしっかり行えば大したダメージもないでしょうが、フェイトは割と余裕そうな表情で一つ一つ丁寧に避けています。自分のスピードに自信があるのでしょうか。

 

 

「ふーんだ! そんなに撃ったって当たんないよーだ」

 

 

 余裕をぶちかましているフェイトですがマントの裾がこげています。かすったようです。

 

 

 が、いつしか自分が先程より低い位置を飛行していることに気づきました。

 

 それは、連射していたなのはが大きく飛翔したのと同時でした。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 フェイトが驚く前へ、杖を大きく振りかぶったなのはが現れました。慌ててフェイトは自分のデバイスを構え、振り下ろされるレイジングハートを受け止めました。

 

 

「ほぉう……」

 

 

 感嘆した声は勿論なのはのものでした。自分の予測よりも遥かに上回る反応速度だったのです。

 

 

「やるではないかね! 私に汗を流させるとは見上げたものだ……!」

 

「オ、オマエ砲撃魔導師じゃないのか!? しかもそのデバイスはボクのバルディッシュと同じタイプの……!」

 

「はて、何のことやら。生憎こちらは魔法を知って一週間程度なのでね、戦闘スタイルなどという固定観念など知らん! それに……」

 

 

 離脱を図りたいフェイトですが、相手の動きからして接近戦主体と判断したなのはは、向こうが体勢を整え冷静を取り戻す前に追撃をしかけました。

 

 

「戦いに主義も名誉もクソもない、ただ正義は一つ。それは……勝つことだ!」

 

 

 実に正論ですが最早どっちが悪者なのか第三者からは判別できない発言でした。

 

 

「くそっ……バルディッシュ!」

 

『Blitz Action』

 

 

 瞬間、フェイトが忽然と姿を消しました。引き下がったのでしょう。

 

 

 距離をとられましたが、それはこっちの予測した結果でありました。まさに計画通り。

 

 

「レイジングハート、目標を撃墜する」

 

『OK.Divine Buster,stand by.』

 

 

 射撃体勢に入りました。

 

 

 ぎょっと目を剥くフェイト。それを見つめるなのはの目はいつも通り冷静沈着です。

 

 

「撃ちたくない……撃たせないで……」

 

 

 今更優等生ぶった口調で言っても時既に時間切れでしたが、

 

 

「でもこれが現実なんだから仕方ないよね?」

 

 

 今日一番のさわやかスマイルで悩みも爆散しました。

 

 

 さらば少女、君のことは忘れない……心中で十字を切り、射撃を放とうとしました。

 

 

 が、その時。背後で妙な動きを察知しました。

 

 

 振り返ったなのはは、見ました。見てしまいました。

 

 巨大化した猫の口の中に、ユーノがおさまっているのを。

 

 

『た、助けてなのは~!』

 

 

 ええいこの役立たず。なのはは思いっきり舌打ちしました。

 

 

 

 しかし、そちらへ一瞬でも意識を向けたのが仇となってしまいました。

 

 

『Arc Saber.』

 

「ぬ……!?」

 

 

 反射神経そのままに振り向きと防御を同時に行いました。レイジングハートが気を効かせてくれたおかげもあり、障壁がしっかり間に合いました。

 

 しかし爆発のせいで煙が立ち込め、視界が悪くなってしまいます。

 

 

 煙から逃れ、外へ飛び出します。

 

 隙が生じました。

 

 

 フェイトはそれを見逃すほどのお馬鹿さんではなかったようです。

 

 

『Photon Lancer.Get set.』

 

「貫け雷光……! 槍よ、我が手中に出で参れ!」

 

 

 あれそんな詠唱あったっけ? とでも言いたげなバルディッシュでしたが、空気を読んで黙ってスルーしました。

 

 

「ぶち抜けろ……!!!」

 

 

 バルデッィシュから大きなスパークが生じ、なのはに向かって雷の槍が連射されました。

 

 

 また蹴り返してくれようかと構えていたなのはですが、流石にこの大きさは困りものです。というかそう何度も蹴り返されてはフェイトからすればたまったものではないでしょう。

 

 

 回避するかと思い、そこで踏み止まりました。

 

 上空から撃った魔法を避けてしまうと、ものの見事にユーノと猫に直撃する立ち位置となっていたからです。

 

 

 なので回避は行えず、外道じみたカウンターを仕掛けられるレベルでもなく、とっさの防御も間に合いませんでした。

 

 

 直撃しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたのは、夕方になってからでした。

 

 

 林の中で倒れたなのはを、ユーノが館の近くまで運んでくれたようで、それを偶然すずかたちが発見したそうです。オメェ一体どうやって運んだんだよ? とでも言いたげな視線をユーノに向けますが彼は顔を逸らしました。

 

 

「アンタ、林の入り口の近くで倒れてたのよ……一体どうしたのよ?」

 

 

 至極まっとうなアリサは、怒っているように見えますがその目は今にも涙が出てきそうでした。

 

 

「ちょっとスッキリして眠くなっちゃっただけなの」

 

 

 大人組が全員俯きました。

 

 アリサは疑問符を浮かべています。すずかは「お日様が暖かくて眠くなっちゃったのかな?」と勝手に自己完結しました。

 

 

 幸い怪我はほとんどなく、ちょっと腕の辺りを切った程度でした。

 

 

 

 

 自宅に戻り、自室へと直行します。

 

 扉を閉めた瞬間、逃げようとしたユーノを踏んづけて捕えました。

 

 

「ユーノ君……初心者の私がミスを犯すならともかく、貴様が痴態を晒してどうするのかね? ん? 馬鹿かね? 死ぬのかね?」

 

「ああっなのは! そこは! そこはうひゃひゃひゃ弱いのほほほほほ!!」

 

 

 これ以上奇声を上げられると家族に聞こえてしまうので渋々解放しました。

 

 

「しかし、今回ジュエルシードを回収できなかったとはいえ、収穫はあったね」

 

「うん……僕らと同じ、ジュエルシードを集めようとしている魔導師の存在」

 

「そして我々の戦力が向こうに比べ圧倒的に劣っていることも、だ」

 

 

 なのはの性格上、敗北を認めたがらないと思われるかもしれませんが、彼女なりに今回のことは重く受け止めていました。人間、完璧なんてあり得ませんからね。彼女も人の子だということでしょう。

 

 

「次こそは絶対に痛い目を見せてやろうではないかフフフ……」

 

 

 なのはは「次こそちゃんとお話するの!」と言いました。

 

 

 本当に人の子なんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、フェイトは自室で一人、物憂げに俯きながら、ベッドに座っていました。

 

 

「お母さん……すぐに帰るから。ジュエルシードは、全部ボクが集めるから……」

 

 

 寂しげに呟きながら、写真を手に静かに微笑むのでした。

 

 

 そしてその写真の中には、母親が笑顔を浮かべていました。

 

 

 そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セーラー服を着た母親が。

 

 

 

 

 

 



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第6話 訓練を継続しましょう

全く同じだと芸がないので、今回ちょっと色々つけ足したりしております。

以前よりも一層頭が悪い内容になっておりますのでご注意ください(手遅れ



今回は休日のお話です。


 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 

「ユーノ君、暇なら遊ばないかね?」

 

 

 と、割と珍しいことをなのはは言いました。

 

 

 言動がアレなことでユーノから『見た目詐欺』の称号を一身に受けるなのはですが、一応戸籍上は幼い子供であるので(←失礼な言い草)、誰かと遊ぶことに興味を示してもおかしくはないでしょう。

 

 

 中身を知らなければ。

 中身さえ知らなければ。

 

 

 ユーノは大分驚きましたが、なのはだって誰かと遊びたくなる時くらいあるだろう、と考えると、落ち着きを取り戻しました。

 

 

「いいよ。何して遊ぶ?」

 

 

 気楽に答えたユーノですが、すぐに後悔することになりました。

 

 

「うむ。……狩人さんごっこだ」

 

 

 瞬時に身の危険を察知したユーノはマッハで逃げようとしますがなのはは人外の速度で回り込みました。

 

 

「はははユーノ君、随分早計だね? 何を慌てているのか私には分からんのだが」

「やだぁあああ! 確実に僕が一方的に追い回されるようなゲームなんて嫌だぁああああ!」

「ふむ。何か勘違いしているようだが、これは趣向を凝らした訓練の一つなのだよ?」

 

 

 そうなの? とでも言いたげなユーノの視線。

 

 

「ああ。どちらも体力をつけるための特訓になるだろう? 君も私も得をする。毎日同じメニューでは飽きが生じてしまうからね」

 

 

 そうなんだ、とちょっと落ち着きを取り戻すユーノ。なのはが何かそれっぽいことを言えば高い壺でも購入しそうな勢いでした。

 

 

「わかったよ。どんな遊びなの?」

 

 

 その問いに、なのははいつもの無表情で答えます。

 

 

「うむ。まず標的となる者を決め、狩人がそれを執拗に追いかけ回すのが通常ルールだが、それだといまいちやる気が起きないので、ここはひとつ特殊ルールを追加しようと思ってね。『魔法を行使しても良い』というものだ。私は射撃を、君は防御に長けている。攻守を交代で行えばお互い苦手な分野を克服できるやもしれん」

 

 

 ここで戯言をぬかすかと思いきや、なのははえらく真面目な言葉を吐きました。元々おかしい頭の配線がおかしくなって、一周してまともになったのかもしれません。

 

 

 二人は公園に移動しました。いつぞやの公園です。

 朝なので人は少ないようです。

 

 

「ではまずは私が先攻をとらせて頂く。用意はいいかね?」

 

 

 うん、と言おうとしたユーノですが、はたと思い至ります。

 

 

「あれ? ところでなのは、今の僕の身体じゃ、空を飛べるなのはにどう足掻いても追いつけないし、そもそも空を飛ばれたら僕に勝ち目ないんじゃ―――」

「ぶっ放す! と決めた時には、もう既に行動は完了してるの……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――では次のニュースです。本日明朝、市民公園にて再び爆発事故が発生しました。今回、その事故発生時に現場で犯人と思しき人物を目撃した通りすがりの子供がいましたが、「ユーノ君を傷つけた不届きな奴……絶対許せないの!」と連呼しておりあまり要領を得ませんでした。しかし、少女の悲しみと怒りを感じ取った警察側は捜査に力を入れ―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の昼下がり。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 なのはの自室にて、非情に重苦しい雰囲気が漂っていました。

 

 

 ユーノは居心地が悪そうに視線を揺らしており、ときたまなのはの方を見ては、すぐに目を逸らしています。

 

 

 そして、

 

 

 なのはは腕を組み、機嫌が悪そうに顔を堅くして、目を閉ざしています。

 

 

(な、なのはが怒ってる……! なんでか分からないけど、すっごく怒ってる……)

 

 

 この時、ユーノの慌てっぷりは過去最高のものでした。幼少時におねしょしたのがバレることを恐れて幼馴染の少年の布団と魔法でエクスチェンジして誤魔化した時以来です。

 

 

 なのはの常軌を逸した言動を嫌というほど実感しているユーノは、恐る恐る話しかけました。

 

 

「なのは……?」

 

 

 怒気が飛んできました。

 ユーノは一瞬で3メートル飛びずさりました。

 

 

「なんだねユーノ君。私は今非常に忙しいのだが」

 

 

 そう見えねぇよ、と突っ込むと確実に殺意が押し寄せるので口をつぐんだユーノ君でした。

 

 

「な、なのはさん? 怒ってませんか……?」

「何、私は怒ってなどおらんよ。……怒ってなどいないよ? 別に怒ってなんかいないんだからね?」

「怒ってる! 理由は分からないけどスゴく怒ってる! テンプレで言うくらい怒ってるよコレ……!」

「何! 私は怒ってなどおらんよ! 怒ってなどいないよ! 別に怒ってなんかいないんだからね!」

「やっぱり怒ってる―――ッ!」

 

 

 何故こうなったのでしょうか。ユーノは自分が彼女を不愉快にさせたのではないか、と思い、過去を振り返ります。

 

 

 考えてみます。

 考えてみました。

 

 

(わ、分からない……)

 

 

 とうとう考えるのを止めたユーノは、思い切ってなのはに聞くことにしました。

 

 

「な、なんでそんなに機嫌が悪いの……?」

 

 

 なのはは舌打ちでもしそうな表情で睨みつけました。野犬なら2秒で発狂しそうな眼光でした。

 

 

「……よかろう。教えてあげようではないか」

 

 

 もったいぶった言い方をして、なのはは語り始めました。

 

「私はどちらかというと肉より魚が好みでね、桃子さ……母にお願いして、今晩は魚料理と頼んでおいたのだよ。だが、」

 

 

 だが? と問うたユーノは、見ました。

 阿修羅をも凌駕しそうな形相をした、なのはの怒れるその瞳を。

 

 

「何者かによって魚が食べられてしまい、泣く泣く諦めることとなった。……さて、この家には私以外に日中一人、否、一匹しかいないのだが、犯人が私ではないとすると、自然とそやつを疑わざるを得ないよね……?」

 

 

 一瞬でユーノから血の気が失せました。

 

 

「ま、待ってよなのは! 確かに普段君以外だとこの家には僕しかいない! けどそれこそ早計ってものじゃないか! その魚がどうしてなくなったのか知らないけど、僕を疑ってどうするんだよ! 第一この身体じゃ冷蔵庫を開けられるか定かじゃないし、そんなにいっぱい魚を食べられるわけが、」

「ほほう。『いっぱい』とな? 私は具体的な量を述べたつもりはないのだが」

「だ……だって、一匹だけなら別に問題ないんじゃない? 例えば僕の分を抜くとか……」

「ユーノ君、これはあくまで知的好奇心からくる質問なのだが」

「な、なに?」

「腹に魚肉がついているぞ」

 

 

 急いで腹を見ました。

 何もありませんでした。

 何もありませんでした……。

 何もありませんでしたが、

 

 

「ほう。これはこれは、なんとまぁまぁ」

 

 

 非常に愉快そうな笑顔を浮かべるなのはが黒いオーラを漂わせていました。

 

 

「ちちち違うんだよなのは! ただちょっと川釣りしていた幼少時の記憶を懐かしむために魚を拝借しただけで……!」

「はははユーノ君、知ってるかね? ……川釣りには『チンチン釣り』というものがあるのだが、よく分からないので今君の身体で実践してみても、」

 

 

 タキオン粒子の速さで土下座しました。地面にめり込む勢いでした。ユーノちん没。失礼しました。

 

 

 しかし怒れる魔王は頭一つで静まるほど穏やかではありませんでした。

 

 

「なのは……ごめん……許して……!」

「何、死は一瞬だ。何人たりとも止められはしない……」

「詩人みたいなこと言ってないでやめてぇええええええええええええ!」

「否、死人だ。……君がね? レッツ冥府」

 

 

 

 

 

 悲鳴が上がりました。上がりましたが、隣の家に住むおばちゃんは水を巻きながら、『またあの家か』と変な納得をすると、そのまま家の中へと引っ込みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 

「ユーノ君。お弁当なるものを作ってみたのだが、是非試食してみてはくれないだろうか」

 

 

 朝の訓練を終え、あとは汗が引くのを待ちつつ休憩していた時でした。

 

 

 なのはの驚異的な発言を聞いたユーノは、今世紀最大の驚愕的事実を得たかのように顎を開いて目を見開きました。驚きすぎです。そんなんでは心臓が百個あっても二日ともたないでしょう。

 

 

 危うく顎のジョイントがエマージェンシー入りかけたユーノですが、すぐに意識を取り戻します。

 

 

「え……なのは、君、料理できたの?」

「うむ。これもレディとしての嗜みだよ。ああ、安心したまえ。妙なアレンジなど加えておらんし、味見もきちんと行ったよ」

 

 

 そう言われると非常に安心できますが、料理人がなのはですので、裏をかいて『味覚音痴ですから辛いか甘いか分かりますえーん』などと食した後に言われてもまさにあとの祭り。いや、もしかしてその裏をかいて普通に美味しいんじゃ……いやいや、そのまた裏をかいて……

 

 

 と、エンドレスに考えていたユーノが顔を上げると、これまた珍しいことに、なのはが顔を歪めていました。

 

 

 それも怒りではなく、悲しみの感情を得たものでした。

 

 

「ユーノ君……食べてくれないのかね?」

 

 

 今にも泣きそうな顔をしているなのはでした。何一つやましい心を持たず本心から言ってると理解したユーノは急いで言いました。

 

 

「いやいやいやいや! たたた食べますよ!? 食べるよちゃんと今すぐにでも! すいません土下座しますから泣かないでください!」

「別に構わないの……食べたくないならいいもん。泣いてなんかいないもん……」

「ああっ、やめて! そんな悲しそうな顔して偽った口調で話さないで! 僕が悪かったたから! 謝るから!」

「嘘! そんな言葉……今更聞きたくない!」

「ごめんなのは! お願いだから僕の話を聞いて!」

「優しい言葉で私を惑わさないで!」

 

 

 まるで男女の濡れ場のようでした。

 

 

「……そこまで言うなら、ちゃんと食べてくれるのかね?」

 

 

 涙目で、どこか頼りなさげに言うなのはは破壊力50万パワーでした。恭也辺りが見たら戦闘民族の血が覚醒しそうなレベルでした。

 この仕草にはユーノも仰け反りかけましたが、普段のなのはを思い出すと速攻で冷静になりました。まさに賢者モード。

 

 

「はい。ではしっかり食べてくれたまえ」

 

 

 と、なのはが突き出したお弁当箱は、小学生用なのでとても小さいのですが、中には色とりどりの食べ物が詰まっていました。半分近くを占める白いご飯の上に乗せられた肉のそぼろと細長くカットされた卵焼きは、無難と言えばそうですがメジャーなもので見る者の安堵を誘います。ラップで油が移らないよう仕切りになっており、朝の定番とも言えるお魚は、綺麗な橙色を輝かせる紅鮭で、その隣には申し訳程度に飾られたひじきの姿が。おっと、野菜が少ないかと思えば、アルミホイルで区分けされた部位には、削り節をふりまかれたホウレンソウのお浸しが顔を覗かせています。

 

 

 元々朝ごはんというよりお昼ごはんとして作ったのを流用した形みたいですが、ユーノからすれば目を見張るものがあります。

 

 

「どうだろうか? 自分ではそれなりのレベルだと思っているが」

「いや……小学生でこれだけできるなら十分だと思うよ」

 

 

 素直に称賛の言葉を送りました。

 

 

 遠慮するとまたややこしいことになると思い、ユーノはスプーンを借りて、いただきます、と手を合わせました。

 

 

 が、

 

 

「あれ? ちょっと待ってよなのは。この身体だとこんなに食べられないし、そもそも僕はひじきが嫌いだって知ってるはずじゃ、」

「ちなみに残した際の罰ゲームは鼻腔内にからし・わさび・トイレの芳香剤を塗りたくるコースなのー」

 

 

 遠まわしな死刑宣告でした。

 

 

 やっぱりなのははなのはだと思うユーノでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 

「なのは、ちょっといい?」

 

 

 公園に出かけようと靴を用意していると、姉の美由希が待ったをかけました。

 

 

「んー、なに?」

「公園に行くなら、気をつけなさいよ」

 

 

 小首を傾げたなのはは、なんで? と言いました。

 

 

「最近、変な子供を見かけるって噂を聞いたのよ。なんでも奇声を上げながら小動物を追いかけまわしてるとか、外道じみた笑い声出しながら人々を恐怖のどん底に突き落とすとか、生き物を調教して無辜の民を惑わすとか」

 

 

 心当たりしかありませんでした。

 

 

「そういえば、よく公園に行くみたいだけど、何してるの?」

「公園で運動してるのー」

 

 

 嘘は言っていません。

 

 

「いいけど、日が暮れるまでには帰りなさいよ? あまりお友達に迷惑にならないようにね」

「大丈夫。(ユーノ以外の)人には迷惑をかけてないの」

 

 

 嘘は言ってません。

 

 

 美由希と別れ、玄関を出たところで、なのはは考えました。

 

 

(私は迷惑をかけていただろうか……)

 

 

 かなり今更な疑問を抱きました。

 

 

 ふっと立ち止まり、過去の記憶をあさり始めました。

 

 

 

 

 

 

『ユーノ君、今日は「殺されかかっても死なない特訓」をしようではないか。手っ取り早くこの場で臨死体験でもどうだね?』

『それ僕がやっても意味ないじゃん!』

『ちなみにAコースからDコースまでとより取り見取りだが……』

『全部結果は一緒じゃないか!』

『物事において大事なのは結果ではない、その過程さえも重要なのだよ』

『僕からすればひたすらどうでもいいよ!』

 

 

 

『ユーノ君。射撃の練習がしたい、何か良い的を用意してくれたまえ』

『なのは。とりあえず聞くけど……なんで僕の後頭部に狙いを定めてるの?』

『手間は減らしたいのだよ』

『それって探す手間なのそれとも僕を始末する手間なの!? どっち!?』

『ユーノ君。真実はいつだって一つだよ』

『死!』

 

 

 

『ユーノ君。今晩は肉鍋にしたいと……思ってるのだが、何故逃げるのかね?』

『止めて! そのロープで僕を縛ろうとしないでお願いですから勘弁して下さい!』

『何か勘違いしているようだが、別に私は君をとって食おうなどとは思っておらんよ』

『ほ、ほんと? 嘘じゃない? 実は今だけエイプリルフール実施中とかじゃないよね?』

『些か懐疑的すぎるが……いや。単純に、食料の調達を頼みたいのだよ』

『そっかー。……ならこのロープは一体何?』

『獲物を捕まえるには餌が必要だろう? ははは大丈夫だ問題ないよこう見えても狩りには自信があってね?』

『誰かーッ! 一番良い餌を用意してぇええええええッ!!』 

 

 

 

 

 

 

(……そうでもないね)

 

 

 ユーノ君も愉しんでたしね、と結論づけました。つけてしまいました。

 

 

 今日も一日頑張ろう。なのはは拳を作り、気合を入れました。

 

 

 

 

 

 三時間後。黒焦げになったユーノが己の短い人生を振り返っている間、なのはは手応えを感じ、満足げに頷いていました。

 

 

 

 

 

 

 



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第7話 身体を癒しましょう

うわぁあぁああああああ原稿のデータががががが(ry



さて、そんな事情などさておき、本編を始めたいと思います。


 

 フェイトと名乗る少女と出会ってから、数日後のこと。

 

「何? 温泉旅館で破廉恥パーティとな?」

 

 腕を組んであぐらをしながら、とんでもないことをなのはは口走りました。

 

「いや、そうじゃなくて……。なのは、最近疲れ気味じゃないか? ここんとこずっと訓練ばかりで身体に負担をかけすぎている」

 

 無理はよくないよ、とユーノに諭され、ふむ、となのはは考えます。

 

(私は無理をしていただろうか……)

 

 確かにここ数日、フェイト相手に油断したとはいえ敗北し、辛酸を味わったなのはですが、そこで終わる彼女ではありませんでした。悔しさをバネに大きく羽ばたこうとしているのでした。一体どこへ行くつもりなのでしょうかね。

 

 さておき、

 

「君のお友達に誘われてたでしょ? 行ってきたらどう? 少しは気が晴れるよ」

 

 ユーノの気づかいに、なのはは、ふむ、と腕組みします。

 

「……まぁ、そうだね。」

 

 言葉に切れがありません。いつもなら非常識極まりない発言を連発するなのはですが、今日に限って覇気がありませんでした。いえ、今日に限った話ではなく、先日の一件―――フェイトと遭遇した時―――が原因となってるようで、あれからテンションがダダ下がりしているようでした。初見の人は物憂げな美少女と勘違いしてしまうくらいに静かでした。第一印象って大事ですよね。恐ろしいことです。

 

 アンニュイな雰囲気漂うなのはを案じたユーノですが、一方でなのははというと、

 

(バファリンの半分は優しさでできてるというが、残り半分は何なのかね……?)

 

 どうでもいい疑問を深々考えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

   第7話 身体を癒しましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、旅館へと辿り着きました。

 

 同行人はすずかとアリサ、そして月村家の数名です。さすがに小学生だけでは小旅行もできませんからね。ほっとけば日本どころかサバンナにさえ孤軍突撃して無事帰還しそうな逞しい輩がいますがそれは例外と言うことでひとつ。

 

 月村家の者たちとアリサを先行させ、なのははお手洗いと言って離れました。勿論ユーノも一緒です。

 

「ねぇ、なのは。……最近、よくため息つくけど、どうかしたの? 気分でも悪い?」

 

 話しかけるタイミングを窺っていたユーノは、口を開きました。

 なのはが近頃、よく考え込んでいるのを目撃しているユーノは、『自分が巻き込んでしまったせいで不安を抱くようになってしまったのでは?』と常々考えていました。

 来る途中でも、なのはが窓の外をぼぅっと眺めている時、ユーノはそれを見て、

 

(こないだのこと、気にしてるんだ……。それにあの女の子のこと、思い出してるのかな?)

 

 ユーノの問いに、なのはは我ここに在らずといった様子で、

 

「ああ、別に大したことではないよ。ただ少し、悩み……というか、胸にしこりのようなものがあってね。それが消化しきれてないのだよ」

 

 苦笑交じりの答えに、ユーノは自分の考えが的中していることを悟りました。

 ユーノの問いは順当な疑問ではありますが、実際のなのはの思考は明後日の方へすっ飛んでいました。

 

(分からん……何故半分だけが優しさなのか。そして残り半分は薬用成分だけだというのか。それとも人に言えない【検閲】とか【18禁】とか、挙句の果てに【削除されました】とかが……! これは夢が広がるね?)

 

 まだ気になっていました。

 

「君の懸念は分かるよ。僕だって、不安を抱えて夜も眠れないことだってあるから」

「ああ、確かに。気になって集中できないことは日頃あるね」

「ううん、君のせいじゃないよ。でも、僕が言えたことじゃないけど、あまり考えすぎてもダメだと思うんだ」

「そうかもしれんがね、一度気になりだしたらなかなか忘れられんものだよ」

 

 何故か成立する会話。言葉って便利ですね。

 

「けど、もしなのはがまた危険な目に遭ったり、怪我したりするようなことがあったら、僕は……」

 

 ふと、話がどうも噛み合っていないような違和感をなのはは抱きました。ようやくでした。

 同時に、なのははユーノの言わんとしていることに気づきました。

 

「ユーノ君。先に言わせてもらうが、今更私に迷惑がどうのと言い訳して遠ざけるのはやめたまえ。この上なく不愉快だ」

 

「だけど! なのはがこないだみたいに怪我をするのは……」

 

「何か勘違いしているようだが、私には選択の余地があり、状況を正確に理解したうえでの判断だったのだよ。それを君にどうこう言われたところで自分の意志など変えんし、そもそも、考え直す猶予を与えられ、今もなおこの場所にいることこそが答えなのだが」

 

 そう。思えば簡単なことなのです。

 提案された特訓を受け入れ、毎朝早くから練習に勤しみ、危険な目に逢おうとも立ち上がる……果たして一回の少女が、ただの成り行きだけでそこまで出来るものでしょうか? 出来たとしても、文句ひとつ言わず愚痴もこぼさずできることでしょうか?

 否、勿論違います。なのはが自分の意志でやっているからこそ、今こうして嫌な顔ひとつ浮かべずユーノに協力しているのです。動機はどうあれ、なのはは強制されたわけでもなく、成り行きでもなく、かと言って面白半分でもなく、きちんと全てを把握したうえでここにいるのです。

 全てはなのはの意志ゆえ、です。

 

「私のことで気に病む必要はない。君は君の責務を全うしたまえ。それが君と私にとっての最善だ」

 

 そう言って、なのはは小さく微笑みました。

 邪気無き純粋な、年相応の笑みでした。

 

「なのは……」

 

 少なからず感動したユーノは頬を赤くし――人間じゃないのに何故分かる? という疑問はさておき――なのはにお礼を言おうとしましたが、

 

「ところでユーノ君。スクライア族に労働料金を請求したいのだが、いつ領収書を頂けるかね?」

 

 はいはい平常運転平常運転。

 

 

 

 

 

 

 そして皆と合流し、いざ風呂に入りましょうそうしましょうと話が進んでいた時のことでした。

 ユーノも一緒に入れるの? と尋ねたすずかに対し、なのはは全員に向かって言いました。

 

「こいつを風呂に入れたいんですが構いませんねっ!」

 

 聞いたユーノが残像が生じる速度で走り出しましたが光速の縮地で追いついたなのはが襟首を掴みました。

 

「ユーノ君、お風呂一緒に入るでしょ?」

「ホゥッ!?」

「平気なのかって? 女将さんに聞いたら、一緒に入れても大丈夫だって」

「へぃっ!?」

「君はいいのかって? 別になのは、気にしないの♪」

「うひぃっ!?」

「あはは、照れちゃってるんだねー」

「あひぃっ!?」

 

 会話しているように聞こえませんが高速言語の一種だと思われます。言葉って便利ですね?(違

 

「……ねぇ、アレって会話してるの?」

「……さ、さぁ? というか時々思うけど、ユーノって人語理解してない?」

 

 なのはは聞こえないフリをしました。都合の悪いことは一切耳に入らないなのはです。恐らく政治家志望でしょう。なったら日本大変でしょうね。

 

 最早抵抗する術もないと悟ったユーノはぐったりした様子でなのはに連れていかれました。人間諦めが肝要だというのがよく分かる構図です。

  

 

 

 さて、脱衣所に突入するや否やユーノがみっともないことに激しく抵抗し出したのでキュッと首を辺りをシメて黙らせ、なのははロッカーの前へ立ちました。

 

 瞬く間に脱衣を終え、タオルを一枚、肩に引っかけます。ユーノはしっかり左手で握り締めております。動物は大事に扱いましょう。

 なお、服に手をかけてから準備を終えるのに十秒もかかっておりませんでした。こいつ本当に女か―――天の声が聞こえてきそうです。

 

 すずかとアリサは既に洗い場へ向かっております。あとはなのはだけになりました。

 

 すっぽんぽん、もとい、生まれた時そのままの露わな姿になったなのはは、威風堂々扉の前へ立ちます。前の言い方だと裸んぼ万歳みたいでエロスの欠片もないですけど後の言い方だととてもいやらしく感じますね?(誰に同意求めてんだ

 

「いざ」

 

 気合の入った声。初陣にでも出るつもりなのでしょうか。

 

 両手でしっかり開けるのがなのは流、カラカラと小さく静かに開けました。

 

 肌色の壁がありました。

 

「ぬ……?」

 

 思わず眉根を寄せて妙な声が漏れましたが、現実を直視するとそれが人型であることに気づきました。湯気のせいで人と認識できなかったようです。間違っても頭が遂に……とか思ってはいけません。

 

 そこにいたのは、長身の女性でした。橙色の長い髪をして、健康的な素肌を惜しげもなく晒しており(当たり前だ)、上がろうとしていたのか、手持ちのタオルでゴシゴシと頭を拭いています。結構乱雑なやり方でした。髪が痛むので女性の方は自分の髪の手入れには気をつけましょう。

 

 扉のところで立ち止まってしまったなのはは、あるモノを視界に捉えました。

 目の前の女性の頭よりやや下辺りに目を向けます。

 

(デカいな……)

 

 背丈のことです。

 局所をスナイプしているわけではありません。

 

「おっと、こりゃ失礼」

 

 道を塞いでることに気づいたのか、女性は頭を下げると、横にずれてくれました。世の中自己中心的な人も多いというのに関心です。どこかの誰かも見習って欲しいものですね。誰かとは明言しませんが。

 

 なのはも一礼し、洗面器と椅子を手に洗い場へ向かいました。

 女性は出ようとしましたが、なのはが持っている……というより握り締めているフェレットを見て驚愕していました。そりゃ小学生くらいの女の子が小動物の首を引っ掴んでのしのし歩いていたら誰でもビビリます。

 

 そんなことは何のそのといった具合のなのはは、鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気でバルブを捻り、桶に湯をはりました。

 

「ユーノ君。お風呂だよー」

 

 鼻をつついてみますが、反応がありません。

 足をつまんでみますが、反応がありません。

 腹をどついてみますが、反応がありません。

 

(私は何かマズいことをしただろうか……)

 

 思案顔のなのはでした。これはアレですね、いじめっ子はいじめられる者の心情を理解できないというやつでしょうか。違いますかそうですか。

 

 ひとまずどうしてくれようか、と腕組みして考え込んでいましたが、いいこと思いついたとばかりに顔を上げました。この時点でロクな結果にならないと思った貴方、正解です。

 

 動かないユーノを掴み上げたなのはは、そのまま桶の上へと移動し、

 

「あ、それ」

 

 桶の中に落としました。

 

 十秒後、水面を突き破って珍獣が飛び出してきました。

 

「な、なにするんだよなのは! 今僕はまさに君と会ってから何度目か分からないノッキンオンヘブンズドアで頭の中でロッキーがえいどりあ、」

 

 沈めるのが遅れてしまい声が漏れてしまいました。

 

 いきなり叫び声が近くで上がったのですずかとアリサは慌てていますが、幸い洗髪中だったので何も見てないようでした。都合のよい展開ですが気にしたら負けの方向で。

 

 頭を丁寧に洗い、あかすりでこしこしとさするように洗っていきます。幼いうちからでもお肌の手入れは欠かせません。それが十年後、果ては老後にまで影響を及ぼすのです。

 ……といっても、なのはくらいの年頃の子どもが化粧品一つにいちいち気を配るのは端から見ると非常に異常なので、思春期に入るまでは『子供は風の子』を体現するくらいが一番でしょう。

 

「ふむ。S○Ⅱのクリームファンデはなかなか期待していたのだが、ラ○カムやクリ○ークに少々見劣りするところがあるね。あまり持たないのも難点だ」

 

 突っ込んではいけません、いけませんよ?

 

 洗顔を終え、身体を洗っていると、背後に人の気配を感じました。

 見ると、先程上がったはずの女性が、そこに立っていました。

 

「キミかね? ウチの子にアレしてくれちゃってるのは……」

 

 女性は鋭い目を向けてきました。

 

 

 

 ただし、

 

 

 

「え? わたし……?」

 

 その矛先はすずかに向けられておりました。

 

 凄まじい近眼でした。

 

「……そこの人、もしかして私じゃないですか?」

 

 なんとなくこの女性の正体を掴みかけているなのはは、額を押さえつつ言いました。

 

 すると、女性はどこからともなく眼鏡を取り出して装着、なのはの方へ向き直ります。

 

「…………」

「…………」

「……………………」

「…………あの、何か?」

 

 じっと見つめたまま硬直する女性に、訝しげになりつつもなのはは尋ねます。

 すると、ややあってから女性は口を開きました。

 

「キミかね? ウチの子にアレしてくれちゃってるのは……」

 

 リテイクをかけてきました。 

 さっきのはなかったことにされました。

 

「はぁ。よく分かりませんけど、人違いじゃないですか?」

 

 無難な返答です。

 もしここにアリサやすずかたちがいなければ、素の自分を晒し出し、

 

『何だ貴様は。初対面の子供に対しその物言い、本当に大人なのかね? 近頃の大人は幼少時の教育がなってないようだねまったく嘆かわしい不況続きの世の中だからこそ人々の義理人情が尊重されるというのに貴様のような輩がいるから悪徳政治家が我が物顔で国際情勢を劣悪化させ買収行為が横行するのだよ大体君も無駄に年月を経ただけの不逞な存在でなければ相応の態度をとるべきではないか見たまえこの高貴なオーラ溢れる私の姿をまるで現人神のようだろうハハハ崇め奉れ今すぐに』

 

 などと言って大人を圧倒すること間違いなしでしょう。

 しかし後ろで不安げな顔をするすずかと、彼女を守るように立つ不機嫌顔のアリサがいますので、本当の自分を解放できませんでした。これも厨二臭い表現ですね。

 

 女性はじぃーっと見つめていましたが、ややあってから眼鏡を外すと、破顔一笑しました。

 

「いやぁ、ごめんごめん! 人違いだったよ! 知り合いにソックリでねぇ」

 

 あははー、と豪快な笑みを浮かべました。

 納得のいかない様子のすずかやアリサですが、面倒なのに関わるとロクなことにならないのは世界の常識ですので、なのはは適当にあしらうよう手を振って、気にしてない、と示しておきました。常識をブチ破る少女に勝るモノ無し。

 

 女性は笑みを浮かべたまま上がろうとしました。

 その時、

 

「……子供はいい子で家で遊んでなさいね」

 

 ボソリと。なのはに対して向けたものでしょう、立ち去り際に小さくそんなことを口にしましたが、

 

「分かったからまず相手の顔を見て話したまえ」

 

 鏡に向かって言う女性はどこまでもシュールでした。

 

 そのまま黙って背を向け、女性は立ち去ろうとしましたが、風呂の縁に足を引っ掛けて盛大にすっ転んだので、大人らしい威厳も堅かった雰囲気も完膚なきまでぶち壊しでした。

 いいから眼鏡をかけろよ……誰かが言ったのか定かではないですが、多分全員そう思っていたことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がった女性は、浴衣を着こむと暖簾をくぐり、空いていたマッサージチェアにどっかと座りこみました。

 

 電源を入れ、適当に設定を組むと、ぐいぐい動き始めました。

 

『アルフ、お風呂あがった?』

 

 と、極楽気分を味わっていると、声がしました。

 周囲に人はいません。しかし、声は確実に聞こえています。

 

 女性の頭の中に。

 

「ああ、もう終わったよ。なかなかいい気分だね。フェイトも来れば良かったのに」

『主人差し置いて抜けがけした使い魔のセリフじゃないね。ていうか! ボクだって入りたかったんだよ! 一緒に行こうって言ったじゃないか!』

「あはは、いやいや、来ない方が良かったよ。……フェイトが言ってた子供に会ったからね」

 

 一拍置いてから、再び声がしました。

 

『どうだった?』

「ああ。……フェイトの方がデカいね」

『マジで!? 勝った第三部完……ってそういうこと聞いてんじゃないんだよっ!』

「違うのかい?」

『宇宙の果てまで違うよ!』

 

 叫ぶフェイトの声を無視して、アルフは笑いながら言いました。

 

「心配しなくても、ありゃフェイトの敵じゃないよ」

 

 自信満々な様子のアルフは、その後、小さくつけ足しました。

 

「……油断さえしなければね」

 

 頭の弱いご主人を持つと苦労の絶えない使い魔です。

 

 正直どっちもどっちな気がしますが。

 

 

 

 

 

 それから2時間後。

 

 風呂から上がったなのはは、部屋でゆっくり休んでいるアリサやすずかに断りを入れ、ロビーに置かれたソファに座っておりました。傍らにはのぼせたユーノが死体のように転がっております。鍋に入れると美味しく頂けそうな具合ですがゲテモノすぎて間違いなく腹を下しそうですね。

 

「……あれ? なのは、いつの間に風呂から上がったんだい?」

「一時間ほど前にはあがっていたのだが、覚えてないのかね?」

「うーん、なんだかとてもヒドい目にあった気がするんだけど」

 

 気のせいなのかな、とえらいことにユーノは錯覚で済ませてしまいました。この分だと事あるごとに記憶を初期化すれば体よい奴隷と化してしまいそうです。

 

「そろそろ戻るかね? 私の方は用事も終えたことだし、特にやることはないが」

「え? 何やってたの?」

「君は何も覚えてないから分からんかもしれんが、先程気になる事が起きてね。後々の事を考慮して、少し準備をしていたのだよ」

「そうなんだ。僕も連れて行ってくれれば良かったのに」

「あえてストレートに言うが君を連れていくと余計な手間がかかってしまうからやめた」

「な、なんでさ!?」

「ユーノ君。右に三歩、左に十歩、右に五歩行き左に二歩、右に七歩行って左に三歩行くとどこに着くかね?」

「明後日?」

「即答する気概は認めるが宇宙の果てまで違う」

 

 正直な話、ユーノは若干方向音痴気味なところがあるので、なのはとしては極力傍に置いておくか、離れたところに置いておくかの二択をとりたいところです。前者なら盾にできて後者なら足を引っ張られないからとかそんなことを考えているのは間違いないでしょう。

 

「ともあれ、皆が寝静まった頃合いを見計らって出かけるぞ。仕掛けは万端だ、期待していたまえ」

 

 何を? と言いたげなユーノに答えず、なのははフッと不敵な笑みを零します。

 

「何、気にすることはない。いつも通り、私は私の為すべきことを為すだけのことだよ」

 

 ああ、またヒドい目に遭うのか―――諦観の念が浮かぶユーノはこっそり息を吐きましたが、なのはに聞かれてしまい尻尾を掴まれながら部屋へと戻りました。

 

 

 

 



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第8話 封印を済ませましょう

特別語ることがないのでこのまま何事もなく本編に突入いたします(え


 

 

 

 夜になりました。

 

 なのはとユーノは眠るすずかとアリサを起こさぬよう、細心の注意を払ってベランダへ出ました。当たり前のようにユーノを踏んづけ悲鳴を上げかけるのを押さえるためにまた踏むという不毛なやり取りがありましたがどうでもいいので省略で。

 

「そういえば、なのは。一つ聞いてもいい?」

 

 背中に残る足跡が生々しいユーノが問いました。

 

「君、記憶がないって聞いたけど……いつから? 今もまだ思い出せないの?」

「ああ、以前話した通りだよ。君と出会う少し前からの記憶がまったくなくてね。知識だけは何故か存在するのだが、どうも噛み合ってない気がするのだよ」

「? どういうこと?」

 

 ユーノは以前、少しだけなのはのことに関して聞いていましたが、深い事情を知ってるわけではありません。記憶喪失だと言ったなのはにこれ以上言及してはいけないと踏んだから、あの時は躊躇ってしまい、結局聞けずじまいだったのです。

 

「……」

 

 なのははもう少し深く話そうかと口を開きかけましたが、

 

「いや、なんでもない」

 

 結局、話すのを止めてしまいました。

 

「ともあれ、この件に関しては君は無関係だ、気にすることは無い。それに現状私の為すべきことは決まっている。」

 

 気を使ったのか小さく笑うなのはですが、はぐらかされてしまった感のあるユーノは、ちょっと距離感を抱いてしまいました。出会ってからの時間は短くともそれなりの友好を築いたと思っていたので、なのはの寂しげな横顔に寂寥感を感じました。友好と言うより主従とか従僕といった言葉が似合いそうなのは気のせいでしょうか。

 

「なのは、君は……」

 

 続けて言おうとした、その時でした。

 

「―――! なのは、魔力反応が」

「よしきた」

 

 四文字で応答したなのはは瞬時にセットアップを終えました。早すぎる神業です。そんなサービスレスな変身じゃ視聴率が上がりませんよ。

 

 早速なのはは外へ飛び出そうと、ベランダに足を乗せました。

 

「ちょっ、なのは! ここ三階だよ!? 危ないよ! ていうか誰かに見られたら困るんじゃ!?」

 

 一応理屈は通ってますが、そんな都合などまるっと無視するのがなのはクオリティです。騒ぐユーノを掴んで、夜空へと飛翔しました。

 

「高町なのは、レイジングハートで逝きます!」

「一人でイってぇぇええええええええええええええええええええっ!!」

 

 聞き流されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一方その頃、ジュエルシードらしき物体の反応を先に発見したフェイトと、当たり前のように関係者だった橙色の髪をした女性――アルフは、森の奥にまで足を踏み込んでいました。

 

 が、

 

「……ねぇアルフ。これってジュエルシード、だよね?」

「そう、だねぇ……。そうとしか思えないねぇ」

 

 ジュエルシードがありました。

 

 

 

 地面の上に。

 

 

 

 無造作に置かれていました。まるで走っていた子供が落っことした百円玉みたいな感覚でした。

 

 しかも、こんな紙が側に転がっています。

 

 

 

『持って帰ってもいいんじゃよ?』

 

 

 

 怪しさ満点でした。

 

「……どうする?」

 

 上目遣いで意見を求めるフェイト。

 

「どうするもこうするも、とっとと封印して持ち帰った方がいいんじゃないかい……?」

 

 困惑した様子で答えました。毎回苦労して手に入れてるモノが放置されてたら誰でもビックリします。

 しかしなんでしょう、このやる気の無さというかどっちらけ感は。今まで散々努力してきたのに結局本気を出す前に目標に到達してしまったというか、欲しいと思って必死にお金をためて遂に買えると思ったら誕生日祝いに送られてきたというか、……どうでしょう?(何が

 

 ともあれ。

 

「まあいいや。簡単に手に入るならこっちのモンだよ、さっさと回収して帰ろうよ、アルフ」

 

 細かいことはすぐに忘れてしまうフェイトは危険じゃないかと勘繰るアルフを置いといて、スタスタとジュエルシードに近づいていきます。

 

「あ、ちょっ、フェイト!? 危ないんじゃないかい!?」

「へーきだよ。心配性だなぁアルフは。だいたい罠だったとしても、このボクがそんなモノにやすやすとひっかかるわけが、」

 

 言い終える前に足元が崩れました。

 落とし穴でした。

 

「あれぇえぇぇええええエエエエエエエエエエエエっ!?」

「フェイトぉおおおおおおおおおおおッ!?」

 

 急いでアルフが駆けつけます。

 しかしフェイトとて、ただ落っこちるだけの痴態は晒しませんでした。慌てて飛行魔法を使い、落ちてすぐのところで留まっていました。

 

「よ、よかった……。一体誰がこんな子供みたいな真似を」

 

 アルフは穴から覗き込みました。

 底がまったく見えませんでした。

 

「深っ!! 全然子供っぽくない! 一体どんだけ手の込んだ罠なんだい!? ていうかどこのどいつが……!」

 

 その時、背後から声が聞こえてきました。

 

「どこのどいつが、と聞かれたら……答えてあげないのが私の情け」

「どんだけ自己中心なんですか……」

 

 足音は二つ、声も二つ。

 

 フェイトとアルフが振り向くと、そこには見覚えのある人物がいました。恐らく親の顔を忘れてもコヤツのことは身体にトラウマとなって刻み込まれているでしょう。

 

 そんなトラウマメーカー……高町なのはとユーノは、堂々とした足取りでやってきました。

 

「やれやれ、人の獲物を盗みとろうなどとは……とんでもない奴だねまったく!」

 

 お前はどうなんだお前は、という抗議を誘発しそうな発言でした。

 

 案の定、フェイトから突っ込みが入りました。

 

「ちょっと待てよ! これはボクが回収するって前も言ったし、大体コレはオマエだけのものじゃないだろっ!」

 

 確かに一理ありますがなのはには無意味でした。

 

「まったくこれだから庶民は困る……。いいかね? それは私が手に入れるべきものだ。つまり私のものだ。私のものは私のもの、あとは知らない。君はそれを横からかっさらおうとしている。つまり悪だ。解ったかね? ではとっととそれを寄こしたまえ」

 

 ジャイアニズム全開でした。

 

「やだよ! ボクがとったんだからボクのものだもんねー!」

 

 あっかんべーと挑発しながら、ジュエルシードを拾おうとしました。

 

 すると地面が突然崩れました。

 落とし穴でした。

 

「フェイトォオォォオオオオオオオオッ!!??」

 

 アルフがジュエルシードそっちのけで慌てて駆けつけました。

 

「ふん。やれやれ、盗人猛々しいとはこのことだね」

 

 肩をすくめながら、ジュエルシードに近づくなのはでした。

 

 すると足元の感覚がなくなりました。

 落とし穴でした。

 

「なのはさんんんんんんんんんんんんんっ!!??」

 

 ユーノがビックリ仰天しながら駆け寄りました。

 が、存外しぶといことに、なのはは縁のところにしがみついておりました。さながら地獄の底から這い上がって来た悪鬼羅刹のようです。

 

「おのれなんと卑劣な……! この私を罠にかけるとは!」

「ええええ!? これ君がセットしたものじゃん! なんで覚えてないの!?」

「なんと!? フフフさすがは私だ落とし穴を設置したのにまったく気づかなかったよ……!」

「君自分で仕掛けたんだから配置くらい記憶しておこうよっ!」

「仕方なかろう、急いでいたのでどこにあるのかまったく覚えておらんのだよ」

 

 そうこうしている間に、復活したフェイトが土を払いながら出てきました。

 

「フッ、バカめ! ジュエルシードはいただきだ!」

 

 膝立ちのまま手を伸ばしましたが、一歩前へと踏み込んだ瞬間、マントの裾を思いっきり踏んづけてしまい、滑って再び穴の中へ落っこちて行きました。天才ですかこの子。

 

 しかし御主人はこんなことで挫けないと信じているアルフは、フェイトそっちのけでジュエルシードへ近づきます。ご主人第一のアルフですが、コントを披露している場合じゃないと分かったようです。最初からそうすれば良かったでしょうに。

 

「アタシがとる……!」

 

 あともう少し、というところで、アルフは気づきました。ジュエルシードへと向かう進路上に、何故かバナナの皮が落ちていることに。

 

「ってこんなもん引っ掛かるかーっ!!」

 

 ご丁寧にキックで吹き飛ばしました。

 

「ふぅ、なんだってんだい……」

 

 そしてジュエルシードを手に取りました。見せびらかすように空へ掲げます。

 

「また一つ、手に入ったか……」

 

 感慨深げに息をつきながらじっと眺めていましたが、妙な違和感を抱きました。

 なんだろう、と思い、裏返して見ると、裏には小さな紙が貼ってありました。

 

『じぇいるしーと?』

 

 パチモンでした。

 何故かどっかで見たことある研究衣を着た男が爽やかな笑みを浮かべたイラストつきでした。

 

「アホかぁああああああああああああッ!!」

 

 地面に叩きつけました。

 

「ふん、こんなこともあろうかと、事前にすり替えておいたのが幸いしたね」

「なのはなのは。こんなことが起きるって分かってたなら、さっさと封印して逃げた方がよかったんじゃないの? 相手はこっちの場所分かってないんだし」

 

 …………。

 

「そうだったね」

 

 清々しい笑みで誤魔化しに入りました。

 

 と、二人がアホなことをしていると、目の前を黒い影が過りました。なのははなんとかかわしましたが、ユーノは見事に撥ねられました。

 

 何だったのだ――振り向けば、そこには橙色の毛を持つ狼が佇んでおりました。

 その口元を注視すると、なのはの手中にあったはずのジュエルシードがありました。

 

「……そうか。君は人間はなく、」

「何驚いてるんだい? 使い魔を連れてるクセに」

 

 口に何かくわえたまま話しました。器用なことです。

 

 そこへ、再起したフェイトが降り立ちました。全身泥だらけなことには突っ込まないであげるのが大人というものでしょう。

 

「アルフ! ちゃんとしまっておいてくれよ!」

「分かってるって。とっとと帰ろうフェイト!」

「そうなんだけど……」

 

 こちらを睨んだまま、構えをとるフェイト。

 なのはがこのまま見過ごすはずもなく、加えて、数は分からないまでもジュエルシードを持っていることを知っているようです。

 

「……一つ聞きたいのだが。何故そうまでしてジュエルシードを求める?」

 

 ここにきてようやくまともな発言が出ました。

 

「はぁ? そんなのなんでいちいちボクが答えないといけないんだよ」

「いちいちごもっともな台詞どうもありがとう。しかし、」

 

 ビシッ、とボーズをキメるなのは。

 

「極力平和に物事を解決したがるのが人間だ。そして私も人間、君も同じく人間だ。お互い主義主張など異なるモノも大いにあるだろうが、しかしそこに平行線も存在するが境界線もあるというもの。いずれにも利益をもたらす良い結末があるとは思わんかね? もし君に不満があり私に不備があるというならば、私は謝罪しよう。改善を努めよう。そして、君と良き対話を行えるよう祈ろう。故に、君らと話し合う場を提供したいのだが」

 

 どうかね? と上目に見るなのは。

 長々語りましたが、要はこういうことでしょう。

 

 

 

『貴方と……合tお話ししたい』

 

 

 

 途中で雑音が混じりましたが、とどのつまり話し合いで解決しよう、ということです。

 

 手を差し伸べるなのは。フェイトは少し眉根を寄せて、疑るような目を向けます。そりゃあんだけ罠にかけられおちょくられれば懐疑的になるのも止むをえません。

 

「言葉だけじゃ、何も変わらないんだよ……!」

 

 結局、彼女はどこか怒ったように、しかしどこか悲しげに、首を振って拒否しました。

 

 対して、拒絶されたなのははというと、少しガッカリしたように肩を竦めました。

 

「そうか。では交渉は決裂だ。戦争をしよう」

 

 バスターをぶっ放しました。

 

 

 

 ちゅどぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!

 

 

 

 一瞬で辺りが粉塵に包まれました。

 

「ちょっとぉおおおオオオオオ!? いきなり何してるんだよなのはぁあああああ!」

 

 あまりの変わり身の早さといきなりな攻撃にユーノは顔を青くしましたが、視線の先ではなのはが涼しい顔で佇んでいます。

 

「悲しいことだよね……話し合えるはずなのに、分かり合えないって」

「君、話し合う努力してた?」

「無論、したとも。……一度くらいは。だが偉大なる私の厚意を無碍にした罰は重いぞ……!」

 

 その結果が速攻バスターぶっ放しなのですから恐ろしいですよね。

 

 しかしユーノも、最早話し合う余地はないだろうと踏んでいたので、今のうちに作戦を立てるべきか、と前向きに考えます。何事も前向き思考でないとすぐ胃が痛むようになった今日この頃です。何故でしょうね? 原因はすぐ近くにありますが。

 

「けどなのは、相手は正直、君より魔法に慣れ親しんだ相手だ。油断しない方がいい。何か作戦でもあるの?」

「うむ、任せたまえ。傾聴に値する作戦を述べよう。まずユーノ君が相手方に突撃をかまし、隙が生じたらすかさずバスターを撃って撹乱させる」

「僕も巻き込まれるんじゃ……」

「フフフ、ユーノ君、いい事を教えよう。……戦いに犠牲はつきものだよ?」

 

 ユーノは泣きながら逃げ出しましたが華麗な動きで先回りしたなのはからは逃れられませんでした。

 

「はははユーノ君、何故そんな血相変えて飛び出すのかね? 危ないではないか」

「なのはなのは! 僕ね今まで君と一緒の方が安全だと思ってたけど、君の半径3メートル以内にいる方がもっと危ないってようやく気づいたよ!」

「何を言い出すかと思えば……私のような人畜無害で純粋無垢な少女をパートナーに選んだのだ、心配事など何一つないではないかね?」

「自分で言いおったよこの鬼畜……!」

 

 煙が不自然に揺らぎました。向こうも体勢を整え、反撃の準備を終えたのでしょう。

 させるか――なのはは目をキュピーンと輝かせ、もがくユーノを持って遠投する体勢をとりました。

 

「撃ちだせ青春……!」

「いやぁああぁぁああああああああ! この人でなしィイィイイイイイイイッ!!」

 

 ブン投げました。

 

 煙を幕を突き破り、ユーノが直進します。Jリーガーもかくやという肩を披露したなのはの魔法少女パワーで投げ放たれたユーノはまさに流星、ぐんぐん勢いを増して、やがて今まさに前へと飛び出そうとしていたアルフの顔が見えました。

 

「なっ……アンタ、飛べたのか!?」

 

 いいえ、ただ投げられただけです。

 

 息をのんだアルフは、しかし見事横に身体をズラして避けました。

 なので、顔面から地面にダイブすることになったユーノでした。

 

「まさか自分から突っ込んでくるとは……いい度胸だね!」

 

 勘違いしたままのアルフが、拳を唸らせて殴りかかりました。

 

 地面から身体を引き抜いたユーノは、迫る拳を冷静に見つめます。ユーノの得意とするのは、なのはのような射撃やフェイトの得意とする近接戦ではありません。防御や結界といった、サポート系を専門としています。なので危機的状況でも、比較的素早く対処し、身の安全を確保することができるのです。

 

 大丈夫だ、問題ない――そう確信したユーノは、防御魔法を発動させようとしましたが、

 

「危ないユーノ君!」

 

 光弾が雨あられと降って来ました。

 

「うわぁっ!?」

「ぴぎゃーっ!!」

 

 アルフはなんとか避け、ユーノは見事に直撃を喰らいました。

 

「ななな、何するんだよなのは! 危うく誤射で昇天するところだったよ!」 

 

 黒焦げになったユーノがプンスカ怒りながら猛烈な勢いで抗議をしますが、なのはは眉ひとつ動かさずに言いました。

 

「私の目の前で無防備を晒すな……!」

 

 凄まじい超理論にユーノは反論しましたがなのはは無視しました。

 

 ユーノの凄まじい生命力にアルフが少なからず驚いています。無防備な状態で直撃を受けたのにピンシャンしてるのは最早生命の神秘なんてレベルではありませんでした。

 

「油断してる場合か……!?」

 

 横手から、凄まじい勢いでフェイトが飛んできました。その手には既に刃を形成したバルディッシュ・サイズフォームがあります。

 

 すかさずなのははプロテクションを形成、急場しのぎとはいえ、それ相応の強度を誇る防御を行いました。

 

「アンタの相手はこっちだよ!」

 

 獲物を見つけた、と言わんばかりのスピードでアルフが再度攻撃を仕掛けてきました。

 

 しかしユーノも攻撃を受けてあひゃーとかうひーとか良い悲鳴を上げるだけの珍獣ではありません。足元に魔法陣が描かれ、逃れられぬよう光の鎖のような物体がアルフを拘束しました。信じられないほどの手際のよさです。普段からこういう動きができていれば有能に見えたでしょうが今となってはただの変態にしか見えません。

 

「な……っ! こいつ、放しな!!」

「嫌だ! こんなところにいたら僕の命がグロス単位であっても足りない……!」

 

 命の危機にひんしていたので限界以上の力を発揮したようでした。

 やがて光が満ち、ユーノとアルフはどこかへと転送されていきました。恐らくはなのはの射撃が間違っても当たらないような安全な場所へ飛んだのでしょう。彼の安息の地や如何に。

 

「いい使い魔じゃないか。主思いなんだね」

 

 どこかへと消え去ったユーノとアルフがいた場所を見つつ、そう言いました。

 こう言ってはなんですがどこに目をつけてるんでしょうか。

 

「否、それは違う。アレは私の使い魔とやらではない」

「え? じゃあなんなのさ」

「あれは使い魔ではなく―――盾だ」

 

 キッパリ言いました。言ってのけました。

 これぞ揺るがぬ高町なのはクオリティ。そこに痺れぬ憧れぬ。

 

「え……」

 

 フェイトは非常識な発言にビックリしています。この程度で驚いていたらストレス溜まりすぎで胃に穴が開くでしょう。

 

「ともあれ、どうするのかね?」

 

 相変わらず立場がおかしいなのはの問いに、フェイトは気を取り直し、

 

「話す意味なんてない……。オマエをぶっ倒して帰る、ジュエルシードは全部集める! それだけだ!」

 

 つまり何も考えてないと言ってるようなものでした。

 

「ふむ。……ではこうしよう。お互いジュエルシードを賭けて戦おうではないか。私と君と、一対一で決着をつける。それで如何かな?」

 

 初心者のくせに何偉そうに言ってんだという突っ込みが消え失せそうなくらい堂々とした言い草でした。

 

「……勝ったらジュエルシードを手に入れる、そういうこと?」

「ああ、そうなるね。……私が負けるなど天地がひっくり返ってもあり得ないが」

 

 先日派手に爆散した人の台詞じゃないと思います。

 

「嘘だぁ、オマエこないだ負けてたじゃないか?」

「はて、何のことかね? それに足を引っ張られなければ私が貴様に遅れをとることなど有り得んよ」

 

 素晴らしい忘却力でした。

 

「分かった。……じゃあもう一回、負かしてやる! 今度は言い訳させてやらないぞっ!」

 

 意気揚々にバルディッシュを構え、いつでも踏み込めるようにするフェイト。

 余裕の表情を崩さず、いつでもかかってこいと言わんばかりのなのは。

 

「行くぞ!」

「さぁ、勝負だ―――」

 

 両者は同時に動きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――マ○オカートでーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三十分後。

 

「…………」

「…………」

 

 満身創痍となったアルフとユーノが戻って来ると、そこには、

 

「おいぃいいいい! オマエさっきからトゲゾーばっかりじゃないかぁ!」

「ははは何のことかね? そら順位で落ちてるぞ?」

「むぅううう……! じゃあボクも使うーっ!」

「ほぉう宜しいのかね? おっとサンダー引いた。……おやおや君は小さいね? 思わず踏んでしまいそう……あ、すまない踏んでしまった。ハハハ悔しいのう悔しいのう?」

「もう邪魔なんだよぉおおぉぉおおおおおっ!」

 

 仲良くゲームをして遊ぶ子供二人の図でした。

 

 

 

「ちょっとなのは、なんで和やかに遊んでるんだよ! ジュエルシードはどうしたのさ!?」

 

 ユーノが怒ったというより困惑した様子で叫びますが、なのははしれっとした顔で言いました。

 

「はて? 君が穏便に事を運べと言うものだから、渋々! 止むを得ず! 嫌々ながらも! 仕方なく! 和やかな解決法を模索したというのに! 文句があるのかね!?」

 

 文句しかありませんでしたがユーノは黙っておきました。

 

 と。

 

「ふん……!」

「―――ッ!」

 

 隙を突いたアルフが拳を唸らせました。

 既に手傷を負ったアルフですが、ユーノほどではないようです。というかユーノの負傷率が異常に高いのは何故でしょうね本当に。

 

「どうして……! ジュエルシードは危険なものなんだよ!? 何故君らがそれを求めるんだ!」

 

 ユーノは必死な叫びを放ちました。

 

 良い質問ですがアルフとフェイトは取り込み中だったので華麗にスルーされました。残念無念。

 

「サンダースマッシャーッ!!」

 

 アルフが足止めしている間に詠唱を終えたフェイトが、砲撃を放ちました。

 

 魔法の才能があるとはいえ、咄嗟に障壁を展開できなかったなのはは、それを回避することは叶わず、

 

「くっ……!」

 

 被弾しました。

 

 煙と衝撃が生じ、派手な爆発が起きました。

 さしものなのはもこの直撃はかなりの大打撃となるでしょう。

 

 そう、

 直撃していれば。

 

 煙が晴れると、そこには大したダメージを受けていないなのはがいました。服のところどころが焦げ、肌のあちこちに傷がありますが、戦闘に支障のないレベルです。

 

「ふぅ、危ないところだった……。いいところに壁となる物体が落ちていて、それを盾にしなければ私が消し炭になっていたぞ」

 

 説明口調で言って、盾にしていた物体をおろしました。

 

 ユーノでした。

 

「ユーノ君んんんんんんんんんんんっ!!!??」

 

 両手で抱えたまま、涙を流して絶叫しました。

 端から見ると感動的ですが三秒前の光景を思い出すと苦笑も起きません。

 

 痙攣するユーノを眺めていたなのはは、ややあってから、ゆっくりと顔を上げました。

 

「許さん……許さんぞ貴様ら! ただで帰れると思うなよ! じわじわとなぶり殺しにしてくれる……っ!」

 

 A級戦犯が叫びました。

 今にも金髪になりそうでした。

 

「お、落ちつけよ! 誰のせいとか言ってる場合じゃないだろ!?」

「任せな! こんな時こそと思って入手した、伝説の秘孔を突いてやる……!」

 

 何故かアルフが自信満々に腕まくりしました。

 

「なに!? そのようなものが存在するとは……!」

「あるんだよ! どいてな嬢ちゃん……!」

 

 勢いをつけて走り込んで来るアルフ。

 

「そこだぁああぁあぁああああああッ!」

 

 そしてそのままどてっ腹に一突き入れました。

 

 

 

「ごフッ!」

 

 

 

 血しぶきがあがりました。

 

「…………」

「…………」

「…………おい、明らかに致死量の血を吐いているのだが」

 

 冷ややかな目を向けるなのはに対し、アルフは頭を掻きつつ、

 

「間違っちゃった。えへ♪」

 

 わざとらしく笑うのでした。

 

「き……」

 

 ブルブルと肩を震わせるなのは。彼女から迸るそれは、怒りでした。

 

「貴様の血は赤色だぁアァアァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 何故か断定系でした。

 

 思わず引いてしまうくらいの迸る怒気を放ちながら、なのはは起動しました。

 

 ……その際ユーノを全力で握り締めて追い打ちをかけていましたが、なのはは気づきませんでした。

 

「う……」

 

 思わず身体が強張ってしまったフェイトとアルフ。その隙を見過ごさないなのはは、しすちゃっとレイジングハートを砲撃形態に移行、すぐさま発射態勢に入りました。

 驚異的な魔力が集っていきます。アルフはすぐにでも逃げ出そうと一歩引きさがりましたが、逆にフェイトは前へ踏み込みました。発射される前に潰してしまう魂胆でしょう。なんという剛毅! もうフェイトが主人公と言ってもいいんじゃないでしょうか。

 

「母さんのために……! ジュエルシードは、渡せないんだぁあああああああっ!」

「あいつを撃たねば……私は前に進めない!」

 

 迷走ばっかしてる人が何を言ってるんでしょうか。

 

 叫びを上げながら、フェイトは走り出そうとしました。しましたが、一体いつ落ちてきたのやら、さっきアルフが蹴り飛ばしたバナナの皮を思いっきり踏んづけてすっ転びました。ベタすぎました。

 

 狙い撃つぜ! とでも叫びそうな形相でレイジングハートを構え、フェイトがバルディッシュを振り下ろすよりも早く撃ち放とうとしました。

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 

「はいストップ。そこまでだ」

 

 

 

 

 

 

 突如、横やりが入りました。

 見たこともない少年が、なのはのレイジングハートを掴み、フェイトのバルディッシュを杖のような物体で受け止めています。

 

「まったく……こんなところで派手に喧嘩しちゃって、人様に迷惑だと思わないのか?」

 

 黒い衣装を身にまとった、なのはやフェイトより少し年上といった風貌の少年。その手には、彼女らと同じく長い杖……デバイスがありました。

 彼の髪も黒。全身を黒で統一した少年です。

 

「まぁそっちにも事情があるんだろうけどな。とりあえず言いたいことがある」

 

 ただし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー、……うるせーんだよ発情期ですかコノヤロー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ魚みたいな目をしていました。

 

 



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第9話 事情を話しましょう

他にも何人かの方が面白いなのはのコメディ(?)を書いてらっしゃるのを見て色々刺激を得た今日この頃皆さまは如何お過ごしでしょうか(ご挨拶

まぁ純粋におもしろおかしい作風は他の方にお任せして、私は私のシュール系変態コメディ(意味不明)を続けていきたいと思います。




 

 

 前回までのあらすじ

 

 糖尿病寸前みたいなやる気のない顔をした男が乱入してきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

   第9話 事情を話しましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはとフェイトの前に現れた男は、気だるそうなため息をつきながら言いました。

 

「時空管理局の……、えっと、なんだっけな……あ、執務官のクロノ=ハラオウンで~す。オメェらのオイタがすぎるっつーことで来ましたよっと」

 

 適当な口上を述べました。

 

「ったくよー、こちとら遠く離れた次元世界からわざわざやって来たってのに、ガキが二人キャッキャウフフしてるだけたぁな。……おいおいちょっと待ってくれよ、クロノさんマジギレしたいんですけど? ていうか帰ってジャ○プの続き見たいんですけど? シケた世界にまで来てガキのお守なんてマジやってらんねぇー。ねぇ聞いてる? そっちのお嬢さんも俺の話をよく聞」

 

 

 

 

 

 

 爆発が生じました。

 

 

 

 

 

 

 言わずもがな、至近距離で魔法をぶちかましたのは、なのはでした。

 

「話が長い。三行でまとめたまえ」

 

 公務員相手にもこの上から目線です。

 

 煙が晴れると、なんかモジャモジャした感じの男が出てきました。

 

「ってなんだよモジャモジャって!? 俺そんなモジャモジャしてねぇよ! してんのはどこかの世界の白髪侍だろ! 俺はご覧の通りサラッサラのストレーt」

 

 言い終える前に第二射撃が来ました。

 

 煙を突き破って、今度はこんがりしたモジャモジャが出てきました。

 

「おいィィイイイイイイ! テメェ何度もバカみてぇにブッパしやがってェエエエエエエエ! お陰でオマエやべぇよこんなっ、俺の頭がモジャモジャしちまったじゃねーか!!」

「落ち着きたまえ。ここは逆転の発想だ。元々モジャモジャしているところに更にモジャモジャする要素をプラスすれば、逆に君の望むストレートヘアーに―――」

「なるわけねぇだろォオオオオ! どんだけ単純な発想!? モジャモジャしてるところにもっとモジャモジャすることしたらオマエもうアレだよ、それモジャモジャした髪じゃなくてよく分からないモジャモジャしたアレだよ! ていうかモジャモジャしすぎて俺の頭もモジャモジャしそうだよ!」

「非常に残念だが君の頭は既にモ○ャ公よりもモジャモジャだ。諦めたまえ」

「おいィィイイイイイイ! ふざけんなぁぁああああああッ!!」

 

 三度目の正直を実行しました。

 

 当たり前ですが元々モジャモジャしたものにモジャモジャする要素をかけたところで更にモジャモジャするだけです。ところでどんだけモジャモジャしてるんでしょうか今回の話は。恐らく一生分のモジャモジャをここで使い果たしていることでしょう。以上、どうでもいいお話でした。

 

「ちょっとォオオオオオ!? お嬢さん俺の話聞いてェエエエエエエエエエエエ! いい子だから聞いて下さいクロノさんからのお願い!!」

 

 チッ、と舌打ちしつつもレイジングハートを下すなのは。外道にも僅かな温情有り。こんなのが温情扱いされるなら彼女はどれだけアイスハートなんでしょうね。

 

 ほっと息をついたモジャモジャ、改めクロノは、ゴホン、と一発咳払い。

 

「えーこの区域での戦闘行為は禁止されていまーす。なので即刻止めないと大変宜しくないことにあるぞーという警告なんぞをして、みたい、んです、が……」

 

 徐々に言葉が消え失せていくクロノに、なのはは小首をかしげます。

 

 そこで、今までいたはずの人物がいないことに気づいた様子のクロノが、慌てて辺りを見渡しているのに気づきました。

 

「ああ、彼女なら君がモジャってる間にさっさと逃げてしまったぞ?」

「ふざけんなァアアアアアアア! テメェ俺が魔界の魔物だったら口から電撃吐いてんぞコラァァアアアアアアッ!!」

 

 今にも友情の電撃を吐き出しそうな勢いで叫びました。

 

 

 

『そこまでになさい、クロノ執務官』

 

 

 

 と、いきなり声が響いたかと思うと、虚空に魔法陣が浮かび上がり、その中に映像が生じました。

 

 クロノはビクッと身体を震わせると、映像の方へ向き直りました。

 

「かぁ……じゃねぇや、班長!」

『班長じゃないわ、艦長よ。……あら? もう一人の子はどこに行ったの?』

「すいませんね、俺の不注意で取り逃がしちまいました。けど必ずなんとかして捕まえるんで」

『あらそう……。まぁいいわ。そちらのお嬢さんからお話を聞きたいから、アースラに同行してもらってもいいかしら』

「アースラにっすか……分かりました」

 

 映像の中で話しているのは、かなり若い女性で、会話の内容からして、このクロノの上司だろうとなのはは推測する。話しぶりからして、親子なのだろうか。

 

「つーわけで、オメェさんをこれから俺たちの本拠地に連れてくことになったけどな? できればついてきてくれるとありがてぇんだが、どうよ?」

「ああ。異論はないよ。しかし……君の御母堂はとても若いのだね」

 

 そう言い、なのはにしては珍しく困ったような苦笑を浮かべました。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで幼稚園児かと見まごう背丈の少女が、映像の中でにっこりと笑いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラというのは、時空管理局の艦船であり、なのはやユーノがいた地球とはそもそも存在する世界が異なる場所で運航されているらしく、転送された後に窓から外を見ると、青紫色の空間が広がっているばかりでした。

 どこか宇宙空間めいた神秘性があると想像していただけに期待はずれ感が隠せないなのはは、こっそりため息をつきました。

 

「ユーノ君、次元世界というのは、いわゆる異世界というものかね?」

「簡単に言うと、そうだよ。幾つも存在する並行世界の狭間を渡って、それぞれの次元に干渉し合う出来事を管理していると言われているよ」

「んで、俺たちは各世界で起きる面倒事を解決してるってわけだな」

 

 どこか偉そうに言うクロノでした。

 

「成程。……つまりエロサイトの管理人のようなものか」

 

 凄まじい例えでした。

 

「ああ、日々エロスとバイオレンス溢れる出来事がないもんかと目を皿にして探し続けているわけだなコレが」

 

 同調してきました。

 

 ここで割とまともな……まともなんじゃないかと分類されているユーノの突っ込みが入りそうなものですが、し~んとした空気が流れました。ボケがダダ流れしていることに違和感を抱いたなのはが足元を見ると、小刻みに震えるフェレットがいました。

 どうやら船酔いしたようです。それとも次元空間酔いでしょうか。

 

「なんだユーノ君、酔い癖でもあるのかね?」

「いや、なんだか緊張してきちゃって……」

 

 ユーノもこういったスケールの大きい乗り物に搭乗するのは初めての様子です。なのはも少なからず驚いていますが表に出ていないだけです。

 

「落ち着きたまえ。こういうときは新鮮な空気を吸って深呼吸するに限る。そら、新鮮な空気だ」

 

 と言って、窓を全開にしようとレイジングハートをすちゃっと構えます。

 

「やめんかァアアアアアアア! 地獄の釜戸でも開くつもりか! トイレの場所教えてやっから勘弁してくれマジで!」

 

 クロノの突っ込みが冴え渡りました。

 

 

 

 再び歩き出そうとした時のこと。

 

「あ、そうだ。オメェその窮屈な服脱いどきな」

 

 クロノの指摘が入りました。

 なのはは未だにバリアジャケットを装着したままで、レイジングハートも持ったままです。いざとなったら速攻で壁をブチ抜いて逃げようと思っていたからです。後先考えないなのはさんでした。

 

「ふむ。クロノ君、だったかね? 気持ちは大変よく分かるのだが……」

 

 サラリ、と前髪をクールに掻き上げます。

 

「私の衣装は一品モノでね。欲しいと思ったところでこれを進呈するわけにはいかんのだよ」

「誰もそんなこと言ってねぇよ! 常時戦闘用の恰好されてるとこっちも気使うから止めてくれっつってんの! 服脱げなんざ誰も言ってねぇから!」

「おや? それとも私の身体の方に興味があるのかね?」

「なわけねーだろ! つーかこの子さっきから人の話聞いてなくね!? 耳の穴は右から左!?」

「おやおや、もしやその年でもう枯れてるのかね? 不憫なことだ……」

 

 クロノはもう無視することにしました。

 

 無視されたので、仕方なく渋々といった様子でバリアジャケットを解除します。

 

「おいそこの小動物。オメェさんも楽にしていいぜ、その姿じゃ不便だろ」

「そう、ですね……。じゃあそうしましょうか」

 

 と、アッサリ言ったユーノは光に包まれると人間の姿になっていました。

 

「さて、じゃあ行くとしよ、」

「待ちたまえ」

 

 ガシッと襟首を掴まれて『キュゥッ!?』と動物みたいな声が漏れました。

 

「貴様……今まで力がないからとか色々理由をつけて人間の姿にならなかったクセに、今となって元の姿に戻るその性根は一体何かね……!」

「ごごごごめんよなのは!! 実は少し前に回復してたんだけど、僕じゃ足引っ張ると思ったから自重してて……」

「少し、前……?」

「少し、いや、ちょっと多めに十数日前?」

「……それはあの黒い少女と出会う前かね? 後かね?」

「あはは、な、何を言ってるんだいなのはさん。僕がそこまで役立たずなわけないじゃないですか……」

 

 無言の時間が三分ほど続きました。

 最終的に、無言の重圧に耐えきれなかったユーノが頭を垂れました。

 

「すいません……」

 

 素直な謝罪に、なのははにっこりと爽やかな笑みを浮かべ、ユーノの肩を叩きました。

 

「なのは……」

 

 許してくれたのか、と思い、涙目のユーノは、聞きました。

 

「だが許さん」

 

 

 

 悲鳴が響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

 向かった応接室は、なのはが思わず驚愕の息を吐いてしまうくらいには、風変わりな内装でした。

 

 白がまぶしい鉄の壁に囲まれた部屋。そこの床は藺草の匂いが鼻腔を撫でる畳が敷き詰められ、その上には赤の絨毯が敷かれてあります。どこから持ちだしたのか、鹿威しが雅な音を奏でています。客人用にと置かれた抹茶と羊羹は随分と高額なものなのでしょう、濃厚な緑色と美しい光沢を放っています。

 

 今かと正座でなのはたちの到着を待っていたのは、小柄という言葉もビックリするサイズの女性でした。

 

「ようこそ、アースラへ。私はアースラ艦長リンディ・ハラオウンよ」

 

 どこか艶のある笑みを浮かべるリンディ。

 が、それをなのはと同程度の年代にしか見えない少女がやるのは些か違和感があります。もっとも地獄の門番も鳥肌を立てるくらいのダークスマイルを作れる子供が若干一名いますので最早突っ込みをいれることすら生ぬるいでしょう。

 

 ほとんど視線を同じくして話せる女性が一つの船を任せられていることにそれなりの衝撃を受けながら、しかし優秀な人材なのだろうと結論付けて自分を落ち着かせるなのはでした。

 

「ど、どうも……初めまして。ユーノ・スクライアです」

「お初にお目にかかる。私は高町なのはという者だ」

 

 凄まじいまでに対照的な挨拶でした。

 

 

 

 二人は、というより、ユーノは何故ジュエルシードを集めているのか、その理由を話しました。

 なのはは基本的に、リンディから視線を向けられた時のみ、短い返答をしていました。

 

「そう。大変だったわね……」

 

 茶をすすり、一息ついたリンディは言いました。

 ……砂糖を山にして注ぎ込むのはなかなかストレンジですが、もうこの程度のことでは全く驚けない自分がとても悲しいと思うユーノでした。

 

「けど立派なことよ、自分たちで採掘したのだから、極力自力で解決しようとするその志は」

「おいおい船長、勇敢と無謀は紙一重だって言ってたじゃねーか」

「船長じゃないわ、艦長よ。……立場ある人間の言動にはそれ相応の責務と重みがつきまとうって言っただけ。私は別段、この子たちの行いを責めるつもりはないわ」

 

 若手のクロノは二人の行動に対し批判的ですが、艦長であるリンディは同情的な立場でした。

 

「……ところで、ロストロギアというモノに関して、詳しい説明を聞きたいのだが?」

 

 今まで沈黙を保っていたなのはが開口しました。

 どこか様子がおかしく思えるユーノですが、あまりに彼女の横顔が真剣だったので黙っておきました。

 

 

 ……ロストロギアとは、進化し過ぎた文明の危険な遺産。使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術の塊。

 ……ジュエルシードはそんな品物のひとつで「次元干渉型のエネルギー結晶体」。

 ……複数発動させることで次元空間に影響を及ぼす「次元震」を引き起し、最悪の場合、いくつもの並行世界を壊滅させるほどの災害「次元断層」のきっかけにもなりうる。

 

 

「放置しておけば、いずれ周りに大きな悪影響を与えるっつーとんでもねぇ代物だ」

「口内炎のようなものかね」

「しかも、ちょっとでも力が漏れただけでかなりの災害が出るんだよ。前触れみてぇなのがあったらもう手遅れ、ってこともザラらしいぜ」

「虫歯のようなものかね」

「いちいち何かに例えねーと話聞けねぇのかお前は!」

 

 床をバシバシ叩きながらクロノが突っ込みました。

 苦労するなぁ、と同情する目を向けるユーノでした。

 

「落ち着きなさいクロノ執務官。何事も冷静に対処できないと苦労するわよ?」

「はいはい、アンタみたいな合法ロリババアを母親に持つと苦労が絶えね、」

 

 ドスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分後。

 

「ともあれ、これよりロストロギア・ジュエルシードの回収については、我々時空管理局が全権を持つわ。難しいことかもしれないけど、貴方達は、今回のことは忘れて、元の平和な生活に戻りなさい」

「そういうこった。危ねぇからガキはとっととおうちに帰ってプ○キュア見てキュア○ースをアヘ顔にする作業でもしてんだな」

 

 嫌に具体的なことを述べるクロノでした。

 ……頭に串が突き刺さっていることには誰も突っ込みませんでした。

 

 確かに彼女らに任せた方が確実と言えるでしょう。しかし、ユーノの心中では、どこか納得し難い自分が否定の叫びを上げていました。元々、自分の一族が見つけたもの、それを誇示するわけではないのですが、発掘に携わっておきながら、何の責任もなく他者にそれを押し付け、平和な生活を満喫するなど、果たしてできるのでしょうか。

 

 でも、と反論の口を開いたところで、片手を差し出したなのはに制されました。

 

 分かっている、とでも言いたげな彼女の表情に、安堵を得たユーノでした。

 が、

 

「ではそうさせてもらおうかね」

 

 

 

 

 

 

 司令室から席を立ったリンディは、ある場所を目指します。

 モニタールームでは、既に一人の少女が、フェイトと名乗る少女と、先程招いた高町なのはという少女が交戦した際の記録映像を見つめていました。

 

「あ、艦長……」

「御苦労さま、エイミィ。どう? 彼女たちは」

 

 エイミィと呼ばれた少女は、ため息でもつきそうな顔で肩を竦めました。

 

「どっちも非常識なレベルですね。いずれもAAAクラス、魔力だけならクロノ君を超えてます」

「その肝心のクロノがいないのだけれど……そうだわ。エイミィ、クロノを連れて来てくれる? 話したいことがあるのだけれど」

「分かりました」

 

 一分後、エイミィに引き摺られたクロノが登場しました。

 何故か縄で縛られております。しかも四角形の形が目立つ縛り方でした。

 

「エイミィ、ちょっといいかしら。……この独特の縛り方は何?」

「ええ。―――ご存知菱縄縛りです」

「いや、知らないわよ。……それ、あなたの趣味?」

「いえ、私の父の趣味です」

「あなたの父親鬼六!? というか何で束縛してるの?」

「自室に突撃しましたら、今日の記録をつけているのかと思ったのですが目を開けたまま居眠りをこいていたので、つい……」

 

 つい、で人を緊縛する少女というのもなかなか異常でした。

 それでいいのか――リンディは突っ込みましたがエイミィは涼しい顔でスルーしました。

 

「あ、母さん、なんで俺縛られてんの? さっきまで自分の部屋にいたんだが……どうも気を失う直前に田舎の山から駆け降りてきた山姥を見た気がし、」

 

 ゴスッ

 

 

 

 

 

 

「……それで、何か御用ですか?」

 

 頭から流血しているクロノは、一応体裁を取り繕うべく真面目な口調で言いました。

 もう何もかも手遅れな感が漂いますが。

 

「ああ、実はクロノもこの映像を見てもらおうと思ってね。どう思う? 彼女たちの実力は」

「どうもこうも……鼻ったれなガキどもにゃちと荷が重いんじゃねーの? 力があるっつったってまだ子供なんだしよ、危ねぇったらありゃしねぇ」

「確かに、魔法は魔力で全てが決まるとは言い難いですし、あの黒い服の子はともかく、経験も不足しがちな白い服の子じゃちょっと……」

 

 客観的に見れば、二人の意見は正しいと言えましょう。魔法と出会って一月も経っていない子が、強大な力を持っているとはいえ、実力で上回る相手に勝てるか。そして、ジュエルシードと関わり続けて、危険な目に遭わないか。不安を駆り立てる要素は数えればキリがないでしょう。

 

 しかし、リンディは柔和な笑みを携え、

 

「果たしてそうかしら?」

 

 その台詞に、二人は驚いたような目を向けます。

 

「随分利発そうな子だから、きっと私たちの予測とは違う答えを出すと思うわよ」

 

 どこか楽しそうな雰囲気を漂わせ、映像の中で戦う二人の少女を眺めていました。

 

 ……ちなみに、映像は数時間前に森の奥で行われたものなので、戦闘というよりコントに近いものでしたが、それに感づくほどの常識人は存在しませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴市に着いたなのはとユーノは、とりあえず帰路についていました。

 

 二人の間には沈黙が漂っています。どちらかというと、なのはは思案顔で、ユーノは沈痛そうな面持ちでした。

 余談ですが、既にユーノは元のフェレットの姿に戻っています。この方が楽だから、と言っていましたが最早言い訳にしか聞こえませんでした。

 

「なのは、これからどうする? 僕らだけじゃ確かに戦力としては心もとないけれど、このまま引き下がるのも……」

 

 どこか憂いを得た表情のユーノですが、対照的になのははいつもの不敵な笑みを携えていました。

 

「案ずることはないよ、ユーノ君。私は元々ここで終わるつもりなど毛頭ない」

「なのは……けど、ジュエルシードはあの子に奪われちゃったし……」

「何、彼女の潜伏先は大方の検討がついている。問題あるまい」

「え、ホントに!?」

 

 用意周到すぎる返答にユーノは驚きました。

 

「ふふふ、驚いたかね? 居場所の判別など私にかかれば余裕のよっちゃんだよ。……実は街中で見つけた後ストーキングしただけなのだが」

「それ犯罪じゃないか……」

「心配するな、ともすれば犯罪行為だが、かの有名なブラックジャックもしていたことだから大丈夫だろう」

「何が大丈夫なのかちっとも分からないんだけど」

 

 そう言いつつ、まぁなのはだしね、と心の中で結論付けて流しました。もうすっかり汚染されているようでした。

 

「ていうか、何でそのことを言わなかったの? 彼女らを放置していたら危険だって思わなかったの?」

「わくわくす……それは大変だね?」

 

 モロだしでした。

 

 ともあれ、全ては夕食をとってからゆっくり考えようというなのはの提案もあり、二人は家へと帰って行きました。

 

「…………」

 

 なのはは終始何事かを考えているようでしたが、ユーノは終ぞそれに気づきませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるマンションの一室にて。

 

 フェイトは呻くような声をあげて、目を覚ましました。

 

 身体のところどころに包帯が巻かれております。これはなのはが撃ったクロノへのバスターの余波をモロに受けたものです。つまり衝撃だけでこの有様でした。直撃しておいてフツーに生きてるクロノの生命力は黒い生命体Gを凌駕することでしょう。

 

「フェイト……もうやめようよ。ジュエルシード集めなんて、やっぱり無理だったんだよ」

 

 珍しく気弱な様子のアルフが、顔を歪めて言います。

 

「もう管理局が嗅ぎつけて来た……プレシアのためなんかにジュエルシードを集めるのは止めよう? どっかに二人で逃げれば、今ならまだ、」

 

 しかし、言い終える前に、フェイトが指をアルフの口元へ寄せました。

 それ以上言わなくていいと、言わんばかりに。

 

「ボクがやりたいから……母さんのためだけじゃない、ボクがそう望んでるから、やりたいんだよ。だから途中で投げ出したく、ないんだ」

「あんな酷い仕打ちされても、かい……?」

「母さんは、今まで辛いことがいっぱいあったから。ボクだけが味方なら、なんとかしてあげたいと思うのは、おかしいことなのかな……」

 

 あまりに健気なフェイトの声に、アルフは悲しくなって泣き崩れてしまいました。

 アルフはただ、自分の主人であるフェイトに笑って生きて欲しい。幸せになって欲しい。ただその一心で、ずっと生きてきました。だからフェイトが喜ぶならなんでもしようと誓っていました。そのフェイトが母のためと身を粉にして働いているのに、事態は急速に悪化していきます。管理局に捕まれば、どう足掻いても重罪として裁かれ、最悪人として扱われぬまま闇に葬られることもあり得ます。

 それはフェイトも承知しているはずです。分かっているはずなのに、頑なに首を縦に振ってくれません。

 それがとても悲しいことだと思いながらも、アルフはフェイトの意志を尊重しました。せざるを得ませんでした。

 

「ごめんねアルフ……迷惑かけちゃって」

「フェイト……いいんだ、アタシはアンタが幸せになってくれるなら、それでいいんだよ……」

 

 優しくアルフの頭を撫でるフェイトは、小さく微笑みながらも、決して逃げないと決意を強めました。

 

 

 

 

 

 

「盛り上がってるところ非常に申し訳ないのだが、少し失礼するよ?」

 

 

 

 

 

 

 とそこで空気の読めない少女が突入してきました。

 しかも隣の部屋から出てきました。どんだけ神出鬼没なんでしょうか。

 

「な、おまっ、ちょっ……!? なにを、いつ、ここが!」

 

 支離滅裂なアルフを無視して、フェイトの前へずんずん近づいたなのはは、ビシッといつものキメポーズをとりました。

 

「安心したまえ。ここを発見できたのは偶然だ。時空管理局どころかユーノ君にもこのことは伝えていないから不安を抱く必要はないよ。しかしこのまま引き下がれるのかと言えばそうでもなかろうな、何故なら君らと私は今日まで敵対していたのだから。なので神に等しい権利を持つ私は良い物をプレゼントすることで君たちの機嫌をとったうえで無事帰還したいのだが宜しいだろうか? 良いと言ってくれるかそうか有難いではこれを渡そう大事にしてくれたまえでは近いうちにまた会おう」

 

 一気に言ってから、なのはは小さい箱を無理矢理フェイトに押し付けると、そのまま颯爽と帰って行きました。しかもご丁寧にも玄関から出て行きました。

 

「……何だったんだ、今の」

「さ、さぁ……?」

 

 二人とも呆然としております。さながら嵐のように訪れ去って行ったなのはに思考が追いつきません。

 

「そ、そうだフェイト! 何を受け取ったんだい!? もしかして発信機とかじゃ……!」

 

 慌ててアルフがフェイトから箱をひったくり、壊さんばかりの勢いで包装をはがしていきます。

 あっ、と一瞬悲しそうな顔をしたフェイトですが、中身に興味があるのか、横から覗き込みました。

 

 すると、

 

「じゅ、ジュエルシード……!?」

 

 なのはが持っていたと思しきジュエルシードが、箱の中から出てきました。

 

 一体何を考えているのでしょうか。

 二人は考えの読めない少女の行動に、首をかしげるばかりでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所にて。

 

「早くなさいフェイト……アルハザードが待ってるの……私の、私たちの救いの地が……」

 

 大魔導師とされるプレシア・テスタロッサは、自分の娘の帰還を待っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレザーを着たまま。

 

 

 

 



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第10話 味方を増やしましょう

うわぁランキング載ってるの初めて見た……(他人事


色々な方に読んで頂いて作者冥利に尽きますが、こんな頭悪い作品が果たして長く続いていいのだろうかと思う時があったりなかったりする気配が漂う兆しがあるかもしれない(長

冗談はさておき、この場を借りて皆さまに感謝の言葉を送らせて頂きたいと思います。
ありがとうございます。
少しずつ更新が遅れていくと思いますが、どうか長い目で見守って下さると幸いです。


ちなみに今回は短めです。


 

 

 

 

 

   第10話 味方を増やしましょう

 

 

 

 

 

 アースラから帰還して、次の日のこと。

 

「え? 管理局に協力しないの?」

 

 いつもの朝練を終え、一息ついていたなのはとユーノは、今日の予定について話していました。

 今後どうするか、そのことに関して、リンディ達と話しあうことになっていたのですが、開口一番、なのはは首を振ったのでした。

 

「勘違いしてもらっては困るねユーノ君。私は民間協力者として力添えしようと考えているだけであって、何もしないという選択肢は最初からないよ」

「そんな回りくどいことを……というか、向こうに全部任せるとか考えなかったの? いや、僕が言うのもなんだけどさ」

「質問で返すようで悪いが、いきなり横からしゃしゃり出てきた者が『後は任せろ』と言って全て横取りしたら、それは腹立たしいことだと思わないかね?」

 

 鏡見ろよ鏡を、という鋭い突っ込みが来そうな発言でした。

 

「まぁ、私も色々思うところがあるのでね。馬鹿正直に協力しますというわけじゃないので安心したまえ」

「僕は別にいいんだけど……」

 

 一体何を考えているのでしょうか。ユーノにはなのはの考えがまったく分かりませんでした。

 分かったらおしまいな気がしますが。

 

「ともあれ、管理局と暫しの間行動を共にするわけだから、家族にも話をせねばなるまい」

「なのはの御両親、納得してくれるかな……」

「さてね。しかし、話の分かる人たちであることに違いないからね。なんとかなるだろうよ」

 

 どこか他人を評する言い方に違和感を抱きながらも、ユーノは相槌を打つのでした。

 

「兄が暴れそうで面倒だが」

 

 否定できませんでした。

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、なのはは桃子と話し合うことにしました。

 

「お母さん、お話があるの……」

 

 誰だこいつ? と思ったそこの貴方。私に聞かないでください。

 

 桃子は真剣な表情のなのはを見て、大事な話だと分かったのでしょう。ちょっと待っててと言い、誰もいない居間で二人で話をすることにしました。

 

「どうしたの?」

 

 笑みを絶やさない母を騙すことに、さすがのなのはも良心が痛みましたが、それはそれこれはこれで片付けました。

 

「実は……かくかくしかじかまるまるうまうまで」

 

 実際こんなんで伝わるわけないと思います。

 

「そうなの……お友達のために、暫く家をあけたいって……なのは、本気なの?」

 

 日本語って、便利ですね……。

 

「なのは」

 

 桃子はしばしの間逡巡していましたが、ややあってから、

 

「行ってらっしゃい。後悔だけは、しないでね」

 

 優しい笑顔で、娘を見送ることにしました。

 

 

 

 余談ですが、これを聞いた恭也はギャリック砲をぶっ放す勢いで怒り狂ったそうですが、界王拳を10倍まで使える美由希の前に呆気なくやられました。

 どうでもいいところで凄まじい戦いが繰り広げられていたそうですが、これを聞いたなのははというと、

 

「あ、そう」

 

 どうでもよさげに言うのでした。そりゃそうでしょうね。

 

 

 

 人気のなくなった夜の街を、なのはとユーノは二人歩いていました。

 この後、海辺までクロノが迎えに来る手筈となっております。とどのつまり使いっぱしりですが執務官的にそれはよいのでしょうか。

 途中、公園に立ち寄ったなのはは、懐かしむような口調で言いました。

 

「そういえば、君と出会ったのは、ここだったね」

 

 今でも鮮明に思い出せる、あの時の出来事を振り返る二人でした。

 

「あの時は私も随分慌てたものだよ(素の自分を知られたと思って)」

「さすがの君も魔法を知って驚いたんだね」

「ああ。しかし不思議と後悔はしておらんのだよ(いつでも始末できるから)」

「君の心境が変わったのかもしれないね」

「そうなのだろうか」

 

 なんか微妙にズレた会話をしつつ、通り抜けました。

 

 間もなく海が見えてくるという位置になると、ユーノが開口しました。

 

「なのは……一応言っておくけれど、向こうの言葉にも耳を傾けてね? 今までみたいに制御ミスって爆破とかしても『若さゆえの過ちだよ』じゃ済まされないからね」

「なぁに、私の周囲5メートルは治外法権が通用する。大船に乗ったつもりでいたまえ」

 

 泥船も心配するレベルの発言でした。

 

 

 

 

 

「というわけで、今日から世話になる高町なのはだ。ここはひとつよろしく頼むよ?」

 

 リンディ達と再会するなり、上の台詞を放ちました。

 どんだけ偉そうなんでしょうかと常人なら思うでしょうが、どこにも常人などいないので彼女流の挨拶と受け取られました。

 

「ええ。よろしくね、なのはちゃん」

「マジかよ、面倒くせぇ奴が来たもんだな……」

「高町さんには期待してるから(ドS的な意味で)」

 

 以上、歓迎の言葉でした。

 誰がどう言ったのかは言うまでもないでしょう。

 

 一人妙なシンパシーを感じている輩がいますが最早気にしないことこそが美徳とされる領域なのでした。

 

「一応、なのはちゃんには伝えておくけれど、身柄を一時、管理局で預かるという形にしておくわね」

「ふむ。つまり私が全力でぶっ放して器物破損で責任追及されても、管理局が罪を肩代わりしてくれると……」

「やめて下さい。本当に勘弁して下さい。お願いですからお控え下さい」

 

 クロノのマジ発言でした。

 コイツならやりかねないと初対面で既に分かっているからでしょう。

 

「しかし異世界の事情など知らんが、私のような若輩者が勤務するのは些か問題ではないかね? 自分でも言うのもなんだが、やはり労働基準法的なものが適用されるのだろうか」

「多分平気よ。貴女くらいの年頃の子どもが働くのは珍しいケースだけど、例外がないわけじゃないわ。有能であれば管理局は積極的に採用するのよ。恥ずかしい話だけど、慢性的な人手不足に苛まされる管理局の短所ってやつよ」

「まぁ確かに、魔法初心者に近い者が突然管理局に所属します、などと宣言したところでまかり通るとは思えんがね」

「ええ。だから身柄を一時預かる、という最終的な決定になったのよ」

「……その方が切り捨ても楽だろうね」

 

 サラッと毒を吐いたなのはの言葉は、誰にも聞こえませんでした。

 足元にいるユーノ以外には。

 

「了解した。その条件でそちらの傘下に入ることを決定とさせていただく。しばしの間お世話になるが、まぁ安心したまえ。私はこう見えても内気でシャイな9歳児でね? いつも通り、人様の迷惑にならんよう鋭意努力するとしよう」

 

 どの口が言うんだどの口が、と言いたげな目で見られましたがなのははちっとも気に留めませんでした。

 

「おい高町。ウチに来るのはいいが、ちゃんとかーちゃんやとーちゃんの許しはもらったのかよ?」

 

 クロノが若干不機嫌そうに言いました。

 

「うむ。問題ないよ。母から許しは得たし、姉も快く送り出してくれた。父も納得の上だし、兄はウザいから無視して来たから平気だろう」

「最後は何が平気なのかぜんっぜん分からねぇんだけどよ……。大丈夫か? ちょっと家の様子見たらどうよ?」

 

 珍しく気を回したクロノが、モニターに高町家の様子を表示しました。

 

 すると、

 

 

 

『なのははまだ子供だ……友達のためとはいえ、外泊など5年は早い……!』

『恭ちゃんの考えは古すぎるわ! だからあの子はここにいられなくなって……』

『それはよそ様の考えだと言っている!』

『この……分からず屋ぁーッ!』

『お前は誰だ……!?』

『アンタだけは、落とす!』

 

 

 

 何かが覚醒しそうな恭也と、今すぐ形態変化を起こしそうな美由希の激しい戦いが繰り広げられていました。

 

「普段通りだね?」

 

 こやつだけ平然としていますが他者からすれば色々な意味で別世界の出来事のようでした。

 

 閑話休題。

 

「まぁ今後は仲良くしていこうではないかねクロノ君。初対面の時はさんざん迷惑をかけたがねクロノ君。しかしここは穏便に事を運ぶのが私より多少なりとも長生きした者の答えだと思うのだよクロノ君」

「すいません、チョイチョイ俺の名前呼ぶの止めてくれませんかね」

「分かったよキョン君」

「フロイト先生も大爆笑だっぜ! ってちげぇよバカヤロー!」

 

 ノリの良いクロノでした。

 

「なんだかあんた達、似てるね?」

 

 ふと、今まで二人のやりとりを観察していたエイミィがそう言いました。

 

「「どこが?」」

 

 見事にハモりました。

 

「えっと、そうだね……」

 

 しばし考え込み、ややあってから、言いました。

 

「クロノ君は『死んだ魚みたいな目』してるけど、なのはちゃんは『腐ったドブ川みたいな目』してるかな~って」

 

「…………」←死んだ魚みたいな目をした男

「…………」←腐ったドブ川みたいな目をした少女

 

 二人のテンションがマッハで撃沈しました。

 

「ね? 似てるでしょ?」

「すいません。僕に話を振らないでください。命が惜しいんです」

 

 人間形態になっていたユーノは汗を流しつつ目を逸らします。

 

「時にユーノ君、先程から思っていたのだが……君の影がどんどん薄くなっている気がしてならないが大丈夫かね?」

 

 そう言うと、ユーノは信仰する神から直接死刑宣告を喰らった敬虔なる信徒みたいな顔でフリーズドライしました。

 

「そ、そんなことないよ! 確かにここにいる汚染度80%増量な外道連中に比べると僕はまだまともだなぁー良かったなんて思ってごめんなさい!」

「ユーノ君。最終的に謝罪すれば許されると言う風潮は私は嫌いだね?」

「つーかよォユーノ君、オメェもうちっと前に出るようなキャラ維持しねーと引退することになっちまうぞ? 具体的には2作目辺りからチョイ役になり下がって3作目には栄転しましたーと言い訳してどっかの裏方として活躍、でもほとんど出ないから準レギュラーだけど中の人は他のキャラで大忙しみたいな」

 

 やけに具体的な指摘でした。

 

「な、何言ってんだよ! 僕はまだまだ現役だよ!」

「いいや、ジャ○プ風に言うとお前はすでに死んでいる」

 

 今にも変形しそうなユーノを完全に無視してなのはは話を進めます。

 

「して、今後の方針は?」

「こちらでジュエルシードを探索するから、なのはちゃんには発見次第出撃してもらうことになるかしらね」

「けどよォ艦……総長。こないだいたガキがまたしゃしゃり出てこないとも限らねぇんだぜ? 手こずるなんざ思わねぇけど、毎回毎回出てこられると面倒くせぇぞ?」

「総長じゃないわ、艦長よ。そっちに関しては考えがあるから問題ないわ。今後はジュエルシードを優先して確保することになるわ。あの子については追って指示を出すから」

「了解だぜパンチョ」

「パンチョでもピリムーチョでもないわ、艦長よ。エイミィちょっとクロノを黙らせなさい」

 

 はい、と頷いたエイミィは瞬時にクロノの背後に回り、縄で縛りあげました。僅か2秒の出来事でした。

 しかも亀甲縛りです。どうやったんでしょうね。

 

「長年の努力の成果、とでも言っておきましょうか」

 

 誇らしげに微笑むその頭が理解できません。

 

 その辺でローリングしているクロノを視界の隅に追いやり、なのははモニターに表示された少女・フェイトのことを思い出しました。

 

「フェイト、と言ったか。母のためにも、などと言っていたが、果たして……」

 

 君の目的は、それだけなのか?

 懐を押さえ、なのはは呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

「アルフ! アルフ! そっち行ったよ! 違うよそっちじゃないこっちだよ! 上! 上! じゃなかった左だよ! 今だ右!」

「何言ってるか全然分かんないよフェイト……!」

 

 苦労が絶えないアルフさんでしたが、なんとかジュエルシードを確保しておりました。

 

 

 

 




おまけ

※数か月前の会話です。無駄に長いのでご注意ください

作者→神
友人→K


神「そういやなのはまた映画化するんだってね。近頃なのはの二次創作始めたから筆が進んでいいわぁ。―――本編見てないけど」
K「とりあえずなのは好きなの分かったからアンタ一度死ね」
神「無印のも見てないからなんとも言えないけど、やっぱストーリー変わってんの?」
K「そー。あんま言うとネタバレになっちゃうから言わないけど……まさか闇堕ちしたはやてが巨大化してそれに対抗すべくなのはとフェイトが合体(意味深)するとは」
神「今空気吸うかのごとく嘘ついたな」
K「少なくとも無印はリニスっつーキャラが出てたね。家庭教師的なポジのだけど、分かる?」
神「ああ。あの『もっと熱くなりなさいよぉおおおおッ!』っていうスポ根精神丸出しの」
K「『ああ』って何に納得して言ったんだ貴様」
神「けど映画かぁ。本編放送から随分経つのにようやるなぁ」
K「Zガンダムは一体何年経ってると思っとるんだ」
神「バッカ、アレは劇的ビフォアーアフターを交互に見せつけてるんだろリフォーム前と後みたいな」
K「現実を直視しろ、ついでになのは見て来いよなんで見ないんだ」
神「意地」
K「最悪だ……!」
神「まぁ休み入ったら見るよ。でも見るもの多すぎて時間がないのが現状」
K「最近は何見てんだ?」
神「モンタナジョーンズ」
K「せめて21世紀のアニメを見なさい」
神「分かってねぇな、NHKが本気出せばどんだけ名作が作れるかってのが良く分かる作品だぞ? 忍たま乱太郎のOPは素晴らしい」
K「分かったから掛け算の準備してんじゃねぇー」
神「何のことだね? しかしなのはもA’sまで来たか。次はストライカーズかね?」
K「確実に前後編に分かれてやらんと尺が足りんわね」
神「恐らくキャラを半分くらい抹殺すればできんじゃね?」
K「割愛と言えよ。まぁ序盤をもっとペース上げてやって、後半のナンバーズのシーンを削ればなんとかいける、かな」
神「どっちでもいいがとりあえずチン●を出してくれるならなんでもいい」
K「あえて言葉をぼかすな!」
神「だってチ●ク好きなんだものー。あとティアナ」
K「ヴィータ信者の貴様の趣味趣向は理解してたつもりだが、しかしティアナとは珍しい」
神「なんかあまりに哀れすぎて私だけでも……!とかぬかしてたら好きになってた」
K「主体性のないやっちゃな」
神「主体性しかないやつに言われたくない」
K「じゃかあしい。そういや毎日更新するとか張りきってたがどうした?」
神「いやぁ、サモンナイト3やり始めたらつい熱中してしまいましてですね」
K「計画性も持たないとな」


まぁそんなやりとりも遠い昔(嘘

では次話までもう少々お待ちを


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第11話 相手を想いましょう

さて終わりが見えだした第11話でございます


 

 

 その頃、高町家では。

 

「どこだ……俺の妹はどこだァアアアアアアアーッ!」

「恭ちゃん! いい加減諦めて!」

「まだだ……まだ俺は、自分を敗者と認めてはいない……!」

 

 まだやってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第11話 相手を想いましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはが協力を申し込んでから、既に十日が経過しました。

 

 既に多くのジュエルシードを確保し、残る6つの捜索を続けていました。

 

 アースラの面々のバックアップ、もとい、証拠隠滅が優秀だったからこそ、この手際の良さです。なのはが面倒くさがって辺りを焦土に変えてから捜索する焼畑作戦やら敵を容赦なく撃って撃って撃ちまくって疲弊したところにまた撃ってと悪逆の限りを尽くしてから回収する粉砕玉砕大喝采作戦などを敢行しなければもっと早かったことでしょう。

 

 これにはさしものクロノも意見しました。

 

「いい機会だから言わせてもらうけどな。……オメェさんもうちっと自重してくれ。ちょっとでも気に食わないことがあると一に砲撃二に口撃、三四連射で五にトドメぶっ放すのは勘弁してくれよ。というか勘弁して下さいお願いします」

「ほう。つまり私に死ねと申すか」

「こいつ微塵も反省してねぇ……!」

 

 何度も根気強く注意してきましたが、結局全て無駄ボーンでした。

 

 ともあれ。

 

 なんだかんだでなのはとユーノは、管理局員と上手くやっているのでした。

 

 

 

 

 

 

 アースラの食堂にて。

 

「―――つまり、君はご両親の代わりに、部族の方たちに育てられたということかね」

 

 いつでも出撃できるよう、準備を完了させていた二人は、小休止とばかりに食堂でおやつをとっていました。

 ユーノは珍しいのか、スナック系を口にし、なのはは焼き魚定食です。

 それおやつじゃねぇだろうが! って? 気にしたら負けです。

 余談ですが焼き魚定食は断じておやつに含まれません。なので遠足の時、先生に『先生! 焼き魚定食はおやつに含まれますか!』などと堂々叫んでも頭が弱いと思われますので気をつけましょう。

 

「うん。物心つく前から両親がいなくてね。けど、別に寂しいとは思わないかな。最初からいなかったから比べようもないし、それに部族の皆はいい人ばかりだから、楽しかったよ」

「その甲斐あってこんな立派な男子(変態)に成長したと……」

「なのは、僕思うんだ。普通の文章でも一部を改ざんするだけで立派な罵倒になるんだって」

 

 なのはは無視しました。

 

「君はご両親が健在だけど、こうして離れて寂しいとか思わない?」

「私かね?」

 

 言われて、考えてみます。

 

 ……が、答えなど分かりきったものでした。

 

「別に」

 

 言葉を叩きつけるような言い方でした。

 

 どこかそっけなく、無感動な言い草に、ちょっとユーノは鼻白みました。

 なのはは付け足すように、言います。

 

「私の父は怪我が原因で入院していてね。その間、兄と姉は母と共に店の経営に忙しくなり、一人でいる時間が多くなったことがあってね。それと同じ状況になっただけだよ。だから別段、寂しいと思うことはない」

「そ、そう……? さすがだなぁなのはは。強いんだね」

 

 強い、という言葉に、なのはの手が止まりました。

 それは、肉体的なものなのでしょうか。それとも精神的なものなのでしょうか。

 

 今も知識から湧いて出た情報を元に、虚言を作り上げユーノを欺いただけです。本当は入院していた時期の記憶など、なのはにはありません。だから寂しい思いをしていたとしても、その頃の『なのは』の記憶がないため、何も言えないのでした。

 

 寂しい、と人は言うのでしょう。しかし、今のなのはには、それが分かりません。

 

(私は……)

 

 一体何なのだろう、という問いに、答えなどありませんでした。

 

 

 

 その時、突然アラートが鳴り響きました。

 

 

 

 すぐに司令室へ向かったなのはとユーノは、慌ただしい雰囲気が全身を包むのを感じました。

 

「状況は? 何が起こっている? 私の出番かね? ついでに聞くが縄はどこかね? 誰か状況を説明したくれないか?」

「おいおいおいおいちょっと待てよ。オメェ質問は一度に一つまでって母ちゃんに教わらなかったのか? ていうかなんで縄が必要なん、」

 

 なのははおもむろにポケットから取り出したスイッチを押しました。

 

 するとクロノの足元の床が割れて、中へ吸い込まれて行きました。

 

「ボッシュートかよォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 エコーがかかっていましたがどうでもいいのでさっさと穴をふさぎました。

 

 ちなみにアースラ搭乗員が周囲にはいましたが、一度声の方向を見ると、何事もなかったかのように元の位置へ戻って行きました。アースラは本日も平常運転です。

 

「エイミィ君。状況はどうなっている?」

 

 閉ざされた床を呆然と見ているユーノを放置し、モニター前で腕組みしているエイミィの元へ駆け寄りました。

 

「ああ、例の子が見つかったんだって。しかもジュエルシードも」

「ほう。それは本当かね?」

「うん、だけど……」

「あの子、海中にあるジュエルシードを無理矢理起動しようとしているみたいなのよ」

 

 言葉を濁すエイミィに代わり、リンディがそう言いました。

 

「そのようなことが可能なのかね?」

「ほとんど不可能に近いわ。けど、向こうもそれだけ追い詰められているってことなんでしょうね。魔力流を発生させて、ジュエルシードを暴走させるのが目的みたい。そうして封印を施す……結構乱暴なやり方だけれど、成功すれば全てのジュエルシードを掌握できるわ」

 

 ふむ、となのはは腕組みし、モニターを見ました。

 

 そこには黒い少女と、使い魔である橙色の髪の女性がいました。巨大な魔法陣を展開し、膨大な魔力を消耗しつつも、フェイトは懸命にジュエルシードを封印しようと足掻いていました。

 

 その光景を見たなのはは、真剣な顔で、一言。

 

「ぶっちゃけ一個ずつ探すのが面倒だから適当にやってしまえ感が溢れているね?」

 

 身も蓋もない発言でした。

 

 ともあれ、荒れ狂う魔力の奔流をかわしつつ、空中で踊るフェイトを見つつ、なのはは思考を張り巡らします。

 このまま、ただ黙って見守るのも手段の一つでしょう。彼女とは友好を築いているわけでもないですし、そもそも今まで顔を合わせれば即戦闘という間柄だったのです。助けようなどという気が起きないのは当然でしょう。

 

(まぁ、彼女も命を捨ててまで挑むほど愚かではあるまい。体力を消耗したところで捕獲するなりすればよかろう)

 

 いつも通り、冷静な思考が確実な判断を下しました。

 そう、いつも通り。

 それが正しいと、自分が確定したのだから、何も問題はないのだと。

 

 

 

 ……ですが、

 

『母さんのために……! ジュエルシードは、渡せないんだぁあああああああっ!』

 

 何故か、かつて叫んだあの少女の声を、思い出してしまいました。

 

 

 

(母、か……)

 

 ふと、考えてみました。今いる自分が育ったという家、そこで生活する者たち。

 自分を笑顔で送り出してくれた人。頼りがいのある笑みを浮かべていた人。心配そうに見ていた人。自分を案じて怒ってくれた人。その全てを、今、鮮明に思い出しました。

 

(そういえば、今の私にも、家族はいるのだったね……)

 

 それが例え偽りの絆であろうとも、例え自分の本当の家族でないとしても。

 例え『高町なのは』に向けられたもので、なのはと呼ばれる自分に対するものではないとしても。

 

 あの日、あの時。

 自分に向けてくれた笑顔は、確かなものだと思うのです。

 

 

 

「―――……。艦長、出撃許可をもらいたい」

 

 

 

 ぽつりと、なのはは小さく、しかしハッキリと言いました。

 

「え?」

「あ? オメェ正気か?」

 

 驚くリンディといつの間にか復活していた怪訝なクロノ。それはそうでしょう。なのはの性格を少しでも知る彼女らは、なのはがこういった時に非情に合理的で現実的な判断を下すことを知っています。今まで回収して来たジュエルシードの捜索及び回収の任務中、非情なまでに冷静な彼女を見て来ています。加え、フェイトを擁護するような発言は今まで一度もありませんでした。既に敵と見なしているとリンディらも思っていましたし、なのはがそんな温い考えを持っているとは微塵も思わなかったのです。

 

 だから、ともすればフェイトを助けるともとれる発言に、誰もが驚きました。

 

「んだよオメェ、もしかしてアイツに同情でもしちまったのか? 珍しいこともあるもんだな。けどまぁ止めとけよ。ほっときゃいずれ勝手に自滅してくれるだろうし、仮に自滅しなかったら力尽きたところを俺らで一網打尽にしてやりゃいい」

 

 鼻をほじりながら言うクロノですが、彼の言い分は正しいものでしょう。

 

「なのはちゃん……助けたいと思うその気持ちは大事よ? でも、これが現実なのよ。辛いかもしれないけど……」

 

 なのはが真剣な顔で言ったものですから、リンディも真摯な対応をしました。

 

 二人は席から離れないでしょう。このまま静観し続けることでしょう。なのはが何を言ったところで、意志を変えることは無いでしょう。

 なのはと違い、二人には立場もあります。勝手な行動は慎むべきであり、感情に振り回される愚行を犯しては、部下への示しもつきません。

 

 それは、なのはも重々承知していました。

 傍らにいるユーノは、はらはらとした様子で事態を見守っています。

 

 やや沈黙が流れ、しばしの間、モニターから流れる音だけが、空間を漂っていました。

 

 やがて、

 

「そうか。分かった」

 

 と、なのはは納得の笑みを浮かべました。

 

 暴れやしないかと内心戦々恐々としていた搭乗員たちも安堵の息をつきます。

 

「ところで、ちょっと催してきたのでお花を摘みに行ってもよろしいだろうか?」

 

 そう言って、レイジングハートを持ったまま部屋を出ようとしました。

 ついでにセットアップもしておきました。

 

「ちょっと待てコラァアアアアアアアアアア! テメェまったく分かってねぇだろォオオオオオッ!!」

 

 すかさずクロノが突っ込みました。

 

「はて、何のことかね? 私は少々お手洗いに用があるだけだが」

「だったらデバイス置いてけェエエエエエエッ! ついでにセットアップしたまま行くんじゃねぇよ! やる気満々じゃねぇかァアアアアッ! どこで済ませる気だ! それともトイレを戦場にするつもりか!!」

「汚物は消毒だ……!」

「お前の頭を消毒しろォオオオオオッ!」

 

 派手に叫ぶクロノを放置して、なのはは勢いよく走りだしました。

 

「おい、テメッバカッ、待ちやがれェェエエエエエエ! 今すぐ止まれェエエ!」

「ははは、生憎時間は常に流れるものだからね、今と言う時間は既にさっきになってしまっているから私は止められない止まらない」

「テレビのCMかァアアアアアアッ!」

 

 なのはが走り出すのと同時、ユーノも追走しようとしましたが、少し走ったところで、やがて立ち止まりました。

 

「なのは、行って! 僕が時間を稼ぐから!」

「ユーノ君……。非常に申し訳ないが、そんなことをしても君の出番は増えないよ?」

「メタ発言は自重して……!」

 

 ここ一番の活躍を見せようと張り切るユーノでした。

 

 そして慌てて立ち上がったクロノですが、魔法を使う暇もありません。とても少女の走りとは思えない爆走で転送ポートへ向かうなのはに追い付けず、ユーノに妨害されては到底無理だと悟ったのか、エイミィの方へ振り向きます。

 

「エイミィ! 逃すんじゃねぇぞ!」

「ようがす」

 

 と言って、エイミィは赤いボタンをプッシュしました。

 

 するとクロノの足元の床が割れて、クロノが吸い込まれて行きました。

 

「なんで俺ェェエエエエエエエエエエエエエエッ!!??」

 

 落ち行くクロノを誰もが静かに見送りました。

 

「あ、ありがと」

「例なら要らないよ。ボタン押し間違えちゃっただけだし」

 

 エイミィは素っ気なく答えます。

 

「……それに、私だって納得してるわけじゃないから」

 

 小さく呟き、聞いたユーノは、艦長の方を見ました。

 

 リンディはただ静かに、懸命に戦うフェイトを見つめていました。

 

 どうでもいいですけど自分の息子は心配じゃないんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 結界内では、フェイトが熾烈な攻防を繰り広げていました。

 

 さすがに6個同時と言う大雑把かついい加減かつ適当な手段を用いたのが失敗だったのか、次第に追い詰められていきます。

 

「ぐ……っ!」

「フェイト!」

 

 苦悶の声を上げるフェイトですが、それでも一心不乱に封印措置を施そうと躍起になっています。

 

 しかし、それも長くは続きませんでした。

 

(魔力が……!)

 

 多大な負荷を身体にかけたからか、それとも不慣れなことをして予想以上に消費したのか、魔力が思ったよりも早く尽きかけていました。

 

 このままでは、と心が揺らぎかけた、その時でした。

 

 

 

「ははは困っているようだね? 手助けは必要かな?」

 

 

 

 どこまで余裕なのか分からない少女の声が聞こえました。

 

 見れば、いつの間にか結界内部に入り込んだなのはが、フェイトの後ろで仁王立ちしていました。

 当然ながら、傍にいたアルフが噛みつきます。

 

「アンタ……! またしょうこりもなく!」

 

 掴みかかろうとしたアルフを一瞥したなのはは、

 

 

 

「邪魔」

 

 と、端的な言葉と共にアルフの手を弾いた後腕を絡め取り一本背負いしてから手を離し吹き飛びかけたアルフの両脚をがしっと掴んでその場で高速回転しつつ溜息をついて頭上へブン投げた後上空へ瞬間移動して無防備な腿と顎を下から掴むアルゼンチンバックブリーガーを軽くキメてから飽きたとばかりにその辺に放り投げました。

 

 

 

 あー、と落下していくアルフを無視して、なのははフェイトに向き直りました。

 

「さて、久しぶりだね。元気そうで何よりと一応言っておこうか」

「……何しに来たんだよ、オマエ」

 

 警戒心を露わにするフェイトですが、そこに以前はあったはずの嫌悪感はありませんでした。この危機的状況において、ジュエルシードとコヤツのどちらが危険か測りかねているだけかもしれませんが。

 

「何、君のお手伝いをしようという私の粋な計らいだよ。大いに感謝したまえ」

「え……?」

 

 戸惑うフェイトを放置し、なのははフェイトの背中に触れました。

 そして、

 

「ふん……!」

 

 魔力を分け与えました。

 どうやってと聞かれても、それは『気合』としか言えないので言及はお控え下さい。

 

「なんで、オマエは……」

 

 俯くフェイトの口から、思わず言葉がこぼれました。

 

「どうして、敵対してたクセに、助けてくれるんだ……?」

 

 その疑問に、なのはは笑みを携えて答えました。

 ただし、そこにいつもの不敵な笑みはありませんでした。

 

「君の力になりたいのだよ。私はね」

 

 どこか力のないその笑みに、フェイトは何故か目が離せなくなりました。

 

 

 

 

 

 

 一方、アースラでは。

 

「あーあーあー、やっちまったよなのはのヤツ。こっちの話も都合も全部無視かよ。ぜってぇB型だよアイツ。ついでにあっちの黒いのもB型だよ間違いねぇな」

 

 頭を掻きつつそう言いました。

 すると映像が浮かび、なのはの顔がアップで表示されました。

 

『クロノ君。ドヤ顔で言ってるところ悪いが私はA型だ。ハハハやーいこの馬鹿め』

 

 うぜぇ、と青筋を浮かべつつも、クロノはクールを装います。

 

『……オマエの手助けなんかなくたって、ボクは一人でもやれるよ』

 

 魔力を分け与えてもらっておきながらこの言い草ですが、今までのなのはの言動を顧みると何も言えません。

 

「随分意地張ってるわねぇ……」

「だから言ったろ、B型の女は人の話聞きゃしねぇってよー。頭がティラノサウルス並みなんじゃねぇのかアイツ。もちっとアレだ、一般人のA型レベルにまで落ち着いてくんねーかな」

 

『ボクA型なんだけど……』

 

 聞こえていました。

 

「あらら、A型って確かクロノ君と同じだよね? 道理で……」

「道理でってどういう意味だァアアアアアアア! 一緒にすんじゃねーよあんなチンチクリンと! 血液型くらいで一緒くたにされちゃたまんねーよ!」

『クロノ君、そんな君にいい言葉を贈ろう。「目クソ鼻クソ」』

「誰が同レベルだコラァアアアアアアアアアアアッ!」

 

『やってやる……やってやるぞ……!』

 

 余計やる気を出させてしまいました。

 

「え、あー、落ちつけよおい。んと、その、あの、アレだ。A型だっていいとこあんだぞ? おい高町、テメェ確かA型なんだろ、何かいいとこ言えよ」

『私に振るのは止めて欲しいのだがね。自分で言いたまえよ』

「テメェ同じA型ならいいとこくらい言えんだろが! 適当に上手いこと言って説得しろや!」

『ははは、神に等しい私と卑しい小市民を同じにされてもらっては困るね? というかこの場で自画自賛するのは恥さらしな気がするので君が述べたまえ』

「なんでこんな時だけ常識的になるんだよ!? A型は非常識が当たり前じゃねぇのか! 恥知らず平常運転じゃないのか!」

「そうね~多分クロノ君も恥知らずだからね~だから緊縛プレイがお好みなんだよね~」

「ちょっとぉぉおおおお!? この会話向こうにダダ漏れしてるんだから変態を晒さないでよ!」

 

 ユーノが止めに入りましたが、既にフェイトは肩を震わせ涙目になりながらもやる気全開になっていました。

 

 こりゃあかん、とまともな部類のリンディに彼らを止めてもらおうと一縷の望みを託しました。

 が、何故か椅子の上で体育座りして縮こまっていました。

 

「あの、艦長……なんで泣いてるんですか?」

「泣いてません」

「いや、滅茶苦茶涙声なんですけれど……」

「泣いてません」

「いや、だって。あれ、もしかして艦長もAが……」

「泣いてないって言ってるでしょ! 泣いてる本人が泣いてないって言ってるんだから絶対泣いてないのよ! いい加減になさいよ! しまいにゃ泣くわよそしてアンタも泣かすわよ!!」

「えぇええぇぇえええええええええ!?」

 

 艦内は騒然としていました。

 

 もうダメかもしれない―――誰かの呟きが聞こえました。

 

 

 

 

 

 

 どうしよう、と考え込んでしまうフェイトですが、考えることに没頭するだけの猶予はありません。

 ここでなのはに協力を仰ぐか、それとも意地でも一人でやってのけるのか。

 

「……? バルディッシュ?」

『Sealing form』

 

 何はともあれ、まずは封印を――そう伝えようと変形する相棒の姿を見て、フェイトは自分が何を為すべきか、考えました。 

 

 そして、ジュエルシードの暴走を抑えようと奮闘しているアルフと視線が合いました。

 

「…………」

 

 頷かれ、こちらも頷きを返します。

 分かっていると、そう伝えるように。

 

「……一気に行くぞ!」

 

 決断したフェイトは、バルディッシュを大きく掲げ、範囲攻撃の準備にかかりました。

 

「よかろうて」

 

 そして、いつもの不敵な笑みを浮かべたなのはもまた、レイジングハートを掲げました。

 

「さぁ、レイジングハートよ。本日最大にして盛大な花火を上げてみせようぞ……!」

『OK.I will destroy fack'in fantasy.』

 

 そげぶ! とでも叫び上げそうな相棒の頼もしげな声に、鷹揚な頷きを返しました。

 

「打ち鳴らせ羅針盤……! 今こそ轟け、孤高の稲妻よ……ッ!」

「万物を葬る慈悲無き一撃を……!」

 

 ……後に、なのははこう語りました。

『私としたことが、ついカッとなって必殺技どころか頭の悪い詠唱なんぞをしてしまった……反省はしているが後悔はもっとしてる』

 

「サンダぁああああああレイジィイイイイイイイッ!」

「ディバインバスター・フルパワー……ッ!」

 

 金色の閃光と桃色の砲撃が、空を切り裂きました。

 

 巨大な魔力の爆発と共に、ジュエルシードは6個全て封印されました。

 

 爆発の余波を受けて、海水が上空に弾け飛びます。

 水しぶきを受けながら、6個のジュエルシードを手にしたなのはが、静かにフェイトの前までやってきました。

 

「これを君に渡そう」

「え……?」

 

 差し出されたジュエルシード。それは、事情を知らないとはいえ、なのはが集めていたものだと知っているフェイトは、僅かに困惑しました。

 

「構うことはない。既に君に一つ譲渡しただろう?」

「あれは……! でも、どうして……」

「何、気にすることは無い。……が、どうしても受け取れないというのであれば、条件を一つ付けよう」

 

 条件? と小首を傾げるフェイトに、なのはは言いました。

 

「君の母親プレシア・テスタロッサとの面会を要求する」

「―――ッ!?」

 

 視界の端でアルフが身構えるのを察知し、しかしそれを無視したなのはは、表情一つ変えぬまま、動揺するフェイトに言葉を投げます。

 

「なんで、オマエがボクの母さんのこと……!」

「自分で口走っておきながらよく言う。が、今は理由などどうでもいい。必要なのは、私の問いに対する答えだけだ。既に対価はここに用意してある。前金も既に払っているが……さて、私の要求に対する君の返答は如何に?」

 

 指を突き付けるなのはに、フェイトは口をつぐんでしまいます。

 

 どう答えればいいのだろう……。フェイトはなんとも言えぬまま、静かな時間が流れます。 

 

 そんな二人をよそに、暗雲が頭上の空を漂い始めていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それは、不幸な事故でした。

 

 プレシアが丁度、娘の部屋を掃除していた時のことでした。

 

「あらフェイトったら、こんなに部屋を散らかして……掃除機をかけなきゃ」

 

 と言って、掃除機をかけたのはいいのですが、いかんせん埃がたまっているものですから、舞い上がるハウスダストが鼻腔を撫でます。

 

 そして、

 

「は、は……はっくちゅ」

 

 くしゃみをぶちかましました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、上空に巨大な魔法陣が浮かび上がりました。

 

「―――、これは!?」

「この力、まさか母さん……!?」

 

 驚愕する二人の頭上で雷鳴が轟き、二人を包まんばかりの稲妻が落ちました。

 

「ち……っ!」

 

 舌打ちしたなのはは、呆然とするフェイトのどてっぱらを全力で蹴りつけました。

 その反動で後ろに下がり、二人は落雷を避けることに成功しましたが、

 

「しまった……!」

 

 ジュエルシードと距離をとってしまいました。

 

 すかさず飛び込んだアルフが全てを抱え上げ、すぐさま退散の準備に取り掛かります。

 

「急いでフェイト! 今のうちだ……!」

「あ、うん……」

 

 まだ正気を取り戻せていないフェイトの腕を掴んで、アルフは逃走を開始しました。

 

 追いかけるべきか、となのはは考えますが、

 

「艦長。追尾は可能かね?」

『……無理ね。今の落雷で計器類が全て故障しちゃったわ。一度態勢を立て直さないと』

 

 そうかね、と息を吐いたなのはは、肩の力を抜きました。

 

「ジュエルシードは奪われた。が、しかし……」

 

 無駄ではなかったね。

 なのはは口の端を小さく上げ、二人が飛び去った方角を見つめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、若干シリアスな感じが漂い始めましたが一時的なものですのでご安心ください(あ


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第12話 全力を尽くしましょう

投稿できなかったので一日あいてしまいました。


もうしばらくしたら投稿ペースが落ちるかもしれませんが、今のところは毎日一話くらいずつ投稿していきます。


     

 

 

 

 

 

 

   第12話 全力を尽くしましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰還後。

 当たり前のように怒られました。

 

「オマエなぁ……! あんだけ偉そうなこと言っておいてジュエルシード全部ブン盗られてんじゃねぇーよ!」

「ごめんなさいと言わせて頂こう」

 

 ふんぞり返って言うセリフではありません。

 

「む。何か不満でも? 悪いと思っているからこうしてきちんと頭を下げているだろう?」

「ええ、そうね。……ふんぞり返ってる分だけ頭下がってるから」

 

 しかもまったく反省が見られません。

 

 ユーノは少しは責任を感じているようですが、主犯が肩で風を切ってる状態なので如何ともしがたい今日この頃です。

 

「許して……くれないの……?」

 

 心なしか、不安そうに上目づかいをするなのは。

 

 それを見たアースラ一同はこう思いました。

 

 

 

(((こやつ……許さなければ我々をデストロイする気だ……!)))

 

 

 

 背後で黒い悪魔のような影がうすら笑いしている気がするのは錯覚ではないでしょう。

 

「はぁ……。まぁいいわ、今回のことに関しては目を瞑っておいてあげる」

 

 止むを得ず、リンディの方が折れました。

 

(ふ。御しやすいものよ……!)

 

 醜悪な笑みを晒そうとしましたが思いとどまりました。

 なのはは驚いたように言いました。

 

「リンディ艦長……私は貴女のことを誤解していたようだ。これほど寛容な方だとは……見た目は小さいが懐は大きいのだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なのはァアアアアアアアアアアッ!」

「すげぇ、アイツ壁にめり込んでるぞ……!」

 

 口は災いの元でした。

 

 

 

 

 

 

 五分後。

 

「……して、今後はどういった方針で?」

 

 何事もなかったかのようになのはは言いました。

 その背後の壁はしっかりと人型の穴が空いていますが最早マリーラ○ドの住人が来ても誰も気に留めることはないでしょう。

 

「そうね。何はともあれ、作戦会議ね」

「そうだな。とりあえず焼き鳥でも用意すっか?」

「酒も用意しないとねー」

「私は焼き肉が良いのだが」

「宴会するんじゃないのよ!」

 

 リンディの額に青筋が浮かんでいたので三人は自重しました。

 

「しかし艦長。私が言うのもなんだが、手がかりが何もないのでは向こうの出方を窺うしかないと思うぞ?」

「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、潜伏場所をつきとめるよう指示しておいたから」

 

 流石艦長、抜け目がありません。

 

 が、

 

「艦長。さっき自分で計器類が破損して追跡できないって言ったばかりじゃないですか」

「あらら」

「ははは、艦長もお茶目だね?」

「うふふ、もうなのはちゃんったら」

 

 なんとも危機感のない人たちでした。

 ユーノが突っ込もうか否か考えてますが、常識人ぶっても何もかも手遅れです。

 

「安心しろよ艦長。転移先は分からなかったけどよ、バックに控えてそうな奴を見つけたぜ」

 

 大変珍しいことに、クロノが役に立っていました。

 

「珍しいものだ、クロノ君が役立つとは」

「おい、オメェひょっとして二回くらい失礼なこと思わなかったか?」

 

 なのははそっぽを向きました。

 

「クロノ。調べたことをモニターに出して頂戴」

「ああ、もちろんだ。おいエイミィ」

「はいはい」

 

 すると、モニターにある画像が表示されました。

 

 縄で縛られて悶えているクロノの映像でした。

 

「あ、間違えちゃった」

「おいィイイイ! いつの間にこんなん撮ったんだ! とっとと消せェエエエエエエエ!」

「今回の黒幕と思しき人物のデータを出します」

「無視すんなァアアアアアアアアアッ!!」

 

 もう日常風景と化したやり取りをスルーしつつ、モニターに出た人物……黒紫色の髪をした女性を見ました。

 

「名前はプレシア・テスタロッサ。専門は、次元航行エネルギーの開発。ミッドでは偉大な魔導師の一人だったのですけど、違法研究とある事故を起こしてから行方不明になっています。

 あとなんかファッションデザイナーとかやってたみたい」

「今はそれは関係ねぇだろ」

 

 そうだね、とエイミィは言いました。

 

 なのはは無言で話を聞いています。

 

 

 

 クロノやエイミィが色々調べたようですが、今の彼女らの目的に関しては、まったく分かりませんでした。

 

「今分かってるのはこれくらいかしら?」

「まぁ、素性が割れただけでも上等ってことにしといてくれや。これ以上調べようにも、最近の情報まったくねぇし、家族構成も詳細データはほとんど末梢されてらァ。本局に問い合わせくらいはしたけどよ、そもそもこれからは、アースラの修理やシールド強化にも時間割かなきゃいけねぇからな」

「そうね。……なのはちゃん、ユーノ君。申し訳ないんだけれど、ひとまず帰宅許可を出すわ。今のうちに休暇をとって、親御さんのところに行ったらどうかしら?」

 

 傍観していたなのはに目を向けました。

 

「ほう。こちらとしては有難いが、そんなに悠長なことを言っていても平気かね?」

「他にやるべきことがないからね。それに、今後は休暇をとる時間もないだろうし、いいんじゃない?」

 

 エイミィの言うこともご尤もですので、なのはは、ふむ、と頷いてから、

 

「ではそうしよう。ユーノ君、帰るよ?」

「なのは、最近思うんだけど、僕の存在って必要なのかな……」

 

 何故かしょげているユーノがいました。

 どうも最近の影の薄さを嘆いているようです。

 

「安心たまえよ。ユーノ君の存在は名探偵コ○ンのネクストコ○ンズヒントのコーナーくらい重要だ」

「あれってそんな重要性ないよね!?」

 

 ユーノの叫びがこだましました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピシャッ! と、鞭で肉体を叩く音が響き渡りました。

 

「フェイト。あれだけ時間をあげたのに、たったこれだけしか集めてこれなかったの?」

「か、母さん……」

 

 パァン!

 

「ひどいわフェイト……あなたはそんなに母さんを悲しませたいの?」

「でもボクは、うわぁっ!!」

 

 バシッ!

 

「口答えするの? いつからそんな子になったの……!」

「うく……っ!」

 

 ビシィッ!

 

「なんとか言ったらどうなの!」

「ひぐぅッ!」

 

 

 

 

 

 

「……何やってるのかしら、フェイト。それにアルフも」

 

 額を押さえながら、呆れたようにプレシアは言いました。

 

「いや。暇だったから、『もし母さんが性悪ババアだった時はきっとこんな感じで怒られるんだろうな』ごっこを」

「あたしゃこんな遊びツマンナイって言ったんだけどねぇ」

「やめなさい、今すぐに」

 

 はーい、と素直に従うフェイトとアルフ。

 ……やけに人形がリアルで凝ってるな、とプレシアはどうでもいい感想を抱きました。

 

「それで、フェイト。ジュエルシードは手に入ったの?」

「うん! アルフが六個もとってきてくれたんだよ!」

 

 嬉しそうに報告するフェイトに、プレシアはほんの僅かに笑みを作りました。

 

「アルフ、ジュエルシードを頂戴な」

「……ああ」

 

 若干不満げな顔をしたアルフは、やや躊躇ってから引き渡しました。

 元々、アルフはある事情から、プレシアと反りが合わないのです。

 その理由は、間違いなくフェイトのことでした。

 

(フェイトはアンタの都合のよい人形じゃないってのに……!)

 

 しかし、フェイトの望みはアルフの望みです。

 だから嫌々ながらも、ジュエルシードを渡しました。

 

「……これでアルハザードへまた一歩、近づいたわ」

 

 小さく呟きながら、自分の部屋へと戻っていくプレシア。

 

 アルフはそんなプレシアに、不快な感情を隠せませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下で一人、ジュエルシードを眺めるプレシアは、誰にも見せたことのない、不安な表情を浮かべました。

 

「もう、時間がないの……やるしかないわ。今こそアルハザードへ」

 

 多くのジュエルシードを手中に収めたとはいえ、まだ不完全でした。

 

 それでも、プレシアの決意は揺るぎませんでした。

 

 

 

 と、背後から何かの気配が近づくのを察知しました。

 

 

 

 プレシアはバリアを展開しますが、それを軽々突き破って現れたのは、怒りの表情を浮かべる、アルフでした。

 

「……何かしら、アルフ」

 

 顔色一つ変えないプレシアに、ますますアルフの怒りは募ります。

 

「もう、見てらんないんだよ……アンタの人形のままじゃ、あの子は幸せになんてなれない!」

「……だからあの子を連れていく、とでも?」

 

 無言で構えるアルフ。

 それが答えでした。

 

 そして、プレシアもまた、無言のまま、魔法を紡ぎました。

 

 視認不可能な速度で飛来した黒い光弾が直撃しました。腹から空気を吐き出す苦悶の声がし、吹き飛ばされたアルフは、自分を見下すように立つプレシアと目が合いました。

 

 ヤバい

 

 確信したアルフは、心の中で自分の主に謝罪しながらも、転移を開始しました。

 

 それを興味なさげに見ていたプレシアは、自室に控えているであろうフェイトに念話を飛ばします。

 

「フェイト、聞こえてるかしら?」

『! 母さん……』

「ジュエルシードをあと数個、確保してきて頂戴。それも早急にね」

『けど、アルフがまだ……』

「アルフなら逃げたわ」

 

 その言葉に、息をのむ気配が伝わってきましたが、何故そうなったかも説明せず、プレシアはフェイトの反応を待ちました。

 

 ややあって、分かったよ、と返答し、フェイトは念話を切りました。

 

「もうすぐ叶うのね、やっと……」

 

 待ち望んでいた日が来る……そう思えば、顔もほころぶというものです。

 間もなく来るであろう待ち焦がれた日に思いを馳せながら、プレシアは静かに嗤うのでした。

 

 

 

 

 

 

 どうでもいいですが、静かに佇むプレシアは太腿が眩しいミニスカでしたがフェイトもアルフも突っ込みを入れませんでした。

 

 

 

 

 

 

 息をつく暇もないとは、まさに今のフェイトの状況を指すのでしょう。

 

 ジュエルシードを奪取すべく、フェイトは飛び立ちました。

 

「母さん……ボクは、」

 

 母のために戦う。それに異論はありません。例えアルフがいなくても、最後までやり遂げる。その思いに嘘偽りはなく、今もその心は不動のままです。

 

 だというのに、

 

『君の力になりたいのだよ。私はね』

 

 その言葉が、どうしても忘れられませんでした。

 

 ……続くその後の言葉は綺麗さっぱり忘れている辺り、さすがフェイトと言うべきでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 

 久しぶりに学校へ行くことになったなのはですが、その顔はどこか晴れません。無理もないでしょう。まだ何も解決していないというのに、日常を満喫できるものでしょうか。こうしている間にも、フェイトがどこかで戦っている……そう思うと夜も眠れず不安も顔に出るのも止むなしといったところでしょう。アリサやすずかが前々から心配そうに見つめていたしたが、ここ数日のなのはの欠席が更に不安を煽るのでした。それでも二人は親友を信じていますので、アリサは自分に対して話してくれないことに怒りながらも、すずかも少しだけ寂寥感を抱きながらも、親友がいつも通り明るく元気になってくれると信じて待つのでした。

 

 ……という感じだったら実に美しい話なのですが、生憎ここにおわすは外道を突き進む現人神なので、学校に来るなり、

 

「おはよう、アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 さわやかに挨拶をかますのでした。

 あれ私たちの心配って無意味だったんじゃ? という顔をするアリサとすずかですが、それは常人のリアクションなので問題ないでしょう。

 

「なのは。何かいいことでもあったの?」

 

 アリサは尋ねますが、なのはは嬉しそうに答えます。

 

「お外でいっぱいしたらスッキリしただけなの~」

 

 担任が驚異的なモノを見る眼を向けましたが、アリサは『運動でもして気分転換でもしたのかしら?』と順当な結論を出し、すずかは『なのはちゃんが元気になったらそれでいいや』と嬉しそうに笑いました。

 どんだけ人間ができてるんでしょうねこの子たちは。

 

 

 

「そういえば、昨日ウチの近くで犬を見つけたのよ」

 

 お昼になってお弁当をつまんでいると、ふと思い出したかのようにアリサが言いました。

 

「へぇー、どんなの?」

「オレンジ色の毛並みの、大きな犬なんだけど、なんだか怪我してたみたいだから、ウチでちょっとお世話することにしたのよ。なんだか元気なくってね。一応手当はしてあげたんだけど……」

 

 オレンジ色の大型犬と聞いて、なのはが鋭く反応しました。

 

「アリサちゃん、その子見たいんだけど、いいかな?」

 

 珍しく積極的な姿勢のなのはに、二人はキョトンとして顔をしています。

 

「いいけれど、どうしたのよなのは? 珍しいじゃない」

「うん。なんか気になっちゃって」

 

 にこり、と笑うなのはですが、その横顔が何かよからぬことを企んで嗤っているようにしか見えませんでした。

 

 

 

 放課後。

 

 アリサの家へやって来ると、案の定、檻の中で静かに眠っていたのは、橙色の毛を持つ獣―――アルフでした。

 

『やはり君だったか』

 

 なのはの声に身を起こしたアルフは、唸り声を上げました。

 が、怪我をしているせいか、どこか覇気がありません。

 

『……何しに来たんだい? アタシを笑いにでも来たか?』

『そうだ。ふはは檻の中にケダモノがいるでな……!?』

『この野郎……!』

『ノンノン、私は生物学的に女なので女郎というのが正しい言い方だよ?』

 

 あまりのウザさにアルフは一瞬で高血圧になりましたが貧血気味なので倒れそうになりました。

 

『冗談だから安心したまえ。私が来たのは、何故君「一人で」ここにいるのか問い質しにきたわけだよ』

『……管理局の連中もいるんかい?』

 

 なのはは無言で頷きます。

 

「……なのは、どうしたの? 頷いたりなんかして」

 

 アリサが不審な目を向けてきますが、なのはは冷静に対処しました。

 

「なんでもないよ。もうちょっとこの子見て行きたいから、アリサちゃんとすずかちゃんは先行っててくれる?」

 

 どこか有無を言わさない雰囲気のなのはに、アリサは首を傾げていますが、まぁ珍しい犬種なのでなのはも興味が湧いたのだろうと推察すると、すずかと一緒に家の中へ入って行きました。

 

「クロノ君。見ているのだろう? とっとと返事をしたまえ」

 

 すると、すぐ横に以前見たようなタイプの映像が浮かびました。

 

『おいおい、いきなり虚空に向かって話しかけんなよ、変な奴だと思われるぜ? つーか見られたら俺まで変な奴だと思われるじゃねぇか』

「案ずるなクロノ君。もしかしたらそれがきっかけとなって彼女らとフラグが立つかもしれんよ?」

『マジで!? 災い転じて巫女とナース!?』

 

 意味が分かりません。

 勿論そんな可能性は皆無どころか絶無ですが。

 

「して、アルフ君とやら。できれば事情を話して欲しいのだがね? 何故君がここにいるのか、あの少女がジュエルシードを集めるのに躍起になっているのかを」

「僕らは別にあの子に危害を加えたくてここにいるんじゃない。ただこれ以上、争うのは嫌なんだよ」

『まぁ、色々面倒な事情とかあるかもしんねぇけど、悪いようにはしねぇから安心しとけ』

 

 悪人・変態・ドMが口々に言いました。

 信憑性の無さもここまでいくと清々しいでしょう。

 

「……分かった。話すよ」

 

 この外道連中に話してしまうくらい追い詰められている、それだけは確かでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 なのはとユーノは、早朝の道を走っておりました。

 

 まだ朝日が顔を出していない時間帯ゆえ、人気は皆無です。

 

 そんな道を、急げや急げと焦らんばかりに足を前へ踏み出します。

 

 

 

『……成程。事情は分かった。何企んでるかイマイチ分からねーが、こないだのアースラへの攻撃だけでも逮捕状が出るだろうぜ。プレシアがとっ捕まるのも時間の問題かねぇ』

「しかし、問題が一つ残っているだろう」

 

 なのはが言うまでもありません。

 フェイトのことです。

 

「彼女は多分、こっちのジュエルシードを欲してるはずだ。だから近いうち、僕らの前に現れる……」

「だがこちらが一方的に待つのは時間の浪費だよ」

 

 じゃあどうするの? と言いたげなユーノの前で、なのはは懐から何かを取り出しました。

 白い便せんです。

 

「アルフ君。これを是非フェイト君に届けてはくれまいか?」

「いいけど……どうすんだい?」

 

 なのははニヤリ、と笑いました。

 彼女らしい、不敵な笑みでした。

 

「果たし状だよ」

 

 

 

「……まったく。なのはが突飛なことするのは慣れたと思ってたけど、実はそうでもなかったんだなぁ」

「ははは、何を言うかね。人間刺激を忘れては怠惰な人生に埋没するだけだよ? その点私の傍なら少なくとも退屈はしない。最高だね?」

「僕は最悪の気分だよ……」

 

 沈鬱な表情のユーノでした。頑張れ明日はもっといいことがあるよ多分! 誰かがそう言っていた気がします。

 

 とん、と着地した音と、何かが走る音が聞こえてきました。それもすぐ隣から。

 見るまでもなく、獣姿のアルフでした。

 

「アルフ君。渡しておいてくれたかね?」

「ああ。けど大丈夫なのかい? フェイトはああ見えて結構意志が強いから、余程のことがないと自分の考えを変えないよ」

 

 アルフが懸念を示しますが、なのはは余裕を崩しません。

 

「何、やるべきことはすべて終えた。後は彼女が餌に食いつくのを待つばかりだよ」

「けどフェイトと戦うなんて……」

「私とて争い事は嫌いなのだがね」

 

 あるのは一方的な虐殺くらいなものでしょう。

 

「だが、やらねばなるまい。お互い譲れぬならば答えは一つだよ」

 

 そして、海岸付近の公園に辿り着きました。

 

 

 

 通信を行い、クロノに連絡を行います。

 

「クロノ君。手はずどおり頼むよ」

「ああ。任せとけ」

「分かってると思うが―――全裸になって注意をひきつけてくれたまえよ?」

「全裸の必要性ねぇだろ! ていうか俺の役目ちげぇだろうが!」

「そうだね」

 

 しれっと言うのでクロノのボルテージが上がっていきますが、彼は耐えました。

 

「すまない。苦労をかけるね」

「気にすんな。目的は同じなんだからよ」

「お詫びといってはなんだが肌色コスチュームを着たフィギアスケート選手の写真をくれてやろう薄目で見れば裸に見えるぞ?」

「いらねぇよそんなモン!」

 

 そんなやり取りから一時間後。

 

「来たか」

 

 ふわり、と。

 空から降り立った黒衣の少女が、静かに目を開きました。

 

「オマエか……こんな変な手紙寄こしたのは!」

 

 怒るフェイトは、先日なのはが送った手紙を開いて突きつけました。

 

 

 

 はじめてあってから

 たぶんきがついてた

 しかたないときめて

 じぶんにいいきかせ

 よるもねむれません

 うーぱーるーぱー

 

 

 

 こんな果たし状というか手紙が送られてきたら即刻捨てるべきでしょう。

 ついでに最後のブン投げ感がひどいです。

 

 フェイトはプンスカ怒りながら言いました。

 

「なんだよこれは! 解読するのに二日かかったじゃないか!」

 

 そんなにかかったんかい……物陰にて待機するユーノは心中で突っ込みました。

 

 しかしそれはそれこれはこれ、それがなのはのユスティニアヌス。細かいことなど気にしない彼女は首を振りました。

 

「ともあれ、君はそれを挑戦状と判断し、それを受理したからこそここにいる。違うかね?」

「……」

 

 フェイトは答えません。無言こそが肯定でした。

 

「フェイト、もうよそうよ。あんなヤツの言うことなんか聞く必要ないよ! 今ならまだ、」

「アルフ。前も言ったよね、ボクが為すべきこと……ボクだけが味方だから、やりたいと思うから。それに、ボクはあの人の娘だ。だから、最後までやり遂げる。絶対に」

「どうしてもかね? 今なら殴る蹴るに最適なサンドバッグ付きだが」

「ねぇなのは。そこでなんで僕を見るんだい?」

「ははは、勘違いしてもらっては困るねユーノ君。別に君を見たからと言って君がサンドバッグとは言っておらんよ?」

「そ、そうだよね! さすがのなのはもそんなひどいことしな」

「君は私の大事な―――盾なのだから」

 

 もうユーノは泣きませんでした。何故なら彼は強い子だからです。だけどたまには悲しくて挫けそうなときもあるのでした。

 

 そんな彼を当たり前のように無視して、なのはは一歩前へ出ます。

 

 アルフの説得も空しく、フェイトもバルディッシュを構えます。

 

「よかろう。最早語るまでも無い。互いのジュエルシードを賭けて、勝負といこうではないかね」

 

 まだ何も始まっていない、だからこそ、これからは、本当の自分を始めるために、……最後で最後の勝負をしよう。それがなのはの提案でした。

 

 ……本当の自分が表に出すぎて何言ってんのコイツら感がしますがそこは空気を読んでスルーする方向で一つ。

 

「分かった。正々堂々、一対一で勝負だ!」

「よかろう。かかってきたまえ!」

 

 戦いを始めるべく、なのはが大きく手を上げました。

 

 瞬間、林の中から影が飛び出しました。それも複数。

 

「「「「死ねぇええええええええええええええッ!」」」」

 

 全員殺気立ってました。

 特にクロノ辺りが。

 

「ひ、卑怯者ォオオオオオオオオオオオオオオっ!!」

 

 フェイトの悲鳴が上がりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分後。

 

「勝っちゃったんだけど」

「ですよねー」

 

 さして期待してなかったなのはでした。

 

 

 

 

 

 



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第13話 母親を止めましょう

 

 前回のあらすじ。

 

「遊○王で勝負だ……!」

「よっしゃあ!!」

(魔法使おうよ……)

 

「私のターン! 光の援軍発動! デッキの上のカード3枚を墓地に送る! 光帝クライス・神剣フェニックスブレード・愚かな埋葬を墓地へ送りライトロードモンク・エイリンを手札に! ソーラーエクスチェンジ! エイリンを捨てて2枚ドローして2枚デッキから墓地へ! 無の煉獄でワンドロー! 手札断殺で光帝クライスとジャンクコレクターを墓地へ送り2枚ドロー! 墓地の光帝クライスとジャンクコレクターを除外しフェニックスブレードを回収! フェニックスブレードを捨ててDDR発動! 光帝クライスを特殊召喚しクライスとDDRを破壊して2枚ドロー! 増援発動! エイリンを手札に加えてソーラーエクスチェンジ! 2枚ドローして2枚墓地へ! アームズホール! デッキの一番上のカードを墓地へ送りデッキからDDRを手札に! 墓地の戦士族2体を除外しフェニックスブレ-ドを(~~~長いので省略~~~)DDR発動! ジャンクコレクターを特殊召喚! 効果発動! 墓地の異次元からの帰還を除外して発動! ジャンクコレクター2体と光帝クライス2体特殊召喚! ジャンクコレクター効果! 墓地のカードが30枚以上あるので残骸爆破を発動! 3000ポイントダメージ! 更にもう一体のジャンクコレクターの効果を起動! マジカルエクスプロージョン発動! 墓地の魔法カード26枚×200ポイントのダメージを与える! 5200ダメージ! 私の勝ちだ……!」

「うわぁあぁぁぁあああああああああんひどいよぉおおおオオオオオオオッ!!!(泣」

 

 

 

 嘘です。

 

 

 

 始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第13話 母親を止めましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いはあっという間に終わりました。

 

 フェイトの放ったフォトンランサー・ファランクスシフトは、ユーノやアルフでさえ瞠目するレベルのものでしたが、

 

「喝ッ!!!!!」

 

 というなのはの気合を込めた一喝で消し飛びました。

 

 そしてここからは私のターン、とでも言わんばかりに、なのははバインドをかけます。

 

「あ、あの、なのはさん? 気のせいか僕にまでバインドがかかってる気がするんだけどこれいかに?」

「万が一の保険だ。君は安心してそこにいたまえ」

「反撃されたら盾にする気だよこの外道……!」

 

 うるさいので顔面にバインドをかけておきました。

 

「さぁ、受けるがいい……! ディバインバスターの新たな形、それが……!」

 

 莫大な魔力が収束していきます。

 あまりの気迫と魔力に、フェイトが息を呑みました。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と見せかけて抉りこむようなアッパーカァアアアアット!!!」

「ごフッ!!!」

 

 ステゴロでキメました。

 バルディッシュの防御も叶わず、見事な一撃が入りました。

 

 魔法関係ねーじゃん! と思ったそこの貴方! 気にしたら負けです。

 

 フェイトが海へと落下して行きました。

 止むを得ず、なのははやれやれと言わんばかりに肩をすくめながら降りて行きます。

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見ていたプレシアは、映像に向かってキィーとでも言い出しそうな形相で叫んでいました。

 

「ええい! なのはとかいうのはどうでもいい! フェイトを出せ! フェイトはどうなったの!? 怪我してないでしょうね!? 怪我してたらぶち殺がすわよ!!」

 

 これがテレビだったら掴みかかって間違いなくスクラップにしそうな勢いでした。

 

 思わず映像をもっと間近で見ようとしたプレシアですが、その時、足がもつれてしまい、

 

「へぶしっ!」

 

 派手に転びました。

 

 

 

 

 

 

 

 突如発生した落雷の気配に、なのはは危険を察知し、かろうじて海上付近で踏みとどまっていたフェイトを突き飛ばしました。

 

「危ない!」

「へぶぅっ!!?」

 

 顔面に突っ張りをかましました。

 その衝撃でなのはとフェイトが後ろに飛び、その間に雷が落ちました。

 

 が、運悪くフェイトが吹っ飛んだ先に、最大級の雷が落ちました。

 

「ぎゃーっ!!!」

「フェイトォオオオオオオオオオオオッ!!??」

 

 アルフがリアルな顔で叫びました。

 

 そんなことなど私の知るところではないと敢えて顔を背けたなのはは、通信を開きました。

 

「クロノ君、そちらの準備はどうかね?」

『大丈夫だよ。既に用意はできるから』

 

 何故かエイミィが出ました。見れば彼女はもがくクロノを縄でふんじばっていました。

 どうやら椅子に座ったまま寝こけていたのでお仕置きされた模様。

 

「まぁそれはそれとして。敵の本拠地の座標は?」

『もう掴んだよ! 艦長!』

『了解。なのはちゃん、貴女達はアースラへ。武装隊員、突入準備!』

 

 リンディの号令に従い、30近い隊員らが転送されて行きました。

 

「ほう。あのような者たちがいるとは」

「本局の武装隊員、だね。簡単に言うと特別部隊だよ」

「特別部隊……特務隊……成程。さしずめギ○ュー特選隊のようなものか」

「全然違うよ」

 

 ともあれ。

 なのはは負傷したフェイトを抱えるアルフの元へ向かいました。

 

 

 

 

 

 アースラへ着くと、簀巻きのクロノが出迎えました。

 

「よぅ。お疲れさん。どうにかなったみてぇだな」

「君はどうにもならなかったようだね」

 

 ほっとけ、と視線をなのはからフェイトへ向けます。

 

「よぅ。こうしてまともに話すのは初めてだな? まあ安心しとけよ。一応気概は加えねぇから」

 

 イモ虫状態の男が真面目な顔で言っても何かが足りていない気がします。説得力……いえ、常識でしょうか。

 

 フェイトはなのはの陰に隠れてジト目で睨んでおります。死んだ魚みたいな目をしたロールパン状態の男とエンカウントすれば、たちの悪い夢と思うでしょうね。

 

 フェイトとアルフを伴い、リンディのところへ行くと、丁度武装隊員らがプレシアを包囲しているところでした。

 タイミングが悪かったか。なのはは心中で舌打ちしました。

 

 母親が逮捕されるところを見せるのは心が痛みます。

 

 なので、

 

「トゥシュ!」

「ぬめもっ!?」

 

 眼つぶしを放ちました。

 どう見ても追い打ちです本当にありがとうございました。

 

「なのは。いきなり眼つぶしはよくないよ」

 

 ユーノが淡々と言いました。もう大分動じなくなってきています。適応力が上がった模様。

 

 のたうち回るフェイトの世話はアルフに任せ、なのはたちは

 

『プレシア・テスタロッサ! アースラへの攻撃及びその他諸々の嫌疑で逮捕する! 武装を解除して速やかに登校……投降しなさい!』

『イヤ』

 

 若干いい加減な文句に、プレシアはキッパリ言いました。

 しかし一向に攻撃してこない彼女に不気味さを抱きつつ、隊員達は包囲を整えます。

 

 その時、クロノが通信を開きました。

 

「お前の目的は知ってるぜ、プレシア! テメェが昔起こした事故で死んだ娘、アリシアを、ジュエルシードの力を使い、アルハザードに向かう……あるかもしれねぇ場所を目指して、できるか分からねぇ死者の蘇生なんざお笑い草だ……!」

 

 過去の資料で発覚した、実験の失敗と娘の喪失。それからくる執念に駆られ、プレシアはジュエルシードを集めていると予測したのでしょう。確かに、彼女の豹変した理由としては順当でしょう。

 

 が、

 

『え?』

「え?」

 

 何言ってんのこいつ? みたいな顔されました。

 ドヤ顔で言ってしまったクロノも驚いた風に固まりました。

 

 プレシアはしばしの間、逡巡し、ややあってから、ちょっと焦った顔で言いました。

 

『そ、そうよ! 私の目的はただ一つ……アルハザードへの到達よ! 本当よ! 本当なんだからね!?』

 

 なんでそこだけ若者っぽい話し方なんでしょうか。

 なんだかごまかしたような感じがするのは気のせいでしょうか。

 

 その間、距離を詰めていた隊員らが確保にかかろうとしました。

 その直前、

 

『なんだ、奥に部屋が……!?』

 

 奥へ侵入していた別の武装局員らが、大変なモノを発見した。

 静観していたリンディたちが一斉に映像に目を向けます。

 すると、そこには、

 

「これは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、小さな部屋でした。

 

 桃色の壁、天井で輝く照明の下、たくさんのおもちゃやぬいぐるみに囲まれて、一人の少女が座っていました。

 美しい金色の髪を持つ、幼い少女でした。しかしどこかで見たことのある容姿です。

 それは、見紛うことはない―――アリシア・テスタロッサその人でした。

 

「ちゃーん」

 

 少女はどこかぼぅっとした様子で、人形を手に遊んでいました。

 金髪の人形二人と、犬の人形と女性の人形を持って、楽しそうに遊んでいます。

 

「ちゃーん」

 

 突入した武装隊員らは顔を見合せます。てっきりプレシアが違法研究していたモノがあるかと思いきや、あったのはファンシーな雰囲気の部屋に座り込む少女。しかも、それは死んだはずのアリシアです。

 事態が把握できず、隊員らは困惑していました。

 

「ちゃー……んぁ?」

 

 はた、と。

 アリシアと局員らの目が合いました。

 

 すると、アリシアはそっと人形を置き、ニコリ、とまるで天使のように微笑み、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!!!

 

 凄まじい爆雷が落ちました。

 

「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアーッ!!!!」」」」

 

 一瞬で隊長以外が黒焦げになりました。

 

「なん……だと……?」

 

 思わず引け腰になる隊長は、自分に対して微笑む少女に戦慄しました。

 

 少女は女神のような笑みを携え、直後、世紀末的な表情を作りました。

 

「次は貴様の番じゃあああああああああああッ! とっととくたばるかそれとも死ぬのかどっちじゃあああああああああああッ!!!!!」

「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

 

 悲鳴が上がりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけない、急いで転送! 救護班を用意して!」

「よっしゃ回復の泉だ! ザオリク使える奴いるな!? アモールアモール!」

「どやかましいわァアアアアアアアアアアアッ!」

 

 リンディがキックを叩きこみました。

 ゴミ箱に埋まる息子をスルーして、リンディは指示を飛ばします。

 

 静かな足取りでやって来たプレシアは、アリシアの部屋の前で、倒れ伏した局員らが転送されていくのを眺めつつ、言います。

 

『……私の目的はただ一つ! アルハザードに向かい、失った時を取り戻すことよ……!』

 

 なかったことにしました。

 なかったことにされました。

 

 後ろでドッタンバッタン暴れていたアリシアは、突然大人しくなると、またちゃーんちゃーんとどこぞの幼児のように遊び始めました。

 

『けどダメね、予想よりも多くのジュエルシードが揃ったとはいえ、この数ではアルハザードに辿り着けるかどうか……』

 

 が、どこか達観した様子のプレシアは、僅かに笑みました。

 

『まぁいいわ。時間がないし……ここで終わりにするわ』

 

 いけない、と思い立ち上がるリンディですが、今からでは到底間に合いません。

 

 彼女を止められないのか。一同が歯噛みする中、一人だけ、敢然と立ち上がる者がいました。

 

 

 

「それは違うのだろう、プレシア・テスタロッサ」

 

 

 

 なのはが因果を断ち切るように言いました。

 こう言うと何か格好いい感じがしますね。気のせいですが。

 

「貴様の目的は、アルハザードに行くこと……成程。それは事実であることに違いあるまい」

 

 しかし、

 

「自分の娘のために、行くわけではないのだろう?」

 

 まるで彼女の目的を知った風な口をきくなのはに、アースラ一同どころかプレシアまでもが驚きました。

 

「どういうことなんだい、なのは……?」

 

 ユーノが問いました。

 なのはは後ろにいるフェイトを流し見て、

 

「先日、彼女らの家にお邪魔させてもらった時に拝借したものだ。これが全ての始まりだろう?」

『そ、それは……!』

 

 かつてないほどの驚愕が、その場の者を襲いました。

 

 なのはが手にしていたのは、そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セーラー服姿で娘と共に笑顔を浮かべるプレシアさんの写真です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わなわなと拳を震わせるプレシアが、写真が本物であると語っています。

 

 アースラは沈黙が訪れていました。笑いたい、笑いたいけれど、あの激怒三秒前なオb……プレシアの前で爆笑すれば、それ即ち死を意味します。エイミィは見えない場所をつねることで、ユーノは後ろを向くことで、リンディは俯くことで誤魔化しました。

 

「ギャハハハハうっわーマジかよ! あのババアいい歳してコスプレなんてしてやがんの! プレシアさんパネェっすよマジリスペクトだわハハハ腹いてぇ……! ねぇねぇどんな気持ちっすか? みんなの前で恥ずかしい趣味暴露されてどんな気持ちっすか!?」

 

 ピンポイントで落雷が発生しました。

 

「だが、アルハザードを目指す理由がイマイチ分からんのでね。不老不死というのが候補だが、貴様がそのような俗な願いを求めているとは思えん。できれば理由を教えてもらいたいのだが」

 

 どうだろうか、となのはは問います。

 自分でこの緊迫した状況を生み出しておきながら図々しいと思わないんでしょうか。思わないんでしょうね。

 

『……いいわ、冥土の土産に教えてあげる』

 

 その言い草はラスボスっぽいですがとても陳腐です。

 

 いよいよ彼女の本当の目的が明かされる……傾聴する者たち生唾を呑みました。

 

 プレシアは、静かに語りだしました。

 

『……かつてミッドチルダで生活していた頃、私はとても―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モテました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 ほぼ全員が耳を疑いました。

 

『結婚し、一児の母となった後も、私はモテた。人生における三度目のモテ期……夫を亡くし、未亡人となった私に心惹かれる男は多かった! しかしアリシアがちょっとアレになった影響で鬱が入っていた私は、人生三度目にして最後のモテ期を逃してしまった! 若若しく着飾ってもダメだった、何故なら失われた時を取り戻すことなどできないから! 見た目を若く見せても無理なものは無理だった! だけどそんな時、私はアルハザードの存在を知った! これこそまさにビッグチャンス! 神の導き! ピンチこそチャンス! 一縷の望みを託し、ジュエルシードを集める作業に入った! 何故ならそれがラストチャンスだと思ったから! 失われた時を取り戻すために……かつて到来したモテ期を取り戻すために!』

 

 鼻息荒く熱弁を振るうプレシアとは対照的に、観客の熱は氷点下まで一気に下がっていました。

 

 誰もがこう思ってました。

 

((((アホくせぇ……))))

 

 なのはでさえも白けた目で虚空を眺めています。

 

 プレシアは最後に、どこか遠くを見つめながら、言いました。

 

『思えば、私の若く美しく着飾ろうという努力は、過去の私が残してきた後悔……忘れ物、なのかもしれないわね』

 

 そりゃアンタの趣味だろ―――誰もが思いましたが突っ込みませんでした。

 

「プッ。あ、すいませんね。あいにくと正直者でして」

 

 噴き出したクロノは直後、落雷にあたって昇天しました。

 

「……そんな理由で、貴方はフェイトちゃんをこき使っていたというの?」

 

 エイミィが苛立たしげな様子で問いましたが、これにはプレシアも反論しました。

 

『何を言ってるの? フェイトは自分からやると言い出したのよ。私はそんなことしなくていいと言ったのに……まぁ、母さんのために働いてくれるのはとても嬉しかったけど』

 

 良識ある母の発言に「あれ? 私間違ったこと言った?」とショックを受けるエイミィ。それは勘違いじゃないです。間違ってるのはこの世界と空気と貴女の趣味です。

 

「チッ、プレシアめ、フェイトを都合の良い人形扱いしただけじゃ飽き足らず、そんなくだらないことにフェイトをこき使ってたなんて……!」

「ねぇアルフ。人形って、どういうこと……?」

 

 問うてから、ユーノははっと気付きました。彼女が過去に研究していたものに、人造生命関連のものがありました。

 先程見たアリシアという少女は、フェイトと瓜二つです。しかし記録にフェイトの存在はなかったはずです。

 まさかクローンか、と最悪の答えが浮かびましたが、予想に反し、フェイトがえ? という顔で振り向きました。

 

「ボクはアリシア姉さんの実の妹だよ? 隠し子的な扱いはされてたけど……。クローン? 何それ」

「じゃあ人形って……?」

「ああ。プレシアのヤツ、フェイトに色々な格好させて悶えて鼻血出してはまた次の恰好させて……まるで人形じゃないか! クソッ、アタシだってフェイトを愛で……大事に思ってるってのに!」

 

 言葉の意味が全然違いました。

 

「人形て……そういう意味か……」

 

 ユーノがすごい勢いで俯いています。同情した分だけ落ち込み具合がハンパ無いようでした。

 

 もうプレシアがジュエルシードを持って何してもどうでもええわ……アースラ艦内にいる者たちは一人残らず思考を放棄しました。

 

『そうだわ。……そこにいるかしら? フェイト。良い機会だから、一つ言っておきたいことがあるの』

 

 と、視聴者一同が凍りついている間に、プレシアがぶっ倒れていたフェイトを呼びました。

 

『貴女を育てていて思っていたの……、私はずっと、貴女のこと―――』

 

 よせ、と誰かが言う前に、プレシアは言いました。

 

 言ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――お馬鹿さんだと思ってたのよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言っちゃいました。

 

「そ、そんな……」

 

 茫然自失とした様子で崩れ落ちるフェイト。

 

(気づいてなかったのか……)

(気づいてなかったのね……)

(気づいてなかったんかい……)

(気づいてなかったんだ……)

(気づいてなかったんか……)

「気づいてなかったのかね?」

 

 さすがのクオリティを披露するなのはでした。

 

「な、なんだとぉ!? ボクはそんなに馬鹿じゃないやい!」

「ハハハ母親公認なのだよ? 馬鹿と認めたまえ……!」

「うるさい! 馬鹿っていうオマエはもっと馬鹿だバァーカ!」

「バカという君はもっと馬鹿馬鹿しいわ!」

「さ、三回も言った! 言った! 三倍馬鹿だっ!」

「この女……!」

 

 なんだかんだで仲の良い二人でした。

 

 映像の中で、既に準備を整えたプレシアは、入手した全てのジュエルシードを解放しました。

 

『今こそ行くのよ、アルハザードへ! そして取り戻すのよ、モt……全てを!』

 

 モテ期と言わないだけの理性は残ってるようでした。

 

 放っておいてもいいんじゃないかな、と誰もが思っていました。

 が、

 

「次元震、更に増大! このままでは危険です!」

 

 放置しておくと世界的危機が訪れてしまうようです。

 ですがなんでしょう、このイマイチやる気の出ない感じは。恐らく史実として後の歴史書や教本に名を刻むならこうなるでしょう。

 

 モテ期を取り戻すべく命を賭けたプレシア・テスタロッサ ~年増は死の香り~

 

 読者の抗議が殺到しそうでした。

 

 クロノは黒焦げのままパネルに突っ伏し、エイミィは呑気に欠伸をし、リンディは何故か真剣な顔で映像を見ており、ユーノは危険が迫っていることに慌て、アルフはフェイトを慰めています。

 

 そんな中、なのはだけは動いていました。

 

「では艦長。少し出かけてくるよ」

 

 え、と振り向く皆の視線の先で、なのはは言います。

 

「彼女がどうしようと正直知ったことではないが……」

 

 ちらり、と落ち込むフェイトを見、映像の中で笑うプレシアを捉えました。

 

「少々用事ができたのでね。面倒だが殴りこみをかけてみようと思う」

 

 どこかやる気をみなぎらせ、なのははニッ、と強く笑ったのでした。

 

「ついでに人に魔法かました迷惑料を請求しに行かねばな……」

 

 そういうことだけはしっかりしてました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




唐突に遊戯王が始まりましたが別に遊戯王推奨小説ではないです(笑)

ちなみに私はデュエマ派です(どうでもいい





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第14話 救いを見出しましょう





 

 

   ~前回までのあらすじ~

 

 

 

 ついに時の庭園が動き出した!

 

 アルハザードへの到達を目指し、愛する娘・アリシアを連れ、プレシアは新たな未来に想いを馳せる。

 

 しかし! それを止めんと走り出すなのはとユーノ、そしてクロノ。

 

 一方、自分の存在を否定され、全てを失ったフェイト……アルフも声も遠く、何もかも手放しかけた彼女を揺さぶったのは、一人の少女の声。

 

 まだ何も始まっていない、と。

 だからこれからは、本当の自分を始めよう。今までの間違った自分を正し、大事な人が過ちを犯す姿を見たくないから!

 

 自分の相棒・バルディッシュは答えない。だが! 彼は傷だらけの機体を機動させる! 再び立てと、語るように。

 

 今、二人の少女が立ちあがる!

 これからを、未来を築くために!

 

 

 リリカルなのは、始まります!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ダウトーッ!!!」」」」

「な、なんでぇえええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第14話 救いを見出しましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭園に突入したのは、なのはとユーノ、そして気だるげについてきたクロノです。

 

 一応管理局に所属していることになっているなのはが怪我をすると、上に立つ者……クロノとかリンディとかクロノとかが確実に言及されるので、止むを得ず、というのが理由だそうです。男のツンデレってキモいですね。

 

 なのはとユーノは、とりあえず危なくなったらこの男を盾にして逃げようと固く誓い、廊下を走ります。

 

 と、床から何かが湧いてきました。

 

「ぬ? これは……」

「傀儡兵ってやつだな。多分、プレシアの召喚したモンだろうぜ」

 

 クロノが推察した通り、プレシアが意図的に招き寄せたものです。

 

 しかし、これはなんというか……

 

 

 

 

 

(((なんで全員メイド服着用なんだろう……)))

 

 

 

 

 

 そんな客人の感想とは裏腹に、傀儡兵は機敏な動きで肉薄してきます。どうやら近づく相手を攻撃するよう設定されているようです。

 

 無骨な外見とは裏腹に、どこか可愛らしさを見せる衣装。

 

 轟風を立てて迫る槍、はためくスカート。

 突き出される閃光のような槍捌き! 白く輝くフリル!

 金属音を奏で火花が散る! ついでにフリルも舞い踊る!

 槍が瞬く間に以下省略! フリルが以下略!

 

 もう帰ってもよろしいでしょうか。

 

 ダダ下がりなテンションとは裏腹に、なのはは容赦なく魔力弾をバカスカ連射します。この後プレシアと戦うのに無駄な力を消費しても良いのでしょうか?

 

「なに、いざとなったら動物型爆弾で一網打尽にしてくれよう。問題はないね?」

 

 爆弾が意志を持って逃げだしたので容赦なく爆破しました。

 敵もろとも吹き飛んでいきました。ついでにユーノが黒焦げになりました。

 

「……オメェら、いつもそんな感じなのか?」

 

 呆れたようにクロノが言いますが、

 

「良き相棒だろう?」

 

 なのははやはりキッパリ言うのでした。

 この時、初めてクロノはユーノに対し同情的な目を向けました。もっともユーノもクロノに対し時々そういう目で見ているのでどっちもどっちでしょう。

 

 ところで、相棒って変な英語で訳すと『ラブ・スティック』と読めなくもすいませんでした。

 

 廊下を突き進み、やがて扉の到達しました。

 クロノが勢い任せに蹴破ろうとしますが、

 

「ウッディ!」

 

 なのはが蹴っ飛ばしました。ついでにクロノも。

 いらんほど勢いよく開かれる扉と前倒しになるクロノ。

 

 部屋の中には、傀儡兵が所狭しと佇んでおり、客人の応対に武器を身構えております。当然のことながらメイド服です。主がアレだと部下が苦労する構図です。

 

「ふむ。面倒だね……クロノ君、地面の温度を確かめているところ申し訳ないが、二手に分けれたい。プレシア女史の方を任せてもよろしいかね?」

「俺に対する謝罪はどこよ!?」

「すまない。……ではここは任せるよ」

「そうじゃねぇーッ! あ、おいこら! 待ってェエエエエこんな物騒なところに置いてかないでエエエエエエエエエエッ!!」

 

 泣き叫ぶクロノを無視して、ユーノを引っ掴んだなのはは機敏な動きで傀儡兵の間を通り抜けました。まるでゴキ●リのような素早い動きでした。

 階段を上っていく二人。

 放置されるクロノ。クロノ呆然。

 

 と、そこにアルフが駆けこんできました。

 

「なのは! 手助けしてやんよ!」

「俺はなのはじゃねェ! けど助かったぜ、手を貸してくれ!」

 

 ん? と小首を傾げたアルフは、すちゃっとメガネを装着します。

 無数の傀儡兵に囲まれるクロノがいました。

 

 アルフは五秒ほど考えてから、うん、と頷きました。

 

「ここは任せるよ!」

「おいィイイイイイイイイイ! ふざけんなコラァアアアアアアアアアッ!!」

 

 アルフがすらこらと逃げ出します。

 同時、傀儡兵が襲いかかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、アースラ艦内。

 

 アルフに置いていかれ、一人部屋の隅でいじけるフェイトがいました。

 部屋の

 

「バルディッシュ……ボクってバカなのかな?」

『A,Ah……I can't speak English.』

 

 逃げました。

 男らしい声で逃げました。

 

 ますます肩を落とすフェイトですが、いつまでも挫けているわけにもいきません。こうしている間にも、母はどこか遠くへ旅立とうとしているのです。色々な意味で。

 

 追いかけないと。そう思うも、立ち上がれません。母にあんなこと言われりゃそりゃショックでしょうよ。

 

「確かに、ボクは…………その、…………………………バカかもしれないけど」

 

 遂に認めてしまいました。

 断腸の思いでした。

 

「けれど、ここで終われない……まだボクは、挫けるわけにはいかない! 母さんが無茶をやらかそうとしてる、ならボクが、あの人の娘であるボクが! やらなきゃいけないことが、きっとあるはずなんだ! だから――バルディッシュ、ボクたち、まだここで終わるわけにはいかないよね?」

『What!!? ……Oh,yes!! Ok,Let's Stand up!』

 

 困惑気味だったバルディッシュも応えます。適当に元気よく答えればいいと思ってませんかこのデバイス。

 

 しかし、迷いを得ながらも自力で立ち上がるとは……なんと主人公らしい姿でしょう! どっかの誰かさんとは大違いです。

 

 

 

 

 

「へっきしょいちくしょい!! ……ふむ、誰かが私を妬んで噂しているようだ」

「噂してるのは正しいけど妬む人はいなイタタタタ! ああ! やめて! 腹は! 下腹部は! 急所近くてもうアカ―――ンッ!!」

 

 

 

 

 

 どっかでそんなやり取りが行われる間に、フェイトはすっくと立ち上がります。

 自分の目的を見失わないように、自分が為すべきことを忘れないように。

 本当の自分を始めようと、今、走り出しました。

 

 

 

 

 

「あれ、出口ってどっちだっけ?」

 

 台無しでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、本来の主人公・なのははというと、

 

「汚物は消毒なのぉおおおおおおおおおおッ!」

 

 のっけから飛ばしまくってました。

 魔力の温存? はて、なんのことでしょうね。

 

 とりあえず敵が視界に入れば蚊を潰す感覚で片っ端からブッ飛ばしていますが、恐らく傀儡兵一体の強さは通常の魔導師3人分くらいです。

 つまりどういうことかというと、

 

 

 

 3魔導師 = 1傀儡兵 = 1/100000000なのは

 

 

 

 といった具合でしょうか。

 最早数字割れするくらいの力量を発揮するなのはでした。理不尽や非常識という言葉が地球脱出するレベルです。

 

 近くに壁があろうが柱があろうが敵がいようがいまいがおかまいなしに魔力弾をドカドカ撃ちまくるので、どちらかというと敵の攻撃より味方の攻撃に気をつけているアルフとユーノです。もうこやつ一人に全部任せてもいいんじゃなかろうか、という疑念が湧いてきますが気にしたらダメなことだって世の中にはあるはずです。

 

 傀儡兵は近づかなければ攻撃が通らないと踏んだのでしょう、大きく踏み込んで、なのはへと接近を試みます。

 

「なんの、こちらには必殺『ユーノ・DE・フィールド』が……何!?」

 

 が、危険を察知していたユーノは、とっととなのはから離れた位置に移動して傀儡兵をバインドで押さえつけていました。ああして動きを止めている雄姿は見上げたものですが、ぶっちゃけなのはの近くにいたくないからああして時間稼ぎしているだけでしょうねきっと。

 

 舌打ちしたなのはは、止むを得ずシールドを形成しようとします。が、僅かに間に合いません。アルフがなのはを助けようと駆け寄ります。

 その前に、

 

 雷が降り注ぎました。

 

 ついでにユーノにも直撃しました。

 

「なんでぇえぇえええええっ!?」

 

 近くで起こる惨状をサラッと無視して、なのはは上を見上げました。

 

 静かに降り立った―――フェイトは、ちょっと恥ずかしそうに顔を背けながらも、なのはに言いました。

 

「……来ちゃった」

 

 なんでか頬を染めて言うフェイトでした。

 凄まじい勘違いを生み出しそうな発言ですが、なのはは普通にスルーしました。

 

「答えは出たのかね?」

 

 その問いに、フェイトは小さく、しかし確かに頷きました。

 

 ようし、となのはは頷きます。

 

「とはいえ、君の仕事はここにはないよ。君は母親の元へ急ぐがいい」

「だっ、だけどオマエは……!」

「私は問題ない。それに、……失ってからでは手遅れだよ(尊厳的な意味で)」

 

 シリアスな発言ですが最後余計な言葉が聞こえたのは風邪が啼いたからですかね。

 

「……分かった。だけど、アイツくらいは、倒してからいくよ」

 

 二人の前に立ち塞がる、巨大な傀儡兵。他とは一味違う風格を持つその威容、さしずめ侍女長といったところでしょうか。台無しですね。

 

「ふむ。私一人でもなんとかなるが……ともあれ、気遣い感謝するよ」

 

 小さく笑い、フェイトの隣に立ちました。

 

「幸い先程良い盾を手に入れてね? これで攻防完備というわけだ」

 

 全身バインドされたうえロープで吊り下げられているユーノがいました。

 

「おい、それってオマエの使い魔じゃ……」

「フゴー! フゴゴーっ!」

「ははは。悪魔の囁き声など高貴な私の耳には届かんのだよ」

 

 華麗に無視しておきました。

 

 二人はデバイスを構えます。

 合図は不要でした。何も言わずとも、お互いの意図を汲み取っています。

 

(射撃で牽制し、後に大きな一撃を与える……!)

(速度で翻弄し、後で光弾の連打を行なう……!)

 

 汲み取ってません。

 

 どっちもある意味ミサイルより性質が悪い存在なので、即席でコンビネーションを組んだところで互いの足を引っ張るだけに終わりそうなものですが。

 

 フェイトは飛び出し、バルディッシュを掲げて飛翔します。なのはは彼女が被弾しないよう、光弾を連射して傀儡兵を牽制しつつ、隙を作ります。

 頭上を飛びまわるフェイトを煩わしく思ったか、傀儡兵は上に注意を向けます。が、なのはがお留守の足元にバカスカ連射を叩き込むと、姿勢を崩しました。

 

 転げそうになるも、なんとか踏ん張って耐えます。

 が、その間に、二人は射撃体勢に入っておりました。

 

「「くたばれぇえええええええッ!!」」

 

 金色と桃色の閃光が、壁ごと敵を粉砕・玉砕・大喝采しました。

 

 凄まじい爆発が生じ、他の傀儡兵も巻き込んで駆逐しました。

 

 ついでに動けないユーノが爆発の煽りを受けて吹き飛びました。

 

 フェイトは暫くの間、その場で佇んでいましたが、最早敵の気配はないと悟ると、どこかへと去って行きました。アルフも慌ててついていきます。

 

「行くといい。君の為すべきことを為すがいいさ」

 

 なのははそれを、黙って見送りました。

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 同時刻、プレシアは元いた場所で悠然と立っていました。

 

 最早誰も止める術などない、そう思っているからでしょうか。彼女の表情からは余裕が窺えます。言い方を変えるとテンション高いです。もうすぐモテ期、否、目的が叶うからでしょうそうでしょう。

 

 と、ここで

 

『プレシア・テスタロッサ。次元震は私が食いとめています、最早庭園はアルハザードに到達することはできないまま崩壊するでしょう……抵抗は止めて諦めたらどうですか』

 

 リンディが魔法を使って食いとめているようでした。

 世界が崩壊するような事態をたった一人でどうやって食いとめとんねん――誰かが突っ込んだ気配がしますが誰も気に留めませんでした。

 

「フン、何を言ってるの。あなたのようなおちびさんには到底分からない崇高な目的なのよ……諦められるものですか!」

 

 ブチッ、と何かがひきちぎられる音が聞こえました。

 

『あんですってェエエエエエエエ!! 誰が好き好んでこんな体型しとると思ってんじゃおんどりゃああああああああああああああッ!!』

『艦長、落ち着いて下さい。いいじゃないですか永遠の若さって素敵だと思いますよ?』

『やかましい! ダンナと街中歩いてて何度職務質問されたと思ってんのよ! しかも管理局員に見られた日にはロリコン爺乙だとか通報しますただとか援助交際だとかふざけた噂が流れる始末……ねぇどんな気持ちだと思う!? 人目を気にしてたら街中を楽しく歩けないこの思いどうすればいいの!? ねぇ!!』

『あ、すいません。私常識人なので非常識な会話にはちょっと……』

『『『お前のどこが常識人だぁーっ!』』』

 

 プレシアは無視しました。

 

 しかし無茶をやらかしたせいで、庭園の崩壊は加速的に進行していきます。最早崩壊するのも時間の問題でしょう。

 

 その時。壁を突き抜けて青い光が飛び出しました。 

 

「よォコスプレババア。引導渡しに来てやったぜ」

「くっ……!」

 

 壁を粉砕し、現れたのはクロノでした。

 どうやら自力で危機を乗り越えた模様です。伊達に執務官を務めているわけではありませんね。

 

「へっ、無傷でここまで来るのに苦労したぜ」

 

 自信満々に言うクロノでしたが、頭に大きな剣が深々と突き刺さって血を流しています。

 

 これ突っ込むべきなのかしら……プレシアは驚異的なモノを見る眼を向けました。

 

「……あの、頭に何かが」

「違います」

「いや、でも何かが」

「違います」

「だって何かが刺さっ」

「だァアアもォオオオオオッ! 何も刺さってなんかいねーんだよ! 刺さってる本人が刺さってないって言ってんだから刺さってないの! 今せっかくカッコ良く登場したのに台無しじゃん! どうしてくれんだテメェーッ!!」

 

 逆ギレしてきました。

 親子でまったく同じようなリアクションをしてるのですから親の宿命からは逃れられないというのがよく分かります。プレシアもですが。

 

「邪魔しないで! 私は変えるのよ……やり直すのよ! こんなはずなじゃなかった世界を!」

「確かによォ、世の中こんなことじゃないことばっかで、色々辛ぇこともあるだろうよ。昔からそうなってんだ、俺らはそんな世界で生きてんだ、不幸になったってある程度はしょうがねぇんだよ。別に抗うのは悪いことじゃねぇ。逃げたって戦ったって誰も咎めねぇ……けどな、誰かに迷惑かけていい理由なんてのは、どこにもねぇんだよ」

 

 クロノが登場してから一番まともな台詞を吐きました。

 

 あまりの常識振りに、プレシアが「何言ってんのこいつ?」みたいな顔をしました。クロノはしょげました。

 

 そうこうしていると、上から二つ、影が降りてきました。フェイトとアルフが、ようやく到着したのでした。

 

「母さん……」

「フェイト……今更何の用?」

 

 娘に対しああ言った手前、どう対応するべきか戸惑うプレシア。

 

 娘を大事に思っているのは、彼女の口調からしても明らかです。フェイトもそれが分かっているからこそ、こうして戻って来たのです。

 

 彼女は躊躇いながらも、意志を強く持ち、大きく声を上げました。

 

「ボクは……貴女になんと言われようと、あなたの娘だ! だから……あなたの過ちは、ボクの手で正す!」

「母に刃向うというの……!? フェイト、言う様になったじゃないの!」

「あなたの娘だからさ……! このボクが、全力で、修正してやるぅううううううっ!!」

「よくぞ言ったわフェイトォオオオオオオオオオッ!!」

「行くぞォオオオ母さんんんんんんんんんんんっ!!」

 

 まさに魔王へ果敢に挑む勇者の図です。

 全力を出し、母親と向かい合うフェイト。娘の成長に内心喜びながらも、面に出さず、己の願いのためにも、そして、自分と向き合おうとする娘の全力に応えんとするプレシア。

 両者は出せる力の全てをとして、ぶつかろうとしました。

 

 が、突然地面に風穴が空きました。

 床が脆くなって崩れたようです。

 

「「あれぇぇえええぇええええええええええええええッ!!??」」

 

 二人仲良く虚数空間へ真っ逆さまです。

 

 いけない、このままでは空気がアレなまま全てが終わってしまう……そう危惧したかどうかは分かりませんが、落ちたらタダでは済まないのは理解しているクロノとアルフは急いで駆け寄りましたが、落下していく二人をただ眺めるしかできません。

 

「フェ、フェイトォオォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 悲しみに満ちたアルフの叫び声が木霊しました。

 

 しかし、

 横から飛び出した光が、二人をかっさらいました。

 

「な、なんだいアレは……!?」

 

 やがて昇って来た光がアルフの前に降り立つと、次第に輝きを失っていきました。

 現れたのは、

 

「アリシア……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一足先に脱出を終えたなのはとユーノは、アースラ艦内でクロノ達の帰りを待っていました。本来乗組員らが医療班を待機させたり出迎えたりと仕事する手筈なのですが、帰還した際にリンディがエイミィら乗組員一同に取り押さえられてもがいていたので、取り込み中と思ったなのは達が出迎えようと待っているわけです。決して巻き込まれるのを拒否したわけではありません。

 

 やがて転送されてきたクロノとアルフ、そしてフェイトとプレシアの姿に、ユーノは安堵の息をつきました。

 

「? あれ、もう一人はどこに?」

「医療室に直接送っておいたんだよ。いやぁ、いきなり二人助けた後ぶっ倒れるもんだから焦ったぜ」

 

 やれやれと頭を掻くクロノ。その頭にまだ剣がぶっ刺さってますが誰も気に留めません。逆にクロノが何か言って欲しげな目でチラ見してますが誰も目線を合わしませんでした。

 

 どうやらアリシアが助けに入ったようですが、一体どうやったのでしょうか。

 少しばかり気になったなのはですが、ともあれ、結局全員が無事であることに少しばかり安心したように表情を柔らげますが、プレシアとフェイトが居心地悪そうにしているのに気づきました。どうやらお馬鹿さん発言で顔を合しづらくなったようです。

 肩を竦め、プレシアの元へずかずか歩み寄りました。

 

「どうした? 娘に謝罪の言葉一つ出ないのかね?」

「でも……今更どうすれば」

「あるではないか。例えば良くできましたと猿のように撫でるとか、力いっぱいコアラのように抱き締めるとか、鼻フックデストロイヤーをかますとか、ひたすら阿呆のように褒めちぎるとか、あるね?」

「なんかおかしいの混ざってなかったか今?」

 

 クロノの突っ込みは健在でした。

 なのはは当たり前のように無視しました。

 

 プレシアは暫く逡巡していましたが、フェイトの何かを待つ目に促され、やがて口を開きました。

 

「ごめんなさい、フェイト……」

「――お母さんっ!」

 

 飛び込んでくるフェイトを、プレシアはしっかりと抱きとめました。

 

 

 

(良かった……。あ、なんかなのはが静かだ……また変なことでも考えてんじゃ?)

 

 なのはが余計なことを言わないか心配するユーノですが、彼は驚いたように固まりました。傍らでプレシアとフェイトの抱擁を見つめるなのはの目が、どこか遠い世界を見ているようなものだったからです。

 

 彼女は。

 誰にも聞こえないくらい、小さな声で、ぽつりとつぶやきました。

 

「母、か……」

 

 私にも、そんな人がいるのだろうか。

 自分を産んでくれた、本当の家族が。

 

 なのはは静かに、胸の苦しみを抑えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、後にBBA若返り大作戦……もとい、プレシア事件と呼ばれるジュエルシードを巡る争乱は、幕を閉じたのでした。

 

 

 

 

 

 

 




随分迷いましたが、後々のことを考えて伏線っぽいものを用意したまま(つまり以前投稿したものとまったく同じ結末)にしました。

アリシアラスボスENDとか色々意味不明な展開も用意してありましたが、結局のところ、

「書いてる本人が面白くても見ててつまらなければ意味無ッシングですネー」

というクリティカルな意見があったので止めました。



さて、次で無印最終回です。



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第15話 友達になりましょう

というわけで、無印最終話です。

最終回ってことでいつものノリが控えめですが、まぁ最後くらい許して下さいまし。

では、始めます。



 

 

 

 

 

 ―――誰かを救うのは、悪い事じゃない。

 

 ―――例え歴史を歪めても、あなたはそれを必ず選ぶ。

 

 ―――短い旅路の中、あなたは何を得たか。

 

 ―――変わるものもあれば、変わらぬものもある。

 

 ―――もしあなたが得た答えが、胸の孔にはまり込んだなら、

 

 ―――きっと、それこそが…………

 

 

 

 ―――どうか、旅路の果てを。その目で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第15話 友達になりましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事庭園から脱出した一同は、とりあえず休むことにしました。

 

 ……と思いきや、武装隊員らがプレシアとフェイト、アルフの三人を取り囲みました。そういやこんな人たちいましたね。

 

「申し訳ないが、護送室へ移動してもらう」

 

 偉そうに言ってますがアリシアに瞬殺されたの忘れてませんかねこの人たち。

 

「……いいわ」

「お母さん!」

 

 プレシアは抵抗せず、フェイトが荒げました。

 

「いいの。人に迷惑をかけたのは、事実だからね」

 

 その理屈で逮捕されたらどっかの誰かさんには即座に逮捕令状が出されることでしょう。

 

「隔離ってことになるが、理解しといてくれや」

「ええ」

 

 クロノに誘導され、プレシアとフェイト、そしてアルフは連れて行かれました。

 

 その間、大多数の者がある人物を視界に映すして注意を払っておりました。

 

「おやおや。皆して私を見てどうしたのかね? 美しい私を許可なく視界におさめるとは……見物料を徴収してもよろしいかな?」

 

 変な台詞を口走ってるなのはです。

 てっきり抵抗して皆殺しディバインバスターでもぶちかますのかと恐れていた武装隊員らとクロノですが、まったく関与してこないなのはを怪訝に思いつつも、恐る恐る移動して行きます。9歳児を怖れる情けない大人の図でした。

 

 いいのかい? と傍らでユーノが目線で問いますが、なのはは平然と返します。

 

「いいも悪いもない。彼女らは罪を犯した。ならば裁かれるのは当然だ」

 

 しかし、と続けて言います。

 

「もっとも、言いなりになるのはつまらんな」

 

 ニヤリ。

 いつもの不敵な笑みを見て、不安になると同時に、どこか安心してしまうユーノでした。

 

 

 

 

 

 次元震の影響で、暫く帰れないと伝えられ、さして落胆した様子もなく、なのははアースラでゆっくりと過ごしていました。

 

「彼女らの処遇はどうなる?」

 

 事件に携わった者として、そこだけは聞いておきたいなのはは、食堂に集まったクロノやリンディに問いました。

 

「フェイトちゃんとアルフさんは、無罪申告を出しておくわ」

「母親の我がままに付き合ってた可哀そうなガキってことでなら、処罰も大したことねぇかんな。へっ、ガキには甘い辺り、上層部ってロリコンなんじゃねーかな」

 

 言いたい放題のクロノですが、フェイトの無罪申告に一枚噛んでるクロノも同類だと思われても仕方ないんじゃないでしょうか。

 

「ただ、プレシアは次元震を引き起こした張本人だから、軽くて無期懲役になってしまうかもしれないわ……」

 

 案の定、主犯のプレシアは罪から逃れられませんでした。

 

 やはりプレシアはモテ期を求めたあまりここで愚者として散り果ててしまうのか……誰もがそう思ったとき、なのはが提案しました。

 

「艦長。ジュエルシードは残り幾つかね?」

「? えっと、詳しい数は覚えてないけれど、ほとんど残ってないはずよ」

「それは全部あったほうが良いのだろうか」

「それは、あんな危険なものを野放しにはできなかったけど、もう虚数空間へ落ちちゃったし」

 

 と、そこまで言ったところで、なのはがレイジングハートを取り出しました。

 キャーなのは様がご乱心よー! と96億円くらいで落札されそうな絵画みたいな表情でフリーズしかけた二人ですが、なのはは杖の先にある宝石を輝かせました。

 

 すると、虚空から飴玉みらいにボロボロと何かが落ちてきました。

 

 ジュエルシードでした。

 

「え……ちょっ、なんで!?」

 

 ユーノが驚きの声を上げました。一応さっきからいました。存在感がなさすぎでした。

 ユーノは何故かしょげました。

 

「何のために私が終盤別行動をとったと思っている? もっとも、連中に気づかれず回収するのは骨が折れたよ」

 

 ハハハと軽く笑うなのはの行動に一同呆然。

 この程度で驚くようではまだまだだね――なのはの評価でした。

 

「危険なロストロギア・ジュエルシードを確保すべく、対応の遅い管理局に代わり、娘らと共に回収作業に勤しんでいたが、民間人との諍いもあって、不完全な状態で暴走を起こした……こんなあらすじではご不満かな」

「そんな暴挙が叶うとでも―――」

「……ダメ、なの……?」

 

 瞳を潤ませ、上目遣いに見つめるなのは。

 

 それを見て、クロノとリンディはこう思いました。

 

((こやつ……嫌だと言ったらこの場で全員に不幸な事故を見舞うつもりだ……!))

 

 背後に黒々としたオーラが漂い始めたなのはを見て、二人は生唾を呑みました。ついでに周囲の空間が歪み始めました。どんだけなんでしょうか。

 

 つまり、彼女はこう言ってるようなものです。

 

 

 

『あまり私を怒らせないほうがいい……』

 

 

 

 変なアートが後ろに控えてそうでした。

 

 この時の彼我の戦力を何かに例えるとマンモスマンに果敢に挑もうとするレオパルドンとペンチマンの構図といったところでしょうか。分かづらいですかそうですか。

 

「ちょ、ちょっと私たちじゃ判断しかねるけど、一応それで申請してみるわ」

 

 逃げました。いつだって精神的に苦労するのは上の役目です。

 

 一通り話を終え、懸念すべき事柄もなくなりました。あとは次元震の影響がおさまるのを待ち、帰るだけです。

 それまではアースラで待機、ということになりました。

 なのはは少し不機嫌気味に言いました。

 

「面倒だね。私がその辺に乱れ撃ちすれば相殺されて落ち着くのではないかね?」

「そんなキャンプファイアーにダイナマイトをブチ込むような真似すんな。しないで下さいお願いします」

 

 アースラ一同揃って土下座しました。

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 ようやく海鳴市に戻って来たなのはとユーノは、ひとまず公園に到着し、深呼吸しました。

 

「海鳴よ、私は戻って来た……!」

「テンション高いね、なのは……」

「うむ。狭っ苦しいアースラでの暮らしは些か疲れたよ。ユーノ君もどうだね? 毎朝海に向かって『なのは様は世界一ィイイイ!』と叫ぶだけで心身共に健康になれるが、どうだろうか」

「じゃあ僕、不健康でいいです……」

 

 終始ローテンションのユーノです。

 理由は色々ありますが、あえて一言だけ言うと、『なのはのストレス』が関与してる、とだけ言っておきましょうか。

 

 

 

 帰宅後。

 家の扉を開けると、待っていたように美由希が走って来ました。

 次々と居間から顔を出す、家族たちの顔。全て笑顔で、娘の帰りを喜んでいました。

 

「おかえり、なのは」

「……、ただいまなの!」

 

 なのはは少し迷ってから、同じように笑って言いました。

 

 家族はいます。けれど、それは実際血の繋がりはあっても、『高町なのは』のものであり、今ここにいるなのはのものではありません。彼らは知りません、このなのはが別人であることに。

 騙していることに心を痛め、再会を心から祝福する彼らを欺くのに良心がなのはを攻め立てますが、

 

(まぁそれはそれ、これはこれ。それが私の生き様)

 

 こやつだけは全く成長してませんでした。

 

 

 

 

 

 翌日。

 学校へ顔を出すと、アリサとすずかがパッと顔を明るくし、笑みをもって迎えてくれました。

 

「なのはちゃん、もう大丈夫なの?」

「アンタ、病気はもう治ったの?」

 

 どうやら療養のための長期欠席となっていたらしく、二人は心配そうに尋ねます。

 なのはは当たり前のように爽やかなスマイルで返しました。

 

「ちょっと朝帰りしてきただけなのー」

 

 廊下を通りかかった教師が派手に転倒しました。

 

 アリサは首を傾げ、すずかは「さっき退院したばかりなんだー」と勝手に納得しました。良い子ちゃん成分でなのはの外道成分を相殺しているような気がしてきました。

 

 始業ベルが鳴り響き、授業が始まりました。

 またいつもの日常が始まろうとしていました。

 

 

 

「む。いかんな、体育の授業に間に合わん。止むを得ん……レイジングハート!」

『それはダメェエエエエエッ!!』

 

 気苦労の絶えないユーノでした。

 

 

 

 

 

 それから少し経って。

 突然クロノから連絡が入りました。

 

「なんだねクロノ君。私は今呼吸をするのに忙しいので君のドM根性を満たすほどの余裕はないのだが」

『ちげぇよバカヤロー! ……あのフェイトってガキがオメェに会いたいって言うんだよ』

 

 なのははさして驚いた風でもない顔のまま、先を促します。

 

『裁判になるだろうから、本局に移動すんだけどよ。最後にいっぺん話したいんだと。どうだ?』

「私は構わんが」

『んじゃ明日の朝、公園に来てくれや。待ってるぜ』

 

 通信を終え、なのはは小さく息を吐きました。

 何を話すのか。それを今から考えておこうと思いつつ、なのはは明日に備えて早めに寝ることにしました。

 

 

 

「ああっ、なのは! ダメだよ! 射撃魔法で股間を集中狙いするなんて……その突き抜けるような快感が! 快感がァアアアアアアアアッ!!」

「やかましい」

 

 踵落としがいい具合にキマりました。

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 

「遂にこの日が来たか……」

 

 まるで決戦に挑む勇者のような台詞ですがどちらかというとあなたは魔王です。

 

 眠るユーノを鷲掴みにし、なのはは三秒で支度を終えると飛び出しました。

 朝の町に悲鳴が上がりますが、どこぞの兄妹が毎日のように道場でガチンコバトルを繰り広げていたので誰も驚きませんでした。汚染は広がる一方です。

 

 

 

 公園に着きました。

 

 待っていたのは、私服姿のフェイトとアルフ、そしていつもの仕事着のクロノでした。

 なのはを見て、顔を少し明るくしたフェイトを、とりあえず後回しにして、なのははクロノの元へ直行します。

 

「先に聞いておきたいのだが、プレシア女史はどうなった?」

「あー、それな。オメェの無茶な注文だけどよ……」

 

 言ってから、間をおいて、クロノは言いました。

 

「一応、アレで通ったぜ。半信半疑だったが、どうやらジュエルシードの後押しが予想以上に効いたらしいぜ」

「ほう。賢明な判断だ」

「ただ一つ問題が起きてな。あの後、プレシアに一つ罪状が加えられたんだ」

「……一体何の罪かね?」

「ああ、それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「年齢詐称罪だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、空気が死にました。

 

「……それだけかね?」

「いや、まぁあとは、器物破損とか傷害とかで諸々合わせると数年の懲役くらいなんだけどよ、それ聞いたウチの母ちゃんが……」

 

 

 

『プレシア・テスタロッサを拘束したいがための詭弁だわ! 彼女に罪は無いはずよ!』

『まぁそれはさておき――時にリンディ・ハラオウン提督殿。大変失礼ではありますが、ご年齢の確認をさせて頂けますか? 少々書類上のデータに誤差が生じておりまして、念のためご確認をお願いしたいのですが』

『何言ってるの、私は永遠の十八歳よ』

『年齢詐称罪の現行犯で連行します』

『なん……だと……?』

 

 

 

「―――ということがあって、ウチの母ちゃんとプレシアが結託して上層部相手に喧嘩ふっかけたらしくてな。と言っても、抗議したってだけで減給くらいで済んだらしいけどよ」

「随分無謀なことをする……」

「けどまぁ、そういう経緯もあってか、プレシアとは懇意にしてるってわけだ。色々便宜図ったらしいぜ? それでも、ちっとの間は離れ離れになっちまうけどよ」

「だが少しの間の辛抱だ。あれだけのことを仕出かしてそれで済んだのだから感謝してもらいたいくらいだよ」

「オメェ人がどんだけ苦労したと思ってんだ」

 

 言いつつ、クロノは笑いました。なのはの不器用な優しさをどこかで理解したのでしょうか。理解しちゃったんでしょうか。

 スッと手を差し出しました。なのはが怪訝そうに見ています。

 

「一応、これでオメェともお別れだろうしな。オメェにゃ迷惑かけられっぱなしだったぜまったくよォ」

「楽しんでいなかったかね?」

「んなわけあるかァ! どこの世界に気苦労して悦ぶヤツがいるんだよ!!」

 

 なのはが背後を振り向きました。ユーノはキューとわざとらしく鳴いてごまかしました。

 

「ま、そんなこんなでこれで一区切りってこったな。シメっぽい別れなんざ俺とオメェの趣味じゃねーから、軽く握手でもすっか」

「握手どころか肩車しても構わんよ?」

 

 その発想はおかしいです。……おかしいですよ? おかしいと思うのが普通ですからね?

 

 握手を済ませると、クロノはその場を離れて行きます。

 

「じゃあな、オメェも適当に達者に暮らせや」

「今度緊縛プレイをエイミィ君へ伝授しに行くから楽しみにしていたまえ」

「そんなアフターサービスはいらねェエエエエエエエエエエエエエッ!!」

 

 怒ったようにクロノはさっさと歩いて行きました。多分、どっかで時間を潰すのでしょう。あの格好のまま外を出歩いていたらイベントバトルか何かと勘違いされないでしょうかね。

 

 さておき。

 

 待機していたフェイトが、躊躇いがちに前へ出ました。

 それを見たなのはは、今まで地面に転がったままだったユーノを蹴って起こしました。

 

「ユーノ君、後で大事な話があるから、そこのアルフ君と一緒に下がっていたまえ」

「その前に……病院と、裁判所に、行きたいです……」

 

 訴える前に力尽きそうなユーノはアルフに掴まれ離れました。

 代わるように、フェイトがなのはの前に立ちます。

 

 暫く無言が続きました。

 フェイトは視線をあちこちに向けて、なのはを見ては口元で何かを呟き、またどこかを見るという工程を繰り返しています。

 なのははそれをじっと無言で見つめています。別に怒っているわけではありません。フェイトが何かしゃべりだすのを、じっと待っているのです。

 

「あ、あのさ……」

 

 やがて決心がついたのか、フェイトはもじもじしながらも話し始めました。

 

「ボク、今まで、同い年の人は、アリシアくらいしかいなかったから……どういうのが普通なのか、全然、わかんなくて、それで……」

 

 一度区切ってから、

 

「どうやったら、誰かと『ともだち』になれるんだ?」

 

 迷いと躊躇いを振り切って、問いました。

 

 そんなのこっちが聞きたいわ――ある意味なのはの本音ですが、心の半分ほどは真面目に、彼女の問いに対する正しい答えを探していました。

 

 その答えは、もう既に、

 

「名前を、聞けばいい」

 

 思う間もなく、言っていました。

 

 

 

 何かズレていたものが、戻ったような感覚――

 違和感を抱き、しかしなのははさしたる問題もなし、と振り払います。

 

 

 

「もし、君が目の前の人と『ともだち』になることを望むなら――」

 

 考えたものではなく、自然と浮かんでくるものを、そのまま口にしました。

 

 大事なことを伝えるように。

 大事な想いを託すように。

 

 なのはは、思い懐かしむような口調で、静かに、ゆっくりと、言葉を紡ぎます。

 

「約束しよう。君が痛みを感じていたとき、君を護りたくなったら君を護ろう。君が独りを嫌だと感じたとき、君と話をしたかったら君と話をしよう。君が悩みを抱くと思ったとき、君を大事に思ったら君を一人にしよう。君がここにいたくないと思ったとき、君を想うならば君を嫌おう」

 

 そして、

 

「君が誰かと親しくありたいと思ったとき、君を見たならば、私は君の隣に立とう」

 

 どうだろうか、となのはは問いました。

 

「私は君に何も要求しない。私は私に要求する。基礎に礼節を敷き応用には信頼を広げよと。ゆえに刃向わぬならばただ与えよと。されば奪われぬ」

 

 差し伸べる、手。

 対等であると示すもの。

 

 初めての行いを、初めての人へ。

 

「私は、高町なのはだ」

 

 言葉はもう、いりませんでした。

 何も語らずとも、フェイトはきちんと分かっていました。

 

 差し出される手を、しっかりと握り返して、

 

「ボ、ボク……フェイト! フェイト・テスタロッサ!」

 

 光る雫がこぼれ落ちました。悲しみではない、他の感情が生んだものでした。

 初めて感じる、誰かの温かみを、繋がりを直に感じて、フェイトはただただ、涙をこぼして喜びを一身に受けました。

 

 なのはは少し嬉しそうに口を歪め、自分の髪をまとめるリボンを外しました。

 

「持っていくといい。別れの餞別、というほどのものでもないがね。いずれ私たちを引き合せてくれるきっかけになるだろう。高価なものではないが、君に託したい」

「いいの……?」

「ああ」

 

 短い返答。フェイトはそっと、リボンを受け取りました。

 

「いずれまた会うだろう。その時、それをつけて、いつかまた出会えた時、どうか―――」

 

 微笑みながら、言いました。

 

「―――笑ってほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お別れの時間がやって参りました。

 

「じゃあ、ボクはこれで……」

「うむ。名残惜しいが、早く帰ってこれるといいね」

 

 うん、と頷き、そのまま顔を上げませんでした。

 踵を返し、背中を向けて歩き出すフェイト。傍らにアルフを立たせ、転送の準備に入りました。

 

 と。

 フェイトが顔を上げて、叫びました。

 

「また……またなっ――なのは!」

 

 目の端を輝かせ、明るい笑顔を浮かべて、フェイトとアルフは、去って行きました。

 手を振り、別れを惜しみながら。

 再会の時を期待して、また会えると願いながら。

 ともだちとなった二人の、お別れをするのでした。

 

 なのはも小さく、けれど確かに、手を上げて、

 

「ああ。また―――」

 

 笑みが浮かび、彼女たちが消えるその瞬間まで、ずっと振り返していました。

 

 

 

 

 

「また会おう、フェイト(・・・・)……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでなのは。大事な話があるって、何?」

 

 ユーノの問いに、なのはは躊躇いがちに言います。

 

「ん? あ、ああ。それなんだがね。非常に言いにくいことで、流石の私も言葉にするのが憚られるのだが」

「なんだいなのは。大丈夫だよ、話してみてよ」

 

 今更水臭い、と言外に含めたユーノの声に、なのはは逡巡して、ややあってから、答えました。

 

「うむ。では言わせてもらうが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実はここの作者は『リリカルなのは』の原作をまったく見たことがなくてね? 一区切りついて胸を撫で下ろしているそうだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 ……………………。

 ……………………………………………………え、

 

「えぇええぇえぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!!!??????」

 

 絶叫が青空に吸い込まれていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけの後日談。

 

「おい艦長ー、なのはがこんな紙残してったぜ~」

「え? 何かしら……」

 

 

 

『拝啓 崇高なる現人神たる高町なのはからリンディ艦長へ

 

 此の度、ジュエルシード事件に関して、私、高町なのはの労働料金や迷惑料、周囲の市民及び民家への被害、対処の遅延問題を加味しまして、また市民の総括として、以下の金額を請求致します。

 

                 ¥153,714,900         』

 

 

「―――……、キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!」

「げ、暴れ出しやがった! おいおい落ち着いてくれよカンチョー!」

「カンチョーじゃないわ艦長よォオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 おしまい。

 




というわけで、終了とさせていただきます。お疲れ様でした。

今までは大分早い投稿ペースでしたが、今後はゆっくりめになっていくと思われますが、今後もお付き合い頂ければ幸いです。


ともあれ、ちょっと短編などを挟んでからA’s編を始めますので、もう暫しの間お待ちください。


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番外編1 やめて下さい!フェイトちゃん

相変わらずヒドいタイトルですね(お


短編ですので非常に短いですが、ご了承ください


 

 

 

 ※今回は無印中盤~終了後の小ネタです。書きたくなったので思わずやってしまいました。

 

 

 

     ●   ●   ●

 

 

 

 ある日のこと。

 

 活動の拠点にしているマンションの一室にて、休息をとっていたフェイトとアルフの二人は和やかな時間を過ごしていた。

 

「なぁーアルフー。思ったんだけどさ」

「ん? なんだいフェイト」

 

 リビングでうとうとしていたアルフは、神妙な顔をしたフェイトの声に頭を上げました。

 

「毎日コンビニの弁当ばっかじゃつまんないよね」

「まぁ、アタシは他のモン食ってるから問題ないっちゃあないけどさ」

 

 ドッグフードを貪る人間は普通いません。

 

「だからさ……試しに料理してみたんだけど、……食べてくれない?」

 

 意外な提案にアルフは目をパチクリとさせました。

 

「へぇ、フェイトが料理たぁ珍しい」

「なんだよぉ、ボクだってそういうのに興味持っちゃ悪いのかよー」

 

 ふてくされたのか、頬を膨らますフェイト。

 アルフはその姿に、微笑ましくなって笑みがこぼれました。

 

「いやゴメンゴメン、ついね。んじゃせっかくだし、頂くとしますか」

「ホント!? ありがとアルフ!」

 

 ぱぁっと顔を輝かせるフェイト。

 使い魔である自分の役目、それは主人であるフェイトに幸せになってもらうこと。そのためならばどんなことだってしよう。彼女が少しでも笑ってくれるなら、その手伝いをするのを苦としない……それこそがアルフの生き様です。生き様でした。

 

「いっぱいあるから、たくさん食べてよねっ!」

 

 そう言って、フェイトはキッチンから抱えて持っていた鍋の蓋を開きました。

 

 すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、気が付いたら倒れていたの?」

「はい」

 

 過去の出来事を思い出して震えだすアルフに同情してしまったユーノでした。

 

 

 

 

 

 

     ●   ●   ●

 

 

 ある日のこと。

 

「ほう、料理の腕を上げたいと?」

 

 椅子の上で足を組んでいたなのはは、いつもの尊大な口調で言いました。

 

「うん。前作った時は味見を忘れちゃって、アルフに迷惑かけちゃったんだよ」

「味見は必要なプロセスだからね。料理を作ったならば、まず最初に口にすべきは自分だよ」

「そうだよね。……だから自分で食べてみたんだけど、ボクじゃちょっと分かんないから、なのは、食べて見てくれない?」

 

 なのはは少し考えてから、

 

「ふむ。その口ぶりだと既に味見は済ませたようだね?」

「当たり前だろっ! ちゃんと食べたって!」

 

 自信満々に言うフェイトの姿からして、食べてもさして問題ないようです。

 

(まぁ殺人的メシマズなどそう滅多にいるまいよ。アルフ君が卒倒したのは、さしずめたまねぎやら香辛料やらを口にしたのが原因だろう)

 

 犬狼であるアルフにとって鬼門となる食材を頭に描きながら、嬉々とした様子で鍋を持ってくるフェイトを迎え入れました。

 

「じゃあいっぱい食べてくれ! まだまだあるからなっ!」

「ほう。これはまた、なんとも豪華なも、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後。

 

「すまないユーノ君……ここ三日ほどの記憶がないのだが、私は何をしていたのか教えてくれないか?」

「なのは、君は疲れてるんだよ……」

 

 真実を教えないのも優しさの一つです。

 

 

 

 

 

 

     ●   ●   ●

 

 

 ある日のこと。

 

「お~い、ユーノぉおおおーっ!」

 

 遠くから金髪が走って来るのが見えたので、嫌な予感がしたユーノは急いで方向転換、後ろへ向かって一目散に走り出しました……が、魔法を使ってもいないのに通常の三倍の速度で接近したフェイトに見事とっ捕まりました。

 

「もう、なんで逃げるんだよ! 失礼しちゃうなぁっ!」

「嫌だぁあああああああああああ! 記憶障害になるのは嫌だぁああああああああああッ!」

 

 血涙を流さん勢いで叫ぶユーノでした。

 それもそのはず、フェイトの手の中には、まるで今さっき作ったと思しき料理をおさめた小さな鍋があるのです。湯気が立っているのは作りたてだから当たり前ですが、火で温めていないのに蓋がガタガタ揺れています。沸騰してないのに何故でしょうね?

 

 青ざめるユーノに、フェイトは笑いかけます。

 

「大丈夫だよ! 今回はなのはのお墨付きだから!」

「なのはの……?」

 

 前回の被害者たるなのはがそう言うのでしたら、間違いないのでしょう。

 

 いつの間にかフェイトの後ろに控えていたなのはは、いつもより『ちょっと』強張った無表情でした。

 そして無言のまま、ついと指先を上げ、鍋を指しました。

 

「そのスープ、マジ最高デース」

「誰だよっ!?」

 

 思わず突っ込んでしまいました。

 

「ね? 大丈夫だって言ったろ?」

 

 どこが大丈夫なのか全然分かりません。

 

「ち、ちなみにアルフは……?」

 

 答えが半ば分かり切ってる問いに、フェイトはキッパリ言いました。

 

「食べたよ。『チョベリグ!』って言ってた」

「終わった……」

 

 記憶破壊どころか人格破壊まで起こしているようです。

 

「さぁ! た~んとお食べ……!」

 

 何故か笑みが黒く見えるのは気のせいではないと思います。

 

「や、やめて……! たたた助けてなの―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後。

 

「僕たちは、分かり合えると信じてここまで来た……」

「幾度ともなく刃を交え、互いの信念をぶつけながらも、いつか、またいつかと挫けることなく己の道を歩み、今日この時まで生きてきた……」

「アタシらもコイツらも、行く先は違っても、同じ方向を見ていると信じて、そして遂に分かり合えたんだ、一つの共通認識を持つことで……そう、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「フェイトの料理は死ぬほどマズいと」」」

 

 

 

「うるさいやいっ! ボクだって一生懸命やってんだよぉ!」

「貴様……! 一生懸命などという小奇麗な言葉で片付けるつもりか! なんだあのバイオウェポンは! 脳髄まで溶けるかと思ったぞ!」

「ひどいよフェイト! 僕が口開かないからって鼻から押し込めるなんて! お陰で未だに嗅覚が元に戻らないんだよ!? 緑色の鼻水なんて僕初めてだよ!!」

「もうダメだ! さすがのアタシもアレだけは勘弁! 一生ドッグフードだけでいいから! 後生だからフェイト、アンタは料理を作らないでおくれ!」

「オマエらなんて大嫌いだぁああああああああああッ!!」

 

 

 

 フェイト君 料理の腕前 天災です    by 被害者一同

 

 

 

 



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番外編2 やめて下さい!なのはさん

Q.もしなのはが原作Strikers世界に放り込まれたらどうなるの?

 

 

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 空港での火災時。

 

「よかった……生きててくれた」

 

 瓦礫を吹き飛ばし、やって来たなのはは、手を差し出しました。

 スバルはその手を取ろうとして、

 

「救い料、一億万円ローンでも可」

「ええっ!?」

 

 こうして、スバルは命をと引き換えに大事なものを盗られたのでした(現実

 

 

 

     ○   ○  ○

 

 

 

 スバルとティアナの昇格試験時。

 

「無理だよティア……もう諦めるしか」

「黙りなさいバカスバル! こんなところで諦めてたまるもんですk」

 

 ……無~理~なものは無~理~とー 諦め~るー気持ちー抱きしめ~てー……

 

「……」

「……」

『ちょっとなのはちゃん! 今試験中やで! しかもなんやその曲!?』

『おや失敬。ついテンションが上がってしまって自作の歌を披露してしまったよハハハ』

『ああっ、なのは! マイク入ってる! 入ってるよ!』

『おやおやフェイト君、君がそんなに入る入る連呼してるととてもエロく聞こえるね? そんなんだからエロ執務官の称号を欲しいままにするのだよ?』

『イヤァアアアアアア私の痴態丸聞こえェエエエエエエエエエエエッ!!』

「…………」

「…………あれが憧れの人?」

「いいえ、違います」

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

「六課に入れば、スバルはなのはちゃんに直接戦技を教えてもらうことができるし、ティアナは現役執務官のフェイトちゃんからアドバイスを受けられる。悪いことはないと思うで?」

「そうかもしれないですけど……」

「任せたまえ。私にかかれば試験の一つや二つ余裕で突破できる実力を授けよう。……三日で。代わりに一週間悪夢にうなされることになるが」

「すいません八神さん、チェンジでお願いします」

「世の中こんなことじゃないことばかりやで……!」

「諦めろってことですか!?」

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 ファーストアラート

 

 六課のフォワード陣の初出撃となるこの時、エリオとキャロは苦戦を強いられていました。

 

「くっ、新型……!? うわぁっ!!」

「エリオ君っ!」

 

 そんな時、キャロの記憶がよみがえる……!

 大いなる力は人から拒絶され、畏怖を集める要因となることを……居場所を失った彼女を、受け入れてくれた場所がある。それがこの六課である。

 それを護りたいという気持ちが、彼女を立ち上がらせる。

 

 そして、

 

「フハハこの雑魚どもめ! 我がディバインバスターにて派手に散り咲くが良い……!」

 

 そんな細かいことなど気にしないとばかりにゲラ笑いしてガジェットをボコボコ撃ち落とす女が視界に映りました。

 

「……よしっ!」

『キャロ! お願いだからなのはを手本にしないで!』

 

 手遅れでした。

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 ホテル・アグスタの警護任務にあたることになった六課一同。

 が、ゼストやルーテシアの罠にはまり、外に出られなくなってしまったはやてとフェイト。

 

「しまった……結界!? これじゃ外に出られ、」

「ふん……!!!」

 

 気合い一発、ステゴロで結界を粉砕しました。

 

「さ。とっとと終わらそうか」

 

 この日以降、なのはを見て即土下座する政府要人が増えたとか、増えてないとか。

 

 

 

 

 

 ホテル・アグスタでの一件で、スバルに誤射してしまいそうになって怒られるティアナ。

 

「すいません……次は気をつけます」

「うむ。次はきちんとトドメをさしたまえ」

「斜め上のフォロー!?」

 

 

 

 

 

 結局分かり合えず戦うことになりました。

 

「私は……もっと強くなりたいんですっ!」

「強くなりたいんならプロテインを食べればいいじゃない」

「マリーアントワネット!?」

 

 開始三秒で撃ち落とされたティアナは、翌日から真面目になりました。

 ……が、プロテインは食べませんでした。当然でした。

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 フォワードに休暇を与えたと思いきや、緊急事態が発生しました。

 

「なのは! 大変だよ!」

「何!? 緊急事態とな!?」

 

 さも驚き慌てた風な口調のなのはですが、ソファに寝転がってあくびをする姿はどう見ても驚いてませんし慌ててもいません。

 

「くつろいどる場合か! フェイトちゃん、なのはちゃん! 急いで現場に向かって! 既にフォワードは向かっとる!」

「私がいなくても、代わりがいるだろう」

「とっとと行けやぁあああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 幻覚魔法に撹乱され、止むを得ずはやてが立ち上がりました。

 

「広域魔法で対抗するで! なのはちゃん、下がっといてや」

「面倒だからその辺を薙ぎ払ってはいけないのかね?」

「すいませんそんな派手な無茶やらかさんで下さい総隊長からのお願い」

 

 ええいまどろっこしい、と構えるなのはを取り押さえる方がよっぽど疲れるはやてでした。

 

 

 

 

 ビルの屋上からヘリの撃墜を虎視眈々と狙うクアットロとディエチ。

 

「さぁ、ここからなら余裕でしょう?」

「ちょっと遠いけど……いけるかな」

「もうちょっと狙いが下ではないかね?」

「こう?」

「いや、もう少し右だ」

「これでいい?」

「そうだ、後はトリガーを引くだけだね」

「じゃあディエチちゃん、お願いね」

「よーし……」

 

 二人はフリーズしました。

 ややあってから、同時に振り向くと、

 

「やぁ」

 

 と、にこやかな笑みを浮かべる魔王がいました。

 

 ジャーンジャーン!!

 

「「ゲェーッ!! なのは!?」」

 

 ノリの良い人たちでした。

 

「気づかれたなら仕方ないとりあえず開幕ディバインバスター受けてみよ……!」

「「イヤァアアアアアアッ! 理不尽んんんんんんっ!!!」」

 

 爆発するビルの向こうで、ヘリは悠々と飛んでいました。

 エクシードモードどころか限定解除いらねーじゃん! と思ったそこの貴方。まぁ気にするな。

 

 

 

 レリックと一緒に子供を保護したと聞き、聖王医療院に行くと見知らぬ幼女がいました。え? 他のナンバーズはどうしたのって? 大いなる暴力の前では戦闘機人など有象無象に過ぎません。

 

「やぁ初めまして。君の名前は?」

「ヴィヴィオ……。お母さん、いないの……」

「ほう。奇遇だね、私もだ」

「あなた、誰……?」

「私は高町なのはだ」

「なのは、ママ……?」

「うむ。特別に許してあげよう。よきにはからいたまえ」

 

 物陰ではやてとフェイトが事態を止めるべくもがいていましたが、守護騎士とフォワード陣営に引きとめられていました。

 母親はちゃんと選びましょう ←新サブタイ

 

 

 

 なのはに駆け寄る途中で、ヴィヴィオは転んでしまいます。

 涙目で見上げ、母の名を呼ぶヴィヴィオですが、なのはは、

 

「立て、立つんだヴィヴィオ! 君はここで終わるほど弱くはあるまい……!」

「なのはママは厳しすぎます!」

「フェイトちゃん、突っ込むとこ間違うとるで」

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 公開意見陳述会にて。

 

 会議室に閉じ込められてしまったはやてたち。

 塵も残さん、となのはが一撃粉砕すべく気合を入れますが、隔壁が降りてくるとさっさと諦めてしまいました。

 

「いくら私でもコンクリは破壊できんよ。常識的に考えたまえ」

「非常識の塊が何言っとるんや……!」

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 そんなこんなで、ヴィヴィオとギンガが連れ去られ、隊舎が壊されてしまいました。

 

 ヴィヴィオは絶対に私が取り戻してみせるの! と叫ぼうとしたなのはさんですが、うっかりしてセリフを間違えてしまいました。

 

「クソ野郎、私の城を壊しておいて生き長らえると思うな……!」

「なのはちゃん、本音ダダ漏れやで」

 

 

 

 映像に出たヴィヴィオの苦しむ姿を見て、怒りを抱く六課一同。

 

「ヴィヴィオ……!」

 

 なのはは悲しげに眉根を寄せて叫びました。

 

「ちゃんと五時までには帰ると約束したではないか……!」

「「「無理に決まってんだろぉおおおおおッ!!」」」

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 ゆりかご突入前。

 空に浮かぶ箱舟を見て、なのはは言いました。

 

「あ奴のことなど無視しておけば寂しくなって中止するのではないかね?」

「そんなんやったら苦労せんわ……!」

 

 

 

 洗脳されたルーテシアと交戦するエリオとキャロ。

 

 互角渡り合う彼らですが、決め手に欠く……そう思い、キャロは奥の手を解放する決意をしました。

 ヴォルテールを呼び出し、叫びました。

 

「ふはは砕け散れクズ共! 滅びの疾風炸裂弾ッ!! ゴッドハンドクラッシャー!!」

「キャロが壊れた……!」

 

 粉砕・玉砕・大喝采しました。ついでにキャロのキャラも玉砕しました。

 どうでもいいですがキャロのキャラってなんか言いづらいですね。失礼しました。

 

 

 

 ヴィヴィオと戦いながら、なのはは潜み洗脳操作を行うクアットロの居場所を突き止めました。

 

「な、何故私の居場所が分かった……!?」

「そんな大声でゲラ笑いしていたらどこにいるか丸分かりではないかね」

「あ」

 

 だからと言って正確にブチ抜ける人は世界広しと言えどこの人くらいでしょう。

 

 

 

 なのはは奥の手を解放……することもなく、ヴィヴィオを圧倒して行きます。

 

「ヴィヴィオ、君は三つの過ちを犯した。一つは五時までに帰らなかったこと。一つは人様に迷惑をかけたこと。そして最後は……分かるかな?」

「な、何……?」

 

 怯えたように問うヴィヴィオに、なのはは爽やかな笑みを浮かべて、叫びました。

 

「最後の一つは……世界の中心たるこの私よりも目立つ位置に立ったことだぁあああああああスターライトブレイカァアアアアアアアああああああああああ―――ッ!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 聖王も魔王には勝てませんでしたとさ(とさじゃねぇよ

 

 

 

 時間があったので、フェイトにホームランされた後、吹き飛ばされたスカさん、もといスカリエッティのところに来ました。敗者を笑いに来たわけではありません。多分。

 

「わ、私が滅びようと、第二第三の私が必ずや野望を叶えてくれるだろう……!」

 

 陳腐な台詞ですが、自分の娘の体内にクローンを仕込んでる変態の台詞ですので嫌な信憑性がありました。

 

 なのはは神妙に頷き、こう言いました。

 

「成程。―――つまり君を最低でもあと十二回くらいはブチのめせるのだね?」

「え」

「え」

「何それ怖い」

 

 ちゅどーん

 

 桃色の爆発が生じました。

 

 ……以後、投獄されたスカリエッティは、部屋の隅で体育座りをして『魔王怖い魔王怖い』とひたすら呟くようになったとかなってないとか。

 余談ですが、五年後改心したスカリエッティはナンバーズとともに環境保護活動に勤しむことになるのですが、時折本局からやって来る白い人を視界に捉えると奇声を上げて卒倒するようになったとかならないとか。

 

 

 

 救援に来たはやてとリインフォースから説明を聞き、ゆりかごの全貌を知ったなのはは、こう言いました。

 

「ほう、つまりヴィヴィオがいればこのゆりかごは私の思うがままということか……ゴクリ」

「止めろォオオオオオオオッ!!」

 

 全力ではやては止めに入りました。

 

 

 

 それから暫く経ち。

 季節は巡り、六課解散が間近に控えた頃、最後の模擬戦が行われることになりました。

 

 隊長陣VSフォワードという構図です。

 が、こんなところに若き精鋭らの前に立ちはだかる壁が。

 

「貴様ら、一人前になりたいのだろう? よろしい。ならばせめて、この私を乗り越えてみせよ……!」

「「「「勘弁して下さい」」」」

 

 こうして、模擬戦は約一名の空気の読めない圧倒的暴力……もとい、魔力による蹂躙で幕を閉じたのでした。

 めでたしめでたし(どこがだ

 

 

 

 

 

A.色々なものを台無しにして解決します。彼女は大変なものを壊していきました。それはそう、きっと……貴方の常識(死

 



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A’s
第一話 魔法なんて飾りなんです


はい、というわけでA’s編でございます。

全然続きを書い溜めてないので更新スピードが遅くなること請け合いですが、ご了承ください。


 

 

 ―――聞こえていますか? 私の声が。

 

 ―――届いていますか? 貴女の元へ。

 

 ―――考えていますか? 自分の事を。

 

 ―――想っていますか? 己の存在を。

 

 ―――願っていますか? 正しき道を。

 

 

 

 ―――いずれ相見えるその時、貴女に問いましょう。

 

 ―――果たして長き旅の果てで、何を見出し、何を得てきたのか。

 

 

 ―――問いは一つ。答えは一つ。

 

 

 ―――真理に辿りつけたならば、貴女はきっと赦されることでしょう。

 

 

 ―――しかし、辿り着くことなく道を違えていたならば、

 

 

 ―――その時は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 

 

 海鳴市のとある家に、一人の少女がいました。

 

 名前は八神はやてと言い、一人暮らしの女の子です。

 身体が不自由で、家の中でも車椅子です。家族は既に他界していて、親戚もほとんどおらず、唯一語らえる相手は自分の担当である医師くらいなもので、それはそれは可哀そうな境遇でした。

 

 が、そんなこと知ったこっちゃねぇとばかりに、はやてはすこぶる逞しく育ちました。

 

 例えば、バスに乗っていて親切な若者が席を譲ってくれた時には、

 

「愚か者! 余に譲る暇があるならばご老人をいたわれ!」

 

 くわっと目を見開いて威嚇し老人に席を譲ります。

 

 例えば、スロープのない階段を上れず困っているのかと通行人が心配しながら見ていると、

 

「なんの! 車椅子がダメなら逆立ちするのみよ……!」

 

 凄まじい勢いで逆立ちしてかけ上ります。

 

 例えば、ガラの悪い男どもに絡まれる女性を見かけたときには、

 

「貴様ら……生きて帰れると思うなよ! 幼少の頃より培った我が数多の御技、見せてくれるわ……!」

 

 腕だけで男どもを投げ飛ばします。

 

 恐らくこんな子供は世界に二人といな……いと思いたいですが、どこかに非常識っぷりなら比肩する存在がいました。世も末ですね。

 

「余はフツーに生きていられればそれで良い。他者の手助けくらい造作もないこと、手を煩うのも悪くはなかろう」

 

 と偉そうに言う9歳児でした。

 

 

 

 

 

 さて、そんな若干脳天筋……能天気なはやても、明日を誕生日に控え、無人の家で一人孤独に過ごしていると、ちょっとだけ寂しさが湧いてきました。

 精神がアレとはいえ、まだ幼い彼女は親に甘えたい年頃です。

 

「フッ、余は既に完成した者だ。有象無象と比較してもらっても困る」

 

 などとのたまっていますが、ベッドの周囲がぬいぐるみで埋め尽くされていては説得力など空の彼方へ吹き飛んでいます。

 

 とても可愛い趣味をしているのは、寂しさを紛らわせるためです。たまにグレアムという、遠い親戚の人が手紙と一緒に送ってくれるのです。顔も見たことがありませんが、血の繋がりなどほとんどない自分にお金を出してくれるのだから、きっと金の扱いに困った心の広いロリコンジジイなのだろう、とはやては深く考えませんでした。割と最低な結論でしたがはやては気に留めません。

 

 深夜零時近く。

 

 ベッドの上で図書館から借りて来た本を読んでいると、そろそろ寝る時間だと思い至ります。

 

 良い子は寝る時間です。

 良い子は寝なきゃいけない時間です。

 起きているのは悪い子です。

 

 とても大事なことなので連発しました。

 

 さてこのまま寝るか、それとももうちょっと本の続きを見るのか、とはやては迷います。

 その時でした。

 

 急に震動が起き、部屋全体が大きく揺れ始めました。

 

「む、地震か。暫し待てば治まるであろう」

 

 と、余裕綽々とした様子で読書を再開します。多分災害時には真っ先に死ぬと見せかけて最後までしぶとく生き延びるタイプでしょう。

 

 が、いつまで経っても震動が治まらず、更には本棚から一冊の本が飛び出し、不気味な光を放ち始めると、はやても動揺を露わに飛び起きます。

 

「なんだこの特撮は……!」

 

 結構余裕のはやてですが、突如、眩い光が放たれると、悲鳴を上げかけました。

 そのあまりの光量に、つい言葉が漏れてしまいました。

 

「うおっ、まぶしっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編

 

   第一話 魔法なんて飾りなんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝方。

 まだ早い時間に、一人の少女は―――もう面倒くさいんで名指しでいきましょうか。

 

 外道も呆れて物を言えなくなると巷で評判の魔法少女・高町なのはは、公園から少し外れた林の中で、一人練習に明け暮れていました。

 

 練習ってなんぞや? と思う方、そんなの一つしかないじゃないですか。魔法の練――

 

「こぉおおおおお! 超級破王・電影弾んんんんんッ!」

 

 練習に励んでいました。

 何かの練習をしてました。

 

 さわやかな汗を流し、ふぅ、と息をつきました。

 

「ふむ。今の私では素手で空き缶を消し炭に変える程度だろうか」

 

 魔法を使わずともこの人外っぷりでした。

 これが私の全力全開……ではなく、平・常・運・転! とか言いだしそうでした。もう言ってましたね。

 

「レイジングハート、今日の鍛錬はここまでとしよう。締めにいつものやつを頼むよ」

『OK.Just a moment.』

 

 少しして、レイジングハートの周囲に小さな魔力球――スフィアが形成されました。と言っても、外見だけのもので、よくレイジングハートがトレーニング用として構築するものです。どんだけ高性能なんでしょうかと思わなくも無いですが、よく考えればインテリジェントデバイスはみな高性能なんですよね(まるで全て知ったような口調

 

 空中に散在するスフィアに向かって、

 

「破ッ!!!」

 

 全部撃ち落としました。気合いで。

 魔法って、なんなんでしょうね……(哲学的問いかけ)

 

「よし、まずまずといったところか。ご苦労だったねレイジングハート」

『No problem.』

 

 さて、性質の悪い冗談のような出来事は終わり、なのはは身支度を整えると、家へと戻りました。

 

 

 

 

 

 朝食の準備を手伝っていると、美由希が声をかけてきました。

 

「なのはー、お友達から例のアレ、届いてるわよ」

「……、分かったの!」

 

 一瞬何故か躊躇いがありました。

 

 フェイトからのビデオメールです。定期的に送られてきていました。

 

 ひとまず再生しよう、そう思い、DVDプレイヤーにディスクを挿入しました。

 すぐに映像が浮かびました。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なのはー! 書類の書き方が分かんないよー!』

『なのはー! 最近どうもアルフが冷たいよー!』

『なのはー! 大人が変な目でボクを見るよー!』

『なのはー! ピーマンだけは食べれないよー!』

『なのはー! ここ退屈すぎて死んじゃうよー!』

『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』『なのはー!』………………

 

 

 

 

 

 電源を切りました。

 頭の中でフェイトの声が延々と繰り返し再生されます。エコーしていました。

 

 なのはの部屋にはフェイトから送られてきたビデオメールが幾つもありますが、内容はほとんど一緒でフェイトの泣き事が延々と語られるだけです。微妙に近況報告してるので見ないわけにもいかず、かと言って一度見てしまうと夢にまでフェイトが出てくる始末です。これにはさすがのなのはも辟易としていました。懐かれてると言えば聞こえはいいですが、いい加減名前を連呼するのはやめてほしいと願うなのはでした。

 

 これは新手の嫌がらせではなかろうか……そう思い始めたなのはですが、一方で、一緒に見ていた家族の反応はどうかと言うと、

 

「良いお友達じゃないか。大事にするといい」

 

 目が腐ってるんじゃないでしょうか。

 

「面白そうなお友達よね」

 

 その評価もおかしいと思います。

 

 ともあれ、もうすぐフェイトが戻ってこれる時期ですので、そうすればこの迷惑メール、もとい、ビデオメールも終わりを告げるでしょう。それはそれでちょっと寂し……いやそれはないでしょう。間違いなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 

 なのはが熟睡……と見せかけて部屋の中で精神集中して色々アレなことをしている頃。

 

 赤い服を来た少女が、路地裏に立っていました。

 眼前には倒れ伏した男たちがいました。誰もが管理局の服を来ています。

 

「蒐集完了。予定よりも遅い、早くしないと……」

 

 嘆息した少女は、虚空に浮かんでいた黒い本を手に、そのまま立ち去ろうとします。

 

「―――よ……」

 

 倒れた男の呻く声。振り絞るようなものでした。

 

 これ以上鞭打つ必要はないとばかりに、少女は目線を逸らします。

 

 男は叫びました。

 魂をこめて。

 

 

 

「もっと俺をぶってよぉおおおおっ!」

 

 

 

 気持ち悪いのでキックを入れました。

 

 あー、と甘い声が聞こえるのを無視して、少女は踵を返しました。

 が、そこいらで立ち上がろうとする気配を感じ取りました。

 

「くっ……動け俺の身体……! 美少女がいっちまう……」

「まだ……だ、……俺のターンは終了して、ないぜ……」

「もうちょっとで……見える、この位置からなら……もう少しで……」

 

 やっぱりトドメ刺しておくべきか――少女は大きくため息をつきました。

 

「ぐ……見えた―――白ッ!」

 

 爆発が生じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピキュイーン!

 

「むっ。今、私の庭を汚した者がいる……!」

 

 鋭く察知しましたが、後でどうとでもなると思ってそのまま寝ました。

 順調に人間離れしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日のこと。

 

 すずかは帰り途中、図書館へ足を運んでいました。

 借りていた本を返却し、新しく何を借りようかと考えながら歩いていると、本棚の向こうで、誰かが必死に手を伸ばしているのが見えました。車椅子に座っている少女が、懸命に手を伸ばしますが、あと少しというところで届きません。

 

 頑張って、あとちょっと。見守るすずかの視線の先、少女はふぅっと一息ついて、

 

「ふんっ!」

 

 棚に拳をぶつけました。

 ぶっ叩いて落とすつもりのようです。猿ですか貴女。

 

 するとどうでしょう! 紫電の瞬く音がして! 木製の棚が! 金属製のものに変わっていくではいくではありませんか! なんという錬金! 等価交換無視! ひどいやニーサン!

 ……なんてことは起きず、衝撃で上から本がドサドサ降ってきて脳天に直撃しました。しかも角が。

 

 涙目で蹲る少女を見ていられなくなったすずかは、声をかけることにしました。

 

「だ、だいじょうぶ? どれをとりたいの?」

 

 少女は肩を震わせながらも、すぐに顔を挙げて気丈に振舞いました。

 

「ふん! 貴様の手を煩わせずとも、余一人でやってみせるわ!」

 

 涙目で反論したところで説得力がありません。

 本をとろうと一生懸命背伸びをしていては説得力が以下省略。

 ふぬっ、とか、ちょわっ、とかいちいち掛け声をあげていては説得力が略。

 

「……。はい、これでいいの?」

 

 見かねたすずかがとってあげました。

 

「ぐ……すまぬ」

 

 素直に礼を述べました。根は良い子なのでしょう。

 どういたしまして、と笑みを返すすずかは、少女が同年代なのだろうと思い、話をしてみることにしました。

 友達になれるかなと、そんな期待を抱きながら。

 

「何の本を読んでたの?」

 

 少女は胸を張って、尊大な口調で言いました。

 

「うむ。―――世界拷問大全だ」

 

 いきなり最初の難関がきました。

 

「拷問……好き、なの?」

 

 えらいことにすずかはそれを拾ってしまいました。

 

「ああ、敢えて殺さず生かした上でこの世に生を受けたことを後悔させながらいたぶるのが好きなのだ」

 

 しかも平然と返しました。

 

「で、でも、人を傷つけるのはダメだよ?」

「何を言う。人を愚かだ、言語一つで分かり合うことは容易ではなかろう。もっとシンプルで良いのだ」

「じゃあ、分かり合えなかったら、喧嘩するの……?」

「余はすぐ暴力を振るう人間は嫌いでな」

 

 どっちなんだよ、と誰かが突っ込みました。誰かは分かりませんが。

 

 

 

 

 

 少女は名を八神はやてと言い、足が不自由で学校へ満足に通えないため、よく図書館へ足を運んでいるとのことでした。両親は既に他界しており、いるのは親戚の者だけで、しかし現在は家族と一緒に生活しているそうな。

 すずかはその不遇な出生や環境に悲しみを抱きましたが、それでも明るく振舞い楽しげに笑うはやてに好感を抱きました。

 趣味には理解が及びませんでしたが。

 

 やがて閉館時間が迫り、二人は帰ることに。

 

「え? お迎えの人とか、いないの?」

「余は常に一人よ。案ずるな、従者などおらずとも、余は一人で帰れる」

 

 はやては心底そう思ってるのでしょう、表情一つ変えず言いましたが、すずかは内心怒りを少し抱きます。こんな良い子をほったらかしにして、家族は何をしているのかと。どちらかと言えば良い子はすずかでしょう。

 

 と、そこではやてはあるモノを見つけました。

 

「おお、ザフィーラか。出迎え御苦労」

 

 ウォフ、と小さく吠える大型犬。ペットなのでしょうか、柔らかそうな毛並みと物静かな雰囲気のある落ち着いた犬です。しつけをきちんと行っているみたいで、初見のすずかを見てもまったく吠えません。

 

 猫という差はあれども、基本的に動物全般が好きなすずかは興味を持ちました。

 

「ね、ねぇはやてちゃん。触ってもいいかな?」

 

 が、はやては首を振りました。

 

「止めておけ。ザフィーラは少々性格が歪んでいてな、お前のような子供はとって喰われてしまうぞ」

 

 今時子供でも信用しない言葉ですが、すずかは残念そうに、そっかー、と言って離れました。

 

「チッ」

 

 どこからか舌打ちが聞こえてきました。

 

「ではな、すずか。また会おう」

「あ、うん。またねはやてちゃん」

 

 手を振り、はやてはザフィーラを従えて立ち去りました。

 ちょっと変わった子だけれど、また会えるといいな……淡い期待を込めて、すずかは名残惜しげにその場を後にします。

 

 その時、

 

「まったく、シグナムやシャマルは何をしておるのだ……」

「シャマルは周囲の視察に、シグナムは昨日のことを引き摺ってまだ寝込んでるな」

「貴様らいい加減仕事せい仕事を!」

 

 そんな会話が聞こえてきましたが、すずかは聞こえずそのまま帰りました。 

 

 彼女の背を向けた方角で、何が起きているか気づきもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 帰宅途中、なのはは異常を感知しました。

 

 結界が張られています。どこか張りつめた空気が漂っていました。

 

「ほう。私の庭で結界を張るとはいい度胸ではないか」

 

 ニヤリと凄惨な笑みを浮かべました。

 

 人目がなくなったのをいいことに、なのははすぐバリアジャケットを装着し、見晴らしの良いビルの上へやってきました。

 

 そこで鞄を開き、中から包みと水筒を取り出しました。サンドイッチと紅茶でした。放課後ティータイムでした。

 

 緊張感なんて言葉なかったようです。

 

「私はご飯を愛する女だが、同時にパンをこよなく愛する女でもあるのだよ。このたまらない空腹を満たすためならば、残パンすらも愛してみせよう」

 

 上手くない台詞でごまかしながら、もしゃもしゃとサンドイッチを咀嚼しつつ、ビルの屋上でやって来る気配を待っていました。

 

 と、ここでなのははふと思い至りました。

 

(しまった。近頃私の周囲に頭のおかしい外道連中しかおらんので失念していたが、あまり素の状態を維持していると、いずれ学園や私生活でボロが出てしまうのではなかろうか)

 

 外道筆頭が何を言ってるんでしょうか。

 

 なのはは少しの間考え、やがて一つの結論に至りました。

 

「顔を隠せば問題ないね」

 

 かばんからガサゴソと取り出したのは、学校の図工で作った馬の被り物でした。あまりにリアルすぎて被って『ブルァアアアアアアッ!!(アナゴ風)』と絶叫しつついじめっ子どもを追いかけ回したら翌日には馬頭鬼(めずき)伝説が誕生していました。多分特撮モノだと一話限りで退場するやられ役っぽい感じですが、このモンスターはその気になれば大陸どころか世界を掌握しそうです。

 

 カポッ、と頭からかぶります。視界が悪くなりますが概ね良好でしょう。何が良いのかは分かりませんが。

 

 とりあえず敵はまだ来ないみたいなので、サンドイッチを食べながら待つことにしました。え? どうやってって? 馬の口からに決まってるじゃないですか。それだと脳天に落ちてこないかって? 変人の奇行に疑問を抱いたら負けです。

 

 やがて空のむこうから、人がやってきました。久しぶりに見る魔導師(えもの)の姿に、なのはは緊張(悦び)を隠せません。台無しでした。

 

 やがて人影は大きくなり、その全貌が窺える位置まで来たかと思うと、急加速しました。驚いた(様子ですけど被り物のせいでいまいち分かりませんが)のも束の間、赤い服を来た少女は、銀色の槌のような物を振りかぶりました。

 

 それがどうしたと言わんばかりに、なのはは攻撃を防ぎました。

 素手で。

 

「何……!?」

 

 と驚く襲撃者。

 

 そりゃ馬の被り物した変質者が思ったより強ければ驚くでしょう。

 

 一度引き下がり、態勢を整えます。なのはも砲撃を検討しつつ、様子を見ます。

 

 カッ、と目を見開き、変質者、もといなのはは叫びました。

 同時、襲撃者も開口しました。

 

 

 

「「怪しい奴め! 一体何者だ……!?」」

 

 

 

 どっちもどっちでしょう。

 

「……答える必要はない。オマエを倒す」

 

 律儀にも襲撃者の少女は簡潔に答えました。内容はないようなものですが。あ、洒落じゃないですよ? 間違えないで下さいね(どうでもいい

 

 対し、なのはは勿体ぶった様子で答えます。

 

「やれやれ。不躾な人だねまったく、親の顔が見てみたいものだ」

 

 と割とまともなことを言っていますが、被り物をしているので声がくぐもって『ムファファモファ』と唸っているようにしか聞こえません。

 

 とりあえず口の辺りのスペースを確保してから、

 

「人様の庭に土足で踏み込んでおいて、挨拶も無しに攻撃するとは見上げた根性だね? 君も人として最低限の礼節を持ち合せているならば名前くらい名乗りたまえ」

 

 馬の怪人に常識を説かれました。

 

 少女は訝しげに観察していましたが、正論ではあったので、ふぅ、と息をつきました。

 

「アタシは、」

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシは―――鉄槌の騎士・ヴィータだ。それ以上でも以下でもない」

 

 身長170cmくらいありそうなスタイル抜群の美少女は、敢然と構えながら名乗りを上げました。

 

 

 




さぁ、残り三人はどうなってるでしょうねぇ……?(ゲス顔


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第二話 再会なんてこんなんです

原稿やら文化祭やらで忙しかった関係上、書く時間がとれず、ちょっと後半急ごしらえになってしまいました。

後で変更するやもしれませんのでご了承ください。




あ、でも守護騎士らの人格に変更ありませんので諦めて下さい(え


 

 

 

 前回のあらすじ

 

 幼女かと思っていたら長身のお姉さんだったで御座る。ハァーがっくし。

 

 

 

 始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは若干満足げに頷くと、腕を組みました。

 

「して、ヴィータ君とやら。私の攻撃して来た理由は分からんが、お互いやむにやまれぬ事情があると推察できる。ここは一度、冷静になって話し合いの場を設けたいのだが、どうだろうか」

 

 出ました、なのはお得意の『話し合いをしましょうと持ちかけて決裂したら即バスター』です。恐らく『振り込め詐欺』に続く新しい詐欺方法『OHANASI詐欺』というのが今年最後に世間を騒がせる事件となること請け合いでしょう。

 

 なのはの(表面上は)平和的提案に対し、赤い服を来た少女・ヴィータは、ハンマー状の武器を構えたまま熟考しますが、それでも表情は険しいままでした。

 

「今更話すことなんてない。オマエにも恨みはないが……倒す」

「ほう……その口ぶりからすると、私の他にも同様に襲い倒した者がいるようだね? 推察するに、先日の魔力反応も君のものだろうか」

 

 少女は答えません。その態度が実質答えでした。

 

「貴様……そうやって今まで理由もなく襲いかかられた人間の身を案じたことはあるのかね?」

「オマエは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」

 

 問いに対し、ヴィータは鼻で笑う様に言いましたが、

 

「私は米派だ!」

 

 なのははキッパリ言いました。

 

 ……ヴィータは、「じゃあオマエ、今まで食った米粒の数を覚えているのか?」と尋ねようとしましたが、大人げない気がしたのでやめました。ついでに「オマエ最初会ったときサンドイッチ食ってたじゃねーか!」と突っ込もうとしましたが、言ったら負けな気がしたのでやめました。

 

 話し合いは不可能だと断定したのでしょう、ヴィータはハンマーを振りかざしながら突進してきました。

 

 なのはは防御魔法を展開しようと手を差し出しましたが、そこで思い至りました。

 

「いかん、このままでは戦えん」

 

 じゃあとっととその謎覆面脱げよと思うでしょうそうでしょう、私もそう思います。

 

 しかしどうするか、なのはは二秒ほど考えた末、止むを得ず馬頭を投げ捨てました。

 

 これにはヴィータ、とてもビックリしました。

 

(どういうことだ? アイツは魔物じゃないのか。でもさっきまでの声は魔物っぽかった。けど今は女の子だ。魔物が変身しただけなのか? それはただの変態だな。けどその変態がアタシの攻撃を受け止めたのも事実。しかし変態っぽいな。どんだけ強いのか見当もつかねぇ。変態だから仕方ないのか。いやだけど―――)

 

 そのうち少女は考えるのを止めました。

 

 どういうわけか動きを止めてしまったヴィータに警戒しつつも、なのははレイジングハートを構えます。

 

「おーい、聞こえてるのかね?」

 

 声をかけますが、ヴィータは固まったまま動きません。

 どうしたことか、となのはは一瞬思考しますが、

 

「戦場で動きを止めるのは命取りと知れ……!」

 

 高町なのは、容赦無し。

 

 

 

 ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!

 

 

 

 ぶっ放しました。

 

 爆発が生じ、煙が立ち込めます。

 

 やや遅れて、ヴィータが煙の中から飛び出してきました。

 その手には、ボロボロになった紅い帽子があります。先程の衝撃で焦げており、白い人形のような物がとれそうになっていました。

 

「テメェ、アタシの帽子を……!」

「おや、それが君の素かね? 随分生き生きとした表情をする」

 

 顔を赤くして憤慨するヴィータ。帽子を飛ばされた怒りと言葉遣いが素に戻ってしまった羞恥心とのダブルパンチで顔が真っ赤っかでした。

 

 許さない―――ヴィータは帽子を投げ捨て、轟! とハンマーを振り上げます。

 

 

 

 

 

「アイじぇン、カートリッジロード!」

 

 

 

 

 

 噛みました。

 

 台無シズム全開な台詞とは裏腹に、強い魔力が放出されていくのが分かります。

 訝しげに見つめるなのはの前で、ハンマーの金属塊のやや下から、何かが飛び出してきました。アレこそが力の放出の原因だと推察したなのはは、直後、更に驚きました。

 

「ラケーテンフォルム!」

《Raketenhammer》

 

 音声が聞こえ、ハンマー後部から凄まじい勢いで魔力が噴射されました。強い推進力を得て、ヴィータは回転する勢いも味方につけ、突撃を仕掛けてきました。

 

 なのはは息を呑み、それを受け止めるべく構えていましたが、その得体の知れない力に若干不安を抱きます。が、今まで理不尽な力を誇ったなのはです。ちょっとやそっとではシールドを打ち砕くことなどできやしないでしょう。

 

 そう、高をくくっていたのがまずかったのでしょうか。

 バリアはものの数秒で砕かれ、危ういところで避けたなのはは、しかしレイジングハートに過負荷を与えてしまい、

 

《System Error.》

 

 宝石が光を瞬かせています。このまま負荷を与え続けると破損の恐れがあると警告していました。

 

 いかん、となのはは焦ります。レイジングハートに無理をさせすぎると魔法が使えなくなってしまいます。かと言って、今の状態ではロクに戦うこともできません。

 じゃあ素手で戦えばいいじゃねーか、と思われるかもしれませんが、

 

「そんなことできるわけないだろう、常識的に考えて」

 

 常識を説かれました。何のための訓練だったんでしょう。

 

 再度アイゼンというハンマーを振りかざす少女を前に、なのはは言いました。

 

「防御できないなら避ければ良いね?」

 

 それができたら苦労はしません。

 猛追してくるヴィータに、万全の状態とは言い難いなのはは避けられるか微妙でした。

 

 

 

 

 

 が、それが届く前に、

 

「サンダー・スマッシャー……ッ!!」

 

 落雷が生じました。

 

 

 

 

 

 聞き覚えのある声。ふわり、と降り立つ少女の背中。

 

 なのはは呆れるように肩をすくめ、しかしどこか嬉しげに顔を緩めます。

 

 その少女―――フェイトは振り向きました。

 何故か涙目で。

 

「なのはー! 宿題が終わらないよー!」

 

 幻聴がリアルになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編

 

   第二話 再会なんてこんなんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、色々言いたいことはあるが、まず最初に言っておこうか」

 

 腕組みしていたなのはは、どこか嬉しげに、降り立ったフェイトに微笑みます。

 

「久しぶりだね、フェイト(・・・・)。変わらぬ君の姿がとても嬉しく思う」

「! う、うんっ! ボクもだよなのは!」

 

 感極まった様になのはへ飛びつこうとするフェイト。感動の再会です。

 

 が、その直前、なのはが手を伸ばし、頭をガシッ!と掴みました。

 

「だが貴様……私との約束をすっかり忘れているようだね? ん? 君の頭はカボチャかね? 三日経つと忘れてしまうのかね? ん?」

「イダダダダダダッ!! やめてなのはっ! ゴメンボクが悪かったからぁーっ!!」

 

 しかしどこか嬉しそうなフェイトです。だんだん毒されていっております。嘆かわしい話です。

 

「まぁ、君の幸せそうなアホ面を見ていたらどうでも良くなってしまった。ともあれ、助太刀感謝するよ」

 

 視線を動かし、いつの間にかフェイトの後ろに来ていた女性に目を向けます。

 

「アルフ君か。面倒をかけるね」

「フェイトのためだからね。手は貸すよ」

 

 人の良い笑みを浮かべ、アルフは頼もしげに胸を張りました。

 

 なのはは満足げに頷き、……後ろに浮かんでいた獣に気づきました。

 

「おやユーノ君、いたのかね。存在感がなかったからまったく気づかなかったよハハハ」

「ひどいよなのは! せっかく助けに来たのに、空気扱いなんて!」

「ユーノ君、勘違いしてもらっては困る。……空気は騒がないのだよ?」

 

 空気以下でした。

 ユーノは真剣に泣きたくなりました。

 

「まぁともあれ、久々の再会を祝うのは後回しにしよう。あそこの小娘をどうにかせねばな」

「なのはは休んでなよ、ボクがやる」

 

 意気揚々に挑みかかるフェイト。

 

 大丈夫なのか……そこはかとない不安を抱くなのはですが、レイジングハートが故障している今、空を自由自在に飛び回れる敵に対し、空中に浮かぶのが精いっぱいのなのはに戦う術はありません。もし地上だったら鉄パイプを武器に戦えたかもしれません。絵面としては最悪でしょう。

 

 代わるようにユーノが近くにやってきました。

 

「なのは。手を出して」

「虐めて欲しいのかね?」

「なんでそうなるの!? 手怪我してるでしょ、治してあげるから出しなよ!」

「君が私の至近距離に入る時は大抵君が被虐精神を解放している時だと思っていたが」

 

 ユーノは姿を人間に変え、無言で治療を開始しました。

 チッ、となのはが舌打ちしたのは気のせいかもしれませんがそれは神のみぞ知る話です。つまりなのはだけでした。

 

 一方、フェイトの接近に身構えていたヴィータは、その光景に呆気に取られました。

 

「な……! フェレットが人間になっただと!?」

 

 僅かに動揺が生じました。

 

(どういうことだ……アイツ、実は人間だったってことなのかよ!? いや、でも待てよ、使い魔って可能性は十分ある。けどさっきまでのアイツはちょっとアレだがどう見てもフェレットだった。けれど今のアイツはどっからどう見ても人間だ。使い魔じゃないとしたら、フェレットか? いや、これは恐らくは擬人化ってヤツだ。日本人は未来に生きてるから自分のペットを人間にすることさえ可能にするという。これまさに日本神秘の力。ん、そうするとアタシはペットと戦うことになんのか? いや、でも今のあいつは人間だ。どういうことだ……アイツ、実は人間だったってこと―――)

 

 以下ループで。

 そのうち考えるのを止めたヴィータは、すぐ目の前に浮かぶフェイトに反応が遅れました。

 

「おい」

 

 フェイトがバルディッシュを突き付け、真剣な目を向けました。

 

「ここではみかん人への攻撃は禁止されているんだぞ」

「民間人だろ?」

「…………」

「…………」

「管理法違反でオマエを逮捕してやる……!」

 

 なかったことにしました。

 

 瞬時に加速するフェイトのスピードに驚いたヴィータは、僅かに思考が飛びました。

 

 慌ててハンマーを斜めに構え、柄の部分で受け止めます。

 舌打ち一つ。フェイトとは別方向から来るアルフを視界に収めたヴィータは、長身の利点を生かし、小柄なフェイトを蹴り飛ばし、振り向きざまに横スイング。アルフは突きだす拳で迎撃します。

 

 衝撃。ハンマーが拳で受け止められるも、勢いに負けてアルフが引き下がります。

 

(くっ……管理局め、時間がないってのに!)

 

 忌々しげに敵を見つめるヴィータの顔に、徐々に焦りが強く浮き出ていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 モニターで観察、もとい監視していたアースラ一同は、フェイトたちに指示を飛ばしながら、ヴィータの放つ魔法に注視していました。

 

「よっしゃ、隙があったらバインドで拘束しろ!」

『はははクロノ君、久しぶりだが自分の趣味を他人に押し付けるのはよくないと思うよ?』

「いいからとっとと捕まえろォオオオオオオオオオオッ!!」

 

 挨拶もそこそこに平常運転するなのはにクロノは絶叫。

 

 その傍ら、リンディとエイミィはヴィータの動きに注目しています。

 というより、見たことのない魔法陣に関心がいっている様子でした。

 

「艦長、見ました?」

「ええ、エイミィ。分かってるわ」

「あの子、……白ですね?」

「ええ、純白――ってそうじゃないでしょうが!」

 

 艦長がボケた……! と感動するアースラ一同。ついでに合掌しました。

 

「見たことない魔法陣ですね。ミッドチルダ式とは違うみたいですけど」

「何か、彼女には秘密がありそうね……」

 

 考え込んでいると、状況に変化が生じました。

 バインドでヴィータを拘束して悦んで……ではなく、喜んでいたクロノですが、突如何者かが介入してくると眉を潜めました。

 

 増援か? というアースラ一同の嫌な予感は、的中しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトは横から飛び込んだ影に突き飛ばされ、やや離れたところで体制を整えました。

 影は二つ。一つは女性で、もう一つは男性です。

 

 女性の方が、なのはによって弾かれた帽子を拾い上げ、ヴィータに手渡しました。

 

「チッ、どこで油売ってたんだよオメェら」

「そう言うな。これでも急いで来たのだぞ」

「お前が倒れると主が心配する。あまり無茶をするなよ」

 

 仲間なのでしょう、介入して来た二人は、ヴィータの傍に立ちました。

 

「お前ら、そいつの仲間か?」

 

 その問いに、二人は答えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は守護騎士、烈火の剣士・シグナムだ」

 

 と、120cmにも満たない非常に小さい少女は名乗り、

 

「……盾の守護獣・ザフィーラだ」

 

 と、筋骨隆々ガチ☆ムチ☆クマーな青年はフェイトをガン見しながら名乗りを上げました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シグナムは腰元から一本の剣を引き抜き、ザフィーラは拳を構えました。

 

「ザフィーラ、あの金髪は私がやる。お前はあっちの使い魔を頼む」

「ふむ……ババアの相手などしたくはないのだが、致し方あるまい」

 

 アルフはブチ切れました。

 

「んだとコラァ! まだアタシは○歳だぁーっ!!」

「馬鹿め! 幼女と認められるのは最低1hyde以下だ……!」

 

 キリッとした顔で言っていますが、ザフィーラの落ち着いた巌のような雰囲気や精悍な顔立ちといったプラス要素を今の一瞬で全てマイナスまでもっていきました。

 

 キレたアルフの猛攻を防ぎながら、ザフィーラは場所を変えるべく離れて行きます。さすがに多人数で戦うのは不利と踏んだのでしょう。それでもきちんと見える位置で戦う辺り、仲間を心配しているのでしょうか、それともただ単に戦う少女らをこの目で拝まんとする紳士の真摯な意識の表れでしょうか。真相は皆さんの心の中に(お

 

 シグナムは敵を見定めるように睨み、愛剣を手に力を解放します。

 

「行くぞ、レヴァンティン!」

 

 剣を構えました。

 ……構えましたが、背丈に合わせて作ったのか、爪楊枝を持っているようにしか見えません。

 

「参る……!」

 

 勢いよく突撃してきました。

 

「……、よいしょっと」

 

 フェイトはバルディッシュをまっすぐ構え、シグナムの額を押さえました。

 シグナムは腕をぐるぐる回しながら前に進もうとしますが、当然前に行けません。

 

「コノヤロコノヤロ!」

「…………」

「コノヤロコノヤロ!」

「…………」

「はぁ、はぁ……」

 

 疲れたのか、下がって肩で息をするシグナム。

 やがて息を整えたシグナムは、仕方なそうに言いました。

 

「……きょ、今日はこのぐらいで勘弁してやるでござる」

 

 涙目でした。

 

「コイツ馬鹿だっ!」

 

 今、世界中で『お前が言うな!』という突っ込みが生まれました。

 

「無礼な、貴様に言われたくない! アホの子みたいな顔して!」

「ボクはアホじゃないやいっ!」

「じゃあ馬鹿だ、馬鹿でござる!」

「ボ、ボクは馬鹿じゃないやいっ!」

 

 反論しますが無駄な抵抗でした。

 例えるなら人一人が必死に叫んだところで読売ジャイ○ンツが優勝するわけではないということです。失礼しました。

 

 気を取り直し、シグナムはレヴァンティンを今一度構えました。

 

「レヴァンティン、カートリッジロード!」

 

 何かが来る、と悟ったフェイトは、思わず身を強張らせます。

 すると、レヴァンティンの柄付近で、何かが動き―――

 

 

 

 

 

 バシュッ ボンッ!

 

 

 

 

 

 煙が吹き出ました。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………どうしたんだ?」

 

 フェイトが恐る恐る尋ねると、シグナムはレヴァンティンを覗きこみ、ややあってから顔を上げ、晴れやかな顔で言いました。

 

「ジャムったでござる」

 

 フェイトは攻撃を開始しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ザフィーラとアルフはというと、

 

「管理局はあんな幼女を侍らせているのか……このロリコンどもめ!」

「アンタが言うかぁああああああああッ!」

「否、俺はロリコンではない! ロリコンだとしても、ロリコンという名前の守護獣なり……!」

「ロリコンは死ねぇぇええええええええええええええッ!!」

 

 まだやってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 白金の髪を持つ女性、シャマルは、公衆電話で自宅に電話をかけていました。

 

「もしもし、はやてちゃん?」

『む、シャマルか。どうした、帰りが遅いではないか』

「ええ、ちょっと頼まれていた本……じゃなかった、オカズが見当たらなくて」

『ほほう。そのオカズとやらは一体何か申してみよ』

「あらやだはやてちゃんったら! こんな公衆の面前で痴態を晒せだなんて……素敵!!」

『いいからとっとと戻ってこんかぁあああああっ!』

「えー!? まだ良いオカズ買ってないから帰れませんよ!」

『食材だけ買えェエェェエエエエエエエエーッ!!!』

 

 耳をつんざくはやての声に、まぁまぁ、と落ち着かせるようにシャマルは言います。誰のせいだと思ってるんでしょうか。

 

「皆を連れて帰りますから、もうちょっとだけ待ってて下さい」

 

 通話を終え、シャマルは一息つくと、結界の内部へ意識を向けます。

 

 と、視界の隅に一人の少年の姿が映りました。

 

「おっとこんなところに美少年が……ゴクリ」

 

 思わず生唾を呑んだシャマルですが、ここはぐっと我慢です。

 

 光が全身を包み、フェイトたちが戦う戦場を見つめながら、ヴィータたちと同じ衣装――騎士服を身に纏いました。

 

「あー、早く帰って新刊読みたいなぁ。ドゥフフwwwwwおっとよだれが……」

 

 見目麗しい女性が薄気味悪い笑みを浮かべる姿はどこまでも不気味でした。

 

 

 

 

 

 フェイトは思った以上に苦戦しておりました。手を抜いてたからとか、油断していたからだとか、無駄に長い技名を大声で叫んでるからだとか、全部該当しているからとか、色々推察できますが、シグナムの振るう剣の威力に顔をしかめて後退を余儀なくされます。調子に乗ると痛い目に遭うというのをなのはで学ばなかったんですかね。

 

 一度距離をとると、シグナムは冷静な顔を崩さず……まぁ汗だくで肩で息してますが、いつもの無愛想な顔のまま問いました。

 

「一つ問うが、あやつは貴様にとって、家族か何かなのか?」

「あ、あいつはボクにとって、その……大事な……」

「大事な?」

「…………」

 

 ポッ

 

「と、友達なんですっ!」

 

 何故か敬語でした。

 

「え、そうなの?」

 

 当然の疑問でした。

 思わず素で返してしまったシグナムでした。

 

「そ、そうなんだよっ! ボクとなのはは仲良しなんだぞっ! な、仲がいい……と思うよ! 思ってるんだからなっ!」

 

 ちょっと自信を無くしてました。

 

 まぁ今まで戦ってばっかで仲良く会話したことなど数えるくらいしかないほど友好を育む時間がなかったので仕方ないのですが、言ってて不安になったフェイトは、ついなのはの方を向いてしまいました。

 

 すると、

 

「ははは喰らうがいいスチール缶を撃ち抜くなのはパンチを……!」

「ちょっとなのは狙いが荒いよってか僕に当たぎゃあああああああッ!」

「テメェ自分の味方倒してどーすんだ!?」

「はて、何のことかね? 私は私の味方、あとは知らない。さぁ邪魔な障害物は取り除いたぞフフフかかってきたまえ……!」

「こいつ……!」

 

 ステゴロで特攻を仕掛ける少女がいました。

 

 フェイトとシグナムは無言で顔を見あわせると、

 

「こちらにも事情があるでござる。悪いが負けるわけにはいかんのだ!」

「ボクだって、負けられないんだ!」

 

 見なかったことにしました。

 

 

 

 

 

 で、素手でも互角な勝負に持ち込める……なんて甘い話があるわけがなく、なのはは次第に追い詰められていきます。

 

「くそっ、こんなことなら、徹夜でオメガ13Zを開発しておくんだった……!」

 

 勇者王みたいな声で言わないで下さい。

 

 と、隙を見たヴィータがすかさず殴りかかってきます。

 

「危ないなのは!」

 

 それを見たユーノは、手助けすべく駆けだしますが……

 

 

 ※現在の位置関係を分かりやすく表示いたします。

 

 

 

 

 

                                 なのは

                             ヴィータ

 

 

 

      → ユーノ 

 

 

 

 遠っ!!!

 

 何故こんなに離れているんでしょうか。絶対こやつなのはを怖れて遠巻きに眺めていたに違いありませんね。

 

 当たり前のように間に合いませんので、最初からユーノを戦力としてカウントしてなかったなのはは当然の如く彼を無視し、守りの体勢に入っておりますが、大破寸前のレイジングハートでは完全に防ぎきることはできません。

 

 しまいにはレイジングハートに亀裂が入り、杖が真っ二つに折れてしまいました。

 

「Oh……」

 

 外人風のリアクションでした。

 

 無防備になったなのはに、振り下ろされたラケーテンハンマーは防ぐことができず、

 

「くらえぇえぇえええええええーッ!」

 

 直撃しました。

 

 爆発が上がり、煙を引いてなのはは地上に落ちていきます。路上に叩きつけられ、奮迅を巻き上げたのを確認したヴィータは、安堵の息をつこうとしますが、

 

「何……!?」

 

 煙が晴れてくると、予想外の結果に驚きました。

 

「危ないところだった……ユーノ君がいなければ即死コースだったろうね?」

 

 腹の上で大腸菌よろしくピクピク震えているユーノはこう思っていました。ああ、近いうち生命保険入ろう、と。

 

 なのははゆっくり立ち上がろうとします。が、思った以上にダメージが入ったらしく、尻もちをついてしまいました。

 

 ヴィータは無言でなのはの前に降り立ちました。

 

「貴様……これ以上ユーノ君を傷つけることは許さんぞ!」

 

 突っ込みどころ満載の台詞でした。

 

 これ以上コイツと話すと頭が弱くなると判断したのでしょうか、何も言わずに虚空から引っ張り出した一冊の本を突き付けました。

 ゆっくりとページが捲られていき、同時に、力の抜けていく感覚に首を傾げます。

 

「む?」

 

 なんか変だな? とでも言いたげな顔でした。それだけでした。

 

 が、急速に力が抜けていく感覚に、思わず意識を手放しかけました。

 

 しかしその寸前、本のページに文字が描かれていくのを見て、

 

(これは……)

 

 何かを思い、そして気を失いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界が崩れ、守護騎士らは散開し、姿を消しました。

 

 フェイトたちは追跡を試みるよりも、倒れたなのはを優先したため、結局何者か判明しないまま、帰還することになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 町のある一角。

 路地の一つに身を隠すように、一人の女性がいました。

 

 塀に体重を預けて待っていると、散ったはずのヴィータ達が現れました。作戦は概ね成功でしたが、ヴィータの顔は晴れておりません。

 

「シャマル。オメェ、なんで遅れて来たんだよ。何かあったのか?」

「ええ。ちょっと人生と言う名の道に迷ってて」

「だったら右手の本は何だ」

 

 おっと、とシャマルは素早く隠蔽しますが手遅れでした。

 

「しっかりしろよ。オメェがもうちょい手早くやってりゃ手こずらずに済んだってのに」

「ごめんなさいね。せめてヴィータちゃんと戦ってた美少年とイチャイチャできたならもっとやる気がビンビンだったのだけどねぇデュフフwwwwwwおっと失礼よだれが」

「キメェな妄想してじゃねぇ」

 

 アイゼンで頭を叩きました。シャマルは恍惚の笑みを浮かべたまま撃沈しました。

 

 ヴィータは無視。腕組みして黙っていたザフィーラと眼が合いました。

 

「お前もだ、ザフィーラ。あんな犬ッコロ相手、どうにかできたんじゃねぇのか?」

「ああ、相手がBBAだったから本気出なかった。明日から本気出す」

「おいシグナム。アレをどうにかしろ」

「分かった。ザフィーラ、……めっ!」

 

 そんだけかよ、とヴィータは思いましたが、突如ザフィーラは痙攣し始めて卒倒しました。余程怖かったのでしょう。何が彼をそこまで追い詰めたのか知る由はありませんし知りたくもないヴィータでした。

 

 はぁ、とため息をつきます。

 

「こんなんで蒐集終わんのか……?」

「ヴィータ、ガッツでござる。次頑張ればよかろう」

「うっせぇテメェもだ馬鹿野郎。とっとと帰るぞ、はやてが心配する」

 

 転がる二人の襟首を掴み、ヴィータとシグナムは帰路へ着きました。

 

 

 

 

 




以上です。

次はもう少し早めに更新したいと思っておりますが……どうなることやら。


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第三話 失敗なんて当然なんです

うわぁああぁぁあああああトーン貼りが終わらないよぉおおおおおおおお!!!(ご挨拶)




……さ、本編始めましょうか。

あ、余談ですが、シリアス展開要ります?
番外ってことで本編とは別に用意した方がいいかなとは思ったのですが、どうでしょう?


 

 

 

 なのは撃墜。

 その知らせにアースラ一同は耳を疑いました。

 

「え? 今日って四月一日だっけ?」

「そう言って俺たちを陥れるつもりか……」

「ははは御冗談を」

 

 なんてことを言って後でシバかれること確定な連中もいましたが、実際その目で見ていた者たちは驚き混じりに、こう思ったのでした。

 

「ああ、あいつも人間なんだな。なんか安心したわ」

 

 台詞を口に出して安心した様子の某執務官ですが、後々その台詞を公開する羽目になるとは夢にも思わないのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第三話 失敗なんて当然なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニター前に集結した、フェイト、アルフ、ユーノ、リンディ、クロノ、エイミィといういつものメンバー。

 

 まさか汚名……勇名轟くなのはが撃墜されるなんて夢にも思わなかった―――いえ、悪夢になら見たかもしれませんが、ともかく想像したこともない一同は揃って驚きましたが、命に別状はないと知ると、なぁんだ、とでも言いたげにため息をつきました。相手が手心を加えたからというよりなのはのしぶとさが黒い生命体Gを遥かに超越してると思ってるからに違いありません。

 

「ぶっちゃけアイツのことだから死んでも肉体に宿った怨念だけで戦いそうだと思ってたぜ」

 

 妖怪並の扱いでした。

 

「…………」

「フェイト、アンタのせいじゃないんだから、しっかりしとくれよ」

 

 唯一不安と後悔の色を隠せないフェイトを励ますアルフ。良い子ちゃんすぎて異端になりそうな勢いでした。

 

「けど、リンカーコアが小さくなってますね。幾らなのはちゃんでもリンカーコアをやられてしまっては……」

「さすがのアイツもどうしようもねぇってか。今なら静かに過ごせそうだぜ」

 

 その代わりその平和が終わりを告げると再び地獄が訪れるでしょう。

 

「ねぇ」

 

 唐突に、フェイトは手を上げて問います。

 

「リンカーコアって何?」

 

 フェイトのかなり天然な発言にクロノは驚愕を通り越して呆れました。

 

「リンカーコアってのは、魔導師が魔法使うのに必要な素養みてーなモンで、これが小さくなると魔法が使えなくなっちまうんだよ」

「そうなのかー」

「なのはのヤツは現状、リンカーコアが小さくなってっから、魔法が使えねぇ。けどま、そんだけだ。日常生活には影響ねーだろうよ」

「そうなのかー」

「オメェ本当に分かってんのか?」

「うん!」

「実は分かってねぇだろ?」

「うん!」

 

 ぱぺーと無邪気に笑うフェイトに、クロノは危うくキレかけましたが抑えました。真の紳士は女性に優しいものです。なんだかオブラートに包んでるだけでその実変態って言ってるように聞こえるのは気のせいでしょうか。

 

「ところで艦長、彼女らが使用していた魔法やデバイスですけれど」

「ええ、私も気になってたところよ。……エイミィ」

「はい」

 

 コンパネを弄ると、眼前に映像が浮かびました。

 先日の戦闘映像です。なのはやフェイトが空中で戦っているシーンでした。

 

 変な映像が出るんじゃないかと突っ込む準備をしていたクロノは肩すかしを喰らった気分でした。どこか物足りなさげでした。

 

「んー、見たことない術式だねぇ。なんだいありゃ」

「あ、あれはね、ベ「昔、ミッドチルダ式と二分した魔法体系でな。なのはみてぇに遠距離からドンパチやるようなタイプとは正反対で、近距離戦闘に特化したタイプだ。優れた使い手は騎士って呼ばれてるらしいぜ」…………」

 

 台詞を奪われ撃沈するユーノ。そのうちきっといいことがある、とは限らない、かもしれません。

 

 映像に出てきたのは、ヴィータと名乗る少女の姿です。他二名は諸事情で削除されました。お察し下さい。

 

「あの金色のやつは何? いきなり魔力が噴き出してたけど」

「あ、あれはね、カ「ベルカ式特有ので、カートリッジっつーもんだ。圧縮した魔力を詰め込んで、ロードすることで瞬間的に圧倒的な魔力を放出して高い破壊力を得るもんだ。結構危ねぇ技術だよなアレ」うぅ………」

 

 何かユーノに恨みでもあるのでしょうか。ますます影の薄さが加速するユーノでした。

 

「本当は、なのはちゃんにも教えておきたいんだけどね。説明したりすると、二度手間だし」

「まさか。あと半日は目覚めねぇだろ、あの調子じゃ」

「なのはちゃんだったらすぐ起きそうだけどね」

「案外壁の向こうで聞いてたりしてな」

 

 ははは、と笑い合うクロノとエイミィ。

 

 と、そんな時でした。

 

 

 

 

 

 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 いきなり壁が爆砕しました。

 

「呼ばれたから来たぞ」

「そういうダイナミックな登場は心臓に悪いので今後は控えてくれ。控えて下さいお願いします」

 

 病人用の衣類を着たまま、なのはが颯爽と現れました。魔法が使えないのに壁を粉砕してなおかつこの平然とした振舞い……半年くらい経ってもまったく成長してない少女でした。

 

「ちょっとなのは。アンタ、あんだけのことやられといてなんでそんなピンシャンしてんだい?」

「何、私の目覚めなど当然のことだ。それに……私が留守にしたせいで、町の秩序が乱れてしまったら大変ではないか」

「ちょっと何言ってるか分からないですね」

 

 心の底からそう思うアルフでした。

 

「にしてもなのは。どうして壁を粉砕しておいて無事なのさ……」

「生憎と私は頑丈にできているのだ。どこぞの軟弱な黒い男と違ってな」

「おいコラ、俺を名指しすんじゃねぇ」

「そうだよなのはちゃん。クロノ君、結構耐久力あるんだよ」

 

 余計な事を口走りました。

 

「ふむ。その話題には非常に興味があるのだが「頼むから触れないでくれ」まぁ要件があるので先に済ませようか」

 

 要件? と一同が嫌な予感を抱きつつも首を傾げます。

 

「リンディ提督。私のレイジングハートを改造していただきたい。……カートリッジシステムを搭載するための、ね」

 

 誰もが驚きました。こいつどんだけ地獄耳なんだ、と。

 非常に言いづらそうにリンディは答えました。

 

「あのね、なのはちゃん。申し訳ないのだけれど、カートリッジシステムは危険なものなの。それにレイジングハートの修復も終わってないし……」

「何、私のレイジングハートならばどうにかなるだろうよ。―――気合で」

 

 それでどうにかなるのは貴女だけです。

 

「いいかなのは。改造するには幾らか足りないがある」

「ほう。何かね、言ってみたまえ」

「改造するのに必要な時間と、カートリッジシステムを取りつける技術と、技術者のやる気と、時間だよ!」

「なのは。コイツ時間を二度も言ったよ」

「何、これもクロノ君なりに意味のある行いなのだよフェイト。深く察してくれたまえ」

「意味なんてねぇーよ! ごめんなさいでしたぁーっ!」

 

 馬鹿でした。

 

「けどよォなのは、あんま無茶ぶりすんじゃねぇよ。俺らがどんだけ苦労してっか分かってんのか?」

「クロノ君、君は黙っていたまえ」

「いいや、これだけは言うぜ。お前って奴はn」

「クロノ君、君は黙っていたまえ」

「あの、ちょっと俺のセリh」

「クロノ君、君は黙っていたまえ」

 

 なのはのチョップが炸裂しました。机に。

 すると板チョコみたいに真っ二つになりました。恐ろしい破壊力と非常識力でした。

 

「クロノ君、君は黙っていたまえ」

「はい。すいません。ゴミムシのように無音で過ごしておきます」

 

 体育座りして事務机の下で丸まるクロノ。いつの間にか隣にはユーノがいました。同情を寄せてるようですが既に彼自身が自分で空気と認めているようでした。

 

 傍目にも怒り心頭のなのはに一同は怖れおののいております。よっぽど無様な姿を晒したことが遺憾なのでしょう。今まで無双していた罰が当たったのかもしれませんね。

 

「して。これ以上の戦力アップは図れないのかね?」

 

 ここで首を横に振ったらどうなるのか……アースラ司令室に緊張が満ちました。なんでこんな最終戦みたいな緊張感が溢れているんでしょうね。

 

「あ、あのさなのは? 気持ちは分かるけど、いくらコイツらだってそう何でもできるってわけじゃない、ん、だか、ら……」

 

 なのはに蛇睨みされ、アルフは犬形態になると尻尾を丸めてフェイトの後ろに隠れました。なのは最強説が浮上して参りました。

 

 と、パチパチとパネルを操作して何事かを調べていたエイミィが言いました。

 

「ん。でもなんとかなるかもしれないよ」

「なんだと!?」

「一瞬で機嫌良くなったね……」

 

 なのはの機嫌は小豆相場並みでした。

 

「さっきからレイジングハートとバルディッシュがエラー出してて何かなと思ってたんだけど、ようやく分かったよ。CVK-792……これ、カートリッジシステムに必要なパーツの型番だよ」

「ほぅ。つまりそれさえあれば強化が可能ということかね?」

「けれど、完成には時間がかかるわ。修復する時間も必要だし、パーツも取り寄せないと」

 

 なだめるようなリンディに、なのはは腕組みをして、ふむ、と頷いてから、

 

「そうか。……ならば今すぐ作れ。さぁ作れ。作るまで寝られると思うな。既にこの部屋の出口は封鎖してもらったぞ」

「「「お前馬鹿かァアアアアアアアッ!」」」

 

 耐え切れなかったなのは以外の者たちの怒号が響き渡りました。

 

 

 

 

 

 八神家では夕食後、穏やかな時間が流れておりました。

 

 居候している身として、食後の皿洗いは皆で協力して行っております。が、結局シグナムが皿を割りまくりザフィーラは犬の匂いがするので結局三人でローテーションを組んでいるのでした。

 

 終えると、テレビを見つつ各々が時間を有意義に過ごしていると、九時を過ぎていました。恐らく五人の中で最も外見的には年少のシグナムが口を開きます。

 

「主よ。明日は病院だ、早めの就寝が肝要かと」

「うむ、大義であるぞシグナム。我もそろそろ床につくべきか」

「その前にお風呂入りましょうねーはやてちゃん」

 

 スチャッ

 

 どこからともなく拳銃を取り出し構えるはやてさん。

 

「貴様、それ以上接近すると……分かってるな?」

「もーはやてちゃんって私に対して冷たくないですか? せっかく人が親切にお世話してあげようとしてるのに。ねぇヴィータちゃん?」

「その前にヨダレ拭けよ」

 

 ヴィータの指摘に袖で口元を拭うシャマル。

 見境がないようでした。

 

「そうだぞシャマル。ここは盾の守護獣、もとい、紳士たるオレが直々に世話をし」

 

 ばきゅんばきゅんばきゅん

 

「何か言ったか?」

「いいえ」

 

 案山子のようなポーズでフリーズするザフィーラ。

 盾の守護獣でも防げないものがあるようでした。

 

 ヴィータに抱きかかえられ、風呂場へ向かうはやて。年齢不相応な言動が目立つはやてもヴィータには割と素直に接しているようで、こうして抱き上げられても嫌な顔一つしません。他の面子がアレだからまともな部下……もとい、人間は大事にしようと思ってるからかもしれませんが。

 

「おいシグナム。オメェはどうする? 一緒に行くか?」

「私は明日入る。先に入るといいぞ」

 

 やんわりと断りを入れるシグナム。相変わらず生真面目な口調ですが、テレビでやってる教育番組にかじりついている姿は突っ込みを入れたくてもそれをさせてくれない雰囲気がありました。

 

 仕方なく、二人は風呂場へ向かいます。背後から忍び寄って来る不審者二名を威嚇しながら、脱衣所へ。

 

「にしても、貴様ら今日は帰りが遅かったな」

「ああ、悪いな。シャマルが意地張ってて時間かかっちまった」

 

 適当な嘘で誤魔化すヴィータですが、あまりに信憑性が高い嘘なので、はやては疑うことなく納得してしまいました。最早全ての事象を『まぁシャマルだし』で納得してしまいそうでした。

 

「近頃、貴様らが我に内緒で何事か企んでいるのは知っている」

 

 ヴィータは息を呑みました。

 

 ふん、と鼻を鳴らし、どこか寂しげな顔をしながら、しかしそれを見られないよう俯いて、はやては続けます。

 

「だが我は貴様らの行動を拘束するつもりもなくば意思を束縛するつもりもない。どこで何をしようと自由だ。そこまで狭量な我ではないぞ」

「はやて……」

「かっ、勘違いするなよヴィータ。我は貴様らの意志を尊重している、それだけのことだ。……それに、我は元より一人で何事もこなすことができる。貴様らの手など借りずとも大丈夫だ」

 

 気丈に振舞うはやてですが、それでも幼い少女に変わりはありません。甘えたい年頃でしょう。外で遊びたい年頃でしょう。何一つ自由にできず、人並みの生活すらできないはやて。

 ヴィータは背中から、そっとはやてを抱き締めました。触ってみると分かる、こんなにも小さな背中に、数多くの重しが圧し掛かっているのです。次第に悪化する足の状態など欠片も気にした様子を見せないはやては、出会ってからずっと自分らしく振舞っています。事情を抱えるヴィータら4人に尊大でありながらも優しく接してくれる、これがヴィータにはたまらなく嬉しいのでした。

 

 だから、顔が曇ってしまいます。

 今、彼女のあずかり知らぬところで動き続ける4人の所業が、はやてにバレてしまったら。

 そして、何もかも手遅れになってしまったら……。

 

「む? どうしたヴィータ」

 

 知らないうちに力が入っていたようで、はやてが怪訝な声を上げました。

 

「なぁ、はやて」

「何だ?」

「アタシ達は、絶対諦めねぇから」

「???」

 

 よく分からず首を傾げる仕草が子供っぽくて、普段の言動からギャップを感じヴィータは苦笑しました。

 

 こんな穏やかな時間が、もっとあればと願う自分がいました。

 

 だから、そのためにも、必ず成し遂げなければ。

 決意を新たに、ヴィータははやてを抱えて湯船から身を出そうとしました。

 

 ガラッ

 

「さーてはやてちゃん、今日も身体を綺麗にしましょうねードゥフフwwwwwオフゥwwやはり幼子の素肌は格別ですなwwwwwコポォwwwwwwww」

 

 スチャッばきゅんばきゅんばきゅんばきゅんばきゅん

 

「それ以上近づけば発砲するぞ」

「はやて、撃ってから警告しても遅いぞ」

 

 シャマルの顔から数センチのところに幾多の弾痕がありました。クイックドロウなんてレベルではありませんでした。

 

 

 

 

 三人が風呂場へと向かった後。

 

「怪我はいいのか」

 

 唐突にザフィーラが口を開きました。

 

 一通り満喫したシグナムは、ため息をつくと、脇腹の辺りを押さえました。

 フェイトの攻撃を受けていたようです。そらそうでしょうね。

 

「とても澄んだ太刀筋だった。良い師に学んだのだろうな」

 

 言い方を変えると何も考えてないとも言えますね。

 

「危なかった……武器の差がなければ負けていたでござる」

「頭の差が勝敗を決したと思うのだが」

 

 かなり的を射た意見でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 

 はやてが就寝し、一緒に寝ないかという誘いをヴィータが仕方なく断り、代わりに寝ましょうそうしましょうと鼻息荒く迫るシャマル&ザフィーラを二人がかりで取り押さえ、外へ出た守護騎士四人。

 

「現状、340ページといったところか。666ページまでまだ半分……まだ道のりは遠い」

「だが逆に言えば、もう半分だ。折り返し地点にまでようやっと到達できたのだ」

 

 普段とは打って変わって、真面目な表情を作るシグナムとザフィーラ。

 視線を落とすシャマル。手中にあるのは、一冊の黒い本でした。はやての部屋に置いてあった、謎の本です。

 

「ああ、早く完成させたいよな……」

 

 ヴィータが感慨深げに呟くと、他の三人も頷きました。

 早く完成させて、静かな生活を―――はやてとの平和な日常を満喫したい。それだけが、彼女らの願いでした。

 

 

 

 

 

「けれどこんだけあるとちょっとくらい使っても良い気がするでござる」

「30ページ分くらいパーッと使ってもいいんじゃない?」

「四捨五入すれば同じだから問題ないだろう」

「あるに決まってんだろォオオオオオオオオオッ!!!」

 

 気苦労の絶えないヴィータでした。

 

 

 



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第四話 日常なんて平凡なんです

よっしゃ入稿終わったぁああああああああっ!

……と思ったらプレゼンあるとかテスト近いとかでもうなんというかどうにでもなぁれ的な勢いの昨今皆さま如何お過ごしでしょうか。

一週間更新してなかったのですごい久々感が漂ううえ微妙な感じになってしまいましたが、ともあれ、途中で途絶えぬよう少しずつ書き続けておりますゆえ、ご辛抱下さいまし。




 

 

 

 ある時。

 

「なのはー、一緒に練習しようよー」

 

 というフェイトの突然の思いつきで、模擬戦もどきをすることになったなのはとフェイト。

 訓練場を一つ貸切にして、なのは&ユーノと相対するフェイト&アルフ。珍しくどちらも気合が入っております。

 

「手加減なんてするなよ! 全力で来いっ!」

「ではお言葉に甘えて」

 

 するとどうでしょう、ユーノがフェレット形態のまま手の上によじ登ると、形を変え始めたではありませんか。

 

「ユーノ君は身体を武器化することができてね。『武態』と言うのだが、その威力は使う者の能力次第……」

 

 ゴキゴキとグロテスクな変形をしていくユーノ君。心なしか体積が増えていっておりますがどういう原理なんでしょう。

 剣の形になりました。筋肉カラーの剣でした。時折ピクピク動いているのでその有様が大腸菌の蠢く様を彷彿とさせて非常にキモいです。

 

「そしてェエエエエッ!」

 

 ゴゥッ! 

 

 凄まじい威圧が押し寄せると、なのはの身体が瞬時に膨張しました。

 ついでに筋肉が膨れ上がりました。ついでなんてレベルではありませんでした。

 

 さながらビス○ット・オ○バの再来といったところでしょうか。

 爽やかな笑みが微妙にイラッとさせるところが酷似しております。

 

「私はユーノ君の力を最大限発揮することができる! 我ら主と下僕、二人で一つ!」

 

 シュゴー、とオーラを漂わせるなのは。

 最早妖気と言ってもいいんじゃないでしょうかね。

 

「あ、ああ……」

 

 怯えて竦み上がるフェイトを一瞥すると、なのはは無表情に言います。

 

「フェイト君、君に致命的なまでに足りていないモノがある。何か分かるかね?」

「な、ななな、何……?」

 

 音を置き去りにしたなのはが瞬時に肉薄し、冷酷な現実を告げました。

 

「危機感だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあぁあああああァアアアアアアアアアアアッ!!!???」

 

 フェイトは勢いよく飛び起きました。

 

「あ、あれ……? 夢?」

 

 うなされていたのか、寝汗がひどいです。そらあんな夢を見たら誰でも悲鳴を上げます。

 

「なんだぁ夢か……そりゃそうだよね。幾らなのはでもあんな非常識じゃないよね」

 

 ベクトルが違うだけでレベルはどっこいどっこいという現実を直視できていないフェイトさんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第4話 日常なんて平凡なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 デバイス改造中

 

 と、わざわざ紙が貼られた開発ルーム前に佇むなのはとフェイト。

 

 なんでそんなことしてるのかと言うと、五分に一回なのはがそわそわして扉を豪快に開いて突撃をかますからです。辛抱というものがないんでしょうね。

 

 ちなみにフェイトが改造する際、

 

「こう、グワァーッてなるくらい強くて、ズギャッて勢いがつくくらい恰好よくて、ドンッて感じが漂うデザインにして(削除されました」

 

 などと面倒な注文しておりましたが、それに対応したエイミィはうんうんと頷きながら、丁寧な応対でやんわりと断りを入れました。

 つまり一言で言うと、

 

「意味不」

 

 でした。そりゃそうでしょう。

 

「とりあえず、思ったほど損傷はひどくないみたいだから、レイジングハートの改造含めて数日で終わると思うよ」

 

 なんでもレイジングハートが咄嗟に張った防壁が功を奏したとかで、表層部分はほぼ全取り換え状態ですが、重要機関はほぼ無傷でした。

 それを聞いたなのはは、うんうんと頷きながら、

 

「やはり使い手が優秀だとデバイスも優秀だね?」

 

 クロノが反吐を吐き捨てそうな顔でそっぽを向きました。

 どうでもいいですけど元の使い手はユーノだということを忘れてませんかね貴女。

 

「おーいオメェら。いつまでそんなとこにつっ立ってるつもりだよ?」

 

 いつまでも扉の前でたむろしている二人に呆れたクロノが言いますが、なのはは腕組みしたまま動かず、フェイトはそんななのはを見てはキョドっております。どう声をかけたらいいのか迷っている様子でした。久しぶりに再会したのだからもっと色々お話しようと思っていた矢先に事件が起きたので、呑気に談笑するどころではないのでした。

 

 とはいえ、この場で仁王立ちしていても何も変わりません。なのはとフェイト、二人は渋々その場から離れることにしました。

 

「そういやなのは、オメェ魔法使えない間は大丈夫なのかよ? ……まぁ余計な心配な気がするけどな」

「大丈夫だ。いざという時は任せたまえ。なぁ? ユーノ君」

「Why!?」

 

 何故そこで僕が!? とでも言わんばかりに目をひん剥くユーノでした。彼の有用性は誰よりもなのはが理解していました。嫌な理解でした。

 

 先を行く三人に続き、なのはは少し遅れて行きますが、最後に一度だけ振り向いて、

 

「……済まない。迷惑をかけた」

 

 小さく呟き、その場を後にしました。

 

 

 

 

 

 ところ変わって、訓練施設。

 

 主に長距離遠征の間、自主練を行うための広い空間の中に、クロノとなのは、フェイトとアルフ、ついでにユーノがおりました。

 

「クロノ君、突然呼び出して一体何の用かね? 生憎私はユーノ君を弄り倒す108つの方法を考えるので忙しい。用件は素早く済ませてくれたまえ」

「クロノー。なんだかユーノがけいれんしてるよー? どうしたらいいー?」

「黙って放置してやれよ」

 

 ため息一つ。

 

「今回、オメェらを呼んだのは他でもねぇ。デバイスの改造をしている間に、オメェら自身の基礎能力を底上げするためだ」

「ほう? 今更何をするかと思えば……」

「ボクたち今でも十分強いもん! 練習なんていらないよっ!」

「バカかオメェら。力量不足のせいで怪我したんだろうが。てかつい先日負けたばっかだろ」

「ふはははは、そんなまさか」

「あはははは、ありえないよ」

 

 何故か自信満々でした。

 

「ったく……。ともかく、これから数日間、オメェらは特訓だ! 特になのは! テメェはただでさえひょろっちいんだから、筋トレを中心にみっちりしごいてや――」

「ふんっ!」

 

 パキョッ

 

 持っていたリンゴが粉砕しました。

 

「何か問題でも?」

「よーし練習すっぞフェイトーッ! 目指せ甲子園!」

「え!? ボクだけ!?」

 

 

 

 まず射撃訓練が行われました。

 虚空を漂うスフィアを、フェイトは一生懸命撃ち落とそうとします。

 

 が、接近戦を得意とするフェイトの腕前は、お世辞にも高いとは言えません。撃ち漏らしながらようやっと当てているといった具合でした。

 

「もっと落ち着いて狙え! 球を正確に撃ち落とすんだよ! なのは手本見せてやれ!」

「よしきた」

 

 なのはが誘導弾を撃ちました。

 

 

 

 ゴスッ、という音がしました。

 

 ―――クロノの股間で。

 

 

 

「―――ふぅ」

 

 絶命する蛙の吐息のような遺言でした。嘘でした。

 

「お、お前なぁ……! ど、どどこ狙って撃ってんだよ……」

「球を狙えと言われたので」

「その球じゃねぇよボケ! 的を狙えよ! バットでボールをホームランするようにだな、」

「よっしゃあ!」

 

 言い終える前にフェイトが木刀をスイングしました。

 

 

 

 カ ・ () - ん ☆ (比喩表現)

 

 

 

 ホームランしました。

 

「――――――――――。」

 

 クロノちん没。

 

「フェイト。見事なスイングだが、もう少し腰を落とすべきだね」

「え? そう?」

「そう。そうすればもっと打撃力が高まることだろう」

「そっかぁ! じゃあ次からそうするねっ!」

「二度とすんなぁあああぁぁあああああッ! 殺す気かテメェら! 俺はいたぶられて喜ぶ変態じゃねぇんだぞコラァ!」

「え? クロノって変態なの?」

「え? クロノ君って死ぬの?」

「ちょっと待てェなのはァアァアアア! 俺を化けモンみたいに言ってんじゃねぇ! あとフェイトはいい子だからちょっと向こうに行ってなさい!」

「フェイト君、この世には痛い目にあっても嬉しいと思う頭のおかしい輩がいるのだよ。具体的にはそこの黒い男Kだとか、あそこで嘆いている白いケダモノYとか」

「そ、そうなんだぁ……恐いね」

「ああ。常識人の我々には到底理解できない領域だが、彼らも病気なのだ。暖かい目で見守ってやろうではないかね」

「こいつら……!」

 

 なお、アルフは安全圏にまでとっとと逃げ出しておりました。存在感など命の危機に比べれば安いモノだと思っているからでしょうか。

 

 

 

 次に、近接戦闘にもつれ込んだ場合の対処法。

 

「これはどっちかってぇとフェイトが得意な分野か」

「おやおやクロノ君。舐めてもらっては困る……私とて近距離戦闘は得意なのだよ?」

「あ? 嘘こけ。テメェ砲撃魔導師だろうが」

「生憎私に不可能はない」

 

 説得力溢れる断言でしたが、クロノは怪訝な顔を隠せません。

 

「本当か? ステゴロで勝てるのかよ?」

「本当だとも。なんならクロノ君、君が相手をしてみるかね?」

 

 半ば挑発めいた笑みを浮かべるなのはに、クロノもちょっとカチンときました。常日頃からなのはに辛酸を舐めさせられている不満がここでボンバーしました。

 

 この女にちょっとお灸をすえてやろうではないか……クロノは口の端を引き上げて笑いました。

 

「いいぜ……ならちょっと面貸せよ」

「よかろうて」

 

 不安げな顔で見守るフェイトの前で、二人は木刀を構えました。

 

「行くぜぇ!」

 

 意気揚々にクロノは襲いかかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 十秒後。突撃したクロノはあっさりなのはに木刀を蹴り飛ばされて足払いをかけられ派手に転倒した挙句マウントポジションをとられ悲鳴をあげながらボコボコと殴られていますが、良い子には見せられませんと主人を案じたアルフがフェイトの耳を塞ぎ後ろを向かせました。

 

 

 

 

 

 今度は連携の練習と相成りました。

 

「今度は2人1組でやってもらう。いざって時のコンビネーションは重要だ、使い魔との絆が試されるってこったな」

「ほう。ならば我々の圧勝は確たるものではないかね」

 

 かなり厚かましい顔で言うなのはを形容し難い顔で見つめるユーノ。

 

「頑張ろうね、アルフ!」

「あんまし気が進まないんだけどねぇ……」

 

 頭を掻きながらもアルフは無邪気に笑うフェイトの傍らに立っております。主が良ければ使い魔も良いのでしょう。どっかの魔導師にも見習って欲しいものです。

 

「じゃあ始めっか。……言うまでもないと思うが、ルールを確認しておくぜ?」

「え? もう知ってるよ」

「ああ、みなまで言うな。ルールは単純だろう?」

「まぁな。ただ単純に―――」

 

 

 

「「どっちがクロノをぶちのめせるか勝負するんだろう?」」

 

 

 

「―――って全然分かってねぇじゃねぇかァアアアアアアッ!」

 

 え? と本気で分かってない様子の二人に本気で殺意が芽生えました。

 

「どっちが早く倒せるか勝負するんじゃなかったの!?」

「どっちが惨たらしく叩き潰すかを競うのではないのかね!?」

「何勝手にルール設定してんだァアアァアアアアッ!」

「何、気にすることは無い。痛みなど感じる暇すら与えず葬ってくれよう……」

「なんだよー。ボクの方が絶対上手くやれるって!」

「いや私の方が鮮やかに殺れる」

「いやボクの方がぜったい早い」

「いやいや私の方が安物件だ」

「いやいやボクのがカッコいい」

「おいィイィィィイイイイイイイイッ! 何俺の抹殺法で盛り上がってんだァアアアアアアアッ!」

 

 結局、『じゃあ二人一緒にやればいいんじゃない?』というユーノのクリティカルな意見を採用したなのはとフェイトは、デバイス無しにアクセルシュートとフォトンランサーを雨あられと撃ちまくり、クロノは二人が良い汗を流すまで延々と逃げ続ける羽目になりました。ついでに後でユーノは抹殺してくれようと堅く誓いました。

 

「クロノ、誰か呼んできてあげようか?」

「頼むから代わってくれ……」

「それは断る」

 

 

 

 

 

 海鳴市に舞い戻ったなのはとフェイトは、肩を並べて帰路についていました。

 

「なのは! なのは! もっといっぱい練習して強くなろうねっ!」

「分かったからもう少し静かにしてくれないかね……」

 

 自分以上に疲れているハズなのに喜色満面のフェイトに、なのはは苦笑しました。

 

 良き友人を持ったな。夕日の差す帰り道を行きながら、珍しく素直な想いを抱きました。

 

 

 

 たとえ、自分が本当の『高町なのは』ではないとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神家は現在5人暮らしであり、今まで一人しか居なかった家が突然活気づいたので、周囲の人々は最初こそ驚いたものですが、次第に面白おかしい新しい住人を受け入れたのか、にぎやかな八神家を苦笑交じりに眺めるのでした。

 

 家族構成は、主であるはやてを中心に、ヴィータ・シグナム・シャマル・ザフィーラの、合計五名です。年少組みであるはずのはやてが割と精神的年齢層高めに見えるのは気のせいかもしれません。

 

 ともあれ、色々と事情があるように端からは見える八神一家ですが、周囲の懸念をよそに、彼女たちは穏やかで平和なひと時を過ごしているのでした。

 

 が、

 

「おい下種どもとっととそこに並べアタシのとっといたアイス食ったの誰だコラ」

 

 青筋を浮かべてアイゼンを構えるヴィータの登場で全て消え去りました。

 

「何のことか分からないで御座るな。このストロベリー最高でござる」

「何を言ってるのかまるで分からん。バニラと合わせると絶妙な味だ」

「お前らせめて口の中の呑みこんでから言えよ」

 

 いけしゃあしゃあと誤魔化すシグナムとザフィーラですが、殺気を飛ばすヴィータの前で平然とアイスを食べていました。肝が据わってるといいますか、馬鹿といいますか……。

 

 すると怒気膨らむ居間へと突撃してきた者がいました。

 はやてでした。

 

「おいヴィータ! シャマルをなんとかせい! あやつまた我の部屋にふしだらなモノを持ちこんでおったのだぞ!」

 

 怒り八割二割泣きくらいのはやてでした。

 

 ありふれた日常に加えるちょっとしたハプニングという名のスパイス……主に日々を楽しんでもらうこと、これぞ守護騎士の役目ですね。

 次から次へと災いをもたらしてるだけのように見えますが。

 

「いやねぇはやてちゃん。ちょっと参考書を部屋に持ちこんだだけじゃないの」

「ほう。一体全体、何の参考にするのか聞いてみたいのだが」

「保健体育」

 

 キッパリ言う辺り思春期男児よりも性質が悪いです。

 

「そもそも何故我の部屋で読むのだ! しかもあはんうふんだのと声高々に音読しおって、貴様には羞恥心というものがないのか!?」

「羞恥心なんてあったら生きていけないのよはやてちゃん!」

 

 シャマルがこの上ないくらいマジな顔で叫びました。

 

「おいはやて。そいつらに付き合ってっと朝になっちまうぞ。そろそろ病院行く時間だし、準備はしとけ」

 

 言いながらザフィーラとシグナムをシメるヴィータでした。

 

「ううむ。病院は苦手なのだがな……そうだシャマル、貴様変身の術とかで偽装し我の代わりに行け」

「……、それはダメよヴィータちゃん。本人が出なきゃ意味ないもの」

 

 ちょっと躊躇ったのは確実に『小児科』という単語が絡んでいることでしょう。

 

「それにシャマル。変身術式は禁呪だぞ、忘れたか」

「そうだったわね」

「? そうなのか?」

 

 意外な発言にはやては小首を傾げました。

 

「ああ、主にはお話してませんでしたね。一応我々全員、変身はできなくもないのですが……」

「ですが、何なのだ?」

「以前、とある男が美女に変身してひゃっほうした後、はしゃぎすぎて疲れて寝ていたら、女性の恋人である男性が夜這いに来ましてね。そのまま情欲に駆られてキャッキャウフフからのダイナミックフュージョンというコンボを喰らい、疲労したところで変身が解けてしまい、結局やっていたのはアッー! という凄まじいオチがございましてな」

「しょうもないオチだな」

「以来、変身の術は禁術とされ、『使うことができるのは掘られる覚悟のある者だけだ』と念入りに脅されまして。我々も迂闊に手だしできないのですよ」

「古代ベルカは馬鹿かホモしかおらんのか」

 

 呆れたようにはやては嘆息しました。窓のところでザフィーラが遠い目をしているのは視界に入れないことにしました。

 

 車椅子に乗り、はやてとヴィータ、シャマルは病院へと検査のために出かけることにしました。シグナムは目を放すと三秒で迷子になるため、ザフィーラは放置していると通報される可能性があるため留守番です。

 

 自動ではなく手動の車椅子ですので、幼いはやてが動かすには少し辛い作業になります。なので誰かが押してあげる必要があるのですが、シャマルがその役を担うと後ろで荒い鼻息が聞こえてくるので近頃はいつもヴィータがはやての後ろについています。不服げな目で見つめるシャマルを完全に無視して、はやてはふと、じくりと胸が痛むのを感じました。

 

 顔をしかめ、しかし次の瞬間には痛みを嘘のように消え去っていました。

 

 なんだったのだろう。小首を傾げていると、シャマルがじっと見つめているのに気付きます。

 

「はやてちゃん……気持ちは分かるけど、幾ら凝視したところで、地平線がエベレストに突然変異することはないのよ?」

「ヴィータ。とりあえずこやつの晩飯は抜きで」

「ちょっ、はやてちゃん!? 私だけ抜きなんて、そんなっ……お願い! ヌかないでぇえぇえええええええっ!」

 

 うるさいでのヴィータがキックをかますと壁にめり込みました。

 

 

 



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第五話 一日なんてそんなんです

書いててなんだか頭痛くなってきました……
なんでこんな頭悪い小説書いてるんでしょうね自分?(今更


あ、余談ですが、オリ主タグは必要なんでしょうかねと今頃思い至りました。

なのはじゃないと言えばそうですし、そうだと言えばそう、なんじゃ、ない、かな?(誰に対して


ご意見お待ちしております。



 

 

 

 

   第5話 一日なんてそんなんです

 

 

 

 

 

 

 

 ~本日は、八神はやてさんの一日の様子をご覧ください~

 

 

 

 

 

 

 

 朝6時。

 

 いつものように早起きしたはやては、傍らで眠るヴィータを起こさぬよう、静かにベッドから降ります。

 その際寝がえりをうったヴィータが、寝言を呟きました。

 

「や、やめろ! アタシはパンの精霊じゃねぇ……!」

 

 意味が分かりませんでした。

 

 

 

 

 

 朝7時。

 

 朝食を作っていると、ザフィーラが庭でラジオ体操をしているのが見えました。

 

 上半身裸で。

 

「やっぱり幼女が一番……っ!」

 

 爽やかな汗を流しながら爽やかに叫んでいるので、とりあえずはやてはSW-M24を取り出して窓から狙い撃ちましたが、光り輝く汗が銃弾を跳ね除けました。気持ち悪いことこの上ない光景でした。

 

 

 

 

 

 朝8時。

 

 リビングで寝ていたシグナムがやってきました。どうやら良い香りにつられて起床した模様です。

 

 ちなみに眠い目をこすりながら、ライオンのぬいぐるみ片手のパジャマ姿です。なんかどこかの剣の英霊のような感じがしました。

 

「主。そろそろカロリーの摂取が必要な時間です」

「素直に腹が減ったと言えたわけ」

 

 まぁこれでもあの二人よりかはマシだな、とはやてはため息をつきました。

 

 

 

 

 

 朝9時。

 

 ヴィータが散歩してくると出かけ、シグナムが録画していたプ○キュアを見ている間、はやては本を読んで過ごします。

 

 なお、ザフィーラは先程まで部屋の片隅で筋トレをしていたのですが、

 

「フッ、フッ! 筋肉、筋肉! 筋肉が唸る、唸りを上げる! うおおおお! すげぇ唸りだッ! こいつぁ筋肉革命だ……!」

 

 と一人でハッスルしつつ汗を散らしていて非常にむさ苦しかったので窓から投げ捨てました。

 

 

 

 

 

 朝10時。

 

 黙々と本を読みふけるはやてが静かな趣味に時間を費やしていると、戻って来たヴィータが扉を開けました。

 

「おーす。はやて、何読んでんだ?」

「ああ、これだ」

 

『世界拷問器具大全 ~鋼鉄の処女は薔薇の色~』

 

 ヴィータは何も見なかったことにしました。

 

 

 

 

 

 朝11時。

 

 ザフィーラがいきなりでかけたいと真剣な顔で申し出てきました。

 

「主よ。済まぬが少々暇を頂きたい」

「構わんが、一体どこへ行くつもりだ」

「ああ。良い天気なので近所を散歩でもと思ってな」

「それは建前で本音は何だ?」

「近くの小学校に行って幼子に撫で回されて来ます」

 

 はやてはワルサーP38を引き抜きました。ザフィーラは脱兎の如く走り去って行きました。

 

 

 

 

 

 昼12時。

 

 部屋の掃除をしていると、シャマルが気だるげに起きてきました。

 

「おはようはやてちゃん。今日も良い朝ね」

「もう昼だ馬鹿者」

「違うわはやてちゃん。業界じゃ朝だろうと夜だろうといつでもおはようなのよ?」

「すまん。分からない……貴様が呼吸する理由が」

「はやてちゃん、微妙に辛辣になってきたわね私限定で……。はっ! これはひょっとして私限定の―――ツンデレッ!?」

 

 騒音公害は放置できないので発砲して黙らせました。

 

 

 

 

 

 昼1時。

 

 暇を持て余したのか、珍しく家事を手伝うと名乗り出たシャマルを渋々傍らに立たせ、昼食の片づけを行うはやて。

 

 気分がいいのか、シャマルは小さく歌いだしました。

 

「はじめて~の~チュウ~♪ キミとChu~♪」

「ぬ。キテレツか」

「捻じ込んでく~舌が~♪」

「おい」

「嫌だって言~う、け~ど僕、Oh! 抵抗、でき~なーい~よ~♪」

 

 フォークが突き刺さりました。

 

 

 

 

 

 昼2時。

 

 鬱陶しいので頭を押さえたままさめざめと泣くシャマルを買い物に行かせ、はやてはようやく一休みできました。

 

「やはり午後の一杯はブレンドに限る……」

 

 などと恰好つけて熱いコーヒーを口にしたら、苦さと熱さで口から吹きだしてしまいました。

 

 こんな姿誰にも見せられん、といそいそと床にぶちまけたコーヒーを拭いていましたが、ふと人の気配を察知したはやては、立ち上がって廊下へと続く扉を全力で開きました。

 

 赤い血がペンキのようにぶちまけられていました。殺人現場のようでした。

 

 三十分後、貧血気味のシャマルが戻って来たので、はやてはお帰りのドロップキックを叩き込みました。

 

 

 

 

 

 昼3時。

 

 はやてが洗濯物を取り込んでいた時のことでした。え? 車椅子なのにどうやってですって? 気合ですよ気合。原理なんて分かりません。

 

 怪しげな視線を察知したはやては、またシャマルか、と思い、物干しざおを投げ槍のように構えて投擲しました。

 

 ドスッ、と鈍い音を立てて茂みに突っ込みました。

 

 すると、

 

「あ、主……」

 

 満身創痍のザフィーラ(人間形態)が這いでてきました。

 頭から物干し竿を生やした状態で。

 

「ぬ、ザフィーラ! 一体どうした!? 誰の仕業だ!」

 

 自分が原因の一つであることをすっかり忘れている様子でした。

 

「や、ヤツらに襲われた……主、お逃げ下さい」

「何、ヤツらだと!? 一体何者なのだ!」

「追手が、すぐ、そこまで……ハッ!?」

 

 ザフィーラが顔を青ざめさせて、振り向きました。

 

 そこには、

 

「容疑者を発見しました。これより連行します」

「そこのお嬢さん、危ないので離れて下さい」

 

 濃紺の制服を来たおじさんたちがいました。

 

「……つかぬことを窺うが、こやつは一体何をしでかしたのだ?」

「ええ。実は近所の小学校に用務員の恰好をした見慣れぬ男が出没しているとの情報が匿名の電話で知らされまして。急行したところ、犬の耳を生やした怪しげな変態が地べたを這いずっていたので、生理的不快感を抱いた本官がエルボーをキメてしまいまして」

「間違ってない判断だから気に病むな」

「ありがとうございます。……ところでお嬢さん、この男と知り合いですか?」

 

 じっと疑るような目線を向けられ、はやては一瞬思考しました。

 一瞬だけでした。直後には爽やかな笑顔を浮かべていました。

 

「あかんわぁ、私みたいな子供と、こないな怪しい筋肉ダルマなおっちゃんと何ら接点あるはずないやないですか。いつも街の平和守ってくれるお兄さん方には感謝しとりますわ」

 

 涙を滝のように流すザフィーラを視界から外し、はやては警官の人たちに手を振りながら、ついでにザフィーラには真人間になるまで帰ってくんなくんなと思いました。

 

 なお、草葉の陰で事態を静観していたヴィータは、「はやて、すっかり立派になって……!」とかなりトンチンカンな感想を抱いておりました。

 

 

 

 

 

 昼4時。

 

 そろそろ買い物からシャマルが戻って来る頃合いだろう、と時計を眺めていたはやては、唐突に玄関のインターホンが鳴らされているのを聞きました。

 客人か、と思いつつ玄関へ向かうと、扉を開けたそこには、

 

「あ、はやてちゃん! やっと出てきてくれ、」

 

 扉を閉めました。 

 

 確かにシャマルの声が聞こえました。聞こえましたが、眼前にあったのは、成人女性が袋を幾つも抱えてブリッジしている光景でした。しかもこちらに向かって股間を向けている姿は百年の恋も音速の三倍で空の彼方へ飛翔するレベルでした。

 

 何も見なかった、と後退しようとしましたが、ピンポンピンポンと連打してきたので嫌々ながらも扉をまた開けました。勿論ブリッジしたままのシャマルしかいませんでした。あの体勢でどうやってチャイムを鳴らしたのか不思議な上に不気味です。

 

「ほう。器用なことをするなシャマル。器械体操の練習か?」

「いやね、はやてちゃん……これには深い理由があってね」

「どんなだ」

「買い物袋からお野菜がこぼれ落ちそうになったから拾おうとしてこうなっちゃったのよ」

「だからと言ってブリッジするのか分からん」

「だって後ろにこぼれたから振り返って取るよりブリッジした方が早いかなって」

 

 思考が理解不能でした。

 

 すると体重を支えている腕が限界に達したのか、次第に大きく震えてきました。

 

「う、うわ、もう、ダメッ、はやてちゃん、助けて!」

「うむ。……上に乗っかってくれようか?」

「なんでそうなるのよぉっ!?」

「後一歩が踏み出せない貴様に、勇気を分け与えてやろう」

「お願いだからもっと状況を選んでっ!」

「ふふふ、あと何秒もつかな……?」

「ストップウォッチで計ってないで助けてよぉーッ!!」

 

 わりとマジな涙声になっていたので、仕方なくはやては買い物袋を奪い取りました。

 

 安心したのか、くるりと回転して着地したシャマルは何事もなかったかのように笑いました。何もかも手遅れでした。

 

「時にシャマル。帰りが遅かったようだが、何を寄り道していたのだ?」

「え? いやねぇはやてちゃん、ちょっと遠回りしてお散歩しただけで何も買ってないわよ」

「ほほう。余は何を買ったかなどとは問うておらんのだが」

「見て、はやてちゃん。夕日が綺麗ね……」

「曇っているだろうが! 貴様また同人誌を買い込みに行きおったな!」

「そんなの買うわけないじゃない! 本当にちょっとお散歩してただけなの!」

「そうか。ならば済まなかったな―――だがそのポケットのカメラはなんだ」

「昨今地域開発で都市化が著しい海鳴市の今の情景を一枚の思い出として残しておこうかと……」

「成程。―――ならこの小学生男児ばかりが映っている写真は消しても構わんな?」

「止めてはやてちゃん! 後生だから勘弁して! どうしてそんなヒドいことするの!? 鬼! 悪魔!」

 

 はやては無言でカメラを壁に叩きつけました。

 

 あー、と四つん這いになって嘆くシャマルを完全に無視してはやては家に戻りました。

 

 

 

 

 

 夕方5時

 

 出かけていたヴィータとシグナムが帰ってきました。ようやくまともな二人が帰って来たとはやては安堵の息をつきました。

 

 夕飯の準備にとりかかるべく支度し始めると、賑やかになった背後のリビングでヴィータたちが話す声が聞こえてきます。近頃、自分に対して隠し事が増えたような気がしてならないはやては、気に留めた様子を表だって見せずとも、心の中では少々疎外感を抱いておりました。けれども、いつか話すと言ったヴィータの言を信じ、彼女らを家族のように思っている――まぁ素直に口に出すことはまずありませんが――はやては寂しさを感じながら待ち続けることにしました。

 

 けどやっぱり気になるっちゃあ気になるので、後ろで行われる会話にそっと耳を傾けました。

 

「どうだ……? 今どれだけできてる?」

「今日だけでまだ8ページほどだな」

「ちょっとゆっくりペースね……期限まで時間も少ないわ」

「かと言って、主の元を遠く離れるわけにもいくまい」

「せめてもっと素早く行えれば良いのだが……」

「効率を重視すると時間が足らないわ」

「余裕をもって本の余白を埋めねば……」

「大丈夫だ。まだ時間はあるんだ、なんとかなる」

 

 真面目に語らう彼らの横顔はシリアス百パーセントでしたが、普段の彼らを見ているとどう考えても『冬の有明(コミケ)』に向けての対談にしか見えませんでした。普段の行いが行いなだけに否定できません。

 

 はやてはまさか割と常識人なヴィータやシグナムまでもが汚染されてしまったのかとひどくショックを受け部屋に閉じこもってしまい、ヴィータが説得してもシグナムが半泣きで喚いてもシャマルがエロ本を掲げて踊ってもザフィーラがドアの隙間から覗き込もうとしても出てこず、ホントにホントにどうしましょうと慌てておりましたが、最終的にシャマルとザフィーラがタックルを敢行しようとしたところで、「あ、鍋を忘れていた」とケロッとした顔で出てきたはやてが扉を蹴り開けたので顔面を強打しました。

 

 

 

 

 

 夕方6時。

 

 遅れてしまった分を取り戻すべく協力を要請したはやての傍らで、せっせと鍋の準備を行うシャマルとヴィータ。

 

 ヴィータがふと、唐突に口を開きました。

 

「そういやさ。料理のさしすせそって、なんなんだ?」

 

 時たま誰もが思う疑問に答えたのは、意外にもシャマルでした。

 

「ヴィータちゃん、それ常識よ?」

「んだよ、じゃあオメェ全部言えんのか?」

「当然じゃない。いい? 覚えておいてね。……まず、砂糖」

「ああ」

「次に、塩」

「成程」

「そして、酢」

「おう」

「あとは、醤油」

「あ、それか」

「最後に、……その他色々よ」

「ちょっと待て」

 

 はやてが止むを得ず突っ込みました。

 

「え? なにか間違ってた?」

「やかましい! たまには真面目になるかと思えばとんでもないわ! 貴様の脳内にはまともな知識は存在せんのか!」

「やぁねぇはやてちゃん、ちょっとふざけただけじゃないの」

 

 じゃあ正解はなんなのだ、と問うと、シャマルはキッパリ答えました。

 

「砂糖醤油・醤油・酢醤油・せうゆ・ソイソース」

「どこかで聞いたようなギャグを飛ばすでないわ!」

「ささっとオリーブオイル・静かにオリーブオイル・素早くオリーブオイル・せーのでオリーブオイル・そしてオリーブオイル」

「それは速水もこ○ちのさしすせそだ!」

「先に行け、ここは俺が食いとめる!・死にたくないならここにいろ、俺は部屋に行ってるぜ!・すぐに戻る、後は頼んだ!・戦争が終わったら俺、結婚するんだ・そうか、全て分かったぞ!」

「それは死亡フラグのさしすせそだ! しかも料理関係ないだろうが!」

「先っちょだけだから!・宿題はやったけど家に忘れた・すぐ返すから金貸して!・先生は怒らないから言ってみなさい!・そろそろ本気出す!」

「信用ならんさしすせそだな!」

「さっぱり爽やか!・しっとりほろ甘!・スパイシーな悲しみ!・せつない苦み!・みそ!」

「最後だけ正解してどうするのだ!」

 

 

 この日、夕飯の時間はとても遅かったそうな。

 

 

 

 

 

 夜7時。

 

 ようやく完成したご飯をいただく五人。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 食事時はさすがに平和なようで、時々冗談を交えて談笑したり、テレビを眺めたりしながら、それぞれ充実した時間を過ごします。

 

「ぬ。ヴィータ、醤油をとってくれ」

「ああ」

 

 はやてに醤油を手渡しました。

 

「あ、シグナム、悪いんだけどよ、ソースとってくれ」

「了解した」

 

 ヴィータにソースをあげました。

 

「む。ザフィーラ、塩をとってくれまいか」

「いいだろう」

 

 シグナムに砂糖をサーブしました。

 

「すまんがシャマル、カメラを持っててくれ」

「ええ構わないわ」

 

 カメラを預けるザフィーラ。

 

「はやてちゃーん、ちょっと服をはだけてくれるー?」

「このたわけが!」

 

 フライパンが直撃しました。

 

 

 

 

 

 夜8時。

 

 夕食後。何故か全員揃ってテレビにかじりついている光景に戦慄したはやては、一体これから何が始まるのだろうと物陰からこっそり見守っていました。

 

 すると、スッとDVDをセットしたヴィータは、ソファに静かに腰かけました。

 

 やがて8時になると、

 

『8時だヨ!』

 

「「「「全員集合ーッ!」」」」

 

 古すぎました。

 

 

 

 

 

 夜9時。

 

「さて、風呂に入るか」

 

 その一言で室内に緊張が走りました。

 

「さて、一緒に入るか」

 

 ザフィーラが立ち上がりましたがはやてのアルゼンチンバックブリーガーで沈められました。

 

「さて、撮影に移るか」

 

 カメラを携え移動したシャマルをヴィータが引きとめバックドロップしました。

 

「さて、拙者は寝るか」

 

 非常にマイペースなシグナムさんでした。

 

「貴様ら……少々はっちゃけすぎだろう。もっと落ち着き払って行動できんのか」

 

 ペンギンに『空飛べよ!』と言うくらい無理な注文でした。

 

「はやてちゃん、私はね、きっと逃れられない運命の糸で操られている、世界の奴隷なのよ……」

「主、我には為すべきことを為さねばならぬ時があるのです。それが今ここにある、ただそれだけのこと……」

 

 意味深な台詞で己の行為を正当化し始めたので、はやてはシグナムに救援を求めました。

 

「おいシグナム。こやつらをなんとかせい」

「分かった! ザフィーラ、チンチンでござる!」

 

 意味が分からん、とはやては唖然としましたが、股間を押さえてキャインキャインと野太い声で泣き出すザフィーラを見てもっと唖然としました。シャマルでさえ痛ましげな目をザフィーラに向けております。なんだというのでしょう。

 

 ともあれ、ザフィーラがうるさいことこの上ないので、ため息をついたはやては窓を開けるとザフィーラをベランダへ蹴り飛ばして即座に閉めました。冬の大気が彼の頭を冷ましてくれることでしょう。

 

 なお、シャマルは最終的に洗髪中に特攻してきたので、タイルの床に石鹸を撒いておいたはやては滑走して行くシャマルを無視してヴィータと愉しげに話していました。すぐ傍で壁に激突する音がしましたがはやてとヴィータの耳には届きませんでした。

 

 

 ……後日、仁王立ちした筋肉マッチョの男がベランダで凍りついているのが目撃されたとか。

 

 

 

 

 

 夜10時。

 

 風呂上りにソファに腰かけアイスを頬張ってると、何処からかシャマルがやってきました。

 

 また何かロクでもないことをするのでは、と構えるはやてですが、シャマルははやてとは違うソファに腰かけ、手に持っていた手帳に何かを黙々と書き始めました。

 拍子抜けしたはやては安心したように肩の力を抜きますが、こちらには目もくれず一心不乱に何かを書くシャマルに関心を抱いたのか、そっと席を立つと、シャマルの後ろ側へと回ります。車椅子で移動するとバレでしまうので、物陰をほふく前進しながら移動しました。

 

 シャマルは夢中になっているのか、気づく様子はありません。

 

 腕の力でソファにしがみつき、上半身を引き上げました。

 

 息を殺しながら位置を調節し、後ろから覗き込みます。

 

 すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ンァッ…余のバベルを見るでないっ」

 はやてはいやいやと頭を振りながら手で顔を覆った。

 ところがギッチョン、ヴィータは血糖値全開とばかりに鼻血ブーになりつつもズボンを脱がしにかかった。チャックを下ろし、手際良くズボンを剥ぎ取れば、Oh!Welcome your エクスカリバー……!

「パンツがとってもウェット&メッシーだぜ」

 パンツの布越しに上からはやてのコンコルドを撫でながらヴィータはいたずらっぽく笑う。

「ンン…アッ、勝手に触、るなっ……」

「何言ってんだ……ほら、とっても綺麗なアロンダイトじゃねぇか……」

「そ、そうか……?」

「ああ。―――心配すんな。言っただろ? アタシのアイゼンは伊達じゃないってな」

「連れてってくれるのか、余とお前の全て遠き理想郷へ(アヴァロン)へ……」

「アタシはいつだってクライマックスだぜ」

 そっと熱いベーゼをかますと、ファイナルフュージョン三秒前。

 三、二、一……ドッキングライザー!

「ひと思いにヤレ―――ッ!」

「ふぉおおおおおお! モーレツッ!!!」

 

 

 

 

 

 色んな意味で頭痛がしました。

 

「……………………………………」

 

 理解が及ばず思考停止しかけたはやては、とりあえず無言で水をぶっかけました。

 

「きゃああああ!? 何するのよはやてちゃん! ワケが分からないわ!」

「余の方が分からんわ……貴様が人間である理由が」

「私は一応人間ですぅーっ! もー折角いいネタが浮かんだと思ったのにぃー」

 

 プンスカ怒っているシャマルがなんとなく癇に障ったので、ヴィータを呼んであるがままを話したところ、アイゼンを振り回して突撃する少女が廊下を突っ走っていきました。

 

 

 

 

 

 夜12時。

 

 そろそろ寝ようと思い、はやては部屋のベッドに腰かけ、今日一日を振り返っていました。

 

 いつも通りの騒がしい一日。ヴィータら四人と出会ってからは、騒ぎの絶えない毎日を送っていました。彼女たちと出会ってから今日までのこの時間は、ずっと一人で生きていたはやてにとって、気苦労の絶えない日常でもあり、同時に賑やかで楽しい雰囲気が溢れる一時でもありました。

 常識人のヴィータ、無邪気なシグナム、筋肉のザフィーラ、奇人のシャマル。個性溢れる彼らとの出会いは突然で、けれども彼らとの出会いは間違いなく、変化のない無色の世界を、面白おかしく色づけてくれました。

 

 こんな騒がしい日々がずっと続いて欲しい。口では言わずとも、はやては心底そう願っていました。朝起きてから寝るまで一人きりで過ごすよりも、誰かと共に料理を作り、帰りを待ちながら、話すことを考える時間のほうが、ずっとずっと、幸せなのですから。

 不自由はあっても、不満などありませんでした。

 

 だから、はやては願わずにはいられません。

 

 もっと、もうちょっとだけ、この楽しい人生を満喫させて欲しい。

 どこにいるのか分からないけれど、神様という存在がいるならば、手を合わせて祈ります。

 五人で過ごす毎日を、奪わないで下さい。

 

 明日もまた、賑やかな一日を送れますようにと祈りながら、はやては目を閉ざそうとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャマルテメェかぁああああああッ! 洗濯カゴからはやての下着持ちだしたのは!」

「誤解よヴィータちゃん! 今回私は何もしてないわよ! やったのはザフィーラです!」

「何だと!? シャマル貴様裏切りおったな! 即刻そこに直れ! 成敗してくれる!」

「オマエもなぁあああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 でもやっぱもうちょっとまともに……は無理なので、できるだけ静かにして欲しいと思うはやてでした。

 

 

 




あ、シャマルの手帳は私も何言ってるかちっとも分かりません。ええ。誰があんな意味不明な文章書けるんですかね。ええ。



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第六話 過去なんて適当なんです

よぅしレポートも終わったしあとはテストだけだうははーとか言ってたら二週間くらい放置してました申し訳ありません。

最近PCで絵やり始めたんでまた更新頻度が……。


まぁそんなどうでもいい話はさておき。

なんだか久々で頭の悪いノリが思い出せないまま第六話どうぞ。



 

 

 

 ある日のこと。

 

 

 なのはは大分疲れた顔をして、廊下をふらふらと歩いていました。まるで幽霊のような足取りに、すれ違う者は八つ当たりを危惧してイソギンチャクのように壁に張り付いてやり過ごします。

 

 

 なんでフラついているのかというと、なのはの持っている小さな袋が原因でした。

 

 

 可愛らしいピンクのリボンで閉じられた、手のひらサイズのもの。小刻みに揺れればがさりと擦れる音がして、ふと鼻腔を撫でる香ばしい匂いは、小腹のすいた者の食欲を煽ります。

 

 

 焼いたばかりのクッキーでした―――

 

 

 

 

 

 

 ―――ただし、フェイトが作った。

 

 

 

 

 

 

 さしものなのはも、これの処理にはほとほと困っておりました。フェイトが悪意をもって製作したならば、その場でバックドロップでもキメて頭の髄から反省させてくれようかと真剣に考えていたのですが、

 

 

『頑張って作ったんだっ! ……よ、よかったら、もらってくれない、かな……?』

 

 

 と若干潤んだ涙目で言われてはクイーンオブ外道のなのはも閉口せざるを得ません。

 

 

 これを口にして胃腸の耐久力を下げるか、それともこのままダストシュートすべきか……一年に一回あるかないかといった具合でマジ悩みしたまま歩いていると、近くの部屋から賑やかな声が聞こえてきました。

 

 

 気になったなのはは、なんとはなしに足を向けました。

 

 

 扉が開くと、ユーノとアルフ、エイミィが何かを話していました。

 

 

「わぁ、ユーノひどい!」

「え、別にそうでもないじゃないか」

「あ、なのはちゃん」

「なのは~! 聞いてよ、ユーノの奴がひどいんだよー!」

 

 

 

 

 

 

「まったくだね! 今来たばっかりで何を言ってるかちっとも分からんが、ユーノ君が悪い! 罰を与えよう! ちょっと口を開いてみたまえ!」

 

 

 

 

 

 

 あー、と口を開けて上を向くユーノ。

 

 

 躊躇うこと無く手にしていた袋の中身を注ぎ込むなのは。

 

 

「ふむふむ。……あ、結構美味しい気ががががが」

 

 

 言い終える前にバイブレーションし始めたユーノに誰もが戦慄しました。なのは以外は。

 

 

 しまいには泡を吹いて卒倒するユーノをじっと無感動な目で眺めていたなのはは、うむ、と頷き、ややあってから、くるりと振り向きました。

 

 

「ときにアルフ君。君、虫歯があるね?」

「え? 本当かい?」

「うむ。右奥のところなのだが」

「どこ?」

「うむ。そこの、そう。それだ。そのまま身体の力を抜いて」

 

 

 ポイッ、とクッキーを投げ入れました。

 

 

 あ、とフリーズしたアルフは一瞬顔を強張らせ、少しの間首を傾げていましたが、ややあってから顔を強張らせ、真っ青にし、最終的には無言で倒れました。

 

 

 状況が読めないエイミィは、なのはの持つクッキーから漂ってくる異様なオーラにガタガタ震えながら、なのはの一挙手一投足を見つめていました。

 

 

 ゆっくりと振り返ったなのはは、無表情に問いかけました。

 

 

 

 

 

「一緒にいかが?」

 

 

 

 

 

「勘弁して下さい」

 

 

 クロノ君の気持ちが分かるなぁ。なんて思ってしまったエイミィでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編第六話 過去なんて適当なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の書、という存在を、なのはは初めて耳にしました。

 

 

 場所はなのはの家からそう遠くないマンションの一室。リンディが臨時作戦本部として設けた拠点でした。

 

 

 新居特有の清潔感あふれるフロア。しかも4LDK。どっかの誰かさんが出撃する度に物を大量破壊するため修繕費がかさんでしょうがないアースラの一体どっからそんな金が沸いて出たのでしょうね。

 

 

 リビングに座っているのは、学校帰りのなのは達と、珍しくシリアスな顔をしているクロノとリンディが目の前にいます。話がある、と連れてこられたなのは組とフェイト組は、座って話に耳を傾けていました。

 

 

 アルフとユーノが既に人生の瀬戸際みたいな表情ですが、なのはに視線を向けると方を竦めて首を振りました。我関せずの姿勢を押し通すなのはにクロノが訝しげな眼を向けています。

 

 

「闇の書……なんだか聞くからに不吉な名前だねぇ」

「ええ。アルフさんの予想は正しいわ。過去数度、幾多の次元世界を未曾有の危機に陥れた、ロストロギアの一つでもあるわ」

 

 

 ロストロギア、という単語に、一同は反応しました。

 

 

 なのはは眉を少し動かし、ユーノは明らかに動揺し、アルフは腕を組んで、フェイトは『なんだっけそれ?』とばかりに首を傾げました。ジュエルシードも同じ類のものだなんて夢にも思ってないでしょうねこの子。

 

 

「クロノが子供の頃にも、一度それ関係で事件が起きたし、ね……」

「ああ、忘れようにも忘れられねぇな……。あれは確か、ええと、夏の日差しが眩しい、雪の降った日だったか」

「そこの馬鹿は無視して聞くがどういう状況だったのかね?」

 

 

 クロノが半目を向けていますがなのははどこ吹く風みたいな感じでスルーしました。

 

 

 

 ……闇の書の暴走、それによる艦のコントロール消失。

 

 ……それに搭乗していたリンディとその夫、クライド。

 

 ……わが身を犠牲にクライドは単身船に残り、闇の書の隔離を試みる。

 

 ……涙を流しながら引き留めようとするリンディに、笑いかけるクライド。

 

 

 

『リンディ、このままじゃ俺ら全員やられちまう……! こいつは俺にまかせて、お前は先に行け!』

『いやよ! 貴方だけ置いて行くなんて!』

『大丈夫さ……なんてったって俺は、幸運の女神様に愛された男だからな!』

『クライド……』

『心配すんな、クロノが待ってんだ! あいつ、もうすぐ誕生日だからな……盛大に祝ってやらねぇと』

『……ちゃんと帰って来るのよ? 戻らなかったら、許さないんだからね!』

『ああ、任せておけ!』

 

 

 

「―――なんてことがあったのよ。ふふ、あの人ってなかなかスゴいところあるでしょう?」

「ああ、すごいな……」

 

 

 何がすごいかって、たった十数秒の会話の中で死亡フラグを幾つもブッ立ててることでしょう。

 

 

 そらあんだけ堂々叫べば一つは当たるでしょうよ。

 

 

「その頃からだったかしら。クロノが執務官になるって言い出したのは」

「そうだったな。俺は誓ったんだ……冷たい雨が降る中で、この悔しさをバネに強くなってやるぜって、星空を眺めながらな」

「あえてストレートに言わせてもらうがぶっちゃけ貴様何も覚えておらんだろう」

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 闇の書に関する情報を聞き、ふむ、となのはは小さく頷きました。

 

 

「成程。闇の書とやらの危険度については粗方理解が及んだ。結局のところ、我々ができるのは、以前出会った三人組……守護騎士とやらをぶち殺――とっ捕まえ――ぶち殺がして主とやらを跪かせることだろうか」

「どっからどう突っ込めばいいのか分からないけれど、とりあえず概ねあってるわ」

 

 

 あってるのかよ、とクロノが驚異的な物を見る目を母に向けました。

 

 

 突っ込みが足りない。ユーノは発言しようとしましたが最近存在感よりも胃の健康と身体の安全が第一なのではと考えてきているので黙っておきました。

 

 

「蒐集行為が依然行われている現状、守護騎士たちと遭遇する機会は少なくないでしょうね。活動範囲はこちらが警戒を強めれば強めるほど狭まっていくし」

「じゃあ、暫くは様子見しかできないの?」

「残念だけど、主の所在も不明。となると、こちらは守護騎士の動向から活動パターンを予測するしかないの」

「後手に回るしかないのかね」

「向こうの出方を窺いつつ待機、としか言えないわ」

 

 

 ううむ、と唸り声一つ。

 

 

 デバイスがないうえに相手の所在も不確かである以上、何もできません。以前のフェイトの時みたいにストーカーして居場所を突き止めるという離れ業をやってのければ話は違いますが、生憎守護騎士らはなのはの住居から大分離れたところに住んでいますので、次元管理局がプライベートなどなんのそのという変態っぷりを発揮して街の隅から隅まで徹底的に調べ上げない限り発見できないでしょう。

 

 

 結局、主とやらを見つけ出すには、守護騎士をストーキングするか、守護騎士を全力でボコるかの二択しかないようでした。どっちも絵面としては最悪なものとなること請け合いです。

 

 

「心配しなくても、なのはちゃん達の出番はもうすぐよ。頼りにしてるわ」

「私は争いは嫌いなのだが……」

「なのは。そんな爽やかな笑顔浮かべながら言わないで」

 

 

 以前撃墜されたときのことをまだ根に持っているようです。

 

 

「まぁよかろう。そもデバイスのない現状、私やフェイトのできることは自然と限られる。今のうちにやれることをするだけだ」

「おいおい、訓練くらいしかやることねぇ人間の台詞じゃねぇぞ」

「愚問だな。人間、為すべきことなど星の数ほどあるだろうに」

「例えば?」

 

 

 なのはは黙ってユーノを見ました。

 

 

 鳥肌を立てたユーノは残像ができる勢いで物陰へ飛びこみました。

 

 

「ね?」

「ね? じゃねぇよ」

 

 

 溜息をつくクロノですが、多少なりとも心配しておりました。

 

 

 何にって? そりゃ決まってますよ。

 

 

 ―――なのはのストレス発散のために守護騎士らが餌食にならないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 

 なのはとフェイトのデバイス修復を一任されたメカニックマイスター、マリエル・アテンザは、浮かびあがる立体画面と睨めっこしていました。

 

 

「うーん……」

 

 

 未だ二十程度の少女に開発室を引き受けるほど優秀な技術屋である彼女ですが、今回ばかりはため息が絶えず、腕を組みながら考え込む時間が多くなっておりました。

 

 

 既にレイジングハートとバルディッシュの修繕はほぼ完了しております。

 ならば何故困惑気味なのか、と問われれば、彼女の眼前に浮かぶ画面に問題がありました。

 

 

「うーん…………」

 

 

 幾度パネルを弄ってもエラーが表示され、首を傾げております。

 

 

 原因は判明していました。彼らはある要求を強く主張しておりました。デバイスの改造案です。

 提示してきた部品名、それがカートリッジシステムの搭載に必要不可欠なものだと知ると、マリエルはますます困った風に頭を掻きます。

 

 

 危険は承知でも、より強力な力を得るためには手段を選ばない。そういうことでしょうか。

 

 

 が、改造案について否定するつもりはありません。元々、なのはやフェイトの希望もありましたので、デバイス自身が望むのは些か予想外ではありましたが、用意は整っていたのです。

 

 

 ではなんでそんなに悩んでんのと問われれば、答えは簡単でした。

 

 

「うーん……………………、ダメだ。『斬新なアイデアに期待する』って言われても分かんないよー」

 

 

 悩んだ末、さじを投げました。

 

 

 折角改造するんだから無骨な外見も一新しようぜ! というのがなのは達の希望、もとい、要求でした。

 余談ですがこの無茶振りのせいで無駄にデバイス改造に時間を要しているのは言うまでも無い話でした。

 

 

 フェイトはちっとも具体的ではない案を口にするだけですし、なのははいい加減にも「パス」の一言で済ませる始末。たまには泣いていいんじゃないかと思いますよ。

 

 ですが一度任されてしまった以上、途中で投げるわけにもいかず、マリエルは必死に考えていました。こういう生真面目な職人気質が足を引っ張っていることに気づくには色々な物が足りてません。常識とか常識とか。 

 

 

 ちなみにバルディッシュ本人が提示した文章(要求)は↓こんな具合でした。

 

 

 

『―――I am the bone of my sword.  

 

 ―――Steel is my body,and fire is my blood.  

 

 ―――I have created over a thousand blades.  

 

 ―――Unknown to Death. 

 

 ―――Nor known to Life. 

 

 ―――Have withstood pain to create many weapons.  

 

 ―――Yet,those hands will never hold anything.  

 

 ―――So as I pray,unlimited blade works.         』

 

 

 

 あまりに厨二臭い文章なのは主人の悪影響を受けまくっているせいですが、マリエルには知る由もありません。

 

 

 ちなみにマリエルが頑張って翻訳したら↓こんな感じになりました。

 

 

 

『 私は剣の骨です。

 

 鋼は私の体です。また、火は私の血液です。

 

 私は1000枚以上の葉を作成しました。

 

 死ぬほど未知です。

 

 および、ライフに知られていました。

 

 多くの武器を作成するために苦痛に耐えました。

 

 しかし、それらの手は何も保持しないでしょう。

 

 私はそのように祈りますが、無制限の葉は作動します。』

 

 

 

 エキサイト翻訳では一生答えに辿り着けないでしょう。

 

 

 しかしバルディッシュはさておき、問題はレイジングハートの方でした。

 

 

「こっちはこっちで、面倒な要求してくるなぁ……」

 

 

 バルディッシュの意味不明な文章よりも遥かに簡単かつ簡潔で、しかしそれでいて、非常に難しい注文でした。

 

 

 マリエルは頭を掻きつつ、どうするべきか指示を仰ぐために、開発ルームから出ていきました。

 

 

 残された部屋には、再生を待ち続けるデバイス二つと、画面に表示された、たった一つの単語。

 そこにはこう書かれてありました。

 

 

 ―――Precia、と。

 

 

 

 

 

      ●   ●   ●

 

 

 

 

 

 ある日の晩、はやては不思議な夢を見ました。

 

 

 不思議な感覚でした。霞がかっている意識と不完全な五感から、夢だということは分かるのに、どこか現実味を帯びた未知の感覚に、はやては少しばかり不安を抱きました。

 

 

 が、

 

 

「なんだこのファンタジーは……」

 

 

 実に冷ややかな目で周囲の光景を見渡しています。

 

 

 夢の割にはなんで車椅子あるねん、なんて思いました。夢の間くらい自由にさせてよと思うあたり複雑なお年頃ということで。

 

 

 ふと、目線を前へ向けました。

 

 

 遥か前方に、誰かがいました。

 

 

「あれは……」

 

 

 一気に意識が覚醒しました。

 

 

 そこには、見覚えのあるような、不思議な女性がいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー……面倒くさい」

 

 

 白髪の女性は寝そべりながら大きく嘆息しました。

 

 

 床に置いた柿ピーの袋に手を突っ込み、一握り分だけ口に運びます。

 

 

 どこに電源が繋がっているやら、暖かそうな炬燵に下半身を突っ込み、テレビを見ながら退屈そうにしていました。

 

 

「そういえば、今日は燃えるゴミの日か。後で出さないと大家さんに怒られちゃうなぁ……」

 

 

 気だるげに嘆息し、虚空を眺めてから、ふと思い出したかのように言いました。

 

 

「そうだ、今日ツ●ヤはレンタル半額デーだ早く行こ―――」

「何しとんじゃ貴様ぁああああああああッ!!!」

 

 

 スルドいチョップが女性の脳天に直撃しました。

 

 

 地味な痛覚を抱いた女性は「はぅあっ!?」と謎の奇声を上げて転げ回りました。

 

 

「な、何をするのですか! 私が至福の時を過ごしていたというのに!」

「言葉の節々から生活臭が滲み出ておるわ! というか人の夢に出てきて何をしておる!」

 

 

 プンスカ怒りながらはやては言いました。夢に希望など見出してはおりませんが、なんだか台無しな感じがして腹を立てております。

 

 

 そんなはやてを少しの間見、女性は頭が冷静になったらしく、その顔に驚きを浮かべ、ややあってから喜びに染まりました。

 

 

「おお、主はやて! こうしてお話できる日を一日千秋の思いで待っておりました……!」

「今更取り繕っても遅いぞ」

 

 

 はやては冷ややかな目で見ますが女性は口笛を吹いて首を振っております。

 

 

 しかし、この見目麗しくも台無し感大爆発の女性、どこかで見たような……。はやては唸りながら思いだそうと試みますが、まったくちっとも見当がつきません。こんな知り合いがいたら過去の自分の頭を疑いたくなりますよね。

 

 

 あんた誰、とはやてが問うと、女性はちょっと勿体ぶったような口調で、

 

 

「えっとぉ、私の名前は、闇の書ぉ↑? も何かチョー覚えとけって感じィみたいなブクロ長」

 

 

 言い終える前にはやては12ゲージドラゴンブレスをぶっ放しました。

 

 

 容赦なく辺りに突き刺さる金属の破片をひぃひぃ言いながら避ける女性。

 

 

「ちょっ、主! どっからそんな物騒な代物出したのですか!?」

「人間やろうと思えば何でもできるものだ」

 

 

 否定しようにも実際なんでもできちゃう奴が約一名他に存在するので否定し切れません。

 

 

「覚えてませんか? 私は幼少の頃より、貴女を見守っておりましたのに……」

「ほう、貴様ニートまがいの生活をしている癖に年単位でストーカーをやっていたのか。最悪だな」

「なんでしょう、ほぼ同じ台詞のはずなのにこの温度差は一体……」

 

 

 そりゃ第一印象が最悪だったからです。

 

 

 と、はやては唐突に、意識が揺らぐのを感じました。そろそろ目が覚めるのでしょう、身体がどんどん軽くなり、浮き上がって行くような感覚でした。

 

 

「チッ、命拾いしたな……」

 

 

 唾棄しながら言うので女性は真剣にしょげました。

 

 が、すぐに立ち直りますと、はやえの前に立ちました。

 

 

「主……もっと色々とお話したいことはございますが、目が覚めた時にはほとんど忘れてしまっていることでしょう。ですけど、これだけは覚えておいてください……」

 

 

 いきなり真面目な空気を作って悲しげに眉を伏せる女性の相貌に、はやてはきょとんとした顔を向けます。

 

 

 一体何を言い出すのだろう、と思いつつ、何も言わずに女性の発言に耳を傾けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃えないゴミ捨て忘れちゃったんでそこんとこ頼みます」

「知るか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叫ぶと同時、はやては目を覚ましました。

 

 

 朝日が差し込んでいます。いつもより少々早めの起床でした。

 

 

 乱れた息を整えながら、あれはなんだったんだ、とまるで嫌な物体を目撃したような沈鬱な顔で悩みます。

 

 

 嫌にリアルな夢だったな……さっさと忘れようと固く決心し、額の汗を拭おうとして―――目の先数センチのところでカメラ片手にフリーズするシャマルと目が合いました。

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 シャマルはカメラを下げつつ表情を強張らせております。

 はやてはベッド脇に置いてあるP232を取ろうとしております。

 

 

 無表情のはやてにシャマルは危機感を抱いたのか、あー、と前置きを入れてから、言いました。

 

 

「えっとね、はやてちゃん。これには理由があるのよ」

「ほう。何だ、愚鈍な貴様の聞くに堪えない言い訳を申しみよ」

「今日の目標は『不思議なことをカメラに収める』だったの」

「成程。ならば自分をアホ面を写真に撮れば即完遂ではないのか?」

「あ、あはは。イヤね~はやてちゃんたら冗談が上手いこと……」

「ああ。―――で、もう良いか?」

 

 

 シャマルは考えました。いかん、咄嗟のことで何も浮かばない。このままだと自分のニューキャメラの初仕事が己の惨殺死体撮影となってしまう……割とどうでもいいことを危惧したシャマルは、空転する思考回路をフル動員して、やがて一つの結論に至りました。

 

 

 何事も素直が一番。

 

 

 うん、と頷いたシャマルは、両手をうねらせながら叫びました。

 

 

「人体の不思議を激写肢体……!」

 

 

 直後、銃声が轟いたのを合図に、いつもの八神家の一日がスタートしました。

 

 

 

 




多分年内にもう一回更新できたら来年は良い年になるんじゃないかな……(震え声


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外伝1

ホントは続くはずだった普通の転生モノ。


これがプロトタイプと言っても過言ではないかもしれない……

ついでに一応本編と関係ある……かもしれない。



 

 

 

 

 

 目覚めると、少年は知らない空間で横たわっていました。

 

「……夢か」

 

 あっさり結論を出すとそのまま寝転がって寝始めました。素でそう言っていました。

 

「おーい、そこな少年。ワシの声が聞こえとるかー?」

 

 声が聞こえました。老人のものと思しき声でした。

 

 不愉快なので知らんぷりしていると、焦りを帯びたものが今一度。

 

「もしもーし、ちょっとおじさんのお話聞いてはくれんかなぁ? このまま無視されると話が一向に進まんのでな」

 

 少年は渋々顔を向けます。

 すると、今まで誰もいなかったはずの空間に、白い法衣のようなものを纏った眼鏡の老人が、嬉しそうな笑みを浮かべて立っていました。

 

 少年は瞬きしました。そして目線を合わせました。合わせただけでした。それきり興味を失ったかのように明後日の方向を見てまた寝始めました。

 

「おいっ! おいっ! ちょっとそこな少年、ワシとトーク! レッツパーリー!」

 

 支離滅裂なことをわめきながら暴れ始めたので、少年は止むを得ず起き上がりました。

 

「何だ貴様、さっきから騒音公害しおって。害虫駆除と称した八つ当たりで末梢するぞ社会的に」

「か、神に対してその口のきき方はどうかと思うぞっ!?」

 

 神……髪……紙……神?

 

「ほう。つまり貴様が神様というやつかね」

「……あ、あっさり信じるなぁ。君、ちょっとは疑ったりせんのか?」

「自分から言い出しておいてその言い草、主体性というものがないのかこのジジイは」

「あらやだこの子ったら反抗的……!」

 

 身体をスネークして身悶えしているのを少年は普通に無視しました。

 

「しかし神とお会いできるとは、なかなか得難い経験だね?」

「そうでな。君がこうして神と謁見することが叶うのはワシのお陰だぞ」

「そうか。ははは」

「ふははははは!」

 

 何がおかしいのか、少しの間笑いあっていましたが、唐突に少年は尋ねました。

 

「ところで神よ。一つ言うべきことがある」

「何かな? 言ってごらん」

 

 促すと、少年は、ああ、と頷いてから、言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この私と勝負じゃぁああぁぁあああああッ! 勝ったら私が今から神じゃァアァアァァアアアアアアアッ!!!」

「ええぇぇぇえええええええぇええええええええ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 

 全身から煙を出して横たわる少年がいました。

 

「ワシ、長年多くの人間を見てきたが、いきなり喧嘩ふっかけてくる奴見るの初めてじゃよ……」

 

 何故か神も疲れたように肩で息をしています。どんだけヘボいんでしょうか。

 

「まぁこのまま放置しとくと本格的にどうしようもないでな。そら、回復だ」

 

 光が降り注ぐと、少年の身体は全快しました。ご都合主義でした。

 

「ほう。これはまた便利なモノだね」

「傷を癒やす程度なら別に人間でも力があれば可能でな」

「つまり私が神になればもっとスゴいことになると……ゴクリ」

「あーこれこれ。話がどんどん逸れるから構えるのはやめい」

 

 閑話休題。

 

「して。何故私がこのような場所に招かれたのか理由を聞きたいものだが」

「あまり声を大きくして言えんのだが、少々問題が起きて、君に迷惑をかけてしまってなぁ。君の願いを一つ叶えてやろうと思った次第でな」

「何と。ならば願いを叶える権利を百回分寄こせ、さぁ! さぁ!」

「いや、そういうのはちょっと……」

「何かね、なんでもとほざきながらその体たらくは。貴様さては詐欺師だな? ん? イッツオールフィクションかね? はい皆さん! ここに詐欺師がいますよー! 怪しいジジイの詐欺師がいますのよー!」

「君、死んでも一瞬一秒さえ満喫しとるなぁ……」

 

 今、聞き逃せない言葉がありました。

 

「ふむ、私は死んでいるのかね?」

「うむ。一応そういう事情でな」

「何故? 私が記憶している限り、意識を失う直前まで健康体だったし、危険な場所をうろついていた覚えはないのだが」

 

 神は言いづらそうに躊躇って、ややあってから、語り始めました。

 

「君はバタフライ効果というものを知っておるかな?」

「地球の裏側で蝶が羽ばたくと竜巻が生じるという諸説のことか? あれはデマの類かと思っていたが」

「そう、それじゃな。時に君は世界が幾つも隣接した存在しているというのをご存知かな?」

「……並行世界や異世界という与太話のことを指しているのか」

「事実なんじゃよ。君の住む星、地球が存在する世界と同様、高度な知能を持つ知的生命体が文明を築く星が存在する世界が存在している。それらは基本的に世界の壁を越えて干渉することはまず無いが、稀に高度な技術を生み出した挙句、世界の壁を越えた先にまで影響を及ぼす力を解放する場合がある」

 

 大抵、星が耐え切れず滅亡するがの。神はそう呟きました。

 

「……我々の世界で言う、核兵器のようなものか」

「もっと性質が悪いものと考えてもらって結構。そして、異世界に悪影響が及ぶと、例えば星の環境が劣悪化したり、突如本来存在しない惑星が出現したりと、様々な現象を引き起こすわけでな」

 

 それが神の言うところのバタフライ効果でした。

 なんとなく話が読めてきた少年は、神に問いました。

 

「私の星も、異世界とやらのせいで何かが起きたと?」

「そうじゃな。本来そうなる前に我々が抑止力となり人間たちの世界の安全を確保すべきなんじゃけど、今回のケースは特別でな。いきなり発生したがために対応が遅れ、君のように何ら言及される点も無い無辜の民が犠牲になってしまった。神を代表し、お詫びの意思を伝えたい」

「成程。……つまりこういうことかね? 私は見知らぬ人間の愚行のとばっちりを受けたと」

「そういうことになるでな」

「そうか。ははは」

「うん。ふははは」

 

 楽しげに笑い合う二人。

 

 

 

「やはり貴様を殺し神になるしかない……!」

「どうやったらそんな結論に辿り着くんかい!?」

 

 

 

 三十分後。

 

「で。結局私はどうなる?」

「うーん……既に君は地球だと死者だし、生き返ったら確実に騒ぎに発展するでな。ここはひとつ、他の世界に行ってもらいたいのが本音かな」

「その辺の情報操作など神ならば余裕だろう」

「スマンが一度確定した情報はそう容易く変更できんのでなぁ」

「ふむ、つまり無理か。ならば無理を問うたな。死ね役立たず、と言っていいだろうか」

「ワシ一応罪悪感抱いておるんで頼むからそう罵倒せんでくれんかなぁ……」

「貴様の謝罪一つで高貴な私の心を動かせるとでも?」

 

 どこまでも偉そうな少年に神は呆れました。

 

「……というわけで、他の世界に行ってもらいたい」

「ははは、これまた自分勝手だね。見知らぬ世界に放り込まれて生きていけるとでも? 私なら余裕だが」

「自己完結しとるぞ君」

「しかし貴様の不手際でこちらが迷惑を被っているのだ。何かあるのだろう?」

「だから最初に言ったでな? 君の望む願いを叶えてみせようと」

「だから最初に言っただろう? ドラゴンボール百回分寄こせと」

「そんなの無理に決まっとるでな」

「所詮神などこの程度か……ペッ」

 

 唾を吐き捨てると神は床に女座りして泣き始めました。少年は無視しました。

 

「ではこうしよう。貴様の提案通り、他の世界に行ってやろう。ただし条件が一つある」

「何かな? 先程のような無茶でない限りはなんでも叶えてやりたいが」

「何、簡単なことだよ。……その場に応じた時に限り、必要な力を引き出せる力を寄こせ」

「それ、言い方を変えただけでさっきとそこまで変わらんと思うが……」

 

 まぁいいか、と思考放棄したのか、神はえい、と指先を突き付けると、少年の身体に光が降り注ぎます。

 

「これで君の望んだ結果となったぞ。家が欲しいと思うなら定住できる結果を引き寄せられるし、強い力を欲するなら比較的短い工程で手に入れられる」

「なかなかセコい力だな」

「それくらいはまぁ、サービスということで」

 

 成程、と少年は頷きました。

 

 神に向き直ります。お礼でも言ってくれるのかな、と思っていた神は、直後、少年の叫びを聞きました。

 

 

 

 

 

「さぁ我が新たな力よ。神を倒し私が新世界の神となる力を授けたまえ……!」

「ハイもう予想通り―――ッ!!」

 

 

 

 

 

 こうして、少年は異世界に旅立って行きました。

 怪我だらけの状態で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※あくまでおまけなのでやるはずだった話の展開を簡単に。

 

 

 

●外伝第1話

 

 

 地面に降り立つ。ここはどこかと自問すると、地名がすぐ浮かんだ。これぞまさに都合のよい能力か、とびっくりするほどフリーダムな非常識スキルに驚いた。二秒で落ち着いた。環境適応力は随一だった。

 青木ヶ原樹海だった。今度あったらあのヒヒ爺いめしこたま殴りこんでくれようと固く決意。ひとまず人気の多い場所へと移動する。

 

 転生というより転移に近いと判断。近くに流れていた川を覗き込んで自分の身体が己のものと分かると安堵する。

 

 水がきれいだなー、なんて思っていたら、後ろから「早まるんじゃない!」と怒鳴りながら特攻してくる男。誰やねんな、と驚くのも束の間、光速の縮地で接近した男にタックルされる。川へドッポンする男二人。何がしたかったんだ。

 

 入水自殺かと思ったと土下座する青年。場所が場所だけに仕方ないことだと笑って許す……なんて思ったら大間違い。足を掴んで地獄車、そしてブン投げる。三回くらい水面を跳ねて沈んでいく男を無視してその場を後にする。

 

 いかん人里まで案内させれば良かったか、と日が傾きかけてから後悔する。三秒で立ち直る。アマゾンじゃねぇんだから車くらい道通るだろー、と珍しく鼻歌を歌いながらスキップする馬鹿。トラックに轢かれる。林の中をパチンコよろしく吹き飛ぶ。そのまま木をキックしてUターン、武空術使って帰還する。トラック野郎の兄ちゃんの胸倉掴んでテメェ慰謝料払えよコラと言外に脅す。どっちが被害者か分からない構図に遠くで見ていた神が呆れた。

 

 ひとまず近くの町に、というか病院に運ばれる。これはアレか、頭を調べてもらえよという遠まわしな挑発行為なのかと思うも、さすがに撥ね飛ばしてピンシャンしている子供などおらんという常識的思考に基づく行動だったらしい。

 

 ひとまず診察を受ける。保険証ねぇ。というか多分戸籍もない。どないせいっちゅーんですか……と若干鬱になってると、車椅子に乗る女の子発見。若いのに大変だねとジジ臭い感想を抱いていると、段差に引っ掛かって困惑する少女の姿を捉える。これだからバリアフリーの行き届かない片田舎の病院は、などと愚痴をこぼしつつ助けてあげる。「おおきになぁ」と聞き慣れない方言に目を丸くする馬鹿。珍しいねと思わず口にすると、見た目が同年代な子供なせいか親しげに話しかけてくる少女。10分らい話しこんだところで主治医らしき女性に呼ばれる。お互いに名前を聞いて別れを告げた。転移後三時間でフラグを立てる。

 

 しかし家が無いぞ困ったなと途方に暮れていると、よく考えたら都合のよい能力とやらで空き家横取りして居座れるのでは、いやそれどころか高級マンション最上階を乗っ取ってフハハ見ろ人がゴミのようだ展開も可能……! と頭が良いようで馬鹿でも考え付くことをダラダラ考えていると、『助けて……!』というソウルフルなシャウトが聞こえてくる。無視した。そしたら『助けて……ッ!』と更に悲痛そうな声がした。うるせーバカヤロー的なニュアンスで怒鳴ったら向こう困惑。魔導師とか才能とかヘルプミーとか色々呟いていた。うるさいので念話を切った。無意識のうちに魔法を使用して管理局に後々目をつけられることに気づかない馬鹿そのまま公園の傍を通過。

 

 なんかバリアっぽいのがあるなーと横目に流す。ひとまず衣食住を確保するよりまず街の概要を知らなければと真面目な思考をする。考える。理解した。一瞬で解決。超絶便利な我儘スキルにご満悦な馬鹿。

 

 人気の無いところがいいなと考えた結果、川の橋の下に居を構える。川の水で服を洗濯してたら近所の悪ガキにズボンを奪取される。てめぇファイナルフラッシュ叩き込むぞオラァとなりかけるも、大人げないと我慢我慢。でもムカついたのは事実なので武装解除魔法ぶちかましてマッパにして帰した。外道すぎた。高い所に届かずどうしようと悩み、空飛ぶのはまずいよなぁとパンツ一丁でよじ登り始める。脱げかける。偶然通りかかった金髪少女が顔を真っ赤にして危ないですよと忠告してくれる。無視する。しかし寸でのところで落っこちる。金髪少女これには真っ青。助けようと自分も飛び込む。荒川アンダーザブリッジ的な展開に傍観していた神が突っ込んだ。

 ブクブク沈みながら馬鹿は思う。ああ、ズボン創造すりゃ良かった……。頭の悪い自分に嫌気が差したところで浮上しようと試みる。しかし急いで飛び込んだ金髪少女と額から激突。二人仲良くどざえもんと化した。

 

 すぐに意識を取り戻した馬鹿は仕方ないと嘆息しつつ少女救出。もとはと言えばお前のせいだじゃろ的な突っ込みが聞こえた気がした。無視した。とりあえず服乾かさないと風邪ひくと思い、ポケットに手を突っ込む。「瞬間クリーニングドライヤ~♪」。何故かドラ○もんだった。意識のない金髪美少女にブォーと熱風吹きつける無表情の少年という実にシュールな光景。

 乾燥完了。しかし目を覚まさない。腹パンしたら目覚めるだろうか、とかなりおかしいことを考えていると、少女覚醒。「う……私は何を……」とうめく少女。前後の記憶が不確かっぽい様子を見て、良いこと考えたと頭に電球浮かべる馬鹿。

 

 貴方は誰? 君を助けたんだよ。私を? いきなりフラッと体勢崩したと思ったら川に落ちたんだよ。そうなんですか? うん、疲れていたんじゃない? そういえば最近ジュエルシードを探して……。え? あ、な、なんでもないです……。

 

 人の良い爽やかな笑みと無意識に発する良い人オーラに充てられたのか、金髪少女はアッサリ信じた。おいおい大丈夫かよく今まで誘拐されなかったなとどうでもいいことを考える馬鹿。罪悪感? はて……。

 

 ありがとうございます、と頭を下げる金髪少女。いやぁアハハと誤魔化し笑い浮かべてとっととオサラバすればいいのに、「君が無事で良かったよははは」と爽やかに言ってのける天然ジゴロ。ニコポ入手まであとレベル6。

 良い人だなぁ、と感心した金髪少女。さすがに惚れはしないが憧れに近い思いを抱く。後々面倒くさい展開になること請け合いなフラグヴィンヴィン。

 

 金髪少女と別れ、居場所となる橋の下へと戻る。やっと休めると肩をほぐしつつ降りようとする。するとどこからともなく疾走しながら突撃する音が。「止めろそこは危ないぞ!」と絶叫する青年のパワーチャージ直撃。助ける気ナッシングな男に軽い殺意を抱きつつ川へドッポーン。本日三度目の水の冷たさに、明日から真面目に生きようと決心する。

 

 川からサルベージされる。いやぁまた君かつくづく運命めいたものを感じるねハハハと豪快に笑う青年。いい加減堪忍袋の緒が切れかけていた馬鹿は抗議する。無視される。ところで君家帰らないのご両親が心配してるよと常識人的発言。んなもんいるか永遠の一人身じゃワレェ舐めとんのかおんどりゃあーと言わんばかりの勢いで叫ぶと、じゃあお詫びと言っては何だが家に来なさい是非そうしなさいさぁさぁと連行される。やべぇこのままだと893事務所に売買されちまうと本気で抵抗する。無駄だった。使い勝手悪い能力に世界は理不尽ばかりだとどっかで聞いた感想を抱く。これもしかして定住できる家欲しいと思ったせいか……? と疑りだすともう何もかもやる気がしなかった。

 

 

 

 

 




続かない(多分


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第七話 検査なんて不要なんです

うわぁこんなはやくかけたのあたしはじめてー(重症


さ、随分話引っ張ってきている気がするので、そろそろ本格的に展開進めたいと思っております。

……次からは、ええ。

今年中にまた更新できるかなぁ。



 

 

 

 余談ですが。

 

 

 フェイトの強い希望もあって、彼女はなのはと同じ学校へ通うことになりました。プレシアから許可も下り、アースラ艦長リンディの手助けもあって、準備は滞りなく進みました。実際はアースラ一同が揃って「考え直せ!」と直談判しにプレシアの元へ押しかけたそうですが、娘が笑顔で制服姿を披露している光景に鼻血ブーだったプレシアに何言っても無駄だと悟った乗組員たちは揃って肩を落としました。

 

 

 当の本人であるフェイトは、なのはと同じ学校に行けるというだけで喜びいっぱいです。

 なのはは、「これでは計画に支障が……」とか「今からでも遅くは……」とかブツクサ呟いていましたが、フェイトの転入には渋面を作りましたが反対はしませんでした。そりゃ不安げな顔で見つめられたらなのはでも拒否できないでしょう。

 

 

 

 

 で、転入当日。

 

 

 最初は喜び全開120パーセントパワーだったフェイトも、扉の前に立つと緊張してきました。

 けれどそれは、これからの新しい生活に対する期待や喜びに比べれば小さいもの。こんなことで不安になってちゃいられないよね、と自ら前へ第一歩を踏み出す勇気を見せました。

 

 

 先生に呼ばれ、壇上に立つと、元気よく言いました。

 

 

「やぁみんな、初めまして。ボクの名前はフェイト・テスタロッサ。そんなに気構え無くてもいいんだよ、何故ならボクらが出会うのは必然であり運命だったんだからね」

 

 

 サッと髪を掻き上げ、優雅に笑うその仕草に、男たちは胸をときめかせ、女たちは嫉妬に忌々しげな顔を作ります。

 なのはと目が合うと、心から祝福する輝かしい笑顔を浮かべます。おはようなのは、おはようフェイト。鐘が鳴り響き、二人で手を繋いで中庭のベンチへ。今日は何をしよう? 学校終わったらお出かけしようか? もちろん、二人っきりでね? !うん! 陽の当たる場所で、仲睦まじく語らう二人の頭上を白い鳥が飛び去って行きます。いずれ終わってしまう日常、けれども今ここにある蜜月なひと時を満喫し―――

 

 

 

 

 

 ……と、ここまでが妄想という名のシュミレーションで、実際は、

 

 

「ど、…………どうも。フぇ、フェイト・テスたロっさです…………」

 

 

 と中途半端な声で言ったので上手く聞き取れませんでしたが、フェイトの西洋人形のような可愛らしい風貌と照れた仕草に、男女問わず目を奪われ、これから一緒に過ごす新しい仲間に拍手を送りました。

 

 

 休み時間になると、当然のことながら、クラスメートがわらわらと周囲に集まってきました。生まれてこのかた同年代の知り合いすらいなかったフェイトにとって、現在の恐怖度は初めての海外旅行先で突然マッチョなパッキン男性達に包囲された時と同じレベルでした。

 

 

 どうしよう、となのはに目線を送りますが、黒板の文字をノートに書き取っているなのはは目もくれません。実際何も書いておらず面倒事をスルーパスしているだけした。最低ですね。

 

 

 止むを得ず待ったをかけたアリサによる鶴の一声で三々五々に散って行く子供たち。ほっと胸を撫で下ろすフェイトの肩を、なのはが叩きました。

 

 

 ようやく安堵の表情を浮かべ、フェイトは嬉しそうな笑顔で振り向きました。

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん、一緒にお昼食べよう!」

「どなた!?」

 

 

 

 

 

 いつものなのは・アリサ・すずかの三人のグループ、新たにフェイトが加わりました。

 

 

「へぇー、フェイトとなのはは前から知り合いだったんだ?」

「そうなの! フェイトちゃんとは半年前にお友達になったんだよ」

「半年前って、なのはちゃんが元気なかった頃かな」

「そうだね。けど今では仲良くできてるから、よかったよ」

 

 

 なんて和やかムードで会話している三人とは対照的に、居心地悪げに視線を忙しなく動かすフェイト。

 

 

 というか、誰やねんこの娘……。フェイトがじっとなのはを凝視していると、はたと目線が合いました。

 

 

 するとなのはは近くに顔を寄せ、耳打ちしてきました。

 

 

「フェイト。これは任務だ。我々は次元管理局という特殊な組織に身を置いている。常日頃から何者かに監視されている可能性も低くは無いだろう……いつ何時でも、不測の事態に対応できるよう警戒するに越したことはないのだよ」

「(! そうか。なのはは敵の目を欺くためにわざと……そこまで考えていたなんて!)」

 

 

 フェイトの瞳が星のように輝いております。尊敬度が上がったようです。

 なのはのメンタルにクリティカルダメージが入りました。自業自得でした。

 

 

 こんな生活があと二年も続くと思うと胃が痛みそうでした。もっとストレスがマッハでヤバいのが近くにいることを思い出してあげて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第7話

 

   検査なんて不要なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日。

 

 

 はやてと一緒に病院に向かったシグナムとシャマル、ヴィータは、石田先生から定期健診を受けておりました。忘れがちですがはやては病弱設定がありますので一般人より少々不自由があります。その分色々フリーダムなのはこの際目を瞑ってあげて下さい。

 

 

 快方には向かってないが悪化もしておらず、暫く様子見させて欲しいと言う石田先生に、はやては鷹揚に頷きます。

 

 

「構わん。それに病など気合一つで治るというものだ」

「はやてちゃん、素直に苦い薬嫌だから今のでいいって言えば、」

 

 

 途中でワルサーPKKを引き抜いたはやてがシャマルの額を撃ち抜きました。

 

 

 リアル殺人事件に遭遇した石田先生はフリーズしておりますが、ヴィータとシグナムは慣れた様子でシャマルを無視しております。

 

 

 とりあえず邪魔と判断したシグナムがシャマルの足を掴んで出ていきました。銃声を聞きつけた他の患者さんが立っていましたが、幼女が成人女性の足を引っ掴んで引き摺りながら去っていく様子に目を剥いておりました。

 

 

 大丈夫なのかしら、と考え、まぁ深く気にしないようにしよう、と石田先生は思考放棄しました。

 

 

「じゃ、じゃあはやてちゃん。暫くは今のままということでお願いね?」

「うむ。承知したぞ」

 

 

 薬が出るとのことで、ヴィータと共にはやては外の待合室へと出ようとしましたが、保護者の人に話があると言い渡され、ヴィータは再び診察室へ戻ることになりました。

 

 

 ちょうどその時、

 

 

「んだシャマル。生きてたのかよ」

「ええ。旅の鏡で避けなかったら即死だったわ……」

 

 

 あきらかに使い方間違ってます。

 

 

「先生が話あるっていうから、オメェも来い。シグナム、はやてを任せ――」

 

 

 と、いつの間にかシグナムが眼前から姿を消していました。

 

 

 どこ行ったんだ、と左右を見渡すと、廊下に設置されたテレビにかじりついていました。アニメを見ながらピースしていました。どうしようもありませんでした。

 

 

 溜息をついたはやては、まぁ病院内なら平気だろ、と肩の力を抜き、シャマルと一緒に入りました。

 

 

 

 

 

「幼児先行性……自我肥大症候群の亜種かと思われます」

 

 

 沈鬱な表情で石田先生は告げました。

 

 

 並々ならぬ雰囲気に、いつもは冗談の一つでも飛ばすシャマルでさえ生唾を呑みました。ヴィータは無言ですが、薄々感づいていた事態に舌打ちしたくなりました。恐らく彼女が危惧したものとほとんど同じでしょう。

 

 

 耳に慣れない言葉でしたが、聞くからに不吉な何かを帯びた病名に、ヴィータが問いました。

 

 

「先生、それってやっぱヤバい病気、なのか……?」

 

 

 長年はやて苦しめている動かない両足の事を思い出しながら、ヴィータは石田先生の返答を待ちました。

 

 

「いいえ。―――いわゆるただの『厨二病』です」

 

 

 石田先生はキッパリ言いました。

 

 

 やり場のない怒りをどうしようか迷うヴィータ。

 

 石田先生は言葉を続けました。

 

 

「けれど、だんだん深刻化しています……。このままだと、はやてちゃんは―――」

 

 

 どうなるんですか? と目線で尋ねると、少し間をおいてから、答えました。

 

 

「いい歳してイタい発言を繰り広げる喪女となること請け合いね」

「「なってたまるかぁあぁあああああああッ!」」

 

 

 怒声が響き渡りました。石田先生は涼しい顔で流します。

 

 

「まぁ、それはさておき。ときにシャマルさん。この間、貴女も一緒に診察を受けましたよね?」

「? ええ、健康診断を。最近ダイエットしてるから体重が減ってるかと思いますけどね」

 

 

 などとシャマルはオホホホ笑いながら言いますが、石田先生は至って真面目な顔です。

 

 

「実は検査の結果―――」

 

 

 診断書を見て、躊躇いがちに言いました。

 

 

 

 

 

 

「このままだと―――煩悩と脂肪が超反応を起こして爆発します」

 

 

 

 

 

 

 シャマル呆然。

 

 

 どんな反応やねん、と笑い飛ばすのが普通でしょうが、長年お世話になっている石田先生の発言であることと医者の発言であることのダブルパンチが効きました。

 

 

「嘘、まさか私、死ぬの……? まだ美少年侍らせて幼女の甘い蜜を吸う夢を叶えてないのに……」

「今すぐ果てろ」

 

 

 冷ややかな目を向けるヴィータに、石田先生はもう一枚の診断書を取り出して見せました。

 

 

「それとヴィータさん。以前やったあなたの検査結果ですけど……」

「あん? アタシは別に平気だよ、いつだって健康優良児だし―――」

 

 

 

 

 

「このままだと、えっと、……なんか爆発してスゴいことになります」

 

 

 

 

 

 ヴィータは診断書を破り捨てました。

 

 

「ああ! 何をするのヴィータさん! 私が一生懸命捏造したというのに!」

「堂々捏造とかほざいてんじゃねぇ! アンタまたどうせロクでもない薬盛るためにデタラメ言いやがったな!?」

「平気よヴィータさん! ほんと先っちょ! 先っちょだけだから! 天井の染み数えてる間に終わるから! 痛くしないから!」

「何一つ信憑性がねぇええええええええええッ!!!」

 

 

 

 

 

 結局、はやては現状維持という話だけをして、その場を去りました。

 

 

 しかし異常があるのに原因が分からないのも事実であり、足が一向に動く気配が無いのも現実でした。

 

 

 否、原因はなんとなく分かっていました。ヴィータら守護騎士を形成する闇の書、それが主であるはやてを蝕んでいることを。まだ幼いのに、不自由な生活を強いられているはやて。気にしたそぶりは見せずとも、少なからず己の不遇を嘆いているはずです。親もおらず、頼れる人も親しい人もいない。見栄っ張りで真面目なはやては、孤独で寂しさに耐えてきました。けれども、そんな一人きりの家に、四人の新しい家族が増えてから、はやてに笑顔が戻るようになりました。

 気苦労が絶えないけれども、今の生活をどう思っているのか。一度ヴィータは、はやてに問うたことがありました。迷惑かけてばかりだけれど、本当にここにいていいのかと。

 

 

 その問いに、はやてはさして考えた様子も無く答えました。

 

 

『貴様らといると肩が凝って仕方ないが――気晴らしには丁度良い。肩肘張らずに語らえる相手がいるというのは、なかなかどうして、気楽なものだ』

 

 

 嫌味のようにも聞こえる台詞も、ほんのちょっとだけ、照れくさそうに笑う仕草が、ヴィータの頬をほころばせました。

 

 

 素直じゃないけれど、面倒見がよくて、生真面目で、心優しい御主人。

 

 

 もしこの小さな命が失われる運命が待ち受けているとするなら、

 その時は、きっと、

 

 

「あと、三週間か……」

 

 

 拳を握りしめ、呟くヴィータの声を聞き取ったのか、はやてが振り向きました。

 聞かれてしまったか。慌ててなんでもないと答えるよりも前に、眉根を釣り上げた、珍しく真剣な顔で見つめるシャマルが言いました。

 

 

「違うわヴィータちゃん。……聖戦(コミケ)まであと一カ月よ」

「有明の海に沈めるぞコラ」

 

 

 最後まで締まらねぇな、と思い、それがいつものあたし達らしいかなと苦笑する辺り、ヴィータも随分、今の生活が気にいっているのでした。

 

 

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 

 

 なのはの自宅……喫茶店で行われた、フェイトの歓迎パーティ後。

 

 

 デバイスの改造が終わった、との連絡を聞き、ケーキ食ってる場合じゃねぇとばかりに飛び出したなのはは、すぐさま着替えて転送準備に入りました。置いてけぼりをくったフェイトはアルフと合流してから来ると途中で連絡を寄こしましたが、そんなのどうでもいいと言わんばかりになのははアースラへ到着。ボ○トも真っ青な速度で艦内を疾走し、佐○急便もビックリの速度で開発ルームへ辿り着きました。

 

 

 乱れた息を整え、さぁオープン戦だといった表情で扉を開けました。

 

 

「マリエル君、私のレイジングハートは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト! フェイト! フェイト! フェイトぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!  あぁああああ…ああ…あっあっー! あぁああああああ!!! フェイトフェイトフェイトぅううぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いねぇ……くんくんはぁっ! フェイトたんのブロンドの髪をクンカクンカしたいお! クンカクンカ! あぁあ!! 間違えた! モフモフしたいお! モフモフ! モフモフ! 髪髪モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅい!! 劇場版2ndのフェイトたんかわいかったわよぅ!! あぁぁああ……あああ……あっあぁああああ!! ふぁぁあああんんっ!! 

冬コミ出典決まって良かったねフェイトたん! あぁあああああ! かわいいお! フェイトたん! かわいい! あっああぁああ! コミケでグッズ販売も嬉し……いやぁああああああ!!! にゃああああああああん!! ぎゃああああああああ!! ぐあああああああああああ!!! 抱き枕カバーなんて現実じゃない!!!! あ……でもアニメだってよく考えたら……フ ェ イ ト ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い? にゃあああああああああああああん!! うぁああああああああああ!! そんなぁああああああ!! いやぁぁぁあああああああああ!! はぁああああああん!! ミッドチルダぁああああ!! この! ちきしょー! やめてやる!! 現実なんかやめ……て……え!? 見……てる? 抱き枕カバーのフェイトちゃんが私を見てる? 抱き枕カバーのフェイトちゃんが私を見てる! フェイトちゃんが私を見てるわ! 照れたフェイトちゃんが私を見てるわ!! アニメのフェイトちゃんが私に話しかけてるわ!!! よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないのねっ! いやっほぉおおおおおおお!!! んほぉおおおおおお! 私にはフェイトちゃんがいる!! やったわアリシア!! ひとりでできるもん!!! あ、テレビ版のフェイトちゃああああああああああああああん!! いやぁあああああああああああああああ!!!! あっあんああっああんあ奈々様ぁあ!! つ、つぼみ!! 冬馬ぁああああああ!!! ヒナタぁあああ!! ううっうぅうう!! 私の想いよフェイトへ届け!! 海鳴市のフェイトへ届け!」

 

 

 

 

 

 閉めました。

 

 

 あまりのインパクトに思考が停止してしまい雑音が廊下に漏れてしまいました。

 

 

 何だったんだアレは。額を押さえ、ひとまずもう一度見てみようと思い、そっと扉を開きました。

 

 

 静かでした。若干薄暗い開発ルームは沈黙に包まれ、中にいた女性の姿が薄らぼんやり照らしだされていました。

 

 

「お久しぶり、と言うべきかしらね」

 

 

 背を向けていた女性は振り返り、小さく微笑みました。

 

 以前とは異なり、濃紺色のドレスではなく、主婦然とした普段着の上から白衣を着込んでおります。険の薄れた双眸、薄く引かれた紫のルージュ。けれども変わらぬ妖艶な雰囲気、落ち着いた物腰は、記憶にある女傑となんら変わりません。

 

 

 どこか別人のような姿とも言える――プレシア・テスタロッサその人でした。

 

 

 どうやら年齢詐称罪の容疑で本部に移送されていたのですが、リンディの説得もあって早い段階で戻って来たようです。

 

 

「うむ、久方ぶりだプレシア女史。―――ところで、先程自分の愛娘をプリントした抱き枕を抱き締め奇声を上げる変態を目撃したのだが、私の気のせいだろうか」

「そうね、気のせいよ。もう年末だから貴女も疲れているんじゃない?」

 

 

 そうか、となのはは大きく頷きました。無表情なので心が読みづらいせいか、プレシアは表面上は冷静ですが今でも心臓がドッキドキ☆ハイビートです。こんなこともあろうかと簡易転送魔法を習得して良かった……プレシアの本音でした。力の無駄遣いとはまさにこのことでしょう。

 

 

 なのはは周囲を見渡し、改造を依頼していた人物がいないことを不思議に思いました。まさか呼びだしておいて放置かね、と若干不機嫌になりつつ腕組みすると、眼前のプレシアが見覚えのある物体を差しだしてきました。

 

 

 赤い宝石の輝くそれは、見紛うことなき相棒―――レイジングハートでした。

 

 

「貴女のデバイスでしょう? 主想いなのね。ずっと貴女のことを心配していたわ」

「用意してくれてありがとうと言いたいところだが、何故貴女がレイジングハートを持っているのかね?」

「わざわざ改造依頼を私に指示したのは、この子なのよ」

 

 

 驚きながらなのはが目を向けると、レイジングハートは宝石部分を光らせ、《Good morning,master.》といつもの音声。

 

 

 見れば幾分外見に変化が表れております。なのはの要望通りの品が付随した影響でしょうか。

 

 

「若干デザインに変更が見られるね」

「ええ、貴女の要望通り―――高性能カメラを搭載したわ。これでたとえ火の中水の中スカートの中、フェイtゲフンゲフン、犯人の姿を捉えることができるわ」

「面倒なので突っ込みは控えさせて頂くが、肝心のモノはどうした」

「ああ。ついでにカートリッジシステムとかいうのもつけといたわ」

「お菓子のオマケ感覚か」

 

 

 もっとも、歴史に残る技量を持つプレシアならば、新機能を搭載するのに差ほど手間取ることもないでしょう。ある意味歴史に残ったらいけませんが。

 

 

「礼を言う。これならばもう遅れをとることはあるまい」

「気にしなくていいわよ。―――三枚で手をうつわ」

「ふむ、成程。……三枚と言わず五枚でいかがかな?」

「太っ腹ね。今後ともよろしくお願いするわ」

 

 

 主語を欠いた会話ですがきちんと意思疎通できていました。

 

 どうでもいいですけど、次元管理局って一応警察的な面もあるというのを忘れてませんかね? もっともそれを突っ込むと内部腐敗がヒドいとかそんなレベルではないのでスルー推奨ですが。

 

 

「お待たせー! なのはー、ボクのデバイスもできて……お母さん!?」

 

 

 ようやっと到着したフェイトは、入室早々、久方ぶりに見た母親の姿に驚きました。

 

 

「お母さん! 久しぶりっ! 戻って来れたんだ!」

「ええ、フェイト……ちょっと見ない間に大きくなったわねぇ。スーハースーハークンカクンカ」

「落ち着けババア」

 

 

 後ろからついて来ていたアルフに頭をどつかれました。

 

 

 なのはは数歩引き下がり、久々の再会を祝う親子と使い魔の図を遠巻きに眺めました。デバイスのことなどすっかり頭から抜け落ちているらしく、フェイトは今までに見たことないくらいの笑顔でした。

 

 

 横顔を見つめ、能天気な事だと苦笑したなのはは、邪魔をしないよう出ていこうとしました。

 

 

 と、そんな時でした。

 

 

 

 

 

     ―――     ケ   …… ―――

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 ふと、どこからか声が聞こえてきました。

 怪訝に思い、周囲を見渡しますが、異常は見当たりません。和気藹々としているフェイト達の様子からして、聞こえていなかったようです。

 

 

 空耳だろうか。小首を傾げ、なのはは楽しげな様子のフェイトらを置いて、開発ルームを後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ――― ミ ツ ケ タ …… ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あのテンプレをいじるのに一番時間かかってたような気がします。


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第八話 作戦なんて皆無なんです

あけましておめでとうございます。

昨年はお世話になりました。今年も宜しくお願い致します。

おかげ様で、にじファン時代から連載しております当小説は、多くの方にご覧いただいてるようで、私自身とても嬉しく思っております。
気がつけば書き始めてもうすぐ一年、いえ、まだ一年といったところでしょうか。思えば長いようで短い一年でありましたが、皆様は昨年は如何でしたでしょうか? 私は毎月何か物を落としたり失敗して悔いたりと、あまり良い思い出がありませんが、今年こそはと決意を新たに、筆の進みを速めていく所存で御座います。


……さ、堅苦しい挨拶はこの辺にしておきましょうか。

ではそろそろ本編の方を始めていきたいと思います。


 

 おまけ

 

 

 映画版準拠に伴い存在をオミットされた人……

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれんかなぁ! ワシ結構良いキャラしてると思うんじゃけど、何故ハブられとるんでな!?」

「ははは御老体、ここに天から届いたメッセージがあるよ? しかるに『話が面倒くさくなりそうな気がしたのでカットしました。ていうか別にいなくても問題ないよね?』とのことだ」

「そんな殺生な―――っ!!」

 

 

 ギル・グレアム。都合により消滅……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第8話

 

   作戦なんて皆無なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警報が鳴り響いたのは、デバイスを受け取って間もなくのことでした。

 

 

 てっきりプレシアがまたなんかやらかしたのかと予想していたなのはですが、司令室に入ると緊迫した空気が漂っていました。

 

 

「一体何事かね」

 

 

 扉の前に立っていたクロノが邪魔なので蹴り倒したうえで踏みつけて突入すると、指令室は慌ただしい空気に包まれていました。毎回ここに来ると忙しない空気だね、となのはは思いました。原因の7割がたはこやつのせいだと思いますが。

 

 

 立体映像にあったのは、海鳴市に張られた結界、それを展開する守護騎士らの姿でした。

 以前見た覚えのある三人と、もう一人の姿もあります。

 

 

「やれやれ。この年末の忙しい時期に面倒なことをする」

「まったくだね! 少しは静かに生活ができないのかな」

「オメェらもやってることは大して変わらねぇと思うんだが」

 

 

 クロノが良い機会だからと言わんばかりに突っ込みますが、下手人二人は涼しい顔をしています。

 

 

「おやフェイト。呼ばれているようだぞ」

「ええ~ボクがぁ? なのはじゃないの?」

「どっちもだっつーの!」

 

 

 クロノは指を突きつけました。なのはとフェイトは揃って後ろを向きました。芸人ですか。

 

 

「ふむ……我々は特別悪行を働いた記憶はないのだが。せいぜいビルを幾つかぶち壊した程度だろう」

「そうだよ! 家をいっぱい燃やしたくらいだ!」

「それが悪いっつってんだよォオオオオオオッ!」

 

 

 怒声を張り上げるクロノ。最早突っ込みとしての立ち位置を確立しておりました。

 

 

 と、そこでなのはがようやく気づきました。

 

 

「ところでリンディ提督の姿が見当たらないのだが、この非常時に彼女は何処へ?」

「ああ。―――買い物に出かけたら結界に取りこまれた」

 

 

 

 

 

「ちょっとおじさん! このトマト128円って高くないかしら……って、あら? 結界? 丁度いいわこのお野菜いただきましょウフフ爆アドktkr」

 

 

 

 

 

 ひとまずリンディは置いておこう―――アースラ乗組員の答えは全会一致でした。どうせほっといても自分でなんとかするだろうという皆からの厚い信頼が寄せられるリンディ・ハラオウンでした。

 

 

 指揮する立場の者がいないので、止むを得ずクロノが指示を出しております。仕方ねぇなぁとか言いながら人を顎で使う立場が嫌に様になっております。ついでに調子に乗ってエイミィに束縛されているのも様になっております。

 

 

「クロノ君。お楽しみの最中申し訳ないが、我々もそろそろ出撃すべきではないかね?」

「どこが楽しんでるように見えるんだよ!」

「冷静に突っ込んでるあたりちょっと楽しそう……」

 

 

 小声でぼそっと呟きが聞こえました。 

 

 はて、聞いたことあるようなと思い、振り向くと、見覚えのある少年が立っていました。

 

 

「―――おやユーノ君! そういえば先日から姿が見えないと思っていたらどこで油を売っていたのかね!?」

「ちょっと待って! なのは今まで気がつかなかったの!? 僕調べ物があるから出かけてくるって行ったじゃないか!」

「ははは、ユーノ君。勘違いしてもらっては困る。……私が知らないならそれは事実ではないのだよ?」

 

 

 なかったことにされました。

 

 せっかく皆のために色々調べ回っていたユーノは本気で降板を考えました。

 

 

「……闇の書に関して、詳しい情報が手に入ったから、わざわざ持ってきたんだよ」

 

 

 調査結果をまとめた紙束をクロノに投げてよこしました。自分で束縛から逃れたクロノは手にとり、読み上げました。

 

 

「え、えーと……ほ、ほー、ほけっ。きゃっ きょっ」

「ウグイスか貴様」

 

 

 じれったいのでなのはが奪い取って読みました。

 

 読み始めた途端、眉をひそめました。

 

 

「なんだこのわけ分からん古代象形文字は。誰が読めるんだこんな珍奇地底人の呪文」

「なのは。それ逆さまだよ」

 

 

 おっと、とひっくり返しました。しましたが、結局古代文字っぽいもので描かれているので読めません。考古学に詳しいユーノしか読めないということでした。ここに来てユーノが己の有用性をプッシュしていますが、そんな彼に送ったなのはの「没個性」の一言で木端微塵でした。

 

 

「何はともあれ、今はあの連中をどうにかすんのが先決だ。なのは、フェイト。オメェらの出番だぜ」

「一つ聞くが、どんな手を使っても良いのかね?」

「ふふふ、ボクが本気出せば一網打尽さ!」

 

 

 始まる前から色んな意味で危ぶまれました。

 

 

「……まぁやる気出してるとこ悪いが、連中に話色々聞くことあっから、無事な状態で連れて来てもらいてぇんだが」

「成程。まずは彼らと、お話する(とっ捕まえて、ぶっ殺死)と」

「ちっとも分かってねぇな」

 

 

 クロノは諦めました。

 どうせ自分は即席指揮官なんだから、と言い訳しています。そんな逃げ根性ではいつか痛い目見るでしょう。

 

 

「結界内部に突入したら、守護騎士を全員見つけ出せ。後から俺らも行く、極力捕まえて武装解除させておいてくれよ」

「了解した。では以前同様、赤髪の女性は私が受け持とう」

「じゃあボクはあのちっちゃいヤツと戦うよ」

「アタシは金髪の女どうにかするかねぇ」

 

 

 となると、自然と残った者は誰が担当するのかというと、

 

 

「あ、あのー。僕、あんなマッチョなのと戦いたくないんで、できればなのはかフェイト辺りにお願いしたいんだけど」

「「嫌だね。そんなことするくらいなら世界が滅んだほうが遥かにマシだよ」」

 

 

 声をそろえてキッパリ言いました。

 

 やはりザフィーラは受け入れ難い存在のようです。見た目的にもキャラ的にも。

 

 

 

 

 

   ―――ピキュイーン!

 

 

「ぬ…………」

「どうしたザフィーラ、深刻そうな顔をして」

 

 

 突然険しい顔をして虚空を振り向いたザフィーラに、ヴィータが怪訝な顔を向けました。

 

 

 何か察知したのか、と不安な顔をするシグナムらも見る前で、唸りながらザフィーラは答えました。

 

 

「いや……プリキュアの録画を忘れてしまった気がしてな」

「おいシグナム、こいつを殴ってくれ本気でもいいぞ」

「案ずるなザフィーラ。ちゃんと録画してあるでござる」

「今の私は阿修羅をも凌駕する……!」

 

 

 ヴィータは無視しました。

 

 

 最近、他の次元世界へ足を運んでいたヴィータ達守護騎士一同は、管理局の存在に気づいていました。監視されている、と分かっていながらも、彼女達は蒐集行為を止めるつもりはありません。偏にはやてのために、これからもずっと生きていくために、どうしても必要なことでした。

 しかし監視網が敷かれている現状、遠出して作業効率が低下するより、危険と承知で近場で補う方が早い、と判じた四人は、高い魔力反応を探っていました。

 

 

 するとどうでしょう。スーパーの中から反応がありました。何故かさっきから動く気配がないので、最初に気づいたヴィータは他の三人が集まって来るのを待っていたのでした。

 

 

 が、どうにもやる気が窺えない三人に、額に青筋が浮かびます。

 

 

 業を煮やしたヴィータは、頭を掻いて奥の手を出しました。

 

 

「ああもう! オメェらやる気出せっつーの! ちゃんと蒐集したら後で好きなモンおごってやらぁ!」

「久々に本気で戦う機会に恵まれたな」

「ああ、今日は戦場を血染めの華で彩ってくれよう……」

 

 

 馬鹿二人がやる気を出していましたが、比較的シャマルは平常通りでした。

 

 

「んだシャマル、やる気ねぇのか?」

「んー、ちょっと疲れ溜まっててね。残念だけど、今回私はサポートに徹し」

「オメェが欲しがってた同人ゲーム三本用意してやる」

「腸をブチ撒けてやる」

 

 

 目覚めてはいけないものが覚醒を果たしました。

 

 

 さぁ行こう。修羅と化した四人はスーパーの前へ静かに降り立ちました。未だに動きが無いとはいえ、魔力反応のある相手です。十中八九、魔導師、それも管理局と縁ある人物とみて間違いないでしょう。

 警戒心を強めながら、シャマルを待機させ、退路を断つべくシグナムを裏手に寄こし、ザフィーラに頷きを送ってから、正面口に立ちます。手際の良さは過去最高レベルでした。毎回こんな順調なら二カ月で闇の書は完成していたでしょう。そしてすぐ浪費していたでしょう。

 

 

 やがて、明かりの消えたスーパー内で蠢く影を捉えました。割と小柄であることから、先日の少女ら動揺、嘱託魔導師なのかもしれないと予測しつつ、ザフィーラと共に接近します。

 

 

 間もなく射程圏内に入ろうとしたところで、蠢いていた影が止まりました。

 

 

 気づかれたか? いや、もう遅い―――ヴィータは隠れるのを止め、物陰から出ました。

 

 

「動くな。……オメェに恨みはないが、魔力をいただ、」

 

 

 ヴィータの言葉が停止しました。

 

 

 どうした、と無言で咎めるザフィーラは、遅ればせながら物陰から出て、前方の影を見ました。

 

 

「……………………………………あら?」

 

 

 見れば、人気のなくなった食品売り場から、買い物かごにこれでもかと野菜を突っ込んでる少女の姿がありました。

 

 

 どう見ても火事場泥棒の現行犯でした。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 三人の時間が凍結しました。

 

 

 やがて動き出した少女は、パンパンと手を叩いてから、胸元の銀色のカードを引っ張り出しました。ついでにプチトマトも零れ落ちました。

 

 

「色々聞かせてもらうわよ? 闇の書について、ね」

 

 

 その人――リンディ・ハラオウンは、目線を強めて言ってのけました。

 

 ポケットからニンジンをはみ出しながら。

 

 

「……まぁ、いい。どの道コイツをぶっ飛ばすことに変わりはねぇ。おいザフィーラ、一緒にやるぞ。……ザフィーラ?」

 

 

 隣の巨漢に声をかけるも、反応がありません。

 

 

 どうしたんだと思って目線を向けると、リンディを睨みつけたまま動きません。何か思うところがあるのでしょうか、険しい顔のままです。リンディも不審に思ったのか、構えた状態のまま、ザフィーラの動向を窺っております。

 

 

 ややあってから、ザフィーラは唐突に崩れ落ち、四つん這いになって、呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バスケがしたいです…………」

「「なんで!?」」

 

 

 絶叫がこだましました。

 

 

 

 

 

     ○   ○   ○

 

 

 

 出撃準備を行うなのはとフェイト。

 

 

 彼女らの手には、改造を施された新デバイスが握られています。真新しい輝きを放つそれは、プレシアの手によって大幅に強化されています。この短期間で目を見張る技術と性能がふんだんに盛り込まれたのは、ひとえにプレシアの尽力の賜物でしょうか。まぁ煩悩とか親馬鹿というのが九割を占めていること間違いなしでしょうが。

 

 

「なぁ、なのは。アタシら全員で行くのはいいんだけど、今回なんか策とか用意してないのかい? 無策で突っ込んだら、下手すると前回の二の舞になっちまうよ」

 

 

 アルフの至極まっとうな意見に、なのはは大丈夫だ問題無いとでも言いたげな、いつもの不敵な笑みを返します。

 

 

「私にいい考えがある」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「何かね、その沈黙は」

 

 

 某サイバトロン司令官並の信憑性の無さに全員が不安になりました。既に『なのはの良案=何者かが犠牲になる』の図式はアースラでは常識でした。

 

 

「オメェの名案っつーのは大概ロクでもねぇ結果にならねぇから心配になってんだよ」

「失礼な。私に任せておけば絶対に大丈夫だ。タイタニックに乗ったつもりでいたまえ」

 

 

 100パー沈没します。

 

 

 なのははやや神妙な顔をし、集まるよう手招きしました。いつもと違うなのはの様子に皆は一度顔を見合わせ、すぐになのはの元へ集まります。

 

 

「良いかね? 前回の反省を生かし、失態を見せるわけにもいかん。ゆえに、今回は全員の力で挑む必要があるだろう」

「そうだね」

「分かってるけど、具体的にはどうすんのさ?」

 

 

 ああ、となのはは頷いてから、言いました。

 

 

「私の予測ではこうだ。……恐らく結界に侵入した時点で敵が一人減っているだろうから、突入時に散開して私とフェイトが以前の二人を担当、ユーノ君とアルフ君が残る一人を押さえ込み、クロノ君の到着を待つ。大雑把だが敵の討伐より捕獲を優先される今回は持久戦を前提にした方が宜しいだろう。以前よりパワーアップを果たした私とフェイトなら余裕だし、ユーノ君とアルフ君とて二人がかりならば遅れをとることはあるまい?」

 

 

 てっきり全員カミカゼ特攻弾になって散ってこいと厳命されるんじゃないかと思っていたユーノ達は拍子抜けし、そんな自分がなのはに毒されていると思い愕然として落ち込みました。

 

 

「そうだね! もっと強くてもっと格好良くなったボクらの力を見せつけてやるんだ、なぁなのは?」

 

 

 例外としてフェイトはなのはを信じているのか、ちっとも驚いた様子はありません。

 

 

「ってちょっと待て。なんで一人戦力が減ってるなんて思うんだよ?」

「既にリンディ提督がいる。彼女とて無力ではなかろう、抗う術の一つや二つ持っているだろう。それが根拠だ。あとは……」

「あとは?」

「私の勘だ」

 

 

 フッと笑うなのはに、ユーノは違和感を抱きました。

 

 

 いつもはインチキ臭い理詰めのトークで他者をよく分からんうちに無理矢理納得させるのが常道と化しているなのはですが、今回は自分の直感をあてにしています。彼女のことですから、自分の直感さえも神の予知に等しいのだよハハハとかぬかしそうですが、いつもと少々雰囲気が異なるなのはに、なんだか不安を抱きました。

 

 

 けれども不敵な横顔は、いつも通り妙な安心感がありました。ユーノの知る、決して揺らぐことのない魔法少女の姿が。

 

 

 気のせいかな、とユーノはそこで考えるのをやめました。

 

 

 隣では、また出費が、とクロノが嘆いております。彼女らを最前線に送り込むことに反対しないことを疑問視したユーノは尋ねます。

 

 

「でも毎回なのはを出してるよね? なんで?」

「ああ、そりゃ簡単だ。……あいつが出撃すると出費がかさむ。あいつを出さないと俺が出張らないといけない。二つに一つ、だったら俺は―――母ちゃんにブン投げて寝る」

「結局何も解決してないじゃないか!」

 

 

 けどまぁ、いつも頭痛の絶えない立場にいながらも、なのは達をきちんと導いているクロノに、頑張るなぁと呑気に思うユーノ。しかしクロノが万が一レギュラーから外れたら間違いなく突っ込みと言うお鉢が回ってくることに気づいてないのですかね。

 

 

 そんなユーノの目線に気づいたクロノは、口の端を釣り上げ、笑いました。

 

 

「ま、いいさ。どうせ俺らは公務員、苦労も辛苦も人のため、人のためは我が身のためってことよ」

「よくぞ言ったクロノ君! 人間、謙虚な心と感謝の念を忘れてはならない! 昨今の傲慢な人間たちに君の剛毅な姿勢を見せてやりたいものだ!」

「そうだなー! 最近の人間ってやつは苦労しないで楽ばっかりするからな! 好き勝手やるばっかの人間も見習って欲しいよ!」

「お前らが言うんじゃねぇぇえええぇええええええええええッ!!」

 

 

 やっぱりいつもの通りでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃寸前、エイミィが警戒を促しました。

 

 

「一筋縄じゃいかない相手だよ、十分注意して!」

「二筋縄でもいかねぇぞ!」

「ほう。では何筋縄でならいけるかねエイミィ君」

「え? そ、そうだなぁ……10筋縄くらいかな?」

「なのはとボクで二筋縄……いけるよ!」

「そこに本気を出せば倍率ドン! 更に倍!」

「そこへ通常の二倍の回転を加えることにより更に倍!」

「「これで八筋縄だ……!!」」

「よっしゃ行ってこい! 成果を上げろォオオオ!!」

「高町なのは! レイジングハート、推して参る……!」

「フェイト・テスタロッサ! バルディッシュ、行きます!」

 

 

「……あれ? よく考えたら八筋縄じゃ足りなくねぇか?」

「あ、しまった! 二人を止めないと!」

「無理だよ、二人とももう行っちゃったし」

「もうダメだこの人達……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界内は騒然としておりました。

 

 

 時折爆発が生じ、続いて何かが倒壊する音が断続的に響き渡ります。ガラガラと瓦解するビル群の間を縫うように、小さな影が飛び交っております。

 

 

 結界内部に取り込まれたリンディの他に、今回の下手人たる守護騎士四名。それ以外に生物らしき影はなく、辺りは静まりかえり、不気味な空間が延々と続いております。

 

 

 先行する影は一つ。続く影が一つに、もう二つがすぐ後に続きます。

 

 

 当然のことながら、逃げるリンディと、それを追いかけるヴィータ達守護騎士の姿―――

 

 

「貴様らぁあああああああ! いい加減にしたらどうだ!!」

「そりゃこっちの台詞だザフィーラァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 ―――ではなく、リンディを逃がそうと立ち塞がるザフィーラと、青筋浮かべて突撃するヴィータと静かについてくるシグナムの図でした。

 

 

 どうしてこうなった。混乱しつつもヴィータは割とマジな勢いで反撃してくるザフィーラにブチ切れ三秒前です。

 

 

「テメェどういうことだ! 今更になって裏切るのか!?」

「黙れBBA予備軍、もう俺は我慢ならん! 未来ある子供を傷つけ、平和な明日を創る……それに何の意味があると言うのだ!」

「当初の目的忘れてるだろ!?」

「否! 覚えているとも……! 俺はかつてこう誓った! ―――主と世界の幼女のために、この身は災いを受け止める盾となるのだと!!」

「余計なの混ざってんじゃねぇーか!」

「ゆえに許されない! お前と言う存在も!」

「オマエってヤツはーっ!!」

 

 

 遂にブチ切れたヴィータが殺意全開で襲いかかろうとするのをなんとかシグナムが押さえています。彼女もあきれ顔ですのでいかにこの状況が偏差値の低いものか如実に物語っております。

 

 

「さぁ、そこな幼女! 俺が盾となる間に、安全なところにまで逃げ」

 

 

 言い終える前にリンディは背後に立ちました。

 

 

「私を気遣ってくれるのはとても有り難いのだけれど、その前に言っておくべきことがあるわ」

「ぬ……?」

 

 

 言い知れぬ不穏な感覚に、ザフィーラは振り向こうとしましたが、その前に腹をガッチリホールドされました。

 

 

「―――私はもう大人なんじゃぁああぁああああああああああパイルドライバーァアァァァアアアァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「ばばあぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!???」

 

 

 ブン投げられたザフィーラは落ちてきたところで脳天杭打ちを喰らいました。

 

 

 ビルに犬神家よろしく突き刺さるザフィーラを眺めていたヴィータとシグナムは、邪魔者がいなくなってこれ幸いとばかりに武器を構えて相対の意志を見せます。仲間の犠牲は無駄にはしない……といえば美しいのですが、既に彼女らの中でザフィーラという男は思い出の中で語られるだけの存在でしかないので眼下でビクビク痙攣している物体は味方でもなんでもないというのが互いの見解でした。

 

 

「さて、どうする? アタシら二人相手に勝てると思うか?」

「あら。二対一なら勝てると思っているの? 片腹痛いわ」

「否、それは違うでござる」

 

 

 妙な自信をもって前に一歩出たシグナム。

 

 眉をひそめ、一挙手一投足に注視するリンディは、シグナムが右手に剣を持ち、左手に鞘を持って掲げるのを見ました。

 

 

「両手に武器! これで戦闘力は二倍にばーい!」

 

 

 これ突っ込んだら負けかしら……。リンディが半目で見つめていると、隣のヴィータが片手で後ろに下げました。どう考えても邪魔だと判断したのでしょう。英断でした。

 

 

「けど、いいのかしら?」

「あ? 何がだ」

「いつまでも私に構っている余裕はあるの、という意味よ」

 

 

 怪訝な顔をしていたヴィータですが、突然思考に割り込んだ声に意識を引っ張られました。

 

 

『たいへんたいへん、たいへんなのよヴィータちゃん!』

「どうしたシャマル!? 何があった!」

『空から! 空から女の子と可愛い男の子が! 顔面偏差値80オーバー! 4人のうちショタとロリが三人も! 数値で表すと0.75! 平均打率八割越えなんてメジャーも夢じゃないわフフフおっとよだれが』

 

 

 妄言がうるさいので念話を切断しました。

 

 

 しかしシャマルの通信が嘘ではないと気づいたのは、頭上の結界の先、空から何かが降って来るのを見た時でした。

 

 

「あれは……まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ときにレイジングハート。毎度空からダイビングするのが定番になりかかっている昨今、君はどう思う?」

《Nothing special.(特別何も)》

「ふむ。私は思うのだよ……古いラヴコメでは女の子が空から落ちてくるのが定番である。ならば我々がこう、地上に転移するのが難しいとかぬかして上から投げ捨てられるのも、もしかしたらサダメなのかもしれないね?」

《It's a hard thing.(難儀な話ですね)》

「ああ、まったくだ」

 

 

 腕組みして空中であぐらをかいているなのは。もう高度三千フィートから叩き落とされてもまったく動じておりません。

 

 

 フェイトもそんななのはに感化されたのか、それとも元々飛べるからか、結構余裕の表情です。

 

 

「ねぇーバルディッシュ。部屋を出る時、お母さんに何か言われてたよね? なんて言われたの?」

《Ah……Don't worry,master.Doesn't matter.(えっと……心配しないで下さい。なんでもないです》

「えー、なんなんだよー」

 

 

 バルディッシュは内心汗ダラダラでした。言えない、プレシアにフェイトの至近距離写真を激写してこいと脅されたなんて……紳士バルディッシュの心の声でした。

 

 

「さて。フェイト、突入する前に言っておこうか」

「ん? 何?」

「私は自分でも言うのも何だが、己の定めた速度で前へと突き進む。これからもそうしていくだろう」

 

 

 ゆえに、と言葉を続けました。

 

 

「君にこう問いかけよう。―――ついて来れるか、と」

 

 

 ゆっくりと、伸ばされる手。

 

 

 フェイトは一瞬目を丸くして、直後、自信満々の笑みを浮かべ、応えました。

 

 

「……勿論っ!」

 

 

 ぎゅっと、強く握り返して。

 

 二人は手を繋ぎ、力強い笑みを見せつけるのでした。

 

 

 よぅし、となのはは頷き、レイジングハートを胸元に寄せました。

 

 同時に、フェイトはバルディッシュを手に、前へと突き出します。

 

 

「それでは参ろうか。レイジングハート―――」

「勝ちに行くんだ! バルディッシュ―――」

 

 

 光が溢れ、

 

 

「―――エクセリオン!」

「―――アサルトッ!」

 

 

 結界の中へと、飛び込んで行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数秒後、時間差で出てきたアルフとユーノがいい感じで回転しながら吐き出されて来ましたが、誰も気づきませんでした。

 

 

 

 




レイジングハート・バルバトスとか、バルディッシュ・レクイエムとか色々考えましたがなんか間違ってる気がしたのでやめました。

……間違ってるのは私の頭の方かもしれない(真理


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第九話 戦闘なんて一瞬なんです

うわぁああぁぁああああまた一か月放置してたぁあぁぁあ……!

テスト終わってひと段落と思ったらインフルエンザに罹ってしまいました。
しかも感想来ていたのに気付かないというこの体たらくっぷり。
申し訳ありません。


というわけで、またちょこちょこ更新していきたいと思っておりますので、どうかお楽しみ下さいまし。

……今回短めですけど。


 

 

 

 もしもレイジングハート・バルバトスとバルディッシュ・レクイエムになってたら ~絶対に受けたくない魔法~

 

 

 

「アイテムなぞ使ってんじゃねぇ! 縮こまってんじゃねぇ! 私の背後に立つんじゃねぇ! 漢に後退の二文字はねぇ! 軟弱者は消え失せろ! 回復だと? 貧弱すぎるわ! 術に頼るザコどもが! いつまでも術に頼るか! 微塵に砕けろぉ! 死ぬかぁ! 消えるかぁ! 土下座してでも生き延びるのかぁ! 貴様らの死に場所は……ここだぁ! ここだ、ここだ! ここだああぁぁぁぁっ!!!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁッ!」

 

 

 

 魔法使ってすらいません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第9話

 

   戦闘なんて一瞬なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身を終えたなのはとフェイトは、ビルの上へと静かに降り立ちました。

 

 

「オメェら、一体何者、な、ん……」

「なのはちゃん、フェイトちゃん、……?」

 

 

 明らかに警戒心を強めるヴィータと援軍の到着に驚くリンディでしたが、現れた少女二人を見て驚愕しております。

 

 

「おやリンディ提督、せっかく我々が急行したのだ、感謝の言葉ひとつくらい贈っても構わんのだよ?」

「そーだよ、せっかく急いで支度してきたのにー」

「まぁ、確かに感謝はしているけれども……」

 

 

 リンディはひどく言い辛そうに視線を彷徨わせてから、躊躇いがちに言いました。

 

 

「その格好は、何?」

 

 

 指差す方向には、珍妙な格好をしたなのはとフェイトがいました。

 

 

 

 

 

 

 黄色い耳としっぽを生やしたフェイト。

 

「ぴかちゅう!」 

 

 カービィ!!!

 

 

 

 色々間違ってました。

 

 

 

 

 

 

 馬鹿デカい砲塔を掲げたなのは。

 

「海鳴よ、私は帰って来たぁああああーっ!」

 

 叫びすぎですし二度ネタです。

 

 

 

 

 

 

 ヴィータ達も相手の顔を見て、以前戦った相手だと気づいたのでしょう、急に顔を引き締めました。若干二名ほどだらしないニヤケ顔をしながらフェイトをガン見している輩がいますが後ろからシグナムに張り倒されていました。

 

 

「チッ、まさかこの短期間でカートリッジシステムを搭載してくるとは……」

「ああ。―――先日バザーで買ってきた」

「魔法のアイテムなのに!?」

 

 

 ヴィータは目を剥いて叫びました。

 

 

「ともかく、助けてくれてありがとうなのはちゃん」

「礼には及ばんよ。……あとで超過料金を請求するが」

 

 

 最後のところはあえて無視しました。

 

 

 なのはは臨戦態勢をとる守護騎士らと向き合いました。どれもこれもやる気に満ちた顔をしています。色々な意味で。

 

 なお、ザフィーラは(外見上は可愛らしい)なのはを見て息を荒げていますがシグナムに何事か耳打ちされると頭を抱えて唸り始めました。なんだというのでしょう。

 

 

 基本的に初対面の人間には一応・仮にも・表面上とは言えども、平和的な話し合いを図る程度には優しさを持っているなのはは、彼らのやる気ヴィンヴィンな雰囲気を目の当たりにし、悲しげに首を振りました。

 

 

「まったく嘆かわしい。何故人は争うのだろうか。もっと話し合えば良いのに。―――私はしないが」

 

 

 最後の台詞に、どっちなんだよ、とヴィータがが突っ込みかけましたが、一度受け手に回れば絶対胃が痛くなるまで突っ込み地獄が待っているのは身内の外道連中を相手にしていて嫌過ぎるほど理解していましたので、身体をぶるぶる震わせながら耐えました。そんな無理に堪えなくてもいいでしょうに。

 

 

 当たり前のようにガン無視され、なのははため息をつきました。

 

 

「やれやれ、近頃の若者は礼儀というものがなっていない。手本を見せてやりたいものだ。なぁ、……ユーノ君?」

「Me!?」

 

 

 何故僕が!? と目をひん剥いて驚愕するユーノですが、そこで気が付きました。

 

 近頃影が薄くなりがちのユーノに、目立つチャンスを与えてくれているのです。

 

 

「なんだそいつ、やっぱりテメェの使い魔か」

「いいえ」

「即答!?」

「恋人未満友達未満の関係です」

「赤の他人!?」

「おもちゃです」

「使い捨て!?」

 

 

 こいつ苦労してるなぁ……というヴィータの同情的な目線を有り難くも悲しく思うユーノでした。 

 

 

 自然と視線がユーノに集中しました。これだけ皆から注目されるのは人生初であろうユーノは結構テンパりました。

 

 ここで何か皆の関心を一気に引き寄せるようなことを言えば……! と意気込んだユーノでしたが、なかなかうまく言葉が浮かびません。

 

 

 数秒間迷い考えて、ややあってから、ユーノは苦し紛れといった具合に言いました。

 

 

 

 

 

「ど、どんだけぇ~~~……?」

 

 

 

 言ってしまいました。

 

 

 ……ビュォオォォオオオオオオオオ…………

 

 

 一際冷たい風が戦場を席巻しました。

 

 絶対零度の目線がユーノに向けられました。

 

 

 何故そのチョイスなのかは分かりませんが、少なくとも白けた空気だけは確かなものでした。

 

 

 守護騎士らは四人揃って何かを話しています。

 

 

「……なぁ、ここは笑ってやるべきなのでござるか?」

「しっ! ダメよ、ああいう変態っぽいケダモノは一度褒めるとつけ上がるから」

「しつけのなってない獣は頭が悪くて困るな。育ちが知れる……」

「オメェら二人は今すぐ鏡見ろよ」

 

 

 うわぁ嫌な心遣い、と思いつつユーノは振り返ると、こっちもこっちで何事かを囁きあっております。

 

 

「なぁーアルフ、さっきユーノ変なこと言ったのかー?」

「あはは、なんでもないよフェイト。いい子だからちょっとあっち向いてようねぇー?」

「そういえば部屋の電気消して来たからしら? 不安ね……」

『あー茶がうめぇなぁ、なんか今寒いから余計美味く感じるぜ』

『いやー、面白いこと言わない人もいるんですねぇ』

 

 

 味方がいませんでした。

 

 

 さんざんな反応にユーノはブラックホールがあったらスキップしながら突撃する勢いでしたが、背後から迫る恐ろしいオーラに死の気配を察知しました。

 

 

「ふふふユーノ君、なかなか面白いことを言うね? 私も思わず笑顔になってしまうよハハハハハ」

 

 

 迫力満点の笑顔にユーノは口から魂が出そうになりました。

 

 

「こ、殺されゆ……!」

 

 

 思わず語尾がおかしくなるくらいの殺気でした。

 

 

「さて、ユーノ君。今すぐ選びたまえ。今ここで『必死』という言葉を体現するか、それともこの場でお星様となってみるのかを……!」

「そ、そりゃもちろん前者―――あれちょっと待って? 必死ってもしかして努力するって方? それとも必ず死ぬってこと? どっち?」

「ははは、ユーノ君はたまに常識を忘れるね? ―――真実はいつも一つだよ?」

 

 

 ユーノはつむじ風を生みながら逃げ出しましたが神風を作るなのはからは逃げられませんでした。

 

 

「ユーノ君、今の失態は見なかったことにしてあげよう。その代わり、君があの赤毛の女を担当したまえ。アルフ君はあのデカい男を頼む。肉弾戦ならば余裕だろう?」

「まぁなんとかなるさ」

 

 

 頼もしげなアルフの姐さんですが、誰もいない方向を見ながら言っても頼もしさの欠片も感じません。

 

 

「じゃあなのはは誰と戦うの?」

「私か? 私はだね……」

 

 

 至極順当な疑問に、なのはは腕組みをして、

 

 

「全員だね」

 

 

 それは果たして『敵を全員やっつけてやる!』という意味なのでしょうか、それとも『この場の全員問答無用でぶちのめすの!』という意味なんでしょうか。

 

 

 ユーノがヴィータの前に立ち、ザフィーラと相対する構えをとるアルフ。なのはやフェイトがあれだけ嫌がったのにアルフがそこまで嫌がるそぶりを見せないのは、以前ババア呼ばわりされたことをまだ根に持っているためでしょう。

 

 

 そこで鋭い反応を見せたのはシャマル先生でした。

 

 

「少年の相手はヴィータちゃん……ヴィータちゃんは私の仲間……ならば少年は私の嫁……!」

 

 

 その三段論法はおかしいです。

 

 

「ザフィーラ。いらん心配だとは思うが、気をつけろよ」

「案ずるな。俺は盾の守護獣だ。我が鉄壁に死角無し」

 

 

 ザフィーラは自信満々に言いますが、フェイトを見ながらの前傾姿勢でなければもっと格好ついたでしょう。

 

 

「っしゃあ! いくぜ!」

 

 

 気合を入れたヴィータは、我先にとばかりにユーノへ突撃を敢行します。

 

 ぐんと勢いをつけて接近するヴィータを、ユーノは冷静に見ていました。確かに最近影が薄くなってきているような気がする。しかし実力如何に関してはまったく関係ない話です。以前と異なり、十分な魔力を所持する今ならば、万事に余裕を持って対処することも可能でしょう。

 

 

 ゆえに、ユーノはシールドを展開しようと右手をスッと上げましたが、

 

 

「危ないユーノ君!」

 

 

 後ろからディバインバスターがぶっ放されました。

 

 

「ギャーッ!!」

「うぉっ!?」

 

 

 間一髪のところで避けるヴィータ。当たり前のように巻き込まれるユーノ。

 

 

 煙の尾を引いて落ちていくユーノを唖然とした表情で見送るヴィータの元へ、ゆっくりとした動きでなのはが近づいていきます。

 

 

「さぁ、邪魔物は消えた。―――お話し合いしようか?」

 

 

 なのはは爽やかそうにスマイル一発。

 

 あまりの暴君ぶりに本格的にユーノが哀れに思えてならないヴィータでした。

 

 

「……不意打ち喰らわせようとしてよく言うな、オイ」

 

 

 ヴィータの発言をなのはは右から左へ流しました。

 

 

「私は何度でも問おう。何故君らは戦う? 無駄な戦いは止めるべきではないだろうか」

 

 

 それはアンタが余計なことするからです。

 

 

「うっせぇ! こちとら時間がねぇんだよ! お前みたいのに付き合ってらんねぇ!」

「闇の書とやらの完成を急いでるから、だろう?」

「! 知っていたのか……!」

「ああ。――ウチの有能な秘密兵器が必死になって調べてくれたのでね」

 

 

 その肝心の秘密兵器は遥か下の方で気絶していることを思い出してあげるべきではないでしょうか。

 

 

「君らの事情は私なりに把握しているし、理解しているつもりだ。どうだろう? ここはお互い腹を割って話し合っては如何だろうか。君らの努力を無駄にはしないと誓おう」

 

 

 それに、

 

 

「君の帽子に対する謝罪を、私は用意しよう」

「……!」

 

 

 どうだろうか、となのはは問いかけます。

 

 割とシリアスな空気にヴィータは言葉を呑みこみ、けれども頭を振って目線を強めました。

 

 

「……こういう言葉を知ってるか? 『平和の使者は武器を持たない』ってな」

「ああ、知ってるとも。だがこうも言うだろう? 『力無き正義は愚者の夢想でしかない』とも」

「だったら話し合いなんざ無意味だって分かってるはずじゃねぇのか」

 

 

 それになぁ、とヴィータはアイゼンを突きつけました。

 

 

「S極とS極は引かれ合わないだろ? あたしとテメェは、つまりそういうことさ」

「成程。つまり話を総括すると……君も私もサドということかね?」

「どこをまとめてきたんだよテメェは!」

 

 

 キレ気味にヴィータは叫びました。

 

 

「もういい! テメェと話し込んでたら日が暮れるまで頭悪いコントする羽目になる! いい加減ここでブッ潰してやらぁ!」

「やはり止めないか? 今なら可愛い少女達が君らに誠心誠意謝罪する用意があるが」

「「なんだと!?」」

「反応してんじゃねぇよボケ! つーか自分で可愛いとか言うんじゃねぇーッ!」

「ヴィータちゃん大丈夫!? 今そっち行くわ!」

「どいてろシャマル! ヴィータよ助太刀する!」

「何聞き耳立ててんだテメェら! オラさっさと散れ! 散れ!」

 

 

 キャンキャンと散って行くハイエナ二匹を追い払い、ようやくヴィータは一息つけました。

 

 少々慌ただしい空気ですが、仕切り直しということで、アイゼンを大きく回転させ、両手で構えました。

 

 

「一回だけで足りねぇなら、二度も三度も喰らわせてやるよ」

 

 

 自信たっぷりなヴィータに対し、なのはは相変わらず無表情でしたが、そこにはいつもの余裕と不敵な雰囲気が漂っていました。

 

 

「新たな力を得た私に勝てるとでも?」

「お前みたいなチビが勝てるとでも?」

 

 

 ニヤリ、とヴィータは「言ってやった」とばかりに笑いましたが、すかさずなのはは答えました。

 

 

「おっと会話が成り立たないアホが一人登場~。質問文に対し質問文で答えるとテストで0点なのはご存知かね? はははこのマヌケめ」

 

 

 青筋を浮かべたヴィータはアイゼンを振りかぶりました。

 

 最初から全力でした。

 

 

 




前編です。

長くなってしまって自分で挫けました。すいません……


後編はもう少々お待ちを。


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第十話 説得なんて冗談なんです

まだ体調が完全ではありませんがせっかくやる気になったので進めておきたいと思います。


空白期というか、中学時代の頃とかも書いてみたいと思っているのですけど、なんだかStrikers編を期待している方が多いみたいで。
とりあえず本編を全部終わらしてから、やるかどうかを決めていこうかなと思っております。



   A's編 第十話

 

   説得なんて冗談なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは説得を諦めました。

 

 

「仕方ない。そこまで君が言うなら、私も力で応戦するしかないよね……?」

 

 

 そんな嬉々とした顔で言わないで下さい。

 

 

 なのはは見た目は非常に重そうなアトミックバズーカ、もとい、レイジングハートを軽々と掲げます。

 

 

「喰らうがいい、我が新たな力を……!」

 

 

 身の丈以上の長さを誇るレイハさんを右肩に掲げました。

 

 狙いを定めると、即座にトリガーを引きます。

 

 

「ディバインバスターッ!」

 

 

 

 

 

 パシャッ

 

 

 

 

 

 何故かシャッター音が聞こえました。

 

 

「…………ぬ?」

 

 

 一向に発射されないディバインバスターに疑問を抱いたのか、なのははもう一回トリガーを引きます。

 

 

 再びフラッシュ。これはどういうことだと思って横のボタンを押すと、カートリッジのような何かが出てきました。

 

 

 フィルムケースでした。

 

 

「いや確かに似ているが……!」

 

 

 投げ捨てました。

 

 

 あのババア、カートリッジシステム搭載したと言っていたではないか。なのはは内心苛立たしげに罵倒しますが、突然眼前にモニターが表示されました。

 

 

 訝しげに眺めていると、アースラ艦内にいるプレシアの姿が映りました。

 

 

『どう? そちらの状況は』

「ああ、プレシア女史かね。―――レイジングハートがカメラに魔改造されているぞどうなっている!」

『高性能でしょ?』

「そんなドヤ顔で言われても死ね役立たずとしか言えん」

『心配しないで。ちょっと砲塔の横を見てちょうだい』

 

 

 言われるままに見てみると、さっきのものとは別に、三つほどボタンがついておりました。赤・青・黄の三種類です。

 

 

『赤いボタンを押してごらんなさい』

「これかね?」

 

 

 と、勢いよくプッシュしました。すると、

 

 

 

 ピュウッ

 

 

 

 黒い液体が吹き出しました。

 

 

『醤油が出るわ』

「誰がそんないらん機能を披露しろと言った! さっさとカートリッジシステムを起動させたまえ!」

 

 

 しょうがないわねぇ、と渋々プレシアはカートリッジシステムの説明をし始めました。戦闘中だというのにそんな余裕ぶちかましている暇あるんでしょうか。

 

 

「……おい。あたしはいつまでコントを見てりゃいいんだ?」

 

 

 最早呆れて言葉も出したくないような具合のヴィータが言いました。

 

 

 ヴィータは余裕綽々な態度ですが、それも止むなしといったところでしょうか。確かになのはの武器はバージョンアップを果たしているみたいですが、あんな外見がとり回しづらそうな武器であれば見かけ倒しと思われても仕方ないでしょう。実は強いんじゃ、という懸念も先程のソイソース噴射で消し飛んでおります。

 

 

 しかしなのはとて余裕の態度を崩しません。

 

 

「貴様は何か勘違いしている」

「んだと?」

 

 

 怪訝に顔をしかめるヴィータに、なのはは胸を張って言いました。

 

 

「私の武器がレイジングハートだけだと思っているのなら大間違いだぞ」

《mjd?》

 

 

 レイジングハートはキャラも忘れるくらいビックリしました。

 

 

 一体何をするつもりなんだ、とヴィータが注視する中、なのははレイジングハートを一度収納しました。一体どこにしまったのか分からない人はスカートの中だと思えば夢が広がるんじゃないでしょうか。

 

 

 大きく腕を掲げ、何事かを呟くと、眼前に魔法陣が浮かびました。

 

 見たことのない魔法陣を展開したなのはに、自然と警戒心が高まります。

 

 

 なのはは、ニヤリ、と笑い、声高々に死刑宣告を発しました。

 

 

「秘儀……十二王方牌大車併!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見た某管理局員は、後にこう語りました。

 

「ありゃこの世の悪夢だったさ……。なんでかって? アンタな、ただでさえ恐ろしい魔王が、それそっくりのちっちゃい魔王を大量に召喚して突撃していく光景を見たらどうよ? 俺なんかビビッちまって……ぅおお寒気が」

 

 

 

 

 

 魔法陣から次々と飛び出す手のひらサイズのなのはに、さすがのヴィータもビックリ仰天しました。

 

 一体全体、どういう手品を使ったのかサッパリ分かりませんが、とにかく一体だけでもすえ恐ろしいのに突然八匹も増えたら日本沈没なんて目ではありません。

 

 

 一匹残らず消し潰すとばかりにアイゼンを構えます。

 

 鉄球を作り、放り投げると、全力で打ち抜きました。

 

 

 が、空中でスラロームして回避したミニマムなのは8体は瞬く間に接近し、ヴィータの身体に飛びつきました。

 

 

「くっ……! このぉ!」

 

 

 全力でひっぺがそうと手を伸ばしますが、ミニマムなのはは危なくなると虚空へ飛びのき、隙を見てまた身体のどこかしらにくっ付いてきます。まるで餌にむらがるハエのような動きにヴィータの怒りのボルテージがぐんぐん上がって行きます。

 

 

 そしてそれに拍車をかけるように、ミニマムなのはが口々に言いました。

 

 

『ハハハアタラナイヨ』

『フフフドコヲネラッテイルノカネ』

『チイサイナァチイサイナァ』

『オットチイサイノハナカミダヨハハハ』

『マッタクキミハチイサイナァフフフ』

 

 

 あまりのウザさに頭が沸騰しかけたヴィータは、やけ気味にアイゼンを一回転させました。

 運良くハンマーヘッドが三体ほどにぶちあたり、ミニマムなのはは消滅しましたが、消える寸前に悲鳴を残していきました。

 

 

『アアッシンジョウクン!』

『アアッシンジョウクン!』

『アアッシンジョウクン!』

 

 

 腹の立つ嬌声にヴィータは殺意を抱きました。

 

 

「ははは、手間取ってるみたいだね? 次の攻撃をかわせるかな?」

 

 

 はっと我に返ったヴィータは、なのはが健在であることに遅ればせながらも思い出しました。

 

 ミニマムなのはだけで手いっぱいという状況なのに、この上本体のなのはの相手もしなければならないのです。今砲撃を撃ち込まれれば、ヴィータなどひとたまりもないでしょう。

 

 

 思わず目を瞑ってしまったヴィータは、ややあってから、音が静かになったことに気が付きました。

 

 恐る恐る目を開くと、いつの間にかすぐ前にまで来ていたなのはが佇んでいました。

 

 

 目が合いました。

 

 なのはは小さく微笑みました。まるで安心しろと語りかけてくるような、爽やかな笑みでした。

 

 

 ヴィータは知らず知らずのうち、四肢から力が抜けていました。

 

 ああ、そうだった。

 彼女は確かにムカつくけど、何度も何度も話し合いで解決しようとしていたじゃないか。

 今だってそうだ、隙だらけで攻撃する時間は幾らでもあったのに、仕掛けてこなかった。この小さいなのはだって異常に腹立つけど、こちらに危害は一切加えていない。これはヴィータを無力化させるために放ったものではなかろうか? そう考えるのは別段不自然なことではないはずだ。

 こいつは今でも、話し合おうというのだろうか。

 だとしたら馬鹿じゃないのか。いや、きっと馬鹿だ。

 けど、そんな馬鹿に心を動かされようとしている自分も、大馬鹿だ。

 

 感情が動いたヴィータが、何かを言おうと言葉を探していた、その時でした。

 

 

 くるりと後ろへ振り返り、こちらに背を向けたなのはは、右手を鳴らして叫びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆発!」

 

 

 

 

 

   ちゅどぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおんっ!!!

 

 

 

 

 カラフルな爆発が生じました。

 

 

 もうもうと立ち込める粉塵と焔に照らされ、なのはの微笑みがまるで悪魔のように見えましたがこれは前からなので仕方のないことでしたね。

 

 

 やがて焔の壁を突き抜けて、怒り心頭顔のヴィータがハンマー片手に飛び出してきました。

 

 

「やっぱテメェ許さねぇ! 絶対ブッ殺してやるからな!」

「はははやれるものならやってみたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、アルフとザフィーラはというと、

 

 

「貴様はいつも邪魔をしてくれるな……! 今日という今日は絶対に許せん!」

「ウチの御主人ガン見しながら言ってんじゃねぇ! このロリコンがぁあああああッ!」

「おのれ……! 日本の快男児たる俺を侮辱するか!」

「この日本の恥がーっ!」

 

 

 一番盛り上がっておりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でフェイトとシグナムは、また見てる方が和むようなほんわかプレイを繰り広げているのかと思えば、そんな予想を見事に裏切って、激しい戦闘を繰り広げておりました。

 

 

 ぶっちゃけシグナムはヴィータの釣り餌作戦の影響でやる気がマックスに引き出され、フェイトは新しいおもちゃ……もとい、武器を手に入れて気分が有頂天だからでしょう。

 

 

「そりゃあぁあぁああああッ!」

「きえぇえええええええいッ!」

 

 

 紫電が瞬き、黄色い刃や光弾が空気を切り裂き、素早く回り込んだ桜色の影が刹那のうちに肉薄し、一閃を放ちます。

 

 どちらも目にもとまらぬ速さで上空を飛翔し、一瞬で交差しては再び距離をとり、また激突という工程を繰り返しています。お互いに攻め入る隙を窺っているのでしょう。ガッカリ侍と似非ピ●チュウが繰り広げているとは思えない戦いです。

 

 

 しかし普段ちゃらんぽらんな彼女らが、今一体どんなことを考えて戦っているのでしょうか。一度頭の中を覗いてみたいところですね。

 

 

 せっかくなので、一度彼女らの視点に変更してみましょうか。

 

 ではスタート。

 

 

 

 

 

 ~フェイト視点~

 

 

 

 がきぃんばちばち!

 

 

「うりゃぁああぁあああああッ!」

「なんのぉ! まぁぁぁずぃぃぃんけん!!」

 

 

 きらきらばしゅーん! ズドドドド! どっかーん!

 

 くぅっ、当たらない!

 

 

「ハーケンセイバァーッ!」

 

 

 これならどうだ!

 

 ズバァアァアアアアーッ!

 

 

「そんな大味な攻撃が当たると思うな……!」

 

 

 うそっ、これも避けるなんて!

 

 

「今度はこちらの番でござる!」

「なんのぉ!」

 

 

 ズドォーン! ドガーン! グッパォーン!

 

 

 なっ!? 斬撃でビルを!

 

 

「以前の拙者と同じだと思うな……」

「く……!」

 

 

 こいつ、手強い……!

 

 けど負けるもんか!

 

 

 

 

 

 ~シグナム視点~

 

 

 

「今宵は全力で戦わせて頂こう」

 

 

 以前は油断したが、今度はそうもいかぬ。

 我はシグナム、守護騎士ヴォルケンリッターの切り込み隊長として、若輩者の後塵を拝するわけにはいかぬ!

 

 テスタロッサよ。今ここで、貴様を打ちとってみせる!

 

 

 あ、今お星様が見えました。きっとオリオン座で御座ろう。

 

 

「ちょえりゃーッ!」

「くらぇえぇえええええーッ!」

 

 

 刃と刃が交錯し、熱き火花が激しく散る。

 

 こやつ、やはりできる……! 

 久方ぶりの好敵手の存在に、拙者の心も次第に高鳴って行く!

 

 

 おっと、ポッケからおやつのビスケットが。

 

 

「く……! お主、なかなかやるな!」

「そっちこそ!」

 

 

 激しい剣戟の嵐!

 まさにデッドヒート! 両者互いに一歩も譲らぬ膠着状態!

 

 この戦い、長くなりそうでござるな!

 

 

 今、8時になりました。そろそろお腹がすいて来たでござる。

 

 

「だが拙者は負けん!」

「それはこっちの台詞だ!」

 

 

 激突が続く。

 戦場に幾度も鉄の弾ける音が響き渡った。

 

 

 今夜は鍋がいいでござるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※病み上がりの作者の頭がゲシュタルト崩壊を起こしたのでここからは普通に書きます。

 

 

 

 

 

 戦闘はまだ続いていました。

 

 フェイトはシグナムと、アルフはザフィーラと交戦中で、なのははヴィータと楽しくキャッキャウフフしていました。こんな言い方するとR18な催しが起きているかと大いに勘違いされそうですが、実際はそんなことはなく、

 

 

「はははお嬢さん、捕まえてごらんなさいまぁできればの話だがねフフフ……!」

「テメェ待ちやがれコラァアアァアアアアアアアーッ!」

 

 

 お花畑をスキップするかのように空中を飛ぶなのはと、それを鬼気迫る表情で追い回すヴィータがおりました。

 

 

 すっかり手玉にとられて最早闇の書とかそんなことが記憶の彼方へ飛翔している様子のヴィータでしたが、突如頭に割り込んだ念話の声に我を取り戻しました。

 

 

『ヴィータちゃん、大変よ! 管理局の大群がこっちに押し寄せてきてる!』

「なんだと!?」

『あと美少年がビルの屋上で倒れてる!』

「それはどうでもいい」

 

 

 まさかこれが狙いだったのか、とヴィータは歯噛みしつつなのはを睨みました。

 

 同時に、なのはの元へもクロノから念話が入っていました。

 

 

『おいなのは! そろそろこっちも到着するぜ!』

「おやクロノ君、もうすぐ決着がつきそうというところで登場とは、良い御身分だね?」

『これでも急いで来たんだよ!』

 

 

 なのはは鼻息荒いクロノの通信を切りました。

 

 

 見れば、同じく念話を切ったと思しきヴィータと目が合いました。

 

 

「さて、こちらは増援が到着するそうだが……どうするかね?」

「……ちっ」

 

 

 ヴィータとしては、ここでなのはをボコボコにしてから帰らないと腹の虫がおさまりませんが、これ以上彼女の相手をしていても状況が悪化の一途を辿るでしょう。管理局の増援が到着してしまえば、最早戦いにすらならないでしょうから。

 

 

 舌打ちしたヴィータは、アイゼンを下ろしました。

 

 

「おい、高町なのはとか言ったな」

「―――む? 私かね?」

 

 

 一瞬驚いたように目を丸くして、なのはは答えました。

 

 何で驚くんだ、と思いつつ、ヴィータは憎々しげに言います。

 

 

「話し合いなんて無駄だってのは、もう分かっただろ! これ以上、もうあたし達につきまとうな!」

 

 

 捨て台詞を残し、踵を返して、上へ上へと飛翔して行きます。

 

 

 追いかけようか、と一瞬なのはは考えましたが、頭上に撃ち出された閃光弾のようなモノの輝きに視界を奪われてしまいました。

 

 

 再び目を開くと、そこに守護騎士らの姿はありませんでした。

 

 

「逃げたか。まぁ、よかろう」

 

 

 溜息でもつかんばかりに肩を下ろしましたが、なのははどこか満足げでした。

 

 そりゃあんだけ人をおちょくれば満足でしょうよ。

 

 

 やがて結界が崩れていき、色を失っていた景色が元に戻って行きました。

 

 ひとまず戦いは終わりました。まずはフェイトやアルフの無事を確認しようと、なのははその場から立ち退きました。

 

 その手に何かを握り締めたまま。

 

 

 

 

 

 ビルの上でのびているユーノの存在に気づくのは、それから十分後のことでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~没シーン~

 

 

 

 結界が解ける寸前。

 

 ようやく到着したクロノは、結界をどうにか突き抜けて侵入に成功しました。

 

 

「おっしゃあ! 主役登場だぜ!」

 

 

 流れがヒットしました。

 

 

「さよならー!」

 

 

 落ちていきました。

 

 

 

 

   終わり

 

 

 

 

 

 

 




途中の爆発シーンはAA挟んでみようかと企んでいたのですが上手くいきませんでした。

貼れたらもっと面白かったんですがね。
ううむ。


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第十一話 真実なんて……なんです

~どうでもいい作者の謝罪コーナー~

「一か月どころか三か月も放置しているではないかね」


……はい、お久しぶりです。神凪響姫です。ご無沙汰しております。

新学期始ってレポートやらプレゼンやらで色々多忙を極めておりました。3月のなのは劇場版のBDが発売する頃に書こうかーなんて思っていたらもう五月ですよ。

しかも書き始めて一周年じゃないですか。……二か月前が。もうなんというかダメですね。


やっと自分の時間が確保できるようになったので、ゆっくり更新を続けていきたいと思っておりますので、どうかお許し下さい。


では始めます。


……そろそろ書いてきたとこ修正したいなぁ。ふぅ……


 

 某次元世界にて。

 

 篠突く雨の中、泥土の上を、ヴィータは歩いていました。

 

 

 既に満身創痍、自慢のアイゼンを握る手にはほとんど力が入っておらず、ひきずるように歩いていました。まるで幽鬼のような足取りで、俯き加減に進む様は亡霊と見紛うほどです。

 

 一歩、一歩と進み、やがて身体に力が入らなくなったヴィータは泥に足をとられ、前のめりになり、倒れてしまいました。

 

 

 しかし、

 

 

「こんなの、ちっとも痛くねぇ……」

 

 

 ヴィータはくぐもった声を上げました。

 

 

「はやてはもっと、ずっと苦しいんだ」

 

 

 闇の書が完成し、はやてが本当の主になったところで、彼女が本当に喜ぶかどうかは分かりません。

 

 はやては怒るかもしれません。

 彼女達を嫌いになってしまうかもしれません。

 

 

 だけど。

 

 

「あと、もうちょっとなんだ……」

 

 

 ぎゅっと拳を作ると、地面に手をついて立ち上がりました。

 

 

「闇の書が完成さえすれば、はやては元通りになるんだ……」

 

 

 生きてさえいれば、死ななければ。

 ずっと一緒にいられる。

 

 それだけは、確かな事実でした。

 

 

 既に息は荒く、傍目にも疲労困憊加減が窺えます。けれども泣きごと一つさえ漏らさず、静かな足取りで進んでいきます。

 

 

 やがて泉の傍までやって来ると、音もなく飛翔しました。すると彼女の魔力を察知したのか、水面がボコボコと粟立ち、水の中から魔物が飛び出してきました。

 

 蛇のような外見をした魔獣、それが何匹も現れ、獲物のお出ましとばかりに牙を剥きました。

 

 

「みんな一緒に、静かに暮らせるんだ……!」

 

 

 しかし、ヴィータは決して引き下がりませんでした。

 

 血が流れ、身体は痛み、いつ倒れてもおかしくない状態です。

 

 だけど、ここで倒れてしまっては、大事なものを失ってしまうかもしれない。大切なものを守れないかもしれない。そう思えば、臆する心など彼方へ消えてしまいます。 

 

 

 守りたいと感じて、守ると約束したあの日から。

 

 ヴィータはいつだって、主を守る守護騎士であり、阻むモノ全てを打ち砕く、鉄槌の騎士なのですから。

 

 

「やるぞ、アイゼン!」

《Jawohl.》

 

 

 獰猛に口を開く巨大な獣を前にして、ヴィータは果敢に攻め込みました。

 

 偏に、主のため。

 ただ、自分達の幸せのために。

 

 鉄槌の騎士・ヴィータは、鉄の伯爵・クラーフアイゼンを振りかざしました。

 

 最初から、全力で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに他の三人はというと、監視が厳しくやることがないので揃ってパチスロをやって散財していましたが、後にヴィータにバレてハンマー片手に追い回されていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   A's編 第十一話

 

   真実なんて……なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、こういうことかね? 闇の書とやらは、元々『夜天の書』という、各人の個人情報や緻密な環境データなどを保護し、後世に伝えるための情報収集機関だったのだが、ある時に自動防衛運用システム・ナハトヴァールとやらが組み込まれたせいで、集めたデータを強制的に撒き散らすものへと変貌してしまった、と」

『大体そんな感じよ』

 

 

 なのはの解釈にリンディは小さく頷きました。

 

 

 ユーノが(自分が空気にならぬよう)必死こいて調べ上げた結果、守護騎士らの擁する『闇の書』は、長年の転移期間中に改変を受け、それが存在自体を歪めるほどの悪影響を及ぼしているそうです。

 少なくとも、持ち主に多大な影響を与えているのは間違いないと、ユーノは語ります。

 

 ただでさえ、クライドの一件で危険視されているのですから、徐々に判明し出した事実に一同は緊張の息を呑みますが、

 

 

「まぁ結局のところなるようにしかならんよ」

 

 

 あまりにも自信大爆発ななのはの声を聞くとシリアスの株価が一瞬で大暴落してしまうのでした。

 

 

 現状、守護騎士らの動きが活発化していますので、接触の機会は多いでしょう。以前の交戦で警戒されているでしょうが、向こうの動きに焦りが見られましたので、遅からず顔を合わせる機会が訪れる……というのが、リンディの意見でした。

 

 

『ただ気をつけてね。今回の闇の書は、何かに引き寄せられている感じがするって、ユーノ君が言ってたわ。嫌な予感がするって、まるで何かに怯えるように』

 

 

 ほとんどいつものことなのでまるで緊迫感が伝わってきませんが、とにかく危険であることに相違ないので、なのはは黙って頷きを返し、通信を終えました。

 

 

 無音になった部屋で、なのはは小さく息をつきました。

 何事か考え込んでいるらしく、その横顔はやや沈鬱そうです。

 

 

「……何か、違和感がある」

 

 

 ここ数日、なのはは胸にしこりのようなモノを感じていました。物理的なものではなく、胸の奥の辺りに筆舌に尽くし難い何かを抱えていました。

 最近欠かさず行っている魔法の練習の悪影響でしょうか、それとも魔力を蒐集されたからでしょうか、健康面にはまったく悪影響が無かったのでちっとも気に留めていませんでしたが、以前の蒐集行為を受けた辺りから強まっている気がしていたのです。

 

 リンカーコアが極度に小さくなるほど魔力を吸い上げられたのですから、身体の不調も止むなしと言いたいところですが、あれから暫く時間が経っていますし、デバイスの修復が完了した時点で、医師の診断は健康そのもの、というものでした。

 

 

「何かがおかしい気がする、しかし……何がだろうか」

 

 

 珍しくシリアスな空気を漂わせるなのはでしたが、ふと、突然ひらめいた答えに、フッと不敵な笑みを浮かべました。

 

 

「そうか、私も大人の階段を上っているということか」

 

 

 台無しすぎです。

 

 結局答えは分からないまま、母親の呼ぶ声に誘われ、部屋を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 その日、はやてはいつもより遅くに目が覚めました。

 

 いつも一緒に寝ているヴィータがいないため、抱き枕にしがみついた状態で起床したはやては、朝の陽ざしに目を細めました。

 

 

「……ぬ。ヴィータは今日いないのか」

 

 

 どことなく寂しそうに言ってから、はやては首を振りました。八神はやては強い子です、孤独に負けず、世間の冷たい視線にも挫けず、一人で生きてきた逞しい少女なのです。抱き枕にしがみついてないと寝られないとか夜中に催した時には寝ぼけ眼のシグナムを伴わないとお手洗いに行けないとかそんなのは知りません。

 

 一日や二日留守にしても咎めない、心の広い主であらんとするはやてでした。これがシャマルやザフィーラなら即刻ヘッドショット撃沈コースでしょうね。

 

 そろそろ他の皆を起こそうかと思い、ベッドから降りようとしました。

 

 

 と、その時。

 

 

「くっ……!?」

 

 

 突如、胸に鈍痛がはしりました。

 

 尋常ではない痛みに、はやては車椅子にかけた手がすべり、勢い余ってベッドから転げ落ちてしましました。

 

 

 その音を聞きつけたのでしょうか、それとも最初からスタンバってたのでしょうか、シャマルがタイミング良く飛び込んできました。

 

 

「どうしたのはやてちゃん! 朝から激しいわね! お姉さんちょっとお手伝いしてもいいかしら……って、あら?」

 

 

 ノックもなしに突撃をかましたシャマルは、胸を押さえて蹲るはやてを見てすこぶる驚きました。

 

 

「だ、大丈夫はやてちゃん!? 胸が薄いのが嫌なら私が豊胸テクを今ここで伝授しても!?」

「き、貴様は平常運転、す、ぎ……」

 

 

 はやては苦しげに言いました。

 

 いつものキレが無い弱弱しいツッコミに尋常ではないと悟ったのでしょうか、これにはさすがのシャマルも血相を変えて慌てました。

 

 

「た、大変よぉっ! 大変大変たいへんたいへんたい―――へんたいよヴィータちゃん!」

「誰がヘンタイだコラァアァアアアアアアッ!!」

 

 

 ヴィータが扉ごとぶち抜いてきました。

 

 

 

 

 

 

 病態が悪化したため緊急入院。

 

 石田先生の一言で、守護騎士たちは凍りつきました。

 

 

 診察室から出た四人は半ば呆然としながら、病院の外でたむろしています。それぞれが思い思いの場所で俯き、或いは呆然と外を見つめていました。

 

 予想していたことなのに、分かっていたことなのに。あらためて直面してみると、ショックが大きかった四人は、沈鬱な面持ちで佇んでいました。

 

 

 シャマルは思わずといった具合に泣き崩れました。

 

 

「はやてちゃん、あんなに苦しんで……辛かったでしょうに、可哀そう!」

「なんという不幸……! 我々が四六時中ついていながら、主の不調を見抜けんとは!」

「己の力不足をこのようなところで実感するとは……!」

「オメェら日々の所業振り返ってみろや」

 

 

 青筋を浮かべたヴィータが突っ込みました。三人は口笛を吹いて誤魔化しました。

 

 

 もう時間がない。

 

 はやての症状が悪化の一途を辿っている今、悠長に構えているわけにはいきません。一刻も早く蒐集を終え、闇の書を完成させねばなりません。

 

 

「活動範囲を広げたのはいいけど、効率が低下しちまうんだよな……。どうする?」

「そうね。……とりあえず景気づけに一発回しておく?」

「もうエ●ァはこりごりでござる」

「攻殻●動隊は今日当たりが近そうだ」

 

 

 デカいパチンコ玉が飛来しました。大当たりでした。

 

 あー、と爆発に呑みこまれる三人。アイゼンをそっとしまうヴィータ。

 

 

「……仕方ねぇ。こうなったら多少危険度が増すが、近くの次元世界で漁るしかねぇな」

「じゃ、じゃあ私は無邪気系の幼子専門ということで」

 

 

 当たりが出ました。

 

 ホーミングする鉄球から必死に逃げようとしているシャマルを完全に無視して、ヴィータはふぅ、と息をつきます。

 

 

 ふと、ヴィータは思い出したかのように呟きました。

 

 

「……なんか重大なこと忘れてるような気がする」

 

 

 何かが頭から抜け落ちているような、ぽっかりと重大な部分だけを抜き取られたような気がしました。

 

 忘れてはいけない何かが、あったような。

 

 闇の書を完成させた、その後に、何かがあったような……。

 

 

 ぽん、と。

 

 考え込むヴィータの肩を、頭がアフロになったシャマルが叩きました。

 

 

 彼女は優しげに微笑み、ヴィータを元気づけるよう、努めて明るい口調で、

 

 

「ヴィータちゃん、大丈夫よ。守護騎士だって成長するのよ? ……根拠はないけど。だからヴィータちゃんが近頃食べ過ぎてお腹のお肉を減らすために蒐集に出かける機会多くしてダイエットしてるのは無駄なんかじゃな――」

 

 

 シャマルがフィーバーしました。

 

 

 

 

 

     ●   ●   ●

 

 

 

 ある朝のことでした。

 

 

「ふぇ? お友達が入院した?」

 

 

 いきなりオメェ誰だよ的な発言が出ましたが、帰り支度をしていたなのはの驚きを含んだ台詞です。久々なので忘れかけておりました。

 

 

 すずかは心持ち元気がなさそうな顔をして続けます。

 

 

「うん……この間まで車椅子を使って公道を爆走していたくらい元気だったのに、昨日突然入院しちゃって」

「それは元気の範疇を超えてるね」

 

 

 なのはが冷静に突っ込みました。

 

 

「それで、お見舞いに行こうと思うんだけど、なのはちゃんもどうかなって」

「え? 私も?」

「うん。きっとはやてちゃんも喜ぶと思うんだ」

 

 

 すずかは純粋に、そのお友達のことが心配なのでしょう。既にアリサも誘ったと言っていますが、初対面の人間を連れていくのはどうなのかと思わなくもありません。

 

 しかし事情を聞けば、はやてという少女は友人が少なく、すずか一人で行くより皆と一緒に行った方が楽しいのでは、というすずかなりの心遣いでした。

 

 

(友人が少ないとは……なんとも涙を誘う話だね?)

 

 

 オメェはどうなんだよオメェは、と大声で突っ込みたいです。

 

 最終的になのはは了承しました。どの道守護騎士らが動かないとどうしようもないので暇だというのが現状ですしね。

 

 で、もう一人暇をもてあまし気味のフェイトはというと、あまり乗り気でないようで、

 

 

「んー。ボクは別にどうでも――」

「フェイトが来てくれた方が私も嬉しいのだが」

「やっぱりボクも行く!」

 

 

 あっさり意見を翻し、ホイホイついて行くことになりました。

 

 

 

 

 

 同日。

 

 守護騎士四名は、はやての見舞いの準備をしていました。

 はやての病態が少々安定したので、再びヴィータとシグナムが出向くことになりました。シャマルとザフィーラは病院に入って早々小児科へ突撃を仕掛けることが多々あるので今回は見送りになりました。病院の警備は完璧です。

 

 

 ふと、ヴィータは顔を上げて、思い出したことを言いました。

 

 

「ああ、そういえば、今度はやての友達が見舞いに来てくれるらしいぞ。すずかっつったっけな?」

「なん……だと……?」

 

 

 シャマルが違う世界の住人みたいな顔をしていました。

 

 

「どういうことだ……『あの』主に友人がいるだと?」

「それはひょっとしてヴィータなりのギャグなのでござろうか……」

「きっと子供を使う新手の詐欺じゃないの?」

「オメェら疑り深すぎだろ」

 

 

 まったく信じてないようでした。

 

 

「ヴィータちゃん。一応聞くけど、それって人間のお友達?」

「他に何があるんだ」

「いえ。てっきりシル●ニアファミリーか何かだとばかり……」

「せめてぬいぐるみにしとけよそこは」

 

 

 五十歩百歩ですね。

 

 

「驚いたな。若干コミュ障入った厨二全開の主に友達ができるとは……」

「今年一番の驚愕だったでござる」

「ちょっと二人とも、はやてちゃんに失礼よ。いくらはやてちゃんが頭に厨二インラント喰らってるイタい子でも、お友達ができる可能性は一パーセントくらいあるはず」

 

 

 こいつら『敬意』って言葉知らないんじゃなかろうか、とヴィータが半目で睨んでいると、シグナムがむっとした顔で言いました。

 

 

「ぬ。ヴィータ、何か勘違いしているかもしれぬが、我々は主をきちんと敬っているぞ」

「そうか、悪かったなシグナム。……ところでオメェが持ってるチョコはなんだ」

「ああ、これは主のためにと思って買っておいたゴデ●バのチョコでござる」

「なるほど。――食ってんじゃねぇよ!」

 

 

 ヴィータがチョコを取り上げました。シグナムは涙目で蹲っております。

 

 一方、シャマルはザフィーラが鎮まり返っている事に気づきました。最初こそ驚いた様子を見せていたものの、相手の名前に心当たりがあったのか、腕を組んで黙っています。変な妄想している可能性が濃厚。

 

 

「あらザフィーラ、もしかして知ってるの? そのすずかって子」

「ああ。以前一度だけ会った事がある」

 

 

 静かな返答にシャマルは少なからず驚きました。

 

 

「ザフィーラが何も反応しないなんて……もしかしてそのすずかって子は幼女じゃなくて筋肉満点のタフガイとかそういう感じ?」

「ちょっと頭沸き過ぎだろう貴様。……幾ら俺とて時と場合は考慮するぞ」

 

 

 考えるだけで実行するとは限りませんよね。

 

 

「そういえばこないだザフィーラが随分熱心にページを増やしてくれたけど、まさかその子から……」

「違う。それは以前大人数の大人連中から吸い上げたものだ」

「え? もしかして管理局相手に?」

「いや。――通学路を歩いていたら思わず本能が目覚めてしまって、人間形態のまま小等部に突撃したら警備員がそこかしこから現れてな。雄叫びを上げながら逃走していたら指名手配されそうになったので、目撃者を片っ端から蒐集してしまえばいいやと思いちょっと……」

「やめてよザフィーラそうやって人様に迷惑かけるの! こないだお巡りさんに見つかって連行されたの忘れたの!? また謝りに行かないといけないじゃない!」

 

 

 最早常習犯でした。

 

 

「何がいけなかったんだろうな。ちゃんと道行く子供たちには断りを入れたぞ『私は怪しいことなど何もしていないから安心しておくれ』と。――当たり前のように通報されたが」

「ぶっちゃけ見た目が怪しいと何されても文句言えないわよね」

「何だと! この俺のどこが怪しいか声に出して言ってみろ!」

「前かがみになってなければまだ怪しくなかっただろうな……」

 

 

 ザフィーラが「なんで分かったんだ」みたいな顔をしていますが普段の所業が動かぬ証拠です。

 

 

「さ。こうしてはおれん。主のために、今日も蒐集に勤しまねば」

 

 

 露骨に話題を逸らしました。

 

 

「……まぁいいけどよ。ともかく、今度のクリスマスにははやての友達がくっから、そん時までにはひと段落させておきたいんだよ」

「なら近場で蒐集するしかないのだな」

「大丈夫かしら……近隣の次元世界じゃ管理局に気づかれそうね」

「案ずるな。近く連中がにいれば俺の鼻が気づく」

 

 

 非常に頼もしげですが言ってる事は変態スレスレです。

 

 

「本当? ザフィーラの鼻って案外あてにならないし……」

「失礼なことを言うな! 貴様のような加齢臭漂う骨董品など地平線の先からでも分かるわ!」

 

 

 シャマルが旅の鏡を出そうとしたので急いで止めました。

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 クリスマス、それは聖なる日……性成る日とか考えた人は即刻退場して下さい遠慮せずに。

 

 

 なのは達は以前の約束通り、はやてという子が入院している病院へやってきました。

 

 

 予め場所を教えてもらっていたので、なのは達は現地集合し、そこから病室へ向かう手筈でした。

 

 

 フェイトは一番最初に着きました。まぁ途中で5回ほど迷子になりかけて涙目となっていましたがどこぞのロリコン疑惑のある某執務官の通信によって助けられてなんとか辿り着きましたけど。

 

 

 が、待っているとなのはがやってきました。

 

 ―――病院の中から。

 

 

「ねぇなのは。なんでお見舞いする人が怪我してるの?」

 

 

 しかも何故か全身擦り傷だらけで、肩で息をしていました。

 

 

「ああ、これは失礼。……予定よりも早く到着したので、病院内を探索していたら鼻息荒い医者に『検査! 問診! ゲットだぜ!』などと訳分からんことを叫びながら突撃してきたので階段から蹴り落としたら、今度は廊下から御老体の医師がワラワラと出てきて『ジャンクフード漬けの若者に負けはせん! ストレイツォ容赦せん!』と言って献血を求めてきたので全て撃墜していたのだよ」

「た、大変だったんだね……」

「ああ、さすがに予想外だった……。まさか病院に医者がいるとは」

 

 

 じゃあどこにいるって言うんでしょうか。

 

 

 すずかとアリサが到着するまで暇になった二人は、玄関前で待ちぼうけすることになりました。

 

 そういえば最近二人きりになることなかったな――思春期男児みたいなことを考えたフェイトはちょっと嬉しくなり、何か言おうと口を開きましたが、その前になのはが言いました。

 

 

「フェイトは病院に来たことがあるかね?」

「? ううん、ないよ。病気になってもお母さんが治してくれたから」

「そうか。それは何よりだ」

「なのははあるの? なのはって元気なイメージあるけど」

「私か? 私は……」

 

 

 と、そこで、不自然にもなのはは口をつぐんでしまいました。

 

 不可解な閉口にフェイトが目を向けると、なのはは虚空を眺めていました。何かを考えているようにも見えますし、何も考えてないようにも見えました。

 

 

 どうしたんだろう。心配になったフェイトは、何か言いたげな顔をしましたが、

 

 

「なのはー! フェイトー!」

「ごめんねー! 待たせちゃったー?」

 

 

 アリサとすずかの到着によって、中断を余儀なくなくされました。

 

 もう一度なのはを見ると、いつもの無表情に戻っていました。気のせいだったのかな、フェイトはそう思い、この事は気にせず胸の奥にしまっておきました。

 

 

 

 

 



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第十二話 暴走なんて大変なんです

書くのが久々すぎて何がやりたかったか分からなくなってきましたよ?(問題発言


相変わらずクオリティと投稿スピードがいい加減になってきてますが、ご了承下さいまし……






「あー、どうも。最近影が薄いとか言われているクロノ・ハラオウンだ。

 

 え? もっと影薄いヤツいるじゃねーかだって? 知らんそんな奴。

 

 あ、そういや聞いてくれ。クロノさん新しい挨拶考えたんだけどよ、どうせだからここで聞いてってくれや。

 

 とゆーわけで……行くぜ! せーの、オッh―――」

 

 

 

 

 

 ~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   第12話 暴走なんて大変なんです

 

 

 

 

 

 

 はやては病室で外を眺めていました。

 

 今日はクリスマス、雪が今にも降り出しそうな天気でした。ホワイトクリスマス、という言葉が浮かび、はやては雪が降らないかな、とちょっと期待していました。

 

 

 しかし今日はクリスマスだというのにまだ誰も見舞いに来ておらず、はやての部屋はしんと静まり返っていました。

 

 

「ふん。騒がしい連中がいなくてせいせいするわ」

 

 

 などと言いながらも、部屋が散らかっていないか気にしたり鏡を見ながら身だしなみを整えたり窓の外から玄関付近を眺めてみたりと、ひたすらそわそわしていました。

 

 

 と、ここでドアがノックされました。

 

 

「ひゃあ!?」と叫びかけたはやてはベッドから転げ落ちました。動揺しすぎでした。

 

 

 慌てて身を起こしたはやては、ふと一体誰が来たのかと思いました。

 

 この時間に来客の予定はありませんでした。もしかしたら不審者か、それともまたネタをセットしてきたシャマルか……変な予想を漂わせながら、はやてはドア越しに問いかけます。

 

 

「何者だ?」

『はやてちゃん、私です。すずかです』

 

 

 ああ、と思い至ったはやては、肩の力を抜きました。

 

 さすがに枕下に隠したコルト M1908 ベスト・ポケットをぶちかますことはしませんでした。

 

 

「はやてちゃん、久しぶり!」

「どうも、こんにちは!」

「……ど、どうも…………」

 

 

 入って来たのは、先日知り合ったすずかの他、見慣れない金髪の少女二人でした。はやては一瞬目を丸くして驚きましたが、すずかの友達だと知ると、肩の力を抜きました。

 

 すずかの友達なら、きっと良い子なのだろう。はやてはそう思いました。思ってました。

 

 

 そこでタイミングを狙ったように遅れて登場する輩が。

 

 

「こんにちわー♪」

 

 

 偽りの無邪気全開、仮面被ったなのは降臨。

 

 

 はやてはすずかの友人だと思い、「こんにちわ」と言いかけたところで、急に身動きを止めました。

 

 そしてなのはもまた、笑みを携えて入室したところでフリーズしていました。

 

 

「? どうしたの、なのはちゃん」

 

 

 すずかの声も届かず、無言で視線を交わす少女二人。

 

 なのはとはやてはこう思っていました。

 

 

 

 

 

((こいつ、猫を被っているつもりか……!))

 

 

 

 

 

 妙なシンパシーを感知していました。

 初見でお互いの本性を見抜いておりました。

 

 なのはは素の自分を学園の友人の前では出せず、はやては初対面の人間には素を見せずに大人しそうな子を演じようとしております。てめぇすずかの前じゃ素トレートだったじゃねーか――誰かがそう言いそうですがそれはそれということで。

 

 

 なのはに対し警戒心を抱いたはやては、隙を見せまいと窺いつつ、

 

 

「おおきになぁ、わざわざクリスマス前なのに来てもろて」

 

 

 いつもより少し、いや大分、いやむしろかなり控えた状態で客人を出迎えました。ちょっと風変わりな少女を演出することで注意をそちらに逸らし、我が秘すべき本性を隠蔽する……我ながら完璧なプラン! と意味不明なことを考えてしましたが、

 

 

「あれ? はやてちゃん、いつもと話し方違うね?」

 

 

 二秒で瓦解しました。

 

 

「い、いややわぁすずかちゃん。私は元々こんなんやで?」

「えー、そうだったかなぁ。このあいだまで『我にできぬことなどないわぁ!』とか言って、車椅子で車道を爆走してお巡りさんに補導されかかっていたよね?」

 

 

 思いっきり恥をさらしていました。

 

 

「え~? はやてちゃんそんなことしてたんだー。おかしい」

 

 

 けらけら笑うなのはにはやては思わずブチ切れそうになりましたが必死にこらえました。

 

 

 が、

 

 

「え? それの何がおかしいんだ?」

 

 

 フェイトのマジ発言に一同がフリーズしました。

 

 

 そういえば似たようなのがここにもいたわ……。常日頃からうははー強いぞカッコいいぞーとか叫んでいるイタい少女の存在になのは達は後ろを向いて溜息をつき、はやては小首を傾げました。

 

 

 

 

 

 さて、色々ありましたが、ひと段落したところではやてにクリスマスプレゼントを送る四人。

 

 この面子の中では一番社交的なアリサは既にはやてと打ち解け、フェイトは最初かなり距離感のある対応でしたが、はやてが自重しつつ話しかけると、やがて少しずつ話しかけてくれるようになりました。微笑ましい光景ですね。どっかの誰かさんも爪の垢を煎じて飲んで頂きたいものです。

 

 ちなみになのははフツーに話していますが、はやてに思いっきり睨まれています。面の皮の厚さでは百年経っても勝てないでしょう。

 

 

 すずかとアリサのプレゼントを受け取り、満更でもなさそうに微笑むはやて。

 

 今度はフェイトが、

 

 

「こっ、これあげるよ!」

 

 

 そう言って差し出したのは、どっかで見た事ある橙色の犬のぬいぐるみでした。

 

 

「可愛いだろー」

 

 

 ぱぺーとでも効果音がつきそうな無邪気スマイルだったので、はやては眩しすぎて顔を背けました。

 

 なので、足の肉球のところに書いてある『Made by Presia』の文字は見えませんでした。

 

 

 で。

 

 

「はいこれ」

 

 

 そしてなのはが渡したのは細長いピンクの包み。

 

 どことなく嫌なオーラを発していると思えるのは気のせいでしょうか。

 

 

(ふん。くだらんモノだったら窓から投げ捨ててくれる)

 

 

 などと思いつつも、ちょっと嬉しそうに頬を緩めたはやては、がさごそと包みを開いていきます。

 

 すると中の物体が顔を覗かせました。

 

 

 青汁でした。

 

 

「健康にいいかなって」

「おばあちゃんか貴様!」

 

 

 しかし身体に良いのは事実ですし、そこまで常識外の物品ではなかったので有り難く頂戴することにしました。

 

 なお、なのはが嫌にニコニコしていたのではやては思い切りガンを飛ばしましたが華麗に無視されました。

 

 

 

 ―――それからは穏やかで賑やかな時間が流れました。

 

 

 食事時になりますと患者用の食事が出されますが、はやては小食気味なのかあまり口を付けたがりません。病院のご飯って健康面に配慮しているせいか、あまり美味しくないんですよね。最近はそうでもないかもしれませんが昔はひどかったのです。

 

 そこに目を付けたのは、頭カラッポな分夢つめこんでる健康優良児フェイトでした。

 

 

「なんだよーオマエ、そんなちょっとしか食わないから身体弱いんだぞ! もっといっぱい食べないとだめだよ!」

「そうだよはやてちゃん。そんなんだから『三人娘で現実的には一番妥当だけど地味だからなんか微妙』とか言われるんだよ」

 

 

 納得してしまいそうな流れに思わずはやては頷きかけましたが、二秒後すごい形相で振り向きました。

 

 

「ほら、だからこんなにお腹が痩せちゃって……」

「そこは我の胸だ!」

 

 

 青筋を浮かべたはやてが突っ込みました。

 

 

「でもはやてちゃん。ちゃんと食べないと」

「そうね。今が大事な時期なんだし」

「うんうん、ちゃんと食べようね。身長2メートル、スリーサイズトリプル100くらい目指して」

「横綱か!」

 

 

 道端で会ったら無言で道を譲られそうです。

 

 

「でもフェイトちゃんの言う事も一理あるんだよはやてちゃん」

「そうよ。日々の生活が大事なのよ」

「そうだよだはやてちゃん」

「し、しかしな……病院の食事とはこれほどまでにマズいとは思いもしなかったのでな……」

「そうだけど、その分ちゃんと栄養バランス整えてあるんだよ」

「この際だから好き嫌いなくしちゃいなさいよ」

「そうだよはやてちゃん」

 

 

 いちいち尻馬に乗って来るなのはにそろそろ堪忍袋の緒が切れそうになったはやては口の端を引き攣らせていました。

 

 

「ほら、顔色がこんなに悪いし」

「それは花瓶だ!」

 

 

 花瓶をブン投げました。なのはは首の動きだけで回避しました。

 

 

「安心しろよ! こんなこともあろうかと、ボクが良いモノ持ってきてやったから!」

 

 

 なんてことを言いつつフェイトが鞄から取り出したのは、さっきと同じ色の包み紙です。心なしか形状が数秒ごとに変化している気がします。猛烈に嫌な予感を抱くなのは。

 

 

「フェイトちゃん。一応聞くけど、それはなぁに?」

「え? 見て分かるだろ?」

 

 

 誰も分かりません。

 

 

「実はうちで作ったんだよ! ―――クッキー」

 

 

 バイオテロ再び。

 

 

 なのはが『おい止めろ馬鹿この子の人生は早くも終了ですね』と思って制止する前に、はやてが、ありがとうと言って受け取りました。受け取ってしまいました。するとはやての視界がホワイトアウトしました。脳裏に忘れかけていた思い出が浮かび上がります。父と母、優しかった両親の笑顔。抱かれる感触。遊んでもらった日々。家の中を走り回った時間。押入れの中でかくれんぼした光景。ひっくり返すダンボール。出てきた何十冊ものノート。なんとはなしに開いてみる。書かれてあった両親の若き日々の記録。ちょうど中学二年の頃。魔王を倒す勇者の伝説。唸る右腕。秘すべき第三の眼。伝説の剣ジェノサイドギガブレード一振りで相手は全員死ぬ。もう一冊を見る。世界を救済するダークネスエンジェルの転生体。絶世の美女ウルテミス。愚者を導く最高権力者。世界観にのめり込むこと一時間。そのノート掲げて親元へ行くはやて。頭抱える父親。冷や汗全開の母親。なんとも言えない空気……

 

 

 ここまで思い出した瞬間、はやては意識を取り戻しました。

 

 

「大変だったんだぞーこれ完成させるのに失敗十三回もしたんだからなっ!」

 

 

 なんちゅうフォローや。はやては人生初の絶望に突き当たりました。

 

 

「フェイトちゃん。ちょっといい? ……それどこで作ったの?」

「え? どこって勿論自宅で」

 

 

 笑顔でサムズアップします。おい誰かその指へし折ってくれ、なのはは思いました。

 

 

「大丈夫だよ! ちゃんとアルフに試食してもらったからさ!」

 

 

 アルフが欠席した理由が判明しました。

 

 プレシア女史は何をしていたんだ。なのはは思いましたが、あの子煩悩な母親がフェイトの頑張る姿を見て止めに入るとはノアの大洪水が起きても止めないとも思ったので、自分に飛び火するなよと珍しく真摯に願いました。

 

 

 いかん、このままでははやてがお天道様の下を自分の足で歩くことなく最終回を迎えてしまう……! と、そんな頭の悪いやり取りをしている時でした。

 

 扉がノックされ、返事をする間もなく誰かが入ってきました。

 

 

「おーいはやて。見舞いに来てやったぞー」

 

 

 どこか聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 

 

 はやての親族だろうか、となのはとフェイトは振り向きます。

 

 

「あ、お邪魔してま―――」

 

 

 言いかけたところで止まりました。

 

 入って来た三人も、部屋の中にいた客人の姿にフリーズしました。

 

 

 硬直する面子に疑問符を浮かべるすずかとアリサ、そしてはやて。

 

 

 

 

 

 

 ~それぞれの心境をご覧ください~

 

 

 

(コイツら……こないだの!)

 

 

 警戒心を高める赤毛。

 

 

(あ。あのお菓子美味そうでござる……)

 

 

 バイオ兵器に目をつけてしまった子供。

 

 

(幼女がこんなにたくさん! 8人中6人も! 推定幼女率0.75! 平均打率五割超えなんてメジャーでもいないわウヒヒwwwwおっとよだれが……!)

 

 

 妙な計算をしだす不審者。

 

 

(あ、茶柱が……)

 

 

 まったく気に留めていない輩一匹。

 

 

(この人たち誰だっけ?)

 

 

 既に忘れ去っている無邪気少女。

 

 

 

 

 事情を知らぬすずか達やはやてがいる手前、迂闊に動けない守護騎士3名。え? 何故かって? ヴィータはともかく他二名ははやてに怒られるのが怖いからです。

 

 

 ヴィータは今すぐにでも飛びかからん形相ですが、さすがに一般人の前で暴れる愚行はおかしませんでした。

 

 シグナムはなのは達が不審な行動を見せたら即切りかからんばかりに構えていましたが、フェイトがそんなシグナムを見て何を思ったのか、クッキー(状態:毒)を差し出しました。

 

 

「お菓子食べるか?」

「ありがとうございます」

 

 

 真面目な顔で受け取りついでに握手も交わしました。後ろでヴィータが額を押さえて仰いでいました。

 

 

 十秒後、悲鳴が上がったのは言うまでもありませんでした。

 

 

 

 

 

 ひとまず警戒はしつつも客人として迎え入れる方向性で定まったらしく、表面上は笑顔を浮かべるヴィータ。さっきのクッキー事件はフェイトの犯行と疑っていたようですが涙目のフェイトを怒鳴りつけるのは良心が酷く痛んだので水に流してやることにしたようです。

 

 なお、シグナムは復活して早々にケーキ(※なのは持参)で懐柔され、シャマルは幼女が楽しげに語らう姿を一瞬たりとも見過ごすまいとガン見していました。

 

 

「そういえばなのは、アンタ家の手伝いしなくて大丈夫なの?」

「大丈夫! お父さんたちが頑張ってくれてるから、問題ないの!」

 

 

 誰だコイツ、みたいな目で守護騎士達が見ていますが見慣れたものでした。

 

 

「……(おいシャマル。ちゃんと通信傍受してんだろうな? 管理局の連中に嗅ぎ付けられたら面倒だぞ)

「……(大丈夫よ。ジャミングは施したわ。連絡はさせないわよ)」

 

 

 そうか、とひとまず安堵の息をつくヴィータ。さすがのシャマルもそこまで抜けていないようです。

 

 

 一方、はやてと談笑するすずかとアリサを遠目に小声で会話するなのはとフェイト。

 

 

「……(フェイト。先程からポケットの中が振動しているようだが)」

「……(あ、お母さんに連絡したんだよ。闇の書? の守護騎士とそーぐーしたよって)」

「……(ふむ。ならば体調が回復次第アルフ君に来るよう伝えてくれたまえ。ついでに出番が少ないユーノ君も)」

「……(いいよー。あ、クロノはどうする?)」

「……(アレは面倒くさがりと見せかけてその実構ってちゃんだから放っておいても来るだろうよ)」

 

 

 そっかー、と頷くフェイト。

 

 

 そんな聞き捨てならない会話にヴィータは半眼で振り向きました。

 

 

「……おいシャマル。一体どういうことなんだ?」

「嘘!? ちゃんと結界張って妨害してるのに!」

「その結界は一体いつ用意したんだ?」

「え、つい今しがただけど」

「そうか。―――じゃあちょっと前までは何もしてなかったんだな?」

「ええ!」

 

 

 胸を張って答えたのでヴィータはキックをかましました。

 

 そりゃ妨害されてなきゃマッハでTELするに決まってますわ。

 

 

「どうすんだよおい! 管理局に見つかったら大変なことになるってことくらい考えなかったのかよ」

「愚問ねヴィータちゃん。―――私の頭の中は幼女のことでイッパイよ!」

 

 

 キリッとした顔で言ったのでタンスの中に蹴りいれておきました。

 

 

 

 

 

      ~その頃のアースラ艦内~

 

 

 

「何? 守護騎士どもの居場所が分かった?」

 

 

 椅子の上でDSをいじっていたクロノは怪訝な声を出しました。

 

 

「どうやら主らしき人物が入院中みたいだねー。フェイトちゃんの報告によると、『よく分かんないけどなのはもいっしょだからへーきへーき!』ってことだから多分いいんじゃないかな」

「何がいいのかまったく分からねぇが……とにかく、出動準備はしねぇとな。おいお前ら! すぐに出っぞ!」

 

 

 クロノの声に、果たして返事はありませんでした。無音の司令室に虚しく響き渡るだけでした。

 

 

 あれ? とクロノが見渡すと、エイミィ以外の職員がいませんでした。どういうこっちゃ、と首を傾げるクロノでしたが、すぐに理由が判明しました。

 

 

「あ、他の職員達なら揃ってどっかに出かけたよ?」

「そうか。…………………は?」

 

 

 目を剥くクロノとは対照的に、淡々と語るエイミィ。

 

 

「なんでも『え? クリスマス? ししし知ってますよ? だっ、だから今日は予定があるんだもんね! 本当なんだからね!?』とのことで、だったらとっとと帰って家族サービスしろよオラァと言ったら泣いて帰宅したよ。よっぽど嬉しかったんだろうね」

「ちょっと待て。今長期遠征中だろ、どうやってミッドに帰ったんだ」

『私に不可能は無いわ』

 

 

 突如画面が浮かびサムズアップしているプレシアが出ました。

 

 何余計なことしてんだババァ――クロノは思いましたが口にはしませんでした……けれども頭上から落雷が生じて黒焦げになりました。

 

 

「プレシアさん、お子さんの方は大丈夫なんですか?」

『ええ、なんとか落ち着いてるわ。……あとは時間さえあれば平気よ、そうすればきっとアリシアは元に戻るのよ……!』

 

 

 なんだか狂気が見え隠れし始めたのでエイミィは話題を変えることにしました。

 

 

「闇の書の解析はどうですか? 過去のデータだけじゃ大したこと分からなかったかもしれないけれども……」

『ああ、それならもう終わったわ』

 

 

 え? と耳を疑うエイミィ。

 

 

『解析自体なら時間を要さなかったわよ、ただ深層領域に展開された不可解な文字の羅列とか、意味不明な文章に惑わされたせいで手間取っただけ。案外ザルね、もっと強固なプロテクトが張られてるかと思ってたけど』

 

 

 なんてことをあっさり言ってのけました。ユーノ涙目とかそんなレベルではありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっくしょい! ……ううん、誰か噂してるのかな? ふふふ皆寂しがってるかなぁ」

 

 

 一ミリもそんな様子ありません。

 

 

 

 

 

『まぁそんなわけだから、もう少しで向こうの事色々判明するだろうから、もうしばらく時間を頂戴な』

 

「けどよォ、今なのは達がいるんだし、そんな無理して焦らなくても大丈夫なんじゃねーか?」

『彼女達は確かに戦力的には申し分ないけれども、知識面だと不十分よ。一人くらい専門家がいるべきでは?』

「今から乗り込んだらかち合わせになりそうで怖いが……どうすっかね」

 

 

 うーん、と、隣でエイミィは考え込みます。

 

 

「今なら一対五だけど、クロノ君一人でもなんとかなるんじゃない?」

「ほう。まぁ、そうかもしれねェな。けど、主は動けねェなら一対四じゃねーか?」

「ううん、あってるよ。……守護騎士+なのはちゃんだから」

「いや、なんでなのはが敵側になってんだよ! たしかに普段から俺の敵だけど!」

「その方が面白そうだからなのはちゃんやってくれるかなって」

「世界の危機になるかもしれねーのにそんなチャランポランな意見で寝返られてたまるかァアアア!」

 

 

 クロノはシャウトしました。

 

 

「じゃあ、一対六の方がいいよね?」

「なんで問題無いね? みたいな言い方なんだよ! ありまくりだろ! しかもフェイト含まれてんじゃねーか!」

『そうなった場合は漏れなく一対Pになるわね』

 

 

 後ろで魔王が嗤ってました。

 

 

「と、ともかく! 敵さんの居場所も分かったことだし、俺らもそろそろ―――」

「夜の街を練り歩くの?」

「そう、雪の降る中ネオン街へと消えて―――行かねぇよ! そんなアブない展開はないから!」

『自分から言い出したんじゃない』

 

 

 的確な突っ込みにクロノは咳払いしました。

 

 仕切り直して、クロノは立ち上がります。

 

 

「行くぜ、海鳴市へ乗り込むぞ! オメェらついて来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

 先に帰宅するというアリサとすずかを見送った後、人気のない屋上へと移動する守護騎士二名となのはとフェイト。ヴィータははやての様子を見てくると言って別れました。かなり不自然な別行動にフェイトが眼を向けましたが、そんな彼女の肩をなのはがそっと叩きます。

 

「フェイト、君には分からないかもしれないが……女には我慢できない日もあるものだ」

 

 階段を転げ落ちる音が聞こえてきましたがなのはは無視しました。フェイトは『そっかー大人って大変なんだなぁ……』などとトンチンカンな答えを口にしました。

 

 

 というわけで、やってきました屋上。

 

 間をとって対峙する四人。

 

 

「ともあれ、色々聞きたいことがあるのだが、よろしいだろうか?」

「貴様らに話すことなど何もない……! 管理局に言われる前に――」

「まぁマカロンでも食べて落ち着きたまえ」

「話を聞こうか」

 

 

 頬張りながら真面目ぶるシグナム。それを見て満更でもない顔のシャマル。

 

 ヴィータがいないとまったく話が進みません。

 

 

「シグナムはこんなだけど、貴女達に話せることなんてないのよ。知らされる前に、悪いけど、口封じさせてもらうわ」

「待ちたまえ。ここでは寒かろう、まともな話し合いの場を設けたいのだが、どうだろうか?」

「そんな分かりやすい誘いに、私達が乗ると思って?」

「今なら人妻系幼女と気弱系金髪ショタが君らを快く出迎えてくれるぞ」

「…………………………………………、くっ!」

 

 

 躊躇いが出すぎです。ていうか前者は何だ。

 

 

「~系というと若者っぽくないかね? 何、これぞまさに前人未到、開拓者スピリッツ溢れる日本人の凄さというものだよ。――言ってて自分でもよく分からんが」

 

 

 脳は大丈夫でしょうか?

 

 

「Oh,no……いや、失敬。言わなければならないような気がしてつい」

 

 

 もう黙ってなさいよ。

 

 

 なんて知能指数の低いやり取りをしていると、突然頭上から何かが降ってきました。なのは達とシグナム達の間に着地したそれは……ザフィーラは、土煙の中に、佇んでいます。

 

 しかも珍しいことに険しい顔をしています。

 

 

 何事、と思いつつ、シャマルは言葉をかけようと口を開きかけましたが、ザフィーラは片手で制しました。

 

 

「シャマルよ、何も言うな。事情は粗方掴んでいる」

「そう……」

 

 

 なら、と言葉を続けようとしたところで、ザフィーラはカッ! と目を見開きました。

 

 

「何故俺を呼んでくれなかった! 幼女フェスがこんなところで行われていたなど俺は聞いてなかったぞ! 残り香から察するに美幼女偏差値85は硬い……! くぅっ、こんなことなら蒐集などしないで天井に潜んでいれば良かった!!」

 

 

 さっき聞いたような台詞に思わずぶっ飛ばしてやりたいところでしたが戦力と言う壁がなくなるので仕方なくシャマルは無視しました。

 

 

「ともあれザフィーラよ、駆けつけてくれたのは有り難い。助太刀願おう」

「ふむ。幼女相手に拳を振るうのは気が進まないが、主のためとあらば……」

 

 

 不承不承といった体で姿勢を変え、なのはと向き合いました。三人の鬼気迫る顔がなのは達に向けられました。一触即発、今にでも襲いかかってきそうな雰囲気に、ちょっとヤバいかね、と呑気に思ったなのはは、少しばかり考えました。

 

 

 やがてなのはは何かを思いついたようで、頭に電球を浮かべました。

 

 後ろに立っていたフェイトを手招きし、何事かを耳打ちします。

 

 

(ふ……何をしようが、この俺の鉄壁の前では君らの攻撃など、幼女の悪戯程度でしかないということを教えてやる……!)

 

 

 格好よさげな台詞を粉微塵にするザフィーラの心情。

 

 

 ややあってから、フェイトはちょっと緊張した面持ちで、上目遣いに言いました。

 

 

 

「お、お兄ちゃん。いぢめないで……?」

 

 

 

 ある意味卒倒モノの一撃をぶちかましました。

 

 

「ごフッ!!!」

 

 

 クリティカルヒットが生じました。

 

 

 思わず生まれたての小鹿状態になるザフィーラ。駆け寄るシャマル。

 

 

「ザフィーラ!? ちょっと貴方幼女だったら何でもいいの!?」

「だ、大丈夫だ……問題無い」

 

 

 フッとニヒルな笑みを浮かべるザフィーラですが鼻血ブーでは台無しです。

 

 

「ああ、危なかった……。寝起きのシャマルの顔を思い出して相殺せねば即死だっただろうな」

 

 

 シャマルがジャーマンスープレックスをキメました。

 

 

「さて、そろそろ良いだろうか? 生憎私にやる気は出ないが、まぁ君らがやる気満々なら仕方ないよね……♪」

 

 

 最後の『♪』がなければ完璧でしたがね。 

 

 

 臨戦態勢に入るなのはとフェイトに対し、身構える守護騎士。若干一名が疲労困憊気味ですが。

 

 

(ようやくやる気になったようだが……時既に遅しだな!)

(馬鹿め! 貴様がこうして話している間に、ヴィータが背後から襲いかかる作戦よ!)

(その不愉快な面にデカい風穴を空けてやるでござる!)

 

 

 お前ら本当に騎士かと言いたくなるような下種い作戦ですが、その上を行く存在がいるとこを知らないのが彼女らの失策でした。

 

 

 一分が経ちました。なのはとシグナム達は向き合ったまま動きません。少しばかり雲行きが怪しくなってきたと、シグナムとシャマルは顔を曇らせました。

 

 

(おかしいな、ここでヴィータが奇襲をかける手筈なのだが……)

(どうしちゃったのかしら……)

 

 

 あのヴィータが作戦をミスるはずもないだろう、と信じ切っていた二人の様子に気づいたのか、なのはは、ああ、と手を打ちました。

 

 

「君達が探しているのは、同じ襲撃を仕掛ける予定のヴィータ君かね? それとも、あれかね?」

 

 

 スッ、と背後を指差すと、死角になっていた階段出口付近が見えるようになりました。

 

 

 

 

 

 そしてそこには―――黒焦げになってバインド喰らってるヴィータの姿が。

 

 

 

 

 

「ヴィータぁあぁあああああああっ!?」

 

 

 シグナムは目玉が飛び出さんほどの勢いで驚愕しました。

 

 一体いつ、誰に……と思うのと同じタイミングで、なのはがぼーっとしていたフェイトを指差しました。

 

 

「こいつがやりました!」

 

 

 え!? と驚くフェイトを尻目に、守護騎士2名は思いました。

 

 

(この子の仕業よね……)

(こいつの仕業だな……)

(こいつの仕業でござる……)

 

 

 下手人が二秒で判明しました。

 

 

「ま、まさか貴女……」

「ああ。――さっき階段登って来てる途中で仕掛けておいた」

 

 

 どうやって、と目線で問うと、デバイスも無しに虚空に魔力弾が浮かびました。数にして十を超える数です。

 

 

「階段の扉を閉ざす前、物音を感知したら襲いかかるようセットしておいたのだよ。ふふふこんなこともあろうかと訓練を重ねた甲斐があったというものだよ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるなのは。まさか―――そんなまともな伏線を張っていたとは。これにはビックリです。クレイモア地雷をセットしておいたという方がまだ信憑性が高いでしょう。日ごろの行いって大事ですよね。常々そう思います。

 

 

 じり、と迫る悪鬼羅刹に守護騎士達は息を呑みましたが、この程度でへこたれるほど歴戦の勇士たるヴォルケンリッターもやわでは―――

 

 

「ヴィータちゃんがやられたようね……」

「フフフ、奴は我ら守護騎士の中では最弱……」

「所詮面汚しでござるな……」

 

 

 いきなり一番強い者がやられて隅っこに引っ込んでガタガタ震えていました。

 

 

「さて。これで君らの中で恐らく主柱となる存在を欠いてしまったわけだが……」

 

 

 どうするかね? とニヤつきながら問うなのは。完全に悪人顔です本当にありがとうございますいません。

 

 

「ままま待つでござる! 早まってはいけない! おおおおおおお落ち着け!」

 

 

 お前が落ちつけよ、となのははレイハさん突きつけながら思いましたが、そんなの無理難題すぎました。

 

 

「心配しなくとも、私は決して怒っていないよ」

 

 

 穏やかな笑顔を浮かべたので、シグナムはようやく安堵の息をつきました。

 

 しかしそれも束の間、

 

 

「だが許さん」

 

 

 



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第十三話 全力なんて一瞬なんです

明けましておめでとうございます。皆様お久しぶりです。

……えー、気がつけば半年ほど放置していたのですね。

勿論半年間何もしていなかったわけではなく、試行錯誤を繰り返していたのですが、どうにも以前あった勢いとノリが取り戻せなくなってきておりまして、さすがにそろそろ潮時かと思いました。

やはり勢いだけじゃどうにもならないものですね。その点は深く反省しております。

Strikersの方は設定ができておりますので、誠に勝手ですが、A'sは早めに切り上げて次の章へ移行したいと思っております。
序盤で長々話を引っ張ったり、無駄な展開を入れたりで今振り返ると凄いもったいないことをしたなぁと後悔してます。これも反省点ですね。重ねてお詫び申し上げます。

できれば今月か来月までになんとかA'sを終わらせておきたいと思っておりますので、どうか皆様、それまでお付き合いください。

では、始めます。


 

 

 

 曇天模様の空を、はやては眺めていました。

 

 世間ではクリスマスまっただ中。家族や友人、恋人が街中を闊歩し、楽しい時間を送っている。そう考えると、病室で一人ぼっちでいることが無性にさみしくなりました。

 

 

「ふん。うるさい輩など我が聖域に存在する価値もないわ」

 

 

 と言いつつ、見送りに行った連中が戻ってこないかなーとそわそわしていると、

 

 

「ぬ……!」

 

 

 突然鈍痛が走りました。

 

 時々、このように胸が締め付けられるように痛みます。理由は分かっておりません。原因不明の病としか説明されていないはやては、じっと声を押し殺しながら、痛みが引いて行くのを待ちます。

 

 やがて痛みが引いていき、はやてはようやく息をつくことが出来ました。

 

 

「……こんな時に、誰もおらんとはな」

 

 

 悲しげに眉を伏せて、いや、誰もいない方が良かったのかもしれないと、小さく呟きました。

 

 

 早く退院したいな、そしたら皆と楽しく暮らせるのに。はやては憂鬱気味に溜息をつき、少しの間眠ることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな出来事などオラ知らねぇよとばかりに、結界内部では激戦が繰り広げられておりました。

 

 

 ……というのは嘘っぱちで、実際は降り注ぐ桃色の閃光を必死に避ける人影が。

 

 

「ははは避けてばかりではどうしようもないよかかってきたらどうだね!? こちらはまだまだ余裕綽々だぞ!」

 

 

 などと言いつつバカスカとアクセルシュートを雨あられと飛ばしまくるなのは。奇声を上げながら脱兎の如く逃走するシャマルとシグナム。まさにワンサイドゲーム。

 

 

 なお、ザフィーラは残虐ファイト開幕と同時にマッハで逃げ出していました。警察との死闘(笑)で鍛えた俊足は伊達ではないようです。まさに無駄遣い。

 

 

「くっ……これでは追いつかれてしまうぞ! シャマル、盾……ザフィーラを呼べ! あいつの防御なら耐えられるはず!」

 

 

 最早身内からも名前で呼ばれなくなりそうなザフィーラ哀れ。

 

 

 シャマルは空中を爆走しながら、時折飛来する光弾を避けようとしながら答えましたが、

 

 

「それは、ぐふっ! 無理な、げはァッ! そうだ、ぶほっ! ってもん、よボォッ!?」

「何を気持ち悪い話し方している……! 被弾しすぎだ! 避けろ!」

 

 

 分かったわ! と気合を入れて、次の光弾を大きなジャンプでかわしました。かわしましたが、隣のビルから突き出た『飛場クリニック』の看板に激突しました。前を見ろよ。

 

 

 看板からずり落ちたシャマルの首根っこを掴んで逃走を再開するシグナム。

 

 

「通信が無理とはどういうことだ?」

「うーん。なんだかザフィーラと繋がらないみたいなのよね」

「なに!? まさかアイツらも通信妨害を……!」

「何言ってるのよシグナム! 言ったでしょ? ―――ジャミングは完璧だって!」

「この役立たず!」

 

 

 自分の首を絞めていました。

 

 

 だったらはよ解かんかい。シグナムは叫びかけましたが、真横を通過した桃色の大閃光にシャマルが蒸発するのを見ました。

 

 最後の顔が成仏したような面だったのは謎です。

 

 

「さて。……次は君かね?」

 

 

 修羅がこちらを捉えました。

 

 

 ビクッ、として木枯らしのような軽い身のこなしで逃げ出すシグナムでしたが、今こそ使う時とばかりにバインドを放ったなのはによって絶体絶命に。

 

 

「つーかまーえた♪」

「ヒッ、ヒィイイイィイィィイイイイイイイッ!!!!????」

 

 

 滝のような冷や汗が止まりません。

 

 

「うわぁあああああやだーッ! やめて下さい助けてください見逃してください五章ですから勘弁してください何でもしますから私には病気の母と父と妹と弟と嫁と妻がいたりいなかったりしちゃったりで今すぐここから飛び出したい衝動がクライマックス」

 

 

 見事に錯乱しておりました。

 

 

「まぁ落ち着きたまえ。私とて慈悲ある人間、泣きごとの一つ二つくらい要望を聞き入れるだけの懐の広さはあるぞ」

 

 

 ニヤニヤと悪代官みたいなニヤケ顔で言うなのは。

 

 

「い、今すぐ逃げたいです……」

 

 

 涙目でガタガタしているシグナム。

 

 

「なるほど。今すぐ逃げたい?」

「は、はい……」

「空を自由に飛んで逃げたい?」

「えっ!? そんなの一言も言ってないよ!?」

 

 

 眼をひん剥いて驚くシグナムをよそに、ススス……と音も無く近づいてくるなのは。爽やかな笑みが陰影のせいで迫力五倍増しに見えます。

 

 

 やがて真正面でピタリと止まりました。

 

 すると、どこかで聞いたことのあるメロディが聞こえてきました。

 

 

 

 

 

 ~そーらをじゆうにー とーびたーいなー♪~

 

 

 

 

 

「ハイッ! ディバインバスター!」

「もうこんなんばっかりぃいいいぃいいいいいいいッ!!!」

 

 

 お空を飛びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、ヴィータは屋上に寝転がされていました。

 

 

 慌てて起き上がると、手足がバインドで拘束されており、上手く立ち上がることができません。

 

 見れば、すぐ近くに黒焦げになったシグナムとシャマルが転がっておりました。三人揃ってこんがり肉状態です。

 

 

 ザフィーラが見当たりません。一人逃げおおせたのか、とヴィータは静かに現状を把握します。

 

 

「守護騎士は四人。あとの一人いるようだが……」

「ボクが捕まえて来ようか?」

「止めたまえ。フェイトの身に何かあったら私が困る(プレシアの怒り的な意味で)」

「えっ、……う、うん」

「何故そこで頬を染める」

 

 

 こちらに背を向けて、なのはとフェイトが何かを話し合っております。

 

 

「そ、それよりっ! こいつらどうする?」

「そろそろクロノ君達が到着するだろうから、それまで待機かね」

 

 

 やばい、とヴィータは焦りを抱きました。ただでさえなのは(とフェイト)で手いっぱいだったのに、応援が到着されたらどうしようもありません。腹立たしい話ですが、なのはという少女の脅威度は今までヴィータが相対した敵の中でもトップクラスでした。実力的な意味ではなく敵対した際の面倒くささ的な意味で。

 

 

 すぐにバインドを引き千切りたいところですが、あまり動き過ぎると意識を取り戻したことが二人に伝わってしまいます。けれども急いで状況を打破せねば事態は悪化するだけです。

 

 

 そんなヴィータの焦りが伝わったのでしょうか、遠くからザフィーラがやって来るのが見えました。さっきからそうですけどわざわざ離れて再接近するのは栄養補給でもしてきてるからなんですかね。え、どこでですかって? そりゃ無人の世界ですることなんて決まってるじゃないですか言わせないで下さい。

 

 

「許せ、幼き子らよ。主のため、世界中の幼女のため、我は決して退くことは許されないのだ……」

 

 

 言ってる内容はアレですが、牙を剥いて戦闘態勢に入ったザフィーラの気迫はかなりのものです。

 

 

「なのは。どうしたらいい?」

 

 

 真剣に身構えるフェイトに対して、なのはは相変わらず何考えてんのか分からない顔でボーッと見ています。

 

 

「……フェイト。ちょっと」

 

 

 なのはが手招きし、顔の横を指差しました。

 

 フェイトは何故か頬を赤らめました。

 

 

「えっ!? い、いきなり、しかも今ここで!?」

「? いいから早くしたまえ。時間が無い」

「そんなに急いでるの!?」

「言わずとも分かるだろう」

「以心伝心!?」

 

 

 でっ、でもボクにも心の準備が……! とかゴニョゴニョ言ってたフェイト。

 

 なのはと接近するザフィーラを交互に見ていましたが、やがて意を決したらしく、目を閉じて顔を近づけていきます。

 

 唇を突き出した状態で。

 

 

 顔が間近にまで迫ったところで、なのはが気づきました。

 

 

「――何をしている?」

「え!? だ、だってなのはが今ここでやれって言うから! ボクは仕方なく! 嫌々ながらも! 別に嬉しいとか思ってなかったりしてなかったり!」

「頭沸いたこと言ってないで早く耳を貸したまえ」

「え、ああ。…………うん」

 

 

 すこぶるガッカリしたような顔でフェイトは耳を近づけます。

 

 

「貴様らァーッ! 戦場でいちゃついてんじゃねぇー!」

 

 

 すると、嫉妬全開のザフィーラがトラ○ザムもかくやという速度で突っ走ってきました。最初っからそうしろよ。

 

 

 40ヤード走4秒2の壁を突破しそうな走りを見せたザフィーラは、そのまま立ち塞がるように立ったフェイト目がけて直進しました。

 

 そしてその勢いのまま、

 

 

「ザッフィーっ! お座り!」

「ワンッ!」

 

 

 スライディングしながら正座しました。

 

 

(テメェ何跪いてんだコラ! さっさとそいつらブッ飛ばして助けろ!)

(案ずるなヴィータ、これも油断を誘うための作戦だ……!)

 

 

 なんてことを言ってますが尻尾をグリングリン振り回しながら言っても頭悪いだけです。

 

 

「お手」

「ワン!」

「伏せ!」

「ワンワン!」

「チンチン!」

「よしきた」

 

 

 おもむろに立ち上がってズボンのベルトを外し始めたので、なのはが股間にアクセルシュートしました。

 

 ごり、と光弾がめり込みました。一瞬マジな顔になったザフィーラはそのまま前のめりになって倒れ伏しました。

 

 

 なのははさっさとバインドで縛り上げました。時折ビクンビクンと痙攣しているザフィーラをフェイトは気持ち悪そうな目で見ています。

 

 

「ね、ねぇ……なんだかスゴい跳ねてるんだけど、大丈夫なのかな?」

「何、峰打ちだから問題ないだろう」

 

 

 峰打ちでも打ちどころが悪いと(色々な意味で)死ぬということ分かってないんですかね。

 

 

「さて。あとははやて君をどうにかせねばな」

「どうにかって……テメェ! はやてに一体何をするつもりだ!」

 

 

 ヴィータは叫んで息を荒げています。

 

 

「そうよ! 一体どんなことしちゃうつもりなの!?」

 

 

 シャマルも叫んで息を荒げています。違う意味で。

 

 良い子には悪影響と判断されたらしく、なのはの海鳴市青少年保護ビームを喰らって粛清されるシャマル。

 

 と、その後ろで、誰かが起き上がっていることにヴィータは気づきました。

 

 シグナムです。

 

 バインドを喰らって簀巻き状態になっていたシグナムが、どっからか紙と筆を取り出して、口で筆をくわえたまま何かを書き始めました。どうやって出したんだ。

 

 

(そうか……シグナム、通信ができないから、紙でメッセージを……!)

 

 

 なんか色々おかしいことに気づかないヴィータ。

 

 

 やがて何かを書き終えると、シグナムは筆を捨てて紙を口でくわえました。

 

 

 

 

 

 死にたくない にんげんだもの   しぐを

 

 

 

 

 

(いや、古いなオイ! ってそうじゃねーよ! おいこらなんでそんなちょっと誇らしげなんだよ! ムカつくわ!)

 

 

 ヴィータが小声で突っ込んでいると、ゴールドクラッシュから意識を取り戻したのか、ザフィーラが筆をくわえていました。

 

 今度はなんだ、と目を向けると、

 

 

 

 

 

 海鳴市青少年保護法改正反対   ざっふぃー

 

 

 

 

 

 無駄に達筆でした。

 

 

(長いわ! しかもまったく関係ねぇー! お前どうでもいいこと拾ってんじゃねーよ! いや、そこで首を振るんじゃねーよ! マジ顔な意味がわからんわ!)

 

 

 全員が捕まった以上、為すすべがありません。

 

 最早これまでか……バッドエンドを迎えて幕が下り、スタッフロールが流れるかと思われた、

 

 その時でした。

 

 

 

 

 

 

 ―――   見   ツ    ケ   タ   ―――

 

 

 

 

 

 どこからか声がしました。

 

 それも、かなり聞き覚えのある声でした。

 

(この、声は……)

 

 一瞬で頭の隅まで冷え切り、ヴィータの背中に悪寒が走りました。

 

 

 その声はなのはとフェイトの二人にも聞こえたらしく、はて、誰の声だろうかとばかりになのはとフェイトが音源を特定すべく周囲を見渡しています。

 

 すると、ヴィータのすぐそばに一冊の本が浮かんでいました。

 

 

「む? あれは……」

「知ってるのか雷電!」

「唐突にボケるのは止めて欲しいのだが」

 

 

 フェイトに冷静なツッコミを入れた、次の瞬間、本が眩い光を放ちました。

 

 

 すると―――なんということでしょう! 賞味期限切れ間近だったはずのワカメが、水を浴びせたらあら不思議! ぐんぐん大きくなっていくではありませんか!

 

 

 ……とまぁ、そんな感じで、どこからともなく出てきたワカメ――もとい、触手。淫靡な感じがなんとも不吉な予感を漂わせます。

 

 

「なんだこの十八禁は……!」

 

 

 ちょっと予想外な事態になのははビックリしました。

 

 ひとまずぽけーっとしたままのフェイトを連れ、空の安全圏へとすたこら逃げます。えっちらおっちら。

 

 

 しかし予想外にも、触手はこちらに伸びては来ませんでした。

 

 代わりに、地面に倒れたまま放置されていた守護騎士四名が、哀れ触手の餌食となってしまいました。

 

 

「う、うわぁああぁぁああああああああッ!?」

 

 

 あっという間に吊るし上げをくらい、宙吊りになる四人。

 

 

「や、やだー死にたくないぃぃ逝きたくないいいぃいいいいいーっ! だっ、誰かぁー助けてー火事だー火事よー」

 

 

 嫌なことばっか連続で起きたせいで錯乱状態のシグサム。

 

 

 と、ここで再び意識を取り戻したシャマル。自分が締め上げられていることに気づき、己の状況を冷静に観察してから、すかさず大きな声で叫びました。

 

 

「止めて! 私にエッチなことするつもりでしょう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいにッ!」

 

 

 あまりにもうるさいのでヴィータが睨むとシャマルは大人しく触手まみれになりましたが恍惚とした表情は大いに不快感を煽りました。

 

 

「止めろ! 止めてくれ! こういうことは好きな人と結婚した初夜にするって決めているの……!」

 

 

 なかなか悲痛な叫びですが、発声源がザフィーラでは鳥肌モノです。

 

 

 抵抗も虚しく、あっという間に触手に拘束される四人組。

 

 

 拘束されたヴィータの頭の中で、足りなかった何かがようやく補われようとしていました。

 

 

(まさか……そうか! なんで忘れていたんだ、アタシは!)

 

 

 周りが平常運転の中で一人だけ、冷静に状況を見つめているヴィータ。

 

 

(闇の書はただの魔力蒐集機関じゃねぇ……コイツの役割は、コイツの本当の力は!)

 

 

 今更になって思い出したヴィータでしたが、時既に遅しでした。

 

 

 闇の書の機能の一つ。他者から魔力を蒐集し、蓄えられた力は白紙のページに表記されていく。

 そして最後のページは、守護騎士自らを差し出すことで、『闇の書』は完成する――ッ!

 

 

(やべぇぞ……このままじゃ!)

 

 

 焦燥するヴィータは、同じ思いを抱えているはずの身内に声をかけようと顔を上げましたが、

 

 

「うわぁあーっ! いやだー! 死にたくないでござるーっ!」

「止めて! せめて明かりだけは……!」

「くやしい! でもビクンビクン!」

 

 

 今ひとつシリアスになれませんでした。

 

 

「ははは、困っているみたいだね。助けてあげようか?」

 

 

 そんな時、なのはが救いの魔手を差し伸べました。

 

 にこやかに笑っておりますが、レイジングハートを射撃体制に移行して魔力をバリバリ放ちながら言うセリフじゃないと思います。案の定、あまりの魔力開放っぷりに若干三名がおふざけをやめてガタガタ震え始めました。

 

 

「手助けなら任せろー!」

「やめてくれ!」

 

 

 雷をバリバリしながらフェイトは言いました。

 

 

 と、そこでバルディッシュを構えていたフェイトが気づきました。

 

 

「あれ? 他の三人はどこに行ったの?」

「え? どこって、すぐ隣に……」

 

 

 ヴィータは顔を動かして左右を見渡しましたが、シグナムたちのコートが風に吹かれてパタパタと揺らめいているだけでした。本人たちの姿など、どこにもありません。

 

 

 まさかもう既に闇の書に取りこまれてしまったのか、とヴィータが内心冷や汗をかきつつ歯噛みしましたが、数秒前の光景を下から見ていたなのはが言いました。

 

 

「ああ。彼らなら―――逃げるように闇の書へ飛び込んで行ったよ。自分から」

「馬鹿かァアアァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 怒声を散らすヴィータ。夜空の向こうでサムズアップしている三人。

 

 

「く、くそぉ……! ここでアタシがやられても、第二第三のア」

 

 

 言い終える前に吸い込まれて行きました。

 

 

 棒立ちするなのは、ぽかんとしているフェイト、うねうねと蠢く触手with本。

 

 カオスな光景。

 

 

「とりあえず、守護騎士が消えた今ならば通信も復活しているだろう。アースラに待機している連中と交信してみよう」

 

 

 分かった、とフェイトが素直に頷きます。

 

 

 しかし事態は急加速していました。

 

 

「うわぁああぁあああああーッ!!!」

「「!?」」

 

 

 悲痛な叫び声が夜空に木霊しました。

 

 



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番外3 ヴィヴィオちゃんはもう限界

リハビリをかねて


※vivid本編でアインハルトと対戦中打ち所が悪くてちょっとの間ヴィヴィオが入院していた、という架空設定のお話。

 

 

※なお別にこんな設定は必要なかった←

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日。

 

 病院での生活から開放され、ヴィヴィオは数日ぶりに自宅へと帰りました。

 

「ただいまー!」

 

 玄関を開け、入院が続いたとは思い難いくらい元気な声。すると、家の中で慌しい足音がし、エプロンをしたなのはさんが顔を出しました。

 

「ヴィヴィオ! 退院おめでとう!」

「ありがと、なのはママ!」

 

 満面の笑みを浮かべ、抱きしめあう二人。親子の感動の再会です。昨日会ったばっかりですが、これもわが子の退院を祝う恒例行事と思えば瑣末事でしょう。

 

 再会を祝いながら、リビングへと向かいます。たった数日だけとはいえ久しぶりの我が家は、やはりとても安心でき、落ち着ける雰囲気が漂っておりました。

 

 よいしょ、とヴィヴィオはテーブルにつきました。そこへなのはさん、キッチンの方へ向かって行ったと思えば、何かを持って戻ってきました。

 

「ヴィヴィオ、牛乳飲む? 好きだったよね?」

「え? あ、うん」

 

 嫌いじゃないけど好きってほどでもないんだけど。ヴィヴィオは軽く頭を捻りましたが、そこはちょっとうっかりしたところもあるなのはさんのことですから、ただの記憶間違いでしょう。退院したわが子に気遣う純粋な気持ちを考慮して、ヴィヴィオは口を挟みませんでした。

 

 とりあえず喉も少し渇いていたことだし、ちょっとだけ、と瓶を傾けました。久しぶりに飲むミルクはなかなか新鮮でした。とはいえあまり量をとると腹を壊しかねないので、控えめにしておくことにしました。

 

 するとなのはさん、きょとんとした顔で小首を傾げます。

 

「あれ? もう良いの?」

「ん? いやゆっくり飲もうかなって」

 

 病み上がりの身体に牛乳一気飲みは辛いので、ペースを考えてビンを置きました。

 

 ところがなのはさんの顔は次第に陰っていきます。

 

「おかしいなぁ……昔なら一気にガバッと飲み干したのに」

「えっ? そうだっけ?」

 

 風呂上りにでもやったかなぁ、と自分の過去の所業を振り返ってみます。ちょっと前の記憶が若干あやふやなので自分でも疑わしいのですが、成長期の子供ですので、身体のことを考えてカルシウムを摂取していたかもしれません。

 

「やっぱりまだ治ってないんじゃない? 病院の先生のところに電話しなきゃ……」

「大丈夫だよなのはママ、治ったって!」

 

 ヴィヴィオは慌てて言いました。せっかく退院できたというのにまた病院に逆戻りしては敵いません。というかあの変人の巣窟に舞い戻っては精神の耐久値つまりSANがいくらあっても足りません。

 

 どれくらい魔境なのかというと、

 

『ヴィヴィオちゃーん、今度の新刊はユーノ×クロノの黄金パターンで攻めるか、そこにヴェロッサ査察官も加えた三つ巴の陣形で参戦するかのどっちが良いかしら』by守護騎士

『ヴィヴィオ、身体の調子はどうだい? 何、気にすることは無い。ナンバーズのメンテのついでのようなものだから。ほら、ちょっとスカートの裾を上げるだけだから。痛くないから』byジェイルなんちゃら

『ヴィヴィオさん、お見舞いに来ました。汗を拭いて差し上げますので服を脱いでくださいよおうあくしろよ』by覇王断空拳(棒

 

 生きた心地がしない状況が24時間続くので、ヴィヴィオも冷や汗が背中を伝います。

 

 仕方なくヴィヴィオは牛乳を一気飲みしました。久しぶりに実践するのでちょっと辛いのですが、喉が渇いていたのでそこまで苦ではありませんでした。

 

「元気になったんだね、良かった!」

 

 なのはさんは嬉しそうに微笑みました。母親代わりのこの人の笑顔を曇らせたくない一心でしたが、どうやらその笑みを崩さずに済んだようです。ヴィヴィオは静かに胸を撫で下ろしました。

 

「それじゃあ、ヴィヴィオの退院を祝って今日は奮発しちゃおう」

「えっ、いいのに……」

 

 そこまでしなくても大げさな、と苦笑しますが、なんだかんだで世話焼きのなのはさんのことですから、入院中は心配だったのでしょう。心配をかけたんだし、まぁ別にいっか。ヴィヴィオは肩を軽く落としつつも母親の気遣いに感謝しました。

 

「じゃあ、ちょっと待っててね。今持ってくるから」

「はーい!」

 

 なのはさんはキッチンへと向かいました。素直にヴィヴィオは待つことにしました。

 

「おまちどおさま」

 

 2秒で戻ってきました。早すぎるだろ。

 

「今日はね、ヴィヴィオの好きなカレーを作ったんだ」

「わぁいカレーだ!」

「結構美味しく出来たから、ゆっくり召し上がれ♪」

「いただきま―――」

「それと牛乳ね」

 

 コトリとテーブルに置かれたカレー、そしてドカッといらんほどデカい音立てて置かれた牛乳。

 

 ヴィヴィオは硬直しました。

 

「何これぇ」

 

 某王様もビックリな棒読みでした。

 

「おかしいなぁ……やっぱりまだ治ってないのかな?」

「なんで?」

「ヴィヴィオ、六課にいた頃カレーと一緒に牛乳いっぱい飲んでたじゃない」

「覚えてないけど……」

 

 あれそんなことしてたっけ……? ヴィヴィオは記憶を漁ろうとしますが事態はそんな暇すら与えてくれません。

 

「まだ治ってないんじゃ……先生のところに連絡しなきゃ――」

「だだだ大丈夫だよなのはママ! 治ってる! 治ってるから!」

 

 ヴィヴィオはひったくるように牛乳を手に取りました。何故かジョッキでした。二の腕が軽く膨らみました。なんちゅう重さや。ヴィヴィオは頭がフラつきそうになるのを堪えます。

 

 チラリ、と目線を横に向けます。

 

 なのはさんはじっとヴィヴィオの方を見ています。ヴィヴィオの口元を見ています。どう考えてもちゃんと飲んでいるかを監視する目です。

 

「……一気?」

「そう一気」

「一気かぁ……」

 

 一揆でも起きねぇかなぁ、とヴィヴィオは小声で爆弾を落としました。

 

「先生のところに連絡し――」

「はいはい飲むよ飲むよー!」

 

 ハッ、と気合を入れてジョッキを傾けました。ゴクゴクと喉を鳴らして豪快に飲み下すさまを刹那たりとも見過ごさんと見つめるなのはさん。どういう絵面だ。

 

「良かった。心配したんだよ?」

 

 身体の心配より胃の心配をして欲しいなぁ。ヴィヴィオはそう思いました。

 

「それじゃあ、他のも持ってくるね」

「えっちょっ」

 

 止めるよりも早くなのははキッチンへと消えていきました。

 

 そういえば奮発しちゃおう、なんてさっき言っていたような……ヴィヴィオは猛烈に嫌な予感を察知しました。その嫌な予感は悪いことにバッチリあたっていました。

 

「おまちどおさま」

 

 3秒で戻ってきました。だからはえーよ。

 

「はい、ヴィヴィオの好きなハンバーグだよ」

「あっ、やった。ヴィヴィオハンバーグも大好――」

「それと牛乳」

 

 新たな地獄が降臨しました。

 

 あれこれデジャビュじゃね……ヴィヴィオは引き攣った口の端が戻りません。

 

「なんでまた牛乳なの?」

「え? だってヴィヴィオ、ハンバーグを食べるときはいつも牛乳飲んでたじゃない」

 

 なんでそんなどうでもいいこと記憶しとるねん――ヴィヴィオは全てぶちまけたくなりました。腹の中身はぶちまけるわけにはいきませんが。

 

「先生のところに―――」

「あーあーあーあー!」

 

 なのはが言い終えるよりも早くヴィヴィオは牛乳を飲み出しました。最早魔法の言葉でした。そんな言葉いらねぇ。

 

 すると、

 

「…………」

 

 なのはさんは、何か言いたげな顔で見つめていました。

 

 この期に及んで何かあんのかとでも言わんばかりの表情でヴィヴィオは視線を返しますが、それがますますなのはさんの顔を曇らせます。

 

「どうしたの? なのはマヴぁっ」

 

 最後がアレなのは乙女の尊厳的に言わないが花でしょう。

 

「ヴィヴィオ、前は『牛乳は美味しいなぁ!』って言いながら飲んでたよ?」

「マジでか」

 

思わず素が出ました。

 

「うん。とても嬉しそうに飲んでたの」

 

 嬉しげに飲めるわけがねぇだろうヴォケが。ヴィヴィオは内心突っ込みましたが顔に出しませんでした。というか出せませんでした。そんな余裕ありません。胃が何かを訴えかけるのを必死になって抑えていました。

 

「まだ治ってないんじゃ……先生のところに、」

「牛乳は美味しいなぁ!」

「うんうん、そんな感じだったよ♪」

「牛乳は美味しいなぁ……!」

 

 涙の味がしました。

 

「おかしいなぁ。やっぱり先生のところに」

「分かった飲みます飲みます! あーもう!!!」

 

 最早なりふり構わず飲み下していきました。口の端から漏れる液体さえ気に留めず、一心不乱にこの地獄の終焉を祈っておりました。

 

 口から白い液体を垂らして涙目の美少女と、それを横で微笑ましげにニコニコ笑いながら見つめる女性。どんな状況やねん。

 

 そんな時、廊下の電話がジリジリと鳴り始めました。

 

 え? ミッドに電話なんてないだろうって? デバイス? 通信機? そんなハイカラなもんは田舎にはないんだよ、たぶん。

 

 なのはさんはエプロンで手を拭きながら廊下へと出て行きました。なのはさんの姿が視界かr消えた瞬間、ヴィヴィオは流しへ突っ走るとそのままジョッキをひっくり返しました。全部流すと即座に席へと戻ってきて、なのはさんが顔を覗かせると涼しい顔で飲むフリをしました。死の淵に立つことで人は学習し劇的に成長するという良い例でした。

 

「ヴィヴィオ。電話だよー」

「はーい行きます行きますすぐ行きます!」

 

 瞬時にヴィヴィオは席から離れました。もうこの地獄から少しでも遠ざかれるのならなんだって良いや、とばかりに嬉々として廊下へと出ました。

 

「はい電話。―――それと牛乳」

 

 ヴィヴィオは転倒しました。

 

「なんで! 電話に! 牛乳が! 必要なヴぉっ」

 

 口元が大洪水状態のヴィヴィオ。指先でビシビシなのはさんを突っつきます。

 

「だって、ヴィヴィオよく牛乳飲みながら電話してたじゃない」

 

そんな変なヤツいねーよ――ヴィヴィオは母親の正気を疑い始めました。

 

「もういいから! 十分健康だから! 電話だけでいいから!」

 

 だから牛乳はもういいと懇願する娘。実にシュールな光景。

 

「ヴィヴィオ、治ってないなら先生に連絡を」

「だぁあぁぁぁああああかぁぁああああああらぁぁぁあああああああああああああッ!!!」

 

 ヴィヴィオは頭を掻きむしりました。どうやったらこの母親は勘違いを解いてくれるのか、そして牛乳の概念を忘却してくれるのか、ヴィヴィオは真剣に迷いました。こうなったらもう説得(物理)しか……! と早まった思考に身を委ねそうになりました。例えそうなったところで彼我の実力差はナッパと後期ベジータくらいですので結果は火を見るよりも明らかですが。

 

「あ、いっけない。電話切っちゃった」

 

 と、なのはさん、病院に電話をかけようとしてうっかり通話を切ってしまいました。一体誰からの電話だったのか気になるところですが、ともあれ、牛乳の恐怖から逃れることができたので結果オーライでしょう。ヴィヴィオはホッと一息つきました。

 

 もう疲れた。早く寝ようそして母よまともなりやがれ……痛む腹を抱えてヴィヴィオはそっと廊下を出ようとします。

 

「あれ? ヴィヴィオどうしたの?」

「疲れたからもう寝る……」

 

そうなの、とアッサリ引き下がるなのはさん。ここで『やっぱりまだ治ってないんじゃ』という台詞が出たら何かが天元突破して聖王最終形態に移行すること請け合いだったので、なのはさんは無意識に危険を回避しました。流石は元主人公、そういうスキルを無駄なところで発揮しないで頂きたい。

 

 疲労感と腹痛に苛みながら、自室へと向かうヴィヴィオ。足取りが重いのは全て牛乳の仕業です。ここだけ聞くと何言ってるかちっとも分からないですよね。

 

 二階に上がり、ようやく自室の前に辿り着きました。やっとこれで落ち着ける、初めて心の底から安心したヴィヴィオは、そっと扉を開けました。

 

 すると、

 

「あ、ヴィヴィオ。元気になったみたいだね、良かった」

 

 もう一人の母親的存在、フェイトが床に座ってアルバムを開いていました。今まで姿を見かけなかったと思ったらこんなところにいたのか、とヴィヴィオはちょっと疑問に思いました。

 

 そんな疑問も気分の悪さには勝てなかったので、あーうん、と適当な返事を投げ捨てながらフラつく足取りでベッドに向かおうとしました。

 

 すると、

 

「あ、そうだ。ヴィヴィオに渡すものがあるんだ」

 

 そう言って、フェイトは背後から何かを引っ張り出そうとしています。猛烈に嫌な予感がしたヴィヴィオは顔を逸らそうとしましたが間に合いませんでした。

 

「はい、退院祝いの牛乳。――好きだったよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ヴィヴィオは再び入院することとなりましたが、その際『もうカルシウムは嫌……』と呟いていたとかいないとか。

 

 




やっぱりドリフってすごいよね by 25歳の夏


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第十四話 投稿なんて久々なんです

 守護騎士四人が魔法の国へご案内、もとい、魔本の中へ旅立ってすぐ。

 

 病院の屋上に光が生じ、それが消えると、はやての姿がありました。

 

 

「あれ……我……なんで……?」

 

 

 はやてはベッドの柔らかい感触ではなく、コンクリの冷たさに違和感を抱きましたが、先程から意識が朦朧としているせいか、思ったように体が動きません。ついでに頭も働きません。

 

 

「もうひとりの自分、素敵な自分。本当のパパとママはどこにいるの? ああ、綺麗なお花畑が……」

 

 

 かなりヤバい状態になっていました。

 

 真冬のクソ寒い空の下でパジャマ一枚で放り出されればそうなってもおかしくは、いや、おかしいのは元々でした。

 

 

『我が主―――』

 

 

 その時。

 どこかで聞き覚えのある声がしました。

 

 はやては朦朧としつつある意識がゆっくり明確になっていくのが分かりました。倒れ伏していた身を起こし、左右を見渡しますが、何も見当たりません。

 

 幻聴かと思えば、再び声がしました。先ほど同様、優しげな女性の呼ぶ声。しかし姿が見当たらず、はやては少し薄気味悪く思いました。

 

 すると今度は、背後から。

 

 

『我が主』

「なんださっきからうっとおし」

 

 

 言いながら振り向くと、はやてはフリーズしました。

 

 てっきり夢の中にいた白髪の女性がいるのだと思っていたはやてでしたが、予想を裏切る結果が目の前に広がっていました。

 

 

 

 優しげな声で呼びかけていたのは―――なのはだったからです。

 

 

 

「なんでやねん!」

 

 思わず素でつっこんでいました。

 

 なのはらしき人物は優しげな微笑みを浮かべております。さっきのブラックストマックスマイルとは対照的な、聖母のような微笑でした。ちなみに格好も聖母みたいな感じでした。円環の理がどうのとか言い出しそうな露出多めの格好です。全身ピンク色です。似合ってないことこの上ない。

 

 はやては鳥肌を立てながら後ずさりしました。何故か猛烈に嫌な予感を察知したからです。アレは多分本物じゃない、本物だったら嫌すぎる……珍しく心の底から恐怖しつつはやてはバックしますが、背中が柵にぶつかって頭から血の気が引きました。

 

「え、何これ。夢? ていうか悪夢? ちょ、しかもなんで無言で近づいて来る? 手をワキワキさせながらにじり寄って来る? おいやめろ馬鹿早くもこの作品は十八禁ですねってか、いやホントやめて下さい我が悪かったから無言で近づいてくるな頼むからやめて止めて誰かおらんのかーっ!」

 

 はやては本気でシャウトしますが、既に守護騎士は触手地獄、本物のなのはとフェイトはそこからとっとと逃げ出しております。一応はやての視界内に存在しているはずなので見ようと思えば見れる状態なのですが、いかんせん目の前に立ちはだかる幻影なの破壊神様が邪魔で見えません。

 

 ていうか、目を背けたらヤられる。どういう意味かは知りたくない。

 

『我が主……』

 

 なんでか艶っぽい声を出しながら近寄るなのはver.天使。

 

「わ……」

 

 ついには涙目になったはやては、悲痛な叫びを上げました。

 

 

 

「我の傍に近づくなァーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟、と一際強い風が吹き寄せました。

 

 仰け反りながらも持ちこたえた二人が再び屋上を見ると、黒い光が旋風となってはやての周囲を包んでいる光景が飛び込んできました。

 

 なんだかヤバそうな雰囲気がしたフェイトは、バルディッシュを構えます。

 

「なのは、なんだかヤバそうだよ! 止めないと!」

「まぁ待ちたまえ。今から呪文を詠唱するから。『黄昏よりも昏きもの、血の流れよりも――』」

「今までそんなことしなかったじゃん!」

 

 そんな漫才を繰り広げている間に、はやては黒い光に飲み込まれてしまいました。

 

 

 やがて屋上の光が消えていきます。完全に光が消え、先ほどまではやてが横たわっていたそこには、

 

 

「…………」

 

 

 長身の女性が佇んでいました。

 

 白い髪に、赤い目。起伏のある長身を包む黒い装束。左腕に取り付けられた巨大な杭打ち機のような物体が目を引きますが、何より印象的なのは、背中から生える一対の黒い翼です。さながら堕天使のごとく美しく天へ伸びる羽に、なのはは、ほう、と感嘆したように息をつきました。

 

 

(やだアイツ、羽なんか出しちゃって……格好いい!)

 

 

 違う意味で感嘆している奴がここに。

 

 とりあえずといった具合に、なのははフェイトに目を向けました。なんかよく分からん人出てきたけどどうする? とでも問いたげな目線に、目から無駄に星を散らばせていたフェイトは、女性の方を指差して、

 

 

「なのは! アレ、ボク欲しい!」

 

 

 などと言い出しました。

 

 なのはは身動きを止めました。止めると、一度女性の方を見て、またフェイトの顔を見、その後女性の方を見て、やっぱりフェイトのキラキラした無邪気な顔を見ます。

 

「………………………………………………ああ。そういうことなの」

 

 やっと納得したように頷きました。一体何について悩んでいたんでしょうか。

 

「いや何、随分久しぶりなもので記憶に混乱が生じていたようだ。具体的に言うと約3年ほどの記憶が……」

 

 ハイハイ。

 

 ともあれ、はやてが突然変なお姉さんに変貌してしまいました。一体どんなイリュージョンを用いたのか検討もつかないし興味もないなのはでしたが、ただごとではない空気にやれやれしょうがないなぁみたいな態度で肩を落としました。これぞまさに最近流行りのやれやれ無気力系主人公スタイル。こんなんばっかだったら世紀末ですね。物語で言う中盤の山場的なところに突入したのにちっとも漂わない緊迫感。

 

「まずは様子見だ。私が声をかけてみるから、いつでも動けるよう待機しておきたまえ」

 

 フェイトが頷き、なのはが一歩前へ出た時でした。

 

 女性はスッ……と両手を頭上に掲げます。

 

 何をする気だ、とフェイトが構えました。どんな事態になろうとすぐに対応できるよう、一挙手一投足さえ見逃すまいと注視しました。一方なのははいつでもどこでもディバインバスター発射体勢。多分そのうち背中からも出せるようになるでしょう。

 

 

 女性は無言のまま腕を伸ばした後、口を開き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁー……。あー、よく寝た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あくびをして涙を流しました。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 なのはとフェイトは無言で目線を交わしました。

 

 

「また、 全 て (怠惰な日常)が終わってしまった。一体、幾度こんな悲しみを繰り返せばいいのか……」

 

 

 あら不思議、元とまったく同じはずなのに、ニュアンスが違うだけでこんなにもガッカリなセリフに。

 

 

 声が届いていたなのはは眉をひそめました。

 

(そういえば、闇の書は危険だとユーノ君は言っていたな。あまり挑発的な行為は避けるべきか……?)

 

 なんということでしょう。ここに来てなのはが常識的な思考をしております。むしろ今までの言動が全部挑発行為に該当するという事実を華麗にスルーしていたクセにちょっと気づいちゃったっぽい空気。

 

 迂闊に触れると自分の住んでる町が壊される、という危機感もあったのでしょうか。自分が派手にぶっ壊すのは問題ないようですが、人が自分の庭を土足で踏み荒らすのは勘弁ならねぇご様子。

 

 なのははゆっくりと、闇の書を刺激しないよう近づいていきます。ちょっとポーズをつけながら空中を浮遊していきます。ジョジョ立ちしながら空中をスライドしていくのはやめていただきたい。

 

「お嬢さん。携帯の番号を教えてください」

 

 その聞き方は小学生としてどうよ。

 

「……携帯は持っていない」

 

 女性が片手をスッ、と上げると、それに伴い黒い本が浮かび上がりました。

 

「それは、あなたの自分史?」

「語るほどの自分史はない。おまえは、足が臭い馬鹿?」

「長い文章を読むのは苦手で」

 

 端から聞いても何が言いたいのか分からない問答でした。

 

「―――で、貴様は誰だ?」

 

 なのはは今までで一番全うな問いかけをしました。

 

「私は……ヘルメスの鳥」

 

 吸血鬼か貴様。

 

「わが主の願いを叶えるため、ここに参上仕る」

 

 短時間で女性のキャラが凄まじくブレだしているせいか、なのはも理解が追いつかず小首を傾げております。

 

「(あれ、こんな台詞だっけ? ちょ、待って、今台詞思い出すから……ダメだ、おうちで食べたピザの味しか思い出せない。ちゃんと映画見ておけば良かった)」

 

 小声でひどいことを垂れ流しておりますが、小さすぎて地獄耳のなのはさんにも届きませんでした。

 

「はやて君の願いと言ったな? 一体なんのことだ」

「(えっと……あ、そうだ思い出した)我が主の望み……それは現実の否定だ。今あるこの世界が悪い夢であってくれと願い、絶望を抱いた主が残した、たった一つの願いだ。私はそれを叶えるために、主に代わって現れた」

「それは、つまりどういうことだね?」

 

 半ば答えが分かっていつつも、なのはは問いました。

 

 

 

「そう、―――この小説(世界)を終わらせることが目的だ」

 

 

 

 女性は涙を流しながら言いまし……あれ、ちょっとおかしくない? 目的すり変わってない?

 

「いいや。連載開始から何年と経った今でも未だ完結されぬ物語……守護騎士らは追い回され続け、主はぼっち状態で2年以上も放置されている。このままでは中途半端テイストを読者の方々に晒したまま永遠の眠りについてしまう。そうなるくらいなら、いっそ過去(投稿)記憶(痕跡)さえも抹消し、すべてをなかったことにしてしまった方が良いと、主はお考えになったのだ」

 

 チョイチョイ原作風味を醸し出さないでください。メタれば面白いとでも思っているのですか。

 

 一体何言ってるのか分からないけど、世界がとんでもないことになっちゃって大変なんだなー的な雰囲気は理解できたのでしょう。なのはは改めて身構えます。

 

「で。貴様は一体どうしようというんだね?」

「主が今の現実を拒絶し眠りにつかれたならば、私は安寧をもたらすゆりかごとなろう。既にナハトヴァールが動き出している以上、私もいずれは消えゆく運命。ならばせめて、世界が終わるその瞬間まで、安らかに眠っていて欲しいというのは、私の傲慢だろうか」

 

 女性は悲しげに語り、先ほどとは違う涙を流しました。別にあくびを我慢したら出ちゃっただけではありません。

 

 なのはは、女性の話に耳を傾けています。隙あらばバスター、油断してたらバスター、問答無用でバスターを繰り返していたなのはが、棒立ち状態です。女性の話に、考えさせられることがありました。

 

 

 まさかそんな―――そんなガチシリアスな願望を抱えているとは。今まで自分勝手にフィーバーしていたなのはや若返り願望のために次元崩壊起こしかけたプレシアとはえらい違いです。目的のためならば環境破壊なんてなんのそのと大地を焼き尽くしてきたなのは、フェイトが危ない! と目を離した隙にサンダーボルト地獄でフェイトにちょっかいかけていた某執務官をこんがり焼き上げたプレシア・・・・・・今更ですけどこんなのが公務員て間違ってますよね。誰が採用したのでしょうか。

 

 が、今更どうにかできる問題ではありません。全ては自分のために、あとは知らない――過去に囚われない女、なのは。今日も一日、健やかに生きるのでした。誰かどうにかしてくれ。

 

「馬鹿か貴様。そんな身勝手な言い分が通用する世界などあるものか」

 

 今、抗議のメールが大量になのはの元へ送られてきましたが、レイジングハートが片っ端からデリートしました。

 

「ならばどうする? この場で話し合えによる円満解決を図れとでも言うのか?」

「そうだよ! 話し合えば、きっとわかりあえるんだって、僕は知ってるんだから……!」

 

 フェイトが珍しく正論で闇の書を説得しようとしています。これまで見られなかったことですね。今まで一直線だったフェイトの成長と言えるでしょう。今までアホの子だったフェイトも、いつまでも脳みそ三グラムではないのです。そう、今こうして説得しようとしているのは、なのはとの出会いを経て、闇の書と互角な話術をする頭を得たという証拠で―――

 

「話し合いか」

「そうだよ!」

「成程。―――ではまず私から言わせてもらうが、ナハトヴァールが目を覚ました今、暴走状態を抑えることなど無理だ。管制人格たる私でもコントロールを得るのは困難を極める。仮にナハトを解除できたとしても、再生能力を持つ暴走体を貴様らが消滅させることなどできるのか? 第一投降した我々を貴様らが迎え入れるとは思い難いな。犯罪行為を重ねた守護騎士達とその主を管理局は断罪するだろう。次元犯罪者の烙印さえも視野に入れねばならないが、さて貴様らはどう責任をとってくれる? 自己責任と言えば聞こえはいいが、それは体の良い逃げ口上ではないのか? 我々の境遇に同情しただけならば関わらないでもらいたい。そもそもお前たちが我が騎士たちのささやかな幸せを妨げたせいと言うこともできるが、その辺りはどう考えている?」

 

「?????????????????」

 

 変わってねー。

 

「……つまりだね。要約すると、彼女たちのしてきたことを無かったことにできるのかと、そういうことだ」

 

 と、なのはが助け舟を出しますが、

 

「え? そんなの無理じゃん」

 

 一言で切り捨てました。

 

「フェイト、もうちょっとオブラートにくるんで言うべきだと思うが」

「えー! だって、謝りもしないで許されるわけないじゃないか!」

「だ、そうだぞ?」

「……すいません」

「うん! 分かった! ボクは許す! 許すよ!」

 

 なんの解決にもなってねぇー。

 

「……とまぁ、この子はそう言っているが、私の意見は少々違うぞ」

「ほう」

 

 闇の書は初めてなのはに興味深げな目を向けました。

 

「フェイトは無理だと言ったし、確かに他の連中では貴様らを処罰するほかなく、救いの道はないと言うが―――」

「?」

「私ならできる」

 

 まったくちっとも、これっぽっちも信ぴょう性のない発言をぶちかましました。

 

 ビュオォオオオ……、と寒い風がタイミング良く吹き寄せました。

 

「お前たちに恨みはない。だが、お前たちさえいなければ、主や守護騎士たちは最後まで幸せなまま終わりを迎えることができた。そう思うと、堪えようのない怒りに似た感情があふれ出てしまいそうだ」

 

 とうとう話しても無駄だと判じた闇の書が会話を絶ち、魔力を収束させていきます。最初からそうすりゃ良かったんじゃなかろうかという突っ込みもなくはないのですが、残念ながらこの人台詞を忘れていたのでそれは難しい話でしょう。

 

「くっ……! 力ずくで止めるしかないのかっ!?」

 

 やはり戦うしかないのでしょう。フェイトは悔しげに顔を歪め、それでもなお武器を構えました。どんな事情があるか彼女はちっとも理解できませんでしたが、それでも譲れないものがあるのだということだけはハッキリ理解できました。だからこそ戦い、気持ちをぶつけてこそ分かり合えるのだと、フェイトは理屈ではなく身体で感じ取っていたのです。さぁここに来て再びフェイトの主人公オーラが膨れ上がっております。

 

「くっ! 力づくで止めるしかないようだね!?」

 

 一方、嬉々として魔力をギュンギュン循環させながらデストロイモードに入る主人公(だよね?)。

 

 心情に差はあれど身構えていた二人でしたが、そこでようやく異変に気づきました。女性の纏っていた魔力の質が高まっていっていることに。周囲を漂っていた空気がピリピリと肌に突き刺すようなこの感じ、プレシアのおっちょこちょいで発生したくしゃみサンダーの100倍くらいやばそうな雰囲気。砕けた言い方をすると、べらぼうにハイとなってぶっちゃけあかん領域に。

 

「あ、あれ? ひょっとしてこれまずいんじゃ……なのは!」

 

 さすがのフェイトもたじろぎました。なのはの全力全壊に比べたらカワイイものでしょうけれど、少なくとも人に向けてぶっぱ放せばどうなるかなど容易に想像できる規模にまで膨れ上がっています。

 

 焦るフェイトは助けを求めるようなのはにすがります。

 

「待ちたまえ。今から回避判定とるから。あっ、しまったサイコロを忘れてしまった」

「TRPG!?」

 

 とかなんだか言ってるうちに、女性は準備を完了させました。ひときわ大きく空間が脈動したかと思うと、女性の周辺から黒い魔力弾が生じ、フェイトとなのは目掛けて勢いよく飛び出してきました。

 

 

 

 

 

 

 これは避けられない――フェイトは瞬時にそう判断すると、緩やかな光景を見つつ隣に意識を向けました。この軌道だとなのはにも激突することでしょう。二人もろとも、という目算でしょう。フェイトは高速で動けばかろうじて回避が間に合います、しかしなのはは難しいでしょう。いくら彼女でも無防備なところに受ければひとたまりもありません。思考は一瞬、フェイトは迷うことなくなのはを突き飛ばさんと身体を動かします。かつてプレシアの誤射……もとい、落雷から救った時の様に。あれ救ってもらったっけ? まぁそんな気がするからいいや。待っててねなのは今助けるよ! 

 

 フェイトは横へとジャンプしました。

 

 

 

 

 

 直撃する――なのははスローになる視界の中でそう判断を下しました。必死に唱えようとした対抗呪文が完成する前に攻撃だなんてコヤツ空気が読めないな。変身中に攻撃をする空気読めないヤツと同じではないか。まぁこの借りは後で何倍にもして返せば問題ないねフフフ。なんてことを考えておりましたが、しかしこの軌道だとフェイトも巻き添えを喰らってしまいます。なのはなら直撃したところで防御がギリギリ間に合いそうですが、見た目的にも物理的にも防御力の薄いフェイトは一発で撃沈しかねません。別に胸囲的な意味で薄いとか思ってはおりませんが、仕方ない後でプレシアに怒られるのもイヤだし助けてあげようかなどと結論付けます。

 

 なのはは横へとジャンプしました。

 

 

 

 

 

 

 その結果、二人は頭から思いっきり激突しました。

 

 

「「はっぷにング!??!?」」

 

 

 ごーん☆と少し早い除夜の鐘さながらのヘヴィな音が木霊しました。頭上で星を回す二人。なのはは大きくよろめくと、かろうじて保った意識を掴んで堪えました。が、フェイトは体勢を整える前に飛来する黒い魔弾が直撃しました。

 

 するとなんということでしょう、黒い魔弾は大きく膨れ上がると、フェイトの五体をずるずると吸収していきます。ターミネーター2のラストみたいな感じです。あいるびーばっく。

 

 しまった、となのはが後悔してない顔でちょっと後悔している間に、やがてフェイトを包んでいた魔弾は虚空へ吸い込まれるように消えていきました。さながらダイ○ン掃除機に吸い込まれるゴミのように。比喩表現って使うと頭良さそうに見えるかと思ったらそんなことないんですね。

 

 なのはは女性の方へ振り向きます。フェイトは消えた、というより吸い込まれてどこかへと飛ばされたように見えました。今までさんざん魔法で器物を抹消してきた人の感覚は伊達ではありません。たぶんどっかにほっぽり出されているんじゃなかろうか。適当に結論付け、仕方ない後で迎えに行ってやろうと肩を落とします。

 

 ともあれ、まずはこの女性をなんとかせねばなりません。正体がよく分からない以上迂闊な行動はできませんが、一刻も早くはやてを救出してフェイトを探し出さないとプレシア女史が何をしでかすか分からないので、なのはは無理やりモチベーションを上げます。世界の危機よりも、娘の安否でひとつで安易に文明衰退レベルの事態を引き起こすBBAの方が恐ろしいというジレンマ。

 

 さぁオープン戦だ――なのはがウッキウキな気分になれないまま顔を上げると、目の前に黒いものがいっぱい。

 

「おや」

 

 小首をかしげ、ふと周囲を見渡して見ました。さっきフェイトをどこかへと消し飛ばした黒いモノが空中にいくつも浮かんでいます。それは弾丸というよりむしろ槍に近い形状でした。なのはがぼけーっとしている間にせっせと蓄えていたのでしょう。なのはを取り囲むように黒い槍が何百何千と浮かんでいて、切っ先をなのはへと向けています。

 

 しばし目線をぐりぐり動かしていたなのはでしたが、やがて視線をまっすぐにして、一言。

 

「…………うん、これは無理だね。ははは困ったな」

 

 はぁーもうやんなっちゃうねとばかりに首を振った瞬間、黒い槍が殺到しました。

 

 

 

 

 

 その寸前、

 

「ああ……面倒くさい。早くこたつで寝たい」

 

 女性がボソッと何かを呟きましたが、それは誰にも届きませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第14話   決戦なんて速攻なんです

 

 

 

 

 暗い。

 

 目を覚ますなりフェイトはそう思いました。

 

 横たわっていた五体をゆっくりと引き起こすと、見慣れない光景が目に飛び込んできました。薄暗いためよく見えませんが、半透明の水槽のようなものがいくつも並んでおります。ひとつは壊れてガラスが散らばっています。

 

「何ここ? 概念空間かな?」

 

 なんでそんな難しい言葉知ってんだ。

 

 しかし並んでいる機材はどこか見覚えがあります。どことなく漂う懐かしい雰囲気を感じながら、とりあえずフェイトは付近を散策しようと部屋から出ました。幸い扉はなかったので廊下へと出られました。

 

 廊下は左右へまっすぐ伸びているようでした。暗い道は青白い蛍光灯のようなライトで照らされているだけなので視界が悪く、フェイトは何度か壁へ頭を激突させながら進んでいきます。フォトンランサーぶっぱなしながら進めば辺りが明るくなるんじゃないかな、とかトチ狂ったことを一瞬考えました。それってどっかの誰かと同じ道を着実に歩んでる思考回路ですよね。これはいけない。

 

「誰もいないのかなぁ……」

 

 延々と歩き続けること2分。既に散策気分などはるか彼方へと吹き飛び段々飽きが生じ、果ては薄暗い空間のせいもあって寂しさが湧いてきました。ここでなのはサンが颯爽と登場したら尻尾を振り振り構ってワンコみたいに飛びつくこと請け合いでしたが、生憎と我らが主人公(?)は別空間でひゃっほうしてるため来れません。

 

 徐々に不安になってきて足取りも重くなり、フェイトが涙目になりそうになりました。

 

 その時でした。

 

「―――ッ! ―――、――――?」

「……っ? ……………!」

 

 誰かの声が聞こえてきました。二人分の、怒鳴るようなものと、泣く寸前の悲痛なものが、わずかにフェイトの耳へと届きました。

 

 これ幸いとばかりに顔を明るくしたフェイトは、スキップしそうな軽やかな足取りで走り出します。なのはSANだったら残像ができそうな勢いで走り出していたでしょうね……って、さっきから比較対象が全部アレじゃないですか。ちょっと頭が毒されてるようですね。あっ、今気がつきましたけど、フェイトって言動が子供っぽいだけで実は割と普通なんですよね。だからついつい頭おかC系人類がグイグイ真ん中に寄って来ちゃって影が薄れちゃうのはこのためなんでしょうか。大丈夫、続編があったらもっと出番来るさ!

 

 そんなどうでもいい考察など知らないフェイトは、やがて大きな空間へと飛び出しました。声はここから聞こえていたようです。

 

 そこはとても見慣れた場所でした。

 

(あれ、ここってお母さんがよくいた場所じゃ……)

 

 そう。かつてプレシアが妄執に囚われ、アルハザードを目指していた頃。なのはやクロノたちが乗り込み、母と対峙したあの場所です。満身創痍で辿りついたクロノ立会いの下、母親と一対一で語り合った、フェイトにとっても忘れ難い思い出の場所でした。まぁ実際の構図は頭から剣生やした血まみれの変態にガン見されながらステゴロで殴り合わんとするコスプレイヤーとその娘というなんとも言い難い状況でしたが。

 

 しかし、あの場所は既に二度と立ち入れない場所と化しているはずです。何故こんなところに来たのかなと思う間もなく、フェイトは声の主を見つけました。

 

(お母さん、と……あれ、アリシア?)

 

 フェイトは目を剥きました。背中を向けているため顔は見えませんが、自分を生んでくれた母親の背中を見違えることはありません。その母親の前で座り込んでいる金髪の姿も、遠目に見ても自分とそっくりであることから、姉のアリシアなのだと見当をつけました。

 

 そうなると、何故こんなところにいるのでしょう。プレシアもアリシアも、今は次元管理局の管理下に置かれているはずです(アリシアは主に頭がアレな問題で外出できておりません)。その辺でプラプラできているフェイトは一体全体どんな理屈でフリーダムな生活を送っていられるのか本人はサッパリ分かっておりません。コスプレイヤーの母と年齢詐称艦長の力は偉大。

 

 とても見覚えのある二人なのですが、ちょっと様子がおかしいことにようやくフェイトは気づきます。母から漂う張り詰めた空気はかつて感じたことのないものでした。アリシアの眉根を伏せた悲しげな顔と相まって、さすがのフェイトも敏感に察知しました。

 

(怒られてるの、かな?)

 

 割と常識的な解答ですが、ここで聞き耳を立てるのもどうかと思い、フェイトは思い切って声をかけることにしました。

 

「何してるの?」

 

 プレシアの後ろから声をかけました。すると、プレシアらしき女性と、フェイトと瓜二つな少女が振り向きました。

 

 あらためてよく見ると、フェイトの知る二人と酷似していましたが、少しばかり異なりました。プレシアはかつてなのは達と出会ったばかりの頃と同じ、年齢を考えるとちょっとキツいんじゃないかっていうかなり露出が激しいアレな格好でした。フェイトとそっくりな少女は恐らくアリシアなのでしょうが、かつての頭イっちゃってる様子は鳴りを潜め、眉根を下げてしおらしく座り込む姿は、どこからどう見ても普通の少女のようです。

 

(お母さんってば、最近控えていたのにまたあんなカッコしてる。アリシア……だよね? いつもと様子違うみたいだけど)

 

 事態が把握できず、フェイトは疑問符を浮かべます。その仕草が琴線をいたく刺激したのでしょう、呆けていた二人はみるみるうちに、表情を驚愕へと変えていきます。

 

 とりわけプレシアの驚き様はすさまじく、わなわなと全身を震わせて狼狽えております。

 

「あ、アリシア……なの?」

「? 何言ってるのお母さん。ボクは―――」

 

 と、そこでかしこいフェイトちゃんは気づきました。

 

(ははぁ。ひょっとしてお母さんってば、ボクとアリシアを間違えちゃってるんだな? 見た目だけならボクとそっくりしだしね、寝ぼけてるのかな)

 

 前半は当たってるんですが最後は間違っています。

 

 フェイトが今世紀最大級のトンチンカンな聡明さを発揮すると、プレシアにバレない程度に笑みを浮かべます。まるでイラズラを思いついた子供のようでした。

 

「ひどいなぁお母さん。ボ……わたしのこと、忘れちゃったの?」

 

 やや儚げに微笑みました。結構無理のある感じでした。

 

 ちょっとした子供のいたずらのつもりでした。本人的には後でネタばらしして母親を困らせてやろうくらいの気持ちであり、内心ほくそえんでおりました。

 

 ところが裏でニヤニヤしているフェイトとは対照的に、プレシアは肩を震わせております。口が開いても言葉が出ず、震える手が虚空をさまよっています。あれなんかマズったかな? フェイトが若干ズレたことを思って首を傾けました。そのしぐさが決定打になったのでしょう、プレシアの中で何かが決壊しました。

 

「あ、アリシア……アリシアッ!」

 

 たまらず駆け出し、フェイトを両手で強く抱きしめました。

 

 さながら久方ぶりの再会、親子感動のご対面と言わんばかりの光景を、フェイトと似た少女は唖然とした様子で見つめていました。

 

 

 

 

 

「・・・あれぇー?」

 

 ようやく自分の置かれている環境がおかしいことに気がついたフェイトでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




未完。


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