ボク、ツインテールにされました。 (大木桜)
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プロローグ:僕と中二病とポニーテールとツインテール

ついカッとなって書いてしまった。
原作のあの素晴らしく独特の雰囲気は出せないかもしれません。ご了承ください。


 

 中二病。

厨二病とも言われるそれは、誰しも掛かる麻疹のようなものだと僕は思う。

 

 

 端的に言えば、中二病とは隠された力が発現するだの、真なる自分だの、運命に導かれし選ばれた戦士だのという思春期にありがちな思想・行動・価値観が過剰に発現した病気のことである。

 

 家の母がそんな感じなことを常日頃、365日休まずに言いながら過ごしていたために、僕にとってそれは、たしかに日常的に周りにあったことで、それはある程度当たり前のことなのだと思っていた。

 小さな頃から、夢でもうひとりの自分のような存在に出会うことが出来て、その人はたしかに僕の知らない知識を持っていて、それらの知識を得て母と会話して父に苦笑されるのは、僕にとって当たり前の家族の団欒だったんだ。

 

 それがおかしいことだと、もうひとりの自分(後で兄だと言われた)が言っていたために知っていたけど、母が嬉しそうにしているその笑顔を曇らせたくはないと思ったから、やめようとは思わなかった。

 ただ、学校ではそういうことは言わないようにしていた。というのもやっぱり確認のできない脳内にいる兄の話を常日頃からする子供は、ちょっとおかしい目で見られるものだと知ったから。

 幼馴染達はなんとなく知っているだろうけど、趣味嗜好についてとやかくいう人たちではないのでなんだかんだ仲良くしている。

 

 というか幼馴染も大概な趣味してるし、おあいこということで。彼も趣味で人を見るようなことはしないし、好きなことを好きだと言えないのは違うと思っていると前に聞いたことがある。

 ツインテール大好きな幼馴染は僕が中二病だと思ってるだろうけど、僕自身ははちょっと変な夢を見るだけで割と普通だと思う。

 

 

 第一、僕はポニーテールが好きなわけだし。いや、髪をひとつに結わえた髪型が好きでその中で馬の尻尾のように揺れるポニーテールが特別好きなんだ。

 物心ついた時にはもう好きだった気がする。きっかけは母も父もポニーテールにしていたのを真似て喜ばれたのが理由かもしれないけれど。でも歳を重ねてもその好きは変わらず、むしろ強くなっていった。

 心のなかの何かが語りかけてくるんだ、ポニーテールが好きなんだと、ポニーテールに恋していて、愛していると。その気持ちが本当に自分のものなのかどうかはちょっとわからないけど、その好きだという気持ちはきっと嘘じゃない。

 

 だから僕は自分の髪を伸ばしポニーテールにした、これが僕だ誰にもはばかることのない好きな髪型なんだと周りに言うように。僕はポニーテールが似合うようになるための努力は惜しまなかった、体を絞り、髪を手入れし、細身の体を手に入れ、艶のある髪を手に入れた。

 何度か友達と喧嘩することもあったけど、友人のために好きな髪型に出来ないというのはきっとそれは寂しいことだ。

 そのために友達は少ない生活だったけれど後悔はしていない。ポニーテールのため、それが僕の生き方と決めたから。

 

 幼なじみのツインテール大好きな彼とは口論になったこともあったけれど、今は理解し合っていると思う。

 

 口論になった時に彼はツインテールは太陽だと言っていた、だから僕はそれにポニーテールは月だと答え、僕らはそれらの恩恵を受ける地球であると。僕らはどちらが欠けても成り立てはしないと。

 どちらがいいというわけではなく、どちらも良いものだと僕らは分かり合えた。

 

 ただ彼は男だからツインテールにするのをあきらめているようでそれだけは残念でならない。似合わないツインテールは彼にとってツインテールではないのだろう。彼が女性であったらきっとツインテールにしていたことは想像に難くない、彼はツインテールが大好きなのだから。

 

 

 中二病とは人によっては重大な人生の転換期となり、また人生の汚点となるのだろう。

 

 

 僕にとっての中二病はその両方であり、また自分以外の人生を多少なりとも左右することになるとは思ってもみなかった。

 

 

 趣味嗜好は人によっては大したものでなく話の種とするもので、人によっては他人にどう思われようと命をかけて好きだと言える大切なモノなのだろう。

 

 

 僕にとってのポニーテールはどちらかと言えば後者だけれど、衆人環視の前で言うことを控えるぐらいはする。それでも、どこがいいかを臆面なくぶちまけられ、分かり合える友人がいたことを神に感謝する次第だ。

 ただ、僕は誰がなんといっても自分の髪型をポニーテールから変えなかったし変えようとは思わなかった。

 

 

 中二病に囲まれて育ち、ポニーテールとツインテールで分かり合った友との生活を送っていた僕は。生まれ落ちたその時から歩んできた道の先にあるこの現実は、きっと出会うべき必然だったのかもしれない……

 

 







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第一話:僕と脳内兄と腕輪の妖精

 事の始まりはエイプリルフールの母さんのいつもの発作だった。

 

 

「世界を渡る力よ!私の中にめぐる運命の血よ!異世界の異物をここに!!」

 

 僕の母さんである十文字百合華がリビングで右手を体の前に突き出し左手でその腕を掴み力を込めていた。

 まるでそこに何かがあるかのように。

 たまにあることで、今日は異世界のマジックアイテムを手に入れて何かしたいんだろう。

 そんな母さんを見ながら僕、十文字千歳と父さんの十文字千早は朝ごはんの配膳を済ませる。

 

「百合華さん、ごはんですよー?」

「ちょっと待って!今日はなんか違うのよ!行けるイケるわ!このままッ!!ロック!!ひぃらぁけぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 ピシッと空間から音がしたのは僕の聞き間違いであって欲しかったし、母さんがなにか掴んでいたのは目の錯覚だと思っていたんだ。

 

「開け!異世界!廻れ運命!一念岩をもとおぉぉぉす!!」

 

 ガシャァンと何かが砕けた音がして、極彩色の閃光が部屋を満たす。腕を目の前にかざしその光を遮ろうとするが、極彩色が僕の目を焼いた。

 数秒だったか数分だったか、ようやく光が収まったと思って恐る恐る目を開いてみれば、そこは何も変わらないいつものリビング。

 ただそこに一つの鈍い色を放つ腕輪と小さな羽の生えた小人が浮かんでいなければ。

 

「イィヤッタァアアア!!クヒッ、アハッ、アハハハハッ!!ついに成功したわ!!アーッハッハッハッハッハ!!!」

 

 狂喜、今の母さんはそう評すしかないほどに狂ったように笑い声を上げていた。マッドサイエンティストが実験に成功したかのような笑い声を上げ続ける母さん。

 母さんの奇行と奇声が多いからと、防音設備に力を入れていたこの家が役に立った瞬間である。

 そして近くで狂った人間を見ると案外冷静になるもので。

 とりあえず、さっきの閃光でびっくりしてそこら辺に頭をぶつけて気絶したであろう父さんをソファに寝かせる。

 狂ったように笑う母さんを見て怯える妖精(仮)

 うんうんこわいよね、でも噛み付いたりはしないので大丈夫ですよー。たぶん。

 エイプリルフールということで母さんか父さんがなにか仕込んだのかと思ったけれども、もし仕込んでいたらなら半狂乱で母は笑わないし、父も驚いて頭をぶつけないであろう。

 それにこのサイズの立体投射装置もしくは電子精霊?みたいなもののような超科学をドッキリに使うほど日本人も未来に生きてはいないと思う。

 

 とにかく安心させようと思い、近くに行ってしゃがみ込む。さて、とりあえず言葉は通じるかな?

 

「えーっと、キミは誰で、どこから来たの?」

 

 近くで見るとますます妖精っぽい、銀の髪に透き通った白い肌、サファイアのような色の瞳に小柄な体躯。これで背中に薄緑の薄いトンボのような羽が生えていなければ小人だと僕は思っただろう。

 

【あっ、はい。私はリフエットで、どこからきたかというと地球なんですけど……説明の前にとりあえずこの腕輪を付けてくれませんか!?私の命にかかわるので!】

 

 うまく現状把握が良くできていないようだったが、転がっている腕輪を指差すリフエットさん。母さんはまだ笑っている。

 んーと、地球からきた、ということはどこかの国が秘密裏に作った転送装置に母さんが干渉した?

 または平行世界に存在する地球がゲートを使ってこっちに来ようとした?もしくは……いや、やめよう。

 こういうのを突き詰めて考えるのは良くない。主に僕の精神衛生的に。

 

「えぇっと、これ?付けても大丈夫?僕が死んだり呪われたり外れなかったりしないよね?」

 

 転がっている腕輪を手に取り、調べながら話しかける。あ、半分に割れた。

 その鈍色の腕輪は不思議な力を持っているように感じられた。まるで何かの思いが詰まったもののように。

 

【大丈夫だと思います。私の異世界同位体である貴方ならその腕輪を付けたことで不利益を被ることはありません。あったら私ができるかぎりなんでもしますよ!】

「そう……言葉の意味はよくわからないけど、とにかく僕に不都合があったら君が責任とってくれるってことでいいんだよね?」

【はい!ではずずいとどうぞ!】

 

 

 

 

 ……後から考えれば、この時の僕は冷静なようで混乱していたんだ。

 謎の技術で空間に映しだされている妖精に、謎の腕輪、普通ならばそんな怪しい腕輪をつけようとは思わないだろう。

 でもこの時の僕はその言葉のままに腕輪を付けてしまったんだ……

 

 

 

 

 手に持っている腕輪は鈍い輝きを放ち続けている。

 とりあえずブレスレットの要領でいいのかなと思いながら腕輪をつけようとする。

 うまく腕にハマるように片方を合わせると、「カシャン」と思いの外軽い音で腕輪が僕の腕に収まった。

 

 

 瞬間

 

 

 腕輪から白と黒の光が溢れ出す。白はつけた腕に絡みつき、黒は逆の腕に絡みつく。

 

【「はぁあああああああ!?」】

 

 僕の驚きの声とリフエットさんの驚きの声が重なって聞こえる。

 いやいやいや!リフエットさん!?なんでそんな驚いてるんですか!これ予定外なんですか!?

 なんでそんな目を見開いて両手を口に当ててるんですか?ちょっとこれどう言うことよ!?

 僕の叫び声で狂喜乱舞していた母さんが正気に戻る。

 

「ハッ!気がついたらちーちゃんが腕輪をはめて光を放っているわ!えーとハンディカム良し!対閃光防御用サングラス良し!変身してもいいわよちーちゃん!」

 

 母さん!?ちょっと状況に慣れ過ぎじゃないですかね!?ああもうどうしたらいいんだこれぇぇぇ!

 特に感触はないけど這いまわる白と黒の光は視覚的にかなり気持ち悪い!

 腕から体に移り足先、そして胸から上へとその光景を見た僕は思わず叫んでしまっていた。

 

「誰か何とかしてぇぇぇーーー!!!!」

 

 という自分の叫び声を最後に僕の意識はぷつりと切れた。

 

 

 ◆

 

 

 人の夢というものは自分の仕入れた情報を整理するために見るという説がある。

 俺はそれはある意味でそれを正しいと思っている。必要な情報、必要でない情報、それらをより分けねば人はパンクしてしまう。

 自分の理解を超えた事態が起きた時に人の意識が遠のくのは、脳がそれ以上の情報を入れるのを遮るためだろう。

 

 つまり今気絶してこっちにきた千歳の頭の容量を超える情報量だったということだ。あのテイルブレス(・・・・・・)から流れ出た光の奔流は。

 さて、そろそろ起こすか。

 俺は寝ている千歳の横に行き、しゃがみ込み耳元でささやく。

 

『おい千歳。起きろ、起きないとお前の体で中二病ごっこするぞ?』

「うわぁぁぁああ!やめてよ兄さん!また母さんがしばらく僕に過剰にかまって父さんが温かい目で僕のこと見るんだから!」

 

 悪夢を見たかのように跳ね起きる千歳。うむ、目覚めはバッチリだな。

 

『おう、分かってる分かってる。もうやらないって約束したしな。』

「はぁああああ、良かった……」

 

 うむ、落ち込んでもイケメンというか可愛いな千歳は。北欧クォーターだからか紫銀色の髪をしていて、曾祖父の遺言のせいで肩まで伸ばしそれをポニーテールにしている。瞳は翡翠色、それでいて童顔。

 その見た目から小学生ぐらいの頃さらわれそうになったことがあったために、総二たちと一緒に武術を習うことになったというのは笑い話になりつつある。

 とりあえず千歳はあぐらをかいて座り、今起こったことを自分なりに整理しているようだ。

 

 

 さて千歳が落ち着くまで、話をしよう。あれは今から841万いや、14万時間前だったか。まぁいい、君たちにとってはこれからの話だ。

 という前振りでわかると思うが俺は転生者である。創作物で最近?よくある神様転生した者だ。

 俺はとある奇病で死んだわけだが、その時出会った神が言うには「もうちょっと生きないと元の輪廻転生の輪に入れられない」ということでこの世界に生まれるはずだったんだ。

 しかしなんの因果か、はたまた神のイタズラか、生まれたのは双子の弟の千歳だけだった。

 神様がくれた能力は、生まれる前に千歳と体がひとつになったため、幾らかの知識と共に千歳に流れたっぽいがそれはそれでいいと思っている。精神面でもずいぶん影響したようだ。

 そもそも俺は別に転生してハーレムだの無双だのをしたかったわけではなく、主人公の友人ポジで面白おかしく世界を眺められればよかったんだ。

 くれるならそういう感じの能力をくれとふわっとした感じで神に祈った結果こうなった。

 もらった恩恵で千歳が面白おかしく過ごしているならいい。能力を得たことで直ちに命の危険はないと神は言っていたしな。

 

 正直この世界における俺はイレギュラーだし、人生のロスタイムとしてくれた人生なんだ、誰かが変わって楽しく生きるというならそれでも構わんと思う。

 千歳が願ったり、気絶した時にこの真っ白な世界で話もできるわけだしな。子供んころはよく来て色々なことを教えてやったんだが、最近は来なかったからちょっと嬉しいかな?

 まぁ、ちょっとはっちゃけた事もあったが。概ね仲良く、一つの体に2つの魂といった感じの兄弟ができていると思う。

 

 端的に言えば俺は「千歳の夢に出てくるお助けキャラのようなもの」だと思っている。

 

『で、ちょっと眺めてみたが随分面白いことになってるみたいだな?』

 

 千歳に見た景色を俺は自由に見ることが出来る。故に検証とかすることも可能だが、まぁ今回はその必要もなさそうだな。

 

「どうしよう兄さん……」

『まぁ、あのリフエットって子から悪意も感じないし、腕輪も悪いもんじゃなさそうだ。異世界から妖精が家に来たぐらいの認識でいいんじゃね?』

 

 多分、というか確実にトゥアールとはまた別の並行世界の地球から来た戦士だろう。すげーな並行世界。なんでもありか。

 

「でも!もしもそれが演技で、僕らを使って地球侵略とか過去を改編するとか、そういう世界の命運に関わる事態になったらどうしよう!?」

『まぁ落ち着け、不安なのはわかるが起こったことはどうしようもない、ちゃんと話を聞いてその上でお前が判断しろ。兄ちゃんはそれを否定しない。』

「うん……ありがとう兄さん。ちょっと落ち着いた。」

 

 自分で考え自分で判断することは大事だ。でもその考え方、お母さんに似てるぞ千歳……その発想がすぐに出てくるって中二病じゃないって言っても信じてもらえないと思うぞ?

 

『ま、兄だからな!兄は後に生まれたものを守る義務があるからな。体も心も俺は身体は守れないが心だけは守りたいと思っている。困ったらまたいつでも来い、俺が貸せるのは知恵だけだが話を聞くだけでも人はずいぶん楽になる。あまり一人で抱え込むなよ?』

 

 そう言うと、吹っ切れたのか来た時よりも顔色がよくなった千歳が立ち上がる。ちょっとさみしそうな顔をしながら。

 まぁ、最近は話もしていなかったからな。別に千歳が来なくとも千歳の生活の様子を眺められるから構わんのだ。それを言ったことはないが。

 

「うん……じゃあまた来るよ兄さん。ありがとう。」

 

 

 そう言って微笑む千歳はどっかのゲームのイベントスチルみたいに絵になっていた。もしくはラノベの口絵。

 さて、これからもますます面白くなりそうだが、同時に千歳は大変そうだ。

 

 ちなみに俺は特に原作のことを千歳に言ったりはしていない。脳内空間だがどちらも思考は読めないようだし知らないだろう。

 何故言っていないかといえば、総二の側に俺と千歳という存在が居るだけで原作と同じように進行するとは思っていなかったからだ。

 知っている情報を元に考えると、どこかで情報が違っていた場合に混乱するからな。下手すると総二のフラグをどっかで千歳が回収することになるんだろうな……

 そういう意味であいつはこれから大変だろう、がんばれ千歳。色んな意味で。

 俺はそれをお前の中でニヤニヤしながら見ててやるからな!!

 

 さて、ポニーテールを愛でる日課に戻らねば。1にポニテ、2にポニテ、3,4もポニテで、5にポニテ。ポニテさえあれば俺は一日を潰せる人間だ。今まで見たポニーテールの映像は脳内でいくらでも再生できる。そして千歳のポニーテールもかなり板についてきていい感じだ!素晴らしいなぁ!!

 うむ、やはり小さい頃から魂に呼びかけ続け洗脳したかいがあったな!クックック…!フハハハハハ…!ハァーッハッハッハッハ!!!

 

 

 

 ◆

 

 

 

 目が覚める。そして身体を起こす。時計を見ればお昼で、ずいぶんと気絶していたようだ。

 寝かされていたソファに腰掛ける体勢になって体を預ける。

 

「あら、起きたのちーちゃん。今リフエットちゃんから話を聞いていたのよ?侵略者に負けて命からがら逃げ延びてきたみたいね。嘘じゃない、私が保証するわ。」

 

 そんな母さんの言葉でどっと疲れが来た。うちの母さんは人の嘘を見抜くのがうまい、人間嘘発見器と呼ばれ、たまに警察が取り調べに付き合ってくれと言いに来るぐらいだ。

 つまり侵略者の可能性はないということ。僕が悩んでいたことって一体……

 

【すみません、千歳さん。私にも予想外のことが起きてしまいました。】

 

 そう言ってテーブルの上にいたリフエットさんが頭を下げる。

 おおよそマグカップと同じぐらいのリフエットさんに頭を下げられると、疑っていた自分が恥ずかしくなる。

 そして母さんはリフエットさんに向き直り、話を続ける。

 

「ちーちゃん日も分かるように今までの話を簡単にまとめるとね。アルティメギルっていう集団のエレメリアンって怪物が属性力(エレメーラ)っていう心の力を奪って回ってるらしいのね?で、それと戦うのがツインテールの戦士ってことだったわよね?」

【えぇ、誰しもが持つ属性の力それがエレメーラ、その中で最も強いのがツインテール属性です。私達の世界ではその戦士が負けそうになったために、対になるポニーテール属性をコアに同じ装備を作ったんです。】

「なるほど、対の属性力のあるポニーテールならツインテールほどではないけどかなりの力があり、ともに戦う仲間ができてツインテールの戦士も心強いわね。」

 

 ポンポンと訳の分からない単語が飛び出すけど何となく分かる。

 つまり悪の怪人が地球に地球人の知らないエネルギーを求めてやってくるということだろう。で、それと戦う力が最も強いのがツインテールを愛する人、と。

 それにしても母さんの理解力が高いなぁ。

 

【そうです、でも二人がかりでも勝てないエレメリアンに負け、先輩は属性力を奪われ、命からがら逃げ延びた私だけが先輩のテイルブレスとともにこの世界に……決死の世界移動だったために私はテイルブレスに取り付く妖精みたいな事になってしまいました。】

「大変だったのね。つまりちーちゃんの装備してるのはその先輩の使っていたギアってこと?形変わって2つに増えちゃったけど。」

「はぁ!?」

 

 今までちょっと話しについていけないから軽く聞き流していたけど、僕に関することなら話は別だ。腕を確認してみれば左に白、右に黒の腕輪が存在している。

 と言うかリフエットさん、話の流れから察するにブレスがないから変身できないってことですよね!?それってまずくない!?

 

【私の持っていたテイルブレスも無くなっている事から、片方は私のだと思うんですけど……】

 

 そう言って寂しそうにつけていたであろう手首ををさする。一緒に戦ってきた相棒だもんな。

 今まで当たり前にあったあるべき所にあるものがないのは寂しいんだろう。

 

「ふむ、つまり世界を渡った時に混ざり合って一つになってしまったテイルギアが、元の持ち主の並行存在であるちーちゃんが手にしたことで、変質しながら分離してそのふたつのブレスになったってことかしら。」

【かも知れません、ただひとつ言えることは、今は千歳さんの持っているテイルギアしか戦力がなく、千歳さんが起動できないとアルティメギルが攻めてきた時に後手に回り、属性力が一方的に奪われてしまうかもしれないということです。】

 

 妖精サイズになっているリフエットさんはこのサイズのテイルブレスは装備できないのは当然だ。そもそも言っていたとおりテイルブレスの妖精のようなものになっているということは変身して戦うことも出来ない。

 それにしてもほんとに母さん理解力とか考察凄いな!いや、中二病患者ってこういう事態を常に想定しているからむしろ驚くことでもないのか?

 とはいえ、二個もいらないんだけど。だからといって母さんにこれ預けるのもどうかと思う、はっちゃけて何するかわからないし。

 

「や、私は運命の戦士の母ポジションでいいから。それはちーちゃんが持ってなさい?息子の安全が第一だもの。」

 

 そう言って笑顔を僕に向ける母さん。てっきり片方でいいから頂戴とか言うと思ってたよ。ごめんね母さん。あと心を読まないでください。

 それにこれ継ぎ目がなくて外せないみたいだし。

 

【では、先送りにしても仕方ないですし。千歳さん、テイルブレスを使って変身してもらえますか?】

「僕ツインテールにそんなにこだわりないんだけど……ポニーテールなら、できるかな?」

 

 常日頃からポニーテールにしていた僕にツインテール属性は宿らないだろう。でも対になるポニーテールならと考える。

 

【多分出来ると思います、貴方は平行世界の私です。それに貴方の持つポニーテール力は私よりも強く感じられるんです。だから絶対大丈夫です。】

「大丈夫、出来るわよ。信じて行えば不可能はないわ。私がさっき異世界のゲートを開いたようにちーちゃんも変身できるわ!」

 

 ……それと一緒にはされたくないけど、でもうん。信ずるものは救われるって言葉もあるし。信じてみよう!

 

【変身コマンドはその人の心に浮かびます、ブレスに意識を集中すれば浮かんできます。さあ千歳さん!】

 

 ソファから立ち上がり、目を閉じ、自然と左腕を前に斜めに構え左の腕輪に意識を集中する。

 言葉が心に浮かぶ、この言葉か!

 

「転、身ッ!!」

 

 気合を入れて言葉を紡ぐと、僕は白い光に包まれた。



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第二話:僕と空想装甲テイルギア

さて変身です。


 

【「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」】

 

 変身の言葉を紡ぎ包まれた光が収まったと思ったら、リフエットさんと母さんの叫び声に驚くこととなった。

 なにに反応してるの?ふたりとも。

 と言うか何か変身してから体のバランスが取りにくいなぁ。

 胸のあたりに何か重いものがあるような……と思って胸に手を伸ばす。

 

 むにゅん

 

 という効果音がつきそうなほど柔らかいものが手に触れる。胸の下から手を伸ばしたのだが、手のひらの辺りには固い感触があるが指先は柔らかい。

 指に力を入れてみると吸い付くような感触だ。

 そして嫌な予感がして股に手を伸ばせば、あるべきものがぶら下がっている感覚がない。

 うん、これはあれか。お約束的に叫んでおこうか、せーのっ。

 

「なんでボク女の子になってるのぉおおおおおおお!?」

「いよっしゃああああああ変身女体化ボクっ子戦士!!!ちーちゃん産んでよかったぁあぁぁああアアア!!!!!」

 

 ガッツポーズ取ってちょっとイミワカラナイコトを言うこの女性は誰なんだろう。あぁ、僕の母か……

 

【女体化!そういうのもあるのか!!そして巨乳!マーベラス!ディ・モールト!!ハラショー!!!】

 

 あれあれー?リフエットさん?どうしたんですかさっきまでのしおらしい様子は。母さんと相違ない感じになってるんですけどー?よだれダバダバ出すのはどうかと思いますよー

 まぁ、いいや。叫んだらちょっとスッキリして落ち着いたし、変身解除すれば元に戻るでしょう、変身者のお約束的に。深く考えるのはやめよう。

 

【あぁ、神よ。女の体を何も知らない無垢な男の子が女の子になるという素晴らしい現場に立ち会えたことに私は感謝します!!】

「あぁ、女体化いいわー、娘ができたみたいで素晴らしいわ。ちーちゃんあとでその状態で一緒にお風呂入りましょ?娘も欲しかったのよねー」

 

 聞こえてくるリフエットさんと母さんの声はスルー。というかリフエットさんはもう呼び捨てでいいかな?いいよね。異世界の変態は呼び捨てでも十分だと思う。

 理解できないことはそういうものだと諦めた方がいいと僕はこれまでの人生で学んでいる。諦めは人生をある程度豊かにするね……

 

 それにしても、これ戦闘中になったらパニックどころじゃないよなぁ……

 うん、前もって知っておいて良かったということにしよう。何事もポジティブに考えよう、身バレしにくくなったとも考えられるし!

 さて、装備の確認しよう。見た目は後でいいや。直視したくない現実は後回しだ。

 

「えーっと?これどうすれば武器とか出てくるの?リフエット?」

【あぁ、はい。私のギアは基本的に頭のリボンを触れば出てくる仕様でした。なので同じだと思いますけど、何故急に呼び捨てに?】

 

 へー、そうなんだ。リボンリボンっと。あれなんで頭の横に髪の束があるの?サイドポニー?

 と思って反対に手を伸ばせばそちらにもある。あれ?これってもしかして。

 僕の気分がどんどん下がっていく。変身した時よりもテンション下がってきた。

 

「……ねぇリフエット、なんで僕ツインテールなの?ポニーテール属性なんじゃなかったの?」

 

 思ったよりも平坦な声が出たな。ポニーテールだと思ったらポニーテールじゃなかった期待を裏切るのは許せないなぁ……!

 サイドポニーを両方に作ったと考えるか……?いやそれはツインテールに対する侮辱だ。 ツインテールはどうしたってツインテールなんだ。触って確認するとかなりいい感じのツインテールなのが余計腹が立つ!これがこの感触がポニーテールなら僕だって喜んだのに……!!

 糞が…!怒りと絶望で闇に飲まれて暴れまわってやろうか……!!

 

【えーっと多分変身したブレスが先輩のものだったのかもしれませんね。故に装備の仕様上ツインテールになったと考えられます。後呼び捨てになった理由はなんでしょうか。】

「なるほどねー、もう片方で変身したらポニテになるのかな?後ですね、呼び捨ての理由は、赤の他人の変態につける敬称はないし、ポニーテールの戦士に変身するかと思ったらツインテールの戦士になるとか嘘つくのは許しがたい裏切り行為だよね!畜生マスコットって呼んでやろうと思ったけど慈悲の心で呼び捨てなんだからね!!」

 

 産んで育ててくれた母さんは敬うけど、いきなり現れて女体化させて喜ぶ変態にさん付けとかしませんよ。後言ったとおりポニテをツインテにされた恨みは深い。心のなかで畜生マスコットと枕詞つけて呼んでやる。

 畜生マスコットのリフエットは僕の言葉とゴミを見るような視線にドン引きしているみたいだけど、そんな顔しても呼び捨て変えませんよ僕は。

 

 

 そして気が付くといない母さん、どこ行ったんだろう?

 ちょっと畜生マスコットのリフエットに毒を吐いてスッキリしたところで、母さんが何か大きな物を持ってきた。

 

「ちーちゃん!姿見持ってきたわよ!!これで自分の状態が確認できるわ!!ほーら変身した自分を見て、新しい自分を見つけるのよ!」

 

 わー余計なお世話ー。でもないか、どうせ確認しなきゃならないんだし。たーだもうちょっと後が良かったかなー心の準備的に。

 

 

 そして僕は鏡に写った自分自身を見て現実に向き合うこととなる。

 

「これが僕……?」

 

 なんかもう驚きすぎて冷静になってきたな。改めて見ても髪型がポニーテールではなくなっている怒りかもしれないけど。

 そこには白と銀が映っていた。銀の髪を2つに束ね、肌の露出を控えめに、白のタイツで体を覆う異世界の戦闘服。

 素肌に密着するボディスーツに白タイツて、かなりボディラインくっきり出る装備ですね。装甲少なめだから機動型かな?と言うか左腕の梵字みたいなこの文様何。

 

「うんうん素晴らしいデザインよね、まさに変身戦士って感じで!!でもこのボディラインが出てる装備あれね、ロープライスのエロゲにありそうな装備ね!!素敵ィ!!!」

 

 ぶん殴ってもよろしいでしょうかお母様。

 いや確かにぴっちりスーツに手甲系装備ってそんな感じですけれどもね……

 そう思いながらもとりあえずリボンを触り武装を出そうとするが

 

「あれ?リボン触っても武器でないよ?記憶違い?頭大丈夫?」

【ひ、酷い……ええっと、見た目も私の知っているものからずいぶん変わっていますし、もしかしたら仕様も変わっている可能性があるので色々いじってみてください。】

 

 畜生マスコットのリフエットからそう言われて、とりあえず耳あてのようになっているものを触ると、目の前にバイザーが展開される。「バイザー!!しゅごい良い!!」とか言ってる母親は無視無視。

 さらにバイザーに幾らかの情報が現れる。高速で羅列される文章を全て読み切ることは出来ないが、人の体をしている絵があり腰のパーツが光っている。

 なので腰にある宝石のような結晶体に触れてみると手が入る。うわ気持ち悪い、なんだこれ。と思ったら弾かれた、硬いと思うと叩けるのか不思議結晶だな。

 手を入れてみると何かが触れたので、それをつかみ取りだす。片手でつかめるサイズの棒?

 

【あ、それは万能棒ですね。なにかちゃんとした名前があったはずですけど、なんにでもなったので私は万能棒って呼んでました。それが取り出せたってことはやっぱりギアが混ざってるようですね。】

 

「どうやって使うのかしら?エネルギー系武装っぽいけど動力源は?」

 

 なんで僕が質問するより先に母さんが聞いてるんですかね。いや、説明してくれるならもうそれでいいや。

 

【動力は属性力ですね、イメージして注ぎこむことで形を変えます、持ち手が棒なので近接装備のイメージになりがちですが、飛び道具とかにもなりますよ?】

 

 使用者の感想を細かく聞いてみると、ビームサーベルのような使い方から、その伸ばしたエネルギーサーベルを鞭のようにしならせることも出来て、力加減で束縛出来るようにもなるという。

 剣をイメージすれば切ることが出来るようになり、棒をイメージすれば打撃武器にもなるという。それにしてもイメージした形状になるのは本当に便利だな。

 

【いくつかあった時は一本づつ両脇に保持してブースター変わりにしたり、連結して大型武装にしたりしてましたね。】

 

 イメージとエネルギー次第では斬馬刀サイズもラクラクらしい。ほんとに万能棒だな。そしてバイザーに正式名称がでてる。レヴォリューションスティックか。これ名づけた人のセンスすごいな。あ、名前変えられる。

 

「これ装備の名前って意味があるの?」

【ええ、叫ぶと注いだ属性力が倍になります。】

 

 ふと気になって聞いてみればそんな答えが返ってくる、シンプルだけど強い効果だなぁ。

 

「名前変えられるんだけど、デフォルトがレボリューションスティックなの?」

【はい、なので私は万能棒にしてました。そうだ!お母様が装備の名前を決められてはいかがでしょう?】

 

 えっ

 

 おい畜生、いいこと思いついた!みたいな顔して言ってるけど、こちらとしてはあまりよろしくない。使って叫ぶの僕なんですよ?

 

「いいわね、万能属性の装備なのよね。マルチプルアーム……いえ、マルチプルウエポンね!」

 

 うん、もう好きにさせよう。少年のようにキラキラした笑顔の母さんを止めることなんて僕には出来ない。それにまぁ割とマシな名前出てきたし。

 僕の考えたカッコイイ武器の名前とか誰しも一度は憧れるものねーもう好きにさせよう。

 現実逃避だ現実逃避、もうどうにでもな~れ!

 

「それ読みだよね、なんて書くの?これ打ち込むタイプだから、ルビも振れるよ?」

 

「じゃあシンプルに多機能武装でいいんじゃない?」

 

 割と普通だ……なんかもっと神話にちなんだ名前とかつけると思ってたよ。多機能武装(マルチプルウエポン)っと。

 

「ねぇリフちゃん、これ変形する武装ごとに名前ってつけられるの?」

【えぇ、出来ますよ。千歳さんのイメージが武器になるので。各種変形武装ごとに名前ついてたほうがいいですね。】

 

 あっ、これマズイヤツだ。

 その後イキイキとした母さんに各種武装のイメージ構築とネーミングで本日がほぼ終わったのは予想通りだった。

 合間合間に畜生マスコットのリフエットが解析をかけていたようだけど、わかったことは元々のテイルギアの機能と今のギアはずいぶん変わってしまっているらしいということ。

 

 最後に一度変身を解除して、もう片方に意識を集中したけど変身できなかった。チッ

 いろいろ試したが出せたのが多機能武装(マルチプルウエポン)だけなので、畜生マスコットのリフエットが今後もこの謎だらけのギアの解析をするらしい。

 頑張れ、結果次第で枕詞の畜生マスコットは取ってあげよう。

 

 

 ちなみに僕が起きるより早く起きていた父さんは終始スルーし会話に入ってこなかった。

 そして大方の話が終わったタイミングで「そうか、頑張るんだよ。千歳……」としみじみ云われた。そして畜生マスコットのリフエットは受け入れられて家族のようなものになった。

 その後夕飯時に畜生マスコットのリフエットと話す父さんの適応力と寛容さはさすがこの母の夫であると関心したのであった。

 

 

 




作品タイトル回収。
千歳が切れてますが、イメージした髪型と全然違ってしまえば怒りますよね。
そんなことになったら原因になった人に心の中で悪態付くぐらいありますって。


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第三話:僕と幼馴染達

本編開始。


 記念すべき高校生活初日。幼馴染がやらかした。

 

 僕と幼なじみの観束総二と津辺愛香ちゃんの三人は総二の家であり、喫茶店である「アドレシェンツァ(思春期)」で昼食をとっている。

 と言っても、食べているのは紅一点の愛香ちゃんだけで、総二は沈鬱な表情でコーヒーを覗きこんでいる。

 

「なんで俺あんな事書いちまったんだろう……」

「ツインテール部はないわよねぇ。」

「フォローする間もなくあれよあれよと自爆していったからねぇ……」

 

 事の起こりは入学式の後、クラスに戻ってから入部希望用紙を書くときの事。

 入学式で様々なツインテールに見惚れてその余韻に浸っていた総二がその入部希望用紙にツインテールと書いてしまったのが凹んでいる理由。

 

「何も先生声に出して読まなくても……」

「声に出して読むほどおかしな内容だったんでしょ。」

 

 酷い流れだった、名前の無い希望部アンケートに疑問を持った先生が「ツインテール部?」と声に出して読まれ、続いて先生の「ツインテールが好きなんですか?」に総二が食い気味に「好きです!」と即答して。

 高校三年間のポジションが、もう決まってしまった総二にはこの言葉を送らねばなるまい。

 

 覆水盆に返らず。後の祭り。

 

「もうどうしようもないよ、諦めよう総二。むしろ早めにツインテール馬鹿ってバレて隠す必要なくなったって考えよう、ね?」

「ぐあっ……!」

 

 あ、総二がカウンターに頭落とした。

 

「トドメさしてどーすんのよ、ちとせ。」

「だって落ちるとこまで落ちたらあと這い上がってくるだけなんだから、トドメさしたほうが良くない?」

 

 そう言ったら愛香ちゃんが若干引いていた。いや、諦めた方が物事ポジティブに考えられるよ?あと、這い上がる距離が長いほど男の子はかっこよくなると誰かも言っていた。つまりがんばれ総二。

 

「そもそも間違って書いたことよりもその後のフォローがまずかったのよ。あんたテンパりすぎ。」

「まぁ、自分でも意識しないで書いた上で、読み上げられたら普通パニクると思うけどね。」

「わかってたならふたりともフォローしてくれよ!友達だろ!?」

「いや、僕だって友人がツインテールとか希望調査に書いたのを、読み上げられたのを冷静に対応した上での即フォローは無理だよ。」

「友達、ねぇ……」

 

 僕の言い訳を他所に愛香ちゃんが不機嫌そうだ、とは言え総二はツインテール以外のことに対して察しが悪いから、その理由はわからないだろうけど。

 幼なじみで友達って、恋人とか伴侶とかそれ以上の関係になるの難しいと思うけどなぁ。

 とか考えつつ僕と愛香ちゃんで凹んでいる総二にフォローを入れる。

 

「過ぎたことは仕方ないよ。あきらめよ?次に同じ様なことがないように気をつけようよ。」

「そうよね、過ぎたことをグチグチ言ってもどうにもならないしね。」

 

 これでこの話は終わりだ。総二が鮮烈なる高校デビューしたことはきっと伝説になるだろう。悪い意味で。

 

 ぶつけた頭をそのままにして、カウンターに突っ伏す総二。愛香ちゃんはそれを仕方ないなぁという感じで見つめている。

 

 

「うぅ、俺にもっとアドリブ力があれば……」

 

ようやく頭を上げたかと思えば、唸りながらそんなことを言う総二。

 

「いやぁ、例えあったとしてもツインテール部とかいう言葉からのフォローは、かなり難しかったと思うよ?」

「そうね、第一総二がツインテールに関係ない方向へ話を持っていけるとは思わないわ。逆にいかにツインテールが好きか語って今よりひどい事態になったんじゃないの?」

 

 愛香ちゃんが酷いけど僕も同じだと思う。それだけツインテールを愛してるってことなんだろうけど。

 そして愛香ちゃん?手を付け始めたその三杯目のカレー、僕のなんだけど。と言うか総二の分も無くなってるけど、いつの間に総二の分のカレー食べたの。

 そんなことを思いながら、僕は珈琲を飲み干す。

 

「また総二くんがやらかしたのかい?千歳。」

「うん、そんな感じだよ。父さん。」

 

 カウンターの奥から出てきて、僕に二杯目の珈琲を出してくれるのは、父さんだ。

 家が隣ということと、母親同士が学生時代からの友人ということがあって、主夫である父がたまにここで働いている。

 総二のお母さんで、ここのマスターの観束未春さんは今買い出しに行っているようだ。

 総二達からちょっと席を離して、グラスを磨く父さんの近くに行く。

 すると父さんが声を潜めて僕に問いかけてくる。

 

「ところで千歳。総二くんと愛香ちゃん、いつくっつくと思う?」

「あー、総二がツインテール以外にもっと興味を持ったらだと思うよ。」

 

 そう言った視界の端では総二が愛香ちゃんのツインテールをいじってラブコメしていた。

 

「ね?」

「そうだね。総二くんはもっと女の子の気持ちを理解できればねぇ。何事にも真っ直ぐでいい子なんだけどね。」

 

 昔からツインテールのことに関しては勘が鋭いけど、その他のことには鈍い総二が、ずっと乙女している愛香ちゃんに気が付かなかったからなぁ。

 愛香ちゃんがツインテールにしてる理由、総二はツインテールが好きだからだと思ってるけど、実際の所は総二に好きな髪型だからだもの。

 と言うかツインテールに真っ直ぐすぎてツインテールが関わらない他のものが見えないだけなんじゃなかろうか。

 

 あ、総二がなんか反応している。どうしたんだろう?

 

 まぁとにかく。

「僕は今のままだと無理だと思うなぁ、良くてツインテールの好きな親友と思ってるよ総二は。」

「そうだねぇ、っと。あそこのお客さんにオーダー取ってこないと。」

 

 そう言ってカウンターから出て行く父さん。

 あれ?いつの間にあんなとこにお客さんが?と思っているうちに読んでいた新聞をたたんでこっちに歩いてきた。

 

「相席よろしいですか?」

「待て待て待てぇ!」

 

 

 ……良し、さらに距離を取ろう。そうでなくてもラブコメ空間に巻き込まれたくなくて席を離して父さんと話し込んでいたんだ。

 僕は当事者になりたいわけじゃなく、それを端から眺めてニヤニヤする友人ポジで居たいんだ。

 愛香ちゃんが突っ込み入れ始めた時点で、ろくな事にならないのが目に浮かぶ。もうちょっと離れよう、巻き込まれたくない。

 あ、父さんが注文を聞きに行った。凄い、谷間にストロー挿すとかツインテールダイスキとか、わけのわからないことになりつつあるあの空間に注文取りに行った!

 そして流れるように相席を申し出たテュアール?さんの注文受けてカウンターの奥に下がっていった。

 その間にも横では私私詐欺に始まり、愛香ちゃんに殴られて吹き飛ばされた演技して総二に近づいたりと、何これコント?

 そして繰り広げられるコントのような腕輪争奪戦?のようなものに終止符が打たれる。

 総二の腕にその腕輪が装着されることによって。

 

 

 ん?あれ?あの腕輪僕が今している奴(・・・・・・・・・・)に似てる気がするな……

 

 

 とか思ってる間に三人が光に飲まれて消えていた。

 光学迷彩か何かかな?

 

 わーふしぎだなー、めのまでひとがきえちゃったぞー、そーじたちはいったいどこにいってしまったんだー?

 

 

 さてふざけるのはやめて現実を見て、覚悟を決めよう。まさかこんなに早く事が起きるなんて思っても見なかったな……

 

「父さん、事件です。」

 

 ちょうど注文の品を持ってこっちに来ていた父さんに話しかける。

 

「そのようだね。」

 

 うん、困惑している様子はあるけど取り乱していない、流石僕の父さんである。

 

「まさか本当に、ほんっとうに!こんな事態が本当に来るとは思いたくなかったんだけど……」

「そうだね。百合華さんが喜ぶ事態だからできればこないほうが良かったよね。あの人がここにいたら「ついにこの日が来たのね……!」とか言ってる頃だね。」

 

 人が目の前で消える、という超常現象に対してあまりに驚きが少ない。二度目の超常現象となれば案外取り乱しはしないものなんだろうか。

 

 両腕に付いた白と黒の腕輪を見ながらそう思う。

 

 つい先日この腕輪をつけることになったせいで、だいぶ耐性がついてるんだろうけど。それはいいことなのか悪いことなのか。

 

「じゃあ千歳頑張って。僕は何も知らない。奥に行ってるうちに皆どこかに行っていた。そういうことにしておくよ。」

「うん。…ついにその時が来たってことだよね。やらなきゃ悲しむ人が確実に出るんだ…!頑張るよ。」

 

 じゃあ、一度家に帰ってから行ってみようか、お客は多分来ないだろうけど未春さんにバレると色々あれだし。そう思いながら腕輪に語りかける。

 

「起きてる、リフエット?」

【はい、起きてますよ?やっぱり来ましたねエレメリアン、いえアルティメギル。座標はチェックできてますから、いつでもイけますよー?期待してますよー千歳さんげへへ】

 

 腕輪からリフエットの合成音声が流れる。中の人はこちらに意識を割いていてくれたようだ。

 なんか語尾が気になるけど、応援してくれてるみたいだし気にしないようにしよう。

 そう思いながら僕は喫茶店を飛び出した。



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第四話:僕と怪人とツインテール

 喫茶店を飛び出し家に帰り部屋から転送されると、そこはマクシーム空果の頂上。事態の全てを見下ろせる位置に僕はいた。

 逃げ惑う人々、それを追いかけるパンツをかぶった変態のような格好をした黒タイツの集団。そして……異形の怪物。

 怪物が踏みしめたアスファルトはクモの巣状にひび割れ、爆炎をまき散らしながら歩くその姿は大型の爬虫類。

 二本の足で歩き甲冑をつけているが、その恐れを形にしたかのような凶悪な双眸は鋭く何かを探している。

 まるでそこだけ特撮の世界になってしまったかのような錯覚を起こすほど、現実離れした光景が今僕の目の前にひろがっている。

 

「リフエット、あれが僕達の敵ってことでいいんだよね。」

 

 そのまま頂上にしゃがみ込み、それらを見下ろしながら腕輪に話しかける。

 腕輪に宿った妖精リフエット。ギアの解析の結果畜生マスコットの称号は外されました。

 

【はい、あれがアルティメギルのエレメリアン、その人の愛した属性を奪う私達の敵です。何度もいいますが、属性を奪われた人は生涯その属性に関わるものに興味すら持てなくなってしまいます。なので絶対に阻止してください。】

 

 映像として空間に展開された彼女はエレメリアンを睨みつける、親の敵をみるよりも憎悪を込めて。

 そして怪物、いやエレメリアンはその言葉を叫ぶ。一部の人間に絶望を与える言葉を。

 

「フッ、フハハハハハ!この世界の生きとし生けるモノ、全てのツインテールを我等の手に収めるのだ!!」

「モケェーーーーーーー!!」

 

 その声とともにツインテールの子を捕まえて集め始める戦闘員。幼女のツインテいじって遊んだりしてる奴も居るが、基本的にツインテールの子を集めそれ以外を追い払っていく。

 そしてその中から選りすぐりのツインテールの子にぬいぐるみをもたせる怪物。

 ……うん、客観的に見ると頭おかしい。でもそれを馬鹿には出来ない。なぜならば。

「愛したものに生涯関われなくなる、そんな悲しい思いをさせる訳にはいかない!」

 僕にはツインテールが大好きな友人がいる、彼ならきっと僕と同じことを思うだろう言葉を言う。

 覚悟を決めて相手を睨みつけ、変身しようとした所でリフエットがそれを遮る。

 

【ちょっと待ってください、軽く確認しておきましょう。千歳さんの変身後の装備についてです。】

「装備って言ったって武器のことならわかってるでしょ?」

【いえそうではなく、変身後の各部にも名前があります、その説明も必要でしょう。】

「あぁ、解析の終わった腰部にある結晶とかの名前か。でも今やること?」

【軽く分かるところだけです。防御周りの説明もまだでしたし、戦いながら説明されるのは大変でしょう?というわけで腰部の結晶の説明から行きましょう。】

 

 そして小さく変身後の姿の映像が映し出される。まずは腰の大きな結晶が大写しになる。

 

【まずは腰部のフォースクリスタルですね。これは武装展開装置です。叩くことで多機能武装(マルチプルウエポン)を弾き出してくれます。】

 

 今度ズームされたのは柄だけの棒状の物。母さんの名付けた武器だ。

 

「今使えるメイン武装だよね。他の武装ってまだ解析終わってないから使えないんだっけ?」

【そうです、なので今はこれだけですね。そして体の各部にある結晶は防壁結晶(サクリファイスクリスタル)です、衝撃やダメージを受けた時に肩代わりしてくれるものですね。】

 

 そして次に示されたのは身体各部にある小さな結晶。両腕と両膝と両足の甲の位置にある結晶だ。

 

「そうなんだ、じゃあダメージは僕自身には来ないってこと?」

【そうですが、肩代わりということを覚えておいてください。使い捨てバリアがあるぐらいの気持ちで戦ってくださいね。】

「了解、胸下の結晶と胸の結晶は?後首元の。」

【胸の結晶とその下の結晶はまだ解析している場所です。首の結晶は認識撹乱装置(イマジンチャフ)です。簡単に言うと身バレしにくいようになっているものですね。】

 

 あぁ、正体ばれなくする装置ね。首の結晶へのダメージには注意しとこう。

 

「なるほど、じゃあ展開形のバイザーいらないんじゃ?」

【バイザーは情報装置です、今のように映像を出したり、新しい武装が出現した時や緊急事態の対処法が装着者のみにわかるように展開されます。正体隠すのはそのおまけですね。】

「あぁ、2つの意味があったのね、あれ。今わかるのはこれで全部?」

【そうですね。……最後の確認です、これからアルティメギルとの戦いになりますが、大丈夫ですか?】

 

 振り返り、不安げに聞いてくるリフエット。

 腕輪を見下ろし考える、確かに得体の知れない敵に、変身して戦う自分。

 不安はある、でも。さっきの熱意は嘘じゃない。

 

「正直に言えば不安だけど。でも戦う力があるのに見過ごすなんてことはしたくないし、するつもりはない。誰かが悲しむのがわかっていて、救えるかもしれない力があるのに見て見ぬふりはしたくない。」

【……そうですか。有難う御座います、私のせいで巻き込んでしまったのに。】

 

 そう言って肩を落とし顔を伏せるリフエット。

 正直このへんは気にしすぎてもしかたないと思うので僕はリフエットに声をかける。

 

「まぁ、そんなこともあるよ。気にしないで、さぁ行こう。」

 

 そう言ってリフエットに微笑みかける。

 

【えぇ!アルティメギルをぶっ潰してください千歳さん。】

 

 その言葉に力強く頷き、左腕のブレスを胸の前に掲げ変身機構起動略語(スタートアップワード)を紡ぐ。

 

「転身!!」

 

 光りに包まれ僕が変身する。

 その体は女性のものとなる。

 ボディスーツに要所を守る装甲が音を立て、各部分の結晶が青白く輝き、バイザーが展開される。

 

 

 リングを抜けた女の子達のツインテールが解かれていく。

 もう少し相手の戦力分析したかったけど、そろそろ潮時かな。戦闘員多数にリーダーが一人、戦闘力は双方不明、これは出たとこ勝負かな。

 ゆっくりと身体に力を込める。初めての戦闘だけどやってやれないことはないだろう、恐れもある怖さもある、でも覚悟もある!

 人生はいつだってぶっつけ本番なんだ!

 

「行くよっ!!」

 

 気合を入れて僕は飛び立った。白い、真白のツインテールをなびかせて。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺、観束総二は恐怖と混乱の局地にいた。

 目の前の怪物たちの行動に激怒して、女科学者トゥアールに渡されたブレスで変身して。

 いざぶっ飛ばそうと思ったら身体の制御がきかず、怪人のリアクションがおかしいと思って鏡を見れば、そこにはあら不思議、かわいいツインテールの幼女がいるじゃありませんか。

 ついさっき決めたはずの覚悟が、木っ端微塵に砕け散ってしまうほどにそれは衝撃的で。

 自身が可愛いツインテールになって、ツインテールが大好きな奴に迫られるという現実を受け止められなくて。

 愛香の言葉も、トゥアールの言葉も耳に入ってこない。ただただこいつがコワイ。

 

「ハァハァ……ツインテール……!!」

 

 駄々っ子のように殴るだけで戦闘員はきらめく粒子になって消滅するが、こいつは、このトカゲの化け物みたいな奴はゾンビのようになんどでも立ち上がってくる。

 その血走った瞳が怖くて、息遣いが気持ち悪くて、俺は生涯で上げたことのない悲鳴を上げてしまっていた。

 

「きゃーーーーっ!!」

 

 頭を抱えて震え、現実から逃げ出そうとした時にその声が降ってきた。

 

「させるか!この変態ッ!!」

 

 その場にいた誰もが目を見開いただろう。

 二メートルを超える巨大なトカゲのバケモノが白い閃光に吹き飛ばされ、アスファルトを破壊しながら転がっていったのだから。

 白い閃光はうまく反動を殺して俺の前に着地する。

 俺はその白に一瞬で俺は魅了されてしまった、輝く白、曇りのないその白いツインテールに。

 流れるツインテールは気高く、宝石のように輝いている。それはさながらダイヤのように、揺れて反射する光をプラチナに変えて。俺の目を、心を魅了するツインテールだった。

 そのツインテール中に込められた思いは同じくダイヤの様であると感じられた、高圧下で熱せられて生まれるダイヤのように、熱くたぎる心とともに固められて歩んだツインテールなのだと俺は感じた。

 その有り様に俺は心を震わされたのだ。

 

「よっ、と。キミ大丈夫?立てる?」

 

 呆けている俺にその人は困り顔で手を差し伸べてくれた。

 基本的な色が真っ白なスーツでところどころに銀と金の装飾が入ったと装甲、バイザーに隠されて素顔はわかりにくいがその奥の瞳はきっと心配に揺れているのだろう。

 そしてその後ろで揺れるツインテールはまるで天使の羽のように俺には感じられ、こんな時だというのに思わず

 

「綺麗だ……」

 

 と言葉を漏らしてしまった。

 そんな俺に苦笑して「もう大丈夫そうだね。」と声をかけて、俺を立たせて走り去っていくあの人の背中を、この時の俺はただ見つめるだけだった……

 

 

 

 ◆

 

 

 赤いツインテールの幼女を立たせて、ふっ飛ばしたトカゲの化け物の方へ駆けていく途中にリフエットの声が耳に届く。

 

【あれが、別のツインテールの戦士ですか。潜在能力は高そうですけど、あの様子ではあまり期待できそうにないですね。】

「でも、多分初変身だったんじゃない?自分の体に戸惑ってる感じだったし。」

 

 あの赤いツインテールの幼女はきっと強い、リフレットの言う潜在能力とは属性の強さ、それは心の強さと直列だ。

 あの子の覚悟が決まればきっとどんな敵も倒せる、そんな予感があのツインテールから感じられる。

 だから今は、僕が彼女の心が決まるまでの時間を稼ぐ!

 武器を出したいところだけど、ここはあえて様子見で素手で行く。ただの勢いをつけた蹴りで吹っ飛ばせるみたいだし。

 不意打ちでふっ飛ばしたトカゲのバケモノが体制を立て直し、こちらに指を指し声を飛ばす。

 

「くっ!不意打ちとは卑怯ではないか!見るからに戦士であろう、戦士としての誇りはないのか!?」

「子供は宝だ、何に変えても守る価値のある希望だ!故に誇りも何もかなぐり捨てて守ってなぜ悪い!」

 

 僕は走りながらそう返す。内心としては幼女いじめんな!かわいそうだろ!である。

 

「むぅ…。」

 

 そう言って黙ったトカゲの懐にダッシュで潜り込む。あっさりと潜り込めた懐から、身体を捻り渾身のガゼルパンチを放つ。

 

「がっ…!」

 

 綺麗に決まったガゼルパンチで相手の体が浮く。

 重い!?そして頑丈だね!頭ふっとばすつもりで殴ったのに体が浮くだけとかどうなってるんだ!

 そのまま体が浮かされ反応できない無防備な身体に、拳を2,3入れた後、さらに踏み込んで回し蹴りを叩き込む!

 

「なんのっ!」

 

「くぅっ!」

 

 こいつ腕で防御できないからって、あるのかどうかわからん腹筋に力入れて堪えた!?あまりの硬さに鉄柱蹴り飛ばしたかと思ったよ!?

 ただその衝撃を活かして双方距離を取る。

 仕切りなおし、って!?何か構えをとった?

 つきだしたその手の前にはバチバチッと火花が散りながら球状を形成していく。

 

「喰らえ!稲妻スパーク!!」

「ちょおっ!?」

 

 電撃玉!?マズイ!これを避ければ気絶している後ろの人たちが!?

 とっさに腕をクロスさせて防御の体制に入るがその横に赤い影。

 

「させるかーー!」

 

 という声とともに僕の横を颯爽と駆け抜けていったのは、さっきの赤い幼女だった。

 

「ペチってやるぜ面出しな!」

 

 小柄な体を活かして小回りを利かせて回りこみ、横合いから蹴り飛ばして技を中断させ蹴った反動でこっちに飛んでくる。

 そしてこちらに背を向けたまま、顔だけこちらに向けて僕の顔色をうかがってきたので、拳を握り親指を立てるサムズアップのジェスチャーとウインクで返す。

 

 

「ふん。なるほど、なかなかの戦闘力。戦士として心躍る戦いができそうだ。我が名はリザドギルディ!アルティメギルの切り込み隊長にして、少女が人形を抱く姿に心奪われた存在よ!聞こう、貴様らの名を!」

 

 リザドギルティね。ならばこちらも名乗ろうか。前から決めていたとおりに!ポーズも決めて、ね!

 左腕を斜めにしてブレスを胸の前に、右の拳は引いて腰に。そして名乗りは高らかに!ここで恥ずかしがるのは二流!!

 

「闇夜を照らす煌めく光!テイルシャイニング!!」

「……燃え盛る紅蓮の炎!テイルレッド!」

「テイルシャイニングにテイルレッドか……しかと聞いたぞ、貴様らの名を! 顔とツインテールは傷つけぬように配慮するが、多少の怪我は覚悟せい!!」」

「覚悟なんているもんか!なぜならお前は俺達に倒されるんだからな!」

「そもそも、さっきまでボクに一方的にやられてたのに二対一で勝てると思ってるの?」

 

 返す言葉には挑発を混ぜる、冷静さを少しでも奪えれば御の字だ。

 それにしても覚悟を決めたあの子はカッコイイな、あんなに大きな相手にも臆さずに啖呵切れるんだもん。

 うーんそれにしてもツインテール幼女に大剣、見る人が見たら喜ぶ映像だなぁ。

【グヘヘ、大きな剣とょぅι゛ょ……!】

 リフエットがなにか言ってるけどきかなかったことにしよう。

 幸い僕にしか聞こえてないみたいだし。

 

 

「二人がかりか…だがそうは行かぬ!アルティロイド!」

「「「「モケーェ!」」」」

 

 どこから湧いてきたのか多くの戦闘員(アルティロイド)戦闘員が現れる。ええい、1匹見たら30匹はいるのか!?

 わらわらとこちらに群がってくる戦闘員に、囲まれると判断した僕はレッドを掴んで投げ飛ばす!

 

「食らえ、リザドギルティ!ツインテール魚雷!!」

「へっ?うわぁああああああああ!!」「ぬおおおお!?」

 

 派手な音がして二人がぶつかり、その勢いのまま端の方まで飛んで行く。

 よし!これでレッドとリザドギルディのタイマンだ。こっちを向いた時に吹っ切れた顔してたし大丈夫でしょ。

 これで分断成功っと。

 

「さーて、ボクはボクで戦闘員をお掃除しましょうか。多機能武装(マルチプルウエポン)!」

 

 腰のフォースクリスタルを叩き、柄を取り出す。これはエネルギーを注ぐことでなんにでも出来る便利武装だ。

 

「モード、グレイプニル!」

 

 そして鞭状にして地面に叩きつけコンクリートを破壊する、威力も十分だ、思わず頬がゆるむ。

 

 

 ……あれ?なんで戦闘員の皆さん若干後ずさってるんですかね?

 

 

 

 ◆

 

 

 津辺愛香はおっぱいを締めあげていた。

 いや正しくは自身に無いおっぱいを持つトゥアールを締めあげていた。

 

「ちょっとどういうことよ!そーじがいなくても何とかなったんじゃないの!?ていうかあんたそっくりじゃない!どうなってるのよ!!」

「私にだってわかりませんよ!あれは私の知らない戦士です!というかちぎれますちぎれます!もげちゃうううううう!!」

 

 愛する幼なじみがこの胡散臭いおっぱい女に騙されて腕輪を付けられて幼女に変身して危険な戦場に身を投じたというのも気に入らないというのに。

 もしかするとその危険を犯す必要がなかったのではないかという戦闘力を持った白い女性が現れたのだ。

 それだけでも気に入らないのだが、愛香はその女性に総二が見惚れていたのが気に入らないのだ。

 ついでにおっぱいが大きいことも。

 

「あんた。嘘言ってると縊り殺すわよ?」

 

 野生の獣も全速力で逃げ出すような愛香のメンチビームがトゥアールに決まる。

 実際睨んだだけでクマが逃げ出したというエピソードがあるのだが、それを知ってるのは愛香と総二と千歳だけである。

 

「ひぃっ!う、嘘じゃありません!もう一つ総二様に渡したと同じものはありますが、それも私が持っています!本当に無関係なんです信じてください!」

 

 命の危機を感じたのかもう一つの青い腕輪を見せるトゥアール。それを見て愛香は怒りを収め始める。

 

「そうね……今は信じてあげる。ただ後で確認させてもらうわ、あんたが本当にあの戦士のことを知らないかどうか。あとでそーじと一緒に聞くから覚悟してなさいよ!」

 

 そう言って愛香がおっぱいから手を放し、トゥアールは地上に生還する。

 

 二人がじゃれあっている間にも二人の戦士の戦いは続く。

 

 

 ◆

 

 

 僕の当初の予想に反して戦闘員たるアルティロイドの戦闘力は、束でかかっても僕にダメージひとつ入れられないほどだった。 

 というのも鞭モードを振るうだけで、敵が吹っ飛ぶんだもの。数が多いだけで苦戦はしない。

 また一度鞭を振るい何匹かのアルティロイドをしばき倒す。単なる作業になりつつある戦闘員の駆逐をしながらリフエットに問いかける。

 

「奪われた属性ってあのリングを破壊すればいいんだっけ?」

 

 駐車場に設置された巨大なリング、SF作品に出てくるのワープゲートのようなリングを指さしてリフエットに聞く。そしてまた近寄ってきていたアルティロイドに鞭を振るい吹き飛ばし光にする。

 アルティロイド、死すべし。慈悲はない。

 

【そうです、あれを破壊すれば奪われた属性は元に戻っていきます。ただ、24時間以内という制限は付きますが。】

「なら先に壊しておこうか。モードチェンジ!連結刃(チェインブレイド)!」

 

 すると手に持った鞭が光を放ち剣になる。そしてジャラジャラと音を立て連結鎖状刃となっていく。

 この武器はイメージで構成されている。ゆえに剣の軌跡はある程度イメージで補正できる、軽く振ることでリングを守るようにいたアルティロイドを全て蹴散らす。

 ホーミングレーザーソードとか言ったほうがいいんじゃないのこれ。

 

「壊れろ!」

 

 そして二度目の剣戟でリングを横に真っ二つにし破壊する。中から光が現れ女性たちに降り注ぎ、彼女たちはツインテールに戻っていく。

 よかった、無事に戻ったみたいで。

 

「それにしてもちょっと長すぎて使いにくいなぁ、アルティロイド散らし用にしとこう。」

 

 見渡してみればアルティロイドは全滅したが、駐車場はズタボロである。ちょっと操作ミスって駐車場抉っちゃったけど、だいじょうぶだよね?

 

 

 

 そして分断して一対一になったテイルレッドを見てみれば、炎をまとった必殺技を放ってリザドギルディにとどめを刺していた。

 

「ふ、くあははは!ツインテールに頬を撫でられて逝く、なんの悔いがあろうか……これぞ男子本懐の極み!」

 

 満足気に最期の言葉を言い放ち、爆発するリザドギルディ。

 うん、そうかい。キミはブレなくて素敵だねー、もしかしてエレメリアンてこんなのばっかりなのか?

 

「ふぅ。終わったかな。」

 

 ボスも倒したし、奪われた属性力も開放した。もうここに用はないからとっととこの場を離れよう。

 と思っていたらテイルレッドがこっちに駆け寄ってくるのが見えた。どうしよう?と思えばリフエットから声が掛かる。

 

【軽く交流しておいたほうが良いのでは?敵と思われても面倒ですし、ツインテールの戦士なら、これからまた共に戦うこともありますし。】

 

 それもそうか。ということで軽く手を降って答える。そして喜んで走り寄って来るのはなんか大型の犬を思わせる。

 

「あのっ、本日はありがとうございました!助かりました。」

 

 改めて見ると小学生ぐらい低学年かなと思うほど小さい。こんな小柄な体であの巨体と戦うなんてとても勇気のいることだ、僕にはとても出来ない。

 それだけの勇気を振り絞って戦ったのだ、本当にツインテールが好きなんだろう。

 

「いやこちらこそだよ、正直一人であの戦闘員の数とリザドギルディは相手にできなかったもの。それにごめんね、あの時囲まれそうだったからって投げ飛ばしちゃって、頭痛くない?」

 

 そう言って頭に手を置き、撫でる。すると彼女の顔が見る見る間に赤くなっていく。あぁうん流石に恥ずかしいか。

 

「だ、大丈夫ですっ!」

 

 わたわたと慌てるさまはちょっとかわいいと思う。そういった微笑ましい交流をしていると後ろから声がかけられた。

 

「……あの。」

 

 控えめなその声は、僕の学校の神堂慧理那会長だった。そういえば会長も総二が見惚れるツインテールの持ち主だったな。

 狙われてしかるべきというかなんというか。

 

「助けて頂いて……有難う御座います。」

 

 そう言って破れたスカートの端を軽くつまみ、おじぎをする会長。

 

「いえ、困っている人を助けるための力なので。お気になさらず。」

 

 僕はそれに軽く手を上げて答える。

 この辺りの受け答えも母さんさまさまである。ただあの人がどんな事態を想定してこの言葉を用意していたのかは知らない。

 テイルレッドはアドリブきかないのか慌てているが。

 

「お二人共、とても素敵な戦いぶりでしたわ。特にレッドさんはまだ小さいのに本当に勇敢で……シャイニングさんは大人の冷静な判断力。わたくし感激いたしましたわ!」

 

 うん、多分分断したことなんだろうけど。あれ思いつきだから成功してないとレッドが戦闘不能になってた可能性あったし微妙だよ?

 そして慌ててるところにそんな声をかけられたもんだから、レッドがパニックになりかけてる。褒められるのに慣れてないのかな?

 

「あの……あなた方は一体……?」

「せ、正義の味方です……さ、早く逃げてください。」

 

 ちょっと噛んじゃったけど、まあ及第点かな。我ながら正義の味方ってなんだよとは思うけど。まぁあながち間違いじゃないしいいか。

 

「助けていただきありがとうございました!……またお会いできますか?」

 

 できれば会わないほうがいいんだけど、それに去り際の台詞は決めてなかったなーと思っていたら。

 

「貴方が、ツインテールを愛する限り。」

 

 そうテイルレッドが言っていた。そして会長が深くお辞儀をして走り去る。

 そしてにわかに周りが騒がしくなる。周りの人も起きだして警察や消防のサイレンまでこちらに向かってくる。こりゃマズイ。

 

「じゃあテイルレッド、待たね!」

 

 そう言って手を振り、空に向かって全力で飛び上がる。

 それはさながら空に向かう光の矢のように見えただろう。

 

「リフエット転送よろしく!」

【了解です!転送っ!!】

 

 高い空の上で転送の光に包まれ、僕の初陣は終わったのだった。

 

 

 さて往々にして世の中とは思い通りには行かないもので。この時の僕はまだ、ちょっとした珍事件程度で終わるものだと思っていたんだ。

 それがあんなことになるなんて、この時の僕が知るはずもなかった……



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第五話:僕と味方とアルティメギル

光に包まれて転送して帰ってきたのは僕の家の自室。

すぐさま変身を解除して元の姿に戻ると、疲れが足に来たのか傍にあったベットに倒れてしまう。

そのままだらけながらリフエットと反省会を始める。

 

「はぁ、とりあえずなんとかなったねー」

【そうですね、この星のツインテールの戦士も覚醒したみたいですし、戦いはまだ始まったばかりですが。お疲れ様でした。】

 

腕輪から出てきたリフエットがそう言っていたわってくれる。

僕はベットにうつ伏せになり、今後のことを考える。

 

「アルティメギル、また攻めてくるよね?」

【そうですね、今日倒したのは切り込み隊長ですし。幹部クラスなどがまだいますから、これから攻勢は激しくなっていくでしょう。】

「だよねー……」

 

今日は乗り切った、でも明日は?明後日は?と考えると気分が重くなっていく。

 

【憂鬱そうですね、明日のことを気にしても仕方ないですよ?】

「そうなんだけどさー。やっぱり僕達だけじゃ辛くない?」

【何をいいますか、今は武装制限されていますが、私と先輩の使っていたテイルギアは装備なしでもそんじょそこらのエレメリアンには負けませんよ!】

 

そう言って小さく胸を張るリフエット。

 

「でも、僕の使ってるギアってリフエットが使ってたのともその先輩が使ってたのとも違う物になってるんでしょ?」

【そうなんですよね、実際調べた結果幾つかのギアの機能が死んで別の機能に入れ変わったりしてるんですよ。それに調べれば調べるほどに謎が増えていくんで、比較的安全に使えそうなものしか説明してないんですよ?】

「ん?つまり今使ってる武装も不安定になる可能性があるってこと?」

【正直に言えばそうですね、そのために毎日解析してはいるんですけど、正直使えそうだけど危なそうなものは使用許可出してないですよ?】

「そう、頑張ってるんだ。ありがとうね。」

【いえいえ、千歳さんがいなければ私も存在できてませので当然です。】

「それでもありがとう。」

 

僕がそう言うとちょっと照れた顔でリフエットははにかんだ。

ちょっと気になることを聞いてみる。

 

「リフエットは元にはもどれないの?」

 

リフエットには元々の肉体があったはずだ、今は精神体としてテイルギアに宿ってサポートしてくれているが、僕の属性力を糧に生きているようなものだと先日言っていた。

 

【そうですねー私の体があれば、それにテイルブレスをつけることで戻れるかもしれませんが。消滅してるとしたらこのままですかねー】

 

ちょっと考えてそう言ったその顔は、やはり寂しそうだった。

 

【でも、この生活も悪くないですよ?ご飯も排泄もいらないですし、ネットにはつなげるので暇はしないですし。何より千歳さんとずっと一緒に要られますし。】

 

年頃の男子としては割とうれしい言葉をかけてくるリフエット。但し二次元である。

空間投射して身体があるかのように振る舞えるし、精神も人のものだから2.5次元ぐらいなんだろうか。

僕の反応が薄かったのが気になったのかさらに理由を言ってくれるようだ。

 

【おはようからお休みまで!貴方の側で見つめる電子妖精リフエットちゃんに何か問題でも?写真とかはお母様に差し上げる用ですし、保存した動画は個人で楽しむ用です!】

 

ん?今捨て置けないこと言ったぞこの子。

 

「写真と動画っていつ撮ったの?」

【え?千歳さんが戦ってる映像をとってるカメラをハッキングしたんですよ?あと、千歳さんが寝てる間にゆりかさんに手伝ってもらって超小型カメラとか作ってもらってつかいました!電子戦とかって得意なんですよ、私。ちょっとこれからネットで色々してお金稼ぐ予定ですよ?ネットバンクでお金を増やしたり?】

 

その言葉を聞いて頭が痛くなってきた。経済とか大変なことにしてしまう存在が異世界から現れて世界恐慌とかシャレにならないんだけど。

というか普っ通に犯罪行為だそれ。

僕は頭を抱えながらその話を聞く。

 

「リフエット、何しちゃってるの?」

【大丈夫ですよぅ、しんじてくださいよぅ。トラスト・ミー】

 

信用出来ない台詞だが、すでに話が大事なのでもう信じるしかないというか、僕が考えてどうにかなることではないので諦める。

もういいや、それよりも考えるのはあの娘のことだ。

 

「それにしても、テイルレッド……一体何者なんだ……?」

【何者でしょうかねー?……私と同じように異世界からの使者でも来たんですかね?】

 

小学生低学年ぐらいの幼女が戦うとか、魔法少女モノぐらいなんじゃなかろうか。

とは言うがそもそもテイルレッドの正体はおおよその見当がついている。問題点はなんの目的で僕の幼馴染をテイルレッドにしたのかということだ。

 

「平行世界はたくさんあるんだよね?」

【えぇ、私がいた世界と今いるこの世界は一枚壁を挟んだだけの隣の世界みたいなものです。それ以外の所から来られてもおかしくないのですが、結構な技術力が必要ですよ。】

「となると、同じように別世界の戦士が助けを求めた、もしくは敵討ちに巻き込んだ可能性がある?」

【その可能性が高いですね、敵討ちと言っても元の世界が救われる可能性は0に等しいので生産性はないんですけど。】

「……ごめん。」

 

今のはちょっと無神経だったな。リフエットの世界も滅んでるんだ、これはほぼリフエットにも当てはまることだ。きちんと謝ろう。

 

【いえ、いいんです。ちょっと千歳さんの属性力prprさせてくれれば許します。】

「それで許してくれるなら別にいいけど、その言い方やめようね。」

【いいじゃないですか減るもんじゃ無し。まぁ、勝手に頂きますから大丈夫です。】

 

どうやって補給してるかは知らないけど、勝手にすると言ってるんだから勝手にさせよう。

多分トゥアールさんが異世界から来た人で、テイルブレスを総二か愛香ちゃんに渡しテイルレッドにしたんだろう。

親友が幼女に変身してツインテールを守るために戦う戦士になるとか、どこの夕方アニメなんだろう。

 

 

さて。

 

「母さん、何か用?」

 

起き上がって、ドアの向こうで聞き耳を立てているであろう母に声をかける。

すると予想通りドアを開けて母が入ってくる。なかなかに良い笑顔である。

 

「ちーちゃん!素晴らしかったわ初陣!赤い娘との共闘もいい感じだったわ!さすがは私の娘ね!名乗りも完璧!はあぁぁ、ちーちゃんありがとう!!」

 

そう言って抱きしめてくる、抱擁はいいですけど。パワーありすぎませんか母上、ミシミシ言ってる体がやばそうなので離してください母上死んでしまいます。

 

【ゆりかさんその辺で、千歳さんが苦しそうです。】

「おっと、ごめんねちーちゃん。」

 

初陣でほぼ無傷だったのに、こんなとこでダメージ受けるとはヒーローってわからないよねー。

ミシミシ言う体をさすりながらそんなことを思う。

 

「で、要件は?」

 

ベアハッグ決めて息子にエレメリアンよりダメージを与えた母を半眼で見ながら問う。

 

「リフエットちゃんが動画取れるって言ってたからちーちゃんの勇姿をネットに流そうと思って。」

「ちょっ」

 

言葉に詰まる、なんてこと考えるんだこの母親は!常識的に考えて、自分の息子が女体化して戦ってる姿を率先して流そうとか考えないだろう!

 

【あ、それならもうやっておきました、ベストショットをサムネにしたのでシャイニングでは再生回数トップです。テイルレッドにはちょっと負けますけど。素材多めなので何パターンかアップしたので再生回数の総合数では勝ってますね。】

 

そう言って僕の部屋の壁に動画をプロジェクションする。それを見て母さんが喜ぶ。

 

「何やってるんだよおぉぉぉぉぉお!!」

 

僕、魂の絶叫。天まで届けとばかりに叫ぶ。というか勝つとか負けるとか何と戦ってるのこの人達!?

そんな僕をスルーして話は進む。

 

「仕事が速いのね、リフエットちゃん!グッジョブ!」

【はい!公式ファンクラブと親衛隊も作っておきました!会員登録どうぞ!】

 

そう言ってアドレスを空間に出すリフエット。それを素早く打ち込んで行く母さんを見て、もう大した用事ではないことを確認する。

今さらっと凄いこと言ったけど気にしないようにしよう。もうどーにでもなぁれ。

 

「私が一番なのね、リフエットちゃんが0番になるの?」

【はい。合言葉はシャイニングの輝きをあまねく世界に!です。あ、千歳さん。千歳さんのぶんも登録しておきましたから。やったぁプレミアムナンバーですよ!】

「やったわねちーちゃん!後リフエっとちゃん、その合言葉は似たのがあったからもうちょっと改変しましょう。」

【そうでしたね、では……】

 

大した問題ではなかったようなので母さんとリフエットを置いて僕はお風呂に行くことにした。

今日はもう疲れたしお風呂はいって寝よう。夕飯とかもういいや。疲れをとって寝たい。

 

 

そして僕は風呂場へ向かう、せめてもう今日はアルティメギルが来ませんようにと祈りながら。

 

 

 

 

 

アルティメギルは異世界の侵略者である。

 

属性力を糧に生きる彼らは今日も今日とて異世界侵略を優雅に行う予定だったのだが、テイルレッドとテイルシャイニングによって第一歩目からその野望をくじかれたのである。

どこともしれない場所の秘密基地。その会議場に集まるは様々な怪人たちエレメリアンである。

今この場に集まったエレメリアン達は、初手から躓いた侵略作戦の会議をするのである。

誰かがバンと机を叩き発言する。

 

「馬鹿な!リザドギルディがやられただと!?」

「油断したというわけではあるまい、どういうことだ!」

 

円卓には強力なエレメリアンたちが、その部下たちはさらにその周りに集まってその会議の様子を見守る。

 

「事前調査では科学力に対して高数値の属性を有する理想的な環境だったはずではないか!」

 

ざわざわと波紋立つ会議場。

 

 

それをとあるエレメリアンが一喝する。

 

「静まれい!!」

 

龍の姿を模したかのようなそのエレメリアンの一喝で会議場は静まる。

 

「ドラグギルディ隊長……」

「あの者の強さは、師である我がよく知っておる。それを打ち負かす程の戦士があの世界にいたということ。」

「戦士……」

「これを見よ、瞬殺されたがアルティロイドが撮影し、転送してきた映像だ。」

 

そしてホールに集まった全員に見えるようにその映像が写される。

その映像が写されたテイルレッドの姿を見たエレメリアンが誰しもおおおおと感嘆の声を上げる。

 

「これは、素晴らしい……」

「このようなツインテールの持ち主があの世界にいたのか!」

「彼女がこの世界の守護者か……!」

 

そして映像は次に移る。分割され様々な角度から写されるレッドの映像に会話内容がだんだん変わっていく。

 

「このような幼子があのような大剣を振り回して戦うとは……」

「テイルレッド、なるほど。紅蓮の髪に相応しき名だ。」

「年の頃は小学生低学年ぐらいか?赤いランドセル……」

「いやもしかしたら幼稚園児なのではないか?」

 

わいわいがやがやと騒ぐうちに喧々囂々に変わるまで、そう遠くないと感じたドラグギルディは次の映像を準備する。

しかしこの熱意をドラグギルディは好ましく感じていた。この戦士を知りたいと、戦うことを恐れずに相手を知ろうという心意気をよしとするのだ。

 

 

「では次の戦士に移る。」

 

そして映しだされるシャイニングの映像に同じかそれ以上の歓声が起こる。

 

「何だこのツインテールは!?テイルレッドが可憐だとすれば、こちらは気高く、高貴とも言えるツインテール!」

「思い切りも良い、ためらうこと無く不意打ちしレッドを守っている。」

「あのバイザー、正体を隠すためのものとしてと同時に、視線を隠し行動を読ませなくするための物と見た。」

 

「……隊長この者は?」

「テイルシャイニングと名乗っていたな。そしてあの装備に私は覚えがある。」

 

そのドラグギルディの言葉に会議場が騒然となる。

彼らの隊長が記憶に留める装備、それは同じく隊長格と戦える戦士のものであると言うこと。

ざわめく会場を他所に記憶の意図を類い寄せるドラグギルディ。

場のエレメリアンたちはいつしか静まり、彼らの隊長の次の言葉を静かに待っていた。

そして多くのエレメリアンが待っていた言葉がドラグギルティから告げられる。

 

「確か…別の幹部が侵略していた世界で同じ装備を使うツインテールの戦士がいたのだ。だがその戦士は確かその幹部が撃破したはず、何故この世界に……?」

「他の幹部ですか?」

「あぁ、ツインテールの戦士と共にポニーテールの戦士が戦っていたという話があったので気に留めておいたのだ。」

「その戦士がこの世界でまたも我らに立ちはだかるということですか……燃える展開でありますね。」

「同じ戦士かはわからんがな。だが油断してかかれる相手ではないということだ。分かったな!」

 

そして一度会議場が静まる。その時誰かが

 

「つまりテイルレッドの先輩戦士ですね。」

 

とポツリとこぼした途端また沸き上がる。

 

「先輩戦士!そうかそうなるのか!」

「そう考えるとテイルレッドを守る行動や、安心させるための行動が多かったように見受けられる。」

「姉系か!世話やきお姉ちゃんなのか!?」

 

わいのわいの。

 

にわかに騒がしくなった部下たちを他所にドラグギルディはこの世界の侵略が難しくなるであろうことを感じとっていた。

だがその困難は強敵を望むドラグギルディにとって喜ばしいものであり、これほどに心躍る戦場もなく狂気と愉悦に笑みを作るのであった。

 

 

 

 

「ところでそーじ、千歳にはどう説明すんの?」

 

俺が自身のおもしろ出生秘話を知って膝から崩れ落ちてる所に、愛香がこの場にいない幼馴染みのことを言う。

そう言えば転送には巻き込まれてなかったはずだからアドレシェンツァであの光景を見ていたはず。

 

「後で説明しなきゃならないか。どうすればいいと思う愛香?」

「別にありのままでいいと思うわよ?」

 

愛香に問いかけたのに答えてくれたのは母さんだ、その顔は自信ありげに笑っている。

 

「どうしてだよ母さん。普通こんな話したら妄想か何かと言われて頭大丈夫か?って聞かれるに決まってるだろ?」

「それはないわ、なぜならあの子も私と同じく中二病だからよ!まぁ、軽度ではあるけどね。」

「そうか、千歳も母さんと同類だったのか……一時期脳内に兄がいるとか言ってたもんなぁ。」

 

言われてみれば納得出来る理由がいくつかある。たまにとる奇行とかを思い返してみれば確かに中二病に合致する。

不可解なことに会った時ブツブツ言うのは治した方がいいと思うぞ千歳。

 

「あの端に座っていた人ですか、それは面白そうな人ですね。ちょっと合うのが楽しみです。」

 

そう言って笑顔になるトゥアール。その横で愛香がまた不審げにトゥアールを見ている。

なぜか愛香はトゥアールを警戒してるんだよな。なんでかはわからないけど。

 

「それにしても千歳が中二病だったとはなぁ。」

「ええ、だってちーちゃんのお母さんの百合華は私と同じ重度の中二病よ?だからそれを隠さずに家で生活してる分きっとそういうのには慣れてると思うわ!」

 

胸を張ってそんなことを言う母さん。

急に千歳が不憫になってきた。このテンションの母さんが常日頃から家にいる。それは俺にとってはかなりキツイ、そんな生活を千歳はしていたのだろうか。

そう考えると千歳が中二病でもそれはしかたないと思える。こういうのは染まったほうが楽だからな。

 

「じゃあ、明日辺りに千歳にも説明するのね。わかった。じゃあその時に百合華さんも呼んできましょう?トゥアールが本当のこと言ってるかの確認もしたいしね。」

「えっ、愛香さん私の話信じてないんですか!?」

「全部が全部嘘じゃないでしょうけど、真実も語ってないでしょう?だから洗いざらい全部吐くのよ、明日。」

 

明日、とにかく明日だ。千歳にも説明してこれからの方針を決めないとな。

それにしても千歳が中二病だったとはなぁ。

 

と俺は今日起こったことに対しての若干の現実逃避をしながら、隣の親友のことを思うのだった。

 

 



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第六話:僕とツインテールと新しい日常

お久しぶりです。原作やほかの方とかぶらない属性力を考えるのは難しいですね……


 

 

考えられた最悪を現実は凌駕していく。一時間目中止にしての朝の全校集会で、僕はスクリーンに写された映像を見ながらそう思うのであった。

 

 

朝から教室の様子が変だったのは、まぁ仕方ない。

 

誰も彼もテイルレッドとテイルシャイニングの話をしてるのは、昨日のリフエットの上げた動画再生回数を見ればわかることだ。

 

可愛い女の子が怪人退治。文章だけ見ればどこの日曜朝八時半なのかと言わんばかりだ。

 

テイルレッドたんかわいいよテイルレッドたん、とかいう妄言が聞こえる度に総二がげんなりしていくのは可愛そうだけど。

 

そう思っていたら突然の全校集会。当然昨日の事件のことだろうと当たりをつけて静かにしていたら。生徒会長が現れ演説が始まる。

 

「皆さん。知っての通り昨日、謎の怪物たちが暴れまわり、町は未曽有の危機に直面しました。」

 

そうだね、ツインテールが奪われるっていうのは未曾有の事件だよね。

 

宇宙人がツインテール奪うためだけに侵略してくるとかが未曾有の事件でなかったならば、未曾有の事件のハードルが上がり続けてもはやくぐるレベルだよ。

 

「実は、このわたくしも現場に居合わせ、そして狙われた一人なのです」

「なっ……!!」

「なんだってーーーー!!!」

 

にわかにざわめき立つ観衆。君たちノリがいいね。

 

怒りを露わにする生徒達、愛され生徒会長に人気はとどまるところを知らない様である。

 

「許せねぇ!」「この身に変えても倒してみせる!」「野郎ぶっ殺してやる!」

 

様々な怒りの言葉とともに竹刀やバットを持ち出し暴徒になりつつある生徒たち。

 

わぁ、みんなアクティブだなぁ。クナイとか隠し爪とか出してきた人もいるぞー。君らは何に備えていたんだ。テロか?事件か?

 

「皆さんのその正しき怒り、とても嬉しく思いますわ。他人のために心を痛められるのは、素晴らしいことです。まして、わたくしのような先導者として未熟者のために」

 

会長はその小さな体を身振り手振りして、熱く、熱く語る。その姿に多くの生徒が賛同していく。途中途中に入る会長かわいい~の声はなかった事とする。

 

「しかし、狙われたのはわたくしだけではありません。この中にも何人かいらっしゃるでしょう。まして目を学校の外に向ければ、さらに多くの女性が、危うく侵略者の毒牙にかかるところだったのです。」

 

その発言に再び生徒たちはどよめくが、それをさえぎるように、会長は続ける。

 

「今こうしてわたくしは無事ここにいます。テレビではまだ情報は少ないですが、ネットなどで知った人も多いでしょう。あの場に風のように現れた……2人の正義の戦士に助けていただいたのです。」

 

おや?話が怪しくなってきたぞ?僕の第六感がこれはあかんやつだと言っている。的中率90%を超える僕の第六感は厨二の母によって鍛えられたものだ。つまりどういうことかといえば僕の精神にダメージのくるものであろうという勘である。

 

「わたくしは、あの少女達に、心奪われましたわ!」

「その言葉を待っていたんだ会長!」

「よかった……胸を張って小っちゃい子ペロペロハスハスと言うのに、正直引け目を感じていたんだ! だけど、それは決しておかしな感情じゃなかったんだね!」

「私はもう一人の戦士のほうが好み! あの美しいスタイルに鮮やかな戦い方! まさしくお姉さまと呼ぶにふさわしいお方!」

「私もテイルレッドのようによしよしして頂きたいですわ!」

 

地響きにも似た雄叫びが体育館に響いた。なんでこんな映画の終盤のワンシーンみたいに皆湧いてるんだろうなぁ。変な発言も聞こえるし。

 

あっ、わかったZO☆皆頭が湧いてるんだな?

 

と現実逃避してるうちに、スクリーンが用意され、映像が映し出される。

 

そこには白と赤の戦士が映っていた。

 

「「「「「「「ウオオオオオオオオオッッ!!」」」」」」」「オア―――ッ!!」

 

殆どの生徒が歓声を上げるところ、近くの総二は正反対の叫び声をあげていた。僕はといえばなんとなく予想していたので叫ぶほどのショックはない。魂は抜けそうだけど、あっまずい膝に来た。なんかよくわからないけど体が震える。

 

映しだされているシャイニングの映像は昨日リフエットのアップした動画シリーズだろう。見覚えあるし。

 

流し見はしたけど改めて見ると、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。これが黒歴史か!

 

そしてこれから先、さらにこの手の映像が露出していくのが確定的で鬱だ。だって映像を提供するのが身内にいるんだもの。

 

「神堂家は、あの方たちを全力で支援すると決定しました!皆さんもどうか、わたくしと共に新時代の救世主達を応援していきましょう!!」

 

窓も割れそうなほどの爆音の歓声が上がる。

 

自分のことは諦めて、総二はどうしたかと思えばからは自分の頬を殴っていた。これは夢だと思って目覚めるために殴ったのだろう。

 

まぁ、夢であってほしいよね。殴るのはやり過ぎだろうけど。

 

 

これでテイルレッドとテイルシャイニングが生徒に認知され、神堂家がバックアップ宣言するという最悪の全校集会が終わったのだった。

 

 

 

 

一部の人間を絶望にたたき落とした全校集会から半日。

 

昼休みに僕らは集まって食事をとっていた、入学式の次の日だ。知り合いどうしでグループを作ってしまうのは仕方ないと思いつつお弁当をつまむ。

 

「そうだ千歳、今日放課後開いてるか?」

 

総二が思い出したかのように話しかけてくる。

 

「開いてるけど、何か用?」

「いや、昨日の話でさ。その、えっと。ちょっと耳かしてくれ」

「内緒の話?珍しいね。」

 

そういいながらも会話の内容は見当がついているため素直に近寄る。

 

肩と肩が触れ合う距離でひそひそ話。悪巧みっぽいね。

 

「昨日、俺達が光に包まれたこととかの説明するから後で家に来てくれ。」

「了解。気になってたんだけど、あまり人目のあるところで聞くことでもないかと思って黙ってたんだ。詳しい話は後だね?」

「助かる。きちんと話すから。あとできれば百合華さんも連れてきてくれると助かる。」

 

それに首肯して僕は昼食に戻る。

 

 

最後の一口を口に入れお茶をのみこむと、教室の隅っこに集まった男子が騒がしいのが目についた。

 

そしてそのタブレット端末を見ていた男子からとんでもない世迷い言が飛び出した。

 

「決ーめた!今日から俺がテイルレッドたんのお兄ちゃん!」

「ッブーーーーーーーーーー!!!」

 

あ、総二が愛香ちゃんにぶっかけた。フルーツオレを。

 

遠目からでもあの赤の幼女はわかる。テイルレッドの画像を眺めているんだろうけど、何故その結論に辿り着いたのか。

 

総二と愛香ちゃんが頭寄せあってヒソヒソしてるうちに男子は盛り上がっていく。

 

うん。テイルレッドなら総二の問題だし、僕関係ないよね。と思い意識を別方向に向ける。

 

「決ーめた!今日から私テイルシャイニング様の妹になる!!」

 

聞こえない聞こえない。同級生の女子から妹になる発言なんて聞こえません。

 

男子学生と対になる位置に集まってる集団からの声なんて聞こえないよ。

 

「美しい……」

「私目覚めましたわ!真の理に!」

「シャイニング様の画像だけでご飯二膳はいけます!」

 

美しいと言って呆けてる女の子はともかく、もう一人はどうしたんだ。何が見えたんだ。最後はもう何を言っているのか理解を放棄した。

 

「愛の前に性別なんて関係ない!もう我慢できません!」

 

そう言ってタブレットに顔を近づける女の子。逆では阻止した総二が騒いでいたけど、女子だったらどうするんだろうと思いながら僕は視線を外し見なかったことにした。

 

超法規的措置です。僕の弱い心を守るためには仕方ないんだ、笑わば笑え。

 

そんなカオスな昼休み、これが日常となっていくのは嫌だなと思いながら窓の外を眺める。

 

空はいつもと変わらずに青かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた……」

 

そして訪れた放課後、僕らは家路につく。

 

他愛もない話をしながら家路につくだけで、総二の顔色が良くなるというのが今日の彼の精神的苦労を物語る。

 

「そういえば部活ってどうするの?総二、ツインテール部とかかいてて有耶無耶になってたよね。」

「あー、どうすっかな。」

「悩むことじゃないでしょ、普通に選べばいいんじゃない?」

「そうは言ってもだな……」

 

といったところで総二の言葉が止まる。その目は空に釘付けになっていたので、僕も同じ方向を見るとそこには超巨大なスクリーンがあった。

 

『この世界に住まう全ての人類に告ぐ! 我らは異世界より参った選ばれし神の徒、アルティメギル!』

 

そして映しだされる黒き鎧の異形。それはまるで龍を思い浮かばせる。

 

『我らは諸君らに危害を加えるつもりはない! ただ各々の持つ心の輝き(ちから)を欲しているだけなのだ! 抵抗は無駄である! そして抵抗をしなければ、命は保証する!!』

 

命だけあっても無気力、無感動、無関心になってしえばそれは死んでいるのと変わらない。そんなの絶対に許せない。だから僕は選んだんだ。戦うことを。

 

たとえそれがツインテールであったとしても、どんな属性であっても失われて良いものではないんだ。

 

そう決意を新たにしている間にも演説は続く。

 

『だが、どうやら我らに弓引く者がいるようだ……。抵抗は無駄である! それでもあえてするならば……思うさま受けて立とう! 存分に挑んでくるがよい!!』

「これ、全世界に配信してるのか!?」

 

という総二の問に耳をすませば、住宅地の家々からも聞こえて来て、まさかと思いワンセグを確認しても同じ。

 

ワールドワイドな悪の組織。ワールドスリーかな?

 

「あいつら本気で地球まるごと侵略するつもりなのか!?」

「本気っぽいねぇ。それにしても自信満々だこと。それだけの力の差があると思ってるってことか……」

 

そう言っている間にも映像は流れ、別の怪人が映る。亀みたいなやつだ。

 

『ふはは、わが名はタトルギルディ! ドラグギルディ様のおっしゃる通り、抵抗は無駄である! 綺麗星と光る青春の輝き……体操服ブルマの属性力を頂く!!』

 

ブルマ、ブルマねぇ。その属性元って今この地球でも稀有なものなんだけど、と思っていたら戦闘員がタトルギルディに耳打ちする。

 

『……何、この世界では、今はほとんど存在せぬだと! おのれおろかなる人類よ、自ら滅びの道を歩むかああああああああ!!』

 

予想通りのリアクションである。うーんこの真面目に不真面目な感じが、いまいち緊迫感を感じない。相手の作戦なんだろうか?

 

『おい、タトルギルディ。俺の番はまだか?』

『おぉすまん、イグアナギルディ。つい熱くなってしまった。』

 

そう言って交代したのはイグアナを想起させるエレメリアンであった。

 

『我が名はイグアナギルディ。美しき足を彩るタイツの属性力を奪わせていただく。』

 

それだけ言ってさっさと通信を切る。必要最低限飾らない奴だなぁと思う。

 

抵抗するなとは言われたが、ハイそうですかと言って属性力くれてやる理由もないわけで。

 

 

腕輪に軽く振動が走る、リフエットからの合図だ。エレメリアンがもうどこかに来たのか。

 

総二は掛かって来た電話を取り何やら思案している。

 

なにか決めたのか覚悟を決めた表情で手を掴み、僕を人気のない方へ連れて行く。

 

「総二、どうしたのさ。」

「聞いてくれ千歳。信じられないかもしれないけど、今から俺の言うことは本当なんだ。」

「うん。戦いに行くんだね。あのアルティメギルとかいうのと。」

 

その言葉に総二が驚き、後ろからついてきていた愛香ちゃんが納得とともに少しの疑問の表情をしていた。

 

「ちとせ、あんた知ってたの?」

「知ってたも何も……昨日のことに、今日のテイルレッド関係での総二の反応見ればなんとなく見当付くでしょ。」

「そんなわかりやすい反応してたか?俺……」

 

若干落ち込んでいる総二。普通の人にはばれないけど、あんな反応したら長い付き合いの人ならバレると思うよ?

 

「人が目の前で消えるとか言う超常現象を目の当たりにしてなければ、気が付かなかったかもだけどね。友人がいきなり目の前から消えて、その後に現れたあいつらと戦える戦士と結びつけてもおかしくないでしょ?しかも狙いがツインテールときた。」

「そうね。私も巻き込まれないで、ちとせと同じ立場だったらそーじに問いただしてたわ。」

 

確認完了、総二がテイルレッドで確定だ。

 

ありえないだろうけど、知らない人だったらどうしようかと思ってたけど。やっぱり知り合いならあんまり気負わなくていいね。

 

「まぁいいや、大したことでもなさそうだし。」

「大したことだからな!?大事だぞ!?」

 

そう言って僕の肩をつかんで揺さぶる総二。

 

ええい揺らすな。頭壁にぶつけちゃうでしょ狭いんだからここ。

 

「や、僕に実質被害がなければ、総二がテイルレッドでも関係ないし。総二は総二の思うままツインテールを守ればいいじゃない。そこに何か問題でもあるの?」

 

これは本音。総二がテイルレッドだったからって僕らの関係に何か問題があるわけじゃない。まぁ、世間体的には正体バレたとき面倒だろうけど、女体化してるのは僕も一緒だし。

 

「いや、ない。けど。」

「けど何?もしかしてもっと驚いたほうが良かった?まじでーそうじがているれっどだったなんてー」

「棒読みやめなさいよ。ていうかちとせ驚かないのね。」

「驚いてはいるよ?それで何って感じ。総二は総二だし、人格変わったり洗脳されてるわけでもなさそうだし。総二が悩んで決めたことを僕は否定しないよ、せいぜい背中を押すぐらいでしょ?友達が出来る事って。」

 

正直な所、総二に対しての擁護の言葉を言えば言うほど自己保身につながってるんだよなぁ。なんだろう総二を励ます度に自己暗示してる気分。

 

それでもなお悩む総二に言ってあげよう。母から学んだ説得系の言葉を。

 

「あのさぁ、何悩んでるのかしらないけどさ。総二にとってツインテールは何?あいつらみたいに奪う物?そうじゃないでしょ?守れる力があってそれで女の子になったとしても、僕はそれを見て総二を軽蔑したりしないよ。変身後に望まずにそうなったのかもしれないし。」

 

自分が同じような境遇だから言える台詞だなこれ。しかし、興が乗ってきた。もうちょい言ってやろう。

 

「総二がツインテールを守るって道を決めたなら後はもう走るだけでしょ。迷っても良い、戸惑っても良い、でも足だけは止めないで。総二が走る道は厳しいかもしれない、けど困ったら相談して?僕だって愛香ちゃんだって居る。」

 

僕の横で愛香ちゃんが大きく頷く。

 

僕は総二の肩を掴み返し、視線を合わせて言う。

 

「大きな力は使い方次第だよ?奪うも守るも人次第、総二はその力を何のために使うの?」

「そうか……そうだよな。俺がツインテールを好きで、それを守ること、守れる力を恥じることってないんだよな……!」

「ないない。自信持ちなよ。考えようによっちゃ変身ヒーローだよ?きゃー総二くんカッコイイー」

 

そう言っておちゃらけるぐらいでいいだろう。張り詰めすぎると糸は切れちゃうんだよ。余裕持たないとね。

 

「ありがとな、千歳。なんか吹っ切れた気がする。」

 

ちょっと顔を赤らめながら、スッキリした顔をする総二。まぁこういう悩みを友人に言うの恥ずかしいよね。

 

迷いがあるから強くなれる。僕の知ってるヒーローはいつだっていいことを言う。

 

ところでなんで愛香ちゃんは僕を睨んでるんですかね。やめてくれません?人を殺せそうな視線浴びせるの。

 

「んじゃこれ頼む。行くぜ!テイル、オン!!」

 

カバンを綿され、総二が変身のキーワードを言う。

 

そして光の繭が現れ、次の瞬間に総二はテイルレッドになって飛び立っていった。

 

 

 

「ねぇ、なんでちとせはそーじが女の子になるの気にしないの?」

 

路地裏から出て、改めて帰路についたところで愛香ちゃんが潜めた声で質問してきた。

 

「なんでって言われてもね、総二はどんな姿になっても総二でしょ?」

 

ツインテール馬鹿。たとえ総二が女の子に生まれてきてもきっとそれは変わらなかった気がする。

 

いや女の子だったらもっとひどかったかもなぁ。自分の理想のツインテールを求めてひたすらツインテールを眺めてそう。

 

「中身は変わらないよ、外見が変わってもきっと総二はツインテールだけ考えて生きてるでしょ。テイルレッドに変身したんだってツインテールがらみでしょどうせ。」

「そのとおりよ、ツインテールで怒りに燃えてって感じだったし。」

 

あの場にいて変身したならなんとなく予想の付く理由だ。

 

「やっぱりね。あれ?なんか騒がしくない?」

「そうね?どうしたのかしら。」

 

まばらだったはずの通りがにわかに騒がしくなる。凄い嫌な予感がする。

 

「ねぇ、愛香ちゃんもしかして、さ。」

「やめてちとせ、言ったら真実になりそうだからやめて。」

 

残念、現実は非情である。

 

『フン、大したタイツの存在はおらんな。真にタイツを愛するものはおらんのか。』

 

悠然と品定めしながらこちらに這ってくるのは、さっき映像に映っていたイグアナギルディであった。

 

その周りには何人かのアルティロイドが居る。

 

これはまずい、僕が変身して戦ってもいいのだけれど絶対に正体がバレたくない相手が真横にいる。

 

胸のこと気にしてる愛香ちゃんに巨乳に女体化するとかバレたら殺されかねない、それだけは阻止したい。バレたらい殺意の波動に目覚めて瞬獄殺ぐらいやってきそうだもの。

バレるにしてもせめて総二が側にいないと。愛香ちゃん止められるのは総二ぐらいだからな、僕はまだ死にたくない。

 

結論。

 

 

「とりあえず逃げよう。目を合わせないようにね。」

「そうね、関わり合いにならないようにしましょ。」

 

なんか変質者を見る人みたいな会話になったけど、実際アルティメギルは変質者で変態なので間違っていない。

腹ばいになって移動して、ぎょろぎょろと下半身を観る人型とかどう考えても変質者です。おまわりさーん。

さてどうしよう。変身するのは愛香ちゃんがいて無理だし、総二はもう一人のエレメリアンの方に向かっている。

あっ、そうだ。

 

「そういえばトゥアールさんだっけ?昨日の変な人。」

「そうだけど、どうしたの急に。」

 

こそこそと隠れて移動しながらだから自然と声も控えめになる。トゥアールさんのこともできれば知られたくないだろうから好都合だろう。

 

「いや、なんとか総二が来るまで足止めだけでも出来ないかなぁと思ってさ。その人って総二に変身アイテム渡した人なんでしょ?なんかあいつに一泡吹かせるアイテム持ってないかなーって。」

「考えても見なかったわ……ちょっと待ってて、聞き出しててくるわ。」

 

そう言って鞄を持って猛ダッシュする愛香ちゃん。僕はその速度についていけないのでおいて行かれたわけだけど、予想通り。そしてそのツインテールを靡かせて走る背中が見えなくなるのを確認。

よし、追い払い成功。もうこの手は使えないだろうけど。

そのままこそこそと僕は路地裏の人気のない場所に移動する、そして人の視線がないのを確認して。

 

「転身!」

 

僕は光に包まれテイルシャイニングになり、スケールの小さな世界規模の侵略をつぶしに行く。

変質者退治とか警察が何とかしてくれないかなぁと思いつつ。

 



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第7話:僕とタイツのエレメリアン

「ふんすふんす、良いタイツの匂いだ!」

 

這いつくばってシャカシャカと路上を移動し、女性の下半身に迫る成人男性サイズのイグアナ人間。端的に言ってキモい。

女の子の足元に這いよってくる姿はまごうことなき変態。

 

「きゃーっ!!!」

 

誰だって悲鳴を上げる僕だってそうする。

 

「やめんか!この変質者がーー!!」

 

故に不意打ち両足踏みつけしても許されると思います。アンブッシュは一度までだが許可されている、ハズ。

 

「ぐげぇ!」

 

変な悲鳴を上げて潰れたカエルのようになるイグアナ。その間に追われていた女性に叫ぶ。

 

「今のうちに早く逃げて!!」

「有難う御座います!」

 

夕方の人通りが多い大通り、逃げ出す人に恐る恐るこっちを伺う人。人人人。半分ぐらいが何事かと伺っている。

 

なんで皆避難しないんですかねぇ!?

あれか?まだ特撮の撮影か何かと思ってるのかな!?

そんなこと思いながらもイグアナギルディからは目を外さない。

ゆっくりと起き上がりこちらを見つめるイグアナギルディ。

 

「ほっほう、なかなかのタイツ力。そしてその堂々たる出で立ち。あえて聞こう貴様の名を!」

 

指差されて名指しされたなら答えるのが男よ!今は女の子だけど。

堂々とポーズを決めて決め台詞を言う。

 

「闇夜を照らす煌めく光ッ!テイルシャイニング!!」

「やはりな、我が名はイグアナギルディタイツ属性「フットスキン」に魅せられた戦士よ!」

 

そして油断なく構え相手の様子をうかがう。

 

そういえば戦闘員はともかくエレメリアンと直接戦闘は初めてだな。リザドギルディの時は不意打ちした上に様子見で終わったし。

油断なく構えるコチラに対し、相手は構えもせずにこちらを見つめる。そしてじっくり眺めた後に口を開く。

 

「なかなかのタイツの着こなし、あっぱれである。白のタイツは視覚効果で膨張させ足が太く見えるはず、しかしそれでいてスラっとした脚線美を描くとは、貴様なかなか出来るな!!」

 

口を開いたと思ったらそれかよ!

足太いとか言うな、ぶっ飛ばすよ?これデフォルトだし僕の意思じゃないからな!と心のなかで言い訳し相手を睨みつける。

 

「イメージカラーが白である以上それ以外のタイツは似合わんだろうが、しかし素晴らしい。良い脚線美、良いタイツだ。」

「遺言はそれでいいかな?」

 

腰部のフォースクリスタルを叩き、回転しながら出てきた多機能武装(マルチプルウエポン)を左手につかむ。

 

「ふん、まだ見ぬタイツを求めるために、今ここで果てるわけにはゆかん。そのタイツ戴くぞ!」

 

腕を組みながらそんなことを言うイグアナギルディ。畜生無駄にいい声しやがって。

眉が上がるのが自分でもわかる、足が太いと言われたことを怒っているわけではない。

周りに人が近くにいる以上、リザドギルティの時のように攻撃範囲が広く、未だに制御が若干怪しい鞭や連結鎖状刃は使えない。ここはハンマーだ。

 

「モードミョルニル!」

 

掴んだマルチプルウエポンを天に掲げて叫ぶことで光の粒子が形作る。その姿はハンマー!

 

金に輝く巨大なハンマー柄の長さは一メートル、ハンマーの要であるヘッド部分はそれに対応して大きい。形状としてはスレッジハンマー、片面が釘抜きになっているようなネイルハンマーではなく、両方でぶっ叩けるタイプだ。

 

それを軽く振り回し構える。重さも思いのままに出来るって武装としてかなり優秀だよねマルチプルウエポン。インパクトの瞬間だけ重量上げたり出来るのはかなり便利だ。

 

「ほう、なかなかに愉快な武装を出す。しかし私には効かぬ!」

 

ようやく構えを取るイグアナギルディ。

相手に獲物を準備させてからようやく戦いの構えを取るとか言うその余裕、ぶっ潰す!

 

「それはどうかな!?」

 

声とともに脚力に任せ一瞬で距離を詰める、そしてハンマーを全力で振り、柄がしなるほどの速度で横に振って腹に叩き込んだ。

 

「ぎょみょ!?」

 

変な鳴き声とともに壁にたたきつけられるイグアナギルディ。防御もせずに食らって飛んでいった。

更にたたきつけられた壁が崩れ、その下敷きになる。そしてあまりのあっけなさに叫んでしまう。ガラガラと崩れた壁の下敷きになっては奴も生きてはいまい!

 

「やったか!?」

 

ガラガラと崩れた壁の下敷きになっては奴も生きてはいまい!

 

【それ分かって言ってるでしょう、シャイニング。】

 

変身してる時は一応シャイニングと呼ぶらしいリフエットのツッコミが耳元に来る。

 

「まぁね。なんでもいいから振り回したい気分だった、今は反省している。ちょっと気が立ってたかな。」

 

気にしてないつもりだったけど今日のいろんなことが頭にきてたみたいだ。

そう思い直し、壁の瓦礫に埋もれたイグアナギルディを見る。

 

「ふぅん!」

 

崩れた壁の瓦礫を吹き飛ばし、立ち上がるイグアナギルディ。まるで効いていない?

 

「予想以上の速度になかなかの攻撃力!しかし我がタイツの前に打撃も斬撃もきかぬ!」

 

そう言われてよく見ると体の周りに薄く膜のようなものが張っている。あれはバリアかな?

タイツ属性ということはその厚さを変えられるかもしれない、つまり強度と伸縮性も変えられるということ、つまり戦闘スタイルは防御型か?

なら撃破する方法は。その防御を超える攻撃を繰り出す事。

つまり力押しだね!

戦略を即効で組み直し、武器を構え直す。

 

「なら、本体が平面になるまでぶっ叩けばいいんだ。ブッ潰す!!」

「えっ」【えっ】

 

イグアナギルディとリフエットから疑問の声が飛んだけど無視無視。

対斬撃、対衝撃といえど限界はあるはず、故に限界を超えて叩き続ければいつか潰せるはず。

バリア膜が体の近くにあるということは勢いをつければ本体までぶち抜けるかもと思い、瞬く間に接近しハンマーでぶっ飛ばそうと振り下ろす。

 

が。

 

「ぐぬぅ!なかなかの攻撃力だがこの程度の威力では私のタイツは破れんぞ!」

「くっ!こんのお!」

 

両腕をクロスしただけの防御で振り下ろしが防がれ、ならばと横に振りかぶるが今度は直撃しても微動だにしない。

驚いていると腕を組んだイグアナギルディが余裕そうに声をかけてくる。

 

「ふん、だから言っただろう?我がタイツの前に打撃も斬撃もきかぬ、と。さあ諦めてそのタイツ属性を渡せ!」

「はい、そうですかと渡すわけがないだろう?」

 

そう言って僕は後方に大きく宙返りをしながらジャンプする。

 

多機能武装(マルチプルウエポン)は基本となる装備に若干の形状変化が出来る。

 

しかし新しく武装を作るにはネーミングもあるし、最初のイメージが大切なのだ。つまりかなりの溜めが必要になる。敵の眼前でそんなことをしてる暇はない。多分。

故に今は手持ちの装備で何とかするしかないため武器に意識を集中させる。

 

「ハンターチャーンス!」

 

ワードを紡ぎ、さっきよりもハンマーの頭の部分を巨大化する。

サイズは小型バスと同じぐらいまで上げ、重量はインパクト時に同じにするイメージ。攻撃に使う面とは逆の打撃面にブースターをつけ点火!

ガシャコンという稼動音とともに唸りを上げるブースター!よし。

それを振りかぶって構え、駆け出す。

徐々に加速していくその姿は、まるで白き矢が金の尾を引くように一直線にイグアナギルディへ向かう。

 

「くっ、まさかこんな力押しの作戦で来るとは!タイーツバーリア!デ・ニール!!」

 

薄く貼られていた膜が厚みを増す。そして体からかなり離れる。一メートルぐらいか?ちょっとそれきいてない!

インパクトの瞬間に合わせるつもりだった振りかぶりの一撃のタイミングをずらされるが、勢いに乗った身体はもう止められない。

すぐさま勢いを殺さずにジャンプし、縦に一回転してハンマーを叩きつけるが、バリアがたわみ、ハンマーの勢いが一気になくなっていく。

 

「ぐぐっ!」

 

そして全体重かけて振り下ろしたハンマーは、ぎりぎり届かず勢いが止まる。

 

「自身の勢いを返され吹き飛ぶがいい!」

 

急にバリアの反発力が強くなる。いや、戻ろうとしているのか。まずい!

 

戻るバリアによってトランポリンの要領でかなりの速度で来た方向へ打ち出される。反射方向の調整ができるのか路面と水平にだ。

 

突っ込んだ勢いよりも早く吹き飛ばされアスファルトに叩きつけられ、その衝撃で武器を手放してしまう。

 

そのまま受け身も取れず、かなりの勢いでアスファルトを滑り転がる。

 

「ぐ、ぅ……」

 

結構ふっとばされたけど、体に問題ないかな?あまり痛みを感じないけど。転がったせいで若干頭がふらふらするけどその程度だ。

確認してみれば衣装がボロボロになっただけで擦り傷一つ無い。ただしずいぶん恥ずかしい格好になっている。

 

【大丈夫ですよシャイニング。前に言ったとおりこのギアは当事者のダメージを衣装に変換するので体にダメージが入らないんです。痛みはないでしょう?】

「そうだね、でもそれ露出が増えるから精神的には大丈夫じゃないんですけど!?」

 

タイツはところどころ破けて素肌が見え、脚や腕の装甲にも罅が入っている。軽く動かす度にボロボロと装甲が剥がれ落ち、クリスタルもところどころ欠けている。

中破ってところだろうか?戦闘行動に支障はないけど防御能力が著しく落ちてる気がする。

 

【大丈夫です!バイザー破損は最後になるので顔バレはしないはずです。それに首元の結晶でイマジンチャフが効いていますし。】

「そうだけど、そうじゃないーー!」

 

まぁ、自分の見た目気にしてる場合でもないか。

転がってふらつく頭を軽く振って意識を持ち直す。吹き飛ばされて距離を取ったとはいえ追撃を食らってもたまらないからね。

と思ったのだがイグアナギルディはこちらを見つめたまま動かない。

表情はわかりにくいが驚いてるのか?

 

「なるほど……破れたタイツもまた素晴らしい。不規則に破れ肌を晒す、それは扇情的であり!これもまたタイツの魅力!!」

 

そう言って僕を睨め付ける。やめろ気色悪い!

 

「しかし大層な名前の割に大したことないなテイルシャイニング。防御は最大の攻撃とはこの世界の言葉だったか?私は何もしていないというのに貴様はもうぼろぼろだ。」

 

ふんぞり返ってこちらを指さし講釈を垂れる。

相手の言うとおりなのが気に食わないが、事実そのとおりだ。こいつの戦闘スタイルがカウンターもできるということで物理攻撃は相性がちょっと悪いかな。

今手持ちの最大火力であるハンマーが駄目となると厳しい。使える中の手持ちで鞭と連結刃も多分効かないだろう。

鞭はともかく連結刃の切れ味で今のバリアを切り裂けるとは思えない。

 

多機能武装(マルチプルウエポン)の難儀なところはこれだ。イメージが性能に直結することであり、切れ味が足りないと思えばイメージ通りに切り裂けない。つまりこの時点で有効打を与えられそうな武装がない。

 

【幾つかの機能の解析が終わりました!新しい武装が使えますよシャイニング!】

 

常に何かチェックしていたリフエットから武装のロック解除の声が響く。

朗報だ。僕が初変身をした日からギアの不明部分の解析をしていたリフエット。その成果が今明らかに。

 

【もともと私の使っていた武装が使用可能になりました。他はロックが掛かってて使えませんが、こいつ相手なら十分だと思います!】

「で、その装備の取り出し方は?」

【胸下のフォースクリスタルを左手で叩いてください、すると正面に魔法陣が展開されるので、そこに手を突っ込んで引き抜いてください。】

「了解!」

 

そう言って鳩尾にあるクリスタルを左拳で叩く、すると軽い衝撃とともに魔法陣が展開される。そして左腕が荒ぶり始める。

腕が熱い……!まるで燃えるようだ。その熱さをこらえながら左手で魔法陣の中心に手を入れ柄を掴み引っ張る。

スルリと出てきたのは太刀。このサイズで言うならば大太刀か。ただの大太刀と違うのは鍔らしきものがなく、刀にしては太いということだ。

そしてそのサイズにもかかわらず、ずいぶんと軽い。多分木刀ぐらいか?

この太刀を手にした途端に左腕の熱が収まり、腕に描かれた紋が鈍く輝く。どうなってるの、この腕の紋様。

 

「この武器の名前は?」

【テイルセイヴァーです。うに点々ですよ?ヴですよ?きちんと発音してくださいね?】

 

武装名をリフエットに聞くといつもの感じで返事が返ってくる。

あぁ、うんそこ大事だよね。わかるわかる。

 

「テイルセイヴァーね。了解。」

 

そしてテイルセイヴァーを逆手に持ち替え、構える。

バイザーが光り、使い方が頭に入ってくる。この武器の記憶が、戦いの経験が流れ込んでくる。なるほど。

 

「ほぅ?大層な武器を持ち出してきたな?だがさっきも言った通り、私のバリアを破れるものなどありはしない!」

「それは今までの話だよ。今この時からは違う!唸れ光刃!!」

 

起動言語(スタートアップワード)を唱えることで刃の部分が光に包まれる。そしてモーターの回転音のような低い唸るような音が鳴り始める。

某宇宙戦争のセイバー音だこれ。

光とともに自分に力がみなぎってくる。足に力を入れ、駆ける。左にセイヴァーを持ち、低く這うように。

 

「諦めの悪さは評価するが、また同じようにやられるがいい!」

 

目の前にあの膜のバリアが展開されるが、刃を一振りすることでそれは、さっきの強度と伸縮性が嘘のようにはらりと切れる。その勢いで一回転して僕はそのまま駆ける。

体の各部にある結晶が光を放ち、さらに力が沸き上がってくる。

まるで限界突破(リミットブレイク)したかのように力が膨れ上がる。今ならなんでも出来る気がする!

その勢いのまま懐に飛び込む!

 

「なにっ!」

 

そして表情を驚愕に変えるイグアナギルディ。

自分のバリアが破られたことで動揺したのか、新しく展開せずに両腕をクロスさせて防御する。

ならばと僕はその懐に入り、しゃがみ込み真下からその両腕のクロスしたポイントに蹴りを叩き込む。

 

「ふっ飛べ!!」

 

火薬を仕込んでいたかのように足から爆発が起こり、蹴り飛ばした勢いと爆発が合わさりイグアナギルディが無防備なまま宙に浮く。

刀がさらに閃光を放ち、刃の部分だけではなく刀身全体が光に包まれ、白く光る粒子を辺りにばらまく。

その粒子が辺りを満たし、そこだけ真っ白なキャンバスのように白に染まる。

僕の心に言葉が流れる、それは必殺の言葉。何者にも染まらぬ白の無垢なる一撃。

 

「白き刃が悪を立つ!必殺!シャイニングイレイザー!!!」

 

宙に浮いたイグアナギルディを一刀のもとに斬り伏せる。

光の線が空に走り、白の一文字が入ったイグアナギルディは光となって散りはじめる。

なんとか、勝った……そう思いながらもへたり込みそうにな体に力を入れる、まだ相手は死んでいない。

 

「ふっ、タイツの新境地とくと見せてもらった。これを胸に私はゆこう。私はタイツに包まれた足ばかりを見ていたが、なるほど股に張り付くタイツもなかなか乙なものであった。さらばだ!」

「ふ、巫山戯るなああああ!!」

 

最期の言葉と共に光となって消えるイグアナギルディ。

白く染まっていた世界も元に戻り、いつもの通りになっていく。

確かにかなりの開脚蹴りしたけど!タイツに包まれた股を見られて満足して死なれるとか嫌過ぎるよ!!

光の粒子となって消えたイグアナギルディだったが、最後に僕にさらなる精神的ダメージを残して散っていった。

 

軽く周りを見れば戦闘員もおらず、戦闘の痕跡は僕がイグアナギルディをぶつけて壊した壁だけだ。

周りの人も恐る恐るこっちを見ているが安心した表情の人が多い。

 

「ん?これは……」

 

イグアナギルディが光になって消えた場所には青い結晶が落ちていた。

とりあえず拾ってみる。小粒でありながら、ずしりと重いそれは、何かが詰まった物のようだ。

 

【それは属性玉(エレメーラオーブ)ですね。とりあえずお疲れ様でしたシャイニング。ダメージを貰ってるギアの破損チェックしたいですし、帰りましょうか。】

 

そうか、これが属性玉(エレメーラオーブ)。イグアナギルディの想いの結晶か……

とか感慨にふけってる場合でもないな。愛香ちゃんが戻って来ても面倒なことになりそうだし。とっとと退散するべきだね。

そう思ったところで声をかけられる。

 

「あのっ……!ありがとうございました!」

 

振り返ってみればさっきの襲われていた人だ。あれ、今気がついたけど僕の通っているの学校の制服だ。

しかも、クラスメイトだったような気が……気のせいだな!

 

「いえいえ、お気になさらず。」

 

そう言って軽く手を振り、去ろうとしたのだがその手を掴まれる。

あれ、今その挙動が見えなかったぞ?

 

「名前を、お名前を教えて下さい!」

「え、テイルシャイニングです。」

 

答えたら手を離してくれないかなーと思いつつ回答をするが、一向に離してくれそうにない。

強く掴んではないけど熱っぽい掴み方で、掴まれたままじゃ帰るに帰れない。

と思いながらも質問は続く。アルティメギルが打倒されたために人がだんだん戻ってきて、僕の方に走り寄ってくる。

 

「ご趣味は!?」「年齢は!?」「好みのタイプは!?」「お姉さまとお呼びしてもいいですか!?」

 

よし、帰ろう。丁寧に手を離させてすみやかに帰ろう。

 

「すみませんが、装備の修理のために帰らなくてはならないので。これ以上の質問には答えられません!」

 

申し訳ないが僕の手を掴む手を軽く振ることで払い、質問飛び交う路上を駆け出す。

そして、ある程度引き離したところで高くジャンプし、ビル壁を蹴り、さらに空へ上がり転送を頼む。

 

「リフエット、よろしく。」

 

げんなりしながらの言葉にあまり力がなかったのか、リフエットがいたわるような口調で了承の言葉と慰めの言葉をくれた。

 

【了解です。今度から一般人に囲まれる前に帰りましょうね?】

「そうするよ。うかつに質問とかにも答えないようにする……」

 

エレメリアンを倒すのに苦労し、その後帰るためにも一苦労し、僕の二回目の戦闘は幕を閉じた。

そして、僕はまたネットに上がるであろう動画に頭を痛めるのだった。

 

 

 

 

喫茶アドレシェンツァの地下深く。

 

正義の味方の秘密基地ともいうべきシチュエーションのようなその場所は、今実際にアルティメギルと言う異世界の侵略者から地球を守るテイルレッドの基地となっている。

今キーボードを叩き画面に映し出される映像を吟味しているのは、基地を超技術で創り上げた異世界の天才科学者トゥアール。

彼女が今眺め見聞しているのは今さっきまでイグアナギルディと戦っていたテイルシャイニングであった。

自分の創りだしたテイルギアに似ている装備をして戦う白の戦士。彼女はその正体を確かめようとしているのだった。

 

「この人は一体何者なのでしょうか……?」

「とりあえずのところは味方ってことでいいんじゃないかしら?」

 

ポロリとこぼしたつぶやきにも似た言葉に答えたのは観束未春。

観束総二の生みの親であり、アドレシェンツァのマスターであり、重度の中二病患者である。彼女はこの地下基地の建設にOKを出し、トゥアールを観束家に住まわしている、その理由は簡単だ。

異世界の侵略者、異世界の美少女科学者、自分の子供が変身。

ここまで役が揃いかつ中二病を拗らせた未春が、喫茶店の下に秘密の地下基地と変身ヒーローの家に転がり込む異世界の科学者というシチュエーションを拒否する理由があるはずがなかった。

ただし条件として、自分もその基地に入れてほしいというか、仲間に入れて欲しいという条件が付けられたのは余談だ。

 

作業を止め、椅子ごと向き直り未春の様子をうかがうトゥアール、未春は良い笑顔だ。

映像はループし今日の戦闘の最初に移っていく。それを二人で改めて鑑賞する。

 

「変形武装を持ち、相手の能力を測り、切り札で逆転勝ち。いい王道よね!もうちょっと苦戦してくれると切り札がもっと映えたのだけれどね。」

 

それでも名乗りにポーズを決め、必殺技で技名を叫ぶその姿に未春とトゥアールは総二にはない何かを感じ取っている。

 

「えぇ!やられた姿も良い感じですね、衣装が破け肌があらわになり装甲が破損する。総二様にはない色気というものを武器にしてきましたね。侮れません!」

 

幾つか映しだされている別のスクリーンではテイルレッドが女生徒にもみくちゃにされている映像が流れている。

 

「二番煎じになるかと思えばそうではなく別路線ね!総ちゃんが皆から可愛がられるかわいいマスコット系だとするならばこの娘は青少年のリビドー溢れさせる性戦士ね!」

 

うまいこと言ったと思っている未春の後ろスクリーンでは、テイルシャイニングの戦闘背景でうずくまって動けない男子生徒の姿が写っている。

 

「カラーリングからホワイトと思わせてのシャイニング!光の戦士!いいわね!そう言うの私大好き!」

 

光の粒子をまき散らしながら疾走し、とどめを刺すシャイニングを見ながら目を輝かせる未春。光と闇は中二病患者にとって切っても切れないものであるために、その輝きに彼女は目を奪われるのである。

そして正面のスクリーンの映像はボロボロに成ったシャイニングの全身図で止まる。

 

「穢れを知らない白のカラーリング、光つまり希望の道標となる符号の戦士。げへへ、汚したらさぞ気持ちが良いんでしょうね未春将軍……!」

「えぇ……白き戦士の悪堕ちもいいわね!なんて言ったって私は悪の女幹部ですもの……!!機会があったら捕まえてきてねトゥアールちゃん?」

 

その画像を見ながらの二人の顔はおよそ正義の味方のサポートではなく完全に悪の幹部と悪の科学者のそれであった。

天使のような悪魔の笑顔で笑う二人のもとに愛香が辿り着くまで後1分……

 

大きかろうと小さかろうと悪巧みはいつだって正しい心を持つ誰かに潰されるのである。

 



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