逆転偉人裁判 (筑前国屋文左衛門)
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ユダヤ人であれば人に非ず

カンッ!!

 

 

サイバンチョウ「それでは、早速一人目の被告人に入廷して頂きましょう。」

 

 

 

被告人入廷中・・・

 

 

 

 

 

ヒコクニン「被告人とは何だ!被告人とは!!一般市民の・・・・ましてやアーリア人でもない黄色い猿の分際で、偉大なるドイツ第三帝国総統であるこの私を、貴様らは罪人扱いするのかっ!!」

 

 

マヨイ「名前を言わなくても、台詞から誰か分かった気がする・・・・」

 

 

サイバンチョウ「映えある一人目の被告人は、ドイツ史上最悪最低の指導者、アドルフ・ヒトラーです」

 

 

ヒトラー「最悪最低とは何だ!!」

 

 

ミツルギ「被告人、静かにしたまえ。神聖なる裁判の場で、これ以上騒ぐのであれば、退廷させるぞ」

 

 

ヒトラー「ぐっ・・・・!!」

 

 

マヨイ「ボロクソに言われてるね・・・・」

 

 

ナルホド「やったことがやったことだからね・・・・。実際ドイツでヒトラー賞賛したら犯罪だし」

 

 

マヨイ「そうなんだ・・・・」

 

 

ミツルギ「コホン、では罪状は私が読み上げよう。

被告人は、『ホロコースト』という名のもとでユダヤ人の大虐殺を行った。その数は53万とも、400万とも、或いは600万とも言われている。

虐殺に用いられた方法は、強制労働、銃殺、ガス殺、或いは人体実験等多岐に渡る。

特に人体実験に関しては非人道的な実験が為され、多くの死者を出した。

被告人、これについて嘘偽りはないな?」

 

 

ヒトラー「うむ。だが、具体的な数については把握していない」

 

 

ミツルギ「その点については致し方ない。ドイツが戦後に発表した数値、アメリカの研究機関の発表の数値、こうれらはどれも食い違っている。

なにより、当時を知る人物が殆どいないからな。^」

 

 

ナルホド「・・・・御剣検事、話が少々ずれるが、この被告人は地獄から半ば無理やり引っ張って来たんだろう?」

 

 

ミツルギ「それが何か?」

 

 

ナルホド「だったらその当時を知る人を、地獄や天国から証人として呼んだらどうなんだ・・・・?」

 

 

ミツルギ「…………」

 

 

サイバンチョウ「それはもっともですな」

 

 

ヒトラー「うむ、私もそう思う」

 

 

ミツルギ「『待った!!』

・・・・か、数の問題ではない!!要するに統計も正確に取れないほどユダヤ人を虐殺していたということだ!」

 

 

マヨイ「逃げたね、ミツルギ検事」

 

 

ミツルギ「逃げてない!!」

 

 

サイバンチョウ「まあまあまあ、ミツルギ検事。落ち着いてください」

 

 

ミツルギ「コホン、失礼した。

このように被告人は統計も怪しくなるほどの虐殺を行った。

そもそも、この虐殺には一体何の意味があったのか。

これはユダヤ人に対する差別に他ならない。民族の差別は人道的、或いは法的にも違法である。

これほどの所業で許される点があるとは思えんが・・・・」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

確かに被告人の虐殺行為は、人道的にも法的にも許されたものではありません。

しかし、動機が差別だけというわけではありません」

 

 

ヒトラー「その通りだ!弁護士よ、頼むぞ!」

 

 

ナルホド「お任せください!

被告人の叔母は、ユダヤ人で度々虐められていました。また、被告人は、それ以外にもユダヤ人に虐げられた経験が幾度もあります。

ユダヤ人の虐殺は、その復讐の面もあります」

 

 

ミツルギ「『異議あり!!』

ふっ…素人かお前は。

傷害や殺人の動機として、復讐は法律上認められていない!

これだけで、ユダヤ人の虐殺の正当化することは出来ない。」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

本人の復讐だけではありません。

そもそも、ユダヤ人の差別・迫害したのはナチスだけではありません」

 

 

ミツルギ「なんだと?」

 

 

ナルホド「かつて、中世のヨーロッパでペストが流行した時期がありました。その時に、真っ先に感染元を疑われて処刑されたのは

ユダヤ人だったのです。

つまり、以前から差別が存在していた訳です。そして、その差別は20世紀になっても続き、旧ソ連も一部で虐殺を行っています。

被告人だけが、差別をネタに虐殺を行ったことを非難されることは、あまりにも不当ではないでしょうか!?」

 

 

ミツルギ「うぐっ!

ま・・・・『待った!!』

だが、被告人は残酷な方法で・・・・」

 

 

ナルホド「ミツルギ検事、ペスト大流行当時の処刑方法を知っていますか?

火刑(かけい)、イワユル火炙りの刑です。まだギロチンはこのときありません。

これは、十分残酷な処刑方法ではありませんか?」

 

 

ミツルギ「・・・・た、確かに残酷なものではある。

いや、寧ろ銃殺やガス殺よりも残酷かもしれない」

 

 

ヒトラー「良いぞ、弁護士!そのまま私を無罪にまでするんだ!!」

 

 

ナルホド「(駄目だ、この人全く反省してないな…。いくら何でも無罪は無理だろ・・・・)」

 

 

マヨイ「ナルホド君、あたしだんだんあの人に腹が立ってきた。

もうここで弁護やめていいんじゃないかな?」

 

 

ナルホド「そ、そういう訳にもいかないよ・・・・」

 

 

サイバンチョウ「なるほど、確かに周りが皆差別をするなかで、被告人だけが攻められるのが不当、というのにも一理ありますな・・・・」

 

 

ミツルギ「『待った!!』

ナルホド、キサマは一つ見逃していることがある。」

 

 

ナルホド「なんだと?」

 

 

ミツルギ「確かに、被告人以外にも多くの人がユダヤ人を差別している。

そこは認めよう。

しかし、被告人はその差別を利用したのだ。

周りはユダヤ人を差別する風潮にあった。その中で、ユダヤ人の虐殺を公約に掲げた政党があればどうなると思う?

結果は見えている。当然ながら当選するわけだ。

そうだろう、被告人?」

 

 

ナルホド「あっ!」

 

 

ヒトラー「だから何だと言うのだ」

 

 

ミツルギ「被告人がもし、国の命令で虐殺を行っていたのであれば、一人だけ非難を浴びるのは不当と言えたかもしれない。

だが、被告人は寧ろ指導する側にいた。

つまり、誰よりも率先して差別を推し進めていたということだ!」

 

 

ヒトラー「ぐっ!!」

 

 

ミツルギ「この件について、被告人が責められることは決して不当ではない!」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

し、しかし!被告人以外にも差別を指導した人は大勢・・・・」

 

 

ミツルギ「ナルホド、他人もやっていたから自分だけが責められるのはおかしい、という理論は分からないでもないが、いささか説得力が足らないのではないか?

しかも一番の問題は、被告人がそれを率先してやっていたのだ」

 

 

ナルホド「うっ・・・・」

 

 

サイバンチョウ「私も先程、一理あるとは言いましたが、正直なところ被告人の行為が正しかったとは思えません」

 

 

ナルホド「・・・・・・・・・」

 

 

ヒトラー「お!おい弁護士!何か・・・・何か言い返さないか!!」

 

 

サイバンチョウ「どうやら反論する余地がなくなったようですな。それではこれより判決を言い渡します。

なお、この裁判では被告人の行動が正しかったと判断した場合は、無罪。

そうでない場合は有罪と表現します。

では、改めて被告人に判決を言い渡します」

 

 

 

 

 

 

 

『有罪』

 

 

 

 

 

ヒトラー「なんだとぉぉ!!!!??」

 

 

ミツルギ「まあ、当然の結果だな」

 

 

マヨイ「ナルホド君、良くやったと思うよ。これ・・・・・逆転にはあまりに厳しいもん」

 

 

ナルホド「僕もそう思ってたよ、正直」

 

 

ヒトラー「こんな判決認められるか!!やり直しだ!!裁判のやり直しを要求する!!」

 

 

サイバンチョウ「・・・・・・・・・。

被告人・・・・いえ、ヒトラー総統。あなたは戦争と虐殺さえなければきっとドイツ史上最高の指導者になっていたでしょう」

 

 

ヒトラー「ん?」

 

 

ナルホド「サイバンチョウ・・・・?」

 

 

サイバンチョウ「第一次世界大戦で敗北によってドイツは凄まじいインフレが起き、国民は貧困にあえいでいました。

しかし、そんな中であなたは立ち上がり、国民を勇気づけ、公共事業を行って見事にインフレを解消しました。

それどころか、わずか10年そこらで世界を相手に戦争できる程の国力をつけさせたのです。

実際、当時のドイツ人の日記には、戦前のヒトラーはよかった、といった主旨の記載があります」

 

 

ヒトラー「・・・・・・・・・・」

 

 

サイバンチョウ「『ハイルヒトラー!』という言葉・・・・日本で例えるなら、『天皇陛下、万歳』に相当する言葉で、国から強制されたイメージがありますが、

恐らく、戦前のドイツ国民は心の底からあなたを讃えていたのではないでしょうか?

そういう意味では、あなたは国民の期待を裏切った、ということでしょう。為政者たるもの、国民を欺き、裏切るようなことがあってはいけません」

 

 

ナルホド「・・・・・・・・」

 

 

サイバンチョウ「良いですかな、被告人。あなたの虐殺や戦争の罪は大変重いですが、一番の罪は、あなたに期待をしていた国民を裏切ったことです。

それを忘れないように」

 

 

ヒトラー「国民の期待を裏切った罪か・・・・うむ、死んでからは考えたことがなかったな。

裁判長、私は」

 

 

サイバンチョウ「それでは、これより被告人が退廷いたします。皆様拍手でお送りください」

 

 

ヒトラー「え?」

 

 

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ヒトラー「スタンディングオベーションではないか!!!

貴様ら、そこまで私が出てってうれしいか!!」

 

 

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ヒトラー「拍手で答えるな!!!」

 

 

カンッ!!

 

 

 

 

被告人退廷中・・・・

 

 

 

 

 

サイバンチョウ「第一回目の偉人裁判、お疲れ様でした。

いかがでしたかな?」

 

 

ナルホド「あまりにもハードル高過ぎません・・・・?僕・・・・」

 

 

ミツルギ「ふん、それを何とかするのが弁護士というものだろう」

 

 

ナルホド「じゃあ、やってみろよ・・・・。絶対無理だから、いくら何でも」

 

 

 

マヨイ「確かにきつかったも思うよ、今回は」

 

 

サイバンチョウ「確かに、今回はナルホド君がかなり不利な立場でしたな。

しかし、経済をよくした面がありながら、何故悪の大王の様に言われるのでしょうな」

 

 

ミツルギ「勿論、残虐であったことも理由の一つだろうが、一番の理由は戦争に負けたからだろう。

アメリカ大頭領のトルーマンは、日本に原爆を落とすことを指示した人物だが、そこまで悪人にはされていない。

一方でギリギリまで開戦を避けようとしていた、東條英機は処刑され、戦後は悪の権化の様に言われている。

『勝てば官軍』という言葉もあるように、歴史は勝者が作るものだからな」

 

 

サイバンチョウ「悲しいものですな」

 

 

ナルホド「でも、そうやって悪人や善人と呼ばれてる人が、本当にそうだったのかを議論するのがこの場でしょう?」

 

 

サイバンチョウ「ナルホド君のいう通りですな。ひとつの見方だけでなく、違った見方をすれば、意外な面もあるかもしれませんしな。

さて、これより15分の休憩に入ります」

 

 

ナルホド「え?・・・・休憩?まさか、このあともどんどん裁いていくんですか?

また、別の日に・・・・とかじゃなくて」

 

 

サイバンチョウ「今日1日だけでだいぶ裁くつもりでいますぞ。

両人ともついてきてもらいますぞ?いいですな?」

 

 

ナルホド&ミツルギ「はい。(今日は一段と疲れそうだ…。)」




アドルフ・ヒトラー
生没年1889~1945

ドイツの政治家。
ドイツ首相を経て、総統に就任。
ポーランドに攻めこんで第二次世界大戦を引き起こし、イタリア、日本と組んで「枢軸」陣営で戦った。
ソ連侵攻に失敗した後、ベルリンを包囲され拳銃自殺。
政策の一つにユダヤ人への迫害を掲げ、ホロコーストの名のもとに、多くのユダヤ人を虐殺した。

経済政策では、大規模な公共事業を実施し、ハイパーインフレに陥っていたドイツ経済を立て直した。これは、後にアメリカのルーズベルトが、ニューディール政策をする際に参考にした。

また、画家でもあり、彼の作品は後世に多く残されている。


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君を思いし武者

カンッ!!

 

 

サイバンチョウ「さて、お二方休憩は取れましたかな?。」

 

 

ナルホド「はい、お菓子は美味しくいただきました。」

 

 

ミツルギ「お心遣いに感謝する。」

 

 

サイバンチョウ「お二人がリラックスできたのでしたら、よろしい。

それでは、早速被告人に入廷してもらいましょう。」

 

 

被告人入廷中…

 

 

 

 

 

サイバンチョウ「それでは、被告人。職業と名前を。」

 

 

ヒコクニン「織田信長が家臣、明智光秀でございます。」

 

 

マヨイ「うわぁ…凄い人来ちゃった。」

 

 

ナルホド「戦国時代の人まで裁くのかよ・・・。」

 

 

マヨイ「でも、最初に比べたら物凄く楽だと思うよ?」

 

 

ナルホド「……いや、一人目は逆転できないよ。主人公が最初から諦めるってのもどうかと思うけど。」

 

 

ミツルギ「では、罪状を読み上げる。

被告人は1582年6月21日、京都の本能寺に宿泊していた主君の織田信長・当主の織田信忠を襲撃し殺害した。

当時の織田信長の力は絶大なもので、諸大名はきっと恐れていただろう。よくその中で裏切れたものだな?」

 

 

光秀「我ながら、とても大胆なことをしたと思っております。」

 

 

ミツルギ「そもそも、何故謀反を思い立ったのだ?」

 

 

光秀「普段から積もりに積もった恨みを晴らす、というのも理由の一つではありますが。」

 

 

ミツルギ「鯛が腐っていたことを叱責された、とか言う話もあったな」

 

 

光秀「それに関しては全く気にしてない、と言えば嘘になりますが……真

の理由が別にあります。」

 

 

ミツルギ「ほう、それは気になるな。一体どういう理由なのだ?」

 

 

光秀「この場ですから申し上げます。

 

 

あの方は、あろうことか自ら天皇になろうとしていたのです!!」

 

 

ミツルギ「何?」

 

 

サイバンチョウ「それは知りませんでしたな 。」

 

 

ナルホド「事実、信長は度々天皇の譲位を促していたと主張する学者もいます。

被告人、あなたはどのようにして信長が、天皇の位を狙っているとわかったのですか?」

 

 

光秀「あれは、石山本願寺と和睦を結んだ日の夜のことでございます。

信長様からお呼びがかかりまして、色々と指示が出された最後に…信長様が私にこう尋ねたのです。

『わしは、この国に王は一人しかいらぬと考えておるが、お主はどうじゃ?』

と。

最初は何を言っているのかよく分かりませんでしたが……その意味に気づいた時に私は言葉を失いました。

結局、その後別の話に切り替えられてしまい、この話はなかったかのようになりました。」

 

 

サイバンチョウ「なんと……。」

 

 

ミツルギ「…語られぬ歴史、というものか。」

 

 

マヨイ「ねえねえ、どうして天皇云々でここまで驚くの?」

 

 

ナルホド「今でこそ、天皇は『象徴』ということで唯のお飾りみたいになっているけど、昔は『神の子孫』って言われてたからね。どんなことがあっても天皇の権威を犯してはいけない、という考えが無意識のうちにあったんだよ。」

 

 

ミツルギ「源平合戦や戦国時代があったにも関わらず、天皇が殺されることがなかったのもその考えがあったからだ。

他国にはないことだな。」

 

 

サイバンチョウ「もっとも、それを教育として押し付けた結果、簡単に軍国主義に傾いたのかもしれませんがな。」

 

光秀「ともかく、私が謀反を起こしたのはそういう訳でございます。

間違っても、個人の感情だけで謀反は起こしてはおりません。」

 

 

ミツルギ「とは言えだ、それが謀反を起こす正当な理由になるとは言えない。

殺人罪は一先ず目をつむるとして、主君を裏切る、という武士道の世界ではおおよそ許されないような行為を犯している。しかも、その後に味方を募ろうとしていた。

天皇を守る為とはいえ、それ相応の批判は受けて当然と考えるが。」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

ミツルギ検事、君は今、戦国時代の人間を裁こうとしているのだよ。」

 

 

ミツルギ「それが何なのだ?」

 

 

ナルホド「歴史の授業を忘れたのかい?

戦国時代、『下剋上』が盛んだった事実を!!」

 

 

ミツルギ「なっ……しまった…!」

 

 

ナルホド「被告人や被害者が活躍していた時代は、戦国時代の後半に当たりますが、まだ下剋上が盛んでした。

むしろ、戦争中なのですから、そんなことが起きても不思議ではありません。

ミツルギ検事は先程、戦争を理由に殺人罪には目をつむる、と言いました。それならば、戦争を理由に主君を裏切ることも目をつむるべきではありませんか!?」

 

ミツルギ「『異議あり!!』

…先程はうっかり焦ってしまったが、その理論は、ヒトラーの裁判と同じではないか。

周りが許容されるなら、自分も許されるという主張は詭弁以外の何物でもない!」

 

ナルホド「『異議あり!!』

先程と今回の事例には決定的な違いがあります!」

 

ミツルギ「決定的な違いだと?」

 

ナルホド「ミツルギ検事が持ち出した例の場合、平常時から行っていた、という点にも問題があると言えます。

しかし、被告の事例は『戦争』という非常事態の中で起きたものです!

こういった場合において、法や人道が正しく作用するとは思えません!!」

 

サイバンチョウ「つまり、戦争のように社会が混乱している状態では、無政府状態のようになっても仕方ない、ということですな。」

 

ミツルギ「『待った!!』

しかし、その為には戦争をしていた、という事実が必要だ。

被告人、お前が本能寺の変を起こした時、織田軍はどこかと戦争をしていたか?」

 

 

光秀「ええ、中国の毛利と戦をしておりました。」

 

ミツルギ「なにっ!?」

 

光秀「確か、猿が相手をしておりましたが…」

 

ミツルギ「猿……?…………秀吉か!」

 

ナルホド「サイバンチョウ、弁護側は証人として豊臣秀吉をお呼びすることを提案します。」

 

サイバンチョウ「ふむ………戦国武将が一度に二人も…。これは楽しみですな。是非入廷させ……い、いや、証人の入廷を許可します。」

 

ナルホド「(もしかしてサイバンチョウ…偉人を生で見たいが為にこんな場を…?)」

 

 

証人入廷中………

 

 

 

 

 

秀吉「ほぉ~、これが『法廷』か。実に豪華な作りではないか。しかし、些か黄金が足りぬのぉ。」

 

マヨイ「…言ってることが完全に成金趣味だね……」

 

ナルホド「そりゃあ、黄金の茶室を作るような人だもんな……というか…」

 

秀吉「あっ!!光秀!!貴様よくも殿を!!」

 

ナルホド「…こうなるんだよな。裏切った人間と、その仇を取った人間が並ぶと…。」

 

マヨイ「なんで分かってるのに呼んじゃったの!?取っ組み合いの喧嘩が始まったよ!」

 

 

サイバンチョウ「し、証人!落ち着いてください!」

 

光秀「猿よ、許せ。儂はどうしようも無かったんじゃ。」

 

秀吉「どうしようも無かったじゃと!?自ら謀反を起こしておいてその言い草はなんだ!」

 

ミツルギ「証人も被告人もいい加減にしないか!!何してる警備員、早く二人を止めたまえ!」

 

 

喧嘩仲裁中…

 

 

 

秀吉「……………」

 

マヨイ「見るからに不機嫌そうだね……」

 

ミツルギ「…コホン。証人、今後あのようなことは慎むように」

 

秀吉「ふん、お前こそ天下人に対する礼をわきまえるんだな」

 

ナルホド「(……弁護の為に呼んだけど、なんだか心配になってきたぞ…)」

 

サイバンチョウ「では、証人尋問を行います。証人、貴方は被告人が謀反を起こした時、どこで何をしていましたかな?」

 

ナルホド「(秀吉は中国地方の毛利を攻めていた、だとすれば当然中国地方にいて戦の準……)」

 

秀吉「駿河の家康殿と飯を食っておりました」

 

ナルホド・光秀「はああああぁぁぁ!?」

 

サイバンチョウ「それは本当ですか?」

 

ナルホド「『待った!!』

サイバンチョウ!証人の証言は嘘です!騙されたらダメです!」

 

サイバンチョウ「……ナルホド君、証人が予想外のことを言ったからと言って、それを虚偽と断定するのは感心しませんな。」

 

ナルホド「いやいやいやいや!だって、史実ですよ!歴史的な事実ですよ!」

 

光秀「ナルホド殿の言う通りでございます!猿は信長様に毛利討伐を命じられ、中国地方に行っておりました!

…猿め、一体どういうつもりじゃ!」

 

秀吉「わしゃあ、本当のことを言ったまでじゃ」

 

ナルホド「(完全に私怨が入ってるよ、鼻ほじりながらそっぽ向いてるこの態度は…)」

 

ミツルギ「ふむ…そういうことか」

 

ナルホド「ミツルギ!違う!証人の言ってることはデタラメなんだ!」

 

ミツルギ「つまり、秀吉公による中国大返しは無かった、ということか。」

 

秀吉「!!」

 

ミツルギ「主君を強く思う気持ちが表れた、素晴らしい事件だと思ったが、まさか想像上の出来事とは驚きで、尚且つ失望すら覚える。」

 

秀吉「いや、そ…それは…」

 

ミツルギ「どうした証人?本能寺の時は家康のもとにいたのだろう?」

 

ナルホド「(…そうか!中国大返しは秀吉が中国地方にいなければ、そもそも起こらない!なんで気がつかなかったんだ!)」

 

サイバンチョウ「証人、検事からこのような指摘がありますが…。」

 

秀吉「ぐっ……み、光成を呼べ!」

 

サイバンチョウ「証人、あなたの口から語ってもらいたいですな。」

 

秀吉「………。」

 

光秀「猿、正直に申せ。そうでないとお前の手柄自体が消滅するぞ、そうなれば勝家や長秀が黙っておらんぞ。」

マヨイ「完全に黙っちゃったね…。」

 

ナルホド「多分、もう何も言い返せないよ。

サイバンチョウ、証人の証言は虚偽と判断すべきと考えます。」

 

ミツルギ「私も同意見だ。」

 

サイバンチョウ「どうやら、この場にいる全員が同じようですな。

では証人、真実を教えて頂けますかな?」

 

秀吉「………仕方ないのう、謀反が起きた時は、中国の毛利をまさに攻めている時じゃった。」

 

ナルホド「サイバンチョウ、この発言こそ真相です。

織田軍は証言の通り、戦争状態にあったと言えます。」

 

サイバンチョウ「となりますと、被告人の行為は正当なものと言えますな。ミツルギ検事、異議はありますかな?」

 

ミツルギ「史実として証拠がある以上、それに異議を唱えることはできない、真相をねじ曲げることになるからな。」

 

サイバンチョウ「…ミツルギ検事、あなたも変わりましたな。」

 

ミツルギ「…………」

 

サイバンチョウ「それでは、被告人に判決を言い渡します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無罪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光秀「ありがたき……いや、咎め無しとは些か申し訳なさすら覚えます。」

 

マヨイ「正直、光秀って聞いて極悪人のイメージしかなかったんだけど、礼儀正しくて頭良さそう。なんか印象変わった。」

 

ナルホド「頭良さそう、というか頭良いんだよ、マヨイちゃん…。」

 

サイバンチョウ「被告人、少しは精神的に楽になりましたかな?死んでからずっと裏切ったことを気に病んでいたと聞きましたが。」

 

ナルホド「え?」

 

光秀「当然でございます。主君を裏切るなど、本来あってはならないこと。ましてや、信長様には多大なる恩義があるにも関わらず、あのような仕打ち。

申し訳なく思わない訳がありません。」

 

サイバンチョウ「素晴らしい忠義心ですな。」

 

秀吉「(……おもしろくないのぉ…)」

 

ミツルギ「…随分と不満そうだな、証人。天下人として尊敬されたければ、貴様も被告人を見倣うんだな。」

 

秀吉「ふんっ!」




明智光秀
生没年1528~1582


日本の武将。
斎藤家や朝倉家など、仕える大名を転々とし、最終的に織田家の家臣となる。
部下として長く織田信長を助けていたが、1582年に本能寺の変を起こし、信長を殺害。
しかし、毛利を攻めていた羽柴秀吉が帰還し、山崎の戦いで対峙、敗北。最期は落ち武者狩りによって殺されたという。
尚、「三日天下」という言葉は、本能寺後の光秀による短い天下を基に生まれた。

謀反の理由は諸説あり、信長が天皇の位を狙っていたのも一つとされる。しかし、実際には信長自身、天皇の位を望んではいなかったとする説が有力。


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史上最恐の暴君

カンッ!!

 

 

サイバンチョウ「ナルホド君、私は君に謝らなければなりません。」

 

ナルホド「どうしたんですか?」

 

サイバンチョウ「次の被告人ですが……その……。」

 

ナルホド「あぁ…なんとなく予想つきましたよ。また、逆転不可能な人なんですね…。」

 

ミツルギ「ほう、弁護士が被告人を信じずに諦めるか。」

 

ナルホド「ヒトラーみたいなのが来たらどうしようもないじゃないか…。」

 

マヨイ「…ねえ、ナルホド君。気のせいかもしれないけど、なんか警備員が増えてない?」

 

ナルホド「言われてみれば……。」

 

サイバンチョウ「被告人を見れば、その理由もわかるでしょう。では、被告人を入廷させます。」

 

 

被告人入廷中……

 

 

ヒコクニン「……………」

 

ナルホド「(が、眼力がすごい…。)」

 

サイバンチョウ「被告人の名前はイワン雷帝。凄まじい虐殺と恐怖政治を行ったモスクワ大公国(現ロシア)皇帝です。」

 

ナルホド「(こ、この人か…)」

 

ミツルギ「ふむ、人の性格は外見に出ると言うが、被告人を見るとそれが正しいことが良く分かるな。」

 

イワン「おい貴様、それは我輩に対する愚弄か。」

 

ミツルギ「それは失礼したな。」

 

ナルホド「ミツルギ、よく平然と返せるな……。」

 

ミツルギ「被告人がどんな人物であれ、それを恐れれば、検事などという職は務まらないからな。」

 

サイバンチョウ「それではミツルギ検事、罪状を読んで頂きますかな。」

 

ミツルギ「では……。

被告人は、スパイ及び反逆の容疑で、貴族や家臣、将軍を大量に投獄、拷問、処刑した。

他にも、オプリーチナと呼ばれる広大な直轄地を都市部に敷き、元々そこの領主だった貴族は、代わりに極寒のシベリアの土地が与えられた。

さらに1570年、謀反の疑いを名目に、ノウゴロドの住民の4分の3を虐殺した。

被告人、これに誤りはないか?」

 

イワン「ふん、だから何だと言うのだ。」

 

ミツルギ「一連の虐殺による被害者は、ほぼ全て冤罪による処刑であり、彼の深い猜疑心によるものだ。」

 

マヨイ「ね、ね、カイギシンって?」

 

ナルホド「周りが信じられなくなって、疑心暗鬼になることだよ。」

 

ミツルギ「オプリーチナにしても、被告人の猜疑心が生んだ策であり、領主の貴族には当然拒否権がない。拒否すれば、股関から串刺しにされるのが予想できるからだ。

ノウゴロドの件にしても、謀反は明らかなデマであるにも関わらず断行し、大虐殺を行った。

このような鬼の所業は到底許されるものではなく、被告人は重く罰せられて当然だな。」

 

ナルホド「『異議あり!!』

確かに被告人は、大量に虐殺行為を行いました。その動機も彼の猜疑心、という性格の問題であり、直接的な動機ではありません。

しかし、彼の猜疑心が芽生えたのは、彼の壮絶な生い立ちによるものであります。」

 

サイバンチョウ「壮絶な生い立ちですか、実に気になりますな。」

 

ナルホド「被告人、お辛いでしょうがよろしいですか?」

 

イワン「勝手に話せ。」

 

ナルホド「被告人の父親ヴァシリー3世は、被告人が3歳の時に病死。それから5年後、母親が王家の財産を狙う貴族に毒殺されます。

被告人の周りは財産を奪おうとする陰湿な貴族ばかりで、虐待は日常的。満足に食事もさせて貰えませんでした。

結果、被告人は『強者こそ全て』という思想に染まり、動物への虐待を始めます。

 

一連の生い立ちが、被告人の人格に多大なる影響を与えたことは疑いようのない事実です!よって被告人には情状酌量の余地があると言えます!」

 

サイバンチョウ「被告人、さぞお辛かったでしょうな。」

 

イワン「今となっては、もう良いことだ。そのような者達は、一族郎党使用人含め、全員串刺しに処した。

死して地獄に落ちた後も、その貴族を見つければ言いがかりをつけて密告し、血を流させておる。

貴様らに分かるか?人が血を流し、苦しみ泣き叫ぶ様は実に素晴らしい。どんなに嫌なことがあっても虐殺を見るだけで、胸がすくような思いだった!ああ、たまらん!!あれはまるで麻薬だ、だがそれが良い!」

 

ナルホド「………………。」

 

マヨイ「……完全に表情が危ない人だね……。」

 

ナルホド「サディズムを極めた、って言い方がしっくりくる人だよな……。」

 

ミツルギ「しかしだ、生い立ちに原因があり、情状酌量をもってしても、その罪状はあまりにも重い。少なくとも、それだけで無罪にできるとは思えない。

目を見開いて流血を渇望するなど、被告人の性格に大きな問題があるとしか言えない。」

 

ナルホド「うっ……………た、確かに……。」

 

マヨイ「ちょっと!!納得しちゃってどうすんの!

確かに、こんな………こんな……ヤバイ…人、だけどさ……。」

 

ナルホド「後にいくほど声量が下がってるよ、マヨイちゃん…。」

 

イワン「弁護人、何も反論しないのか?しなければ粛清の対象になるが。」

 

ナルホド「ええええぇぇぇぇ!?しゅ、粛清されるんですか、僕!?」

 

イワン「当然だ、被告を守れない弁護人など要らない。それが嫌なら、串刺しになるか?」

 

ナルホド「いやいやいやいや!分かりました、反論しますから!反論しますから!そのきつい目付きも止めて下さい!」

 

サイバンチョウ「遠目に見てますが、こちらもなんだがヒヤヒヤしますな…。」

 

ミツルギ「ではナルホド、早速反論してみろ、できなければ来週から、『赤いスーツのあの弁護士』に来てもらうことにしよう。」

 

ナルホド「オドロキ君じゃないですか!勘弁してくださいよ!」

 

ミツルギ「なら、反論してみたまえ。時間が押している。」

 

ナルホド「……………………。

被告人の貴族に対する行為は、確かに残酷の限りを尽くし、情状酌量をもってしても、許されにくいことかもしれません。

しかし、被告人の粛清行為は、腐敗した貴族達を廃し、モスクワ大公国、やがてはロシアの発展の基礎を作りあげたものです。

今のロシアがあるのはイワン雷帝のおかげであり、それを考慮して再度酌量すべきではないでしょうか!!」

 

ミツルギ「『異議あり!!』

……ふっ…詭弁だな。確かに貴族の粛清についてはそう言えるだろう。だったら民間人を粛清した件についてはどう説明する?」

 

ナルホド「ぐっ!!」

 

ミツルギ「ノウゴロドの虐殺の影響に至っては現在でも残り、非常に歴史ある街にも関わらず、未だに小都市のままだ。

 

民を大事にしないで、本当に国の基礎を作ったと言えるのか!!」

 

ナルホド「…………………勝てない…。」

 

サイバンチョウ「どうやら、これ以上反論は厳しいようですな。」

 

 

バキッ!

 

 

サイバンチョウ「バキ………?、何の音ですかな?

って被告人!前の柵を折って何をするつもりですか!?」

 

イワン「言ったろう。被告を守れぬ弁護士は要らぬと。我輩が直々に粛清してやるから感謝するんだな。」

 

ナルホド「ええぇーーっ!!わ、ちょっ来ないでください!!」

 

ミツルギ「騒ぐなナルホド。こんな時の為に警備員をいつもの倍に増やしてある。」

 

マヨイ「6人かかってようよう抑えてるね。」

 

サイバンチョウ「恐ろしい力ですな。」

 

ナルホド「サイバンチョウ!弁護側、被告人の退廷を求めます!というか、振りきられると、僕殺されるんでホント早くお願いします!!」

 

ミツルギ「検察側も同意する。法廷で血を見るのは避けたいからな。」

 

イワン「貴様ら………揃いも揃って我輩を排除するか……!良かろう、貴様らが地獄に堕ちた暁には数百倍に復讐してやる……!」

 

マヨイ「目が本気だね…真面目に生きて天国にいけるようにしよう…。」

 

サイバンチョウ「…それでは、双方から要請があったので被告人を退廷させます。」

 

 

被告人退廷中……(20人掛りで)

 

 

 

ナルホド「警備員20人も動員したのかよ!」

 

マヨイ「ナルホド君、帰りの夜道…気を付けてね…」

 

ナルホド「マヨイちゃん!冗談でも言って良いことと悪いことがあるんだよ!」

 

ミツルギ「さて……サイバンチョウ、そろそろ判決をお願いしたい。」

 

ナルホド「わざわざ言う必要あるのか……」

 

サイバンチョウ「そうですな。まあ、結果は大体予想がつくと思われますが、一応形式として出させて頂きますぞ」

 

 

 

 

 

 

 

『有罪』

 

 

 

 

 

 

 

マヨイ「やっぱりね。」

 

サイバンチョウ「逆転は不可能に近い人物でしたからな。仕方ありませんね。

さて、すぐにも休憩に入りましょうか。特にナルホドはお疲れでしょう。」

 

ナルホド「ええ……とても…(何より、死ぬのが凄まじく恐ろしくなったよ……)」

 

 

 

 




イワン四世
生没年1530~1584


モスクワ大公国(現 ロシア)国王。「雷帝」と渾名が付くほど、非常に残虐かつ苛烈な性格であり、貴族や国民を畏怖させた暴君。貴族の腐敗を無くし、国力増強に努めた一方、身分に関係なく虐殺や拷問を嬉々として行ったことから、本国ロシアでも評価が分かれている。


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