空を舞う海賊 (槇塚 憂淋)
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第零章 海賊子女の過去
海賊子女マーベル・ウェンディ


自己満作品です。
適度に更新していく予定。三人称視点の練習のつもり。拙い。


 ある日、いつもと変わらぬ昨日と同じ、明日も同じであるはずの日常を過ごしていた大柄な男の視界に異物なものが見つかる。海に漂流する何かを目を凝らして見ている。それがはっきりとはわからないが、すぐに人間の少女の姿であることがわかった。大柄な男は担いでいた20mにも及ぶ樹を放り投げて、急いで海に飛び込む。魚人である彼はすぐさま少女を拾い、岸に寝かせる。

 

「ごほっ、ごほっ…」

「大丈夫か?」

「ああ、私は大丈夫だ。ごほっ………、生きている………の…か」

 

 少女は自問自答を始めたかと思うと黙り込んでしまった。大柄な魚人の男は幼き少女が黙り込んでしまったためにどう声をかけようか迷っている。

 

「おーい」

 

 沈黙を打ち破るべくして、控えめながら大柄な魚人の男が少女に声を掛ける。

 

「ああ、失礼した。混乱する頭を整理していたのだ」

「何とも理性的な少女じゃな」

「少女…か、…理性的うんぬんはこの際置いておく。ここはどこだ?」

「ここか?コノミ諸島のグアバ村の近くじゃ」

「知らんな」

 

 少女はコノミ諸島というものに覚えがあったが、グアバと聞いて果物以外思い浮かぶことがなかった。

 

「そんじゃ、こっちの質問だ。お主、なぜ溺れていた」

「泳げないからだ!」

「威張って言うな!…まあ、おそらくは悪魔の実の能力者じゃろ」

「ほう?私が能力者だとよくわかったな」

「溺れていればわかる」

 

 大柄な魚人の男は半ば呆れながら生意気な少女を見る。背丈は非常に小さく、歳は6歳前後といったところだ。

 

「じゃが、何の能力者じゃ?」

「それに答えるわけにはいかない。そして次の質問は私だ」

 

 図々しくも、見た目で年上のはずの大柄な魚人相手に立場は同等を貫く少女の精神に魚人の男は関心さえ感じていた。

 

「お前は魚人海賊団の者か?」

「その歳であの海賊団の名を話すか…、わしは一般人じゃ」

「では何故魚人島から出てこの島にいる」

「次の質問はわしじゃよ」

「ふむ、失礼。ルールは弁えよう」

 

 いつの間にルールなぞできたのか、魚人はうちに秘める感想をしまい込む。

 

「そういえばお主、名は何という?」

「………私には言いたいことがある」

「ああ、皆まで言うな。わかっておる。わしの名はイッカクじゃ。イッカククジラの魚人イッカクじゃ」

「私はウェンディ。マーベル・ウェンディ。ソラソラの実の能力者だ」

 

 

 

 

 

 ソラソラの実、空間掌握を行える能力であり、主に使うことのできる能力は空を飛ぶ、空間を固定する、空間の情報を書き換える、といったもの。空を飛ぶ、飛ばす能力はそこまでの力の消耗はないが、空間を固定するとなるとかなりの労力がかかり、空間の情報を書き換えるとなるとその力は今の能力では事足りない。力の消耗とはソラソラの実の熟練度に比例している。ソラソラの実を自由に扱うことができるようになって初めて次のステップへと進むことができるのだ。ゆえに鍛錬をすればその分だけ力の応用ができるということ。ウェンディのソラソラの実の能力向上にはソラソラの実の使用回数はもちろん使用した際の熟練度も加味しなければならない。

 細かい話は飛ばすとして、つまり言いたいことは、修行して実践すればいいんだということ。

 

「おおー、わしを浮かせるとはやるのう。体重なんぞ600キロもあるというのに」

「はー、はー、はー………重いな…」

 

 背丈5mもあるイッカクを持ち上げるのは相当堪えたが、まだ問題なく浮かせることができるようだ。フワフワの実の能力と異なる点は浮かせることに特化したフワフワの実の能力には浮かせることに関しては劣るということ。その分他の能力が使えるのだ。

 

「まだ空間固定まで成長できるものじゃない。最低でも船一つくらい持ち上げられるようにならないと」

「船か…やはり、お主の夢は海賊王か?」

「ああ、私は海賊王になる」

「ワンピース、この世の全てを見つけるためにか?」

「この世の全てを見届けるために」

「………この世のすべて、世界の中心、いや、この世の中心近くに住んでいたわしでも知っておることは少ないぞ………この世の全てか」

「ああ、私は全てを知りたい」

「変わったやつじゃな」

 

 地面に着地したイッカクは顎を撫でながら考え込む。

 

「そういえば、昨日とってきた鉱石を売りに出したいんだけど」

「おお、そういえばそんなこともあったな」

「資金を集めるには必要なことだ」

「何を買うんじゃ?」

「アダムの樹」

「…ほう?聖樹アダムの樹で船を作ろうという魂胆か。あの樹はなかなか市場に出回らない上に造船は困難を極めるぞ」

「ゆくゆくだよ。今はその資金集め、運命を自ら切り開いていけばそのうち縁あって手に入れることもあるだろう」

「お主はなかなかどうして少女なのだろうか」

「どういう意味だ。しばくぞ」

 

 ウェンディはイッカクを連れ出してコノミ諸島グアバ村に向かった。




短いな…
主人公の名前ですが、主人公が前世にて記憶していたウェンディの名前で真っ先に思いついたのが
『Fairy Tail』のウェンディ・マーベルだった。
容姿はウェンディ・マーベルの髪を朱色にした感じを想像していただければ


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大巨漢イッカク

 ウェンディがコノミ諸島グアバ村近辺に住み着くことになって早1年。

 ウェンディの能力ソラソラの実の能力を向上させるために修行し、そして1年の月日を費やした結果、船の作成に成功した。

 

「イッカクの造船技術がここまでとはな」

「見よう見まねじゃ。もともとわしは漁師、造船のことなぞウェンディの買った本と手探りで始めた木の打ち方や切り方くらいじゃよ」

「高いだけあったな、あの本」

「船作るにも裏市場を回らんといけんしな。まあ、わしの鈍った体を鍛え上げられたのは思わぬ副産物じゃな」

 ウェンディの能力のおかげで船を作るのも容易であった。

 

「さて、完成したし航海してこい」

「何を言う。はよ乗れ」

「わしは海賊にはならん」

「バカめ、海賊王の船を作ればもはやお前は大罪人だよイッカク」

 

 イッカクはウェンディの物言いに面白おかしく笑う。不機嫌顏で地に降り立ったウェンディの頭をごしごしと撫でるとイッカクは一言呟いた。

 

「なら、わしと勝負せんか?わしは強いぞ」

「なめないでもらおうか」

「わしに勝てたら仲間に加わろうぞ」

 

 イッカクを仲間に加えるため、ウェンディはイッカクに相対する。

 

「この石が地や海に落ち、音を奏でたら試合開始じゃ」

 

 イッカクは空に石を軽く放り投げる。それが上に登っていくのを止め、重力に従って落ちていく。地に着いた一瞬。ウェンディは能力をイッカクに向けて放つが、イッカクは持っていた塩水をウェンディの方に向けて放つ。サメの魚人が得意とする打水だ。ウェンディはイッカクを浮遊させてバランスを崩そうという行動を止め、打水を浮遊能力で上空へと弾くが、

 

「隙有りじゃな」

 

イッカクはその隙に海に飛び込んだ。海への能力干渉は陸上に比べて難易度が跳ね上がる。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしたウェンディはすぐに空気を纏い海に飛び込む。まるでシャボン玉の中にいるような状態を維持して海での戦闘を望んだ。イッカクは海流を操作し、それを叩きつけるが、海への干渉を無理やり起こし、海流を固定し、固定の反動を利用してイッカクに一撃を入れる。

 大したダメージにもならないが、空間操作を並行して行うことにイッカクは驚いた。イッカクは高速に泳いでウェンディを牽制するが、まるで鳥のような行動をとって行動するウェンディに速度でも負ける。

 

「参ったのう。わしの本場でさえまだ負けておるか」

 

 イッカクはふてくされたように笑い。ウェンディに突っ込む。その勢いのまま海流を背負い。叩きつける。ウェンディは咄嗟に海流を固定するが、イッカクが懐に入るのを許してしまう。

 

「さすがに動けるほどの余裕はないじゃろ」

 

 イッカクの拳を手をクロスさせて防御するがその勢いはウェンディを陸まで吹き飛ばすには十分だった。イッカクはウェンディに追撃するために水中から海流一本背負いを放つが、陸での空間操作数は海と比べて一つ少ない。ウェンディはあっさりとイッカクの攻撃を止めてみせる。

 

「やっぱり海はきついね」

「まったく、こちとら魚人として最低限の誇りはあるんじゃがな」

「まあ、でも終わりだよ」

「ん?」

「気泡解放」

 

 海面に顔を出していたイッカクは爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 イッカクは目を覚ます。

 

「…負けたか」

「私の勝ち。だからイッカクは私の部下だよ」

「まあ、ええじゃろ。ウェンディを一人で旅させるわけにもいかんしな」

「どういう意味かな。これでも一人前の行動は取れるよ」

「見た目が問題じゃ。それはそうと、わしをどうやって打ち負かしたんじゃ?」

 

 ウェンディがイッカクを倒したのはソラソラの実の応用、空間固定だ。大量の空気を集めた気泡に入っていたウェンディはイッカクに殴り飛ばされる瞬間にその気泡を掌握し、圧縮した。大量の空気をピンポン球サイズまで圧縮してあったものを解き放ったのだ。至近距離に気泡があったイッカクは爆発的な空気の拡散により倒された。

 

「空間情報の書き換えではないのか」

「あくまでも圧縮は空間固定に分類されるよ。その上位である空間操作は酸素や窒素を変えるとか、その空間だけ無重力とか。もう一点の空間と入れ替えるとか。かなり出鱈目な部類に変わる」

「ぶっ飛んでるな。ソラソラの実の能力はかなりの強さじゃないか」

「その分、集中力と鍛錬が必要だよ」

 

 ソラソラの実の能力はレベルが上がるにつれてそれに必要な集中力が跳ね上がっていく。浮遊はほぼ無意識な状態でも操作が可能であるが、空間固定までなるとそれに集中が入り込み、他の動作はほとんどできないほどだ。しかし、ウェンディはマルチタスクを習得し、並列思考を可能にしたため、同時にいくつかの空間固定が可能となるまで能力を向上させることに成功した。しかし、それほど悪魔の実の能力をもってしても、最上級の空間情報操作の片鱗さえも掴みきれていない。

 

「…空間情報操作なんじゃが、ある一点ともう一点を入れ替えるとなるとその切断面はどうなるのじゃ?まさか最強の切れ味となるのかのう?」

「それは不可能だよ。あくまで空間の入れ替えであり、対象が不確定なものは入れ替えることができない」

「なるほどのう。つまりはまったくきれない切断面という解釈でいいのか?」

「まあ、そういうことになるかな。といってもまだ私も試したことがないけどね」

 

 ウェンディはあくまでも自分がソラソラの実の能力を手に入れた時に手にした説明書きをイッカクに話していた。結局この日、ウェンディはイッカクに自身の能力のことを話し、毎日の訓練日課を過ごして就寝する。イッカクは寝付いたウェンディの頭をそっと撫で、ウェンディの作った魚のスープを飲み干してウェンディの横に寝る。

 

「おやすみじゃ」

 

 イッカクは家の中でウェンディの反対側のベッドに腰を下ろす。幼き少女が何故聡明で、何故頑なに海賊王にこだわるのか、何故両親を失っても平気でいられるのか。イッカクはウェンディの寝顔を見ながら、布団をかぶり目を閉じた。



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悪魔の実の能力と巨大貝の真珠

どうでもいいお話です
あまり期待せずに読んでください


 ウェンディはイッカクを仲間に加えてからといって普段と何ら変わりのない生活を送っている。朝は走り込み、畑仕事。朝食を食べてからはイッカクの漁師の手伝い。昼飯を挟んで近隣の村へ物資の売買、それが終わるとウェンディは夕飯まで能力の向上に努める。

 

「くぅ…、おっも…」

 

 ウェンディは自身の船を海上から持ち上げる。海面より高く持ち上げられれば成功だ。血管が切れそうなほど額に青筋を立てて歯をくいしばる。表情は非常に険しい。

 

「浮いたぞ」

 

 西日に差し掛かる海で視界が良好とは言えないため、イッカクに修行を海から見てもらっていた。ウェンディはゆっくりと船を下ろす。自分たちで作った船を手荒な真似で寿命を縮めたくはないからだ。もっとも理想のアダムの樹を使ってできたわけではない船ではあるが、すでにウェンディには愛着が生まれていた。

 

「浮遊はもういいのか?」

「ああ、1日1回、そのノルマさえ、達成できれば、それでいい」

 

 ウェンディは落ち着かない呼吸でイッカクに答える。汗だくになりつつも船を持ち上げることができたのだ。ウェンディは呼吸を整えると次の修行に移る。浮遊でテイク14の練習だったにもかかわらず、休憩挟まずに空間固定の修行に入る。イッカクはまた何度も失敗するウェンディの姿を思い浮かべる。生き急いでいるようで生き急いでいない。イッカクは歯がゆい感情を胸の奥にしまい込みながら、まだウェンディのやりたいようにやらせることにした。

 

「あ…」

 

 ウェンディは力を込めるが、空間を固定できず、海に入るための空気の玉を作ることができない。

 

「…はああ!!」

 

 それにもかかわらず、ウェンディは再度能力を行使する。ウェンディの能力は空間を掌握し固定を開始するが、空気が集まってこない。空間が拡散しているのがわかるのだ。ウェンディは空気を固定しようと力を込め続ける。

 

「くそっ!」

「こら、汚い言葉を使うんでない!」

「っ!」

 

 イッカクの教育という邪魔が入り、ウェンディの能力に乱れが生じる。またしても固定していた空気が逃げ出してしまい。圧縮された空気の作成に失敗する。圧縮した空気を生み出すための空間固定の連続重ねがけは普段のウェンディであればいともたやすく行うことができる。しかし、今、ウェンディは疲労困憊状態での空間固定は非常に不安定である。もっとも、不安定な状態で鍛えなければ能力の向上はもってのほかとウェンディは考える。

 

「………っ……」

 

 集中して重ねがけができるようにとウェンディは空間固定を行うが、重ねがけに失敗する。

 

「その辺でいいじゃろ。もう五時を回った」

 

 イッカクの静止でウェンディは体を休める。極限状態での能力使用がまったく成果を上げていない。ウェンディは何がいけないのかを考える。何を成せば次の段階へ進めるのかと考える。

 いつも通り反省のために自分の世界に引きこもるウェンディを見守りながらイッカクは今日の漁での収穫を晩ご飯とした。

 

 

 

 毎日を修行と生活に明け暮れる生活はまさに灰色な世界である。変わらぬ日常に少しずつストレスを抱えていたウェンディを心配して、イッカクはウェンディの気をひきそうなものを探していた。森の中、鉱山、そして海をも捜索した。

 大陸棚から降りて深海を彷徨うイッカクの目の前に巨大な魚類が出現する。

 

「すまんな、どっかへ行っておれ!」

 

 海流を発生させてその魚類を遠くへと運ぶ。イッカクはさらに探索を進めていくと、魚人島ではあまり見なかった生物などを次々と発見していき、心を躍らせた。目的のすり変わりが起きているが、イッカクはウェンディも喜ぶだろうと、深海のグロテスクな生物を持ってきた。

 

「誰が食うか!」

「食物を粗末にするでない!」

 

 イッカクは決して食べようとしないウェンディの説得を諦めて一口食べる。とてもまずいらしく吐き出した。イッカクはこそこそとその深海生物の姿焼きを処分する。ウェンディはもちろん見ていたが、それを咎めることはしなかった。

 

「イッカク、それよりもだ。明日はちゃんと私の修行に付き合え!船長命令だ!」

「あいよ」

 

 心なしかイッカクの声に覇気がなかった。

 明くる日。

 イッカクが起きる頃にはウェンディの鍛錬が終わり、朝食を用意している彼女の姿が目に写る。とても6歳の少女とは思えない。イッカクは毎日感じるウェンディの違和感を無視する。ウェンディはウェンディである。イッカクはウェンディを詮索することはしない。思考を別のことに移すために考えることは昨日の件だ。ウェンディの興味を引く何かを見つけたい。

 イッカクは本日の漁を早めに切り上げて海底へと散歩をすることにした。ウェンディはその間、鉱山で能力を用いた鉱石集めを行う。イッカクはただ1人暗闇の深海世界を歩き回る。そして海底へと到着するほど深く潜ったイッカクの目の前にはとても巨大な二枚貝が存在していた。

 巨大だ。

 イッカク以上の大きさの貝を目にしてその形状からシャコ貝の一種と判断する。ただのシャコ貝とは大きさが違いすぎ、大きいもので10mを軽く超越するシャコ貝もある。イッカクはそのシャコ貝を運ぼうとするが、とても嵩張り、一つしか運べない。見つけた中で一番大きいものを運び出すことにしたイッカクは来た時間以上の時間をかけて自分の家に帰る。

 

「ふぅ、疲れたわい…」

 

 家からはとてもいい匂いが漂ってくる。サザエを焼いている匂いとイッカクは判別して家に入る。案の定ウェンディが昼食の支度をしていた。ウェンディに見て欲しいものがあると昨日と同じ手口でウェンディの気を引こうとするイッカクに疑いの視線を投げかけるウェンディだが、結局はイッカクの言葉に従うことにした。

 家の外には家の高さ以上の大きさを誇るシャコ貝がウェンディを迎えた。

 

「なにこれ?」

「シャコ貝だ!」

「シャコ貝ねえ…」

 

 この貝の処理をどうしたものかと呆れながら思考していたウェンディは能力に引っかかりを覚えることになる。空間を把握するソラソラの実の能力のデフォルト能力が一部の場所で機能しないことを察していた。それはシャコ貝の中にある。ウェンディは気になってシャコ貝の中を覗く。そこには巨大な真珠が存在していた。悪魔の実の能力を無効化する真珠。ウェンディは聞いたことがなかった。

 かくしてイッカクの企みは成功を告げる。ウェンディはこのシャコ貝に興味を持った。もっとも興味があるのシャコ貝の中にある真珠であり、シャコ貝には毛ほどの興味も示さない。ウェンディはさっそくシャコ貝から真珠を取り出す。

 黄金色に輝く真珠というのも知識にはない。金でも含んで着るように思えるが、実際は含んでいない。とはいえウェンディたちの知ることではない。ウェンディはさっそく実験を開始した。真珠に対して浮遊の能力を行使するが、真珠は飛行しない。それどころかウェンディは能力を奪われるような錯覚に陥ることになる。

 

「なんだこれ」

「浮かせられないのか」

「ああ、まるで能力を吸収しているみたいだ」

 

 どんなものかわからないものに、ウェンディは興味津々に近づく。そして手を触れると一気に力が抜けていく。

 

「うわっ!?」

 

 ウェンディは力を奪われる感覚と真珠が金色に光った二つの要因で驚きの声を上げる。イッカクには真珠が光りだしたことだけが認知され、イッカクもまた真珠に興味を示す。

 

「なんじゃろうな」

 

 顎に手を当てて考えるイッカクだが、ウェンディの中ではこれに似た状態を海楼石という存在を知っていた。端的に言ってしまえば海の力を持つ石。しかし、石とは違い真珠である。海楼石の作られ方は不明だが、もしかしたらこの真珠が海楼石に埋め込まれているのかもしれない。はたまた海楼石を体内に取り込んだシャコ貝が真珠に海楼石の成分が入り込んだのかもしれない。憶測はいくつも立てているが、ウェンディはまだ試したいことがいくつかあった。

 

「イッカク、離れてろ」

「何をするんじゃ?」

「能力をぶつける」

 

 疲労困憊でもないウェンディはすぐさま空間固定を連続して同空間で行い圧縮された空気を作り出した。締めに解放と固定をして終了だ。時間にして6秒、圧縮された空気の塊を真珠に向かって解き放った。

 大地が割れ

 海が弾けた

 海まで弾かれた真珠だが、本体のシャコ貝は見るも無残な姿に変わり果てている。対して真珠は無傷だった。ウェンディは浮遊で真珠を拾おうとするが、能力が吸収されていく。

 

「イッカク…」

「はあ…しょうがないのう」

 

 娘のようなウェンディに頼まれてしまえばイッカクは断れない。真珠を拾ってきてもらうとウェンディは今度は真珠を巻き込みながら空間固定を開始する。何度も何度もウェンディは真珠に能力をぶつけていた。そして最後には直接手で触れることにした。

 

「ところで先ほど真珠が光ったのは何故じゃ?」

「手で触れれば真珠は光るだろう。でも、私の体の中から力が一気に抜けたんだ」

「そんな効果があったとはのう」

「やってみる価値はある」

「あまり推奨はできんぞ」

「それでもだよ」

 

 ウェンディは真珠に手を伸ばした。

 真珠に力を奪われる感覚がしてなおウェンディは真珠から手を離さない。光は直視するには強すぎる光を放っていた。

 

「くぅ…」

「目を開けられん…」

 

 およそ3分。

 真珠から光が収まった。

 ウェンディは肩で息をしながら真珠を眺めていた。

 

「はあ…はあ…ぅ…はあ、っすー…はー」

 

 呼吸を整えたウェンディは真珠を見やる。真珠は光り輝いていた。力を加えたときほどの強烈な光ではないにしろ素晴らしいほどに光り輝いている。

 

「…なるほど」

「何かわかったんか?」

「これは悪魔の実の能力の保存ができるみたいだ」

「ほう?」

 

 ウェンディが真珠の特性に気がつくのは早かった。普段から空間感覚というソラソラの実の能力者に備わる新しい感覚に作用する人物が自分以外に存在しているからだ。その根源がシャコ貝の真珠である。悪魔の実の能力を保存する力。これは戦力になる。ウェンディがそう考察するが、次なる問題はこの真珠の制御方法であった。

 

「まだ何か問題でもあるんか?」

「どうすればこの真珠から能力を取り出せるのかってこと」

「ふむ…まあ、なんじゃ力でも吸収してみ」

「…どうやって?」

「それは何かあるじゃろ、何か」

 

 イッカクが適当なことを言うが、ウェンディは力を取り出すには何か作用させるものが必要、自分の力との共鳴、考えるだけ考えても答えはどうせ出てきはしない。

 

「ものは試し、当たって砕けろってことでしょ」

 

 ウェンディは真珠に能力をぶつけてみる。

 浮遊した。

 

「おい、浮いとるぞ?」

「…吸収限界を超えたってことかな。まあ、力の取り出し方がわからないんだけどね」

 

 ウェンディは次に真珠をとって地面に叩きつける。

 

「おりゃあああ!!!」

 

 地面が大きく陥没するが真珠は無傷である。

 

「むむむ…」

「考えておるようで、あんまり考えておらんじゃろ」

「うぐっ」

 

 イッカクの指摘を受けてウェンディは口を紡ぐ。

 

「ウェンディよ、お主はどうやって悪魔の実の能力を使っておる?それと同じようにすりゃ真珠から力を取り出せるんじゃないかのう?」

「うーん…、私は感覚的に力を使っているからな。どうにもならん。自分の体ではないし、この真珠をどうすればいいのやら…」

 

 ウェンディは能力の行使、真珠の能力の行使を考えていると一つのアイデアが浮かんできた。

 

「この真珠を操縦する何かがあればいい。それが私でなくても、何かしらの装置か」

「装置か。はて、どういったものじゃろうか?」

「そうしてウェンディは頭を抱えたのであった」

「これ、現実逃避するんでない」

「何もアイデアが思い浮かばないのだから仕方ないだろ」

「それを考えなければ、いつまでたってもこれを使えんぞ」

 

 あきやすい。この年頃の少女にしては持った方かもしれないが、イッカクにしてみればウェンディは特別な少女、この程度で年相応な行動をとるとは思えなかった。ウェンディもまた口では愚痴を放っているが、まだ解決の糸口を頭の中で探していた。毎日変わらない日常にもたらされたイッカクからのスパイスはウェンディの興味をちゃんと引いていた。

 結局その日は真珠に力をチャージするだけで終了してしまう。

 

 

 

 次の日。

 ウェンディは日課を済ませて真珠のことをどうしたものかと試行しながら魚のスープを作っていた。早起きすぎるウェンディにとって寝坊助なイッカクが匂いにつられて起き上がる。

 

「早いのう」

「おはよう。すぐできるぞ」

 

 朝食を済ませたウェンディはいつものように午前の日課に入る。イッカクの漁の手伝いだ。ウェンディはここで真珠に対する行動で基本的なことをしていないことを思い出した。

 

「そうだ。チャージ完了してから海につけてない」

「うん?どうしたんじゃ?」

「いや、なんでもない」

 

 今は自分の能力の練習を兼用している漁の仕事をするべきだと考えて、空気を纏い、海に飛び込んだ。魚を空気を使ってとらえていき、力の練習がてら自由に泳ぎ回る。ウェンディの動きは泳ぐというよりは飛んでいるという方が正しい。収穫を終えたウェンディは昼食をイッカクに任せて海岸に真珠を持っていく。ひとすくい海水を救って真珠にかけた。

 爆発が起きた。

 

「何事じゃ!?ウェンディ!!ウェンディ!!」

「私は大丈夫だ」

 

 間一髪で空間固定を行ったウェンディは真珠の爆発的暴風の直撃は避けられた。しかし、今度は真珠本体が爆風の影響で海に飛ばされた。まだ真珠は光り輝いている。心なしか光は少しだけ弱まって見えた。

 もしも真珠の力の解放が海だとしたら

 もしも真珠の力の上限が光量で決まっていたら

 もしも今飛んでいる真珠が海に落ちたら

 ウェンディは最悪の事態を瞬時に想像して、今の真珠の位置に力が及ぶまでの時間が残されていないこともはっきりと判断できた。後手に回っても被害は抑える。ウェンディは集中した。海を大きく能力の範囲に入れる。

 真珠は着水するとともに内部に蓄えられていた能力が暴走する。それは爆発を生みだして、巨大な津波を作った。このままではコノミ諸島全域を津波が襲ってしまう。ウェンディはそれの解答例を持っていた。

 

「空間固定(ゼロ・ワールド)!!!」

 

 津波は止まった。

 海が固まったのだ。

 

「っ…はあ…はあ、力を一気に使いすぎた…」

 

 一度に大きく力を使ったウェンディは頭が割れるような痛みに襲われる。

 

「気絶するでないぞウェンディ。お主が力を解けば津波は再び動き出してしまう」

 

 固まった海とはよそに、他の海は動いている。イッカクは固まった海を海底に沈めるために海へと飛び込んだ。

 それから一時間後。地上に戻ってきたイッカクが海底に固定した海を沈めたというのでウェンディは固定した海の運動量を解放した。すると地震のような衝撃を受けたが、コノミ諸島に被害はない。

 

「すまん。助かったイッカク」

「誰も怪我せんだし大丈夫じゃろ。遅いが昼食の支度をするぞい」

「真珠か…」

 

 名前もわからない。おそらくは名前も付けられていない真珠を見て、ウェンディはイッカクの後を追う。いつかはあの真珠を使いこなせるようにできれば戦力になる。イッカクとの共通見解である戦力となる真珠をどうするか。

 

「私の力になれよ」

 

 真珠は鈍色に輝いていた。




後にウェンディたちの武器となる真珠のお話
大きさはナメック星のドラゴンボールサイズ


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海賊子女のコノミ諸島散策

平日更新が大変
誤字とか編集(141227)


 イッカクを正式に仲間に加え、真珠との事件からしばらく経ったある日、ウェンディはコノミ諸島を散策していた。あまり人前には現れなかったウェンディの到着した村のひとつにはココヤシ村があった。

 

「ゲンさん!」

「おお、ベルメールかみかんは買うぞ」

「ゲンさんはナミ達も世話になったからいいの。前にもいったでしょ。ほら、ナミもノジコも挨拶」

「ゲンさんこんにちわ」

「うわーーーーーんっ」

「あー、ゲンさんナミ泣かせたー」

「わしのせいかっ!?」

 

 ウェンディは初めてコノミ諸島の名を思い出していた。コノミ諸島ココヤシ村。どこかで聞いたことのあるフレーズを今になって理解したいた。ウェンディは驚嘆の表情を内にしまいポーカーフェイスを貫く。ナミという主人公の仲間が近くにいることでこれから予想される出来事を断片的に思い出していた。

 

「あれ?見かけない子だね。どこから来たの?」

 

 ベルメールがウェンディに気づき、話しかける。

 

「グアバから来た。今は鉱石を売っている」

 

 ウェンディは簡潔に述べるとベルメールとゲンさんが顔を見合わせる。およそノジコと同い年くらいの少女が2つ隣の島のグアバ村から来たという。

 

「鉱石か。見てみようかな」

「アクアマリン、エメラルド、他にもあるけどダイヤは売り切れ」

 

 鉱石は鉱石でピンキリではあるが、高いところだと一般家庭には手が出せない価格になる。あまりの種類にゲンさんも驚いてしまう。

 

「お、おー、これはいい鉱石じゃな。これほどの鉱石どこで手に入れたんじゃ?」

「鉱山で掘った」

「掘ったって、そのまんまの意味か!」

「買いたい人が言ったら伝えて欲しい。村の広場に二時間だけいる」

 

 それだけ伝えるとウェンディは4人の前を通りすぎる。じっと見ていたノジコがウェンディに向かって走り出した。ノジコがウェンディの隣に立つと勢い良く話しかける。

 

「私ノジコ!あなたは?」

「ウェンディ、マーベル・ウェンディ」

「いくつなの?」

「歳は6つだ」

「なら私と一緒だね」

「そうか」

「それでね___」

 

 ノジコは同世代のウェンディに興味津々であった。歳がまったく同じウェンディに興味を持っていた。一方のウェンディはアーロン襲来の時期を考えていた。

 

「…あれはお前の妹か?」

「ナミのこと?」

「あのオレンジ髪の泣いている奴だ」

「そうだよ。妹。最近4歳になったばかり」

 

 ウェンディが覚えている範囲にはノジコとナミの年齢差は忘れていた。覚えているのはナミが10歳のときにアーロン一味に加わることだった。そしてそれはほぼアーロン襲来の時期と重なっていたはずである。ということ。

 

「……時間はあるが、足りないな」

「ん?何か言った?」

「なんでもない」

 

 村の広場でノジコと会話しながら宝石を買う人を待つ。裕福な家庭は一つもなかったのか、宝石を買う人間は一人もいなかった。ベルメールがウェンディが食べるのに困っているのではないかと憶測し、無理にでも買おうとしたのだが、金は貯金のため、食にはまったく困っていないとだけいいココヤシ村を後にして、隣村まで歩く。

 ウェンディは考える。今の戦力でアーロン一味と戦うことができるのか。第一にイッカクとしか戦闘していないのだから自信の強さの基準がわからない。ウェンディは当面、6年後のアーロン襲撃のことに思考を割いていく。

 

 

 

 ココヤシ村にも月一で通うようになったウェンディは村から親しく接されるようになり、婚約や恋人同士のお祝いにと鉱石の加工品が売れるようになっていく。溜めた資金をウェンディは今の仮の船ではなく、新しい船に注ぎ込むつもりである。

 

「売れたか?」

「そこそこ」

 

 ぶどうのジュースとぶどう本体の販売も行っていたイッカクが店仕舞いをしてウェンディに話しかける。グアバでもやっているが、ココヤシ村にも月に一度の割合で伸展してきた。イッカクが馴染むまでには5回もの来訪が必要であったが、今では十二分に稼げるようになっていた。しかし、ぶどうの販売量もたかが知れているためにそこまでの大金は得られない。ウェンディの保護者的立ち位置であるイッカクはウェンディがただ黙々と船を作るためにお金を使っているのを不憫に感じ、少しは贅沢でもさせてあげようと稼いでいるお金である。それから、ココヤシ村に通う理由のもう一つにイッカクがここのところナミに懐かれていることである。高い高いと持ち上げるとイッカクは5mの身長のため家よりも高く持ち上げられ、大人であれば恐怖するが子供のナミはかなり喜んでいた。そのせいで父親としての立場にいたゲンさんは夜な夜な泣いてまくらを濡らしているとか。

 

「ウェンディ姉!」

「ナミ、イッカクについてきたのか?」

「うん!」

 

 今日もナミは元気いっぱいである。その後ろには同い年のノジコの姿も見える。

 

「ノっちゃん」

「誰が”ノっちゃん”よ!」

「固いな」

「あんたが変な呼び名つけるからでしょ!」

「気にするな」

「気にするわよ!」

 

 ウェンディを追いかけ回すノジコだが、地力が違いすぎてまったくウェンディに追い付く気配はない。夕暮れまで気ままに過ごしていたが、今日も今日とて別れはやってくる。

 

「そろそろ帰るぞ」

「ダメーーー!イッカクおじさん帰っちゃ、ヤ!!」

 

 そして、またしてもナミがぐずった。ここ最近ウェンディたちがココヤシ村を訪問するたび、別れ際でナミは泣いてしまう。

 

「ナミ、また来るからいい子にしておるんじゃよ。お母さんの言うことをちゃんと聞いていい子にしていなさい」

「うぅ…」

「ナミはいい子じゃ。ほれ、たかいたかーい!」

「きゃあーーー 」

 

 ナミは楽しそうな悲鳴をあげる。

 

「…羨ましいならやってもらえば?」

「違うわよ!」

「そういえばノっちゃんも最初の頃はナミみたいに別れの時、泣いてたよね」

「わーーーーーーーーーーー!!何言ってんの!?馬鹿じゃないの!?泣いてないし!!」

 

 ウェンディに急に問いかけられたノジコはごまかそうとするも顔は真っ赤になっていた。



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こそ泥と冒険の海賊団

うまく表現できない。難しい。


 よく食べてよく寝てよく動くウェンディは他の同世代の子供たちよりも発達が早く、成長が著しい。しかしながら所詮は7歳になる前であるからそこまでの身長はない。120cmを超えたウェンディは船頭に立っていた。

 

「イッカク!出航だぞ!」

「あいよ」

 

 イッカクからはあまりやる気の感じられない声がしたが、ウェンディはあまり気にしていない。ウェンディは船の機動力に追加して例の巨大シャコ貝から取れた真珠の能力で外輪を用いて推進力をあげている。例の真珠の名は魂封珠とウェンディが命名し、ウェンディの悪魔の実の能力を取り入れた状態を風魂封珠と呼んでいる。ちなみに巨大シャコ貝は大王シャコ貝と名付けた。自らの悪魔の実の能力を封じ、操ることができる魂封珠のその使い方を知るものは他にいない。

 

「電力は十二分あるけど、やっぱり風魂封珠を使うのは勿体無いな」

「使い切ってもまた充電が効くじゃろ」

「それはそうだけど…」

 

 船を出して着々と外海に進み始めたウェンディたちは船の機能を確かめるために、さっそくその準備に取り掛かっていた。そして、港から離れると悪魔の実の能力を発動する。風魂封珠は外輪の動力源として機能するのだが、その力を取り出しているイッカクは海楼石を微妙に操作して風魂封珠から力が出過ぎないように操作していた。

 

「うお!?」

「っ!なかなか早いじゃないか」

 

 その船体の速さは30ノットに到達した。

 

「およそ50キロ毎時ってところかな」

 

 空間把握に優れた能力を持っているウェンディはどれくらいの時間でどれだけの進み具合かは瞬時に判断できる。造船技術がそこまで高くないウェンディたちは風を電力に変えてスクリューで進む船の作成は諦め、代わりに外輪で動くパドル船を作り出した。

 

「早いのう」

「もっと早い速度を出すには私の力を重ねがけしなければならないな」

「敵船から逃げるのには本気を出すということじゃな」

「海軍本部大将とか来たら即逃げる」

「こんな場所にはおらんわ」

 

 適当な会話を弾ませていた二人だったが、およそ30分の航海でウェンディの空間把握に引っかかる反応があった。他の船がウェンディの包囲網にかかった。

 

「この運動量は船だな。イッカク!船は見えるか?」

「どっちの方角じゃ」

「10時の方向、大きさからするとガレオン船だ」

「見えたぞ。どうやら海賊船じゃな」

「ウェンディ海賊団の初陣だ」

「二人しかおらんがな」

 

 ウェンディはすぐに船体を敵船に向けて船首に備え付けられた大砲を撃つ。

 先手必勝、遠距離もほぼ確実に当てることができるウェンディは一撃を放つと相手船からも一撃が飛んできた。しかし、敵船の砲撃はウェンディたちの船の手前に着水し、ウェンディたちの大砲は直撃した。さらにもう一発ウェンディは敵船に向けて砲撃を放った。またしても命中し、敵船は進行を止める。船員たちは消火に時間を取られている。

 

「砲弾が勿体ないな。白兵戦で行くぞ!」

 

 ウェンディは空を舞った。

 

 

 

 敵船に到着したウェンディは船員の位置把握を行う。人質とかいるかもしれないと考えたウェンディは船内に身動きが取れない人の気配を感じていた。その人数は4人である。

 

「なんだ!?ガキが空から降りてきやがった!?」

「無駄口叩いてる暇あるなら消火しやがれ!」

「くそがっ!あの船ただじゃおかねえぞ!」

 

 ウェンディが敵とは認知されなかったのか最初に声をあげたもの以外は消火に勤しんでいる。しかしウェンディはいかにもな女海賊の衣装を羽織り、手にはレイピア、腰には刀という海賊らしいのは格好だけだが、凶器を持っているのには変わりない。

 

「ソラソラの大花火!」

 

 消火に当たっていた船員を巻き込み、酸素濃度の高い圧縮した空気を火の元に放ち、圧縮を解いた。それは花火というには美しくはない、ただの猛火となった。火に巻き込まれた海賊たちは我先にと海に飛び込んでいく。

 

「くそっ!てめえ、噂に聞く悪魔の実の能力者か!」

「ほう?私の力を見て悪魔の実の能力とわかるか」

 

 子供と大人の差はあれど、いかにもな格好の海賊同士の戦いの火蓋は降ろされなかった。

 

「魚人空手!千枚瓦正拳!」

 

 敵の船長は海から現れたイッカクの一撃で粉砕した。敵船力を無効化した後でウェンディは捕らえられている人を救出し、自身の船においた。もっとも捕らえられていた4人家族は商人であり、商船は失ってしまったという。船内に保管されていた金銀はウェンディが交渉のすえ、4人を家に送り届けることと引き換えにもらうことになった。

 わずかに3時間、目的の島にたどり着いた一行は目の前に海軍戦を見つける。

 

「まいったな、海軍だ」

「小舟を出してくれ、わしが一家を島に送るからのう」

「頼んだ」

 

 一家は小舟を使って無事に上陸を果たした。そしてイッカクもまた小舟を引っ張って戻って来た。

 

「これで一件落着だな」

「本人の前で金銀を奪うのは如何なものかと思ったぞ」

「別段問題はないでしょ。私たちは海賊よ」

「そうじゃったな」

 

 イッカクは腑に落ちないが、最近、海楼石の購入で金欠気味だったのが一気に懐が豊かになって複雑な気持ちを抱えていた。一方でウェンディは海賊船を襲うことに味を覚えたため、次なる標的を探すべく海を彷徨うことにした。

 

 

 

 航海三日目。

 ウェンディはなかなか海賊船に会えずに苛立っている。

 

「今日も獲物なしか…」

「どこぞの賞金稼ぎじゃ」

「暇だーーー、うだーーー、うがーーー」

「はあ」

 

 イッカクはため息をつき、年相応な態度をとるウェンディに呆れていた。

 

「船上じゃ修行も限られるし、うーん…、何か面白いことないかなあ」

「あたり一面に海があるぞい」

「海しかないやん。昼飯にするか」

「さっき昼飯食ったじゃろ。そろそろ島でも目指してみるかのう?」

「そうしようか」

 

 ウェンディは船の進路を変更して東の海で結構な規模を誇る無人島を目指した。パドル船の常識外れな速度で4時間経ってようやく目的の島を視界に入れることができた。

 

「あれかな?」

「海流の位置からしてもあれじゃ」

「この距離だとギリギリ私の包囲網だからわからないよ」

「これほどまで届くんか…」

「正確な形を判定するには結構近づかなくちゃいけないから、視界みたいなものかな。ある一定距離離れるとぼやけるでしょ?そんな感覚」

 

 ウェンディの空間把握は視界ギリギリにある島を島と認知する程度であった。イッカクはパドル船の推進力を控えめにしつつ、上陸のための準備に移る。島に近づくとウェンディが能力で帆をたたみ、錨を下ろす。

 

「はい、上陸」

「飛ぶとは卑怯な」

「イッカクは遅いねえ」

「ほんのタッチの差じゃろ」

 

 ウェンディは空を舞い、イッカクは海を泳いで島に乗り込んだ。二人はさっそく冒険家のごとく、島を散策する準備に取り掛かる。大荷物を持って島に入り、ジャングルに溶け込んでいく。

 

「なあ、イッカク」

「なんじゃ?」

「無人島に宝なんてあるかな?」

「ほとんどないじゃろ。猛獣が宝を守っているとかでないかぎり、海底の方が宝は多いぞ」

「海底潜ってみるか…」

「カナヅチが何を言う」

 

 ウェンディが先頭に立って、イッカクがその後ろを進む。しばらく歩いているとウェンディの歩みが止まった。現在地はジャングルの中である。

 

「この辺で毒持った生物とかいる?」

「なんじゃ?怖いのか?怖いのかのう?」

 

 年上の貫禄か、はたまた子供っぽくないウェンディに対しての嫌味なのか。ここぞとばかりにイッカクはウェンディを煽る。ウェンディもそんなイッカクの言葉にムッとイラついて今しがた気がついた出来事について話すのをやめた。

 

「聞いてみただけだ!」

「拗ねておるんか。すまんのう」

 

 ウェンディは笑いながら謝るイッカクにイラつきながら強引に木々をかき分けて進んで行く。そしてウェンディが空間把握で注視していた生物を視界に確実に収めるところまで来ていた。

 体長20mを越す巨大な大蛇であった。

 

「イッカク、もう一回だけ聞いてやる。あれは毒を持っているか?」

「メガパイソンじゃと!?」

「聞こえなかったか?」

「ぎゃあああああああああああ!!!!!」

「うるせ」

 

 イッカクは今来た道を猛ダッシュで引き返した。その様子を見ていたウェンディはメガパイソンに毒があることだけは理解した。すぐに浮遊の能力を放ち蛇を捉えようとするが、蛇はそれを避けた。

 

「あれ?浮遊も音速の速度で相手に仕掛けられるんだけどな…」

「シャーーー!」

「背後か!?」

 

 ウェンディとメガパイソンの噛みつきを上空に逃げて回避するが、そこに追い打ちをかけるように蛇の尻尾が横薙ぎでウェンディに迫る。

 

「浮遊(フライ)!」

 

 ウェンディは自身に浮力をかけて二段階にジャンプしたかのように空へ舞う。メガパイソンは素早く近くの大樹に体を巻きつけながらウェンディを追う。

 

「マジ!?早すぎでしょ!浮遊(フライ)!」

 

 ウェンディは口を大きく開けたメガパイソンに向けて浮遊を放つ。今度は命中し、メガパイソンはウェンディの上空を噛み付いた。ウェンディは身を翻して木々を蹴り、地面を目指す。地面に着くまで上空20mのところからわずかに3秒。しかし、遅れをとっていたはずのメガパイソンはすでにウェンディの着地地点へ噛みつき始めていた。

 

「やっぱり早い!?」

 

 ウェンディは間一髪で浮遊したが、追尾してきたメガパイソンの尻尾に弾かれる。

 

「ゔっ、ぐあ…」

 

 樹の中腹に叩きつけられたウェンディは重力で落ちるはずであるが、落ち始める前にメガパイソンが樹にウェンディごと巻き付いた。

 

「はは…、イーストブルーに…こんな野生動物いたんだな。強いね」

「シャー!!」

 

 ウェンディは噛み付いてきたメガパイソンに抜刀しておいたレイピアにかけた浮力でメガパイソンの下顎に突き刺した。一瞬締め付けが緩んだ隙を好機と見てウェンディは脱出、レイピアを回収し、メガパイソンに対峙する。体の割に素早いメガパイソンの射程範囲を見極めようとしていたが、メガパイソンが口を開けて何かを吹きかける。

 

「何!?」

 

 とっさに避けたウェンディは木々にかかった液体を見て毒液だと判別した。蛇の牙で巨大な二本から吹き出てきたものである。

 

「しまった!」

 ウェンディは毒液に気をとられ、蛇の姿を見失う。周囲を詮索してメガパイソンの行方を追った。それはイッカクの方に高速で動いていた。

 

「くそっ!!あのバカの方か!!」

 

 ソラソラの実の能力で授かる空間におけるエネルギー変異の知覚、それはウェンディの新しい感覚として備わっていたが、ウェンディは戦闘中にその感覚を用いずに戦ってしまったことを悔やむ。視覚に頼りきった戦闘の域を出ないとソラソラの実の力は使いこなせているとは言えない。

 ウェンディは小心者の部下のピンチを助けるべく空を駆ける。




いい名前が思い浮かんばない
なんだよメガパイソンって…
ウェンディの口調が安定しない
誤字多い


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名もなき狼

くいな出てこないな…


ONE PIECE

空を舞う能力者_6 名もなき狼

 

 メガパイソンはウェンディと戦うには浪費が激しいと考え、もともと体の大きいイッカクへと標的を変更した。時速100キロ近くの速度でジャングルを突き進むメガパイソンを必死に追いかけるウェンディだが、距離は少しずつ離されていく。一方で

 

「ふう、ふう、ふう!…うっぷ、ふう、ふう、ふう…ウ、ウェンディ!大丈夫か!?」

 

 イッカクは自身を追いかけてきたと勝手に思っていたウェンディに心配の声をかけるが、近くにウェンディはもちろんいない。

 

「どこじゃウェンディ!…まさか」

 

 イッカクの脳裏にはウェンディがメガパイソンに食べられてしまった状況が浮かび上がる。

 

「嘘じゃろ…、ウェンディ!ウェンディ!!」

「シャー!!」

「はうあ!?」

 

 イッカクは轟音と威嚇とともにして、目の前に突如と現れたメガパイソンに腰を抜かしてしまう。口を開ければ体長5mを越すイッカクでも一口で飲み込んでしまうほどに巨大な蛇である。そして口からは血を流していた。

 

「まさか、ウェンディを?!」

 

 ウェンディを食べられてしまったと、我先に逃げ出したことを後悔するイッカクは、後悔と同時に、メガパイソンに明確な敵意を表した。

 

「ウェンディの仇!!!二千枚瓦正拳!!!」

 

 大技を繰り出すと、衝撃波を察知して回避行動に出たメガパイソンだが、音より早い衝撃を避けきる前に受けて後方に吹き飛ぶ。吹き飛んで体勢を整えようとするメガパイソンに連撃を繰り出そうと、イッカクはメガパイソンをめがけて突っ込む。

 

「二千枚瓦掌底!!!」

 

 イッカクの掌底で吹き飛ぶメガパイそだが、空中でバランスをとり、木を伝って素早くイッカクの背後に回りこむ。

 

「早すぎじゃろ!?」

 

 イッカクはメガパイソンのことは噂と本の資料で事前知識を持っていたが、素早く動けることと猛毒、体長は10mを越すものとしか認識していない。時速100キロの速度と体長20mは想定外であった。

 

「打水!」

 

 打水を背後にいるメガパイソンに投げつけるが、メガパイソンはイッカクの動作を予測して打水を回避する。そして器用に回避と同時に尻尾で攻撃を放ち、イッカクを弾き飛ばした。

 

「ぐえっ、…これまでか」

 

 メガパイソンは二本の牙からイッカクに向けて毒液を放ち、それを地面に叩きつけられたイッカクは衝撃を受けた直後で動けず、毒液を避けることはできない。しかし、毒液は軌道が上にずれてイッカクを外し、イッカクの背後の樹にかかる。

 

「腰抜け、腑抜け、ど阿呆、木偶の坊、言いたいことは他にもあるが、お前の二つ名は何がいい?チキンか?うん?何か言ってみ!!」

「ウェンディ!生きておったのか!?」

「勝手に殺すな、タコ」

「わしはクジラじゃ」

 

 倒れているイッカクの前にウェンディが降り立つ。またしても仕留め損なったメガパイソンはウェンディを睨みつけ、襲いかかる気を伺う。ウェンディは圧縮した空気を手に持ちながらメガパイソンに特攻を仕掛ける。メガパイソンは空中での回避行動を一回自ら減らした特攻を好機と見て、ウェンディに直接噛み付いた。

 

「空間固定、解除(リリース)!」

 

 ウェンディがメガパイソンに向かって投げつけた空気の玉は、中に閉じ込められていた分子の運動が再開。密集した空気の分子は瞬時に広がる。

 爆発が起きた。

 口内で爆発したため、メガパイソンは大きく吹き飛んだ。反動でウェンディと反対側の地面に後頭部をぶつける。

 

「よし、ざまあみやがれ」

「これ、ウェンディ!口調が崩れておる」

「うるさいわ!腑抜けに言われる筋合いはない!」

「うっ…」

 

 ウェンディの攻撃を受けたメガパイソンは巨大な牙を二本とも折られて吹き飛んだが、それでも闘志は尽きない。ウェンディを睨み上がるよう首を持ち上げる。

 

「まだ立つか…、ならこれでとどめだ!」

 

 レイピアを抜いたウェンディがメガパイソンの脳天にレイピアを突き刺すべく、舞う。メガパイソンは大ダメージで判断が鈍くなっていた。もしかしたら目も見えないかもしれない。ウェンディはとったと確信していた。

 しかし、

 ウェンディの剣は止められた。

 

「下がれ、ヴァイプ!」

 

 ウェンディの剣を止めたのは一匹のヒトの言葉を話せる狼であった。前足でウェンディのレイピアを押さえつけている。

 

「何者じゃ?というか、しゃべったのか!?」

「名もなき狼だ」

 

 イッカクは言葉を話す狼を見て驚愕、ウェンディはイッカクとは対照的に静かに今の状況を観察した。そして狼への警戒心を跳ね上げる。狼の後ろでメガパイソンが縄張りに戻ったとしても、目の前の狼がメガパイソンを命令で動かしたことにウェンディは警戒を緩めない。この状況から見ても、メガパイソンよりも目の前の2mほどの狼の方が強いと示されている。ウェンディは疲労を蓄積していて、イッカクでは相手にならない可能性がある。ウェンディは回復も兼ね、探りを入れるために狼に話しかけた。

 

「ねえ」

「…」

「何であの蛇は私たちを攻撃してきたの?」

「…」

「答える必要はないってわけ?」

「…」

 

 ウェンディの質問に狼は沈黙で答える。ウェンディの交渉は決裂した。

 

「去れ!」

 

 狼から一言発せられると、ウェンディたちは大きな波動に飲まれるかのような殺気とはまた別の何かを感じ取る。

 イッカクが気絶した。

 

「イッカク!?」

「気絶しないか………貴様は覇気のことは知っているようだな」

「今度は見聞色ね」

 

 ウェンディにとって知識を考えることは危険につながる。もっともエピソード記憶がないため、知られてまずい記憶はないが、知られるとまずい単語はいくつも持っている。ウェンディはなるべく戦闘に集中するように心がけ、腰を低くし、突撃する構えをとる。ウェンディの強攻姿勢に狼も戦闘態勢に入る。ウェンディの闘争心に火がついた。

 

「敵に背後は見せられないな」

「ならば立ち去るチャンスはもう与えん。行くぞ」

 

 淡々とした口調で狼が攻め込んでくる。咄嗟にレイピアを抜き放ち、狼にカウンターで突き刺すが、狼は武装色の覇気でそれを防ぐ。

 

「浮遊(フライ)!」

 

 近距離から上向きの力を使い、狼を宙に浮かせて身動きを取らせないようにする。

 

「幻爪(げんそう)」

 

 狼が前足を空中で薙ぎ払い繰り出した技を、ウェンディの視界は攻撃として見てとれなかったが、ウェンディの空間内の運動量視野ではっきりと捉えていた。空中に爪の斬撃が浮かび、それがウェンディを切り裂いた。避けることはできなかった。

 ウェンディは衝撃と痛みから狼を捉えていた浮遊を解除される。地に足のついた狼は瞬時にウェンディへと飛びかかった。ウェンディは地面にある枝を足で振り上げる。それを狼が前足でかがむウェンディへと叩きつけるが、ウェンディは後方に飛び避ける。

 

「なかなかやるな」

「っ!?」

 

 声がかかったのは後方に避けた先からだった。バックで飛んでいるため、背後からの声である。メガパイソンといい、狼といい。ウェンディたちは速度で圧倒的に負けている。

 

「浮遊(フライ!)」

 

 今度は自身に浮遊をかけて、向かい打とうとしていた狼の攻撃は空を切る。

 

「変わった力だ」

「悪魔の実だよ」

「悪魔の実?」

「知らないのか?」

「ああ」

「なら教えてあげるかわりにくたばれ!」

「交渉する気があるのか?まったく…」

 

 狼は見聞色の覇気でウェンディの行動を見切る。 武装色の覇気を纏った前足で飛んでくるウェンディを迎え撃つが、ウェンディは浮遊で上空に回避する。

 

「幻爪(げんそう)」

「その技はもう効かない」

「そうでもない」

 

 上に回避したウェンディを幻の爪による斬撃が襲うが、ウェンディはそれを見越して回避する。寸前で無傷に避けたウェンディの体勢は悪く、すぐに動けるような状態ではない。

 

「夢幻撃」

 

 空にもう一匹の狼が動き始める。ウェンディは空間把握でそれを知ることができたが、並大抵の人では対処すらできないだろう。空中で無理やり体勢を整えたウェンディは真下と真上から飛び込んでくる二匹の攻撃を避ける。しかし、実態を持つ狼の方が空中の足場になり、幻影の狼がウェンディに飛び込んでくる。生きていないものに対してウェンディはほぼ無双できる力を持つ。

 

「空間固定(ゼロ・ワールド)!」

 

 幻影は動きを止めて空中で静止した。

 

「何をした?」

「答えるとでも?」

「面白い」

 

 狼は覇気を本格的に纏い、ウェンディに特攻をする。ただ愚直にまっすぐに、その速度は警戒して距離を置いているウェンディのガードが間に合わないほどに早かった。肩口を噛み付かれたウェンディはカウンターで狼の腹にレイピアを突き刺すも、覇気を纏っている毛皮を突き破ることはできない。

 

「降参しろ」

「なめるなよ。私は海賊王になる人間だ!」

「残念だ」

 

 噛みちぎった

 狼は確かに手応えがあった。

 しかし噛みちぎったのは太い木の枝であり、ウェンディの手ではなかった。

 

「はあ、はあ、はあ」

「何をした?」

 

 木を口から吐き出して、樹木の枝の上で荒々しく呼吸するウェンディに狼が問いかける。

 

「ソラソラの実の能力。第三の能力で、多次元へ干渉する力を動かしただけだ」

「…」

「わかりやすく言おうか、枝の位置と私の位置を入れ替えたんだよ」

「瞬間移動か!」

「そういうこと!!」

 

 今度は破片となった枝とウェンディは自分の位置を入れ替える。3次元を超えた次元干渉をするには膨大な集中力がいる。2回。たった2回で気を失う。ウェンディは察していた。これが最後の一撃だということを、最後までウェンディは足掻いた。動かない思考で、レイピアを握りしめ、幾度と繰り返してきた技を繰り出した。

 

「牙突!」




覇気登場
ウェンディ覚醒
技名はパクリばかり


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孤独

土日くらいしか更新できないのに風邪ひいてしまう。
なんとか更新。
ゆえに拙いです。
あっ
いつものことか


 静かな心地よい森林の中で、そよ風が頬を撫でる。ゴツゴツとした地面に横たわっていたため、体を起こしたときにその痛みが襲う。ウェンディは上体を起こして周囲を見回す。

 

「起きたか?」

 

 不意に背後からかけられた言葉に少し驚くが、ウェンディはゆっくりと背後を見る。そこには倒れ伏している狼の姿があった。

 

「…」

「ふん、どっちが勝ったかわかっていないな」

「うん」

「お前の勝ちじゃないか。俺は立てそうにない」

 

 狼は左半身に一筋の切り傷がある。そして狼の足元には大きな血だまりがあった。

 

「そうだね。あまり勝った心地がしない」

「お前は気絶していたからな。俺はずっと起きていたが、回復に努めることしかできない。体がずいぶんと重たい」

 

 狼は皮肉気味に話し、持ち上げていた頭を地に下ろす。地に顎をつけた状態でも会話はできるようだ。

 

「もう死に体も同然。煮るなり焼くなり好きにしろ」

「そう…」

 

 ウェンディは狼から視線を外してイッカクを探す。すぐ近くに気絶したイッカクが横たわっていた。図体が大きい分見つけやすいというもの。ウェンディはイッカクの無事を確認すると、立ち上がり狼に近ずく。そして無言で眺めると、すぐに出血している場所に手を当てる。

 

「空間固定(ゼロ・ワールド)…ダメか」

「何をしている?」

 

 出血を止めようとするが、生物の構成する血液という要素もまた能力の範囲外であり、ウェンディが狼の出血を止めることはできない。ウェンディは狼を後にしてイッカクを起こす。

 

「ここは…ウェンディ!生きておるか!」

「勝手に殺すな。タコ」

「クジラじゃ」

 

 イッカクは飛び起きてウェンディの無事を確認し、メガパイソンのヴァイプがいないか周囲を見渡して狼を視界に入れる。

 

「あれは…」

「イッカク、あいつを治療してくれ」

「ん?どういうことじゃ?」

「つべこべ言わず治療しろ!船長命令だ!」

「あいよ」

 

 イッカクは状況が読み込めていないが、ウェンディの頼みとあれば断ることはない。イッカクは狼の傷の状態を確認し、持っていた薬草や治療道具を使って応急処置をするが、出血量が多く、しばらくは安静にしていなければならないとのこと。

 

「腹減った。飯でも取ってくるか」

 

 ウェンディの何気ない一言で狼が気力を振り絞って立ち上がる。全身の血は足りずとも気力だけで立っていた。

 

「やめろ」

「何がお前を奮い立たせる」

「勝負は…俺の…負けだ。だが、………この島の…奴らに手を出すのは…許せない…」

「…話を聞こうか」

 

 ウェンディは狼の前であぐらをかいて座る。座り方にイッカクが注意をしようとするも、ウェンディの睨みで何も言えなくなってしまう。

 

「何が言いたいか私にはわからないな。何故お前は私に負けた。再び対峙する理由がこの島のものに手を出すなと………仲間がいるということか?私は狼を襲うつもりではないぞ」

「野うさぎだろうと許さん…、ねずみだろうと…」

「…まるで親の仇のようだな。野うさぎなどお前の獲物のようなものだろう」

「俺は!!…がふっ…がふっ…俺は、奴らを飯だと思ったこともない…そして食べることもしない…」

 

 狼はこの島で木の実や果物、魚類以外を食にしたことがないという。肉食動物であるにも拘らず陸上の動物を食することがほとんどない。あっても昆虫とのこと。ウェンディは話すことができる狼が隣人を攻撃できない理由を知り、なるべく身の引き締まった魚類を取ってくる。海獣といわれる生物だ。おそらく狼と対話はすることができる海獣だが、気絶され、焼かれてしまえば何も言えない。狼の知る獣でなければウェンディはあっさりと食物にする。弱肉強食の世界を獣よりも人間が正しく認知している絵になっていた。

 

「ほれ、食べな」

「…かたじけない」

 

 狼はウェンディが取ってきた海獣の肉を喰らう。狼が食し、寝るのは日が陰った後である。ウェンディは島の中では、いくら狼がいようとも他の獣や蛇などに襲われる可能性があるので一旦、自陣の船に帰還していた。

 

「あの狼をどう思う?」

「あれはなかなかに不器用な奴じゃな。わしはウェンディの意見に従うとしよう」

「今日はやけに殊勝じゃないか」

「…言い訳もできんわい」

「あいつの話はいいとして、…ソラソラの実の第3の能力に到達できたんだが、どうにも上手く使いこなせん。あいつとやりあった時は我武者羅ながらできたんだが…」

 

 ソラソラの実の能力。

 ソラソラの実が与えるのは力。それは対象を限定し、それにかかる力を操作するもの。第1の能力が対象に重力の反対、上向きの力を与えるもの。第2の能力が生物以外の対象にかかる力を保存する。解放されると再び動き出す。そして第3の能力が、素粒子まで対象として次元を歪めるほどの力を扱うということ。第1の能力の数十倍難しいのが第2の能力であり、第2の能力の数百倍難しいのが第3の能力である。

 そして第3の能力を使いこなすのは一生かかっても不可能といわれるほどの難易度を誇る。

 ウェンディが第2の能力を使いこなせてはいるが、第3の能力に至るには何もかもが足りない。ただ、足りていたのは本人の素質と、物理法則の知識と覚悟であった。それをウェンディが知る術はなかった。

 

「わしに聞かれてものう。第一にソラソラの実の能力を使うたこともないしのう」

「そうだな」

「それほど第3の能力は難しいんじゃろか?」

「針に糸を通すという甘いものじゃない。高い山から小石を投げて麓の湖の底にある小さな枠に入れる感覚のように難しいものだ」

「そんなの時の運じゃろ」

 

 いくら考えたところでウェンディは使いこなせることができない。ウェンディは能力のことに思考を割くのをやめて、寝ることにした。

 

 

 

 翌日。

 ウェンディとイッカクは再び島に上陸した。そして、狼を寝かせつけた場所に戻ると、そこには狼が立っていた。傷は完治していないものの、十分に歩けるくらいには回復している。

 

「もう大丈夫か?」

「ある程度はな」

「お前に話があってきた」

「そうか」

 

 ウェンディは切り株に腰掛けると狼は距離を少し詰めたところで腰を落とす。

 

「話とはなんだ?」

「お前はこの島にずっといるのか?」

「…俺をどうしたいんだ?」

「仲間にしたい」

「第一に俺はお前らが何者で、何をしているのか、さっぱりとわからないんだが?」

「海賊をしている。まあ、外道だな」

「ふん、何かと思えば外道か、俺は外道にも劣る存在だったか」

「そうだな」

 

 狼の皮肉にウェンディが肯定すると、狼はイラついたのか、犬馬をむき出しにしてウェンディを威嚇する。

 

「俺はお前の仲間になることはない!自ら外道になるなど愚の骨頂だろう!」

「じゃあ、いつまでこの生活を続ける気だ?」

「海賊とやらになるのと、この島に永住するのと、どちらかを選べと言われれば俺はこの島に残る」

「また知り合いが、知り合いに食われたとしてもか?」

 

 狼は激しく動揺した。ウェンディへの威嚇をやめ、その目は揺れ動いていた。

 

「自然は弱肉強食。いくらお前が友と思っていても、食わなければ死ぬ。この島に居続ければお前が狂うのは時間の問題だ」

「そんなことはわかっている!!」

 

 ウェンディが諭したところで狼には響かない。

 

「わかってて、それでいて弱者を襲わないと?」

「ああ、俺は俺の正しいと思うことを成すだけだ。その己の先が崖であってもだ。俺も頭がおかしいと自覚している。それでも話せば分かり合えるのであれば!俺は!!」

「一人にならないで済む、か?」

「なっ!?」

 

 図星をつかれた狼は言葉を発することができなくなる。

 

「この島にお前と同じ種族は他にいない。私の悪魔の実の能力でそれはわかった。そしてお前が一人にならないで済むようにと採った方法も、そう行動した理由も私にはわかる。一人は辛い。辛いものだ。…話は戻るけどさ、確かに海賊とは外道だ。でも仲間はかけがえのない存在だ。イッカクは大人面して偉ぶるバカだけど、私は見捨てたちはしない」

「…」

「私は仲間は殺さない。外道の道だけど、例外はつきものだ。私は別段外道なことは行ってきたつもりはない」

 

 本人の目の前で財宝盗んだがな、と横槍を入れるイッカクはウェンディの睨みにひるむ。

 

「私はお前に仲間になってほしい。それでもこの島に残るというなら諦める」

「俺は…」

「もう一人じゃない」

 

 ウェンディの言葉に狼は俯けていた顔を上げた。

 

「そうだろ?」

「…いい、のか?」

「いいよ」

「俺の前で仲間に手を出したら許しはしないぞ!」

「私も許しはしない!」

「…」

「もう一度聞く。仲間になってくれるか?」

「ああ」

 

 そして3人目の仲間が加わった。

 

「ウェンディに…イッカクだな」

「うん」

「そうじゃ」

「今日から仲間に加わらせてもらう。俺は………俺には名はない」

「名前ないのか?」

「ああ」

「どうしたものかのう?」

「船長はウェンディだろ?なら、ウェンディに名前を考えてもらいたい」

 

 ウェンディは頭をひねる。ウェンディの中では狼といえば、名前の筆頭に浮かび上がるのは目の前の狼のイメージとは大きく違うものであった。第一に雄である。ウェンディは次に浮かんだ名前に近い名前にすることした。

 

「ルカだ」

「ルカ?」

「ああ、私の記憶にはルカという名の男は一騎当千の猛者というイメージが強い。実際にそのルカにあったことはないんだがな」

「そうか。ならルカと名乗ろう」

「いいのか?割とイメージだけで名前を決めたようなものだぞ?」

「名前にこだわることはない。個に識別を与えるだけのものだろう」

 

 ルカにはあまり名前にこだわることないという。イッカクも単純明瞭でも構わないというスタンスだ。ウェンディは自分から名前を提案しておきながら、あまり納得はいっていない。

 

「本人が良ければいいんじゃろ」

「そうだな」

「…ところで、ルカという名に一騎当千の猛者なんておったか?」

「気にするな。とある物語の話しだ」




うまく書けない。

ルカって名前はルカ・ブライトから取られています。
皆はルカといえば巡音ルカかな?

ようやく3人(匹)目

ちなみにウェンディの狼といえばで思い浮かんだ順番
モロ(もののけ姫)
リュカオン(ギリシャ神話)
フェンリル(北欧神話)


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二人の剣

 島の皆に別れを告げるため時間が欲しいとルカが言うため、ウェンディはそれならば、とルカにこの島で宝や金銀財宝、特異的な存在がないかを聞き出していた。ルカの話では島の北側にある山の中腹にある洞窟の中に刀があるという。

 

「宝の定番は辺境の地の奥底なのかな…」

 

 船からモロとの戦闘地域まで徒歩で2時間。モロとの戦闘地域から洞窟まで徒歩の数倍速い飛行で2時間も費やしていた。2時間も暇に飛んでいるとウェンディは独り言を発するようになる。

 

「これが洞窟かな?」

 

 島の北側にある山の中腹にある洞窟に到着した。

 

「本当に刀があるのかな?名刀以外お断りだよ。まったく…」

 

 洞窟の中は鍾乳洞になっていて狭い道をいく。寒いくらいの鍾乳洞で暗さで迷いながら足を進めていくとウェンディの視界に一本の光が見えた。薄い薄い光を発しているような存在がある。

 ルカの言う通り、刀があった。

 

「名刀…かな?」

 

 ウェンディは刀に触れ、その刀身を拝む。ウェンディはその刀の美しさにしばらく見惚れ、すぐに刀をしまい来た道を引き返す。空間把握にすぐれているウェンディは鍾乳洞の中の一本の刀は見切れなかったが、帰り道くらいは簡単に判別できていた。

 

「ふう、暖かい」

 

 太陽が西に傾いている。

 ウェンディは一息呼吸すると、眼前を睨みつけ、飛んだ。全力で飛んでもエネルギー切れするような距離ではない。ウェンディは地を蹴って高度数千メートルまで上昇し、ハンググライダーのような飛行角度で進んで行く。

 刀を持ち帰ったウェンディは挨拶回りを終えたルカと合流し、島を出発した。

 

「これがとってきた刀だな」

「ほお、美しい刀じゃのう」

 

 ウェンディは船首に立ち、舵をとるイッカクに話しかけていた。

 

「お前さんは刀でも突きに突出したレイピアの方が得意じゃろ?必要あるんか?」

「これからは剣技も習得しようかな」

「世界一の剣豪もついでに目指すんか?」

「あまり興味はないかな」

 

 ウェンディは剣をしまうと寝室に戻る。

 

「あの刀、恐ろしいほどの美しさじゃな」

 

 

 

 コノミ諸島に帰還した一行は、周辺海域への散策と海賊船をカモに資金を稼いでいた。その間、ルカに覇気を教わりながらウェンディとイッカクは修行に励んでいたが、二人が覇気に目覚めることはなかった。

 

「何故できぬ。察し、纏い、威圧するだけだろ」

「教師が悪いな」

 

 いわゆる天才的感覚で、生まれた頃からすべての覇気が使えたルカに教わるのは、なかなかに骨が折れる。ウェンディはもともと覇気がどういったものかわかっているが、今は持たない感覚を扱うことの難しさを痛感していた。ウェンディは頭を悩ませるのは好きではない。体を動かして感覚で鍛えられないか考えていた。そしてひとつの結論が生まれる。極限状態で覇気が使えるようになる可能性がある。それにかけるしかないが、もっとも平和な海、イーストブルーにウェンディと争える海兵や海賊は無に等しい。結論を出したウェンディは次の思考に気をとられる。

 今はルカがイッカクに教鞭を振るっている。

 

「まったくわからんぞ」

「このアホめ」

「何じゃと!?」

「やめんかみっともない!!」

「ふんっ」

「あいよ」

 

 イッカクとルカは言い争いを止める。ウェンディがココヤシ村から帰ってきたため、午後に差し掛かる前に出航だ。

 

「さあ、出航だ!」

 

 船は進み、コノミ諸島からどんどんと離れていく。舵はイッカクとルカに任せて、周囲を警戒するのはウェンディの役目になっていた。ウェンディは何かをしながらでも周囲を警戒できるため、レイピアの稽古に励んでいた。今の舵はイッカクなので、ルカはのんびりと丸まって寝ている。

 

「イッカク!」

「何じゃ?」

「1時の方角に船の影だ!」

 

 ウェンディの空間把握は以前よりも範囲が広がり、目視では到底見えない距離の船を感知した。ルカは飛び起き、船に備え付けられている双眼鏡で敵船を目視する。

 

「船が見えた。まだ、どんな船かわからない」

「それからそんお船の後ろにもう1隻あるぞ!」

「何!?」

 

 もう1隻がウェンディの警戒網に引っかかる。しばらくして見届けたのは海軍船2隻であった。ウェンディはそれを見過ごし、船に見つからないようにしばらく待機してから進路を進めた。

 

「次は商船だな」

「つっきれ」

 

 海軍とは無理に張り合わないが、商船ならビビらせておけばいい。ウェンディはそう考えていたため、商船の近くを通り過ぎる。ドクロを掲げた船が近くに行けば普通の商船であれば驚いて逃げる。しかし、その商船はカモフラージュであり、その実態は覆面海軍戦であった。

 意表をつけたと確信していた海兵たちはウェンディたちの乗る船に幅寄せするが、ウェンディの感覚は近ければ近いほど鮮明。商船に潜む人数が多すぎたために海軍戦かと疑っていた。海軍たちが白兵戦を仕掛ける前に、先手必勝、ウェンディは覆面海軍船のマストをレイピアで切り落とした。

 海兵立ちが慌てふためく隙に海軍船内にある刀や砲弾を回収し持ち去る。税金で買った装備を持ち去る別の意味で税金泥棒である。やはり外道である。

 

「いやあ、大漁大漁。海兵さんたち、じゃあね」

「何故こう育ったのじゃろうか」

「お前のせいだイッカク」

 

 返せクソガキー、と叫ぶ海兵たちを後にして、船は再び海を進む。

 ウェンディたちは進路を変え、海兵を突き放したが、先行していた2隻の海軍船が、ウェンディの襲った海軍船から連絡を受けたのか、ウェンディたちの進路は変更を余儀なくされた。一行は変更した進路から近い島に船を泊めることにした。その島にはひとつの村があり、その島では有名な道場がある。その村の名前は

シモツキ村。

 船内にイッカクとルカを残して、ひとりウェンディが上陸する。必需品の購入を手早く済ませて村を見回っていると、背後から子供が、子供を担いで走り抜けていった。背負う子供は珍しい髪色を持っていて、すぐにウェンディは誰だか気づいた。ゾロである。

 ロロノア・ゾロの幼少期の訓練光景を見て、走る方向に足を運ぶ。数分ののちに剣道場が見えてきた。こっそりと中を詮索すると、たった今走り抜けていったゾロがくいなに倒されたところであった。

 

「…さて、どうしたものか」

 

 くいなは仲間になれば、即戦力になる人材の候補である。あと3年ほどでコノミ諸島に侵略してくるアーロンに対処するため、ウェンディは何が何でもくいなを仲間に加えたかった。

 ゾロとの試合を終えたくいなはゾロに負けじと訓練を開始する。くいなが道場の裏で素振りを開始したところで、ウェンディは顔を出した。

 

「君強いね」

「…誰?」

「さっき、こっそりとだけど試合見せてもらったよ。あ、私はウェンディ。よろしく」

「…」

「名乗り損だよ」

「くいな」

 

 自分の名を淡々と告げるくいなはウェンディを睨みつけたままである。

 

「真剣、持ってる?」

 

 ウェンディはレイピアを抜いた。

 

「…やろうっていうの?」

「手合わせだよ」

「竹刀ならいくらでもあるわ」

「竹刀を振ったことはないよ」

「そう。死んでも知らないから」

 

 くいなはウェンディに背を向けて真剣を取りに、道場の倉庫に向かう。戻ってきたくいなは人目につかない場所に移動すると提案し、ウェンディはそれを承諾。先行するくいなの後をウェンディが付ける状態で数分。雑木林の広場のような場所に出た。

 

「ルールは?」

「まいったと言えば負け。確実に一本でも負け。死んだら負け。これでどう?」

「いいよ」

「お手柔らかに」

「手加減してあげようか」

 

 くいなは上から目線でウェンディを挑発する。ウェンディはどこ吹く風というようにレイピアを抜いて構えた。

 

「開始の合図は?」

「いつでもどうぞ」

 

 ウェンディの返答と同時にくいなはウェンディへと迫る。和同一文字を抜いてウェンディに縦切りをするも横に躱される。今度は横薙ぎをするが、ウェンディは体を引いてそれを避ける。くいなの剣はウェンディの予想よりも早かった。ウェンディは頰を切られてしまう。

 

「やるね」

「次は本当に斬るよ」

「やれるものなら」

「後悔しても遅いからね!!」

 

 ウェンディは再び飛び込んでくるくいなとの間合いを図る。くいなが切り込む一瞬でウェンディはレイピアで付き技を放つ。

 寸前のところでくいなは刀で切っ先をそらすことに成功するが、くいなの髪が少しばかり斬れ、宙を舞う。

 

「はあ!!」

「おっと」

 

 レイピアを弾いたくいなは弾いた刀を円状に軌道をとって、流れでウェンディに攻撃する。ウェンディは瞬時にレイピアを逆手に持ち直し、くいなの一閃を受け止める。

 

「はあ、はあ、やるじゃん!」

「どうも」

 

 ウェンディはくいなの呼吸を乱すタイミングで瞬時に踏み込む。またしても付き技だが、後方に移動しながら弾くことでくいなは避けることに成功する。ウェンディは瞬時にレイピアを引いて、再び突く。それをくいなは後ろに下がりながら躱して避ける。ついに木に背中をつけたくいなにウェンディのレイピアが迫るが、くいなはしゃがんで付き技を避け、斜め下から切り上げる形で刀を振るうが、ウェンディは木に刺さった剣の柄を片手に、逆立ちした状態で避けていた。

 地に足を付け、木からレイピアを引き抜くと、木は真っ二つになり、轟音を奏でて地面に横たわる。

 

「木を…なぎ倒した…」

「そろそろ本気で行くよ」

「なっ?!」

 

 ウェンディとくいなの距離は5m、それを一瞬で詰めてウェンディは一突き、くいなはなんとか避けることに成功する。状態を崩さないで避けるくいなは反撃に出る機会を探すが、ウェンディの剣筋をかいくぐる攻撃を放つ技量はない。

 

「こんの!!」

 

 くいなは押されている状態にしびれを切らし、ウェンディの剣を強く弾くと、そのままウェンディへと斬りかかる。剣を振り上げた時、くいなは気づいた。

 もうウェンディが剣を引いて、突く段階だった。

 

「迅陣剣!」

 

 くいなのすぐ横を剣技が突き抜けていく。木々をなぎ倒し、雑木林に不自然な傷跡を残した。木の破片が舞う中、くいなは刀を地に下ろした。

 

「…」

「私の勝ちでいい?」

「…」

「あらら、戦意喪失だよね?大丈夫?」

 

 くいなが元の状態に戻るまで、しばらくかかった。切り裂いた木々の近くの切り株に腰掛けた二人は顔合わせの状態になる。

 

「あれ、というか、これは何?」

「これ?」

「この惨状のこと」

「私の剣技だよ」

「だから、それが何かって聞いてるの!!」

 

 くいなは混乱が一周回って、キレていた。

 

「飛ぶ斬撃」

「意味がわからない」

「見たことないんだね」

 

 くいなはどうすれば斬撃を飛ばせるか懸命に聞いてきた。それにウェンディが答えるが、役に立つかは定かではない。

 

「ねえ、君も…世界一の剣豪を目指しているの?」

「いや、目指してないよ」

「え?どうして?そんなに強いのに?」

「私は海賊王を目指している」

「海賊王!?なんで!?なんで!?私よりも強いのに海賊王なんて!!」

「私の夢だから」

 

 ウェンディの表情はまっすぐで、言い切ったウェンディに気圧されるくいなは言葉を発せなくなっていた。

 

「世界一の大秘法ワンピースを見て見たい。グランドラインを旅してみたい。それってできるのは海賊王だけでしょ。目的が目標から作り上げられているから変だけど、結局のところ私は海賊王を目指している」

 

 くいなは俯く。ウェンディをまっすぐ見れなかった。

 

「くいなは世界一の剣豪を目指すのかな?」

「…わからない」

「まあ、この私に剣技を使わせるほど強いなら見込みはあるよ。第一に剣の才能は君の方が上だと思うよ」

「慰めはいらない。惨めになるだけ」

「剣を取りな」

 

 ウェンディは立ち上がり、くいなの真正面に立つ。くいなの頰に触れ、目尻に涙を浮かべるくいなの顔を上げた。

 

「立って」

「…」

「剣を構えて」

 

 立ち上がったくいなは和同一文字を構える。ウェンディはくいなの背後に回りこみ。くいなの手を導く。

 

「呼吸を整えて、そう。まっすぐ顔だけ前に向けて、目を閉じなさい」

 

 ウェンディの指示のもと、くいなは目を閉じて呼吸を整える。

 

「もっと静かに、呼吸が乱れている。まだ、そう、その状態を維持して」

 

 ウェンディが指示せずともくいなは目を開いて刀を振り抜いた。

 斬撃が空を駆ける。

 木にぶつかった斬撃は木をなぎ倒すまではいかなくても、木に切り傷をしっかりと残した。

 

「はあ、はあ」

 

 過度な集中が切れたため、息を荒げるくいなは地に手をつくほどに疲労した。

 

「できるでしょ?私が斬撃飛ばすのに一年かかったのに、一瞬でできちゃうなんて卑怯だよね」

「…」

「ねえ、私が君に近づいた理由わかる?まあ、海賊王の話をしたときからだいたいわかってたよね?仲間を探しているんだ」

「私に仲間になれと?」

「仲間になってくれないか?」

「…」

「まだ、迷っているならまた今度来るよ」

 

 ウェンディは雑木林を来た道を戻る。帰る途中、道場の門下生たちが騒ぎを聞きつけて林の中に入ってくる。その中にはゾロの姿もあった。ゾロが先頭を走り、轟音を奏でた場所から出てきたウェンディに近寄る。

 

「おい!お前!ここで何があった!?」

「くいななら無事だよ。見に行ってあげたら?」

「くいな!!」

 

 ゾロは駆け出し、その後を他の門下生が走ってついていく。ウェンディが道場の近くまで行くと、道場にはくいなの父、コウシロウが縁側に立っていた。

 両者の目が合うが、何もすることなく互いに視線をそらし、通り過ぎる。夕焼けが海に沈んでいく光景を見ながら、ウェンディは船に戻った。




本編入りたい
誤字多くてすみません。気が付いたら直していきます。
技名パクリあまりよくないし、厨二を患って自分で考えようかな。


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くいなの旅立ち

141231 訂正
名前の表記と伝わりづらかった部分を少し変更しました。ストーリーに影響はありません。
投稿前にチェックはしていますが、できるだけ早く訂正していきます。


 船内に月明かりが差し込んでいる時間帯、まだ日付の変わらない夜にウェンディは目を覚ます。寝巻きから着替えてウェンディが外に出ると、船のデッキから見える距離にくいなが来ていた。

 

「どうした?」

 

 船から飛び降りるとくいなが腰掛けていた状態から立ち上がる。

 

「眠れないのか?」

 

 うつむいて黙っているくいなを見てウェンディが切り出すと、くいなが首を振った。

 

「何かあったのか?」

「…何も?」

「話してくれないとわからないよ」

 

 くいなは何か悩みを抱えているような状態だった。くいなが少しずつ口を開くようにウェンディは話しかける。

 

「昨日、緑色の髪をした少年にあった」

「………ゾロのこと?」

「彼は君の道場の門下生の中でかなりの実力だと思うんだけど、まだ君よりは弱いけど」

「なんでゾロより私を誘ったの?」

「今は君の方が強い。だけど、将来どっちが強いかわからない。それでも私は君に仲間になって欲しいと直感的に感じた」

「ゾロは誘わないの?」

「同じ海賊船に夢を競い合う仲間が居てもね。それは仲間じゃなくてライバルだよ。敵船や海軍ならまだしも同じ海賊船で仲間同士の本気の決闘はNG。だから誘わないし、私は彼でなく君に船に乗ってもらいたいんだ。父親と何かあったのか?」

 

 ゾロの話は普通に受け答えしたところでウェンディは父親の話しにそらす。くいなが悩んでいることをポツリポツリと話しだす。

 

「お父さまと…言い争いになった」

「なるほど、何か言われたのか?」

「…女じゃ世界一の剣豪にはなれないって」

「普通の親ならそういうね。そう言われて、君はどうした?」

「それはないって思った。間違っているって!同じ女の子のウェンディだって海賊王を目指してる。私だって世界一の大剣豪になれるって!女でも世界一になれるはずだって!私は世界一の剣豪になるって!………怒鳴った」

 

 くいなは黙る。ウェンディはくいなが口を開くのをじっと待った。

 

「…その後、言っちゃいけないこと言った」

「そうか、…じゃあ、謝らないとな。行こうか」

「えっ?」

「ほらっ、行くぞ」

 

 ウェンディはくいなを引っ張ってくいなの家に向かう。

 

「どうしてウェンディも来るの!?」

「君は私を頼っただろう。それに答えるなら最後までだ。中途半端は嫌いだ」

「そ、そう」

 

 急に決まった方針にくいなは戸惑っている。しかし、非は自分にあるとわかっているくいなは何かきっかけが必要だった。それがゾロでは恥ずかしくてとても相談事を言えない。ある程度信用できる相談を恥と感じない相手はウェンディだった。ただいきなり強引にことを進めるウェンディに少しばかりくいなは戸惑っていた。

 

「誰か走って近づいてきてる」

「あ、ゾロ?」

 

 月光だけしか映らないが、満月の比較的明るい夜もあって、くいなはゾロを見つけることができた。

 

「何してんだ?」

「…ちょっとね」

「あ、お前!昼にいた奴だな。くいなと何してんだ?」

 

 ゾロはウェンディを見て、昼に会話した相手を思い出していた。ウェンディはゾロの質問に正直に答えようかとくいなを見ると、その目は制止を訴えていた。

 

「私の船の乗組員になって欲しくて交渉している」

「船の乗組員?なんで?」

「世界一の剣豪になってもらうため」

「な!?ずるいぞくいな!」

 

 とっさに出たでまかせで少しは話をそらしたウェンディだったが、余計なこともしたためにくいなに睨まれる。

 

「ゾロ、その人の話は半分だけ聞いといて、…それで何の用?ここにいるってことは私の家に用があるんでしょ?それとも私に用があるの?」

「…お前との2001戦目を申し込みに来た。お前との勝負はこれで最後にするつもりだ。決着をつける。俺と真剣で戦え!」

 

 ゾロは持ってきた真剣を前に突き出す。

 

「真剣は持ってるだろ?」

「私と…」

 

 くいなはウェンディを見る。ウェンディはうなづく。

 

「いいよ」

 

 くいなはゾロの申し出を受けた。

 

 

 

 満月の夜。真剣を持った二人が向かい合う。

 くいなは大業物、和同一文字をゾロは無銘の刀を二本持ち込んだ。

 風が吹くとゾロがくいなに向かって駆け出す。くいなは向かってくるゾロの剣を止め、避ける。二刀流の方が手数は多く、くいなは攻めきれない。しかし、二刀流の呼吸の合間に攻撃を仕掛ける力量は十分に持っている。くいなはゾロの太刀筋をかいくぐって、きわどい攻撃をしていく。真剣の戦いは負ければ死もある。二人の緊張感は研ぎ澄まされていく。

 

「おりゃあああ」

「やあああああ」

 

 月明かりを反射する刀剣が行き交う。くいなもゾロも一進一退の攻防が続いている。真剣という慣れない剣に戸惑いつつもしっかりとした剣捌きが互いを高めていく。普段の調子を取り戻しながら、徐々に剣を振るう速度が上がっていく。

 くいなが剣を振り下ろせば、ゾロは二つの剣で防ぎ、ゾロの二本の剣での攻撃を防ぎきれないくいなは二閃目を避ける。ここまでほぼ互角。しかし、徐々にだがゾロが押され始める。だが、ゾロは自分の不利な立場を認めない。必死にくいなに食らいついていく。生死もかかる緊張感から互いのスタミナは普段以上に削れていく。ゾロが押され始めてから十分ほど、肩で息をするゾロに対し、呼吸が乱れないくいなが圧倒的優勢だった。

 

「真剣二本は重いでしょ」

 

 一定の距離が開き、ゾロが踏み出せないほど疲弊しているのを見て、くいながゾロに話しかける。

 

「まだ、体力が、足りていないようね」

「うるさい!!」

 

 残りの体力を振り絞ってでも負けを認めないゾロが叫ぶ。くいなは一気に走り込み、気づいたゾロも対処をしようとするが、その手に力は入っておらず、くいなの切り上げでゾロは二本の剣ごと弾き飛ばされる。そのまま逆手に持った剣を倒れこんだゾロの首元に突き刺す。

 

「私の2001勝ね」

 

 くいなは剣を引き抜いて汗を振り払う。

 

「ちっくしょー、くっそー、悔しい!」

 

 くいなはゾロを見下ろす。

 

「ゾロ」

「ぅ、うっ、…」

 

 声をかけられたゾロは悔し涙を浮かべながらもくいなを見る。

 

「私もね。悔しかったことがあった。悩んだことがあった。女の子はね。大人になったら男の人より弱くなっちゃうんだ」

「えっ?」

「それで私もいつかゾロに追い抜かれるんじゃないかって不安だった。でもね、ウェンディが教えてくれた。女でも世界一は目指せるって、同じ女の子が同じくらい大きな夢持ってて、まっすぐその道に向かってる。なら、私も世界一の剣豪を目指せるはずって………ゾロ、私負けないよ。これからゾロもどんどん強くなる。でもね。私はこれからも負けてあげないから。私は世界一の大剣豪になるんだから!!」

 

 立ち上がっていたゾロに向かって、くいなが宣言する。

 

「俺だって世界一の大剣豪になるんだ!いつかくいなを倒して!世界一の大剣豪になるんだ!どっちが先に世界一になれるか競争だ」

「弱いくせに生意気よ、そうね。必ずどっちかが世界一の剣豪になる」

 

 ゾロは手を伸ばす。その手をくいなは掴んだ。

 

「「約束だ」」

 

 

 

 コウシロウに女であるから世界一になれないって言われて、言い争いになったという。コウシロウもコウシロウで実の娘から世界一の剣豪でもないくせにわかったようなこと言うな、と言われだいぶ落ち込んでいた。夜が明けるとくいなは和同一文字を持ってウェンディの前に現れた。

 

「眠れたか?」

「あまり」

「今生の別れというわけでもない。そう悲観するな」

 

 くいなは剣道の基礎はすべて習得している。大人の戦いでの駆け引きもある程度わかり、コウシロウも教えることは何もないというほどに強い。やり残したことはないということで、ウェンディの仲間に加わることにした。海賊になることに猛反対だと思われるシモツキ村のみんなには何も言わずに出ていくという。

 

「お父さまにはことの経緯を話したわ」

「家族には黙っていくわけにはいかないだろ」

「それから、私の許せないことをしたら、ウェンディでも斬るよ。あなたの海賊船に乗るのは夢への橋掛けだからね」

「もうそれは耳にタコができるほど聞いたよ」

 

 くいなとウェンディが泊めてある船に乗り込むと、ひとつの人影が船に近づいてきた。

 

「くいな、見送りがきたぞ」

「何よこの犬」

「人の話を聞け」

 

 ルカは犬じゃない狼だ、と一言つぶやいたことで話せる獣を前にくいなは混乱する。しかし、せっかくの見送りに来てくれた人を待たせるのは悪いと感じ、ウェンディが出迎える。

 

「ゾロくんだね」

「お前は、確かウェンディだったか?」

「そうだよ。…これからくいなは私たちの船に乗る。次会うときは敵同士かもしれない。お手柔らかに頼むね」

「俺が賞金稼ぎになってとっ捕まえてやる」

「ははは、私は捕まるくらいなら逃げるよ。別にワンピースを争うライバルでもあるまいし、まあ、くいなは受けて立つだろうね」

「どういうことだ?」

 

 ゾロは首をかしげたまま固まる。その表情を見てウェンディはほくそ笑む。そして一本の刀をゾロに渡す。

 

「あげる。餞別だよ」

「これは?」

「良業物の一工、白夜。うちに剣士はくいな以外いないし、くいなには大業物の和同一文字がある。まあ、なんだ。余った」

「いいのか?」

「いらないなら返してくれてもいいよ」

「いる」

 

 ゾロも一端の剣士、刀には目がない。白夜はウェンディが剣士が仲間になった時の餞別で渡そうと考えていた剣だったが、くいなは和同一文字という白夜以上の名刀を持ち込んだため、行き場をなくした白夜をゾロに渡すことにした。宝の持ち腐れが嫌いなウェンディらしい行動だった。

 

「ゾロ!?」

 

 正気を取り戻したくいなが甲板からゾロを見つける。

 

「くいな!元気でな!」

「…ゾロもね!」

 

 別れはそれだけだった。ライバルにかける言葉はいくつもあるけど、二人は昨夜けじめはつけたのだから、もう話すことはなかった。

 

「また会おう」

 

 ウェンディはゾロに背を向けて甲板に飛び乗る。

 

「出航だ!」

 

 4人目の仲間を加えた一行は海に出た。

 

 

 

「もう島影も見えないか」

 

 出航してしばらく、くいなは船尾で背後を眺めている。

 

「未練たらたらじゃないか」

「ちょっとね。寂しいかな」

 

 くいなは思うところがあるのか、ずっと海を眺めていた。くいなが復活するのに1日かかり、次の日はルカの指導のもと覇気の習得だったり、斬撃を飛ばす練習だったり、体力づくりだったりと大忙しな特訓期間が待っていた。

 くいなはその中でもウェンディの日々の特訓がゾロ以上の特訓量だったことに戦慄した。

 

「なんでそこまでやるの?」

「暇、だし」

「確かに、一面大海原だから暇だけど…」

 

 一万回のレイピアでの突き。数時間かけ、今しがたそれを終えたウェンディは一息つく。

 

「私はさ、剣の師匠いないんだよね」

「でも、太刀筋は悪くない」

「たくさん努力して少しずつわかったんだよ。どうすれば剣に重さを乗せられるか、どうすれば剣を早く振れるか、どうすれば斬撃を飛ばせるか」

「最後の発想は意味わからないけど」

「ほんの少しずつわかってきた。人に教わればすぐわかったかもしれないけど、遠回りだったからついでに自分を鍛えることもできた。その名残というか、続ければ強くなれるじゃん?幾多の海賊が死んだと言われるグランドラインに生半可な強さだと、二の舞だし、それは嫌だから強くならないとね」

「それなら私も強くならないとね」

 

 たった数日でくいなはウェンディの指導のもと斬撃を飛ばせるようになり、船のマストの上から飛び降りてもノーダメージ程度に身体能力が向上していったのが、ウェンディやイッカクと同様に覇気は習得できない。

 

「「「わからない」」」

「理解するより感じろ」

 

 天才肌のルカから覇気を習得するのは困難を極めていた。コノミ諸島に戻らず、周辺海域を詮索したり、島々を巡り巡っていた。

 コノミ諸島まで残り数十キロまで来たところだった。

 

「船だ」

「どこだ?」

「2時の方角、3隻」

 

 ルカが双眼鏡を使って敵船を見つける。海軍船が商船っぽい何かと言い争いになっている。そして海軍船から海軍船へと抗議もしている。

 

「何かトラブルがあったみたいだ。おそらくまだ見つかっていない」

 

 ルカがウェンディに報告する。しかし、ルカの耳にひとつの声が聞こえた。見聞色に優れたルカにはたくさんの人の声が聞こえていた。

 

「助けてと叫んでいる」

「見聞色?」

「ああ、それも一人二人じゃない。かなりの人数だ。数十人の声が助けてと叫んでいる」

 

 ウェンディはルカに向けていた視線を海軍船2隻と1隻の商船。トラブルを起こしているのは見て判断できたウェンディだが、それでも海兵と商人の間に起きたトラブルで数十人から助けを呼ぶ声が聞こえるとは思えない。

 

「ウェンディ?」

「海軍は私たちの敵だし、攻撃してもいいでしょ」

 

 船のマストをたたみ、パドル最大回転量で海軍船に突き進む。視界にはっきりと捉えられるようになったところで海軍船がウェンディたちの船に気づく。

 

「あーーー!!!この前の泥棒のガキだ!!!」

 

 船首に堂々と立っているウェンディを見つけた海兵の一人が叫ぶ。敵船を知らせる警鐘が鳴り響き、海軍船2隻は慌てて船の向きを調整し、砲弾を撃ち込んでくる。

 

「敵さんやる気だね」

「ちょっと、砲弾撃ってきてるよ!」

「まあ大丈夫じゃろ」

「声は商船の方から聞こえる」

 

 砲弾を打ってきてうろたえるのはくいなだけで、他のメンバーはいつもと変わらず冷静沈着に物事を進めていく。

 船に直撃しない砲弾は見過ごし、当たる弾はイッカクが打水で弾き、ルカが蹴り飛ばして、ウェンディが能力で空中に止める。

 

「くいな、落ち着いて、…そう、そして放て」

 

 次に飛んで来た砲弾にくいなは斬撃を飛ばして破壊する。

 

「できた!」

「その調子だ、船の守備はイッカクとくいなに任せる。ルカいくぞ」

「あいよ」

「わかった」

「ウェンディ、商船に敵は少ない。だが、海軍船の1隻には結構強そうな奴がいる」

「そうか気をつける」

 

 ウェンディは空を飛び、ルカは海軍船を足場に商船へ近づく。二人が商船へ立つのは同時。そしてその前には一人の海兵がいた。

 

「海軍がいても海賊が商船を襲うものなのか?お嬢さん」

「普通は襲わないね。普段であれば見過ごしたさ」

「なら今、どうして来た?」

「なぜだろうね?」

「質問に質問で返すのは礼儀がなっていないぞ」

「海賊に礼儀を求める海兵がいるとは驚きだ」

 

 商船の入り口に海兵が立っていては押し通るしかない。

 

「悪いけど、下にいる人たちに用があるんだ。邪魔しないでくれる?」

「…その者たちをどうする気だ?」

「うーん、…どうするかは会ってから決める」

 

 海兵は十二分に考えてから結論を出す。腰の刀に触れていた手を引っ込める。

 

「………ついてこい」

 

 海兵は商船に侵入し、その後をウェンディとルカが続く。

 

「ウェンディ、どうやら海軍も一枚岩じゃないようだ」

「だいたい察してる」

 

 立場の違いあれど、今は3人は同じ想いを持って商船を突き進んでいく。




5人目の仲間回収まで結構短縮しすぎてる気がする。


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海賊と海兵

 商船の中に侵入した二人の後を追うために、海軍の1隻がイッカクとくいなの乗る船への攻撃をやめ、商船に寄せて、商船に海兵が群がる。

 

「どうもおかしいのう。奴さんら慌てすぎじゃろ。そっち頼むぞい」

「任、せて!」

 

 自在に斬撃を飛ばせるようになったくいなはイッカク以上に砲弾を潰していく。そして砲弾はやんだ。

 

「もう撃ってこないの?」

「無駄と分かったんじゃろ。白兵戦でも仕掛けてくる頃合いじゃのう」

「そう」

「くいなよ、わしは海から戦うことにするが、船上は一人で大丈夫か?」

「…わからない」

「わしらの見立てじゃ、大人の男にも引けを取らんほどには鍛え上げられておる」

「まだこの船に乗って一週間よ。ウェンディほどの身体能力は持ってないわ」

 

 くいなはウェンディの運動神経の良さを思い出していた。

 

「アレはまあ、別格じゃ。敵の数は減らしておこう」

 

 イッカクは海に飛び込んで近づいてくる海軍船に向かって攻撃を放つ。

 

「海流一閃!」

 

 海中から放たれた手刀はウォーターカッターのようなジェット水流で海軍船を真っ二つに切り裂いた。

 

「うそ…海軍船が切れた!?」

 

 船上でことの成り行きを見ていたくいなはイッカクの攻撃に感嘆する。しかし、感嘆に浸っている時間はない。くいなは剣を構えて、飛来してくる人間からの攻撃を受け止めた。

 

「うぐっ!?」

 

 勢いを殺せず、弾ききれなかった衝撃がくいなの小さな体を吹き飛ばす。

 

「…ほお、女子(おなご)でさえも海賊を名乗るか。世も末だな」

 

 身長2m以上で、サングラスをかけ、リーゼントをした足の長い海兵が、ウェンディたちの船に立つ。

 

「あなた何者!?」

「人に名を聞くときはまず自分が名乗っからだ。俺は海軍少将、シドウだ」

「…あなたが先に名乗っているじゃない」

「相手が女子だから特別に先に名乗っただけだ!」

「自分の発言ミスくらい認めなよ」

 

 くいなは距離をとって間合いを図る。

 

「私は名乗った。女子も海賊の一端であるならば名乗ってみよ」

「私はくいな、世界一の剣豪になる者よ」

「ほお、世界一の剣豪か。ただの奇妙な海賊団かと思えば、ということは船長は海賊王が夢か?」

「ええ」

「昨今の海賊はもうほとんどがワンピースを目指さなくなったというのに珍しいこともあるものだ。なら、全力で潰すほかない」

 

 くいなは斬撃を飛ばし、牽制するが、上に避けたシドウが空中から滑降してくる形で攻撃してくる。

 

「月歩(げっぽう)!」

「空を跳ねた!?」

 

 くいなはウェンディの突き技に耐えて得た糧で、体が勝手に反応し、突撃型の蹴りを危険なく対処する。

 

「ほお、やるではないか女子」

「このままじゃ船が持たない…」

「いつまで持つかな!!」

 

 船上での戦闘が自分たちの船に少しずつダメージを負わせていく。攻めあぐねるくいなはなんとか打開策を考えるが、実力、技量、体格、あらゆる点で目の前の男に劣っていた。まだ子供だからと大人の男には勝てないんだと、くいなはあきらめるような気持ちをウェンディなら倒せると言い聞かせていた。

 

「はあ、はあ、はあ」

「だいぶ疲れてきたようだな。驚いたぞ。その歳でこの俺を止められるとはな。だが、これで終わりだ。ライトニング・蹴り!」

「ただの蹴りじゃない!!って、わあ!?」

 

 くいなは敵の不意打ちに油断し、対処が遅れて刀の上から吹き飛ばされて、その勢いのまま船の壁に大穴をあける。

 

「この俺は雷脚のシドウとも呼ばれる。稲妻のごとき速さで蹴り技を繰り出すのだ」

「痛っ、もう、ただの蹴り、か…」

「耐えるか、次で止めだ!」

「さっきが、止めじゃ、なかったの?」

「そんな過去は知らない!!」

「自分の言葉くらい、覚えてなさい、よ…」

 

 くいなは和同一文字を構えようとするが、まったく手に力が入らない。

 

「スタイリッシュ・蹴り」

「もう雷脚関係ないし…ここまでか…」

 

 くいなは攻撃に備えようにも片膝立ちのまま、立ち上がれないくいなはただ攻撃が来るのを待つだけだった。

 

「千枚瓦正拳!」

 

 しかし、シドウの攻撃はくいなに届くことはなく、イッカクの拳がシドウの蹴りに直撃し、互いに吹き飛んだ。

 

「すまん、遅くなった。海に落ちた海兵の処理に思った以上に時間食われたわい」

「ありがとう…、助かった…」

「くいな!?大丈夫か!?」

「少し休む…」

 

 くいなは倒れこんだ。それを目にしたイッカクは打水を構えてシドウに投げる。

 

「おいおい、怖いな海賊」

「わしの打水を止めるか…、くいなには手加減をしていたのか?」

「海賊とはいえ、10にも満たないような女子に本気で行くわけにもいかんだろ」

「貴様何者じゃ?魚人を見ても驚かんとわ」

「まったく、昨今の海賊は…人に名を尋ねるなら自分からだろう?そう、俺は海軍少将のシドウだ」

「自分が先に名乗っておるではないか」

「…敵に情けをくれてやっただけだ!!」

「わしはイッカク、イッカククジラの魚人じゃ」

 

 名乗ると同時に打水を投げつける。シドウは蹴りで飛来する打水の側面を蹴り飛ばして弾く。

 

「昨今の海賊はすぐこれか、もっと心に余裕をもったらどうだ?」

「その言葉、忘れるでないぞ。今に思い知らせてくれるわ」

 

 

 

 数刻前。

 一人の海兵の後を追う、ウェンディとルカはくいなと海兵の戦闘に入るのを理解した。

 

「まずいな…」

 

 階段を飛び降りながらウェンディがつぶやく。

 

「助太刀に行こうか?」

「いや、私が行く。ルカは海兵さんと目的の場所に向かってくれ」

「了解」

 

 着地と同時に反転したウェンディは来た道を素早く上に登っていく。商船に侵入してきた海兵が多数、ウェンディたちを追いかけているのを知っているウェンディはすぐに海兵の軍勢と衝突する。

 

「そこを通してもらう」

「子どもか!もしや脱走したのか?!」

「…脱走、ね。とりあえず、邪魔」

 

 ウェンディはレイピアを引き抜いて、一気に海兵の間を突き抜けた。海兵たちを次々に吹き飛ばす。その間、空間把握でくいなが押されていくのを視ていることしかできない。船上に出たウェンディの前に十数人の海兵たちが立ち向かう。

 

「脱走者か!?」

「私は海賊だ!そこを通してもらう!」

「海賊だと!?シドウ少将にやられたんじゃないのか?」

 

 くいなと戦闘しているシドウの海兵たちが商船に切り込んできていた。つまり、ウェンディたちと進んでいた海兵の船はイッカクに真っ二つにされている。

 

「致し方ない、か…できればこっちの海軍船を破壊すべきだったな」

「観念したか、小娘!さあ、武器を捨てろ!」

「だから、邪魔するなって!言ってるでしょ!!!」

 

 ウェンディは次々に海兵たちを蹂躙する。吹き飛ばされている海兵は涙を浮かべて、今初めて邪魔と言われましたと吹き飛ばされながらも心の中でつぶやいていた。海兵全員を海に落としたウェンディは自分たちの船に向かって飛翔する。そこで、くいなが蹴りを打ち込まれそうになるも、シドウの蹴りをイッカクが防いだ。

 

「…杞憂だったか」

 

 空中で静止したウェンディは少し考える。

 

「…脱走者ね。ということはこの商船はそういう商船で、海兵も一枚岩じゃない。あの海兵さんがこっち側なら、あのシドウってのが商船側。なら商船壊しても、捕らえられた人たち回収すれば問題ないね」

 

 ウェンディはレイピアを構えて真下の商船に向かって、まっすぐにレイピアを突き下ろした。

 

 

 

「まだ下にいる。結構な人数だな」

 

 海兵とルカが商船を下に下にと進んでいく。

 

「この商船は…奴隷を運んでいる」

「奴隷か、やはりな…同じ人間という種族で、本当に嘆かわしい」

「そうだな、海賊に言われるとは…狼だけど」

「狼の何が悪い」

「いや、そういう意味で言ったのではなくてね」

 

 海兵は常人の身体能力で進む。この先に敵はいないことがわかっているルカは海兵の速度に合わせて進んでいる。

 

「君のところの船長はあの少女か?」

「ああ」

「海兵として数多くの海賊を見てきたが、君らは海賊とは呼べそうにないな」

「知らんし、どうでもいい、他の海賊なんて」

「そうか、訂正しよう。やっぱり君らは海賊だ」

「ふん」

 

 海兵とルカは船首から進み始めて1分ほどが経過した。

 

「海兵として何故このような暴挙に出た?」

「捕まってるんだ。姪が」

「…」

「姉の忘れ形見のあの子が売られるところを黙って見ているわけにもいかない。立場とかはもう捨てる。たとえ賞金首になったとしても絶対に助けるんだ。船を動かすために、支部の連中は騙して付れてきた」

 

 目の前に最後の扉がある。

 

「鍵がかかっているな」

「どけ、壊す」

 

 ルカが扉を蹴り飛ばすと船内に警報が鳴り響く。

 

「時間は少なそうだ」

「ああ」

 

 中に入ると牢屋が数多く存在し、多くの女性が捕まっていた。中には幼子や男の大人もいるが大多数は大人の女性である。

 

「カーンおじ様!」

「ノワール!無事だったか!今助けるぞ!」

 

 海兵は褐色肌の少女のいる牢屋を拳銃を放って鍵を壊す。その間にルカは他の牢屋に捕らえられていた人々を救出する。

 

「みんな落ち着いて俺の指示に従ってくれ!君たちを護衛しながら上に向かう!むやみやたらに走って離れるな。助けられるものも助けられなくなる」

 

 奴隷として捕らえられた者たちはカーンの言葉に従い、ノワールもまたカーンに抱きかかえられながらうなづく。

 

「だが、急げ、警報がなっている状態だと警備がきつくなるはずだ」

 

 全員が牢屋から脱出し、入ってきた扉をくぐると、目の前に3つの影があった。左に立つのはフレイルを持って体を薄手のアーマーを着込む巨体な男。右に立っているのは背中に長い剣を二本×印に背負う巨体な男。そして真ん中には葉巻をくわえながらルカたちに拳銃を向けている初老の男だった。

 

「誰だ?」

「うん?おおお、狼が話すとは珍しい。本当に珍しいぞ。幻聴ではないよな。この狼、売ればいくらになるだろうか」

「あいつは…奴隷商クロム」

「あー、海兵さん、あんたたちはこの船の護衛だろ?困るよ。商品を持っていかれちゃ。だから、死ね!」

 

 ルカはカーンを蹴り飛ばし、クロムからの銃弾から助ける。

 

「おいおい、新商品くん、邪魔しないでくれよ」

「ゲスが!今すぐに喉元噛み切ってやる!」

「怖い。怖い。躾のなっていない犬だな。ご主人様に向かってなんて態度だ。これは傑作、狼ではなく犬か、おい、ジェムス!チャルス!出番だ!」

 

 呼ばれた2名の巨漢な男がクロムの背後から現れる。

 

「狼が相手ですかい」

「うおおおお!!この俺が叩き潰してくれる!!」

「あれは新商品だ。チャルス、叩き潰したら減給だぞ。捕らえろ」

「うおおおお!!そいつは困った!!では、軽く叩き潰すとしよう!!」

「心配すんな、クロムの旦那。チャルスに潰される前にわいが捕まえてしんぜよう。ひっひっひっひっひ!」

 

 二人の巨漢な男たちがルカに飛びかかる。チャルスの巨大なフレイルがルカが避けたことで床に穴を開ける。

 

「馬鹿野郎!ここは船の最下部だ。床に穴開けんじゃねえ!沈んだらどうしてくれる!」

 

 クロムがチャルスを咎める。

 

「海兵、人質を連れて行け!上にはうちの船長がいるはずだ」

「お前は?!」

「心配するな。雑魚の料理に時間はいらん」




名前を考えるのが面倒。


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油断大敵

 ウェンディたちの船の上。

 イッカクが海軍少将シドウとの戦闘が激化していた。肉弾戦の戦いで、イッカクは素手を、シドウは脚を武器とする。

 

「やるな魚人!」

「そっちもじゃ人間!」

 

 シドウが飛び蹴りを放てば、イッカクは千枚瓦正拳で対処する。まったくの互角にイッカクはくいなをかばう対処をすることができない。シドウがくいなを狙うような狡い海兵ではなかったため互角の戦いをすることができていた。

 

「月歩!」

「空に逃げても無駄じゃ。打水!」

「それはもう見切っている!」

「なら、連続じゃ!!」

「効かん!!」

 

 空を飛ぶシドウにイッカクが打水を連打するが、シドウは右足を連続で動かして打水を真正面から弾いていく。

 

「こちらがいくぞ!雷脚(スパークシュート)!」

「千枚瓦正拳!」

 

 シドウの蹴りをなんとか弾きかえすが、イッカクは腕が痺れていた。

 

「なるほど、雷脚とはそういうことかいな」

「ふっ、私の蹴りは聞くだろう」

「まだまだ効かんわ」

 

 イッカクは腕を振るいシドウの蹴りを耐えていく。しかし、次第にシドウの攻撃を裁く腕の速度が落ちてくる。シドウの蹴りは一発一発がひたすらに重かった。弾く腕への負担は想像以上の浪費である。

 

「はあ、はあ、はあ」

「思い知らせてくれるんじゃなかったのか?」

「お前さんに余裕などくれてやるものか」

「御託を!これで止めだ!轟雷脚(サンダーショット)!」

「二千枚瓦正拳!!」

 

 イッカクはまだ痺れていなかった右腕から本気を出して、シドウの蹴りに打ち込んだ。直後、二人は吹き飛び、互いに船にぶつかる。

 

「……げほっ、うっ、まさか、まだ本気じゃなかったというのか」

「それはお互い様じゃろうて、いてて、わしの本気をお見舞いしてなお起き上がるとのう」

 

 シドウも今の一撃が効いたのか起き上がれはしてもまったく動けない。イッカクは膝に手を当て、よいしょ、と言いながら起き上がる。

 

「どうやら、今の一撃はわしに軍配じゃな」

「くくく、海賊、やるじゃねえか」

「当然じゃ、わしはこの船のナンバー3じゃぞ?」

「お前以上が二人もいるとは、な」

 

 シドウは前に倒れそうになるのをこらえて立つ。

 

「お前は海賊、こっちは海兵。俺は海の秩序を守るのが使命だ」

「秩序か」

「…思うところあれど、大義を犠牲にはできん!はああああ!!!」

 

 シドウは自分に気合を入れ、また一歩を踏み込んだ。

 

「これが俺の最高の一撃だ!!!」

「受けて立つぞ!海兵!」

 

 シドウの蹴りとイッカクの左腕が交差した。

 

 

 

 商船内最下部。

 ルカは総勢20名の奴隷候補の前に立ちはだかり、チャルスからの攻撃を防いでいた。

 

「はっ!これでぶっ潰れたか!?」

「効かないな」

「なら、この剣はどうだ?」

「武装色・硬化」

 

 毛を鉄壁に変化させて剣を防ぐ。

 

「何!?」

 

 剣が弾かれたジェムスが困惑する。

 

「何やってる!?早く捕まえろ!!」

「うおおおお!今すぐやるぜ!今やるぜ!」

「もう遅れとりません。すぐ終わらせてみせますクロムの旦那!」

 

 チャルスがフレイルを振るい、ジェムスが剣を振ったところで、ルカは瞬時に躱し、チャルスの腹に前蹴りを入れる。

 

「重二脚前蹴り(グラビティ・ドロップ)!」

 

 覇気をまとった一撃でチャルスは吹き飛び、壁3枚を貫いて沈黙した。

 

「な、チャルス!?」

「相棒ぉ!!」

「隙だらけだ。幻爪」

 

 前足の爪でジェムスを切ると、左上から右下に切り裂いた傷に加えて、後から右上から左下に傷が増える。その衝撃で吹き飛んだジェムスもまた気を失う。

 

「ジェムス!何やってるんだ!?起きろ、ジェムス!!」

「弱すぎて話にならん」

「つええ…」

 

 ルカは圧倒的な力で瞬時にねじ伏せた。そして、ゆっくりとクロムに向かって足を進める。

 

「あまり大それたことを言うなよ人間」

 

 ルカは覇王色の覇気をクロムに浴びせようとすると、船が轟音とともに大きく揺れた。

 

「なんだ!?」

「ひっ!?」

「船長か」

 

 ルカの後ろに控えていたカーンが驚きの声を上げ、クロムが恐怖に怯えると同時に、クロムの上の天井が崩れて少女とともに落ちてきた。

 

「ぐえ!」

「よし!船底までは貫いてないな。…うん?ルカに海兵のおっちゃんじゃないか、どうした?」

「…なんでもない」

「おう、やるじゃないか嬢ちゃん」

「捕まってた人たちはそれで全員?」

「ああ」

「なら急ごっか。イッカクが結構減らしたとわいえ、結構残ってるよ」

「了解」

 

 ウェンディが先行し、その後ろをカーンが走り、ルカが集団の最後を走る。

 

『こちら、海軍。今忙しいので用件を早急に』

「……奴らを」

 

 ウェンディたちがいなくなった船の最下部で掠れた声が響く。ウェンディが船の上空から最下部までノンストップで落ちてきた重みで、息も絶え絶えになっているクロムの声だった。

 

『もう少し大きな声でお願いします』

「奴隷ごと、殺せ。世間に、ごほっごほっ、このことが知れたら、はあぁ、げほっ、げほっ、……まずいのはお互い様、だろう?」

『………了解しました』

 

 ウェンディたちは船内を駆け上がる。ウェンディたちが人質を救出して船内から脱出しようと階段を上っていると、海兵が次々と現れる。

 

「カーン軍曹!?」

「邪魔だ!」

「おっちゃん軍曹だったんだ」

「ああ、その肩書きはたった今捨てたがな!」

 

 ウェンディとカーンが先行しているため海兵を次々となぎ倒して階段を駆け上がる。

 

「くそっ!!」

「寝てろ」

 

 カーンが気絶させ損ねた海兵が人質に手を伸ばして捕まえようとするが、ルカがそれを防ぐ。

 さほど時間がかからずに、人質を連れた集団がついに船を出た。

 

「ウェンディ!引き返せ!外は包囲されてる!」

 

 後ろにいたルカが叫ぶ。クロムの会話を聞き、船上に出ると包囲されているのを見聞色で把握し、叫ぶルカだが、早く姪を救いたい一心で目の前にある扉に船内から外に出られるとカーンは安堵した。そして愚かにも船上に飛び出してしまう。そこには船内からの扉に向けて30もの海兵が銃を構えているとも知らずに。

 

「引き返せ!カーン!」

「裏切り者と海賊だ!!撃てえ!!」

「空間停止(ゼロ・ルーム)!!」

 

 咄嗟にカーンにウェンディが叫ぶも、カーンは外に出てしまう。放たれた銃弾をウェンディが止めるも、止められる銃弾は真正面からのみであり、右側から来る銃弾をウェンディはレイピアでなぎ払うのが精一杯だった。左側からの攻撃からカーンを防ぐまで手が回らない。ルカは最後尾で間に合わない。

 

「ぐふっ」

 

 カーンは海兵に撃たれ、倒れた。

 

「おっちゃん!?」

「カーンおじ様!?」

 

 すぐ背後にいたノワールが船内から顔を出す。

 

「人質も抹殺対象だ。撃てえ!!」

 

 裏切り者のカーンはともかくとして、海兵は人質のノワールが現れようとも、撃ち抜かれることを厭わず、それを良しとし、銃弾を構える。ウェンディはノワールを飛翔させ、雨のように降り注ぐ銃弾の中、一人突き進んだ。

 

「くたばれ偽善者どもが!!!」

「ウェンディ!!!」

 

 憤怒の表情を浮かべたウェンディが海兵に突き進む。それを制止しようとしたルカは間に合わなかった。次々に斬られていく海兵は苦悶の表情を浮かべながら海に落ちていく。十秒で海兵を倒しきったウェンディはノワールをすぐに下ろし、カーンの応急処置を始める。

 ルカとの一戦後、血があふれるのを能力で止められなかったウェンディは応急処置だけは覚えていた。しかし、全身に十数発の銃弾を受けたカーンは口からも血を吐き出して倒れ伏していた。

 

「ノワー、ル…」

「ダメ!しゃべらないで!血が出ちゃう!」

「この、子を、信じろ…」

 

 カーンはノワールの向かいでなんとか止血しようとしているウェンディを見る。

 

「おじさん!!」

「おっちゃん!」

「あとは、頼む…」

 

 銃弾は心臓付近の動脈を撃ち抜いていた。カーンが死んだ。



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