転生サイコロ (真下屋)
しおりを挟む

転生サイコロ

 

 

 人は死ぬと、どうなってしまうのか?

 それに答えは無いし、例え答えがあったとしても、きっと一つではないと思う。

 キリスト教信者だったら、天国があるんだろうし。

 仏教信者であれば、輪廻転生があるだろうし。

 無宗教なら、無が答えかもしれない。

 

 それはきっと、答えなんかなくて。

 答えなんて、人の数程あるんじゃないかと思う。

 

 宗教で、信条で、誓約で、その人の信じるもので、もしかしたら性格なんかで、それは変わってしまうのだろう。

 俺の姉はお星様になると俺に教えてくれたし。

 俺は妹に心の中に居るよと伝えたことがある。

 答えなんかないし、恐らく、答えなんかなくていいのだ。

 

 

『そういうお前は、自分が体験しているモノを信じないのか?』

 

 

 ああ、俺はどうしてこうなってしまったのか。

 こんな真っ白い世界で、雲の上の世界で、『神』を名乗る存在と対話しているのか。

 果ての無い空間に閉じ込められ、自称『高位な存在』である神様と二人っきりなのか。

 

 

『定型、御約束。テンプレート通りだろう? さあ、望みを云え』

 

 

 死ぬべき人間ではなかった。間違えた。元の世界には戻せない。お詫びに転生する世界の選択と、求める力を与えよう。

 大仰に長々と説明されたのは、そんな内容だった。

 テンプレートねぇ。テンプレ:神様転生、ってやつです。知ってます。知ってますよ。

 

 

『お前の好きな世界は沢山あるな。どれでも選ぶと良い。誰もがそうしてきた。無数にある世界が、その数を一つ増やすだけなのだから』

 

 

 例えば、魔法少女リリカルなのは。

 救われなかった少女を救う。

 例えば、ゼロの使い魔。

 トライアングルやスクウェアに産まれ、領地で好き勝手する。

 例えば、コードギアス。

 ギアスを手にし、世界を改編する。

 例えば、Fate。

 ギル様に憑依してバビロン扉で俺つえーする。

 例えば、インフィニット・ストラトス。

 ISを使える男性になり、IS学園でハーレムする。

 

 これまでもそういった『渡ってしまった存在』が幾らでもいるらしい。

 だろうな、と不満を抱きつつ納得した。

 

 元の世界の並行世界もあるだろ。なんでその世界を勧めないのか。と疑問を抱くと回答が思考に流れてきた。

 元の世界は『無い』から。

 介入の手が入った時点で分岐が起こり、それはもう別世界。

 俺が元の世界に戻ったとしてもそれは類似した世界の話で、結局俺を亡くして泣く両親、姉妹の涙は止められないのだ。

 なら、それになんの意味があるのだろう。

 

 

『そう考えるのであれば尚更、己が希望を叶えるべきだ。

 お前は此処を夢だと思っているようだが、実在する夢幻は現実と変わらない』

 

 

 そうだな。そうかも知れない。

 神様転生。転生トラック。チート転生。最近のトレンドだもんな。

 アンタはサイコロを振らないらしいが、そういう『遊び』はするんだよな。

 人をダイスに見立てた、サイコロ遊び。

 それを否定する気はねえよ。それを望んでいる人間が居るんだし。

 だけどさ、それって本当にしたい事なのか?

 お前がしたい事って。お前等がしたい事って、そうだったのか?

 どういう人生を歩んだか知らないけど、それでいいのか?

 

 これまで精一杯生きてない人間が、たかだか力を得ただけで幸せになれるのか。

 んなことはないと、俺は否定する。

 今日頑張れない人間が、明日頑張れる訳が無い。

 力が欲しいなら努力しろよ。

 努力すらせずに怠惰に過ごして力を求めた腐った心の奴が、世界を渡って何を成せるってんだ。

 

 今、自分のことすら真剣になれない人間が、借り物の力で誰かの力になろうってか。自分を幸せにしようってか。

 笑える話だろ。

 そんな人生を、そんな物語を、誰が望むってんだ。

 

 

『強がるな。お前は泣いている。悲しんでいる。悔やんでいる。そして、【新しい世界】を望んでいる』

 

 

 ああ、そうだな。そうだろうさ。

 仰るとおりで御座います。

 けどさ、嘘じゃないんだよ。

 

 俺は愛した。

 俺は、俺の両親を、俺の姉を、俺の妹を、俺の友人を、俺の環境を。

 俺の人生を、愛した。

 

 満足なんかしてねえよ。

 けどさ、俺の人生だ。

 俺だけの人生だ。

 俺は不幸にも死んでしまったけど、それでいいんだ。

 満足していない。やり残したことなんて山程ある。

 だけど俺は幸せだったし、俺の人生は誇れるモノだ。

 一生懸命に生きた。全力で遊んで、全力で学んで、全力で鍛えて、全力で休んで、全力でサボった。

 反省は沢山あるし、後悔ばかりだけれど。

 満足なんかしてないけど。

 それでも、納得だけはしている。

 俺は、『俺』を生き抜いた。

 勝手に逝くことを、一言だけ皆に謝りたいけど。

 あの愛しい人達が泣いているけれど、それはあの人達の人生で、それでいいんだ。

 

 だから、嘘じゃない。

 泣いてるし、悲しんでるし、悔やんでる。新世界を望んでいる。

 だけど、好きだから。

 俺はそれ以上に、自分の全てを愛していたから。 

 だから、逝って良い。

 

 

「お呼びじゃねえよ糞野郎。俺の人生に神様は不要だ。

 俺は死んだら星になって、誰かの心の中で生きるんだ。

 奇跡も転生も、要らねぇよ」

 

 

 じゃあな、神。

 アンタがサイコロを振らない様に、サイコロを振らない人ってのも居るんだよ。

 覚えとけ、糞野郎

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。