Monster Hunter ~失ったもの、手に入れたもの~ (小松菜大佐)
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?話 始まりの黒と白

最初、痛いです。
最初は主人公が物理的に、次は作者の文章的に。
しかも、モンハンまだ関係してません。


俺は、俺が嫌いだった。

「うわぁキモッ!」

「寄んなこっちくんな死ねっ!!」

俺は、この体が。こんな体を作った親が。周りのやつらも、嫌いだった。嫌いになった。

「陰気なやつよねー……」

「関わんないほうがいいって!」

友人たちの痛烈な言葉。

悲しかった。

悔しかった。

俺は何もしていないのに。

ただそこにいるだけで、拒絶され、気味悪がられ、軽蔑される。

神がいるというのなら、そいつは俺にどうしろと言うのだろうか?

こんな抵抗する事さえできないこの体で。翼があるわけでもないこの体で。

いや、むしろ神は試練しか与えてはくれなかった。

一瞬だった。俺が全てを失ったのは。

何も変わらない生活。

揺られる体、耳から流れてくるお気に入りのバンドのロック。

しかし、凄まじい音を聞いた後から全てが壊れた。

車で揺られていたと思ったら、目の前に一瞬で壁ができた。そして目が覚めたら病院だった。たった、それだけ。体感では3秒にも満たない出来事である。

病院で、あの凄まじい音がタイヤの擦れる音、ブレーキ音だった事に気付いた。そして、自分の身に事故が起きたことも。

その病院の医者からの話によると、とある交差点、トラックドライバーが居眠りをしていた。

そしてそのまま信号を無視。その交差点を自分たちが横切ろうとしたときそこに突っ込んできた。そして激突。俺の両親は死亡。俺はなんとか生き残ったが、大きな怪我を負った。血まみれだったそうだ。割れたガラスが体に突き刺さり、そこから血がどんどんと溢れ出していたらしい。

「悔しい……!憎いっ……!!」

両親が憎い。トラックドライバーが憎い。そしてこの世界が、憎かった。何度、この世界を自分の手で壊したいと思ったか。

でも、

「どうして……こんなっ………!!」

―――俺は今、壊す手が、存在していない。

そう、俺は、あの事故によって失ったものがある。

それは親。それは友人。それは親戚。それは恋心。

そして、それは両腕。

こんな体にした親は死に、恨む相手ももういない。

こんな体を気味悪がった親戚達は離れていき、頼る相手ももういない。

そこからは、本当にどん底だった。

「くそっ、こんなの……っ!!」

数週間の月日が過ぎ、俺は退院した。

しかし、学校に登校した時俺は周りの環境が驚く程変わっていることに気付かされた。

冗談を言い合う仲であった友人には距離を取られ。

俺の事がもともと気に食わなかった生徒は、反撃のできない俺をいじめの標的にして、不満のはけ口にした。

淡い初恋も異形を見る怯えの視線と聞いた陰口で砕かれた。

「畜生……何が悪かったんだ……!!」

どこかのRPGの主人公が、こんな事を言っていた気がする。

「自分たちのこの手は、この両手は、何かを掴む為にあるものだ」と。

じゃあ、手がない奴は、何を掴むのだろうか?むしろ、何かをつかめるのだろうか?

ご飯すらまともに食べれず、流れる涙を拭うことすらできず。

そんな俺は、一体、何を掴むことができるのだろうか?何かを掴むことができるのだろうか?

失意、絶望。それらに俺は、完全に体を支配されていた。

逃げるように、現実から、何もかもから逃げ出すように俺は誰もいない家に引きこもった。。

そんな状態で食欲など湧くわけがなく、飲まず、食わず、いつまでもうずくまりつづけていた。

そうやって目を閉じ、耳を塞いで何分、何時間、いや何日か経っただろうか。ふと周りを見回せば、もう闇しかなかった。

硬く閉じたドア、その外の風景はいつから見ていないだろうか?

どんな風景だっただろうか?

そんな記憶すらも、俺から遠ざかって、バラバラになって消えていく。

寒い。

痛い。

怖い。

何も見えない。

何も聞こえない。

そう思ったらドサッ、と何かが落ちた音がした。

何が落ちた、と周りを見ようとしたら埃をかぶった棚が横になっていた。いや、もう動かない時計、何も映さないテレビ、吊り下げられたサッカーボールも横になっている。また、趣味だったゲームが無造作に積み上げられたタワーも横になっている。

そこでようやく理解した。倒れたのは、俺だ。

(そろそろ、死ぬのか)

俺は、そう直感した。なぜか分からないが、そんな気がした。

「…………」

少し前まではなかったはずの死が、今目の前で横たわっている。

しかし、俺は怖くなかった。

怖いと思える心が、思うための心が、もう存在していない気さえした。

転がった拍子に、ぼんやりとした視界に飛び込む鏡。

そこには人体標本になりそうなくらいやせ細り、目は落ち窪み、頬に肉は無く、髪の毛も無造作にぼさぼさになっているヒトのような何かがいた。

自分だと思えなかった。思いたくもなかった。

唇は噛み締められたせいで裂け、血が固まっている。

目尻には大量の目やにがあり、そこから涙が流れて固まった後が残っている。

「……ッ!」

鏡の向こうのそいつと目があった。俺は初めて、本物の恐怖を感じた。

そして、震える僕に向かってそいつは言うのだ。

「夢じゃない、こいつはお前だ」

と。

悲鳴をあげたかった。事実、自分の中では上げていた。しかし、長い間何も喋らず、水すらも飲んでおらず乾ききった喉から発せられるのは掠れた、か細い声だけだった。

視界が、黒に染まっていく。意識が遠のいていく。

どこかのゲームのシーンのように、空に手をかざそうとするが、その手はないことを思い出してすこし虚しくなった。

見上げるべき空はそこにはなく、あるのは黒いカビの生えたぼろっちい木の壁。

……こんなものなのだろうか、この世界は。

尊いと、守るべきものであると教育されている命は、こんなものなのだろうか?

忘れていた感情が、少しだけ蘇る。

それは、寂寥。

それは、哀惜。

それは、憎悪。

それは、空虚。

枯れ果てたと思っていた涙が、また溢れ出す。それは床を濡らし、染み込み、広がっていった。

それの一部が見えたところで、黒くなっていく視界が完全に染まった。

(悪くはない…でも、悲しいな。やっぱり)

それが俺の最後の思考。

俺と世界を繋ぐ何が途切れ、俺は意識を失った。

 

 

――――ろう?

何か、声が聞こえた気がした。

 

―――――何も得られないのは、虚しいだろう?

あれ、俺は死んだはずなのに。

 

――――世界の不条理に負けるのは、悲しいだろう?

もう、何も聞こえないはずなのに。

 

――――絶望に打ちのめされ、立ち上がる手さえ奪われたのは、悔しいだろう?

それでも、外から、耳からでは無くもっと奥から何かが響いてくる。

 

――――聞こえないのか、全てを失った者よ。

「………ぁ」

声が。出せなかったはずの声が出るようになっている。

周りを見ると、色が、重力が、広さの分からない、そんな不可解な空間が広がっていた。

 

―――――聞こえないのか?

「……いや、きこえている……」

久しぶりに放つ言葉、それは以前とは比べるまでもないほど拙いものであった。誰が話しているのか?それも気になるところではあったが、それよりも久しぶりに誰かとしゃべれた。声を出すことができた喜びの方が勝った。

 

――――お前は、全てを失った。家族、友、夢。それを掴むその手、何かを掴む為のその手すらも、立ち上がる為のその両の手すらも世界に奪われた。

「……ああ。そのとおりだ」

 

――――そして、今はわずかに灯るその命さえも、消えようとしている。

「あぁ、事実だ。俺はそろそろ死ぬ」

 

――――私は、惜しい。

「……は?」

 

――――お前が、全てを失って、そのおかげで手に入れた物があるお前が、ここで消えるのは惜しい。

「…なんだよ、意味わかんねえよ!はっきり言ってくれ!!」

俺は、その不可解な言い回しに苛立ちを覚えた。はっきりとしない言い回しほど憎たらしいものはないだろうと俺は思う。

 

――――お前は、知ったはずだ。

「……何を?お前言ったよな?俺は全てを失ったって!!そんな俺が、得た物なんにもない俺が、何を知ったっていうんだよ!?」

 

――――命の、脆さを。

「ッ!?」

 

――――世界の不条理さ。人の脆さ。愚かさ。

「……」

 

――――運命の、過酷さを。

「……」

何も、言えなかった。そいつの放った言葉に対する言葉を思いつこうにも、思考回路が凍結させられたかのように、意味のない言葉が羅列され空回りしては消えていく。

 

――――だからこそ、お前には生きていてほしい。それらを知ったことによって生まれた強さを持つ、お前に。それを得た者が何もできずに死ぬのは、私にとっては惜しすぎる。

「……やだね。こんな俺になにができるってのさ?お前が言うその不条理な、過酷な、クソッタレなこの世界で、何もない俺に何を求めてんだよ?」

 

―――――一つ、力が絶対である世界がある。

「……?いきなりどうした?」

 

――――そこで、生きろ。生き延びて――――

「はぁっ!?これで、この体でか!?どうやっ」

 

――――幸せになってくれ。

「て……!?」

いきなりの言葉に面食らう俺。

幸せに、なってくれ。

その言葉を、俺は初めて誰かに言われた。

 

――――もう一度言う。苦しかっただろう?悔しかっただろう?悲しかっただろう?

「……ッ、ぐぅ、うううううううっ……ッ!!」

熱い雫が、目尻に浮かぶ。それを零さぬよう、必死にこらえる。

 

――――辛かっただろう?

「…ぅうううぁああああああああ!!!!」

だが、限界だった。

一度流れた雫は、それが栓であったかのように別の雫を呼んで一つの流れを作った。

膝に力が入らなくなり、ストンと体が落ちる。そのまま頭を地面に強打した。痛みより、悲しみが勝った。そのまま、地面に頭をこすりつけて涙を流した。

 

―――――また、世界がお前に試練を与えることがあるだろう。再び苦しみ、悲しむこともあるだろう。

―――――でも、そこでならきっと何かを得られるはずだ。強さを得たお前なら乗り越えられるはずだ。

「……ひっ、ぅぐ、ぐすっ……げほっげほっ!!」

 

――――お前をそこに送る。やり直してこい、そこで、必ず幸せになってくれ。

――――そして、この(・・)不条理な世界では見つけられなかった事を、見つけてこい。

「げほっ…ひっく……ぅん」

不思議と、勝手に返事ができた。なにも考えていなかったのに。

 

――――よし、ではお前が幸せになれることを祈っている。

「……っさ、最後に、アンタは誰なんだ?」

遠ざかっていく声、その気配に急いで俺は声を掛ける。嗚咽混じりのひどい声だ。でも、俺を勇気づけてくれた。やり直すチャンスをくれた人が、誰か気になったのだ。

 

――――私は……

そこで、迷いなく話していたそいつが言葉を止めた。しかしそれも一瞬で、決意したように再び声を上げた。

 

――――いや、俺はお前に誰よりも近かった男さ――――

そう言ってそいつの気配はこの空間から、俺の中から消え去った。なんとなくだが、そんな気がした。

あの人が消えたので、この不可思議な空間に残ったのは俺だけである。

また一人になった。だが、なぜか寂しくない。俺の胸の中には、最近全くのご無沙汰だった、ほっこりとした暖かさが残っている。

「……あーあ、ああいう感じの泣き方は久々だったな……ってうおぅ!?」

寝転びながら、呟きながら、さらに苦笑いをした俺の視界に飛び込んできたのは、薄れゆく俺の足だった。

「な、なんだなんだ!?……って、ああ。そういう事か」

驚きの声を思わずあげたが、すぐに理解できた。おそらくあの人の言っていた世界に行くのだろう。

さっきは消える、死ぬことに不安はなかった。俺の身には今同じようなことが起こっている。

でも、さっきには無かった、久々に感じるこの高揚感はなんだろう?

……この感覚は、覚えている。

それは、期待。

それは、好奇心。

それは、希望。

再び、消えゆく意識の中感じたのはいくつかの感情。どれも思い出したものだが、一回目のときより圧倒的にいい気持ちばかりだ。

思わずにやけてしまい、笑みを浮かべながら、じりじりと消えていく体を急かすように動かす。

胸のあたりまで消えてからは早かった。そこから堰を切ったように首、そして顔が消え始めて、一瞬で視界が白に染まった。

意識も白に染まりかけているその時、そこで俺は、ふと思った。

(あの人は、もしかして父さんだったんじゃないか?)

今は生前となったが、そこでは本当に優しくて、強くて、カッコよかった父さん。

俺が憎くて憎くてたまらなかった父さん。

責任感が強い人だったから、そのまま死ぬのが辛くて俺を見に来たんじゃないだろうか?

そして、俺がやり直せるチャンスをくれたんじゃないだろうか?

転生なんていうファンタジーな事が事実、俺の身に、現在進行形で起こっているのだ。何が起きたっておかしくない。

そう考えたとき、俺の中に巣食っていた悪の根源が断たれた気分がした。

父さんは、やっぱりカッコよかったんだ。そう思い直すことができた。

その父さんがそばにいる。

それによる安心感、そして生まれた仄かな暖かさに包まれたまま、俺の意識は完全に白に染まった。

 

 

 

ここから始まるのは、全てを失った少年の物語。

 

ここから始まるのは、強さを得た少年の物語。

 

ここから始まるのは、絶対強者による過酷な世界の物語。

 

ここから始まるのは、仲間と笑い合える素敵な世界の物語。

 




はい、初めましての方は初めまして。
見たことがある方はどうもおはこんばんちわ。小松菜大佐でございます。
この小説、なんと主人公の人格はこいつではありません。いきなりなんでこんなことに…?

さて、僕は今なろうでオリジナル小説を。pixivでDogdaysの二次創作を執筆しております。
そこでクエスチョン。

Q.ただでさえギリギリな中、僕はなぜ新しく書き始めたのでしょう?

A.お前がアホだから。

言い返せませんが、事実ですが、違います。
正解は、一つの小説と深夜テンションという魔物です。
……その時、モンハン二次創作の恋姫狩人物語読んでたんですよ。それで、つい。

それでですね、この小説はメインではなく、DogDaysとオリに行き詰まった時のみ投稿しようと思います。
深夜のノリで書いたものと、ある程度続けてきて、結構人が集まったものでは、さすがに優先順位を後者の方が高めにつけざるを得ません。
それでもお付き合いしてくれる方は、どうぞよろしくお願いします。


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1話 少年の船出 暇つぶしに語る昔話

真上から降る日差しが心地よい。

目の前に広がるのは、その日差しをキラキラと跳ね返ず大海原。

僕は、海を見るのは初めてだ。だが、それよりも目を引くものがある。

「お、おおおぉおおおおぉ~!!」

それは、僕の体の何倍あるかわからないくらい大きな船だ。

どこから切り出してきたのか、と思うくらい大きく、太い木で組まれた船体。それにアクセントを加えるように黒い弓のような形をしたものがぶら下がっている。あれが、錨というものなのだろうか?

船と同じく、とてもおおきな帆が風ではためいている。バタバタという音がここまで届いてきた。

「でかいな……こんなのに乗っていくのか………」

僕はそのスケールにただただ圧倒されていた。

しかし、今日は見学する為に来たのではない。この海の遥か向こう、そこに確かにある大都市、ドンドルマに行くためである。

僕は今、船出の時を迎えていた。

「今日でこことも、一旦お別れかぁ……」

僕は、船に向けていた視線を街に向ける。

改めてあたりを見回してみて、この街は僕が最初に来たときよりさらに発展していた。その事が見るだけで簡単に分かるくらいだ。人の通りが多くなり、忙しそうに動き回っている。店も賑わっていて、一つの店の前では特売でもやっているのだろうか?非常に大きな人だかりができていた。

「なんだかこうなってみると、感慨深く感じるのはなんでだろうな……」

少しの間だったが、この街には結構お世話になった。心情の大半はこれから向かう場所への好奇だが、少し、悲しみもある。できればここの暖かい、いわばぬるま湯のような心地よさのあるこの街から出たくないとも思っている。

しかし、強くなるため、あの人のようになるため、僕はこの街をいつかでなければならない。そのタイミングが早いか遅いかの違いだ。

そう言い聞かせてはみた。

でも、やっぱり哀惜の念が少し残っていて、街の方を振り返って少しの間立ち尽くしてしまう。

「あーあー!考えるな!これからの事、特にこのでかい船についてでも考えていればいいんだ!!」

「……なにやってんだ、少年」

「ッ!?」

頭をブンブン振って、大声を上げているという端から見たら不審者な俺のところに歩み寄ってきたのは、一人の男だった。

「い、いやぁ、船初めて見たし、でっかいなぁって!!」

声を震わせながら誤魔化……せてはないと思うが、まあ適当に言葉を並べ男の方をみる。

背は高く、髪は短髪で髪型はきっちり決めてないのかボサボサである。あと、無精ひげが結構生えていて不潔感たっぷりだ。

さらに、だらしなく着崩している服(with大量の皺)の胸ポケットのところにはギルドナイトの証である紋章が輝いている。普通、ギルドナイトは羽付きの帽子をかぶっているのだが、この人はそれすらかぶっていない。

ホント、こんな人がギルドのエリートであるギルドナイトとは思えない。

しかし、整った鼻筋、綺麗に澄んだ鳶色の瞳によってそれら全て覆し、ちょっとだらしないイケメンという評価にグルンと変わる。ほんとイケメンってなんなんだ……。

俺の送る怨念の視線に対して、気付いていないフリで対応(確実にこの人は気付いている。口元がにやけているからな)したその人は、何食わぬ顔で話を返してきた。

「あぁ?少年、見たことねえのか?」

「……まぁいいけど。そうだよ!僕は……」

「少年」

「え?あ、あぁ……俺が(・・)行くのは近場だったし、通るにしてもセクメーア砂漠を通って行くところだったからな」

「なるほどな、まぁ、経験するこたぁ大事だ。おっさんになる前にいろいろやっとくんだな」

「おっす」

なんかこの人がいうことは説得力があるのはなぜだろうとか意味のないことを考えてみる。

「んじゃ、行くぞ。乗れ」

「はーい」

俺は言われるがまま、船に乗り込むための橋を渡ろうとした。

ギシッ

「うわっ怖っ!?」

そこに乗った瞬間、その板が軋み、音を上げた。思わず、口から勝手に悲鳴が上がる。

いじる材料が見つかった、とあの人はニヤニヤしながら近づいてきた。

「お?なんだ少年ビビってんのか?」

「わ、悪いか!?初めてなんだこれに乗るの!!つーか海自体初めてなんだ!!」

「……いいじゃん、口調。それならまあまあだぜ」

「お、これなら大丈夫か?」

俺はここを出る前に、この人に口調を直すように言われた。前は僕で、ですます調だったが、それは大分舐められやすい。ちょっとうまくいっていい気になってる新人共が、いい気になって使いっぱしりに使ってくるぞ。というのがこの人のコメント。

よって、俺、~だぞ、だぜみたいな口調に切り替えた。うまくいってるか不安だったが、言う限りは大丈夫らしい。

「おう、舐められることはないだろうよ」

「よし、じゃあ行こう!」

「騒ぐな五月蝿い……。でもそろそろ時間だな。そんじゃま、行きますか」

そうして俺は、時々ギシギシと軋みを上げる橋を歩き出した。

いつなるか、いつ崩れるかいつ折れるかとビクビクしながらなんとか渡り切り、船の上にたどり着く。

「ふぅ……ランポスと戦うより怖かったかもな」

「船の上に行くだけなのにどんだけビビってんだ……」

「う、うるせえやい!こちとら泳いだことも水に沈んだこともないんじゃい!!」

「それは似合ってないぞ」

「そう?」

「あぁ、お前がメルホアシリーズをノリノリで着ているくらいな」

「そんなに似合ってないのか…」

「……俺は、むしろなんでその口調を選んだかを問いただしたいがな」

「……さぁ?俺に聞かれてもな」

「言ったのはお前だがな」

そんな、盛り上がりがあるわけでもオチがあるわけでもない、どうでもいいことをだらだら話していると、何か声が聞こえた気がした。雑談ではない、何か目的を持っているような、そんな声だ。

「な、なんだなんだ……?」

俺は何か緊急警報のようなものでも出されたのかと思い、あたりを思わずキョロキョロ見回す。しかし、俺は理解する事ができなかった。

「……人気者なんだな、少年は」

でも、目の前で話しているこの男には何が起きているのか理解できているらしい。なんだなんだなんだ、なんかすごい腹立つぞ。

「なんだよ、なんか俺だけ馬鹿みたいじゃないか!何が起きてんのか、教えてくれよ」

「事実馬鹿じゃないのか?」

「そこには突っ込まなくていいから!」

「……下、見ればわかるぞ」

そう言って、下を指差す。その動作もどこか決まっていて腹立たしい。これぞイケメンの魔力である。

「下?」

俺は言われるがまま、身を乗り出すようにして船体によって隠れているところを見てみる。

そこには……

「坊主―!!頑張ってこいよー!!」  「おばさんが養ってあげてもいいのよー!?」

「怖かったら帰ってきていいからねー!!」 「やったね母さん、家族が「おいやめろ」」

街の皆、俺が最初にきた頃からいた皆のほとんど全員と、お祭り好きなのかただの好奇心によるものかは分からないがほかにも見知らぬ人が数人こちらに手を振っていた。

俺は思わず目を見開き、下に向かって声を張り上げる。

「皆!?どうしたんだよ急に!!」

「どうしたって坊主、今日からミナガルデに行くんだって!?」

「そうそう、私も今日聞いてビックリしたのよ!!」

「えー!?兄ちゃんどっかいくのー!?」

「あぅ…まっ、また遊びに…ぐすっ、くるんだよね……?」

「もー、泣かないの!今日はお兄ちゃんの記念日、おめでたい日なのよ!笑顔で見送っておげなきゃダメでしょ!?」

「でっ、でも、だって、えぐっ」

老若男女勢ぞろい、中には泣いちゃっている子供までいる。

「俺、こんなに人気でるような事したっけな……?」

と思わず呟く。本心である、俺はそんな大した事をした記憶はない。

「そりゃ人気にもなるさ、お前は何度も村を救ってきたんだからな」

「そうかな?俺はその時その時必死で……」

「それだよ、それが皆の心を打つんだ。年端の行かない少年が、ハンターなりたてで戦い続けてきたんだからな」

「……」

その言葉に何も言い返すことができず、俺は恥ずかしくなってうつむいた。

その瞬間、

 

―――――ボォォォォォォォ

大きな大きな汽笛がなった。出航するのだ。

ゆっくり、ゆっくりと、でも確かに進み始める船。景色も一緒にゆったりと流れ始める。

下にいる皆の手が、さっきより大きく振られるようになったように見えた。

それぞれが皆、声を精一杯張り上げているのではっきり言って何を言っているかは分からない。でも、間に聞こえる

「生きて帰って来い」

「死ぬなよ」

「体に気をつけて」

といった暖かい声援が、確かに俺の耳朶を、そして俺の心を叩いた。

「み、皆……ッ!!」

込上がってくる気持ちに負け、目頭に熱い液体が溜まる。

でも、これは流してはいけない。この別れは、悲しくあっちゃいけない。これは門出なのだ。おめでたい事でなければならないのだ。

言葉を返さないと。確かに時は、景色は今も流れているのだ。

「……っしゃ!」

俺は必死に流れようとするそれを必死にこらえ、無理やり唇を釣り上げる。

そして、一気に肺へと酸素を送り込んだ。

「みんなー、行ってくるー!帰って来れたら、稼いだお金でリュウノテールみたいな美味いもん持って帰ってくるから、楽しみにしててくれよなー!!」

その吸い込んだ酸素全部使い切るくらい、思いっきり叫んでやった。ちょっとスッキリして、気持ちよくなるくらいに。

 

わぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあああ!!

 

皆から興奮したような声が上がった。

そして船は陸を離れ、海へと出ていく。

どんどんと遠ざかっていく皆に、追いかけてくる子供達に、俺はいつまでも手を振り続けた。

 

 

加速を始めた船。波を割って、通ったところは白い泡を立てている。

陸地はもう水平線の彼方へと消え、周りには海しかない。最初はそれも新鮮だったが、時が経つにつれて、だんだんと退屈になってきていた。

「んー……」

俺は子供のように足をぶらぶらさせながら、何かする事が無いかと考えていた。

周りを見回すと、近くに置いたバッグの中に入っている一冊のやたらと分厚い本が目に入った。

「あ、そうだ!これ読まなきゃな!!」

近くにあるその本を手に取り、その重量感に思わず苦笑いしながら、俺はページを繰った。

「ん?なんだ少年。その本は」

ニヤニヤしながら辞書のような本を見ていたらさすがに気になったようで、あの人がズボンを引きずりながら近寄ってきた。だからだらしないって。

「『ハンター初心者に送るギルド公認!ハウトゥ本』だよ」

「……公認なのはいいことだが、胡散臭さが増してるな」

「それは突っ込んじゃいけない……っていうかギルドナイトなのにそんなこと言っていいの?」

「いいの。お堅いイメージらしいけど、実際仕事場はゆるゆるなんだから……で、それ買ったの?結構高かった気がするんだけど」

「いいや、買ってもらったんだ」

そう言うと、あの人は頭に疑問符を浮かべた。

「あれ?お前、親兄弟いたっけ?」

「いないよ、死んだ……てか、そんなことよくザックリ聞くね」

「容赦する意味もないからな。で、誰に買ってもらったんだ?」

「……うーん、話せば長くなるんだけど、それでもいい?」

「あぁ、暇だからな。ついでにお前の昔の事も聞かせてくれよ。特に……それ(・・)のことをな」

そう言ってあの人が指差すのは、俺の体の左側。

手がある部分だ。本来(・・)なら、な。でも俺には今、それがない。

(まぁ……確かに暇だし。いいか)

別に隠すことでもないのだ。暇つぶしになるのであれば丁度いい。

「…………分かった」

俺は話すことをあらかた考えながら、唾液で舌を湿らせた。

「んじゃあ、話すよ。俺の昔の事。この腕の事と、優しくてカッコよかったお姉さんの話を」

そうして、俺は思考の海の中に沈んだ。

 




もう一個行きます。

11/29 ドンドルマ→ミナガルデ
見た瞬間、血の気が引くほどのミスでした。
この後に関わるレベルだww


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2話 昔、昔のお話

ただの平凡な一少年、タクト・シノカワ。それが、昔の俺。

大商人とか、貴族様の家に生まれた訳でもなく、普通の家に生まれ。普通に教育を受け、すくすくと育ったはずだ。そ、そりゃあ初恋とかしてみたりしたさ。たくさん勉強して、護身の為に格闘術を習ったりして。

朝は眩しい日差しと小鳥の囀る声で目覚め、昼は友だちと一緒に遊びまくって、笑いあった。夜は皆でいっしょにご飯を食べたり、父さんと一緒に風呂に入ったり。

そんな暢気で、緩くて、平和で……そんな毎日が緩やかに過ぎていく

俺は幸せだった。……あぁ、幸せだった(・・・)のさ。

ただ、運が悪かった。それだけだったんだ。

その日、俺と父さん、母さんの三人で里帰りをすることになっていた。そこは砂漠を越えた先にあるので、商隊(何人もの商人がそれぞれ護衛のハンターを雇い、一緒に行動する団体。規模は大きくなるが、護衛も増えてメリットも多い)の中に混ぜてもらって一緒に砂漠越えをしていた。

これが毎年の事だった。

今年も、おばあちゃんの家に行ける。いとこにも会える。

そう思っていた俺、そして警戒していたはずのハンターですら、何も関係ないように自然は、俺たちを一口に飲み込んでいったのさ――――。

 

 

 

…………………………。

……………。

………。

 

世界が、揺れている。

世界の法則が完全に狂った空間。縦か横かも分からない、前後不覚になる空間。とりあえず、寒い事だけが唯一分かること。

そんなよく分からない空間の中、僕はふわふわと浮いていた。

その不規則に襲い来る揺れがなんとも心地よい。

このまま、この空間に浸っていたい――――

「起きて!早く!!」

しかし、それを妨害する人がいるようだ。

そして、先ほどまでいた空間は夢だったという事を悟り、少し落胆する。もう少し、眠りの世界に居たかったのに……。

しかし、いつまでも無視している訳にはいかない。僕は目を擦って、眠ることによって荒れたフォーカスが徐々に修正していくと、僕の視界には母が映っていた。

母の顔には汗が浮かんでおり、瞳孔は開ききっている。

「…っう……?」

「ほら、急いで!タクト!!」

「うるさいな……」

若干ヒステリーを起こしかかっている甲高い声に少し不快感を覚えたが、とりあえず言われるがまま体を起こす。

周りの景色は、砂の茶色と夜闇による黒のみ。

(あぁ、僕は砂漠に来てたんだっけ……)

また閉じようとしていく寝ぼけ眼をこすりながら、俺は母に問うてみた。

「どうしたのさ、そんなに慌てて……」

その問いに答えたのは視界に入っていなかった父さんだった。首を傾けて視界に捉えると、やはり同じように瞳孔は開き、顔も汗まみれである。

「タクト、モンスターがでやがった!それも大量にな!!」

「……モ、モンスター!?」

モンスター。

それはこの世界における食物連鎖の上位に位置する生命体である。

アプトノス、ケルビなどの草食モンスターはおとなしい個体が多い。しかし、それらは個体数の割に種類が少ない。種類のみで言えば人すら簡単に喰らう肉食モンスターの方が圧倒的に多いのだ。米粒程度の小さい虫も入れば自分と同じ、またはそれよりも大きい虫もいる。それに猿、そして食物連鎖の頂点に君臨するモンスター、竜。

おそらくこの二人の慌てぶりから、草食モンスターである可能性は極めて低いだろう。

「……名前は?」

声が、自然と震える。

「ガレオスにゲネポス、それらを率いるドスガレオスにドスゲネポスもだ!!」

「なっ……!?」

僕はその言葉に、思わず言葉を失う。

ガレオスとは、砂の中を自由に動き回れる砂漠のみに生息する魚竜種の一種だ。

動き回る最中に飲み込んだ砂を圧縮し発射する、砂の中に引きずり込むなどして攻撃・捕食する。砂の中という環境から視覚は完全に退化し、その代わり獲物の足音を聞き取るための聴覚がかなり発達しているらしい。

ゲネポスは密林に生息しているランポスの亜種の鳥竜種のの一つ。

ランポスよりも過酷な環境に生息しているせいか、生命力が桁違いで、さらにその鋭い爪、そして何より強力な麻痺毒を備えている牙を持っている為、ハンターになったばかりの初心者の関門の一つらしい。そんな事を書いている本があった気がした。

しかし、砂漠という餌の少ない過酷な環境。本来なら餌を奪い合うライバルのような関係であるはずなのに、なぜ同時に僕たちを襲っているんだ!?

「がぁあああぁあああああぁああああ!!!」

「ひっ!?」

外から人の声とは思えない、しかしモンスターでもない悲鳴が聞こえた。

おそらく、あれは……

「な、ななななんでゲネポスとガレオスが一緒に!?あ、は、ハンターさんたちは!?」

「なんでかはわからん!でも、何かから逃げているみたいに殺気立ってる!!あとハンターたちはほとんど逃げるか死んでる!!!今の聞こえたろ!?あれが最後のハンターだ!」

父さんが「やっぱり装備からして明らかに腕がなさそうな奴らだった……!気付いていたはずだったってのに!!」と壁を叩いているが、僕はそんな事を気にしていられなかった。

ハンターさん達が、ほぼ壊滅って事?

じゃあ、残された僕たちは、死―――――!?

「や、やややややばいじゃん!」

「だからさっさと出ろって言ってんだ!死にたいのか!?」

「ご、ごめん!!」

いつもニコニコしていて、頼れる父さんが、目を見開いて声を荒げている。その異常さに急かされている気分がして、寝るのに邪魔で脱いでいた上着を引っ掴んで外へ転がり出た。

その瞬間、冷気が体を包み込んだ。

「うわ、寒っ!?」

砂漠は日が落ちれば、日中の暑さなど思い出せない程気温が下がる。

僕の乗っていたところは、かなり性能がよかったようで外気温による車内の温度変化がほとんどなかった。よって、普通でも震えるような寒さの中、快適に過ごしていた僕にとってこの気温はかなり応えるものだった。どれくらいかと言うと、鳥肌が余裕で総立ちするくらい。僕はひっつかんでいた上着を急いで着た。夜を越すためにもってきた、ガウシカの毛皮で作られたコートだ。これがすごいあったかい。

「も、モンスターはどこ……?」

満天に輝く星、暗闇に染まった空の下。確かな明かりは少しになった松明の朱と、全てを平等に照らす月明かりの青だけ。なんと幻想的な風景だろうか。

しかしそれは第三者のみの話。

そこに立つ人にとって、ガレオスの砂をかき分ける音とゲネポスの甲高い鳴き声にプラスされることにより、そこは地獄へと一瞬で様変わりする。

「ど、どこにいるのさ……!?」

とにかく危険回避が最優先だ。

僕は周りを見回そうとするが、

「いやぁああぁあああああああ!!」

どこかで聞いた事のある女の悲鳴によって、その思考は無駄になった。

「い、嫌だ嫌だ嫌だ!!死にたくないぃぃぃぃぃいいっ!!!」

僕はパニックになった。僕の感覚がイカレてなければあの声は――――

「うわあああああ、うぐっ!?」

慌てて駆け出す僕だったが、脚をもつれさせ転倒。ここで、僕の思考能力は完全に失われた。

「あぁあぁ、あぁあああああああ……」

起き上がろうにも、足が震えてうまくいかない。

「なんだよ、なんだってんだよ!動い…てよ……っ!!」

寒さによるものなのか、恐怖によるものなのかは知らないが、体の震えが止まらない。涙が勝手に流れてくるのだ、恐怖によるものなのだろう。

完全に思考を焦りに乗っ取られた俺を救ったのは、

「落ち着け、タクト!!」

父さんのよる叱咤と、今まで見たことのない程鬼気迫る表情であった。

「と、父さん……!怖いよ…!!」

「あぁ、わかってる!……手短に言うぞ、よく聞け」

そこで父さんは一度言葉を切って、目を閉じて深呼吸した。僕に見せた次の表情は鬼気迫るというより、真剣味を帯びた表情であった。

「さっき、母さんは死んだ。ガレオスに脚を食われて、砂の中に引きずり込まれたから確実にな」

「あ、ああ……う…」

母さんが、死んだ。

出来事が一気に起こり過ぎて、僕の思考能力のキャパシティを大きくオーバーしている。言葉を発しようとするが、洪水のような文字の羅列に飲まれ文が成り立たない。僕は赤ん坊のような言葉しか口にできなかった。

「……俺は、父さんはな。お前まで死んで欲しくないんだ。だから、お前は。お前だけはなんとしてでも生き残ってくれ!!」

「…え、だけって、父さんは!?」

「…………これを」

父さんは僕の言葉を無視して、首にかかっているペンダントを外した。

「これを持ってけ……お前は物を無くす癖があるからな。絶対に外すな」

「……え」

父さんはそれを無理やり僕に握らせ、少し微笑むと背中を見せた。

「…………逃げろ」

「……父さん」

「逃げろ!!」

「で、でも……こんなのって…!!」

「……はぁ、全く」

僕の態度に少し心配になったか、父さんはまた近寄ってきて、再び勝手に溢れてくる涙を軽く拭ってくれた。

目と目が合う。その瞳の奥には悲愴な覚悟と、どこか諦めに似た哀愁が漂っていた。

「……幸せに、なれよ」

父さんは見えない何かを振り払うように首を大きく横に振り、背中を見せて、今度は駆け出した。

(父…さん……)

認めたくない。

このたった数分の出来事を、夢であると信じたい。

(母さん……!)

でも、わかっている。

このかすかに漂ってくる血と何かが焼ける焦げ臭い匂いと、冷気が肌を突き刺す痛みとが、これは紛れもない現実だと教えている。

理解している。母さんは死に、父さんも死ぬ気であることを。そして、父さんの行動は僕を逃がす時間稼ぎであることも。

(なんだってんだ…畜生……!!)

わざわざ父さんに拭ってもらったってのに、どんどん新しい涙が溢れてくる。勝手に視界がぼやけていく。

脚が、体が震えている。

こんな状況で逃げられるかは、ほとんど運任せだ。でも、

(言われただろ、僕。父さんに、幸せになれって!なにか、できるはずだ……っ!!)

父さんの言葉を守るため、生き残って幸せになるため、停止していた思考回路を再起動。同時にフル稼働させた。

世界が、ゆっくりと流れているような錯覚になる。

(一旦整理しろ、僕には脳がある考えられる。今打てる手は?2つだ。1つ、おそらくここの近くにハンターの死体または逃げ帰ったハンターの装備が少しはあるはず。それをとって戦う……ダメだ。いくらちょっと格闘術をかじった所で勝てる訳がない。お前は父さんの遺志を無視してさらに犬死する気か?じゃあ2つ目、逃げる。これしかない。じゃあ、どっちだ。どこに逃げれば敵が減る!?)

気温が低いはずなのに頭が、体が熱い。妙な倦怠感に襲われ、思考を止めそうになる。

でも、その誘惑をゆっくりと流れる砂の音が断ち切ってきた。

(ダメだ、思考を止めた瞬間に死ぬ!ゲネポスから逃げるのは無理だ、僕よりも地面での運動能力が高い。秘境ってところがあるってどこかで見たけど、入れないだろうし候補に上げるべきじゃない。じゃあ、ガレオスなら?狭い所と、岩場にはは入れないんだっけ……)

視界を右に、左に動かし条件を満たすルートを選別する。

(地図を、思い出せ。……この地形からするにここはエリア5。なら……エリア10だ!)

僕は、エリア10を通ってエリア7、エリア6、エリア5と巡回するルートを選んだ。

エリア8のルートでも良かったが、それは先がない。それなら走り回って、少しでも人の目につくようなルートを選ぶべきだと考えたのだ。

父さんと逆方向に走り出した僕、その後ろから

「ギャォワ、ギャオア!!」

という甲高い鳴き声が届いてきた。聞き覚えがある……間違いない、ドスゲネポスだ。

(くそっ……絶対生き残ってやる!!)

どんどん近づくドスゲネポスから必死で逃げる僕。

…………遠くから、どこかで聞いたような男の人の悲鳴が聞こえた気がしたが、もう僕には関係のない、気にしてはいけない事である。

 




ところどころ言葉が続き見にくいと思いますが、仕様です。
本気で集中してる時って、いろんな言葉を呟くが脳内で並べますよね……あれ?僕だけ?

ごほん。
さて、次話なのですが……なんと!あの人気モンハン二次創作小説、黒鉄大和様の『モンスターハンター~恋姫狩人物語~』からあのキャラが登場します「!

ΩΩΩ<な、なんだってー!?

一体、誰が出張してきてくださるのか!?乞うご期待!!

キャラをお貸ししてくださった黒鉄大和様に、この場を借りて感謝を。
本当に、ありがとうございました!!


※感想、批評常時募集中!お願いします!!

※ツイッターやってます。更新情報などつぶやいていますので、気になるかたはこの名前で検索してください。こんな名前ダブる訳がないのでwww

※【宣伝】pixiv様にて「Dogdays~幽霊のフロニャルド戦闘記~」、小説家になろう様にて「そのだんっ!りたーんず!!」を連載中です。D
ogdaysの方は誘拐され、兵士となった主人公。後悔を抱いたまま死んだ主人公が神様の頼みで世界を救うことになっちゃった!?相棒であるスナイパーライフル「L118A」と共に戦に挑む。果たしてその先にあるものとは?そしてタイトルにある幽霊に込められた意味とは―――?こっちは無双系。
そのだんっの方。
二つの国がにらみ合う世界。いつ戦争が起きてもおかしくないなか、突然生まれた強い意思(説明しにくいので本気で本編参照)によって突き動かされた主人公アルフ。人種差別によって苦しい思いをしながら、ひたすらアルフは前に進んでいく。生き残るため、そしてだんだんと生まれる仲間との絆を守るため、少年は銃を取る。こちらはできる限りリアルに書いているつもりです。
どちらも銃が出ます。好きな人は気に入るかも?
暇つぶし程度に読んでください(´∀`)

※『恋姫狩人物語』はたくさんの女の子に囲まれたリアzyすいません。
……ごほん。囲まれたハンター、クリュウ・ルナリーフくんがいろんな戦いを経て強く成長していくお話です。僕がこの小説を書き始めたのも、恋姫という作品を見たことが大きな要因になっております。過去編、長旅などストーリー重視なのにもかかわらず、戦闘にも圧倒的なボリュームがあって……あぁあ!長所書き始めたら止まんないし収拾つかない!
「リア充?はぁ?興味ないわぁ」なんて方も、臨場感のある戦闘は必見です!!
お時間がありましたら、是非ご一読を!!

では、サラダバー!!


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3話 砂漠を駆ける

申し訳ありません、お借りしたキャラクターは次話に持ち越しました。


暗闇の中、僕の吐く息の白さがやたらと目立つ。

いつも見ていた柔らかな、優しい月の光は様変わりし、どこか残酷な光を湛えていて、こぼれ落ちた雫のような青色の光が僕を包んでいる。

周りは一面、黒と茶色の世界。その中、僕はひたすら足を進めていた。

「はぁはぁ……はぁっ…」

寒い。

砂浜に脚を取られ、うまく走ることができない。

足が震える、それは疲労によるものなのかそれとも寒さによるものなのか。

「はぁ……はぁ…もう、だめ………」

必死に走ってきたが、もうダメだ。日頃の運動不足が光ってしまって、脚が動かない。

肺が、酸素を欲している。

僕は脚を止め、肩で息をした。

(ここは……どこ…?)

とりあえず何をしようにも、位置が分からなければどうしようもない。僕は眼球のみを動かして辺りを見回す。

(周りを見るに、このフィールドはエリア10だな)

周りにはほんのすこし草が生えている……ここは草食モンスターの巣だったか?確か、アプケロスの巣だったはずだ。遠くの方にそのモンスター達のと思われる糞が落ちている。

しかし、ただの巣にしては……

「なんだ……この緊張感…?」

僕は普通の砂漠にしては重たすぎるその雰囲気に違和感を覚えた。

確かに、砂漠にたった一人きりであるということもあるとは思う。

だが……それにしては、異常すぎる気がする。この緊迫感は。

(そういえば、父さんがなぜか殺気立っているって言ってたな……)

それに何かから逃げているようだ、とも。

何が起こっているのかはわからない。

しかし、それは確かに、僕の目の前で異常として顕現している。

「アプケロスが………いない?」

そう、すでにアプケロスはいなくなっていたのだ。

凶暴なあのアプケロスが、モンスターが近くにいるわけでもないのに逃げ出しているなんて、もはやありえないと言える。

この緊張感、というか空気の重さに関係あるのではないだろうか?

「……むぅ」

少し、気になる。

……ザッザッザッザ……

「……!?」

しかしその思考は、遠くから聞こえてきた足音によってかき消された。……ドスゲネポスだ!

「やばっ…」

僕は急いで思考をブチ切り、転進。体を奥へつながる道に向けて、急いで駆け出した。

途中に、少しの段差がある。

「……くそっ、さっさと動け僕の体!」

僕はそれを這い蹲るように登る。なかなか動いてくれない体、かかる時間がとてももどかしく感じた。

「……うわっ!?」

段差に乗っていた砂によって、僕は腕を滑らせてずり落ちそうになるが、なんとか耐える。

「い、よっと!」

僕はなんとかよじ登り、奥へとつながる道を走り出した。

この道の先にあるのは、僕の通るルートの中で最も危険なエリア7。そう、最もドスガレオスのいる可能性が高いエリアなのだ。なぜかどうかは知らないが、二匹のモンスターは本気で、協力して(・・・・)僕達を殺しに来ていた。なら、挟み撃ちにしようと考えている事も考えられない話ではない。

僕はいるかどうかも分からぬ神に向かって祈りを捧げながら、狭い道を駆け抜けた。

 

 

エリア7にはエリア真ん中に岩が、端には湖がある。そして気温にあまり差がないので、オアシスのようなエリアである。

(ど、どうだ……)

僕は危惧する事態が起こっているかどうか確認したが……

(っ!?)

……いた。

見つけてしまった。目の前で砂を巻き上げながら泳ぐ竜が数匹。

その中に色の濃いヒレを持つ、一際大きな竜が。

(ドスガレオスだ………っ!)

真ん中にある大きな岩を横切りながら、悠々と泳ぐドスガレオス。

ま、まずい。これは、まずい。バレたら死ぬかもしれない。

僕はゆっくり、ゆっくりと足音を殺し歩いていく。

サク、サク、サク……………

………………………

……………

……

ガッ

(しまっ…)

「痛っ!?」

足元にある石に気付けず、思わずつまづいてしまう。そのままその石が脚に突き刺さった、僕の口から悲鳴が漏れる。

「……グオゥ?」

それに反応したドスガレオスが砂から飛び出し、僕に振り向く。

そして、視線が合った。

「や、やばっ」

「グ、グギャアォオアアアアアッ!!!」

「ッ、うわああああ!?!?」

僕を、異常な程大きい咆哮が捉える。

思わず、というか本能的に耳を塞いでしまい、動けなくなってしまった。。

「……う、うぐぐ…」

「グルルルル……」

僕はその敵意のこもった視線によって萎縮し、地面に縫い付けられたように動けなくなる。

(ち、畜生!動け、僕の脚!動いてくれよ……!!)

涙を浮かべながら、僕は自分の脚を殴った。

しかし、思ったようには行かないものだ、僕の脚は意思に反して動いてくれない。

さらに僕の不幸は続く。後ろから砂を踏む音がかすかに聞こえてきたのだ。

「ど、ドスゲネポスまで来てるの!?」

少しずつ、でも確かに近づいてくるそれは僕を恐怖に震え上がらせるのに十分なものだった。

どうすればいいんだ。

僕はここで死ぬのか。

いや何か手は打てるはずだ。

こんな状況どんな手を打てって言うんだ。

思考がどんどんと混乱していく。

冷や汗が流れて、それによってどんどんと体が冷やされていく。そして、

「ギャォワッ!グルルルル……」

いつの間にか跳躍一回で僕を捉えられる位置まで、ドスゲネポスは近づいてきていた。それがさらに僕の思考を錯綜させる。

「グルルルル……」

「グウゥウゥウウウウ……」

「「グギャオワアァアアアァアア!!」」

「ッ!?」

その思考を戻したのは、皮肉にもというべきだろうか?思考を混乱させた根源であるドスゲネポスとドスガレオスの咆哮だった。

ドスガレオスが砂をかき分けながら、ドスゲネポスが大地を蹴り飛ばしながら僕に接近してきた。

ほんの一瞬の出来事だった。本当に瞬きする間に僕のすぐ近くに来ていたのだ。

これが、竜か。竜の身体能力なのか。

「……っつぁ!!」

とりあえず相手はまっすぐ近づいてくるのだ。僕は飛び込み前転の要領で横に飛んだ。

(か、かわした!)

自分の体に何一つ傷がないことを確認して飛ぶ前いた場所がどうなったか確認したが、しなければよかったと後悔した。

その一瞬、自分のいた場所はドスガレオスのヒレによって割かれ。その後ドスゲネポスの爪によって貫かれていたからだ。

「ひっ!?」

一瞬の判断ミスで僕の命は失われる。それが身をもって理解できて、流れる冷や汗の量がどっと増えた。

(こ、怖い……!)

「次、来る!」

命を失わずに済んだ事の安堵感によって涙が溢れてくるが、涙を拭うと同時にそれを急いで振り払って周りを見回す。

僕の視界には左奥で悠々と泳ぐドスガレオスと、非力な人間に攻撃を当てられなかったのが屈辱だったのか瞳を若干怒りに染めているドスゲネポスが右に見えた。

「グルルル……」

プレッシャーをかけているつもりなのか苛立ちなのか、カチ、カチと歯を打ち鳴らしているドスゲネポス。

(ダメだ、さっきのは一直線上に敵がいたからできた芸当だった。次は、ない……!)

再び同時に、または波状攻撃のように襲われることを恐れた俺は、

「なんとかして敵を減らすべきだ!」

この状況を、ドスゲネポスと戦うことを選んで、ドスガレオスから逃げることで袋叩きを回避することを選んだ。

このエリアに入った後、僕が移動した距離はあの横に飛んだ回避行動だけ。エリア10につながる道はまだかなり近い。それでも、逃げきれるか微妙だが……走るしかない!

ジリ、ジリ……

僕とドスゲネポスが砂を踏みにじる音が風の音、ドスガレオスが砂を裂く音に混じって、飽和していく。

その中先に動いたのは、ドスゲネポスだった。

「ギャォワッ!!」

側面からの一撃を、後ろにダッシュすることでかわす。

そして、そのままエリア10へと続く道に向かって駆け出した。今、ドスガレオスと僕の間には、ドスゲネポスが壁になるような位置で存在している。だから今あいつは、ドスゲネポスごと切り裂くしか僕を殺すことはできない!

「うおぉおおおおぉおおお!!!」

僕は今まで走ってきた疲労で止まろうとする脚に鞭をいれ、無理やり加速した。

後ろから何かが動く気配がする。それは、ドスガレオスだ。

何かが発射され地面を穿ったのはわかったが、それが砂によるブレスであることに気付いたころには僕はエリア10の境界線を踏み越えていた。

 



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4話 月光の下、煌く剣閃

さて、あの『恋狩』のキャラがついに登場します!
一旦ここで立ち止まって、予想してから見てみてください!



「はぁ、はぁ……」

再び、世界から音が消え、僕の息遣いだけが聞こえるようになる。

さっきまで僕がいた空間と対局にあるような静寂、それはすぐに破られた。

「グゥゥウウ……」

「きたね……」

エリア7から追いかけてきたドスゲネポスと向き合う。

これからはタイマンだ、逃げることは許されない……。

(やるしか……ない)

口に溜まっている唾を嚥下し、唇を舐める。

「来いっ」

「グゥワオァッ!」

最初に動いたのは、ドスゲネポス。その攻撃は、鍛えられた強靭な筋肉から生み出される、とても速い飛びかかりである。

凄まじいスピードだ。

しかし、僕はその攻撃が来ることが完全に読めていた。

基本的に、ランポス系統のモンスターは攻撃方法が少ない。飛びかかり、爪の振り下ろし、噛み付き、体当たり、尻尾をぶつける。たったこれだけだ、しかも、さっき僕とドスゲネポスは結構な距離があった。もう、攻撃方法は飛びかかりのみに限定されていたようなものなのである。

「ッ!!」

僕はそれを再び飛び込みで躱す。勢いそのまま駆け出して、僕は近くに転がっていた少し大きめの石を拾った。メリケンサックもついていない拳では、鱗に覆われた敵にダメージなど期待をすることすらできない。

再び視線をドスゲネポスに視線を向ける。そこには、

「グルル……グギャオァアアアアアアアアアア!!」

ただの人間を二度も捉えられず、完全に怒ったドスゲネポスがそこにいた。

(よっしゃ!)

僕は、予定通りに進んでいく状況に思わず歓喜した。これを待っていたんだ!

モンスターは怒れば攻撃力が増すらしい。しかしそれを僕は代償として隙を大きくする、ようするにおお振りの攻撃にすることによる物だと考えている。

爪だと近すぎる距離、僕は相手が大きく噛み付いてくると予想した!

「グァォ!」

そして、それはまさに的中、僕は最低限の動きでそれを躱し相手の側面に立った。

「はりゃあっ!!」

閉じきられた顎に向かって、僕はサマーソルトキックをぶちかましてやる。僕はある程度格闘術を習っていたんだ、このくらいはできる!

そして閉じきられた、噛み締められた口に強烈な蹴りが入るとすごい痛い。これ体験談。

「ギャッ!?」

まさか反撃を受けると思っていなかったのか、思わずといった風にドスゲネポスはふらつき、顎を地につけた。

ここだ、と言わんばかりに僕は強気に突撃。ここでさっき拾った石が武器と化す。

「せいっ!おらっ!せいやぁ!!」

僕はひたすら石を振るった。狙うは顔、できれば目を損傷させたいところ……!

ガッ!ゴッ!ガスッ!

僕はちょっとグロいかな、なんて考えながらひたすら殴り続ける。しかし、

「グルル……グギャアアアアアッ!」

「うわ!?」

しかし、それはかするだけで致命傷になりうる僕にとってそれは驚異である。僕は急いで距離をとることになった。

「グゥウオオオッ……!」

起き上がったドスゲネポスの怒りに染まったその瞳。

しかしどちらも異常はないようで、僕の目論見は外れてしまった。

ドスゲネポスもバックステップで距離をとり、再び位置関係は振り出しに戻る形になった。

なら、次くるのは当然……

「飛びかかりッ!」

「グギャアァアアオッ!!」

予想的中。再びドスゲネポスは大きく飛びかかってきた。

「よっと!馬鹿の一つ覚えか――――」

無防備にさらけ出された側面。それに向かって思いっきり蹴りを繰り出そうとする……が。

「――――しまっ!?」

僕はよくわからないものによって、態勢を崩してしまった。

(何が、起こって―――)

下に流れていく視界、見えたそれは。

(糞かっ!?しまった、忘れてた!)

そう、それはエリアに入った時に見つけたアプケロスの物と思われる糞だった。僕はそれを踏んで、足を滑らせてしまったのだ。

今度は僕が無抵抗になってしまったこの体勢。

「やばっ……っぐあ!?」

その生まれてしまった決定的な隙を、砂漠の狩人は見落とさなかった。

一瞬の間もなく、鞭のようにしなる尻尾が僕に近づき、捉える。

「うわあああああああああああ!?!?!?」

痛みを感じた瞬間、簡単に吹き飛んだ僕の体。ぐるぐると回る僕の視界。

「がふっ!!」

その果て、岩に叩きつけられることで僕は停止した。

「う、うぐぐっ……」

肺から強制的に空気が排出され、意識が明滅して立ち上がることができない。

「ち、畜生……目が、回る…」

首を振ってみる、しかしそんなことが通じる訳もなく視界は揺れ動き続ける。

気持ち悪い。

明滅し、遠のいていく意識。その先でドスゲネポスの声が聞こえてきた。喜色、いや安堵か?自分の障害が消えたことによる安堵に聞こえなくもない。

「ギャオワッ!ギャオワッ!!」

「……うっ…ぐううう…」

太ももをつねってみる、頬を叩いてみるがまったく意味なし。近寄ってきたドスゲネポスが再び声を上げる。そして、その開いた口がそのまま僕に近づいてきた。

「う、うわあああああああああああああああああああああああぁああぁああっっ!!?!?」

(噛まれる!?)

ドスゲネポスの鋭い牙が唾液でてらてらと輝いているのが分かるほど、それはもうすぐそばまで来ていた。目指しているその先にあるのは―――――首。

僕は反射的に口と自分の間に腕を、左腕(・・)を滑り込ませた。

そして、

「ぐ、があああああああああああああああああああああああぁ――――」

左腕に感じたこともない激痛が走り、悲鳴が勝手に口から漏れた。しかし、それも意味のわからないしびれによって空気が抜けるだけになっていた。

(そうだ、ゲネポスの……麻痺毒か…)

痛みも麻酔を打たれたように消え、神経を直接触られているような、思わず鳥肌が立つような嫌な感覚。

血が流れているはずなのに何も感じず、また体に全く力が入らない。

視界が回り、少しの浮遊感の後どさっ、という音が聞こえた。

視界がいつの間にか地面と平行になっていて、それは僕の体勢によるものだと理解できた。そしてさっきのあの音も自分による物であることも、ドスゲネポスに投げ捨てられたことも。

砂煙が少し起こるなか、僕は絶望した。

(だ、ダメだ……)

指の一本、筋繊維の一本すら動かせず、僕は目を開いたまま地面に横たわる。

(生き残る、術がない……)

僕にはもう、切れるカードが残っていない。父さんが、母さんが命を代償に得た命であるというのに、無駄になってしまうのか。

(ここで、死ぬのか……?)

死に直面したその時、僕の体を冷たいものが満たした。これは寒さじゃない。確かに自分の中に存在している何か…そう、恐怖だ。

(嫌だ……怖い…)

目の前に横たわるそれ(・・)。

それをしっかりと知覚した僕の前にそれは、形をもって顕現した。

ドスゲネポスという名を、肉体をもって。

(『死』―――)

たった一文字。それだけが、僕の脳を完全に支配する。

(僕は、どれだけ無力なんだ)

何が格闘術を習っていた、だ。

何が勉強した、知識を得た、だ。

今この時、それらは全く無意味じゃないか。何一つ役立たないじゃないか。

汗が、鼻を伝って流れていく。しかし、それを拭う手も、動かすことができない。

恐怖と諦めに打ちひしがれていた僕に飛び込んできたのは、近づいてくるドスゲネポスの足音

……僕に、ついに死の瞬間が訪れたようだ。

(………?)

死を覚悟した僕。そして最後に、感じたことは―――違和感。

(な……んだ………?)

そう、視界に一瞬だけ映ったのだ。ドスゲネポスではない、かといってドスガレオスでもない、それはまさに人のような――――

「グルルルルル……」

ドスゲネポスの声色が安堵から一転、警戒をにじませ始める。

さらに異変は続く。僕と、ドスゲネポスの他に、もう一つ足音が混ざっているのだ。

そして、僕は気付いた。聞こえてきたそのドスゲネポスの足音は、遠ざかっていくもの(・・・・・・・・・)だったということを。

(訳がわからない。一体何が……?)

僕が疑問符を頭に浮かべていた、その時。

「グギャアオワッ!!」

ドスゲネポスがその違和感に飛びかかっていった。

「………セイッ!」

そして、その瞬間。

その違和感は、完全に異変へと変貌した。ドスゲネポスが、弾かれるように吹き飛んだのだ。

ドスゲネポスが視界から消えたことで、その異変が僕の視界に入る。

その正体は、

(綺麗だ……)

月光を背負って立つ、蒼銀の戦士。

影になっていてよく見えないが、身の丈とほぼ同じ、もしかしたらそれより大きいくらいの剣を振り切っているのが月光を反射する光で分かる。そして体に纏っているのは明らかに普段着ではない。防具だ。背は、僕より高いか、同じくらいか。

ハンターだ。そしてそれは多分、救援の人だ。

「………」

チャキッ、という金属音が無音の空間に響く。そして、ハンターが動いた。

(速い!?)

僕は驚いた、だって何十キロにもなりそうな防具を着込んでなお、僕より速く動いたのだから。

無言のまま振り下ろされる剣は、未だにふらつくドスゲネポスへ一直線に向かう!

肉が裂ける音、そして振り下ろされた剣が地面に刺さる音がここまで聞こえてきていた。

「ギャァッ!?」

飛び散る鮮血、響く悲鳴。

しかしハンターは容赦をせず、追撃を加え続ける。

次々と増えていく傷、ドスゲネポスは自分の血液で真っ赤に染まっていた。

「……グ、グギャアオアァッ!!」

だが、ただただやられ続ける訳ではなく、無理やり起き上がってバックステップで距離をとるドスゲネポス。しかしそれも、ハンターが一瞬で間を詰めることで無意味となった。

「ハァッ!」

勢いそのまま、裂帛の気合とともに放たれる横薙ぎの一撃!それは確かにドスゲネポスの足を切り裂いて、吹き出した血がさらにドスゲネポスを赤く染める。

(す、すごい……)

僕はこんな、腕から血がどんどんと流れている状況なのにも関わらず感動していた。

剣が閃く度に血が舞い散り、反撃する敵の攻撃をするりと躱し、剣の腹で受け止め、受け流し、全く寄せ付けない。その完璧な、完全な動きに僕は心動かされていた。

場を支配しているのは確実に、あのハンターだろう。

「グ……グゥウ………」

気づけば、ドスゲネポスの発する声は最初とは比べ物にならないほど弱々しいものになっていた。

「グォオワアァァッ!!!」

そして、ドスゲネポスが最後の力を振り絞るように飛びかかっていく。

まさに死力の一撃。それは今まで見た中で一番スピードが出ており、まともに受ければ人など簡単に、紙のように軽く吹き飛ばされるだろう。

しかしそれもハンターは読んでいたようで、ほんの少しの動きだけで回避。

「フッ!」

刃一閃!

ほんの一瞬。瞬きする間に、ドスゲネポスの首が宙を舞っていた。

少し遅れて噴水のように飛び散る鮮血。

(お、わったのか―――)

あのハンターが剣を収めた瞬間に、僕は生き残ったと理解した、そして、僕の意識はどこかへ落下するようにブラックアウトしていく。

最後に見えたのは、地面に刺さった月の光を受けて輝く剣。そしてどこか神々しささえ持つ血に濡れた戦士が近づいてくる姿だった。

 




さて、もうお分かりでしょう!

今回登場していただいたのはクールな大剣使い!『蒼銀の烈風』!知性派ハンターシルフィード・エアさんです!
いやー、やっと書くことができて、感無量って感じですよ!

……このキャラクター、僕の好みにかなりストライクでして。ええ。メガネが似合うんじゃないかなーって妄想しています。あ、言ってなかったと思いますが、僕は眼鏡属性持ちです(爆)
話がそれました。そんで、ルフィールさんと同じくらい好きなんですよ。でも最近ルフィールさん、ヤンデレ化してきて怖いんですよね……だから今は大分シルフィードさんに流されてます。

次話も投稿できるはず……。
では~


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5話 失ったもの、見えた未来

シルフィードさん、かなり重要キャラの位置に置くつもりでいます。


どこかから差し込む眩しい日光が、僕のまぶたを焼いている。そりゃあ暖かさもあるけど、ちょっと眩しすぎるな。

それから目を逸らすように体を動かすと、耳元で衣擦れの音が大きく聞こえる。まぁ、まずこの空間に聞こえる音は小鳥のさえずり、人の声しか聞こえないから、近くに聞こえる音がこれしかないからかもしれないが。

「……うーん…」

よく分からないが……僕は今、よく分からない空間に寝っ転がっているようだ。ほんとによくわかんないな。

平和で、暖かくて、心地よくて。いつまでもこの空間に浸っていたい、そう思える。しかし、その中で僅かに匂ってくる消毒液がすごく異彩を放っている。

(なんだ?ここは病院なのか?)

なんとなく、それを理解したとき、僕の意識が急浮上した。

「っ……んぅ…」

これは経験談だ。こういうまどろみの中にいるときは、まぶたを思いっきりカッ!と開くとよい。その後、ベッドから転がり落ちるとなおよいが、今僕のいる空間が分からないのでさすがにできない。

(知らない天井だ……)

眼球のみで周りを見ると、真っ白。カーテンも、壁紙も、僕の転がっていたベッドも。これは僕のいる空間が病院であると判断できる材料になるだろう。

体を起こし、大きく伸び。あくびを一発かまし、瞬き一回。

「ここは……?」

「む?目が覚めたか」

一人でつぶやいたつもりだったが、どこからか声が返ってきた。断じてやまびこなんかじゃない。まず、言葉か違うから。あと声が綺麗な女の人のものだったから。こんな声、男がどう足掻こうと出るわけないから。

周りを見回し、相手の姿(おそらく女。違ったらトラウマ確定)を探す。しかし、その姿は結構早くに捉えることができた。

「………あなたは?」

なぜなら、その姿は病院……と思われる場所では明らかに異質なものだったからだ。その人が纏うものは白衣でも、かといってナース服でもなく、輝きを放つ金属製の鎧である。。

それを一目見て、ハンターであると理解した。その鎧、そして近くに立てかけられている凄まじく大きな剣はそれを確信させる証拠となる。その近くには外された兜が置いてあった。

ハンターなど見たことが無かった。

それすらもう非日常だというのに、それらもかすむほど、僕は彼女自体に目を持って行かれた。

ありえない。

人間離れしている。思わずそう思ってしまうほど、彼女の持つ美貌に僕は心を奪われた。

最早白といってもおかしくない程綺麗な銀髪は、ゴムによって束ねられ、ポニーテールにまとめられている。

そして、人の手によって作られたようにパーツが整った顔。さらにその真っ白な肌がさらに人形のような雰囲気を出していて、その中には思わず見入ってしまいそうになる碧眼が、光によって透き通り、輝きを放っていた。

(綺麗な人だな……モデルさんってこんな感じなのかな…)

僕はポカーンと大口を開けて彼女を見ながら、世界って広いんだなーとか思ったり。遠い、ドンドルマのような都会にはこんな美人さんがたくさんいるのかなー、とかと思いを馳せてみ

「あぁ、もしかして憶えていないか?私はシルフィード・エア。ただのハンターだ」

(てたら話聞いてなかったあああああ!?)

ぼーっと見つめながら広い世界を想像している内に、いつの間にか自己紹介が終わっていて僕は慌てふためく。なんとかあの人の名前がシルフィード、という事だけは覚えていた。

「あ、えと、その、僕は…」

僕が混乱した思考回路そのまま、あうあう言いながら話そうとすると、シルフィードさんは苦笑を浮かべてしまった。おぅ、そんな表情も様になるな。

「ああ、初対面の人と話すのは苦手かい?無理しないでいいぞ」

「そ、そうじゃないんです!お姉さんが、その、美人なので、思わず見とれちゃってて、言葉が出なかったっていうか」

「ははっ、君は若いのに世辞がうまいな。嬉しいぞ」

「世辞じゃないですよ!僕の住んでいた所は田舎ですけど、それでもお姉さんが一番綺麗です!」

「そこまで言ってくれるとは……少し照れるな」

そう言って、シルフィードさんはほん少しだけ赤面した。シルフィードさんの肌は真っ白だから、ちょっと赤くなってもよく分かって面白い。

しかし、これ以上言うのも迷惑だろう。僕は無理やり話を切り替えた。

「じゃあシルフィードさん、ですよね?シルフィードさんが僕を助けてくれたハンターさんですか?」

「……あぁ、君だけ、だがな」

その瞬間、シルフィードさんの表情が陰りに支配された。

そこで、僕はようやくその言葉の意味を理解した。意識を失うその前の景色はやっぱり、現実のものだったのだ。

「あぁ、じゃあやっぱり、父さんも母さんも……」

「……私は商隊の救援を目的とするクエストを街で受けたんだ。私は、あの砂漠に着いてから、私のできる全力で人の姿を捜索したつもりだった……。でもそこにいたのは、君だけだった」

「…………」

「……エリア5にバラバラになった荷車と、ハンターの物と思われる装備があった。そこから唯一伸びていた足跡を頼りに歩いたその先にいたのが、君だったんだ……他のエリアもとは思ったが、君の受けた怪我の事を考えると、見捨てる事しか、できなかった」

「…そう、ですか………」

なんだか、まだ、あの夢の空間にいる感じがするけど、認めるしかないんだろうな……。

僕は顔を上げていようとするが、僕の意思とは別に、勝手に視線が落ちてしまう。

「………」

「すまなかった」

そういって頭を下げるシルフィードさん。

「え、あ、いいですよ!シルフィードさんの戦ってるところは見た記憶はあります。すごい強かったですね、そんなハンターさんが本気で走って間に合わなかったんだったら、きっと誰でも間に合いませんよ」

「……しかし、確かに君のご両親は亡くなったんだ。何を言おうと、ご両親は戻ってこない…」

「………」

場に気まずい沈黙が下りるが、それもすぐに破られた。ドアをノックする音が聞こえたからだ。

「ど、どうぞ……?」

「失礼するよ」

そういって入ってきたのは白衣の男。

背は低く、ひげはボサボサ。歳は見た目からして4,50歳ってところかな?メガネをかけていて、その目は既に閉じられているかのような糸目だった。

ほんとに、医者なのか……?

少し不安を覚えるが、その糸目の奥に見えた鋭い眼光によってその考えは間違いだと理解する。

「調子はどうだい?特に、それだが……」

「それ?」

少し顔をしかめながら指差す医者のその態度に疑問を覚え、その指の先を見る。それは……

(……左腕?……って、あ)

そして、言葉を失った。

「……あ、え」

ない。

そこにあるはずのものが、なかった。

そこにあるはずだった腕を動かすが、動くのは肩だけ。あったものがないって変な感覚だな――。

「え……あれ…どういうこと?」

僕の言葉が、勝手に沈痛な色を帯びる。

それを聞いてから、さらに医者の眉間の皺が深くなった気がした。

「………説明だけ、させてくれないか?」

「……」

茫然自失。何も思考が働いてくれない。

右手を伸ばす、空振る。触れる。根元の方で皮膚の感触がした。確かに存在しない。

沈黙し続ける僕を見てさらに痛々しそうな目をした医者。そして、重たそうに、口を開いた。

「君の腕がドスゲネポスに噛まれたのは、覚えているかな?」

「……はい」

「ゲネポスの牙には、強力な神経系の麻痺毒があるんだ。そして、ドスゲネポスはゲネポスよりさらに強い麻痺毒を持っているんだよ」

「……はい」

「君の体はその麻痺毒に侵されていた。そして、それは君の左腕から侵入していた」

「……はい」

「かなり長い間噛み付かれて、君の左腕は毒を直接受けていた。毒は神経系と言ったね?そう、左腕はその高濃度な毒を受けて、神経がボロボロになっていたんだ」

「……」

「そしてそこで助けられた君は、そこのハンターによってこの病院に運ばれた。僕が診たときにはもう、君の左腕には毒がかなり溜まりもはや他の部位にまで侵蝕しようとしていた。驚いたよ、僕もそこまで損傷を受けている患者は初めてだったんだ」

「……」

「もはや毒の巣のようだったよ、君の左腕は。そこで私は決意した」

「………だから、」

「ああ、君の左腕を切断することに踏み切ったんだ」

「そう……ですか…」

「……悪かった!私の力があれば、医学が進んでいれば!君にこんな重荷を背負わせてしまう事もなかっただろうに!!」

「いえいえ。……どうした所でどうせ戻ってきませんから」

「……ッ!」

「いや、責めてる訳じゃないんですよ!?運が悪かったってだけで!実際、他の所は何も違和感もありませんし、先生も全力だったんですよね?それだけで充分ですよ」

「……君は、強いな。罵倒の一つ、暴力の一つくらい覚悟していたというのに」

「め、滅相もない!父さんに言われた事は果たせたんです!それは確実に僕だけではできなかったことですから、皆さんにむしろ僕がお礼を言って回らなきゃいけないなってと思ってましたし!あと、な……」

「……?あと、なんだい?」

「……いえ、なんでもないです」

「?」

医者は困った顔で首をかしげたが、すぐに顔は柔和なそれに戻った。

「幸い、他の後遺症はほとんど残らなかったから今日一日、検査入院ってところかな。退屈だとは思うが、我慢してくれ」

「はい、本当にありがとうございました!」

そう言うと、医者はとても苦しそうな顔をした。

「……ありがとう、か。腕を取り戻せなかったのに、笑顔で言われると重いな…」

「?今、なんと……」

「いや、くだらない独り言さ。じゃあ、また」

そして、医者は部屋を出て行った。必然的に、シルフィードさんと僕が残る。

どちらも口を動かせず無言のままいると、シルフィードさんが口を開いた。

「……私も、もう行くよ」

「そ、そうですか」

「……これを」

と言って差し出したのは、一枚の紙。

「これは?」

「……私達ハンターは、基本的にギルドハウスという所に寝泊りしている。私もそこで泊まっていて、それに私の部屋の番号を書いた……だから明日の昼までに、出来ればでいい。来てくれないだろうか?」

「べ、別にいいですけど……」

何をするんですか。そう言おうとしたが、

「……ありがとう。では、また明日に」

シルフィードさんのその言葉によってかき消された。

バタン、という音がひとりの空間に虚しく響き、これで僕はひとりきりになった。

耳に届く木のざわめき、鳥の鳴き声、人々の喧騒。

「………」

僕は、何も言えなかった。

 

 

茫然と窓の外を眺めている内に時は流れ、顔に当たる太陽光線が朱に染まりはじめてようやく、僕は我を取り戻すことができた。

「……」

とりあえず、今の状況を整理する必要がありそうだ。そう思った僕は思考を開始する。

(思考しろ……僕の位置は、分からない。しかし砂漠からある程度近い街かな?次、これからの事。今、僕には何もない。金も、生きていく手段も、腕も、両親も……ダメだ!ネガティブな思考に走るな……)

首を猛スピードで振り、ネガティブな思考を吹き飛ばしてやった。

そして、ふと思う。

(あれ?さっきなんか変なことを思ってたような……そうだ!)

さっき、医者に言いそうになった言葉。そう、確か―――

(「慣れてますから」―――だっけ)

「おかしい、よね……」

腕がなくなることに慣れているなんて、普通じゃおかしい。だから、僕は言おうとしていたこと

をなんとか止めたんだけど―――――

 

――――いき………し……れ―――――

 

「ッ!?!?」

僕の思考にジャミングが入った。なんだ、何が起こってるんだ僕の頭に!?

 

――――再び……は………にし……――――

 

なんだなんだなんだってんだ!?僕にはもう何も思考することができない。僕の中で単語が、文章が渦巻いて、飽和して、何もわからなくなって。

 

――――――世界のふ……悔しい……――――

 

だんだんとそれはクリアになっていく。

 

―――お………全てをうしな…手に入れ………―――

 

最後にこう聞こえた気がした。それは、とてもクリアなものだった。

 

―――――そこは辛く、厳しい自然の世界。

――――でも、そこで得られるものがあるはずだ。やり直してこい、そこで、幸せになるんだ。お前のここで見つけられなかったものを、見つけてくるんだ――――

 

そして、一瞬だけ何かが見えて、それは僕の中から消えた。

あまりに一瞬すぎる出来事。

「な、なんだったんだ……?」

僕は首をコテン、と倒して疑問符を浮かべた。しかし、そんな摩訶不思議な現象に心当たりなどあるはずもなく、思考を途中で止めることとなった。

「ま、いいか……なんか、やる気でたし」

しかしなぜか、どこか充足感のある気持ちになった。

それがどうしてかは分からない。

でも、確かに感じた、胸に訪れた暖かな気配。

それはどこか懐かしくて、遠い、遠いどこかの―――

(――――いや、これ以上考えなくていいだろう。もう、僕のやるべきことは見えたんだ。いや、見せてくれたんだ)

僕の中から、言葉は消えた。

でもその代わり、元気と、暖かさと残して、これからのビジョンも見せてくれた。

(ありがとう―――)

 

 

希望をくれた言葉達に、僕は心の中で感謝した。

僕はまだ、絶望してなんかいない。

 




今週はここまで。
では~^^/


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6話 緊張の連続

次の日の朝。

僕は清々しい気持ちでベッドから跳ね起きた。

鳥たちの羽ばたく声、澄んだ朝の空気。それら全部が僕の感情を高ぶらせる。

(検査は全部クリア。特に目につく後遺症もなし。僕の体、丈夫だな)

昨日、僕はこれからの事で決意したことがあった。そして、それを阻む事は何もない。そして、頭上で煌々と輝く太陽と青空。絶好の門出日和と言えるだろう。

「うっ……んううう~っ……」

体を起こし、腕を上に振り上げ、ぐぐっと伸びをする。

右手にある指の節を伸ばす感覚が左にない事には、なんだかもう慣れた。まぁ、変な感覚を考えないようにすることに、だが。

「……確か、もう朝には退院していいんだっけ」

昨日、検査をしてくれたあの医者さんが糸目をさらに細め、笑みを浮かべながらそう言っていた事を思い出した。

「荷物もないし、さっさと行こう。明日の昼までって言ってたし、多分それは待てる限界の時間ってことだとだろうし」

そう一人で呟きながら、ベッドから下りる。

左手はなくなったけど、こうやって普通に立てるんだ。

これからの事なんて、どうとでもなるはず。そう考えよう。

僕の今の格好は、あの砂漠の時から変わっていない。すぐに退院する事を考えていたのだろうか?僕は本当にすぐに準備を終わらせる事ができた。

ガウシカのコートだけ持って、僕は病室の扉を開けた。

 

 

「親を亡くした子供にお金を取るなんて、非人道的な事はしないし、意味もないよ」

医者はそう言って、代金を取らなかった。その優しさに、ちょっと泣きそうになった。

そうして病院を出て、街に出る。ギルドハウスとやらに行かなければならないんだが……

「道、わかんない」

問題に思いっきりぶつかってしまった。

「てかこの街自体、どこかがわかんないし…」

そしてこれが致命傷。

「……ここは、一体どこなんだ………?」

今最優先すべきなのは情報の取得であると判断、とりあえず周りを見てみる。

「……ふむ」

砂漠の近くであるというシルフィードさんの言う通り、景色の奥の方には砂漠がある。かと言って、反対側には緑がある。ちょうど気候の境目にある街っぽいな。

周りに立っている建築物に大きいものはあまり無く、どこかまだ発展途上であると思わせられる風景であった。

(砂漠の……近く…?)

なんだっけなー、と首を傾げて頭を回す。

「……うーん…………」

むむむ、思い出せないなー……

「ま、人に聞くけばいっかな。どっかにインフォメーションセンターとかあるんだろうし」

そう考えて、僕は人影がまばらな道を歩き出した。

 

 

「助かりました、ありがとうございました」

「いえいえ。坊や、一人だけで大変だね。怪我しないように気をつけるのよー」

「あ、ありがとうございます」

それっぽい場所を探し出し、そこにいたおばさんに話を聞いた所、得た情報がいくつかある。

一つ、ここはラージ村と言うところだということ。どこかに大きいという意味の名前をつけた村が発展してきているらしい。それをあやかって名前を付けた、とのこと。しかし砂漠の近く、反対側は整備されているものの、次の街に行くには大分距離がある。そして、さらにその間には規模の大きい密林まであるらしく、商人はあまり集まりにくい場所と言える。大きくなるのは、ちょっとキツい気がするなあ……。

二つ、ギルドハウスはここから西にいるらしいこと。見れば分かるらしいが……

そう思いながら、町並みを見学しつつ歩を進めていくと、

「こりゃあ……確かに分かるね」

そうするにつれて、いつの間にか大きな建物が見え始めてきていた。その大きさは、今まで見てきたこの街の建物の中で最も大きいと言えるレベルのものだ。

「まあ多分、ハンターを呼び込む為にギルドハウスを快適なものにしようと思ってたんだろうな」

有事の際、頼りになるのはやはりハンターだ。モンスターはただでさえ多い、ハンターが多くて困ることはない。少し、この街も苦労してるんだなあと思ってしまった。

「よっし、んじゃあ入ろうかな」

僕は、素人目にでも分かる程ハイレベルな彫刻が施されている木製のドアに手を掛けた。

(このドアの向こうには、ハンターさんが一杯いるのか……?)

ぽわんぽわんぽわん、と頭の中で思い描く風景は……

(こう、地味な石の壁に剣とかが掛かってて……入口の近くには全身鎧姿で槍を持っている騎士みたいな人がいて……受付さんが強面で……目と目があったら『あぁん!?』とか言われて…それに反応して周りの人も集まってきて……皆武装してて…)

「うっ、怖くて入れない……」

まさかのタイミングで怖気づく僕、でもこのまま立ち尽くしててもシルフィードさんを待たせることになってしまうし……

「行くしか、ないよなあ~……」

浮かび続けるイメージを振り払い、そのついでに迷いも振り払って、ゆっくりと扉を開けた。

「……失礼しま~す」

ギィィィィ、と蝶番が軋む音が耳元で響く。それと同時にカランカラン、と頭上からベルの音が聞こえた。

周りを見回すと意外な光景が。

「あれ?石じゃない?槍の人もいない?」

目の前に広がるのは、石の壁では無く木の壁で、窓から差し込む太陽光で温かみのある感じ。槍を持っている人などおらず、可愛く決めている給仕さんが忙しそうに歩き回っている。そんな中剣が壁にかかっている訳もない。

そして受付には…

「うわぁ……」

思わず声を上げてしまうほどのイケメンがいた。

髪の毛は深い緑に染まり、それがショートに切り揃えられている。瞳の色も同じ緑色。肌は女の人に見えるくらい綺麗で、静かに佇んでいる姿は名画のように様になっている。

ぼーっ、とその風貌に見入っていると、向こう側から声を掛けてきてくれた。

「……すみません、そこのお客様?」

「はっ、はい!」

声も澄んでいて、思わず聞き入りそうになるがなんとかこらえる。

「えっと、あの、その」

しかし、その視線に射抜かれた僕は思考能力を簡単に失ってしまい、出てくる言葉はしどろもどろになってしまう。

その様子を見て微笑ましく思ったのだろうか、イケメンさんはクスッと笑って、こちらに近づいてきた。

「お客様、ギルドハウスは初めてですか?」

「はっ、はい…」

「一度、深呼吸をしてください」

「は、はい」

言い聞かせるように放たれた言葉が、僕に体の芯に染み込むように伝わってくる。その言葉に突き動かされるように、僕は大きく息を吸って、吐いた。

「はぁ~……」

「……落ち着かれましたか?」

にこっ。

(ほんとかっこいいな畜生!)

「……はい。ありがとう、ございます」

「それは良かった」

にこにこ。

そこで一度会話は途切れた。しかし、すぐにそれはイケメンさんによってつながれる。

「では、改めましてお客様。ご用件をどうぞ」

「はい!えっと、人に呼ばれていまして……」

「そのお方がいらっしゃる部屋番号をお教え願えますか?」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ガウシカのコートを入れたバッグをカウンターの上に置き、一本だけの腕でガサガサ探す。ガウシカの毛皮はなかなかモジャモジャとしており、あの小さい紙を探すのは一苦労だ。

「あ、あった!えーっと、024番です」

「024……シルフィード・エア様がご滞在されておりますが……」

「そうですそこです!」

「分かりました。024番号室はこちらの通路をまっすぐ進んだ突き当たり、左側のお部屋です」

「あ、ありがとうございました!」

「いえいえ、どういたしまして」

「で、では!」

腰から直角に折って礼をして、僕は駆け出した。少しだけ見えたイケメンさんの苦笑も、またどこか様になっていて世の中不公平だなと思った僕は悪くないだろう。

「はっ、はっ、はっ……」

綺麗な手で示された道を小走りで駆ける。

(やっぱりそこそこ広いな)

木の板で床が軋みを上げるが、結構しっかりしていて安心して走る事ができた。

そして一つの扉が僕の目の前に。

そこには木の札がかけられていて『024』という文字が刻まれている。

(やばい、緊張してきた……)

この扉の向こう側に、あのシルフィードさんがいる。その瞬間、脳裏に閃くあの人の姿。

あの人形のような、綺麗に整った顔。キリッと釣り上げられた目に捉えられるかと思うと、顔面に勝手に血液が集まってくる。僕も一応思春期真っ只中。アイドルのような人には弱いんですよ、はい。その人の部屋(仮)に入るとなると、あーやばいやばいやばいって!

「お、落ち着け僕!」

頬を思いっきり叩き、喝を入れる僕。

「誰だ?」

そして目の前で勝手に開くドア。

「うひゃあ!?」

最後に、思いっきり驚く僕。

「あぁ、君か。突然大きな声が聞こえたのでな、誰かと思ったよ」

「こ、ここここんにちは!」

……僕は理解した。僕は、とんでもないあがり症だったんだな。

「あぁ、こんにちは。とりあえず中に入ってくれ」

「はははははっはは、はい!」

シルフィードさんがちょいちょいと手招きをする。

「お、お邪魔します……」

「どうぞ」

部屋は一時の借家という事、後はシルフィードさんの性格もあるのだろうか?ベッドと鞄に武具、必要最低限のものだけが部屋に置かれていた。

「ほ、ほへー……」

「つまらない部屋だろう?もてなす事もできないし……」

「い、いえ!大丈夫です!!」

「それならいいが……取り敢えず、くつろいでいってくれ」

「はい…」

お言葉に甘えて、床に座れせてもらう。当然、正座ですがなんですか?問題ありますか?

「どうかしたか?そんなに緊張しなくていいぞ?」

「お、お構いなくです!そっ、それでお話というのはなんですか!?」

(緊張しない訳ないですよっ……!)

と心の中だけで呟いておく。

「……ああ、その事なんだが。君をここに呼んだのは……そうだな。身勝手にも程があるとは思うが、罪滅ぼしをしたいからといったところ、だろうか」

「罪滅ぼ……し?」

意外な言葉だった。僕は思わず聞き返してしまう。シルフィードさんの表情を見ると、悲しみ、後悔からか、綺麗な顔が歪んでいた。

「ああ……。私は、君のご両親を守ることができなかった。依頼を受けたハンターとして、もう少し急ぐべきだったんだ」

「で、ですから……」

僕は再び病室で話したような内容を話そうとするが、シルフィードさんの辛そうな顔を見て、言葉を発せなくなる。

「……私も、両親を亡くしていてな」

「………」

「君の気持ちが、ある程度なら分かるつもりだ。さらに、それはモンスターによって突然喪われた…私達の違いは場所と、モンスターの種類だけだ」

「……」

言葉が、でてこない。口が開かない、でも開こうと思えない。

「私は、君にどうしても、昔の私を重ねてしまっているのだろうな。むしろ、どこか親近感を覚えてしまうよ……いけないとは、思っているが」

「え、えっと」

「……どうだ、今辛いか?」

シルフィードさんがそう問うてきて、僕は思わず驚いてしまった。

(そういえば、考えた覚えなかったなあ……)

父さんと、母さんとの死別。幸せな生活から転落、家にも帰れない状況。普通なら絶望に打ちひしがれてしまいそうだけど、なぜだかどうして、何も感じない。

「なんで、しょうね。そんなに、悲しみとか、感じないんですよ。どこか別世界にいるような感覚というか。まだしっかりと受け止めきれてないんでしょうか」

「……そうか。まあ、いつかきっと受け止めなければならない日が来る。しっかり身構えておけよ」

「はい」

少し無言のまま、歩を進める。今度はシルフィードさんから話かけてきた。

「すまない、妙な話を振ってしまったな。……えっと、それでだ。こんな事で君の両親は戻ってこないとはわかっているが、無視するのは耐えられないんだ。君の欲しいもの、やりたい事でもなんでもいい。私にできる範囲に限定されるが、言ってくれないだろうか?」

「え、うーん……」

『別にいいですよ!そんなこと気にしないで構いません!!』

(……なーんてな)

そんなこと、言えるはずがなかった。

それはシルフィードさんの悲しみに歪んだ表情をみたから。そして、その胸の中で渦巻いている思いを吐き出すような言葉を、簡単にあしらう訳にはいかないからだ。

きっと、ここで断るとシルフィードさんはずっと罪を背負い続けることになるのだろう。

願いを叶えてくれると言ってくれたのだ。叶えてもらって自分も、そして叶えたことによってシルフィードさんも得をする。何も損な事はない。

……まあ、ちょうど欲しいものもあったしね。

「……一つだけ、お願いがあります」

「あぁ、遠慮しなくていい」

「じゃあ、街に行きませんか?」

これは、あのビジョンが見せてくれた風景につながる第一歩だ。

 



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7話 ねんがんの アイスソードry

昼に近づきはじめ、少し人通りが多くなってきただろうか?

そんな事を考えながら、僕はシルフィードさんと共に、市場が多く集まっているエリアに歩いてきていた。人が多くて、凄まじい熱気が僕に直撃。うんざりとしてしまう。

太陽の位置が高くなり、当たる日差しがちょっと熱く感じる。

に、しても……

(シルフィードさん、人目を引いてるなあ……)

周りを行き交う人が、老若男女問わず必ず振り返りシルフィードさんに視線を向けてきていた。視線の主が男性ならどこか神聖視で、女性なら羨望と若干の嫉妬混じりと言ったところだろうか?

なんか、僕の場違い感半端ないな……。

「……む」

「どうかしましたか?シルフィードさん」

「いや、君を呼ぼうとしたら、君の名前を聞いてなかったと思ってな。呼べなかったんだ」

「あ、そうでしたっけ」

なんだかんだあったけど、僕の事なんも言ってないな。

「えーっと、僕はタクト・シノカワです。改めて、よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」

「……それで、どうして僕は呼ぼうとしたんですか?」

「おっと、本題を忘れていたな。すまない。……今君は、どこに向かっているんだ?」

そう問われた僕は、少し迷った後、謎の悪戯心を発揮する。

「うーん……後ちょっとで着きますんで、それまで内緒で」

「む、そうか。なら聞かずにいよう」

その後、歩きながら通りすぎる人の数を数えていて、それが25人を超えてそろそろめんどくさくなってきた頃、ようやく目的地が発見できた。

「あ、見えましたよ」

「そうか……ということは」

見えてきたのは、数人の武装した(・・・・)人が集まる場所。その人達は皆、己の武器を差し出したり、受け取ったりしている。

そう、この場所は……

「はい、ハンター用(・・・・・)の武器屋です!」

「……まさか、君も」

「………はい。僕は、ハンターになります」

「そうか……。どうしてか、だけは聞いていいか?」

「確かにこの職は安定はしていません……ですが、事業を起こすとしても元手はありませんし、かと言って何かの技術を持っているわけでもない」

「だからハンターになる、か」

「はい。僅かな資金で始めることができ、かつ訓練によっては護身術代わりともなります。命の危険はありますが。ですが、ハイリスクハイリターン。無茶な真似さえしなければ……」

そこまで言うと、シルフィードさんは嘆息した。そのシルフィードさんが浮かべる表情は、どこか憐れみのような、そして諦めのようなものでもある。

「同年代で、そこまで未来を見ながらハンターになる奴などいないだろうな。英雄気取りで始めて奴が大半だろう。まあ、そういう奴はすぐに諦めるが。とりあえず、否定はしない」

「ありがとうございます。そこでシルフィードさんには武器を買っていただきたいんです」

「なるほど、それでここに来たと。分かった……防具はいいのか?」

「さすがに、そこまでしていただく訳にはいきませんよ」

「………無謀は自分を殺すぞ?」

すっ、と細められた鋭い視線が僕を捉える。

確かに、そう見えるよね……。

「構いません。これ以上、人を頼ってしまったら、どこまでも甘えてしまいそうなので」

「……はぁ。君はある意味ハンターに向いているのかもな。リスク計算ができるという意味でな」

「それほどでも」

そう話している内に、武器屋はもう目の前のところまで来ていた。

「いらっしゃ~い!」

話しかけてきたのは、かなりテンション高めの女の人。

「どうかしたかな~!少年アーンド別嬪さん!?」

綺麗な蜜柑色をした髪をタオルで縛り、そこにドライバーやらカナヅチやらを挿している。服は煤でところどころ黒く染まり、まさに僕の『職人』イメージにぴったりだ。声がやたらでかい、女の人っていうこと以外だけど。

「あ、えーっと」

再び

「この子に合う武器を」

「りょーかい!とうっ!!」

大きく頷いたあの人は足に力を込め……と、跳んだ!?

「うわっ!?」

そして僕の目の前で着地。そのままぬっ、と手を伸ばしてきた。

「ふ~む、少年!結構筋肉あるのに腕細いね!私より細いとは何事だー!!」

さらに、僕の腕にあの人の指が這い回っていく!?

「うわ!?うわわわわ!?」

「ふむふむ!で、どうして片手だけなのかな!?もしかして、もう一本の腕はシャイなのかな!?」

(シャイな腕ってなんぞ!?)

「いや、その……」

なんと説明していいか分からず、さらに元からの上がり症も混じって言葉がでなくなる。

「少年にも、いろいろあってな。今片手しかないんだ」

そこにシルフィードさんのフォローが入った。さすがです、シルフィードさん!

その言葉を聞いた店員さんは、

「う、うぅ……うわあああああああああああああん」

号泣していた。

……って号泣!?

「ちょ、どうしたんですか!?」

「うううううう、少年も大変だねぇ~っ!お姉さん感動しちゃったよう!」

そう言うと店員さんは僕の手を握り、ブンブンと上下に振った。

「なにかあったらお姉さんのところに来て!いろいろサービスしちゃうから!!」

「あ、ありがとうございます」

手を離し、ずずっと鼻をすすって、涙をゴシゴシと腕で擦ってようやく、話が進み始める。

「……さて、何があったかは聞かないでおくけど、基本ここの武器は両手持ちだよ!どうするのかな!?」

「……え、そうなんですか!?」

まさかの新事実。軽いナイフとかないの!?

とも思ったが、

(あー、でもそうか。そんなので鱗を粉砕、切断することなんてできないよなあ……)

そう思い直した。そりゃそうだよな。

「そうだよー!で、どうするのかなー!?」

「うーん……一番軽い武器ってなんですか?」

取り敢えず両手で持つ得物は重量がありそうだ。この細腕一本で振れるかどうかは微妙だが、とりあえずはこう聞くべきだろう。

「片手剣だよ!」

「え、片手……?」

あるじゃん、片手で振れそうじゃん。

「じゃあ、それの一番安いのをお願いします」

「合点承知!少々お待ちを~!!」

言葉を残して、店員さんは店の中へ消えていっ

「はいよ~!!」

たと思ったらもう出てきていた。

「速っ!?」

「スピードが私の命だからね!はい、これが『ハンターナイフ』だよ!!」

そう言って店員が出した箱。

それを開けると、出てきたのは盾と小さな剣。特に目を引くその剣は、日の光を反射してギラギラと輝き、鋭利な事を自ら証明しているかのようだった。

剣は手一本で片手剣、でも盾があるから両手持ちってわけか。

「あ、盾があるから両手持ちって訳ですか」

「しょうゆうこと!」

しょ、しょうゆうことて……。

「ま、とりあえず剣だけ握ってみなよ!!」

「は、はい」

店員さんのセンスに戦慄しながら、ひとまず言われた通りに剣を握る。

(……重いな!?)

第一印象はそれ。

僕の腕の長さくらいしかないその剣は、自分の想像していたものより遥かに重量感があり、油断していた僕は思わず取り落としてしまいそうになった。

「どうだい?ちょっと重かったかな?」

「け、結構重くて、ビックリしました」

「でしょ?でしょでしょ?どうするの!?」

「うーん……もう一つ小さいサイズの物ってありますか?」

「待ってて……お待たせ!!」

「待ってませんよ!?」

一瞬店員さんの姿と同時に握っていた剣が消えたと思ったら箱に収まって小さいサイズに入れ替わっていた。

僕も、何を言っているのか、わからねえ……

もっと、恐ろしいものの、片鱗を、見たぜ……!

「だからいったじゃん。スピードが命って!」

「そういう問題……いや、まあ、いっか」

「そうだよそうだよ気にしない!んじゃ、早速握ってみなされぃ!!」

そう言ってさっきと同じように差し出される剣。

「は、はあ……」

もう突っ込まないでおこう。

諦めた僕は、店員さんに言われるがまま柄を握る。

「あ、これいい」

素直にそう思えた。

柄の細さ、刃の部分の長さ、重さ。さっきよりもずっと僕にあっている気がする。

「おお、そうかいそうかい!?じゃあこれにするかな!?」

「……本当にいいですか、シルフィードさん」

「ああ、君がいいなら構わない」

「……じゃあ、それでお願いします」

「わかったよ!ほかになにか注文はあるかなん?」

「何か?うーん……」

いきなり何か、と言われても困ってしまう。僕は少し思考を巡らせてみた。

……………

………

そうだ!

「あ、えっと。剣はどこに付けるんですか?」

「片手剣だと背中に、横向きで付けるよ!」

「それ、足に付けられますかね?左足に、縦向きで」

「それは別に大丈夫だよ!でも、普通ならお腹に巻く鞘を固定する紐をちょっと調整しなきゃいけないけどね!!」

「なるほど、ありがとうございます」

「ほかに何かあるかい!?」

「うーん……今は別にないです」

「りょーかい!んじゃ、お会計をば~」

「あ、それは私が出す」

そう言ってシルフィードさんが僕の前に出た。すいません、ご迷惑をお掛けして……。

「あいよ!今回は購入からでいいかな!?」

「ああ、それで頼む」

「んじゃあ、お会計500zでござーい!!」

店員さんから放たれた言葉。僕にはあまり意味がわからなかったが、シルフィードさんは面食らった顔をした。

な、なにかすごいことがあったんだろうか?

「ちょ、ちょっと待て。500って安すぎじゃないか?ほぼ半額だぞ?」

「え、半額!?」

僕も、回らない頭でやっと理解できた。は、半額!?

「いいのさいいのさ!聞くに少年、片手だけでハンターやろうって言ってるんでしょ!?感動したよ!!あとそんな子に協力してるお姉さんも最高!!」

「……私も?」

「当然!!」

そこまでまくし立てるように叫んでいた店員さんだが、ここで少しトーンダウン。

「後、結構打算的なところもあったりしてですねえ。こういう子、基本的にやめないんと思うんですよ。逃げ道が既にないからね。だから、のちのち強くなりそうな有望株を確保しておきたいという考えなのさっ」

そこまで期待されてるの僕!?

僕は緊張で思わず体を強ばらせる。

「そ、そんな事言われたら緊張しますよ」

「頑張れ頑張れ!ビッグになるんだよ、少年!!そしたら君も嬉しい、私も宣伝効果で売上アップで超ホクホク。お姉さんもいい目があるって話題になるから!!」

「私はそんなつもりで助けたつもりは……」

シルフィードさんはちょっと困った表情をしているが、僕としてはそれもいいなと思った。僕を助けてくれたお二人の宣伝ができるっていう事だよね?できるかどうかは微妙だけど……

「が、頑張ります……」

(や、やるだけやろう!)

バシバシと背中を叩かれながら、だらだらと冷や汗を流しながら、僕はそう決意したのであった。

時が経ち、傾いた日の光が僕らに降り注いでいる。




気づいたら24000字書いていた小松菜大佐でございます。
前回は塾直前投稿だったため、無言でしたごめんなさい。

さて、上にも書いたとおり書き溜めが合計……どうだろ。6話分くらいあります。
ですが、これから受験シーズン本番。成績もあれだったので、連投せず、時々投稿するくらいの気持ちで逝きます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。

※ちょっと前の話で、修正を加えました。
  
  ドンドルマ→ミナガルデ

勘のいい、記憶力のある方はこれからの展開が読めてしまうかもしれませんね。


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8話 シルフィードさんの言葉、船旅の終わり

「そういえば……」

人が結構増えてきた通りを歩きながら、シルフィードさんと一緒に歩く。その途中でふと思い出したようにシルフィードさんが話しかけてきた。

「君、ハンターになると言っていたな?」

「……はい、そうですけど」

「君はギルドの仕組みは知っているのかい?知っていないとハンターはやっていけないぞ」

「うっ、それは……」

突然投下されたその質問に、僕は言葉を詰まらせる。

「……剣の握り方は?」

「うっ、それは」

「回復薬の調合法は?」

「うっ、そ「もういい」すいません……」

なんだ。ただひたすらモンスターを斬りまくるわけじゃなくて、いろいろ細かい事もあるんだな。

肩を落とす僕を見て、シルフィードさんは呆れの溜息を漏らす。す、すいません……。

「……意外と、君もアバウトな人だったんだな。先を見てるようで見きれていない」

「あう……」

「まあいい。最初は私もそんなものだったからな……よし、じゃあこれから本屋に寄ろう」

「ほ、本屋?」

出てきた言葉は、およそハンターにはあまり関係のなさそうな名前。

「ああ、確かこの道の近くだったはずだ」

「べ、別にそこまでしていただかなくても……」

「基本知識を知らないままで、さすがに新人ハンターを送り出すのは不安すぎる」

僕が断りの言葉を放つと、シルフィードさんが正論という形で打ち返してきた。うっ、経験者の言葉は鋭く刺さるなあ。

「金は気にするな。武器が格安だったからな、その分金が余ったんだ」

「じゃ、じゃあ、お願いします……」

「ああ、それでいい」

そんなこんなあって『ハンター初心者に送るハンターズギルド公認!ハウトゥ本』というやたらめったら分厚い本を買っていただいた。それはもう、これで人を殴ったら大事故じゃすまないだろうと思える重量感である。

「ありがとうございましたー」

気の抜けた、いつもの常套句とも言える言葉を聞き流しつつ僕らは店から出る。

でも、これで本当に、シルフィードさんには頭が上がらなくなっちゃったな。

買ってもらった本を抱えながら、僕はそんなことを考えていたのだった。

 

 

「それじゃあ、ここでお別れだ」

僕とシルフィードさんは、本屋を出た後少し歩き、密林側の門に立っていた。

「え、そうなんですか?」

「ああ、そうだ。昼までと言っていたのは覚えているか?」

「はい。それまでに会いに来て欲しい、って」

「私は今日この街を出て、日暮れまでに次の街に着くつもりだったんだ。だから、昼までに……」

「なるほど……って、僕シルフィードさんの時間を!?す、すいません!!」

「気にするな。もともと時間に余裕があるように時間は組んである」

そうは言われたが、罪悪感は当然消えない。僕はうつむき、言葉を発せなくなった。

「……タクトくん」

シルフィードさんはそう、呟くように言った。

「………なんでしょう?」

「一つだけ、教えておく」

日の光を背負っているシルフィードさん。その絹のようになめらかな白髪が、光を反射し、僕には輪郭としてしか見えない。でも、どこか悲壮感が漂ってきていることだけは分かった。

「……」

「自分が何のために戦っているのか。それだけは、絶対に忘れるなよ」

「……」

自分のこのヘチマよりすっかすかな脳では、その言葉の意味を理解することはできなかった。だが、表情だけは見えないがその纏っている雰囲気から、茶化してはいけない気がして。

「もし、忘れることがあれば……私の………」

「……え」

「いや、これは蛇足だったな。まあ、この言葉だけは覚えておいてくれ」

「は、はい」

「それじゃあ、またどこかで」

そしてシルフィードさんは僕の前から去っていった。

遠く、遠くまで伸びていく道。その上を歩くシルフィードさんが僕の視界から消えるまで、ずっと、ずっと、僕は見送り続けた。

 

 

「……で」

そう言うギルドナイトのお兄さんは、なんだか不機嫌そうというか、つまらなさそうというか微妙な表情。

「そんな超絶美人なお姉さんであるシルフィード・エア様と一緒にお出かけして本を買ってもらったからお前はハンターになったんだな」

「話聞いてたかおい!?」

あまりの適当さに思わず怒鳴ってしまう。いいよね、さすがに。

「だってお前、いつまでもシルフィードの事しか喋らねえんだぜ?つまらんよ、さすがに」

「あんたが喋れっつったんだろ!?しかも暇つぶしに!!」

「かと言ってノロケはいらん」

「ノロケ!?ちげーよ、っていうか、あー!腹立つけど反論できんからさらに腹立つし発散もできねー!!どこにぶつければいいんだこの苛立ち!!」

「うるさい」

「うがー!!」

ああ言えばこう言うとは違うが、それに似たような状況となり思わず叫んでしまう。周りからの奇異の目が痛い……!

「……まあ、暇つぶし程度にはなった。ありがとな」

「なんか釈然としねー……」

苛立ちを晴らすためにどこまでも広がる海原を見るが、どこまでも海っていうのもだんだん秋が来ていた。

その後、お兄さんはぼやくように言う。

「で、その後はエリートコースまっしぐらか。ハンターズギルドに登録後、ランポス狩りから初めてガンガン有名どころのモンスターを撃破。んで、最終的にハンターズギルド登録後最短大型モンスター討伐少記録を達成してミナガルデハンターズギルドから直々のオファーが届き、今に至ると。さすがー」

「……やめてくれ。そういうのなんか気持ち悪い」

突然放たれたお褒めの言葉に、俺は寒気を禁じ得なかった。

「なんだ。俺が珍しく褒めたってのに」

「あんたのそれは褒めてる感じがしねえんだよ!!」

「あーはいはい。サーセンサーセン」

「ぐぬぬぬ……」

ほんとに、なんか、うまく言葉にできない感じに腹立つ人だな……!!

歯を食いしばっている俺を見て、めんどくさそうに視線を逸らすお兄さん。その後、なにかに気付いたように声を上げた。

「……あー。あれはー」

棒読みで。

(イラッ☆)

「今、面倒だからって話そらしただろ!絶対そらしただろ!!」

「ああ、それが?」

「………」

いらない事だけすっぱりという人だな……

「でも、気付いた事があったのは事実だ。見ろ」

「なんだ?どうせなんか、引っ掛けなんじゃないのか?」

「お前は俺の事をどんだけ疑ってんだ……。違う、見えてきたんだよ」

「え?」

「ほら、向こうだ」

そう言っているお兄さんは指を俺の後ろに向ける。それに釣られるように首を動かすと、そこには、俺の見てきた世界とは天地ほどにかけ離れたものがあった。

「う、うおおおおおおおおお!!??」

とてつもなく大きい街があったからだ。

(す、すごい……)

俺は、目の前に広がる光景を見て、世界の広さを痛感した。井の中の蛙とは言ったものだ。ハンターになってから、俺はあの村、そこの近くの密林が世界だと思い込んでいた。しかし、海といい、この街といい、俺の知っている世界の広さ、大きさを軽々と上回ってきた。

なにより、高い。建物全てが。自分の見てきた民家、病院、一番大きかった村長の家なんか目じゃないくらい、見えるもの全てのスケールが違った。

なにより、村と全然色が違う。

基本的に石を使用しているのか、周りの緑からそこだけ隔離されたかのように灰色に染まっている。俺の見てきた風景で、灰色なんてものは密林で崖を上る程度でしか見れなかったが、少し目を向けるだけで視界全てが灰色一色だ。

こ、これが……これが!

「これがミナガルデ!」

「違う」

……え?

「え?」

「だから、違う」

「ち、違うの!?」

まさかの新事実に僕は目を見張る。

「これはただの港街。ミナガルデはここから少し歩いて、ゴンドラに乗ってようやく辿りつけるくらい遠いところ。あーあー、なんでご先祖サマはめんどくせえ場所にギルドを立てやがったんだか……」

「……これで『ただの』なら、ミナガルデはどんだけでかいんだ……!?」

やはり俺の世界は狭かったらしい。口が引きつっているのが自分でも分かった。

「……びっくりして腰抜かすなよ、田舎者さんや」

「……ど、努力だけはさせてもらうよ」

俺はこれから見れるであろうミナガルデの町並みに期待しつつも、街中で醜態を晒すことに対する不安もだんだんと大きくなっていた。

ぼぉぉぉぉ、と一際大きな汽笛が鳴った。ざわつきが大きくなるのと比例するように、大きな陸地が近づいてくる。

 




はいどうも、愚かしくもまたまた小説を始めてしまった小松菜大佐です、はい。
なにやってんだ僕(遠い目)

暁、というサイトでミスマルカ興国物語という小説の二次創作を始めました。原作は『お・り・が・み』や『戦闘要塞マスラオ』で有名な林トモアキ先生です。
これ本当に面白いんで、スニーカー文庫の場所を探してみてください。

では、また。


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9話 ミナガルデ

「………」

何度目の、呆然だろうか?なんだか、疲れちまった。

「ほら、これがミナガルデだ」

「いや、わかってる。分かったんだけど……」

「おうおう、なんだ?さっきまでワクワクが止まんねーって感じだったんじゃないのか?」

「そうなんだけどさ……」

俺は、何度でも言う、疲れたのだ。

田舎者の俺はゴンドラなんか見たことがあるはずもなく、ゴウンゴウンと音を立てる度に騒いでいたのだ。ついでに言うと風によって揺れる度にも悲鳴を上げていた。他人の目なんかどうでもいいってぐらいで。

だから終わった後には、目の前に広がる大きな町並みに反応できるほどの元気は残っておらず、疲れきって溜息をつくくらいである。

でも、まあ。

「まあ、すごいなあ……」

山の中腹を削りそこに建てられたこともあるのか、人の住んでいるところと自然が共生できているのが印象的である。モンスターの襲撃に対して迎撃するための物であろう、大きな大砲が4門空を睨んでいた。

このテンションの低さを不思議に思ったか思わずと言ったふうに首を傾げるお兄さん。

「あれ?ワクワクが止まんねーなんて言わねえよ、的な感じでツッコミを入れてくると思っていたんだがな」

「あんたは俺をどんな風に見ているんだ……」

「……ツッコミ役?」

「……どうせあともう一つあるだろ」

「ああ、暇つぶしだ」

「予想通りだよ」

やっぱ、この人はこんな感じなんだな。

「まあ、俺はギルドナイトの仕事でギルドに顔出さなきゃなんねえんでな。ここら辺でさよならだ」

「あ、マジで?」

ここでまさかとのお兄さんとのお別れ。そういや俺、ここからの道分からねえんだけど……

「ああ、大マジだ……って、そうか。お前も一回ギルドに顔出したほうがいいか。そうだな。んじゃ、行くぞー」

付いて行くのかいかないのかよく分からない言い方。俺は思わず頭に疑問符を浮かべるが、そんな俺を置いてお兄さんはどんどんと遠ざかっていってしまう。

「え、ど、どっち?付いてくの?付いてかないの?」

「付いてこい」

有無を言わさぬようなその言葉、それに引き連られるように俺はお兄さんのあとを追う。

そして、俺たちはラージ村とは比類にならぬ程の凄まじい人ごみの中に入るのであった。

 

 

人ごみをかき分け、どこまでも続きそうな石畳の道の上を歩く、歩く。

歩く、歩く、歩く。

歩く、歩く……

「……遠くね?」

ドンドルマはハンターの聖地と言われてもいいくらいの街だ、って聞いてたから、その本拠地であるギルドはすぐに見つかるもんだと思っていた。

その疑問にはお兄さんが応える。

「そりゃそうだ。ギルドが破壊されたらこの街はかなりまずくなるんだぞ?一番奥深く、かつ一番安全なところにギルドを置くに決まってるだろ」

とのこと。

「あ、なるほど」と普通に納得できた。

「つっても、もう見えてるけどな」

「え?」

「ほら、あれだ」

そう言って、お兄さんが何度も見たようなポーズで指を向ける先。そこには……酒場?

「なんか、予想してたのと違う……」

石の壁の一角を切り崩し、くりぬいて入口が作られているそれは、中から男の笑声、そして昼過ぎだというのにどぎつい酒の匂いがしてきていた。俺はあんまり好きじゃない空気だな……

「まあ、ここがギルドだ。予想が外れて残念だったな。そしてギルドマスターに謝ってこようか」

「あ!」

俺はそこで、大分ヤバイ失言をした事に気付いた。冷や汗がこめかみを伝って流れ落ちる。

「……内密に、お願いします」

そう言うと、めんどくさそうに頭を掻いたお兄さんはさも何もなかったかのように入口へと向かっていく……って、無視!?

「え、ちょ、勘弁してくれよ!?最初っからギルドマスターに悪印象持たせたくねえんだ!!」

「言わねえって」

「これほど信用できない『言わねえ』は初めてだよ!!」

「マジだよ。こんなことに時間は使ってられないしな。ほら、行くぞ」

そう言葉を発するお兄さんはどんどんと足を進めていく。

「あ、待ってくれよー!」

「断る」

言うと思った。

俺は一度立ち止まり、溜息をついた後、改めてあの人の背中を追いかける。

 




話的にここで切るしかなく……
もう一話出します。


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10話 未来の英雄との邂逅

「うっ」

部屋に入ったあと、外にまで漂ってきていた匂いが三倍四倍になって俺に襲いかかってきた。俺は軽くうめいた後、口と鼻を押さえた。

「……お前、もしかして酒場に行ったことない?」

俺の反応を見たお兄さんが呆れたように言う。

「い、いや、そういう訳じゃないんだけどさ。お兄さんが見たかどうかはしらんけど、俺のいた所も酒場兼ギルドだったけど、完全に分けられてたからここまでキツい匂いは初めてなんだ……うっぷ」

「そうか。まあ、どうでもいいがな」

「なら言わせんな!」

「頼んでないぞ、思い返してみな」

「え……あ、ホントだ」

「残念だったな」

………。

「……なあ、話変えるけどさ」

「ん?」

「なんか、やたら騒がしくない?いや、俺の感覚だからそんなもんなのかは知らんけど」

俺は聞こえてくるやたらと興奮したような声がどうしても気になった。話が盛り上がって、というよりはアイドルが登場した後の野次馬が騒いでいるような感じに近い。目的があって……というべきか?

俺の言葉に、意外にも納得したらしいお兄さん。首を傾げている。

「……確かに、いつもうるせえけど今日は飛び抜けて五月蝿いな。なにかあったのかもしれんな」

「どうする?調べてみる?」

「いい。そんな暇はねえ」

「いつも暇なんじゃないの?俺にいっつも暇つぶしが云々って言うけど」

「わかってねえな。俺は、暇を作るために暇じゃねえんだ」

「……」

不思議な人だなあ、と俺は思った。

「……まあいいや。じゃあ受付に行けばいいの?」

「あー……ま、そうだな。基本的にマスターも受付にいるから……こっちだ。付いてこい」

「了解……って、そっち騒ぎの中心じゃない?」

親指をくいくいしてるその先、そこは多くの人が視線を向けている方向。

「んじゃあ、ちょうどいいじゃねえか。騒ぎの理由も知れて、同時に顔も出せる。一石二鳥だ」

「そんなもんかな……面倒事には巻き込まれたくないけど……ってだからさっさと行かないでくれって言ってるんだけど!?」

「そんな思考、時間の無駄だっつの。さっさと行くぞ」

この人、めんどくさがりで適当に見えて、かなり正論を叩きつけてくる。

(だからやりづらいんだよな……)

ひとりでステーキを切り分けているハンター、パーティ組んでクエストをクリアしたのか騒ぎまくっている3人組、酒に酔って喧嘩している二人。それらを謝り倒しながらかわして、ずんずん進んでいくお兄さんを追っかける。

ちょっと進んだ後、お兄さんが止まった。

「やっと着いたのか……って」

止まったお兄さんの背中からひょこっ、と様子を伺う。そこでは、予想もしなかった光景が。

「ゆ、床が砕けてる!?は、ハンマー!?な、なんなんだ!?」

「さあ、な。でも和気あいあいじゃない。それだけだ」

「それくらいわかるよ!?」

目の前では一人の少女が青年の前でハンマーを振り切り、鼻先を掠めていった後床に突き刺さっていた。その被害にあった石でできた床は、無残に砕け散っていた。かわいそうに。

(しかし……)

ハンターがハンターに向けて武器を振るう。それはかなり重大な行為であり、振るった側の少女がどれだけ怒っているかが証明されているようなもの。青年は一体なにをしたんだ……?

「ふざけたこと思ってるんじゃないわよ!」

そう怒鳴る少女は、その体と同じくらいの大槌……『ブロステイル』だろうか?角竜『ディアブロス』の素材を使ったハンマーだったはず。それを振り上げ、肩に担いだ。その重さに少女の体が確かに沈み込む。

その得物にばかり視線がいってしまうが、俺は少女自体にも目を奪われた。

これまたすっごい美人さんだったのだ。

シルフィードさんとは違う。どちらかというと可愛い系という奴なのだろうか?綺麗な顔、その中で怒りによってギラギラと輝きを放つ瞳は透き通るような蒼。狩りから帰ってきたばかりであるはずなのに髪はサラサラ、手ぐしを入れたら簡単に通りそうだ。

「あたしはあたしの実力で『闘龍士』になったんだからね!ね、ガノン?」

そう言うと、

「……無論です」

と、誰かが言った。皆の視線を探りながら誰かを探すか――――と思ったが、必要など無かった。

(でかっ!?)

簡単に見つけられるほど、その人は大柄だったからだ。

その大男が身にまとうものはディアブロシリーズ、その肩から周りを威圧するように生えた角が特徴的な、これまた角竜素材をふんだんに使った防具。そして担ぐ得物は飛龍の尾と見紛う程の大きな槍。

(あれって『ヘルファイア』!?すご……)

火竜の尾を中心にした火竜の素材を使った、他とは一風変わりかなり細身な槍身を持つランスだ。火竜の骨髄、火炎袋を使用し、目標を吹き出す炎で焼き殺す。鉄をも溶かすその炎は、時にハンターにまで危害を及ぼす。それから身を守るための大きな盾で、それはようやく一組となる。

(ああ、読めた)

俺はそこで理解した。あの青年の装備、俺と同レベルだ。おそらく俺と同じくらいの初心者で、あの少女がちやほやされるのを見て、でかい人の実力に守られてるだけと勘違いしたのだ。で、突っかかってハンマーで殴られかけた。

(おいおい、あの防具選択を見て何も思わないのか……)

俺は思わず、呆れの溜息をついてしまう。

少女は兜、胴鎧を付けていない。で、ハンマー。しかし、大男は完全防備で武器も防御特化と言えるランス。この二人はおそらく、長年チームを組んでいて、役割分担もできているのだ。だから、少女は胴鎧を付けずスピードを得た。大男がランスで耐えている内に回り込んでぶん殴る……って感じの戦法かな?この戦法はお互いがお互いを信頼していないとできない。つまり、この二人はほぼ同程度の実力を持っているということになる。

(そりゃあの娘も怒るわな……)

しかし、何よりも気になることが一つ。

あの煌く金髪、どこまでも突き抜ける蒼空のような瞳、綺麗に整った顔。陶器のような肌。

(どこかで、見たような。思い出せ……)

自分の脳裏に閃くビジョン。それは瞳と同じ青空の下、煌く金色の――――。

「……君」

「うわっ!?」

思考している俺は、後ろから突然聞こえてきた声に思わず驚いてしまう。

「おおっと、失礼しました。驚かせてしまったようですね」

「いえ、こちらこそ……」

そう言って、振り返ると……ふ、腹筋?

「初めまして、僕はフラディオ・ハートと申します」

丁寧な物腰とは裏腹(?)に、その姿はなかなか奇抜だった。

上半身、裸。

あの少女は胴鎧こそつけていなかったが、インナーはちゃんと着用していた。しかしこの人は違った。ほんとに何もつけてない。裸である。

男の方向から、ゴムの強いに匂いが漂ってきている……。暗い紫色といい、このゴムの匂いといい、おそらくこの人の防具はゲリョスシリーズだ。そして形からして、ガンナーか?

「ぼ……お、俺はタクト・シノカワっていいます。よろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いします。その格好からするに、これからハンターになるのかい?」

「いえ、僕も一応ハンターの端くれです。まだまだ若輩者ですけど……」

なぜだろう?この人の前では俺という一人称が使いづらい。その丁寧な言葉づかいのせいかな?

「ほほう、君のような若さでハンターに……。して、装備はどのようなものを?」

「ぶ、武器はハンターカリンガを。防具はクックを……」

「ほう!」

「!?」

ぎらり、とフラディオさんの目が輝いた気がした。

「同じ鳥竜種で、ゲリョスというモンスターをご存知ですか?」

「え、ええ。一応、戦ったことはないですが」

「惜しい!」

ズイッ!

「え」

「実に惜しい!!」

ズズイッ!

どんどんと顔を近づけてくるフラディオさん。その目はどんどんと輝きを増し、夜空の一等星のように煌めいていた。

「あれほどまでに愛らしいモンスターはこの世に存在しません!あの弾力のある皮の感触!水に濡れて艶やかに輝きを放つあの黒い肌!鶏冠の発する気を失うほどの輝き!息の詰まる毒息!芸術の域にまで達する死んだふり!それら全てを味わうべきです!!」

「は、はあ……」

ヤバイ、この人はヤバイ。俺の本能がそう告げている。

「……失礼。しかし、一度、今すぐにでも出会われる事をおすすめしますよ。お連れしたいのも山々なのですが、残念な事に僕もパーティを組んでいる身なので」

「ああ、またその時にはお願いします。で、そのパーティーのお相手……ってまさか」

この大喧嘩、人なら普通は近寄らないし、おそらくこの人の性格なら寄りもせず、ゲリョスに会いに行っている気がする。ということは。

「ええ、おそらくあなたの予想の通り。あそこのお嬢さんのパーティです」

「やっぱり……」

つーことは、この人、少女、大男の三人のパーティか。個性的だな……。

「おっと、それでは失礼します。またお会いする事を楽しみにしていますね」

そう言って、フラディオさんは去っていった。

「あのう……僕の紹介がまだなんですが……」

と思ったらあの騒ぎのど真ん中に入っていき、自己紹介を始めた。はぶられるのが寂しいのかな?なんだか可愛らしい人だな……あ、ホモじゃないよ?

 




この時点でWardのページ数:50ジャスト。
現在までに書いてページ数:73。
まだまだ余裕です(´∀`)

では、また来週


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11話 思わぬ再会

騒ぎがようやく終わり、ひとまずと言った感じで酒場らしい騒ぎに戻った頃。

周りからの奇異の視線を無視しつつ、ようやく俺は、ギルドマスターの所まで歩いていくことができた。ちなみに、いつの間にかあのお兄さんは消えていた。本当に面倒事が嫌いな人だな。

ギルドマスターの近くでは作戦会議をやっているらしく、フラディオさんのパーティと、なぜかあの青年が混じって話し合っていた。時々少女と青年が喧嘩をするらしく、不定期で届いてくる大男さんの怒りのプレッシャーが俺にヒットする。勘弁してくれ……。

そのプレッシャーが薄くなった頃合を見計らい、俺はダッシュでその横を駆け抜け、ギルドマスターと思しき人へ声を掛けることに成功した。当然、目上の方なので俺なんて使えない。ってあれ?大分俺が使えるタイミングないな。やっぱ僕に戻そうかな?どうも慣れないし……。

「すいませーん」

「……なにかの?」

柔和な表情、しかしその奥には鋭い眼光が見え隠れしている。この人ももともとハンターだったのかな……。

「僕、ラージ村から来たタクト・シノカワと言う者なんですが。ギルドナイトの方に連れてこられたまま置き去りにされて……」

僕がそう言うと、ギルドマスターは鋭い眼光を収めて、その代わりに溜息をついた。

「はぁ~、ロンはやはり気分屋じゃのう……。腕は確かなんじゃが……」

「?」

あの人はロンというのか。聞いた事はないけど……。

「すまない、君がタクト君か。遠路はるばる大変じゃったろう?」

「いえ、むしろ楽しかったです。建物は大きいし、初めて見た海はどこまでも広くて……」

「ほっほっほ。初々しいのお、なあ、ベッキー」

「そうですね、なんだか微笑ましいです」

そう言って話に混ざったのは、これまた美人さんであった。街の中では珍しい黒髪。緑色のエプロンドレスが最高に似合っていて、見ているだけで顔が赤くなってしまいそうだ。

「初めまして、タクト君。私はベッキー、ここの受付をしてるから長い付き合いになると思うわ。よろしくね」

にこっ、と笑みを向けられ、僕は思わずうつむいてしまう。

「あら、なにかしてしまったかしら?」

「い、いえ。ベッキーさんがお綺麗なので、緊張しちゃって」

「ふふっ、ありがと。それで、紹介状は持ってる?」

「あ、はい。ここに……えと、どこかな」

がさがさとバッグの中を漁る。これは財布だし、これは写真。うーむ……あ、あった!

「こ、これです!」

「はい、じゃあ確認するわね……」

そう言ってベッキーさんは慣れた手つきでペーパーナイフを取り出し、封筒を破って中の羊皮紙の手紙を取り出す。それを視線だけで流し読み。

「……うん、本物ね。じゃあ、これ」

と言ってこれまた慣れた手つきで取り出されたのは、あの分厚いハウトゥ本よりもさらに分厚い帳面。

「えーと……あった。ここに名前と年齢、性別に使ってる武器を書いてね。はい、ペン」

「あ、ありがとうございます」

綺麗な羽ペンを受け取り、僕はそこに『タクト・シノカワ 14歳 男 片手剣』を書いてペンと帳面を返却する。片手しかないことにあえて触れてくれていないし、さらに書きやすいように帳簿の面をこっそりと押さえてくれていたこと、その優しさに僕は少し感激した。

「これでいいですか?」

「ええ、大丈夫よ。じゃあこれ、登録証」

そうやって手渡されたのは、ペラい紙。

「イャンクック討伐最高記録を持っているとは言え、新人には変わりないから、君のハンターランクは『ルーキーハンター』よ。ちょっと部屋が悪めだけど、アレルギーとかない?大丈夫?」

「いえ。僕は体だけは」

丈夫なので。

そう言おうとしたら、会話に乱入してくる人がいた。

「ちょっと待てよ!」

あの青年である。

「なんで俺の時だけルーキーで、こいつは俺より上のルーキーハンターなんだよ!!おかしいだろ!?」

え?どういうこと?

その疑問は、ベッキーさんの言葉によって解消された。

「君が持っているのは村の記録。タクト君が持っているのは公式記録(・・・・)なの。ハンターズギルド登録後最短大型モンスター討伐記録、それがタクト君が今回達成した記録。そして今回、タクト君は正式に、ミナガルデハンターズギルドにスカウトされたの」

「スカウト!?」

青年のその大声に反応したのか、さっきまで奇異の視線を送ってきた人たち含め、多くの人がこちらを見てきた。目立ちたくなかったんだけど……。

――――スカウトだってよ。まじで?ああ、ベッキーが言ってた――――

―――あんなほっそい小僧が?嘘だろ?嘘だったらスカウトなんて大声で言わねえよ―――

そんな声がちらほらと、僕の耳に届く。

しかし、青年は何を思ったか、認めようとせず、

「はぁ!?スカウト!?そんな体で―――」

僕にとって禁句であるワードを―――

「ジーグ!!」

と思ったら、また乱入者が。今度はあの少女のようだ。

「いきがるのも程々にしなさい!!」

「はぁ?いきなり何を」

「あんたはもう黙ってて!」

そう言って無理やり黙らせた少女は、僕に視線を向けた。

「悪かったわね。こいつ、調子に乗ってて」

少々苛立っていたが、それを押さえ込み、僕は引き攣る口を無理やり釣り上げた。

「いいですよ。慣れてますし」

「ありがと。ほら、ジーグも謝んなさい!」

「な、なんで」となぜかまだジーグ、という青年は戸惑っている。

「あんた、さっきそんな体で、って言ったわね?」

「ああ、言ったよ。言ったさ!こんな奴がそんなことできるわけがねえ!」

「ッ!……どこまでアンタは!」

少女は僕に一言、ごめんなさいと言ってから体をジーグに向けた。

「アンタ、この人は左腕がないのよ!?」

ああ、ごめんなさいって腕のことを言うからか。いきなり謝られたから分かんなかったよ。

「え―――」

「アンタが村でどんなことしてたかは知らない!でも、アンタがイャンクック討伐最速記録を取った所で、五体満足なアンタより絶対にこの人の方が苦労してたはずよ!?」

「……」

「大剣使いのアンタなら分かるでしょ!?もし片腕がなかったら、剣なんてまともに振れないはず。それでも、この人は諦めずに戦い続けて、ハンターズギルド史上に残る程の記録を打ち立てた!これがどれだけの偉業か分かる!?それでもアンタは、まだこの人を馬鹿にするの!?」

「……」

その思いがこもった言葉に、ジーグは一度黙り込んだ後、僕に向き直って頭を下げた。

「……悪かった。あんなこと言って。大変だったろうに、それを俺は真っ向から否定しようとしてたんだ。本当に悪かった」

その言葉に僕は思わず戸惑った。あんな頑固そうな人が素直に謝ってきたんだ、そりゃ驚くに決まってる。

「いいですよ、全然気にしてませんから」

「そう言ってくれるとありがたいよ。でも、誤解しないでくれ。俺はアンタの腕のことを言うつもりは無かった。でも、体が細いから疑って掛かっちまったんだ。その結果、アンタを怒らせちまったんだ。ホントにごめん」

「あ、そうだったんだ」

そして腕のことは言ってなかったらしい。本当は、意外といい人なのかな?

「俺の名前はジーグ。ジーグ・グランエストってんだ。よろしくな」

そう言って、差し出される手。

「僕はタクト・シノカワ。これからよろしく」

それを僕はしっかりと握り返す。

「うお、手すっごいな!村じゃどんなトレーニングしてたんだ?」

「素振りくらいだよ、ほかにはなんにもしてない」

「マジ?すっげえな、素振りだけでこんなになるのか……」

「そういうジーグさんもすごいけどね」

そういうと、ジーグさんは気まずい表情をした。

「さん付けはやめてくんねえか?なんか、ぞわってするんだ」

「んじゃあ、君でいい?」

「ああ、それならいいぜ」

「じゃあ、ジーグ君」

「おう、大丈夫だ」

「おーい、二人で盛り上がってじゃないわよ」

そう言ったのはあの少女。

「ほら、アンタも座って。ジーグも」

その言葉に、僕は疑問符を浮かべる。

「いいの?基本的にパーティは4人だよ?」

昔、ハンターの創始者である4人がいて、その内の一人が婚約者を連れてきたんだそうな。そのまま狩場に言ったところ、不幸な事故に遭いその婚約者さんは死んでしまう。これは呪いだー、と思ったハンター達は4人以上でパーティを組むと誰かが死んでしまうという伝説を作り、それが今でも残ってるんだとさ。めでたくないめでたくない。

「誰がパーティーに入れるって言ったのよ。作戦会議も終わったし、これも何かの縁だしなんかあったときにパーティ組むかもしれないから自己紹介くらいしようかな、って思っただけ」

「あ、なるほどね」

それなら納得、と僕は近くにあった椅子を持ってきて(ここがハンターズギルドなのもあるのか、席も基本的に4つだ)席に着く。同時にジーグ君も席に着いた。

「さて、と。まずあたしから。エルメリア・フランポートよ」

「ッ!!」

あの、フラディオさんと話す前に一瞬見えたビジョン。

記憶の断片とそれが、そしてこの少女が放った言葉によってそれらは完全に繋がれた。

「え、エル……ちゃん?」

言葉が勝手に口から漏れる。体が震えていくのが分かった。

「……へ?」

言葉を受けた少女は、

(゚д゚)ポカーン

↑こんな顔をしている。

「……あ、あんた、今なんて言った?」

「だ、だから、エルちゃんって」

「そんな呼び方する奴……あ、まさか、あの時の男の子!?」

呆然から驚きへ表情がシフト。うん、この表情変化の分かりやすさは確実にエルちゃんだ。

「ど、どういうことだ!?」

とジーグ君は驚きの声を上げている。

「えっとね、昔僕の街にエルちゃんがきたことがあったんだ。確か……あれ?なんで来たんだっけ?」

「あら、言ったこと無かったっけ?避暑のためよ」

「ああ!そうだったね……って、あれ……?」

言葉を発そうとしたとき、懐かしい光景が頭に浮かんできた。

昔。僕は、涼やかに吹く風のなか、髪を揺らして佇む少女を見つけた。

白い日傘を差し、それに負けない程に白い肌。僕はそれに惹かれるように、近づいていった。

(ねえねえ、君はどこからきたの?名前は?)

矢継ぎ早に仕掛ける質問に、少女は戸惑ったような素振りを見せる。そこで僕は自分のミスを悟ってフォローに入った。

(ご、ごめん!一気に言って……どこからきたの?)

そう言うと少女はおろおろとした後に、ゆっくり、ゆっくりと口を開いた。

(し、知らない……)

(知らないの!?)

(だ、だって、私、家から、あまり出たこと、ないから……)

(……そっか。確かに、肌真っ白だ。綺麗だね)

(……あ、ありがと……)

(じゃあ、名前は?)

(え、エルメリア――――)

「ブランフォートって名乗ってなか……」

そこまで言ったとき、ランス使いの人から凄まじいプレッシャーが飛んできた。な、なんだなんだいきなり!?

「ん?どうしたの?」

「い、いや!なんでもないよ!!ごめん、話切っちゃって……」

「ん?まあ、いいわ。武器はハンマー、ランクは『闘龍士』。取り敢えずこれからよろしく!」

「と、闘龍士!?」

闘龍士。

それはハンターランクの中でかなりの高ランクであり、ギルドハウスで借りれる部屋も確かクイーンランクだったはず。すごいんだな……。

「なによ、あんたもジーグみたいに文句付ける気?」

エルメリアさんは目を細め、こちらを睨んでくる。

「違うよ!その装備、武器、あと防具の付け方見れば疑うわけがないよ!ただ、僕と変わらないくらいっぽいのにすごいなーって!!」

「……ふーん。よく見てるじゃない」

そう言ってエルメリアさんはそっぽを向いた。あれ、怒らせたかな?

「……ガノン・ドノンだ。武器はランス、ランクはお嬢様と同じく闘龍士だ」

「また闘龍士か……すごいですね、皆さん」

とはいうものの、どちらかというとガノンさんの言った『お嬢様』が気になるんだけど……まあ、触れない方がいいだろう。

「そして、先ほどもお会いしましたね。改めまして、僕はフラディオ・ハート。使用武器はタンクメイジというゲリョスの!武器で、ランクは皆さんと同じく闘龍士です」

「あれ?あんたたち、知り合いなの?」

そう言うエルメリアさんは不思議そうに首を傾げている。

「ええ。ジーグ君とお嬢さん、お二人が喧嘩している間にタクト君が見えましてね。ゲリョスについての魅力を語った次第ですよ」

「……(チョイチョイ)」

と、エルメリアさんが手招きして僕を呼ぶ。

(どうかしました?)

(……あいつ、不思議な奴だから、気にしないでね)

(別にしてませんよ、面白い人とは思いましたけど)

(なら、いいけどね)

「どうかしましたか、お二人さん」

「「別になんでもない(わ)(です)」」

「なら、いいですが」

「じゃあ、次はアンタね」

そう言って向けた指の先にはジーグ君がいる。

「お、俺か?」

「ええ、なんだかんだでアンタのことなんにも知らないし、丁度いいわ」

「なら……ごほん。俺はジーグ・グランエスト。大剣使いでハンターランクは……」

「ルーキー、よね?」

「う、うっせえな!」

ニヤニヤと笑いながらそう言うエルメリアさんと怒鳴るジーグ君は、なかなか相性がよさそうだ。もしかしたら、しばらくする内に新しいカップルが見られるかもね。

「じゃあ、次。お願いできる?」

次に言葉が向けられたのは僕。僕は一つ頷いておいた。

「えっと、僕はタクト・シノカワって言います。年は14―――」

「「14!?」」

ジーグ君とエルメリアさんから驚きの声が上がる。そんなに意外だったのかな。

「俺より2歳年下……でもランクは上………」

「私より年下だったなんて……」

「?」

「いや、なんでもねえ。話、続けてくれ」

「あ、はい。えっと武器は片手剣です。ランクはルーキーハンターです。これからよろしくお願いします」

ペコリ、と頭を下げて僕は自己紹介を終えた。当たり障りのない、普通の自己紹介だったな。つまらなかったかも。

そこで話が途切れ、皆が話題を探す中、ジーグ君が声を上げた。

「……なあ。嫌かもしんねえけど、出来ればでいいんだ。お前はなんでハンターになったんだ?」

「あ、私も気になる……けど、別に嫌ならいいわよ?プライベートのことは詮索しないのがハンターのマナーだけど……」

「いいですよ、別に自慢にもなりませんし、面白くもないと思いますが」

話題になるのなら、と僕は船の上で話したことをかいつまんで話した。シルフィードさんの下りはいらないと思って省略してある。

「……というわけでして」

と話を締めると、周りの皆は俯いていた。

「やっぱ、大変だったんだな……」

そう力なく呟くジーグ君。

(し、しまった。暗い話をしちゃったか)

「……アンタ、そんなことがあったのね……」

そう呟くエルメリアさんも、なんだか意気消沈した様子だ。

「アンタ、あの時はもっと明るかったのに、昔と大分変わっちゃったのね」

「そういうエルちゃん……って、年上なんでしたっけ?じゃあエルメリアさんも」

「さん付けは止めて気持ち悪いから。昔と同じでいいわよ、せっかくだし」

「じゃあ、エルちゃんで。エルちゃんも大分変わったよね。なんだか性格が入れ替わった感じ」

「そうね……タクトでよかった?すごいしっかりしたわね……ジーグと大違い」

「んだと!?」

「なによ!!」

しかし、エルメリアさんの一言で再びヒートアップ。本当に仲がいいな、この人たち。

それを見て溜息をつくガノンさん。

ニコニコしているフラディオさん。

(なんだか、いい雰囲気だな)

怒鳴り合っているが、楽しそうに言い合っている二人を見てなんだかあったかい気持ちになった。

ハンターになったあの日から今まで感じなかった感情。

(……なんだ。ハンターも悪くないじゃないか)

初めて僕はそう思えた。

 




本気で本文を確認していないので、誤字だらけだと思います。
また、読みにくいものであると思います。

それ込み込みで、事情は次話で。


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12話 狩りの半ば

ジーグ君たちはやっぱりこの後にクエストがあるらしく、その用意のためにそれぞれのギルドハウスに戻ったようだ。まだまだ続くざわつきの中、僕だけが一人残される。

窓から外を見ると、着いた頃にはまだ上の方にあった日が傾き、空は朱に染められていた。

夜が近づき、狩りを終えたハンターたちによってどんどんと席が埋まっていく。ベッキーさんも忙しそうに動き回っていた。

「……よし」

僕は一人だけになったテーブルを立ち、椅子を元に戻す。そして僕は歩き出した。その先にはクエストカウンターがある。

クエストを受ける人が減り、暇そうにしている受付さんに声を掛ける。

「すいませーん」

すると、受付さんはすぐに姿勢を正して営業スマイル100%で応対してくれた。

「はい、なんでしょう?」

「クエストを受けたいんですけど……」

「登録証をお見せしていただけますか?」

「どうぞ」

さっき渡されたペラい紙を受付さんに渡す。

「……確認しました。タクト・シノカワさんですね?今回はどのような物をお探しですか?」

「ドスランポスか、ドスファンゴあたりの狩猟依頼来てませんかね?」

ドスランポスは、鳥竜種の一種であるランポスの上位種。ドスファンゴは牙獣種の一つであるファンゴの上位種である。どちらも初心者ハンターにとっては楽ではないモンスターだが、僕が何度も戦ったイャンクックと比べればどうということもない。

なんせ、イャンクックは鳥竜種だが、飛龍に数えられる程強力なモンスターであるからだ。鱗は硬く、吐き出される火炎、大きな嘴や尻尾に付いた鋭い棘を受ければ、僕の体は簡単に死んでしまう。それに比べれば飛ばない竜に強い猪など児戯に等しかった。

「……ちょうど、定期のドスランポス狩猟依頼がありますね。フィールドは密林です」

ちょうどいいクエストがあったようだ。僕は迷わず飛びつく。

「では、それでお願いします」

「分かりました」

そう言うと一枚の紙を取り出し、慣れた手つきで持ったペンを走らせていく。さらさらという音が、聞いていて心地いいほどだった。

「契約金はどうされますか?」

「引き落としでお願いします」

「分かりました。現在の残金は18050zですので、100z差し引いて17950zとなります」

そして、さらさらという音が止みこっちに差し出された。あれだけ早くペンが動いていたのに、凄く綺麗な字だ。真面目に書いた僕の字より綺麗である。

「では、依頼内容をご確認の上こちらにサインをお願いします」

(ふむ、サブは肉食竜の卵の納品にランポスの討伐か。ランポス討伐はやっとこう。サーペントバイトに後ランポスの皮が2枚足らなかったはずだからね)

まだハンターカリンガ改にすらできてないけど、先に先に終わらせておいて丁度いい。その次に作る予定のヴァイパーバイトの素材も、もう集め終わっている。あとはランポスの皮が足らないだけだったのだ。

なぜハンターカリンガ改に先にしないのか?という疑問も出そうだが、簡単だ。目指してる物に一気に到達できた方が心地いいからである。

そう思考しながら、報酬金をぼったくられてないかなど、いろいろ確認していく。

(よし、特におかしいところもないな。サインサインっと)

受付さんからペンを受け取り、長方形の欄に名前を書き込む。

「ありがとうございます。期限は明後日の朝までとします。ご武運を」

 

クエストを受けた後、僕は一度ギルドハウスに来ていた。装備を整えるためである。

中は、フローリングが貼られていて、普通のベッドが一個。そしてアイテムボックスが置いてある。普通以外の言葉で言い表せない部屋である。

「でも、やたら綺麗でも気持ち悪いしね。ちょうどいいや」

そう呟きながら、取り敢えずバッグをベッドの上に放り投げる。そしてそのまま、アイテムボックスを開いた。

「お、入ってる入ってる……っと!」

中に見覚えのある革袋を発見。これは手で持っていくには重く、着ていくのはめんどくさい武具を先に送ってもらっていて、それら全てが入っているものだ。

「ふふーん♪」

手一本で開けるのはもう慣れた。一本ずつ解き、中に入っている物を取り出す。

あの日作ってもらったハンターナイフを強化し、鉤のように刀身が大きく曲げられたハンターカリンガ。そして僕の努力の結晶であるクックシリーズ。後、クックシリーズにはなぜか頭装備と足装備がないので、代わりであるバトルグリーブである。頭装備は、別の物があって付けることができない。

「よし!刃こぼれもないし、さっさと装備しよっと!」

これらの武具、全て装備するには時間がいる。

防具はまず、グリーブから。ズボンを履き、グリーブを履いて金具を止める。次にフォールド。これは巻いて再び金具を止めるのみなので簡単。時々、意匠として付けられている棘が刺さって痛い思いをすることはあるが。そしてメイル。これは外側に甲殻が貼られているだけでただの服だ。これも簡単。

防具は簡単だ。しかし、盾の装備が面倒なのだ。

一度、ベッドに座る。棘が刺さらないように尻の部分は持ち上げてから座った。

そして、盾を取り出し、これからの作業に溜息をついて、作業を開始した。

「う、うぐぐぐ……」

盾を腕にはめた後、固定用の紐を口で引っ張り、わずかに開けられている空間に差し込み、金具で固定しなければならない。この差し込む作業が面倒なのだ。

「――――ッ!(入らねー!!)」

チッ、チッとかする音は聞こえるが、うまく入ってくれない。

駄目だ、このままでは息が持たない――――と思ったとき、耳元でカチッと聞こえた。そこで口を離し、大きく息をつく。

「は、入った……」

今日、一番疲れたと断言できるだろう。それだけの疲労感に襲われていた。

しかし、ずっと座りこんでいるわけにはいかない。僕は、夜でないと戦えないのだ。

僕は頬を叩こう、として頭を盾で打ち付け悲鳴を上げた後、立ち上がって最後に残ったハンターカリンガの入った鞘を取り出す。

「よい……しょっと」

それを盾が付いた腕で苦労しながら、左腿に付けた。これはハンターになりたての頃から変わっていない。やっぱりこれが、一番しっくりきたからね。

「よーし、かんせーい!」

一人で万歳三唱でもしようか、と考えなくもなかったが、さすがにそれはかわいそうな子になってしまうので却下。アイテムボックスをもう一度覗き込む。

「えーっと……あ、あったあった」

僕はそれぞれの用意をいろんな袋でまとめてある。腕一本だと、物を探しているときに他の物を破損させてしまう恐れがあるからだ。

そして取り出したのは緑色の袋。これには狩場に必ず持っていく道具類が入れてある。もともと白色だったんだけど、回復薬の瓶が割れて中身が……いや、思い出さないでおこう。

僕はうっかり黒歴史に葬り去った出来事を思い出してしまい、顔をしかめた。しかり止まっている訳にもいかずその袋を担いで外に出る。

夕焼けの朱の中、向かうは密林である。

 

 

馬車に揺られて1時間ちょっと。

空が朱から黒へ勢力が交代した頃、ようやく僕は密林にたどり着いていた。

「ふう……っうう~!!」

僕はすっかり固まってしまった背骨をパキパキと鳴らしつつ、大きく伸びを一つ。

「……っぷは。やっと着いたか~」

ひたすら、変わり映えのない草原を見続ける1時間というのは、なかなかに過酷なものであった。山の中腹にあるから、もっと近くにあるもんだと思い込んでいたが……甘かったようだ。

「んじゃ。支給品ボックス、御開帳~お?携帯シビレ罠に捕獲用麻酔玉?これは捕獲せよという神からの指令か!?いや~盛り上がってまいりまし……た……」

夜の密林、みんみん、とどこかから聞こえてくる虫の声。一人でぶつぶつと呟きながら勝手に盛り上がっている僕……ヤバイ。これはヤバイ。端から見たら変人、いや変態?いやもう狂人?

「あぁ~うがあああああ~」

こうやって頭を抱えて唸っているのも、さらに変人さを助長させていて、それでまた唸って……ああ、なんというジレンマだろう。

「落ち着け。ビークールだ。中身は?もう一回見てみよう」

暴れまわる思考回路を、深呼吸によって送られてきた冷たい空気で冷却する。

「回復薬、地図、携帯食料、携帯砥石……うわ、支給用閃光玉まである。けど使わないだろうな……。んじゃ、持つならこいつと、こいつと……」

そうやって、持っていく道具の取捨選択をしていきバッグに詰める。

「よっし、んじゃ始めるか!!」

ここで、持ってきたバッグをもう一度漁る。そう、この中に残りの頭装備が入っているのだ。

そして取り出したのは、

「これがないと本当にやってられないよ」

耳あてである。

イャンクックなどにある鳴き袋。その中で声を幾重にも反響させ、一気に放出することで飛龍は大きな咆哮をすることができると考えられている。

僕は最初、イャンクックを撃破することにとても苦労した。なんせ、片手がないことで両耳が塞げないのだ。鳴く、と思った瞬間に一目散に逃げ出すことを繰り返してなんとか撃破したものの、イャンクックでこんな状況では、もっと大きな咆哮を出すとされているフルフル、ディアブロスなどと戦うのは困難を極めるだろう。

そこで鳴き袋の反響する効果を利用し、それを外側に貼り付けた耳あてをあの店員さんに特注で作ってもらい、今ではそれを狩場に欠かさず持ってきている。まあ、そのおかげで耳から得る情報は無。さらに頭防具をつけることができないというリスクはあるが、それを補って余りある効果を持っていると僕は考えている。

(装着……っと)

耳に装着した瞬間、世界から音が消えた。

ほんの数秒前まで聞こえてきていた虫の鳴き声、風に揺れる木々のざわめきも、自分の息遣いすらも、何も聞こえてこなくなった。

(この感覚だよ。いつものこの感覚)

そして、耳当てに一緒についているゴーグルを装着する。モンスターの攻撃によっては地面すらも破壊するなど、破片だけで危険な、自分を傷つける武器になることもある。それが目に入ったらそれこそもうハンターとしては終了となってしまう。これ以上体を傷つけないために僕は万全を期さなければならなかった。

きっちりゴーグルがはまったことを確認し、僕はまたまた道具袋を漁る。

(えーと……あった。『千里眼の薬』)

この薬、飲むと千里を見通すほどの視力を得ること……は残念ながらできない。そんなのあったら悪用される。実際は嗅覚を数倍に強化し、モンスターの体臭を頼りにある程度の位置を割り出すことができる薬である。

それを一息にグイっと……

「……んぐ、んぐっ……ぷはっ。うえ……」

舌に、口全体に甘苦い味が広がる。僕は思わず顔をしかめ、舌を出した。

(まっず……まあ、良薬は口に苦しってやつか?ちょっと意味は違うかも……)

そんなことを考えた、その後。急に鼻づまりが通ったような感覚がして、突然ツン、と肉食竜特有の臭いが鼻を突いてきた。

その匂いの元を感覚でおってみる……。

「むむむ……これは、エリア6……いや。むしろそれ読みのエリア5と見た!」

僕はその臭いの根源はエリア8を移動していた。おそらく、これからエリア6、そして5に向かうのではないか……と僕は予想した。

「よっしゃ……って、つまりここ登るってことだよな……」

エリア5に行くには二つの道がある。

一つはエリア1から迂回していく方法。しかしこれは千里眼の効果も切れた後、さらに探さなければならなくなるという可能性もある。

ということで、もう一つの方法としてあるのが目の前にそびえ立つ崖を、頼りない蔦だけを辿って上る方法。こちらの方が早く済むことには済むんだが……途中で手を離したかと思うと……

「ヒィィ……い、いや!やらなきゃ逃げちゃうよ!!」

少しの時間しか効果が出ない千里眼の薬の効果も、考えているうちに切れた。

「よっ、ほっ、ほっ、ほ……」

恐怖心を押し殺して、ギシギシと軋みを上げる蔦に命を預ける。

そして、上を目指してひたすら蔦を引いた。

 

 

荒ぶる心臓を、深呼吸でなんとか押さえ込む。草の匂いが僕の鼻をつくがそれを気にしてはいられない。

(落ち着け、もうあいつは来てるんだ……)

僕は茂る草の中、投げナイフを抜いて伏せていた。

ちなみに、もともといたランポスは全滅済みである。ドスランポスと連携されてはたまったものではないし、サブターゲットの達成による報酬、そして新たな武器を手に入れるための糧として、命を頂かせてもらった。

そして今、目の前には、形を持った死が動いている。

それは青い体色を持ち、頭にある大きな赤いトサカが思わず目を奪われる。それが細かく首を動かして、敵はいないかと警戒していた。

「グルルルル……」

目標のドスランポスである。それがちょうどエリア5に現れたのだ。

(よし、そろそろだ……)

耳元で動き回る大きな足音を聞きつつ、僕はエリア6につながる洞穴の近くにいた。

(早く通り過ぎてくれ……)

落ち着けた心臓が、再び暴れだそうとする。

「………」

そして、ドスランポスの巨躯が僕の前を通り過ぎた!

(今だ!!)

その瞬間、僕にシナプスに似たものが頭を、背中を、体全体を駆け巡っていく。

それに素直に従って、僕は姿勢を低く駆け出した。

「……グォッ?」

僕の足音が聞こえ不審に思ったのか、突如周りを見回すターゲット。

しかし、ドスランポスの習性というか、癖というか。こいつは必ず、体を起こして周りを見回すのだ。でも、姿勢を低くした僕の姿を捉えることはできない!

僕は投げナイフを投げず、あえてそのまま突き刺した。こいつはかなり特殊な金属でできているらしくて、投げればあの古龍の鱗でさえも貫くという。古龍なんて戦ったこともないが。でも、それはなんとなく分かる気がした。前、ちょっと試し切りと思って野菜を切ったらその下のまな板すら切断したから。

そして、その切れ味は遺憾なく発揮され、刃の部分が完全に肉体にめり込むくらいのレベルであった。

「グォウ!?」

ランポスは、いきなり体を貫かれたことに驚いたか驚愕混じりの悲鳴を上げる。

(まだまだ!)

その様子を見ながら、僕は背中側から正面よりの左側面へ回り込んで。

「うおおおおおおおお!!!」

そのまま、左目へ突き刺した。

「ギャッ!?」

プチっと、なにかが弾けるような感触がした。少し嫌悪感がして鳥肌が立つが、それを抑えてナイフをグリグリと相手にねじ込んでいく。

「―――――ッ!?!?」

おそらく、今ドスランポスは自分の体験したことのないような激痛に襲われているだろう。気の毒だが、僕たちの生きるためだ。許してくれとは言わないけど。

「……っらぁ!!」

そしてナイフを抜いて、血が吹き出すのを再びナイフを差すことで塞ぐ。貫通させるくらいのつもりで突き刺してやったが、さすがに骨を貫通させることはできなかった。

「ッ!!」

そしてナイフを突き刺したまま、今度は左腿にあるハンターカリンガを抜いた。ハンターカリンガは鉤爪のようになっていて、斬るだけでなく突き刺す、引っ掛けて引き裂くなどいろいろなことが可能な万能武器なのだ。

それを僕は胴体に引っ掛けて……

「ごめん!!」

思いっきり引いた。

「ギャオァアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」

鱗に弾かれながらも、無理やり鱗に引っ掛けて引き剥がす。剣先が肉を抉る感触が手に届いてきて悪寒が走るが、歯を食いしばって耐える。

「ギャアアアアアアアア!?!?」

(このまま一気に……ッ!?)

しかし、鱗によって刃が途中で阻まれる。瞬間、僕に電流が走ったような感覚が走った。

僕はその感覚に従って迷わず剣を捨て、盾を構える。

瞬間、腕に痺れるような衝撃が走った。

「っぐあ!?」

空気を切り裂く音が聞こえる、周りに見える景色が猛スピードで過ぎ去っていく。

その中、青い尻尾がムチのように撓っていっているところが見えた。なんとか、起き上がったドスランポスにその尻尾で殴られたということは分かった。

「い、いっててててて……」

その後、少し地面を滑ってようやく止まった。擦過傷がひりひりと痛むが、そんなこと気にしてたら今度は二度と痛みを感じることのない体になってしまうだろう。

それだけは避けなきゃ……!

「いよっと!」

後転倒立の要領で立ち上がり、再び盾を構える。もう相手は準備を整えている、いつ来るか分からない!!

「ギャオワッ!!」

構えて間もなく、再びの衝撃。

「ぐぅ……!!」

ドスランポスの鋭い爪による一撃を、コースの予想をしてなんとか防ぐ。今は向こうのターンだ。耐えろ……!

盾に爪が擦れる嫌な感触、そして何度も襲い来る衝撃。僕のスタミナは切れる寸前だ。

「はぁっ、はぁっ……ぐあっ!?」

そして僕は思わず体勢を崩してしまい、大きな隙を生んでしまった。そこをドスランポスは見逃さず、体当たりで僕を吹き飛ばした。

「う、うぐぐぐ……」

再び景色が後ろに流れていく。その果て、僕は壁に叩きつけられてしまった。

「……はぁ、はぁ………げっほ、げほ……!」

肺から空気が強制的に吐き出され、僕は思わず咳き込む。脳が揺らされたせいで、視界がぐらぐらと揺れて立てなくなってしまった。

そして響く、狩人の笑い声。

(ま、またか……この感じ、久々……だよ!!)

場所は違えど。モンスターは違えど。

それは、確かにいつだったか、どこかで見たような光景で。

(あの日と……同じだ)

僕は心が震えた。

それは、恐怖?命を失うことへの?

それは、虚脱?目の前で蠢く狩人の強大さからの?

(確かに、それもあるだろう……でも)

でも、今、僕には何もできないか?あの時のように、何一つ抗うことすらできないのか?

それならじゃあ、お前は何のために生き延びてきたんだ!?

(ふざけんな!お前には、新しく手に入れた物が何もなかったのか!?)

「違う!!」

僕は盾をあえて構えず、体の左側に振りかぶった。

「ギャアッ!!」

ぐるぐると回る視界の中、そんな勝ち誇った鳴き声が遠くから聞こえてくる。そんなところまで、あの日の時と状況が酷似していた。

でも、今日、あの日のように、シルフィードさんが颯爽とやってくる訳などない。だから、シルフィードさんにもらったこの剣で、あの剣を振るう姿が教えてくれたこの気持ちで!!

「うおりゃあああああああああ!!」

切り開いてやる!!

振りかぶった盾を適当なところにフルスイング。すると、僕に噛み付きをしようとしたドスランポスの顎をかち上げ、相手をひるませることに成功した。

「グオッ!?」

完全に勝利したと思っていたのか、カウンター気味に入った攻撃は逆に相手の脳を揺らし、ドスランポスはフラフラと体を揺らしてうめいている。

「う、うおおおおおおおお!!!」

脳震盪から回復した僕は、倒れた姿勢からうつぶせになって低い姿勢で駆け出す。

そして敵の後ろに回り込んで、そのままローキックを繰り出す。

いくら竜とは言えこのランポスなどの鳥竜種は、ガノトトスなどの魚竜などに比べればまだ人間に近い構造であり、関節、筋肉などで動いていると既に解明されている。それを狙って攻撃すれば、当然竜だろうと体勢は崩はずだ。

僕はここで、人間でいう膝辺りを攻撃。まあ、要するに膝カックンを狙ったのだ。

そしてその目論見は見事的中。相手は膝を落とし、無防備な巨躯を目の前に晒してくれた。

「これは……返してもらうよ!」

ここで突き刺さっていた剣を回収。再び少し前のような状態に。

「うわああああああああああああああああ!!!」

そしてまた、何度も何度も相手に突き刺す。何度も何度も相手を切り裂く。溢れ出す血液が地面に広がって、地面をどす黒く染め上げていた。

「グルルル……!」

押されていると理解したのか、突如背中を向けて走り出すドスランポス。

「逃がすかっ!!」

それを見た瞬間、僕は迷うことなく剣を捨て、ポーチから支給されていた閃光玉を取り出す。

この閃光玉、ピンによる起爆ではなくボタン式で、僕にとっては嬉しい代物である。

「せぇ、のっ!」

結構なスピードで遠ざかっていく背中、そのさらに先へ起動した閃光玉をぶん投げる。そして、それは逃げるドスランポスの鼻先に落ちた。僕は急いで目を瞑る。

瞬間、弾ける閃光が黒に染まっていたはずの視界を白に塗りつぶした。

(う、やっぱりきついなこの光!)

思わず一本しかない手で庇いそうになるが、衝動を押し殺して無理やり目を開く。

目を瞬かせると、コマ送りのようになった視界でドスランポスが悶えているのが分かった。

「今だ!」

僕はハンターカリンガを回収、駆け出して一気に距離を詰める。

「せいやぁっ!!」

剣を目一杯、遠心力すらプラスして思いっきり叩きつけ、薙ぎ、切り上げて、袈裟懸けに振り下ろす。その度、ドスランポスから鮮血が吹き出、舞い散る血飛沫。それを浴びながらも、僕は嫌がることなく、剣を振り続けた。

「らっ!せいっ!はりゃあっ!!」

対する目標のドスランポスは大した抵抗もできず、ただ僕になます切りにされるのみ。

このまま討伐できるか……?そう思ったが、さすがに甘かったようで。

「グウウオオオオォォオ!!」

「うわっ!?」

何回突き刺したか数えることもできなくなった時、怒りに狂ったようにドスランポスが突き刺さった僕の剣ごと立ち上がり、別のエリアに向かって駆け出した。

(駄目だ、これは一旦エリアを移動させた方がいいな)

スピードに乗って、どんどんと小さくなっていくその背中に溜息をつき、僕は地面が血で濡れているのも構わずにその場へ座り込む。

(ふぅ~……)

光源は何一つなく、空に輝く星々が眩しく感じる。僕の吐息が空に溶けていった。

 

まだまだ、戦いは終わりそうにない。

 




物語的な意味でも、リアルな意味でも、このタイトルをつけました。

そう、狩りの半ば。

僕は、こんな中途半端な場面でありますが、更新を一時中断しようと思います。

そして、もう一つ。

次話更新は『未定』です。

受験が終わり次第、講談社かファンタジア、MFの新人賞に応募しようと考えているためです。ちなみに応募するのはメインで投稿している物ではないです。

本当に半ばなところで止めるのは悔しいですが、一度本気で小説を作ることで、少しスキルアップできるのではないかと考えているところもあったりします。

小説家になろう様にて、その断片である短編小説が投稿されています。それに似たような小説が書店に並んでいたらそれは僕ですうへへ。捕らぬ狸の皮算用ですねww

では、また、どんな形であれ、皆様と会える事を楽しみにしています。


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