ブラック・ブレード (東流)
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プロローグ

息抜きで書いてみました。元々書こうかな~と思っていたものを引っ張ってきました。

ちょっとおかしい所が何ヵ所かでてくるかもしれませんが、そのところはご指摘を…。

楽しく読んで貰えたら嬉しいです。それではどうぞ♪


メインの方も頑張らなくては…。


「ごめん…アスナ…」

 

「嫌だよ、嫌だよ!!キリトくん!!」

 

救急車の中で必死に声を掛ける少女と今にも死んでしまいそうな少年がいる。少年は自分の心拍がだんだん低下している事に気づく。

 

―あぁ…このまま、死ぬのかな…―

 

チラリと横を向くと自分のモニタに表示されている数字が今にもゼロになりそうだった。

 

「…ごめん……アス―」

 

少年が少女の名前を呟く寸前、モニタのデジタル数字はゼロへと変化し、そのまま沈黙した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

―うぅ…熱い…―

 

そう思い少年はバッとその場から起き上がった。

 

「…何処だ…?ここ…」

 

少年…桐ヶ谷和人は燃えている森の中で意識を取り戻した。いや、まず自分は何で生きているんだ?と和人は思った。自分はジョニー・ブラックの手により、心肺停止に追い込まれた筈だ。もし仮に助かったとしても目覚めたのは病院の病室ではなく、夜の森…しかも燃えている場所で目覚めたのは何が何でも可笑しすぎる。

考えたい事は山程あるが、今はそれどころではない。まずここは何処なのか?和人は辺りを見渡すが、夜の森のせいか、よく分からない。更に驚くことにこれだけの火が上がっているのに、消防車や消防士が見当たらない。普通誰か気づくと思うのだが…。そうこう考えているうちに火が周りを覆いそうだった。和人は取り合えずこの森を抜けようとその場から走り出した。

 

この時火の手があったため、そこまで暗くは無かったのだが、今の状況に驚いていたのか周りにある物に気づかなかった。

 

そう…『死体』という物に…

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

走ること数十分。何処へ行っても木、木、木。今自分が何処にいるのか、何処へ向かっているのか、分からなくなっていた。

 

「クソ…本当に何処なんだ…ここは…?」

 

和人はその場に立ち止まると奇妙な、誰かに見られている感じがした。その『誰か』というのも定かではない。人なのか?もしくは得たいの知れない何かか?和人はこの奇妙な空気を知っていた。

 

あの時

 

あの場所

 

そして…あの『世界』で…

 

そう、ゲームがゲームじゃなくなった時、自分が本当のデスゲームの中で命の駆け引きをやっていた時の空気に似ていた。いや…一緒だった。

 

狙われる。次は自分だ。何か得たいの知れない攻撃が来る。

 

そして次の瞬間、和人は思いっきり後ろへジャンプした。別に理由など無かった。意味なんて無かった。只単に後ろへ思いっきり反っただけだった。和人自身も何故動いたのかは分からなかった。

 

―ヤバイヤバイヤバイヤバイ…分かんないけど、本当にヤバイ。今まで…いや、あの『世界』よりもヤバイ。自分が本当に…殺される―

 

和人自身もあの『世界』での出来事が無かったらそのまま立っていただろう。あの『世界』で培った経験と勘が、和人を生かした。チラリとさっきの場所を見ると…

 

地面が抉られていた。

 

「…ッッッ!?」

 

そのまま受け身をし辺りを見渡す。そこで目に入ったのは、真っ赤な眼に巨大な体。なんというか…狼をそのまま大きくし、化け物にした感じだった。

 

「…あぁ…あ……」

 

別にこの様な動物を見たことがないというわけでは無かった。バーチャルゲームに関わらず、ゲームの世界ではよくある狼型のモンスターだ。

だが、今のこの状況はあの『世界』と酷似していた。いやそれよりも酷かったかも知れない。武器やアイテムは無く、頼れる相棒や仲間もいない。たった一人でこの状況をどうにかしないといけない。

和人は、その場から思いっきり走り出した。あんな化け物と武器を持たずに正面からやり合うのはどう考えても愚策だ。それに今はゲームの世界の『キリト』ではない、現実世界の『桐ヶ谷和人』である。どう考えても勝てる相手じゃない。

必死に走るが相手は化け物。しかも大きいから追い付かれるのは当然だ。木を使って上手く避けるも、限界が来る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…クソ!!」

 

その場に落ちている石ころや木の枝を投げつけるがもちろんダメージといったダメージは与えていない。体力的に限界がきたか、足が思うように動いてくれない。その隙を狙ったのか狼型の化け物が尻尾を横に振った。

 

「ガハァァ!!」

 

その尻尾は普段の動物がもつフサフサな尻尾ではなく、まるで鉄のような重く硬いそんな尻尾だった。

 

「ゲホッ、ゲホッ…ガハァァァ……」

 

和人は込み上げてくる生暖かい血をその場に吐き出した。

 

―ヤバイ…死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!―

 

和人自身こんな訳の分からない所で死ぬのは御免だった。変なところで目が覚めては化け物に襲われ、今まさにその化け物に殺されそうなのだ。本当嫌になる。

化け物はゆっくり和人に近づいていく。多量の出血のせいか頭が上手く働かない。立とうとも思えない。

 

―あぁ…ここで死ぬのか…俺は…―

 

自分は何度も死を体験してきた。あのデスゲームの世界で…更に言うなら今しがたデスゲームの世界での宿敵に殺されたのだ。殺されたのかどうかは分からないが…。化け物の腕がそのまま和人を潰そうとした瞬間、

 

化け物の腕が無くなった。

 

「ギィヤァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「…なぁ…あ?」

 

和人自身何が起きたのか分からなかった。いきなり腕が無くなり、叫び声を出す化け物。無くなったというより、何かに斬られた感じだった。いや斬っていたのだ、一人の少女が。

 

「…子供?」

 

真っ黒い長髪を腰まで伸ばしており、その容姿はまるで美しい人形のようであった。

その少女はこちらをチラリと見るとそのまま化け物に立ち向かっていた。少女が持っている刀は驚くほど少女に似合っていた。いや、まず少女が何で日本刀なんて物騒なもんを持っているのかツッコミを入れたいところだが、後回しにしよう。少女は刀を巧みに扱うと、次々と化け物に攻撃を加えていく。

 

「はぁぁ!!」

 

まるでゲームのソードスキルを見ているかのようだった。それほどまでに少女の攻撃は美しく、化け物の命を奪っていった。

 

「ギィヤァァ…ァァ……ア……」

 

化け物も次々と繰り出される斬撃に抵抗を覚えずに、そのまま地面へと倒れ、沈黙した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

あの後化け物の倒れた場所から少し動いたところにコンクリートの小屋があった。実は少女が丁度いた場所で、化け物の声を聞いて駆けつけてくれたそうだった。それにこの少女、力が強かった。まぁ自分は筋肉に自信は無いのだが、それでも男子高校生だ。小学校高学年くらいの子に抱き抱えられるのはちょっと複雑である。

 

「あの…助けてくれてありがとう…」

 

「いえ、私も偶々声を聞いたのでこちらへ来る前に倒そうと思っていたのですが…まさか、人が襲われていたなんて…」

 

少女は和人の怪我の手当てをしながら答えた。包帯を巻き終えると少女は笑顔で自己紹介をしてくる。

 

「あの私は黒衣唯と言います。怪我も見た目よりかは酷くは無いので安心しました」

 

「そうか、ありがとう。俺は桐ヶ谷和人。さっきは本当に助かった。なんとお礼を言ったらどうか…」

 

「いえ気にしないでください。困ったときはお互い様ですから」

 

唯と言った少女は救急箱を閉じると直ぐに怪訝な顔をして和人に訪ねた。

 

「あなたどうして一人なんですか?武器も持っていないようですし…自分のイニシエーターとはぐれたんですか?」

 

「……あ…その…」

 

和人はこの時なんと答えればいいのか分からなかった。自分がいきなり他の世界から来ました~なんて言ってみれば、頭大丈夫ですか?と言われるのは必須。流石にこんな少女にそう言われるのは恥ずかしい、が今はそんな事を言っている場合ではない。和人はまずここが何処だかを聞いてみた。

 

「えと…まずここが何処だか教えてくれないかな?ちょっと頭を打ったみたいで…分からなくなって…」

 

「え…いいですけど…、ここは東京エリアにある外周区付近です」

 

「と、東京!!…ここは東京なのか!?」

 

「は、はい…そうです、けど…」

 

和人自身もここが東京だなんて思わなかった。そう自分が知っている東京ではない。まるで別世界である。和人は真っ暗な空を見上げながらため息を吐いた。

 

「ここが東京だなんて…」

 

「あの~どうかしたんですか?」

 

唯は和人の顔を除き混みながら答えた。その顔色はなんで驚いているのか分からない、そんな顔色だ。

 

「いや…実は―」

 

和人は思いっきって今の状況を話した。自分が別の世界から来た、と言うことを。

 

「―そんな事って…」

 

「あぁ…俺も信じたくないよ。けどあんな化け物見たことがない。教えてくれ!あの化け物は、この世界は一体何なんだ!?」

 

知りたかった。ここが何処なのか、あの化け物は何なのか…今世界はどんな状況なのか…唯は未だに驚きを隠せないでいたが、ポツリポツリと喋りだした。

 

「ここは…いや、この世界は…ガストレアという化け物に…敗北したんです…」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「そん、な…」

 

唯から全ての事を聞いた和人は絶望感に打ちのめされていた。ガストレアというウィルス性の寄生生物。それらにより世界は侵略され、日本も国土の半分以上は持っていかれた。大戦時の死者や行方不明者は数えきれないほどに上ったと言う。残った者達が各都市に『モノリス』という建物を建て、今もその中で暮らしているそうだ。そして和人が聞いた中で最も驚いたのは…

 

「2031年…約10年後にタイムスリップ…か…」

 

ガストレアに襲われたのは今から10年程前の出来事なので和人自身の世界は大丈夫だと思っていいだろう。それにこの世界にはナーブギアが無いため完全に違う日本だなと確信づける和人。そしてもう1つ驚いたのは、

 

「民警とその相棒イニシエーター」

 

民警とは対ガストレアのスペシャリスト。ガストレアを倒す事ができるバラニウム性の武器を持ち日々活動しているそうだ。『モノリス』とか言う建物もバラニウムでできているらしい。

それにイニシエーター。和人がタイムスリップの次に驚いたのはそこだ。イニシエーターとはガストレアを体内に宿した『少女』達の事らしい。何故女の子だけなのかは分からないが、凄まじい戦闘力を持っているそうだ。それ故少女達は民警とコンビを組んでガストレアと戦っている。だがイニシエーターの少女達はその身にガストレアを宿しているため人々からの迫害が激しいらしい。呪われた子供たち…と。

 

「じゃあ…君も…」

 

「はい…イニシエーターです…」

 

幻滅しちゃいますよね…そう呟く唯だか、和人はそう思わなかった。

 

「そんな事はない…現に君は俺を助けてくれた。実際俺はこの世界の住人じゃないからイニシエーターを恨むとかそんな事は分からない。それに君は君だろ?ガストレアとか言う化け物じゃない。黒衣唯という只一人の人間じゃないのか?」

 

「あ…あぁ…」

 

「だからそんなに自分を卑下にみないでくれ、唯」

 

「…………」

 

その言葉に只々涙を流した。今までこんな事を言ってくれる人物がいただろうか?いやいなかった。町の人も民警のプロモーターもそして自分の親でさえも。そう言ってくれる人なんて…いなかった。

 

「…うっ、うぅ…ッ…」

 

「えっ?あの~えーと?だ、大丈夫?」

 

「…はい、はい!大丈夫です。…ひっく…だってだって、そんな事を言ってくれるなんて…一度もなくて…」

 

「あ…いや、その~」

 

「名前も…唯って初めてちゃんと呼ばれましたし…」

 

「…………」

 

こんなことがあるだろうか?まだ小学校高学年くらいの女の子が自分の名前を呼ばれてこんなに泣くだろうか?自分を卑下にしないでと言っただけで涙を流すだろうか?和人自身の世界からすればあり得ない、いやもしかしたらあるかもしれないが…こんな事ってあり得るだろうか?

 

「…辛かったん…だな」

 

クシャっと和人は唯の頭の上に手を置いた。そして撫でてやった。優しく、温かみのある手で何度も。

 

「……気持ちいい…です…」

 

「よかった」

 

涙が止まるまでずっと和人は唯の頭を優しく撫でてやった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「その…先程はごめんなさい!見苦しい所を見せちゃいましたね…///」

 

「別にそんな事はないよ。それよりも早くここから脱け出したいんだけど―」

 

ドンッ!!!!!!

 

その音で今まで静寂だった森の中が一気に騒がしくなる。

 

「な、何だ?爆弾?」

 

「多分そうです。誰か他のペアが……不味いです今の音で一気に他の眠っていたガストレアが押し寄せてきます。幸いこちらからは遠いので今のうちに早く」

 

「あぁ…」

 

和人は唯に言われるがままにその小屋から脱け出した。唯から拳銃を貰ったがあまり使う気にはなれない。まぁGGOの事もあるから使い方はある程度なら分かるが出来れば使わない事を願いたい。

 

そして森を走ること数十分。何度かガストレアに襲われたが全て唯が相手をしてくれた。全部ステージⅠという小さいガストレアなのでそこまで苦戦は強いられなかった。

 

「もうすぐ中継所のテントにつくと思うので頑張ってください」

 

「あぁ」

 

ここ最近トレーニングサボってたからな…鍛えるか。そう思い足を早めた所で…

 

パァン!!

 

唯が撃たれた。正確には足、だが。

 

「唯っ!!」

 

唯は撃たれた足を抑えその場に倒れ混む。

 

「いっつ…ううう」

 

「唯!唯!」

 

和人は唯の撃たれた足を見る。右足だけだが貫通しているようだ。どうすればいいのか分からず和人は只々唯の名前を叫ぶがそこ複数の不協和音が聞こえてくる。

 

「よっし!!当たった!!」

「これで大丈夫だよね」

「後はあいつ等と前の奴等がどうにかするだろう」

「とっとと逃げようぜ」

 

側の茂みから出てきたのは四人の男性だった。唯が言っていた民警のプロモーターとやらだ。

 

「あ…あんたら…」

 

「あぁ?オイオイ…ガキがそこで何してんだよ?テメェがソイツの相棒か?だったらちゃんと見てようね~」

 

ゲラゲラ笑う一人に怒気を含ませた声で訪ねた。

 

「オイ、あんた今…こいつの事を撃ったのか?」

 

「そうだけど、それがなんだよ?」

 

「それがどうしたって…ふざけんなよ!!仲間じゃないのかよ!!民警なんだろ?ガストレアを倒す一緒の仲間なんだろうが!!」

 

「ハッ?ハハハハハハハハハッ!!」

 

この言葉にさっきは笑わなかった奴も全員吹き出した。

 

「マジかよ、そんな事を言うなんてお前バカか?聞いただろう?さっきの爆発音。あれでわんさかとガストレア達が集まってくる。ここの中継ポイントのテントだなんて直ぐに飲み込まれちまう」

 

「………」

 

「でよ、ガキ。俺達はまだ死にたくねぇんだよ。まだ後方に戻れば部隊もちゃんといるし対策だってしてあるさ。もうここには俺達と前にいる奴等しかいねぇ…生き残れないんだよ!!ここじゃ!!だから時間を稼いで貰うのさあのガキ共と前にいる奴等、そして…お前達によ…ククッ」

 

男は笑い続ける。まるで死神の宣告みたいだ。

 

「それと仲間とか言ってたな…少なくとも俺らはそうは思ってねぇよ。ソイツ等は体内に化け物宿した同じ化け物だろ?だったら同じ化け物が相手してやりゃいいさ、幸いソイツ等は回復が早いからな運がよけりゃいいタイミングで復活してお前を助けてくれるかもしれねぇぜ?」

 

その言葉に呆然と立ち尽くす和人。まさかここまで酷いとは…それも民警のプロモーターがだ。それにあのガキ共とか言っていたが…多分あいつ等のイニシエーターだろう。自分達が生き残るために見捨てた?自分の相棒を?

 

「オイ…もう行こうぜ、来るぜ化け物共が」

 

「そうだな…よし行くぞ。お前ら」

 

後は頼んだぜ~。そんな呑気な言葉が和人の耳に入ってくる。もうどうすればいいのか分からない。そんな時和人の足を唯が掴んだ。

 

「ゆ、唯…唯!」

 

「逃げて…ください…」

 

「…はっ?」

 

「お願いです…逃げて、ください。悔しいけど…あの人達の、言う通りです。もうすぐ私の足は治ります…だから…」

 

「できるか…」

 

「えっ?」

 

「そんな事が出来るか!!」

 

和人は思いっきり叫んだ。自分を助けてくれた恩人を見捨てて自分だけ生きるなんてそんな事は出来ない。それに…

 

「もう…目の前で、大切な人が死ぬのは…嫌なんだ…」

 

「………」

 

「これ借りるよ…」

 

和人が手に取ったのは唯が持っていた日本刀だった。ちょっと短いが今はそんな事などどうでもいい。今から来る化け物に集中していた。和人自身化け物と戦うのは初めてじゃない。あの『世界』でとことん味わってきた。本物の命のやり取りを…それが只ゲームから現実に変わっただけだ。ステータスは心持たないが…。今から来るのはステージⅠのガストレアだけではなくⅡ最悪でⅢも来る可能性が高い。前の人達がどれだけ減らしてくれるか…和人の意識はそこにあった。さっきはあんなカッコいいことを言ったが実際和人は唯の傷が治るまでの時間稼ぎをするつもりだった。正直自分一人であんな化け物共を倒そうだなんて思わない。今立っているだけでやっとだ。今すぐここら逃げたい。居なくなりたい。

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 

和人の頭はこの感情で一杯だった。だが…

 

「私もサポートします」

 

唯がその辺に散らばっていたマシンガンを拾い上げ森の方に銃口を向けた。

 

「…ありがとう…」

 

さてここからは地獄だ。正直言って死ぬだろう。それが和人の考えだった。

 

あの時を思い出せ…

 

あの感覚を思い出せ…

 

確かにあの『世界』は現実じゃなかっただろう。だが、あの『世界』にいた自分は少なくとも現実だった。

 

「今まで沢山の事があったな…」

 

ゲームの世界に閉じ込められたと思えばデスゲームが始まるし、やっと脱け出したと思えば最愛の人は別のゲームの中にいてそのゲームにコンバートして最愛の人を助け出した。銃の世界では過去に怯える少女と出会った。その時は死銃の事で頭が一杯だったかな?一番死銃戦が大変だったかも。

色んな事があった。これからも沢山あったかもしれない。だから…

 

「だから…俺はここじゃ死ねない。死ぬわけにはいかないんだ」

 

その言葉と共にガストレア達がやって来る。それが合図だった。唯はマシンガンの引き金を引き、和人は走り出した。

 

そして―

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「……あ………あ、れ?」

 

知らない天井。和人が第一に思ったのはそれだった。何よりベッドで寝ている。何故だ?訳が分からなかった。自分は、一体…。和人が上半身を起こすと広い病室だった。色んな所に包帯が巻いてあった。そこには和人一人と思ったが、

 

「…すー…すー…」

 

「あっ……」

 

少女がいた。自分を助けてくれた恩人黒衣唯だ。そして一気に思い出す。自分が何をやっていたのかを。

 

「確か…俺……あの時……」

 

そう自分はガストレアの大群に向かっていた筈だ。勝てもしないのに、只の自殺行為にしか思えない。だが、

 

仮面を被った燕尾服の男性とその男性の事をパパと呼ぶ少女が乱入してきた。そこまでは覚えている。だけどそれ以降が思い出せない。何か頭の中にモヤがかかった感じで…そこで和人は違和感に気づく。自分は両目を開けているつもりだ。最初はまだ目が馴れないのだろう、そう思ったのだが…明らかに左側だけ暗すぎる。何か覆い被さっている感じ。和人は左目の方を触れると何か当たった。この感触は確か…。

 

眼帯。

 

近くにあった手鏡を取って眼帯を外してみる。すると…

 

「…あ…あぁ……お、俺の…ひ、ひだり…め?」

 

 

 

そこには『真っ赤に染まった自分の左目』があった。

 

 

 

「い、一体…どういう…」

 

「……和人…さん?」

 

少女は眠い目を擦りながら和人を見る。そして顔を真っ赤にし、涙を浮かべると和人に抱きついた。

 

「和人さーーん!!!!」

 

「おわぁ!!ゆ、唯!?」

 

「よかった…よかった…目を覚ましてくれて…本当に、よかった…」

 

「…………」

 

うん。正直何が何だかさっぱり分からない。唯は事情をしてそうだが、一時泣き止まないだろう。するとそこへ…

 

 

 

「やっと目を覚ましてくれたわね」

 

 

 

「……はい?」

 

一人の少女が入ってきた。和人と同じ高校生ぐらいだろうか?

 

「ちょっと私の事務所まで来てくれるかしら?すぐ下なんで」

 

「……えーっと…」

 

取り合えず事情を知ってそうな子が現れた。この子に聞けば何か分かるだろうか…あの時の事を…今の状況を…そして…

 

 

 

この『左目』の事も…。

 

 

 

和人は痛む身体を無理矢理起こさせ、唯と二人その少女の後をついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘の所は…その…暖かい目で見てください。次から頑張りますんで…。

それではまた_(..)_


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その前とその後

楽しんで読んでもらえればと思います。

それではどうぞ♪


「んじゃ色々と説明して貰いましょうか♪」

 

「えぇ…こちらが説明を受けたいぐらいです」

 

あれから本当に下にあった小さな事務所に入ってソファーに座る和人、唯、そして…

 

「まず貴方の名前を教えてもらいたいんですが…」

 

「…そうね…まずは自己紹介といきましょうか♪私は紅天理。この紅民間警備会社の社長を勤めてるわ。よろしく」

 

自分の事を社長と呼ぶこの少女、和人と同じくらいの年齢だ。

 

「俺は桐ヶ谷和人です」

 

「改めて、黒衣唯です」

 

ここで和人はん?と思ってしまう。

 

「改めて?この人とは知り合いなの?」

 

「私は和人さんよりも回復が早かったのでいち早く天理さんとは面識があるんです」

 

「そう言うこと。それじゃあ早速、説明会といきましょうか」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「俺が覚えているのはガストレアに立ち向かって行くとき…仮面を被った燕尾服の男性が乱入するところまでしか…」

 

あれから和人は自分の経緯を説明した。気になるところは多々あるがそれも向こうが説明してくれるだろう。流石に他の世界から来たということは言っていない。この秘密を知っているのは唯だけである。

 

「教えてくれ!!あの後どうなったんだ?」

 

天理はふぅ~と息を吐くと唯の方に目を向けた。

 

「その事は私よりも唯ちゃんが知ってるわ。その後のことは私が説明するけど」

 

お願いね、と天理は唯に言った。唯は和人の方を向くと、ポツリポツリ話始めた。

 

時間は和人がガストレアに立ち向かって行く所まで遡る。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

片手に刀。もう片方には唯から貰った拳銃。実際これだけで勝とうだなんて思わない。只、負けたくない。奪われたくない。その感情だけが和人を動かしていた。拳銃をガストレアに向け引き金を引こうとしたとき、上から声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「少々失礼させてもらうよ」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

和人が上を見たとき一人の男性と小太刀を二つ持った少女が飛び降りてきた。その時和人の前に群がっていたガストレアが瞬時に吹き飛んだ。

 

「な…!?」

 

あの数を?どうやって…。和人は吹き飛んだガストレアを見て驚いていた。今何をしたんだ?と。

 

「小比奈斬っていいぞ」

 

「はーいパパ♪」

 

ガストレアに単身立ち向かって行く少女。少女もイニシエーターの一人だろう。手慣れた手付きでどんどんガストレアを斬っていく少女。ガストレア共は数秒もたたない内に肉塊に変わっていく。

その様子に和人も唯も黙って見ているしかなかった。

こちらに近づいてくる燕尾服の男性。和人は警戒しながら後ろへ下がる。

 

「あんた達…何者なんだ?助けに来てくれたのか?」

 

「助けに来た…というのは偶然だよ。私達は君達がこんな場所にいたなんてついさっきまで知らなかったからね」

 

「じゃあ…わざわざこんな場所へ何の用だ?」

 

「…ちょっと野暮用だよ」

 

「野暮用?」

 

それ以上は何も言わないで和人に背を向ける燕尾服の男性。すると突然、こちらを振り向き…

 

 

 

 

 

和人の左目を抉り取った。

 

 

 

 

 

ジュク…。

 

最初は何が何だか分からなかった。いきなり左側の視界が消えたのだ。左側の視界の視界が消えたと同時に急激に激痛が和人を襲った。

 

「が…ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

その場に倒れ込みうずき回る和人。あまりの激痛で頭がおかしくなりそうだ。男性は和人の左目を造作もなく潰す。その光景を見ていた唯は、まだ完治はしていない足を無理に動かし、燕尾服の男性に飛び掛かっていった。

 

「和人さん!!!!!!!!」

 

銃口を燕尾服の男性へと向け引き金を躊躇なく引くが男性の目の前で止まってしまう。

 

「なっ!?」

 

「フム、驚かせてすまないな。だがもうじき終わる、後にしてくれたまえ」

 

そう言うと目の前に止まっている弾丸が一斉にこちらへ返ってくる。

 

「ッ!?」

 

唯はそれらを避けたが、数発身体に命中した。

 

「クッ!!」

 

幸い急所ではないので致命傷にはなっていない。だが身体に命中したため回復に時間が掛かるし、痛みもある。一時は動けまい。

 

「すまない。これがちょっとした野暮用だよ…」

 

「ああああああああああああ…ハァ、ハァ、ハァ…」

 

和人は荒く息を吐きながら左目の方を強く押さえつけた。止まることない血。止むことのない痛み。和人はこのまま意識が飛びそうになったのだが、

 

「意識が飛ぶのはこの後にしてくれ。小比奈!!」

 

「はーい♪」

 

小比奈と呼ばれた少女。その少女は最後の一体を斬り終えると木の上に立て掛けてあったアタッシュケースを男性に放り投げる。男性はアタッシュケースを取ると中から何か液体の入った箱を取り出した。その箱を手の上で逆さにしドバドバドバと液体を流していく。そして最後にポトッと何かが落ちてきた。

 

 

 

眼球だ。しかも真っ赤に染まった眼球だった。

 

 

 

それを男性は和人の左目の方に押し込んだ。

 

「あぁ…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

痛みは先の比ではない。和人は必死に左目を押さえるが、左目が勝手に動き回っているようで今にもはち切れそうだった。

 

「さて…君は成功か?それとも失敗かな?」

 

男性は仮面で分からないが笑みを含んでいたのは確かだ。和人はあまりの痛みに耐えきれなかったのかプツンと人形の糸が切れたかのように動かなくなってしまった。それを見ていた男性は少々残念そうに、唯は目を大きく見開き和人の名前をポツポツ呟いていた。

 

「か…か、ずと…さん……?」

 

やっと見つけた自分が信頼できる人物。会って短いが、好きになれた人物。これからずっと一緒に居たいと思える人物。

 

その人が…

 

目の前で…

 

死んだ…。

 

「い、や…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

唯は悲鳴を上げ涙を流す。そしてその目には赤色とは生ぬるいと言っていいくらいの真紅の色が広がっていた。唯自身もここまでの怒りを覚えたのは初めてであった。

 

許さない許さない許さない許さない…。

 

その感情だけが唯の頭の中にあった。

 

仮面の男性は興味失ったかのように和人に見向きもせず小太刀の少女と立ち去ろうとしたとき、

 

 

 

 

 

『ソレ』は来た。

 

 

 

 

 

「ッッ!!!!!?」

 

仮面の男性は経験上殺気や怒気を向けられるのは多々あったが、ここまでの殺気は初めてだった。経験の差で勝ったと言うべきか、男性はそれを…避けた。

通り過ぎたのは一人の少女だが、男性にはこの上にはない『化け物』に見えた。

 

 

 

 

 

「 殺 す 」

 

 

 

 

 

「…は…はは、はははははははははははははははは!!!!」

 

男性は恐怖と共に歓喜を覚えた。まさかこんな掘り出し物があったとは。男性と少女は構えを取り、唯も構える。そして―

 

 

 

 

 

「…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 

 

 

 

三人の意識はそちらへと向く。そこには息を切らしながらも死んだと思われた和人が立っていた。

 

「和人さぁん!!!!」

 

唯は急いで和人の元へ走る。それと比べて男性の方は驚きを隠せずにいた。

 

「……適合……したと言うのか?あの状況で?」

 

そして同時に喜びを感じた。

 

「フハハハハ…ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

男性は顔を空へ向け大声で笑いだす。

見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた。やっと見つけたのだ。自分が今まで探し求めていた人物を。ここに来る途中何人かとすれ違ったが、そいつらはまったくのハズレだった。

 

「最ッ高だよ。君は、いや君たちは…。今すぐにでも遊んでやりたいのだが…時間切れのようだ」

 

男性は森の方を向く。そこには沢山のガストレア達が迫って来ていた。

 

「是非とも『今の君』の実力が見てみたいものでね…。後は頑張ってくれたまえ。行くぞ小比奈」

 

「えー…あいつと戦っちゃ駄目なの?」

 

「また今度だ」

 

「うー……」

 

少女は構えを解くとしょんぼりした顔になり小太刀を鞘へと納める。

 

「ねぇ、名前。名前は?」

 

少女は唯に向かって言っているのだろうか、名前を聞いてきた。

 

「…黒衣唯…」

 

「黒衣唯…唯かぁ……私は蛭子小比奈。今度会ったら戦おうね」

 

まるでまた遊ぼうね。と言っているようだった。いや、少女にとっては命をかけた戦いでも遊び同然なのだろう。狂気染みた、そんな笑顔を少女はしていた。

 

「それじゃあここで失礼させてもらうよ。いつか…また」

 

「…ク、ソ…待、て……グゥゥ…」

 

和人は未だに頭がぼんやりしているのか、上手く言葉に出来ない。だが、男性は気にもせずその場から立ち去った。

唯は和人を支えているので動けないが、今は追うのは得策ではないと考えた。それよりも、今からやって来るガストレア達だ。それをどうにかしなければ…。

 

「和人さん、大丈夫ですか?動けますか?」

 

「…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

息が荒い。早く休ませて上げないと…。唯はそう思い和人を運ぼうとしたとき、和人はそれを遮った。

 

「………え…?和人…さん?」

 

唯は和人を見ると、違和感に気づいた。先程までは息を切らしていたのに今はまったくそれがない。それに表情も……辛そうな感じでもなく、かといっていつもの優しい感じでもない…冷たい、どこまでも冷えきった…そんな表情をしていた。

 

「唯…下がってて…後は俺が…」

 

 

 

 

 

―殺すから―

 

 

 

 

 

「……ぁ……」

 

それと同時にガストレア達はやって来た。和人は最初の一匹を、普段の和人では想像もつかない脚力で蹴り飛ばす。それ以降は只ひたすら刀を振り、ガストレア達を斬り殺していた。和人も決して無傷だったわけではない。勿論ガストレアからの攻撃も沢山喰らってはいたが、気にせず、来るガストレアをひたすらひたすら…斬っていった。

 

「…あの目……『私達』と同じ…?…でも…どうして……?なん、で……」

 

唯は和人の左目を見て驚いていた。先程あの仮面の男性が無理矢理押し込んだあの目。あのときはよく分からなかったが、今はよく分かる。

 

あの目は…

 

『私達』…いや…ガストレアと同じ赤い目だった。

 

 

 

 

 

そして更に数十分後、この戦いは攻めてきたガストレアの全滅で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「…そ、そうだった…のか…」

 

和人は唯から話を聞き終わり放心状態だった。そんなことがあったなんて、自分でやっていながら覚えていない。和人は近くにある鏡で自分の左目を見る。

 

「和人さん」

 

唯が心配そうに見てくる。当たり前だ。こうなってしまったら普通の生活には戻れない。それは唯自身が一番分かっていることだ。

 

「大丈夫だよ。唯」

 

和人は唯の頭にポンと手を乗せる。

 

「力が手に入ったんだ。文句は無いさ。もっとこの力のとこを理解して、自分の物にする。それにこれで唯を守れる。それでいいんじゃないかな」

 

和人は唯の頭を撫でてやり、唯はそれが気持ち良いのか和人に寄りかかりそのまま寝てしまった。

 

「…唯?」

 

「ずっと貴方の看病をしていたからね。疲れと安心でそのまま寝てしまったんでしょう」

 

「…ありがとう。唯」

 

和人はもう一度頭を撫でると、唯は更に安心した顔になり穏やかな寝息をたてながら和人の隣で眠るのだった。

 

「…1ついいですか?」

 

「何?」

 

「その…天理…さんは…「天理でいいわよ」…天理はどうやって、俺達を…」

 

「ああ、その事?それは偶然ね」

 

「偶然?」

 

「ええ。あの戦いの後、生存者が居ないかヘリで空から探索したの。その時私達があなた達を見つけたってわけ。まぁ、貴方のその目がちょっと厄介だったから私が信頼できる唯一の医者に診てもらって、その後こっちに運んでもらったの」

 

「…そう…でしたか…ありがとう、ござい…」

 

和人も全部を言い切る前にその場で寝てしまった。

 

「……このタイミングで寝る?普通…。まぁ今日まではいいかな」

 

天理は側にあった毛布を二人にかけて上げると、

 

「天理社長ー!今帰りましたよー」

 

下から声が聞こえてきた。他にも声が聞こえるので、全員帰ってきたのだろう。

 

「みんなお帰り~。今日は上で食べようか?夕食」

 

「…?どうしてですかー?」

 

「うーん、ちょっとね」

 

天理は和人と唯が寝ている部屋を出る。今はこのままにしておこう。天理なりの気づかいだった。

 

「それと…明日からよろしく。桐ヶ谷和人君、黒衣唯ちゃん」

 

天理はそれだけ言うと部屋の明かりを消したのだった。

 

 

 

 



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紅民間警備会社

先ず一言、2ヶ月ぶりです、遅れてしまって申し訳ないです。
もっと早く書くつもりでしたが…すみません。

不定期更新ですが頑張っていきたいです。

それではどうぞ_(..)_

P.S
ロストソングを買ったのですが、忙しくてまだ手をつけてないです…どうです?面白かったですか?


翌日

 

和人はパッと目が覚めた。昨日よりも体の調子が良い…ような気がする。

辺りを見渡すと誰も居ない。ソファーで寝ていたので昨日の話からそのまま寝てしまったのだろう。毛布もかけてもらっていたし。

唯は…もう起きたのだろうか?ここには居ない。和人は取り合えず顔でも洗おうと思って近くにある洗面所で顔を洗う。その時見た左目はまだ赤く染まっていた。

流石にこれでは色々と面倒なので、昨日の眼帯をそのままつける。どうにかして目の色のコントロールをしないとヤバイな…。

そう思う和人は唯に教えてもらおうかな、と考える。

 

すると何やら上の方で声がする。もしかしたら誰か居るのかもしれないが…。

 

「…流石に行きづらいな」

 

和人は唯か天理が居てくれれば助かるのにな、そう思ったとき、扉が開いた。

 

「ッ!?」

 

和人はびっくりするものも、その正体を知り安堵する。

 

「なんだ…唯か…」

 

「和人さんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

 

「あぁ。何とか…な。唯も昨日はすぐに寝ちゃったけど…」

 

「あぁ昨日はすみませんでした。私も疲れてて…ごめんなさい…」

 

「別に謝らなくていいよ。唯は俺の面倒を見ててくれたんだろう?それくらいどうって事ないさ」

 

和人は唯の頭に手を置くと優しく撫でる。唯も頬を染めて、ふにゃ~といった顔になり、和人もそんな唯を見て、

 

 

 

 

 

 

「ふーん…和人君ってロリコンなんだ」

 

 

 

 

 

「和むな~って…は?」

 

扉の方から声が聞こえると思ったらそこにはこちらを見てくる天理の姿があった。

 

「…て、天理…?って違うわ!!俺はロリコンじゃない!!」

 

「どうだか…確かに唯ちゃんみたいな美少女はそうは居ないわ…けど…小学生相手に、犯罪よ?それ」

 

「だから、違うわ!!」

 

和人の心の底からの叫びに外に止まっていた鳥達は一斉に飛び立つ。後、唯は何が何なのか全くわかってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「これから私達の仲間になる桐ヶ谷和人君よ。ほら挨拶挨拶」

 

天理に背中を押され、前に出る和人。前には四人の女の子が座っていた。茶髪をツインテールで括っている少女、白髪の無表情の少女。この二人はイニシエーターだろうと和人は思った。

後の二人はプロモーター。銀髪のセミロングの少女と黒髪のポニーテルの少女。

どの子も個性が強そうだな~と和人は冷や汗を流しながら考える。

 

「え、えっと…桐ヶ谷和人です。今日からここで働く事になりました。よ、よろしくお願いします」

 

和人は頭を下げて、周りの反応を伺う。最初の印象が良かったのか、銀髪と黒髪の少女二人は、よろしくと言葉を返してくる。白髪の無表情そうな子は…なんか寝てた。朝が弱いのかもしれない。

 

「(…第一印象は良かったのかな…?これなら、多分―)」

 

と思った直後、茶髪ツインテールの子が立ち上がり、こちらにやって来る。

 

「……?」

 

和人を上から下へと眺めた後、フンと鼻で笑ってきた。

 

「何よ、男のクセに女顔。しかも体型はヒョロリとしたモヤシじゃない…。とても、私達と仕事ができると思えないわね」

 

「…は?」

 

なんだこの生意気そうな少女は、いや生意気だ。初対面の相手に、しかも和人自身が気にしている事をグサグサと間髪入れずにぶっ込んできた。

 

「ちょっとそこに正座しなさい」

 

ビシッと指を指してくるので、渋々座り込むのだが、

 

「…って、何でだよ!?何で正座しなきゃいけないの!?」

 

「当たり前でしょ。私が先輩、あんたが後輩…。つまり私の部下でもあるわ。部下が上司の命令を聞くなんて、当然の事でしょ?」

 

「だから、何でだよ!?確かに君の方が先輩なのかもしれないけど、俺は君の部下になったつもりは無いんだけど?」

 

「はん。男のクセにギャーギヤー煩いわね。あんたは私の言うことを黙って聞いてりゃ―「まぁ、この中じゃ華鈴が一番下っ端みたいなものだからね」って、アリス!煩いわよ!」

 

華鈴と呼ばれた茶髪のツインテールの少女は、向かい側に座っている銀髪の少女に矛先を変える。

 

「だって、華鈴が一番桐ヶ谷君の事気にしてたじゃない。見舞いの時に寝顔に見惚れてて、まぁまぁねって顔を赤くしてたのは誰だったけ?」

 

「くっ…あんたね…」

 

「それに、昨日はずっとソワソワしながら…まだ起きないかな~とか呟いてたじゃない」

 

「殺すっ!本格的にあんたを殺してやるわ!」

 

今にも一触即発の雰囲気。唯があわわ~っと口を押さえて、どうしようか迷っていた。隣の黒髪のポニーテールの子は何時もの事なのか、平然とした状態で目を瞑っていた。何かの修行だろうか?よくこの状況で平然といられるな…と和人は思った。

チラリと白髪の少女の方を見る。相変わらず…寝てた。

 

「(何なんだ?この子達は…)」

 

和人は頭が痛くなりそうだった。この子達は本当にあの怪物―ガストレアと戦っている民警なのだろうか?

ため息をつきながら、この状況を見守る。

 

すると、後ろに居た天理が痺れを切らしたのか、

 

「あなた達…いい加減にしなさいっ!」

 

天理の怒声が鳴り響き、ケンカしていた二人の少女はピタッとケンカを止めた。目の前に居た和人はあまりの声に耳が潰れそうだった。

 

「(うお~耳が…耳がぁああ…)」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

今の怒声を聞いても白髪の少女は起きることなく、眠っていた。これはもう…なんかの病気じゃないの?

 

「朝からケンカしないの!和人君が困ってるじゃない、それに朝ごはんも冷めちゃうでしょ!」

 

天理が二人に向かってデコピンをした後、自分の席に座った。二人は、あまりの威力だったのか、床を転げ回っていた。銀髪の少女はともかく、茶髪の少女、華鈴はイニシエーターだろう。彼女ですら床を転がりまくっている。そんなに痛いのだろうか?

すると、今まですやすや眠っていた少女が、ビクッと身体を震わせて起きた。

 

「…ごはん…」

 

「えっ?」

 

和人はつい白髪の少女の方を見る。

 

「ああ、あの子…雪音って言うんだけど、普段は夜行性で午前は殆ど起きないのよ。でも、ごはんの時には何故かしっかり目を覚まして、食べ終えて一時たったら寝てしまうのよ…」

 

「えっと…それって、一種の体質…ってやつか?」

 

「う~ん…まぁ、体質と言えば体質なんでしょうけど…」

 

それは後で話すわ。天理はそれだけ言うと和人が密かに狙っていた唐揚げをいただきと言わんばかりに掻っ攫う。

 

「…あっ」

 

「早い者勝ちよ、和人君♪」

 

あむっ。と唐揚げを口の中にしまう天理。仕方ない…まだ残ってたよな?そう思い、和人はお皿の方に箸を伸ばすが、

 

「…あれ?ない…」

 

さっきまでは数個あったのだが、それがもう全て無くなっていた。

辺りを見渡し、見つける。異様にお皿の上に唐揚げが大量に乗っているのを見つけた。

雪音だ。

 

雪音は和人に気づくと、「…よろしくです」と頭を下げてくる。慌てて和人もよろしくと頭を下げる。

すると、和人の目線に気づいたのか、唐揚げの乗ったお皿を持ち上げて、

 

「………食べますか?」

 

後ろに隠しながら、そう聞いてきた。視線からは、食べるなよ~食べるなよ~という怨念みたいなものがこちらに向かってやって来る。

 

「(何?食べますか?と聞いているのに、後ろに隠すって…一種の嫌がらせか?)」

 

和人は苦笑いをしながら、いや…いいよ。大丈夫。と答える。雪音は満足したのか、唐揚げをヒョイヒョイ食べ始めた。

 

「…うん?そう言えば和人。あんたIP序列何番目よ?」

 

華鈴が「因みに私はアリスとペアを組んでいるんだけど、序列は1200番ぐらいよ」と言ってきた。

 

「それは私も気になるわ。あんな前線に居たんだから結構上よね?」

 

全員が気になるのか、箸を止め、和人の問いに耳を傾けていた。

 

「…えっと…すいません。IP序列ってなんですか?」

 

「「「「「…………」」」」」

 

この場の時間がピタッと止まった。正確には和人と唯以外。唯はしまった、という顔になり。和人も和人でしまった、と思った。

和人は先ず民警では無いので、IP序列というのも知らない。だが、よく考えれば、序列という言葉でそれぞれの順番だという意味がわかる。

バレるのが早いか遅いだけの話ではあるが、別に騙そうとはしてなかった。唯にその辺の事情を聞いて、訳を話して民警になるつもりだったのだが…、こうなってしまったらもしかしたら…。

 

「タイム!和人君と唯ちゃん以外こっちへ集合。作戦会議を行うわ」

 

天理は和人と唯以外を集めて作戦会議を開いていた。

 

 

 

作戦会議中

 

「ちょっと、どういうことよ天理!何?和人って民警じゃないの?」

 

「でも…彼、この前の作戦の時に最前線に居たのよ?一般人はあそこに入れないはずよ」

 

「嘘!?最前線に?何で…」

 

「…けど、全くの一般人…って訳じゃなそうです」

 

「……彼からは……何かを感じます」

 

「何よ刹那…厨二病?」

 

「…違います!」

 

「刹那さんの言うことは間違いないわよ…その内説明するわ」

 

「えっ?何か知ってるの?教えなさいよ!」

 

「…華鈴…あの人が来て、何か変わったです?」

 

「ああ、それはな…華鈴が桐ヶ谷君に一目惚―」

 

「違うわよっ!何言ってんのよ馬鹿じゃないの!?」

 

「ほほう…そうですか」

 

「…なるほど」

 

「ちがぁぁぁぁぁあああうっ!」

 

「…本題からずれてるわよ、貴方達」

 

 

 

~一方その頃~

 

「…これ旨いな…唯が作ったのか?」

 

「は、はい…お口に合いましたか?」

 

「ああ、旨いよ」

 

「良かったです」

 

「このままいけば唯は良いお嫁さんになりそうだな…」

 

「わ、私がですか?……えへへ……和人さんの、お嫁さん///」

 

「うん?何か言ったか?」

 

「い、いえ…何も///」

 

 

 

 

作戦会議中

 

「刹那さん。次の民警の試験日っていつだったかわかる?」

 

「……次は、一週間後に新宿でありますね」

 

「よしきた。取り合えずこの一週間は和人君に民警の事を教えるわよ。先ずは民警になってくれないと話が進まないわ」

 

「…けどよ…華鈴も言ったけど、桐ヶ谷君大丈夫なのか?運動してるようには見えないし、何より受かるのか?座学はともかく…実技の方は…」

 

「ああ、それは大丈夫よ。安心して。私が保証する」

 

「…天理さんが保証って…何者ですか、あの人は…」

 

「…そうねぇ…簡単に説明すれば、本気を出したら刹那さんに追い付くレベルかしら?」

 

「……ッ!?……それは、本当ですか?」

 

「本気を出したら追い付くレベルかもって言ったのよ。普段なら刹那さんの方が強いわね…けど…」

 

「けど…何よ」

 

「この前作戦…ある民警ペアが間違って爆弾を放り投げて、大量のガストレアがやって来るってあったわよね?」

 

「ああ、確かにな」

 

「本来なら中間防衛ラインを放棄して、最終防衛ラインで全員で迎え撃つ…って作戦だったけど…最終地点まで来ないで中間地点でガストレア達が絶命してたけど…どうやら和人君らしいの…ガストレアを全滅させたの」

 

「…はぁ?」

 

「……えっ?」

 

「マジかよ…」

 

「……それは」

 

「唯ちゃんが目の前で見てたらしいの…現に私もその中間地点までヘリで行ったから分かるんだけど…凄まじいものだったわ…」

 

「けど…何でまた…」

 

「説明は取り合えず和人君が民警になってからよ…。今は和人君を民警にさせましょ」

 

全員がうんと頷く。

 

「今から『和人君を民警にするわよ作戦』を開始するわ」

 

「……あんたのそのネーミングセンス……どうにかなんないのかしら?」

 

「う、煩いわね…ほっといてよ」

 

これにて作戦会議は終了である。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「…あっ、終わりましたか?随分長かったですね…」

 

「ええ、もう大丈夫よ。和人君、一週間後に新宿で民警になれる試験が行われるわ。だから今から一週間、たっぷり教えてあげるから…受かりなさいよ?」

 

天理の目がもう怖かった。もはや脅しである。

 

「わ、わかった…善処する」

 

和人も民警になれれば言うことは無いのでそれにこしたことはない。

 

「さーてと…一週間、バリバリ鍛えるわよ」

 

「お、お手柔らかに…」

 

 

 

 

 

 

今日から和人の新しい生活が始まる。

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、おかしいところがあったりすればご指摘お願いします_(..)_

それでは次も読んでくれたら嬉しいです。では_(..)_


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プロモーターとイニシエーター

どうも、前の投稿からだいぶ時間がたちまくってますね、本当にすみませんm(__)m

今回は原作第一話となっていますが、すこし、違いますかね…。

楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

それではどうぞ!



あれから一週間、和人と唯は無事にプロモーターと正式なイニシエーターとして、民警になった。

座学の方は問題無かったのだが、実技の方で少し手間取ってしまった。別に出来なかったとか、そういう手間を取るという意味ではなくて、逆に『力を抑える』のに手間を取ったのだ。

 

和人がここ一週間で感じたのは、やたら自分の『身体能力』が上がっていることについてだった。

最初はそんなに違和感を感じなかったのだが、黒髪のポニーテール、琴塚刹那と実技の訓練を行っていた時に気づく。

 

 

 

――自分はここまで身体能力が高かっただろうか?

 

 

 

明らかに前の世界に居たときよりも、身体能力が上がっている。まぁこれも、あの燕尾服の男性が仕掛けたガストレアの左目が原因だろうと結論付けた。

 

和人の左目。ガストレアと同じ赤い眼。まだ、この事は唯と天理しか知らないが、いずれ話さないといけないなと思っている。

 

まぁ、この一週間はどっと疲れた一週間だったかもしれない。民警やガストレアの事とか、実技の事とか、取り敢えずこの世界に必要な知識は手にいれた。

 

 

 

そして、桐ヶ谷和人と黒衣唯は――――。

 

 

 

現在ガストレアを追っている真っ最中だった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「…うん?どうした天理?」

 

和人はつい先日民警になった。その証拠に胸ポケットには、プロモーターとしての免許証の手帳が入れられている。IP序列は十万番台。新人の序列としては適切な序列だそうだ。大手の民警会社のプロモーターとなれば、千番台ぐらいなら簡単になれる。紅民間警備会社は……、まぁお世辞にも名の知れた会社ではない。だが、それでもアリス、華鈴ペアは千番台に属すし、刹那と雪音のペアは三桁台に入る。

 

実際和人はそれが、凄いのか凄くないのかはよく分からないのだが、自分が十万番台ともなれば、千番や三桁の序列は凄い方なのだな、と理解する。

だが、そんな強いペアが二組もいるのになんで、儲かってないんだろうかと、不思議に思ってしまう。

 

「喜びなさい和人君。依頼が来たわよ依頼!ガストレアを討伐する依頼」

 

「…この会社にか?」

 

和人はここ紅民間警備会社が、あまりにも名が知られていない事を知っているので、直接ここに依頼が来ていることに驚いている。

 

「……違うわよ。この辺一体の民警会社によ…。直接依頼が来るなんてほとんどあるわけ無いじゃない」

 

その言葉にやっぱりかと、お茶を飲む和人と、苦笑いをしている唯がいた。

そして、

 

「……そうよね。ここに直接依頼なんて来ないわよね…。はぁ……」

 

自分で言って自分で自滅している天理が机に突っ伏したまま動かない。しかし、すぐにいつもの調子に戻ると、バッと和人に指を指す。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。…よくないけど。…うっうん。それよりも、今ガストレアのステージⅠが、市街地を逃走中のことよ、幸い怪我人は出てないようだけど、このまま放置してたらヤバいわ。今すぐ、現場へ急行してちょうだい。そして報酬金をガッポリ貰ってくるのよ!」

 

「わかったよ…。てか、俺達だけでいいのか?アリスや刹那達は?」

 

「今日は皆学校に行ってるわ。だから今は貴方達が頼りよ。それに今回が民警になってからの初陣じゃないの、期待してるわよ?」

 

天理の目には期待二割、金八割。

 

「…はぁ…わかったよ。というか天理は学校行かなくていいのか?」

 

「依頼が入ってきたから今日は行かなかったのよ。別に行こうが行くまいが関係なしね」

 

天理はTVのリモコンを取りだしてTVをつけると、丁度今、天理と話していた事がTVでも報道されていた。

 

「じゃあ行ってくるよ。…っても、あまり期待しないでくれよ。多分他の民警が狩ってると思うから」

 

「バイク使えばいいじゃないの?ここからはそう遠くないし、すぐ着くわよ」

 

「…ああ…なるほど」

 

和人はポンと手を叩くとバイクがあったなと思い出す。

 

「なんのために修理したの?」

 

「…すっかり忘れてた。まぁ、取り敢えず行ってくるよ。唯、行こうか」

 

「はい」

 

和人はバイクのヘルメットを二つ取ると、扉を開け、階段を下りていく。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

そして現在。

 

和人は後ろに唯を乗せバイクでガストレアを追跡していた。まだ、良いこと(?)にガストレアの討伐報告は報告は上がっていない。

 

「…大体この辺り…だよな…?」

 

バイク走らせること数十分。未だにガストレアの影も形も見当たらない。バイクを止め、辺りを確認していると、後ろから何やら大きな声が聞こえてくる。

 

「…延珠ぅぅぅぅっ!!先に行ってるぞぉぉぉぉぉお!!」

 

「ま、待つのだ!連太郎ぉぉぉぉぉぉお!!」

 

ビュン!!

 

と自転車の風を切る音が和人の目の前を横切った。黒い制服を着ていたから学生かな?と思ったが、その後ろから朱色のツインテールの子がトテトテと走っていく。

 

「…何なんだ?」

 

「…さぁ?」

 

唯と二人で顔を見合わせ、首を傾げると、目の前を通っていた女の子は何処にもいなくなっていた。

 

「…えっ?」

 

「…あれ?」

 

二人はガストレアに出会う前に、珍獣にでも会ったような気がしていた。

 

「俺達も急ごうか」

 

「…は、はい」

 

エンジンをかけ直し、バイクを走らせる。

 

 

 

 

 

 

すると、

 

「…和人さん……左横の方……。来ますっ!」

 

和人はバイクを瞬時に止め、ホルスターから拳銃を取りだす。

 

そして、

 

「ウガァァァアアアアアッ!!」

 

左上から黒い影が落ちてきた。

 

「…ガストレア…。ステージⅠか」

 

和人は即座に拳銃をガストレアに向けると二、三発ガストレアに向けて発砲する。ガストレアはそれを避けると、唯に眼をつけたのか、唯に向かって突進してくる。

 

「……っ」

 

唯はそれを難なく避けると、持っていた小型の日本刀を取りだし、背中の部分を斬りつける。

 

グシャっという肉が斬れる音が和人の耳を不快にさせるが構わず発砲を続け、弾丸がガストレアに命中する。

普通の弾丸ならガストレアの体に傷をつけることは出来ないが、和人や唯、民警が持っている武器のほとんどはバラニウムで出来ている。バラニウムはガストレアが嫌う金属で、ステージⅠなら数発も喰らえば只じゃすまないのだが、このガストレアはしぶとい方なのか、ヨロヨロとよろめきながらも力を振り絞り、逃走を試みる。

 

ガストレアは蜘蛛のような形をしており、糸を吐き出しながら、民家の屋根を飛び越えていく。

 

「…逃がすかっ」

 

和人はバイクにまたがり、エンジンをかけ、ガストレアを追跡する。唯はガストレアと同じように、屋根に上がりイニシエーター特有の脚力で追う。

やはり手負いが効いたのか、唯の脚力には勝てず、途中で追い付かれ、右側の脚二本を切断され、道路の方に蹴落とされる。

 

そして、和人は待ってましたと言わんばかりに右拳をガストレアの中心に叩きつける。

 

ドンっと、鈍い音がガストレアから聞こえ、そのまま破裂する。

 

緑色の体液をばらまきながら、絶命するガストレア。和人は右拳の感覚を確かめながら、

 

「…やっぱり、とんでもないな…」

 

自分の左目が赤くなっているのを感じる。最初よりはコントロールが出来るようになったものも、やはり、まだ、危ないところがあるので、常に眼帯は着用している。

 

「ふぅ…。このガストレアですよね?対象のガストレアは」

 

屋根から下りてきた唯がヒュンヒュンと、日本刀に付いている血を払い落とすと、ガストレアに近づき、対象のガストレアと照らし合わせる。

 

「多分な。蜘蛛型だし、こいつであってるだろ」

 

和人はポケットから携帯を取りだし、天理の携帯に繋げる。

 

プルプルと着信音が鳴った後、天理が出たのだが、

 

『和人くんっ!大丈夫っ!?怪我なんかしてない!?』

 

なんだか慌てた様子で声を上げていた。そんなに心配だったのだろうか?とも思ったのだが、どうにも様子が違ったので、どういうことか聞いてみた。

 

「…燕尾服の男?」

 

『そうよ。さっきニュースでやってたんだけど、警官二人を近くの民家で殺害したそうよ。…偶々他の民警ペアが居合わせて、追い払ったらしいけど…。そっちは大丈夫?』

 

燕尾服の男。和人は少し前の記憶を思い出す。あの森に居合わせた、シルクハットと燕尾服、仮面を被った男、間違いない。

 

「……あいつ…っ!」

 

和人はその男の居場所を天理に聞いたのだが、もう何処へ行ってしまったのか不明だそうだ。

天理もあの事は知っているので、和人の事を心配しているのだが、

 

「大丈夫。こっちには来てない」

 

和人は怒りを抑えつつも、拳をグッと握りしめる。

 

天理との電話を切った後、警官を呼び、ガストレアの後始末を任せる。報酬は後日、紅民間警備会社に届くそうだ。

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、今日は野菜が安かったな…」

 

和人は思い出したかのように財布を開き、中身を確認する。

中身が充分に暖まっているので、そのままスーパーへ向かおうとする和人。

 

そこで和人と唯は先程の黒い制服の少年と朱色のツインテールの女の子とすれ違ったのだが、気づくことなく、野菜の値段に感心しつつ、自分達の家へと帰るのであった。

 

 

 




どうだったでしょうか?

感想、誤字脱字がありましたらご指摘お願いします。

次も読んでくれたら嬉しいですm(__)m

それではm(__)m


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