IS 〜偽りの腕に抱くもの〜【本編完結】 (sha-yu)
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プロローグ
1話


初めましての方は初めまして。
GOD EATER 〜煌めく波と手向けの花〜を読んでいただいた方はお久しぶりです。

sha-yuです。

本当はGOD EATER2として続編を書く予定だったのですが、バンナムさんが本気を出したようで、レイジバーストというwktkなもの出すということで、そちらが発売してから書くことにしました。

と、いうわけで、前々から書いてみたかったISで一本書いてみようと思い筆をとった次第でございます。

今回、ヒロインはクラリッサさんとなっています。
前作を読んでいただいた方は「また眼帯か!」とは思うかもしれませんが、お付き合いいただけたらと思います。


目が覚めたら、知らない場所だった。

 

僕は……何をしていたんだったっけ……。

 

ここは……何かの研究所かな。なんでこんな場所に……そうだ、確かお父さんとお母さんとモンドグロッソを見に来てて……そしたら、黒いスーツの男の人たちに……そうか、誘拐されたのか。

 

ふふ、やけに冷静だな、僕は。

 

改めて、状況を確認しておこうか。

 

僕は誘拐されて、研究所みたいなところに監禁されている。周りには人の気配がない。僕の経過を観察するための窓があるけど、そこにも人はいない。

 

とりあえずわかる範囲はこれだけ。お父さんとお母さんは無事だろうか……一緒にいたはずだけど。

 

うん、きっと無事なはずだ。今は波風立てず、おとなしくしていよう。

 

まぁ、拘束されてるから大人しくしてるしかないんだけど。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

我がドイツ軍は慌ただしかった。

初代モンドグロッソ王者、ブリュンヒルデの織斑千冬の弟が誘拐されたからだ。その情報が、ドイツ軍にリークされ、上層部はブリュンヒルデに恩を売るために躍起になっている。

 

これから国際テロリスト集団の制圧に向かうというのに、IS部隊のほとんどをそちらに回している。おかげで、テロリストを制圧しに行くのは私とまだ年端もいかない訓練兵の2人だ。

 

この訓練兵……確かラウラ・ボーデヴィッヒと言ったか。なんでも、遺伝子をいじくりまわして生まれた試験管ベビーだとか……その結果なのか、目を引く銀髪に、金色の左目。まったく、上の考えることはわからないが、そうまでして戦力が欲しいのか。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。これからテロリストの制圧に向かう。当初の予定より、だいぶ人数が減っているが、相手はISを所持していない。私とお前の二人掛かりなら、特に問題はないだろう。作戦ポイントに到着したら、自身の判断で動け。敵を捕縛し、アジトを制圧することが目的だが、一般人を拉致監禁しているという情報もある。人命を最優先しろ」

 

「了解であります。クラリッサ中尉」

 

 

緊張などはしていないようだ。これなら大丈夫だろう。

 

さぁ、作戦開始だ!

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

暇になってきた。

 

研究員っぽい人も来ないし、何の変化もないし。

 

体勢変えたいな……拘束外れないかな。

 

そんなことを考えてると、ドンッと強い衝撃が僕の体を襲った。何かの爆発?

 

それに続いて、銃声。誰かが助けに来てくれた?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

テロリストのアジトは、なんともそっけないものだった。ラウラと二手に分かれ制圧を開始したが、外のテロリストはもう制圧を終えている。中もそう時間はかからないだろう。

 

だが油断してはいけない。人質をとられる可能性もある。慎重に進めていこう。

 

 

中はさながら研究所のようになっている。何の研究をしていたんだ?

 

「ん?ここは……」

 

 

第三実験室と書かれた部屋のランプが付いている。中に誰かいるのか?

 

ISで扉を蹴り開ける。

そこは実験の経過を見る部屋だった。その先にはガラス張りになっていて、様々な機械が置かれている。その中央には、実験台とそれに寝そべる少年の姿がある。

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 

窓越しから声をあげる。少年はこちらに気付いたのか、頷いている。

 

 

「待ってろ、今助ける」

 

 

その時、少年の顔が険しくなる。目線が……私の後ろに!?

 

 

「くっ!?」

 

 

素早く振り返り、近接ブレードを展開した。

そこには、ISを纏ったテロリストの姿がある。事前情報では、ISを持っていないはず。いや、例外を考えなかった私の落ち度だ。

 

 

「死ね!!」

 

 

咄嗟に受けたせいで、体勢が安定していない。テロリストに押し切られてしまう。

 

そのままガラスを突き破り、少年の横に倒れこんだ。

 

 

「くぅ……」

 

「お姉さん!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だ……今、助け……」

 

 

その時、テロリストがミサイルポッドを展開しているのに気付いた。この狭い空間で、そんなものを!?

 

 

「吹っ飛べ!!」

 

「馬鹿者が!」

 

 

私は少年を庇う。

その瞬間、辺りを閃光が包んだ。




如何でしたでしょうか。
次は明日更新する予定です。


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2話

どうも、sha-yuです。

前回のラウラが空気だ。一体どういうことだ。

この作品、書き溜めもプロットも練っておりません。一発勝負です。行き当たりばったりです。それでもお付き合いいただければと思います。


 

爆風に煽られ、少年を抱いたまま私は研究所の外まで飛ばされた。密室空間で高火力のミサイルポッドを打つなんて、素人のやることだ。いや、ISに関しては素人なのだろう。それか、相打ち覚悟か……。

 

しかし、あの攻撃でシールドエネルギーのほとんどを失った。テロリストのほうも大きなダメージを負ったはずだ。まずは、この少年を……

 

 

「なっ!?」

 

 

少年の姿を見て絶句した。

両手両足が吐き気を催すほどに損傷していたのだ。足に関しては、膝から下が無くなっている。

 

いくら庇ったとはいえ、あの爆発……そして、少年は手足を拘束されていた。

 

 

「くっ、急ぎ医療機関に……」

 

 

研究所から離れようとした時、研究所からISを纏ったテロリストが現れる。くそっ、今は相手にしている暇は……

 

 

「クラリッサ中尉!」

 

 

オープンチャンネルでそう呼びかけてきたのは、銀髪の訓練兵ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

テロリストのアジトに侵入した私は、抵抗するテロリストなぎ払っていく。今回の目的は敵を捕縛し、制圧すること。なるべく殺さないよう、銃器などは使わず、ISの強靭な腕で意識を刈り取っていった。

 

 

「こちらは片付いたか……ん?この部屋は……」

 

 

一つだけ、ドアロックがかかっている部屋を見つける。ISで扉を破壊し、中を見てみると男性と女性が倒れている。

これは……

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

ISを粒子化し二人に駆け寄り、声をかける。

女性の方が、まだかろうじて息があるようだ。抱き起こすと、腹部から血が溢れているのがわかった。この様子では、長くは持たない。

 

 

「あな……たは……」

 

「喋るな!すぐに医療機関に……」

 

 

女性は首を横に小さく振る。

そして、首にかけていたペンダントを握った。

 

 

「これ……を……息子に……ショウゴ……に……」

 

 

糸の切れた人形のように、だらんと手が床に落ちた。

 

助けられなかった。もう少し早ければと考えたが、後の祭りだ。女性首からペンダントを外した。

 

 

「必ず渡す……必ず」

 

 

その時、大きな爆発と衝撃が響いた。

方向から察するに、クラリッサ中尉のいる方向だ。

 

再びISを展開し、爆発したところまで向かう。

そこで目にしたのは、壁が吹き飛び、滅茶苦茶になった部屋だった。外には何かを守るように抱いているクラリッサ大尉と、近接ブレードを握る所属不明のISだった。

 

 

「クラリッサ中尉!」

 

 

オープンチャンネルでそう呼びかけた。クラリッサ中尉がこちらに気づく。所属不明ISも私を視認したようだ。

 

 

「気をつけろ!それはテロリストだ!」

 

 

なるほど、状況を大体理解した。

 

 

「ラウラ、私はシールドエネルギーが少ない上に、この子を早急に医療機関に連れていかなければならない。ここを頼めるか?」

 

「了解しました。お任せください」

 

 

クラリッサ中尉は私と同じくらいの歳の子供を抱えて離脱した。

 

所属不明ISを敵性ISと認識し、サブマシンガンと近接ブレードを展開した。

 

 

「捕縛する」

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

少年を抱えながら、ドイツ軍に連絡を入れる。

 

 

「こちらクラリッサ・ハルフォーフ中尉。制圧作戦中、一般人が負傷。すぐに医療班の手配を……はぁ!?こちらには回せない!?どういうことだ!……ブリュンヒルデの弟の方に……ふざけるな!こちらは意識不明の重体だぞ!……もういい!直接医療機関に連れて行く!……報告は後でする!切るぞ」

 

 

くそっ、目先の恩のために軍をこんなにうごかして……。

優先順位履き違えているじゃないのか。

 

すぐに見えた病院の緊急コールする。

 

 

「ドイツ軍所属、クラリッサ・ハルフォーフ中尉」

 

 

間に合ってくれ……

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

頭がクラクラする……爆発に巻き込まれたのは覚えてる。でも今いる場所は、あの研究所みたいなところではない。うっすら見えるのは病院?

 

それと、すごい風……僕は飛んでいるのか……?

 

フッと、身体が落ちたような感覚に襲われる。本当に落ちてる?ていうか……誰かに抱きかかえられて……。

 

地面が近くなり、ドンッと衝撃が走る。

 

病院の出入り口から数人の医者らしき人と看護師が出てきた。

 

 

「四肢を……ている……は……どい……たすけて……たのむ……」

 

 

医者や看護師に抱えられ担架にのせられた。

断続的に声が聞こえる。

その声の方を向くと、あの時のお姉さんがいた。

 

なぜか安心できた。

 

そして、また意識を失った。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

運ばれていく少年を見たまま、ISを解いた。

 

あの時油断しなければ、あの時押し切られなければ……そんなことばかり考えていた。軍人として失格だ。

 

こういうこともあるのは知っていた。今までなかったから他人事のように思っていたが、いざ起こってしまうと受け止められない自分がいた。

 

その時、ピピッという音ともに通信をキャッチしたことをISが知らせてきた。相手は……ラウラ・ボーデヴィッヒか。

 

 

「私だ」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ訓練兵です。制圧完了しました」

 

 

テロリストの制圧が終わったようだ。声色から、緊張や疲れも感じない。優秀だな。

 

 

「わかった。報告ご苦労。軍には私が伝えておく」

 

「はい……あの、質問よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

「連れて行った少年の容体は……」

 

「今治療中だ。私はここで治療が終わるのを待つ。お前は先に軍へ戻っていてくれて構わない」

 

「……」

 

 

返事がない、ただのしかばねのようだ。

何かあったのか?

 

 

「中尉、私もそちらに行ってもよろしいでしょうか?」

 

「……なぜだ?」

 

「おそらく、なのですがその少年の母親と思われる女性から、息子に渡してくれと言われたものがありまして」

 

 

母親……ラウラの声の様子から、おそらく亡くなったのだろう。

 

 

「……わかった。場所は……」

 

 

一人でいるよりは、気が晴れるかもしれないからな。




第2話でした。

ラウラは落ちこぼれていません。でも千冬命になります。多分。でも、原作みたいに一夏にビンタかましたり、千冬を連れて帰ろうとはしないと思います。丸くなります、性格が。

ISの女尊男卑やら、なんやらの説明を入れようかとも思いましたが、二次創作物読む人なら大体わかりますよね!(仕事放棄

とはいえ、さすがに何も説明ないとアレなので、それとなーく入れていこうと思います。

次話は筆が乗れば今日の夜にあげます。

それでは


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3話

本日二つ目。

ちょっとプロローグ長くなりそうですが、お付き合いいただけたらと思います。

ここのシリアス抜けたら、少し楽しい感じになると思います。


 

クラリッサ中尉から聞いた病院に向かうと、手術室の前でISスーツのまま項垂れているクラリッサ中尉を見つけた。

 

 

「中尉」

 

「ラウラか……」

 

 

中尉は随分やつれている。作戦で疲れているのだろうか……。

 

その時……

 

 

パチン

 

 

手術室のランプが消えた。

扉が開き、手術を担当したと思われる医者が出てきた。

 

クラリッサ中尉が立ち上がる。

 

 

「先生、容体は……」

 

「あなたは……保護者の方ですか?」

 

「いえ……」

 

 

保護者……おそらく、私が看取ったあの二人が少年の……。なんと言えばいいのか、私にはわからない。

 

 

「保護者の方は……」

 

「もう、亡くなっています」

 

 

答えあぐねているクラリッサ中尉の代わりに、私がそう答える。医者が目を見開き、すぐに俯いた。

 

 

「私が……私が代わりに聞きます」

 

 

クラリッサ中尉の言葉は、予想外だった。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「私が……私が代わりに聞きます」

 

 

何故こう言ったか、私にはわからなかった。だけど、聞かなきゃいけない気がした。償い、というわけでもない。ただ、守れなかった自分が許せなかったんだと思う。

 

 

「……わかりました。ではこちらへ」

 

「はい。ラウラ、すまないがここで待っていてくれ」

 

 

そう言って通されたのは診察室。

医者と対面して座らされる。

 

 

「今から見せる写真は、かなりショックを受けると思います。写真がなくても説明はできますが、どうしますか?」

 

「見ます……見せてください」

 

 

医者はわかりましたと言い、レントゲン写真を取り出した。

 

全身を写したその写真を見て、半分は予想が当たった。しかし、もう半分は完全に予想外だった。

 

少年の小さな身体にはあるべきものがなかった。両足がなくなっていたのは、私も見た。しかし……

 

 

「両腕まで……そんな……」

 

 

肩から先も、無くなっているのだ。

私が助けた時にはあったものが……。

 

 

「両腕の損傷が酷く、細胞が壊死していました。切り取るしか方法がありませんでした」

 

 

その言葉は、ショックでしかなかった。

胸を重機で殴られたような気分だった。

 

 

「なんとか一命は取り留めました。まだ油断は出来ませんが、容体は安定してます。今後の治療なのですが……」

 

 

医者の話が頭に入ってこない……目の前で身体を失い、両親まで失ってしまった少年。

 

今までこんなことはなかった。経験したことなかった。20歳にもなって、その重さを受け止められない。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

クラリッサ中尉を待っていると、手術室から担架に乗せられた少年が出てきた。しかし、すぐに集中治療室に運び込まれた。少し見ただけだったが、違和感を感じた。あるべき場所あるものがないような。チラッと見ただけだから、よくはわからないが。

 

私は、あの女性から受け取ったペンダントを眺める。

 

どうやらロケットのようになっているようだ。中には少年と殺された両親が写っていた。

 

 

「親か……」

 

 

私は親などはいない。人工的に作られた人造人間だ。親のいる者の気持ちはわからない。

 

あの少年にこのことを伝えたら、ショックを受けるのだろうか。

 

ロケットの蓋の裏に、なにかが彫られている。

 

 

柳川玲二

柳川有香

柳川将冴

 

 

日本語で書いてあって読めない。一応勉強はしているが、漢字というものは訳がわからない。

 

それからしばらくすると、クラリッサ中尉が戻ってきた。

 

 

「中尉。お話はもうよろしいのでしょうか?」

 

「ああ……すまないが、ラウラ。私は先に帰る……お前の帰還許可も降りているから、帰りたいときに帰れ」

 

 

クラリッサ中尉はそのまま行ってしまった。

いったい何が……




主人公の名前出てきましたね。
出番はほとんどないけど。

原作と色々違ってる箇所が多いとは思いますが、ご理解いただけたらと思います。

クラリッサさんは悩みますね。
今までこんなことがなかった分の反動が大きようです。

次回も、クラリッサにたくさん悩んでいただきましょう。

次回更新予定は金曜日になるとおもいます


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4話

ISって結構難しい。

ちょっと発狂しそう。


 

あの作戦から一週間が経った。

 

少年はまだ目を覚まさない。ラウラは渡さなければならないと言っていたものを渡せないままでいる。

 

この一週間は、事後処理をしていた。

 

亡くなった2人の一般人……名前は柳川玲二(やながわ れいじ)柳川有香(やながわ ゆか)

2人は日本のIS研究を行っている倉持技研の研究員らしい。なんでも、新しいISの開発を行っていたとか。それでテロリストに狙われたというのが、ドイツ軍の考えだ。

 

そして、両手両足を失う大怪我を負った生存者、柳川将冴(やながわ しょうご)。13歳。

 

私が守れず、四肢を失ってしまった。会わせる顔がない。

 

 

「クラリッサ……おーい、クラリッサー!」

 

 

ペチンと、頭を叩かれた。目の前には同僚のルカ・ミヒャエルが立っていた。

 

 

「ルカか……なんだ?」

 

「なんだ?じゃないわよ。IS操縦者は至急第一訓練場に集まれってさ。ほら、例のブリュンヒルデの」

 

 

ああ、そういえば今日から世界最強のブリュンヒルデ織斑千冬がドイツ軍のIS操縦の教官に来るのだったな。

 

弟を誘拐され、ドイツ軍がそれを助ける手伝いをしたから一年間だけ教官をしろと要求したら通ったという、なんとも気の抜ける話だ。

 

前なら、ブリュンヒルデの指導を受けれると知ったら飛び上がって喜んだが……今はそんな気分じゃない。

 

 

「クラリッサ、あんたまだ引きずってんの?一週間前の作戦のこと」

 

「そんなことは……ない」

 

「いい加減ふっ切りなさいよ。あんたはちゃんと命を助けた。それで十分じゃない。上層部だって、あんたを大尉に昇格させるって言ってんのよ?」

 

 

あの作戦成功を受けたドイツ軍は、私を昇格させるらしい。もちろん、昇格は嬉しい。だけど……今回の結果では、素直に受け取れない。

 

 

「今は放っておいてくれ」

 

「ちょっと、どこに行くのよ!この後、ブリュンヒルデの指導があるのよ!」

 

 

後ろでルカが叫んでるが、私は無視して外へ出て行った。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

第一訓練場で十数名のIS操縦者が整列していた。

私達の前には、ドイツ軍服を着こなしているブリュンヒルデ、織斑千冬が立っていた。

 

いや、織斑教官というべきだな。今日から特別教官として、一年間指導してもらうことになっている。

 

 

「時間か……静粛に!今日からお前たちの教官を務めることになった織斑千冬だ。引き受けたからには甘やかしたりなどはしない。覚悟して付いて来い!」

 

『はい!』

 

 

声をそろえて返事をする。織斑教官は鋭い目つきで一人一人を吟味するように見ている。

 

そして、手元の資料に手をかけた。

 

 

「名簿によるともう一人いるようだが……誰か知っているものはいるか?」

 

 

もう一人……おそらくクラリッサ中尉のことだろう。大尉に昇格するときいたが、まだ中尉と呼ばせてもらおう。

クラリッサ中尉は、まだあのことが払拭できていないのだろうか。

 

 

「ふむ……誰も知らないか。いないならしょうがない。訓練を始める。まずは体力作りからだ、ここにメニューを書いておいた。それぞれしっかりとこなせ。私はサボタージュしたやつを連れてくる」

 

 

そう言って、織斑教官はメニューを書いた紙を渡し、訓練場から出て行った。

 

わざわざ連れてくるなんて……何を考えているのだろう。

 

しかし、このメニューは……

 

 

「桁が一つ違うのではないのか?」

 

 

本当だとしたら、とんだ鬼教官だ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ドイツ軍の中で、建物と木々が影になって滅多に人のこないベンチがある。私はそこで、買ったばかりの熱い缶コーヒーを飲みながらほうけていた。

 

考えても考えて、あの少年の姿が浮かぶ。きっと私を憎んでいるだろう。一生走ったりできないのだ。男の子ならゲームなんかもするだろう。でもやるための手がない。

 

私は、まだ中学生の子供の自由を、将来を奪ってしまった。

 

 

「くっうぅ……」

 

 

重い。責任が……重くのしかかっている……私には支えきれない。

 

 

「私は……〈スパァン〉痛い!?」

 

 

突然、頭を強い衝撃が襲った。

 

ふと横を見ると。

我が軍の軍服を着た東洋人が書類を挟むボードを持って立っていた。このひとは……まさか……

 

 

「こんなところで堂々とサボタージュとは、いい度胸だな。クラリッサ・ハルフォーフ」

 

 

間違いない。ブリュンヒルデ、織斑千冬だ。

 

 

「ど、どうしてここに……」

 

「私の訓練に出なかった馬鹿者を連れていくためだ」

 

 

私のことだ。

 

 

「すぐに第一訓練場に……と、言いたいところだが、お前とは話をしておかなければならないようだな」

 

「え?」

 

 

予想外の言葉だった。

さっきまでの張り詰めていた空気が、少し和らいだ。

 

織斑千冬の目が、少し優しく感じた。

 

 

「隣に座るぞ」

 

「え、あの……」

 

 

有無を言わさず、どかっとベンチに座った織斑千冬。

 

 

「まずは礼を言わせてくれ」

 

 

礼?全く接点のない私に、織斑千冬はなぜ礼など。

 

 

「将冴を……助けてくれてありがとう」

 

 

柳川……少年のことか……織斑千冬とあの少年は、知り合いなのか……?

 

 

「あなたは……柳川ショウゴの……」

 

 

日本語のイントネーションは難しい。少し変に発音してしまった。

 

 

「あの家族には、世話になっていてな。IS関係でも、プライベートでもな……」

 

 

聞くと、自分が忙しいときに弟を預かってもらっていたりしたらしい。それで、深い交流を持っていたという。

 

 

「なぜ、私が助けたと知っているのですか?」

 

 

ドイツ軍がそうペラペラと喋るとは思えないが……。

 

 

「なに、少し脅してやっただけさ。3人が誘拐されたというのは、とあるツテで聞いていたのでな」

 

 

とあるツテ、の部分で少し嫌な顔をしていたが、突っ込んだら何かされそうだったのでやめた。

 

 

「お前が助けてくれたと聞いて安心した。両親の方は……仕方ないとしか言えないな。だが、将冴を救ってくれた。ありがとう」

 

「礼を言われるようなことはしていない……私は……」

 

 

この重責は、私に一生ついて回る。

 

 

「目の前で、彼が血塗れになっていた。手がグチャグチャになっていて、足は引きちぎれていた。私が油断せずにいれば、そうはならなかったはずだ……こうなることは、軍に入っていれば起こりうることだと知っていた!だが、他人事のように考えていた。目の前で起こった瞬間、信じられないと頭が拒否していた……覚悟が足りなかったんだ……」

 

 

織斑千冬は、何も言わずに聞いている。

 

自分でもわかっている。これはただの愚痴のようなものだ。知らぬ存ぜぬで通せることではないのだ。

 

 

「ハルフォーフ。お前がどう思っているかは知らない。でも、お前のおかげで1人の命が助かったのは事実だ。それはわかってくれ」

 

 

 

織斑千冬は、すっと立ち上がり、私に背を向けた。

 

 

「訓練のあとに伝えるつもりだったが、今伝えてやろう。将冴が目を覚ましたぞ。この後どうするかは、自分で考えろ。訓練は明日から参加しろ」

 

 

そう言って立ち去っていった。

 

私は、すっかり冷めてしまった缶コーヒーを飲み干した。




ラウラが千冬を鬼教官って言ってることに違和感……

なんか駄文臭がすごい。プロローグ終わったら将冴の設定あげます。バックグラウンドも。

GEの方を読んでもらったらわかるのですが、主人公の名前は同じですがまったく別の人です。

名前を考えるのが面倒なんだ……


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5話

今回でプロローグ終わりです。

この辺で終わらせないと、プロローグがものっすごい長くなりそうなので。

ドイツ語、1ミリもわかんねぇですので、多分ドイツ語を書くことはないと思います。


 

目を覚ましたら、見知らぬ天井だった。

それと共にピクリとも動かない体に違和感を覚えた。

 

とりあえず、意識を失う前に何があったかを思い出さなければ……。

 

確か、誘拐されてて、ISを纏ったお姉さんが助けに来てくれて、それから爆発があって……

 

 

「あ……」

 

 

そこで違和感の正体に気付いた。麻酔やらなんやらで動かないと思っていたが、違うんだ。

 

あるべきところに、あるべきものがないから違和感を感じたんだ。

 

 

「腕と足が……」

 

 

ないんだ。両手足が。すっぱり。

 

 

「はは、無くなっちゃったのか……」

 

 

それからすぐに入ってきた看護師さんが、起きてる僕を見て慌て始めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

医者から検査と言われ(ドイツ語でわからなかったけど、多分そんなニュアンスのこと)、せわしなくいろんな機械やらに通されて、血とかを抜かれた後、診察室みたいなところで担当医らしき人と対面していた。

 

ドイツ語がわからない僕に、通訳がついた。なんでもドイツ軍が呼んでくれたとか。チラッと千冬とか聞こえた気がするけど……あの人は忙しいだろうから、聞き間違いだろう。

 

通訳を通して、医者が話し始める。

 

 

「術後の感染症なんかの疑いもない。しばらく様子を見て、問題なければ退院だ」

 

 

そんなようなことを言われた。案外、すんなり受け入れられるものだ。

 

いきなり手足が無くなっても、正気を保っている僕はすごいと思う。

 

そうだ、一つ聞きたいことがあった。……嫌な予感がするけどね。

 

 

「先生。僕の両親は……」

 

「ああ……」

 

 

気まずそうに顔を伏せる先生。やっぱりそうなんだ。

 

 

「……君の両親は亡くなった。詳しい状況は知らないが、軍からそう聞いている」

 

「そうですか……ありがとうございます。すいませんが、もう部屋へ戻っても大丈夫ですか?

 

 

先生はもちろんと言い、僕は部屋へ戻ることにした。看護師さんに車椅子を押してもらって。

 

部屋の前まで着くと、女の人がいた。見覚えのある人。意識を失う前まで、すぐ近くにいた人だ。

 

 

「あなたは……」

 

「……」

 

 

あの時のお姉さんだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

織斑千冬の言う通り、少年は目を覚ましていた。

 

柳川将冴。

 

私が自由を奪ってしまった男の子……。

少年の部屋の前に立ったが、入る決心がつかず立ちすくんでいたら、カラカラと車椅子の引かれる音が聞こえた。

 

 

「あなたは……」

 

「……」

 

 

多分、私は酷い顔をしているだろう。言わなきゃいけないことがあるのに、声帯を取られたかのように声が出ない。

 

そんな私を見て、少年は微笑を浮かべた。

 

 

「中、はいりませんか?お姉さんとお話ししたいです」

 

 

日本語でそう言われた。なんとか意味はわかった。異国の言葉なのに、その言葉に救われた気がする。

 

私は扉を開け、車椅子の彼を先に病室に入れて、後を追うように中に入った。

 

看護師が彼を抱き上げ、ベッドに寝かせた。

 

 

「ありがとう……ってドイツ語で何ていうか忘れちゃった」

 

 

看護師はニコッと笑うと病室を出て行った。

 

すれ違いざまに、ごゆっくりと言ってきた。余計なお世話だ。

 

 

「えっと、一応初めましてなのかな?柳川将冴です」

 

「クラリッサ……クラリッサ・ハルフォーフ」

 

 

彼はドイツ語がわからないだろう。少ししか勉強していないが、できるだけ日本語で喋ろう。

 

 

「わ、ワタシ、アナタ、守レナカッタ。スゴク、ゴメンナサイ。アナタ、腕、足、ナクナッタ。ワタシ、責任アル。スゴク、スゴクゴメンナサイ……」

 

 

拙い日本語で、謝った。日本では頭を下げるという。それに習って、90度になるくらい頭を下げた。

 

腕と足の無い彼の姿を見たら、こんなことで許されるとは思えないけど。今はこうするしかなかった。

 

 

「クラリッサさん。頭をあげてください」

 

 

彼に言われて、頭をあげる。

 

彼の目は、今にも泣きそうなくらい弱々しい。

 

 

「僕は、あなたが助けてくれたのを知ってます。爆発から救おうと庇ってくれたことも、病院へ運んでくれたことも。クラリッサさんが、謝ることじゃないんです」

 

「デモ!ワタシ、アナタノ、オトウサン、オカアサン、守レナカッタ!アナタノ体、不自由ニシタ。許サレナイコト……」

 

「それはクラリッサさんのせいじゃありません。悪いのは、僕達を誘拐した人です。あなたは、謝らなくていい」

 

 

この少年は……なんでそんなに強いんだろう。親も、体も失ったのに。なんでこんなに……

 

 

「クラリッサさん、ありがとうございます」

 

 

その言葉で、私はもう限界だった。

 

 

「うう……うわあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

涙を、止めることはできなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

クラリッサさんは一頻り泣いたら落ち着いたようで、ベッドの横にあった椅子に座った。

 

 

「恥ズカシイ姿、見セマシタ。ゴメンナサイ」

 

「いえ、時には思いっきり泣いたほうがいいです」

 

「アナタ、泣カナイ、デスカ?」

 

「……うん。なんでかわからないけど。涙が出ないんだ。悲しいのは本当だし、かなりショックだけど。両手足がないし」

 

 

強がりの笑顔を作ってみせる。

 

 

「なんとなく、お父さんもお母さんも、泣いてる僕なんて見たくないと思うしね」

 

「アナタ、強イ」

 

「そんなことはないよ。結構いっぱいいっぱい」

 

 

多分、いろんなことが起きすぎて、脳が処理しきれてないんだと思っている。それに、ここで泣いたら、一生引きずりそうだから。

 

 

「アナタ、コレカラドウスル?」

 

「退院したらってこと?」

 

 

クラリッサさんが首を縦に振る。

 

 

「……わかんない。多分、日本に戻って施設とかに入れられるんじゃないかな」

 

「ソウ……」

 

 

クラリッサさんは見るからに落ち込んでいた。また自分のせいとか思っているのかな?

 

 

「こら!」

 

「っ!?」

 

 

本当なら軽くチョップとかしたいけど、腕がないから怒った声をあげる。

 

 

「もう自分のこと責めない。わかった?」

 

「わ、ワカッタ……」

 

 

シュンとしてる。なんだか第一印象では、結構厳しくてクールな感じの人かと思ったけど、そうでもなさそうだ。

 

そんなことを考えていると、コンコンと病室の扉をノックする音が聞こえ、看護師さんが入ってきた。

 

 

『そろそろ面会終了のお時間です』

 

 

ドイツ語でなんか言ってる。

 

 

『わかった。すぐに出る』

 

 

看護師さんの方を見てクラリッサさんもドイツ語で返し、すぐに僕の方を見た。

 

 

「コレ、連絡先」

 

 

名刺を取り出し、裏に電話番号を書いて渡してくれた。

 

 

「ありがとう。また来てくれるの楽しみにしてる」

 

「サヨウナラ」

 

「違うよ」

 

「?」

 

 

クラリッサさんは頭にハテナを浮かべてる。

 

 

「またねって言うんだよ」

 

「マタネ?」

 

「うん、またね」

 

 

クラリッサさんは嬉しそうにマタネと言って、病室を出て行った。

 

さて……

 

 

「これからどうしようかな」




片言クラリッサに萌えた。

自分で書いてて萌えました。


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設定

主人公の設定とバックグラウンドです。

私、回想を書くの苦手なので、ここであらかた書いてしまおうという魂胆でございます。

結構重要になるので、しっかり読んでいただくと嬉しいです。

ネタバレが含まれますが、このように進めていくという指針になるので、ご了承いただければと思います。


 

◆柳川将冴

プロローグ時点で13歳。

男。

黒髪で、片目が隠れるくらいに髪を伸ばしている。

四肢を無くすまでは、剣道をしていた。

両親は倉持技研の研究者で、新しいISの開発を行っていた。

普通のISを動かすことはできないが、両親の開発していた「V型機」をただ一人動かすことができる。

千冬が忙しいとき、一夏を柳川家に預けているため、一夏とは仲が良い。鈴とも知り合いである。ちなみに同じ学校。

両親が束と個人的な付き合いがあり、顔見知りである。当の束も将冴のことを気に入っており、「しょーくん」と呼んでいる。

箒とも剣道を通じての知り合いであり、お互いの腕を認め合っていた。

 

 

 

◆IS

V型機「バーチャロン」

玲二と有香が開発していたIS。

同時に5つのフォームをプログラムすることができる。

フォームチェンジすることで、ISの形状と特性が変化する。

 

「テムジン」

ビームランチャーとソードが一体化した『MPBL(Multi Pul Beam launcher)-7』を装備しており、遠近戦闘に対応したオールラウンダータイプ。

他にも手投げ型のボムを装備している。

 

「ライデン」

黒い重装甲。連装ビームライフルを携行した、重装フォーム。肩に巡洋ビーム兵器を搭載しており、その威力は計り知れない。インファイトは得意ではなく、遠距離戦に向いた機体。

 

「アファームド」

迷彩柄が特徴的。基本携行武器はビームトンファー。武器は換装可能で、専用スロットにはビームライフルと大型マテェットがインストールされている。近接格闘に向いており武器を使わないインファイト能力が格段に高い。クラリッサ曰く、浪漫フォーム

 

「フェイ・イェン」

ピンク色の装甲に女性的なフォルムをしていて、使うときは将冴の精神的ストレスがマッハ。シールドエネルギーが200を切ると金色に変化し、機動力が倍になる。

基本兵装はレイピア。

 

「スペシネフ13」

悪魔のようなフォルムをした機体。展開はできるものの、動かすことができない。他のフォームとは違うインターフェースを使っているようで、それが原因と思われる。

 

 

 

※タグにも書いてありますが、機体はSEGAのゲーム「電脳戦記バーチャロン」から取っています。一応、設定なんかは引用するつもりですが、所々オリジナルになるかと思います。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴「クラリッサさん、尺稼ぎしろと作者からの伝令です」

 

クラリッサ「まったく、なんて体たらくだ」

 

将冴「まぁまぁ、そう責めないであげましょうよ」

 

クラリッサ「というか、本編ではまだこんなに話すような中では無いだろう!」

 

将冴「やむを得ぬ事情ってヤツですよ」

 

クラリッサ「聞いた話だが、この話のオチも考えていないのだろう?」

 

将冴「らしいです」

 

クラリッサ「まったく、怠けるのも大概にしたらどうだ!大体、作者はいつもいつも……」

 

作者「はい、尺足りたのできりまーす」

 

クラリッサ「おいちょっと待て!」

 

将冴「みなさん、また本編でー」




何してんだろ……←


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異国での生活
6話


連続投稿です。

ここからほのぼのを心がけていきます。


 

クラリッサさんとお話しした次の日、朝早くに扉をノックする音で起きた。

 

 

「んん……はい?どちら様ですか?」

 

 

もちろんのこと、体を動かすことができない僕は少し声を張って顔を扉の方に向けた。

 

ガラッと扉が開き、入ってきたのはクラリッサさんと同じ軍服らしきものを着た銀髪で左目に黒い眼帯をつけた僕と同じくらいの歳の女の子が入ってきた。

 

 

『失礼する』

 

 

ドイツ語で話された。ちんぷんかんぷんだ。

 

 

「えっと、君は?」

 

『ドイツ軍所属、ラウラ・ボーデヴィッヒだ』

 

 

駄目だ、なんとかラウラっていうのが名前なんだと感覚的にわかるくらいだ。

んー、どうしたものか……

 

 

「えっと。きゃ、キャンユースピークジャパニーズ?」

 

 

ドイツ語はわからないけどから、英語で聞いてみる。これを英語と言っていいのかわからないが……

 

するとラウラさんはポンと手を叩き、一回咳払いする。

 

 

「すまない。お前は日本人だったな。読み書きは難しいが、話すことはできるぞ」

 

「よかった。何を言ってるかわからなかったから」

 

「すっかり失念してた、謝罪する」

 

「いいよ。母国語は大切だから」

 

 

そう言いながら、椅子に座るよう促そうとしたが……。

 

 

「あっ……」

 

「ん?どうした」

 

 

手がなくて、座ってと勧めることができなかった。いや、言葉で言えば済む話か。

 

 

「なんでもないよ。どうぞ座って」

 

「うむ、失礼する」

 

 

ラウラさんは椅子に腰掛ける。

 

立ち居振る舞いがピシッとしていてかっこいい。

 

 

「それで、ラウラさんはどうして僕のところに?」

 

「ああ、これを渡しにきたんだ」

 

 

ラウラさんはポケットから、ペンダントを取り出した。見覚えのあるそれに、僕はすぐにピンときた。

 

 

「これ、お母さんの……」

 

「私はクラリッサ中尉と同じく、あの作戦に参加していた。その時、お前の両親を看取った。そのペンダントを渡してくれと、お前の母親に頼まれた」

 

「そっか……」

 

 

遺品なんかは全部軍とかに回収されたと思っていたから、これは嬉しい。手がないから受け取れない。ペンダントの中身を見たかったが……しょうがない。

 

 

「ラウラさん。お手数なんだけど、ペンダントの中身を見せてくれないかな。僕、開けれないから」

 

「ああ」

 

 

ラウラさんはゆっくり壊さないようにペンダントを開いた。中には家族3人で撮った写真が収められていた。蓋の裏には、家族の名前。やばっ、ちょっとウルっときた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「うん。ありがとうラウラさん。そこの棚に置いてくれるかな?」

 

「ああ」

 

 

コトっとペンダントを棚に置いたラウラさんは時計を見た。

 

 

「おっと、そろそろ訓練開始の時間だ。すまないが、これで失礼する」

 

「うん。忙しいときに来てくれてありがとう。よければまた来てください」

 

 

ああ、と答えたラウラさんは少し駆け足で部屋を出て行った。

 

さて、僕はもう一眠りするとしようかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「そこまで!」

 

 

目の前で訓練をする少女達にそう声をかけた。

今日は全員揃っていた。クラリッサは、まだ迷いがあるものの区切りはつけたというところだろう。

 

 

「少し早いが、今日はこれで終了だ。各自、しっかり体を休めること。解散」

 

『イエス、マム!』

 

 

敬礼とともに全員からそう帰ってくる。

どうも、こういうのは慣れないな。

 

第一訓練場を出ようとすると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

息を切らしながら近づいてきたのは、クラリッサだった。

 

 

「織斑教官。昨日は、ありがとうございました」

 

「その様子だと、将冴と会ってきたのだな」

 

「はい。なんとか自分の気持ちに区切りはつけれたと思います」

 

「そうか……将冴はどんな様子だった?」

 

 

柳川家には、本当に世話になっている。将冴はもう一人の弟のようなものだ。話では、両手足を失ったと……もしかしたら、あいつの技術が必要になるかもしれないな。頼むのは癪だが。

 

 

「強がりかはわからないのですが……泣かないで、全てを受け入れていました。彼は強いです」

 

「ふむ……わかった。私も、これから会いに行ってみよう」

 

「あの、織斑教官。彼は……今後どうなるのでしょうか?」

 

 

今後か……昨日、日本の政府から連絡が来たな。どうも、柳川家を誘拐した組織の仲間と思われるものが日本にも潜んでいたと。倉持技研の研究員だった玲二さんと有香さん。二人の研究を盗もうとしていたらしく、倉持技研の二人の研究室と、自宅が荒らされていたという。

 

二人の研究は、日本でのIS技術を飛躍的に伸ばすものだと政府は言っていた。しかし、二人は亡くなり、残ったのは息子の将冴。政府の決定は、将冴に対し重要人保護プログラムを適用させるということだった。

 

これは部外秘なのだが……まぁ、こいつなら大丈夫だろう。

 

 

「おそらく、日本に戻ったら施設を渡り歩くことになるだろう。重要人保護プログラムの適用が決まっている。無国籍になり、名前を変え、場所を変えて生きていくことになる」

 

「……っ!そう、ですか……」

 

 

拳を握り締めるクラリッサに、私は嬉しさを感じた。彼に対する政府の対応に、怒りを感じているのだろう。

 

 

「クラリッサ、将冴と仲良くしてやってくれ」

 

「……はい」

 

 

クラリッサは更衣室へ駆けて行った。

 

さて、私も将冴に会う準備をしよう。




千冬さんも結構好きです。

デレてくれないかな……←


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7話

クラリッサが出てきません。

どうなってる。←


 

支度を終え、将冴の入院する病院まで来た。

 

私が今更あったところで、という気もするが……。

それに、将冴の怪我は一夏が誘拐されたことも関わっているかもしれない。ドイツ軍から聞いた話では、テロリストの制圧任務は本来クラリッサとラウラだけではなかったという。一夏が誘拐されたため、私に恩でも売るつもりだったのだろう。戦力をこちらに集中させた。

 

殴り飛ばしてやろうかと思ったが、意味のないイザコザを起こすのは本意ではない。

 

さて、受付で病室を……

 

 

「ちーーーーーーちゃぁーーーーーーーんって痛い痛い痛い!束さんの頭からなってはいけない音がしてるよ!?メキゴリってなってるよ!?」

 

 

私めがけて走ってきた兎耳つけたバカに、咄嗟にアイアンクローをお見舞いした。挨拶だ、挨拶。

 

私は手を離すと、こめかみあたりを撫でる兎耳つけたバカ……もとい束は涙目になりながら私にポカポカと殴りかかってくる。

 

 

「もう、ちーちゃん!いくらそれがちーちゃんの愛情表現だからって、限度があるよ!」

 

「うるさい。それより、なんでお前がここにいる?」

 

「だってしょーくんいるでしょ?」

 

 

そうだった、こいつは個人的に将冴と知り合いだったな。こいつに気に入られることの大変さを教えてやらんとな。

 

 

「はぁ……余計な真似はするなよ」

 

「分かってるよー。私だって、しょーくんが心配で来たんだから」

 

 

本当に大丈夫なのか?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

はぁ、外を眺めるだけの1日だった。もう夕暮れが見える……手足がないと、こんなにも不便なのか……。

 

今日やったことといえば、看護師さんにあーんされて羞恥に苦しんだ食事と、なんの抵抗もできなかった看護師さんによる体拭きだった。

 

入院中はこれが毎日か……いや、これからもずっとか。

 

と、その時、病室の扉をノックする音がした瞬間ガラッバンッという音共に扉が開け放たれた。

 

 

「ふぇ!?」

 

「しょーーくーー〈ガシッ〉痛い痛い!ちーちゃん痛い!?」

 

「騒がしくてすまんな。邪魔するぞ、将冴」

 

「千冬さんに束さん?どうしてここに?」

 

 

日本代表と大天災が、なんでこんなところに……。

束さんは、なんとなく納得してしまうけど。

 

 

「今、ドイツ軍のIS教官をしていてな。お前がここに入院してると聞いた。災難だったな……両親のことも、お前のことも」

 

「いえ、そんな……」

 

「私にできることがあれば、何でも言ってくれ。力になる」

 

「ありがとうございます」

 

「ちーちゃん!そろそろこのアイアンクローを解いてくれないかなぁ!?」

 

「すまん、忘れてた」

 

 

千冬さんが束さんを解放する。「本日二度目だよぉ〜」と言いながらこめかみをさする束さん。

 

言ってはなんだけど、なんでここにいるのだろうか。

 

 

「しょーくん久しぶりだね!大天才、束さんだよ!」

 

「久しぶりです、束さん。まさか、ここに来てくれるとは思いませんでした」

 

「しょーくんのお父さんとお母さんは、私が認めた人だからねー。もちろんしょーくんも同じだよ?」

 

「ありがとうございます。2人も束さんにそう言ってもらえて嬉しいと思います」

 

 

ちらりと、ペンダントの方に目を向ける。

 

千冬さんと束さんも同じところに目を向けた。束さんがペンダントを開き、中を見た。

 

 

「まだ聞きたいことあったのになぁ〜。大天才の私でも考え付かないこと思いつくからね〜。ほーんと、びっくりだよ」

 

「ふふ、でもIS開発した束さんには敵わないって、いっつも言ってましたよ」

 

「むふふ、素直に嬉しいかなぁ」

 

「私も、世話になった。本当に……」

 

 

お父さんとお母さんは、すごい人だと改めて思い知った。世界最強とIS開発者に、認められているんだから。

 

 

「あれれぇ?」

 

 

束さんが、突然素っ頓狂な声をあげた。手に持ったペンダントをジロジロと眺めている。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「うーん、なんかこの写真の裏にもう一つ蓋みたいなのがあるね。開けてもいい?」

 

「あ、はい」

 

「束、壊すんじゃないぞ」

 

「わかってるよぅ。この束さんにまっかせなさーい!」

 

 

大きな胸を叩き、ペンダントに手をかけたが、ものの数秒で開いたみたいだ。

 

 

「こんぷりぃ!」

 

「何が入ってました?」

 

「これは……」

 

 

束さんが取り出したのは、データチップだった。これはもしかして、お父さんたちの研究の?

 

 

「もしや、柳川夫妻の研究データか?」

 

「中身見ないとわかんないよぉ」

 

「多分、千冬さんの言う通りだと思います。束さん、お願いがあるんですが」

 

「お、なになにぃー?束さんが何でも聞いてあげようじゃないか!」

 

「そのデータ、廃棄してくれませんか?」

 

 

そう言った瞬間、千冬さんと束さんがびっくりしたような顔をする。

 

まぁ、両親の研究をなくしてくれと言っているのだ。当然といえば当然だろう。

 

 

「将冴、いいのか?」

 

「僕が持っていても無用の長物ですし、この体ではすぐに奪われてしまうかもしれません。悪用されたらお父さんたちに申し訳ないです。だからいいんです」

 

「将冴……」

 

「うん、わかった!この束さんがきっちり削除してあげよう!」

 

「束!」

 

「ありがとう、束さん」

 

「しょーくんの頼みだものね!」

 

 

星が出そうなウィンクをして、可愛らしく舌を出した束さん。これで絶望的なコミュニケーション能力がどうにかなれば、何の心配もないのに。

 

 

「じゃあ、束さんは早速頼まれごとを果たしてくるよ!またねー、ちーちゃん、しょーくん」

 

 

嵐のように去っていった。

 

千冬さんも少し唖然としていたが、すぐに元に戻った。

 

 

「将冴、お前に伝えなければいけないことがある」

 

「何かな?」

 

 

千冬さんは、僕が日本に戻った後の政府の対応を離してくれた。重要人保護プログラム。対象者に危険が及ばないようにするためのものらしいけど、僕にはよくわからない。

 

 

「私が引き取ることも考えている。もちろんお前の意思を尊重するが……」

 

「すいません。まだ判断がつきません」

 

「そうか。急ぐ必要はない。私はあと1年はドイツにいる。退院後は、私が面倒を見よう。一人で日本に帰るよりはいい」

 

「はい、何か何までありがとうございます」

 

「構わん。では、私もそろそろ帰ろう。長居は、お前の負担になる」

 

 

扉へ向かう千冬さんに、再度礼を言うと、千冬さんは手を振ってくれた。

 

不覚にも、可愛いと思ってしまった。




束さん難しくありませんか!?難しいですよね!?

なんでこんなにも書きづらいんだ!?


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8話

前書きのネタがないので、本編どうぞ。


 

彼……将冴と話してからは、なんというか考えがまとまったというか、すっきりした気持ちになった。

 

訓練にも集中して取り組める。最初は訓練に参加するつもりはなかったが、これも彼と話を出来たおかげだろう。

 

 

「ラウラ!ワンテンポ遅れているぞ!」

 

「はい!教官!」

 

 

織斑教官は、誰かにものを教えるのは初めてだと言っていたが、そんなことを感じさせない厳しさがある。

 

そういえば、昨日は織斑教官も彼のところに行くと言っていた。日本に戻った後のことを聞いてしまった手前、彼を放っておきたくない。そんな気持ちが強くなっていた。

 

まぁ、一軍人に何ができるというわけでもないが。

 

 

「よし、集合!」

 

 

織斑教官の号令が響いた。

 

 

「午前の訓練はこれで終了する。午後の訓練だが、少々野暮用が出来てしまい、指導することができない。したがって、午後は休息とする。しっかり体を休めるように。以上だ」

 

『ありがとうございました!』

 

 

予想外にも、午後は休みになってしまった。

 

いつもなら、ルカなんかを誘って食事に行くのだが……

 

 

「……そうだ」

 

 

彼のところに行こう。

日本語も勉強したんだ、ちょうど良い。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

はぁ……この要介護状態はどうにかならないものか。トイレのたびにナースコールして、女の人にすべて見られながら用を足し、処理をしてもらうという……。

 

思春期男子には拷問だ。退院するまでに、僕の精神が持つのかな。

 

……退院後も誰かしらにやってもらわなきゃいけないのを忘れていた……。

 

そんな傷心に浸っていると、コンコンとノックする音がした。目が覚めてから、毎日誰かしら来てくれるなぁ。

 

 

「どうぞ」

 

 

そう返すと、小さく「失礼します」と聞こえ、扉が開いた。

 

入ってきたのはクラリッサさんだ。また来てくれたんだ。すごい嬉しい。

 

 

「き、来ちゃった」

 

 

……?なんだろう。この違和感は、何かが色々間違えてる気がする。

 

 

「こんにちは、クラリッサさん。来てくれてありがとう」

 

「昨日、あ、会えなかったから……私、寂しかった……」

 

 

可愛らしい仕草で……そう言ってきた。

 

 

「……」

 

 

えっと、なんて返せば……というか、この少女漫画のような台詞は一体……1日会わなかっただけで、一体何が……。

 

 

「こ、これ……君のために作ってきたんだ……食べてくれる?」

 

 

?……??

 

バスケットを前に取り出されても受け取れないよ?手がないから……。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……チョット、マッテクレ」

 

 

沈黙に耐えられなくなったのか、初めてお話した時みたいな片言の日本語でそう言って、どっからともなく本を取り出しパラパラとめくっている。

 

一瞬見えた本は、なんか日本の有名少女漫画のように見えたが……気のせいだろうか……。

 

 

『どういうことだ、これが日本の正しい作法なのではなかったのか?意味はよくわかってないが、言っててなぜか恥ずかしいんだぞ……』

 

 

ドイツ語で独り言をつぶやいてる。

 

ああ……なんとなくわかった。

 

 

「クラリッサさん?」

 

「っ!?ナンダ!」

 

「それをお手本にしちゃダメだと思うよ……」

 

「ソウナノカ!?」

 

「それ日本の漫画でしょ?それが通用するのは、漫画の中だけだと思う」

 

 

クラリッサさんはショックを受けたようで、その場で崩れ落ちた。

 

 

『なんということだ……まさかこれが間違いだったなんて……』

 

 

んー、ドイツ語だけど、なんとなく何言ってるかわかるような……。

 

 

「確かに、今のは間違いだと思うけど、来てくれたのはすごい嬉しいよ。ありがとうクラリッサさん」

 

「え、あ、う……コウイウトキ、ナンテ返セバ……」

 

「ふふ。どういたしましてって言えばいいんだよ」

 

「ドウイタシマシテ……ウン、ドウイタシマシテ!」

 

 

新しい事を覚えて、嬉しがってる子供みたい。可愛らしい。

 

 

「でも、さっきの漫画の台詞かな?その時の日本語はすごい上手だったよ。勉強の仕方は間違ってないかもね」

 

「ソウ?私、コレカラ漫画読ム」

 

 

張り切る姿も、子供のようだ。

 

 

「そういえば、そのバスケットはなに?」

 

「ベルリーナー。ドイツノ、オ菓子。パン屋、ドコデモ売ッテル。アゥ〜……ドーナツ、近イ」

 

「へぇ、美味しそうだね」

 

「美味シイ!食ベテ」

 

 

少し顔を赤くしてずいっと差し出してくれる。

美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

 

食べたいのは山々だけど……手がないからなぁ。

 

 

「あ……」

 

 

クラリッサさんの顔が暗くなる。

手が使えないのを思い出したのかな……なんだか申し訳ない。

 

 

「……ウン……」

 

「?」

 

 

クラリッサさんがベルリーナーを手に取り、小さく千切った。

 

 

「アーン」

 

「え?あむっ」

 

 

突然のことに反応できずに、口にベルリーナーを突っ込まれた。

 

砂糖のまぶしてある生地とジャムが口の中で広がった。

 

 

「美味シイ?」

 

「うむ……んくっ。うん、すごい美味しいよ」

 

 

パァっと満面の笑みを浮かべるクラリッサさん。その笑顔に少しドキッとした。

 

 

「モット食ベル?」

 

「う、うん」

 

「ワカッタ、アーン」

 

 

二口目を食べさせてもらったところで、もう聴き慣れてきたノック音がした。

 

 

「将冴、邪魔する……ぞ……」

 

 

私服姿の千冬さんだった。




このクラリッサさんヤベェな。もうクラリッサさんじゃないな。なんだこれ。

反省も後悔もしていない!……と言ったら嘘になる。


感想、評価お待ちしております!


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9話

クリスマスイブですね。

ジーナ(GEから)とクラリッサ(ISから)は私の隣にいるよ(幻覚


 

訓練を午前中に終わらせ、私は女子寮の管理者のところへ向かっていた。退院した将冴を、私の部屋で住まわせるためだ。

 

一人で日本に返すつもりはない。帰るときは一緒だ。

日本政府にもそう伝えた。

 

「ブリュンヒルデが守るなら海外にいても構わない」という言葉ももらった。重要人保護プログラムが適用されるとは言っていたが、まだ適用していないのだろう。おそらくそこまで将冴の事を重要視していない。

 

まぁ、それならそれで構わないのだが。

 

さて、管理人は……いるな。

 

 

「失礼する」

 

「はいはい、どちらさん……って、ブリュンヒルデのねえちゃんか。どうした?」

 

 

出てきたのはボサボサの髪によれたシャツを着てタバコを咥えた女性だった。

 

この人物がドイツ軍の女子寮の管理人、リョーボ(仮名)さんだ。本名誰も知らないらしい。

 

 

「リョーボさんに話があってな。私の部屋に、私の知り合いを住まわせたいんだ」

 

「ねえちゃんの知り合い?」

 

「ああ、13歳の男の子だ。少し特殊な事情で……ドイツにいる間は私が面倒を見ることになってな。ここが女子寮だというのは承知の上で、お願いする」

 

「別に構わんよ」

 

 

軽いな……こんなにあっさり許可が出るとは、私も予想外だ。

 

 

「本当にいいのか?」

 

「おう、ねえちゃんの顔みりゃ、やむを得ない事情なんだろう?なら別に構わないよ。彼氏とかだったら、部屋ごと爆破してやるがな」

 

「生憎、年下趣味ではない」

 

「はっはっは、そうかい。まぁ、私は構わんさ」

 

 

カラカラと笑うリョーボさん。だがすぐに鋭い眼差しを向ける。

 

 

「ただし、その男の子が不正を働いたらわかってるね?」

 

「承知している。というか、不正は絶対にないさ」

 

「そうかい。ま、寮に来ることがあったらアタシにも顔を見せてくれよ」

 

「ああ、また挨拶に来る」

 

 

さて、これでドイツにいる間の将冴の問題はないだろう。

 

まだ時間もある。どれ、着替えてお見舞いに行ってやろう。そうだ、アレも用意しておこう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

色々やることを済ませ、将冴のいる病院へ向かった。

途中で見舞い品も買った。将冴は喜ぶだろうか。

 

病室の扉をノックし、返事が帰る前に開けた。

 

 

「将冴、邪魔する……ぞ……」

 

 

病院には将冴に何かを食べさせているクラリッサがいた。

 

ほ、本当に邪魔だったか……。

 

 

『お、織斑教官!こ、これはその……」

 

 

ドイツ語であわててるクラリッサ。将冴は何かを咀嚼しながら傍観している。

 

 

『落ち着けクラリッサ。それと、今はプライベートだ。普通に呼べ』

 

『イエス、マム!』

 

 

ほとんど条件反射で敬礼をしたクラリッサ。まったく、喧しい。

 

ドイツ語の会話だったため、将冴は何が起きてるのかさっぱりわからないような顔をしている。

 

 

「すまないな将冴。ついていけてないだろう」

 

「まぁ、何となく関係は察したけどね」

 

 

困り顔でそう呟く将冴を他所に、クラリッサは敬礼をとかなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

数分後、ようやくクラリッサさんが落ち着き、二人は椅子に腰かけた。

 

 

「織斑教官……織斑サンモ、オ見舞二?」

 

「ああ、色々と伝えることもあってな」

 

「伝えること?」

 

「ああ、退院した後のことをな」

 

 

千冬さんが伝えてくれたことは、退院した後は一年間は千冬さんと過ごすということだった。

寮の管理人さんの許可がもらえたらしい。

クラリッサさんも同じ寮だという。

 

 

「一年後のことは、その時考えよう」

 

「何から何まで……本当にありがとうございます」

 

「構わんさ。さて、私は先生のところに行ってくる。お前がいつ退院出来そうか聞いてくるよ」

 

 

千冬さんは病室を出て行った。

再びクラリッサさんとふたりっきりになる。

 

 

「ショウゴ、マダドイツニイル?」

 

「うん。一年は千冬さんと一緒だよ。なんだか緊張しちゃうけど」

 

「私モイル。ラウラモ」

 

「うん、その時はよろしくお願いします」

 

「任セテ」

 

 

しばらく談笑していると、ノックを省略して千冬さんが入ってきた。

 

ん?車椅子を押してる。随分メカメカしい車椅子だ。

 

 

「おかえりなさい、千冬さん」

 

「オカエリナサイ」

 

「ああ。将冴、退院許可が下りたぞ。二日後だ」

 

 

二日後……随分早い。

 

 

「医療用ナノマシンの効果が顕著に表れてるらしい。傷の治りが早いようだ」

 

「そうなんだ……すぐに退院できるのは嬉しいかな」

 

「ショウゴ、ヨカッタ」

 

「クラリッサさん、ありがとう。で、千冬さん。その車椅子は?」

 

「ああ、こいつか」

 

 

カラカラと僕のベッドの隣まで引いてきてくれる。

 

 

「これはISの技術を応用した車椅子でな。思考を読み取って思った通りに動いてくれる優れものだ。知り合いの伝手でもらった」

 

「よくもらえましたね」

 

「私の人脈を侮るなよ」

 

「スゴイ……」

 

「退院後はこれを使うといい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

その後、夕方まで3人で話していた。

 

その間、クラリッサさんの日本語がメキメキ上達していた。




はい、クラリッサかわいいかわいい。

千冬ともイチャイチャしたいな……ハーレム……?


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10話

メリクリ

壁破壊作業中です。


 

退院の日を迎えた。

ちょうどドイツ軍の訓練もお休みだったみたいで、千冬さんが迎えに来てくれた。

 

退院までの間、千冬さんが用意してくれた車椅子を動かす練習をしていた。思考のイメージを固めるのが案外難しくて、進んで、止まって、進んで、止まってを繰り返したりしてた。

 

あと、長時間使うと、頭痛が起きる。

ISほど完成されたものではないから、思考制御でラグのようなものが発生し、頭痛を起こすらしい。

 

まぁ、そんなこんなで今は千冬さんが車椅子を押してくれている。

 

 

「お世話になりました」

 

 

僕をずっと世話してくれていた看護師さんと先生に挨拶する。千冬さんに通訳してもらっている。世界最強を通訳にするなんて、僕はバチあたりだ。

 

 

「よし、行くぞ。将冴」

 

「はい」

 

 

今日から千冬さんと暮らすのか……緊張する。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

さて、目の前の惨状をどう説明すればいいだろうか。

 

千冬さんの住んでる寮には何の問題もなく到着した。寮の管理人さんとも挨拶した。日本語を喋れたみたいでびっくりした。リョーボさんと呼んでくれと言われた。

 

そして、いざ部屋を見ると……

 

 

「これは……」

 

 

とても二十代女性の部屋とは思えないほど散らかってる。なんとか足の踏み場はあるが、こっちは車椅子だ。無事に通るのは一苦労だろう。

世界最強の苦手なものが一瞬でわかった気がする。

 

 

「少し散らかってるが……住むには問題はない」

 

「千冬さん、ちょっと失礼な言葉遣いなりますが、言わせていただきます。……女として終わってる」

 

「……自覚はある」

 

 

自覚がある分タチが悪い。つまるところ、根本的に家事ができないのだろう。これは……

 

 

「ドイツでの生活は、千冬さんの花嫁修業になりそうですね」

 

「指導、よろしく頼む」

 

 

僕は動けないから代わりにやってあげることができない。

僕が千冬さんを一人前にするしかない。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

今日、将冴が退院する。

 

織斑教官と一緒に迎えに行きたかったが、大尉への昇格の手続きやらなんやらで行けなかった。

 

午前中でようやく終わり、退院祝いにケーキを買って織斑教官の部屋へ向かっている。

 

織斑教官の部屋に近づくにつれ、ガタガタと動き回る音となにやら指示するような声……これは将冴の声だ。

 

 

「織斑教官?将冴?」

 

 

部屋を覗いてみると、そこには……

 

 

「ほら!洗濯物の襟が曲がってる!もっとピシッと!」

 

「あ、ああ」

 

「箒の扱いが雑だよ!埃が舞ってる!」

 

「すまない……」

 

「フライパンの油汚れはそんな軽くこすった程度じゃ落ちないよ!もっとこする!」

 

「承知した……」

 

 

織斑……教官?

将冴が……教官?

ん?何がどうなって?

 

部屋の外で何が何だかわからず眺めていると、将冴が私に気づいた。

 

 

「あ、クラリッサさん。いらっしゃい。いま少しバタバタしてて」

 

「いや、それは構わないが……これは……」

 

 

猛勉強した日本語の成果を聞く前に、この状況について聞かなければならない。

 

 

「千冬さんの家事スキルが絶望的で……ちょっと花嫁修業も兼ねて指導中」

 

「花嫁修業か……日本の花嫁は裸エプロンが正装だと聞いたが……」

 

「また間違ってる。それは漫画の中だけ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「そうです。今度からちゃんと調べましょうね」

 

 

どうも将冴には頭が上がらない。

 

その時、フラフラとした足取りで織斑教官が戻ってきた。

 

 

「織斑教官……その……」

 

「クラリッサ」

 

「はっ!」

 

「このことは誰にも言うな」

 

「イエスマム!」

 

「もう、千冬さんの自業自得なのに……」

 

 

つい反射で敬礼してしまったが、将冴の言う通りだと感じた。

 

っと、忘れないうちに……

 

 

「織斑教官、これを」

 

「なんだ?ケーキか?」

 

「はい。将冴の退院祝いに」

 

「そうか、すまないな」

 

「ありがとうございます、クラリッサさん」

 

 

喜んでもらえた。ホッとした。

 

 

「せっかくだ。今食べてしまおう。皿とフォークは……」

 

 

織斑教官はキッチンの方へ向かった。

私も手伝おうとした時、コツンとふくらはぎあたりに何か当たった。

 

見てみると、将冴が車椅子を動かして私に当てたようだ。

 

 

「将冴。どうした?」

 

「日本語、すごい上手くなりました。いっぱい勉強したんですね」

 

「え、あ、あ……」

 

 

そう微笑む将冴の顔をみて、自分の顔がかぁと熱くなった感じがした。

 

 

「ありがとぅ……」

 

 

なんだか、すごいどきっとした。




クラリッサかわいい。異論は認めない。

かわいい。

サンタコスクラリッサとか、鼻血でる。


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番外編

今回番外編ということで、日本にいる人たちのことをピックアップします。

一夏、箒、鈴にスポットを当てていきます。


 

「起立、礼」

 

 

何気ない朝のSHR。

クラス全体を見れば変わりはないのだが、個々人となると、2人ほど様子のおかしい人物がいた。

 

織斑一夏と凰鈴音だった。

 

一夏と鈴の席の間にある空席。

そこは柳川将冴の席だった。

 

2週間程前、一夏と同じくドイツでモンドグロッソを見に行った将冴は未だに帰ってきていない。

 

一夏は一夏で誘拐され、大変な目にあっていたが、それでもすぐに帰国できた。一重に姉である千冬のおかげだろう。

 

だが、彼はまだこの席に戻ってきていない。

 

SHRが終わり、次の授業までの空き時間。

鈴は一夏の近くに立った。

 

 

「ねぇ、一夏。将冴って、あんたと同じ日に帰る予定だったのよね?」

 

「ああ、でも俺は色々あって違う飛行機を手配されたから、将冴と一緒の飛行機じゃないんだ」

 

「そう……だったわね。千冬さんからは、何か連絡ないの?今ドイツにいるんでしょ?」

 

「ああ。ただ、心配するなとは言ってたけど……」

 

 

すでに事情を知っている手前、千冬は一夏に話せないでいるのだ。政府の絡むことなのだ。そうやすやすと一般人に話せるものではない。

 

 

「何か、事故に巻き込まれたとか……」

 

「そうなってなければいいけど……」

 

 

2人の願いは叶わない。

 

そして、後日。将冴の転校が伝えられた。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「いやぁーーー!!」

 

 

鋭い太刀筋で、相手から面を奪う。

 

剣道全国大会、中学生の部の決勝はあっけなく終わった。

彼女……箒は実に不機嫌だった。

 

理由は、その日の出場者一覧が原因だった。

 

 

(男子の部……将冴の名前がなかった……)

 

 

箒が唯一認めた剣士。

彼の剣を見るのを、そして自分の剣を見てもらうのを楽しみに、この大会に臨んでいた。

 

しかし、彼の名前はプログラムになかった。

 

 

(プログラムに名前がないということは、大会前に辞退したということ……)

 

 

彼の剣の腕は本物であり、大会に出れば優勝は間違いなかった。それに彼の剣に対する思いも本物だった。

 

 

(止むに止まれぬ事情があったのだろうか……)

 

 

プログラムを見た瞬間、辞退したのだと憤りを感じ、決勝までそれを引きずっていたが、冷静になって考えると彼が辞退するとは思えない。

 

 

(何か……事故に巻き込まれたのだろうか……)

 

 

彼の安否を知る術を、彼女は持っていなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴の転校が知らされた日の放課後。

一夏は何度も訪れた将冴の家へ向かった。

鈴を誘ったが、相当ショックだったらしく、沈んだ顔で帰っていた。

 

見慣れた屋根を見つけ、走り寄る。

 

近づいて、すぐに気付いたのは人の気配がないこと。

窓を覗いてみると、部屋の中には何もなかった。

 

 

「嘘……だろ……」

 

 

千冬が忙しい時、何度も訪れたこの家は、もう一つ自分の家と言っても過言ではない。

 

いつも一緒にゲームをした部屋。将冴と将冴の両親と一緒にご飯を食べた部屋。

 

もう何もなかった。

 

一緒にいた思い出が、跡形もなく。

 

 

「なんで……なんで一言も……くっそ」

 

 

なんとか堪えた涙は、また流れる日を待つのだった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

家に帰るなり、両親に挨拶もせず、部屋にこもった鈴。制服のままベッドにたおれこみ、顔を枕に押し付けた。

 

 

「なんで何も言わないのよ……バカ将冴」

 

 

将冴とは日本に来てからの付き合いだった。

最初はいつも一夏と一緒にいて、剣道をしてる、くらいの印象だった。

 

だが、鈴がいじめられた時。真っ先に助けてくれたのは一夏と彼だった。

 

それがすごく嬉しかった。

 

それからは一夏と将冴とよくつるんでいた。

 

大切な親友だった。




なんかグダッたけど、必要な話だと思います。はい。


クラリッサ出てこない……どういうことだ←


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11話

ふう、クリスマスで壁を殴り続けた拳が痛むぜ。


ほのぼの系を書くのが少し苦手です。

お見苦しいかもしれませんが、お付き合いいただけたらと思います。


 

「将冴、行ってくるぞ」

 

 

ドイツ軍服をビシッと着こなした千冬さん。

これからお仕事だ。

 

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

「リョーボさん、お手数かけるがよろしくお願い頼む」

 

「あいよ。今日も任せておきな」

 

 

安心したような顔をして千冬さんはお仕事へ向かった。

 

僕が千冬さんと同居を始めて、既に一週間が経った。

千冬さんが仕事に行ってる間、僕はリョーボさんにお世話になってる。もう、本当に、色々とお世話になりました……。もう羞恥心を捨てるしかないだろうか。

 

 

「さて、将冴。今日もよろしく」

 

「はい」

 

 

僕は寮の出入り口近くに車椅子を止める。

少しすると、女子寮に住んでる人たちがそれぞれの部屋から出てくる。

 

 

「あ、将冴君だ」

 

「将冴君おはよう」

 

 

ここは女子寮ということで、出てくるのは女の人ばかり。

 

 

「おはようございます」

 

 

僕は一人一人に挨拶していく。

これは僕がこの寮に慣れるためにリョーボさんが考えてくれた。いくら特例とはいえ、ここは女子寮。しかもISの普及により世間は女尊男卑の思想が根付いている。当然、僕を快く思わない人がいる。

 

そこで、この挨拶運動だ。こうすることで、ここに住んでる人たちと交流を持って、仲良くなろうという魂胆。

 

まぁ、一度寮生全員と顔合わせしたら、そんなことを感じさせずに、すぐに馴染めたけど。

 

因みに、ドイツ語は猛勉強しました。リョーボさんの教え方がすごいうまくて、もう日常会話なら問題なくこなせるようになった。自分でも、異常だとは思うけど。

 

 

「む、将冴か。おはよう」

 

 

現れたのはラウラさんだ。ラウラさんもこの寮に住んでいて、僕と歳が近いから結構お話しする。

 

 

「ラウラさん、おはよう」

 

「毎日朝早くご苦労だな」

 

「ふふ、でも僕は結構楽しんでるよ?ここに住んでる人、みんないい人だし」

 

「そうか。にしても、ドイツ語が上手くなったな」

 

「猛勉強しましたから」

 

「いい心がけだな。では、私はもう行く。今度、ゆっくり日本のことを教えてくれ」

 

「うん、頑張ってね」

 

 

どうもラウラさんは、千冬さんに影響されて日本に興味を持っているようだ。他の寮生の人たちも、よく僕に日本のことを聞いてくる。

 

僕も個人的に色々調べて、日本の歴史とかを学べそうな本とかを勧めている。

 

と、この寮で一番交流のある人を見つけた。

 

 

「あ、クラリッサさん。おはようございます」

 

「おはよう、将冴。今日も挨拶か」

 

「はい。僕にできるのはこれくらいですから。ルカさんは一緒じゃないんですか?」

 

 

ルカさんはクラリッサさんの同期で、一番仲がいいそうだ。部屋も同じだと言っていた。

 

 

「少し準備に手間取っていてな。先に行ってろと言われた」

 

「そうだったんですか」

 

「そうだ。昨日教えてもらったアニメ。すごく楽しかった。特に、日本のスクール水着というのは良いものだな。なぜだかわからないが、すごい興奮した」

 

 

クラリッサさんの思考がよくわからない。

 

 

「純粋に学園コメディとして教えたんだけど、なんか間違った楽しみ方をしているような……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「なんでもないよ。楽しんでもらえたなら良かった」

 

「また色々お勧めを教えてくれ」

 

「はい。色々ピックアップしておきますね」

 

 

そんな他愛もない話をして、朝の時間は過ぎていった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

午前中の訓練を終え、昼食の時間。

私はルカと軍の食堂で食事を取った。

 

 

「で、クラリッサ。最近どうなの?」

 

「どうとはなんだ」

 

「将冴君よ。よく話してるじゃない」

 

「世間話だ。別に言及することでもない」

 

「そうは言うけどね〜。あんた、気づいてないでしょ」

 

 

気付いてない?なんのことだ?

 

 

「将冴君と話してる時、あんたすごい楽しそうな顔してるわよ」

 

「な!?」

 

 

私が楽しそうとは……な、何を言って!

 

 

「少し前は、世界の終わりみたいに沈んでたのに。本当に幸せそうなことで」

 

「ば、バカなことを言うな!私は、別に……」

 

「もうその反応が信じられないっての……」

 

 

た、確かに……将冴と話していると楽しいが……ただ、それだけだ。それだけのはずだ……。

 

 

「ま、私から言えることは……」

 

「な、なんだ……」

 

「今のままだと犯罪だから、あと5年待ちなさいね」

 

「ルカぁーー!!!」

 

 

とりあえず、一発殴り飛ばしてやる。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ふむふむ、なぁるほどねぇー」

 

 

薄暗い部屋で、ウサ耳をつけたエプロンドレスの女性、篠ノ之束がカタカタとキーボードをタイピングしていた。

 

 

「いやぁ、さすがは私の認めた二人だね。まさかこんなものを考え出すなんて」

 

 

作業が終わったのか、ターンとキーボードを叩き終えると、コンピューターからデータチップを取り出す。

 

それは、将冴が廃棄を頼んだものだった。

 

 

「しょーくんには悪いけど、中身が気になっちゃったんだよねぇー。まぁ、もう廃棄するけど」

 

 

ぽいとデータチップを投げる。投げた先には、巨大なプレス機のようなものがあり、データチップはものの見事に粉砕された。

 

 

「しかし、データを見る限り、これはしょーくんのためにあるようなものだね」

 

 

コンピューターのモニターには、設計図のようなものが映し出されていた。

 

 

「ふふ、ISとは少し違う存在か。どれどれ、束さんの技術と二人の研究の合作といこうじゃないか」

 

 

エンターキーを押す。

 

モニターにとある単語が現れる。

 

 

 

《Vtype:VIRTUAL-ON》




はい、将冴の専用機フラグでございます。

しかし、専用機になるのは、もちっと先なのじゃよ。


そうそう、最近クラリッサさんがとある忍者小説を読んでるようですよ?


クラリッサ「アイエエエ!ルカ=サン、インガオホー!ショッギョ・ムッジョ!」


やめてクラリッサさん!作者は忍殺語使えないの!!


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12話

やりたいこと詰め込みました。

もうね、自分が楽しんでおります。


 

「今日の訓練は終了だ。解散」

 

『ありがとうございました!』

 

 

本日の仕事を終え、帰り支度をするために更衣室へ向かうと、数名の女子が着替えていた。

 

中にはクラリッサやラウラもいる。

 

 

「織斑教官!本日はありがとうございました」

 

 

私に気づいたラウラが下着姿で敬礼をする。

 

ラウラは訓練している中で一番伸びがいい。後々、隊長なんかを任せられるほどの器になると感じている。

 

 

「敬礼を解け、ラウラ。もう私の今日の仕事は終わったし、プライベートだ。あと、早く服を着ろ」

 

「はい!」

 

 

どうも、このノリは抜けないようだ。

そんなか、私に話しかけてくる者がいた。

 

 

「千冬さん」

 

「クラリッサか。どうした?」

 

 

将冴が一番気を許しているクラリッサだった。よく将冴の話し相手になってくれている。どうも、将冴は私と話すとき少し萎縮してしまっているようだからな。クラリッサのような存在は、私としても助かる。

 

 

「今日、夕食をご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

 

寮では夕食が出る。私は将冴に食べさせるためにいつも一緒に食事を取っていた。私が言うのもなんだが、教官である私が将冴の世話をしているのが近づきづらい雰囲気を作っているらしく、いつも私と将冴の二人だけで食べているのだ。

 

クラリッサが前から一緒に食べようとしていたのは知っていたが、他の人の前では言い出しにくかったのだろう。

 

この更衣室にいるのは数名。まぁ、絶好の機会だろう。

 

 

「別に構わないぞ。クラリッサが来てくれた方が、将冴も喜ぶだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 

パァッと顔を輝かせたクラリッサ。本当、いい顔をする。

 

 

「きょ、教官!僭越ながら、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

 

ラウラが挙手して志願してきた。

 

 

「ああ、人数が多い方がいいだろう」

 

 

それにつられてか、他の数名も挙手して名乗りをあげる。

 

今日の夕食は賑やかになりそうだな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

リョーボさんにドイツ語を教えてもらっていると、すでにみんなが帰って来る時間だった。

 

 

「おっと、もうこんな時間かい」

 

「そろそろみんな帰ってきますね。僕、出入り口行きますね」

 

「あいよ」

 

 

帰って来る人たちを出迎えるのも、日課になりつつある。

少しすると、寮生の人達が帰って来る。

 

 

「お帰りなさい」

 

「あ、将冴君ただいま」

 

 

みんな返事を返してくれる。受け入れられてる気分がして心地いいものだ。

 

しばらくすると、千冬さんが見えた。

千冬さんの周りには、クラリッサさんにラウラさん。ルカさんや他の寮生の人がいる。

 

いつも一人で帰って来る千冬さんが、みんなと帰って来るなんて。少し驚いた。

 

 

「みなさん、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいま将冴」

 

「すごい大所帯ですね、千冬さん」

 

「ああ、一緒に食事がしたいと言われてな。将冴がよければ、一緒させてもいいか」

 

「もちろんです。ふふ、少し楽しみだな」

 

 

日本にいたときはお父さんやお母さん、一夏、たまに鈴も一緒だったから、こんな大勢でご飯は久しぶりだなぁ。

 

 

「それじゃ、食堂に行きましょう」

 

「ああ」

 

「あ、ちょっと待て」

 

 

方向転換して、食堂へ向かおうとすると、クラリッサさんが制止した。なんだろう?

 

 

「私が車椅子を押す。思考制御は疲れるだろう」

 

「クラリッサさん、ありがとうございます」

 

「あ、クラリッサずるい。私も押したい!」

「私も!」

「いや、私が!」

 

 

食堂までの短い道を、何人も代わる代わる押してくれた。

久しぶりにお腹を抱えて笑った。

 

いや、実際にお腹を抱えたわけじゃないけどね。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

食堂に着くと、美味しそうな料理の匂いが漂ってきた。

 

 

「今日はカレーだね」

 

「ああ、そうだな」

 

「将冴の分は私が取ってこよう。待っていてくれ」

 

 

クラリッサさんが僕を空いてる席まで押してから、夕食を取りに行った。

 

 

「教官!教官の分は私が取りに行きます。座って待っていてください」

 

「あ、ああ。すまないな」

 

 

ラウラさんも駆け足でクラリッサさんの後を追う。

千冬さんは、僕の正面の席に座った。

 

 

「騒がしい奴らだな」

 

「そうだね。でも、僕は楽しいですよ」

 

「そうか。……すまないな、もっと早くみんなと食事を取るようにしていれば」

 

「千冬さんが謝ることじゃありません。いつも世話してもらってるのに、僕は何もできなくて。むしろ謝るのは僕の方です」

 

 

千冬さんに僕はかなり負担になっている。それでも、千冬さんはいつも通り接してくれる。

 

食事の介助、トイレや寝るとき……全部千冬さんの手を借りなければならない。

 

せめて、手だけでも使えたらと……そう思うようになっていた。

 

そんな事を考えていると、ビシッと千冬さんにデコピンされた。

 

 

「あうっ!」

 

「余計な事を考えてるな?」

 

「いてて……千冬さんにはお見通しですね」

 

「私がお前の世話をすると決めたんだ。お前が負い目を感じる必要はない」

 

「はい……すいません」

 

 

わかればいいと笑った千冬さん。本当、千冬さんには敵わないや。

 

 

「将冴、夕食を持ってきたぞ」

 

 

ちょうどよくクラリッサさんが戻ってきた。カレーが置かれたお盆2つを器用に両手で持って。

 

 

「教官、お待たせいたしました」

 

 

ラウラさんも戻ってきた。他の人達も、自分の分を持って、僕達が座っている席の近くに座っていく。

 

 

「クラリッサさん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 

嬉しそうにそう返してくれた。

 

 

「冷めないうちに食べよう」

 

 

ラウラさんからカレーを受け取った千冬さんが、そう言うとみんなも食べ始める。

 

僕は千冬さんが食べ終わるのを待つ。千冬さんが食べ終えてから僕の食事をするのが、僕と千冬さんの決まりごとになっていた。というか、僕が決めた。

 

と、その時、目の前にカレーを掬ったスプーンが差し出される。

 

 

「ほら、将冴。あーん」

 

 

クラリッサさんが、さも当然のように言った。

 

 

「え、これは……」

 

「今日は私が将冴の食事介助する。あーん」

 

「あ、あーむ……」

 

 

千冬さんがやってくれるのは慣れたんだけど、クラリッサさんにやってもらうとすごい恥ずかしい。

 

 

「おいしいか?」

 

「は、はい……」

 

「そうか。はい、もう一口」

 

 

もう一口食べさせてもらう。他の人達はニヤニヤと見ていた。千冬さんも、にやけを隠しきれずに、口角を上げながらカレーを食べている。

 

 

「はい、あーん」

 

「あーん……」

 

 

本当に恥ずかしい……




クラリッサさんにあーんしてもらいたいのは、私だけじゃないはず。きっとそう。


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13話

サービス回。

私にとってはサービス回です。
読者の皆様には、わからないですが……


 

羞恥にまみれた食事が終わり、みんなシャワーを浴びたりするために部屋に戻った。僕はクラリッサさんに車椅子を押され、千冬さんとラウラさんと部屋に向かっていた。

 

途中でラウラさんも自分の部屋へ戻る。

 

 

「教官、今日はありがとうございました」

 

「構わない。また一緒に食事してやってくれ」

 

「はい。それでは、おやすなさい」

 

 

ラウラさんと別れ、また部屋へ歩いていく。

 

部屋に着き、クラリッサさんに中まで押してもらった。

 

 

「クラリッサさん、ありがとうございました」

 

「これくらいおやすいご用だ。いつでも私を頼ってくれ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「将冴、体を拭こう」

 

 

上着を脱いでワイシャツ姿になった千冬さんがワイシャツ姿で手に濡れたタオルを持って現れた。

 

 

「はい。お願いします」

 

 

千冬さんが服を脱がせてくれる。

ちなみに、僕はTシャツにハーフパンツを着ている。腕と足がないから、これで十分なのだ。

 

上着を脱いだ瞬間、クラリッサさんがおぉと声を上げた。

 

 

「これは見事な腹筋……」

 

「ああ、私も最初に見たときは驚いた」

 

「ちょ、見ないで!」

 

 

日本で鍛えた体を見られるのはいやぁ……。

それに最近鍛えてないから落ちてきてるし……こんな中途半端な筋肉を見られるのは嫌だぁ……。

 

 

「ふむ……」

 

「千冬さん?」

 

 

体を拭いていた手が止まる。

 

 

「将冴、シャワーを浴びたいんじゃないか?」

 

「え、でも、千冬さんがいつも頭とかシャワーしてくれますよね?」

 

「いや、そういうことではなく……すまない、言葉が足りなかったな。お湯に浸かりたくないか?」

 

「お風呂ってことですか?」

 

「ああ、ドイツは日本のように浴槽に浸かる風習がないからな。将冴はしばらく日本に戻れないだろうしな」

 

 

ふむ……確かに温泉とか入りたい。

 

 

「幸い、ここの浴室はバスタブがある。今までも入れてやろうと思っていたのだが、私一人では難しいと思っててな。だが今は……」

 

 

千冬さんがクラリッサさんの方を見る。

 

 

「わ、私ですか?」

 

「二人なら、まぁなんとかなるだろう。どうだ?」

 

 

いや、どうだと言われましても……

 

うーん、クラリッサさんに迷惑になると思うし……まぁ、お風呂に入りたいのは本当なんだけど……。

 

 

「無言は肯定と受け取る。クラリッサ、手伝え」

 

「は、はい!」

 

「わ、ちょ、いきなり持ち上げないで!ああ!?下を脱がさないで!へ、ヘルプーーー!!?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

さて、今僕は浴槽に浸かってる。

 

 

「どうだ、気持ちいいか?将冴」

 

「しょ……将冴の腹筋が……」

 

 

バスタオルを巻いた千冬さんとクラリッサさんと一緒にだ。

 

ちなみにクラリッサさんが浴槽の中で正座して、僕をその上に置き、お腹に手を回して支えてくれている。ペタペタとお腹を触られてくすぐったい。

 

目の前には千冬さんがいる。恥ずかしげもなく堂々と湯に浸かってる。

 

 

「しかし、いざ入るとやはり気持ちがいいな」

 

「背筋も……素晴らしいものだ……」

 

 

クラリッサが僕の筋肉をまじまじと見ている。さ、触らないでください……。

 

 

「あ、あの……もう上がりたいんですけど……」

 

 

13歳の思春期男子にこれは辛い……いや、あの、色々と……。

 

浴槽自体が狭いので、クラリッサさんの胸が背中に……そして、千冬さんの体もすぐ目の前にあって……。

 

 

「ふふ、一丁前に男みたいだな」

 

 

千冬さんが僕の下半身を見て不敵に笑う。

 

「これが……男性の……」

 

 

クラリッサさんも、僕の後ろから覗き込んでる……。

 

 

「もう上がる!上がらせてください!」

 

もう婿に行けない……




……私何書いてんだろ……いや、本当に……。

おねショタっぽいのを書きたかっただけです……はい。


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14話

少し物語をISっぽくしていきましょう。


ところで、クラリッサさんが眼帯つけるのっていつ頃ですかね……。

今までつけてないんですよね……(ガクブル


 

ふと、目を覚ました。

時刻は深夜2時。まだ起きるには早い時間だ。

隣のベッドで寝ている将冴を見る。

 

静かな寝息をたてて、寝ている。しかし、寝顔はやけに悲しそうだ。それに小さく口が動いている。

 

 

「お父さん……お母さん……」

 

 

確かにそう呟いた。

 

そう、彼はまだ13歳だ。一夏のように、物心つく前から親がいなくなったわけじゃない。心の傷は深いものだ。将冴は精一杯強がっているんだ。

 

優しく、将冴の頭を撫でる。

 

 

「私がいる。クラリッサもラウラもいる。みんなお前を助けてくれる」

 

 

私は携帯電話を取り出し、番号を入力する。

 

1コール目で相手が出る。

 

 

「もすもす終日ー?はぁい、ちーちゃんの嫁さん、篠ノ之束だよー!元気だった?元気だよねー!ちーちゃんだから元気だよねぇ!」

 

「うるさい。将冴が寝ているんだ」

 

「おっとー、こりゃ失敬。それでそれで?ちーちゃんから連絡とは珍しいじゃないかー。私になにか頼み事かな?」

 

「ああ、多分お前にしか頼めない」

 

「むっふっふー。当ててあげようか?ずばり、しょーくんのことでしょ!そうでしょそうでしょ!」

 

 

まったく、こいつにはなんでもお見通しか。

というよりは、束も将冴になにかしてやりたいんだろう。

 

 

「束、お前に作ってもらいたいものが……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

 

「……できるか?束」

 

 

なぁるほどねぇ。確かに私にしかできないかもねぇ。

 

 

「誰に言ってるのかなぁ。この大天才、束さんだよ?そんなのお茶の子さいさいだよー。あ、でも色々処置を施さなきゃいけないから、しょーくんをしばらくラボに連れて行ってもいい?」

 

「……仕方あるまい。いつ迎えに来る?」

 

「明日……あ、もう今日だね。お昼頃に迎えを行かせるよ」

 

「わかった。将冴に伝えておく」

 

「よろすこー」

 

 

プツッと音がして電話が切れた。

さて、そうと決まったらアレを仕上げちゃおう。

むっふっふー、楽しくなってきたね。

 

 

「くーちゃん。ちょっと頼まれごとされてくれるかな?」

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

なんだか揺れる感じがして、目が覚めた。

 

顔を横に向けると、千冬さんが僕を揺り起こしてくれたようだ。

 

 

「千冬さん……おはようございます」

 

「おはよう。朝食にしよう」

 

 

千冬さんが僕を抱き起こし車椅子に座らせてくれる。

 

思考制御で車椅子を慣らす。

これをしないで、いきなり動かすとすぐに頭痛が起きる。

 

 

「大丈夫か?」

 

「はい、もう大丈夫です」

 

 

車椅子を部屋に備え付けてあるテーブルの近くで止める。テーブルの上には、綺麗な焼き目のついたフレンチトーストが切り分けて置かれている。

 

料理も絶望的だった千冬さんに、このフレンチトーストをマスターしてもらうのに3日かかった。

 

 

「ほら、口を開けろ」

 

 

フォークでフレンチトーストを突き刺し、僕の口の前まで持ってきてくれる。

 

 

「いただきます。あむ……」

 

 

うん、卵と牛乳の配分もちょうどいい。フレンチトースト「は」完璧に作れるようになってくれた……。

 

 

「なんでそんな感慨深い顔をしている」

 

「いや、一番最初のフレンチトーストのことを思い出したら、ちょっと……」

 

「……」

 

 

無言でデコピンの構えをする千冬さん。

 

 

「わ、わ、すいません!あいた!?」

 

 

有無を言わさずデコピンをされた。

 

 

「まったく、年上をからかうな」

 

「いてて、ごめんなさい」

 

「……将冴、話がある」

 

 

突然真面目な顔をして、僕と目を合わせた。

かなり大事な話なんだ。

 

 

「今日、束の使いがお前を迎えに来る」

 

「束さんの使い?それはどうして……」

 

「私が頼んだからだ」

 

 

千冬さんが頼んだから?わざわざ束さんに頼むことなんていったい……。

 

 

「……何を頼んだんですか?」

 

「将冴……お前の体を元に戻してくれと」

 

「僕の体を……元に?」

 

 

そんなことが……いや、あの細胞レベルでオーバースペックを自称している束なら……。

 

 

「本当に、元に戻るんですか?」

 

「束曰く、お茶の子さいさいだそうだ」

 

「はは、束さんが言いそうなことだ」

 

 

本当に……本当に元に戻るなら……。

 

 

「しばらくは束と一緒に過ごすことになるだろうが……悪い話ではないと思う」

 

 

きっと、千冬さんは僕のために束さんと話を通してくれたんだろう。僕にその厚意を断ることは……できない。

 

 

「千冬さん。僕は束さんのところへ行きます」

 

「そうか。では、お前の荷物をまとめておこう。数日分の着替えと……」

 

 

あ……準備する前に朝食を……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

千冬さんが仕事に向かい、日課の挨拶をしていた。

 

しばらくはできなくなる。自然と力が入る。

 

 

「おはようございます!」

 

「おはよう、将冴君。今日は元気だね」

 

「ふふ、そうですか?今日も頑張ってください」

 

 

いなくなることはリョーボさんには伝えてある。

いつ帰るかわからないし、クラリッサさんやラウラさんには直接伝えたい。

 

と考えていると、クラリッサさんとラウラさんとルカさんが現れた。

 

 

「あ、皆さんおはようございます」

 

「将冴か、おはよう」

 

 

さて、どう切り出そうかな……




中途半端ですが、ここで切ります。続きは明後日になるかもしれません。申し訳ありません。

余裕があれば、明日更新いたします。


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15話

どうも、sha-yuです。

昨日は更新できず申し訳ありません。

あと、文量も少ないとの声もいただきましたので、少しボリュームアップを試みてみます。

ただ文量アップに関してはちょうど良いところ切ることがあるので、短くなることがありますので、そこはご了承いただけたらと思います。


クラリッサさんたち3人が、僕の周りに集まる。

 

 

「よぉ、将冴君。今日もご苦労様」

 

 

ルカさんがぐりぐりと頭を撫でてくる。抵抗できないのでなされるがままだ。

 

それを見たラウラさんも、僕のほっぺたをつんつん突っついてくる。

 

 

「うわぁ、二人ともやめてぇ〜」

 

「はっはっはー、将冴君はめんこいなぁ」

 

「む、お前の頬はプニプニしてて触り心地が良いな……肌もすべすべしてて……一体どんな手入れをしているんだ?」

 

「え、そんなに?……わぁ、本当だ。これは妬ましいわね」

 

 

ルカさんまでほっぺたを……ちょ、これじゃお話できない。

 

 

「クラリッサさん〜助けてぇ〜」

 

「ほら、二人とも。将冴が困っているぞ。やめてやれ」

 

 

ルカさんとラウラさんは、クラリッサさんに止められ渋々といった様子でつつくのをやめた。

 

 

「ふぇ……」

 

「大丈夫か?将冴」

 

「はい……あ、そうだ伝えなきゃいけないことがあるんです」

 

 

いけないけない、大事なことを忘れるところだった。

クラリッサさんは僕と目線を合わせてくれる。

 

 

「伝えなきゃいけないこと?なんだ?」

 

「はい、急な話なんですけど、しばらくここを離れることになったんです」

 

「え!?本当に急な話だな……」

 

「はい、僕も今朝聞いて。たば……千冬さんの知り合いで、僕の体を戻せる人がいるみたいで」

 

「え……」

 

 

クラリッサさんが目を見開く。ラウラさんとルカさんも驚いた顔をしている。それはそうだ。僕だって信じられないよ。その人が束さんじゃなかったら。

 

束さんの名前を出したらもっと驚くから、名前出せないけど。

 

 

「それは本当なのか?」

 

「すごいすごい!将冴君よかったね!」

 

 

ラウラさん驚いた声を初めて聞いた気がする。ルカさんは自分のことのように喜んでくれている。

 

クラリッサさんは……

 

 

「うぅ……」

 

 

泣いてる!?

 

 

「クラリッサさん!?え、なんで泣いて……」

 

「よかったぁ……本当に……うぇ〜」

 

「泣き止んでください。えっと、どうしたら……僕、何かしてしまったんでしょうか……」

 

「違うよ将冴君」

 

 

おろおろしている僕に、ルカさんがクラリッサさんの頭を撫でながらそう語りかけてくれる。

 

 

「クラリッサは嬉しいんだよ。最近はそうでもなかったけど、君が怪我した時からずっと心の中では引きずってたんだよ。君の体の自由を守れなかったって。表に出さないようにしてたけど、嬉しさで気持ちが爆発したのよ」

 

「ルカぁ……言うなぁ、バカぁ」

 

「クラリッサ大尉、お気を確かに」

 

「ラウラも見るなぁ」

 

 

涙で顔がぐしゃぐしゃになってる。ちょっときゅんとした。

 

 

「クラリッサさん、ずっと気にかけてくれたんですね」

 

「そ、そんなんじゃない……」

 

「ありがとうございます」

 

「うっ……」

 

 

クラリッサさんの顔がかぁっと真っ赤になる。

目も泣き腫らして真っ赤なってて、とても人前に出れる顔ではない気がする。

 

 

「み……」

 

「み?」

 

「見ないでくれー!!」

 

 

クラリッサさんが走って出て行ってしまった。

えぇっと……これはどういうこと?

 

 

「ああ、クラリッサ!待ちなさい……って、足早……」

 

「大尉ー!待ってください!」

 

 

ラウラさんがクラリッサさんを追って外へ出て行った。

 

 

「ラウラも……全く。ごめんね将冴君」

 

「いえ、しょうがないですよ」

 

「しばらくいなくなるって言ってたけど、どれくらい?」

 

「そこまではわからないです……そんなに長くはないと思うんですが……」

 

「そっかぁ……まぁ、元気でね。クラリッサとお散歩でもしてあげて。喜ぶと思うから」

 

 

それじゃね、といってルカさんも寮を出た。

 

……ううん、伝えるのは間違いだったのかな?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

寮生の人たちを全員見送ったところで、寮の出入り口に近づく人を見つけた。ラウラさんのような銀の長髪の女の人……って、ラウラさんにそっくりだ。でも、ラウラさんより大人びているというか……

 

その女性はなんの迷いもなく、出入り口と扉をくぐった。

 

 

「こんにちは。何かご用ですか?」

 

「あら……あなたは……」

 

 

女の人僕の体をジロジロと見て、懐から紙を取り出す。

 

 

「片目が隠れるくらいの前髪……喪失している四肢……あなたが柳川将冴様でお間違いないでしょうか?」

 

「は、はい……確かに僕が柳川将冴です。えっと、どちら様でしょう?

 

「申し遅れました。私はクロエ・クロニクルと申します。束様から、あなたをお迎えに上がるように仰せつかりました」

 

 

クロエと名乗った女の人はスカートの端をつまみ、お辞儀をした。

 

僕もつられて首だけでお辞儀ををする。

 

 

「えっと、じゃあ束さんからの使いって、クロエさんですか?」

 

「はい。あなたを迎えに来ました。準備はできていますか?」

 

「え、あ、ちょっと待ってください!」

 

 

僕は急ぎ管理人室の扉を車椅子を動かしてノックする。

 

 

「あいよ、終わったかい将冴?……おや、そちらさんは?」

 

 

タバコをくわえたリョーボさんがクロエさんを見て怪訝そうな顔をする。

 

 

「あ、こちらは僕を迎えに来た……」

 

「クロエ・クロニクルと申します」

 

「おお、もう来たのかい。ちょっと待ってな、荷物持ってきてやるから」

 

 

リョーボさんは再び管理人室へ戻る。僕の荷物を預けてあるからだ。

 

しばらく束さんのところにいるということで、千冬さんが荷物をまとめてくれた。結構な量があるので、リョーボさん1人で運ぶのは骨が折れるだろう。

 

 

「リョーボさん、車椅子に荷物を乗せてください。少しは運びやすいはずです」

 

「いえ、将冴様。私がお手伝いいたします。失礼いたします」

 

 

クロエさんも管理人室に入る。僕は管理人室の外で待っている。

 

 

「おや、嬢ちゃん手伝ってくれるのかい?助かるよ」

 

「いえ、これくらいは……っと」

 

「嬢ちゃん無理するんじゃないよ!」

 

「平気です。これで全部ですか?」

 

「あ、ああ……」

 

 

ガチャっと扉が開く。

 

 

「お待たせいたしました」

 

「うえ!?」

 

 

出てきたのは荷物頭に乗せて、両手に大量の荷物を乗せたクロエさんだった。

 

いや、どうなって……

 

 

「さぁ、行きましょう。将冴様」

 

「え、えっと、はい……」

 

 

クロエは荷物を持って先に外へ出る。

 

僕はリョーボさんの方を向く。

 

 

「リョーボさん。ありがとうございます」

 

「構わないよ。元の体になって戻ってくるのを楽しみにしてるよ」

 

「はい。あ、千冬さんが家事サボらないように見張っておいてください」

 

「ん、任された」

 

「では、行ってきます」

 

 

リョーボさんに手を振られ振りかえすことができないまま、僕は寮を後にする。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

寮から離れると、クロエさんが黒い車に荷物を積み込んでいるところだった。

 

 

「将冴様、お話は終わりましたか?」

 

「はい。お待たせしてすいません」

 

「いえ、構いませんよ。さ、車に乗り込むのを手伝います」

 

 

そう言うと、クロエさんは僕の体をひょいっと持ち上げる。いくら腕がないといえ、それなり重いと思うのだけれど。

 

 

「く、クロエさん……簡単に持ち上げますね……」

 

「これくらいは軽いものです。さぁ、座席に降ろしますよ」

 

 

これまた軽々と車の助手席に僕を降ろし、慣れた手つきでシートベルトを締めた。

 

あ、車椅子は……

 

 

「ふぅ……」

 

 

すでに後部座席に積み込まれていた。

 

クロエさんは運転席に乗り込む。

 

 

「さぁ、出発しますよ」

 

「はい。よろしくお願いしますぅっ!?」

 

 

突然の急発進。

そして急カーブ。

僕の体に強烈なGがかかる。

 

 

「く、クロエ……さん……この、運転は……」

 

「何ですか?」

 

「少し……荒っぽい……よう……な……」

 

「そうですか?まぁ、確かに少し速度オーバーしてますが……問題ないでしょう。あ、次カーブですので何かに捕まってください」

 

「つ、つかまれって……僕は腕が……ぐぬぅ……」

 

 

カーブに入った瞬間。僕は意識を手放した。




なんとか年内に書き上げられました。

今回、文字数が3,000文字ですが……これを毎日やるのは結構辛いですね。

GEの時も毎日更新でしたが、だいたい2,000前後だったのでなかなか難しいです。

なんとか3,000文字程度で毎日更新できるように頑張ります。


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16話

あけましておめでとうございます。

今年も何卒、よろしくお願いします。

毎日更新を目標に、今年も頑張っていきます。


う……ん……ここは……僕は一体……。あ、そうだ束さんのところに向かうのにクロエさんの車に乗ってそれで……。

 

まさか、あんなに強烈なGがかかるとは。クロエさんの恐るべし。で、ここはどこだろうか?病院……ではないな。

 

だってやたらファンシーだもん。童話とかで出てきそうな、ピンクを基調とした部屋だもの。天蓋付きベッドとか初めて見た。

 

などと考えていると、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。足音が近づいてくる。

 

 

「あ、将冴様。目が覚めましたか?」

 

「クロエさん。ここは?」

 

「束様のラボです。厳密に言うと、束様のお部屋になります」

 

 

束さんの部屋?じゃあ、到着したんだ。

確かに、この部屋は束さんが好きそうな感じではあるかもしれない。

 

 

「目が覚めたのなら、丁度良かったです。束様からあなたを連れてくるように言われています。今車椅子に乗せますね」

 

 

車に乗った時のように、ひょいっと体を持ち上げた。本当に、どこにこんな力が……。それになんだか手慣れている。

 

 

「ありがとうございます、クロエさん」

 

「いえ、お安い御用です。では行きますよ?」

 

 

クロエさんがゆっくりと車椅子を押してくれる。

よかった、車椅子を押すのは普通だ。

 

 

「将冴様、申し訳ありませんでした。まさか気絶してしまうとは思わなかったものですから」

 

「あ、あはは……お恥ずかしい限りで」

 

「どうも車を運転すると、スピードを出し過ぎてしまうようで。将冴様は手足がないのに、それも忘れて」

 

「次からは気をつけてください。事故を起こす前に」

 

 

あのスピードで走ってたらいつか事故を起こしてしまう。乗ったことないけど、ISはあのくらいのスピードが出るのだろうか?

 

 

「でも、将冴様が気絶してくれたのはちょうど良かったです」

 

「え?どうしてですか?」

 

「このラボの場所は、完全に秘密なのです。束様の友人とはいえ、見られるわけにはいきません。なので、気絶しなくても、少し眠ってもらうつもりでした」

 

 

ふむ、まぁ、確かに束さんは全世界の人に狙われてるだろうからね。仕方ない処置といえばしかたないのかな。

 

 

「さ、着きました。扉を開けますよ」

 

 

クロエさんがパネルを操作して扉を開いた。

 

扉の奥には、見慣れたウサ耳エプロンの束さんがコンピューターのキーボードを叩いていた。

 

クロエさんが再び車椅子を押し、中へ入る。

 

束さんもその時点で気付いたようで、グルンと僕の方を振り向いた。

 

 

「しょーーーくぅーーーん!!」

 

「わ、ちょっと待っ」

 

 

クロエさんがよけてくれると思ったら、いち早く自分が避難していた。今から動かしても間に合わない。

 

あ、詰んだ……

 

束さんはガシッと僕を掴み抱きしめてくる。

 

 

「会いたかったよぉ〜!しょーくんも会いたかったよね?うんうん、束さんはちゃんとわかってるよ!さぁ、一緒に愛を育もうじゃないか!」

 

「ふが……もごぉ!?」

 

 

胸に……すごい豊かな胸に顔が包まれている。息ができない。このメロンは一体……。

 

 

「束様」

 

「どうしたの?くーちゃん」

 

「将冴様が窒息しています」

 

「おろ?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」

 

「ふっふっふー、しょーくんを私のナイスバディーで悩殺なのだ!」

 

「悩殺どころか圧殺仕掛けてましたが……」

 

「細かいことはいいんだよぉ、くーちゃん。それに、ただ抱きしめたわけじゃないよ」

 

 

あの短時間で僕の体に何かにしたのだろうか。もうなんか色々怖い。

 

 

「今ので大体の腕と足の長さの目処はたったよ。あとは腕と足を作って、しょーくんとドッキングするだけだ!」

 

 

グッと親指を立ててこちらに向けてくるが、束さんが何をしたいのか検討もつかないし、ドッキングとかロボットじゃないんだから……。

 

 

「束さん。僕、何をされるか何も聞いてないんですけど。詳しく教えてくれませんか?」

 

「そういえばそうだねぇ。くーちゃん、お願いできる?」

 

「はい、束様」

 

 

クロエさんがホワイトボードを押しながら僕の前に来た。

ホワイトボードに備え付けてあるボタンを操作すると、ボードに画像が浮かび上がる。

 

電子パネルのようなものだろうか?

 

 

「では、私が説明させていただきます」

 

 

再度、ボードを操作すると、パネルに機械の腕のようなものが浮かび上がる。

 

 

「今回、将冴様の腕と足を束様が作ります」

 

「義肢……ってことですか?」

 

「はい。このボードを見てください。こちらは義手の概要になります。義足はほとんど同じなので、割愛させていただきます。さて、こちらの義肢なんですが、こちらは神経に直接接続するものとなります」

 

 

神経に直接って……一体どうやって

 

 

「特別な機能などはございません。物を触る感覚得るために触覚、痛覚なども再現できます。本物の体のように扱うことができます」

 

「束さんにかかればちょちょいのちょいだよ」

 

「そんなすごいものを、僕に?」

 

「しょーくんだからだよ。しょーくんは私の大切な人だからね」

 

 

 

束さん……

 

 

「それに、ちーちゃんにも頼まれたしね。大丈夫、しょーくんの体は私が戻してあげるよ」

 

「ありがとうございます。本当に……」

 

 

目頭が熱くなる。優しさが嬉しい。

 

でも、今はクロエさんの話を聞かなきゃ。

 

 

「クロエさん。続きをお願いします」

 

「はい。まぁ、この腕のことはこれが大体の機能です。ここからは、この義肢の問題点についてです」

 

 

ボードの画面が変わる。

写っているのは両手足に義肢をつけた人の姿。

 

 

「先ほど、義肢は神経に直接繋げると言いましたね?」

 

 

うん、確かにそう言ってた。そこのところも気になっていたんだ。

 

 

「これが問題点の一つなのですが、義肢を神経に繋げるために、将冴様自身の体に接続するための機械を取り付けなければならないのです」

 

「……つまり、手術を行わなきゃならないということですか?」

 

「……はい。術後は激痛を伴うことが予想されます」

 

 

激痛か……あの誘拐の時の怪我は、すぐに意識を失ったから痛みは感じなかった。

 

 

「それが問題点の一つ、ということはまだ問題点があるんですね?」

 

「その通りです。もう一つの問題点は、義肢4つを同時につけた時です」

 

「義肢4つを?」

 

「まず、この義肢は神経を無理矢理繋げて動かせるようにするものです。一つ、二つまでならそこまで障害はありません。ですが3つ以上つけた場合、神経に多大な負荷がかかります。短時間なら問題ありませんが、長時間となると頭痛を伴い、それ以上になると神経が焼き切れて使い物にならなくなる可能性があります」

 

 

なるほど、なんの代償もなく元に戻ることはないということだ。

 

 

「しょーくん、ごめんね。これ以上は、どんなに改造しても負担を和らげることができなかったんだ……」

 

「束さんが謝ることじゃありません。長時間でなければ、自由に体を動かせるんですよね。僕は、それだけで十分です」

 

 

腕だけでも、足だけでも動けば、千冬さんの負担が減る。ある程度のことは自分でできるようになる。

 

 

「束さん」

 

「なぁに?」

 

「手術、してください」

 

「今の説明を聞いていても、しょーくんは手術してもらいたい?」

 

 

束さんの目が、まっすぐ僕をみつめる。いつも細目の束さんの目が開いている。

 

束さんは、本当に真剣なんだ。

 

 

「はい。千冬さんと束さんが、僕のために作ってくれた機会なんです。僕は、無駄にしちゃいけないんです。だから、僕は手術を受けます」

 

 

束さんもクロエさんも、何も言わない。

 

なんだか、沈黙が怖いんだけど……

 

 

「よしわかった!」

 

 

束さんが叫ぶ。一瞬、心臓を掴まれたような感覚に囚われた。

 

 

「しょーくん。束さんに全部任せなさい。しょーくんの自由は、私が取り戻してあげよう!」

 

「束様……」

 

「ありがとうございます。束さん」

 

「じゃあ、ちょっと身体検査するね。くーちゃん、しょーくんを脱がして」

 

 

……脱がして?

 

 

「はい。お任せください、束様」

 

 

クロエさんが僕のシャツに手をかける。

 

 

「えっちょ……クロエさん?」

 

「おとなしくしてくださいね?」

 

「いや、そういうわけにも!?」

 

「ひんむけー!!」

 

「いやぁーーー!!?」

 

 

また、違う人にすべて見られました。




束さんは白い。この作品の束さんは白いゾォ。

白い束さんはかわいいね。

そして、クロエさんはこれでいいのだろうか。

まぁ大丈夫だろう←


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17話

2日間更新止まってしまい、申し訳ありません。

親戚などに新年の挨拶したり、熱出したりしてしまいまして、更新が滞ってしまいました。

感想へのお返事はできたのですが、書くとなると体力が……。

10日くらいまでは滞るかもしれませんが、ご了承ください。

今回短いです。


「はぁ……」

 

 

デスクで書類を書いているが、溜息が止まらない。

と言うのも、将冴が居なくなって今日で5日。なんというか……こう、何か喪失感というか、足りないのだ。

 

 

「……はぁ」

 

「ちょっとクラリッサ。あんたそれ何回目の溜息よ」

 

 

隣のデスクで別の書類を書きながらルカがぼやいてくる。しょうがないだろう。最近、何か物足りないのだ。

 

いや、何が物足りないかは分かってる。

 

分かっているからこそ、この溜息は厄介なのだ。

 

 

「まったく、将冴君と会えないのがそんなにあんたを思い詰めるとは……こりゃもう乙女だね」

 

「お、乙女ってなんだ!」

 

「もうそうじゃないのさ。日本の少女漫画やらアニメやら見てるときのあんたの顔、もう恋する乙女そのものだよ?」

 

「な!?わ、私は軍人だぞ!こ、恋など浮ついたものは……」

 

「なぁにが軍人よ。今のあんた見たら、誰だってそんなこと思わないわよ」

 

 

顔が熱くなるのがわかる。わ、私はそんなことは……。

 

 

『クラリッサさん』

※クラリッサのフィルターにかけられた将冴

 

 

な、なんで今将冴の顔が!?

だ、ダメだダメだ!大体、7歳も違うし!彼はまだ子供だし!そんな……そんな……

 

 

「……リッサ……クラリッサ。クラリッサ!」

 

「はっ!?」

 

 

ルカの声で正気に戻る。

 

 

「頬抑えて体くねくねさせて……あんたどうしたの?」

 

「なんでもない!別に将冴の事を考えていたわけでは……」

 

「ほぉー?私は将冴君のことは何も言ってないんだけどなぁー」

 

「貴様!図ったな!?」

 

 

ルカの襟首を掴み、前後に揺さぶる。

 

ルカの首ががっくんがっくん揺れている。

 

 

「るぅーかぁー!」

 

「ちょ、あんた、やめ、苦し……」

 

「うーるーさーい!」

 

「うるさいのはお前達だ」

 

 

ゾッとした。寒気がした。

後ろを振り返ることができない。ルカは汗をダラダラとかいている。

 

その顔は恐怖に染まっている。

 

ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには仁王立ちしている世界最強……織斑教官が立っていた。

 

 

「言い残すことは?」

 

「慈悲は……」

 

「ない」

 

 

スコォーンと、分厚いクリップボードで殴られた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

殴られた頭をさすりながら、また書類に手をつけ始める。後ろには監視目的なのか織斑教官私が立っている。

 

しかし、大尉というのは、大変面倒なものだ。こういった書類も片付けなければならない。

 

その時、一枚の書類に目がいった。

 

 

「ん?これは……」

 

 

よく読んでみると、新しいIS部隊の設立。そして、副隊長任命の書類だった。

 

 

「新しいIS部隊……」

 

「ああ、それは私が申請したものだ」

 

「織斑教官が?」

 

「ああ。お前達はISの適合性向上のためにナノマシンを移植されていると聞いた」

 

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)」。

ドイツ軍のIS乗りのほとんどが、この移植処置を受けている。織斑教官の言う適合性の向上以外にも、視覚能力も上がっている。肉眼に直接移植するため、100%安全とは言えない。現に、ラウラの左目は拒絶反応で金色になっている。

 

まぁ、ラウラはそれを自らはねのけ、力をつけている。

 

 

「ドイツ軍のISの扱いは、私から見ていいとは言えなかったから、上層部に進言した。隊長はラウラにと考えている」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒですか?」

 

「ああ。彼女は強い。ISの操縦能力もそうだが、心もな。隊長に向いてると判断した」

 

 

その通りだと、瞬間に感じた。

試験管ベイビーだと聞いたが、それをおくびにも出さず、ヴォーダン・オージェの拒絶反応にも負けない強さがある。彼女にならついていけると、直感的に感じたのだ。

 

だが……

 

 

「織斑教官、私が副隊長というのは、どういうことなのでしょうか?私よりも向いているものが……」

 

「私はそうは思わない」

 

 

そう断言した織斑教官の目は、まるで私の全てを見抜くかのような目だった。

 

 

「まぁ、私情も挟んでいるがな。お前の副隊長任命は」

 

「え、それはどういう……」

 

「なんでもない。さっさと書類を片付けろ。私が夕食を食べるのが遅くなってしまう」

 

「……はい!」

 

 

織斑教官の真意はわからない。だが、なんとなく……この人の言う通りにすれば大丈夫だと。そんな安心感を受けた。

 

 

「そうだ、お前にこれをあげよう」

 

 

織斑教官が懐から一枚の写真を取り出した。

 

 

「織斑教官?これ……は……なっ!?」

 

 

上半身裸の将冴の写真だった。

 

 

「初めて見たときに、この肉体を見て思わずな」

 

「お、おお織斑教官!?こ、こここ!?」

 

「ふっ、うまく使え」

 

 

う、うまく使えって……そ、そんなことは!?

 

 

「クラリッサ……鼻血が出てるぞ」




クラリッサかわいい。

乙女クラリッサかわいい。

振袖クラリッサを妄想して、その後にそれを着崩して肩とかはだけてるの想像したら捗った←


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18話

不定期更新で申し訳ありません。

用事が重なって毎日更新が難しく……。
なんとかサイクルを戻します。

今回はいっぱいキングクリムゾンします。

そして……今回も短いです……申し訳ない……。


 

「将冴様」

 

 

クロエさんが湯気のたつ桶を手に僕の横まで来てくれた。

しかし、僕は答えることができない。

 

 

「あっ……く、くろ……え……」

 

「汗を拭きましょう。痛みは少しひきましたか?」

 

 

小さく頷く。

 

束さんのラボに来てから10日。僕は今、ベットの上でたくさんの管を付けられて寝ている。

 

どうしてこのような状況になっているのかというと、僕の手足の部分(手足はないけど便宜上そう呼ぶことにする)に巻かれた包帯を見れば一目瞭然だと思う。

 

一週間前、義手の接続部を取り付けるための手術を行った。

 

束さん曰く、神経を接続部に無理矢理繋げるため、神経自体が接続部に慣れるまで激痛は取れないとのこと。痛みが取れるのは、束さんの見積もりでは2週間程度と言っていた。

 

手術が終わって、僕は激痛で目を覚ました。3日間は痛みに泣き叫んだ。束さんは心配そうに僕のそばに居てくれて、クロエさんも僕の世話をしてくれた。この時は食事も喉を通らず、管で直接胃に食べ物を流し込んだ。

 

麻酔で痛みを和らげることもできるけど、それは寝るときだけにしていた。何度も使えば、リスクが生じるからと言っていた。

 

4日目で、ようやく痛みが和らいだが、激痛なのは変わらない。今は大分楽になった。でも、3日間痛みで泣き叫んだせいで喉が潰れてしまい、声を出すのが一時的に難しくなっていた。

 

 

「失礼します」

 

 

クロエさんが僕の服を脱がす。入院服とでもいうのか、病院で入院している人が着るような服を着ているので、前を開ければすぐに脱がすことができる。

 

 

「あり……が……」

 

「無理に声を出そうとしなくても大丈夫ですよ。痛みが引く頃には、声も出ます。今は休んでください」

 

 

そう微笑んでくれるクロエさんに、僕はなんとか笑みを作り頷いた。

 

痛みが早く引くのを願いつつ、僕は意識を手放した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

3日が経ち、手術から10日。

 

痛みはかなり和らぎ、声も出るようになってきた。

まだまだ全快ではないけど、激痛で目を覚ますということはない。

 

 

「しょーくーん!束さんがお見舞いに来たよー!」

 

 

ハイテンションな束さんが、扉を叩き割る勢いで入ってくる。今日は機嫌がいいらしい。

 

 

「束さん、今日は、ご機嫌、ですね」

 

 

まだ言葉を発するのに詰まってしまう。

それでも、最初よりはマシになっている。

 

 

「まぁね〜!義肢の調整が終わったから、束さんご機嫌なのですよ。あと、アレも完成したから……」

 

「アレ?」

 

「ううん、なんでもなーい!さて、少し接続部の調子を確認してみるから、包帯とるね」

 

 

束さんが包帯を外していく。手術の痕は医療用ナノマシンのおかげか、すっかり良くなっている。そして、接続部である機会の部分が露出する。

 

 

「少し触るね」

 

 

束さんが接続部に触る。手術の痛みとは別に、触られた感覚がある。少しくすぐったい。

 

 

「うん、しっかり馴染んできてるね。これなら最初に言った通りの日にちで痛みも引くと思うよ」

 

「ありがとう、ございます」

 

「うんうん、順調なのはいいことだよ。義肢のテストもすぐに始めれそうだね。慣らすのにも時間が必要だから、ゆっくり頑張ろー!おー!」

 

 

束さんのテンションに、若干取り残された。




本当に短くてすいません。

キリいいところまで書いたらこんなに短いとは思わなかったです……。


次回は、将冴の義肢初起動。
そして、ようやくアレが……


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19話

どうも、吹雪で外に出れないsha-yuです。

そして話が浮かばなくてスランプなのかわかりませんが、筆が進みません。

なんとか書き上げます。スランプは書けば治るが、私の自論!


数日が経った。

今日は束さんが痛みが消えると宣告した日だ。

 

結果から言うと、束さんの言う通りだった。手術の痛みもすっかり消えている。身体中に付けられた管もクロエさんがとってくれた。

 

 

「将冴様、体の具合はよろしいですか?」

 

「うん、すっかり。クロエさんがお世話してくれたおかげです」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

「しょーくん!私は私は!?」

 

 

束さんが僕の体を揺すってくる。

おおお、何の抵抗もできない……。

 

 

「た、束さんも、ありがとうございます」

 

「いいよいいよ!しょーくんのためだもん。とーぜんのことだもんね!」

 

 

特に何かについてありがとうとは言ってないんだけど……束さんが上機嫌ならそれでいいや。

 

さて、今日から義肢のテストだ。4つを同時につけるわけにはいかないから、腕からつけることになっている。うまく動かせればすぐに脚へ移ることができる。

 

束さん曰く、僕の神経の図太さが試される……らしい。

 

 

「くーちゃん。しょーくんを研究室の方に連れて行って」

 

「はい、束様」

 

 

ひょいとクロエさんに持ち上げられ、車椅子に乗せられる。

 

うん、もう慣れた。

 

 

「行きますよ。将冴様」

 

「お願いします」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

束さんの研究室に着くと、なにやら診察台のようなものの上に義肢が置いてある。

 

 

「そこにしょーくんを寝かしてあげて」

 

「はい。将冴様、失礼します」

 

 

台の上に乗せられる。上半身だけ服を脱がされる。改めて見ると、腹筋がたるんできてる。鍛え直したいなぁ……。

 

 

「じゃあ、しょーくん。今から腕つけるから、ジッとしていてね」

 

 

そう言って、束さん右腕の義手を接続部に近づける。

 

 

「はい。あ、そういえばつける時って痛みとか……」

 

「ドッキング!」

 

「いたぁっ!?」

 

 

有無を言わさず、僕の右の接続部に腕が取り付けられた。

付けられた瞬間、全身に一瞬痛みが走った。

 

これはびっくりする。

 

 

「あ、ゴメンね。最初につける時は痛いって伝えるの忘れてた」

 

 

ぺろっと舌を出してドジっ子アピールする束さん。

 

 

「そういうことは早く言ってくださ「左も行ってみよー」いぃっ!?」

 

 

全部言い終わる前に左腕を取り付けられた。酷い。これは酷すぎる。

 

 

「束さぁん……」

 

 

多分、今涙目になってる。

 

 

「身構える前につけちゃおうと思って」

 

「心の準備くらいさせてくださいよ……」

 

「まぁまぁ、いいじゃない。些細な問題だよぉ〜」

 

 

些細か?本当に些細な問題なのか?

いや、もう何も言うまい……。

 

 

「それより……」

 

 

束さんが腕を指差す。

 

 

「腕、動かせる?」

 

「やってみます」

 

 

感覚はある。

久しぶりの感覚。大丈夫だ。腕をなくして時間は経ってるけど、動かす感じは覚えてる。

 

指を、まずは指を動かすんだ。

 

義手の指がピクっと動く。その動きは少しずつ大きくなる。指を握って、開いてと繰り返す。

 

 

「おぉ、動いてる動いてる!」

 

「束様、まだ安心するのは早いです。腕を自由に動かせなければ……」

 

「んー、大丈夫だよ。ほら」

 

 

束さんの言う通り、もう大丈夫だろう。僕は腕を上に向け、曲げ伸ばしを繰り返している。

 

 

「もうそんなに動かせるように……」

 

「やっぱりね。しょーくんの神経は、あのちーちゃんよりも図太いと思っていたもの」

 

「束さん、それってどういう……」

 

「むふふー、どういうことだろうね。まぁ、とりあえず無事に動いているし、問題ないね!これなら脚もすぐに扱えるよ」

 

 

脚もすぐに使えるか……確か短時間なら四肢を使えるんだよね?

それなら筋トレとか、剣道とかも……うん、束さんに後で筋トレできるか聞いてみよう。

 

 

「この調子なら、アレも渡していいかなぁ……」

 

「アレ?」

 

「束様、それは事を急ぎすぎでは……」

 

「大丈夫大丈夫。しょーくんなら大丈夫だよ」

 

 

完全に置いてかれてるんだけど……アレって何?

 

 

「しかし……せめて義足を動かしてから」

 

「束さんはもう待てないんだよー!しょーくんがアレをつけているところが見たいのー!」

 

「束様ったら……」

 

「さぁさぁ、しょーくんをアレの所まで運んで運んで〜」

 

「……はい、わかりました」

 

「え、あの……アレって何です?説明はないんですか?あのー?」

 

 

義手をつけたままクロエさんに抱き上げられ、車椅子に……乗せられない!?

え、抱き上げられたままどこに向かってるの!?

 

 

「クロエさん!あの、僕どこに連れて行かれるんです!?せめて車椅子に!もう思考制御じゃなくても動かせるからぁ〜!?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

クロエさんに抱き上げられたまま連れてこられたのはなにやら布を被せられた大きな何か。

 

 

「これは……」

 

「束さんからの……いや、しょーくんのお父さんとお母さんからのプレゼントだよ」

 

「え?」

 

 

束さんが布を取り払う。

そこにあったのは……

 

 

「ロボット……?」

 

 

いや違う、これは……

 

 

「ふふ、その顔は気付いたね。そうだよ、これはただのロボットじゃない。しょーくんの両親が設計して、私が組み立てた、しょーくんのための『IS』」

 

 

パチンと音がして、ロボット……『IS』を証明が照らし出した。

 

 

「V型機『バーチャロン』だよ」




ようやくISが出た。

途中からこれがISの小説だったかもわからなくなりそうでした。

将冴の心境は複雑でしょうね。
次回、お楽しみに。


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20話

感想をもらうと、バーチャロンを知ってる人が結構いるんだなと実感いたしました。

私はアファームドのデザインが好きです。マイザーデルタもなかなかですが、アファームドJtypeAはバーチャロンマーズでよく使ってます。
エンジェランはエロいと思う←


 

「僕のための……」

 

 

目の前にあるIS……バーチャロンはフルスキンのISのようで、今は胸部分が開き乗り込むことができるようになっている。手にはロングセイバー。剣先に銃口のような穴が空いてるから、銃も一緒になっているのだろうか?

 

 

「しょーくんには謝らなきゃいけないんだ」

 

「え?」

 

「この機体は、しょーくんに廃棄を頼まれたあのデータチップの中に入ってたデータを元に作ったんだ」

 

 

データチップというと、僕がまだ入院しているときにロケットペンダントの中から出てきたやつかな。

 

 

「しょーくんに悪用されないようにすぐ廃棄してって頼まれたのに、私は中身を見ちゃった。ごめんね」

 

 

人に頭を下げたところを見たことがない束さんが、僕に頭を下げている。

他人には興味のない束さんが……

 

 

「頭を上げてください」

 

 

その言葉で、束さんは頭を上げて僕を見る。

 

 

「束さんはこれを悪用するために作ったんですか?」

 

「それは違うよ!そんなことするつもりなんてない。データだってもう廃棄したし……」

 

「じゃあ、僕から言うことは何もありません」

 

「……え?」

 

 

キョトンとした目で見られる。

言葉の通りなんだけどな。

 

 

「僕は、これが悪用されなければそれでいいんです。あの時は僕がデータを持っていたら、絶対に奪われると思ったから束さんに廃棄を頼みました。束さんからデータを盗むのは、世界中探しても見つからないと思いますし、もう廃棄したら問題ありません。それに……」

 

「それに?」

 

 

ぽりぽりと頬を掻く。この動作をできるだけで、なんとなく感動を覚える。

 

 

「このIS、かっこいいですし」

 

 

子供っぽいと思われるかもしれないけど、僕はまだ中学生なんだ。こういうのが好きでもいいよね。

 

 

「うぅ〜、もうしょーくんはかわいいなぁ!」

 

「のわ!?」

 

 

クロエさんの手から僕を奪い抱きしめてくる。うっ、この大質量による圧迫は……。腕があるとはいえ、顔をこの柔らかい胸に包まれてしまっては抵抗も……。

 

 

「うりうりー!」

 

「束様、窒息してます」

 

「ほぇ?わぁ!しょーくん大丈夫!?」

 

「な、なんとか……」

 

 

柔らかかった……うん……色々と……。

束さんには腕があっても抵抗は無意味だということか……。

 

 

「さて、しょーくん。乗ってみようよ!フィッティングしちゃいたいし。あ、義手は一回外すね」

 

 

スポンと腕を外された。え、ちょっと今何が起きたの?外れた感覚なかったんだけど!?

 

 

「くーちゃん、乗せてあげて」

 

「はい」

 

「いや、ちょっと待って!ISって女の人しか乗れないはずですよね!?僕が乗っても無意味なんじゃ……」

 

「大丈夫大丈夫。問題ないよ。それは『ISであってISではないから』」

 

 

ISであってISではない?それはどういうこと?

 

なんて考えているうちに、ISのコックピットに乗せられる。

 

 

「じゃあフィッティング始めるよ。そのままリラックスしててね」

 

 

ISの装甲が閉じていく。すっぽり覆い尽くされ、ISの外の景色と一緒に目の前に文字のようなものが浮かぶ。いや、目の前じゃない?直接網膜に……

 

 

「フィッティング開始!」

 

 

視界にゲージのようなものが現れる。

かなり早い速度でゲージがたまっていく。この調子なら……もう終わった。

 

 

「うわ、もうフィッティング終わっちゃった。さすがというか……」

 

「これはすごいですね……」

 

「しょーくん、問題はない?」

 

「はい。これが、IS……」

 

 

神経が研ぎ澄まされたかのようだ。網膜に文字が投影される。「TEMJIN」……テムジン?なんのことだろう。

 

まぁとりあえず動かしてみよう。その場で足踏みをしたり、手をグーパーしたりしてみる。

 

 

「凄い。自分の体みたいだ」

 

「どうどう?気に入ってくれたかな?」

 

「はい。これがお父さんとお母さんが設計したISなんですね」

 

「うん、その通り。このバーチャロンはISコアともう一つ、違う動力とも言えるものをつけてる。しょーくんは見えないけど、背中にあるディスクみたいなのがそうだね。しょーくんのお父さんとお母さんはそれを設計したんだ。名前は『V.コンバータ』。それの機能は……まぁ、後々説明するよ。とりあえずフィッティングも終わったから、ISを待機状態にしてみて」

 

 

待機状態に……どうすればいいんだろう。えっと……外れろぉって思えばいいのかな?

 

と、その瞬間、ISが光の粒子となり、ISが消えた。

 

……消えた?

ふっと、落下する感覚。感覚っていうか、おちてる!

 

目を閉じるけど、衝撃が襲って来ず、ふわりと誰かに支えられる。

 

 

「将冴様、大丈夫ですか?」

 

「クロエさん……助かりました」

 

「ありゃりゃ、待機状態にするときのことを考えたほうがいいね。まぁ、とりあえず動いてよかったよかった!」

 

「あの、ISはどこに消えたんですか?」

 

 

粒子になって消えてしまった。どこに消えてしまったのか、僕には見当がつかない。

 

 

「しょーくんの耳だよ」

 

「耳?」

 

「はい、鏡」

 

 

束さんがどこからともなく鏡を取り出す。僕の顔が映るそれを、よく見てみると……。

 

 

「あ、ピアスが……」

 

「それが待機状態のバーチャロンだね。あとは、いつでも呼び出せるからね。明日からは義肢とISの特訓だね!」

 

 

義肢とISの特訓……多忙になりそうだ。ISをもらえるのは予想外だったけど、やるだけやってやろう。

 

帰ったら、クラリッサさんと千冬さん、驚くかな。ISを使えるんだから。

 

ふふ、今から楽しみだ。




バーチャロンを装着した将冴くん回でした。

V.コンバータの設定は原作とはかなり……というか全く違うものになることをここで宣言いたします。
申し訳ありません……。

機体を流用しただけなんです……ごめんなさい……。


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21話

寒い日が続きますね。

このISの小説、GOD EATERのUAを抜いたことにびっくりしてます。これがネームバリューの違いか…。


今回はどうしても視点変更したかったので、途中でクラリッサ視点に変わります。読みづらいかもしれません。
申し訳ありません。


「95……96……」

 

 

額から汗が垂れる。

今、僕は腕をつけてないから拭えないから気にしないように、上体を起こした。

 

 

「97……」

 

「将冴様、もう少しです」

 

 

クロエさんが僕の足(義足)抑えて声をかける。

それに応えるように、また上体を起こす。

 

 

「98……99……100!」

 

 

やりきった達成感と疲労感でそのままマットに体を預けた。

あぁ〜、疲れた。

 

 

「腹筋100回3セット目、お疲れ様です。スポーツドリンクをどうぞ」

 

「ありがとうクロエさん」

 

 

ペットボトルにストローを差し、僕の口元まで持ってきてくれた。少しずつ、スポーツドリンクを吸い出す。

 

ここに来て2ヶ月がたった。

義肢を貰ったことで、活動の範囲が広がった。トイレに自分で行けるし、食事も一人で取れる。当たり前のようだけど、もう介助をしてもらう必要がない。それだけでも、僕は嬉しかった。

 

それに、このようにトレーニングに打ち込むことができる。短時間なら剣道もできる。これは嬉しかった。

 

あと、バーチャロンに乗ってわかったんだけど、予想以上に体力が落ちていた。本当の手足があった頃に比べて筋肉が落ちたのはわかっていたけど、バーチャロンに30分乗っただけで息は絶え絶えで、呼吸を元に戻すのに数分かかった。

 

ISに乗るために、全盛期まで体力を戻したかった。

 

 

「ふぅ……」

 

「前よりも息が整うのが早くなりましたね。かなり体力が戻ったのではないですか?」

 

「はい。クロエさんがトレーニングに付き合ってくれたおかげです」

 

「いえ、将冴様の努力の賜物です。この調子なら、明日千冬様のところに戻っても問題なさそうですね」

 

 

そう、僕は明日寮に戻ることになった。

理由を聞かれると、まぁ義肢を問題なく使えるし、ISも束さんとクロエさんが特訓してくれたおかげでかなり扱えるようになったから、というところ。

 

バーチャロンの機能を100%とはいかないものの、使用するのになんら問題ない程度まで腕を上げることができた。

 

まぁ、このラボを出たら、使うことはほとんどなくなるだろうと思っている。

 

ISコアは未登録のものだし、男の僕が動かせると知られたら大パニックだ。

 

千冬さんには伝えるつもりだけど。

 

 

「戻る準備はできていますか?」

 

「ええ、もう荷物はまとめてありますし、あとは戻るだけです。ちょっと早いけど、二ヶ月の間ありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ、楽しい時間を過ごさせていただきました」

 

 

お互いに頭を下げたまま、同時に吹き出した。

 

「ふっ、ははは」

 

「ふふ」

 

「ちょっとちょっと!二人で何楽しそうにしてるのぉ?」

 

 

どこからともなく束さんが現れた。一部始終を見ていたのだろうか。

 

 

「いえ、なんでもないですよ」

 

「はい、なんでもありません」

 

「むぅ、束さんだけのけものなんて酷いよ!」

 

 

プンプンといいながらそっぽを向いてしまう束さん。まぁ、気にしなくても大丈夫だろう。

 

 

「それにしても、明日でしょーくんはいなくなっちゃうのかぁ。束さんさみしいよ、およよ〜」

 

「また会えますよ」

 

 

僕はそう言いながら、ISの拡張領域から量子変換しておいた車椅子を取り出す。それに座り、義足をそのまま拡張領域にしまい、新たに義手を取り出す。拡張領域に義肢と車椅子を入れておけば、車椅子は座れる位置に、義肢は取り付けられた状態で出てくるように、束さんが改造してくれた。

 

バーチャロンを待機状態にした時、僕の体を支えてくれるものがないから危なかったが、これで安心してバーチャロンに乗ることができる。

 

義肢の取り付けも楽になったし。

 

 

「くーちゃん!今日はお別れ会だよ!ご馳走作ってね!」

 

「はい、束様」

 

「僕も手伝います」

 

 

明日、みんなに会える……。

 

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

トントントントン……

 

 

「クラリッサ……」

 

 

トントントントン……

 

 

「おい、クラリッサ」

 

 

トントントントン……

 

 

「クラリッサ大尉!」

 

「はっ!?なんでしょう、ラウラ隊長!」

 

 

ぼーっとしていて気づかなかった。向かいのデスクに座っていたラウラ隊長が不機嫌そうな顔を向けている。

 

 

「さっきからトントンうるさいぞ!なんだってそんなペンでデスクを叩いているんだ」

 

「いえ。そのぉ……落ち着かなくて……」

 

「落ち着かない?まぁ、この部屋はできたばっかりだしな。この『シュバルツェ・ハーゼ隊』ができたのも、昨日だったし……」

 

 

『シュバルツェ・ハーゼ隊』。織斑教官が申請し設立された、IS特殊部隊だ。隊長はラウラ・ボーデヴィッヒ。今は少佐になっている。異例の出世だ。

 

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

 

このできたばかりの部屋と部隊に落ち着かないわけではないのだ……。

 

 

「ん?違うのか?」

 

「その……今日は」

 

 

なんとも言いづらい……。これではルカから前が言っていたように……お、乙女のようではないか……。

 

 

「……ああ、そうか。あいつが帰ってくるのか」

 

「……はい」

 

 

そう、彼……将冴が帰ってくるのだ。2ヶ月前、体を戻すために織斑教官の知り合いの元へ行った将冴が……。

 

 

「それで落ち着きがなかったのか……ルカから聞いたとおりだな」

 

「今何か言いました?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

何を言ったのか知らないが……。

 

将冴は無事に体を取り戻せたのだろうか……。ああ、早く時間にならないだろうか……。もう帰ってきたのだろうか……。

 

 

「クラリッサ……今日はもう帰っていいぞ」

 

「え?いや、しかし……」

 

「今日は訓練もないし、もう書かなければならない書類もない。時間ではないが、もういいぞ」

 

「隊長……」

 

「集中できない奴はら、帰って休んでろ」

 

「……ありがとうございます。お言葉に甘え、先に失礼します」

 

 

デスクの上を片付ける。

早く……早く……。

 

 

「クラリッサ……少し雑だぞ……」




クラリッサを久しぶりに書いた気分だ……束さんのインパクトが強すぎるんだ……。

クラリッサの絵をpixivで探したりしてるけど……なかなかビビッとくるものがありませんね。


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22話

忙しくて更新滞ってしまいました。申し訳ありません。

今回でとりあえず一区切り、といったところでしょうか。次から章を変えます。多分。


車に揺られている感じがする。

今日は寮に帰るからって束さんとクロエさんに半ば無理やり睡眠薬飲まされて……ああ、今車乗ってるんだ……車!?

 

 

「クロエさんダメ!」

 

「おはようございます、将冴様。何がダメなんですか?」

 

「……あれ?」

 

 

運転席にいるクロエさんは、法定速度で車を走らせていた。てっきりまたあのカーチェイス並みの速度で走ってるかと思ったけど、大丈夫だったようだ。

 

 

「いえ、安全運転のようで安心しました……」

 

「前に将冴様が失神してしまいましたから。流石に学習いたします。それより、もうすぐ到着いたします」

 

「もう着いたんだ。かなり寝てたんですね」

 

 

まぁ、睡眠薬飲まされたから……。そりゃぐっすりだろうね。

 

そうだ、みんなに会う時は義肢をどうしよう。短時間なら両手両足につけても大丈夫だけど……。あえて義肢を付けずに会うとか……。

 

そんなことを考えていると、車が止まった。

ここは、寮の近くかな。

 

 

「到着いたしました。今荷物を降ろしますね」

 

「あ、僕が降ろします」

 

 

僕は義肢を両手両足につけ、車を降りた。

後部座席に乗せていた荷物を降ろす。荷物は多いけど、今なら全部持てる。

 

 

「クロエさん、2ヶ月間ありがとうございました。何から何まで」

 

「いえ、お礼を言われるほどのことは。そうだ、こちらをお持ちください」

 

 

渡されたのは名刺のような紙。

そこには電話番号のようなものが書いてある。

 

 

「ラボの電話番号です。義肢やバーチャロンのメンテナンスをしてほしい時はこちらに連絡をください」

 

「わかりました。では、クロエさん。お元気で」

 

「はい、将冴様も」

 

 

クロエさんは車に乗り込み、エンジンをふかす。

次の瞬間、タイヤを擦りながら急発進し、あっという間に見えなくなった。

 

峠でも走るつもりなのだろうか……。

 

 

「っと、早く寮に入ろうかな」

 

 

荷物を背負い直し、寮へ向かった。

 

流石に2ヶ月間では何か変わるということはなく、寮の入り口は前のままだった。

 

 

「久しぶりって感じがしないなぁ」

 

 

そう呟きながら扉を開けた。

中に入ると、リョーボさんが何やらダンボールを運んでいたところだった。こちらに気づいたリョーボさんは目を見開いた。

 

 

「将冴、帰ってきたのか!」

 

「はい、ただいまです。リョーボさん」

 

 

リョーボさんはダンボールを床に置き、両肩をバンバンと叩いてきた。そのまま腕があるのを確認するかのように両腕を撫でる。

 

 

「本当に体が戻ったんだね。ねえちゃんやクラリッサも喜ぶね。それに……」

 

 

サワサワとお腹を触ってきた。

 

 

「ちょ、何するんですか!?くすぐったいですよ!」

 

「がっちりトレーニングしてきたみたいだね。肩の筋肉触ったらわかったよ」

 

「筋肉の衰えを感じてしまいまして……体力作りのついでに……」

 

「ハッハッハ!ついでで筋肉つけてきたのかい。お前さんは本当に面白いね。そうだ、ブリュンヒルデのねえちゃんなら部屋にいるよ」

 

「千冬さんがいるんですか?」

 

「わざわざ休みを取ってきたんだとさ。将冴が帰ってくるからって。まぁ……他の理由もあるだろうけど」

 

 

他の理由?なんだろう。

千冬さんがいるなら、早く顔を見せに行こう。

 

 

「じゃあ、僕は部屋に行きますね」

 

「ああ」

 

 

リョーボさんと別れ部屋へ向かう。

部屋に近づくにつれ、何やらバタバタと音がする。

 

千冬さん、何してるんだろうか?

 

扉の前に立ち、コンコンとノックする。するとピタッと音がやむ。

 

 

「千冬さん?将冴で……」

 

バンッ!

 

 

言い終わる前に扉が開き、そこには千冬さんが立っていた。嬉しそうな顔をしてる。表情が分かりづらい千冬さんが嬉しそうだとわかるくらい、嬉しそうな顔をしてる。

 

 

「ち、千冬さん?」

 

「おかえり将冴」

 

「え?」

 

 

ギュッと抱きしめられた。

束さんに散々抱かれたけど、千冬さんにこうされるのは初めてだ。

 

束さんよりは小さいのかな……何を考えているんだ僕は。

 

 

「え、えっと……ただいま」

 

「中に入れ。いつまでも荷物を持っていては疲れるだろう。今、茶を煎れる」

 

 

千冬さんに促され、部屋に入る。

部屋は……少し散らかってるけど、前ほどじゃない。でも部屋の隅にゴミ袋が積まれている。つまり、さっきまで掃除していたのだろう。

 

まったく、僕がいないからってサボっていたんだね。まぁ、片付けをしようとして、逆に散らかるようなことはないみたいだから良かったかな。

 

 

「将冴、お茶だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

千冬さんが持ってきたお茶を受け取り一口。

うん、淹れ方はちゃんと覚えていたみたいだ。

 

と、千冬さんがジーっと僕の腕や足を見ているのに気づいた。

 

 

「本当に、戻ったんだな」

 

「はい、義肢ですけどね……でも、普通の腕や足と変わりませんよ。触った感触もありますし、痛みも感じます」

 

「そうか。束はしっかりやってくれたのだな」

 

「はは、結構遊ばれましたけどね」

 

 

ずずっともう一口お茶を飲む。

 

そうだ、千冬さんにはアレについても説明しなきゃ。

 

 

「千冬さん。これを」

 

 

僕はピアスを見せる。

 

 

「ピアス……束に開けられたのか?」

 

「いえ、そうではなくて……展開したほうが早いかな」

 

 

僕は左手を粒子化する。そしてテムジンの腕を部分展開した。

 

 

「な、ISだと!?」

 

 

さすがの千冬でも、驚きを隠せなかったようだ。

まぁ、突然ISを出されたら当然だし、僕は男だし。

 

 

「……束か……」

 

「いえ、正確にはお父さんとお母さんです」

 

「玲二さんと有香さん?」

 

「2人の研究を束さんが形にして、僕にくれたんです。男の僕が動かせるのは、お父さん達が研究していたもののおかげです。束さんが言うには、お父さんとお母さんは僕のためにこれを作ったって……」

 

 

動かせる原理を説明するには、僕の頭が足りない。

 

千冬さんは、納得してくれたようで、お茶を一口飲む。

 

 

「まぁ、お前がISを持っていても問題は起こさないだろう。問題はそれがばれた時だな」

 

「一応、人前では使わないようにするつもりです。束さんのラボで使い方は一通りやったので、扱いにも細心の注意を払います」

 

「そうしてくれ。しかし、いつまでも隠しきれるものでもなさそうだ。ばれれば日本へ強制帰還命令。拘束されるかもしれない……どうしたものか」

 

「……今考えても、いい答えは浮かびません。ばれた時に考えましょう」

 

 

テムジンの腕を粒子化する。

 

楽観的とは自分でも思う。けど、こうする以外にないのも、事実だろう。

 

 

「……そうだな。今はお前が帰ってきたことを喜ぼう」

 

「そうしましょう。そうだ、他の人達は今日はどうしたんですか?千冬さんが訓練していないとなると……」

 

「ああ、あいつらなら新しい部隊が設立されてな。それの処理で手を焼いている」

 

「新しい部隊?」

 

「シュバルツェ・ハーゼというIS特殊部隊だ。隊長はラウラで、副隊長はクラリッサだ」

 

 

ラウラさんが隊長!?僕と同じ年なのに、すごいな。前にクラリッサさんが、ラウラさんは強いと言っていた気がするけど、隊長になれるほど強かったんだ。

 

そしてクラリッサさんが副隊長。2人に何かお祝いでもしてあげたいな……。

 

 

「みんな帰るのは遅くなるな……夕食までには戻ると思うが……」

 

 

その時、部屋の扉をノックする音がした。

誰だろう?リョーボさん?

 

 

「この時間に誰だ?」

 

「あ、僕が開けます」

 

 

扉に手をかけ、ゆっくり開く。

そこには肩で息をするクラリッサさんがいた。

 

 

「クラリッサさん、こんにちは」

 

「はぁ……はぁ……将冴……」

 

 

突然顔を抑えられた。そしてクラリッサさんの顔が近く……

 

「むぐっ!?」

 

「ん〜〜」

 

 

口に何か……目の前にクラリッサさんの顔が……あれ、クラリッサさん眼帯してる?いや、そんな場合じゃ……。

 

 

「クラリッサ……」

 

 

千冬さんが突然のことで焦っているのか、か細くそんな声が聞こえた。

 

えっと、これは……

 

 

「んっ、将冴……」

 

 

顔が少し離れる。

クラリッサさんの目はトロンとしていて、顔も赤い……。

 

 

「ま、漫画では、再会した時こうするって……」

 

「えっ、あっ……うん……そうだね」

 

「それで……な、その……将冴!」

 

「な、なに?」

 

「お前は私の嫁だ!」

 

「は、はい!」

 

 

……え?

 

 

「あー、二人とも。邪魔なら出て行こうか?」

 

 

ちょっと待ってください千冬さん!!




はい、というわけでクラリッサと将冴なエンダーしました。

急展開すぎる?いいんじゃないかな。原作のラウラもこんな感じ……え?違うって?……いいんじゃないかな←


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戸惑う日常
23話


前回更新で、一気に感想頂きました。
すごい嬉しかったです。

やっぱり、クラリッサの嫁宣言は破壊力がすごいですね。


 

「はぁ……」

 

 

クラリッサさんに初めてを奪われ、嫁宣言されてから一夜明けました。

 

僕は義手だけをつけて、千冬さんの作ったベーコンエッグを食べている。

 

あ、千冬さんには長時間両手足に義肢をつける事は出来ないと説明してある。

 

それにしても……

 

 

「はぁ……」

 

「将冴、さっきからため息ばっかりだぞ?」

 

「すいません……」

 

「昨日のことか?」

 

 

ドキッとする。

突然の口づけ。嫁宣言。僕には処理しきれない。

 

クラリッサさんは正気に戻ったのか、あの後すぐに走り去って行ってしまった。夕食にも姿を見せなかったし……。

 

 

「あれが本気なのか僕にはわかりません……それに第一!」

 

 

これが一番の悩み。

 

 

「僕まだ中学生なんですよ……」

 

「ああ……クラリッサは20歳だったな」

 

「世間からしたら、これ犯罪ですよ……7歳差ですよ……」

 

 

僕からしたらクラリッサさんはお姉さん。大人の女性なんだ。僕みたいな子供よりも……。

 

 

「まぁ、難しく考えるな。それに、前に言っただろう。重要人保護プログラムが適用されれば、お前は無国籍。結婚に関する法律は適用されないだろう。お前がその気なら、別に問題ではない」

 

「そうかもしれないですけど……クラリッサさんには、もっといい人がいると思います。僕みたいに体が不自由な人よりも……」

 

「あまり自分を落とすな。クラリッサだって、お前のことが迷惑だと思っていたら、あんなことは言わない」

 

 

千冬さんはそう言ってくれる。

言ってくれるけど……。

 

 

「お前はクラリッサをどう思ってるんだ?」

 

「どう思って……」

 

 

僕はクラリッサを……。

 

 

「とりあえず……」

 

「とりあえず?」

 

「『俺の嫁』の正しい使い方を教えます」

 

「あぁ……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

千冬さんを見送り、朝の挨拶をする。

今は義手をつけて、車椅子に乗っている。

 

昨日の夕食で帰ってきたことはみんな知っている。

 

お、あれはラウラさん。

 

 

「おはよう、ラウラさん」

 

「おお、将冴か。おはよう」

 

 

突然、ラウラさん腕をポンポン叩いてくる。

 

 

「おお、本当に腕があるな」

 

「あはは、機械の腕だけどね。足もあるけど、同時に使うと神経に負担がかかっちゃって」

 

「だから車椅子なのか。……ふむ、見た所少し筋肉質になった気がするな。鍛えたか?」

 

 

リョーボさんと同じことを……。

あれかな、軍に毒されてるのかな?

 

 

「少しね。手足は義肢だから鍛える必要ないけど、胴体の方は筋肉落ちてたから」

 

「何かスポーツでもやっていたのか?」

 

「剣道やってたんだ。そこそこ強かったんだよ」

 

「ほう、一度手合わせしてみたいものだな」

 

「少しだけならいいよ。僕も、久しぶりに剣道したかったから」

 

 

全く竹刀に触ってなかったからなぁ……まだ竹刀触れるかな?

あ、剣道で思い出したけど、全国大会すっぽかした……。箒さんの剣道見るの楽しみにしてたんだけどなぁ……。

 

 

「将冴?どうした?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そうか。じゃあ、私はもう行く。今度時間を作るから手合わせしてくれ」

 

「うん、今日も頑張ってね」

 

 

ラウラさんは寮を出る。

 

手合わせか……ドイツに竹刀とか木刀売ってるのかな?

リョーボさんに聞いたらわかるかな……?

 

 

「将冴」

 

「ん?」

 

 

後ろから声をかけられる。

振り向くと、何やらもじもじしてるクラリッサさんが……。

 

うわっ、なんか顔合わせるの恥ずかしい……

 

 

「お、おはよう……」

 

「おはようございます、クラリッサさん」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

沈黙が辛い。でも、昨日の件が頭から離れなくてまともに話せない気がする。

 

 

「その将冴……」

 

「は、はい!?」

 

 

クラリッサさんから沈黙を破ってきた。

 

 

「昨日の事なんだが……」

 

「な、なんでしょう……」

 

「私は……本気だから……」

 

 

いつもみたいに、凛々しい感じじゃない。

まるで十代前半の、恥ずかしさを隠しきれない女子のような……。

 

 

「お前は私の嫁だ、という言葉は気に入ったものに対して言うのだろう?えっと……私は気に入ったと言いたかったのではなく……そのぉ……」

 

 

次の言葉がなかなか出てこないみたい……。

 

 

「わ、私はお前が!」

 

「クラリッサ遅れるわよ」

 

「うぇ!?」

 

 

突如現れたルカさんに、クラリッサさんは首根っこ掴まれた。

 

 

「ちょ、待てルカ!私は大事な話が!」

 

「はいはい、それは帰ってからできるでしょ?遅れたらラウラ隊長に怒られるわよ〜」

 

「待て!話がぁ〜……」

 

 

問答無用で連れて行かれてしまった。

 

クラリッサさんは、何を話したかったのだろう?

昨日のことに関係が……。

 

あ、『俺の嫁』の使い方……自分でわかってたな……。




前回更新で力を出し切ったようです。絶賛スランプ。

文字数が少ないですが、ご容赦ください……。


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24話

本当にこの小説はISの小説なのかと、友達に言われました。

IS出てるからISの小説なんだよ、そうなんだよ。

主人公が操縦した描写がない?
仕方ない←


 

クラリッサさんがルカさんに連れて行かれて数時間後。僕はリョーボさんにお買い物を頼まれたので寮の外に出ていた。

 

この近くには、大型のショッピングセンターがあるらしく、品揃えは豊富だとか。前から話には聞いていたけど、一度も行ったことはなかった。

 

着いてみると、確かに大きなショッピングセンターだ。

日本にあったレゾナンスと同じくらいあるのではないだろうか?

 

 

「大きいなぁ。迷子にならないように、地図取っておこうかな」

 

 

入り口にあったパンフレットと一緒になった地図を取り、いざ中へ。

 

リョーボさんに頼まれたのは食料品。量も少ないし、車椅子の僕でも十分運べる。

 

 

「えっと、食料品品売り場は……」

 

 

地図を頼りに売り場にたどり着く。しかし、本当に広いな。思考制御で車椅子を動かしていたら、確実に頭痛を起こしていた。

 

とりあえず、これとこれと……

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ありがとうございました〜」

 

 

会計を済ませて、食料品の入った袋を膝の上に置き、もう一回地図を見る。

 

さっき、眺めたときに気になる店を見つけたんだ。

 

 

「ここだ、スポーツショップ」

 

 

そう、スポーツショップ。品揃えが豊富ということは、竹刀とか木刀も置いてるかもしれない。短時間なら、素振りくらいはできるはずだ。

 

地図によると、スポーツショップは4階。幸い、エレベーターはすぐ近くにあるから、ここから行けば大丈夫そうだ。

 

エレベーターのところまで行き、上へ行くボタンを押す。このショッピングセンター、全部で5階まであるみたいだ。本当に大きいな。僕の後ろに1人のブロンド女性が並んだ。

 

と、エレベーターが到着した。

 

上から乗ってきた人がエレベーターを降り、全員いなくなったのを確認してからエレベーターに乗ろうとする。

 

けど、僕が乗る前に扉が閉まりそうになる。

 

 

「あ……」

 

 

足を出して、閉まるのを防ぐか?

いや、人がいる前で義足を展開するのは……などと考えていると、後ろにいた女性が扉をおさえてくれた。

 

 

「どうぞ、乗って」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

抑えてもらっている間に、素早く乗りこむ。

女性も僕が乗ったのを確認し、エレベーターに乗った。

 

 

「何階かしら?」

 

「あ、4階です」

 

「4階ね」

 

 

女性が二階のボタンを押し、扉が閉まる。

ボタンを見ると、4階以外に光っているボタンはないから、この人も4階だったんだろう。

 

 

「すいません、手間を取らせてしまって」

 

「こういうのは助け合わなくっちゃね。それにしても、ドイツ語上手ね。見た所、日本人だと思うのだけれど」

 

「はい。色々と、事情がありまして……ここ数ヶ月、ドイツで生活してるんです」

 

「そうなの?若いのに大変ね」

 

「はは、そんなことはないですよ」

 

 

僕がそう言った瞬間、エレベーターが4階に止まる。

女性は扉が閉まらないようにボタンを押しながら、僕に先に出るよう促した。

 

 

「ありがとうございます。車椅子でエレベーターに乗るのが初めてで、少し戸惑ってしまって」

 

「いいのよ、お礼なんて。私はスコール・ミューゼル。ここであったのも何かの縁。よろしくね」

 

「柳川将冴です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

互いに握手をする。

 

 

「あら、あなた手袋してるのね」

 

「えぇ……まぁ……」

 

 

僕は義手を隠すために手袋をしていた。機械の腕のままじゃ、色々と困ると思ったからだ。

 

一般人の人からすれば、精巧に作られた機械の腕なんて馴染みないだろうしね。

 

 

「すいません、手袋をしながらなんて失礼でしたね……」

 

「構わないわ。見せたくない理由とかあるんでしょう?気にしないわよ」

 

「そう言ってくれると助かります」

 

 

詮索されなくてよかった。今度から手袋の言い訳を考えなきゃな。

 

 

「あら、もうこんな時間なのね」

 

 

スコールさんが腕時計を見て、そんな声をあげた。

何か用事でもあるのだろうか?

 

 

「もう少しお話ししていたかったけど、これから待ち合わせなの。またね将冴君」

 

「はい、今日はありがとうございました」

 

 

スコールさんは4階にあるカフェの方へ歩いて行った。彼氏と待ち合わせかな?綺麗な人だったし。

 

まぁ、僕には関係ないか。でも……またねってどういうことだろう?深い意味はないのかな……。

 

考えても仕方ない、スポーツショップに行こう。

車輪を回して、スポーツショップの方へ向かう。

 

結構奥まったところにあるんだなぁ。義手だから腕は疲れないんだけど、肩とかは疲れてきたな。

 

僕は洋服屋の前にある自販機の近くに車椅子を止めた。ついでだし、何か飲み物でも……。

 

 

「ちょっと、そこのきみ」

 

「ん?」

 

 

お金を取り出した瞬間に、後ろから声をかけられた。

なんか、知らない女性が立っている。なんだろう?

 

 

「あの、何か?」

 

「そこの店の洋服、片付けて置いてくれない?」

 

「……へ?」

 

 

この女性は何を言ってるんだろう?

店の方を見ると、並べられていたであろう服が、乱雑に放置されたままになっている。おそらくこの女性が、服を見てそのままにしておいたんだろう。

 

 

「あの、なんで僕が?」

 

「なんでって、君男でしょう?男なら女の言うことを聞きなさいよ」

 

 

これは……あれか。世間に広まった女尊男卑を真に受けて、男を見下すっていうやつ。この間テレビでも問題視されてた。

 

 

「あの、もう一度聞きますけど、なんでなんの関係もない僕が、あなたが散らかした服を片付けなきゃいけないんですか?」

 

「君ね、今は女性が偉いのよ?男にはうごかせないISを動かせるんだから。世界で、女が大切にされてるの」

 

「そうですか。では、あなたはそのISの操縦者なのですか?」

 

「は?」

 

「世界にあるISコアは467。あなたは、このごく少数の人しか乗れないISの操縦者ですか?」

 

「ち、違うけど……」

 

 

だろうね。IS乗る人は、今は国に選ばれたものや軍にいるもの、あとはIS学園の生徒くらいだろう。

 

 

「ISに乗ったこともない人がいばり散らすなんて、おかしいとは思いませんか?あなたが国家代表で専用機を持っているなら話はべつかもしれませんが……いや、そもそも国家代表が品位を下げるようなことをするわけがないですね」

 

 

束さんのラボにいた時に、クロエさんに習ったことが役立ってる。ありがとう、クロエさん。

 

 

「う、うるさい!」

 

「うわっ!?」

 

 

女性は、僕の車椅子を掴み横に倒した。僕は地面に投げ出され、膝の上に乗せていた食料も散乱してしまった。

 

 

「男が口答えするじゃないわよ!あんたが痴漢したって警備員に言えば、あんたはすぐに捕まるのよ?ほら、そうなりたくなかったら、今すぐ謝りなさい!生意気な口をきいてしまってすいませんって!」

 

「いっつ……」

 

 

これが今の世の中なのか……関係のない女性がいばり散らし、男性はISに乗れないからと貶められる……。

 

ここで僕がISを展開してやろうか……いや、それはダメだ。

 

でもこのままだと面倒事に……

 

 

「ギャーギャーうるせぇな」

 

「え?」

 

 

カツカツと、スーツを着た女性がヒールの音を立てながら近づいてきた。この人は……

 

 

「おう、お前。さっきから女が偉いだの言ってやがんな。IS使えねぇのによ」

 

「そ、それがどうしたのよ!」

 

「私はお前みたいな女が一番嫌いなんだよ。なんの力もねぇのに自分が偉いと勘違いしてるやつがな。女だから偉い?国がそう決めたのか?あぁん?」

 

 

ゾクッとした、むき出しにされた敵意のような……心臓を掴まれるような感覚。

 

なんなんだ、この人は……。

 

 

「な、なんなのよあんた。もう気分悪いわ……」

 

 

いばり散らしていた女性は、そのままどっかへ走り去っていった。

 

 

「はぁ、ったく気分悪いのはこっちの方だっての……おい、お前。大丈夫か?」

 

「あ、はい……」

 

 

さっきの感覚がなくなった。

なんだったんだろう……。

 

 

「車椅子元に戻すから、ちょっと待ってな。っしょと」

 

 

スーツの女性は、車椅子を元に戻し、僕を乗せてくれる。散らばった食材まで拾い集めてくれた。

 

 

「ありがとうございます。本当に助かりました」

 

「いいんだよ、私がムカついたからやったんだ。まぁ、今度からは気をつけな。勘違いヤローにはな」

 

「はい、そうします」

 

 

そう言った瞬間、女性が「あっ」と声をあげた。

 

 

「やべ、スコールとの約束の時間すぎてる……じゃあな、将冴」

 

「え、あ、はい……」

 

 

そう言って走り出した。

スコールって……さっき会ったスコールさん?じゃあ、あの人が待ち合わせの……ん?

 

 

「僕、名乗ったっけ?」

 

 

んー、まぁ、いいか。

 

スポーツショップに行くことが先決だよね。




意味深なフラグだけ立てて、行きます。

彼女たちは誰だろうねー。重要人物かなぁー(棒読み)

一度、やってみたかった女尊男卑の理不尽シーン。将冴君は暴力を振るわれました。
これを知ったらクラリッサさんは怒り狂うでしょうね。


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25話

前回の女の人が非難轟々。
まぁ仕方ないとは言え、ちょっとやりすぎました。反省。


友達に「IS学園はよ」とずっと言われておりますが、のんびり行くので、いつになるかわかりません。
私のノリ次第かなと。


なんだか色々あったけど、ようやくスポーツショップにたどり着いた。店内は結構な広さがあり、品揃えも悪くなさそうだ。

 

えっと、剣道関連の場所は……

 

 

「あ、あれかな」

 

 

何やら日本のスポーツをまとめたブースらしきものを発見。道着が見えたからもしやと思ったら、その通りだったよ。

 

ブースに入ると、剣道や柔道の道着はもちろん、防具なんかも置いてある。竹刀も木刀もある。

 

 

「この品揃えには圧巻だな。本当になんでもあるや」

 

 

ずらりと並んでいる木刀の中から一つ手にとって、感覚を確かめてみる。トレーニング用の重い木刀もあるけど、とりあえず普通の木刀を買おう。

 

 

「うん、この木刀でいいかな。会計しに行こう」

 

 

レジまで木刀を持って行き、会計を済ませる。

店員さんに不思議そうな目で見られたけど、まぁ仕方ない。足がないのに剣道をやる人なんていないからね。まぁ、素振り程度ならする人はいるかもしれないけど。

 

しかし、木刀は結構邪魔だな……。誰もいないところで粒子化してISの拡張領域にでも入れようかな。

 

と、その時……

 

 

ドォン!!

 

 

大きな爆発音と地響きが起こった。

 

 

「な、なに!?」

 

 

あたり見回すけど、何が起きたのかはわからない。

事故?

 

とりあえず、何かあるなら近くの避難経路の方に行ったほうが……。

 

 

「お前」

 

 

後ろから声をかけられた。後頭部には何かを押し当てられている。これは……。

 

 

「動くな。すぐにフロアの中央に集まれ。その木刀を置いてな」

 

 

くぐもった声……マスクか何かをつけているのか?

少し振り返ると、ガスマスクのようなものをつけた人が、ライフル突き付けていた。この人は……

 

 

「おい、早くしろ」

 

 

僕は言われた通りにすることにした。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

フロアの中央には、おそらくこのフロアにいたであろう客と店員。それと、さっきの人と同じマスクをつけてライフルを所持している人が全部で5人。

 

集団による犯行?この建物を全て占拠しているなら、もはやテロだ。

 

テロリストたちが、客と店員の腕を縛っていく。

 

僕の腕も縛られる。義手だということには気づかれなかった。

 

 

「邪魔くせぇな。おら!」

 

 

テロリストの一人が車椅子を蹴飛ばし、僕はそのまま床に投げ出された。

さっきは腕が使えたけど、今は使えない。受け身が取れず、体を打ち付けた。

 

 

「ぐうっ!」

 

「そこでおとなしくしてろ」

 

 

どうしよう。まさかこんなことに巻き込まれるとは……。

 

束さんのところから帰ってきてから、いろんなことがありすぎだよ。はぁ、僕は呪われているんじゃないのか……。

 

 

「将冴君……将冴君、大丈夫?」

 

「え?」

 

 

僕を呼ぶ声が聞こえた。その方を向くと、みんなと同じように手を縛られたスコールさんがいた。隣には、僕を助けてくれたあのスーツの女の人……やっぱり知り合いだったのか。

 

 

「スコールさん……それにさっきの……」

 

「怪我はないかしら?」

 

「はい、怪我はないです」

 

「そう、ならよかった」

 

「おいスコール、どうするんだよこれ」

 

 

スーツの女の人がそうボヤく。なんだろう、この二人やけに落ち着いているけど……。

 

 

「大丈夫よオータム。今エムが動いてる」

 

「あのガキンチョがね……まぁ、腕は確かか」

 

 

エム……誰のことだろうか……。

でも、この状況で聞くことじゃない……のかな。

 

それから20分ほど経った。

 

 

「ぎゃあ!?」

 

 

突然、テロリストの一人が足をおさえながら倒れた。

 

足から血が流れている。

 

 

「おい!どうした!?」

 

「敵襲か……ぐあぁ!?」

 

 

また一人倒れる。これは……

 

 

「ねぇ、将冴君」

 

 

この状況でスコールさんが話しかけてくる。

 

 

「その義手、一回粒子化して拘束外せないかしら」

 

「え、なんで義手って……」

 

「私の拘束外して欲しいの、頼めるかしら?」

 

「……はい」

 

 

なんで義手のことを知っているのかわからない。それに粒子化してとも言っている。つまり、僕がISを持っていることを……いや、詮索するのは後にしよう。

 

僕は義手を一度粒子化し、再度展開する。スコールさんの言う通り、手の拘束は外れた。

 

 

「スコールさん、できました」

 

「じゃあ、これ取ってくれる?彼女のも」

 

 

そう言ってオータムさんの方へ目を向ける。

 

言われた通りに、二人の拘束を外す。その瞬間、またテロリストの一人が倒れた。僕が拘束を外している間にも、もう一人倒れたみたいだから、残りは一人。

 

 

「くそっ!ふざけやがって!」

 

 

テロリストが女の店員を立たせて、拳銃を取り出し人質にした。

 

 

「姿を見せろ!じゃないと、こいつが死ぬぞ!」

 

 

盾にしているのか……

 

数分が経つが、テロリストが攻撃される気配も、隠れているであろう人も出てこない。

 

このままじゃ……。

 

 

「あれ?」

 

 

隣を見ると、いつの間にかスコールさんとオータムさんがいなくなっている。

 

どこに……って、縛られてる人たちに紛れながらテロリストに近づいてる?

 

 

「おい、早く出てこい!」

 

 

テロリストがそう言った瞬間、スコールが立ち上がる。手には拳銃があり、躊躇なく引き金を引いた。

 

放たれた弾丸はテロリストの手に命中し、拳銃を手放す。

 

 

「いっぐぁ!?」

 

「オータム!」

 

 

痛みで人質を離したテロリストに、オータムさんが近づく。

 

そして頭部目掛けて鋭い蹴りが炸裂する。

 

 

「へぶっ!?」

 

「おねんねしてな」

 

 

テロリストは意識を失ったのか、そのまま倒れた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

スコールさんとオータムさんが縛られている人たちの拘束を解く。

 

全員解いたのを確認したスコールさんが僕に近づいてくる。

 

 

「将冴君、拘束を解いてくれてありがとう」

 

「いえ……あのスコールさん達は……」

 

「気になるわよね。でも今は話せないわ。ただ言えるのは、私たちは篠ノ之博士の関係者、ということだけね」

 

 

束さんの?

あの、ある意味コミュ障の束さんの関係者ってどんな関係者なのか……。

 

 

「さて、こっからは将冴君に頼もうかしら」

 

「……へ?」




私の作品の亡国企業の皆さんは、いい人です。多分、おそらく。


あの三人は結構好きなんですよね。
スコールとかオータムとか。


……またお姉さんヒロイン候補が!?


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26話

スコールとオータムはヒロイン候補かも、と前回口走ったら、皆さんから「またお姉さんか」とか「将冴年上キラー」とか「いいぞもっとやれ」みたいなことを言われまして、嬉しい反面複雑な思いで過ごしていました。

まぁ、私のセンチメンタルな部分はどうでもよくて、活動報告の方でアンケートを実施しております。

今後の展開に大きく関わるので、ぜひご参加いただけたらと思います。

今回、途中で視点変わります。読みづらくてすいません。


 

「僕にって……どういうことですか?」

 

「耳のそれ、飾りじゃないでしょ?」

 

 

耳のって……バーチャロンのこと?

束さんの関係者って言っていたから、知っていてもおかしくないか。

 

 

「まだ他のフロアにもこの人たちのお仲間がいるはずだからね。そのISでパパッと片付けてきちゃって」

 

「ちょ!待ってください!こんな人のいるところでISを展開するのは……」

 

「大丈夫大丈夫、あなたのISはフルスキンタイプだから顔がバレることもないし」

 

 

いや、そりゃそうだけれども……そんなことも知ってるのか、この人は。

 

 

「さ、あっちの方でIS展開して、下の階を制圧してきてね」

 

「そんな、無茶なぁ〜!」

 

 

人気のないところに引き摺られ、あれよあれよという間にISを展開していた。

 

バーチャロン・テムジン。

 

ビームランチャーとセイバーが一体となった「MPBL-7」を装備した万能型IS。

 

 

「話には聞いていたけど、結構メカメカしいわね」

 

「それは僕も思いますけど……」

 

「まぁ、いいわ。上の階は、私の仲間がもう制圧している。あとは下の階だけね。さすがに、テロリストの方も上の階がおかしいことには気づいているはず。私達じゃ、制圧するのは難しいわ」

 

「だから、ISを持った僕が行く……ということですね」

 

「そうよ、これはあなた自身のためでもあるわ。助かるために、あなたがやるしかないの」

 

 

……僕がやるしか……。

 

 

「わかりました」

 

「制圧を終えたら、ISを展開したまま外に出なさい。人気のないところまで飛んで、そこでISを解除するの。いい?」

 

「はい……行ってきます」

 

 

床を突き破り、3階へと下りた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「スコール、テロリストはふん縛っておいたぞ」

 

「ご苦労様、オータム。エムもお疲れ様」

 

「まったくだ。まさか、こんなことに巻き込まれるなんて思わなかった」

 

「予測してなかったにしては、準備万全ね。サイレンサーつきのライフルを持ってくるなんて」

 

「よく言う、用意したのはお前だろうに」

 

「あら、そうだったかしら?」

 

「しかし、巻き込んで良かったのか?スコール……本来は、私たちだけでここを制圧する手はずだっただろう?」

 

「スポンサーからのオーダーよ。逆らえないわ」

 

「ったく、あのウサ耳博士は何を考えているんだか」

 

「愚痴ってもしょうがないわ。それより、なにか情報は手に入った?」

 

「何も。また下っ端の下っ端を煽って騒動を起こしたんだろうぜ」

 

「そう……仕方ないわね。やっぱり、そう簡単に尻尾を出さないわね」

 

「私たちが追っている組織……そこまで大きなものなのか?」

 

「ええ……下手すれば、篠ノ之束すらも飲み込みかねない……奴ら『ダイモン』は……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

3階にいるテロリストは4階と同じ5人。

上から天井を突き破って出てきた僕を見て、明らかに狼狽えていた。

 

 

「な、ISだと!?」

 

「専用機持ちがいたのか!?」

 

「撃て、撃てぇ!!」

 

 

5人が一斉にアサルトライフルを撃ってくる。僕はMPBL-7を盾にする。

 

このくらいの銃撃なら、防がなくても大丈夫だとは思うけど、念のためだ。

 

MPBL-7を盾にしたまま、ブーストを点火。V.コンバータが高速で回転し、キュイィンと音を立てる。そのまま地面を滑るようにテロリストに近づく。

 

 

「く、くるな!」

 

 

腕を振るい、テロリストの1人を壁に叩きつけた。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

その様子を見た他の4人は、顔を青くする。

今の世界で、生身でISに勝てるものなどいない。

 

自分の持っている武器が、どれだけ無力かはわかっているはずだ。

 

僕はバーチャロンに搭載されている変声機を通して、オープンチャンネルで呼びかける。

 

 

「武器を捨ててください。無益な戦いをするつもりはありません。あなた達に勝ち目はありません」

 

 

変声機を通しているから、声は男か女かわからないはず。

テロリストからすれば、こんなISに襲われたら、たまったものではないと思うけど……。

 

テロリストは僕の指示通り、アサルトライフルを捨てる。

 

僕は、捕まってる人たちの中から1人の男性の拘束を外す。

 

 

「申し訳ないですが、彼らを拘束して、捕まってる人たちも解放してあげてください。全部終わってもこのフロアから出ないようにしてください。まだ下はテロリストがいるので」

 

「わ、わかりました」

 

 

さて、下の階も助けに行こうか。

 

 

ーーーside クラリッサーーー

 

シュバルツェ・ハーゼに出動命令が出た。実質、初任務だ。

 

場所は、大型ショッピングセンター。テロリストに占拠されたという。テロリストの要求は金だという。

 

客や店員を人質にして立てこもっており、どうすることも出来ない。ISで近づこうものなら、人質の命が危ない。

 

出動して現地へ向かっても、突入が難しいため、待機命令が出される。

 

 

「クラリッサ、どうにかできないか?」

 

「厳しい状況です。イギリスで開発されているBT兵器があれば、打破できる可能性はありますが……」

 

 

隊長の問いにそう答える。

 

しかし、なんだろう……嫌な予感がする……。なんなんだ、この感じ

 

その時、中から銃声が聞こえる。まるで乱射しているかのように、連続して。

 

 

「発砲!?中で何が……」

 

「まさか人質が……」

 

 

テロリストがヤケを起こしたか?

くっ、急がなければ……。

 

 

「クラリッサ!ラウラ!」

 

 

突然名前を呼ばれた。

振り返ると、人混みの中に見知った顔がいる。

 

 

「リョーボさん!どうしてここに」

 

「そんなことはどうでもいい、あのショッピングセンターに将冴が居るんだ」

 

「な、なんだと!?」

 

 

将冴が……中に……さっきの発砲は……まさか……そんな……

 

 

「しょ、将冴!!」

 

「待てクラリッサ!うかつに近寄るな!」

 

「隊長!離してください!」

 

「落ち着け!お前が突っ走ったところで、どうにかなるわけではない!今は様子を……」

 

「しかし!」

 

 

落ち着いてなど……

 

 

ガシャァン!

 

 

「なんだ!?」

 

「あれは……」

 

 

ショッピングセンターの壁を突き破り、なにかが出てくる。

 

ロボット……いや、あれは……

 

 

「I……S?」

 

「どこへ行くんだ?」

 

「クラリッサは奴を終え。私は中を見てくる」

 

「私も中に!」

 

「クラリッサ」

 

「っ……了解……」

 

 

謎のISを追うため、ISを展開した。




クラリッサさん、心配で胸が張り裂けそうな思いにかられる。


アンケートですが1月20日まで受けております。
よろしくお願いします。


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27話

ふとランキングを見ると8位にクリックした形跡が。

「あれ、こんなの読んだっけ?」

この作品でした。

ランキング一桁なんて恐れ多いと思いつつ、嬉しかったです。読んでくださった方々のおかげです。これからもよろしくお願いします。

将冴が他の階を制圧する様子は、3階と同じなのでキングクリムゾン。戦闘よりもイチャイチャを書きたいのです。


 

なんとか制圧し終えた僕は、スコールさんの言う通りISをつけたまま外へ出た。

 

外には警官と一般人がごった返していた。

 

そりゃ問題にもなるか……。

 

とりあえず、人気のない場所まで高速で飛んで行こう。壁を突き破って出てきたから、目立ってるだろうし迅速に。

 

あ、近くに森がある。あそこなら大丈夫そうだ。

 

速度を少し落とし、森の中に入る。幸いにも、着地できるくらいのスペースがあるから、そこにゆっくりとおりて、ISを待機状態にする。すぐに義肢をつけて、地面に降り立った。

 

 

「ふぅ……なんとかばれなかったかな……っ」

 

 

ぶるっと、体震えた。今更になって怖くなったんだ。

もし人質が撃たれたら。うまく制圧できなかったら。

 

その事が頭をよぎる。

 

 

「参ったな……ちょっと、立っていられそうにないや……車椅子は……」

 

 

拡張領域から車椅子を展開しようとするが、拡張領域に入っていない。そうだ、スコールさんに引きずられたから現場に置きっぱなしに……。

 

耐え切れず、そのまま地面に腰を下ろした。

 

 

「良かった……守れて……」

 

「将冴……」

 

 

後ろから声がした。

朝も聞いた声。この場では、聞きたくなかった声……。

 

 

「クラリッサさん……なんで……ここに……」

 

 

ISスーツ姿のクラリッサさんが、そこにいた。

 

 

「将冴!」

 

 

抱きついてくるクラリッサさん。

なんだか……すごく安心する。

 

 

「無事で……無事でよかった。心配したんだ!本当に……また守れなかったらって……私……」

 

 

そう言って嗚咽を漏らすクラリッサさん。僕はどうすればいいかわからなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

少し経って、ようやく泣き止んだクラリッサさん。

 

ここで僕も冷静になってきた。一番に思いついたのが、やばいだった。

 

 

「クラリッサさん、どうしてここに?」

 

「ショッピングセンターから飛び出した所属不明のISを追跡していた。いや、もう所属不明ではないか……」

 

 

うっ……やっぱり……

 

 

「将冴、なんでISなんて持っているんだ。なんで男の将冴が乗れるんだ」

 

「やっぱり、僕が乗ってるのわかっちゃいましたよね……」

 

「ISの中から出てくるお前を見たら、一発でわかるだろう。さ、説明してくれ」

 

 

さて……どこから説明しようか……。

 

結局、義肢の提供が束さんで、ISも束さんが作ってくれたことを全て話した。

 

 

「まさか将冴が篠ノ之束と面識があったなんて思わなかったぞ……」

 

「知ってるのは千冬さんだけだと思います」

 

「篠ノ之束が作ったISなら……男が乗れても不思議ではないな」

 

 

束さんの名前を出すだけで、なんとなく納得してしまう。束さんは違う意味でもすごいな……!

 

 

「とにかく無事でよかった。本当に……」

 

「あの、ISのことなんですけど……できれば内緒にしてください。束さんが作ったISを、持ってるなんて知れたらどうなるかわかりません。ましてやそれが男なんて事が広まったら……」

 

 

僕はIS委員会やら政府に追われる身になってしまう。お父さんとお母さんが作ったISを、取り上げられてしまうかもしれない。

 

それだけは……

 

ポンポンと、頭を撫でられた。

 

 

「分かっている。任せてくれ」

 

「クラリッサさん……」

 

「長居してしまったな。そろそろ帰ろう。隊長にも連絡を入れないと……」

 

 

クラリッサさんはISを通して、通信を繋げた。

 

っつ……ちょっと頭痛が……義足だけでも外しておこう。

そんなに長い時間つけてないんだけど……疲れてるのかな。

 

 

「待たせたな……って、どうしたんだ!頭が痛むのか!?」

 

 

頭を押さえていたからか、クラリッサさんに心配をかけてしまった。

 

 

「大丈夫、義肢をつけてて少し頭痛がするだけだから……それより、連絡は取れました?」

 

「ああ、怪我をした人は誰もいなかったようだ。テロリストの何人かは撃たれた形跡があったが……武器は見つからなかったそうだ」

 

 

スコールさん達か……無事かな……。

何か組織的な感じがしたし、大丈夫なんだろうけど……。

 

なにが目的だったんだろう。スコールさん達……

 

 

「将冴、持ち上げるぞ」

 

「え?わっわ!?」

 

 

突然抱き上げられた。

クラリッサさんは今ISスーツ姿……布面積が少なく、肌にぴっちりと張り付いたような服だ。

 

恥ずかしくないわけがない……。

 

 

「どうした?将冴?」

 

「いや……その……」

 

「ん?まぁいい、行くぞ」

 

 

クラリッサさんはISを展開し、ショッピングセンターの方へ飛んだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

色々と処理を終えて、帰ってきたのは夕方だった。

 

帰りは千冬さんに、車椅子を押されて帰ってきた。車椅子はラウラさんが回収していてくれた。あ、クラリッサさんとラウラさんは書類とかを書かなきゃいけないとかで、まだ軍にいる。

 

スコールさん達はいなかった。ラウラさんに聞いても、そんな人はいなかったと言ってた。

 

本当に、何者だったんだ。あの人たちは……。

 

 

「将冴、ISを使ったのか?」

 

 

千冬さんに尋ねられる。

軍にいるなら、そりゃ謎のISについても知ってるよね……。

 

 

「うん……そうしなきゃ、いけないと思ったから。ごめんなさい、勝手に……」

 

「いや、責めるつもりはない。やむを得ない事情だっただろう。クラリッサからも聞いた。客や店員を守ったのだろう?よくやったじゃないか」

 

「……はい」

 

 

今回は守れた……けど、いつでも守れるわけじゃない。

 

お父さんとお母さんのことを思い出す。

力があっても、守れないことはあるんだ。

 

 

「……将冴」

 

「はい、なんですか?」

 

「私がいずれ日本に帰ることは前に話しただろう?」

 

 

千冬さんがドイツ軍の教官をする期間は一年間。それが過ぎたら、千冬さんは日本へ帰ってしまう。

 

 

「それでな、日本に帰ったらIS学園の教師にならないかと誘われているんだ」

 

「IS学園……」

 

「ああ。私は受けようと思っている。それでなんだが……」

 

 

千冬さんが言いずらそうにしているの。

なんだろう?

 

 

「日本に帰ったら、すぐにIS学園に入るつもりはないか?」

 

「え?でも……」

 

 

IS学園は高等学校という扱い。でも、僕は中学二年……いや、日本に帰る頃には中学三年。

 

 

「政府には話を通しておく。将冴さえよければ……」

 

「……」

 

 

僕がIS使えるから、千冬さんは色々考えてくれたんだろう。

 

IS学園は色々特別な学校だと聞いた。そこならISのことを隠して生活する必要はない……けど、すぐには決められない。

 

 

「すいません、千冬さん。少し考えさせてください」

 

「……そうか。まだ時間はある。ゆっくり考えろ。つまらない話を聞かせてしまってすまないな。今日は外で夕食にしよう。なにが食べたい?」

 

「僕はなんでも大丈夫です」

 

「遠慮するな、言ってみろ」

 

「えっと……」

 

 

身の振り方を考えなきゃいけない。

 

いつまでも、千冬さんのお世話になっていてはいけない。

 

一人で決めなければ……




とりあえず、ちょっと一区切り。あ、章は変えません。

次回の更新はアンケート終了後を予定しています。少し更新が止まりますが、ご了承ください。

アンケートは1月20日の午後8時までとさせていただきます。是非、ご参加ください。


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番外編:もしも、将冴がドイツではなくアメリカで誘拐されていたら

毎日更新を途切れさせたくないので、パラレルワールド書きます。

本編と全然関係ないです。

書いた理由は……なんか、書きたかったから。天使様を書きたかったから。

とはいえ、天使様はアニメでは全くと言っていいほど出番がなかったので、なんかおかしいかもしれません。ご了承ください。

今回は三人称視点になります。


 

将冴は病院のベッドの上で寝転がって天井を眺めていた。それしかすることがないのである。自力では何もできないのだから。

 

アメリカ旅行中に誘拐され、助けてもらったものの無傷というわけには行かず、彼の四肢は無くなってしまった。生活の全てを、誰かにやってもらうしかない状態である。

 

 

「ふぅ……早く来てくれないかな……」

 

 

誘拐され、助けられてから一週間が経っていた。

 

本来なら体を動かせないというストレスと、今後の不安で精神的にも疲弊してしまうような状況なのだが、彼の精神は比較的安定していた。

 

それは、将冴が来るのを待っている人物のおかげだろう。

その人物とは……

 

 

「ハーイ、ショーゴ!来たわよ」

 

 

アメリカのテストパイロット。ナターシャ・ファイルスである。

 

彼女が、将冴を助けた張本人であり、将冴の精神安定剤のようになっている人物である。

 

 

「ナターシャさん。毎日来てくれてありがとう御座います」

 

「もう、ナタルって呼んでって言ってるでしょ?日本人のレーギっていうのは他人行儀な感じがするから」

 

「僕が恥ずかしいだけなんだけど……」

 

 

ナターシャには聞こえないくらいの小さな声でつぶやく。

ナターシャは気づいていないようで、まだ日本人は細かいだの、もっとフレンドリーに接するべきだの述べている。

 

 

「それより、ショーゴ。体の具合はどうかしら?」

 

「手足が無い以外は問題ありません。とくに悪いところは……」

 

 

しまったという顔をする将冴。

 

 

「ゴメンなさい……私が、ちゃんと守れなかったから……」

 

「自分を責めないでください!ナターシャさんは僕を助けてくれた。それで十分なんです。ナターシャさんがいなかったら、僕はここにはいません」

 

 

ナターシャが助けに来てくれたが、誘拐犯はISに不慣れであり、兵装が誤作動を起こし、大爆発を起こした。

 

ナターシャが庇ってくれたとはいえ、完全に守り切れたわけではなく、四肢を失ってしまったのだ。

 

 

「それに、ナターシャさんは毎日僕のところに来てくれます。僕、ナターシャさんとお話するのが楽しみなんです」

 

「ショーゴ……」

 

 

突然、ナターシャはぎゅっと将冴を抱きしめる。将冴は突然のことに驚き、顔を赤くする。

 

 

「えっ!?ちょっ……」

 

「本当に……あなたは、なんでそんなに強いのかしら……」

 

「ナターシャさん……」

 

 

本当なら抱き返すところだろうが、将冴にはそれをするための腕がない。

 

このまま、じっとしているしかないのだ。

 

 

「……ゴメンね、ショーゴ。ちょっとネガティブになっちゃった」

 

「いえ、僕はナターシャさんの色んなところを見れて嬉しいです」

 

「もう、そんなこと言って……」

 

 

顔を赤くするナターシャ。

 

将冴は熱でもあるのだろうか、と的外れなことを考えていた。

 

 

「そ、そうだ。ショーゴ、貰い物のチョコレートを持ってきたの。結構いいお店のチョコなんだけど、食べない?」

 

「え、でもナターシャさんの貰ったものなんじゃ……」

 

「いいのいいの。私が持ってても食べないで腐らせちゃいそうだし。ほら、あーん」

 

「えっ、あむっ」

 

 

ナターシャにチョコを食べさせられる将冴。

口に入れられたら、食べるしかない。ゆっくり味わいながら、飲み込む。

 

 

「んむ……おいしいです、ナターシャさん」

 

「よかった」

 

 

ナターシャは手に少し手についてしまったチョコをペロリと舐める。

ドキッとした将冴は、顔を背ける。ナターシャは、アメリカで女優やモデルをやっているほどの美人である。そんな女性の、艶かしい様子を見て何も感じないわけないのだ。

 

 

「ショーゴ?どうしたの?」

 

「いえ、なんでも……」

 

「ん?……あ、そうだ……」

 

 

何かを思いつき、まるで悪戯を思いついた子供のような顔をするナターシャ。

チョコレートを一つ咥え、将冴の顔を掴み、自分の方を向かせる。

 

 

「うわ……ナターシャさん?」

 

「もう一つ召し上がれ」

 

 

ナターシャはそのまま口移しでチョコレートを将冴の口に入れた。

 

が、それだけでは終わらず……

 

 

「ん〜」

 

「むぅ!?」

 

 

そのまま将冴はナターシャに唇を奪われる。

 

 

「ん……ふふ、ファーストキスだった?」

 

「え……えと……?」

 

「安心して」

 

 

何が起こったのかわからない将冴。

ナターシャは将冴の耳元で囁く。

 

 

「私も初めてだから」




ナターシャを書く練習として書きましたが……恐ろしい女ですね。ナターシャ。


あ、アンケートは明日までとなります。
ぜひ参加してくださいね。


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番外編:助けてくれたのは少し怖い人でした

アンケート終わるまでの繋ぎ番外編第2弾。

あの男勝りな男嫌いにも年上キラーの魔の手が……

今回は一人称。


 

目が覚めたら、知らない場所だった。

 

起き上がろうとするが、腕が動かない。足もだ。まるで感覚がないような……。

 

 

「……本当に無くなってる……」

 

 

手足が本当に無くなっていた。

ショックを隠しきれない。

 

でも、なんとか平静を保つ。

 

手足のこともそうだけど、ここはどこなんだろう?手足のあった場所は包帯が巻かれていて、誰かに治療されたのを物語っている。

 

病院?……そんな感じもしないけど。

 

その時、扉が開いた。

 

 

「ん?目ぇさめたか?」

 

 

スーツを着こなした、綺麗な女性だった。だけど、雰囲気は少し怖いというか、威圧的というか……。

 

 

「あ、あなたは?ここはいったい……僕はいったいどうなったんですか?」

 

「いっぺんに聞くな」

 

 

僕が寝ているベッドの横に置いてある椅子にどかりと座り込む女性。

 

 

「ちっ……スコールも面倒なこと押し付けやがって……」

 

 

ボソッとそんなことを呟いている。なんのことか、僕にはわからない。

 

 

「えーっと、まず私のことか?私はオータム。で、ここは私たちの隠れ家。お前はテロリストに誘拐されて、そこを私が助けたけど手足は無くなった。以上だ」

 

 

説明がやけにざっくりしてないかな?

でもこれ以上聞くなという雰囲気がある。

 

……黙って受け入れよう。

 

 

「そうだったんですか……」

 

「あー、その……悪かったな……」

 

「え?」

 

 

オータムさんは突然僕に謝罪した。

 

 

「私が……油断しなければ、お前の手足が無くなることはなかった。だから、悪かった……」

 

「オータムさんが謝る必要ないです。オータムさんがいなければ僕は生きていないかもしれないんですから。だから、ありがとうございます」

 

「っ……礼なんか言うな。私は、そんな礼を言われるような人間じゃねぇ」

 

「オータムさんがそう思っていても、僕がお礼を言いたいんです」

 

「ふんっ……勝手にしろ」

 

 

恥ずかしそうに顔を背けるオータムさん。感謝され慣れていないのか、少し顔が赤い

あれ、最初は怖い人かと思ったけど、そうでもないかもしれない……。

 

 

「ふふ、オータムさん照れてるんですか?」

 

「なっ!?うるさい!照れてなんていない!」

 

「でも、顔赤いですよ?」

 

「これは……あれだ。この部屋が暑いから……」

 

「そうですねー」

 

「お前、おちょくってんのか!?ぶっとばすぞ!」

 

「わ、すいません!ごめんなさい!」

 

 

拳を振り上げたので、この辺にしておこう。少し反応が面白かったから、悪ノリしてしまった。

 

 

「ったく……お前は怪我を治すことだけ考えておけばいいんだよ」

 

「はい、そうします」

 

「……その……なんだ……」

 

 

オータムさんは言いづらそうに、頬を掻く。

 

 

「食事とかなら……手伝ってやるからよ……」

 

 

そう言い残して、オータムさんは部屋から出て行った。

 

 

「ふふ、怖い人かと思ったけど、いい人そうだったな」

 

 

オータムさんが聞いたら殴られそうだ。

あ、そういえば……

 

 

「僕の名前教えてないや」

 

 

今度は、僕の自己紹介から始まりそうだ。




短いですが、オータム番外編でした。

ツンデレ。オータムはツンデレ。
お姉さんツンデレとかいいですね。かわいいですね。

オータムさん!かわいいでs(ry


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28話

今回から本編に戻ります。

アンケートの結果を活動報告の方で発表しています。
ぜひご覧ください。


 

「ふぅ……」

 

 

バーチャロンを纏ったまま、僕は息を吐いた。

 

前方にはISを展開したラウラがいた。

 

 

『準備はいいか?将冴』

 

「うん、いつでも」

 

 

千冬さんからの通信に答え、テムジンのロングセイバーを構える。

 

 

『では、試合開始!』

 

 

僕とラウラが同時に飛び出す。

 

なぜ僕とラウラが、試合をするのか。それは二時間前に遡る。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「僕から詳しく話を聞きたい?ラウラさんが?」

 

 

ショッピングセンターのテロ事件から一週間がたった日。リョーボさんに勉強を教えてもらっているところに、電話が鳴った。電話をしてきたのはクラリッサさん。

 

なんでも、ラウラさんがあのテロ事件で気になることがあるから僕と話がしたいということ。寮で話せばいいのに……それとも寮で話せない話なのかな?

 

あ、因みに勉強っていうのは、日本の中学とかでやるような科目の勉強。千冬さんと一緒にいる一年間は日本に戻れないからと、勉強を教わっている。びっくりなのが、リョーボさんが日本の教員免許を持っていたこと。日本語が上手なのは、そのおかげらしい。……なんでわざわざ日本で?と聞いたけど、はぐらかされてしまった。

 

っと、話が逸れた。とにかく、クラリッサさんに呼ばれて、僕は軍の施設に来た。車椅子で。

 

そこには、クラリッサさんが待っていてくれた。

 

 

「将冴、すまないな。わざわざ」

 

 

自然に僕の車椅子を押してくれる。

僕も慣れてしまっていた。いけないな、慣れちゃ……。

 

 

「いえ、構いませんよ。でも、ラウラさんが聞きたいことってなんでしょう?」

 

「ああ……多分、『アレ』のせいだ」

 

「『アレ』って……もしかして、僕のISのことですか?」

 

 

テロ事件で、僕のISは公衆の面前でお披露目する羽目になった。壁を突き破りどこかへ飛んでくISと、僕が助けた人達の証言から、今ドイツで話題になっている。いや、おそらくもうドイツだけじゃないだろうな……。

 

 

「やれ白騎士の再来やら、謎の正義のヒーローやら、騒がれすぎだ。今では新しいアメコミヒーローとも言われてるんだぞ?」

 

「はは……知ってます……」

 

 

バーチャロンがフルスキンタイプのISでよかったと、つくづく思う。

 

 

「変声機を使っていたから性別がわからなかったのが救いだな。男だとバレたらもっと騒がれている」

 

「そこに関しては、束さんに感謝ですね」

 

 

つけてくれててよかったよ……本当。

 

 

「それで、僕のバーチャロンがどうして?」

 

「ああ、それはラウラ隊長から直接聞いた方がいいだろう。ほら着いたぞ」

 

 

厳重そうな自動扉の前で、車椅子を止めてくれる。

僕とクラリッサさんを認識したからなのか、扉が開く。

 

中はデスクと、大きなモニタがあり、秘密基地のような感覚をうけた。

いや、これは本当の基地だった。

 

デスクの一番奥に、見覚えのある銀髪が。ラウラさんだ。僕たちに気付いたのか、こっちに顔を向ける。

 

 

「おお、来てくれたか」

 

 

僕たちが近づく前に、ラウラさんの方から来てくれる。

 

 

「わざわざ来てもらってすまないな」

 

「これくらいならお安い御用だよ。ラウラさん」

 

「ふむ……」

 

 

ラウラさんが突然何かを考え始める。

僕とクラリッサさんは顔を見合わせ、頭の上にハテナを浮かべる。

 

 

「将冴、いつまでさん付けするつもりだ?」

 

「え?」

 

「私とお前は同い年だ。かしこまる必要もないだろう」

 

「いや、そうだけど……」

 

「ほら、呼び捨てにして呼んでみろ」

 

 

これは、言わなきゃダメなのかな……ダメだよね。

 

 

「えっと……ラウラ?」

 

「うむ、それでいい」

 

 

こういうのは改めて言うと恥ずかしいものだ……。

 

 

「……私も呼び捨てで……」

 

 

ボソッとクラリッサさんが何かを呟いた。

 

 

「クラリッサさん?何か言いました?」

 

「うらやましぃ……へ!?い、いやなんでもない!」

 

「……?そうですか」

 

 

っと、こんな話をしに来たんじゃない。

ラウラから、本題を聞かないと。

 

 

「それで、僕に聞きたいことって何?」

 

「ああ、そうだったな。単刀直入に聞こう」

 

 

ラウラが端末を操作してモニタに何かを写す。何かっていうか、あれテムジンだ。

 

 

「これ、お前だろう」

 

「「……ええっ!?」」

 

 

僕とクラリッサさんの声が重なった。

このISが僕だってことは、開発者の束さんとクロエさん、あとは千冬さんとクラリッサさんしか知らない。

 

ラウラは何故……?

 

 

「その反応。やはりクラリッサも知っていたのだな」

 

「え、あ、いや、その……」

 

「ラウラは、どうしてそれが僕だと?」

 

 

フルスキンで顔はわからない。変声機を使っていたから、声も変わっている。僕だとわかる要素は一つも……

 

 

「あのな、わからない方がおかしいだろ。車椅子だけ現場に置きっ放し。その持ち主はクラリッサが連れてくる。おまけにクラリッサはあのISが将冴の居場所を教えてくれたとバレバレな嘘までついて」

 

 

ラウラに言われたことを冷静に聞いていたが、聞いていた自分が恥ずかしくなった。よくそれでバレないと思ったな、一週間前の僕。

 

クラリッサさんも目が泳いで冷や汗を流している。

 

 

「私に感謝しろ。車椅子をこっそり回収して、上層部には正体不明とだけ伝えておいたんだからな」

 

「お手数かけてすいません」

 

「申し訳ありません、隊長……」

 

「まぁ、世間にはバレていないからな。それに関しては問題ないだろう」

 

 

ラウラは他の人にバラすよう人じゃないのは知ってる。とりあえずは安心か……。

 

 

「しかし、うっかり私が話してしまうかもしれないな」

 

「え、ラウラ!?それはやめて!男の僕が動かせるなんて世間に知れたら……」

 

「知れたら、大変だろうな」

 

「わかってるなら……」

 

「黙ってて欲しいなら、条件がある」

 

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるラウラ。

嫌な予感が……

 

 

「私と勝負しろ」




長くなりそうだったのでここで切ります。


あぁ、タートルネック来たクラリッサに甘えたいんじゃあ〜。


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29話

戦闘描写が難しい。

いや本当に……得意ではないので……大目にみてください(土下座


今回、視点変更するのですが、視点変更時のSIDE表記をなくしてみました。ちゃんとわかるように書けるか心配ですが、おつきあいくださいませ。


 

「ちょっと、ラウラ。勝負って……」

 

「前に手合わせしてくれと言ったはずだが?」

 

「いや、言われたけどさ……」

 

 

剣道とか、そういう生身での勝負をいきなりやるなんて言われてもな……竹刀も木刀もないのに。

 

 

「どうする?将冴」

 

「ああ、もう。やればいいんでしょ!」

 

「最初からそういえばいいんだ。よし訓練場に行くぞ。私はISスーツに着替えてくる。将冴もすぐに着替えろ」

 

「わかったよ……ISスーツ?」

 

 

なんで?え、勝負って……

 

 

「ISバトルなの!?」

 

「そのつもりで隊長の勝負を受けたんじゃないのか?」

 

「いや、前にした手合わせの話って剣道とか格闘的なものの話だったから……」

 

「受けてしまったんだ、やるしかないぞ。それに、私も将冴がISで戦っているところを見たいしな」

 

「うぅ……」

 

 

クラリッサさんにそう言われてしまうと、断りずらい……しょうがない、やるか。

 

 

「更衣室はどこですか?」

 

「男子更衣室はかなり遠い。ここで着替えればいい」

 

「え、でも……」

 

「ほら手伝ってやる」

 

「あ、ちょっ!?」

 

 

なんとか抵抗し、一人で着替えた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

そんな経緯で、僕とラウラはISで試合をすることになった。

 

千冬さんはたまたま鉢合わせて……

 

 

「私も見てみたいからな、審判は任せろ」

 

 

という感じで審判を引き受けてくれた。

今はクラリッサさんと一緒にモニタールームにいる。

 

さて、千冬さんの開始の合図で飛び出したはいいけど、どうしようかな。束さんとクロエさんに特訓はしてもらったけど、初めてのIS相手だとどんな戦い方をすればいいのか……とりあえず。

 

 

「ボムで!」

 

 

腕の収納部分からボムを取り出し、ラウラに投げつける。牽制目的だから、避けられるのは想定しておく。ラウラのシールドエネルギーは削れなくていい。

 

案の定、ラウラはボムが炸裂する前に加速し、僕と一気に距離を詰めた。

 

 

「その程度か、将冴!」

 

「まさか!」

 

MPBR-7にビームの刀身を纏わせる。

 

ラウラは手の側面にビームを纏う。そのままラウラの手刀か、振るわれる。

 

MPBR-7で手刀を受け止める。手刀相手に、ロングセイバーは不利だ。リーチの差はあっても距離を詰められたら、速度はあちらが上だ。

 

僕は後ろに下がるために、ブーストを点火し、そのままMPBR-7でビームを2発放つ。

 

 

「いい動きするな!だが離れるのは得策ではないのではないか?」

 

 

簡単にビームを避けられ、ラウラの肩にある砲塔が光を放つ。レールカノンか!

 

 

「くっ!」

 

 

ブーストを再度点火。横方向に避ける。モロに食らっていたら危なかった。

 

 

「そのままではただの的だぞ!」

 

 

連続してレールカノンを放つラウラ。

 

ラウラの言う通り、とりあえず動くしかない。空中へ飛び、レールカノンを紙一重でかわし続ける。

 

どうしようか……このままじゃジリ貧。かわし続けるにも限界がある。かわし続けるのが難しいなら……。

 

 

「攻める!」

 

 

かわし続けながらビームを放つ。狙いはつけていない。大雑把にラウラの方に撃つ。

 

ビームはラウラの横の地面に当たり、ラウラには命中しない。

 

 

「狙いが甘いぞ。それでは私には当たらない」

 

「そうだね。でも、何発も撃てば当たるでしょ?」

 

 

2発目、3発目、4発目。

連続してビームを放つ。一発撃つたびに微調整を繰り返し、精度を上げる。

 

 

「ほう?避けながら弾道を調整しているのか。やるな」

 

「それほどでも」

 

「だが、まだまだ当たらないぞ!」

 

「当てるのが目的じゃないからね!」

 

 

ボムを手に持ち、投げつけた。

 

 

「そんなバレバレな攻撃」

 

 

ラウラにはすぐにバレる。すぐにそこを離れようとするけど、それは許さないんだ。

 

離れようとするところにビームを放つ。進路の先にビームが迫っていれば、思わず立ち止まるでしょ?

 

 

「くっ、さっきのビームはこのための!?」

 

「そういうこと!」

 

 

ボムが炸裂し、土煙がラウラを包む。この程度で倒せるわけはない。次の手だ。

 

 

「バーチャロン、フォームチェンジ『ライデン』」

 

 

装甲が粒子化し、すぐに再構成されていく。再構成された装甲からはテムジンの面影はなく、スマートだった装甲は厚い装甲に変わる。一言で表せば、ゴツくなった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「なんだあれは……」

 

 

私……クラリッサは、将冴のISの変化に驚きを隠せない。織斑教官も同様のようだ。

 

 

「ISの装甲を戦闘中に粒子化し再構成……全く別のISを組み立てた。なんというISだ……」

 

「一体どんな技術であんなことを……」

 

「拡張領域があの装甲が入るほどの容量が……全く、束の奴。なんで物を……」

 

 

ISの技術に関しては、篠ノ之束に敵うものいないとは思っていたが……これほどのものを作り上げるなんて……。

 

 

「まぁ、ISのことも驚いたが、将冴の操縦技術の高さも眼を見張るものがある。ラウラよりも操縦時間は短いはずだが、よく動けている」

 

「はい。シュバルツェ・ハーゼに入っても、遅れは取らないだけの実力があります」

 

「ああ。なかなか鍛えがいがありそうだな。しかし、相手はラウラだ。ここからが本番だろう」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ライデンへの装甲の再構成を終えた瞬間に、ラウラが土煙を払った。

 

まだまだ健在、というところだろう。

 

 

「む……別のISだと?」

 

「いや、同じISだよ?だけど……」

 

 

ガシャンと、肩が開く。パラボラアンテナのようなパーツが姿を現わす。

 

 

「さっきとは、コンセプトが違うけどねっ!」

 

 

肩のパーツから巨大なビームが放たれる。これがライデンの巡洋ビーム兵器『バイナリー・ロータス』だ。

 

 

「なんだと!?」

 

 

放たれたビームはそのまま直進。ラウラは咄嗟に横に跳び、ビームの直撃を避ける。しかし、その余波までは無理だったみたいだ。

 

 

「くぅ!?」

 

 

レールカノンをかすった。だけど、それだけでも十分。そのビームは伊達じゃないんだ。

 

レールカノンは火花を上げている。

 

 

「使えないか……」

 

「今更だけど、壊れた際の責任って……」

 

「安心しろ、訓練の際の故障としておく」

 

 

ほっと胸をなでおろす。僕のせいなったらどうしようかと思った。

 

 

「しかし、恐ろしい装備だな……」

 

「開発者曰く、現行最強だって」

 

「そんなものを撃ったのか」

 

 

ラウラの顔が一瞬真っ青になる。

ちゃんと出力は落としたよ?

 

 

「しかし、これで私も本気を出さざるを得ない、な!!」

 

 

ラウラのISからワイヤーのようなものが2本出てきた、まずい……ライデンは機動力が……

 

 

「あう!?」

 

 

簡単に拘束された。

それはもうあっけないくらいに。




もう一回続くんじゃよ。

バイナリー・ロータスがぶっ壊れすぎるかな。今回はラウラが待っていてくれたから……(汗
本当はチャージとかが必要なんですよ……本当は……。


友達に「クラリッサのタートルネックってどう思う?」と聞いたところ、「お前は神か」と崇められました。

絵心あれば描けるんだけどなぁ……ちらっ、ちらっ。


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30話

今回で戦闘終了。

次は全く考えてません……。

もし、こんなの書いて欲しいというのがあればメッセージに送っていただけると嬉しいです。ネタ切れの作者にお恵みを……。番外編としてではなく、本編として掲載するとおもうので、まだ出ていないナターシャや山田先生なんかは書けないかもしれません。

番外編として後で書くかもしれないので、ナターシャや山田先生のリクエストでもありです。


「捕まえたぞ」

 

 

ワイヤーに巻きつかれた僕は、全く身動きが取れない。

肩のバイナリー・ロータスも開けない。武装は展開してないけど、ライデンの武装は連装ビームライフル。この状況を打破できる武器じゃない。

 

 

「あはは……どうしようか」

 

「笑っていられるだけの余裕があると捉えていいのか?」

 

「いや、余裕がないから笑うしかないんだよ……」

 

 

考えろ……拘束を外せる方法を。ライデンで使える武装は連装ビームライフルとバイナリー・ロータス。

 

連装ビームライフルは、さっきも言った通り今は役に立たない。バイナリー・ロータスを展開する力で強引にワイヤー引きちぎる?いや、このワイヤーをちぎるだけの力はない。何かないのか……何か他に……他に……?

 

 

「どうする?降参するか、私にシールドエネルギーをゼロにされるか……」

 

「どっちも嫌かな」

 

「そうか、なら私自ら勝負をつけようか!」

 

 

ラウラが距離を詰めてくる。

そのままビームの手刀で勝負をつける気だ。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

今だ!

 

 

「フォームチェンジ『アファームド』!」

 

 

ライデンの時と同じように、装甲が粒子化し再構築。姿を表すのはライデンよりもスマートな装甲。迷彩柄が特徴的な、IS。

 

再構築が終わったIS『アファームド』の腕を盾にし手刀を受け止めた。

 

 

「まだ隠していたのか……」

 

「まぁね。あんまり得意なフォームじゃないけど、ね!!」

 

 

腕で手刀を受け止めたままローキックを放つ。しかし、ラウラは後ろに飛んだ。

 

 

「見た所、武装はないようだが……」

 

「ちゃんとあるよ。ここにね」

 

 

腕の部分を指差す。腕に沿うように棒のようなものがついている。

 

 

「それは……」

 

「こうやって使うんだよ!」

 

 

ラウラと距離を詰めると同時に腕の棒……トンファーを起動。ビームと一緒展開されるトンファーは、起動する前よりもリーチが伸びた。これがアファームドの基本装備、ビームトンファーだ。

 

 

「ふっ!」

 

 

振るわれたビームトンファーをビームの手刀で受けるラウラ。

 

 

「くっ、やるな。いいぞ、楽しくなってきた」

 

「こっちは必死なんだよ!」

 

 

さらにトンファーを振るう。僕自身、剣は得意だけど肉弾戦は得意ではない。これはラウラのほうが強い。

 

 

「動きが鈍くなってきたぞ、将冴!」

 

 

ラウラは僕の隙を突き、バーチャロンのシールドエネルギーを削っていく。

さっきのバイナリーロータスや、最初のレールカノンでかなりのエネルギーが減っている。

残りは150。ラウラは200。

 

勝つには、ここで決めるしかない。

 

僕は一度ラウラを押し返し、距離を取る。

 

 

「フォームチェンジ『テムジン』」

 

 

フォームをテムジンに戻す。決めるなら、これで決めるしかない。

 

 

「装甲を戻したか。ここで決めるつもりか?」

 

「そうだね。これで最後」

 

 

これが通らなければ、僕の負け。

ラウラもかなりのギリギリの状態だと思う。決めるなら、今だ!

 

 

「行くよ!」

 

 

ブーストを最大で点火。「瞬時加速(イグニッションブースト)」。スピード狂のクロエさんが教えてくれた。そして、今からやるのは束さんが使えるようにしてくれた技……

 

 

「突貫か。安易だぞ、将冴!」

 

 

ワイヤーを4本同時に放つラウラ。まっすぐこちらに向かってくる。

 

そして、ワイヤーが目の前に迫った時。そこを僕は狙っていた。

 

 

「曲がれぇ!!」

 

 

ワイヤーが僕にあたる直前、速度を維持したまま90度右へ方向転換。ワイヤーは僕を捉えられず、そのままあらぬ方向へと飛んでいく。

 

 

「そのままの速度で曲がっただと!?」

 

「もう一回!」

 

 

さらにもう一度、90度左に曲がる。これが束さんが使えるようにしてくれた技「バーティカルターン」。速度を維持したまま、90度直角に曲がる軌道操作だ。

 

 

「これでー!」

 

 

MPBR-7にビームの刀身を形成。ラウラに斬りかかる。

 

 

「くっ!」

 

 

ラウラは左手をかざした。その瞬間、僕の斬撃はラウラに直撃する直前で……止まった。

 

 

「なっ……」

 

 

次の瞬間、ラウラのISの拳が僕の顔面を捉え、僕は意識を手放した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……!……き……」

 

 

体を揺さぶられている気がする……それに声も聞こえる気が……。

 

 

「おき……ご!起きろ、将冴!」

 

「っ!?」

 

 

パッと目を覚ました。

目の前には、なぜか涙目のクラリッサさんが……。

 

 

「将冴!気がついたか!?」

 

「クラリッサさん……僕は……」

 

「よかった……目を覚まさなかったらどうしようかと……」

 

 

そう言ってクラリッサさんが僕を抱きしめる。

……なんだか安心した。

 

周りに目をやると、ここは医務室のような場所のようだ。僕とクラリッサさんしかいない。

 

というか、僕義肢をつけてない。

腕だけつけよう。

 

 

「あの、クラリッサさん。僕はなんで……」

 

「覚えていないか?ラウラ隊長に顔面にパンチを受けてそのまま意識を失ったんだ」

 

 

ああ……そう言えばそうだった。

絶対防御があっても、衝撃まで無くしてくれるわけじゃないから……。

 

そうだ、ラウラに聞かなきゃいけないことがあったんだ。

 

 

「あの、クラリッサさん。ラウラは……」

 

 

その時、医務室の扉が開いた。

入ってきたのは千冬さんと、すこししょぼくれた様子のラウラ。

 

 

「将冴、目が覚めたか。よかった」

 

「すまなかったな、将冴。思いっきり殴ってしまって」

 

「いや、怪我はないみたいだし大丈夫だよ」

 

 

特に痛いところもない。

意識を失っただけだ。

 

 

「あれから大変だったぞ。ラウラは取り乱すし、クラリッサはモニタールームの窓を突き破って助けに行こうとするし……」

 

「はは、お疲れ様です。千冬さん」

 

 

恥ずかしそうに顔を伏せるラウラとクラリッサさん。

 

 

「そうだ、ラウラ。最後のあれはなんだったの?僕の剣が止まったんだけど……」

 

「ああ、あれはドイツで開発されてるアクティブ・イナーシャル・キャンセラーと言ってな。まだ試作中の第三世代装備だ。相手の動きを任意に止めることができる」

 

「なにそれ、反則の域だよ……」

 

「まぁ、デメリットもある。かなり集中力が必要だし、複数戦闘には向かない。エネルギー兵器にも、効果は薄いな。まだ試作段階で、使用は避けていたんだが、ついな」

 

「つい、で大事な装備使うな。馬鹿者が」

 

「す、すいません。教官……」

 

 

ああ、さっきまで千冬さんに怒られてたからしょぼくれてたんだ……。

 

 

「しかし、驚いたぞ。あんな操縦技術があるとは思わなかった。まぁ、ISをもらった場所が場所だったのもあるが」

 

「特訓の毎日でしたから。わからないところはすぐに教えてもらえますし」

 

 

クロエさんも結構スパルタだったし、束さんは無茶な要求ばっかりするし……。

 

 

「操縦技術もそうだが、あのISはいったいどうなっているんだ?」

 

 

クラリッサさんが興味津々に聞いてくる。

まぁ、気になるよね……。

 

 

「えっと……単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)って言えばいいのかな?僕のISの背中にディスクみたいなのがあったのを見ました?」

 

 

3人は頷く。

 

 

「あれが、僕の両親が開発した『V.コンバータ』というものです。簡単に言えば、拡張領域を飛躍的に伸ばすことができます。あと、男の僕がISを動かせるのも、V.コンバータのおかげです」

 

 

束さんは遺伝子情報がどうのこうの言っていたけど、詳しい原理はわからない。

 

 

「なるほどな……確かに、人前に出せない代物だ」

 

「男がこんなもの持ってたら、いろいろ問題ですからね……」

 

 

とりあえず、身近な人には事情を知ってもらえたから、すこしは過ごしやすくなったかな。

 

 

「ラウラ、勝負したんだから、内緒にしてよ」

 

「わかっている。約束は守るさ」

 

 

よかった……。

 

 

「将冴が目を覚ましたし、帰るぞ。もう夕飯時だ」

 

「うわ、僕そんなに眠ってたんですか……」

 

「ああ。本当に心配したんだからな……」

 

 

またクラリッサさんが抱きしめてくる。

 

うぅ……まずい、クラリッサさんに抱かれるのに慣れてきてる……。

 

 

「ごほんっ……二人とも、仲良くしてるところ悪いが、早く帰るぞ」

 

「クラリッサ、いちゃいちゃするのはいいが、公私の区別ははっきりさせるんだぞ」

 

 

ボフンと、クラリッサさんの顔が真っ赤になった。




難産……戦闘苦手スギィ!


お目汚し申し訳ないです……。


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31話

昨日は更新できず、申し訳ありません。
用事が重なりに重なって全く書く時間がありませんでした。

さて、前回ネタを募集いたしました。たくさんネタをいただき、感謝感激でございます。

今回、いただいたネタで書こうと思っていたのですが、いただいたネタは原作に追いついてからの方がいいかなと判断いたしました。

なので、原作に早く追いつくために、本編を進めます。ネタを提供してしまった方には申し訳ないですが、今しばらく待っていただけたらと思います。


 

ラウラと勝負してから、早くも数ヶ月が経っていた。

あれ以来、ラウラは事あるごとにIS勝負を挑んでくる。AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を使って勝ったことが気にくわないとかなんとか……。今のところ、勝敗は25戦中13勝12敗で僕が勝ち越している。AICを使われても対処さえ覚えてしまえば、攻略は可能だった。

まぁ、そんな感じでISの操縦の練習を予想外の場所で行っていた。

 

さて、今日僕は寮の前にいる。なんで寮の前にいるかというと、待ち合わせのためだ。

 

誰と待ち合わせかというと……

 

 

「将冴!」

 

 

寮から出てきて僕を呼んだクラリッサさんとだ。

クラリッサさんはいつものドイツ軍服ではなく、ホットパンツに白いシャツという、ラフな格好をしていた。シュバルツェ・ハーゼのトレードマークとも言える眼帯はつけたままだったけど。

 

 

「すまない、待たせてしまったな」

 

「ううん、僕もさっき準備できてここにきたから、そんなに待ってません」

 

「そうか。じゃあ、行こうか」

 

 

クラリッサさんが車椅子を押してくれる。

なんで僕がクラリッサさんと出掛ける事になったのかというと、それは昨日の夕飯の時間まで遡る。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

いつものように、千冬さんと夕食を取っていた。

 

 

「将冴、どうだ最近は」

 

「どうと言われても……まぁ、普通ですね。日本に帰っても、授業に追いつけるように勉強もしてますし。

 

 

千冬さんが日本に帰る日が近づいていた。それに伴い、僕も日本に帰る準備をし始めている。

 

 

「ドイツでの生活に慣れてきたところで、すまないな」

 

「いえ、前から決まっていたことですし、千冬さんにこれ以上迷惑はかけられません。重要人保護プログラムがどういうものかは、正直わかっていませんが、どうにかなります」

 

「ああ、政府には便宜を図っておこう。安心してくれ」

 

 

本当に、何から何まで世話になってしまった。

 

 

「そうだ、将冴。明日……「織斑教官、相席よろしいですか?」

 

 

千冬さんが何か言いかけた時、クラリッサさんとルカさんが夕食を持ってそう言ってきた。

 

 

「あ、ああ構わんぞ」

 

 

クラリッサさんは千冬さんの隣に、ルカさんは僕の隣に座った。

 

 

「千冬さん、何か言いかけてましたけど……」

 

「いやなんでもない……」

 

 

そう言って、千冬さんは食事を再開した。なんだったんだろう?

 

 

「そういえばクラリッサ」

 

 

静かに食事をしていると、ルカさんがクラリッサさんに話を振った。

 

 

「なんだ?」

 

「明日非番よね?」

 

「ああ。まぁ、特にやることもないが」

 

「ふぅん……」

 

 

一瞬、ルカさんが僕の方を見た気がする。

そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「じゃあさ、明日将冴君と出掛けてきなよ」

 

「ぶふぅ!?げほっ!けほっ!?」

 

 

クラリッサさんは口にしていたスープを吹き出した。

 

 

「ちょ、ルカさん!?そんな急に……」

 

「だって、将冴君も明日は何もないんでしょう?リョーボさんから聞いたよ。明日は勉強会はしないって」

 

「いつの間に聞いたんですか……」

 

 

この根回しの良さは一体……。

 

 

「ルカ!そういうことは勝手に決めるんじゃない!」

 

「はいはい、クラリッサに拒否権はありません」

 

 

そう言って、ルカさんは2枚のチケットを取り出した。

あれは、映画のチケットかな?

 

 

「この前懸賞で当てた映画のチケットあるから、2人で行って来なさい」

 

「え、いや、あの、しかし……」

 

 

クラリッサさんは顔を真っ赤にしてゆでだこ状態。

 

 

「将冴君は行きたいよね?」

 

 

言葉の裏に隠れた闇が見える。行くって言えと言っている……。これには逆らえない気がする……。

 

 

「えっと……クラリッサさんが良ければ……行きたい、かな?」

 

「将冴……い、いいぞ!明日、一緒に行こう!」

 

 

かなり興奮気味のクラリッサさん。

でも……僕も結構ドキドキしている。

 

 

「私も……明日は非番だったんだがな……」

 

 

千冬さんが何か言っていたが、僕の耳には届かなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

とまぁ、そんなこんなで僕とクラリッサさんは映画を観に行く。

 

……これってもしかして、デートなのでは?僕なんかとでいいのか……というか、この状況みたら周りの人は……。

 

 

「あら、あの2人姉弟かしら?」

「男の子の方は車椅子なのね」

「お姉さんが車椅子を押してくれてるのね。いいお姉さんだわぁ」

 

 

……姉弟に見られてた……。まぁ、そうだよね。僕はまだ13歳で、クラリッサさんは20歳。年の差的にも、デートには見えないか。

 

 

「ん?将冴、どうした?具合でも悪いか?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 

僕は考えすぎかな……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「さ、着いたぞ」

 

 

将冴の車椅子を押していた私は、将冴の車椅子を止める。

 

 

「将冴、私は受付してくるから、ここで待っていてくれ」

 

「はい」

 

 

そう笑顔で返しくれる。

や、やめてくれ……なんだか恥ずかしい。

 

逃げるようにして、チケットを手に受付しに行く。

幸いにも人は少なく、すぐに受付できそうだ。

 

 

「大人二枚頼む」

 

「はい。お席はいかがいたしますか?今なら全て空いておりますが」

 

「連れが車椅子なんだ。車椅子用の席で頼む」

 

 

将冴の方に目をやる。

受付の人も将冴を見つけたようだ。

 

 

「はい、わかりました。ふふ、お若い彼氏さんですね」

 

「なっ!?私と将冴はそんな関係じゃ!?」

 

「ふふ、ごゆっくりどうぞ」

 

 

くっ、余計なことを言って……余計に意識してしまうではないか……。

 

せっかくデートだと意識しないように……

 

 

「ただ……2人で映画を見に……きた……」

 

 

これをデートというのか……?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

戻ってきたクラリッサさんはなんだか上の空だった。

上映中もずっと……。どうしたんだろ?具合悪いのかな?

 

そんなクラリッサさんが気になって、映画の内容をあまり覚えていない。

 

映画が終わった後、ハンバーガーチェーン店で昼食を取ることになった。まぁ、クラリッサさんはまだ上の空のようだけど……。

 

 

「クラリッサさん」

 

「ふぇ!?なんだ!」

 

「それ、コーヒーじゃなくてコーラですよ?僕が頼んだ」

 

 

あまり確認せずに飲み物を取ってしまったらしい。コーラには既にミルクと砂糖が入れられてしまった。

 

 

「す、すまない!今、新しいのに……」

 

「いいですよ、そのままで」

 

 

僕はミルクと砂糖が入れられたコーラを飲む。

 

 

「うん、少しだけだったから甘さが増しただけです」

 

「本当にすまない……」

 

「クラリッサさん、今日は調子悪いんですか?映画の間も、ずっと上の空でしたし……やっぱり僕と映画は迷惑でしたか?」

 

「そんなことはない!これはその……」

 

 

もじもじと、言いずらそうにしている。

 

 

「……年甲斐もなく、緊張してしまったというか……」

 

「緊張?」

 

「その……今日のこれはまるっきりデートのようだし……私はこういうことは一度も経験がなくて。そんな私が将冴とデートなんてって思って」

 

「んー」

 

 

それで上の空だったと……まぁ、僕もデートなんてとは思っていたけど。

 

 

「それじゃあ、クラリッサさん。これからデートしましょう」

 

「え!?」

 

「さっきまでの映画とかは忘れて、これから本当にデート。いいですよね?」

 

「でも、私でいいのか?」

 

「クラリッサさんがいいんです。さ、早く食べ終わって遊びに行きましょう」

 

「……ああ!」

 

 

僕とクラリッサさんはハンバーガーにかぶりついた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

クラリッサさんと買い物をしたり、ゲームセンターで遊んだりして気づいたら日も暮れかけていた。

 

 

「久しぶりこんなに遊んだ。将冴、楽しかったか?」

 

「うん、クラリッサさんと遊べてすごく楽しかった」

 

 

車椅子を押してもらいながら帰り道を歩いていた。

ドイツでこんなに遊んだのは、本当に初めてだった。

なんだかんだで、いろんな事が起きていたから。

 

 

「ドイツにいる間に、こんなに遊べるなんて思いませんでしたから。遊びに行くとなると、周りの手を借りなきゃいけないこともあるので」

 

「将冴……」

 

「ドイツを離れる前に、いっぱい遊べて良かったです」

 

 

クラリッサには、迷惑かけちゃったけど……

 

 

「……なぁ、将冴」

 

「なに?クラリッサさん」

 

「前に、私の嫁になれと言っただろう?」

 

「ああ、あの使い方間違えていた時の……あの時は本当にびっくりしました」

 

「その……あの時の言葉、訂正させてもらってもいいか?」

 

「訂正?」

 

 

クラリッサさんが車椅子を止めた。そして僕の前へ回り込む。

 

 

「クラリッサさん?」

 

「将冴、私を嫁にしてくれ」

 

「え……んむっ」

 

 

目の前にクラリッサさんの顔がある。

唇には二回目の感触……。

感触はすぐに離れ、赤い顔のクラリッサさんが僕の方を見つめている。

 

 

「私の気持ちだ」

 

「クラリッサさ……」

 

「何も言わないでくれ。……将冴はドイツから出て行ってしまう。その前に伝えたかったんだ。それだけ」

 

「……クラリッサさん……」

 

「あと、これも言っておこうと思っていたんだ。私にさん付けしないでくれ。クラリッサと、呼んでくれ」

 

 

そう言って、クラリッサさんはまた僕の車椅子を押し始めた。

 

 

「クラ……リッサ……」

 

 

僕の胸が、チクリと刺されたように痛んだ。




急展開すぎるかな?


いや、これでいい。少女漫画の知識を間違ってとらえたクラリッサならやりかねない……!


え?やらない?
んなバカな!?


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32話

寒い日が続きますね。

大学の定期試験期間ですが、全く勉強してません。
勉強しなくてもいいよね……。

クラリッサさんに膝枕して慰めて欲しい……。


日本へ帰る当日。

僕と千冬さんは、ルカさんが運転する車で空港に向かっていた。助手席にはラウラが座って、どこかに電話している。

 

 

「……ダメだ。通じない」

 

「ラウラ?誰に電話してるの?」

 

「クラリッサだ。あいつも来る手筈だったんだが……」

 

 

クラリッサさん……。

あのデートから、クラリッサさんとまともに話をしていない。日本へ帰る準備で忙しかったのもあるけど、クラリッサさんがさけているように感じた……。

 

今日、来ないのかな……。

 

 

「二人とも、空港に着きました」

 

 

ルカさんが車を停めた。

そこからラウラの手を借りて車椅子に乗り、荷物を降ろした。

 

 

「将冴、私が車椅子を押そう」

 

「ありがとう、ラウラ」

 

 

ラウラが車椅子を押してくれる。その横を千冬さんが並んだ。ルカさんは駐車場に車を停めに行ったみたいだ。

 

駅の荷物検査のところまで行くと、ドイツ軍服の集団とリョーボさんがいた。皆、寮にいた人たちだ。

 

 

「リョーボさん!」

 

「よう、将冴。見送りに来たよ」

 

「ありがとうございます。皆さんも……」

 

 

思わず目が潤んでしまう。

おかしいな……お父さんとお母さんが亡くなった時は泣かなかったのに……。

 

 

「ほら、将冴」

 

「うん……」

 

 

千冬さんが僕の肩に手をやる。

涙が流れてどうしようもないけど、皆の方を向く。

 

 

「一年間、ありがとうございました。男の僕を受け入れてくれて、助けてくれて……皆さんといた一年間は、絶対に忘れません!」

 

 

涙でぐしゃぐしゃの顔でお礼を言った。リョーボさんは、「またドイツに来な」と頭を撫でてくれる。

寮の皆も……

 

 

「絶対にまた来てね!」

「今度は私が日本に行くからね」

「元気でね!」

 

 

と、声をかけてくれる。

 

 

「将冴」

 

「ラウラ……」

 

「勝ち逃げは許さないからな。次は私が勝つ」

 

「……うん、僕も負けないから」

 

 

互いに握手をする。

 

 

「元気でな。また会おう」

 

「はい!また……絶対に!」

 

 

時間が迫り、千冬さんが車椅子を押して保安検査所をくぐった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「こーんな所にいた」

 

 

滑走路が全て見える場所で外を眺めていたら後ろから話しかけられた。

そこにはルカが立っていた。

 

 

「ルカか……」

 

「いいの?お見送りに行かなくても」

 

「……いいんだ。別れが辛くなる……」

 

 

それに伝えたいことは、デートの時に伝えた。返事はもらっていないけどな。

 

 

「……あんた、デートした時から将冴君をさけてるでしょ?聞いても答えないだろうから聞かないけど。というか、だいたい察しはつくけど」

 

「お前は本当に末恐ろしいな……」

 

 

何も言ってないのに察するとは。ルカの頭はどうなっているのか……。

 

 

「一言くらい何かあるでしょ?」

 

「人がどれだけの決心をしてデートに挑んだと思っているんだ」

 

「知ってるわよ。だけど……」

 

 

スパァンと頭を叩かれた。……痛い。

 

 

「将冴君だってあんたに何か伝えたいかもしれないでしょ!あんたがどうのってことじゃないのよ!」

 

「わかっている!わかっているさ……でも……」

 

 

怖い。あの時の返事を言われそうで……。

 

 

「ルカ……恋愛というのは、こんなにも怖いのか……」

 

「当たり前でしょ。バカ」

 

「そうか……」

 

 

私は、ISの通信を繋げた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

飛行機に乗り込んだ。

驚いたことにファーストクラス。千冬さんはどんだけVIP待遇されているのだろう……。

 

窓際の席に座り、車椅子を拡張領域にしまう。

 

 

「将冴、大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫です。永遠のお別れじゃないですし、絶対にまた会いに行きます」

 

「そうか。長いフライトになる。休めるうちに休んでおけ」

 

「はい」

 

 

飛行機が動き出すまで、まだ時間はある。

何気なく窓の外に目をやる。

 

 

「クラリッサさん……」

 

 

小さく呟く。

ドイツを発つ前に、会いたかったな。あの時の返事は……まだ僕の中でまとまっていない。

 

クラリッサさんとそういう関係になるのは、想像がつかないんだ。

 

その時、網膜に投影されて、ISが通信をキャッチした。誰だろう?

 

離陸前だし、つないでみよう。

 

 

「はい、どちら様でしょう?」

 

『……私だ。クラリッサだ』

 

「クラリッサさん!?」

 

 

まさかクラリッサさんから連絡が来るなんて。

隣に座っている千冬さんは、僕の声でこっちを見た。

 

 

『今日は見送りに行けなくてすまない。将冴と面と向かって話すと、別れの決心が揺らいでしまいそうだったから……』

 

「……」

 

『将冴と会うのが怖かったんだ。臆病者と、笑ってくれてもいい』

 

「クラリッサさん、あの時の返事……」

 

『……っ』

 

 

息をのむ音が聞こえる。

クラリッサさんも、緊張しているのがわかる。

 

 

「まだ、僕の中で整理がついていません。クラリッサさんと別れたくない、もっと一緒にいたい。この気持ちがそうなら、そういうことなんだと思います。でも……」

 

『将冴……』

 

「ちゃんと僕の中で答えが出るまで待ってください。それがいつになるかわかりませんが、絶対にその時はクラリッサに伝えに行きます。たとえ世界の裏側でも」

 

『……ああ』

 

「だから、僕を待っていてくれますか?」

 

『待っている。ずっと……私はお前の嫁なのだからな!』

 

 

離陸のアナウンスがされた。

 

 

「また……いや、『まだ』それは間違いですよ」

 

 

そう言って、通信を切った。

 

僕は、日本へと戻る。




とりあえず一区切り。

次から原作に追いつきます。

長い前日章でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。
次回もお楽しみ。


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目まぐるしい環境
33話


今回から原作に入っていきます。

いきなりキングクリムゾンしますが、ご了承ください。
日本の中学校で書くことがないんです←

それでは、本編どうぞ。


静かな教室。聞こえるのはペンで何かを書く音と、紙をめくる音、時計の秒針が動く音だけだった。

 

そして、秒針が12時を指す。

 

 

「はい、テスト終了。何も書き込まずに後ろから前に送れー」

 

 

その瞬間、教室にいる生徒のほとんどがため息をつく。ようやく終わったという安堵のため息と、成績的に死んでしまった落胆のため息だ。

 

僕はどちらかというと安堵のため息をついた。

 

今日が、中学最後のテスト。明日からは家庭学習期間に入るため、下級生より早い春休みだ。

 

 

「ほらほら、すぐにホームルーム始めるぞ。日直」

 

「起立、礼」

 

 

僕は車椅子のまま礼をする。

 

あっという間の中学生活だった。実際に中学にいたのは2年間だし。

 

そう、日本に戻ってきたときの話をしなければいけない。

 

僕がドイツから戻ってすぐに日本政府の人たちが待っていた。重要人保護プログラムが適用されるためだ。千冬さんが便宜を図ってくれたらしく、地方の学校へ行かされることはなかった。それでも、寮のある学校に入ることになったんだけど。

 

で、この中学校に転入した。僕が住んでた家は政府が押収したとかなんとかで住めなくなってしまったから。

 

千冬さんの家に住むという話も出たけど、断った。これ以上、千冬さんの手を煩わせたくなかった。

 

そんなわけで、1年だけという短い間をこの中学校で過ごした。

 

 

「……連絡は以上だ。お前ら悪さして入試に響かせんなよ」

 

 

日直が号令をして、皆一斉に帰る準備をし始めた。しまった、全く話を聞いてなかった。まぁいいか。さて、寮に帰ろう。引越しの準備をしなくちゃ。

 

僕が鞄に物をしまっていると、僕の席の前に立つ人がいた。そこにいたのは……

 

 

「将冴、今日はもう帰るのか?」

 

 

篠ノ之箒さん。ドイツに行く前から剣道を通じて交流があった人だ。あの大天災篠ノ之束さんの妹さんなのは、この学校に来て初めて知った。

 

この学校に来て、箒さんに会った時はびっくりしたなぁ。

 

 

「そのつもりだよ、箒さん。引越しの準備をしたいからね」

 

「そうか。将冴は藍越学園だったか?」

 

「うん、推薦もらってね。おかげで試験をしなくても大丈夫だよ。箒さんはIS学園って言ってたよね?」

 

「ああ、試験はまだなんだ。少しでも勉強しないとな」

 

「頑張ってね。応援している」

 

「ありがとう。いい結果を報告できるようにするさ」

 

 

IS学園か。千冬さんに入学しないかと、何度か誘いを受けたけど、断っていた。男の僕がIS学園に入ることは、世界に混乱を招くと思ったから。女性しか扱えないISを男性が、しかも篠ノ之束さんと知り合いな上に、ISを作ってもらったということが明るみに出たら……想像もしたくない。

 

っと、早く帰ろう。荷物をしっかりまとめておかないと、引越しの時大変だ。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

家庭学習期間に入って数日が経った。僕の部屋の荷物のほとんどが段ボールに入り、あとは引越し先に荷物を運ぶだけとなった。

 

一年しか過ごしてないけど、いざこの部屋を出るとなると名残惜しものがある。

 

そんな感じでしみじみしていると、部屋をノックする音が聞こえた。誰だろ?

 

 

「はい、開いてます」

 

「失礼するぞ」

 

 

入ってきたのは担任の先生。はて、何の用だろう?

 

 

「おお、引越しの準備か。感心感心」

 

「この体ですから。できるときにやらないと」

 

「そうだな。っと、用件を忘れていた。今から体育館に来れるか?」

 

「体育館……ですか?」

 

 

何だろう?卒業式の練習?いや、あれは卒業式の前日にやる予定だったし……。

 

 

「なんだ、ニュース見ていないのか?」

 

「ええ、ずっと部屋に閉じこもってましたし……」

 

「この部屋、テレビないしな……仕方ないか。実はな、男性のIS操縦者が見つかったんだよ」

 

「…………は?」

 

 

男性IS操縦者?まさか僕のことがバレて……いやそんなはずはない。日本に帰ってきてから一回もISを展開していない。では別の誰か?

 

 

「まぁ、驚くのは無理もないな。なんでも、動かしたのはあの世界最強で有名な織斑千冬の弟だそうだ」

 

 

千冬さんの弟って……一夏!?

 

いや待て、織斑姉弟は束さんと交流が深かったはず。束さんが一夏を動かせるようにISをいじっていたとしたら、ありえない話じゃない。

 

 

「それで、全世界の男がISに乗れるかどうかを確認するために検査してるんだ。体育館にIS置いて、順番に触っていってな」

 

「な、なるほど……」

 

 

起動すれば、一夏と同じ男性操縦者。実にシンプルだ。しかし、僕は気が気じゃない。束さんは、僕はISを動かせるんじゃなくてバーチャロンを動かせると言っていたから、普通のISは起動しないと思うけど……いやな予感がする。

 

 

「男子全員が対象だから、将冴もと思ってな。車椅子に乗れ、俺が連れて行く」

 

「あ、はい……」

 

 

先生に言われた通り、車椅子に座り先生に車椅子を押してもらう。ヤバい、なんか緊張してきた。

 

体育館に着くと、中央にISが鎮座していた。あれは確か『打鉄』だったかな?

 

 

「次の人」

 

 

僕の番だ……。

 

そっとISに触れると、キュイーンという音とともにISが起動した。




短いですがここで終わり。

ちょろっと登場する箒。
そして起動するIS。
いったいどうなっているのか。
作者もわかりません!


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34話

最近更新が不定期に……申し訳ありません。

今回から学園に入学。

原作を持っていないので、原作キャラの口調やセリフが曖昧です。大目に見てやってください。


体育館でISを動かしてから、どれくらい経っただろう。僕は今、政府の車に乗っている。

 

あの後すぐに政府の人が来て、保護された。まぁ、重要人保護プログラムも適用されてたから、当たり前の話だと思う。

 

で、政府の監視下で軽い軟禁状態だったわけで……。今日、ようやく外に出れた。IS学園の制服を着て。

 

そう、僕は藍越学園の推薦を白紙にされ、IS学園へ入学することになった。すぐに千冬さんから連絡が来たよ。

 

 

『こっちで準備は済ませておく。心配するな。一夏もいる』

 

 

と、お世話にならないようにしていたのに、また千冬さんのお世話になってしまうという……。なんとも悲しい現実。

 

まぁ、確かに男一人という事態にはならなかったけど……。

 

車が止まり、外側から扉が開けられた。スーツにサングラスをかけた政府の人が、無言で僕を抱えた車椅子に乗せてくれた。

 

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「……」

 

 

返事なし。怖いな……。

 

改めて、周りを見ると大きくて新しい建物。ここがIS学園……。女の人しかいない、女子校同然の学校か……。

 

と、学園の方から見覚えのある誰かが歩いてくる。

スーツを着こなし、カツカツと歩いてくるその人は、何度もお世話になっている千冬さんだ。

 

 

「待っていたぞ、将冴。よく来た」

 

「また、お世話になります」

 

 

千冬さんは微笑み、政府の人に一言二言言葉を交わして、僕の車椅子を押してくれる。

 

 

「将冴、個別で話がある。入学式の方には出なくていいから、少し時間をくれ」

 

「はい、わかりました」

 

 

特殊なケースだし、仕方ないよね……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

連れて来てもらったのは、生徒指導室。

扉を開けると、そこには緑のボブカットにメガネをかけた女の人がいた。

 

 

「紹介しよう。山田真耶先生だ。お前が入ることになる一年一組の副担任になる」

 

「は、はじめまして!」

 

 

緊張してるのかな?声が強張ってる。

 

 

「はじめまして。柳川将冴です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「ちなみに、担任は私だ。何かあれば、私か山田先生に伝えろ」

 

「はい、わかりました」

 

 

義肢があるとはいえ、本体は手足がない言わば身体障害者なんだ。ここに呼ばれたのも、そういう類の話だろう。

 

 

「それで、ここにお前を連れてきたのは今後の学生生活についての相談だ」

 

「やっぱりそういうことでしたか。まぁ、しょうがないですね」

 

「すまないな。この学園は障害者のための設備が整っていないからな。車椅子用のエレベーターなんかも設置していない」

 

「階段の件なら大丈夫です。短時間なら義肢をつけれますから」

 

「そうしてもらえると助かる。あとは……」

 

 

そのあと、トイレや食堂での話をした。女性しかいないため、職員用のトイレを使ってもらうことや、車椅子用の食事スペースを用意するといったことだ。

 

 

「最後に、寮のことだ。この学園は全寮制になっている」

 

「政府監視中にパンフで読みました。でも、当然……」

 

「ああ、男子寮があるわけじゃない。それに、世間的にはお前は障害者。それなりの対応が必要だ。お前も、介助が必要な時もあるだろう」

 

 

四肢を使えるのは、せいぜい50分程度。どうしても、両手か両足どちらかしか使えないことの方が多い。僕が車椅子を使っているのは、腕を使えたほうが便利だからだ。

 

 

「そこで、お前には山田先生と教員寮で相部屋してもらう」

 

「……へ?」

 

「学生寮を使うとなると生徒と相部屋になる。生徒に介助を頼むのは負担が多すぎる。だから、山田先生に頼んで相部屋になってもらった」

 

「ちょ、千冬さ「ここでは織斑先生だ」……織斑先生!生徒と教師が相部屋って問題が……それに、生徒と相部屋が無理なら一人部屋でも……」

 

「空き部屋が無くてな」

 

「山田先生とじゃなくても、ドイツみたいに織斑先生とでも……」

 

「私は寮監でな。生徒と住むのは示しがつかないし、部屋も1人用のでな。スペースがないんだ」

 

「うっ……」

 

 

まさか、初対面の女の人と住むことになるとは……。

 

 

「や、柳川君、私と相部屋はそんなに嫌ですか……?」

 

 

な、涙目でこっちを見ないでください……本当にこの人僕より年上なんですか!?

 

 

「い、嫌とかそういうわけじゃ……」

 

「言いたいこともわかるが、決定事項だ。それに、山田先生の好意を無為にするな」

 

「……わかりました。山田先生」

 

「ひゃい!?」

 

「これからお世話になります」

 

「は、はい!任せてください!なんでも頼ってくださいね!」

 

 

胸を張る山田先生。

その時、すごい何かが揺れた。何かって……胸が……。

 

 

「どうした、将冴。顔が赤いぞ」

 

「いえ、なんでも……」

 

「?そうか……っと、山田先生。そろそろ教室に行ってくれ」

 

「あ、もうそんな時間ですか。では、先に行っていますね」

 

 

山田先生が生徒指導室を出て行き、部屋には僕と織斑先生の2人だけになった。

 

 

「さて、将冴。束とは連絡を取ったか?」

 

 

まるでこの時を待っていたかのように、織斑先生が聞いてくる。

 

ドイツにいた時、織斑先生やクラリッサ、ラウラには普通のISは使えないことを伝えておいた。僕がここに入ることになったのは普通のISを動かしてしまったから。そのことで束さんと連絡を取ったのかを聞いているんだろう。

 

 

「はい。束さんは詳しくはわからないと言っていました。考えられる可能性は、ISのコアネットワークを通じて僕がISに乗れる人物だと共有したか、僕自身がISを持つことで体質が変わったかということ……らしいです」

 

「そうか……」

 

「ミクロ単位で解剖すれば何かわかるかも、とは言われました」

 

「断ったか?」

 

「当たり前です」

 

 

はぁ、と織斑先生がため息を吐く。束さんの親友だからこそ、いろいろと心配なんだ。

 

 

「まぁ、動かしてしまったものはしょうがない。今は、ここの生活に慣れることを優先しろ」

 

「わかりました」

 

「よし、それじゃ教室に行こう。少し遅くなったが、今は自己紹介中だろう」

 

「はは……自己紹介か……」

 

 

少しトラウマがあるんだよな……箒さんにはずっとからかわれたっけ。

 

 

「そうだ、忘れるところだった」

 

 

織斑先生が小さな紙を渡してくれる。紙には番号が書いてある。

 

 

「織斑先生。これは?」

 

「夜にでもかけてみろ。私からの入学祝いだ」

 

 

はて?




山田先生がわからねぇ!?
書けねぇぞ!?どういうことだ!

ふぅ、入学編。まだ続きます。


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35話

入学編その2。

回想とか入ります。ご了承ください。


 

織斑先生に車椅子を押してもらいながら、廊下を進んでいる。僕は自己紹介に若干の不安を抱えていた。僕の様子に気がついたのか、織斑先生が話しかけてくる。

 

 

「どうした、何か不安なことでもあるのか?」

 

「ええ、まぁ。自己紹介に、若干のトラウマがありまして」

 

「トラウマ?」

 

「はい。あれは日本に帰ってきて、中学に編入するとき……」

 

 

僕は1年前に起こったことを思い出す。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

〜1年前〜

 

「ここがお前のクラスだ」

 

 

担任の先生に連れてきてもらった教室。中を見ると、まだ先生が来ていないからか、隣の席同士で話したりしている。学校なんて1年ぶりだからな。すごい緊張する。

 

 

「それじゃあ、入るぞ」

 

「はい」

 

 

僕は緊張を隠しきれないまま、先生と教室に入る。

 

 

「静かにしろー」

 

 

先生の声に、話し声がとまり僕の方に視線が集まった。

 

 

「先週に伝えたから知ってると思うが、転入生が来た。今から自己紹介してもらう」

 

 

先生が視線で合図をくれる。

 

自己紹介だよね……自己紹介……自己紹介……

 

 

『はじめまして、柳川将冴です。先日までドイツにいました。体に障害があるので車椅子ですが、仲良くしてください。よろしくお願いします』

 

 

できた。完璧だろう。

 

……あれ?なんかみんなぽかーんとした顔をしてる。

 

 

「将冴、自己紹介は日本語で頼む」

 

「え……」

 

 

……あ、今ドイツ語で……。

 

 

「す、すいません!」

 

 

その瞬間、全員に笑われた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「そんなことが……」

 

「まさかあんな失敗するとは思いませんでした。なので少しトラウマなんですよ」

 

「まぁ、今回は大丈夫だろう。着いたぞ。ここが1年1組の教室だ」

 

 

教室の外から中を見ると、まだ自己紹介をしているところだった。立っているのは……一夏だ!久しぶり会ったよ。少し背が伸びたかな。

 

かすかに声が聞こえる。

 

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします。…………以上です」

 

 

教室の中にいる人たち全員がずっこけた。一夏相変わらずだなぁ。

 

 

「あの馬鹿者が……将冴、ちょっと待ってろ」

 

「はい、わかりました」

 

 

出席簿を手に、織斑先生が教室に入ってまっすぐに一夏のところへ行き、出席簿を思いっきり一夏の頭に振り下ろした。

 

 

パァン!

 

「げっ!関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄だ!」

 

スパァン!

 

 

また出席簿が振り下ろされた。ご愁傷様、南無南無。と、次の瞬間。

 

 

『キャアァァァァ!!』

 

 

キィンと、耳に響く絶叫。いったいなんなんだ?

 

 

「千冬様よ!ブリュンヒルデの!」

「ああ、千冬様!私もぶってください!」

「願わくばその御御足でふんずけてください!」

「私を調教してぇー!!」

 

 

あ、察し……世界的に有名なブリュンヒルデは、女性にとっては尊敬する相手。それが目の前にいるんだ。それに、この教室にはその弟の一夏もいる。ボルテージMAXだ。

 

 

「静まれ!」

 

 

織斑先生がそう言った瞬間に、教室はしんと静まり返った。流石というかなんというか。

 

 

「まだ自己紹介は終わってないだろう……が、その前に1人紹介する者がいる。入ってこい」

 

 

織斑先生に呼ばれ、教室に入る。

 

 

「はじめまして。織斑一夏と同じ男性操縦者の柳川将冴です。見ての通り体に障害があり、車椅子ですがよろしくお願いします」

 

 

よし、日本語で話せた。

 

問題ないはず……

 

 

「き……」

 

 

……まずい。僕は急いで耳を塞いだ。

 

 

『キャアァァァァ!!』

 

 

再び絶叫。

 

 

「2人目!?ニュース見て知ってたけど二人とも一緒のクラスなの!?」

「弟系よ!保護欲をそそられる弟系!」

「身の回りの世話をしてあげたい!私色に染め上げたい!」

「おり×やな……ぶっふぉ!?」

 

 

最後の、なんかおかしいよ?

 

 

「うるさい小娘ども!」

 

 

その瞬間に、また静まる。織斑先生は絶対なのか。

 

 

「将冴……将冴なのか!?」

 

 

一夏が立ち上がり、僕を見た。

 

 

「久しぶり、一夏」

 

「お前、この2年どこに居たんだよ!俺も鈴も心配して……」

 

「まぁ、その話は後で。まだ自己紹介の途中だよ。織斑先生にまた叩かれるかもしれないし」

 

 

その言葉に、一夏は席に座った。

 

改めて全体を見渡して見ると、窓際に箒さんがいる。箒さんもこっちを見ていたので軽く手を振っておいた。

 

 

「将冴、自分の席に行けるか?」

 

「はい」

 

 

一つだけ空いてる席を見つけ、車椅子を動かした。

そして、また自己紹介が始まる。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

自己紹介も終わり、このまま授業が始まるということで、少し休憩時間をもらった。

 

他のクラスも同じだったようで、廊下の外には生徒が詰めかけている。多分、僕と一夏を見に来たんだろうな。

 

と、一夏が僕のところに向かってくる。

 

 

「将冴、久しぶりだな。二年もどこに行ってたんだ?」

 

「織斑先生から聞いてない?……って、話せないのか。どこから話すべきか……」

 

 

僕は今までのことを掻い摘んで話した。モンドグロッソで誘拐されたこと。ドイツで一年間過ごしたこと。日本に帰って来てすぐに重要人保護プログラムにより元の家に住めなくなったこと。

 

 

「そうだったのか……その足も……」

 

「うん、誘拐された時にね」

 

 

一夏と話していると、また1人近づいてくる人がいた。箒さんだ。

 

 

「一夏、将冴」

 

「お前……箒か。久しぶりだな」

 

「ああ、久しぶり。将冴も、あの時以来だな」

 

「うん、そうだね。箒さん」

 

「二人共知り合いなのか?」

 

「箒さんとは同じ中学だったんだ」

 

「そうだったのか。すごい偶然もあるもんだな」

 

 

本当にすごい偶然だよ……一夏と箒さんもね。

 

 

「将冴、すまないが一夏を借りてもいいか?」

 

「どうぞ」

 

「すまない。一夏、二人きりで話しがしたい」

 

「あ、ああ。わかった」

 

 

箒さんは一夏を連れて教室を出て行った。

 

さて、こうなると周りの視線は僕に来るわけで……

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 

ふと、僕に話しかけてくる人が。

金色の髪がロールしていて、目はサファイアのような色……この人は確か……

 

 

「えっと、確かイギリス代表候補生の……」

 

「あら、ご存知でしたの。ま、当然ですわね。改めて、セシリア・オルコットと申します」

 

 

軟禁中にISの情報見ておいてよかった。

 

 

「ご丁寧にどうも。柳川将冴です。お話できて光栄です」

 

「礼儀は弁えているようですわね。いい心がけですわ」

 

「それで、僕に何か?」

 

「いえ、世界で2人しかいない男性IS操縦者がどのような者か見ておこうと思いまして。あなたはまともな方のようですわね」

 

「それはよかった。まともじゃないなんて言われたら、どうすればいいか困ってたよ」

 

「せいぜい頑張ってくださいな」

 

 

んー、常時上から目線な態度だな。あれかな、典型的な女尊男卑の……ここは波風立てないように。

 

 

「そうします。できれば、今後ご教授いただけると嬉しいです」

 

「ええ、いいですわ。貴族たるもの、常に庶民には手を差し伸べる。ありがたく思いなさいまし」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

と、手を差し出す。イギリスには礼をする習慣はなかったと思うから、握手だ。

 

セシリアさんも、意図をわかってくれたようで、手を握ってくれる。

 

 

「あら?」

 

 

セシリアさんが不思議そうに声をあげる。

 

 

「あなた、手袋をしてますの?」

 

「ええ、まぁ……失礼でしたか?」

 

「いえ、そういうわけではありませんが……気になったもので」

 

 

義手を隠すために手袋をしたままだったけど……ISの授業が始まれば、いやでもバレるか。

 

 

「何か、お怪我でも?」

 

「まぁ、怪我といえば怪我ですね」

 

 

僕は両方の手袋を外した。

 

 

「なっ!?」

 

 

セシリアさんは言葉を失い、周りのクラスメイトや廊下の生徒も驚きの表情を見せる。

 

 

「本当は、両手もないんです。足と一緒に、事故で無くしてしまって」

 

 

誘拐された時に、とは言わないでおこう。

 

 

「そう……だったんですの……」

 

 

セシリアさんには、少しショックが強かっただろうか。でも、隠していけるわけでもないし、いつかはバレるから早いほうがいい。

 

と、そこで始業のベルが鳴る。セシリアさんは「失礼します」と言って自分の席に戻る。

 

一夏と箒さんは、ベルが鳴り終わる頃に教室に入ってきた。




セシリアが偉そうな時の喋り方が迷子。

勉強不足かな……なんとかします。


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36話

まだ続く入学編。
そういえば、入学編ってどこまで入学編なんでしょう?

セッシーと戦うところまで?
ならまだ続きます。


 

入学早々に授業がある学校も珍しいけど、このIS学園という学校なら頷ける話だと思う。

 

というわけで、絶賛授業中です。黒板の前には山田先生が立っていて、教鞭をとっている。因みに、教室の後ろには織斑先生が立っている。

 

一通り説明し終えたところで、山田先生が教室を見渡す。

 

 

「ここまでで何かわからないところはありますか?遠慮なく手をあげてくださいね」

 

 

朝に会った時と違い、おどおどした感じもなくちゃんと先生をやれている。さすがというべきか。

 

と、その言葉に甘えたのか一夏が手をあげた。

 

 

「織斑君、どこがわからないですか?」

 

「えっと、全部です」

 

 

教室の空気が凍りついた。

全部って……。

 

 

「織斑、入学前に渡された参考書は読んだのか?」

 

「古い電話帳と間違って捨てました」

 

スパァン!

 

 

織斑先生の鋭い一撃。

そりゃ叩かれるよ……。

 

 

「お前は入学前にどうやって勉強したんだ」

 

「何もやってないけど……」

 

スパァンっ!!

 

 

あ、さっきよりも力篭ってる。

 

 

「馬鹿者が。後で再発行してやる。一週間で覚えろ」

 

「あれを一週間でって、そんな無茶な……」

 

「やれ」

 

「はい……」

 

 

はは、一夏は相変わらずだなぁ。

 

織斑先生が立っていた場所まで戻ってくる。実は僕の真後ろなんだよね。僕の席、一番後ろだから。車椅子で過ごしやすいようにという配慮だと思うけど。

 

 

「将冴はわからない場所はあるか?」

 

「大丈夫です。予習はしていたので」

 

「そうか。山田先生、続けてくれ」

 

「は、はい!」

 

 

また授業が再開される。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

授業が終わり一夏がまっすぐ僕のところまでやってくる。

 

 

「将冴、お前は授業ついていけるのか?」

 

「ちゃんと参考書読んでたから。ていうか、それくらいしかすることなかったから」

 

「優等生かよ……」

 

「男だからっていう理由で入学したけど、やることはちゃんとやらないとね。織斑先生や山田先生の負担になっちゃうし」

 

「将冴のお小言が俺の心をえぐってくる……」

 

 

自業自得。精進するべし。

そんな感じで僕と一夏は始業ベルが鳴るまで喋っていた。

 

授業前よりは視線の数は減ったけど、まだ僕達を見てるな。あと、何人か僕に奇異の視線を向けてる。

 

まぁ、両手足無ければそうなるのも当然か。慣れるしかない。

 

ガラッと教室の扉が開き、視線が無くなった。黒板の前に織斑先生が立った。

 

 

「授業を始める前に、ホームルームで決められなかったクラス代表を決める」

 

「クラス代表ですか?」

 

 

生徒の一人がそう呟く。

 

 

「ああ、言うなれば学級委員のようなものだ。クラスの雑務を行ってもらうことになる。あと、一ヶ月後に予定されている、『クラス対抗戦』に出てもらう。その名の通り各クラス同士で試合をするものだ。各クラスのISの技術を測るものだ」

 

 

なるほどね。本当にクラスの代表ということか。それに、対抗戦で戦うということはISに乗れる機会が増えるということ。早くISの技能を高めたい人は率先してやるべきかもしれない。

 

 

「自薦他薦問わない。意見があるものは手を挙げろ」

 

 

少し静寂。そして、生徒の一人が手を挙げる。

 

 

「はい!織斑君がいいと思います」

「私もそう思います」

「異議なーし」

 

 

1人がいえば、同調するものが出てくるか。その後も、一夏を推薦する人が出てくる。

 

 

「候補者は織斑か。他に意見はあるか?」

 

「ちょっ、ちょっと待てよ!俺はクラス代表なんて……」

 

 

一夏が立ち上がって抗議する。

 

 

「推薦されたものに拒否権はない」

 

「そ、それなら俺は……」

 

 

と、一瞬僕の方を見る一夏。しかし、すぐに視線逸らし自分の席に座った。

 

 

「……なんでもありません」

 

 

僕を推薦しようとしたんだろう。でもやめた。僕の体に障害があるからだろう。他の生徒が男の僕を推薦しないのも同じ理由かな。

 

このまま一夏が一方的に決められるのも可哀想だな。

 

僕は右手を挙げた。

 

 

「ん、将冴。なんだ?」

 

「はい。僕はセシリア・オルコットさんを推薦したいです」

 

 

周りの人がヒソヒソと話し始める。この推薦は予想外だったのかな?

 

 

「あら、柳川さんはわかっていらっしゃるようですわね!やはり、代表という大役を務めるべきは私のような貴族であると」

 

「セシリアさんはイギリスの代表候補生ですし、実力は十分だと思います」

 

「そうか。他に意見は?」

 

 

誰も手を挙げない。意見はないんだろう。

 

 

「候補者は2人か。ならば、IS学園らしくISで代表を決めよう」

 

「ISで?」

 

「ああ。一週間後にISでの試合を行ってもらう。勝った方がクラス代表だ。異論は無いな」

 

 

一夏とセシリアさんは頷く。

 

 

「では授業を始める。テキストを開け」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「将冴ー、ISで試合なんて無理だ……」

 

「まあまあ、なっちゃったものはしょうがないよ。棄権するのは、織斑先生が許さないだろうしね」

 

 

授業がすべて終わり、僕は教室で一夏とおしゃべり。

 

この後、特にすることもないからぐうたらしてるだけなんだけど。

 

 

「あら、お二人まだ居たんですの」

 

 

セシリアさんが僕達に近づいてくる。

 

 

「織斑さん、降参するなら今のうちですのよ?なんなら、私から織斑先生に進言しておきますわ」

 

「むっ……」

 

 

あ、一夏がむっとした。意地っ張りだからなぁ。

 

 

「降参なんてしない。戦うって決まったんなら、全力で戦う」

 

「あら、厚意は受け取っておくものですわよ?ま、私のようなエリートに、あなたみたいな男だからと持て囃されてるような人に負けるわけがありませんが」

 

「代表候補生がどんだけ偉いか知らないけど、男として逃げるわけにはいかないな」

 

「せいぜい一週間頑張ってくださいな。ま、無駄だとは思いますけど」

 

 

全力で宣戦布告して去っていったセシリアさん。

でも、これで一夏に火がついたんじゃないかな?

 

 

「あんなに言われたら、本気で行くしかないな」

 

「頑張ってね。応援してるよ」

 

「お前はセシリアを応援するんじゃないのか?」

 

「一夏が一人推薦されてて可哀想だったから、セシリアさんを推薦しただけだよ。それに……あのままだとセシリアさんがヒス起こしそうだったから……」

 

 

女尊男卑思考の人が、男をを持て囃されてるのを黙っているはずないからね。

 

 

「まぁ、頑張ってよ。少し体鍛えなおしておいたら?」

 

「ああ、そうするよ」

 

 

と、ダラダラと話していると教室の扉が開いた。

 

 

「あ、良かった。まだ居たんですね」

 

 

山田先生が息を切らして教室に入ってきた。

 

 

「山田先生、どうしたんですか?」

 

「はい、織斑君に寮の鍵を渡しに」

 

「え、俺一週間は自宅から通学するって……」

 

「そうなんですが、織斑君の安全も考えて、今日から寮に入ってもらうことになったんです」

 

「はぁ……そうですか。でも、荷物とかは……」

 

「心配ない」

 

 

もう1人、教室に入ってくる。なにやら荷物を持った織斑先生だ。

 

 

「お前の荷物は私が持ってきた。とりあえず、着替えと携帯の充電器があれば大丈夫だろう」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

はは、トントン拍子で話が進んで一夏の思考が追いついてないや。

 

 

「それと、将冴」

 

「はい?」

 

「一週間後の試合、お前も出ろ」

 

「……え?」

 

 

いや……え?

 

 

「専用機は持っているんだ、問題あるまい」

 

「将冴、専用機持ってたのか!?」

 

「えっと、まぁね……それより、僕が出る必要は……」

 

「しばらく動かしていないんだろう?いい機会だ、リハビリだと思え」

 

 

リハビリって……。

 

 

「それと、一夏。お前にも専用機が与えられることになった。試合までには届くとは思うが、そのつもりでな」

 

「え、俺にも……」

 

「じゃあ、伝えたぞ。私はまだ仕事があるから失礼する」

 

 

言うだけ言って、織斑先生は去っていった。僕も思考が追いつかないよ……。

 

 

「まぁ、二人とも頑張ってくださいね」

 

 

山田先生が応援してくれる。

一夏は呆然としている。

 

 

「そうだ、柳川君。これお部屋の鍵です。まだ合鍵を作ってないので、渡しておきますね。お部屋は自由に使ってください。あ、タンスの中とかは見ないでくださいね!?」

 

「わ、わかりました。気をつけます」

 

「それでは、私も仕事に戻りますね。寄り道せずに寮に行ってください」

 

 

パタパタと山田先生も去っていく。

初日で詰め込みすぎだよ……先生方。

 

 

「はっ!俺と将冴は同じ部屋じゃないのか!?」

 

「ああ……そこも説明しなきゃいけない?」




原作と展開違うけど……まぁいいよね。

山田先生可愛い。
でもクラリッサはもっと可愛い


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37話

気分が乗ったので、もう一話投稿。

久々にあの人が……


 

学生寮と教員寮の建物が分かれており、僕と一夏は学園を出てすぐに分かれた。

 

 

「えっと、この建物かな?」

 

 

最新鋭の学校ということで、寮も綺麗だ。

中へ入ると、整備が行き届いているのがよくわかる。

 

山田先生の部屋は……

 

 

「105号室……あった」

 

 

一階でよかった。エレベーターとか、乗るの結構大変だからね。

 

山田先生から預かった鍵を使い、中に入る。

部屋はそこそこ広く、キッチンやシャワールームなんかも完備されている。ベッドと机が二つずつあり、奥のベッドと机には色々置いてあるため、そこが山田先生のスペースだろう。手前のベッドには僕の荷物も置いてある。山田先生が置いておいてくれたのかな?

あと、それぞれの机の横にタンスがある。多分奥の方を山田先生が使っているんだろうけど、怖いから帰ってきてから確認しよう。

 

 

「夕食まで時間あるし……何しようかな」

 

 

ふと、ポケットに手を入れると、カサリと音がする。

 

 

「これは……」

 

 

朝、織斑先生が渡してくれた電話番号が書かれた紙だ。

 

 

「電話してみろと言ってたけど……どこに繋がってるんだろう」

 

 

僕は携帯電話を取り出して番号にかけてみる。

 

1コール、2コール、3コール目で電話が繋がった。

 

 

『もしもし?』

 

 

帰ってきた言葉ドイツ語……それにこの声は……もしかして……

 

 

「クラリッサ……?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「はぁ……」

 

 

私、クラリッサはデスクで書類に必要事項を明記しながらため息をついた。今この場にいるのは、ラウラ隊長と私だけだ。

 

 

「クラリッサ、最近ため息が多いぞ。こっちまで気が滅入る」

 

「隊長……申し訳ありません」

 

「まぁ、分からなくもないがな。将冴のこと、心配なのであろう」

 

「はい……将冴がISを動かせるということが世界に知れ渡ってしまったんですから」

 

 

織斑教官の弟、織斑一夏がISを動かした。それにより、世界中で男性がISを動かせるかという検査が行われた。将冴は、これで動かせることがバレてしまったのだろう。

 

 

「ドイツにいた頃は、頑なに隠していたからな。男が動かしたら混乱を招くと言って」

 

「バレた発端は将冴ではないですが……」

 

 

おそらく、将冴は最後まで隠すつもりだったんだと思う。しかし、もう一人の男性IS操縦者の発見によって……。

 

 

「誰が悪いというわけではない。織斑教官の弟……一夏と言ったか。彼も被害者だ」

 

「それは心得ています」

 

 

別に彼を責めるつもりなど毛頭ない。

 

 

「将冴と連絡を取ったのか?」

 

「いえ……彼は日本で重要人として保護されています。それがISを動かしたとなったら、外部との連絡は全て断たれてしまいます。将冴が日本に帰ったあとも、連絡を取れなかったのですから」

 

 

かれこれ一年も彼の声を聞いてない。

 

将冴……君の声が聞きたい……肌に触れたい……またあの腹筋を……

 

 

「しかし、これで何個かの組織に狙われることになるだろう、将冴は」

 

「女性権利団体、テロ組織……」

 

 

世界的にも名前が知れ渡ってしまった。本当なら今すぐ日本に飛んで彼をそばで守ってやりたい。

 

私も隊長も押し黙る。

 

その時、私の携帯電話が鳴る。

 

相手の番号は……知らない番号?

すぐに通話ボタンを押す。

 

 

「もしもし?」

 

『クラリッサ……?』

 

 

トクンと胸が高鳴った。聞きたかった声が、受話器越しに私の耳に届いた。

 

 

「将冴……将冴なのか?」

 

『うん……僕だよ。久しぶり、クラリッサ』

 

 

目頭が熱い。涙が止まらない。久しぶりのその声に、感情が抑えられない。

 

ラウラ隊長は驚いた顔をしている。

 

 

「久しぶり……本当に……」

 

『クラリッサ、泣いてるの?』

 

「ああ……もう抑えられなくて……突然電話してくるからだぞ」

 

『ごめん。織斑先生……今は別にいいか。千冬さんが番号を教えてくれたんだ。入学祝いって』

 

「そうか。織斑教官が……」

 

 

教官に感謝しなきゃいけない。

とりあえず、泣き止まなければ。

 

 

「将冴、話せなかった一年間の話を聞かせてくれないか?」

 

『うん、どこから話せばいいかな……』

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

クラリッサに一年間のことを話せるだけ話した。

気づけば2時間も経っていた。

 

 

「あ……もうこんな時間なんだ……」

 

『長々と話してしまったな……そろそろ仕事をしなければ、ラウラ隊長の厚意に甘えてしまったが、さすがにな……』

 

「仕事中だったの?ゴメン、そんな時に電話して……」

 

『構わない。これからはいつでも話せる』

 

「うん。それじゃあ、もう切るね。仕事、頑張ってね」

 

『うん……またね』

 

「またね」

 

 

名残惜しいけど、通話を切る。そしてそのままベッドに倒れこんだ。

 

 

「……クラリッサ」

 

 

声を聞いたら、会いたくなった。

夏休み、ドイツに行こうかな……。

 

その時、部屋の扉が開いた。山田先生かな?

 

 

「山田先生、お疲れ様でした」

 

「あ、柳川君。ただいまです」

 

 

ニコッと笑いかけてくれる山田先生。

 

 

「自分の荷物、わかりましたか?」

 

「はい。奥の方は先生が使っているようだったので、すぐにわかりました」

 

「それはよかったです。将冴君は、お夕飯は食べましたか?」

 

 

山田先生にそう聞かれ、ふと時計を見ると時刻は午後6時半。もういい時間だ。

 

 

「いえまだです」

 

「そうでしたか。では一緒に学食に行きましょう。今日は色々大変でしたから、お腹すいていますよね?」

 

「はい。びっくりするくらい」

 

「ふふ、では決まりですね。少し待っていてくださいね」

 

 

山田先生はそう言うと、徐に上着の裾に手をかけた。

 

 

「あ、山田先せ……」

 

 

僕が止めるのも間に合わず、山田先生はガバッと上着を脱ぎ始める。大きな双丘がぶるんと揺れたのを、スローモーションで見た気がした。

 

僕はすぐに顔を逸らした。

 

 

「うわっ……山田先生!?」

 

「え……あ、きゃ!?」

 

 

山田先生はすぐにうずくまったようだ。なんとなくそんな音が聞こえた。

 

 

「す、すいません。つい癖で……」

 

「それはいいので……早く服を……」

 

「あ、そうですね!すいません!」

 

 

すぐに着替える音が聞こえた。

 

 

「柳川君、もう大丈夫です……」

 

 

山田先生はさっきまで来ていた服よりもラフな格好をしていた。

 

 

「そ、それじゃあ行きましょう。車椅子押しますね」

 

「は、はい……よろしくお願いします……」

 

 

そのあと、2人で食事をしていたが、お互いに恥ずかしすぎて終始無言だった。

 

食事を終え部屋に戻ったところで、一緒に生活することに関して決めることになった。

 

 

「とりあえず、問題はシャワーとかですよね」

 

「そうですね……」

 

 

山田先生の顔はまだ赤い。いい加減普通に接してください……。

 

 

「では、シャワーを浴びてる時のために、扉き貼り付けておける看板みたいなのを作りましょう。そうすれば、お互いシャワーから出てきたところに鉢合わせることはないと思います」

 

「いい案ですね。でも……」

 

 

山田先生は何か懸念があるようだ。

 

 

「柳川君はお風呂の介助は必要ないのですが?」

 

「義肢は防水になっているので問題ありません」

 

「そうですか。わかりました。でも、今後介助が必要な時はいつでも言ってくださいね!」

 

 

「先生ですから」と胸を張る先生。それ、胸が揺れるのでやめてもらいたい……。

 

 

「はい……その時はよろしくお願いします」

 

「はい、任せてください!」

 

 

その後は少し雑談をして、消灯時刻になったので、そのまま眠った。

 

この時、僕は知らなかった。

 

これからここに住んでいる限り、朝にモンモンとすることを……。




ちょっと話を纏めてきれなかった感。
駄文すいません。お目汚しでした……。

山田先生可愛いわぁ……


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38話

とうとう2月ですね。

将冴君に春はいつ来るのでしょうか。
そう遠くないかもしれませんね。


 

ジリリリリリ……

 

 

あ……目覚まし鳴ってる。起きなきゃ……

 

 

むにゅっ

「あぅ……」

 

 

……むにゅ?……あぅ?

ちょっと待って、なんかおかしい。今もまだ鳴っている目覚まし時計を止めようとした手は目覚まし時計ではない何かを掴んでるし、聞こえてはいけない声が……。それになんか……

 

 

「むぐぅ!?」

 

 

なんか頭に手をまわされて抱き寄せられた!?顔に柔らかいものが……ていうか、苦し……

 

 

「むふふ、ダメですよ……私は先生なんですから……」

 

「むぅー!むぐぐ!?」

 

「むにゃ……ほえ?目覚まし鳴ってる……あれ、私のベッドじゃな……」

 

 

そこで僕の頭にまわされていた手が離れた。

 

 

「ぷはっ!……お、おはようございます。山田先生」

 

「え、え?柳川君が何でここに……」

 

「それは僕の台詞だったり……」

 

 

改めて周りを見るけど、やっぱりこのベッドは僕のベッドだ。足に義肢をつけてないし、僕が山田先生のベッドに寝ぼけて行ったわけではないはずだ。

 

 

「こ、ここ柳川君のベッドですか!?す、すすすすいません!?」

 

 

山田先生が飛び上がるように僕のベッドから降りた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

昨日の夕食の時と同じように、お互いに恥ずかしくて終始無言のまま食堂に向かった。

 

既に食堂には結構な生徒がいた。まぁ、僕は車椅子用の場所があるから大丈夫なんだけど……。

 

僕と山田先生はそれぞれ朝食を受け取り、車椅子用にとってある席へと向かう。僕はハンバーグ定食。山田先生は和食だ。

 

 

「その、朝は本当にすいません」

 

 

席につき、山田先生は朝食に手をつける前に謝罪してきた。

いや……僕も触ってしまったし……。

 

 

「謝らないでください。僕は別に……」

 

「いえ!これから共同生活する上に、教師と生徒という立場なんです!そこはしっかりしないと……」

 

「まだ始まったばかりですし、これからですよ。それより早くご飯を食べてしまいましょう。山田先生も職員会議とかあって忙しいと思いますし」

 

「そうですね。では、いただきます」

 

「いただきます」

 

 

食事に手をつける。

 

うん、昨日の食事は恥ずかしさであまり覚えていないけど、改めて味わうと美味しい。

 

 

「もし、相席よろしいかしら?」

 

 

静かに食事をしていると、お盆を持ったセシリアさんが横に立っていた。元々四人席だったようなので、席は2つ空いてる。

 

 

「どうぞ、セシリアさん。あ、いいですよね?山田先生」

 

「はい、構いませんよ」

 

「失礼します」

 

 

隣座ったセシリアさん。食事は洋食のようだ。

今更だけど、ここの食事は少し量が少ないと感じる。女性ばかりだからそうなんだろう。

 

 

「昨日、織斑先生から聞きましたわ。来週の試合、あなたも出るそうですね」

 

「あ、もう聞いたんだ。半ば強制的にね」

 

「なんでも専用機をお持ちだとか?」

 

 

うっ……しまった。正直に束さんからもらったと言うわけにはいかない。何か言い訳を……。

 

 

「そうですよ。柳川君は企業所属となっています」

 

「企業所属……一体どこですの?」

 

「すいません、それについては話せないんです」

 

 

えぇっと……僕、完全に置いてけぼりなんだけど……。

 

 

「……そうですの。では、何も聞きませんわ」

 

 

それで納得しちゃうの……?

いや、まず僕に状況説明を……

 

山田先生に説明を求めるアイコンタクトをすると、ニコッと笑みが帰ってきた。いや、そうではなく……。

 

しょうがない。早めにご飯を食べ終わって、山田先生か織斑先生に聞こう。

 

 

「あら、柳川さん。ソースがついていますわよ?」

 

「え、本当ですか?」

 

 

とっさに拭こうとする。しかし、その手はセシリアさんに止められてしまう。

 

 

「手袋が汚れてしまいますわ。今ハンカチを……」

 

「柳川君、こっち向いてください」

 

「へ、むぐ?」

 

 

山田先生がハンカチで僕の口を拭った。め、目の前に今朝触ってしまった胸が……。自然と顔が熱くなる。

 

 

「はい、綺麗になりましたよ」

 

「あ、ありがとうございます。山田先生」

 

「いえ、どういたしまして」

 

 

すっと、セシリアさんが僕の手を離して、また食事を続けた。

 

 

「セシリアさんも、教えてくれてありがとう」

 

「貴族として当然のことをしたまでですわ」

 

 

はは、セシリアさんは相変わらずだなぁ。

 

とりあえず、早めにご飯を食べなきゃ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「さて、山田先生。説明をお願いします」

 

 

セシリアさんよりも先に食事を終えた僕と山田先生。

一旦部屋に戻ったところで、山田先生に尋ねる。

 

 

「企業所属ってどういうことですか?」

 

「織斑先生から聞いていませんか?」

 

「聞いてません。全く、さっぱり」

 

「そうだったんですか。ではお話しますね」

 

 

山田先生が話したことを纏めると……

 

 

先日見つかったばかり(ということになっている)の男性操縦者が既に専用機を持っている。

世間的に問題ない言い訳を考えよう。

織斑先生が大天災(知り合い)に連絡して、架空の企業を作る。

そこを僕の所属企業にしよう。大天災(知り合い)なら問題ない。

 

これは酷い……。

 

 

「私も、織斑先生の知り合いについては詳しく聞いてないのですが……」

 

「そうですか……」

 

 

こんなことをやってのけるのは束さんしかいないよ!!もう色々規格外なんだから……。

 

とりあえず、これで今後は口裏合わせができるわけか。

そういえば……。

 

 

「企業名とかって聞いてます?」

 

「はい。確か……『MARZ(マーズ)』と聞いています。でも、できるだけ名前はださないようにしてくださいね。その場しのぎと言ってはあれですが、すぐにどこにも所属していないことがバレてしまいます」

 

「わかりました。そうさせていただきます」

 

 

山田先生は不思議だな……僕が専用機を持っていることを疑問に思わないんだから……。

 

まぁ、そんなこんなで、架空の企業の所属となりました。

 

……あとで織斑先生と束さんに色々聞かなきゃ。




マーズを出したかった。ただそれだけ。
ほんの出来心なんだ!ゆるしてくれぇぇぇ!!?


ちなみに、そのうち出しますが、架空企業MARZの社長の名前はリリン・プラジナー(中の人クロエ)です。


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39話

日付変わってしまいました。
遅くなってしまって申し訳ありません。

今回はセッシーとバトル。
BT兵器の描写が難しい気がする……。


 

数日が過ぎて、今日はクラス代表を決めるための試合の日。そして、僕のリハビリの日。

いや、リハビリは織斑先生がふざけただけだ。うん、きっとそう。

 

この一週間、僕は特にこれといって準備はしていない。ISの練習をしようにも、アリーナは先輩方が予約していて使えなかったからね。まぁ、何もしなかったわけじゃない。クラリッサや、山田先生にセシリアさんのISの情報を聞いたりしていた。まぁ、山田先生は不公平だからと教えてくれなかったけど。

 

一夏は箒さんと剣道をしていたようだ。アリーナも訓練機も使えなかっただろうし、体を鍛えるのはいいことだ。今度、僕も剣道したいな。

 

僕は織斑先生、山田先生、一夏、箒さんと一緒にアリーナのピットにいた。ピットには、ISが一体鎮座している。そうか、これが一夏の……

 

 

「一夏、当日になってしまったが、これがお前のIS『白式』だ」

 

「これが、俺の……」

 

「すぐに初期化と最適化を行う。すぐにISに乗るんだ」

 

「あ、ああ」

 

 

試合直前で初期化と最適化か……一夏には不利な戦いになりそうだな。

 

となると、僕が先にセシリアさんと試合したほうがいいのかな?

 

 

「織斑先生、一夏の準備がまだなら、僕が先に試合をしたほうがいいですか?」

 

「ああ。将冴の準備ができているなら、そうしてくれると助かる」

 

「わかりました」

 

 

アリーナの方に目を向けると、すでにセシリアさんがISを纏い待っている。

 

僕も行こう。バーチャロンを展開する。フルスキン型のバーチャロンが、僕の体を覆う。フォームはテムジン。

 

ISを展開したのは久しぶりだ。今まで普通の生活をしていたから、まともに展開してなかったけど……うん、問題ない。

 

 

「準備できました」

 

 

織斑先生達の方を向き、いつでも出れると伝える。

 

 

「これが将冴のIS……」

 

「柳川君頑張ってくださいね」

 

「お前には物足りない相手かもしれないが、油断はするなよ。将冴」

 

 

上から箒さん、山田先生、織斑先生の順で声をかけてくれた。

 

 

「頑張れよ、将冴」

 

「言われなくても。では行ってきます」

 

 

僕はカタパルトに乗り、アリーナに飛び出した。

 

すでに待機していたセシリアさんが、僕の方に目をやる。

 

 

「あら、柳川さんが最初の相手ですの?」

 

「うん、一夏は準備に手間取っていてね。先に出ることになったよ」

 

「そうですの。ま、相手が誰であれ、私は本気で行きますわ」

 

「そうしてください。僕も本気で行きますから」

 

 

お互いに武器を構える。

 

それと同時に、試合開始のブザーがなった。

 

 

「行きますわよ!」

 

 

セシリアさんが構えていたレーザーライフルを一発撃ってくる。情報通り、セシリアさんのIS『ブルー・ティアーズ』は遠距離攻撃を得意としているようだ。

 

とりあえず、一発程度なら当たることもない。体を逸らし、レーザーを躱す。

 

 

「さすがに、これくらいは避けますわね」

 

「まぁね」

 

「では、これならいかがです?」

 

 

一発、二発、三発……まだ撃つ。数えてる場合じゃないかな。放たれるレーザーを躱し、時にセイバーで受け流しながら、攻撃を見極める。

 

狙いは正確。確実にダメージの入る場所を狙っている。さすがはエリートを豪語するだけはある。

 

でも、彼女はまだ本気じゃない……。クラリッサが教えてくれた情報だと……

 

 

「なかなかやりますわね」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「本当に最近ISを動かしたばかりの人か疑わしくなりますわね」

 

 

二年前から動かしてました……。

 

 

「まぁ、いいですわ。私も本気を出させていただきます」

 

 

セシリアさんのISから4つのビットが飛び出す。あれがBT兵器。第三世代の自立稼働兵器か。クラリッサの情報通りといったところかな?まぁ、BT兵器を積んでるということしかわからなかったみたいだけど、それを知ってるのと知らないのとでは戦況は変わる。

 

 

「舞いなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

 

4つのビットがバラバラの動きをする。

結構動き回るみたいだ。

 

 

「これは……捌くのが大変そうだね」

 

「軽口を叩いてる余裕がおありで?」

 

「余裕はないかな。どうやって切り抜けようか悩んでるところだよ」

 

「あら、まだ攻撃をしていませんわよ?さぁ、華麗なワルツを踊ってくださいまし!」

 

 

ビットが一斉に攻撃を始めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

私……織斑千冬は、ピットのモニターから、将冴とオルコットの試合を見ていた。オルコットが積極的に攻め、将冴は攻撃を避けるだけだ。

 

だが、この光景はドイツで何度も見た。将冴とラウラの試合運びと全く同じだからだ。

 

 

「柳川君、反撃しませんね。攻撃を躱すので精一杯なのでしょうか?」

 

「いや、見極めている。相手の動きを」

 

「千冬姉!あれ大丈夫なのかよ!?将冴押されてるんじゃ……」

 

「将冴は大丈夫だ。外から見れば、防戦一方のように見えるが……」

 

 

まだ将冴は本気を出していない。

 

 

「織斑先生、将冴の動き……とても最近ISを動かした者の動きとは思えないのですが」

 

 

篠ノ之でもわかるか。

まぁ、あいつは二年前からISを動かしている。開発者である束の元でな。素人からかけ離れているのも当然だ。

 

口外はできんがな。

 

 

「それだけ、将冴のセンスが高いのだろう。剣道で全国に出場するほどの運動神経を持っているんだ。動けても不思議ではない」

 

「そう……ですね」

 

「見てろ。そろそろ将冴が動くぞ」

 

 

私の言葉と同時に、将冴の動きが一段階速さを増した。




セシリアが書きたいんじゃない!クラリッサが書きたいんだ!


いや、わかってます。さっさとセシリアを潰せばいいんですよね?(ゲス顔


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40話

とうとう40話に突入。
話の数的には40話より少し多いですが。

これからも頑張ります。

では本編をどうぞ。


うん、しばらく様子見をしていたけど、わかったことは2つ。

 

まず一つは、ビットの動き。相手の死角を狙うあまり、先読みしやすい。教本通りの攻撃、と言ったほうがいいのかな?わざと死角を作れば、そこを攻撃してくる。これならビットを捌くのは別段難しいことではなさそうだ。

 

二つ目は、セシリアさん自身。彼女はビットを動かしている間、攻撃してこない。何度か隙を作って誘ってみたけど、レーザーライフルで攻撃することはなかった。つまり、彼女はビットを動かすので精一杯だということ。

 

この二つのことがわかれば、試合は早めに終わりそうだ。ただ、セシリアさんはまだ何かを隠している。

 

……いいや。反撃しよう。

バーチャロンの速度を上げて、ビットを掻い潜る。

 

 

「まだ速度が上がりますの……でも、隙が目立ちますわよ!」

 

「行動が予測できれば、わざと隙を作ることもできるんだよ!」

 

 

背後に現れたビットの攻撃を、体を捻り躱す。

この隙はビットの動きを誘導するためにわざと作った隙。これで……

 

 

「道は開いた!」

 

 

ビットの包囲網に穴が開く。これを待っていたんだ。

 

瞬時加速。セシリアさんと距離を詰める。

 

 

「瞬時加速!?そんな技能を……でも」

 

 

セシリアさんのISの一部がこちらを向く。あれは弾道型ミサイル?

 

 

「その判断は迂闊ですわ!」

 

 

ミサイルを僕に向けて放つ。

実弾兵器は初めてだな。

 

なら……

 

 

「これでどうかな?」

 

 

瞬時加速のまま、ビームの刀身を展開。

銃剣一体のこの装備。撃てるのはエネルギー弾だけじゃない。

 

 

「いぇやぁぁ!!」

 

 

振るった斬撃がビームのカッターのようになって飛んでいく。

エネルギー弾のような点の攻撃ではなく。面による攻撃。

 

カッターはミサイルを切り裂き僕とセシリアさんの間で爆発。黒煙が撒かれる。

 

僕は黒煙を突っ切り、セシリアさんと切迫する。

 

 

「な!?い、インターセプ「遅い!」

 

 

袈裟斬り、横薙ぎ、振り下ろし。3連撃を叩き込み、振り下ろしの勢いをそのままにかかと落としを決める。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

セシリアさんは地面に叩きつけられる。

僕は手にボムを持ち、まだ立ち上がれないセシリアさんに向けて投げ、エネルギー弾を一発放つ。

 

エネルギー弾はボムと接触。セシリアさんが爆風に煽られる。

 

そこで試合終了を告げるブザーが鳴る。

 

 

『セシリア・オルコット、シールドエネルギー0。勝者、柳川将冴』

 

 

織斑先生の声がアリーナに響く。

なんとか勝てたな。

 

っと、セシリアさん大丈夫かな?

ISを待機状態にして義手をつけて車椅子に乗って、セシリアさんのところへ向かう。

 

セシリアさんはISを待機状態にしたところだったみたいだ。

 

 

「セシリアさん、大丈夫?」

 

「え、ええ……完敗でしたわ」

 

「いやぁ、僕もいつビットの攻撃に当たるかヒヤヒヤだったよ」

 

「よく言いますわね。軽くいなしていたくせに」

 

「んー、嘘じゃないんだけどな」

 

 

実際、ミサイルはかなり焦った。

……本当だよ?

 

 

「まぁ、とにかく私の負けですわ。なんとなく、織斑先生があなたを試合に出した意味がわかりました。私もまだまだだと気付かされました」

 

 

織斑先生、そんなこと考えてない気がするな……リハビリして来いとか言ってたけど、絶対にあれは建前だ。もっといい建前があると思うけど。

 

 

「柳川さん……いえ、これからは将冴さんとお呼びしても?」

 

「うん、いいよ」

 

「では、将冴さん。戦えて良かったですわ。また今度、お手合わせ願います」

 

「こちらこそ、よろしく」

 

 

握手をして、お互いのピットに戻った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ピットに戻ると、織斑先生と山田先生が近づいてきた。

 

 

「柳川君、お疲れ様でした」

 

「いい試合だった。よくやったな」

 

「ありがとうございます。一夏の方はどうですか?」

 

「ああ、まだ時間がかかっている。セシリアの方はエネルギー補充が終わればすぐに出れるだろうから、一次移行(ファーストシフト)する前に戦わねばならないな」

 

 

時間かかってるなぁ。もうちょっと時間延ばしたほうがよかったかな?

 

車椅子を動かし、一夏の元へ向かう。

 

 

「将冴、すごかったな!今の試合」

 

「伊達に専用機持ってないからね」

 

「そうだな。将冴にだってできたんだ、俺も頑張らなきゃな」

 

「頑張ってね。応援してるから」

 

 

話しているうちに、セシリアさんの補給が終わったのかアリーナにブルー・ティアーズを纏ったセシリアさんが現れる。

 

 

「ほら出番だよ」

 

「おう!」

 

「一夏、絶対に勝つのだぞ」

 

「わかってるよ、箒。お前との特訓、無駄にはしないさ」

 

 

カタパルトに乗った一夏は、白式とともにアリーナに飛び出す。

 

 

「さて、一夏は何分持つかな」

 

「将冴……応援しするんじゃなかったのか?」

 

 

箒さんの言葉に僕は何も答えなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「だぁー!!あとちょっとだったのに!」

 

 

ピットに戻ってきた一夏は、悔しそうに叫んだ。

 

 

「惜しかったね。『零落白夜』だっけ?当たってたら勝てたね」

 

「あそこでエネルギー無くなるとは思わなかったぞ。クソォ、悔しい」

 

 

まぁ、善戦した方じゃないかな。

ミサイルに当たる瞬間に一次移行したときは流石に驚いたけど。

 

 

「初めて乗ったにしては、いい試合だった。課題は山積みだがな」

 

 

織斑先生も褒めてる。それだけのことができたんだよ?一夏。

 

 

「一夏疲れただろう。先にシャワーを浴びて来い」

 

「ああ、そうするよ」

 

 

そういえば、一夏と箒さんは同じ部屋なんだっけ?まぁ幼馴染らしいし、問題ないか。

 

 

「二人ともお疲れ様でした。今日はゆっくり休んでくださいね」

 

 

山田先生がそう微笑みかけてくれる。

 

 

「あれ、そういえば俺と将冴は試合しなくていいのか?」

 

 

一夏が思いついたように尋ねる。

そういわれてみれば確かに……。

 

 

「お前と将冴が戦っても、勝敗は明らかだ。それに、これ以上は将冴の負担になる」

 

「そっか……」

 

 

僕の負担って、別に問題はないんだけど……。織斑先生がなぜか心配そうな顔をこっちに向けてくる。いや、大丈夫ですよ。なんの問題もありませんって。

 

一夏も、何暗くなってるの?そんなに貧弱じゃないからね?僕。このお通夜ムードは何!?

 

 

「失礼します。将冴さんと一夏さん……は……」

 

 

こっちのピットにきたセシリアさんがこの雰囲気を感じ、申し訳なさそうにピットから出て行った。

 

いや、なにこれ?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

『そうか、勝てたんだな』

 

 

夜、僕はクラリッサと電話していた。あっちは今昼休みだという。この時間にかけたらちょうどいいんだな。

 

 

「うん。そしたら、なぜか僕の体のことを心配されて、みんなして暗くなって。もう意味がわかんなかったよ」

 

『はは、大切にされているんだ。素直に受け取ればいい』

 

「むぅ……」

 

 

病人扱いされるのは嫌なんだけどなぁ。

 

 

『私だって、お前のことが心配だ……』

 

「クラリッサも?」

 

『一度誘拐されてるうえに、世界に知られてしまっている。いつ将冴に危険が迫るかわからない。将冴のそばにいて、将冴を守りたい……』

 

「クラリッサ……」

 

『……すまない、少し暗くなってしまったな。そうだ、来月辺りにラウラ隊長がIS学園に転入することになったぞ』

 

「ラウラが?」

 

『ああ、上からの命令でな。表向きは、男性IS操縦者のデータを集めてくることだが、本当はラウラ隊長に普通の学生生活を送ってもらうためらしい』

 

「へぇ、ドイツ軍は優しいね」

 

『優しいというか……非公式なんだが、上層部の方ではラウラ隊長は人気なんだ。あの容姿で、何人もファンがいるらしい』

 

「そうなんだ。ふふ、なんかおかしいね」

 

『ああ、本当にな……』

 

「……クラリッサは来ないの?」

 

『シュバルツェ・ハーゼのこともある。隊長と副隊長が揃っていなくなるのは、組織的にまずい。私は行けないな』

 

「そっか……」

 

『長い休暇が取れれば、そちらにいく。その時は一緒に遊んでくれ』

 

「わかった。待ってるね」

 

『ああ、じゃあそろそろ切るぞ。またいつでも電話してくれ』

 

「うん、またね」

 

『またね』

 

 

ピッと携帯を通話を切る。

その瞬間、部屋の扉が開いた。山田先生が帰ってきたみたいだ。

 

 

「お帰りなさい、山田先生」

 

「ただいまです。電話していたんですか?」

 

「ええ。友達、です」

 

 

ズキリと胸が痛んだ。今のは……。

 

 

「そうですか。お友達、大切にしてくださいね」

 

「はい」

 

 

山田先生はベッドの間にある仕切り用のカーテンを閉めて、着替えをし始める。

 

 

「友達……」

 

 

その言葉は、適切なのかな?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴との通話を終え、ふぅと一息つく。

横にいたルカがその様子を見て、話しかけてくる。

 

 

「将冴君?」

 

「ああ。今日イギリスの代表候補生と試合をして勝ったみたいだ」

 

 

ルカは興味なさげに「ふぅん」と返した。

聞いてきたのはそっちではないか……。

 

 

「来ないのかって聞かれたの?」

 

「……ああ。だが、私にはシュバルツェ・ハーゼの副隊長としてここに残らなければ行けない。ラウラ隊長に着いて日本に行くのは無理だ」

 

「相変わらず考え方が硬いわね。会いたいなら、無理を通してでも行けばいいじゃない」

 

「そんな我儘を通せるわけないだろう。私だって、行けるものなら行きたいさ……」

 

「……あっそ。ま、私には関係ないけどね」

 

 

ルカはそう言って立ち上がり、どこかへ歩いて行く。

 

 

「おい、どこにいくんだ?」

 

「お花摘みに行くのよ」

 

「そ、そうか……」

 

「……ま、本当は直談判しに行くんだけどね」

 

 

去り際にルカが何か言っていたが、私の耳には届かなかった。




電話越しに相手の声が聞こえるけど、触れないというのは、なんとも辛いものでしょうね。


一夏とセシリアの試合は、原作と同じだった、ということだけ伝えておきます。べ、別に書くのが面倒だったわけじゃないんだからね!?


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41話

どうも。

前回のルカの直談判発言は、読者の方に希望を与えられたのではないかと自負しております。私が本気を出せばこんなもんです(どやっ


……すいません、調子に乗りました。読者の方々の感想をエネルギーに頑張ってます。これからも感想、評価のほどよろしくおねがします。


今回、モブ子たちを出します。性格違うかもしれませんが許してください。まじで……モブの人たちわからないよ……。
それでは本編どぞ。


 

クラス代表決めの試合から一夜明けて、1組の教室へ行くとほとんどの生徒が揃っていた。来ていないのは……一夏と箒さんくらいかな。まだホームルームまで時間はあるし、問題はないけど。

 

 

「おはよう」

 

 

そう言いながら教室の後ろの方から入る。この方がすぐに自分の机に行けるからだ。

 

 

「おはよう将冴君」

「おはよう」

「やなしーおはよ〜」

 

 

相川さん、谷本さん、布仏さんが挨拶を返してくれる。

教室の後ろの方のスペースで話していたみたいだ。

 

 

「将冴君、昨日すごかったね!本当に最近IS動かしたばかりなの?」

 

「専用機も持ってるし、元々の技術がすごいのかな?」

 

「かっこよかったね〜。やなしーつよぉーい」

 

「剣道やってたからね、自分で言うのもなんだけど運動はできる方だと思うんだ」

 

 

2年前から動かしていたなんて言えないからなぁ。運動神経がよかったからということにしておこう。

 

 

「でも、織斑君もすごかったよね」

 

「そうだね。もう少しエネルギー配分を考えてたら勝てたんじゃないかな?まぁ、相手は代表候補生だし、昨日みたいなことはもうないと思うけど」

 

 

白式の性能はかなり高かった。それに一次移行で単一仕様能力を使える……普通ならない事らしいからね。バーチャロンはV.コンバータというイレギュラーがあるからフォームチェンジを使えるけど。そういえば、昨日は使わなかったなぁ。今度、セシリアさんに模擬戦頼もうかな。

 

 

「もし、将冴さん。少しよろしくて?」

 

 

3人と話しているとセシリアさんが神妙な顔をして話しかけてくる。その様子を見た相川さん達は、気を利かせてくれたのか違うところへおしゃべりしに行った。

 

 

「どうしたのかな?セシリアさん」

 

「ええ、クラス代表に推薦してくださった将冴さんには伝えておこうと思いまして。私、クラス代表を辞退いたしました」

 

「え、そうなの?セシリアさん向いてると思ったんだけどなぁ」

 

「そんな……私はまだまだ力不足です。ISもあなたには完敗。一夏さんにも、もう少しで負けるところまで追い詰められました。私はクラス代表にたる器ではありませんわ」

 

 

セシリアさんが決めたなら、何も言わないけど……そんなに謙遜しなくてもいいのに。

 

 

「なので、クラス代表の座は一夏さんにお譲りすることにいたしました。一夏さんは、まだまだ伸びると思います。クラス代表は良い機会だと思いましたわ」

 

「確かに、そうだね。まぁ、なんだかんだで責任感強いし、これからの伸び代に期待ってやつだね」

 

 

初めてであれだけ白式を動かしてたしね。クラス代表はISに乗る機会も多くなるから、スキルアップにも丁度いい。

 

今気づいたけど、セシリアさんが一夏のことを「一夏さん」と言ってる……それになんか一夏のことを話す時のセシリアさんの雰囲気……また一夏の被害者かな。天然の女ったらしだからなぁー、一夏は。

 

 

「せっかく推薦してくださったのに、申し訳ないことをしましたわ」

 

「ううん、セシリアさんが決めたことなら、僕はいいよ。話はそれだけ?」

 

「いえ、もう一つ」

 

 

セシリアさんは携帯電話を取り出し、画面を見せてきた。

 

携帯電話の画面にはテムジンの姿が……これは?

 

 

「2年ほど前に、ドイツで撮影されたものですわ」

 

 

その言葉に、どっと汗が吹き出る。まずい……。

 

 

「このISと、将冴さんのIS。全く同じように見えるのですが……どういうことでしょう?」

 

「その……うちの企業が、試作していた頃だと思うな。テストパイロットは僕の前任者の人だって聞いた気がする」

 

 

苦しい言い訳だったかな?でも、こうとしか答えれないし……。

 

 

 

「……そうですの。でしたら、この話は終わりですわ」

 

「……追求しないんだ」

 

「これ以上聞いても、何も答えてくれなさそうですから。話したくないことを無理矢理聞くのは、あまり好きではありませんもの」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

「ふふ。今度、またお手合わせ願いますわ」

 

 

そう言って、セシリアさんは自分の席に向かった。

多分イギリスに僕や一夏のデータを集めろって言われてるんだろうな……ラウラも表向きではそういう理由で来るって言ってたし。

 

まぁ、詳しく聞かないでくれるのは、こっちとしてもありがたい。束さんとパイプがあると知られたら面倒だし。

 

っと、そろそろ予鈴が鳴るかな。

席につこう。あ、いつの間にか一夏と箒さん来てる。間に合ったんだね。

 

程なくして、織斑先生と山田先生が教室に入ってきて、一夏がクラス代表になることを伝えられた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「それじゃ、織斑君のクラス代表就任を祝しまして……」

 

『かんぱーい!』

 

 

一夏がクラス代表を宣告された次の日の夕方。

食堂ではちょっとしたパーティが開かれていた。一夏のクラス代表就任祝いパーティ。こういうのは実は初めてなので、楽しい。車椅子での参加はかなり躊躇ったけど、クラスのみんな……特に相川さんや谷本さん、布仏さんが半ば強引に連れられて、車椅子で参加している。

 

みんな僕に気を使っているのか、料理を取りに行こうとするとクラスの誰かしらが丁度よく料理を持ってきてくれたり、飲み物も無くなるとすぐに注がれてしまう。それだけで気を遣わせてしまっているなと感じてしまう……ちょっとした罪悪感に苛まれてしまうな。

 

ふと、食堂の入り口を見ると何やら人影が……誰だろうか?

 

 

「すいません、ちょっとお手洗いに行かせていただきますね」

 

「わかったー、ごゆっくりー」

 

 

近くにいた布仏さんにそう伝え、食堂の入り口の方へ向かう。

 

入り口にいたのは眼鏡をかけて、カメラを持った学生。リボンの色が違うから先輩だ。

 

 

「こんばんは」

 

「おわっ!?びっくりした……」

 

 

先輩学生は僕が近づいていることに気がついていなかったみたいだ。

 

 

「うちのクラスに何かご用ですか?……と、自己紹介がまだでしたね。僕は……」

 

「柳川将冴君、でしょ?私、新聞部の黛薫子。今日は噂の男性IS操縦者の取材に来たのよ」

 

「そうだったんですか。でしたらどうぞ、一夏の取材に行ってください。クラス代表ですし」

 

「え?いいの?」

 

「はい。僕に飛び火しなければどうぞ。一夏と、セシリアさんなら快く引き受けてくれますよ」

 

「あら、柳川君は取材拒否?」

 

「僕に取材しても、たいして答えられません。障害者持ち、というくらいしか目立つことはありませんからね」

 

 

取材とか、そういうのにはあんまり関わりたくないしね。うっかりバーチャロンのこととか話したら、話題になりそうだし。

 

 

「んー、そんなことはないと思うけど……」

 

「とりあえず、僕よりも一夏やセシリアさんに話を聞いてください。企業所属の身としては、話せることも限られているので」

 

「……わかったわ。でも、話してもいいこととかあったらいつでも連絡してくれるかしら?これ、私の連絡先だから」

 

 

そう言って名刺を渡された。学校の部活なのに名刺とか持ってるんだ。流石IS学園というか、なんというか……。

 

 

「一応、先輩だから相談とかにも乗ってあげるからね。じゃ、将冴君からお許しもいただいたし、取材させてもらうわね」

 

「どうぞどうぞ」

 

「あ、写真くらいは撮らせてくれる?」

 

「まぁ、それくらいならいいですよ?」

 

 

そのあと、クラス全員の集合写真を撮ってもらった。なぜか、僕がセンターで……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「帰ってきた……日本に」

 

 

小柄でツインテールの女子がIS学園に足を踏み入れ、そう呟く。

 

 

「やっと会える……一夏、将冴」

 

 

彼女はしっかりとした足取りで、校舎へと歩みを進めた。




今回はつなぎというかなんというか……原作の話はあんまり書けないのですよ。

この小説を読んでくださってる方は、クラリッサとの絡みを期待していると思うので、クラリッサを早く出せるように頑張ります。

一夏とセシリアがISで上昇、急降下するくだりはカットして、中国娘が転入してきます。
私、あのくだりはあまり必要と感じません。ほら、この小説だと一夏と一夏ハーレムが空気ですから←


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42話

前回の更新、感想でお前が言うなが多くて腹抱えて笑いました。みなさんで打ち合わせているのかなぁ、というくらいに将冴にツッコミ入って楽しかったです。

タグを増やしました。散々言われ続けてきたのにタグについてなかったので、作品読む人がわかりやすいように。

では、本編どぞー。


 

パーティから数日が経ち、IS学園での生活にも慣れてきた。授業やISの実習も今の所順調。一夏はそうじゃないみたいだけど。箒さんやセシリアさんに勉強やらISの操縦を教わっている。僕はいつも見てるだけ。だってみんな僕に練習させてくれないんだもの。自分が障害者なのはわかってるけど、僕だって練習したい。不公平だ。

 

愚痴っても仕方ない。

そうそう、山田先生との共同生活もようやく落ち着いた。最初の頃は山田先生が遺憾無くドジっ子発揮して困らされたものだ……多分、僕との共同生活ということで、緊張していたんだろう。

 

そんなことを考えながら僕は制服を着る。今更だけど、僕は下に普通のズボンを履いている。足を出しても不思議じゃないように。まぁ、IS学園では一度もみんなの前で義足を出してないんだけど。義足のことを知ってるのは織斑先生と山田先生くらいじゃないかな?

 

なんだかんだで一夏や箒さんの前で歩いたことないし。部屋ではシャワーを浴びる時とかは義足つけるけど。

 

 

「柳川君、準備できましたか?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 

山田先生と一緒に部屋を出る。最近、一緒に出るようにしている。二人で決めたわけではなく、成り行きで。山田先生は部屋の鍵を閉めて、車椅子を押してくれる。

 

 

「そういえば、今日2組に転入生が来るそうですよ?」

 

「転入生?」

 

 

この時期に転入生とは、また珍しいタイミングで。

 

 

「本当は柳川君達と一緒に入学式に出る予定だったんですが、手続きにトラブルがあって、今日までかかってしまったみたいですね」

 

「手続きにトラブル……それはまた災難でしたね」

 

「本当ですね。なんでも中国の代表候補生みたいですよ?」

 

 

中国の代表候補生か。

そういえば鈴はどうしてるかな?2年前から会ってないし、一夏も1年前から会ってないって言ってたな。中国に帰ってしまったとか言ってたけど。

 

と、山田先生が職員室前で車椅子を止めた。

 

 

「ここまでで大丈夫ですか?」

 

「教室までというのは大変ですし、義足もあるので問題ありません。毎朝、ここまで押してもらってすいません」

 

「いいんですよ、もっと頼ってください。一緒に暮らしているんです。助け合い、ですよ?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

職員室前で別れ、僕は自分の教室に向かう。途中の階段は義足をつけて登る。別に狙っているわけではないんだけど、階段を昇り降りしている所を誰にも見られていない。運がいいのか、なんというか。隠してるつもりはないんだけど。

 

階段を登り切り、また車椅子に座る。

1組の方へ車椅子を動かす。1組の教室では、一夏と箒さん、セシリアさんが何やら話している。

 

 

「おはよう、三人とも」

 

「将冴、おはよ……」

 

「「将冴(さん)!」」

 

 

ずいっと、すごい剣幕で一夏の言葉を遮り僕に詰め寄る。

 

 

「ふ、二人ともどうしたの?」

 

「将冴答えてくれ。今日の一夏の特訓は剣道がいいだろう?」

「いいえ!一夏さんには射撃の訓練を受けてもらうべきですわ!」

「一夏のISには射撃兵装はないではないか!そんなものは不要だ!」

「射撃の訓練をすることで、その特性を理解し対応できるようにするためですわ!箒さんこそ、剣道ばかりでは脳みそが筋肉になってしまいますわ!」

「なにを!?」

「なんですの!?」

 

「ああ〜二人とも落ち着いて……」

 

「「落ち着いている(いますわ)!」」

 

 

どこが……はぁ、相手にするのは疲れそうだ。

 

 

「じゃあ、間をとって僕が一夏と模擬戦をするね」

 

「「……え?」」

 

「いいよね一夏」

 

「おう、将冴と試合なんてしたことないからな。一回戦ってみたかったんだ」

 

「「そんな……」」

 

「決まりだね。僕も日頃の鬱憤を晴らせそうだ……」

 

 

誰にも聞こえないように小さく呟く。僕だけ見学させられていたから、鬱憤たまりまくってるよ。まったく。ていうか、箒さんもセシリアさんも落ち込みすぎでしょ。

 

 

「あ、織斑君に将冴君だ。おはよう」

「おりむー、やなしー、おっはよー」

 

「谷本さんと布仏さん、おはよう」

 

 

教室に入ってきた2人が話しかけてくる。

んー、一夏は苗字で、僕は名前呼びか……なんだろう、この差は。布仏さんはあだ名だけど。

 

 

「二人とも知ってるー?今日2組に転入生来るんだよー」

 

 

間延びしたような声で布仏さんが教えてくれる。今朝山田先生に聞いたな。

 

 

「みたいだね。中国の代表候補生らしいけど」

 

「そうなのか。クラス対抗戦で当たったら大変だな……」

 

「もうクラス代表は決まってるでしょ?交代するのが有りなら、その代表候補生が出てくるだろうけど」

 

「不安だなぁ……」

 

「おりむーには頑張ってもらわないと」

 

「うん、学食のスイーツフリーパスのためにもね!」

 

 

ああ、クラス対抗戦で優勝したらスイーツフリーパスがもらえるんだっけ?女子は何としても手に入れたいだろうからね。甘いものには目がないっていうし。

 

 

「クラス代表だからな。やれるだけやってみるさ」

 

「うん、そのためにも訓練しなきゃね。今日の模擬戦は手加減しないから」

 

「少しくらい慈悲をくれても……」

 

「一夏のためにも、本気でやらせてもらう……」

 

ガラッバン!

 

「よ……?」

 

 

1組の教室の扉が乱暴に開け放たれた。

そこにいたのは、小柄で左右に結ばれた長い髪の女子……こちらをじっと見てる。とても見覚えのあるその人は……

 

 

「鈴?」

 

 

紛れもなく、かつてのクラスメイト。凰鈴音だった。

 

 

「鈴、鈴じゃないか!久しぶりだな!」

 

「……ぅ……」

 

 

鈴の目が突然潤む。

 

 

「鈴……?」

 

「お前、泣いて……」

 

「うあぁぁぁ!将冴がいる!ちゃんといるよぉ〜!」

 

 

その場でうずくまり、鈴は大声で泣き始めた。




鈴ちゃん可愛い。

でも同年代なんだよなぁ……(ーー;)
まぁ、最初から攻略対象にするつもりはなかったんですがね。君には一夏がいるよ。

一夏ハーレムは崩すつもりありません。そっちはそっちで頑張ってくれ。こっちはこっちで頑張るよ。ハーレムの数的には将冴の方が多いから大変なんだ。


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43話

どうも、毎日更新中の作者です。

ISと関係ないですが、GE2RBの体験版が配信されました。いやぁ、楽しいですね。
ゲームにかまけすぎないように気をつけます。


泣き出してしまった鈴の頭を撫で、落ち着くのを待った。

1組の生徒が来ると邪魔になってしまうので、一夏の席に座らせている。

 

クラスの皆、察してくれたのか遠巻きにこちらを見ている。鈴の周りにいるのは僕と一夏、箒さん、セシリアさんだ。

 

 

「うっ……ひっく……」

 

「鈴、落ち着いた?」

 

「うん……」

 

 

目を真っ赤にしているけど、落ち着いたみたい。2年ぶりか……何も言わずに、だったからね。心配させちゃったね。

 

 

「本当にびっくりしたんだからね。一夏がISを動かしたってニュースで見た後、将冴まで動かしたって……。本当に2年間心配したんだから!」

 

「ごめんね。いろいろと事情が重なって、連絡も取れなくて……」

 

「ちゃんと説明してよ。ドイツで何があったのか」

 

「うん。でも、もうすぐでホームルーム始まるし……お昼休みでいいかな?昼食食べながらでも」

 

「今じゃダメなの?少しくらい……」

 

 

いやぁ、そういうわけにもいかないんだよね。

なんてったって……

 

 

「このクラスの担任、織斑先生だよ」

 

「あ……」

 

 

鈴の顔から血の気が引く。こういう決まりごとには厳しいからね。織斑先生。

 

 

「早く自分のクラス戻ったほうがいいよ?」

 

「そうするわ……昼休み迎えに来るから!待ってなさいよ!」

 

「うん、待ってるね」

 

 

そう言って走り去っていく鈴。朝から慌ただしかった。でも、鈴と久しぶりに会えて嬉しいかな。

 

などと考えていると、鈴が走って戻ってきた。

 

 

「あんたなんで車椅子なの!?」

 

「それ聞くためにもどってきたの?」

 

「教室出たら無性に気になったのよ!」

 

「気になるのはいいんだけど……」

 

 

僕は鈴の後ろに指を指す。

 

 

「後ろ」

 

「へ?」

 

 

そこには出席簿を構えた織斑先生がオーラ全開で立っていた。

 

 

「……慈悲は」

 

「ない」

 

 

スッパーン!!

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ああ、まだジンジンする……将冴、来たわよ」

 

 

お昼休みになって、鈴が織斑先生に叩かれた頭を未だにさすりながら1組の教室に入ってきた。

 

僕は叩かれたことないからわからないけど、そんなに痛いの?

 

 

「お疲れ様。じゃあ、学食行こうか」

 

「うん。車椅子押すわね」

 

「ありがとう」

 

 

鈴が車椅子を押してくれる。なんか手馴れてるような……気のせいかな。

 

 

「一夏とかは?」

 

「箒さんとセシリアさんに連行された」

 

「ああ、あのポニーテールと金髪?」

 

「そうそう。箒さんはファースト幼馴染らしいよ。一夏曰く」

 

「そんな話前に聞いたわね……」

 

「ライバル多いね。鈴」

 

「な!?ライバルって何よ!?」

 

 

ああ、気付かれてないと思ってたのかな?知ってるよ、鈴も一夏にぞっこんだってこと。鈴ってわかりやすいし。

 

まぁ、あまり突っ込むと鈴がテンパっちゃうから、これ以上は何も言わないけど。

 

っと、階段まで来てしまった。

 

 

「あ、階段か……エレベーターとかないものね。どうやって降りればいいかな……」

 

「大丈夫だよ。少し離れてくれる?」

 

「え……?」

 

 

鈴はよくわかってない様子だけど、言われた通りに離れてくれる。

 

離れたのを確認してから義足をつけて車椅子を拡張領域にしまう。

 

 

「さ、行こうか。……鈴?」

 

 

何やらキョトンとした顔の鈴。

なんだろ?

 

 

「何よそれ!?」

 

「あぁ……うん、それも食堂で説明するよ」

 

 

鈴が初めてかもなぁ。僕が義足つけてるところを見る生徒。

 

とりあえず、階段下りようか。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

食堂でお互い食事を取りに行き、いつもの車椅子専用の席に座る。僕は焼き魚定食。鈴はラーメンだ。

 

 

「で、話してもらえる?」

 

「うん、モンドグロッソの時の話からでいいかな……」

 

 

この学園に来てから2回目の説明。

改めて話すと、結構素っ頓狂な話だなぁ……。

 

 

「そうなんだ……」

 

 

話し終えると、鈴が食事の手を止めた。早く食べないと、ラーメン伸びるよ?

 

 

「大変だったんだ……」

 

「織斑先生や、ドイツ軍の人たちがいたから、そんなに辛くは感じなかったけどね」

 

「……何かあったら、私に言ってよね。手伝うから」

 

「うん。その時は頼むよ、代表候補生さん」

 

 

そう言って食事を再開する。

んー、なんかお互いに黙ってしまったな。何か聞くことないかな……そうだ。

 

 

「それにしても、鈴が代表候補生なんて。想像つかないね」

 

「あんた、失礼じゃない?こっちは1年間頑張って上り詰めたってのに」

 

「そうだね……でも、1年間で代表候補生になるなんて本当にすごいね。僕にはできなさそうだ」

 

「そんなこと言って、あんた企業所属なんでしょ?それだって異例よ。IS動かして、まだそんなに経ってないでしょ?」

 

「両親の知り合いの企業だから。融通が利いただけだよ」

 

 

嘘はいってない。多分……。

二年前から動かしてたなんて言えないしね。

その辺、本当に面倒だなぁ……。

 

 

「ふぅん……なんか隠してる気がするけど、深くは聞かないでおくわ。あんたも聞かれたくないんでしょ?」

 

「そうしてくれると助かるかな」

 

「OK、じゃあこの話はこれで終わり。さ、早く食べよう?午後の授業遅れるわよ。それとも、介助してほしい?」

 

「遠慮するよ」

 

 

焼き魚の身をほぐしながら、そう答えた。




今回短いですがご了承ください。

結構難産でした。駄文で申し訳ないです。

次回から原作一巻の後半になるのかな?原作がどうなっていたか覚えてないので、あやふやです。


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44話

寒いですね。

私の住んでる北海道では札幌雪まつりが開催されてますね。ま、行きませんがね。

クラリッサの雪像があったら行きますけど←


鈴に今まであったことを話した昼休みから時間がとんで放課後。僕はアリーナでテムジンを纏って立っていた。向かいには白式を纏った一夏。

 

観客席には箒さんとセシリアさんがいる。

みんな過保護だからISの練習に全く参加できなかったから、練習は楽しみだ。

 

 

「一夏、準備は大丈夫?」

 

「おう、いつでも!」

 

「それじゃ、行くよ!」

 

 

同時に駆け出す。

一夏の手には白式唯一の武装『雪片二型』。遠距離武器のないISもどうかと思うけど……多分、束さんが開発に携わってるんだろうな。零落白夜といいそうとしか思えない。

 

っと、考え事をしている暇はないな。

一夏は雪片二型を振りかぶり、まっすぐ斬りかかってくる。

 

 

「うおぉ!!」

 

「おっと」

 

 

振り下ろされた雪片二型をセイバーで受け止める。ズシリと攻撃の重さが伝わった。さすがは近接特化型。ラウラでもここまで重い攻撃は無かったよ。

 

鍔迫り合いになり、距離が近くなった一夏が話しかけてくる。

 

 

「簡単に受けるな。結構本気で斬りかかったんだけど

 

「腕にジーンときた」

 

「お前、今義手つけてないだろ」

 

「ISの腕を通して、衝撃は伝わるからね」

 

「そうか、よ!」

 

 

鍔迫り合いの状態から、一夏が僕を押し出し距離を取る。僕はすぐにセイバーの切っ先を一夏に向け引き金を引く。放たれたエネルギー弾は一夏に向けてまっすぐ飛んでいく。

 

 

「あぶねっ!?」

 

 

なんとか体を捻り躱す一夏。僕が遠距離武器持ってるの知ってるのに距離取るからだよ。

 

 

「遠距離武器、羨ましいな」

 

「一夏は向いてないと思うけどね。正しい姿勢だったりとか、照準の決定とか」

 

「やってみなくちゃわからないだろ!」

 

「その時はセシリアさんに教わってね。教えるの苦手だから」

 

 

そう言いながら、ボムを手にし一夏に投げつける。一夏はすぐにブーストし、その場から離れる。一夏が離れたところでボムは爆発。流石に見え見えか。

 

僕は追撃と言わんばかりにエネルギー弾を連射する。

 

 

「遠距離卑怯だぞ!」

 

「使えるものは使わないと」

 

「ならこっちだって!」

 

 

雪片二型の刀身が光る。あれはセシリアさんとの試合で使っていた零落白夜?

 

その瞬間、一夏がこっちに向かってくる。飛んでくるエネルギー弾を切り裂きながら。あれってエネルギー切り裂くみたいな能力だったっけ?

 

そっちが近接戦をご所望なら……

 

 

「真正面から受け止める!」

 

 

瞬時加速し、一夏との距離が縮まる。

零落白夜は自身のエネルギーを大幅に消費する技。早期決着というわけだ。

 

 

「くらえぇ!!」

 

 

零落白夜が振り下ろされる。が、僕はその直前でバーティカルターンで直角に右に曲がる。

 

 

「なっ!?」

 

「隙だらけだよ!」

 

 

さらにターンして連続してエネルギー弾を三発放つ。

動けなくなっていた一夏は躱す事もままならず、全弾命中。そこから距離を詰め、セイバーで一夏のシールドエネルギーを0にした。

 

零落白夜にエネルギーをごっそり持って行かれたみたいだね。

 

 

「チクショー!負けたぁ……」

 

 

エネルギーがなくなった白式を待機状態にし、一夏は地面に座り込んだ。

僕が負けたら束さんやクロエさん、ラウラに申し訳ないよ。3人に鍛えられたようなものだし。

 

僕もISを待機状態にして、手足に義肢をつけた。

 

 

「零落白夜の使い方、もう少し考えないとね」

 

 

そう言って手を差し伸べる。一夏はその手を取り立ち上がる。

 

 

「ああ……エネルギー系の武器は無力化できるけど、俺自身のエネルギー消費が半端な……」

 

 

そこで改めて僕の姿を確認した一夏が言葉を止めた。

 

 

「ん?一夏?」

 

「おま、それ……」

 

 

一夏が僕の足を指差す。

 

 

「ああ、そういえば見せてなかったね。これは……」

 

「一夏!将冴!大丈夫……か?」

 

「お二人共、良い試合でした……わ?」

 

 

箒さんとセシリアさんが観客席から降りて来たみたい。で、僕の姿を見て一夏同様に言葉を止める。

 

 

「「「将冴(さん)が立った!?」」」

 

 

某名作劇場みたいな言い方やめようよ。




めちゃくちゃ短いです。申し訳ないです。今日は書く時間があまり取れず……。

そしてあっさりやられる一夏。どうしてこうなった……


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45話

北海道で雨が降るとは……今年は暖冬だったか。

きっと将冴とクラリッサが熱い夜をすごしt(ry


 

「義足あったのかよ……」

 

 

アリーナ内にいては次に使う人達の邪魔になってしまうので、ピットに移動した僕ら。そこで一夏、箒さん、セシリアさんに囲まれた。

 

 

「別にわざわざ見せる物でもないかなぁと」

 

「いや、それは見せろよ!」

 

「本当ですわ!」

 

「でも、義足があるなら何故車椅子を使っているんだ?車椅子の方が不便ではないか」

 

「便利なものは、メリットもあればデメリットもあるんだよ。義肢を今みたいに4つつけてると、神経への負担が大きくてね。長時間つけてると神経ズタズタになるんだ。まぁ、一度もそうなったことないけど、つけてたら頭痛が起きた事あるけど」

 

 

束さんが作ったものだから高性能ではあるけど、神経の負担に関してはどうにもならない。無理矢理繋げているようなものだから。

 

 

「だから普段は車椅子を使って……って、みんなどうしたの?」

 

 

何故かにじり寄ってくる3人。

すると、一夏と箒さんが僕の脇を抱え持ち上げ、セシリアさんが僕の義足に手をかけた。

 

 

「ちょ!?何してるの!?」

 

「セシリア!早く義足を外すんだ!」

 

「私と一夏が抑えている間に!」

 

「承知しましたわ!」

 

 

セシリアさんが接合部をペタペタと触り始める。ちょっ、変に触らないで!?

 

 

「あ、そこは……あぅっ」

 

「将冴、変な声出すなよ……」

 

「そんなこと言われても……そこを触られると……うぁ」

 

「なんでしょう……私、いけないことをしている気分になってきましたわ……」

 

「そう思うならやめてよ!自分で外せるし!なんで無理矢理外そうとしてるのさ!」

 

「いや、やらねばならない気がして……」

 

 

そこでようやく手を離してくれた。一夏たちに外されなくても、すぐに外して車椅子に座るつもりだったよ。

 

すぐに車椅子を拡張領域から展開し、義足を粒子化する。僕だって頭痛くなるの嫌だし。

 

 

「ふぅ……なんか色々と疲れたよ」

 

「今日はこれくらいにするか。もうアリーナ交代の時間だし」

 

「そうですわね。私たちは外で待っていますわ」

 

「2人は早く着替えてこい」

 

 

2人はISに乗るわけじゃなかったから、制服のままだもんね。

 

 

「待たせるのも悪いし、さっさと着替えようか」

 

「ああ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

更衣室に入ると、そこには鈴がいた。

手にはタオルとスポーツドリンクが2つ握られている。

 

 

「二人ともお疲れ。はいこれ」

 

 

そのタオルとスポーツドリンクを手渡してくれる。これはありがたい。さっき嫌な汗かいたから……。

 

 

「おう、サンキューな。鈴」

 

「ありがとう」

 

「なんか、3人でこうして話すのも久しぶりね」

 

 

3人だけ話すのは2年ぶりかな。まさか、僕があんな事になるとは思わなかったけど。

 

 

「将冴がいなくなった後は、俺も鈴もしばらく立ち直れなかったからな」

 

「話聞いたら千冬さんと一緒に過ごしていたなんて……千冬さんも教えてくれればいいのに」

 

「千冬さんも色々あったんだよ。僕もだけど」

 

 

重要人保護プログラムだったり、束さんからISもらったり……まぁ色々。

 

こうして他愛もない話をしていると、本当に懐かしい。

 

 

「あ、一夏早く着替えないと」

 

「そうだった。箒とセシリア待たせてたんだったな」

 

「なら、私は外にいるわね」

 

 

鈴はすぐに更衣室から出て行く。まぁ、男の着替えなんて見たくないよね。

 

さて、ISスーツは着るのも脱ぐのも大変な代物だ。鈴と話していたせいというわけではないけど、箒さんとセシリアさんを待たせるのは申し訳ない。というわけで、僕はISスーツの上から制服を着ることにする。

 

一夏はISスーツを脱いでから制服を着るようだ。因みに、僕と一夏のISスーツは同じような形をしていると。お腹が丸出しの状態と言えばいいだろうか。ただ、僕のISスーツは袖がないけど。

 

 

「あれ、将冴もう着替えたのか!?」

 

 

一夏が上のスーツを脱いだところで、僕は制服を着終わる。

 

 

「ISスーツの上から来ただけだからね。じゃあ、先に行ってるよ」

 

「少しくらい待ってくれよ……」

 

「箒さんたちを待たせるのは申し訳ないからね。先に行ってなだめておくよ」

 

 

一夏に手を振り、更衣室を出る。更衣室の前には鈴が壁に寄りかかって待っていた。

 

 

「あれ、一夏は?」

 

「着替えに苦戦してる」

 

「ああ。ISスーツは着るのも脱ぐのも大変だからね」

 

「そういうこと」

 

 

そこでお互いに会話が止まる。鈴は何やらそわそわしている気がするし……ああ、そういうことか。

 

 

「こっちに来て、一夏と二人で話した?」

 

「ううん、将冴と話してたから、まだ……ね」

 

「なら、すぐに出てくると思うから一夏と話したら?」

 

「え、でも、この後待ち合わせしてるんじゃ……」

 

「僕が話しておくよ。じゃあ、頑張ってねー」

 

「あ、ちょっと!」

 

 

そう言って、アリーナの外に向かう。鈴の気持ちが一夏に……伝わるわけないか。鈍感だもの、一夏。

 

アリーナの外に出ると、箒さんとセシリアさんが待っていた。結構、仲良いのかな?二人

 

 

「お待たせ、二人とも」

 

「遅かったな」

 

「何かありましたの?」

 

「まぁ、色々とね。それより、夕食食べに行こう。お腹すいたし」

 

 

二人の答えを聞く前に、車椅子を動かす。無理にでも連れて行かないと面倒だと思うし。

 

 

「将冴。一夏を待たなくていいのか?」

 

「そうですわ!せっかくなのですから、四人で……」

 

「一夏は急用ができたから先に行ってくれって。この三人だけでご飯食べるのは初めてだね」

 

「ちょっ、待ってくれ将冴!一人では危険だ!」

 

「そうですわ、段差が大変ですわよ!」

 

 

クラリッサ、同級生が過保護です。




どんどんクラスのみんなが将冴を異様に心配するようになると思われます。

「同級生だけど将冴君は弟!」


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46話

作者です。

感想で、将冴の腕はどこから無くなっているのか?という質問をいただきまして、改めて読み直したところ描写がなかったので、3ページ目に加筆させていただきました。

作者の頭の中にはあるけど、文にで来ていないのは、物書きとしてまだまだ甘いということだとおもいます。今後はこのようなことがないように精進していきたいと思います。

こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします。

では、本編どうぞ。


箒さんとセシリアさんと学食にいると、まだ早い時間だったようで、かなり空いていた。まぁ、僕にはあまり関係ないんだけどね。車椅子席があるから。

 

 

「将冴は何を食べる?取ってこよう」

 

「え、いいよ。自分で取りに行けるから」

 

「いいえ、将冴さんは先に席についていてくださいまし。さぁ、何が食べたいですの?」

 

「えっと……じゃあ、麻婆豆腐定食で」

 

 

二人はわかったと頷き、受け取り口の方へ行った。

なんだろうな、前から何かと助けてくれてたけど、今日はやけに過保護というか……。セシリアさんはともかく、中学で1年間一緒だった箒さんまでここまでになると、なんだかからかわれているのではないかと疑ってしまうなぁ……。

 

考えすぎかな。

 

 

「将冴、持ってきたぞ」

 

 

箒さんが自分の和風定食と僕の麻婆豆腐定食を器用に両手で持ってきた。流石は剣道日本一、力あるなぁ。女性に対して失礼だから声には出さないけど。

 

 

「ありがとう。箒さん」

 

 

麻婆豆腐定食を受け取ると、遅れてセシリアさんもきた。セシリアさんはパスタだ。てっきりナイフとフォークでお上品に食べるようなものを食べるかと思っていたけど、こういうのも食べるんだなぁ。

 

 

「将冴さん?どうかいたしましたか?」

 

 

じっと見すぎたようだ。

 

 

「いや、なんでもないよ」

 

「冷めないうちにいただこう」

 

「うん、いただきます」

 

 

静かに食事を始める。

 

ん、結構辛いな、この麻婆豆腐。でも絶妙な辛さ。これは当たりだ、美味しい。

 

 

「そういえば、将冴さん」

 

 

麻婆豆腐に舌鼓をうっていると、セシリアさんが話しかけてくる。

 

 

「今日の模擬戦で使っていた技……瞬時加速からの直角のターンは、私との試合では使わなかったですわよね?」

 

「そういえばそうだね。学校で使ったのは一夏が初めてかな」

 

 

意図してバーティカルターンを使わなかったんじゃないけどね。

 

 

「セシリアさんには悪いけど、あの時の試合では使う必要がなかったんだよね」

 

「それは私も理解しておりますわ。ミサイルはビームで撃墜が可能、私の近接装備であるインターセプターは展開に時間がかかってしまいます。使う場面は確かにありませんでしたわ」

 

 

近接攻撃が得意な人と戦うと、うまい具合に騙せるけど、セシリアさんのように遠距離特化の人には直線的な攻撃の方が効果的な部分があるからね。全部が全部そうじゃないけど。

 

 

「セシリアの目から見て、あの技はどうなんだ?私はあまりISには乗っていないから、感覚がわからないのだが」

 

「そうですわね……まず瞬時加速自体が高度なテクニックですわ。その名の通り、瞬時に爆発的な速度で移動するのですから。空気抵抗や圧力の関係で軌道を変えるのはほぼ不可能で、直線的な動きになりますわ」

 

「なるほど……その技を将冴は曲げた」

 

「ええ。普通ではあり得ないですわ。将冴さん、一体どういう原理であのような軌道ができますの?」

 

「ん〜……」

 

 

どういう原理か……まぁ、言ってもいいけど。

 

 

「わかんない」

 

「「……へ?」」

 

「開発者の人に説明してもらったにはもらったけど、最終的には『フィーリングだよ!』という一言で纏められてね。僕自身も、詳しい原理とかはわかってないから、フィーリングとしか言えないんだよね。機体の性能についても、企業所属だから詳しいことは言えないし」

 

「そ、そうですの……開発者の方は、なかなか個性的な方のようですね」

 

 

確かに個性的だね。色々な意味で。

 

 

「まぁ、将冴の技術の高さも一つのファクターなのだろう」

 

「そうですわね。油断していたとはいえ、あんなにあっさりやられるとは思いませんでしたわ……」

 

「あっさりじゃないよ。BT兵器にはこっちも度肝抜いたし」

 

「軽々と躱していましたわ……」

 

 

クロエさんのスピードに比べたら……ね?環境が違ったんだよ。

 

 

「それに、将冴さんは本気を出していない気がしますの」

 

「そうなのか、将冴?」

 

「ん〜、どうだろうね?あ、早く食べないと冷めちゃうよ」

 

 

強引に話を終わらせて、麻婆豆腐を口に運ぶ。うん、明日もこれ食べよう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

食事を終え、寮が違う箒さんとセシリアさんと別れた。

見送ると言われたけど、大丈夫だと言って断った。

 

2人も、教員寮には入りたくないだろうし。

 

 

「そうだ、飲み物買っておこう」

 

 

寮に戻る途中で部屋に飲み物がないのを思い出した。売店はやってないから、自販機で買うかな。山田先生はアップルティーでいいかな?

 

自販機まで来ると、近くにあるベンチに誰かが座っている。あれは……

 

 

「鈴?」

 

「あ、将冴……」

 

 

酷く落ち込んでいる様子の鈴。

一夏と何かあったのかな?

 

 

「大丈夫?なんか元気ないけど」

 

「うん、大丈夫よ。心配しないで」

 

 

無理をしているようにしか見えない。

僕は自販機で缶のミルクティーを二つと紙パックのアップルティーを買い、ミルクティーを鈴に差し出した。

 

 

「飲む?」

 

「……うん、ありがと」

 

 

鈴はミルクティーを受け取るが、蓋を開けず手の中で転がしていた。

 

 

「……」

 

「一夏と何かあった?」

 

「何も言ってないのに、よくわかるわね」

 

「二人っきりにしたのは僕だし、この状況でわからないほど鈍感じゃない思ってるけど?」

 

「そうだったわね。将冴は妙に鋭いときあるから」

 

 

ミルクティーを転がす手を止め、恥ずかしそうに顔を伏せる鈴。

 

 

「1年前ね……私が中国に帰る時、一夏に告白したの」

 

 

うん、予想どおり。

 

 

「驚かないのね」

 

「知ってたから」

 

「本当に、変な時に鋭いわね……。まぁいいわ。一夏に『帰ってきたら、毎日酢豚作ってあげる』って告白したの。プロポーズめいた感じで。で、さっき一夏と話しててね、覚えてるか聞いたの」

 

「覚えていなかった?」

 

「ううん、覚えていたわよ。覚えていたけどね……一夏なんて言ったと思う?」

 

 

ああ、なんとなくわかった。

 

 

「「酢豚を毎日奢ってくれるって約束か?」」

 

 

僕と鈴の声が重なった。

一夏……君ってやつは……。

 

 

「信じられる!?こっちは真剣だったのに!」

 

「まぁ、それはわかるんだけどね……。味噌汁とか、シンプルなのでよかったんじゃないかな?」

 

「お味噌汁作れないし……」

 

「別に今すぐって意味じゃないんだから味噌汁でいいじゃないか……」

 

 

変なところ律儀だな、鈴。

 

 

「それに、鈴だって一夏が唐変木なのは知ってるでしょ?」

 

「うっ……」

 

「言い方にも、問題があったんじゃない?」

 

 

バツの悪そうな顔をする鈴。一夏が鈍感なのは今に始まったことじゃないし、それで何人の女子が泣いたかは、鈴だって知ってるはずだ。

 

まぁ、いいや。話の続き。

 

 

「で、一夏と喧嘩したと……」

 

「うん……」

 

 

はぁ、また面倒なことに。

鈴はどうしたらいいかわからないといった様子だし、一夏はなんで怒られているかも理解していないだろう。鈍感だから。一応、どうするのか聞いてみるかな。

 

 

「これからどうするの?」

 

「一夏が謝るまで口聞かない」

 

「子供じゃないんだから……」

 

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

 

「素直に思いの丈をぶつける」

 

「無理!」

 

 

いや、無理って即答されても……これが一番手っ取り早いんだけど。あ、でも一夏に伝わるかは別だな。

 

 

「なら、一夏と勝負してみたら?」

 

「勝負?」

 

「うん、シンプルに勝った方は負けた方に一つなんでも言うことを聞かせることができる、とか。鈴が勝てば、一夏に謝らせるなり付き合わせるなりすればいい。一夏はどうせ飯奢れだのどうでもいいお願いしかしないから、丁度いいんじゃない?」

 

「な、なるほど……」

 

「勝負の内容は鈴が決めればいいよ。自分が勝てそうなのにすればいいよ」

 

 

そう言って、僕は車椅子で回れ右する。

 

 

「まぁ、どうするかの最終決定は鈴がしてね」

 

「うん、わかった」

 

「それじゃあね」

 

 

そのまま、寮に向けて車椅子を動かした。山田先生帰ってるかな?

 

あ、クラリッサは昼休みの時間かも。電話しようかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

私……鈴は将冴からもらったミルクティーの蓋を開け、一口飲んだ。

 

勝負か……。将冴も突飛なことを言うわね。

 

 

「はぁ、なんか1日で色々ありすぎたわ。部屋に戻って寝よう」

 

 

ミルクティーを流し込んで、自販機の横にあるゴミ箱に捨てたところで、ふと気になった。

 

 

「将冴……ミルクティーの他にアップルティーも買ってたけど、誰の分だろう……」




ISの機能とか、性能とか、テクニックとか……そういうのわからんです!←

一応調べはしました。間違っていたらすいません。バーチャロンはなんでもありな機体でいいよね?いいよね!?
すいません、なんでもありません。

そして、この段階で鈴は知らなかった。
将冴が数々の年上女性を落としていることに……


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47話

展開がダラダラしているきがする。

クラリッサといちゃいちゃするためにも、話を早く進めよう。


翌日、教室に行くとなんか騒がしい。

他のクラスの人たちも、廊下から1組の教室を覗いてる。

 

幸いにも後ろの扉は開いていたのでそこから教室に入る。

教室の前の方では一夏と鈴が向かい合っていた。鈴は腕を組んでいて、一夏は何が何だかわからない様子だ。

 

んー、昨日行ったことをもう実行するつもりだろうか?

 

 

「一夏!私と勝負しなさい!」

 

 

実行した。これは予想外。

 

 

「勝負って、なんでそんな……」

 

「あんたは黙って受けとけばいいのよ!それとも、私に負けるのが怖いの?」

 

 

さすがセカンド幼馴染。一夏が勝負に乗るであろう挑発。

 

 

「そんなわけないだろ!わかった、受けて立つ。内容は?」

 

「もうすぐあるクラス対抗戦。それで優勝したほうが勝ちよ。負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つ従うこと。いいわね?」

 

「いいぜ。絶対に負けないからな」

 

「あんたに吠え面かかせてやるわ!」

 

 

鈴は勝負を取り付け、教室を出る。出る瞬間に僕に気づいたのか、こっちに勝ち誇ったような顔をしてきた。

流石、鈴の行動力には脱帽だよ。

 

 

「一夏」

 

 

宣戦布告された一夏を呼ぶ。これからどうするのか聞いておかないと。

 

 

「将冴、おはよう」

 

「おはよう。鈴に宣戦布告されてたね」

 

「ああ。なんかよくわかんねぇよ。昨日だって、約束覚えていたのに突然怒り出すし」

 

 

意味を履き違えていたら覚えていないのと同じことだよ。一夏はもう少し相手の気持ちを察するべきだ。これから世に出たら苦労するよ?

 

 

「てか、あいつクラス代表じゃないだろ。つい流れで受けるなんて言っちゃったけど」

 

「専用機持ちが変わってくれって言ったら変わるでしょ。みんなスイーツフリーパス欲しいだろうし」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもの」

 

 

一夏には女心というものを叩き込まないとダメだろうか……まぁ、理解したところで唐変木は変わらなさそうだけど。

 

 

「で、対抗戦どうするの?セシリアさんとの時みたいに、鈴は油断しないだろうし、ビギナーズラックみたいなのはないよ?」

 

「ああ、わかってるさ。それで、将冴頼みがあるんだけど……」

 

「断るよ」

 

「な!?なんも言ってないだろ!」

 

「練習付き合ってくれ、とでも言うつもりだったんでしょ?僕は一夏も鈴も応援するから、どちらかについて手助けするつもりはないよ」

 

 

勝負したらと焚きつけたのは僕だけど、それは勝負が成立する前だしいいだろう。

それに、僕が一夏の練習に付き合っても、一夏が得られるものは少ないと思うし。僕の動きは機体ありきだから。

 

 

「そっか……」

 

「セシリアさんがいるでしょ?剣だって、箒さんがいる。2人に特訓してもらいなよ」

 

「わかった、そうするよ。そろそろ千冬姉も来るな。席に戻るよ」

 

「うん。叩かれないように頑張ってね」

 

「今日は大丈夫だって」

 

 

そう言って自分の席に戻っていった。

さて、今日は何回叩かれるかな。一夏

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

昼休み、さっさと昼食を済ませてしまった僕は、何の目的もなく校内をうろついていた。

 

思えば、じっくりと校内を見て回ったことないなぁ。

 

結構いろんな施設があるんだなぁ。

整備室なんかもある。中を見てもいいのかな?

 

恐る恐る扉を開くと、中には2人の女子生徒がいて、ISをいじってる。どちらも水色の似たような髪型。どことなく似ているけどリボンの色が違うから学年が違う。一人は2年生でもう一人は1年生……姉妹かな?

 

 

「それでね、ここの部分をこうすれば……」

 

「あ、そっか。じゃあ、これをこっちに……」

 

「そうそう!さすが簪ちゃん、私の妹だねぇ」

 

 

姉であろう2年の先輩は、簪と呼んだ一年生の頭を撫でた。簪さんは少し嬉しそうに顔を赤らめている。や

 

 

「あら?」

 

 

お姉さんの方が僕に気づき、それに続いて妹さんの方も僕の方を向いた。

 

 

「あ、すいません。勝手に入ってしまって……」

 

「いいのよ。別に立ち入り禁止ってわけじゃないし」

 

「あ、貴方確か、1年1組の……」

 

 

どうやら僕のことを知っているようだ。まぁ、当然といえば当然か。男だし、車椅子だし。

 

 

「柳川将冴です。初めまして」

 

「ご丁寧にどうも。私は更識楯無。生徒会長をしているわ」

 

「妹の、更識簪です。よろしく……」

 

「よろしくお願いします」

 

 

楯無さんと簪さん。改めて見ると、似ているな。

 

 

「君が噂の車椅子男性操縦者ね。資料で見るより、可愛らしい顔をしてるわね」

 

「可愛らしい顔……」

 

 

男として、その言葉はなかなか心に突き刺さる。

まぁ、気にしないでおこう。

 

 

「お二人はここで何を?」

 

「簪ちゃんの専用機を作っていたの。ね?簪ちゃん」

 

「うん……」

 

 

どうも簪さんは、僕を警戒しているようで……。

それにしても、専用機か。ということは簪さんは代表候補生か何かだろうか?でも、作っていたというのは……何か事情があるのかな?

 

 

「専用機を作るって、どこかの企業や研究所が作ってくれるんじゃ……」

 

「最初はその予定だったの。でも、開発元の倉持技研がもう一人の男性操縦者である一夏君の専用機の方に人員を割いてしまってね」

 

「それで、私が自分で作ることになったの」

 

 

一夏……君は、君の知らないところで迷惑をかけていたようだよ。

 

 

「友人が迷惑をかけたようで……」

 

 

頭を下げる。僕が謝ったところでどうにかなるというわけではないだろうけど……。

 

 

「別にいい。あなたも、織斑一夏も悪くない。それに自分でISを作れるのは楽しいから」

 

「さすが簪ちゃんだわ!本当に優しい子ね〜」

 

 

楯無さんが、また簪さんの頭を撫でる。簪さんは恥ずかしそうに、楯無さんの手を軽く振り払う。

 

 

「もう姉さん!恥ずかしいからやめてよ」

 

「ふふ、いいではないかいいではないか〜」

 

 

指をわきわきさせながら、簪ちゃんに近づく楯無さん。

これは止めたほうがいいのだろうか?

 

 

「何がいいではないかなのですか?」

 

 

僕と背後で怒気を含んだ声が聞こえた。ゾワッと寒気がして、背筋が伸びる。

 

恐る恐る背後を振り返ると、メガネをかけたポーニーテールの3年生が立っていた。学年はリボンの色でわかった。

 

その3年生の視線は、まっすぐ楯無さんに向いていた。

 

 

「う、虚ちゃん……ごきげんよう」

 

「会長、仕事をサボって何をしているのですか?」

 

「か、家族サービス……」

 

「家族サービスは仕事が終わってからにしてください。さ、行きますよ」

 

 

ガシッと楯無さんの首根っこをつかみ、引きずっていく虚さん。

 

 

「会長がおさわがせしました。失礼します」

 

「虚ちゃん、首絞まってる!ギブッ、ギブゥー!」

 

 

あっという間に会長を連行していってしまった。僕と簪さんは呆然としている。今のはいったい……。

 

 

「騒がしくてごめんね。いつものことだから気にしないで」

 

 

簪さんはそう言うと、ISの近くにあるコンピューターを操作し始めた。

 

 

「これ、打鉄だよね?」

 

「うん。それを改修しているの。第三世代用に。正式な名前は打鉄弐式っていうの」

 

「へぇ」

 

 

確かに、所々違う部分がある。

 

っと、邪魔しちゃ悪いかな。

 

 

「それじゃあ、簪さん。僕はもう行くね」

 

「うん、なんのお構いもできなくてごめんね」

 

「気にしないで。それじゃ、またね」

 

 

手を振って整備室を出て行く。それにしても、自分でISを作るか……僕も、整備くらいはできたほうがいいかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

夜、クラリッサに電話をかける。

1コール目で通話がつながった。

 

 

「こんばんは、クラリッサ。あ、そっちはまだお昼だったっけ?」

 

『構わないよ。また電話してくれてありがとう』

 

「クラリッサが寂しがると思って」

 

『なっ!私はそんな……』

 

「ふふ、冗談だよ。僕が話したかっただけ」

 

『そうか。どうだ?学園の暮らしは慣れたか?』

 

「うん。おかげさまで」

 

『私は何もしていないぞ?』

 

「こうしてお話しできるだけで、助かってる。僕のこと子供扱いしないし……」

 

『ん?何か言ったか?』

 

「なんでもないよ」

 

『そうか。……将冴、少し伝えなければならないことがあるんだ』

 

「ん?何?」

 

『しばらく忙しくなりそうでな。電話できる時間が取れないんだ』

 

「そうなんだ……もしかして、ラウラの転入で?」

 

『ああ、いろいろと手続きが面倒でな。早めに転入させたいという上の指示で、シュバルツェ・ハーゼはてんてこ舞いなんだ』

 

「そうだったんだ。まぁ、ラウラは隊長だし、軍の方も問題なく事を進めたいよね」

 

『そういうことだな……本当に済まない』

 

「しょうがないよ。クラリッサは副隊長で余計に忙しいよね。頑張って、応援してる」

 

『ああ……ありがとう。落ち着いたら、必ず連絡する』

 

「うん、待ってる」

 

『それじゃ、仕事に戻るよ。またね』

 

「またね」

 

 

通話を切った携帯を手に持ったままベッドに倒れこむ。クラリッサと話しできなくなるのはちょっと寂しいな。ほぼ毎日のように話してたからなぁ……。

 

通話料すごいことになってそう……。

 

と、その時携帯が震える。

画面を見ると、知らない電話番号だった。間違い電話かな?通話ボタンを押す。

 

 

「はい、もしもし。どちら様でしょうか?」

 

『……』

 

 

無言。いたずらかな?

 

 

「もしもし?」

 

『……』

 

 

不気味だなぁ。もう切ろうかな。

 

 

『……対抗戦』

 

「え!?」

 

 

ボソッと小さな音が聞こえる。

 

 

『対抗戦、襲撃に注意しろ』

 

ブツッ

 

 

今のは……女の人の声だった。どこかで聞いたことある気がする声。襲撃に注意しろって……どういうことなんだろう?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

携帯を投げ捨て、ソファにどかっと座り込んだ。あー、なんか妙に疲れた。

 

 

「あらオータム。彼にもう伝えたの?」

 

「伝えたよ。ったく、私は電話嫌いなんだよ。なんだか気恥ずかしくなるから」

 

「うん、知ってた」

 

「確信犯かよ。くそっ……おーい、エム。そこの酒取ってくれよ」

 

 

ガキみたいに小さいエムに向かって命令する。酒でも呑まねえとやってらんねーよ。

 

 

「自分で取れ。ガキじゃあるまいし」

 

「テメェには言われたくねえよ!」

 

「ほらほら、喧嘩しない!」

 

 

ったく、めんどくせぇな……。

仕方ないから自分でテーブルの上に置いてあった酒の瓶を取り、そのまま酒を喉に流し込んだ。

 

 

「……プハッ!やっぱり最初の一口は美味いなぁ」

 

「飲みすぎないでね。……でも、大丈夫かしらね。将冴君」

 

「知らねぇよ。『ダイモン』の連中に襲われるのはわかってんだ。それに、あいつは強いんだろ?」

 

「束博士が言うにはね」

 

「なら問題ねぇだろ。今は心配するより酒だ酒」

 

「……だらしないな」

 

「いちいちウルセェガキだな。一発ぶん殴ってやろうか?あ?」

 

「やめなさいって。明日も早いんだから、さっさと休みなさい」

 

 

スコールはそう言って部屋を出ていった。なんだよ、付き合ってくれねぇのかよ。

 

 

「私も寝る」

 

「おう、ガキは寝ろ寝ろ」

 

 

エムは私を無視して部屋を出て行く。全く、本当に愛想がねぇな……。

 

 

「さて……将冴はどう対処するかね」

 

 

もう一口酒を流し込んで、私は寝室へ向かった。




次はようやくクラス対抗戦!長かった……本当に……。

ここが終われば、シャル、ラウラの転入ですね。個人的に、書くの楽しみです。

次からオリジナル色が濃くなるかも。


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48話

ようやくここまで来たよ、クラス対抗戦。

この小説を書き始めた当初は割愛してシャルやラウラと一緒に転入する予定でした。ドイツの代表候補生として。まぁ、いろいろと無理があったのでボツにしましたが。

まぁ、一夏と鈴の戦闘は将冴の視点になるので臨場感とかは期待しないでください。多分うまく書けません。


 

謎の電話から数日が経ち、クラス対抗戦当日。僕は観客席で1組のみんなと試合を見に来ている。

あの電話が本当なら、今日襲撃があるという……信じていいものかもわからないけど、あの電話の声には聞き覚えがある。

 

少し、気を張っていた方がいいかも。

 

 

「やなしー、どうしたの?なんか怖い顔してるよ?」

 

「え?ああ、大丈夫。ちょっと考え事をね」

 

 

隣に座っていた布仏さんが声をかけてくれる。

因みに僕の席は、観客席入り口のすぐ近く。車椅子用のスペースがあるわけじゃないので、観客席からはみ出ている。通る人の迷惑になりそうだ。

 

 

「何かあったらいつでも言ってね〜。トイレとかなら連れて行ってあげるから」

 

「自分で行けるから大丈夫だよ……」

 

 

義肢がない頃に千冬さんに介助してもらっていた時は、しょうがないと割り切っていたから。千冬さん年上だったし……。

 

しかし、同級生に連れて行ってもらうのは色々と問題がある。色々と。

 

 

「あ、おりむーとりんりん出てきたよ」

 

「うん。鈴のIS、初めて見るけど結構大きいね」

 

 

鈴のIS……確か『甲龍』だったかな。

手には両端に刃がついた青龍刀。目立った武装はそれだけだけど、肩のユニット……あれは……

 

考えているうちに、試合が始まった。先に仕掛けたのは一夏。雪片二型で斬りかかる。真っ直ぐ突っ込むバレバレの戦法だ。

 

鈴は青龍刀で受け止める。

 

 

「あれじゃ、受け止められてもしょうがないね」

 

「そうですわね」

 

「あ、セシリアさん」

 

 

後ろからセシリアさんが歩いてきた。

セシリアさんは、確か一夏のピットに……。

 

 

「ピットからだと、映像になってしまいますので。直接見に来ましたわ」

 

「そっか」

 

「セッシーがおりむーの特訓してたんだよね〜?あとしののんも?」

 

 

僕に断られた一夏は、セシリアさんと箒さんに頼ったようだね。まぁ、そうしろって言ったのは僕だった気がするけど。

 

 

「ええ、そうですわね。とは言っても、大して伸ばすことができなかった、というのが結論ですわ」

 

「一夏とセシリアさんはタイプが全然違うからね。せめて、同じ近接タイプならもう少し伸びたんじゃないかな」

 

「将冴さんが加わってくれれば良かったですのに……」

 

「生憎、僕は一夏も鈴も応援してるんだ。どっちかに肩入れはできないよ」

 

「そうですの……前から思っていましたけど、将冴さんは案外意地悪ですわね」

 

「いやー、それほどでも」

 

「褒めていませんわ!」

 

 

うん、知ってる。

 

 

「こほん……それで、将冴さんから見てどうです?」

 

 

一つ咳払いし、セシリアさんが聞いてくる。僕から見てか……

 

「今のままだと一夏が負けるね。鈴はまだ本気じゃないし、武装があの青龍刀だけとは思えない」

 

「私も同意見ですわ」

 

「二人とも、おりむーを応援してないの?」

 

「ううん、そういうわけじゃないよ。一夏には零落白夜がある。あれは相手のシールドエネルギーを大幅に削ることができるから、一夏がそれを鈴に当てることができれば……」

 

「一夏さんの勝ち、ですわね」

 

 

改めて一夏と鈴の試合に目を向ける。

 

二人とも近接武器での勝負を続けている。少し一夏が押してるように見える。武装の大きさの問題もあるけど、一夏が剣道の勘を取り戻しているのかもしれない。

 

ここで、鈴が一夏を青龍刀で弾き飛ばし距離を取る。

二人は何か話しているみたいだけど、プライベートチャンネルで話しているからこちらまで声が聞こえない。

 

 

「試合が動きますわ」

 

「うん……多分、鈴が仕掛ける」

 

 

鈴の肩のユニットが開く。やっぱりあれが鈴の隠し球。

そして、突然一夏の後ろの壁に衝撃が走る。今の、鈴の攻撃なのか?

 

そのあと、続けて一夏の地面が音を立てて割れていく。何が起こって……。

 

 

「あれは中国で開発された衝撃砲ですわ。IS用に配備されていたのですね……」

 

「衝撃砲?」

 

「空間に圧力をかけて見えない砲身を作って、その時に生まれた衝撃をそのまま撃ち出すんだよ〜。空間自体に砲身を作り出すから、どんな方向にでも砲身を作り出せるんだ〜」

 

「なるほど、360度好きな方向に撃ち出せるのは厄介だなぁ」

 

「将冴さん、華麗にスルーしていますけど、布仏さんが衝撃砲の説明をしたことに驚きませんの?」

 

「別に?布仏さんだって、この学校に来たってことはそれなりに勉強しているんでしょ?」

 

「こう見えてもISの知識には自信があるのだよ〜」

 

「そ、そうですの……」

 

 

セシリアさんが納得いかないといった顔をしているけど、まぁ気にしないでおこう。

 

さて、鈴が衝撃砲を使い始めて状況は変わったね。

一夏は後ろに回っても撃ち込まれる衝撃砲に戸惑っているようだ。掻いくぐることができても、鈴の青龍刀が待っている。さぁ、どうするつもりかな、一夏。

 

 

「将冴さん、一夏さんの動き……少し変わってきていませんか?」

 

「うん、衝撃砲に慣れてきたんだね。どこに撃ち込まれるかを予測している。多分、一撃決めるためにタイミングを計ってるね」

 

 

鈴がバカスカ衝撃砲を撃っていたから、予想以上に早く慣れてしまったんだ。

 

その時、一夏が動いた。衝撃砲をギリギリで躱し、鈴に突っ込む。だけど、このままじゃ青龍刀で受けられる。

 

しかし、ここで予想外のことが起きる。

 

一夏が急激に加速を始めたのだ。あれは……

 

 

「瞬時加速?」

 

「この短期間で習得したのですか!?」

 

「みたいだね」

 

 

完全に鈴は出遅れている。雪片二型の刀身が光り輝く。零落白夜。一夏の奥の手だ。

 

瞬時加速で一気に距離を詰めた一夏が剣を振りおろし勝負が決着……する時だった。

 

 

ドォン!

 

 

「なに!?」

 

「爆発?」

 

「一体何が起こっていますの!?」

 

 

突然、一夏と鈴が戦っていた場所が土煙をあげる。よく見ると、アリーナの天井に大きな穴が開いている。

 

これって、まさか……

 

土煙が晴れる。そこにいたのは黒い、ISほどの大きさの球体であり、緑のラインと、横一列にならんだ穴。そして極め付けは、球体のてっぺん。

 

 

「あれはV.コンバータ?」




とりあえずここで終了。

バーチャロンマーズをやっていた人はわかると思います。球体の正体。

次回、将冴が大暴れ


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49話

苦手な戦闘回です。

くそぅ、クラリッサはまだか!


 

アリーナの中は静まり返った。みんな何が起こっているのかわかっていないんだ。でも、そんなみんなを現実に引き戻したのは、アリーナの入り口に隔壁が下された音だった。

 

 

「え、隔壁が……下りた?」

 

 

入り口近くにいた僕は、目の前で隔壁が下されたのを直視した。

 

そして、次に起こったのは爆発音だった。それは一夏と鈴が試合をしている場所からだ。突然現れた球体が無差別にビームを連射し始めた。

 

一夏達には当たっていないけど、競技場と観客席とを隔てて張られているシールドにビームが当たる。まずい、あの球体は天井のシールドを破って侵入してきた。なら、観客席に張られたシールドを破ることができる。

 

僕がそれに気づいた時、観客席はパニックに陥った。

生徒が全員、出入り口に押し寄せた。

 

 

「皆さん、落ち着いてくださいまし!」

 

「今は隔壁が……うわっ!」

 

 

入り口近くにいた僕とセシリアさんは落ち着くように呼びかけるが、誰も耳を傾けない。一気に押し寄せた人たちが、僕の車椅子を押しのける。

 

 

「将冴さん!?」

「やなしー!」

 

 

地面に倒れた僕に、押し寄せた人たちは気づいてない。みんな早く出たい一心なんだ。結果、僕の義手を踏んで行かれる。

 

 

「があっ!?」

 

 

痛覚も通っているから、踏まれた痛みが僕を襲う。

踏まれた義手を見ると、どちらもあらぬ方向に折れている。

 

でも、このパニックは収まらない。どうすれば……。

 

 

ガァン!

 

「落ち着きなさい!」

 

 

何かを思いっきり殴った音と、セシリアさんの怒号が響いた。

その音で、生徒がそちらを振り向く。

 

そこにはブルー・ティアーズを纏ったセシリアさんが床を殴り割っていた。

 

 

「助かりたい気持ちはわかりますが、人を足蹴にしてまで助かろうなんて愚者のすることですわ!」

 

 

その言葉でみんな冷静になったのか、地面に倒れている僕に気づいたみたいだ。

 

 

「やなしー、大丈夫?」

 

 

布仏さんがトテトテと近づいて抱き起こしてくれる。

 

 

「うん、大丈夫」

 

 

このままというわけにはいかない。腕を拡張領域にしまい、義足をつけ立ち上がる。

 

 

「みんな、少し避けてくれるかな?」

 

 

入り口付近に固まっている人たちにそう伝えると、みんな黙って避ける。

僕はテムジンを纏い、セイバーで隔壁を切り裂いた。

 

 

「落ち着いてアリーナから出て!前の人を押さないように!」

 

 

呼びかけながら、生徒たちを避難させる。

他の隔壁は……すでにセシリアさんが向かっている。

 

あの球体は……一夏と鈴が足止めしている。でも、球体の攻撃は全方位。一夏と鈴を同時に攻撃している。それに、二人ともさっきまで試合をしていたからシールドエネルギーが少ないはず。誰かが加勢に行かなきゃ……。

 

僕は通信をつなげる。つなげたのは管制室、織斑先生がいるはずだ。

 

 

『織斑だ』

 

「柳川です。織斑先生、お願いがあるんです」

 

『なんだ?』

 

「観客席のシールドを一瞬だけ解除してください。一夏と鈴の援護に行きます」

 

『駄目だ、危険すぎる!今教員が準備をしてこちらに向かっているから、それまで……』

 

「それまで一夏と鈴が持ちません!お願いします!」

 

 

織斑先生は少し間を空け、わかったと言った。

 

 

『10秒後にシールドを解除する。カウント、10、9……』

 

 

僕はシールドの近くで待機する。いつでも瞬時加速できるように、スラスターにエネルギーをためる。

 

 

『5、4、3、2……シールド解除!』

 

 

シールドが解除された瞬間に加速。競技場に入り、そのまま球体に向かっていく。

 

 

「このぉ!」

 

 

エネルギー弾を連射。そのまま接近し、セイバーで斬りかかる。

しかし、球体の反応が早かった。横一列に無数開いた穴の一つからビームが放たれる。

 

 

「くっ!?」

 

 

体を捻ってかわすが、避けきれず脇腹を掠める。

それだけでシールドエネルギーが大幅に削られる。

 

 

「反応速度おかしいでしょ……」

 

「将冴!大丈夫か?」

 

「うん。2人は?」

 

「まだなんとか大丈夫よ。でも、私も一夏もシールドエネルギーがそんなにないわ」

 

 

やっぱりか……さっきまで試合していたんだ。しょうがない。

 

この球体、わかったのは全方位に同時攻撃できること。恐ろしいくらいの反応速度。高出力ビーム兵器。あとは……V.コンバータ。

 

お父さんとお母さんの研究が、なぜこの球体に……。

いや、今考えるべきはそれじゃない。

 

どうやって倒すかだ。

 

 

「3人で同時攻撃しよう。囲むように立ち回って!」

 

「わかった!」

 

「了解!」

 

 

球体を囲み、一斉に接近する。

 

さぁ、どう反応する?

 

 

《……ミツケタ》

 

「!?今のは?」

 

 

声?誰の?なんの?

 

 

「将冴!危ない!」

 

 

鈴の声がした瞬間、目の前にビームが迫っていた。

 

 

「将冴ぉー!!」




次回に続く。

ふぇぇ、書けねぇよ……


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50話

とうとう50話です。そしてUAが10万を突破しました!めちゃくちゃ嬉しかったです。これからもよろしくお願いします。

クラス対抗戦決着。
が、頑張ります……


頭に強い衝撃。ISの絶対防御で守られてるとはいえ、衝撃までは無くしてくれない。

 

 

「があぁぁ!?」

 

 

意識を手放しそうになるけど……踏ん張る。

視界が赤い……血が出てるのか。頭の装甲も割れて、右半分が無くなっている。

 

 

「将冴!大丈夫!?」

 

 

鈴が駆け寄ってくる。一夏は球体と応戦している。

あぁ……頭がガンガンする。

 

 

「大丈夫……ちょっと当たっただけ」

 

「ちょっとどころじゃないわよ!頭から血が出てるじゃないの!?装甲だって、割れて……」

 

「シールドエネルギーはまだ残ってる。戦えるよ。」

 

 

とは言っても、もう無茶できない。あと1発も耐えれない。

さっきの声や、V.コンバータのことが気になるけど……そうも言ってられない。

 

あの球体を倒さなきゃ。

 

 

「鈴、頼みがあるんだ」

 

「頼み?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「このぉ!」

 

 

球体に接近したいのに、球体のビームが邪魔で近づけない!あいつに零落白夜をぶつけれれば倒せるはずだ。

 

みんなを危険に晒して、将冴に怪我をさせたこいつは!

 

 

「くそっ、くそっ!なんで近づけないんだ!隙はないのか!」

 

 

全方位に撃ってくるビームを掻い潜って、奴に……

 

 

「一夏!」

 

「鈴、将冴は!」

 

「話は後!球体の意識を将冴の方に向かせないで!」

 

「な、なんでだ?将冴に何か……」

 

 

将冴の方を見たら……違うISをつけてる!?

なんかゴツいぞ!?

 

 

「お、おい!将冴、二つもIS持ってるのか!?」

 

「後で説明するっていってんでしょ!私だってわけわかんないのよ!」

 

「わ、わかった!」

 

「3分よ、3分もたせて!」

 

 

3分って、結構つらいぞ!

でも、それでどうにかなるなら……。

 

 

「やってやる!」

 

「喋る前に突っ込みなさいよ!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「3分、時間を作って欲しいんだ」

 

「3分って……あんた、何するつもりなの?」

 

「あれを倒す」

 

 

一夏の零落白夜は近づかないと意味がない。鈴の衝撃砲はエネルギーが少ないから、あいつを仕留めるほどの威力を出せない。

 

じゃあ、どうするか。

遠距離から超火力で消し飛ばすしかない。

 

僕には、ちょうど良い装備がある。

 

 

「どうやって倒すのよ!?」

 

「こうやってだよ……『ライデン』」

 

 

ISを粒子化、再構成する。頭の装甲は直んないみたいだ。左半分しかない。

 

 

「な、な、あんた!二つもIS持ってんの!?」

 

「あ〜、同じISなんだけど、説明してる時間ないから終わってからね」

 

「ちょっ、そういうわけには……」

 

「鈴」

 

「わ、わかったわよ……3分ね?」

 

 

頷いて肯定する。

ライデンのバイナリー・ロータスに、バーチャロンのエネルギーを全てつぎ込めば、一撃で倒すことができるはずだ。

 

鈴は一夏に加勢しに行く。

さぁ、僕は……

 

 

「エネルギー充填開始……全てを武装に……」

 

 

視界の端に、チャージの状況がパーセンテージで現れる。

 

1%……2%……

 

一夏と鈴は……なんとか引きつけてくれている。

早く……早く。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「織斑先生!生徒の避難、完了しました!」

 

「わかった。山田先生も避難を」

 

「はい。織斑先生は?」

 

 

山田先生に聞かれる。

私は戦闘中の競技場に目を向ける。

 

 

「彼らを、見ていなければいけない。私が、彼らを送り出したのだから……」

 

「織斑先生……」

 

 

すぐ横に山田先生が並んだ。

避難しないのか?

 

 

「私も、一緒に見守ります」

 

「山田先生は避難を」

 

「いいえ、私も教師ですから!」

 

 

山田先生……貴方という人は……。

 

 

「どうなっても知らないからな」

 

「はい!」

 

 

しかし……戦況はいいとは言えない。一夏と凰は試合でエネルギーを消耗。将冴も、相手の攻撃をまともに受けてしまった。

 

遠目で確かではないが、将冴は怪我をしているようだ……。大丈夫だろうか。大事に至っては……。

 

 

「織斑先生、将冴君のISが!」

 

「あれは……ライデン?」

 

 

そうか、あれの超火力で敵を倒すというのだな。

 

 

「将冴君、大丈夫でしょうか?」

 

「信じましょう。それしかできません。……山田先生、いつの間に将冴を下の名前で?」

 

「織斑先生も、ずっと下の名前で呼んでましたよ?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

95%……あと少しだ。

 

 

「きゃあ!」

「うわぁ!?」

 

 

一夏と鈴の声!?

 

 

「一夏!鈴!」

 

 

二人とも倒れてる。もう限界か……!

 

 

「将冴……まだなの……」

 

「あと少し……3%……」

 

 

2……1……100%!

 

 

「終わった!一夏、鈴離れて!」

 

 

二人が離れるのを確認し、両肩のパーツを展開する。

 

 

「バイナリー・ロータス、フルチャージ!」

 

「決めろ、将冴!」

 

「行きなさい!将冴!」

 

「いっけぇ!」

 

 

閃光が走り、音がかき消える。

 

放たれた光は球体を包み込み、視界が真っ白になる。

 

 

《……ミツ、ケ……タ……》

 

 

あの声が聞こえた瞬間、僕は意識を失った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「う、ん……」

 

 

痛つ……目が覚めた瞬間に、頭痛が……外側も内側も痛い。頭怪我してたしなぁ……内側の痛みは、義手が折れ曲がった時の痛みで許容範囲を超えたかな。

 

とてもじゃないけど、起き上がれないや。ここは……医務室かな。初めて来たな。白いカーテンに囲まれてる。

 

その時、シャッとカーテンが開かれた。

 

 

「将冴!気がついたのか!」

 

「あんた、大丈夫!?」

 

「無事でよかったですわ、将冴さん」

 

「怪我の方は大丈夫か?」

 

 

一夏、鈴、セシリアさん、箒さんの順に声をかけられる。

頭に響くから、あまり大声を出さないで欲しいなぁ……。

 

 

「あはは……」

 

「あはは、じゃないわよ!あんた、本当に心配したんだからね!」

 

「そりゃ悪いことを……って、あの球体は?どうなったの?」

 

 

あれについて、詳しく聞かないと。倒した……とは思うけど、あれについて何か……ていうか、あの球体に人とか乗ってたのかな!?なんも気にしないでぶっ放しちゃったけど……。

 

 

「将冴の攻撃で、バラバラになった。今、千冬姉や教員の人達が調べてる」

 

「そっか……」

 

「現時点でわかっていることは、あの球体は無人だったってことですわ。それ以外は、私たちにも説明はありませんでしたわ」

 

 

よかった、誰かを傷つけてしまうことはなかった……。

 

 

「とりあえず、みんなが無事でよかったよ」

 

「で、将冴。説明してもらえる?あんたのISについて」

 

「あぁ〜……」

 

 

そういえば、そんなことを戦闘中に……。

 

 

「あとじゃダメかな?」

 

「今説明しなさい「スパァン!」ったぁ!?」

 

 

鋭い音が響き、鈴が頭を抑える。

鈴の後ろには、何故か出席簿を持った織斑先生がいた。

 

 

「怪我人に無理をさせるな」

 

「織斑先生……」

 

「今から将冴と話がある。お前達は部屋に戻れ」

 

 

織斑先生に逆らう者はおらず、一夏達はすごすごと医務室を出て行った。

 

どんだけ織斑先生のこと怖いんだよ。

 

 

「さて、将冴」

 

「はい?……むぐ!?」

 

 

織斑先生に抱きかかえられた?え?何がどうなっているの?

 

 

「無茶をして……心配させるな」

 

「す、すいません……無我夢中で」

 

「もう無茶するな。お前の両親に顔向けできない」

 

「はい……」

 

 

数分ほど、その状態のままだったけど、すぐに戻される。

 

 

「こほんっ……すまない、少し取り乱した」

 

 

今のが取り乱した……?

 

 

「で、お前に話というのは……」

 

 

織斑先生は、何かの破片を見せてくれる。これは……

 

 

「あの球体の残骸から出たものだ。おそらく、お前のISについている……」

 

「V.コンバータ……」

 

「ああ。何か、心当たりはあるか?」

 

「いえ……V.コンバータのことを知っているのは束さんですが、束さんがあんなのを作るとは思えません。それに……」

 

 

あの電話。あの時はわからなかったけど、あの声は……。

 

 

「どうかしたか?」

 

「……なんでもありません」

 

「そうか……一応、私の方で束に聞いてみる」

 

「お願いします。あ、ついででいいんですけど、束さんに伝言頼めますか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「じゃあ、義手の修理を頼みたいと伝えてください。壊れちゃって」

 

「なっ、大丈夫なのか?どうして……」

 

「避難する人たちに巻き込まれて……」

 

 

いやぁ、逃げる暇も義足つける暇もなかったなぁ。

あと、腕折れたらあんな感じなのかな?

 

 

「っ……そうか。すまない、私がしっかり避難誘導していれば……」

 

「織斑先生が謝ることじゃありません。僕がちんたらしていたからです」

 

「しかし……」

 

「織斑先生は僕の無茶を聞いてくれました。それだけで十分です。ありがとうございます」

 

 

頭を下げて、お礼を言う。

本当に、織斑先生に無茶を言ってしまったと、今更になって思う。

 

 

「……将冴」

 

「はい?」

 

「もう、お前に無茶はさせない。私がお前を守る」

 

「織斑先生……」

 

「……疲れたろう。少し休め。束には、私が伝えておく」

 

 

そう言って、織斑先生は僕の頭を撫でて、医務室を出て行った。

 

 

「妙に優しかったな……織斑先生」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

『……もしもし、束か?』

 

「おー!ちーちゃんじゃないか!何々?どうしたのー?」

 

『わざとらしいな……もうわかっているんだろう?』

 

「まぁねー。結論から言ってしまうと……私が作ったものじゃないよー」

 

『そうか……将冴の言った通り……』

 

「束さんも調査しておくよー」

 

『ああ、頼む。それと、将冴の義手なんだが……』

 

「わかってるよー。取りに行くねー」

 

『……助かる。もう切るぞ』

 

「はいはーい!まったねー」

 

 

ブツッと通話がきれる。言うだけ言って、すぐきっちゃうんだから。もう、ちーちゃんのイケズ!

 

さてと……

 

 

「くーちゃん!お使いお願い!」

 

「はい、束様。委細承知いたしました」

 

 

さっすが、私の娘さんだね!

あとは、亡国の三人に連絡かなぁ……進捗状況を聞かないと。まぁ、そんなにいい情報が手に入るとは思えないけどー。

 

 

「私のしょーくんに手を出したこと……許さないから」

 

 

束さんを怒らせたこと、後悔するんだね。『ダイモン』




やっと1巻分が終わったのかな?
あれ、1巻はどこまでだっけ?

忘れちった。テヘペロ。

次回から二人の転入生編。
やっとくるぜ、フランスとドイツ。


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バレンタイン特別番外編:彼が鼻血を出すまでチョコを食べさせるのをやめない。

前回のあとがきで、次回からフランスとドイツ編と言ったが……あれは嘘だ。

というわけで番外編です。
バレンタインなんて滅んでしまえ。
今回はパラレルワールド的な要素を多分に含んでおりますので、ご容赦ください。
こういうのが好きなんだろう?←

とりあえず、押さえておいて欲しいのは、将冴が1人部屋で、クラリッサが1組の教育実習生で、全ヒロイン(予定)からモテモテということです。

OKな方はどうぞ、コーヒー片手にご覧ください。

あ、前話の最後の方を加筆修正いたしました。読み直したらわかりづらかったので。一度確認くださいませ。


 

まだまだ寒い2月13日。僕は部屋の端末でスカ◯プを開いた。僕のアカウントがオンラインになった瞬間、通話がくる。

 

相手は……ナターシャさんだ。

 

 

「相変わらず早いなぁ〜」

 

 

通話を繋げると、ナターシャさんの声が聞こえ、画面にはナターシャさんの姿が映る。

 

 

『ハーイ、ショーゴ!元気してる?』

 

「ナターシャさん、僕のアカウント監視してるんですか?」

 

『そんなことしないわよ。たまたまよ、たまたま』

 

 

たまたまって……今、日本は19時。アメリカとの時差は17時間だから、あっちは夜中の2時だ。たまたまというには難しい気がする。

 

 

『それよりショーゴ、まださん付けなの?いい加減ナタルって呼んでよぉ〜』

 

「ん〜、考えておきます」

 

『もう、またそうやってはぐらかして……』

 

 

ブツブツと何かつぶやいているナターシャさん。はは……なんというか、年上の人を愛称で呼ぶのはちょっと、ね。

 

 

『あ、そうだショーゴ。明日、何の日かわかる?』

 

「明日?明日は2月14日……ああ、バレンタインかな?」

 

『そう!そうなのよ!というわけで、そっちにプレゼント送っておいたからね!ちゃんと明日届くようにしておいたから、ちゃんと食べてね!』

 

「ありがとうございます。大切にいただきます」

 

『それじゃあ、私は寝るわね。またね、ショーゴ』

 

 

ナターシャさんは投げキッスをして回線を閉じた。なんか恥ずかしいというか、なんというか……。ていうか、バレンタインのこと伝えたいがために電話したんだろうなぁ。

 

と、今度は僕の携帯に着信が入る。

相手を確認して、通話ボタンを押す。

 

 

「もしもし」

 

『お、おう、私だ……』

 

「こんばんは、オータムさん。あ、そっちはまだ明るいかな?」

 

 

亡国企業のオータムさんだ。相変わらず恥ずかしそう。電話は苦手って言ってたからなぁ。

 

世界中飛び回ってるって言ってたから、こんばんはっていうのは違うかも。

 

 

『いや、こっちはもう夜だからこんばんはで……合ってる』

 

「そっか、よかった。それで何かありました?オータムさんから電話してくるのは珍しいというか」

 

『あ、ああ……その……お前の部屋、今誰かいるか?』

 

「えっと、僕だけですね。1人部屋ですし。何かありました?」

 

『そっか、誰もいない……将冴、窓開けてくれ』

 

 

窓?

とりあえず言われた通りにしようかな。車椅子を動かして窓のところに行って窓を開いた。

 

 

「開きましたよ?」

 

「ああ、ありがとさん」

 

 

……ん?電話からじゃなくて、窓の外から声が聞こえる。するとガサッと、部屋の前の垣根から何かが飛び出してくる。

 

 

「うぉっ!」

 

「私だよ」

 

「え?オータムさん?日本に来てたんですか?」

 

 

まず真っ先になんでIS学園にいるのかを聞くべきなんだろうけど、亡国企業の人たちにそんなことを聞くのは無駄だということを僕は知ってる、

 

 

「えっと、その、だなぁ……あ、明日はバレンタインだろ?それでだな……そのぅ……」

 

 

なにやら手を後ろに回してもじもじしている。

 

と、その時オータムさんの後ろからガサッと、人影が現れた。

 

 

「もう、オータムったら。あとがつっかえてるのよ?恥ずかしがってないでさっさと渡しちゃいなさい」

 

「スコールさん?貴女も来てたんですか?」

 

 

潜入に向いてなさそうな赤くて胸の部分が空いてる派手なドレスを着たスコールさんだった。なんでそんな格好を……

 

 

「当たり前よ。将冴君にこれを渡しに来たんだから」

 

 

そう言って、スコールさんは綺麗に包装された箱を差し出してきた。

 

 

「バレンタインのチョコよ。少し早いけどね因みに本命だから」

 

「わぁ、ありがとうございます」

 

 

本命の部分はスルーしよう。

 

 

「あ、スコール!私が先に渡すって」

 

「あなたがもたもたしているからでしょ?じゃ、私の用事は済んだから、これで失礼するわね」

 

 

サッと、スコールさんは闇にまぎれて消えてしまった。さすがというか……。

 

 

「あ、スコール!……ったく」

 

「オータムさん、置いてかれちゃいましたけどいいんですか?」

 

「いいよ……それより、これ」

 

 

顔を赤くして、包装された箱を差し出すオータムさん。

 

 

「その、この後ロシアに行くから……今日のうちに……」

 

「オータムさん、ありがとうございます」

 

「あと、耳貸せ」

 

「耳?」

 

 

何か内緒の話?周りに誰もいないけど……とりあえず、オータムさんに言われた通りにすると、オータムさんが僕の首に手を回した。

 

 

「え?」

 

「ん……」

 

 

頬に柔らかい感触。これは……

 

 

「スコールじゃねぇけど……私も本命だから……じゃ、じゃあな!」

 

「あ、オータムさん……」

 

 

これは……僕も恥ずかしいぞ。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

翌日、2月14日。

 

教室へ向かうと、クラスの女子全員がそわそわしている。これは……。

 

 

「おはよう、みんな」

 

『おはよう将冴君!これバレンタインのチョコです!』

 

 

女子全員に同時にチョコを渡された……これはすごい……。

 

 

「あ、あはは……ありがとう」

 

 

大量のチョコが机の上に置かれた。これどうしよう。

 

 

「おーっす、おはよー」

 

 

あ、一夏入ってきた。

その瞬間、一夏の周りに女子が群がり、チョコを渡してる。渡し終わった女子が離れると、一夏が箱に埋もれていた。

 

うわぁ、あれ怖いわ。

 

 

「はぁい、ホームルーム始め……織斑君と将冴君!その箱はどうしたんですか!?」

 

 

山田先生と織斑先生、そしてスーツ姿のクラリッサが入ってきて、僕と一夏の様子を見てギョッとする。

 

 

「すいません。大きな箱か袋をもらえますか?」

 

 

とりあえず、この机の上をどうにかしなければならない。

 

 

「すぐに持ってこよう。山田先生、ホームルームを始めていてください」

 

「わ、わかりました!」

 

「クラリッサ、手伝え」

 

「はい!」

 

 

これ、全部消費しなきゃいけないのかな……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

昼休み、僕はクラリッサと一緒に学食に来ていた。クラリッサは教育実習生兼僕のヘルパーとして、この学校に来ているんだ。

 

 

「しかし、大変だったな。将冴」

 

 

ご飯を食べ終わり、少しのんびりしているとクラリッサが話しかけてくる。

 

 

「うん。ここが女子校なのを痛感したよ」

 

「今日がバレンタインなのは知っていたのだが、ここまでとは予想外だった。織斑教官……織斑先生も来年からは、何か対策を考えるといっていた」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

「あー、それでだな。将冴」

 

 

クラリッサが顔を赤くする。

なんか、昨日の夜からこんなことが多発しているような……。

 

 

「今日、将冴の部屋に行ってもいいか?渡したいものがあるんだ」

 

「うん。いいよ。あけとくね」

 

「ああ!」

 

 

嬉しそうに頷くクラリッサ。ふふ、初めて会った時から、この顔はいいな。いつもの凛々しい顔も好きだけど。

 

と、その時学内放送が鳴る。

 

 

『1年1組、柳川将冴。今すぐ生徒指導室に来い』

 

 

織斑先生かな?

ていうか、来いって……しょうがない、行くかな。

 

 

「将冴、一人で大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「わかった。お前の食器は片付けておくからな」

 

「ありがとう、行ってくるね」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

生徒指導室に行くと、織斑先生と山田先生が待っていた。

 

 

「失礼します。何かありましたか?」

 

「ああ、これが先程学園に届いてな」

 

 

ドンっと大きな箱を机の上に置く織斑先生。山田先生は苦笑い。

 

 

「これは……」

 

「ナターシャ・ファイルスからだ」

 

 

おぉ……ナターシャさん、こんな大きなものを送ってきたのか……。

 

 

「念のため、中身を確認させてもらったが、アメリカの有名店のチョコレートが詰まっていた」

 

「あはは……」

 

「いつの間にナターシャとこんなに仲良くなったんだ?」

 

「スカ◯プ開いたら、必ずお話する仲です……」

 

「そ、そうか……」

 

 

予想外の返しに、織斑先生もたじろぐ。

僕も目を背けたい。チョコを見たくない……。

 

 

「こ、これは将冴君の部屋に運んでおきますね」

 

「ありがとうございます、山田先生」

 

「いいんですよ、将冴君」

 

 

さすがに、これを持っていくのは骨が折れる。

 

 

「それでだな、私と山田先生からも、お前にバレンタインのプレゼントだ」

 

 

織斑先生がそう言うと、小さな箱を取り出した。山田先生は手作りと思われるクッキーを。チョコレートじゃないものきた!

 

 

「さすがに、チョコレートはかわいそうだと思ったので、クッキーにしました。お口に合えばいいんですけど……」

 

「私からは、食べ物ではないのだが……」

 

 

織斑先生が箱を開けると、中にはピアスが入っていた。

 

 

「似合うと思ってな。ISを持たないときにでもつけてくれ」

 

「ありがとうございます!すごい嬉しいです」

 

「喜んでもらえてよかった。さ、もうすぐ昼休みも終わる。教室に戻れ」

 

「後で、味の感想を聞かせてくださいね」

 

「はい、それでは失礼します」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

授業が終わり、ISの訓練をしている間に夜になった。

僕は今日もらったチョレートを少しでも消費しようと、部屋で胸焼けと戦っていた。

 

 

「うっ……残りは明日にしよう……」

 

 

五分の一ほど消化しダウン。ベッドに倒れこむ。

そういえば、クラリッサいつくるのかな……。

 

と、考えているとコンコンとノックする音が聞こえた。クラリッサかな。

 

 

「はーい、開いてます」

 

「失礼する」

 

 

予想通り、クラリッサが入ってきた。

昼間のようなスーツではなく、寝巻きのようなラフな格好だ。

 

 

「突然すまないな」

 

「ううん、クラリッサならいつでも歓迎だよ」

 

「そう言ってくれると、なかなか嬉しいな……」

 

 

そう言いながら、クラリッサは僕の隣に座り、僕の手を握ってくる。

 

 

「その……今日はバレンタインだから……チョコレートを用意しようと思ったんだが、その量を見てしまうと、渡すのを躊躇ってしまってな」

 

 

僕の部屋にあるチョコレートの入った箱を見る。

はは、確かにクラリッサから貰ったらかなり辛かったかも……。

 

 

「それでな、代わりと言ってはあれだが……」

 

 

顔を赤くするクラリッサ。

僕の手を握る力が強くなっている気がする。

 

 

「バレンタインのプレゼント、私では駄目だろうか?」

 

「……えっと……」

 

 

なんだか聞いてはいけない言葉を聞いたような。

 

 

「か、覚悟はできている。私と、一夜を共に……むぐっ!?」

 

 

クラリッサの口を人差し指で止める。

 

 

「軽々しくそういうこと言っちゃダメ。それに、それまたなんかの漫画の影響でしょ?」

 

「いや、そういうわけでは……参考にはしたが……」

 

「その……僕とクラリッサはまだそういうことをしていい関係じゃないと思うから。ちゃんと手順を踏んでからね」

 

「手順を踏めばいいのか!」

 

「ひどい誤解を生んだ気がしないでもないけど、あながち間違いでもないんだよなぁ」

 

 

んー、一応生徒と教師(実習生だけど)という間柄ではあるから、問題になってしまうし……

 

 

「その将冴……」

 

「ん?なに?」

 

「その、一緒に寝るだけというのは駄目だろうか……」

 

「クラリッサ……」

 

「添い寝をするだけ、それでは駄目か?」

 

 

うう、潤んだ目で見られると……

 

 

「わかった。添い寝だけね」

 

「ああ!」

 

 

 

この後、めちゃくちゃ……。




なんか、勢いで書いてしまった。全く構想を練っていないのでグダグダです。

甘くなってもらえればいいかなぁと。

本編と関係ないし、いいよね!


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続・バレンタイン特別番外編:大天災と娘のバレンタイン

続きです。忘れていたわけではありません。決して。
そう、彼女たちは特別な存在なのだから……。

すいません、ガチで忘れてただけです。なんでもしますから許してください。

バレンタインの次の日ということで書いていきます。
2人は忙しかったから当日に会えなかったんだよ。


 

目が覚めて、昨日もらった大量のチョコを朝ごはんにして、胃に詰め込んだ。クラリッサにも手伝ってもらった。途中で山田先生のクッキーでワンクッション置きながら食べると結構たべれるものだ。さすが山田先生。

 

 

「うぅ、胃がムカムカするな……」

 

「今日はお休みだし、ゆっくりしたらいいんじゃないかな。僕は出かけるけど」

 

「どこに行くんだ?」

 

「束さんに会いに行くんだ。なんか、来てくれないと義手をコンニャクにするぞ〜とか言われちゃって」

 

「地味だけどものすごく困るな、それ」

 

「まぁ、そんなわけで着替えるから、こっち見ないでね」

 

「何を今更、一緒に風呂に入った中ではないか。私も手伝おう。……久しぶりに、腹筋を見たいしな」

 

 

最後の方聞こえなかったけど、なぜか僕のお腹がピクッとしたよ。

 

ひん剥かれました。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

電車とバスを乗り継ぎ、とある村についてから徒歩30分。僕の場合は徒歩ではないけど。

 

この辺境に、束さんのラボがあるらしい。

因みに月一でラボの場所が変わる。場所は束さんの気分次第だそうだ。

 

 

「えぇっと、ここかな」

 

 

そこにあったのは、随分とメカメカしい兎耳がついたマンホール。

あぁ……これだな。

 

マンホールを開けると、随分と改良されているようだ。エレベータみたいになってる。

 

車椅子だと入れないので義足をつけて、いざ地下へ……と意気込んで乗ってみると、気づいたらラボにいた。え、ワープ装置?

 

 

「あ、しょーくぅん!」

 

「もがふ!?」

 

 

僕の頭ががっちりもっちりホールドされる。ラボに来たばかりの頃に毎日抱きつかれていたことを思い出す。

 

 

「ムフフ〜、久し振りだねぇ。しょーくんてばいつまでたっても会いに来てくれないんだもん、束さん寂しんぼだったんだぞ〜」

 

「すいません、色々と忙しくて」

 

「ふーん、まいっか!くーちゃん、しょーくんの義肢外して、部屋に連れて行ってあげて」

 

「かしこまりました、束様」

 

 

クロエさんがポポポンと僕の義肢を外してしまう。ちょっ、いきなり外さないで。というか、なんで外すの?

 

 

「じゃあ、パパッとメンテしてくるねぇ〜。はい、くーちゃん抱っこしてあげて」

 

 

束さんは義肢を持って行ってしまった。今、僕はクロエさんに抱っこされている。う、顔が近い……

 

 

「あら、将冴様。また筋肉がつきましたか?」

 

「え?そうかな……」

 

「ふふ、立派でございます」

 

 

さわさわとお腹をなでられる。朝にクラリッサが撫で回したばっかりなんだ、やめてください!

 

 

「おっと、こんなことをしている場じゃありませんね。今お部屋へ」

 

 

抱っこされたまま、前に僕が使っていた部屋に連れてこられ、ベッドに寝かされる。

今日メンテなんて聞いてないんだけどなぁ。

 

 

「将冴様、これを」

 

 

そう言ってクロエさんが差し出してきたのは、お皿に綺麗に並べられたチョコレート。

 

 

「1日遅れですが、バレンタインのチョコレートです。束様以外で渡すのは初めてで、お口に合うかわかりませんが……はい、あーん」

 

 

う、チョコレートは正直勘弁願いたいのだけれど……せっかく作ってくれたんだ。

 

 

「あーむっ……あ、美味しい。甘さもくどくなくて、あっさりしているというか」

 

「塩チョコレートです。将冴様のことですから、学園でたくさんチョコレートをもらっていると思いましたので」

 

「うわぁ、わざわざありがとうございます!すっごく美味しいです!」

 

「ふふ、もう一つ食べますか?」

 

「はい」

 

 

もう一つ塩チョコレートを食べさせてもらった時、部屋の扉が開いて束さんが入ってくる。

 

 

「あ、もう食べてる〜!くーちゃん私にも!」

 

「ちゃんと束様の分もあります。はい、口を開けてください」

 

「あーん!んー、やっぱりくーちゃんの作るお菓子は美味しいね!さすが私の娘だよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

甘さでムカムカしていた胃も、大分良くなってきた。

塩チョコレート様々というところかな。

 

 

「む、しょーくん口にチョコレートついてるよ」

 

「え、どこに……」

 

「私が取ってあげるよー。んっ」

 

 

唇に柔らかい感触……目の前に束さんの顔。クラリッサにキスされた時と同じ光景だけど、唇の感触は違う。

 

 

「んー……むっ。はい取れたよ」

 

「た、束さん……今……」

 

「ムフフ〜、チューしちゃったね。束さんの初キッスだぞ☆」

 

 

なんということだろう……

 

 

「あ、くーちゃんもしちゃいなよ、チューって」

 

「た、束様!?わ、私は……」

 

「いいからいいから、はい、チュー!」

 

 

束さんがクロエさんの頭を抑えて、無理やり僕とキスさせる。

 

 

「む……ぷはっ!」

 

「……僕、動けないのに……」

 

「くーちゃん、どうだった?」

 

「えっと……甘かった……です……」

 

 

頬を赤らめて、そう呟くクロエさん。

僕はもう頭が痛いです……。

 

 

「将冴様、もう一度いいでしょうか?」

 

「ちょっと落ち着いて!?」

 




……これで許してもらえるとは思っていませんが、楽しんでいただけたでしょうか?

次回、今度こそフランスとドイツ。乞うご期待。


……板チョコ買ってきたんだけど、間違えて塩チョコレート買ってきちゃったかな……しょっぱいぜ……。


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51話

苦痛のバレンタイン乗り越え帰ってきたぞぉ!

今回からフランスとドイツの転入生編。
ここら辺から、色々と原作と変わってくるかもしれない。


クラス対抗戦から数日が経った。

なんだかよくわからないけど、織斑先生から療養しろと命令がくだってしまい、この数日は医務室のベッドの上から動けなかった。

 

というのも、壊れてしまった義手をクロエさんがその日の夜、僕が寝ている間にに持って行かれてしまったからだ。なぜか義足まで。おかげで僕は一人で何もできない。

 

クロエさんが残してくれた置き手紙には、修理は数週間かかるとのことで、しばらくは不便な生活になりそうだ。一緒の部屋の山田先生に迷惑をかけてしまうなぁ……。

 

まぁ、そんなこんなで、今日ようやく医務室での療養を終えて授業に出ることができる……はずなんだけど……

 

 

「来ない……」

 

 

昨日、織斑先生が色々と連絡事項を伝えてくれたのだけれど、今日授業が始まる前に山田先生が迎えに来てくれる手筈になっているはずなんだけど、その山田先生が一向に来ない。朝に養護教諭の先生が着替えだけさせてもらったけど、迎えである山田先生が来なければ教室にいけない。

 

先生方の会議が長引いているのかな……。

 

と、そんなことを考えているとガラッと医務室の扉が開いた音がした。カーテンが閉まっているから音しか聞こえないけど……足音が一つじゃない?

 

シャっとカーテンが開かれ、最初に目に飛び込んできたのは綺麗な金髪と銀髪だった。ん?銀髪?

 

 

「おお、将冴。ここにいたのか。山田先生から迎えに行くように頼まれてきたぞ」

 

「え、ラウラ!?」

 

 

ドイツ軍シュバルツェ・ハーゼ隊隊長、眼帯がトレードマークのラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

ドイツにいたころの見慣れたドイツ軍服ではなく、動きやすいようにズボンタイプのIS学園の制服を着ている。

 

 

「なんでここにいるの!?」

 

「クラリッサから聞いてないのか?私もこの学園に来ることになってな。昨日日本に来て、今日から登校という事だ」

 

「詳しい日時までは聞いてなかったよ……」

 

「む、そうか。そういえばしばらく話せていないとクラリッサが言っていたな」

 

 

忙しいって言ってたからね、僕も怪我してたし。

 

 

「まぁ、すぐに……おっと、これはまだ言ってはいけないな……」

 

「ん?ラウラ、どうかした?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

そう言ってはぐらかすけど、なんか気になるなぁ。気になるといえば……

 

 

「そちらの方は?」

 

 

ラウラと一緒に入ってきた金髪の人物を見る。

整った顔をしていて、とても肌が白い。そして、制服が僕や一夏と同じ男性用な気が……

 

 

「あ、お話終わったかな?初めまして。僕はシャルル・デュノアです。フランスの代表候補生で、君と同じ男性IS操縦者です。よろしくね、柳川君」

 

「よろしく……って、男性IS操縦者!?」

 

 

ど、どうなっているんだ?改めてシャルルさんを見てみる。男性……というには少し線が細い気がするし、顔も女性的だ。声も高いし……本当に男?

 

いや、入学した時点で調べられてるだろうし、代表候補生と言っているから、フランスの政府公認ということ……。考えすぎだろうか?

 

 

「そ、そんなにまじまじと見ないでくれるかな」

 

「あ、ごめんなさい!ちょっとびっくりして……」

 

「まぁ、しょうがないよね。公にはしていないし」

 

「知っているようだけど、改めて。柳川将冴です。好きに呼んで、シャルルさん」

 

「じゃあ、将冴って呼ばせてもらうね。僕のこともさん付けしなくていいよ」

 

「うん」

 

 

本当は握手する場面なんだけど、あいにく義手は修理中だ。

 

 

「挨拶が済んだなら教室に行こう。もう少しで始業の時間だ。将冴、車椅子を出せ。乗せてやる」

 

「あ、うん。ごめんね、ラウラ」

 

「謝るな、当然のことをするだけだ」

 

「僕も手伝うよ。ラウラ一人じゃ大変だろうし」

 

「助かる」

 

 

拡張領域から車椅子を出す。シャルルが僕の体を起こし、ラウラが僕を米俵を抱えるようにして肩に担いだ。

 

 

「む、また筋肉がついたな。逞しくなったではないか」

 

「あはは……まぁ、少しずつね」

 

 

ゆっくりと僕を車椅子に乗せてくれる。ラウラがこうして介助してくれるのは初めてかな。

 

 

「ありがとう、ラウラ、シャルル」

 

「構わん、いい筋肉を触らせてもらったしな」

 

 

筋肉フェチ?そういうわけではないと信じたいけど……。

 

 

「そんなにすごいの?」

 

「シャルルも触ってみるといい、見事なものだぞ」

 

「じゃあ、ちょっと失礼して……」

 

 

ペタペタとシャルルが僕のお腹を触ってくる。くすぐったい。

 

 

「わ、すごい、これ……本当に……」

 

 

シャルルの目がうっとりしている気のせいかな。

ずっと触ってるけど……

 

 

「この腹筋に勝てるものはドイツ軍にもいなかった。軍人は無駄にゴツいだけだ。将冴のは触っただけでその素晴らしさがわかる」

 

「服の上からでもしなやかさというか、無駄な肉がないというか、これが細マッチョってやつ?」

 

「ねぇ、そろそろ教室行かない?




なんで腹筋の話になったんだろう。

まぁいいか。

次回、満を持して彼女が……


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52話

少々毎日更新が辛くなってきました。

書いてるのは楽しいですが時間がどうも……。
まぁ、頑張りますです。


 

シャルルが車椅子を押して、1組よ教室に向かった。途中、階段があったけど、ラウラが担いでくれた。なにやら、担ぐコツをつかんだようで。

 

教室の前に行くと、山田先生が立っていた。

 

 

「山田先生?」

 

「あ、3人とも来たんですね。ボーデヴィッヒさんとデュノア君、将冴君のお迎えを頼んでしまって申し訳ありません」

 

「いえ、噂の男性IS操縦者に会ってみたいと思ってましたし」

 

「私も、久しぶりに将冴と会えたからな」

 

 

山田先生に頼まれたって言ってたっけ。山田先生も忙しかったかな。

 

あれ、そういえば織斑先生がいないな。いつもホームルームは一緒に来るのに……

 

 

「さ、すぐにホームルームを始めますよ。教室に入ってください」

 

 

山田先生が扉を開けてくれたので、先に教室に入る。クラスのみんなはすでに着席していて、入ってきた僕を見てざわつき始めた。

 

 

「将冴君だ!」

「怪我はもう大丈夫なの?」

「義手無いって本当?」

 

 

みんなが心配そうに声をかけてくれる。

数日休んでいたし、僕は普通の人より気にかけられているようだから、余計に心配をかけてしまったのだろう。

 

 

「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

 

 

よかったと安堵の息が聞こえてくる。

っと、すぐにホームルーム始まるんだった。

 

自分の席に向かう途中、一夏が話しかけてきた。

 

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「うん。義手はないけどね……」

 

「そうか……何かあったら言ってくれ、何でも手伝うからな」

 

「ありがとう。じゃあ、席に戻るから」

 

 

自分の席に戻ると、山田先生が入ってくる。

ラウラとシャルルは後から入ってくるのかな?山田先生、そういうサプライズ的なの好きそうだしね。

 

 

「皆さん、おはようございます。今日はホームルームを始める前に転校生を紹介します。それも2人です!」

 

 

山田先生の言葉に、再びクラスがざわつく。

僕はもう会ってるけど……。

 

 

「どうぞ、入ってきてください」

 

 

山田先生が合図すると、シャルルとラウラが入ってくる。

さらにクラスがざわつく。主に、シャルルの姿を見て。

 

 

「では、自己紹介をお願いします」

 

「はい。シャルル・デュノアです。フランスからやってきました。日本に来るのは初めてなので、不慣れなことが多いと思いますが、よろしくお願いします」

 

「お、男?」

 

 

クラスの誰かがそう呟くと、シャルルは笑顔で答える。

 

 

「そうです。こちらに、同じに境遇の人がいると聞いてフランスから転入を……」

 

「き……」

 

 

き……って、まずい!

今僕は手がない!?

 

 

『きゃあぁぁぁぁ!!』

 

 

窓を割る勢いで、クラスから絶叫が響く。

入学当日のことを思い出すなぁ……。鼓膜がじんじんするよ……

 

 

「男!3人目の男の子よ!」

「美形よ!将冴君とは違ったタイプの守ってあげたくなる系男子!」

「貴公子よ!プリンスよ!」

「私をメイドにしてぇ!!」

「今年の本は3人が絡み合って……ふへへ」

 

 

ああ、織斑先生がいないから収拾つかないんじゃないだろうか。

そしておかしな発言が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだよね。

 

 

「皆さん静かにしてください〜!まだボーデヴィッヒさんの紹介が終わっていないんですからぁー!」

 

 

山田先生が必死に収める。

徐々に落ち着いたけど、今後こういうことがあったときのために対抗策を考えなきゃいけないかも。

 

 

「ふぅ……皆さん落ち着いたので、ボーデヴィッヒさん。自己紹介お願いします」

 

「了解した」

 

 

ラウラが一歩前へ出て胸を張る。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。ドイツ軍シュバルツェ・ハーゼ隊よりこちらに来た。私が来たからには、お前たちが戦場で生き残れるようにビシバシと……」

 

 

あ、ダメだこれ。

 

 

「ラウラー」

 

 

僕は自己紹介しているラウラを遮り、名前を呼んだ。

周りで「呼び捨て?」「知り合い?」「恋人同士?」と声が聞こえるけど、とりあえず無視しておく。

 

 

「ん?なんだ将冴」

 

「ここは軍隊じゃないよ。ラウラはここでは隊長ではなく生徒。みんなと同じ立場だから、もっと気楽に自己紹介してね」

 

「む……そ、そうか……」

 

 

ラウラは拍子抜けしてしまったのか、少し恥ずかしそうにしている。まぁ、ずっと軍にいたから仕方ないといえば仕方ないのだけれど。

 

 

「えっと……すまない、言うことが思いつかない。とりあえず、よろしく頼む」

 

 

パラパラと拍手されるラウラ。

僕も拍手をしたかったけど、義手がないからなぁ。

 

 

「はい、二人ともありがとうございます。それでは空いてる席に座ってくださいね」

 

 

ラウラとシャルルは空いてる席にそれぞれ座る。それを見てから、山田先生がホームルームを始める。

 

 

「それでは、連絡です。今日は2組と合同でISの実習があります。ホームルームが終わったらISスーツに着替えて、グラウンドに集合してください。織斑君、将冴君。デュノア君に更衣室の場所を教えてあげてください」

 

 

こんな感じで山田先生が連絡事項を伝えていくと、ガラッと教室の扉が開き織斑先生が入ってきた。

 

 

「山田先生、ホームルームを任せてしまってすまない」

 

「いえ、そちらは終わりましたか?」

 

「ああ」

 

 

織斑先生が遅れるのは珍しい。

何かあったのかな?

 

織斑先生は山田先生と交代して、教壇に立った。

 

 

「ホームルームの途中で悪いが、2人の転入生とは別にお前達に紹介するものがいる」

 

 

転入生とは別に?誰だろう、新しい教員とか?

でもこの時期に来るなんて……今いる教師で、産休やら病気でしばらく来れなくなる人って聞いてないし……。

 

 

「入れ」

 

 

織斑先生がそう合図すると、黒いスーツをきた女性が入ってくる。左目には眼帯をしており、髪は肩の辺りで切りそろえられている。

 

その姿に、僕は唖然とした。ラウラが来たことよりも、僕は驚いていた。

 

その人物は僕を見つけると、まっすぐこちらに向かってくる。

 

そして僕の目の前までくると、ギュッと僕を抱きしめた。

手足のない僕は、何の抵抗もできず……というか、思考が追いつかずされるがままに抱きしめられた。

 

 

「会いたかったぞ。将冴……」

 

「クラ……リッサ?」

 

 

周りはしんと静まり返っている。

ここで、一夏が口を開いた。

 

 

「えっと……貴女は……」

 

 

クラリッサは僕を抱きしめながら、教室を見渡す。

 

 

「私はクラリッサ・ハルフォーフ。教育実習生兼ヘルパー兼将冴の嫁だ」

 

「……え」

『えぇぇぇぇぇ!?』

 

 

嫁じゃない。籍は入れてない!




久しぶりに本編でクラリッサ書いた気がします。

ラウラのビンタイベントが無かったけど、同じくらいの……いや、それ以上のインパクトを与えられたのではないかなと思います。


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53話

前回、クラリッサが出てきたら感想がクラリッサで埋め尽くされてました。見てて楽しかったです。ごちそうさまです。

さて、あまり関係ない話になるのですが、作者は執筆する際音楽を聴いているのですが、最近ネタが尽きかけています。読者の方々でお勧めなどありましたら、教えてくれると喜びます。作者はロック、アニソン、ボカロ、東方アレンジなどが好きです。好きなロックバンドはthe pillowsと怒髪天です。


衝撃的なクラリッサの登場に、クラスが騒然としている中、なぜか酷く不機嫌そうに織斑先生が声をあげた。

 

 

「ハルフォーフ先生、生徒との過度なスキンシップは慎むように」

 

 

あぁ、結構怒ってるね、織斑先生。クラリッサの顔から血の気が引いてるもの。織斑先生がドイツ軍の教官だった時からビシバシしごかれていたから……。

 

 

「も、申し訳ありません、織斑教か……コホン、織斑先生」

 

 

癖で教官って言いかけるクラリッサは、僕を車椅子に降ろし小さな声で「また後で」と言って教卓の横に立つ。

 

 

「改めて、クラリッサ・ハルフォーフだ。ラウラ・ボーデヴィッヒと同じくドイツから来た。みんなの授業……特にISの実習でサポートさせてもらう。教師としては未熟だが、よろしく頼む」

 

 

改めて挨拶しても、さっきの出来事が突然すぎてみんな反応できてないよ。一夏は呆然としているし、箒さんとセシリアさんは口をあんぐりと開けたまま目が点に、シャルルは苦笑いしかできてないし、山田先生は涙目でアワアワしてる。織斑先生は絶賛不機嫌中だし……唯一平然としているのがラウラだけだよ。

 

 

「……ホームルームを終了する。この後はISの実習だ。各自準備してグラウンドに集合。山田先生も授業の準備を。ハルフォーフ先生はちょっと来い」

 

「しかし、将冴の介助を……」

 

「いいから来い」

 

 

織斑先生の恐ろしさはクラリッサも知っている。首を縦に振り、織斑先生についていくクラリッサ。

色々聞きたいことあるけど、昼休みに聞くしかないかな。

 

先生方が居なくなると、僕の周りにクラスの殆どが集まった。

 

 

「ちょっと将冴君どういうこと!?」

「まさか将冴君が年上好きだったなんて!?」

「将冴君はクラスの共有弟なのに!」

「はっ!弟なら私たちも年上とカウントされるんじゃ!?」

 

「ああ〜、聞きたいことがあるのはわかるんだけど、僕もちょっと状況掴めてないし、着替えなきゃいけないから後にしてくれるかな?織斑先生の準備、遅れたら酷いよ?」

 

 

その言葉で、みんな解散する。

織斑先生の名前を出すだけでこれだもんなぁ……。なんか、いいように使ってるみたいであまりいい気はしない。

 

 

「一夏、シャルル。更衣室行かないと遅れるよ」

 

「あ、ああ……」

 

「将冴、なんでそんなに冷静なの?」

 

「僕もかなりテンパってる」

 

 

見た目冷静かもしれないけど、もう頭の中ぐちゃぐちゃだ。クラリッサに会えたのは嬉しいけど、何故日本にいるのか、教育実習生とはどういうことか。色々聞かなきゃいけないことがあるし。

 

しかし、今は更衣室に向かうことが最重要だ。

 

 

「とりあえず、車椅子は俺が押すよ」

 

「お願い。なんか思考制御がうまくいかないんだ……それに、3人目の男性IS操縦者が来たのは他のクラスも知ってるからおそらく……」

 

 

3人で廊下に出ると、廊下の向こう側から3人目の男性操縦者であるシャルルを見ようと他のクラスの生徒が走ってくる。ていうか、先頭にいるのって黛先輩だ。

 

 

「あちゃー……」

 

「わ、なにあれ……」

 

「欲望に忠実なIS学園の生徒です。一夏、シャルル連れて窓から逃げて!」

 

「将冴はどうするんだ!?」

 

「僕は大丈夫だから、早く!」

 

「くっ、すまない将冴。シャルルいくぞ」

 

「え?うわわ!?」

 

 

一夏がシャルルをお姫様抱っこして窓から飛び出した。ここは二階だけど、一夏はうまくISを展開し、落下の衝撃を抑えた。

 

さて、僕は……

 

 

「はい、止まってください」

 

 

走ってくるみんなの前に立ちふさがる。立ってはいないけど……。

先頭にいる黛先輩が止まり、後ろにいる生徒の皆さんもそのまま止まる。

 

 

「柳川君、噂の3人目の取材したいんだけど!」

 

「もうすぐ授業ですので、遠慮してください。もうここにいませんし」

 

「日を改めてでいいから、お願い!」

 

「直接本人に聞いてください。僕も更衣室に行かなきゃいけないんで、これで」

 

「柳川君のけちんぼー!話くらいいいじゃない」

 

 

車椅子をそのまま生徒たちの方に動かす。

一夏やシャルルならもみくちゃにされるけど、僕は車椅子。しかも今は腕がないからね。あまりいい気分じゃないけど、利用させてもらうよ。

 

あ……途中階段あるんだった……。今の状態だと、降りるのは難しいし……そうだな……。

 

 

「黛先輩、交換条件でどうです?」

 

 

一夏、シャルル。申し訳ないけど利用させてもらうよ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

シャルルを連れて更衣室に飛び込む。

 

 

「将冴大丈夫かな?言われた通りにしちまったけど」

 

「それは信じるしかないんじゃないかな。それよりも、一夏。降ろしてくれると嬉しいだけど」

 

「あ、悪い」

 

 

シャルルを抱きかかえたままだった。ゆっくりと降ろす。

 

 

「とりあえず、ありがとう。助けてくれて」

 

「いや、構わないぜ。困った時はお互い様だしな。っと、それよりも早く着替えないとな。将冴がきたら、着替えを手伝わなきゃいけないし」

 

 

制服を全部脱ぐ。遅刻したら千冬姉にどやされちまう。

 

 

「わわぁ!?」

 

「シャルル?どうかしたか?」

 

「う、ううん!なんでもないよ!……こっち見ないでね」

 

「あ、ああ……わかった」

 

 

男同士なのに、気にするようなことか?

 

ISスーツを着終わり、シャルルの方を見ると、着替え終わっているみたいだった。それどころか綺麗に制服を畳んでいる。

 

 

「着替えるの早いな。俺、制服畳む暇なんてないぜ?」

 

「あはは、慣れかな?」

 

 

慣れか……なんかコツとかあるのかと思ったけど。

 

と、その時更衣室の扉が開き、将冴が車椅子で入ってきた。

 

 

「ふぅ、遅れてごめんね、二人とも」

 

「将冴、大丈夫だったか!?」

 

「うん、まぁね……」

 

 

なぜかバツの悪そうな顔をする将冴。

おっと、早く着替えさせないと遅刻する!

 

 

「将冴、服脱がすぞ!早く着替えないと」

 

「ごめん、頼むよ。今、拡張領域からISスーツ出すから」

 

 

将冴の服を脱がせていき、とりあえず全部ロッカーに突っ込む。

将冴が出したISスーツを着せようとするけど、これは一人で着せてたら間に合わない……

 

 

「シャルル!手伝ってくれ!」

 

「え、ええ!?ぼ、僕!?」

 

「男同士なんだから、気にするな。このままだと遅刻しちまう」

 

「わ、わかったよ……」

 

 

シャルル、目を瞑ったままじゃ手伝えないだろ……。




ちょっと最近文量が少ないかな……

一度書きためることも考えたほうがいいかな……。転入してくるだけで3ページ使ってるよ……。

もしかしたら、書き溜め期間を設けるかもしれません。
その時は、連絡させていただきます。


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54話

たくさんのオススメ曲を教えていただきました。ありがとうございます。

しばらく生きていけそうです。

明日からGE2RBにかまけてしまうかもしれないです。更新はしていきますが、GE2RBが楽しかったら予告なく更新しないかもしれません……。

今回は「moment」と「断罪は遍く人間の元に」をBGMに書きました。


一夏とシャルルに手伝ってもらい着替えをした。全裸を見られる羞恥心なんてどっかに捨ててきたよ。着替えを終え急いでグラウンドにつくと、始業時間を5分ほど過ぎていた。

 

すでに僕達以外はISスーツを着て整列していて、その前に織斑先生とクラリッサが立っている。クラリッサの目が涙目なのは気のせいだろうか……。

 

しかし、とうとう僕も出席簿をこの頭に受ける時がきたのか。

 

 

「はぁ、はぁ……すいません!遅れてしまいました」

 

 

全力疾走にプラスして僕の車椅子を押してくれていたシャルルが肩で息をしながら織斑先生に謝罪する。

一夏も頭を下げている。

 

二人は悪くない。僕のせいで遅れたんだ。

 

 

「織斑先生、二人は悪くありません。罰は僕が受けます」

 

「……」

 

 

織斑先生が出席簿を片手に近づいてくる。

来るなら来い!全て僕が……

 

 

ポスッ

 

 

……痛くない?

僕の頭の上には織斑先生の手が乗っている。

 

 

「私がお前たちの事情を聞かずに罰を下すわけないだろう。それくらいは考慮する。さっさと並べ」

 

「織斑先生……」

「ありがとうございます!」

「千冬姉!」

 

スパァン!

 

 

あ、一夏が殴られた。

 

 

「いってぇ……なんでだよ……」

 

「織斑先生だ、バカ者」

 

 

詰めが甘いなぁ、一夏。

 

僕達も整列すると織斑先生が声をあげる。

 

 

「今日は1組、2組の合同実習だ。実際にISを動かしてもらう。その前に、少し演習をしてもらう。オルコット、凰、前に出ろ」

 

「「はい!」」

 

 

セシリアさんと鈴が前に出る。二人とも専用機持ちで代表候補生。一夏やラウラも持ってるけど、一夏はしっかり訓練したわけではないし、ラウラは今日きたばかりだから候補から外されたのかな。

 

シャルルも専用機持ってるのかな?後で聞いてみよう。

 

僕は……ISの癖が強いから外されたかな?

 

 

「相手が鈴さんとは、腕がなりますわね」

 

「ずいぶんと余裕あるじゃない。いつまでそれが続くか見ものね」

 

 

二人はすでに臨戦態勢といった具合だ。なんだか物騒だけど……。

 

 

「二人とも、相手を履き違えるな。演習の相手は別に用意してある」

 

「別に……ですか?」

 

「それは誰……」

 

 

鈴が相手を聞こうとした瞬間、スラスターの音と何やら女性の大声が空から……。見上げると、急接近してくる何かが……

 

 

「皆さん!避けてください〜!?」

 

 

あれは、ラファール・リヴァイヴを纏った山田先生かな?減速もせずにこちらに突っ込んでくる。これじゃあ大惨事だ。

 

 

「テムジン!」

 

 

テムジンを纏い、山田先生のラファール・リヴァイヴに接近。肩のあたりを掴みスラスターの出力を最大にする。

 

 

「くっ、ぐうぅぅ!」

 

「将冴君!」

 

 

なんとかラファール・リヴァイヴを止めた。危ない危ない。もう少しで本当に突っ込むところだったよ。

 

 

「ふぅ……大丈夫ですか?山田先生」

 

「は、はい。ありがとうございます、将冴君」

 

「いえ、これくらいおやすいご用です」

 

「二人とも!大丈夫か?」

 

 

下で織斑先生がメガホンを使って呼びかけてくる。

僕は腕を振って無事だと伝える。

 

 

「あの……将冴君」

 

「はい?」

 

「その、ずっと抱きしめてくれるのは嬉しいんですけど、そろそろ離れたほうがいいんじゃないかなぁと……あ、決して私が将冴君が嫌なわけではなくてですね!?」

 

 

山田先生に指摘されて、僕と山田先生はまるで抱き合っているような体勢だった。

 

 

「あ、すいません」

 

「いえ……その、大丈夫ですからね」

 

 

とりあえず、早く下に降りよう……。

 

なんだか、クラリッサと織斑先生の視線が痛いのだけれど……気のせいかな。

 

下に降りると、織斑先生が何事もなかったように授業を再開する。

 

 

「それでは演習を始める。オルコット、凰。お前たちの相手は山田先生だ」

 

「あら、それでは山田先生が連戦になってしまうのではありませんか?」

 

「何を言っている。お前と凰はタッグだ。2対1で戦ってもらう」

 

「「な!?」」

 

 

セシリアさんと鈴が信じられないといった顔をする。はは、今の光景見たら誰だってそうなるよね……僕もそんな感じだもん。

 

 

「先生、それはいくら何でもやりすぎでは?」

 

「そうよ!私とセシリアは代表候補生で……」

 

「もう一度は言わないぞ、2対1だ。口ごたえするのは、山田先生に勝ってからにしろ」

 

「くっ、わかりましたわ」

 

「絶対に勝つ!」

 

 

さてさて、どうなるかな……

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

結論から言うと、山田先生の圧勝。セシリアさんと鈴さんは互いに足を引っ張り合い、最後には山田先生のラファール・リヴァイヴのフルオープン射撃で同時にノックアウト。

 

さっき、ISを止められずに突っ込みそうになってた人とは思えないね。

 

 

「これでこの学園の教師が強いことがわかっただろう。これからは、敬意を払うように」

 

『はい!』

 

「それではこれか実習を開始する!将冴以外の専用機持ちは前に出ろ。一般生徒の指導をしてもらう」

 

 

え?僕はハブ?いじめですか、織斑先生。

確かに足手まといかもしれないけど、ISを展開すれば問題ないのに……。

 

 

「将冴は見学だ。病み上がりに無理はさせられん。ハルフォーフ先生と今後の事を決めておけ」

 

 

それって……

 

 

「将冴、そういうことだ。邪魔にならないところに行くぞ」

 

「え、あ、うん……」

 

 

クラリッサが車椅子を押してくれる。あ……すごい懐かしい感じ……。

 

 

「では、各自行動開始!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ここならいいだろう」

 

 

連れてきてくれたのはグラウンドの隅にある木の下だった。いい感じに木陰になっていて涼しい。

 

クラリッサが僕を車椅子から木の幹に降ろしてくれる。

 

 

「ありがとう、クラリッサ」

 

「これくらいは構わないさ。それより、先生と呼んではくれないのだな」

 

 

僕の横に腰を下ろしながら、クラリッサがきいてくる。

 

 

「僕も織斑先生みたいにハルフォーフ先生って呼んだほうがいい?」

 

「……いや、クラリッサでいい。教師と生徒という立場ではあるが、私はお前の嫁だ」

 

 

そう言って笑いかけてくれる。この笑顔、久しぶりだな。ずっと声だけだったから……。

 

 

「嫁じゃないでしょ。また間違ってる」

 

「じゃあ、いずれ嫁でいい」

 

 

いずれって……全く……改めて言われると恥ずかしいんだよ?表に出さないようにするの大変なのに……!

 

っと、そういえばクラリッサと聞かなきゃいけないことあったんだった!

 

 

「クラリッサ、どうしてIS学園に?シュバルツェ・ハーゼがあるから、これないって……」

 

「ああ……それなんだがな……」

 

 

クラリッサはバツの悪そうに頬をポリポリと掻く。

何かまずいことでもあったかな?

 

 

「実はな……副隊長をクビになってな」

 

「……えぇ!?」




飲み会後に書いたので色々文章おかしいかもしれない。

推敲してみますが、見落としがあったら報告してくれると嬉しいです!
今回、オススメしてもらって聞いた曲を書かせていただいたんですが、これからもその時聴いていた曲を前書きに書かせていただこうと思います。

「moment」はガンダムSEEDをちょくちょく見ていたので、とても懐かしかったです。そういえばこんな曲だったなぁと。

「断罪は遍く人間の元に」はとてもアップテンポな曲でノリノリになりながら書けました。


次回からは、将冴と連絡が取れなくなった頃、クラリッサに何があったか。多分1話で纏まる……と、思う……おそらく……。がんばりゅ


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55話

昨日更新できず申し訳ありません。
GEが楽しすぎるのがいけないんです……。

今回は、クラリッサの空白の時間を書いていきます。短いです。すいません。

あ、今回のBGMはマンボウPさんと、day after day、ウェルカム・トゥ・ザ・ホラーショウ 、calm eyes fixed on me screamingです。


「クビって、どういうこと!?もうシュバルツェ・ハーゼにもドイツ軍にも所属してないの!?」

 

「いや、シュバルツェ・ハーゼには所属している。今は普通の隊員という形なんだ。あくまでも、″副隊長″をクビになったんだ。今はルカが副隊長をしてくれている」

 

 

ちょっと今日は衝撃的なことが起こりすぎて頭が痛いぞ。なんでクビに?ルカさんが副隊長に……?

 

ダメだ、考えてもわからない。

 

 

「どうしてそんなことに……?」

 

「ああ、あれは将冴と最後に電話した次の日だったか……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「隊長、これに必要事項を記入してください」

 

「わかった」

 

 

シュバルツェ・ハーゼ隊は、ラウラ隊長のIS学園転入手続きで大忙しだった。ラウラ隊長は先日ようやく全て完成した専用機「シュバルツェア・レーゲン」を持って転入するため、手続きが面倒なのだ。

 

あとは、病気になった際の海外保険に、教科書の手配、日本で用意できるだろうが下着も軍から配給されているものではなくちゃんとしたものを数着確保しておいて……

 

 

「おい、クラリッサ。この部分なのだが……」

 

「それからあれも用意して……そうだ、ルームメイトに挨拶する際の菓子折りも用意しないと……何がいいだろうか……ブルスト?日本ではハムを送るというから、ブルストでも大丈夫だろう……しかし相手は学生……」

 

「クラリッサ!聞いているのか!」

 

「はい!ビールがいいと思います!……はっ!?」

 

 

私は何を口走っているのだろう。集中しなければ……。

 

 

「クラリッサ、なんだか様子がおかしいぞ?昨日までこんなことは無かったのだが……」

 

「申し訳ありません……」

 

「……将冴か?」

 

 

ドキッとした。そんなにわかりやすかっただろうか……?

はぁ、しばらく電話できないというだけなのだが……そのしばらくが長い。

 

 

「そういえば、今日の昼は電話していなかったな。喧嘩でもしたか?」

 

「いえ、私がしばらく電話できないと告げたんです。ラウラ隊長のIS学園転入の手続きもありますし、隊長がいない間の隊の活動を考えなければいけないですから」

 

 

そうだ、隊の活動報告を上に渡さなければいけない。あれはいつまでだったか……。

 

 

「そうか……しかし、全部お前がやらなければいけないわけではないだろう?シュバルツェ・ハーゼの隊員にも任せればいいではないか」

 

「それはそうなのですが……」

 

 

仕事をしていないと、将冴のことを考えてしまい連絡したくなるなんて言えない。

私から連絡できないと言ったんだ。私が破ってしまっては……。

 

 

「とりあえず、一旦落ち着け。その状態で仕事をしてミスがあったら、それこそ問題だ」

 

「はい……わかりました……」

 

 

隊長の言うとおりだ。私がミスしたら、他でもない隊長に迷惑がかかる。隊長をサポートするべき私がしっかりしなければ……。

 

と、その時……

 

 

「あ、いたいた。隊長、クラリッサ」

 

 

ルカが手に封筒を持って現れた。

いつの間に入ってきた?扉が開いた音はしなかったぞ?

 

 

「ルカか、どうした?」

 

「さっきそこで軍のお偉いさんと会って、隊長にこれを渡してくれって」

 

「ん?なんだこれは?」

 

 

封筒を受け取った隊長は、封を開けて中から折りたたまれた紙を取り出し目を通す。

 

一瞬、隊長の顔がこわばる。

 

 

「……ふむ。クラリッサ、お前に関係あることだ」

 

「私にですか?」

 

 

差し出された紙を受け取る。

 

書いてある内容は……異動?

 

 

「シュバルツェ・ハーゼ隊副隊長クラリッサ・ハルフォーフ大尉は、IS学園に転入するシュバルツェ・ハーゼ隊隊長ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の護衛として同行することを命じる。シュバルツェ・ハーゼ隊に隊長、副隊長が不在となるため、副隊長クラリッサ・ハルフォーフは解任。後任はルカ・ミヒャエルを任命する……って、どういうことだ、これは!?」

 

 

副隊長を解任って……いきなりすぎる!

クビか!?リストラか!?

 

 

「あー、予想通りの反応だわ」

 

「予想通りって、どういうことだルカ!何故私が副隊長をクビになったんだ!」

 

「私が上層部に進言したから」

 

「は……?」

 

 

ルカが?どうしてそんなことを……。

 

 

「ラウラ隊長は今まで学校に行ったことないのよ?ガチガチに軍のやり方が身に染み付いてる。それをサポートする人が必要でしょ?」

 

「おい、ルカ。さらっと私の悪口を言ってないか?」

 

「幸いにも、シュバルツェ・ハーゼの副隊長である……いや、副隊長であったクラリッサは日本の文化に詳しいし、日本語も話せる。適任だと思って推薦したのよ」

 

「ルカ、お前……」

 

 

ルカが、まさか隊長のことを思ってそんなことを……そんなことを知らずに、私は喚き散らしてしまって……。自分が恥ずかしい。

 

 

「まぁ、それは表向きで、本当は将冴君と話せなくて寂しがってるクラリッサを日本に追いやるっていうのが本音」

 

「一瞬だけいいやつと思ったがそうじゃなかったようだな。歯を食いしばれ」

 

「ちょ、私はあんたのためにやったのに!?」

 

「お前たち喧しいぞ!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

なんと言うか……

 

 

「ルカさんにいいように弄ばれてる?」

 

「そうかもしれないな。まぁ、そんなこともあって織斑先生に連絡したら、ちょうどいい役職があると言われてこうなったわけだ」

 

 

実際の役職は二つだけだったはずなんだろうなぁ……。ああ、この後のクラスに説明しなきゃいけないんだった。

 

 

「事前に連絡できなくて、すまなかったな。驚かせてしまって……」

 

「ううん、連絡きても出れなかったから。ここ数日、医務室で寝たきりだったから」

 

「織斑先生から聞いた。もう怪我は大丈夫か?」

 

「軽症だったから。本当は1日くらい休めば問題なかったんだけどね」

 

 

なんだか過保護な気がするんだ。気のせいと思いたいけど。

 

と、そうだ。これからのことを決めておかないといけないんだっけ?

 

 

「クラリッサ、これからのことって何か聞いてる?」

 

「ああ、とりあえず明日から私と将冴は学生寮で相部屋になる」

 

「クラリッサと?……まぁ、ヘルパーっていうくらいだからそうなのかな」

 

 

明日からってことは、今日中に荷物をまとめておかなきゃいけないのかな。まぁ、そんなに荷物はないし大丈夫かな。

 

 

「あと、授業のノート類は義手がない間は織斑先生と山田先生が優遇してくれると言っていた。数日休んでいた分も、2人が補講してくれると言っていた。私はそれを見て教師の勉強だな」

 

「教育実習生ってことになってるもんね。頑張ってね、クラリッサ」

 

「ああ、もちろん」

 

 

そのあとは授業が終わるまで他愛もない話をしていた。

顔を合わせて話すの久しぶりだから、盛り上がってしまったな。




こんな感じでしょうかね。
なんだか色々とおかしい気がするけど、大丈夫かな……。

次回、地獄の昼食会


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56話

更新が疎かになってしまい、申し訳ありません。

体調不良とスランプが原因です。
決してゴッドイーターにかまけていたわけではありません……。

……ジーナかわいいんだもの←

今回のBGMはお勧めいただいたものをマイリストしてシャッフルして聞いたので、殆どです。


 

午前中にISの実習が終わり、昼休み。

クラリッサに手伝ってもらいながら着替えをして(全部見られたけど気にしないことにした)、車椅子を押してもらって教室に戻ると一夏を中心に箒さん、セシリアさん、鈴、シャルル、ラウラがいた。専用機組といったところかな?ラウラがいるのは少し驚いたけど。

 

 

「お、将冴にハルフォーフ先生」

 

 

こちらに気がついた一夏が手を振ってくる。

 

 

「皆、何してたの?」

 

「ああ、今から屋上で昼食にしないかって話をしていたんだ。シャルルとラウラが来たから、交流会も含めてな。将冴とハルフォーフ先生も一緒にどうだ?」

 

「んー、申し出はありがたいけど、僕は弁当持ってきてないし……」

 

「そうだな、私も将冴の介助をするつもりだったから学食で済ませようと思っていた」

 

「ああ、それなら大丈夫よ」

 

 

鈴がそう言って、大きな包みを取り出した。

 

 

「一夏と将冴に食べてもらおうと思って、多めに中華弁当作ってきたから」

 

「鈴の料理?2年前に練習付き合わされた時以来だったかな。上達した?」

 

「当たり前よ!将冴も驚くわよ!」

 

 

まぁ、2年前でも美味しかったんだけどね。

いきなり味見してって言われて食べさせられたからなぁ……。

 

 

「私も多めに作ってきてある。鈴の弁当と合わせれば、少し少ないかもしれないが、大丈夫だろう」

 

 

箒さんも作ってきてくれたのか。箒さんの料理は食べたことないけど、楽しみだな。

 

姉である束さんは、料理に関しても天才的だったけどね……いろんな意味で。

 

 

「じゃあ、屋上に行っててくれよ。俺とシャルルは購買寄ってから行くよ」

 

「この人数だと、やっぱり少ないと思うからね。パンでも買ってくるよ」

 

「わかった。いってらっしゃい」

 

 

一夏とシャルルは購買に向かった。

んー、僕も買いに行った方がいいかもしれないけど、クラリッサに負担かけちゃうし、そんなに食べない方だから大丈夫だろう。

 

 

「それじゃあ、屋上行こうか」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

屋上はそこまで人はいなかった。結構穴場だったりするのかな?

 

スペースはあるので、適当な場所を陣取る。

一夏とシャルルが来るまでの間、箒さんと鈴は弁当を広げている。セシリアさんはバスケットを持ってなにやらそわそわしているけど……どうしたんだろう?ラウラは僕とクラリッサの隣に座っている。なんだか緊張している?

 

 

「ラウラ、緊張してるの?」

 

「いや……そういうわけではないのだが……。こういう場では、どう立ち振舞えばいいのかわからなくて……」

 

「普通でいいんだよ。皆ラウラと同い年なんだし、友達感覚でいいんだ」

 

「そ、そうか……」

 

「ラウラ隊長、私もサポートします。安心してください」

 

「うむ、よろしく頼む」

 

 

少し良くなったかな。

ドイツにいた頃、こんなラウラは見たことないな。初めての環境で戸惑っているんだね。

 

と、クラリッサが僕の肩をポンポンと叩いてきた。

 

 

「将冴、車椅子に座ったままでは食べづらいだろう。私の膝の上に座るといい」

 

「え、いや、そこまでしなくても……」

 

「遠慮するな。私がしてあげたいんだ」

 

 

クラリッサが僕を持ち上げそのまま膝の上にのせる。人前でやると恥ずかしいんだけど……。

 

 

「ふふ、こうするのも久しぶりだな」

 

 

僕のことは気にせずに嬉しそうなクラリッサ。前にやったのは、確か千冬さんとクラリッサとお風呂に入った時だったっけ……。思い出したら余計に恥ずかしくなった。

 

 

「将冴とハルフォーフ先生って、いったいどういう関係?」

 

「わからない。ホームルームでは将冴の嫁とか言っていたが……」

 

「確か、将冴さんは以前ドイツに滞在していたと聞きました。その時に……」

 

 

鈴、箒さん、セシリアさんがヒソヒソ話しているけど、丸聞こえだよ。一夏が来たら改めて説明しないと……。

 

 

「おーい、お待たせ……って、将冴。その格好どうした?」

 

 

噂をすれば、一夏とシャルルが来た。

僕の状況を見て、二人とも驚いてる。とりあえず今は触れないでほしい。

 

 

「二人とも、早く座ってご飯食べよう」

 

 

この格好に慣れつつあるから怖いんだよ。

 

 

「わ、わかった……」

 

「それじゃあ失礼します」

 

 

一夏は鈴と箒さんの間に座り、シャルルは僕(とクラリッサ)とセシリアさんの間に座る。

 

 

「おお、弁当凄いな」

 

 

並んでいる弁当はどれも美味しそうだ。

一夏の隣に座っている箒さんと鈴は、一夏に食べさせようと牽制し合っている。はは、見てて楽しいな。

 

 

「では篠ノ之、凰。弁当をいただく」

 

 

クラリッサは二人に一言伝えるが、二人ともそれどころではないみたいで、こちらに目を向けず「どうぞ」と同時に言ってきた。

 

 

「将冴何が食べたい?」

 

「それじゃ、そこの酢豚をもらおうかな」

 

 

鈴の酢豚。食べるの久しぶりなんだ。

 

 

「わかった」

 

 

クラリッサは箸を綺麗に扱い、僕に酢豚を食べさせてくれる。うん、2年前よりも美味しくなってる。本当に上達したんだなぁ。

 

 

「私も酢豚とやらを食べてみよう」

 

 

隣のラウラも酢豚を口に運ぶ。

顔を見るに、お気に召したようだ。

 

 

「将冴、次は何がたべたい?」

 

「クラリッサは食べないの?」

 

「私は後で大丈夫だ」

 

「そういうわけにはいかないよ。クラリッサも食べなきゃ」

 

「いや、しかし……」

 

「クラリッサ」

 

「わ、わかった。では、これを……」

 

 

クラリッサが食べてる間に、一夏の方に目を向けるとセシリアさんからサンドイッチをもらっている。セシリアさんも作っていたんだ。

 

一夏がサンドイッチを一口齧ると……

 

 

「むぐぅっ!?」

 

 

一夏の顔が青ざめている。

ああ、なんとなくわかった。さすがイギリスといったところかな。

 

一夏のことだから、傷つけないようにするだろうな。

 

 

「一夏さん、どうですの?」

 

「そ、その……美味しいと思うぞ?」

 

「本当ですの!?」

 

 

本当のことを言ってあげたほうが、セシリアさんのためだと思うんだけど。

 

 

「へぇ、じゃあ僕も食べてみていいかな?」

 

 

シャルルが名乗りをあげた。一夏の様子をみて気づかなかったのか?

その料理は地雷だ!

 

 

「ええ、どうぞ。将冴さんも如何です?」

 

 

こっちにも飛び火した!?

 

 

「じ、じゃあ……いただこうかな?」

 

 

断るということはできなかった。一夏、本当のことを言わなかった君を恨むよ……。

 

シャルルはすでに顔を真っ青にしてる……。後で一夏に報復しよう。

 

 

「では、私が食べさせてあげますわ」

 

 

セシリアさんが、僕の口元にサンドイッチを持ってくる。

いざとなると口が開かない……。

 

 

「あら、どうかしましたか?食べませんの?」

 

「なんでもないよ……いただきます……」

 

 

一口齧る。

口の中に刺激が広がる。なんだろう、痛い。辛いとかそういうのじゃなくて、根本的に痛い。直接痛覚を刺激されているみたいだ……。

 

 

「どうですか?」

 

 

駄目だ……僕は我慢できそうにない。

千冬さんの時みたいに、教え込まないと駄目だ。これは。

 

 

「セシリアさん」

 

「はい?」

 

「とりあえず、自分で食べてみて?」

 

「え、ええ……」

 

 

セシリアさんが、一口食べると、これまた真っ青になる。

味見をしていなかったんだね。

 

 

「一夏は優しいからね。その優しさに甘えちゃ駄目だよ」

 

「は、はい……」

 

 

真っ青な顔のまま、首を縦に振るセシリアさん。

僕とセシリアのやりとりを見ていたクラリッサは、なにやら怯えた様子だったのは気のせいだろう。

 

 

「ふむ、この酢豚というのはおいしいな」

 

 

唯一平和だったのはラウラだけだったみたいだ。




お食事会は難しいね。
戦闘より難しいかもしれない。

しかし、ラウラの処遇が決まらないね。どうしようかと悩んでいます。
ヒロインにしてもいいのかなぁ……


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57話

ラウラはヒロインではなく義妹ポジという感想が多かったです。

多分そうなります。そうなるように構想してみます。

あと、薔薇の三姉妹とかハッター軍曹を出す算段をしています。いつ出すか、というか本当に出せるかわからないですが、なんとかします。


放課後、僕はぐったりとしていた。

 

二人の転入生、クラリッサとの再開、超弩級爆撃(口内)etc……

 

クラスメイトの人達も、僕とクラリッサの関係を知りたいからと詰め掛けてきたし……あぁ、疲れた。

 

 

「将冴」

 

 

ぐったり項垂れているところに、クラリッサが話しかけてくる。そうだ、クラリッサに部屋まで送ってもらわないといけないんだった。

 

 

「やぁ、クラリッサ。1日目はどうだった?」

 

「特に問題はなかったぞ。それに、私よりも将冴のほうが心配だ。やけに疲れているが、大丈夫か?」

 

「うん。病み上がりで少し疲れただけだよ」

 

「そうか……何かあったらいつでも言うんだぞ」

 

 

クラリッサがヘルパーになってくれたのは助かる。僕が束さんと面識があるのは伝えてあるし、ある意味事情を一番知っている。

 

 

「とりあえず、今日は部屋に戻ろうかな。明日引っ越しなら荷物まとめないと」

 

「ああ、それなんだが、私はこれからやらなきゃいけない仕事があるんだ。やらなきゃいけない手続きが残っていてな」

 

「そっか……クラリッサも軍属だったね。いろいろと面倒みたいだね」

 

「ああ。それで放課後は将冴の介助ができないんだ」

 

「仕方ないよ、お仕事だし。僕のことは僕でするから大丈夫だよ」

 

「すまない……ラウラ隊長や織斑達に手伝いは頼んでおいた。夕食までには終わると思うから、一緒に食べよう」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

 

クラリッサは嬉しそうに笑みを浮かべて教室を出て行った。

 

さて、僕は部屋に戻ろう。少し休みたいし。

えっと、一夏は……教室の前の方で専用機組に囲まれてるね。なぜか鈴もいるけど……

 

 

「将冴、大丈夫か?」

 

「おわっ!?」

 

 

突然、目の前にラウラの顔が現れた。

気配を感じなかったからびっくりしたよ……。

 

 

「何を驚いている?」

 

「いきなり目の前に現れたら驚くよ、普通」

 

「む、そういうものか」

 

「そういうもの」

 

 

どうもラウラの今後が心配になる。本当に大丈夫だろうか……。

 

 

「それよりも、やけに疲れた顔をしているが大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。病み上がりだから、今日はもう部屋に戻ろうと思ってたんだけどね」

 

「そうか。もしよかったら試合でもと思ったが無理させてはいけないな。部屋まで送ろう」

 

 

ラウラが僕の後ろに回り、車椅子を押してくれる。

ドイツにいた頃はこういう事はあまりなかったしなぁ。ラウラは千冬さんにべったりだったし。

 

と、一夏達が僕とラウラの方に気がついたようだ。

 

 

「あれ?将冴、今日は訓練していかないのか?」

 

「うん、病み上がりだからね。ちょっと疲れちゃって」

 

「今日の実習も見学だったが、大丈夫か?」

 

「あまり無理してはいけませんわよ?」

 

 

箒さん、セシリアさんも心配そうに聞いてくる。

どうもこの2人は僕を必要以上に心配してくる気がする。

 

 

「うん、大丈夫だよ。一応鍛えてるしね」

 

「そういえば将冴のISスーツ姿、改めて見たけど、あんたの腹筋すごいわよね」

 

「ええ、無駄な筋肉がなく、しなやかで滑らかで……まさに芸術と言っていいほどの腹筋でしたわ」

 

「僕も朝に触らせてもらったけど、本当にすごいよね」

 

 

あれ、いつの間にか僕の腹筋の話になってる。

病室で療養してた分落ちてると思うなぁ……また鍛えないと。

 

 

「お前たち、腹筋の話はいいが、そろそろ将冴を休ませてやろう。病み上がりなんだろう?」

 

「っと、そうだったな。悪いな将冴」

 

「ううん。訓練はまた今度付き合うから」

 

「将冴を送ったら、私も訓練に参加していいか?」

 

「ああ、構わないよ。待ってるぜ、ラウラ」

 

 

あ、箒さんとセシリアさんと鈴が怖い顔をしてる。まぁ、ラウラなら問題ないと思うけどね。シャルルもいるし。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ラウラに教員寮の入り口まで送ってもらう。

朝よりも担ぐのが上手くなっていた。上達早いなぁ。

 

 

「ありがとう、ラウラ。ここまでで大丈夫だよ。ラウラは一夏達のところに行ってあげて」

 

「ああ、そうする。今日は試合できなかったが、今度は試合してもらうからな」

 

「うん、負けないから」

 

「次は勝つからな」

 

 

そう言って、ラウラはアリーナの方へ走っていった。これをきっかけに一夏達と仲良くしてくれれば、心配なさそうだな。

 

そんなことを考えながら、自分の部屋に向かう。その途中で、僕は決定的なミスを犯していた事に気がついた。

 

 

「鍵も扉も開けれない……」

 

 

ついいつもの癖で来てしまったけど、鍵も扉も開けれなければ部屋に入れない。失敗したなぁ……。

 

 

「んー、どうしようかな……あれ?」

 

 

考えながら部屋の前まで移動すると、扉に山田シャワー中と書かれた札がかけてある。

 

あれは、僕と山田先生が一緒に生活するにあたって、問題があってはいけないからと作った札……。もう山田先生が帰ってるのかな?

 

などと考えていると、ガチャリと扉が開く。

部屋の中から、まだ乾かしていない湿ったままの髪の山田先生が出てきた。服は、いつも来ているような服だ。

 

 

「あれ?将冴君、戻ってたんですね」

 

「はい、少し疲れちゃって。引越しみたいですし、荷物もまとめないと」

 

「そうでしたか。あ、部屋に入りますよね。どうぞ」

 

 

山田先生が扉を開けたままにしてくれる。僕は思考制御で車椅子を動かし、部屋に入る。山田先生の近くを通った時、いい匂いがした……。

 

部屋に入ると、僕の荷物がすでにダンボールにまとめられていた。これは、山田先生がやってくれたのかな?

 

 

「山田先生、これは……」

 

「すいません。勝手にやってしまうのもどうかと思っていたのですが、将冴君は今義肢がありませんし、失礼を承知で荷物をまとめさせていただきました」

 

「いえ、すごく助かりました。僕自身、どうやって荷物をまとめようか悩んでいたので。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。あ、そうだ」

 

 

山田先生が何か閃いたような顔をして、僕と目線を合わせる。一瞬、胸の方に目が行ったのは内緒。

 

 

「将冴君、退院おめでとうございます。今日、まだ伝えていなかったので」

 

「ありがとうございます。色々と心配をかけてしまって」

 

 

退院と言っていいのかどうかわからないけど。

 

 

「本当です。心配したんですから。これからは無茶をしちゃダメですよ?」

 

「はい、善処します……」

 

 

頬を膨らませて、怒ってます、と言った表情の山田先生。言ってはなんだけど、あんまり怖くないし、怒ってるようにも見えない。

 

 

「よろしい」

 

 

今度は胸を張る山田先生。大きな双丘が揺れる……。

 

思春期の僕には、目に毒です……。

 

 

「将冴君、どうしましたか?」

 

「いえ……なんでも」




山田先生が可愛いんじゃぁ〜。

クラリッサはもっと可愛いけどね!

タッグトーナメントの相方誰にしようかなぁ……。


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58話

明日の夕飯どうしようかなぁとか、ちょっと気の早い悩みが渦巻いてる作者です。

なんでこんなことを言ったかって?
前書きに書くことがありません←


 

山田先生と部屋で談笑していると、部屋をノックする音と僕を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「将冴、クラリッサだ。いるか?」

 

 

仕事が終わったら夕飯に行こうと約束していたから、迎えに来てくれたみたいだ。

 

部屋に入るように呼びかけて、クラリッサを招き入れる。

 

 

「仕事お疲れ様、クラリッサ」

 

「ああ。山田先生、お邪魔します」

 

「はい、いらっしゃませ」

 

 

二人は挨拶を交わすが……なんだろう、一瞬火花のようなものが……。

 

 

「将冴、夕食を食べに行こう。まだ道を覚えていなくてな、案内してくれると助かる」

 

「うん。山田先生も一緒にどうですか?」

 

 

しばらく一緒に食べてなかったし、この部屋にいるのは今日が最後だから。

 

 

「では、お言葉に甘えてご一緒します」

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 

クラリッサに車椅子を押してもらい、案内しながら食堂まで向かった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

いつもの車椅子用スペースで、僕とクラリッサと山田先生は食事を持って座る。

僕はたべやすい卵粥。

クラリッサと山田先生は日替わり定食。今日は、焼き鮭に味噌汁、漬物と、和風になっている。

 

 

「クラリッサ、箸使えるの?」

 

 

ドイツに入る頃は、クラリッサが箸を使っているところを見たことがない。

 

 

「ああ、ドイツにある日本料理店によく行っていてな。自然と使えるようになった」

 

「ドイツに、日本料理店なんてあったんですね?」

 

「この日替わり定食のようなものや、寿司なんかもあった」

 

 

なるほどね、なら使えてもおかしくないか。

一度行ってみたかったな。

 

 

「ほら、将冴。あーん」

 

「え、あ、あーむ……」

 

 

慣れた手つきで僕に卵粥を食べさせてくれる。しばらくこの状態が続くのか……なんだか申し訳ないなぁ。

 

それに、周りから視線やらひそひそ声やらが……

 

 

「なんで山田先生とクラリッサ先生が将冴君と一緒に……」

「山田先生は同室らしいし、クラリッサ先生はヘルパーだって」

「クラリッサ先生って今日きたばっかりよね?やけに親しくない?」

「なんでも朝に将冴君の嫁宣言したとか……」

「もうそんな関係なの!?」

「もしかして、山田先生も……」

「そういえば、織斑先生って将冴君だけ名前で呼んでるらしいよ」

「なんですってぇ!?」

 

 

はは、一組以外には説明してないから妙な憶測が飛び交ってる……。別にそんな噂になるようなことはしていないはずなんだけど。

 

 

「将冴?どうした?」

 

「ううん、なんでもない……」

 

「そうか。ほら、もう一口」

 

 

まぁ、この状態に慣れつつある僕もどうかと思うけど。

 

 

「あ、やなしーにくらくらにまやまやだ〜」

 

 

間延びした声が聞こえ、そちらを向くと布仏さんと簪さんがいた。二人は知り合いだったのか。

 

 

「相席いいー?」

 

「うん、どうぞ」

 

「やったー。かんちゃん座ろ」

 

「う、うん」

 

 

空いてる椅子に座る二人。簪さんは日替わり定食で、布仏さんは……

 

 

「お茶漬けと、生卵?」

 

「おいしーんだよぉ?食べる?」

 

「遠慮しておくよ……」

 

 

組み合わせ的にどうなんだろう……食べたわけじゃないから、わからないけど。

 

 

「の、布仏さん?その、まやまやというのはやめませんか?私は先生ですし……」

 

「私も、くらくらなんて呼ばれたのは初めてだぞ。訂正を求める」

 

 

訂正したら渾名はいいんだ、クラリッサ。

 

 

「えー、でもかわいいよ?ね、かんちゃん」

 

「そう……かな?」

 

 

簪さんも返答に困っている。

 

さっきからおどおどしているけど、先生二人いるところでゆっくりご飯なんて食べれないよね。布仏は御構い無しだけど。

 

 

「あ、あの、将冴君」

 

 

簪さんが話しかけてくる。ちょうどクラリッサに食べさせてもらってる時で、口を大きく開けていたので「あえ?」と返事してしまった。

 

 

「この間のクラス対抗戦の時の映像見たんだけど……」

 

 

あの球体が襲ってきたやつか。映像あったのか……変なの映ってないよね……。

 

 

「あの機体って、2年前にドイツで一度だけ現れて、テロリストを制圧した機体と同じだよね?」

 

 

その言葉に、僕とクラリッサは顔をこわばらせる。クラリッサには僕がMARZの企業所属ということになっていることや、束さんのことを隠していることは実習を見学していた時に伝えてある。

 

 

「あれは、将冴君と同一人物?」

 

 

前にセシリアさんに答えたようにすればいいんだけど、聞かれると妙に緊張する……。

 

 

「違うよ。それはまだ試作の時で、乗ってるのは僕じゃない」

 

「そう……まぁ、乗ってる人はどうでもいいんだけど……」

 

「え?」

 

 

その瞬間、簪さんの目が輝く。

 

 

「私、2年前からこのISのファンなの!ネット上でも密かにブームになっていて、フィギュアも出ているの」

 

「そ、そうなの?」

 

 

初耳なんだけど……。

 

 

「それでクラス対抗戦の時の襲撃でこのISが現れて、私もう興奮して……それに変形機構までついてるなんて、本当にヒーローみたいで」

 

「かんちゃん、かんちゃん。やなしーが困ってる」

 

「あ……ご、ごめんなさい!」

 

 

恥ずかしそうに顔を赤くして俯く簪さん

そんなにバーチャロンのこと気に入ってるのか。なんか嬉しいかな。

 

 

「今度、見てみる?僕のIS」

 

「いいの?」

 

「詳しいところはダメだけど、少しなら」

 

「本当に!ありがとう!」

 

 

ロボットとか好きなのかな。まぁ、これくらいなら問題ないよね。

 

 

「将冴、いいのか?バーチャロンは、ほとんどオーバーテクノロジーの塊だぞ?」

 

「それを言ったら、IS全部がそうだから。見せるくらいなら問題無いよ」

 

「将冴がそういうならいいが……」

 

 

まぁ、バレても束さんがなんとかしてくれそうだけどね。

 

 

「将冴君、ハルフォーフ先生。ご飯冷めてしまいますよ?」

 

 

山田先生のに言われて、急いで食べ始めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

夕食を食べ終わり、教員寮の前でクラリッサと別れて山田先生と部屋に戻った。

 

布仏さんと簪さんはデザートを食べてから帰ると言ってた。

 

さて、今日はシャワーを浴びてさっさと寝よう……って、これじゃシャワー浴びれないや……。

 

 

「将冴君?どうしたんですか、そんなに落ち込んで」

 

「いや、義肢がないので、シャワーが浴びれないなと」

 

「そういえばそうですね。困りました……」

 

 

まぁ、療養中に体は拭いてもらっていたし、今日1日くらいは……

 

 

「そうだ、私が入れてあげます」

 

「へ?」

 

 

山田先生が入れてくれるって……イヤイヤ、ダメでしょう。

 

 

「一緒に住んでましたけど、介助らしい介助をしてあげれませんでしたし、今日が最後なのでお手伝いさせてください」

 

「いや、でも、そんなお手を煩わせるようなことは……」

 

「大丈夫です。さ、服を脱がせますよ」

 

「ちょっ!?わぷっ!?」

 

 

上着を脱がされ、上半身裸になる。

山田先生は僕の体を見て、なぜか目を輝かせる。

 

 

「わ、すごい……前から将冴君の体はすごいと思ってましたけど、間近で見ると……」

 

 

さわさわとお腹を撫でてくる。クラリッサや、他の人と触り方がなんか艶かしい!?

 

 

「ちょ、山田先生……くすぐったいです……」

 

「あ、すいません。今下も脱がせますね」

 

「わ!?せめてバスタオルください!?」

 

 

下もひん剥かれ、バスルームにある椅子に座らされた。なんという手際……。

 

あ、ちゃんとタオルは巻いてる。

山田先生は僕をバスルームにおいて、「着替えてきます」と言って出て行った。

 

 

「まさか、山田先生があんなに大胆なことをしてくるとは……」

 

 

前は織斑先生とクラリッサだったな……いろいろ見られた。うん、いろいろと……婿にいけないようなところを……。

 

その時、バスルームの扉が開き、山田先生が入ってきた。

 

 

「お待たせしました」

 

 

バスタオル一枚だけ巻いた姿で。

 

 

「ちょっ!?山田先生なんでそんな格好に……」

 

「普通の服だと濡れてしまいますから。さ、体を洗ってあげますね」

 

 

山田先生が石鹸を泡立て、僕の体を手洗いしていく。僕を倒れないように、後ろから抱きつくような形で。

 

背中にものすごい柔らかい感触が……意識しちゃダメだ!ほら、前にクラリッサにも……だから意識してはダメ!

 

 

「あ……将冴君、大丈夫ですから。私見てませんから……その、生理現象は仕方ないですから……」

 

「言わないでください……」

 

 

本当に婿にいけない……。




やばい、いろいろ捗る。
ナニがとは言いませんが。

山田先生の破壊力はんぱないね!


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59話

どうも、絶賛スランプ中の作者です。昨日はサボってすいません。ええ、認めます。サボりました。

クラリッサとのイチャイチャだけ書けばいいよね……

まぁ、そういうわけにはいかないので、物語進めます。


 

翌日。山田先生と一緒に住んで、何度目かわからないけど、朝の気まずい雰囲気を払拭してくれたのは、僕を迎えに来てくれたクラリッサだった。本当に助かった。

 

そのあと三人で朝食を食べ、山田先生はまっすぐ職員室に、僕はクラリッサに一組のある階まで連れて来てもらった。

 

 

「ありがとう、クラリッサ。もう大丈夫だよ」

 

「ここでいいのか?」

 

「うん。教室に行くくらいなら一人で大丈夫。クラリッサは会議とかあるでしょ?実習生が遅れたらダメだよ」

 

「……わかった。じゃあ、また後でな」

 

 

そう言って、僕の頭を撫でてクラリッサは職員室に向かった。なんだか子供扱いされている気分だ。

 

まぁ、まだ子供なんだろうけどね。大人からすれば。

 

教室まで行くと一夏、箒さん、セシリアさん、シャルル、ラウラが集まっていた。みんな早いなぁ。

 

 

「おはよう、みんな。何話してるの?」

 

「将冴、おはよう。昨日の練習の話をちょっとな」

 

 

そういえば、昨日はラウラを交えてISの練習をしていたんだっけ?

 

 

「みんなラウラに負けちゃったとか?」

 

「なんでわかりますの……?」

 

「僕達、全然歯が立たなかったよね……」

 

「私は、まず訓練機だったしな。勝てるとは到底思えなかった」

 

 

はは、ラウラ本気でやったんだな。ラウラの強さは僕がよく知ってるから。

 

 

「そう悲観するものでもない。お前たちは実戦経験が少ないだけだ。私はドイツ軍にいたから、実戦的な戦い方ができる。ただそれだけだ」

 

「なんだか、そう言われると生きてきた場所の違いを感じるよな……」

 

 

ラウラは仕事上、戦うことが多かったもんね。あと、僕とも戦ってたし……。

 

 

「でも、今度は絶対に勝つからな!将冴にも」

 

「将冴にも、か……将冴に勝てるようになれば、私にも勝てるだろうな」

 

「それって、どういうこと?」

 

 

シャルルが首をかしげる。

あれか、ドイツで戦ったときの戦歴。僕が1勝多いやつ。

 

 

「将冴は私よりも強いぞ。まぁ、1年前の話だから、今はどうかわからないが、将冴が本気を出したらお前たちでは手も足も……」

 

「1年前っておかしくないか?」

 

 

一夏の言葉にハッとする。

僕は今年の春にISを動かせると判明したことになっている。まずい……隠していたことが……

 

 

「将冴がISを動かせるってわかったのは俺よりも後のはずだぜ?1年前からだと、話しの辻褄が合わない」

 

「確かに、どういうことなの?将冴」

 

「説明してくれ、将冴」

 

 

ああ……もうだめだ。ラウラの方を見ると、すまないといった顔をしてる。

 

しょうがない……

 

 

「わかった。話すけど、他言無用ね。絶対に」

 

 

四人が頷き、僕は隠していたことを全て話した。

大事にならなければいいけど……。

 

でも、意外とすんなり受け入れてくれた。

 

 

「そうだったのか……でも、それならあの強さには納得だな」

 

「ええ、これで合点がいきましたわ。初めて戦ったときの強さは、ISを動かしたばかりの人とは思えませんでしたから」

 

「でも篠ノ之博士が作ったISをもらえるなんて、一体どんな関係なの?」

 

「そうだ!あの対人スキル皆無の姉さんと、一体どうやって……」

 

 

まぁ、箒さんからすれば当然の疑問だよね……なんて説明したものか。

 

 

「僕の両親が気に入られていて、何回も会ってる間に気に入られたというか……」

 

「なんか、拍子抜けするほど簡単な理由だな……」

 

「まぁ、そんなこんなで今現在に至るって感じ」

 

「これは世間には話せませんわね。篠ノ之博士が直々に作ったISなんて……」

 

 

元は僕の両親の研究なんだけどね……。

 

と、ラウラが申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

 

「すまない、将冴。うっかり喋ってしまって……」

 

「いいよ、いつかは話さないとって思っていたしね。少し早まっただけだよ」

 

 

こうなると、鈴にも話しておかないとな。一人除け者なんてかわいそうだし。

驚かれるのが目に見える……。




あぁ……スランプ……書けない。

もう上手く書けるようになりたい!
いや、本当に、マジで……駄文申し訳ない……。


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番外編:なんやかんやあって卒業してクラリッサと結婚しました。その1

スランプなので、リハビリがてら番外編いきます。

本編終わってないけど後日談的なアレ。
イチャイチャするだけかな。

コーヒー片手にどぞ。

※本編とは何の関係もありません。書きたかっただけ!本編でやる時は違う展開で書きます。


 

車の心地よい揺れに身を任せて寝ていると、ゆさゆさと体を揺すられ僕を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「将冴、着いたぞ」

 

「ぅん……クラリッサ?」

 

 

運転席に座っていたクラリッサが、僕を起こしてくれる。そうか着いたのか。

 

 

「ごめん、運転してる横で寝ちゃって……」

 

「そんなこと気にするな。昨日まで将冴も大変だったんだし、寝顔が見れたから私としても役得だったぞ。それに……」

 

 

クラリッサが顔を赤らめて恥ずかしそうにつぶやく。

 

 

「結婚して夫婦になったんだ……遠慮は不要だ」

 

「そうだね、僕のお嫁さん」

 

 

その瞬間に、クラリッサの顔が先ほどよりも真っ赤になって、頭から煙が。

 

 

「は、恥ずかしいこと言うな!どう反応すればいいかわからないではないか……」

 

「ごめんごめん」

 

 

IS学園を卒業し、僕はすぐにクラリッサと結婚した。まぁ、一年生の時から付き合ってるも同然の生活だったし、周りからの反応は「やっと結婚したか」という感じだった。

 

 

「しかし、まさか結婚式をIS学園で行うとは思わなかったな」

 

「千冬さんに感謝だね。でも、楽しかった……」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

〜一ヶ月前〜

 

白いタキシードを着て、待合室……本来は生徒会室となっている部屋で車椅子に座っていると、扉が開いた。そこには僕の友達である一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪がいた。

 

 

「よう、将冴。タキシード、似合ってるじゃん」

 

「みんな、来てくれたんだ」

 

 

みんなドレスコードということで、いつもと印象が違うなぁ。

 

 

「まさか、卒業してすぐに結婚するとは思わなかったぞ」

 

「そう?私はなんとなく予想できたけどね。ま、箒はそういうこと疎いから、しょうがないわね」

 

「なんだと!鈴、もう一度言ってみろ!」

 

「まあまあ、二人とも。今日は将冴とクラリッサ先生の門出なんだから、喧嘩しちゃダメだよ」

 

 

箒と鈴は相変わらずだなぁ。それを仲裁するシャルも、流石手馴れてる。

 

 

「でも、よく千冬姉が許したよな。学園で結婚式なんて」

 

「むしろ、千冬さんが学園でやればいいって言ってくれたんだよ」

 

「織斑先生からとは……それこそ考え付かないな」

 

 

ラウラが今までの千冬さんを思い浮かべて、到底そんなことを言わないという結論に至ったみたいだ。

 

 

「多分、将冴だからだと思う……」

 

「どういうことだ?簪」

 

「将冴、年上キラーで有名だから」

 

「まさか、千冬姉が将冴に?」

 

「一年の時から有名な話だったよ?生徒のことを苗字で呼ぶのに、将冴だけは名前で呼んでたから、もしかしたらって」

 

 

有名な話だったの?初耳だよ?

まぁ、確かにずっと名前で呼んでたけど……

 

 

「因みに、姉さんも将冴の被害者。結婚の話聞いてガチ泣きしてた」

 

「た、楯無先輩もか……」

 

 

なんか知らないところで楯無先輩を泣かせていたみたいだ……。これって、僕が悪いのかな?

 

 

「虚さんも泣いていたって、さっき本音から聞いた」

 

「おい、将冴。お前何してんだよ」

 

「それ本当に僕のせいかな!?」

 

「無自覚、タチが悪い……」

 

 

簪からの視線が痛い……うぅ、僕は何もしていないのに。

 

 

「みなさん、そろそろ失礼しましょう。将冴さんをあまりいじめてはいけませんわ」

 

「ああ。じゃあ、将冴。また後でな」

 

 

散々引っ掻き回して、7人は部屋を出て行った。

 

 

「はぁ、なんだったんだ……」

 

 

なんだか式の前なのにどっと疲れた……!

 

と、また扉が開いた。今度は一体……

 

 

「ショウゴーーー!!」

 

「もがふっ!?」

 

 

視界が暗転して、顔に何か柔らかいものが押し当てられる。息、苦し……。

 

 

「私というものがいながら、他の女と結婚だなんてぇ!酷い、酷いわぁ!!」

 

「もが……ぷはっ!……ナターシャさん……来てくれたんですね」

 

 

来てくれたのはアメリカのIS操縦者、ナターシャさんだった。

 

わざわざアメリカから来てくれたのか……モデルとかの仕事で忙しいはずなのに。

 

 

「ショウゴが結婚するなんて言うから、仕事全部キャンセルして飛んできたわよ!チフユから招待状来ていたし」

 

 

千冬さん、ナターシャさんに送っていたのか……。

 

 

「この際、結婚するのは100歩譲って許してもいいけど、なんで直接教えてくれなかったの!?私だって、ショウゴのこと愛してるのに!」

 

「ご、ごめん……いろいろ忙しくて……」

 

「もう……本当に、ショウゴは私の心をくしゃくしゃにするんだから……」

 

 

そう言うと、抱きしめたままだった手を解き、僕の事を見た。

 

 

「結婚、おめでとう。離婚したら、私がいるからね」

 

「なんでそんな不吉なこと言うのさ!」

 

「冗談よ。でも、私はいつでもウェルカムよ」

 

 

そう言うと、投げキッスをして部屋から出て行った。

 

今日は台風でも来ているのか……?




どうだったでしょうか?

さすがにこの時期に将冴は箒やセシリアをさん付けしていないだろうという希望的観測でさん付けしてません。

パート2に続きます。明日更新予定。


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番外編:なんやかんやあって卒業してクラリッサと結婚しました。その2

番外編続きです。
多分、その3で終わります。

今回はあのお姉様方と最終決戦兵器(胸部装甲的な意味で)が……


一夏達やナターシャさんがいなくなって、やっと静かになったと思ったら、僕に静寂は訪れないようだ。

 

なぜこんなことを言うのかというと、わざと鳴らしていると思われるヒールの音が二つ聞こえるから。

 

僕の予想が正しければ、多分その二人の他にもう一人いると思うんだけど……

 

 

バンッ!

 

「将冴!来てやったぞ!」

 

「オータム、少し静かにしなさいな」

 

「なぜ私まで付き合わなければならないんだ……」

 

 

予想通り、生徒会室に入ってきたのは三人。オータムさん、スコールさん、マドカだった。

 

 

「三人とも、来てくれたんだ」

 

「当たり前じゃない。地球の裏側からだって駆けつけるわよ」

 

 

僕の頭を撫でるスコールさん。その声は少し寂しそうな感じがする。

 

その様子を見ていたオータムさんが、何やら苛立った様子で腕を組んでる。

 

 

「あら、オータム。何か言いたいことあったんじゃないの?」

 

「な!ね、ねぇよ!そんなの……」

 

「嘘つけ、昨日ずっと将冴と会ったらなんて言えばいいとかしつこく私に聞いていたではないか」

 

「ま、マドカ!」

 

「ほら、言っちゃいなさいな」

 

 

スコールさんがオータムさんの背中を押して、僕の前に連れてくる。オータムさんよ顔が赤くなっているのがわかる。

 

 

「えっと……その……」

 

 

モジモジと自分の人差し指と人差し指をくっつけたり、くるくる回したりしている。

 

 

「オータムさん?」

 

「結婚、おめでとぅ……し、幸せにな……」

 

「うん、ありがとうございます」

 

「あら、まだ言うことあるんじゃなかった?」

 

「スコール!余計な事を!」

 

 

もう耳まで真っ赤になってしまったオータムさんは、まるで決死の覚悟を決めるかのように手を握る。

 

 

「わ、私も好きだったんだからな!幸せにならないと、ぶっ飛ばすからな!くそぉぉぉ!!」

 

 

そのままオータムさんは生徒会室を走り去っていった。

なんか勢いに任せて告白された?

 

 

「初々しいわね。まぁ、あの子からしたら初恋だったものね。私もそろそろ行くわ。式の途中で攫って行くから、よろしく」

 

「そんなドラマじゃないんだから……」

 

 

スコールさんはオータムさんを追うように生徒会室から出ていった。マドカは呆れたようにやれやれと首を横に振る。

 

 

「騒がしくてすまんな。二人とも、お前の結婚がかなりショックだったみたいだ」

 

「ショックって……」

 

「罪作りな男だと、私ですら思うぞ」

 

「知らない間に、いろいろ業を生んでいたみたい」

 

「まぁ、あの二人は大丈夫だろう。そういえば、私からは伝えていなかったな。結婚おめでとう。月並みだが、幸せにな」

 

「ありがとう、マドカ」

 

 

お互いに握手をする。マドカとこんな話をするのも、妙な感じだ。

 

 

「では、私は二人のフォローに行ってくる。また後でな」

 

「うん、またね」

 

 

マドカも出て行く。今日は客が多いなぁ。

 

まだくるかな?あと少ししたら、式も始まると思うんだけど……。というか、式の流れを全く聞いてないんだけど、大丈夫なのかな。

 

 

「将冴君」

 

 

突然、名前を呼ばれる。目を向けると、綺麗に着飾った山田先生が扉の所に立っていた。

 

 

「山田先生」

 

「緊張、してますか?」

 

「緊張する間も無く、いろんな人が訪れてきて、正直疲れてます」

 

「ふふ、まだ式は始まってませんよ?」

 

 

山田先生は笑っている。さっきまでの来客よりも、おとなしいと言ったら変かもしれないけど、疲れてぐったりすることはなさそうだ。

 

 

「でも羨ましいですね、結婚式。私もしたかったです」

 

「したかったって、山田先生はこれからじゃないですか」

 

「そうかもしれませんけど……その……できれば将冴君と……」

 

「僕と……?」

 

「あ、冗談です!冗談!私もいい人見つけなきゃですよね?」

 

 

慌てる山田先生の目が少し潤んでいた。

さっきのは冗談じゃなくて……。

 

 

「今日は将冴君とクラリッサさんの門出です。式の運行は任せてください!この後、織斑先生が迎えに来ますから」

 

「……はい。わかりました」

 

「あと、結婚おめでとうございます。幸せになってくださいね」

 

「ありがとうございます、山田先生」

 

「それでは、失礼します」

 

 

出て行く山田先生の背中を見て、僕は今の今まで山田先生の気持ちに気付いていなかったことに後ろめたい気持ちになった。

 

山田先生だけじゃない。いろんな人の気持ちに気付いてあげられなかった。一夏よりはわかってるつもりでいたんだけどなぁ……一夏のことは言えないかな。簪の言う通り、僕はタチが悪い。

 

それから10分ほど経って、生徒会室の扉が開いた。今日は何回も開けられている扉は、若干建て付けが悪くなってしまったのか、音が歪んでいる。

 

 

「準備はできているか?将冴」

 

「はい、大丈夫です。織斑先生」

 

 

入ってきたのは織斑先生。いつものスーツ姿だ。見慣れたその姿に、なんだかホッとする。

 

 

「千冬でいい。お前はもう卒業したんだ」

 

「そうでしたね、千冬さん」

 

 

名前で呼べば出席簿が頭に襲いかかるのだが、今日は落ちてこない。とはいうものの、僕は一度も出席簿をくらったことがないので、どの程度痛いのかは知らないけど。

 

 

「では、行くとしよう」

 

 

千冬さんがゆっくりと車椅子を押しくれる。




次で最後ー。

だんだんスランプもよくなってきたかなという感じです。明後日から本編更新していきます。


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番外編:なんやかんやあって卒業してクラリッサと結婚しました。その3

番外編最後。

本編の方も、読者の方からアドバイスいただいたので、なんとか形にできそうです。
本当に、読者の方々に助けていただいてます。ありがとうございます。


結婚式場である講堂までの道。千冬さんから段取りを伝えられる。まぁ、一般的な結婚式と変わらない。

 

 

「式の時は義足をつけるのか?」

 

「はい。こういう時くらいカッコつけたいです」

 

 

足があるんだから、自分で立たなきゃ。今までクラリッサに支えてもらった分、僕がクラリッサを支えるんだ。

 

 

「そうか……思えば、この数年はお前のことばかり考えていた」

 

「千冬さん?」

 

「ドイツで一緒に暮らした。一年空いたが、IS学園でも一緒に過ごせた。いつも心配していた。だけど、将冴は強かった。泣き言は言わず、ハンデを背負っても強く生きていた」

 

 

車椅子が止まる。

振り返り千冬さんを見ると、嬉しそうな表情で目を潤ませていた。

 

 

「もう、こうやってお前の車椅子を押すことはないのかもしれないな」

 

「……」

 

「結婚、おめでとう。先を越されてしまったな」

 

「ここまで来れたのは千冬さんがいてくれたからです。千冬さんがいなかったら、こうはなりませんでした。本当にありがとうございます」

 

 

千冬さんは一筋涙をこぼし、すぐに指で拭った。

 

 

「お前は、私の家族だ。これからもな」

 

「はい、千冬さん」

 

「さ、早く講堂に行こう。みんな待ってる」

 

 

再び車椅子を押してくれる。

お互い、アリーナに着くまで何も話さなかった。

 

 

 

講堂に着くと、本当の教会のように装飾されていた。

両サイドに椅子が並べられ、みんな座っている。山田先生は司会のようで、前の方で立っている。

一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪、同級生の皆、涙目の楯無さん、虚さん、スコールさん、オータムさん、マドカ、ナターシャさん……シュバルツェ・ハーゼのみんなもリョーボさんもいる。

 

 

「緊張しているか?」

 

「いえ、こんなに知り合いがいるのに、緊張なんてできませんよ」

 

「そうか」

 

 

僕は義足をつけて立ち上がり、椅子の間を歩く。みんなが僕の事を見て笑いかけてくれる。

 

みんなの前まで来たら、あとは待つだけだ……。

 

 

「新婦の入場です」

 

 

山田先生の言葉と同時に、講堂の扉が開く。

 

真っ白な、純白のドレスをきた愛しい人……クラリッサがそこにいた。

一歩ずつ、歩いてくる。

 

 

「クラリッサ……綺麗だよ」

 

「将冴……」

 

 

僕の前まで着いたクラリッサを見ると、もう言葉にしていた。

 

クラリッサと腕を組む。なんだか、さっきまで緊張してなかったのに、一気に緊張してきた。

 

さっき聞いた段取りでは、ここで神父が……。

 

 

「やっほーい!本日の司祭様は、束さんだよーん!」

 

 

どこからともなく、大天災が現れた。

会場が唖然としている。

 

 

「た、束さん!?」

 

「後でとっちめる……」

 

 

殺気を含んだ千冬さんの声が聞こえた気がした。

 

 

「はいはい、みんな度肝抜かれてるところ悪いんだけどぉ、早速始めちゃうよ!もうめんどくさいのは飛ばしちゃうから!」

 

「し、篠ノ之博士!?あまり勝手なことは……」

 

「うるさいよ、無駄乳星人!ではでは、まずは誓いの言葉を……くらちゃんはしょーくんの事を愛してますかぁ?」

 

 

やりたい放題とはこのこと……僕はもうどうでもよくなってきたよ……。

 

 

「えっ、あ、はい!愛しています!」

 

 

突然のことで処理しきれていないようだったクラリッサ。

かなり段取りと違うから、戸惑うのは当然だ。

 

 

「しょーくん。しょーくんはくらちゃんと私のことを愛していますか?」

 

 

この司祭ダメだ。

 

 

「僕は、クラリッサを愛しています」

 

「むぅ、振られちゃった……」

 

 

むくれてないで、続きをしてくれないかな。

 

 

「では、指輪の交換でーす」

 

 

やる気を感じない声で言われた。束さん、やるなら最後までしっかりやろうよ。

 

と、指輪を持ってきてくれたのはクロエさんだった。まぁ、束さんが来ていたら、クロエさんも来ているだろう。

 

 

「どうぞ、将冴様、クラリッサ様」

 

「ありがとう、クロエさん」

 

 

クロエさんから指輪を受け取り、クラリッサの左手の薬指にはめる。

 

 

「なんだかめちゃくちゃだね。結婚式」

 

「そうだな。でも、これもなかなかいいものだ」

 

 

クラリッサもクロエさんから指輪を受け取り、僕の指にはめてくれる。

 

 

「はい、では次はメインイベント!誓いのキッスです!」

 

 

指輪をはめた余韻すらも与えない束さん。これは色々とどうなんだ?

 

とりあえず、言われた通りにしよう。

クラリッサのヴェールをあげる。

 

綺麗に化粧をしているクラリッサ。

でも、少し顔が赤いのがわかる。

 

 

「緊張するね」

 

「いつもしているではないか」

 

「でも、こういう場だとさ……」

 

「確かに……少し照れくさいな」

 

「愛してるよ、クラリッサ」

 

「私も、愛してる」

 

 

お互いに顔を近づけ、唇が触れ合った。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

〜現在〜

 

「あの後も大変だったよね。一夏達専用機組が、ISに乗って祝砲あげたり……」

 

「篠ノ之博士と楯無が将冴を拉致しようとしたりな……」

 

「ふふ、千冬さんのアイアンクローをまともに受けてたっけ」

 

 

普通とは思えない結婚式。でも、楽しかった。一生忘れない思い出だ。

 

 

「っと、そういえばもう着いてたんだよね。早く荷ほどきしなきゃ」

 

「ああ、そうだな」

 

 

車から降りると、そこはドイツ軍の女子寮。僕がドイツにいた時暮らしていた、あの寮だ。

 

 

「しかし、本当に良かったのか?ドイツ軍に入るなんて……私がドイツ軍をやめて、日本に残るという選択肢も」

 

 

そう、僕はドイツ軍に入ることになった。ラウラというコネを使ってシュバルツェ・ハーゼ隊に入隊することになっている。

 

本当は結婚式を終えたらすぐにドイツに来る予定だったんだけど、日本政府にごねられたり、いろんな資料書かされたり、ドイツ国籍とったりしている間に一ヶ月も経ってしまった。おかげで、クラリッサと新婚旅行にも行けていない。というか、クラリッサとあまり会えなかった。許すまじ……

 

 

「ううん、いいんだよ、これで。ISを動かす仕事に就きたかったし、大学はお金がかかるから行くつもりはないし、それにクラリッサと同じ職場がいいから」

 

「そ、そういうことをサラッと言うな……嬉しいけど……」

 

 

恥ずかしそうにするクラリッサ。全く、可愛すぎるな、僕のお嫁さんは。

 

 

「荷物、結構あるからね。急いでも夜になっちゃうかな」

 

「ああ、そうだな……夜に……」

 

「どうしたの?クラリッサ」

 

「将冴!」

 

「今日、荷ほどきが終わればゆっくりできるんだな!」

 

「うん、そうだね。正式な入隊は一週間後だし……」

 

「なら……」

 

 

クラリッサがなにやら意を決したような表情を浮かべる。

 

 

「今夜が……初夜ということでいいな!」

 

「そういうことは大声で言わないの!」




こんな終わり方でいいのか……いいよね。クラリッサが最後の最後で残念な感じになる……うん、アリだね。

いかがだったでしょうか。完全な思いつきでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

明日から本編です。
本編は、今回の番外編のことは忘れて、お楽しみください。


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60話

とうとう60話。
以前投稿していたGEを番外編含めて抜いてしまいましたね。

びっくりなのが、UAが10倍近く違くて、お気に入り数がGE2桁なのに対してIS4桁なんですよね。
もうね、作者が一番びっくりしてます。

これからも楽しんでいただけたらと思います。


 

放課後。

 

今日は体調もいいし、みんなとISの練習ができそうだ。昨日はとてもそんな事できそうになかったし、織斑先生も許してくれるだろう。

 

 

「将冴、放課後はどうするんだ?」

 

 

ヘルパーであるクラリッサが車椅子に手をかけながら聞いてくる。

 

 

「一夏たちと訓練かな。もう怪我は治ってるし、乗らないと鈍っちゃうから。それにもうすぐ学年別トーナメントあるからね」

 

 

学年別トーナメント。所謂、個人トーナメント戦だ。3日間かけて、各学年毎に行う。いろんな国の偉い人とかも観に来るらしい。スカウトとかもされるって、聞いた気がする。

 

 

「わかった。ではアリーナだな」

 

「うん、みんなと一緒にね」

 

 

ちょうど、一夏達も僕を誘うところだったようで、こっちに向かってきていた。

 

 

「将冴、今日は大丈夫か?」

 

「うん。問題ないよ」

 

「ではアリーナまで行きましょう。時間は限られていますわ」

 

「将冴の操縦か……楽しみだね」

 

「生半可な気持ちで戦うと、シャルルも足元掬われるぞ?」

 

 

一夏、セシリアさん、シャルル、ラウラが話している中、箒さんは何やら浮かない顔をしている。

 

 

「箒さん、どうかしたの?」

 

「え、いや……なんでもないぞ。さ、アリーナに行こうではないか」

 

「うん……」

 

 

何だろう……気になる。

 

 

「篠ノ之の様子、少しおかしかったな」

 

「クラリッサもそう思う?」

 

「ああ。何か悩みでもあるのではないか?」

 

 

悩み、か。思い当たるとすれば……一夏の事、束さんの事。

 

んー、もしかしたら

 

 

「少し、箒さんとお話ししなきゃいけないかも。あと、束さんとも……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

アリーナに到着し、みんながISを纏う。クラリッサは観客席でアリーナの様子を見るようだ。

 

一夏、箒さん、セシリアさん、途中で合流した鈴は一夏を特訓するみたいだ。

 

 

「へぇ、改めて見ると、ロボットアニメとかに出てきそうなISだね」

 

 

シャルルがテムジンをまじまじと見ながら呟く。

僕の第一印象と少し似てる。

 

 

「シャルルのはラファール・リヴァイヴだね。確かデュノア社製の……ああ、シャルルはそこの会社の……」

 

「まぁ、そうだね。僕のお父さんの会社だよ」

 

「そっか。所々、普通のラファールと違うからカスタム機かな。是非とも手合わせ願いたいね」

 

「こちらこそ、篠ノ之博士の作ったISと手合わせなんて光栄だよ」

 

 

ラファール・リヴァイヴは第二世代の機体だ。それでも代表候補生になったシャルルの実力を見てみたい。

 

 

「待て、まずは私と試合をしてくれ。一年も待ち望んでいたんだ」

 

 

ラウラが待ったをかける。

ラウラと試合……一年でどうなったかも確認したいところだけど、どうしようかな……。

 

あ、そういえば。

 

 

「ラウラ、僕たちの勝負はこんな練習の合間にやるような小さいものだったかな?」

 

「なに?」

 

「どうせなら、もっと観客のいる場所で勝負したくない?」

 

「どういうことだ」

 

「もうすぐ学年別トーナメントっていうのがあってね。そこなら、大勢の観客の前で戦える。日本での最初の一戦、盛大にやろうよ」

 

 

ラウラは考え込むように腕を組む。

結構いい案だと思うのだけど……。

 

 

「わかった、いいだろう。それまでは、私と将冴の手合わせは禁止だな?」

 

「そういうこと」

 

 

僕もラウラとの勝負は楽しみにしていた。どうせなら大会でやったほうが楽しそうだ。

 

 

「じゃあ、僕と手合わせしてくれるのかな?」

 

「いや、シャルルともトーナメントで戦いたいな。それまでのお楽しみってことで」

 

「わかった、いいよ」

 

「それじゃ、今日は一夏をしばき倒そうか。ふふ、楽しみだなぁ……」

 

 

その瞬間、ラウラとシャルルがぶるっと身震いした。

 

 

「どうしたの?二人とも」

 

「いや、なんでもないよ将冴」

 

「ああ、なんでもないぞ。私はシャルルと少し練習していくから、先に行ってくれ」

 

「そう?じゃあ、お先に」

 

 

様子がおかしかったけど、まぁ気にすることでもないかな。

 

 

 

「ラウラ、さっきの将冴怖かったんだけど……」

 

「クラリッサから聞いたことがある……将冴は織斑きょうか……織斑先生に説教できる人物だと……」

 

「え、将冴が、あの織斑先生を……?」

 

「もしかしたら、奴がこの学園で一番強いのかもしれない……」

 

「ま、まさか……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

一夏の特訓に僕も参加することにしたと伝えると、一夏が安心したような顔を浮かべた。

 

 

「将冴、助かったぜ」

 

「助かったって……そんなひどい事されたの?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

 

一夏がチラリと女性3人の方に目を向けると、何やら言い争いをしている。

 

 

「だから、ここはバーンっとやって、次にがぁーっと」

 

「いいえ、そこは右に40度の角度に回避行動を」

 

「あんなのね、感覚でどうにかなるのよ!感じたままに動けばいいの!」

 

 

ああ……これは酷い……。

 

 

「将冴、頼むから将冴がレクチャーを……」

 

「いや、ここはセシリアさんと鈴に任せるよ。僕は箒さんに用事があるから」

 

「マジかよ……」

 

 

落胆する一夏の背中をポンポンと叩き、僕は言い争ってる3人のところに向かう。

 

 

「3人とも、ちょっといいかな?」

 

「なんだ!」

「なんですの!」

「なによ!」

 

 

いや、僕にあたらないで欲しいんだけど。

 

 

「えっと、セシリアさんと鈴で一夏に特訓して欲しいんだよね。で、箒さんはちょっとお話があるんだけどいいかな?」

 

「私か?」

 

「うん。どうせだから、ISの練習しながら。ね?」

 

「……わかった」

 

「ありがとう。じゃあ、二人とも頼むね」

 

 

さて、箒さんのお悩みが僕の予想通りだといいんだけど。




ガチスランプがプチスランプになった感じ。

まだまだ本調子ではありませんが、お付き合いください。


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61話

お久しぶりです、作者です。
おとといぶりでございます。

昨日は煮詰まってしまったので1日お休みさせていただきました。展開は浮かんでいるのに、文が書けないという感じです。

しばらくはこんな感じが続くかもしれませんが、おつきあいくださいませ。


「それで、私に話しとはなんだ?」

 

「まぁ、そんな急かさないで、久しぶりに剣道なんてどう?前に手合わせしたのは、僕が腕を無くす前だからかなり前だよね」

 

 

いつも片手で扱っているセイバーを両手で構える。

 

 

「生身じゃなくてISだけど、どうかな?」

 

「わかった。一本勝負でいいな?」

 

 

箒さんが刀を構える。打鉄の基本兵装だったかな?

僕のセイバーは剣道には向いてないだろうからなぁ……日本刀的なの欲しいかも。

 

 

「うん。じゃあ、行くよ」

 

 

スラスターは使わずに地面を蹴る。放つのは面。

 

箒さんは簡単に受け流してしまう。まぁ、これくらいは序の口か。しかし、箒さんは不満そうな顔をする。

 

 

「なぜスラスターを使わない。瞬時加速やあのターンを使えば、簡単に私の背後を取れるだろう」

 

「言ったでしょ?剣道をしようって。剣道には瞬時加速もバーティカルターンもないよ」

 

 

一気に接近して、再度面を狙うが箒さんは刀で受ける。そしてそのまま鍔迫り合いとなる。

 

 

「今はISに乗っているのだ。ISらしい戦いをするべきではないのか?」

 

「確かにその通りかもしれないね。でも、箒さんが悩みを抱えたままISの練習をするのは、箒さんのためにならないと思うから」

 

「悩みだと?」

 

 

お互いに押し合い、距離を取る。一歩踏み込めば、また剣が交わる距離だ。

 

IS越しにみる箒さんの顔は少し狼狽している感じがする。見抜かれていた、とでも思っているのかな。

 

 

「僕の予想だと一夏のことかな?」

 

「……」

 

 

黙ったまま……。図星ってところかな。

 

 

「一夏のことは、さしずめ遠くに行ってしまったと感じるってところかな。一夏は専用機を持ち、セシリアさん達と同じところにいるように感じる。自分もあそこに行きたいって思ってるとか?」

 

「……無駄に鋭いのだな。反論する気も起きない」

 

「そりゃどうも」

 

 

僕の予想どおりということか。

まぁ、簡単に言ってしまえば、箒さんは一夏と並べる力が欲しいんだ。恋する乙女、というやつ?

 

 

「で、箒さんはどうしたい?」

 

「……強くなりたい。力が欲しい。一夏の隣にいれるように、強い力が……」

 

「力ね……」

 

 

力だけを追い求めるのは、一つの正解かもしれない。おそらく、箒さんの求める力っていうのは専用機とか、そういう形のものだろうな。でも、箒さんに今必要なのは力ではないと思う。

 

 

「箒さん、力だけ求めても意味はないと思うよ」

 

「なにっ……どういうことだ!」

 

「今の箒さんには、強い力を受け止めることはできない。力しか望まない、今の箒さんでは……」

 

「では、私はどうすればいいというのだ?専用機を持っているわけではない私は、どうすれば一夏に追いつけるというんだ!」

 

 

専用機ね……多分、束さんに頼めばいつでも作ってくれると思うけどね。まぁ、頼まなくても作りそうだけど。

 

 

「専用機がなくても、一夏より強くなればいい。簡単なことだよ。己を強くすればいい。剣道みたいにね」

 

 

再度セイバーを構える。

 

 

「剣道と同じだよ。心技体を強くする。たったそれだけ」

 

「将冴……」

 

「さ、まだ勝負はついてないよ?」

 

「……ああ。そうだな」

 

 

お互いに剣を構え、次の瞬間一気に踏み込んだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「で、結局どっちが勝ったんだ?」

 

 

アリーナの練習を終えて僕とクラリッサ、ラウラ、シャルルは夕食を取っていた。他の人たちは一夏と一緒に食べたいようで、違う場所で食べてる。

 

ラウラが、僕と箒さんの勝負の結果を聞いてくる。

 

 

「見事に突きを食らって僕が負けた」

 

 

クラリッサに夕食を食べさせてもらいながら、ラウラの質問に答える。

 

 

「え、将冴負けちゃったの?」

 

「うん。高校から剣道で突きが使えるの忘れてて、完全にノーマークだったところすぽーんと」

 

「でも、将冴ってセシリアやラウラにも勝てるほどの実力があるんでしょ?」

 

「剣道のルールでやってたからね。これは箒さんの方が剣道の実力があるっていうことだよ」

 

 

ISバトルだったら〜、なんて言い訳はしない。完全な僕の敗北だ。

 

 

「しかし、将冴に怪我がなくてよかった。篠ノ之の刀が将冴の喉に突き刺さった時は、一瞬息が止まったぞ」

 

「いや、突き刺さってはいないから……」

 

 

クラリッサが心配そうにこちらを見ている。

ISの絶対防御のおかげで僕が怪我することはなかったけど、衝撃はものすごかったなぁ。少し呼吸困難になったし。さすが全国優勝者。

 

 

「まぁ、大事に至らなくてよかったではないか」

 

「うん。もう二度と喉に攻撃は受けたくないよ」

 

 

刀が迫ってくるのは、絶対防御があるとわかってても怖かったし。

 

 

「さて、もういい時間だ。私は部屋に戻らせてもらう」

 

「あ、僕も一夏回収して部屋に戻んないと。将冴、クラリッサ先生、また明日」

 

「うん、二人ともおやすみ」

 

「おやすみ」

 

 

ラウラとシャルルは食器を片付け、自室に戻っていった。

 

 

「僕たちも戻ろうか」

 

「ああ。将冴の荷物を解かなくてはいけないからな」

 

 

そう、今日からクラリッサと一緒の部屋になるんだ。

不思議と、山田先生の時よりは緊張はしていない。やっぱり、前からの知り合いだからっていうのもあるのかな。

 

 

「ごめんね。いっぱいお手数かけて」

 

「構わないさ。私は将冴のためなら、なんだってする」

 

「うん……ありがとう、クラリッサ」

 

 

食器を片付け、クラリッサは車椅子を押してくれる。

本当に、何から何まで世話になりっぱなしだ。義肢が戻ったら、何かお返ししないと。

 

 

「そうだ、荷ほどきの前にシャワーに入ろう。私が洗ってやる」

 

「え……」




箒さんの問題は、これで解決でいいかな(震声

正直、同世代組の問題はあまり触れたくなかったりします。クラリッサとか千冬さんとかやまやとかの方が書きたいです。


さて、ここで紹介したいものがあります。
前に書いてた番外編の将冴の結婚式。それの裏側を禿げ眼鏡様がスピンオフとして書いてくださいました!ご本人から許可をいただきましたのでご紹介させていただきます。

「一発ネタ AC×IS 将冴君の結婚式の裏側」

将冴君の結婚式の裏で、こんなことが起きていたのです。ぜひご覧ください。

こういったスピンオフ的なのは作者大好物です。


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62話

そろそろ物語を転がさないとなぁと思いつつ、クラリッサとイチャイチャしたい作者です。

GEが楽しすぎてついついサボりそうになりますが、書いていきます。


クラリッサが来てから二週間ほど経った。クラリッサが介助してくれるおかげで日常生活に何ら問題はなく、シャワーのたびに僕の中で何かがすり減る以外、良好だ。

 

最近、一夏の特訓に付き合っているけど、それとは別に箒からもISの特訓を頼まれるようになった。

 

 

「私に稽古をつけてくれ!あとさん付けしないでくれ」

 

 

といった具合に、ISの特訓をしている。

僕がこの間お話ししたのが効いたのかな。僕としては嬉しい限りなので、快く引き受けている。

 

まぁ、そんな感じで最近は平和な日々を過ごしている。

 

でも、今日はちょっと慌ただしくなると思っている。

 

 

「それでは、取材させてもらいますね〜。あ、私は新聞部の黛薫子。よろしくね、シャルル君」

 

 

僕に呼び出された一夏とシャルルが、新聞部の部室で黛先輩に取材されている。

 

これはシャルルが転入してきた当日に、僕と黛先輩の間で交わされた取引の結果だ。

 

 

『階段下りるの手伝ってくれたら、一夏とシャルルにアポイントメント取っておきますよ』

 

『オッケー、のった』

 

 

という取引があったので、一夏とシャルルには供物として黛先輩に捧げた。

 

 

「じゃあ、まずは……」

 

「くっそー、将冴め……今度のトーナメント覚えてろよ……」

 

「あはは、一夏じゃまだ勝てないんじゃないかな?ていうか、なんで僕まで……」

 

「それでは、黛先輩。僕はこの後予定があるのでこれで失礼しますね」

 

「了解よ。今度取材させてねー」

 

「お断りします」

 

 

丁重に断ってから新聞部の部室を出る。部室の外ではクラリッサが僕のことを待っていてくれていた。

 

 

「将冴も、なかなか酷いことをするな……」

 

「使えるものは使わないとね。一夏とシャルルには悪いと思ってるけど」

 

「その割には笑顔だな」

 

 

別に楽しんでないよ?面白いだけ。

 

 

「えっと、次は整備室だったか?」

 

「うん。簪さんにISを見せる約束してるから」

 

「わかった」

 

 

クラリッサに車椅子を押してもらうのも慣れてきてしまった。クラリッサもやらなきゃいけない仕事があるのに、僕につきっきりで申し訳ない。早く義肢が戻ってくるのを待つばかりだ。

 

そんなことを考えているうちに、整備室に到着した。簪さんはもういるかな?

 

 

「失礼します」

 

 

整備室に入ると、簪さんと楯無さんが簪さんのIS「打鉄弐式」を整備していた。整備というよりは、制作?

 

 

「あ、将冴君……」

 

「お、来た来た。待ってたわよ、将冴君」

 

「楯無さんも来てたんですね」

 

「ええ、映像は見せてもらったけど、間近で見てみたくてね」

 

 

生徒会長である楯無さんも見たいと言うとは、ちょっと予想外だったかな。

 

 

「将冴、彼女はロシアの国家代表だぞ。下手にISを見せないほうが……」

 

「楯無さん、そんなにすごい人だったのか。でも、大丈夫だと思うよ。楯無さんは国家代表の前に生徒会長なんだし」

 

「どうしてそう言い切れるんだ……」

 

「生徒会長は生徒のことを生徒の立場から考えるのがお仕事だから、だよ」

 

 

さて、時間も限られてるし本題に入ろうかな。

 

 

「相談は終わったかしら?」

 

「はい、大丈夫ですよ。楯無さんも見ていってください」

 

「お許しをもらえたようでよかったわ」

 

 

僕は整備室のハンガーにテムジンを展開する。

整備状態では、テムジンの胸の部分が開いており、乗り込むことができるようになっている。

 

 

「すごい!なんだかコックピットみたい!わぁー、あのISが目の前に!将冴君、これ触ってもいい?」

 

「どうぞ」

 

 

テンション上がりまくっている簪さんに気圧される。簪さん、本当にロボットとか好きなんだろうなぁ。

 

 

「ねえ、将冴君」

 

「何ですか?楯無さん」

 

「この背中についてるディスクは何?」

 

 

V.コンバータのことか。楯無さんには申し訳ないけど……

 

 

「すいません、それにはお答えできません」

 

「企業秘密、ということかしら?」

 

「そんなとこです」

 

「……わかったわ。じゃあ、何も聞かない」

 

「そうしてくれると助かります」

 

 

束さんが作ったものなんて生徒会長に知られたらどうなるかわかったものじゃないからね。

 

 

「ねえ!ねえ!変形しているところ見たいんだけど、いい?」

 

「もちろん。フォームチェンジ『ライデン』」

 

 

音声認識で命令を出す。

テムジンの装甲が粒子化し、また再構成され、ライデンが現れる。

 

 

「わぁ!変形した!でも変形というよりは機体そのものが変わったような感じ」

 

「拡張領域に各フォームがインストールされてるんだ。それを再構成することで、いろんなフォームを使えるんだ」

 

「そうなんだ……ねぇ、他の何があるの?」

 

「他?後はアファームドとその他二つだね」

 

「全部で5つもあるんだ」

 

「まあ、使うのはテムジンとライデン、アファームドだけだけどね。他はほとんど使わない」

 

「え、どうして?」

 

「それは……」

 

「簪、すまないがそれ以上は答えられない」

 

 

クラリッサが僕の代わりに答えてくれる。

ちょっと精神衛生的に危ないから、僕もあまり答えたくないんだよね。

 

 

「わ、わかりました」

 

 

クラリッサの言葉ですぐに縮こまってしまった簪さん。楯無さんはそんな簪さんの頭を撫でながら、僕の方を向いた。

 

 

「まぁ、企業のISだものね、詳しくは聞かないわ」

 

「助かります」

 

 

そのあと、簪さんが満足するまでテムジンを見せて、楯無さんはそんな簪さんの姿を涎を垂らしながら見ていた。




更織姉妹を出すことが難しかったり。まぁ、どうにかなるでしょう。

将冴がだんだん黒くなっていく……


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63話

スピンオフを書いていただいて、テンション上がっているsha-yuです。

そろそろ原作の話をいれたいなぁと思っています。頑張ります。


テムジンを簪さんに思う存分見せてあげていたら、もう日が暮れていた。まさかそんなに気に入ってくれるとは思わなかった。

 

更識姉妹とはそこで別れて、クラリッサと学生寮の自室まで行くと何やら箱を持った織斑先生が僕たちの部屋をノックしようとしているところだった。

 

 

「織斑先生」

 

「将冴にクラリッサ。どこかに行っていたのか」

 

「はい、更識姉妹と整備室に。将冴のISが見たいと言われたので」

 

「そうか。っと、将冴。お前に荷物が届いているぞ」

 

「僕にですか?」

 

 

織斑先生は持っていた箱をこちらに見せてくれる。そこにはMARZの文字があった。ということは……

 

 

束さん(社長)からですか?」

 

「ああ。将冴が修理に出していた義肢だろう」

 

 

やっと義肢が帰ってきた!これでトイレやシャワーて色々とすり減らさなくて済む。

 

 

「用件はそれだけだ」

 

「ありがとうございます、織斑先生」

 

「礼は(あいつ)に言え。連絡がないと、寂しがっていたぞ」

 

 

織斑先生はクラリッサに箱を渡して自室に戻っていく。

確かに、束さんとしばらく話してないな。クロエさんが義肢を持って行くとき置き手紙してくれたけど、僕から何か話したってことはなかったし、夕食前に電話しておこう。

 

それに、もう一つ電話したいところもあるしね。

 

 

「将冴、何か考え事か?」

 

「少しね。さ、部屋に入って義肢の調子を確かめないと」

 

「ああ。……もう少し今のままでも……」

 

「何か言った?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

なんでもないならいいけど……。とりあえず、今は義肢だ。

 

部屋に入り箱を開けてみると、腕と足が入っている。これだけ見るとびっくりするな……。

 

 

「なんか、犯罪を犯した気分になるな」

 

「バラバラ殺人?怖いね、それ。とりあえず、腕からつけようかな。クラリッサ、お願いできる?」

 

「ああ。まず上着を脱がさなきゃ行けないな」

 

 

クラリッサが僕の上着を脱がせ裸にし、右腕の接続部に義手をつける。

 

ガチャンという音がして、腕が接続された。

 

 

「どうだ、動くか?」

 

 

指先を動かしたり、腕を回したりしてみる。なんの違和感もない。さすが束さん、完璧だ。

 

 

「うん、大丈夫みたい」

 

「それじゃ、左腕も行くぞ」

 

 

右腕と同じように左腕もつける。こちらも問題ないね。

 

 

「腕は大丈夫みたいだね」

 

「よかった。では、足も確認しよう。ズボンを脱がすぞ」

 

「え!?いや、もう自分でできるからいいよ!」

 

「遠慮するな。もう全部見ているんだ、恥ずかしがることもないだろう」

 

「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!?」

 

 

クラリッサが僕のベルトを外し、ズボンを脱がそうとする。なんとか脱がされないようにするけど、今にも脱がされてしまいそうだ。ていうか、パンツも一緒に下ろすつもり!?

 

 

「クラリッサ、本当に自分でやるから!

 

「全部私がやってやる。ほら、手を離して私に全て……」

 

 

バンッ

 

 

「将冴!ちょっと相談があ……る……」

 

 

一夏が突然部屋に入ってきた。

僕は上半身裸でクラリッサにズボンを脱がされかけているこの状況。

 

誰がどう見ても、そういうことだと思ってしまうだろう。

 

 

「えっと……お邪魔しました……」

 

「一夏誤解だから!」

 

 

とりあえず一夏を呼び止め、今の状況を説明する。

 

 

「……なんだ、びっくりしたぜ」

 

「まぁ、しょうがないよ……でも、ちゃんとノックしない一夏も悪いんだよ?」

 

「それは悪かった」

 

「それで、織斑。何か相談があるんじゃないのか?」

 

「あ、そうなんですけど……将冴と2人でというか、俺の部屋に来て欲しいんだけど……」

 

 

僕だけ?男同士じゃないとダメな話なのかな?

 

 

「僕は別にいいけど……」

 

「私も構わない。義肢もあることだし、あまり私がべったり付いていても仕方がない」

 

「ありがとう、クラリッサ」

 

「すいません、ハルフォーフ先生。将冴、お借りします」

 

 

一夏に車椅子を押され、一夏の部屋に向かう。

確か、一夏は今シャルルと一緒の部屋なんだっけ?

 

 

「将冴。その、部屋に入っても驚かないでくれよ……」

 

「え?わ、わかった」

 

 

なんか不穏な雰囲気なんだけど、何が……

 

扉を開けて、部屋に入るとベッドに腰掛けたジャージ姿のシャルルが……なんか違和感があるぞ?

 

 

「こ、こんばんは、将冴……」

 

「こんばんは、シャルル……さん?」

 

 

違和感の正体は、シャルルの胸のあたりだった。

男とは思えないほどに発達しているその胸は……明らかに女性のものだった。

 

しかし、なんとなく僕の中では納得してしまった。

 

 

「将冴。実はシャルルは女だったんだ」

 

「ああ、まぁ、なんとなく納得できたよ。初めて会った時、なんか線が細いし声も高いから変だなぁとは思ってたし。女だって確証はなかったけど」

 

「将冴には、バレかけてたんだね……」

 

 

そう言って苦笑いするシャルル。

なるほど、一夏が僕だけを連れてきたのはそういうことか……。

 

 

「ここに僕が呼ばれたのは、シャルルが女だということを僕に伝えると同時に、シャルルが女であることを隠すための仲間を確保しておこうっていう感じ?」

 

「何も言ってないけど、大体そんな感じだ……」

 

「一夏に聞いたとおり、変に鋭いね将冴……」

 

「それで、どうして女であることを隠したいの?」

 

「それはね……」

 

 

シャルルの話を纏めると……

 

デュノア社はISシェア三位の大手だけど第三世代の機体を作っていないため、イグニッションプランに参加できず国からの援助を切られそう。そこで妾の子であり代表候補生でもあるシャルルを、IS学園に転入させて第三世代機の情報を集めさせようと思い立つ。どうせなら男として転入させて、世界に2人しかいない男性操縦者のデータも集めてやろう。

 

……という魂胆だったらしい。

 

これは、フランス政府も絡んでると見て間違いなさそうだなぁ。

 

 

「なるほどね……それで、そのあとはどうするの?」

 

「IS学園の特記事項でこの学園にいる3年間は大丈夫だと思ったんだ。だから、この3年でどうにかできる案を考えようと……」

 

「まぁ、それもいいと思うけど、早期解決するようにはしないの?」

 

「出来るならしたいさ。でも、俺たちにはそんな力はまだないし……」

 

 

何も詳しく考えていないのか……。

 

 

「とりあえず、僕たち三人がここで話し合っていても、何も意味はないね」

 

「どういうことだ?」

 

「一夏が自分で言ってたじゃないか。僕たちには早期解決する力はない。それじゃあどうするか……力のある人に頼ればいいんだよ」

 

「でも、それだとシャルルが女だって他の人にバラしちゃうじゃねぇか!」

 

「そうだね」

 

 

でも、このIS学園には僕よりもすごい人がいるじゃないか。世界最強が……。

 

 

「ねぇ、一夏、シャルル。この件、僕に一任してくれないかな?」

 

「え?」

 

「そんな、将冴に全て任せるなんてできないよ!」

 

「じゃあ、一夏たちはどうにかできる方法を思いついたの?」

 

 

二人は押し黙る。解決案を持っている僕が動いた方が動きやすいし、近道だと思う。

 

 

「任せてくれるかな?」

 

「……わかった」

 

「……」

 

 

シャルルは黙ったままか……。これだけは聞いておかないといけないかな。

 

 

「ねぇ、シャルル。シャルルは大人達にいいように使われていたい?」

 

「え?」

 

「大人達に使われて、自分の自由もなく過ごしていたい?」

 

「僕は……」

 

「シャルルは男のまま、この学園で過ごしたい?」

 

「……やだ……」

 

 

シャルルは目に涙を溜めて、小さく呟いた。

 

 

「嫌だよ……僕は……私は女の子なんだ。女の子として、みんなと一緒にいたいよ……」

 

「わかった。友達にここまで言われたら、やるしかないね。一夏、シャルルのことフォローしてあげてね」

 

「ああ、わかってる」

 

 

さてと……僕も行動しなきゃな……。

とりあえず、一番強い人を味方につけなきゃ、この問題は解決できない。

 

僕は寮監室に向かって、車椅子を動かした。




シャルルの問題が一番面倒くさいんだぜ!
因みに見切り発車。どうするか詳しく決めてない。多分大丈夫。

スランプから脱出した作者に死角はない!……多分!


さて、今回一つ連絡というか、やってくれたら作者が嬉しいなぁということを。

2話ほど前に紹介しましたスピンオフについてです。
この「偽りの腕を抱くもの」のスピンオフは、自由にしてくださって構いません。してくださったら作者は踊り狂います。作者である私、sha-yuにご一報いただければ全然構いません。
必ず一言、私に伝えてください。

軽いノリで構いません。

「書いてやる」「感謝しろ」「ひれ伏せ」

という感じでも構いません。必ず一言ください。

ちゃんと全て巡回させていただきます。許可をいただければ本編でもご紹介させていただきます。

書いていただけると、作者は本当に喜びます。


長々とあとがき失礼しました。
次回から、将冴君が最強の人を味方に付け世界に喧嘩を売ります(大嘘


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64話

こんにちは。

シャルルの問題が思いの外面倒です。

あ、昨日更新できなかったのはネタが浮かばなかったわけではなく、私の大好きなバンドのthe pillowsのライブに行っていたからです。

たくさん暴れてリフレッシュしてきました。


寮監室の前まで来て、扉をノックする。さっき織斑先生が戻っていったのは知ってるから入ると思うんだけど。

 

ガチャリと扉が開き、シャツにハーフパンツ姿の織斑先生が出てきた。

 

 

「将冴か。どうした?」

 

「ちょっと、相談したいことがありまして……」

 

「……そうか、入れ。立ち話……ではないが、ここで話す話ではないのだろう?」

 

「はい、では失礼します」

 

 

部屋に入るとテーブルの上には蓋の空いた缶ビールが二本と、食べかけのカレーが置いてある。どういう組み合わせなんだ……。

 

 

「もう夕食は食べたのか?」

 

「いえ、まだ食べてないです」

 

「そうか、なら食べていけ。カレーだが大丈夫か?」

 

「レトルトですか?」

 

「手作りだ」

 

 

千冬さんが自主的に料理を……ドイツで家事をできるようにしていて良かった。涙が出るほど嬉しい。

 

 

「何を感動している……」

 

「あの真っ黒フレンチトーストのことを思い出しまして。僕がいなくても部屋も綺麗ですし」

 

「あれだけ叩き込まれれば嫌でも習慣付く。ほら、飲み物は麦茶しかないが、いいか?」

 

「ありがとうございます。織斑先生」

 

「もう今日の仕事は終わっている。先生はやめろ」

 

「わかりました、千冬さん」

 

 

千冬さんは少し微笑みながら、麦茶を僕の前に置いてくれる。

 

手を合わせて、いただきます言い、カレーを一口頬張る。

うん、ちゃんとカレーだ。美味しい。本当にあの真っ黒フレンチトーストを作った人とは思えない。

 

 

「何か失礼なことを考えてないか?」

 

「そんなことないです。カレーおいしいですよ?」

 

「そうか」

 

 

そう言って千冬さんはビールをぐいっとあおる。そして、やや赤らんだ顔で僕の方を真剣な表情で見る。

 

 

「それで、相談とはなんだ?」

 

「はい、シャルルのことなんですが」

 

 

千冬さんの眉がピクッと動く。この様子だと、多分事情は全部知ってる。

 

 

「単刀直入に聞きます。シャルルが女だということを、学園は知っていますよね?」

 

「……ああ。学園では事情を全部把握している」

 

 

やっぱりか……。千冬さんや他の教員の人があんなあからさまに怪しい人物を調べないわけがない。

 

しかし、知っていて学園に転入を許したのは一体……。

 

 

「どうやら、お前は事情を全て知っているようだな。ということは、一夏も……」

 

「はい。今のところ、僕と一夏がシャルルの事情を知っています」

 

「そうか。案外早かったな。あの鈍感な弟のことだから、もう少し時間がかかると思っていたが」

 

「鈍感ではありますが、トラブルメーカーでもありますから。多分、シャルルがシャワーを浴びてる時にシャワー室に入ったんでしょう。一夏のことだから……」

 

「ああ……なんとなく想像つくな」

 

 

ラッキースケベとでも言うのだろうか?とりあえず、一夏は女性に関することだとトラブルに巻き込まれまくる。その度に鈴とかに殴られていたっけ。

 

 

「将冴、シャルルのことを聞きに来ただけか?それに関しては、あまり口外しないようにとしか言えないのだが……」

 

「いえ、シャルルの今後についてお話があるんです」

 

「ほう?」

 

「シャルルの問題を早期解決してあげたいんです。友達として」

 

 

千冬さんの顔が険しくなる。難しいことは百も承知だし、僕がそれを言ったところでどうにもならない可能性があるのも知っている。それでも、泣きそうな顔で女の子として過ごしたいというシャルルを放っておくことはできない。

 

 

「将冴、それがどれだけ難しいことかは……」

 

「承知しています。承知した上で、相談に来たんです」

 

「そうか……」

 

 

千冬さんはビールをまた一口飲み、ふぅと息を吐いた。

 

 

「結論から言えば、できないこともない、と言ったところだな」

 

「可能性はあると……?」

 

「ああ、教師陣でも、解決すべく動いている。フランス政府とデュノア社の間で、不正な金が動いているのは突き止めた」

 

 

ネタは上がっているのか。このネタを世間に公表できれば、フランス政府の信用は落ち、デュノア社は存続できなくなる。

 

 

「しかし、この問題はフランス政府が関わっている。下手に学園が手を出せば、国際問題になるのは明らかだ」

 

「そうですか……」

 

 

IS学園が大きな力を持っているとはいえ、一つの政府相手に喧嘩を売ってはタダでは済まない……。

 

最善の結果は、IS学園が手を出したと思わせず、フランス政府とデュノア社が不正を働き、一人の人間の性別を詐称して日本に送ったということを世間に公表すること。

 

……そんなことをできる……いや、それ以上のことをできる人を、僕は一人知っている。

 

 

「千冬さん。学園としても、この問題は解決したいんですよね?」

 

「ああ、シャルル・デュノアはこの学園の生徒だ。生徒のことを守るのは学園の義務だ」

 

「わかりました。すいませんが、少し電話してもいいですか?」

 

「ん?ああ、構わないが」

 

 

僕は携帯を取り出し、アドレス帳から相手を選び電話をかけた。

 

 

「もしもし……久しぶりです、束さん」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

携帯電話を机の上に置いて、その前で正座待機すること2時間。

 

私……篠ノ之束は、しょーくんからの電話を待っている。今日、しょーくんのところに義肢が届くはず。律儀なしょーくんのことだからお礼の電話をくれるはず!まだかな、まだかなぁ〜。

 

 

「束様、電話を待つくらいなら、こちらからかければよろしいのでは?」

 

「くーちゃん、違うよ!こういうのは相手からかけてもらうから価値があるんだよ!」

 

「はぁ……そういうものでしょうか?」

 

「そういうものなんだよ!」

 

 

そろそろ電話きてもおかしくないんだけどなぁ……まさか、お礼の電話は無し!?しょーくんが反抗期だぁ!束さんは悲しいよぉ、しくしく。

 

なんて泣いていると、電話に着信が!相手は……しょーくん!

 

 

『もしもし……久しぶりです、束さん』

 

「お久しぶりんこ!しょーくんから電話来るのを待っていたんだよ!こうして電話をくれたってことは義肢は届いたんだよね!大丈夫?なんの問題もなかった?今度の義肢は前よりも頑丈に作ったからそうそう壊れないと思うけど……それよりも、しょーくんのことを足蹴にするなんて許せないね!IS学園の雌どもは全て抹殺しなきゃいけないかなぁ、ねぇ、どう思う?しょーくん?」

 

『あー、とりあえず抹殺はやめてあげてください』

 

「ぶぅ〜、しょーくんがそういうならやめるけど……」

 

 

変なことをしてしょーくんに嫌われたくないしねぇ。それよりも久しぶりのしょーくんの声だ!もうこれだけでムラムラヌレヌレになるほど興奮しちゃうよぉ。

 

 

『それで束さん。義肢を直してもらったばかりで申し訳ないんですけど、お願いがあるんです』

 

「むむ!しょーくんのお願いならなんでも聞いちゃうよ!なんて言ったって、束さんの大切な人だからね!もちろん箒ちゃんやちーちゃん、いっくんもだけど!それで、お願い事って何かな?」

 

『はい、実は……』

 

 

しょーくんのお願いは、私からすればどうでもいい国とどうでもいい企業の不正を調べて欲しいっていうことだった。

 

んー、正直気乗りしないけどねぇ、しょーくんの頼みなら聞かないわけにはいかないんだよね。

 

 

「わかったよ!調べておけばいいんだね!」

 

『はい、できるだけ詳しく調べてくれると助かります。多分、それが終わった後にもう一つお願いを聞いてもらうことになると思うんですが……』

 

「うんうん、全然構わないよぉ〜。束さん、今そこそこ暇だし!」

 

『すいません、こんなこき使うみたいに……』

 

「謝らなくていいよぉ。それに、しょーくんにこき使われるのは、それはそれでイケナイ感情が芽生えそうでゾクゾクするし……」

 

『束さん?』

 

 

おっと、いけない。つい考えていたことを口走っちゃった。

 

 

「ううん、なんでもないよ!それじゃ、調べ終わったらデータをバーチャロンの方に送っておくからね!多分明日の午後には終わるから!」

 

『はい、よろしくお願いします。あ、それと……』

 

「ん?」

 

『義肢、ありがとうございます。なんの問題もなく動いてます。そのうちお礼に伺います。それでは』

 

 

そう言ってしょーくんは電話を切った。

 

おおお、なんだか顔が熱くなってきたよぉ〜。

 

 

「束様?なんだか顔が赤いですよ?」

 

「ふ、不意打ちでお礼なんて卑怯だよぉ、しょーくん……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ふぅ……とりあえず、明日までは何もできないので、待つしかないですね」

 

「まさか……束まで使うとはな……」

 

「あまり気は進みませんが……」

 

 

束さんはやりすぎる傾向があるから……とりあえず調べてもらうだけにしてもらったけど、最終的には束さんに頼まなければいけない。

 

 

「しかし、将冴。この問題は、お前が抱え込む必要は……」

 

「友達が苦しんでいるのに、見て見ぬ振りはできませんから」

 

「……あまり、無理はするな」

 

 

ポンと、僕の頭を撫でる千冬さん。

 

 

「身体的なハンデを背負っているから気にかけているわけではない。お前は……」

 

「千冬さん、僕は大丈夫です。僕にできることはさせてください……」

 

「将冴……」

 

「では、そろそろ失礼します。カレー美味しかったです」

 

 

千冬さんの部屋を出て、自分の部屋に戻る。

 

あ、クラリッサはご飯食べないで待ってるんじゃないかな……なんだか申し訳ないことをしたかも。

 

そうだ、もう一つ電話しなきゃいけない場所があったな。まだつながるだろうか。




束さんの変態度が増しました。

シャルルの問題は、案外早く片がつきそうです。


次回、あの人たちが……


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65話

クラリッサとの絡みが少ない気がする……気のせいだよね……気のせいだよね!?


 

部屋の前まで来るとと、扉に紙が貼ってあった。

 

 

『山田先生のところに行っている。

先に休んでいて構わない。

何かあれば連絡してくれ。

クラリッサ』

 

 

山田先生のところに……実習生っていうことになってるし、現役の先生に聞きたいこととかあるのかな?

 

まぁ、ちょうどよかったけど。

 

部屋に入り、ベッドに腰掛ける。

 

 

「さてと……ようやく確かめることができるかな」

 

 

クラス対抗戦前にかかってきた、襲撃を教えてくれたあの電話。あの時はわからなかったけど、今になって考えるとあの声は……。

 

携帯を取り出し履歴からあの電話番号を見つけ、電話をかける。

 

数秒コールした後、電話がつながった。

 

 

『もしもし、束か?さっきも報告した通り、今日は何も……』

 

「オータムさんですか?」

 

『……へ?』

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「だぁ!もう!疲れた〜!」

 

 

アジトにしている、今は使われていないホテルに戻ってきた私……オータムは、今着ているレディーススーツを脱ぎ捨ててソファーに座り込んだ。

 

 

「もう、オータム。帰ってくるなり下着姿にならないの」

 

 

私に続きスコール、エムが部屋に入る。エムはまっすぐ自室として使っている部屋に戻っていく。

 

 

「いいだろ、別に。私らしかいないんだし、今日は特に疲れたんだから」

 

「そのわりには、何も情報は得られなかったけどね」

 

「ったく、本当にドイツに何かあるのかよ」

 

「束博士からの情報よ。間違いないわ」

 

 

私達3人は、現在ドイツにいた。束からドイツに不穏な動きがあるから調べて来いと言われたからだ。あのウサ耳博士にいいようにこき使われてるだけな気がするがな……。

 

 

「それで、明日はどうするんだよ」

 

「明日も軍の方を調査……と行きたいところだけど、フリーにするわ。私、ちょっと会わなきゃいけない人がいるから」

 

「男か?」

 

「男なのは正解だけど、ただの情報屋よ。色々と調べ物を頼んでいたの。それに、可愛げのない男は嫌いなの私」

 

 

スコールの男の趣味はどうでもいいんだがな。

 

 

「あっそう。ま、明日がフリーなら、たらふく飲めるか」

 

「好きになさい。私はもう寝るわ」

 

「あいあい、おやすみ」

 

 

スコールも自室として使っている部屋に戻っていった。さて、一人寂しく酒でも飲むかなっと。

 

 

「確か冷蔵庫に未開封のボトルが……」

 

 

ソファーから立ち上がり、冷蔵庫のところまでいったところで、私が脱ぎ捨てたスーツから携帯のバイブ音が聞こえる。

 

 

「あん?」

 

 

私の携帯に連絡をよこすのは、ウサ耳博士かその娘のクロエとかゆう小娘だけ。また面倒クセェ用件か?

 

つぅか、今日のことはもう伝えたろうが……

 

 

「ったく、人が飲もうって時に」

 

 

スーツから携帯を探し出し、画面も確認せずに通話を繋げた。

 

 

「もしもし、束か?さっきも報告した通り、今日は何も……」

 

『オータムさんですか?』

 

「……へ?」

 

 

誰だこいつ。男の声?ていうか私のことを知ってるだと?なんだ、こいつ一体……。

 

なんか聞いたことある声なんだが……

 

 

『もしもし?オータムさん?』

 

「テメェ、誰だ……」

 

『あ、将冴です。以前、ドイツではお世話になりました』

 

 

将冴って、あの柳川将冴?そうだ、この声は将冴の声だ。

 

 

『あの……オータムさん?何かありました?』

 

「あ、いや何もねぇよ……てか、なんでこの番号知ってんだよ!?束に聞いたのか?」

 

『いえ、前にかけてもらった時の履歴から』

 

「履歴……?」

 

『オータムさん、非通知にするの忘れていたでしょう?電話番号、きっちり僕の携帯に残ってますよ』

 

 

あ……確かに非通知にするの忘れていたかもしれねえ……くっそ、迂闊だった!一番知られたくねぇ奴に知られた!

 

 

『やっぱり、あの時の電話はオータムさんだったんですね。おかげで、被害を最小限にできた……かもしれないです』

 

「なんでそんな自信なさそうなんだよ……」

 

『あの電話、半信半疑だったので。対応が少し遅れてしまったかもしれないです』

 

 

半信半疑だったのかよ!こっちは電話をかけるっていう、嫌いなことをしてまで伝えてやったのに!

 

っと、こんなこと話している場合じゃねぇ。

 

 

「それより何の用で電話してきたんだよ。何か用があったから電話してきたんだろう?」

 

『いえ、ただあの時のお礼が言いたかっただけです』

 

「……は?」

 

 

それだけのために連絡してきたのかよ!

甘ちゃんかよ……。

 

 

『……すいません、迷惑でしたか?』

 

「え?いや、別に……」

 

『そうですか、よかった。本当はもっと早く連絡したかったんですが、義手が無かったり、1人になれる時が無かったりで、なかなかタイミングが難しくて。オータムさんたちは、あまり他の人に知られてはいけない立場の人たちなんですよね?』

 

「あ、ああ。そうだな……」

 

 

直接会ったのは、ドイツのショッピングモールの事件の時だけだってのに、私達が表の世界に顔を出せないのを理解したのか……妙に鋭いな……。

 

 

『それじゃあ、そろそろ切りますね。これ以上は迷惑でしょうし』

 

「わ、わかった……」

 

『あ、そうそう。オータムさんって以外とおっちょこちょいなんですね。前にあった時とか男勝りな人だなぁという印象しかなかったんですが、かわいいところもあるんですね。っと、クラリッサが帰って来ちゃう。それではまた』

 

 

ブツッと通話が切れた。

なんだよあいつ、終わり際に……。

 

ああ、もう、気にしねぇ!酒だ酒!

 

冷蔵庫からワインのボトルを取り出した。その時、冷蔵庫に立てかけてあった鏡に私の顔が映る。

 

 

「な、なんで飲んでもいねえのに赤くなってんだよ!」

 

 

鏡は粉々になった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

僕が通話を切ったと同時にクラリッサが部屋に戻ってきた。

 

 

「将冴、まだ起きていたのか?」

 

「うん。もう寝るところだけどね。クラリッサは山田先生のところで何してたの?」

 

「少し勉強をな。通常科目も出来ていたほうがいいと思って」

 

「そっか。お疲れ様」

 

 

さて、着替えてもう寝よう。明日から、色々と大変になりそうだし。

 

 

「将冴」

 

「何?」

 

「一緒のベッドで寝ていいか?」

 

「ダメ」




お一人様ごあんなーい。

これが将冴クオリティ。誰も抗うことができないのさ!


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66話

今日は全国的に寒いみたいですね。こんな日はコタツでぬくぬくしながらクラリッサの妄想に浸るのがいいですね。

他のISの小説を読んでると、こんな風に展開するんだ〜とか勉強になりますよね。特にオリ主とかのを読んでると、「うちの将冴と絡んだらどうなるのかな……」とか妄想します。

二次創作からさらに妄想するという……私はもうダメかもしれない←


翌日、教室に行くと僕の義肢が戻っているということで一組で一騒動あったが、概ねいつも通りに授業を受けていた。

 

義肢がない間、先生方やクラスメイトのみんなが優遇してくれたノートや補講のおかげで授業にもついていける。学年別トーナメント後のテストも、自信を持って臨めそうだ。

 

さて、そんな感じ授業を終えて放課後。

 

 

「将冴、今日の放課後は?」

 

 

介助のためにずっと一緒にいるクラリッサが放課後の予定を聞いてくる。

 

今日は確か……。

 

 

「将冴」

 

「あ、箒。今日は箒とISの練習の日、だったよね?」

 

「ああ。次の学年別トーナメントまでに強くなりたいからな。指導、よろしく頼む」

 

 

学年別トーナメントまでに……明確な目標を作ることにしたのかな?ちょっと急ぎ過ぎな気がするけど……まぁ、目標があるのはいいことだ。

 

 

「うん。クラリッサ、今日はアリーナで箒と特訓の日だ」

 

「わかった。ではアリーナまで行こう」

 

 

クラリッサに車椅子を押してもらうのが当たり前のようになってしまった。僕も少し耳にした程度なんだけど、僕とクラリッサはセットということになっているらしい。まぁ、四六時中一緒にいるし、そんな話が流れるのはしょうがないか。

 

 

「そういえば、ハルフォーフ先生は将冴がアリーナで練習している間は何をしているんですか?」

 

「私か?管制室の方で監督の教師の人と勉強をな。IS学園の教師は、普通の教師と違う一面もある。その辺りを教わっているんだ」

 

「いつも一緒にいるからわかるけど、十分先生できてると思うけどね。僕は。人一倍頑張ってるもん」

 

「そ、そう言われると照れる……」

 

 

顔を赤くするクラリッサ。いつものこといつものこと。

 

 

「とても先生と生徒という間柄には見えないな……」

 

 

箒が何か言ってるけど、気にしないでおこう。

 

その時、バーチャロンが網膜投影で何か伝えてきた。

 

 

「ん?これは……」

 

 

データファイルが送られてきたみたいだ。束さんからだね。さすが、もう出来たのか。まぁ午後に送るって言ってたし、束さんなら確実だろう。

 

 

「ごめん、二人とも。先にアリーナに行っててくれるかな?」

 

「何かあったのか?」

 

「僕の所属企業から、ちょっとね。2人には話せない話なんだ」

 

 

クラリッサはすぐに納得したようで、頷いてくれる。箒もよくわかってはいないようだけど、外部に漏らしてはいけない事だというのは理解してくれたらしい。

 

 

「わかった。篠ノ之、行くぞ」

 

「は、はい!将冴、アリーナで待ってるぞ」

 

「うん、自主練習してて」

 

 

クラリッサと箒を見送り、バーチャロンに届いたデータファイルを開く。

 

……なるほどね。要約すると、デュノア社は現在社長であるアラン・デュノアではなくその妻……つまりはシャルルの義母が裏で手を引いていたのか。アラン・デュノアも被害者ってわけだ。フランス政府と不正な金の取引。会社の金を横領……これは世界3位の企業でも危なくなるわけだ。身内の不正による資金不足で、第三世代機の開発ができない……それでシャルルの性別偽り日本へ送り、一夏か僕のデータを集めようなんて……

 

 

「少し、勝手が過ぎるね」

 

 

仮にも親がすることではない。

これはキツイお灸をすえる必要がありそうだ。

 

僕は携帯を取り出し、束さんに電話をかける。

 

 

「あ、束さん。データありがとうございます。ついてはもう一つお願いが……」

 

 

その地位から叩き落としてあげるよ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ごめん、待たせちゃったかな?」

 

 

束さんとの電話を終えた後、バーチャロンを纏ってアリーナで飛行の練習をしている箒のところへ向かった。

 

箒は僕を見つけると、すぐに向かってきてくれる。

 

 

「いや、そんなに待っていないぞ。将冴の方は用事は済んだのか?」

 

「うん、問題ないよ。それじゃ、始めようか」

 

「ああ、今日は何をするんだ?」

 

 

今日は、そうだな……

 

 

「瞬時加速でも練習してみる?」

 

「してみるってそんな簡単にできるものなのか?」

 

「イメージとエネルギー配分さえできれば難しくないと思うよ?」

 

「そ、そうか……」

 

「今回は最初だし、エネルギー配分を細かく考えなくてもいいけど、そこまで大きなエネルギーを使わないように気をつけてね。で、イメージだけど……スラスターにエネルギーを貯めて一気に放出する感じって言ってもわからないよね?」

 

 

箒は小さく頷く。

んー、もっと噛み砕いた言い方ないかな……そうだ。

 

 

「カー◯ィのエ◯ライドのロケッ◯スターみたいな感じ」

 

「えっ……なんだそれは……」

 

 

むしろ混乱させてしまった。いい例えだと思ったんだけど……。

 

それよりも、あの名作を知らないとは……。

 

 

「うーん……わかった。今日はISを使わない特訓をしよう!」

 

「ISを使わないって、どういうことだ?剣道でもするのか?」

 

「いや、ゲームするんだよ」

 

「……は?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

アリーナを出て、僕と箒はは真っ直ぐ整備室の方に向かった。途中、クラリッサが慌てて追ってきた。

 

 

「ふ、二人とも!突然アリーナを出てどうしたんだ?」

 

「ちょっと特訓にね」

 

「特訓?篠ノ之、どういうことだ?」

 

「わ、私にもさっぱり」

 

 

整備室に着き、中に入ると案の定彼女がいた。

 

 

「簪さん」

 

「え?将冴君……どうしたの?」

 

「今大丈夫かな?」

 

「うん。弐式の調整も終わったから、今日はもう部屋に戻るところだけど……」

 

「エ◯ライド持ってる?」

 

「好きなスターは?」

 

「ル◯ンズスター」

 

 

グッと握手をする僕と簪さん。

 

 

「ついてきて」

 

「うん。ほら二人とも、置いていくよ」

 

 

やけにウキウキした様子の簪さんについていく。

 

 

「なんなんだ、あの二人は……」

 

「エア◯イド……まさか、最強(物理)と言われたあのハードの伝説のゲームか?」

 

「ハルフォーフ先生?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「おっけー!任せておいて、しょーくん!」

 

 

しょーくんから来た電話を切り、すぐにパソコンに向かった。

 

むっふふ、しょーくんもすごいこと考えるねぇ。束さんもやりがいがあるからいいけど!

 

 

「束様。お食事の用意ができました」

 

「ああ、そこに置いておいて!すぐに食べるから!」

 

「何かあったんですか?」

 

「しょーくんからお願い事。あんなに可愛い顔してこんなに黒いこと考えるんだから、しょーくんも隅に置けないねぇ!」

 

「はぁ……」

 

 

さすがは束さんが見込んだしょーくんだよ!ふふ、お礼は何にしようかなぁ。

 

しょーくんの体?いやいや、それよりもしょーくんに褒めてもらう方がゾクゾクして楽しそうかなぁ。

 

 

「むっはぁ!束さんノッてきたぁ!濡れ濡れだ!」

 

「束様……」




謎テンションで書き上げました。書いてて楽しかったです。

そして簪さんのキャラが崩壊した気がしてならない。


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67話

この先の展開どうしようかなぁと悩んでいる作者です。いつも行き当たりばったりなので、展開浮かんでいないときは差し障りのない話を書いたりします。

とりあえず、今はシャルルの処遇について決めあぐねています。このままだと一夏ハーレムに入りそうにない……


 

簪さんの部屋のテレビの前で、箒とクラリッサがゲームキュー◯のコントローラーを手に白熱した争いを繰り広げていた。

 

 

「あ、篠ノ之!今攻撃されると私のワゴンが!?」

 

「私はロケットの練習をしているだけです!目の前に現れるハルフォーフ先生が悪いんです!」

 

 

はは、案の定友情破壊してるよ。

 

僕と簪は離れたところでお茶を飲みながらその様子を見ていた。僕と簪さんが参戦すると、初心者の箒とクラリッサをいじめてしまうため、高みの見物という感じだ。

 

 

「でも、将冴君。どうしていきなりゲームを……」

 

「箒が瞬時加速のイメージがしやすいかなぁと思ってね。クラリッサは物珍しさで楽しんでるだけだよ」

 

「ああ……」

 

 

なんとなく納得したような顔をする簪さん。何か通じるものがあったのかな。

 

 

「そういえば、打鉄弐式の方はどう?」

 

「もう少しで完成。姉さんも手伝ってくれたから、学年別トーナメントには間に合いそう」

 

「それは良かった。それじゃあ、トーナメントでは試合できるかもしれないんだね」

 

「うん。バーチャロンと試合できるのは、私も嬉しい」

 

 

簪さんは日本の代表候補生。技術もかなりのものだと聞いた。今から手合わせが楽しみだ。

 

 

「な、なんだこのデデデとか言う奴は!?将冴の愛機であるルインズが一撃で!?」

 

「ああ!私のロケットが!?」

 

 

お、早速大王様から洗礼をもらったみたいだね。そろそろ頃合いかな。

 

 

「どう、箒?なんとなく感じは掴めた?」

 

「あ、ああ。イメージは掴めた」

 

「それは良かった。それじゃあ今日の特訓はおしまい。いつまでもお邪魔するわけにはいかないからね」

 

「そうだな」

 

「簪さん、お邪魔してごめんね。今度改めてお礼させて」

 

「気にしないで。トーナメント、楽しみにしてる」

 

「うん。こちらこそ」

 

 

簪さんの部屋を出て、自室へ向かう。箒も同じ方向だから途中まで一緒だ。

 

 

ドドドド

 

 

ん?前の方からなにやらたくさんの足音が聞こえてくる。

5人……いや10人以上?

 

その足音はこちらに近づいてきて、その姿をあらわした。

 

 

『将冴君!』

 

「うえぇ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「暴徒か!?」

 

 

どうやら全員一年生。IS学園なので当然のごとく全員女子だ。

 

 

『私とペアになってください!』

 

「……えっと……どういうこと?」

 

「これ見て」

 

 

女子のうちの一人が、一枚のプリントを渡してくる。

そこには、学年別トーナメントをタッグトーナメントに変更する旨が書かれていた。

 

 

「あぁ〜、なるほど……」

 

「将冴君、ぜひ私とパートナーに!」

「いや、私と!」

「ここはお姉ちゃんと一緒に組もう?ね?」

「私が責任を持って腐らせてあげるから!」

 

 

毎度のごとく変なのが混ざってるけど、ガンスルーしておこう。しかし、タッグトーナメントか……一夏はシャルルと組むだろうし、セシリアさん、鈴は自分の友達と組むはず。そうなるとラウラと組むこともできるけど、ラウラとはトーナメントで戦うことを約束してしまったから……よし。

 

 

「ごめん、僕は箒と組む事にするよ」

 

「わ、私か!?」

 

「うん、今まで特訓してきたから、箒の実力はわかってるしね。箒がよければだけど」

 

「私は構わないぞ!将冴がいれば百人力だ」

 

「そういうわけだから、皆ごめんね」

 

 

そう言うと、僕とペアを組みたがっていた女子生徒たちは「しょうがないか」「男性陣は全滅だ」「お姉ちゃんとは認めてくれないんだね……」「ノンケだって構わないのに……」と口々につぶやきながら去っていった。最後の2つはなんなんだろう、本当に……。

 

 

「しかし、すごい剣幕だったな。いくつも戦場を体験してきたが、あんな修羅場は初めて見たぞ」

 

「はは……この世で一番恐ろしいのは女性っていうことかな……」

 

「将冴、本当に私で良かったのか?他の専用機持ちと組むことも……」

 

「それもいいとは思うけど、一緒に特訓してきたんだ。どうせなら、近くで成長を見たいからね」

 

「そうか……ありがとう、将冴」

 

 

礼を言われるようなことはしていないさ。さて、そうなると……

 

 

「明日からはハードメニューかな。まずは瞬時加速を明日でマスターしよう」

 

「き、急すぎやしないか!?」

 

「将冴……黒いぞ……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

翌日、職員室前でクラリッサと別れ教室に行くと一夏とシャルルが2人で話していた。トーナメントのことかな。

 

 

「おはよう、二人とも」

 

「おう、おはよう」

 

「おはよう、将冴」

 

「タッグトーナメントのことでも話してたの?」

 

「ああ、俺はシャルルと組むことにしたよ。例の件もあるしな。事情知ってる俺か将冴が組んだ方いいだろ?」

 

 

ちゃんとわかっているようだった。色恋沙汰以外ならこんな風に気を配れるのになぁ……。

 

 

「将冴はもうペア決めたの?」

 

「うん、箒とね」

 

「そういや最近2人で特訓してるみたいだもんな。タッグトーナメント、負けないからな」

 

「まずはサシの勝負に勝ってから言ってね。僕も箒も、全力で勝ちに行くから」

 

 

一夏と拳をぶつけ合う。

箒は近接戦闘に関しては一夏と並ぶだけの力を持ってる。あとはテクニックの方を伸ばせば……

 

 

「勝負を楽しむのはいいけど、僕達は優勝しないと面倒なことになるからね……」

 

「どういうこと?」

 

「あれ、将冴は知らなかった?なんか、今回のトーナメントで優勝した人は景品として僕、一夏、将冴と付き合えるって噂が流れてるんだよね」

 

「……へ?」

 

 

どうしてそうなった……いや、意味がわからないぞ?

 

 

「でも、付き合えるって買い物とかに俺らが付き合わされるだけだろ?それのどこが景品なんだ?」

 

「「はぁ……」」

 

 

僕とシャルルが同時にため息をつく。全くこの鈍感王子は……。

 

 

「シャルルさん、聞きました?今の」

 

「聞いた聞いた。とても年頃の男子のセリフとは思えないね」

 

「「はぁ……」」

 

「なんだよ二人とも!何かあるなら直接言えよ!」

 

「なんでもないよ、一夏」

 

「そうそう、なんでもない」

 

 

ため息が止まらないや……。

 

 

「そういえば、将冴……あの件は……」

 

 

シャルルが小声で聞いてくる。

 

 

「大丈夫、シャルルは何も気にせずにトーナメントに集中して。トーナメントが終わる頃に、全部終わるから」

 

「う、うん……」

 

 

と、その時。教室の扉がバンッと乱暴に開かれた。そこには箒が息を切らして立っていた。

 

 

「箒、どうした?なんか息切れてるけど……」

 

「箒?」

 

「将冴、少しいいか」

 

「え、あ、うん」

 

 

呼ばれたので箒についていく。本当に何が……。

 

連れてこられたのは人気のない廊下の隅。箒は真剣な表情をこちらに向けている。

 

 

「将冴、タッグトーナメントの優勝景品の話、聞いたか?」

 

「一夏とか僕とかシャルルと付き合えるってやつ?」

 

「ああ、そうだ。それなんだが……」

 

 

なにやらバツの悪そうな顔をする箒。

もしかして……。

 

 

「多分、噂の発端は私だ」

 

「それはどういう意味?」

 

「実はな、2日ほど前に一夏にこう言ったんだ。『学年別トーナメントで優勝したら付き合ってもらう』と……」

 

「ああ〜……」

 

 

その現場を誰かに見られて、その人が話を広めたらこうなってしまったと……完全に僕とシャルルはとばっちりだね。

 

しかし、これで箒がトーナメントまでに強くなると言っていた理由がわかった。

 

そして、箒には気の毒だけど……

 

 

「一夏はなんて答えていた?」

 

「わかったと言っていたが……」

 

「多分買い物に付き合ってくれとか、そういうことと勘違いしてる」

 

 

箒の顔が絶望と悲しみを含んだ顔になる。

なんというか……御愁傷様。

 

 

「一夏、ちゃんと伝えても伝わらないっていうドが付くほどの鈍感だから……それで何人の女の子が泣いたことか……」

 

「そ、そんな……」

 

 

そんな泣きそうな顔しないで……。

 

 

「こうなったら、何としても優勝して一夏にわからせないとね」

 

「将冴?」

 

「箒、特訓の成果を一夏に思い知らせよう。全力をもってね……」

 

 

一夏、女の子の気持ちがわからない君にはお仕置きが必要だね……。

 

 

「将冴、なんか怖いぞ……」




次回から学年別トーナメント。原作とはかなりの変わると思います。

はぁ……戦闘シーンかけるかなぁ……


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68話

どうも、作者です。

一つお知らせなのですが、どう考えてもシャルを一夏ハーレムに入れることができません。なので、ラウラに続きシャルを一夏ハーレムから外します。ラウラは義妹ポジあたりを予定しているのですが、シャルルのポジションは決まってません。

将冴ハーレム……に入るかどうかはわかりませんが、かなりの確率でハーレムには入りません。

急なお話で申し訳ありません。


学年別タッグトーナメント当日。

僕はクラリッサと張り出されたトーナメント表を見に来ていた。

 

トーナメントは2ブロックに分かれており、僕と箒はBブロック。同じブロックには、一夏・シャルルペア、セシリアさん・鈴ペアがいるね。一回戦の相手は……うわ、セシリアさんと鈴か。

 

ラウラは……Aブロックか。決勝で当たることになりそうだ。そういえば、ラウラのペアは……えっ?

 

 

「ラウラ、簪さんとペアなんだね」

 

「ペアをあらかじめ決めていなかった者は抽選と言っていたからな。ラウラ隊長は運も実力と言っていたからな、ペアはわざと決めなかったのだろう。それで日本の代表候補生とペアになるのだ、さすがというところか」

 

「さすが軍人というか……。そういえば、クラリッサは先生なのに、ラウラのこと隊長呼びなの?」

 

「ずっと隊長と呼んでいたからな……」

 

「そっか……まぁ、僕も先生って呼んでないからいいのかな」

 

「織斑先生も黙認しているから大丈夫だろう」

 

 

しかし、ラウラと試合するには全勝しなきゃいけないのか。ハードル高いなぁ……箒の。

 

 

「将冴!お前も見に来ていたのか!」

 

 

噂をすれば、僕のペアの箒だ。

 

 

「箒、おはよう」

 

「おはよう。ハルフォーフ先生もおはようございます」

 

「ああ、おはよう。調子はどうだ?」

 

「万全です。必ず優勝してみせます」

 

 

意気込み良し。大丈夫そうだね。

 

 

「将冴、一回戦の相手を見たか?」

 

「うん。いきなり代表候補生が相手だけど、大丈夫?」

 

「将冴が特訓してくれたんだ。勝てるさ」

 

 

ずっと特訓していたけど、箒の実力はかなり伸びてきている。でも代表候補生にはまだ届かない。僕が相手を二人とも倒すという手もあるけど、それでは箒の実力を信じていないことになる。

 

箒をカバーするにはどうしたらいいか……。

 

 

「将冴、試合のことで悩んでいるのか?」

 

 

クラリッサが耳元で話しかけてくる。

 

 

「うん。正直言って、箒をカバーしながらセシリアさんと鈴を同時に相手をするのは結構キツイんだよね……」

 

「ふむ……そうだ、私にいい考えがある」

 

「考え?」

 

 

とても……嫌な予感がするんだけど。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

『第3試合、柳川・篠ノ之ペアとオルコット・凰ペアの試合を行う。両ペアは至急ピットに集まるように』

 

 

織斑先生のアナウンスだ。

もう試合か……はぁ……。

 

 

「将冴、なんだか元気がないぞ?」

 

「箒は気にしなくていいよ。僕が精神的に追い詰められるだけだから……」

 

「……目がうつろだぞ」

 

「大丈夫。ピットに行こう。箒、勝つからね」

 

「目がうつろのまま言わないでくれ!」

 

 

箒とピットまで行く。セシリアさんと鈴はすでにアリーナにいる。

 

 

「箒、常に僕の前にいてくれ。振り返らずに、試合が始まったら鈴に向かって瞬時加速。肉薄して、鈴から倒して」

 

「わ、私一人で鈴を相手にするのか!?」

 

「大丈夫、今の箒なら倒せる。さ、行くよ!」

 

 

僕はテムジンを、箒は打鉄を纏いアリーナに飛び出した。予定通り、箒は僕の前に立つ。

 

 

「来ましたわね、将冴さん」

 

「あんたと一番最初に当たるなんてね。でも、ここは勝たせてもらうわよ」

 

「クラス代表決定戦のリベンジですわ!」

 

「二人とも、僕だけに的を絞っていたら痛い目を見るよ?箒だって強いんだからね」

 

「もちろん油断はしませんわ!鈴さん、行きますわよ」

 

「OK、セシリア!」

 

 

お互いに武器を構え、開始のコールを待つ。

 

 

『第3試合、開始!』

 

 

織斑先生のコールとともに、打ち合わせ通り箒が鈴に向かって瞬時加速を使い距離を詰める。

 

ゲーム特訓が功を奏し、箒はまだ拙いながらも瞬時加速を習得していた。

 

僕はそのタイミングで、小さく音声コールでバーチャロンに命令を飛ばす。

 

 

「フォームチェンジ『フェイ・イェン』」

 

 

テムジンの装甲が粒子化、再構築する。

 

 

「瞬時加速!?それに将冴は初っ端からフォームを……でも、箒を前線にしたということは、あのライデンとかいう……ぶふっ」

 

「ぷっくく……将冴さん、なんて格好を……ふふふ」

 

 

再構築された僕の姿を見て吹き出す鈴とセシリアさん。だから嫌だったんだ……。

 

『フェイ・イェン』。このフォームは完全に女性の姿をしている。なんの意味で付けられたかもわからないツインテールに、なぜつけたかわからない少し膨らんだ胸部装甲。格好はまるでウェイトレスのようなフリフリのスカートとエプロン。手足は細く、武装はレイピア。

 

全くもって意味のわからないフォームなのである。一度ラウラと手合わせしているときに使ったが、この姿がラウラのツボに入ったらしく、ずっと笑い転げて試合にならなかった。

 

クラリッサはずっと写真を撮りながら「これが男の娘というやつか」とか言ってるし、千冬さんは開いた口がふさがらないといった感じで、口をあんぐり開けて呆然としていたよ……。

 

 

「よそ見をしている場合か!鈴、もらったぞ!」

 

「な、しまっ……」

 

 

箒の瞬時加速のスピードが乗った斬撃が鈴に直撃する。完全に体勢を崩した鈴に、箒はさらに追い討ちをかける。

 

 

「鈴さん!今援護に……」

 

「させないよ」

 

「な!?いつの間に!?」

 

 

レイピアでセシリアさんのレーザーライフルを弾き飛ばし、連続で突きを入れる。

 

 

「くぅ、ブルー・ティアー……」

 

「それもさせないからね!」

 

 

一度戦ってるから対策済みだ。ミサイル兵装をレイピアで貫く。兵装はそのままセシリアさんを巻き込み爆発する。

 

 

「きゃあ!?」

 

『オルコット、シールドエネルギー0。凰、シールドエネルギー0。柳川、篠ノ之ペアの勝利!』

 

 

織斑先生が試合終了のコールをした。

箒も勝てたか。

 

 

「将冴!勝ったぞ!……って、なんだその格好は!?」

 

「できれば触れないで」

 

 

箒は吹き出すことはしないまでも、この姿の僕を見て驚いている。

 

改めて会場を見渡すと、何が起こったのかわからないようで、静まり返っている。

 

はぁ、こうなると思ってたんだよ。来賓も来てるのに……。

 

と、ここでバーチャロンに秘匿回線で通信を受ける。これは……クラリッサ?

 

 

「もしもし?」

 

『将冴、そのままスカートを少し摘むような仕草をして礼をしろ』

 

「……は?」

 

『いいから、早く!』

 

 

一方的に通信を切られる。やけに興奮したような声だったけど……嫌な予感しかしない。

 

とりあえず、言われたとおりにスカートを摘むようにして礼を……。

 

 

『うぉーーーー!!』

 

 

静まり返っていた観客席から、突然歓声が。これは……

 

 

「将冴、これは一体……」

 

「箒、さっさとピットに戻るよ」

 

「あ、ああ……」

 

 

もうダメだ。クラリッサ、お仕置き決定。




はい、フェイ・イェン初登場でした。

……何してんだろ、私。


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69話

フェイ大人気。

フェイフェイだよー←


 

箒とピットに戻ると、手のひらで鼻を押さえ、指の間からドボドボと血を流しているクラリッサが待っていた。

 

 

「さすがはわたしの将冴。GJ」

 

「ハルフォーフ先生!?何があったんですか!?」

 

「気にするな篠ノ之」

 

 

箒にそう言いながら鼻にティッシュを詰めるクラリッサ。

僕はISを待機状態にし、義肢を全てつける。

 

 

「クラリッサ」

 

「将冴、よかったな。作戦は大成功……」

 

「覚悟はできてるね?」

 

「……へ?」

 

 

クラリッサの首根っこを掴み物陰まで引きずる。

 

 

「し、将冴!?これは一体どういうことだ!」

 

「いらない指示を出す悪い子にはお仕置きが必要だからね」

 

「今までにないくらい黒いぞ将冴!じ、慈悲を」

 

「そんなものはありません」

 

「篠ノ之ぉ〜!助けてくれ!?」

 

「ハルフォーフ先生、申し訳ないのですが、それはできません……」

 

「そんなぁ!?」

 

 

さぁ、楽しい楽しいお仕置きの時間だ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「あ……ああ……」

 

 

放心状態でピクピクしながら床に突っ伏するクラリッサ。全く、自業自得だ。

 

僕は手をパンパンと埃を払うように叩く。

 

 

「将冴……ハルフォーフ先生に何を……」

 

「知りたい?」

 

「いや、やめておく」

 

 

真っ青な顔で拒否する箒。

まぁ、クラリッサのことを擽り続けただけなんだけど。

僕の隠し技だ。今まで使ったのは一夏と鈴くらいだったかな。

 

さて、そろそろピットから出ないと……

 

 

バンッ!

 

「将冴!さっきのやつどういうことよ!?」

 

 

鈴が乱暴に扉を開けて入ってくる。その後ろにはセシリアさんもいる。

 

 

「あんなものがあるなんて、私聞いてませんわ!」

 

「どういうことか説明しなさい……って、なんでハルフォーフ先生倒れてんの?」

 

「ああ、ちょっとお仕置きをね」

 

「あんた、まさか……」

 

「久々にしてあげようか?鈴」

 

「え、遠慮するわ……」

 

 

っと、話が逸れた。フェイ・イェンのことだっけ?

あんまり触れてほしくないんだけど……。

 

 

「将冴さん、なんでそんな悲しみをたたえた目をしているんですの……?」

 

「ああ……気にしないで。フェイ・イェンのことだっけ?あれはバーチャロンの5つあるうちのフォームの一つだよ。コンセプトは速度……終わり」

 

「それだけ!?」

 

「もっと他にいうことはありませんの!?」

 

「他って……完全に束さんの趣味としか……」

 

 

話しているうちにテンション下がってきた……なんかどうでもよくなってきた……。

 

 

「5つあるうちってことは……」

 

「いつも使っているテムジン、クラス対抗戦で球体を倒したライデン、練習で何度か使っていたアファームド、そしてフェイ・イェン。あと一つあるということだな」

 

「将冴さん。あと一つ、ここで見せていただけます?」

 

 

あと一つか……まぁ見せてもいいんだけど、あのフォームはなぁ……。

 

 

「別にいいけど、僕もよくわからないフォームだから、説明はできないよ?」

 

 

バーチャロンを展開し、最後のフォームを呼び出す。

 

 

「フォームチェンジ『スペシネフ』」

 

 

展開されたのは、大きな翼。鋭い爪。銃と鎌が一緒になったビームサイズ。そして、骸骨のような頭部だった。

 

 

「これが、最後のフォーム?」

 

「やけに禍々しいですわね……」

 

「見ているだけで、胸が締め付けられるような感じがする」

 

 

このスペシネフはとにかく禍々しい雰囲気を漂わせる機体だ。束さん曰く、僕の両親はこれをデータの隅に追いやっていたという。危険だから、そういう措置を取ったんだろうけど、この機体……

 

 

『システムエラー、システムエラー。待機モードに移行します』

 

 

スペシネフは粒子化し、待機状態のピアスに戻る。

僕は義足をつけて、地面に着地した。

 

 

「システムエラーって、どういうこと?」

 

「スペシネフは何回出しても今みたいにシステムエラーを起こして待機状態に戻っちゃうんだ。動かすことができず、性能を確かめることができない。だから、普段は全く使わないんだ」

 

「しかし、そんな不完全なものを姉さんが作るだろうか……」

 

「束さんが言うには、スペシネフはこれで完成しているんだ。数字の上での性能は、他のフォームをはるかに凌ぐらしい。たしか、他のフォームとはインターフェースが違うとかなんとか……」

 

「ふぅん……なんか、面倒な機体ね」

 

「まぁね。さ、早くここを出よう。次の試合の選手が来ちゃうから」

 

 

車椅子を呼び出して座り、義足を粒子化しながら三人に退室するように促す。

今日はあともう一試合あったはず……フェイ・イェンは使わないからね。

あ、一夏とシャルルの試合を見とかないと。シャルルの戦い方を研究だ。

 

 

「将冴、ハルフォーフ先生はあのままでいいのか?」

 

「そのうち気がつくからいいでしょ。お仕置きだし」

 

「ハルフォーフ先生、どうなさったのでしょう……」

 

「セシリア、そこには触れないほうが身のためよ」




ちょいと短いですが、こんな感じで。

将冴の超絶テク(擽り)で悶えて涙目になるクラリッサ可愛い。


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70話

昨日ホワイトデーでしたね。

番外編書きたかったのですが、ネタが浮かびませんでした。申し訳ねぇです。

近いうちにR18番外編を別作品で書こうと思っています。


観客席に戻った僕と箒、鈴、セシリアさん。今行っている試合は2組のペアと4組のペアの試合らしい。専用機もち以外は、まだISに乗り始めて間もないため僕の目から見ても、動きが拙い。

 

この試合で勝った方が、僕と箒の相手になるだろうけど、この調子だとさっきのセシリアさん・鈴ペアの時みたいに……ああ、考えたくない考えたくない。

 

 

「あ、終わったみたいよ」

 

「将冴さんと箒さんの次の相手は4組のペアのようですね」

 

 

思考を放棄している間に試合が終わったみたいだ。

4組のペア……まぁ、一人ずつが相手なら箒でも大丈夫だろう。

 

 

「将冴、どうした?」

 

「なんでもないよ、箒。次は一夏とシャルルのペアだ。Bブロックを勝ち抜けば、必ず当たることになる。しっかり見ておいたほうがいいよ。特に、一夏のをよく見ていてね」

 

「わかった」

 

 

さて、シャルルのお手並み拝見と行こうかな。

 

一夏・シャルルと相川さん・谷本さんがアリーナに現れる。

 

 

『第5試合、始め!』

 

 

一夏が相川さんに、シャルルが谷本さんに接近する。

一夏の戦いは箒に任せるとして、シャルルの戦いは僕も見たことない。

 

シャルルの専用機は第二世代機のラファール・リヴァイヴのカスタム機。どこをどうカスタムしたかは僕もわからないけど……。

 

 

「あれが、シャルルさんの実力ですの……?」

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)か」

 

 

最初に持っていたのはアサルトライフルだった。でも谷本さんに接近した瞬間に武器が切り替わり、ショットガンに変わっていた。

 

変わった瞬間もわからないほどの武器の高速変更。なるほど、これだけの技量なら第二世代機で代表候補生というのも頷ける。

 

 

「うわぁ、一番戦いたくない相手だなぁ」

 

「将冴でもそういう相手がいるのか」

 

「シャルルは距離を選ばず戦えるし、支援もできる。一言で言えば器用なんだ。僕もシャルルのように高速でフォームチェンジできればいいんだけど……」

 

 

武器と装甲では大きさが違う。二人と戦うときはフォームを一つに絞ったほうがいいかもしれないな。

 

 

「あ、終わったわね。やっぱり一夏とシャルルの勝ちみたいだわ」

 

 

一夏が相川さんに零落白夜。シャルルが谷本さんに一方的に弾幕を張ってシールドエネルギーを削りきった。うわぁ、えげつないなぁ……

 

 

「箒、一夏の動きはわかった?」

 

「ああ。一夏が近接タイプでよかった。太刀筋も、昔から知っている。恐ろしいのは、零落白夜だが……」

 

「それは次の試合が終わってから考えよう。今日は、次の試合で最後だからね」

 

 

次の試合は気負いしなくても勝てるだろう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

数時間後。

なんの問題もなく二回戦目を突破。明日Bブロックの決勝までやることになり、明後日がAブロック優勝者との対戦だ。

 

勝ち進めば明日の決勝で一夏、シャルルと。明後日にはラウラ、簪さんと戦うことになる。

 

 

「将冴、今日はお疲れ様」

 

「うん、箒もお疲れ様。いい動きしてたよ。瞬時加速も上手くなってきた」

 

「将冴の指導のおかげだ。本当に感謝している」

 

「僕はできることをしただけだよ。さ、今日は早く休んで明日に備えよう」

 

「ああ。……そういえば、ハルフォーフ先生はまだ……」

 

 

あ、忘れていた……ピットに置きっぱなしにしちゃったけど、大丈夫かな。

 

さすがにやりすぎたか……

 

 

「将冴君!」

 

「え?」

 

 

突然僕を呼ぶ声。この声は……

 

 

「山田先生、どうしたんですか?」

 

「それが、ハルフォーフ先生がピットで倒れていて……今、保健室のベッドで寝ているんです……」

 

「ああ……」

 

 

本当にやりすぎた。

 

 

「何か知っているんですか?」

 

「えっと、まぁ、僕が原因というかなんというか……」

 

「え?」

 

「いや、なんでもないです。教えてくれてありがとうございました。箒、ちょっと保健室に行ってくるよ。明日もよろしくね」

 

「ああ、また明日」

 

 

さて、保健室に行ってみるか……さすがに謝らないと。

車椅子を保健室に向けて動かした。

 

 

「篠ノ之さん、ハルフォーフ先生が倒れていた理由を知っていますか?」

 

「詳しくはわかりませんが、その状態にしたのは将冴です」

 

「え!?そ、そうなんですか!?」

 

「は、はい……」

 

「実は、ハルフォーフ先生……ゴニョゴニョ」

 

「……えっ!?そ、そんな……」

 

「将冴君、ああ見えてテクニシャンなんでしょうか……私も……」

 

「や、山田先生?」

 

「ふぇっ!?」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

保健室の扉をノックし扉を開けると、養護教諭の滝沢洋子先生が机に向かい書類を書いてるようだった。

 

 

「失礼します」

 

「あら、柳川君。どうしたの?」

 

 

クラス対抗戦で怪我した時、ずっとここにお世話になっていたから、滝沢先生とはそれなりお話しする仲だ。

 

 

「クラリ……ハルフォーフ先生がここにいると聞いて」

 

「ああ、そこのカーテンが閉まってるベッドで寝てるわ。それと、いつもの呼び方でいいわよ。職員室ではもう知れ渡ってるから」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

悪い意味で目立ってる……。

まぁ、教職員は僕とクラリッサの関係を知ってるだろうし……しょうがないといえば、しょうがないのか。

 

 

「それじゃあ、私職員室に行ってるわね。机の上に鍵置いておくから、出るとき鍵閉めて職員室まで持ってきてね」

 

「わかりました」

 

「それじゃ、ごゆっくり」

 

 

……からかってるな、滝沢先生。

 

とりあえず滝沢先生にいわれたベッドを覗いてみようかな。

 

 

「クラリッサ?」

 

「ん……ぅん……将冴?」

 

 

どうやら今まで寝ていたようだ。でも、なぜか服がスーツではなく、部屋で寝る時の寝間着になってる……はて?

 

 

「具合、大丈夫?ごめん、僕もやりすぎた」

 

「え、あ、大丈夫だ!問題ないぞ!」

 

「そう、なら良かったけど……なんで寝間着姿になってるの?」

 

「あ、あの……これは……」

 

 

まるで照れ隠しのように、布団で顔を隠す。

 

一体何が……

 

 

「その……すまない、それは言えない!」

 

「言えないならいいけど……無理はしないでね?」

 

「……将冴のせいなのだが……」

 

「何か言った?」

 

「なんでもない」

 

 

気になる……けど、無理に聞き出すものでもないし話せる時になったら話してくれるだろう。

 

 

「まぁ、クラリッサはゆっくり休んで。僕は一人で大丈夫だから。今まで僕につきっきりだったし、大変だったよね。無理させちゃいけないから、僕はもう戻るね」

 

「ま、待ってくれ!」

 

 

クラリッサが僕の服の裾を掴む。

 

 

「クラリッサ?」

 

「もう少し……居てくれ……」

 

「……うん」

 

 

結局、滝沢先生が戻るまで何を話すでもなく、二人でいた。




昨日ホワイトデーだったから甘めに作ろうとした結果。

滝沢先生はオリキャラです。
養護教諭がいないようだったので。

猛烈に戦闘書きたくないです。


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71話

どうも作者です。

今回は束さん回。束さん迷子気味だけど、大丈夫だよね。

あと、R-18本あげました。将冴のお仕置き編です。
思いついたらエロいのあげていきます。


 

朝、目が覚めて、いつもクラリッサが寝ているベッドに目をやるが、そこには誰もいない。

 

IS学園に来てから一人で寝ることの方が少なかったからなぁ。案外寂しい。

 

さて、今日は一夏とシャルルと試合……になるかもしれない。少し、対策を考えておいたほうがいいよね。

 

 

「えっと着替え、着替え……」

 

「はいこれ、しょーくんの制服」

 

「ありがとうございます、束さん」

 

「手伝ってあげようか?」

 

「一人でできます……って、束さん!?」

 

 

いつからいたのか、僕のベッドにいつものエプロンドレス姿の束さんが潜り込んでいた。というか、なんで僕の制服が少しシワになってるの……。

 

 

「しょーくんの寝顔、可愛かったよぉ〜。制服の匂いもいい感じだったし」

 

「ヨダレ垂らしながら言わないでください!」

 

「制服にはヨダレつけてないよ!束さんの匂いはつけたけどねぇ」

 

「あぁ……はい、そうですか……」

 

 

まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。

問題は束さんがこの部屋にいることだよ。

 

 

「それで、束さんはなんでここにいるんです?」

 

「ああ、そうそう。アファームド用の新しい武器が完成したから持ってきたんだよ!」

 

「本当ですか?どんな武器を……」

 

「そんなことより!」

 

 

ずいっと、あと数センチでキスできそうな距離まで顔を近づけてくる。

 

いや、僕は武器のことを教えて欲しいんですが……。

 

 

「この部屋、なんで女の匂いがするの?」

 

「……へ?」

 

「な・ん・で!しょーくん以外に女の匂いがするの!まさか、しょーくんは女と一緒にこの部屋で……」

 

 

クラリッサがいなくて心底良かったと思ってしまった。

 

束さんのこんな怖い雰囲気……初めてだ……。

 

 

「えっと、ほら、僕は一応障害者だし、学園の方がヘルパーさんをつけてくれて……」

 

「しょーくん、その女と変なことしてないよね?」

 

「へ、変なことって……?」

 

「しょーくんまだ童貞だよね!?」

 

「ど!?」

 

 

この人は何を聞いているんだ!

女の子と付き合ったこともないし、貞操は守ってる!

 

 

「変なこと聞かないでください、束さん!それより、新しい武器って何ですか?」

 

「ムゥ〜……」

 

 

束さんが渋々といった様子で、エプロンドレスのポケットからタブレット端末を取り出した。

 

 

「これだよ」

 

 

タブレット端末には、片手で扱えるサイズのサブマシンガンが映っている。

 

 

「バーチャロンに弾幕張れるような連射力のある武器無かったなぁって、昨日思いついてね。速攻で作ってきたのだよ!ビームサブマシンガン!」

 

「なるほど、確かに手数で勝負できる武器は今までなかったですけど……」

 

「でしょでしょ?このサブマシンガンは反動を極力抑えて、片手でも扱えるから、両手で一丁ずつあつかうこともできるよ」

 

 

なんというベストタイミングでベストな武器を。

本当に束さんは大天才だ!

 

 

「ありがとう、束さん。これなら十分戦えそうだよ」

 

「お役に立てたなら何よりだよ〜。頭撫でて撫でて〜」

 

 

束さんに言われた通りに束さんの頭を撫でる。嬉しそうにしている束さんをみて、シャルルの件を思い出した。

 

 

「そういえば、あれからどうなりました?デュノア社の方は……」

 

「ああ、あれ?ネタは掴んだし、しょーくんに言われた通り、トーナメント戦が終わった後に情報が流れるようにしておいたよ」

 

「そっか、ありがとう、束さん」

 

「それはいいけど、良かったの?しょーくんが助けたいって言ってる友達?束さんからすればどうでもいいんだけど、その子の親の会社をMARZが吸収するって」

 

「うん、それが一番の解決策だと思うから」

 

 

そう、僕はシャルルを助ける案として、デュノア社とフランス政府の不正を世界にばら撒き、信用をなくしたデュノア社をMARZが吸収合併させることにした。

 

MARZは名前だけの会社ではあるが、束さんという大きな力を持っている。束さんに頼んだら二つ返事でOKが出たよ。

 

もちろん、シャルルの母親には警察に言ってもらうよ。横領や不正な取引の情報は手に入れてるからね。

 

 

「しょーくんがそれでいいならいいけど、しょーくんがそこまでする必要ってあるのかな?」

 

「目の前で困ってたら、助けてあげなきゃ。束さんや千冬さんが僕を助けてくれたようにね」

 

「しょーくん……」

 

 

ぎゅっと、束さんが僕の頭を抱き寄せた。

 

 

「しょーくんはまだ子供なんだから、抱え込みすぎちゃダメだよ」

 

「僕は」

 

「むー、何も言っちゃダメ!しばらくこのまま」

 

「束さん……」

 

 

数分ほど、そのまま束さんに抱きしめられた。

 

 

「……はい、もう大丈夫。しょーくん成分補給完了!」

 

 

束さんは僕から離れ、まっすぐ窓の方へ向かった。

 

 

「サブマシンガンはもうインストールしておいたからね。今日から使えるよ。何かあったらいつでも連絡してね!何もなくても連絡していいから〜」

 

「はい。ありがとうございます。束さん」

 

「むふふ、その言葉だけで束さんは頑張れるのだ!またね、しょーくん!」

 

 

束さんは窓から出て行った。

そこからどうやって帰るつもりなんだろう……気にしたら負けかな。

 

 

「さて、さっさと着替えて朝食食べないと。あ、クラリッサの着替え持って行ったほうがいいかな」

 

 

今日は負けられない。ラウラと試合するためにも。




はい、というわけでアファームド用の追加兵装でした。
そういやサブマシンガンつけてねぇ、となりまして、どうしても欲しくなり後付けです。

シャルル戦だと、あったら便利なんだもの……←


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72話

今回は一夏・シャルルペアと試合です。

途中の結果?キングクリムゾンします。
いまの将冴君と箒の前では、モブなどただの雑魚!←

それどころか、将冴君のストレス発散のための通過点に過ぎないのです!


 

タッグトーナメント2日目の午後。

 

IS触りたての一年生に僕と箒は快勝を続け、ついにBブロック決勝まで上り詰めた。1回戦のセシリアさん・鈴ペアとの試合が今の所一番辛かった……精神的に。それ以降の試合も辛かったけどね。

 

テムジンでアリーナに出るたびに落胆の声が聞こえるんだよ?ストレスで胃が痛くなりそうだった。

 

そうそう、クラリッサはもう大丈夫だったようで、朝から僕についてくれている。昨日は恥ずかしいところ見せたと、朝に謝ってきたけど、別に謝ることじゃないし、むしろ僕が謝るべきなんだけど。

 

まぁ、そんなこともあり、これからBブロック決勝。相手は予想通り、一夏とシャルルだ。

 

僕と箒はピットで作戦会議をする。

 

 

「箒、一夏の相手は任せるからね。僕はシャルルを相手にする。もしかしたら、二人とも僕を狙うかもしれないけど、なんとか一夏と一対一に持ち込んで」

 

「わかった。将冴に鍛えてもらったんだ、必ず成果をあげる」

 

「その意気だ。多分、援護には入れない。自力でなんとかしてね。さ、時間だ。アリーナに出よう」

 

「ああ!」

 

 

僕はアファームドを、箒は打鉄を展開し、アリーナに飛び出す。今はビームトンファーだけ装備している。

 

ほぼ同時に、一夏とシャルルも出てきた。

 

観客席から歓声が上がる。

 

 

「男性IS操縦者3人だもんね。来賓もテンション上がるか」

 

「そうだな。だが、私だっているんだ。必ず勝ってみせる」

 

「そうだ、一つ言い忘れてた」

 

「なんだ?」

 

「何があっても、一夏と戦っている間は僕のことを気にしちゃダメだからね。箒は一夏に集中、OK?」

 

「承知した」

 

 

プライベートチャンネルで箒と話した後、シャルルにプライベートチャンネルを繋げる。

 

 

「シャルル。今日、デュノア社の人は?」

 

「義母が来てる。多分、一夏と将冴の事を直接見に来てるんだと思う」

 

「そっか……まぁ、シャルル気にせず、試合に集中して。シャルルの問題は、トーナメントが終わったら解決するから」

 

「……うん。ありがとう、将冴。何から何まで」

 

「気にしないで。それじゃ、回線切るからね」

 

「うん」

 

 

さて、次は一夏にも……

 

 

「一夏、そっちは大丈夫?」

 

「問題ないぜ。今日こそ将冴に勝つからな!」

 

「僕よりも気にした方がいい相手がいるけどね」

 

「ん?ラウラのことか?」

 

「ふふ、自分の目で確かめるんだね」

 

 

一方的に通信を切る。

一夏は試合にだけ集中してる。それはそれでいいんだけど、少しはシャルルのことも考えてあげた方がいいと思うけどなぁ……ペアなんだから。

 

 

『両チーム、準備はいいか?』

 

 

織斑先生のアナウンスが流れる。

僕たちは同時に構えた。

 

 

『Bブロック決勝戦、始め!』

 

 

開始のコールとともに、みんな同時に飛び出す。

僕はシャルルに、箒は一夏に……作戦通りだ。

 

一夏達もそのつもりだったらしい。

 

シャルルはこちらアサルトライフルを向けている。早速弾幕を仕掛けるようだ。

 

 

「そのフォーム、遠距離武器がないんでしょ?僕が一方的に終わらせるからね!」

 

「あらゆる可能性を考えておいたほうがいいよ。何が起こるかわからないから!」

 

 

僕は両手にサブマシンガンを展開し、同時に引き金を引いた。

 

二つのサブマシンガンが、大量のビーム弾を吐き出す。

 

 

「サブマシンガン!?」

 

「弾幕張れるのは自分だけだと思った?その油断が命取りだよ!」

 

「くっ!」

 

 

シャルルもアサルトライフルで応戦する。

 

お互いに弾幕を避けながらも、引き金から指を離さない。

 

 

「流石だね。これは一夏が来るまで硬直状態が続きそうだ」

 

「それはどうかな、シャルル。箒は僕が直々に特訓してあげたんだから、そう簡単にはいかないよ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「いやぁー!」

 

 

私、篠ノ之箒は刀で一夏に斬りかかるが、一夏は雪片で難なく受け止めてしまう。

 

やはり、専用機と訓練機の差があるか……

 

 

「箒には悪いが、さっさと終わらせてシャルルのところへ行かせてもらうぜ」

 

「ふっ、大口を!剣道では一度も勝てていないではないか」

 

「今はISの勝負だぜ」

 

「なら試してみるか?」

 

「上等!」

 

 

一夏を押し出し、距離を取る。一夏の様子を窺い、攻撃のタイミング見計らう。

 

 

「来ないのか、箒?なら、こっちから行かせてもらうぜ」

 

 

一夏が距離を詰めてくる。

まっすぐか……一夏らしいが。

 

 

「うおぉ!」

 

 

今の私なら、どうということはない!

 

 

「そこだ!」

 

 

振り下ろされ一夏の剣を弾き、ガラ空きになった体に胴を決める。

 

 

「ぐあ!?」

 

 

まだ仕留めきれていないが、一太刀浴びせることができた。これなら……

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「これならどう!?」

 

 

シャルルの手にショットガンが展開された。距離を詰めるつもりか。

 

 

「散弾は避けきれないでしょ?」

 

 

まず一発、散弾が放たれた。

 

 

 

「くっ!」

 

 

咄嗟に腕を交差して顔の前に持ってくる。

確かに、一発で何発も放たれる弾丸避けるのは難しい。

 

距離を取るか……いや、こうなったら……

 

 

「更に距離を詰める!」

 

 

サブマシンガンを拡張領域にしまい、ビームトンファーを展開しながら瞬時加速で距離を一気に詰める。シャルルも近づいてくるとは思わな……。

 

 

「かかったね!」

 

「なっ!?」

 

 

シャルルの左腕に大きな杭が……あれはまさか!?

 

 

「パイルバンカー!?」

 

「終わりだよ!」

 

 

強烈な炸裂音がアリーナに響いた。




次回に続きます。

シャルルの戦闘書きづらいです。
箒の場面も同時進行しますが、まだ近接戦闘だけなので書きやすいかな……。


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73話

一夏・シャル戦決着。

イヤァ、どうやって決着つけようか悩みました。
そこらへんも楽しんでいただけたらと思います。


 

一夏と剣を交わし、自分のエネルギー残量を確認する。

残りは300程度か。まだ余裕はあるが、一夏が零落白夜を使えばあっという間に0になってしまうだろう。

 

剣に関してはこちらが有利。おそらく、エネルギー残量も私が上だろう。

 

 

「まさかここまで追い詰められるとは思わなかったぞ、箒」

 

「将冴に鍛えられたんだ。負けたら将冴に顔向けできない」

 

「そうか。だけど俺も負けるわけにはいかないんだ」

 

 

一夏の剣、雪片二型の刀身が青白く光り輝く。

零落白夜。ここで勝負をつけるつもりか……。

 

 

「これで決めさせてもらうぞ」

 

「ああ。これが最後だ、一夏」

 

 

私も刀を構える。

 

一夏の零落白夜をまともにくらえば私の負け。

零落白夜をかいくぐり、一夏に一撃を入れれば私の勝ち。

 

 

「行くぞ一夏!」

 

「うおぉ!!」

 

 

同時に瞬時加速。もうすぐ間合いに入るという時に、将冴とシャルルの方から強烈な炸裂音が響いた。

 

一瞬、そちらに意識が向いそうになるが、試合前に将冴に言われたことを思い出す。

 

 

『何があっても、一夏と戦ってる間は僕のことを気にしちゃダメだからね。箒は一夏に集中、OK?』

 

 

将冴は私より強い。今は……

 

 

「これで……」

 

 

一夏の剣を、私の刀で受ける。

 

 

「終わりだぁ!」

 

 

すぐに切り返し、そのまま一夏の胴を切り抜ける。

 

 

『織斑、シールドエネルギー0』

 

 

アナウンスとともに、私は膝から崩れ落ちた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「うそ……」

 

「っく……危なかった……」

 

「そんな……シールドピアーズを掴むなんて!?」

 

 

僕は目の前で放たれたバンカー、咄嗟に右手でつかんだのだ。いや、まさかできるとは思わなかったけど、手の衝撃が半端ない。まともに食らっていたら危なかった……!

 

 

『織斑、シールドエネルギー0』

 

 

一夏がリタイアした……ということは

 

 

「一夏が負けたの!?」

 

「箒やったんだね」

 

 

バンカーを掴んだまま箒のほうへ目を向けると、箒は地面に座り込み僕に向けて親指を立てた。

 

 

「箒が頑張ったんだ、僕も頑張らないとね!」

 

 

空いてる左手にサブマシンガンを展開し、バンカーを掴まれて身動きが取れていないシャルルにサブマシンガンを向けた。

 

 

「至近距離からなら、逃げられないでしょ?」

 

「まず……」

 

 

ガガガとサブマシンガンから弾が吐き出される。

逃げられないシャルルは全弾受けるしかない。

 

 

「ぐぐっ!まだぁ!」

 

 

シャルルがショットガンを僕の顔面に向ける。

 

 

「あっぶない!?」

 

 

上体を後ろに逸らし、散弾を避ける。

 

さっきのパイルバンカーは、すんでのところで止めることはできたけど、無傷というわけにはいかない。あれだけでエネルギーをかなり持って行かれている。

 

残りは200といったところか……。

 

あれだけでどんだけの威力があるんだか……直撃したら完全に負けていた。

 

 

「はぁ、はぁ……さすがだね、将冴。一夏達が揃って強いって言っていたのがよくわかるよ」

 

「シャルルこそ、こんなに追い詰められたのは、ドイツでラウラと戦った時以来だよ」

 

 

思い出すなぁ、一回目の時は顔面にパンチくらったっけ。

 

 

「もう僕のシールドエネルギーは僅か……でも、勝たせてもらうよ将冴」

 

「勝つのは僕の方だよ。箒が頑張って一夏に勝ったんだ。僕が負けるわけにはいかないんだ!」

 

 

ビームトンファーを展開し、瞬時加速でシャルルと距離を詰める。シャルルは近接ブレードを展開。

 

ビームトンファーを振り下ろすが、ブレードに阻まれる。

 

 

「近接武器は僕も持ってるんだよ!」

 

「わかってたさ!でも、お腹ががら空きだよ!」

 

 

体をひねり、シャルルのお腹を蹴り飛ばした。シャルルはそのまま後ろに弾き飛ばされるが、倒れない。

 

 

「くぅ!?まだ……」

 

「これで……」

 

 

僕は飛び上がり、空中で瞬時加速。

そのまま、地上にいるシャルルに向かって……

 

 

「フィニィィィィッシュ!!」

 

 

さながら某特撮ライダーの如くキックを決めた。

 

 

『デュノア、シールドエネルギー0。勝者、柳川・篠ノ之ペア!』




NA☆N☆ZA☆N

ストレスが溜まりすぎて、将冴にハッターが混じってます。

作者の頭が溶けそうだゼェ……


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74話

昨日更新できず申し訳ありません。
リアルが忙しくて更新できませんでした。

それでは本編どうぞ


 

試合終了のコールのあと、ISを解除して地面にへたりこんでいる箒の元へ向かった。一夏との戦闘でかなり疲れているようだ。

 

 

「箒、大丈夫?」

 

「将冴……一夏に勝ったぞ。私は……」

 

 

疲弊しているせいか、喋るのが辛そうだ。とりあえずピットまで運ぼう。

 

 

「箒、少し失礼するよ」

 

 

箒をお姫様抱っこして、ピットに戻る。

 

ピットには心配そうな顔をしたクラリッサが待っていた。

 

 

「将冴、篠ノ之。大丈夫か!」

 

「僕は大丈夫だけど箒がかなり疲れてる。瞬時加速を何度も使ったせいで少し体にダメージが残っているんだと思う」

 

「まだ完璧に使いこなせているわけではないからな。しわ寄せがきたということか。待ってろ、今滝沢先生を呼ぶ」

 

「うん、お願い」

 

 

クラリッサが携帯電話で滝沢先生に電話している間に、箒を地面に寝かせ、ISを解除して義肢をつけた。保健室に運ぶにも、人手が必要だと思うし。

 

その時、ピットの扉が開き一夏とシャルルが入ってきた。

 

 

「一夏、シャルルも……」

 

「箒!?どうしたんだ!具合悪そうだぞ」

 

「さっきの試合で頑張りすぎたんだよ。まだ慣れない瞬時加速を何回も使っていたみたいだったから……」

 

「すぐに保健室に運んだほうがいいんじゃないの?」

 

「クラリッサが滝沢先生を呼んでくれている。すぐに来てくれるよ」

 

 

それから数分後、滝沢先生が担架を持ってピットまで来てくれた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

僕と一夏で箒を保健室まで運び、ベッドに寝かせた。

クラリッサとシャルルは保健室の前で待ってもらい、一夏にはそのまま箒を見てもらった。

 

僕はというと、車椅子に座り滝沢先生から箒の容体を聞いていた。

 

 

「先生、箒は……」

 

「疲労と、無理な操縦による体への負担が原因ね。少し熱があるけど、そこまで重症じゃないわ」

 

「そうですか……よかった」

 

「でも」

 

 

滝沢先生が念を押すように言葉を続けた。

 

 

「明日の試合は出せないわね。今日明日は絶対に安静」

 

「そうですよね。なんとなくわかっていました」

 

 

箒に無理させるのは僕の本望ではない。今はゆっくり休んでもらおう。

 

しかし、そうなると……

 

 

「明日の試合は棄権ですね」

 

「そうね。タッグトーナメントということだし、そうしたほうがいいわ」

 

「わかりました。ではそのように織斑先生に伝えてきます。ありがとうございました」

 

「いいのよ、仕事なんだから」

 

 

僕はそのまま保健室から退室した。

 

廊下ではクラリッサとシャルルが待っていてくれていた。一夏はわざと置いてきた。箒も嬉しいだろうし。

 

 

「将冴、篠ノ之の箒はどうだ?」

 

「そこまで心配するほどじゃないみたい。でも、今日明日は安静だって」

 

「今日明日って、明日の試合はどうするの?」

 

「棄権するよ。パートナーが出れないんじゃタッグトーナメントの意味はないからね。今から織斑先生のところに伝えに行くところ」

 

 

シャルルは「そっか」と何故か不満そうに呟いた、

いやいや、シャルルが不満に思う必要ないんだけど。

 

 

「しかし、ラウラ隊長はショックを受けるだろうな。さっきAブロックからはラウラ隊長と更識簪が出ると決まったから、将冴と戦えると喜んでいたようだ」

 

「しょうがないよ。ラウラとは、今度模擬戦でもしてご機嫌とりしておくさ」

 

「将冴はそれでいいの?ラウラと試合したかったんじゃ……」

 

「そうだけど、どうしようもないからね」

 

 

勿論、僕だってラウラと試合したい。

しかし、パートナーがいなくなった以上、どうすることもできないから……

 

そんな話をしている間に職員室に到着した。

 

 

「シャルル、悪いけど待っててくれる?伝えてくるだけだし、終わったらご飯食べに行こう」

 

「うん、わかった」

 

「ありがとう」

 

 

シャルルと夕飯の約束をとりつけ、クラリッサと一緒に職員室に入った。

 

職員室には数人の教員がいた。その中に、織斑先生の姿もある。

 

 

「織斑先生」

 

「ん?将冴にクラリッサか。どうした?」

 

「はい、実は……」

 

 

僕は箒が明日出場できないため、僕らのペアは棄権することを伝えた。

 

織斑先生は渋ったような顔をする。

まぁ、決勝だし、来賓の人とかも待ち望んでいるからだろう。

 

 

「ペアを変えて出場は……」

 

「他のペアに不公平です」

 

「だな……しかし、1年の決勝戦なしというのは、問題だな。将冴は試合に出れるんだな?」

 

「僕は問題ありません」

 

 

織斑先生は考え込むように腕を組んだ。

考えてみれば、僕は今世界中から注目されている男性操縦者だ。その僕が決勝を棄権したとなると、各国から文句を言われる可能性もあるか……。

 

 

「織斑先生、決勝戦を個人戦にすることはできませんか?」

 

「個人戦に?」

 

「はい、さすがにラウラと簪さんの二人を相手には、僕も一方的にやられてしまっては盛り上がりに欠けます。なので、ラウラか簪さんのどちらかと一対一で決勝戦というのはどうでしょう?」

 

「ふむ……わかった。検討してみよう。明日、決まったら教える。今日は疲れただろう。もう休め」

 

 

織斑先生に一礼して、クラリッサに車椅子を押してもらい職員室を後にした。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

シャルルと合流して、夕飯を食べながら職員室で織斑先生先生と話したことをシャルルに話した。

 

 

「個人戦か……思えば、今日の試合も個人戦みたいなものだよね」

 

「確かに、チームワークなんてそっちのけだったかも」

 

「見ていたこっちも、どちらを見ればいいかわからなかったぞ。同時に二つの個人戦が始まったんだからな」

 

 

はは、申し訳ない。

でも、箒と一夏には真剣勝負させたかったんだ。自分に自信を持ってもらうためにも。

 

 

「でも、将冴のあれはひどかったよ。サブマシンガンを至近距離で乱射なんて」

 

「ごめんごめん。僕も必死だったんだ」

 

「ラウラ隊長と戦っている時以来ではないか?あんなに切羽詰まった将冴は」

 

「そうだね。ラウラとは何回も戦っていたから、お互いに弱いところがわかっててね。いっつも追い詰められてさ」

 

「へぇ。でも、そんなに追い詰めることができたのは嬉しいかな。あ、でもシールドピアーズ止められた時はさすがにショックだった……」

 

 

あれは無我夢中で……。

本当に肝冷やしたんだから。

 

 

「あれは、私も胸が熱くなった。目の前で熱血ロボアニメを見ているような気分になった。歓声もすごかったんだぞ」

 

 

まるで少年のように目をキラキラさせているクラリッサ。そういえば、アファームドのことをロマン機体とか言ってたっけ。「己の肉体で戦うなんてロマンあふれるではないか!」うんたらかんたら

 

 

「ハルフォーフ先生って、アニメとか見るんですね」

 

「ああ。将冴とドイツであった時からな。おかげで日本語もこの通りだ」

 

「アニメで勉強したんですか……?」

 

「そうだが」

 

「そ、そうですか……あはは」

 

 

僕の嫁宣言に加えて、日本語をアニメで勉強したという謎の経歴に、シャルルは苦笑いを浮かべた。




地の文が書けなくなってきた。

またスランプだろうか……トーナメント終わったらレゾナンスでお買い物だったり、テストとかだったり、臨海学校だったりとイベントがいっぱいあるので、筆が進みそうではありますが……。

とりあえず福音早よ、ナタル早よ!


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75話

リアルが忙しい……しばらく不定期更新になってしまうかもしれません。なるべく更新できないときは前書きか後書きで報告いたします。

さて、今回はタッグトーナメント決勝への導入。
楽しんでいいただけたらと思います。


タッグトーナメント3日目の朝。昨日のように束さんが隣にいるということはなく、先に起きていたクラリッサが自分のベッドの上で櫛で髪をとかしていた。

 

 

「起きたか、将冴。体調はどうだ?」

 

「ふぁ〜……。うん、問題ないよ」

 

 

大きく欠伸をして答える。クラリッサとこの部屋で過ごすのも慣れてきた。

 

車椅子を出すのも面倒なので義足をつけて洗面所まで行き顔を洗う。

 

鏡で自分の顔を見ると……少し疲れてる。そんな顔をしている。

 

 

「はぁ……」

 

 

シャルルのこととか、箒の特訓とかあったし、知らぬ間に疲れが溜まっていたみたいだ。

 

でも、トーナメントが終われば少し余裕ができるはずだし、頑張ろう。

 

 

「よし」

 

 

タオルで顔を拭きながら洗面所を出ると、すでにスーツに着替えたクラリッサがカップを二つ持って立っていた。

 

 

「コーヒー飲むだろう?ミルクと砂糖は入っているぞ」

 

「ありがとう、クラリッサ」

 

 

コーヒーを受け取り一口飲む。甘めのコーヒーが美味しい。

 

ほっと一息ついていると、クラリッサがコーヒーを口にしながらこちらをじっと見ている。

 

 

「クラリッサ?僕の顔に何かついてる?」

 

「いや、少し疲れた顔をしているなと思ってな。本当に体調は大丈夫なのか?」

 

「うん。それは大丈夫だよ。試合にも問題はない。まぁ、まだ試合するとは決まってないけどね」

 

「そうか……将冴、あまり抱え込まず、私にも相談してくれ。織斑先生から聞いたが、デュノアの件に首を突っ込んでいるのだろう?」

 

「まぁ、ね……でも、僕が直接動いてるわけじゃないから、そこまででもないよ」

 

 

ほとんど束さんに任せちゃったから……それだけが心苦しい。

 

 

「……私にも頼ってくれ。将冴のためなら、なんでも……」

 

「僕はいっぱいクラリッサに頼ってるよ。申し訳ないくらいにね」

 

「将冴……」

 

「朝ご飯食べに行こう。もう今日の試合のこと決まってるかもしれないから、織斑先生のところにも」

 

 

クラリッサにも、束さんにも、千冬さんにも僕は頼りっぱなしだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

クラリッサに車椅子を押してもらい食堂へ行くと、丁度良く織斑先生がいた。

 

織斑先生は簪さんと何か話している。

 

 

「……そうか、わかった。報告ご苦労」

 

「いえ。……あ、将冴君」

 

 

簪さんが僕に気づき、織斑先生もこちらを見る。

なんの話をしていたんだろう?

 

 

「簪さん、織斑先生。おはようございます」

 

「おはようございます」

 

「将冴にクラリッサか。丁度良かった、今日の試合についてなんだが、将冴とラウラの個人戦になりそうだ」

 

 

個人戦に……今簪さんと織斑先生が話をしていたことが関係しているのかな。

 

 

「簪さんはそれでいいの?」

 

「うん。実は私の打鉄弐式にシステムエラーが出ちゃって……今日のトーナメントは出場できそうにないの」

 

「そうだったんだ。弐式の方は大丈夫?」

 

「調整すれば大丈夫。姉さんにも手伝ってもらうから」

 

 

このタイミングでエラーとは、良かったのか悪かったのか……。

 

 

「そういうわけだ。1年の決勝は将冴とラウラの一騎打ち。異論はないな?」

 

「はい。ありがとうございます、織斑先生」

 

「礼をされることはしていない。しっかり準備して挑め」

 

 

織斑先生はそう言って食堂から立ち去って行った。

ラウラと真っ向勝負……負けられないな。

 

 

「将冴君と戦ってみたかったけど……今回は見送る」

 

 

簪さんが少し悔しそうに呟いた。僕も日本代表候補生と手合わせしてみたかったから、残念でもある。

 

 

「今度、模擬戦しようよ。一夏達もいるから」

 

「うん、是非。それじゃ、私は弐式の調整に行ってくるからこれで」

 

「うん。また」

 

 

朝から調整か……あまり無理しすぎて倒れないといいけど、僕が言えたことじゃないか……。

 

 

「ご飯食べようか、クラリッサ」

 

「ああ。ときに将冴、ラウラ隊長と戦う時に……」

 

「絶対に嫌」

 

「まだ全部言ってないのに……」

 

 

どうせフェイ・イェンで戦ってくれとかそんなだろう。絶対にフェイ・イェンは使わない。

 

……まぁ、あのモードを使わなければいけないかもしれないけど、ほぼ確実にフェイ・イェンは使わないから!

 

 

「将冴、クラリッサ。おはよう」

 

 

後ろから声をかけられたので振り返ると、ラウラが立っていた。表情を見ただけで嬉しいそうな雰囲気を醸し出しているのがわかる。

 

 

「おはよう、ラウラ」

 

「隊長、おはようございます」

 

「うむ。将冴、さっき織斑きょ……先生と会って聞いたぞ。お前と一対一で戦えると」

 

「うん、簪さんがマシントラブルで出れなくなっちゃったからね。箒も、体調不良で休んでるから」

 

「箒か……昨日の試合の映像を見たが、ずいぶん強くなったではないか。将冴が直接鍛えたのなら、当然という気もするがな」

 

 

僕が鍛えたからというよりも、箒の力というのが正しいと思うかな。正直、そんなに大層なことは教えていない。瞬時加速くらいだ、しっかり教えたのは。

 

 

「まぁ、今日は楽しみにしているぞ。お互い本気でな」

 

「うん、本気で」

 

 

そう言葉を交わし、僕たちは朝食にありつくために注文をした。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

朝食を食べて数時間後、僕はピットでテムジンを纏い動きを確認していた。

 

僕の他にクラリッサ、一夏、セシリアさん、鈴、シャルルが来てくれた。箒はまだ保健室にいるらしい。

 

 

「将冴、俺とシャルルに勝ったんだから、負けたら承知しねぇぞ」

 

「一夏に勝ったのは箒だけどね」

 

「うっ……」

 

 

みんながカラカラと笑う。

 

一度ISを戻し、義足で地面に立つ。

 

 

「でも、一夏の言う通りだよ。僕にあんなことしてまで勝ったんだから、絶対に勝ってね」

 

「わかった、シャルル」

 

「私達の時も、卑怯な手を使って勝ったんだから、負けんじゃないわよ!」

 

「将冴さん、頑張ってくださいまし」

 

「うん、頑張ってくるよ。セシリアさん、鈴」

 

 

みんなに激励される。これほど心強いものはない。

 

 

『これより、1年の決勝を始めます。選手はアリーナへ』

 

 

山田先生のアナウンス。

時間か……

 

 

「それじゃ、行ってくるね」

 

「将冴!」

 

 

アリーナに出ようとすると、クラリッサが僕を呼び止める。

 

 

「なに……むぐっ!?」

 

 

唇に、柔らかい感触。1年ぶりの感触……。

 

 

「……っはぁ……。無理はするなよ」

 

「……わかった。行ってくるね、クラリッサ」

 

「ああ」

 

 

みんなに見られた恥ずかしさから、僕はテムジンを纏い足早にアリーナに飛び出した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

アリーナに飛び出していく将冴を見て、私……クラリッサの胸中は不安にかられていた。

 

嫌な予感がする。何か、良くないことが……

 

 

「は、ハルフォーフ先生……」

 

 

一夏が話しかけてくる。見ると、一夏やここにいる全員が顔を真っ赤にしている。

 

 

「その……先生と生徒で、アレは……」

 

「ん?何かおかしいか?」

 

「え、いや、その……」

 

「なんていうかさ……小学からの知り合いが、すごい大人になってしまったっていうか……」

 

 

一夏と凰が気まずそうに顔を背ける。そういえば、この2人は将冴と付き合いが長かったか。

 

 

「先生と生徒の禁断の恋……ああ、背徳な感じがしますわ」

 

「はは……最初に言ってた将冴の嫁っていうのは、本当だったのかな……」

 

 

そこで気がつく。

全く気にしていなかったが、生徒の目の前で将冴に……

 

 

「……忘れてくれ」

 

「「「「ちょっと無理です」」」」




久々にクラリッサがやらかす。

明日は更新できますので、お楽しみください。


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76話

ようやくラウラ戦。

戦闘苦手なのでホワホワするかもしれませんが、生暖かく見守ってください←


 

「来たな」

 

 

すでにアリーナで待っていたラウラから少し離れたところに降り立つ。

 

ラウラの声の様子から、この時を楽しみにしていたことがわかる。

 

 

「こうやって相対するのは久しぶりだね」

 

「ああ。一勝リードしたまま、お前は日本に帰ってしまったからな。今日、お前に勝って勝率を同じにしてやろう」

 

「そう簡単に負けるつもりはないよ。ここで引き離すからね。本気で行くよ」

 

「当たり前だ。本気でなくては意味がない!」

 

 

お互いに武器を構える。

 

それを見計らって山田先生のアナウンスが入る。

 

 

『タッグトーナメント一年生の部決勝、柳川将冴対ラウラ・ボーデヴィッヒ。試合、開始!』

 

 

開始コールとともに僕はブーストを点火。ラウラと肉迫する。

 

 

「まっすぐの攻撃は簡単に見切れるぞ!」

 

「くっ!」

 

 

ラウラはワイヤーブレードを射出。それを体を捻りギリギリで躱すが、この体勢は無防備だ!

 

ラウラはこちらにレールカノンを向けている。

 

 

「いけ!」

 

 

レールカノンが火を吹き、僕に向かってエネルギー弾が迫ってくる。

 

この状態から退避するのは無理……なら、セイバーで受ける。

 

セイバーを盾にしてエネルギー弾を防御する。くっ、衝撃が強い。さすがに、1年前とは性能が……。

 

 

「くぅ……あぁぁぁ!」

 

 

無理やりセイバーを振るいエネルギー弾を弾く。

 

性能の上がり方が半端ではない。技術は日々進歩しているということかな……。

 

 

「動きがきごちないのではないか?将冴」

 

「かもね。少し甘く見すぎていたかも。でも……」

 

 

スラスターにエネルギーを溜める。

 

 

「これならどうかな!」

 

 

瞬時加速。しかし、まっすぐではラウラに捉えられる。

でも僕にはバーティカルターンがある。

 

連続してターンを超高速繰り返し、狙いを拡散する。

 

 

「なっ!?これは」

 

 

ラウラには何度も使っているけど……連続では使ったことはないよね?連続してのバーティカルターン。瞬時加速の速度を落とさずに行うこの技は、撹乱にはもってこいだ。

 

その反面、僕自身へのダメージが半端ない。一度や二度なら問題ないけど、こんなに連続すれば、エネルギーより先に僕の体力がそこをつく。

 

だけど……短期で決着をつけるなら……。

 

 

「くぅっ……これでぇ!!」

 

 

完全に死角から突撃することができた。

セイバーを振りかぶり、ラウラへ振おうとすると、ピタッと体が止まった。

 

 

「ぐ、これはAIC!?1年前よりも性能が……」

 

「お前なら狙ってくると思ったぞ。どうだ、完成したAICは。完全にお前を止めることができるぞ」

 

「みたい、だね……」

 

「そのまま一発喰らってもらおう」

 

 

至近距離でラウラがレールカノンを向けてくる。

 

マズイ……

 

一瞬、レールカノンが光、閃光が僕を包んだ。

 

 

「があぁぁぁ!?」

 

 

まともにレールカノンをもらってしまった。シールドエネルギーがごっそり持っていかれ、そのまま吹き飛ばされ壁に激突する、

 

1000あったエネルギーが、すでに600まで削られた。

 

 

「どうした将冴!そんなものか!」

 

 

ラウラの反応速度がここまで上がっているとは思わなかった。

 

 

「ゲホッ……どうだろうね。今のは結構本気だったけど……」

 

 

口が鉄臭い……さっきのバーティカルターンでここまでダメージが……。

 

 

「随分と無理な操作をしたようだな。だが、容赦はしないぞ!」

 

 

ラウラが急接近してくる。近接戦で決めるつもりか。

 

 

「フォームチェンジ『アファームド』」

 

 

アファームドを展開して、ビームトンファーでラウラのプラズマ手刀を受ける。

 

しかし、完全にラウラのペースだ。力で押し負けている……。

 

ラウラがプラズマ手刀で何度も斬りつけてくる。

受けるので精一杯で、反撃できない……接近戦は不利だ。

 

手刀を受け流しつつ右手にサブマシンガンを展開し、ラウラに向けて掃射。

 

 

「くっ、昨日使っていた武器か!」

 

 

ラウラは後退。よし、距離が開いたなら次は弾の数より質で。

 

サブマシンガンを粒子化し、拡張領域からビームライフルを取り出す。

 

 

「テムジンでもエネルギー弾が撃てたからあまり使ったことないけど、アファームドだって遠距離装備はあるんだよ!」

 

「ビームライフルだと!?」

 

 

ラウラをロックオンし、引き金を引く。

放たれたビームがまっすぐラウラに向かうが、ラウラは腕を交差し防御する。

 

さすがに、戦闘慣れしている。

 

 

「少しびっくりしたぞ」

 

「そりゃどうも」

 

「いいぞ、楽しくなってきた。さぁ、もう一度いくぞ!」




次に続きます。

やっぱり戦闘がホヤァーっとしてるなぁ。
もう少し勉強しないと。


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77話

決勝戦の続きです。

またホニャるかもしれませんがお付き合いください。

もしかしたら連続投稿するかもしれません。


 

ラウラはレールカノンを連発してくる。これ以上近づくのは難しく、アファームドのライフルで攻撃しようとしても、簡単に防がれる。サブマシンガンで牽制するにも距離がありすぎる。

 

ラウラのIS、シュバルツェア・レーゲンはまさにオールラウンドな機体だ。遠距離、中距離、近距離すべてに対応できる。ラウラ自身の技術と相まって、その力絶大だ。

 

シャルルよりも厄介なのは目に見えて明らかだ。

 

僕のシールドエネルギーはすでに300程度……ラウラのシールドエネルギーはまだ僕より多いだろう。ライフルの牽制は躱すでなく、腕で受けているし、レールカノンもなんども撃っているから、おそらく600〜700程度。

 

倍近くか……こっちは体力的にもギリギリだというのに。

 

 

「防戦一方では勝つことはできないぞ、将冴」

 

「そうだね、どうやって挽回しようか考えてるところ。この砲撃が止んでくれればゆっくり考えられるんだけど」

 

「悪いがそれはできないな」

 

「だよね」

 

 

ラウラを倒すには2つの課題がある。

 

まずはこのレールカノンを掻い潜って、ラウラの元まで行くこと。そしてAICに捕まらず、ラウラに攻撃を繰り出さなければならないこと。

 

この2つを成功させるのに必要なのはラウラが反応できない速度で近づくことだ。

 

……一つ思い当たるものがあるんだけど、使いたくない。けど、そうも言ってられない。

 

 

「ラウラ、そろそろ試合を動かそうか」

 

「何?」

 

「とりあえず、その砲撃を一度止めてもらうよ」

 

 

ビームライフルをラウラに向けて乱射する。

ラウラは砲撃を中断し、ビームをプラズマ手刀で弾き、躱していく。

 

今なら……

 

 

「フォームチェンジ『フェイ・イェン』」

 

 

アファームドが粒子化し、フェイ・イェンが展開される。

 

それと同時に観客席から歓声があがる。君達大好きだね、これ……。

 

 

「フェイ・イェンか……以前はふざけたフォームだと侮っていたが、その手には引っかからないぞ」

 

「それが目的じゃないさ。純粋に一番良いと思ったんだ」

 

「そうか。ならば、今まで通り本気で行かせてもらうぞ!」

 

 

ラウラがまたレールカノンを放つ。

十分に距離があるから、いつでも躱す事は出来る。けど、今は躱さない!

 

腕を交差し、レールカノンのダメージを最小限に抑える。

 

 

「ぐぅ……」

 

「避けないだと?ふざけているのか、将冴!」

 

「いたって真面目さ。……まだ足りないか」

 

 

シールドエネルギーは240。あと少し……

 

 

「何を企んでいるか知らないが、もう決めてやるぞ!」

 

 

ラウラがレールカノンを三発続けて放つ。流石にこれは危ないか。

 

2発は避けて、一発は先ほどと同じように腕でガード。

辺りに土煙が舞う。追撃がこないということは、ラウラから僕は見えていないんだろう。

 

エネルギーは……180。条件を満たした。

 

 

「行くよフェイ・イェン。ハイパーモード!」

 

 

フェイ・イェンの装甲が金色に輝く。

 

そのままスラスターにエネルギーを貯めて、飛び出す!

 

 

「な、金色のフェイ・イェン!?」

 

 

ラウラが驚いた顔でこちらにレールカノンを向けてくるが、もう遅い!

 

レイピアを振るい、レールカノンの砲塔を切り裂く。

 

 

「速い!?」

 

「まだまだぁ!」

 

 

まだ反応できていないラウラにレイピアを5回突き立てる

 

ハイパーモード。これはフェイ・イェンを使っているときにシールドエネルギーが200を切った時に発動するモード。機動力が2倍になり、カラーリングが金色になる。

 

僕がフェイ・イェンをほとんど使わないので、過去に使ったのはクロエさんと束さんのラボで模擬戦をした時だけだ。

 

この機動力なら……

 

 

「くっ、いくら速くても止めてしまえば!」

 

「甘いよ!」

 

 

咄嗟にバックブーストで後退し、AICに捕まる前に離れる。

 

 

「飛んだ隠し球を……」

 

「さぁ、ラウラ。勝者を決めようか」

 

「望むところだ!」

 

 

僕は倍になった機動力にプラスして、瞬時加速を発動させる。おそらく肉眼だと捉えるのが難しいだろう。僕にかかるGも半端ない……。

 

 

「速いが、ハイパーセンサーならば捉えられる!」

 

 

ラウラがワイヤーブレードを4つ射出する。

 

 

「捕まってたまるかぁ!」

 

 

レイピアでワイヤーブレードを切り落とす。このまま直進して……!

 

 

「くっ、ならば止めるまでだ!」

 

 

ラウラが右手をかざす。AICで止めるつもりか。

 

ならバーティカルターンで曲がる!

 

体に多大な負荷がかかりながらも、直角に曲がる。

 

 

「それは読んでいた!」

 

 

もう一度曲がって攻撃を仕掛けようとしていた場所にラウラが右手をかざした。このままではAICに捕まる。読まれていたなら……

 

 

「ラウラの予測を超える!」

 

 

ラウラのAICに捕まる前に、放出していたエネルギーを一度止め、逆噴射。

 

同じだけのエネルギーを一瞬で一気に噴射したため、フェイ・イェンは一度ピタッとAICの効力圏外に止まる。

 

さらにここから完全に無防備になったラウラの背後に回り込むように、瞬時加速からのターンを決める。

 

 

「これで……なっ」

 

 

レイピアで貫ぬこうとした瞬間、ラウラのISから謎のエネルギーが吹き出し、僕は吹き飛ばされた。




今日中にもう一個あげれたらあげたいと思います。

もう少しで終わるよ!タッグトーナメント!


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78話

本日二つ目。

今回視点変更が多くなります。ご了承いただけたらと思います。


将冴の動きを予想し、AICを展開した。あの速度だ。反応などできない。そう思っていた。

 

だが、将冴は瞬時加速を直前で止め、AICの効力圏外で止まった。

 

瞬時加速をキャンセルするなんて、聞いたこともない。そこからは、私の意識も追いつけなかった。気がついたら将冴が背後にいた。

 

レールカノンとAICの連発で、エネルギーを酷使しすぎた。この一撃が決まれば、私は負ける。

 

1年ぶりに楽しい試合ができた。

将冴の2勝リードか……取り戻すのは大変そうだ……。

 

 

『力が欲しいか?』

 

 

声?なんの声だ……

 

 

『何者にも負けぬ力が欲しいか?」

 

 

お前は一体……

 

 

『全てをねじ伏せる力が欲しいか?』

 

 

いらない……私は自分で強くなりたいんだ……

 

 

『だが、心の奥では望んでいる。力を』

 

 

望んでないそんなもの……

 

 

『私が与えてやろう。新たな力を』

 

 

やめろ……

 

 

『さぁ、受け取れ』

 

 

ヤメロォ!

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

謎のエネルギーに吹き飛ばされて、壁に激突した。今日二回目だ。

 

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

 

激突した衝撃と、さっきの急停止やターンで体に蓄積していたダメージが限界を迎えたようだ。さっきみたいに咳に混じって血が出たわけじゃなく、本当に吐血した。

 

フルスキンのISだから、頭の部分の内側が血で真っ赤になってるだろう。

 

それよりも、さっきのエネルギーは一体?

 

 

「ラウラ!」

 

 

ラウラのISから黒い何かが出てきている。

なんなんだ、あれ……

 

黒い何かは、ラウラをISごと包み込み、何かを形取っていく。

 

あれは……

 

 

「千冬……さん?」

 

 

モンドグロッソで見た、千冬さんの姿をしていた。

 

なんだよ。なんでそんなものに……

 

 

『将冴、聞こえるか!将冴!」

 

 

千冬さんの声。管制室からか?

 

 

「千冬さん、あれは一体……」

 

『……憶測だが、あれはVT(ヴァルキリートレース)システムだ。モンドグロッソの部門受賞者の動き名前のトレースし、操縦者に反映するシステム。アラスカ条約で使用を禁止されている』

 

「では、あれは千冬さんをトレースしたものだ、と?」

 

『ああ。おそらく、ドイツで組み込まれて、ラウラが負けそうになったときに発動するようになっていたんだろう。将冴、今すぐ離脱しろ。今教員と専用機持ちであれを……』

 

「……さない……」

 

『将冴?』

 

「ゆる……さない……」

 

 

僕とラウラの試合を邪魔して、千冬さんの強さを冒涜し、束さんの発明であるISを汚す……。

 

ドイツで組み込まれたということは、軍が仕組んだことか。

 

もう、僕も我慢ならない。政府やら企業やら軍やらが好き放題やって、シャルルやラウラが巻き添えをくうんじゃないか。

 

シャルルは普通の女の子として過ごしたかった。ラウラは僕との試合を楽しみにしていた……

 

大人のゴタゴタに巻き込まれるのはもうたくさんだ。

 

 

『将冴、どうしたんだ?』

 

「許してたまるか……」

 

《感情値、規定指数に達しました。EVL(イヴィル)バインダー起動。強制フォームチェンジ『スペシネフ』》

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「あれは……」

 

 

管制室から、私……千冬は山田先生とアリーナの様子を見ていた。

 

ラウラがVTシステムに囚われ、将冴は……

 

 

「スペシネフ……ドイツで何度か見たが、使えないはずじゃ……」

 

「将冴君のISにあんなものが……なんだか怖いです」

 

 

山田先生は将冴の姿を見て怯えている。

なんなんだ、あのフォームは。私でさえ、恐ろしいと感じてしまう……。

 

怖気付いている場合ではないか……

 

 

「山田先生、観客の避難誘導を。私は放送で呼びかける。誘導が終わり次第、ISで事態の収拾を」

 

「わ、わかりました!」

 

 

山田先生は管制室から出て行く。

 

それと同時に、私は避難のアナウンスを入れる。

 

幸いにも、以前の無人機襲撃のように、隔壁が降りているわけではない。避難は問題ないだろう。

 

再びアリーナを見ると、ピットからISが一つ飛び出していく。あれは、白式?一夏か……あの馬鹿者が。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ピットのモニターから将冴とラウラ隊長の様子を見ていた私……クラリッサは、胸が苦しくなった。

 

試合前からしていた嫌な予感はこれだったんだ。

 

ラウラ隊長はアラスカ条約で禁止されているVTシステム。将冴は禍々しいまでのプレッシャーを放つスペシネフ。

 

今の私では、どうにもすることができない……

 

 

「あれは……千冬姉?なんなんだよ、あんなの、千冬姉の模倣じゃねぇか!」

 

「VTシステム……条約で禁止されているシステムですわ。まさか、ラウラさんの機体に組み込まれていたなんて……」

 

「どうすんのよこれ!将冴は試合でエネルギーをかなり減らしてるし、トレースしてるのが千冬さんなら、あっという間に……」

 

「でも、将冴のあのフォーム……何か普通と違う。もしかしたら……」

 

 

確かに普通とは違う……怒りを体現したかのような雰囲気を醸し出している。危険だ。私の中でずっと警鐘がなっている。

 

 

「あんなもの……千冬姉じゃない!」

 

 

一夏がISを纏った。

 

くっ、今は不用意に近づいてはいけない!

 

 

「一夏、待て!今の二人に近づくな!」

 

「止めないでくれ、ハルフォーフ先生!あれは、俺が止めないと!」

 

 

そう言ってピットから飛び出して行ってしまった。

くそっ、教員の言うことを聞けというのに……!

 

 

「お前たち3人は待機だ。織斑先生に状況を確認する」

 

 

将冴……お前はどうしてしまったんだ……。

 




スペシネフ、怒りの覚醒。

暴走するラウラ。

突撃する一夏。

胸を痛めるクラリッサ。

困惑する千冬。

次回、死神。

※なんとなく次回予告風にしたかった。


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79話

今回でやっとトーナメント終わりかな……

ここまでで79話もかかってしまいました……この調子だと、臨海学校もどれだけかかるか……

一応、最終回はこの辺にしようかなぁ、というのは考えていますが……伸びるかもしれません。

今回は一夏の視点から入ります。


 

「このぉぉ!」

 

 

黒い千冬姉の姿をしたラウラに雪片二型で斬りかかる。

しかし、ラウラは黒い雪片で受け止める。

 

ラウラは千冬姉を尊敬していることは、ラウラと話をしたから聞いている。だからこそ許せない。ラウラが千冬姉を侮辱するような力を望んでいないのは知っていた。

 

だとしたら、誰かが仕組んだことなのはすぐに分かった。

 

将冴はさっきの試合でシールドエネルギーが少ないし、時間稼ぎも難しいはずだ。なら、俺がやってやる。みんなを守ってやるんだ!

 

 

「ラウラ!お前はこんなものを望んでいたのか?」

 

「……」

 

「違うだろ!こんな紛い物になんかに負けるな、ラウラ!」

 

「……」

 

 

ラウラは何も答えない。

聞こえていないのか……なら、この黒いのを切り裂いて中から引きずり出してやる。

 

それには……

 

 

「将冴!手を貸してくれ!零落白夜でこいつの中からラウラを……」

 

「……一……夏」

 

「ど、どうしたんだよ、将冴……」

 

「そこ……どけて」

 

 

ぞくっと、心臓を鷲掴みにされる感覚。こいつ……本当に将冴なのか?

 

 

「どけてって……何言ってんだよ!消耗してるのに、お前一人でやるつもりか!?」

 

「いいから……それを止めるのは……ボクダカラ」

 

「お前……ぐわぁ!?」

 

 

ラウラに押し返された。くそっ、偽物とはいえ千冬姉ということか……

 

 

「将冴!二人で同時に突っ込んで……」

 

「一夏は下がっていて」

 

「なっ!?」

 

 

将冴が俺の腕を掴んで投げ飛ばした。

 

なんとか姿勢を制御して安定するが、どうしたんだ将冴……。こんなところ見たことが……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

一夏を投げ飛ばして、VTシステムに取り込まれたラウラを見る。

 

待ってて、今僕が助けるから。その邪魔なものを潰して……

 

僕は手に持ったロングランチャーとサイズが一体となった武器、アイフリーサーをラウラに向け、引き金を引き絞る。

 

エネルギー弾がVTシステムに向かっていくが、VTシステムは黒い雪片を振るいエネルギー弾を弾いた。さすがに簡単にはいかないか。

 

なら、エネルギー弾を連続で放つ。千冬さんがモンドグロッソで使っていた暮桜は、一夏の白式と同じ近接武器だけ。遠距離からなら反撃できない。

 

 

「……」

 

「早くラウラを離してよ。君は存在していいものじゃないんだから」

 

「……」

 

「何か言いなよ。ねぇ、ねぇ、ねぇ?」

 

 

休みなくエネルギー弾を放ちながら、VTシステムに近づく。

 

ある程度近づいた時、VTシステムが動きを見せた。

瞬時加速で間合いを詰めてきた。そりゃ千冬さんをトレースしているんなら使うか。まぁ、分かっていたけど。

 

僕は射撃を止め、サイズを展開する。

 

 

「その黒いの、全部剥がしてあげる」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「将冴……なのか?あの戦い方は……」

 

 

ピットにいる者は、みんな黙ったままだった。

 

私……クラリッサは、アリーナで起こっていることを信じられずにいた。

 

 

「一夏を投げ飛ばして……」

 

「将冴、シールドエネルギーなんてほとんどないはずよね!?あんなに連射したら……」

 

「もう無いはずだ……それだけ撃っている」

 

「それではなぜ!?」

 

「私にもわからない!」

 

 

将冴……あのスペシネフのせいなのか……?

 

 

「待機命令さえなければ、今すぐにアレを止めに行くのに!」

 

 

織斑先生は、これ以上被害を広げないために、専用機持ちを待機させていた。一夏は勝手に飛び出したが……

 

その時、ピットの扉が開き、生徒が一人入ってきた。

 

 

「ハルフォーフ先生!」

 

「篠ノ之?なぜ来たんだ!」

 

 

保健室で休んでいるはずの篠ノ之箒だった。

 

 

「非常事態が起こったと聞いて……一夏と将冴は?」

 

「アリーナで対処している。篠ノ之はすぐにピットから出るんだ。お前にできることはない」

 

「しかし……」

 

「篠ノ之!」

 

「くっ……」

 

 

何もできないのが歯がゆいのだろう……それは私達も同じだ。

 

将冴……今はお前に頼むしかない。隊長を助けてくれ……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

アイフリーサーと雪片が、何回目になるわからない斬り合いが続いていた。

 

 

「エネルギーが尽きないみたいだね。何度か斬りつけたけど、怯む様子もないし。中にいるラウラのことは気にしていないみたいだ。もう離してもらうよ」

 

 

VTシステムの雪片が僕の肩を斬りつけた。

 

わざと隙を開けたんだ。こうすれば……

 

 

「捕まえた」

 

 

肩に切りつけられた雪片を掴み、VTシステムの動きを止めた。

 

 

「まず、動き回られると面倒だから、磔にさせてもらうよ」

 

 

瞬時加速でVTシステムをそのまま壁まで押しやった。

そして、僕の背中についている二つの翼を取り外し、VTシステムの腕が動かないように壁に突き立てた。

 

 

「これで動けないでしょ?それじゃあ、ラウラを返してもらうよ」

 

 

スペシネフの大きな爪でVTシステムのお腹を突き破った。

 

 

「いた」

 

 

ラウラがいる確かな感触を感じ、それを傷つけないように掴み引き抜いた。

 

引き抜いた瞬間にVTシステムはドロドロの液体のようになり消えていった。

 

スペシネフの手の中で、ラウラが小さな寝息を立てている。

 

 

「よかった……」

 

 

僕はさっき投げ飛ばしたままにしていた一夏の方を見た。

なにやら呆然としているけど……僕も限界なんだ……。

 

 

「一夏」

 

「な、なんだ……?」

 

「ラウラを頼んでいいかな?僕はもう……」

 

 

ガシャンと僕は膝をついた。ラウラとの試合で無茶をしすぎたせいで、体がボロボロ……それに初めてスペシネフを使ったが、これがかなりキツイ。

 

 

「将冴!?大丈夫か!?」

 

「お願い……」

 

 

駆け寄ってきた一夏にラウラを渡して、僕は意識を手放した。




ヤットオワッタァ!!

あとはエピローグ書くだけですね。それは明日までお待ちください。


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80話

IS学園入学から続いたこの章は今回で終わりになります。次から違う章という感じですね。

もうすぐでナタルがでてくると思うとwktkが止まりませぬなぁ、げっへっへ


 

目が覚めたら保健室だった。しばらくここで寝泊まりしてたから見覚えがある。

 

なんでここで寝てるんだっけ……あぁ〜、よく覚えてないかもしれない。

えっと……確か、ラウラと試合してて……そうだ、VTシステム。断片的だけど思い出した。ラウラをVTシステムから助け出して、そのまま気を失ったんだった。

 

体痛いなぁ……胴体だけだけど。血を吐いたから口の中少し鉄臭いし。

 

とりあえず義手をつけて体だけ起こす。

 

 

「いててて……」

 

 

起き上がるのにも体が……ボロボロだなぁ。

 

 

「う……ぅん……」

 

 

隣のベッドから声が聞こえる。

僕以外に誰か……ラウラかな?

 

義足をつけて立ち上がって少しカーテンをめくり隣のベッドを見てみると、そこには目を覚ましたばかりのラウラがいた。

 

 

「あ、ラウラ」

 

「ん……将冴か?」

 

「うん。気分はどう?」

 

「いいとは言えないな……。正直、何があったかも殆ど覚えていない」

 

「そっか……気を失っていたのか。えっとね」

 

 

僕はアリーナであったことを説明してあげた。

 

僕も記憶が曖昧だから、自分の中で確認しながらだけど。

 

 

「そんなことが……」

 

「その後のことはわからない。僕もさっき目を覚ましたばかりだから」

 

「そうか。……将冴、助けてくれてありがとう」

 

「いいんだよ。僕の個人的な感情もあったし」

 

「それでも、助けてくれたのは変わらない。それに……」

 

 

なにやら口ごもるラウラ。

 

 

「将冴が助けてくれたのは、なんとなく覚えているんだ……。不思議だな。ずっと意識がなかったはずなのに」

 

 

確かに、助けたときラウラは気を失っていたはず……。

 

そのまま一夏に頼んだ覚えがある。

 

 

「私のために将冴が怒ってくれた。戦ってくれた。なんだかあったかいような……そんな感じがしたんだ」

 

「ラウラ……」

 

「……変な話をした。わ、私はもう少し寝る。将冴も休め。無茶したんだろう?」

 

「うん、そうする。おやすみ、ラウラ」

 

 

ラウラの頭をポンポンと撫でて、僕が寝ていたベッドに戻ろうと思ったけど、目が冴えてしまったし、口の中をすすぎたい。喉も渇いたし。

 

少し外に出るかな。

車椅子を出して座り、義足を拡張領域に戻した。

 

 

「うっ……結構、背筋とか痛いなぁ……」

 

 

車椅子の車輪を腕で回すのはかなり体が痛むから、思考制御で動かそう。

 

保健室の扉を開けると、目の前に人がいた。そこにいたのは……

 

 

「あ、クラリッサ……」

 

「将冴……将冴!」

 

 

ガバッと抱きつかれた。む、胸が……

 

 

「よかった……無事でよかった……」

 

 

無事とは言いがたいかもしれないほど体ががガタガタだけど……とりあえず、苦しい……。

 

 

「く、クラリッサ、ちょっと苦しい……」

 

「あ、す、すまない!」

 

 

すぐにクラリッサが離れる。

ああ、何度目だろう。抱きつかれて窒息しそうになるの……。

 

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「一応。少し喉乾いたのと、口の中鉄臭いから、お水欲しくて」

 

「そうだ、将冴吐血したのだろう!?私が水を持ってくるから、ベッドで……」

 

「大丈夫だよ。これくらいは……」

 

「とてもそうは見えなかった。アリーナで倒れたお前の口の周りが血だらけだった時は心臓が止まりかけたぞ……」

 

 

ああ……そりゃ驚くか……。

 

 

「ごほん!」

 

 

突然咳払いする声が。

その声の方をみると、不機嫌そうな千冬さんがいた。

 

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生だ」

 

「いつから……」

 

「最初からだ」

 

 

全然気がつかなかった……。

 

 

「クラリッサ、ラウラから事情聴取を頼む」

 

「し、しかし……」

 

「クラリッサ」

 

「わ、わかりました!」

 

 

クラリッサは保健室に入って、ラウラが寝ているベッドに向かっていった。

 

 

「あ、ラウラ寝ているかも……」

 

「お前とクラリッサがそこで騒がしく話していたから起きているだろう。将冴、お前は指導室まで来てもらうぞ」

 

「わかりました……」

 

 

織斑先生、なんだか少し怖いんだけど……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

指導室まで連れてこられた。

ここには僕と織斑先生の2人だけだ。

 

 

「水を飲みたいんだったな。これを飲め」

 

 

織斑先生がペッドボトルの水を渡してくれた。これはありがたい。口をすすぎたかったけど……いいや、そのまま飲んでしまおう。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

水を一口飲む。

 

少しマシになったかな。

 

 

「さて、将冴」

 

「は、はい……」

 

 

明らかに怒っている織斑先生の声に、自然と背筋が伸びる。

 

 

「何故あんな無茶をした?」

 

「何故、と聞かれると返答に困ってしまうんですが……」

 

 

あの時は、怒りに身を任せていたというのが適切な例えかな。

 

 

「体が勝手に動いてしまったっていうのは理由になりませんかね……」

 

「なると思っているのか?」

 

「すいません……」

 

 

織斑先生は、はぁ、とため息ついた。

 

そりゃ呆れ果てるよね。でもこう答える以外にいい言葉が見つからないんだ。

 

 

「まぁ、今日のお前の様子は少し変だったからな……それでいい」

 

「え……いいんですか?」

 

 

まさかOKが出るとは思わなかった。

 

 

「だが……」

 

 

織斑先生が立ち上がり僕の隣まで来て、頭を撫で始めた。

 

これはいったい……

 

 

「無人機襲撃の時も行ったが、無茶をするな」

 

「すいません……」

 

「だが……よくやったな。ラウラを助けてくれてありがとう」

 

「いえ……僕も無我夢中でしたから……」

 

 

織斑先生が優しく褒めてくれる。滅多にないことなので、なんとも言えない気持ちになった。

 

 

「だが、相応の罰は受けてもらうぞ」

 

「それはもちろん。なんでも甘んじて受けます」

 

 

その時、織斑先生がものすごくいい顔をした。あんな顔、ほとんど見たことないんだけど……怖いんだけど……。

 

 

「ならば、奉仕活動をしてもらおうか」

 

「へ?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「……事情聴取はこれで終わりです。お疲れ様でした、ラウラ隊長」

 

 

私……ラウラの事情聴取が終わり、クラリッサが調書のようなものに書き込みを終えた。

 

まぁ、話せることは、将冴に負けそうになった時に聞こえた声のことだけだが……。

 

将冴に助けられた時のことは……あまり関係ないと判断したので話さなかった。

 

あの、あったかい感じ……さっき将冴に頭を撫でられた時も……

 

 

「……ラウラ隊長?どうしたのですか、頭に手を当てて」

 

「え?あ、いや、なんでもない……」

 

「そうですか……?」

 

 

そうだ、今現在将冴に好意を寄せているクラリッサならわかるかもしれない。

 

 

「クラリッサ、聞きたいことがあるんだが」

 

「はい?なんでしょう」

 

「そのだな……」

 

 

将冴に対して、なんだか不思議な感じになることを話した。

 

すると、クラリッサはなにやらショックを受けたような顔をした。

 

 

「ら、ラウラ隊長……それは、もしかして将冴のことが異性として好きとかそういう……」

 

「いや、それはない」

 

 

いくら私でも、部下が好意を寄せている者にそんな感情は抱かない。そういうものではないのだ。

 

 

「では、どういう……」

 

「なんだろうな……一緒にいると安心するというか……気兼ねなく頼れるような大きな存在……というか……」

 

「なるほど……そういうことですか」

 

 

クラリッサが納得したような顔をする。今のでわかるのか?

 

 

「隊長。おそらく隊長は将冴のことを兄弟のように思っているのではないでしょうか」

 

「兄弟?」

 

「はい。異性として好きなわけではないけど、頼れる存在。それは家族……特に兄弟なんかは、そういうものだと思われます」

 

「そうなのか……」

 

「はい」

 

 

兄弟……か……。

 

と、その時保健室の扉が開かれる音がした。

 

 

「クラリッサ。ラウラの聴取は終わったか?」

 

 

入ってきたのは織斑先生だ。将冴の聴取をしているとクラリッサが言っていたが……。

 

 

「はい、もう終わりました」

 

「そうか。ラウラ」

 

「は、はい!」

 

「お前のISだが、損傷が激しいが予備パーツでなんとかなるようだ」

 

「え……ISはドイツに返すのでは……」

 

 

私の知らないところで組み込まれていたとはいえ、これは国際問題だ。ISと一緒に私もドイツに戻ると思っていたのだが……。

 

 

「ドイツ軍から、そのままIS学園において欲しいと言われたのだ。VTシステムを組み込んだのは軍の意向ではなく、何者かによるスパイ行為ということらしくてな。犯人が捕まるまで、ISは日本にあったほうが安心だということだ」

 

「そうですか……」

 

 

まだ、この学校に入れるのだな……。

 

 

「疲れているところに無理をさせてすまんな。もう休め」

 

「はい。そうさせていただきます」

 

「クラリッサ。ちょっとこい」

 

「はい」

 

 

織斑先生とクラリッサが保健室から出て行き、私はベッドに横になる。

 

 

「兄弟……か」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

織斑先生から罰だと言われ、なぜか指導室で待機させられた。

 

織斑先生は人を呼びに行くと言って、少し出て行き、しばらくすると戻ってきた。

 

なぜかクラリッサと山田先生を連れて……

 

 

「えっと……これはいったい……」

 

「実はな、今日は男子に大浴場を使わせるように調整していてな」

 

「大浴場を?」

 

 

そういえば、大浴場があるって言っていたな……。この体になってから、足を伸ばしてお風呂に入ることが少なくなったから、別に気にしていなかったんだけど……。

 

 

「しかし、一夏は今命令違反の罰として反省文を書かせていてな。デュノアに監督させているんだが、今日中に終わるものではない」

 

 

そういえば、一夏突っ込んでたな……VTシステムに。それの罰か。で、それが大浴場のことと何の関係が……。

 

 

「今日大浴場を使うのはお前だけだ」

 

「はぁ……」

 

「あとは、わかるな?」

 

 

織斑先生の悪巧みをしている顔。この顔は……ドイツにいた時に一度見たぞ。確かあれは、クラリッサも巻き込んで……。

 

 

「一緒に……大浴場?」

 

「わかってるではないか。行くぞ」

 

「いや、ちょ!?」

 

「今更恥ずかしがるな。最近までずっと一緒にシャワーを浴びていたではないか」

 

「クラリッサ、それは言わないでよ!」

 

「わ、私とも入りましたもんね!?」

 

「山田先生も言わないでください!」




満足←

お風呂の模様はR18の方にあげます。それにともない、明日は本編ではなく、R18の方を更新します。明日は本編お休みです。

直接的な性的描写が……あるかどうかわかりませんが、結構きわどいところまで書くかもしれないので。

シャルルの問題なんかは閑話ということで明後日書くつもりです。あと、裏で動いている人たちとかも書こうと思います。


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81話

前回でこの章終わらせると書きましたが、シャルルの問題は同じ章じゃないとダメじゃん、と気付きましたので今回で本当にこの章ラストです。

今回は一応R18の続きですが、読んでいなくても大丈夫です。大浴場でなんやかんやあって、将冴君がのぼせてしまったことだけ、おさえておいてください。


 

大浴場でのことがあった次の日。

さすがに僕も疲れていたのか、起きたら12時を回っていた。

 

今日は土曜日でよかった。確実に遅刻していたよ……。

 

でも、この時間まで寝てるとか……生活リズムが崩れそう。というより、クラリッサが起こしてくれてそうなものだけれど……。

 

クラリッサのベッドを見てみるけどもぬけの殻。はて、どこに行ったんだろう?とりあえず、義足をつけて……。

 

 

「あれ?」

 

 

机の上に紙が……なんか書いてある。

 

 

『将冴へ

緊急の職員会議が開かれることになったので、今日は留守にする。

将冴はゆっくり休んでくれ。

クラリッサ』

 

 

ふむ……職員会議か。まぁ、十中八九、昨日のことだろうね。

なんだろ……何か忘れているような……。

 

その時、僕の携帯が着信音を鳴らした。

電話か。相手は……束さん?

 

 

「もしもし?束さ『しょーくん、スペシネフ動かしたって本当!?』

 

 

耳がキーンとする。突然の大声量に僕もびっくりした。

 

 

「ああ、うん。なんか動いたみたいです。原因はわかんないけど……」

 

『ふーん……わかったよ。今度直接メンテナンスした時に調べてみるねぇ』

 

「お願いします。で、電話はスペシネフのことだけですか?」

 

『いや、まだあるよ。前に頼まれていた件について』

 

 

そうだ、VTシステムの件ですっかり忘れていたけど、束さんにデュノア社のことを頼んでいたんだった……。

 

 

『結果からいえば、全て上手くいったよ〜。会社の不正、社長夫人の横領、政府との繋がり……ぜーんぶ公開しちゃった。で、会社が弱まったところで、MARZ名義で全て吸収。これによって、MARZは名前だけの会社じゃなくなったわけだね』

 

「すいません、MARZの立場とか面倒なことに……」

 

『ううん、全然構わないよ。定期的お金が入るようになったしね〜。はした金だけど』

 

「はは……」

 

 

ISシェア3位の会社吸収して、そこから入るお金がはした金か……。

 

 

『そうそう。今後、外部と繋がりができることになるから、くーちゃんにリリン・プラジナーっていう偽名で外部取引をやってもらうことになったからね。MARZのことも、今後は束さんが関わっているってこと以外は話していいからね』

 

「はい、わかりました。何から何まですいません。あ、シャルルのことはどうなりました?」

 

『ああ、男装して学園に入った子?もう男装する必要はないかなぁ。元凶の社長夫人は、横領の容疑で捕まることになるし、会社の基本的なことは、社長に任せるつもりだし。あ、フランス政府は脅しておいたから、代表候補生云々のことはなにも言ってこないよ、安心してね』

 

 

どうやって脅したのかは聞かないでおこう……。

 

 

「それでは、シャルルはこのまま学園にいても……」

 

『問題なしだよ。ふふ、束さんにしては気が利いてるでしょ?今度会った時に、目一杯甘えさせてねー!』

 

「やることによりますが、できる限り答えます」

 

『やったー!しょーくん愛してる〜。それじゃ、束さんはちょっとやることあるから、そろそろ切るね。まったね〜!』

 

「はい。ありがとうございました」

 

 

通話が切れる。

束さんに何もかも頼ってしまったけど、どうにかなってよかった。

 

さて、シャルルに伝えに行こうかな。

いい時間だし、お昼も食べようかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

車椅子で一夏とシャルルの部屋まで来た僕は、とりあえずノックする。すると、ゆっくりと扉が開き、一夏が出てきた。

 

 

「おはよう一夏。あ、もうこんにちは、かな」

 

「そうだな。あ、とりあえず部屋の外でいいか?シャルルが電話してるんだ」

 

「電話?」

 

「ああ、母親らしい。なんか、デュノア社がいろいろ大変なことになったみたいで……あ」

 

 

一夏はそこで何かに気がついた。

 

 

「もしかして、お前がやったのか?」

 

「僕は束さんになんとかできないか頼んだだけだよ」

 

「あぁ……」

 

 

納得したような顔をする一夏。

ふむ、デュノア夫人が電話しているなら、僕もいろいろ言いたいことがあるな。

 

 

「ちょっと失礼するよ」

 

「お、おい、将冴?」

 

 

一夏を押し退け、部屋に入る。

 

シャルルはベッドに腰掛けて、電話をしている。僕に気がつき、困ったような苦笑いを浮かべた。

 

 

「シャルル、電話かして」

 

「え、将冴?」

 

「大丈夫。任せて」

 

「う、うん……」

 

 

シャルルから電話を受け取り、耳に当てた。

 

 

『あんたでしょ!?会社や私のことを世間に公表したのは!!おかげで会社はMARZとかいう会社に吸収されて、何もかもめちゃくちゃよ!ちょっと、聞いてるの!?これだから愛人の子は……』

 

 

イラッときた。

 

 

「どうもはじめまして、デュノア夫人。MARZの所属のテストパイロットをしています、柳川将冴と言います」

 

『はぁ?柳川って……二人しかいない男性操縦者の……あなた、MARZ所属だったの?じゃあ、あなたが私の会社を!」

 

「私の会社、ねぇ……」

 

 

全く、こういう人は大っ嫌いだ。

 

 

「お言葉ですが、名義上デュノア社の社長はアラン・デュノアとなっています。あなたはアランさんの奥さんというだけですよね?」

 

『あの人は何もできない人ですもの。あの会社は私が動かしていたの。だから、私の会社よ!』

 

「その結果が横領に不正取引ですか。随分といいご身分ですね」

 

『子供のあなたに何がわかるのよ!だいたい、男が会社のトップなんてやってる方がおかしいのよ!』

 

「あなたの考え方は知りませんが、男をそんなに見下していても、何にもいいことがありませんよ?」

 

『バカにしてる!?いいわ、全力であなたと、あなたの会社を潰してあげるわ!』

 

「あなたは今後そんなことはできませんよ」

 

『なんですって?』

 

「あなたがこれから行くのは刑務所です。もみ消すことはもう無理ですよ。世界中にあなたの横領や不正の情報が流れています。もう警察が来てるんじゃないんですか?」

 

『何を……』

 

「ではもう切りますね。あなたは、会社にはは関係ないですし、シャルルとも関係ありません。刑務所の中で、お元気に」

 

『ちょ、まちな』

 

 

デュノア夫人の声を遮る形で通話を切り、シャルルに携帯を返す。

 

 

「あー、すっきりした。電話、貸してくれてありがとうね。シャルル」

 

「それはいいんだけど……今の話は全部……」

 

「うん、本当のこと。シャルルは女の子としてIS学園で過ごしても大丈夫だよ。専用機もそのまま。あ、でもお父さんとは話しておいたほうがいいかもね。一応、お父さんも被害者だし」

 

「ありがとう、将冴……僕、なんてお礼言えば……」

 

「その気持ちだけで十分だよ。夫人でストレス発散したし。いやぁ、いい気味だね」

 

 

やっと全ての問題が片付いた。すっきりした。

 

 

「じゃあ、僕はお昼食べに行ってくるね。またね」

 

 

一夏とシャルルをそのまま置いて、僕は食堂に向かった。

 

 

「ねぇ、一夏……将冴って、かなり怖い?」

 

「あいつを怒らせないほうがいいぞ……下手したら千冬姉と同じくらい怖いから……」




シャルルの問題がこれで片付いた……ってことでいいのかな。


一番面倒ですよね。チートキャラの束さんがいなかったらどうなっていたか……。


さて、次から章が変わりまして臨海学校編。

……そこまで長くやるつもりはないですが、ナタルが登場ということで楽しみです。

ではまた


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現れる負の片鱗
82話


1日おやすみしてしまいました、どうも作者です。

リアルが込み入ってきまして、時間が取れませんでした。

しばらく書き溜めとかしたほうがいいのかなぁとか考えていますが、毎日更新を念頭に置いて活動しているので、まだこの調子で続けていこうと思います。

1日空くことはあるかもしれませんが、2日以上は空けないようにしていきますので、よろしくお願いします。


 

「シャルロット・デュノアです。今まで男と偽っていましたが、その必要がなくなったので、女として再転入することになりました。今まで騙していてすいませんでした」

 

『……』

 

「というわけで、デュノア君はデュノアさんでした〜……」

 

 

明らかに無理している笑みを浮かべながら、山田先生がシャルルのことを改めて紹介した。

 

タッグトーナメントが終わり、週末明けた月曜日のホームルーム。シャルル……いや、シャルロットが女の子として再度転入という形で、このようなことになっている。

 

僕と一夏は前から知っていたけど、クラスのみんなはそういうわけではない。動揺を隠しきれていないが、各々受け入れることができているみたい。

 

 

「まぁ、前から男にしては女々しすぎるかなとは思っていたし……」

「男の子が2人っていうだけでも役得だしね」

「そうそう、だからデュノアさんは気にしないで」

 

 

うんうん、うまく馴染めているみたいだね。

これでシャルロットの問題は全て解決……

 

 

「ちょっと待て!確か一夏とシャルロットは同じ部屋だったな!?」

 

 

箒がそう言って立ち上がる。

 

ここで一夏の疫病神が仕事を始めたようだ……。

 

 

「そ、そうですわ!それにトーナメントが終わった日は男子の方が大浴場を使える日になっていましたわ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!確かに一緒の部屋ではあったけど、大浴場は入ってなくて……」

 

 

大浴場……

 

 

「やなしー、なんか顔赤いよぉ〜?だいじょぶ?」

 

「だ、大丈夫!なんでもないから……」

 

 

前の席の布仏さんに心配されたけど、大浴場であったことを思い出してしまった。考えないようにしなきゃ……。

 

 

ガラッバンッ!

 

「一夏ぁ!!」

 

 

ここで隣の二組からセカンド幼馴染である鈴が乱入。

 

 

「あんた、今まで女と過ごしていたって!?」

 

「り、鈴まで、なんなんだよ!?」

 

「うるさいこの鈍感!唐変木!スケベ大魔王!」

 

「げふぅぅ!?」

 

 

鈴の華麗な右ストレートが、一夏の左頬に炸裂。一夏はそのまま吹っ飛ぶが、その先には右手を振り上げているセシリアさんが……

 

 

「不潔ですわっ!」

 

「べふぅ!?」

 

 

さっき殴られた同じ場所に、セシリアさんのビンタがかまされる。痛そ……。

 

もちろんこれで終わるわけがなく、ビンタで吹っ飛んだ一夏は、竹刀を野球のバットのように構える箒の方へ。

 

 

「歯を食いしばれ!」

 

「ぬぐぅ!?」

 

 

顔面ヒット。

 

そしてまた吹っ飛ばされた一夏はまっすぐ僕の方へと向かってくる。

 

これは……僕も一発いれるべき?

 

 

「危ない、兄様!」

 

「えぐぅ!?」

 

 

一夏に一発いれようと拳を構えると、一夏は僕のところに来る前に地面に叩き落された。誰がどうやってって?

 

ラウラがかかと落としで。

 

一夏再起不能かな。

 

でも僕はそんなことよりも気になることが……

 

 

「大丈夫か、兄様」

 

「うん、大丈夫じゃないね。ラウラが」

 

 

何、兄様って。おかしいよね?

 

週末は確かに会わなかったけど、その短い間で何があったの?どういう心境の変化?

 

 

「ま、まさかどこか怪我を!?」

 

「してないから、僕は大丈夫だから。大丈夫じゃないのはラウラだから」

 

「?何か変ですか?」

 

「なんで敬語なの?今までタメ口だったよね!?本当に何が……」

 

 

視界の端にニヤニヤしているクラリッサの姿が映った。

 

……なるほど……。

 

 

「クラリッサ、ラウラに何を吹き込んだの?」

 

「えっ!?いや、私はラウラ隊長から相談を受けて、それについて答えただけで……」

 

「クラリッサ」

 

「は、はい……」

 

「後で全部聞かせてもらうから。お仕置きの後で、ね」

 

「ヒッ!?」

 

 

クラリッサのお仕置きが決定したところで、織斑先生が教室に入ってきて、一夏、箒、セシリアさん、鈴が出席簿をくらった。

 

一夏はそれでとどめを刺されたのか気を失い、そのまま保健室に連れて行かれた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「そう、そんなことがね……」

 

「は、はひぃ……」

 

 

昼休み。クラリッサとラウラを連れて屋上にいき、クラリッサにお仕置きしてから話を全て聞き出した。なるほど、それで僕のことを……

 

あ、ちなみに今回は半分手加減した。

 

 

「ラウラがそう思うのはいいけど、僕は同じ歳なんだから、兄と呼ばなくても……」

 

「しかし、私が調べたところによると、包容力があって大きな存在は兄だと……」

 

「そういうことを言いたいんじゃなくて……」

 

 

困ったなぁ……。

 

 

「私は初めて会った時から将冴のことを尊敬している。兄は尊敬されるものというのも聞いた。全部ぴったりではないか」

 

「んー、そう言われても……」

 

「いいではないか」

 

 

いつの間にか復活したクラリッサが、そう言った。

いいではないかって、簡単に言うけど……。

 

 

「ラウラ隊長は将冴のことを思って言っているんだ。それに……」

 

 

クラリッサが僕の耳元で、ラウラに聞こえないように話してくる。

 

 

「ラウラ隊長は家族がいない。代わりというわけではないが、将冴が兄として接してやれば、ラウラ隊長は喜んでくれる」

 

「クラリッサ……」

 

 

そうだ、ラウラは人工的に作られたというのを前に聞いた。

 

家族がいない……今の僕と同じか……。

 

 

「……わかった。本当の家族というわけじゃないけど、そういう役目くらいなら受けるよ」

 

「将冴……」

 

「兄様……」

 

「ただし様はやめて」

 

「では、兄さんと」

 

「まぁ……いいか……」

 

 

はぁ……面倒事というのは、付いて回るようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長が将冴の妹ということは、私が将冴と結婚したら……」

 

『クラリッサお姉様〜!』

 

「ぐ、ぐふっ……ぐふふふふふ」




迷子。なにが書きたかったのかワカンネ←

ていうか、これは前の章に入る話ですよね。

いや、コレデイインダ……


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83話

はいどうも作者です。

とうとう三月も終わり。
明日から新学期、新生活ですね。

フレッシュな若い学生が大学に溢れる……


 

ラウラが僕の妹のようになった日の放課後。

 

クラリッサ、ラウラ、シャルロットが僕の周りに集まった。

 

 

「将冴、もうすぐで臨海学校だけど、準備してる?」

 

「ああ、そういえばテスト明けにあるんだったね」

 

 

来週のテスト明けに、臨海学校で海に行くことになっているのをすっかり忘れていた。

 

準備という準備をほとんどしていなかった。シャルロットの問題や、トーナメントがあったから、すっかり忘れてたよ……。

 

 

「全然準備してないね。水着とか必要なんだっけ……」

 

「みたいだね。1日目は海で遊べるらしいから」

 

 

水着なんて……この体になってから着てないなぁ。買いに行かなきゃいけないかな。

 

 

「まだ準備していないなら、テスト終わった後の休日に買い物に行かない?ラウラとハルフォーフ先生も」

 

「兄さんと買い物か……うん、行く」

 

 

ラウラが目を輝かせて頷いた。

すっかり隊長の威厳がなくなってしまったな……。

 

 

「テスト後の休日……すまない。私は別の用事があるんだ」

 

「え?そうだったの?」

 

 

初耳だった。

 

 

「ああ、だからその日は将冴の介助ができないんだ。すまない」

 

「謝ることじゃないよ。普段一緒にいてくれてるだけで、感謝しているんだから」

 

「そう言ってもらえると嬉しいな……」

 

「そっか、用事があるなら仕方ないですね」

 

 

シャルロットが残念そうに言う。

まぁ、僕がいないところで羽を伸ばすのも必要だと思うし、今回はしょうがない。

 

 

「しかし、買い物となると、街に出なければいけないのではないか?私とシャルロットは店の場所なんてわからないが……」

 

「ああ、それなら大丈夫だよ。僕がいい場所を知ってるから」

 

「本当?将冴」

 

「さすが兄さんだ!」

 

 

ラウラの雰囲気が未だに慣れない……。

 

 

「近くにレゾナンスっていう大型のショッピングセンターがあるんだ。あそこならなんでも揃うし、丁度いいんじゃないかな?」

 

「いいね!それじゃ、テスト後の休日はレゾナンスでお買い物だね」

 

「うむ、兄さんと買い物。楽しみだぞ」

 

 

そうだ、一夏たちも買い物に行くなら誘ってみようかな。

 

チラリと一夏の方へ目を向けると……

 

 

「一夏!一緒に買い物に行くぞ!」

 

「箒さん!抜け駆けはいけませんわ!一夏さん、私もご一緒に……」

 

「一夏、箒とセシリアを連れて行くなら、私も連れて行きなさいよ!」

 

「いや、その……あはは……」

 

 

……触らぬ神に祟りなし。一夏のご冥福を祈る。

 

 

「将冴、どうしたの?手を合わせて……」

 

「いや、なんでもないよ。買い物の予定が決まったなら、これから勉強でもしようか。テストすぐだし」

 

「兄さん、国語を教えて欲しいのだが!」

 

「あ、僕も教えてくれるかな?漢字がまだ完璧じゃなくて……」

 

「いいよ。僕もIS基礎理論で教えて欲しいところあったから」

 

「将冴、私には聞いてくれないのか……」




短いですが、繋ぎ回ということで。

次回はレゾナンスでお買い物。
楽しみ楽しみ。

またあのゲス女が……(未定


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20150401話

ぶっちゃけ、クラリッサよりもマドカのほうが好きです。


 

朝起きたら、将冴のベッドがもぬけの殻だった。今日は休日だから、まだ将冴は寝ている時間のはずだ。早く行く用事でもあったのだろうか……?

 

食堂が開いてる時間だ。多分朝食を食べに行ったのだろうか……。

 

急い支度をして、食堂へ向かう。すでに何人かの生徒が食事を取っていた。その中に、食器を下げる将冴の姿を見つけた。

 

 

「将冴!」

 

 

将冴の名前を呼ぶが、こちらをチラッと見ただけでそのまま食器を下げ、食堂から出て行こうとする。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、将冴。今日何かあったのか?あんまり早いから、起きてすぐに驚い……」

 

「もう話しかけないでくれるかな、クラリッサ」

 

「……え?」

 

 

今なんて……

 

将冴はそれだけ言って、車椅子を動かし始める。

 

 

「待ってくれ!どういうことだ、話しかけないでなんて……」

 

「そのまんまの意味だよ……」

 

「どうしてか聞いているんだ!私、何かしてしまったのか!?怒っているなら謝るから……」

 

「僕ね、好きな人ができたんだ」

 

「え?」

 

「その人と付き合うには、クラリッサと今後一切関わらないことが条件なんだ」

 

「そ、そんな……」

 

「わかったらどっかいってよ。僕はこれからデートなんだ」

 

 

将冴行ってしまう……好きな人?将冴に、そんな……。

 

 

「クラリッサ」

 

 

後ろから声をかけられる。振り返ると、そこには織斑先生がいた。

 

 

「お、織斑先生……」

 

「昨日頼んでおいた書類はできたか?」

 

「え……あれは来週までと……」

 

「バカ者が!あれは今日の午前中までだ!」

 

「そんな!?確かに来週と!」

 

「口答えするな。生徒指導室で片付けてこい。終わるまで出てくるな!」

 

「わ、分かりました……」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「はぁ……」

 

 

生徒指導室に閉じ込められ、山のような書類を片付けていく。急げば、ギリギリ午前中で終わるだろうが……

 

 

「はぁ……」

 

 

ため息が止まらない。将冴に好きな人……はは、そうだ、将冴が私を選ばなかった。ただそれだけのことではないか……。

 

そうなる可能性だって、十分にありえたじゃないか……。

 

でも……それでも……

 

 

「やだ……やだよ……将冴……」

 

 

書類が涙で濡れる。

 

でも、涙が止まらないんだ。

 

 

「うっ……」

 

 

その時、生徒指導室の扉が開かれて、織斑先生と山田先生が入ってくる。

 

私は急いで涙を拭い、立ち上がった。

 

 

「すいません。書類はまだ……」

 

「ああ、いい。それをそのままにしてついてこい」

 

「え、でも……」

 

「ハルフォーフ先生、ついてきてください」

 

「……わかり、ました」

 

 

2人についていくことにする。

 

行き先はどこなんだろう。この先は……食堂の方だ。

 

 

「あの、私、何かしましたか?」

 

「いいから黙ってついてこい」

 

「は、はい!」

 

 

今は従うしかない……。

 

食堂の扉の前まで来ると、織斑先生と山田先生が立ち止まった。

 

 

「クラリッサ。開けろ」

 

 

扉を指差し指示する織斑先生。

山田先生、微笑を浮かべながら、扉を開けるように促した。

 

 

「分かりました……」

 

 

ゆっくりと扉を開ける。

 

その瞬間……

 

 

パッーン!

 

『クラリッサ先生、誕生日おめでとう!』

 

「え……え?」

 

 

これは一体……

 

 

「すまないな、クラリッサ」

 

「織斑先生?」

 

「生徒達が、お前の誕生日パーティーをしたいと言ってな。急遽開くことになったんだ」

 

「も、もしかして、さっきの書類は……」

 

「ああ、今日の午前中というのは嘘だ」

 

「そんな……」

 

 

本当に焦った……

 

 

「それともう一つ」

 

 

カラカラと、車椅子を動かして近づいてきたのは、将冴だった。

 

 

「将冴……」

 

「ごめん、朝に言った僕に話しかけないでっていうのはは嘘なんだ。クラスのみんなに言われて……」

 

「じゃあ、好きな人っていうのは……」

 

「ああ、ごめん。それは本当」

 

「そ、そうなのか……」

 

 

目頭が熱くなってきた……。

 

 

「クラリッサ、ちょっと失礼するよ」

 

「え?」

 

 

将冴が私の左手を掴み、ポケットから何かを取り出して、それを私の薬指にはめた。

 

 

「誕生日おめでとう。僕の好きな人」

 

「これ……」

 

 

綺麗な指輪が、薬指に……

 

 

「これで許してくれるかな……?」

 

「……だめだ」

 

 

まだ足りない……

 

 

「私を幸せにしてくれないと、許さない」

 

「うん……必ず幸せにするよ」

 

「将冴……」

 

 

そのまま将冴の唇を奪い、周りの人達が歓声をあげた。




タイトル、前書き、本文。
全部嘘です!←


エイプリルフールだったので突発的に。
やっつけ仕事なので、大目にみてください。


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84話

昨夜(?)のエイプリルフールネタは楽しんでいただけたでしょうか?

本当は0時きっかりに間に合うようにしたかったのですが、少し遅れてしまいました。タイトルが今日の日付になっていたり、前書きでマドカスキー発言をしたり、本文は本編と全く関係なかったりと、嘘ばっかりにしてみました。

本当はもっと膨らまそうと思ったのですが、案外難しいものですね。

さて、今回はレゾナンスお買い物。久々に胸糞悪い回になる……かも?

テストはキングクリムゾン!


 

トーナメントからすぐにテストという慌ただしい日を過ごし、今日はテスト終わりの休日。

 

僕と私服姿のシャルロット、制服のままのラウラはモノレールに乗って街の方へ向かっていた。

 

 

「シャルロットとラウラは、テストどうだった?」

 

「僕は10位だったよ。将冴に国語を教えてもらわなかったら、もっと低かったかも」

 

「私は15位だった。兄さんは?」

 

「僕は13位。ちょうど2人の真ん中くらいだね。2人のおかげで、ISのテストはバッチリだったよ。シャルロットほどじゃなかったけどね」

 

 

そんな話をしていると、モノレールが目的の場所に着き、僕たちはモノレールを降りてレゾナンスの方へ歩き始めた。電車の中で車椅子に乗るのは場所をとるので、今は義足をつけている。

 

 

「並んで立つの初めてな気がするけど、将冴ってそんなに背が高くないんだね。僕より少し高いくらい?」

 

「そうだね。まぁ、この体だしこれ以降伸びることはないんじゃないかな」

 

「私の方が、兄さんよりも高くなる可能性もあるのか」

 

「そうだね。ラウラならすぐ抜けるんじゃないかな」

 

「兄さんより高くなるのはどうかと思うが……」

 

 

ラウラが悩んでるところを、シャルロットとほっこりしながら眺めた。

 

さて、そろそろ車椅子を出そうかな。

 

 

「二人とも、ちょっと待っててくれる?」

 

「あ、車椅子?」

 

「うん。まだ余裕はあるけど、早めにね」

 

 

車椅子を拡張領域から展開して、義足を粒子化しながら車椅子に座った。

 

 

「相変わらず、面倒な仕様だよね。その義肢」

 

「なんでも万能というわけにはいかないさ。さ、レゾナンスはすぐだ。着いたらまずお昼ご飯にしよう」

 

「うん」

 

「兄さん、私が車椅子を押そう」

 

「ありがとう、ラウラ」

 

 

ラウラに押してもらい、レゾナンスへ向かった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

レゾナンスに着いた僕たちは、まずはフードコートへ向かった。レゾナンスはIS学園が近くにあるせいか、世界各国の料理が食べられるようになっている。

 

 

「みんな、なにが食べたい?」

 

「僕はなんでも」

 

「兄さんに任せる」

 

 

ふむ……それが一番困るのだけれど……。

 

 

「じゃあ、そこのレストランにしようか。品揃え多いから、好きなの選べるし」

 

「そうだね」

 

「これがファミレスというものか?」

 

 

店に入ると、店員さんに人数を伝えテーブル席に案内してもらう。席は窓際で店の前を歩く人が見える。僕は車椅子から椅子に座り変え、車椅子を拡張領域に戻した。

 

シャルロットは僕の前に、ラウラは僕の横に座り、メニューを開いた。

 

 

「僕はおろしハンバーグ定食にしようかな」

 

「おろしとはなんだ?兄さん」

 

「大根をすりおろしたもののことだよ。ポン酢とか醤油をかけてそのまま食べたり、お肉と一緒に食べたりするんだ」

 

「ほう……」

 

 

興味深そうな顔をするラウラ。ドイツとかでは、あまりないのかな。

 

 

「二人は決まった?」

 

「うん、僕はミートパスタにするよ」

 

「私はこのチキンドリアにしよう」

 

 

みんな決まったので、店員さんを呼んで注文を伝える。

 

料理が来るまで時間があるので、その間にこの後の予定をたてることにした。

 

 

「お昼食べ終わった後どうする?」

 

「あ、少し洋服見に行っていいかな?ラウラ、私服を一つも持っていないみたいで」

 

 

女ということをバラしたシャルロットはラウラと相部屋になったらしい。まぁ、このふたりなら問題ないだろう。

 

 

「それで制服だったんだ……」

 

「日本に来る時の荷物は必要最低限にしたくてな。クラリッサに私服も持って行けと言われたが、かさばるのが嫌でな」

 

「そっか……」

 

 

クラリッサも苦労しているようだ。

 

 

「うん、それじゃあ最初はラウラの服からだね。あとは、外泊に必要なものと……」

 

「水着だね」

 

「そうだね。水着買うときは、僕は別行動の方がいいかな」

 

 

水着を選ぶところなんて男に見られたくないだろうし……

 

 

「兄さん、一緒に選んでくれないのか?」

 

「え?」

 

「そうだよ、妹の水着はお兄さんが選んであげなきゃ」

 

 

シャルロットが悪い顔をしている……これは断りづらいな……。

 

 

「あー……」

 

「兄さん……」

 

「わかった。一緒に行くよ」

 

「ありがとう兄さん!」

 

「さすがお兄さん」

 

「シャルロット、僕で楽しんでるでしょ」

 

「そんなことはないよ」

 

 

嘘ついてるな……シャルロットがこんなに腹黒だとは思わなかった。

 

これは、もう少しシャルロットのことを追求したほうが……

 

 

「お待たせしました〜」

 

 

シャルロットを追求する前に料理が来てしまった。

……まぁいい。今度仕返ししてやろう。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

お昼を食べ終わり、まずはラウラの服を買いに行くことになった……のだが……。

 

 

「ラウラ、ラウラ、今度はこれ着てみて!」

 

「こ、これをか……」

 

「ほら、早く早く!」

 

 

完全にシャルロットの着せ替え人形と化したラウラ……シャルロットのこの楽しそうな顔と言ったらないね。

 

 

「えーっと、シャルロット?着せた服をかたっぱしからカゴに入れてるけど……」

 

「どれも可愛いんだもん。大丈夫。全部僕が買うから!」

 

「幾らなんでも、この量を一人でっていうのは……僕も出すよ。一応、ラウラのお兄さんだからね」

 

「さすがお兄ちゃん」

 

「……シャルロット、最初から僕にもお金出させるつもりだった?」

 

「まっさか〜」

 

 

こんなに腹黒い人を、僕は見たことがない……。

 

 

「はぁ……終わったら呼んで。今のうちに、僕の水着見てくるから」

 

「わかった。あ、ラウラ今度はこっちね!」

 

「シャルロット、もういいのではないか……」

 

 

ラウラには悪いが、僕は退散させてもらうよ。

 

店を出て、メンズ洋服のある店を探す。

レゾナンスはかなり広いから、場所を探すのは一苦労だ。とりあえず地図を探して……。

 

 

「ちょっと、そこの君」

 

「ん?」

 

 

突然声をかけられる。

その声の主は、通りかかった女性物のブランドショップにいた。

 

 

「僕ですか?」

 

「他に誰がいるのよ。ちょっとこの荷物持ってて」

 

 

やたら偉そうな女性がそう言って、僕に大量の袋を差し出してきた。

 

あぁ……ドイツでもあったな、こんなこと……。

 

 

「ほら、早く持ちなさいよ。車椅子なんだから、膝の上に乗せておけばいいでしょ?」

 

「何故僕が見ず知らずの人の荷物を持たなきゃいけないんですか?」

 

「は?そんなのあなたが男だからに決まってるでしょ?男は、女性に奉仕するくらいしか役に立たないんだから、使ってもらえるだけ感謝しなさいよ」

 

「はぁ……」

 

 

この思考が凝り固まった女性はどうなんだろうね。ISによる女尊男卑を真に受けて、こんな恥ずかしいことするなんて……人間としての感性を疑うね。

 

 

「何ため息ついてるの?早く荷物を持ちなさ……」

 

「嫌ですよ。貴方みたいな人の荷物を持つなんて冗談じゃない。女性が偉いみたいな時代になっていますが、それは女性が何をしてもいいというわけではありません。正直、貴方みたいな人とは、全く関わり合いになりたくないですね」

 

「この……私が誰だか知らないようね!?私は女性権利団体の者なのよ?私に口答えしてタダで済むと……」

 

「それがどうかしたんですか?」

 

「……は?」

 

「女性権利団体が、どれだけ崇高なものか知りませんし、興味もありません。それでは、僕はこれで失礼します」

 

 

僕は女性に背を向け、また地図を探そうと車椅子を動かした。しかし、車椅子は動かない。後ろを向くと、女性が車椅子を掴んでいた。

 

 

「待ちなさい。今私があんたに痴漢されたといえば、警備員が来てあんたを捕まえるわ。そうなりたくなかったら、いうことを……」

 

「いえ、警備員に捕まるのはあなたの方です」

 

「はぁ?何を言って……」

 

「おい、お前……」

 

 

女性の後ろからどす黒い気配が2つ……。まさかここで会うとは思わなかったけど……。

 

 

「うちの生徒に……」

「私の将冴に……」

 

「「何をしていたんだ?」」

 

 

クマをも射殺せそうな眼光の織斑先生とクラリッサが女性の両肩を掴んでいた。

 

 

「な、何?あなたたち……

 

「覚悟は」

「いいか?」

 

「ひぃ!?」

 

 

女性は気を失い、それと同時に警備員を連れてパタパタと山田先生が走ってきた。




キャーチフユサーン!
キャークラリッササーン!


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85話

はいどうも、作者です

今回番外編を入れて95話。あと5話で100話ですね。まさかここまで続くとは……この調子だと、完結するのは200話ぐらいに……読者の方々は、長く続いたほうがいいのでしょうか?

まぁ、始まりがあれば終わりもあるものです。
まだまだ将冴の話は続きますのでお楽しみに。


 

気を失った女性を、織斑先生は山田先生が連れてきた警備員に渡した。

 

 

「突然倒れた。後のことは頼む」

 

 

織斑先生とクラリッサが気絶させたんじゃ……いや、何も言うまい……。

 

 

「将冴、大丈夫か!?怪我は……」

 

「大丈夫だよ、クラリッサ。前にもあったし」

 

 

あのときはオータムさんが助けてくれたけどね。今回は何かされそうになったら、流石に抵抗はするつもりだったけど。

 

 

「将冴君、大丈夫でしたか?」

 

「怪我はなかったか?」

 

「はい、この通りです」

 

 

織斑先生と山田先生が心配そうに聞いてくれた。

先生たちのおかげで、なんともない。大事にはなってしまったけど。

 

 

「そういえば、先生方はどうしてここに……クラリッサも、用事があるって」

 

「私は織斑先生に今日予定を空けておけと言われていたんだ」

 

「もうすぐ臨海学校だからな。クラリッサは初めてだから、自分の買い物ついでに手伝おうと思ってな」

 

 

なるほど、それで3人はレゾナンスに……。

 

 

「将冴も、ラウラ隊長とシャルロットと買い物に来たのではないのか?」

 

「ああ、今シャルロットがラウラを着せ替え人形にしてて……その間に自分の水着を買いに行こうと思ってたら、あの人に絡まれて……」

 

「そうだったのか、それは災難だったな」

 

「まぁ、ね……」

 

 

災難……と言うほどでもないけど、運が悪かったかな。

 

 

「ということは、将冴君はまだ水着を選んでいないんですか?」

 

「ええ、まだです」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、織斑先生が何か思いついた顔をする。しかも、あれは悪いことを考えている顔だ……。

 

 

「では、私達が選んでやろう」

 

「へ?」

 

「そうだな、それはいい考えですね。織斑先生」

 

「お、男の人の水着を選ぶなんて……な、なんだか緊張しますね」

 

 

あの大浴場の一件からなんだか大胆になっていませんか!?教師と生徒がそんなことしていいんですか!?

 

 

「さ、行くぞ」

 

「えっちょっと!?」

 

 

織斑先生に車椅子を掴まれる。

 

 

「やはり、トランクスタイプだろうか」

 

「いや、ここは競泳タイプの長めのやつも……」

 

「ブーメラン……」

 

「「それで行こう」」

 

「ふぇ!?採用しちゃうんですか!?」

 

「ブーメランはやめてください!」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「あぁ〜……」

 

 

シャルロットにいいように着せ替えさせられているラウラの気持ちがよくわかった気がする……。

 

女性3人に散々水着を着替えさせられて僕はもう疲労困憊だった。なんてったって文字通り着替えさせられたんだからね……試着室で、3人に代わる代わる……。

 

女性方三人はほっこりしていましたよ……そんなに僕の裸を見て楽しかったんですかね……。

 

 

「いいのが見つかってよかったな」

 

「織斑先生、やけに嬉しそうな顔で言わないでくれますかね……」

 

「海で水着姿の将冴を見るのが楽しみだな」

 

「僕の裸も見ているのに……」

 

「普通の時でも結構おっきぃ……」

 

「山田先生には突っ込みませんからね」

 

 

もう考えるのも疲れた……。

 

と、その時、ポケットに入れていた携帯が震えた。

画面を見ると、シャルロットからだった。

 

 

「もしもし?」

 

『あ、将冴?こっちで買うものは決まったよ』

 

「うん、今からそっちに戻るよ。あと……」

 

『?何かあったの?』

 

「……いや、なんでもない。少し待ってて」

 

『うん、わかった』

 

 

電話を切り3人の方を向く。

 

 

「僕、そろそろシャルロット達のところに戻りますね。ラウラの水着を選ぶ約束してるので」

 

 

その言葉を言った瞬間、またしても織斑先生が不敵に笑った。

 

 

「なら行こうか。将冴に水着を選んでもらおう」

 

 

ああ……やっぱり……




次回、レゾナンス最後。

3人の暴走……いや、どちらかというと千冬の暴走……。


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86話

レゾナンスお買い物最後。

実はレゾナンスの話はなくても良かったのではないかと思い始めてますが、書いてしまったものは仕方ないので、このまま行きます。

あと、もうすぐで100話ということで、何かしようと企んでいます。何をするかは……まぁ、100話をお楽しみにということで。


シャルロットとラウラに合流すると、2人は僕の後ろにいる3人を見て驚いた表情を見せた。まぁ、当たり前だよね……。

 

 

「な、なんで先生方が……」

 

「クラリッサに織斑教官……山田先生も……」

 

 

ラウラが突然のことで織斑先生のことを教官って言ってる。見てるぶんには楽しいんだけどねぇ……。

 

 

「さっきそこで会ってね。あはは……」

 

「将冴、顔が疲れてるけど大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないかも……。シャルロット、服決めたんだよね?会計してくるからカゴ貸して」

 

「あ、僕も払うから一緒に行くよ」

 

「兄さん!わ、私も……」

 

「ラウラ、ここは僕が払うから、そこで待っててね」

 

 

シャルロットと一緒にレジに向かう。あの場にラウラを置いてきてしまったが……まぁ、大丈夫だろう。織斑先生に弄られると思うけど。

 

 

「お会計お願いします」

 

 

シャルロットがレジにカゴを置き、店員さんに会計を頼む。

 

カゴ満杯に買うかと思ったけど、案外少ない。少し遠慮したということかな?

 

 

「お会計、28,000円になります」

 

「じゃあ、これで」

 

 

財布から諭吉3枚を取り出し店員さんに渡す。高校生がポンと3万円出すのは普通ではないかもしれないけど、MARZ所属ということで給料が発生している。束さんはお小遣いと言ってるけど、僕の中では給料だ。

 

それに……お小遣いで片付くような額ではないからだ。今日、久しぶりに口座を見たけど……まぁ、さすがは大天災と言ったところだったね。桁がおかしかった。

 

 

「え、将冴。僕も払うよ!」

 

「妹のものだからね。シャルロットに払わせるわけにはいかないよ」

 

「でも……」

 

「僕にはラウラに似合う服は選べなかったと思うからね。それでいいよ」

 

「……わかったよ。でも今度お返しさせてね」

 

「それじゃあ、今度夕飯でもおごってもらおうかな」

 

 

シャルロットはそれでは納得いかない様子。さて、どうしたものか。

 

 

「それじゃあ、これからシャルって呼んでいい?」

 

「え?」

 

「ご飯奢ってもらうのと、シャルロットのことをシャルって呼ぶのでこの件はおしまい。OK?」

 

「う、うん……」

 

 

突然のことでまだ飲み込みきれていないところを押し切った。相手を納得させるのはゴリ押しに限る。

 

そのあと、服はそこそこ量があったので郵送にしてもらい、ラウラ達の元へ戻る。

 

 

「すいません、お待たせしました」

 

「兄さん。すまない、服を買ってもらって……」

 

「気にしない気にしない。一応、ラウラは妹なんだからね」

 

 

ラウラの頭をポンポンと撫でる。

気持ちよさそうに目を細めるラウラに、小動物的な何かを感じた。

 

 

「ぶふっ!?」

 

「クラリッサ、どうした?」

 

「クラリッサ先生!?」

 

 

少し離れたところでクラリッサが鼻血を流し、織斑先生と山田先生が驚いている。

 

 

「す、すいません……ちょっと妄想が……」

 

「妄想?」

 

「いえ、なんでも……」

 

 

最近、クラリッサのことがわからなくなってきた。

……放っておこうか。

 

 

「さ、次はシャルとラウラの水着だっけ?」

 

「うん。ラウラに可愛いの選んであげてね、お兄さん」

 

「期待はしないで」

 

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」

 

「ラウラ、それは間違ってるからね」

 

 

先生方のも選ばなくちゃいけないのか……大変そうだ。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

女性ものの水着を売ってる店というのは、なんでこんなに入りづらいものなのか。

 

当然だ。水着はほとんど女性用の下着と変わらないからだ。そんなところに男が一人連れてこられるのは、気まずい以外の何者でもない。

 

しかも、女性を5人連れて。

 

 

「はぁ……」

 

「兄さん、大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。ラウラのやつを選ぼうか」

 

 

他の四人はそれぞれ水着を選びに行った。

 

シャルは自分で選ぶからいいとして、問題先生方だな……。大人の人が着る水着ってどんなのだろうか……。

 

そんなことを考えながら、ラウラに似合いそうな水着を探す。

 

 

「うーんと……こんなのはどうかな?」

 

手に取ったのは黒いビキニタイプの水着。ラウラは黒が似合うと思うから。

 

 

「こ、これを着るのか……?」

 

「あ、ごめん嫌だったよね?」

 

「いや!兄さんが、選んでくれたんだ。それにする!」

 

「決めちゃっていいの?」

 

「ああ、これがいい」

 

「そっか。一応試着したほうがいいよ?サイズあってるか見ないとね」

 

「了解した」

 

 

そう言って、ラウラは試着室に入っていった。さて……

 

 

「シャルー?」

 

「ん?どうしたの、将冴」

 

「ラウラの水着、サイズあってるか見てあげて。僕が見てあげるわけにはいかないし」

 

「兄妹だからいいんじゃない?」

 

「正式な兄妹じゃないからアウトです」

 

 

シャルはこういうことをサラッと言うやつだったのか……気をつけよう。

 

 

「まぁ、ラウラの水着見てあげるのは全然構わないよ。でもその前に、こっち水着とこっちの水着。どっちがいいと思う?」

 

 

シャルが水色の水着とオレンジの水着を僕に見せてくる。

 

シャルも僕に選ばせるのか……まぁ、選択肢があるだけいいか。

 

 

「そうだな……こっちのオレンジの水着かな?シャルのISと同じ色だし、そっちの方が似合ってると思う」

 

「そっか。それじゃ、これにするね」

 

 

ラウラもそうだったけど、シャルも即決していいんですか?

 

 

「じゃあ、ラウラの水着見てくるね」

 

「うん、お願い」

 

 

シャルがラウラが着替えているであろう試着室のカーテンを少しだけめくり、中にいるラウラに話しかけている。

 

あとは大人組の水着か……。

 

 

「将冴君」

 

 

最初は山田先生のようだ。

手には黄色の水着が一着。

 

 

「これどう思いますか?」

 

 

随分とアバウトな……。

 

 

「いいと思いますよ。似合うと思います」

 

「そ、そうですか?それじゃ、これにしようかな……」

 

 

大した回答していないんですが……なぜみなさん即決なんでしょうか。

 

 

「あ……でも胸のサイズが……もう一つ上のサイズないか聞いてこないと」

 

 

僕から見たら、それでも十分大きい水着だと思うんですが!?

 

山田先生は店員さんのところに行って一つ上のサイズがないか聞いている。店員さんも呆気にとられた顔をしていた……。まぁ、山田先生はもう大丈夫だろう……

 

次は……

 

 

「来たな、将冴」

 

 

織斑先生だ。手には黒いビキニタイプの水着……ラウラよりも大人っぽいセクシーなタイプだ。そんなものを着るんですか……。

 

 

「その顔……私が着ているところでも想像していたか?」

 

「いえ、そういうわけじゃ……」

 

 

確かに一瞬想像したけれども……。

 

 

「ふふ、ならこれにしようか。臨海学校で実際に来ているところを見せてやろう」

 

「た、楽しみにしています……」

 

 

無難に答えておこう……最近の織斑先生は、いろいろと怖いから……。

 

 

「そら、クラリッサがさっきから待っているぞ。行ってやれ」

 

「わ、わかりました」

 

 

さっきからチラチラと困った顔で視線送ってたもんね、クラリッサ……。

 

クラリッサのところへ行くと、並んでいる水着の前で困り顔の様子。どんなのがいいかわからないっていう感じかな……。

 

 

「クラリッサ、困ってるみたいだね……」

 

「将冴……水着はどんなのを選べばいいんだ……」

 

 

正直、僕に聞かれても困る……。

 

 

「あ、アニメでは旧スク水がよく出てくるが……」

 

「それはアニメの中だけだからね!スク水なんてきたらダメだからね!?」

 

 

しかもなんで旧スク……。

 

 

「では何を着れば……」

 

「そうだな……」

 

 

しっかり選んであげないと、スク水を着かねない……。

 

 

「これなんかはどうかな?」

 

 

僕が手に取ったのは、白いパレオがついた水着。

なんとなく手に取ってしまったんだけど……。

 

 

「これを……」

 

「似合うかなって思ったんだけど……」

 

「うん……これにする……」

 

「もう少し選ばなくていいの?」

 

「将冴が選んでくれたものだから……これがいい」

 

 

ラウラと似たようなことを……でもまぁ、そう言われて悪い気はしない。

 

 

「か、会計してくる!」

 

「う、うん。いってらっしゃい」

 

 

なにやら顔を赤くしていたけど……やっぱり違う水着の方が良かったのかな……。

 

そのあと、みんな水着を買い終わり、教師3人、生徒3人の集団で帰るという、よくわからないことになった。




クラリッサの水着のイメージは、ペルソナ3の美鶴さんをイメージしていただけると。

クラリッサに着せたかったんです!


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87話

今回から臨海学校です。

実はシャルの問題の次に書くのが憂鬱だったりします。

ゴスペル……君はすごく面倒くさいのだよ。ナタルがいなければカットしているところだよ←


 

低く唸るエンジン音と、心地よいバスの揺れを感じながら窓の外を眺めていた。

 

まぁ、今はトンネルの中だからコンクリートしかみえなのだけれど。

 

なんでバスに乗っているのかというと、言わずもがな臨海学校だ。IS学園から一時間以上かかるということで寝ていようかと思ったのだけれど……。

 

 

「くぅ〜……すぅ……」

 

 

ラウラが僕に寄りかかって寝ているから、なんとなく寝る気分になれなかった。あ、クラリッサは前の方で織斑先生と山田先生と座っている。

 

起こすのもかわいそうだし、黙って窓の外を眺めていたわけで。

 

 

「お兄さんやってるな、将冴」

 

 

前の席に座っていた一夏が座席越しに顔を出してきた。

 

 

「そんなんじゃないよ」

 

「でも、本当にラウラさんは将冴さんにベッタリですわね。最初の頃の軍人という感じが、もうありませんもの」

 

「確かにな。トーナメント前の厳格な雰囲気は跡形もないな」

 

 

通路を挟んで反対側にいたセシリアさんと箒が言葉を挟んでくる。

 

まぁ、一番びっくりしているのは僕なんだけど……。

 

 

「勝負勝負言われるよりは、この方がいいけどね」

 

「こうしてれば、可愛いだけなんだけどね」

 

 

一夏の隣に座っていたシャルも一夏同様に顔を出してこちらを見てくる。

 

 

「なんでも、一組の間では弟は将冴、妹はラウラって広まってるみたいだよ」

 

「そのネタ、まだ続いてたんだね……」

 

 

僕は前から弟って言われてたし、その妹ならみんな妹ってことか……安直すぎやしないかな。

 

 

「あ、そろそろトンネルを抜けるみたいだぜ」

 

 

一夏がそう言うと、窓から光が流れ込む。

少し目が眩むが、徐々に慣れ外を見ると、そこには海が広がっていた。

 

 

「わぁ!海だ!」

「すごい!青ーい!」

「早く泳ぎたいね!」

 

 

バスの中にいるみんなが騒ぎ始める。これじゃあ……。

 

 

「う……ん……騒がしいな……」

 

「あ、ラウラ起きちゃった?」

 

「兄さん。すまない、肩を借りてしまって……」

 

「気にしないで。それより、ほら。海みえてきたよ」

 

「む、本当か?」

 

 

ラウラも窓の外を見て目を輝かせる。

 

ふふ、楽しみにしていたみたいだしね。

 

と、ここで織斑先生がアナウンスをかける。

 

 

「お前たち、少し静かにしろ。もうすぐで旅館に着く。降りる準備はしておけ。いいな!」

 

『はい!』

 

 

旅館か……しおりには、僕の部屋だけ書いてないんだよなぁ……嫌な予感がする。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

バスが旅館の前に止まり、みんなが降車を始める。僕はラウラに手伝ってもらいながら降車し、車椅子に座った。義足はできるだけ使わないようにしている。外出先だし、海では使うだろうからと、節約中だ。

 

旅館の前には着物を着た女性が待っていた。

 

 

「皆様、遠いところをよくいらっしゃいました。当旅館の女将をしております、清洲景子と申します。どうぞよろしくお願い致します」

 

『よろしくお願いします!』

 

 

みんなが一斉に挨拶。

 

すると、女将さんが僕と一夏の方に目をやった。

 

 

「あら、こちらが噂の男性操縦者の方ですね?」

 

「ええ。温泉の割り振りが面倒になってしまい、申し訳ありません」

 

「いえいえ、とても元気そうでよろしいじゃありませんか。今日はごゆっくりと」

 

 

そう言うと、女将さんは旅館の中に戻っていく。

 

 

「では、それぞれ自分の部屋に荷物を置き、それ以降は自由時間とする。くれぐれも、従業員の方々に迷惑をかけないように」

 

『はい!』

 

 

自分の部屋って言われても……。

 

 

「織斑、将冴は付いて来い。お前たちの部屋は別に用意してある」

 

 

別で用意してある……か。嫌な予感が的中しそうだ。

 

 

「兄さん、すまないが私は自分の部屋に行ってくる」

 

「うん、手伝ってくれてありがとう」

 

「隊長、ここからは私が引き継ぎます」

 

 

いつの間にか、クラリッサが僕の後ろにいた。

今日、クラリッサと話したの初めてな気がする。朝は準備があるみたいで、先に部屋を出てたし……。

 

 

「さ、将冴。部屋に行くぞ」

 

「うん」

 

 

さて、この嫌な予感の正体はなんなのか……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「やっぱりか……」

 

「将冴は予測済みかよ……」

 

 

僕はクラリッサ、山田先生と同じ部屋。一夏は織斑先生と同じ部屋だった。

 

嫌な予感はこれか……。

 

 

「俺は別にいいけど、将冴は……」

 

「まぁ、二人とも一緒に住んでたことあるし大丈夫だよ」

 

「……まぁ、頑張れ」

 

 

一夏から謎の応援をもらった。

 

 

「将冴、もう部屋に入るぞ?」

 

「うん」

 

 

クラリッサと一緒に部屋に入ると、中にはすでに山田先生がいた。

 

 

「あ、将冴君にハルフォーフ先生」

 

「山田先生。同室、失礼します」

 

「かしこまらなくていいですよ?少しの間ですけど、一緒に暮らしていたんですから」

 

「はい、わかりました……」

 

 

若干クラリッサが険しい顔をする。

クラリッサの気持ちを知っているから、そんな顔をしたくなるのは分かるけれどもさ……。

 

 

「将冴、荷物はここに置くぞ」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

僕の荷物の横に、クラリッサの荷物を置いているところを見逃さなかったけど……まぁ、つっこまないでおこう。

 

 

「将冴君は、この後海に行くんですか?」

 

「はい、そのつもりです。多分、そろそろ一夏が……」

 

 

そう言った瞬間、扉をノックする音が。

僕は車椅子を動かして扉の方へ向かい、扉を開けた。

 

 

「将冴、海行こうぜ」

 

「開口一番がそれっていうのもなかなか無いね、一夏」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 

一夏らしいといえば、一夏らしいけど……。

 

 

「まぁ、いいだろ?更衣室あるらしいから、行こうぜ」

 

「わかったよ」

 

 

その前に……

 

 

「クラリッサ、山田先生。僕は一夏と海に行ってきますね」

 

「ついていかなくて大丈夫か?」

 

「うん。ついてこられても困るから……着替えとか」

 

「別にお互い全部見ているではないか……」

 

「一夏いるところでそう言うこと言わないで……」




水着くると思った?

残念、もう1日お待ちください。


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88話

sha-yuカフェへようこそ。

紅茶?ここはブラックコーヒーしか置いてないんだ。


今回、途中で三人称場面を挟みます。


 

更衣室へ向かう途中にある渡り廊下を一夏と並んで渡っていると、なにやら箒がしゃがみこんでいる。

 

 

「箒?」

 

「なにしてるんだ?」

 

 

声をかけると、箒はしゃがんだままこちらに振り向いた。

 

ちらりと、なにやらメカメカしいうさ耳が地面から生えているのが見えた……なるほどねぇ。

 

 

「一夏に将冴か。コレが……な……」

 

 

地面から生えたうさ耳を指差す箒。よく見ると、抜いてくださいと書いてある。これはもしかしなくても、あの人だよね……。

 

 

「あぁ……これは……」

 

「確実に……」

 

「どうする?」

 

 

3人で腕を組み考える。

 

が、すぐにみんなは結論を出した。

 

 

「無視しよう」

 

「スルーしよう」

 

「そっとしておこう」

 

 

箒、一夏、僕の順に結論を言葉にする。

 

そして最後に三人揃って……

 

 

「「「よしっ」」」

 

「よしっ、じゃないよ!」

 

 

どこからともなく束さんが現れた。まぁ、いるのには気づいていたし、何かしらのサプライズ的なことをするためにこんなことしたんだろうけど、相手が悪かったね。

 

 

「やっぱりいたんですね。束さん」

 

「しょーくん、束さんがいるのわかってたでしょ!反抗期だ!私のしょーくんが反抗期だ!」

 

「久しぶりです束さん」

 

「やぁやぁ、いっくん。本当に久しぶりだねぇ。ずいぶんと男らしくなったね〜。さすがはちーちゃんの弟というかなんというか」

 

「はは、束さんは相変わらずですね」

 

「むむ、それはどういうことかなぁ〜?」

 

 

一夏と束さんが談笑しているのを、僕と箒は眺めていた。箒の顔は、困惑の色に染まっていた。

まぁ、箒からすれば、接し方に困るであろう人だからね。さっき無視しようと言ったのは、できるだけ関わりたくないからだろう。

 

重要人保護プログラムを受けなければいけなくなったのは束さんがISを開発したせいだし、多分今の今まで全く連絡を取ってなかったんだ。

 

多分、束さんも接し方を迷っている。だから、今は一夏と話して気持ちに整理をつけようとしている。

 

このうさ耳仕込むくらいなら、仕込んだときに覚悟しておけと言いたいけど。

 

と、ここで箒が先に覚悟を決めたようだ。キリッとした表情で、束さんに近づく。

 

 

「姉さん。お久しぶりです」

 

「箒ちゃん……お、おひさー!元気にしていたかな、かな?」

 

「はい、おかげさまで……」

 

「……」

 

 

会話が止まってしまう。

 

しょうがない。2人で話すしかない状況にしてしまおう。

 

 

「箒、束さん。僕と一夏はこれから海に行ってきますね」

 

「ま、待て!私も……」

 

「箒。わだかまりを取るなら今しかないよ」

 

「将冴……」

 

「束さんも、そのために来たんでしょ?」

 

「しょーくん……」

 

 

これだけ言えばもう大丈夫だろう。

 

 

「ほら、一夏。着替えに行こう。車椅子押して」

 

「お、おう」

 

 

解決してくれればいいけどね……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴と一夏が去った後、箒と束は数秒の沈黙し、二人同時に口を開いた。

 

 

「姉さん」「箒ちゃん」

 

 

言葉が被ってしまい、また沈黙。

 

 

「……姉さん」

 

「な、なにかな?」

 

「私は、姉さんを許せませんでした……」

 

「……」

 

「でも、このままではいけないと思います」

 

 

箒は束の手をとり、束の目を見つめる。

 

 

「姉さんは、私のたった一人の姉です。だから……」

 

「箒ちゃん……」

 

 

束の目に涙が滲む。

箒も同様に。

 

 

「私は、姉さんを許します」

 

「うっ……ふぇぇん!箒ちゃぁぁぁん!」

 

 

束が箒に抱きつき、箒は優しく束を受け止める。

 

 

「箒ちゃん……私、ずっと謝らなきゃって……箒ちゃんに……」

 

「姉さん……」

 

「本当にごめんね……ごめんね……」

 

「いいんですよ。これからは昔のように……」

 

「うん……」

 

 

涙を拭い、体を離す2人。

お互いの顔を見て微笑みあう。

 

 

「あ、そうだ。箒ちゃん、明日誕生日だよね?」

 

「姉さん、覚えてくれていたんですか?」

 

「もちろん!たった一人の妹だもん。ちゃんとプレゼント用意してきたんだよぉ〜。明日楽しみにしていてね!」

 

「はい。ありがとうございます、姉さん」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「箒と束さん。2人にして良かったのか?将冴」

 

 

水着に着替え終わり、一夏とビーチに向かっ並んで歩いている途中で、心配そうに一夏が聞いてくる。

 

あ、僕は今義足しかつけていない。砂浜では、僕の車椅子はまともに動きそうにないからね。

 

 

「二人の問題だからね。僕らが口を挟んでいい問題じゃないさ」

 

 

箒は前のように、力ばかり求めたりしないし、束さんはずっと箒のことを心配していた。

 

まぁ、なるようになるさ。

 

 

「……そっか。将冴がそう言うなら、そうかもな」

 

「あんまり、僕のことを過信しない方がいいと思うけどね。さ、そろそろ海につくよ」

 

 

砂浜に足を踏み入れると、すでに海で遊んでいたクラスメイトが、目ざとく僕らを見つけた。

 

 

「あ、織斑君に将冴君だ!」

「さすが男の子……いい身体してる……」

「し、将冴君、なんて肉体美……」

「は、捗るわ!薄い本が厚くなるぅ!!」

 

 

はは……ISスーツ着てる時はおなか出してるからみんな気づいていると思ってたけど……普段は車椅子に座ってたり、バーチャロン展開してたりするから、そこまで見てないのか……。

 

 

「ち、注目の的だな」

 

「まぁ、たった2人の男子だからね」

 

「それもそうだな……」

 

 

はぁ、とため息をつき肩を落とす。

 

と、こちらに向かって誰かが走ってくる。

 

 

「いぃーちぃーかぁぁーーーー!!」

 

「り、鈴……わっぷ!?」

 

 

鈴が飛び上がり、一夏の肩に手をつき空中で半ひねり。そのまま一夏に肩車した。

 

 

「お、おい鈴!なんなんだよ」

 

「おぉ、高い高い。ほらほら、早く海へゴー!」

 

「なんだってそんな……お、おい暴れるなって!わ、わかったから!」

 

「はは、早速だね……一夏」

 

 

一夏は僕にごめんな、と一言断りをいれ、鈴と一緒に海の方へ向かっていった。

 

鈴のアプローチも大胆だな。それでも一夏は気づかないと思うけど。

 

 

「さて、僕はどうしよっかな」

 

 

泳ぐのは……義肢のせいでうまく浮かぶことも難しいだろうし、パラソルの下で寝ていようかな。バスの中では寝れなかったし。

 

空いてるパラソルを見つけ腰を下ろす。

何人かの女子が僕の方をチラチラと見てくるけど、この体だから誘うのを躊躇っているみたいだ。

 

まぁ、しょうがないか……。

 

 

「あ、やなしーだ!おーい、やなしー!」

 

 

この声は、布仏さん。

声のする方を見ると、なんか着ぐるみのようなものがこちらに近づいてきた。

 

え、あれなに?隣に簪さんいるけど……。

 

 

「む?やなしー、どうかした?」

 

 

よく見たら布仏さんだ!え、なにそれ?水着なの?

 

 

「将冴君……こんにちは……」

 

 

ワンピースタイプの水着を着た簪さんが恥ずかしそうに挨拶をしてくれる。

 

 

「こんにちは、簪さん。布仏さんも」

 

「やなしーは遊ばないの?」

 

 

ズバッと聞いてくるね。

まぁ、あんまりよそよそしい方僕も嫌だからね。

 

 

「この体だからね。泳ぐのも難しくて」

 

「なんだかかわいそうだねぇ〜」

 

「ちょっと、本音!」

 

「いいよ、簪さん。僕は見てるだけで楽しいからね。二人は気にしないで遊んでおいでよ」

 

 

二人はやや戸惑いながらも、海の方へ向かっていった。

 

僕、なんだか嫌な奴かも……。

 

 

「将冴ー」

 

「ん?」

 

 

また僕を呼ぶ声。今度はあのオレンジ水着を着たシャルと……

 

 

「なにそのタオル怪人?」

 

 

大量のタオルにつつまれた何かが、シャルの隣をもそもそと歩いていた。

 

「ああ……これは……」

 

「に、兄さん……」

 

「ら、ラウラだったの?」

 

 

なんだってそんな……。

 

 

「水着着て海に来たら、いきなり恥ずかしいって言い始めて……将冴からも何か言ってあげてよ」

 

「何かって……」

 

 

随分と大雑把な……うぅん、どうしたものか。

そう言えば……

 

 

「僕、ラウラの水着姿見てないんだよね……見せて欲しいなぁ。僕が選んだ水着」

 

 

これでどうだろう。

案外、このセリフ恥ずかしいんだけど……。

 

 

「う……し、しかし……」

 

 

駄目か。

 

 

「あぁ、もう。ラウラ、ウジウジしないの!えい!」

 

 

シャルが耐えきれなくなったのか、ラウラのタオルを引っぺがした。

 

 

「なっ!?シャルロット何を!?」

 

「ほら、可愛いでしょ?将冴」

 

 

タオルを剥がされたラウラは、僕が選んであげた水着を見事に着こなしており、シャルに結ってもらったのか髪をツインテールのようにしていた。

 

 

「うん、可愛いね。ラウラ」

 

「え、あ、その……ぁりがとぅ……」

 

「将冴もそう思うよね!本当にラウラ可愛くて可愛くて」

 

「シャルロット……抱きつかないでくれ……」

 

 

ふふ、この2人、すっかり姉妹みたいだな。

 

 

「兄さん助けてくれ……」

 

「シャル、少し離れてあげなよ」

 

「えぇー、どうしよっかな。むふふ」

 

 

ああ、だめだこりゃ……。

 

 

「そう言えば、ハルフォーフ先生は?一緒じゃなかったの?」

 

「うん。一夏と来たからね。そろそろ来るんじゃ……」

 

「将冴」

 

 

お、噂をすれば……。

 

 

「あ、クラリッ……サ……?」

 

 

二度目のタオル怪人だった。




水着回はもう一回続くんじゃよ。


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89話

リアルが忙しくて昨日更新できませんでした。申し訳ありません。

今回で99話。(タイトル的には89話ですが)次の更新で100話となりますが、できたら今日中にアップしたいなと思っています。

100話記念は色々とふざけようと思います。


 

「えぇっと……クラリッサでいいんだよね?」

 

「ああ」

 

 

タオル怪人もといタオルに包まれたクラリッサは、小さく頷いた……ように見えた。タオルに包まれているからよくわからない。

 

 

「なんでそんな格好を……いや、ラウラと同じか」

 

「それは……」

 

「僕が水着を選んだのに、僕はそれを見れないのか……」

 

「うっ……」

 

 

少し後ずさるクラリッサ。

僕だって男だし、選んであげた水着を着ているところは見たいに決まっている。

 

 

「恥ずかしがるな、クラリッサ。選んでくれた将冴に失礼だぞ」

 

「お、織斑先生……」

 

 

いつの間にか、織斑先生がクラリッサの隣にいた。その後ろには山田先生。二人とも、あの時買った水着を着ていて、なんというか男の僕からは眩しい。

 

 

「そういうわけだ。山田先生、そちら側を」

 

「はい」

 

「お、織斑先生!?山田先生!?」

 

 

織斑先生と山田先生がクラリッサの両サイドに立ち、クラリッサのタオルに手をかけ引っ剥がす。

 

 

「そら!」

 

「えい!」

 

 

クラリッサを覆っていたタオルが宙を舞い、僕はやっとクラリッサの姿を見ることができた。

 

白いパレオつきの水着。顔は水着とは正反対に真っ赤になっていて、眼帯を外していた。

 

なんというか……見ているこっちも、顔が熱くなる感じがした。

 

 

「み、見ないでくれ将冴!」

 

 

僕に背を向けてうずくまってしまうクラリッサ。

むぅ……もう少し見せてくれてもいいのではないだろうか。

 

僕は立ち上がり、クラリッサの近くまで行く。

 

 

「クラリッサ」

 

「……すまない将冴……。いざ着てみると、とても恥ずかしくて……」

 

 

既に何度か僕に裸を見せているのに恥ずかしいときたか。裸の方が恥ずかしいだろうに……。

 

 

「恥ずかしがる必要はないよ。すごく似合ってる。綺麗だよクラリッサ」

 

「将冴……」

 

 

クラリッサがやっと僕の顔を見てくれる。多分お互いに顔が赤いだろう。

 

 

「こほんっ」

 

 

織斑先生がわざとらしく咳払いをし、僕とクラリッサはハッと我にかえった。

 

 

「ここには教師も生徒もいるのを忘れるなよ。二人とも」

 

「「はい……」」

 

 

完全に忘れていました……。

 

 

「まぁいい。デュノア、ボーデヴィッヒはついてこい。私と山田先生の暇つぶしに付き合え」

 

「わ、わかりました!」

 

「私は兄さんと……」

 

「いいから来い」

 

「は、はい……」

 

 

シャルとラウラは織斑先生に連行されていき、山田先生は僕とクラリッサに失礼しますと一言言ってから織斑先生についていった。

 

 

「……とりあえず、そこのパラソルの下にいようか」

 

「あ、ああ……」

 

 

さっきまでいたパラソルの下まで行き並んで座って、みんなが遊んでいるところ眺めた。

 

一夏と鈴は水泳対決をしているようだ。

 

浜辺ではセシリアさんが手にオイルの容器を持ってキョロキョロしている。一夏に塗ってもらいたいんだろう……早く塗らないと焼けちゃうと思うんだけど……。

 

織斑先生と山田先生、それと連行されていったシャルとラウラは、何故かビーチバレーをしていた。既に人だかりができている。織斑先生と山田先生のペアは、流石教師というか……シャルもラウラも歯が立たないようだ……。

 

 

「先生方、生徒相手に本気でバレーしてる」

 

「のようだな。いくら隊長でも、織斑先生には敵わないだろうな」

 

「クラリッサはいかなくていいの?」

 

「私は将冴の近くにいる。ヘルパーだからな。そういう将冴は……すまない」

 

 

言いかけたことばを止めて、謝罪するクラリッサ。何が言いたかったかは察しがつくし、それについて謝る必要はない。

 

 

「謝らないでよ。もともと、泳ぐのはそこまで得意じゃないし、眺めてる方が楽しいから」

 

「しかし……」

 

「しかしもおかしもないよ。僕は眺めていたいから眺めるだけ」

 

「そうか……」

 

 

会話が止まり、二人でみんなの様子を眺める。

 

10分ほど眺めたところで、僕は大きく欠伸をした。

 

 

「ふあぁ……」

 

「眠いのか?将冴」

 

「うん、ちょっとね。バスで寝ようと思ったんだけど、寝れなくてね」

 

 

ラウラが僕に寄っかかって寝ていたからね……。

 

 

「悪いけど、少し眠るね。30分くらいしたら起こしてくれるかな」

 

「ああ、わかった」

 

 

僕は体育座りになり、自分の膝に上半身を預けた。こういう時、義足は疲れないからいい。

 

目を閉じ、眠りに入ろうとしたところで、ぐいっと引っ張られる感覚と、頭に柔らかい感触が……

 

 

「え?何?」

 

「横になった方がいい。私の膝を使え」

 

 

気づけば、クラリッサに膝枕されていた。

普通なら慌てたり、ドキドキしたりするんだけど……

 

 

「うん……それじゃ、遠慮なく……」

 

 

眠気の方が強かったみたいだ。そのまま僕は瞼を閉じた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴が私の膝の上で寝息を立て始めた。

ふふ、可愛い寝顔だ……。

 

 

「ハルフォーフ先生」

 

 

突然名前を呼ばれ、声のする方を見ると、水着姿の篠ノ之箒がこちらに向かって歩いてきた。

 

 

「篠ノ之か。どうした?」

 

「はい、一夏と将冴を見かけなかったかと思いまして」

 

「一夏は海で泳いでいるようだぞ。将冴はここに。」

 

 

膝の上で寝ている将冴を篠ノ之に見せる。

 

 

「ね、寝ているのですか?」

 

「ああ。バスで眠ろうとしていたが、できなかったみたいでな。少し寝かせてやろうと思ってな」

 

「そうですか。お礼を言いたかったのですが……また後でにします」

 

「そうか。篠ノ之が用があることを伝えておこう」

 

「ありがとうございます。それでは、私は海の方に行ってきます」

 

「ああ。怪我をするんじゃないぞ」

 

 

篠ノ之は海へと走っていった。一夏を探しに行ったのだろう。将冴が以前、一夏は複数の女生徒から好意を寄せられているということを聞いた。篠ノ之もその一人なのだろう。おそらく、オルコットや凰も……

 

 

「好意……か……」

 

 

将冴はどう思っているのだろう……。

 

将冴がドイツから離れる時、答えが出るまで待ってくれと言われたが……その答えはまだ聞いていない。

 

アプローチはしているつもりではあるが、将冴はどう思っているのだろう。

 

織斑先生と山田先生も、将冴に好意を寄せているようだからな……将冴は気づいているかわからないが……。

 

 

「将冴……私は怖いぞ……」

 

 

寝ている将冴の頭を撫でる。

 

 

「うっ……ぅん……」

 

「ふふ……」

 

 

かき乱されてばかりだな。




水着回終了。

次回は100話記念になります。

悪ふざけだったり、裏話だったりを暴露していきたいと思っていますので、楽しんでいただけたらと思います。


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100話記念番外編

はい、というわけで前々から予告していた通り100話記念回でございます。

本編の話数的には90話ですが、話の総数は100話なので100話記念です。

主に、この話を書こうと思った裏話なんかや、悪ふざけなんかを書いていこうかと思います。

今回はチャット形式となりますので、ご了承ください。


 

将冴(以下将)「IS〜偽りの腕に抱くもの〜」

 

クラリッサ(以下ク)「100話記念」

 

作者(以下作)「作成裏話〜。いえー!」

 

将、ク「……」

 

作「あれ、一緒にいえーって……」

 

将「いや、いきなり呼び出されて、台本渡されて、いえーなんで言える?」

 

作「うっ……」

 

ク「それで、これはなんなんだ?」

 

作「えっと、なんで作者……つまり私がこの小説を書こうと思ったのかっていう話とか、裏話とかを暴露していこうかと」

 

ク「話していいのか?」

 

作「話しちゃいけないところはオフレコで。それじゃ、台本通りによろしく」

 

将「もう……わかったよ」

 

ク「それでは、まずは書くきっかけになった話から」

 

 

〜作品を書くきっかけ〜

 

 

作「これは作者の溢れ出すクラリッサ愛から……」

 

将「キモい」

 

ク「キモい」

 

作「割と本気なんだけどな……」

 

将「それじゃ、いつからそんなにクラリッサ好きになったの?」

 

作「それを語るには、5年ほど前の話……作者が初めてISの小説を読んだ時の話をしなきゃいけないね。その頃、作者は高校生で、中二病重症患者でした」

 

ク「それは今もだろう」

 

作「それは言わない約束。で、その頃同級生とラノベの貸し借りをしてたんだ。お互いに読みたいものを確認しあって、二人で協力して買ったりしてね。お金なんてそんなになかったからね。で、その中の一つがISだったわけ。ISは友達が買って、それを借りて読んでたんだ」

 

将「へぇ、それじゃあ、それを読んでクラリッサを?」

 

作「いや?その時はシャルロッ党だった」

 

将、ク「はぁ!?」

 

作「作者が今の性癖なるのは色々な紆余曲折……いや、ゴッドイーターというゲーム出会ってしまったのが一番の原因だけど、これは省かせてもらうよ。まぁ、そんなこともあってアニメ一期が始まるまではずっとシャルロッ党だったわけで」

 

ク「始まるまで?」

 

作「うん。アニメでクラリッサがちょろっと出た時には既にゴッドイーターをプレイ済みでね。性癖が固まってたんだ。その状態でアニメを見た作者は……」

 

将「クラリッサ好きになったと?」

 

作「うん。で、去年12月あたりからISの二次創作漁ってたら気持ちが爆発してしまって書いてしまったわけです」

 

将「溢れ出すリビドーを止められなかったと……」

 

作「まぁ、そんなところだね〜」

 

ク「なるほどな……では次の話に行こうか」

 

 

〜書く前の構想段階では、主人公はIS学園教師だった〜

 

 

将「それがどうしてこうなったの?」

 

作「結論からいってしまうと、クラリッサヒロインにするにはIS学園教師だと難しかったからだね」

 

ク「どうしてだ?」

 

作「教師だと、学園から出ることがほとんど無いと思ってね。ドイツに行くのも、理由付けが難しくてね。千冬の幼馴染にして、モンドグロッソを見に行った時に知り合ったとかも考えたんだけど、短期間で仲良くなれるとは思えなくてねー。結果、四肢全損にして、罪の意識から将冴といい仲になるという今の形になりました」

 

将「別に四肢全損にする必要はなかったんじゃ……」

 

作「それは、エンジェルビーツっていうアニメの第10話を見て、車椅子いいなぁーってなったから。クラリッサが車椅子を押して将冴が振り返って微笑みあうっていうのがすごいキュンキュンしたから」

 

将「阿呆らしい理由で、僕は手足を無くしたのか……」

 

ク「まぁ、それが無ければ私たちは出会わなかったし……」

 

作「そうそう。感謝したまえ!」

 

将「いらっ……」

 

ク「つ、次に行こう。次は最後の裏話だ!」

 

 

〜初期の構想では、将冴がドイツの代表候補生になる予定で、2年間ドイツで過ごす予定だった〜

 

 

作「これは前にチラッと前書きとかで話したかもね」

 

将「これはどうして?」

 

作「この2年間で将冴とクラリッサは恋人にする予定だったから。今のように、将冴君が答えを出し渋っている話ではなかったんだよね。で、ラウラと一緒に日本へ行くって構想だったんだ」

 

ク「では、なぜその通りに展開されなかったんだ?」

 

作「これは作者が取ったアンケートが原因だね」

 

将「ああ、作者が読者さんが感想くれるの嬉しくて、できるだけ希望に答えたくて、ヒロインの扱いをどうするかを読者に聞いたあのアンケート?」

 

作「うん。読者の皆様に読んでもらったら、ぜひこの人を〜っていう感想たくさんいただきまして、そのキャラを見ていると、作者もいいなぁーと思ってしまい、決断を読者の皆さんに下してもらうという……はい、ただのチキンです……」

 

ク「アンケートでは、私をメインにはするが、他のキャラともいい感じになるという結果になったな」

 

作「うん。そうなると、ドイツ代表候補生になって、クラリッサと恋人になるという流れができなくなったので、この話はボツになりました。でもまぁ、今の話も楽しいので、全然構いませんがね。そのうち外伝とかで書きたいなぁと思ってます」

 

ク「それは楽しみだな……」

 

将「クラリッサ、よだれよだれ」

 

作「まぁ、そんなところだね。以上、作品裏話でした」

 

将「最後は自分で締めるんだ」

 

ク「私たちは本当に必要だったのか?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

【コラボレーション企画】

 

将「で、また呼ばれた訳だけど……」

 

ク「コラボレーション……一体何とコラボレーションすると言うのだ?」

 

ショウゴ(以下ショ)「なんか呼ばれたけど、ここで何するんだろう?」

 

ジーナ(以下ジ)「さぁ?今日の仕事を休んでまで来いっていうくらいだから、相当なことじゃ……」

 

将、ク「あ……」

 

ショ、ジ「ん?」

 

『……』

 

 

〜作者事情説明中〜

 

 

将「えっと、というわけで、GOD EATER〜煌めく波と手向けの花〜より柳川ショウゴさんと」

 

ク「ジーナ・ディキンソンさんだ」

 

ショ「どうも……」

 

ジ「紹介、ありがとう」

 

将「ショウゴさんは僕と同じ名前ということで……」

 

ショ「メタなこと言ってしまえば、小説だしわけなくても大丈夫なんじゃないかな?」

 

将「そうですね。ショウゴさんは、なぜ同じ名前か知っていますか?」

 

ショ「作者が面倒くさがったって聞いた」

 

ク「作者は適当なところがあるようだな」

 

ジ「私たちの時も、かなり適当にやってたみたいよ?書き始めた理由が、私がヒロインの小説を書いてイチャイチャしてるところを見たかったって言ってるし」

 

ク「こっちも同じような理由だな……」

 

ショ「GOD EATERの方は、展開も適当に書いてたらしいね。最後はかなり無理やり書いてしまったって言ってたな。なんでも、大学の論文が忙しくなって、毎日更新できなくなるからぁ、とか」

 

ジ「そんな理由で完結させられるこっちの身にもなってほしいわね」

 

将「僕たちのところでも、そうならないようにしてほしいね。クラリッサ」

 

ク「そうだな。その時は、全力でお仕置きしてやればいい」

 

ショ「まぁ、作者もISは最後までしっかり書き切りたいって言ってるしね。ランキングに上がったり、お気に入り件数4桁行ったりしてるから……」

 

将「ショウゴさん、涙目にならないでください」

 

ジ「ごめんなさいね。彼、GOD EATERの続編書くって作者から聞いて楽しみにしてたから」

 

ク「な、なんか申し訳ない……」

 

ジ「気にしなくていいのよ。……そろそろ時間のようね」

 

ショ「みたいだね。将冴、クラリッサ。短い間だったけど、話せて楽しかったよ」

 

将「こちらこそ、ありがとうございました」

 

ジ「クラリッサ、これから頑張って。彼のために、ね?」

 

ク「はい、頑張ります」

 

ショ「それじゃ」

 

ジ「またね」

 

 




ショウゴとジーナは忽然と姿を消し、将冴とクラリッサは顔を見合わせ微笑み合った。


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90話

昨日の100話記念は楽しんでいただけたでしょうか?

私が以前書いていたGOD EATERのショウゴくんも登場してくれました。100話記念というには少しインパクトがなかったかもしれませんが……まぁ、この小説を書くにあたって、あんな裏話がありましたってことを知っていただきたかった。

あ、ちなみにわっしの今の性癖の原因はGEのジーナです。


 

「ぅん……」

 

 

どれくらい寝ただろうか……この感じだと、30分以上寝た気がする。クラリッサは……。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

……クラリッサも寝ていた……そりゃ起こされないわけだ……。

 

既に日は沈みかけていて、赤く染まっている。

めちゃくちゃ寝ていたようだ……。

 

 

「んっ……んん〜……」

 

「起きたか」

 

 

体を起こして伸びをしていると、後ろから声をかけられ振り向くと、浴衣を着た織斑先生がいた。

 

……もしかして、起きるまで待っていてくれた?

 

 

「よく眠れたか?」

 

「ええ……こんなに寝る予定ではなかったのですが……」

 

「二人とも気持ちよさそうに寝ていたからな。みんなも起こしずらかったようだ。私もな」

 

「起こしてくれても良かったのですが……」

 

 

おそらく、もうすぐで夕食の時間だろう。早く戻らないと遅れてしまう。

 

僕は寝ているクラリッサの肩を揺らした。

 

 

「クラリッサ。クラリッサ」

 

「ぅん……将冴……はっ!すまない、寝てしまった!もう30分以上経ってしまって……」

 

「気にしなくていいよ。ごめんね、ずっと膝枕してもらって」

 

「いや、それはいいのだが……」

 

 

すっかり気を落としてしまったみたいだ……。

気にしなくていいのに。

 

 

「二人とも、もう夕食の時間だ。早く着替えてこい」

 

「お、織斑先生!?」

 

「驚いている暇があったらさっさと行け」

 

「は、はい!」

 

 

クラリッサはスッと立ち上がり、僕のことを持ち上げた。

 

 

「失礼します!」

 

「ちょっ、クラリッサ!自分で歩けるから」

 

「二人で着替えたほうが早いだろう?」

 

「一人でできるから!」

 

 

僕を抱えたまま、クラリッサは旅館まで走っていく。僕一人でできるからぁ!

 

 

「まったく……見せつけてくれるな……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

結局クラリッサに手伝ってもらいながら浴衣に着替え、夕食会場に向かった。

既に僕ら以外は集まっており、ちょうど食べ始めるところだったようだ。

 

僕はテーブル席のほうに用意されていた車椅子用の席へ向かう。テーブルにはシャルとラウラが僕に対面するように座っていた。

 

クラリッサは教員用の夕食会場があるようで、そちらに向かった。

 

 

「将冴、よく眠れた?」

 

 

ニコニコ顔で僕に聞いてくるシャル。僕の反応を見て楽しむつもりか……いつか仕返しするからね……。

 

 

「起こしてくれても良かったんだけど?」

 

「織斑先生に寝かしておけって言われたからね」

 

「あ、そう……」

 

「兄さん、今日一緒に……」

 

「寝ません」

 

「クラリッサとは寝るのにか!?」

 

「その言い方は語弊があるからやめてくれないかな?」

 

 

ラウラとそんなやりとりをしている間に、夕食が始まる。料理はさすが海沿いの旅館。お刺身などの魚介類が並んでいる。

 

 

「こんなに豪華なのいつぶりかな」

 

「この魚……火が通っていないぞ……手抜きか?」

 

「そういう料理なんだよ、ラウラ」

 

「確かお刺身って言うんだよね?」

 

「そうだよ。この醤油を少しつけて食べるんだ」

 

 

僕は実演するように、お刺身に醤油をつけて食べて見せる。

 

 

「こ、こうか、兄さん……?」

 

 

箸を使い慣れていないラウラがプルプルと震える手でお刺身を掴み、醤油に少し浸し食べようとするが、醤油につけたところでお刺身が箸から落ちてしまい、ベチャリと醤油漬けになってしまった。

 

 

「あ……」

 

 

この世の終わりのような顔をするラウラ。そんな顔しなくても……。

 

 

「無理に箸を使わなくても……」

 

「いや、日本にいる間に箸を使えるようになりたいんだ」

 

「まぁ、いい心がけではあるけど……」

 

 

醤油漬けの刺身を食べさせるのはかわいそうなので、そのお刺身を僕の皿に移し、僕のお刺身に少し醤油をつけてラウラの口元に持っていった。

 

 

「はい、あーん」

 

「あ、あーん……」

 

 

恥ずかしそうにお刺身を口にするラウラ。そしてぱぁっと顔を輝かせる。

 

 

「お、美味しいぞ!兄さん!」

 

「それは良かった」

 

 

残すのはもったいないので、醤油漬けお刺身をご飯と一緒に食べた。

 

ラウラの隣に座っていたシャルも僕にならってお刺身を食べて美味しそうな顔をした。シャルは箸の扱いには、少し慣れているようだね。

 

 

「本当、生魚だから少し抵抗があったけど、これならいくらでも食べれそう」

 

「これが食べれれば、お寿司も楽しめるね」

 

「それは楽しみかな。……ねぇ、この緑色のは何?」

 

 

シャルはわさびを見て僕に聞いてきた。

ふむ、これは……

 

 

「それはわさびだよ。見たところ、本わさびみたいだね。食べてみればわかるよ」

 

「うん、わかった」

 

 

シャルが盛られているわさびを全て箸で掴み、口に運んだ。

 

計画通り……。

 

 

「むぅ!?」

 

「食べたらわかるように、それは薬味でお刺身に少しつけて食べるんだ」

 

「早く言ってよ!」

 

「どんな反応するか楽しみで……」

 

「に、兄さん……涙が止まらない……」

 

「ラウラも食べちゃったの!?」

 

 

それはさすがにかわいそうなことをしてしまった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「将冴」

 

 

夕食を終えて、部屋に戻ろうとすると、箒に声をかけられた。そういえば、束さんと二人っきりにしてしまったが、あの後はどうなったんだろう?

 

 

「今日はありがとう。おかげで姉さんとの関係も修復できそうだ」

 

「そっか。それは良かった。でも、僕にお礼を言わなくてもいいからね。束さんが箒と仲直りしたいから、箒も同じ気持ちだったから、なるべくしてなったんだよ」

 

「それでも、タッグトーナメント前に諭されていなければ、私は素直に姉さんと話せなかった。だから……」

 

 

ありがとう、と箒は頭を下げた。

 

そこまでしなくてもいいのだけど……まあ、二人が仲直りできて良かった。

 

 

「どういたしまして。さ、早く部屋に戻ったほうがいいよ。同室の人たちが心配する」

 

「ああ。この礼はいずれ返す」

 

「気にしないで」

 

 

箒は自分の部屋の方へ走っていった。

 

あ、そういえば……

 

 

「束さんはどこに行ったんだろう?」

 

 

聞いておくべきだったな……。





ダーク尺稼ぎ。

シャルにわさびを食べさせたかっただけ←


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91話

寒い日が続きますね。

読者の方々も体調管理には気をつけましょう。


 

自室に戻ると、既に山田先生とクラリッサが戻ってきていた。先生方も夕食を終えていたようだ。

 

 

「将冴、戻ったか」

 

「うん、クラリッサも山田先生も戻っていたんですね」

 

「はい」

 

 

ふむ……そろそろ男子のお風呂の時間かな。圧倒的に女子が多いから、男子を先に温泉を使えることになっている。

 

一夏を誘って温泉に行こうかな。

 

自分の荷物から着替えと、部屋にあるタオルを手にして温泉に向かおうとすると、なぜかクラリッサも立ち上がった。

 

 

「……クラリッサ?」

 

「私も一緒に……」

 

「男子のお風呂の時間だからね?一夏もいるから大丈夫だよ」

 

「むぅ……」

 

 

そんな不服そうな顔をされても。

 

 

「ハルフォーフ先生。そこまで一緒にならなくても……」

 

「しかし……」

 

「将冴君も、男同士で話したいこともあると思いますから。それよりも、少し晩酌しませんか?」

 

 

山田先生がいつの間にか、ワインとグラスを手にしていた。

 

山田先生、以外とワルですね……。

 

 

「いえ、私はお酒は……」

 

「まぁ、いいじゃないですか。こんな時じゃないと飲めませんから」

 

「や、山田先生……」

 

 

山田先生に捕まったクラリッサがこちらに助けを求める視線を送ってくるが……。

 

 

「織斑先生には内緒にしておくね」

 

「そんなぁ!」

 

 

山田先生が与えてくれた好機と思い、僕は部屋を後にした。

 

さて、一夏の部屋は……

 

 

「あれ?」

 

 

一夏の部屋もとい織斑先生の部屋の前では、箒、セシリアさん、鈴がなにやら耳を潜めて部屋の音を聞いている。

 

何してるんだか……。

 

 

「三人とも、何してるの?」

 

「っ!?将冴か……」

 

「びっくりさせないでくださいませ……」

 

「し、静かにしてよ。中の様子が聞こえないでしょ」

 

 

三人がまた耳をすませたので、僕も少し聞き耳をたてる。

 

 

「あっ……一夏、そこだ……」

 

「ここか?」

 

「そう、そこだ。もっと強く……んっ」

 

 

ああ、そういうことか……。

 

僕は三人が耳をすませているのをよそに、部屋の扉を開けた。

 

 

「しょ、将冴!?」

 

「いきなり開けるなんて!?」

 

「私は見てない、何も見てないわよ!?」

 

 

三人は目を塞ぎ、なにやら叫んでいるけど、僕はそれを無視して中の一夏に声をかける。

 

 

「やぁ、一夏。マッサージ終わった?」

 

「お、将冴。もう少しだけ待ってくれ」

 

「一夏、手を休めるな」

 

「はいはい、千冬姉」

 

 

一夏は織斑先生の腰あたりを指圧し始めた。

 

 

「ほら、三人とも。いつまで目をふさいでるの?何考えていたのかは知らないけど、一夏はただマッサージしているだけだよ?」

 

「ま、マッサージ?」

 

「そ、そうでしたの……」

 

「もう、将冴いきなり扉開けるんだから!」

 

 

変な勘違いしてる箒達が悪いと思うんだけど……。

 

 

「ふぅ……どうだ?千冬姉」

 

「ああ、もういい」

 

 

一夏がマッサージを終えたようだ。織斑先生は首や肩を回している。

 

 

「一夏、温泉に行こうよ。時間も限られてるからさ」

 

「ああ、今行くよ。部屋の外で待っててくれ」

 

 

一夏はいそいそと準備を始めたので、僕は言われた通り部屋の外で待つことにした。

 

 

「そこの女子三人。そんなところにいないで入ってきたらどうだ」

 

 

織斑先生に呼ばれる部屋の外にいる三人。

お互いに顔を見合わせて、恐る恐る部屋へと入る。それと入れ替わりに、一夏が出てくる。

 

 

「待たせたな、行こうぜ」

 

「うん」

 

 

一夏が僕の車椅子を押して、温泉へと向かった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

温泉は広く、二人で入るにはもったいないほどだった。

 

僕は腰にタオルを巻いて、義足だけつけてお湯に浸かった。

 

 

「ふぅ……気持ちいい……」

 

「だな。俺は学園の大浴場入れなかったし、広い風呂は久しぶりだ」

 

「はは……大浴場はそんなにいいものじゃなかったよ……」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでも」

 

 

恥ずかしくて言えないよ……あんなこと。

 

 

「そうか。……そういえば、箒から聞いたか?束さんと仲直りしたって」

 

「うん、さっきお礼言われたよ。別に気にしなくてもいいのにね」

 

「俺もお礼言われたけど、何もしてないからなぁ……」

 

「一夏は箒の支えになってあげてたんだよ。一夏がいなかったら、箒は頑張れなかったから……」

 

「どういうことだ?」

 

「それは自分で気付かなきゃね」

 

 

一夏は頭にハテナを浮かべる。ふふ、悩め悩め。

もうそれくらいは気付かなきゃね。

 

 

「わかんねぇ!俺サウナ行ってくる!」

 

「行ってらっしゃ〜い。僕はまだ露天風呂行ってくるよ」

 

 

一夏と別れ、僕は外へ出る。

 

露天風呂からは海が見え、いい景色だった。

 

ゆっくりとお湯に浸かる。本当に気持ちいい……

 

 

「はぁ〜……」

 

「気持ちいいねぇ〜、しょーくん」

 

「そうですね……やっぱりきたんですね。束さん」

 

 

慣れてしまった。束さんはバスタオルを巻いて、いつものうさ耳をつけたまま、僕の隣に現れた。

 

 

「むむ、もう驚かないの?束さん、つまんないなぁ〜」

 

「姿が見えなくなった時点で、現れるだろうなぁとは思いましたから」

 

「私のことをわかってくれているって思っちゃうからね?」

 

「そういうことにしておいてください」

 

 

下手に否定すると、束さんは面倒臭くなるから……。

 

 

「それで、僕に何かお話があったんですか?」

 

「うん。……ありがとね、しょーくん」

 

 

束さんが僕の頭を抱き寄せる。

頭に感じる柔らかい感触にドキドキする。

 

 

「しょーくんが架け橋になってくれたから……また箒ちゃんと面と向かってお話できるようになったよ……」

 

「僕は、何も……」

 

「そんなに謙遜することないよ。しょーくんはすごいよ本当に……」

 

 

僕の頭を撫で始める束さん。

今は何も言わないほうがいいかな……

 

 

「むふふ……何にも抵抗ないってことは、私の好きにしてもいいってこと?」

 

「今腕つけてないから抵抗できないだけです」

 

「ふふ、そっか……そうだ、明日って機体の整備するんだよね?」

 

 

束さんが臨海学校の日程を知っていることには突っ込まないことにする。

 

 

「その予定ですが……」

 

「それじゃあ、ちょうどいいね。テムジン用のバージョンアップデータを持ってきたから、明日インストールしてあげるね」

 

「本当ですか?」

 

 

バージョンアップとは……流石、束さんと言うしかない。

 

これは僕も胸が踊る。

 

 

「楽しみにしててねぇ。あ、いっくんにも挨拶してこようかなぁ」

 

「一夏はサウナにいますよ」

 

「おっけー。それじゃあ、行ってくるね」

 

 

束さんは意気揚々とサウナに向かっていった。

 

一夏の叫び声が聞こえたけど、僕は気にせず露天風呂を上がり体を洗い始めた。




次回は、将冴と一夏がお風呂に入っている間にクラリッサと千冬が、何をしていたか書いていこうと思います。


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92話

クラリッサと千冬視点が主になります。

福音戦が憂鬱……


 

将冴が温泉に行ってしまい、私……クラリッサは山田先生にグラスを渡され、ワインを注がれた。

 

教師がお酒を持ってきてもいいのか……。

 

 

「さ、飲みましょう?クラリッサさん」

 

「しかし、教師が飲むのは……」

 

「多分、織斑先生は飲んでますよ。織斑先生の荷物から缶の音がしましたし」

 

「そうなんですか……」

 

「だから、私達も。大丈夫です。酔い潰れるほどは飲みませんよ」

 

 

そう言って私の持つグラスに、山田先生は自分のグラスをぶつけた。

 

 

「乾杯」

 

「か、乾杯……」

 

 

山田先生はくいっと飲み干してしまうが、私は少しだけ口に含み飲み込む。

 

……やはり酒は苦手だ……。

 

 

「ハルフォーフ先生は、お酒は苦手ですか?」

 

「恥ずかしながら……今までも飲むことは無かったので」

 

「これから飲むこともあるとは思いますので、少しだけ慣れておくといいですよ。特に、織斑先生と飲むとなると、酷いですからね」

 

「そうなのですか?」

 

 

にわかには信じがたい……いつもキリッとしているから、そんな印象がない。

 

 

「織斑先生、居酒屋でもバーでもたくさん飲みますから。三軒ハシゴなんて普通です」

 

「三軒……」

 

「おかげで、私もお酒好きになってしまいました」

 

 

そう言いながら、二杯目をグラスに注ぐ山田先生。

いつの間に飲み終えたのか……。

 

 

「ハルフォーフ先生は、この学校に来てどうですか?前はドイツ軍にいたと聞きましたが……」

 

「とても楽しいです。ドイツ軍にいた時のように、訓練や戦いに明け暮れる生活とは無縁で、毎日が勉強で……」

 

「ドイツ軍は、居心地が悪かったんですか?」

 

「そういうわけではありません。ドイツ軍には友人もいますし、誇りもあります。でも……」

 

「でも?」

 

「その……将冴といる方が……充実しているというか……」

 

 

将冴がいない間の一年間は、心に穴が空いたようだった。毎日の仕事をただ機械的にこなすだけ。そんな生活だった気がする。ラウラ隊長やルカには申し訳ないこと言っているかもしれないが……

 

 

「本当に、将冴君のことが好きなんですね」

 

「えっ……あ、まぁ……」

 

 

面と向かってそう言われると、なんとなく気恥ずかしい。

山田先生は小さく笑っている。

 

 

「ふふ。でも、ほどほどにしなきゃダメですよ?教師と生徒なんですから」

 

「山田先生、それは自分にも返ってくるのでは……」

 

 

大浴場の件とか……

 

 

「あ、あれはプライベートなことですから……」

 

「聞いたところによると、私が来る前に将冴とシャワーに入ったとか……」

 

「え、えっと……それは……」

 

 

バツの悪そうな顔をする山田先生。

やはり、山田先生も将冴のことを……

 

と、その時、部屋をノックする音がする。

 

 

「あ、誰か来たみたいですね!」

 

 

山田先生が好機と言わんばかりに、扉の方へ向かった。

あからさまに話を逸らされた……。

 

 

「はーい……あら、ボーデヴィッヒさんにデュノアさん?」

 

「こんばんは」

 

「夜に失礼する」

 

 

隊長とデュノア?

将冴に用だろうか?

 

 

「二人とも、どうかしましたか?」

 

「えっと、ラウラが……」

 

「兄さんに会いに来た。部屋にいるだろうか?」

 

「隊長、将冴は今温泉に行ってます……」

 

「む……そうか……」

 

 

明らかに落ち込んでいる。日本に来てから、軍にいては見ることができない隊長の姿を見ることができるな……カメラでも買おうか。

 

 

「でしたら、中に入って待っててもいいですよ?」

 

「え、いいんですか?」

 

「はい。どうぞ」

 

 

山田先生が二人を部屋に招き入れる。私は冷蔵庫に入っている缶ジュースと取り出し二人に渡した。

 

 

「隊長、デュノア、これを」

 

「ありがとう、クラリッサ」

 

「いただきます、ハルフォーフ先生」

 

 

二人はジュースを飲み始める。

それを見た山田先生は、またワインを注ぎ始めた。

 

 

「や、山田先生……お酒飲んでいたんですか?」

 

「はい。お二人には口止め料を払いましたからね?」

 

「くっ、このジュースは罠か……」

 

 

いや、別にそういうつもりでわたしたわけではありませんからね?

 

 

「はは……そういえば、僕ハルフォーフ先生と将冴の馴れ初めとか聞いたことないなぁ……」

 

「馴れ初めなんて……そんな大層なものでは……」

 

「それ、私も気になりますね。ハルフォーフ先生、聞かせてくれませんか?」

 

「そんな楽しい話ではないのだが……」

 

「いいではないか。話してやれクラリッサ」

 

「……隊長が言うなら……」

 

 

私は、将冴と出会った時のことを少しずつ話し始めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「で、お前たちは一夏のどこに惚れたんだ?」

 

 

一夏が将冴と温泉に行った後、女子3人に口止め料としてジュースを与え、私……千冬は缶ビールに手をかけた。

 

そして、この一夏にベタ惚れの女子達に、弟のことを聞いてみる。

 

 

「一夏のどこに……ですか?」

 

「優しいところとか……」

 

「男らしいところ……でしょうか」

 

 

またありきたりな……まぁ、好きな気持ちに理由をつけるのは難しいか。

 

どれ、少しいじめてやろうか。

 

 

「それならば、将冴も当てはまりそうな気はするがな」

 

「将冴は、そういう感じではなく……私としては恩人というか……」

 

 

箒は恩人……なるほど、なにやらスッキリした顔をしている。束との仲を修復したか。

 

 

「将冴さんは、確かに頼りになるお方ですが、どちらかというと、弟のような……」

 

 

クラスで将冴が弟のポジションを確立しているという話は本当だったか……。オルコットまでそう思っているとは、全く呆れるな……。

 

 

「凰は?お前は、一番一夏と将冴と付き合いがあるだろう?」

 

「私は……」

 

 

凰は悩むような仕草をするが、すぐに答えを出したようだ。

 

 

「将冴って、人間として出来すぎているんです」

 

「ほう?」

 

「昔っから何やらせても上手く立ち回るし、人の気持ちに敏感だし、何も言わなくても私が一夏のこと好きだって気づくし……」

 

 

それはお前がわかりやすいからだろう。

 

 

「将冴が泣いたところを見たことないし、怒ったところも前のタッグ戦の時が初めてで……だから、将冴はそういう対象ではないんです」

 

「なるほどな……」

 

 

確かに、両親が亡くなった時も、将冴は泣かなかったな……。

 

 

「まぁ、お前達の言いたいことはわかった。それで選ぶのがあの愚弟か……お前達も大概馬鹿だな」

 

「「「うっ……」」」

 

 

まぁ、人の色恋に口を出すのは野暮というものか……

 

 

「そういえば、織斑先生に一つ聞きたいことがあるんです」

 

 

箒が恐る恐る手を挙げる。

 

私に聞きたいことか……この流れで検討つかないが。

 

 

「なんだ?それと、今は千冬でいい」

 

 

箒の質問に耳を傾けながら、ビールを煽る。

 

 

「では千冬さん。なぜ、生徒や弟の一夏は苗字で呼ぶのに、将冴だけ名前呼びなんですか?」

 

「ぶふっ!?」

 

 

つい吹き出してしまった……山田先生にも以前に突っ込まれたが、まさか生徒にまで聞かれるとは……。

 

 

「大丈夫ですか!?織斑先生、ハンカチをお使いくださいませ!」

 

「大丈夫だ……必要ない」

 

 

オルコットにハンカチを差し出されるが、自分の袖で口元を拭う。

 

くっ、変なところを見せてしまった。

 

 

「そ、それで……質問の答えは……」

 

 

凰が追い打ちをかけてくるか……。

 

 

「何もない」

 

「でも、何か特別な……」

 

「何もない!」

 

「「「すみませんでした!!」」」

 

 

少し声を張り上げると、3人は土下座した。

 

まったく……これからは気をつけなければならないか……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

温泉から上がり着替えていると、一夏がげっそりした顔でサウナから上がってきた。

 

 

「あれ、束さんは?」

 

「なんか、いじるだけいじってどっか消えてった……」

 

「お疲れ様。早く着替えちゃおう。女子の時間になっちゃうし」

 

「おう。先に戻っててもいいぞ」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 

浴衣を着て、車椅子で自室に戻った。まぁ、この後することないし、さっさと寝ようかな。

 

 

「ただいまぁー」

 

「兄さん!」

 

 

そう言いながら扉を開けると、ラウラが駆け寄ってきた。

 

部屋の中を見ると、シャルの後ろ姿も見える。

 

 

「ラウラ、来てたんだ」

 

「うむ、兄さんに会いたくてな」

 

「それは別にいいんだけど……シャルは……」

 

「ぐすっ……将冴おかえり……」

 

「なんで泣いてるの!?」

 

 

え、クラリッサと山田先生が泣かせたの?

いやいや、二人がそんなことするはずがないし……。

 

 

「将冴くぅん……大変だったんですね……うぅっ……」

 

「山田先生まで!?いったい何が……」

 

「すまない、将冴。私と将冴が出会った時の話をしたら……」

 

「あぁ……」

 

 

自分で言うのもなんだけど、結構壮絶な出来事かもね……。

 

 

「将冴に比べたら、僕のゴタゴタなんて……」

 

「比べるものじゃないから……」




次回から臨海学校二日目。

やっと福音戦ですね。100話もかかってしまって……申し訳ねぇです……


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93話

臨海学校二日目です。

ISの小説を読みなおそうかと思っている今日この頃。


……もうすぐでオールオリジナルになるからいっか←


 

「……では、専用機組と一般生徒で分かれて作業を開始しろ」

 

 

翌日、臨海学校二日目に突入した。

 

今日は専用機組と一般生徒とが分かれてISの整備をやるみたいだ。専用機組は本国から追加パッケージが届いたりしていて、一層大変そうだ。なんでもキャノンボールファストとか言う大会用のだとか……僕は全く関与していないので、どんな大会なのかは詳しく知らないけど……レースなのかな?

 

 

「兄さんはパッケージなどはないのか?」

 

「わからない。束さんがグレードアップするとか言ってたけど、見当たらないし……」

 

「そうなのか……」

 

 

ラウラと話していると、クラリッサが近づいてくるのに気づいた。僕ではなく、ラウラに用があるようだ。

 

 

「隊長、追加パッケージの準備ができました」

 

「うむ。では、兄さん。私は行ってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 

ラウラに手を振り送り出す。

 

 

「将冴、今日は何をするんだ?」

 

「束さんが機体見てくれるって言ってたんだけど……」

 

 

その束さんが見当たらない。クラリッサも察してくれたようで、辺りを見回してくれるが、いないものはいない。

 

 

「どうしよっかな……」

 

「一人でやれることもないだろうしな……。っと、すまない。私は隊長の手伝いに行ってくる」

 

「うん、わかった」

 

 

クラリッサはラウラの後を追っていった。

 

 

「さて……」

 

この後はどうしようかと考えていると、遠くから何やら走ってくる。

 

あぁ、束さんだ……あれ向かってる方向に織斑先生が……

 

 

「ちぃーーーーちゃぁーーーーん!」

 

「ふんっ!」

 

「い、痛いよちーちゃん!?久しぶりにちーちゃんの愛を受けれるのは嬉しいけど、限度が、限度が!?」

 

 

アイアンクロー(いつもの)を食らって束さんは悶絶している。その場にいた生徒全員がこの光景を見て唖然としている。

 

 

「ねぇ、あれって……」

「篠ノ之束博士?」

「嘘、IS開発者の!?」

「本物を見られるなんて……」

 

 

周りの生徒がざわついている。専用機組も、僕と一夏、ラウラ以外は驚いている。

 

 

「何しに来た、束」

 

「ちーちゃんに会いに……」

 

「何しに来た?」

 

「ち、力が強くなってるよちーちゃん!?」

 

 

答えるまでアイアンクローをやめないらしい。

 

 

「しょ、しょーくんといっくんのISの様子見に来たんだよぉー!……あと、箒ちゃんにプレゼント」

 

 

最後ボソッと本当の目的言ったね。

束さんのプレゼントってことは……

 

 

「……まぁいい」

 

 

織斑先生はアイアンクローを解き、束さんを解放した。

束さんは涙目でコメカミを押さえている。

 

 

「いてて……」

 

「早く用を済ませろ」

 

「つれないなぁ、ちーちゃん。まぁ、そんなところもちーちゃんの素敵なところだけど……わわ、わかったから!すぐに終わらせるからその手を下ろして!?」

 

 

束さんを止めれるのは織斑先生だけかな……。

 

と、僕の横を誰かが通り過ぎていった。あの長いポニーテールは……箒か。

 

 

「姉さん!何してるんです!?」

 

「あ、箒ちゃん!おはよう!むふふ、おはようを言えるようになるなんて、なんだか照れくさいねぇ」

 

「て、照れくさいって……それより、こんなところで何を……」

 

「箒ちゃんの誕生日プレゼントを持ってきたんだよ」

 

「昨日言っていた……」

 

「そうそう。で、これが束さんから箒ちゃんへの誕生日プレゼント!」

 

 

束さんが右手をあげると、突然空から何かが落ちてきて砂埃をあげる。

 

あぁ……やっぱりか。

落ちてきたのは、機械の箱。その箱は駆動音を立てて開いていき、中から紅いISが姿を現した。

 

 

「これが、箒ちゃんのため第四世代型IS……『紅椿』だよ」

 

「わ、私のIS……」

 

「おい、束!」

 

 

織斑先生が声を張り上げる。

 

それはそうだ。代表候補生でもない箒が、専用機を持つことになるんだ。教師としては見過ごすことはできないだろうし、問題もある。

 

 

「第四世代って……」

「最新型ってこと?」

「篠ノ之さんがそれを貰えるってこと?」

「コネってこと?それってなんかずるくない?」

 

「何がズルいの?」

 

 

いつの間にか、束さんが女生徒との距離を詰めていた。

 

 

「え?」

 

「コネだって重要なスキルだよ。それに君達は箒ちゃんにISで戦って勝てるの?」

 

 

女生徒たちは押し黙る。

 

 

「タッグトーナメント戦の映像見たけど、箒ちゃんはいっくんに勝ってたよね?訓練機で。これを見ただけでも、箒ちゃんに力があるのは一目瞭然だよね?君はその力があるの?ねぇ?」

 

 

さらに詰め寄る束さん。本当、身内のことになると見境なくなるんだから……。

 

 

「束さん、それくらいにしてあげてください。その子も、もうわかったでしょうから」

 

「……しょーくんがそういうなら、もういいや。さぁ、箒ちゃん。初期化と最適化するから、ISに……」

 

「受け取れません」

 

 

箒の答えは意外なものだった。

束さんは笑顔のまま固まっている。

 

 

「箒ちゃん……なんで?」

 

「以前、将冴に言われました。力だけ求めても意味はないと。確かに、前の私は力さえあれば……専用機さえあればと思っていたこともあります。でも、今は……」

 

 

タッグトーナメント前に言ったことを……。ふふ、変わったね、あの時から。

 

 

「でも、箒ちゃんのために……」

 

「作ってくれたのは感謝しています。でも、今は……」

 

「大丈夫だよ、箒」

 

「え?」

 

「今の箒なら、その力を受け止められる。あの頃とは違うよ」

 

「将冴……」

 

「箒ちゃん……」

 

 

滅多に見られない束さんの不安そうな顔。レアだよレア。

 

 

「……姉さん。よろしくお願いします」

 

「うん……うん!!」

 

 

束さんはパァと顔を明るくし、箒を紅椿に乗せた。

 

 

「それじゃあ、リラックスしてね」

 

「はい」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ふむふむ、二人のISのフラグメントマップ……随分と変わった方向へ向かってるね」

 

 

箒のISの最適化に時間がかかるため、その間に僕と一夏のISを見てくれるということになった。

 

 

「というと?」

 

「んー、さすがの束さんもわからないよ。まぁ、いい方向には転がると思うよ。特に、いっくんはかなり成長してる。二次移行もそう遠くはないんじゃないかなぁ」

 

「本当ですか?束さん」

 

「いつとは断言できないけどねぇ。とりあえず、いっくんのISには問題はないよ」

 

 

一夏「には」問題がない、ね……。

 

 

「しょーくん、少し二人で話せるかな?」

 

「え、あ、はい……大丈夫ですが……」

 

 

束さんと人目を避けるように、旅館の陰に入った。

 

そんなに、重大な問題があったのだろうか……。

 

 

「それで、束さん。僕のISは……」

 

「その前に……」

 

 

ドンッ、と束さんが壁に手をつき、僕の顔の両サイドに束さんの腕が見える。

 

これは一体……

 

 

「あのドイツ女誰?」

 

「……へ?」

 

「あの、眼帯、ドイツ女、ダレ?」

 

 

眼帯追加された……クラリッサのことか。

てっきり知っているものと……

 

 

「えっと……彼女はクラリッサって言って……」

 

「名前はどうでもいいよ!」

 

 

またドンッと壁を叩く束さん。

 

 

「どういう関係かって聞いてるんだけど?」

 

「クラリッサは僕のヘルパーで、IS学園の教師です。まだ実習生だけど……」

 

「……」

 

 

束さんはジッと見つめてくる。

 

あぁ……これはもう人間不信の目ですね……。

 

 

「束さんが思ってるような関係じゃないよ……まだ」

 

 

最後は束さんに聞こえないくらい小さく呟いた……。

 

 

「……そっか。ならいいよ」

 

 

いつもの顔に戻る束さん……いやぁ、あの顔を僕に向けられるとは思わなかった……。

 

返答次第ではクラリッサが大変なことになってしまう。

 

 

「で、しょーくんのISだけど……」

 

 

ようやく本題に戻った。

 

 

「……しょーくん、スペシネフはもう使っちゃダメ」

 

「え?」

 

「しょーくんがスペシネフを動かしたからかわからないけど、あれの詳細がやっとわかったの。あれに積んであるEVL(イヴィル)バインダーは、しょーくんの負の感情が一定値に達すると起動するの」

 

「負の感情……」

 

 

確かに、あの時は怒りに身を任せていたかもしれない……。

 

だからスペシネフは……。

 

 

「そう。でも、EVLバインダーの効果はそれだけじゃなかった……EVLバインダーはしょーくんの感情に影響与える」

 

「影響?」

 

「……感情の増幅……この場合は負の感情の。今回は初めてだったから良かったけど、またスペシネフを使ったら、しょーくんは変わってしまうかもしれない」

 

「変わるって……」

 

 

理解はできてる……でも、突拍子すぎて……

 

 

「しょーくん、いい?もう感情に任せて戦うようなことはしちゃダメ……わかった?」

 

「……わかりました。要は感情を抑えればいいんですよね」

 

「うん……」

 

「多分、得意ですから大丈夫です。安心してください」

 

 

束さんは小さく微笑むが、その目には不安が映っている。

 

 

「よし、それじゃあ、気分を変えて、次にグレードアップの内容について話すよ!」

 

「はい!……って、ちょっと待ってください」

 

「ん?」

 

 

束さんの言葉を止め、耳をすますと、何やらみんながいる方が騒がしくなっている。

 

 

「何かあったんでしょうか?」

 

「さぁ?」




いろいろ詰め込みすぎたかもしれない。

スペシネフがカゲキヨに……いやまさか……


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94話

ナタル!ナタル!ナターシャ!ナターシャ!


※まだ出ません


一旦、束さんとの話を切り上げ、騒がしくなっている方へ向かう。

 

織斑先生が指示を飛ばしている。専用機を持たない生徒は旅館に戻って、専用機組は織斑先生の元へ……。

 

 

「何かあったみたいですね……」

 

「うん……。しょーくん、私はテムジンのバージョンアップしてくるよ。箒ちゃんの最適化も終わったはずだからね」

 

「え、あ、はい。わかりました。織斑先生に伝えておきます」

 

「よろしくねぇ〜」

 

 

束さんは、走り去っていく。

さて、僕も行かなければ。

 

 

「織斑先生、何かあったんですか?」

 

「将冴、来たか……付いて来い。極秘の話だ」

 

 

どうやら、良くないことのようだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

作戦司令室になっているテントに入ると、すでにクラリッサと山田先生がいた。いつになく真剣な表情を浮かべている。

 

ここにいる専用機持ち……僕、一夏、セシリアさん、鈴、シャル、ラウラ、簪さんに緊張が走る。

 

 

「先ほど、学園から通知があった。ハワイ沖で試験運用中だった軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が、軍の制御下を離れ暴走。軍の監視から逃れた」

 

 

軍用IS……アラスカ条約で、ISの軍事利用は禁じられている。それなのにそんなものを作るのか。

 

他国に力を見せつけるため……というところか。

 

 

「銀の福音……以降は福音と呼称する。衛星で追跡した結果、福音はここを目指していると思われる。ここに到達されれば、被害は甚大だ。そこでお前たち専用機持ち達に、福音の撃墜任務についてもらう」

 

 

僕達学生に、軍用ISの撃墜だって?

そこは自衛隊が動きそうなものだけど……。

 

 

「教員は周辺海域を封鎖するため、お前達に出てもらうしかない……先ずは、こうなってしまったことを謝罪する」

 

 

織斑先生が僕らに頭を下げる。

 

 

「織斑先生、頭を上げてください。仕方ないことはわかっています。続きを聞かせてください」

 

 

おそらく、時間はあまりないはずだ……軍用ISなら、移動速度も速いはず……こうしているうちにも……

 

 

「ああ……。では、話を戻す」

 

 

織斑先生の話では、あと50分足らずで戦闘限界海域まで到達するという。そこで福音を迎え撃ち、撃墜する。

 

専用機持ちが7人……一斉に攻撃を仕掛ければ、できなくもない、というところだろうか。

 

と、セシリアさんが手を挙げた。

 

 

「織斑先生。目標の詳細なデータを要求致しますわ」

 

「いいだろう。ただし、これは軍事機密となっている。情報が漏洩すれば、査問委員会による裁判と最低二年の監視がつくことを肝に銘じておけ」

 

「了解しました」

 

 

モニターに表示されたデータを見ると……なるほど、流石は軍用というところかな。全てがオーバースペックといっても差し支えない。コンセプトは広域殲滅……。そして、無人機ということ……。

 

専用機持ち7人ならなんて、甘い考えかもしれない……

 

 

「私の甲龍よりもスペックが上回っている……こんなのが無人なんて……」

 

「今日届いた防御型パッケージでも、防げるかどうか……」

 

 

長期戦は絶対に不利になる。となれば……。

 

 

「織斑先生、作戦進言してもよろしいでしょうか?」

 

「構わない」

 

「目標ISのスペックを見た限り、長期戦は不利だと考えます。そこで、一夏の零落白夜による一撃で撃墜する作戦がいいと思います」

 

「ふむ……」

 

 

織斑先生は考え込むような仕草をするが、吝かではないと言った感じだ。

 

 

「いいだろう。将冴の作戦を採用する。一夏、お前が今回の鍵になる。よろしく頼むぞ」

 

「お、俺が……」

 

「よろしく頼むよ、一夏」

 

「お、おう!」

 

「では、他の者たちのポジションを……」

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 

どこから入ってきたのか、束さんが飛び出して来た。

その後ろから箒も現れた。最適化が終わったのか。

 

 

「話は聞かせてもらったよ!作戦のこともね!そこでちーちゃんに頼みがあるの」

 

「……なんだ?」

 

 

織斑先生は怪訝そうな顔をするが、耳を傾けた。

 

 

「箒ちゃんも連れて行って欲しいの」

 

「なんだと?」

 

 

ISを手にしたばかりの箒を連れて行く……束さんが何の根拠もなしにそんなことを言うとは思わないけど……。

 

 

「箒ちゃんのISは第四世代。それに、いっくんの白式と相性のいい機体なのだよ〜」

 

 

相性のいい……一体どういうことなのだろう……。

 

 

「……わかった。篠ノ之、できるか?」

 

「はい!」

 

「では改めて作戦を練る」

 

 

こうして、箒を加えた8人で作戦が決行されることになった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

作戦会議を終え、僕は束さんからテムジンのバージョンアップの内容を聞いていた。

 

 

「今回テムジンに施したのは全体的な運動性能の向上と、武器のスペックアップだよ」

 

「武器のスペックアップ?」

 

「うん。前まで使ってた、『MPBL-7』の性能を大幅に強化して、新機能を搭載したんだ」

 

 

束さんは僕の耳についている待機状態のISに触れ、テムジンを展開した。

 

展開されたテムジンは、細部が少し変わっており、武器も新しくなっている。

 

 

「これが新しくなったテムジンの武器『MPBL-スライプナー』。新機能は今回の作戦にうってつけの機能、『ブルースライダー』。武器をサーフボードのようにして乗ることができるよ。そのまま突進することもできる優れものだよ!」

 

「サーフボード……うまく乗れるかな」

 

「システムアシストがついてるから問題ないよ。……しょーくん、箒ちゃんのこと頼むね」

 

「はい。ちゃんと帰ってきます」

 

 

束さんは小さく微笑む。

 

今回の作戦は、一夏の零落白夜による一撃必殺。箒はそのサポートに入ることになった。僕の役割は運搬。鈴と一緒に、一夏と箒のエネルギー温存のために作戦領域まで運ぶ。簪さんは司令本部との中継役になり、戦況を把握。セシリアさん、シャル、ラウラは後方支援という形になった。

 

 

「束さん……福音の暴走の原因はわかりますか?」

 

「ううん……コアネットワークでアクセスしようとしたけど、福音のコアがネットワークから切り離されていて、アクセスできなかったの」

 

「そうですか……」

 

「でも、心当たりなら……」

 

「え?」

 

「……ううん、なんでもないよ」

 

 

束さん、何か隠している?僕には言えない何かを……

 

 

「将冴!」

 

 

僕を呼ぶ声に、思考が遮られた。

読んだのはクラリッサ。こちらに走ってくる。

 

 

「クラリッサ。何かあった?」

 

「いや、大したことではないのだが……少し心配になってな」

 

「大丈夫だよ。なんとかなる」

 

「そうか……」

 

 

クラリッサの顔は不安で染まっている。

この作戦、失敗すれば怪我では済まないということが、クラリッサはよくわかっているんだ。

 

 

「ねぇ君」

 

「え?」

 

 

束さんがさっき、僕に見せていた怖い顔でクラリッサに詰め寄っている……え、それやばいんじゃ……。

 

 

「しょーくんのヘルパーかなんか知らないけど、あんまりベタベタしないでくれる?」

 

「そ、それはどういう……」

 

「いいから、『イエス』か『はい』しか選択肢はないの」

 

「えっと……その……」

 

「束さん、箒のところに行ってあげたほうがいいんじゃない?」

 

「おっと、そうだったね!それじゃあ、しょーくん、頑張ってね」

 

 

一瞬にして笑顔に戻り、束さんは走り去っていく。

あぁ、作戦前に胃が痛くなりそうだ……。

 

 

「しょ、将冴……私は篠ノ之博士に嫌われているのか?」

 

「……そうかもしれない……」

 

 

できれば仲良くなって欲しいんだけど……。




やばい難産。

だから福音戦は憂鬱だったんだ……。



話は変わるんですが、今ディバインゲートと言うソシャゲでISコラボやってるんですが、なんでクラリッサがいないんでしょうね?
ガンホーさんどうなってるんですか?


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95話

やってきました福音戦。

作者の苦手な戦闘です。頑張ります。


 

作戦時間が近づき、僕らはそれぞれ準備を終え、あとは出発するだけとなった。

 

僕はテムジンの新しい武器『MPBL-スライプナー』をスライダーに変形させ、後ろに箒を乗せた。

 

一夏は鈴のIS甲龍につかまっていくようだ。

 

 

『時間だ。各自、発進しろ』

 

 

通信機から織斑先生の声が聞こえ、僕らは一斉にブースターを起動させる。

 

 

「柳川将冴、バーチャロン。出ます!」

 

 

ブルースライダーは問題なく起動し、作戦海域へと向けて進み始めた。

 

一人で突出しないように鈴と並走するようにスライダーを動かす。

 

鈴もこちらに合わせようとしていたようで、すぐに並ぶことができた。

 

ここから作戦海域まで、数分というところか……僕はプライベートチャンネルを開き、箒に繋げた。

 

 

「箒、大丈夫?」

 

『ああ……姉さんが作ってくれたISと、将冴に鍛えてもらった技術があればやれると信じているからな』

 

「頼もしいね。不測の事態が起こったら僕がフォローに入る。一夏と箒は福音に集中してね」

 

『了解だ』

 

 

と、ここで通信が入る。後方で中継役を担っている簪さんからだ。

 

 

『前線の四人。もうすぐ作戦海域だから準備して』

 

「了解」

 

 

箒と一夏は、瞬時加速の体勢に入る。

 

ハイパーセンサーで目標を確認。

作戦海域ドンピシャだ。

 

 

「一夏、箒!行けぇ!」

 

 

僕が叫ぶと同時に2人が飛び出す。

タイミングは完璧だ。

 

 

「鈴、フォローの準備。周りの状況にも気を配って!」

 

「わかってるわ!」

 

 

一夏と箒に遅れる形で福音に近づく。この海域は封鎖してあるから、イレギュラーがあるとは思えないけど……。

 

 

「将冴、一夏と箒があと十数秒で接敵……ってあそこ!」

 

 

鈴が指差した方向には漁船が一隻、海の上を漂っていた。どうして……封鎖されてたはず……密漁船か!?

 

僕と鈴が船を見つけたと同時に一夏から通信が入る。

 

 

『漁船が迷い込んでいる!このままじゃ巻き込んじまう!』

 

 

一夏のスピードが落ちている?漁船があるせいでブレーキがかかったか!?

 

箒も一夏に気を取られてスピードを落としている。

 

「一夏、箒はそのまま作戦続行!シャル、ラウラ!すぐに前に出て来てアタッカー二人の援護!セシリアさんはそのまま後方支援!」

 

『『『了解』』』

 

「鈴、船の誘導を!作戦海域から離脱させて!」

 

『わかった!』

 

 

くっ……まさか密漁船が……。

 

僕は一夏と箒に接近するために瞬時加速で近づく。

一夏は零落白夜を発動させ、斬りかかろうとしているところだったが、福音に気付かれている。

 

福音は一夏の攻撃を瞬時に回避し、スラスターを起動させている。あれはデータにあった、スラスターと広域射撃武器が融合したシステム……『銀の鐘』

 

 

「いやぁぁ!」

 

 

福音の攻撃が放たれる前に、箒が二本の刀で福音に斬りかかるが、福音は両手で刀を受け止めた。

 

 

「くっ……」

 

 

箒の刀を受け止めているのにもかかわらず、福音のスラスターは起動を止めていない。

 

シャルとラウラはまだ到着いない……一夏は零落白夜でシールドエネルギーが減っている。

 

ここで広域射撃されたら、一夏も箒もひとたまりもない。

 

 

「箒、一夏!離れるんだ!」

 

 

僕はブルースライダーで福音に突撃する。両手を使えなくなっていた福音は、僕に対応することができず、ブルースライダーがぶつかった。

 

しかし、攻撃は止められない。

 

スラスターから全方位にエネルギー弾が放たれる。一夏と箒は十分に距離を取れていない。

僕は超至近距離……咄嗟にブルースライダーを盾にする。

 

 

「ぐっ……」

 

 

スライプナーから軋むような音がする。少しずつ押されている……。

耐えられるか?

 

一夏と箒の方を見ると、なんとか攻撃を掻い潜れているようだ。

 

攻撃をスライプナーで受けながら、簪さんに通信をつなげる。

 

 

「簪さん、作戦失敗だ!織斑先生達に連絡を!」

 

『わ、わかった!』

 

「一夏、エネルギーはまだある?」

 

「ああ、あと1発なら……」

 

 

1発……チャンスは1回。

 

なんとか隙をついて、叩き込まなければ……。

でも、この攻撃の中、どうやって……。

 

 

「兄さん!」

 

「将冴!みんな!」

 

 

声とともに、福音にレールカノンとアサルトライフルの弾丸が放たれ、福音の攻撃が止まった。

 

 

「シャル、ラウラ!」

 

「大丈夫か、兄さん」

 

「うん、助かったよ二人とも」

 

『私もいましてよ!』

 

 

遠距離から、ビームが福音に向かって飛んでいき、福音に命中する。

 

しかし、福音には大したダメージにはなっていないようだ。

 

 

『あら、丈夫ですこと』

 

「セシリアさん、そのまま援護をお願い」

 

『了解ですわ!』

 

「一夏、もう一度いける?」

 

「当たり前だ!」

 

 

よし、次こそ決める。




続きます。

戦闘苦手すぎて辛いですが、お付き合いください。


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96話

福音戦2回目です。

登場人物が多いよう……。


旅館近くに建てられた司令本部テントで、私……クラリッサは織斑先生と山田先生の3人で、前線からの情報を待っていた。

 

将冴……隊長……。

 

 

「織斑先生!更識さんから通信です!」

 

「繋げろ」

 

 

山田先生がキーボード叩き、簪と通信を繋げた。

織斑先生はインカムを通して装着する。

 

 

「更識、状況は?」

 

『作戦失敗!現在、私、凰さん以外が交戦中です』

 

「っ……そうか。それぞれの状況は?」

 

『一夏君、将冴君のシールドエネルギーが大きく減少していますが、戦闘に支障はないと思います』

 

「わかった。引き続き連絡を頼む。判断は各自に任せる。更識も臨機応変に対応しろ」

 

『了解!』

 

 

簪からの通信が切れ、織斑先生がインカムを外した。

状況は芳しくない……。

 

 

「織斑先生……私達も援護に向かったほうが……」

 

「ダメだ。あの海域を封鎖するために訓練用のISは全て出払っている……」

 

「自衛隊に応援要請は……」

 

「それも難しいだろう。出れるならとっくに出ているはずだからな……政府が何かしらの圧力をかけて自衛隊を動かしていないのだろう……」

 

 

政府が……自国を守るために作られた自衛隊だろう。今使わないでいつ使うと言うのだ!

 

 

「ちーちゃん、それはちょっと違うよ」

 

「束?」

 

 

またいつの間にか現れた篠ノ之博士。

いや、もともとこのテントにいたのかもしれない。

 

 

「政府じゃない組織が自衛隊を動かさないようにしてるんだよ」

 

「まるで知ったような口だな……その組織のこと」

 

「まぁね」

 

「……話すつもりは……無いようだな」

 

「まだ、その時じゃないよ。そうだね……しょーくんが、自力でその組織に辿り着いたら、教えてあげるよ」

 

 

将冴が?

篠ノ之博士は何を言っているんだ。

 

 

「……何か、理由があるのか?」

 

「いや……強いて言うなら、しょーくんの問題でもあるから、っていうところだね」

 

「そうか……」

 

 

それだけの会話で、織斑先生は納得してしまう。

 

織斑先生と篠ノ之博士……二人は昔からの仲だというが、それだけお互いをわかっているということなのだろうか。

 

しかし、将冴の問題というのは、どういうことだ……篠ノ之博士は何を知っているというのだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ラウラ、箒、僕で福音の動きを止める!シャルは一夏の護衛に。一夏、合図をしたら全力で斬りかかって!」

 

『了解!』

 

 

みんなから応答が帰ってきたと同時に、僕は瞬時加速で福音と距離を詰め、スライプナーで斬りかかる。

 

しかし、福音の反応速度が一枚上だったようだ。

掠ることもなく、悠々と回避行動を取られてしまう。

 

 

「ちょこまかと!」

 

 

僕に続き、箒も福音の後ろから斬りかかる。

それと同時にラウラがレールカノンでロックオンする。

 

刀とレールカノンの二重攻撃。これなら……

 

 

「……la」

 

 

無機質な電子音が響き、福音の姿が一瞬見えなくなる。

 

 

「なっ!?」

 

「消えた?」

 

 

空切った箒の刀と、対象を見失ったラウラが狼狽する。

 

違う、消えたわけじゃない!

 

 

「箒!上!」

 

「なに!?」

 

 

箒が頭上を見上げると、スラスターを起動し、攻撃態勢に入っている福音の姿があった。

 

今の状況では、箒は攻撃をもろに受けてしまう……。

 

 

「くっ!」

 

 

福音と箒の間に入り、先ほどと同じようにスライプナーをスライダーに変形して盾にする。

 

それと同時に、福音のエネルギー弾が放たれた。

 

 

「ぐっ……く……」

 

「将冴、無理をするな!」

 

「今しないでどうするの……」

 

 

でも、確かに無理があったかもしれない。すでにスライプナーにヒビが入っている。もともと防御用に作られたものじゃない。二回も攻撃を受ければいいほうだ。

 

あのスラスターを破壊しなければ、一夏は近づくことができない……ここは……

 

 

「ラウラ。僕はこのまま福音に突っ込んで、背中のスラスターを無力化する。ラウラはスラスターを破壊したのを確認してから、AICで福音の動きを止めて」

 

「突っ込むなんて、危険が過ぎるぞ!兄さん!」

 

 

ラウラは弾幕を掻い潜りながらも、そう叱責してくる。

僕はそれを無視し、箒の方を向いた。

 

 

「箒は一夏の元へ。2人で福音を撃墜するんだ」

 

「将冴!」

 

「頼むよ!」

 

 

僕はスライプナーを盾にしたまま、ブースターを吹かす。

 

弾幕が僕に集中し、スライプナーにかかる負荷が大きくなる。

 

 

「うぅ、らあぁぁぁ!!」

 

 

十分に近づいたところで、スライプナーを盾にせずにブルースライダーを起動。

 

エネルギー弾が何発も僕にぶつかる。だけど、止めるわけにはいかない!

 

 

「これで!」

 

 

ブルースライダーを福音にぶつけると同時に、スライプナーが音を立てて砕けた。でもおかげで十分に近づけた。

 

一気に加速しバーティカルターンで福音の背後に回りつつ、手にボムを持ち、福音を羽交い締めにする。

 

 

「その羽、僕がもらうよ」

 

 

ボムを僕と福音の間に挟む。

元からこうするつもりだった。

 

至近距離で挟まれる形で爆発したボムの威力は、通常よりも格段に高い。

 

福音のスラスターは砕け、僕は大きな衝撃とともに吹き飛ばされる。テムジンの右腕もなくなっていた。

 

手放しそうになる意識をなんとか保ち、福音の姿を見たとき、僕は目を疑った。

 

 

「そん……な……」

 

 

福音の頭部装甲が割れ、中から女性の顔が見えていた。

 

無人機ではなかったのか!?

 

すでに、ラウラがAICを発動して、一夏と箒が攻撃を仕掛けようとしている。

 

 

「ま、待って!」

 

 

僕の声は届かず、一夏と箒の剣が福音を切り裂き、福音のシールドエネルギーが底をついた。

 

エネルギーが尽きた福音は、そのまま海へと落下した。

 

 

「くっ!」

 

 

僕は福音を追い、海へと向かった。

 

 

「将冴!?」

 

「兄さん、何を!?」

 

「福音は無人機じゃない!」

 

 

海面ギリギリでそう答えると同時に、水面が大きな水柱を立て、僕は弾き飛ばされた。

 

 

「うわっ!?」

 

「兄さん!大丈夫か!?」

 

 

なんとか体勢を立て直す。

 

 

「大丈夫……でも、何が……」

 

 

再び水面を見ると、まるでクレーターのように水面が蒸発していた。その中心には……

 

 

「福音……?」

 

「どうなっているんだ!?」

 

 

一夏と箒が狼狽するような声をあげる。

 

 

『何が起こっていますの?』

 

 

遠距離から見ていたセシリアさんから通信が届く。

 

おそらくここにいるみんな、何が起こっているかわかっていない。

 

僕は徐に、簪さんに通信を繋げた。

 

 

「簪さん。先生たちに伝えて……福音が二次移行(セカンドシフト)した」




まだ戦闘続きます。

今回の戦闘、あと2〜3は続く可能性があります。
作者頑張ります。


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97話

昨日は更新できずすいません。

徹夜明けで書く気力ありませんでした……

福音戦3回目です。


姿を現した福音の背中にはエネルギーが具現化し型どられた翼が生えている。それと同時に、先程割れていた頭の部分も修復されており、元どおりになっている。

 

 

「二次移行って……世界でも数える程度しか確認されていないのに」

 

「この状況で、か……」

 

 

そう、この状況はまずい。

 

僕は片腕を失い、エネルギーも底をつきかけている。

一夏も、もう零落白夜を撃てるほどのエネルギーは無いはずだ。

 

万事休す……有人機である以上、操縦者を巻き込んで撃墜することもできない。どう考えても勝つ術が見つからないんだ。

 

と、策を練っていると、ISを通じてメッセージを受信した。

 

 

『Help the Natasha』

 

 

ナターシャを助けて?

 

誰からのメッセージなんだ?

 

 

「なんだ、このメッセージは?」

 

「ラウラにも?」

 

 

ラウラとシャルが声を上げる。

2人にもこのメッセージが?

 

 

「私にもメッセージが……」

 

「俺にも」

 

『どなたか私にメッセージを送りましたか?』

 

『私にも来たけど……』

 

 

箒に一夏、セシリアさん、簪さんまで……

 

 

「もしかして……」

 

 

僕は少ないエネルギーで、ゆっくり福音に近づいた。

 

 

「将冴!危険だよ!」

 

 

シャルの制止の声を無視して、福音の元へたどり着く。

福音は僕に何かをする素振りを見せず、装甲を開いた。

 

中からブロンドの女性が気を失った状態で出てくる。

 

左腕で女性を抱き寄せると、福音は装甲を閉じた。

 

 

「やっぱり、あのメッセージは、君だったんだね?」

 

 

福音に話しかけると、またメッセージを受信した。

 

 

『Destroy me』

 

「私を破壊して……?それはどういう……」

 

 

その瞬間、福音は頭を抱え、苦しそうな仕草をする。

 

そうか……二次移行で一時的に暴走状態から元に戻れたのか。でも、また暴走しようとしている。暴走状態が治らないということは、今もハッキング若しくはウィルスか何かを受けているということになる。

 

ISに対する電子攻撃に対応できる人は、束さんくらいだ……でも福音は暴走し、コアネットワークからも外されている……破壊するしか無いのか。

 

 

「兄さん!離れてくれ!」

 

 

ラウラが福音の様子をみて、只ならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。

 

僕はラウラの言う通りに、福音から離れた。

 

 

「助けられなくてごめん……」

 

 

小さく呟いた言葉が福音に届いたかどうかわからない。

 

僕が十分に距離を取った時に、福音にまた変化が現れ始めた。

 

装甲が黒くなっていた。

装甲だけじゃない、エネルギーの翼までも黒に染まっている。

 

 

「福音が黒く……」

 

「なんだよ……まだ何かあるのか……?」

 

『なら動いていない今の内に仕留めてあげますわ!』

 

 

セシリアさんがそう言うと、遠くからビームが福音目掛けて放たれた。

 

しかし、福音はエネルギーの翼でビームを弾いた。

 

 

『なっ、そんな……』

 

 

動揺が声に現れている。

 

ビームライフルの攻撃を弾くなんて……。

 

 

「くっ!シャルロット!全弾ぶち込むぞ!」

 

「了解!」

 

 

ラウラとシャルが福音めがけて全武装を展開した。

 

しかし、福音は黒い翼で全身を覆い、その身を守る。

 

ダメだ、ビームライフルの攻撃さえも弾いたんだ。

もっと出力の大きい武器でないと……。

 

 

「ダメか!?」

 

「あの翼をどうにかしないと!」

 

「一夏、零落白夜は!?」

 

「ガス欠だ!もう撃てるだけのエネルギーが……」

 

「la……」

 

 

福音が翼を広げた。

 

またあの弾幕か!?

 

 

「やめろ福音!君のパイロットがいるんだぞ!」

 

「laaaaa!」

 

 

福音は躊躇なく攻撃を放った。

 

ダメだ、全て避けられだけのポテンシャルがもうない!

 

僕は女性を抱きかかえ、背中を盾にするように福音に向けた。

背中に衝撃が走る。

 

 

「ぐうぅ!?」

 

「兄さん!」

 

「将冴、今そっちに……くそっ!邪魔なんだよ!」

 

 

ラウラも一夏も、弾を避けるので精一杯だ。

もうエネルギーが底をつく……なんとか、この人だけでも……。

 

 

「だらしないわよ、将冴!」

 

 

そんな声とともに、僕のエネルギー減少と衝撃が止まった。

 

後ろを向くと、そこにいたのは双天牙月を振り回し、エネルギー弾を弾く鈴がいた。

 

 

「早く、あんたは離脱しなさい!」

 

「鈴、助かったよ」

 

「礼は後よ。ほら、早く!」

 

「うん、ごめん」

 

 

僕は女性を連れて、作戦海域から離脱した。




うぅ……なんだか見苦しいかも……次で最後になります。

作者頑張る……


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98話

福音ラストです。

イヤァ、大変だった……


今日は連続投稿します。


 

作戦海域から離れ、旅館のある海岸へ向かう。

 

エネルギーが心許ないし、僕自身の体力もかなり限界が来ていた。相打ち覚悟のボム攻撃、福音の弾幕……エネルギーが尽きていないのが奇跡のようなものだ。束さんがバージョンアップしてくれたおかげだろうか……。

 

身体中が痛い……特に背中。少し湿っている感じがする……。

 

 

「う……ん……」

 

 

左腕で抱きかかえていた女性が目を覚ましたようだ。……福音からのメッセージによると、ナターシャさんという名前らしい。

 

 

『ここは……』

 

 

英語で小さく呟いた。日本語わかるかな?

 

 

「目が覚めましたか?」

 

「日本語……あなたは誰?……私、銀の福音(あの子)のテスト運用でハワイにいたはずじゃ……」

 

 

僕は今回のことを全て話した。

 

福音の暴走、アメリカから無人機として撃墜命令が出ていたこと、福音がナターシャさんを助けたこと。

 

 

「そう……あの子が……」

 

「すみません……今の福音は撃墜するしかありません」

 

「君が謝ることじゃないわ。自己紹介がまだだったわね。私はナターシャ・ファイルス」

 

「柳川将冴、です」

 

「ショウゴ……君はあの男性操縦者なの?声だとどっちかわからなかったわ」

 

 

僕ってそんなに中性的な声していたのかな……自分で聞こえている自分の声と他人が聞いている声は違うというけど……

 

 

「ねぇ、あの子はまだ……」

 

「今、僕の仲間が戦闘中、です……僕は、ご覧の有様なので」

 

 

右腕がなくなって、走行もボロボロ。エネルギーがいつ切れるかわからないほどカツカツの状態だ。僕自身もだ。

 

さっきから意識が朦朧としてきている。

 

 

「大丈夫?息が荒いけど……」

 

「正直、結構辛いです……でも、もう大丈夫だと思います。海岸が見えました」

 

 

昨日、みんなが遊んでいた海岸が見えた。

エネルギー残量は……ギリギリと言ったところかな。低空飛行にして、エネルギーが無くなって落ちてもいいように……

 

僕の意識もなんとか……

 

 

「ナターシャ、さん……海岸に着いたら、織斑先生の指示に従ってください……先生なら、ちゃんと保護を……」

 

「君、もう限界なんじゃ……」

 

「信号は出しました……これで先生が……」

 

 

救援信号を出した瞬間、僕の意識は暗転し、そのまま砂浜落ちた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴からの救援信号は、すぐ近くの海岸から出た。

それと同時に、砂浜から何かが落ちるような音が響いた。

 

私……千冬はすぐに立ち上がり、砂浜へ駆け出した。クラリッサも一緒にだ。

 

 

「将冴!」

 

 

砂浜には義肢をつけていない状態の将冴を抱きかかえるブロンドの女がいた。

 

 

「ねぇ、君!しっかりして!」

 

 

よく見ると、将冴の背中から血が流れている。

 

頭の中が真っ白になるような……そんな感覚に陥ったが、早く治療を!

 

 

「クラリッサ!すぐに治療の準備を!」

 

「将冴……そんな……」

 

「しっかりしろ!クラリッサ!」

 

 

クラリッサの頬に平手を打ち付けた。少し正気に戻ったのか、ようやく私の目を見た。

 

 

「助けたいなら動け!早くしろ!」

 

「は、はい!」

 

 

クラリッサは旅館に走っていく。

私はブロンドの女性に近づく。

 

 

「あなた、ブリュンヒルデ……彼、背中から」

 

「分かっている。今治療の準備をしている」

 

 

女性から将冴を受け取る。

 

 

「お前の身柄は、IS学園が預かる。とりあえず付いて来い」

 

「分かった……」

 

 

将冴……

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴が離脱し、俺……一夏は焦っている。

 

福音を一度撃墜できたのは将冴が司令塔になっていたからだ。でも今は、福音の弾幕を避け続けることしかできない。

 

 

「くっ!どうするの!?一度撤退したほうが……」

 

「ダメだ、それじゃあ被害が出ちまう!」

 

「じゃあどうするのだ!」

 

 

シャルロットが撤退を勧めるのもわかる。でも、それじゃ被害が……。

 

 

「将冴がいれば……」

 

 

悔しいけど、将冴は強い。誰もがそういうはずだ。

将冴がいればこの状況も……。

 

 

「一夏!あんたヘタレたこと言ってんじゃないわよ!」

 

「鈴?」

 

「私の知ってる一夏は、将冴と同じくらい頼りになる男なんだから!シャキッとしなさい!」

 

「鈴の言う通りだ!私を初めて助けてくれたのは一夏、お前なんだ!」

 

「箒まで……でもこの状況でどうすれば!」

 

 

俺は将冴のように考えられない……的確な指示なんて出すことができない。

 

 

「一夏さんは一人じゃありません!」

 

「セシリア、なんで前線に!」

 

「私だって、代表候補生ですわ。後ろでこそこそするのは、もう飽きてしまいましたわ。さぁ、ブルーティアーズ!ダンスのお時間ですわ!」

 

 

セシリアのBT兵器、ブルーティアーズが福音の弾幕を躱しながら福音に攻撃を加えていく。弾幕の影響で、威力は下がっているが、確実に福音に当てている。

 

 

「僕とラウラだっているんだから、しっかりしてよ!」

 

「織斑先生の弟だろう!維持を見せろ!一夏!」

 

 

シャルロットがアサルトライフルで福音に応戦し、ラウラは弾幕を掻い潜りAICで福音の動きを止めようとしている。

 

度重なる妨害で、福音の弾幕が止まった。

 

 

「みんな……」

 

「一夏、まだ将冴がいればと思うか?」

 

 

そうだ。将冴だって一人で戦っていたわけじゃない。

 

みんなと協力している。

 

 

「いいぜ、やってやる!」

 

 

その瞬間、白式が光り輝く。

 

似ている。初めて白式に乗って、一次移行した時と。

 

 

「箒!手伝ってくれ!」

 

「ああ!」

 

 

箒の手を取ると、白式が輝きを増す。

それと同時にエネルギーが回復していく。

 

 

「これは……」

 

「紅椿の単一能力……『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』?」

 

 

なんだかよくわかんないけど、ちょうどいい!

 

 

「いっくぜぇ!白式!」

 

 

頭に流れてくる……新しい力の使い方が!

 

 

「くらいなさい!」

 

 

鈴の衝撃砲が、福音を弾き飛ばし……

 

 

「貫いて!」

 

 

シャルロットのパイルバンカーが福音の背中に打ち出され……

 

 

「まだダンスは終わりませんわよ!」

 

 

セシリアのBT兵器とビームライフルが、的確に手足を撃ち抜き……

 

 

「兄さんのお返しだ!」

 

 

ラウラのレールカノンが連続で火を噴き……

 

 

「はぁぁぁ!」

 

 

箒の二本の刀が黒いエネルギーの翼を切り裂いた。

 

 

「一夏!今だ!」

 

「うおぉぉ!」

 

 

白式の左腕が変形し、銃口が現れる。

それと同時に網膜投影で名前が現れる。

 

多機能武装腕『雪羅』

 

 

「吹き飛べぇ!」

 

 

雪羅から放たれた荷電粒子砲が、福音を包み込んだ。

 

 

「福音の反応消失……」

 

 

俺たちは勝った。




くぅ、疲れました。

次は臨海学校のエピローグ的な感じになります。


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99話

臨海学校のエピローグになります。

長かった……


目が覚めた瞬間、背中の痛みに顔を歪めた。

 

よく見ると、身体に包帯が巻かれてる。あぁ、こんな大怪我は手足を無くした以来だろうか……。

 

 

「いつつ……」

 

「将冴!目を覚ましたのか!」

 

 

そう声をかけられ目を向けると、専用機組みが僕の顔を覗き込んでいた。

 

 

「あれ……みんな……」

 

「ったく、心配させるなよ!帰ってきたら将冴が大怪我してるって」

 

「気が休まらなかったぞ」

 

「傷、痛みますか?」

 

「まだこの程度で済んだのは私のおかげなんだからね!感謝しなさい!」

 

「気がついてよかったよ。ね、ラウラ」

 

「うっく……よかった、兄さん……」

 

 

みんな一気に喋らないでくれるかな……ラウラに関しては涙目だし……。

 

 

「み、みんな……一気に話しかけると将冴君が困っちゃう……」

 

 

簪さんがみんなをそう諌めると、とりあえず落ち着いたようだ。

 

 

「みんな……福音は……」

 

「撃墜した。今は海に沈んでいるだろう」

 

「そっか……」

 

 

箒の報告でなんとも言えない気持ちになってしまった。違う方法で助けることができたんじゃないかと……。

 

 

「そうだ、先生方は……?」

 

「関係各所に報告中だよ。っと、目が覚めたら報告しろって言われていたんだった。僕、先生のところに行ってくるよ」

 

「それじゃあ、俺たちも行こうぜ。将冴も休めないだろうし」

 

「そうだな。将冴、ゆっくり休んでくれ」

 

「私は兄さんと……」

 

「はいはい、ブラコンも大概にしときなさい」

 

「じゃあね、将冴君」

 

「ゆっくり休んでくださいまし」

 

 

みんなぞろぞろと部屋から出て行く。ラウラは鈴に引きずられていったけど……。

 

……

 

 

「束さん」

 

「呼んだ?」

 

 

天井の一部分が開き、そこから束さんが降りてきた。

 

なんとなくいると思った。

 

 

「福音……直接アクセスすれば直せましたか?」

 

「……わからないかなぁ〜。バーチャロンの戦闘記録で、黒くなったのは見たけど、あれは束さんでもどうなっているのかわからなかった。残骸でもあれば、何かわかるかもねぇ〜」

 

「そうですか……」

 

 

束さんでもわからないか……あの黒くなった福音……一体何が……。

 

 

「そうだ、しょーくん。バーチャロンの修理、終わらせておいたからね。全く、無茶するんだからぁーー」

 

「はは、ああするしかなくて……」

 

「そうかもしれないけど……今後はあんな無茶しないでね?」

 

 

織斑先生と同じことを……似た者同士、なのかな。

 

 

「さて、そろそろちーちゃんや眼帯ドイツ女も来るから、束さんはラボに帰るよ。くーちゃん心配してるだろうし」

 

「束さん、いろいろありがとうございました」

 

「いいよいいよぉ〜。あ、そうそう。しょーくんが寝ている間にバーチャロンにメッセージ届いていたよ。確認しておいてね。ではではぁ〜」

 

 

束さんは出てきた天井の穴に戻っていった。メッセージ……誰からだろう?

 

と、束さんと入れ替わるように織斑先生とクラリッサが部屋に入ってきた。

 

 

「しょ、将冴!」

 

 

クラリッサが僕の姿を見た瞬間、目に涙を溜めて抱きついてきた。

 

痛い、背中痛い……

 

 

「よかった……本当に心配したんだ……本当に」

 

「クラリッサ……心配かけてごめんね」

 

 

抱きつかれたまま、そう呟く。

 

ふと、織斑先生の方を見るとなにやら不機嫌そうな表情を浮かべている。

 

 

「クラリッサ、もう将冴と話していいか?」

 

「す、すいません、織斑先生……」

 

 

クラリッサが僕をゆっくり寝かせ、涙を拭った。

 

織斑先生がふぅ、とため息をついた。

 

 

「将冴、今回はご苦労だったな」

 

「いえ……あの、ナターシャさんは……」

 

「心配いらない。問題はないさ」

 

「そうですか……」

 

 

よかった。アメリカは福音を無人機と言って撃墜させようとしていたから、ナターシャさんに何かあったら福音に申し訳ない。

 

それから、織斑先生は今回の詳細を話してくれた。

 

アメリカが無人機と偽って福音を撃墜させようとしていたのは、他国に技術が流れるのを防ぐためと、暴走したのは無人システムによるものという言い訳のためらしい。子供かっていう話だった。

 

次に暴走した理由。これはハッキリしていないようだけど、今回福音にバージョンアップのための処置をしたらしい。その時に何か仕組まれたと答えたらしい。

 

で、ナターシャさんは今回の件で特に何かあるわけでもなく、アメリカに戻ることができるとのことだった。

 

 

「ナターシャ・ファイルスは被害者だからな。妥当なところだろう」

 

「特に何かされるわけではないのはよかったです」

 

「まぁ、お前は難しく考えるな。事後処理は大人の仕事だ。お前はゆっくり休め」

 

 

織斑先生はスッと立ち上がった。

 

 

「私はまだやることがある。クラリッサ、将冴の世話を頼むぞ」

 

「は、はい!」

 

 

織斑先生は部屋を出て行き、クラリッサと二人っきりになった。

 

 

「将冴、身体の具合は……」

 

「まだ傷が痛むかな……それ以外は大丈夫」

 

「そうか……」

 

「……」

 

 

なんとなく気まずい雰囲気が漂ってしまった。

 

 

「一夏達から聞いた……自分を犠牲にした攻撃をしたと……」

 

「いや……それは……」

 

 

そこをつかれると辛いものがある……。

 

 

「いつも、無茶しないでくれと言っているのに……なんで……」

 

「……」

 

「将冴の両親も、そんなことは望んでいない……私も、みんなも……」

 

「ごめん……」

 

 

ああするしかなかった、というのは言い訳だ……。

 

 

「……夕食を持ってくる」

 

 

クラリッサはそう言って部屋を出て行ってしまった。

 

初めてかもしれない、クラリッサとこうなってしまうのは……。

 

 

コンコン

 

 

ノック?夕食を持ってくるには早すぎる……

 

 

「えっと、ナターシャよ。今いいかしら?」

 

「ナターシャさん?どうぞ」

 

 

扉が開き、浴衣をきたナターシャさんが入ってくる。

どうも着なれないのか、落ち着かない様子だ。

 

 

「具合はどう?」

 

「痛みますけど、大丈夫です」

 

「そう、よかった……暴走していたとはいえ、あの子がショウゴ君を傷つけてしまって……本当にごめんなさい」

 

「謝らないでください。ナターシャさんも銀の福音も悪くありません」

 

「でも……」

 

 

ナターシャさんは納得がいかないようだ。

 

そうだ。

 

 

「『Help the Natasha』」

 

「え?」

 

「福音が送ったメッセージです。福音はナターシャさんのことを思っていたんです。その後、私を壊して、と……」

 

「そんな……あの子……」

 

「ナターシャさんも福音も被害者です。だから、謝る必要はないんです」

 

「うっ……ぅん……」

 

 

ナターシャさんは涙を流し頷いた。

 

そういえば、束さんがメッセージが届いているって言ってたな。

 

バーチャロンからメッセージを呼び出した。

これは……

 

 

「『Thank you,Natasha』。福音からの最後のメッセージです。ナターシャさんのこと、大好きだったんですね。福音は」

 

 

ナターシャさんは大声で泣いた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

次第に落ち着いたナターシャさんは、すっきりした顔を僕に向けた。

 

 

「久しぶりいっぱい泣いたわ」

 

「泣ける時に泣いた方がいいです。特に今回は……」

 

「そうね……ありがとう、ショウゴ君」

 

「僕は何も」

 

「いいえ、君のおかげ」

 

 

そう押されると、なんだか照れくさい。

 

 

「顔が少し赤いわよ?照れてるのかしら?」

 

「からかわないでください……」

 

「どうしようかしら」

 

 

この人……シャルと似た何かを感じる……。

 

 

「ふふ、君をからかうの楽しいわ。可愛い顔するんですもの」

 

「人をおもちゃみたいに……」

 

「ごめんごめん。それじゃ、私はそろそろ戻るわ。あ、そうだ」

 

 

ナターシャさんが胸元から名刺を取り出し、何かをサラサラと書いていき、最後に名刺にキスをした。

 

 

「これ、連絡先。プライベートの方の連絡先も書いておいたから、いつでも連絡してね」

 

 

名刺を枕元に置くナターシャさん。

くっきりキスマークがついた名刺は、まるでキャバクラのそれのようだ……。

 

 

「それじゃあ、またね。ショウゴ」

 

 

そう言ってナターシャさんは部屋から出て行ってしまった。

 

ナターシャさん……いつでも名刺持ち歩いてるのかな?ISに乗るときも持っていたってことだよね、これ。

 

 

「将冴、待たせたな」

 

 

扉が開き、クラリッサがお盆におかゆを乗せて持ってきてくれた。

 

 

「少し時間がかかってしまっ……その名刺はなんだ?」

 

「ナターシャさんが来て置いていった。すごいよね、ISに乗るときも持ち歩いて……」

 

「まさか……ナターシャ・ファイルスも……」

 

「クラリッサ?」

 

「……いや、なんでもない。……気のせいだ……そうだ……」

 

「?」

 

 

さっきまでの雰囲気は感じず、クラリッサにおかゆをを食べさせてもらった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

次の日、つまりIS学園に帰る日だ。

臨海学校は散々な結果になってしまったけど……まぁ、思い出は作れた。いい意味でも、悪い意味でも。

 

僕は来た時と同じように、ラウラの隣に座っていた。

 

 

「兄さん、怪我は……」

 

「うん、大丈夫。痛み止めも飲んだし、帰るまでくらいなら……ふあぁ……」

 

「眠いのか兄さん?」

 

「うん……痛み止めの副作用でね……」

 

 

まぁ、寝るつもり満々だったし、ちょうどいいんだけど。

 

 

「諸君、忘れ物はないな?」

 

 

織斑先生が最後の確認をし、運転手に発車するように言おうとした瞬間……

 

 

「ちょっと待って!」

 

 

ブロンドの髪を揺らしながら、ナターシャさんがバスに乗り込んできた。

 

 

「なんだ、アメリカから迎えが来る手筈に……」

 

「ああ、そうなんだけど、どうしても最後に話したいことがあるの。ちょっとだけいいでしょ?」

 

 

ナターシャさんは織斑先生から返事を聞く前に、車内を歩いてきた。

 

クラリッサ、なんでそんなにナターシャさんのことを睨んで……

 

 

「ショウゴ!」

 

「え、は、はい?」

 

 

昨日話したから、てっきり他の専用機持ちに話があるのかと思った。

 

 

「夏休み、アメリカに留学に来なさい!」

 

「……へ?」

 

 

クラスのみんなはもちろんのこと、織斑先生までもが目が点になっていた。




はい、臨海学校編でした。

大変でした。特に戦闘が……

次回から夏休み編。ここから最後まで作者オリジナルの話ばかりになります。

夏休み編はグゥレイトゥー!な人や、三姉妹、戦闘教義指導要綱の人なんかを出したいなぁと思っています。

楽しみにしていただけたらなと思います。


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裏99話

将冴の知らない所で動いているものたちがいた。


「もしもし」

 

 

旅館から出た束は、すぐに携帯電話を取り出し、電話をかけた。

 

 

『なんだ?うさ耳博士』

 

「回収して欲しいものがあるんだけど」

 

『おうおう、私らは小間使いか?』

 

「今から言う座標の海底にあると思うから、24時間以内にラボに持ってきて。座標は……」

 

『……はぁ!?お前、今私らがいるのドイツだぞ!?ようやくお前が依頼してきた、ドイツのIS部隊長のISにVTシステムを組み込んだやつ見つけたってのに!』

 

「いいから早くしなさい。なんのために君達3人に機体を作ってあげたと思ってるの?」

 

『わぁった、わかったよ!やりゃあいいんだろ、やりゃあ!ったく、人使い荒いんだからよ……おぉい、スコール、エム、仕事だぞ!』

 

 

ブツッという音とともに、通話が切れる。

 

 

「まったく、生意気なんだから」

 

「束……」

 

 

束に話しかけたのは、千冬だった。

 

 

「あ、ちーちゃん。お別れの挨拶かなかな?」

 

「……お前は何をしているんだ?」

 

「どういうことかな」

 

「ISを完成させたお前は、これ以上何か作ろうというのか?」

 

「それは違うよ、ちーちゃん」

 

「なに?」

 

「ISはまだ完成していない。宇宙に行って、初めて完成するんだよ」

 

 

宇宙、それは束がISを作ろうとした理由。

千冬も、それはよく知っている。

 

 

「なら、なぜ宇宙に行かない?」

 

「それは言えないかな……」

 

「お前はいつもそうだ……重要なことだけは誰にも言わない。私にも、妹にも、一夏にも、将冴にも」

 

「そこにしょーくんも入るんだね。もしかして、ちーちゃんもしょーくんのことがお気に入りなのかな?」

 

「茶化すな」

 

 

千冬の声に怒気が含まれる。

 

 

「言ったでしょ?しょーくんが自分でたどり着いたら話すって。その時はすぐに来るよ……多分、この夏で」

 

「……信じていいんだな?」

 

「ちーちゃんに嘘言ったことある?」

 

「何度もな」

 

「あらら……」

 

「……わかった。お前を信じるからな」

 

「ありがと。それじゃあ、束さんはラボに戻るね」

 

「ああ……箒と話をしていったのか?」

 

「メアド交換したから」

 

「そうか……気をつけろ」

 

「ちーちゃんもね」

 

 

束は闇の中に消えていく。

 

千冬はその光景を、寂しそうに眺めていた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「だぁ!もう!移動だけで疲れた!」

 

 

オータム、スコール、エムの3人は束に指定された座標……福音が沈んだ海上に来ていた。

 

3人は何やら刺々しいISらしきものを身にまとっていた。

 

 

「ほら、オータム。まだ仕事終わってないわよ」

 

「わかってるって……はぁ、海に潜らなきゃいけないんだろ……」

 

「やりたくないなら旅館まで行けばいい。お前の大好きな将冴が怪我で寝込んでるぞ」

 

「なっ、おまっ、何言ってんだ!?」

 

「あら、そうなの?オータム?」

 

「この間、将冴から電話もらって顔真っ赤にして鏡を叩き割っていた」

 

「お前見てたのかよ!?」

 

「やだ、その話もうすこし詳しく聞きたわね」

 

「いいから仕事するぞ!ほら、行くぞ!」

 

 

オータムのISがオータムの全身を包み込み、いかつい戦闘機のような形に変形し、海に飛び込んだ。

 

 

「あらあら、顔真っ赤にしちゃって」

 

「はぁ……面倒な……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

銀の福音は落ちたか。

 

まぁいい、かの大天才の発明、ISすらも取り込めることは実証できた。

 

あとは、これの力を100%発揮できる器を……

 

 

「ふふ、柳川か……所詮は虫ケラ……我が力には遠く及ばぬよ……篠ノ之束、お前もだ」



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100話

とうとうナンバリングも100話到達。
いやはや、ここまで続くとは……。
これからも頑張ります。


昨日、3話も更新したから、今日はいいかなとか考えてしまいましたが、ちゃんと更新させていただきます。


 

臨海学校から帰ってきて数日。

今日は7月31日で終業式。午前中で学校は終わった。

 

明日から8月いっぱいは夏休み……みんな帰省するようで、学校に残るのはごく僅か。一組のみんなも浮き足立っている感じだ。

 

僕は帰省する家はないし、夏休みのほとんどは学園で過ごす予定……だったのだけれど……。

 

 

「将冴、お前に手紙だ」

 

 

ホームルームが終わった後、クラリッサが僕に手紙を渡してくれた。これは……エアメール?

 

差出人を見ると、そこにはナターシャさんの名前が……。

 

 

「留学の件かな……」

 

「本当に行くのか?篠ノ之博士のラボにも行くと言っていただろう」

 

「うん、あとチケットが取れればドイツにも行こうと思ってる」

 

「ドイツに?初耳だぞ!」

 

「ラウラが帰国するのに合わせて行こうと思ってね。ラウラに頼んでおいたんだ。クラリッサも帰国する予定だったんでしょ?」

 

「そうだが……一言くらい言ってくれたって」

 

 

頬を膨らませて、ふてくされるクラリッサ。

ドイツにいた頃だと、あまり見ることができない顔だ。

 

 

「ふふ、ごめんね。空港のチケット取れるかわからなかったし、留学とのスケジュール調整しなきゃいけなかったから」

 

「そうか……それで、留学の日程はどうなっているんだ?」

 

「ちょっとまってね」

 

 

エアメールの封筒を開き、中身を見てみる。中には2枚の紙が入っていた。

 

1枚は留学に関する諸々の手続きのこと。もう1枚はナターシャさんからの手紙のようだ。こちらは後で見よう。

 

 

「えっと……8月15日から21日までってなってるね」

 

「私とラウラ隊長がドイツへ戻るのが、8月8日からだ」

 

「となると……ドイツからアメリカに行く感じで日程立てようかな。で、留学が終わり次第、束さんの所に行こうかな。はは、予定びっしりだ」

 

「手続きが面倒だな……日本から出るのにも、諸々手続きが……」

 

「ああ、それなら大丈夫。そうなること予想していたから、ほとんどの手続き終わらせてるから」

 

「手が早いな……」

 

「こうなるってわかっていたし」

 

 

往往にして、手続きというのは面倒なものなのは知っている。日本は、そういう手続きに関してはうるさいし。

 

まぁ、夏休みの予定はこれで埋まった。

今のうちに荷造りしておこう。あとナターシャさんと束さんに連絡しなきゃ。

 

ああ、そうそう。ドイツ行く前に背中の怪我を見てもらわなきゃ。今日の午後は予定ないし、保健室に行こう。

 

 

「クラリッサ、保健室までお願いできる?」

 

「ああ。怪我の具合を見に行くんだな?」

 

「うん、もう良くなったと思うけど、日本を離れる前にね」

 

「わかった。車椅子、動かすぞ」

 

「ありがとう」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「傷は塞がってるわね」

 

 

保健室で上半身の服を脱ぎ、背中を滝沢先生に見せていた。

 

結構大きな怪我だったので、痕が残るらしい。

 

あ、クラリッサは保健室の外で待ってもらっている。

 

 

「もう包帯はとっていいわね。ISに乗っても問題ないわよ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「薬も必要ないわね。夏休みは日本を離れるんですって?」

 

「ええ。なのでその前に見てもらおうと思って」

 

「いい心がけね。この学園の生徒って、結構自分の体のこと考えない子が多いから」

 

 

はは……僕の怪我はその結果なんですが……。

まぁ、言わないでおこう。

 

 

「それにしても、いつ見ても体出来上がってるわね」

 

 

僕の体を見て、滝沢先生がそう聞いてくる。最近鍛えれてないんだけどなぁ……。

 

 

「いい体してる。これからも維持してね?」

 

「あはは……そうします」

 

 

とりあえず、早く服を着よっと……。

 

 

「将冴、終わったか?」

 

 

クラリッサが保健室の扉を開けて中には入らず聞いてくる。

 

 

「うん、もう終わったよ。待たせてごめんね」

 

「いや、構わない。この後は?」

 

 

この後……まだ、時間あるんだよなぁ……。

 

そうだ

 

 

「ちょっと行きたいところあるんだけど、いい?」

 

「ああ、どこだ?」

 

「僕の前住んでいた場所」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

外出届けを提出し、学外に出た。

 

 

「遠いのか?将冴の住んでいた場所というのは」

 

 

モノレールが目的の駅まで着いたところで、隣を歩くクラリッサが尋ねてくる。いつも通り、モノレールでは車椅子は場所をとるので僕は義肢を全部つけている。

 

 

「ううん、歩いて5分くらいだよ」

 

 

駅近というのは便利だなぁ。

 

 

「将冴がドイツに来る前に住んでいた家か……」

 

「政府が押収したって聞いたな。ほら、重要人保護プログラムで。今は無人だって」

 

「どうして、今ここに?」

 

「中学の時は政府の人に監視されてたし、IS学園に来てから忙しかったからね」

 

 

本当はもう少し早く来たかったんだけど。

 

今日はちょうど良かった。お盆も近いし……

 

 

「あ、ここだよ」

 

 

ついたのは2年ぶりの我が家……

 

手入れはあまりされていないのか、周りの雑草は伸び放題だ。

 

でも、建物はそのままだ。

 

 

「ここが……」

 

「鍵空いてるかな?」

 

 

玄関の扉に手をかけると、鍵がかかっていないようで、すんなり扉が開いた。

 

 

「さすがに埃っぽいかな」

 

「失礼する……」

 

 

クラリッサも家の中に入る。

 

僕は靴を脱いで、リビングの方へ向かう。

 

 

「あ、クラリッサは土足のままでいいよ」

 

「そういうわけにもいかないだろう」

 

 

クラリッサも靴を脱ぐ。

 

足が埃だらけになっちゃうんだけど……。

 

 

「クラリッサがいいならいいけど……ここがリビング。何もないけどね」

 

 

広い空間には何も置いておらず、ひどく寂しい。

 

 

「物がないと、違う部屋みたい……」

 

「将冴……」

 

「何だろう、ひどく物悲しい……」

 

 

つぅっと、目から涙が流れる。

 

 

「あれ、おかしいな……埃が沁みたかな……」

 

「……」

 

 

クラリッサが後ろから抱きしめてくる。

 

 

「今は私しかいない……強がるな」

 

「クラリッサ……」

 

「お前は滅多に泣かない。私の前でくらいは泣いてくれ」

 

「……うん、ありがとう……」

 

 

声には出さず、涙を流し続けた。




そろそろ将冴を泣かせたかった。

クラリッサ、いいところ持って行きました。


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101話

最近、クラリッサと将冴の絵を描いてみたいと思っているんですが……絵心なさ過ぎて断念しました。

書くのと描くのでは、どうしてこうも違うのかしら……。


今回は視点変更多いです。


 

しばらくし、日も暮れた頃にようやく涙がとまった。

 

泣いている間、ずっとクラリッサが後ろから抱きしめてくれた。

 

……よく考えると結構恥ずかしい。

 

 

「……ごめんね、クラリッサ。恥ずかしいところを……」

 

「もう、大丈夫か?」

 

「うん、ありがとう。そろそろ帰ろうか。暗くなってきちゃったし」

 

 

赤くなった目を見せたくないので、先に家を出た。

 

 

「……いっつつ……」

 

 

義肢を長くつけすぎたようだ。頭痛がする。車椅子を出して義足を拡張領域にしまう。

 

 

「くっ、足の裏が埃だらけに……」

 

 

かすかに玄関からクラリッサの声がする。だから靴のままでいいって言ったのに。

 

ほどなくして、玄関の扉が開きクラリッサが出てきた。

 

 

「待たせた。車椅子にしたのか?」

 

「ちょっと頭痛がね。さ、早く帰ろう」

 

「あ、ああ……」

 

 

クラリッサが車椅子を押してくれる。

 

門限に間に合うかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

学園についたのは門限ギリギリだった。

私……クラリッサと将冴は、すぐに食堂へ向かう。

 

いつもより人数が少ない気がする……まぁ、今日のうちに帰る者もいるのだろう。

 

将冴を車椅子用の席に連れて行く。

 

 

「将冴、何を食べる?」

 

「クラリッサと同じのにしようかな」

 

「私もまだ決めていないぞ?」

 

「クラリッサと同じものが食べたい気分なの」

 

「え……」

 

 

まっすぐ言われた……か、顔が熱い……今まで将冴がこんな事を言ったことがあったか?

 

……いや、ない。

 

 

「クラリッサ?」

 

「え、あ……す、すぐに持ってくる!」

 

 

どうしたんだ、今日の将冴は……いつもあんなこと言わない。あれは本当に将冴なのか?

 

と、とりあえず、食券を……何がいいだろうか?こ、これは、将冴の好物を覚えているか試されているのか?

 

将冴は何が好きだっただろう……今までの夕食を思い出すんだ、クラリッサ。

 

麻婆豆腐定食、和定食、洋定食、ラーメン、蕎麦、うどん、カツ丼、雑炊……

 

ダメだ、いつもバラバラだ。将冴は学食のメニューを制覇しているのではないだろうか?

 

うう、どうすれば……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

クラリッサに夕食を任せてしまったけど……

 

 

「なんであんなこと言っちゃったんだろ」

 

 

自分でもよくわかっていない。

 

家に行ったから……とか?

 

そういえば……

 

 

「まだ返事、してなかったな……」

 

「なんの返事?」

 

「へ?」

 

 

突然声をかけられ顔を上げると、そこには鈴が腕を組んで立っていた。

 

 

「り、鈴……こんばんは」

 

「ん、こんばんは。それで返事ってなんのことなの?」

 

 

鈴が僕の前の席に座った。

 

 

「鈴、夕食は?」

 

「もう食べた。それで返事って?」

 

「やけに聞いてくるね……」

 

「将冴が珍しく悩んでるみたいだから気になって」

 

「えっと……」

 

 

立場的にも面倒になるし、言いたくない。

でも、こうなった鈴は、どうにかして聞き出そうとしてくる……。

 

さて、どうしたものか……。

 

 

「……言いたくないこと?」

 

「できれば……」

 

「珍しく将冴に有利に立てそうだから却下で」

 

「だよね……」

 

 

はぁ……まぁ、鈴なら誰にも言わないだろうし……。

 

 

「返事って言うのは、クラリッサにで……」

 

「もしかして……」

 

「一度、クラリッサに告白されてます……」

 

「まだ付き合ってなかったの!?」

 

 

え、そっち?

 

 

「傍目から見たらそう見えるの?」

 

「それ以外にどう見えるのよ!いつも一緒だし、部屋も一緒だし、学園に来た時に将冴の嫁宣言したんでしょ?」

 

「いやまぁ、そうなんだけど……」

 

「まぁいいわ……それで、いつ告白されたの?」

 

「ドイツ離れるときだから、1年前かな……」

 

「あんたどんだけ待たせてんのよ……」

 

「なんとなく鈴には言われたくないんだけど……」

 

「それは今はいいのよ!」

 

 

えぇ、理不尽じゃない?

 

 

「なんで返事しないのよ」

 

「ドイツから帰った頃は、クラリッサと連絡取れる手段なかったからで、今は立場的な問題もあるでしょ?生徒と教師で」

 

「一緒に暮らしていて何言ってのよ」

 

「いや、そうなんだけど……」

 

「それに、き、き、キスだってしていたじゃない!」

 

「あれはクラリッサからで……」

 

「うるさい!」

 

 

えぇ……。

 

 

「あんたはどうなの?ハルフォーフ先生のこと」

 

「僕は……」

 

 

僕はどう思ってるんだろう?

そりゃ、好きだけど、恋愛感情なのか……。

 

 

「あんた、よくそんなで私にとやかく言えたわね」

 

「ははは……」

 

 

おっしゃる通りで……。

 

 

「かといって、私が言えることでもないんだけど……」

 

「一夏の場合は特殊だから仕方ないよね」

 

「それもそうなんだけどさ……」

 

 

お、話をすり替え……

 

 

「で、いつ返事するの?」

 

 

れなかった。

 

 

「……まだ、かな」

 

「あんたって、結構ちんたらするのね」

 

「何も言い返せない……」

 

「……あんたを言い負かすのって初めてかも」

 

 

そこ、感動するところ?

 

と、ここでクラリッサが夕食を持って戻ってきた。

 

 

「将冴、すまない待たせた。凰もいたのか」

 

「はい。あ、でももう失礼します。将冴、また聞かせてもらうから」

 

「お手柔らかに……」

 

 

鈴は食堂を出て行った。

 

 

「何か話をしていたのか?」

 

「ちょっとね……」

 

「?そうか。っと、冷めないうちに食べよう」

 

 

クラリッサが僕の前に料理を置いた。

 

 

「カレーうどん?」

 

「その……何がいいかわからなくてな……」

 

 

クラリッサは恥ずかしそうな顔をして僕の隣に座る。

 

 

「将冴が食べているのを見たことないもの選んだのだが……嫌いだったか?」

 

「ううん。好きだよ、カレーうどん。確かにしばらく食べてないかも」

 

「そうか、なら良かった」

 

「それじゃ、いただきます」

 

 

服にはねないように、ゆっくりとカレーうどんを食べ始める。

 

クラリッサが食べるのに苦戦しているの横目で見ながら。




難産でした……。
明日は更新できないかもしれません。
できるだけ、更新できるようにします。


全ページに挿絵入れたいなぁ……


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102話

どうも、作者です。

ようやく夏休みに入ります。
アニメ1期のOVAの話になるのかな?
将冴君が一夏のお家にお呼ばれ。


 

夏休み初日の朝。僕は部屋で一人ドイツ行きの準備をしている。

クラリッサは山田先生とお出かけしてくるという。

 

ラウラがドイツ行きのチケットが取ってくれたおかげで、夏休みはスケジュール通り過ごせそうだ。ドイツで私と遊べ、と約束を取り付けられてしまったけど、それくらいはお安い御用だ。

 

ナターシャさんにも連絡済みで、ドイツからアメリカまでの飛行機を8月14日にチャーターしてくれたらしい。わざわざチャーター機じゃなくてもとは思ったけど……

 

 

『ショウゴが来るならこれくらいお安い御用よ!』

 

 

と、言い切られてしまったので、おとなしく従うことにした。

 

そうそう、束さんにも22日辺りにそちらに行くと連絡したところ……

 

 

『超興奮して待ってるね!くーちゃんもいい感じに仕上げておくよ!高校生の夏休みで大人の階段をシンデレラジャンプしようZE☆』

 

 

と、訳のわからないことを言われたので、そのまま通話を切った。

 

ラボに行くの、やめようかな……

 

 

コンコン

 

「ん?」

 

 

扉をノックする音。誰か来たのかな?

 

 

「はーい、今開けます」

 

 

義肢をつけて扉に向かい、特に警戒せずに扉を開けた。

 

 

「よ、将冴」

 

「一夏、家に戻るんじゃなかったの?」

 

「これから戻るんだよ。それで、将冴も暇ならうちに来ないかと思ってさ」

 

「一夏の家に?」

 

 

まぁ、ドイツ行きの準備はそんなに時間のかかるものでもないし、手続きの類は全て提出してあるから、問題はないかな。

 

何より一夏の家に行くのが久しぶりだ。

 

 

「うん、いいよ。準備してくるから、ちょっと待ってて」

 

「おう、急いでないから、ゆっくりでいいぞ」

 

 

さて、どうせ学園の中だからと制服着ていたけど、外に出るなら、私服に着替えなきゃ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

着替えを終えてクラリッサに一夏の家に遊びに行くとメールを入れ、学園を出た。

 

一夏の家は僕の家があったところの近くにあるから、昨日と同じモノレールで向かった。

 

途中、スーパーに寄り食材やら飲み物やらを調達し、一夏の家に到着する。

 

 

「ただいまっと」

 

「お邪魔します」

 

 

さすがに家の中で車椅子に乗るのは失礼なので義足だけつけて一夏の家にお邪魔する。

 

そこまで埃っぽくない……一夏、たまに帰って掃除でもしていたのかな?

 

 

「その辺のソファー座っててくれ。冷蔵庫に買ってきたもの入れちまうから」

 

「うん、それじゃお言葉に甘えて」

 

 

ソファーに座り、義足を戻して義手をつける。

 

義肢の出し入れもスムーズになったものだ……。

まぁ、一生付き合っていかなきゃいけないしね。

 

 

「お待たせ」

 

「ありがとう」

 

 

一夏が氷を入れた麦茶を僕に手渡してくれる。

 

 

「将冴、夏休み中は殆ど日本にいないんだっけか?」

 

 

一夏がそんなことを聞いてくる。

 

 

「そうだね。ドイツ軍のみんなに会いに行くのと、アメリカ留学でね」

 

「留学って、やっぱりISの?」

 

「だけじゃないみたい。軍事訓練的なものもやるって書いてあったかな」

 

「そんなこともやるのか……それじゃあ、アメリカでは軍の宿舎か?」

 

 

あぁ、そこ聞くか……

 

 

「いや、それが……」

 

「なんで目を逸らすんだよ……」

 

「僕も宿舎みたいなところで過ごすのかと思ってたんだけど……ていうか、留学のプログラムみたいなのには宿舎って書いてあったんだよ。だけど、ナターシャさんからの手紙にさ……」

 

 

昨日送られてきたナターシャさんからの手紙にはこう書いてあった。

 

 

『ハーイ、ショウゴ!

あなたから連絡がないから、留学の話と一緒に手紙を送るわね。

私は無事にアメリカに帰ってこれたわ。これも、あなたが私を助けてくれたおかげよ。重ねて礼を言うわ。

早速本題なんだけど、留学のこと、政府からも許可が下りたわ!先日の事件のことを世間に公表して、政府を訴えるって言ったらすぐにOK出ちゃった。

あとはショウゴが留学するかどうかを連絡くれたら、すぐにでもこっちに来れるようにできるわ!

そうそう、留学のプログラムでは軍の宿舎で寝泊まりって書いてるかもしれないけど、そこ私の部屋になったからよろしくね!

いい返事を待ってるわ。いつでも連絡してね。

あなたのナタルより』

 

 

とまぁ、こんな感じの手紙が届いたわけで……。

 

とてもクラリッサに見せれない内容だった。

 

 

「なんつーか、ノリがアメリカって感じだよな……」

 

「まぁね……」

 

「しかし、あの人と一緒に過ごすことになるのか。まぁ、将冴はハルフォーフ先生と暮らしているから、問題ないだろ」

 

「一夏のその考え方ができたらどんなにいいことか……」

 

「え?なにが?」

 

「なんでもないよ」

 

 

一度あっただけの人と1週間一緒に過ごすなんて、普通はあり得ないんだからね……一夏はわからないかもしれないけど。

 

 

「まぁ、留学だし、勉強してくるよ。僕は」

 

「ISの操縦うまくなるなら、羨ましいけどな」

 

「一緒に行く?」

 

「遠慮する」

 

「そう。羨ましいなら付いてくればいいのに」

 

「まだ二次移行で使えるようになった雪羅をうまく使えないからな。自分で感覚をつかみたいんだ」

 

 

ああ、福音を倒したっていう、多機能武装腕だっけ?

またベストタイミングで二次移行したものだね。セシリアさんとの最初の試合の時も、一次移行で助けられてたし。

 

そういう悪運はつよいんだからなぁ。

 

 

「それで、今日はなにするの?」

 

「ああ、特に決めてなかったんだけど……」

 

 

決めてないのに誘ったのか……

 

 

ピンポーン

 

 

チャイム……誰か来たのかな?

 

 

「誰だ?ちょっと行ってくる」

 

「うん」

 

 

夏休み……一夏が帰っている時に……思い当たるのは3人。

 

おそらく3人ともくるだろうけど、3人まとめてくる可能性は低い……。それでいて、一番焦っているであろう人は……

 

 

「失礼いたしま……す……」

 

「やぁ、セシリアさん」

 

「セシリア、麦茶でいいか?」

 

「お、お構いなく……」

 

 

一夏が台所の方へ向かっていった。

 

ふふ、セシリアさんの顔。おそらく二人きりになれるとか思ってたんだろうなぁ。

 

 

「しょ、将冴さんもいらしていたのですね……」

 

「ごめんね、一夏と二人っきりになれなくて」

 

「い、いえ……そんなことは」

 

 

目をそらして顔を赤くしてるけど、僕がいなくても二人っきりなれないんだろうなぁ……。

 

 

「セシリア、はい麦茶」

 

「ありがとうございます。これ、ケーキを買ってきたので、よろしければ」

 

「おお、そんな気を使わなくても良かったのに」

 

「いえ、お邪魔するんですから当然のことです」

 

 

二人っきりになってアーンとかしたかったのかな?

 

 

「ありがとな。皿とフォーク持ってくるよ」

 

 

一夏は再び台所に。

なんだか悪いことしたなぁ……

 

 

「はぁ……」

 

「少し席外そうか?」

 

「いえ、構いませんから……」

 

 

ピンポーン

 

 

また家のチャイムが鳴った。

残り2人のお出ましかな?

 

 

「ん?誰か来たのか?」

 

「ああ、僕が出るよ。一夏はケーキ取り分けておいて」

 

「おう、頼むわ」

 

「セシリアさんは座ってて」

 

「あ、はい……」

 

 

さて、どっちかな。

 

僕は玄関の扉に手をかけ、ゆっくり開けると……

 

 

「……なんで将冴がいんのよ」

 

「お前も来ていたのか……」

 

 

おお、これは……予想外。

箒と鈴のダブルパンチ

 

 

「やぁ、二人とも。立ち話もなんだし、入ったら?」

 

 

さてさて、一夏はこの修羅場をどうするやら。




なんでクラリッサの画像はこんなに少ないんでしょうね。

画像探しても少ししかないよ……。


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103話

この小説も、えらい話数増えてきましたね。

私も、そこそこ有名に……ないですね。調子に乗りましたすいません。


一夏家リビングで、女子3人がにらみ合いを始めている。

 

一夏はそんなことはつゆ知らず、箒と鈴のお茶を用意し、ケーキを取り分けていた。本当に家庭的なんだからなぁ……。

 

そして、僕は女子3人の動向を眺めていた。

どうせだから一夏に止めてもらおうと思っていた。

 

だけど……

 

 

「あー、もー、やめやめ。夏休みまであんたらといがみ合うのはアホらしいわ」

 

「鈴さんの言うとおりですわね。せっかく来たのですから」

 

「そうだな」

 

 

あらら、3人で解決しちゃった。

成長したなぁ、3人とも。

 

 

「なんで将冴そんなに感慨深そうな顔してるのよ……」

 

「いやぁ、箒もセシリアさんも鈴も成長したなぁと思って……」

 

「どういう意味だ……」

 

「そのまんまの意味」

 

「……」

 

 

あれ、セシリアさんからもツッコミが来ると思ったんだけど。

 

 

「将冴さん」

 

「何?」

 

「なぜ私だけ呼び捨てじゃないんですの?」

 

 

ああ、そういえば……

 

 

「確かにそうだな」

 

「ハルフォーフ先生は呼び捨てなのにね」

 

 

鈴、ニヤニヤしてこっちを見ないの。

 

 

「最初はさん付けで呼ぶから、そのまま癖でね」

 

「箒さんは途中で呼び捨てになりましたわよね?」

 

「呼び捨てにしてくれって言われたから」

 

「では、私も呼び捨てに」

 

「うん、わかった」

 

「軽いわね」

 

「特にこだわりあるわけじゃないし」

 

 

これで専用機組は簪さん以外、呼び捨て許可を得たな。

まぁ、僕としてはどちらでも良かったのだけれど。

 

と、丁度話しが切れたところで、一夏がお盆を持って台所から出てきた。

 

 

「お待たせ。まずは二人のお茶と、ケーキな」

 

 

人数分のケーキをテーブルに並べる。どうやら全部同じらしい。

 

僕は小声でセシリアに話しかける。

 

 

「二人きりのつもりで来たなら、別々の種類の方が良かったんじゃない?」

 

「どうしてですの?」

 

「一夏のも食べてみたいから食べさせてくれって言えるでしょ?」

 

「あ……」

 

 

詰めが甘いなぁ……。

 

 

「で、四人で何の話をしていたんだ?」

 

「僕がセシリアのことをずっとさん付けで呼んでたよねって話」

 

「そういやそうだったな。将冴って、自分から呼び捨てにすることないよな」

 

「まぁね。一夏と初めて会ったときだって、君付けで呼んでたし」

 

 

あの時は小学校低学年くらいだったかな。

すぐに一夏が呼び捨てでいいって言ってくれたから、そのま一夏って呼んでる。

 

 

「一夏を君付けって、なんか想像できないわね」

 

「そうか?私はなんとなく想像できるぞ」

 

「私も。将冴さんは最初は少し距離を取る印象がありますわ」

 

「そう?そんなつもりないんだけど」

 

 

最初から呼び捨てってできるわけないと思うし、少し堅くなるのは仕方ないと思うけど。

 

 

「あんまり本心見せないし」

 

「何考えているかわからない」

 

 

箒と鈴のダブルパンチ2回目。

仲良いな、この2人。

 

 

「確かに。小学校の頃からの付き合いだけど、俺も将冴のことあんまりわかってないかも……」

 

「一夏さんもわからないんですの?」

 

「いつも考え巡らせてるってのはわかるんだけど」

 

「そんなに考えてないよー」

 

「本音さんのようになってますわよ……」

 

 

むぅ、思いがけず僕が劣勢になってきている気がする。

まさに、どうしてこうなった。

 

 

「でも、そんなことよりも……」

 

 

鈴が恐ろしいことを考えている顔をしてる……ここで聞くつもりか!

 

 

「ハルフォーフ先生との『ピンポーン』

 

 

鈴の声を遮って、チャイムがなった。ナイスタイミング!

 

 

「一夏、僕が見てくるよ」

 

「いや、俺が……」

 

「まあまあ、3人とお話ししててよ」

 

 

僕は全てを一夏に投げ捨て、玄関へ向かった。

鈴が睨んできたけど、無視無視。

 

 

「はぁい、今開けます」

 

 

誰かな、織斑先生?いや、織斑先生ならチャイム鳴らさないだろうし……。

 

思い当たらないまま、扉を開けると、見慣れた金髪と銀髪が……。

 

 

「あ、やっぱりここにいたんだね」

 

「やぁ、兄さん」

 

「シャル、ラウラ?」




OVAの話、こんなに長々とやるつもりなかったんだけどなぁ……。

もう少し続きます。


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104話

昨日は更新できずすいません。

家に帰ってそのままバタンキューしてました。
バタンキューって死語?いや、気にしないでおこう。

そうそう、一応Twitterをやっているのでアカウントを載せておきますね。

@sya_yu124

hではなくyなので気をつけてください。
ほとんど呟きませんが、何かご要望などあればTwitterでも受け付けようかなと思います。

感想ではかけないこともあると思いますので。


 

「で、結局のところいつものメンバーが集まったわけで……」

 

 

リビングには専用機組が揃い踏みだった。簪さんはいないけどね。

 

 

「しかし、シャルとラウラはどうしてここに?」

 

 

2人にはここに来ることを伝えていないし、一夏の家も知らないはずだ。

 

 

「せっかくの休みだから、3人で遊びに行こうかと思ってね。ほら、将冴もラウラもすぐにドイツに行っちゃうし、今のうちに」

 

「場所はクラリッサから聞いた。山田先生も一緒にいたようで、住所も教えてもらった」

 

 

山田先生、個人情報ですよ、それ……。

 

まぁ、2人が来てくれたのは正直助かった。鈴が変なことを口走る前でよかった。

妹への家族サービスを口実に逃げ……

 

 

「なんだ、お前たち。こんなに押しかけて」

 

 

突然リビングの扉が開いて、私服姿の織斑先生が現れた。あ、いまはプライベートだから千冬さんの方がいいかな。

僕と一夏以外は顔を強張らせる。

 

 

「千冬姉、おかえり」

 

「お邪魔してます、千冬さん」

 

「ああ」

 

 

千冬さんは持っていたバッグを机の上に置き、こちらを見た。

 

 

「……ほう?我先にと思ったら、同じことを考えていたわけだな」

 

「「「っ!?」」」

 

 

箒、セシリア、鈴がビクッと体を震わせた。

 

千冬さんは次にラウラとシャルに目を向けた。

 

 

「将冴が目当てか?」

 

「に、兄さんと遊ぼうかと……」

 

「甘えれるときに甘えておけ。妹、なのだろう?」

 

「は、はい!」

 

 

ラウラの目が爛々と輝いていた。

 

 

「千冬姉、今日はもう仕事ないのか?」

 

「ああ、終わらせてきた。でも、この後出かける」

 

「夕飯は?」

 

「いらない」

 

 

ああ、いつものやり取りだ。鈴は知ってると思うけど。ぱっと見夫婦だからなぁ、このやり取り。

 

 

「お前たち、昼食は食べたのか?」

 

「いや、まだだけど」

 

「そうか……待ってろ」

 

 

千冬さんはそう言うと台所へ向かっていった。

 

 

「千冬姉……まさか昼食を作るつもりか!?」

 

「一夏!それってやばいんじゃ……」

 

 

一夏と鈴が慌て始める。まぁ、昔の千冬さんは家事スキル皆無だったから……。

 

 

「俺、千冬姉止めてくる!」

 

「まぁ、一夏。千冬さんに言われた通り待ってようよ」

 

「でも、千冬姉は!」

 

「いいからいいから」

 

 

僕の言葉で一夏の顔が青ざめていく。

おそらく、なんでこんなに落ち着いていられるんだという気持ちなんだろう。

 

箒、セシリア、シャルは頭にハテナを浮かべており、ラウラは「教官の手料理!」と、先ほどよりも目を輝かせていた。

 

それから30分後。

千冬さんがお盆を手に戻ってきた。

一夏と鈴の顔が、刑執行前の囚人のようになっていた。

 

 

「待たせたな。口に合うかわからんが、食え」

 

 

お盆には人数分のチャーハンがあった。

 

美味しそうな匂いが漂う。

それぞれ千冬さんにお礼を言いながらチャーハンを受け取る。

 

しかし、誰も手をつけようとしない。一夏と鈴から只ならぬ雰囲気を感じしまったせいかな。

 

 

「いただきます」

 

 

僕は先陣を切ることにした。

 

レンゲでチャーハンを掬い、口に運ぶ。

パラパラのお米と具材が口の中で広がる。

うん、美味しい。

 

 

「美味しいです、千冬さん」

 

「……そうか」

 

 

千冬さんは顔を赤くし、目を逸らした。はて?

 

 

「わ、私も!いただきます!」

 

 

ラウラも一口頬張る。

大層気に入ったのか、続けて二口目をかきこんだ。

 

 

「おいひーれす、ひょーかん!」

 

「ラウラ、口の中に物入れながら喋らない」

 

 

僕が注意すると急いで飲み込み、改めてをお礼をいうラウラ。

それを見たセシリア、シャルも食べ始め、美味しいと感想を述べた。

 

さぁ、残るは一夏と鈴だ。

 

 

「千冬姉が料理……いや、まさか……」

 

「千冬さんの……」

 

「2人とも、冷めちゃうよ」

 

「「い、いただきます!」」

 

 

2人同時にチャーハンを食べる。

そして、その味を確かめ、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「千冬姉の料理が……美味い……」

 

「そんな……千冬さんは家事ができなかったはず……」

 

「2人とも、殴られたいのか?」

 

 

流石に大袈裟すぎるよ、そのリアクションは。

 

 

「はぁ……まぁいい。私はもう出る。お前たち、暗くなる前に帰るんだぞ」

 

「わかりました」

 

 

僕がそう答えると、千冬さんはさっき置いたバッグを手に出て行ってしまった。

 

 

「な、なぁ……将冴は知っていたのか?千冬姉が料理できるの」

 

「うん。教えたの僕だし」

 

「はぁ!?」

 

「ドイツで千冬さんの家事スキルが絶望的なのを知ってね。僕が家事できるように特訓したんだ」

 

「あ、あの千冬姉を!?」

 

「片付けようとしたらさらに散らかすあの千冬さんを!?」

 

 

なぜか尊敬の眼差しで僕を見る一夏と鈴。

大変だったよ、あそこまで家事できるようにするの……。

 

その後、昼食を食べ終わり、一夏の家にあるボードゲームをひとしきり遊びつくし、夕方頃に解散となった。

 

帰り道。

僕とシャル、ラウラは学園までの帰り道を歩いていた。

 

箒は親戚の神社に向かい、鈴は寄るところがあるということで別れ、セシリアはこれからモデルの仕事があるので、帰りはこの三人になってしまった。

 

 

「なんかごめんね、3人で遊びに行くつもりだったんでしょ?」

 

 

シャルに車椅子を押されながら、2人に話しかける。

 

 

「ううん、楽しかったし、明日もあるから大丈夫」

 

「そうだぞ、兄さん。謝る必要はない」

 

「そっか。ありがとう、2人とも。明日は3人でどこか行こうか」

 

 

そう約束するとラウラは嬉しそうに頷いた。

 

ふふ、本当にラウラが妹になっちゃった気分だ。

 

 

「行きたいところある?」

 

「遊園地というところに行ってみたいぞ!」

 

「あ、僕も日本の遊園地行きたいかな」

 

「じゃあ、それで」

 




その頃、クラリッサは……


「織斑先生!も、もう飲めません!」

「そういうな。ここは私の奢りだから遠慮する必要ないぞ」

「え、遠慮ではなく……や、山田先生!」

「あれぇ〜、ハルフォーフ先生飲んでないんですか?ほら、ぐいっと一杯」

「もうむりですって!」


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105話

あんまりノンビリしていると、ドイツに行くタイミング逃しそう。今回と次で遊園地終わりだと思います。

やりたいことを詰め込みます。


「クラリッサ、大丈夫?」

 

 

一夏の家に行った翌日。

クラリッサが朝帰りしてきた。なんでも、千冬さんと山田先生と何軒もハシゴしたらしい。

 

 

「大丈夫だ……」

 

 

クラリッサに肩を貸し、ベッドに座らせる。

完全に二日酔いだね……。

 

 

「待ってて、今水持ってくる」

 

「すまない……」

 

 

僕は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しコップに入れた。

あいにく、二日酔いに効く薬なんかは常備してないから、水を飲ませるしかない。

 

 

「はい、クラリッサ」

 

 

クラリッサは少しずつ水を飲む。

 

 

「ありがとう。こんなに飲んだのは初めてでな……織斑先生と山田先生に圧倒された」

 

「クラリッサ、あんまり飲めなさそうだもんね」

 

「少しずつ飲んでいたから、この程度で済んだが……あれ以上は考えたくないな」

 

 

クラリッサの顔が青ざめる。

織斑先生も山田先生も酒豪みたいだからね……。

 

 

「まぁ、水飲んで、今日はゆっくり休みなよ。僕は出かけてくるから」

 

「私も……」

 

「だーめ。クラリッサは寝なさい。大丈夫、シャルとラウラが一緒だから」

 

「……そうか。楽しんできてくれ」

 

「うん。何か食べたいものとかあったらメールしてね。帰りに買ってくるから。ちゃんと水分取ってね」

 

「ああ、ありがとう」

 

「それじゃあ、行ってくるからね」

 

 

クラリッサは弱々しい笑みを浮かべると、僕に手を振って見送ってくれた。

帰りにゼリーとか買って行こうかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

正門前でシャル、ラウラと合流し遊園地へ向かう。

 

モノレールやバスを乗り継いで、目的地に着く。

周りの目が僕の方を見ている気がする。

今日はずっと義足で過ごすつもりでいたけど、両腕がないのは目を引いちゃうかな……

 

 

「兄さん、どうかしたか?」

 

「ん?いや、なんでもないよ。チケット買ってくるから、シャルと待ってて」

 

「僕たちも行くよ。将冴に奢ってもらってばかりだから、自分の分くらいは自分で払うよ」

 

 

シャルに行動を読まれてしまっていた。

こういう時は男が払ってあげるものだと思っていたんだけどなぁ……。

 

結局、チケットはそれぞれ自分の分を買い、遊園地に入った。

 

 

「おぉ、これが遊園地か」

 

 

ラウラが楽しそうな声をあげる。ふふ、軍育ちのラウラは初めてだろうからね。

 

 

「兄さん、人がいっぱいだ!」

 

「そうだね。さ、何に乗る?フリーパスだから好きに遊べるよ」

 

「そ、そうだな……」

 

 

ラウラはキョロキョロと辺りを見回す。

たくさんのアトラクションに目移りしてしまっているみたいだ。

 

 

「ねぇ、遊園地に来たんだから、あれに乗ろうよ」

 

 

そう言ってシャルが指差したのは、フリーフォール。

高い塔の上から一気に落ちるアトラクションだ。

 

 

「そうだね。行こっか。並んでないみたいだし」

 

「うむ!」

 

 

ラウラが走って行ってしまい、僕とシャルは慌てて追いかける。本当に子供みたいだな。

 

すぐに着いたフリーフォールは、近くで見ると中々の高さがあり、ラウラが僕の横で息を飲んだ。

 

 

「た、高いな……」

 

「そういうアトラクションだしね。さ、乗ろうか」

 

「ほら、ラウラ行こう」

 

 

僕とシャルの間にラウラを挟むようにして座り、アトラクションの注意アナウンスが流れる。さすがに危ないので、僕は義手をつけた。

 

 

「な、なんだかドキドキしてきたぞ……」

 

「ISのスピードに比べたら問題ないよ」

 

「し、しかし……絶対防御があるわけでは……」

 

「あ、登るよ」

 

「うわぁ!」

 

 

ガタンとアトラクションが動き始め、僕ら少しずつ塔を登っていく。

 

 

「に、兄さん……」

 

「何?」

 

「どこまで登るのだ、これは……」

 

「一番上まで」

 

「ラウラ、大丈夫だよ。そう滅多に故障なんてしないから……多分」

 

「た、多分って」

 

「あ、一番上に着くよ」

 

 

塔のてっぺんまでたどり着き、動きが止まる。

いやぁー、いい景色だなぁ。

 

 

「あ、ラウラ見て。IS学園が見えるよ」

 

「ど、どこだ……?」

 

 

ラウラは気を紛らわそうとしているのか、必死にIS学園を探している。

 

でも残念。

 

 

「あ、落ちるよ。口閉じてね」

 

「え?」

 

 

ガコンという音とともに、僕たちは落ちた。

 

 

「あっははは!」

 

「ぐぬぬぅ!?」

 

「きゃぁぁ!?」

 

 

その後何度か上下に動いたフリーフォールは、地面にゆっくりと降りていった。

 

 

『お疲れ様でした〜』

 

 

アナウンスの声とともに、セーフティが外された。

僕は腕を戻し、アトラクションから降りた。

 

 

「いやぁ、楽しかったね」

 

「兄さんの楽しいの基準がわからない!」

 

「結構早かったね。僕も少し怖かったよ」

 

 

きゃぁぁ!って言ってたもんね、シャル。

 

ラウラは涙目になってるし。

 

 

「将冴、落ちながら笑ってるんだもん。どうかしちゃったのかと思った」

 

「だって楽しくない?」

 

「私はそうは思わなかったぞ、兄さん……」

 

 

あら、この気持ちは誰もわかってくれないみたいだ。

 

 

「まぁ、気を取り直して、違うの行こう」

 

「ラウラ、行きたいのある?」

 

「そうだな……あれがいい」

 

 

そう言って指差したのは、遊園地ではおなじみジェットコースターだった。

 

あーあ、ラウラまた怖いものを……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「落ちるのじゃなければ大丈夫だと思ったんだ……」

 

 

ベンチの上で膝を抱えて震えているラウラ。

ジェットコースターも怖かったみたいだ。

 

 

「大丈夫?ラウラ」

 

「もう少し休ませてくれ……」

 

「まぁ、ちょうどいい時間だし、お昼にしよう。すぐそこに売店あるから、何か買ってくるよ」

 

「あ、僕も……」

 

「シャルはラウラについていて。すぐ戻るから」

 

 

シャルにラウラを任せて、売店に向かう。お昼頃だけど、そこまで混み合っておらず、すぐに買えそうだ。

 

と、売店近くにある射的屋が目に入った。

 

どうして目に入ったかというと……。

 

 

「ちょっとお兄!一発も当たってないじゃない!」

 

「いや、これ結構難しいって……」

 

 

赤髪にバンダナをした男女……あの後ろ姿、何処かで見たことある気がするんだけど……。

 

 

「ん?」

 

 

あ、男の方が僕に気づいたようだ。

 

 

「ああ!お前、将冴か!?」

 

「あ」

 

 

顔を見て思い出した。僕が腕をなくす前に通っていた中学校の同級生の五反田弾。

 

一夏と一緒によくつるんでいた友達だ。日本に帰ってきてから全く連絡を取ってなかった。というか、今の今まで忘れていた……。

 

 

「え、将冴さん?」

 

 

女の子の方も僕を見た。弾の妹の蘭だ。

 

 

「弾と蘭。久しぶりだね」

 

「久しぶりだね、じゃねぇよ!一夏から聞いてたけど、本当に……」

 

 

弾が僕の腕の部分を見る。そこは何もなく、服の袖が虚しく揺れている。

 

 

「将冴さん、その腕……」

 

「まぁ、いろいろあってね。それより、2人に会えるなんて思わなかったよ」

 

「お、おう!それは俺もだよ。蘭に付き合わされて連れてこられたんだけどよ」

 

「ちょっと、お兄!余計なこと言わないでよ!」

 

 

蘭が顔を赤くし、弾を殴る。

本当に、前から仲のいい兄妹だなぁ。

 

 

「将冴さん、一人で来たんですか?」

 

「いや、同級生と一緒に。ごめんね、一夏と一緒じゃなくて」

 

「ちょ、将冴さん!」

 

 

そう、この五反田蘭は一夏の被害者。彼の鈍感に振り回されている。

 

 

「一夏じゃないってことは、もしかして……」

 

「うん、女子と」

 

「くっそぉ、将冴まで俺のこと裏切りやがって!」

 

 

裏切りって……

 

 

「おい、どこだよ。その女子は!」

 

「そこのベンチに座ってる金髪と銀髪の外国の子」

 

「二人も連れて……しかも外国の女の子かよ!……って、あれヤバくないか?」

 

「え?」

 

 

弾の声に2人の方を見ると、男3人に囲まれているのが見えた。

 

しまった……。

 

 

「ごめん、弾。僕行ってくる!」

 

「お、おい!待てよ!その体でどうやって……くそっ、蘭。すぐに警備員呼んできてくれ」

 

「わ、わかった!」




次回に続きます。

お姉さま方だと、このシチュエーションできないんですよねぇ。


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106話

遊園地編終わりです。

クラリッサ不足……。


 

男の人3人に囲まれたシャルとラウラの元へ向かってる。

でも、男の人達はかなり苛立っている。

 

間に合え……

 

 

「なぁ、いいだろ。俺たちと遊ぼうぜ」

 

「断る。なぜ見ず知らずのお前達と遊ばなければならない。私達は兄さんを待っているんだ」

 

 

ラウラが果敢にも男の人たちに立ち向かっている。シャルはラウラの隣で苦笑いを浮かべている。

 

ああ、しまったな……離れるべきじゃなかった……。

 

 

「その兄さんだってわかってくれるって。ほら」

 

 

男の人がラウラの肩を掴んだ。

 

まずい……

 

 

「私に触るなぁ!」

 

 

その瞬間、男の人の体が空を舞い、そのまま地面に倒れ伏した。

 

やってしまった。

 

 

「て、てめぇ!何しやがる!」

 

 

ラウラに投げられた人とは別の人がラウラに手を伸ばした。ああ、だから……。

 

 

「私に触るなと……」

 

 

ラウラは男の腕を掴み……

 

 

「言っただろう!」

 

 

見事な一本背負い。

ラウラ、柔道もできたの?

 

 

「お、お前……本当に何者なんだよ!」

 

「聞きたいか?」

 

 

ここでようやく追いついた。

すでに男の人は足をガクガクと震わせている。

 

 

「ねぇ、お兄さん」

 

 

僕は義手を取り出し、男の人の肩を掴む。男の人の体がビクッとはねた。

 

 

「とりあえず、そこの二人を連れてどっかいってくれないないかな。二人みたいな思い、したくないでしょ?」

 

「は、はい……すいませんでしたぁ!」

 

 

倒れた二人を急いで起こし、3人は走り去っていった。

はぁ……。

 

 

「兄さん」

 

「二人とも、大丈夫……みたいだね。ごめんね、2人にしちゃって」

 

「ううん。将冴も急いで来てくれたんでしょ?ありがとう」

 

「それはいいんだけど……ラウラ。あまり外で乱暴なことはしちゃダメだよ」

 

「す、すまない……」

 

 

まぁ、大事にならなくてよかったけど……。

 

 

「おぉい、将冴!」

 

「あ、弾」

 

 

弾が駆け寄ってくる。

心配かけてしまったな。

 

 

「お前、大丈夫か……って、その手は」

 

「ああ、義手。それよりも、心配かけちゃったみたいだね。ごめん」

 

「いや、いいって。何も問題ないみたいだしな。で、その2人が……」

 

「うん、僕の友達」

 

 

弾にシャルとラウラを紹介する。

 

 

「シャルロット・デュノアです」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。お前は、兄さんの友人か?」

 

「に、兄さん?」

 

「それは気にしないで……」

 

 

そんな話をしていると、蘭が警備員を連れて走ってきた。

ああ、大事になってしまった……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

30分ほど話を聞かれ、僕たちはすぐに解放された。

まぁ、一応……被害者だし……一応。

 

 

「ふぅ、少し拘束されちゃったけど、まだ遊べるね」

 

「すまない、兄さん……私が騒ぎを起こしてしまったせいで……」

 

「しょうがないよ。それよりも、2人に怪我とかなくてよかった」

 

 

返り討ちにするとは思ってたけどね……。

 

 

「将冴、俺と蘭はそろそろ帰るよ」

 

「もう帰るの?」

 

「ああ、店の手伝いがあるからな。久々に会えてよかったよ。今度、うちで飯でも食っていけよ」

 

 

弾の家は五反田食堂というお店をやっている。あそこの料理は絶品なんだよなぁ。

 

 

「時間ができたら必ず」

 

「待ってますね、将冴さん。シャルロットさんもラウラさんも、是非来てください」

 

「うん、将冴と一緒に行かせてもらうよ」

 

「日本の定食屋……うむ、楽しみだな」

 

「行くときは連絡するね」

 

「おう。それじゃな」

 

「じゃあね。あ、そうだ。蘭」

 

「はい?」

 

 

蘭を呼び止め、小さな声で耳打ちする。

 

 

「一夏、学園でさらに被害者増やしてるから、気をつけてね」

 

「な!?」

 

「ふふ、頑張ってね」

 

「へ、変なこと言わないでください!もう!」

 

 

蘭は顔を真っ赤にし、弾と一緒に遊園地を後にした。

 

 

「さて、まずご飯にしよっか」

 

「そういえばまだだったね」

 

「兄さん、私はハンバーガーというものを食べたいぞ」

 

「よし、ラウラのジャンクフードデビューと行こうか」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

昼食を食べ、午後もアトラクションに乗り、気がつけば夕方になっていた。

 

僕らは遊園地を出て、モノレールに乗っている。

 

フリーフォールに乗っていた時のように、僕とシャルの間にラウラが座っていた。

 

フリーフォールの時と違うのは、僕に寄りかかって寝ていることかな。

 

 

「ふふ。ラウラ、すごいはしゃいでたもんね」

 

「うん。まぁ、今まで娯楽とは無縁の生活をしていたし、楽しんでくれたらそれでいいんだけどね」

 

「お兄ちゃんは妹思いだね」

 

「それ、僕のことからかってる?」

 

「からかってなんかないよ。羨ましいなって」

 

 

羨ましい?

 

 

「僕って一人っ子だから。兄弟とかいないし、お母さんもいない。お父さんはいるけど……まだわだかまりが取れたわけじゃないし」

 

「お父さんとお話は?」

 

「電話で一回。ごめんって謝られた」

 

「そっか……」

 

 

シャルも、ある意味1人……問題が解決したとはいえ、家族の仲までは元どおりとはいかない。この問題は、まだ完全な解決を迎えているわけじゃないんだ。

 

 

「シャル。羨ましいなら、シャルもなっちゃえばいいんだよ」

 

「僕もなるって……何に?」

 

「そうだね……ラウラのお姉さん、とか?」

 

「ラウラのって……ぷっ、あははは!」

 

「笑いすぎじゃない?」

 

「だって、そんな突拍子も無いこと……ふふ、可笑しい」

 

 

結構いい提案だと思ったんだけどなぁ……。

 

 

「それで、どっちが上になるの?」

 

「え?」

 

「僕が将冴のお姉さん?将冴が僕のお兄さん?」

 

「あぁ、そうだね……」

 

 

どっちが、か……僕としてはどっちでも……

 

 

「決められない男の人は嫌われるよ」

 

「はは、そうかもね……」

 

「しっかりしてよ、()()()()()

 

「お兄ちゃんって……」

 

「ふふ、お兄ちゃんって言うと、なんか恥ずかしいね」

 

 

だったら言わなければいいのに、とは口にしなかった。

ラウラに兄さんと呼ばれていたから、慣れてしまったようだね。

 

 

「お兄ちゃん、早くいい人見つけてね」

 

「妹が兄をからかわないの」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ただいま」

 

 

寝たままのラウラをシャルと一緒に部屋へ送り届け、自室に戻ってきた。ここに来る途中、売店に寄りクラリッサの為にゼリーなんかを買ってきたので、それを冷蔵庫に入れてから、クラリッサの様子を見る。

 

クラリッサは自分のベッドで静かな寝息を立てていた。

顔色は……良くなってるね。

 

 

「うん、大丈夫そう」

 

 

あんなに弱っているクラリッサを見たのは初めてだった。

 

原因が二日酔いなのが、なんだか締まらないけど……。

 

 

「う、ん……将冴?」

 

「あ、ごめんね。起こしちゃった?」

 

「いや、大丈夫だ。さすがに寝すぎた」

 

 

まぁ、もう夜だからね。

 

 

「ゼリー買ってきたけど、食べる?」

 

「ああ、いただく」

 

 

冷蔵庫からゼリーを取り出して、スプーンと一緒にクラリッサに渡す。僕は自分のベッドに腰掛けて、義足を外した。

 

少し頭痛がしている……義肢を付けすぎたかな。

 

 

「将冴は食べないのか?」

 

「うん、大丈夫。気にせず食べて」

 

 

そうか、と言いながらクラリッサはゼリーを口に運んでいった。

 

さて、ぼくも着替えようかな。

 

 

「将冴、今日は楽しんできたか?」

 

「うん、ラウラもたくさんはしゃいでたよ」

 

「そうか……よかった」

 

「今度、クラリッサも一緒に行こうね」

 

「ああ、そうだな……」

 

 

クラリッサはゼリーを食べる手を止めた。

 

 

「クラリッサ?」

 

「将冴、その……」

 

「ん?」

 

「……ど、ドイツ行きの準備はできたか?」

 

「うん、大体。アメリカとか、束さんのラボとか行くから、結構大荷物になりそう」

 

「そうか。手伝えることがあったら、なんでも言ってくれ」

 

「ありがとう。でも、クラリッサも準備あるでしょ?僕のことは大丈夫だから、自分の準備もちゃんとしなきゃダメだよ」

 

「……ああ」

 

 

クラリッサは、浮かない顔をしている。

何か、気に触ること言っちゃったかな……。

 

 

「将冴、ゼリーありがとう。私はもう寝る」

 

「あ、うん。おやすみ……」

 

 

クラリッサは空になったゼリーのカップをゴミ箱に捨て、布団を被ってしまった。

 

 

「何かしちゃったかな……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

私の中である不安が渦巻いている。

 

将冴との関係についてだ。

 

ここまで一緒に暮らしていたが、将冴との関係が進展しているのかわからない。

 

そのせいで、将冴に変な態度で接してしまった……。

 

ああ、なんであんな態度を……

 

それもこれも、将冴があの時の返事をしてくれないからだ……。

 

 

「ドイツで、返事してくれるだろうか……」




書いてて楽しかった。

シャルも妹になりました。

次回からドイツ。
完全オリジナルで頑張ります。


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107話

今回からドイツ編。

この小説の始まりの場所ですね。
ここでかなり話を進めたいなと思っています。

この小説始める前は、福音で終わらせようと思っていましたが……ここまで伸びました。


 

8月8日。

僕とクラリッサ、ラウラがドイツへ向かう日……とは言っても、実は既にドイツの空港に着陸しており、あとは降りるだけとなっている。

 

日本からドイツまでのフライトは時差調整のためにほとんど寝ていた。

 

 

「ふあぁ……」

 

「兄さん、よく寝ていたな」

 

「まぁね。寝るしかやること無いし」

 

「少し待っててくれ、今荷物を下ろす」

 

 

クラリッサが僕の荷物を降ろしてくれる。

手荷物程度だけど、それなりに荷物が多い。

 

 

「ありがとう。ごめんね、荷物が多くて」

 

「仕方ない。ドイツからまっすぐアメリカに向かわなければならないのだからな。一応、ドイツでの宿はリョーボさんに頼んで寮に泊まれるようにしてある。洗濯もできるからな」

 

「何から何まで、申し訳ないね」

 

「気にするな」

 

 

今回、ドイツへ来たのは、里帰りのようなものだ。一年過ごしたドイツに、また帰って来たかったんだ。

 

 

「さ、行こう。迎えを待たせているからな」

 

「迎え?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「おーい、隊長!クラリッサ!将冴君」

 

 

空港のターミナルで、僕たちを呼ぶ声がする。

あれはクラリッサの友人でシュバルツェ・ハーゼの現副隊長、ルカさんだ。

 

 

「ルカ、お前が来てくれたのか。忙しいのではないのか?」

 

「隊長たちが帰ってくるのに、黙って椅子に座って書類整理してるわけにはいかないでしょう?将冴君、久しぶりね。1年ぶりかしら」

 

「久しぶりです、ルカさん。副隊長就任、おめでとうございます」

 

「そんなにいいものじゃないわよ、副隊長なんて。クラリッサに同情して、変わってあげるんじゃなかったわ」

 

「私を陥れておいて、何を言うんだ。全く……」

 

「はは、ごめんごめん。三人ともお疲れたでしょう?車を用意してあるから、ついてきて。あ、将冴君の荷物は私が持つわ」

 

 

ルカさんは僕の荷物を持ち、車へと案内してくれる。

 

荷物を車に乗せ、僕らも車に乗り込み、車が発車する。

少し走ってから、ラウラが口を開いた。

 

 

「ルカ、私がいない間の報告をしてもらえるか?」

 

「はい。とは言っても、定時報告で連絡したこと以外は、特に問題はありません」

 

「VTシステムの件は?」

 

「はい、システムを仕組んだ者の目星はついたのですが、行方不明です。捜索は続けていますが、状況は芳しくありません」

 

「そうか……」

 

 

VTシステム……タッグトーナメントの時のあれか。

僕が初めてスペシネフ動かしたとき……。

 

ドイツ軍も独自に調べているみたいだけど、この件は裏に何か大きなものが動いている気がする。

 

VTシステムだけじゃない。クラス代表戦の襲撃、福音の暴走。

 

……束さんなら、何か知ってるかな。

 

 

「もうすぐ、寮につくわ。荷物置いた後の予定は?」

 

「私はすぐに軍への報告に」

 

 

ラウラは隊長だからね。そこらへんは面倒そうだ。

 

 

「私は将冴についていくつもりだ。IS学園から、護衛を頼まれているからな」

 

「え、そうだったの?」

 

「ああ。将冴は専用機持ちとはいえ、重要人保護プログラムはまだ適応されている。護衛を外すわけにはいかないらしい」

 

 

僕の知らないところ、クラリッサにそんな指令が出ていたとは……。

 

 

「あれ、でもアメリカではどうなるの?クラリッサはアメリカについてこないし……」

 

「……誠に遺憾だが、ナターシャ・ファイルスがその役についたらしい。福音の件で、アメリカは日本に大きな貸しを作ったからな」

 

「そっか……」

 

 

まぁ、何かあってもISがあるから、自分の身くらいは守れるだろう。

 

 

「将冴君は?」

 

「僕は……墓参りかな。両親の」

 

 

両親の遺体はドイツ軍に回収された後、そのままドイツの墓地に埋められた。

 

日本に持ち帰りたかったんだけど……一年はドイツにいなきゃいけなかったし、日本に戻っても重要人保護プログラムが適用されることもあって難しかった。

 

 

「そうか。わかった、荷物を置いてから向かおう」

 

「うん。ありがとう、クラリッサ」

 

「構わないさ。私も、行かなければと思っていた」

 

 

クラリッサも……。

うん、そうだね。

 

 

「車の中でいちゃいちゃしないでもらいたいわね」

 

 

ルカさんに、運転しながらそんなことを言われてしまった。




ドイツ編は、そこそこ長くなりそうです。

夏休みは色々とイベント盛りだくさんになりそうです。


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108話

結構前に、ISのゲームでてましたよね。

クラリッサ攻略できないようなので、あまり興味なかったり。
仮に、クラリッサ攻略できたとしても、一夏に攻略して欲しくないですね←


 

ルカさんの運転する車が寮の前に到着し、僕は義肢を全てつけて車から降りた。クラリッサとラウラも同様に車を降りる。

 

ルカさんは車から降りず、窓を開けた。

 

 

「私、車を軍に戻すわ。隊長、先にハーゼで待ってます」

 

「うむ、私もすぐに向かう」

 

「クラリッサ、将冴君。また夕飯の時にね」

 

「はい、お仕事頑張ってください」

 

「わざわざすまなかったな」

 

 

ルカさんは車を発進させ、軍の基地へと向かって行った。

 

 

「私達も、早く荷物を置いてこよう」

 

「うん」

 

 

僕たちが寮に足を踏み入れると、すぐに管理人室の扉が開き、ボサボサの髪によれたシャツ、そしてタバコを咥えた女性が出てくる。

 

 

「お、来たな。おかえり」

 

「ただいま、リョーボさん」

 

 

この寮の管理人、リョーボさん(仮名)だ。

1年ぶり……本当に久しぶりだ。

 

 

「少し大人っぽくなったな、将冴。それに……」

 

 

リョーボさんが僕の肩や胸、お腹を触る。

 

 

「トレーニングは怠っていないみたいだな」

 

「最近は、怪我してたのでサボり気味ですけど……」

 

「それでも維持できているんだ、流石じゃないか」

 

「ありがとうございます」

 

 

一応維持できるようにはしているんだけど、IS学園に来てからはそうもいかないことが多くなった。

 

アメリカ留学で、軍のメニューもできるらしいから、少しは鍛えられるかな。

 

 

「リョーボさん、久しぶりです」

 

「おう、ラウラにクラリッサ。長旅お疲れ様。ラウラの部屋はそのままになってるよ。クラリッサは将冴は、前に将冴とブリュンヒルデの姉ちゃんが使っていた部屋だ」

 

「ありがとうございます」

 

「ほらこれが鍵だ」

 

 

リョーボさんに鍵を渡される。

同じ部屋か。まぁ、気兼ねなく使えそうだ。

 

 

「今日の予定は?」

 

「私はすぐに軍への報告がある」

 

「私と将冴は、墓参りに」

 

「そうか、わかった。夕食までには戻って来なよ。寮にいるみんなに、将冴が帰ってくるって伝えてあるからね。みんなの期待を裏切るんじゃないよ」

 

「はい、時間までには」

 

 

リョーボさんに念を押されながらも、僕らは部屋に向かう。1年前だと、毎日のように過ごしていたから、本当に懐かしい。

 

 

「兄さん、クラリッサ。私はすぐに、軍に向かうが何かあればいつでも連絡してくれ。直接私にでも、ハーゼにでもいい」

 

「ありがとうラウラ。そんなことにならないようにするよ」

 

「隊長、お気遣いありがとうございます」

 

「うむ、ではな」

 

 

ラウラは自分の部屋の扉を開き、荷物を投げ入れると、すぐに寮を出て行った。

 

 

「あ、ラウラ!荷物はちゃんと……って、もういないし」

 

「まぁ、隊長も急いでいるんだろう。さ、私達も荷物を置いて、墓参りに行こう」

 

「うん」

 

 

1年ぶり……か。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

部屋に荷物を置き、義足から車椅子に乗り換え(?)、墓地に向かう。

 

幸いにも、寮からはそんなに離れていないため、時間はそうかからない。すぐに墓地に到着する。

 

 

「将冴、途中で花なんかは買わなくても良かったのか?」

 

 

車椅子を押しながら、クラリッサが聞いてくる。

まぁ、買うべきなんだろうけど……

 

 

「うん。母さん花粉症だし」

 

「そ、そうか……」

 

「1年ぶり……色々と話さなきゃいけないことあるね……あれ?」

 

 

両親の墓の前に白衣を着た女性が立っている。

誰だろう……お父さんとお母さんの知り合い?

 

いや、知り合いだとしても、この場所を知ってるのは……。

 

 

「おや?」

 

 

女性が僕に気づき、こちらに歩いてくる。

クラリッサが後ろで身構えているのがわかった。

 

 

「君は……」

 

 

女性が僕の顔をまじまじと見ながら、何やら思案するように顎に手を当てた。

 

 

「柳川将冴君、で間違い無いかな?」

 

「……あなたは?」

 

「こりゃ失敬。私は篝火ヒカルノ。倉持技研の研究員で、君のご両親の同僚だ」

 

「両親の……」

 

 

同僚……果たして信じていいものか……。

 

 

「疑ってるみたいだね。後ろの女性も……ま、仕方ないか。自分で言うのもなんだが、こんな胡散臭そうな女の言うことを信じろというのが無理な話だ。そうだな……」

 

 

篝火と名乗った女性は、名刺を取り出し僕とクラリッサに渡した。

 

 

「直接、倉持に連絡してくれればわかるさ」

 

「将冴……」

 

「……わかりました。とりあえずは信じておきます」

 

「信用ないね。まぁいいさ。日本に来た時は、一度寄ってくれ。あ、もう一人の男の子……織斑一夏君も一緒に連れて来てくれると嬉しいね」

 

 

そう言って、篝火さんは僕らに背を向けた。

 

両親の同僚か……もしかして、バーチャロンのことも知っていたのかな。あれは、お父さんとお母さんの研究だったし……。

 

 

「どうやら、本当の話のようだが……」

 

「うん、みたいだね。なんで墓の場所を知ってるかわからないけど」

 

「ここの場所を知ってるのは?」

 

「ドイツ軍の人と、千冬さん……多分束さんも知ってます。あ、日本政府も知ってるかも」

 

「倉持技研なら、政府と繋がりがあってもおかしくはないか」

 

「うん……まぁ、それは日本に帰ってから考えよう。今は……」

 

 

意外な人に会ってしまったけど、本来の目的を忘れてはいけない。

 

 

「久しぶり、お父さん、お母さん」




篝火さんは今後活躍してもらう予定。

今のうちに言っておきますが、ヒロインにはなりませんよ。なりませんからね!


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109話

読者の皆さん、言葉通りに受け取ってください……。

前回のあとがきは本当にフラグとかじゃありませんから!

作者の心がかき乱されるぅー!?


「……でね、一夏がまた女の子を落としたんだよ。イギリスの代表候補生でセシリアって言うんだけど」

 

 

将冴が両親の墓に、近況報告とでも言うべきか、とにかくここに来れなかった分の話をしゃべっている。

 

私……クラリッサは、それを後ろで眺めていた。

護衛としての役割もあるから、周りを気にしながら。

 

 

「あ、そうそう。今、クラリッサと一緒に暮らしてるんだよ。ね、クラリッサ」

 

「え、あ、ああ」

 

「ふふ、お母さんがいたら、飛び跳ねて喜びそう。事あるごとに彼女はできたか聞いてくるし。そしたらお父さんまで悪ノリしてさ。女っ気がないとか言われても、困るよね」

 

「そうだったのか」

 

「うん。二人が生きてる間に、そういう人を紹介できたらよかったんだけどね」

 

 

将冴が寂しそうな顔を浮かべる。

日本で将冴が住んでいた家を見に行った時と同じ表情だ。

 

 

「この前、僕たちの家に行ってきたよ。家はそのままだったけど、中のものは全部持っていかれちゃった。さすがに堪えたよ……」

 

 

目が少し潤んでいる。涙を見せないようにしているのか……。

 

 

「まぁ、そんな感じで元気でやってるよ。病気とかはしてないし、怪我は……結構してるかも。でも、僕は丈夫だから。心配しないでね……。そろそろ帰るよ、また時間ができたら来るからね」

 

 

将冴は墓から離れる。まるで涙を見せないようにしているかのように……。

 

私は、墓の前から離れられずにいた。

 

 

「クラリッサ?」

 

「すまない、将冴。少しだけ待っていてもらっていいか?」

 

「……うん、わかった。墓地の入り口のところにいるからね」

 

「ああ」

 

 

将冴が離れたのを確認し、将冴の両親の墓の前で片膝立ちになる。

 

 

「挨拶が遅れてしまい、申し訳ない。クラリッサ・ハルフォーフと言います。私は、あなた達に謝らなければならない……私がもっと早く現場に到着していれば、将冴が義肢をつけなくてもよかった……いや、あなた達の事も助けられたかもしれない……」

 

 

今後悔しても遅いことはわかっている。あの時も、散々後悔した。

 

でも、それは何の意味もない。この謝罪も、ただの自己満足だ。彼らを助けることができなかった罪は、一生ついて回る。

 

 

「謝って許してもらえることではありません。それは私も十分にわかっています……。自己満足だということも。でも、その自己満足をまだ許してもらえるなら……」

 

 

一生ついて回るなら、私は一生自己満足を続ける。

 

 

「将冴は私が守ります。この命に代えても」

 

 

たとえ何があっても、この命尽きるまで、将冴を守るという自己満足だ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

墓地の入り口でクラリッサを待つ間に、色々考えていた。

 

 

「心配しないでね、なんて……無理に決まってるか」

 

 

天国から、僕のことを見守っているとしたら、いつもヒヤヒヤものだろう。

 

安心させるには、どうしたらいいかな……。

 

 

「そういえば、ここから寮に帰る道って、あそこも通ったっけ……」

 

 

ドイツから離れる直前に、クラリッサとデートをし、告白された場所……。

 

未だにクラリッサに返事をしていない。

僕はクラリッサのことを、どう思っているんだ。

 

……わかってる。自分の気持ちくらいは、自分でも。それに、あれだけアプローチされているんだ。

 

 

「もう、待たせない方がいいかな」

 

 

この先、何があるかわからない。

 

福音との戦闘で意識を失った時……あのまま目覚めなかったら、きっと後悔していただろうし、クラリッサをこれ以上待たせるのは嫌だ。

 

 

「僕は、クラリッサのことを……」

 

「私がどうかしたか?」

 

「のわぁ!?」

 

 

いつの間にか背後にクラリッサが立っていた。びっくりして車椅子から落ちそうになった……。

 

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「う、うん。大丈夫だよ……」

 

「そうか?顔が赤いようだが……疲れが出たか?」

 

「ほ、本当に大丈夫!寮に帰ろう。もうすぐで時間だし」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

 

不意打ちですっかりペースを乱されてしまった……。

 

……今日は、やめておこう。




将冴がヘタる。

珍しいですよ、皆さん。シャッターチャンスですよ!


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110話

今回から、あとがきでオリキャラの設定書いていこうかなと思います。とは言っても、そんなにキャラいないんですけどね。

オリキャラの設定が終わったら原作キャラの変更点なんかをまとめていこうかなと思います。


 

墓参りから帰ると、寮の入り口でラウラが待っていた。報告とかは終わったのかな?

 

 

「おかえり兄さん、クラリッサ」

 

「ただいま。お仕事終わったの?」

 

「ああ、滞りなくな。二人とも、すぐに食堂の方へ来てもらえるか?」

 

「食堂、ですか?」

 

 

クラリッサが首をかしげ、ラウラに聞き返した。

 

 

「何かあるの?」

 

「行けばわかるぞ、兄さん」

 

 

ラウラはそれだけ言って、食堂の方へ歩いて行った。

普通に夕食……ってわけじゃないみたいだね。

 

 

「クラリッサ、僕たちもいこう」

 

「ああ」

 

 

クラリッサに車椅子を押してもらい、食堂へ向かう。

食堂の扉の前で、ラウラが立っている。

 

 

「さ、入ってくれ」

 

「う、うん……」

 

 

ラウラにそう促され、扉を開ける。

すると……

 

 

パーンッ!

 

『将冴君、お帰りなさい!』

 

 

クラッカーの炸裂音と、シュバルツェ・ハーゼのみんなからの歓迎の言葉が食堂に響いた。

 

 

「え、これって……」

 

「将冴君の歓迎会よ」

 

「ルカさん。歓迎会って」

 

「その名の通りよ。歓迎会って言うよりは、おかえなさい会って感じかな。将冴君が帰ってくるって、ハーゼのみんなに伝えたらパーティしようってなってね。リョーボさんの協力のもと、開いたってわけ」

 

「ほらほら、料理冷めるよ。さっさと席につきな」

 

 

リョーボさんが料理をテーブルに置きながら、うながした。ハーゼのみんなが「はーい」と返事をしながら席に座り始める。

 

 

「えっと……クラリッサは知ってた?」

 

「いや、私は何も……」

 

「二人とも、そんなところにいないで、こっちこっち」

 

 

ルカさんに手招きされ、一つだけ椅子が置いていない場所に案内される。車椅子で座れるようにしてくれたようだ。そして、僕の両隣にクラリッサとラウラが座った。

 

 

「さて、みんな座ったところで幹事である私、シュバルツェ・ハーゼ副隊長であるルカ・ミヒャエルからご挨拶させてもらいます」

 

 

ルカが立ち上がり話し始めた。

 

 

「今回は世界に2人しかいない男性IS操縦者にして、1年前このドイツ軍女子寮の朝の顔であった柳川将冴君の帰還祝いパーティです」

 

 

さっきとこの催しの名前変わってますよ……。

 

 

「今日は階級を忘れ、将冴君を存分に弄びましょう!」

 

「ちょっ、ルカさん!?」

 

「あ、でもクラリッサ大尉の機嫌を損ねるようなことはしちゃダメだからね」

 

「ルカァ!?」

 

「それじゃあ、乾杯!」

 

『乾杯!!』

 

 

僕とクラリッサのことを無視し、ルカさんが乾杯の音頭を取った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「それで、将冴君とはどこまで行ったのよ?」

 

「私も聞きたいな。教え子の様なものだ……まさか、未成年に手を出して、貞操を奪ってはいないだろうな?」

 

「いや……私と将冴は、まだそんな……」

 

 

クラリッサは酔っ払ったルカさんとリョーボさんに絡まれている。僕はというと……

 

 

「すごぉい。服の上から見ただけじゃわからないけど、触ったら本当に筋肉ある」

 

「腹筋カッチカチだよ。人は見かけによらないっていうけど、これは凄すぎ」

 

 

今年入ったという新兵の人に囲まれて、体をペタペタと触られていた。

 

 

「あの……あんまり触らないでいただけると……」

 

「まあまあ、いいじゃない。軍の男ってゴツゴツしたのしか居ないし」

 

 

そのイメージはなんとなくわかるけど……。

 

 

「先輩から、将冴君が1年前はここに住んでたって聞いて、すっごい羨ましかったんだから」

 

「そうそう。まさか噂の男性操縦者がってね」

 

「は、はぁ……」

 

 

とりあえず相槌を打っておこう。

クラリッサは捕まっているし、ラウラはハーゼのみんなに何かを聞いてメモしまくってるし……。

 

 

「ねぇ、このあとパーティ終わったら私達の部屋に来ない?」

 

「へ?」

 

「あ、それいいね!どうかな、将冴君」

 

「申し訳ないですけど、僕は自分の部屋で休ませていただきます」

 

 

僕がクラリッサへの気持ちを決めた日に誘われるとは思わなかったよ……。

 

 

「えぇ〜、いいじゃん!私達の部屋でも寝れるって」

 

「ほらほら、ドイツ軍女性新兵に囲まれて寝れるんだよ?」

 

「いや、だから僕は……」

 

「お前たち……」

 

 

どす黒い声が聞こえ、僕を囲んでいた新兵の皆さんが固まった。

 

 

「将冴が困っているだろう……」

 

 

黒いオーラを纏ったクラリッサが、新兵を睨んでいた。

 

 

「く、クラリッサ大尉……」

 

「す、すいませんでしたぁ!?」

 

 

新兵の皆さんが蜘蛛の子を散らすように離れていった。

はは、さすが元副隊長……。

 

 

「ふう、全く……新兵は怠けていけないな」

 

「助かったよ、クラリッサ。ルカさんとリョーボさんから逃げてきたの?」

 

「逃げてきた……と言うよりは……」

 

 

クラリッサがそう言いながらある方向を指差した。その先には……

 

 

「な、なんだお前達!は、離せ!」

 

「いいじゃないですかたいちょ〜」

 

「ほらほら、話してしまえ。将冴お兄さんと何があったのかなぁ〜?」

 

「う、うるさい!」

 

 

どうやら、ラウラに標的を写したようだ。

 

 

「隊長には悪いが、助かった」

 

「ふふ、そうだね。……ねぇ、クラリッサ。ちょっと外に出ない?」

 

「ん?ああ、いいぞ」

 

 

みんなに気づかれないように、クラリッサと食堂を出た。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

寮の外へ出ると、涼しい風が吹いていた。

 

 

「ふう……」

 

「少し疲れたか?」

 

「まぁ、ね。飛行機での移動とかもあったし……」

 

 

気持ちの整理をつけるのにも、結構気疲れするものだ……。

 

 

「何か、考え事か?」

 

「え?」

 

「考え事をしている顔をしてる。一人で抱え込むなと、言ってるだろう?」

 

「うん……でも、これは僕自身の問題なんだ。誰かに話しちゃいけないんだ」

 

「……そうか。解決したら教えてくれ」

 

「もちろん。……すぐに教えるよ」

 

 

そう、ドイツにいる間に……

 

 

「ねぇ、クラリッサ。明日も付き合ってくれるんでしょ?」

 

「ああ、当たり前だ」

 

「じゃあ、明日デートしよっか」

 

「……え?」




オリキャラ設定

ルカ・ミヒャエル

22歳

シュバルツェ・ハーゼ現副隊長。
クラリッサとは同期で、良き友人。
将冴のことで悩むクラリッサを後押ししたり、時には強引に行動させていた。その結果、クラリッサをハーゼの副隊長から降ろしてしまう。
軍の上層部と、独自のパイプを持っている……と噂されている。
副隊長になったため、専用機を与えられているが、一度も乗っておらず、いつかクラリッサに返すつもりでいる。


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111話

昨日は更新できず申し訳ありません。
TRPGしてSAN値をがっつり減らしてしまいまして……。


今回はクラリッサとデート。
物語も大きく動き始めます。


 

翌日、僕は寮の入り口で、1年前にやっていたように仕事へ向かうみんなへ挨拶をしていた。

 

昨日散々騒いでいたので、みんな少し疲れ気味だ。

 

 

「あ、将冴君おはよー」

 

 

気怠げに挨拶してくれたのはルカさん。

眠そうに目を擦っている。

 

 

「ルカさん、おはようございます」

 

「この感じ久しぶりだわぁ〜。このままドイツ軍に入らない?将冴君なら、ハーゼの特別隊員にしてあげるよ」

 

「魅力的なお誘いですが、今のところは遠慮しておきます」

 

「あらら、断られちゃったか。まぁ、IS学園卒業するときにまたお誘いするわ。それで、今日の予定は?もしよければ、ハーゼから何人か護衛つけるけど?」

 

「いえ、大丈夫です。今日はクラリッサとデートなので」

 

「そうなの?それなら、野暮なことはできないわね」

 

 

護衛なんてつけられたら、落ち着いてクラリッサと遊べないしね。

 

その申し出はありがたいけど。

 

 

「クラリッサとはどうなの?私が言うのもなんだけど、あの子不器用だから」

 

「うまくやれてますよ。むしろ、僕がはっきりしなくて、クラリッサに悪いことをしてしまったなって……」

 

「やっぱり、まだ付き合ってはいないのね」

 

「はい……でも、今日言うつもりです。1年前の返事を」

 

「そっか、頑張ってね。やっと私の苦労も報われるわ……」

 

 

ルカさんがいろいろ手を回してくれたから、僕はクラリッサと一緒にいられる。

本当に感謝してもしきれないな。

 

 

「っと、そろそろ行かなきゃ。帰ってきたら、結果教えてね」

 

「はい。いってらっしゃい、ルカさん」

 

 

小走りで寮を出て行くルカさんを見送り、僕は寮に備え付けてある時計を見た。

 

クラリッサ、僕が起きた時まだ寝ていたけど、もう起きたかな……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

朝起きると、隣のベッドに将冴がおらず、思わず時計を慌てて見た。

 

時間的にはまだ余裕がある……。

よかったと胸を撫で下ろし、私は寝巻きから着替える。

 

 

「デート、か……」

 

 

将冴がそんなことを言うとは思わなかった。

1年前、将冴がドイツから離れる前にルカに無理やりデートさせられた時以来ではないだろうか……。

 

日本では、そんな風に誘われたことはなかったし……。

思えば、将冴の家に行ってから、将冴の私に対する接し方が変わった気がする。悪い意味ではなく。

 

 

「……考えてもわからないか」

 

 

急ぎ準備を終わらせ、部屋を出る。私服は最近来ていなかったから、なんだか気恥ずかしいな。

 

寮の出入り口まで向かうと、将冴が立っていた。

今日は車椅子ではないのか。

 

 

「すまない、将冴。待たせたか?」

 

「ううん。みんなに挨拶していたから。クラリッサはもういける?」

 

「ああ」

 

「それじゃあ、行こっか」

 

 

私と将冴は、並んで寮を出た。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

寮を出て少し歩き、改めてクラリッサの姿を見た。

 

最近はスーツ姿しか見ていなかったからか、クラリッサの私服を見てなんだかドキドキする。

 

白いシャツに、デニムジーンズ……いつもつけている眼帯を外していて、なんだか大人の女性といった感じだ。

 

 

「……将冴、どうかしたか?」

 

「クラリッサの私服、久しぶりに見たなって」

 

「日本ではずっとスーツだったからな。私も久しぶりに私服を着た気がする。……もしかして似合ってなかったか?」

 

「ううん、すごい似合ってるよ」

 

「そ、そうか……」

 

 

真正面からいうと、なんだか気恥ずかしいな……。

クラリッサの顔も赤くなっている。

 

 

「きょ、今日はどこに行くつもりなんだ?」

 

「特に決めていないんだ。ウィンドショッピングみたいな感じにしようかなって。よく考えたら、あまり詳しくこの辺を見て回ったことなかったから。行きたいところとかある?」

 

「いや、将冴に任せる」

 

「それじゃ、まず朝ごはん食べようか」

 

 

少し歩き、朝でもやっているお店に入った。

 

店員さんに席まで案内してもらい、席に座る。それと同時に義足を戻し、義手をつけてメニューを手に取る。その中で、僕はあるものに目が止まった。

 

 

「……あ、これ……」

 

「どうしかしたか?将冴」

 

「ううん、なんでもないよ。クラリッサ決まった?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

店員さんを呼び、注文を伝える。

 

 

「ベーグルセットを」

 

「僕はこれをもらえるかな?」

 

 

メニューを指差し、店員さんに頼むものを伝える。

 

 

「何を頼んだんだ?」

 

「懐かしいものをね」

 

「?そうか……。将冴、今日はなんで車椅子ではないのだ?」

 

「なんで、か……答えるなら、デートだからって感じかな?」

 

「どういうことだ?」

 

「僕が誘ったのに、車椅子を押してもらうのは嫌だったんだ。それに、デートって並んで歩くものでしょ?」

 

「そ、そういうものか……?」

 

「多分」

 

 

クラリッサが顔を赤くして、もじもじとしている。

そういう反応されると、僕も恥ずかしいんだけど……。

 

 

「なんだか、改めてデートってのは、恥ずかしいもんだね……」

 

「……将冴、今日はどうしてデートをしようと……」

 

 

 

どうして、か……

 

 

「今は話せないかな」

 

「今は?」

 

「そうだね……それじゃあ、デートが終わってからってことで」

 

「……わかった」

 

「お待たせしましたぁ〜」

 

 

話に区切りがついたところで、店員さんがベーグルを乗せたトレーと、僕が頼んだもの……ベルリーナーを乗せたトレーを持ってきてくれた。

 

 

「将冴、それって……」

 

「うん、僕がまだ入院しているときに、クラリッサが持ってきてくれたお菓子。まだ義手を持ってなくて、全部アーンされて食べたのは、さすがに照れたなぁ」

 

「あ、あの時はああするしか……」

 

「うん、わかってるよ。そのおかげで、クラリッサとこうやってやっていけたと思ってるし」

 

「将冴……」

 

「さ、早く食べて、デートしよう?」




オリキャラ設定

リョーボさん

32歳

ドイツ軍の女子寮の管理人。
本名不明で、日本の教員免許を持っていたりと謎の多い人物ではあるが、本人曰くただの寮の管理人。
実は本名を隠している理由は、リョーボさんと呼ばれるためだったりする。
結構軽い性格だったりするが、寮にいる人達はみんな家族だと思っている。


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112話

GWいかがお過ごしでしょうか。

作者はクラリッサとバカンスに行きました……夢の中で……。


シュバルツェ・ハーゼの基地で、私……ラウラは書類にペンを走らせていた。

 

私じゃないと処理できないものもあるが、大体はルカが処理してくれたようで量は少ない。

 

 

「隊長、コーヒーいかがですか?」

 

「ルカか、もらおう」

 

 

書類を書く手を止め、ルカからコーヒーを受け取る。

 

 

「ふぅ……」

 

 

コーヒーを一口飲み、息を吐く。

少しドイツを離れただけなのに、なんだか懐かしいな……。

 

 

「日本はどうでしたか?隊長」

 

「初めてなことばかりだな。ここにいると、空いてる時間は訓練に当てるが、日本では遊びに行くことが多かったな」

 

「そうですか。羨ましい限りです」

 

「ルカも日本に来れればいいのだが……」

 

「私はいいですよ。ハーゼのこともありますし、クラリッサが一緒にいるから、心配はしてません」

 

 

ふむ、ルカはどうにも自分よりも周りのことを優先してしまっている感じがするな。これは……そう、兄さんと同じような……。

 

 

「クラリッサといえば、今日は将冴君とデートに行くみたいですね」

 

「兄さんとクラリッサが?」

 

 

今日は早くに寮を出たから、2人に会っていなかったから、何も聞いていなかったな。

 

 

「はい。将冴君、気持ちを決めたみたいですよ」

 

「というと?」

 

「クラリッサに告白するって言ってました」

 

「そうか。……兄さんが」

 

 

ん?待て……そうなると私は……。

 

 

「私はクラリッサの義妹になるのか……?」

 

「ぷっ、あははは!そうですね、そうなりますね!」

 

「笑いすぎではないか?」

 

「すいません、でも、おかしくって……ふふふ」

 

 

他人事だと思って……部下の義妹なんて、前代未聞だ。

 

 

「でも、隊長は将冴君の本当の妹ってわけじゃないんですし、気にしなくても大丈夫なんじゃないですか?」

 

「む……そうか?」

 

「そうですよ」

 

 

ルカがそういうなら、まぁいいか……。

 

コーヒーをグイッと飲み干し、また書類を書き始めようとした時、隊員の一人が慌てた様子で入ってきた。

 

 

「隊長、副隊長、失礼します。先程、レーダーが未登録の飛行物体を感知しました。進行方向から見て、基地近くの市街地へ向かっているようです!」

 

「なんだと!?」

 

「進行速度からみて、あと40分ほどで市街地に……」

 

「すぐに部隊を編成!ルカ、上層部に報告を。私も出る」

 

「了解!」

 

 

ドイツに帰ってきて早々にか……。

 

まて……もしかして、市街地には兄さんとクラリッサが……もしそうだとしたら、市街地に入れるわけにはいかない。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

朝食を食べ終え、クラリッサとゆっくり街を歩く。

 

街にも人が増えてきて、活気付いてきた。

 

 

「お店も開いてきたね。露店なんかもある」

 

「ああ、私もこの辺はあまり歩かないからな。この様になっていたのか」

 

「ちょっとそこのお店見てみようよ」

 

 

すぐ近くでアクセサリーなんかを売っている露店に近づく。日本だと、あまりこういうのは見ないから、新鮮な感じ。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

露店のお姉さんが僕とクラリッサを見てニッコリと微笑んだ。

 

 

「アクセサリーか。私はあまりつけないのだが……」

 

「まぁまぁ、見るだけでも楽しいよ」

 

 

リングにネックレス、ピアス、ブレスレットもある。

 

僕がつけれそうなのはネックレスとピアスくらいだけど。

 

 

「お兄さん、若いのになかなかやるねぇ。こんな綺麗な彼女さん連れて」

 

「か、かのっ!?」

 

 

クラリッサがボンッと顔を赤くした。

はは、そう見られてるのかな、周りからは。

 

 

「まだ違いますよ。……あ、これ見せてもらっても?」

 

「いいよ」

 

 

お姉さんに並んでいるアクセサリーの中から、ネックレス見せてもらう。

 

小さな緑色の石があしらってあるネックレス。

うん、これなら……。

 

 

「これもらえます?」

 

「はいよ。プレゼント、でいいかな?」

 

「うん、お願いします」

 

 

クラリッサは……まだ顔を真っ赤にしていて、こちらには気づいていないみたいだ。

 

お姉さんにお金を渡し、包装されたネックレスを受け取る。

 

 

「ありがとう。クラリッサ、大丈夫?」

 

「ふぇ?あ、ああ……大丈夫……」

 

 

なんだか心ここにあらずって感じだね。

 

 

「クラリッサは買うものある?」

 

「いや、私は大丈夫だ。将冴はいいのか?」

 

「うん。それじゃ違うところに行こうか」

 

「ああ」

 

 

さて、この後はどうしようかな。

 

だんだん人も増えてきて、歩きにくく……

 

 

『見つけた』

 

「え?」

 

 

今すれ違った人……何か……。

 

 

「将冴?どうかしたのか?」

 

「……ごめん、クラリッサ。その辺で待っててくれる?」

 

「え?」

 

「すぐ戻るから!」

 

 

気になる。すれ違った時に言われたこと……あれはクラス対抗戦で襲ってきた球体が言ってきたことと同じ……。




ドイツでも面倒なことに絡まれる将冴君、マジ不幸体質。

でもまぁ、ラノベとかの主人公ってみんなそんなものですよね。


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113話

ドイツ編書いてると、リアルでドイツに行きたいなぁと思いますね。

お金が貯まったら、いつか行ってみたいものです。


 

「確かこっちの方に……」

 

 

すれ違いざまに聞こえた声の主を追って来たけど、だんだんと人通りが少なくなってきた。

 

誘い込まれた……?

 

 

「……これ以上は危ないか。クラリッサのところに……」

 

「戻ってしまうのか?ここまで追っておいて」

 

「なっ!?」

 

 

背後から声が聞こえ、僕は咄嗟に飛び退き、振り返る。

そこにいたのは、全身を黒いスーツで包んだ、大きな一つ目がついた黒い画面をつけた人物だ。

 

声からして、おそらく男……。

 

 

「あ、あなたは……」

 

「私か……どうやら篠ノ之束からは何も聞いていないようだな。まぁいい。教えてやろう。私は『ダイモン』という者だ」

 

「『ダイモン』……?」

 

「名前だけでは、少々不親切というものか。IS学園で襲撃してきた機体、ラウラ・ボーデヴィッヒのISに組み込まれていたVTシステム、福音の暴走……黒幕は私だ」

 

「なんだって?」

 

 

あれの全てを、この人が……?

わからない、そんなことをやってどんなメリットが?

 

 

「困惑しているようだな。まぁ、受け止める方が難しいというものか」

 

「なんでそんなことを……」

 

「順を追って説明してやろう。まずはあの球体……一応、私はダイモンオーブと呼んでいるのだがね。あれはIS学園の力がどの程度か知るのと、織斑一夏の能力を確かめるために差し向けた。結果としては、十分なデータを取る前に、君に破壊されてしまったがね」

 

「そんなことのために学園を襲ったっていうの?」

 

「君にとってはそんなものかもしれないが、私からすれば重大なことなのだよ。ブリュンヒルデである織斑千冬の弟だ。どんな力を秘めているか知る必要がある」

 

 

このダイモンという人物からすれば、一夏は不安要素だったっていうことなのか……?

 

 

「……VTシステムは?」

 

「あれは君の能力を知るために組み込んだ。ダイモンオーブを一撃で仕留めるだけのISを使いこなす君のね。あれで君のISデータを予想以上に取ることができた」

 

「そんなデータをとって、何をするつもり?」

 

「私の思惑を、そう簡単に喋るわけがなかろう?それに、まだ私の話の途中だ」

 

 

この人に付け入る隙がない。情報を引き出すのは難しいか……。

 

 

「次は……銀の福音だったな。あれは実験だよ」

 

「実験?」

 

「そう、実験だ。今世界の覇権を握っているのはISと言ってもいい。そのISを、開発者である篠ノ之束の手から離れさせる実験。福音はうまくやってくれたよ。落とされてしまったがね」

 

「一体どうやってISを……」

 

「その辺は篠ノ之束に聞くといい。それに、もうあの方法でISの主導権を握るのはやめたよ。IS一体を牛耳るのに、手間がかかりすぎる」

 

「なんで福音を……」

 

「たまたまさ。他意はない」

 

 

どうにも胡散臭い。

全て鵜呑みにしてもいいものかどうか。

 

 

「……IS学園をオーブが襲撃した時、見つけたという声が聞こえた。あれはあなたの声ですよね?」

 

「その通りだ。いやはやびっくりしたよ。二年前にドイツで初めて現れた時もだけどね」

 

「どういう意味?」

 

「V.コンバータを積んだ機体を私以外に所持していたからさ」

 

 

V.コンバータを知っている?

そういえば、あのオーブにもVコンバータが積んであった……

 

 

「なんでV.コンバータのことを……」

 

「君の両親の研究を盗んだからさ」

 

「なっ!?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴に待っていてと言われて言葉の通りにしているが……もうかれこれ30分以上経っている……。

 

 

「さすがに探しに行った方が……」

 

 

その時、ポケットに入れていた携帯電話が着信音とともに震えた。

 

電話?相手は……ルカか。

 

 

「もしもし」

 

『クラリッサ!?今どこにいるの!?』

 

「どこって、市街地の広場だが……」

 

『やっぱり……今すぐそこから離れて。できればハーゼの基地まで来て!』

 

「ま、待て!一体何が……」

 

『基地まで来たら説明するから、将冴くんも一緒に……エネルギーシールド0!?すぐに撤退させなさい!空軍に連絡して戦闘機による援護を要請して!……クラリッサ、いいわね。すぐに基地にくるのよ!』

 

「お、おいルカ!?……切れてしまった」

 

 

只ならぬ事が起きたのか……ここは言う通りにした方がよさそうだ。

 

将冴に連絡をして合流しなければ。

 

連絡先から将冴の番号を呼び出す。

しかし、すぐに切れてしまう。電波の届かない場所にいるのか?

 

 

「将冴……一体どこに」

 

 

胸騒ぎがする……早く見つけなければ。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「盗んだって……」

 

「言葉の通りだ。本当は機体データを盗もうと思ったんだが、見つからなかった。幸いにも、研究室にVコンバータのデータがあったから、それを拝借した。本当なら、直接聞き出して、機体データをもらうつもりだったのだが」

 

 

直接聞き出して……という事は、もしかして……

 

 

「まさか、あなたが……」

 

「君の考えている通りだ。私がテロリストを動かし、君たち家族を誘拐し、君の両親を殺し、君の四肢を奪った黒幕だ」

 

「な、あ……」

 

 

この人が……この……こいつが……お父さんとお母さんを……僕の手足を……

 

 

《警告。感情値、急上昇》

 

 

頭の中で声が聞こえる。これはスペシネフを発現した時と同じ……いや、そんな事はどうでもいい。

 

 

「お前が……お父さんとお母さんを……」

 

「怒っているのか。まぁ、無理もない。今まで過酷な人生を送ってきたとはいえ、君はまだ高校生だ。感情をむき出しにするのが当然だ」

 

「許せない……絶対に、絶対、絶対」

 

「さぁ、怒りをぶつけろ。そして見せてくれ。VTシステムを屠った負の塊を!」

 

「ダイモン!」

 

 

《感情値、規定指数を超えて上昇中。警告、これ以上感情値の増幅は危険です》

 

 

いちいち警告するな。

僕はこいつを……

 

 

「将冴!こんなところ、に……」

 

「クラリッサ……?」




難産が続きますね。
さて、昨日はうっかり普通にあとがき書いてしまいましたので、今日はオリキャラ紹介を。

滝沢洋子

28歳

IS学園の養護教諭。
養護教諭をする前は軍医をしていたとか、女版ブラック・ジャックだったという噂があるが、あくまで噂である。IS学園の養護教諭というだけで尾ひれがつきまくってしまった。本当に普通の養護教諭である。
将冴がよく保健室に運ばれてくるので、よく話す仲であり、千冬と真耶、クラリッサが将冴に向ける目が他の生徒と違うのに気づいて、外から見て楽しんでいる。
将冴の腹筋を見てから、腹筋フェチになったとかなってないとか……。
最近の悩みは出番が少ないこと。


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114話

前書きのネタをひねり出すのが大変です。

毎日毎日そんなにネタありませんよね、普通。


「どうして……」

 

 

待っててって言ったのに……拙い、クラリッサをダイモンに会わせるわけにはいかない。

 

 

「こんなところで何をしているんだ……そこの怪しい者は……」

 

「なんでもない、クラリッサ。今はこっちに来ないで!」

 

《感情値の低下を確認。スペシネフ展開シーケンスをキャンセルします》

 

 

スペシネフの展開がキャンセルされた?

感情が落ち着いたから?

 

 

「ふん、落ち着かせたか。興醒めだな」

 

 

ダイモンが僕らに背を向けて立ち去ろうとする。

 

 

「待て!まだ話が!」

 

「話の続きが聞きたいなら、篠ノ之束に聞くことだな。それと、今ドイツ軍が私の人形と遊んでいるようだ。どうやら、君の同級生が苦戦しているらしい。助太刀に行った方がいいぞ」

 

「なんだと……」

 

「聞けば妹のように接しているようじゃないか。こんなところで油を売っていていいのか?」

 

 

くっ、ダイモンを今すぐ捕まえたい……でも、ラウラ達が……。

 

 

「待て、そこを動くな。撃つぞ」

 

 

クラリッサが拳銃を取り出し、ダイモンに向けている。しかし、ダイモンは足を止めない。

 

 

「撃てばいい。無駄なことだ」

 

「動くなと言っているだろう!」

 

 

クラリッサがダイモンの足に向けて発砲する。しかし、弾は何かに弾かれるように消し飛んだ。

 

 

「なっ!?」

 

「無駄だと言っただろう。私は忙しいのだ」

 

 

ダイモンの姿が揺らぎ、フッと掻き消えた。

逃した……。

 

 

「なんだ、あいつは……」

 

「次……次に会ったら、必ず」

 

「将冴……あいつを知っているのか」

 

「……クラリッサには関係ない。これは僕のやらなきゃいけないことだ」

 

「しかし、将冴に危害を与える者なら放っておくことは……」

 

「関係ないって言ってるだろ!」

 

 

怒鳴ってから、ハッと気づいてしまった。僕はなんでクラリッサに八つ当たりのように……。

 

 

「将冴……」

 

「怒鳴ってごめん……ラウラの救援に行ってくる」

 

 

僕はテムジンを纏って、レーダーを頼りに交戦現場へ向けて飛んだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴がテムジンで隊長の救援に向かうのを、私……クラリッサはただ呆然と見ることしかできなかった。

 

 

「あんな将冴を見るの……初めてだ」

 

 

今まで一緒にいたが、あんなに感情を剥き出しにするところを見たことがない。

 

思えば、将冴と過ごしてかなり経つが、将冴は本当の感情を表に出すことはあっただろうか。

 

あったとしても、自分でブレーキをかけていたのではないだろうか。

 

 

「まだ、私に本音は見せてくれないのか……」

 

 

その事が私の胸に突き刺さり、寂しく感じた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

市街地に近づいてきた未確認機と交戦を始めてどれくらい経っただろうか。ハーゼから私……ラウラを含めて4体のISが出たが、私以外はシールドエネルギーが尽き、離脱した。

 

この未確認機……以前、見せてもらったIS学園でのクラス対抗戦で襲撃してきた球体と似ている。

 

ただ、あれと違うのは、大きな球体に小さな球体が何個も連なり、腕のようになっている事だ。

 

長いリーチと、強力なビーム兵器……厄介な相手だ。

 

私のシールドエネルギーは400と心もとない。空軍の戦闘機が援護に来たが、ミサイルはほとんど効いていないようだった。

 

 

「はぁ、はぁ……ルカ、援軍はまだ来ないのか?」

 

『基地のISを整備中ですが、まだかかります。もう少しだけ……この反応は?』

 

「なんだ?」

 

『そちらに高速で接近する機体が……識別信号確認。バーチャロンです!』

 

 

バーチャロン……兄さんが来てくれたのか!?

 

私は回線を兄さんに繋いだ。

 

 

「兄さん!」

 

『ラウラ、そこをどけて』

 

「え、あ、ああ……」

 

 

兄さんに言われた通り、少し動くと、私がいたところを高速で何かが通り過ぎていった。

 

 

「今のは!?」

 

 

テムジンがサーフモードで未確認機に突撃した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

スライプナーをブルースライダーモードにし、ダイモンの作った機体にぶつかる。

 

前に襲ってきた球体と違い、腕がある……さしずめ、ダイモンアームと言ったところか?

 

 

「ふっ!」

 

 

ぶつかったと同時に、スライプナーをセイバーに戻し斬り下ろし、ダイモンアームを地面に叩きつけた。そんなに強くない……ラウラや、ハーゼのみんながエネルギーを削ってくれたおかげか。

 

 

「ライデン」

 

 

フォームチェンジでライデンを展開し、肩のバイナリーロータスを開く。

 

そして、チャージせずに左右の肩から交互にビームを放つ。

 

一発一発はチャージしたバイナリーロータスよりも格段に威力は下がるものの、連発されれば相手はひとたまりも無いだろう。

 

ダイモンアームはなす術なくビームを受け続け、火花が散り始め、そう時間は経たずに爆発した。

 

 

「……」

 

「兄さん!」

 

 

ラウラが僕に近づいてくる。

 

 

「助かりました。私だけではどうなっていたことか……兄さん?どうかしましたか?」

 

「……なんでも無いよ。基地に行った方がいいよね」

 

「はい、一応事情聴取をしなければならないので」

 

「じゃあ、早く戻ろう」

 

「あ、兄さん待ってください!」

 

 

僕は先に基地へ向かった。

その後を、ラウラが慌てて追いかける。




書いてて楽しくなってまいりました。

さぁ、頑張るゾォ。


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115話

前書きで何を書けばいいのかわからない。

本編へどうぞ。


 

ラウラと基地に戻り、僕とラウラはISを待機状態に戻す。僕はそのまま車椅子に座った。

 

すぐにルカさんが来てくれた。

 

 

「隊長、将冴君、お疲れ様です」

 

「ルカもご苦労だったな」

 

「いえ、私は……。将冴君、少し時間もらえる?形だけでも、話を聞かなきゃいけないから」

 

「……はい」

 

 

救援に行ったとはいえ、僕はドイツ所属の操縦者ではない。事情聴取されるのは仕方ないことだ。

 

話すこと……ダイモンのことも言った方がいいだろうか。

 

正直、話せるほどダイモンのことを知っているわけではない。変に情報を漏らして混乱させるよりは黙っていた方がいいかもしれない。

 

 

「将冴君?どうしたの?」

 

「いえ、すぐに行きます」

 

 

ぼうっとしてしまっていたようだ。

すぐにルカさんについていき、小さな個室に案内された。中には机と椅子が置いてあるだけ……ドラマとかで見るような部屋だ。

 

 

「さて、今回のことについて聞きたいんだけど、どうせ形だけだしこっちででっち上げておくわね」

 

「そんな感じでいいんですか?」

 

「将冴君のことは、軍も知っているし、隊長の友人となると無碍にもできないでしょう。機体データも直接取ることができるし」

 

「そうですか……」

 

 

まぁ、詳しく聞かれないのなら好都合だからいいのだけれど。

 

 

「それで、クラリッサに告白できた?」

 

「ここでそれを聞くんですか?」

 

「ちょうど二人きりだし、お姉さんは成果を聞きたいな」

 

 

まぁ、朝にそういう話はしたし、気になるのは仕方ないか。

 

 

「出来ていませんよ。あんなことがあったのに、できるわけないじゃないですか」

 

「そっか、そうだね。それじゃあ、何があったの?」

 

「え?」

 

「いつもと様子が違うから、気になってね。クラリッサと何かあった?」

 

「……別に、何もありません」

 

 

嘘をついた。

ダイモンに心をかき乱され、クラリッサに八つ当たりしてしまったんだ。なんであんな……。

 

 

「将冴君が何もなかったと言うなら信じるけど、とてもそうは見えないわね」

 

「僕に何かあったとしても、これは僕の問題です。僕自身が解決しなきゃいけないんです」

 

「そう……」

 

 

ルカさんはそれ以上何も言わず、気まずい沈黙が漂う。

 

 

「……もういいですか?」

 

「うん。クラリッサ、ハーゼの司令室にいるけど」

 

「このまま帰ります。少し疲れました」

 

「わかった。クラリッサに伝えておくね」

 

 

ルカさんにお礼を言い、僕は寮へ戻った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ハーゼの司令室で、将冴とルカを待っていた。

隊長は報告書を書いている。

 

 

「……クラリッサ」

 

「なんでしょう?」

 

「何かあったのか?」

 

「っ!?……いえ、特に……」

 

「兄さんのことか?」

 

 

図星だ。隊長がそういうことについて聞いてくるのは珍しい。人間関係には、我観せずという印象があったが……将冴といて変わったということだろうか。

 

 

「実は、私も気になっていてな。兄さんの様子がいつもと違っていて……」

 

「……私にはわかりかねます」

 

 

将冴のことがわからない。いや、ずっとわかっていなかったのか……一緒に過ごしてわかったつもりでいたのか……。

 

 

「今日、変わったことはあったか?」

 

「……」

 

 

ある。あるのだが、私にも何が何だかわからない。あの仮面の人物は、将冴とどんな関係か。

 

将冴は話してくれないだろうし……。

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

司令室の扉が開き、ルカが入ってきた。将冴は……一緒じゃないのか?

 

 

「ルカ、将冴は?」

 

「先に寮に戻ったわよ」

 

「な、それなら私に伝えてくれ!今ならまだ間に合うか」

 

「待ちなさい」

 

 

司令室から出ようとすると、ルカに肩を掴まれた。

 

 

「今は会わないほうがいいんじゃない?お互い何かギクシャクしてるでしょ」

 

「っ……しかし、私は将冴の……」

 

「護衛なのはわかるけど、今はやめておきなさい。何があったか知らないけど、もう少し落ち着いてから話しなさい」

 

 

ルカの言う通りだ……。私自身、将冴と会ってもどう接すればいいかわからない。

 

 

「……少し待ってて。ちゃちゃっと仕事終わらせるから。飲みに行こう」

 

「え?」

 

「隊長、書類片付けたらあがらせてもらいます」

 

「ああ、構わないぞ」

 

「いや、あの……」

 

「突っ立ってないで、座って待ってたら?」

 

「わ、わかった……」

 

 

こんな時に……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

寮につくと、ちょうど管理人室から出てきたリョーボさんと鉢合わせた。

 

 

「おや、今日クラリッサと出かけてたんじゃないのかい?」

 

「ちょっと……いろいろあって」

 

「ふぅん。と、そうだ。ちょっと夕食の手伝いしてくれないかい?」

 

「え、でも、僕……」

 

「いいからいいから。少しだけでいいからさ」

 

 

リョーボさんが僕の車椅子を押し始め、なす術なく厨房へと連れて行かれた。

 

厨房につくと、リョーボさんは僕にナイフとジャガイモの大量に入った袋を渡してきた。

 

 

「それ、全部皮剥いてもらえるかい」

 

「わ、わかりました……」

 

 

僕は言われた通りにジャガイモの皮を剥き始めた。

 

思えば、こうして料理するのはいつぶりだろう。

体あった時は、お父さんもお母さんも研究で忙しい時があって、一人で作って、2人が帰ってくるのを待っていたっけ……。

 

 

「……何か悩んでるんだろう?」

 

 

不意にリョーボさんが声をかけてくる。

ルカさんと同じように、僕がいつもと様子が違うって思ったのかな。

 

 

「えっと……」

 

「話したくないなら話さなくていいさ。とやかく言うつもりもないし、気の利いたことも言えないしね。私だって、自分の過去はあまり話したくない。誰だって話せないことの一つや二つ、あるものさ」

 

「……」

 

「悩み事っていうのは、なかなかに話しづらいし、打ち明けるのは本当に心を許した人にしかできない。そういう人はいるかい?」

 

「……いえ」

 

「ならさっさと作ることだね。それが親友でも、恋人でもいい。将冴が決めたら、その人を信じてやれ」

 

「リョーボさん……」

 

「説教くさくなったね。ジャガイモ剥き終わったらもういいよ。部屋で休んでな」

 

「……はい」

 

 

悩みを打ち明けられる人……僕には誰がいるか思い浮かべたけど、1人しかいなかった。




今日連続投稿します。

次で、ようやく……


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116話

この小説を始めてもう少しで半年……。

ようやくここまできました。


「だからぁ、私にはわからんのだぁ!む……ビールおかわり!」

 

 

私……ルカの目の前で愚痴を吐きながら、ジョッキのビールをすごい勢いで飲んで行くクラリッサ。

 

この子、日本に行く前はこんなに飲む子だったっけ……。

 

 

「ドイツにいる頃は、自分でも言うのもなんだが、将冴とは一番仲の良かったと思っていた……今だって、一緒に住んでいる。でも、将冴は私を頼ってくれない、本心を見せてくれない!」

 

「あぁ、そうね。将冴君はあまりそういうの口にするタイプじゃなさそうだし……」

 

「そうなのだ!それなりに長く一緒にいるのに!」

 

「うんうん、頼ってくれないのは辛いわね。あ、ビールきたわよ」

 

「うむ……」

 

 

クラリッサはジョッキの掴みグイッとビールを流し込んでいる。あぁ、そんなに飲んだら……。

 

 

「ぷはぁっ!おぃ、りゅかぁ〜。お前はどう思うぅ?」

 

「どう思うって言われてもねぇ」

 

「わらしらって、こんな……うむぅ……」

 

 

クラリッサの瞼がゆっくりと閉じ始め、そのまま船を漕ぎ始めた。

 

 

「ちょっと、クラリッサ!」

 

「……しょうごのこと……こんなに、おもって……すぅ……」

 

「あちゃー、寝ちゃったか」

 

 

全く、本当に面倒なんだから。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

夜。

 

部屋で1人、考えをまとめていた。

ダイモンのこと、両親のこと、これからのこと。

 

今ここでベストな答えを出せるとは思っていない。

 

1人で考えるのには問題が大きい。リョーボさんの言う通り、打ち明けられる人を……。

 

と、考えていると、部屋の扉が開いた。

クラリッサが帰ってきたのかな?

 

 

「お邪魔するわよぉ〜」

 

 

入ってきたのはルカさんだ。

 

 

「ルカさん……と、クラリッサ?」

 

 

グッタリとしているクラリッサをルカさんが担いでいた。お酒の匂いがするっていうことは……酔いつぶれたってこと?

 

 

「将冴君、クラリッサのベッドどこ?」

 

「あ、こ、こっちです」

 

 

ベッドまで案内すると、ルカさんはクラリッサをベッドに寝かせた。

 

 

「ふぅ、疲れた」

 

「今日、飲んできたんですか?」

 

「ええ、クラリッサの愚痴でも聞いてあげようと思ってね」

 

「愚痴……ですか……」

 

 

僕のせい……かな……。

 

 

「結構溜まってたみたいだったからねぇ。たまに吐き出させたほうがいいわよ」

 

「あぁ、はい……」

 

「それじゃあ、私は部屋に戻るわね。クラリッサの介抱よろしくね」

 

「え、あ、ちょっ」

 

 

ルカさんはさっさと部屋を出て行ってしまった。

 

いやまぁ、介抱は別にいいんだけれども……

 

 

「着替えとかどうすればいいんだ……」

 

 

僕が着替えさせるわけにもいかないし。

 

はぁ、起こすしかないか。

 

 

「クラリッサ、服が皺くちゃになっちゃうよ」

 

「うぅん……もう飲めない……」

 

「ぷっ、ふふふ。なんてベタな寝言を……」

 

 

なんだか、さっきまでいろいろ考えていたのが馬鹿らしくなってきた。

仕方ない、このまま寝かせておこう。

 

僕も寝よう。さすがに疲れた……

 

 

「って、あれ?」

 

 

立ち上がろうとすると、服の裾を引っ張れた。

見ると、クラリッサが僕の服を掴んでいる。

 

 

「クラリッサ、離してくれないとベッドに……」

 

「どこにも……行かないでくれ……」

 

「……」

 

 

はぁ、卑怯だよクラリッサ。

 

寝言でそんなこと言われたら、その通りにするしかないじゃないか。

 

 

「一緒にいるよ、クラリッサ。ずっと一緒に……」

 

 

僕はクラリッサのベッドに入り、添い寝するように寝転がる。

 

 

「大好きだよ。クラリッサ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

目が覚めると、目の前に将冴の寝顔があった。

 

え、なにがあったんだ?昨日はルカと飲んでいて……途中から記憶がない……。まさか、酔った勢いで……

 

これは今すぐに離れたほうがいいのか?

それとももう少し堪能したほうが……

 

 

「う、ん……」

 

 

もぞもぞと将冴が動き始め、目を開けた。

 

 

「あ、クラリッサ……」

 

「しょ、将冴……これは……その……」

 

「クラリッサ、今日何かある?」

 

「いや、予定はないが……」

 

「そっか……それじゃあ、もう少しこのまま寝ようか」

 

「へ?」

 

 

将冴は私の首に手を回し抱き寄せた。

え、いや、将冴がこんな、こんな!?

 

 

「ふふ、クラリッサドキドキしてるね」

 

「こ、こんなことされれば……ドキドキもする……」

 

「そっか。じゃあ、しばらくドキドキしてもらおうかな」

 

 

将冴に何があったんだ!?




将冴君が「甘える」を覚えた。

将冴の気持ちの切り替えが上手すぎる気がするが、作者の文章スキルだとこれが限界だった……。


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117話

昨日更新サボりました。申し訳ないです。
徹夜明けやったんや……。

ここから糖分過多を目標に頑張ります。


 

将冴がまた寝たところで、こっそりと布団から出た。

 

将冴の雰囲気がいつもと違う……。

わたしはまだ夢でも見ているだろうか……。

 

 

「……食堂でコーヒーでも飲もう」

 

 

こういう時は苦いコーヒーでも飲んで落ち着こう……。

 

食堂に行くと、リョーボさんがタバコを咥えたまま掃除をしていた。

 

 

「おや、クラリッサ。随分とのんびり起きたね」

 

 

私が入ってきたことに気づき、掃除の手を止めた。

 

 

「ええ、まぁ……」

 

「昨日、ルカと随分飲んだんだって?気分はどうだい?」

 

「少し気だるいですが、それ以外は大丈夫です」

 

「そうかい。……コーヒーでも飲むかい?」

 

「お願いします」

 

 

リョーボさんはキッチンへ向かい、すぐにコーヒーの入ったカップを2つ持って戻ってきた。

 

 

「はいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

コーヒーを受け取り、一口飲む。

 

 

「ふぅ……」

 

「何かあったのかい?」

 

「え……」

 

「ルカが、愚痴聞かされて疲れたって言ってたよ」

 

「あぁ……まぁ……」

 

 

昨日は途中から記憶が曖昧で……今はそれよりも、将冴のことだ。

 

 

「別の悩みでもあるのかい?」

 

「な、悩みというわけではないのだが……私は夢を見ているのではないだろうかと」

 

「どういうことだい?」

 

「起きたら将冴が目の前にいて、いつもなら言わないような事を……昨日とは態度も違っていて……」

 

「ああ……」

 

 

リョーボさんは何やら思い当たる節があるような反応を……。

 

 

「リョーボさん、何か知っているんですか?」

 

「ん?まぁ、知っているには知っているが……それは本人から聞くんだね」

 

「本人というと……」

 

「将冴からだよ。しかし、将冴も切り替え早いねぇ。昨日の今日で、か」

 

 

将冴とリョーボさんの間で何があったのかはわからないが、将冴のアレはリョーボさんが一枚噛んでいるというのは間違いなさそうだ。

 

 

「それで、あんたは今の将冴を見てどう思った?」

 

「どう、と言われると……」

 

 

正直、私でもよくわかっていないが……。

 

 

「大変よろしいと思います」

 

「鼻血出てるよ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

眼が覚めると、時刻はすでに11時を回っていた。

 

 

「さすがに寝すぎた……クラリッサ、どこいったのかな」

 

 

気持ちをはっきりさせ、気持ちを声に出したからか、できるだけ一緒に居たいという気持ちが大きくなってる。

 

 

「お腹空いたな。食堂で料理してもいいのかな?」

 

 

とりあえず着替えて食堂に行こう。

 

 

 

 

食堂ではクラリッサとリョーボさんがコーヒーを飲んでいた。クラリッサはなぜか鼻にティッシュを詰めている。

 

 

「おや、将冴も起きたのか」

 

 

リョーボさんが僕に気づき声をかけてくれる。その瞬間、何故かクラリッサが背筋をピーンと伸ばした。

 

 

「おはよう……ではないですね。こんにちは、リョーボさん」

 

「お、おはよう……将冴」

 

「おはよう、クラリッサ。二日酔いとかは大丈夫?」

 

「も、問題ない」

 

 

クラリッサがやけに緊張しているというか……まぁ、朝あんな事しちゃったからなぁ。

 

 

「そっか、なら良かった。リョーボさん、キッチン使ってもいいですか?」

 

「構わないけど、なんか食べるなら私が作るよ?」

 

「いえ、ちょっと自分で料理したい気分なので」

 

「そうかい。食材は好きに使ってもいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

さて、何を作ろうかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

30分ほどかけて、カルボナーラを作ってみた。

うん、我ながらいい出来。車椅子でも案外料理できるものだ。

 

 

「クラリッサ、リョーボさん。2人の分も作ったのでいかがですか?」

 

「お、いただくよ」

 

「将冴の料理……」

 

「久しぶりに作ったから、あんまり期待せずに……」

 

 

2人にカルボナーラを運んでもらい、席に着く。

 

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 

フォークでカルボナーラを巻き取り、一口。

 

うん、久しぶりに作ったわりにはよくできてる。

 

 

「美味いじゃないか。今度から夕食の手伝いしてもらおうか」

 

「それくらいおやすいご用です」

 

「私よりも美味い……」

 

 

クラリッサが小さく何かを呟きながらも、カルボナーラをパクパクと食べていく。

 

……なんだかクラリッサと距離を感じる。

 

 

「ねぇ、クラリッサ」

 

「っ!?な、なんだ?」

 

「この後暇だよね?」

 

「あ、ああ。特に予定はないが……」

 

「昨日のデートの続きしよう」

 

「むぐぅ!?ゲホッ、ケホッ!?」

 

 

クラリッサがむせ、すぐに水を飲み干した。

 

まぁ、昨日は八つ当たりしてしまったし、そのこともまだ謝ってないし……。

 

 

「んぐっ……ぷはっ!」

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だ……それより、昨日続きって……」

 

「ほら、色々あって少ししか回れなかったし、クラリッサともっと遊びたいんだ」

 

「うっ……面と向かってそう言われると……」

 

「お願い」

 

 

これは僕の為でもあるんだ……。

 

 

「……わかった」

 

「ありがとう。さ、早く食べちゃおう」

 

「あ、ああ……」

 

 

今日、全て伝えよう。

 

ダイモンの事も、僕の気持ちも。

 

 

 

 

 

 

 

 

将冴は何を考えているんだろう。

 

昨日は何やら不安定になっていたのに、今日は積極的というか……。

 

将冴、私はお前の事がわからない。




将冴が正直になり、クラリッサが疑心暗鬼になる。
不穏な空気が流れ始めました。

……どうしてこうなった←

ノリとテンションで書いていたらこうなったとしか言えない。
少々グダッてきたかもしれない。

さて、今回から原作キャラの改変した場所を書いていこうかなと。一応、出てきたキャラは大体書いていこうと思っています。
今回はメインヒロインであるクラリッサから。


クラリッサ・ハルフォーフ

作者がISで一番好きなキャラという事で、原作では殆ど出番がないにもかかわらずメインヒロインに。やったね!
原作と違い、オタク度がそこまで高くない。
しかし知識が偏っているのは、原作と同じ。
原作ではあまり私生活やらを見た事がなかったので7割作者の手が加わっているかもしれない。むしろ別キャラかもしれない。


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118話

隔日更新みたいになってしまいもうしわけありません。
多忙やら体調不良やらでダウンしてます。

楽しみにしていただいていた方には本当に申し訳ありません。


 

僕の作った昼食を食べ終わり、僕とクラリッサはデートに出掛けた。

 

昨日と同じように、僕は義足だけつけて隣を歩く。

 

だけど、クラリッサと僕の間には少し間がある。

 

 

「……」

 

 

クラリッサはさっきから押し黙ったままだ。

 

これじゃデートなんて言えない。

 

……デートの最後で言おうと思ってたけど、もう話したほうがいい。

 

 

「ねぇ、クラリッサ。歩きながらでいいから昨日の話を聞いてくれる?」

 

「っ、ああ」

 

「まずは、謝らせてほしい。昨日は、八つ当たりみたいなことをして、クラリッサに迷惑かけてごめん」

 

「いや、それは別に気にしていない……昨日の男は一体誰なんだ?」

 

「……あの人は、『ダイモン』って名乗ってた。僕も詳しいことはわからないけど……僕と両親を誘拐したあのテロリストは、ダイモンがけしかけたって言ってた」

 

「なっ……」

 

 

クラリッサが立ち止まり、驚愕の表情を浮かべる。

当たり前だ。僕とクラリッサが出会ったきっかけの事件が、ダイモンのせいで起こっていたんだから。

 

 

「だが、あそこにいたテロリストは何も!」

 

「利用されていたんだと思うよ。詳細はわからないけど。両親の研究していたバーチャロンを自分のものにしようとしていたんだって」

 

「そんな……」

 

「……そこのベンチ座ろうか」

 

 

歩きながら話すことではなかったかな。

僕は近くのベンチに座る。クラリッサも僕の隣に腰を下ろした。

 

 

「将冴、その話は……」

 

「昨日ダイモンから聞いた。真実かどうかはわからないけど、嘘は言ってないと思う。それに、ダイモンはクラス対抗戦での襲撃、ラウラのVTシステム、福音の暴走……すべて関与しているって」

 

「ここ最近の事件のすべてに……」

 

「それ聞いて、僕かーっとしちゃってさ。クラリッサが来てくれなかったら、スペシネフで暴れていたかもしれない。ありがとう」

 

「いや、礼を言われるようなことは……」

 

「ううん、クラリッサがいてくれたから、何事もなかったんだ。それなのに、僕はクラリッサに酷いことを……」

 

「将冴……」

 

「本当にごめん」

 

 

昨日はどうかしていたとか、そんなことは言わない。

完全に僕が感情を抑えられずに当たり散らしただけだ。

 

だから、精一杯の謝罪。

 

 

「私は……」

 

 

クラリッサが小さくこぼす。

 

 

「あんなくらいで、どうも思ったりはしない。確かに、将冴にあんなことを言われたのは初めてだし、少し驚いた……」

 

「……」

 

「でも、理由がどうであれこうして将冴が全部話してくれたのが嬉しい」

 

「え……」

 

「私は、将冴のことがわからなくなっていた。いつも何かを内に秘めて、私に話してくれない。本心を表に出さない。……不安だった。なんで私よりも年下の将冴が、こんなにも、と……」

 

 

……クラリッサの言うとおりかもしれない。

ドイツに来る前に、一夏の家でみんなと話している時も、言われた。

 

 

『あまり本心を見せないし』

 

『何を考えているかわからない』

 

 

僕自身、気をつけていたわけではない。

自然と、感情を閉じ込めていたのか……。

 

 

「……変な話だな。将冴に怒鳴られたことが、私は嬉しかったんだ」

 

「……そっか」

 

「他に、話すことはあるか?」

 

「ううん。昨日の話は、これで全部。僕が、クラリッサに謝りたかった……それだけだよ」

 

「うん。……私も、謝らなければな。今日はよそよそしい態度を取ってしまってすまない」

 

 

クラリッサが僕の方を向き、頭を下げた。

 

 

「クラリッサが謝ることはないよ。僕がはっきりしないからで……」

 

 

クラリッサに頭を上げるように促す。

 

 

 

「いや、それでも私は」

 

「必要ないよ」

 

「しかし」

 

 

と、クラリッサが頭をあげたところで、お互いの顔が目の前にあることに気づいた。

 

途端に気恥ずかしくなる。

でもそれより……

 

 

「ぷっ、ふふ」

 

「ふ、くく」

 

「「アハハハハハハ」」

 

 

お互いに謝りあうのが可笑しくて、吹き出してしまった。

 

 

「ふふ、なんかもうどうでもよくなっちゃった」

 

「ああ、そうだな」

 

「それじゃあ、こんな話はもう終わらせて……」

 

 

僕は立ち上がり義手をつけ、クラリッサに手を差し伸べた。

 

 

「デートの続き、してくれる?」

 

「ああ、もちろん」

 

 

クラリッサが僕の手を取り、手をつないだままデートを再開した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「楽しかったね、クラリッサ」

 

 

すでに夜は更け、僕とクラリッサは寮への帰り道を歩いていた。

 

義手をつけていないので、袖が風で揺れる。

 

 

「ああ。こうして遊んだのは、1年前以来だろうか」

 

「そういえば、ここだったっけ。あの時の帰り道も」

 

 

クラリッサに告白された、あの場所だ。

 

 

「そ、そうだったな……」

 

 

クラリッサが少し口籠もりながらも答えてくれる。

……言うなら今かな。

 

僕は足を止め、義手をつけてポケットから昨日買った緑の石があしらわれたネックレスを取り出した。

 

 

「クラリッサ、少しじっとしててくれる?」

 

「え?」

 

 

クラリッサの背後に回り、後ろからクラリッサの首にネックレスをつけた。

 

 

「これって……」

 

「僕からのプレゼント。貰ってくれるかな?」

 

「え、いや、どうして……私は誕生日でもないのに……」

 

「クラリッサに似合うと思って。それじゃ、ダメかな」

 

「いや、ダメではない!……すごい嬉しい……」

 

 

良かった。気に入ってもらえたようだ。

 

僕はクラリッサに後ろから抱きついた。

 

 

「しょ、将冴!?何か……」

 

「ねぇ、クラリッサ。1年前の返事、してもいいかな?」

 

「っ……あ、ああ」

 

 

クラリッサの鼓動が早くなっている。

多分、僕も……。

 

 

「クラリッサ。僕は、クラリッサのことが……

 

 

大好きだよ」

 

 

言った。心臓がドクドク鳴ってる。

 

 

「……」

 

 

クラリッサは無言のまま僕の手を解き、僕の方を向き、そのままキスされた。

 

 

「んっ……」

 

 

おそらく時間にして10秒くらいだけど、すごく長く感じた。そして、ゆっくりと唇を離した。

 

 

「……はぁ。私の気持ちは、あの時から変わらない。私は、将冴の嫁だ」

 

「ふふ、それはまだでしょ。僕の彼女さん」

 

 




……ふぅ。

ご愛読ありがとうございます。
これにて、IS〜偽りの腕に抱くもの〜完結でござi(ry


嘘です。まだ続きます。
とりあえず、大きな問題が片付いたというところですかね。

さて、今日も引き続き、原作キャラの変更点を。
今回は千冬です。

織斑千冬

原作と変わらず、世界最強のブリュンヒルデ。
原作との大きな違いは、家事ができるようになったこと。
これも将冴が粘り強く教え込んだおかげ。
そして、将冴に対しては全面的に甘い。将冴に一度も出席簿アタックをしていない。
弟である一夏は、今の千冬を見て「なんか今まで見たことないような表情で将冴を見ている」と語ったとか。


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119話

どんどん糖分上げていけるように頑張ります。

ドイツ編、まだ続きます。


 

お互いに気持ちを確かめ合い、お互いになんだか気恥ずかしい感じがしながらも、手をつないで寮に帰った。

 

その時、運悪く……と言っていいのかわからないけど、おそらく夕食を食べに行こうとしているラウラとルカさんに鉢合わせた。

 

 

「あ、ラウラにルカさん……」

 

「兄さん、帰ってきたのか。今日は車椅子ではないのか?」

 

 

ラウラはいつも通り……だけど……

 

 

(ニタァ……)

 

 

ルカさんの顔がエライことになってる。

そりゃそうだ。手を繋いで寮に帰ったら、ルカさんならすぐにわかる。

 

多分見られてなくてもわかる人だ、ルカさんは……

 

 

「将冴くぅ〜ん?クラリッサのこと借りてもいいかなぁ?」

 

「る、ルカ……顔が怖いぞ」

 

 

クラリッサが僕に助けを求めるような目で、僕を見てくる。

 

今のルカさんは、拒否しても押し通されるだろう……拒否すれば……。

 

 

「それはいいんですけど……」

 

「しょ、将冴!?」

 

「クラリッサとご飯食べた後でいいですか?」

 

 

堂々とそう言うと、ルカさんは目をキョトンとさせた。

 

ラウラは何が起こっているのかわからず、頭にハテナを浮かべ首を傾げている。

 

 

「返答がないので、肯定ということにしておきますね。行こ、クラリッサ」

 

「あ、ああ」

 

 

僕はクラリッサの手を引いて食堂に向かった。

 

 

「……ルカ。兄さんとクラリッサは、何かあったのか?」

 

「ふふ、ふふふ。やるわね、将冴君……」

 

「おい、どうした……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

クラリッサと2人で向かい合って夕食を食べていると、何やら周りから視線が突き刺さる。

 

 

「ねぇ、なんかあの2人……」

「雰囲気変わったというか……」

「もしかして……」

「いや、もしかしなくても……」

 

 

そんな声が聞こえる。

あはは、もうバレてる……

 

 

「将冴、どうした?」

 

「ううん、なんでもないよ。……そうだ、今度2人で夕食に行こうよ。ここだと落ち着かないし」

 

「え、あ、そ、それは……またデートの誘いということでいいのか……?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「うっ……そうはっきり言われると、照れくさいな」

 

 

顔を赤くし、モジモジとそう呟くクラリッサ。

ふふ、可愛いなぁ、本当に。

 

 

「まだ実感ない?」

 

「その……1年前から、こうなることを待っていたから……いざそうなると落ち着かない」

 

「まぁ、僕も似たようなものかも……初めての彼女だし」

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ?」

 

「そうか……私が初めて……」

 

 

さっきよりも頬を赤くして、嬉しそうに呟いている。

 

ああ、本当に……恋人同士になるとどうしてこう愛おしくなるのか。

 

 

「ねぇ、聞いた?初めてだって」

「初夜?今夜が初夜?」

「クラリッサが上に?」

「いや、将冴君が意外と獣の様に……」

 

 

女性だけのコミュニティーだと、こうも大っぴらに話をできるものなのかな……?

 

そうこうしているうちに夕食を食べ終わる。

やっぱりリョーボさんの作るご飯は美味しい……

 

 

「将冴君食べ終わった?クラリッサ借りてくわね!」

 

「え、ルカ!?」

 

 

どこから現れたのか、ルカさんがクラリッサの背後に……。

 

 

「皆の者、であえ!」

 

 

ルカさんが叫ぶと、食堂にいた人たちがガタッと立ち上がり、クラリッサを取り囲んだ。

 

 

「な、なんだお前たち!?やめろ、触るな!」

 

「連行しろ!」

 

『イエス、マム!』

 

 

クラリッサを羽交い締めにして、どこかへ連れ去ってしまった。

 

いや、もうポカーンだよ……。

 

 

「じゃあ、将冴君。クラリッサ借りてくわね。あ、ちゃんと返すから大丈夫よ」

 

 

ものすごくいい笑顔でルカさんも後を追った。

 

これ、助けに行ったほうがいいの?

 

 

「まったく、騒がしい子達だね」

 

「あ、リョーボさん」

 

 

キッチンの方から、リョーボさんが出できて、さっきまでクラリッサが座っていた席に座った。

 

 

「まぁ、女の軍人に男ができるっていうのは、少し珍しいからね。あの子たちは、ISの特殊部隊っていう、近づき難い立場でもあるし」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 

なんとなく納得できてしまった。今の女尊男卑の世界では、あり得る話か……。

 

 

「見つけたのかい?なんでも話せる人は」

 

 

昨日のことか。

 

……うん、今ならはっきりと言うことができる。

 

 

「はい、見つけました」

 

「そうかい。おめでとさん。恋人ができたことにも、ね」

 

「ありがとうございます」

 

 

リョーボさんには、本当に感謝してもしたりないな……。

 

 

「兄さん」

 

「うわっ、ラウラ!?」

 

 

いつからいたのか、僕の隣でラウラが立っていた。

 

 

「クラリッサが恋人になったのか?」

 

「う、うん……」

 

「そうか……なら、あまり兄さんには近づかない方がいいのだろうか……」

 

「え?どうして?」

 

「兄さんとクラリッサの時間を邪魔してしまうではないか」

 

 

この妹は……なんとも嬉しいことを言ってくれる。

でも、僕としても、そんなことは望んでいない。

 

 

「ラウラ。そんなの関係ないよ。ラウラは僕の妹なんだから」

 

「し、しかし……」

 

「気にしないの。いつもみたいに、僕を助けてよ。ね?」

 

「兄さん……」

 

 

ラウラが目を潤ませる。

ふふ、世話の焼ける妹だな。

 

 

「そうだ、シャルロットにも伝えなければ!シャルロットも兄さんの妹だからな!」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 

僕の言葉を聞く前に、ラウラは自室に向って駆け出していた。

 

あぁ……シャルに知られると面倒なのに……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

夕食の後片付けを手伝って、部屋に戻りベッドに倒れこんだ。

 

頭が痛い……義肢を付けすぎたかな……。

こういう時はさっさと眠るのが一番なんだけど、クラリッサが帰ってくるのを待って……

 

 

「ただいま……」

 

 

ゆっくりと扉が開いて、クラリッサが疲れた顔をして入ってきた。

 

まぁ、強引に色々聞かれたんだろうなぁ……。

 

僕は体を起こし、ベッドの淵に座った。

 

 

「おかえり、クラリッサ。お疲れだね」

 

「うむ……今日あったことを根掘り葉掘り、な。あ、ダイモンのことは言ってないぞ」

 

「うん、ありがとう。でも、さすがに隠しきれるほど、小さな問題じゃないよね」

 

「そうだな。今までの事件の黒幕となれば、IS学園にも報告をしなければ……」

 

 

クラリッサの言う通りかもしれない。

 

でも……

 

 

「……いや、IS学園にはまだ伝えない」

 

「え、しかし!」

 

「束さんから、話を聞いてからでも遅くないと思う。それに、ダイモンは僕を狙っている気がする……僕がIS学園から離れていれば、襲撃される可能性は低いと思うんだ」

 

「そうかもしれないが……」

 

「大丈夫、IS学園には伝えないけど、ラウラには伝えるつもり。昨日の襲撃の件もあるからね。まぁ、ラウラにもあまり口外しないように言うけど」

 

「だが、ダイモンを早く捕まえたほうが……」

 

「……多分だけど、束さんもダイモンを追ってる」

 

「篠ノ之博士が?」

 

 

確信ではないけど、そんな感じがする。

 

それに、オータムさんも……。

 

 

「うん。あの束さんが、今も捕まえられずにいるダイモンを、僕らが捕まえることはできないと思う」

 

「そうか……」

 

 

まぁ、これ以上考えても、いい答えは浮かばないと思うし。

 

 

「まぁ、今考えても仕方ないよ。今日は休もう?」

 

「そうだな」

 

「一緒に寝る?」

 

「え!?」




付き合いたてでドギマギするクラリッサ可愛い。
まじ可愛い。

さて、今回の原作キャラはラウラです。


ラウラ・ボーデヴィッヒ

原作と違い、千冬と会う前からそれなりの実力と自信を持っている。
ヴォーダンオージェの拒絶反応に悩まされはするものの、自力で克服している。
また、原作では一夏に嫁宣言をするが、今作では将冴の妹に。


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120話

とうとう120話……のんびりだらだら書きすぎましたかね。

少しスピードアップしたいですが、やりたいことも多くてですね……皆様、もうしばらくおつきあいくださいませ。


 

「え?僕にハーゼ新兵の訓練を?」

 

 

朝、クラリッサとラウラと一緒に朝食を取っていると、ラウラから頼みごとがあると言われ、聞いてみると意外な頼みごとだった。

 

 

「それって、僕がやる必要あるの?」

 

「兄さんは私と同じくらい……いや、私より強い。そんな兄さんだから頼むのだ。私は今日、ルカと視察に向かわなくてはならなくてな……頼めるのは兄さんだけなのです」

 

「んー、でも僕はハーゼの隊員じゃないし……」

 

「兄さん……」

 

「うっ……」

 

 

そんな上目遣いで見られたら、断りづらいじゃないか……。

 

 

「いいじゃないか、将冴。今日は私もハーゼで少し仕事がある。その間だけでも頼めないか?」

 

 

うぅ、クラリッサからも言われてしまっては……断るのは無理、か。

 

 

「わかった。でも、大したことはできないからね?教えるなんてできないから……模擬戦くらいかな」

 

「それで構わない!ありがとう、兄さん!」

 

 

この2人には、今後も勝てそうにない……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「……というわけで、今日1日だけ皆さんの訓練を見ることになりました」

 

 

ハーゼの訓練場で、今年入ったという新兵(全員年上)の前で挨拶。車椅子のまま……。はは、一番年下なのに教官の真似事なんて……。

 

新兵の皆さん、ざわざわしてるよ。そりゃそうだ。本当なら、僕が訓練に参加するものだもの。僕は一応高校生なんですよ。

 

 

「えっと、僕は教官としては何もできないので、基本のメニューは皆さんに任せます。それが一通り終わったら模擬戦を……」

 

「将冴君!」

 

 

僕が話している途中で1人が手を挙げた。

 

 

「はい、なんですか?」

 

「その模擬戦、将冴君とやるんですか?」

 

「ええ、そのつもりですが……」

 

「将冴君に勝ったら、何か景品はありますか?」

 

「へ?」

 

 

その瞬間、この訓練場にいる皆さんの目がギラリと光る。

 

 

「それじゃあ、将冴君に勝った人の言うことを漏れなくなんでも聞いてくれるってことでいいですか?」

 

「いや、ちょっ……」

 

『異議なし!』

 

 

え〜……え、えぇ……。

 

 

「ああ、もうそれでいいので、早く始めてください……」

 

「よっしゃあ!始めるわよ!」

 

『イエス、マム!』

 

 

もうやだ、この人たち……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ふう……こんなものか……」

 

 

ハーゼの司令室で書類を片付けて終わらせる。

そこまで量もなかったし、案外早く終わったな。

 

将冴のほうも、そろそろ終わった頃だろうか。

 

 

「訓練場の方へ行ってみるか」

 

 

将冴が、新兵たちに負けるとは思えないし、今頃全員息を切らしている頃だろう……

 

 

 

 

 

「これはなんだ……?」

 

 

訓練場に着くと、そこには異様な光景が広がっていた。

 

テムジンを纏った将冴の攻撃を受けて倒れる新兵……しかし、その新兵達はすぐにスッと立ち上がり、将冴に向かっていく。

 

フルスキンで将冴の表情はわからないが、肩で息をしているのがわかる。

 

 

「おい、これは一体なんなのだ?」

 

 

順番待ちなのか、ISを纏ってない1人の新兵に話を聞く。

 

 

「クラリッサ大尉!?」

 

 

今まで気づいていなかったようで、私に向かって敬礼する。

 

 

「ああ、楽にしていい。それで、これは……」

 

「そ、その……模擬戦で将冴君に勝った人は、将冴君がなんでも言うことを聞いてくれる、と……」

 

「なに?」

 

「ヒッ!?」

 

「お前達……私の将冴に……」

 

「あ、あのぉ……」

 

「余っている訓練機はどこだ?」

 

「あ、あっちです……」

 

 

新兵共……私を怒らせるなよ?




ドイツ編、まだ続きます。と言っても、今週中でドイツ終わるのではないかなという感じですね。

今回も、原作キャラの変更点を。今日は篠ノ之束です

篠ノ之束

原作よりも交友関係がすこ〜しだけ広がっています。
そして将冴にゾッコン。
原作では大体の黒幕のようになっていますが、今作の束は白い。
将冴のことになると、少し病む。


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121話

風の噂で、モバゲーでISのゲームがあると聞いて見に行きました。

なんでメインヒロイン(クラリッサ)がいないんでしょうね。どうなってんですかね、モバゲーさん。

さて、今回は少しだけ時間を戻して、模擬戦が始まるところからです。


 

新兵の皆さんがストレッチや筋トレなんかをそつなくこなしていき、訓練機の準備を始めた。

 

IS学園ほど数があるわけではないようで、出てきたのは3体のIS。

 

 

「ISはこれで全部?」

 

「いえ、あと1体ありますが、それは緊急時用の機体になってます」

 

「そう、わかった。もう模擬戦は始められるの?」

 

「はい、いつでも」

 

「それじゃあ、順番決めてください。僕は準備して待ってますので」

 

 

僕はそう言って、テムジンを展開。新兵の皆さんは、一箇所に集まりゴニョゴニョとなにやら作戦会議しているみたいだ。そんなに勝ちたいのかな……。

 

今日はいろんなフォームを使いまわしながら戦おうかな、などと考えていると、新兵の1人が僕のところまで走ってきた。

 

 

「将冴君、模擬戦の形式について相談が……」

 

「なんですか?」

 

「全員順番じゃなくて、成績上位3人と将冴君の乱戦にしたいんですけど……」

 

「乱戦?」

 

 

ドイツでは、そんな練習もしているのかな?

まぁ、僕は構わないけれども……。

 

 

「まぁ、いいけど、その場合は「いいんですね!ありがとう!みんな、許可おりたわよ!準備準備!」

 

 

最後まで言い切る前に遮られた。

 

乱戦の時はさっきの約束は無しって言おうと思っていたのに。

 

 

「はぁ……強引だなぁ」

 

「準備できました!」

 

「そして早いときた……」

 

 

訓練場には3人の新兵がISを纏って立っていた。

上位3名って言ってたけど、どれほどの実力なのか……。

 

 

『将冴君、準備はいい?』

 

 

アナウンスが流れる。

はぁ、諦めるしかないか。

 

勝たなきゃなにされるかわからないし、本気で向かおう。

 

 

「いつでも始めてください」

 

『では、カウント。5、4、3、2、1、試合開始!』

 

 

開始のブザーが鳴るとともに、新兵の3人が一斉に僕に向かってくる。

 

 

「うわぁ〜、それは酷いんじゃ……」

 

「戦闘に酷いもクソもないさ!」

 

「将冴君、覚悟!」

 

「1日私のものにしてあげる!」

 

 

とても僕より年上とは思えない。

だけどまぁ、なんとなくこうなるのではないかと思っていたよ。乱戦って聞いて。

 

 

「アファームド」

 

 

テムジンからアファームドにフォームを変えて、両手にサブマシンガンを持つ。

 

 

「乱戦なんだから、満遍なく戦ってほしいんだけどね!」

 

 

引き金を引き、サブマシンガンが火を噴く。

敵が3体だと、弾幕としては薄いか……止めれても2人。1人は……

 

 

「こっちがガラ空き!」

 

 

弾幕が意味をなさない近距離まで近づく。

 

弾幕を掻い潜って僕に迫った新兵は近接ブレードを手に斬りかかってくる。

 

 

「っく!」

 

 

右手のビームトンファーを起動させてブレードを受け止める。

さすがに軍で訓練されてるだけはある……。

 

 

「将冴君でも、3人はキツイでしょ?怪我をする前に降参してくれると助かるんだけど」

 

「申し訳ないですけど、僕には大事な人がいます。その人のためにも不貞をはたらくわけにはいかない。降参は以ての外です」

 

「男前なこと言うけど、3人の相手はどうするの?」

 

「簡単な話です」

 

 

空いてる左手にビームライフルを展開し、新兵のお腹の部分に押し付けた。

 

 

「へ?」

 

「1人づつ倒していけばいいだけです」

 

 

引き金を3回引く。

近距離でビームライフルを受ければ、かなりの衝撃が新兵を襲う。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

「これであと2人です!」

 

 

ビームライフルを受けて隙だらけになったところで、顔面めがけて回し蹴りを繰り出す。

 

新兵はなんの抵抗もできず、壁に激突した。

 

 

「ふぅ、やり過ぎたかな」

 

「あんなあっさり!?」

 

「う、狼狽えるな!こっちはまだ2人いるんだから!一斉に仕掛けるわよ!」

 

「了解!」

 

 

残った2人が僕の周りを飛び回る。

撹乱、かな。

 

その状態のまま、アサルトライフルによる射撃が、僕に向かって放たれた。

 

 

「これは……」

 

 

周りは2人が飛び回っていて逃げ道がなく、アサルトライフルによる射撃で、少しずつシールドエネルギーが削られる。

 

一体多数は経験なかったけど、こんなこともされるのか。

 

 

「動けないでしょ?このまま私達の勝ちよ!」

 

「将冴君を1日お世話……愚腐腐腐」

 

「確かに動きにくくはなりました。でも……」

 

 

これくらいの弾幕、福音に比べたら!

 

 

「多少のダメージ覚悟で耐えれば問題はない!ライデン!」

 

 

フォームをライデンに変えて、肩のパーツを開く。

 

エネルギーを抑えて……

 

 

「70%、バイナリーロータス!」

 

 

両肩から極太のビームが放たれ、僕はそのまま周りを吹き飛ばすように、グルンと回った。

 

 

「ちょっ、そんなのアリ!?きゃあ!?」

 

「私の潤いがぁ〜!?」

 

 

バイナリーロータスに巻き込まれた2人は壁に激突。

ふぅ……囲まれた時は焦ったけど、いい経験をさせてもらったかな。

 

 

「3人とも、もう戦えないよね?終了の合図を……」

 

「まだよ」

 

「へ?」

 

 

声のする方を見ると、僕が最初に蹴り飛ばした新兵がスッと立ち上がった。

 

 

「まだ終わってないわぁ!」

 

「こっちだってぇ」

 

 

倒したはずの3人が立ち上がり、まるでゾンビのようや足取りでにじり寄ってくる。

 

いや、なにこれ!?

 

 

「ちょっ、3人とも〜?」

 

「「「全ては我等の潤いのために!!」」」

 

「なにその掛け声!?」

 

 

僕はすぐにテムジンに換装し、スライプナーで撃ち落とす……が

 

 

「腐腐腐、さぁ、降参しなさぁい」

 

 

全く効いていなかった。

 

 

「大丈夫よ、痛くしないからぁ〜」

 

「そう、先っちょだけよぉ〜」

 

「なんなんですかその執念は!」

 

 

スライプナーで切り捨てるも、すぐにスッと立ち上がり、僕に近づいてくる。

 

何度切り倒しても、何度撃っても、この人たちは倒れない。もうエネルギーほとんど無いのに!

 

 

「さぁ」

「お姉さんたちと」

「楽しいことしましょう!」

 

「ヒッ!?」

 

 

ごめん、クラリッサ……僕は負けてしまったよ……。

 

 

「やめんかこの馬鹿者どもがぁ!!」

 

「がふぅ!?」

 

 

僕が諦めた瞬間、誰かの叫び声とともに、新兵の1人が吹っ飛んだ。

 

一体なにが……。

 

 

「将冴、大丈夫か!?」

 

「く、クラリッサ……?」

 

 

新兵と同じISを纏ったクラリッサがそこにいた。

 

 

「待ってろ、こいつらにサンズリバーを渡らせる」

 

「クラリッサ大尉!こ、これは……」

 

「その、深い意味はなくてですね……」

 

「弁明は地獄でしろ」

 

 

3人は病院送りとなった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

クラリッサがきっちり事後処理を新兵に押し付け、僕とクラリッサは市街地にある小さなレストランに来ていた。

 

 

「将冴、すまなかった。私がちゃんと見ていれば……」

 

「クラリッサのせいじゃないよ。僕が安請け合いしたせいで……」

 

「どうして、あんな約束を受けたんだ?」

 

「その……強引に押し切られて……」

 

 

女性同士の結束って、あんなに恐ろしいものなんだね……。数に比例するのかな。

 

 

「重ね重ね、本当にすまない……」

 

「謝らないで。クラリッサが助けに来てくれて、僕嬉しかったし、惚れ直したかな」

 

 

僕がそう言うと、クラリッサの顔が真っ赤に染まる。

 

 

「う、そ、その、直球で言うのは卑怯だ……」

 

「僕の彼女なんだから、別にいいでしょ?」

 

「あまり恥ずかしいことを言うなぁ!」

 

「ごめんごめん。これで許して」

 

 

僕はクラリッサの唇に軽くキスをする。

クラリッサはなにが起こったのかわからず、目をパチクリさせている。

 

 

「僕からするの初めてだね」

 

「や、やっぱり卑怯だ!」

 

「えぇ〜、じゃあどうしたら許してくれる?」

 

「えっ……そのぉ……」

 

 

ゴニョゴニョと小さく呟いて、聞こえない。

 

 

「なに?」

 

「だから、二人っきりのときに、もう一回してくれたら……」

 

 

うっ、これは僕も顔が熱くなる……。

 

 

「えっと……それじゃあ、寮に戻ってから……」

 

「……ぅん」

 

 

レストランで食べた料理の味を、僕は全然覚えていない。




ドイツ編書いてるとすごく楽しいですね。

あと2話で、ドイツ編おわらせようと思っています。
アメリカ編……実はまだあまり決めていないんだ……。

現実逃避のためにキャラ紹介いきます。
今日は織斑一夏と篠ノ之箒、セシリア・オルコットの2人。


織斑一夏

将冴と小学生のときからの付き合いというところ以外はあまり原作と変わったところはない。ただ、見せ場を将冴に何度も取られており、ハーレムが3人で止まった。

篠ノ之箒

原作と変わったところは少ないが、大きなところで言えば、将冴のおかげで力の使い方を正しく知ることができ、束ともわだかまりが取れた。

セシリア・オルコット

初登場時の例のアレがなくなった以外、変わった場所はない。


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122話

前話の前書きで書いたISのゲーム。
とりあえずクラリッサが出るまでいろんな資源を集めることにしました。

レアガチャ?一回しか引いてません。シャルが出てきました。どうせなら唯一の年上の楯無が良かったです。

メダルが300枚あるけど……気にしない。


 

ドイツに来て6日目。

 

明日からアメリカに行かなければいけないので、旅行バッグに荷物を詰めている。クラリッサは仕事があるからと、朝から出ている。

 

はぁ……少しでも離れるのは寂しいものだ。昨日も一緒に寝てたから……うう、恋人になるとこんなにも……。

 

 

「兄さん?手が止まっているぞ?」

 

「え、あぁ、ごめんごめん」

 

 

ラウラが、今日は非番だからと手伝いに来てくれている。

僕と同い年で、妹なのに立派に仕事をしているなんて、なんとも変な感じだ。

 

 

「兄さん、これもか?」

 

「うん、全部詰めちゃって」

 

「わかった。しかし、こんなに着替えやらを詰めて……多すぎる気が……」

 

「アメリカ留学が終わった後は、束さんのラボに行くからね」

 

「そうだったか。まぁ、アメリカ留学では軍事訓練もすると言っていたから、着替えが多いにこしたことはないな」

 

 

さすが、現役軍人。いろいろとわかっている。

 

アメリカだと、洗濯できるかわからないからなぁ。

 

 

「兄さん、こっちは詰め終わったが……」

 

「ありがとう。こっちももう少しで終わるから、この後何処か出かけようか」

 

「本当か!」

 

「うん。ドイツで遊ぶって約束してたしね」

 

 

ドイツ行きのチケット取ってくれたお礼に、ね。

 

 

「そ、それなら、私は着替えてくる!」

 

「あ、うん。ゆっくりでいいよ……って、もういないし」

 

 

ドタバタと部屋を出て行ってしまった。そういえば、ドイツに来てからあまり構ってあげられなかったからなぁ。

 

……お兄さんってこういう気持ちになるものなのかな。

そういえば、シャルと連絡取ってないな。荷物も詰め終わったし、メールくらいしておこうかな。

 

えっと、携帯は……

 

 

「うわっ、なにこれ……」

 

 

メールが100件きてる……そういえばしばらく見てなかったけど……。

 

それに、これ全部シャルからだ……。

 

 

「えっとなになに……『ラウラから聞いたんだけど、ハルフォーフ先生と付き合うことになったの?』『話を詳しく聞きたいから、いつでもいいので連絡してね』『詳細聞きたいんだけど、今忙しいかな?』『詳細、早く』『まだ?』」

 

 

どんどん闇堕ちしていない?

うーん、本当は電話するべきなんだろうけど、シャルは日本かフランスにいるだろうから、時差が……。

 

メールにしておこう。

 

 

「えっと……『連絡遅れてごめん。その話は、日本に帰ってから、直接話すよ』」

 

 

こんな感じかな?

今から出かけるし、あんまり話す時間はないから……

 

 

ブブブッ、ブブブッ

 

 

え、携帯が鳴って……シャル!?早っ!

 

 

『散々焦らしておいて、まだお預け?お兄ちゃん酷いなぁ〜』

 

 

怒ってらっしゃる……すっげい怒ってらっしゃる……。日本に帰ってから怖いんだけど……。

 

 

「兄さん、待たせた!」

 

 

ばんっと扉が開き、ラウラが以前にレゾナンスでシャルが選んでいた服をきて現れた。

 

 

「あ、ラウラ。その服似合ってるね」

 

「本当か!?嬉しいぞ、兄さん!」

 

 

ふふ、臨海学校みたいに、恥ずかしがってタオル星人になることはなくなったみたいだね。

 

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「うむ、兄さんと二人で出かけるなんて初めてだから、楽しみだ」

 

「ふふ、あんまりはしゃぎ過ぎないでね」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「はぁ……」

 

 

今日もハーゼで書類の処理……この間終わらせたというのに、何故また……。

 

 

「クラリッサ、さっきからため息がうるさいわよ」

 

 

一緒に書類処理をしているルカが、そんなことを言ってきた。

 

 

「別に、ため息なんて……」

 

「将冴君と一緒にいれないのがそんなに辛い?」

 

「辛いに決まっているだろう!……ハッ!?」

 

「へぇ……辛いに決まってる、ねぇ……」

 

 

やめろルカ、そんなにニヤニヤするな。

 

 

「……失言だ、忘れてくれ」

 

「ねぇ、みんな聞いてー。クラリッサがー」

 

「やめろ!やめてくれ!やめてください、お願いします!」

 

 

何を言おうとしてるんだお前は!!

 

 

「目の前で惚気られるとイラっとするのよねぇ」

 

「悪かった。悪かったからそれ以上は……」

 

「しょうがないわね。ったく、あんたらのために手を焼いたのに、まさか私にダメージ飛んでくるなんて……」

 

「それは、なんか、すまない……」

 

 

ルカが居なければ、私と将冴は付き合うことはできなかったしな……。

 

 

「そういえば、明日から将冴君はアメリカ留学なんだっけ?」

 

「ああ。一週間アメリカに滞在する。そのあとは、将冴個人の知り合いのところへ行くようだ。日本に帰るのは、学校が始まる二日前……と言っていたな」

 

「それじゃあ、二週間は会えないのね?」

 

 

そう、そうなのだ……。

 

 

「せっかく付き合ったばかりで、二週間も会えなくなるのだ……。私はそれを考えただけで……」

 

「ちょっ、涙目にならないでよ!私が泣かせたみたいじゃない!」

 

「だ、だって、二週間……二週間だぞ!?私にとってこの二週間がどれだけ辛いか……」

 

「知らないわよ!」

 

 

うぅ、考えただけで憂鬱になってきた……今日、仕事終わったら将冴に甘えてやる。今なら堂々と甘えられるし……。

 

 

「まぁ、それはいいんだけど……クラリッサ」

 

「なんだ?」

 

「その資料、全部書くところ一つずれてる」

 

「なっ!?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「戻ったぞ……」

 

 

帰ってきたクラリッサはやけにグッタリしていた。帰るのも遅かったし、大変だったのかな。

 

僕はベッドの上で体を起こした。

 

 

「お疲れ様。大変だったみたいだね」

 

「あぁ……色々とな……。将冴は荷物の整理は終わったのか?」

 

「うん、ラウラに手伝ってもらったから、案外早く終わったよ。そのあとは、ラウラと少しだけ出掛けてきたよ」

 

「そ、そうか……」

 

 

クラリッサが寂しそうな顔をする。

……むぅ、僕も寂しかったのだけれど。

 

 

「クラリッサ、ここ」

 

 

僕の隣をポンポンと叩き、来るように促す。

 

クラリッサは少し顔を赤くして小さく頷き、僕の隣に腰を下ろした。

 

 

「ラウラに嫉妬した?」

 

「え、いや……」

 

「正直に」

 

「……少し」

 

 

気まずそうに呟く。

 

こういう仕草が、どうしようもなく可愛く見える。

 

 

「ふふ、可愛いなぁもう」

 

「か、からかっているのか?」

 

「からかってないよ」

 

「し、嫉妬したっていいだろう。付き合っているのだし、それに……明日からしばらく会えなくなるのだから……」

 

「そうだね……僕も寂しいよ、会えないのは」

 

 

付き合ったばかりなのに、すぐに離れなければいけないなんて……うう、僕は耐えれるだろうか。今日少し離れただけでかなり辛かったし……。

 

 

「……将冴、今日は、その……えっと……」

 

「うん」

 

「……甘えてもいいか?」

 

「いいよ」

 

 

そう答えると、クラリッサは僕に抱きついてくる。そしてそのままベッドに倒れこんだ。

 

抱き合っているので、当然顔が近くなるわけで……。

 

 

「んっ……」

 

「んむ」

 

 

そのまま何度もキスをした。




これは甘いのだろうか?

もう少し糖分多めの方がいいのかな……。
次でドイツ編最後。最後とはいうけど、少しアメリカに入ります。


そして、今日のキャラ紹介は鈴とシャルです。

凰鈴音

基本的なところは原作と変わりませんが、日本に来て初めてできた友達が一夏と将冴になります。多少、恋愛事に関して面倒臭い性格になっている。

シャルロット・デュノア

原作通り、デュノア社から性別を偽ってIS学園に転入。原作通り一夏のラッキースケベでバレる。が、一夏が将冴も共犯に仕立てる。一夏のなけなしの頭で三年間は大丈夫!と言われるも、将冴が早期解決するから任せろという事になり、知らぬ間にこの問題は将冴(に頼まれた束)によって解決。一夏に惚れる事はなく、将冴に気を向けるも、恋愛感情ではないことはわかっており、後々将冴の妹、ということになった。原作よりも腹黒さが増してる……かも。


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123話

とうとうドイツ編ラスト。そして、アメリカ編の始まりです。

作者、書いてて楽しかったです。ルカとかリョーボさんとか、久しぶりにかけたので。物語としても、かなり動きがありましたね。それにしても、2週間も書き続けたんですね、ドイツ編。毎日更新だから2週間で終わりましたが、毎週更新だったら14週間……84日もかかる計算ですね。

ちなみに、番外編合わせた全話で134話……この回を入れると135話。毎週更新だと135週で、日に直すと945日。だいたい2年半?

……こう見ると、なんか凄いですね……。


あ、今回はあとがきのキャラ紹介はありません。
次回はちゃんと書きます。


8月15日。

僕とクラリッサ、ラウラ、ルカさん、リョーボさんは朝早くの空港にいた。

 

以前のように、ハーゼのみんながお見送りできないらしい。まぁ、ハーゼを空っぽにするわけにいかないからね。

 

 

「将冴、忘れ物はないか?」

 

「大丈夫。寮で一緒に確認したでしょ?」

 

「うぅ、そうだが……」

 

「ほら、クラリッサが不安がっていてどうするの。もし忘れ物があっても、日本で渡してあげればいいんだから」

 

「し、しかし……」

 

「あんた、そんなに将冴君と離れたくないの?昨日散々ヤったんでしょ?それでしばらくもたせなさいよ」

 

「な!?私と将冴はまだそんなことはしていない!!」

 

()()、ねぇ〜」

 

 

ルカさんがクラリッサをからかっている。まぁ、クラリッサの言う通り、そんなことはしていないのだけれど。……お休みのキスとかはしてるけど……。

 

 

「兄さん、クラリッサの何をやったんだ?」

 

「ラウラ、それはそのうち知ることになるから今は気にしなくていいよ」

 

「?わかった」

 

 

ラウラにはまだ早い。そのうち、授業でやるだろうし、こういうのは女性同士がいい。

 

もう一人の妹、シャルに任せよう。……まだ怒ってるかな……。

 

 

「また寂しくなるね」

 

「リョーボさん」

 

「1年前、将冴がいなくなったら、みんなしばらく元気が無くなってね。クラリッサなんか、もう目も当てられなくてな……」

 

「そうだったんですか……」

 

 

あの頃は電話すらできなかったから。本当にクラリッサには辛い思いをさせてしまっていたんだと、改めて考えてしまう。

 

 

「また来な。部屋はいつでも用意してやるから」

 

「はい。春休みとかには、また来れるようにします」

 

「ああ、待ってるよ」

 

 

リョーボさんと握手をする。

本当に、リョーボさんにはものすごくお世話になった。クラリッサと付き合えたのは、リョーボさんのおかげだ。

 

 

「将冴君」

 

 

クラリッサをからかい終わったのか、ルカさんが声をかけてくる。

 

クラリッサは顔を真っ赤にしてルカさんを睨みつけていた。散々弄んだようだ。

 

 

「1年前は見送りできなかったから、今回はできてよかった」

 

「そういえば、そうでしたね」

 

「クラリッサには、こまめに連絡してあげて。将冴君と離れるの、本当に辛いみたいだから」

 

「はい。僕も、クラリッサの声聞かないと、辛いですから」

 

「お、一丁前に惚気るわね。羨ましいわね、このこの」

 

 

ルカさんが笑いながら小突いてくる。

 

 

「本当に、お世話になりました。クラリッサとこうなれたのも、ルカさんのおかげです」

 

「そうそう、感謝しなさい。結婚式には呼んでね」

 

「ふふ、まだ早いですよ」

 

「そう。ま、仲人くらいはやってあげるから」

 

 

だから早いと……まぁ、いいや。

 

みんなと話しているうちに、時間が迫っていた。

むぅ……クラリッサとしばらくお別れだ……。

 

 

「そろそろ時間なので、僕は行きますね」

 

「ああ、体には気をつけるんだよ」

 

「またハーゼに来てね」

 

「また日本でな、兄さん」

 

 

リョーボさん、ルカさん、ラウラが言葉をかけてくれる。

 

 

「クラリッサ、毎日電話するから」

 

「ああ。待ってるからな」

 

「うん」

 

「たかが2週間でしょうに……」

 

 

ルカさんに突っ込まれてしまっけど、その2週間は本当に辛いんだからね!

 

 

「それじゃ、行ってきます」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 

行こうとすると、クラリッサに止められ、そのまま唇を奪われた。前にもこんなことがあった気がするけど……まぁいいや。

 

あの時よりも長いキスをして、唇を離した。

 

 

「行ってらっしゃい」

 

「うん」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ずいぶん情熱的なキスだったわね」

 

 

案の定、ルカが煽ってきた。

予想できたとはいえ、そう言われると恥ずかしくも感じる。

 

 

「別にいいだろう。しばらくできないのだから」

 

「あぁ〜、はいはい。惚気は一人の時にお願いね」

 

 

そう思うのなら煽って来なければいいのに……。

 

 

「兄さん、大丈夫だろうか……」

 

「大丈夫ですよ、隊長。隊長の兄で、私の恋人なんですから」

 

「そうだな……さぁ、戻ろう。仕事だ」

 

「了解であります。隊長」

 

 

隊長も気になるのは当たり前か。

大丈夫、すぐに会える。

 

 

「リョーボさん、そろそろ戻りますよ」

 

「ああ、わかってるよ。さて、将冴とクラリッサの部屋を片付けなきゃね。痕跡は見つかるかねぇ」

 

「何を見つけようとしているんです!?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

クラリッサと別れた後、ナターシャさんがチャーターしたという飛行機の搭乗口を探して、荷物を膝に乗せて車椅子を動かしていた。

 

 

「えっと……3番搭乗口は……」

 

「Hey!そこの少年」

 

「ん?」

 

 

突然声をかけられ顔向けると、そこにはテンガロンハットをかぶり、何故かタンクトップに迷彩柄のズボンを履いた、ガタイのいい白人男性がいた。

 

……はて、こんな人知り合いにいただろうか?

 

 

「少年、3番搭乗口をお探しかい?」

 

「え、ええ。そうですが……」

 

「そうかそうか、待っていたぞ!さぁ、こっちだ」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

 

白人男性は、そう言うと車椅子に乗っていた僕を荷物ごと抱え上げ、車椅子を片手で持ち上げた。

 

え、その車椅子、色々機械積んでるからかなり重いんだけど……ていうか、この状況は一体!?

 

 

「あ、あの、僕一人でいけますから……」

 

「チッチッチッ、障害を持っているなら遠慮はいらない。これは健常者としての義務だからな!」

 

「は、はあ……」

 

 

暑苦しい……なんだこの人。一体誰なんだ。

 

傍目からみたら、誘拐されているようにしか見えないぞ。これ。

 

 

「さ、ここが3番搭乗口だ!ふむ、時間もピッタリ、パーティに間に合ったぜ!」

 

 

担がれたまま3番搭乗口を通り、飛行機へと乗り込んだ。

いや、なんで誰も止めないの?

この状況みたら異常だとわかると思うのだけれど……。

 

 

「さぁ、少年の席はここだ!」

 

 

どかっと席に座らせられる。ちょっと腰打った……

 

 

「食べ物飲み物は自由に頼んでくれ!ナタルから手厚くもてなせと言われているからな!」

 

 

ナタルって、ナターシャさんのことだよね……。3番搭乗口だから、間違いではなかったようだけど……本当にこの人はなんなんだ!

 

 

「あの、あなたは……」

 

「ん?俺か?」

 

 

白人男性はくいっとテンガロンハットをあげてこう言った。

 

 

「俺の名はイッシー・ハッター。よろしくな、友よ!」




待 た せ た な


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124話

とうとうアメリカ編です。

どのくらいの量になるか私も把握してないです。ドイツ編と同じくらいになるかもしれませんし、長くなるかもしれないですし、短くなるかもしれませんし……書いてみないとわかんないっす←


 

イッシー・ハッターさんにより飛行機に担いで乗せられ、間もなくして飛行機は離陸した。

 

しばらくして、シートベルト着用のサインが消え、僕はすぐにシートベルトを外した。

 

あっちに着くのは昼頃。フライトは10時間くらいだから……あと一時間くらいしたら時差調整のために寝ようかな。

 

実を言うと、昨日はクラリッサとずっとベットの中でお話ししてたから、少々寝不足だ。

 

しかし、この飛行機……さすがはチャーター機というかなんというか……。少し豪華なホテルの個室のようだ。……お金のかけるところ違わないか?

 

 

「さぁ、少年。長いフライトになるぞ。何か食べるか?それとも何か飲むか?ドリンクはなんでもあるぞ!」

 

「えっと……それじゃあ水を」

 

「水でいいのか?欲がないな!ハッハッハ!」

 

 

暑苦しい……この人と10時間一緒なのか……周りにはいないタイプだから、どう対処したものか。

 

イッシーさんは僕に水のボトルを渡してくれる。

彼は手にウイスキーの瓶を持っていた。呑むのか……

 

っと、そういえば僕の自己紹介をしていなかった気がする。

 

 

「イッシーさん、挨拶が遅れてしまいました。ご存じかもしれませんが、柳川将冴です」

 

「ハッハッハ、わざわざ挨拶か!礼儀正しい日本人らしいな!よろしくな、ショウゴ!俺のことはハッターとでも読んでくれ!そっちの方が呼ばれ慣れているんだ」

 

「わかりました。ハッターさん」

 

 

ハッターさんは、それでいいと言いながらグラスにウイスキーを注ぎ、ぐいっと一口で飲み干した。

 

僕はそれを見ながら、水を少しずつ飲み込んだ。

 

 

「……ハッターさんは、ナターシャさんのお知り合いってことでいいんですよね?」

 

「ん?ああ、そうだ。ナタルとは一緒の部隊でな。階級はあっちの方が上で、こんな風にこき使われているってわけだ。ま、酒が飲めるのはありがたいがな!」

 

「やっぱり、ハッターさんも軍人なんですね」

 

「軍曹だ。ナタルは少尉。天と地の差だな。まぁ、今のご時世、女が優遇されるのは仕方ないがな。ISなんてものが出ちまったからな」

 

 

軍でも、女尊男卑の思考はかなり根付いているようだ。

ドイツ軍では、男の人と会ったことないからなぁ……。こういう話はあまりできなかった。

 

 

「でもまぁ、ショウゴのように男の操縦者が出て来てくれれば、これから世界も変わっていくさ。頑張ってくれよ!ハッハー!」

 

 

バシバシと背中を叩かれる。

痛いです、痛い痛い。

 

 

「むむ?さっき担いだときにも気になったが、かなり体が締まっているな!結構結構!あっちについてからの訓練が楽しみだな」

 

「はは……その言い方だと、訓練もハッターさんと一緒なんだね……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

酔っ払ったハッターさんを相手しながら、仮眠を取りつつ到着を待った。

 

ハッターさんの相手をして、かなり疲れた……暑苦しいし面倒臭いんだもの、あの人……。

 

 

「む……ショウゴ。もう着くぞ!シートベルトを締めろ!」

 

 

いちいち叫ばなきゃダメなんですか……。

まぁ、言われた通りシートベルト締めますけど……。

 

機長からのアナウンスが入り、着陸態勢に。

着陸の衝撃で少し揺れたが、何も問題なく着陸した。

 

 

「着いたな。さ、荷物は俺が持とう。アメリカの大地への第一歩は自分で踏みしめるんだ!……お前の場合だと車椅子だから一歩ではないな」

 

「はは、そーですね」

 

 

おかしいな、仮眠は取ったはずなのに疲れた……。

 

ハッターさんは僕の荷物を持ってくれる。僕は車椅子に乗り移り、飛行機を降りた。

 

 

「それで、これからどうするんです?確か、午後から顔合わせっていう予定のはずですが……」

 

「ああ、そうだ。空港から車で向かうことになっている。そうそう、空港に迎えが来てるぞ。お前の知ってるやつだ」

 

「知ってる人……」

 

 

アメリカで、僕が知っている人なんて、あの人しかいない。

 

 

「ショウゴ!」

 

 

僕を呼ぶ声がし目を向けると、そこにはブロンドの綺麗な髪を揺らし、手を振るナターシャさんの姿があった。

 

 

「おう、ナタル!出迎えご苦労だな!」

 

「ハッターはお呼びじゃないわよ!ショウゴぉ〜、あのとき以来ね。もう会いたかったわ!」

 

「ナターシャさん、お久しぶりです」

 

「そんな他人行儀じゃなくていいわ。ナタルって呼んで」

 

 

うぅ、年上の人を相性で呼ぶのはなんだか気が進まない……。

 

 

「さ、長いフライトで疲れたでしょ?車椅子押すわね」

 

「あ、自分でできますから」

 

「いいからいいから」

 

 

ナターシャさんはなんとも嬉しそうに僕の車椅子を押してくれる。

 

 

「ふふ、ショウゴと会えるのを楽しみにしていたのよ!アメリカにいる間は、私になんでも言ってね」

 

「お、お世話になります……」

 

「おい、待てよ!お前人使い荒すぎるだろう!ショウゴを連れてきたのは俺だぞ!てか、俺とショウゴで扱い違いすぎるだろうが!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ナターシャさんに連れられて車に乗り込む。車にはすでに運転手がいて、助手席にハッターさん。後部座席に僕とナターシャさんが座った。

 

 

「チーフ、車出して。軍の養成所ね」

 

「ああ」

 

 

チーフと呼ばれた運転手さんは、車を発進させた。

横顔しかわからないけど、ハッターさんと同じくらいの歳かな?

 

かなり落ち着いた雰囲気を醸し出してる。

 

 

「おい、ナタル。わざわざチーフに運転させなくてもいいじゃねぇか」

 

「あら、頼んだら快く引き受けてくれたわよ?」

 

「だからと言ってよ、チーフだって代表候補生の指導があるんだぞ?」

 

「あら、知らないの?今日はショウゴと候補生たちの顔合わせで、指導はないわよ」

 

「し、知らねえぞ!そんなこと」

 

「まぁ、ハッターはショウゴの迎えに行ってもらってたからね」

 

「お前なぁ……前もって言えよ、そういうことは」

 

「別にいいじゃない。それに、ハッターは私よりも階級下なんだから、敬意を払いなさい」

 

「うるせぇ!俺より年下じゃねぇか!」

 

 

ナターシャさんとハッターさんが言い争っている。

あのぉ、車内でそういうことは……。

 

 

「二人とも。少し静かにしないか。彼が困っているぞ」

 

 

チーフさんが二人を止めてくれる。

なんだか、アメリカでやっとまともな人と会えた気がするよ。

 

 

「ご、ごめんなさいショウゴ!ちょっと熱くなっちゃって……」

 

「すまないな、ショウゴ」

 

「いえ、気にせずに」

 

 

アメリカでは、チーフさんに頼ったほうがいいかもしれないと、心の中にとどめることとなった。




ハッターに続き、チーフも出てきました。

バーチャロン知らないと、何が何だかわからないですね……申し訳ない。


今日のキャラ紹介は山田真耶。


山田真耶

原作と変わらず、最終決戦兵器(胸部装甲的な意味で)。
相変わらずのドジっ子。
今作では、おそらく一番のむっつり。
将冴の弟属性にコロっとやられてしまった。


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125話

今日も元気に更新更新……と言いたいですが、あまり元気ではありません。

へへ、試験終わった後に書くなんて偉いだろ……誰か褒めてくれよ……(涙目


 

一時間ほど車で移動し、到着したのはいかにもな基地だった。空港から思ったより近いんだな……。

 

 

「ショウゴ、ちょっとまってね。今降ろすから」

 

 

ナターシャさんが反対側の扉から車を降り、回り込んで僕の方の扉を開けた。

 

別に一人で降りれるのだけど……。

 

 

「おうおう、少尉殿は甲斐甲斐しく少年のお世話か」

 

「私がアメリカに呼んだんだもの。世話くらいするわ。ショウゴが居る一週間はモデルの仕事も全部休みにしたんだから」

 

「え、そうなんですか!?」

 

 

わざわざそんなことをしなくても……手足はないけど、日常生活にはそんなに困らないのに。

 

 

「ショウゴは気にしなくていいわ。私が好きでやってるんだから」

 

「いや、でも……」

 

「ほらほら、気にしないの。車椅子出して、今乗せてあげる」

 

 

なんだか申し訳ない気分になりながらも、拡張領域から車椅子を取り出す。ナターシャさんは、僕を抱き上げゆっくりと車椅子に乗せてくれる。

 

クラリッサに見られたら、すっごい怒るだろうな……。

 

 

「ナターシャ、いつもの部屋に候補生を待たせてる。私は事務所に寄って行くから、先に行っていろ」

 

「了解よ、チーフ」

 

「ハッター、お前は私とこい。先日の報告書に不備があったから書き直しだ」

 

「ガッデム!?嘘だろ、チーフ!」

 

「嘘ではない。書き終わるまで今日は帰るな」

 

「マジかよ……」

 

 

ハッターさんは目に見えて落ち込みながら建物に入っていく。チーフさんもそれに続いていった。

 

 

「なんだか、ハッターさんといると疲れますね」

 

「あ、ショウゴもそう思う?暑苦しいのよね、ハッターは」

 

 

ナターシャさんも同じ考えだったようだ。

あの人と、うまく付き合う方法を見つけないと、こっちにまで暑苦しさが移りそうだ。

 

 

「あ、そういえば、チーフさんって本名はなんて言うんですか?」

 

「チーフの本名?……そういえば私も知らないわね」

 

「知らないんですか?」

 

「ええ、初めて会った時からチーフって呼んでるから。まぁ、困ったこともないし、いいんじゃないかしら」

 

「そうですか……」

 

 

アメリカ……謎多き未踏の地……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ナターシャさんに車椅子を押され、建物に入る。

中には、まさに軍人っという風な男の人がちらほら。全員がナターシャさんを見て敬礼し、僕には何故か熱い眼差しを送ってくる。……寒気がしてきた。

 

ドイツ軍では見なかったからなぁ……ハーゼにしか行ってなかったら当然か。

 

 

「みんな、ショウゴを見る目が違うわね。さすがは世界に二人だけの男性IS操縦者」

 

「というと?」

 

「ショウゴとブリュンヒルデの弟さんは、世界の男性の希望の的なのよ。今の女尊男卑の世界を変えてくれるってね」

 

 

飛行機の中で、ハッターさんにも言われたな。

まぁ、考えてみれば確かにそうか……僕の場合はかなり特殊な気がするけど……。

 

 

「さ、着いたわよ。ここで顔合わせ」

 

 

ナターシャさんが扉を開け、車椅子を押しながら中に入る。

 

そこには軍服を着た二人の女子がいた。一人は赤毛のショートカットで、キリッとした雰囲気の女子。もう一人は、ブロンドを一本に束ね肩から流し、そばかすのある女子。二人とも僕と同じくらいかな?

 

 

「ナターシャ少尉!」

 

 

赤毛の子が敬礼をし、ブロンドの子も少し遅れて敬礼した。

 

 

「楽にしていいわ。今日は一応オフの予定できたし」

 

「そうでしたか」

 

 

二人は敬礼を解くと、不思議そうな目で僕の方を見た。

 

まぁ、当たり前か。上官が日本人の男子を連れてきたら気になるに決まってる。

 

 

「二人とも、紹介するわね。彼が今日から留学することになった日本の男性IS操縦者の……」

 

「柳川将冴です。よろしくお願いします」

 

 

そう言って頭を下げる。アメリカって礼をする習慣ってなかったっけ……まぁいいか。

 

 

「知ってる知ってる!ニュースで見たからね。私、ステファニー・ローランド。ステフって呼んで」

 

「うん、よろしく。ステフ」

 

 

ブロンドの子……ステフが手を差し出しながら笑顔で答えてくれる。

 

僕は差し出された手を握り、握手をする。

 

 

「ジェニファー・キール」

 

 

赤毛の子……ジェニファーさんも腕を組みながらも挨拶をしてくれる。

 

 

「よろしく。僕のことは好きに呼んで」

 

「じゃあ、ショウって呼ぶね!この子のことも、ジェニーって呼んであげて」

 

「ちょっと、ステフ!」

 

 

と、お互いの挨拶が済んだところで、部屋にチーフさんが入ってくる。

 

 

「挨拶は済んだようだな」

 

 

ジェニファーとステフが敬礼をする。僕もした方がいいのかな……。

 

 

「楽にしろ。さて、ジェニーとステフ……それと将冴でいいか?」

 

「はい」

 

 

すごく流暢に僕の名前を呼んでくれた。例えるならカタカナから漢字になったような……。

 

 

「今日から一週間、この三人で訓練を行う。メニューを組んだから、目を通しておけ」

 

 

チーフさんから一週間の訓練メニューがビッシリ書かれた紙を渡される。午前中は体力作りのトレーニング、午後はISを使った模擬戦……なかなかハードなスケジュールみたいだ。

 

 

「将冴、午前中のトレーニングは参加できるか?」

 

「短時間なら、両手足を使えます。筋力トレーニングなら、胴体だけで大丈夫です」

 

「そうか。では、その都度メニューを伝える。他の2人はいつも通りだ。質問はないな?」

 

 

チーフさんがそう聞くと、ジェニファーがすっと手を挙げた。

 

 

「なんだ、ジェニー」

 

「はい、これから彼とISで模擬戦をさせてください」

 

「え?」

 

 

僕と模擬戦?

しかもこれからって……。

 

 

「……理由を聞こうか」

 

「日本の男性IS操縦者の実力が知りたいからです。失礼を承知で言いますが、ナターシャ少尉が呼んだとはいえ、私は彼にそれほどの実力があるとは思えません」

 

「ちょっと、ジェニー!」

 

 

ナターシャさんがジェニファーに詰め寄ろうとするが、チーフさんに止められる。

 

 

「……将冴、彼女はこう言っているが、お前はどうだ?」

 

 

そこで僕に話を振るのか……。

まぁ、そう思うのも仕方ないか……このご時世で、男の肩身は狭いから。

 

 

「僕は構いませんよ」

 

「ショウゴ!?別に受けて立たなくても……」

 

「ナターシャさん、僕はISの勉強のために来たんです。学べるチャンスがあるなら、僕は全て受けます」

 

 

留学という名目なのだから、糧になることをしなければ、来た意味がない。

 

 

「決まりだな。2人とも、準備しろ」

 

「「はい!」」




アメリカ編も波乱万丈の予感。
次回、早速バトルです。

今日の紹介はクロエ・クロニクルです。

クロエ・クロニクル

作者はアニメでその存在を知りました。
なので、設定があやふや。料理が苦手なはずなのに、この作品では家事全般をこなしています。
そして、車に乗るとスピード狂に。どうしてこうなった。
この作品で、一番原作からかけ離れていると思われる人物。


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126話

感想で皆さんに励ましてもらいました。

元気出ました。更新頑張ります。

そして、昨日は弱音吐いてすみません。


 

IS訓練場のピットでテムジンを展開し、動作確認のために手を握ったり開いたりしていた。

 

さすがというかなんというか、IS学園に引けを取らないほどの設備だ。

 

 

「ねぇ、ショウゴ……」

 

 

心配そうな顔をしたナターシャさんが話しかけてくる。

 

 

「はい?」

 

「本当によかったの?模擬戦なんて受けて……飛行機で長い時間移動して疲れてるはずなのに……」

 

「時差調整して寝ましたし、大丈夫ですよ」

 

「でも、しっかり休んだわけじゃないんだし……」

 

 

ふむ、ナターシャさんが心配してくれるのはわかるけど……

 

 

「僕もやってみたかったし、問題ないですよ。あ、あっちも準備できたみたいなので、行きますね」

 

「あ、ショウゴ!」

 

 

ナターシャさんの声が聞こえたけど、僕はそのままピットを飛び出した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

訓練場に出ると、既にジェニファーが待っていた。

使ってるISは……まるで蜘蛛のように8本の装甲脚が背中にある機体だ。

 

専用機、なのかな?

 

 

「お待たせしちゃったかな?」

 

「いえ、別に」

 

 

んー、そうそっけなく返されるとなかなか傷つくものが……

 

 

「それ、専用機?随分と変わった形だけど」

 

「戦う前に機体のこと話すと思う?」

 

「確かに、そうだね」

 

「それに、あんたの機体だって変わってる。その辺で売ってるコミックの安いヒーローみたいだわ」

 

「はっきり言ってくれるね……」

 

 

バカにされた気分。ちょっとカチンときた。両親がデザインしたんだから、怒ってもいいよね。

 

 

「ナターシャ少尉がわざわざ日本から呼んだから、どんな人かと思ったら、とても強そうには見えない車椅子の男子……正直、あなたが私たちの訓練についていけるとは思えない」

 

「まぁ、普通はそういう反応か」

 

 

誰も車椅子に乗った人が強いなんて思わないのはわかっていたんだけどね……。

IS学園の人達って、そういうの感じさせないからこの反応は、僕としても新鮮だ。

 

 

「私、あんたみたい貧弱な男は嫌いなの。だから、ここであんたに勝って、留学の必要がないことをナターシャ少尉やチーフに知ってもらう」

 

「僕としても、留学が無くなっちゃうのは嫌だし、そんなにボロクソ言われて黙っていられるほどいい子ちゃんじゃないんだ。悪いけど、勝たせてもらうよ」

 

『二人とも、熱くなるのはいいが、そろそろ始めてもいいか?』

 

「「すいません……」」

 

 

チーフさんに注意されてしまった。

 

 

『制限はない。建物を壊さなければ、何をしても構わない、先に相手のシールドエネルギーを無くした方が勝ちだ。存分に戦え。では、始めろ!』

 

 

え、もう!?

 

 

「行くわよ!」

 

「うわっと!?」

 

 

ジェニファーは一気に距離を詰めて、その特徴的な8本の装甲脚が一斉に襲いかかってくる。

 

うわ、おもったより大きいな、このIS!

 

 

「ボーッとしてるんじゃないわよ」

 

「突然っ、始まったから……びっくりしてねっ!」

 

 

スライプナーで装甲脚をいなすけど、手数が多い……。

 

近接戦は不利だ。

 

 

「このっ!」

 

 

装甲脚を弾き、銃口をジェニファーに向け引き金を引いた。

 

 

「銃剣!?」

 

 

装甲脚で体を守った。反応速度も凄い。

 

今のうちに、距離を取る。

 

 

「てっきり近接一辺倒かと思ったけど、違うみたいね」

 

「それは褒めてるのかな?」

 

「どうかしらね?」

 

 

装甲脚をこちらに向けてきた。何を……って、あれ砲門?

 

 

「8門同時の射撃はどう躱す?」

 

「あー……どうしようか」

 

「自分で考えなさい」

 

 

その言葉とともに8つの砲門から同時にビームが放たれた。




次回に続きます。

短くてすいません……。ほら、あれですよ、す、す、す、スランプっていうの?それですよ(汗

……いやあの……すいません。本当に浮かばなかった……


お気付きの方もいると思いますが、ジェニファーが使っている機体は、原作でオータムが使っていたアラクネです。

アメリカ編やろうと思っている時から、アラクネは使おうと思っていました。

デザイン、結構好きなんですよね。


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127話

ブレメモのメダルがたまっていく一方の作者です。とうとう500枚突破しました。三回ほどシングルで回しましたが、☆2しかでてません。

クラリッサが出たら全部投入します。待ってますからね(威圧


 

「くっ!」

 

 

同時に迫る8本のビームを横に飛びながら躱す。

それでも全て躱せるわけない。

 

右足と左手をビームが掠めた。少しシールドエネルギーが減ってしまう。

 

 

「同時に攻撃されるのは苦手みたいね。今のくらいは無傷でくぐり抜けれると思ったんだけど」

 

「ちょっと予想外の攻撃でね。でも、どう戦えばいいかはわかった」

 

「なんですって?」

 

「ここからは僕のターンだよ。『アファームド』」

 

 

音声認識でアファームドを呼び出す。両手にはサブマシンガンを展開している。

 

 

「形状が変わった!?」

 

「単一能力とでも思って。さぁ、行くよ!」

 

 

サブマシンガンをジェニファーに向けて掃射する。

ジェニファーは装甲脚で体を守る。うん、やっぱり。

 

最初の近接戦、僕が苦し紛れに撃ったエネルギー弾、さっきの砲撃。おそらくジェニファーは装甲脚に依存し、戦闘の全てを任せている。

 

タイプとしては、セシリアに似ているんだ。セシリアもブルーティアーズのBT兵器に頼る傾向があり、自身の動きが疎かになる。兵器の違いはあれど、対策的にはセシリアと同じでいいはずだ。

 

 

「このっ、ちまちまと!」

 

 

4本の装甲脚で自身を守りながら2本の装甲脚をこちらに向けてビームを放ってくる。

 

 

「砲門2つくらいなら、何の障害でもない!」

 

 

サブマシンガンを掃射しながら横に飛び退く。ここから、接近する!

 

受け身を取りながら、瞬時加速で一気に近づく。

 

 

「瞬時加速!?でも、真っ直ぐすぎるわよ!」

 

 

瞬時加速のため、サブマシンガンでの射撃は止んでいる。

 

ジェニファーは装甲脚全てをこちらに向ける。同時にビームを撃つ気なんだろうけど、同じ攻撃なら見切るの容易い。

 

 

「手数が多くても、攻撃が単調じゃ意味ないよ!」

 

 

僕はバーティカルターンで右に軌道を変える。

 

 

「なっ!?瞬時加速中で軌道が!?」

 

 

目に見えて狼狽えている。

でもまだ攻めどきじゃない。

 

そのまま連続してバーティカルターンを繰り返す。ジェニファーの周りをグルグルと回るように。

 

 

「なんでそんなことできるのよ!この、この!」

 

 

ジェニファーが装甲脚の砲門で狙いもつけずにビームを乱射し始めた。

 

いい感じに狼狽えさせられたかな。早く隙を見せて欲しい。長い時間、この状態を保持するのは僕の体が耐えきれない。今も、鼻から血が出てると思う。上唇から血の味が……。

 

すると、完全に僕を捉えられなくなったのか、ジェニファーが射撃を止めた。ここだ。

 

完全な死角になっている背後から一気に近づいた。

 

 

「なっ……」

 

「これで終わりだよ」

 

 

両腕のビームトンファーを展開し、振り下ろす。

 

 

「ぐあっ!?」

 

「まだまだぁ!」

 

 

そのまま前方宙返り。そして後ろから攻撃されたせいか、後ろに仰け反ったジェニファーの顔面に……

 

 

「ぐむぅ!?」

 

 

かかと落としをお見舞いした。

 

あぁ……やりすぎたかな?

 

 

『ジェニー、シールドエネルギー0。将冴の勝ちだ』

 

 

チーフさんのアナウンスとともに、ナターシャさんとステフがこちらに向かって走ってくる。

 

僕はISを待機状態に戻し、義肢を全てつけて地面に立った。あぁ……ナターシャさんとかティッシュ持ってないかな。

 

 

「ショウゴ!……って、大変血塗れじゃない!は、ハンカチを」

 

 

僕の顔を見たナターシャさんがポケットからハンカチを取り出し、僕の鼻にあてた。

 

 

「な、ナターシャさん。ハンカチと手が汚れちゃいます!」

 

「いいのよ安物なんだし!」

 

 

いいんですか……。

 

 

「ジェニー、大丈夫?」

 

 

ステフは地面に倒れたままのジェニファーの顔を覗き込んでいる。すでにISは待機状態に戻したようだ。

 

……流石に、女性の顔面にかかと落としはなかったよね。

 

 

「……私、負けた。あんな貧弱そうな男に」

 

「もう、まだそんなこと言ってる!私から見ても、ショウの方がジェニーよりもすごかったよ。いい加減認めなよ」

 

「でも、車椅子なのよ!?そんな奴……に……」

 

 

僕の方を見たジェニファーが目を見開いた。

ああ、そういえば今義足つけてた。

 

 

「なんで立ってるのよ!」

 

「本当だ。ショウ足あったんだね!」

 

「その言い方は何か引っかかるんだけど」

 

 

この反応も、なんだか懐かしい。

 

 

「ジェニー。もう車椅子っていうのは使えないね」

 

「うう、でも貧弱そうなのは変わらないでしょ!」

 

「ちゃんとショウの体見た?」

 

「え?」

 

 

ジェニファーの視線が僕のお腹の方に移動していく。

 

あのぴっちりしていることで有名なISスーツのせいで、僕のお腹は見事に丸見えだった。

 

 

「……」

 

 

まさに、開いた口が塞がらない状態のジェニファー。

その様子を見たステフも、僕の方を見ながら、ジェニファーの肩に手を置いた。

 

 

「私もさっき気づいたけど、ジェニーは全てにおいてショウに勝ててないよ」

 

「うぅ……」

 

 

悔しそうな目を僕に向けられても……。

 

 

「ふふ、ショウゴの腹筋は芸術的ね」

 

「あの、そんなに触らないでもらえますか、ナターシャさん」

 

「あら、いいじゃない。ほらほら〜」

 

「あ、や、ちょっ!?」

 

 

ナターシャさんが執拗に僕のお腹を撫で始める。

いや、慣れてるけど、これ以上はクラリッサに顔向けできなくなる!

 

 

「二人とも、ご苦労だったな」

 

「チーフ!」

 

 

訓練場に降りてきたチーフさんを見て、ジェニファーが急いで立ち上がり敬礼した。僕も見よう見まねで敬礼をする。……ハンカチで鼻を抑えながら。

 

 

「楽にしろ」

 

 

そう言われ、敬礼を解く。

 

 

「ジェニー、満足したか?」

 

「……」

 

 

ジェニファーはまだ悔しさが顔に出ている。

 

 

「試合してわかっただろうが、将冴はジェニーよりも強い。今日、それを痛感できただろう。これを糧に、明日以降の訓練に取り組め」

 

「はい……」

 

「将冴。いい試合を見せてもらった。が、明日からの訓練では無茶をするな。その鼻も、無茶したせいだろう」

 

「はい。すみません……」

 

 

いろんな人に口すっぱく言われ続けたことを、今日あったばかりの人にも言われてしまった。

 

むぅ……今日のは無意識にやってしまったから、無茶というわけではないのだけど……。

 

 

「では今日はこれで解散だ。明日、遅れるんじゃないぞ」

 

「「「はい!」」」

 

 

僕、ジェニファー、ステフの声が重なった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

チーフさんに解散と言われた後、ジェニファーはさっさとどっかへ行ってしまい。ステフは僕に一言「ごめんね」と言い残し、ジェニファーを追っていった。

 

僕はナターシャさんと基地を出た。

 

 

「さ、私の家に行きましょう。ショウゴ、疲れたでしょう?」

 

「本当に、ナターシャさんの家に泊まるんですね……」

 

「そうよ。だって、軍の寄宿舎なんて汚くて男臭くて、ショウゴがいていい場所じゃないわ」

 

 

いや、一週間くらいならそれで構わないのだけれど……。

 

 

「それとも、私と住むのは嫌?」

 

 

正直、あまり乗り気ではないのだけれど、ナターシャさんの好意を踏みにじるのは……。

 

 

「いえ、嫌ではないです」

 

「そう、よかった!」

 

 

はぁ……クラリッサに知られたらと思うと、気が重い。

 

もう夕方……ドイツはもう夜かな。クラリッサの声が聞きたい。

 

 

「何か、考え事?」

 

「え?」

 

「難しい顔してる。何か困ったことがあるなら、なんでも言って」

 

 

そんな顔をしていたか……。別に困っているわけではない。完全に惚気だ。

 

 

「いいえ、なんでもないです。さ、行きましょう」

 

「……ええ」




ナターシャのキャラが迷子に……。

大丈夫、書きなれてないだけ……多分。


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128話

どうも。

今朝、無性にゴッドイーター書きたくなって書いてた作者です。

やっぱりね。ジーナ一番だよ。
もちろんクラリッサもいいけれども、作者はジーナが一番好きです。

そして、本音を言うなら……


ISの小説がこんなにお気に入り増えたり、ランキングに上がったりするとは夢にも思わなかった。

皆様に感謝です。

では、本編どうぞ。


 

「さ、ここが私の家よ!」

 

 

基地を出てから20分ほど歩いたところに、ちょっと大きめの一軒家が。これがナターシャさんの……

 

 

「思ったより普通ですね」

 

「ちょっ、それってどういう意味?」

 

「あ、いや、もっと豪勢な家かなって思ってて……」

 

「私、普段は各地を飛び回ってるから。モデルとかパーティとか色々ね。あ、でも車の中でも言ったけど、ショウゴがいる間はずっと付き添うから、安心して」

 

 

僕は安心できない……。

 

ナターシャさんは家の鍵を開けて、中に入っていった。僕もナターシャさんに続き、家に入る。

 

……ふむ、なんだか豪華な家具なんかがあるわけじゃなさそうだ。

 

 

「ショウゴ、部屋に案内するわね」

 

「あ、はい」

 

 

そう言って家の奥へ進んでいくナターシャさん。

 

ついていくと、一つの部屋へたどり着く。中は……うん、普通の部屋だ。

 

 

「ここは好きに使って。隣の部屋が私の部屋よ。トイレが部屋を出て右。シャワールームはトイレの隣ね」

 

「わかりました」

 

「それじゃあ、ゆっくりくつろいでいて。夕食ができたら呼ぶわ」

 

「あ、僕も手伝います」

 

 

何もかも世話になるわけにはいかない。

料理ならそれなりにできるし。

 

 

「だーめ。今日は疲れてるんだから、部屋で休んでいなさい。いい?」

 

 

ツン、と額を指で押される。

……しょうがないか。今日はお言葉に甘えよう。

 

 

「……わかりました」

 

「いいこね。夕食できたら呼ぶわね」

 

 

ナターシャさんは、そのままリビングの方へ言ってしまった。

 

さて……夕飯ができるまで何してようか。IS学園やドイツならクラリッサがいたから暇とかはしなかったんだけど……そうだ、クラリッサに電話しよう。

 

今は夕方の5時。あっちは夜中の11時くらいかな。まだ起きてるかな。

 

携帯でクラリッサの番号を呼び出す。

2コール後、電話がつながった。

 

 

「あ、クラリッサ?夜遅くにごめんね」

 

『将冴。気にするな。なかなか寝付けれないところだったんだ』

 

「そっか。こっちは無事にアメリカに着いたよ。一緒に訓練する人達と顔合わせしてきた」

 

『大丈夫か?いじめられたりとか……』

 

「大丈夫。一緒に訓練するの、アメリカの代表候補生だよ?そんな子供みたいなことしないさ」

 

『それならいいが……』

 

「あ、でも模擬戦は挑まれた。なんでも、僕が車椅子で貧弱そうな男だから気に食わなかったみたいで」

 

『なっ!?将冴のどこが貧弱だと言うのだ!今から私がその代表候補生を……』

 

「大丈夫だよ。ちゃんと模擬戦で勝ってきたから」

 

『そ、そうか……流石だな、将冴」

 

「クラリッサに恥ずかしい報告はできないからね」

 

『わ、私のことは気にしなくても……』

 

「僕は気にするの。恋人にはいい格好見せたいし」

 

『こっ……はっきり言われると照れるぞ』

 

「ふふ、照れてるクラリッサも可愛いよ」

 

『なっ!?』

 

 

ああ、クラリッサが向こうで顔を真っ赤にしているのが手に取るようにわかる。

 

 

『あまりからかうな……』

 

「ごめんごめん」

 

『……帰ってきたら、甘えるからな』

 

「うん、僕も甘えさせてね」

 

『ああ、もちろん』

 

 

と、ここで部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 

 

「ショウゴ?夕食できたわよ」

 

「はーい、今行きます。……ごめんクラリッサ、これから夕食だから、切るね」

 

『ああ。無理はするな、何かあればいつでも連絡してくれ』

 

「うん。また明日」

 

 

名残惜しいけど、通話を切る。

 

ふぅ……明日が待ち遠しくなる……。

 

義肢をつけて、リビングに歩いて行った。

 

 

「あ、ショウゴ!ほら、美味しそうでしょ?」

 

 

リビングのテーブルには、綺麗に盛り付けられた料理が並んでいる。大量に……

 

 

「わぁ、すごいですね……」

 

「フェレ肉のステーキに、サラダ、パスタにピザ。お腹空いてると思って、いっぱい作ったわ!」

 

「作りすぎでは……」

 

 

これを全部食べきる事はできるのか……。ていうか、よくあんな短時間でこんだけ用意できるなぁ……。

 

 

「さ、席に座って食べましょう」

 

「あ、はい……」

 

 

これは黙々と食べなければ食べきれない……。

 

ステーキをナイフで細かく切り口に運ぶ。美味しい。とても美味しいけど、量を見ると気が重くなる……。

 

 

「どう?美味しい?」

 

「はい、とっても美味しいです」

 

「本当に!良かった。それじゃあ、私も」

 

 

ナターシャさんも料理を口に運ぶ。美味しそうに笑みをこぼしている。

 

 

「あ、ショウゴ。今日は一緒に寝る?」

 

「寝ません」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ねぇ、ジェニー」

 

「何よ、ステフ」

 

 

二段ベッドの上から、ステフが上半身を乗り出し、下で本を読んでいるジェニファーに話しかけるが、ジェニファーは素っ気ない返事を返す。

 

 

「明日、ショウに謝るの?」

 

「……なんで私が謝らなきゃならないのよ」

 

「なんでって、かなり失礼なこと言ってたよ?ナターシャ少尉が連れてきた人なのに、あんな事……」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「だったら謝んなきゃ」

 

「……」

 

 

ジェニファーは乱暴に本を閉じ、布団を頭から被った。

 

 

「ちょっ、ジェニー!」

 

「うるさい!あんたもさっさと寝なさいよ!」

 

「もう、ちゃんと謝るんだよ!絶対だからね!」

 

 

ステフは電気を消し、ベッドに横になった。

 

 

「……なんであんな奴に……」




ナターシャさんに慣れない。
頑張ろう……。


突然ですが、明日は更新お休みさせていただきます。予定が立て込んでいて、書く時間が取れなさそうなので。

感想は返していくので、いつでもお待ちしています。


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129話

昨日は予告通りお休みさせていただきました。

今日からまた頑張ります。


アメリカに来て2日目。

朝起きて、まず胃もたれに悩まされている……。ナターシャさんが張り切って作ってくれた料理を残すのは失礼だからと、全部食べたらそりゃこうなるよね……。

 

 

「時間は……朝5時30分か」

 

 

予想外に早く起きちゃったな。

 

どうしようかな……

 

 

「朝ごはんでも作ろうかな」

 

 

ナターシャさんもまだ寝ているだろうし、お世話になりっぱなしというのも申し訳ない。

 

いそいそと着替えて、キッチンへ向かう。車椅子でちゃんと料理するのは初めてだけど、いざとなったら義肢使えば問題ない。

 

 

「朝なら何がいいかな……」

 

 

冷蔵庫を開けると、食材がたくさん詰まっている。これは困らないな。

 

 

「卵に、ベーコン、野菜もたくさんあるし、付け合せにフルーツでもあれば問題ないかな。あとはトーストでもあれば」

 

 

簡単だけど、万人受けする朝食なら問題ないかな。

 

 

「よし、やりますか」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「うぅん……朝?」

 

 

今何時かしら。……6時?

 

いけない、朝ごはん作らなきゃ。そしてショウゴの寝顔を眺めて、起こして……なんだったら朝の処理も……

 

 

「ん?なんだかいい匂い」

 

 

部屋を出て、ショウゴの部屋を見ると扉が開けたままで、もぬけの殻。

 

もしかして……

 

キッチンへ向かうと、ショウゴがテーブルにトーストやベーコンエッグなどの料理を並べていた。

 

 

「あ、ナターシャさん。おはようございます」

 

「しょ、ショウゴ……これは」

 

「朝ごはんですよ。どうぞ、召し上がってください。あ、もしかして朝は食べないですか?」

 

「い、いえ。食べるけど……」

 

 

ショウゴは良かったと言いながら、席につきいただきますと言ってトーストを頬張った。

 

あ、頬張った顔可愛い……ってそうじゃなくて!

 

 

「私が作って好感度あげようと思ったのに!」

 

「好感度?」

 

 

はっ!?私は何を言ってるの!?

 

 

「ごめんショウゴ、忘れて……」

 

「え、あ、わかりました?」

 

 

ショウゴは頭にハテナを浮かべながら首を傾げた。あぁ、いちいち私のつぼをぉぉぉ……。

 

……もう考えるのはやめよう。

 

 

「それじゃ、私もいただくわね」

 

「はい、どうぞ」

 

 

私も料理に手をつける。

うん、どれも美味しいわ。

 

 

「お口に合いましたか?」

 

「ええ、とっても。毎日作って欲しいくらいだわ!」

 

「ふふ、大袈裟ですよ」

 

「あら、本当にそう思ってるわよ?IS学園やめてずっとここにいない?」

 

「それはちょっと……」

 

「あら残念」

 

 

本当に残念……。

 

そのあと、黙々とショウゴの作ってくれた朝食を食べていく。あぁ、もう、本当に美味しい……。

 

 

「あ、そうだ。ナターシャさん」

 

「なに?」

 

「軍のトレーニングルームって朝使えますか?」

 

「ええ、あなたたちのトレーニングで使うから、その前から使う人はいないから使えるとは思うけど……もしかして、朝から動くつもり?」

 

「ええ、まぁ……ちょっと……」

 

「?」

 

 

何かあったのかしら。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

午前8時。

今日からあの男と合同訓練だ。

 

正直気が乗らない……。

 

 

「ジェニー、またふくれっ面して」

 

「してないわよ、別に」

 

「してるー」

 

「してない」

 

 

もう、ステフが朝から絡んできて鬱陶しい。

別に私があいつのことをどう思おうと勝手だし、だいたいなんでステフはあいつのことどうとも思わないの?

 

男ってだけで専用機を支給されて……私とステフが、どれだけ苦労して代表候補生になったかも知らないくせに……。

 

 

「今日、最初はトレーニングルームだったよね?」

 

「ええ。あの男がどれだけできるか、見ものね」

 

「いや、確実に私たちよりもできると思うよ……」

 

「う、うるさいわね!」

 

 

絶対に負けない。昨日みたいにはさせないから。

 

トレーニングルームに着くと、すでに扉が開いていて、入り口付近にナターシャ少尉とチーフがいた。

 

 

「「チーフ、ナターシャ少尉。おはようございます!」」

 

「二人ともおはよう」

 

「来たな。では、2人ともいつものメニューをこなすように」

 

「はい」

 

「えっと、チーフ。ショウはまだ来ていないんですか?」

 

「いや、お前たちより一時間早く来てトレーニングを始めているぞ」

 

 

え、一時間って、朝の7時からってこと?

 

 

「将冴の手足は義肢だから、胴体の部分を中心に鍛えているな。うむ……見事なものだ」

 

 

トレーニングルームに入り、あいつの方を見ると、汗だくで何度も上体を持ち上げるあいつの姿が……言っちゃなんだけど、腕がないからシュールだわ……。

 

 

「わぁ、ショウすごぉい」

 

「あ、ステフとジェニファー。おはよう」

 

 

こっちに気づいたあいつが、トレーニングをやめこちらに目を向けてきた。

 

息が上がってる様子はない。汗だくなのに、なんで笑顔で話せるのよ。

 

 

「2人はどんなトレーニングなの?」

 

「私たちは体力作りとかだよ。ISは体力使うからね」

 

「ステフ。私、もう始めるから」

 

「あ、ジェニー!ショウに言うことがあるでしょぉ!」

 

 

知ったことじゃない。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ジェニファーが、さっさと別の場所に言ってトレーニングを始めてしまった。嫌われてるなぁ……。

 

 

「ショウ、ごめんね」

 

「ステフが謝ることじゃないよ。僕としては、仲良くやっていきたいんだけど」

 

「なんとか仲良くするように説得してるんだけどね。ジェニーは頑固だから」

 

「仕方ないよ。ぽっと出の僕が来たら、認められないのも当然さ」

 

 

今まで、こんなに嫌われたことないからなぁ。

 

イザコザに巻き込まれないように立ち回るようにしていたから……。

 

 

「困ったことがあったら聞いて。なんでも手伝うから」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「それじゃ、私もジェニーとトレーニング行ってくるね」

 

 

ステフもトレーニングに。

 

ジェニファーとは、ゆっくり打ち解けるしかないか。

 

ま、今はしっかりメニューをこなすとしよう。

 

 

「よう少年!」

 

「あれ、ハッターさん?」

 

「朝からご苦労だな。お、いい汗かいてるなぁ。グゥレイト!」

 

 

暑苦しい……

 

 

「そうそう、昨日の模擬戦の映像見たぞ。いい動きだった」

 

「ありがとうございます」

 

「だが……」

 

「え?」

 

「格闘技としてはまだまだだな。ちゃんと指導してもらったことはないだろう」

 

 

確かに、格闘術をやっていたわけではないし、クロエさんと何度も模擬戦して形にしたからなぁ……。

 

 

「よし、ちょっと待ってろ」

 

「え、あの……」

 

 

ハッターさんがチーフさんとナターシャさんの方へ走っていった。2人に何か伝えているようだけど……。

 

あ、戻ってきた。

 

 

「少年!今からスパーリングするぞ!」

 

「ええ!?」




アメリカ編が結構難しいです。

ナターシャを書くのは楽しいんですがねぇ……


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130話

ナンバリングもとうとう130。全話数的にも141と、もう少しで150に到達しそうな勢いですね。今のペースと、今後の展開から考えて、完結は250話まで行くかもしれません。

……こう見ると、やっと半分を超えたところなのか(白目

まぁ簡単な見積もりなので、これより早く終わるかもしれませんし、遅く終わるかもしれません。


 

ハッターさんに連れられてきたのは、ボクシングのリングのような場所だった。

 

ハッターさんはリングに入り、テンガロンハットを被ったままストレッチを始めた。

 

 

「あ、あの!スパーリングってどういう……」

 

「その名の通りだ。自分の拳で戦う。ただそれだけだ」

 

「でも僕は格闘技なんてやったこと……」

 

「安心しろ。スパーリングしながら教えてやる。大丈夫だ。お前の体のことはさっき聞いた。体調が悪くなったらすぐにやめていい」

 

 

確かに、僕自身アファームドを使うときは力不足を感じていた。所詮付け焼き刃の肉弾戦。ここで本格的に格闘技を習うのも悪くはないか……。

 

 

「どうだ。できるか?」

 

「……はい。お願いします」

 

「いい返事だ。ほら、これをつけろ」

 

 

そう言って渡されたのは、手をガードするためのグローブ。いくら束さんが作った義手とはいえ、そのまま殴り合えば壊れてしまう。

 

グローブを両手につけ、僕もリングに入った。

 

 

「ハッター!ショウゴに怪我させたら許さないから!」

 

 

いつの間にか、ナターシャさんがリングの外にいた。

チーフさんはジェニファーとステフのところに行ったのかな。

 

 

「わかってるってナタル。俺だって怪我させるつもりはないッ!」

 

「信じていいのかしら……」

 

 

ナターシャさんに激しく同意します。

 

 

「さて、少年っ!拳とはなんだと思う?」

 

「拳……?」

 

「難しい質問だったか。いいか、拳は人類に残された最後の最大の武器だ!武器を失い、敵がにじり寄ってくる……そんな状況を打破できるのは己の肉体、己の拳。極めれば、相手の心臓を止めることすらできる。俺が今からお前に教えるのは、そういうものだ」

 

 

いちいち暑苦しいのだけれど、言葉がまっすぐ突き刺さってくる。

 

 

「論ずるより動くぞ!さぁ、構えろ!お前のハート・アンド・ソウル!スピリット!拳に乗せて俺に叩き込めッ!」

 

「は、はい!」

 

 

腕を胸の前で構え、右の拳で殴りかかる。

しかし、ハッターさんは難なく体を逸らし躱してしまう。

 

 

「どうしたどうしたッ!お前の魂はそんなものか!」

 

「くっ!」

 

 

次は左っ!

 

 

「切り替えの早さは褒めてやる。だが、まだまだまだまだァ!」

 

 

突き出された左手をハッターさんは掴み、そのままひねり上げ僕をリングに倒した。

 

 

「ぐうっ!」

 

「ちょっ、ハッター!?」

 

「こんぐらいでギャーギャー騒ぐんじゃねぇ、うるさい女だ!少年、まだ行けるだろ!」

 

 

僕はすぐに立ち上がり、ハッターさんに応えるように拳を構えた。

 

 

「いけます」

 

「よし、もう一度来い!ただし次は大振りするな。小さく!コンパクトに!何度も!何度も!何度も!叩き込め!」

 

「はいっ!」

 

 

ハッターさんに言われた通り、大きく振りかぶらず、小さく、小さく、何度も拳をハッターさんにぶつけた。

 

ハッターさんは僕の拳を、腕で全部ガードする。

 

 

「狙うのは相手の顔だ!それだけで、相手の動きは制限される!相手の隙を自分で作れ!休むな!拳打ち続けろ!」

 

「ああぁぁぁぁっ!」

 

 

ただひたすらに、ハッターさんに拳を放ち続けた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「二人とも、そこまでだ。午前中の訓練を終了する。一時間の休憩の後、ISでの訓練を行う。遅れないように」

 

「「はい!ありがとうございました!」

 

 

午前中の訓練が終わり、私……ジェニファーは、タオルで汗を拭っていた。すると、同じく訓練を終わらせたステフが近づいてくる。

 

 

「ジェニー、お昼なんだけど……」

 

「あいつとは食べないわよ」

 

「まだ何も言ってないし、拒否するのも酷い!」

 

「あいつと食べたいなら、私抜きでね」

 

「もぉー」

 

 

ステフもいい加減うるさい。私はあいつとは絶対に馴れ合わない。

 

あんな男だからって専用機を持っているようなやつと……。

 

 

「そういえば、さっきハッター軍曹がショウのことを連れて行ってたね。何してるかだけでも観に行こうよ」

 

「なんで私まで……」

 

「いいからいいから」

 

「ちょっと、押さないでって!」

 

 

ステフに押されながら、あいつとハッター軍曹がいるであろうリングに向かうと、あいつがリングの上で仰向けに倒れていた。義足をつけずに、荒い息で。

 

 

「よし、良くやったぞ少年!明日もやるからな!」

 

「はぁ、はぁ……ありが、とう……ござい、ました」

 

「ショウゴ!大丈夫!?」

 

 

ナターシャ少尉があいつの元に駆け寄り声をかけている。

 

 

「うわぁ、ここで何やってたんだろう?」

 

「……知らない。私には関係ない」

 

「お、小娘2人。少年の様子を見に来たのか?」

 

 

私たちを見つけたハッター軍曹が話しかけてくる。

 

 

「ハッター軍曹、ショウはここで何していたんですか?」

 

「おう、あいつに格闘技を教えてやろうと思ってな。中々根性ある奴だな!おかげで腕がアザだらけだ!はっはっは!」

 

 

軍曹の腕を見ると、何度も殴られたような跡がある。

これ、全部あいつが……?

 

 

「そうだ、2人に頼みがあるんだが」

 

「何ですか?」

 

「少年とナタルの昼食を取ってきてくれ。少年は動けないし、ナタルは付きっ切りだろうからな」

 

「わかりました!ジェニー、行こう」

 

「なんで私が……」

 

「もう、ジェニー!」

 

 

ステフが私を責めるように声をあげるけど……私は素直に応じることができない。

 

 

「……おい、ジェニー。昨日の模擬戦、お前からふっかけたんだってな?」

 

「はい。それが何か?」

 

「チーフから聞いた。お前が少年のことを認められず、衝突してるとな。少年の何が気にくわない」

 

「それは答えなきゃいけないんでしょうか?」

 

「ああ」

 

 

はぁ……この人は暑苦しい上に、こんなに面倒な性格してるのか。

 

 

「男でISを動かしているのが気にくわないんです。男ってだけでなんの努力もなしに専用機をもらって……努力して専用機をもらえるようになった世界の代表候補生のことをバカにしているとしか思えません」

 

「ハッ!どんな大層な理由かと思えば、お前はケツの青いガキだったようだナァ!」

 

「なっ、それはどういう意味ですか!?」

 

「昨日の模擬戦が全て物語っているだろう。代表候補生をバカにしている?あいつに勝ってから言え!」

 

「くっ……」

 

「それにな、お前はあいつの体を見たか?」

 

 

あいつの……顔に似合わないあの体のこと?

 

 

「あんな体、なんの努力もなしに作れるもんじゃねぇよ」

 

 

軍曹はそのまま立ち去っていった。

 

なんなの……みんなして。男だから専用機をもらったんでしょ?たったそれだけの……理由で……。

 

 

「ジェニー……」

 

「食堂行くわよ。ステフ、あの男の分持って行きなさい。私はナターシャ少尉の分持って行くから」

 

「……うん!」




ジェニファーのキャラが立ちすぎてステフが霞んで行く……。

もはやステフはいらなかったのではないかと思い始めるほどだ……。


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131話

ふと思い出したのですが、バーチャロンの毒蛇三姉妹の末っ子の名前、「ジェニファー」・ポイズンって言うんですよね。

まさかのジェニファー被り。
まぁ、だからと言ってジェニファーの名前を変えるわけではありませんし、話を進めれば進めるほど毒蛇三姉妹が出しづらいという状況に陥っているので無理して三姉妹出す必要はないかなぁと。

(毒蛇三姉妹を擬人化(?)した時の容姿が浮かばないとか口が裂けても言えない)

まぁ、今後毒蛇三姉妹に似た名前の人は出るかもしれませんが、それはいつものごとく作者のその時のノリというやつです。


 

「はぁ、はぁ……」

 

「ショウゴ、大丈夫?」

 

 

そう言いながら、ナターシャさんが膝枕してくれる。

いつもならやんわり断るものだけど、今はそれどころじゃない。

 

ハッターさんとのスパーリングで、義肢をつけられるギリギリの時間までずっと絶え間なくハッターさんに拳を打ち続けたんだ。頭痛はもちろんのこと、ハッターさんが「全力で打ち込め」というので体力もほとんど持ってかれた。

 

 

「もう、ハッターってばこんなになるまでスパーリング続けるなんて……ショウゴ、明日は断っていいのよ?」

 

「いえ……ハッターさんが、僕のためにやってくれているんです。無碍にはできませんし、僕も最後まで食らいつきたいです」

 

「でも……」

 

「大丈夫です。無理だと判断したら、すぐにやめます。どっちにしろ、義肢をつけていられるタイムリミットもありますから」

 

 

何より、アファームドで決定打を叩き込めるようになるのは僕としても大歓迎だ。

 

ようやく息も整ってきたところで、こちらに近づいてくる足音が2つ。ステフとジェニファーだった。

 

 

「ショウ、お疲れ様。お昼持ってきたよ。あまりがっつり食べられないだろうから、ゼリー持ってきたよ」

 

「ナターシャ少尉の食事も持ってきました」

 

「あら、ありがとう。2人とも」

 

 

ステフが僕に携帯食用のゼリーを、ジェニファーが食事が盛ってあるプレートをナターシャさんに渡した。

 

今の状態だと、そのまま飲めるゼリーは嬉しい。

僕は気だるい体をなんとか起こした。

 

 

「ありがとう、ステフ」

 

「お礼を言われるほどのことじゃないよ。それにしても、すごい汗だね。えっと、タオルは……」

 

 

と、ステフがタオル探そうとした時、バフッと僕の顔に何かが投げつけられた。

 

 

「うわっ……これ、タオル?」

 

「使えば」

 

 

ジェニファーはそれだけ言うと僕から離れた場所で、食事を始めた。

 

これ、ジェニファーが……

 

 

「ふふ、今のジェニファーにはこれが精一杯みたいだね」

 

「なんだかよくわかんないけど、一歩前進ってことでいいのかな?」

 

「昨日に比べたら、すごい進歩じゃないかしら?よかったわね、ショウゴ」

 

 

別に何かしたわけじゃないけど、少しは近づけたかな。

 

 

「ジェニファー、ありがとう」

 

「……」

 

 

ジェニファーは無視して昼食を食べ進めていた。

まだ先は遠いな……。

 

 

「ショウゴ、ゼリー飲める?口移しする?」

 

「大丈夫です」

 

「じゃあ、私がしてあげよっか?」

 

「ステフまで悪ノリしないで!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

午後のISの訓練、僕はひどいものだった。

 

そりゃ、午前にあれだけ消耗すれば当たり前というか……。

 

まず、急上昇急降下の訓練だったのだけれど、急上昇はなんら問題はなかった。問題は急降下。地面ギリギリで止まれと言われたんだけども……。

 

 

「ショウ、大丈夫?」

 

「大丈夫……地面にクレーターできたけど……」

 

 

止まり切れず、地面に激突。

地面にクレーターを作り、ステフに心配されてしまった。

 

 

「……」

 

 

ジェニファーは、「昨日、私はこいつに負けたのか」とでも言いたそうな目でこちらを見ていた。いや、なんかほんと、ごめんなさい。

 

でも、今日はそれだけではなかった。

 

瞬時加速すれば、停止できず壁に激突。

フォームチェンジに10秒ほど時間がかかる。

射撃はあらぬ方向へ。

etc

 

こんなの、クラリッサやラウラに見せれない。

絶対幻滅される……。

 

 

『将冴、今日はもうやめよう』

 

「は、はい……」

 

 

チーフさんに訓練をやめさせられる始末だ。

……明日はハッターさんに手加減してもらおう。

 

ISを待機状態にして、訓練場を出た。

 

はぁ……ジェニファーとステフに迷惑かけちゃったな……。

 

 

「ショウゴ、お疲れ様。今日は大変だったわね……」

 

 

訓練場の外ではナターシャさんがいた。

ずっと僕の様子を見ていたみたいだ。

 

 

「はは、あんなにひどいことになるとは思いませんでした」

 

「あまり気にしちゃダメよ。ハッターには私から言っておくわ」

 

 

本気でやるなら、今日くらいやったほうがいいんだろうけど、午後のことを考えると少しペースを落としてもらわないと難しい……。

 

 

「今日はもう帰りましょう。チーフにはもう伝えてあるわ。帰りにどこか寄ってご飯にしましょう」

 

「はい……それじゃあ、着替えてきます」

 

「ええ」

 

 

あれだけの失敗を繰り返したのは初めてだ……あまりネガティヴにならないようにしないといけないんだけど、今日ばかりは立ち直るのは難しい……。

 

あぁ……クラリッサの声が聞きたい……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ショウゴ、かなり参ってるみたいね……。

まだ2日目なんだけど……

 

 

「あ、そうだ」

 

 

私は携帯を取り出し、番号を呼び出した。

 

数秒コールした後、相手が電話に出た。

 

 

「あ、もしもし。今夜暇かしら?……そう、ちょうどよかった。この前話してた子と夕食行くんだけど……いつもの場所で。……え、もういるの?……わかった、すぐそっちに行くから。じゃあね」

 

 

仕事が終わるには早い時間だけど……まぁ、いっか。

彼女に会えば、少しは気分転換になると思うし。

 

……それにしても、ショウゴ着替えにしては遅いような……。

 

 

「着替えに手間取っているのかしら。フフー、手伝いに行って、あわよくば……」

 

「何を手伝いに行くんですか?」

 

「きゃあ!?しょ、ショウゴいたの?」

 

 

ちっ……

 

 

「ええ、今来たところですが」

 

「そ、そう……なんでもないわ。さ、夕食食べに行きましょう」




次回、作者が全く書ける自信のない彼女が。

資料が少なすぎるんですよねぇ……。


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132話

昨日お休みして申し訳ありません。

……この挨拶も何回目でしょうね……。

できるだけ休まないようにはしているんですが、やっぱり難しい日がありまして……。ご理解いただければと思います。


 

基地を出て、ナターシャさんに連れられてきたのは小さなバーのようなお店だった。

 

なんでも、知り合いが待っているとか……

 

 

「このお店ですか?」

 

「そうよ、行きつけなの。さ、入りましょう」

 

 

店に入ると、中はガランとしていた。

まぁ、時間的にはまだ早いし、しょうがないか。

 

 

「おーい、ナタル。こっちこっち」

 

 

ナターシャさんを呼ぶ声。

目を向けると、テーブル席のほうに茶髪の女性が手にビールジョッキを持って座っていた。

 

 

「イーリ、待たせたわね」

 

 

ナターシャさんに車椅子を押されながら、その人の元へ。

 

近づいてわかったけど、テーブルの上には空になったジョッキが何個もある……結構飲んでるな……。

 

 

「ナターシャさん。このかたは?」

 

「紹介するわね。彼女はアメリカの国家代表のイーリス・コーリング。私の友達よ」

 

「よろしくな」

 

「それで、この子が貴重な男性IS操縦者の……」

 

「柳川将冴です。よろしくお願いします、イーリスさん」

 

「そんなにかしこまるなよ。私のことはイーリでいいぞ」

 

 

こっちの人は、相性で呼ばれないと気が済まないのだろうか……。

 

ともあれ、自己紹介も済んだところでテーブルにつく。お腹が減ってしょうがない。

 

 

「イーリ、もう飲んでいたの?」

 

「ナタルが来るのが遅かったからよ。あ、料理はテキトーに頼んでおいたから」

 

「あらそう、それじゃ私も飲もうかしら。ショウゴは?」

 

「水をもらえますか?」

 

「そんなのでいいのか?お前も飲もうぜ」

 

 

イーリスさんが茶化すように僕にジョッキを押し付ける。

 

 

「いえ、僕は……」

 

「なんだよ、つれねぇな」

 

「ちょっと、ショウゴはまだ未成年なの。マスター、ビールと水ちょうだい」

 

 

ナターシャさんが注文を伝えると、マスターらしき人が小さく頷いた。

 

数分とせずに、マスターがビールと水を持ってきてくれる。

 

 

「それじゃあ、ショウゴとの出会いを祝して」

 

「乾杯!」

 

「か、乾杯……」

 

 

僕は水だけど……

 

ナターシャさんとイーリスさんはビールを一気に飲み干した。

 

 

「っぷは!いやぁ、この一杯のために生きてるな」

 

「もう何杯も飲んでるくせして、何言ってるのよ」

 

「細かいことはいいんだよ。そうだよな、坊や」

 

 

坊やって……まぁ、そうかもしれないけど。

 

 

「そ、そうですね」

 

「なんだ?綺麗なお姉さん2人と一緒で緊張してんのか?」

 

「いえ、そういうわけじゃなくて……」

 

「イーリ、ショウゴは疲れてるんだから、あんまり絡まないでよ」

 

「疲れてるって……ああ、候補生たちと訓練してから来たのか。あいつら、かなりハードな訓練してるらしいからなぁ。まぁ、チーフが教官なら仕方ないかもしれねぇが」

 

 

チーフさんの訓練ってそんなにキツいのかな?

今日は色々疲れていたし、キツく感じる前に訓練やめさせられたし……。

 

 

「坊や、ジェニーに試合申し込まれてコテンパンにやられたんじゃないのか?あいつはかなり強いからなぁ」

 

「イーリ、コテンパンにやられたのはジェニーの方よ」

 

「え、マジかよ!お前ジェニーに勝ったのか!?」

 

「はい、まぁ、一応……」

 

 

コテンパン、というほどやってはいないけど……。

 

 

「じゃあ、疲れてるってなんで……」

 

「ハッターよ」

 

「あぁ……」

 

 

ハッターさんの名前が出ただけで把握できるのか。

まぁ、暑苦しいのはみんな知っているだろうしね。一緒にいるだけで疲れるからなぁ……。

 

 

「お待たせしました」

 

 

マスターさんが料理を運んできてくれる。

 

ステーキ、ピザ、フライドチキン……昨日と似たような……いや、こっちに来てから脂っこいものばっかりなんだけど!?

 

 

「きたきた、 さぁ食うぞ!」

 

「ちょっとイーリ!なんでこんな脂っこいものばっかり!」

 

「ナターシャさん、イーリスさんのこと言えませんよ」

 

「え?」

 

「昨日の夕食のメニュー、思い出してください」

 

 

ナターシャさんは思い出すような仕草をし、「あ」とだけ言って顔を青ざめた。

 

 

「なんだぁ?ナタルも人のこと言えねぇんじゃねぇか」

 

「き、昨日は、ショウゴがきたから……」

 

 

あの分のカロリーを消費するのはなかなか大変だったよ……。

 

 

「まぁ、1日食べたからってすぐにどうなるわけじゃないさ。ほら、坊やも食べなって」

 

「あはは……いただきます……」

 

 

明日も早く行ってトレーニングしよう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「へぇ、それでその体にねぇ」

 

「うう、ショウゴ。そんな大変な人生を送ってたのね……」

 

「ナターシャさん、あなたが泣くことじゃないですから……」

 

 

飲み始めてから1時間ほど経ち、なぜか僕の身の上話を2人に聞かせていた。そんなに楽しいものじゃないし、僕もあまり話したくはなかったんだけど……断るのも興醒めしてしまうだろうし。

 

 

「ほら、ナタル。泣き止めって。坊やが困ってんぞー」

 

「イーリ、あなたは薄情よ!こんな話聞いて、何も思わないの?」

 

「いや、思うところはあるけど、ナタルが泣きすぎてて若干引いてる」

 

「なによそれぇ!」

 

 

まぁ、この2人を見ていると、なかなかに楽しいのだけれど……。

 

 

「もう、イーリったら……ちょっと席を外すわ」

 

「おう、トイレか。行ってこい行ってこい」

 

「わざわざ言わなくていいから!」

 

 

ナターシャさんは顔を赤くして、席を立った。イーリスさんに、いつも遊ばれているみたいだ。

 

 

「はっは、ナタルは何しても面白いからな。坊やもそう思うだろ?」

 

「まぁ、2人のやりとり見てると、楽しそうだなぁとは思います」

 

「まだ15なのに、達観してんな。面白くないってよく言われるだろ」

 

「いやぁ……はは」

 

 

実際に言われたことはないけど、自分でもなんとなくそう思う。

 

 

「……どうだ、ここは楽しいか?」

 

「楽しいですよ。ナターシャさんがいて、ハッターさん、チーフさん、ステフにジェニー。退屈はしないです」

 

「そうか。にしては、寂しそうな目をしてるな」

 

 

ドキッとした。

心の中を全部見透かされているようで。

 

 

「女か」

 

 

ニヤッとして聞いてくる。

ああ……その顔は少し腹がたつ……的確に当てられてるから余計に……。

 

 

「図星か。若いのにやるねぇ、ひゅう〜」

 

「だったら何ですか……もう……」

 

「どうもしねぇよ。ま、ナタルにはかわいそうなことしてると思うがな」

 

 

今の言い方……どういうことだろうか……。

 

 

「まぁ、お前は気にすんな。そうだ、訓練が辛かったら言えよ。ほれ、連絡先」

 

 

そう言って名刺を渡される。

んー……こうなんども渡されると、僕も名刺を持っていた方がいいのか、と思い始めてしまう。

 

日本に帰ったら、黛先輩に頼んでみようかな。

 

 

「いつでも連絡してくれ。相談くらいなら乗ってやるよ。性の悩みとか」

 

「そっちは結構です」

 

 

と、ここでナターシャさんが戻ってきた。

 

 

「イーリ!ショウゴのこと口説いているんじゃないでしょうね!ダメよ、ショウゴは私のものだから!」

 

「いや、ナターシャさんのものではないんですけど……」




イーリス難しい。
何回も書き直してしまいました。

「性の悩み」のところ、書き直す前は「一発くらいならやらせてやるぞ」ってなってました。

さすがにそれはないかなって……。


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133話

日付変わってしまいましたが、更新です。

やや話が停滞気味。

今回は少し話を進めようかと思います。


 

「ほら、ナタル。自分で立てよ」

 

「イーリぃ……もう一軒行くわよ、もう一軒!」

 

 

バーでしこたま飲んだナターシャさんが、イーリスさんの肩にもたれ掛かりながら、ハシゴすると大声をあげた。

 

ナターシャさん、酒飲んだらこうなるんだなぁ……。

 

 

「ああ、こりゃもうダメだな。坊や、ナタルのことは私に任せて、家に帰んな」

 

「え、でも……」

 

「いいから、私は慣れてっからよ。えっと、確かここに……」

 

 

イーリスさんがナターシャさんの服のポケットに手を突っ込み、なにやらガサゴソと何かを探している。

 

 

「あんっ、イーリのエッチ」

 

「変な声出すなよ……あった。ほれ、家の鍵。道はわかるよな?」

 

「え、ええ……」

 

「上出来。まっすぐ帰るんだぞ。ほら、付き合ってやるから、行くぞナタル」

 

「さっすがイーリ!話がわかるじゃない……あれぇ?ショウゴは?」

 

「お子様は帰る時間だ。ほら行くぞ」

 

「嫌よ嫌よ、ショウゴが居ないんじゃ嫌よぉ〜!」

 

「文句言うな。ほらさっさと歩けって」

 

 

イーリスさんはナターシャさんを連れて次の店に向かっていったようだ。

 

まぁ、未成年だし、夜間の外出は避けたほうがいいか。明日も訓練あるし。

 

っと、そうだ。クラリッサから連絡来てるかもしれない。携帯、携帯……。

 

 

「メール3件……クラリッサとラウラ、それに千冬さんから?」

 

 

とりあえず、千冬さんからのメールを見てみよう。

 

 

『件名:無題

忙しいところすまない。

留学の状況を聞きたくて連絡した。いつでもいいから、返信してくれ。』

 

 

まぁ、担任だし、留学ともなると心配だよね。

これは家に帰ってゆっくり返信しよう。

 

次はラウラからのメールだ。

 

 

『件名:そちらは大丈夫か?

兄さん、そっちでは何か問題は起きていないか?

何かあれば、シュバルツェ・ハーゼを派遣するからいつでも言って欲しい。

それと、シャルロットが随分怒っていたぞ。兄さんに待ちぼうけをくらったと愚痴ってきた。兄さん、シャルロットに何かしたのですか?』

 

 

ハーゼを派遣するって、そんなことまで考えなくていいのに……ていうか、シャルがそんなこと言ってたのか。日本に帰った時怖いなぁ……。

 

とりあえず、こっちは大丈夫って連絡しておこう。シャルのことも気にしなくていい……っと、送信。

 

夜遅いし、返事が来るのは明日かな。

 

最後にクラリッサのメール……

 

 

『件名:大事ないか?

そっちは忙しそうだな。

こっちは特になにもなくて暇を持て余してる。

訓練は大丈夫か?

昨日言っていた、代表候補生とは仲良くなれたか?

ナターシャ・ファイルスに変なことはされてないか?

将冴のことが心配でたまらない。

いつでもいいから連絡してくれ。

待ってる』

 

 

……

 

僕はすぐにクラリッサの番号を呼び出した。

 

1コール……2コール……3コール……

 

 

『将冴!』

 

「クラリッサ、メールありがとう。今大丈夫だった?」

 

『ああ、大丈夫だ』

 

「もうそっちは日付変わっちゃったよね……ごめん、こんな時間に」

 

『ううん、なかなか寝れずにいたから気にしないでくれ』

 

 

クラリッサの声……1日聞かなかっただけなのに、こんなに恋しくなっている。

 

 

『そっちは大丈夫か……って、昨日も聞いたな』

 

「そうだね。でも……」

 

『でも?』

 

「……ちょっと、愚痴ってもいいかな?」

 

『うん、いいぞ』

 

「今日、訓練でね……」

 

 

人生初かもしれない。誰かに愚痴をこぼすのは……。

 

 

「ハッターさんっていう人と……」

 

 

こんなに自分の気持ちを、晒け出すのは……。

 

 

「その後の訓練で、変なミスばっかりして……」

 

 

リョーボさんが言っていたことを、今、本当に理解した気がする……。

 

 

「僕、情けなくって。これじゃあ、ジェニファーに言われた通りだと思っちゃったよ。本当に貧弱だなぁって」

 

『……そんなことはない』

 

「え?」

 

『将冴が貧弱なんて思わない。VTシステムや、福音の時だって、将冴がいなければどうなっていたかわからない。それはみんなが知っている』

 

「クラリッサ……」

 

『だから、自分を落とすようなことを言わないでくれ……』

 

「うん……ありがとう、クラリッサ」

 

 

ふふ、クラリッサには敵わないな……。

 

はぁ……なんだか吹っ切れたかも。

 

 

「ごめんね、クラリッサ。愚痴なんか聞かせて」

 

『役に立てたなら良かった。……明日は?』

 

「今日と同じ、訓練の1日だよ」

 

『そうか……怪我しないようにな。また愚痴も聞いてやる……全部話してくれ。恋人なんだから』

 

「うん。わかった」

 

『……さすがに、もう遅いな。明日も早いだろう?早く休んだほうがいい』

 

「そうする。おやすみ、クラリッサ」

 

『ああ、おやすみ』

 

 

ゆっくりと通話を切り、少し携帯を眺めた。

 

うん、すっきりした。

 

 

「恋人か」

 

「えっ!?」

 

 

背後から声をかけられた。聞き覚えのある声……この声は……。

 

 

「一週間程度しか経っていないが、随分と手の早いことだ。相手は、あの時私を撃ってきた女か?」

 

「ダイモン……」

 

 

僕の周りで起こる事件の黒幕……仮面の男。なんでここに……

 

 

「ふふ、随分と怖い目をする。それにしては、冷静だな」

 

「どうしてここに……」

 

「君のことを知りたくてね。迷惑だったか?」

 

「すごく迷惑だ」

 

「当たり前か。まぁいい。今日は君に危害を加えに来たわけではない。忠告をしに来た」

 

 

……胡散臭いことを言う。

 

 

「とても信じられるものじゃないんだけど」

 

「信じるも信じないも、君の自由だがね。まぁ、君の意思に関係なく喋らせてもらう。明日、テロリストがこの近くを襲撃する。気をつけたまえ」

 

「なんでそんなことを知って……」

 

「私が焚きつけたからさ。力も与えた。ドイツのように、簡単にはいかない」

 

 

そう言うと、ダイモンは僕に背を向けた。

またいなくなるつもりか!

 

 

「待て!」

 

「せいぜい頑張りたまえ。そして、今度こそ私に負の力を見せてくれ」

 

 

以前のように、ダイモンは揺らぎ、夜の闇に溶けていった。

 

……堂々と犯行予告か。

 

軍に伝えた方がいいか……でも、これは僕の……

 

 

「はぁ、違うだろ」

 

 

僕の問題だけど、もう一人で抱え込まない。

……今から誰かに連絡するのも難しい。明日、朝一でナターシャさんやチーフに伝えよう。

 

 

「好きにさせない……」




これからどんどん事件に巻き込まれていくだろうと思います。

それと、キリのいいところ……夏休み終了頃まで書いたら、更新お休みさせていただきます。

お休み、と言っても一週間ほどですので、すぐに戻ってきます。

少し執筆から離れて静養したいと思います。
誠に勝手で申し訳ありませんが、ご理解いただければと思います。


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134話

どうもドクシャ=サン。サクシャです。

……いや、別にニンジャが出るわけではないのですが、なんとなく……。

アメリカにもダイモンの手が伸び始めましたね。
将冴はどう動くのか。ハッターから格闘術をマスターできるのか。ジェニファーとはどうなるのか。

物語が大きく動き始めそうですね。


 

翌日。

ナターシャさんは帰って来ず、仕方ないので先にトレーニングルームに行っているとメールをいれて、僕は基地に向かった。

 

基地について、まずチーフさんに会いに行った。昨日のことを伝えるために。チーフさんは事務室に居たのですぐに見つかった。

 

 

「チーフさん」

 

「将冴か。朝早くにどうした?」

 

「少しお話が。実は……」

 

 

昨日の話を、チーフさんに伝える。

チーフさんは顎に手を当て考えるような仕草をし、僕に聞き返してきた。

 

 

「その情報は確かなものなのか?」

 

「正直、わかりません……ですが、相手はIS学園やドイツを襲撃しているのは確かです」

 

「……わかった。とりあえず、お前はトレーニングルームにいろ」

 

「わかりました」

 

 

事務室から出て、トレーニングルームに向かおうとすると、チーフさんが「そういえば」と僕を呼び止めた。

 

 

「ナターシャはどうした?」

 

「多分、イーリスさんのところに。昨日、遅くまで2人で飲んでたようです」

 

「そうか……わかった。引き止めてすまない」

 

「いえ。ではこれで」

 

 

さて、軍はどう対応するか……犠牲を出さないことが一番いいことだけど……。

 

まぁ、ここにいるのは僕なんかよりも本格的な訓練を受けている軍人の人ばかりだ。今は心配せず、朝のトレーニングをこなそう。

 

トレーニングルームに入ると、すでにジェニファーとステフがトレーニングをしているところだった。まだ予定の時間よりはかなり早いのに……。

 

 

「あ、ショウ。おはよう」

 

「おはようステフ。ジェニファーも」

 

「……おはよ」

 

 

ぶっきらぼうながらも、ジェニファーが返事してくれた。なんとなく嬉しい。

 

 

「2人とも、早いね」

 

「昨日、ショウが朝早くに訓練してるの見てね。ジェニーが私たちもやるぞって張り切っちゃって」

 

「ステフ!?」

 

「そうだったんだ……」

 

 

まぁ、留学という名目で来てるから。多くのことを学びたいしね。

 

 

「ショウ、昨日はあの後大丈夫だった?調子悪かったみたいだし……」

 

「うん。もう大丈夫」

 

 

それに、今日は襲撃があるかもしれない。体調は万全でないと……。

 

 

「大丈夫ならいいんだけど、昨日ジェニーがすごい心配しててさ。あれが本当に私に勝った相手なの、って」

 

「ステフ、さっきからいらないことばかり言ってないで、さっさとトレーニング始めなさいよ!」

 

「OK、OK。そんなにカリカリしないでよ、ジェニー」

 

「誰のせいよ。ったく……」

 

 

ジェニファーに怒鳴られ、ステフはトレーニングを再開した。

 

さて、僕もトレーニングしようかな。いつ襲撃が来るかわからないから、そこまでしっかりやらないように……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

二日酔いでガンガンする頭を抱えながら、私……ナターシャはチーフに呼ばれたので事務室に来ていた。

 

朝から散々だわ……起きたらイーリスの部屋だし、ショウゴからのメールは事務的なメールだったし……。

 

 

「おい、ナタル。お前大丈夫かよ?」

 

 

存在が暑苦しい男、ハッターに心配されるけど……まぁ、問題はない。

 

 

「大丈夫よ。……それで、チーフ。朝から召集かけて、何かあったの?」

 

「ああ、実は将冴から情報提供があってな。今日、テロリストの襲撃があるそうだ」

 

「え!?」

 

「おいおい、穏やかじゃねぇな」

 

 

テロリストの襲撃なんて……ショウゴが来ているってときに!

 

でも、なんでショウゴがそんな情報を……。

 

 

「それでだ。今日の代表候補生2人の訓練は中止。出撃態勢で待機にする」

 

「少年は?」

 

「ハッター、すまないが昨日と同じようにトレーニングに付き合ってあげてくれ」

 

「いいのか?」

 

「将冴は留学生としてきている。軍がやるべき仕事を手伝わせるわけにはいかない。それに、IS学園から怪我をさせるなと念を押されている」

 

「私もチーフの意見に賛成よ」

 

 

ショウゴに危険なことをさせるわけにはいかない。もうあの時……銀の福音(あの子)が暴走したときのように、ショウゴに傷ついて欲しくない。

 

 

「敵の勢力もわからない。ナターシャ、お前も出てくれるか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「よし。ISは用意しておく。いつでも出撃できるように準備しておけ」

 

「了解」

 

 

IS……久しぶりね。

 

 

「では頼むぞ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

軽く流す程度のトレーニングをしていると、チーフさんとハッターさんがトレーニングルームに入ってきた。僕達はトレーニングを一旦止め、二人の前に整列した。

 

 

「連絡事項がある。ジェニーとステフ。お前達の今日の訓練は中止。すぐに出撃態勢で待機だ」

 

「チーフ、何かあったのですか?」

 

「今日、テロリストの襲撃があるという情報があった。2人には、それを撃退してもらう」

 

 

2人って……

 

 

「あの、僕は……」

 

「昨日に引き続き、ハッターと訓練を続けろ」

 

「なっ、どうしてですか!?」

 

「将冴、お前は留学生としてここに来たんだろう。軍に所属しているわけでも、アメリカの国籍を持っているわけでもない。今回の問題はアメリカ軍が処理する」

 

「で、でも……」

 

 

襲撃の黒幕は……ダイモンは僕が……。

 

いや、これは僕のワガママだ……。

 

 

「わかり、ました……」

 

「……連絡は以上だ。2人はすぐに準備しろ」

 

「「了解!」」

 

 

チーフさんはトレーニングルームを後にする。ジェニファーもチーフさんに続いて行った。

 

 

「ショウ。テロリストの情報って、もしかして……」

 

「ステフ、気をつけて。多分、一筋縄じゃいかない」

 

「う、うん……」

 

 

ダイモンが力を与えたと言っていた……。

 

一体何が目的なんだ。




アメリカ編は、そこそこ長くなりそうですね。

あと10話くらいで終わるかと思っていたんですが、もう少しかかりそうです。


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135話

ペースが遅くて申し訳ありません。
なんだか思うように書けなくて、昨日お休みしました。

そういえば、ブレメモでシャルのイベントが始まりましたね。倉庫の容量足りなくて困ってます。進化素材も足りないや、あはは……


 

「よし、少年!昨日みたいに打ち込んでみろ!」

 

「はい」

 

 

僕とハッターさんは昨日と同じように、スパーリングを始めていた。ナターシャさんがいない……ということは、彼女もテロリストの迎撃のために準備しているのだろう。

 

……僕は本当にこんなことをしていていいのか?僕も出るべきではないのか?

 

ついそう考えてしまう。

 

 

「どうした?少年。昨日のような鋭さがないぞ」

 

「す、すいません……」

 

 

集中できていない。これでは訓練してくれているハッターさんに失礼だ。

 

 

「ま、気持ちはわからんでもないがな」

 

「え?」

 

「少年の様子を見ていればすぐにわかる。浅からぬ因縁があるんだろう?」

 

「……はい」

 

 

両親の仇……今の所、それが一番強い感情だろうか。手足が無くなったことは、さして気にしていない。

 

そして、明らかに僕を狙って襲撃してきている。当事者なんだ、僕は。

 

 

「組織ってのは、どこも面倒なもんだ。俺も、そんなのに嫌気がさして軍を飛び出したことがある」

 

「ハッターさんが?」

 

「おう。自分が正しいと思うことができず、なんの情報のないままに動かされる。理不尽だと思った」

 

「でも戻ってきたんですか?」

 

「ああ。その時の友が、連れ戻した。結局のところは、俺のワガママだったのさ」

 

 

ワガママ……今の僕と、似ている……。

 

 

「少年、チーフからの命令に納得いかないのはわかる。だが、お前のためだということは忘れるな」

 

「僕のため……」

 

「……さて、いい感じにもやもやしてきただろう。もやもやは動けば消える!考えずに打ち込め!カモン!俺を倒してみろ!」

 

 

ハッターさんが煽ってくる。

 

今は考えるより動く……安直だけど、一番効果的か。

 

 

「はい、いきます!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ねぇ、ステフ」

 

 

出撃命令が出るまでの間、私……ジェニファーは隣でISの調子を確かめているステフに話しかけていた。

 

 

「ん?何、ジェニー」

 

「テロリスト、本当にくると思う?」

 

「チーフが言うんだから、くるんじゃない?」

 

「くるんじゃない、って……他人事みたいに……」

 

「今考えても仕方ないし、来た時はその時だよ。それに、テロリストが来るって情報提供したの、ショウだよ?」

 

「はぁ?あいつが情報提供したの!?」

 

 

なんで襲撃がくるって知っているのよ。

あいつがけしかけたんじゃ……

 

 

「ショウ、一緒に出撃したかったみたいだよ。何かあるんじゃないかな?」

 

「何かって?」

 

「そこまでは知らないけど」

 

 

まぁ、あいつに何か理由があったとしても、私には関係ない。今日は実戦。生半可な覚悟で戦ってはいけない。

 

と、その時。緊急のアラームが鳴り響いた。

 

 

『各員に通達。現在、この基地に向かって謎の球体型の機体が多数接近。また、銃火器を所持したテロリストも確認された。IS部隊は直ちに出撃し、自体の鎮圧にあたれ』

 

 

本当に来た……。

いいわ、やってやる。

 

 

『ジェニー、ステフ。聞こえるか?』

 

「チーフ?」

 

『謎の球体は基地の北側と西側から接近している。北側はイーリスとナターシャが対応する。お前たちは西側の敵を鎮圧にしろ。テロリストは他の隊に任せろ。球体を優先するんだ』

 

「「了解!」」

 

『よし、出撃しろ!』

 

「ジェニファー・キール、アラクネで出ます!」

 

「ステファニー・ローランド、ゴールデンドーン。いきます!」

 

 

私達は、同時に飛び出した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

襲撃の報告があり、私……ナターシャはすぐにイーリと共に北側の敵の迎撃に向かった。

 

久しぶり乗ったISが量産型のラファールで、なんだか懐かしい気持ちになったけど、案外動かせるものね。

 

 

「おうおう、ナタルが量産機とは、面白い組み合わせだな」

 

「イーリ、からかわないで頂戴」

 

「別にそんなつもりはねぇよ。だけど、そんな機体で大丈夫なのか?」

 

「仕方ないじゃない。使えるのがこれだけだったんだから」

 

「そうだな……もう銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はいないんだもんな」

 

「ええ……」

 

 

あの子がいれば、今回の襲撃なんて軽く鎮圧できる。

無い物ねだりだけど。

 

 

「っと、敵さんのお出ましだぜ」

 

 

私のレーダーにも引っかかった。

反応は5体。

 

レーダーの反応はISに似ているけど……少し違う?

 

 

「全部で5体か。本当に球体なんだな」

 

「どんな攻撃をしてくるかわからない。気をつけて、イーリ」

 

「わかってるって。国家代表をなめないでくれよ。……とりあえず」

 

 

イーリが前傾姿勢になり、一気に加速して球体に近づいた。またそんな猪突猛進な攻撃を……。

 

 

「まず一発殴ってみりゃわかるだろ!」

 

 

イーリのIS、ファング・クエイクの拳が球体に突き刺さる。やったの?

 

 

「ちぃ!」

 

 

舌打ちをして、イーリが球体から離れる。その瞬間、他の球体からビームを放ち、イーリがいた場所を通り過ぎた。

 

 

「一発じゃ仕留められなかったか……」

 

「でも、かなりダメージは大きいみたいよ」

 

「みたいだな。ナタル、援護してくれ」

 

「了解よ」

 

 

5対2……数はこちらが不利。

敵の能力は未知数。

 

この戦い、どう転ぶか……。




今日はこれが限界だった……。

次回からイーリス&ナターシャとジェニファー&ステフの戦いの様子を書いていきます。

そして、将冴はどうするのか……。

2〜3話ほど続きます。


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136話

どうも、ブレメモで強いコスチュームが少なくて涙目の作者です。

そりゃそうだよね。10連なんて一回もしてないもの。みなさん、イベントの調子はどうでしょう?作者はとりあえず完走しました。サブミッションは無視して進んでますが……。ガチャコンプも難しそうです。


 

「いた。ジェニー!」

 

「分かってる!」

 

 

目標の球体を確認。数は5体ね。

演習の通り、後ろはステフに任せて私は前に出る。

 

相手の攻撃はわからないけど、あの姿で近接攻撃をしてくるとは思えない。なら……

 

 

「ジェニー、熱源注意!」

 

 

来た。4体の球体からビーム攻撃。距離があるからまだ余裕で回避できる。

 

1体は何もしていない……司令塔なの?

 

 

「ステフ、援護して!」

 

「OK!」

 

 

ステフのゴールデンドーンは先端が開閉式になった尻尾を持ち、炎を操るIS。

 

ステフは尻尾を開き、球体の一つに狙いを定め、熱線を放った。熱線は球体に直撃し、小さな爆発を起こす。

 

 

「このぉ!」

 

 

私のIS、アラクネの8本の装甲脚をその球体に突き立てた。

 

硬いけど、少し突き刺さればいい。そのまま装甲脚の先端についた砲門から、ビームを同時に放った。

 

 

「まずは一体!」

 

 

球体は火花を散らし、そのまま地面に転がった。残りは4体。この調子で減らしていけば、すぐに終わる。

 

 

「ステフ、さっさと片付けるわよ。時間稼ぐから、こいつら一掃して」

 

「了解!1分稼いで!」

 

 

1分なんて、ちょろいわね。

 

残り4体のほうへ加速する。

 

 

「ほら、こっちよ!」

 

 

距離を保ちながらビームで牽制する。4体のうち3体は反撃してくるけど、残り1体は何もしてこない。何か企んでいるの?

 

でも、その企みはすぐに潰してあげる!

 

 

「ステフ!準備は?」

 

「完了したよ!離れてジェニー!」

 

 

方向転換し、球体から離れる。

ステフはというと、頭上に巨大な火の塊を作り出していた。

 

これがステフの最大火力。

 

 

「燃えちゃえ!ソリッド・フレア!」

 

 

ステフが火の塊を球体に投げる。

火の塊が球体に当たると同時に爆発。辺りは火の海となった。

 

この火力では、もう無事ではないだろう。

 

 

「ふぅ、ミッションコンプリートかな?」

 

「そうね。早く帰りましょう」

 

「それしても拍子抜けだったね。ショウが一筋縄じゃいかないって言ってたんだけど」

 

「あ、そう。あいつの言うことは頼りにならないわね」

 

「ちょっとジェニー、そんなことっ……!?」

 

「え?」

 

 

ステフの声が不自然に止まった。

それと同時に爆発音。そして私の横を吹き飛ばされたかのようにステフが横切った。

 

何が……後ろ?

 

 

「な、何よ……あれは……」

 

 

さっきの爆発で、全部倒したと思った球体だったものが一つだけ、悠然と浮かんでいた。

もうあれは球体じゃない……大きな球体に小さな球体が何個も連なり、頭と尻尾を作り出して……まるでワームのようになっている。

 

あれに、ステフが撃たれたの!?

 

 

「ステフ!大丈夫!?」

 

「うっ……だい、じょうぶ。まだ、戦えるよ」

 

 

そう言って立ち上がるステフ。絶対防御のおかげで、大きな怪我は避けられたみたい。

 

でも、今の攻撃でかなりシールドエネルギーを削ったはず……

 

 

「ステフ、相手と距離を取りなさい!」

 

「わ、分かったよ」

 

 

こいつ、よくもやってくれたわね!

 

 

「形が変わったからって、粋がるんじゃないわよ!」

 

 

8つの砲門を開き、同時にビームを放つ。

ビームはまっすぐ飛んでいき、頭の部分に着弾した。

 

 

「これでどう?」

 

 

直撃した。さっきまでの球体の装甲から見て、これで頭は吹き飛んで……なっ!?

 

 

「無傷って……」

 

「ジェニー!離れて!」

 

 

ステフが熱線を放つ。

 

が、蛇は特に気にした様子もなく、私の方をじっと見ていた。

 

 

「この、薄気味悪い」

 

 

ビームがダメなら、装甲脚で貫く!

 

加速して蛇に近づき、装甲脚を突き立てる。

 

 

カキィン!!

 

 

「なっ、刺さらない?」

 

「ジェニー!危ない!!」

 

「ハッ!?」

 

 

気付いた時には目の前に蛇の尾が迫っていた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「これで全部っと」

 

 

イーリが最後の球体を拳で沈めた。

これで北側から現れた敵は全部かしら。

 

……なにか、嫌な予感がするけど……。

 

 

「おい、ナタル。代表候補生のところに行くぞ。何か手間取っているみたいだ」

 

「え、ええ……」

 

 

本当にこれだけ?

わざわざ襲撃しておいて……これは?

 

 

「イーリ、ちょっと待って。レーダーに反応、こっちに高速で向かってくる。……何これ、たくさんの反応が密集してる?」

 

「あ?どういうことだ?」

 

「わからない。もう見えてくるわ!」

 

 

反応が近づいてくる方から、2つの何かがこちらに向かっている。

 

あれは……さっきの球体に、小さな球体が何個も連なって腕のようになってる。反応が密集していたのはこういうことね。

 

 

「なんだ、さっきのやつの強化型か?」

 

「気をつけて、イーリ」

 

「言われなくても!」

 

 

イーリが2体のうちの1体に殴りかかる。

 

 

「うぉら!」

 

 

しかし、球体だったものはイーリの拳に合わせて、自身の腕をぶつけてきた。

 

腕がある分、近接攻撃も対応しているっていうの?

 

 

「なっ!」

 

「イーリ、早く立て直して!もう片方は私が引きつける!」

 

 

私はもう1体にアサルトライフルを向け、イーリに注意が向かないように引きつける。

 

相手もこちらをターゲットにしたみたい。

 

このまま腕が届かない遠距離から削りきれば大丈夫なはず……

 

 

「え、何を……」

 

 

球体は体に空いた大きな穴を私の方に向けた。一体何を……。

 

その瞬間、穴から大量の小さな球が吐き出された。球は地面をバウンドし、私を取り囲む。そして、一瞬小さく光ると、一斉に爆発を始めた。

 

 

「きゃぁ!?」

 

「ナタル!?くそっ、こいつがぁ!」

 

 

イーリがもう片方を相手しながらこちらの状況を確認しようとするけど、苦戦していてそれどころじゃないみたい。

 

……今のは、ボム?

 

なんて面倒なものを……今のでシールドエネルギーが200も持って行かれた。

 

 

「おい、ナタル!大丈夫か!?」

 

「大丈夫、少しダメージは貰ったけど、まだいけるわ」

 

「頼もしいが、無理するな。私も、援護に行けそうにねぇ」

 

 

わかってるわ。こっちのは私が私が倒す。最悪、イーリがあちらを倒し終えてから援護に来てくれるのを待つだけだ。

 

 

「次はこうはいかないわよ!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「よし、少し休むぞ」

 

「はぁ、はぁ……はい」

 

 

ハッターさんとのスパーリングを30分ほど行い、休憩に入る。僕はすぐに地面に座り込み、義足をはずす。

 

スパーリングの途中、警報がなっていたけど……大丈夫かな。

 

 

「少年、体調は大丈夫か?」

 

「はい、まだ行けます」

 

「よし、少し休んだらまた始めるぞ」

 

「わかりました」

 

 

直接拳で戦うのは、本当に疲れる。

剣道とは違う体の使い方をしているようだ。

 

……そういえば、水を買うのを忘れていた。

 

 

「ハッターさん。僕、水を買ってきます」

 

「俺も行くぞ!この筋肉をクールダウンさせなければならないからな!」

 

 

この人なら水をかぶってもヒートアップしそうだ……。

 

車椅子に乗り、トレーニングルームを出る。

ハッターさんは僕の隣を並んで歩いている。

 

 

「どうだ、少年。少しは拳に自信がもてたんじゃないのか?」

 

「……どうでしょう。本当に闇雲に殴ってるだけですから」

 

「それでいいんだ。相手に反撃する暇を与えず、絶え間なく殴り続ける。それが、俺が教える格闘技だ!」

 

 

殴り続ける……確かに、有効な手かもしれない。でも……

 

 

「決め手、というのは無いんですか?」

 

「もちろんあるぞ!とびっきり熱いのがな!」

 

 

これ以上熱くなられても困る。

しかし、僕とて男子高校生。そういうのは少し胸が踊る。

 

 

「ハッターさん、それを「おい、聞いたか?出撃したISが押されているらしいぞ」

 

 

僕の声に重なるように、大きな声が聞こえてきた。

 

 

「ああ、見たことも無い機体で苦戦しているらしい」

 

「イーリスとナターシャの方はまだ拮抗しているらしいが、代表候補生の方は二人ともかなり押されて危ないらしい」

 

「退却命令はださないのか?」

 

「出せるISがいないんだ。例の留学生は、軍人では無いから出すわけにはいかないみたいでな」

 

 

ジェニファーとステフが押されてる……。

 

くっ、僕も行ければ……。

 

 

「……少年、自販機はここだぞ?」

 

「え、あ、すいません。少しぼうっとしていて……」

 

「シャキッとしろ、少年!そんなことでは粉砕っ!される!ゾッ!」

 

 

誰に粉砕されるというのか。ハッターさんのテンションに色々粉砕されそうだ。

 

 

「どれ、さっき言った決め手を教えてやろう」

 

「決め手ですか?」

 

「ああ。うまく決まれば、俺でも10分は気絶するような技だ」

 

 

10分も気絶って、大丈夫なのかな?

でも、それをISで使うことができれば強い武器になるのは間違いない。

 

 

「そう、10分。1()0()()も気を失うんだ。その間は少年の自由時間にしてやろう!」

 

「な、なんでそんなに強調し……て……」

 

 

……そうか。ハッターさんの言いたいことがわかった。

 

 

「ハッターさん、お願いします」

 

「おう!俺に任せろ!」




久しぶりに3,000文字超えました。

ゴールデンドーンの描写が難しくて泣きたい。

戦闘描写なんてなくなればいいのに!←


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137話

我慢できずにブレメモガチャを30回ほど回してきました。

クラリッサ実装されるまでにはまた500枚たまるさ……。

結果としては更識姉妹の☆4が揃って歓喜しました。裸ワイシャツ最強。ぐへへ


 

「うっ……くっ……」

 

「ジェニー!」

 

 

頭がクラクラする……。

あの蛇みたいなのの尻尾ではたき落とされて、頭を打ったみたい。

 

シールドエネルギーも残り少なくなってきている。

これ以上の戦闘は難しいけど、このまま逃げてもこの蛇は私たちを追ってくるはず。

 

……ステフだけでも逃さなきゃ。

 

 

「ステフ!私が時間を稼ぐから退却して!」

 

「何言ってるの!?ジェニーを残して退却なんて……」

 

「今のままじゃ、私もステフもやられる!ステフは退却して補給してきて!私はギリギリまで足止めする」

 

「で、でも……」

 

「いいから言う通りにしなさい!」

 

 

尻込みしているステフに怒鳴りちらした。

ステフも、これが効いたのか基地の方へ向けて飛び去った。

 

よし、あとはステフの補給が終わるまでこいつの足止めをすればいい。

 

 

「ほら、こっちよ」

 

 

8つある砲門で蛇にビームを浴びせる。一つ一つは弱いけど、牽制程度にはなるはず。

 

距離をとれば、尻尾の攻撃も問題ない。あとは、遠距離攻撃に注意すればいい。

 

 

「あれ、なんで……」

 

 

何度もビームを蛇に放っているのに、蛇はこちらを気にも止めず、ステフが飛んで行った方を眺めてる。

 

 

「こっちよ!こっちを向いて!」

 

 

何度も。何度も何度もビームを放つのに、こちらを向かない。相手にならないってことなの!?

 

蛇は完全にこちらを無視している。そして、ずるりと体を動かすと、基地の方へ進んでいく。

 

 

「行かせない!」

 

 

私は急いで蛇の尻尾を掴み、行かせないようにする。

 

くっ、なんて力なの?

ブースターを全開にしているのに、少しずつひきづられていく!

 

 

「止まれって……言ってるでしょ!」

 

 

すると、蛇の頭が私の方を向いた。

 

邪魔をした私に腹を立てたの?

それならそれで好都合よ!

 

 

「先に進みたいなら、私を倒してからにしなさい!」

 

 

尻尾を捕まえたまま、装甲脚の砲門を蛇に向け何度もビーム放つ。効かないのはわかってるけど、行かせるわけにもいかないのよ!

 

と、蛇が突然大きく動き出した。まるで私を振り払うかのように。

 

 

「くっ、このぉ!」

 

 

私は耐えきれず掴んでいた手を離してしまう。その瞬間、蛇の体が私を取り囲んだ。

 

まずい、逃げ道がない!?

 

 

「くそっ!」

 

 

蛇の頭に向かって飛び上がり、装甲脚を展開する。

少しでも怯んでくれれば……

 

 

「があっ!?」

 

 

私が飛び上がったと同時に、体に蛇の体が巻き付いた!?

 

 

「くっ、ぐあぁ!?」

 

 

ギリギリと締め上げてくる。

シールドエネルギーがみるみる減っていく。

 

くっ……このままじゃ……

 

 

ピピッ

 

 

レーダーに反応……?

すごい速さでこっちに……

 

 

ガァンッ!!

 

 

大きな衝撃音とともに体を締め付けていた拘束が解け、そのまま落下する感覚を覚える。

 

けど、地面にぶつかる衝撃がない。

 

その代わりふわっと受け止められる感覚が……

 

 

「ジェニファー、怪我はない?」

 

「あ、あんた……」

 

 

やすいコミックヒーローのようなフルスキンタイプのISが、私を抱きかかえていた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……よぉし、少年!教えた通りに打ち込んでみろ!」

 

「はい!」

 

 

ハッターさんに教えてもらった通り構える。

 

右半身を引いて……腰だめで拳を構えて……。

 

 

「ハッター軍曹!訓練中に申し訳ありません」

 

 

僕が構えたところで、リングに近づく1人の男性が……かなり慌てている様子だけど……。

 

 

「あん?どうした?」

 

「はい、実は今行われている戦闘の状況が芳しくなく、今ステファニー・ローランドがこちらに向かっていると……」

 

「……それで?」

 

「え?」

 

「それを俺に言って何をして欲しいんだ」

 

「いや、その……」

 

「訓練の邪魔だ、出て行け」

 

「も、申し訳ありません!」

 

 

ハッターさんがそう言い放つと、男性はいそいそと出て行ってしまう。

 

ステフが……ステフだけ?

ジェニファーは?

 

 

「すまないな少年。さあ、こい!どんどんこい!時間が許す限り、俺に何度でも打ち込んで……」

 

「ハッターさん」

 

「ん?」

 

「行きます」

 

 

僕は大きく踏み込み、右の拳をハッターさんのお腹に叩き込んだ。

 

 

「ぬっぐうぅ!?」

 

 

ハッターさんは数歩後ずさり、そのまま仰向けに倒れこんだ。

 

 

「あ……」

 

 

まずい、不意打ち気味に打ち込んじゃった……。

 

 

「は、ハッターさん?」

 

 

ハッターさんの顔の前に手をかざして意識があるか確かめてみるも、なんの反応もない。

 

本当に気絶させてしまった……。

 

 

「すいません、ハッターさん。すぐに戻ります」

 

 

今はジェニファーの元に行かなきゃ。

 

僕は義肢をつけたまま基地の外へ出て、すぐにテムジンを纏った。

 

 

「ステフが基地に向かっているって言っていた……レーダーに反応があるかも……」

 

 

レーダーの範囲を広げると、基地に向かってくる反応が一つ。これだ。

 

スライプナーをブルースライダーモードにして、レーダーを頼りにステフの元へ向かう。

その途中で、通信が入る。

 

 

『将冴、何をしている!』

 

「チーフさん……」

 

『なぜISを……いや、ハッターはどうした!なぜそこに』

 

「すいません、2人が危ないのに、黙って訓練しているわけにはいきません」

 

『君がそう思うのはわかるが……』

 

「罰は受けます。申し訳有りませんが、通信を切ります」

 

『おい、待』

 

 

チーフさんの制止を聞かず、僕は通信を切る。すいません、チーフさん。

 

と、レーダーではかなり近くに来たんだけど……いた。

 

 

「ステフ!」

 

「え……ショウ!なんでここに!?」

 

「それは後で。ジェニファーは?」

 

「私を逃がすために、1人で敵と……」

 

「どんな敵?」

 

「最初はただの球体みたいなのだったの……でも、途中から蛇みたいに……」

 

 

蛇……ドイツで見たようなやつかな?あの時は少し荒れていてたから、よく覚えてないけど。

 

 

「わかった。僕はジェニファーのところに行く。ステフは基地で補給を」

 

「嫌!私も!」

 

「ジェニファーに退却しろって言われたんでしょ?しっかり補給を終えてからきて」

 

「ショウ……」

 

「それじゃ、行ってくる」

 

 

スライプナーの出力を上げ、加速する。

あいつら……ダイモンオーブを1人で相手するのは危険だ。

 

 

「レーダーに反応……いた!」

 

 

ジェニファーが大きな蛇のようなダイモンオーブに巻きつかれている。

 

……蛇というより芋虫みたいなんだけど、今そんなこと言ってる場合じゃない。

 

 

「行くよテムジン!」

 

 

ブルースライダーのまま、蛇だか芋虫だかわからないダイモンオーブに突撃する。

 

その衝撃で、ダイモンオーブがジェニファーを離した。

 

そのまま落下するジェニファーをキャッチする。

 

 

「ジェニファー、怪我はない?」

 

「あ、あんた……」

 

 

ISはかなりボロボロになっているけど、目に見えて大きな怪我は無さそうだ。よかった……。

 

 

「どうしてここに……チーフに止められて……」

 

「2人が危ないって聞いて、いてもたってもいられなくなってね。来るのが遅れてごめん」

 

「べ、別に来てくれなんて頼んでない!ていうか早くおろせ!」

 

「あ、ああ。ごめん」

 

 

ジェニファーをそっとおろす。でも、少しフラついている……大丈夫かな?

 

 

「と、とにかく!あんたは早く戻りなさい!ここは私一人でも……」

 

「嫌だよ。そんなボロボロの状態のジェニファーを置いて戻るなんてできない。それにっ!」

 

 

僕はジェニファーの手を引く。

 

ジェニファーのいた場所に、ダイモンオーブのビームが着弾した。

 

 

「なっ……」

 

「2人なら、フォローし合えるでしょ?」

 

「え、あ……」

 

「ほら、しゃんとして!また来るよ」

 

「わ、わかってる!」

 

 

ダイモンオーブからのビーム攻撃を2人同時に躱す。

 

 

「ジェニファー、まだ余裕はある?」

 

「言われなくても!」

 

「無理しないで、援護に徹して」

 

「指図するな!」

 

 

そう言いながらも、少し下がって援護する体勢になってくれるんだ。

 

素直じゃないね、ジェニファーは。

 

 

「さぁ、ダイモンの好きにはさせないからね」




次回で戦闘終わりかなぁ。

将冴くんがどんどん超人に……


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138話

とうとう150話に到達しました。ここまで半年かかりましたね。

読んでくださっている方々のおかげでここまできました。

まだ物語は続きます。これからもよろしくお願いします。


 

「……むん!!」

 

 

リングで倒れたままのハッターはむくりと起き上がり、将冴に殴られた腹部を撫でた。

 

 

「2分くらいか。まぁ、一発で俺の意識飛ばすなんて、さすがじゃねぇか。グレイトだな!しかし、ちゃんと掛け声もやれと言ったはずなのに、あいつやらなかったな」

 

 

不意打ち気味に拳を叩き込まれたことは気にしていないようだ。

 

 

「さて、少年は……行ったみたいだな。チーフへの言い訳はどうすっかなぁ……」

 

「誰への言い訳だって?」

 

「ゲッ!?」

 

 

ハッターがゆっくりと振り返ると、そこには腕を組みハッターを見下ろすチーフがいた。

 

 

「ガッデム……」

 

「ハッター、将冴の訓練はどうした?」

 

「いや、そのぉ、だな……いいの一発貰っちまってよ!マジで今起きたばっかりで!」

 

「はぁ……もういい。こちらからの通信も拒否しているくらいだからな」

 

「2人が危ないって聞いて、すぐに行きたそうにしていたからな。少年」

 

 

立ち上がり、埃を払うように体をパンパンと叩きながらチーフに伝えるハッター。

 

 

「もう少し、慎重に行動する男だと思っていたんだがな」

 

「いやいや、少年は年相応の男だって。少し周りを見過ぎているだけのな」

 

「そのようだな……無事に戻ってくるのを待つばかりか」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「よいしょ!」

 

 

尻尾で攻撃してくるダイモンオーブの攻撃を、テムジンのスライプナーでいなしながら、反撃の隙を狙う。

 

以前戦ったオーブやアームより装甲が硬い。そういえば、アームはライデンのバイナリーロータスで瞬殺したんだっけ?

 

これもバイナリーロータスで仕留められるかな?

 

……ていうか、これって蛇じゃなくて芋虫だよね?体くねられせて移動しないし、球体が繋がって出来てるから余計に芋虫っぽい。ダイモンワームと読んでおこう。オーブとアームとワームで語呂がいいし。

 

 

「ちょっと、さっきより動き悪いわよ!」

 

「ああ、ごめんジェニファー。どうやって倒そうか考えていて」

 

「何か大技はないの?」

 

「あるにはあるけど……ジェニファー、1分くらいワームの相手できる?」

 

「そ、それくらい」

 

「正直に」

 

「……少し厳しい」

 

 

だよね。

さて、どうしようかな……。

 

ワームは本体とも言える大きなオーブに小さなオーブが何個も連なっている。

 

……大きなオーブさえ壊せれば……そうだ、ハッターさんに教えてもらった……。

 

 

「ジェニファー!」

 

「なに?」

 

「こいつの動き止めて!」

 

「動きを止めてって、どうやって!?」

 

「なにしてもいいよ!ほんの数秒でいいから、僕に攻撃が届かないように」

 

「そんな無茶な要求を……」

 

「じゃあ、頼んだよ!」

 

「あ……もう!」

 

 

僕はテムジンからアファームドに換装し、ワームに急接近する。

 

ワームの懐に潜り込むと同時に、ジェニファーのISの攻撃がワームを襲った。

 

 

「ナイスタイミング!」

 

「いいから早く!もうエネルギーが少ない!」

 

「わかってる」

 

 

ハッターさんから教えてもらった拳。さっきもできたんだ、今もできるはず……あの掛け声やらなきゃダメかな……ハッターさんも一番重要だって言ってたし……。

 

僕は右半身を引き右手腰だめして構える。

 

 

「ふぅ……」

 

 

小さく息を吐く。

 

 

「行くぞ」

 

 

ブーストを一瞬点火し、瞬間的に加速。大きく一歩踏み込む。

 

 

「バァーニングゥ……」

 

 

勢いを殺さずに拳を突き出した。

 

 

「ジャスティィィス!!」

 

 

掛け声とともに打ち出された僕の拳は、ジェニファーによって動きを制限され無防備になった大きなオーブに文字通り突き刺さった。

 

……やばい、恥ずかしい。

 

すぐに拳引き抜き、恥ずかしさから逃げるためにサブマシンガンを展開し、今穴を開けたところに掃射した。

 

ワームは沈黙し、大きな球体は火花を散らし、そう時間も経たずに爆発した。

 

 

「ふう」

 

 

安堵の息をつき、ジェニファーの方を見る。

 

 

「ジェニファー、大丈夫?」

 

「なんでまた聞いてくるのよ」

 

「いや、なんとなく?」

 

「あ、そう……別に問題ないわ」

 

「そっか、良かった。それじゃ基地に……」

 

 

ガシャン

 

 

戻ろうと言おうとした瞬間、ジェニファーが膝を折り、地面に座り込んだ。

 

 

「あ、れ?」

 

「大丈夫じゃなさそうだね」

 

「なんか急に……」

 

「安心して力抜けたんじゃないかな?さっき、かなり危ない状況だったわけだし。立てる?」

 

「……無理」

 

 

そっか。しょうがない。嫌がられるのは承知で……

 

 

「よっと」

 

「あ……」

 

 

ジェニファーの右腕を僕の首に回し、彼女の腰あたりを持って、立ち上がらせる。

 

 

「ここで立ちすくんでいても仕方ないでしょ。少しだけ我慢してね」

 

「……うん」

 

 

やけに素直に頷くジェニファー。

なんか、少し怖いんだけど……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

基地に戻ると、涙目のステフと腕を組んでいるチーフさん、嬉しそうに笑っているハッターさん。そして、ボロボロのナターシャさんとイーリスさんが。

 

とりあえず、ジェニファーを下ろして、ISを待機状態にしする。

 

 

「ジェニー!」

 

「うわっ、ちょ、ステフ!?」

 

 

ステフがジェニーに抱きつく。よほど心配だったんだな。

などとほのぼの二人を見ていると、ギュムッと抱きしめられた。

 

 

「むぐぅ?」

 

「ショウゴ!勝手に出て行ったって聞いて心配したんだから!」

 

「な、ナターシャさん……すいません。無茶なことして」

 

「本当よ。……無事良かった」

 

 

ギュッと、また強く抱きしめられる。あぁ……クラリッサがいなくて良かった。

 

……そうだ、チーフさんに謝らないと。

 

僕は気が重くなりながらも、チーフさんに近づく。

命令無視に、通信拒否……日本に強制送還されても仕方ない。

 

 

「チーフさん、申し訳ありません」

 

「……」

 

「この罰は、甘んじて受けます」

 

「チーフ!」

 

 

ステフが声をあげた。

 

 

「ショウはジェニーを助けてくれたんです!だから、罰は……」

 

「ステフ……」

 

「私からも」

 

 

ジェニーがおぼつかない足取りながらも立ち上がり、そう言った。

 

 

「お願いします、チーフ」

 

「ジェニファーまで……」

 

「……将冴」

 

「は、はい!」

 

「明日の訓練の参加を禁止する。それが、今回の罰だ」

 

「え?」

 

 

参加禁止って……留学生としてきているから、罰と言っちゃ罰なのかもしれないけど……。

 

 

「ジェニー、ステフ。お前たちも明日は訓練に参加するな」

 

「なっ!?」

 

「どうしてですか!?」

 

「今回の事件の事後処理と、ISの整備で訓練どころではない。わかったな?」

 

 

二人は何を言われたのか理解できずに、顔をキョトンとさせている。

 

 

「返事は!」

 

「「い、イエス、サー!」」

 

 

ビシッと敬礼をする二人。

チーフさん、疲れてるだろうからって気を回してくれたのかな。

 

 

「よし、では今日は解散。ナターシャ、イーリス、今日は助かった」

 

「別にかまわねぇよ。久々に骨のあるやつと戦えたからな」

 

「イーリはそれでいいかもしれないけど、私は散々よ……。早くシャワー浴びたいわ。ショウゴも一緒に浴びましょう!」

 

「いや、いいです」

 

「おうおう、少年。モテモテだなぁ!」

 

「ハッター、お前は始末書だ。さっさとこい」

 

「な、チーフ!明日でもいいだろ!?」

 

 

ハッターさんは情けない声をあげ、チーフさんはダメだと言いながら立ち去っていった。

 

 

「ハッター、何かしたのか?」

 

「さぁね。ま、あんな暑苦しい奴のことは気にせず、今日はみんなでご飯にしましょう!」

 

「お、いいじゃねぇか。代表候補生の二人も来るだろ?」

 

「い、いえ!私達が一緒なんて……」

 

 

ジェニファーとステフは尻込みしている。

まぁ、アメリカの国家代表とテストパイロットの二人と一緒にご飯なんて、恐れ多いか。

 

 

「ショウゴは強制参加よ?」

 

「ふふ、わかりました」

 

「ほら、坊やは行くって言ってるぞ?」

 

 

ジェニファーとステフは顔を見合わせ、決心したかのように小さく頷いた。

 

 

「それじゃあ……」

 

「ご一緒させてもらいます」

 

「よし決まり!さ、早く着替えてご飯いきましょう!ショウゴ、一人じゃ大変でしょう?一緒にシャワーを……」

 

「お断りします」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

一時間後。

昨日、ナターシャさんとイーリスさんと来た店で夕食を食べることになったのだけれど、すでにナターシャさんが出来上がっている。

 

 

「そしたらねぇ〜、イーリったら腕のついた球体をぐるぐる回し始めてね、私が相手してた球体にぶち当てたのよ!?爆風に煽られるわで散々だったわ!」

 

「いいじゃねぇか、ちゃんと倒したんだからよ!」

 

「これよ!イーリは昔っから反省しなくて」

 

「それは今関係ねぇだろ!」

 

 

大人2人のマシンガントークに押され気味のジェニファーとステフ。僕は昨日体験済みなので、高みの見物。

 

 

「なんか、すごいね。2人とも……」

 

「あ、ああ……」

 

「お酒が入れば、誰だっていつもと違う感じになるよ」

 

 

机に並べられた料理から、カロリーの少なそうな料理を皿に盛りながら2人にそう言った。

 

織斑先生とか、山田先生もすごいらしいからなぁ。お酒入ったら。

 

と、その時。ピリリと携帯の着信音がなった。それも2つ。

 

 

「ん?誰よ、こんな時に……」

 

 

一人はナターシャさん。

 

 

「あん?私もかよ」

 

 

もう一人はイーリスさんだった。

 

2人は席を立ち、電話をしに行った。まぁ、僕らには聞かせられないような話もあるだろう。

 

 

「2人とも行っちゃったね」

 

「そうだね」

 

「……」

 

 

何だろう……さっきからジェニファーがこっちを見てくる……。

 

 

「ねぇ」

 

 

突然声をかけてくる。

なぜか心臓がどきっとした。

 

 

「なに?ジェニファー」

 

「その……まだ、お礼言ってなかったと思って……」

 

「お礼?」

 

 

今日のこと言ってるのかな?

 

 

「そうだ、私もお礼言ってない!ショウ、今日はありがとう!」

 

「いや、そんな礼を言われるようなことはしてないし、もう少し早く駆けつけていれば、あんなに追い詰められることは……」

 

「ううん。助けてもらったのは本当だもん。ほら、ジェニーも」

 

「う、うん……」

 

 

ジェニーはなにやら言いにくそうにモジモジとし始める。

 

まぁ、認めたくない奴にお礼言わなきゃいけないんだもんね。そりゃ、嫌だろう。

 

 

「しょ、ショーゴ。今日は、その……ありがとう。それと、ずっとひどい態度をとってごめん。一発殴られても、文句は言わないよ」

 

「いや、僕は気にしてないよ」

 

「私の気がすまない。ほら、思いっきり!」

 

 

歯を食いしばるジェニファー。

 

んー、女性を殴りたくないんだけど……

 

 

「それじゃあ、一発」

 

「ショウ、手加減してね」

 

「ステフ!余計なこと言わないで!」

 

「行くよ、ジェニファー」

 

「ああ!」

 

 

ギュッと目を閉じるジェニファー。

 

僕はゆっくりとジェニファーのおでこに手を伸ばし。

 

 

「ていっ」

 

「あう!?」

 

 

デコピンをくらわせた。

 

 

「はい、一発ね」

 

「え、いや、もっと思いっきり……」

 

「女の子殴る趣味はないし、今日も散々ハッターさんを殴ってきたから、これでいいの」

 

「でも……」

 

 

納得がいかない様子のジェニファー。

んー、それじゃ……

 

 

「ジェニーって、呼んでもいい?」

 

「え?」

 

「殴る代わりに、ジェニーって呼ばせて欲しいんだけど」

 

「う、うん……」

 

「じゃあ、この話はこれで終わり。ほら、酔っ払いがいない間にご飯食べようよ、ジェニー」

 

「……ああ、ショウ!」




やっとジェニーが心開きました。

アメリカ編は、あと3話くらいかなぁ……。

伸びる可能性もありますので、ご容赦ください。


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139話

昨日のあとがきで、あと3話くらいでアメリカ編終わりとか書きましたが、よくよく考えると3話じゃ終わりませんでした。

もう少しアメリカとおつきあいくださいませ。


 

翌日。

今日は訓練に参加するなと言われてしまったので、いつもより少し遅く起床した。すると、ナターシャさんが何やらバタバタと出かける準備をしていた。

 

 

「おはようございます、ナターシャさん。どうかしたんですか?」

 

「ショウゴ、おはよう。実は急なモデルの仕事が入っちゃってね……マネージャーには全部断ってって言ったのに、今日だけはどうしてもって頼まれちゃって」

 

 

そういえば、昨日電話していたな。多分、その電話だったんだろう。

 

 

「それはまた……」

 

「ショウゴも連れて行きたいんだけど、明日まで帰れないみたいなのよ」

 

「明日は普通に訓練がありますね……」

 

「ええ、だからお留守番頼めるかしら?家の鍵はリビングのテーブルの上に置いておいたわ。冷蔵庫の中のものは好きに使って」

 

「はい、わかりました」

 

「あ、それと……」

 

 

そう呟くと、僕のことを突然ギューっと抱きしめてきた。こっちにきて何回目だろ……。

 

 

「な、ナターシャさん……?」

 

「よし、これで頑張れる!それじゃ、もう行くわ。何かあったらいつでも連絡してね」

 

「は、はい……頑張ってください」

 

 

ナターシャさんを玄関で見送る。チラリと外を見ると、すでに車が待機していた。テストパイロットとモデルをこなすなんて、本当にすごい人だなぁ。

 

 

「さて、朝ごはんでも食べようかな。あ、そういえば……」

 

 

自分の部屋に戻り、携帯を見てみるとメールが一件。クラリッサからだ。

 

昨日はバタバタしていて、電話できなかったから、心配かけちゃったなぁ。っと、メール見なきゃ。

 

 

『件名:お疲れ様

 

今日も訓練だったか?

大変だろうけど、頑張ってくれ。

メールでもいいから、連絡を待ってる。』

 

 

今は……クラリッサも仕事中だよね。

メールだけにしておこう。

 

 

『昨日は連絡できなくてごめん。

いろいろバタバタしていて、連絡できなかった。

今日は訓練がないので、いつでも電話して。』

 

 

っと、こんな感じかな。

 

さて、朝ごはん食べて、筋トレでもしようかな。IS使えないし、体を鍛えるくらいしか時間つぶす方法ないし。

 

体力作って、ハッターさんの訓練に耐えれるようにしないと。

 

 

「朝は軽めのメニューにしようかな。冷蔵庫の中は……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

朝食を食べ終え、筋トレや格闘技の練習で、午前中の時間は潰れ、気づけばもう正午を回っていた。

 

……小学校のころ、お昼になると「正午だ、正午」っていじられてたなぁ。まぁ、同音だから仕方ないんだけど……。

 

 

「お昼どうしようかな、冷蔵庫に食材はたくさんあるから作れるには作れるんだけど、1人でお昼っていうのも味気ないしなぁ。まぁ、仕方ないか」

 

 

ご丁寧にお米なんかもあるから、雑炊でも作ろうかな。

最近、カロリー摂り過ぎてるし。ていうかこの米……

 

 

「コシヒ◯リ……」

 

 

まさかの日本米だった。

 

お米の袋を開けようと手をかけた時、キンコーンと少し豪華なチャイムが鳴り響いた。ナターシャさんいないんだけど、出ても大丈夫かな?

 

そんな思考を巡らせていると、またキンコーンとチャイムが鳴った。大事な用件かもしれないし、出ないのはまずいか。

 

 

「はーい、今出ます」

 

 

車椅子を動かし、玄関まで行き扉を開くと、そこには見知った顔が2つ……。

 

 

「あ、ショウ!Hello!」

 

「どうも」

 

「ステフにジェニー?」

 

 

アメリカの代表候補生である、ジェニーとステフが私服姿でそこにいた。

 

 

「どうしたの?」

 

「ナターシャ少尉から聞いてない?今日、ナターシャ少尉が仕事で明日までいないから、ショウのフォローしてって頼まれたの」

 

「全然聞いてない……」

 

 

ナターシャさん、肝心なこと伝え忘れていったな……。

 

 

「とりあえずあがってもいい?」

 

「あ、うん。どうぞ」

 

「お邪魔しまーす」

 

 

二人をリビングまで案内し、僕はすぐにキッチンへ向かった。

 

 

「好きに座って。飲み物はコーヒーでいいかな?」

 

「うん、ありがとう」

 

「砂糖とミルク多めで」

 

「ジェニー、少しは遠慮しないと!」

 

「別にいいじゃない、私たちお客なんだから。ね、ショウ」

 

「ふふ、そうだね。ステフは?」

 

「あぁ……じゃあ、ジェニーと同じで」

 

「了解」

 

 

甘めのコーヒーを3つ作り、お盆に乗せてリビングへ持っていく。両手がふさがっているときって、思考制御は便利だ。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「Thank you」

 

「ありがと」

 

 

2人がコーヒーを飲むところを眺めてから、僕もコーヒーを啜った。うん、美味しい。

 

 

「そうだ、2人ともお昼は食べた?」

 

「ううん、まだだけど」

 

「この後、どっか食べに行こうかって話してたの」

 

「そっか……それなら、今から作るところだったし、食べてく?」

 

「ショウ、料理できるの?」

 

 

ステフが驚いたように声を上げた。

まぁ、僕くらいの年の男が料理をするのは珍しいか。

 

 

「まぁ、簡単なものだけどね。何か食べたいものある?」

 

「ショウにお任せで!」

 

「私も手伝うわよ」

 

「いいよ、座って待って……」

 

「いいから、ステフはそこに座ってなさい」

 

「そうするー」

 

 

押し切られる形で、ジェニーと料理することになってしまった。




少し短いですが……。

それと次の土曜、日曜は更新をお休みさせていただきます。

理由としては、用事が立て込んでいて、更新できる時間が確保できないからです。楽しみにしていただいている方は申し訳ないですが、ご了承いただければと思います。


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140話

140話です。

アメリカ編では、なかなか珍しいほのぼのした話が続くかもしれません。

デレジェニーがわからん。


 

「……」

 

「……」

 

 

ジェニーと並んでキッチンに立ったのはいいものの、お互い特に会話もなく、僕は玉ねぎを、ジェニーは人参をみじん切りにしていた。

 

どうにもこれは居心地が悪い。

 

何か話題を……。

 

 

「ジェニーって料理はよくするの?」

 

「まぁね。ステフが壊滅的に料理できないから、ルームメイトの私がやるしかないのよ」

 

「ステフの料理ってそんなに壊滅的なの?」

 

「クッキー作らせたら、クッキーに見える劇薬ができたわ」

 

「あぁ……」

 

 

セシリアと同じだ。

見た目は問題ないのに、味が壊滅的にダメダメなんだ……。

 

 

「ショウも、手馴れてる感じがするけど」

 

「小さい時から、両親の帰りが遅い時が多くてね。人並みにはできるようになったかな」

 

「両親は、どんな仕事を?」

 

「新しいISの研究。僕のISの設計をしたのは、両親なんだ。それを、今僕が所属している企業が開発したってわけ」

 

「へぇ……すごい両親じゃない。今もISの研究してるの?」

 

「ううん。二年前に亡くなった」

 

 

ジェニーの手が止まった。

 

 

「ごめん……」

 

「気にしなくていいよ。知らなかったんだから仕方ないし。あ、人参それくらいでいいよ」

 

 

ジェニーがみじん切りにした人参を受け取り、油を引いたフライパンに移した。僕が切っていた玉ねぎも同様にフライパンに。

 

 

「ジェニー、冷蔵庫から卵出してもらえるかな」

 

「う、うん」

 

 

僕は火をつけ、人参と玉ねぎを炒める。ジェニーがすぐに卵を僕の近くに置いてくれる。

 

 

「ありがとう。あと、チーズもお願い」

 

「うん……何を作ってるの?」

 

「オムレツ。あとは大丈夫だから、ステフのところに戻ってていいよ」

 

「そういうわけにも行かないわよ。サラダくらいならすぐにできるし、トーストもあるから焼いておくわ」

 

 

ジェニーはトーストをトースターに入れ焼ける間に、冷蔵庫から野菜を取り出し切り分け始めた。

 

 

「わざわざありがとう、ジェニー」

 

「ナターシャ少尉にフォロー頼まれたんだから、これくらいはやるわよ」

 

「お客さんにやらせることじゃないんだけどね……」

 

 

なんだか申し訳ない気分だけど……。

っと、炒め終わったかな。一旦ボウルに炒めた玉ねぎと人参を移して、今度は卵をといてを焼き始める。

 

少し焼いたところで、さっき炒めた玉ねぎと人参を入れる。あとチーズも。

 

あとは、これを包むようにして……

 

 

「完成っと」

 

 

皿に今作ったオムレツを移す。うん、大きめに作ったし、お昼には丁度いいかな。

 

 

「ジェニー、そっちは?」

 

「とっくにできてるわ。ほら、私が運ぶから」

 

 

ジェニーはオムレツを奪い取るようにして持っていく。もう片手には、大皿で盛られたサラダが。

 

これくらいはできるのにな……。しょうがない、皿とかフォークとか、トーストに塗るバターとか持って行こう。

 

リビングに戻ると、暇そうに足をバタバタさせているステフがいた。

 

 

「あ、できた?」

 

「できたわよ。ほら、並べるからちょっと避けて」

 

「お、大っきいオムレツ!美味しそー」

 

「もう少しでトーストも焼けるね」

 

 

僕がそういった瞬間、トーストが焼きあがる。

 

 

「さ、遠慮せず召し上がれ」

 

「お言葉に甘えて」

 

 

ステフがオムレツを一口頬張ると、美味しそうに目を細めた。ジェニーもオムレツを一口。

 

 

「んー、美味しい!」

 

「そうね、なかなかやるじゃない」

 

「気に入ってくれたなら何よりだよ」

 

 

僕もオムレツを食べる。うん、我ながらうまくできたんじゃないかな。

 

 

「ショウ、本当に料理できるんだね。私もこれくらいできるようになりたいなぁ……」

 

「なら、まずはレシピ通りにできるようになりなさいよ」

 

「作ってるよ!ただ、隠し味とかをちょっとね……」

 

「ステフ、まずはレシピ通り作るようにしないと、料理は上達しないよ?」

 

「ショウまでぇ……」

 

 

そう嘆くステフをみて、僕とジェニーはクスクスと笑いをこぼした。

 

と、その時ピリリと僕の携帯が鳴る。

 

 

「あ、ちょっとごめんね」

 

 

携帯を見ると、クラリッサから電話が来ていた。そうか、あっちはもう仕事が終わる時間か。

 

思わず頬が緩んでしまう。

 

 

「おやおや、ショウの彼女から電話かな?」

 

 

ドキッとした。顔だけでわかったのか……?

 

 

「え、その顔……図星だった?」

 

「いや、まぁ……あはは」

 

「ショウ、彼女いたんだ……」

 

 

意外という顔をする2人。

高校生なんだから、彼女くらいいても不思議じゃないよね……?

 

 

「ごめん、少しだけ席外すね」

 

「えー!ショウの彼女見たい!テレビ電話にして、みんなでお話しようよー」

 

「ちょ、それはさすがに……」

 

「私も、ちょっと見たいかも……」

 

「ジェニーまで!?」

 

 

どうやら八方塞がりのようだ。

 

はぁ……

 

 

「相手に聞いてみるから、少し待ってて」

 

「うん、いい知らせを期待してるね」

 

 

期待されても……

 

とりあえず、電話に出ながらリビングを出た。

 

 

「もしもし、クラリッサ?待たせてごめんね」

 

『いや、何かあったのか?』

 

「うん、実は……」

 

 

僕はさっきのことをクラリッサに伝えた。

 

 

「というわけなんだけど、いいかな?断ってもいいんだけど……」

 

『いや、将冴が世話になっているんだ。私も少し話をさせてもらいたい』

 

 

クラリッサ、変なとこ律儀だな……。

まぁ、そこがいいところというか、なんというか……。

 

 

「わかった、じゃあテレビ電話に切り替えるね」

 

 

僕は電話の設定を切り替えながら、リビングに戻った。

 

 

「2人とも、OK出たよ」

 

「さっすがショウ!どんな子なのかな?」

 

「可愛い系の顔してるんじゃないかな?ほら、ショウもそんな顔してるし」

 

「ジェニーみたいな子かもしれないよ?」

 

「ステフ、それどういう意味?」

 

 

2人がなにやら予想しているけど……まぁ、みてもらったほうがいいか。

 

僕は携帯を立てかけれるように小物を集めて、テーブルの上に置いた。

 

 

「それじゃ、紹介するね。僕がお付き合いしている……」

 

『クラリッサ・ハルフォーフだ。将冴が世話になっている』

 

「「え……」」

 

 

2人は予想外とでも言いたそうな顔で絶句した。




クラリッサ成分が足りない。

将冴とクラリッサが絡んでいるイラストを誰か描いてください、お願いしますなんでもしますから。


作中、作者はつい癖で携帯携帯言ってますが、これスマホのつもりで書いてます。そのうち修正しようと思っています。


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141話

長らくお休みして申し訳ありません。
この作品でこんなに休んだのは初めてですね。

今日からまた更新していきます。
これからも末永くよろしくお願いします。


 

ジェニーとステフは言葉を発さず、向こうのクラリッサも何が起こっているのかわからず、不安そうな表情を浮かべている。

 

 

「二人とも、自己紹介して」

 

 

このままいても埒があかない。僕が二人にそう促すと、二人は慌てて自己紹介を始めた。

 

 

「じぇ、ジェニファー・キールです!」

 

「ステファニー・ローランドです!よ、よろしくお願いします!」

 

『あ、ああ。よろしく』

 

 

クラリッサは戸惑いながらも、返事をした。

 

すると、ジェニーがこちらをキッと睨んで来た。

 

 

「ショウ、この人が本当にあんたの彼女?」

 

「うん、そうだよ。先週から付き合ってる」

 

「せ、先週!?」

 

 

付き合い始めたのが最近なため、ジェニーが驚いたような声をあげる。

 

いやまぁ……仕方ないのかもしれないけど……。

 

 

「あ、あの……いきなり聞くことじゃないのかもしれないですが、年齢は……?」

 

 

ステフが遠慮気味にクラリッサに尋ねている。

 

 

『22だ』

 

「お、大人の女性……」

 

「し、仕事は?」

 

『ドイツ軍IS特殊部隊シュバルツェ・ハーゼに所属している。階級は大尉だ』

 

「「し、失礼いたしました、大尉殿!!」」

 

 

二人が突然立ち上がり携帯に向かって敬礼をした。

 

側から見ると、すごいシュールな光景で吹き出しそうになる。

 

 

『やめてくれ、君たちの直属の上官というわけでもないし、今は将冴の恋人として話している。楽にしてくれ』

 

 

クラリッサの言葉にジェニーとステフは顔を見合わせながら椅子に座り直した。

 

その様子を見てから、クラリッサがまた口を開いた。

 

 

『一緒に訓練しているようだが、将冴はちゃんとついていけているだろうか?見ての通り、将冴は身体に障害を抱えているから、心配でな』

 

「それは、問題ないと思います。先日も私と模擬戦をした時は、手も足も出ず……」

 

 

足はいっぱい出ていた気がするけど。

 

 

『そうか。将冴は無茶をすることが多い。もし無理をしているように見えたら、二人が止めてあげてくれ』

 

「は、はい!」

 

「任せてください」

 

 

むぅ、クラリッサは過保護なんだから……。まぁ、でも、最初の格闘訓練はかなり大変だったかも……。

 

 

「僕、またコーヒー淹れてくるよ。二人はそのまま話していて」

 

「う、うん……」

 

「手伝うわ」

 

「いいから、これくらいできるからね」

 

 

手伝おうとするジェニーを制止し、僕はキッチンでコーヒーを作り始めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ショウがコーヒーを作りに行ってしまったため、私とステフは携帯に映ったクラリッサさんを目の前に固まってしまった。

 

どうしよう……何を話したら……

 

 

『……すまないな、驚かせてしまって』

 

「え?」

 

 

クラリッサさんが申し訳なさそうに呟いた。

 

 

『多分、二人は将冴と同年齢くらいを想像していたのだろう?』

 

 

図星だ。

 

ショウとクラリッサさんの関係を否定するわけではないけど、普通のハイスクールでは同年代と付き合うものだと思っていたし。

 

 

『私自身、付き合い始めたばかりだが、そういう反応をするのは仕方ないというのもわかっている。それに、私は軍人、将冴は学生だ。おかしな関係だと思う』

 

「……クラリッサさんとショウはどうやって知り合ったんですか?」

 

 

私も気になっていたことを、ステフが聞いた。

 

 

『2年前か……ドイツで将冴が手足を失った原因の事件でな』

 

 

クラリッサさんが悲しそうに目を伏せた。手足を無くしたことに、クラリッサさんも関係していたのかな……。

 

 

「すいません、変なこと聞いて……」

 

『いや、構わない。将冴はその頃から強くてな……強いといっても、身体的にではなく、精神面でな。両親もその事件で亡くしたのに、将冴は泣かなった。逆に、私が励まされてな。その頃から、私は将冴に好意を寄せていた』

 

「そうだったんですか……」

 

 

ショウの過去を聞いて、改めてショウには敵わないと感じた。

 

私よりも、誰よりも辛い人生送ってるじゃない。なのに、あいつは笑って……あぁ、もう!本当に昨日までの記憶失くしたくなってきたわ!

 

 

『少し湿っぽくなってしまったか?』

 

「いえ、大丈夫です」

 

『ならいいのだが……そうだ、二人とも将冴の身体を見たことはあるか?』

 

「いえ、私はそんなに……」

 

「私も。訓練の時も、マジマジ見たわけじゃないし……」

 

『そうか。なら将冴が戻ってきたら、見せてもらおう。論より証拠だ』

 

「は、はぁ……」

 

 

一体なんなのだろう……?

 

 

「二人ともお待たせ」

 

 

ちょうどよく将冴がコーヒーを持って戻ってきた。……よし。

 

 

「ショウ、ちょっと服脱いでよ」

 

「え!?な、なんで!?」

 

「ショウ〜、早く早く!」

 

「いや、あの理由を聞きたいんだけど……」

 

『私が見てみろと言ったんだ』

 

「クラリッサァァ!!」

 

「彼女からの許可は得たわ。ステフ、そっちを」

 

「OK!」

 

 

コーヒーを奪い、邪魔にならないようにテーブルに置き、将冴の服を取り払った。

 

……そこにあったのは綺麗なシックスパックだった。

 

 

「ショウ、すごい……」

 

「あんた、そんな顔して、こんな身体していたの?」

 

『さすがだな』

 

「これ完全にクラリッサが見たかっただけだよね!?」

 

『うむ』

 

 

クラリッサさんが万遍の笑みを浮かべている。

 

でも、本当にすごい。無駄がなくて、洗礼されてて……

 

 

「これ、どんなトレーニングしたらできるのよ」

 

「いや、普通にトレーニングして……」

 

「ショウ!こんなの普通じゃできないよ!」

 

「二人してペタペタ触んないで!」

 

 

そう言われても、これは触ってしまう。

背中はどうなっているんだろう……。私はショウの後ろに回りこんだ。

 

 

「あっ……」

 

 

思わず声が出てしまった。ショウの背中に傷跡があったから……。

 

 

「ん?ジェニー?」

 

 

ショウが心配そうに声をかけてきた。

 

 

「……なんでもない。ほら服きなさいよ」

 

「あ、もういいんだ。いつももっと触られるから、まだかかると思ってた」

 

「え〜、ジェニーやめちゃうの?」

 

「クラリッサさんの目の前で、私たちがペタペタ触るのもおかしいでしょ?」

 

「はぁーい」

 

『変なことさえしなければ気にしないのだが……』

 

「僕としてはやめてくれて嬉しいけど……」

 

 

ショウが服を着てからは、他愛もない話してに花を咲かせた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

数時間ほど経って、クラリッサとの電話を切る。

明日も仕事だということだったからだ。

 

 

「で、二人は満足した?」

 

「ショウに年上の彼女がいることに驚いたわ」

 

「しかも、綺麗なカッコイイ系の……」

 

 

カッコイイ、ね……普通に可愛いと思うんだけど。

 

 

「それより、ショウに一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「ん?なにかな、ジェニー」

 

「その……さっき見ちゃったの。背中の傷跡……」

 

「傷跡?」

 

 

はて、なんの傷跡……ああ、あれか。福音の時の。

 

 

「あんた、今完全になんの傷跡か忘れてたでしょ」

 

「うん、そんなに気にしたことなかったから、すっかり忘れてたよ」

 

「見ちゃって申し訳ないとか思ってた私がバカみたいじゃない……」

 

「あはは……」

 

 

別に見られても困るわけじゃないからいいんだけどね。

 

 

「で、その傷は?」

 

「銀の福音のことって知ってる?」

 

「試験運用中に暴走したっていう、あの?」

 

「確か、パイロットってナターシャ少尉だったわよね?」

 

「そうそう。その福音の攻撃で怪我しちゃってね」

 

「怪我って、絶対防御は!?」

 

「さすがの絶対防御だって、衝撃までなくせるわけじゃないし、相手は軍用ISだったからね」

 

 

あの時は本当に危なかった。鈴が来てくれなかったらナターシャさんもろとも、海に沈んでいたかもしれない。

 

 

「そっか……ナターシャ少尉とは、その時に?」

 

「うん。次の日に、アメリカに来ないかって言われたよ」

 

「ナターシャ少尉、手が早いわね……」

 

「そうだね……はは」

 

 

まぁ、おかげでアメリカに来られたわけなんだけどね。

 

っと、もう日が暮れるか。

 

 

「二人とも、夕食も食べていくでしょ?」

 

「いいの?」

 

「うん、一人で食べても味気ないし」

 

「夕食作るなら、私も手伝うわ」

 

「ありがとう、ジェニー」

 

「私も手伝う!」

 

「余計なことしないならいいよ」

 

「ヒドイ!」




3日ぶりだと、ブランクが酷いですね←


書くのに結構かかりました。
話数増えると、いろいろと大変ですね。


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142話

今週中にはアメリカ編を終わらせようと思ってます。

そのあとは束編か……目の前が真っ暗になりそう。

まぁ、どうにかなるはず……はず……

少し駆け足で話を進めたいと思います。


 

アメリカに来て4日目。

 

午前中のハッターさんとのスパーリングを終え、昼食を取ろうと食堂へ続く廊下を歩いていると、後ろから声をかけられる。

 

 

「ショウ!」

 

 

振り向くと、こちらに小走りで駆け寄ってくるステフとジェニーの姿があった。

 

 

「ステフ、ジェニー。お疲れ様」

 

「ショウもお疲れ。前みたいに動けなくなるってことはなくなったみたいね」

 

「うん、少しペース落としてもらったから。今日は決め技の練習だけだったし」

 

「ああ、襲撃の時に叫びながら放ってたやつ?」

 

 

しっかりジェニーに覚えられていた。

 

でも、今日練習してわかったのだけれど、叫ばなければ本気で打てなかった。ハッターさんが、重要と言っていた意味がよくわかる。

 

 

「でも、よくついていけるね。ハッター軍曹のスパーリングはかなり厳しいって聞くけど」

 

「手加減してもらってるんだよ。じゃないと、僕だってすぐに倒れるさ」

 

「いやいや、あの体見ちゃうとその言葉は信用度低いよぉ〜?」

 

 

そう言われましてもね……。

小さい時から剣道で鍛えていたんだから、仕方ないというかなんというか……。

 

 

「その調子なら午後も問題なさそうね」

 

「うん。先日は迷惑かけちゃったから、今日はしっかりやらせてもらうよ」

 

「もうクレーター作らないでよね」

 

「善処するよ……」

 

 

一夏も授業で一回クレーターを作ってた気がするな……。

あまりISの操縦に関して、一夏に強く言えないかも。

 

 

「ジェニー、ショウ。早くランチ食べようよ。私お腹減っちゃった」

 

「僕もお腹ぺこぺこだよ」

 

「食べさせてあげようか?」

 

「ジェニーが食べさせるなら私も!」

 

「一人で食べれるから!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

午後の訓練を無事に終えて、家に戻ると既に鍵が開いていた。ナターシャさん、帰ってきてるのかな。

 

 

「ただいま……」

 

「ショウゴォー!!」

 

「むぐう!?」

 

 

突然の抱擁。柔らかい感触が僕の顔を包み、息ができない。

 

 

「1日家を開けてごめんね。何も問題なかった?私はもう、心配で撮影どころじゃなったわぁ!」

 

「む、むぅ!?」

 

「あ、ごめんなさい!強く抱きすぎちゃった」

 

 

なんとか窒息死する前に解放されて、僕は一息ついた。

 

 

「ふぅ……お帰りなさい、ナターシャさん。お仕事、お疲れ様でした」

 

「ありがとう。ショウゴも訓練お疲れ様。ご飯にする?お風呂にするそれとも……」

 

「シャワー浴びてご飯が食べたいです」

 

「最後まで言わせてよ……イケズ」

 

 

どこでそんな言葉を覚えたんだ……アメリカでもそういう言い方するのかな?

 

とりあえず、シャワー浴びてこよう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ショウゴがシャワーを浴びに行っちゃった。

一緒に浴びようかと思ったけど、ショウゴにダメって言われるのはわかってるし、夕飯でも作りましょうか。

 

でも、ショウゴって性欲ないのかしら?結構誘惑してるつもりなのに、全部回避されて……ショウゴくらいの年頃なら、もっとお盛んだと思ったんだけど……。

 

 

「そういえば、ショウゴって彼女とかいるのかしら?」

 

 

そういえば気にしたことなかった。

 

……そうよ、IS学園なんて女の子の宝庫じゃない!毎日女の子あんなことやこんなことを……。

 

 

「って、ショウゴがそんなケダモノなわけないじゃない!それに、私には学生にはない色気だって……」

 

 

……色気があるはずなのに、ショウゴは反応しない……?

 

ますますわからなくなってきた。もしかしてショウゴってゲ……

 

 

ピリリリ

 

 

「きゃ!?け、携帯?」

 

 

テーブルに置いてある携帯の音に年甲斐もなく驚いちゃった。

 

あの携帯って……ショウゴのかしら?

勝手に出るのは失礼だし、ショウゴがシャワーから上がったら教えてあげましょう。

 

ピリリリ

 

ピリリリ

 

ピリリリ

 

 

「ダメ、やっぱり気になる!」

 

 

ショウゴには後でいっぱい謝りましょう。

 

相手は……クラリッサ?

確か、IS学園の教師にそんな名前の人が……。

 

留学という名目で来ているし、教師から連絡が来てもおかしくはないかしら。一緒に住んでいるし、私から挨拶しておいたほうがいいわよね?

 

私は通話ボタンを押して、携帯を耳に当てた。

 

 

「Hello」

 

『な……お前は誰だ?』

 

「失礼、ナターシャ・ファイルスです。ショウゴの宿泊先を提供している……」

 

『ナターシャ・ファイルスだと?なんでお前が将冴の携帯に……』

 

「ショウゴなら今シャワーを浴びてるわ。それで、一緒に暮らしているから、私からも挨拶をと……」

 

『一緒に暮らしているだと!?そんなこと一度も聞いていないぞ!』

 

 

聞いていないって、ショウゴ話してなかったのかしら?

 

 

「下宿先を提供しているんだけど……ショウゴから聞いていない?こっちにいる間は、私の家で一緒に……」

 

『聞いていない……ナターシャ・ファイルス。お前、将冴に変なことはしていないだろうな?』

 

「変なことって、私が留学に誘ったのに、そんなことするわけないじゃない!IS学園のほうからも、護衛を頼まれてるし……」

 

 

昨日は急な仕事でいなかったけど……。

 

 

『将冴に変なことをしたら許さないからな……』

 

「するつもりはないけど……」

 

 

一緒にシャワー浴びようとか、朝の処理を手伝おうとか、それくらいよ、うん。

 

 

「あなた、教師にしてはやけにショウゴのこと気にかけてるのね。ちょっと、一教師としては踏み込み過ぎじゃないかしら?」

 

『わ、私は!……その……』

 

 

なんか、途端に歯切れ悪くなったわね。

なんなのかしら、この教師。

 

 

『将冴のヘルパーも兼任している。心配するのは当然だ』

 

「あらそう。なら心配しないで、ショウゴのことは全部お世話するわ」

 

『そんなの信用できるわけ……』

 

「あ、そろそろ夕飯の支度しなきゃ。それじゃあ、ヘルパーさん。失礼するわね」

 

『ちょっ、まっ』

 

 

無視して電話を切る。

 

それと同時に、ショウゴがシャワーから上がってリビングに戻ってきた。

 

 

「シャワーあがりました。あれ、携帯鳴ってました?」

 

「ええ、IS学園の教師の人からよ。クラリッサって言っていたかしら?挨拶しておいたほうがいいと思って」

 

「え……」

 

 

ショウゴがなにやらマズイといったような顔をする。

 

あの教師といい、ショウゴといい、様子がおかしい。

 

 

「何か悪いことしたかしら?」

 

「い、いえ……ちょっと電話してきますので、携帯を……」

 

「ええ、はいどうぞ」

 

 

ショウゴに携帯を渡すと、すぐに電話をかけ始めた。

 

……もしかして……。




今作初の修羅場。

まさかナターシャと修羅場になるとは思わんかった←


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143話

修羅場らばんば。

作者、修羅場とか書いたことなかったりします。

……がっかりさせてしまったら申し訳ありません。


 

携帯のスピーカーから呼び出し音が響く。

 

マズイことになった。まさか、僕がシャワーに入っている間にナターシャさんが電話をとるとは思わなかった。こっちの人は、勝手に人の携帯にかかってきた電話を取ってしまうのかな……。今度からそこらへんに携帯を置くのはやめよう。

 

若干パニックになりつつあるのを自覚していると、電話がつながった。

 

 

『ナターシャ・ファイルス!!』

 

 

キィンと僕の鼓膜を震わせる大音量。

 

 

『さっきはよくも勝手に……』

 

「クラリッサ、僕だよ」

 

『……将冴だったか。いきなり怒鳴ってすまない』

 

「いや……それは大丈夫……」

 

『……』

 

「……えっと」

 

 

急いで電話したものの、なにを話せばいいのかわからない。

 

とりあえず……

 

 

「クラリッサ、ナターシャさんのこと黙っててごめん……」

 

『……』

 

「怒ってるよね……こんなこと黙ってたんだし……」

 

『ああ、怒ってる』

 

 

当たり前か……。

クラリッサは僕の恋人なのに、黙って違う女の人の家にお邪魔しているんだ。

 

こんなことになるなら、話すべきだった……。

 

 

『でも、私は将冴のことを信じている』

 

「え……?」

 

『話してくれなかったことは怒ってる……けど、信じてるから、これ以上はなにも言わない』

 

「クラリッサ……」

 

『でも、次からはちゃんと話してくれ』

 

「……もちろん、約束する。それと、日本に帰ったらちゃんとお詫びもする」

 

『いや、そんな詫びなんて……』

 

「僕がそうしないと気が済まないの。クラリッサのしたいこと、なんでも聞くから。なにしたいか考えておいて」

 

『わ、わかった……』

 

 

クラリッサはか細い声で返事してくれる。

そのあと、10分ほど話して通話を切った。

 

はぁ、一時はどうなるかと思った。今度からはクラリッサに隠し事はしないようにしよう。でも……

 

 

「僕のことを信じてる、か……」

 

 

改めて、クラリッサに惚れ直しちゃったな。

 

 

 

リビングに戻ると、すでに夕食の準備ができていた。

……まさかこの短時間でビーフシチューを作るとは……。

 

 

「あ、ショウゴ。電話は終わったの?」

 

「はい。何事もなく……」

 

「そう。さ、食べましょう」

 

 

テーブルにつき、手を合わせていただきますと言ってからビーフシチューを一口頬張る。

 

目の前でナターシャさんがこっちを笑顔で見ている。

 

 

「美味しい?」

 

「はい、とっても」

 

「よかった。……ねぇ、ショウゴ」

 

「なんですか?」

 

 

ナターシャさんが笑顔を崩さずに聞いてきた。

 

 

「クラリッサって教師、ショウゴの彼女?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

将冴との電話を終え、私……クラリッサは椅子にもたれかかった。

 

信じると言ったが……実際は不安でしょうがない。

 

 

「ナターシャ・ファイルスに襲われたりしていないだろうか……将冴が彼女に手を出すのはまずあり得ないとは思うが……」

 

 

うう、考えないほうがいいのだろうが、どうしても悪い未来を考えてしまう……。こんなことなら、無理を言ってでもついていけばよかった……。

 

 

「はぁ……早く会いたいぞ……」

 

「意気消沈しているところ悪いんだけど、入っていいかしら?」

 

「る、ルカ!?」

 

 

いつの間にかルカが部屋の入り口に立っていた。

一体なにをして……

 

 

「将冴君と会えなくて、寂しがってるんじゃないかと思ってね。案の定みたいね」

 

「う、うるさい。茶化しに来たのなら出て行ってくれ」

 

「別にそんなつもりないわよ。で、何かあったの?」

 

「……なにもない」

 

 

嘘だ。

ルカに話すことでもない。本当に寂しいだけなんだ。

 

 

「あっそ。まぁ、いいけど。仕事に支障が出ないようにしなさいよ」

 

「ああ。それくらいわかっている」

 

「それと……」

 

 

ルカが私の肩をポンと叩く。

 

 

「女の嫉妬は醜いわよ」

 

「なっ!?」

 

「じゃあねぇ〜」

 

 

そのままそそくさと部屋を出て行ってしまう。

なんなのだ、今のは……。

 

 

「別に、嫉妬なんて……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「クラリッサって教師、ショウゴの彼女?」

 

「はい、そうです」

 

「即答しちゃうのぉ!?」

 

 

事実ですし、これ以上隠してややこしくなるのは嫌ですし。

 

 

「僕はクラリッサと付き合ってます」

 

「明言しないでよぉ!悲しくなるじゃない!」

 

「今日みたいなことが起きないように明言しておいたほうがいいかと」

 

「うぅ……この遣る瀬無い思いはどうしたら……」

 

 

なんだか、申し訳ないことをしてしまっただろうか……。

 

なんとなく……ナターシャさんが僕に好意を寄せてくれているのは気づいていたけれども……。

 

 

「すいません、ナターシャさん」

 

「謝らないで。これは私の戦いなんだから」

 

 

戦いって、誰と戦ってるんだ……?

 

 

「いいわ、こうなったらあの教師から奪い取るまでよ……」

 

「……え?」

 

「というわけで、ショウゴ。今日は一緒の布団で寝ましょう!ショウゴが望むなら、裸でもいいわ!」

 

「全力でお断りします!」




短いし、そんなに修羅場でもないし……なんだこれ。

作者の限界。ドロドロとか荷が重いっす……。

次回、アメリカ編最後。


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144話

アメリカ編はこれにて終了。

ちょっとダラダラとしすぎましたね。

束編は終始ダラダラほのぼのやっていく予定です。


 

アメリカ留学最終日、空港に来ていた。

 

僕の他にも、ナターシャさん、ハッターさん、ジェニー、ステフが来ている。

 

 

「もう一週間経っちゃったわね」

 

 

車椅子を押してくれているナターシャさんが小さく呟く。

まぁ、短期留学だし、この一週間は僕にとって実りある一週間となった。

 

 

「全くだ!よく俺の特訓についてこれたモンだ。グレイトなやつだぜ!」

 

「ちょっとハッター、最後まで暑苦しいのやめてよ」

 

「暑苦しいとはなんだ!小娘がっ!」

 

「小娘とは何よ!年がら年中テンガロンハットなんかかぶって、似合ってるとでも思ってるの?」

 

「なにおう!?」

 

 

二人はそのまま言い争いを始めてしまう。

 

まぁ、暑苦しいですよ、ハッターさん。

えぇ、特訓中もずっと暑苦しかったです。

 

 

「一週間あっという間だったね。最初の頃はどうなるかと思ったけど。主にジェニーが」

 

「わ、悪かったわね……」

 

「あのまま一週間過ごすことになってたら、僕絶対にくじけてたと思う……」

 

「だから悪かったって!もうショウにきつく当たってないでしょ!」

 

「最初っから素直になってればよかったのに」

 

「それは……その……」

 

「まぁ、もう気にしてないから」

 

 

最初の頃のツンツンしていた態度はすっかり丸くなった。認めてくれたってことだから、僕も素直に嬉しい。

 

 

「でも、チーフが来れなくて残念だったね。他の仕事が入ったとかで……」

 

「うん。空港に来る前にお礼は言っておいたんだけどね」

 

「そうなんだ。何か言ってた?」

 

「なんか、よくわからないけど、こんなの渡された」

 

 

僕はチーフからもらったものを取り出して、ジェニーとステフに見せた。

 

それは小さな冊子で、表紙には「戦闘教義指導要綱」と書かれていた。

 

 

「それ、チーフが訓練中にたまに口走るやつじゃない?ショウがいる間は、一回も言わなかったけど」

 

「そういえばそうだね。『一撃必殺』とか言ってるもんね」

 

「チーフさんがわざわざ渡してくれたんだ。飛行機でゆっくり読んでみるよ」

 

 

指導要綱をしまい、ナターシャさんとハッターさんの方を見る。

 

 

「筋肉バカ!」

 

「無駄乳娘!」

 

 

喧嘩のレベルがとても低い。

 

 

「二人とも、もうやめてください。とても低レベルになってますよ?」

 

「だってハッターが……」

 

「おいおい、先に言ってきたのはナタルの方じゃねぇか!」

 

「ほらほら、二人とも」

 

 

二人をなだめると、納得いかない顔をしながらも喧嘩をやめる。

 

っと、そろそろ飛行機の時間か……

 

 

「もう時間なのね。またいつでも来て。私も遊びに行くから」

 

「特訓が恋しくなったら、またこいよ!いつでもカモンだ!ぜ!」

 

「そのうち、IS学園にも行くから」

 

「その時は案内してねぇ!あ、クラリッサさんとも直接お話ししたいかも」

 

 

ギリッとナターシャさんが歯をくいしばる音が……

 

 

「絶対に奪うから……」

 

「なんか言ったか?ナタル」

 

「なんでもないわよっ!」

 

「なんで怒ってんだよ……」

 

 

はは、ナターシャさんが恐ろしくて直視できないや……。

 

 

「それじゃあ、皆さん。一週間という、短い間でしたがありがとうございました。また来た時は、よろしくお願いします」

 

 

みんなに手を振り、僕は搭乗口へ向かった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「行っちまったな」

 

「ステフ、帰ったら訓練付き合ってくれる?」

 

「もちろん、次に会うまでに強くなって、ショウを驚かせないとね」

 

「……あ!!」

 

「どうした、ナタル。急に大声出して……」

 

「ショウゴにお別れのキスするの忘れてた!!」

 

「ナターシャ少尉……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

搭乗口に向かう途中で、僕は携帯を取り出し束さんのラボの番号を呼び出した。

 

すると、1コール目が終わる前に、通話がつながった。

 

 

『もすもすひねもすぅ〜?しょーくんだけのアイドル、篠ノ之たば』ブツッ

 

「あ、思わず切っちゃった」

 

 

あのハイテンションには、ちょっとついていけない。

 

まぁ、すぐにあっちから掛け直してくるだろう。

 

 

ピリリリ

 

 

っと、言ってるそばから。

 

 

「もしもし、束さん?」

 

『しょーくん酷いよぉ〜!そっちからかけてきたのに切っちゃうなんてぇ!』

 

「すいません、あまりのテンションでびっくりして」

 

『まぁいいんだけどねぇ。それでそれで、どうかしたのかな?かなかな?』

 

「はい、これから飛行機に乗ります。日本行きでいいんですよね?」

 

『大丈夫だよぉ〜。空港に迎えを行かせるから、ついたらそれの指示に従ってねぇ』

 

 

それって……ものじゃないんだから。

 

ん?でも、迎えってクロエさんのことじゃないのかな?

束さんがクロエさんのことを、()()なんて呼ぶはずがないし……。

 

 

「まぁ、わかりました」

 

『それじゃあ、待ってるねぇ』

 

 

通話が切れる。

 

……どうして束さんと会うとなると、こう気が重くなるのか……。

 

いつもサプライズ的なものを用意してるからなぁ、束さん。今回は何を用意しているのか……。

 

 

「……ナターシャさんの二の舞は防いだ方がいいよね……」

 

 

さらに気が重くなるのだった。

 




アメリカ編はこれで終わり。

次は束編。

……はぁ、将冴君と同じくらい気が重い……。


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145話

どうも。なかなかモチベが上がらない作者です。

今回から束編。
頑張ります。色々と。


「ふぅ……」

 

長いフライトを終え、飛行機から降りると、僕は小さく息を吐いた。2週間ぶりに日本に帰ってきた。

 

……なんだか2週間以上日本から離れていた気がするけど……1ヶ月強……38話ぶり?

 

……僕は何を言っているんだ。ずっと座りっぱなしだったから疲れてるのかな。

 

荷物受け取りに行かないと。えっと、受取所は……

 

 

「あった。もう荷物を流しているみたいだ」

 

 

ベルトコンベアに乗せられた荷物が次々と流れてくる。僕のは……あった。

 

 

「よっ……重っ……」

 

 

多めに服とか色々詰め込んだからなぁ……とりあえず、膝の上において、邪魔になるからここを出よう。

 

車椅子を動かし受取所を出て、周りを見渡す。

束さんが迎えをよこすって言っていたけど……誰が来てくれるのかな。

 

束さんに連絡したほうが……

 

 

「おい」

 

「え?」

 

 

突然横から声をかけられる。

どこかで聞いたことある声……。

 

声のほうへ振り向くと、茶髪にスーツを着た女の人が……あ、この人……。

 

 

「もしかして、オータムさん?」

 

「もしかしなくてもそうだよ」

 

 

直接会うのはすごい久しぶりだ。あのショッピングセンターでのテロの時以来だから、2年ぶりか。

 

でも……

 

 

「どうしてオータムさんがここに?」

 

「篠ノ之束に命令されて来たんだよ。お前を迎えに行って来いってな。ったく、人使い荒いうさぎだぜ……」

 

 

そう愚痴をこぼすオータムさんに、僕はあははと苦笑いするしかなかった。

 

 

「ん」

 

 

と、オータムさんが右手を差し出してきた。はて、この手は……

 

 

「えっと……」

 

「荷物、持ってやるから寄越せって」

 

 

そういうことだったのか。ちゃんと口にして欲しいです……。

 

 

「いや、大丈夫ですよ。膝に乗せておけば、邪魔にならないですし……」

 

「いいから貸せって!ガキが遠慮なんかするな!」

 

 

オータムさんが奪い取るように僕の荷物を持ち、肩にかけた。そしてそのまま僕の後ろに回り、車椅子を押し始めた。

 

 

「お、オータムさん、自分でできますから……」

 

「ぐちぐちうるせぇな!黙って座ってろ」

 

 

怒られてしまった……。

何を言っても無駄な気がするから黙っていよう……。

 

それにしても、どこに向かってるのだろう。こっちは駐車場のほうかな?

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……だぁ、もう!なんか喋れよ!」

 

「え、だって黙って座ってろって……」

 

「たしかに言ったけど……もういい!……調子狂うぜ。ったく……」

 

 

どうしろというのか……差し障りない話題でも振ればいいのか……?

 

 

「えっと、スコールさんは一緒じゃないんですね」

 

「別件で違う仕事に行ってる。帰るのは明日って言ってた」

 

「そうですか……」

 

「……」

 

 

会話が続かない。とても気まずい……早く目的地に着かないものか……。

 

などと考えているうちに、駐車場に入り、一つの車の前で止まった。

 

 

「荷物、トランクに乗せてくるから、お前は乗ってな」

 

「あ、はい!」

 

 

僕はいそいそと義足をつけて、車椅子を拡張領域にしまうといういつもの作業をおこない、助手席に乗り込んだ。

 

オータムさんは荷物をトランクに乗せてから、運転席に乗り込む。

 

 

「シートベルトしめたな?」

 

「はい、この通り」

 

「1時間くらい移動する。少し寝てろ。時差ぼけしてんだろ」

 

「いえ、時差調整して飛行機で寝たので問題ありません」

 

 

むしろ、ここで寝てしまうと夜眠れなくなる。

 

 

「……そうか」

 

 

オータムさんはそう呟くと、静かに車を発進させた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

車を発進させて分30分ほど経ったが……

 

 

「……」

 

「……」

 

 

気まずい。将冴と何話せばいいんだよ。

 

だいたい、なんで私がこいつを迎えに行かなきゃいけないんだよ。私は、あの時の電話のせいで会いたくなかったのに……。

 

 

『オータムさんって以外とおっちょこちょいなんですね。前にあった時とか男勝りな人だなぁという印象しかなかったんですが、かわいいところもあるんですね』

 

 

ああ、もう!思い出しちまった!

顔が熱い……。

 

かわいいなんて言われたことないから、なんて反応すりゃいいんだよ……。

 

 

「あの、オータムさん?」

 

「なんだよ!」

 

「あ、いえ……なんか顔が赤くなっているので、大丈夫かなと……」

 

「なっ」

 

 

しまった、見られてた……!

 

 

「なんでもねぇ!」

 

「そう、ですか?」

 

 

まずい、変に思われたか……?

 

今は運転に集中しろ……。

 

 

「オータムさん」

 

「今度はなんだ」

 

「オータムさんと束さんは、どういう関係で知り合ったんですか?」

 

 

……そこを聞いてくるか。私が話してもいいが、これはうさ耳博士から聞いたほうがいい話だ。

 

ていうか、今の私がうまく説明できる自信がない。

 

 

「ラボに着いたら話す。それまで我慢しな」

 

「……わかりました」

 

 

こいつ、妙に物分りがいいな。もっと追求してくる気がしたが……。

 

と、もうすぐ着くな。

 

 

「降りる準備しろ。もう着くぞ」

 

「わかりました」

 

 

さてと、入り口を開けてもらうとするか。

 

私は私の持つISの通信をつなげた。

 

 

「オータムだ。入り口を開けろ」

 

 

向こうにそう伝えると、10数メートル先の地面がずずっとせり上がってきた。

 

 

 




短めですがこの辺で。

次回から束さんのが大暴れ。

作者は気が滅入ります……


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146話

昨日おやすみして申し訳ありません。
例によって例のごとくリアルが忙しくて書く時間が取れませんでした。

不定期休載タグでもつけようかという血迷った考えが巡りました。まず毎日更新タグもつけてないから、なんのこっちゃですね。


突然せり上がった地面には、車一台が侵入できそうな通路があり、オータムさんはそこに迷いなく突っ込んだ。

 

十中八九、束さんが作った秘密の通路だろう。今まで束さんのラボに行くときは眠らされていたりしていたからどうなっていたかわからなかったけど、こうなっていたのか……。

 

通路を少し走ったところで車が止まり、オータムさんが車を降りた。

 

 

「ほら、着いたぞ」

 

「あ、はい!」

 

 

急かされながら車を降りて、すぐにトランクへ荷物を取りに行く。オータムさんに任せたままにするわけにはいかない。

 

 

「よっ、と……」

 

「荷物なら私が……」

 

「いえ、これくらいは自分でやりますので」

 

 

そう言うと、オータムさんは「そうか」と小さく呟き、近くにある扉から出て行く。

 

さて、少し気を張っておこう。束さんは何をしでかすかわからない。

 

オータムさんに続き扉をくぐると、そこには2年前にラボに来たときと同じ廊下が続いていた。

 

そしてこちらにゆっくりと近づいてくる、ラウラと同じ綺麗な銀髪の女性。

 

 

「将冴様、お久しぶりです」

 

「久しぶりです。クロエさん。少しの間お世話になります」

 

「はい、どうぞ寛いで行ってください。オータム様、お迎えお疲れ様でした」

 

「別に。私は部屋に戻るから、あとで酒持ってきてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

オータムさんはクロエさんにそう伝えると、自室であろう部屋へ籠ってしまった。

 

あ、お礼言ってなかった……。

 

 

「将冴様、早速部屋へ案内しますね」

 

「ありがとうございます。そうだ、荷物を置いたら束さんに挨拶しに行きたいんだけど」

 

「束様は、いつもの研究室にいます。将冴様に会いたがっていましたよ」

 

 

会いたがっていたときいて、嫌な予感がするのは僕だけだろうか……。何もされなければいいけど。

 

 

「では、こちらになります」

 

 

クロエさんに案内され、部屋へ向かう。

途中、少し廊下を見回すと、2年前より部屋の数が増えている気がした。オータムさんやスコールさんもここにくるから、増設したのかな?

 

そう時間もかからずに部屋へ到着する。部屋の中はベッドと必要最低限の家具が置いてあるだけのシンプルな部屋だった。

 

ただ……

 

 

「ベッド、大きすぎないかな……」

 

「キングサイズです」

 

「さいですか……」

 

 

束さんがいらんことを考えているのが丸分かりだった。まぁ、今に始まった事ではないし、気にしないでおこう。

 

僕は荷物をベッドの上に置きすぐに部屋を出る。

 

 

「すぐに研究室に向かわれますか?」

 

「はい。もう心の準備はできてます……」

 

「心の?」

 

「ああ、気にしないでください」

 

 

僕個人の問題だ。

 

数分とかからず、研究室の扉の前までくると、クロエさんがコンコンとノックした。

 

 

「束様、将冴様がいらっしゃいました」

 

 

……返答がない。束さんならすっ飛んできそうだけど……。

 

 

「束様?」

 

 

クロエさんが扉開こうと手を伸ばした瞬間、ゾクリと背後から嫌な予感がした。

 

マズい、と思ったときにはもう手遅れだった。

 

背中の方の服の隙間から、スルスルと何か入ってきて、ガシッとお腹を掴まれた。

 

 

「のわぁ!?」

 

「ムフフ、さすがしょーくんだねぇ〜。さらに逞しくなって、束さんは興奮度MAXだよぉ〜、ぬふふふふ」

 

 

後ろからそんな声が聞こえると、束さんが僕の服の襟の隙間からポンっと頭を出した。伸びる!襟が伸びちゃう!

 

 

「束さん!?これは何を!?」

 

「しょーくんの匂いに包まれながら、しょーくんの腹筋を愛でつつ、しょーくんの首筋をペロペロするための最・終・形・態!なんだよ。ペロペロォ〜」

 

「あ、や、ちょっと、首はっ!」

 

 

束さんが首筋を舐めてくる。くすぐったいし、なんだか変な感じがする。

 

 

「しょーくんの悶える姿だけでご飯10杯は行けそうだよ!」

 

「お、お願いだから、やめっ……クロエさん助けてください!」

 

「私としては、もう少し眺めていたいなと……」

 

 

しまった、クロエさんが束さんに毒されている……。

味方がいない。

 

背中にぴったりくっついてしまっているから手も届かないし、振り解こうにも服の間に入ってしまっているからふりほどけない。

 

どうすれば……

 

 

「義肢を外せ」

 

「え?」

 

「早く」

 

 

突然聞こえてきた声に戸惑いながらも、義肢を全て拡張領域にしまう。その瞬間、ガシッと腰あたりを掴まれ思いっきり引き抜かれた。

 

 

「わぶっ!?」

 

 

引き抜かれた僕は上半身裸のままに何者かに抱っこされた。……あれ、この匂い。

 

 

「あ!しょーくんがいなくなっちゃった!でも、この服はいいかもしれない……」

 

 

束さんは僕の服を身に纏い、くんくんと匂いを嗅いでいる。長時間飛行機に乗っていたから、着替えもしてないし、汗臭いはずだからやめてほしいのだけれど……。

 

 

「大丈夫か?」

 

「え、あ、すいません。助かりまし……た……」

 

「ん?なんだ?」

 

 

顔を上げると、そこにはよく見知った顔があった。

 

 

「千冬さん……?」




将冴とマドカが初顔合わせ。

はてさて、どうなることか……。


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147話

最近、pixivなんかにも移植しようかと悩み始めている作者です。

やっぱり、いろんな人にも読んでもらいたいですからね。



(これを機にクラリッサの絵が増えないかとかいう浅い目論見なんてありませんよ?)


 

どうしてここに千冬さんが?

束さんに用事があってきていた……?

 

……あの千冬さんがわざわざ会いに来るだろうか?

でも、そうじゃないと目の前の光景に納得が……なんだろう。昔抱きかかえられた時とは明らかに何か足りない気がする。千冬さんはもう少し柔らかくて大きかったような……。

 

 

「何か失礼なことを考えている顔をしているぞ、柳川将冴」

 

「え、あ、ごめんなさい!」

 

「とりあえず下ろすぞ。車椅子を出せ」

 

「は、はい!」

 

 

言われた通り車椅子を出すと、千冬さんに似た女性は僕を車椅子に乗せた。

 

改めてその女性……っていうか女子?を見てみると、年は僕より少し下くらいの女の子だった。千冬さんに激似の。

 

 

「お前の言いたいことはわかるが、私は織斑千冬ではないぞ」

 

「う、うん……改めて見たら、そうだね。えっと、名前は?」

 

「……エムだ」

 

 

エムさん……彼女には悪いけど、なんだかそっけない名前というか……。

 

 

「まーちゃん、コードネームじゃなくて本名言わなきゃ〜、クンカクンカ」

 

「必要性を感じない。あと、お前はいつまで柳川将冴の服の匂いを嗅いでいる」

 

 

そう言うと、エムさんは束さんから服を奪おうと手を伸ばすが、束さんはひょいひょいと躱してしまう。あの人、いろいろ規格外だから、本気で逃げられると捕まえるの大変なんだよなぁ……。

 

 

「まーちゃんがちゃんとお名前言えたらしょーくんに返してあげるー」

 

「このっ……」

 

「エムさん、いいですよ。束さんが飽きるまでそのままで。部屋に着替えありますから」

 

「……そうか」

 

 

エムさんはそう言うと束さんを捕まえるのをやめて、こちらをじっと見てきた。

 

 

「あの……何か?」

 

「マドカ」

 

「え?」

 

「名前、織斑マドカだ。さん付けしなくていい」

 

 

織斑マドカか。

名字が織斑なのが気になるけど、そこは触れない方がいいだろうか。

 

 

「うん、わかったよマドカ。僕のことも、将冴でいいよ」

 

「ああ」

 

 

僕は手を差し出すと、マドカは意図を理解してくれたのか、手を握ってくれる。

 

すると、手を握ったままマドカがこちらをじっと見てくる。ただ、さっきと違って僕の顔ではなく、少し下……お腹のあたりに目線が行っている。

 

 

「ま、マドカ?」

 

「……」

 

「えっと……」

 

「……」

 

「……触ってみる?」

 

 

そう聞くと、マドカはコクンと頷き、僕のお腹をペチペチと硬さを確かめるように叩き始めた。

 

 

「……」

 

ペチペチペチペチ

 

「……」

 

ペチペチペチペチ

 

「……楽しい?」

 

「よくわからない」ペチペチペチペチ

 

 

さすがに何度も叩かれると、ジンジンしてくるんだけど……ていうか、上半身裸だから少しずつ寒くなってきた。

 

……くしゃみでそう。

 

 

「んっ……くしゅっ」

 

「将冴様、寒いですか?」

 

「うん……夏とはいえ、冷房効いたところで上半身裸は、ちょっとね」

 

「それはいけません。束様、将冴様の服を返してください!」

 

「エェ〜、もう少し嗅いでおきたいよぉ〜」

 

「将冴様が風邪をひいてしまいます。さあ、お返しください!」

 

「ぶー、しょうがないなぁ〜。ま、束さんの匂いも染みついているから、それはそれでいいかもねぇ〜」

 

 

何がいいものか……。

 

クロエさんは束さんから服を受け取り僕のところへ持ってきてくれる。

 

 

「どうぞ、将冴様」

 

「ありがとうございます、クロエさん。マドカ、服着るからお腹の叩くのやめてくれる?」

 

「……わかった」

 

 

一瞬残念そうな顔を見せ、僕のお腹を叩くのをやめてくれた。

 

さっさと服を着ると、束さんが僕の目の前にやってくる。

 

 

「さあさあ、しょーくん。改めて、私の住処へようこそなのだよー。とりあえず、しょーくんの義肢とバーチャロンを預かるよ。そろそろフルメンテしておいたほうがいいからねぇ〜」

 

「束さん、義肢なんですが、代わりの義手はありませんか?足はまだいいとしても、手はないと不便ですし……」

 

「しょーくんには申し訳ないんだけど、義手の予備はないんだぁ〜。すぐに終わらせちゃうから、今日のところは我慢してくれないかな?」

 

 

義手を後からメンテしてもらうという手もある気がするけど……それは束さんの負担になってしまうか……。しょうがない、諦めよう。

 

 

「わかりました、メンテよろしくお願いします」

 

「はいはーい!」

 

 

僕はまずバーチャロンの待機状態であるピアスを耳から外し、束さんに渡す。

 

義足は拡張領域に入っているから、束さんなら取り出せるだろう。後は義手だけど……。

 

 

「将冴様、義手を外しますね」

 

「お願いします」

 

 

クロエさんが義手をゆっくりと外してくれる。

 

……やっぱり手足がないと不便だなぁ……。

 

 

「ではでは、束さんは研究室にこもってくるよ!くーちゃん、後でお夕食持ってきてねぇ」

 

「かしこまりました」

 

 

束さんは研究室に入って行ってしまった。

 

さて、この後はどうしようか。ISも義肢もないからトレーニングはできないし……。

 

 

「将冴」

 

「ん?どうしたの、マドカ」

 

「また触らせてくれ」

 

「……今?」

 

「今」

 

 

どうせ抵抗できない。

 

僕はマドカにお腹の主導権を渡した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

数十分ほどマドカにお腹をペチペチされていると、クロエさんが料理を乗せたキャスター付きの台を押して束さんの研究室に向かっていくのが見えた。

 

 

「あ、クロエさん。もうお夕食できたんですか?」

 

「はい、そちらの部屋にご用意してきたので、先に食べてても構いません」

 

「わかりました。ほら、マドカ。もう叩くのはやめて」

 

「わかった」

 

 

今度は十分に堪能したのか、さっきのように残念そうな顔を見せなかった。

 

思考制御で車椅子を動かし、料理が置いてあるという部屋に向かおうとすると、マドカが僕の後ろに回り、車椅子を押し始めた。

 

 

「私が押す」

 

「ありがとう、マドカ。それじゃあ、お願いしようかな」

 

 

マドカに押され、部屋に入ると、まるで一軒家のリビングのような部屋がそこに現れた。

 

 

「うわぁ……」

 

 

二年前はなかったために、これにはさすがに驚きを隠せない。

 

ていうか、束さんはこのラボをどこまで持っていくつもりだ。そのうちIS学園より大きな建物になるのではないだろうか……

 

 

「そこでいいか?」

 

 

マドカが指差す方向には、大きなテーブルに椅子が5つ置いてある。しかし、一つだけすっぽりスペースが空いている。

 

車椅子用に空けておいてくれたようだ。

 

 

「うん」

 

 

マドカはスペースへ車椅子を止めてくれ、左隣に座った。

 

テーブルの上にはすでに美味しそうなハンバーグやスープなどが四人分並んでいた。

 

 

「美味しそうだね」

 

「ああ。……将冴」

 

「何……むぐぅ?」

 

 

突然口の中に何か突っ込まれた。これは……ハンバーグだろうか?

 

 

「私が食べさせてやる」

 

「ん、んぐっ……はぁ……。それは助かるけど、いきなり口の中に突っ込まないでくれるかな?」

 

「善処する。ほら、口を開けろ」

 

 

マドカがハンバーグを小さく切り分け、それをフォークで突き刺し僕の口元に持ってくる。

 

この感じも久しぶりだな……。

そんなことを考えながら、僕はハンバーグを口にした。

 

と、その瞬間、部屋の扉が開いた。

 

 

「おーい、飯できてんの……か……」

 

「オータムか」

 

 

ここに来る時に来ていたスーツではなく、シャツにホットパンツというラフな格好のオータムさんが入ってきた。

 

何やら口をパクパクさせているが……

 

 

「エ、エエエム!お前何してんだ!?」

 

「見ての通り、将冴の食事を手伝っている」

 

「手伝ってって、なんで……」

 

「束さんに義手持ってかれてしまって」

 

 

ここで、オータムさんは僕の体をまじまじと見つめてきた。

 

 

「……ったく、そういうことかよ。驚かせんじゃねぇよ」

 

「お前が勝手に驚いたんだろう」

 

「うるせぇ!ガキは黙ってろ!」

 

 

そう言うと、オータムさんは僕から一つ席を空けたところに座った。

 

 

「オータム、将冴の横に座らなくていいのか?」

 

 

マドカが何やらオータムさんに絡んでいる。

 

 

「は、はぁ!?なんでわざわざ隣に行かなきゃ……」

 

「電話、鏡……」

 

「だぁ!お前!それ以上言うんじゃねぇ!」

 

 

一体何のことか……




オータムツンデレ可愛い。

束むつかしい。

クロエマジメイド。

マドカなぜか不思議ちゃん


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148話

だんだん暑くなってきましたね。

なんだかんだで、ISブレイジングメモリーをだらだらと続けている作者です。シャルイベも今やってる高難度イベも、報酬であるメダル50枚もらうまでやってしまい、まさかここまでやるとは思わなかったと、内心ドキドキもんです。

いつかクラリッサが実装される日を待ちわびながら、だらだらと続けていこうと思います。


 

夕食をマドカに食べさせてもらい完食すると、クロエさんが部屋に入ってきた。

 

 

「あ、クロエさん。夕食、ごちそうさま。美味しかったです」

 

「お口に合ったようなら良かったです。そうそう、束様が義肢は明日の朝にはメンテナンスが終わると仰っていましたよ」

 

「本当ですか?」

 

「はい。束様も張り切っていました」

 

 

早く終わってくれるのは嬉しい。生活のすべてを誰かに手伝ってもらわなきゃいけないのは、申し訳ないからね。

 

 

「将冴様はこの後どうされますか?」

 

「もう寝ようかと思います。移動とか、束さんのアレで疲れてしまって」

 

 

束さんに聞きたいことがあったけど、義肢とバーチャロンのメンテナンスが終わるまで待ったほうがいいだろう。

 

束さんのことだから、明日までには義肢くらいは仕上げてくれそうだけれど……。

 

 

「そうですか。では、部屋までお連れしますね。あ、シャワーと着替えもお手伝いしないといけませんね」

 

「着替えは手伝ってもらいたいですが、シャワーは義肢が戻ってからでも……」

 

「そう遠慮なさらず。それに、もう2年前に将冴様の体はすべて見させていただきましたので」

 

「いや、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいので……」

 

 

前に見られていたとしても、2年も経てば恥ずかしさは戻ってくるわけで……それに、今僕にはクラリッサという恋人がいるんだ。

 

 

「なら私が手伝おうか?」

 

「マドカはもっとダメだから……」

 

 

同年代の女の子に入れてもらうなんて、それこそ冗談ではない。

 

 

「将冴、お前は我儘だ」

 

「これって我儘っていうの?」

 

「将冴様、観念してください」

 

「なんでクロエさんはそんなにやる気なの!?」

 

「先ほどの束様と将冴様の絡みを見ていたら、私もやりたくなりまして」

 

 

マジでクロエさんが束さんに毒されている……。ずっと束さんといたらこうなってしまうのか?

 

 

「いや、明日には義肢が戻ってきますから、今日のところは着替えだけ……」

 

「しかし……」

 

 

しかしではなく……あぁ、もうどうすれば……。

 

 

「お前ら、うるせぇぞ!静かに飯も食えねぇ!」

 

 

今まで我関せずだったオータムさんが、バンッとテーブルを叩きながら立ち上がり、僕のところまでズンズンと歩み寄ってくる。

 

 

「お、オータムさん?」

 

「エム、クロエ。こいつ借りるぞ」

 

「え、あ、はい!」

 

「いたいけな少年を襲うつもりかオータム」

 

「テメェは黙ってろ!」

 

 

マドカにそう叫ぶと、オータムさんは僕を抱え上げた。

 

 

「ちょ、オータムさん!?何をして……」

 

「黙ってろ」

 

「は、はい……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

どうしてこうなった……

 

僕は今、自室のシャワールームの椅子に置かれている。腰にタオルを巻いただけの状態で。こんなこと前にもあった気がする。

 

あの時は山田先生だっただろうか……。

 

というか、オータムさんの手際の良さにびっくりして、絶賛放心状態中なんだ。気づいたらこの格好とか、オータムさん慣れているのかなんなのか……。

 

と、オータムさんがシャワールームに入ってくる。シャツにホットパンツの姿はそのままだけど、裾が濡れないように腕をまくっている。そして髪をひとまとめにしてポニーテールにしている。

 

 

「ほら、頭洗うから目瞑れ」

 

「わっぶ!?」

 

 

上からシャワーをかけられる。

 

 

「お前髪伸びすぎじゃないのか?片目隠れてるだろ」

 

「昔っからこの髪なんですけど……」

 

「ふーん……」

 

 

オータムさんは相槌を打ちながらシャンプーを泡立て、僕の髪洗い始めた。

 

これはなかなか気持ちいい……

 

 

「オータムさん、兄弟とかいるんですか?」

 

「なんでそんなこと聞くんだよ」

 

「ずいぶん手慣れているなと思いまして……」

 

「そういうことか……。いねぇよ。前にエムの面倒見ていたことがあったから、それで慣れただけだ」

 

「マドカの?」

 

「その辺は込み入った話だ。そのうち、うさ耳博士から聞かされるだろ」

 

 

ふむ……そういうことなら仕方ないか。ダイモンの話と一緒に話してくれるだろうか。

 

 

「泡流すぞ」

 

「あ、はい」

 

 

また頭からシャワーをかけられる。

オータムさんは流し残しがないように丁寧に流してくれる。

 

 

「かゆいところはないか?」

 

「ありません」

 

「ん。次、体洗うぞ……って、ここスポンジとかねぇのか。しゃあねぇな……」

 

 

そう呟くと、ボディーソープを手に出し泡立てた。

 

まさか……

 

 

「くすぐったいかもしれないが、我慢しろよ」

 

 

ピタっと背中に柔らかい感触。

そのままゆっくりと背中を隅々まで洗っていく。

 

 

「あ、あの……そこまでしなくても……」

 

「そのまま放っておいたら気分悪いだろうが。黙って座ってろ」

 

 

オータムさんは面倒見のいい人なんだな……。前の電話の時は、すこしおっちょこちょいなところがある人だと思っていたけど……。

 

 

「しかし、お前この体すごいな。無駄な筋肉がないぞ」

 

「昔から鍛えていたので。アメリカでも、すこしハードなトレーニングしていましたから」

 

「留学していたんだっけか?」

 

「はい、ナターシャさんに誘われて」

 

「そうか。よし、前も洗うぞ」

 

「あ、いや、前は……」

 

「タオルで隠してあるからいいだろ。ほら、じっとしてろ」

 

 

隠してあっても恥ずかしいものは恥ずかしいものだ。

 

まぁ、特に何もなくシャワーは終わったのだけれど……。




後にオータムはこう語ったという。

「チラッと見ただけでも相当なモノだった……シャワーだけでも精一杯だったから、顔に出さないようにするのが大変だった……」



あ、明日の更新お休みします←


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149話

予告通り、昨日はお休みさせていただきました。感想への返信も遅れてしまい申し訳ありません。

早めの連絡になりますが、日曜日の更新もお休みさせていただきます。ご了承ください。


 

束さんのところに来て2日目の朝。

 

僕は何やら首を軽く締められているような息苦しさで目が覚めた。

 

 

「うっ……いつものか……」

 

 

どうせ束さんが僕のベッドに潜り込んで、抱きついてきているのだろう。

 

キングサイズのベッドを用意されたことからも、それは容易に想像できる。

 

さて、さっさと起こして義肢を返してもらおう。

 

 

「束さん、起きてくだ……」

 

 

顔を横に向けると、そこにはブロンド髪の綺麗な女性の顔があった。

 

え、束さんじゃない?ていうかこの人……

 

 

「スコールさん!?」

 

「うぅん……あら、おはよう。よく眠れたかしら?」

 

「あ、あの……これはどういう……」

 

「昨日は激しかったわね」

 

「何もありませんでしたよね!?」

 

 

寝ぼけているのか?

 

いや、絶対に僕のことをからかっている。スコールさんの目がそんな目をしている。

 

 

「本当のことを言うと、深夜に仕事から帰ってきて自分の部屋に行こうと思ったんだけど、将冴が来ているのを思い出したから、一緒に朝を迎えて驚かそうと思って」

 

「十分驚きましたよ……」

 

「それなら良かったわ。さ、起きましょうか。今車椅子に乗せてあげるわね」

 

 

スコールさんは僕を抱きかかえると、ベッドの近くに置いてあった車椅子に乗せてくれる。

 

しかし、深夜に仕事から帰ってきたとは……スコールさんは何をしていたのだろうか?

 

聞いてもいいものかどうか。

 

 

「とりあえず篠ノ之博士のところに行きましょう。私は報告することがあるし、あなたはメンテナンス頼んでいたんでしょう?」

 

「そう、ですが……」

 

「それじゃあ、早速行きましょう」

 

 

一緒に行くのなら、何をしていたか聞けるか。

同時に、ダイモンの話も聞かなきゃいけない……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

束さんの研究室の前まで行くと、スコールさんが扉をノックする。

 

すると中から「はぁ〜い」と間延びした声が帰ってきた。

 

 

「失礼するわ」

 

「失礼します」

 

 

研究室に入ると、たくさんの画面を前にキーボードを叩く束さんの姿があった。

 

 

「篠ノ之博士、報告に来ました」

 

「やぁ、すーちゃん」

 

 

束さんはくるりとこちらを向き、スコールさんに冷たい視線を向けた。

 

 

「この束さんに報告する前に、しょーくんのベッドで一緒に寝るとはどういうことなのかな?」

 

「あら、私は1人では不便だろうと思って、そばで介助してあげようと思っただけよ?」

 

「しょーくんとの添い寝は束さんが一番最初にやる予定だったのに!」

 

「早い者勝ちよ」

 

 

なんだこれ……。

 

 

「しょーくん、この金髪ビッチに何もされてないよね!?」

 

「それは束さんがよく知っているのでは……?」

 

 

どうせ、あの部屋にはカメラでも仕掛けてあるだろうし。

というか、何もされていないと信じたい。

 

 

「何もされてないならいいんだけどぉ……。とりあえず、報告してくれる?」

 

「ええ。篠ノ之博士に頼まれていた、各国のIS整備に関わっている者の調査ですが、ほとんどの国でアレの息がかかった者がいるわね。まだ特定はできていないけど」

 

「そう。わかった」

 

 

束さんは考え込むような姿勢のまま、そう答えた。

 

スコールさんの活動範囲ってかなりものなのではないだろうか……。

 

 

「じゃあ次にしょーくん!とりあえずこれね」

 

 

束さんは僕の義手を取り出し、有無を言わさず僕の腕部分にドッキングした。

 

 

「義手のメンテナンスは終わったよぉ!バーチャロンはもう少し待っててね。義足はバーチャロンの拡張領域に入ってるから、義足もお預けね」

 

「はい、わかりました。ありがとうございます、いろいろと」

 

「しょーくんのためならえんやこーらだよぉ。それで、しょーくんは束さんにお話があるんじゃないかな?」

 

 

目つきが変わった……お見通しだったのか。

まぁ、束さんなら全て分かっていてもおかしくないか……。

 

 

「束さん……ダイモンについて教えてください」

 

 

僕の言葉に束さんは表情を変えずに頷いた。

 

 

「とうとうしょーくんも知るべき時が来たんだね。しょーくんは、ダイモンについてどこまで知っているのかな?」

 

「二年前、僕たち家族を誘拐した黒幕。最近僕の周りで起こっている事件にも全部絡んでいること……くらいでしょうか」

 

「ふぅん……ダイモンも随分大盤振る舞いしたみたいだねぇ……今しょーくんが言ったことは全部本当だよ」

 

「あいつは……いったい何者なんですか?」

 

「それを話すには、少し昔話をしなきゃいけないかな。話も長くなるだろうし、朝食を食べながら話そっか。すーちゃん、くーちゃんに頼んで朝食持ってきてくれるかな?」

 

「わかったわ」

 

 

スコールさんが研究室を後にする。

 

そして束さんはゆっくり語り始めた。

 

 

「そうだね……先ずは、あの事件のことから話さなきゃかな」




突然のシリアス。

Q.どうしてこうなった

A.眠かった←

次回から回想を何話か挟みます。


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150話

お久しぶりです。

前回、日曜お休みするとか言っておいて金曜土曜も休んでしまって申し訳ありません。

リアルでお仕事が続いて、お休みしてしまいました。

今日から過去編を何話か書いていきます。過去編は三人称視点で書いていきます。


〜10年前〜

 

真っ暗な部屋の中、篠ノ之束はパソコンと向き合い一心不乱にキーボードを叩いていた。その傍には、束よりもひと回り大きな人型の機械が佇んでいた。

 

 

「出来た」

 

 

束がエンターキーを叩くと、傍の機械が起動し頭を上げた。

 

 

「プログラムにもエラーは無し。むふふ、ちーちゃんに見せたら驚くかな?やっぱり、最初にちーちゃんに乗ってもらいたいしね。このIS(インフィニット・ストラトス)には」

 

 

束は携帯電話を開き、親友である織斑千冬に連絡を取ろうとするが、1通のメールが届いていることに気づく。

 

それは、以前に束が政府に送ったISによる宇宙での活動の計画書に対する返事だった。

 

その返事を一言でまとめてしまうなら、そんな荒唐無稽な夢物語に付き合ってられないという内容だった。

 

 

「ふん、これだから頭がセメントで固められている奴は……まぁ、いいさ。政府に認められなくたって、束さんは1人でできるもん。さて、ちーちゃんに連絡を……」

 

 

再び千冬の番号を呼び出そうとすると、今度は電話がかかってきた。相手は非通知で、何者かは皆目見当もつかない。

 

 

「まったく、束さんに悪戯電話?ハッキングしてそいつの携帯電話突き止めて、エッチなサイトに片っ端から登録してやろうか……」

 

 

いつもなら無視する束だが、この時は千冬への連絡を邪魔された怒りから、電話をパソコンにつなげてから通話をつなげた。

 

 

「はいはいこの電話にかけてきた命知らずはどこの誰かな?いくら温厚な束さんでも、ちーちゃんとの交流を邪魔する奴はロードローラーに轢かれて脳髄ぶちまけたほうが……」

 

『なかなか面白い物を作っているようだな』

 

「……君、誰だい?」

 

 

開口一番に言われた言葉は束の言葉を止めた。

 

電話の相手が言っているのは明らかにISのことだとわかったからだ。束がISを作っていることを知っている者は誰もいない。政府に送ったのはあくまでも計画書であり実際に作っていることは知らないはずだった。

 

 

『私か……ダイモンとでも名乗っておこう』

 

「ふぅん……それで束さんに何か用なのかな?ISを作っていることは、誰にも教えてないはずなんだけど」

 

『少し調べさせてもらっただけだ。なるほど、君が作っている機械人形はISというのか』

 

「いいから早く要件を言ってくれないかな?束さんは君みたいな暇人と違って忙しいんだよ」

 

『そう急かすものでもない。私は君からそのISを買い「断る」

 

 

即答だった。

 

 

『断るか……君の言い値で買わせてもらおうと思ったのだが……何か理由でも?』

 

「どこも誰とも知らない人間以下のゴミに話すわけないじゃん。バカじゃん?死ねば?だいたい、束さんはお金に興味はないのさ」

 

『それは残念』

 

「……いったい束さんからISを買ってどうしようというの?」

 

『売らないんじゃなかったのかな?」

 

「今でもそのつもりはないよ」

 

『だろうな。……君からISを買う理由については、話す義理もないので黙秘させてもらう』

 

 

束はこのダイモンという男の真意を測りかねていた。

もともと、人付き合いの得意ではない束が電話越しの相手のことがわかるわけがないのだ。

 

 

『まぁいい。取引は失敗したが、私にも考えがある。篠ノ之束。ISは世界に認知されるべきだ』

 

「何をするつもり?」

 

『すぐにわかる。楽しみにしていたまえ』

 

 

ブツッ、と通話が切れる。

 

束の胸中に、言いようのない気持ち悪さが渦巻いた。

 

いったい何をするつもりなのか……早く対策を考えたほうがいいのではないだろうか……グルグルとそんな考えが巡っていた。

 

 

「……ちーちゃんに連絡する気分でもなくなっちゃったな。あ、そういえばハッキング……」

 

 

カタカタとキーボードを叩き、ダイモンの情報を読み取ろうとするも、画面にはエラーの文字だけが浮かび上がる。

 

 

「……本当に、何者なの」




短いですがこんな感じで。

過去編が思ったようにかけないこのもどかしさ。
ここまで話を膨らませず、クラリッサとイチャイチャするだけの作品にすればよかった。


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151話

どうもこんにちは。ブレメモの猫耳鈴イベントデイリー2位で小踊りしている作者です。

過去編その2。

そこまで長々とやるつもりはありませんので、今週には終わるのではないかなと思います。


 

束にダイモンと名乗る謎の人物から電話がきてから一夜明け、束の研究室に来客が来ていた。

 

 

「束、いるんだろう?お前が休んだ分のプリントを持ってきたぞ」

 

 

束の幼なじみで親友の織斑千冬だ。

 

 

「おい束」

 

 

しかし返事がない。

 

千冬は「はぁ……」とため息をつくと、麻袋から木刀を取り出し、部屋をキョロキョロと眺めながら物色し始めた。

 

 

「……そこか」

 

 

部屋の一角にある大きく膨らんだ布団に目掛けて木刀を突き立てた。

 

 

「むぐぉふ!?」

 

「いつまで寝ている。もう夕方だぞ」

 

「ち、ちーちゃん容赦なさすぎるよぉ〜」

 

「普通に起こしても起きないではないか。ほら、プリントだ。たまには学校に来い」

 

「あんな無駄な知識をのんべんだらりと教えているつもりの牢屋になんて行くつもり無いよ。ここにこもっていたほうが何倍もマシさ」

 

 

束は千冬から受け取ったプリントにさっと目を通すと、すぐにビリビリと破り捨ててしまう。

 

 

「はぁ……これではお前のためにプリントを持ってくるのも馬鹿らしくなるな」

 

「今度から持ってこなくてもいいよ。と、そうだそうだ。ちーちゃんに見せたいものがあるんだよ!」

 

 

打って変わってテンションを上げた束は千冬の手を引いた。

 

 

「な、なんなんだ束?」

 

「昨日ようやく完成したんだよ!」

 

「完成って、いったい何が……って、これか……」

 

 

束に連れてこられた先には、昨日束が完成させたばかりの白いISが鎮座していた。

 

 

「どう、どう?すごいでしょ!」

 

「あ、ああ……これは動くのか?」

 

「モチのロンだよ!まぁ、人が乗らないと動かないし、その人の適正もあるけど、ちーちゃんなら誰よりもうまく動かせるはずだよ!」

 

「わ、わたしか?」

 

「まぁ、まずはちーちゃん乗ってみてよ。是非とも感想を聞かせて欲しいなぁ」

 

「急にそんなことを言われても……一夏が家で待ってるから、早く家に戻らなくては……」

 

「ほらほら、いいからいいから。ここから乗り込んで!」

 

「あ、おい!」

 

 

強引な束に押し切られ、千冬はISに乗り込まされてしまう。

 

 

「束、こんな押し売りみたいなやり方……それにわたしは操縦の仕方もわからないんだぞ?」

 

「それはISが教えてくれるよ。それに今日は手足を動かすだけで……」

 

 

その瞬間、束のコンピューターがメッセージを受信する。

 

 

「(ん?誰から……まさか昨日の……)ちーちゃん、ちょっと待っててね」

 

 

束がコンピューターを操作し、メッセージを開く。

 

 

(政府の秘匿通知……そういえば私にも届くようにしたんだっけ……これって……!?)

 

 

メッセージに内容は驚くべきものだった。

世界中のコンピューターがハッキングされ、ミサイルが日本目掛けて発射されたと書いてあった。

 

 

(どうしよう……多分昨日のあいつだ。世界に認知されるべきとか言っていたけど、こんな手段を取るなんて……)

 

「おい束。何かあったのか?」

 

「え、いや……(ちーちゃんにあいつの存在を知らせるのはまずい……巻き込んだら、絶対にいっくんを一人っきりにしちゃう……でもミサイルを対処するには、ISを使わないと……)」

 

 

ISを使わなければならない状況にあるが、千冬がこの事態を引き起こしたのがダイモンと知ったら、自分も関わると言いかねない。

 

束はできるだけ千冬を巻き込みたくなかった。

 

 

「……実はね、ちーちゃん」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「とまぁ、そんなわけで、私はダイモンの罪を被ったわけだよ」

 

「それが白騎士事件……」

 

 

聞かされた真実に、僕は驚きを隠せなかった。

 

世間で伝えられている話と全く違うというのもあるし、ダイモンがそんな昔から関わっていることを知ったからだ。

 

 

「おかげで束さんは追われる身。全く人気者はつらいよねぇ」

 

「あはは……」

 

「その後はしょーくんも知ってる通りだよ。私は政府に頼まれてISコアを作り、家族は重要人保護プログラムとかいう意味のわからないもので不自由な生活を送ることになった」

 

 

箒からもその話は聞いた。

となると、箒も遠回しではあるがダイモンに関係しているわけか……。

 

と、その時、研究室の扉をノックする音が響いた。

 

 

「失礼。朝食持ってきたわ」

 

 

お盆を持ったスコールさんが入ってきた。

 

 

「すーちゃんありがとう。続きは食べながらにしようね。すーちゃんも食べる?」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。私たちの話もあるだろうしね」

 

 

僕は朝食に手をつけながら、昔話の続きを聞くことにした。




どうも短い……。

スランプかなぁ……もう少し水増しできそうな気がする。


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152話

どうも、スランプ作者です。

今回と次くらいで過去編終わらせたいなぁ……。
書きたいこといっぱいあるし……。

あと報告なんですが、今後の書きたいことを羅列してみました。200話程度で終わるのかなぁと思っていたこの作品……明らかに200話じゃ終わりませんでした←

というわけで、皆さん。まだまだお付き合いくださいませ。


 

「で、どこまで話したっけ」

 

 

束さんがパンを頬張りながら聞いてきた。そんな忘れるほど時間は経っていないはずなんだけど……

 

 

「白騎士事件の話までしてくれましたよ。そのあとは政府にISコアを作って、重要人保護プログラムが施行されて……」

 

「あぁ、そうだったね。で、束さんは適当な数のISコアを作ったあとに姿を眩ませたわけなんだよ。3年ほど」

 

 

3年……丁度その頃だろうか、僕と束さんが初めてあったのは……

 

 

「ちーちゃん以外には誰にも姿を見せなかったんだけど、思いがけず人と会わなくちゃいけなくなったんだよねぇ〜。しょーくんのお父さんとお母さんに」

 

「それはどうして……?」

 

「本当に偶然だったよ。たまたま倉持技研のサーバーをハッキングしてしょーくんの両親の研究データを見てたら、ダイモンが侵入していた形跡を見つけてね。何度も侵入していたから、どんなものを研究してるのか気になって、会いに行ったんだ」

 

「それってもしかして……」

 

「うん、しょーくんの家に初めて忍び込んだ日だよ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

〜7年前〜

 

 

「ここか、あの研究者の家は……」

 

 

真夜中。束は目的の家の前に立っていた。

 

まず玄関の扉のノブを握りガチャガチャと開けようと試みるも、鍵がかかっていたため開くことはなかった。

 

 

「はぁ、面倒だなぁ……」

 

 

ポケットから針金を取り出すと、それを鍵穴に差し込み、ものの数秒でカチャリと鍵が開いた。

 

 

「さてさて、お邪魔させてもらおうかなぁ。もうすぐ帰ってくるだろう……し……」

 

 

玄関の扉を開きながら、束は言葉を止めた。

そこには小さな子供……妹の箒と同じくらいの少年が、竹刀を構えて立っていたのだ。

 

 

「お姉さん……泥棒?」

 

「む、失敬だな!この大天才の篠ノ之束を泥棒扱いなんて!」

 

「篠ノ之……束?」

 

 

少年は束の名前を聞き、頭をかしげた。

 

 

「もしかして、ISを作った人?」

 

「そうとも、その束さんだよぉ?」

 

「そうですか……それで、その篠ノ之束さんがうちに何の用ですか?」

 

 

竹刀を構えたまま、少年が問いかけてくる。

 

 

「ご両親に会わせてもらいたいんだけど、今いるかい?」

 

束は面倒臭いと思いながらも、答えなければ邪魔になりそうだと考え、聞き返した。

 

 

「まだ帰っていません……お父さんとお母さんに何の用ですか?」

 

「君には関係ないよ。それじゃあ帰るまで待たせてもらおうかな」

 

 

束は靴を脱ぐとずかずかと家に上がりこむと、リビングのイスに座り込んだ。

 

一方少年は、竹刀を玄関に立てかけ、すぐに台所へパタパタ走っていき、冷蔵庫から麦茶を取り出すと、それをコップに注ぎ、慣れた手つきで束の元へ持ってくる。

 

 

「どうぞ」

 

「気が効くねぇ。感心感心」

 

「お父さん達のお客さんだったら、これくらいは……」

 

「ふぅん……」

 

 

束はなぜだかこの少年のことが気になった。

 

最初は自分のことを泥棒扱いしたのに、両親に用があると言ったらお茶を出す……どうにも簡単に自分のことを信じすぎているのではないかと。

 

 

「……ねぇ、君。名前はなんて言うの?」

 

「……将冴。柳川将冴です」

 

「ふぅん……子供はもう寝る時間なんじゃない?」

 

「あなたが玄関のドアをガチャガチャする音で起きたんです」

 

「……そう」

 

 

そのあと、言葉が出てこなかった。

 

年端もいかぬ少年と2人きりの時に、この沈黙は束でも居心地の悪さを感じた。

 

ふと、束が将冴に目を向けると、頭がカクンカクンと船を漕いでいた。確かに、子供には辛い時間帯だろう。

 

 

「(なんだか、箒ちゃん見ているみたい)君、部屋で寝たらどうだい?私はべつに何か盗みにきたわけじゃないし、君の両親と会うつもりだから、心配いらないよ」

 

「でも……お客さんを一人待たせるのは……」

 

「気にしなくていいから。ほら、自分の部屋に……」

 

「……すぅ……」

 

 

束の言葉は将冴には届かず、彼はひテーブルに突っ伏して寝息を立て始めた。

 

そして、それと同時に玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

 

 

「鍵が開いてる?将冴、閉め忘れたのか?」

 

「変ねぇ。あの子しっかりしてるから、かけ忘れるなんてこと一度もなかったのに……あら、見慣れない靴が……」

 

「一夏君かな?……いや、今日くるという話は聞いてないし、サイズが違う……」

 

「玲二さん……」

 

「有香、俺の後ろに……」

 

 

どうやら束の目当ての人が帰ってきたようだ。

束の靴を見て、誰か入ってきていると思ったのだろう。

 

束は椅子に座ったまま、待つことにした。

 

やがて、ゆっくりとリビングの扉が開き、1組の男女が入ってきた。

 

 

「やぁ、待ちくたびれちゃったよ」

 

「き、君は誰だ!将冴は……」

 

「そこで突っ伏してるよ。あ、私が無理やり寝かせたとかそういうわけじゃないからね。何も危害を加えるつもりもない。早く部屋に連れて行ってあげてよ」

 

 

束の言葉に玲二と有香は互いの顔を見合わせ、頷く。

 

有香が急いで将冴を抱きかかえ部屋に向かい、玲二は束に警戒しながら近づいた。

 

 

「君はいったい……」

 

「篠ノ之束、って言えばわかるでしょ?ちょっとお話があってきたんだよ」

 

「篠ノ之……IS開発者の君が、俺に何の話があるというんだ」

 

「君たちの研究について。私の嫌いなやつが、興味を持っているみたいだから聞いてみようかと思ってね」

 

 

玲二からすれば何の話かさっぱりだが、IS開発者がこうして直接会いに来るというのはただ事ではないのがよくわかった。

 

 

「私も興味あるんだよ。少し研究を見せてもらったからね。外付けディスク型記憶媒体による容量の増加、それによるIS装甲の換装機能……なかなか面白いこと考えるよね。束さんですら思いつかなかったよ」

 

「篠ノ之束にそう言ってもらえるのは嬉しいが、研究を盗み見るのは犯罪だぞ」

 

「束さん的には些細な問題だよ。で、これは何のために作っているのかな?君たちの意図を聞きたいのだけれど」

 

「意図だと……?」

 

 

束はたかをくくっていた、

どうせ戦いのためにこんな研究をしているのだと。

 

 

「……ISの活動の場を広げるためだ」

 

「……え?」

 

 

束からすれば予想外の答えだった。

 

 

「ISは兵器としてだけ運用されるべきではない。篠ノ之束、君がISを作ったのは軍事利用されるためではないだろう?」

 

 

見透かされた気分がした。

 

自分がISを作った理由……宇宙への夢。

 

 

「……君が俺たちの研究をについて何か物申すことがあるなら、甘んじて受けよう。所詮は君のものに手を加える、浅はかな研究だ」

 

「……そう。まぁ、そんなのどうでもいいけどね」

 

 

束はスタスタと玲二の横を通り過ぎ、玄関に向かう。

 

 

「お、おい」

 

「またね、れーちゃん。ゆーちゃんと仲良く頑張ってね。あ、あと……」

 

「あと?」

 

「しょーくん、大切にしないとダメだぞ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「今思えば、最後までダイモンのことを二人に伝えてなかったなぁ、って」

 

「束さんが伝えていなくても、あの時はどうにもなりませんでしたよ」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「篠ノ之博士が珍しくへこんでるわね」

 

「だって束さんが認めた数少ない人なんだよぉ〜。なんだか思い出すと気分が落ちちゃうよ……」

 

 

確かに、こんなにへこむ束さんを見るのは珍しい。

 

まぁ、へこみながらも朝食は食べ続けているのだけれど。

 

 

「それで、ダイモンに関係する話はそれだけなんですか?」

 

 

両親の研究の話は、前にダイモンから聞いた話で補完できたからいいとして、束さんとダイモンの確執がこれだけとは思えない。

 

 

「あとは……」

 

「篠ノ之博士、それについては私が話すわ」

 

「スコールさんが?」

 

「ええ、私やオータムと関係ある話だから。私達……亡国機業(ファントム・タスク)のね」




うまく書けないなぁ……。

ここまで壮大な話にするつもりなかったから、そのしわ寄せがきた感じですかね……。

まぁ、なんとか頑張りマッス。


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153話

過去編ラスト。

何が何でもラスト。

過去編なんてやるんじゃなかった!
今回は回想ありません。

回想って書きづらいですね……しみじみと思いました……


 

「亡国機業?」

 

「私とオータムがいた組織よ。今も便宜上そう名乗っているけどね」

 

「その組織が、ダイモンと繋がりが?」

 

「繋がりというか……むしろ、亡国機業はダイモンが所持している組織の中の一つだったのよ。ダイモンはたくさんの裏組織を操っていたの」

 

 

裏組織……おそらく、僕が普通に過ごしていれば耳に入らないようなものだろう。

 

順当に、僕は真っ当な道を外れてきている気がしてきた。

 

 

「亡国機業は、世界中の裏社会に浸透している組織だった。戦争に介入してその戦いが長引くように操作して兵器を売って利益を得ているような組織だった」

 

「スコールとオータムさんが、そんな組織に……」

 

「あの頃は、それが正しいと思っていたからね。部下を信じ込ませるために、世界平和のためとかいう薄っぺらな言葉に何の疑問も感じてなかった」

 

「……それで、どうしてその組織を抜けようと?」

 

「ダイモンの闇を見てしまったから……かしらね」

 

 

ダイモンの闇。裏組織をいくつも牛耳るダイモンの闇が、どれだけ深いものなのか……。

 

スコールさんとオータムさんが組織を抜けようと思うほどのものとは、いったい……。

 

 

「ダイモンの命令一つで、たくさんの人が死ぬ。下手すれば、簡単に国一つが滅ぶかもしれない。そんな力を持った人の元にいるのが、嫌だったの」

 

「よく組織を抜けることができましたね。そんな危険な組織なのに……」

 

「篠ノ之博士のおかげよ。亡国機業では、私とオータムは任務中に死んだことになってるわ」

 

「ちょうど束さんの手足になってくれる人を探してたんだよねぇ。すーちゃんとアレの実力は申し分なかったし」

 

 

アレって、オータムさんのことか……そういえば、前に電話でオータムさんのことを「それ」って言っていたな……あの時はわからなかったけど。

 

 

「ダイモンは恐ろしい相手よ。自分の目的のためなら、人が死ぬのも厭わない……いや、あれを目的と言っていいのか……」

 

「ダイモンの目的……?」

 

「世界の混乱だよ」

 

 

束さんがなんの興味もなさそうに言い放った。いや、おそらく本当に興味がないんだろう。

 

 

「世界の?」

 

「そ。そんなことをして何がしたいのか知らないけどねぇ。苦しむ人たちを見たいとか、そのまま自分か世界を支配するとか、そんなどうでもいい理由だよ。まぁ、あいつの目的なんて束さんは知ったことじゃないよ」

 

「束さん……」

 

 

知ったことじゃないなら、なぜここでダイモンの話を……。

 

 

「ふふ、知ったことじゃないのに、なんでダイモンを追っているのかって顔しているね」

 

「そんなに顔に出てましたか?」

 

「思いっきりね。まぁ、理由は3つだよ」

 

 

束さんが指を3本立てて、僕の顔に当たるくらいまで手を近づけてきた。

 

 

「一つは、束さんの大切な人たちが危険になるから」

 

 

束さんの大切な人……千冬さんや一夏、箒のことか……。

 

 

「二つは束さんの子供たちに手をかけたから」

 

 

子供たち、というのはISのことかな。

VTシステムや、福音の時のことを言っているんだろう。

 

 

「最後、これは感情論みたいになってしまうんだけどね……束さんの夢の行き先を邪魔してるから」

 

「束さんの夢……?」

 

「目の前に障害があったら、ぶっ飛ばすしかないでしょ?えいえいって」

 

 

束さんが何もないところに拳を放つ。

 

 

「あ、それともう一つあった」

 

「もう一つ?」

 

「うん。しょーくんを傷つけたから、束さんはダイモンを許さないんだ」

 

 

今までで一番怖い顔をして、束さんが呟いた。

 

隣でスコールさんも顔を引きつらせて怯えていた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

朝食を食べ終わり、ダイモンの話も大方聞いたところで、研究室の扉が開いた。

 

そこにはクロエさんとオータムさんがいた。

 

 

「束様、食事はお済みですか?」

 

「あ、くーちゃん。もう食べ終わったから下げてもいいよぉ〜」

 

「かしこまりました」

 

 

クロエさんは僕らが食べた食器を片付け始める。

 

オータムさんはというと、カツカツと靴音を鳴らしながらスコールさんに詰め寄っていた。

 

 

「おい、スコール。帰ってたんなら一言いえよ」

 

「あら、心配してくれたの?相変わらず優しいんだから」

 

「そんなんじゃねぇよ!ったく……」

 

「そうやってすぐヘソ曲げちゃって、愛しの彼の前よぉ〜?」

 

「な、ば!?本人いる前でそういうこと言うんじゃねぇよ!」

 

「愛しの彼については否定しないのね」

 

「ち、ちげぇぞ!そんなこと思ってねぇからな!」

 

「もう、素直になっちゃいなさいよ。じゃないと私が取っちゃうわよ?」

 

「ふ、ふん!勝手にすればいいだろ!わ、私には関係ないからな!」

 

「あ、そう。それじゃ、今夜も将冴と寝ちゃおうかしら」

 

「今夜『も』!?」

 

 

あぁ……スコールさんがオータムさんで遊んでる。まぁ、スコールさんの気持ちもわからないではない。なんとなくオータムさんっていじりたくなるんだよね……。

 

 

「すーちゃん!しょーくんと寝るのは束さんだよ!」

 

「あら、これは三つ巴かしら」

 

「だから私は!」

 

 

ここにいる間は、退屈しなさそうだ。




やっと書きづらいところ終わった……と思う。

次から少しラブコメってもらってちょっとお使いして束編終わりかな。

早く学園に帰りたいね……


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154話

日を追うごとに書くスピードが落ちている作者です。

なぜ落ちてるかというと……まぁ、ね。いろいろありますよ。パズドラとか、その他もろもろのソシャゲとか。

はい、与太話はこれくらいにして本編どうぞ〜。


 

さて、束さんからダイモンの話をいろいろ聞いたから、ここに来る大きな目的は達してしまった。

 

訓練場があるから、ISにでも乗ろうかとも思ったけど、バーチャロンは束さんが絶賛フルメンテ中でまだ時間がかかると言っていた。バーチャロンの拡張領域に義足をしまっているため、筋トレもできない。

 

クラリッサと電話しようかとも思ったけど、あちらも忙しいみたいだった。

 

……詰まる所、僕は暇を持て余していた。

 

まだ束さんの所に来て2日目だというのに、何もすることがなくて、僕自身もビックリしているくらいだ。

 

まぁ、そんなこんなで、僕は食堂のテーブルに突っ伏している。思えば、こんな風にゆっくりするのも久しぶりかもしれない。たまにはダラけるのもいいかもしれない。

 

 

「将冴様、何か飲み物でも淹れましょうか?」

 

「あ、クロエさん」

 

 

さっきまでいろいろ片付けをしていたクロエさんが、突っ伏ししている僕をみて気を使ってくれたみたいだ。

 

 

「それじゃあ、コーヒーをお願いします」

 

「はい。マドカ様も飲みますか?」

 

「ああ、貰う」

 

「うおっ、マドカいたの?」

 

 

いつの間にか僕の後ろにマドカが立っていた。全く気配がしなかったよ……。

 

 

「いてはダメだったか?」

 

「ダメじゃないよ。とりあえず座ったら?」

 

「ん」

 

 

小さく返事をすると、僕の隣に座った。

んー、姿は千冬さんに似ているけど、性格はまるで違うな。

 

そういえば、マドカのこと何も聞いてないな。

……聞いてもいいのかな?

 

 

「将冴、何か聞きたいことでもあるのか?」

 

「え?」

 

「さっきからこっちをジロジロ見ていたから。まぁ、だいたい想像はつくが。織斑千冬と似ていることについて聞きたいんだろう?」

 

 

図星だ。察しの良さは千冬さんにそっくりかもしれない。

 

 

「えっと……その通りなんだけど、聞いてもいいのかな?」

 

「別に構わない。隠すようなことでもないし、それを話したからといって、お前が私との接し方を変えるような人間ではないのはわかっている」

 

 

昨日会ったばかりなのに、なんだか全て見透かされているようなことを言われた。

 

まぁ、マドカの言う通りなんだけど……。

 

 

「まぁ、簡単にいえば、私は織斑千冬のクローンだ」

 

「クローン……」

 

 

なるほど……なんとなくそんなことだろうとは思っていたけど……。

 

 

「初代ブリュンヒルデの強さが圧倒的だったからと、亡国機業が織斑千冬の遺伝子を使って私を作り出した。本当は織斑千冬と同じくらいになるまで成長させてから外に出る予定だったらしいが、何を思ったのかスコールとオータムが培養液に浸されていた未成熟の私を連れ出した」

 

「マドカを……ダイモンに利用されたくなかったんじゃないかな?」

 

「多分な。ま、今は篠ノ之束に利用されているが、亡国機業のために動くよりはマシだと思っている。思いの外、気に入られているようだしな」

 

 

そういえば束さん、マドカのことをまーちゃんって言ってたもんな。スコールさんはすーちゃんだし。オータムさんとは馬が合わないのか、名前で呼んでいる所を見たことないけど……。

 

 

「そういうわけだ。特に面白いものでもない」

 

「千冬さんに会ってみたいとかは思わないの?」

 

「別に。まぁ、私を見て驚いた顔は見てみたいかもな」

 

 

ふむ……特にしがらみはなさそうだ。クローンとして生まれたことに対しても、千冬さんに対しても。

 

 

「すいません、お待たせしました」

 

 

ちょうど話が区切られたところで、クロエさんがコーヒーを持ってきてくれた。

 

 

「ありがとうございます、クロエさん」

 

「いえ。お砂糖とミルクは、ご自由に入れてください」

 

 

容器に入れられた角砂糖とミルクを置いてくれる。

 

僕はいつも飲んでいる甘めのコーヒーにしようと砂糖に手を伸ばすと、マドカが先に砂糖の容器を持って行ってしまった。

 

まぁ、いいか。ミルクを先に……

 

 

「何個だ?」

 

「へ?」

 

 

マドカが角砂糖を一個つまみながら聞いてきた。

 

 

「砂糖は何個必要なんだ?」

 

「あ、えっと、じゃあ3個」

 

「ん」

 

 

僕のコーヒーに角砂糖を3個いれてくれる。続いて自分のコーヒーにも3個いれ、次にミルクに手を伸ばした。

 

 

「ミルクは?」

 

「お、多めに……」

 

「わかった」

 

 

多めに、という曖昧な言い方だったけど、マドカはちょうどいいだけのミルクをコーヒーに注いでくれた。何これすごい。

 

マドカも同じだけのミルクを自分のコーヒーに注いでいた。

 

とりあえず、スプーンでかき混ぜて一口飲んでみる。

 

 

「うん、ちょうどいい」

 

「どうやら、私と将冴のコーヒーの趣味は一緒のようだな」

 

「そうみたい、だね」

 

「将冴様とマドカ様は、砂糖3個にミルク多め……今度から、そのようにお作りいたしますね。私も、ご一緒してもよろしいですか?」

 

「もちろん」

 

 

そのあと、特に何か話すでもなく、3人で静かにコーヒーを飲んでいた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「はぁ……日本に帰る日が近づくにつれて、仕事がハードになっていないか?」

 

 

私……クラリッサは隣で書類を束ねているルカに向けてそう愚痴った。

 

 

「しょうがないでしょ。あんたと隊長の出国のための手続きなんだから」

 

「これは一度書いただろう……」

 

「ドイツを出るたびに書いてもらわないとダメなの。今日の分はもう終わったから帰って愛しの将冴君と電話でもしたら?」

 

「そうさせてもらう……しかし、将冴は大丈夫だろうか」

 

「どういうこと?」

 

「ああ。一度、篠ノ之束博士とあったのだが……どうにも将冴のことを溺愛している節があってな……。会った瞬間に、敵意をむき出しにされた」

 

「うわぁ……一番タチの悪そうなやつじゃない。将冴君、危ないんじゃないの?」

 

「アメリカの時よりも心配だ……」

 

 

篠ノ之博士に何もされていないよな……まさか、そこで浮気なんてこと……。

 

 

「……ふぅ。シャキッとしなさいよ、クラリッサ。将冴君の彼女なんでしょ?将冴君が他の女になびくような子じゃないのは、あんたがよく知ってるでしょ」

 

「ルカ……」

 

「ほら、わかったらさっさと将冴君に電話してきなさい」

 

「……ああ。ありがとうルカ」

 

 

私は電話を取り出し、将冴の番号に電話をかけた。

 

 

『おかけになった電話は、現在電波の届かない場所にあるか……』

 

「なん……だと……」

 

 

私の心の中が、不安でいっぱいになった。




マドカの補完。

次回は、MARZのお仕事を書いていこうかなと思います。


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155話

昨日おやすみしました、ごめんなさい。

今回は将冴頑張れMARZのお手伝い?な回です。

多分今作初のあのロケット。


 

束さんのところにきて3日目。

 

今日も今日とて暇を持て余してます。

暇すぎてマドカに腹筋をペシペシ叩かれまくってます。スコールさんは僕が逃げないようにとか言いながら、僕を膝の上に置いて拘束してるし、オータムさんはそれを横目にコーヒー啜ってますし……お腹のマドカ手の跡が消えません。

 

束さんは相変わらず研究室にこもってバーチャロンのメンテをしている。束さんにしては時間がかかってる気がするな……まぁ、結構無茶な使い方してたし、しょうがないか。

 

そういえば、今日はクロエさんの姿を見ていないな……。

 

 

「将冴君、ぼーっとしてどうしたの?」

 

「いえ、クロエさんを見かけないなぁと思って……」

 

「クロエなら、今日はMARZの仕事があると言っていたぞ」

 

 

お腹を叩くのをやめたマドカが答えてくれる。

 

 

「MARZの?」

 

 

前に束さんが、クロエさんを表向きの社長にするって言っていたっけ……。

 

そういえば、僕は企業所属なのにそれらしいことは何もやってないなぁ……まぁ、テストパイロット扱いだし、バーチャロンの稼働データを取るのが仕事みたいなものだけど。

 

 

「フランスの……デュノア社だったか?そこと話があるんだとか言っていたな。今は自室で変装してる」

 

「変装って……」

 

 

いやまぁ……クロエさんの容姿は確かに目立つからなぁ……。銀髪の女性なんて、そう滅多にいないし。

 

……あれ、滅多にいないはずなのに、僕2人も知り合いだ。

 

 

「確か、オータムが護衛として同行するのよね?」

 

「ん?ああ、そうだけど……面倒くさいったらねぇよ。あいつ、そんじょそこらのIS乗りより強いから、護衛なんていらないだろうに」

 

 

はは……バーチャロンをもらったばかりの頃を思い出すなぁ……。

 

 

「せっかくだし、将冴君も付いて行ったら?暇そうにしてるし」

 

「んー……」

 

 

デュノア社か……まぁ、事情があったとはいえ、あの会社がMARZに吸収されたのは僕が束さんに頼んだからだし……一度は見に行ったほうがいいかな。

 

 

「僕が行っても問題なければ……」

 

「あら、よかったわねオータム」

 

「どういう意味だ、スコール!?」

 

「なんでもないわ」

 

 

オータムさんはスコールさんに勝てないようで……。

まぁ、僕もスコールさんには勝てない気がするけど。

 

と、その時。部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。

 

 

「すみません、スコール様。お待たせいたしました」

 

 

そこにいたのは、黒髪三つ編みに瓶底グルグルメガネをかけたぱっと見冴えない感じの女性だった。

 

……あれ、でもこの声って……。

 

 

「将冴様?どうかしましたか?」

 

「やっぱりクロエさん!?」

 

「はい、やっぱりしなくてもクロエです」

 

 

なんかもう……完全に別人じゃないか……本当に誰だよ。

 

 

「あの……何かいけないところでもありますか?」

 

「いや、ちょっと驚いただけだから……気にしないでください」

 

「そうですか?……っと、オータム様。そろそろ……」

 

「わかってる。……ああ、それとこいつも連れてくからな」

 

 

ポンポンと、僕の頭を叩くオータムさん。

言おうと思ってたことを先に言ってくれた。

 

 

「将冴様もですか?」

 

「はい。シャルのお父さん……デュノア社長に、少し挨拶した方がいいと思って。迷惑でなければ、一緒に行かせてくれませんか?」

 

「はい、それは構いませんが……」

 

 

何やら怪しい雰囲気のクロエさん。

 

はて、何か不都合でもあるのか?

 

 

「まぁ、大丈夫だろ。将冴だって、IS乗ってんだし、そこそこ強いんだろ?」

 

「……それもそうですね。さっそく行きましょう」

 

「なんか、僕怖くなってきたんだけど……?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「あの……これは……」

 

 

僕は今、車椅子ごとあるものに固定されている。

 

そのあるものとは……

 

 

「しっかり固定しないと危ないですので……この人参型ロケット」

 

「大丈夫だ、すぐに慣れる。人参型ロケットに」

 

「なんで人参型ロケットなんですか!?ていうかロケットで行くんですか!?飛行機とかじゃないんですか!?」

 

 

フランスまで片道1時間。超高速人参型ロケット。作・篠ノ之束。

 

 

「……頑張ってください」

 

「なんで応援されたの……」

 

「気をしっかり持てよ」

 

「なんでそんな意味深なことを!?」

 

 

そうこう言っているうちにカウントダウンが始まった。

いや、あの心の準備が……。

 

 

「将冴様、口を閉じてください。舌を噛み切ってしまいます」

 

「噛み切っちゃうんですか……」

 

 

ああ、もうだいたいわかったよ……。

 

僕は口を閉じて身構える。それと同時に、カウントダウンがゼロになり、一瞬で物凄いGが体を襲った。

 

……束さん、ぶっ飛んだもの作りすぎだよ……。




短くてすいません……。

もう少し長く書けるようにしないと……。


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156話

どうも最近不定期更新に……。
何かとリアルが忙しくなってまいりまして……。

久しぶりに義妹登場です。


 

物凄いGに耐えること1時間。

僕はなんとか意識を保ち、フランスに到着することができた。

 

……少し具合悪いけど。

 

 

「将冴様、大丈夫ですか?」

 

「は、はい……なんとか……」

 

「気を失わなかっただけ上出来だ。普通なら3分と保たねぇよ」

 

 

オータムさんになんか褒められたけど、喜んでいいのだろうか……。ここで喜んだら負けな気がする……人間として。

 

 

「それで、ここはどこなんですか?」

 

「デュノア邸の近くの森の中です。あまり不特定多数の方に見られるのは好ましくないので、デュノア社長との会合は社長の家で行っているんです」

 

 

その変装なら別段問題にはならないと思うけど……まぁ、慎重に行くのは悪いことじゃないか。

 

不法入国だし……。

 

 

「ほら、さっさと用事済ませようぜ」

 

「はい。将冴様、車椅子を押しますね」

 

「クロエ、お前社長ってことになってんだから、私が押す」

 

「ですが……」

 

「いいから、変に怪しまれたら面倒だっつってんだよ」

 

 

半ば強引にオータムさんが僕の車椅子を押してくれる。

なんだかんだで、オータムさんはそういうことに結構気が回る方なんだなぁ……。

 

 

「……なんだよ、ジロジロこっち見て」

 

「いえ。車椅子押してくれてありがとうございます」

 

「っ……べ、別に礼を言われるようなことじゃねぇよ」

 

「オータム様、顔が赤いですよ?」

 

「なんでもねぇ!いくぞ!」

 

 

褒めると赤くなるのか……覚えておこう。オータムさんの反応は、今まで見たことないタイプだから、弄りがいがありそうだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

10分ほどして、僕たちは大きな屋敷の門まで辿り着いた。

さすが世界シェア3位の大企業の社長といったところだろうか。

 

……今更なんだけど、日本とフランスの時差は7時間なんだよね。僕の時計、日本時間で午後1時だから、フランスは今午前6時。

 

早すぎやしないだろうか?

クロエさんもオータムさんも気にしていないみたいだから、大丈夫なんだろうけど……。

 

と、僕がごちゃごちゃ考えてるうちに、クロエさんがインターホンを押した。

 

 

『どちら様でしょうか?』

 

 

フランス語……わからないけど、多分そんなニュアンス。

 

 

「MARZのリリン・プラジナーです。アラン・デュノア様に取次をお願いします」

 

 

そういえば、そんな偽名を使うと前に言っていたっけ。

 

 

『お話しは承っております。どうぞ中へ』

 

 

音を鳴らしながら、門が勝手に開いていく。

なんだか緊張してきた……。

 

門から屋敷まではそこまで離れておらず、せいぜい100メートルといったところだろうか。

 

僕たちが屋敷までたどり着くと、ガチャリと扉が開き、一人の中年男性が出てきた。

 

適度に髭を蓄えており、ダンディーな感じの男性だ。

 

 

「リリン社長、遠いところをよくおいでくださいました」

 

 

と、流暢な日本語で挨拶をしながら、クロエさんと握手をした。

 

 

「いえ。こちらこそ、朝早くに申し訳ありません。アラン様」

 

 

アラン様……ってことは、この人がシャルのお父さんか。

 

 

「そちらにも予定がおありでしょう。気にしないでください。……そちらの2人は?」

 

 

アランさんが僕とオータムさんを見てそう聞いてくる。

自己紹介しようと口を開こうとしたとき、僕の後ろにいたオータムさんが先に自己紹介を始めた。

 

 

「お初お目にかかります。私は、巻紙礼子(まきがみれいこ)と申します。本日は社長の護衛として、ご同伴させていただきました」

 

 

……誰だこの人。

 

 

「リリン社長の護衛……以前来たときは、ブロンドの女性だった気がしますが……」

 

「彼女は違う仕事で、担当を外れております」

 

 

僕の頭がついていけていない。オータムさんの表での偽名なんだろうけど、この豹変っぷりは……。

 

 

「なるほど。まぁ、本日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

2人が握手をするが……やっぱり今のオータムさんに違和感しか感じない。これは慣れなさそうだ……。

 

 

「で、君は……」

 

 

と、僕も自己紹介しなければ。

 

 

「柳川将冴と言います。MARZでテストパイロットとして所属させてもらっています。シャル……ロットさんには、いつもお世話に……」

 

「おお、君が将冴君か!」

 

 

アランさんが僕の手を握りブンブンと振り回した。

そんなに乱暴に扱われると、腕が外れてしまいますよ!

 

 

「娘から話は聞いてるよ。いや、本当に君には感謝してもしきれない。君がいなければ会社も娘もどうなっていたか!」

 

「い、いえ……僕は何も……」

 

「いやいや、謙遜することはない。シャルロットから聞く限り、随分と優秀なようではないか。そうだ、今シャルロットを呼んでこよう。この時間はいつも寝ているが、君が来たと聞いたらすぐに……」

 

 

シャル帰ってきてたのか!?

まずい、クラリッサとのことでシャルを怒らせてるから、できれば会いたくない……。

 

 

「いえ、寝ているなら無理して起こさなくても……」

 

「お父さん、MARZの人たちきたの?」

 

 

一番聞きたくない声が聞こえた気がした。

 

 

「おお、シャルロット。今到着されたぞ。将冴君も来ているぞ」

 

「将冴?」

 

 

アランさんの影から、ヒョコッとシャルが顔を出した。そしてバッチリ目が合い、その瞬間シャルの目がキラリと光り輝いた。

 

 

「やぁ、お兄ちゃん。ようこそフランスへ」

 

「ヤ、ヤァ、シャル……イイ所ニ住ンデルネ」

 

「そうかな。ところで、ちょーっと話しがあるんだけど、一緒に来てくれるかな?」

 

「シャルサン、顔ガ怖イデスヨ……」

 

「そんなことないよぉ〜。お・に・い・ちゃ・ん?」

 

 

あ、ダメだこれ。どう考えても逃げ出せないや……。

 

 

「社長、オータ……礼子さん。僕、少シ彼女ト、オ話シテキマス」

 

「は、はい……」

 

「大丈夫なのか……?」

 

 

大丈夫と思いたいですよ……。

 

と、シャルがいつの間にか僕の後ろに立っており、いつでも車椅子を押せる態勢に入っていた。

 

 

「それじゃ、僕の部屋に行こっか」

 

「ウン……」




やだシャル怖い。

どうしてこうなった。


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157話

どうも、艦これやってないけどpixivで艦これのイラスト漁っている作者です。瑞鳳の「たべりゅ」にノックアウトされかけたのは内緒です。

相変わらずクラリッサのイラストは増えず、今日こそはと毎日クラリッサの名前を検索する日々です。自分で書けたら良いんですがねぇ……。神様は画才も文才もくれませんでした。


 

シャルに連行された部屋は、綺麗に片付いているけど、少し殺風景な印象を受けた。まぁ、大半を日本で過ごしているし、日本に来る前は義母の嫌がらせとかもあったのだろう。

 

シャルは車椅子を適当なところに止め、僕の前に椅子を置き、そこに座り込んだ。

 

 

「さてと……で?」

 

「いや、「で?」って……」

 

「僕が聞きたいことは理解してるもんね?さ、話して?」

 

 

この妹怖い……。

 

 

「えっと……とりあえず、クラリッサと付き合うことになりました……」

 

「ラウラからそれは聞いたよ。そうなった経緯が聞きたいんだよ」

 

「ア、ハイ……」

 

 

さて、どこから話したものか……ダイモンの件は、あまり話したくないし……。

 

 

「ドイツで諸々あって……」

 

「諸々って?」

 

「ごめん、それは話せない」

 

 

IS学園にも話していないことをシャルに話すわけにはいかない。シャルもなんとなく察してくれたのか、「続けて」と言ってくれた。

 

 

「クラリッサと喧嘩……まではいかないけど、少しすれ違いが起きちゃって。それで、いろいろ考えてたら、僕もクラリッサの事が好きなんだって気がついて、それで……」

 

「……そっか。まぁ、とにかくおめでとうだね。本音を言うと、今まで付き合ってなかったっていう方が不思議なくらいだけどね」

 

「そ、そう?」

 

「うん」

 

 

うん、って即答されましても……。

 

 

「ほかに、その事を知ってる人はいるの?」

 

「えっと、ラウラの部隊……シュバルツェ・ハーゼの人はみんな知ってるかな。あとはリョーボさんと……そうそう、アメリカ留学の時に知り合ったアメリカの代表候補生2人も知ってる。……それとナターシャさんも……」

 

「えっ……ナターシャってナターシャ・ファイルス?福音のテストパイロットだった……」

 

「うん……クラリッサから僕の事を奪うとか言ってた……」

 

「将冴って、年上受けいいもんね……」

 

「最近自覚してきたよ……それ」

 

 

僕にやたら構ってくる人を思い出すと、全員年上だったから……。同年代からすると、僕は弟みたいらしいし……シャルとラウラは兄としてみてくれてるみたいだけど。

 

 

「ほかに誰かに話すつもりなの?」

 

「とりあえず一夏には話そうかなって……あと鈴にも」

 

「二人とも幼馴染だもんね」

 

 

鈴に関しては、過去の事を全て話してしまっているからだけど……。

 

 

「あ、千冬さんにも話さないと」

 

「織斑先生はやめておいた方が……」

 

「大変な事になるのはわかってるけど、こればっかりは話さないと」

 

 

散々世話になっているんだ。これは伝えなくちゃいけない……。

 

あとは……

 

 

「束さんに、も……伝えなきゃ」

 

「将冴!汗が尋常じゃないよ!?」

 

 

ラスボスは今お世話になっている束さんなんだよ……。なんだかんだで伝えようと思っていたけど、伝えられてなかったし……。束さんが一番怖いんだよ……どうなるかわからないから……。

 

 

「シャル……僕が学園に帰ってこなかったらクラリッサの事頼むね……」

 

「そんな事頼まないでよ!?」

 

 

いや、本当、シャレにならないんだよ、束さんは……。

 

 

「と、とりあえず、お水飲む?」

 

「お願い」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

なんか、すごい剣幕でデュノアの娘が将冴を連れて行った……。将冴は今ISを持っていないし、クロエは問題ないだろうから……。

 

 

「社長、私は将冴のところに行きます。少々心配なので」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 

クロエから許可はもらったし、とりあえず二人についていくか。

 

と、二人はすぐに部屋に入って行った。部屋の外からでも音は……聞こえるな。盗み聞きみたいで気分悪いが、将冴に何かあったら、私が束に文句言われるからな……。

 

 

『えっと……とりあえず、クラリッサと付き合うことになりました……』

 

 

え……今なんて?付き合う?将冴が?

どういう事だよ。詳しく……って……

 

 

「なんでこんなムキになってんだ……」

 

 

別に将冴の事はどうとも思っていない……はずだ。

電話で可愛いとか言われたけど、それくらいだし……直接会うのだって、この間が2回目だし。

 

スコールとエムに散々からかわれたせいで、少し過剰に反応しちまっただけだ。うん、そういうことにしよう

 

 

「……っ」

 

 

そういうことにするって言ってんのに、なんでこんなにモヤモヤすんだよ。




オータムがモヤモヤするところを書きたかっただけ。

ただそれだけ。

それだけなんだからね!


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158話

少し視点が変わりまして、束編なのに最近あまり出番のない束さんの話。将冴がシャルに絞られ、オータムさんがモヤモヤしているころ、束さんは……


 

「……」

 

 

バーチャロンのメンテナンスと解析を終わらせた私は、スペシネフのデータを見て頭を悩ませていた。

 

 

「しょーくん、一度感情値が劇的に上昇してる。あれほど気をつけてって言ったのに……」

 

 

大体2週間前……しょーくんがドイツにいた頃かな。確かに、ダイモンがドイツにいた形跡はあった。多分、しょーくんの両親のことを聞かされたからなんだろうけど……もう一つ気になることがある。

 

感情値が上がったあと、すぐに下がっている。

 

前にスペシネフを使った時は、緩やかに感情値が下がっていたけど、今回のはいったい……。

 

 

「しょーくんが感情を落ち着かせる何かがあった……考えられる可能性は……」

 

 

ドイツ……もしかして、前に海で会ったあの眼帯女?

もしそうだとしたら……。

 

 

「少し話をしなきゃいけないかもねぇ」

 

 

ドイツまでなら、人参ロケットの2号機を使えばすぐかな。

こんなことならくーちゃんと吊り目女についていけばよかったなぁ〜。

 

今ラボに残ってるのはしょーくんとすーちゃんとまーちゃんかな?

 

みんないるであろう食堂に突撃しようではないか!

 

 

「やぁやぁ皆の衆〜!束さんがメンテナンスを終えて帰ってきたゾォー!」

 

「あら篠ノ之博士、お疲れ様」

 

「もぐもぐ……」

 

 

そこにいたのはソファでくつろいでいるすーちゃんと、フルーツバーを頬張っているまーちゃんだけだった。

 

 

「あれあれ?しょーくんは?」

 

「クロエとオータムと一緒にフランスに行ったわ。デュノア社の人に挨拶してくるって」

 

 

なんだぁ、せっかくしょーくん成分を補給しようと思ったのに。ま、しょーくんが寝てる間に色々してるからいいんだけどねぇ。

 

 

「んー、ならいいや。すーちゃん、束さん少し出掛けてくるよ。留守番よろしくねー」

 

「ええ、それはいいけど、どこに行くの?」

 

「ドイツ」

 

「そう。夜には帰って来るのかしら?」

 

「うん、夕食の用意よろしくぅ!あとまーちゃん、そんなのばっかり食べてたら、夕飯食べれなくなっちゃうぞぉ?」

 

「ただのおやつだ」

 

「そっか。食べ過ぎないようにねぇ」

 

 

さてと、私もいきますか。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ふぁ……ねむ……」

 

 

猛烈な眠気に勝てず、布団から出ることができない……。

 

結局、昨日も将冴と話せなかったから、心配でなかなか寝付けれなかった。少し寝すぎたか……早く準備しなければ……。

 

篠ノ之博士のところに行くと言ってから、連絡がないな……よほど忙しいのか連絡できない何かがあるのか……。今は待つしかないか……。

 

 

「ずいぶんと寝坊助なんだね、君は」

 

「……へ?」

 

 

誰か部屋にいる……?ルカの声でも、隊長の声でもない。

私は枕の下に置いてある拳銃を手に取り、声の方へ向けた。

 

 

「誰だ!」

 

「私に銃向けるなんて、いい度胸だね」

 

「な、あなたは……」

 

 

そこにいたのは、かのIS開発者である篠ノ之束博士だった。

 

 

「ど、どうしてここに……」

 

「君に会いに来たんだよ。えっと……クラリネット?」

 

「クラリッサです!」

 

 

名前を覚えていないだろうとは思っていたから、まぁいいのだけれど。

 

しかし……

 

 

「私に会いに来たって……いったいどういう?」

 

「ごちゃごちゃ言うのは嫌いだから率直に聞くけど、君はしょーくんの何?」

 

 

ど直球……。

本当に突拍子もない人だ、この人は。

 

……どう答えたら良いものか。素直に恋人と答えると、あとが怖い気がする……だけど、友達とか知り合いとかそういう言い方だと、なんだか納得が……。

 

 

「……はぁ、その様子みたらもうわかったよ。それで色々納得行ったし」

 

「え、いや、あの、なんのことか……」

 

「しょーくんと付き合ってるんでしょ?」

 

「そ、それは!えっと……」

 

 

これはばれてはいけなかったんではないだろうか……将冴は今まで言ってなかったみたいだし……。

 

 

「別に君を責めるわけじゃないよ。そういうのは当人たちの問題だし、私がどうこう言うことじゃないし」

 

「は、はぁ……」

 

 

なんだか、聞いていた話と違うようなのだが……。

 

 

「認めたくないけど、認めざるを得ないんだよ。私は……」

 

 

どういうことだ……認めざるを得ないって?

 

 

「しょーくんのこと、一人にしたら1ミクロンも残さず消滅させるから、覚悟しておいてね」

 

「は、はい!」

 

「じゃあね。くらちゃん」

 

 

と、何もかも理解する前に、篠ノ之束博士は窓から飛び去っていった。

 

何も飲み込めていないんだけど……いったい何だったんだ……?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ〜」

 

 

本当はコテンパンにしてしょーくんとこれ以上一緒にいられないようにしてやろうと思っていたのに……それはしょーくんの望んでいることじゃないって思っちゃうと、できなかったなぁ。

 

それに、しょーくんが認めた相手なら、束さんは納得せざるを得ないよ。嫌われたくないしね。

 

 

「ま、これから特に何か変わるわけじゃないけどねぇ」

 

 

さ、帰ろう帰ろう。

 

しょーくんたちも戻ってる頃だろうしねぇ。

 

 

「あーあ、失恋しちゃったなぁ〜」

 




束さんはヤンデレではない、ヤンデレではないぞぉー!!


これがやりたかった、やりたかったんだ……


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159話

読者の皆さんは昨日のサマーウォーズ見ましたでしょうか?

作者はサマーウォーズを見ていて、更新すっかり忘れてました←

帰ってきたらちょうどやってたんだもん!


 

「本日は朝早くからありがとうございました」

 

「いえいえ、こちらこそ何のおもてなしもできず」

 

 

と、玄関先でクロエさんとアランさんが握手をした。

どうやら話は滞りなく終わったようだ。なんの話をしていたかはわからないけど……。

 

 

「将冴、今日は無理やり話聞いてごめんね」

 

「いや、僕もすぐ話すべきだったし、謝らないでよ」

 

「ありがとう。じゃあ、また学校でね」

 

「うん、学校で」

 

 

シャルに手を振ると、アランさんがずいっと僕に詰め寄ってきた。

 

 

「将冴君」

 

「は、はい?」

 

「シャルロットには私のせいで辛い思いをさせてしまった。本当なら、私が尽力すべきなのだが、君の方が適任だ。今後とも、娘をよろしく頼む」

 

「……勿論。兄ですから」

 

「兄と言わず、このままシャルと籍を入れてみては……」

 

「ちょっとお父さん!?変なこと言わないでよ!」

 

「い、痛い!痛いぞ!シャルロット!」

 

 

シャルがアランさんの背中をバシバシ叩きまくっている。

 

シャルにクラリッサのこと話したばかりだっていうのに、こればっかりは苦笑いするしかない。

 

 

「はは、それでは今日は失礼しますね」

 

 

こういうのは逃げるに限る。

僕たちは2人に見送られながら、デュノア邸を後にした。

 

 

人参ロケットを隠してある森へ向かう途中、僕はオータムさんがずっと押し黙ったままなのに気づいた。あの違和感バリバリのキャラが見る影もない。

 

 

「オータムさん、どうかしましたか?」

 

「あ?何がだ?」

 

「いえ、さっきから黙ったままだったので」

 

「……別に。なんでもねぇよ」

 

 

なんでもない……か。

どう考えても何かある気がするんだけど、これ以上は踏み込まない方がいいかな。

 

思えば、オータムさんやスコールさん、マドカとはそんなに交流があったわけじゃない。

 

僕が気にすることではないか……。

 

 

「なんでもないなら、いいですけど……なんか変なこと言ってすいません」

 

「……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

1時間後。

人参ロケットで束さんのラボまで帰ってきた。帰りは少し慣れたのか、なんら問題はなかった。

 

 

「オータム様、将冴様。本日はありがとうございました」

 

「いえ、僕は何も……」

 

「同じく。礼を言われるようなことじゃねぇ。先に部屋戻ってる」

 

 

オータムさんはそそくさと自室に向かってしまった。んー、やっぱり様子がおかしいような……。

 

 

「もうこんな時間ですね。急いで着替えて、夕食の準備をしますね」

 

「あ、僕も手伝います」

 

「いえ、将冴様もお部屋でお休みください。それにそろそろメンテナンスも終わってる頃……」

 

「そのとーり!」

 

「のわぁ!?」

 

 

突然背後から束さんが現れた。

いや、神出鬼没にもほどがありますよ……。

 

 

「やあやあしょーくん!わざわざフランスまでお疲れ様だったねぇ」

 

「いえ、行って帰ってきただけですから……」

 

「まぁ、気にしたら負けだよ。さて、さっそく束さんの研究室に行こうか。色々と話したいこともあるからねぇ」

 

 

話したいこと……ISに関することだと、スペシネフの話か。

 

 

「あ、くーちゃん。私おでんが食べたい気分だなぁ!」

 

「かしこまりました」

 

 

夏におでん……?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

研究室まで連行されると、束さんは僕に資料を手渡してきた。資料にはグラフが表示されているけど、こういう専門的なものはわからないんだけど……。

 

 

「それは、しょーくんの感情値の観測データだよ。2週間位前のところ、一気に数値が上がってるよね?」

 

「……はい」

 

 

これは初めてダイモンと会った時のものだ。

クラリッサのおかげで、スペシネフを出すことはなかったけど。

 

 

「結構危ないところだったよぉ〜。このまま感情値が上がり続けてスペシネフを使っていたら、一発アウト。EVLバインダーがしょーくんの怒りの感情を増幅し続けて、暴走していただろうね」

 

「そう……ですか。できるだけ怒ったりしないようにはしていたのですが……」

 

「しょーくんがここまで感情を爆発させるなんて、束さんも予想外だったよ。まぁ、それは仕方ないか。大切な人のことを言われたら、束さんも感情を押し殺すことなんてできないだろうしねぇ」

 

「……」

 

「今回は未遂だったし、次からは気をつけてね。もし危ないと思ったら、くらちゃんに助けてもらってね」

 

「……くらちゃん?」

 

 

束さんは誰のことを言ってるんだ?

束さんに近しい人で、くらちゃんなんて呼ばれる人なんていたっけ……?

 

 

「くらちゃんだよ〜。クラリッサ・ハルフォーフ。しょーくんの彼女の」

 

「な!?」

 

 

バレてる?僕が話す前に!?

どこでバレた!?ここに来てからクラリッサの話はしていないはず……。

 

 

「今日ね、くらちゃんに会ってきたんだよ」

 

「会ってきたって……」

 

「感情値が急激に下がった理由が知りたくてねぇ。ドイツで思い当たるのがくらちゃんだけだったから」

 

 

よくそれだけの情報でクラリッサまでたどり着くことができるな……。束さんの規格外もいい加減にしろと言いたくなる。

 

 

「まさか、くらちゃんに先越されるとは思わなかったなぁー」

 

「あの……すいません。本当は僕から伝えようと思っていたんですが……」

 

「いいよいいよぉ〜。いくら束さんでも、他人の感情云々は思い通りにできないし」

 

 

そんなことができたら、たまったものじゃない……。

 

しかし、束さんならクラリッサに何かしかねないと思っていたんだけど……。

 

 

「むむ?今失礼なこと考えたでしょ!」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「プンプン!束さんだってその辺は弁えてるよ!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「わかればよろしい!」

 

 

と、束さんはバーチャロンの待機状態であるピアスを手にし僕に近づいてきた。

 

 

「さ、バーチャロン返すね」

 

「あ、自分でつけれますから……」

 

「いいからいいから。束さんにつけさせてよ」

 

 

束さんが手際よく僕の耳にピアスをつけていく。

ほんの2日くらいなのに、ピアスの感触がすごく久しぶりな気がする。

 

 

「はい、できたよ」

 

「ありがとうございます」

 

「今度から、もっとこまめにメンテナンスするようにしてね。アファームドの拳、大破寸前だったよ?」

 

 

バーニングジャスティス(アレ)のせいだ……。

 

 

「気をつけます……」

 

「あ、それとこれ渡しておくね」

 

 

渡されたのは、銀色の小さな輪っか。これは……指輪?

 

 

「あの、これは?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

 

「な、福音!?」

 

「気になることがあったから、回収したんだよねぇ」

 

 

……確かに、僕も気になっていた。ダイモンがどうやって福音を操っていたのか。束さんの開発したISを操るなんてこと、どうすればできるのか……。

 

 

「それらしい痕跡は見つけたんだけど、そっちは解析に時間がかかるんだ。IS本体の方に問題はなかったから、しょーくんから持ち主に返してあげて」

 

「束さん……ありがとうございます!」

 

 

本当に、感謝してもしきれない。

福音を救えなかったのが、あの事件の心残りだったから。

ナターシャさん、喜んでくれるだろうか。

 

 

「むふふ、束さんに惚れてもいいんだよ?」

 

「それはちょっと……」




毎度思っていた。福音が救われなさすぎると。

そして福音も将冴に惚れて、ハーレム要因に……


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160話

前話の後書きの福音ヒロイン化が感想欄で波紋を呼んでいました。みなさん、本気にしてません……よね?

さて、実は束編はもう少しで終わります。束編が終わったら、学園で過ごす夏休み終盤の話を2〜3話ほど書こうと思います。

それに伴い、前にチラッと話していたように、夏休み編が終わったら一週間ほど休載させていただきます。今までも少しずつお休みはしていたのですが、纏まってお休みします。楽しみにしていただいてる読者の方には申し訳ありませんが、ご了承いただければと思います。


 

束さんにクラリッサと付き合っていることがばれた日の夜。僕は携帯でクラリッサの番号を呼び出していた。

 

ラボにいる間は、いつ束さんが突撃してくるかわからず、クラリッサと話をするのを控えていた。でも、もうばれてしまったし、気にしなくてもいいと思ったんだ。

 

 

『もしもし、将冴か?』

 

 

すぐにクラリッサが出てくれた。ほんの数日だけだったのに、久しぶりに声を聞いた気がする。

 

 

「うん。ごめんね、電話できなくて……」

 

『いや、構わない。電話できない状態だったのだろう?」

 

「束さんにバレるかもしれないからと思って……まぁ、何もしてなくてもバレちゃったみたいだけど」

 

『すまない……篠ノ之博士がこっちに来て、その時に……』

 

「クラリッサのせいじゃないよ。それに、束さん怒ってる様子もないし、結果オーライだよ」

 

『それならいいんだが……』

 

 

少し罪悪感を感じてしまっているのかな。

束さんにもっと早く話していればよかった。

 

 

「……ねぇ、クラリッサ。少し相談があるんだけど」

 

『ん?なんだ?』

 

「僕たちのこと、学校の人たちに話すかどうかを決めないといけないなって」

 

『そ、そうだな……すでに知っているのは、隊長だけだろうか?』

 

「あとシャルもね。それ以外は、学校関係者じゃないし……」

 

『うむ……』

 

「とりあえず、専用機組には話そうと思ってるんだ」

 

『それがいいだろうな。将冴に近い者たちだからな。あと、織斑先生と山田先生にも話しておいたほうがいいだろうか』

 

「そう……だね……」

 

 

その2人に伝えるのは、なかなかに勇気がいるな……。今更ではあるけど、2人には特別気に入られている気がするし……まぁ、あの2人なら束さんよりも常識的だろう。

 

 

「とりあえずはその辺だね。あまり広まらないように、それ以外の人には伝えないようにしよう」

 

『ああ。IS学園の雰囲気からして、広まればひと騒動あるに違いない』

 

「それだけは避けないとね」

 

 

あそこの学生の欲望に忠実なことといったら……すぐに黛先輩がすっ飛んでくるに違いない。あの人が絡むと面倒だ。

 

 

『まぁ、一番の強敵はなんとかなったんだ。学園でもなんとかなる』

 

「うん、そうだね」

 

 

とりあえず、事前に話しておかなくちゃいけないことは話せたかな。

 

 

『っと、すまない。そろそろ仕事に戻らなければ』

 

「あ、ごめんね。忙しい時に」

 

『構わない。休憩中だったからな。明日は電話できるか?』

 

「大丈夫だよ。今日と同じ時間で大丈夫?」

 

『ああ。それじゃ、また明日』

 

「うん、明日ね」

 

 

通話を切り、僕は一人では大きすぎるキングサイズベッドに倒れ込んだ。

 

はぁ……早く会いたいよ。2週間……長いなぁ。

 

 

コンコン

 

 

ん?ノック音?

誰だろう?

 

 

「はい?」

 

「……オータムだ。ちょっといいか?」

 

「オータムさん?どうぞ」

 

 

扉が開き、オータムさんが入ってくる。

やっぱり、なんだか浮かない顔をしている。

 

 

「飯、できたから呼びに来た」

 

「あ、わかりました。今行きます」

 

「……」

 

「……」

 

 

なんでこっちをジッと見ているんだろう……。

夕飯ができたから呼びに来た……だけじゃないのかな?

 

 

「あの……オータムさん?まだなにか?」

 

「あ、いや、その……」

 

「?」

 

 

なんだか言いずらそうにしてるけど……。

 

 

「……今日、お前とデュノアの娘が話してるところ聞いちまってよ……」

 

「シャルとの……」

 

 

クラリッサの話か。

いや、まぁ、聞かれても問題はなかったのだけれど。

 

 

「悪い。盗み聞きみたいなことして」

 

「いや、別に構わないけど……もしかして、今日様子がおかしかったのって、そのせい?」

 

「そういうわけじゃねぇけど……なんかモヤモヤすんだよ。お前の話を聞いてから……」

 

 

モヤモヤ……?

どういうことだろうか。

 

もしかして……とは思ったけど、オータムさんとはそんなに交流なかったし、そんなはずは……。

 

 

「……忘れろ。変なこと言った」

 

「でも……」

 

「いいから忘れろって。どうかしていた」

 

 

オータムさんはそれだけ言うと部屋をそそくさと出て行ってしまった。

 

忘れろとは言われたけど……気になる。

 

 

「……クラリッサに相談してみようかな」

 

 

なんでも話せる相手……リョーボさんのアドバイスを実行させてもらおう。




モヤモヤするオータムさん。

オータムさんが調子くるっている姿が可愛いですね。


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161話

最近休みがちの作者です。

思うように浮かばないですね……ほぼ毎日更新の辛さといいますでしょうか……。書き溜めすれば解決するんでしょうかね。


 

ラボに来て4日目。

 

昨日メンテナンスが終わったバーチャロンのテストのために、僕はラボの訓練場にいた。

 

テストはスペシネフを除いた全フォームの運動性能と、武器動作の確認だ。まぁ、束さんが直々にメンテナンスしてくれたし、なんの問題も起こらない。

 

 

「よっと」

 

 

フェイ・イェンを纏い、レイピアを流し気味に振るう。

 

格好はともかく、このフォームは早いし軽いから使い勝手はいいんだよなぁ……。

 

 

『……うん、フェイもいい感じだねぇ。OK、テスト終了だよ』

 

 

束さんの通信が耳に届き、すべてのフォームのテストが終わった。メンテナンスしてもらった後は、なんだか初めてバーチャロンに触ったときのことを思い出す。

 

まぁ、あの時はかなり強引に乗せられたから……。

 

 

『しょーくん、どうかした?』

 

 

っと、ぼーっとしすぎていたようだ。

 

 

「いえ、なんでも。ちょっと、初めてバーチャロンに乗った時のこと思い出して……」

 

『むふふ、あの時のしょーくんの顔、可愛かったねぇ』

 

 

束さん、男に可愛いというのはどうかと……。

僕の心中は微妙なものに……。

 

 

「まぁ、ちょっと思い出しただけです。今戻ります」

 

「待て」

 

「え?」

 

 

突然呼び止められ声の方を向くと、そこにはマドカが立っていた。

 

 

「マドカ、どうしたの?」

 

「私と、模擬戦をしないか?」

 

「模擬戦?それはまたどうして……」

 

「……将冴と戦ってみたくなった」

 

「あー、なら仕方ないね」

 

『しょーくん、それは仕方ないの?』

 

 

誰かがIS動かしているの見ると、その人と戦ってみたいと思うことあるから……。

 

あれだよ、横で誰かがゲームしてたらやりたくなるのと同じだよ。

 

 

「僕は構わないけど、マドカはIS持ってるの?」

 

「持ってる」

 

「それじゃあ、やろうか。束さん、いいですよね?」

 

『それはいいけど……』

 

「束さん?」

 

『まーちゃん強いよ?』

 

「でしょうね」

 

『でしょうねって……はぁ、しょーくんそんなに戦うの好きだったっけ?』

 

 

別に好きってわけではないけど……自分の腕を確かめてみたいっていう感じかな。

 

 

『それじゃ、準備して……』

 

「もうできてる」

 

 

少し目を離した隙に、マドカはすでにISをまとっていた。量産機……ではないか。赤を基調としたフルスキンタイプで、手には見たことない武器を持っている。やたらトゲトゲしくて……少しバーチャロンに似ている?

 

 

『マイザーΔポイズン。束さんがすーちゃん、吊り目、まーちゃんに作ってあげたISだよ』

 

「束さんが?」

 

『うん。しょーくんのバーチャロンの元にね。V.ドライブは積んでないからフォームチェンジはできないけどね』

 

 

バーチャロンが元なら似ててもおかしくないか。

その姿からどんな攻撃をしてくるのか想像できないけど……。

 

 

「将冴、準備はいいか?」

 

「ちょっと待ってね」

 

 

フェイ・イェンからテムジンにフォームチェンジし、マドカに向き直った。

 

 

「お待たせ。じゃあ、やろうか」

 

「ああ」

 

『それじゃ、二人とも正々堂々と戦うよーに。試合かいしー!』

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「それで、どっちが勝ったの?」

 

 

夜、夕食のシチューを食べながらスコールさんが聞いてきた。

 

 

「どっちも攻撃が当たらなくて、同時にエネルギーがなくなって引き分けです」

 

「あら、よくエムと引き分けれたわね。すっごく強いのに」

 

「しょーくんもすっごい強いんだよ!」

 

「久しぶりにいい戦いができた。将冴、また頼む」

 

「僕でよければいつでも。っと、そろそろ時間か」

 

「将冴様、この後用事が?」

 

「うん、クラリッサと電話する約束してて」

 

 

あ、そういえばクロエさんとスコールさん、あとマドカに話してなかった。

 

 

「クラリッサ、というと……」

 

「しょーくんの彼女だよ」

 

「あら、将冴君彼女いたの?」

 

「え、ええ。まぁ……」

 

「……ごちそうさま」

 

 

オータムさんがシチューを残して席を立った。

……やっぱり昨日から様子がおかしい。

 

 

「オータム様、もうよろしいのですか?」

 

「ああ……あとで部屋に酒持ってきてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

そのまま食堂を出て行ってしまった。

 

 

「……私ももういいわ。ちょっと部屋で休んでるわね」

 

 

スコールさんも、オータムさんを追うように食堂を出た。

さすがに、気にならないわけないか。

 

 

「お二人とも、お口に合わなかったのでしょうか……」

 

「たんに食欲がなかっただけだと思いますよ。僕も、部屋に戻りますね。クロエさん、ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした。食器はそのままでかまいません」

 

「ありがとうございます」

 

 

片付けを任せ、僕は部屋に戻り、すぐに携帯でクラリッサの番号に電話をかけた。

 

ものの数秒と経たずに、電話がつながった。

 

 

『時間通りだな、将冴』

 

「約束したからね。ちょっと相談したいこともあるし」

 

『相談?』

 

「うん、僕一人じゃ判断しきれなくて……」

 

『そうか……ふふ』

 

「何かおかしかった?」

 

『いや、将冴が私を頼ってくれたのが嬉しくてな。つい笑みが隠しきれなかった』

 

「いつも頼ってるつもりなんだけどな……」

 

『もっと頼ってくれてもいいんだ。それで、相談というのは?』

 

「ああ、それが……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

部屋に戻った私……オータムはすぐにベッドに横になった。

 

まただ、なんだよ。このモヤモヤは。イライラする……。

 

 

コンコン

 

 

あん?クロエが酒持ってきたか?

 

 

「入っていいぞ」

 

 

横になったまま返事をすると、扉が開きカツカツとヒールの音がした。

 

……クロエじゃねぇな。

 

 

「なんだよスコール」

 

「調子悪そうだったから様子を見に来ただけよ」

 

「……別に、なんでもねぇよ」

 

「にしては不機嫌そうな顔ね」

 

「お前が来たからだろ」

 

「あら酷い」

 

 

相変わらず、つかみどころのねぇ奴。

結構長い付き合いだが、スコールの考えてることはよくわかんねぇ。

 

 

「何か悩み事?相談に乗ろうか?」

 

「悩みなんてない。いいから出てけよ」

 

「私には悩んでいるようにしか見えないけど?」

 

「……」

 

「厳密には違うわね……何に悩んでいるのかわからないんでしょ」

 

 

図星だ。

 

なんでこんなモヤモヤするのかわかってない。

将冴の話を聞いた時から……ずっと……。

 

 

「いい加減、素直になったら?」

 

「何が……」

 

「将冴君のこと、意識してるんでしょ?」

 

「……」

 

「オータム?」

 

「そう……かもな」

 

「あら、あっさり認めるのね」

 

 

お前が素直になれとか言ったんだろうが……。

 

 

「将冴君に彼女がいて、嫉妬してるんじゃないの?」

 

「……違う。多分、嫉妬じゃない」

 

「じゃあ、なに?」

 

「……悔しい。なんかよくわかんねぇけど、悔しい」

 

「……そっか。これからどうするの?」

 

「どうもしない。明日からいつも通りに戻る」

 

「できるの?」

 

「やる」

 

「わかった。オータム、辛くなったらいつでも言いなさい。お酒の相手くらいならしてあげるから」

 

「……おう」

 

 

スコールはそのまま部屋を出て行った。

 

はぁ……なんか面倒くせぇな。私。

 

 

コンコン

 

 

今度こそクロエか。

 

 

「開いてる」

 

「失礼します」

 

 

え、クロエの声じゃない……?

 

ベッドから体を起こし、入ってきた奴顔を見ると、さっきまで話題になっていた将冴が携帯を片手にそこにいた。




戦闘書けない病。何回も書き直したけど、マジで書けなかったのでカットしました。復活したらどこかで書きます。

あと、攻撃が当たらなくて引き分けという結果でしたが、これ実は作者の実体験です。

昔バーチャロンマーズで友達と対戦していて、アファームドとマイザーΔで時間無制限で30分戦い続けました。最後はお互いに集中力切れてだれてしまったので、強制終了で引き分けになりました。


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162話

背中が痛い作者です。

次回で束編終わらせたいなぁと思っています。

と、一つお知らせなんですが、前々回の前書きで話した夏休み終盤の話ですが、1週間休載後に書こうと思います。
ちょっとした企画を考えているので、楽しみに待っていただけたらと思います。

今回は電話描写ばっかりや……


『……なるほど。そのオータムという女性の様子がおかしいと?』

 

「うん、でも原因がわからなくて。オータムさんとは二年前のショッピングセンターテロで助けてもらった時と、二回ほど電話したくらいしか交流なかったんだけど、どうも気になって……」

 

『ふむ……将冴、ちょっと聞きたいことがあるのだが』

 

「なに?」

 

『将冴の、オータムに対する印象を聞いておきたくてな』

 

「印象?そうだな……普段は男勝りで結構怖い感じだけど、面倒見がいい人だと思う。助けてもらうことも多し。あ、あとたまにおっちょこちょいで、からかうと面白くてかわいげのある人だと思う」

 

『……聞いておいてあれだが、将冴の口から他の女性の話を聞くのはなかなかモヤっとするな』

 

「ご、ごめん……」

 

『いや、謝らなくていい。ちょっと嫉妬しただけだ……』

 

 

そう小さく呟く声が聞こえた。

女性の嫉妬は怖いというが、クラリッサのこの反応はすごく可愛いと思う。……僕だけだろうか?

 

 

『話が脱線したな。将冴、そのオータムとは話すことができるか?』

 

「え、多分できるけど……」

 

『では頼む。オータムと二人で話がしたい』

 

「わかった」

 

 

クラリッサに何か考えがあるのだろうか?

まぁ、僕じゃなにをしても無駄だろうし、ここはクラリッサの言う通りにしよう。

 

通話を繋げたまま、オータムさんの部屋の前まで向かう。

 

多分、部屋にいると思うんだけど……

 

 

コンコン

 

 

「開いてる」

 

 

一言そう帰ってきた。

 

 

「失礼します」

 

 

扉を開き中に入ると、少し驚いたような表情のオータムさんがベッドに腰掛けていた。

 

 

「おま、なんで……」

 

「ちょっとお話がありまして……と言っても僕じゃないんですけど」

 

「どういうことだ?」

 

「えっと、とりあえずこれを」

 

 

僕は通話が繋がったままの電話をオータムさんに手渡した。

 

 

「なんだよ、これ……」

 

「オータムさんとお話がしたいという相手です。それでは僕は部屋の外にいますので」

 

「あ、おい!」

 

 

オータムさん制止する声を無視し、僕は部屋を出た。

 

……気になるなぁ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

将冴に携帯を押し付けられ、何が何だかわかんねぇ状態なんだが。さてどうしたものか……。

 

とりあえず、電話に出てみるか……。

 

 

「……もしもし」

 

『あなたがオータムか?』

 

 

女の声?

 

 

「そうだが……お前は誰だ」

 

『私はドイツ軍シュバルツェ・ハーゼ所属、クラリッサアルフォーフ』

 

「クラリッサ……」

 

 

確か、将冴の彼女……。

その彼女が私に何の用があるってんだ。

 

てか、明日からいつも通りにあいつと接するって決めたのに、タイミングの悪い……。

 

 

『まずは礼を言わせてくれ。二年前のショッピングセンターテロの時、将冴を助けてくれてありがとう』

 

 

二年前……ああ、あれか。

 

 

「別に、そんな昔のこと言われたってなんもねぇよ。私だって仕事だったんだからな」

 

『そうか』

 

「で、わざわざ礼を言うためだけに電話してるわけじゃねぇんだろ?あれか?私の将冴に手を出すな、とでも釘を刺しに来たのか?だったら……」

 

『いや、そんなことを言うために電話をしたのではない』

 

「じゃあ、なんだよ」

 

『あなたが将冴のことをどう思っているのか聞きたい」

 

「はぁ!?」

 

『いや、この言い方は正確ではないな。どうして将冴を意識するようになったか聞こうか』

 

「お、おま、なんで……」

 

『将冴から、あなたの様子がおかしいと相談を受けた。詳しく話を聞いたらわかったぞ。将冴のことを意識しているとな』

 

 

あいつ……余計なことを……。

 

 

「……はぁ。今日はめんどくせぇ日だな。スコールといい、お前といい……」

 

 

まぁいい。

こいつに話せば、案外スッキリするかもしれねぇ。

 

 

「……最初に見た時は何にも思わなかったよ。束から話は聞いていたしな。体に障害があって、ISを持っているって。むしろ、こんなやつがISを持ってて大丈夫なのかっていう方が気になった。まぁ、すぐにそんな心配はなくなったが」

 

 

変な女に絡まれても、ISを出さず、暴力も振るわなかった。

 

 

「本格的に意識し始めたのは、あいつから電話をかけてきた時だな」

 

『電話?』

 

「ああ。その……自分でも馬鹿らしいとは思ってるんだけど……将冴に、かわいいところもあるとか言われてから……」

 

『……』

 

「……」

 

『……』

 

「何か言えよ!」

 

 

無言が一番怖いだよ!

 

 

『いや、その……なんだ……その気持ちはよくわかるぞ』

 

「なんでお前に同情されてんだよ」

 

『つまり、あなたはチョロインだったわけだな』

 

「チョロ……?」

 

 

なんだかよくわかんねぇが、貶された気分だぞ。

 

 

『成る程な。確かに、この前読んだ漫画では、男勝りな女子が主人公に優しい言葉をかけられただけで惚れてしまうシーンがあったからな』

 

「お前、さっきから何言ってんだ」

 

『気にするな。それで、あなたは今後どうするつもりなんだ?』

 

「……どうもしねぇ。普通に過ごすだけだ」

 

『そうか。私としても、そうしてくれたほうが安心できる。長々とすまないな電話を将冴に返してくれ』

 

「ああ……なぁ、一つ聞いていいか?」

 

『なんだ?』

 

「将冴を好きになって良かったと言えるか?」

 

『……ああ。もちろん』

 

「そうか」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

部屋の前で待ちぼうけていると、オータムさんが出てきた。

 

心なしか、少しスッキリした顔をしている気がする。

 

 

「電話、返す」

 

「はい。……えっと、なんの話をしていたか、聞いてもいいですか?」

 

 

どうしても気になってしまったので、オータムさんに聞いてみる。

 

オータムさんはこっちをジッと見つめたあと、ポフッと僕の頭に手を乗せた。

 

 

「え?」

 

 

そしてそのまま頭をくしゃくしゃと撫で回し始めた。

 

 

「うわぁ!?」

 

「お前には関係ねぇよ。さっさと寝ろ、明日模擬戦付き合ってやっから」

 

 

そしてそのまま自分の部屋に戻ってしまった。はて、なんだったのだろうか?

 

あ、携帯繋がったままだ。

 

 

「クラリッサ、一体何の話してたの?」

 

『すまないが、こればかりは秘密だ』

 

「そう……まぁいいや。とりあえずはなんとかなったんでしょ?」

 

『どうだろうな、その辺はわからない。オータムの気持ち次第だ』

 

 

そっか……それなら大丈夫そうだな。

 

 

『そうだ、将冴。学園に帰るのは授業が始まる二日前だったな?』

 

「うん、そうだけど」

 

『迎えは必要か?』

 

「大丈夫だよ。直接学園に帰るから」

 

『そうか、わかった。学園で会えるのを楽しみにしている』

 

「僕も楽しみにしてる。それじゃあ、またね」

 

『ああ、また』

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

『束か』

 

「正解正解だいせいかぁーい!さっすがちーちゃん」

 

『要件はなんだ?』

 

「えっとね、約束通り敵のことを教えようと思ってね」

 

『……将冴はたどり着いたのか?』

 

「うん。黒幕と何度か接触したみたいだよ」

 

『そうか……』

 

「それじゃ、資料はちーちゃんのパソコンに送っておいたから、ゆっくり見てね」

 

『わかった。要件はそれだけか?』

 

「あ、もう一つ頼みごとがあるんだよねぇ」

 

『なんだ?』

 

「むふふ、実はね……1人IS学園に編入させたいんだよね」

 

『はぁ……お前はまたなんの冗談を……』

 

「冗談じゃないよ!本当だよ!」

 

『……なんのために編入させたい?」

 

「これから起こるかもしれない戦いに備えておくんだよ」

 

『束……』

 

「それじゃ、よろしくねぇ!」




電話ばっかりや……びっくりしたわ。

束さんが意味深なことを言いはじめる


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163話

今回で束編終了です。

長かった……夏休み長かった……2カ月もかかったよ←


 

束さんのラボにきて一週間。

今日は学園に帰る日だ。

 

クラリッサには前もって帰る時間を言ってあるから、多分出迎えてくれるだろう。

 

 

「よっこいしょと」

 

 

僕は荷物を車に詰め込み、トランクを閉めた。

忘れ物はなんども確認したから大丈夫かな。

 

車の近くには、僕を見送るために束さん、クロエさん、スコールさんが来ていた。

 

オータムさんとマドカは僕を学園まで送ってくれることになっているため、すでに車に乗り込んでいる。

 

 

「しょーくん、今日で帰っちゃうんだね。寂しくなるよぉ」

 

「束さんはその気になればいつでも会いに来れるじゃないですか」

 

「いつも一緒にいるのと、会いに行くのじゃ意味が違うだよぉ〜!」

 

 

なんとなくその気持ちはわかるけれども、それに対しては苦笑いを浮かべるしかない。

 

 

「将冴様、またいつでもいらしてください」

 

「はい。クロエさんも、そのうち学園に」

 

 

千冬さんに頼めば入れてくれるだろう……多分。

 

 

「ダイモンの調査は任せてね。将冴君は余計なことは考えちゃダメよ?」

 

「……わかりました。よろしくお願いします」

 

 

僕一人でできることはたかが知れてる。ここは、スコールさんや束さんに任せるしかないか。

 

 

「将冴、そろそろ行くぞ」

 

「今行きます。それでは、一週間お邪魔しました」

 

 

僕は三人に礼をし、車に乗り込んだ。

 

 

「挨拶は済んだか?」

 

「はい。お待たせしてすいません」

 

「別に。シートベルトしな。ほら、エムもさっさとシートベルトしろっての。途中で警察に見つかったら面倒だろうが」

 

「締め付けられるから嫌だ」

 

「ワガママ言ってんじゃねぇよ!ISスーツの方がよっぽど締め付けてくるじゃねぇか」

 

「それはオータムの胸が大きいからだろう」

 

「ばっ、お前変なこと言ってねぇで早くシートベルトしろって!」

 

 

マドカが顔をむすっとさせ、しぶしぶシートベルトを締めた。それを確認したオータムさんは車を発進させ、ここに来た時の通路を走っていった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

数時間ほど車を走らせ、僕たちはIS学園のある島まで行くモノレール乗り場に着いた。

 

僕は車から降り、トランクから荷物を取り出した。

 

 

「将冴、私が持つ」

 

「いや、これくらいは……」

 

「いいから」

 

 

マドカが僕の荷物を持ってくれた。

まぁ、助かるからいいんだけど……。

 

僕は車のウィンドウを覗き込み、運転席に座っているオータムさんに話しかけた。

 

 

「オータムさん、一週間ありがとうございました」

 

「私は何もしてねぇよ。……まぁ、なんだ。元気でな」

 

「はい、オータムさんも。お酒ばかり飲まないようにしてくださいね」

 

「余計なお世話だっての」

 

 

オータムさんが笑みを浮かべながらそういい、車を発進させて去っていった。

 

あれ?

 

 

「マドカ、オータムさん行っちゃったけど?」

 

「構わない。私は学園に用事があるんだ」

 

「学園に?」

 

「ああ。悪いが、束に口止めされている。将冴には話すなと」

 

 

なんだろう気になるな。

そして嫌な予感もする。

 

 

「授業が始まればわかる。時間だ。モノレールに乗るぞ」

 

「う、うん」

 

 

マドカがフードを被り、モノレール乗り場に向かっていった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……そろそろか」

 

 

私……クラリッサはIS学園にあるモノレール乗り場で、将冴のことを待っていた。

 

2週間……本当に長かった。この日をどれだけ待ち焦がれたか。まず会ったらどうしよう。とりあえず抱きしめて、それから……。

 

 

「クラリッサ、顔が弛んでいるぞ?」

 

「はっ……申し訳ありません、織斑先生」

 

 

いかん、織斑先生もいるのを一瞬忘れていた。

織斑先生にはまだ私が将冴と付き合っているということを伝えていないからな……。将冴と一緒に報告するつもりだったのだ。

 

しかし……

 

 

「織斑先生も、将冴の出迎えを?」

 

「いや、私は別件だ。将冴と一緒に来る者に用があってな。束の使いらしい」

 

 

将冴と……前に話したオータムだろうか?

ダイモンの調査をしていると将冴から聞いていたから、そのことか……。

 

 

「……来たか」

 

 

モノレールが到着し、何人かの生徒が降りてくる。

みんな私たちを見て挨拶をしてくるな。まぁ、織斑先生は人気だから仕方ないか。

 

それより、将冴は……

 

 

「クラリッサ」

 

 

私を呼ぶ声が聞こえ振り向くと、そこにはいつもの車椅子に座った将冴の姿があった。

 

 

「将冴!」

 

 

私はすぐに駆け寄り、周りの目など御構い無しに将冴に抱きついた。

 

 

「うわっ、クラリッサ!?」

 

「2週間ぶりなんだ、もう少しこのまま……」

 

「……うん。わかった」

 

 

そのまま数十秒ほど抱き合ったところで、私の背後から「コホン」と咳払いが聞こえてきた。

 

 

「久しぶりの再会はわかるが、もういいだろう?」

 

「は、はい」

 

 

少し不機嫌になった織斑先生の顔を見てしまった私は、すぐに将冴から離れた。

 

 

「将冴、留学ご苦労だった。勉強になったか?」

 

「はい。いろいろ学べました」

 

「そうか。早速で悪いが、レポートを出してもらう。期限は授業が始まる日でいい」

 

「わかりました」

 

 

将冴と織斑先生が話しをしている時、私は将冴の後ろに立っている人物が目に入った。

 

フードを被って、おそらく将冴のものであろう荷物を持っている小柄な人物。この人が、織斑先生の言っていた、篠ノ之束博士の使いか?

 

 

「そうだ、お二人に紹介しますね」

 

 

将冴がそう言うと、フードの人物がこちらに近づいてくる。そして、私と織斑先生のことをフードの隙間から覗くように見ると、織斑先生の方をじっと見つめ始めた。

 

 

「ほら、マドカ」

 

 

将冴がそう促すと、その人物はフードを取った。

 

その顔を見た瞬間、私と織斑先生は息を飲んだ。

 

 

「織斑マドカだ」

 

 

織斑先生と全く同じ顔……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

マドカがフードを取った瞬間に、顔を強張らせた。

まぁ、仕方がないか。僕もそうだったし。

 

 

「クラリッサ、千冬さん。マドカは……」

 

「将冴、別に言わなくてもいい。私はさっさと用事を済ませたい」

 

 

マドカはそう言うと、封筒を取り出し千冬さんに手渡した。

 

 

「束から預かったものだ。ここにきたら、とりあえず織斑千冬の指示を聞けと言われている」

 

「……」

 

 

封筒を受け取った千冬さんは、その封筒の中身を取り出し、目を通し始めた。

 

 

「……わかった。マドカ、私についてこい」

 

「承知した」

 

 

千冬さんはすぐにモノレール乗り場から出て行き、マドカは僕の荷物を持ち、クラリッサに近づいた。

 

 

「将冴の荷物だ」

 

「あ、ああ……すまない」

 

 

戸惑いながらも、クラリッサは荷物を受け取り、マドカはそのまま千冬さんについていった。

 

 

「……将冴、あれはどういうことなんだ?」

 

「ここじゃ話せないし、部屋行こうか。積もる話もあるしね」

 

「そう、だな」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

部屋に戻った僕たちは、とりあえず僕の荷物の整理をした。とは言っても、服は全部クロエさんが選択してくれていたので、箪笥に戻すだけだ。

 

それが終わると、クラリッサがコーヒーを淹れてくれて、それを飲みながら、僕はこの2週間の話を話した。

 

ナターシャさんや、ジェニファーたちのこと。

アメリカでのダイモンの襲撃。

束さんから聞いたダイモンの話。

スコールさんたちのこと。

 

会えなかった分を、埋め合わせるように話した。

 

 

「……大変だったようだな。この2週間は」

 

「心休まる時が少なかったかも」

 

「その……大丈夫か?ダイモンのことは……」

 

「うん、大丈夫。次に会った時は、前みたいに怒りに身を任せたりしない」

 

「そうか……」

 

 

と、話すことがなくなり、僕たちはコーヒーを手にしたまま黙りこくってしまった。

 

 

「……えっと、夕食を食べに行くか?」

 

「まだそんな時間じゃないよ」

 

「そ、そうだな……」

 

「……クラリッサ、ちょっと僕のことベッドまで運んでくれる?」

 

「?わかった」

 

 

別に義足が使えないわけじゃないけど、僕はクラリッサに頼んでベッドに運んもらい、そのまま少しスペースを空けて横になった。

 

 

「ほら、クラリッサ。ここ」

 

「え……」

 

「会えなかった分、甘えさせるって言ったでしょ?」

 

「あ……じゃあ」

 

 

クラリッサは僕の横に寝転がる。

ベッドは一人用なので、当然のごとく距離が近くなる。

 

 

「ふふ、近いね」

 

「そうだな。ドイツではずっとこうやって寝ていたのに、改めてやるとなんだか恥ずかしいな」

 

「僕も、クラリッサの体温が感じられるくらい近くて、ドキドキする」

 

「……将冴」

 

「なに?」

 

「抱きしめても、いいか?」

 

「うん、僕もクラリッサのこと抱きしめたかった」

 

 

僕はクラリッサの首と背中に手を回し、クラリッサは僕を引き寄せるように抱きしめた。

 

 

「ただいま、クラリッサ」

 

「おかえり、将冴」

 

 

そのまま僕たちは唇を重ねた。




ふう……(やりきった顔

長かった。


さて、これで一区切りということで、一週間休載ささていただきます。一週間更新はしませんが、物語は考えていきますので、楽しみに待っていただければと思います。

では、また一週間後に


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番外篇:偽りの腕と白銀の狼
コラボ第1話


1週間ぶりです。作者です。

この度、ラグ0109様の「インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜」とコラボすることになりました。

偽腕と狼、どちらの読者様にも楽しんでいただけるようなコラボにしたいと思っていますので、どうぞ生暖かい目でご覧ください!

※このコラボ作品は、両作品の本編になんら関わりはありません。コラボが終わりしだい、本編の方を更新していきますのでお待ちいただければと思います。


「ふふ……できた」

 

 

暗闇の中。

メカメカしいうさ耳をつけ、エプロンドレスを身にまとったその女性は……篠ノ之束はゆらりと立ち上がった。

 

 

「実験は……適任がいたね」

 

 

束がキーボードを叩くと、とある座標が映し出される。

そこは、IS学園学生寮のとある一室。

 

 

「むふふ、それじゃポチッとな」

 

 

タッーンと、束がエンターキーを押す音が響いた

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

夏休みが明け、数日が経ったある日の夜。

将冴は自室でクラリッサが作ってくれたコーヒーを片手に、携帯電話を耳に当てていた。

 

電話の相手はというと……

 

 

『ねえ、しょーくんどう思う!?ちーちゃんったら、電話しても用件だけ聞いたらすぐ切っちゃうんだよ!?』

 

 

稀代の大天才、篠ノ之束だった。

 

どうやら将冴に愚痴をこぼすために電話してきたらしい。

将冴からしても、それを自分に言ってどうするのかという心境だった。

 

隣に座って将冴にくっついてコーヒーを飲んでいるクラリッサでさえも、漏れてくる声に苦笑いを浮かべていた。

 

 

「そればっかりは、僕でもどうしようもありませんよ。束さんがもう少しで落ち着いて話せば、問題ないのでは?」

 

『ぶぅ〜、束さんはいつでも落ち着いているんだよ!最近じゃ、箒ちゃんも適当にあしらうように電話を切っちゃうし、束さんは悲しくて泣きそうだよぉ』

 

(それで僕に電話してきたのか……)

 

 

よほど大切なことがない限り、束の方から電話してくるということがないため、将冴の中でわかりたくないものを知ってしまった虚しさが生まれた。

 

 

「束さん、あまりしつこいと千冬さんにも箒にも嫌われますよ」

 

『大丈夫!なんだかんだ言って二人とも束さんのこと大好きだから!』

 

 

この自信はどこから溢れるのか、将冴とクラリッサには到底知る由もなかった。

 

 

『そうだ。しょーくん、最近…ザザッ…におかしなとこ…ザッ…』

 

「ん?束さん?」

 

 

束の声にノイズが混じり、聞き取れなくなる。

 

 

「将冴、どうかしたか?」

 

「うん、なんかノイズが酷くて……もしもし、束さん?」

 

『ザザ、ザ……ーくん、しょーくん聞こえる?』

 

「繋がった、はい。聞こえますよ、束さん」

 

『ごめんね、なんか機材の調子悪くて。今開発してるもののせいかな?』

 

「何か作ってるんですか?」

 

『ちょっとねぇ〜、今は企業秘密ってことで、できたら改めてお披露目するよ』

 

(こういう時、ろくなもの作らないんだよなぁ。束さん。実害がないものだったらいいんだけど……)

 

『それじゃ、そろそろ切るねぇ。愚痴につき合わせちゃってごめんね。くらちゃんによろしく』

 

「はい。伝えておきます。それではまた」

 

 

束が何を作っているか気になりながらも、通話を切り携帯をポケットにしまう。

将冴の胸中は不安でいっぱいだったが、とりあえず隣にいる自分の恋人に目を向けた。

 

 

「束さんがよろしくだって」

 

「篠ノ之博士からそんなことを言われるとは、夢にも思っていなかった……」

 

「まぁ、僕とクラリッサの関係知られちゃったからね。束さんからしても、僕が認めた相手なら問題ないと思ってるんだよ」

 

「随分と将冴のことを慕っていたみたいだからな……」

 

 

頬を膨らませながらそう呟くクラリッサ。

将冴はその様子を見て、小さく笑みをこぼした。

 

 

「ふふ、やきもち妬いてるの?」

 

「そういうわけでは……」

 

「大丈夫、僕が好きなのはクラリッサだから」

 

「……ならいい」

 

 

そういうとクラリッサは将冴に抱きつく。

 

 

「おっと……」

 

「今日はもう休むだろう?」

 

「うん。コーヒー飲んだらもう寝るよ。一緒に寝るでしょ?」

 

「ああ!」

 

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 

 

将冴はコーヒーを飲み干し、流しへ向かいカップを手早く洗い戻ると、クラリッサはすでにいつもつけている眼帯を外し、寝る体制に入っていた。

 

 

「はは、クラリッサ早いよ」

 

「き、気にするな……ほら、早くここに」

 

「うん」

 

 

クラリッサの横に向かい合うように寝転がった。

 

 

「それじゃ、おやすみ。クラリッサ」

 

「おやすみ、将冴」

 

 

唇を軽く重ね合わせると、お互いの手を握ったまま二人は目を閉じた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「それで、これはなんだ?」

 

 

白銀の髪に金色の目をし作務衣を着た男が、ベッドに寝転びながら小さく呟いた。

 

男の体には、3人の女がくっついていた。

 

 

「今日はみんなと寝る日だったか?」

 

「そうじゃないけど、ねぇ……」

 

「いつもお姉ちゃんばかりズルい……」

 

「そうですわ。私達だって、一晩中くっついていたいです」

 

「だからといって、まだまだ寝苦しいこの時期にやらなくてもよかろうに……」

 

 

夏休みが明けて、9月に入ったとはいえ、まだまだ暑い日が続くわけである。

 

 

「あら、暑くて寝れないなら、もっと暑くなることやってもいいのよ?」

 

 

女3人のうちの一人がそう呟くと、他の二人がキラリと目を輝かせた。

 

 

「悪いが、今日はどんなに寝苦しかろうとこのまま眠らせてもらう。連日の訓練やら生徒会やらなんやらのせいで疲れてしょうがない。お前たちも、ひっつくのはいいが、さっさと寝ろ。明日は平日だということを忘れるな」

 

「「「はぁ〜い」」」

 

 

四人は静かに目を閉じると、すぐに寝息を立て始める。

 

 

翌日。

彼女たちが抱きついていたはずの男はベッドから姿を消していた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ん……うぅ……」

 

 

翌日、将冴が目を覚ますと、小さく寝息を立てるクラリッサが最初に視界に入った。

 

 

「んー……今何時だろう……」

 

 

体を起こし時計見るのは億劫なので、ISの網膜投影で現在の時間を確認する。

 

 

「5時半……まだ早いな……」

 

 

食堂が空く時間でもなく、今から準備を始めても無為に時間を過ごしてしまう。筋トレをして時間を潰すのも考えるが、クラリッサを起こしてしまう可能性があるため憚られる。

 

 

「もう少しこうしていよう」

 

 

クラリッサの寝顔を眺めていることにし、額と額がコツンとくっつくまで近づいた。

 

 

「ん……」

 

 

クラリッサが小さく呻き、ゆっくりと目を開いた。

 

 

「将冴……起きたのか?」

 

「うん。ごめん、起こしちゃったね」

 

「いや、構わない。今何時だ?」

 

 

クラリッサか体を起こしながら時計に目をやるが、将冴が先に答えた。

 

 

「5時半。もう少し寝ててもいいよ」

 

「いや、もう目が覚めてしまった。コーヒーでも淹れよう」

 

 

眼帯をし、部屋に備え付けてある簡単なキッチンに向かうと手早くアイスコーヒーを淹れる。

 

クラリッサがコーヒーを淹れている間に、将冴は義肢の簡単な動作確認を始めた。普段はやらないのだが、今は時間が余っている。

 

 

「ん?何だろう……」

 

 

指先がピクピクと不自然に痙攣している。

このようなことは、今まで一度もなかった。

 

 

「不具合……?束さんに相談したほうがいいかな」

 

「どうかしたか?」

 

「ちょっと指先が痙攣してるみたい」

 

「大丈夫なのか?」

 

「うん、痙攣するのは力をいれていないときだし、動かすぶんには問題なさそう。夜にでも、束さんに連絡するよ」

 

 

そう言うと、将冴はクラリッサからコーヒーを受け取り一口啜る。

 

将冴の好きな甘めのコーヒーが、口の中に広がる。

 

 

「美味しい。ありがとう、クラリッサ」

 

「これくらい構わない。っと、忘れていた……」

 

 

すっとクラリッサの顔が将冴の目の前に現れ、軽くキスをした。

 

 

「おはようのキスを忘れていた」

 

「そう……だったね。ふふ、突然でびっくりした。もう当たり前にやるようになっちゃったね」

 

「最初はかなり恥ずかしかったが、今ではやらないと落ち着かないんだ……」

 

 

照れ隠しのように、コーヒーをぐいっと煽るクラリッサ。将冴はその様子を見て、なんだか気恥ずかしくなり頬を掻く。

 

 

「ど、どうした?」

 

「いや……まぁ……」

 

 

クラリッサの姿を見てドギマギしてしまったとは言えず、言い淀む。

 

そして誤魔化すように、クラリッサの唇を奪った。

 

 

「むっ!?しょ、将冴……?」

 

「お返しということで」

 

「むぅ……な、なら!」

 

 

コーヒーをベッド近くの棚に置き、ガシッとクラリッサが将冴の肩を掴む。

 

 

「ば、倍返しさせてもらうぞ」

 

 

三度、唇が重なる……そのとき。

 

 

ドスンッ!

 

「ぐうっ!?」

 

 

突然、何かが落ちる音と呻き声が聞こえ、二人はキスする直前で止まった。

 

 

「いつつ……ベッドから落ちたか……女子三人にベッドを占領された……か?」

 

 

落ちてきたであろう物……いや、人物は打ってしまった頭押さえながら立ち上がり、将冴とクラリッサを見て目を丸くした。

 

その人物は白く輝く銀髪に金色の目の作務衣を着た男だった。

 

 

「……」

 

「「……」」

 

「すまない。部屋を間違えたようだ」

 

 

謎の男性はそのまま部屋を出て行ってしまう。

 

 

「「……今のはいったい……」」




第1話、いかがだったでしょうか。

これから将冴君と狼さんが絡んでいくので、楽しみに次話を待っていただければと思います。


ラグ0109様の作品はこちら

http://novel.syosetu.org/41194/


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コラボ第2話

コラボ第2話です。

コラボは予約投稿で投稿しているので、前書き後書きで感想の反応できませんので、あしからず。


部屋を飛び出した銀髪の男は、廊下にしゃがみ込み頭を抱えた。

 

 

「まさか、夢遊病の類か……?いや、だが楯無や簪、セシリアが抱きついている中を抜け出せるだろうか……?」

 

 

ここで男は周りを見渡す。

そして妙な既視感を覚えた。

 

 

「ここは……俺の部屋のはずだ……」

 

 

そこは男の元いた部屋と同じ部屋のはずだった。

 

 

「もう一度、確かめてみるか」

 

 

男が部屋の扉に手をかけ開こうとすると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「シャルロットさん、ラウラさん。確か、今日の授業では一緒の班でしたわよね?」

 

「そうだね。まぁ、他の人たちの補助に徹することになるだろうけど」

 

「私は兄さんと同じ班が良かったぞ……」

 

「しょうがないよ、ラウラ。将冴は別の仕事があるみたいだから」

 

 

廊下の向こうからセシリア、シャルロット、ラウラがお喋りをしながら歩いてきたのだ。

 

男は安堵の息を洩らし、3人に手を挙げ挨拶をする。

 

 

「3人共、ちょうど良かった」

 

 

男の姿を見つけた3人の反応は、彼にとってまったく予想外のものだった。

 

 

「あら……?」

 

「男?」

 

「二人の知り合いか?」

 

「いえ、私の知り合いでは……」

 

「作務衣着てるから、新しい用務員さんじゃないかな?」

 

「警戒しておいた方がいいかもしれないな。スパイかもしれない」

 

 

セシリア達は、男を警戒し少し離れたところで立ち止まった。

 

 

(……おかしい。シャルロットはともかく、セシリアとラウラならすぐに近寄ってくるはず。まさか楯無が仕組んだ新手のドッキリか?)

 

 

はぁ、とため息をこぼし、男は3人に近づく。

 

 

「さすがの俺も驚いたぞ。さ、主犯は誰だ?どうせ楯無あたりが裏で手を……」

 

「貴方、何を仰っていますの?」

 

「……は?」

 

「怪しいやつだな。兄さんの部屋の前にいたようだったし、不審人物として捕縛するか」

 

「ま、待てラウラ。俺だ、わからないのか?」

 

「私は貴様のような男は知らない。手荒な真似はしたくないから、大人しくしてもらおう」

 

「ちょっと待て!セシリア、ラウラを止めてくれ」

 

「どうして見ず知らずの貴方の言うことを聞かなければならないんですの?」

 

 

セシリアからの返答に、男は頭を殴られたような気分になった。

 

セシリアとはお互いに愛し合う仲であり、ラウラとは血の繋がりはないが親子のように過ごしてきたのだ。

 

信頼している人から裏切られたような気分に吐き気を催す。

 

 

「そうだ……白。これはどうなっている?」

 

 

男は突然独り言を喋り始める。

 

セシリア達は、男の突然の奇行に首を傾げた。

 

 

「……わからない?そんなことあるわけ……寝ていたなどと言ってくれるなよ?……だったら今すぐ調べろ」

 

「すいません」

 

「……たーさんに連絡は……繋がらない?あのたーさんだぞ?」

 

「もしもーし」

 

「もうなんでもいい、とりあえずできる範囲で……」

 

「聞こえてますか?」

 

「ええい、さっきから煩いぞ!……って、お前はさっきの……」

 

 

男が独り言をつぶやいている間に、彼の後ろには車椅子姿の将冴と、その車椅子を押すクラリッサがいた。

 

2人の姿を見た男は、先ほど情事の邪魔をしたのを思い出したが、それとは別のことに思い立った。

 

 

「男……か?」

 

「はい。そうですが?」

 

 

将冴がそう答えると、男は目を丸くし黙りこくってしまった。将冴が男の目の前で手を振るが、反応はない。

 

いろいろなことがあって放心状態になっているようだ。

 

 

「兄さん、その男は不審者だ!不用意に近づいては……」

 

「んー、なんかそんな感じしないんだよね」

 

「将冴さんがそう言いましても、IS学園に正体不明の男がいるのは見過ごせませんわ」

 

「そうだよ。すぐに先生に連絡しないと」

 

「……そうだね。セシリア。悪いけど、織斑先生を呼んできてくれる?」

 

「わかりましたわ」

 

 

セシリアは寮長室のほうへ走っていった。

 

 

「シャルとラウラは朝食を持ってきてくれる?簡単なサンドイッチとかでいいから、多めに」

 

「将冴はどうするの?」

 

「この人と少し話をしてみる。多分、悪い人じゃないから」

 

「それなら私も一緒に……」

 

 

将冴の身を案じたラウラが一緒にいると志願するも、将冴が制した。

 

 

「大丈夫だよ、ラウラ。あまり人数がいても警戒されちゃうかもしれないし、何かあっても自分の身くらいは守れるよ」

 

「隊長、私も将冴のそばにいます。何かあっても全力で守りますので、ご安心を」

 

「……わかった。2人とも、すぐに戻るからな」

 

 

シャルロットとラウラはすぐに食堂へ向かう。

 

残されたのは将冴とクラリッサ、そして謎の男。

 

 

「とりあえず、この人を部屋に入れようか」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

男を部屋に入れて、椅子に座らせる。そして将冴がパンッと手を鳴らすと、ビクッと体を震わせ、男が意識を取り戻した。

 

 

「な、ここは……」

 

「僕の部屋だよ。もっとわかりやすく言えば、貴方が現れた部屋です」

 

「そうか。……すまない、少し頭が追いつかなくてな」

 

「そうですか。とりあえず、お名前を教えてもらってもいいですか?」

 

「名前を聞く時は、そちらから……と言える立場ではないな。銀狼牙(しろがねろうが)。IS学園、1年1組所属だ」

 

 

その言葉に、将冴とクラリッサは目を見合わせる。

 

1年1組にこんな人はいない。デタラメを言ってるのかはわからないが、今は突っ込まないほうがいいと思い、将冴も自己紹介をする。

 

 

「初めまして、狼牙さん。僕は柳川将冴。IS学園の1年1組に籍を置いています。こっちは……」

 

「クラリッサ・ハルフォーフ。教育実習生として在籍している」

 

 

と、クラリッサの名前を聞いた瞬間に、狼牙が目を見開いた。

 

 

「クラリッサ……まさか、ラウラの部隊の副官か?」

 

「どうしてそのことを知っているのか知らないが、今は副官ではない」

 

「そ、そうか……どうも自分の記憶しているものと現実が噛み合わない。一体どうなっているんだ」

 

 

相当参っていると、将冴とクラリッサの目には映った。

 

 

「とりあえず、一旦落ち着いてみるのはどうですか?クラリッサ、コーヒー淹れてもらえる?」

 

「ああ」

 

「狼牙さんもコーヒーでいい?」

 

「贅沢を言える立場ではないし、今の状況でコーヒーは願ったり叶ったりだ」

 

 

狼牙がそう答えると、クラリッサはキッチンへ向かいコーヒーを入れ始めた。

 

 

「コーヒーが来るまでに狼牙さんに聞いていいかな?どうして僕たちの部屋に居たのか」

 

「喜んで答えたい……と、言いたいところだが、俺自身もわからない。気がついたら、床に頭を打っていた」

 

「なるほど……。さっき、セシリア達と話しているところを聞いていたんだけど、どうも知ってる風だったよね?」

 

「知ってるも何も、セシリアとは好きあった仲だ。ラウラも、父娘のような関係だ。どういうわけか、俺のことを知らないという態度で接してくる。そして、俺の知らない男が、俺と同じ1年1組……に……」

 

 

と、何かに気づいたのか狼牙が言葉を止めた。

 

 

「狼牙さん?」

 

「そうか……なるほど、そういうことか」

 

 

狼牙はスッと立ち上がり、将冴の目の前に立った。

 

 

「全て合点がいった」

 

「合点?」

 

「ああ。俺は……平行世界から来た」




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コラボ第3話

コラボ第3話。

そこまで長々とやるつもりではないですが……おそらくいつもの通りダラダラと書きます。


「……」

 

「……」

 

 

狼牙の平行世界から来たという発言に、将冴は目をぱちくりさせ、狼牙は信じられないかといった風に頭を掻いた。

 

 

「突表紙もないことを言っているのはわかっている。だが、この食い違いはそう結論づけるしかないのだ。白……俺のISに調べてもらったが、俺のいたところと微妙に地形が違っているようだし、何より平行世界と決定づける要素が……」

 

「僕、というですね?」

 

「……ああ。察しが早くて助かる。柳川将冴、お前の存在が俺のいた世界とこの世界の相違点だ」

 

 

にわかには信じがたいことであるが、狼牙が嘘を言っているとは思えない。それに、狼牙の話が本当だとすれば、将冴の中で狼牙という存在の説明がつくのだ。

 

 

「信じるも信じないもお前次第だ。どんな扱いをされても抵抗はしない」

 

「……確かに信じがたい話ではあるけど、狼牙さんが嘘を言うメリットはありません。僕は狼牙さんを信じます。千冬さん……織斑先生にも口添えをして、できるだけ手荒な真似はしないようにします」

 

「それは助かる」

 

 

狼牙はようやく安心できたのか、安堵の表情を浮かべ椅子に座った。それと同時にクラリッサがコーヒーを人数分淹れて運んできた。

 

 

「話はひと段落ついたか?」

 

「うん。ちょっと変な感じになっちゃったけど」

 

「キッチンから聞いていた。私も信じられるものではないが……漫画やアニメの中ではよくあることだ」

 

「現実で起こっても困るんだけどね……」

 

「それもそうだな……。狼牙と言ったな。好みがわからなかったから、砂糖とミルクは自分の好みでいれてくれ」

 

 

テーブルにコーヒーと角砂糖の入った容器とミルクの入った容器を置いていく。

 

 

「わざわざすまない。ありがたくいただく」

 

 

3人はそれぞれコーヒーに口をつけていく。

 

と、狼牙は一つ気になったことを将冴たちに聞くことにした。

 

 

「ぶしつけな質問なんだが、いいだろうか」

 

「何ですか?」

 

「二人は、付き合っているのか?」

 

「ぶふっ!?ごほっごほっ!」

 

 

クラリッサがコーヒーを吹き出し、将冴が背中をさする。

さっきほど、キスする寸前のところを見られたのを思い出してしまったからだろう。

 

将冴はクラリッサの背中をさすりながら狼牙の質問に答えた。

 

 

「うん、僕とクラリッサは付き合ってるよ。世間的に色々問題があるから、近しい人にしか知らせてないけどね」

 

「やはりそうか……。さっきは情事の邪魔をしてすまなかった」

 

「それはしょうがないよ。突然平行世界に来たんだから」

 

 

そこでクラリッサがようやく落ち着いた。むせたせいなのか、キスの瞬間を見られた時の恥ずかしさか、顔が赤くなっている。

 

 

「すまない、クラリッサ。変な事を聞いてしまって」

 

「別に構わない。事実だしな……」

 

 

元の世界でラウラから聞いたクラリッサの印象とだいぶ違う事に違和感を覚える狼牙。まぁ、平行世界なら仕方ないと自分の中で結論づけ、それ以上踏み込むのはやめた。

 

 

コンコン

 

 

ちょうど話題が途切れたところで、ノックする音が響き、それに続いて、狼牙も聞き覚えがある声が聞こえた。

 

 

「織斑だ。入るぞ」

 

 

将冴の返答を聞く前に扉を開き部屋に入ってきたのは、織斑千冬だった。狼牙の知っている千冬と変わりはなさそうで、少し安心する。

 

 

「将冴、クラリッサ。こいつが件の不審者が」

 

「はい。……とはいっても、不審者というより被害者という方が正しいかもしれません」

 

「どういう事だ?」

 

「えっと……狼牙さん、同じ話になってしまうんですが、もう一度説明お願いできますか?」

 

「ああ、それくらいはおやすいご用だ」

 

 

狼牙は千冬に、先ほど将冴に話した話をする。

 

全て聞き終えた千冬は、考え込むように腕を組んだ。

 

 

「到底信じられるものではないな。本来なら身元が確定するまで拘束するのだが……」

 

「織斑先生。狼牙さんが嘘を言っているとは思えません。現に、彼はこの部屋に突然現れました。それに、平行世界ではありますがIS学園の生徒でもあるようですし、あまりひどい事は……」

 

「……銀、といったか。お前はこの学園に危害を加えるつもりはあるか?」

 

「微塵もないな。世界は違えど、母校だ。誰かを傷つけるつもりはない」

 

 

狼牙から帰ってきた応えに、千冬は表情を崩さずに頷いた。

 

 

「わかった。銀狼牙、お前の処遇については私が取り持とう」

 

「寛大な措置に感謝する」

 

「では付いて来てもらおうか。必要なものを渡す」

 

「承知した」

 

 

狼牙は立ち上がり、千冬とともに扉の方へ向かおうとするが、それを将冴が止めた。

 

 

「あ、ちょっと待ってください!」

 

「どうした?将冴」

 

「えっと、そろそろ来るはずなんですが……」

 

 

と、将冴が呟いた瞬間に部屋の扉が開かれ、バスケットを持ったラウラとシャルロットが入ってきた。

 

 

「兄さん、すまない。遅くなった」

 

「食堂の人たちが張り切っちゃって……ちょっと時間かかっちゃった」

 

「ううん、ベストタイミングだよ二人とも。面倒なこと頼んでごめんね」

 

「お兄ちゃんの頼みなら聞かないわけにはいかないからね」

 

「シャルロットの言うとおりだ」

 

「将冴、これは……」

 

 

千冬が困惑したように聞いてくる。

 

 

「シャルとラウラに、サンドイッチを頼んでたんです。話を聞くことになるから、食堂に行く時間がないと思って。織斑先生、狼牙さん。どうぞ持って行ってください。ラウラ、二人に渡してあげて」

 

 

ラウラが将冴の言うとおりにバスケットを千冬に手渡した。

 

狼牙はサンドイッチよりもラウラが将冴のことを兄さんと呼んでいること気を取られていた。

 

 

「すまないな。あとでいただく」

 

「引き止めてすいません。それを渡したかっただけなんです」

 

「いや、こちらとしても助かった。銀、お前もいうことがあるだろう」

 

「あ、ああ、そうだな。わざわざすまない。心遣いに感謝する」

 

 

二人はそのまま部屋を出て行ってしまった。

ラウラとシャルロットはうまく状況をつかめないまま立ち尽くしたが、もう一つバスケットがあるのを思い出した。

 

 

「そうだ、もう一つサンドイッチあるんだけど……」

 

「ここで食べよう。シャルもラウラも、朝食まだでしょ?僕もお腹すいちゃって。クラリッサもお腹すいたでしょ?」

 

「ああ、色々あったからな」

 

「兄さんと食べていいのか?」

 

「もちろん。断る理由がないよ」

 

 

朝からバタバタとしたが、四人はようやく朝食にありついた。




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コラボ第4話

サンドイッチを食べ終え、将冴とラウラ、シャルロットは教室へ。クラリッサは職員会議のため職員室に向かっていった。

 

将冴たちが教室に入ると、すぐにセシリアが駆け寄ってきた。

 

 

「将冴さん!あの不審者はどうなりましたか!?」

 

「不審者じゃなくて狼牙ね。織斑先生に任せたよ。まぁ、すぐにどうなったかわかると思うから。あと、狼牙さんのこと不審者って呼んじゃダメだよ」

 

「は、はぁ……?」

 

 

詳しく話を知らないセシリアは生返事するしかなかった。

一応、将冴はサンドイッチを食べている時に狼牙を不審者扱いしないようにとラウラに釘を刺しておいた。

 

元の世界で特に親しかった者に不審者扱いされるのは、狼牙の精神衛生上よくないと判断したからだ。

 

 

「よう、将冴」

 

「朝から大変だったみたいだな」

 

 

将冴たちが話しているところに、一夏と箒が近づいてくる。

セシリアから話を聞いていたのか、心配そうに声をかけてきた。

 

 

「おはよう二人とも。まぁ、色々あってね。今は織斑先生に任せてるよ」

 

「千冬姉にか?そいつ大丈夫なのか?」

 

「一応、あまり酷ことはしないようにとは言ったんだけど……まぁ、どうなるかはわからないけど」

 

 

と、その時丁度始業のベルが鳴り、各々席に着くと千冬と真耶、クラリッサが教室に入ってくる。千冬と真耶は教壇に上がり、クラリッサは将冴の後ろに立った。

 

将冴は声を潜め、クラリッサには話しかけた。

 

 

「クラリッサ、狼牙さんはどうなった?」

 

「今、織斑先生が話す。まぁ、悪いようにはなっていない」

 

 

それなら良かったと、将冴は胸を撫で下ろす。

それと同時に、千冬がホームルームを始めた。

 

 

「諸君、おはよう。今日はお前達に紹介する者がいる」

 

 

千冬の言葉に、教室内がざわつく。

 

 

「転校生?」

「この時期に?」

「ずいぶん急だね」

 

「静粛に。とりあえず紹介しよう。入れ」

 

 

千冬がそう言うと、ガラッと扉が開き一人の人物が入ってきた。将冴はやっぱりと呟き、入ってきた者に目を向けた。

 

 

「銀狼牙だ。少し複雑な事情でこの1年1組の世話になることになった。不束者だが、よろしく頼む」

 

 

IS学園の男子制服をきた狼牙が、そう自己紹介をする。

 

一瞬、しんと静まり返った教室内。これはまずいと、将冴とクラリッサ、そして狼牙は耳を塞いだ。

 

その瞬間……

 

 

『きゃあああああああああ!!』

 

 

ビリビリと窓を揺らすほどの大音量が響いた。

 

 

「男よ!クールタイプの男!」

「銀髪に金色の目なんて、なんて美味しい設定なの!?」

「なんとなく漂う年上の雰囲気……将冴君が弟なら狼牙君は兄ね!」

「ダメ、ダメよ!一夏×将冴は絶対正義なんだから!ここで狼牙×一夏なんて!?」

「狼牙×一夏なんてつまらないわ!ここは将冴×狼牙でしょう!」

 

 

いつも通り、この学園の女生徒は欲望に忠実だった。

 

 

「うるさい!静かにしろ!」

 

 

千冬の一言でピタッと話し声が止まる。

これも、もはや伝統芸と化している。

 

 

「銀はとある事情で少しの間学園で過ごすことになった。事情については詳しくは話せないため、それについての質問は禁句とする」

 

 

IS学園の生徒の順応性が高いとはいえ、突然平行世界から飛んできたなど誰も信じることはできないだろうという千冬の判断だった。

 

 

「銀個人に対する質問は、休み時間にでも行え。すぐに授業を始める。銀、お前の席は将冴の隣だ」

 

「承知した」

 

 

狼牙は将冴の隣にある空いてる席に向かってくる。

 

将冴は小声で狼牙に話しかけた。

 

 

「やっぱりこうなったんですね」

 

「お前、わかっててああいう行動取っていたのか」

 

「まぁ、千冬さんならやりかねないかなとは思っていたから」

 

「なかなか食えない男のようだな」

 

「そんなことないよ。まぁ、隣の席だし、何かわからないことがあれば聞いてよ。狼牙さん」

 

「ああ、頼らせてもらう。あと、俺のことは狼牙でいい。俺も将冴と呼ばせてもらう」

 

「わかったよ、狼牙。これからよろしく」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

お互いに握手をする。

 

と、その瞬間狼牙の頭にスパァンと衝撃が走る。

 

 

「ぐぬぅ!?」

 

「もう授業を始めてもいいか?」

 

「アイ、マム……」

 

 

狼牙が頭をさすりながら将冴の方を見ると、苦笑いを浮かべながら心配するように狼牙を見ていた。

 

 

「なぜお前は叩かれん……」

 

「僕、一度も出席簿アタック食らったことないんだ」

 

「納得がいかん……」

 

 

将冴のことがわからなくなった狼牙であった。




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コラボ第5話

5話になります。

私の作品と、ラグ0109さんの作品はどちらもページ数が多いので読むのが大変だとは思いますが、ぜひどちらも読んでもらいたいですね。


狼牙の存在で、教室が騒然となりながらも、午前中の授業は終了した。千冬はいつも通り滞りなく授業を進めていたが、真耶はそうもいかず、何度か小さなミスを起こしていた。

 

将冴の隣の席となった狼牙は、「山田先生はどこにいっても山田先生だな」と安心したようにつぶやいていた。

 

昼休みになり、クラスの女子達が我先にと狼牙に声をかけようとするが、その前に将冴がクラリッサを伴って先手をうった。

 

 

「狼牙、一緒に学食にいかない?専用機組に狼牙のことを話しておきたいし」

 

「こちらとしては願ってもいないが……二人の時間を邪魔してしまうのではないか?」

 

「私たちも、基本的にはラウラ隊長やデュノアと一緒に食べているから気にするな。それと一応一般生徒に私と将冴のことは正式には話していない。あまり口外しないでくれ」

 

「失礼した。そういうことなら一緒させてもらおう」

 

「ありがとう。一夏達にはもう伝えてあるから、早速行こうか」

 

 

将冴はクラリッサに目をやると、クラリッサは少し頷き将冴の車椅子を押して教室を出た。

 

 

「……話してなくても、アレでは周りに関係を教えているようなものではないのか?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

学食に行くと、すでに一夏達が席を取っており、昼食も持ってきていた。将冴とクラリッサ、狼牙も昼食を注文して急ぎ一夏達の元へ向かった。

 

因みに、将冴は焼き魚定食、クラリッサがミックスフライ定食、狼牙がお粥だった。

 

 

「ごめんね一夏。待たせちゃって」

 

「いや構わねぇよ」

 

 

大きなテーブルに将冴、クラリッサ、狼牙、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが座り、さながら小さな宴会でも開かれるのかというほどの大所帯となった。

 

 

「さて、とりあえずご飯食べながらにしようか」

 

「そうだな。じゃあ……」

 

『いただきます』

 

 

9人が同時に手を合わせ、昼食にありつく。

 

そのなかで、狼牙は改めて自己紹介を始めた。

 

 

「1組の者は知っていると思うが、2組のものもいるから改めて。銀狼牙だ。転校生として今日から世話になる」

 

「よろしくな。俺は……」

 

 

一夏も自分の名前を言おうとするが、その声は狼牙によって遮られた。

 

 

「織斑一夏、だろう?」

 

「お、おう。さすがに俺のことは知ってるか。ずっと騒がれていたし」

 

「ああ……」

 

 

狼牙の言葉が歯切れ悪くなる。

すでに知っている者に、初めてあったように自己紹介をされるのは、わかっていても辛いものがある。

 

将冴は、横目で狼牙のことをちらりと見た後、言葉を発した。

 

 

「狼牙は平行世界のIS学園から来たんだよ。だから、みんなのことは知ってると思うよ?」

 

 

盛大に爆弾を落とした。

 

これには狼牙も予想外だったようで将冴の方を振り向く。

一夏達はというと、将冴が何を言っているのかわからない様子だった。

 

 

「シャルにラウラ、セシリアは変に思わなかった?初対面の狼牙がフレンドリーに話しかけてきたこと」

 

「そ、そういえば……」

 

「やけに馴れ馴れしく話しかけてきたな……」

 

「でも、スパイとかだったりしたら、僕たちに取り入るためにってことも……」

 

「スパイが僕の部屋にいきなり現れるようなことすると思う?」

 

 

将冴という信頼している者からの言葉に、一夏達は無条件にそうなのかと納得してしまう。

 

 

「なんでかしら、将冴に言われると納得せざるを得ない気持ちになるのよね……」

 

「鈴。もしかして、将冴って昔っからそうだった?」

 

「そうよ。だから苦手なのよ。将冴のこと……」

 

 

鈴とシャルがヒソヒソと話しているが、全て将冴に聞こえている。しかし、将冴は特に何も言わずに話を続けた。

 

 

「このことは他言無用だよ?まぁ、ISなんてとんでも兵器があるくらいだし、そういうことがあってもいいんじゃないかな?」

 

「そう頻繁にあっても困るのだがな……」

 

 

思わず頭を抱えずにはいられない狼牙。もしかしたら、この世界で恐ろしいのは将冴なのではないかと考えてしまう。

 

 

「将冴よ、良かったのか?俺のことを話しても」

 

「大丈夫だよ。それに仲間は多すぎず少なすぎず。ここにいる人たちは信頼できるから。狼牙もわかってるんじゃない?」

 

 

まるで見透かすように言い放つ将冴。

やはり、一番食えないのはこの男だと、狼牙のなかで位置付けられた。

 

当の本人は、そんな位置づけされたとは知らずに、魚をつついていた。

 

 

「銀、一つ質問をしてもいいか?」

 

 

今まで口を挟んでいなかった箒が手を挙げた。

別に拒む理由もないので、狼牙は「なんだ?」と聞き返す。

 

 

「平行世界、と言ったが、銀はそういうものがあると知っていたのか?正直、私は未だに信じ難いのだが」

 

「……少しややこしい話になるから割愛するが、確かに平行世界というものがあるのは知っていた。まぁ、知っていても、少しパニックに陥ってしまったがな」

 

「そうか……まだ完全に信じきれたわけじゃないが、とりあえずはお前の言葉を信じることにする」

 

「そうしてくれると助かる。これ以上はあまり話したくないのでな」

 

 

そう言うと、狼牙はお粥を口に運んだ。

 

なんとも気まずい雰囲気になってしまったため、将冴はまた口を開く。

 

 

「そういえば狼牙って元の世界でセシ……」

 

「それは言わせんぞ!」




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コラボ第6話

前回で書きだめが終わってしまったので、今回から普通投稿です。


 

やや慌ただしい昼食会は予鈴とともに終了し、将冴達は午後のIS実習のために着替えを始めていた。

 

将冴、一夏、狼牙は当然のことながら教室を追い出され、離れたところにある更衣室で着替えていた。

 

 

「昼食食った後にIS実習とか、結構俺たちのこといじめてるよな」

 

「織斑先生のことだし、食事管理も必要なスキルだ、とかそう言う意味なんじゃないかな?」

 

「まぁ、専用機を持っていないものも一緒に行うんだ。そうキツイものでもないだろう」

 

「そうかもしんないけどよ……そういえば、狼牙は昼にお粥食べてたよな?体格に似合わず」

 

「体格に似合わずは余計だ。まぁ、元の世界では何かと胃をやられることが多くてな……」

 

 

狼牙の顔に悲壮感が浮き出る。

将冴と一夏が想像できないほどのことが、狼牙の身に起きていたことは容易にわかる。

 

 

「狼牙、苦労してるんだね」

 

「お前もなかなかに苦労しているだろう?」

 

 

狼牙は将冴の姿を見てそう返す。

あるべき体の部位が欠落している将冴の姿もまた、将冴の身に起きた惨劇を物語っている。

 

 

「まぁね……」

 

「その義肢、束さんの仕業だろう。あの人でなければ、こんなことはできない」

 

「あはは……束さんはどの世界でもそんな認識なんだね」

 

「世界変われど、束さんは変わらずってか」

 

 

篠ノ之束に深く関わる3人は、その人の恐ろしさというか、そういうものをよく知っているため、よくわからないが気が滅入る。

 

 

「……多分、今夜あたり来るよ」

 

「俺、部屋に篭ってる……」

 

「無駄だ。あの人の前ではどんな厳重な鍵も意味をなさん」

 

「束さんが暴走しないように気をつけよう。……狼牙がいたら意味ない気もするけどね」

 

『はぁ……』

 

 

3人同時にため息をつく。

狼牙という、謎の存在をあの束が放っておくはずがない。

 

 

「っと、こんなことしてる場合じゃなかった。グラウンドに行こう。織斑先生に怒られちゃう」

 

「このままわざと遅れて、3人一緒に出席簿を食らうのもアリかもな」

 

「狼牙、朝のこと根に持ってたの?」

 

「根に持つというよりは、どうして将冴が叩かれなかったのかを知りたくてな」

 

「な、なんでだろうね……車椅子だから?」

 

「それは関係ないだろう」

 

「おーい、2人とも。早く行こうぜ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「遅い」

 

 

スパンスパン、と一夏と狼牙の頭に出席簿が落とされ、すでに集まっていた女子たちからクスクスと笑いがこぼれた。

そして、やはり将冴の頭には出席簿は落ちなかった。

 

 

「将冴、お前は早く山田先生とハルフォーフ先生のところへ迎え」

 

「わかりました。それじゃ、一夏、狼牙。頑張ってね」

 

 

将冴は2人に手を振り、どこかへ行ってしまう。

そんな将冴の後ろ姿を、一夏と狼牙は頭をさすりながら眺めていた。

 

 

「お、おう」

 

「やはり納得いかん……」

 

「お前達も早く並べ。実習を始める」

 

「その前に質問いいだろうか?」

 

 

すっと手を挙げた狼牙に、千冬は「なんだ」と短く答えた。

 

 

「将冴はどこに行ったのだ?」

 

「将冴は別カリキュラムだ。内容については、後で本人から聞け。他に質問は?」

 

「いや、ない」

 

「では始める。全員、以前決めたチームごとに固まれ。銀、お前は見学だ」

 

 

見学ならば着替えなくてもよかろうに、と口に出しそうになったが、千冬から制裁が降る可能性もなきにしもあらずだったため、なんとか押しとどめた。

 

それぞれがチームに分かれるのを眺めながら、狼牙は千冬の横に立った。

 

 

「不満か?」

 

「いや、むしろありがたい。俺が専用機を持っていることが生徒たちに知られたら、どうなるかわからないからな」

 

「別段何が起こるわけでもなさそうだがな。話すかどうかはお前に任せる」

 

「いいのか?」

 

「何がだ?」

 

「いや、俺のような得体の知れない男に任せるなど……」

 

「将冴が、お前を信じると言ったのだろう?なら問題ない」

 

 

なぜここで将冴の名前が出るのか、狼牙にはわからない。

それほどまでに、将冴のことを信頼しているということか、と結論付けるしかなかった。

 

その時、突然狼牙が頭を押さえ、小さく小言を呟き始めた。

 

 

「いきなり叫ぶな……はぁ?おい、白。あのブリュンヒルデがだぞ?……女心をわかっていないって、女ではないのだからわかるわけなかろう……」

 

 

突然の狼牙の独り言に、千冬は本当に信じていいのか不安になるのだった。

 

 

一方、チームごとに分かれた専用機持ちたちは、それぞれのチームごとにこそこそと話し合っていた。

 

曰く、『狼牙はもしかしたらアブナイ人なのではないか』と。




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コラボ第7話

珍しくプロットを作ったのに、所々プロット通りじゃないのは何故なのか。


 

「それで、この組み分けは?」

 

 

独り言を終えたのか、狼牙は千冬に質問をする。

3人ずつのチームになり、専用機組は一般生徒たちに何やら指導を行っている。

 

 

「3人編隊の実習だ。フォーメーションや各人の役割をしっかり把握させている。どうも、今年の1年生は我が強い奴が多いようだからな」

 

「そう、だな……」

 

 

どの世界でも、この学年は変人揃いなのだ。

 

と、狼牙はそれぞれのチームを見て回ると、一人目につく女子がいた。

 

それは眼鏡をかけ、水色の髪をした女子。元の世界で、狼牙が愛した人。

 

 

「簪……」

 

 

狼牙が小さく呟くと、その声が聞こえていたのか、その女子……更識簪が狼牙の方に目を向けた。

 

 

「え……あの……あなた、誰?」

 

 

怯えたように狼牙に問いかける簪。

 

今日何度味わったかわからない気持ち。自分は知っていても、相手は知らないという物悲しい気持ちが、また狼牙を襲った。

 

 

「驚かせてすまない。俺は銀狼牙という。1組に転校してきたものだ。日本の代表候補生に挨拶をと思ってな」

 

「そう……」

 

 

狼牙は初対面でなくても、簪は初対面。もともと内気な性格の彼女は、やはり初対面の男子に抵抗があったようだ。

 

 

「邪魔して悪かった。授業、頑張ってくれ」

 

「う、うん……」

 

 

これ以上は、自分も辛くなる。そう思った狼牙はそそくさと千冬の隣に戻った。

 

 

「元の世界で、いい仲だったのか?」

 

 

2人のやりとりを見ていたのか、千冬が狼牙に聞いてきた。

 

 

「ああ。愛し合った仲だ」

 

「セシリアとも、恋仲と聞いたが?」

 

「一人だけ、ということができなくてな」

 

「そうか……よく更識姉を納得させたな」

 

「楯無もそういう関係だ」

 

「……節操なしめ」

 

「なんとでも言ってくれ。言い返せるほど、心に余裕がない」

 

 

予想以上にダメージが大きかったようで、狼牙の表情はいいとは言えない。

 

いつまでこの世界にいるかはわからないが、この状態が続くのは千冬も望んでいない。

 

発散させるにはどうしたらいいかと、千冬は考える。

 

 

「……銀、放課後にアリーナへ来い」

 

「唐突だな。何をさせる気だ?」

 

「ちょっとした余興だ。人払いはしておく」

 

 

千冬は小さく笑みをこぼすと、フォーメーションの練習をしている生徒たちの元へ歩いていった。

 

 

「……嫌な予感しかせんな」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

IS実習も無事に終わり、狼牙は着替えなくてもよかったではないかと愚痴をこぼしつつ、一夏と更衣室に向かっていた。

 

 

「あらかじめ伝えておけばいいものを……」

 

「まぁ、一人だけ違う格好だと、浮くと思った千冬姉の配慮だって。……多分」

 

「俺は違うと思うがな……」

 

 

そう言いながら更衣室の扉を開けると、そこには滝のような汗を流しながらISスーツを脱いでいる将冴の姿があった。

 

 

「あ、一夏に狼牙。お疲れ〜」

 

「将冴もお疲れさん。今日もアレか?」

 

「うん。さすがに疲れたよ……」

 

「いったい何をしていたんだ?」

 

「シュミレーターを使った、集団戦における司令塔の訓練。銀の福音の暴走事件……ってわかる?」

 

「ああ。こちらの世界でもあった」

 

「そっか。その時、僕が簡易的な司令塔をしたのが織斑先生の目に止まってね。夏休み明けから、司令塔としての訓練もやってるんだ。これがまたキツくてね。部隊全体を見ながら、落とされないようにしなきゃいけないし、シュミレーターを作ったの束さんだから、衝撃までリアル再現されてて……」

 

 

話せば話すほど将冴の目から光が消えていく。

余程大変なのが目に見えてわかる。

 

 

「将冴。時にはノーということも必要だぞ」

 

「千冬さんや束さんに面と向かってノーって言える?」

 

「……すまなかった」

 

「千冬姉と束さんが恐ろしいのはわかるけど、2人とも目に生気宿せよ……」

 

 

本気で2人が心配になってきた一夏の声に、2人は目に光を宿した。

 

 

「ほら、早く着替えようぜ。また出席簿食らうのはごめんだぜ」

 

「そうだな。まぁ、まだ時間もある。ゆっくり着替えようではないか」

 

「僕はシャワー浴びてくる。さすがに汗だくのままだと、ね」

 

 

将冴は義足をつけて、一人シャワールームへ入っていく。その光景に、狼牙はなんだか不思議なものを見ている気分になった。

 

 

「義足があるのはわかっていたが、さっきまで車椅子に座っていたものが立って歩いているというのは、なかなかに不思議なものだな」

 

「俺も義足使ってるところ見た時驚いたよ。小学校の時とか、まだ手足があるところ見てたのに」

 

「……将冴が手足を無くしたのはいつ頃なんだ?」

 

「2年前、ドイツでな。俺も詳しくは知らないけど、テロリストが将冴の両親……ISの研究者だったんだけど、その研究データを奪おうと誘拐した時にだって。俺も違うところで誘拐されてたんだけどな」

 

「そうか……」

 

「でも、ここからがすげぇんだけどさ。その時将冴を助けたのってハルフォーフ先生なんだって」

 

「ほう?それはまた運命的な出会いだな」

 

「だろ?それで今は恋人同士だもんな。本当、人生どう転ぶかわかったもんじゃ……」

 

「一夏、何ベラベラ僕のこと喋ってるの?」

 

 

いつの間にか一夏の背後に腰にタオルを巻いた将冴が腕を組んで立っていた。

 

 

「あ、いや、これは狼牙に聞かれたから……」

 

「だからって、僕の許可なしに話さないでよ」

 

「わ、悪りぃ……」

 

「悪りぃ、で済んだら警察はいらないよ」

 

「そんな大事にすることか!?」

 

「まぁ、警察云々は冗談としても……それなりの罰は受けてもらうね?」

 

「罰って……まさか……」

 

「お・し・お・き」

 

 

 

 

 

 

そのあとのホームルームで、ぐったりと元気のなくなった一夏が目撃された。

 

狼牙はしきりに、「義手であれだけの技術を行使するとは……」と呟いていた。




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コラボ第8話

毎度おなじみ、小出し作者です。

リア友に焦らしすぎと言われましたが、このスタンスは変えるつもりありません←

次回を楽しみにお待ちくださいっていう感じで……。


将冴のお仕置き(くすぐり)でぐったりしている一夏をよそに、ホームルームは滞りなく終了し放課後。

 

狼牙は千冬に言われた通りアリーナへ向かうために荷物をまとめていると、将冴とクラリッサが狼牙に話しかけた。

 

 

「狼牙、この後は何かあるの?」

 

「織斑先生に呼び出されている。アリーナに来いとのことだ」

 

「アリーナ……そういえば、先ほど織斑先生がアリーナの使用状況を確認していたな。そのあと、更識楯無に連絡を取っていた。何を話していたかまではわからないが……」

 

「楯無、か……」

 

「楯無さんがどうかしたの?」

 

「いや、あれが関わるとろくなことが起きないからな……」

 

「そう……なの?僕、あまり関わってないからわからないんだけど」

 

「正直、そのまま過ごすことをお勧めする」

 

 

楯無が狼牙に何をしたか気になりつつも、真剣な狼牙の表情を見て忠告を聞いておいたほうがいいと感じる将冴だった。

 

と、将冴達が話しているところに、カツカツと千冬が歩み寄ってきた。

 

 

「将冴、少しいいか?」

 

「はい、なんですか?」

 

「手伝ってもらいたいことがある。クラリッサと一緒でいいから、ついて来てくれ」

 

「わかりました。狼牙、また後でね」

 

「ああ」

 

 

将冴とクラリッサは千冬について行き、狼牙も腰を上げた。

 

 

「さて、俺もアリーナへ向かうとしよう」

 

 

途中、欲望に忠実なIS学園生徒の妨害を受けながらも、狼牙はアリーナへ足を進めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「はぁ、やっと辿り着いたか……」

 

 

予定より倍の時間がかかりながらも、狼牙はアリーナに入った。まっすぐピットの方へ向かうと、そこには狼牙のよく知った人物が待っていた。

 

 

「あら、ずいぶん遅かったわね」

 

 

その人物がバッと扇子を開くと、そこには「遅刻」という文字が大きく描かれていた。

 

 

「申し訳ない。大量の女性に言い寄られていてな」

 

「あら、ずいぶんモテるみたいね。銀狼牙君?」

 

「こちらとしては、大変迷惑な話だがな。更識楯無生徒会長」

 

「あら、私のこと知っていたのね?」

 

「生徒会長のことくらいは知っておかねばならんだろう?」

 

「ふふ、そうね。ま、あなたの場合はもっと違うみたいだけどね」

 

 

意味深に笑みを浮かべる。

おそらく狼牙が平行世界から来たことを千冬から聞いたのであろう。

 

IS学園の生徒会は、特別な組織であるため、伝えるべきだという千冬の判断だろう。

 

 

「それで、生徒会長はどうしてここに?」

 

「ちょっと見学にきたのよ」

 

「見学?」

 

「ええ、あなたの実力を、ね。ほら早くIS展開して、アリーナに出て」

 

「……は?」

 

「あら、織斑先生から聞いてない?あなたの実力を見たいから、模擬戦するって」

 

「そんなこと、微塵も聞いていないぞ……」

 

「じゃあ、今聞いたでしょ?」

 

「暴君具合は相変わらずか!?」

 

 

しかし、このやり取りすこし安心感を得てしまう狼牙。

隔たりなく接してくれる楯無に、これほど感謝したことはないかもしれない。

 

 

「だいたい、相手は誰だ?」

 

「さぁ?織斑先生とか?」

 

「俺のことを潰すつもりか」

 

「冗談よ。でも、私も知らないのよ。織斑先生が相手は任せろって言ってたから」

 

「不安しかないぞ……」

 

 

しかし、ここで逆らえば何をされるかわからない。それに、模擬戦で体を動かすのは、この世界に来てからのモヤモヤを解消できるかもしれない。

 

そう思った狼牙は、カタパルトに立った。

 

 

「天狼、狩りの時間だ」

 

 

狼牙がそう呟くと、彼の体がISに包まれた。

 

全身装甲型で、両肩に狼の頭を模したIS。

 

狼牙の専用機『天狼白曜』だ。

 

 

「あら、かっこいいISね。私、狼は好きよ」

 

「そう言ってもらえて何よりだ。では、行かせてもらおう」

 

 

狼牙の声と同時にカタパルトが動き出し、狼牙はアリーナに飛び出した。

 

アリーナには、一つの機影があった。

 

 

「あれが俺の相手か」

 

 

すこし距離を開けたところに、狼牙は降り立つ。

 

その機影は、天狼白曜と同じく全身装甲型。まさにロボットという外見に、大きなセイバーを持ったIS。狼牙も不思議と胸が踊る。

 

 

「なかなかいいデザインだな。それで、中には誰がいる?」

 

「僕だよ」

 

 

一言返事と同時に、頭の装甲が取れ素顔が見える。

 

 

「将冴、か?」

 

「ビックリした?」

 

「なんとなく想像はしていたが……まさかこんなISだとは……」

 

「何か変かな?」

 

「いや、素晴らしいと思うぞ。胸が熱くなる」

 

「そう言ってくれると嬉しいな」

 

『話はそこまででいいか?』

 

 

2人のISに千冬の声が届く。

どうやら管制室で、2人の様子を見ていたようだ。

 

 

「織斑先生、せめて模擬戦ということは伝えて欲しかったのだが」

 

『ちょっとしたサプライズだ』

 

「あなたからサプライズなんて言葉を聞くとはな……」

 

『不満があるなら今すぐ帰ってもいいぞ」

 

「せっかくもらった機会だ、楽しませてもらう」

 

 

狼牙も楽しんでいたようだった。

 

 

「狼牙、結構すぐに受け入れるね」

 

「こういうことはよくあったのでな」

 

「声に覇気がないけど……」

 

「気にするな。将冴、準備はいいか?」

 

「もちろん、いつでも」

 

 

将冴は頭部装甲を再びつけて、武器を構える。

 

狼牙もまた、戦闘態勢に入る。

 

 

『準備はいいか。では、試合開始!』




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コラボ第9話

戦闘がこれ以上に難しいと思ったことはないかもしれない。


千冬の合図と同時に、将冴と狼牙は一気に接近し、肉迫する。

 

テムジンのメインウェポン『スライプナー』と、天狼白曜の両腕についているブレードトンファー『一式王牙』がぶつかり合った。

 

 

「スピード、パワーともに申し分ないようだな」

 

「組み立てたのは束さんだからね。それなりのスペックはあるつもりだよ!」

 

 

将冴はスライプナーで狼牙を押し切り、すぐに切っ先を狼牙に向け、引き金を引いた。

 

スライプナーの切っ先にある銃口から、エネルギー弾が狼牙めがけて放たれる。

 

 

「くっ、銃剣一体か」

 

 

ブーストを吹かし、緊急回避でエネルギー弾の直撃を防ぐ。それと同時に、左腕のブレードトンファーの刀身が中程から分離し、ワイヤーブレードとなった。

 

 

「随分と危ない玩具だ!」

 

 

狼牙がワイヤーブレードを振るうと、ワイヤーが将冴のスライプナーに巻きつく。そのまま狼牙はワイヤーを引きスライプナーを将冴の手から離そうとする。

 

 

「テムジンの武装これだけなんだから……奪うような真似はしないで欲しいんだけど!」

 

「相手の攻撃を無力化するのは、戦闘の常套手段だろう!」

 

「そうかもしれないけど、そんなに武器を奪いたいなら」

 

 

将冴は抵抗をやめ、その場に踏ん張るのをやめる。

手は離していないため、当然体ごと狼牙に引き寄せられる。

 

 

「僕も一緒に近づくよ!」

 

「そうくるか。だが、それでは格好の的だぞ!」

 

 

ぐっと右腕のブレードトンファーを構える狼牙。将冴は逆らうことなく、狼牙に近づいていく。このままで、狼牙の攻撃が将冴に直撃する。

 

しかし、将冴は焦ることなく狼牙にこう言った。

 

 

「武装一つだけって言ったよね?あれ、嘘だったよ」

 

 

将冴はひらひらと左手に持ったものを見せつけるように振った。

 

 

「手投げボム」

 

「なっ」

 

 

狼牙のブレードトンファーが将冴に放たれる前に、将冴は狼牙の足元にボムを投げつけ、起爆させた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

管制室のモニターには、将冴のボムによってできた土煙が映っていた。

 

その様子を、千冬、クラリッサ、楯無は眺めていた。

 

 

「またあんな無茶なことを!」

 

 

一番に声をあげたのはクラリッサだった。

もはや十八番のようになってしまった、将冴の自信を顧みない攻撃に、心配させられてる。

 

 

「もう将冴になにを言っても聞かん。それに、あの程度ではどちらも大したダメージではないだろう」

 

「まだ二人とも本気じゃなさそうですからね。将冴君はフォームチェンジしてないですし、狼牙君もあの程度じゃないでしょうし」

 

「ああ。そろそろ、二人もレベルを上げてくるだろうな」

 

「煙が晴れます」

 

 

アリーナの様子がようやく映る。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

土煙が晴れると、ほぼ無傷の状態の2人が立っていた。

 

 

「随分と無茶な攻撃をするものだな」

 

「いつもクラリッサに心配かけてるよ」

 

「俺と似ているな」

 

 

両者とも無理無茶は専売特許のようだ。

 

 

「さて、まだその程度ではないのだろう?」

 

「狼牙こそ、まだまだ本気じゃないでしょ?」

 

「お見通しか。いいだろう、お互いに本気を出していこうではないか」

 

 

再び構え直す狼牙に対し、将冴はスライプナーを下げたままだった。

 

 

「どうした、構えないのか?」

 

「うん……ちょっとした手品を見せようと思ってね。フォームチェンジ『ライデン』」

 

 

将冴の声を認識したISが、装甲の変換を始める。

 

テムジンとは打って変わって、ゴツゴツした重装甲の姿になった。

 

 

「形が変わった……変形機構か」

 

「ちょっと違うけど、まぁそんな感じ。そして、さっきと違うのは……」

 

 

ガシャンと肩のパーツが開き、パラボラアンテナのようになる。

 

 

「射撃特化っていうところかなっ!」

 

 

ライデンの両肩から、高出力のビームが放たれる。

その大きさは、テムジンのエネルギー弾などの比ではなく、当たればひとたまりもないだろう。

 

 

「この、なんてものを!?」

 

 

急ぎその場から離れ、ライデンの攻撃を凌ぐ。

 

 

「驚いたな、そんな攻撃まで出来るとは。ますます熱くなりそうだ」

 

「今ので熱くなっても良かったんだよ?」

 

「熱すぎて溶けてしまうだろ。これは俺も出し渋っている場合ではないな。行け、『群狼』!」

 

 

狼牙の天狼白曜の両肩についている狼の頭が射出され、まっすぐ将冴の方目掛け飛んでくる。

 

 

「これは……BT兵器?」

 

「その牙にご用心というやつだ。食い破れ!」

 

 

群狼が牙を剥き、ライデンに腕と足に噛み付く。

ライデンは鈍足であり、素早く動く群狼の攻撃を躱すことができない。

 

 

「くっ!」

 

「どうやら、先ほどのものよりも足が遅いようだな」

 

「見たら、わかるでしょ!」

 

 

将冴は腕に噛み付いたの群狼を、足に噛み付いている群狼に叩きつけ、なんとか引き剥がす。

 

 

「ふぅ……今のでかなりシールドエネルギーを持っていかれたか……」

 

「変形したほうがいいのではないか?そのままでは不利だろう」

 

「ご忠告どうも。お言葉に甘えて、変えさせてもらう。『アファームド』」

 

 

音声認識により、ISの形がまた変化し、両腕にビームトンファーを有し、迷彩柄が特徴的なフォームになった。

 

 

「ほう、まだあったのか」

 

「今狼牙から大きな攻撃をもらったからね。ちょっと仕返しさせてもらうよ」




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コラボ第10話

将冴VS狼牙その2。

さっさと書き上げるゾォ。


 

将冴はリラックスするかのように軽く肩を回すと、ビームトンファーを起動させた。

 

 

「少し、早くなるよ」

 

 

ドンッ!という音ともに、将冴は瞬時加速で飛び出した。

 

 

「瞬時加速か」

 

 

ハイパーセンサーにより、将冴の姿を辞任している狼牙は、ブレードトンファーを構えた。

 

 

「いくら早くても、真っ直ぐすぎるぞ!」

 

 

将冴がブレードトンファーの間合いに入ったと同時に、狼牙はトンファーを振り下ろす。

 

しかし、当たった感触は無くそこにいたはずの将冴は消えていた。

 

 

「なっ……」

 

「まだ真っ直ぐだった?」

 

 

狼牙の背後から声がすると同時に、側頭部に衝撃。

 

将冴が狼牙の頭部めがけてビームトンファーを振るったのだ。

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

予想外の攻撃に反応できなかった狼牙は、吹き飛ばされながらも体勢を立て直し将冴に向き直る。

 

 

「さっきの仕返し、だよ」

 

「ふふ、やるものだな。まさか瞬時加速を曲げるとは……」

 

「バーティカルターン。トンデモな能力だよね」

 

「それをやすやすと使っている者が何を言っている。……どれ、次は俺の番だ」

 

 

狼牙は再び群狼を射出すると、群狼は将冴の周りを牽制するようにグルグルと回り始めた。

 

 

「移動を制限したって感じかな?」

 

「それだけでは芸がないだろう。そら、惚けている場合ではないぞ」

 

 

狼牙の言葉と同時に、群狼の速度がぐんっと上がる。

一瞬のうちに爆発的な加速……それは紛れも無く瞬時加速だった。

 

 

「は、早い!?」

 

「後ろにご用心だ」

 

 

その瞬間、将冴の背中に群狼が噛み付く。

 

将冴は小さく声をあげながらも振りほどき、トンファーを構えた。続いてもう一機の群狼が高速で将冴に牙を剥いた。

 

 

「このっ!」

 

 

向かってきた群狼に向けてビームトンファーを振るうが、高速移動する群狼に当てるのはかなり難しい。トンファーは空を切り、アファームドの腕を引き裂いていった。

 

 

「くっ……」

 

「瞬時加速で動き回る2機の小さな的を狙うのは難しかろう。このままではやられてしまうぞ」

 

 

将冴は返事を返さず、向かってくる群狼の動きに神経を研ぎ澄ましていた。

 

 

「確かに……目で追うのも難しい。でも、僕だって負けたくないから、ね!」

 

 

将冴が左のビームトンファーを振るうと、トンファーに群狼が噛みついた。

 

 

「当てた!?」

 

「もういっちょ!」

 

 

右のトンファーを振り向きざまに振るうと、左と同じようにトンファーに群狼が噛み付く。

 

 

「これで厄介なBT兵器は無力化した、行くよ!」

 

 

群狼をトンファーにつけたまま瞬時加速で狼牙に急接近した。

そして狼牙の目の前で、急な方向転換を行う。

 

 

「それは先ほど見たぞ!」

 

 

後ろを振り返る狼牙。しかし、そこには将冴の姿はない。

確かに将冴がバーティカルターンを行使したのは見たはず。

 

 

「狼牙相手に同じ手は使わないよ」

 

 

背後からの声。

バーティカルターンで自分の後ろに回ったと思っていた。しかし、将冴は先ほどこちらに向かってきた方向にいる。

 

理由は簡単だ。瞬時加速キャンセル。

学年別タッグトーナメントの決勝でラウラに使った加速の完全停止を行ったのだ。

 

将冴は腰だめに拳を構えていた。

 

 

「バァニングゥ……」

 

「くっ!?」

 

「ジャスティィィィィス!」

 

 

イッシー・ハッター直伝の拳が、狼牙目掛けて放たれた。




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コラボ第11話

将冴と狼牙の戦闘最後。

ラグ0109様の作品の方に、将冴君がお邪魔しています。是非、ご覧ください。

私も続きが楽しみなんです。


将冴の拳が狼牙の脇腹に突き刺さった。

 

ズドンという衝撃音とともに、狼牙はアリーナの壁まで吹き飛ばされる。

 

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

「ふぅぅ……」

 

 

壁に激突し呻き声をあげる狼牙と、残心で息を吐く将冴。シールドエネルギーの残量は両者互角といったところだろう。

 

将冴は群狼による攻撃で削られていったが、狼牙は将冴の渾身の一撃で多くのシールドエネルギーを失った。

 

お互いに一歩も譲らない。管制室にいる3人も手に汗握るほどの試合展開だ。

 

 

「げほっ……随分と、えげつない拳を放つものだ」

 

「まだ動けるんだ。生身の人に打ち込んだら確実に意識を失う攻撃だったんだけど」

 

「生憎と頑丈なものでな。しかし、よもやお前の瞬時加速にそれだけのバリエーションがあるとは思わなんだ」

 

 

基本的に瞬時加速は曲がったり急停止することができないと言われている。それをやってのける将冴に、狼牙は驚きを禁じ得ない。

 

 

「もう一段階、レベルを上げても良さそうだな」

 

「まだ隠していたの?」

 

 

顔が隠れているのに、将冴の顔が青ざめているような気がした狼牙。

 

しかし、狼牙は確信を得ていた。この男なら、まだ付いてこれると。

 

 

「案ずるな。まだ試合の範囲だ」

 

 

その瞬間、天狼白曜のスラスターが起動しギュンと狼牙が急加速。

瞬時にして、拳を構えた状態で将冴の目の前に現れた。

 

 

「え……」

 

「ここからは力くらべと行こう」

 

 

狼牙はさっきのお返しと言わんばかり、将冴の顔面に拳を放つ。

 

 

「くっ!?」

 

 

将冴は上体を後ろにそらしなんとか躱す。そのままバク転で狼牙と距離を取る。

 

 

「まだあんなに早く……」

 

「お前も、まだ早くなれるのではないか?」

 

「え、うし……」

 

「ふんっ!」

 

 

いつの間にか将冴の背後に狼牙が立っており、将冴に回し蹴りを放つ。完全に予想外の攻撃に、回避も防御も間に合わない。

 

 

「があっ!?」

 

「そら、まだまだ行くぞ」

 

 

先ほどと打って変わって、狼牙が超高速で将冴を翻弄し近接格闘を仕掛けていく。

 

群狼や、ワイヤーブレードを使わない。純粋な格闘戦を挑んできている。

 

将冴はハイパーセンサーでどうにか狼牙の攻撃を見切るが、反撃に転じることができない。

 

 

(狼牙の攻撃が早すぎる……アファームドでも動けないなんて……)

 

「どうした。このままされるがままか?」

 

「(仕方がない……使いたくないけど)されるがままは嫌だね。ここから反撃させてもらうよ。『フェイ・イェン』」

 

 

将冴の音声認識により、アファームドの装甲が変化する。

 

迷彩だった装甲はピンクの縞模様が基調となり、男らしいかったシルエットもすらっと細くなり、フリフリのスカートのような装甲。手には可愛らしいハートの装飾がなされたレイピア。そして、一番目を引くのは頭部。小さくまとめられた髪のようなパーツがツインテールになってくっついていた。

 

フォーム『フェイ・イェン』。将冴の胃にダメージが入る。

 

 

「将冴……それは……」

 

 

さすがの狼牙も引くレベルである。男がこんな可愛らしい格好をするのは明らかにおかしい。

 

 

「そうだよね!それが普通の反応だよね!決して歓声があがるものじゃないよね!」

 

 

フェイ・イェンは学年別タッグトーナメントで、なぜかアリーナが今まで見せたことのない盛り上がりを見せた問題児(?)である。

 

引かれているのに、なぜか普通の反応が返ってきたことが嬉しかったのだ。

 

 

「正直、ふざけているとしか思えないが……この場面でフォームを変えたんだ。意味があるのだろう?」

 

「もちろん。これなら……」

 

 

スラスターを点火させ、急加速。先ほどまでと比べ物にならない早さで狼牙に追いつく。

 

 

「追いつける!」

 

 

レイピアを狼牙に突き立てる。鋭い攻撃が狼牙の腕と肩に突き刺さった。

 

 

「くっ……見た目に騙されてはいけない、ということか」

 

「僕のIS、『バーチャロン』のフォームの中で最速。これで渡り合えるよ」

 

「ふっ、面白い。早さ比べと行こう!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「なんなの……あの二人……」

 

「早すぎる……動きを追うので精一杯だ」

 

「将冴はまだ許容範囲か……銀の方はまだまだ余裕といったところか。いったいどれだけのスペックを詰め込んでいるんだ」

 

 

将冴と狼牙の会話を聞く限り、狼牙はまだ全てを出し切っていない。将冴は使いたくなかったフェイ・イェンまで引っ張り出しているというのに、だ。

 

 

「将冴君、辛そうですね」

 

「このままでは……織斑先生、すぐに試合を中止してください!二人とも、これ以上は危険です!」

 

「いや、中止はしない」

 

「なぜですか!将冴が以前に血を吐いたのをお忘れですか!?」

 

「分かっている。だが、ここで止めるのは無粋というものだろう。それに……」

 

 

千冬は思案するように顎に手を当てた。

 

 

「先生、狼牙君のことが気になるんですか?」

 

「ああ。どうも銀は異質に感じる。どうしてそう感じるかはわからないがな」

 

 

言い知れぬ違和感を感じながらも、千冬はモニターに目を戻した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

一進一退の攻防が続き、将冴の残りエネルギーは220。狼牙は250。僅かに狼牙のエネルギーが勝っている。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「っはぁ……お互いに、もう後がないな」

 

「そう、だね……そろそろ終わりたい気分だけど」

 

「ならば、次で決めるつもりで行こう」

 

「賛成、かな」

 

 

お互いに最後の攻撃と覚悟を決めて構える。

 

2人の間に緊張が走る。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

次の瞬間、弾かれたように2人は飛び出した。

 

狼牙はブレードトンファーを展開し、突くようにして前に出した。一方、将冴はレイピアを構えてはいるものの、ノーアクションで狼牙に向かっている。

 

 

(何か企んでいるのか?しかし、これで決めてしまえば!)

 

 

トンファーの切っ先が、将冴の体に接触する正にその時だった。

 

狼牙の手に、軽すぎる手応えが伝わった。

 

 

「浅い!?」

 

「いい感じだよ、狼牙」

 

 

将冴がそう呟く。

 

将冴のエネルギーが110。決めるつもりの攻撃が届かなかった……いや、将冴が届かないようにしたのだ。瞬時加速キャンセルからのバックブーストで後ろに下がり、ダメージを最小限にとどめたのだ。

 

 

「おかげで、僕はもっと早くなれる」

 

 

フェイ・イェンの装甲の色が変わり、ピンクから金色になる。そして、狼牙が色を認識した時には、目の前から将冴の姿は消えていた。

 

 

「消え……」

 

「こっちもさっきのお返しだよ」

 

 

背後からの将冴の声。

 

次の瞬間に、背中に連続してレイピアによる攻撃が突き刺さる。

 

 

「これでとどめだよ!」

 

「くっ!」

 

 

将冴のとどめの突きは狼牙の背中に的確に打ち込まれる……筈だった。

 

 

「え?」

 

 

何もないところにレイピアが振るわれた。そこにいた筈の狼牙は忽然と姿を消した。

 

そして……

 

 

「ぐぬぅ!?」

 

 

将冴の側頭部に衝撃が走り、シールドエネルギーが0になった。

 

 

「しまった……つい本気の速度を出してしまった……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

試合が終了し、狼牙はISを解き将冴の元へ向かった。

 

将冴もISを待機状態にしたようで、義手をつけた状態で地面にうずくまっていた。

 

 

「将冴、すまない!つい本気で頭に蹴りを……」

 

「大丈夫。ちょっと頭がグラグラするくらいだから……ゲホッゲホッ!」

 

「大丈夫じゃないだろう!抱えるぞ」

 

 

将冴を抱き抱えると、地面に赤い液体が落ちていた。

そして将冴の方を見ると、口が赤く汚れている。

 

 

「お前……」

 

「はは……ちょっとやりすぎちゃった。クラリッサに怒られちゃう……ゲホッ!」

 

「喋るな。すぐに医務室に……」

 

「将冴!」

 

 

狼牙が将冴を医務室へ連れて行こうとすると、クラリッサが血相変えて走ってくる。

 

おそらく、試合を見てこうなることが分かったのだろう。

 

 

「クラリッサ、すまない。将冴に無理を……」

 

「話は後だ。将冴、すぐに医務室に行くぞ」

 

「俺が運ぼう」

 

「待て」

 

 

将冴を連れて行こうとする狼牙を、千冬が止めた。

 

 

「銀は残れ。医務室には、クラリッサと楯無が連れて行け」

 

「はいはーい。頼まれました」

 

 

いつの間にか、楯無が狼牙から将冴を奪い、抱き抱えていた。

 

 

「さ、将冴君。行きましょうか」

 

「待て!将冴は私が!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。少しはおすそ分けしてくださいよ。クラリッサ先生」

 

 

くだらない言い争いをしながらも、ぐったりしている将冴を連れて医務室へ向かっていった。

 

 

「……それで、わざわざ止めてまで俺に話があると?」

 

「ああ。単刀直入に聞こう。……お前は人間か?」




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コラボ第12話

コラボ折り返しといったところです。

狼牙のことがわかるように書いてるつもりですが、やっぱり本家を読んだ方が楽しめると思います。是非、コラボ先の方も読んでいただきたいです。本編完結済みなので、この機会に是非、是非。


「ほら、将冴。あーん」

 

「クラリッサ……別に腕が使えないわけじゃないから、1人で食べれるのに……」

 

「駄目だ!将冴に無理はさせられない!」

 

「無理って……食べるだけなのに」

 

 

食堂の一角で将冴、クラリッサ、狼牙が食事を取っていた。将冴と狼牙はお粥。クラリッサは手軽に食べれるサンドイッチだ。

 

そして、狼牙がいる前でクラリッサが将冴にお粥を食べさせ始めたのだ。別に2人のことをどうこう言うわけではないが、狼牙としても目の前でいちゃつかれると目のやり場に困るのだ。

 

いくら言っても引かないクラリッサに、将冴は根負けし口を開き、クラリッサがゆっくりとお粥を食べさせた。

 

 

「あむ……」

 

「どうだ?」

 

「お粥の味が血の鉄臭さに負けてる……」

 

 

まだ血の味が残っていたようで、将冴の表情が沈む。

 

 

「将冴、無理して食べなくてもいいんだぞ?内臓を傷つけたんだ、詰め込んでも悪化する」

 

「うん……そうするよ、狼牙」

 

「わかったような言い方だな、狼牙」

 

「体を痛めつけることに関しては、日常茶飯事だったのでな……」

 

 

どこか空を見上げながら、狼牙は呟いた。

 

元の世界で何があったかはわからないが、とりあえず同情する将冴とクラリッサだった。

 

 

「……そういえば、織斑先生に呼び止められていたよね?なんの話だったの?」

 

「あ、ああ……」

 

 

狼牙は生返事をしながら、アリーナで千冬に呼び止められた時のことを思い出した。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「お前は人間か?」

 

 

その言葉に、狼牙は激しく動揺した。

 

狼牙は生体同期型ISという、人でありながらISである変わった存在である。

 

 

「……見ての通り、人間だが?」

 

「先程の戦闘。将冴の攻撃を躱し、一瞬で反撃に転じたな。まぁ、それはISのスペックによってはどうとでもなる。だが、あれだけの高速戦闘をしておきながら、何故立っていられる」

 

 

IS学園で、それなりの強さを誇る将冴でさえも、フェイ・イェンの高速使用で吐血した。

 

狼牙はそんな素振りも見せず、将冴を抱え医務室に連れて行こうとするだけの余裕があったのだ。千冬が怪しむのも無理はない。

 

 

「将冴はあの体ではあるが、そこらへんの男よりも頑丈だ。私でも、あれだけの戦闘を行えば、多少の影響が出る」

 

「……」

 

「もう一度聞く。お前は人間か?」

 

「俺は……人間だ。そうありたいと思っている」

 

 

狼牙の答えに、千冬は小さく笑った。

 

 

「ふっ、わかった。話は以上だ。将冴の元へ行ってやれ」

 

「……失礼する」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……」

 

「狼牙?どうしたの?」

 

「あ、ああ。すまない。織斑先生と、何を話したかだったな。なんでもない、模擬戦はどうだったかというのを聞かれただけだ」

 

「そうだったんだ。狼牙強かったしね、織斑先生も気になったのかな」

 

「そういうお前も、なかなかの手練れではないか。何度も背後を取られるとは思わなかったぞ」

 

「あれは無我夢中で……狼牙こそ、まさか止めのあの攻撃を躱すなんて……どんな反応速度してるの?」

 

「がむしゃらに動いただけだ」

 

 

謎の謙遜合戦が始まり、将冴と狼牙の食事の手が止まる。

 

クラリッサはその様子を見ながら不機嫌そうにサンドイッチを口に運ぶ。

 

その様子を見た狼牙は、すっと立ち上がった。

 

 

「狼牙、どうしたの?」

 

「いや、少々疲れてな。そろそろ休ませてもらう」

 

「いきなりここに飛ばされて、さっきの模擬戦だったからな。疲れがたまっても仕方がないだろう」

 

 

少し嬉しそうにクラリッサが話した。

 

 

「ああ。それに、2人の邪魔をするのも悪いからな。人の恋路を邪魔する奴は、何とやらだ」

 

「別に気にしなくてもいいのに」

 

「そうもいかんだろう。では、失礼する」

 

 

と、狼牙は食堂を出る瞬間に、あることに気づいた。

 

 

(俺の部屋はどこだ……)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「結局こうなるのか……」

 

「はは……」

 

「むぅ……」

 

 

将冴とクラリッサの部屋に、狼牙は肩身狭そうに体育座りしていた。ベッドに腰掛けている将冴は苦笑いを浮かべ、将冴の隣に座っているクラリッサは不機嫌そうな顔を浮かべていた。

 

千冬に急ぎ部屋の確認をすると……

 

 

『部屋の空きがない。誰かと相部屋になるが、女子と一緒にするわけにはいかない。一夏の部屋は女生徒の乱入が多いので、将冴の部屋に行け。大丈夫だ、ベッドは一つ余ってるだろう。あの2人は同じベッドで寝ているからな』

 

 

というありがたいお言葉をいただき、織斑先生に反論は無意味ということを知っていた狼牙は、黙って頷くしかなかった。

 

 

「まぁ、この世界にいる間だけだから、クラリッサもそんな顔をしないで」

 

「将冴がそういうなら……」

 

「狼牙も、そんなところで体育座りしてないで、そっちのベッドを使いなよ。先週、ベッドが新調されてから使ってないから遠慮しないで」

 

「……言葉に甘えよう」

 

 

狼牙は体育座りをやめて、ベッドに腰掛けた。

 

 

「……2人は、いつも同じベッドで?」

 

 

話題に困った狼牙が、2人に質問する。

 

 

「うん。付き合うことになってから、ずっと一緒のベッドだよ」

 

「そうか……まぁ、1人だけなら寝苦しさは感じないか」

 

「1人?」

 

「いや、こっちの話だ。……白、いつまでも笑うな」

 

 

狼牙は時々独り言を喋る。

将冴とクラリッサはそのことが少し心配になっているが、突っ込むのが恐ろしく、触れないようにしていた。

 

 

「っと、そういえば、この世界の束さんはどこにいるんだ?」

 

「束さん?多分、日本のどこかにはいると思うけど……」

 

「そうか……俺が元の世界に戻るには、あの人の手を借りねばならないと思うから、会わなければと思ってな……本音をいえば会いたくはないがな」

 

「狼牙のこと見たら、絶対に騒がしくなるよね」

 

「それは言えてるな……」

 

 

今日何度目かわからない、将冴と狼牙のどこか遠くを見る目。

 

そんな中、クラリッサは狼牙の方に目を向けていた。いや、正確には狼牙の後ろだ。

 

 

「狼牙……」

 

「ん?なんだ?」

 

「後ろ……」

 

「後ろ?」

 

 

狼牙が恐る恐る振り向くと……

 

 

「呼ばれて飛び出て束さぁーん!」

 

「なんだ、束さんか……」

 

「こんばんは、束さん」

 

「あれ!?そんな反応なの!?」




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コラボ第13話

あと7〜8話くらいですかね。
早く本編も進めないと……本当に本編楽しみしてくださっている方には申し訳ありません。


突然現れた大天災、篠ノ之束に対し、将冴と狼牙の反応は実に淡白だった。

 

 

「うぅー、せっかくしょーくんを驚かせようと思ったのに!くらちゃん、見て見ぬフリしてよ!」

 

「す、すいません……」

 

 

なぜか束に怒られるクラリッサ。思わず誤ってしまうが、今のは自分が悪かったのか、甚だ疑問である。

 

 

「すごいな……こちらの世界の束さんは、クラリッサを認知しているのか……」

 

「僕達が付き合い始めてからだけどね」

 

 

滅多なことがない限り、他人に興味を示さない束がクラリッサのことを「くらちゃん」と呼んでいることに驚きを隠せない狼牙。

 

と、束が狼牙の目の前に立ち、あと数センチでキスできるくらいまで顔を近づけた。

 

 

「むぅー……」

 

「な、なんだ?」

 

「君が、平行世界から来たっていう不審者かい?」

 

「不審者と呼ばれるのはいい気はしないが、確かに俺が平行世界から人間だ」

 

「ふぅん……」

 

 

束は狼牙の体を調べるようにペタペタ触り始める。

 

こうなったら逆らわないのが身のためだと思い、狼牙はジッと耐える。

 

 

「なるほど……何か歪なものを感じるけど、それ以外は普通の人間と変わりなさそうだね」

 

 

束の中で何かの結論がついたようで、狼牙から離れる。何されるかとヒヤヒヤしていたが、触る以上のことをされなかったため、安堵の息を漏らす。

 

生体同期型ISということを少し感づかれはしたものの、束に隠す方が難しいと思っていたため、明確にばれたわけでもないという結果は僥倖といえよう。

 

 

「束さん、ここに来たってことは……」

 

「彼のことを見に来たんだよ。今朝、束さんが開発中の時空間転送装置が謎のエラーを出してね。もしかしたらと思ったら、案の定だったわけだよー」

 

「時空間転送装置って……」

 

「篠ノ之博士……なんてものを作っているんですか」

 

「はぁ……やはり束さんの仕業か……」

 

「ちょっとちょっと!なんで引かれてるの!?これは世紀の大発明だよ!」

 

「その結果、狼牙がこの世界に飛んできたんですよね?」

 

「違うよぉ!束さんの装置はまだ完成してないんだから!」

 

「完成、してない?」

 

 

予想外の答えに、3人は頭を傾げた。

 

 

「そうだよ?時空間転送装置はまだ転送機能を備えていないもん。私以外の誰かがこの世界に彼を飛ばしたんだよ」

 

「でも……束さん以外にそんなことできるのって……」

 

「……そうか。いるぞ、そんなことができる者が」

 

「心当たりあるの?」

 

「束さんも、ぜひ知りたいね」

 

「それは誰だ?」

 

 

狼牙は少し言いずらそうに口をつぐむが、意を決してその人物の名前をつぶやいた。

 

 

「篠ノ之束……こちらの世界の束さんだ」

 

『……あぁー……』

 

 

狼牙以外の3人が合点がいったように声を揃えた。

 

この世界の束が完成させていないというなら、狼牙の世界の束が時空間転送装置を完成させていたというのは、確かに説得力ある説だ。

 

 

「なんというか……申し訳ないな。うちの束さんが、余計なことを……」

 

「いや、狼牙が謝ることじゃないよ。それに、そっちの束さんがやってなくても、こっちの束さんが同じことしていただろうし」

 

「しょーくん、私の扱い酷くないかな!?」

 

「どの世界でも、篠ノ之博士は変わらないということだな」

 

「くらちゃんまで!?」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「へっ……くしゅ!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「それで、束さん。その、時空間転送装置が完成すれば、狼牙を元の世界に戻せるの?」

 

「難しくないと思うよ。放っておいても、向こうの私が戻すと思うけどねぇ」

 

「できるだけ早く帰りたくてな……。待たせている者たちがいるのだ」

 

「ふぅん。ま、被験者が現れたのは束さんとしても願ったり叶ったりだからいいんだけどねぇ」

 

 

被験者という言葉が引っかかる狼牙。しかし、背に腹は変えられず、聞き流すしかなかった。願わくば、何も起こらないようにと祈りながら。

 

 

「束さん、お手数かけますけど、お願いします」

 

「私からもお願いします、篠ノ之博士」

 

「むふふー、しょーくんとくらちゃんに頼まれちゃったら断れないじゃないかぁー。スペースシャトルに乗ったつもりで任せなさーい!」

 

 

言葉は頼もしいのだが、言ってる人物が人物なだけに、少し不安が残った。

 

 

「それじゃ、早速ラボに戻って完成を急ごうかな」

 

「あ、束さん。もう一ついいですか?」

 

「ん?なにかなかな?」

 

「義肢に関してなんですけど……あれ?」

 

 

朝に動作確認をした際に、指がピクピクと動く現象が、今はなんともなかった。

 

 

「義肢がどうかしたの?」

 

「はい、今朝動作確認をしたら、少し調子が悪かったみたいで……今はなんともないんですけど……」

 

「多分、時空転移の影響じゃないかな?昨日、電話も調子が悪かったし、うちのラボの機械も、何個か調子が悪かったし」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、だからあまり気にしなくても大丈夫だよー。しょーくんが望むなら、義肢のメンテするけど」

 

「いえ、これ以上束さんのお手を煩わせるわけにはいきませんから」

 

「そう?何か異常があったらすぐに連絡してねぇ」

 

 

束はそう言うと、部屋の窓枠に飛び乗った。

 

 

「多分、明後日あたりに完成するから、それまで待っててね。えっと……君の名前は?」

 

「狼牙だ。銀狼牙」

 

「じゃあ、ろーくんだね。ろーくんはなかなか興味深いから、是非とも解剖してみたいけど、しょーくんが怒るからやめておくね」

 

 

そう言い、束は窓から外に出て行った。

 

 

「……やはりどこに行っても束さんは束さんだな」

 

「全時空共通?」

 

「ありえそうで困るな……」




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コラボ第14話

コラボで2週間かかってる……本編の内容忘れちゃいそうだ←


翌日。将冴は6時に目が覚めた。

 

いつもならもう少し寝ているところなのだが、昨日今日と早く起きている。

 

 

「狼牙が来たから……かな」

 

 

まだ隣で寝ているクラリッサの頬にキスをして、もう一つのベッドに目をやる。

 

そこには綺麗に整えられたベッドだけで、狼牙は寝ていなかった。

 

 

「狼牙、何処か行ったのかな?」

 

 

制服に着替え、クラリッサ宛に狼牙を探す旨を書いた書き置きを残し静かに部屋を出た。

 

と、そこでばったりある人物達と鉢合わせる。

 

 

「あ、将冴」

 

「兄さん、こんな朝早くにどうしたのだ?」

 

 

私服姿のシャルロットとラウラだ。

 

 

「シャルにラウラ。いや、狼牙がどっかいっちゃって」

 

「銀君が?」

 

「まさか、脱走?」

 

「狼牙はそんなことしないよ。脱走する人が、ベッドを整頓していくなんておかしいし」

 

「む……そうか……」

 

「その様子だと狼牙がどこにいるか知らないみたいだね」

 

「うん。ごめんね、将冴」

 

「謝ることじゃないよ。今日は休日だし、急ぐものでもないからゆっくり探すよ。そういえば、2人は朝早くに何してたの?」

 

 

まだ食堂も開いていないような時間に2人が出かける装いでいるのが気になった将冴。

 

 

「実はアルバイトを頼まれてな。以前にシャルロットといったメイド喫茶の人出が足りないらしい」

 

「メイド喫茶?」

 

「今度、学校祭でメイド喫茶やるし、参考になればと思ってね」

 

「そっか、そういえばそうだったね。今日時間があったら寄ってみようかな」

 

「い、いいよぉ!恥ずかしいから!」

 

「私もシャルロットど同意見だ……兄さんに見られるのは恥ずかしい……」

 

 

2人が顔を赤くして将冴がくることを拒むが、そのリアクションは将冴を更に調子付かせる。

 

 

「む、妹達の働く姿を見るのも兄の仕事だと思ったんだけど?」

 

「こういう時だけお兄ちゃんになるのやめてよ!」

 

「シャルロット、この状態の兄さんはタチが悪い。ここは戦略的撤退だ!」

 

 

ラウラはシャルロットの手を引き、将冴から逃げるように廊下を駆けて行った。

 

 

「そんなに恥ずかしかったのか……それは余計に行かなきゃいけないなぁ」

 

 

将冴は怪しい笑顔のまま、車椅子をこいだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

学生寮を一通り回ったが狼牙の姿はなく、仕方なく外に出るとグラウンドを走る影が一つ見えた。

 

 

「もしかして、狼牙?」

 

 

グラウンドに近づくと、そこには将冴の予想通り狼牙がグラウンドを走っていた。

 

と、将冴の姿を確認したのか、狼牙はゆっくりと減速し将冴に近づいた。

 

 

「早いな、将冴。クラリッサは?」

 

「ちょっと早く目が覚めちゃって、クラリッサはまだ寝てると思うよ。狼牙はトレーニング?」

 

「ああ、日課でな。将冴も一緒に……というのは難しそうだな」

 

「手足に関しては、鍛える必要があまりないからね。でも、胴体の方は結構鍛えてるよ?」

 

 

将冴が上着を捲るとそこには綺麗に鍛え上げられた体があった。

 

 

「ほう、昨日もちらりと見たが、なかなかのものだな」

 

「体がある時は剣道をやっていたし、もともと結構鍛えてる方だったから。車椅子に乗ってるせいで、みんな過保護だけど」

 

「それは仕方ないだろう。ハンデがあるというのは、無意識に気を回してしまうものだ」

 

「この体になってから身にしみてるよ。狼牙も、そういうのは気になる方?」

 

「相手によりけり、といったところだな。お前には、そこまで気を回さなくてもいいと思っている」

 

「そうしてくれると、僕も気が楽だよ。っと、トレーニングの邪魔しちゃったね」

 

 

将冴はグラウンドを後にしようとするが、パシッと狼牙に車椅子を掴まれた。

 

 

「そろそろ終わろうと思っていた頃だ。戻る場所は一緒なのだから、俺が車椅子を押そう」

 

「ふふ、ありがとう。でも、気を回さなくてもいいんじゃなかった?」

 

「これはただの親切だ」

 

「それはどうも」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

将冴と狼牙が部屋へ戻ると、そこにはスーツに着替えたクラリッサの姿があった。

 

 

「将冴、おかえり。狼牙は見つかったようだな」

 

「うん」

 

「クラリッサ、これから仕事か?」

 

「ああ、少しな」

 

「休日までご苦労なことだな」

 

「せっかく将冴と過ごそうと思っていたのに……」

 

 

ブツブツ呟くクラリッサに、狼牙は同情した。

 

 

「クラリッサ、お仕事頑張ってね」

 

「ああ、それじゃ行ってくる」

 

 

クラリッサは将冴にキスをして部屋を出て行く。いつもやっているので、将冴も慣れたようにキスを受け入れていた。

 

 

「その、なんだ。俺の前でやる必要はあったのか?」

 

「別に他意があるわけじゃないけど。いつもやってるから気にしないだけ」

 

「少しは気にして欲しいものだな。俺でも人がいれば控えるぞ。まぁ、あいつらは所構わずだが」

 

「あいつらって、複数?」

 

 

 

狼牙はしまったという表情を浮かべた。つい口が滑ってしまったのだ。別に知られたところで問題はないのだが、今後の交友関係という点で、得策ではないと思っていたのだ。

 

 

「確か、セシリアと付き合っているんだよね?」

 

「あ、ああ……」

 

「二股?」

 

「……み」

 

「み?」

 

「三股だ……」

 

「え……」

 

 

その言葉に将冴は口を噤んだ。

 

 

「……黙らないでくれるか?」

 

「狼牙って……節操なし?」

 

「ぐっ……言われ慣れているが、改めて言われると辛いな」

 

「お相手は?」

 

「……簪と楯無だ」

 

「うわぁ……」

 

 

これには将冴もドン引きである。

 

 

「おい、将冴。引きすぎだろう!」

 

「いやぁ、ちょっと……さすがにね……」

 

「本当にその反応は傷つくぞ!?」

 

 

狼牙の顔が本当に必死だった。

 

 

「ごめんごめん。でも、どうしてそんなことに……」

 

「まぁ……一人だけ、ということができなかっただけだ」

 

「そっか……ねぇ、狼牙。この後暇だよね?」

 

「まぁ、用事などあるわけもないが……」

 

「じゃあ、街に行かない?お詫びするよ」




次にお前は「将冴も人のこと言えないだろ!」と言う!


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コラボ第15話

コラボの難しさをラグさんと話し合う今日この頃。

他人のキャラって難しいよね。


「それで、俺をどこに連れて行こうと言うのだ?」

 

 

外へ出る準備を済ませ、モノレールに乗ったところで狼牙が将冴に聞いてくる。

 

将冴は意地悪な笑顔を浮かべ義足をぷらぷら動かしながらながら「秘密」とだけ返した。

 

すぐに目的の駅に着くと、将冴と狼牙はモノレールを降り、改札をくぐった。

 

 

「あ、狼牙。ちょっと待っててね」

 

 

将冴は車椅子を拡張領域から展開させて座ると、すぐに義足を拡張領域に戻す。

 

その様子を見た狼牙は、前々から気になっていたことを聞くことにした。

 

 

「将冴、何故義足があるのにわざわざ車椅子を使っているのだ?」

 

「言ってなかったっけ?義肢を使うと、神経への負担が半端ないから、長時間4つ付けてると神経ズタズタになっちゃうんだよね」

 

「それはまた……難儀な体だな」

 

「束さんの技術力を持ってしても、さすがに無理だったみたい。人体そのものについては、束さんはあまり得意じゃなさそうだしね」

 

「得意ではないのに、こんな接合部を取り付けられるのは気が気ではないな」

 

「まぁ、その時はそうするしかなかったからね……」

 

 

手術の後が一番辛かったのは伏せておく将冴であった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

狼牙が将冴の案内のもと、車椅子を押して街を歩いていく。世界は違えど、街並みはほとんど見覚えがあるものであり、もとの世界にいるのではないかという錯覚を覚える。

 

 

「ん?この道は……」

 

「もしかして、もとの世界でこの道通った?」

 

「ああ……確かこの道は……」

 

 

狼牙が思い出そうとしているところで、目的地に到着した。

 

そこはシャルロットとラウラが今日アルバイトをするというメイド喫茶だった。

 

 

「やはりここか……」

 

「来たことあった?」

 

「ああ、元の世界でな」

 

「それは残念。もしかしたら、狼牙は一度見た光景を見るかもしれないね」

 

 

などと話しつつ、二人は店に入った。

 

 

「おかえりなさいませ!ご主人様、お坊っちゃま」

 

「おい、このメイド。できるぞ」

 

「僕、狼牙と同い年なんだけどなぁ……」

 

 

お店に入った瞬間に、将冴と狼牙を見て一瞬で呼び方にアドリブを加えたメイドに狼牙は賞賛を送るが、将冴の心中は複雑だった。

 

 

「こちらのお席へどうぞ」

 

 

そう言ってメイドは、車椅子の将冴が席につけるように椅子を一つ片付けながら案内した。

 

 

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びつけください」

 

 

二人が席につくのを確認し、メイドはそう言い残して別のテーブルの客の接客に行った。

 

 

「ずいぶんと手慣れたメイドだったな」

 

「そうだね。メイド喫茶なんて初めて来たけど、どこもあんな感じなのかな?」

 

「少なくとも、俺のいた世界でのここは、あそこまで臨機応変に対応していなかったように感じたがな。それで、ここに来た理由は?」

 

「ああ、とりあえず何にするか決めようよ。僕は紅茶にしようかな」

 

「では、俺はコーヒーをもらおうか」

 

 

注文が決まり、将冴は「すいません」と声をあげた。

 

ほどなくしてパタパタと小走りにメイドがやってくる。

 

 

「お、お待たせしました。ご注文……は……」

 

 

銀髪に眼帯をつけた小柄なメイドは将冴達を見て、言葉を詰まらせた。

 

 

「あ、ラウラ」

 

「やはり、将冴が見せたかったのはこれか」

 

「に、兄さん!?それに銀狼牙まで!どうしてここに!」

 

「ラウラの働く姿を見に来たんだよ?狼牙は付き添い」

 

「様になっているではないか。まぁ、俺は前の世界でも見たが」

 

 

と、騒ぎを聞きつけたのか、もう一人こちらに向かってくるメイドがいた。

 

綺麗なブロンドの髪を後ろで束ねたメイド……シャルロットだ。

 

 

「ラウラ、どうかし……」

 

「あ、シャル。さっきぶり」

 

「ほう、こちらではメイド服を来ているのか」

 

「将冴に銀君!?え、え!?なんで!」

 

 

シャルロットもまた、ラウラと同じようにパニックに陥る。将冴もさすがにここまでパニックになるとは思っていなかった。

 

 

「2人とも、落ち着け。裏から店長らしき人がこちらを睨んでいるぞ」

 

「「はっ!」」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「まさか本当にくるなんて……」

 

 

ようやく落ち着いたシャルロットが、気の抜けたようにつぶやく。ラウラも落ち着いたようで、いつものキリッとした表情に戻っている。

 

 

「こんな楽しそうなこと、放って置くわけないよ」

 

「だからと言って、銀狼牙まで連れてこなくても……」

 

「学園に籠りっきりっていうのもよくないと思ってね。ね、狼牙」

 

「ああ。おかげでいいものが見れたな」

 

 

狼牙はからかうような目をシャルロットとラウラに向けた。

会って間もない男にそうジロジロ見られるのにも慣れていないため、それだけで2人はカオを赤くする。

 

 

「そ、それで!注文は!」

 

 

耐えきれなくなったのか、ラウラが注文を催促してきた。将冴が紅茶とコーヒーを頼むと、2人は逃げるように将冴達から離れていった。

 

 

「ふふ、これくらいで狼狽えるなんて、シャルとラウラもまだまだだなぁ」

 

「お前も大概性格の悪い男だ」

 

「そういう狼牙も、こういうの嫌いじゃないでしょ?」

 

「まぁ……そうだな。つくづく、お前とは仲良くやっていそうだ」

 

「それはどうも」

 

 

その後、飲み物を持ってきたラウラをまたからかい、ラウラに怒られた2人だった。




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コラボ第16話

更新が滞って申し訳ありません。
コラボは難しくてなかなか……。

察していただけると嬉しいです。


ラウラとシャルロットを散々からかい倒し、将冴と狼牙はメイド喫茶を出た。

 

朝のお詫びということで、将冴が会計したが狼牙すこし納得がいかないようだった。

 

 

「将冴、さすがに全てご馳走になるのは、俺の望むところではないのだが」

 

「そんなの気にしなくていいよ。僕、めったにお金使わないし、毎月給料が振り込まれるから、溜まっていく一方なんだ」

 

「しかし……」

 

「それに、狼牙お金持ってないでしょ?」

 

 

寝ているところを突然飛ばされたため、狼牙は財布など持っているはずもなく、結局のところご馳走になるしかなかったのだ。

 

 

「……そうだったな……。何かしてほしいことはないか?それでお返しというわけではないが……」

 

「それじゃあ、今日1日車椅子を押しもらおうかな。それで貸借りなしってことで」

 

「ふっ、お安い御用だ」

 

 

狼牙は将冴の車椅子を押し、将冴は満足そうに笑みを浮かべた。

 

 

「それで、この後はどうするのだ?」

 

「せっかくの休日だし、その辺プラプラしようよ。狼牙の世界と違うものがあるかもしれないから、狼牙の行きたい場所でいいよ」

 

「承知した。では、レゾナンスの方でいいか?」

 

「もちろん」

 

 

二人は大型ショッピングモール「レゾナンス」へと歩を進めた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

休日ということで、レゾナンスには多くの人で溢れかえっていた。しかし、そんな中でも2人は特に苦労せずにレゾナンスの中を進めていた。

 

理由としては、狼牙の容姿が一番大きな要因だろう。銀髪に金の瞳という容姿は、どうあっても目立ってしまう。それに加え、車椅子を押していることも相まって、なかなかに声をかけずらい。

 

結果、こちらが避けなくても、人々が道を開けてくれるのだ。狼牙はこれ幸いと気にせずレゾナンスを見学していた。

 

 

「あそこの音楽店、こっちではアパレルショップだったな」

 

「やっぱりところどころ違うところはあるみたいだね」

 

「ああ。とは言っても、ほんの数箇所といったところだろうか。大まかなところは変わらないな」

 

「そっか」

 

 

などと他愛もない話をしながらレゾナンス内を見て回っていると、将冴と狼牙の前に2人の女性が立ちはだかった。

 

1人は胸元が大きく開いたドレスのような服を着たブロンドの女性。もう1人はスーツを着た茶髪の女性だ。

 

 

「はぁい、お兄さん達。私たちとお茶でもしない?」

 

 

ブロンドの女性がそう話しかけてくる。

 

 

(ナンパか?面倒だな……)

 

 

女尊男卑の思想が広まってる今、女性からの誘いを断ると面倒ごとに巻き込まれることが多い。

 

狼牙は、とりあえずやんわり断りを入れようと思い、口を開こうとする前に、将冴が言葉を発した。

 

 

「いいですよ。ご一緒しましよう」

 

「なっ!?」

 

「ありがとう。こっちに個室のある店があるから、そこでお話ししましょう?」

 

 

女性2人は先に店の方へ向かっていく。狼牙は将冴に耳打ちをした。

 

 

「おい、将冴。どうして断らなかったんだ?お前にはクラリッサというものがありながら……」

 

「行けばわかるよ。ほら見失っちゃうよ」

 

 

将冴の答えに、狼牙は渋々といった様子で車椅子を押し、2人の後についていった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

連れてこられた個室に四人が座り、一番に言葉を発したのは将冴だった。

 

 

「それで何かありましたか?スコールさん、オータムさん」

 

「将冴、お前この2人を知ってるのか!?」

 

「うん。この2人は束さん下で働いてる……諜報員って感じかな?」

 

「諜報員……?」

 

 

突然のことでうまく状況の飲み込めない狼牙。

 

すると、ブロンドの女性……スコールが残念そうな顔をして将冴の頭をツンっと突っついた。

 

 

「もう、将冴君ったら。もう少し彼の反応を楽しもうと思っていたのに」

 

「そんなのに付き合わされる私の身にもなってくれよ。面倒ったらねぇぜ」

 

 

スーツを着た女性……オータムが呆れたように呟く。どうやらスコールの遊びに付き合わされていたようだ。

 

 

「もう何が何だか……」

 

「ちょっと遊びすぎたみたいね。自己紹介するわ。私はスコール・ミューゼル。篠ノ之博士の協力者よ。よろしくね、銀狼牙君。こっちが……」

 

「オータムだ。スコールの遊びに付き合わせて悪かったな」

 

「ちょっと、私が悪いみたいな言い方やめてよ」

 

「十中八九お前が悪いだろ!」

 

「おい、将冴。この2人、本当に束さんの協力者なのか?」

 

「うん。すごい頼れる人たちなんだよ?」

 

 

この様子を見ただけでは信じ難いが、将冴が言うならそうなのだろうと納得することにした狼牙。

 

 

「スコールさん、オータムさん。僕たちに用があって来たんたんですよね?」

 

 

将冴の声に、二人は言い争いをやめた。

 

 

「ごめんなさい、すこし熱くなっちゃって」

 

「誰のせいだよ……」

 

 

オータムの疲れた顔を見て、スコールにいつも絡まれているのだろうと同情する狼牙。

 

と、スコールが先ほどまでと打って変わって真剣な表情を浮かべた。

 

 

「将冴君。ダイモンが動きを見せてるわ。昨日から各地でオーブの姿が確認されてる」

 

「ダイモンが……目的は?」

 

「おそらく、狼牙君が関係していると思うわ」

 

「そうですか……」

 

「ちょっと待ってくれ。ダイモンとはなんだ?説明してもらわないと、俺も困るのだが?」

 

「そうだったね。じゃあ、簡単にだけど説明するよ」

 

 

将冴はダイモンのことを狼牙に説明する。

 

将冴の両親の仇であること。

様々なテロ事件を起こしていること。

世界の混乱を引き起こそうとしていること。

 

 

「……どの世界でも、そういう輩はいるようだな。それで、その危険人物が俺を狙っていると?」

 

「ええ。篠ノ之博士が言っていたのだけど、昨日あなたがこの世界に飛んでくるとき、各地で電子製品の不調が相次いだらしいわ。幸いにも一時的なものだったけど、ダイモンはそれがあなたがこの世界に飛んできた証拠だと考えたんじゃないかしら。あなたがこの世界に来たことも、あのダイモンなら感知しててもおかしくないし」

 

「平行世界からきた男性操縦者……話を聞く限り、そのダイモンとやらが狙うには十分な理由か」

 

「いつ襲撃があってもおかしくないってことですね?」

 

「私達で対処出来ればそうしたんだが、どうもかなりの戦力を用意したみたいでな。襲撃があったら、2人にも戦ってもらうかもしれねぇ」

 

「わかりました」

 

「突然な話だな。ま、いつものことだが」

 

 

元の世界で慣れたとでもいいたげに、首を横に振る狼牙。

 

将冴は申し訳なさそうに、狼牙に話しかけた。

 

 

「ごめんね、狼牙。巻き込むような感じになっちゃって」

 

「将冴が謝ることではない。元はと言えば、こちらの世界の束さんのせいだ。それに、多少はいい運動にもなる」

 

「篠ノ之博士、どこにいても破天荒なのは変わらないようね」

 

「むしろ、真面目なうさ耳博士なんて見たくもねぇよ……絶対に気持ち悪いぞ」

 

 

オータムの言葉に、オータム以外の3人は確かにと声を揃えた。




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コラボ第17話

この不定期具合である。

コラボォ……


スコール、オータムと別れ、そろそろ帰ろうとレゾナンスを出た将冴と狼牙。

 

ダイモンが狼牙のことを狙っていると言うのなら、人の多い場所にいるのは得策ではないと考えてのことだった。

 

 

「将冴、そのダイモンという者の足取りは掴めないのか?」

 

「束さんがスコールさん達をつかって何とか見つけようとはしているみたいだけど、芳しくないね。何度か僕に接触してきたけど、かき消えるようにいなくなるから」

 

「そうか……。敵討ちのためにダイモンを追っているのか?」

 

「まぁ、それもあるけど」

 

 

将冴は含みを持たせたようにつぶやき、頬を掻いた。

 

 

「ダイモンのせいで苦しむ人がいるから。泣く人がいるからっていうのもあるんだ。遠回しとはいえ、クラリッサが僕に罪悪感を抱くようになってしまったのはダイモンのせいだし」

 

「クラリッサがお前に?」

 

「僕がドイツで誘拐された時、助けてくれたのがクラリッサっていうのは一夏から聞いたよね?」

 

「ああ」

 

「クラリッサはね、その時自分が油断しなければ、僕が手足を無くさずに済んだはずって思ってるんだよ。クラリッサは助けてくれたからそんなこと考えないで欲しいんだけどね」

 

「まぁ、クラリッサの気持ちがわからんでもないが」

 

「だからね、僕はダイモンを許さない」

 

 

そう言った将冴の顔は、ゾクリと寒気を感じさせるほど冷たいものだった。この少年は、こんな恐ろしい顔もするのかと、内心恐ろしくなった狼牙。

 

 

「随分と怖い顔をするようになったようだね。柳川将冴」

 

 

突然声をかけられその方を見ると、黒いスーツに身を包んみ、大きな一つ目が描かれた黒い仮面をつけた人物が立っていた。

 

 

「なんだお前は。見るからに怪しいが……まさか」

 

「君の推察通りだ。私はダイモン。銀狼牙、君を迎えに来た」

 

「そんなお迎えは必要ない。もちろん、黙って連れ去られるつもりもない」

 

「そうだろうね。だが、こちらもはいそうですかと帰るわけにはいかない」

 

「ダイモン、今日こそ捕まえる!」

 

 

将冴はテムジンを展開し、スライプナーをダイモンに向けた。

 

 

「おっと、今日は君に用事があったわけじゃないんだがね」

 

「そんなの知ったことじゃない。おとなしく付いてきてもらうよ。じゃなければ撃つ」

 

「君に私が撃てるのか?」

 

「撃つよ」

 

 

引き金に指をかけ、力をこめようとしたとき、将冴の体がぐいっと後ろに引っ張られた。

 

すると、先ほど将冴がいた場所にビームが降り注いだ。

 

 

「な……」

 

「頭に血が上りすぎだ。ロックオンされていることにも気付かずに」

 

 

将冴を引っ張ったのは、天狼白曜を展開した狼牙であった。

 

狼牙の言葉に、将冴が頭上を見上げると、そこには無数のダイモンオーブが漂っていた。

 

 

「惜しいな、もう少しだったのだが」

 

「随分と狡猾なようだな。だが、お前の話を聞くかぎり、俺も一発殴るくらいは許されそうだとわかった」

 

「怖い怖い。だが、その前に君たちにはオーブを相手してもらおうか?」

 

 

ダイモンが右手を挙げると、全てのダイモンオーブが将冴と狼牙をロックオンする。

 

 

「将冴、行けるか?」

 

「……」

 

「しゃんとしろ。奴を捕まえるのだろう?」

 

 

バシンと狼牙が将冴の背中を叩くと、将冴は前によろめく。

 

 

「……うん、ありがとう狼牙」

 

「では共闘と行こう。狼とロボットの異色コンビだ」

 

「厳密にはどっちもロボットだけどね!」




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コラボ第18話

今回と次でコラボは終わりとなります。

もう少しお付き合いくださいませ。

本編はコラボ終わり次第、続けて投稿していこうと思います。


いち早く飛び出したのは、狼牙の天狼白曜だった。

 

狼牙は手加減するつもりはないらしく、最初からかなりの速度で飛び出した。将冴と模擬戦をした時のように出し惜しみはしない。

 

瞬時に一体のオーブに近づいた狼牙は、速度を生かしブレードトンファーでオーブを切り裂き、破壊した。

 

 

「玉遊びにしては、少々味気ないではないか」

 

「狼牙!囲まれてる!」

 

 

将冴の声に、狼牙は周りを見渡す。狼牙を取り囲むように、オーブが並びロックオンしている。

 

 

「統率は取れているといったところか。将冴、心配するな」

 

 

狼牙は将冴にヒラヒラと手を振ると、まるで楽しむかのように言い放った。

 

 

「こいつらとは相性がいい」

 

 

その瞬間に、オーブからビームが一斉に放たれる。狼牙は回避行動を取らずに、ビームの光に包まれた。

 

 

「狼牙!?」

 

 

次第にビームが治っていく。

 

将冴は直撃したものと思い、狼牙の元へ向かおうとするが、それは杞憂に終わる。

 

狼牙は何事もなかったかのようにそこにいた。

 

 

「え、狼牙……」

 

「心配するなと言っただろうに」

 

「どうやって?」

 

「ちょっとした単一仕様能力(ワンオフアビリティ)だ。それより、話してる場合はないぞ?」

 

 

狼牙の言う通り、オーブが再び二人をロックオンし始める。

 

まだ一体しか破壊していないため、まだまだ数はある。

 

 

「将冴、まだいいところなしだぞ?」

 

「そうだね。僕も本気で行かせてもらうよ」

 

 

将冴はスライプナーを変形させサーフボードのようにし、それに乗り近くにいるオーブにまっすぐ突っ込んだ。

 

サーフボードはエネルギーの刃を有しており、そのままオーブを切り裂いた。

 

 

「次!」

 

 

サーフボードを巧みに操り、急カーブしもう一体オーブに突撃し、破壊した。

 

 

「やるではないか。こちらも負けていられないな」

 

 

狼牙は将冴に張り合うように速度を上げ、オーブを切り裂き、群狼で噛みちぎる。

 

将冴もまた、フォームをアファームドに変え、両手のビームトンファーをオーブに突き刺し、引き裂くように手を広げ真っ二つにする。

 

 

「これ程までの力を有していたか……オーブだけでは武が悪そうだな」

 

 

将冴と狼牙の手によってオーブはみるみる数を減らし、とうとう最後の一体となった。

 

 

「狼牙!」

 

「ああ、盛大に決めてやろう!」

 

 

オーブを挟む打つように、二手に別れる将冴と狼牙。

 

そして二人とも右拳を構える。

 

 

「これで……」

 

「ラスト!」

 

 

将冴はハッター直伝の拳を、狼牙は掌に搭載された『咆哮銀閃』を放った。

 

軋む音とともにオーブはひしゃげ、火花を散らし爆発した。

 

 

「ふむ……数で押せばあるいはと思ったが、そう簡単に行くものでもないようだな。まぁ、いい。今回は諦めるとしよう」

 

 

オーブが全て破壊されたのを見たダイモンは、踵を返しその場から離れようとするが、その目の前に天狼白曜が降り立った。

 

 

「どこに行くつもりだ。言っただろうに、一発殴るとな」

 

「殴るだけじゃないよ」

 

 

ダイモンの背後に将冴が降り立ち、スライプナーを向けた。

 

 

「ダイモン、あなたを拘束する」

 

「ここで捕まるのは私としても好ましくない。申し訳ないがここで退散させてもらう」

 

 

ダイモンの姿が歪み始め、霞んで行く。

 

 

「ま、待て!」

 

「今回は手を引くが、私は君のことをは諦めないぞ。柳川将冴、君の闇を手に入れるまでな」

 

 

そう言い残し、ダイモンの姿はかき消えた。

 

将冴と狼牙はISの展開状態を解く。将冴は悔しそうに拳を握った。

 

その様子を見た狼牙は、ポンと将冴の頭に手を置いた。

 

 

「その悔しさは、奴を殴るときまで取っておけ」

 

「うん……その時は、狼牙の分まで殴るよ」

 

「ああ、奴の顎を砕く勢いでやってしまえ」

 

「ふふ、僕の義手も壊れちゃうよ」

 

「そうだな。……さて、帰るとするか。さすがに腹が減った」

 

「その前に、織斑先生に怒られに行こうか」

 

「IS無断使用に大規模な戦闘……出席簿が落ちてくるな……」

 

「さすがに僕も落ちてきそうだなぁ……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

スパーッン

 

学生寮の寮長室に鋭い音が一つ響いた。

 

 

「何故俺だけ……」

 

 

頭を抑えているのは狼牙だけであった。

将冴も、今回は叩かれるという覚悟を決めていたのだが、今日も今日とて出席簿が落ちることはなかった。

 

 

「突然だったとはいえ、一言連絡をよこせ馬鹿者」

 

「主に俺の方を向いて言うのは何故なんだ?」

 

「幸いにも人がいなかったからいいものの、一般人を巻き込んでいたらどうするつもりだったのだ」

 

「す、すいません、千冬さん……」

 

「はぁ……まぁいい。今回は二人とも巻き込まれた被害者だ。これ以上は何も言わん。もう行け」

 

 

狼牙は叩かれた頭をさすりながら出て行く。

将冴も出て行こうとすると、千冬に呼び止められた。

 

 

「将冴」

 

「はい?」

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、怪我もないですし、特に問題ないです」

 

「そうか。呼び止めてすまない」

 

 

心配してくれたのかと、少し嬉しい気持ちになりながら、将冴は寮長室を出た。

 

廊下では、壁に寄りかかるようにして狼牙が待っていた。

 

 

「ごめん、待たせちゃって」

 

「気にするな。ようやくお前が叩かれない理由がわかったしな……」

 

「何か言った?」

 

「なんでもない。気にするな」

 

 

狼牙が将冴の車椅子を押そうと手をかけると、廊下の向こうからクラリッサが走ってきた。

 

 

「将冴!」

 

「クラリッサ、ただい……」

 

「ダイモンに襲われたと聞いたぞ!?大丈夫だったのか!?怪我は!?奴に変な挑発されてスペシネフを……」

 

「大丈夫だよ、クラリッサ。なんともないから」

 

「本当に大丈夫なのか……?」

 

「狼牙もいてくれたから、心配しないで」

 

「それなら……いいのだが……」

 

 

一瞬で桃色空間を作り出した二人を、狼牙は少し離れて眺めていた。




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コラボ第19話

お盆、コラボ。
このコンボはあかん←

コラボ、今回でラストになります。コラボを持ちかけてくださったラグ0109様と、読者の皆様にここで精一杯の感謝を。

そして本編遅れてごめんなさいぃぃ!


ダイモン襲撃から一夜明け、束の時空転移装置完成予定日。将冴と狼牙、クラリッサは自室で待機していた。

 

将冴とクラリッサは私服姿だったが、狼牙はここに来た時と同じ作務衣を着ていた。

 

 

「将冴、束さんから連絡は来ていたか?」

 

「ううん、何も来てないよ。まぁ、あの束さんだし、きっちり作ってくるよ。とりあえず、大人しく待ってよう?」

 

「ああ……そうだな……」

 

 

狼牙はそう言いながら胃を抑える。何やら胃の痛くなることを思い出してしまったようだ。

 

 

「狼牙、胃が痛むなら胃薬を出すが」

 

「いや、大丈夫だ。戻った後のことを思い出してな……」

 

「恋人のこと?」

 

「丸2日放置だからな……時間軸がズレていなくなった直後に戻ってくれればいいのだが……」

 

「そう都合の良いものを、束さんが作るとは思えないけど」

 

「だろうな……はぁ……」

 

 

この世界にいても、元の世界にいても、気苦労の絶えない狼牙に将冴とクラリッサは同情する。実際にどんな苦労をしてきたかを聞いたわけではないが、相当なものだったのだろう。

 

 

「そういえば、他の人に挨拶してきたの?セシリアとか、ラウラとか」

 

「いや、織斑先生にしか伝えていない。みんなには世話になったが、俺みたいな平行世界の人間はすぐに忘れた方が良い。もう会うこともないんだ」

 

「ずいぶんさみしいこと言うね」

 

「その方が、別れが辛くなくていい」

 

 

まるで同い年とは思えないほど、その大人びた狼牙の姿は将冴に違和感を植え付ける。

 

前々から、同年代とは思えない落ち着きを見せていた狼牙であったが、今は際立っている。

 

 

「狼牙……君は……」

 

「はいどーん!束さんが満を持して登場だよーん!」

 

 

扉を砕かん勢いで部屋に部屋に突撃してきた束により、将冴の言葉は最後まで発せられることはなかった。

 

 

「篠ノ之博士、もう少し優しく扉を開けていただかないと……」

 

「これくらいで壊れるほどヤワじゃないよぉ。それより!束さんはちゃんと約束を守って完成させてきたのだよ!」

 

 

そういう束だが、その傍にはそれらしきものが見当たらず、束自身も手ぶらで何も持っていない。

 

 

「その現物はどこなんだ?」

 

「ラボに置いてきたままだよ?」

 

「そんな当たり前じゃんみたいな顔されても……」

 

「結構大きいから、持ってくるのは無理があったんだよねぇ。でも大丈夫!座標を特定すれば、そこに次元トンネルを作れるからだいじょぶだいじょぶ!」

 

「次元トンネルって新しい単語が出てきたけど、突っ込まない方がいいよね……」

 

「どうせ俺たちの知識では到底分かり得ない説明をされるだけだ、そっとしておこう」

 

 

束の頭脳こそ、次元を突き抜けているのではないかと思う三人である。

 

 

「さてさて、ろーくん。準備はいいかな?」

 

「ああ、手荷物などもないしな」

 

 

狼牙こ返事を聞くと、束は通信機を取り出し、どこかにかけ始めた。おそらく、ラボにいるクロエに時空転移装置の操作を頼んでいるのだろう。

 

 

「将冴、短い間だったが世話になった。お前がいなかったら、もう少し自体はややこしくなっていただろう」

 

「ううん、僕もダイモンの時助けてもらったし、お互い様だよ。元の世界でも元気でね」

 

「ああ。お前も、負けるんじゃないぞ」

 

 

狼牙は拳を将冴の前に突き出す。

将冴はそれを見て、ニカっと笑みを浮かべると、その拳に自分の拳をコツンとぶつけた。

 

 

「もちろんだよ」

 

 

その瞬間、部屋に光の柱が現れる。

これが束の言うところの、次元トンネルなのだろう。

 

 

「あとはここを通れば、元の世界に戻れるよ」

 

「世話をかけたな、束さん。クラリッサ、将冴と末長く幸せにな」

 

「当たり前だ」

 

「その言葉で安心した。では、帰るとしよう」

 

 

狼牙はそういうと、将冴たちに背を向けヒラヒラと手を振り、光の柱へ入っていった。

 

 

「じゃあね、異世界の狼さん」

 

 

狼牙が光の柱の中に消えたのち、柱もすぅっと消えていく。

 

 

「まだまだ持続時間に難ありだねぇ。改良が必要そうだ」

 

「束さん、時空転移装置はもう使わないでくださいって言ったら、怒りますか?」

 

「……しょーくんならいうと思ったよ。気にしなくても大丈夫。もうあれを動かせるだけのエネルギーはないからね」

 

「そうですか……なら良かったです」

 

「将冴……」

 

「……暇になっちゃったね。クラリッサ、デート行こっか」

 

「え、ああ!行こう」

 

「ねぇ!束さんは!?」

 

「「ラボに帰ってください」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丸2日もどこ行ってたんですか!?」

 

「狼牙……心配した!」

 

「これは、お仕置きしなきゃね〜」

 

「少しは俺の話を聞いてはくれまいか……」




これにて、「インフィニット・ストラトス〜狼は誰が為に吼える〜」とのコラボは終わりでございます。

ラグ0109様の方では、将冴君がお邪魔していますので、そちらもぜひご覧ください。

そして次回の更新から本編に戻ります。

一ヶ月も本編置き去りにして申し訳ありません。次回から新しい章……最終章に入り、物語も佳境へと突き進んでいきます。

お盆の時期ですので、更新は不定期になってしまいますが、楽しみに待っていただければ幸いでございます。

それではまた次回。


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偽りの体と偽りの心
164話


久しぶりの本編。新しい章にして最終章の始まりです。

書き始めた当初、夏休みまで行かない予定だったのに、ここまできました。何卒、最後までお付き合いください。


 

朝。

僕はゆっくりと体を起こし、伸びをした。

 

ふとデジタル時計に目を移すと、日付は9月1日。今日から学校が始まる。夏休み最終日……つまり昨日は、留学やらなんやら疲れが出たのか、体調が優れず1日部屋で過ごした。まぁ、クラリッサとずっと一緒にいられたからいいんだけど。

 

因みに、クラリッサなら僕の隣で静かな寝息を立てている。昨日は夜遅くまでずっと話していたから。

 

……やましいことは何もしてないよ?

 

 

「クラリッサ、起きて」

 

「ん……将冴、おはよう」

 

 

寝ぼけ眼をこすりながら体を起こしたクラリッサ。クラリッサはいつも僕より早く起きてることが多かったから、この姿を見るのはごく稀だ。

 

 

「おはようクラリッサ。よく眠れた?」

 

「ああ、問題ない。コーヒーを淹れてくる。将冴は先に顔を洗ってきてくれ」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 

そう言いながらベッドを出るクラリッサの腕を掴み引き止める。

 

 

「え……」

 

 

そして困惑するクラリッサを引き寄せ、そのまま唇を奪った。

 

 

「……ふふ、おはようのキス」

 

「な、な……不意打ちは卑怯だ!」

 

 

顔を真っ赤にして怒るクラリッサから逃げるように、僕は洗面所へ向かった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

朝食を食べ終え、クラリッサと職員室前で別れた僕は1年1組の教室へと向かった。みんなと会うのは久しぶりだな。シャルには最近会ったけど。

 

……そういえば、マドカはどうしたんだろう?あの後の話は何も聞いていないし、もう帰ったのかな?後で連絡しよう。

 

教室の扉を開けると、そこには一夏を囲むように専用機組が集まっていた。2組の鈴も一緒だ。

 

 

「みんな、おはよう」

 

「将冴!久しぶり」

 

 

いの一番に一夏が返してくる。それに続いて、みんなも僕を見て声をかけてくる。

 

「おはよう将冴。元気そうで何よりだ」

 

「ラウラさんが、昨日将冴さんが体調を崩したと聞いて心配しましたわ」

 

「本当よ。あんたが体調崩すなんて珍しかからね」

 

「兄さん、無理をしてはいけないぞ?」

 

 

はは、みんな相変わらず過保護だなぁ……。2学期も扱いは変わらなさそうだ。

 

と、シャルが僕の方を見て何やらニヤニヤしている。これはアレだ。黒シャルだ。

 

 

「昨日はお楽しみだったみたいだね」

 

「シャル、そのネタをどこで仕入れたのかは知らないけど、シャルの思ってるようなことはなかったからね?」

 

「なぁんだ、からかい甲斐がないなぁ」

 

 

シャルとラウラは僕とクラリッサの関係を知っているからね……。ラウラはこういう風にからかってきたりしないんだけど、シャルは全力でいじっていくようだ。

 

……専用機組には話さないといけない。

 

 

「ねぇ、みんな。近況報告も兼ねて、お昼一緒に食べない?」

 

「おう、いいぜ。将冴の留学の話も聞きたいしな」

 

「私も兄さんの留学の話は詳しく聞いていない。クラリッサは何か知っている風だったが……」

 

「まぁ、その辺は昼休みにでも。そろそろ先生来るし、今はこれくらいにしておこう?」

 

 

僕の言葉で、各々自分の席に戻り(鈴は2組の教室へ)予鈴とともに織斑先生、山田先生、クラリッサが入ってきた。

 

クラリッサはすぐに僕の後ろへと歩いてくる。いつもの定位置とでも言うべきか、クラリッサは授業中は大体僕の後ろにいる。

 

私語厳禁なので、僕はクラリッサにニコリと微笑みかける。あ、顔が赤くなった。

 

 

「諸君、夏休みの間、特に事故などがないようで何よりだ。だが、2学期は今後の進路に関わる重要な時期である。各々、気持ちを切り替えて過ごすように」

 

『はい!』

 

 

揃った声で返事をすると、織斑先生は満足そうな表情を浮かべ山田先生にホームルームを引き継いだ。

 

 

「みなさん、お久しぶりです。早速ですが、このクラスに、またまた新しい仲間が増えることになりました!」

 

 

山田先生の言葉に、クラス中がざわめき始める。

新しい仲間……まさか……。

 

 

「勿体ぶっても仕方ないので、入ってもらいましょう」

 

 

山田先生がそう言うと、教室の扉が開き一人の女生徒が入ってきた。

 

その人は、織斑先生をそのまま小さくしてIS学園の制服を着せた……っていうか、あれって……。

 

 

「柳川マドカ。柳川将冴の従姉妹だ。よろしく頼む」

 

 

珍しく、1年1組が静まり返った瞬間だった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

誰も何も言葉を発せないまま、ホームルームは終了し始業式の行われる講堂へと移動した。クラスで一番落ち着きを払っているであろうラウラでさえも動揺を隠せていなかった。

 

それはそうだ。突然、織斑先生の生写しのような人が僕の従姉妹を名乗り現れたのだから。

 

僕だっておいつけていないよ。始業式の話が入ってこないくらいにはいっぱいいっぱいだ。

 

なんでマドカがこんなことになっているんだ。束さんの差し金だろうけど、いったい何を考えて……

 

 

「将冴、険しい顔をしてどうした?」

 

「誰のせいでこうなったと……はぁ」

 

 

なんの因果か、僕の隣に件のマドカが座っている。

マドカは首を傾げているが、君がことの発端なのを自覚してほしい。

 

 

「よくわからないが、すまない」

 

「別に謝るようなことじゃないけど……まぁいいや。夜、僕の部屋に来てくれる?話を聞かないといけないから」

 

「わかった。それならば、ルームメイトにも一言言っておかないとな」

 

「ルームメイトって、誰?」

 

「更識楯無だ」

 

「……」

 

 

開いた口が塞がらないとはこのことだ。

はぁ……2学期も2学期で波乱の予感がする……。




一人称を久しぶりに書いた!楽しいよぉ!

明日から3日間、ちょっと不定期になります。お盆だから許してください……。


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165話

ラグさんの方のコラボ回も最終話が掲載されました。

自分のキャラを使っていただくというのは、なんというか恐れ多いですね。

思えば、私がTwitterでコラボしたいとつぶやかなければ、コラボは実現しなかったわけで……お互いに毎日のようにああじゃないこうじゃないと話し合いながらコラボを書くのは楽しかったです。

今度コラボやるときは、もう少し時間が取れるときにしようと決意しました……。


 

午前中の授業が何事もなく終了し、昼休み。

 

みんなマドカに話しかけることができず、教室はずっと緊張感に包まれていた。はぁ、仕方ない。昼休みは近況報告することになっているから、専用機組にマドカを紹介しよう。

 

……っと、クラリッサはお昼は仕事あるのかな?

 

 

「クラリッサ、お昼はどうするの?」

 

「少しやらなければならないことがある。すまないが、一緒にいられない……」

 

「わかった。お仕事頑張ってね。僕も、専用機組に伝えてくるよ。僕とクラリッサのこと」

 

「ああ、私も織斑先生と山田先生にそれとなく伝えておく」

 

「うん、お願い。何かあったらすぐに伝えて」

 

「こちらの台詞だ。それじゃ、また午後の授業で」

 

 

クラリッサは教室を出ていく。

夏休み明けでも、忙しそうだな……。クラリッサの場合は、ドイツ軍との二足の草鞋だし、余計に大変だろう。

 

さて、マドカを誘うとしよう……と、その前に。

 

 

「一夏、お昼なんだけど、先に行っててもらえる?」

 

「ん?ああ、別に構わないけど、何かあったのか?」

 

「うん、マドカも誘おうと思って。みんなに紹介しないとと思ってね」

 

「そうか。まぁ、俺も気になっていたし、そうしてくれた方がありがたいかもな」

 

「そう言ってくれて助かるよ。それじゃ、マドカと一緒にそっちに行くから」

 

「おう、待ってるぜ」

 

 

一夏はそう言うと、専用機組を連れて教室を出て行った。ラウラとシャルは心配そうに僕の方を見ていたけど、僕が軽く手を振ると、安心したのかそのまま一夏について行った。

 

 

「マドカ」

 

「ん、将冴か」

 

 

マドカは窓際の席でじっと座っていた。僕が話しかけて、漸くこちらに顔を向けたくらいだ。

 

 

「お昼、一緒に食べない?一夏達にマドカのことを紹介したいし」

 

「構わない。行こう」

 

 

気持ちいいくらいの即断即決。

まぁ、悩まれるよりはいいんだけど……。

 

マドカは僕の車椅子を押して食堂へ向かった。

 

食堂に着くと、一夏達はすでに昼食を持って席についていた。僕とマドカは手早く洋定食を頼み、それを手に一夏達のところへ向かった。

 

 

「みんな待たせてごめんね」

 

「そんなに待ってないから大丈夫だ」

 

「とりあえず、ご飯食べながら話そうか」

 

 

僕がそう言うと、みんないただきますと言いながら昼食に手をつける。マドカも少し遅れながらもいただきますとつぶやき、洋定食を食べ始めた。

 

 

「それじゃ、まずマドカの紹介するね。えっと……マドカは僕の従姉妹で……」

 

 

しまった、それ以上に口裏を合わせる情報を持っていない……。

 

すると、マドカは流暢に語り始めた。

 

 

「将冴と同じ、MARZ所属だ。お互いに従姉妹同士と知ったのはつい最近だから、お互いにそんなに詳しくない。今回はMARZ社長の厚意でIS学園に編入した」

 

 

事前に決めてあったかのように話すマドカ。僕にも事前に伝えて欲しかったのだけれど……。

 

 

「織斑千冬に似ているとよく言われるが、特別に交流があったわけでもない」

 

「そうなのか……いや、千冬姉にめちゃくちゃ似てるから、千冬姉の隠し子かと思ったぜ」

 

「年齢的にそれはないでしょ。っと、自己紹介しなきゃね。私は2組の凰鈴音。気軽に鈴って呼んで」

 

 

鈴を皮切りに、みんなが自己紹介していく。

マドカは表情を変えず黙って聞いていたけど、多分みんなのこと資料か何かで事前に知っているんだろうな……。

 

 

「将冴と同じ会社ってことは、束さんの会社だよな?」

 

「うん。夏休みに束さんのところに行ったら、そこでマドカと会ってね。従姉妹がいたなんて知らなかったけどねぇ、ハハハー」

 

 

嘘っぱちなんだけどね。

 

 

「そうか。まぁ、マドカの詮索はこれくらいにしておいて、みんな夏休み何していたか聞かせてくれよ。俺は……」

 

 

それぞれ夏休みのことを話していく。

 

一夏は雪羅の特訓を織斑先生につけてもらっていたらしい。夏休みびっちりやれば、かなりの力はついただろう。

 

箒は実家であった篠ノ之神社の手伝いに帰っていたみたい。祭で神楽舞をやったらしい。少し見てみたかったかも。一夏は見に行ったみたいだけど。

 

セシリアはイギリスに帰って、いろいろとやることがあったようで、忙しい日々を過ごしたという。帰ってきたのも、僕の1日前だという。

 

鈴は日本に残って、中学の頃の友達と会っていたという。僕もしばらく会ってないなぁ……。

 

シャルはフランスに帰って、お父さんといろいろ話してきたという。まぁ、僕は一度フランスで会ってるから、知っているんだけど。仲よさそうでよかった。

 

ラウラはドイツ軍の仕事に追われたと嘆いていた。隊長さんだから、仕方ないよね。クラリッサが手伝うくらい溜まってたっていうし。

 

そして、とうとう僕の話となった。

 

 

「僕はずっと海外だったかな。ドイツで両親の墓参りして、ラウラの隊の新人さん相手に教官みたいなことしていたし。アメリカ留学も、結構有意義に過ごせたよ。アメリカ軍の教官や代表候補生、国家代表の人にもあったよ。あとは、MARZの方に顔を出した……くらいかな」

 

「お前、夏休みほとんど休めてないんじゃないのか?」

 

「そんなことはないよ。まぁ、少し疲れが出たからか、昨日は体調崩しちゃったんだけど……」

 

 

みんなにそれだけやっていたら体調崩すのは当たり前だ、と突っ込みを入れられながらも、近況報告は一通り終わった……いや、まだ伝えてないことがあった。ていうか、さっきからシャルとラウラがこっちを見ている。

 

僕はシャルをそんな妹に育てた覚えは……。ラウラはシャルに入れ知恵されたせいだな……。

 

 

「あ、あと一つ報告があるんだ」

 

 

僕の言葉に、みんながこちらを向く。うっ……そんなに注目しなくても……。

 

 

「えっと、そのぉ……」

 

「お兄ちゃん、早く聞きたいなぁ」

 

「シャルは黙ってて……」

 

 

はぁ、と一息つき、僕は意を決して言葉にした。

 

 

「クラリッサと付き合うことになりました」

 

 

途端にみんなしぃんと静まり返る。

え、なんかリアクションないの?

 

 

「今まで付き合ってなかったんですの!?」

 

「え、そっち?」

 

「てっきり、もう付き合っているものだと思っていたぞ」

 

 

セシリアと箒にそう言われる。

今までそう思われていたの……?

 

 

「いや、あれは俺でも付き合ってんだなと思うくらいだぜ?」

 

「一夏にまでそう思われていたのか……」

 

 

ということは、もしかしてクラスのみんながそう思っている……?

 

シャルとラウラはすでに知っていたから、どこ吹く風といった風だが、鈴はというと……。

 

 

「ちゃんと言えたんだ」

 

 

僕の考えていることをすでに知っていたからか、みんなとは反応が違った。

 

 

「うん……少し素直になろうと思ってね」

 

「いいじゃない。また少し、将冴のこと知れたわ」

 

 

そう言うと、鈴は食べ終わった食器を持って立ち上がった。

 

 

「じゃ、私はもう行くわ。やらなきゃいけないこと思い出したから」

 

 

鈴はそのまま食器を片付け、食堂を出て行った。

……鈴に話してよかったかもしれない。こういうの鈴はとても大きな存在に見える。

 

 

「将冴」

 

 

隣に座っていたマドカが僕を呼んだ。

 

 

「どうしたの?」

 

「今、更識楯無がボイスレコーダーで将冴の話を録音していた」

 

「……え?」




楯無が漸く本格始動。


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166話

お盆休み、いかがお過ごしでしょうか。
作者はなんだか色々振り回され、ようやっと落ち着きました。

今日から本格的に更新を再開していこうと思っています。


 

拙い……非常に拙い……。

まさか楯無さんが気配もなく僕たちの会話を聞いて、尚且つ録音までしていくなんて……。

 

しかも相手は生徒会長。このことが学内にバラされでもしたら……考えるのも恐ろしい。欲望に忠実なIS学園生徒だ、どうなるかわからない。ついでに日本政府からも何を言われるか……絶対に変なこじつけされて、ドイツがハニートラップを仕掛けただの言ってくるに決まってる。男性IS操縦者は恋愛も自由にできないのか……。

 

とまぁ、頭の中は大パニックに陥っており、昼食を食べ終えた僕は、生徒会室前にいた。

 

とりあえず、周りにバラされる前にどうにかしなければ……。

 

コンコンと生徒会室の扉をノックすると、一言どうぞと返ってきた。

 

 

「失礼します」

 

 

扉を開け、中に入るとそこには楯無さんと……確か3年の虚さんだったかな?その2人がいた。

 

 

「あら、将冴君。お久しぶりね。夏休みは留学に行っていたようだけど、楽しく過ごせたかしら?」

 

 

楯無さんが扇子を開くと「満喫」という文字が描かれていた。あの扇子どうなってるんだ……。

 

 

「ええ、まぁそれなりに」

 

「煮え切らない返事ね。まぁ、いいわ。それで、どんなご用件かしら?」

 

「とぼけないでください。さっき、食堂で僕達の話を録音していたんですよね?」

 

「マドカちゃんに聞いた?だって面白そうだったから」

 

「それをどうするつもりですか?」

 

「そんな怖い顔しないでよ。悪いようにはしないわ。それより、お茶でも飲まない?虚」

 

「はい、どうぞ。将冴さん」

 

 

いつの間にか、虚さんが紅茶を淹れてくれていたようだ。

 

 

「ありがとうございます。虚さん」

 

「いえ、お構いなく」

 

 

そのまま飲まないのも失礼なので、とりあえず一口いただく。あまり紅茶は飲まないけど、これはこれでいいものだ。

 

 

「それで、さっき録音したこれをどうするかって話よね?」

 

「ええ。できれば、そのまま削除していただきたいのですが……」

 

「嫌よ。こんな面白そうなもの」

 

「ですよね……」

 

 

さて、どうしたものか……悪いようにはしないと言っていたけど、どこまで信用したものか……。

 

 

「将冴君は、このことが公になって欲しくないのよね?」

 

「はい。僕だけでなく、クラリッサにも迷惑をかけてしまいますので」

 

「ふふ、それはそれで面白そうだけど。安心して、公にしたりしないわ。ただし……」

 

「ただで、というわけではないということですね?」

 

「話が早くて助かるわ」

 

 

楯無さんは椅子から立ち上がると、何やら一枚の紙を取り出し僕に突きつけた。

 

その紙には、大きく生徒会所属願と書かれておりその下には細々と注意書きがなされている。

 

 

「……僕に生徒会に入れと?」

 

「ええ。IS学園は必ず部活動に所属していなければならないのは知っているわよね?」

 

 

そういえば、そんなことが校則に書いてあったような……すっかり忘れていたよ。周りから何も言われなかったし。

 

 

「君と、あと織斑一夏君ね。2人ともどの部にも所属していない。生徒会としても、そのまま見過ごすわけにはいかないのよ。実際、いろんな部からクレームが来てるからね」

 

 

どの部も、そんなに男が欲しいというのか……。

 

 

「どうかしら?君のその体じゃ、どの部活でも不便だろうし、生徒会ならそれなりの待遇を……」

 

「いいですよ」

 

「……え?」

 

「将冴さん、よく考えて決めた方が……楯無会長に関わっても、ロクなことがありませんよ?」

 

「虚ちゃん、それどういう意味!?」

 

 

今まで殆どしゃべらなかった虚さんが、慌てたように声を上げた。いやまぁ、本当ならクラリッサとか織斑先生に相談した方がいいんだろうけど。

 

 

「今のところ、僕に対するデメリットはありません。録音データが広まらないならそれでいいですし、元はと言えば僕がどこの部活にも所属していたせいですし」

 

 

僕の言葉に、楯無さんと虚さんは顔を見合わせる。

 

 

「それに、どうせ断っても何かしらの理由をつけられて生徒会に入れられるんだと思いました。楯無さん、そういうところ頑固そうですし」

 

「ちょっ!?」

 

「ぷっ、ふふ……」

 

 

予想外の答えが返ってきたからか、楯無さんは焦ったような表情を浮かべ、虚さんはたまらず吹き出した。

 

 

「ちょっと虚ちゃん!笑わないでよ!」

 

「申し訳ありません……でも、その通りだと思って……ふふ」

 

 

などと2人がじゃれあっている間に、僕は所属願に名前を記入した。

 

 

「書きました」

 

「はい、確かに受け取りました。これからよろしくお願いします、将冴さん」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「将冴君、これからお姉さんがビシビシと……」

 

 

その時、楯無さんの言葉を遮るように午後の始業のチャイムがなった。

 

 

「あ、授業始まりますね。それでは僕は失礼します」

 

 

僕はそそくさと生徒会室をあとにし、1組の教室へ急いだ。

 

 

「……」

 

「生徒会長?」

 

「な、なんてやりずらい子なのかしら……」

 




前々から、将冴は生徒会に入れようと思っていました。

……楯無を攻略するためじゃないですよ?(震声


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167話

どうも作者です。

年上全部落とすつもりで書いていましたが、今後は特にそういうことはないと思われます。楯無も、先輩後輩の仲のまま進みますし、篝火ヒカルノも攻略しません。

これ以上は作者のキャパオーバー&そこまで話を膨らませられない……


 

昼休みになし崩し的に生徒会に入ることになり、そのまま午後の授業を終えて放課後。

 

僕はクラリッサに昼休みの出来事をすべて話した。

 

 

「ふむ……将冴が決めたことなら異存はない。しかし、更識楯無も面倒なことをする……」

 

「まぁ、今回は僕が迂闊に話してたせいでもあるから。今回のことがなくても、そのうち楯無さんは僕のことを生徒会に誘うつもりだったと思うよ」

 

 

男性IS操縦者を野放しにするのは、生徒会としては望むところではないのだろう。今回の件は、たまたま起こったチャンスだったというだけだ。

 

そういえば……。

 

 

「クラリッサ、織斑先生と山田先生にそれとなく伝えるって言ってたけど、上手くいった?」

 

「いや……実は上手くいかなくてな……タイミングを計っていたのだが、少し忙しくて……」

 

「そっか……まぁ、仕方ないね。夜にでも織斑先生のところにでもお邪魔しよう。マドカのことも聞きたかったし」

 

 

それに、ダイモンについても話さなきゃ。敵が明確に分ったなら、対策も打てるかもしれない。

 

 

「将冴」

 

 

色々思考を巡らせていると、僕を呼ぶ声が。

そこには織斑先生が立っており、その隣には山田先生もいた。

 

 

「織斑先生?山田先生も、何かありましたか?」

 

「少し話がある。束に関係する話、といえばわかるか?」

 

「……はい」

 

 

織斑先生には、すでに伝わっていたようだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

生徒指導室に連れてこられた僕とクラリッサは、織斑先生と山田先生と対面する形で座った。

 

織斑先生は何やら紙の束を持っており、それに目を通しながら語りかけてくる。

 

 

「マドカが束に頼まれて私に届けた資料だ。ダイモンのことが事細かに書かれている。ようやく納得がいったというところだな」

 

 

束さんはずっと織斑先生にダイモンのことを伝えてなかったようだ。この資料を見てやっと存在を知ったということだ。

 

 

「今まで伝えずにいてすいませんでした……」

 

「いや、束がこれを私に伝えてきたということは、お前もダイモンの存在を知ったのはつい最近なのだろう。気にすることはない」

 

 

織斑先生と束さんの間でどんな話がなされていたのかは知らないが、僕がダイモンのことを知るまで束さんは話すつもりがなかったのだろうか。

 

 

「正直、全てが全て信じられるわけではないがな。だが、将冴。お前は実際に被害を受けてきている。IS学園としても、生徒が危険にさらされているのに手をこまねいているわけにはいかない」

 

「というと……」

 

「IS学園は、事態の収拾に取り掛かる。学園も被害を受けているからな。やられてばかり、というわけにはいかない」

 

「織斑先生、すごく悔しかったんですよ。将冴君が傷つくところを見ていることしかできなかったから……」

 

「余計なことは言わないでもらえるか?山田先生」

 

「す、すいません……」

 

 

織斑先生がキッと山田先生を睨むと、山田先生は涙目になりながら縮こまってしまう。

 

学園もダイモンの件に介入するとは……こんなこと予想していなかった。

 

 

「将冴、もう一人で抱え込むんじゃないぞ」

 

「……はい!」

 

 

こんなに頼もしいものはない。

僕一人の戦いじゃないんだ。

 

 

「話は以上だ。今後のことは、追って伝える」

 

「ありがとうございます。織斑先生、山田先生」

 

「将冴君は、いつも通りに学園で生活してくださいね」

 

 

話はダイモンのことだけだったようだ。長居しても仕方ない。

 

 

「将冴、行くぞ」

 

「うん。……あ、ちょっと待って」

 

 

僕はクラリッサと生徒指導室を出ようとした時、伝えなければならないことを思い出した。

 

 

「織斑先生と山田先生に伝えておくのを忘れていました」

 

「何かありましたか?」

 

「はい。えっと……」

 

 

やはり、いざ言うとなると口ごもってしまう。

 

 

「どうした、早く話せ」

 

「は、はい!えー……僕、クラリッサと付き合うことなりました」

 

「そうか。やっとか」

 

「お二人とも、おめでとうございます」

 

 

やけにあっさりと答えが返ってきた。

この2人の気持ちはなんとなくだけど、気づいていたつもりだったけど……。

 

 

「すいません。本当は昼休みに私が伝えるつもりだったのですが、なかなかタイミングがつかめず……」

 

「それで昼休みにソワソワしていたのか。そういうことは早めに伝えろ。仕事中に落ち着きがなかったら迷惑だ」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「今後は公私の区別はしっかりしましょうね。将冴君もですよ?」

 

「それはもちろん……」

 

「話はそれだけか?」

 

「あ、はい。お時間取らせてしまってすいません」

 

「それでは失礼します」

 

 

僕とクラリッサは生徒指導室を退室する。

 

ん〜……なんだか、2人ともぎこちなかったような……。無理しているような感じと言えばいいのかな。

 

……考えてもわからない。とにかく、目的を果たせたので良しとしよう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ふぅ……ようやく、といったところか」

 

「はい。……織斑先生、大丈夫ですか?」

 

「何がだ?」

 

「だって、織斑先生も将冴君のこと……」

 

「それは山田先生も一緒だろう」

 

「それは……」

 

「……クラリッサと将冴がああなることは前からわかっていたことだ。それまで、少し夢を見ていただけだ」

 

「織斑先生みたいに、割り切れればいいんですが……」

 

「……」

 

「私には、少し荷が重いみたいです」

 

「山田先生。今晩、私の部屋に来い。愚痴を聞いてもらう」

 

「……はい、お伴します」




強敵をなぎ払い、将クラ大勝利。

求めていたのはこれだよ……


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168話

気づけば次回で総話数200話です。
小説検索でも、話数が多い順に探した方が早いというところまできました。

200話記念……というのもやってみたかったですが、何も準備ができなかったです。もし、読者の方でこれやって欲しいなどございましたら、ご一報下さいませ。ただ、作者のリアルとの相談となるので、全部できるというわけではありませんので、ご了承くださいませ。


 

織斑先生達と話をしたあと、今日はなんだか訓練する気分でもなくなってしまい、クラリッサと適当に時間を潰して夕食を食べて、部屋に戻ってきた。

 

マドカには、夜に来るように言ってある。マドカのことだから夕飯を食べ終わったらすぐ来るだろうけど……まぁ、来るまでチーフからもらった戦闘教義指導要綱でも読んでよう。

 

僕はベッドに腰掛けて戦闘教義指導要綱を開いた。クラリッサは僕の隣で指導要綱を覗き込んでいた。

 

 

「それは、アメリカでもらったのか?」

 

「うん。僕を指導してくれたチーフさんに。結構実践的なこと書いてあるから、読み込もうと思って」

 

「ふむ……指導要綱13『一撃必殺』、指導要綱20『援護防御』……これはよくできたマニュアルだな」

 

 

何度読んでいるこの指導要綱だが、本当にためになることしか書いていない。今度の訓練で試してみよう。

 

と、その時。コンコンと扉をノックする音が聞こえた。多分マドカだろう。

 

 

「マドカか?」

 

「そうだと思う。どうぞ」

 

 

僕の声が聞こえたのか、扉を開き部屋に入ってくる。予想通り、それはマドカだった。

 

 

「邪魔する」

 

「いらっしゃい、マドカ」

 

「何か飲むか?」

 

「気遣い無用だ。さっさと用事を済ませよう。消灯時間が過ぎる」

 

 

なんだか変なところ律儀だな、マドカは。まぁ、いいんだけど。

 

 

「そうだね。それじゃあ、単刀直入に聞くけど、どうしてIS学園に生徒として来たの?」

 

「束に頼まれたからだ。織斑千冬に資料を届けて、この学園に入り将冴を守れ、と」

 

「僕を?」

 

「束が、ダイモンは今までのような生半可なことはしない。もっと襲撃は苛烈さを増す。下手をすれば、将冴やその周りの人が傷つきかねない、とな。織斑千冬にもこのことは伝えてある」

 

 

……束さんが僕の周りの人を心配したことに驚きだけど、それは今は置いておこう。学校公認と言うのなら何も問題はない、ということなのかな?

 

 

「将冴。ダイモンが執拗に将冴にスペシネフを使わせようとしているのには何か理由がある。束もそれについてはわかっていない。だが、将冴も念を押されているように、スペシネフは危険だ。私も直接見たわけではないが、あれが危険なことだけはわかる」

 

「そう……」

 

 

正直、スペシネフを使った時のことはあまり覚えていない。記憶が飛ぶほどの負の感情……もしそれに飲み込まれたら……。

 

 

「将冴……」

 

 

クラリッサが不安そうな顔を浮かべる。

 

 

「そんな不安な顔しないでよ、クラリッサ。大丈夫、ドイツの時だってなんとか抑えられたんだから」

 

「……ああ。私は将冴を信じてるからな」

 

「ありがとう」

 

 

そう言うクラリッサだったけど、不安は拭いきれないみたいだ。

 

……今考えても仕方ない。とりあえずマドカに話の続きを……。

 

 

「マドカがここに来た理由はわかった。次なんだけど……どうして僕の従姉妹ってことになったの?」

 

「織斑という名字では色々と誤解を招き、動きずらいと思ってな。将冴を守るために来たのだし、将冴の近くにいて周りに怪しまれないようにするにはと考えた結果だ。ちなみに織斑千冬の提案だ」

 

 

千冬さん……あらかじめ伝えてください。

 

 

「どうして一番伝えなきゃいけない人に情報が伝わっていないのか……」

 

「心配させたくないそうだ」

 

「伝えてくれた方が良かったよ!」

 

「それは……すまない」

 

 

マドカは悪くないのに謝らせてしまった……。いや、これくらいは許してほしい。

 

マドカが教室入ってきた時、本当に頭が痛かったんだから!

 

 

「マドカ、ダイモンがいつ襲撃してくるなどはわかっているのか?」

 

「束が予測を立てていた。100%その日と断定したわけではないが」

 

 

さすが束さん、といったところか。でも、あの人が断定しないというのは、なかなかに珍しい……。

 

 

「それはいつだ?」

 

 

クラリッサは気が気じゃないようで、かなり必死になっている。心配してくれる人がいる、というのはなかなかにいいものかな。

 

少し申し訳ない気持ちになってしまうけど。

 

 

「今月末……学園祭の日が一番怪しい、と」

 

「学園祭か……よく束さんが行事のこと覚えていたね」

 

「将冴、そこじゃないだろう……」

 

 

珍しくクラリッサにツッコミを入れられてしまった。いや、昔から束さんを知ってる身としては、なんだか束さんが成長しているようで嬉しいのだけれど。

 

 

「聞けば、学園祭は外部の人も呼び込むのだろう?」

 

「詳しくは知らないけど、確かそうなっていたはず。明日、学園祭について詳しい説明あるみたいだけど」

 

「そうか。とにかく、その日は学園外から来る人でごった返す。襲撃するにはうってつけの日だ」

 

「そうだね。ダイモンからすれば、こんな好機はない。このこと、学園側は?」

 

「千冬を通じて伝わってると思う。対策はこれからになるだろう」

 

 

千冬さん、さっきわざと黙っていたのかな……。僕に負担をかけないようにということなのかな。

 

 

「……うん、大体わかった。ありがとうマドカ」

 

「いや、もう少し早く伝えるべきだった。すまない」

 

「謝らなくていいよ。マドカも大変だったんでしょ?楯無さんの相手とか」

 

「ああ……何かと絡まれてな。今日も、ここに来る前にしつこく言い寄られてな……」

 

「多分、織斑先生に似ているのもあると思うよ……」

 

「難儀な容姿だ……」

 

 

初めてマドカが疲れたような顔を見せた。本当に面倒だったんだなぁ……楯無さん。

 

 

「ん、そろそろ消灯時間だな。織斑千冬に捕まる前に戻る。……はぁ」

 

「その……頑張って。愚痴なら聞くから」

 

「ああ。では失礼する。今度お腹を触らせてくれ」

 

 

触るっていうか、ペチペチしたいだけじゃ……とは言えず、マドカはそのまま部屋を出ていた。

 

 

「マドカも色々と苦労しているようだな」

 

「うん、色々と辛い生き方しているみたいだからね」

 

「そうか……。私たちもそろそろ寝るか」

 

「そうだね」

 

 

僕達はさっさと寝る準備をして、同じベッドに入り手をつなぎながら眠りについた。




メインキャラにマドカが増えたことで、作者の頭はパンク寸前。

……この小説終われるのかな……


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169話

総話数200話です。
みなさんのおかげでここまで来ることができました。
前作、ゴッドイーターは60話たらずで無理やり終わらせてしまい、私としても不完全燃焼でしたが、この作品はなんとか完走したいですね。

前回、リクエストを募集しましたが、早速リクエスト送ってくださった方、ありがとうございます。全部拾って書きたかったのですが、本編の進捗状況や作者の書く時間との相談になってしまうので、多くて3つほどしか書けないと思います。

リクエストを書く際は、その方の名前を出させていただくことになるかもしれませんが、ご了承いただけると助かります。

あと、コラボ……というか、自分のキャラを使ってください、というのは今回ご遠慮願いたいと思います。コラボしたばかりで、またコラボというのは、作者自身あまり望む形ではありませんので。


 

「それじゃあ、学園祭の出し物決めたいと思います。何か意見のある人は挙手してください」

 

 

マドカと話した翌日。授業の時間を一つ潰し、学園祭の出し物を決めていた。

 

クラス代表である一夏が黒板の前に立ち、セシリアが書記として待機している。山田先生はその様子を黒板の横に置いてある椅子に座ってにこやかに眺めていた。織斑先生は決まったら教えろと職員室に行ってしまい、クラリッサは僕の後ろにいつものように立っている。

 

学園祭の出し物……無難なのは喫茶店とかだけど、この学園の生徒がまともな意見を出すとは思えないし……。

 

 

「はい!一夏君と将冴君のホストクラブ!」

「一夏君と将冴君と王様ゲーム!」

「一夏君と将冴君とツイスターゲーム!」

「一夏君と将冴君と……」

 

 

それ見たことか、内容が僕と一夏のことばかりだ。予測可能回避不可能といったところだ。

 

はぁ、どうしてこんなにも欲望に忠実なんだか……

 

 

「ああ、えっと……セシリア、とりあえず書いておいて」

 

「わかりましたわ」

 

 

黒板に無慈悲に刻まれていく僕と一夏が犠牲になると思われる出し物の数々。

 

クラリッサの方を振り向くと……うん、不機嫌なのが目に見えてわかる。でも、付き合ってることを口外しないためにも、なんとか耐えているようだ。

 

山田先生も困惑の表情を浮かべている。

 

それでもこのクラスは止まらない。

しまいには僕と一夏が題材の同人誌即売会とか言い出す人まで。本当にそれを作ってるんなら全部処分するからね。

 

と、ここで意外な人物が手を挙げた。

 

 

「お、マドカ。何かあるか?」

 

 

まだこのクラスに毒されていないであろう僕の従姉妹(仮)のマドカだ。

 

マドカなら常識的な範囲で……。

 

 

「1分間将冴のお腹を撫でれる。一回100円」

 

「マドカぁ!?」

 

「ま、マドカ……流石にそれは……」

 

「……そうか」

 

 

表情は変わらなかったが、なんとなく残念そうな雰囲気で手を下ろしたマドカ。

 

まさかマドカがあんなことを言うとは思わなかった……。

そういえば、束さんのところにいるときは、事あるごとに僕の腹筋をペチペチしていたっけ。途中から面倒くさくなってそのままにしていたけど……。

 

 

「ほかに何かないか?できれば俺と将冴限定じゃないので……」

 

 

その瞬間に手が上がっていた女子たちの手がすっと下がる。君たちどんだけ……。

 

そんな中、一人だけ手をあげる人がいた。それは僕の義妹、ラウラだ。

 

 

「メイド喫茶なんてどうだろうか?」

 

 

メイド喫茶……うん、すごいまともだと思う。大変よろしいと思います。流石僕の妹!

 

 

「メイド喫茶か……確かにそれもいいかもね」

 

「一夏君と将冴君はどうするの?メイド服着させる?」

 

「そこは執事の格好をさせればいいだろう。一夏も兄さんも料理ができるから、裏方に回れる」

 

 

ラウラがこれほど輝いて見えた事があっただろうか。

まさかクラスの人心を掌握していくとは……。

 

 

「うん、いいんじゃないかな?」

「私、フリフリのやつ着たいな!」

「私はミニスカートのやつがいいなぁ」

「和風なのもいいよね!」

 

「えっと、それじゃあメイド喫茶で決定でいいか?」

 

『意義なーし!』

 

 

無事に着陸できるようにしてくれたラウラに感謝だ。

 

 

「無事に決まったようで良かったです。それでは、学園祭の出し物はメイド喫茶という事でいいですね。あとは役割分担などを……」

 

 

山田先生が決めなきゃいけない事を伝えると、それからは早かった。服に関してはセシリアが見本を用意できるという事で、それを元に手作り。料理などに関しては、それなりに料理ができる箒やシャルが中心となってやる事となり、一夏は統括。僕はおそらく生徒会で忙しくなるから、手伝えるときにできる事をやるという事になった。

 

決める事はもうなくなったところで、山田先生が学園祭の説明をしてくれる。

 

 

「学園祭当日は、皆さんの家族や友人を呼ぶ事ができます。それぞれ生徒一人一人に招待券が渡されます。誰を呼ぶかは自由ですが、招待券一枚につき2人までとなっていますから、気をつけてくださいね?」

 

 

招待券か……誰か招待したいけど……。

 

 

「クラリッサ、これって教師の人にも配られるの?」

 

「ああ。私はルカとリョーボさんを呼ぼうかと思っていたが……襲撃があるかもしれないと考えると、な……」

 

「そうだね……でも、いいんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「僕が、全力で守るからね」

 

「そうか……私も、手を貸すからな」

 

「うん、ありがとう。……さて、そうなると、僕は誰を呼ぼうかな」

 

 

親族なんていないから、必然的に友人になる。

束さんとクロエさんは……いつも勝手に入ってくるから、招待券を渡すまでもないか。同じ理由でオータムさんとスコールさんもいいだろう。

 

その他で言うと……そうだ、あの2人がいたか。

 

 

「将冴、誰か思いついたのか?」

 

「うん。前にお邪魔したから、今度はこっちに誘うよ。ジェニーとステフを」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

放課後、僕は教室で滅多に使わないコアネットワーク通信でジェニーとステフに連絡を取った。フェイスチャットみたいな感じにできるから、便利だよね。クラリッサも僕の後ろから覗き込んでいる。

 

こっちは今16時だから、あっちは大体深夜0時頃。まだ起きてるといいけど……。

 

あ、繋がった。

 

 

「やぁ、ジェニー、ステフ。久しぶり」

 

『ショウ!久しぶり!」

 

『久しぶり。元気そうで何よりよ』

 

「突然連絡してごめんね。そっちは夜中でしょ?」

 

『気にしないで、明日はお休みだし』

 

『丁度ステフと暇してとこなのよ』

 

「そっか、なら良かった」

 

 

2人は相変わらず仲がいいみたいだ。僕としてもなかなかに微笑ましい。

 

 

『あ、クラリッサさんもいる!久しぶりです!』

 

「あ、ああ。久しぶり……」

 

 

話しかけられると思っていなかったのか、クラリッサは戸惑いながら返事をした。

 

 

『それでショウ。わざわざ連絡してきて、何かあった?』

 

「うん、実は今月末にIS学園で学園祭が行われるんだけど、よければ来ないかなと思って」

 

『学園祭?』

 

『すごい楽しそう!ね、ジェニー、行こうよ!』

 

『行こうよって、私達訓練だってあるし、チーフが許してくれるか……』

 

「難しそう?」

 

『……とりあえず、チーフに聞いてみるわ』

 

「わかった。いい返事待ってるよ」

 

『ショウ、わざわざありがとうね!』

 

『なんとか行けるように説得するわ。それじゃ、お休み』

 

「うん、お休み」

 

 

通信を切ると、クラリッサが僕の顔を覗き込んだ。

 

 

「いいのか?さっきも言ったが、襲撃があるかもしれないんだぞ?」

 

「わかってるよ。……多分、僕はかなり酷いことを考えてる」

 

「酷いこと?」

 

「うん。僕はジェニーとステフも、戦力に加えようとしてる……」

 

「……」

 

「もちろん、そうならないようにするつもりだよ。でも万が一のためにって……」

 

「将冴」

 

 

クラリッサが僕の名前を呼ぶと、僕の頭に軽く手刀を落とした。

 

 

「痛っ」

 

「将冴、余計なことは考えなくていい」

 

「クラリッサ……」

 

「お前のことは、みんなが守ってくれる。将冴もみんなを守ってくれる。だから、大丈夫だ」

 

「……うん」

 

 

珍しく泣き言を言ってしまった。

ダメだな、切り替えよう。

 

 

「よし、生徒会行こうかな」

 

「ああ、わかった」

 

 

クラリッサに車椅子を押してもらい、僕は生徒会室へ向かった。




原作、招待券一枚につき1人だったかなぁ……。
あまり覚えていなかったです。なので、原作と違います。

だってジェニーとステフ呼びたかってん!


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170話

最終章ということでやりたいことは何個もあるのですが、文にできずモヤモヤする日々でございます。

書けないときは本当に書けないですねぇ……


 

生徒会室に行くと、そこに楯無さんの姿はなく虚さんが一人黙々と書類を片付けていた。

 

 

「こんにちわ、虚さん」

 

「失礼するぞ」

 

「こんにちは、将冴さん、ハルフォーフ先生。早速来てくださったのですね」

 

「はい。学園祭とか始まりますし、微力ながらお手伝いできないかと。楯無さんは?」

 

「会長は……おそらくサボりでしょう。隙があるとすぐに仕事を溜めますから」

 

 

はは、なんか納得してしまうなぁ……。

初めて会ったときも、簪さんと一緒にISの組み立て手伝ってたし。そのときは、虚さんが連行していってたな……。

 

 

「将冴さんが真面目に来てくれているというのに、先輩がこうでは面目立ちませんね。少し探してきます、将冴さんは少しお待ちください」

 

「布仏、私が探してこよう。お前は将冴に仕事を教えてやってくれ」

 

「しかし、先生の手を煩わせるわけには……」

 

「気にするな。楯無がいなければ終わらない仕事もあるだろう」

 

 

クラリッサはそう言うと虚さんの返事を聞く前に生徒会室を出て行く。出る間際に僕に手を振っていたので、僕も振り返した。

 

 

「すみません。ハルフォーフ先生に面倒ごとを押し付けてしまい……」

 

「クラリッサがやると行ったことですから、虚さんが気にすることじゃありませんよ。それより、何をすればいいか教えてもらえますか?」

 

「はい。それではこちらの書類を……」

 

 

ドンッと鈍い音を立てて机の上に紙の束が置かれた。

これはすごい……。

 

 

「全て申請書の類です。目を通して、不備がなければそこの各印を押してください。わからないことがあれば、遠慮せず聞いてください」

 

「わかりました」

 

 

これは早速取り掛からないと終わらなそうだ……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

僕が書類に手をつけ始めて1時間。

虚さんに教えてもらいながら書類を片付けていって、ようやく半分以上が終わった。毎日こんな量をやってるんだなぁ……生徒会の人たちは大変だ。

 

 

「将冴さん、少し休憩にしましょう」

 

 

虚さんがそう言いながら僕に淹れたての紅茶をくれる。

昨日も思ったけど、いつ淹れたんだろう……。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

紅茶を受け取り、一口啜る。はぁ、落ち着くなぁ。今度紅茶も淹れてみようかな。

 

……っと、そういえば。

 

 

「クラリッサと楯無さん、遅いですね」

 

「そうですね。会長を捕まえるのはなかなかに骨が折れますから……」

 

 

虚さんが心配そうな顔をする。

多分、これはクラリッサに向けてだろう。

 

 

「まぁ、クラリッサはドイツ軍にいましたし、そのうち戻ってきますよ」

 

 

確か階級は大尉……だったかな。ルカさんから聞いた話だけど、クラリッサは本当に優秀だというから、大丈夫だろう。

 

 

「……ハルフォーフ先生のこと、信頼しているんですね」

 

「もちろん。僕の恋人ですから」

 

「ふふ、そうですか。羨ましい限りです。でも、公の場ではあまりいちゃついてはいけませんよ?」

 

「織斑先生と山田先生にも釘を刺されました。僕もクラリッサも、その辺はわきまえてるつもりです」

 

 

でも、一夏たちが言うには、すでに付き合ってるものと思ってたとか言ってたしなぁ……。あまりわきまえられていなかったかも。

 

と、ここで話題が尽きてしまった。

特に居心地が悪いわけではないけど……何か聞いておかなきゃいけない気もする。生徒会のこととか。あ、そういえば。

 

 

「僕の生徒会での役職はどうなるんでしょう?昨日聞いてなかったなと思って」

 

「そういえばそうでしたね。将冴さんは副会長ということになります。まだ正式に発表していないですし、今は仮役員ということになっていますが、学園祭が終わったら正式に生徒会に所属ということになります」

 

 

まだ正式に入っていたわけではないのか……まぁ、全生徒からはんたいされないわけでもないから、当然といえば当然か……。

 

 

「副会長か……なんだか、大層な役職についてしまいますね」

 

「空きがそこくらいしかないんです。書記も私の妹の本音が入っています」

 

「布仏さんも?……って、虚さんも布仏でしたね。本音さんもですか、生徒会に所属していたんですか?」

 

「ええ。でも、仕事をさせても仕事を増やすだけなので、あまり顔を出しません」

 

「そ、そうなんですか……はは」

 

 

本音さんも、やればできる人だと思うんだけどなぁ……。

 

と、そのとき。生徒会室の扉が少し乱暴に開かれた。

 

 

「すまない、時間がかかった」

 

「や、やっほー……虚ちゃん、将冴くん」

 

 

クラリッサが楯無さんの襟首を持ち、楯無さんはまるで連れてこられた猫のように体を縮こませていた。

 

 

「おかえり、クラリッサ。楯無さん、こんにちは」

 

「ハルフォーフ先生、お手数かけて申し訳ありませんでした」

 

「いや、こっちこそ捕まえるのに時間がかかってすまない。なかなか見つけられなくてな」

 

「まさかこの私が取り押さえられるとは……ドイツ軍侮りがたしね……」

 

 

楯無さんが悔しそうにつぶやくと、クラリッサは楯無さんを掴んでいた手を離した。

 

そのまま落下した楯無さんは「きゃん」という小さな悲鳴をあげて尻餅をつき、痛そうにぶつけた部分をさすっていた。

 

 

「痛た……ハルフォーフ先生、もう少し優しく下ろしてください」

 

「自業自得だ。会長がそんなでどうする」

 

「織斑先生みたいなことを……」

 

 

楯無さんは不機嫌そうに頬を膨らませ、自分の椅子に座った。

 

 

「虚ちゃん。お茶が欲しいなぁ〜」

 

「この書類を片付けてからです」

 

 

ズドン、と楯無さんの机に僕の倍以上の書類が積まれた。

楯無さんが目に見えて青ざめている。

 

 

「う、虚ちゃ〜ん?これはさすがに……」

 

「なにか?」

 

「なんでもないで〜す……」

 

 

楯無さんは涙目になりながら書類を手に取り始めた。

 

……僕はああならないようにしよう。そう決意し、残りの書類に手を伸ばした。

 

 

「将冴、私も手伝おう」

 

「生徒会の仕事だから、先生がやっちゃダメだと思うよ?」




書けないので差し障りない話を書く……逃げですね。申し訳ない。

リクエストに関しては、時間が取れ次第書いていきます。もう少しお待ちくださいませ。


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171話

暑い日が続きますね。
作者は元気です……多分


 

「よし、これで最後」

 

 

僕の受け持った書類を全て片付け終え、僕はぐいっと体を伸ばす。こういう事務的な作業は好きだけど、いろいろと腰とかに結構くるな。一日中座りっぱなしのことが多いんだけど、作業しているのとしていないのとでは違うか。

 

 

「お疲れ様、将冴」

 

 

実習生とはいえ、教師としてここにいるクラリッサは生徒会の仕事を手伝うことができず、生徒会室にあるソファでずっと本を読んでいた。

 

ブックカバーがされているから周りからはわからないだろうけど、それライトノベルだよね……。

 

やっと僕の仕事が終わったから、本を閉じてこちらに歩いてくる。

 

 

「待たせてごめんね」

 

「いや、構わない。読書の時間ができたと思えば、そこまで苦でもない」

 

「そっか」

 

 

っと、できた書類を放置しておくわけにもいかないな……。

 

 

「虚さん。書類はどこに置いておけばいいですか?」

 

「そこに置いたままで構いません。今日はありがとうございます。おかげで、作業がかなり進みました」

 

「いえ、生徒会に入ったからには当然ですから」

 

「うんうん、将冴君は優秀な人材ね。さすが私」

 

「会長、口より手を動かしてください」

 

「虚ちゃんイヂワル〜……」

 

「はは……」

 

 

僕はその様子を苦笑しながら眺めた。

楯無さんは文句を言いつつも、かなり書類の量を減らしているし、虚さんは僕や楯無さんの様子を見ながら書類の追加をしたり休憩を挟んだりと気を使ってくれている。

 

やっぱり二人とも優秀なんだと、改めて感じた。

 

 

「ほかに仕事はありませんか?」

 

「大丈夫です。将冴さんのおかげで、しばらく落ち着きそうですので」

 

「将冴く〜ん、私の書類手伝って欲しいなぁ〜……って、虚ちゃん顔が怖い!?」

 

「将冴さん、気にせず今日は帰っても大丈夫です」

 

「そうですか……では、お言葉に甘えさせてもらいます。お先に失礼します」

 

 

僕はそう言いながらクラリッサと生徒会室を出た。

まぁ、まだ入ったばかりだし、任せられない仕事とかもあるだろうからね。

 

 

「将冴、生徒会はやっていけそうか?」

 

「うん、楯無さんも虚さんもいい人だからね。心配しないで」

 

「そうか。もし何か変なことされたら、いつでも私に言ってくれ」

 

「ありがとう。さて、夕食食べに行こうか。もういい時間だし」

 

「ああ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

夕食を食べ終え、部屋で順番にシャワーを浴びた後、僕はベッドでクラリッサに後ろから抱きかかえられる形でチーフからもらった戦闘教義指導要綱を読んでいた。

 

クラリッサは僕を抱きかかえながらライトノベルを読んでいる。

 

思えば、こんなにゆっくりとした時間をクラリッサと過ごすのは久しぶりかもしれない。

 

クラリッサの温もりを感じながら、指導要綱を読んでいると、僕の携帯に着信が。

 

取り出して、画面を確認すると、相手は束さんのようだ。

 

 

「束さん?なんだろう」

 

 

通話ボタンを押し、電話を繋げる。

 

 

「もしもし」

 

『あ、しょーくん?この間ぶりだねぇ』

 

 

今日は落ち着いているようだ。いつものハイテンションではない。

 

 

「はい、ご無沙汰してます。束さんから電話なんて、珍しいですね」

 

『ちょっとしょーくんに頼みたいことがあってね〜。それで電話したんだよぉ〜』

 

「頼みたいこと?」

 

『バーチャロンのデータ取り。どうしても必要なデータが取りたくてね。ラボにいる間に取ればよかったんだけどその時は、まだ必要なかったから取らなかったんだよねぇ』

 

「そうですか……僕は構いませんよ?」

 

『ありがとうしょーくん!それじゃあ、明日そっちに行くね!』

 

「え、明日って」

 

『ちーちゃんには私から話を通しておくよ!大丈夫、これはしょーくんの為でもあるから!それじゃあ、また明日ね!』

 

「あ、束さ……」

 

 

僕の制止虚しく、束さんは通話を切ってしまった。んー、こちらからかけるのもあれだし、まぁいっか。

 

 

「篠ノ之博士はなんと?」

 

「なんか、明日バーチャロンのデータをとりたいから、こっちに来るって」

 

「それは……大丈夫なのか?」

 

「まぁ、束さん何回かIS学園に忍び込んでるし、千冬さんに話は通しておくとは言ってたから大丈夫だと思うけど……」

 

「どうした?」

 

「うん、なんだか胸騒ぎがする。気のせいだと思うけど……」

 

 

何か起こる予兆かな……こんな感じ、今まであんまり感じたことなかったけど……。

 

 

「明日は私も同席する。何かあっても、私が守るから大丈夫だ」

 

「うん、頼りにしてるよクラリッサ」

 

 

軽くクラリッサにキスをする。

クラリッサは顔を赤くして本で顔を隠した。

 

 

「いつも言うが……不意打ちは卑怯だ……」

 

「クラリッサもしていいよ?不意打ち」

 

「今やっても不意打ちではないではないか……」




相変わらず進まない。

焦らしすぎかな……


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172話

今回はちょっと特殊な回になります。

詳しくは後書きにて。
まずは本編をどうぞ。


束さんにデータ取りを頼まれた次の日。

学園に来ると言っていた束さんが来た様子はなく、放課後となった。

 

あの人なら、授業中でも御構い無しに飛び込んできそうなものだけど……まぁ、飛び込んできたら学園中パニックになるからよかったんだけど。

 

みんなそれぞれ放課後をすごすようで、一夏達専用機組はアリーナで練習とのこと。驚きなのは、そこにマドカが加わっていることだ。一夏が誘ったら二つ返事でOKだったらしい。自分から話しかけることはほとんどないけど、話しかけられたらしっかり答えるんだよなぁ……。

 

あ、因みに僕も誘われたけど、束さんの件もあるので断っておいた。データ取りがなくても生徒会に行こうと思っていたから、どっちにしろ断っていたけどね。

 

さて、束さんはいつ来るやら……

 

 

「将冴」

 

 

いろいろと考えていると、織斑先生が僕を呼んだ。

束さんのことかな?

 

 

「おそらく察しはついているだろうが……」

 

「束さん、ですよね?」

 

「ああ。とりあえず、混乱を避けるために別の部屋に入れてある。試験運転用の室内アリーナだ。場所はわかるか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「ならいい。私はほかにやることがあって、付き添うことはできない。クラリッサ、頼んだぞ」

 

「はい、承知しました」

 

 

織斑先生はそれだけ伝え、教室を出て行った。

 

……なんだか、少し疲れたような顔をしていたけど、束さんの相手をしていたら当然といえば当然か……。

 

 

「では行こうか。将冴」

 

「うん」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

試験運転用アリーナは、校舎の地下にある。整備室の直下にあり、整備を終えたISの試験運転のためのアリーナだ。いつも訓練するアリーナよりかなり小さく、ISが一つ入って軽く飛び回る程度の広さしかない。僕は一度も利用したことはなく、存在を知っていた程度だ。

 

このアリーナの横には、観測用の部屋がありそこでISのデータを見ながら試験運転をする。

 

僕とクラリッサはその観測用の部屋にまっすぐ向かった。

案の定、そこにはメカうさ耳にエプロンドレス姿の束さんがいた。

 

 

「ヤッホー、しょーくん!元気だった?」

 

「はい、束さんも元気そうで何よりです」

 

「ふふん、あったりまえだよぉ〜。束さんは超天才なんだからね!くらちゃんもおひさー」

 

「お久しぶりです、篠ノ之博士」

 

「もう堅いなぁ。ま、いいけどね」

 

 

本当にクラリッサと会話できてるなぁ。束さんも少しはコミュニケーション能力が高まった、ということかな。

 

 

「じゃあ、しょーくん。早速データ取りしたいんだけどいいかな?」

 

「はい。えっと、具体的に何をすれば」

 

「V.ドライブのフル稼働時のデータが欲しいの」

 

「V.ドライブの?」

 

「普段バーチャロンを使うときはISコアの方が動力源として動いているんだけどね、一応V.ドライブも肩代わりできるんだよ。ほら、ダイモンのあの趣味の悪いボールとかがいい例だね」

 

 

確かに、ISコアは束さんしかつくれないから、ダイモンオーブはV.ドライブで動いてることになる……。僕は、てっきり拡張領域を広げる役割しかないものと思っていた。

 

 

「これからの戦い、ダイモンが今までのような中途半端な攻撃ばかりとは限らないからね。一度、V.ドライブでの稼働データを取っておこうと思った次第だよ」

 

「わかりました。それでは、アリーナの方に行きますね」

 

「お願いね。フォームはなんでもいいからねぇ」

 

 

僕は1人、アリーナの中へ入った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「篠ノ之博士」

 

 

観測室でくらちゃんと二人きりになると、くらちゃんが話しかけてきた。

 

 

「んー?何かな?」

 

「今回のデータ取りは、先ほどの説明以外にも何か目的があるんですか?」

 

 

むむ、くらちゃんがそんなことを聞いてくるとは……妙に鋭いな……。

 

 

「……どうしてそう思うのかな?」

 

「笑われてしまうかもしれませんが、私の勘です」

 

「勘、ね〜」

 

「将冴や織斑先生から、篠ノ之博士の話を何度か聞いていました。それを聞いた上で、篠ノ之博士がデータ取りのためだけに学園まで赴くとは……少し予想外だったので……」

 

 

ふむ、くらちゃんの言う通り、別に理由があるのは確かだけど。悪いことじゃないよ?それにこれはちーちゃんにも頼まれたことだから、やましいことは何もない。

 

しょーくんの今後を考えてのことだ。でもまぁ、くらちゃんには黙っておこう。今言ってしまっては、当日の楽しみが減っちゃうからねぇ。

 

 

「くらちゃんが思ってるほど、束さんは複雑じゃないよぉ。束さんはいつでも、自分と大切な人のために動くのだ」

 

 

そう言って繕った笑顔を浮かべると、くらちゃんは少し不安そうな顔をする。しょーくんが好きなのはわかるけどねぇ……今、そんなに不安になっていても疲れるだけだよ。

 

と、ここでしょーくんから通信が入った。

 

 

『束さん、準備できました』

 

 

しょーくんはアリーナの中央でテムジンを展開していた。ちぇっ、フェイ・イェンじゃないのかぁ……。

 

 

「はいはーい、じゃあ指示あるまで待機ね。こっちもすぐに準備終わらせるから。ほら、くらちゃん。そんな顔してたら、しょーくんを不安にさせちゃうぞ」

 

「……はい」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

こちらの準備ができたことを知らせてから数分後、束さんから再度通信が入った。

 

 

『それじゃあ、しょーくん。いつもやってるみたいにバーチャロンの出力を上げてみて』

 

「はい、わかりました」

 

 

出力だけ上げる、ということはあまりやらないので苦手なのだけど、やるしかないか……。

 

その場でバーチャロンの出力を上げる。いつもならブーストやら攻撃やらで外に出るエネルギーが、バーチャロンの中をずっと駆け巡る。機体の中の熱がどんどん上がって、僕まで熱くなってくる……。

 

 

『……うん、もういいよ。ゆっくり出力を下げて行ってねぇ』

 

 

束さんからストップがかかり、言われた通りゆっくり出力を下げて行った。ふう、これはなかなかに神経の使う作業だ。

 

 

『じゃあ、次はV.ドライブを意識して出力を上げてみて。ちょっと大変だけど、大丈夫?』

 

 

正直キツイけど……まぁ、やるしかない。

 

 

「はい、大丈夫です。行きます」

 

 

V.ドライブを意識して……今までやったことはないけど、どんな感覚でやればいいのか。背中のディスクに意識を研ぎ澄ませればいいのかな?

 

まぁ、やれるだけやってみよう。

 

V.ドライブに意識を集中させて、さっきやったように出力を上げていく。すると、ディスクが高速回転し、今まで聞いたことのないほどの音がV.ドライブから聞こえてくる。

 

 

『いいよしょーくん!まだ上がるよ!』

 

「くっ……結構キツイ……」

 

 

負荷とでも言うのだろうか。なんだか僕の体にどんとのしかかるような力がかかる。

 

これ本当に大丈夫なのかな……。

 

 

『将冴!無理するな!』

 

 

クラリッサが僕の様子が気になったのか、そう声をかけてくる。僕としては、これくらいで根を上げたくはない。

 

 

「大丈夫……出力あげます!」

 

 

さらに出力を上げると、体にかかる負荷も増える。V.ドライブとISコアでこんなに違うのか……!

 

 

『システム臨界……でもまだ上がるの?すごい、すごいよしょーくん!』

 

 

束さん、喜んでるところ悪いのですが、僕はそれどころじゃありません。

 

 

『将冴!大丈夫か!?篠ノ之博士、もういいでしょう!』

 

『ううん、まだだよ。まだ上がってる』

 

「うっ……くぅ……」

 

 

なんだ……視界が曲がっていく……これ以上は僕の体がV.ドライブに耐えられないか。

 

曲がってく視界の中の、束さんとクラリッサの声が朧げになっていく。まずい、このまま意識を失ったらどうなるか……。

 

……ん?あれはなんだろう。視界が曲がって行っているのに、はっきりと何かが見える。あれは……犬……違う、狼?

 

狼は僕に背を向けると、遠ざかるように走っていく。僕は手を伸ばすが、それと同時に強烈な眠気に襲われた。

 

ダメだ……眠っちゃ……ダ、メ……

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「将冴!」

 

 

突然倒れた将冴に、私は思わず駆け寄った。

ISは解除されており、アリーナの中央で義手をつけていない将冴が倒れていた。

 

私はすぐに将冴を抱き起こした。

 

 

「将冴!目を覚ませ!頼むから!」

 

「くらちゃん、落ち着いて!」

 

「これが落ち着いていられますか!将冴、将冴!」

 

 

必死に揺するが、将冴は目を覚ます気配がない。

息はしているし、心臓の鼓動も感じられる……一体何が……。

 

 

「くらちゃん、とりあえず安静にできる場所に運ぼう?」

 

「……はい」

 

 

私達はアリーナを後にし、自室に向かった。

 

 

 

 

自室のベッドに将冴を寝かせ、もう一度呼吸などを確認する。軍で習った応急手当て程度の知識だが、呼吸や脈拍なんかは問題ないと思う……。

 

 

「篠ノ之博士、これは……」

 

「多分、V.ドライブをフルドライブさせた影響……でも、いろいろと説明が……」

 

 

ブツブツと何かを呟く篠ノ之博士。

何か気になることがあるというのか?

 

 

「とりあえず、現状では何も問題ないよ。ただ気になるのは、バーチャロンが待機状態であるのに稼働していること。少しずつエネルギーが減って行っている」

 

「それはどういう……」

 

「詳しくはわからないけど、フルドライブの影響でしょーくんの意識がないのは確か……今は経過を見るしかないね」

 

「将冴……」

 

 

私は優しく、将冴の顔を撫でた。




お気付きの方はわかりますよね?
これは、コラボでラグ0109様の「インフィニット・ストラトス〜狼は誰が為に吼える〜」にお邪魔した将冴がどうしてあちらの世界に行ったのかの導入でございます。

次回、あっさり将冴君が目をさまします。


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173話

昨日3,000文字強書きましたが、かなり疲れました。

毎日5,000文字書いてる人はスゲェなぁ、と尊敬する毎日になります。


「ぅん……」

 

 

あれ、僕何してたんだっけ……。

ここは……僕の部屋?

 

義手つけてない……ちょっと体起こそうかな。

 

拡張領域から義手を展開して、ゆっくりと体を起こす。

寝ぼけ眼で周り見る。すでに陽は落ちていて、もう夜更けだ。……そうだ、クラリッサ。

 

ベッドから降りようと体を動かした時、ベッドの縁に突っ伏するように寝ているクラリッサに気づいた。

 

……思い出した。V.ドライブのデータを取ってる時に気を失って……あれ、なんだろう……何か忘れているような……。

 

 

「ん……将冴!?目を覚ましたのか!?」

 

 

クラリッサが飛び起き、僕の体中をペタペタと触り始めた。くすぐったいよ……。

 

 

「体は大丈夫か!?体調は、どこか痛いところとかは……」

 

「大丈夫だよ。どこも悪くない、心配かけちゃったみたいだね」

 

 

僕の様子を見て、クラリッサは安心したように息を漏らした。ずっと付きっ切りでいてくれたんだね。仕事とかあったはずなのに。

 

 

「よかった……将冴に何かあったらと思ったら……」

 

「ごめんね。えっと、束さんは?」

 

「ラボに戻った。いろいろと将冴の容態を見ていったが、唯寝ているだけだって言ってな……」

 

「そっか……」

 

 

寝ているだけ、ね……。なんだろう、何か忘れているような気がするんだよなぁ。

 

 

「どうした?難しい顔をして……」

 

「うん、何か忘れてる気がして……なんだか、長い夢を見ていた気がするんだ」

 

「長い夢?」

 

「うん。……なんか、すごく大きな狼と一緒にいたような気がする」

 

「狼?」

 

「……ごめん、変なこと言ったね」

 

 

うぅん……寝ぼけているのかなぁ?

どうもはっきりしないや。

 

まぁ、ただの夢だったんだろう。あまり深く気にしないでおこう。

 

と、少し気を抜いたところで、ぐぅ〜と僕のお腹が鳴った。

 

 

「ふふ、お腹が空いたか?」

 

「み、みたいだね……はは」

 

 

クラリッサ相手とはいえ、これはどうも気恥ずかしい……。

 

 

「少し待っててくれ。簡単なものを作ってくる」

 

「うん、ありがとう」

 

 

その後、クラリッサが作ってくれた白粥を見て、また不思議な気分になった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

翌日、教室に行くと一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラが僕の元に集まってきた。

 

 

「将冴!昨日倒れたって本当か!?」

「学校に来て大丈夫なのか!?」

「やはり、まだ本調子ではないのではありませんか!?」

「あんたもうずっとベッドで寝てなさいよ!」

「いつもみたいに無理したの!?」

「兄さん死んではダメだ!」

 

 

一斉に話されても、僕聖徳太子じゃないからわからないよ?

 

あと、ラウラ。あまり縁起でもないこと言わないでほしいよ。

 

 

「とりあえず落ち着いて。僕は大丈夫だから」

 

 

そう言って宥めて、ようやく落ち着いて話せるようになった。ふぅ……。

 

 

「心配してくれたのは嬉しいけどね。僕だって、そんなにヤワじゃないから」

 

「ヤワじゃないならそもそも倒れないだろう」

 

 

と、僕の背後から声が。この声は……

 

 

「マドカ」

 

「倒れた経緯は束から聞いた。随分と無茶したようだな」

 

「したくてしたわけじゃないんだけどね……」

 

「やっぱり無茶したんだ……」

 

 

シャルがジト目で僕のことを見てくる。

しょうがないじゃないか!V.ドライブをフル稼働させなきゃいけなかったんだから!

 

 

「シャル、そんな目で見ないでよ……」

 

「だが兄さん。兄さんは少々無茶をしすぎだ」

 

「そうですわ。将冴さんはただでさえ、障害を抱えているんですから」

 

 

セシリアの言うとおりだけど……むぅ、無茶してるつもりはないんだけどなぁ。まぁ、とりあえずここは口答えせずにいよう。

 

 

「うん、今後は気をつけるよ」

 

 

僕の言葉に、ほとんどの人は納得したような顔をするけど、シャルとラウラ、あとマドカは信じていないようだった。

 

ハハ、疑り深いなぁ、まったくぅ。

 

と、そういえば……

 

 

「みんな、昨日マドカと訓練してたんだよね?どうだった?」

 

 

僕がそう口にすると、マドカ以外の専用機持ちの表情が暗くなった。

 

 

「いや、なんだ……ラウラが転入してきたときのこと思い出したよ」

 

 

マドカ強いもんねぇ。僕も引き分けたことしかないし。

 

 

「学生にしては、みんなかなり上位を行っていた。落ち込むことはない」

 

「マドカ、その言葉はとどめを刺しかねないよ」




昨日の反動か、あまり書けなかったです。
そろそろ本格的に話を進めないと、と思っています(進むとは言っていない←


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174話

この小説が終わるのかどうか不安になってきた作者です。
年内に終わるだろうとは思っていますが……どうなるでしょうか。


 

僕が倒れてから一週間が経った。

あれから体調には何の心配もなく、何の問題もなく学校生活を送っている。

 

さて、僕は今アリーナでテムジンを展開して、必死に攻撃を躱している。

 

僕のことを攻撃しているのは……

 

 

「将冴、逃げてばかりでは戦況は変わらないぞ」

 

「マドカがなかなか隙を作ってくれないからだよ」

 

 

マイザーΔ(デルタ)ポイズン。……長いから今後はマイザーΔと呼ぼう。マイザーΔは僕の機体データを元に束さんがV.ドライブ無しで作り出したIS。

 

僕の機体が元になってるからフルスキン型で、マドカの顔が見えないけど、多分いつも通り無表情だろう。

 

マドカは右手に持った大きな兵装……マルチランチャーレブナントを、僕に向けてビームマシンガンを放っている。この兵装、ビームソードやビーツランチャーなど多彩な攻撃手段を持っている。僕のスライプナーより手数が多いのではないだろうか。

 

 

「そっちが逃げてばかりというなら、鬼ごっこと行こうか」

 

 

その言葉と同時にマイザーΔが変形する。僕のような別の機体になるわけではなく、文字通りマイザーΔが変形ロボットように形を変え、戦闘機のようになった。

 

こうなるとまた面倒なんだ。遠距離兵装は使えなくなるけど、超高速で移動して突撃してくる。一回直撃したけど……思い出しただけで血の気が引く。エネルギーほぼ満タンのところから、フェイ・イェンがハイパーモードになるくらいの威力といえば、少しは想像つくだろうか……。

 

 

「マドカのそれシャレにならないから!」

 

 

僕はすぐにスライプナーをブルースライダーモードに切り替え飛び乗った。これもうISの試合じゃないよ。IS使った大規模鬼ごっこだよ。

 

 

「このっ!」

 

 

テムジンの手投げボムをマドカに向けてばらまく。簡易的な弾幕とでも言うか……とりあえずこれで多少は行動が制限される。

 

案の定、マドカはスピードを落とし、また変形して人型となる。あんなに瞬時に切り替えられるんだもんなぁ……大したものだよ。

 

僕は急旋回し、マドカにそのまま突撃するために接近した。

 

 

「これで!」

 

「そう簡単にいかない!」

 

 

そう言うとマイザーΔの左手にビームダガー作り出され、マドカはそれを僕に向けて投擲した。

 

 

「くっ!」

 

 

ブルースライダーの先端を持ち上げ盾のようにしてダガーをやり過ごす。

 

まずい、この隙は大きい!

 

次の瞬間、マドカに背後を取られた。

 

 

「やばっ……」

 

「ふっ!」

 

 

マルチランチャーレブナントのビームソードで切りつけられ、そのまま地面に叩きつけられた。

 

 

「ぐぅ!?」

 

「これで終わりだ!」

 

 

マドカが僕にトドメを刺すために、急接近してくる。

このままじゃ終われないっ!

 

僕はスライプナーを向かってくるマドカに向け、引き金を引く。マドカにエネルギー弾が当たっているのが見えるが、気にしていない……本当にこれで決めるつもりだ。

 

 

「このぉ!!」

 

 

迫ってきたビームソードをすんでのところでスライプナーで弾き、左手にボムを持ちマドカに向けて投げた。

 

お互い至近距離にいたため、爆風が僕とマドカを襲い、二人同時にエネルギーが尽きた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

マドカとピットに戻ると、そこには一夏と箒、それとラウラがいた。他の人たちは、学園祭の準備で来れていない。

 

 

「お、将冴にマドカ。お疲れさん」

 

「二人とも汗だくだな。まぁ、あれだけの試合をしていれば仕方ないか」

 

「兄さん、タオルと飲み物をどうぞ。ついでにマドカも」

 

 

ラウラが僕とマドカにタオルとスポーツドリンクを渡してくれる。僕はお礼を言いながら受け取る。マドカも軽く会釈しながら受け取った。まだ慣れないかな?

 

ラウラはマドカを結構すんなり受け入れていた。織斑先生に似ているのが、ラウラの警戒心を緩めたのではないかというのが僕の見解だ。

 

 

「しかし、本当にすごかったな。将冴があんなに苦戦してるところなんて、銀の福音のときくらいしか見たことないぜ」

 

「そうだな。将冴は、1年の中ではトップクラスだから苦戦するところはあまり見たことがない」

 

「二人とも買いかぶりすぎだよ。タッグトーナメントのときに、シャルと当たった時も苦戦したし」

 

「だが、兄さんはあの時シールドピアーズを素手で受け止めていたではないか」

 

 

あれはまぐれだよ……。

マドカなら狙ってできそうだし……と、隣でチビチビとスポーツドリンクを飲むマドカに目をやる。

 

んー、マドカはまだ本気じゃない気がするんだよなぁ。

 

 

「……将冴、どうした?」

 

 

見ていたの気がつかれた。

 

 

「ううん、なんでも」

 

「そうか」

 

 

そしてまたスポーツドリンクを飲み始めた。

んー、引き分けというのはむず痒い。勝つか負けるかはっきりしたいところだ。

 

その時、ピットの扉が開き、クラリッサが入ってきた。

 

 

「あ、クラリッサ」

 

「将冴、またあんな戦い方をして!」

 

「うっ……」

 

 

怒られてしまった。僕の彼女さんは、最近ちょっと過保護だ……。いつからかというと、僕が倒れてから。

 

 

「クラリッサ、兄さんに何を言っても無駄だ。もう体が無茶する動きをするようになってしまっている」

 

「隊長……しかし」

 

「それに今のは模擬戦だ。兄さんもマドカもそれはわかっているし、そもそもISには絶対防御がある。過信するのは確かに良くないが、模擬戦程度で怪我するようなことはないだろう」

 

「……隊長がそういうなら……」

 

 

ラウラが輝いて見える。本当に自慢の妹だよ……。

 

でもまぁ、今回は僕が悪いし……。

 

 

「クラリッサ、ごめんね。あんな戦い方しちゃって。クラリッサは僕のために言ってくれてるんだもんね。これから気をつけるよ」

 

「……うん」

 

 

最近、クラリッサが少女のような顔をするようになったんですが……この気持ちはなんなんでしょうか。萌えですか、萌えですね。

 

 

「おい、なんで俺たちあんな姿見せつけられてんだ?」

 

「私にわかるわけないだろう!本人に聞け」

 

「兄さん、最近あまり構ってくれないな……」

 

(将冴のお腹……しばらく触ってない)




差し障りのない話で茶を濁す。
次回はちゃんと進めるよ!……本当だよ!


マイザーΔ面倒です……


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175話

最近、頻繁に更新休んでしまってますね……なかなかうまくいかないものです。

番外編の方も考えているのですが、いかんせんうまくいかず……。

たまにはR18の方でも書いてみようか……


マドカとの模擬戦の後、僕たち6人は食堂で夕食を食べていた。うん、冷やしうどんもいいものだ。

 

 

「そういえば、みんな学園祭に誰を呼ぶか考えたか?」

 

 

一夏がそんなことを聞いてくる。まぁ、確かに気になるところだ。クラリッサはルカさんとリョーボさんを呼ぶと言っていたけど。僕の方は、まだジェニーたちから連絡がないからわからないし。

 

一番最初に口を開いたのはラウラだった。

 

 

「私は誰も呼ぶつもりはない」

 

「え、ラウラ誰も呼ばないの?」

 

「ああ。特別仲のいい者がいるわけでもないし、クラリッサがルカなどを呼ぶだろうと思ったからな」

 

「それはそうかもしれないけど……」

 

 

招待券が勿体無い気がするよ……。

んー、そうだな……

 

 

「ねぇ、ラウラ。隊員の人達に抽選でもさせたら?」

 

「抽選?」

 

「ラウラから送られたってなったら、隊の人達も喜ぶだろうからさ。公平に抽選で2人決めればいいよ」

 

「むぅ……兄さんがそういうなら、そうしよう」

 

 

不本意ながら、とでも言いたそうにラウラが頷く。

ふふ、ラウラからの招待なんて、シュバルツェ・ハーゼは大騒ぎになりそうだ。

 

 

「ラウラは自分の隊員か……箒は?」

 

「私は……呼ばないつもりだ。重要人保護プログラムのこともあるからな」

 

「束さんは呼ばないの?」

 

「姉さんが来たら、大騒ぎになるだろう。それに、あの人なら招待しなくても勝手に来るだろう」

 

 

あー、確かに。愚問だった。

こればっかりは仕方ないか……。

 

 

「箒は呼ばないか……まぁ、難しいところだもんな」

 

「そういう一夏は誰を呼ぶんだ?」

 

「俺は弾と蘭を。蘭がIS学園にはいりたいっていってるみたいでさ、学園見学も兼ねて呼ぶつもりだ」

 

「へぇ、蘭がIS学園に……」

 

 

はは、一夏ラバーズは今年度中に決めないとライバルが一人増えることになるね。

 

 

「箒、頑張らなきゃね」

 

「なぜ私のことを応援したんだ、将冴……」

 

「なんでだろうね」

 

 

適当にはぐらかしておこう。

さて、次は……

 

 

「マドカは?誰呼ぶの」

 

 

僕がそう聞くと、夕食を食べる手を止めてゆっくりとこちらを見た。

 

 

「考えていなかった。呼んだほうがいいのか?」

 

「呼びたい人がいるなら、ね」

 

「そうか……考えておこう」

 

 

そういうと、また夕食を食べ始めた。

マドカが呼べる人となると……スコールさんとオータムさん?

 

……なんだか面倒なことになりそうな予感がする。

 

 

「将冴は誰を呼ぶんだ?」

 

「アメリカであった代表候補生の2人。軍所属だから、来れるかはわからないけど、誘ってみたよ」

 

「そうか。来れるといいな」

 

「その時は私達にも紹介してくれ」

 

「うん、もちろん」

 

 

気になるから、後でメールでも送っておこうかな。

そうだ、ナターシャさんにアレを渡さなきゃいけないんだったなぁ……ジェニー達が来れたら、ナターシャさんに渡してもらうように頼んでおこう。

 

 

「ハルフォーフ先生は、さっきラウラが言っていた人を?」

 

「ああ、シュバルツェ・ハーゼの副隊長のルカと、軍の寮を管理しているリョーボさんをな」

 

「寮母さん?」

 

「うん、寮母のリョーボさん」

 

 

一夏と箒の頭の上にハテナが浮かんでる。戸惑うと思っていたよ。リョーボさんの本名は誰も知らないから、説明しようにもできないから、2人にはモヤモヤしてもらうしかない。いやぁー、説明できなくて残念だなぁー。

 

そんな話をしていると、コツコツとこちらに向かってくる足音が聞こえる。そちらの方を向くと、織斑先生が近づいてきていた。

 

 

「食事中にすまない。将冴、それとクラリッサ。少し話があるんだが、いいか?」

 

「はい。僕は大丈夫ですが」

 

「私も大丈夫です」

 

「そうか。至急私の部屋に来て欲しい。詳しくはそこで話す」

 

 

織斑先生この言い方は、ダイモン関連だろうか?

まぁ、ここの人でこの話を詳しく知ってるのはマドカだけだからね……公に話すわけにいかないし。

 

 

「わかりました」

 

「将冴、ハルフォーフ先生。食器は俺たちが片付けておくから、そのままでいいぜ」

 

「ありがとう、一夏。クラリッサ行こう」

 

「ああ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

織斑先生に着いて部屋まで行くと、そこには一度見たことのある人がいた。

 

 

「将冴、クラリッサ。こちらの方は……」

 

「倉持技研の篝火ヒカルノさん、ですよね?」

 

「覚えててくれたんだね、少年」

 

「ええ、あんな現れ方されれば、忘れようもないですよ」

 

「なんだ、知り合いだったのか?」

 

「はい、ドイツで一度」

 

 

両親の墓参りに行ったら、ヒカルノさんがいたんだよな。

あの時は、怪しい人という印象しかなかったけど、織斑先生と知り合いなのかな。

 

 

「なら、紹介はいいな。早速だが、ヒカルノさん」

 

「はいはい、説明ね」

 

 

ヒカルノさんはバッグの中から1冊の資料を取り出した。

 

 

「これは?」

 

「昨日、私宛に届いたんだよ。MARZとかいう会社から」

 

 

MARZ?束さんか?

僕は資料を手に取り中を確認した。

 

パッと見た感じだと、何かの機械……シミュレーター?

 

 

「私の研究室に、そのシミュレーターが送られてきてね。IS学園に取り付けを頼むっていう旨が書かれた手紙と、報酬と思われるお金と一緒にね」

 

 

束さん……突然こんなことして……。

 

 

「うちの社長が、ご迷惑をかけました……僕の方からも伝えておきます」

 

「いやいや、文句を言いに方わけじゃないんだよ」

 

「……というと?」

 

「そこからは、私が説明しよう」

 

 

と、織斑先生が声を上げた。

 

……え、まさか織斑先生も関与してるの!?

 

 

「実はな、このシミュレーターをたば……MARZに頼んだのは私だ」

 

「……へ?」

 

「織斑先生、どういうことですか?」

 

 

言葉を失ってしまった僕の代わりに、クラリッサが織斑先生に聞いてくれる。僕に説明を……

 

 

「将冴。銀の福音の時、お前は現場指揮官をしていたな」

 

「指揮官というほどのことはしてませんが……指示出しくらいはしたと思います」

 

「それを聞いて、今後のIS学園のカリキュラムに司令塔としての授業を取り入れたいと思っていたんだ」

 

「司令塔……ですか?」

 

「ああ。それで、そのモデルケースをお前に頼みたいんだ」

 

 

モデルケースって……いやいや、話が突然すぎる。そしてタチが悪い。このシミュレーターはそのカリキュラム用のもので、すでに用意されている……断れないじゃないですか……。

 

 

「えっと……織斑先生。まさか銀の福音の時に指示出ししたからっていうだけで、僕にモデルケースを?」

 

「いや、それだけではない。確かに、きっかけは福音の事件だが、一年生全員を見て精査したうえで頼んでいる。それに、これはお前のためでもあると思う」

 

 

僕のため?

 

 

「今後、お前は戦うことが他の誰よりも多くなる。そうなったとしても、状況を分析する能力を高めるこのカリキュラムは、お前の力になるはずだ」

 

「織斑先生……」

 

 

これは、僕がダイモンと戦うことも念頭に置かれているのか……。はぁ、織斑先生がこんなイヂワルな手口を使ってくるなんて思ってもみなかった……。

 

 

「……わかりました。モデルケース、引き受けさせてもらいます」

 

「ありがとう、将冴」

 

 

僕が引き受けたことに安心したのか、織斑先生は小さく笑みをこぼした。

 

 

「話は纏まったみたいだね。それじゃ、私は倉持に戻って準備するよ。明日には取り付けておくからね」

 

「急な話で申し訳ない。よろしく頼む」

 

「あいあい。あ、そうだ少年」

 

「はい?」

 

「明日、君のIS見せてもらえるかな?いろいろと見たいものがあるんだ」

 

「それは構いませんが……」

 

「それじゃ、放課後に来てくれ。私はシミュレーターの取り付けをしたらそのまま学園に残ってるからさ」

 

 

ヒカルノさんはそう言い残し、部屋を出て行った。

ついバーチャロンを見せる約束をしてしまったけど……まぁ、両親と一緒に働いていた人だから、大丈夫だろう。

 

 

「二人とも、時間を取らせてしまったな。話は以上だ。部屋に戻って構わない」

 

 

その言葉で僕とクラリッサは、織斑先生の部屋を出た。

はぁ……つい受けてしまったが、いったいどんなことをやるのか……。

 

 

「将冴、受けて良かったのか?生徒会もあるのに……」

 

「あの状況で断れないよ。それに、僕のためになるなら、全部やりたい。強くなれるなら……」

 

「……そうか」




ヒカルノさん久々登場。

果たしてどう関わってくるか…乞うご期待ということで。


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176話

本日は連続投稿する……予定です。

間に合えば今日中に番外編で200話記念番外編書きます。そして明日も連続で二つ書きます。こちらも記念番外編。

計3つの記念番外編書きます。

ガンバリマス……!


 

翌日の放課後、僕は織斑先生からヒカルノさんがいる場所を聞きクラリッサとともに整備室に向かった。

 

シミュレーターの取り付けは無事終了したらしく、僕は今後ISの授業のときは空き教室に設置されたシミュレーターで訓練を行うとのこと。それに並行して僕以外の人たちはチーム行動の授業を始めるという。

 

学園側がダイモンの襲撃に備えているのが、事情を知っている僕にはわかった。マドカと、あとラウラも薄々感づいているように見えた。ラウラにはダイモンのことは少し話したからね。

 

……専用機組には、織斑先生が事情を伝えるとは言っていた。学園祭当日は、学園中の専用機持ちが駆り出されることになるだろうな……。

 

 

「将冴、難しい顔をしてどうした?」

 

「ちょっと考え事、かな」

 

「いつも言うようだが、1人で抱え込むのは……」

 

「うん、わかってるよ。クラリッサ、あとで僕の愚痴に付き合ってくれる?」

 

「ああ、お安い御用だ」

 

「ありがと。……っと、整備室についたね」

 

 

整備室に入ると、ヒカルノさんが胡座をかいてノートパソコンをいじっていた。

 

僕たちが入ってきたことに気づいたのか、ヒカルノさんはこちらに振り向く。

 

 

「お、来たね」

 

「こんにちは、ヒカルノさん」

 

「はい、こんにちは。それじゃあ、早速でなんだけど、こっちのハンガーにISを展開してくれるかな?」

 

 

ヒカルノさんは空いてるハンガーを指差しながら、またノートパソコンを操作し始めた。

 

僕とクラリッサは顔を見合わせながら、とりあえずヒカルノさんの言う通りにバーチャロンを整備モードでハンガーに展開した。

 

 

「おー、テムジンか。礼司さんと有香さんの設計した通りに出来上がってんねぇ」

 

 

両親と同じ職場で働いていたわけだし、知っていてもおかしくないか……。ヒカルノさんはテムジンの機体データを見ながら、ウンウンと頷いている。

 

 

「なるほどねぇ……少年、他のも見せてもらえる?」

 

「あ、はい!」

 

 

ライデン、アファームド、フェイ・イェン、スペシネフをヒカルノさんに見てもらう。ヒカルノさんは機体データと睨めっこしたり、時折キーボードを叩いたりしながら、一つ一つを眺めていた。

 

 

「将冴、あまり長々と見せない方がいいんじゃないか?相手は倉持技研の人間なのだろう?技術が盗まれる可能性だって」

 

「僕の両親がもともと倉持技研の研究者だし、その辺は別に気にしてないから構わないよ。ダイモンだって、すでにV.ドライブの技術は手に入れてるしね」

 

「少年!」

 

 

クラリッサとヒソヒソと話していると、ヒカルノさんが僕を呼んだ。

 

なんだろう?

 

 

「はい、なんですか?」

 

「ちょっと、これ弄っていい?」

 

「弄るって……バーチャロンをですか?」

 

「他になにがある?」

 

「どう弄るつもりなんですか?」

 

「なに、悪いようにはしないよ。チョロっと自作のデータを積み込んでみたくてね」

 

 

自作データって……大丈夫なのか?

……これに関しては僕の独断で決められない。

 

 

「少し待ってください」

 

「あいよー」

 

 

僕はヒカルノさんから少し離れた所で、束さんに電話をかけた。

ワンコール目が終わらぬうちに、束さんは電話に出た。

 

 

『やっほいしょーくん!束さんにlove callとは、とうとうくらちゃんから束さんに乗り換えることを決意しt』ブツッ

 

 

はぁ……またこれか。

 

 

「少年、電話を切って良かったのか?」

 

「ああ、いつものことだ」

 

 

ヒカルノさんは首を傾げ、誰と電話してるかわかったクラリッサは苦笑いを浮かべた。

 

そうこうしているうちに、僕の携帯が鳴る。

今度はちゃんとしているといいけど……。

 

 

「もしもし」

 

『しょーくんからかけてきてるのに、しょーくんから電話を切るのはヒドイと思うんだよ!束さんは謝罪を要求する!』

 

「束さん、実は今倉持技研の人と一緒にいまして」

 

『えぇ、スルー……?』

 

 

僕は事情を説明する。束さんは黙って聞いていた。珍しく。

 

 

「……ということなんですけど」

 

『うん、いいんじゃない?』

 

「軽っ!」

 

『そんなデータごときで、束さんが作ったバーチャロンがどうこうなるわけじゃないし、れーくん達の知り合いなら特に問題ないよ』

 

「そうですか。わかりました」

 

『あ、でもあとで機体データは送ってね。一応確認したいし』

 

「了解です。それでは……」

 

『あ、それと』

 

 

電話を切ろうとすると、束さんがまだ話を続けた。

 

 

『銀の福音が暴走した理由がわかったから、あとでバーチャロンにデータを送っておくよ。しょーくんも気になってたでしょ?』

 

「っ!……はい。お願いします」

 

『おーけー!それじゃあねぇ〜』

 

 

通話はそれで切られる。

 

福音の暴走理由、か……ダイモンは手間がかかるからその方法でISを牛耳るのはやめたと言っていたけど……。今は考えるのをやめておこう。とりあえず、ヒカルノさんに大丈夫ということを伝えておこう。

 

 

「お待たせしました。ヒカルノさん、OKが出たので大丈夫です」

 

「ありがとさん。それじゃあ、ちょっと待っててね」

 

 

ヒカルノさんがノートパソコンと整備用端末をつなげ、データ送り始めた。

 

 

「ヒカルノさん、このデータはなんのデータなんですか?」

 

「ああ、これはね」

 

 

ヒカルノさんは勿体振るように少し間をあけ、そして教えてくれた。

 

 

「各フォームを同時展開し、独立機動させるデータだよ」

 

「同時展開して、独立機動?」

 

 

僕がそう聞き直すと、ヒカルノさんは「えっと」と言いながら簡単に説明してくれた。

 

 

「今までは変形して各フォームを切り替えながら戦ってたわけだが、このデータがあれば君がテムジンを使ってる横でライデンやアファームドを展開することができるんだよ。展開された他のフォームは、少年が思った通りに動くし、オートで動かすこともできる」

 

「それって……」

 

「まるでセシリアのISブルーティアーズのBT兵器のようだな……」

 

「BTと違って、人型で大きいから、BT兵器より扱いが難しいけどね。それでも君の力になるだろう?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

僕が頭を下げると、ヒカルノさんは気にするなと言ってくれる。

 

すると、クラリッサが気になったのか、口を開いた。

 

 

「篝火ヒカルノ、あなたはどうしてこんなものを将冴に」

 

「どうしてね……まぁ、少年の両親にはお世話になったからね。私なりの恩返しだよ」

 

 

ヒカルノさんがそう言うと同時に、データの組み込みが終わり、ヒカルノさんはそそくさと片付けを始め、さっさと整備室を出て行こうとする。

 

 

「ヒカルノさん、ありがとうごぞざいました」

 

 

ヒカルノさんはヒラヒラと手を振りながら、整備室を出て行った。

 

両親と同じところで働いている人は、みんな真面目な人ばかりかなと思っていたけど、あんな人もいるんだなぁ……。

 

 

「……あ」

 

「どうした、将冴?」

 

「どうやって使うのか聞くの忘れてた。




次は番外編になります。

どのくらい書くことになるかなぁ。


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200話記念番外編①:助けてくれたのは少し怖いけど優しい人でした

200話記念番外編です。

これは以前に書いた番外編の「助けてくれたのは少し怖い人でした」の続きです。

リクエスト下さったのはROIさん。連載当初から感想いただいている方です。感想の端々でオータムスキーの匂いを作者は感じております。もし新作書くなら、次はオータムヒロインを書きたいですねぇ……


オータムさんに助けられてから1ヶ月くらい経っただろうか。ずっとベッドから動けず、部屋も閉め切ってあるから日にちの感覚がなくなっている。

 

ここにはオータムさん以外にも、スコールさんというブロンドの美人さんがいる。僕の怪我を治療してくれたのが、このスコールさんだ。

 

いつも胸が大きく開いた服を着ているから、目のやり場に困っている。僕の容態を見によく来るから、その度にからかうのもやめてほしい。

 

オータムさんはというと……

 

 

「おい、飯だぞ」

 

 

腕がない僕のために、毎日三食ご飯を食べさせてくれる。

スコールさんが食べさせに来てくれることもあるけど、圧倒的にオータムさんが来てくれることが多い。

 

オータムさんはベッドの横に置いてある椅子に座ると髪を縛りポニーテールにして、持って来たお粥を冷ますように少し混ぜた。

 

 

「オータムさん、いつもありがとうございます」

 

「礼はいいからさっさと食え。ほら、口開けろ」

 

 

オータムさんはお粥をスプーンですくい、僕の口元に持ってくる。最初の頃は、かなり恥ずかしかったけど、今では慣れたものだ。

 

まだ怪我が完璧に治ったわけではなく、僕は時折体調を崩していたのでオータムさんはお粥などの消化にいいものを持って来てくれる。

 

僕が一口目を飲み込むと、オータムさんは二口目をまた口元に。それを何度か繰り返すと、オータムさんは次に水に入ったコップにストローをさし口元に持って来てくれる。

 

 

「すいません」

 

「いちいち謝るなって。いいから黙って飲め」

 

 

ストローで水を飲み、またオータムさんがお粥を食べさせてくれる。全て食べ終えると、無言でオータムさんは食器を持って部屋を出て行く。でも数分もすると戻ってきて、僕のベッドの横で眼鏡をかけて本を読み始めた。

 

オータムさんはいつも僕が寝るまで部屋にいてくれる。どうしてかはわからないけど。

 

とりあえず、僕も暇なのでオータムさんに話しかける。

 

 

「何を読んでるんですか?」

 

「近くの本屋で売ってた本」

 

「面白いですか?」

 

「微妙」

 

「そうですか……」

 

 

会話が終わってしまった。いつもこんな感じだけどね……。だいたいこの後は僕が眠くなって寝ちゃうんだけど、今日は全く眠くない。なので暇で暇でしょうがない。意地でも会話してやろう。

 

 

「僕の怪我、いつ頃治りますかね」

 

「スコールが言うには、後1週間くらいだろうってさ」

 

 

オータムさんは本から目を離さずに答えた。

 

んー、これくらいの話題じゃ話しは膨らまないか。それなら

 

 

「怪我が治ったら、僕はどうなるんですか?」

 

「……」

 

 

今まで聞かないようにしていたこと、オータムさんに聞いた。実のところ、事件に巻き込まれてから外の情報は全然入ってきていない。一緒にいた両親はどうなったのかも聞いてない。

 

オータムさんは本を閉じ、眼鏡を外した。

 

 

「そうだよな……そろそろ話さねぇとな」

 

「オータムさん?」

 

 

言いずらそうに、そして覚悟したような顔をしたオータムさんがゆっくりと話し始めた。

 

 

「お前の両親は……死んだ」

 

「……」

 

 

なんとなく予想はついていた。両親が生きていたのなら、一緒に助けられていたはずだから。でも両親はいない……結構すぐに気づいていた。

 

 

「……何も言わないんだな」

 

「そうなんだろうなと思っていたので」

 

「そうか……」

 

 

申し訳なさそうな表情を浮かべるオータムさん。

オータムさんは悪くない。そんな顔をする必要はない。

 

 

「……怪我が治った後、お前のことは日本政府に引き渡そうと思っている」

 

「政府に……」

 

「ああ。お前が事件に巻き込まれたというのは、日本も知っている。両親が死んだこともな。政府はお前を援助してくれるだろう」

 

「……」

 

「将冴?」

 

「……あの、これは我儘なんですが……ここにいてはダメですか?」

 

「なっ、何言ってんだ!私達といたって、何もいいことはない!だって、私達は……」

 

 

それ以上は言えないのか、口を噤んでしまうオータムさん。

 

うん、多分オータムさん達は……

 

 

「テロリスト、ですか?」

 

「な、なんでそのことを……」

 

「ここを隠れ家と言い、ISを所持している……そしてオータムさんが言いたがらないことを考えたら、そういうことかなって」

 

「……変に鋭いな、ったく……」

 

「でも、僕はオータムさんとスコールさんが悪い人とは思いません」

 

「え?」

 

「二人が悪い人なら、僕を助けてくれるはずありませんから」

 

 

この人達は、何か目的があって戦ってる。何か大きな目的が……。

 

 

「お前は……本当に……」

 

「……」

 

「私達と一緒にいるってことは、お前もテロリストになるってことだぞ?」

 

「オータムさん達の役に立てるなら、それでも構いません」

 

 

そう言い放つと、オータムさんはすっと立ち上がり扉の方へ向かっていった。

 

 

「オータムさん、どこに……」

 

「そんな体じゃ、何もできねぇだろ。スコールの伝手で、義肢作ってくれる奴がいるから、そいつのところに行ってくる」

 

「それじゃ……」

 

「ようこそ、亡国機業(ファントムタスク)へ」




あれ……オータムとのキャッキャウフフ書こうと思ったら、どうしてこうなった……。

なぜか将冴がテロリストに……うごご


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200話記念番外編②:もう少し、このまま

200話記念番外編その2です。

今回は大同爽さんから頂いたリクエストを書かせていただきます。

若干プレッシャーをかけられてしまいましたが、楽しんでいただけたらと思います。


 

気がつくと、僕はソファーに腰掛けていた。あれ、僕の部屋にソファーなんてなかったはず……ていうか、ここは……。

 

周りを見渡すと、とても懐かしい感じがした。見覚えがある……あるに決まってる。ここは僕が両親と住んでいた……。

 

 

「将冴、どうしたの?キョロキョロして」

 

 

懐かしい声。ずっと聞いていなくて、これからも聞くことはないと思っていた声。

 

振り向くと、そこにはお母さんがいた。

 

 

「お母……さん?」

 

「どうしたの?熱でもあるのかしら?」

 

「緊張してるんだろ。なんてったって、将冴が彼女をうちに呼ぶって言うんだから」

 

 

また違う声。そこには新聞を広げるお父さんの姿が。

 

あれ、どうなって……。

 

 

「ちょっと、本当に大丈夫?」

 

「え、あ、うん……大丈夫」

 

 

何だろうこの感じ……あれ、なんでこんな悲しい気持ちになってるんだ?

 

 

「うたた寝して、怖い夢でも見たのか?」

 

「……そうかも。もう大丈夫だよ。心配かけてごめん」

 

「そう、ならいいけど」

 

 

そうだ、今日は珍しくお父さんもお母さんもお休みだから、クラリッサのことを紹介するってことになってたんだ。

 

どうも頭がはっきりしないけど、確かそうだった。

 

と、お母さんが食事の準備をしている。僕も手伝わないと。ソファーから立ち上がったとき、僕はまた違和感を感じた。

 

あれ、義肢つけたっけ……。

 

しかし、僕の足はしっかりと床を踏みしめている。

……なんで義肢なんて思い浮かんだだろう。足を少し摩るが、そこには自分の足がある。手も、普通の手だ。

 

どうやら、よほど夢の影響が強かったようだ。

 

 

「お母さん、僕も手伝うよ」

 

「あら、ありがとう。それじゃ、そこの皿を出してくれる?」

 

「うん、わかった」

 

 

お母さんの言う通りに、皿を出してテーブルに並べる。お母さんの料理、かなり気合入ってるな。どれも手の込んだものばかりだ。

 

その後も、お母さんに支持された通りにテーブルに食器やもうできている料理を並べていると、家のチャイムが鳴った。

 

 

「あら、来たんじゃない?将冴」

 

「うん。出迎えてくるね」

 

 

パタパタと玄関まで小走りで向かい、扉を開けた。そこには、白いシャツにジーンズ、そしていつもの眼帯をつけたクラリッサがいた。

 

 

「いらっしゃい、クラリッサ」

 

「あ、ああ。今日はお招きいただき……」

 

「ふふ、そんなに固くならなくていいよ。お父さんもお母さんも、そういうの気にしないから」

 

「そ、そうか……」

 

 

よほど緊張しているのか、表情が固いな……。

まぁ、2人と話せば慣れるだろう。

 

 

「ほら、早く入って」

 

「わ、わかった!」

 

 

クラリッサを家に入れて、そのままお父さんとお母さんがいるリビングまで連れて行く。

 

クラリッサの姿を見た2人は、同時に「おお」と声をあげた。

 

 

「ほら、クラリッサ。自己紹介」

 

「あ、えっと、クラリッサ・ハルフォーフです!今はIS学園で教育実習生としてきていますが、本職はドイツ軍シュバルツェ・ハーゼ所属の軍人で……」

 

「クラリッサさんね。ほらほら、そんなところに立ってないでこっちに座って」

 

「え!あの!?」

 

「将冴、外国の人なんて聞いてないぞ」

 

「あれ、言ってなかった?」

 

「ほら、そこの2人。早くこっちいらっしゃいな」

 

 

お母さんに言われるままに、僕たちはテーブルについた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

お母さんの料理が続々とテーブルに並べられ、僕とクラリッサはお互いの話をお父さんとお母さんに話しながら食べ進めた。

 

ある程度僕達のことを話すと、今度はお母さんが僕の昔の話をし始めた。

 

 

「将冴ったらね、昔からほとんど泣かないのよ?」

 

「昔から、ですか?」

 

「ええ。5歳くらいの頃でも、外で遊んでいて思いっきりこけて腕をすりむいた時も、痛そうにしてるんだけど絶対に泣かないの。それで私のところまで来て、『こけた』って一言言うだけでね」

 

「強い子なんですね」

 

 

クラリッサが興味津々に聴いてるけど、僕はなんだか恥ずかしいよ……。僕、そんなに泣かない子だったっけ?

 

 

「でも、一回だけ思いっきり泣いたことがあったな」

 

 

お父さんが余計なことを思い出したようだ。

 

 

「あれは確か将冴が小学校に入ったばっかりの頃だったか……俺のいた研究所で事故が起きてな。それで俺が大怪我したんだ。幸いにも命に別状はなかったんだが、その時将冴が俺の姿を見て死なないでって病院で号泣して。後にも先にも、あんなに泣いてたのはその時だけだな」

 

「お父さん!あんまり恥ずかしいことクラリッサに教えないでよ!」

 

「あら、いいじゃない。クラリッサさんだって気になるわよね?」

 

「はい!もっとお話を聞かせてください!お義母様」

 

 

お父さんとお母さんの策略により、クラリッサはお義父様、お義母様と呼ぶことが義務付けられた。二人とも、気が早すぎやしませんかね。

 

 

「それならアルバム取ってこようかしら」

 

「私もお手伝いさせていただきます!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 

お母さんとクラリッサがアルバムを取りに行ってしまった……ああ、見られるのすごい恥ずかしいんだけど……。

 

 

「いい人だな、クラリッサさんは」

 

「お父さん?」

 

「将冴のことを本気で思ってる。大切にしなさい」

 

「……うん、もちろん」

 

 

お父さんはニカっと笑みを浮かべた。

 

……何だろう、少し胸が痛むような……。

 

 

「見つけたわよ。将冴の子供の頃のアルバム」

 

「早っ!」

 

「ほら、これが生まれたばかりの頃の将冴」

 

「か、可愛い……」

 

「母さん、将冴が生まれた時大泣きしてたな」

 

「初めての子だったから嬉しくなっちゃってね」

 

 

3人がアルバムを見ているのを、僕は眺めていた。

だんだん眠くなってきた……いけない、クラリッサが来てるのに眠っちゃ……

 

 

「将冴?大丈夫か?」

 

「あら、ご飯食べ過ぎて眠くなっちゃったのかしら?」

 

「寝かせてやろう。いつも頑張ってるからな」

 

 

お父さんとお母さんが僕に笑いかけてる……。だめだ……今寝た……ら……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ハッと目を覚ますと、クラリッサが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

 

 

「将冴、大丈夫か?」

 

「クラリッサ……ここは……」

 

「ここって……寮の私たちの部屋だが」

 

 

寮の部屋……僕は自分の手を目の前に持ってくる。

機械でできた腕が、そこにあった。

 

……そうか、あれが夢だったのか。

 

 

「僕、うなされてた?」

 

「いや、うなされてはいなかったんだが……泣いてたぞ?」

 

「泣いて……」

 

 

ぐいっと目元を拭うと、確かに泣いていたようだ。

夢見て泣くなんて、今までなかったのになぁ……。

 

 

「何かあったのか?」

 

「……ううん、何もないよ。でも……」

 

 

僕はクラリッサに抱きついた。

 

 

「もう少し、このまま……」




今回頂いたリクエストは、いい話でということだったのでいい話にしようとしたんですが……んー、って感じですね。

でも、こういうのいいですよね←


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200話記念番外編③:彼が年上キラーでなかった場合

一度、年上キラーではない将冴を書こうと思い、前々から書いてみたかったネタ。

正直、どうなるかわからない。多分カオス。


※注意※
・一夏のハーレムが崩れています。
・ラウラ、シャルが義妹ではありません。
・クラリッサ?いません。
・同級生組ヒロインとかほとんど目を向けてこなかったのでおそらく酷い


 

朝、目を覚ますと僕に何かが抱きついている感覚がある。

 

 

「はぁ……またか」

 

 

布団をめくると、僕の腰に抱きついて寝息を立てているラウラがいる。……裸で。

 

もう何度も潜り込まれているとはいえ、同年代の裸がそこにあると、僕だってドギマギする。

 

……見てないよ。

 

 

「ラウラ、起きて服着なさい」

 

「ん……おはよう将冴。さぁ、朝の営みとやらをしようか」

 

「朝の営みなんて単語は聞いたことないし、僕とラウラはそういう関係じゃないでしょ。またクラリッサさんに変なこと吹き込まれたね?」

 

 

あの副官さんの日本の知識は偏りすぎている……おかげで僕が被害にあうのだ。

 

 

「むぅ、旦那様イケズだ」

 

「旦那じゃないって……いいから服着て」

 

 

間違った知識を植え付けられてしまったために、当初ラウラは僕のことを嫁と言っていたが、なんとか男側に戻した。その結果、旦那になってしまったけどね……。

 

ラウラは床に落ちていたシャツを着た。

その辺に脱ぎ散らかさないで欲しいのだけれど……。

 

と、その時。コンコンと扉をノックする音が聞こえる。ラウラのお迎えかな。

 

 

「どうぞ」

 

 

僕が応えると、扉を開け制服姿のシャルが入ってきた。

 

 

「お邪魔します。ラウラは……やっぱりにいたんだ」

 

「おはようシャル。いつも迎えお疲れ様」

 

「この状況に慣れるのもどうかと思うけどね。ほら、ラウラ。早く部屋で着替えて」

 

「私の制服は持ってきてくれなかったのか?」

 

「将冴の前で着替えるつもりじゃ……ないよね?」

 

 

怒気を含んだ言葉に、ラウラは黙って頷き部屋を出て行った。いやぁ、本当に助かるよ……。

 

 

「将冴、乗せてあげるから車椅子出して」

 

「僕一人でできるから大丈夫だよ?」

 

「いいから。それくらい手伝わせてよ」

 

 

一人でやったほうが楽なのは言わないでおこう……。

あと、シャル。僕を抱き上げる時、なんでそんなに息が荒いの……?

 

 

「じゃあ、将冴……服脱がせるよ?」

 

「……へ?」

 

「へ、変な意味じゃないよ!?ただ着替えを手伝おうと思って……」

 

「シャル、悪いけどそればっかりは自分でやるから」

 

「そ、そうだよね!ご、ごめんね!」

 

 

と顔を真っ赤にしたシャルは部屋を出て行った。

 

はぁ、朝から騒がしいな……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

朝食を食べに食堂へ行くと、何故か鈴が腕を組んで立っていた。何してるんだろ。

 

 

「来たわね、将冴!」

 

「なに、そのこれから決闘が始まるみたいな台詞」

 

「な、なんでもいいじゃない!それより、一緒に朝食食べるわよ!」

 

「え、う、うん……」

 

 

別にそんな力強く宣言しなくても……。

 

僕と鈴は朝食を取り、テーブルについた。

 

 

「鈴、朝から酢豚?」

 

「べ、別にいいじゃない!好きなんだから……」

 

「まぁ、鈴がそれでいいならいいんだけど……」

 

 

僕はそう言いながら和定食をつついた。

朝はやっぱり焼き魚だよね……。

 

 

「ねぇ、将冴。お昼って用事ある?」

 

「昼?……んー、いつも通り一夏と昼食食べると思うけど……」

 

「そ、そう……なら、私も一緒でいい?」

 

「別にいいけど?」

 

「よっし!」

 

 

なんだかガッツポーズしてる。

そんなに嬉しかったのかな?

 

 

「鈴?」

 

「なんでもないわ。それより、早く食べないと遅刻するわよ。なんなら、私が……食べさせてあげようか?」

 

「自分で食べたほうが早いからいいよ」

 

「そ、そう。ならいいけど!」

 

 

鈴、なんでそんなに顔を赤くして怒ってるの?

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

教室へ行くと、僕の元にズンズンと向かってくる人が2人。

箒とセシリアだ。

 

 

「「将冴(さん)!」」

 

「おはよう2人とも。そんなに慌ててどうしたの?」

 

「今日の放課後、私と剣道をやるだろう!?」

 

「いいえ、将冴さんは私と射撃訓練をするんです!」

 

 

はぁ……いつものか……。

 

 

「僕よりも一夏を誘ったら?」

 

「一夏さんは、将冴さんに断られた時の保険ですわ!」

 

 

可哀想に一夏……いいように使われて。

まぁ、一夏はその辺気にしないだろうけど。

 

あと、セシリア。たまたま一夏には聞こえてなかったけど、そんな大声で言っちゃダメだよ。

 

 

「それで、どうなんだ将冴!」

 

「あぁ、悪いけど生徒会があるから」

 

「そ、そうか……」

 

「残念ですわ……」

 

 

何故そんなに落ち込むのか……僕にはわからない。

 

 

「それでは、私が席まで車椅子を押してあげますわ!」

 

「ま、まて!それは私が!」

 

「いいえ、私が!」

 

「私が!」

 

「私が!」

 

 

2人が言い争っている間に、僕は自分の席についた。

 

……ふぅ。

 

 

「なんだか疲れた」




今後も続きをかけるような余地を残して、今回はこれで。

また気が向いたら番外編で書きます。

明日からはまた本編です。


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177話

300話行きそうな気がします。
後日談とかも書こうかなとか思ってますし……。

本当に目指せIS話数1位?


 

ヒカルノさんとのお話が終わった後、束さんの言う通りバーチャロンにデータが届いていたので部屋で確認することにした。

 

僕はベッドに腰掛けてデータを呼び出した。クラリッサは紅茶を淹れてくれている。生徒会で飲んでいたらハマってしまったので、休日に道具一式を購入したらクラリッサもハマるという……恐るべし、虚さん。

 

おっと、今は送られてきたデータに集中しよう。束さんはこういうデータに関してはふざけないから読みやすい。

 

 

『銀の福音を調べた結果、後付けされたであろうパーツを発見。形状はV.ドライブに酷似しているが、搭載されているディスクがV.ドライブとは異なっていた。このディスクを解析した結果、ISコアをコアネットワークから切り離し指定された人物による操作を可能とするデータが組み込まれていた。以後、このディスクを《シャドウディスク》と呼称』

 

 

……なるほどね、わざわざシャドウディスクを取り付けなきゃいけないからダイモンは手間がかかると言っていたのか。ISを乗っ取れるのは脅威だけど、まずISに接近する必要があるのか……。

 

あのダイモンのことだし、今後はこの方法は使わないだろう。でも、別の方法を使ってくるかもしれない。警戒は必要だ。

 

 

「何かわかったか?」

 

 

紅茶の入ったカップを両手に持ったクラリッサが僕の隣に座り、僕にカップを手渡してくれる。

 

 

「んー、ダイモンが何をしたいのかますますわからなくなった。世界を混乱に陥れるとかいう大きな目的はあるみたいだけど、そんな自己中心的な快楽主義者なのかな。ダイモンは」

 

「だが、その目的のために今まで動いているのだろう?」

 

「うん、裏組織も牛耳ってるみたいだし、その気になれば世界で同時にテロが行われてもおかしくない……でもそうしないのは何故なんだろう……」

 

 

……考えてもダイモンの思考が読めない。直接真意を聞くしかないのか……。

 

んー、今日はもういいや。考えてもわからないなら成り行きに任せる。僕は紅茶を一口啜った。

 

 

「ん、アールグレイ?」

 

「ダージリンだ」

 

 

まだまだ修行が足りないようだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

翌日。早速ISの授業で、あのシミュレーターを使うことになった。クラリッサと山田先生が付き添いでそばにいてくれるが……正直不安で仕方がない。

 

だって束謹製だよ?怖いじゃん。

 

部屋の中央には、大きな椅子のような機械が鎮座しており、なんとも言い難い威圧感が……。

 

 

「将冴君、体調に変化を感じたらすぐにやめてくださいね?今日は試運転という気持ちで行ってください」

 

「わかりました。僕もどんなものかわからないので、少し慣らすつもりでやります」

 

 

シミュレーターの座ると、僕の頭を覆うようにメットのようなものが降りてくる。

 

 

「では、最初は初期訓練用のデータからやっていくぞ」

 

「うん、お願い」

 

 

クラリッサがシミュレーターを操作すると、視界が変わりさっきまでいた部屋ではなく、外の映像となった。

 

 

「これがシミュレーター」

 

 

リアルに再現しすぎではないだろうか。試しに僕の体を見てみると、ご丁寧にテムジンを展開している。

 

 

『将冴、聞こえるか?』

 

 

クラリッサの声が聞こえてくる。

 

 

「うん、聞こえるよ」

 

『よし、では始めていくぞ。まずは動作確認のために色々動いてみろ』

 

「了解」

 

 

本当に本物そっくりだ。動いた感覚もバーチャロンそっくり。それに、早く動いた時のGの感じなんかも再現されてる。

 

束さん力入れすぎ……。

 

 

『では次に味方のISを出すぞ。将冴が司令塔となって指示を出すんだ』

 

 

そのために作られたシミュレーターだからね。

これがないと始まらない。

 

すぐに現れた味方のISは……え、これって……

 

 

「なんでうちの専用機組のISなんだ……」

 

 

白式に紅椿、ブルーティアーズ、甲龍、ラファール・リヴァイブとシュバルツェア・レーゲン……うわ、打鉄弐式まで……。

 

 

「これは、色々とやばそうな雰囲気出てきたなぁ……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

ISの授業が終わり昼休み。

僕は机に突っ伏していた。

 

 

「将冴、大丈夫か?昼は食べれるか?」

 

 

クラリッサが心配して声をかけてくれるので、笑みを作り返事をした。

 

 

「大丈夫……でも、今日は消化に良さそうなもの食べようかな……お茶漬けとか……」

 

 

あのシミュレーター、やはり束謹製のトンデモ装置だった。

 

なんせ敵の攻撃を衝撃まで完全再現してるんだから。

それに、初期訓練なのに合格条件が50体のダイモンオーブを全て破壊しろ。ただし、味方機のエネルギー全部集めたうちの80%以上でクリアすること……って。初心者が出来るレベルを超えてるよ!

 

 

「まさかあんなに鬼畜設定だとは……」

 

「私も、そんなに難しいとは……」

 

「まぁ、あれだよね。さすが束さんっていうだけで解決しちゃうから不思議だよね」

 

「改めて、篠ノ之博士の凄さ……がわかったな」

 

 

僕のためにやってくれたんだろうけど……毎回これでは体が追いつかないや……。

 

だけど、休んでる暇はないからね……。

 

 

「放課後は生徒会と、ヒカルノさんに入れてもらったデータを使おうか」

 

「頼むから、今日は休んでくれ……」




将冴を痛めつけていくスタイル。

クラリッサに怒られても仕方ないと思っている……


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178話

クラリッサに頭撫でられながら膝枕してもらいたい

※欲望を吐露しましたが、作者は正常です。


 

クラリッサに強く止められ、しょうがなくISには乗らず生徒会だけ参加するということで妥協した。クラリッサは放課後別の用があり付き添えず、「せめて私のいる日にやってくれ」と言われてしまったしね。

 

生徒会室に行くと、楯無さんと虚さんが既に書類整理を始めていた。

 

 

「こんにちは」

 

「あら、将冴君。お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

 

僕用に用意してくれた机まで行くと、机の上に生徒会企画と書かれた書類が置いてあった。

 

 

「楯無さん、これは?」

 

「学園祭で生徒会がやる企画よ。将冴君も、目を通してくれるかしら?」

 

「生徒会企画……」

 

 

……どことなく嫌な予感がしないでもないんだけど、とりあえず読んでみようかな。

 

 

「……演劇、ですか?」

 

「ええ。でも、ただの演劇じゃないわよ?」

 

「みたい……ですね……」

 

 

演目はシンデレラ……担ってるけど、概要を見たら酷いものだ。舞踏会が武闘会になってるし、王子の王冠を巡って姫様が戦うとか……なんて血の気の多い……。隅に備考で、王冠最初に取った姫様は王子と同室になる許可を得るって書いてあるし……。

 

まぁ、なんというか、一夏ご愁傷様……。

僕はあまり関与しないよ。

 

 

「これ、一夏には話したんですか?」

 

「いえ、まだよ?他の出演者には話したけどね」

 

 

事後承諾させるつもりかな。まぁ、僕は別に構わないんだけど。

 

んー、しかし何か物足りないというか……。

 

 

「楯無さん、これだけじゃインパクトに欠けると思うので、出演者に武装させてはどうでしょう?」

 

「もちろん、やるからには全力よ!」

 

 

やるなら全力。一夏が慌てふためく姿は見ていて愉快だからねぇ、はっはっは。

 

 

「あまりやりすぎてはいけませんよ?」

 

「分かってるわよ、虚ちゃん。当日は襲撃があるかもしれないものね」

 

「……やっぱり楯無さん達も、襲撃の件は聞いていたんですね」

 

「ええ。生徒会も、何かしら対策しないといけないのよ。今のところは、学園周辺の監視を強化するしかないわね。本当に襲撃が来るかもわからないし」

 

「専用機組がいつでも出撃できるようにしたほうがいいです。敵がどの規模で来るかわかりませんから……」

 

「そうね。それは織斑先生も伝えると思うわ。あとは学園側から何か要請があれば答えていく形にしましょう」

 

「はい、わかりました」

 

 

学園祭の話はこれで終わり、あとは学園祭に関する書類を楯無さんが簪さんのところへ行こうとするのを止めながら片付け時間が過ぎていった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

部屋に戻ると、コアネットワークを通じて通信が届いた。相手は……ジェニー?

 

 

「もしもし、ジェニー?」

 

『あ、ショウ?学園祭のことなんだけど……』

 

「やっぱりその連絡だったんだ。どうだった?」

 

『それが……』

 

『ショウゴォー!なんで私を誘ってくれなかったの!?』

 

 

キィンと耳につんざくような声が……この声はナターシャさんか?ていうか、あっち今夜中じゃ……そしてなぜジェニーと一緒に……。

 

 

「ナターシャさん、久しぶりです」

 

『私、その日は何が何でもお休み取ったのにぃ〜!』

 

「どうしてナターシャさんがジェニーと?」

 

『私もいるよ〜!』

 

 

と、ステフの声も聞こえてくる。3人一緒って……何してるんだろう。

 

 

『なんか、訓練終わったあとにナターシャ少尉に誘われてね。今、少尉の家でご飯してんだけど、ショウから学園祭に誘われた話したら……』

 

『私も行きたいぃ!』

 

『っていう具合で……』

 

「ああ……」

 

 

ナターシャさんの気持ちを知っているから、そうなるのはわかっていたけど……まさかこれほどとは……。

 

 

『どうして私を誘ってくれなかったの……?』

 

「えっと……」

 

 

さて、なんて答えたものか……

 

 

「僕と同年代のジェニーとステフに、IS学園を見せてあげたかったから……かな?」

 

『うぅ……そう言われると何も返せないぃ……』

 

 

予想外に早く引き下がったよ。ナターシャさん……。

 

 

『ステフ!お酒よ!お酒持ってきて!』

 

『了解です、少尉!』

 

『ああ!もう、少尉!明日休みだからって飲み過ぎです!』

 

「はは、ジェニー大変そうだね……」

 

『ステフが悪乗りするから余計にね……。あんたも忙しい時に連絡してごめんね』

 

「僕は大丈夫。ちょうど用事終わったところだから」

 

『そう。なら良かった。ああ、そうだ。学園祭、行けると思うわ。チーフが特別訓練だ、行って来いって』

 

「本当?良かった。当日、楽しみにしてるよ。招待券、送っておくからね」

 

『うん、ありがとう』

 

『ジェニー!あなたも飲むわよ!』

 

『私はまだ飲めません!って、そんなフラフラなままナイフ持たないでください!ごめんショウ、切るわね!』

 

「うん、気をつけてね……」

 

 

ジェニーが二人のお世話で倒れないか心配だな……。

夜遅くなのにご苦労様。日本に来たら、楽しんでもらえるようにするよ。




もう少しで学園祭に入るかなぁ……頑張ろう。


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179話

そろそろがっつり話を進めよう。

だけど、今回はまだ下準備の回なんだ……。


 

ジェニーが学園祭に行けると連絡が来た次の日。僕と専用機を持った学生全員が会議室に集まっていた。学年ごとに座った僕らの前に、織斑先生と楯無さんが現れた。

 

 

「集まっているな。学園祭の準備で忙しい中集まってもらってすまない。お前達に集まってもらったのは学園祭当日の警備についてだ」

 

 

警備、という言葉に上級生達がざわつき始める。去年は警備なんて、と口々に呟いているのがわかる。一年生は去年の事はわからないので、特にそういった事はない。

 

 

「上級生の者達がざわつくのはわかるが、とりあえず話を聞け。知っての通り、学園祭は学外の人が大勢来る。それに紛れ、テロリストの襲撃がある可能性が出てきた。そのため、ここに集まった諸君に、警備を行ってもらう事になった」

 

 

織斑先生の言葉に、先ほどよりも周りがざわついた。

事情を知っている僕とマドカだけは黙っていたが、みんな驚きを隠せないようだ。

 

 

「織斑先生。その襲撃は本当に来るんですか?」

 

「とある伝からの話だ。可能性は高い」

 

 

束さんが根拠なしに襲撃が来るなんていうとは思わないしね。ダイモンからしても、学園祭という一般人が学園に入ってきてごった返す状況は好機だろう。特に、僕を狙うなら……。

 

 

「当日はローテーションを組み学園の周りを警備してもらう。襲撃があった場合、ここにいる全員で対処する事になる」

 

「警備に関しての詳しい事は、生徒会で纏めた物をみんなに配るわ」

 

「この事は一般生徒はもちろん、所属する企業、政府にも話すな。それでは解散」

 

 

反論の余地なく、織斑先生は会議室を出て行った。

楯無さんはいつ作ったのかわからない警備の資料を僕らに配ると、会議室を出て行った。

 

上級生達は少し戸惑ったような顔をしていたが、すぐに資料に目を通し始めていた。一年生はほとんどが戸惑っていて、動けないでいた。動じていないのは僕とマドカ、そしてラウラだった。

 

 

「襲撃って本当なのか?」

 

「織斑先生がそう言ったんだから、そうなんだと思うよ」

 

「将冴さんとマドカさんとラウラさんはやけに落ち着いていますわね……」

 

「むしろ、格好の的だろう。今まで襲撃された事がなかったのが驚きなくらいだ」

 

 

軍人のラウラからすればそういう見方になるのか……。

マドカは無言で資料読んでて、会話に入ってくる気配がない。

 

 

「僕は、前から聞いてたから」

 

「ちょ、なんで将冴は知ってんのよ!」

 

「織斑先生が言ってた同じ伝で」

 

「という事は、その伝というのは姉さん?」

 

「うん。因みにマドカも知ってるから」

 

 

マドカはチラリとこちらを見てすぐに資料に目を戻した。もっとコミュニケーションとろうよ、マドカ……。

 

 

「お兄ちゃん、また僕に隠し事?」

 

「シャル、そのジト目はやめて……。それに今回は混乱を避けるために……」

 

「でも隠してたんだよね?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

シャルにはどうもかなわない……特にお兄ちゃんと呼ばれると、ね……。

 

 

「まぁここにいても仕方ないし、教室戻ろうぜ。学園祭の出し物の準備もあるしさ」

 

 

一夏の言葉で僕たちは教室に戻った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「将冴君、どう?」

 

「……ぴったりすぎて怖い」

 

 

教室に戻ると、服を作っていた女子数人に捕まり、拉致された。拉致っていい方も悪いけど、とにかく強引に連れて行かれた。

 

そこで執事服を渡され、サイズを確認したいから着てくれと言われ着たのだけれど、いつ僕の体のサイズ知ったんだろう。

 

 

「やっぱり着ているのといないのでは印象変わるね。サイズ問題ないなら、当日はそれを着てね」

 

「うん、わかった。もう脱いでいいかな?」

 

「あ、まだ脱がないで!」

 

「え、でも……」

 

「いいからいいから。ちょっと車椅子押すよ」

 

 

と、強引にまたどこかに連れて行かれそうになる。

これ以上何があるというのか……。

 

 

「ここで待っててね」

 

 

そそくさと部屋を出て行くと、外から声が聞こえてきた。

 

 

「おい、何をするんだ!?」

 

「まぁまぁ。決して悪いようにはしませんから」

 

「こんな格好させている時点で何か考えているだろう!」

 

 

言い争っている声……この声は……

 

 

「臆せず突っ込みましょう!」

 

「お、押すな!?」

 

 

扉が開かれ、押し込まれたようにメイド服姿のクラリッサが入ってきた。なるほど……こういうことか……。

 

 

「しょ、将冴……」

 

「無理やり着せられたの?」

 

「あ、ああ……教室で手持ち無沙汰にしていたら……試着してくれと……」

 

 

……なんというか、フリフリのロングスカート姿のクラリッサというのは始めてなので、少し戸惑うな。クラリッサは顔を真っ赤にしてスカート握りしめてて……うん、可愛いんです、はい。

 

 

「その……似合ってるよ。クラリッサ」

 

「将冴こそ……似合ってる……」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

服が変わるだけでこんなに印象が変わるのか……むぅ、予想外だ……。

 

 

「お二人さん、お二人さん。いちゃいちゃするのはいいけど、場所考えようかぁ」

 

「「のわぁ!?」

 

 

いつの間にかカメラを持った本音さんがいて、僕たちは驚きの声を上げてしまった。

 

翌日、クラスに僕とクラリッサの写真が出回ったのは言うまでもない。




次回から学園祭。

いつも通りダラダラ行きますが、物語はカオスになるかも……


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180話

ナンバリングが180……あと20で200……。

来るとこまできたなぁ……


 

とうとうこの日が来た。おそらく一番大変であろう学園行事、学園祭当日だ。

 

いやぁ、大変だった。クラスの出し物に、生徒会、ISの特別カリキュラムに学園祭警備のための訓練……正直、体がボロボロな気がしてならないけど、今日が過ぎれば休める。休めるんだ……。

 

さて、もうすぐで一般来場者を入場させるのだけれど、外で出店を出している部活動組はギラギラと闘志剥き出しだ。なぜかというと、今回の学園祭前に生徒会から通知があった。

 

 

『総合評価一位をとった部には、織斑一夏を入部させる』

 

 

この通知で運動部のみならず、文化系の部活も燃えた。虚さん曰く、過去最高の熱気だという。

 

因みに、このことは一夏に了承を得ていないが、織斑先生からOKはもらったので問題ない……ということになっている。

 

 

「はてさて、どうなることやら……」

 

「将冴、もうすぐで客が来る。準備したほうが良いのではないのか?」

 

 

窓から外の様子を見ていると、クラリッサが声をかけてくる。ここ最近お互い忙しくてあまり一緒にいれてなかったな……終わったらとりあえずクラリッサとゆっくり過ごそう。

 

 

「うん、わかってるよ。クラリッサも構内の巡回あるんだよね?」

 

「ああ、だからあまり一緒にいられないが、休憩時間になったらここに戻る」

 

「その時は、一緒に学園祭回ろうね。僕も午後から生徒会と警備があるからあまりゆっくりはできないけど……」

 

「少しでも構わない。一緒にいられるならな」

 

 

クラリッサがいなかったら、絶対今日までこれなかった……本当にクラリッサには感謝だ。

 

 

『これより、IS学園学園祭を開始します!』

 

 

構内放送が流れ、一般来場者が学園に雪崩れ込んだ。

さて、頑張るとしますか!

 

 

「クラリッサ、今日は頑張ろうね」

 

「ああ、将冴もな」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

学園祭が始まって10分。1年1組のメイド・執事喫茶は満席となっていた。これはすごい……。

 

うちのクラスの目玉ということになっている、僕と一夏の姿を見ようと押しかけたのだ。それだけで集客できるのもどうかと思うが……。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

 

僕は全力の笑顔とともに新しく来たお客さんをテーブルに案内する。因みに、僕は車椅子で接客している。なんでも、車椅子執事とか新しいし、僕の顔なら保護欲をそそられるから集客できる……とのこと。

 

正直全く嬉しくないんだけど。

 

 

「こちらのメニューからご注文ください」

 

「ねぇ、このスペシャルセットって何?」

 

「スペシャルセットは、ケーキとドリンク、それとあちらに用意してある撮影会場で好きなメイド、執事とお写真を撮ることができるサービスがセットとなっています」

 

「それじゃそれで」

 

「あ、私も!」

 

「かしこまりました。後ほど、撮影スタッフが参りますので、その時にご希望のメイド、執事をご指名ください」

 

 

このスペシャルセット、すでに何回も注文されてる。指名されるのはだいたい僕と一夏だ。他だと、専用機組がよく指名されるけど……っと、さっさと注文伝えなきゃ。

 

 

「8番、スペシャルセットお願いします」

 

「はぁい。将冴君がうまく回してくれるからこっちも助かるわぁ」

 

「いえ、僕は何も……」

 

 

ただ接客しているだけだ……あそこのテーブル、もう食べ終わってる。僕は近くを通りかかったセシリアを呼び止めた。

 

 

「セシリア、あそこのテーブルの空いたお皿片付けてきて」

 

「わかりましたわ」

 

 

あとは、あそこのお客さんがそろそろお会計だと思うから、すぐに片付けて次のお客さん入れれるようにして、スペシャルセット用のケーキが足りなくなる可能性もあるから代案考えておかないと。

 

こんな状況で襲撃来たら対処できなさそうだよ……あ、新しいお客さんが来た。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢さ……あ!」

 

「Hello、ショウ!久しぶり!」

 

「へぇ、その格好似合ってるわね」

 

「ジェニーにステフ!来てくれたんだ」

 

 

僕がアメリカから呼んだ二人が早速来てくれたみたいだ。

 

 

「誘われたんだから、ここに一番に来なきゃって思ってね」

 

「すごい人気だね。一番乗りできると思ってたんだけど」

 

「男性操縦者が物珍しいだけだよ。立ち話も他のお客さんの迷惑になっちゃうからテーブルに案内するね」

 

 

2人を空いてる席に案内し、メニューを渡した。

すると、先程のやり取りを見ていたのか一夏が近づいてきた。

 

 

「将冴、何かあったか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。あ、紹介するよ。この2人が、アメリカの代表候補生のジェニファーとステファニー。早速来てくれたんだ」

 

 

僕が2人を紹介すると、ジェニとステフは一夏に軽く会釈した。

 

 

「ああ、前に言ってた2人だな。知ってるかもしれないけど、俺は織斑一夏だ。よろしくな」

 

「よろしくねー、イチカ君!」

 

「よろしく」

 

 

明るく答えるステフとは対照的に、素っ気なく答えるジェニー。まぁ、僕の時よりはまだマシか……。

 

 

「一夏!調理をてつだってくれ!」

 

 

調理の方で箒が一夏を呼んでる。手が足りないのかな。

 

 

「おう、今行く!それじゃ、お嬢様方。ごゆっくり」

 

 

一夏はそう言って調理を手伝いに行った。まぁ、忙しいからね。仕方ないね。

 

 

「もう少しゆっくり紹介できたらよかったんだけど……」

 

「忙しそうだから仕方ないわよ。それより、注文いいかしら。執事さん?」

 

「はい、承ります」

 

 

スペシャルセットが2つ追加されたのは言われるまでもなく、ご指名は僕だった。




学園祭の中だけで10話くらい使ってしまいそう……


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181話

ライブに行って筋肉痛になりました。
右腕が……右腕がぁー!


 

ジェニーとステフはたっぷり30分ほど居座った。そんなにいても何もないのに……。帰り際、僕は2人を見送るために廊下に出た。

 

 

「この後、2人はどうするの?」

 

「ゆっくり見て回るつもり。いろいろ設備も見たいしね」

 

「そっか。僕は色々忙しいから、一緒に回れないかもしれないけど……」

 

「心配しないでよ、ショウ。ジェニーのお守りは私に任せて!」

 

「ジェニー、ステフをお願いね」

 

「わかってるわよ」

 

「2人とも酷い!?」

 

 

ふふ、ステフは弄りがいがあるね。あまり弄りすぎてもかわいそうだから、これ以上はしないけど。

 

っと、そうだ。

 

 

「この後会えるかわからないから、今のうちに渡しておくよ」

 

 

僕はポケットから小さな箱を取り出し、ジェニーに渡した。

 

 

「それ、帰ったらナターシャさんに渡してくれる?」

 

「何これ?まるで指輪を入れるための箱みたいな……」

 

 

ジェニーが箱を開けると、中には綺麗に輝くシルバーの指輪。束さんが直してくれた銀の福音だ。

 

しかし、僕はわかってるから何の疑いもなく渡したけど、ジェニーとステフはそうはいかないようだった。

 

 

「ちょ、ちょっと!あんたクラリッサさんという人がいながら!」

 

「修羅場!?日本で有名なヒルドラ展開!?」

 

「あはは……何も言わなかったらそりゃ勘違いするか……」

 

 

僕は少し頭を抱え、改めて説明をする。

 

 

「それ、ナターシャさんが乗っていた銀の福音だよ。僕の所属してる企業が海から引き上げて、直してくれたんだよ」

 

 

束さんは何も言ってなかったけど、おそらく色々と手が加えられてるだろうなぁ……福音の原型とどめてないかも……。

 

 

「あんたの企業ってなんなのよ……」

 

「バーチャロン開発したり、デュノア社を買収したりする程度の企業だよ」

 

「ショウ、そうでもない風に言ってるけど、それすごいことだからね?」

 

 

うん、知ってる。あの人が関わってるんだから……。今日も学園に来てるんだろうし……。

 

 

「いえいえ、そんな大層なことはしていません」

 

 

唐突に聞こえてきた声に僕たちは振り返った。

そこには黒い髪を三つ編みにして一つにまとめ、ビン底グルグルメガネをかけた女性が……って、これ変装したクロエさんだ!

 

クロエさんの横にはまるで貼り付けたような笑顔を浮かべるオータムさんも……2人ともこんなところで何してるの!?

 

 

「こんにちは、将冴様」

 

「ど、どうしてここにいるんですか!クロ……リリン社長!」

 

 

クロエさんと呼ぼうとしたらオータムさんからキッと睨まれたので急ぎ言い直す。そうだった、この姿の時はリリン社長と呼ばなければ。

 

 

「「社長!?」」

 

 

2人の反応は最もだ。正直、この冴えない雰囲気の人が社長なんて思わないだろう。

 

 

「えっと、一応紹介するね。こちらが……」

 

「MARZ社長のリリン・プラジナーです。彼女は、私の秘書の巻紙礼子さんです」

 

「初めまして。うちの将冴がお世話になっております」

 

 

オータムさんが、2人に名刺を渡してる。わざわざ作ったのかな……ていうか、巻紙礼子の時のオータムさんはやっぱり慣れない……。

 

 

「ど、どうも……」

 

「ありがとうございます……」

 

 

2人が戸惑いながら名刺を受け取る。

オータムさんはやはり貼り付けたような笑顔を浮かべたままだ……。本性を知ったら2人はどう思うだろうか……。

 

 

「将冴、何か失礼なことを考えましたか?」

 

「い、いえ……そんなことは……」

 

 

今日のオータムさんはものすごく怖いんですが……。と、とりあえず……

 

 

「リリン社長、礼子さん。よければうちの店に……」

 

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

「将冴、後で話があるから必ず来てくださいね」

 

「は、はい……」

 

 

はは……僕の心が持ちそうにない……。

 

 

「ショウ、大丈夫?なんか顔色悪いけど……」

 

「少し休んだほうがいいんじゃないの?」

 

「大丈夫……うん、大丈夫。それじゃ、お店戻らなきゃいけないからこれで。楽しんでいってね。あと、福音のことよろしく」

 

 

早く行かなければ、オータムさんに何かされそうだ……。

なんであんなに不機嫌なんだろう……。




将冴の胃壁がどんどん削られていく。

しかし学園祭は始まったばかり。
頑張れ、将冴


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182話

どうも書けない日々。
だんだんと書きたいところに近づいてきたから緊張してるのかな……。


 

 

教室に戻ると、クロエさんとオータムさんがマドカと話していた。マドカももちろんメイド服を着ており、無愛想ではあるけど地味にスペシャルセットの写真指名度が高い。これもまた、織斑先生にそっくりなのが原因だろう。

 

僕も呼ばれていたし、3人の元へ向かおう……。

 

 

「お待たせしました」

 

「将冴様、あのお二人とのお話はもうよろしかったのですか?」

 

「ええ、少し頼みごとをしただけですから。2人は、マドカからの招待状で来たんですか?」

 

「はい。本当は私ではなくスコール様が誘われていたのですが、スコール様はダイモンの動向を監視するとのことで、私が来ることになりました」

 

「そこで束さんは呼ばなかったんだね、マドカ」

 

「アレは呼ばなくても来るだろう」

 

「ごもっともで……」

 

 

スコールさんが監視についたのか……それなら、まぁ安心かもしれないけど。そうなると、オータムさんは学園内部を監視する役、ということなのかな。

 

 

「それにしても、繁盛しているみたいですね。礼子さん、何を食べましょう?」

 

「呑気に食べてる場合じゃないでしょう、社長?いつ襲撃が来るかわからないんですから」

 

 

学園にいる間はそのキャラで通すんですね……。

 

 

「しかし、腹が減っては何とやらと言いますし……」

 

 

クロエさんはクロエさんで楽しみにしていたようだ。まぁ、ほとんど外に出ることはないって言ってたし、こういう催しは心躍るものがあるんだろう。

 

 

「……では、少しだけですよ?」

 

「ありがとうございます」

 

「私が注文を受けよう。ちなみに、1番人気はスペシャルセットだ。好きなメイド、執事と写真が撮れるぞ」

 

「ではそのスペシャルセットを2つで」

 

「な、勝手に決めて……」

 

「誰を指名する。今のところ、指名率トップは織斑一夏と将冴だ」

 

「将冴様とマドカ様をお願いします」

 

「承知した。少し待て」

 

 

マドカはメイド喫茶とは思えない返事をして、調理のほうに注文を伝えに行った。一応、接客の仕方は教えたんだけど……なかなかうまくいかないものだな……。

 

まぁ、メイドさんなのにあの口調というギャップで受けてるみたいだからいいか……。

 

 

「それで、礼子さん。僕に話というのは?」

 

「ええ。今回の襲撃、いつもダイモンとは手口が大きく違う。博士もそうだけど、直接調べていた私達もそれは感じたわ。今までの実験をしているような攻め方ではないはず。それはわかっているわね?」

 

「はい。わざわざこの日に襲撃するんですからね……わかっています」

 

「私やスコールも援護はする……けど、あまり表舞台には出ることができないわ。襲撃を跳ね除けるのは、あなた達よ」

 

 

オータムさんの言葉が重くのしかかる。今回の襲撃に際して、襲撃があった場合の現場指揮官として僕と楯無さんが選ばれているからだ。

 

自分たちで……つまり、みんなを動かす僕がしっかりしなければならない。

 

 

「……脅すように言ってしまったけど、大丈夫。将冴ならできる。私達は信じてる」

 

「オータムさん……」

 

「礼子!」

 

「す、すいません……」

 

 

ついぽろっと出てしまう……。

 

 

「話は終わったか?」

 

 

タイミングよく、マドカがケーキとドリンクを持って現れる。そんなに話し込んでいたか……。

 

 

「待たせた、スペシャルセットのケーキとドリンクだ。写真は会計の時に撮るから、その時に言ってくれ」

 

「随分とメイドがお似合いね、マドカ」

 

「別に。お前も来てみればいい。少しは将冴も振り向くかもしれないぞ?」

 

「なっ!?」

 

「ああ、ダメか。ここには鏡がないから恥ずかしさをどこにもぶつけられないな」

 

「お前、いい加減なこと言ってんじゃ……」

 

「礼子さん、素がでてますよ」

 

「……こほん。あまり変なことを言わないでくださいね()()()()()

 

「それは申し訳ないことをしたな。()()()()

 

 

ああ、もう……そんな目立つことして。

 

 

「ふふ、仲が良いようでなによりです」

 

 

クロエさん、ここは止めてください。




難産が続く……


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183話

ダラダラと書き続けています、作者です。
残暑が続きますね。

そろそろダイモン出てこいよ←


 

「ふう……」

 

 

お店もようやく落ち着き、僕は裏で一息ついていた。さすがに疲れたなぁ……お客さん、全然途絶えなかったから……。

 

クロエさんとオータムさんは、ほかも見て回ると言ってケーキを食べて写真を撮ったらすぐに行ってしまった。まぁ、あの2人ならそんなに目立った行動はしないだろう。

 

執事服を少し着崩し休んでいると、僕の元にシャルがペッドボトルを持って現れた。

 

 

「将冴、お疲れ様。はいこれ」

 

「ありがとう。シャルもお疲れ様」

 

 

シャルからペッドボトルを受け取り、蓋を開けて一口飲む。なんだか、例の特別カリキュラムで鍛えられたのか周りに眼がいくな……まぁ、そのおかげでお店を回せたんだけど……。

 

 

「将冴は、こういう仕事が合ってるのかもね。出会った時から思ってたけど、周りをよく見ているというか、見すぎているというか……」

 

「褒められているのか、そうじゃないのかわからない言い方だね」

 

「褒めてるよ、ちゃんと。警備の方だって、将冴が要になってるんだし」

 

「シャル、僕にプレッシャーかけて面白い?」

 

「プレッシャーだったの?」

 

「そりゃあ……ね」

 

 

僕が指示を間違えれば、みんなが怪我をするかもしれない。訓練を重ねる度に、その重さが身にしみてくる。シミュレーションで全滅した時なんて、ショックが強すぎてしばらく気分がしずんだよ。

 

 

「まぁ、僕は信じてるよ。将冴ならできるって。僕達のことを、ずっと助けてくれた将冴なら」

 

「シャル……」

 

「ね、お兄ちゃん」

 

 

さっきオータムさんが言ったようなことを……まさかシャルにまで言われるなんてね。

 

はぁ、そんなに僕が弱ってるように見えたかな。

しっかりしなきゃな。

 

 

「やっぱり、僕にプレッシャーかけてる?」

 

「あ、バレた?」

 

「本当にそのつもりだったんだ……」

 

 

我が義妹ながら恐ろしい子……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

小休止から戻り、店を見ると何やら派手な格好の鈴が一夏に突っかかっていた。派手な格好というのは……まぁ、鈴らしいといえばそうなんだけど、赤いチャイナ服を着ている。

 

鈴の方はそういうお店を出してるんだったか……。

 

 

「やぁ、鈴。敵情視察?」

 

「将冴。いや、そうじゃないけど……」

 

「じゃあ、一夏と学園祭を回る約束取り付けに来たの?」

 

「何も言ってないのになんでそういうことになるのよ!?」

 

「え〜、だって鈴は……」

 

「ああ!もう、言わなくてもいいから!あんたは黙ってて!」

 

 

はは、相変わらず鈴は面白いなぁ〜。

 

 

「もういいわよ!じゃあね!」

 

 

鈴は怒ってお店を出て行き、僕と一夏はその様子をとりあえず眺めていた。

 

 

「鈴、なんだったんだ?いきなりきて、このあと暇かって聞いてきたんだけど……」

 

「一夏と学園祭を回りたかったんでしょ?それくらい気づいてあげなよ」

 

「そうならそうと言ってくれればいいじゃねぇか」

 

「鈍ちん、気づいて欲しいんだよ。女の子は」

 

「そうなのか?」

 

「そうなの」

 

 

前から何度も言ってるじゃないか。本当に一夏は……モテるんだからもう少し女の子を意識してあげなよ、まったく。その気になればいつでも彼女作れるのに。

 

 

「っと、そうだ。午後にある生徒会企画なんだけど、あれ何をするんだ?俺、何も聞いてないんだけど」

 

「ああ、まぁ、行けばわかるよ。そこで説明あるから」

 

「そうか、ならいいけど……」

 

 

楯無さんの巧妙な罠が仕掛けられているのは言うまでもない。一位の部活は一夏を所属させることができる、という制約は生徒会にも適応されているからね。あの人は、一位を取るつもりなのだ。一夏を使ってね……。

 

まぁ、僕は冒頭のナレーションを終えたら、すぐに警備の方に行くけどね。

 

一夏、頑張れ。

 

 

「すいませーん!」

 

「「はい、ただいま」」

 

 

さて、また忙しくなる。お昼休みまで頑張るぞ。




明日はお休みします。
ご了承ください。


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184話

二日酔い気味の作者です。夜の街すすきので三軒もハシゴしたらあかんね。うん。


 

お昼になり、さらにお客さんが増えてきた。

これは、休んでる暇はないかな……。

 

 

「あれ、もうこんな時間なんだ。将冴君、休憩してきていいよ」

 

 

時計を見た相川さんが僕に伝えてくる。

 

 

「え、でもまだまだ忙しいのに、僕だけなんて……」

 

「将冴君、この後生徒会のお仕事もあるんでしょ?それになんか色々やることあるみたいだし、今のうちに休憩しててよ」

 

「そーそー。それに、やなしーはくらくら先生と一緒に回らなきゃ〜」

 

「ほ、本音さん!?」

 

「私たちのことは気にせず、イチャイチャしてきなよ。あ、でも後で話聞かせてね」

 

 

クラスの人たちが一致団結して僕を弄ってくる……味方はいないのか!

 

うう、これも衣装合わせの時に撮られた写真のせいだ。どうしてあの時気づかなかったんだ、僕は……。

 

などと嘆いていると、教室に織斑先生とクラリッサが入ってきた。二人とも休憩時間になったのかな?

 

 

「あ、織斑先生とハルフォーフ先生」

 

「問題は起きていないようだな」

 

「はい。ご覧の通り、大盛況です!学年優勝狙っちゃいますよ」

 

「ああ、くれぐれも問題は起こすなよ」

 

 

この調子なら、相川さんが言ったように学年優勝は出来そうだ。何か景品が出た気がするけど……その辺はあまり興味なかったから忘れちゃったな。いかんな……生徒会だから把握しておかなきゃいけないのに。

 

 

「将冴、大丈夫か?何か難しい顔をしているが……」

 

「あ、うん。少し疲れちゃっただけ。クラリッサは今休憩時間?」

 

「ああ。将冴は……まだ抜けれそうにないか?」

 

 

クラリッサが店の様子を見て聞いてくる。

僕はちらりとみんなのほうを見ると、みんな声には出さず口を動かした。

 

 

『は や く い け』

 

 

……逆らうと怖そうだ。特にシャルとラウラ。二人して包丁とフライパンもって出てこないでよ。仲いいんだから、まったく……。

 

 

「僕も、今から休憩時間だよ。ちょっと待ってて、着替えてくるから」

 

「ああ!」

 

 

うれしそうに頷くクラリッサ。まぁ……クラリッサと過ごせるならいいか。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

執事服から制服に着替え、クラリッサと一緒に学園祭を回ることにした。

 

 

「さて、最初はどこに行こうか」

 

「将冴はこの後もやることがあるからな。先に昼食を取りに行かないか?」

 

「そうだね。それなら鈴のところに行こうか。中華みたいなのやってるみたいだよ?」

 

「では2組に行くか」

 

 

2組の教室前に行くと、そこには中華喫茶の文字が。喫茶店二つ並んだんだね……。

 

 

「いらっしゃい……って、将冴とハルフォーフ先生か」

 

「やぁ、鈴。売れ行きはどう?」

 

「あんた達ほどじゃないけど、結構お客さんは来てるわよ。これから巻き返すから、覚悟しなさい!」

 

 

鈴のことだから、本当に巻き返しそうだな。

こっちも負けてられないね。

 

 

「それで、二人はうちで食べてくの?」

 

「ああ、席は空いているか?」

 

「空いてますよ。こちらへどうぞ〜」

 

 

鈴は僕とクラリッサを席まで案内してくれる。さすがに慣れてるな。中華料理屋の娘だから、まぁ当たり前なのかもしれないけど。

 

 

「注文はどうする?」

 

「鈴のオススメは?」

 

「私の?そうね……酢豚かな」

 

「学園祭で酢豚出してたんだ……」

 

「なによ、悪い?」

 

「悪くはないけど、ちょっとびっくりした……」

 

 

もっと簡単に作れるものを作ると思うんだけどなぁ……。

まぁ、他クラスのことだからこれ以上は口挟まないけど。

 

 

「で、酢豚でいいの?」

 

「うん、僕はそれで。クラリッサは?」

 

「同じのをたのむ」

 

「了解。厨房、酢豚二つ!……え、人手が足りない?しょうがないわね、今行くわ!」

 

 

鈴はこういう時、みんなを引っ張ってくれる力がある。鈴がこのクラスの中心なんだろうな……。結構な頻度で僕たちのところにくるから心配してたけど、そこはさすが鈴って感じだ。

 

 

「将冴、この後はどうするんだ?」

 

「まぁ、ぶらぶら回りつつって感じかな。校内の監視もしつつ」

 

「……襲撃なんてなければ、ゆっくりと回れたのにな……」

 

「それは仕方ないよ。……来年は、もっとゆっくり回ろうよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

来年……そうなるためにも、ダイモンを早く捕まえなきゃ。これ以上、誰かを傷つけさせてたまるもんか。




んー、調子が悪い……。

もう少しすれば、書きたいところだから筆が進むと思うのだけれど……


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185話

そろそろがっつり話を進めます。

スロースターターで申し訳ありません……、


 

とりあえず腹ごしらえを終えて、他の出し物を見に行くことにした。この近くで知り合いがいるとすると……。

 

 

「次、4組行ってみようか。簪さんいるみたいだし」

 

「4組は縁日をやると言っていたか。どういうものかは知らないが」

 

「そっか、クラリッサは日本のお祭りとか行ったことないもんね。本当のお祭りほどじゃないけど、この学園のことだし、かなり凝ってると思うな」

 

 

なんせ、言えば言っただけ予算が出てくるんだから……一応上限はあるけど……。

 

4組に着くと、結構な人が縁日を訪れていた。内装ややっているものも、かなり作り込まれている。この学園の生徒は、こういうお祭りごとには全力を出すのは……まぁ、わかっていたことだけど。

 

中に入ると、制服の上に法被を着た簪さんが僕たちに気づき駆け寄ってきた。

 

 

「将冴君、ハルフォーフ先生。来て、くれたんだ」

 

「こんにちは、簪さん」

 

「盛況のようだな」

 

「始まってすぐの時は、全然だったけど……お昼近くになってから、少しずつ増えてきて……」

 

 

殆どのお客さんはが、1組に流れてきたせいだな……。男性操縦者という物珍しさもあったんだろう。来年はそうならないといいけど……僕と一夏を別クラスにすれば少しは解決しそうだ。

 

 

「二人も、何かやっていく?型抜きなら、すぐできるけど……」

 

「それじゃ、それで。クラリッサもやってみようよ」

 

「しかし、私はそれがどういうものか……」

 

「僕が教えてあげるよ」

 

 

簪さんにお金を払い、型を2枚もらい、クラリッサと1枚づつやっていくことに。1枚目を開けてみる。これは……鳥かな?

 

 

「クラリッサは、どんなのだった?」

 

「花……チューリップだと思うが」

 

 

チューリップとは……また難しいものを。茎の部分が細くて長いから、すぐに割れちゃうんだよね。

 

 

「これをどうすればいいのだ?」

 

「まずブラシで粉を落としていくんだ。その後は絵に沿って針で周りの部分を削っていって、絵を割らずにできれば成功。ちょっとやってみせるから、見ててね」

 

 

型抜きなんていつぶりだろう。義手になってからはやってないからなぁ。一夏と鈴と弾とでいつも勝負してたっけ。お祭りだと、成功したらお金もらえるから。

 

戦績どうだったかな……確か、弾がいつもビリだったのは覚えているけど……。

 

 

「将冴……針を使うんじゃなかったのか……?」

 

「え?ああ、この絵だったら手で折るだけでも綺麗に形にできるよ」

 

 

大きな部分を手で割り、残りを針で削って形を整える。これが僕のやり方だ。これで殆どできるから楽なんだよねぇ。

 

さて、少し削って……これで完成。

 

 

「出来た。はい、簪さん」

 

「さすが、だね。相当な腕だというのは、ここに来た時から気づいたよ」

 

「お祭りの時の資金源だからね。それで、景品とかはあるのかな?」

 

「うん。鳥なら……はい、駄菓子の詰め合わせ」

 

 

駄菓子か。まぁ、学生の縁日ならそんなもんか。

 

 

「綺麗に抜ければ、景品がもらえるのだな……よし。元副隊長の力を見せてやる」

 

「頑張ってね、クラリッサ。それ一番難しいやつだから」

 

 

クラリッサは割らないようにゆっくりとブラシで粉を落とし始めた。……鳥で駄菓子なら、チューリップはなんだろう?

 

 

「簪さん。チューリップが出来た時の景品は?」

 

「最新型のタブレット端末……」

 

「え……そんなものまで出てくるの?」

 

「予算いっぱいあるのに、節約してお店用意したら、すごくお金が余ったの……。私が欲しいくらい」

 

「余ったからってタブレット端末を景品にするのは……」

 

 

この学園の悪いところかもしれないな……やる時は全力でやりすぎる精神。

 

 

「ぐっ、真っ二つに……」

 

「力の入れすぎだね」

 

「これ、残念賞の飴」

 

 

簪さんが飴玉を一つクラリッサに手渡すと、クラリッサは悔しそうにその飴を握った。

 

 

「いつかリベンジする……」

 

「じゃ、リベンジはそのうち本当のお祭りでね」

 

「クラリッサがやっても全部粉砕するのがオチよ。細かい作業苦手なんだから」

 

「うるさい!私だって、少しは器用になったんだぞ、ルカ……って」

 

 

後ろを振り返ると、シュバルツェ・ハーゼの制服を着たルカさんと、いつものダボついたシャツではなくジーンズに青いカッターシャツのリョーボさんがいた。

 

 

「ルカさん、リョーボさん!」

 

「将冴君久しぶり。クラリッサに呼ばれてきたよ」

 

「噂には聞いていたけど、本当に広い学校だねぇ。これで全寮制なんて、食事の準備が大変そうだ」

 

「二人とも、来ていたのなら連絡してくれれば迎えに行ったのに……」

 

「私もそう言ったんだがな。ルカが……」

 

「多分、将冴君と学園祭デートの最中だと思ったから、水を差すのも悪いと思ってね〜」

 

 

はは、ルカさんは相変わらずのようだ。部屋でクラリッサがルカさんに電話してる時も、いつもからかわれているみたいだし。

 

 

「ルカ!あまりそういうことは言うな!公言すると、後が大変なんだぞ」

 

「ごめんごめん。気をつけるよ」

 

 

ルカさんが平謝りしていると、リョーボさんが型抜きの景品に興味を示していた。

 

 

「ほう……最新型タブレットか……どれ、私もやってみるとしよう」

 

 

リョーボさんは簪さんにお金を渡し、型を2枚受け取る。

1枚目を開くと、運のいいことにチューリップの型だった。

 

 

「なるほど、なかなかに難易度の高い遊びだね」

 

 

リョーボさんはポケットからココアシガレットを出すと、それを咥えた。タバコ吸えないから持ってきたのかな……。

 

 

「どれ、少し本気出そうかねぇ」

 

 

今まで見たことのないリョーボさんの顔だった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「スコールか?どうした?」

 

『ダイモンの軍勢が動き出した。まだ学園まで距離があるけど、数が多い。悪いけど、オータムも援護に来てくれないかしら』

 

「……そんなに多いのか」

 

『ええ、簡単にIS学園を覆い尽くせるくらいには』

 

「それは話を盛り過ぎじゃねぇか?」

 

『そう思うならあなたも見に来なさい』

 

「……わかった。10分で行く」

 

『それと、この事を将冴君に……』

 

「ああ、わかってるよ。じゃ、切るぞ」




敵が動き始めます。

尚、生徒会企画は……


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186話

2日ほどお休みして申し訳ありません。
着ぐるみ着て街を練り歩いたり、姉の無茶振りに付き合わされたりと、ちょっと書く時間が取れませんでした。


 

リョーボさんが怒涛の勢いで型を抜いていくのを見ていると、コアネットワーク経由でバーチャロンに通信が入る。それもプライベートチャネルで……まさか……。

 

 

「はい、柳川です」

 

『オータムだ。ダイモンが動き出したから、私は学園を離れる。お前も、いつでも出れるようにしておけ。また連絡する』

 

 

一方的に通信が切られてしまった。そういえば、オータムさんは電話が苦手って言ってたっけ?……今はそんなこと考えている場合じゃないか。

 

 

「クラリッサ。ダイモンが動いたみたい。僕は楯無さんに連絡するから、クラリッサは織斑先生に」

 

「ッ……わかった。将冴、くれぐれも……」

 

「無茶するな、でしょ?わかってるよ」

 

 

っと、楯無さんに連絡する前に……。

 

 

「簪さん、もうすぐ例の合図が来ると思うから、用意しておいて」

 

「わ、わかった!」

 

 

手近にいるのは簪さんだけ……あとの人は楯無さんの連絡待ちか……。

 

僕は楯無さんへ回線を繋いだ。

 

 

「楯無さん、柳川です。敵が動きました」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

スコールから連絡を受け指示されたポイントに向かうと、ウヨウヨとあの趣味の悪い球体が大量に海上を浮かんでいた。

 

目測だけで50……いや、100はあるぞ……。

 

 

「あら、オータム。10分で来るって言ってたけど、1分遅刻よ?」

 

「んなもん誤差だよ。で、状況は?」

 

「とりあえず、正確な数を把握したところよ。全部で120。私達で、できる限り数を減らすわよ」

 

「できる限りとか……明確な数がないとやる気でねぇな」

 

「じゃあ、一人30。合わせて60で。なお、それ以上でも可」

 

「あいあい!じゃあ、早速……砕いてやるよ!」

 

 

私とスコールは展開していたIS……『マイザーΔ(デルタ)』を変形させ、オーブに向けて突撃する。ちなみに、スコールのマイザーΔは頭部が私とマドカのものと形状が違う。性能も少し良いらしい。でも名前はマイザーΔだから、区別するためにファングと呼んでいる。私のはバイト。マドカがポイズン……まるで毒蛇じゃねぇか。あのウサミミ博士のことだから、変な遊び心だろう。

 

っと、今は戦闘中だったな。余計な事考えている場合じゃない。

 

マイザーΔのこの攻撃なら、オーブを五体は切り裂ける。ここまで密集しているなら、もっといけるかもな。

 

密集したオーブから飛び出すと、スコールもまた同じタイミングで飛び出した。オーブの大群の中から何体かが海へ落ちていく。

 

 

「何体やった?」

 

「撃墜したのは7。ダメージを与えられたのが10といったところかしら」

 

「私は8体は落としたぜ。この勢いなら、全部倒せんじゃねぇか?」

 

 

私がそう言った瞬間、すべてのオーブがこちらをロックオンした。マジかよ……。

 

 

「あら、オータムがそんな事言うから」

 

「私のせいじゃねぇだろ!?」

 

 

オーブが一斉に私とスコールにビームを放ってくる。

私は小さく舌打ちし、上空へ避ける。スコールは高速起動で、掻い潜ってやがる。相変わらず、テロリストにしておくには勿体無い腕だ……。

 

 

「ねぇ、オータム!」

 

 

攻撃避けながらこっちに話しかけてくる余裕まであんのかよ。

 

 

「なんだ?」

 

「これおかしくない?」

 

「なにが?」

 

「IS学園に向かう気配がない」

 

 

確かにそうだ……ダイモンの目的が将冴なら、オーブを全て学園に向かわせるはず。私達なんて無視してだ。

 

……まさか、この大群は!

 

 

『気づいたようだな』

 

 

まるで何かに反響しているかのような声が聞こえてくる。どこから……。

 

 

『流石は篠ノ之束の私兵といったところが。元は、私のところにいたようだが』

 

 

どうやらオーブから聞こえてきてるみてぇだな。

全部にスピーカー仕込むとは、ご丁寧なやつだ。

 

 

『オータムといったか、お前の考えた通りだよ。このオーブは囮だ。篠ノ之束が介入してくると思っていたからな』

 

「てめぇ……」

 

「オータム!早く将冴君に連絡して!」

 

『無駄だ。ここ一帯はジャミングさせてもらった。君たちは柳川将冴に連絡する事も、助けも呼ぶ事もできない』

 

 

やられた……この大群が本隊だと思わされていた。

くそっ、こっちは派手に動けねぇってのに!

 

 

『しかし、この程度の数では足止めとしては不十分か。どれ、もう少し足してやろう』

 

 

ダイモンがそう言うと、海からさらにオーブが出てくる。まだいやがったのか。

 

 

『君達はオーブと遊んでいろ』

 

「待ちなさい、ダイモン!」

 

『頑張って生き残りたまえ』

 

 

オーブから声が聞こえなくなった。こっちを見る気はないって事かよ……くそが!

 

 

「スコール!」

 

「ええ、わかってるわ。オータム」

 

「早くこいつらぶっ飛ばして……」

 

「将冴君の元へ!」




軽くスランプですね……。

頑張ります……


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187話

今回の戦闘はかなり面倒なことになりそう……。

デモワタシガンバル

そして今回、初めて先輩専用機持ちが出ます。少しだけ……


 

楯無さんに連絡した後、僕は先にバーチャロンを展開しIS学園上空まで飛んだ。レーダーには今の所反応はない。

 

まだ来ていないか……オータムさんとスコールさんが足止めしてくれているのかな。また連絡するって言っていたけど……。

 

 

「状況確認のためにこっちから連絡してもいいよね」

 

 

しかし、オータムさんへ回線を繋ごうとするが一向に繋がらず、ノイズが返ってくる。ジャミング……?まさか、二人とも負けたなんてことは……そんなはずはない、オータムさんもスコールさんも強いんだ。

 

ダイモンが何かしらの邪魔をしているんだ……。もう、悠長に構えてられないか。

 

と、その時、僕の元に通信が届く。これは……確か、学園周辺を警備していたフォルテ・サファイア先輩?

 

 

「柳川です」

 

『フォルテッス。学園東側の海上からなんか出てきたッス!』

 

「なんかって……先輩、具体的にどんな……」

 

『すごく大きいISみたいなやつッス!IS5体分くらいあるISが学園に向かってるッス!』

 

 

大きい……アームやワームのようなやつなら、フォルテ先輩がISなんていうはずないし……ダイモンの新しい戦力と考えるのが妥当か。

 

 

「フォルテ先輩。そこに警備の人は何人いますか?」

 

『私も入れて3人ッス』

 

「わかりました。すぐに他の人を向かわせます。それまでは様子を見てください。決して危険な行動はしないように!」

 

『了解ッス!』

 

 

ダイモン……その大型ISが今回の襲撃の要か。早くこのことを楯無さんに……!

 

と、楯無さんに通信を繋げようとした時、また通信がきた。今度は……ダリル・ケイシー先輩?この人も警備に当たっていたはずだけど……。

 

 

「はい、柳川です」

 

『南側警備のダリルだ。こっちの海からなんかデカいISみたいなやつが出てきやがった。学園に向かっている』

 

 

南側も……二方向から攻めるつもりか……。

 

 

『こっち側には私ともう一人警備でいるが、どうすればいい?こっちで始末してもいいのか?』

 

「いえ、刺激しないように様子を観察してください。すぐに人を送ります」

 

『わかった。ただ、危険と判断したらこちらで動かせてもらうよ』

 

「はい、わかりました」

 

 

現場の状況がわからない以上、現場の判断に任せなければいけない。ダリル先輩は先輩だし、僕より上手く立ち回ってくれる……はず。はぁ、一応司令塔なのにこんな人任せでいいのかな……。

 

とりあえず、楯無さんに連絡しないと。

 

 

「楯無さん、聞こえますか?」

 

『ええ、何かあった?』

 

「敵が現れました。学園の東側と南側からです。他の方面にいる人たちを向かわせますが、いいですか?」

 

『大丈夫よ。そちらの判断に任せる。こっちは、学内の人たちを全員をアリーナに集めなきゃいけないから、まだそっちに加勢できないわ』

 

「大丈夫ですか?パニックになったりとか……」

 

『問題ないわ。アリーナで全員参加の催しを企画してるから』

 

「え、いつの間にそんな……」

 

『あら、言わなかったかしら?』

 

 

言ってませんよ……そんなの企画してたなら言ってくれればいいのに……。

 

 

「まぁ、ちゃんと考えてあるならいいんですが……」

 

『将冴君はこちらのことは気にしなくていいわ。現場に集中して。因縁の対決なんでしょ?』

 

「……はい」

 

『気張りなさい。じゃないと、ハルフォーフ先生が悲しむわよ』

 

「はは、そこでクラリッサの名前を出すのは反則ですよ」

 

『でもやる気出たでしょ?』

 

「ええ。それはもう」

 

 

楯無さんが乗せるのがうまいのか、僕が簡単に乗せられてるのか……どっちもってことにしておこう。

 

 

『あ、それと、一夏君と箒ちゃん、セシリアちゃん、鈴ちゃん借りるわね』

 

「え、それって……まさかあの演劇を……」

 

『やるわよ!せっかく企画したんだもの!今回の学園祭の目玉よ?お流れにしてたまるものですか!』

 

 

そこまであの企画に思い入れあったんですか……いやまぁ、いいんですけどね。箒達からすれば、あの演劇の『景品』は魅力的だろうし……。

 

 

「あまりやりすぎないように……」

 

『そっちもね。私の分は残しておいてよ?』

 

「それは保証し兼ねます」

 

『そんな言葉が出るなら問題ないわね。じゃあ、そこは任せたわよ』

 

「了解です」

 

 

通信を切り小さく息を吐く。楯無さんに任されたんだ。やり遂げなければいけない。

 

この時間、学園周辺の警備に当たっている人全員に通信をつなげる。

 

 

「現場司令の柳川です。敵の襲撃がありました。北側にいる人は東側のフォルテ先輩の元へ、西側にいる人は南側のダリル先輩の元へ向かってください。敵はすでに学園に向かっている模様です。これ以上学園へは近づけないでください」

 

『了解!』

 

 

先輩からすれば、後輩に支持されるのは遺憾かもしれないけど……まぁ、任された仕事だし、周りにどう思われようとやるしか……。

 

 

『柳川君に指示されるとか、すごくゾクゾクするわね』

 

『年下っていうのがミソよね』

 

『私Sのつもりだったんだけど、今のでなんか目覚めそうになったわ』

 

 

……良くも悪くも、欲望に忠実っていうことか……。

 

いや、悪いな。




フォルテとダリルってこんなんだっけ←

……まぁ、いっか(思考放棄


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188話

物語進んでないぞ!なにやってんの!

艦長!作者が体調悪いとか言い訳を!!

ドリンク剤飲ませろ!早急に書かせるのだ!


……はい、体調は良いです。頭の方が手遅れです。


「兄さん!」

 

 

学園の上空で敵の増援がないかをレーダーで確認していると、ISを展開したシャル、ラウラ、簪さん、マドカが僕の元まで飛んできた。

 

 

「ごめん、将冴。少し遅れて……」

 

「ううん、大丈夫。敵は先輩方が足止めしてくれてるから、すぐに加勢に行ってくれるかな」

 

「敵はオーブか?」

 

「どうやら違うみたい。フォルテ先輩や、ダリル先輩が言うには大きなISみたいなやつだって言っていたけど……」

 

「ダイモンが新しく作った戦力のようだな。警戒は怠るべきではない」

 

「うん。先輩にも、足止めしてくれって頼んである。ラウラとマドカは東側のフォルテ先輩のところに行って。シャルと簪さんは南側に。僕はまずはシャルたちと一緒に行く。状況に合わせて両方行き来するから、何かあったらすぐに連絡を……」

 

 

ゾクッと、背筋が寒くなる感覚を覚えた。……来たか。この感じからして、本気だというのがわかったよ……。

 

 

「将冴君、どうかした……?」

 

「ううん、なんでもない。四人は先に行ってて」

 

「え、将冴も行くんじゃ……」

 

「少しやらなきゃいけないことがあるから、それを済ませてから追いかけるよ」

 

 

嘘としては、少し苦しかったかな……。

 

 

「……わかった。すぐに来てね。行こう、簪さん」

 

「う、うん!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。私たちも行くぞ」

 

「さ、指図するな!」

 

 

四人は、僕が指示した通りの方向に向かってくれる。

深く突っ込まれずにすんだか……ダイモン本人は、僕が相手しなければ……。

 

と、マドカが僕とすれ違った時、小さく呟きてきた。

 

 

「無理はするな。何かあればすぐに呼べ」

 

「っ!」

 

 

マドカはそのまま東側に向かっていく。バレてたか、マドカには……。

 

 

「……いるんだろう、ダイモン。出てきたらどうなんだ」

 

 

自分でもびっくりするくらい冷たい声だ。

 

僕の声に応えるかのように、ダイモンが僕の目の前に突然現れた。ステルスか、転移か……ダイモンがかなりの技術力を持っているのは知っているから、驚きはしないが。

 

 

「おかしいな。完全にバレないようにしていたのだが」

 

「お前が近くに来たらわかるくらいに、僕はお前のことを許せないと思っているからだよ。今すぐ学園への襲撃をやめろ」

 

「もう少し話でもしないか。久しぶりの再会だぞ?」

 

「話すことはないし、お前と会うことも望んでいない。さっさと学園に向かっているのを止めるんだ」

 

「喜んでそうさせてもらうとでも思っているのか?それくらいは自分でもわかっているだろう」

 

「そうだね。だったら……」

 

 

僕はスライプナーダイモンに向けた。

 

 

「力ずくで止める」

 

 

躊躇なく引き金を引いた。

 

しかし、ダイモンはまるで知っていたかのようにエネルギー弾を避ける。

 

 

「不意打ち気味に撃ってくるとはな。君は、そんなことをするような性格だったか?」

 

「多くの人が危険に晒されているんだ。どんな手を使ってでも、お前を止めてやる」

 

「怖い怖い。だが、いい塩梅だ。その調子で、私にお前の闇を見せてくれ」

 

「悪いけど、今の僕は前の様にはいかない。そんな挑発にも乗らない。ここで、お前との因縁は終わりだ!」

 

 

瞬時加速で一気にダイモンに接近し、スライプナーを振り下ろした。相手が生身だろうと関係ない。手足の一つくらい奪う覚悟でダイモンを捕まえる!

 

 

「怖い顔をする割に、殺気はそれほど出していないな。初めて会った時の方が、強い殺気を出していたぞ」

 

「お前を殺すつもりはない。捕まえて、正当な罰を受けてもらう」

 

 

ダイモンは、先ほどの攻撃同様に軽く僕の攻撃を避ける。凡そ人間の動きではないが……まずこれが空を飛んでいること自体がおかしいんだ。何かしらの装置を使っているんだろうけど、そんなものが意味ないことを教えてやる。

 

僕は攻撃の手を緩めない。

 

 

「正当な罰か……フフ、ハァーハッハッハッ!この私に罰か。面白い冗談だ」

 

 

気色の悪い……何を笑っているんだ。

 

 

「笑わせてもらったお返しにいいことを教えてやろう」

 

 

ダイモンが僕の振るったスライプナーを左手で掴んだ。

こいつ、生身の体じゃない!?

 

 

「お前に私は倒せない。捕まえることもできない。殺す覚悟のないものに、私は捕まえられない!」

 

 

次の瞬間、ダイモンは僕の懐に飛び込み、強烈なアッパーが僕の顎に入った。

 

 

「ぐぶぅっ!?」

 

「私を捕まえる?何を生半可なことを。そんな覚悟で、私を捕まえられるとでも思っているのか!笑わせる、実に愉快だ!そんなぬるま湯に浸かった様な考えで、よくもまぁ今まで生き残ったものだ!」

 

「うっ、く……」

 

「痛いだろう?ISの絶対防御は衝撃までは消しきれない!頭がフラフラするはずだ。たった一撃で、お前は私に敗れるのだよ!」

 

「そんなつもりはないよ……」

 

 

くそっ、重いの一撃もらった……

 

 

「そんな攻撃で……倒れてたまるか……」

 

「存外耐えるな。どれ、次はもう一段階強くしてみるか」

 

「やられたら……やり返さないとね」

 

 

ヒカルノさん……使わせてもらいます。




書いてるうちに眠気が襲ってくるっていうの、結構あるあるだと思っているのですが、みなさんはいかがですかな?

こういう時は、豆を挽いてから作ったコーヒーが私のオススメです。


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189話

今回は将冴以外の視点でお送りします、

カケルカナァ……


 

学園内は少々慌ただしくなっていた。

 

 

「これから、アリーナでイベントを行います。お客様、生徒全員参加ですので、出店している生徒一旦店をたたみ、アリーナへ向かってください」

 

 

表向きは企画参加の案内だが、本当は避難誘導だ。

 

学園が襲撃されているため、生徒や一般人をアリーナに避難させなければならない。だが、パニックを起こさないために、襲撃があることは伝えていない。このことを知っているのは教師と生徒会、専用機持ちだけだ。

 

私……クラリッサをはじめ、楯無や一夏も誘導を行っている。学内に残っている専用機持ちは、このあとアリーナで行われるイベントで、外の状況を知らせないようにする。

 

これに関しては楯無に任せるしかない。私は私の仕事をするだけだ。将冴のことが心配だが……大丈夫、隊長も一緒なんだ。

 

 

「先生、全員アリーナに入りました」

 

 

誘導を終えた一夏、箒、セシリア、鈴が私の元に集まってくる。おそらく、すぐにでも将冴たちの所に行きたいのだろう。だが、この4人にはまだやることがある。

 

 

「わかった。観客のことは私に任せろ。お前たちは楯無のところに行くんだ」

 

「将冴たちは大丈夫なんですか?」

 

「ここにいるより、私たちも出た方が……」

 

「お前達に心配されるほど、将冴は弱くない。今は、観客達をたのしませることだけを考えろ」

 

「わかり……ましたわ」

 

「行くわよ、観客を待たせたら不審がられるから」

 

 

4人は楯無の元へ走っていく。

さて、私はアリーナから出てきた客の対応だな。襲撃のことを知られてはいけない。今パニックが起これば、ダイモンに付け入る隙を与えてしまう。それだけは避けなければ……。

 

 

「あの、すみません」

 

 

私に話しかけてきた女性は、少し焦っている様子だった。

 

 

「何かありましたか?」

 

「実は子供とはぐれてしまって……もしかしたら、校舎の方にいるかもしれないので、探しに行ってもいいでしょうか?」

 

 

校舎……まだ校舎の方なら大丈夫だとは思うが、念には念を入れて。

 

 

「校舎の方は私が探しましょう。あなたはアリーナをお願いします。他の職員にも伝えておきますので」

 

「わ、わかりました。ありがとうございます」

 

 

女性をアリーナへ戻し、私はすぐに織斑先生に電話をかけた。

 

 

『どうした』

 

「子供とはぐれてしまったという連絡を受けたので、校舎の方に向かいます。申し訳ありませんが、アリーナ内での捜索をお願いできますか?」

 

『わかった。見つけ次第連絡しろ。まだ学園から離れた場所で交戦しているようだが、油断はするな』

 

「はい、わかりました」

 

 

早く行かなければ……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

兄さんに支持された場所に着くと、兄さんの言う通り巨大なISがそこにいた。赤紫の、このIS……兄さんのバーチャロンに似ている?

 

 

「あ、君たち確か一年の」

 

 

すでに敵ISと交戦していた上級生の……確かフォルテ・サファイアと言ったか。

 

 

「援軍だ。状況はどうなっている?」

 

「それが……さっきまで学園に向かっていたんスけど、将冴君から連絡が来たらあそこで止まって……」

 

「止まった?」

 

 

一緒にここに来ていたマドカが怪訝そうな顔で呟くと、すぐに来た道を戻ろうとし始めた。

 

 

「待て!どこへ行くんだ!」

 

「将冴が危ない」

 

「それはどういう……」

 

「二人とも、危ないッス!」

 

 

フォルテ・サファイアの声に、反射的に私とマドカは回避行動をとる。その瞬間、私たちがいたところに大出力のビームが横切った。

 

 

「これは……」

 

「チッ、そういうことか」

 

 

ビームが放たれた方を見れば、そこにはこちらに太い腕を向けている巨大ISが。

 

 

「なんで突然動き出したッスか!?」

 

「足止めだ」

 

「足止め?」

 

「やはり、将冴一人にするべきじゃなかった。さっさとあいつを倒すぞ」

 

「おい、マドカ!どういうことか説明しろ!」

 

「将冴は今ダイモンといる」

 

「な、それは本当か!?」

 

「喋ってる暇はない、さっさとあいつを倒す」

 

「お、おい!待て!」

 

 

1人で突っ込んで……先に兄さんに連絡だろう!




戦闘が苦手とはいえ、少し先延ばしし過ぎですね……。

ええ、本当に申し訳なく……


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190話

最近、調子が悪く……しばらく不定期になります。

本当に申し訳ないです……。


 

ヒカルノさんがバーチャロンに仕込んでくれたデータ。今日まで何度も練習してきた。

 

システムを起動させると、僕の周りにバーコードのような光のリングが現れた。

 

 

「まだ楽しませてくれるか。いいぞ、お前の全てを見せてみろ」

 

「行くぞ。マルチバーチャルシステム起動。『アファームド』『フェイ・イェン』」

 

 

音声認識とともに、僕の両隣に同じリングが現れると、その中にアファームドとフェイ・イェンが展開される。

 

これが、『マルチバーチャルシステム』。どういう意図でこの名前をつけたかわからないが、システムの内容は見ての通り、フォームの同時展開。各フォームの視界はリンクしており、僕は今自分の見ている視界とアファームド、フェイ・イェンの視界が同時に映っている。今は慣れたが、前は酔って酷いことになった。

 

 

「なるほど。なるほどな……同時展開とは、さながら人型のBT兵器といったところか」

 

「行くぞ、ダイモン。本気で!」

 

 

僕とアファームド、フェイ・イェンは同時に飛び出した。一番速度が速いフェイ・イェンに瞬時加速でダイモンの背後を取らせる。

 

 

「ほう、データと実部ではこうも違うか」

 

 

フェイ・イェンがレイピアをダイモンに向けて突き立てるが、ダイモンは的確に攻撃を避けてる。裏社会を牛耳っているだけはあるということか。

 

 

「アファームド!」

 

 

僕はスライプナーで、アファームドはビームトンファーで同時にダイモンに斬りかかる。

 

 

「おっと、それは危ないな」

 

 

完全に不意をついたと思った。だが、ダイモンは宙返りするように体回し、僕とアファームドの肩を掴んだ。

 

 

「なっ……」

 

「今のはヒヤヒヤした。だが、少し攻撃が単調ではないか」

 

「このっ!」

 

 

僕の肩を掴んでいる手を捕まえようとするが、そこにダイモンの手はなく、代わりに僕とアファームドの顔面にダイモンの蹴りが放たれた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

まだ……ダイモンを捉えきれないのか!

 

 

「ふむ……相手の人数が増えるだけで、これほど危うくなるとはな」

 

「まだ……余裕があるように見えるぞ」

 

「余裕なんて最初からない。こっちはISなんてモノは持っていない。絶対防御無しで、まともに攻撃を食らえばひとたまりもない」

 

「僕の攻撃を素手で受け止めておきながらか?」

 

「貴様が直線的な攻撃をしたからな。タイミングさえ合えば抑えることくらいはできる」

 

 

今までの戦闘でわかったのは、ダイモンの体が生身ではないこと……本当に手足を切断するくらいのことは問題なさそうだ。

 

なら、何の躊躇もしない。僕と同じようにしてやる。

 

 

「顔つきが変わったな。だが、まだ殺気はこもっていない。それでは、私は倒せないぞ」

 

「うるさい、僕はもう感情に流されたりしない。お前に怒りや憎しみがあるけど、それを殺意には変えない」

 

「つまらん答えだ」

 

 

ダイモンはそう言うと何もないところに視線を向けた。何を見ている?

 

 

「ふふ、そうか。状況は私の方に転がっているようだな」

 

「何を言って……」

 

「これを見たまえ」

 

 

バーチャロンに二つの映像が送られてくる。これは……ラウラとマドカが大きなISと戦っている?もう一つには、シャルと簪さんが……

 

 

「どちらも苦戦しているようだ。どうだ、私が作った『ヤガランデ』は。貴様の機体データを掻き集めて作り上げたんだ。ISコアはないが、特別なV.ドライブを積んでいる。小娘どもの生半可な技術で倒すのは難しいだろう」

 

「……」

 

「早く援護に行った方がいいんじゃないのか?私を倒して」

 

「……こと……」

 

「殺意を持て、負の感情を高めろ。私に見せるのだ!」

 

「そんなことは、絶対にしない。僕は彼女たちを信じている!」

 

 

すぐにみんなに通信をつなげる。今見せられた映像、そしてダイモンの発言で、このヤガランデの弱点はわかった。

 

 

「敵の背中、ディスクの部分を狙ってください!そこを潰せば、敵は動かなくなります」

 

『将冴?よくわからないけど、了解!』

 

『りょ、了解、です!』

 

『兄さん、そっちは大丈夫……』

 

『ボーデヴィッヒ、よそ見するな』

 

『な、マドカ!いきなり押すな!』

 

 

みんなはまだ大丈夫そうだ。……うん、僕も落ち着いている。

 

司令塔としては落第点だけど……。

 

 

「やはりつまらん。興が削がれるな」

 

「だったら大人しくするんだ。すぐに全て終わらせてやる」

 

「それはもっとつまらん。どれ、もう一つ新しい手駒を見せてやろう」

 

 

ダイモンは、そう言うとスッと手を挙げた。その瞬間、ダイモンの両脇に箱のようなものに4本足をつけ、武装を取り受けた何かが二体現れる。まだ戦力を……。

 

 

「これはミルトンと言ってな、まぁ小型の無人ISとでも思いたまえ」

 

「そんなものが新しい戦力なのか?」

 

「見た目で判断するのは早計というものだ。まぁ、口で言ってもわからんだろう。試してみたまえ」

 

「言われなくても。アファームド、フェイ・イェン!」

 

 

僕の合図に、アファームドとフェイ・イェンがミルトンに斬りかかる。しかし、アファームドのトンファーと、フェイ・イェンのレイピアはミルトンに通らず、微動だにしなかった。

 

 

「こいつ……」

 

「そんなチンケな攻撃、通りはせんよ。さぁ、再びやりあおうか」




ミルトン、ヤガランデ……出したかったんだ……


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191話

どうも、作者です。
更新が不定期になってしまって申し訳ありません。

構想は出来ていても、文に出来ないという感じでして……しばらく不定期が続くと思いますが、ご理解いただければと思います。

今回はまた将冴以外の視点を書いていきます。


将冴からの連絡が切れて、僕たちはすぐに行動を始めた。

 

ダリルさんが他の人達を統率して、敵ISを取り囲んだ。

 

 

「1年!私らで抑えるから、柳川の言う通り背中の部分を壊しな!」

 

「はい!行こう、簪さん」

 

「うん!」

 

 

僕と簪さんは、敵の背後に回り込むように旋回する。その最中、僕は将冴のことが気になっていた。

 

すぐに来ると言っていたのに、まだ将冴は来ていない。それにさっきの通信のラウラの言葉……なんでそっちは大丈夫かなんて聞いてたんだろう。まさか、将冴はまた……

 

 

「シャルロットさん、見えたよ」

 

「あ……うん、一気に叩こう!」

 

 

今は目の前の敵に集中しなきゃ。

敵の背後に回り込んだ僕はシールドピアーズを展開し、簪さんは薙刀を構えた。

 

 

「簪さん、目標はわかってるよね?」

 

「うん、もちろん……将冴君のISに似てるから」

 

「じゃあ、いくよ!」

 

 

僕と簪さんは敵に一気に近づき、将冴のそれとよく似たディスク部分目掛けて攻撃した。

 

しかし、攻撃は硬い何かに阻まれた。

 

 

「こ、これって……」

 

「シールド!?」

 

 

アリーナで試合が行われるときに貼られるシールドと同じやつ!?そんな……これじゃディスクが破壊できない。

 

 

「簪さん、一旦離れるよ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

先輩たちの攻撃も対してダメージを与えられていない。

このままじゃジリ貧だ……。

 

 

「シャルロットさん、どうしよう……」

 

「……とにかく、学園に近づけさせないように。すぐに一夏たちが来るから、それまで耐えなきゃ。あと、将冴に連絡して指示を仰いで」

 

「わかった!」

 

 

簪さんが将冴に連絡を取る。

 

今は、それだけが頼りだ……。

 

 

「シャルロットさん!将冴君に通信が繋がらない!」

 

「え!?どうして……」

 

「わからない。ノイズしか聞こえなくて」

 

 

将冴……やっぱり君は……!

 

 

「もう!なんでも一人で背負いこむんだから!お兄ちゃんは!」

 

 

帰ったら一発殴ってやるから!

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

アリーナでは、将冴君と同じ男性IS操縦者の織斑一夏君が、3人の女性に追われていた。1人は木刀、1人はスナイパーライフル、1人は中国拳法で織斑君が王冠を奪われないように必死に逃げ回っている。

 

おそらく殆どがアドリブなんだろう。でも、生身でよくあそこまで動けるものだ。ドイツ軍にスカウトしようかしら。

 

 

「ルカ。クラリッサと将冴の姿が見えないが、連絡は来ていたか?」

 

「いえ。おそらく、何かあったんだと思いますよ。二人とも、妙にそわそわしていたし」

 

「そうか。ま、二人なら問題ないとは思うが……」

 

 

リョーボさんはそう言うと、ポケットから飴を取り出し口に含んだ。タバコが吸えないから、代わりにということみたいだ。

 

 

「さっきから、教職員が慌ただしく動いているな。何かあったのは間違いないようだ」

 

「私、ちょっと聞いてきます」

 

 

私は席を立ち、近くに来たスーツ姿の……ってこの人!

 

 

「お前、ルカか」

 

「織斑教官!」

 

「今は教官ではない。……そうか、クラリッサが呼んだのか」

 

「はい。リョーボさんと一緒に」

 

 

織斑教か……織斑さんは私が座っていた場所を見る。

リョーボさんはこちらに気づいていたのか、手を振っている。

 

 

「ハーゼを離れても良かったのか?」

 

「しばらく大きな作戦はありませんし、非常時はすぐに連絡が来ますし」

 

「そうか。ならいいが……っとすまない、少しやることがあってな」

 

「何かあったんですか?」

 

「ああ、実は子供が1人迷子になっているみたいでな。私はアリーナの中を探している。クラリッサは校舎を見て回ってくれているな」

 

「そうなんですか。私も手伝いますよ。校舎の方に行けば、クラリッサいるんですよね?」

 

「いや、気遣いありがたいが大丈夫だ。お前はゆっくり演劇を見ていてくれ」

 

 

……なんだろう。織斑さんの言葉、違和感を感じる。クラリッサと将冴君がそわそわしていたのも気になるし……。

 

 

「織斑さん、何か他に隠してません?」

 

「なんのことだ?」

 

「そうですね、例えば球体の機体が襲ってきたとか」

 

「……」

 

「その顔、図星でしたか?」

 

「……はぁ。どうやら、お前への評価を改めなければならないようだな」

 

「今までどんな評価だったんですか」

 

 

聞きたいような、聞きたくないような……。

 

 

「付いて来い、説明する」

 

「イエス、マム」

 

 

まぁ、大体は想像ついてるけど……軍に伝えるべきか否か……面倒だから黙っておこう。

 

 

 

 

「ねぇ、今の……」

 

「うん、行こう」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「誰かいないのか、いたら返事してくれ」

 

 

校舎を回っているが、一向に見つからないな。織斑先生から連絡がないから、まだアリーナも全部探し終わっていないのだろう。

 

学園に敵が侵入して来る可能性もある。将冴たちが食い止めてくれているとは思うが、大丈夫だろうか……。

 

 

「……早く見つけなければな」




終盤に近づくにつれて、なんだか寂しくなってきますね。

どれくらいで終わるとかはわからないですが……11月頃に、終わるんじゃないかなぁと目処を立てています。


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192話

しばらく更新できず申し訳ありません。

終盤に近づき、色々と展開を考えたり、リアルが忙しかったり、艦これにはまったりと色々なダメなことになってしまいました。

学園祭は無事に終わるのか。では本編をどうぞ。


「このぉ!!」

 

 

ミルトンをアファームドとフェイ・イェンに任せ、僕はダイモンにセイバーで斬りかかる。しかし、振り下ろされたセイバーはダイモンを捉えることはできず空を切り、ダイモンは体を少し逸らした状態で僕を見た。

 

 

「動きが鈍っているな。そのISの同時展開、貴様にとっても諸刃の剣ではないのか?おそらく、エネルギーの消費も、通常のそれより多いのだろう?」

 

 

ダイモンの言う通りだ。マルチバーチャルシステムは、同時展開した分エネルギーの消費が激しい。それに、ある程度オート制御はきくが、逐一命令を出さなければならないため、いつもの動きができない。だが……

 

 

「だったらどうだって言うんだ。エネルギーが切れるまでにお前を捕まえればいいんだ」

 

「そういうことは、まずミルトンを倒してから言うんだな」

 

 

ダイモンの言葉と同時に、今まで反撃してこなかった二体のミルトンが動き出す。ミルトンの両側に取り付けてあるポットが開いた。中にはミサイルが敷き詰められており、いつでも発射可能の状態にあった。

 

 

「くっ、アファームド、フェイ・イェン後退しろ!」

 

 

命令を飛ばすと同時に、ミルトンからミサイルが放たれる。放たれたミサイルは、アファームドとフェイ・イェンを追尾している。追尾ミサイルなんて面倒なものを。

 

一応、オート制御で攻撃から身を守るようにはしてあるから、あれくらいなら迎撃できると思うが……。

 

 

「意識がそちらに向きすぎだぞ」

 

 

ミルトンに気を取られている間に、ダイモンが僕に接近し僕の顔面めがけ右足でキックを放ってきた。

 

 

「くっ!?」

 

 

上体を後ろに逸らし、ギリギリで避けバックブーストで距離を取る。ミルトンだけに意識を向けてる場合じゃないか……。アファームドとフェイ・イェンはミサイルをなんとか落としたようで、無傷のようだ。

 

この状況、早くどうにかしないと。ミルトンを破壊して、ダイモンを捕まえる手立ては……。

 

 

「必死に考えを巡らせているな?どうだね、答えは出たか?」

 

「お前に言われるまでもない、少し無理すれば何も問題はないんだ。マルチバーチャルシステム『ライデン』」

 

 

僕の横に、光のリングとともにライデンが展開される。ミルトンの装甲を破るなら、ライデンがうってつけだ。

 

でも……

 

 

「ぐぅっ……」

 

 

視界が歪む。三体の同時展開は、まだ難しいか……。

 

フラつきそうになるのをなんとか耐えて、ダイモンを見据える。ライデンはエネルギーチャージをさせつつ、アファームドとフェイ・イェンの元へ向かわせた。

 

 

「ふん、例のスペシネフに任せておけば簡単なものを」

 

「あれには頼らない。負の感情なんかに負けない」

 

「意思は固いようだな。だが力が伴っていなければ、そんなものは塵芥と変わらんよ」

 

「だったら、力が伴っているところを見せればいいんだろう!!」

 

 

瞬時加速でダイモンに接近し、さらに連続バーティカルターンでダイモンの周りを高速移動する。アファームド達の邪魔をさせるわけにはいかない。僕は高速移動しながら、ダイモンにセイバーを向けて、エネルギー弾を放った。

 

この状態では命中率はかなり下がるが、移動を制限することはできる。ダイモンは自分に向かってきたエネルギー弾だけを避ける。当てることが目的ではないが、この攻撃をあっさりと避けられるか……。

 

 

「狙いが定まっていないな。足止めが目的か。いいだろう、おとなしく足止めされてやろう」

 

 

どこまでも神経を逆撫でするような言い方を……。

 

高速移動しながら、アファームド達を動かさければならない。ちょっときついけど、やらなくちゃならないんだ。

 

アファームドとフェイ・イェンにはライデンのチャージが終わるまで、ミルトンの攻撃避けつつ、ライデンのバイナリー・ロータスでミルトンを一掃できるポイントまで誘い込んでもらう。

 

ライデンのチャージが完了するまで、あと1分……僕がダイモンの足止めできるのもそれくらいか……。

 

アファームドにビームライフルと大型マチェットを展開させる。ビーム兵器と違い、マチェットはかなりの重さがある。相手を弾き飛ばすには、実体剣の方が有利だろう。

 

フェイ・イェンは特性の素早さを生かし、ミルトンを翻弄している。一手一手が軽すぎるため、ミルトンに攻撃しても意味はない。ライデンのチャージが終わったら、このミルトンを狙ってバイナリー・ロータスを放ち、アファームドがミルトンを弾き飛ばし、同時に破壊する。

 

今はこれ以上の手はない。

 

 

「ふっ……よくこれだけ動けるものだ。やはり貴様は面白い」

 

「どうしてそんなに僕に執着する。僕をどうしたいんだ」

 

「面白いものが見たいだけだ。それには、貴様が必要なんだよ。柳川将冴」

 

「お前の私利私欲に付き合うつもりはない。今日でお前の目的は潰えるんだ」

 

 

その瞬間、ライデンのチャージが完了した。

 

 

「アファームド!」

 

 

僕の声とともに、ミルトンのミサイル攻撃を避け続けていたアファームドが一転、ビームライフルで牽制し、マチェットでミルトンに肉迫した。

 

 

「バイナリー・ロータス、撃てぇ!」

 

 

ライデンが肩のユニットを開き、バイナリー・ロータスをフェイ・イェンが相手をしていたミルトンに放つ。

 

フェイ・イェンはすぐに離脱し、アファームドがミルトンを強引に押して、二つのミルトンが激突した。そして、バイナリー・ロータスが二体に直撃した。

 

バイナリー・ロータスが終わったあと、そこにはミルトンの影も形もなかった。

 

僕は高速移動をやめて一旦ダイモンから離れる。

エネルギーをかなり消費した……これ以上、システムを使い続けたら戦えなくなる。アファームド達を拡張領域に戻し、ダイモンと対峙した。

 

 

「いやはや、見事のものだ。ミルトンを同時に倒すとはな」

 

「これで終わりだ、ダイモン!」

 

 

ボムをダイモンに投げつける。避けられるのは前提だ。だから、ボムの爆発時間を短くした。ダイモンが回避行動とると同時に爆発するようにしてある。

 

 

「こんなものでどうにかなると……っ!」

 

 

設定通り、ダイモンが回避行動を取った瞬間に爆発が起こり、煙がダイモンを包んだ。

 

 

「うおぉ!!」

 

 

残ったエネルギーを全て瞬時加速につぎ込み、煙の中のダイモンに近づく。ハイパーセンサーのおかげで、どこにいるかはわかった。殺さないように、だけど逃げられないように、僕は足を狙い、セイバーを突き立てた。

 

しかし、手応えなくセイバーは止まってしまった。それどころか……。

 

 

「なんだ……これ……」

 

 

体が動かない。まるで、ラウラのAICのような……。

 

 

「どうかね、ドイツ軍から拝借したAICは……」

 

「お前……その体にAICを……」

 

「そんなことはしていない。AICを発動させてるのは、これだ」

 

 

煙が晴れ、ダイモンの姿を捉えると、ダイモンの両横にまたミルトンが並んでいた。

 

 

「なん……で……」

 

「誰が二体だけと言った?」

 

「この……」

 

「ちなみに、もう一体のミルトンは、貴様のライデンのデータをもとに作った。つまり、どういうことかわかるだろう?」

 

 

こいつ……どこまでも人のものを!

 

 

「さて、ここでショウタイムを一つ見せよう」

 

 

僕の視界に割り込むように、映像が僕のもとに送られてきた。これは……校舎の監視カメラ……え?

 

 

「クラ……リッサ……どうしてそこに……」

 

「これは私も予想外だった。だが……グッドタイミングだ」

 

「ダイモン、お前……何を!?」

 

「やれ、ミルトン」

 

 

ライデンのデータをもとに作ったというミルトンが底の部分を見せるように90度体を傾けた。ミルトンの底は砲台のようになっている。

 

待って……その方向は……

 

 

「撃て」

 

「やめろぉぉ!!」

 

 

ミルトンから、ライデンのバイナリー・ロータスと同じものが学園に向けて放たれた。




絶望増しで頑張っていきます。


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193話

しばらく不定期が続いてますが、なんとか生きてる作者です。

色々と用事が重なり、とうとう体調にトドメを刺され、風邪っぴきです。活動報告の方にも書いたんですが、今回の更新でしばらくお休みさせていただきます。

一週間以内には戻るつもりなので、いつも読んでくださっている方は少々お待ちいただけたらと思います。

この展開が転がってこれからってときにこの体たらく……本当に申し訳ありません……。


 

「くそっ!このデカブツが!」

 

 

私……ラウラ・ボーデヴィッヒは巨大ISにレールカノンを放ちながら悪態をついた。兄さんの言う通り、背中の部分のディスクを狙ったが、強力なシールドに阻まれ攻撃が通らない。

 

兄さんと同じだけの実力があるマドカでも、シールドを突き破ることができず、こちらの防戦一方だ。

 

敵の攻撃は、一発一発がかなりの火力を有しており、一発でもまともにくらえば戦闘不能に陥ってもおかしくない。今この場にいるのは私にマドカ、あとは上級生のIS操縦者だけだ。しかも、フォルテ・サファイア以外は既に戦意を失いかけている。

 

どうする……兄さんならこの状況をどう打開する……!

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、余計なことを考えるな」

 

 

果敢に敵ISに攻撃を仕掛けるマドカが、私に言い放った。

 

 

「何を……」

 

「お前がどんなに頭を悩ませたって、将冴と同じことができるわけではない。今は目の前の敵に集中しろ」

 

「だが、どうやってこいつを止めると言うのだ!早くしなければ、兄さんは……」

 

「それこそ余計なお世話というものだ。お前の知っている将冴はそう簡単に負けるような男か?」

 

 

……違う、兄さんはそんなことで負けたりしない。妹である私が、兄さんを信じなくてどうするんだ!

 

 

「わかったら、さっさとこいつの動きを止めろ。援軍と共にな」

 

「援軍?」

 

 

その時、シュバルツェア・レーゲンがこちらに向かってくるISの反応を捉えた。これは……。

 

 

「ブルー・ティアーズ……甲龍……」

 

「遅くなりましたわ!」

 

「真打登場よ!景気付けに一発持って行きなさい!」

 

 

合流した鈴が、敵ISに向けて衝撃砲を放つ。しかし、相手は手で払うかのように衝撃砲をかき消し、こちらに左腕に搭載されている銃口を突きつけた。

 

 

「ゲッ、何よあいつ……」

 

「鈴!早く回避行動を取れ!」

 

 

敵ISが大口径のビームを容赦なく放つ。ビームは鈴にまっすぐ向かっていくか、鈴は回避する素振りを見せない。

 

あいつ、何を!?

 

 

「あのね……私、今すっっっっごく機嫌が悪いの」

 

 

鈴は双天牙月を構えゆらりと振りかぶった。

 

 

「それに……」

 

 

迫り来るビームに合わせ、鈴は双天牙月を振り抜き……

 

 

「将冴のバイナリー・ロータスに比べたら、ただの豆鉄砲よ!!」

 

 

ビームを打ち返し、敵ISの左腕の銃口に命中し破壊した……

 

いや、それは常識的に考えておかしいだろう!?

 

 

「せ、セシリア……鈴に一体何が……」

 

「ラウラさん、申し訳ありませんが……」

 

 

セシリアもまた、鈴と同じようにゆっくりとライフルを構えた。その周りには6基のBT兵器が飛んでいる。

 

 

「私も、虫の居所が悪いので、その話は後にしてくださいますか?」

 

 

その瞬間、BT兵器とライフルのフルパワー弾幕が敵ISを襲った。

 

正直、展開についていけてないのだが……。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ボサッとする。お前とセシリア・オルコットで敵の動きを封じろ。凰鈴音。お前は私と敵の背後につけ」

 

「マドカ、何をするつもりだ!?」

 

「決まってるだろう。こいつを破壊する」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

どうしよう、突破口が見えない。

僕のシールドピアーズが、ここにいる人たちの中で一番突破力が高いはず……これが通用しないなら、あれを突破するには……。

 

 

「シャルロットさん、このままじゃ……」

 

「わかってるよ。でもどうすれば……」

 

「お二人さん、悩んでいるところ悪いんだけど、ちょっとお知らせだよ」

 

 

ダリル先輩が私たちに近づいてそんなことを言ってきた。

この状況でお知らせって……

 

 

「そんな顔すんなって。大丈夫、朗報さ。援軍だよ」

 

 

その瞬間、敵ISが爆発音をたてて体勢を崩した。

 

今の……確か一夏の雪羅の荷電粒子砲……ということは。

 

 

「シャルロット、簪、待たせたな!」

 

 

僕たちの前に、一夏と……ものすごく顔がにやけている箒が現れた。

 

 

「箒……何かあったの?」

 

「ふぇ?……いや、なにもないぞ!なにも!」

 

 

あぁ〜、何かあったんだ。多分一夏関連で。

 

って、今それどころじゃないよ!

 

 

「一夏、箒!説明しなくてもわかると思うけど……」

 

「ああ、あいつをぶっ倒せばいいんだろ?」

 

「うん、それもできるだけ早く。将冴に何かあったみたいで……」

 

「それなら問題ねぇよ。将冴のところには、楯無会長が行ったからさ」

 

「生徒会長が?」

 

「ああ、だから俺たちは目の前の敵に集中しようぜ。会長にも、将冴のことは任せろって言われたしな」

 

 

学園最強と言われている生徒会長が行ったなら……きっと大丈夫だよね。帰ってきたら、絶対ひっぱたくからね、お兄ちゃん。

 

 

「それで、この大きなISを破壊すればいいのか?」

 

「うん。でも、弱点だと思うディスクがシールドに守られていて、僕たちじゃ……」

 

「だったら俺の出番だな。零落白夜なら、全部ぶった切れるだろ?」

 

 

確かに、一夏の零落白夜ならシールドを切り裂くことができる。そのままディスクを破壊すれば、これを止めることが……。

 

 

「うん。一夏、お願い。箒さんは一夏のフォローに。僕達は、あれの気を引くから!」

 

「おう、頼んだぜ!」

 

 

ここで決める。将冴、待ってて。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「将冴君、どこに……」

 

 

一夏君達に大見得切って将冴君は任せてなんて言っちゃったけど、実は将冴君が今どこにいるかわからないのよね。

 

演劇が終わる直前くらいに反応が途絶えて、連絡もつかないし……彼が落とされたとは考えにくい。おそらくジャミングの類ね。

 

時間をかければ見つかるだろうけど、虚ちゃんは今アリーナで全員参加のビンゴ大会中だし、捜索を頼んでいる暇がないのよねぇ……。

 

でも……この胸騒ぎ、いやに予感がするわ。早く見つけないといけないと。

 

と、その時。私のIS、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)がアラートを鳴らした。

 

高出力エネルギー体が急接近!?私はすぐに回避行動を取る。その瞬間に、すぐそばを極大のビームが横切った。これは、確か将冴君のISの……それにこの方角!!

 

 

「まっすぐ学園に向かった!?」

 

 

今から私が盾になって……ううん、間に合わない!

 

私はすぐに織斑先生へと連絡を繋げた。

 

 

「先生、アリーナのシールドを最大に!絶対にアリーナから人を出さないでください!」

 

『っ!わかった!』

 

 

織斑先生がすぐに察してくれたけど……学園を守れなかった……。

 

 

 

数分後、織斑先生から被害報告がきた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「いいか、今言った通りに動け」

 

 

マドカの作戦は突拍子もないものだった。だが、現時点では一番効果がある作戦だ。

 

 

「わかった。セシリア行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「フォローは任せてくださいッス!」

 

 

私とセシリア、そしてフォルテ・サファイアを含めた上級生たちで、敵ISの気を引く。

 

その間に、マドカと鈴が背中のディスクを突き破るという作戦だ。突き破り方が、かなり強引だが……今は賛同するしかない。

 

 

「凰鈴音、準備だ」

 

「わかったわ……けど、本当にこんなので……」

 

「今、機嫌が悪いんだろう?全力でぶつけてこい」

 

「……そこまで言うなら、遠慮なく!」

 

 

2人も移動を始めた。

作戦開始だ。

 

 

「セシリア、弾幕を張れ!」

 

「言われなくてもですわ!」

 

 

狙いなど定めない、がむしゃらな射撃が敵を襲う。装甲が厚いとはいえ、少量でもダメージは通る。敵は腕で頭部を守るように覆った。

 

 

「行くぞ!」

 

 

私は右腕をAICで停止させ、フォルテ・サファイア達は私が渡したワイヤーブレードを左腕に巻きつけ、大勢で引っ張り動きを止めた。

 

 

「マドカ、今だ!」

 

 

私の合図とともに、マドカがISを変形させ戦闘機のようなフォルムになり、敵ISに向けて高速で接近した。

 

 

「凰鈴音!」

 

「龍砲、フルパワー!」

 

 

敵ISに向かうマドカに向けて、鈴が両肩のユニットから衝撃砲を放つ。衝撃砲で生み出されるパワーを全てをシールドを突き破る為の推力にする……なんで無茶な作戦だとは思う。だが、兄さんならやりかねない。だから、反対出来なかったんだ。

 

衝撃砲がマドカのISをさらに加速させ、その破壊力が増す。そして、そのままマドカは敵ISに激突した。

 

シールドと拮抗し、火花を散らすマドカのIS。もう少し、あと一歩足りない!

 

 

「まだまだぁ!!」

 

 

鈴が最後の一押しと言わんばかりに、マドカを後ろから蹴り押した。

 

その瞬間、シールドが音を立てて割れ、マドカと鈴は敵ISをディスクごと突き破った。

 

敵ISは私のAICを破ろうと抵抗していた力がなくなり、AICを解くとそのままダラリと腕を下ろし、そして海に沈み始めた。

 

 

「倒した……」

 

「ぼぉっとしている暇はない。すぐに将冴の元に行くぞ」

 

 

マドカがすぐに動き出そうとした時、通信が届いた。これは、織斑先生?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「全6機、各8門のミサイル、受けてみて!」

 

 

簪さんが展開したミサイルポッドから大量のミサイルが放たれた。簪さんの言うことが本当なら、全部で48発のミサイルが敵ISを襲った。

 

 

「こっちだって負けてないよ!ほらみんな、下級生にばっかいいとことられていいのか?」

 

 

ダリル先輩の掛け声とともに、上級生たちがアサルトライフルなどを使い、敵ISを翻弄する。

 

僕も負けてられない!

 

 

「駄目押しでもう一発!」

 

 

簪さんやダリル先輩たちのおかげで隙だらけになった頭部にシールドピアーズを突き立てる。ツーラインのバイザーになっている部分を杭が突き破り、敵は視界を奪われたのか腕を振り回し始めた。でも、背中はガラ空きだ!

 

 

「一夏!」

 

「待ってたぜ!」

 

 

箒のIS紅椿の『絢爛舞踏』でエネルギーを補給してフルパワー状態の零落白夜を構える一夏が答えた。

一夏と箒は瞬時加速で敵との距離を詰め、一夏は雪片弐型を振りかぶった。

 

 

「これで終わりだぁ!」

 

 

振り下ろされた雪片弐型はシールドを切り裂き、ディスクを剥き出しにする。

 

 

「箒!」

 

空裂(からわれ)!」

 

 

箒の刀からエネルギー刃が放たれ、無防備な状態のディスクを切り裂いた。

 

その攻撃で、敵ISは沈黙する。

 

 

「倒した……のか?」

 

「ああ、やったんだ箒!」

 

「よっしゃ、私らの勝ちだ!」

 

 

ダリル先輩たちが喜ぶ中、僕はすぐにその場を離れた。将冴の元へ行かなきゃ……。

 

 

「シャルロット、待てよ!俺も……」

 

 

一夏の声が止まり、それと同時に通信が入った。織斑先生から……一体何が……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

全部の階、教室を調べたが、子供の姿はない。やはり、アリーナで迷っている可能性が高いか……。

 

 

「しょうがない、織斑先生に連絡をしよう」

 

 

携帯を取り出し、織斑先生の番号を呼び出そうとすると、着信がきた。なんとタイミングのいいことに、織斑先生からだ。

 

 

「はい、クラリッサ……」

 

『今すぐそこから離れろ!』

 

「え?」

 

 

その瞬間、強い光が私の視界を覆い、体に強い衝撃を受け……私は意識を失った。





『警備中の生徒に通達。敵の攻撃により、校舎が大破。生徒に怪我なし。一般客2名、職員1名、安否不明。警備から2人捜索に回す。一般客は現在照会中。職員の行方不明者は……


クラリッサ・ハルフォーフ』


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194話

お久しぶりです、作者です。

なんとか帰ってきました。まだ完全に体調は戻っていませんが、今日から更新再開していきます。

待ってくださった読者の方々に、最大の感謝を。


 

ダイモンに見せられた映像と、千冬さんからの通信が僕の脳内をグルグルと回っている。

 

クラリッサが……なんで、こうならないように僕は戦ってたんじゃないのか?

 

 

「クラ……リッサ……そうだ、通信を……」

 

 

クラリッサに連絡を取るが、帰ってくるのは無機質な音だけ。どうしたの、早く出てよ……。

 

映像は僕の見間違い、千冬さんからの通信は間違いだったんだよね。千冬さん、たまにドジするから……。

 

だから、早く……

 

 

「どうした?今のがそんなにショックだったか?」

 

 

……うるさい

 

 

「まぁ、あの様子では助かるまい」

 

 

うるさい……うるさい、ウルサイウルサイ

 

 

「認めたくないようだから、はっきり伝えてやろう」

 

 

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ

 

 

「クラリッサ・ハルフォーフ……貴様の恋人は死んだ」

 

「ダマレェェェェェェェェ!」

 

 

《感情値、規定指数に達しました。EVLバインダー起動マキシマム。強制フォームチェンジ『スペシネフ』。完全解凍》

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「はは、ハハハハ!これが貴様の闇か!!」

 

 

システムによって強制的にフォームチェンジした将冴の姿は、以前のスペシネフとは異なっていた。

 

スペシネフの全身を覆うように、黒い靄が発生していた。とても禍々しく、以前にスペシネフを見たものでも、本当に同じものかわからないだろう。

 

 

「期待以上じゃないか!いいぞ、いいぞ!」

 

 

スペシネフの姿を見たダイモンは、大声をあげて喜んでいる。スペシネフの近くにいれば、普通の人は足がすくみ、こんな大笑いできるはずがない。

 

そんなダイモンに、ゆらりと将冴は目を向けた。

 

まるで死神を象ったようなフォルムで、ダイモンをジッと睨んだ。

 

 

「くくっ……さぁ、見せてみろ。その負のっ!?」

 

 

ダイモンの言葉が全て紡がれる前に、ダイモンの右腕が切り飛ばされた。一瞬の出来事に、ダイモンすらも状況をつかめていない。

 

だが、一つわかるのは……

 

 

「貴様……どうやってAICから……いや、いつの間にミルトンを破壊した」

 

「…………」

 

 

ダイモンの言葉とともに、将冴を拘束していたミルトンと、校舎を破壊したミルトンが真っ二つになり爆発した。

 

 

「どうやら……予想の遥か上をいっていたようだな」

 

「……コロス」

 

 

機械のような、冷徹な声が将冴から発せられた。

まるで鋭い刃のような、触れれば全てバラバラにされそうな、そんな声だった。

 

 

「溜め込んだ殺意の爆発か。さぞ快感だろうなぁ。何も我慢していないのだから。それが貴様の純粋な気持ちなのだから」

 

「コロス、コロスコロスコロスコロス!ガアァァァァァァ!!」

 

 

まるで別人だった。誰も将冴と気づけないだろう。それだけの殺気が溢れていた。

 

ビームサイズをダイモンに向けて振り下ろす。鋭く、ただ相手を殺すためだけに振り下ろされたそれは、さっきまでただ避けられ続けていた攻撃と違い、ダイモンの体に傷をつけていく。

 

 

「言った通りだろう!殺す気で来なければ私は止められないと!フハハ、いいぞもっと私に見せてみろ!」

 

「ア''ァァァァァァ!!」

 

 

背中の翼をダイモンに向けて射出する。翼はブーメランのように回転し、ダイモンの下半身と上半身を切り分けた。

 

 

「これはこれ、は……」

 

「コロシテヤルゥ!!」

 

 

完全に無防備になったダイモンの上半身。その胸のあたりに、スペシネフの大きな爪が突き刺さった。

 

普通の人ならば、確実に死んでいるであろう。だが、ダイモンはその状態でも……

 

 

「クク、クッ、ヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

笑っていた、狂ったように、愉快そうに。

 

 

「驚いたぞ柳川将冴ぉ!こんなにも、こんなにも楽しい思いをするとは思わなかった!」

 

「コロス、コロス、コロ……ゴ、ゴロ」」

 

「殺意に飲まれたか?ただの獣のようだな。いやはや、だがそれもいい。これからが楽しみになるではないか!全くもって……フフ、笑いが止まらないぞ!こんなにも、こんなにも……思い通りになるなんてな!」

 

「グ、ウガァァァァァ!!」

 

 

突然将冴が苦しみ始める。

 

見れば、ダイモンを突き刺している爪から何かが侵食しているかのように黒く……スペシネフを覆っている黒い靄と同じように染まっているのだ。

 

 

「この時を待っていた。貴様がスペシネフを完全に稼働させた時をな!この機械の体は、貴様のV.ドライブを侵食するためのデータが仕込んである!ISの装甲に反応して、そこからそのスペシネフを奪ってやろう!」

 

「ガ、アアァァ!?」

 

 

黒の侵食は止まることなく、スペシネフを侵していった。

将冴は抵抗しようともがくがどうにもならず、ダイモンを引きはがそうとしても、まるで一体化したかのように離れない。

 

そして、侵食は背中のV.ドライブに及んだ。

 

 

「さぁ、抵抗するな。そのまま身を任せれば楽になる」

 

「ウ、ググゥ……」

 

「スペシネフ以外が邪魔だな。どれ、全部捨ててしまおうか」

 

 

マルチバーチャルシステムを乗っ取ったのか、ダイモンの言葉と同時に、テムジン、ライデン、アファームド、フェイ・イェンが展開される。4体は将冴が操っているわけでも、ダイモンが操っているわけでもない。本体からのエネルギーの供給が断たれたそれらは、そのまま海に落ちていった。

 

 

「始めようか、私の望む混乱を!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

獣のような声が聞こえた……。将冴君はこっちにいるのかしら。

 

学園に戻ることも考えたけど……何か胸騒ぎがする。

それに、クラリッサ先生が行方不明なんて知ったら、将冴君は以前に映像で見たスペシネフを起動させてしまうかもしれない……。

 

織斑先生から、あれを使わせるなって言われてるから、何か危険なものなんだろうけど。

 

……ん?レーダーに反応が。これは、バーチャロン?でも何か……もうすぐで目視できる。

 

 

「……いた!やっぱりスペシネフに……」

 

 

待って……映像で見た時、スペシネフってあんなに黒かったかしら?

 

それに、何か変な雰囲気が……。

 

 

「増援か」

 

「っ!?」

 

 

背後から声がし、槍を構えながら振り向くと、黒ずくめに大きな一つ目の仮面をつけた人が浮いてる……なるほど、これがダイモン。

 

 

「あなた、将冴君に何をしたの?」

 

「何を、か……心を解き放ってあげたんだよ。柳川将冴は、色んなものを溜め込んでいたみたいだからな」

 

「それは別にあなたがやることじゃないわ」

 

「いや、私にしかできないな。見たまえ、彼の姿を。内に溜め込んだ負の感情を、あんなに表に出している。とても愉快じゃないか」

 

「それ以上喋るなら、その口吹き飛ばすわよ!」

 

「おお、怖い怖い。目的は達したから、これで失礼しよう。高みの見物をさせてもらうとするよ」

 

 

そう言うと、ダイモンは霞のように掻き消えていく。なるほど、かの大天災が捕まえられないのもなんとなくわかるわ。

 

っと、こんなことしてる場合じゃない。将冴君の無事を確認しなきゃ。

 

 

「将冴君!怪我はない!?」

 

「……」

 

 

無反応……一体何が?

 

 

「すぐに戻るわよ、クラリッサ先生が……」

 

「……っ!」

 

「え、きゃあ!?」

 

 

将冴君が突然私に向かって片手でビームサイズを振り下ろしてきた!?なんとか槍で受け止めるけど……そんな、私が押されている!?

 

 

「将冴君!私よ!更識楯無よ!わからないの!?」

 

「……!」

 

 

将冴君は空いてる手を私の首に伸ばしてきた。

 

 

「くっ!?」

 

 

私は急いで距離を取り、その手から逃れた……つもりだった。

 

 

「うぐぅ!?」

 

 

完全に距離をとったはずなのに、私の首を将冴君が掴んでいた。反応速度が尋常じゃない!?……ううん、それだけじゃない、機体の性能も格段にっ……。

 

 

「や、やめて……しょう、ご、く……」

 

 

まずい、どんどんエネルギーが削られていっている。

このままじゃ!

 

その瞬間、ガンっという衝撃とともに将冴君の手の力が弱まり、拘束が解けた。私はすぐに距離をとり、将冴君の方を見ると、マドカちゃんのと同じISが、将冴君につかみかかっていた。




将冴ブチ切れてわれを忘れる。


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195話

私のTwitterをフォローしていただいてる方はお分かりだと思いますが、艦これに今更ながらがっつりはまりました、

まぁ、今住んでるところにはネットに繋がったパソコンがないので、家ではできないんですが……大学のパソコンでできるからいいもんね←

鳥海が尊い。天龍可愛い。木曾来ない。


 

「これでラスト!」

 

「やぁぁ!」

 

 

私とスコールで、最後のオーブを破壊する。海には大量のオーブ残骸が浮かんでいる。途中まで何体倒したか数えていたが、こんだけの量だったから途中で数えるのをやめた。

 

 

「はぁ、さすがにこれだけの敵と戦うと疲れるわね。エネルギーも残り少ないわ」

 

「休んでる場合じゃねぇぞ!早く将冴のところには行かねねぇと!」

 

 

ダイモンのやつが何考えてるかしらねぇが……将冴が危ないことは確かだ。くそっ、本当にイラつかせやがる!

 

 

「オータム、バーチャロンの反応があったわ。……けど」

 

「なんだよ、含みある言い方して」

 

「反応が歪というか……とにかく普通じゃないのは確かね」

 

「だったら急ぐぞ。多分、あいつ……」

 

 

スペシネフ……あれを使ったんだろう。うさ耳博士から前もって将冴がスペシネフを使った際のことは聞いたし、対処法も教えてもらったが……正直、今の私とスコールでなんとかできるとは思えねぇ。

 

将冴のクラスメイトに任せるという手もあるが、できるだけ私たちであいつを止めないと……。

 

うさ耳博士がいうには、スペシネフは負の感情を増幅して操縦者を支配するらしい。でも、見知った相手なら攻撃はしてこない……かもしれないと、まぁなんとも頼りない助言をもらったが……どうなっていても、あいつを止めるだけだ。

 

 

「そろそろ見えてくるわ。もう一つ反応がある……識別確認、IS学園の生徒会長様よ」

 

「チッ、面倒だな……だが、一人で対処できるとも思えねぇ」

 

「そうね。……見えた、スペシネフよ」

 

 

ようやく視認できる距離に来たか。

 

……なんだあれ、スペシネフはあんなカラーリングしていたか?あんな禍々しい黒に……それに、なんで生徒会長の首を掴んでるんだよ。

 

 

「スコール!私があいつのこと止めるから、生徒会長のほう頼んだ!」

 

「1人で大丈夫なの?」

 

「誰に言ってんだよ」

 

「そうね。頑張って愛しの人を止めてあげなさい」

 

「いらんこと言うな!」

 

 

余計な口叩いてる暇なんかないだろうが……。

 

ああ、もう!スコールが余計なこと言うから意識しちまうじゃねぇか!

 

 

「もうやけくそだ!うぉぉぉ!」

 

 

瞬時加速で将冴の背後から接近し、激突気味に将冴を羽交い締めにする。その瞬間、生徒会長を掴んでいた手が離れ、スコールが生徒会長を引っ張り将冴から引き離してくれる。

 

 

「おい、将冴!目を覚ませ!スペシネフに飲まれるな!」

 

「……」

 

「黙ってんなよ……何か言いやがれ!クラリッサが……クラリッサがこんなこと望んでるわけないだろ!」

 

「……っ!」

 

 

突然、将冴がもがき始めた?

どうしたってんだよ、こいつ!

 

 

「おい!暴れるな!」

 

「ゔぅっ!ぐゔ!!」

 

 

なんだよこの声……獣みたいな、とても人の声じゃねぇ。

 

うさ耳博士、あんたの思ってる以上に事態は深刻だぞ、

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「ここまで離れれば大丈夫かしら」

 

 

私を引っ張って将冴君から引き剥がしたのは、やっぱりマドカちゃんと同じ……いや少し形状が違うISを纏った人だった。将冴君を捕まえていた人といい、この人といい……一体何者なの。

 

……いえ、なんとなく予想はついたわね。

 

 

「あなたたち、篠ノ之束博士の協力者ね?」

 

「だったら、どうだというのかしら?」

 

「……特に何もしないわよ。今は篠ノ之博士がどうのこうの言ってる場合じゃないし……。将冴君をどうするつもり?」

 

「助けるつもりよ。あなたと目的は一緒だと思うけど?」

 

「じゃあ、なんで将冴君から離れたの?目的が一緒なら、そのまま将冴君を……」

 

「いいえ、あなたたちでは無理よ」

 

 

この人……なんでそんなことを言い切れるの?篠ノ之博士から何か言われたから?

 

それとも何か別の……

 

 

「ねぇ、すぐに学校と連絡とれるかしら?クラリッサ・ハルフォーフを出して欲しいんだけど」

 

「っ!……クラリッサ先生は……」

 

「……何かあったの?」

 

 

私は、今クラリッサ先生が安否不明の状態であることを話した。すると、篠ノ之博士の協力者は頭を抱えた。クラリッサ先生がそんなに重要だというの?

 

 

「あの、何が起こってるのか説明してもらえるかしら?」

 

「ごめんなさい、今は話せないわ。私は将冴君の元へ向かう。あなたは他の生徒と一緒に学園に戻りなさい」

 

「そんなこと、できるわけないでしょ!」

 

「いいから言う通りにしなさい!」

 

 

ゾクリと、この私が寒気を感じるほどの覇気がこの人から伝わってきた。

 

 

「いい?絶対に将冴君に近寄らないで」

 

 

その言葉を残し、彼女は将冴君の元へ向かっていった。

動けない……この私が……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之博士、不測の事態が……」

 

『うん、わかってる』

 

「どうします?バーチャロンから彼を引きずり出して……」

 

『ダメだよ、そんなことしちゃ』

 

「ではどうすれば」

 

『……おーちゃんに伝えて、拘束を解いて離脱。ラボに帰還して』

 

「いいんですか!?」

 

『うん。どのみち、マイザーΔじゃスペシネフは抑えられないよ。それに……』

 

「博士?」

 

『……なんでもない。すぐに帰ってくること、いいね?』

 

「……了解、しました……」




展開は浮かんでるから、書けるはず。書けるはずっ……


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196話

11月にはしっかり終わりそうな感じになってまいりました。とりあえず、10月中にあれやってこれやって……。

後日談なども考えているので、まだまだお楽しみいただけたらと思います。

新作……も一応考えています。ISでも、別作品でも。多分、新作の主人公はまただるま……


 

「はぁ……」

 

 

すーちゃんに撤退の指示を出した私は、どかっとラボの椅子に寄りかかった。

 

そして、そのまま頭につけてるうさ耳を引っつかみ、強引に投げ捨てた。

 

ガシャンという音とともに、いつもつけていたその耳はバラバラになった。

 

 

「ダイモンっ!許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」

 

 

ガリガリと頭を掻き毟り、コンピューターのキーボードをバシバシと力任せに叩いた。

 

やってくれた。アイツ、しょーくんとくらちゃんを傷つけただけでなく、スペシネフを利用してこんなことを!

 

 

「絶対に、絶対にただじゃ済まさない!1ミクロンだってお前の存在を残してたまるか!お前が鼻高々に笑っていられるのも今のうちだ!潰してやる!潰してやる!!」

 

 

ひとしきり怒りキーボードにぶつけたところで、ようやく落ち着く。ちゃんとキーボード直さないと……でもその前に……。

 

 

「行こうか、IS学園」

 

 

この危機を伝えなきゃ……このままじゃ、ISが世界を壊してしまう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ジッとしろって……うわぁ!?」

 

 

羽交い締めにしていた将冴が、無理やり私を振り払った。くそっ、機体の性能差か……まともに打ち合っても、スペシネフには勝てねぇ……どうすりゃいいってんだ。

 

 

「オータム!」

 

 

グッドタイミング、スコールのお出ましだ。2人ならなんとか抑えられる。

 

 

「来たか。それじゃ、2人で将冴を……」

 

「いえ、撤退するわ」

 

「……は?なにいってんだ、んなこと!」

 

「篠ノ之博士からの命令よ!黙って従って」

 

 

なんなんだよ……あいつ何考えてやがるんだ!今の状態の将冴を放置していいはずがねぇ!ここで正気に戻さねぇと……。

 

 

「あいつは……クラリッサはどうした!あいつなら将冴を止められるんだろ!」

 

「そのクラリッサが、ダイモンの攻撃に巻き込まれて安否不明なのよ!」

 

 

私につかみかかるような勢いスコールが迫ってくる。

 

おい待てよ……クラリッサが安否不明って……。

 

 

「……どうすんだよ……今の将冴を止められんのあいつだけなんだろ?」

 

「だから撤退するの。篠ノ之博士だって、何か考えがあってのことだと思う……お願いだから、黙って従って……」

 

「……クソッタレが!」

 

 

全部が裏目にでる……スコールの監視も、束のやつが考えた対策も、全部が……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

目を覚ますと、そこはいつも過ごしている寮の部屋ではなかった。ここは……学園の医務室?

 

私は何を……。

 

 

「目が覚めたのね、クラリッサ先生」

 

 

突然声をかけられ、そちらを向くと、滝沢が座っていた。

やはりここは医務室だったか……だが、なぜ医務室に……

 

 

「滝沢先生……なぜ私はここに……」

 

「覚えてない?あなた、敵の攻撃に巻き込まれたのよ」

 

 

攻撃……そうだ、思い出した。校舎で迷子を探していたら、突然光が……。あれに巻き込まれたのか……だが、それなら……

 

 

「なぜ私は生きているんだって顔をしてるわね。答えは単純よ。あなたは助けられたの」

 

「助けられた……それは誰に……」

 

「それは、織斑先生が教えてくれるわ。すぐに会議室に行きなさい。打撲以外に目立った怪我はないから、すぐ動けるはずよ」

 

「は、はい」

 

 

すぐにベッドから立つ。確かに、体の節々がズキズキと痛む……。

 

仕切りとして使われているカーテンを開けると、外はもう日が落ち始め、暗くなりつつあった。かなりの時間、気を失っていたようだ……。

 

将冴……大丈夫だったのだろうか?おそらく、会議室にいるのだろう。報告などもあるからな。

 

……早く会議室に行かねば。

 

少し早足で向かうと、会議室から明かりが漏れていた。私はコンコンとノックをしてから扉を開けた。

 

 

「失礼しま「クラリッサ!!」

 

 

全部言い終わる前に、言葉を遮ってラウラ隊長が私に抱きついてきた。突然のことに驚きながら会議室内を見渡すと、織斑先生と1年の専用機持ち、生徒会長の更識楯無、それとアメリカの代表候補性であるジェニファーとステファニーがいた。

 

……将冴の姿が見えない。どこにいるんだ……。

 

 

「クラリッサ、無事でよかった……」

 

「隊長、私は大丈夫ですので……」

 

「お前まで居なくなったらと思うと……私は……」

 

 

私まで?どういうことだ。ラウラ隊長は何を……。

 

 

「クラリッサ、まずは無事でなによりだ。ラウラ、クラリッサを離してやれ」

 

「……はい」

 

 

ラウラ隊長がゆっくりと私から離れる。

しかし、この面子は……

 

 

「あの、織斑先生。これは……」

 

「ああ、ジェニファーとステファニーは特別に入室を許可した。お前を助けたのは、この2人だぞ」

 

 

織斑先生がそう言うと、ジェニファーとステファニーは軽く会釈をした。何やら緊張した面持ちだが……初代ブリュンヒルデが目の前にいては緊張もするか。

 

 

「そうだったのですが。ジェニファー、ステファニー。助けてくれてありがとう」

 

「いえ、私たちは……」

 

「この2人、私がオーブの話をしているのを聞いてアリーナを飛び出したそうだ。そして、校舎にいるお前に攻撃が迫ってるのを見て、咄嗟にISを起動して助けたんだそうだ。さすがに攻撃の規模が大きかったから、しばらく瓦礫に埋まっていたようだが」

 

 

2人がいなければ本当に危ないところだったのか。感謝しても仕切れないな。

 

 

「私たちのことより!」

 

「そうです、ショウのことを話さないと……」

 

「将冴……将冴に何かあったんですか!織斑先生!」

 

「……クラリッサ、これはお前にとってはかなりショックが大きい話になる。覚悟はしてくれ」

 

 

なんだ……将冴に何があったんだ……織斑先生がこんな……。

 

 

「柳川将冴は……ダイモンと交戦し、スペシネフを発動。そのまま暴走状態になり、行方を眩ませた」

 

「そん……な……」

 

 

その言葉は、重く、重く、私にのしかかった。




束さんが荒れ、クラリッサには非情な現実がのしかかる。


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197話

だんだん寒くなってきましたね。皆さん元気にお過ごしでしょうか。

私の住む北海道には、大型台風が接近しており、とても恐ろしい限りです。

気圧が変わると、頭痛するのでその辺も憂鬱です。


 

私が将冴の事を話すと、クラリッサはそのまま地面にへたり込んだ。無理もない。私だって、こんな事信じたくはない。どれだけ自分が飛び出そうと思ったか……。

 

 

「千冬姉!すぐに俺たちに将冴の捜索を!」

 

「そうです!将冴はスペシネフを発動していて危険な状態なのでしょう?ならば、早々に見つけて……」

 

「見つけてどうする。お前たちに、アレが止められるのか?」

 

 

スペシネフの戦闘を見たことがある者たちは、一様に顔を伏せた。アメリカ代表候補生の2人は見たことがないため、ピンときていないが。

 

アレは異質だ。性能はもちろんのこと、エネルギーが枯渇しているはずなのに延々と動き続ける。束の奴、なんてものを……。

 

 

「ではどうするのですか!?このままじゃ、将冴さんは……」

 

「お願い、千冬さん!将冴の捜索を!」

 

 

何度言ってもわからない小娘どもが……わかるまで何度も釘を刺さなければ気が済まないのか!?

 

私が声を上げようとした時、バンッという音とともに会議室の扉が乱暴に開け放たれた。

 

そこにいたのは、いつものうさ耳とエプロンドレスではなく、黒いスーツに白衣といういでたちの束だった。

 

 

「束……その格好は」

 

「ちーちゃん……それと、ここにいるみんなに話がある」

 

 

いつになく真剣で、幼馴染みの私でも見たことのないその様子が、事態の深刻さを物語っていた。

 

束は未だに地面にへたり込んでいるクラリッサの前に立つと、胸ぐらを掴み持ち上げた。

 

 

「くらちゃん、いつまでそうしているつもり?」

 

「篠ノ之……博士……」

 

「しょーくんの彼女でしょ?現実逃避してる場合じゃないんだよ。いの一番に動かなきゃいけないのはくらちゃんでしょ!」

 

 

束はクラリッサを会議室の外まで連れてくと、クラリッサを廊下に投げ捨てた。

 

 

「ぐっ!?」

 

「そんな腑抜けた人がいても、何もできない。しょーくんは救えないよ、クラリッサ・ハルフォーフ」

 

 

そう冷徹に言い放った束は会議室の扉を閉め、こちらに向かった。

 

 

「ちょっと脇道に逸れたね。それじゃ、今起こってることについて話すよ」

 

 

束の変化と、淡々と話し始める姿に、誰もクラリッサのことを問い詰めることはできなかった。アメリカ代表候補生の2人も、ISの開発者である束を前にして固まっていた。

 

束は、いつの間に仕込んだのか、会議室のプロジェクターを起動させて映像を映し出した。

 

その映像は、スペシネフの機体データのようだった。

 

 

「しょーくんがスペシネフで暴走状態なのは、みんなもわかってるよね。言うまでもなく、この状態にしたのはダイモン。今、しょーくんは太平洋上で静止している」

 

 

映像のデータは現在のスペシネフの状態のようだ。各性能が普通のISのデータを大きく上回っている。だが、その中で一つだけ、見たことのないデータがあった。そのデータだけが、数値が増えたり減ったりと変化が激しい。

 

 

「あ、あの……質問いいですか……?」

 

 

更識簪が控えめに手を挙げると、束は無言で指差した。おそらく話せという意味だろう。簪は困惑したようにこちらに視線を向けたので、頷いて喋るように促した。

 

 

「その、一つだけ数値が不安定なデータは何ですか?」

 

「これはしょーくんの感情値……つまり、スペシネフの動力源とでも言えばいいかな。これが0になればスペシネフは停止する」

 

「じゃあ、どうにかしてそれを0にすれば、将冴を!」

 

「ううん、残念ながらそれはないよ、いっくん」

 

 

束のその言葉に、ここにいるもの全員が表情をこわばらせた。

 

しかし、束はそのまま言葉を続けた。

 

 

「それを説明する前に、ダイモンが今何をしようとしてるか説明するよ」

 

 

プロジェクターの映像が変わり、今度は001から467までの数字と、それぞれにパーセンテージが振られている。

 

467これはまるで……。

 

 

「これは全世界にあるISコアの侵食率を表している」

 

「侵食率?」

 

「これが100%になった時……そのISは、ダイモンの支配下に落ちる」

 

「なっ!?」

 

 

思わず声を出してしまったが……そんなことが起これば、世界は……。

 

 

「姉さん、それは何かの冗談では……」

 

「箒ちゃん、今回ばかりは、私も冗談は言わないよ」

 

「っ……」

 

 

今の束は、何もふざけてはいない。過去に例を見ないほどに、本気なのだ……。

 

 

「篠ノ之束博士……その、何故ISが侵食を受けているのですか?」

 

「君は……ラウラ・ボーデヴィッヒだっけ?それは、この状況で話したことを考えたら、すぐに答えが出るよね」

 

 

この状況……将冴がスペシネフで暴走状態で……まさか……

 

 

「ダイモンは……しょーくんとスペシネフを使って、コアネットワークを通して全ISコアを侵食している」




ついに明かされるダイモンの目的。


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198話

不定期更新の作者です。

更新が安定せず申し訳ありません。
本当に終盤に近づいてきたので、ここからはスパートかけていきたいと思います。最後までお付き合いくださいませ。


この教室にいる全員が言葉を失っている。

無理もないか。全ISが乗っ取られそうになっているのが、しょーくんのせいだって聞かされれば、誰だって。

 

 

「どうして……どうして将冴ばっかりそんな目に会わなきゃいけねぇんだよ!」

 

 

しょーくんばっかり、ね……。うん、そうだね。いっくんの言う通りだ。しょーくんには、災難しか降りかからない。

 

でも……

 

 

「みんな」

 

 

でもそれは……

 

 

「ごめんなさい」

 

 

私のせいなんだ。

 

 

「束……なぜ謝っているんだ」

 

「私が、バーチャロンなんて作らなければ、こんなことにはならなかった。しょーくんはISとは無関係の世界で生きることができた。私が……」

 

「姉さん……」

 

 

私が、興味本位でしょーくんの両親のデータを見なければ、私が変な気を回してしょーくんにバーチャロンを与えなければ……こんなことにはならなかったんだ。

 

 

「顔をあげてください。篠ノ之博士」

 

 

私にそう言葉をかけてきたのは、MARZが買収したデュノア社の社長の娘だった。

 

 

「ここにいるみんな、篠ノ之博士のせいだなんて思っていませんし、将冴だってそんなこと思ってません。きっと、ここに将冴がいても、篠ノ之博士に謝ってほしくないと思います」

 

「シャルロットの言う通りだ。兄さんは、そんなに小さい男じゃない。それに、兄さんがIS学園にいないことなんて、私は考えたくない」

 

「君たち……」

 

 

なんだよこの二人は……。そっか、しょーくんが言ってたっけ。妹が二人できたって。

 

 

「束、今はそんなことをしている場合じゃないだろう」

 

「ちーちゃん……」

 

「将冴を助けるために、お前はここにいるんじゃないのか?」

 

 

ちーちゃんめ……私を泣かせるつもりなのかな。

でもその通りだね。

 

 

「ちょっとガラじゃなかったね。話を続けるよ」

 

 

私は再びプロジェクターにスペシネフのデータを映し出した。

 

 

「そもそも、なぜダイモンがスペシネフを狙ったか……それは、スペシネフ……いや、バーチャロンがISコアとV.コンバータを同時使用することが前提となって作られている機体だからだよ」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「そうだね……銀の福音事件の時を例に挙げてみようか。あれは、ダイモンが後付けでV.コンバータと似たようなものを福音に取り付けたから起きた事件なんだ」

 

 

ちーちゃんが詳しく聞きたそうな顔をしているけど、とりあえず続けようか。

 

後で報告書にして渡すから……。

 

 

「福音はもともとV.コンバータを積み込んだ機体じゃない。だから乗っ取られるまで時間があったし、福音だけが乗っ取られる対象となった」

 

「でもバーチャロンは……」

 

「うん。バーチャロンのISコアはV.コンバータと深く繋がってる。バーチャロンのV.コンバータを、福音を乗っ取るために使ったものに変えたら……」

 

「コアネットワークを通して、全ISにそのデータが送られる……」

 

 

金髪ドリルの女が言った通りだ。

これが今回の騒動の全容といえよう。

 

はぁ、なんだか説明ばっかりで疲れた……この格好もそうだけど。

 

……束さん、なんでこんな格好したんだろう……。

 

 

「それで、束。対策は立てているのか?」

 

 

対策、ねぇ……すごく不確定要素が多い対策は立てたけど……あの子があの調子じゃどうにもならないし、とりあえず希望を持たせるような言い方はやめておこうか。

 

 

「今は、全ISコアが乗っ取られないように侵食を食い止めるくらいしかできない……かな」

 

「……そうか。ISが全部乗っ取られるまでのタイムリミットは?」

 

「そうだね……だいたい一週間って言ったところかな。侵食を食い止めるとは言ったけど、専用機以外の訓練機なんかは優先度が低いから、その辺は2日か3日くらいでダイモンに乗っ取られるかもしれない」

 

「コアを全て外す、というのはダメなのか、姉さん」

 

「そんなことをすれば、ダイモンが攻めてきた時の対処ができないから、あまりお勧めしないよ。どこの国だって、そんなことはしたくないだろうし」

 

 

何を言っても聞かないんだよ、椅子にふんぞり返っている連中は。

 

 

「束、話はそれで全部か?」

 

「うん。これからどうするかは、みんなの勝手だよ。だけど……今後、私がみんなに協力を頼む時は、力を貸して欲しい」

 

「束……」

 

「もちろんだぜ、束さん!」

 

「ああ、姉さんがそこまで言ったんだ。協力しないはずがない」

 

 

ちーちゃん、いっくん、箒ちゃん……その他の人も、頷いてくれる。珍しく真面目になって見るものだね……。

 

 

「ありがとう。ちーちゃん、地下の施設借りてもいい?」

 

「ああ、特別に許可をもらっておこう」

 

「じゃあ、私は地下にいるよ。何かあったらそこまで来てね」

 

 

私はそそくさと部屋を出た。なんだか、長居したくなかったからね……。

 

その瞬間、くーちゃんから連絡がきた。

 

 

「くーちゃん、そっちはどう?」

 

『はい、侵食に関しては、専用機を中心に防御を固めています。あと、スコール様とオータム様がスペシネフ以外のバーチャロンを回収してくださいました』

 

「わかった。2人には、連絡があるまで待機って伝えておいて。私も、すぐに地下に向かうから」

 

『かしこまりました』

 

 

さて……くらちゃん、あとは君だけだよ……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……」

 

 

IS学園の屋上。半分崩れてしまったそこに、私はいた。

柵に寄りかかり、どこを見るでもなく、ただ呆然と。

 

 

『そんな腑抜けた人がいても、何もできない。しょーくんは救えないよ』

 

 

篠ノ之束博士に言われてしまった。

 

本当に……その通りだな……。

 

 

「何が、私が将冴を守るだ……あの時から、私は一度も将冴を守れていないじゃないか!」

 

 

ガン、と柵を力任せに殴った。

何度も、自分の不甲斐なさ悔しくて、何度も何度も、手から血がにじむまで。

 

 

「私は、将冴に何ができた……足手まといになっただけじゃないか……」

 

 

どうして、私はこんなにも無力なんだ……。

 

 

「何してるの、クラリッサ」

 

 

突然声をかけられ、目を向けると、そこにはルカの姿があった。どうしてここに……。

 

 

「なんでここにいるって顔してるわね。織斑さんに許可をもらったのよ。今は、リョーボさんをホテルまで送って、戻ってきたところ」

 

「そう……か……」

 

「……なるほど。ただいま自分の不甲斐なさを悔やんでますって感じなのね」

 

 

ルカは私の横に来ると、柵に背中を預けた。

 

 

「将冴君、いなくなっちゃったけど、クラリッサはどうするの?」

 

「私は……」

 

 

何ができるんだ?口だけで、将冴を守るだなんてほざいておきながら、何もできなかった私が……。

 

 

「行かなくていいの?」

 

「どこに……行けばいいんだ……」

 

「わかってるくせに、何言ってんのよ」

 

「……」

 

「あんた、将冴君のことこのまま諦めるの?」

 

「私が、将冴のもとに行っても……何もできない……」

 

 

いつも、戦っているのは将冴だ。守ると言ったって、何もできない。私は……

 

 

「はぁ……クラリッサ」

 

「……なんだ」

 

「歯、食いしばりなさい」

 

 

その瞬間、ルカが私の左頬を掌で叩いた。

 

パシンッ、という音の後、少しの間、何をされたのがわからず、頬の痛みで叩かれたのだと気付いた。

 

 

「私の知ってるクラリッサは、こんなところでウジウジしてないわ。すぐにでも助けに向かうために何か行動をする。私の同僚……親友は、世界の誰よりも、将冴君が好きなんだから」

 

「ルカ……」

 

「悔しかったんでしょう?悔しくて悔しくて、その感情を何かにぶつけなきゃやってられなかったんでしょう?」

 

 

ルカが皮がむけ、血が滲んでいる私の手を優しく包んだ。

 

 

「その悔しさ、こんなものにぶつけるだけでいいの?」

 

「私は……」

 

「後は、あんたが決めなさい」

 

 

ルカは、私の手に何か掴ませて、屋上から立ち去った。

 

私は、掴ませられたものを見る。

それは、黒いレッグバンド……。

 

 

「シュバルツェア・ツヴァイク……」

 

 

私の使っていた、専用機だった。




クラリッサとルカの掛け合いは、書いていて作者も楽しい。

原作でクラリッサの出番増えないかな……


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199話

とうとう次回でナンバリングが200ですね……まさかここまで来るとは……

作者が一番びっくりしてますね。
100話くらいで終わると思ったのだけどなぁ……

今回は繋ぎ回……短いです。


 

……ここは……どこだろう。

 

真っ暗だ。何も見えない。

 

僕は、何をしていたんだっけ。思い出せない。

 

何か……何か大事なことを……

 

……まぁ、いいか……。

 

考えるのは、面倒だ。

 

目を閉じて、このまま眠ろう。

 

ここはなんだか……居心地がいいんだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴がいなくなってから一夜が明けた。

 

私は……将冴と二人で過ごしていた寮の部屋で、ルカに渡されたシュバルツェア・ツヴァイクを手に一晩考えた。

 

正直、こんなことしている場合ではないのはわかっている。でも、私自身、整理をつけなければ、空回りするだけだと思った。

 

 

「……よし」

 

 

ルカのおかげで、ようやく進める。

 

私はシュバルツェア・ツヴァイクの待機状態であるレッグバンドを手に、校舎の地下へと向かった。

 

あの人が、ここにいると思うから……。

 

地下施設の扉を開けると、コンピューターに向かう篠ノ之束博士と、銀髪の……どことなくラウラ隊長と似ている少女がいた。

 

 

「やぁ、くらちゃん。ここに来たってことは、それなりに覚悟をしてきたってことでいいんだよね?」

 

「はい。篠ノ之束博士、私は……将冴を私の手で救います」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

私……織斑千冬は、アメリカから来てくれた2人を空港まで送りに来ていた。

 

2人とも、日本に残って将冴のために何かしたいと言ってくれたが、これ以上他国の戦力をこっちの都合で引き止めるわけにはいかない。できるだけ早めにアメリカへ返さなければならない

 

 

「わざわざ空港まで送ってくださってありがとうございました。それと、ブリュンヒルデの手を煩わしてしまい……」

 

 

ジェニファーが申し訳なさそうに頭を下げるが、私は彼女の肩をポンと叩き、顔を上げさせる。

 

 

「気にするな。お前たちは、クラリッサを救ってくれた。むしろ、こんなことしかできないことを許してくれ」

 

「そ、そんな!私達はそんな大層なことをしたわけじゃないですし……」

 

 

頭を下げた私に対して、ステファニーが慌てたようにそう返す。私を目の前にしてまだ緊張しているのか……。まぁ、今は特に気にしないでおこうか。

 

 

「それより、ショウのことは……」

 

「お前たちには申し訳ないが、それはこちらの問題だ。2人は気にせず、アメリカへ帰ってくれ。ISの侵食については他言無用で頼む。余計なパニックは起こしたくない」

 

「……わかりました」

 

 

と、そこで目的の便のアナウンスが入る。

 

2人はそのアナウンスを聞いて、自分の荷物を持ち上げた。

 

 

「それでは、私達はこれで」

 

「色々ありがとうございました」

 

「ああ、こっちこそだ。また……来るといい」

 

 

ジェニファーとステファニーは、何度もこちらを見ながら、搭乗口へと向かっていった。

 

はぁ……あんな顔をされると、ずっと学園に残していたくなるな。

 

 

「……戻るか」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

食堂の一角に、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、そしてマドカが集まっていた。

 

8人は昨晩の話を聞いて、自分たちで何ができるか。それを話し合うために集まっていた。

 

 

「……やっぱり、俺たちだけでも将冴を止めに行った方が……」

 

「それはダメだと、織斑先生に言われたではありませんか」

 

「だが、このままジッとしているわけにも……」

 

「そうよ、こうして間にもISの侵食が進んでる。私達の機体も、使えなくなるのよ?」

 

「将冴君を止めることは……侵食を止めることでもある。早期解決が、やっぱり望ましいと、私も思う……」

 

 

それぞれが意見を述べていく中、シャルロット、ラウラ、マドカはただジッと、その様子を眺めていた。

 

 

「千冬姉に怒られようが関係ねぇ、俺たちが力を合わせれば、将冴のことだって止めれるはずだ!」

 

「それは、違うと思う」

 

 

この場で初めて、シャルロットが口を開いた。

 

 

「違うって、どういう意味だよ、シャルロット!」

 

「僕達が行ったところで、将冴を拘束できても、暴走、侵食は止められないと思う」

 

「そんなもの、やってみなくちゃ……」

 

「それで、兄さんが死んだとしてもか?」

 

 

ラウラが放った一言が、一夏や、他の者達に突き刺さる。

 

 

「篠ノ之束博士は明言していなかったが、無理に兄さんを助け出そうとするのは、それなりのリスクが伴うはずだ。だから、篠ノ之束博士は今は対策がないと言ったんだ」

 

「八方塞がりってことかよ……こんな時に俺たちは何もできないなんて」

 

「そうではない。織斑一夏」

 

 

昨日の会議の時も、沈黙を貫いていたマドカがそれを破った。

 

 

「篠ノ之束は、何も対策が無いのに、私達に協力を頼むなんてことはしない」

 

「しかし、姉さんは確かに対策が無いと……」

 

「あの時点では、ということだろう。あの時、篠ノ之束が考えていた対策を崩した要因……みんなも心当たりがあるだろう」

 

 

マドカの言葉に、皆が一様に昨日の出来事を思い出す。

そして、皆が同時にあることを思い出した。

 

 

「クラリッサ・ハルフォーフ。篠ノ之束のが考えた対策の肝は、彼女だ」

 





将冴との対決のための下準備回がしばらく続く……

いつ終わると言うのだ……


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200話

とうとうナンバリング200。
ここからすっ転がっていきますぜ。


 

長いような、短いような沈黙が私と篠ノ之束博士の間で流れた。もう一人の銀髪の少女はこちらを気にせず、ただキーボードを叩いていた。

 

 

「それが、どんな結果になっても、君は耐えられるかい?」

 

 

先に沈黙を破ったのは、篠ノ之束博士だった。

 

 

「昨日、腑抜けていた君が、耐えられるとは到底思えないんだけど」

 

 

……当然か。昨晩は、自分の不甲斐なさを情けなく思い、前に進み出せずにいた。でも、ルカが私に気づかせてくれた。私がやらなくてはいけないこと。私が進めべき道を。

 

 

「どんな結果になろうと……いや、結果は一つだけです。私は、将冴を連れ帰ります」

 

「……ふふ、やっぱり私が認めただけはあるね、くらちゃん」

 

 

博士はすっと椅子から立つと、私の前に来て手を差し出した。

 

 

「頼んだよ、くらちゃん。君が頼りだ」

 

「はい!」

 

 

差し出された手を握り返し、私は強く頷いた。

 

 

「さて、実はこんな話をしている場合じゃないんだよね。今起こってること、くらちゃん何も知らないでしょ?簡潔に説明するから、自力で理解してね」

 

 

博士から、将冴が暴走状態で太平洋上で静止していること、スペシネフを利用してダイモンがすべてのISを手に入れようとしていることを教えてもらった。

 

……確かに、時間的猶予はあまりなさそうだ。私達がISを使える猶予は1週間もない。だが、スペシネフの戦闘力は生半可な者ではない。この短い間に、どれだけ準備できるか……。

 

 

「くらちゃん、その手に持ってるの、ISかい?」

 

「ええ、シュバルツェ・ハーゼで副隊長をしていた時の専用機で……」

 

「ちょっと借りるよ」

 

 

ひょいと私の手からISを奪うと、待機状態のまま機体スペックを確認し始めた。

 

 

「ふんふん。まぁ、それなりに頑張って組み上げたってのはわかるね。でもこのままじゃ、スペシネフには敵わないか……」

 

「あの、篠ノ之束博士……」

 

「くらちゃん、いい加減その堅苦しい言い方やめない?ほら、たーちゃんとか、呼び方色々あるでしょ?」

 

「いや、しかし……」

 

 

ジト目でこちらを見てくる博士。

そんな突然言われても困るのだが……。

 

 

「で、では……束さん、と……」

 

「しょーくんと同じか。まぁ、いいけど。それで、何か聞きたいことでもあった?」

 

「その、シュバルツェア・ツヴァイク……そのISは、今の持ち主から借りたもので、あまり弄られると……」

 

「今はそんなお国の事情なんて知らないよ!この非常時にそんなこと言ってられないし!」

 

 

いや、それはそうなのですが……正直、将冴の話を聞いていると、シュバルツェア・ツヴァイクが原形をとどめない可能性が……。

 

 

「大丈夫、私が責任を持って魔改造してあげるから!」

 

「魔改造と認めた!?」

 

 

すまない、ルカ。

どうやらシュバルツェア・ツヴァイクは元の状態で返せそうにない……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「はぁ……」

 

 

職員室の自分のデスクにどかっと座り込み、大きくため息を吐いた。

 

ダイモンによって校舎が破壊されたが、職員室や整備室のある場所まで被害が及ばなかったのは不幸中の幸いか。

 

 

「織斑先生、お疲れ様です」

 

 

山田先生がコーヒーを私のデスクに置きながら声をかけてくれる。私は「ありがとう」と一言返し、コーヒーに口をつけた。

 

 

「将冴君……大丈夫でしょうか?」

 

「わからない……あの束ですら、対応策を示さなかったんだ」

 

 

初めてダイモンが襲撃してきた時も、ラウラがVTシステムに囚われた時も、銀の福音事件の時も、将冴は一番に体を張って解決してきた。

 

だが、今回は他ならぬ将冴が原因となっている。将冴の戦闘能力は、かなり高い水準にあり、それがスペシネフという機体でさらに底上げされている。

 

そして束のいうことが本当なら、あれはエネルギー切れがない。世界中の戦力を集めても、厳しい戦いになるだろう。勝てないことはないが……それでは将冴はただじゃ済まないだろう。

 

 

「将冴に危害を加えないようにしつつ、事態を収拾する……はっきり言って藁の中から針を探すようなものだ」

 

「織斑先生でも、そう思うんですね……」

 

「……考えたくはないが、現実的に考えてそういうことになる。全く情けない。これではクラリッサのことは言えないな」

 

 

昨日、あの後からクラリッサの姿は見ていないが……大丈夫だろうか……。

 

 

「あまり一人で気負わないでください。私もいますから!」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

どうしようもなくなった時は……私が将冴を……。

 

と、その時、ポケットに入れていた携帯が震えた。こんな時に……相手は束か。

 

 

「どうした。学内にいるなら直接……そうか。わかった。集めておこう」

 

 

すぐに通話を切り、私は携帯をしまって立ち上がった。

 

 

「織斑先生、篠ノ之博士からですか?」

 

「ああ、大天災がやってくれたようだ」

 

 

望みは繋がった。




クラリッサが動き出し、それを起点として全てが回っていく。


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201話

どうも作者です。北海道がっつり寒くなってまいりました。

そんな中、私はこの作品の序盤の文章を訂正してました。
訂正といっても物語には関係ないんですが、序盤の方で行っていたサイド表記を全排除してきました。

少しは読みやすくなったのではないかなと思います。


 

その日の夜。

 

会議室には束さんが召集をかけた、1年生の専用機持ち8人と生徒会長の更識楯無、副会長の布仏虚、織斑先生、山田先生、そして私……クラリッサ・ハルフォーフが集まっていた。

 

全員集まったところで、束さんが口を開いた。

 

 

「なんだか余計な人が何人かいるようだけど、集まったね。それじゃ、しょーくん奪還作戦の話を始めようか」

 

 

束さん、その名前はどうなんだろうか。

場の空気も、なんだか締まらない。

 

 

「ぶー、もっと盛り上がってよぉ!一人だけ馬鹿みたいじゃないか!」

 

「束、ふざけてないで早く話せ」

 

「ちぇっ、ちーちゃんまでそんなこと言って……まぁいいや。それじゃ作戦を説明するよ。……といっても、いたってシンプルだからそんなに多く説明することはないんだけど」

 

 

束さんは遠隔操作でプロジェクターを起動させて、映像を映し出した。映像にはスペシネフが映っている。

 

 

「スペシネフがしょーくんの感情値で動いているのは昨日話したのね?」

 

 

会議室にいるものが全員小さく頷く。私も、地下施設で束さんに説明してもらった。

 

 

「当たり前だけど、この感情値が0になればスペシネフは活動を停止する。それに伴ってISの侵食は止まるはずだよ」

 

「篠ノ之博士、でもそれは昨日無理だと……」

 

 

楯無が言葉を挟むと、束さんは不機嫌そうな表情を浮かべた。これから説明するつもりだったのに、横槍を入れられたからだろう。

 

だが、束さんはちゃんと説明を続けた。

 

 

「昨日のあの時点では、ね。今はできる……かもしれない」

 

「かもって……姉さんがそんな不確定な言い方をするなんて……」

 

「束さんだって、わからないものくらいあるんだよ、箒ちゃん」

 

 

それだけ、どう転ぶかわからない状態ということなのか。

 

 

「それで、そのできるかもしれない要素はなんだ、束」

 

「それはね……もうみんな分かってると思うけど、そこにいるくらちゃんだよ」

 

 

束さんが私を指差すと、会議室にいる全員が私に目を向けた。みんなの顔は、やっぱりといった風だ。かくいう私も、そんな気はしていた。

 

 

「束さんがとある筋から手に入れた情報だと、しょーくんはくらちゃんの名前を聞いたら、異常に反応していたみたいなんだよね」

 

「そういえば……私が接触した時も、クラリッサ先生の名前を出したら、突然襲い掛かってきたわね……」

 

「しょーくんがスペシネフを動かしている時の感情は怒り。ダイモンがくらちゃんを攻撃したことによって、その感情が爆発した。でも、ダイモンはスペシネフを利用する際、自分に関する敵対意識は取り除いているはず。じゃないと、しょーくんを思い通りに動かせないからね。だから、今しょーくんが感情を動かすのは……」

 

「クラリッサ、ということか……」

 

 

……間接的とはいえ、私のせいで将冴は暴走してしまった。なら止めるのも、私がやらなければいけない。

 

 

「クラリッサ先生がキーパーソンなのはわかりました。でも、具体的にどうやって将冴を止めるんですか、束さん」

 

「それもいまから説明するよ、いっくん。まぁ、これに関しては説明不要みたいなものだけど」

 

 

私も、まだ何をすればいいかは聞いていない。

だが……想像はついている。

 

 

「くらちゃんには、しょーくんと一対一でぶつかってもらう」

 

「篠ノ之博士!それは危険よ!」

 

「将冴さんは暴走状態なのですよ!せめて、何人かでフォローを……」

 

「あのね……ダイモンが黙って見ているとでも思ってるの?ちんちくツインテールに金髪ドリル」

 

「ちんちく……」

 

「ドリ……」

 

「必ず、ダイモンは妨害してくる。それこそ、全戦力をもって。奴がどれだけの戦力を持ってるか、束さんだってわからない。でも、昨日学園を襲撃してきたようなのが出てくるのは間違いない。こっちの戦力は、そんなに多くないしね。だから、くらちゃん以外にはダイモンの手駒たちを足止めしてもらう」

 

 

束さんの説明はもっともだ。だが、1年生の数名……主に一夏、箒、セシリア、鈴は納得していないようだったが、ぐっと言葉をこらえていた。

 

ラウラ隊長とシャルロットは私に目を向けて、小さく笑ってくれた。マドカは反応すらしなかったが……。

 

 

「……とりあえず、説明はこんな感じでいいかな。作戦決行は二日後の朝。それまでに諸々準備しておくから、君達はゆっくり休んで。詳しい動きとかは、後でまとめて送っておくから」

 

 

そのまま、なし崩し的に話は終わり、それぞれ自分の部屋に戻っていった。

 

二日後……必ず、私が……

 

 

「クラリッサ」

 

 

後ろから声をかけられ振り返ると、織斑先生が立っていた。何か用があったのか……?

 

 

「どうかしましたか、織斑先生」

 

「いや、大した用じゃないんだが……少し付き合わないか?」

 

「……はい」




「ちんちくツインテールって……どうなのよ、そのネーミングセンス!」

「金髪ドリルなんて……初めて言われましたわ……」

「でも、二人とも見たまんまだよな」

「「一夏(さん)!」」


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202話

終わりが近づいてくると、終わらせたくないという気持ちが前に出ますね。それだけ思い深いですし、頑張って書いてきたんですよね……。

まぁ、何が言いたいかというと……

……昨日、一昨日と休んでしまってごめんなさい


 

織斑先生に連いていくと、そこは寮長室……つまり織斑先生の部屋だった。将冴のことで話があるということだろうが……二人で話さなきゃいけないことなのか?

 

部屋に入ると、織斑先生はスーツの上着をハンガーにかけてから冷蔵庫を開けた。

 

 

「適当に座ってくれ。飲み物は……缶ビールでいいか?」

 

「は、はい」

 

 

空いている椅子に座ると、織斑先生が缶ビールを2つ持ってくると、それをテーブルの上に置き椅子に腰かけた。

 

そして無言で缶ビールを開けると、ぐいっと一口あおった。

 

 

「んく、っはぁ……。どうした、飲まないのか?」

 

「あ、いただきます」

 

 

私も缶ビールを開けて、一口飲む。

酒を飲んだのは久しぶりな気がする……。

 

織斑先生は、また缶ビールに口をつけ、ぐいっと飲み干し、空の缶をテーブルに置いた。

 

 

「……クラリッサ、昨日は大丈夫だったか?」

 

 

昨日……今思い出すと、本当に不甲斐ない姿を晒した。

私のせいで、将冴が暴走してしまったこと……それが何よりも辛かった。

 

でも……

 

 

「はい。でも、1人ではどうにもならなかったと思います。ルカがいてくれたから、今日束さんと話すことができたんです」

 

「そうか……正直、あのまま潰れてもおかしくないと思っていた。お前は将冴の身に何かあると、動けなくなるようだったからな。福音のときも、お前は将冴が怪我をしてるのを見て固まっていたな」

 

「そういえば……そうでしたね」

 

 

将冴のために動かなければと思うほど、咄嗟に動けなくなる……。本当に、私はどうしようもない。一緒にいない方がいいのではないかと思うほどだ。

 

でも、私はそうありたくない。だから、絶対に……。

 

 

「……どうやら、私が心配する必要はなさそうだな」

 

 

そう言うと、織斑先生は冷蔵庫からもう1本ビールを取り出した。まだ飲むつもりなのか?

 

 

「織斑先生……あまり飲みすぎないように……」

 

「わかっている。だが、今日は少しだけ酔いたい気分なんだ」

 

 

……織斑先生がこんなことを言うなんて、珍しいというか、初めて見たかもしれない。

 

やはり、将冴のことが心配なのだろうか。

 

 

「クラリッサ……私はな、将冴が好きだ」

 

「っ!?ゲホッゲホッ!」

 

 

突然のカミングアウトに驚いてビール吹いてしまった。この人はいきなり何を言いだして!

 

 

「そんなに驚くことか?とうの昔にバレていると思っていたが」

 

「いや、まぁ……それはわかっていましたが……」

 

 

明らかに織斑先生は将冴に甘い。それに、将冴のことだけ授業中だろうと名前呼びだ。

 

極め付けは一緒に大浴場に行ったことだろうか……。

 

 

「お前と将冴が付き合うと聞かされたときは、身を割く思いをした。ま、そうなるように手助けしたのは私だが……」

 

「あの……なぜ今そんなことを……」

 

「なに、ちょっとした愚痴だ。少し付き合え」

 

 

織斑先生が愚痴を言うのにも驚いたが、その内容もどうなんだ……。

 

 

「将冴とドイツで暮らすまでは、一夏と同じ弟のようにしか思っていなかった。だが、一緒に過ごして、将冴の強さに惹かれていったのだろうな。日本に戻ったら、無理やりにでも一緒にいてやろうと思った。まぁ、私に迷惑をかけたくないという将冴の思いを優先したが……」

 

「そ、そんなことを考えていたんですね……」

 

「ああ。だが……将冴の心は、もうお前に向いていた。やりたくはなかったが、お前と連絡が取れるように手助けをしたのは、かなり辛かった」

 

 

なんなんだろう。織斑先生は私を責めているのか?

だとしたら、なんだかタチが悪いぞ。もう酔っているんじゃないのか?

 

 

「お前がこっちに来るとなったときもそうだ。目の前でイチャイチャと……私に見せつけているのか」

 

「す、すいません……」

 

「山田先生も、将冴に好意を寄せているんだぞ?全く、本当にどうしようもないやつだ……」

 

 

不味い、これは面倒な絡み酒だ。

 

 

「お、織斑先生、それくらいで……」

 

「なんだ、まだ私は話し足りない。そうだ、山田先生も呼ぶぞ。ついでに束もだ」

 

 

疲れがたまっていたのか、すぐに酔ってしまった織斑先生に召集され、山田先生と束さんがこの部屋に集まり、終始将冴の話で夜中まで盛り上がっていた。




「私ら、いつまでラボで待機してりゃいいんだよ……」

「篠ノ之博士から連絡きたでしょ?明後日の朝までよ」

「今すぐにでも、あいつを元に戻してやりてぇのに……」

「あらどうやって戻すの?」

「そりゃ……その……キス、とか……?」

「音声いただきましたぁ〜」

「おま、そのレコーダー渡しやがれ!」


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203話

この作品が終わった後は、この作品の後日談とスピンオフ、そして別原作の新作を考えております。

新作の原作は……この作品が終わったら正式に発表しましょうかね。まぁ、私のツイッターをフォローしている方は、わかると思いますが……。

あれですよ、あれ。流行に乗る形で←

……もう一つやりたいのもあるんですがね……そっちは……色々と面倒なものが……。


今回、シュバルツェア・ツヴァイクの武装やらなんやらが出てきますが、完全オリジナルです。


 

翌日。束さんに呼ばれ、地下施設に足を運んでいた。おそらくシュバルツェア・ツヴァイクの調整……もとい、魔改造が終わったのだろうか。

 

シュバルツェア・ツヴァイクは束さんが魔改造すると言ったきり、私の手元に戻っていない。昨日の夜は色々と騒いでいたのに、束さんはしっかりと作っていたのか……。

 

 

「失礼します。束さん、ISの調整が終わったのですか?」

 

「やぁやぁ、くらちゃん。しっかり仕上げたよ!ほら、こっちこっち」

 

 

束さんが私の手を取り、ぐいぐいと引っ張る。以前よりも親しみやすくなったな。まぁ、状況が状況なだけに素直に喜べないが……。

 

連れて行かれた先には、ラウラ隊長のシュバルツェア・レーゲンによく似た機体……シュバルツェア・ツヴァイクが鎮座していた。

 

シュバルツェア・ツヴァイクは、サポート機という名目が強く、両肩にレールカノン、8つのワイヤーブレードとAICを搭載していた。近接装備は少なかったが、一応高熱ナイフも持っていたのだが……。

 

……ふむ、どんな魔改造をされたかと思ったが、特に変わったところは見当たらないな。ただ一つ、スラスターが二機追加されているのが気になるが……。

 

 

「あまり、大きなところは変わっていないようですね……」

 

「そこまで改造する時間もなかったからねぇ。くらちゃん用に調整しなきゃいけないし。まぁ、それでも起動性とかAICの性能とかエネルギー効率とかいじり回したんだけどねぇ」

 

「それは……私でも扱いきれるのですか?」

 

「だからこれから調整するんでしょ?ま、多少の無理はしてもらうけどね。それくらいしないと、スペシネフと渡り合うなんて無理な話だし」

 

 

束さんの言う通りか……。自己保身に回っている場合ではない。やれる以上のことをしなければ、将冴を助けるなんて無理だ。

 

 

「束さん、調整をお願いします」

 

「あいあい!それじゃあ、このISスーツに着替えてきてね。こっちもちょっとだけ準備しなきゃいけないから」

 

「わかりました」

 

 

ISスーツか……袖を通すのは久しぶりだな。

こっちに来てからほとんどISに乗ることもなかったからな。

 

将冴を守ると言いながら、ISを持たないなんて……危機意識のなさか……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

アリーナでは一夏と箒、セシリア、鈴が模擬戦を行っていた。一夏対他の3人という、一夏が圧倒的不利な状況だった。

 

一夏の実力が上がってきたとはいえ、実力者であるセシリアと鈴、そして将冴に直接指導を受けた箒が相手では部が悪過ぎた。

 

 

「ハァ、ハァ……もう一回頼む!」

 

「一夏、さすがにこれ以上は明日に響くぞ!」

 

「そうですわ!ここで無理をして、肝心の本番で力を発揮できなければ、本末転倒ですわ!」

 

「だけど……何もしないでいるなんて……」

 

 

歯がゆい気持ちが、一夏を焦らせていた。

昨日、束に言われたこともまた、その焦りを助長させていたのだ。

 

自分がダイモンの足止めだけということが、納得がいかなかったのだ。

 

 

「俺だって、将冴と戦える……クラリッサ先生だけでなんて、絶対にダメだ……」

 

「一夏……あんたがそう思うのはもっともよ。でも、今回は篠ノ之博士の言う通りにしたほうがいいと思う」

 

「どうして……みんなはどうして納得できるんだよ!将冴は俺たちの仲間だろ……だったら俺たちが……」

 

「だからあんたは鈍感って言われるのよ」

 

「今は関係ないだろ!」

 

「あるわよバカ!クラリッサ先生は、将冴の恋人なのよ。暴走状態の将冴を正気に戻すのは、クラリッサ先生が適任なのは明らかじゃない」

 

 

鈴の言葉に、一夏は黙りこくってしまう。

一夏自身、気づいていないわけじゃなかった。ただ、それでも将冴に助けてもらったことは何度もある。だから今度こそは……そう強く思っていたから、譲りたくなかった。

 

 

「一夏……確かに、私達でも将冴を助けられる可能性は少なからずあるとは思う。でも、私もここはクラリッサ先生に任せるべきだと思う」

 

「私もです。それに、一夏さんは私達にどうして納得できるのだと言いましたが……無理やり納得させているだけですわ」

 

「助けたい気持ちは、あんたと一緒よ。だから一夏、今は……」

 

「……ああ、わかった。みんな、我儘に付き合ってもらって、悪かった」

 

 

一夏もまた、箒達と同じように無理やりに納得させるしかなかった。だがそれでも、幾分かは気分が軽くなった気がしていた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ねぇ、ラウラー」

 

「ん……」

 

「いつまで僕に抱きついているの?」

 

 

シャルロットとラウラは自分たちの部屋にいた。

 

ラウラは不機嫌そうな顔でシャルロットに抱きついていた。昨日の夜からずっと。

 

 

「……明日の作戦開始まで」

 

「いや、それはちょっとやめて欲しいかな……」

 

 

ラウラがシャルロットにこんなにも甘えてくる……とは少し違うが、密着してくることは殆ど無かった。将冴にすら、ここまでのスキンシップは行っていなかった。

 

では、ラウラがこうなっているのはどうしてか。答えは一夏と同じような理由だった。

 

 

「兄さんを助けるのは、クラリッサ……それは十分理解している。納得もしている。だが……やはり……」

 

「どう言えばいいかわからないけど、なんだかモヤモヤする。そんな感じ?」

 

「……ああ」

 

「僕も同じだよ。昨日の話は納得している。それが最善の策なんだって。でもやっぱり、自分たちの手で助けたいよね」

 

「一夏達も、同じような感じだったみたいだ。だから、私はあの場では表に出さないようにした。でも……今はいいよな」

 

「……うん、いいよ。でも、一回離れてくれると嬉しいかな。トイレ行きたいから……」

 

「……私は気にしないぞ」

 

「僕が気にするの!!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「……決行は明日だ。束からのオーダー、よろしく頼む」

 

『わかってるわ。こっちも本気で行かなきゃいけないしね。やっと、ダイモンにひと泡吹かせることができるんだから』

 

「そうか……なぁ、スコール」

 

『どうしたの?』

 

「……人は、簡単に納得できないときはどうすればいい?」

 

『急に難しい話を振ってくるわね……納得できないときか……。無理やり抑え込む、納得できないもの全部をぶちまける、何かを殴って発散する……色々あるけど、これは自分で見つけた方がいいんじゃないかしら?』

 

「自分で……」

 

『ええ、あなたは考えられる。自分のやるべきことを自分で。だから、自分でそれを見つけてみて。それで、見つけたら私に教えて。オータムと一緒に、あなたの見つけたものを』

 

「……わかった」

 

『それじゃ、明日はよろしくね。必ず、将冴君を助けて、ダイモンの計画を壊してやりましょ』

 

「ああ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

明日……明日か……

 

あいつが暴走したときは、何もできなかった。まぁ、今回もあいつに直接何かできるわけじゃねぇが……任せるしかねぇよな。クラリッサに。

 

はぁ……全部クラリッサに持ってかれちまうな。

 

私も、メンドクセェ奴に惚れたもんだ。

 

でもまぁ、これでよかったんだろうけどな。

 

 

「絶対に……あいつを取り返す」

 

 

たとえ、それが、あいつを直接助け出す役割じゃないとしても。




みんなが決意を固める。

みんなが心を一つにする。

それは奇跡を起こせるのか。


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204話

将冴奪還作戦開始。

着々と終わりに近づいてきました。
ラストは考えていますが……いろいろ無理やりになっちゃうかなぁと懸念しております。

まぁ、書いてみてですね。


 

翌朝。

 

作戦に参加する者たちは、全員校庭に集まっていた。

今回、将冴の元へと向かうのは私と一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、マドカの8人だ。他に2人、束さんの仲間も加えると言っていたが、まだ姿を見せていない。

 

更識姉妹や他の代表校補正などは、学園に残りもしものときに備える形となっている。

 

 

「さて、みんな集まったね?」

 

 

全員が集まったところで、束さんがコホンと咳払いをし、話を始めた。

 

 

「しょーくんは以前と変わらず、太平洋上にいる。詳しいポイントはみんなに送っておいたから確認しておいてね。で、その周辺に複数の熱源反応がある。おそらくダイモンの悪趣味なあの球体たちだね。接敵したら、事前に伝えたように行動するように」

 

 

束さんが一つ一つ丁寧に確認していく。いつもの飄々とした態度は微塵も感じられない。いつでもこうならいいのだが……。

 

 

「……それと、ちょっと悪い知らせがあるよ」

 

「悪い知らせ?」

 

 

オウム返しのように尋ね返すと、束さんはゆっくり頷いた。

 

……まさか……。

 

 

「10個のISコアが乗っ取られた。そのうち3個は、まだ機体に組み込まれる前のコアだけの状態だったから問題はないけど、他の7体はひとしきり暴れた後に逃走。しょーくんのもとに集まっている」

 

 

すでに乗っ取られて……ということは、それらも障害となるわけか。戦況は、こっちの方が不利ということか。

 

 

「幸いにも、乗っ取られたのは訓練機だけみたい。でも、シャドウ化……福音のときのようにかなり攻撃的になっているはず」

 

「福音ほどではないけど、それなりの脅威ではあるわけだな……」

 

「大丈夫だよ、いっくん。福音を倒した君達なら」

 

 

あれ以降も、一夏達は研鑽を積んできている。技術はかなり向上しているはずだ。苦戦はすれど負けはしないと私は思っている。

 

 

「そろそろかな……」

 

 

束さんが小さく呟くと同時に、こちらに向かって2機の戦闘機のようなものがこちらに近づいてくる。

 

いや、あれはマドカと同じISか?

 

その2つのISは、私達の上空で静止すると、人型に変形しゆっくりと校庭に降り立った。

 

 

「きたね、すーちゃん、おーちゃん」

 

「遅くなってごめんなさい。ちょっと準備に手間取って」

 

 

2人がISを解除すると、ブロンドで泣きぼくろが特徴的な女性と、茶髪でつり目の女性が現れた。

 

 

「みんな、この2人が束さんの協力者だよ。今回、みんなと一緒にダイモンの軍勢の足止めをしてもらう」

 

「スコールよ。うちのマドカがお世話になってるわね」

 

「オータムだ」

 

 

オータム……確か、夏休み中に電話で話した……この女性がそうだったのか。

 

 

「作戦ポイントまでは、このすーちゃんとまーちゃんに先導してもらうことになるから。おーちゃんは、くらちゃんをしょーくんの元まで」

 

「了解よ」

 

「了解だ。よろしく頼むぜ、クラリッサさんよ」

 

「ああ、こっちこそよろしく頼む」

 

 

どちらからともなく握手をすると、オータムは私の目をジッと見てきた。見定めている、そんな感じがした。

 

 

「……大丈夫そうだな」

 

「……」

 

「お前にかかってる。しっかりやれよ」

 

「無論だ」

 

 

握手を解き、お互いに一歩下がる。それを見てか、束さんが話を続けた。

 

 

「戦ってる間も、侵食は進んでる。また新たにISの増援がするかもしれないから、注意してね。……もう話すことはないかな。各自準備、しょーくんを取り返すよ!」

 

『了解!』

 

 

必ず、この手で取り戻す。

待っていてくれ、将冴。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

……どれくらい経っただろう。

 

自分がこの状態になってどれだけ経ったのかもうわからない。

 

相変わらず、何かを忘れている。

 

何を?

 

思い出せない。

 

……また、眠くなってきた。

 

何だろう、寝ちゃいけない気がする。

 

起きなきゃ。

 

起きて……起きて何をすればいい?

 

わからない。

 

……抗えない。

 

心地よすぎて、この眠気からは……

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「来い、シュバルツェア・ツヴァイク!」

 

 

私の体を黒い装甲が覆う。

昨日、束さんが直々に調整をしてくれたから、各種機能は問題なく動いている。

 

……昨日の調整の際に、束さんが気になることを言っていたな。

 

 

『おろ?登録情報が、くらちゃんとほとんど一致してる?』

 

 

おそらく、ルカのやつ。一度もシュバルツェア・ツヴァイクを使わなかったな。調整もいじらず、いつでも私に返せるように。

 

全く、本当に……私はいい友を持ったものだな。

 

 

「クラリッサ」

 

 

シュバルツェア・ツヴァイクの起動確認をしていると、IS……確か、マイザーΔだったか。それを纏ったオータムが話しかけてくる。フルスキンタイプだが、今は頭部装甲は外しているようだ。

 

 

「オータム。どうかしたか?」

 

「いや……この間の電話の礼をしようと思ってな。おかげで色々と吹っ切れた」

 

「それなら良かったが……」

 

「安心しろって、お前から将冴をとるような真似はしねぇよ」

 

「なっ!?」

 

「お?煽り耐性は低そうだな。こりゃいい発見したな」

 

 

ケタケタと笑うオータム。くっ、電話越しではわからなかったが、私はこいつが苦手かもしれない……。

 

 

「ま、今日の作戦はすべてお前にかかってる。失敗すれば、将冴もISも全部奪われる。わかってるよな?」

 

「ああ。もちろんだ」

 

 

私にのしかかる重責。

 

だが……この程度、将冴が親と手足を失った時に比べれば何ともない。

 

 

「返事はいいな。危なくなったらいつでも言ってくれ。お前の代わりに、将冴を助けてやるからよ」

 

「悪いが、そんなことにはならない」

 

「ハッ、上等じゃねぇか。しっかりやれよ。……っと、そろそろ出発か。移動の時は私に捕まれ。できるだけエネルギー消費抑えるためにな」

 

「ああ、わかった」

 

 

全員の準備が整い、全員が出発する体制に入る。

 

その時、通信が全員に入った。相手は……束さんと織斑先生。

 

 

『みんな、しょーくんのこと頼んだよ』

 

『私たちはここで見ることしかできない。だが、お前たちなら何も問題はないと信じている。行ってこい、将冴を取り戻しに!』

 

 

了解です。必ず、連れて帰ります。

 

 

「クラリッサ・ハルフォーフ、シュバルツェア・ツヴァイクで出る!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

将冴を取り戻しに飛び出した10人を見送った千冬と束は、踵を返し、校舎に足を向けた。

 

 

「行ったね」

 

「ああ。あとはあいつら次第だ」

 

「私はモニタリングがあるけどね。ちーちゃんは、このあとは何か……」

 

「国際IS委員会への言い訳をな。何かとうるさいんだ。将冴のことも掴んでいるようでな、帰ってきた時のために黙らせてくる」

 

「さっすが、ブリュンヒルデの言うことは違うね。よし、束さんもがんばるぞぉー!」

 

 

束が両手を上に上げて伸びをしていると、2人に近づく人物が1つ。

 

その人物は、2人を見つけると小さく声をかけた。

 

 

「ちょっとお二人さん、少しいいかい?」

 

「ん?」

 

「あなたは……篝火ヒカルノさん」

 

「篝火……ああ、バーチャロンにアレを仕込んだ……」

 

「どうしてあなたがここに?」

 

 

千冬が疑問をぶつけると、篝火ヒカルノは特に大きな反応をせず、淡々と答えた。

 

 

「いやね、シュミレーターの整備に来たんだよ。それに、将冴君からあのシステムの感想も聞きたかったから。でも……それどころじゃないようだね。さっきも、IS纏った子達が何人も飛んで行ってたしね……。何があったの?」

 

 

崩れている校舎を見たヒカルノは、ある程度察したのか質問を飛ばした。

 

千冬はあまりベラベラと話すものでもないから断ろうとするが、それよりも先に束が口を開いた。

 

 

「面倒なテロリストに襲撃されて、しょーくんは敵に操られてるんだよ。だから、今は一般市民を相手している暇は……」

 

「操られて……もしかしてスペシネフが暴走してる?」

 

「……知ってたんだ」

 

「ああ。だが、スペシネフを暴走させたということは……なるほどなるほど」

 

 

ヒカルノが1人納得したように何度も頷いた。

千冬からすれば何を考えていたのかわからなかったが、束は多少なりとも興味を持ったようだった。

 

 

「何、何を考えているの?」

 

「いやね、篠ノ之束博士。貴方は、重大な設計ミスをしているよ」

 

「……なに?」

 

「ここで話してもいいけど、立ち話もあれじゃないか?」

 

「……ちーちゃん」

 

「ああ、許可する。ヒカルノさん、どうぞ中へ」




物語は確実に動いている。

彼女たちが掴むのは一体……


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205話

あと2ヶ月ほどでこの小説も連載1年が経ちます。
まさかこんな長い間連載するとは……。

しかし、まぁ……毎日更新を謳うなら365話とかになるんでしょうが、残り2ヶ月びっちり書いても足りませんね。
それだけ休んだということですね……反省……。


前回の終盤。ヒカルノさんの話は前々から考えていたネタです。これはまぁ、後々語ることになります。

それでは本編。将冴奪還戦です。


 

学園から将冴のいるポイントに向けて飛行すること30分。空には障害となるものがなく、私たちはエネルギー配分を考えながら高速でポイントに近づいていた。あと10分ほどで到達するか……そろそろダイモンが妨害を開始してもおかしくない。周りに目を光らせなければ。

 

 

「クラリッサ、敵影はあるか?」

 

 

私をポイントまで運んでくれているオータムが問いかけてくる。目視でもレーダーでも、まだ反応はない。

 

油断するわけではないが、まだ大丈夫だろう。

 

 

「その気配はない。だが、いつ現れるかわからないから用心はしておいてくれ」

 

「言われなくても」

 

 

オータムは短く返す。かなりの速度で飛行しているが、彼女は慣れているようで、一定の速度を維持している。スコール、マドカも同様だ。3人の速度は乱れず、常に一定。束さんの元で働いていただけはあるということか。

 

スコールの後ろにはセシリア、シャルロット、ラウラ隊長が、マドカの後ろには一夏、箒、鈴がそれぞれ続いており、スコールとマドカが風除けとなっているため、難なくついてこれているようだ。

 

おそらく、この速度は彼女たちの本気ではないだろう。合わせてくれている。やはり、この3人は普通ではない……。

 

と、その時、レーダーが反応を見せた。

 

 

「っ!前方1キロに敵影7つ!IS反応……乗っ取られた機体たちだ!」

 

「早速お出ましってことか。クラリッサ、私たちは突っ切るぞ」

 

「……ああ、わかっている」

 

 

もとよりそのつもりだった。ここに誰かを残して行かなければならない。心苦しいが、それが束さんからのオーダーだ。

 

 

『ISが相手なら……ここは俺がやる。みんなは先に行ってくれ!』

 

 

いの一番に名乗りを上げたのは一夏だった。確かに、一夏の零落白夜なら、ISを簡単に戦闘不能にできるだろう。

 

いつも猪突猛進であった一夏も、考えたようだ。

 

 

『一夏1人で7体ものISを相手にするのは骨が折れるだろう。私も行く』

 

『あれくらいなら1人で大丈夫だ、箒。この先何があるかわからないんだから、戦力は温存しておいたほうが……』

 

『ダメだ。一夏がなんと言おうと、一緒に行く。これは我儘なんかではない。将冴なら、きっとそう指示すると思ったからだ』

 

『箒……』

 

 

箒のISは、一夏の白式にエネルギーを供給できる。この2人が組むのは妥当といえよう。技能も申し分ないくらいまで高まっている。これも将冴の影響だな……。

 

 

『あんたら2人だけじゃ心配ね。仕方ないから、私も行ってやるわよ。マドカ、あんたも来なさい』

 

『言われなくても』

 

 

鈴、そしてマドカも同行するか……束さんは、乗っ取られたISの増援が来る可能性を示唆していた。これだけ戦力を割いてもいいかもしれない。福音の時のように攻撃性を増しているなら尚更だ。

 

 

『そういうわけで、私たちがあのISを相手するわ。他のみんなは、先に行って』

 

「わかった。くれぐれも無茶はするなよ」

 

「……行くぞ、しっかり捕まれ」

 

 

オータムが速度を上げて、そのまま敵ISに突っ込んでいく。このまま衝突すれば、敵はひとたまりもないだろう。それをわかってか、ISたちは私たちを避けていった。

 

 

「クラリッサ、ポイントまですぐだ。準備しておけ」

 

「ああ、わかっている」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「無茶するな、ね……誰に言ってるのかしらね」

 

「将冴がいつも無茶をするから、クラリッサ先生も口癖になっているんだろう」

 

「無理無茶は将冴の専売特許だからな」

 

「お前も人のことは言えないだろう。織斑一夏」

 

「ぐっ……千冬姉と同じ顔のマドカに言われると結構傷つくな……」

 

「ほらほら、無駄話はそこまでよ。さっさと片付けて、クラリッサ先生の仕事奪うわよ」

 

「それいいな。よし、いっちょ派手にやるか!」

 

「あまり突っ込みすぎるなよ一夏!」

 

「将冴の……お腹。奪われるわけにはいかない」




俺のことは構わず先に行け展開って燃えますよね


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206話

別サイトでとある企画に参加しているので、しばらく不定期になります。あと就活も……。


 

一夏たちを残し、指定ポイント付近まで近づいた。

 

レーダーに感あり。数えるのを諦めるほどの反応が、将冴の元まで行かせないよう壁のようにに密集していた。まだ距離があるはずなのに、すでに視認できるほどだ。黒い球体……ダイモン・オーブがいくつも重なり合って、壁のようになっている。

 

 

「チッ、気色悪りぃ光景だな。何が何でも邪魔させないつもりか」

 

「あの中に将冴が……オータム、なんとか突破できないか!?」

 

「できなくてもやるしかねぇだろ!今はそういう時だ!」

 

『待ちなさいオータム』

 

 

オータムがオーブの壁を突っ切ろうと準備を始めた時、スコールから通信が入った。

 

 

「んだよ、スコール!今からアレに突っ込もうって時に!」

 

『そんなことしても無駄にエネルギーを消費するだけよ。私たちで壁を引き付けるから、それまで待機。いいわね』

 

『私たちって、僕たちのことだよね』

 

『それ以外にあるまい。クラリッサには兄さんと戦ってもらわなくてはならないしな』

 

『こちらとしては申し分ない大仕事ですわ。それに、複数戦はブルーティアーズが得意とするものですから』

 

『張り切るのは構わないけど、遊びじゃないからね。それじゃ、オータム。隙ができたらクラリッサさんを将冴君の元に送り届けてね』

 

「了解了解。任せたぜ」

 

『クラリッサさん。将冴君、ちゃんと連れ戻してね。じゃないと、オータムが泣いちゃうから』

 

『クラリッサ、兄さんのことは任せたぞ!』

 

『お兄ちゃんのこと、一発殴るって決めてるので、ちゃんと連れ帰ってくださいね』

 

『ここが意地の見せ所ですわよ。気張ってくださいまし』

 

「ああ、だが……」

 

『『『無茶はするな』』』

 

『あら、先読みされていたわね。あなたの口癖なのかしら?』

 

 

クスクスと笑いながら、スコールはラウラ隊長たちを連れて、オーブの大群へ向かっていった。

 

……そんなに頻繁に言っていただろうか?

 

 

「お前、過保護だろ」

 

「そのようなつもりはない」

 

「お前がそのつもりじゃなくても、周りから見たらそういうことなんだっつの。……無駄話してる場合でもねぇか。いよいよだぞ。さっきのガキどもの真似じゃねぇが、しっかりやれ」

 

「その言葉は、耳にタコができるほど言われた」

 

「それだけ心配なんだよ。将冴のことも、お前のことも」

 

 

ああ、わかっているさ。しっかりと伝わっている。だから、ちゃんと成果を残さなければならない。

 

それが、私が今できることだから。

 

 

「……スコールたちがうまくやったようだ。いくぞ、クラリッサ」

 

「ああ、オータム。頼んだぞ!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「きてるきてる。ぞろぞろと来てるわね」

 

「遠くから見ても気色悪いが、近くで見ると殊更にだな……」

 

「このオーブ、確か一夏と鈴が戦って苦戦した相手なんだよね?将冴が救援に来たから倒せたって聞いたんだけど」

 

「あの時は、一夏さんも鈴さんも消耗していましたし……」

 

「まぁ、そこまで特別に強いってわけでもないわ。相手はISの出来損ないみたいなものだから。さ、そろそろ迎撃するわよ。1人目標100体ね」

 

「軽く言ってくれるな……」

 

「しかし、目標があればやる気が出るというものですわ!」

 

「そうだね。将冴が戻ってきた時に自慢しようよ」

 

「それもいいな……。では、殲滅を始める!」




最近小出しですいません……。


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207話

不定期が続いて申し訳ないです。

今回から、将冴とクラリッサの一騎打ち。

果たして、クラリッサは将冴を取り戻すことができるのか。


 

スペシネフを纏った将冴を目視で確認した。

 

将冴はピクリとも動かず、ダランと腕を下ろし俯いている。意識があるのかないのか……いや、意識がないのならスペシネフを展開しているはずがないか。

 

 

「ここで降ろすぞ。私はスコールたちの援護に行く。任せるぞ」

 

「ああ。ここまで運んでくれて助かった」

 

「私は運び屋じゃねぇんだがな。しっかりやれ」

 

 

スコールは私を将冴から少し離れたところで降ろし、オーブの大群を引きつけていったラウラ隊長たちの元へ向かっていった。

 

さて……ここからが、私のすべきことだ。

 

 

「将冴、聞こえるか。私だ。クラリッサだ」

 

「……」

 

「私は無事だ。怪我もない。だから、もうこんなことをする必要はない。帰ろう、みんなも心配している」

 

「……くら……りっさ……」

 

 

私の名前を……しっかり意識はあるのか!?

 

 

「そうだ、私だ!」

 

「くら……ぐっ……うぅっ、がぁっ!?」

 

「将冴!?」

 

 

将冴が突然、苦しそうに頭を抑え始める。

くっ、正気に戻ったわけではないのか……!

 

 

「ぐうぅ!……ガァァァァ!」

 

「っ!?」

 

 

将冴はビームサイズを展開し、瞬時加速で接近してきた。

私は右手を将冴に向けて、AICを発動した。

 

咄嗟に発動したため、範囲がデタラメになってしまいビームサイズだけを止めてしまう。

 

 

「ゔぅ!」

 

「やめてくれ、将冴!私たちが戦う必要はない!怒りを鎮めてくれ、スペシネフを解除するんだ!」

 

 

ダメだ、力が強くなってきている……AICも咄嗟に発動したから範囲を絞れていない。すぐに破られてしまう。

 

……戦いたくなかったが、やるしかないか。

 

 

「すまない、将冴……っ!」

 

 

両肩のレールカノンを将冴に向け、同時に放つ。

 

ビームサイズをAICで固定しているため、将冴は動けずレールカノンをまともに受ける。

 

 

「がぁぁ!?」

 

 

AICを解き、一旦将冴から離れる。レールカノンの出力は下げたが……おそらく、スペシネフは健在だろう。

 

 

「グルゥ……」

 

「将冴……」

 

 

荒れ狂う獣のような声……おおよそ人の声ではない。スペシネフに支配されたせいだというのか。

 

だが、絶対に将冴を助けなければならない。

……束さんに調整してもらったこの機体で。

 

 

「行くぞ、将冴!」

 

 

ワイヤーブレードを将冴に向けて4本射出し、身動きを封じる!

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

将冴はビームサイズでワイヤーブレードを弾きかえす。やはり、戦闘技術の高さはそのままか……。真っ向から勝負しても勝てない。

 

……昨日、束さんに言われた通りに……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

ーー昨日。

 

シュバルツェア・ツヴァイクの調整を行っていた束さんが、私に将冴と戦う際の話をしてくれた。

 

 

「いい?何度も言ってるけど、スペシネフは今世界にあるISの中でもトップクラスの性能を誇ってる。私が手を加えたとはいえ、この機体じゃ真正面から戦っても勝てないよ。くらちゃんの技術がしょーくんより高いなら話は別だけど……」

 

「……いえ、私は将冴よりも技術は劣っています。ラウラ隊長よりも、私は弱いですから……」

 

「そっか。じゃあ、できるだけ戦わないしょーくんを助ける方法を教えるね」

 

「あるんですか?そんな方法が」

 

「もちろん。……とは言っても、確実に助けられる保証はないけどね」

 

 

束さんが、不確定要素を含んだことを言うのは珍しいと箒は言っていた。その方法に頼らざるをえないほど、切迫しているということだ。

 

 

「それでも構いません、その方法は?」

 

「まぁ、簡単だよ。スペシネフが感情値で動いてるのは何度も言ってるよね。感情値を下げればスペシネフが動かなくなるっていうのも」

 

「ええ。ですが、それは危険なのでは……」

 

「うん。今の状態で無理矢理感情値を下げると、スペシネフがしょーくんの身体機能に異常きたすかもしれない。詳しく解析したわけじゃないから、確定ではないんだけどダイモンのことだから、システムに侵入してそういうトラップを用意していてもおかしくない」

 

「では、その方法は……」

 

「ううん、くらちゃんがいれば大丈夫。他でもない、しょーくんの彼女のくらちゃんなら」

 

「私なら……」

 

「うん。いい、くらちゃん。しょーくんと会ったら、しょーくんの意識がスペシネフの支配から出てくるように行動して。しょーくん自身の意識があれば、そこから私がコアネットワーク越しにスペシネフに侵入できるかもしれない。そこからは、私がどうにかするよ」

 

「将冴の意識を……どうすれば……」

 

「なんでもいいよ、話しかけるなり、抱きつくなり、キスするなり、性交するなり」

 

「な、なな、何を言って!?そんなことできるわけ!?」

 

「まぁ、なんでもいいから、しょーくんが戻ってこれるようにすればいいから。頼んだよ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

束さんがどこまで本気かは知らないが……将冴の意識を……。

 

 

「グルァ!!」

 

 

この状態では、戻すどころではないと思うが……やるしかない。やらなきゃならない。

 

 

「待ってろ……将冴!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

……声がする。

 

聞いたことのある声、ずっと聞きたかった声……。

 

誰の声?

 

……行かなきゃ。

 

声のする方へ。



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208話

なんとか宣言通り11月には終わらせられそうです。

ラストまでの構想もできている……と、思います。
細かい部分は、執筆しながらになります。

最後は……やっぱりアレを出したいですね。


 

「があぁぁぁ!!」

 

 

将冴は大きくビームサイズを振りかぶり、私に向かって切りつけてくる。速い……機体と、将冴の戦闘技術の高さがこれだけでよくわかる。

 

シュバルツェア・ツヴァイクは近接戦に向いていない……単純に近接武器を積んでいないからだ。積んでいるのは高熱ナイフだけ……まぁ、ないよりマシという程度だな。

 

 

「出すだけ出して……ん、なんだ?」

 

 

拡張領域に収納してあったはずの高熱ナイフがなくなっている?代わりに入っていたのは……

 

 

「『MPBL-スライプナー』……テムジンの武器がなぜ……」

 

 

束さんか。積み込んだなら積み込んだと一言言ってくれればよかったのに……。

 

と、その時通信が入る。発信元はIS学園?

 

 

『くらちゃん、しょーくんと会えたかな?』

 

「今まさに戦闘中ですっ!」

 

 

こっちが通信中でも御構い無しに、将冴はビームサイズを振るってくる。束さんもこんな時に通信しなくてもっ!

 

 

『言い忘れていたんだけど、なんかあまり意味のない武器が積んであったから代わりにしょーくんのスライプナー積んでおいたよ。その方が、しょーくんの意識戻せるかもしれないし』

 

「束さんから連絡が来る直前に気づきました。そういうことは前もって言ってください!」

 

『あー、ごめんごめん。でもちゃんと伝えたからいいでしょ?』

 

 

この非常時に、なんて悠長なことを……。まぁ、こっちとしては好都合なのだが。

 

 

『それで、しょーくんの様子はどう?』

 

「どうもこうもっ!いくら呼びかけても、意識が戻ってくる気配がありません!」

 

『できるだけ早くしてね。侵食率がどんどん上がってる。特にいっくんたちのISが強く侵食されてる。時間をかけ過ぎたら、他のみんなが動けなくなっちゃう』

 

「そうは、言われても……」

 

 

将冴の意識を戻す取っ掛かりすらつかめない。スペシネフの支配が強すぎるのか?

 

 

『悩んでる暇はないよ。やれることをやっていけば、後はしょーくんが自力で戻ってきてくれる』

 

「束さん……」

 

『しょーくんの強さも信じて』

 

 

将冴の強さ……。

 

ああ、そうだ。それは私が一番よく知っているではないか。

 

 

「こい、スライプナー」

 

 

左手にズシリと重みのある銃が一体となった大剣が握られる。将冴が戦ってきた、強さの重み。

 

それと同時に、私は左目の眼帯に手をかけた。

 

 

「ここから第2ラウンドだ。私も、もう出し惜しみはしない」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「零落、白夜!!」

 

 

一夏が侵食されたISを、白式の零落白夜で切り裂く。

敵ISのシールドエネルギーが尽き、そのまま海へと落ちていく。

 

マドカが落ちていくISに瞬時加速で近づき、装甲を右手で貫くとISの中からキューブのようなものを引き抜いた。

 

 

「ISコア回収。全7個……とりあえず、今いた敵は無力化した」

 

「案外あっけなかったわね。私たちが強すぎるのかしら」

 

「慢心するな。……ところで、マドカ。全部のISコアを回収していたが、それは姉さんに頼まれたのか?」

 

「頼まれたわけではないが、後々困ると思ってやっただけだ。ダイモンに回収されても、面倒ごとにしかならないからな」

 

「マドカは、結構気が回るんだな。それで戦闘も将冴と渡り合えるんだからな。やっぱりすげぇよ」

 

「大それたことはやっていない。それに、お前にもそれだけの実力が……全員戦闘準備。織斑一夏、篠ノ之箒から補給を受けろ。追加の敵だ」

 

「追加……侵食されたISか?」

 

「ああ。レーダーにあるのはISの反応だ。数は5」

 

「5体なら余裕ね。さっさと片付け……っ!」

 

「どうした、鈴?」

 

「今、なんか……甲龍が……ううん、なんでもない。さっさと片付けましょ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「倒しても倒してもキリがないね……」

 

「倒したそばから敵が追加されていく……ダイモンの兵力は無尽蔵なのか?」

 

「何体こよう同じことですわ。ただ倒すだけ」

 

「イギリスのお嬢ちゃんはわかってるみたいじゃない。オータム、この子うちに誘いましょうよ」

 

「ガキはマドカだけで十分だっつの。おら、眼帯娘。後ろつかれてんぞ」

 

「言われなくても!」

 

「クラリッサ先生、大丈夫かな?」

 

「信じるしかありません。信じて、私たちが戦わなければいけませんわ」

 

「そうだな。私の優秀な部下だ。必ず、やってくれ……っ」

 

「ラウラ?どうかした?」

 

「……なんでもない。やるぞ、シャルロット!」




全てがうまく運ぶとは限らない。


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209話

予想以上に時間を就活に持って行かれる。

私に時間をぉ……


 

「はぁ……はぁ……」

 

「グルゥ……」

 

 

どれだけ戦ったか……将冴とこんなに戦うことになるとは、夢にも思わなかったな。

 

だが、戦うことが目的ではない。

 

 

「将冴……頼む。目を覚ましてくれ!私たちが戦う必要はないんだ!」

 

「ウグゥ……ガァァァァ!」

 

 

将冴はやはり聞いた事のない声で叫ぶ。ダメなのか……私では、将冴の目を覚ますことなど……。

 

 

『くらちゃん、余計なこと考えちゃダメだよ。今はしょーくんを』

 

「わかっています……でも、これ以上長引かせたら、他のみんなが……」

 

 

侵食がかなり広がっていると束さんが言っていた。もしISの侵食が完了してしまったら、みんなが……。

 

 

『また考えてる。くらちゃん、一回頭を空っぽにして。考えすぎないで、思ったままに行動するの』

 

「思ったまま……」

 

『そうだね……しょーくんにしたいこととか、そのままやってみたらいいんじゃない?』

 

「そんなアバウトな……」

 

 

だが……諦めるよりは建設的な選択かもしれない。

 

したいこと……

 

 

「なにやら騒がしいと思ったが、邪魔しに来たか」

 

「っ!?」

 

『面倒なのが来たね……ダイモン』

 

 

将冴の横に現れたのは、すべての元凶……ダイモン。

こいつのせいで……。

 

 

『本当に邪魔だね、ダイモン。できれば勝手に爆発四散して私の前に現れないで欲しいけど』

 

 

束さんがシュバルツェア・ツヴァイクを通してダイモンに話しかける。

 

 

「これはこれは、篠ノ之束ではないか。どうだ、この催しは。実に愉快だろう!」

 

『どこをどう見たら愉快と言えるの?頭腐ってるんじゃないの?実に不愉快だよ』

 

「君ならわかってくれると思っていたのだが、やはり君と私では平行線のようだ」

 

「ダイモン!よくも将冴!」

 

「クラリッサ・ハルフォーフ……あの時の攻撃で死んだと思っていたが、生きていたか。だが、今となっては何の障害でもない。貴様がなにをしても、柳川将冴を止めることはできない。貴様も薄々感じていたのではないか?」

 

「っ……」

 

「ここで無駄なことをするのはお勧めしない。貴様たちは、私が行うことを指をくわえて見ているがいいさ」

 

 

こいつは……この男は……どこまでも神経を逆なでしてくる。将冴が怒りを覚えるのもよくわかる。ああ、こいつを潰したくてしょうがない。

 

 

「そんなことはない……」

 

「なに?」

 

「私ら必ず将冴を助けると誓った。みんなに……私自身に。だから、お前の方こそ指をくわえて見ていろ!私が将冴を助け、お前の計画を潰すところを!」

 

「随分と大口を叩くものだ。ならばやってみろ。無駄だったと絶望するまでな!」

 

 

ダイモンはそう言い残し、私たちの前から消えた。ちっ、無駄な時間を取られたか……。

 

 

『くらちゃん、気にしちゃダメだよ。今はしょーくんに……』

 

「ええ……むしろ、ダイモンのおかげで火がつきました。将冴をを助ける方法……確信はありませんが試します」

 

 

それにはまず……あの時頭部装甲を引きはがさなければな……。




難産……

話はしっかり進めようとすると、寄り道したくなる。ううむ、難しいところ。


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210話

とうとうGERが発売されましたね。

……この小説書いてる間に、GE2RBとGERが発売するとは……いやはや、長々とやってますね。

今回入れて、あと3話ほどで将冴の騒動が片付くと思います。


 

将冴とクラリッサが戦闘をしているポイントから離れた場所で、一夏、箒、鈴、マドカは新たに現れた侵食されたIS五体を相手取っていた。

 

すでに7体と戦った彼らは、体力、エネルギーともに消耗している。箒のIS、紅椿からエネルギー供給が受けれるとはいえ、紅椿が戦闘不能になればそれもできなくなる。長期戦が続けば、どんどん不利になっていく。

 

マドカが2体と交戦し、他の3人はそれぞれ一体ずつ相手をしている。

 

 

「ぞろぞろと……早く将冴を止めないと、際限なくISが来るわよ?」

 

「今の私たちではどうしようもない。今は目の前のこいつらを倒すしかないんだ」

 

「さっさと片付けないと、どんどん増援が来るぞ。無駄口を叩かず、さっさと仕留めろ」

 

「わかってるよ、マドカ!」

 

 

一夏は鍔迫り合いとなっていた敵ISを力任せに押しのけ、雪片二型を構え零落白夜を発動させようとする。

 

 

「行くぜ、零落白夜!」

 

 

しかし、雪片二型は何の反応も見せない。

 

 

「……え、どうしたんだ。おい、零落白夜だって!」

 

「一夏!何をしている!」

 

「モタモタしてないでさっさとそいつ倒しなさいよ!」

 

「できないんだよ!零落白夜が発動しないっ!」

 

「何を言って……この、邪魔ね!」

 

 

鈴が肩のユニットを開き、自分の相手しているISに向けた。

 

しかし、いつになっても肩のユニットから衝撃砲が放たれない。

 

 

「え、龍砲が……こんな時に故障!?」

 

「一夏も鈴も……いったい何が……」

 

「チッ、最悪のタイミングだ……」

 

「マドカ、どうなっているのかわかったのか!?」

 

「どうやら、侵食が進んできたようだ。システムの一部が使えなくなっている。篠ノ之箒、お前のISも何かしら機能不全を起こしているはずだ……」

 

「な、まさか……『絢爛舞踏』が使えなくなっている!?」

 

(私のISも、変形機構と武器が何個か使えなくなっている……正式にナンバリングされていない私のISでも侵食は免れないか)

 

 

侵食により、ISの機能が制限される……今のこの状況では圧倒的不利な状況である。

 

何より、箒の単一仕様能力である絢爛舞踏が使えないことが一番の痛手だ。

 

 

「動けなくなるのも時間の問題、か……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「このぉ!」

 

 

ラウラがオーブにレールカノンを放ち、オーブに大きな穴が開きそのまま海に落ちていき爆発する。

 

しかし、オーブはまだ数がいる。減った様子すらもない。倒せば倒しただけ追加されるのだ。

 

 

「はぁ、はぁ……スコール、こちらはもう150は落としたぞ……」

 

「僕は130……目標はクリアしたけど……まだまだ数はいそうだね……」

 

「あら、お二人とももうお疲れですの?こちらは160は落としましてよ。これくらいは軽くこなして頂けなければ」

 

「そう言う割には、イギリスのお嬢ちゃんは肩で息をしているみたいだけど?」

 

「うっ……」

 

 

セシリアはスコールに見抜かれたのかバツの悪そうな表情を浮かべた。

 

スコールはセシリアをからかいながらも、着実にオーブを破壊していった。

 

 

「そちらはどうなんですの?スコールさんとオータムさん?」

 

「私?私はこれで!」

 

 

近くに来たオーブを破壊すると、スコールはウィンクしながら3人に告げた。

 

 

「ちょうど200よ」

 

「さ、さすがは篠ノ之博士の直属……」

 

「実力は本物だな……」

 

「オータム!あなたの方はどう?」

 

「250」

 

「……え?」

 

「250」

 

 

予想外の数字にスコールも目を丸くする。

まさかそんなに倒しているとは思わなかったからだ。

 

 

「オータム、張り切りすぎじゃない?」

 

「ウルセェ、ここでやらねぇでいつやるんだよ」

 

「あらあら、お熱いことで……」

 

「だけど、オータムさんの言う通りだ」

 

「そうだな、やるぞシャルロット、セシリア!」

 

「ええ!さぁ、ブルーティアーズ!舞踏会はこれからですわ!」

 

 

セシリアがフル稼働させているブルーティアーズに命令を飛ばす。しかし、ブルーティアーズは動きを止め、エネルギー供給が突然止められて海に落ちていった。

 

 

「ブルーティアーズ!?どうしましたの!?」

 

「セシリア、何をしている!」

 

「わかりませんわ!突然ブルーティアーズが……」

 

「これは……」

 

「スコール、まさか……」

 

「……やられたみたいね」

 

 

スコールとオータムは目を見合わせ、小さく頷いた。

 

 

「おい、スコール!何が起こって……」

 

「……侵食が進んでる。おそらく、もう私たちが戦える時間は少ないわ」

 

「そんな……篠ノ之博士は一週間は持つって……」

 

「ダイモンが私たちのISを中心に侵食を進めたんでしょう。気をつけて。ここからは、特殊な兵装は使えないわ」

 





絶望が侵食していく。

彼、彼女達はまだ戦えるか。


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211話

今日は連続で投稿できたらしたいなぁと思ってます。日付跨ぐかもしれませんが……。

それはそうと、皆さんGER買いましたかね。作者はジーナと戯れています。


 

「このぉ!!」

 

 

まだ使い慣れないスライプナーを将冴に向けて引き金を引いた。それと同時にレールカノンも放つと、将冴はビームサイズで軽々と受け流していく。

 

攻撃がこうも当たらないとは……これでは近づかないな。あまり時間もかけていられないというのに。

 

どうにか隙を作れないか……。

 

 

『くらちゃん、いっくんたちの侵食率がさらに上がってる。もう単一仕様能力や第3世代兵装は使えないかもしれない』

 

「私のISは大丈夫ですか?」

 

『なんとかね。私とくーちゃんで抵抗してるけど、それも時間の問題かも。くらちゃんが侵食されなくても、いっくんたちが侵食されればくらちゃんに攻撃してくる……一応対策はしてるけど……それもどこまで信用していいものか……』

 

「……わかりました」

 

 

やはり時間は残されていない。

なら、多少の犠牲を負ってでも将冴の懐に飛び込む!

 

 

「行くぞ、スライプナー」

 

 

スライプナーをサーフボードに変形させ飛び乗り、将冴に向けてまっすぐ発進させた。

 

 

「グゥ……!」

 

 

将冴はビームサイズを構え直し、同じように私に向かってくる。今の将冴ならそうすると思ったぞ!

 

私と将冴がぶつかるその瞬間、私はサーフボードの先端を掴んだ。

 

 

「上がれぇぇ!!」

 

 

力任せにボードを持ち上げる。ボードは将冴の前で壁のように隔たり、将冴の視界を一瞬奪う。

 

 

「グ!?」

 

「その隙を待っていた!」

 

 

ボードをそのまま上空に飛ばし、私は怯んだ将冴の頭を両手で掴んだ。

 

 

「その頭部装甲は、将冴には似合わない。剥がさせてもらうぞ!」

 

 

腕力へのアシストを最大にして、力を込めるとメキリと音を立ててスペシネフの顔にヒビが入る。その瞬間を狙い、頭部装甲を引き剥がした。

 

 

「ガァッ!?」

 

「ぐっ!?」

 

 

引き剥がした瞬間に、将冴が私を押しのけて距離をとった。てっきり攻撃してくると思っていたのだが……。

 

将冴は顔を手で左手で覆い隠した。今まで見たことない反応……見られたくないのか?

 

 

「フゥ……フゥ……」

 

「将冴……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

光が差した。

 

暖かい光。

 

光の先から声がする……さっきから聞こえる声。

 

手を伸ばせば、この光に……

 

 

《いいのか?》

 

 

違う声、誰の声……?

 

 

《その姿で外に出ていいのか?》

 

 

姿……?

 

僕の姿……

 

黒い……体が真っ黒……ダメだ。

 

こんな姿、見せられない。

 

 

《そうだ、お前はもう外には出られない。このまま、闇の中に溶けていくのだ……》

 

 

闇に……ダメ。見ないで。

 

僕が闇に溶けるところを……

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ミ……ナイ……」

 

「っ!?将冴!意識が戻ったのか!」

 

 

今確かに言葉を……

 

 

「ミナ……ミル……ウグゥ……」

 

「将冴、わかるか!?私だ!」

 

『くらちゃん、しょーくんの感情値が少しだけ下がったよ!でも……バイタルが不安定になってる』

 

「まだスペシネフに介入は……」

 

『もっと感情値を下げないとダメだね。手はあるんだよね?』

 

「はい……成功するかはわかりませんが……」

 

 

こんな作戦を思いつく私は、自惚れているんだろうな……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「うらぁ!」

 

 

一夏が敵ISに雪片二型を振るうが、敵ISはそれを軽々と避けてしまう。

 

 

「はぁ、はぁ……くそっ。なんで攻撃が当たんねぇんだよ!」

 

「気のせいと思いたいんだけど……ISの動きが悪くなってる気がする……」

 

「侵食率が進んできたせいだろう。ISを倒すのは考えるな。クラリッサが将冴を取り戻すまで落とされるな」

 

「そうは言うが、機動性まで制限された状態では長くは……」

 

 

機能が制限されれば、ISはただの重りになってしまう。戦うことはもちろん、このままで全員が海に落ちてしまう。

 

機能が全停止し、待機状態にすることができなくなれば、ISの重量で一緒に沈んでしまう。

 

 

「くそっ……だんだん雪片も重くなってきた」

 

「こっちはあんたのよりも重量あるのよ……真っ先に弱音吐かないでくれる?」

 

「武器もまともに使えない……万事休すか」

 

「そのようだな。レーダーに感あり。新たに2体追加だ」

 

「結局、最初の数に戻ったわね……もうこれ以上はどうにもならないわね。マドカの言う通り、落ちないように応戦するしか……」

 

 

鈴がそう呟いた瞬間、5体の敵ISのうち2体が突然攻撃を受けた。それで落ちることはなかったが、その攻撃は先ほどマドカがレーダーで確認した2体の方から攻撃がきたようだった。

 

 

「何……何が起こって」

 

「仲間割れ、というわけではないな……援軍か?」

 

「でも、そんな話は束さんも千冬姉もしてなかったはずだぜ」

 

 

その2体が一夏たちに近づいて来る。ようやく視認したその姿は、蜘蛛のような8本の脚があるISと、サソリのような尾を持つISだった。

 

その姿を見た4人の元に通信が届く。

 

 

「こちらアメリカ軍所属ジェニファー・キール」

 

「同じく、ステファニー・ローランド」

 

「これからあなた達の援護をするわ」

 

「ジェニファーにステファニーって、将冴の知り合いの!?」

 

「何故ここにいるんだ!?」

 

「話は後。今は敵性ISを片付けるわ。ステフ!」

 

「あいあい!ショウのお友達、ちょっと熱くなるかもしれないから気をつけてね」

 

 

ステファニーがそう言うと、ISについている尾の先端から大きな火球が作り出される。

 

 

「燃えちゃえ!ソリッド・フレア!」

 

 

放たれた火球は敵ISを3体飲み込むと、大きな音を立てて爆発した。

 

 

「熱っ!?ここまで熱が!」

 

「ステフ、やりすぎ」

 

「まぁまぁ、お詫びにジェニーもやりすぎていいから』

 

「はぁ、全く……その言葉、信じるからね!」

 

 

ジェニファーは8本の脚で敵ISに掴みかかる。

 

 

「ショウがお世話になったわね……コレがお返しよ」

 

 

至近距離で、8本の脚先にある砲門からレーザーが放たれ、ISの装甲に穴が空いた。

 

 

「ごめんなさいね、今機嫌が悪いの」

 

「ジェニー、まだ一体残ってるよ〜。あと増援も来るみたい」

 

「わかった。そこの4人、まだ動けるならギリギリまで戦って」

 

「2人とも……どうして……千冬姉が見送ったって」

 

「連絡をもらったのよ。リリン・プラジナーって人から」

 

「ショウを助けてってね。本当はもう少し早く来たかったんだけど、軍から許可がなかなか降りなくて」

 

「とにかく、詳しいことはあとでよ。さ、やるわよ」

 

 

マドカ以外の3人はキョトンとしながらも、自分を奮い立たせるように武器を構えた。

 

マドカは落ち着きを払いながらも、武器を構えてニヤリと口角を上げた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「囲まれたわね……」

 

 

スコール達5人はダイモンオーブの大群に取り囲まれていた。侵食による機能不全。そこを物量で押され、このような状況に陥っていた。

 

 

「チッ……ISが動けばこんなの……」

 

「セシリアのBT兵器は使えない……私のAICも動かず、シャルロットのISはまともに動かないか……」

 

「ごめん、僕の機体は第2世代だから侵食の影響が強く出ているみたいで」

 

「謝ることではありませんわ。こう言ってはなんですが、私もBT兵器をなくしてしまったので、戦闘力かなり落ちています」

 

「スコール、どうするよ。こいつらが一斉に攻撃してきたら私たちは」

 

「……大丈夫よ」

 

 

やけに自信満々にスコールが言い放つと、オータム達は怪訝そうな表情を浮かべる。この状況で大丈夫と言い切れるなど、どう考えてもおかしいからだ。

 

 

「そんな顔しないでよ。ちゃんと根拠はあるんだから」

 

 

スコールはそう言うと、レーダーの情報をオータム達に送る。レーザーには、一体のIS反応があり、高速でこちらに向かってきていた。

 

 

「これは……敵ISか!?」

 

「いいえ、味方よ。心強い、ね」

 

 

スコールの言葉とともに、5人に通信が届いた。

 

 

『そこの5人、できるだけ伏せてね!』

 

 

次の瞬間、レーダーに大量の熱源反応が現れ、その熱源反応はダイモンオーブの反応を次々と消していった。

 

大量にいたオーブのうち三分の一が破壊されるのに数分とかからず、そこにできた穴から姿を現したのはラウラ、シャルロット、セシリアには見覚えのある……ありすぎるISだった。

 

 

「な、お前は!?」

 

「『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』……」

 

 

シルバーのフルスキン型の機体にエネルギーの翼を携えたその機体はまぎれもない、銀の福音だった。

 

 

「まさか、あれは一夏さんが……」

 

「そこのガールズ達。あなた達が驚くのは無理もないけど、あの時戦った福音(ゴスペル)はこんなに饒舌に喋ったかしら?」

 

「っ!?その声……まさか、ナターシャ・ファイルス!?」

 

「せいかーい!アメリカ軍所属、ナターシャ・ファイルス少尉。愛しのショウゴを助けるために来たわ!さ、広域殲滅型軍用ISの力見せてあげるわ!行くわよ、福音(ゴスペル)。将冴に助けられた借り、ここで返すわよ!」

 

『Yes,Natasha』




続きはなんとか今日中にあげます。


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212話

将冴奪還作戦最後。

果たしてクラリッサは何をするつもりなのか。


 

「将冴……」

 

 

私は腕を広げて、ゆっくりと将冴に近づく。近づきながら、機体の状況を確認すると、AICが使えなくなっているようだ。レールカノンも……出力が落ちてきている。侵食の状況が進んできた証拠だ。

スライプナーも、先ほど飛ばしてしまったから手元にない。

 

今攻撃されれば、ほとんど無防備な状態だ。

 

 

「ウゥ……クル……ナ……」

 

「意識が戻りかけているんだろう?私がわかるか?」

 

 

まだ顔を手で隠している。だけどこちらを見る為に、右目だけが見える。ここからでもわかるくらいに、目が赤くなっている。血走ったような……今にも血が流れ出そうな……。

 

 

「私がわかるんだろう。だから顔を隠すんだろう。大丈夫だ、私は将冴を拒絶しない」

 

「ミルナ……クル、ナ……」

 

『くらちゃん、しょーくんの感情値がまた下がったよ。でもまだ……』

 

 

言葉だけではダメだ……将冴を取り戻すには、言葉だけでは……。

 

将冴のビームサイズが届く距離まで近づくと、将冴はビームサイズを私に向けた。ロングランチャーも一体となっているため、私に銃口が向いている。

 

この至近距離で撃たれれば、すぐにエネルギーが尽きるな……だが

 

 

「撃ちたければ撃てばいい……だが、将冴は撃てない。今までも撃っていない。私が……クラリッサだとわかるから撃たなかったんじゃないのか?」

 

「う……う……」

 

「……」

 

 

銃口を向けられているのを気にせず、さらに将冴に近づく。将冴は、それに反応し、ビームサイズを振り上げた。

 

 

「グッ、アアアア!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

容赦なく振り下ろされたビームサイズが私を容赦なく切り裂いた。ISの絶対防御はまだ作動しているが……エネルギーがほとんど残っていない……。

 

 

「大丈夫……大丈夫だ……これくらい、どうってことない……」

 

「ア……ウ……」

 

「将冴、お前が抱いた感情に比べれば、なんともない」

 

 

将冴の左手を掴み、グイッと引っ張る。

ようやく見せてくれた顔は……泣いていた。スペシネフの影響か、真っ赤になった目から涙を流していた。

 

 

「ミルナ……」

 

「だめだ。もう1人で泣くんじゃない。もっと私の前で泣いてくれ。将冴が抱えるものを、全部教えてくれ。これからは、私も背負うから」

 

「く、ら……」

 

「将冴が抱えるものが、どんなに黒い感情でも構わない。私にも背負わせてくれ。私は、絶対に将冴のことを嫌ったりしないから」

 

 

私はそのまま、将冴と口付けをした。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

……また……光?

 

でも、さっきとは比べ物にならないくらいの、強い光……。

 

この光は……。

 

 

《闇を晒してもいいのか?》

 

 

闇……そうだ、僕は今……。

 

でも……この光なら……。

 

僕を……包んでくれる。

 

 

《また、闇を生み出すだけだぞ》

 

 

……そうかもしれない。

 

でも、溜め込む必要はない。

 

だって、聞こえたんだ。

 

一緒に背負うって。

 

嫌ったりしないって。

 

僕の……僕の大好きな人が、そう言ってくれたんだ。

 

だから、僕は行くんだ。

 

声の元へ……クラリッサの元に

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「束様、将冴様の感情値が!」

 

「わかってるよ、くーちゃん!スペシネフのシステムに侵入!対シャドウワクチンのデータを書き込むよ!」

 

「データ解凍終了しています。いつでも!」

 

「データ書き込み開始!同時にスペシネフのエネルギー回路をV.コンバータ以外遮断。データ書き込みが終了し、ワクチンがコアネットワークに流れたら強制待機状態に」

 

「すでに取り掛かっています。あと10秒ください」

 

「データ書き込み、12秒で終わるよ」

 

「はいっ……終わりました!」

 

「よし。さぁ、束さんの本気を味わえ、ダイモン!」

 

「……ワクチン、コアネットワーク全体に行き渡っています。侵食、止まりました!」

 

「やった……やったよ!くらちゃん!……くらちゃん?」

 

「束様、シュバルツェア・ツヴァイクがエネルギー切れで待機状態に……スペシネフも待機状態になっています!」

 

「ってことは?」

 

「2人とも、海に……」



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213話

しばらくお休みして申し訳ありません。

なかなかに用事が立て込んでしまいました。
しかし、今月中に完結させます。ざっと考えて、あと10話ほどでしょうか。最後までお付き合いいただけたらと思います。


 

「う、ん……痛っ」

 

 

目が覚めたら、全身酷い痛みだった。ここは……学園の医務室か。

 

IS学園きてからこういうことばっかりだな……。えっと、何があったんだっけ……今まではなんとなくは覚えていたんだけど、今回は本当に何があったか……。

 

最後に覚えてるのは……

 

 

「あ……そっか、スペシネフが……クラリッサ、クラリッサは!」

 

 

ベッドから起き上がろうとするが、義手も義足も付いていなかった。拡張領域から呼び出そうとするけど、義肢は一向に出てこない。

 

 

「なんでっ……くっ!」

 

「あら、起きたの?」

 

 

カーテンが開き、そこから滝沢先生が入ってきた。

滝沢先生は僕がいつも使っている車椅子と義手を持っていた。

 

 

「滝沢先生……」

 

「身体動かしちゃダメよ。骨とかは折れていないけど、痛くなっちゃうから」

 

「あの、クラリッサは無事なんですか!?僕は……」

 

「それを話す前に、まずは義手をつけちゃいましょう。義足の方はまだ整備が終わってないから」

 

 

滝沢先生が僕に義手をつけてくれる。早くクラリッサがどうなったか知りたいのにっ……。

 

 

「はい、終わり。ちゃんと動く?」

 

「問題ありません。それでクラリッサは……」

 

「そう焦らないの。ちょっと色々と診るから、じっとしていてね」

 

 

滝沢先生は体や心音など一通り確認していく。

僕自身は、少し体痛むくらいだから大丈夫なのに……。

 

 

「……うん、大丈夫ね。それじゃ、車椅子乗りましょうか。クラリッサ先生のところまで連れて行ってあげる」

 

「はい。お願いします」

 

 

クラリッサ……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

クラリッサがいるという会議室に向かう途中、僕は滝沢先生からこれまであったことを軽く教えてもらった。

 

滝沢先生も詳しくは知らないらしく、本当に軽くだ。スペシネフが起動して暴走した、それだけを教えてもらった。

 

すでに学園祭から一週間近く経っていることにも驚いた。そんなに僕は意識を……。

 

 

「詳しいことは織斑先生とか篠ノ之博士に聞くといいわ。さ、会議室についたわよ」

 

 

会議室の前で止まると、滝沢先生は車椅子を止めて扉を開けた。開かれた扉から会議室の中を見ると、そこには……

 

 

「クラリッサ……」

 

 

いつものスーツに眼帯姿で、右頬に絆創膏を貼ったクラリッサがいた。無事だった……よかった、本当に……。義足がないのが恨めしい。今すぐにでもクラリッサの元に駆けつけたい。

 

 

「あ……将冴……将冴!」

 

 

クラリッサは僕を見るなり駆け寄って、そしてそのまま抱きついてきた。うん、ちゃんといる。ここにいるよ、クラリッサ……!

 

 

「よかった……目を覚ましてくれた……本当に良かった!」

 

「クラリッサ……」

 

「お願いだ、もう少し……もう少しこのまま」

 

 

 

それから数分間、クラリッサは僕に抱きついて泣いていた。ぼくもまた、同じように……

 

 

「んんっ!クラリッサ、もういいか?」

 

 

そういったのは、会議室にいた織斑先生だ。それ以外にも一夏、箒、セシリア、鈴、簪、楯無さんがこちらを見て安心したような表情を浮かべていた。

 

ラウラとシャルロットは、今にも泣きそうな顔をしている。心配かけちゃったかな……。

 

 

「ぐすっ……はい、織斑先生」

 

 

涙声になりながらも、クラリッサは僕から離れる。

 

 

「嬉しいのはわかるが、2人の時間はこのあと自室で取れ。将冴」

 

「は、はい!」

 

「今回の事件のことを話す。会議室に入れ」

 

「わかりました」

 

「織斑先生、私は医務室に戻りますね」

 

「はい、ありがとうございました。滝沢先生」

 

 

滝沢先生が医務室に戻り、クラリッサが僕の車椅子を押して会議室に入れてくれた。

 

……気を引き締めろ。スペシネフでどんなことをしたのか、全部を受け止めなければならない……。




短いですが、今回はこの辺で。


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214話

今回入れて3話ほどは、色々と準備回になると思います。

ヒカルノさんに設計ミスと言われた束さん、IS委員会の介入、そしてダイモンが最後に攻勢に……

物語がクライマックスに移行していきます。


 

「……」

 

「以上が、将冴がスペシネフに取り込まれていた時の出来事だ」

 

 

織斑先生から、僕が何をしてしまったのか……全部聞いた。只事じゃないとは思っていたけど、僕はなんてことを……。

 

思わず顔を俯かせてしまう。誰かに殴ってもらいたい気分だ。だけど、そんなのは自己満足。これからのことを考えないと……。

 

 

「……被害は、どれくらい出たんですか?」

 

「IS十数機が完全に侵食を受けて、コアだけを回収した。束が作ったワクチンで直るそうだ。すべて元の国に返す」

 

「人的被害は……」

 

「侵食されたコアが暴れて、負傷者が出たが、死者は出ていない。IS学園の被害も、校舎が半分崩れただけで生徒、教師、学園祭を訪れた一般客に怪我人はいない」

 

 

よかった……僕がスペシネフに取り込まれたせいで誰かが死んだりなんかしたら……僕でも受け止めきれなかったかもしれない。

 

でも被害が出たのは確かか……

 

 

「すみません……僕のせいで……」

 

「兄さんのせいなんかじゃない!全てはダイモンがやったことだ!」

 

「そうだよ!将冴が気にやむ必要は……」

 

「ありがとう、ラウラ、シャル。でも、やったのが僕だということに変わりはない。そうですよね、織斑先生」

 

「……」

 

 

織斑先生はひどく機嫌の悪い時の顔をしている。

やっぱり、政府やその辺のことが……。

 

 

「将冴……IS委員会が、お前を拘束すると通達してきた」

 

「はっ!?千冬姉、それどういうことだよ!」

 

「納得がいかない!将冴はダイモンに利用されただけだろう!」

 

「将冴さんはこれまでなんどもダイモンと戦ってまいりました!それを拘束だなんて

 

「IS委員会は何を考えてるのよ!」

 

 

 

 

一夏、箒、セシリア、鈴が声を上げて抗議してくれる。

でも、こればっかりは仕方がない。黒幕が誰であろうと、全世界のISを乗っ取ろうとしたのは僕が扱っていたスペシネフだ。IS所有国はもちろん、おそらく世界中の人にもそれが伝わっているだろう。

 

 

「将冴、なんで黙ってんだよ!お前だっておかしいと思うだろ!」

 

「一夏……これは当然の対応だよ」

 

「なに、言って……」

 

「将冴の言う通りだ、一夏。今回のISの暴走の原因は将冴であると、世界で報道されている。ダイモンという黒幕がいるとしても、将冴には共犯の疑いがかけられている」

 

「でもっ……それでも、将冴君は……」

 

「簪ちゃん。こればっかりは仕方ないわ。それが一番穏便にすませる方法なんだから」

 

 

簪さんも僕を擁護してくれるが、楯無さんが諌めた。

楯無さんの言う通りだ。ここでことを荒立てては、余計に僕は疑いをかけられてしまう。

 

 

「クラリッサ、お前はいいのか!兄さんが拘束されても!」

 

 

今まで黙っていたクラリッサに、ラウラがそう問いかけた。

 

 

「私は……将冴の選択に従います、隊長」

 

「な……クラリッサ、それはどういう意味だ」

 

「将冴が選んだことを尊重するということです」

 

 

クラリッサはこのことをあらかじめ知っていたようだ。だから口を挟まなかった。そして、決定権を僕に委ねた。

 

ありがとうクラリッサ。おかげで、だいぶ気持ちが落ち着いたよ。

 

 

「貴様、それでも兄さんのっ」

 

「いいんだよ、ラウラ。僕もそうしてくれた方が嬉しいから」

 

「兄さん……」

 

「織斑先生」

 

 

僕は決心を決めて、織斑先生を呼んだ。

織斑先生は、眉間にしわを寄せてだいぶ不機嫌になっている。

 

 

「僕は、IS委員会の通達に従います」

 

「兄さん!?」

 

「将冴、なんで!」

 

 

ラウラ、シャル、一夏達も一斉に抗議の声を強めた。

 

しかし、その声は織斑先生が机をバンっと叩いたことにより収まる。

 

 

「……将冴、お前はそれでいいんだな」

 

「はい。ですが、ただでとは言いません」

 

 

僕の言葉に、会議室にいる全員が首を傾げた。

 

 

「IS委員会に拘束されるのは、ダイモンを倒してからです」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「ふふ、あははは!しょーくん言ったよ!」

 

 

篠ノ之束は、間借りしているIS学園の地下施設でキーボードを叩きながら会議室の様子を盗み見ていた、

 

 

「やっぱり、ダイモンに仕返ししないとやってられないよねぇ!」

 

『束博士、大笑いするのはいいが、アレは完成したのかい?』

 

 

通信先の篝火ヒカルノが束に問いかけると、束は上機嫌で答える。

 

 

「あったりまえだよ、ひっちゃん。そんなのは2時間前に完成しているのだよ!」

 

『なら、なんでそんなに高速でタイピングしているのさ。完成したなら、彼の元に行ってあげればいいのに』

 

「ちょっとね、重大な情報が出てきたから詳細を確認しているんだよ。いやいやぁ、ダイモンもまさかしょーくんがこんな宣言しているなんて露ほどにも思ってなかっただろうね!」

 

『……ダイモンが動いたのかい?』

 

「みたいだねぇ……それも、今回は本気で束さん達を……いや、世界を潰しに来るみたいだよ」

 

 

ターンッとキーを叩くと、画面には大きな機影が映った。

 

 

「しょーくん。君が、私の夢の第一歩だよ」




ラストバトルはどうしようか、すっごい考えてました。

なにだそうかとか、どこで戦うかとか……

その辺は次回で


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215話

準備その2。

今回は、とうとう将冴の機体が……


 

「ダイモンを……倒してから……ふふっ」

 

 

僕の答えを、織斑先生は呆気にとられたように繰り返すとニヤリと不敵に笑い、僕の頭をガシガシと乱暴に撫で回した。

 

 

「な、ちょ、織斑先生!?」

 

「いいだろう。委員会の方は私に任せろ。できる限り、執行を先延ばしにする」

 

「私も掛け合うわ。ロシア代表の声も、バカにならないでしょうからね」

 

 

織斑先生も楯無さんも……自分の立場が危うくなってしまうかもしれないのに、そんなことを……。

 

すると、今度は一夏が僕の前に立った。

 

 

「やっぱり、将冴は何考えてるかわかんねぇよ。でも……」

 

「ああ、その答えは、一番正しい答えだ」

 

「そのまま拘束されるおつもりでしたら、1発ひっぱたいてやりましたわ」

 

「今度は、私たちも行くからね。セシリアの言う通り、将冴に1発入れるつもりだったけど、妥協してダイモンにしてあげるわ」

 

「私も、行く……!将冴君を助けに行けなかったから、今度は……!」

 

「みんな……これは僕の我儘なんだよ?みんなが付き合う必要は……痛てて!?」

 

 

突然両頬をつねられてします。つねったのはラウラとシャルだ。

 

 

「兄さん。兄さんは1人で背負いすぎだ。そのせいで今回のようなことが起こったのだぞ!」

 

「うっ……」

 

「ラウラの言う通り。ここに頼れる妹が2人いるんだよ?もっと頼ってよ」

 

「それとも、私達は頼りないか?」

 

 

妹2人まで……まったく、こんな我儘に付き合うなんて、本当に……最高の妹じゃないか。

 

 

「そんなことない……そんなことないよ、2人とも」

 

 

そういうと、2人は笑みを浮かべてまた僕の頬つねった。だから痛いって。

 

 

「将冴……」

 

 

クラリッサが心配そうに、僕の名を呼んだ。

 

……それはそうだ。スペシネフに取り込まれるなんてことがあったばかりで、こんなことを宣っているのだから。

 

 

「私の思った通りの答えを出したな……」

 

「クラリッサ……」

 

「……さっきはあんなことを言ったが、私はもう戦って欲しくない。だけど……将冴がそう決めたのなら、私もそれに従う。だから私も、それを背負う。将冴を助けるときに誓ったんだ。将冴が背負うものは、私も背負うと……もう1人で背負いこませない。私も一緒に背負う」

 

「……うん。ありがとう、クラリッサ」

 

 

僕は……自分を過信していた。なんでも1人で背負い込めると。でも、それは間違いだった。スペシネフに取り込まれたことが証拠だ。

 

僕は弱い。簡単に負の感情にとらわれるほどに。だから、これからは……。

 

 

「あー、お楽しみのところ申し訳ないんだけど、束さんもしょーくんとお話ししたいなぁ?」

 

「束さん!?」

 

 

どっから現れた!?ていうか、なんでスーツ姿!?いつものエプロンドレスは!?うさ耳は!?

 

 

「しょーくん、ちょっと驚きすぎじゃない?私だって、真面目な格好くらいするんだよ?」

 

「束さんのスーツ姿とか、一生に一度見れたら奇跡だと思います……」

 

「その評価は酷すぎない!?」

 

 

まぁ、ふざけるのはこのくらいにして、束さんがここに現れたということは、何か大切な用事があるとということだろう。この状況だから、度を越したおふざけはない……はず。

 

 

「こほん。しょーくん、まずは無事に目が覚めて何よりだよ。くらちゃんやみんなに……そして束さんに感謝しなさい!」

 

「はい、それはもちろん」

 

「むふふ、素直なしょーくんは好きだよ」

 

「それで、束。ここに来たのは、そんなことを言うためではないだろう?」

 

 

織斑先生の言葉に束さんは真面目な顔で頷いた。

 

 

「ダイモンが、また動き出したみたいだからね。ここにいるみんなに伝えようと思ってきたんだよ」

 

 

束さんがそういうと、ひとりでにプレジェクターが作動し、画像を映し出した。束さん、IS学園のシステム掌握したのか?

 

画像には……ひとつの機影が写っていた。僕が学園祭の時に戦った、ミルトンによく似た大きな……とても大きな機影が……。

 

 

「これは……」

 

「ダイモンが作った要塞、かな。多分、今まで見てきたどの機体よりも大きいよ。IS学園の敷地と同等くらいには……」

 

 

束さんの言葉に、みんなが息を飲む。そんなに大きなものが……だけど、そんなものがどこに現れたんだろう。目立つはずだし、すぐに気付かれるんじゃ……。

 

 

「これの厄介なところは大きさだけじゃないんだよね……」

 

 

映像が少し離れた位置にくる。

その機体の背景を見て、僕は悟った。まさかそんな……。

 

 

「なんだこれ、夜景……にしては、なんか……」

 

「宇宙、だよ」

 

「宇宙!?」

 

 

やっぱり……月が大きく写ってるし、デブリのようなものも見える。

 

しかし、これで納得がいったかな。束さんが何年かけてもダイモンを見つけられなかった理由が。

 

 

「見つかるわけないよね。地球上探してたって、そこにダイモンがいないんだからさ!まさか、束さんが自分の未熟さを嘆く時が来るとは思わなかったよ……」

 

 

体育座りでうずくまり、拗ねる束さんというなんとも珍しい絵が見れたが、今はそれよりもダイモンをどうするかだ。

 

 

「宇宙、か……どうするのだ、束。束が感知したということは、この機体は地球に降下してきているのだろう?」

 

「うん。でも地球に降りてきた時に、どれだけの被害が出るか……」

 

「被害を出さないようにするには、宇宙で叩くしかない、か……」

 

 

宇宙で叩く……そんなことが可能なのだろうか。ISは宇宙活動を目的として作られたパワードスーツだけど、現在稼動しているISは軍事目的が主で、宇宙活動ができるかどうか……。

 

 

「まぁ、束さんに死角はないさぁ!これをご覧あれ!」

 

 

画像が変わり、今度はISのスペックデータが……ってこれ、テムジン?でも、色が真っ白だ。それに、背中には見慣れないユニットが……。

 

 

「『テムジンタイプa8』。宇宙活動が可能で、スペックもテムジン以上に仕上げたよ。小難しい用語なんか言っても理解できないと思うから、簡潔に説明すると、ライデン並みの射撃能力と、アファームド並みの近接格闘能力と、フェイ・イェン並みの運動性能を兼ね備えた機体だよ」

 

「何その私の考えた最強のISみたいな無茶苦茶な性能……」

 

 

鈴が思わず束さんに突っ込んでしまっているが、これに関しては僕も突っ込みたい。なんてものを作っているんだこの人は……。

 

 

「当たり前だけど、テムジンだからしょーくん用に調整してある。そして、現状宇宙に上がれる機体は……このテムジンだけだよ」

 

「そんな……束さん!それじゃ、将冴はまた1人でダイモンと!?」

 

「姉さん、なんとか私達も宇宙に行けないのですか!?将冴1人に行かせるのは……」

 

「……残念だけど、この機体が地球に降りてくるのは明日の夜。それまでに、みんなの機体を宇宙活動用に調整するのは束さんでも不可能だよ」

 

「全部でなくても、1つだけを調整するというのはできないのでしょうか!?」

 

「君たちが思ってるほど、宇宙活動用調整は簡単なものじゃないんだよ。1つの機体でも、一週間はかかる。このテムジンは……特別製だから宇宙でも動かせるけど」

 

 

束さんがここまで無理と断言するからには、本当に無理なんだろう。みんなもそれがわかっているからか、表情が暗い。クラリッサも、僕の義手を握ってくる。

 

 

「……束さん。僕がその機体を使って、あの要塞に勝てる可能性はどれくらいですか?」

 

「わからない。あれがどれだけの力を秘めているかわからないし……」

 

「そうですか」

 

 

勝率不明……それに、宇宙での戦いというなら、負けたら一貫の終わり。なかなかにスリリングなことになってるね。

 

 

「将冴、行くつもりなんだな……」

 

「僕しかいけないみたいだからね。それなら行かなくちゃ」

 

「俺たちも行くって言ったばかりなのに……」

 

「また兄さんを1人で行かせてしまうのかっ……!」

 

 

ここにいるみんながまた俯いてしまう。

だけど……今回は違う。

 

 

「1人じゃないよ」

 

「え?」

 

「僕は、今までダイモンのことは僕の問題だから、1人で解決しようとしていた。でも、今は違う……みんなが僕のために戦ってくれると言ってくれた。クラリッサが一緒に背負うと言ってくれた。もう、僕1人の戦いじゃない。僕は1人で戦うわけじゃない」

 

「将冴……」

 

「絶対に負けない。みんなのためにも」

 

 

みんなは黙ったまま僕を見た。

だけど、みんなの目が何を言いたいか物語っていた。

 

 

「結論はついたみたいだね。しょーくん、機体の説明するから、ついてきてくれるかな。できれば、1人で」

 

「束さん、私も……」

 

「ううん、これは……これに関しては、しょーくんだけにしか話せないんだ」

 

「クラリッサ、部屋で待っててくれる?戻ったら、話したいことがあるから」

 

「将冴……わかった」

 

「それじゃ、行ってくる」




3,000文字超えた……。書けるときと書けないときの差が……


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216話

何やら、パチスロISが猛威を奮っているみたいですね。

作者はパチスロしないのでわからないですが、何やらメダルを吸い込むとか……だから言ったじゃないか、クラリッサをもっと出せと(言ってない


 

束さんについていき、地下施設まで行くとそこにはクロエさん、スコールさん、オータムさん、マドカがいた。会議室にマドカがいないとは思ってたけど、ここにいたのか。

 

 

「将冴様、よくご無事で」

 

「クロエさん。ありがとうございます」

 

「いえ、お礼なら3人に」

 

 

そうだ、スコールさんたちも僕を助けるために来てくれたと織斑先生が言っていた。

 

目が覚めてから一度も会っていないから、もちろんお礼を言えていない。

 

 

「スコールさん、オータムさん、マドカ。ありがとうございます。そしてごめんなさい。迷惑をかけて……」

 

「気にしないで。そもそも、私とオータムがダイモンの罠にまんまとはまったせいでもあるんだから。ね、オータム?」

 

「私に降るんじゃねぇよ!……まぁ、なんだ……」

 

 

オータムさんは僕に近寄ると、ポンと僕の頭に手を置いた。

 

 

「その言葉はあいつに……クラリッサに言ってやれよ。あいつがいなかったら、お前はここにいねぇんだからさ」

 

「……はい。わかっています」

 

「ならよし、だ。私はもうラボに戻るぜ。ここにいてもできることねぇからな」

 

「あら、将冴君の目がさめるまでは、テコでも帰ろうとしなかったのに」

 

「だぁ!そういうことをここで言うんじゃねぇ!将冴、忘れろ!いいな!?」

 

「ふふ……。はい、わかりました。忘れます」

 

 

まぁ、バッチリ覚えているんだけどね。

オータムさんもそれがわかっているのか、顔を真っ赤にして、僕と束さんが入ってきた扉から出て行った。

 

 

「あら、からかい過ぎたかしら。それじゃ、私もラボに戻るわ。何かあれば連絡ちょうだいね、篠ノ之博士」

 

「はいはーい。お疲れ様、すーちゃん、おーちゃん」

 

 

スコールさんもオータムさんに続いて地下施設を出て行った。

 

束さんがオータムさんのことをおーちゃんって言ってるのに違和感を感じたが……。

 

 

「慌ただしいねぇ。まぁ、みんな嬉しいんだよ。しょーくんが無事なのがね。あ、ちょっと待っててね。準備してくるから。くーちゃん、手伝って」

 

「わかりました」

 

 

束さんとクロエさんが隣の部屋へ入っていき、ここには僕とマドカだけになった。

 

マドカは、今日一言も喋ってないけど、こっちをじっと見つめている。

 

 

「えっと……マドカ。改めて、ありがとう。助けてくれて」

 

「……私は、何もしていない。将冴を助けたのはクラリッサだ」

 

「でも、クラリッサが僕と会えるように戦ってくれたんでしょ?だったら、マドカも僕を助けてくれた恩人だよ」

 

「……そうか」

 

 

なんだろう、いつもより雰囲気が……。

 

 

「……」

 

 

マドカの視線、僕の顔じゃなくて少し下の方に……ああ……。

 

 

「マドカ」

 

「……?」

 

「触る?」

 

「……」

 

 

マドカは小さく頷くと、パタパタと駆け寄り僕のお腹にペチっと手を当てた。

 

 

「……」

 

 

表情は変わってないのに、嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。そんなに嬉しかったのか、僕のお腹。

 

 

「……満足した?」

 

「……」

 

「まだなのね……」

 

 

と、その時。隣の部屋に行っていた束さんとクロエさんさんが戻ってくる。僕のお腹をペチペチしているマドカのことは何度も見ているので、2人とも別段驚いている様子はない。

 

 

「しょーくん、準備できたから隣の部屋に来てくれるかな」

 

「はい、わかりました。マドカ、もういいかな」

 

「……ああ」

 

 

ああ、表情変わってないのに落ち込んでいるのがわかる。そんなに好きなのか、僕のお腹。

 

 

「私は部屋に戻る。将冴、言わなくてもわかる思うが……」

 

「うん。わかってる。今回のことでよくわかったさ」

 

「……ならいい」

 

 

マドカはそれだけ言うと、地下施設を後にした。

一夏たちに比べて、マドカとの交流は少ないけど、お互いに分かり合えている気がする。

 

まぁ、未だになんでお腹を触るのかはわからないけど。

 

 

「しょーくん、隣の部屋にテムジンがあるから起動してみて。起動するだけでいいから」

 

「?はい……」

 

 

起動だけ……?

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

隣の部屋にあった白いテムジンに乗り込む。

なんだか、ずいぶん久しぶりな気がする。

 

 

「しょーくん、いつでもいいから起動してみてね」

 

「はい、わかりました」

 

 

束さんがなんで起動だけでいいなんて言ったかわからないけど……やってみればわかるか。

 

 

「……テムジン」

 

 

小さく呟くと同時に、網膜に直接投影されて機体のデータが映る。システムオールグリーン……出力も……なにこれ、すごい数値。本当にすごい機体なんだな。

 

それに……なんだろう、この暖かい感じ。今まで感じたことないな……。

 

 

「うん。問題ないみたいだね。しょーくん、待機状態にしてみて」

 

「あ、はい!」

 

 

待機状態に戻すと同時に、車椅子を出してそこに落ちるように腰掛けた。腰痛ぁ……。

 

 

「あ、義足は拡張領域に入ってるからね」

 

「いうのが遅いですよ、束さん……」

 

 

時すでに遅しだ。

ま、今に始まった事ではないけど。

 

耳に待機状態のピアスが付いている。やっぱり、なんか暖かいような……。

 

 

「それで、束さん。これは……」

 

「ちょっとした実験、かな。さっきの部屋に戻って説明するよ」

 

 

実験……。

 

また部屋を移動すると、束さんはモニターに白いテムジンのスペックデータと、スペシネフのスペックデータを映した。

 

 

「それじゃ、説明するね。まず、しょーくんが気になってると思う、テムジンタイプa8の高スペックの理由からね」

 

 

それはとても気になっていた。今まで使っていたテムジンと比べるべくもないそのスペックは、明らかにおかしい。いくら束さんとはいえ、あんなのを作るなんて不可能だと思ったんだ。

 

 

「結論から言っちゃうとね。このテムジンタイプa8にはスペシネフのEVLバインダーの技術を使っているんだよ」

 

「え、それって……」

 

「そう、感情値による機体性能の上昇。テムジンの高スペックはそれが理由だね」

 

「でも、あれは負の感情を増幅して、それをエネルギーとして利用するものですよね?僕は今、負の感情にとらわれていないのに起動できましたし、システムも正常に……」

 

「うん。だって、そのテムジンに積んでるのは負の感情ではない感情をエネルギーに変換してるからね」

 

「え?」

 

 

ダメだ、さっぱりわからない。

スペシネフの技術を使っているのに、負の感情に取り込まれない?

 

 

『束博士、その辺は私が説明しよう』

 

 

突然聞こえてきた声は、スピーカーから流れてきた。

この声は……。

 

 

『やぁ、将冴君。大変だったようだね』

 

「ヒカルノさん?なんで……」

 

 

モニターには篝火ヒカルノさんの姿が映し出される。

どうして……

 

 

「ひっちゃん、これを説明するのは束さんの……」

 

『束博士が説明したら、自分が犯した失敗を黙ってそうだからね。その辺も含めて、私がじっくり説明してあげるよ』

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 

この2人の間でなにがあったかわからないけど……束さんのコミュ症が改善に向かっているようで何よりです。

 

 

『さて、将冴君。まずは束博士が犯したとてつもない失敗を教えてあげよう。そう……この失敗がなければ、少年がスペシネフという馬鹿げた機体に取り込まれることはなかったんだからね』

 

「それは……」

 

「っ……」

 

 

束さんが顔を伏せる。本当に束さんの見たことない姿をよくみるな……。

 

 

『ま、仕方ない部分もあるんだけどね。まず、君の両親がバーチャロンのデータを持っていたのは知ってるよね?』

 

「はい。そのデータを束さんに渡して、バーチャロンを作ってもらったんです」

 

『君の両親はね、奪われることを考えて設計図に色々とブラフを仕組んでいたんだよ』

 

「ブラフ?」

 

「それは束さんも気づいていたんだよ……しょーくんの両親がそういうのを仕込むのは知っていたし……」

 

『でも、束博士は重要なところのブラフにまんまと引っかかった。それはEVLバインダーの部分だね。束博士はそれが設計ミスとは気づかず、スペシネフは将冴君の両親がもともと設計した通りには作られなかったわけだ』

 

「……それで、あのスペシネフが……」

 

「ごめんね、しょーくん。何もかも私のせいだよ。しょーくんがダイモンに……」

 

「束さん、謝らないでください。僕は、束さんのおかげで、戦う力を手に入れられたんですから」

 

 

お父さんとお母さんがブラフを仕組んだせいでもあるし、束さんは今まで何度も助けてくれた。僕は束さんを責めることはできない。

 

 

『ふっふ、将冴君は人ができてるね。よかったね束博士、許してもらえて』

 

「うるさいなぁ、ひっちゃん!」

 

『ま、そういうわけで、それに気づいた私は束博士にちょいとアドバイスをしてあげたのさ』

 

「それでできたのが……」

 

『察しが良くて助かるねぇ。そうだよ。そのテムジンは私と束博士の合作と言っても過言ではないね』

 

 

ヒカルノさんがどれだけの技術を持っているのかは知らないけど、倉持技研にいる人だ。かなりの技術力を持っていてもおかしくない。お父さんとお母さんの同僚でもあるし。

 

 

『さて、それじゃあ、そのテムジンがどうなったか説明してあげよう。今まで話したように、その機体に乗せたユニットは負の感情ではなく、君の正の感情……そうだね、今の君の中で一番大きそうなのは愛情、とかかな?』

 

「なんか頭悪そうな会話だね」

 

『他に説明のしようがないだろう?』

 

「……それじゃあ、このテムジンを起動した時の暖かい感じは……」

 

「正常にユニットが作動している証拠だね」

 

 

そうなんだ……なんだか、今まで僕を苦しめていたものが、逆に助けになるなんて……思っても見なかったかな。

 

 

「起動さえしてしまえば、あとはテムジンとほとんど同じだよ。新しい兵装もつけたけど、システムアシストに使い方を入れておいたから」

 

「わかりました」

 

「説明は以上かな。明日は、宇宙に出る準備が出来次第、しょーくんには宇宙に上がってもらうから、そのつもりでね。今日はゆっくり、くらちゃんと過ごしてね」

 

「……はい」

 

 

いよいよ、か……。




準備回は今回で終わる予定だったのですが……予想以上に長引きました。申し訳ありません。

次で準備回終わらせます。


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217話

猛烈にクラリッサ成分が……誰か将冴とクラリッサ描いてくれ←


 

部屋に戻る途中の廊下に、見覚えのある3人がいた。

 

そうだった、織斑先生が言ってたっけ。アメリカから増援があったって。この3人なのは予想できたけど。

 

3人のうちの1人……ナターシャさんが僕を見つけ、こちらに向けて駆け出してきた。

 

 

「ショウゴ!」

 

 

あ、車椅子だから逃げ場ないや……。

 

案の定、全く逃げれなかった僕の顔に、ナターシャさんの豊満な胸が押し当てられた。苦しい……。

 

 

「本当に良かった……ジェニーとステフから話を聞いたときは心臓が止まるかと思ったわ。助け出しても、何日も目が覚めないから……」

 

「んむぅ……!」

 

「ナターシャ少尉、ショウが窒息してます」

 

「え?あ、ごめんなさいショウゴ!」

 

 

ジェニーの一声のおかげで窒息死は避けられた。何度これで死にかけたことか。

 

 

「大丈夫?ショウ」

 

「う、うん……心配してくれてありがとう、ステフ」

 

「ショウゴ、ごめんなさい。目が覚めたことが嬉しくってつい……」

 

「謝らないでください、ナターシャさん。ご心配をおかけしました。それに、助けに来ていただいて……」

 

「気にしないで。あなたにはあの時助けてもらったんだから。それに福音だって……お礼を言わなきゃいけないのは私の方だわ」

 

 

福音に関しては束さんがやってくれたから、僕より束さんにお礼を言ってあげたほうがいいと思うけど……。

 

まぁ、束さんはお礼を言われたところで軽くあしらってしまうだろうけど。

 

 

「そういえば、ショウ。さっき小耳に挟んだんだけど、あんた明日ダイモンと戦いに行くって……」

 

「うん。そうだよ」

 

「ショウ、目が覚めたばかりなのにもう戦いに行くの!?」

 

「駄目よ、ショウゴ!そんなの、いくらあなたでも……」

 

 

ナターシャさんが僕の肩を掴み、そう説得してくる。ナターシャさん、ジェニー、ステフが心配してくるのは当たり前だ。けど、行かなきゃいけない。僕しか行けないんだから。

 

僕はナターシャさんの腕をそっと掴み、首を横に振った。

 

 

「これは、僕が結末をつけなきゃいけないんです。それに、時間も残されていない。大丈夫です。僕は必ず勝って戻ってきますから」

 

「ショウゴ……」

 

「……ショウ、帰ってきたら、日本案内しなさいよ。約束だからね。破ったら承知しないから」

 

「ジェニーだけズルい!私もだからね!」

 

「はは……うん、わかった。約束する」

 

 

勝たなきゃいけない理由が増えたな。まぁ、絶対に勝つつもりだから、増やせるだけ増やしてやろうか。

 

 

「ショウゴ!あなたが帰ってきたら、あのクラリッサから奪い取ってやるから!だから、ちゃんと帰ってきて私とクラリッサの勝負を見届けなさい!はい、約束!」

 

「え、あ、は、はい!」

 

 

半ば強引に約束を取り付けて、ナターシャさんはスタスタとどこかへ行ってしまった。ナターシャさんを追いかけるように、ジェニーとステフも僕に手を振ってからついていった。

 

 

「はは、あんな約束しちゃった。クラリッサ、怒るかな……」

 

 

戻ろう。クラリッサが待ってる。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

寮の部屋に戻ると、中は真っ暗だった。

 

おかしいな、クラリッサが戻ってるはずなんだけど……。

電気をつけると、そこにはテーブルに突っ伏しているクラリッサの姿があった。

 

 

「クラリッサ……寝ちゃったのか」

 

 

多分、僕が目覚めるまでずっと気が気じゃなかったんだろう。スペシネフにとらわれてから、気が休まるはずもない。

 

 

「ごめんね、クラリッサ……心配かけて」

 

 

改めてクラリッサにそうつぶやきながら、頬を撫でた。

 

 

「ん……」

 

 

小さく反応したクラリッサはゆっくりと目を開き、僕の顔を見つけた。

 

 

「将冴……戻っていたのか。すまない、少し寝てしまっていた」

 

「気にしないで。ずっと気が休まらなかったんでしょ?今コーヒー淹れてくるから」

 

 

キッチンへ向かい、手早く作れるインスタントコーヒーを淹れてクラリッサの元へ持っていく。

 

いつもクラリッサに作ってもらってばっかりだったから、これくらいはね。

 

 

「はい、クラリッサ」

 

「すまない、将冴」

 

 

コーヒーを受け取ったクラリッサは、口をつけずにジッとコーヒーを見つめた。

 

 

「クラリッサ?」

 

「……本当に戻ってきたんだな」

 

「……うん。ちゃんと戻ったよ」

 

「将冴が戻ってこなかったらどうしようと、ずっと考えていたんだ。縁起でもないかもしれないが……。でも、どれだけ考えても、将冴がいない未来を考えられなかった」

 

「……」

 

「だから……本当に……」

 

 

クラリッサの涙が、ポタポタとコーヒーに落ちていく。

 

僕は義足をつけてクラリッサに歩み寄り、そっと抱き寄せた。

 

 

「……ありがとう、クラリッサ。助けてくれて。スペシネフにとらわれている時の記憶はほとんどないけど、でもクラリッサが呼びかけてくれたのは感じていたよ」

 

「将冴……」

 

 

クラリッサは顔をあげて、僕と唇を重ねた。

 

触れ合えなかった分を補うように長く、ゆっくりと。そして惜しむように、唇を離した。

 

 

「……ふふ。クラリッサ、涙がで顔くしゃくしゃになってる」

 

「うっ、あまり見ないでくれ!」

 

「眼帯、外した方がいいんじゃない?ジッとして」

 

「っ!?ダメだ!」

 

 

眼帯に手をかけようとすると、クラリッサが顔を背けた。眼帯を取るのを拒否した?

 

 

「左目、何かあったの?」

 

「……」

 

「クラリッサ、見せて」

 

 

クラリッサは戸惑った様子でいたが、僕に背を向けたまま眼帯を外した。

 

 

「……将冴、これを見ても、驚かないでくれ」

 

 

クラリッサが目を瞑ったまま僕の方を向く。左目に傷などはない。

 

ゆっくりと瞼を開けると、クラリッサの左目は……

 

 

「色が……薄く……」

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の過剰使用……らしい。左目の視力がかなり低下しているらしい。幸い右目の越界の瞳に異常はないから、生活にも支障はない」

 

「……これ、僕のせい?」

 

「それは違う!これは私がやったことだ。将冴のせいではない」

 

 

僕がスペシネフにとらわれなければ……クラリッサの目は……。

 

 

「……やはり嫌だろう。こんな目の女なんて……」

 

「クラリッサ、いつ僕がそんなこと言ったの?」

 

「え……?」

 

 

そっとクラリッサの左目に瞼の上から触れる。こんなことで、僕がクラリッサのことを嫌いになるものか。

 

 

「嫌いになるわけがない。絶対に、これからもずっとクラリッサのことが大好きだよ」

 

「将冴……」

 

「だから、もうそんなことは言わないで……」

 

 

クラリッサの目をこうしてしまったのは僕のせいだ……責任は僕が取る。僕はずっと、クラリッサと……。

 

 

「私も……将冴が好きだ……大好きだっ!絶対に、離れたくない」

 

「僕もだよ、クラリッサ」

 

 

もう一度、クラリッサとキスをした。

 

そして、そのまま僕とクラリッサはベッドに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドでクラリッサと一緒に裸になって横になっていると、クラリッサは僕の手をギュッと握ってきた。

 

 

「必ず、帰ってきてくれ」

 

「うん。必ず……ダイモンを倒して帰るよ」




将冴とクラリッサが初夜。

この情事の様子は……本編終了後に書こうかなと思います。


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218話

内定が決まりウキウキの作者です。

決まってくれて本当に嬉しいです。

この作品もあと数話。最後までお付き合いいただければと思います。

今回は仲間からの激励がほとんどかな……。


 

翌日。ダイモンとの決着の日。

 

クラリッサとグラウンドに赴くと、そこにはいつぞやの人参型ロケットが鎮座していた。……まさか、あれで行くなんて……言うだろうなぁ。束さんのことだから。

 

ロケットの周りにはみんな集まっていた。

 

一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪、マドカ、千冬さん、束さん、山田先生、楯無さん、ナターシャさん、ジェニー、ステフ、クロエさん、スコールさん、オータムさん、ルカさんにリョーボさんまで……。

 

 

「来たね、しょーくん。くらちゃんとはしっぽり楽しんだ?」

 

 

ドキッとしてしまい、僕とクラリッサは言葉を返すことができなかった。いやまぁ……問題あるよね……教師と生徒じゃ……。

 

 

「……え、本当にシたの?」

 

 

どうやら墓穴を掘ったようだ。

 

 

「姉さん!そういうことはデリケートな部分なんですから、冗談でも言ってはいけない!」

 

「いやぁ、束さんもまさかこうなるとは」

 

 

同級生達やジェニーとステフは何やら顔を赤らめてこちらをチラチラ見てくるし、楯無さんはにこやかに笑ってるし、先生方は困ったような顔をしているし、ナターシャさんとオータムさんは聞きたくないのか耳を塞いでるし、スコールさんとルカさんとリョーボさんは何やら下品な笑みを浮かべている。

 

唯一反応があまりなかったのはクロエさんだけだよ。

 

 

「そ、それより。そのロケットの準備はできているんですか?」

 

 

露骨に話を逸らすことにした。実際、悠長にしている時間はない。みんなもそれがわかっているからか、表情が真剣なものになる。

 

 

「もちろん。このロケットでいつでも宇宙に行けるよ」

 

「安全性は保証しねぇがな」

 

「おーちゃん余計なこと言わないの!」

 

 

オータムさんの一言でなんだかより一層不安になるんだけど……まぁ、そうも言ってられない。束さんが作ったものなんだ、造形はともかく性能は問題ないだろう。

 

 

「しょーくん、このロケットは片道だけだから気をつけてね。ダイモンを倒して帰るときは、テムジンのまま大気圏に突入することになるけど、テムジンなら耐えられるはずだから」

 

「わかりました」

 

 

さて、乗り込むとしようか……。

 

僕は義足をつけて立ち上がり、ロケットに近づいていく。ロケットに近づく僕に、みんなが声をかけてくれる。

 

 

「将冴、絶対に帰ってこいよ。お前に負けっぱなしじゃ、千冬姉の弟失格だからさ」

 

「姉さんとのこと、まだ恩返しができていない。だから、帰ってこないと承知しないぞ」

 

「無事にダイモンを倒して戻るのを祈っておりますわ」

 

「また1人でどっかに行くのは無しよ。待ってる人がいるんだからね」

 

「学園祭の時にダイモンと1人で戦ったこと、まだ怒ってるんだからね。帰ったら、一回引っ叩いてあげるから、お兄ちゃん」

 

「兄さんがいなければ、私は何もできなくなってしまう。私のためにも、クラリッサのためにも……必ず帰ってください」

 

「まだ、将冴君と手合わせできてないから……テムジンと一緒に帰ってきて……!」

 

「生徒会のお仕事、まだまだいっぱいあるからそのつもりでね」

 

「別段心配はしていない。さっさと片付けてこい」

 

「お前の両親の弔合戦だ。しっかりと決めてこい」

 

「将冴君!きっと大丈夫ですから!将冴君なら勝てますから!」

 

「まだショウゴのこと諦めてないからね!帰らないと酷いんだから!」

 

「日本案内するって約束したんだから、ちゃんと帰りなさいよ」

 

「そうそう。せっかく日本に来たんだから楽しませてもらわないとねぇ」

 

「将冴様がいないと、束様が悲しみます。必ず帰ってください」

 

「将冴君がいないとオータムが弄りがいがなくなっちゃうから、無事に戻ってね」

 

「スコールテメェ……はぁ。その……お前がいねぇと張り合いがないからよ。ダイモンぶっ飛ばして、しっかり帰ってこい」

 

「クラリッサ残して帰らなかったら、シュバルツェ・ハーゼ全員で探し出してボッコボコにするから、覚悟しておいてね将冴君」

 

「自分の身を大事にな。お前さんを待ってる人がいっぱいいるんだからね」

 

 

みんな……絶対に戻らなきゃ。

 

僕が……僕しかできないんだから。

 

 

「みんな、ありがとうございます。必ず決着をつけて戻ります」

 

 

ロケットに乗り込もうとすると、くいっと服を掴まれた。振り返ると、クラリッサがそこにいた。

 

……今にも泣きそうな顔をしてる。

 

 

「将冴……信じてるから。絶対に……」

 

「うん、クラリッサを1人にしないよ」

 

 

クラリッサの唇にキスをして、僕はロケットに乗り込んだ。扉がゆっくりと閉まる。

 

少しすると束さんの声が聞こえてきた。

 

 

『しょーくん、あと1分くらいで発車するから、テムジンを展開して待っててね』

 

「わかりました……」

 

 

テムジンを展開すると、ロケットの中にあったモニターがカウントを始めた。

 

……あと30秒……。

 

 

『しょーくん、これは私の戦いでもある……本当は私が決着をつけるべきだった。それをしょーくんに押し付けてしまったこと……ほんとうにごめんね』

 

「束さん……」

 

『……絶対に倒してね。しょーくんなら大丈夫だから!』

 

 

カウントが残り5秒になる。

 

 

『エンジン始動!しょーくん、任せたからね!』

 

「はい!」

 

 

カウントが0になり、ゴォという音が大きくなり大きな負荷が僕の体にかかる。

 

くっ……バーティカルターンのGもすごいけど、これもすごいな……だけど……

 

 

「今行くぞダイモン……決着だ」




あと約4話で終わりになります。

……テンションが上がると伸びる可能性がありますので、約4話です。


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219話

ダイモン決戦その1。
今週には完結いたします。


 

十数分ほど、強烈なGにさらされると、不意に体が軽くなった。どうやら宇宙に出たようだ。

 

それがわかったと同時に、ロケットの天井部分が開き、そこから無数の星の光が見えた。

 

 

「本当に宇宙に来たのか……」

 

 

ロケットから出て、宇宙空間でしっかりとテムジンが動くか動作確認を行う。

 

……うん、大丈夫だ。ちゃんと呼吸もできる。宇宙での戦闘は、地上の戦闘とはかなり違うだろうけど、テムジンにシステムアシストが付いているようだ。戦闘にもそれほど支障はないだろう。あとはダイモンを……

 

 

「……いた。肉眼でもすぐに見つかるほど大きいな」

 

 

見つけたら速攻あるのみだ。すぐにスラスターに火を入れて、瞬時加速で一気に接近する。

 

半分ほど距離が縮まったところで、割り込むように通信が繋がった。

 

 

『やはり来たか、柳川将冴』

 

「お礼参りだよ、ダイモン。いろいろと好き勝手やってくれたね」

 

『勘違いしないで欲しいな。やったのはお前だ』

 

「……そうだね。だからこそ、僕はケジメをつけなければならない。ダイモン、お前を倒すことで!」

 

『私を倒すか。以前も聞いたような台詞だな。あの時も言ったが、殺す気もないのに戦っても、私を捉えることはできないぞ』

 

「それはお前の考えだ。僕はそうは思わない……何かをなす強い思いがあれば、お前を止められる」

 

『無駄なことを』

 

「無駄かどうかは、ここで決まる。行くぞダイモン!!」

 

 

十分に距離は縮まった。僕は今のテムジンと同じ白くカラーリングされたスライプナーを大型要塞に向けて引き金を引いた。放たれたエネルギー弾は今までテムジンのそれとは出力が段違いだった。これが新しいテムジンの……

 

エネルギー弾は要塞に命中するが、さすがにこの大きさを誇るだけある。

 

 

『その程度の攻撃ではどうともならないぞ。次はこちらの番だ』

 

 

要塞のいたるところに付いている砲塔がすべてこちらを向く。武装の数も流石要塞といったところか……!

 

 

『この重機動要塞ジグラットの力を思い知るがいい!』

 

 

砲塔からビームや、ミサイル、機雷のようなものが放たれた。くっ、数が多いな……。

 

テムジンのシステムアシストに頼りながらも、スラスターを動かし攻撃をすんでのところで躱していく。

 

要塞……ジグラットと言ったか。これが地上に降りたら、本当に酷い被害が出てしまう。だけど……

 

 

「ダイモン。こんなものを作っていたのに、わざわざ僕を使ってISを乗っ取る必要はあったのか?最初からジグラットを使えばよかっただろう」

 

『……確かに、ジグラットで世界に攻撃を仕掛ければ、それなりの被害は出ただろう……だが、それでもISという兵器が束になれば、このジグラットでも苦戦を強いられるだろう。もし、ISを全部退けたとしても……そんなものつまらないではないか』

 

「つまらない……?」

 

『私はな、人間たちが今まで使ってきたISが牙を向くのだ。実に滑稽だとは思わないか!!地上の人間たちが、逃げ惑う姿……くっくっく、これが私の求めていた混乱だよ!』

 

「……」

 

『だが、それは叶わなかった。お前の恋人……クラリッサ・ハルフォーフの邪魔が入ったせいでな。まさか、あの状態のスペシネフから意識を取り戻すなど……計算外もいいところだ。つまらん、実につまらん。……だからこのジグラットを動かしたのだよ』

 

 

……本当にこいつはどこまでも下衆な奴だ。ここまでの嫌悪感を抱くなんて、後にも先にもこいつだけだろう

 

 

「少し黙ろうか」

 

『怒ったか?ならもっと感情を爆発させろ。お前の負の感情は実に面白いからな』

 

「黙ろうかって言ったよね?もうお前の妄言を聞くのはウンザリだよ。怒りすら湧かない。それに、僕はもう負の感情には囚われない」

 

『ふん、実につまらない男になったようだな。決着をつけに来たのだろう。ならお望み通り決着をつけようか』

 

 

言われなくても、そのつもりだ……。

 

 

「もう生半可な攻撃はしない……全力でお前を倒すよ、ダイモン」




あと3話。

終わりが近づくよう……


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220話

ダイモン決戦その2。

将冴の運命やいかに。


 

「うおぉぉぉ!!」

 

 

ジグラットの攻撃を掻い潜り、スライプナーで切り掛かった。しかし、重機動要塞を名乗るだけあってかその装甲はとても厚い。

 

力を込めて切り掛かっても、表面に傷が出来るだけか……。

 

 

『どうした?生半可な攻撃はしないのではなかったのか?』

 

 

いちいちうるさいな……。でもダイモンの言う通りか。

 

フォームチェンジがないから、ライデンのバイナリー・ロータスに頼るわけにもいかない。機体性能は今までのテムジンと比べ物にならないくらい強いのに、いざという時の一撃がない……!

 

 

『腑抜けたな。やはり貴様は闇を抱えていた方が強かった』

 

「……あいにく、そんなものは今後一切抱えるつもりはないよ。いや、お前を倒して完全に決別させてもらう」

 

『口だけは一丁前になったようだが、行動には反映されていないぞ。そら、もう一度全砲門から攻撃だ』

 

 

ジグラットの体のいたるところから放たれるレーザーや機雷が僕めがけて飛んでくる。

 

宇宙空間の戦闘にはもう慣れたが、上下という概念がないからまだ覚束ないか……。幸いにも攻撃は単調だから、避けるのはそう苦労はしない。問題はどうやってジグラットの装甲を貫くかだ。

 

 

『そらそら、逃げてばかりでは勝負にならないぞ!』

 

 

そんなことは自分でもわかっている。

 

……思い出せ。バージョンアップしたテムジンについて、束さんが何と言っていたか……。

 

 

《ライデン並みの射撃能力と……》

 

 

……そうだ。確かにそう言っていた。新兵器もあると言っていたはずだ。

 

確認を怠るなんて……ちょっと冷静さを欠いていたかな。

 

 

「システムアシスト、兵装一覧を表示」

 

 

このテムジンが扱うことのできる武器が網膜投影ですべて表示される。

 

ボムに、エネルギー弾、エネルギーセイバー、ブルースライダー……あった。ふふ、束さんこんなもの作っちゃったらライデンの立つ瀬がないな。

 

 

『……笑っているのか?この状況で』

 

「不愉快だったかな?」

 

『そうだな……実に不愉快だ。貴様のISがフルスキン型で心底良かったと思ったぞ。笑ってる顔など虫唾が走る』

 

「そうか……なら、今からこの笑ってる顔を見せに行くよ」

 

 

さぁ、その分厚い装甲を撃ち抜いてやる。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

その頃、地上では一夏たち一年専用機持ち8人がISを展開してグラウンドに集合していた。どこかに行くつもりのようだったが、そこに千冬、真耶、スコール、オータムが駆け寄ってきた。

 

 

「お前たち、何をしている!」

 

「千冬姉、俺たちやっぱり黙って見ているなんてできねぇよ!」

 

「今から宇宙に上がるとでもいうのか?そんなことできるわけがないだろう!」

 

「それはわかっていますわ。私達は、予備です」

 

 

セシリアの予備という言葉で千冬は悟る。宇宙に上がれないの言葉は彼らも承知の事実だ。だから、彼らはもし将冴がダイモンを止めることができなかった時の最後の防波堤になろうというのだろう。

 

 

「ま、本気になった将冴なら心配ないだろうけどね。でも無茶するのは目に見えてるから、宇宙から帰ってきたら動けないってこともあるかもしれないし」

 

「将冴の無茶は今に始まった事ではないからな。クラス対抗戦の時も、タッグトーナメントの時も、福音の時も……それらを見てきたから、後詰めくらいはしてやりたい」

 

「織斑先生、お願いします。僕たちに行かせてください」

 

「宇宙でなくとも、兄さんと一緒に戦いたいのです……お願いいたします」

 

「……」

 

 

千冬は黙り込み、考えるような素振りを見せる。

今後のことのことなどを考えて、行かせていいものかどうか。

 

 

「織斑先生……ここはみなさんに任せてみても……」

 

「そうよ、ブリュンヒルデさん。彼らだって、それなりに成長しているわ」

 

「何なら私が付いて行ってやってもいいんだぜ?」

 

「……そうだな。わかった、各員敵要塞落下予測地点に迎え。ただし身の危険を感じたらすぐに撤退しろ、いいな!」

 

『了解!』

 

 

マドカ以外が返事をする中、そこに近づいてくる人物が1人いた。

 

 

「織斑先生」

 

「クラリッサか……お前はどうする」

 

「お許しがいただけるのであれば」

 

「ここで行かせなくても、勝手に行くだろうな……行ってこい。事後処理は任せろ」

 

「はい!」

 

 

 




終わりが近い……終わるのか……終わっちゃうのか……←


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221話

今日は連続投稿したいと思います。つまるところ、今日で完結させます。日付またぐかもしれませんが……そこはご愛嬌ということで。


 

『随分と、私をイラつかせるのが上手くなったようだな。貴様がスペシネフから解放されたことでも、なかなかにイラついたが』

 

「お前が僕にやってきたことのお返しさ。そして、今までお前が傷つけてきた人たちのお返しも、これからしてあげるよ」

 

『減らず口を!』

 

 

再度、ジグラットが弾幕を張り始める。その大きな体躯の至る所に取り付けられた砲塔から放たれる攻撃はどれも強力だ。

 

今までは何とか避けて隙を伺っていたが、そんなことをする必要はもうない。

 

 

「エネルギーをスライプナーに充填……フルチャージまで40秒」

 

 

僕は回避行動をとらず、スライプナーにエネルギーを回した。スラスターに使うエネルギーも全てだ。

 

 

『どうした?大口叩いておいて、敵わないと悟ったか?』

 

「もしそう見えるなら眼科にでも行くことをお勧めするよ。ま、お前の体に異常があったところで僕は一向に構わないのだけれど」

 

 

ジグラッドから放たれるレーザーが何度も僕の体を掠めていく。でも、まだだ……後20秒。

 

 

『たとえライデンを使ったところで、1発ではこのジグラッドの装甲は抜けないぞ。お前の戦闘データを参考に作ったのだからな!』

 

 

……残り10秒。

 

 

「……ダイモン、お前はやっぱり眼科に行ったほうがいいよ。この機体が、前と同じだと思っているならね」

 

 

その瞬間、スライプナーの刀身部分が大きく2つに分かれ、持ち手の部分が両肩にジョイントされるような形になる。

 

 

『何をするつもりだ』

 

「言ったでしょ。お前を倒して、完全に決別するって」

 

 

エネルギー充填完了。

 

 

「ライデンのバイナリーロータスで破壊できないなら、それ以上の火力で破壊する。これが、お前との決別の第一撃だ……《ラジカルザッパー》、行けぇぇ!!」

 

 

2つに割れた刀身の間から、今までスライプナーで放っていたエネルギー弾よりも……ライデンのバイナリーロータスよりも強大なエネルギーが放射された。

 

《ラジカルザッパー》。束さんがこのテムジンに積み込んだ、おそらく最終兵器とでも呼べるものだろうか。ライデンのチャージより早く、バイナリーロータスよりも強力なビーム兵器を、束さんは作り上げて積み込んだんだ。

 

本当に、自分で作ったものを超えるものを作るんだから……さすが大天災、というやつだろうか。

 

放たれたラジカルザッパーは、ジグラットの装甲に命中すると、盛大に爆発した。

 

 

『この、よくもっ!』

 

「装甲に穴を開けただけか……完全に破壊できると思っていたけれど、さすがにサイズが大きすぎたかな。だけど、装甲に穴が空いたね」

 

『っ!?まさか』

 

「これもさっき言ったよね。僕の笑っている顔を見せに行くって」

 

 

スライプナーをまた変形させて、ブルースライダーを起動しそれに乗ると、僕はラジカルザッパーで穴を開けた部分に向けてブルースライダーを滑らした。

 

よほど僕をジグラットの中へ入れたくなかったのか、ジグラットの攻撃が激しくなったけど、避ける分には特に問題はない。

 

ジグラッドの内部に侵入すると、すぐに隔壁が下り始める。面倒な……いちいち破壊するのも手間だし……。

 

 

「さっさと抜けさせてもらうよ」

 

 

ブルースライダーに乗ったまま、隔壁の隙間を掻い潜るように通り抜けていく。

 

しばらく進むと、広い空間に出た。そこには、ダイモンが僕の前に現れる時の姿と同じものが何体も現れた。アンドロイドのようなものか。それに、学園祭の時に僕を拘束し校舎を破壊したミルトンも数体ほどいる。

 

 

『まさか、ここまで来るとは思っていなかったぞ』

 

「よほど切羽詰まっているようだね。声に余裕がないよ」

 

『ふん……やれ』

 

 

アンドロイドとミルトンが一斉に襲いかかってくる。こんなに数がいたら狙いやすいったらないね。

 

 

「僕の武器がスライプナーだけじゃないこと、忘れてないよね」

 

 

襲いかかってくるアンドロイドたちに向けて、ボムを何個も投げつけ起爆させる。

 

アンドロイドはそこまでの耐久力はないようで、ほとんどが破壊できたけど、ミルトンは一体も倒せなかったか。

 

 

「確か、AICを使えるやつがいたっけ。でも、いるとわかっていれば!」

 

 

ミルトンに近づかないように、且つ後ろを取るように瞬時加速からのバーティカルターンでミルトンを翻弄する。

 

そして、一体ずつ確実にスライプナーで切り裂いていく。まるでルーチンワークのように。

 

 

「ISを使いたての一夏のほうがまだいい動きをしていたよ、ダイモン。そろそろ姿を現したほうがいいんじゃないか?」

 

『……』

 

 

ダイモンが突然黙ったと思うと、広い空間の中央の床から、何かがせり出してくる。あれは……筒?……いや……何かを培養するような容器だ。

 

中には……

 

 

「脳……?」

 

『貴様に、私の本体を見せることになるとはな』

 

「体を捨てたのか……」

 

『体などに未練はない。むしろ、世界を混乱に陥れるという私の野望の前では、体など邪魔だ』

 

「そうまでして……」

 

 

狂っている。()()は自分の野望に狂わされている。

 

 

『つまらんのだよ……偽りの平和を享受する今の世界は。人間の本質は奪い合い、殺し合うことにあるのだよ。貴様が私を殺したいと思ったようにな』

 

「……お前がそう思うのなら、お前の中ではそうなんだろう。だけど、僕は否定する。殺意を持ったからこそ、僕は否定する」

 

『いつまでも平行線か……何が貴様をそこまで動かす』

 

「お前にはわからないよ。話したところでお前がどうなるというわけではない」

 

 

僕はスライプナーをダイモンに突きつけた。

 

 

「終わりだよ。お前はここで僕が……殺す」

 

『最後に殺意を抱くか……だが、その殺意は不純だ。そんな殺意を抱いても、苦しむのはきさ』

 

 

ダイモンの言葉を全て聞く前に、僕は引き金を引いた。エネルギー弾が培養器を破壊し、ダイモンは……死んだ。

 

 

「殺意を抱くのはこれで最後だよ、ダイモン……。さっきの質問、答えてあげるよ。大切な人がいるから、僕はここに来た。ただそれだけだ」

 

《マスターの反応消失。ジグラット、爆破シーケンスに入ります》

 

「最後の最後まで、お前は僕を苦しめたいみたいだね……」

 

 

帰らなきゃ。約束したから。

 

 

《爆破まで30秒。29、28……》

 

 



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最終話

ダイモンの要塞が降下してくるであろうポイントに着いた私たちは、揃って上空を見上げていた。

 

 

「将冴……」

 

 

将冴が宇宙へ上がって、かなり時間が経っている。

1人であんな大きなものと戦うなんて……本当は行かせたくなかった。でも、将冴の覚悟を止めることなんて、私には。だから、信じてる。将冴は戻ると約束してくれた。だから……

 

 

「まだかよ、将冴……まさか、やられたなんてこと……」

 

「一夏、縁起でもないことを言うな!将冴なら……」

 

「でも一夏さんの気持ちもわかりますわ。将冴さんは、目が覚めたばっかりでしたし……」

 

「将冴がそんなことで負けるなんてありえないわよ。私たちの誰より強いんだから……」

 

「そう、だよ……!将冴君が、テムジンが負けるなんてないよっ!」

 

 

一夏、箒、セシリア、鈴、簪たちの会話は、不安を感じないように強がっているようにも見えた。

 

それに反して、ラウラ隊長とシャルロット、マドカは強い眼差しで、空を見上げていた。信じている。将冴が戻るのを誰よりも。

 

 

「クラリッサ」

 

「オータムか。なんだ?」

 

「……平気そうだな」

 

「ここにいる誰よりも、将冴を信じているからな」

 

「そうか……ヤッパリ敵わねぇな……」

 

「なにが敵わないんだ?」

 

「こっちの話だ。……っと、通信か?」

 

 

オータムとの会話の途中で、ここにいる全員に通信が届いたようだ。これは、束さんか?

 

 

『みんな!今宇宙で大きな爆発を確認したよ!しょーくんがダイモンの要塞を破壊してくれたんだよ!』

 

「マジかよ!将冴、マジでやった!」

 

 

束さんからの報告で、一夏たちが一斉に喜びの声を上げた。

 

だけど……それよりも……

 

 

「束さん、将冴は……将冴はどうしたんですか!?」

 

『……』

 

 

私の言葉に、束さんも、他のみんなも押し黙ってしまう。

 

 

『しょーくんISから送られてきていたバイタルデータが……爆発と同時に途切れてる。爆発の影響で通信が悪くなっているだけ……だと思うけど、もしかしたらISが……』

 

 

束さんが不確定な言葉を口にするということは、本当によほどのことが起こったということだ。

 

将冴……っ!

 

 

《……めん……ッサ》

 

 

っ!?今の……暖かい感じは……

 

 

「…………だ」

 

『くらちゃん?」

 

「将冴は、大丈夫だ」

 

 

私はみんなに制止させる暇を与えず、上空に飛んだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

体が動かない……ジグラットの爆発が、あそこまで大きなものになるとは……。

 

テムジンは爆発に巻き込まれて、左腕と右足がなくなっている。いつものテムジンなら、もうシールドエネルギー切れで僕死んでたな……。

 

駆動系にもダメージがあるみたいで、ほとんどなにも動かせない。

 

幸いなのは、地球に向けて吹き飛ばされたことかな。感情ユニットは……辛うじて動いているみたいだ。どんどん数値が下がっていっている。

 

大気圏突入には耐えられるけど……下が海でも地面でも、僕は耐えられなさそうだ。

 

 

「みんなのところには……帰れないかな……」

 

 

約束、破っちゃうな……。

 

 

機体表面の温度が上昇し始めた。大気圏に突入したのかな……。

 

 

ダメだ……なんだか、意識が……。

 

 

ごめん、クラリッサ……約束破って……

 

 

 

 

 

「いや、ちゃんと守ってくれた」

 

 

 

ふわりと、地面に衝突するでもなく、僕は受け止められた。

 

声……僕の大切な人の……。

 

 

「……やっぱり、僕を助けてくれるのは……」

 

「ああ、私はどんな時でも助けてやる」

 

 

 

 

 

 

……ただいま、クラリッサ。

 

ああ、おかえり。将冴。

 





活動報告にて、あとがきのようなものを公開してます。


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after story
訪れた平穏


後日談開幕!

と、言いつつ今回は準備回という感じになるかな。新作の方はまだ時間かかります。

なのでクラリッサ書きます←


 

ダイモンとの決戦から一週間が経った。

 

僕は、随分と設備の整った個室ーーという名の独房ーーのベッドの上で寝っ転がって……いや、寝たきりになっていた。

 

 

「はぁ……拘束は甘んじて受けるとは言ったけど、なにもないところにずっとこもりっきりっていうのも堪えるな……」

 

 

そう、ここはIS委員会の日本支部だ。スペシネフによる全ISの侵食を、委員会が知らないわけがなく、僕は重要参考人として委員会に拘束されている。

 

……それにしたって、ダイモンとの決着をつけて学園に戻ってすぐに拘束されるのもどうかと思うよ……。

 

クラリッサや千冬さん、一夏達が抵抗してくれたみたいだけど、結局連れてこられてしまった。束さんやオータムさんとかが暴れそうな感じはしたけど……以外にもその辺の人たちは介入してこなかったらしい。

 

束のことだから、何か考えがあるんだろうけど……。

 

ここに来てから、IS侵食やダイモンのことを根掘り葉掘り聞かれた。もう終わったことだし、変に言い淀むのもかえって不信感をつのらせるだけだから。

 

当然のことながら、束さんとの関係も話した。必然的にMARZが束さんが作った会社であることがバレてしまったけど……その辺は束さんに任せるとしよう。ここにいてはなにもできないし。

 

あとは……そうそう、テムジンだ。あれはいつの間にか無くなっていた。待機状態であるピアスがここに来たときには無くなっていたんだ。おそらく、束さんがどさくさに紛れて持って行ったんだろう。

 

ピアスを取られたならわかるだろう、と思ったんだけど、僕は地球に帰ってきてからすぐに意識を失ってしまったから、詳しくなにがあったかは知らない。ここで起こる問題は、僕の義手義足がテムジンの拡張領域にしまってあることだ。

 

おかげで動けないのなんのって……。

この部屋は監視されているから、トイレとかの時は要求すれば連れて行ってくれる。でも、話し相手がいないと暇すぎて死にそうだ。

 

 

「……クラリッサ、心配してるよね……」

 

 

どれだけ僕とクラリッサを離れ離れにすれば気がすむんだ。恋人と一緒にいちゃいけないのか僕は。

 

……なんだか考えたらイライラしてきた。IS委員会に対して抗議しようか。……やっても意味ないか。

 

とにかく、閉じ込められてることと動けないことが相まって非常に精神的によろしくない。ダイモンを倒したから、ようやく平穏な日常を過ごせると思ったのに……。

 

その時、個室の扉が開き、IS委員会の女性職員が入ってきた。また事情聴取かな?それとも検査?それはそれでいいけど、一回外の空気を吸わせてもらえないだろうか。

 

 

「柳川将冴、あなたの拘束を解きます」

 

「……随分と唐突ですね」

 

「そうせざるを得ない事情ができたのです。あなたは黙って従ってくれればいい」

 

「体動かせないから、従うもなにもないんだけど」

 

 

職員の人がなにやら合図をすると、男の職員さんが車椅子を押して部屋に入ってきて、僕を抱き上げてその車椅子に乗せた。

 

やはり、IS委員会内でも男の立場は低いらしい。こんなことさせられて大変そうだ。

 

 

「では、ついてきなさい」

 

 

だから、僕は今何もできないと……

 

 

「はぁ……」

 

「すまないな、こんな世の中だから」

 

 

ため息をつくと、車椅子を押してくれている男性職員の人が申し訳なさそうに謝罪をしてくれた。この人、いい人だ。

 

 

「いえ、気にしていません」

 

 

僕以外の人が気にしそうだけど……クラリッサとか千冬さんとか、束さんとか……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

IS委員会の日本支部を出ると、支部の前には一台の車が止まっていた。

 

 

「あの車は……」

 

「迎えです。IS学園からの」

 

 

男性職員がそう教えてくれると、車の運転席と助手席の扉が開いた。そこから出てきたのは、背筋が寒くなるほどのオーラを纏った千冬さんと……

 

 

「クラリッサ……!」

 

「将冴!」

 

 

クラリッサが僕に駆け寄り、そのまま僕に抱きついてきた。ああ、抱き返してあげたいけど義手がないから……。

 

 

「大丈夫か?何かひどいことをされたりしなかったか?変なものを食べたりとか……」

 

「大丈夫だよクラリッサ。この通り、元気だから」

 

 

精神的にはかなり荒みそうになっていたけど、クラリッサの顔を見たらそんなことはどうでもよくなった。

 

と、先ほどからすごいオーラを放っている千冬さんがコツコツと背筋が寒くなるような音を響かせながら、女性職員に近づいていってる。

 

 

「うちの生徒が世話になったな」

 

 

めっちゃ怒ってる。こんな怒りモードの千冬さんを見るのは初めてだ……。

 

 

「それで、一週間将冴のことを調べて、何かわかったのか?」

 

「い、いえ……それは……」

 

「ふん、だから言っただろう。私が言ったこと以上のことはわからないとな。失礼する。行くぞ、クラリッサ、将冴」

 

「はい、織斑先生」

 

 

職員さんが、ガクガクと膝を震わせているのを、僕は見逃さなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

後部座席に、クラリッサとともに乗り込むと、運転席に座った千冬さんが車を発進させた。

 

IS委員会から少し離れたところで、クラリッサが僕にまた抱きついてくる。

 

 

「将冴……ああ、よかった……」

 

「クラリッサ、心配かけたね。ごめん」

 

「いいんだ……仕方のないことだったからな」

 

「千冬さ……織斑先生にも、迷惑をかけてしまって……」

 

「将冴が気にすることではない。悪いのは委員会の方だ。私が散々将冴のことを説明しても聞く耳もたなかったからな」

 

「それであんな……」

 

 

まぁ……手が出なかっただけありがたいと思っておこう。

 

 

「クラリッサ、あれを渡してやれ」

 

「はい。将冴、少しジッとしていてくれ」

 

「え、うん……」

 

 

言われた通りジッとしていると、クラリッサが僕の耳に何かをつけてくれる。これは……

 

 

「テムジンだ。束さんが、将冴に渡してくれと」

 

「……そっか」

 

 

拡張領域の中を確認すると、僕の義肢と車椅子が入っていた。これで、何もかも世話してもらうことはなくなったかな。

 

義手を展開して、ピアスを少し触っていると、クラリッサが僕の手を握ってくる。

 

 

「クラリッサ?」

 

「将冴、あの時も言ったが、もう一回言わせてくれ。……おかえり」

 

「おかえり、将冴」

 

「……うん、ただいま!」




後日談は不定期に更新していきます。

週に一回くらいのペースで書けたらなぁと思っていますが、書けない時もあると思うので、ご了承いただければと思います。


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おかえりサプライズ

週一くらいで更新しようと思っていたのですが、予想外に間が空いてしまいました。申し訳ございません。

全てFGOが悪いんだ……←

しょーくんは絶対にライダーで現界するよね!←


織斑先生の運転する車がIS学園に到着し、僕たちは車を降りた。

 

今日は平日だから、みんな授業だろう。……っていうか、校舎直ってる。1週間で直るなんて……束さんか。

……やっと帰ってきたんだな。たった1週間だけど、懐かしい感じがする。

 

と、織斑先生が腕時計を確認すると話しかけてきた。

 

 

「将冴、あっちではろくなものを食べれなかっただろう。ちょうど昼時だ。このまま学食に行ったらどうだ?」

 

 

確かに、IS委員会での食事は、お世辞にも美味しいとは言えないものだったな……。僕に食べさせてくれた職員の人はとても優しい人だったから、毎回こんな食事ですいませんって謝ってたけど……。

 

 

「どうする、将冴?」

 

「それじゃ、そうしようかな」

 

「わかった。では食堂に行こうか」

 

 

久しぶりの食堂……何を食べようかな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

パーンッ!

 

「えっ?」

 

 

食堂に入った瞬間、たくさんの破裂音とともに、色とりどりの紙吹雪が僕の目の前を舞っていた。紙吹雪の先には一夏やラウラ、シャル……1年1組のみんなに鈴と簪さん、専用機持ちの先輩方、生徒会のお二人、先生方……。

 

天井には「将冴おかえり」と書かれた横断幕が吊るされている。

 

 

「これっ……て……」

 

「これはな、将冴が帰ってくるって聞いたから俺が……」

 

「兄さん!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 

一夏が何かいい終わる前に、ラウラとシャルが僕に抱きついてくる。ラウラはともかく、シャルまで……。

 

 

「し、心配したぞ、兄さん……もう戻ってこないんじゃないかって」

 

「本当に、お兄ちゃんは僕たちにどれだけ心配かけさせるのさ!」

 

「ラウラ……シャル……ごめんね。ちゃんと帰ってきたよ」

 

 

2人の背中をポンポンと叩くと、涙でくしゃくしゃの顔を上げた。2人とも、本当に心配してくれたんだ……。

 

言葉を遮られてしまった一夏がなんだか気恥ずかしそうにしてるから、そろそろフォローしてあげないと。

 

 

「一夏、ありがとう。織斑先生から許可もらうの大変だったでしょ?」

 

「お前が帰ってくるんだ。これくらいはしないとな」

 

「あら一夏君。生徒会長である私に泣きついてきたのはどこの誰だったかしら?」

 

「うっ、それは……」

 

「あと、クラリッサ先生や山田先生にも頼み込んでいたな」

 

 

楯無さんと箒に小突かれながら暴露された一夏は、さらに恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

 

「将冴君、本当に、本当にぃ……ううっ」

 

「山田先生、泣きすぎですわよ」

 

「そういうセシリアだって涙目じゃない」

 

「凰さん、も……目が潤んでる……」

 

「ほらほら、せっかくのお祝いなんだから、メソメソしない!みんなグラス持って!」

 

 

楯無さんの言葉で、みんながグラスをもち、ラウラとシャルが僕とクラリッサのグラスを持ってきてくれる。

 

 

「じゃあ、将冴の帰還と……」

 

「クラリッサ先生との婚約を祝しましてぇ〜」

 

「「えぇ!?」」

 

『乾杯!』

 

 




短くてすいません……。

ここがキリが良かったんだ……。


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2人の時間

メリークリスマス(遅

クリスマス番外編とか書こうと思ったら予想外に書く時間なくて大爆死。

後日談更新も滞ってしまい申し訳有りません。

年末年始は忙しいですよね……ね?


 

楯無さんが言った婚約のことを言及する間もなく、僕はクラスメイトのみんなに囲まれて「おかえり」だの「宇宙はどうだった」だの「結婚式はいつ」だの質問攻めにあってしまった。楯無さんが人ごみの奥でしてやったり顔してる……やっぱり遊んでたな……!

 

 

「婚約……?いいのか、していいのか?いや、しかし、今の私は実習生とはいえ教師で……」

 

 

クラリッサは楯無さんの言葉を間に受けて真剣に悩んでいるし……。まぁ、そのうち考えなきゃとは思っているけど……。

 

でも、その前に……

 

 

「そんなにいっぺんにも話されても答えられないから……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

休む暇なくされる質問に、答えられる範囲で答える。話せない機密とかもあるからその辺ははぐらかしつつだけど。ダイモンのことは、千冬さんから軽く説明があったみたいで知っているようだったけど。

 

一通り話したところで、クラスメイト達の第一声はというと……

 

 

「1年1組の弟を拘束するなんてIS委員会許すまじ」

 

 

……という何とも間の抜けた答えだった。

その弟ってやつ久しぶりに聞いたよ。

 

そのあとは、食堂の職員の人が作ったオードブルなんかを食べながら、この1週間何があったかを一夏達に聞いた。機密扱いのこととかも聞かなきゃいけないからね。

 

 

「この1週間は、そうだな……ダイモンの要塞の残骸が海に大量に沈んだのと、束さんが校舎を直していったことくらいか?」

 

 

やっぱり、残骸落ちてたんだ。まぁ、海に沈んだなら大丈夫だろう。あれだけ大きな爆発だったから復元も難しいだろうし、これ以上ダイモンの兵器が使われることはないだろう。

 

 

「そうだね。……あとは、マドカのことかな」

 

「マドカがどうかしたの?……そういえば姿が見えないけど……」

 

1組のみんなが揃っているのに、マドカだけがこの場にいなかった。束さんのところにいるのかな?それとも、もう僕の警護が必要なくなったから学園を……

 

 

「将冴がIS学園に連れていかれてから、姿が見えないのよね。あのスコールとオータムっていう人達も」

 

「姉さんに連絡して、行方を聞こうと思ったんだが……今忙しいらしくてな。話せていないんだ」

 

 

束さんが箒をそっちのけで何かやっている?とても考えにくいけど、それだけの事が……?

 

話を聞かなきゃいけないな。多分、ダイモンに関わることだ。

 

 

「他は特に目立ったことはなかったぞ、兄さん」

 

「そっか……ありがとうみんな。聞きたいことはだいたい聞けたよ。やっぱり、1週間も外界から遮断されると、それだけで置いてかれた気がして……」

 

 

ダイモンのこともそうだけど、各国の政府が動きを見せてないようならようやくゆっくり過ごせそうだ。

 

IS委員会から戻ってすぐに政府から出頭命令なんてきたら、流石に僕も頭が痛くなるよ……。

 

 

「あ、そうだ。みんなに頼みがあるんだけど……」

 

「何だ?」

 

「何でも言ってくれ、兄さん!」

 

「えっと……1週間分の授業ノート見せてくれる?」

 

 

1週間置いてかれてしまっては、進級が危うい……ただでさえ怪我やらであまり出席できていないのだから……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「楯無……」

 

「く、クラリッサ先生、顔が怖いですよぉー?」

 

「あまり適当なことを吹聴していると、さすがの私も怒るぞ」

 

「もう怒っているんですが……」

 

「返事は?」

 

「は、はい……」

 

 

全く……これでまた他の先生方にいじられてしまう。

 

しかし、将冴と……。

 

 

「楯無の言葉を間に受けているのか?」

 

「織斑先生……」

 

 

まだ勤務中だというのに、その手には泡だつ黄金色の飲み物が……

 

 

「飲んでいるのですか?」

 

「気にするな。それで、将冴とのことを考えていたのだろう?」

 

「……ええ」

 

 

一夏達と談笑している将冴眺めながら、私は今後のことを考えた。

 

ダイモンとの因縁がようやく断ち切られ、将冴を縛るものはなくなった。だからこれから将冴は自由に過ごすことができる。ISに乗れるということからは逃れられないが、この学園を卒業すれば束さんのところや各国の国家代表になることだって難しくないだろう。

 

……私のような、ドイツの軍人1人がどうこうしていいものではない。そのようなことを考えていた。

 

 

「……余計なことは考えるな。お前のやりたいようにやればいい」

 

「しかし……」

 

「その程度の覚悟で、将冴との恋人になったのか?」

 

「……」

 

「お前が将冴から離れたら、おそらく引く手数多だろうな。ナターシャ・ファイルスに束、山田もそうだな。あとは束のところにオータムという奴も……」

 

「それはっ……!」

 

「嫌だろう?だから、余計なことは考えずに将冴のそばにいてやれ。将冴も、それを望んでいる」

 

 

将冴も……望んでいる……。

 

 

「今日は一緒にいてやれ。明日も学校は休みだから、ゆっくりすることだ」

 

 

織斑先生はそれだけいうと、食堂をあとにした。

 

そうだな……今日は、将冴と……。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

パーティは昼休み終了のチャイムとともに終わりを告げ、片付けが始まった。僕はというと、主賓が手伝う必要はないとみんなに言われ、クラリッサと部屋に戻ることとなった。

 

1週間ぶりに戻った僕とクラリッサの部屋に、何だか懐かしさを覚えた。

 

クラリッサは僕をベッドに腰掛けさせてくれたあと、コーヒーを淹れていた。

 

 

「ようやく柔らかいベッドで寝れるなぁ。IS委員会のベッドは硬くて寝た気がしなかったんだ。それに、1人で寝るのは何だか寂しくて。クラリッサと一緒に寝れないのが、こんなに心細いとは思わなかったよ」

 

「私も、1人でこの部屋で過ごすのは寂しかった。ふふ、おかしいな。将冴が留学に行った時は2週間も会えなかったのに、あの時より寂しかった。ほら、コーヒーだ」

 

「ありがとう」

 

 

クラリッサは僕の隣に腰掛けながらコーヒーを渡してくれる。このコーヒーも久しぶりだ。

 

僕はコーヒーを一口すすり、ホッと一息つくと、クラリッサにそっと体を寄せた。

 

 

「将冴?」

 

「会えなかった分の補給」

 

「……じゃあ、私もだ」

 

 

クラリッサは僕の頭を撫で始める。クラリッサがこういうことをしてくるのは珍しいけど……うん、心地いいからいいや。

 

 

「やっと、だな」

 

「うん。父さんと母さんに、報告に行かなきゃね」

 

「そうだな。ダイモンは……いや、何も聞かないでおこう」

 

「……ありがとう。あまり、話したくないことだったから……」

 

 

両親の仇、世界の敵とはいえ、僕がダイモンを殺したことに変わりはない。

 

明確な殺意を持って……。

 

 

「……話さなくてもいい。私がそばにいる」

 

「うん……」

 

 

自然と、クラリッサと顔を向かい合わせ、ゆっくりと唇を重ねた。

 

 

「……コーヒーの味」

 

「ふふ、久しぶりのキスは苦かったか」

 

「本当だね」




次回から、平穏な日常がつづきます。多分。


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電話と嫉妬

新年あけましておめでとうございます。今年もひっそりやっていくのでよろしくお願いします。

今回と次回辺りで、ダイモンの後処理の話は一旦区切りとなります。今後の予定としては……一夏や他の仲間達に少しスポットを当てていきたいなと思います。それと、ここからは時間が大きく進むこともあると思いますので、ご了承ください。


 

IS学園に戻ってきて1週間が経った。

 

戻ってきて心配だったのが1人だけ遅れてしまった授業のことだけど、織斑先生と山田先生が補習を組んでくれたおかげで、すぐに授業に追いつくことができた。

 

それと、学園祭の後始末もしていた。どうやら、僕がいない間に全校集会を開いて、楯無さんが正式に僕を副会長に任命したとのこと。生徒会メンバーになったからには、仕事をしなければならない。楯無さんと虚さんには、次の行事から手伝ってくれればいいとは言われたけど、それでは僕の気が済まない。

 

そんな感じで、補習と生徒会をこなしていたらあっという間に1週間が過ぎていた。部屋でそのことを振り返っていると、シャワー上がりのクラリッサがタオルで頭を拭きながらシャツ一枚という格好で出てきた。……最近、無防備すぎませんかね、僕の彼女さんは。

 

 

「将冴、どうかしたか?少し疲れたような顔をしてるが……」

 

「うん……この1週間は、なんか色々とやることあったなぁって思ってね。おかげで、ごちゃごちゃと考えなくて済んだなって」

 

「そうか。だが、それでよかったのではないか?将冴は、もうなんのしがらみも無いんだ。今を楽しめばいい」

 

「そう……だね。うん、そうする」

 

 

クラリッサの言う通りだ。色々と考える必要はない。ダイモンとのことは、僕がこの手で終わらせたんだから。

 

クラリッサが僕の頭を抱き寄せると、優しく頭を撫でてくれる。シャワーから上がったばかりのクラリッサは、とても暖かくて、シャンプーのいい香りがする。

 

 

「何かあっても、私がいる。いつでも頼ってくれ」

 

「そうするよ、クラリッサ」

 

 

顔を上げると、少し熱っぽい目をしたクラリッサと目があった。そしてそのままゆっくりと顔が近づき、唇がふれ合おうとした時……

 

 

ピリリリリッ!

 

 

僕の携帯がけたたましく鳴り響いた。

 

 

「ふふ、タイミング悪いね」

 

「まったくだ……相手を蹴飛ばしてやろうか……」

 

「千冬さんや束さんでも同じ言葉言える?」

 

「それは……」

 

 

クラリッサはバツの悪そうな顔をしている。ふふ、こういう表情もかわいいな、本当に。

 

携帯の液晶を見ると、そこにはナターシャ・ファイルスと書かれていた。あぁ〜……クラリッサが本当に蹴飛ばしに行きそうだ……。

 

通話状態にして、携帯を耳に当てる。

 

 

「はい、柳川でs『ショウゴどうして連絡くれなかったの!?』

 

 

キィンと耳に鳴り響く声が……。

 

 

「お久しぶりですナターシャさん。その節では大変お世話に……」

 

『そんな丁寧な挨拶はいいの!IS委員会の拘束が解かれるのを今か今かと待ってたのに、ショウゴったら何も連絡をよこさないんだから!チフユにさっき電話で聞いたら、1週間前には戻ってたっていうじゃない!!ショウゴにとっての私ってその程度の女だったのね……!』

 

 

ああ、なんだかとても面倒くさい状態に……さてどうしたものか。まぁ、すっかりアメリカ組に連絡するの忘れていた僕も悪いんだけどさ……。

 

あと、クラリッサ。ナターシャさんの名前聞いた途端に頬膨らませて僕を後ろから抱きしめないでください。色々と耐えられません。

 

 

「ごめんなさい、ナターシャさん。色々とバタバタしていて連絡することができませんでした。そちらはお変わりありませんか?」

 

 

秘技・会話すり替え

 

 

『ショウゴを助けに行く時に結構無茶したせいで、3ヶ月の減給処分よ。ジェニーとステフは、お咎めなしだったけどね』

 

「なんでナターシャさんだけ?」

 

『福音を持ち出したからよ。戻ってきたことも軍に伝えてなかったから余計に怒らせちゃってね。減給だけで済んでよかったわよ。軍をやめるなんてことになったら、ショウゴに養ってもらわないと』

 

「ははは、丁重にお断りします」

 

『ショウゴ、なんだか私に冷たくない!?』

 

 

いやまぁ……ちょっと面倒くさいなと思い始めてますから……。あと、クラリッサがどんどん不機嫌になるので……。

 

 

『まぁ、いいわ。今度何かあったら私にも伝えてね。いつでも駆けつけるから』

 

「はい。そうします」

 

 

通話を切るとクラリッサが僕を抱きしめる力を強めた。嫉妬するクラリッサかわいいなぁ……

 

 

「ふふ、相手がナターシャさんだったから、ちょっと怒った?」

 

「……少し」

 

「じゃあ、ご機嫌取りしなきゃね」

 

 

クラリッサの頬にキスをすると、途端にクラリッサの表情が緩む。僕の彼女さんは、これだけで許してくれるみたいだ。

 

 

「機嫌治った?」

 

「う、うむ……」

 

「よかった。そろそろ寝よっか。お互い疲れたし」

 

「将冴。その……」

 

「……ん?」

 

「明日は、休みだから……その……」

 

「ああ……じゃあ」

 

 

僕はクラリッサに口づけしながらベッドに倒れこんだ。




このあと滅茶苦茶ックス。



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亡国機業の崩壊

この話を読む前に、作者の活動報告「作者からのお願い。」を先に読んでください。

重要なことが書いてあるので、宜しくお願いします。


クラリッサと夜の……事をした翌朝。

バーチャロンを介して、束さんから連絡が入っていた。

 

なんでも、1人で外に来てほしいとのこと。迎えを行かせるとも書いてあるから、多分ラボへ来いということだ。横で寝転がっているクラリッサにそのことを話すと二つ返事で了承を得た。

 

 

「束さんが呼ぶなら余程のことだろう。織斑先生には私から伝えて外出届けを出しておくから、気にせず行ってくるといい」

 

「うん、ありがとうクラリッサ」

 

 

まったく、クラリッサは最高の彼女です。感謝の気持ちも込めてキスすると、一瞬で顔を真っ赤にして枕に顔を埋めてしまった。もっとすごいことやってるのに、相変わらず不意打ちに弱いなぁ。

 

僕は手早く準備を済ませ、まだ枕を手放せないクラリッサに一言声をかけた。

 

 

「行ってくるね、クラリッサ」

 

「い、行ってらしゃい……」

 

 

外に出て、モノレールに乗り学園の外に出ると、そこには見覚えのある車がある。たしかあれは、オータムさんの……。

 

そう考えていると、運転席からオータムさんその人が出てきた。やっぱりそうだったか。

 

 

「よう、将冴。早いな」

 

「束さんからの呼び出しなら、すぐに行動しないといけませんからね。何されるかわかりませんから」

 

「その通りだな。ほら、車に乗りな」

 

 

オータムさんに促されるままに助手席に乗り込むと、オータムさんは車を発進させる。こうやってオータムさんの車に乗るのも夏休み以来か。

 

 

「そうだ、将冴」

 

 

運転しながら、オータムさんが声をかけてくる。僕はオータムさんに顔を向けると、少し照れ臭そうにオータムさんは小さく呟く。

 

 

「よく、やったな。お前なら出来るって、信じてた。スコールも、マドカもな」

 

「オータムさん……」

 

「まぁ、あれだ。これで、お前は本当に自由だ。これからはダイモンとか気にしないで楽しめばいい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

オータムさんはそれだけ言うと、目的地であるラボまで口を開かなかった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

あの道路を勝手に改造した入り口から車で侵入して、ラボに到着した。いつ見ても、あれはなんだか秘密基地っぽくて胸が熱くなる。

 

車を降り、駐車場からラボに入った瞬間、車椅子に座っていた僕の上にドスンと何かが落ちてきた。だいたい誰かはわかるけど……。

 

 

「やっほー!しょーくんだぁ!会いたかったよぉ!寂しかったよぉ〜!!さぁ、しょーくんも寂しかったでしょ?思う存分、私の体を堪能してもいいんだよぉ!?」

 

「束さん、お久しぶりです。お変わりありませんか?」

 

「しょーくんのスルースキルがジャンプアップしている!?」

 

 

もう慣れました。

 

僕の反応が面白くなかったのか束さんは、そそくさと僕の上から降りると、改めて向き直った。

 

 

「さて、しょーくん。元気そうで何よりだよ。IS委員会潰そうかどうか悩んでいるところだったんだ」

 

「できればやめてあげてください」

 

「しょーくんならそう言うと思ったよ。おーちゃん、みんなを呼んでくれるかな?」

 

「あいよ」

 

「さ、しょーくん。長かった因縁の結末を聞かせてあげよう」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

束さんに車椅子を押され、いつもの食堂に連れてこられると、あとからオータムさんがスコールさん、マドカ、クロエさんを連れて入ってきた。

 

マドカ、学校にいないと思ったら、やっぱり束さんの元にいたんだ。

 

全員が席に着いたところで、最初に口を開いたのはスコールさんだった。

 

 

「将冴君、元気そうで良かったわぁ。ISで宇宙に行くなんて、どんな健康被害が出るかわからなかったから」

 

「今更怖いこと言わないでください……」

 

「しかし、本当に危険なんですよ、将冴様。できれば、帰ってきたらこのラボで検査をしたかったのですが、IS委員会がすぐに将冴様を拘束してしまいましたから……」

 

「まぁ、委員会で検査して、問題なかったですから。大丈夫ですよ……ははは」

 

 

途端に不安になってきた。束さんに頼んでもう一回検査してもらおうかな……いや、なんか怖いからいいや。

 

 

「それで、束さん。今日僕を呼んだのは……」

 

「ああ、それはねぇ。ダイモンがいなくなった後の影響を報告しようと思ってねぇ」

 

 

ダイモンがいなくなった影響……それはいい方向なのか、悪い方向なのか……。

 

 

「詳しくは私が話すわねぇ」

 

 

スコールさんが?

 

 

「将冴君、なんか難しい顔してるけど、そんな悪い話じゃないわ。むしろいい話よ?」

 

「いい話?」

 

「将冴君が前にここに来た時に話したかしら。私とオータムが篠ノ之博士のところに来る前は、ダイモンが牛耳っている組織にいたってこと」

 

「はい。たしか亡国機業(ファントムタスク)、でしたっけ」

 

「ええ。その亡国機業なんだけど、世界で大きな影響力を持つ組織だったの。それこそ、ほとんどのテロ組織とつながりがあるくらいに、ね」

 

 

僕はつくづくすごい相手を敵にしていたんだな……。

 

 

「で、将冴君がその大ボスを倒したことで、亡国機業は大ダメージを受けたわけ」

 

「それじゃ、僕がその亡国機業を壊滅させたっていうことですか?」

 

「きっかけにはなったけど、それだけじゃ潰すことはできなかったのよ。だから、私とオータム、マドカで追い打ちをかけたのよ」

 

 

まさか、マドカが学校に来てなかったのは、亡国機業を完全に潰すため?

 

こんなこと、織斑先生が聞いたらなんて言うか……。

 

 

「マドカ、このことは織斑先生とかには……」

 

「言ってない」

 

「だよねぇ……」

 

 

これは黙っておこう……うん。それがいい。

まぁ、とにかく、この3人が亡国機業を壊滅させてきたということなんだよね?

 

3人ともすっごく強いから何も心配はしてないけどさ、もしマドカが怪我なんてしていたら……みんなへの言い訳を考えるだけで鳥肌が出る。一応従姉妹という設定なんだからね!?

 

 

「まぁ、そんな感じで、ダイモンを倒したことで、世界中のテロ組織の力が激減。すでに多くのテロ組織が空中分解。大きな組織も、この2週間で私たちがあらかた潰したわ」

 

「大変だったんじゃないんですか?」

 

「2週間で世界一周だぜ?大変じゃないわけないだろ」

 

 

とても申し訳ない……僕がIS委員会に捕まってゴロゴロしている間、スコールさんたちは……。

 

 

「僕も行ければよかったんですが……」

 

「いいんだよ、お前はもっと大きな仕事してきたんだから」

 

「あら、オータム。ずっと愚痴ってたの誰だったかしら?」

 

「嬉しそうな顔で、『なんで私が将冴の後始末なんか』って言ってたな。あの時の笑い顔、写真撮っておいたぞ」

 

「な!?ま、マドカてめぇ!?」

 

「うそ!まーちゃん、それ見たい!くーちゃん、モニターに映してみんなで鑑賞会しよう!」

 

「かしこまりました」

 

「お前らいい加減にしやがれぇ!!」

 

 

僕も見てみたいなぁ……クラリッサも見たいっていうかな?




前書きでも書きましたが、活動報告の方に目を通していただけると嬉しいです。

次回から、一夏たちにスポット当てて話を書いていきます。


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コイバナ(?)

お久しぶりです。

更新遅くなってしまい申し訳ありません。テストとか……新作ゲームとか……色々ありまして……←

今回から本編で完全にモブと化していた一夏にスポット当てたいと思います。


 

様々なゴタゴタ……主にダイモン関係のものがほぼ完全に終息を迎え、いつもの日常が戻って2ヶ月ほど経った。

 

ダイモンとの戦いのときはまだまだ暑苦しさが続いていたのに、最近はぐっと冷え込み、普段車椅子の僕はブランケットを手放せなくなっていた。

 

暑いのは耐えられるんだけど、寒いのはどうも苦手だ。心なしか、義肢の動きが悪い気がするし……。手袋をしている手と手を擦り合わせ、はぁっと息をはいた。義手だけど、感覚は普通にあるから寒いなぁ。

 

 

「将冴、部屋の中寒いか?暖房、強くしようか?」

 

「ううん、大丈夫だよ一夏。すぐに暖かくなるだろうし」

 

「そうか。それじゃ、それまではこのコーヒーで我慢してくれ」

 

「ありがとう」

 

 

一夏から熱いコーヒーを受け取り、ゆっくりと口に含んで行く。

 

僕は今、一夏の家に来ていた。ちょうど連休が合わさり、一夏は家の掃除をしに帰るというのでついてきた。クラリッサも途中まで一緒だったんだけど、一夏と同じように家に帰ってきていた千冬さんに捕まり、そのまま連行されていった。多分、朝までコースだろう。帰ってきたら、ちゃんと看病するから、頑張って……。

 

コーヒーを啜りながら、そう考えていると、一夏が僕のことをジッと見ていることに気がついた。

 

 

「一夏、どうかした?」

 

「いや、なんか将冴が考えてることがなんとなくわかった気がしてさ。こんなこと初めてだからよ」

 

「わからなくていいんだけど……それで、僕が何を考えていたって思うの?」

 

「クラリッサ先生のこと」

 

 

あれ、一夏ってこんなに鋭かったっけ……。

 

いや、一夏にも見透かされるほど僕がわかりやすかったんだ……。

 

 

「最近の将冴さ、なんか昔より接しやすいぜ。前は、ダイモンの一件とかもあったりしたせいで、周りと少しだけ距離置いてる感じがしてたからさ」

 

「んー、なんかよくそう言われるけど、自覚ないなぁ。まぁ、前より接しやすくなったんなら、それでいいんじゃないかな」

 

「軽いな……」

 

「適度にテキトーに過ごさないとね。うまく世渡りするコツだよ」

 

「俺と同い年で俺に世渡りの方法教えるのかよ」

 

「確かに」

 

 

そう言うと2人で笑いをこぼす。ああ、こんな時が過ごせるだけでなんとも言えない幸福感を覚える。

 

コーヒーを飲み終わり部屋も暖かくなってきたところで、僕は一夏に質問してみるとにした。

 

 

「一夏、最近どう?」

 

「どうって、何が?」

 

「箒達とは、うまくやってるの?」

 

「ああ、まぁ、うまくやれてんじゃねぇかな。相変わらず、よくわかんないことで怒られるけど。この間なんて、箒に買い物付き合ってくれっていわれたから、それなら人数が多い方がいいと思って鈴とセシリアも誘ったんだけど、3人とも怒って手のつけようがなかったぜ」

 

 

ああ、相変わらずなんだねこの唐変木は。

 

もうわざとなんじゃないかと思い始めてるんだけど、多分これが素なんだよなぁ……。

 

 

「将冴こそどうなんだ?クラリッサ先生とは」

 

「ん?どこまで話せばいい?」

 

「どこまでって……」

 

「話せというなら週に一回の夜の情事まで事細かに話すけど」

 

「あ、うん、もう聞かなくてもいいや」

 

 

ここにクラリッサがいたら顔を真っ赤にして、頭から湯気出してるだろうなぁ。因みに、週に一回というのは嘘だからね。2週間に一回くらいだからね?

 

っと、一夏の話を逸らされるところだった。

 

 

「ねぇ一夏。なんで3人に怒られたのか心当たりはないの?」

 

「ないけど」

 

 

即答ですかそうですか。

 

 

「はぁ……ねぇ一夏。少しは考えないの?その3人が一夏に気があるんじゃないかって」

 

「いや、それこそないだろ。箒と鈴はただの幼馴染だし、セシリアなんてイギリスの貴族でエリートだぜ?」

 

「それがどうしたの?」

 

「え?」

 

「人を好きになるのに、そういうの関係ある?」

 

 

もう僕がはっきり言わないと分からないだろうから、今日は強気に行かせてもらおうか。

 

 

「一夏。僕とクラリッサを見てみなよ。7歳差で、学生とドイツ軍人だよ?」

 

「……」

 

「一夏、そろそろ自覚したら?……あの3人には悪いけど、僕から言わせてもらうよ。3人とも、一夏の事が好きなんだよ。男として」

 

 

さぁ、ここまで言ってやった。これで自覚しなかったら、僕はもう打つ手がない。一夏は一生独身だ。

 

一夏は考え込むように頭を抱えている。今までの3人のやり取りを振り返っているようだ。

 

 

「将冴……マジなのか?」

 

「こんな嘘ついてなんの得があるのさ」

 

「だよ、な……」

 

「それで、ようやく気がつけた?」

 

「お、おう……なんか、そう思うと納得できる気がしてきた……」

 

「よし。じゃ、僕は帰るね」

 

「え!?」

 

「1人で大いに悩むがいい、少年よ〜」

 

「だから、俺とお前は同い年だって!」

 

「僕は経験あるから、一夏より先輩だから。がんばれ一夏。休み明けが楽しみだなぁ!」

 

 

僕は最後に煽るような台詞を吐いて、一夏の家を出て行った。それと同時に、ラウラとシャルからお誘いの連絡を受けたので、3人で遊びに行くのだった。

 

 

 

 

 

クラリッサは予想通り朝にグッタリした顔で帰ってきたので、看病してあげた。




一夏、ようやく唐変木脱却←

さて、これからどうなるやら←


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一夏の変化

どうも皆さん。
最近ハンターになってモンスター狩りまくっている作者です。

後日談は前のようにほぼ毎日更新していないですが、そこのところ読者の方々はどう感じているのかなぁと考えるこの頃です。後日談で考えているネタはそこまで多くはないですが、このペースだと結構かかるかもしれませんね。

そろそろスピンオフで千冬ヒロインやオータムヒロインの短編なんかもあげたいなぁと考えています。あと新作の方もですね。近々報告できたらなぁと思います。


 

連休明け、一夏に色々吹き込むだけ吹き込んだ僕は、今日一夏がどんな様子か気になっていた。そのことでずっとそわそわしていたせいか、クラリッサにいつも以上に心配されてしまった。

 

まぁ、それほど一夏がどうなったのか気になっていた。

 

そろっと教室を覗き込む。今日は遅めに来たから、もう一夏は来ていると思うけど……。

 

 

「……」

 

 

頭抱えて机に突っ伏してる。散々悩んで、結局どうすればいいかわからなくなったってところかな。箒達はまだ来ていないようだけど……

 

 

「将冴、そんなところで何をしているんだ?」

 

「教室に入らないのですか?」

 

 

噂をすれば、箒とセシリアが僕の事を訝しむような目で見ていた。教室に入らないで覗き込んでたら、そりゃ怪しいよね……。

 

 

「やぁ、2人とも。ちょっと気になったことがあってね。大したことじゃないから、気にしないで」

 

「うむ……ならばいいのだが」

 

「何かありましたら、私たちを頼ってくださいまし。……とはいえ、ハルフォーフ先生もいらっしゃいますから、いらない心配だと思いますが」

 

「そんなことないよ。気にかけてくれてありがとう。さ、教室に入ろうか。先生もすぐ来るだろうし」

 

 

3人で教室に入り僕は突っ伏している一夏の元に向かった。僕の後ろには箒とセシリアがいるし、こういうときに一夏をからかうとおもしろ……ゴホン。

 

 

「おはよう一夏」

 

「ん、将冴か。おはよ……っ」

 

 

僕の後ろにいる箒とセシリアを見て一夏の顔が引きつる。

 

 

「おはよう一夏。朝だからとだらけてないで、シャキッとしたらどうだ」

 

「朝は1日の始まり。スタートダッシュが遅れてしまいますと、力が出ませんわよ?」

 

「え、あ、そ、そうだなっ!」

 

 

あー、だめだ。ここで吹き出したらだめだぞ〜。もう少し一夏のギクシャク具合を確かめるんだ。

 

 

「良かったね、一夏。心配してくれる人がいて」

 

「将冴、お前……」

 

 

僕の顔がニヤついているのがわかる。箒とセシリアからは見えないだろうけど、心底一夏をイラつかせる顔をしているだろう。

 

 

「一夏のことは箒とセシリアに任せて、僕は自分の席に行くね」

 

 

一夏に噛み付かれる前に退散退散。自分の席につくと、ラウラとシャルが僕の席に近づいてくる。

 

 

「おはよう兄さん」

 

「お兄ちゃんおはよう」

 

「おはよう、2人とも。シャル、あからさまに僕を弄ろうとするときにお兄ちゃん呼びするのわかってるからね」

 

「やっぱり?」

 

 

シャルの腹黒数値がここ最近ガッツリ上がっている気がするよ。僕がIS委員会から戻ってきてからくらいかな……。

 

 

「兄さん、さっき一夏と何やら話していたが、何かあったのか?見たことないような顔をしていたぞ」

 

 

そう言いながら、ラウラは僕の膝の上に座った。最近、よくくっついて来るなぁ……シャルの腹黒数値が上がったあたりから。

 

というか、さっきの見られていたか。……2人に話してもいいけど、ここで話すのもアレだしなぁ。

 

 

「ちょっとね。昼休みに、ご飯食べながら話すよ」

 

「そうか」

 

「将冴があんな顔をするほどの案件なんて……余程のことだよね?」

 

「まぁ、それは後のお楽しみってことで」

 

 

僕は1限目の準備をしながらラウラ達と談笑していると、教室の後ろの扉が開き少し眠そうな鈴が入ってきた。

 

昨日夜更かしでもしたのかな。

 

 

「おはよう、鈴」

 

「ん、おはよう将冴。それに妹ズ」

 

「その括りはどうなのかなぁ……あはは」

 

「間違いではないからいいのではないか?」

 

 

鈴くらいだけどねぇ、妹ズとかいうの。

 

っと、そうだ。

 

 

「鈴、一夏なら箒とセシリアといるよ。朝から2人が甲斐甲斐しくお世話してるみたいだけど」

 

「ムッ、行ってくる!」

 

 

鈴は眠そうな顔から不機嫌そうな顔に変わり、一夏の元へ……そのままその集団に突っ込んで一夏にヘッドロックしてる。

 

あ、一夏の顔がいつも以上に真っ赤だ。

 

 

「ふふ、いやぁ、見てて面白いね、あのグループ」

 

「兄さん……よからぬことでも企んでいるのか?」

 

「僕も一枚噛ませてくれる?」

 

「昼休みに全部話すよ〜」

 

 

さて、一夏は今後どうなるか見ものだね。




一夏は意識し始めてギクシャクし、将冴は外目からニヤニヤする。ついでにシャルもニヤニヤし始めて、クラリッサはどう反応したものか困り果て、ラウラは平常運転


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千冬、困惑する

とっても更新が遅れて申し訳ありません。

この時期って何かと忙しいですよね……。言い訳ですね、すいません。



 

昼休み。僕はいつものようにクラリッサ、シャル、ラウラと食堂で昼食を食べていた。新しいメニューの牛カツ定食を頬張りつつ、3人に今一夏が置かれている状況について説明していく。

 

 

「……とまぁ、そんな状況なわけなんだ」

 

 

説明を終えて、牛カツを一切れ口に運ぶ。これは美味しいな。塩つけてもわさびつけても美味しい。これで千円いかないなら毎日でも食べたいくらいだ。コスパとかどうなってるんだろう。

 

 

「完全に将冴が戦犯なんだね」

 

「戦犯なんて言い方は酷いなぁ。ちょっと煽っただけだよ」

 

「そもそも煽る必要があったのか、兄さん」

 

「これくらいしないと、一夏はいつまで経っても唐変木だったから仕方ないよ。まぁ、これ以上煽るつもりはないけどね。あとは当人達の問題だから」

 

 

ここからは遠くから眺めていた方が面白い。下手に関わると面倒なことになりかねないしね。

 

 

「しかし、将冴。本当に将冴が煽っただけで、一夏のそれが変わるのか?将冴と一夏は小さい時から一緒と言っていたし、これまで指摘したこともあるのではないか?」

 

「まぁ、指摘はしてきたけどね……あの唐変木はそんなの意に介さず、いつも通り過ごしていたよ。それに、その頃はそこまで強くは言わなかったんだ。一夏が超絶鈍感なのは周知の事実だったからね。みんなも半ば諦めてたよ」

 

「それじゃあ、なんで今になって将冴は一夏に?」

 

 

なんで、と言われると明確な理由は無いんだよなぁ。単純にそういう話になったからっていうのが本音なんだけど、無理やり理由をつけるとしたら……。

 

 

「僕の心境の変化、かな?」

 

「将冴の?」

 

「うん。ようやく僕の周りのゴタゴタが落ち着いたからね。少し余裕が出来たってのが一番大きいかな。前までは、一夏に関する色恋沙汰にはそこまで深く突っ込まなかったんだけどね。ゆとりがある状態で一夏の話聞いてたら、なんだか色々と物申したくなったんだ」

 

 

あと、僕が普通とは違う恋愛しているのも関係しているかもしれない。でもこれを言うとクラリッサが傷つくかもしれないから、言わないでおこう。

 

お話ばかりしていても仕方ないので、そそくさとご飯を食べ終わり、クラリッサ達が食器を片付けている間(僕の分はクラリッサが片付けてくれた)、僕は1人お茶を啜りながら今日の放課後どうしようか考えていた。

 

誰かとISの訓練をする予定も無いし、生徒会の方も大体の仕事は終わらせて、仕事放り出してる楯無さんがチェックしてくれるまで次の仕事は無いし……。

 

 

「暇、だな……」

 

「暇なら、放課後時間をもらってもいいか?」

 

 

唐突に声をかけられて目を向けると、そこにはいつものように腕を組んで立っている織斑先生がいた。さすがにこれはびっくりする。

 

 

「織斑先生!」

 

「そんなに驚くことは無いだろう。私だって、学食に来る」

 

 

いやまぁ、そうなんだけど……突然現れるとびっくりしますって……。

 

 

「す、すいません。……えと、放課後でしたっけ」

 

「ああ、少し話したいことがある。悪いが付き合ってくれ」

 

「わかりました」

 

「クラリッサも一緒でいい。それでは、頼んだ」

 

 

織斑先生はそれだけ言うと食堂を後にした。はて、何かしただろうか?と、ここでクラリッサ達が戻ってくる。

 

 

「将冴、今織斑先生がいなかったか?」

 

「うん、なんか用事があるって……僕何かしたっけ?」

 

「織斑先生にはしてなかったけど、一夏にはしてたでしょ」

 

「あぁ〜……」

 

 

あれで弟思いだからね、織斑先生。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

言われた通り、放課後に織斑先生の元へ行くと、生徒指導室へ連れて行かれた。やっぱり一夏のことなのかな?

 

 

「すまないな将冴、クラリッサ。時間をもらって」

 

「いえ。大丈夫です」

 

「織斑先生、将冴に話というのは?」

 

「ああ、実は一夏のことなのだが……」

 

 

ああ、やっぱりそうだったんだ。

しかし、織斑先生がなにやら深刻そうな顔をしている。織斑先生が頭を悩ませるような案件では無いはずなのだけれど……

 

 

「一夏がどうかしましたか?」

 

「ああ……それが……」

 

 

言いづらそうに口を閉じるが、意を決したように話し始めた。

 

 

「あの一夏が、女性を好きになるってどういうことだ、と聞いてきてな」

 

「……あぁ〜」

 

 

クラリッサ、今少し笑いを堪えたでしょ。

 

 

「今までそんなこと聞いてきたこともなかったし、まさかあの鈍感な弟が言うとは思えない言葉を投げかけてきたものでな……一夏になにがあったか聞いても、なんでも無いとシラを切る。将冴、何か知らないか」

 

「えっと……」

 

 

僕が戦犯だと知ったら、織斑先生はどう思うだろう。でも話さないわけにもいかないし……。

 

 

「……何か知っているようだな」

 

 

目が全部話せと言っている。これは抗えない。うん、無理だ。試しにクラリッサに目を向けたけど、そっと逸らされた。

 

僕は全て話した。

 

話さなければならなかった……。

 

 

「……そうか。別に一夏が勝手におかしくなったわけでは無いのだな」

 

 

実の弟に対してその評価は如何なものか。

 

 

「まぁ、あとは一夏が勝手に悶々と考えてどうにかすると思います。僕らから下手に手出ししても、関係がややこしくなるだけだと思うので」

 

「そうだな……。2人とも、時間を取らせてすまなかった」

 

「いえ、元はと言えば、僕のせいでもありますから」

 

「だが、おかげで一夏はいい方向に転びそうだな」

 

「一夏が身を固めていないと、職員会議でも議題に挙がってましたからね」

 

 

一夏、君のその唐変木は職員会議にも持ち込まれるほどなんだね。まぁ、この学校で男は僕と一夏しかいないから当たり前だと思うけど。

 

 

「何か進展があれば教えてくれ。今日はもういいぞ」

 

「わかりました。それでは失礼します」

 

「失礼しました」

 

 

クラリッサと生徒指導室を出た。

 

 

 

 

 

「クラリッサ、さっき僕から目を逸らしたでしょ」

 

「その……すまない」

 

「甘いコーヒーが飲みたいな」

 

「戻ったらすぐ淹れよう」




ちまちま進行していきます。

今日中に新作あげれたらいいな……


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一夏ハーレムの変化

お久しぶりです。
1ヶ月近く更新できず申し訳ありません。

大阪滞在から帰ったあと、卒業式に引っ越しの準備諸々が重なり、ようやく落ち着きました。

新社会人になるので、頻繁な更新は難しいかもしれませんが、また宜しくお願いします。


 

一夏が箒たちを意識し始めてから数日が経った。

 

一夏は、事情を知らないクラスメイトたちから見ても様子が変だった。まぁ、箒たち3人のことを露骨に避けているところを見られたら誰だって気づきそうなものだけど。

 

僕やクラリッサ、シャル、ラウラなど、事情を知っているものからすれば、大変愉快で仕方ないのだけれど、他のクラスメイトはそうはいかない。様々な憶測が飛び交っている。

 

一夏が学外に女を作っただの、性欲が限界を迎えただの、酷い話ばかりだ。しまいには、男に目覚めたという話も出たとかなんとか……。それだけはさすがに違うと言っておいたけど、一夏がこのまま煮え切らない態度をとり続けると、また僕が出張ることになってしまう。介入しないでおこうと思ったけど、さすがにもう限界か……。一夏がしっかりしてくれればよかったんだけど。

 

そんなことを考えながら、僕は自室でクラリッサが毎週楽しみにしているアニメを一緒に見ていた。

 

 

「……将冴、また何か考え事をしているな」

 

「うん。一夏の事でね。そろそろ一夏が何かしらの行動をしないと、僕が強制的に出て行かなきゃいけなくなりそうで」

 

「どういうことだ?」

 

「それは……」

 

 

コンコン

 

 

説明しようとした時、部屋をノックする音が響いた。あちゃー、もうきたか……。

 

 

「ん?誰かきたようだな」

 

 

クラリッサが扉のところまで行き、ゆっくりと開くとそこには今回の件の当事者たちがいた。

 

 

「箒、セシリア、鈴。来ると思ってたよ」

 

 

予想より早かったけどね。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

3人を部屋へ招き入れ、コーヒーとお茶受けを用意した。

 

 

「突然押し掛けてすまない。将冴、クラリッサ先生」

 

「そんなこと気にしなくていい」

 

「そうそう。それで、今日は3人揃ってどうしたの?」

 

 

僕がそう聞くと、3人は言いづらそうに……いや、自分で口に出したくないような雰囲気を醸し出していた。

 

この3人が口にしたくないこと、ね……。

 

 

「一夏に嫌われたんじゃないか」

 

 

僕がそう口にすると、3人は面白いくらいに同時に反応した。あぁ、やっぱりか。

 

一夏にあんな態度取られたらそう思うよね。いつも超絶鈍感で、デートに誘われてもデートと認識しない男だし。その一夏があれだけ露骨に避けてるんだから、心配にもなる。

 

 

「まぁ、大体予想通りといったところだね」

 

「私たちが来ること、わかってたの?」

 

「一夏大好き3人組が、一夏に露骨に避けられてたからね。この学園のもう1人の男である僕のところに来るだろうなとは思ってた」

 

「毎度のことながら、あんた鋭すぎるわよ……」

 

 

鈴の声に覇気がない。そんなになるまで落ち込んでいたようだ。他の2人も同じく。

 

 

「将冴さん、私たちは一夏さんに嫌われてしまったのでしょうか?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「その……いろいろと心当たりが……」

 

 

あぁ、まぁ……結構物理的に痛めつけられてる時があるって言ってたっけ。一夏。

 

それでもいつも通り話してたのに、ここ最近はあの態度……不安になるのも無理はない。

 

さて、どうしたものか。3人は完全に一夏に嫌われたものと思っているだろう。かといって、ここで僕が「一夏は3人のことが気になっているんだ、女子として!」なんて言っても一夏のためにならないし……そうだな……。

 

 

「3人はどうしたい?一夏と以前のように接したい?それとも、それより先に行きたい?」

 

「っ……」

 

「それは……」

 

「……」

 

 

3人は黙り込んでしまった。仮にも恋敵がいる前で、そういうことを言うのは勇気がいるだろう。

 

 

「私は……」

 

 

一番最初に口を開いたのは鈴だった。

 

 

「もっと一夏と近づきたい。友達以上になりたい」

 

「わ、私だって!幼馴染のままは嫌だ!」

 

「私もですわ!このまま終わるなんてできません!」

 

 

ふむ、3人の意気やよし。ならば、すべてが解決するであろう作戦を伝授してあげよう。

 

 

「将冴、よからぬことを企んでいる顔をしているぞ……」

 

 

クラリッサが最近、僕の表情を読んでくる……。




次回、一夏恋愛騒動ラスト(予定)



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一夏の選択

な、長々と更新を止めてしまい申し訳ありません……。
新生活って大変だね、うん。

一夏の恋模様完結編です。
……正直、一夏ならこうしかねないかなぁ、と思いつつこの話を書きましたが……楽しんでいただけたら幸いです。


僕が箒たち3人に全てが解決するであろう作戦を伝授した翌日の放課後。僕とクラリッサは屋上の貯水タンクの影に隠れていた。

 

 

「将冴……私達がこうする必要はあるのだろうか?」

 

「あそこまで関わっちゃったら、最後まで見届けないとね。まぁ、クラリッサは巻き込まれた感じになっちゃったんだけど……」

 

「私はいいのだが……あの3人、大丈夫か?」

 

 

屋上には僕達の他に箒、セシリア、鈴がいた。僕達のように隠れてはいないけどね。3人とも、これから決闘にでも行くかのような顔をしてる。緊張とかその他諸々重なったせいで心の余裕がなくなっているんだと思う。

 

 

「まぁ、なるようになるさ。あとは、この騒動の中心である一夏がどうするか……っと、来たみたいだね」

 

 

屋上の扉が開き、恐る恐るといった足取りで一夏が現れた。一夏からは、僕達が見えていないはずなので、その目は自然と箒たちの元へ向かっていた。

 

 

「よ、よう、3人とも。どうしたんだよ、こんなところ呼び出して。早くアリーナいかないと、練習できないぞ」

 

 

一夏、逃げようとしているのがバレバレだよ。

今まで恋愛感情なんて持ったことも気づいたこともないであろう一夏が、どう行動すればいいかわからず困惑している姿は見ていて愉快だけど……。

 

 

「一夏、これから私たちは大切な話をする。茶化さずに、聞いてくれ」

 

「あ、ああ……」

 

 

箒、なんか殺気放ってない?一夏が気圧されてるよ?

 

 

「まず私から……」

 

 

箒が一歩前に出る。一夏は後ずさりそうになるも、なんとか踏みとどまった。後ろから見てると面白いなぁ、これ。ISで録画しておこう。

 

箒はふぅと小さく息を吐くと、一夏をまっすぐ見た。

 

 

「一夏……幼い頃から家族ぐるみで仲が良くて、剣道もやっていて、姉さんがISを開発して離れ離れになるまで一緒にいてくれた。私に何かあればいつも真っ先に助けてくれた……一夏と離れた後でもそのことを忘れたことはない。IS学園で再開した時は、心が躍った。また一夏と一緒に過ごせると……」

 

 

言葉を紡いでいくごとに、箒の表情が柔らかくなっていく。

 

 

「IS学園で一夏が頑張っている姿を、ずっと見ていた。初めてのISでセシリアと戦うために一生懸命になっていたところも、鈴に勝つために練習を重ねていたところも、全部……見ていた。やはり、一夏は昔から変わらない……そんな一夏が、私は大好きだ」

 

 

その言葉に、一夏は何かを言いかけるが、すぐに口を閉じた。

箒は顔を真っ赤にしている。まぁ、恥ずかしいだろうか、ねぇ……。すぐに後ろを向き、元いた場所へ戻ると、次はセシリアが一歩前に出る。

 

お気づきだろうけど、これが僕が教えた作戦。3人同時に思いを伝える、強攻策だ。正直、回りくどいのは一夏に効かないからねぇ……。

 

 

「一夏さん。私はあなたの強さに心打たれました」

 

 

セシリアはど直球でいくようだ。

 

 

「初めてのISで、私を追い詰めた……初心者とは思えないほど、ISの技術が向上しているのを見て、きっと一夏さんは私にはわからない思いや強さを持っているのだと思いました。私はこれからも強くなっていくあなたを見ていたいです。ずっとそばにいさせてください……あなたが好きです」

 

 

一夏は黙ったまま、ただ呆然というか……頭の処理が追いついていないような顔をしてる。

 

セシリアは最後まで凛としていた。さすがだな、セシリアは。

 

 

「最後は私ね」

 

 

正直、1番不安なのが鈴なんだけど……。

 

 

「まぁ、2人の話聞いて、なんとなく流れは察しているだろうからわかると思うけど……。私もね、一夏が好き。日本に来て、みんなと馴染めなかった私のために動いてくれた一夏が好き。私と将冴をいつも引っ張っていた一夏が好き。一夏がいなかったら、私はこの場にいないと思う。一夏が支えてくれたから、代表候補生にもなれた……。だからさ……こんな私でもよかったら、これからも一緒にいさせて」

 

 

恥ずかしくなって一夏に手が出なくてよかった。

なぜだかヒヤヒヤしたよ、鈴。でも……うん、よかった。

 

さて、一夏。3人の告白を受けて、君はどう返す?

 

 

「えっと……その……あれだよな。今のは友達としてとかじゃないもんな」

 

 

自分に言い聞かせるようにそう言うと、一夏は頭を抱えた。

 

 

「わ、悪い。突然のことで、ちょっとこんがらがって……でも、ありがとう。こんな俺のこと、好きになってくれたんだもんな……」

 

 

3人は気が気じゃない。一応、どうなってもいいように、あらゆる可能性は伝えておいたんだけど……一夏はほぼ確実に……。

 

 

「ああ、くそ……どうすればいいんだよ……」

 

「一夏……その今無理に答えを出さなくても……」

 

「違うんだよ、箒」

 

「え?」

 

 

一夏はバツの悪そうな顔をあげて、小さく呟いた。

 

 

「実はさ……前に将冴から、3人が俺のこと好きとかいう話聞いててさ……」

 

 

その言葉に、3人は僕の方を一瞬睨んできた……うわ、後で追い回されるぞ、これ。

 

 

「それからさ、3人のこと余計に意識しちまって……なんていうかさ……俺、3人とも好きになった……ていうか……」

 

 

ああ、やっぱり。

 

 

「だから、誰か1人とか選べなくて……ごめん!こんな優柔不断な答えで……」

 

 

頭を下げた一夏に対し、箒たちはゆっくりと近づいていく。3人は一夏の頭を上げさせると、一斉に一夏に抱きついた。

 

 

「え!?」

 

 

突然抱きつかれた一夏はバランスを崩し後ろに倒れる。

まぁ、なんのこっちゃわからんよね……。

 

 

「さ、3人とも?何を……」

 

 

 

「一夏が……」

「3人とも好きだとおっしゃるなら……」

「それでも、いいわ!」

 

 

言い終わると同時に、3人は順番に一夏の唇にキスをしていった。

 

っと……

 

 

「クラリッサ、ここは見ないであげよう」

 

「ああ」

 

 

こうして、一夏の唐変木問題は、ハーレムという形で幕を閉じた。

 

ちなみに、僕のISに3人から「覚えておきなさい」のメッセージが来ていたのは言うまでもない。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

翌日の朝。

1組の光景は昨日までとはまるで違っていた。

 

 

「一夏、次の休日だが……」

「私達、行きたいところがあるのですが……」

「一夏も来てくれるわよね?」

 

「お、おう。もちろんだよ」

 

 

ははは、一夏が困惑している。

そしてこの状況に、1組のみんなは「やっとか」といった雰囲気だ。

 

 

「兄さん、あの様子だと……」

 

「うまくいったみたいだね」

 

「まぁね。あとで2人に面白いもの見せてあげるよ」

 

 

ラウラとシャルも事情は知っていたからね。あの時録画したものを見せてあげよう。

 

さて、これで色々と気を回す必要はなくなっ……

 

 

「将冴」

「放課後」

「時間空いてるわよね?」

 

「はは……空いてます……」

 

 

今日の放課後まで、心休まらなそうだ。




一夏ハーレムエンド。
……いや、3人くらいならいいかなってさ……ダメかな?

次回から生徒会関係のお話を書いていきたいと思います。


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師走は落ち着かない

6月ですね。
前回更新が5月8日……ごめんなさい……。
有言実行できぬ……。

実は胃腸炎起こしましてね、言い訳かもしれませんが。
ま、小説書く上では関係ないよね!


 

本格的に気温が一桁に突入した12月。

一夏のハーレム騒動がちょっとした問題になりつつも、なんとか収束を迎え、IS学園の生徒全員は差し迫る冬休みに胸を躍らせているように見えた。

 

終業式が12月24日ということで、その期待も高まっているのだろうと思う。

 

そんな中、僕は生徒会室で一向に減らない書類と戦っていた。

 

夏休みが明けてから、学園祭にキャノンボール・ファスト、修学旅行に体育祭とイベントが目白押しだったため、師走の言葉通り各方面へ走り回ったり、このように書類の山と対峙していた。

 

楯無さんが何でもかんでも首を突っ込んで事務処理を疎かにするせいで、僕と虚さんは頭を悩ませている。クラリッサもたまに手伝ってくれるけど、先生方も忙しいようで最近一緒にいる時間が少ない。

 

クラリッサに埋め合わせしないとなぁ……。

 

 

「将冴さん?手が止まっていますが、お疲れですか?」

 

「あ、すいません。少し考え事をしてて……」

 

「そうでしたか。丁度いいので休憩しましょう。私も流石に疲れてしまいました」

 

 

虚さんに気を使わせてしまっただろうか……しかし、ここはお言葉に甘えよう。

手際よく紅茶の準備をする虚さんを手伝う隙はないので、僕はお茶請けを準備する。

 

書類が山積みのデスクは使えないので、来客用にと用意されていたソファとテーブルにお茶請けと紅茶が置かれた。

 

僕と虚さんの2人でこうしてお茶するのにも慣れてきた。楯無さんはいないことがほとんどだし、捕まえに行くのにも時間がかかるからだ。

 

 

「楯無さん、今日はどこに行ったんですかね」

 

「簪さんのところか、一夏さんをからかいに行ってるか、誰かの挑戦を受けてるか……どっちにしろ、将冴さんが手伝ってくれているおかげで、わざわざ探しに行って仕事をさせなくても手が足ります。本当に助かります」

 

「いや、そんな大したことはしてませんよ。目の前のことを精一杯やってるだけです」

 

「それでも、将冴さんのおかげで年内に片付きそうです。去年は元旦まで事務処理に追われていましたから」

 

 

楯無さん、どんだけサボっていたんだ……。虚さんの苦労も絶えないな。

 

しかし、早いものでもう12月。あと3ヶ月ほどで虚さんは卒業することになるのか。

 

……そうなった場合の生徒会を想像しただけでとてつもなく気分が悪くなる。今のうちに、楯無さんを捕まえる術を習ったほうがいいかもしれない。

 

などと考えていると、生徒会室の扉が乱暴に開け放たれた。

 

 

「ハロー!虚ちゃん、将冴くん!ご機嫌いかが?」

 

 

いつもよりハイテンション気味の楯無さんだった。

 

 

「会長、今すぐ自分のデスクに座って書類整理を始めたら何も言いませんが」

 

「予想通りの答えで悲しくなったわ……」

 

 

いや、誰だってそういうと思いますよ?

 

 

「書類もちゃんとやるけど、今日は大事なお話があるのよ」

 

「また何かイベントでもやるつもりですか?今年もお正月はないんですね」

 

「ははは……クラリッサに一緒に過ごせないって伝えておくかな」

 

「ちょっ、その反応は私も傷つくわよ!?確かにイベントをやる予定ではあるけど……そんなに大きなものじゃないわ!」

 

 

この時期にイベント……まぁ、もうわかりきってるよなぁ……。

 

 

「イベントについては、あとで詳細を渡すけど、大事なお話はまた別のことなのよ」

 

「イベント以外で大事な話ですか?」

 

「ええ。生徒会の今後のお話。虚ちゃんは3月で卒業してしまうでしょう?それに伴って、新しい役員を補充しなきゃいけないじゃない?」

 

 

確かに、役員の補充は急務だ。現在は楯無さん、虚さん、僕……あとほとんど顔を出さないけど本音さんも役員になっているけど……まぁ、この際は数えなくてもいいだろう。

 

虚さんが卒業したら、楯無さんを御する人がいなくなり、僕がほとんどの仕事をしなければならないという恐ろしい状態になる。

 

 

「役員の補充に関しては、私も異論はありませんが、会長の相手をできる人がそういるとは思えません」

 

「今日はいつにも増して酷いわよ虚ちゃん!?」

 

 

僕も虚さんと同意見なのだけれど……まぁ、黙っておこう。

 

 

「まぁ、それは私自身も思っていたことだからいいけど」

 

「楯無さん、自覚あったんですね」

 

「将冴くんも何気に酷いわね……」

 

 

ついこぼしてしまった。

 

 

「コホン……とまぁ、満場一致で私を扱える人がいないため役員をむやみやたらに入れれないということなのだけれど……」

 

 

若干涙目になってる楯無さん。ちょっといじめすぎたかな……。

 

しかし、すぐに立ち直った楯無さんはキリッとした目で僕の方を見た。

 

 

「そこで、私は会長の座を将冴くんに譲ることにしたわ!」

 

 

その発言は、僕と虚さんを驚かせるには十分だった。

 

 

「……はぁ!?」




楯無の無茶振り。いつものこと!いつものこと!


とまぁ、将冴くんが生徒会長になるお話スタートでございます。

そんなに長々とはやらないよ!


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胃がもたない

……

マジで放置しすぎてすいません……。
土日はほとんど死んだように寝てる作者です。

もっと頻繁に更新していきたいですが……本当に申し訳ありません。


 

「将冴が生徒会長に?」

 

 

今日唐突に突きつけられた楯無さんの無茶振りをクラリッサに報告すると、コーヒーを作る手を止めて僕の方へ目を向けた。

 

まぁ、本当に突然だったから……しかも、次やるイベントは僕に任せるとかいう命令も降ってしまった。今日だけで僕の胃がかなり弱ったのではないだろうか……。

 

 

「それはまた……突然だな……」

 

「やっぱりそういう言葉しか浮かばないよね……」

 

 

何の前触れもなかったからね。楯無さんがロシアの国家代表でなかなかに忙しい(の割にはいろんな人にちょっかいかけてる)のは知っていたから、生徒会長という役職は負担だったんだろうけど、それにしたって……。

 

 

「将冴はそれを受けるつもりなのか?」

 

「まだ決めてない。受けるなら他の役員とかも決めないといけないし、早めに楯無さんにはどうするか伝えなきゃなんだけど……」

 

「そうか……だがまぁ、いいのではないか?ダイモンの一件も片付いたし、今までやっていた生徒会活動の延長と考えれば」

 

「うん……仕事自体には特に不安はないんだけど……」

 

 

僕が懸念しているのは、違うことなのだ。

 

 

「男である僕が、生徒会長となることをよく思わない人がいるだろうなってさ。最近は女尊男卑の考え方が変わってきたとはいえ、IS学園の中にも少なからず僕や一夏をよく思ってない人がいるのは確かだし」

 

 

それに、世間的に僕はIS侵食事件の際の原因とされている。IS委員会に拘束されている間に、世界的に報道されていたらしいからね。まぁ、後からIS委員会から僕も被害者であるっていう情報が流れたから、事態は収束したものの、僕が加担したのは事実だ。

 

未だに女性権利団体から色々と脅しめいた言葉が届く。

 

 

「全員が全員、その人を認めるのは難しいものだ。1人や2人は、よく思わないものもいる。だが、将冴はそれ以上に多くの人から信頼されている。将冴がやってきたことを認めているからな。全員にすぐに認められようと考えず、できることをやっていって認められていったほうがいい」

 

「クラリッサ……」

 

「将冴には頼れる仲間がたくさんいるだろう?」

 

 

僕にコーヒーを手渡しながらクラリッサは微笑みかけてくれる。さすが、僕より人生経験が豊富な人が言うことは違う。

 

僕の悩みは、本当に些細なことだったのかもしれない。

 

 

「そうだね……ありがとう、クラリッサ。少しすっきりしたよ」

 

「助けになったなら良かった。……その、だな……」

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、何でもない……」

 

 

顔を少し赤くしてそっぽ向いてしまった。

 

……ああ、そういうことか。

 

 

「クラリッサ、相談に乗ってくれてありがとう」

 

 

そう言いながら、僕はクラリッサの頬にキスをする。

最近色々と忙しくてあまりかまってあげられなかったからね。

 

 

「……もっと……」

 

「かしこまりました、甘えん坊のお姉さん」

 

 

クラリッサは今日も可愛い。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「楯無さん。生徒会長の件、受けることにしました」

 

 

翌日、僕は楯無さんに生徒会長を引き受ける旨を伝えた。楯無さんは分かっていたかのように笑うと、計画通りと書かれた扇子を開いた。

 

 

「さすが将冴君。そう言ってくれると思ったわ」

 

「すいません、将冴さん。突然こんな……」

 

「僕自身、やってみたいと思うところはありましたから。しっかり務めさせていただきます」

 

 

受けると決めてしまえば、あとはやることをやるだけだ。とりあえずは、目の前のイベント……昨日楯無さんがやると決めた『IS学園クリスマスパーティ』の準備を始めなければならない。

 

 

「私と虚ちゃんは、これが生徒会最後のお仕事になるわ。年が明けたら、正式に将冴君が生徒会長よ。その他の役員は、将冴君が自由に指名していいわ」

 

 

お二人の最後の仕事……何としてもいいものに仕上げたい。とはいえ、生徒会でやることは各所へ諸々の手配がほとんどである。

 

しかし、それだけでは味気ない気も……

 

 

「ふふ、将冴君やる気満々ね」

 

「ええ。きっと、私がいなくなった後でも、しっかりと務めてくれます。会長と違って」

 

「本当に最近私に対する棘が鋭いわね、虚ちゃん……」




ぬあぁ……短い……だがここが1番区切りが……続きは早めに……早めに書きます!


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増える悩み

3ヶ月近く放置してしまい誠に申し訳ありません......
Twitterとかでは、ソシャゲの話とかしてるくせに、と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが......弁解のしようもございません。

しっかりやっていかなければと思うのですが......仕事って大変だね←


今回も生徒会のお話。そこまで長々とするつもりはないのですが、まぁ今までの作者を見ていたら信じられない言葉ですね。

それと細かいことではあるのですが、今回から執筆する機器が変わりまして、所々以前から変わっているところがありますが、多目に見ていただけると助かります。


会長を引き受けると伝えた翌日。僕は今後の生徒会をどうするべきかをずっと考えていた。それこそ、授業中でもお構い無しに......

 

 

ポスッ

 

 

「あうっ」

 

「将冴、成績優秀だからといって、上の空で授業を受けるのは感心しないな」

 

 

出席簿を僕の頭に乗せるように置いた織斑先生がそう注意してきた。しまった、さすがにぼうっとしすぎた......。そして先生、やっぱり強くは叩かないんですね。

 

 

「すいません......」

 

「気を付けろ」

 

 

そう言うと、織斑先生は教壇へ戻っていった。

いけないな、今は授業に集中しないと。

 

 

「織斑、お前は寝るんじゃない!!」

 

「いってぇ!?」

 

 

僕に落ちなかった分は、一夏の脳天に落ちたようだ。

ご愁傷さま......

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「一夏、頭は大丈夫か?」

 

「コブなどはできていませんの?」

 

「自業自得とはいえ、織斑先生の出席簿アタックを食らうのは同情するわ......」

 

 

昼休み。僕とクラリッサ、妹二人、一夏とそのハーレムの計8人で学食でお昼を取っていた。

ようやく身を固めた一夏の回りにいつも箒、セシリア、鈴がくっついているのは大変喜ばしいことだ、うんうん。とまぁ、ハーレム三人が一夏に甲斐甲斐しく世話を焼いていると、シャルが思い出したように聞いてきた。

 

 

「将冴も、今日叩かれていたよね。一夏の100分の1くらいの強さで」

 

「将冴が?珍しいこともあるな」

 

「今日の兄さんは、少し上の空だったが......何か悩みでもあるのですか?」

 

「ああ、うん......実はね」

 

 

僕は生徒会長になることをみんなに伝えた。クラリッサすでに知っているので、うんうんと頷いていた。

 

 

「将冴が生徒会長か。適任すぎてなんにも言えねぇよ」

 

「えぇ、そういう感想......?」

 

「将冴さんなら、安心して学園のことを任せられますわ」

 

「ああ。それはここにいる全員が思っていると思うぞ」

 

 

箒の言葉に、皆が頷いている。そういう反応されるとさすがに照れるな......。

 

 

「それで、何について悩んでるのよ?将冴なら、生徒会の仕事についても殆どそつなくこなしそうだけど」

 

「そうでもないと思うけど......。悩んでるのは、新しい生徒会役員についてなんだ」

 

 

楯無さんと虚さんが抜けた穴を僕一人で埋めれるわけがない。新しい役員の発掘は急務なんだ。

まぁ、今回のイベントが終わってからの催しは考えてないし、来年度から入れるってことでもいいんだけど。

 

 

「みんなを誘おうかとも思ったんだけど、それぞれ部活入ってるみたいだし、代表候補生としての仕事もあるからさ」

 

「お兄ちゃん、それはまた一人で溜め込むっていうふうに聞こえるんだけど?」

 

 

シャルがお兄ちゃん呼びしてるから、少し機嫌がわるいようだ。

 

 

「兄さん、ダイモンの一件でがあってまだ懲りていないのですか?」

 

「そんなことはないよ。溜め込むんでいるんじゃなくて、慎重になっているだけ。2年生になったら、それぞれまた忙しくなるだろうし、色々と手を出しすぎて皆が動けなくなるのを防ぎたいだけなんだ」

 

 

僕はみんなより余裕があるからね。一夏も部活動なんかはやってないけど、来年からは代表候補生にっていう話が来てもおかしくないからね。僕はその辺は束さんがシャットアウトしてくれているし。

 

 

「将冴は皆に気を使いすぎだと思うぞ?クラリッサ先生もそう思うだろ?」

 

 

ここでクラリッサに話を振るのは卑怯だよ一夏。だんだん僕とクラリッサの扱いになれてきていて心臓に悪いや......

 

 

「ふふ、皆がいうことも一理あるな。だけど、将冴はこれでも前よりマシになったんだ」

 

 

クラリッサが僕の頭を撫でながら話していく。

 

 

「考えても見ろ。以前なら、ここで何について悩んでいるかなんて絶対に言わなかった。今では、いの一番に私に相談してくれている。だから、少し多目に見てやってくれ」

 

「クラリッサ先生から将冴に注意してもらおうと思ったら唐突にのろけが始まったんだが、俺は何か間違えたか?」

 

「これが生徒と先生という禁断の壁を越えたものの力か......」

 

「悔しいですが、まだまだお二人のようにはなれそうにありませんわ......」

 

「負けてられないわね、これは」

 

 

何に張り合ってるのかについては触れないでおこう......多分、ハーレム三人は一線越えるとか考えているから......。

 

まぁ、なし崩し的に僕の話題は終了したけど、本当にどうしようかな......。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

昼食後、みんなと別れた僕とクラリッサは、宛もなく構内をうろついていた。

色々と考えがまとまらないしね。

 

と、そんな中、廊下の壁に張られた掲示物を眺めているマドカを見つけた。何してるんだろう?

 

 

「マドカ。何してるの?

 

 

声をかけると、ゆっくりとこっちに振り向いた。

 

 

「将冴にクラリッサか。これを見ていてな」

 

 

マドカが眺めていた掲示物を見ると、そこには2年生から分かれる専攻科目についてかかれた紙が張り出されていた。

2年生からは操縦科と整備科に分かれるんだっけ。僕は操縦科になるだろうけど。

 

 

「専攻科目か。将冴もマドカも操縦科にするんだろう?」

 

「僕はそのつもりだけど、マドカは整備に興味があるのかな?」

 

「別にない。私が考えていたのは別のことだ」

 

「別のこと?」

 

「......私は、このままIS学園にいていいものかとな」

 

 

......そうか、マドカはもともとダイモンから僕を守るために束さんが織斑先生にたので入れてもらってたんだった。ダイモン亡き今、マドカがここにいる理由がない。でもそれは......

 

 

「......マドカは、学園をやめたいの?」

 

「......考えたこともないな。だが、私はもともとここにいていい存在じゃない。ここを出るなら早い方がいいだろう」

 

 

マドカはそういうと僕たちに背を向け、黙って立ち去ってしまった。

 

 

「将冴、すまない。余計なことを言ってしまった......」

 

「ううん、クラリッサのせいじゃないよ。マドカの性格や、今までの環境から考えればわかったことなのに......」

 

 

これは、束さんに一回話した方がいいかも......。はぁ、また考え事が増えちゃったな。




今回はここまで。

長くなりそうな予感がして参りました←


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尽きない考え事

小説強化週間。
しばらくは毎日更新したいなぁ......

生徒会の話が思ったより長引きそうなので早めに終わらせたい。


放課後、僕は楯無さんたち二人が関わる最後のイベントの草稿を二人に見せていた。

企画としては、クリスマスケーキパーティといったところだ。全校生徒参加可能で、条件として一人ひとつプレゼントを用意すること。イベントの最後にプレゼント交換を行う予定だ。このプレゼント交換は完全にランダムになるので自分が持ってきたものがそのまま当たる可能性もある。自分の欲しいものを用意するか、無難なものを用意するかはその人の裁量次第。

 

 

「うん、いいんじゃない?最後のプレゼント交換はなかなか面白そうだし」

 

「教職員の方も参加可能にしても良さそうですね」

 

 

草稿に目を通した二人から色々と意見をもらえるのは実にありがたい。

 

 

「これで問題がなければ、今日中に告知のポスターなんかを作成して張り出したいと思っています。あまり時間もないですし」

 

「私は構わないわ。虚ちゃんは?」

 

「私も異論ありません。このように進めましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 

さて、お許しもいただいたことだし、ポスターの作成とケーキの発注、後は草稿に書かなかったアレの準備とあの二人に依頼を......。

 

 

「将冴君、ポスターの作成とケーキの発注は私と虚ちゃんでやるから、今日はもうあがっていいわよ」

 

「え?どうしてそんな......」

 

「色々と考え事があるんでしょ?織斑先生から、聞いたわよ。授業中も上の空だって。生徒会長を任せるなんて突然言っちゃった訳だし、今後のためにも将冴君にはしっかり考えてもらいたいの。それに、このままだと将冴君一人で全部やっちゃいそうだったし、少しは仕事させてもらわないとね?」

 

 

うう、今日の出来事が色々と尾を引いてる......。

そんなに僕は一人で抱え込むように見えているのだろうか......。

 

 

「昨日今日のことでしたから、将冴さんも整理する時間が必要でしょう。ここは私たちに任せてください。会長がいつも出してくる滅茶苦茶な企画ではありませんから、これくらいならすぐに済みます」

 

「虚ちゃん酷い!?」

 

「しかし......」

 

「気にしないの。私たちがやりたくてやるんだから。だから、今日はこのまま自室に戻って色々と考えを纏めてきて」

 

 

こういわれてしまうと、そうせざるを得ないか。

正直、ありがたい話ではあるし。

 

 

「......わかりました。申し訳ないですが、今日は失礼しますね」

 

「よしよし。明日からはしっかり働いてもらうからそのつもりでね!」

 

「はい!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

さて、突然舞い降りたなにも予定のない時間。とりあえず部屋には戻ってきたけど、どうしようか。

クラリッサは仕事があるから戻るのは遅くなるといっていたし......そうだ、マドカのこと束さんに連絡しないといけないんだった。

 

携帯を取りだし、束さんの番号を呼び出すとワンコール鳴り終わる前に繋がった。

 

 

『やぁしょーくん!しばらく連絡なくて束さん寂しくてウサギみたいにポックリ逝っちゃうところだったよ!』

 

「お変わり無さそう何よりです、束さん」

 

『しょーくん最近束さんの扱いが雑じゃない?』

 

 

まともに取り合っていると疲れますし......。

 

 

『それで?なにか用事かな?テムジンの整備とか?』

 

「いえ、マドカについて聞きたいことがあって」

 

『まーちゃんの?』

 

「はい。束さんは、マドカの今後をどう考えているのかと思いまして」

 

 

ダイモンの驚異のない今、マドカを学園に置く必要はない。

もし、束さんがマドカをラボに戻し自分の仕事を手伝わせるつもりなら......

 

 

『まーちゃんの今後か。その辺は、まーちゃんに任せるつもりだよ。すーちゃんとおーちゃんもね』

 

「え?」

 

『ダイモンの時は手駒が欲しくて三人に来てもらっていたけど、今はその必要もないからね。束さんのところに残るなら今後も面倒見るつもりだし、一人で何かしたいなら自由にしてあげるし』

 

「そうだったんですか」

 

 

昔の束さんからは想像もつかない言葉だな......。

でも、安心した。

 

 

『まーちゃんのことだから、すぐに学園から出ていくみたいなこと言ったんでしょ?』

 

「全くもってその通りで......」

 

『束さんとしては、そのまま学園に残って欲しいかな。出生の件もそうだけど、まーちゃんはもっと普通の生活を送ってもらいたいし』

 

「束さん......」

 

『その辺は、しょーくんが何とかしてくれると思っているから心配してないけどね!だから、しょーくん。まーちゃんをよろしくね』

 

 

束さん、本当に変わったな。ここまで言われたらやらないわけにはいかない。

 

 

「はい、任されました」

 

『うんうん、さすがはしょーくんだね!束さんも安心だよ!』

 

「あまり期待されても困りますがね......」

 

『大丈夫、れーくんとゆーちゃんの子供だもん。いい報告待ってるね!』

 

「了解です」

 

 

その後、テムジンのこと等を話して通話を切った。

 

ふぅ、束さんに頼まれちゃったからなぁ。どうにかマドカに残ってもらえるように......。

 

 

「そうだ」

 

 

ちょうどいい問題を僕はもう一つ抱えていたではないか。

 

あとはマドカ次第か。

 

 

「よし、明日から頑張ろう!」

 

 

とりあえずの整理はつき、僕はベッドに横になった。

 

 

「......あ、そうだ」

 

 

クリスマスプレゼント、考えておかないと。

 

クラリッサの分もね。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「クラリッサ、クリスマスはどうするんだ?」

 

 

大量の書類と格闘していると、織斑先生が私に訪ねてくる。

 

 

「と、いいますと?」

 

「将冴と過ごすのは聞くまでもないが、なにかプレゼント等は用意したのか?」

 

「それは......」

 

 

実を言うと、なにも用意していなかった。まず、クリスマスに関しては将冴と予定の確認をしていなかったし、プレゼントを用意するにも、将冴はどんなものがほしいかがわからない。

私がいうのもアレだが、将冴は明確にこれが欲しいと口にしたことがないのだ。物欲が少ないというかなんというか......。

 

 

「はぁ......そんなことでは、将冴が他の女に奪われるのも時間の問題だな」

 

「なっ!?」

 

「前にも言っただろう。将冴を狙っているやつは多い。私も隙があればかっさらうつもりだぞ」

 

「お、おおお織斑先生!?」

 

「そうですよクラリッサ先生。私だって、隙あらばですっ!」

 

「山田先生まで何を!?」

 

 

第一、職員室で何を口走っているんですか!?

 

 

「あとは束、オータム、ナターシャ・ファイルスか。クリスマスは戦争だな」

 

 

ぐむぅ、将冴は悉く年上ばっかり......。

 

 

「しっかり考えておけ。そうでなくても、この学園の数少ない男なのだからな」

 

「は、はい......」

 

 

ここで奪われてたまるものか......。




束がすごいホワイト。これは一体......。

この話もあと3~4話くらいですかね。

生徒会の話が終わったら新学期まで飛ぶ予定です。閑話を挟むかもしれませんが、とりあえず告知まで。


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下準備

更新スピードを以前のように戻そうと奮闘中の作者です。

毎日とは言わずとも週5くらいでは更新していきたいですね。

後日談でやりたいことがいっぱいあるんだ......。


 

束さんからマドカのことを任されて数日がたった。イベントが開催されるクリスマスイブまで、あと数日というところまで迫っており準備で色々と立て込んではいるものの、授業中に考え事をすることはなくなった。

イベント用のプレゼントとクラリッサに個人的にあげるプレゼントも用意したし、あとはイベントで使う備品類の調達でようやく一段落だ。

 

......マドカの件に関してはまだなにもしていない。今日明日中には、話すつもりでいる。どんな返答が返ってくるかはわからないけど、そこはマドカを信じるしかない。

 

あと、話を通しておかなきゃいけない人が二人。こっちは大丈夫だろう。

 

丁度今は昼休み。あの二人なら一緒に食堂にいるはずだ。

 

 

「将冴、昼は隊長達と食べるのか?」

 

 

クラリッサが僕の車椅子を押す準備をしながら聞いてくる。こうしていると、クラリッサに負担をかけているようで申し訳なくなるな......。

 

 

「今日はちょっと用事があるから、そっちにいくよ。クラリッサには申し訳ないんだけど、先にラウラ達と食べててくれないかな?用事が終わったら、すぐに行くから」

 

「わかった。昼食はこっちで用意しておこう。リクエストは?」

 

「クラリッサと同じもので」

 

 

そういうと、クラリッサは少しだけ顔を赤くして頷いた。ちょっとしたことでも顔を赤くするんだから......クラリッサは可愛い。

 

クラリッサはすぐにラウラとシャルのもとに向かい、事情を話して食堂へ向かった。さて、僕も行くか。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

食堂に行くと、目的の二人はすぐに見つかった。いつも一緒にいるから見つけやすい。

 

 

「簪さん、本音さん」

 

 

僕は二人に近づき声をかけた。

食事をする手を止めて、二人がこっちを向く。

 

 

「あ、将冴君」

 

「やなしーやっほー」

 

「食事中にごめんね。二人に少し頼みたいことがあるんだ」

 

「私たちに?」

 

「うん、実はね......」

 

 

僕は前から考えていたことを、二人に伝える。今回のイベントのサプライズとして用意していることなので、あまり周りには知られたくないんだ。

 

 

「......ということなんだけど、お願いできないかな?」

 

「私はいいよー。かんちゃんは?」

 

「うん、断る理由がないもん。それに、そういうことなら私がやらなくちゃ」

 

「ありがとう。じゃあ、準備はこっちでしておくから、後で詳細送るね。食事の邪魔してごめんね」

 

 

僕はそれだけ伝えると、クラリッサ達のもとへ向かった。

これで大体の用事はすんだかな。今日の放課後の準備で、とりあえずの準備は完了だ。

 

クラリッサのところに着くと、ラウラとシャルはいたが一夏達はいなかった。今日は別々に食べているのかな。

 

 

「三人ともお待たせ」

 

「用事は済んだか?」

 

「うん。食事用意してもらっちゃってごめんね」

 

 

席に着くと、三人はすでに半分ほど食べているところだった。僕のところには手付かずの洋定食があった。クラリッサも同じものを食べているから、本当に同じものにしてくれたんだ。

 

 

「生徒会の用事?」

 

 

シャルがパスタに手をつけながら聞いてくる」

 

 

「うん。これで大まかな準備は終わったよ。あとはイベントをうまく回すだけだね」

 

「ケーキパーティか。クラリッサ、ハーゼでもこういった催しをした方がいいだろうか?」

 

「そうですね。今年はルカが何やら企てているようです」

 

「そうか。なら問題はないな。来年は私も顔を出せるようにしよう」

 

 

隊長さんは色々と考えなきゃいけないようで大変そうだ。これで普段は僕の膝によく座ってくるなんてハーゼの人が知ったらどう思うんだろう。

 

 

「そうだ、将冴。クリスマスってどうする予定なのかな?」

 

「クリスマス?今のところなにも予定はたててないけど......」

 

 

その言葉に、クラリッサが少し反応していた。

それを見逃さなかったシャルは、いつもの黒い顔をして僕弄りの体勢に入った。

 

 

「そっかぁ、お兄ちゃん恋人いるのに予定ないんだぁ」

 

「シャルの黒モードは、本当に突然スイッチ入るよね......」

 

「なんのことかな?」

 

「あ、はい。なんでもありません」

 

 

なにか言ってボロを出してもシャルの思う壺だ。

 

 

「なにも予定ないなら、僕とラウラと一緒に過ごす?」

 

 

その言葉に、またクラリッサが反応していた。はぁ、シャルはわかっててこういうことをするんだから......。

わかってるさ、僕だって。

 

 

「......シャルには申し訳ないけど、これから予定を入れるつもりなんだ。だから、今回は遠慮する。二人で楽しんできて。埋め合わせは今度するから」

 

「OK、それなら仕方ないね。ラウラ、クリスマスはレゾナンスで服とか見ようか」

 

「シャル、また私を着せ替え人形にするつもりか......」

 

「フフフ、どうだろうね?」

 

 

とりあえず、ラウラには強く生きろとだけ言っておこう。

 

クラリッサが少し安心したような顔をしている。......これ以上待たせるのもかわいそうだよね。

 

 

「クラリッサ、クリスマスの予定は?」

 

「わ、私か!?今のところなにもないが......」

 

 

期待するような目でこちらを見てくる。ふふ、僕だってちょっと期待してるんだから。

 

 

「じゃあ、その日は僕と過ごしてくれる?」

 

「も、もちろん!」

 

 

ああ、僕の彼女は世界一可愛いと思います。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

放課後。

生徒会で最後の準備を済ませた僕は、小さく息を吐き、パソコンを閉じた。

 

あとは当日を待つのみか。少し緊張するな。

 

 

「将冴君、お疲れさま。その様子だと、大体終わったのかしら?」

 

「はい。あとは当日ですね」

 

「今まで生徒会を手伝っていただいたとはいえ、ここまでそつなくこなせるなら、私と会長がいなくなっても大丈夫そうですね」

 

「そんなことありませんよ。今回もいっぱいフォローしてもらいましたし」

 

 

楯無さんと虚さんがいなかったら、ここまでスムーズに事が運ばなかっただろう。二人がいなくなった穴を、うまく埋めれるか不安だ。

 

 

「ともあれ、これでイベントの準備は終わったわけだし、当日まではゆっくり体を休めてちょうだい。私たちはこれで終わりだけど、将冴君はこれからがあるんだからね」

 

「はい。ちょっと早いですが、今までありがとうございました」

 

「どういたしまして」

 

 

年が明けたら、ここには僕一人......二人が築き上げてきたものを崩さないためにも頑張らないと。

 

 

「ところで、新しい役員の方はどう?目星くらいはつけたのかしら?」

 

「ええ。これから勧誘しにいこうかと思っています」

 

「そう。将冴君が連れてくる人なら問題ないわね。今度紹介してね」

 

「わかりました。では、僕はそろそろ失礼しますね」

 

 

目星をつけた人......彼女なら、安心して役員を任せられる。

断られたら......そのとき考えよう。

 

 

 

 

 

生徒会室を後にし部屋へ戻った僕は、彼女......マドカをメールで自室に呼び出した。

返信はなく、数分と経たずに、扉をノックする音が聞こえた。

 

 

「どうぞ」

 

 

扉が開き、いつもの無表情のマドカが入ってきた。

 

 

「なにか用か?」

 

「立ったままもなんだし、そこの椅子に座って。今コーヒー淹れるから」

 

 

手早くコーヒーを淹れて、マドカに渡すと、一口飲んでまた僕の方を向いた。

 

 

「将冴、用件は?」

 

 

やけに事を急いてくるな。まぁ、心当たりがあるんだろうけど。

 

 

「......マドカ。この学園に残るつもりはないのかな?」

 

「前にも言った。私はここにいていい存在じゃない。年が開けたら出ていこうと思っている」

 

「そっか......その後はどうするの?」

 

「考えていない。束のもとで過ごすか、そのままいなくなるかもしれない」

 

 

出生が特殊とはいえ、マドカは達観しすぎている。

束さんとも約束したし、こんなことを聞いては放っておけるわけがない。

 

 

「僕としては、マドカには学園に残って欲しい。ダイモンとか関係なく、マドカがいてくれた方が、僕は嬉しい」

 

「......私がいなくなったところで、特になにか変わるわけでもないだろう」

 

「ううん、変わるよ。少なくとも、僕は」

 

「......」

 

 

マドカは押し黙ってしまう。

迷っている、のかな?

 

 

「クラリッサや一夏達だって、僕と同じ気持ちだと思うよ?それでも、マドカはここにいちゃいけない存在なのかな?」

 

「私は......」

 

 

マドカの困惑している顔、初めて見たな。でも、それだけマドカの中で思うところがあるんだ。

 

 

「もし、マドカがここに残るのなら、僕はマドカに生徒会に所属して欲しいって思っている。だから、決心がついたら僕に教えて。例え残らないって選択しても、僕はもう止めないから」

 

「......」

 

「急に呼び出してごめんね。僕は夕食を食べに行くよ。部屋の鍵とカップはそのままでいいから」

 

 

今は、一人で考えた方がいい。

これ以上、僕から言えることはないから。

 




相変わらずのノープロット執筆。

だってプロット書いたってその通りいかないし......←

あと二話くらいかなと思います。書きたいこといっぱいあるから早く進めたいっ!


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クリスマスパーティ

連続更新じゃい!今日中に終わらせるんじゃい!

サボった分の巻き返しです。これからは頻繁に更新していくので、気づいたら読んでね!←

......三日坊主にならないように気を付けます。


12月24日。とうとう迎えたクリスマスイブ。イベント当日だ。

 

会場となっている食堂には生徒、教職員が揃っている。かなりの人数がいて、企画したものとしては嬉しい限りだ。

 

と、楯無さんが食堂に作られたステージに立ち、マイクを手にした。

 

 

「今日はお集まりいただきありがとうございます」

 

 

今回のイベントの司会は楯無さんにお願いしている。こういうのは楯無さんが適任だ。

 

 

「長々と挨拶しても仕方ないので、手短に済ませますね。今日は無礼講です。生徒、教職員関係なくケーキを貪っていただければと思います」

 

 

貪ってって......クスクスと笑いが起きてるし。

 

 

「そして、今回のイベントは一年生の柳川将冴君が企画してくれたものです。皆さん、将冴君に盛大な拍手をお願い致します」

 

 

その言葉で、会場か拍手が沸き起こる。うぅ、これかなり恥ずかしい。クラリッサはなんか嬉しそうにしてるし。

 

 

「ここで皆さんに報告があります。将冴君が企画したということで気づいたかたもいらっしゃると思いますが、このイベントを最後に私と会計の虚ちゃんは生徒会を退任します」

 

 

やはりというか、その言葉で会場がどよめく。

突然の報告だからなぁ。

 

 

「年が明けたら、そこにいる将冴君が新しい生徒会長です。彼なら、今後の生徒会を多いに盛り上げてくれるでしょう。皆さんも、これからの生徒会に期待していてください」

 

 

しれっとハードルあげてきましたね......。

 

 

「ちょっと長くなってしまいましたね。それでは皆さん、グラスを持ってください」

 

 

参加者がそれぞれグラスを手にする。僕も準備し、そばに付き添ってくれているクラリッサに目配せする。

クラリッサも僕と同じことを考えているようで、僕を見た。

 

 

「それでは、生徒会主催クリスマスケーキパーティを開催します!メリークリスマース!」

 

『メリークリスマース!』

 

 

僕とクラリッサは、静かにグラスをぶつけた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「それでは、生徒会長になる柳川くん!意気込みをどうぞ!」

 

「薫子先輩、お仕事早いですね......」

 

 

開始早々、僕のところに走ってきた新聞部の薫子先輩が早速取材を開始していた。

 

 

「だって、この学園始まって初の男の生徒会長だもの!取材しないわけがないでしょう!」

 

「黛、後日ではダメなのか?」

 

「クラリッサ先生、こういう情報は暖かいうちに記事にしないとダメなんです!あ、恋人が生徒会長になった感想いただけます?」

 

「お前は......」

 

 

クラリッサにも飛び火してる。記者としては正しいのかもしれないけど......。

 

とりあえず、僕も挨拶に回りたいし、ここはご遠慮願おう。

 

 

「薫子先輩、後日正式に取材は受けるので、ここは引いてくれませんか?」

 

「むぅ、仕方ない。じゃあ、退任したお二人に話を聞いてくるわ!」

 

 

そして光の早さで楯無さん達のもとへ向かった薫子さんだった。

いやはや、嵐のような人だな......。

 

 

「忙しいやつだな」

 

「そこが薫子先輩のいいところなのかもしれないけどね」

 

 

さて、僕も色々と見て回らないと......。

 

 

「将冴」

 

「あ、一夏。みんなも」

 

 

移動しようとしたとき、一夏とそのハーレム、妹二人が僕のもとに現れた。皆、手にケーキを盛った皿を持っている。それなりに楽しんでくれてるかな?

 

 

「改めて、生徒会長就任おめでとう、兄さん」

 

「まだ正式になった訳じゃないけどね」

 

「だが、名誉あることだと思うぞ。何かあれば言ってくれ、私たちも手伝う」

 

「ありがとう、箒」

 

 

正式な就任は来年から。それまでに引き継ぎなんかを終わらせないとね。

 

 

「しかし、これだけの催し、準備は大変だったでしょう?」

 

「楯無さん達に手伝ってもらわなかったら危うかったね......」

 

「それでも、しっかりやれてるじゃない。ほんと、何でもそつなくこなすわよね。同い年なのか怪しくなるわ」

 

「本当にね。お兄ちゃんがいたらどうにかなっちゃうって気分になるよ」

 

「そんなことないよ、ダイモンのときは迷惑かけちゃったし」

 

「でも結局自分で解決しに行っただろ。やっぱり将冴はすげえよ」

 

 

一夏にまで言われると気恥ずかしくなるな......やめやめ、この話は。これ以上は僕が持たない。

 

 

「はは......ところで、一夏とハーレム三人はこのあとどうするの?」

 

「そのまとめ方やめなさいよ......」

 

「パーティが終わったら、俺の家で過ごすんだってさ。四人だけでパーティするんだとさ」

 

 

ああ~、一夏がとうとう大人の階段上るわけだ。ハーレム三人はちょっと顔赤くしてるし。

まぁ、避妊はしっかりしとけとだけ後で三人にメール打っておこう。暴走したらなにするかわかんないし。

 

 

「そっか。まぁ、このパーティも最後まで楽しんでいって。もうすぐプレゼント交換もあるから」

 

「おう。将冴も、あまり無理するなよ」

 

 

何故か心配されながら、一夏+ハーレムは離れていった。なんの無理だというのか。

 

 

「兄さん。プレゼント交換まで一緒にいてもいいか?」

 

「うんいいよ」

 

 

どうやら、僕が挨拶回りにいかなくても来てくれるようだし。

ラウラは僕の膝に座ると、美味しそうにケーキを頬張り始めた。もう定位置だね、そこ。

 

シャルは、何やらクラリッサと話している。あ、黒い顔してるから録でもないこと話してるな......クラリッサは興味津々に聞いてるし。このあと色々ありそうだ......。

 

と、また僕の方へ向かってくる人が。あれは織斑先生と山田先生。

 

 

「将冴、生徒会長就任おめでとう」

 

「おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 

そういいながらグラスぶつける。僕の膝に座っていたラウラは慌てて降りて姿勢をただしていた。

お二人の飲み物、なんか僕が用意したものじゃないワインのようなものになっている気が......。

 

 

「これから忙しくなるだろうが、将冴なら大丈夫だろう。しっかり頼むぞ」

 

「はい。精一杯務めさせていただきます」

 

「何かあれば、手伝いますからね」

 

 

先生方から支援をいただければ、生徒会もうまく回っていくだろう。うまくパイプを作らないと。

 

 

「ところで、新しい役員はどうするつもりなんだ?一夏達に頼むのか?」

 

「いえ、それは追い追い考えていく予定です。とりあえず、一人には声をかけたんですが......」

 

 

そういえば、マドカの姿が見えないな。今日は来てないのかな......。

 

 

「皆さん、ステージにお集まりください。これよりプレゼント交換会を行います」

 

 

と、虚さんのアナウンスが流れた。もうそんな時間だったか。

 

 

「始まるようですね。織斑先生。私たちもいきましょう」

 

「ああ。将冴、今日は楽しませてもらう」

 

 

二人はステージの方に向かっていった。

さて、僕も準備しないと。

 

 

「三人とも、僕は準備があるから行ってくるね」

 

「ああ、何かあったら呼んでくれ」

 

「うん、ありがとうクラリッサ」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「さぁ、本日のメインイベント!大プレゼント交換会を始めるわよ!」

 

 

一斉に会場から声援が飛ぶ。なにか間違っているような......。

 

 

「これからここにあるくじを引いて、書いてある番号の人にプレゼントを配っていくわ!完全にランダムだから、自分のものが当たるかもしれないけど我慢してね!それじゃ、早速引いていくわよ!」

 

 

楯無さんは本当に盛り上げ上手だな。僕も見習った方がいいのだろうか......と、最初のくじが引かれた。

 

 

「39番!さぁ、39番の人は誰だ!」

 

「私だ」

 

 

そういって手をあげたのは、なんと織斑先生だった。なんという引きをしているんだ楯無さん......。

 

 

「ここで織斑先生とは、幸先いいですねぇ!将冴君、プレゼントを」

 

「はい」

 

 

最初のプレゼントは......

 

 

「織斑先生、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

織斑先生がプレゼントを受け取った瞬間、「げっ」という聞きなれた幼馴染みの声が聞こえた。これ一夏のだったか......。

 

先生が早速中身を確認すると、中から出てきたのはとても可愛らしいネックレス。一夏にしてはなかなか洒落たものを......。

 

 

「私には似合わなそうだが、ありがたくいただくとしよう。愚弟が選んだものだしな」

 

「ここで弟である一夏君のプレゼントを引き当てるとは!これは弟は誰にも渡さないということなのか!」

 

 

楯無さんが煽る煽る......。ハーレム三人がぐぬぬって顔してる。

 

 

「さぁ、どんどんいくわよ!次!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

プレゼント交換も終盤に近づき、あちこちでいろんな声が飛んでいた。

 

 

「おい鈴!なんでプレゼントが中華鍋なんだ!」

 

「箒こそ、竹刀って何よ、竹刀って!」

 

「私のプレゼント、自分のところに戻ってきてしまいましたわ......」

 

「僕とラウラで交換になっちゃったね。でもラウラ、コンバットナイフって......」

 

「シャルロット、うさみみパーカーもどうかと思うぞ......」

 

「おい、女物の下着とかどうすればいいんだよ!」

 

『それ没収!』

 

 

はは、なかなかにカオスになってるなぁ......てか、楯無さんのそのしてやったり顔。あなたですか下着仕込んだの。

 

 

「さぁ、もうプレゼントもあと二つ!最後は二枚引きしていくわよ!」

 

 

箱から二枚のくじを取り出すと、それを読み上げる。

当たっていないのは僕ともう一人なんだけど......

 

 

「124番と125番!連番ねぇ。誰かなぁ?」

 

 

手をあげたのは僕と......。

 

 

「わ、私だ......」

 

 

なんとクラリッサだった。なにこのできすぎ感。

あ、また楯無さんがしてやったり顔を......己、図ったな......。

 

 

「おおっと、ここで禁断の愛に身を焦がす二人が登場だ!」

 

『きゃあああああ!』

 

 

会場のボルテージはマックスに。て言うか、残ったプレゼントって......。

 

 

「さぁさぁ、ステージに上がって......おやおや?これはお互いに用意したプレゼントではないですかなぁ?」

 

 

いけしゃあしゃあと......。

 

クラリッサも気づいたようで、楯無さんを睨んでいた。

 

 

「これは、お互いの手で交換してもらうしかありませんねぇ。もちろんなにかパフォーマンスがあるのよね?」

 

「楯無、後で覚えておけよ......」

 

 

ステージに上がった僕とクラリッサは、お互いに自分のプレゼントを手に向かい合った。

アイコンタクトで、さっさと済ませようと伝えるとクラリッサも頷く。

 

ささっと交換を行いステージから降りようとすると、会場から謎のコールが飛んできた。

 

 

『キース!キース!』

 

 

己、この学校は本当に......て言うか、楯無さんがいつの間に用意したのかフリップにキスコールと書かれたものを会場に見せていた。

もうやだこの人。

 

 

「えっと、どうしよっか」

 

「このまま会場から逃げ出したいのだが......」

 

「あとが怖いね、それ......仕方ない」

 

 

僕は義足をつけて立ち上がり、クラリッサの肩を掴んだ。

 

 

『おお!?』

 

 

訓練されすぎでしょ、会場の人たち......。

 

 

「しょ、将冴!?ここでそれは」

 

「やるしかなさそうだから......」

 

「う、うぅ......」

 

 

恥ずかしそうな顔をするクラリッサ。僕だって恥ずかしいんだからね!

あと、その顔は反則だよ......。

 

 

「いくよ」

 

「......ああ」

 

 

ぎゅっと目を瞑ったクラリッサに顔を近づけ、僕は......クラリッサの頬にキスをした。

 

 

『おぉーーーーーーーー!!』

 

 

すぐに離れると、僕とクラリッサは逃げるようにステージから降りた。

 

 

「いいですねぇ、見せつけてくれますねぇ!唇同士じゃなかったのは残念ですが......とりあえず、これにてプレゼント交換会は終了です!」

 

 

盛大な拍手が起こり、僕とクラリッサを標的にしたプレゼント大会は終了した。

 

 

「クラリッサ、大丈夫?」

 

「二人きりの時ならまだしも......こんなところで......あとで織斑先生に何て言われるか......」

 

「はは......僕もいじられるんだろうな......。と、クラリッサ。僕これからやることあるから、ステージにいくね。もしあれだったら部屋で......」

 

「いや、最後までいる」

 

「わかった。じゃあ、行ってくるね」

 

 

赤い顔のままのクラリッサを残し、僕は楯無さんが降りたばかりのステージに上がった。

 

その瞬間、ヒューヒューという声が起こるが、僕は無視して進める。

 

 

「ここで、もう一つ催しを行いたいと思います」

 

 

ここからは、僕と一部の人しか知らないサプライズの始まりだ。

当然、なにも聞いていない楯無さんと虚さんは驚いた顔をしている。

 

 

「今回のイベントで退任される楯無さんと虚さん。ステージに上がってください」

 

 

二人は困惑した表情のまま、ステージに上がった。

 

 

「えっと、将冴君。こんなの、なにも聞いてないんだけど......」

 

「何をするおつもりなんですか?」

 

「ちょっとしたサプライズです。それでは、今まで生徒会として活動してくださったお二人に、花束と感謝の言葉を送ります。お願いします」

 

 

僕がそう言うと同時に、花束を持った簪さんと本音さんがステージに上がる。事前に二人に頼んでいたのは、このサプライズのことだった。

まず本音さんが、虚さんのもとへ。

 

 

「お姉ちゃん、私のせいで仕事を増やしちゃってごめんね。今まで本当にお疲れさま。お姉ちゃんはもう少しで卒業しちゃうけど、私ちゃんとやるからね!」

 

「本音......」

 

 

本音さんが花束を渡すと、虚さんは少し涙目になりながら笑みを浮かべる。

続けて、簪さんが楯無さんのもとへ。

 

 

「今まで生徒会長、お疲れさまでした。ロシア代表や更織の仕事もしながらで、大変だったと思います。それでも、合間を見つけて、私の専用器の組み立てを手伝ってくれて、本当にありがとう。最高のお姉ちゃんです」

 

「簪ちゃぁん」

 

 

楯無さんはボロボロと泣きながら花束を受け取った。とりあえず、楯無さんに一矢報いることはできたかな?

 

 

「楯無さん、虚さん。なにか一言お願いできますか?」

 

「将冴君卑怯よぉ......こんなの、嬉しいに決まってるじゃない」

 

「まさか、将冴さんがここまでできる方とは......これで、安心して生徒会を任せられそうです。本音、簪さん、ありがとうございます」

 

「うえぇん!簪ちゃん大好きぃ!」

 

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 

 

感動のあまり簪さんに抱きついた楯無さん。喜んでもらえたようでよかった。

 

 

「これで今回のイベントの催しは終わりです。残り時間、パーティを楽しんでください」

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

パーティが終了し、片付けも終わって、会場を改めて見渡すとなんだかさっきまで騒いでいたのが嘘のようだ。

 

 

「とりあえず、成功ってことでいいのかな?」

 

 

皆楽しんでいたようだし、僕も楽しかった。また来年もやりたいな。

 

 

「将冴君」

 

 

後ろから僕を呼ぶ声。そこには楯無さんと虚さんが、目を赤く腫らして立っていた。

 

 

「今日はありがとうね。あんなサプライズを開いてくれて」

 

「ありがとうございます、将冴さん」

 

「いえ、大したことはしてませんよ。お二人に感謝の気持ちを送りたかっただけです」

 

「フフ、私を泣かすなんて、それだけで大したことよ」

 

 

楯無さんはいつもよりちょっと元気なさげに言った。

 

 

「さて、ここまで片付けを将冴君に任せちゃったし、あとは私たちでやるわ」

 

「まだ生徒会ですからね。後輩にばかり任せては、気持ちよくやめることはできません」

 

「そんな、これくらいは僕一人で......」

 

「いいの!それに、今日はクリスマスイブよ。クラリッサ先生と一緒に過ごしてあげて。プレゼント交換会で色々やっちゃったし、生徒会長としての最後の命令よ」

 

「楯無さん......」

 

「早く行ってあげてください」

 

 

全く、この二人には最後まで気を使わせてばっかりだ。

 

 

「わかりました。あとは、ごみを捨てるだけですので」

 

「ええ」

 

「お疲れさまです」

 

 

何回目になるかわからないが、僕はあとを二人に任せて、自室に戻った。

 

 

 

 

 

「将冴君、私以上に腹黒よね」

 

「そうですね。本当に」

 

「あ~あ、クラリッサ先生がいなかったら本気で狙いに行ったのに」

 

「そうですね。本当、後輩にしておくには惜しいくらい、素敵な方です」

 

「え、虚ちゃん?」

 

「......失言でした」

 

「もう聞いちゃったもんね!あの虚ちゃんがねぇ~」

 

「か、からかわないでください!」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

部屋に戻ると、クラリッサは寝巻き姿でコーヒーを淹れていた。どうやら立ち直っていたようだ。

 

 

「お帰り、将冴。片付けはもういいのか?」

 

「ただいま。楯無さん達に任せてきちゃった」

 

「そうか。コーヒー飲むか?」

 

「うん」

 

 

いつものように、僕たちはベッドに腰掛けながらコーヒーを飲んだ。

 

そうだ。

 

 

「さっきのプレゼント、開けてもいい?」

 

「ああ。大したものではないが......。私も開けていいか?」

 

「うん、じゃあ、同時に開けようか」

 

 

お互いのプレゼント手にし、同時に開けた。僕の方に入っていたのは......。

 

 

「アニメのBDBOX?」

 

「その、万人受けするものがわからなくてな......欲しいものを」

 

「そっか。今度一緒に見ようね」

 

「ああ。将冴のは......コーヒーメーカーか?」

 

「うん。僕もなにいれたらいいかわからなくて、自分の欲しいものいれちゃった」

 

「結果的に、欲しいものが手に入ったな。これからはこれでコーヒーを淹れよう」

 

 

ちょっとだけ、楯無さんに感謝だね。

 

あと......

 

 

「クラリッサ、実はもう一つプレゼント用意してて......」

 

「将冴も、だったか......」

 

「考えることは一緒だったみたいだね。じゃあ、今度は二人だけのプレゼント交換」

 

 

僕は前もって買っておいたクラリッサのためのプレゼントを取り出す。クラリッサも同じく。

 

 

「すごい小さいんだけどね。喜んでくれるといいんだけど」

 

「私も小さなものだが......」

 

 

お互いに小さな箱を手にしていた。被っちゃったかな......。

 

 

「じゃあ、開けようか」

 

「うん......」

 

 

また同時に箱を開く。

中には、緑色の石があしらわれたピアスがあった。

この石、前に僕がクラリッサにあげたネックレスと同じやつだ。

あの時のお返し、かな?

 

一方、僕のプレゼントを開けたクラリッサは少し驚いた顔をしていた。

 

 

「将冴......これ......」

 

「少し先走りすぎたかもしれないけど、これからも一緒にっていう意味も込めてね」

 

 

僕が送ったのは、指輪だった。内側に「Dear Clarissa」と彫刻してある。

 

 

「いいのか......これをもらって......」

 

「クラリッサにしかあげれないよ。僕は、ずっとクラリッサと一緒にいたいと思っているんだから。指輪、貸して?」

 

 

僕はその指輪を、クラリッサの左の薬指にはめた。

 

 

「ずっと一緒にいてね。クラリッサ」

 

「ぅん......うん!」

 

 

クラリッサは涙を流しながら、何度も頷いた。

 




めっちゃ長くなった......三話分書いたんじゃないか、これ。

もう一話は、また今日中にあげます。

楯無と虚の将冴に関する話は、この小説の初期に年上全員落とすと口走っていたときの名残と言いますか......しょーくんはいい男!←

そして、クラリッサに指輪を送るしょーくん。もう早く結婚したえ。

次回で生徒会の話は最後。そのあとは新学期から、またしょーくんに事件が舞い込むかも?といった内容になります。楽しみにしていただければ幸いです。


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マドカの決意?

本日最後の更新。

生徒会のごたごた最後になります。

ああ、早く新学期編書きたいなぁ。
新学期編では、あの子やあの子、あの子なんかも登場する予定です。


12月25日。目が覚めると、可愛い寝顔のクラリッサが最初に目に映った。ああ何て幸せなんだ。昨日はあのまま気分も盛り上がってしまって夜更かしして若干眠いけど。前まで目が覚めたら、お互い裸の状況でパニックになってなぁ。まぁ、すぐに思い出して、違う意味でパニックになるんだけど。

 

さて、今日は一日クラリッサと過ごすつもりではあるんだけど......。

 

 

「すう......すう......」

 

 

もう少しこの寝顔を眺めていよう。最近、本当にクラリッサが可愛すぎて、僕はもうヤバイんじゃないんだろうか。バカップルって言われてそう。

でも仕方ないじゃないか。可愛いんだもの。見てよこの長い睫毛。めっちゃ可愛いよ。肌だってすべすべしてて可愛いし、髪もサラサラで可愛いし、もう全部可愛いから。

 

そんなことを考えながらクラリッサの頬を撫でていると、僕の機械の手がなぜか気になった。

束さんが作ったトンデモ義肢だから、触った感触はあるけど、所詮は偽りの感触。本当の腕だったら、もっと違う感触だったんだろうか......腕だけでも残っていたら......

 

 

「将冴」

 

 

いつのまにか起きていたクラリッサが、僕の手を掴んでヴォーダンオージェの影響で片方色が薄くなってしまった目でこちら見つめていた。

 

 

「クラリッサ、おはよう」

 

「ああ......将冴、なにか考え事をしていたようだが、何かあったか?」

 

「うん......すこしブルーになっちゃって。もし本当の腕なら、クラリッサに触れる感触が違ったのかなって。今僕が手で感じてる感触は、偽りのものだから」

 

「......」

 

 

クラリッサは突然、僕の頬に自分の頬を擦り会わせてきた。

 

 

「え、わっ、クラリッサ」

 

「この感触も偽りか?」

 

「あっ......」

 

「手は確かに偽りかもしれない。でも、感じる方法は他にあるだろう?」

 

 

クラリッサには、敵わないな。なんだか、最近クラリッサに助けてもらうことが多いや。

 

 

「うん、ありがとうクラリッサ。ねぇ、もっと感じさせてくれる?」

 

「う......昨日も散々裸で触れあったではないか」

 

 

ああ、今そういうこと言っちゃう?思い出しちゃうよ?昨日の事。

男は獣なんだよ?

 

 

「しょ、将冴......その、当たっているが......するか?」

 

「申し訳ないけど......いいかな?」

 

 

初めて朝にしました。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

結局、ベッドから出たのはお昼頃だった。

いやぁ、朝でもあそこまでハッスルするとは......。

 

 

「将冴、これからどうする?どこかに出掛けるか?」

 

「そうだね。どこも混んでそうだけど、部屋に籠るよりはクリスマスらしいかな」

 

「わかった。じゃあ、外に出る準備を......」

 

 

そのとき、クラリッサの声を遮るようにノックする音が響いた。

はて、来客の予定なんてあっただろうか......あ、もしかして......。

 

 

「誰だろうか?」

 

 

クラリッサが、扉まで向かい鍵を開けると、入ってきたのは僕の予想通りだった。

 

 

「突然すまない。将冴に話がある」

 

 

いつもの無表情ではなく、少し沈んだような顔をしたマドカだった。

 

 

「ここに来たってことは、決心ついたのかな?」

 

「わからない。だが......」

 

「とりあえず中に入ったら?クラリッサ、コーヒーお願いできる?」

 

「ああ。早速昨日のコーヒーメーカで淹れてみようか」

 

「......すまない」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

少し時間が経ち、僕とマドカの間には沈黙が流れていた。クラリッサは新しいコーヒーメーカーに苦戦しているようだ。

クラリッサ、早くコーヒーを......

 

 

「すまない、遅くなった」

 

 

コーヒーを三つ持ってきたクラリッサは、それぞれ手渡してくれる。マドカのコーヒーの好みは同じことは伝えている。

 

 

「ありがとう」

 

 

コーヒーに口をつけながら、マドカの方を見る。

 

 

「......」

 

 

コーヒーを飲まずにじっと眺めている。こんなマドカ初めてだ。

 

 

「将冴、マドカの様子おかしくないか?」

 

「う、うん......」

 

 

これはこっちから話を振らないといけないのかな......。

よし......。

 

 

「マドカ。まだ決心はついてないのかな?」

 

「......考えていた。私は、お前達にとってどんな存在なのか」

 

「......うん」

 

「私は、織斑千冬のクローンで、束の手駒で......それ以外の何者でもないつもりだった。でも、将冴が言った事が、胸に引っ掛かって......私はお前達のなかでどういう存在なのか......」

 

 

自分の存在がわからないか......追い詰めすぎたかな。

 

そうだな......。

 

 

「仲間って言っても実感ないよね」

 

「仲間......」

 

「これは、僕だけだと思うけど、マドカは今僕の従姉妹ってことになってるよね?」

 

「ああ......」

 

「だから、僕の家族。ラウラやシャルみたいな、僕の家族」

 

 

この学園に来て、家族が増えていくな......。まぁ、嬉しいことなんだけど。

 

 

「家族、か......」

 

 

マドカは、ラウラと少しにている。出生の事とかが。

ラウラとは、性格が真逆だけどね。

 

 

「どうかな?そう考えたら、少しはマドカの考え事のヒントにはならないかな?」

 

「......よくわからない。家族っていうのもピンと来ていない部分もある」

 

 

家族っていうのも難しいかったかな。

んん、どうしようかな......。

 

 

「でも......」

 

 

マドカは、いつもの無表情の顔で、僕の方を向いた。

 

 

「将冴と離れたら、後悔することに、今気づいた」

 

「というと?」

 

「お腹、触れなくなる」

 

 

その言葉に、僕とクラリッサは椅子から崩れ落ちそうになった。

なんてすっとんきょうな理由で......。

 

 

「うん、なぜ忘れていたんだ。ここからいなくなったら、将冴のお腹に触れなくなる。それは困る。うん、出ていくのはやめだ」

 

「そ、そう......」

 

「なんというか、もうどうにでもなれ......」

 

「色々振り回してすまないな。将冴、生徒会の件。前向きに考えておく」

 

「あ、うん......有り難う......」

 

「では、今日は失礼する」

 

 

マドカはスタスタと扉の方へ向かっていく。

ああ、もう、束さんになんて報告すれば......。

 

 

「ああ、そうだ二人とも」

 

 

マドカが扉を開きながら、僕たちに向かっていい放った。

 

 

「換気、しておいた方がいいぞ」

 

 

僕とクラリッサが外出できたのは、それから一時間後の事だった。

 




マドカをオチに使う日が来るなんて......。

とりあえず、これで生徒会編は終わりです。

次回から新学期......の前に閑話を少しだけ書きます。
まぁ、生徒会編の後日談と、新学期編の前日談というか......まぁ繋ぎです。お楽しみに。


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新年、新会長、新役員

どうも、危うく三日坊主になりかけた作者です。
いやぁ危ない危ない。

今回は前回の後日談的な次回の前日談的な感じです。

前々からマドカは出番が少ないなぁと思っていたんですよね。
キャラ的に仕方ないのかなと思いますが、やっぱり主要キャラの一人ですからね。
今後はどんどんだしていきたいです。


 

慌ただしいクリスマスも終わり、IS学園は冬休みに入った。

 

とはいえ、年末は特に予定もなく、僕は寮の自室でグータラ過ごしていた。

一夏と千冬さんは年末年始は自宅で過ごすとの事で学園にいなかったし、箒はわだかまりのとれた束さんと過ごすという。家族仲が良いのは大変喜ばしいことだ。僕は本当の家族はいないから、ちょっぴり羨ましい。

 

セシリア、鈴、シャル、ラウラは一度帰国するらしい。それぞれ代表候補生の仕事もあるしね。やることがあるんだろう。

 

......因みに、一夏ハーレムの三人は、寮から離れる前に変な質問をしてきた。

 

 

「「「男性の弱いところってどこ?」」」

 

 

聖夜にしっぽりやることやったらしい。一夏の様子も少し変だったからね......。

その時は適当に流して、特になにも言わなかったけど、三人とも男の僕に聞くのは間違いだと思うよ......。

 

他の学生も、殆どが帰省してしまって、寮の中は閑散としていた。

 

本当にやることなくて、三回くらい部屋の大掃除していたよ。

 

とまぁ、そんなこんなで過ごしていたらいつの間にか年も明けていて、みんなから来たあけおめメールで年が明けたことをしみじみと感じた。

 

いいもん、クラリッサとずっと一緒に居れたからいいもん。

新年のアニメスペシャルとか見て過ごしてたから暇ではなかったもん。

 

なんて考えていたらお正月もあっという間に過ぎてしまった。

 

......ちょっと一人語りが長くなっちゃったな。

まぁ、そんなこんなで夏休みとは正反対に静かに過ごしていた訳なんだ。

 

で、今日僕は冬休みにも関わらず、制服姿で生徒会室にいた。

生徒会室には、既に退任した楯無さんと虚さん。そして......

 

 

「紹介が遅れてしまいましたが、彼女が新しく生徒会の役員になる......」

 

「柳川マドカだ。自己紹介する必要もないが、よろしく頼む」

 

 

いつもの無表情でそんなことをいうマドカだったが、その様子を微笑ましい顔で楯無さんと虚さんが眺めていた。

 

 

「ふふ、さすが将冴君ね。新しい役員の事だけが心配だったけど、マドカちゃんなら安心して任せられるわ」

 

「素晴らしい人選ですね」

 

 

お二人とも、マドカが新しい役員という事に異論はなさそうだ。

マドカは特に反応ないけど、どう思っているのかな?

 

 

「将冴ができる男なのは前からわかりきっていただろう」

 

 

マドカなにいっちゃってるの!?

 

 

「ぷ、あははは!さっすがマドカちゃん、ドストレートね!」

 

 

盛大に笑い始める楯無さんを他所に、マドカは虚さんの方を向いた。

 

 

「さっさと引き継ぎを済ませよう。楯無と話していたら時間を無為に過ごす」

 

「ちょ、マドカちゃん!?」

 

「さすが、お嬢様と一緒に住んでいただけはありますね」

 

「部屋でもしつこかったからな」

 

 

はは、そういえば一緒の部屋だったんだっけ。まぁ、束さんからの差し金って事で警戒していたんだろう。

 

今気づいたけど、虚さんのが楯無さんのことをお嬢様って言ってる。そういえば、もともとそういった関係なんだっけ。今までは生徒会っていうことだったけど、もう違うから呼び方も変わったのか。

 

 

「では、さっさと済ませてしまいましょう。お嬢様は将冴さんに引き継ぎを」

 

「わかったわ。さ、将冴君」

 

 

楯無さんの立ち直りが早いな......。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 

 

新年になり、教職員の仕事は今日から始まるということで、そんな挨拶をしながら職員室に入ると織斑先生と山田先生がこちらに振り向いた。

 

 

「クラリッサか。明けましておめでとう」

 

「おめでとうございます」

 

 

まだ他の先生方は来ていないようだ。

 

 

「クラリッサ先生は、年末年始は有意義に過ごせましたか?」

 

「どちらかというと、寝正月だったかと......別段どこかに出掛けたわけでもありませんでしたし」

 

「だが、将冴と一緒にいたのだろう?」

 

「え、ええ......まぁ......」

 

 

あそこまで一緒に過ごせたことは今までなかったのではないだろうか......とても幸せな時間だった。

 

 

「浮かれるのはいいが、公私の区別はしっかりしろ。まずは、その左手の指輪を外せ」

 

「え!?クラリッサ先生、まさか!?」

 

「あ、いや、これはその!?」

 

 

織斑先生がそんなにすぐに気がつくとは思わなかった......他の先生方がいなくてよかった。

 

 

「そのまま仕事してみろ、男の出会いがないこの学園の教師はもちろん、生徒達から将冴のことで散々問い詰められることになるぞ」

 

「そう、かもしれないですが......」

 

 

将冴が一緒にいたいといってくれたんだ。この指輪は、可能な限り外したくはない。

だが、織斑先生が言うことももっともだ......。

 

うう、でもっ

 

 

「......ふ、少しは成長したか」

 

「織斑先生?」

 

「そのままでいい。せいぜい、弄ばれろ」

 

 

織斑先生はそれだけいうと、自分のデスクに向き直った。

成長したとはどういう......

 

 

「クラリッサ先生!」

 

「は、はい!?」

 

「ま、まだ将冴君は未成年で、それに先生と教師で、だからそのぉ~!」

 

「や、山田先生落ち着いて......」

 

「私、諦めませんから!?」

 

「本音が出たな」

 

「あ、いやこれはそのっ!?」

 

「クラリッサ、うかうかしていると掠め取られるぞ。私も諦めたつもりはないからな」

 

「う、うう......織斑先生、私で遊んでいるのですか......」

 

 

これは、まだまだ安心できなさそうだ......




更新スピードを全盛期まで戻したい......

しかし、社会人で時間を取ることは難しいですね。

言い訳にしかならないですね。
もっと頑張ります。

次回から新学期。
またキャラクター増える予定です。新キャラではないですが......ああ、パンクしそ。


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入学式

最近グッと寒くなってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
作者は熱出ました←

今回から新学期。
登場キャラが新キャラではないけど3人増える予定で作者の熱が更に加速しそう。
しょーくん交友関係広すぎんよ......。



 

4月1日。僕は朝早くから生徒会室で今日の挨拶の原稿の最終チェックを行っていた。

 

年が明けて、残りの一年生の期間をそれなりに過ごし、何事もなく春休みを謳歌した僕だったが、IS学園に入学する前では考えられない環境の変化だ。

今日からこの学園に入学する新入生も、これまでの生活とはかけ離れた生活に胸を躍らせていることだろう。僕の時は、強制的に連れてこられて、そんなこと考える余裕なんてなかったからね。

 

そんなことをしみじみ考えていると、慣れた手つきで書類の山を減らしていっているマドカがこちらを見た。

 

 

「将冴、チェックは終わったのか?」

 

「うん。多少の間違いがあっても、その場で訂正できるから問題ないと思うよ」

 

「そうか。入学式の準備も昨日のうちに終わらせたから、まだ時間もある。できる限りでいいから、書類の決裁も頼む」

 

「了解」

 

 

新年から正式に生徒会長になった僕と、会計となったマドカはそれなりに新学期早々仕事の山だった。

普通の学校とは違うし、やることが多いのは仕方ないけどね。

それでも、マドカがそつなくこなしてくれるので、今のところ滞りはない。楯無さんがよく様子を見に来てくれるけど、お茶を飲みに来ているだけだ。虚さんが卒業してしまい、お茶を飲む機会が減ってしまって寂しいらしい。

 

 

「マドカ、式の進行の方は大丈夫?」

 

 

書類を確認しながら、マドカに聞くと、目を書類から離さずにマドカが答える。

 

 

「台本通り進行するだけだ。問題はない」

 

「そうだね。要らない心配だった」

 

 

本当にマドカは頼りになる。しかし、今後はもっと仕事も増えるだろうから、新しい役員の補充も考えないとなぁ。新入生を一人くらい入れておくのもいいかもしれないが......これはあとでマドカと相談だね。

 

と、書類を片付けているうちに入学式の時間が近くなっていた。

 

 

「マドカ、そろそろ行こうか」

 

「ああ。だが、その前に......」

 

 

マドカは徐に僕に近づくと、ぺちっと僕のお腹を触り始めた。

最近、一日に一回は触ってくるなぁ......。

 

 

「よし、行こう」

 

 

何事もなかったかのように、マドカは僕の車椅子を押し始めた。

もう慣れたよ......。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

式が始まり僕はステージの袖から新入生の様子を窺った。

みんな緊張してるけど、期待に満ちた顔をしている。これからが楽しみだな。

 

 

「続いて、生徒会長からの挨拶です」

 

 

進行のマドカの言葉のあとに、僕はステージの中心に立つ。

車椅子だと格好がつかないから、今は義手義足をつけた状態だ。

 

 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。生徒会長の柳川将冴です」

 

 

あらかじめ用意していた原稿通りに話始めると、会場がざわめきだした。まぁ、男が生徒会長っていうのは予想外だったんだろう。

しかし......なぜかさっきよりも目をキラキラさせて頬を赤く染めている人が多いのはなんなんだろう。

そしてクラリッサ。怖い顔で新入生を睨み付けないで。

 

 

「これから皆さんは、ISについての理解を深め......」

 

 

ああ、やりづらい......。

女の子ばっかりだから余計に......。

 

 

「......それでは、皆さん。これからの学園生活を有意義に過ごしてください」

 

「生徒会長、ありがとうございました。続いて......」

 

 

マドカが淡々と式を進行していった。

ああ、そのメンタルが羨ましいよ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「はぁ......」

 

 

式が終わり、教室へ行った僕はクラリッサとマドカ、そして心配そうな顔をして集まったシャルとラウラの前でため息をつきながら机に突っ伏した。

いやはや、あんな目を向けられるとは思わなんだ......。

あ、一夏とハーレムは四人でいちゃこらしていてこっちに気づいていない。

 

 

「兄さん、大丈夫か?入学式の挨拶、うまくいかなかったのか?」

 

「いや、挨拶自体に問題はなかった。だが、やはりというべきか、将冴を見る新入生の目が異様でな」

 

 

マドカがそう説明すると、シャルとラウラは納得がいったようで、「あぁ~」と声を漏らした。

 

 

「女の園というべきIS学園の生徒会長が男だもんね。お兄ちゃんお疲れさま」

 

「大丈夫だ将冴。新入生に言い寄られても、私が何とかする」

 

「クラリッサの申し出はありがたいけど、それは新入生に僕たちの関係がバレる危険性があるから......」

 

「すぐにバレるとは思うがな」

 

 

ああ、そうだった。黛先輩が僕たちの関係を記事にしていたんだった。逃げ場はなかったか。

 

 

「ふふ。でも、将冴も大変だけど、一夏も大変だよね。ハーレム築いてるなんて新入生は知らないから、あの手この手で関係を迫ってくるんじゃない?」

 

「それは一夏が箒達に絞められるフラグだね......一夏ご愁傷さま」

 

 

君の骨は拾ってあげるよ。

 

 

「しかし、二年でクラス替えがあるのは知っていたが、見事に専用機組は同じになったな」

 

「鈴まで一緒のクラスになったからね。僕たちが問題児だから纏めたって感じはあるけど」

 

「それはあるかもね。去年はダイモン関係で色々とごたついてたし」

 

「担任も変わらず織斑先生だからな。だが、兄さんと一緒にいられるのは嬉しいぞ!」

 

「僕も嬉しいよ。クラスが離れるだけでも、寂しいものがあるからね」

 

 

ラウラは本当に可愛い妹だ。本当、あった当初の凛々しい感じが皆無だよ。シャルに色々と入れ知恵されてるようだけど。

 

 

「さて、そろそろ気持ち切り替えないと。授業もあるからね」

 

「将冴、無理せずに保健室で休んでも......」

 

「これくらい、ダイモンの時に比べたら全然だよ。でも、気遣ってくれてありがとう、クラリッサ」

 

「当然だろう。私の大切な人なんだから」

 

 

クラリッサといるだけでさっきまでの疲れが吹き飛ぶ。やっぱり僕の彼女は最高だ。

 

 

「またか、兄さん......」

 

「なんか、年明けから見境なくなったよね、お兄ちゃん」

 

「ここに割って入るのは、ダイモンを倒すより難しそうだな」

 

 

なんか色々言われてるけど、そんなに酷いかな?

自覚がないだけなのかな......。

 

と、そうこうしているうちに教室の扉が開き、織斑先生と山田先生が入ってくる。

さっきまで騒がしかった教室は静まり、それぞれが自分の席についた。

 

 

「全員揃っているな。一年の時に一緒だったものも多いが改めて、織斑千冬だ。今日から卒業まで、お前たちの担任になる。二年からはそれぞれの進路にも大きく影響してくる。一年間この学園で過ごしたお前たちなら心配ないと思うが、気持ちを新たに過ごすように」

 

『はい!』

 

 

織斑先生の言葉は、やっぱり気が引き締まる。

本当にいい先生だ。

 

 

「では、山田先生から連絡事項がある。お願いします」

 

「はい。まずは皆さん、進級おめでとうございます。副担任の山田真耶です。皆さんは今日からは先輩となるので、一年生のいいお手本になってくださいね」

 

 

いつものゆったりした感じのしゃべり方で安心する。飴と鞭を使い分けてる感じだな、この二人は。

 

 

「では、連絡事項なのですが、まずは皆さんに紹介する人たちがいます」

 

 

その言葉に、もと一年一組の面々はまさかという顔をした。

 

 

「どうぞ入ってきてください」

 

 

山田先生の言葉と同時に、扉が開き二人の女子が入ってきた。

え、ちょっと待って、あの二人って......。

 

 

「今日からこのクラスに転校してきた......」

 

「アメリカ代表候補生、ジェニファー・キール」

 

「同じく、ステファニー・ローランド。気軽にステフって呼んでね!」

 

「......え?」

 

 

新学期は、更に慌ただしくなりそうだ......。

 




新学期突入。そして久々登場、アメリカ娘二人組!

前々からIS学園に入れさせるつもりでしたが、今回が一番きりがよかったです、はい。

そして、これからしょーくんはさらに胃壁を削られることに......。


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舞い込む問題事

平日の時間の取れなさと、帰ってから書く気が起きない感じがヤバイ......。
以前のような毎日更新は難しいな......。

前回は突如転校してきたジェニーとステフのせいで将冴君の胃がマッハで弱りそうって感じでしたね。
作者の胃もマッハなんじゃないだろうか←

さて、どうやってしょーくん痛め付けようか←


ホームルームが終わり、すぐに授業が始まって、なにがなんだか飲み込めないうちに休み時間になっていた。授業の内容が全然頭に入ってないよ......。

 

とりあえず、二人に色々聞かなければならない。

本当に、色々と......。でもその前に......。

 

 

「クラリッサ、二人が来ること知ってた?」

 

 

教育実習生とはいえ、クラリッサも教師。知らないはずがない。絶対に数ヵ月前から知っていたはずだ。

 

 

「すまない、前から来ることは知っていたのだが、あの二人に黙っていてくれと言われてな......。将冴を驚かせたかったらしい」

 

「これ以上ないくらいに驚いたよ......。まぁ、そういうことならお仕置きは無しにしておこう」

 

「違う理由だったらアレをされていたのか......」

 

 

もちろんさ。手加減なしで。

......でも、最近クラリッサはアレを楽しんでいる節があるんだよなぁ。今だって、頬を赤く染めて若干嬉しそうにしてるし。別のお仕置きを考えた方がいいかな......。

さて、クラリッサのことは置いて、二人に話を聞くとしよう。

 

ジェニーとステフは数名のクラスメイトに囲まれていたが、去年ほど騒いでる様子はないな。

ダイモンの時に少し滞在していたから、その時に交流があったんだろう。

 

 

「ジェニー、ステフ。話してるところ悪いんだけど、ちょっといいかな?」

 

「あ、ショウ!久しぶり~」

 

「なんかやつれてるわね。ちゃんと食べてる?」

 

 

君たちのせいでやつれているんだよ。

 

 

「大事な話みたいだね。ジェニー、ステフ、またあとでね」

 

 

二人と話していた人たちがが気を使わせてくれた。申し訳ないことをしてしまったが、僕もそれどころじゃないんだ。

 

 

「さて、まず聞きたいんだけど、どうして学園に?僕に連絡も無しに」

 

「ショウを驚かせようって、ステフが」

 

「私のせいにするの!?ジェニーも面白そうって乗っかったじゃない!」

 

「言い出しっぺはステフだし」

 

「そうだけど~......」

 

 

その目的は十分に達成されたけどね。

しかし、僕が聞きたいのはそこじゃない。

 

 

「二人とも、軍に所属しているし、あっちでも十分な教育とかされてるんじゃないの?」

 

 

実際、僕が留学にいったときも、ISの教育環境は学園に引けをとらないものだった。

 

 

「ああ、ほら、私たちって結構特殊な立ち位置でしょう?軍に教育環境があるとはいえ、学校に通っている訳じゃないし」

 

「同年代は私とジェニーだけだからね」

 

「それで、同年代の、同じような訓練設備がある学園に入れようってことらしいわ。チーフからは交友関係を広めてこいって言われてるし」

 

「ついでに、他の国の専用機の情報も集めろって。まぁ、そっちに関しては、余裕があればって感じだったかな」

 

 

なるほど......確かにIS学園なら、同年代の人がたくさんいるし、各国の代表候補生とのパイプを作ることも可能か......。

政府の思惑が見え隠れしてるけど、チーフさんはそういうのを気にせず楽しんでこいって感じみたいだ。

 

とりあえず、国が無理矢理何かしようってことはないようでよかったといったところか。

 

 

「ショウ、難しい顔してるけど大丈夫?」

 

「アンタがそんな顔してると、なにか起きるんじゃないかって不安になるんだけど」

 

 

僕は何かの疫病神とでも言いたいのか......否定はできないけど。

 

 

「気にしないで。国絡みで、二人に何かあったんじゃないかって思っただけだから」

 

 

僕のその言葉を聞いて、二人は少し顔曇らせた。

......やっぱり何かあるのか?

 

 

「......ショウ、夜に時間もらえる?」

 

「ちょっと、ジェニー」

 

「ショウなら大丈夫よ。チーフやハッター軍曹も言ってたでしょ。頼れるものは頼れって」

 

「そうだけど......」

 

 

ああ、やっぱりなにかあったのか......。

 

 

「それで、時間はもらえるの?」

 

「いいよ。クラリッサも一緒で大丈夫?」

 

「ええ」

 

「ごめんね、ショウ」

 

 

さて、どんな話なのか......。

厄介なことなのは間違いなさそうだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

今日の授業がすべて終わり放課後。

夜まではとりあえず生徒会の仕事をやっておかないと。

 

クラス対抗戦やら、学年別トーナメントの準備もしなきゃいけないし、やることはたくさんだ。

楯無さんと虚さんは、これを二人でこなしていたのか......しかも、本音さんが増やした仕事も片付けながら。まだまだ僕は遠く及ばなそうだ。

 

しかし、ジェニー達の話......いったいどんな内容なのか......

 

 

「将冴、こちらのものはすべて片付けた」

 

「ありがとうマドカ。今日はもう戻ってもいいよ」

 

 

僕は自分の書類を片付けつつ、マドカにそう促す。

しかし、マドカはじっとこっちを見つめていた。

 

 

「マドカ?」

 

「また、一人で抱え込もうとしているのか?」

 

「......」

 

 

ダイモンの事件以来、周りのみんなが鋭くて困る。

抱え込んでるつもりはないんだけど、昔からの癖なのかな。

 

 

「抱え込むのは自由だが、もっと周りを頼れ。またスペシネフに取り込まれたときのようにはなりたくないだろう」

 

「そうだね。大丈夫だよ、マドカ。どうにもならなくなる前に、頼らせてもらうから」

 

「ならいい」

 

 

マドカはそう言うと、徐にコーヒーを淹れる準備を始めた。いつもなら気にならないんだけど、今日はひとつ違和感があった。

 

 

「カップが三つ?」

 

「生徒会室に近づいてくる足音が一つ。楯無ではない誰かだ」

 

 

マドカ、足音が判別できるなんて初耳なんだけど......。

しかし、楯無さんでないなら誰が......。

 

と、僕にも聞こえるくらいに近づいてきた足音は、生徒会室の前で止まり、続けてコンコンとノックの音が響いた。

 

 

「どうぞ」

 

 

そう声をかけると、ゆっくりと扉が開き、恐る恐るといった様子で一人の女生徒が「失礼します」と言って入ってきた。

 

リボンの色から、一年生だとわかる。それに加え、真っ赤な髪をバンダナでアップにしているその姿に、僕は見覚えが......っていうか、彼女は

 

 

「蘭?」

 

「あ、将冴さん。やっぱりここにいたんですね。本当に生徒会長なんですね」

 

 

僕と一夏、鈴の共通の友達である五反田弾の妹、五反田蘭だった。

まさか、IS学園に入学していたなんて......去年の遊園地以来会ってなかったからな......。

 

 

「将冴、知り合いか?」

 

「うん。僕の中学の時の同級生の妹さん」

 

「え、え、千冬さん!?でもなんか小さいような......」

 

 

ああ、千冬さんの知り合い全員がする反応を見事に......。

 

 

「柳川マドカ。将冴の従姉妹で、生徒会の会計だ」

 

「千冬さんにそっくりだけど、織斑家にはなんの関係もないよ」

 

 

千冬さんのクローンだから、織斑家にがっつり関係あるけど、混乱するし公言するわけにいかない話だから、嘘をつく。ごめんね、蘭。

 

 

「そう、だったんですか。えと、五反田蘭です」

 

 

そう言って、頭を下げる蘭を見つつ、マドカは用意していたコーヒーを来客用のテーブルにおいた。

 

 

「立ったままもなんだ。とりあえず座れ」

 

「は、はい!」

 

 

千冬さんにそっくりだから、わかっていても背筋が伸びるときがあるんだよね。今の蘭のように。

 

蘭が座ったのを見てから、僕も一旦書類を置き、蘭の正面に座る。マドカは自分のデスクに腰かけた。

 

 

「蘭、この学園に入学したんだね」

 

「はい。適正試験がA判定でしたので。お爺ちゃんやお兄には反対されましたけど」

 

「そっか。まぁ、心配する気持ちはわかるけどね」

 

 

ISは今でこそ競技等で使われているが、兵器としての側面ももつ。怪我をすることだって少なくない。僕がいい例だ。

 

 

「それに、その......」

 

「一夏、でしょ?」

 

 

僕の言葉に、蘭は顔を赤くする。

一夏の被害者だからね、蘭は。本人も一夏の前では素直になれないっていう困った性格の持ち主だし。

しかし......蘭も間の悪いときに入学してきたなぁ......。

 

 

「その......一夏さんは、今どうなんですか?彼女とか......」

 

 

ああ、やっぱり聞いてくるかぁ......どうしたものか。

ハーレムを築いてるなんて言ったら、蘭が燃え尽きてしまう。真っ白に。

 

 

「えっと......」

 

 

僕が言い淀んでいると、マドカが口を開いた。

 

 

「一夏なら箒、セシリア、鈴を侍らせているぞ」

 

 

マドカぁぁぁぁぁ!?

そこでそれ言っちゃう!?

僕がなんとかやんわり伝えようとしていたことを言っちゃう!?

 

 

「......」

 

 

蘭もキョトンとしちゃってるよ!

ああ、もうどうしようこれ......。

 

と、僕の胸中がカオスになっていると、蘭がポツリと言葉を漏らした。

 

 

「そっか......本当だったんだ」

 

「蘭?」

 

「噂になってたんです。一夏さんに彼女が複数いるって」

 

 

噂になるの早すぎでしょう......黛先輩の仕業だな......。

 

 

「はは、気持ち伝える前にフラれちゃいました。でも、そうなりそうだなって思っていたので」

 

 

僕が一夏をそそのかしたせいなんだけどね......。

 

 

「ごめんね、蘭」

 

「なんで将冴さんが謝るんですか。私が素直になれなかったのが悪いんですから。それに、将冴さんは私を気遣ってくれてましたよね?それだけで十分です」

 

 

こんなに強い子だったのか、蘭は。

うう、罪悪感が半端ない......。

 

 

「うん、吹っ切れました。一夏さんに会う前に知れてよかったです。これで、一夏さんとも普通に話せます」

 

「大丈夫、なの?」

 

「はい。五反田家の女を舐めないでください!」

 

 

蘭はそう言うとコーヒーを飲み干し、立ち上がる。

 

 

「突然お邪魔してすいませんでした。コーヒー、ご馳走さまです。今日は失礼しますね」

 

「......うん。何かあったら、いつでも相談に来てね」

 

「はい。将冴さんなら安心して相談できます。では、また」

 

 

そのまま生徒会室をあとにした蘭を見送る。

本当、申し訳ないことをしてしまった。

 

 

「将冴、すまない。要らないことを言ってしまったようだ」

 

「ううん。僕が取り繕った言葉をいうより効果があったんじゃないかな。予想外ではあったけど」

 

 

入学早々、蘭は災難に見舞われてしまったな。

うう、新入生を早速突き落としてそうするんだ僕は......。

 

 

「将冴、もう聞きあきているだろうが......」

 

「ごめん、今だけはなにも言わないで」

 

「......わかった」

 

 

はぁ......。




しょーくんは不幸の星のもとに生まれたのではないかと。

いやぁ、厄介事が舞い込む舞い込む。

そして、蘭の登場です。蘭もなかなかに不幸な......。
書いてる途中で、ある考えが頭をよぎったのですが、これはこれでまた蘭が......。


次回は、ジェニーとステフとお話。


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新たな驚異

どうも作者です。
しばらく更新が滞ってしまい申し訳ありません。

さて、今回はアメリカ二人組とのお話となります。
はてさて、どんな話なのか......本編どうぞ。



 

生徒会で起こってしまった大惨事を引きずりつつ、僕は自室へ戻った。

マドカに夕食を食べに行こうと誘われたけど、どうにも食べる気にもならず、マドカには悪いけど断った。

 

新学期から幸先悪いなぁ。去年も去年で酷かったけど、今回は精神的に来ているというかなんというか......。

 

そんなことを考えていると、部屋の扉が開く音がした。クラリッサが帰ってきたようだ。

 

 

「将冴、もう戻っていたのか」

 

「お帰りクラリッサ。仕事は片付いたの?」

 

「ああ。放課後、一緒にいられなくてすまない」

 

「ううん、仕事があるんじゃ仕方ないよ」

 

 

僕はそういいながら、コーヒーを淹れる準備をする。このあとジェニーとステフが来るから多めに淹れておこう。

 

 

「将冴、私が淹れるぞ?」

 

「クラリッサは座っていて。仕事で疲れているだろうし」

 

「しかし......将冴、いつもより疲れているように見えるが」

 

 

クラリッサにはお見通しか......。

しかし、この件に関しては僕やクラリッサがどうこうできるものでもないし、クラリッサに言うべきか否か。

 

と、クラリッサが僕のことを突然後ろから抱き締めてきた。

 

 

「また悪い癖だ。どんな些細なことでもいいから、私にだけは話してくれないか?」

 

「......そうだね」

 

 

僕はコーヒーを淹れつつ、放課後の出来事を話した。

クラリッサは黙って聞いてくれる。僕が一人で勝手に罪悪感を抱いている......ただそれだけのことだけど、真剣に聞いてくれている。

 

 

「......そんなことがあったわけでね。なんか申し訳ない気持ちになってしまったんだ」

 

「そうか......だが、その蘭という新入生は、遅かれ早かれ知ることになっていた。少し早すぎただけだ」

 

「そうかもしれないけど......」

 

「将冴が気負う必要はない。あとは蘭次第だ」

 

 

そういうものなのかな......でも、クラリッサ言う通りだ。今出来ることはない。蘭がどうにか立ち直ってくれるのを願うだけだ。

 

 

「ありがとうクラリッサ。少し楽になったよ」

 

「それならよかった。ところで、将冴。いつもよりコーヒーを淹れる量が多いようだが」

 

「ああ、そういえば言ってなかったっけ。このあとジェニーとステフがくるんだ。なんか話があるって」

 

「そうだったのか。しかし、転入してそうそうに将冴に話とは......」

 

 

クラリッサもなにか感じ取ったようだ。胸騒ぎ、といえばいいのか......。

とても大きな何かに巻き込まれるような、そんな感じがする。

 

まぁ、話を聞いてみないとわからないんだけどね。もしかしたら、気の抜けるような話かもしれないし。

 

 

コンコンコン

 

 

丁度コーヒーの準備ができたところで、扉をノックする音が響く。

 

 

クラリッサが扉を開くと、予想通りジェニーとステフが立っていた。

 

 

「こんばんは」

 

「こんばんは、クラリッサさん。あ、先生の方がいいのかな?」

 

「気を使わなくていい。さ、中に入れ」

 

 

クラリッサが二人を椅子に座らせている間に、僕はカップを人数分用意しコーヒーを淹れ、皆のところへ向かう。

 

 

「お待たせ。二人ともコーヒーでいいよね?」

 

「ありがとう、ショウ」

 

「いい香り。なんか手が込んでる香りがするね!」

 

 

ステフが何を言ってるかはわからないのでとりあえずスルーしておこう......。

二人がコーヒーを口にするのを見てから、僕とクラリッサもコーヒーを飲む。

さて、こっちから話を降った方がいいのかな。

 

 

「で、二人とも。話って何かな?」

 

「いきなり聞いてくるのね。まぁ、気になるではあるか......」

 

「ねぇ、ジェニー。本当にショウに話すの?」

 

「私たちだけじゃ、解決できない......ショウに話すのが一番なのよ」

 

 

ステフはまだ話すことにためらっているようだ。

ああ、気の抜ける話ではないんだなぁ......。

 

 

「ショウ、これから話すことはショウにとって負担になるかもしれない。それだけは覚悟して」

 

「そういう話なのは、何となくわかっていたよ......話して」

 

 

ジェニーとステフは意を決したようにうなずくと、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「ダイモンが従えていた機体が、大量に日本に運び込まれている。それと同時に、テロリストの残党も日本に入ってきているみたいなの」

 

「な......」

 

「ダイモンの残党が......」

 

 

その話は、僕の心を乱すには十分だった。クラリッサもまた、驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「恐らく、近いうちに大規模なテロが起こる。私たちは、その調査を命じられて日本に来たの」

 

 

ダイモン......またダイモンなのか......僕があいつを殺して、束さん達が後詰めをしてもまだ僕にまとわりついてくるのか。

 

 

「この事......IS学園は知っているの?」

 

「うん。日本政府にも話はいってるよ。規模が規模だし」

 

「そっか......」

 

 

クラリッサに目配せをすると、首を横に振った。クラリッサには知らされていない。恐らく、織斑先生は知っているんだろう。

 

 

「学園からは、この件に関して私たち二人は自由に動いても構わないと言われてる。政府からも同様にね」

 

「調査事態は、まだ本格的には動いていないけど、明日から動いていくつもり」

 

「でも、私たち二人だけじゃ、正直厳しいっていうのが現状なの。だから、お願い。ショウも協力して」

 

 

事の大きさが僕の想像を越えていた。

これだけのことを、ジェニーとステフが命じられていたなんて......。

 

放っておけるわけがない。ダイモンが関係しているなら、尚更だ。

僕が口を開こうとすると、それを遮ってクラリッサが立ち上がった。

 

 

「二人とも、すまないがこの件に関して、将冴を協力させるわけにはいかない」

 

「クラリッサ、どうして!?」

 

「将冴は、ようやくダイモンと決別したんだ。これ以上、将冴を苦しめるようなことをさせられない」

 

「待って、クラリッサ。僕は!」

 

「頼む、将冴。今だけは、黙っていてくれ......」

 

 

クラリッサにそんなことを言われるなんて、思いもしなかった。だから僕は、それ以上言葉を発せられなかった。

 

 

「ジェニー、やっぱり......」

 

「うん......」

 

 

ジェニーはそのまま立ち上がると、僕の前まで進んでくる。

 

 

「ごめん、ショウ。この話、忘れて」

 

「ジェニー......」

 

「ショウの負担になることはわかってた。それでも、ショウに手伝ってもらいたかったの。でも、クラリッサさんの言う通り。あんたはもう十分に苦しんで、やっと解放されたんだものね。私の我が儘を聞かせてごめん。今日はもう失礼するわ」

 

 

ジェニーはそれだけ言って、部屋から出ていった。ステフもごめんねと謝りながら、ジェニーについていった。

 

そして、部屋には僕とクラリッサだけが、残った。

 

 

「将冴......」

 

 

先に口を開いたのはクラリッサだった。

 

 

「勝手をしてしまってすまない。だけど私は......」

 

 

肩を震わせて、クラリッサはその場に膝を折った。

 

 

「もう、将冴が危険な目に合うのを見たくなかったんだ......」

 

「クラリッサ......」

 

「将冴は、絶対に二人に協力すると思った。でも、もうダイモンはいないんだ。将冴とダイモンは、もう関係ないんだって思ったら......」

 

「うん......大丈夫、クラリッサの気持ち、わかってるから」

 

 

ただ、僕に戦ってほしくない。ただそれだけなんだ。

もう離れ離れにはなりたくないから......僕も同じ気持ち。

 

 

「将冴......頼むから、今回だけは......」

 

「......ごめん、クラリッサ。目の前で困っている人がいるのに放っておくことなんて、できない」

 

「......やっぱり、将冴は将冴だな」

 

 

クラリッサはそういうと、僕に抱きついてきた。

 

 

「もう一人では戦わせない。私も一緒だ」

 

 

僕は、その言葉に対して、首を縦に振ることしかできなかった。




急展開になって参りました。
まぁ、シリアスになりそうな雰囲気ですが、ちょくちょくギャグパートみたいなのは挟んでいきます。

果たして、しょーくんの胃はこの展開に耐えられるのか。次回をお楽しみに。


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決意、協力、憔悴

どうも。
寒くなって参りましたね。
皆さん、風邪引かないように体調管理には気を付けましょう。

しょーくんは胃に穴が開きそうですが......まだ序の口っていったらどうします?←


 

ジェニーとステフに協力すると決めた次の日の朝。僕は、目の下に盛大な隈を作っていた。

ダイモンの残党が相手だということが、予想以上に僕にのし掛かっていたようで、一睡もできなかった。

あと、クラリッサと軽いすれ違いを起こしてしまったことも、僕の睡眠を妨げた。

 

クラリッサは僕のことを想って言ってくれたのに、僕はそれを無下にしてしまった。はぁ、僕はクラリッサに負担をかけてばっかりだな。

まぁ、朝にはいつも通り接してくれたからよかったんだけどね。隈を見てまた心配させちゃったけど......。

 

で、僕は眠い目を擦りながら教室まで来たわけなんだけど。

 

 

「将冴、お前が隈作るなんて、何かあったのか!?」

 

「保健室で休んだ方がいいのではないか?」

 

「将冴さん、お悩みがあるなら聞きますわよ」

 

「甲龍整備出さなきゃ......」

 

「お兄ちゃん、こんなになる前に相談してっていつも言ってるのに!」

 

「兄さん、今日は私が兄さんを膝に!」

 

 

ご覧のとおり、皆が予想外の反応を見せています。僕に何かあったら、なにか事件が起こるとでも思ってるのかな?

......まぁ、事件は起こりそうなんだけれども。

 

あと、マドカが珍しく心配そうな顔でこっちを見ていた。君の場合は、僕のお腹に触れなくなるのが嫌なだけだよね?

 

 

「ちょっと寝付きが悪かっただけだよ。なにも問題は......ふあぁ~」

 

「そんな盛大な欠伸されながら言われても説得力ないわよ」

 

「将冴が寝不足なんて......俺初めて見たぞ」

 

「そうだっけ」

 

 

休みの日とかは、結構遅くまで寝てたりするんだけどね。

しかし、まぁ、心配してくれてるんだなって思えて、嬉しい反面申し訳ないな。

 

 

「まぁ、とにかく、本当に何もないから、心配しないで」

 

 

僕のその言葉に、皆がジト目で返してくる。信用されてないなぁ。これは、寝不足の理由を話さないとダメなやつだ。

ん~、仕方ない。これを言えばみんな納得するだろう。

 

 

「クラリッサとの夜のこと、そんなに聞きたいの?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、僕を囲っていた皆は顔を赤らめた。

よしこれでこれ以上追求されないだろう。

 

僕は、みんなの横を通りすぎ、自分の席につく。

ちらっとジェニー達の方に目を向けると、こちらは心配そうにこちらを見ている。

事情を知ってるから、仕方ないか。

 

僕は、二人に近づいた。

 

 

「二人とも、ちょっといい?」

 

 

僕が声をかけてきたことが予想外だったのか、二人は顔を見合わせて驚いている。

 

周りに聞かれないように、僕は声を潜めながら用件を伝える。

 

 

「昨日のことで話があるから、放課後生徒会室まで来てくれるかな」

 

「ショウ、その事は忘れてって......」

 

「そうだよ。ショウはもう関係なくて」

 

「僕は、あんな話聞いて放っておくほど薄情な人間じゃないつもりなんだけど」

 

 

僕がそういうと、二人は困惑した表情を浮かべるが、ゆっくりと首を縦に振った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

放課後。

マドカには、今日は生徒会の仕事はお休みにするということを伝え、僕はジェニーとステフを生徒会室に招いた。

昨日、一緒に話を来たクラリッサも一緒だ。

 

そして、僕は昨日クラリッサと出した結論を伝える。

 

 

「ジェニー、ステフ。僕とクラリッサも、二人を手伝うことにしたよ」

 

「ショウならそういうと思ったけど、本当にいいの?」

 

「クラリッサさんが昨日言っていたことだって、その通りだと思う。ショウがこれ以上、ダイモンに関わる必要は......」

 

「ううん。僕がやらなきゃいけないんだ。最後まで、僕が......」

 

 

ダイモンを殺した僕が、決着をつけなくちゃいけない。

 

 

「ショウ......」

 

「それに、今回はクラリッサも一緒に来てくれるからね」

 

「クラリッサさんも!?」

 

「ああ。将冴やお前達ばかりに負担はかけられない。軍人......いや、教師としてな」

 

 

二人は、困惑しっぱなしだ。まぁ、無理もないけどね。

 

しかし、昨日のことがやはり頭から離れないようだ。このまま僕に協力させていいものかと。

なら、ここでもう一押し。

 

 

「二人が拒んでも、僕はやるからね?」

 

「......」

 

「ショウ......」

 

 

ようやく、二人は決心したようだ。

真っ直ぐ、僕に目を向けた。

 

 

「ショウ、クラリッサさん。力を貸して」

 

「もちろん」

 

 

あ、そうだ。今回のことを少し利用しよう。

 

 

「......と言いたいところなんだけど、一つ条件だしてもいいかな?」

 

 

僕の言葉に、三人がキョトンとする。

今思い付いたから、クラリッサが知らないのも当たり前だ。

 

 

「そんな難しいことじゃないよ」

 

 

僕は、自分のデスクから書類を2枚取りだし、二人にそれぞれ渡した。

 

 

「え、ショウこれって......」

 

「本気でいってるの?」

 

「本気だよ」

 

 

僕が渡したのは、生徒会へ所属するための書類。

 

 

「二人が生徒会に所属することが条件。難しくないよね?」

 

「あんた、そんな意地悪なことするやつだった?」

 

「どうだろうね?」

 

「はぁ......いいわよ、やってやろうじゃない!」

 

「私も!ショウが会長なら楽しそうだし!」

 

 

快諾してくれてよかった。あとでマドカにも伝えないと。

ああ、マドカにも今回の件伝えておいた方がいいかな。

あと束さん。絶対になにか知ってるはず。

 

さぁて、やることがいっぱいだな。

生徒会の方だって仕事がたまってるし......。

 

 

「将冴。いいのか、勝手に決めても」

 

「マドカなら納得してくれるよ。事情を話さなきゃいけないけどね」

 

 

さて、二人が書類かいてる間に、お茶でも用意しようかな。

二人とも、今日から調査を始めるっていってたし、少しだけゆっくりしてもらおう。根つめすぎても、気が滅入っちゃうし。

 

えっと、紅茶とコーヒーどっちが......

 

 

ガタガタ!

 

 

ん?扉の方から......マドカ?

 

扉に近づいて、ガラッと勢いよく開けると、そこには昨日も見た赤い髪にバンダナを巻いた後輩がしゃがんでいた。

 

 

「将冴さん......こんにちは」

 

「ら、蘭......いつからそこに......」

 

「えっと......将冴さんがダイモン?って人ともう関係ないって辺りから......」

 

 

きりきりと、胃が悲鳴をあげている感じがした。




なんだか駆け足になっている気が......。

しょーくん、まだ胃を痛めてもらうよ。


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苦渋の決断

滅茶苦茶放置してました。申し訳ありません。

これからはちょくちょく書きます・・・・・・多分・・・・・・。


「あぁ・・・・・・もう、どうしよう」

 

 

とりあえず、蘭には生徒会室に入ってもらい、しっかり鍵を閉めた。外に漏れないように、声のボリュームを落として僕は頭を抱える。

 

 

「あの、将冴さん。私、何も聞かなかったことにしますか?」

 

「そうしてくれるとありがたいけど・・・・・・そう言うわけにもいかないからなぁ」

 

 

ダイモンだけのことなら問題ない。去年の学祭の件とかも含めて、一年生以外は周知してるからね。問題は、まだダイモンの問題が完全に解決していないってことを知られてしまったことだ。

よりにもよって蘭に・・・・・・。

 

一夏たちなら事情を知ってるから、なんとかなる。後で僕がシャルやラウラに怒られるだろうけど・・・・・・。

蘭は人に言いふらしたりしないのはわかってるけど、かといってここで聞いたことを忘れろって言うのも無理な話だ。知ってしまったことで、蘭まで巻き込まれてしまったら・・・・・・。

 

 

「ショウ、どうする?聞かれてしまったのなら、この子も一緒に」

 

「それはダメ。僕の問題に蘭は巻き込めない」

 

「じゃあ、このまま帰すの?情報が広がっちゃうし、知られたからには私たちはこの事を上に報告しなくちゃいけないわ」

 

 

だよね・・・・・・わかってる。そうなるからこそ、このまま帰すことはできない。アメリカから誰かが蘭に接触してきたら、保護という形で蘭は学校に通えなくなってしまう。それだけは・・・・・・。

 

 

「・・・・・・ジェニー、ステフ。蘭を協力者ということにすれば、蘭の今の生活は保証してくれるかい?」

 

「ショウの頼みってことなら、大丈夫だと思う」

 

「わかった」

 

 

僕は自分のデスクから、先程ジェニー達に渡したものと同じプリントを取りだし蘭に渡した。

 

完全に置いてきぼりな蘭は、目を丸くしながらそれを受け取った。

 

 

「蘭、君の本意ではないのはわかってるけど、今の僕にはこうするしかない」

 

「これは、生徒会の・・・・・・」

 

「蘭がこの学園で過ごすためには、こうするしかないんだ。蘭の気持ちを無視してしまうけど・・・・・・」

 

「いいですよ」

 

 

え、いいの?そんな簡単に決めることじゃないはずなのに・・・・・・。

 

 

「ずいぶんあっさり決めたわね」

 

「五反田、そうするしかないとはいえ、そんな簡単に決めていいことではないぞ?」

 

「そうだとは思ったんですが・・・・・・元々そのつもりだったんです」

 

「そのつもりって・・・・・・」

 

「今日ここに来たのは、生徒会に入れてもらおうと思っていたからです」

 

 

生徒会に?それはまたなんで・・・・・・昨日あんなことがあったのに。

 

 

「なので、将冴さんの方から入ってくれっていってくれたのは渡りに船なんです」

 

「蘭・・・・・・」

 

「まだ詳しい話はわからないですが、生徒会に入ることに関しては全く抵抗はありません。今書いちゃいますね」

 

 

そういい、蘭は用紙に必要事項を書き始めた。

ああもう、新学期になってすぐにこんなことになるなんて、誰が予想できただろうか。

 

 

「結果オーライ、というわけではないが、なんとかなりそうだな。将冴」

 

「うん。でも、巻き込んでしまった・・・・・・」

 

「将冴のせいじゃない。これ以上、五反田が深く関わらないように私たちで何とかしよう」

 

「そうだね・・・・・・」

 

 

その後、蘭から所属願いを受け取り、詳しい話は後日するということで帰ってもらった。

 

ジェニー達には、まだ残ってもらい、今後どうするかを話し合う。

 

 

「とりあえず、明日からアメリカ政府と日本政府が作成した潜伏先候補のリストを順番に当たってみるつもり」

 

「その関係で、授業には出れないけど学園には話を通してあるから、問題ないよ」

 

「わかった。僕も織斑先生に話して、授業抜け出せないか交渉してみる」

 

「ありがとう。でも、ショウは基本学園にいてほしいの。私たちが集めた情報をまとめて、指示をしてほしいの」

 

 

僕が?

まぁ、指揮官訓練は現在進行形でやってはいるけど・・・・・・。

 

 

「ショウは学園でやらなきゃいけないことが多いしね。そっちの方がいいでしょ?」

 

「僕に気を使うことないよ?」

 

「そういって、最後には全部溜め込むでしょ。あんたは基本学園!いい?」

 

「りょ、了解・・・・・・」

 

 

押しきられてしまった。まぁ、学園にいた方が助かるのは本当だけど。

クラリッサも安心できるだろうし。

 

とまぁ、そんな話をして今日は解散となった。

 

織斑先生とマドカに色々説明しなきゃなぁ。

 

あと、束さんにも・・・・・・




短いですが、この辺で。

週一で書けるようになりたい・・・・・・


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追求

生徒会室での話し合いが終わり、部屋に戻った僕とクラリッサは。

僕はすぐに携帯を取りだし、電話をかけた。

 

相手はもちろん・・・・・・

 

 

『やっはろーしょーくん元気かな?束さんは今一人でバーニングハートして絶頂する寸z』

 

 

いつものことなのでいつものように一度通話を切る。そして数秒後、束さんから折り返しがくる。

もう慣れたけどよ、ホント。

 

通話を繋げて携帯を耳に当てる。

 

 

「束さん、ご無沙汰してまs」

 

『イックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

 

「!?」

 

 

また通話を切る。

このパターンは初めてだ・・・・・・ていうか、束さん何してるんですか!?

 

僕の焦った表情を、クラリッサが心配そうな顔で見ていた。

 

 

「将冴、何が・・・・・・」

 

「束さんが二段構え・・・・・・」

 

「は?」

 

 

そしてまた束さんから着信が。

三段構えにしてないよね・・・・・・。

 

 

「も、もしもし?」

 

『はぁ、はぁ・・・・・・やぁ、しょーくん。いつもしてやられる束さんじゃないんだよ』

 

「二度とやらないでください。もしやったらもう電話しません」

 

『それはイヤァ!?』

 

 

マジで束さんやっていたようだ。僕にそんな趣味はないぞ・・・・・・。

 

 

『ふぅ・・・・・・それで、今日はどうしたのかな?バーチャロンのメンテナンス?それとも義手の方かな?』

 

「いえ、今日はメンテナンスの方ではなくて、ダイモンの残党について聞きたいことがあるんです」

 

『っ!しょーくんそれ誰から聞いたの!?』

 

 

やっぱり、束さんは知っていたんだな。知ってて、僕に話してなかった。これ以上、僕が関わらないように。

 

 

『しょーくん、答えて!誰から聞いたの!?』

 

「アメリカの代表候補生の二人から聞きました」

 

『アメリカ・・・・・・そっか、そういえば学園に・・・・・・』

 

 

どうやら束さんも学園の事情は把握してるようだ。

それならば話は早い。

 

 

「束さん、知っている限りでいいので、ダイモンの残党の情報をもらえませんか?」

 

『それはっ・・・・・・』

 

 

情報を出し渋っている。そんなに僕を巻き込みたくないんだろうか。

でもまぁ、ジェニーやステフ、クラリッサの様子を見ればそう思うのも仕方ない。

でも、僕はもう首を突っ込むと決めたんだ。

 

 

『・・・・・・ダメ』

 

「それは、どうしてですか?」

 

『これ以上しょーくんが関わらなくていいんだよ。ダイモンはもういないんだし、残党に関してもすーちゃんとおーちゃんでどうにかなる』

 

「でも、戦力が多いに越したことは・・・・・・」

 

『ダメっていってるでしょ!!』

 

 

耳がキィンとするほど束さんが声を荒げるなんて、初めてのことだった。

どうしてそこまで・・・・・・。

 

 

『ごめん・・・・・・でもしょーくんはこれ以上戦わなくてもいいんだよ。もう普通に過ごしていいんだ。だから・・・・・・』

 

「でも、束さん。ダイモンは僕の問題でも・・・・・・」

 

『ううん、私の問題だよ。前にも言ったでしょ。しょーくんは巻き込まれただけ。だからもう首を突っ込んじゃダメ。それじゃ、もう切るね』

 

 

僕からの返答も聞かず、束さんは通話を切ってしまった。

束さんのあの様子、ただ事じゃない気がするけど・・・・・・しかし、これで情報を得る手段がなくなってしまった。ジェニー達と地道に情報を集めるしかないか。

 

 

「将冴、束さんは・・・・・・」

 

「今回は首を突っ込むなって言われちゃった」

 

「私と同じような感じか・・・・・・しかし、少し声が聞こえてきたが、いつも束さんとは様子が・・・・・・」

 

「うん、それが気になるんだよね。この件、なにかあるのかも・・・・・・」

 

 

ただの残党ではないのか・・・・・・。

胃を痛めるだけですまないかも知れないな。

 

 

「将冴、もう休んだ方がいい。顔色がよくない」

 

「そうする。生徒会の仕事も溜まっているしね。朝から生徒会室いかないと」

 

「程々にな」

 

 

とても夕食を食べれるような気分でもない。クラリッサもそれがわかっていたのか、特になにも言ってこなかった。



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