交じり合う世界への来訪者~太陽の勇者と月の聖女~ (哉多)
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序章 終りの始まり~フェア~

 

 

 目が覚めるように、ふと思考が働き始める。

 

 

 何時ものように瞼を上げた少女の目に映ったのは何時もの風景ではなく、本や映像でしか見たことがないような永遠と続いていく無限の宇宙(そら)。

 そこにただ一人彼女だけが何かから切り取られたように、不安定に浮かんでいた。

 

(・・・・?)

 

 遠く輝く星たちを見つめながら、少女は何故自身がこんなところにいるのかと考えた。

 しかし、こんな場所に漂っている理由も、目が覚める前、自分が何をしていたのかも思い出せないことに気が付いただけだった。

 

 

 

『・・・―――の、――俺の声、聞こえる?』

 

「・・・え、?」

 

 不意に、聞こえてきた声に少女が首をかしげたその時。彼女の前に突如男が現れた。

 

『あぁ、良かった。見つけられた』

 

「、あなたは、誰?ここはどこ?何なの?どうしたら・・どうしたら此処から出られるのっ?もう、何がどうなってるのかっ、ここに来る前なにをしてたのかも思い出せなっ『シィーー・・・。ちゃんと一つづつ説明するから、落ち着いて』・・・っ、」

 

 段々と意識がはっきりしていくのと同時に混乱しつつあった少女に、男が静かに語りかける。

 そこで初めて彼女は男をしっかりと見、その美しすぎる容姿に息を詰めた。

 しかし男の纏う空気に、その声に、途方のない安心感を覚え、男の言う通りに落ち着きを取り戻していく。

 

 

 少女が落ち着いたのを見計らって、男は話始めた。

 

『まずは初めまして橘 恵さん、俺はホープって言います。この世界で異世界との繋がりを管理する神であり、干渉できる唯一の存在です』

 

「え、と、神さま?」

 

『うん。俺がキミを探してたのには訳があるんだ・・・ここからはキミにとって酷な話になるけれど』

 

「・・・大丈夫、話して下さい」

 

 

『それじゃあ、まずキミがこの場所にいる理由だけど・・恵、キミは死んだ。死んで、死後の世界となるここに来た』

 

「ぇ・・・・・?」

 

 恵の目が見開かれる。

 

「死んだ?私が・・・。けど覚えてない、そんなの」

 

『そこは俺が記憶を消した、覚えていない方がいいと思ってね・・。信じたくないだろうけど、受け入れてほしい』

 

 ホープの言葉に答えることが出来ず、視線を足元に向けたまま微動だにしない恵。

 そんな彼女に、ホープは話を続けた。

 

『キミが死んだのはある者のせいなんだ。本当ならキミはまだ生きるはずだった』

 

「・・・・・え?」

 

 恵が顔を上げてホープを見つめる。その目は今自身のおかれた状況を、必死に理解しようとしてる者の眼だった。

 

『キミが死んだのは、とある異世界からキミのいた世界へと故意に干渉した者がいたからなんだ。そのせいでキミのいた世界に歪みが出来てしまった。

それに巻き込まれたのが橘 恵、キミだったんだ』

 

「そんな・・・、」

 

『こんな事になって本当にすまないと思ってる。言い訳にしかならないけど、歪みの影響がどの様に出るかも分からなかったんだ』

 

「・・そう。そ、っか・・・」

 

 恵はホープの言葉をゆっくりと噛みしめ、そして飲み込んだ。

 

 

 顔を上げた恵の目は少し濡れていたが、それでも強く輝いていた。

 そんな恵を見て、ホープは柔らかく目を細める。そして、彼女なら・・と。

 

「うん。ありがとう神様。それで、私はこれからどうなるの?」

 

『キミには二つの選択肢がある。一つは此処じゃない俗に言うあの世に行って生まれ変わるのを待つ。もう一つは、歪みを作った元凶のいる世界へ行きそれを倒す。どっちがいい?』

 

「もちろん、元凶をぶっ飛ばすわ」

 

『はは、キミならそう言うと思ったよ』

 

 

 

 

『それじゃあ心の準備はいいかい?もう一度言うけど、キミの記憶は残るけど・・』

 

「そのせいで転生しても世界に馴染むまで時間がかかるかも・・でしょ?分かってます」

 

『俺自身はそちらの世界には干渉出来ない、気を付けて』

 

 そこまで言ったホープが何かに気付いたように言葉を切った。

 

『そうだ、忘れるところだった。・・・これを渡しておくよ』

 

 ホープが手をかざしたのと同時に恵の目の前に一つの杖が現れた。

 

「これは・・」

 

『【聖杖ミリオンテラー】。これから行く世界は決して安全とは言えないからね、きっと役に立つよ。キミが使いやすいように調整しているから、体の一部のように扱えるはずだよ』

 

「ありがとう神様」

 

 恵が杖を受け取ると、彼女の体の中へ溶けるように消えた。

 

 

『それじゃあ行ってらっしゃい、恵』

 

「行ってきます」

 

 恵の身体が淡く輝き、少しずつ透けていく。

 それを自分の目で確認した恵は、そっと目を閉じた。

 

『ああ、それからもう1つ――』

 

 ホープの声が聞こえる。

 

『キミと同じ境遇の子がもう一人いるんだ』

 

「えっ」

今言うの?!

 

 驚いて恵が目を開けた時には周りも真っ白な光で染まっていた。

 思わず開けた目をまた閉じる。

 

 

『心配しなくても

すぐに会えるよ―――』

 

 ホープの言葉を最後に、恵の思考も真っ白に染まった。




12/17 改稿

12/24 誤字修正


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