ブラック・ブレット【神を喰らう者】 (黒藤優雨)
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第一話【出会い】

今回、この作品が第一号です。
色々と至らない点が有ると思いますので、
「これ、ダメだな」などと思った方はブラウザバックを
「これ良いんじゃない?」などと思った方は、是非、ご意見、不備な点などのコメントを受け付けます。



「…ハッ……!」

 

闇に染まった地表を満月が照らす中で、黒藤 夜鈴の脳は起動された。

 

「ここは……森…?」

 

上半身を起こして、周りを見回すと、至る所に地面から木が伸びていた。

 

「…ぐッ……」

 

夜鈴は立ち上がったと同時に耳鳴りの様な感覚と頭痛が頭を襲った。

脳内に今居る場所とは違う場所の映像が再生される。

目の前には、狼のような顔をしたアラガミが三体、背後には巨大な虎が夜鈴を挟むように陣取っている。計四匹が、同時に飛びかかるが、夜鈴は神機を用いてこれを殲滅した。そして、仲間と合流する為に自分は合流場所へ向かう途中、何かの衝撃を受け、そこで映像が途切れた。

 

「ナナ、ギル、シエル、誰か応答を頼む…」

 

通信機が壊れてるのか、砂嵐のようなノイズしか聞こえなかった。

 

「……神機は…」

 

仲間への通信を止め、自分の"神機"を探す。

幸運な事に自分の寝ていた近くに落ちていた。膝ぐらいの草むらから自分の背丈程の無骨で真っ黒の剣を取り出し、腕輪と神機を接続する。

 

「神機との接続…問題なし。銃身への変形…問題なし。シールド…問題なし」

 

"神機"に内蔵されている全てのパーツの機動を確認し、他の装備品の確認へ移る。

 

「アイテムはそのまま…か…さて、どこに……」

 

装備品の確認を終え、歩き出そうとした瞬間、後方に何かの気配を察知し、前方の地面に飛び込み、前転し、上体を起こす。そして、今まで自分が立っていた地面を"何か"が抉った。

 

「(アラガミ?いや、でもなんか違う。)」

 

地面を抉った"何か"が土煙りの中から赤い二つの光を発しながら出てくる。黒と黄色のツートンカラー、二本の鎌の形をした腕と長い身体に六本の細い脚をしていた。

 

「新種?面白い……」

 

女は不敵に口を弧に描き、"神機"を腰に構える。

だが、女を囲う様に気配が四つ増えた。

 

「フフッ…そう来ねぇと、な!」

 

 

夜鈴の声を号令にして、夜鈴と五体の闘争が始まる。蒼く澄んだ瞳には、心の底から闘争の意思が見えた。

 

 

〜次の日〜

 

 

昼前の朝に自転車を爆走させる高校の制服を着た黒髪の男、里見 蓮太郎はとあるマンションの前で自転車をドリフトによって止める。

 

「ここか…!」

 

〜マンション入り口〜

 

「…で、お前が今回の俺たちの応援だってぇのか?」

 

「ああそうだよ、里見 蓮太郎。民警だ。ライセンスもあんよ」

 

木更さんの連絡を受けて現場のマンションにいた。蓮太郎は、多田島警部にライセンスを見せる。

 

「けッこんな不幸面な高校生の力借りなきゃならんとは、世も末だなぁ全くよ」

 

ライセンスをひったくる。

 

「なぁ仕事の話しをしねぇか?」

 

「……こっちだ」

 

多田島警部に促され、エレベーターにのる。

 

「被害者は、マンション四階の一番端に住んでいる。男性一人暮らしだ」

 

「下の階の住人が、血の雨漏りがするってんで通報してきた」

 

「そういや、お前とこのイニシエーターはどうした?」

 

「え?」

 

「お前らは、二人一組だろ?片方どうした?」

 

「あ、いや、こんぐらいの仕事、俺だけで充分だと思ったんだよ…」

 

そうこうしている間に、現場の部屋のドアに付く。

 

多田島警部は突入隊の格好をした部下に話し掛けた。

 

「状況はどうだ?」

 

「ハッ部隊員のニ名が窓から突入…連絡が途絶えました……」

 

多田島警部が、部下の胸ぐらを掴んで怒鳴る。

 

「なぜ突入した!!あれほど、勝手に動くなと言ったろ!!」

 

「だって、民警に手柄を取られたくなかったんですよ!!」

 

蓮太郎は、腰から拳銃を抜き出し、初弾を装填する。

 

「多田島警部どいてくれ、俺が行く。」

 

そう言ってドアの前に立ち、深呼吸する。

 

準備を整え、ドアを蹴破って部屋に突入した。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

五体の新種と思われるアラガミとの闘争の後、巨大な建築物を発見し、その先へ進んだ。

夜鈴の手には、この街に入る前に拾った大きい長方形のアタッシュケースが握られていた。中には神機が入っている。

 

「(なんだったんだ?あの新種のアラガミ…)」

 

捕食してもコアが取れなかった。それに、死骸が消滅しなかっし、そのまま残ってたから"喰った"けど、職員に聞けば分かるだろうか。

 

「(とにかく、ここの職員を探そう。そうすれば、保護もしてくれるだろうし)」

 

「てめぇ目障りなんだよ!!」

 

「?」

 

広く開けた場所に出て、何かを罵るような男の声が聞こえた。何事かと女は声の発生源へ目線を向けると、広場の中央に噴水が見えた。そこに人混みが出来ていて、汚れてボロボロの布を纏った少女が暴行を受けていた。

 

「このガストレアが!」

 

ガストレア?あの女の子の事か?

 

その時、人集りの中に居た茶髪の男が女の子を蹴り飛ばした。その衝撃で、女の子は噴水の台に背中が激突する。

 

「…ッ……!?」

 

夜鈴は咄嗟に女の子の下へ走り出し、男の目の前に立ちはだかる。

 

「あ?なんだ、テメェは?」

 

「只の通行人だ。なぜ、この子に暴行をする」

 

「テメェ!そいつの"目"をよく見てみろよ!」

 

「…目?」

 

男は女の子に向かって指を指す。

夜鈴は肩越しに目線を向けて、女の子の目を確認した。赤目だった。

 

「それだけ?」

 

「ああ、そうだよ!赤目は"呪われた子供たち"の証拠なんだよ!!そいつを殺さなきゃいけないんだよ!!」

 

「そうだ!ガストレアをぶっ殺せぇー!!」

 

「"赤目"を許すなぁー!!」

 

女の子の周りに集まっていた人達も、男に便乗して口々に罵声を浴びせてくる。

大半は女の子に向けてのものだった。

そして、聞こえてくる言葉も決まっていた。『ガストレア』『赤目』『呪われた子供たち』

 

つまらない…

 

「ほら、分かっただろ?さっさとそこを…」

 

そんな、つまらない理由で罪もないこの子を殺す?

 

「だまれ」

 

無意識にそんな言葉を発していた。

 

夜鈴から発せられた言葉は、それまで聞いていた声とは違い重く、冷たく、得体の知れない感情が男と周りに居た人達を一瞬にして凍りつかせた。

 

「て、テメェ!ガストレアを…」

 

「もう一回言ってみろ」

 

「ああ、言ってやr…」

 

ドンッ!!

 

いつの間にか、男を殴っていた。無意識に、しかし確実に、胸に直撃を食らった男は、立っていた場所から3メートル先に頭から床に激突、そこから2メートル数回転し、、男は倒れたまま動かなくなった。

夜鈴は、蒼く澄んだ双眸を人集りへと向け、次の対象を探す。

 

「さぁ次はどいつだ?」

 

人集りに向けられた蒼い双眸からは、戦意を削ぐには十分過ぎる程の殺意が込められていた。

 

彼女を取り巻いていた人混みは、溶けるようにして崩れていった。

 

「腰抜けが…」

 

逃げていった人達に向かって台詞を吐き捨て、女の子の方へ歩み寄ってしゃがんだ。

 

「大丈夫か?」

 

「あ…はい、大丈夫です…」

 

「なんだってあんな事をされるんだ?」

 

女の子は俯きながら、答えた。

 

「私が……『呪われた子供たち』だからです……」

 

また、この単語だ。意味はさっぱりだが、差別用語には違いないと確信する。

 

周りから視線を感じた。

恐怖、怒り、といった感情が込められていると直ぐに分かった。

女の子も視線を感じたのか身体を小刻みに震わせている。早急にここから立ち去ろう。

 

「立てるか?」

 

「え、あ、はい…痛ッ……」

 

苦痛を聞いて見やると、女の子の脚から出血していた。足下にガラス片がある。立った時に踏んだなだろう。

 

「ちょっと、我慢してくれ」

 

「え、ちょっ……?!」

 

有無を言わせず女の子を担いで、ケースを持って広場から立ち去る。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

広場を抜け路地に入った先に公園があった。夜鈴は女の子を椅子に座らせ、消毒を済ませた傷口に包帯を巻いていく。

 

「ありがと…ございます……」

 

治療を終えると、女の子は頬を赤らめながら俯き加減に礼を述べてくる。

 

「気にするな。オレは黒藤 夜鈴(ヤスズ)お前は?」

 

「……不来方 優雨(こずかた ゆう)です…」

 

「ユウ…だな?家はどこだ、送ってやる」

 

「……」

 

ユウは俯いて黙ってしまった。ユウの顔は、暗く、目には溢れんばかりに涙が溜まっていた。心配になって、膝立ちになって視線を合わせると、椅子に座っていたユウが胸に飛び込んでくる。

 

「ひっぐ…ひっぐ…クスン…」

 

突然のことに驚いたが、泣きじゃくっているユウにかける言葉は見つからず、落ち着かせようと左腕で抱き、右手で栗色の頭を撫でた。

 

〜数分後〜

 

「落ち着いたか?」

 

「はい…すみませんでした…いきなりあんなことを……」

 

数分の間、自分の肩に顔を押し付けて泣いていたユウの精神状態は落ち着きを取り戻し、さっき買ってきた(自販機を殴ったら出てきた)缶ジュースを握っている。

 

「気にするな。で、これからどうする?」

 

やはり、黙ってしまった。格好から見る限り、孤児なのだろう。着ている服ががボロ布一枚とは、ここのお偉方はどういう神経をしているのだろうか。考えるだけでも、腹が立つ。

 

「あ、あの、付いて行っちゃダメですか?」

 

「なに?」

 

突然、そんな事を聞かれる。

 

「親や親戚はいないのか?」

 

オレの質問に、ユウはコクリと首を縦に折る。肯定という意味だろう。

 

「別に構わないが、大丈夫なのか?」

 

「はい。もう、行く所なんてありませんから…」

 

「……」

 

ユウの言葉が、深く胸に突き刺さった。見た目からして、十歳程の女の子がその短い人生で何を体験したか分からないが、何かがオレと同じだと思った。

 

「分かった。連れて行こう」

 

「本当ですか!?」

 

初めてユウが笑った。伏し目がちだった目はパッチリと開き、口元も柔らかく、なんて言ったら良いのだろう。とにかく、笑っていた。

 




最後まで読んで頂いた方、ありがとうございます。
次の投稿は来月以降になると思いますのでそれでは皆様、また次回お願い致します。


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第二話【戦い】

なんとか、一月中に投稿する事が出来ました。
今回、グダグダな所が有りますがご了承くださいm(_ _)m




「蓮太郎のやつめぇ!急いでいたとはいえ、ふぃあんせである妾を振り落とし放置するとわ!」

 

左右に結った長く赤い髪をはためかせながら走る少女。藍原 延珠は蓮太郎に自転車から落とされた事を愚痴りながらマンションへ向かっていた。

 

「お嬢ちゃん!」

 

「なんだ!妾は急いでいるのだ!……ッ!?」

 

突然声を掛けられて脚を止める。声の発生源へと向いた瞬間、息を呑んだ。

声を掛けてきた男性は全身血まみれ、腹部は切り裂かれたように無くなっていた。普通の人間なら既に、死んでいてもおかしくないぐらいに、だ。

 

「お嬢ちゃん。道を聞きたいんだけど…」

 

「お主、自分の身体がどうなってるのか分からんのか?」

 

「え?」

 

男性は驚いた声を上げ、腹部に当てていた血で濡れた手を見つめると、思い出したかのように口を開いた。

 

「そ、そうだ…何か音がすると思って窓を開けたら…上からガストレアが…ッ!!」

 

「そうか…残念だが、お主はもう被害者から加害者になってしまう。何か言い残す事はないか?」

 

男性の身体を見る限り、出血死してもおかしくない。それで動けているという事は、ガストレアウイルスの体内侵食率が確実に50%を超えているだろう。最後の言葉でも聞こうと問うが、男性は急に腹部を押さえて、苦しみだす。

 

「た、たすけ…ッ!」

 

男性は助けを求めたが、こうなってしまっては助けようが無い。藍原 延珠はじっと男性がガストレアになるところしか見れなかった。

男性の身体を内側から破るように出てきた蜘蛛の姿をしたガストレアがこちらに狙いを定め、糸の塊を吐き出してくる。

 

「な、なんだ、これわぁ!?ネバネバするぞぉ!」

 

こちらが動けなくなったのを確認したのか、ガストレアが前脚で攻撃してくる。

咄嗟に両腕で防御したが、ガストレアの攻撃をに喰らってしまい後ろに建ててあった木の壁に吹き飛ばされてしまう。

 

ーーーーーーーーーー

 

感染源ガストレアと感染者を探していた蓮太郎は、何かがぶつかったような音を聞きつけ、路地に出る。

 

「居た!モデル・スパイダー。ステージⅠを確認、これより戦闘に入る!」

 

蓮太郎がXD拳銃をガストレアに向けて撃とうとしたら、多田島警部が拳銃を引き抜き、銃弾を二発撃ちこむ。

警部の拳銃から発射された銃弾は、ガストレアの腹部に命中した。

再度、銃撃をしようとした警部に体当たりをして銃撃を阻止する。

 

「ッ!?なにしやがる!」

 

「ガストレアに普通の銃弾は効果ねぇんだよ!興奮させるだけだ」

 

見れば、ガストレアの腹部に命中した銃弾の傷が一瞬にして再生された。

ガストレアに照準を合わせ、銃弾を一発放つ。銃弾は頭に命中し、ガストレアが悲鳴を上げた。

 

「効いてる…」

 

多田島警部は銃弾を食らって苦しむガストレアを見て、呆然としている。そして、蓮太郎の撃つ銃弾の正体に気ずく。

 

「黒い弾丸…バラニウムか!」

 

「ああ。ガストレア再生を阻害する効果を持つ金属だ。そして、こいつは単因子ハエトリグモのガストレアだ!」

 

何発か撃ち続け、予備の弾倉も使ったが、ガストレアはまだ倒れていない。

 

「くッ弾が無い!」

 

ガストレアが蓮太郎を攻撃しようと前脚を振り上げてくる。

 

「(マズイ!)」

 

「たぁッ!」

 

気合いを込めた声と同時に振り上げられた脚が吹き飛ぶ。

 

「延珠!」

 

ガストレアの脚を切った人物を確認し、驚きの声を上げる。

脚を切った延珠は、地面に着地し、流れるような動作で再びガストレアに向かって跳躍する。

 

「てぇやぁぁ!!」

 

隙が出来たガストレアを蹴りつけ、大きい図体を吹き飛ばす。

 

「大丈夫か!?蓮太郎!」

 

「ああ、問題ない。延珠は?」

 

「妾も大丈夫だ。だが、奴は少し硬いぞ…」

 

延珠へ向けていた視線を奥へ向けると、ガストレアは立ち上がっていた。

 

あのダメージを負ってもまだ戦えるとは、タフなヤツだ。

 

「硬そうだな。やれるか?」

 

「無論だ。糸にさえ気をつければ問題ない!」

 

延珠がガストレアに突撃しようと構えた瞬間だった。

 

バァンッバァンッバァンッ!

 

三発の銃声が鳴り響き、右から直撃を受けたガストレアは一瞬よろけたが脚で踏ん張り銃撃に耐える。

 

「なんだ?」

 

何が起こったのか理解が出来ず、その場に居た全員が呆然としてしまう。

 

そして、右から"何か"が飛び出してきて、ガストレアの脚を一本斬る。切断された脚は吹き飛んで延珠の前に落ちてきた。

 

「ひょえ!?」

 

延珠が素っ頓狂な声を上げ、後ずさる。

 

「なんだ…?」

 

出てきたのは、人だった。身なりは全身真っ黒。だが、問題なのはそいつの使ってる武器にあった。

 

「あいつ、随分バカデケェ剣振り回してるが……知り合いか?」

 

「いや、知らねぇよ。見たこともない」

 

そう。警部の言う通り、2メートルはあろう黒い剣を軽々と振り回している。

脚を斬った人はガストレアの反対側に回り、また脚を斬る。隙ができた腹に向かって切っ先を突き刺し、頭にかけて切り込みを入れる。

ガストレアが自分の身体に傷をつけた犯人に糸を吐こうとしたが、それはその犯人の振り下ろした剣によって止められてしまう。

 

「終わったぞ…」

 

延珠が戦闘の終了を口にし、黒い人がこちらに近づいてきて容姿がはっきりと見てとれた。

服は完全的に漆黒で染まっており、服に負けないくらいの黒い髪は頭の後ろで結われている。いわゆる、ポニーテールというやつだ。肌は透き通ったように白い。ちなみに女だった。

 

「おい」

 

「な、なんだ?」

 

怒っているのだろうか、眠たそうな蒼い眼光から妙な殺気を感じる。

 

「ここの警備隊か何かか?」

 

「あ、ああ。俺は民間警備会社の里見 蓮太郎だ。お前は?」

 

「フェンリル極致化技術開発局所属ブラッド隊の黒藤 夜鈴だ」

 

「( フェンリル?ブラッド?聞いたことない名前だ。)」

 

「外から来たのか?」

 

「外……まぁそうだな。君は?」

 

「妾は藍原 延珠!蓮太郎のイニシエーターにして相棒のふぃあんせである!!」

 

と、言いながら身体に抱きついてくる。

 

「最後のはいらんだろ」

 

いつもの事なので、適当にあしらって頭をボリボリと掻く。

 

「そう言えば、スーパーに急いでいたのではないのか?」

 

「あ、そうだった!!」

 

延珠の言葉によって今日のミッションを思い出し、脱兎の如く走り出す。延珠もその後に付いてくる。

 

「お、おい!どこ行くんだー!」

 

突然走り出した俺たちに向かって多田島警部が大声を上げてくる。

 

「今日はもやしの特売なんだよ!急がねーと売り切れちまう!」

 

そう言い残し、角を曲がってスーパーへと急ぐ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ご協力感謝します」

 

「どうも」

 

警官とのやり取りを終え、椅子に座っているユウの下へ行く。

 

顔を上げこちらに気づいたユウが、立ち上がって歩いて来る。

 

「どうでした?」

 

「ああ、なんかこんなの貰った。」

 

制服のポケットから茶色い封筒を取り出して見せる。なんか妙に厚い。

 

「それ、なんですか?」

 

「報酬だそうだ、ここではこういった感じなのか……?」

 

極東とはまた違った配給の仕方だと、思いながら封筒をポケットに戻す。

 

「さて、行くか」

 

「え、ど、どこへ?」

 

「ちょっと、目的地」

 

用を済ませた警察署を後にする。

 

ーーーーーーーーーー

 

「で、何か言い残すことはあるかしら?里見君。」

 

今、目の前に椅子に座って腕組みをしている制服を着た長い黒髪が美しいこの女性は、この天童民間警備会社を営んでいる天童 木更である。

 

「過ぎたことはしょうがねーだろ」

 

「こんの…おバカ!」

 

身を乗り出して繰り出されたパンチを頭を下げて回避する。

 

「なんで、避けるのよ!腹立たしいわね!」

 

「無茶言わないでくれよ!今回は、イレギュラーがあって……」

 

「他の民警に手柄を盗られたことかしら?」

 

「知ってたのか…」

 

変な汗をかきながら、言おうとした事を先に言われてしまい。さらに、汗をかいてしまう。

 

「どうするの?今月ピンチなのよ?これもそれも、里見君が甲斐性なしの所為だわ……」

 

「悪かったって…」

 

「いっその事、里見君が天童民間警備会社此処にありー!って燃えるか爆発してきなさい!!」

 

「それじゃあ、ただのテロだろ…」

 

人差し指を向けてくる木更さんに呆れながらもツッコミを入れていく。

 

グゥゥという音と共に木更さんが腹を押さえた。

 

「もう、ヤダ。ビフテキ……食べたい……」

 

「俺も食べたいよ…」

 

二人して落ち込み、その場の空気が淀んだように重かった。と、それを破ったのはコンコンと事務所の扉を叩く音だった。

 

「ん?誰かしら…どうぞー」

 

木更さんが返事をし、扉を叩いたと思わしき人物が扉を開けて入室してくる。その人物は……

 

「あんた、さっきの!?」

 




最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
ご意見・感想ありましたら、書き込みを下さい。
出来る限り反映しますのでお願いします。

次回の投稿は、来月になります。
※オリジナル要素をどんどん含んでいきます。


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第三話【決意 前編】

投稿期間を相当過ぎてしまった……
けして、GERBに没頭していた訳ではない。

今回は、少し短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。


「あんた、さっきの!?」

 

「よう。また会ったな」

 

扉を開けて入ってきたのは、さっきの依頼でガストレアを殺った女だった。

 

「里見くん、知り合い?」

 

「例の民警だよ、木更さん…」

 

「黒藤 夜鈴だ。よろしく」

 

木更さんの所まで歩いて、黒い腕輪が嵌められた右手を差し出した。

 

「ど、どうも。天童 木更です……」

 

困惑しながらも、木更は出された手を握る。と、木更は小さな存在に気が付いた。

 

「その子は、貴女のイニシエーターかしら?」

 

木更さんが向ける視線の先には、ボロ布を頭まで被った延寿と同い年くらいの女の子が、夜鈴の後ろに隠れるように身体を隠してくっついていた。

 

「イニシエーター?なんだ、それは」

 

「あんた、民警だろ?あんたのイニシエーターじゃないのか?」

 

「いや、オレは民警じゃないが……ユウはイニシエーターってやつなのか?」

 

夜鈴がユウと呼んだボロ布の子に目線を向ける。ユウは首をふるふると横に動かしている。違うって事だろう。

 

「?……まぁいいわ。取り敢えず、こちらへどうぞ」

 

木更がソファに座るよう促し、蓮太郎と木更も向かい側に座る。

 

「まず、貴女は何者なの?民警じゃないって言ってたけど…」

 

「フェンリル極致化技術開発局のブラッドだ。聞いたことないのか?」

 

「フェンリル…狼のことか?」

 

「まぁそうだな。そういえば、お前、拳銃使ってたよな?神機使いは居ないのか?」

 

「まぁな。てか、神機使い?」

 

「これだよ。この腕輪」

 

腕輪を見せてくるが、言っている意味が分からなかった。

 

「どうなってんだ……?」

 

夜鈴が右肘を左手に乗せ、顎に親指と人差し指をつけて考え込んでしまう。

 

木更さんが蓮太郎の耳に顔を近づけ、小さく耳打ちしてきた。

 

「ねぇ里見くん。この人本当に何者なの?言ってることが、よく分からないんだけど……」

 

「それは、俺も同じだよ木更さん」

 

「それに、彼女の挙動に隙が無いわ。相当の実力者と思える」

 

「ああ、それは間違い無い。奴の戦いを見たけど、動きに無駄が無かった。てか、木更さん奴の情報とか分からないか?」

 

「調べてみたわよ。所属している会社どころか性別も名前も分からなかったの。少なくとも、東京エリアの人間じゃないわね」

 

木更の情報を聞いて、警戒の色を濃くしながら夜鈴に目を向ける。夜鈴は体勢を変えずに深く考え込んでいるようだ。

 

そして、何か考え至ったのか、落としていた視線を上げ、木更に口を開いてくる。

 

「なぁ。今って、2074年だよな?」

 

そんな事を聞かれ、木更と蓮太郎は口籠った後、木更が夜鈴の問いに答えた。

 

「いえ、今は2031年だけど……何故?」

 

「2031年…」

 

夜鈴がキッと目を尖らせ、黙り込んでしまう。

 

「……ねぇ貴女……」

 

ピピピッ

 

「あ、ちょっと、失礼するわ」

 

夜鈴は答えず、黙ったまま動かずにいた。木更は、音の発信源である社長机の上にあるノートパソコンを開き、キーを打ち出す。

 

キーを打っていた手を止め、蓮太郎に叫ぶ。

 

「里見くん、依頼がきたわ!場所は、さっきのマンションの近くよ!!」

 

(またか、もし感染源ならさっさと片付けなーと!)

 

「分かった!!悪い、ちょっと空け……あれ?」

 

向かい側のソファに夜鈴の姿は無く、優雨の姿だけが残されていた。

 

「おい、あいつは!?」

 

「え、えと、夜鈴さんなら今……」

 

ユウの指差す先には、開け放たれたドアが力無く動いていた。どうやら、一足先に出たようだ。

 

「早ッ!?」

 

「里見くん、追って!!」

 

「クソッ!」

 

木更の号令の下、蓮太郎は脱兎の如く飛び出す。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

(一日に二度もアラガミが入ってくるとは、ここのアラガミ防壁どうなってるんだ?あ、そういや、防壁無いじゃん)

 

夜鈴はコンクリートで舗装された地面を滑走していて、そんな事に気付く。

 

(だが、もしオレの考えが合っているとしたら、相当やばい事になってる。でも、情報量に欠けるな)

 

「ああああぁぁあ!!」

 

もう少し情報を集めようと考えていると、男の悲鳴が聞こえてくる。

 

「あっちか…?」

 

声の聞こえた大きさからして、結構近い。道を左に曲がって対象を見つける。

 

「あいつか……」

 

3、4メートルはあるだろう大きい胴体に、八本の長い脚、黄色と黒の体毛を生やしていた。いわゆる蜘蛛だ。

 

(さっきの同じタイプか……取り敢えず)

 

夜鈴は走りながらケースのロックを外し、開いた隙間から手を入れて神機の柄を握る。そのままケースごと神機を上空へ振り上げ、ケースを取り払う。

 

(走ってじゃ間に合わない、か)

 

神機を銃形態に変更する。今にも青い服の男を喰おうとしている"蜘蛛"の口に照準を合わせ、引き金を引く。

 

「キッシャァァア!!」

 

火炎属性の弾丸は赤い線を描いて"蜘蛛"の口に着弾し、"蜘蛛"は甲高い悲鳴を上げ後退する。

 

「下がれ」

 

男の横まで来てそう言うが、男は腰を抜かしたまま動かない。

 

「え……?」

 

「早くしろ」

 

「は、はい!」

 

銃口を"蜘蛛"に向けながら、催促する。こちらの意図が分かったらしく男は、立ち上がって後ろへ走り去って行く。

 

「さて、始めようか」

 

夜鈴は口を三日月に歪ませていた。戦闘と闘争、両方を楽しむ為に……。

 

 




今回の回は、短いので前編とさせていただきました。
中編か後編か分かりませんが、お楽しみに〜


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第三話【決意 中編】

会話って難しいなぁ
と、考えていたらこんな時間・日付になってしまった。

今回は、長めに作ってみました。どうぞ〜


「こいつ……」

 

左右を石で作られた壁が並べられており、その間にある路地で夜鈴は"蜘蛛"と戦いを繰り広げていた。

 

(やはり、そうだ)

 

"蜘蛛"が前脚を振り下ろしてくる。それを、装甲を展開して防ぎ、そして、確信した。

 

「やっぱり、弱い」

 

「キシャァァア!」

 

弱いと言った事を怒ったように不愉快な鳴き声を上げ、もう片方の前脚も振り下ろして装甲を押してくる。

 

(コンゴウ以下、下手したら、オウガテイルより弱いか)

 

脚に力を溜めて、"蜘蛛"の脚を押し返す。

 

押し返され、顔がガラ空きになったところに右から半円を描くように斬り込む。

 

「浅いか……」

 

奴の眼を二つ程潰したが、斬り込みは浅かった。

 

怒りに任せて右前脚を横薙ぎに振ってくる。それを、ステップで後方に避け、距離を取る。

 

(奴の顔に突き刺して、インパルスエッジで終いだな…)

 

そんな事を考えていると、"蜘蛛"が恐るべき速さで距離を詰めてくる。これには、夜鈴も身体が一瞬固まってしまった。

 

(しまっ……!?)

 

慌てて装甲を展開しようとしたが、間に合わなく、"蜘蛛"の体当たりが直撃してしまう。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「向こうか!」

 

蓮太郎は爆発でも起きたかのような物凄い音を察知し、音源の場所へ走って行く。

 

「居た……!!」

 

戦闘がもう既に始まっていたようだ。左側の壁が崩れて砂煙を巻き上げている。

 

「クソッ!!」

 

蓮太郎は腰からXD拳銃を引き抜き、弾倉一本を撃ち尽くす。

 

「キシャアア!!」

 

ガストレアは悲鳴を上げるが、倒すには至らなかった。XD拳銃に弾を再装填し、再びガストレアに銃口を向ける。

 

だが、蓮太郎は引き金を引かなかった。否、引けなかった。横から黒い剣がガストレアの首に突き刺さってきたのだから。

 

「へぇ良い動きするじゃねーか」

 

「グガゥァァアァ!?」

 

ガストレアが悲鳴を上げるが、夜鈴は構わず深く、深く、剣を押し込んでいく。押し込む度に、ガストレアの首から紫色の血液が、破損した水道管のように吹き出る。

 

「喰らいな……」

 

いきなり爆発した。ガストレアの頭が飛んでくる。身体の方は、頭を失ったことにより、その場に倒れた。

 

ガストレアの沈黙を確認し、夜鈴は剣を左から右へと振り、血を振り落としている。

 

その一瞬の出来事に蓮太郎は、恐怖を感じた。夜鈴の顔が、事務所で見た眠そうな表情ではなく、目は吊りあがり、口は三日月を描いたような形をしていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ええ……そうなの……ありがとう、延珠ちゃん」

 

そう言って、木更は電話を切り、優雨の向かい側のソファに座る。

 

「貴女、お名前は?」

 

その頃、夜鈴と蓮太郎が出て行き、優雨と木更の二人が残っていた。そこに木更が質問してくる。

 

「ッ……!!」

 

優雨は話しかけられ、ビクッとしてしまう。

 

木更は、柔らかく微笑みながら、話しかけてくる。

 

「そんなにビクビクしなくて大丈夫よ?私は貴女に危害を加えるなんてしないから。もし、良かったら名前を教えて?」

 

「こ……不来方……優雨」

 

不安で押し潰されそうになりながらも、なんとか自分の名前を言い出す。

 

「優雨……ちゃんね?私は天童木更、この民警の社長をしているわ」

 

「民警……?」

 

「ええ、東京エリアに侵入してきたガストレアを退治するのが仕事よ」

 

「…………」

 

ガストレアという単語に一瞬身体が強張ってしまう。この木更という人は、悪い人には見えないが、優雨は長い間色々な人から差別をされてきて、人と関わるのが苦手になってしまっている。

 

だが、何故だろうか。優雨は夜鈴と初めて会った時、恐れを抱いていなかった。

 

「ねぇ優雨ちゃん?」

 

「はにぅ!?え、あ、はい。なんですか?」

 

木更の顔が、吐息を感じそうな距離にあった。どうやら、覗き込んでいたらしい。

 

「ぼーっと、してるけど、大丈夫?聞こえてなかったみたいだけど……」

 

「あっえっと……すみません……」

 

「大丈夫よ。まぁ丁度、来たしね」

 

来た?来たとはどういう事だろう。と、思っていたら、木更の目線が優雨から見て右側に寄せられていた。右へと顔を向けると……。

 

「ふにぁぁあぁぁあ!!」

 

右を向いた瞬間、赤いツインテールの女の子の顔がそこにあった。驚いた衝撃で、床に落ちてしまう。

 

「おー、お主!なかなか、面白い驚きかたをするな!」

 

「あ、貴女は……?」

 

「妾は、藍原延珠!お主が、優雨か?」

 

「そ、そうですけど……(あれ?なんで、名前を……?)」

 

「ごめんなさい。私から延珠ちゃんに連絡して、来てもらったの」

 

疑問に思っている優雨に木更が補足して、言葉を続けてくる。

 

「申し訳ないんだけど、私、これから行かなきゃいけない所があるから来てもらったの」

 

「ご、ご迷惑かけてすみません……」

 

「いいのよ。じゃあ、行くわね延珠ちゃん。あとはよろしくね?」

 

「心得た!」

 

優雨と延珠を残して、木更が退室する。瞬間、延珠がキラキラと輝く瞳で優雨を見てくる。

 

「え、えっ……と……」

 

優雨は、その瞳から何かしらの危機を感じた。距離を取ろうとすると、延珠が優雨に向かって飛びついてくる。

 

 

ーーーーー

 

 

蓮太郎と夜鈴は、ガストレア討伐を終え、木更の事務所に帰ろうと歩いていた。

 

そして、蓮太郎が話しかけてくる。

 

「で、マジなのか?さっきの話は」

 

「さっきの話?」

 

「居候だよ、自分から話しといて忘れんな」

 

ガストレア討伐をネタに蓮太郎の所属する会社の事務所に居候させてもらう約束を取り付けた事だろう。

 

「ああ、マジだ」

 

「はぁ。木更さんには俺が説明しとくから。とりあえず、他に聞きたい事はあるか?」

 

「シャワーはどうすれば?」

 

「近くに銭湯があるから、そこを使え」

 

「分かった」

 

「しかし、どうも腑に落ちないな」

 

「なにが?」

 

「ここは、お前の世界じゃなくて、別の世界から来たって事だよ」

 

「さぁな、まだ情報不足だ。それに、その事はその木更って人も一緒に話した方が良いと思う」

 

「ま、その方が助かる。お、着いたな」

 

蓮太郎が足を止めて、見上げる。夜鈴も見上げると、『天童民間警備会社』と書かれた看板があった。

 

「取り敢えず、今日はここを使ってくれ」

 

「ああ、分かった」

 

蓮太郎がドアを開け、中に入る。

 

「「何があった?」」

 

目の前に起こっていた事象を見て、蓮太郎と夜鈴の声が重なった。

 



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第三話【決意 後編】

大変長らくお待たせしました。(汗
この時期になると、仕事などいろいろとやる事が多く執筆が疎かになってしまいます。次からは気を付けよう うん。

というか、今年も暑いですね〜(汗ダラダラ


「「何があった?」」

 

「おー、蓮太郎!ようやく来たか!」

 

蓮太郎がドアを開け、中に入ると赤い髪をツインテールにした女の子が目の前に居た。その子は、ソファに仰向け(ボロ布が脱がされ、半裸の格好)で寝ている優雨の上に馬乗りになっていた。

 

「延珠……お前、何やってんだ?」

 

「親睦を深める為に……」

 

「それで、なんで、服を脱がすんですか!!」

 

優雨が悲鳴混じりに叫ぶ。延珠という赤い子がどうして、そのような行動に走ったかは知らないが、取り敢えず優雨を救出しておいた方が良いだろう。

 

夜鈴は優雨の寝るソファへと移動し、優雨を起こして座らせ立て膝になり、半ば脱がされたボロ布を直そうと手を掛ける。が、途中その手が止まった。それは、優雨の身体に打撲や切り傷がボロ布の隙間から見えたからだ。

 

「……」

 

その傷は、長い間差別や迫害、暴力を受けてきた事が強く伝わってきた。

 

「…………」

 

「夜鈴さん……?」

 

「ん?いや、なんでもない」

 

黙ってボロ布を優雨の肩に掛け、立ち上がって蓮太郎に問う。

 

「銭湯ってのは、どの方向だ?」

 

「このビルから出て、右に歩いてきゃすぐだ」

 

「そうか…」

 

壁に掛けられている時計を見て時間を確認する。六時五分だった。

 

風呂にはまだ早いな。と、夜鈴は思う。

 

「じゃ、俺らは帰るよ。飯ならさっきのコンビニに行ってくれ」

 

「蓮太郎!もう行くのか!?」

 

「バカ言ってんな。もうこんな時間だ飯も作んなきゃいけねーよ」

 

「むう。それでは優雨、またなのだ!」

 

優雨は未だに延珠に対して怯えていたようだが、立ち上がって頭を下げる。

 

蓮太郎と延珠が出て行き、夜鈴と優雨が部屋に残される。

 

「先に飯にしよう」

 

 

ーーーーー

 

 

夜鈴は優雨とコンビニへと向かい、数多くある商品の中からどれにしようかと迷っていた。だが、どの品物も見た事が無い物ばかりで、コンビニというのも初めてな夜鈴はすごく困惑していた。

 

「夜鈴さん……」

 

「どうした、ユウ」

 

そこに、優雨が声を掛けてくる。

 

「あの……その……」

 

「……?」

 

躊躇うように言い淀む優雨。その手には、『ビスケットサンド』と記された商品が握られていた。おそらく、それが欲しいのだろう。

 

「買っていいぞ。それと、他に欲しい物があったらもってこい」

 

嬉しそうに頷いた優雨は、店の奥へと走っていく。

 

 

ーーーーー

 

 

その後、事務所に戻ってきた夜鈴と優雨は、ソファーに座り、コンビニで買った商品を机に広げて食べる準備をする。

 

優雨が食べる前に手を合わせて、「いただきます」と、挨拶をするが、夜鈴は挨拶をせず、一つおにぎりを手に取る。

 

「なぁ優雨。これは、どうやって食べる?」

 

「えっと……一番上をつまんで、下へと引っ張ってください……」

 

「こうか?」

 

優雨に言われた通りにおにぎりを包んでいるビニールを剥がしていく。海苔は破けてしまったが、なんとか剥がし終わる。

 

おにぎりを一口かじる。

 

「ん……?」

 

「ど、どうかしましたか……?」

 

「なんか、いつも食べてるやつと味が違う」

 

「いつも、食べてるもの……ですか?」

 

「ああ。ムツミって子が小腹が空いた時によく作ってくれてな」

 

「美味しくないですか?」と、優雨は首を傾げてくる。夜鈴は「いや、新しい味だなって思ってな」と、返して食事を進めていく。

 

自分の食べる分を食い終え、向かいに座る優雨を見ると、なぜか急いで食べていた。

 

「そんなに急いで食わなくていい。ゆっくり食え」

 

「は、はい…!すいま、げふッ!げふッ!」

 

「急いで食うからだ。ほら、これ飲め」

 

優雨にお茶を差し出し、それを優雨が受け取ってゴクゴクと喉に詰まった物を流していく。

 

「…ふぅ……ふぅ……。うぅ…すみません……」

 

「謝る事じゃない。それ食ったら風呂行くぞ」

 

「は、はい!……はむはむはむ……」

 

「いや、だから急がなくていい……」

 

案の定、喉に詰まらせた優雨に再びお茶を飲ませる事になるのだった。

 

その数分後。夕飯を食べ終えた二人は、銭湯に行く為の準備をして事務所を出た。

 

ーーーーー

 

「……ふふっ……」

 

銭湯へと歩いてる中、優雨が小さく笑っていた。

 

「ん…どうした、何を笑ってる?」

 

「はっ!?……す、すみません!」

 

「いちいち謝るな。で、どうしたんだ?」

 

「そ、その……銭湯に行くの、久しぶりなんで……」

 

「それで、嬉しいのか。肉親に連れてってもらってたのか?」

 

「はい……おばあちゃんに連れていってもらって……」

 

「そうか」

 

それ以上夜鈴は問うことをしなかった。優雨の顔が少し暗くなった様な感じがしたのである。

 

それから程なくして、優雨が指差して言う。

 

「あ、ここです……ここが、銭湯です」

 

「ここが……?」

 

なかなか雰囲気の良さそうな建物が目に入ってくる。高さにして、二階建てぐらいだろうか木造の『家』が建っている。奥域も合わせると結構広そうだ。扉の前には、『ゆ』と書かれた青い布が掛けられている。この布がまた良い味を出しているな、と感じた。

 

「……行くか」

 

「は、はい……あ」

 

「どうした?」

 

中に入ろうとしたところで、優雨が立ち止まる。

 

「その……や、夜鈴さんだけで行ってきて、ください」

 

「どうして……」

 

なるぼど、そういう事か。

 

優雨が自分の羽織っているボロ布を握っている。そうか、その身なりでは入りづらいという事だろう。なら……。

 

夜鈴は、左膝を地面につけ、片膝立ちになると優雨のボロ布を掴み、一気に剥がす。

 

「……………………」

 

優雨は、一瞬キョトンとした表情で棒立ちになるが、すぐに思考を復活させると顔を真っ赤にして胸元を右腕で下の方を左腕で隠す。

 

「な、なな、なにを………ッ!」

 

夜鈴は優雨の問いかけに答えず、無言で自分の上着を脱いで優雨の肩に掛ける。

 

「これで良いだろ?」

 

「え……?」

 

「行くぞ、優雨」

 

「は、はい!」

 

(もしかして、わたしを気遣ってくれた?)

 

優雨は小さく微笑むと、夜鈴の上着の襟元をぎゅっと掴み、夜鈴を追って銭湯へと入った。




かた苦しい文章で読んでくださった方、ありがとうございます。

次話は、一ヶ月中に投稿する予定ですが、遅れる危険もあるのでご了承ください(>人<;)


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第四話【考察 前編】

えー、かなりの期間を開けてしまいました(汗
やはり、タグに「不定期更新」を入れた方が良いのか…

今回も話を前編という形で分けさせていただきました。申し訳ございませんm(_ _)m


夜鈴と優雨が事務所で一晩過ごした次の日の朝、優雨は目を覚ます。

 

(……朝……?)

 

窓の外から射し込んでくる光を見て朝だということが分かった。

 

(起きようかな…………あれ?)

 

朝ごはんを準備しようと上体を起こそうとして“何か”が胸の上に乗っかり、行動を妨害してくる。胸の上に乗っかってるであろう“何か”を見る為、下に目を向けると、“白い腕”が乗っていた。

 

「……スゥ……スゥ……」

 

寝息が耳元で聞こえた気がして、ゆっくりと顔を右に向ける。すると、瞼を閉じ気息正しく口で寝息をたてている夜鈴の顔が距離僅か2cmのところにあった。

 

「……はぬ!?」

 

急いで離れようとするが、夜鈴の腕が身体をガッチリとつかんでいるようで、抜け出すことが出来ない。

 

「…………」

 

不意に夜鈴の表情を見る。どういうわけか心が落ち着いてきた。眠たそうな目は閉じ、桜色の口を少し開けて寝息をたてていた。

 

優雨は気づくと数分の間、夜鈴の寝顔を見ていた。ふと寝息をたてている口に視線が向かう。

 

(ちかい……夜鈴さんの……くちびる……)

 

無意識に夜鈴の唇に自分唇を重ねようとする。が、夜鈴が身じろぎして我に帰る。

 

(な、なにをわたしは……!は、はなれ……ないと……ぇ!?)

 

離れようとまず胸の上に乗っかってる腕を動かそうとするが、離れない。いや、それ以前に相当の力が入っているのか全然動かない。そんな事をしていると、突然“枕”が動き出した。よく見てみると、それも夜鈴の腕である事が分かる。

 

どうやら、左腕で“腕枕”をされ、右腕で身体を押さえられている状況みたいだった。

 

今、それはどうでもよかった。問題は、枕になっていた夜鈴の左腕である。その腕が身体を包むように背中へとまわされる。

 

優雨はいつの間にか、さらにガッチリと捕まっていた。まるで、幼い女の子がぬいぐるみを抱きしめる様に。そして、次第にゆっくりと夜鈴の顔が近づいてきていた。

 

そこで、ハッと気づく。このままではぶつかる。何が?決まっている。両者の唇だ。

 

「え……ちょ……やすずさ…ん!?」

 

慌てて呼び止めようとする優雨だが、その言葉を途中で遮ってしまった。否、遮られたというべきだろう。

 

優雨の思考が一瞬停止した。その理由は、本人にも分からなかったが、すぐに気づく。自分の唇と夜鈴の唇が重なっていたのだった。

 

「…………………………」

 

その事実を受け止めると、心臓がバクバクと激しくなり、自分の顔が真っ赤に染まっていくのが嫌でも分かった。頭も混乱し思考回路が停止した。

 

 

 

 

 

蓮太郎は、物干し竿に最後のワイシャツを干し終わると「ふぅ…」と一息入れて額の汗を拭う。

 

「蓮太郎ー!朝ごはんできたぞー!」

 

「おう、延珠。今行く」

 

俺が座ると、延珠がちゃぶ台に手をつけて目をキラキラさせながら話しかけてくる。

 

「なぁ!なぁ!蓮太郎、今日はもちろん会社に行くのだろう?」

 

「ああ、夜鈴の事もある。それに…木更さんにこの事を説明しなきゃならないからな…」

 

「よし!」

 

力強い声と一緒にガッツポーズを決めてくる。

 

そんな延珠を見て、蓮太郎は昨日の光景を思い出す………………延珠がボロ布を着た少女を脱がしているところを。

 

「とりあえず言っておくが、あの子に手を出すなよ?」

 

「……あの子?」

 

「昨日、お前が脱がしかけた子だよ」

 

「優雨のことか?妾は、親睦を深めただけだぞ!」

 

「それで、なんで脱がすんだよ……」

 

そんな話をしながら、冷蔵庫に入っていた最後の二枚である食パンを二人で食べ終え(延珠は「物足りない!」と、言っていたが)、準備をして家を出る。

 

 家を出てから一○分ほど経ち、もうすぐで会社に着く頃だった。

 

「む、蓮太郎。あそこにいるのは、木更ではないか?」

 

 延珠が前方を指さし、蓮太郎は自転車を止めて指さす方向に目を向けると、黒いストレートの長く美しい髪を持ち、美和女学院のセーラー服を着たバッグ肩に掛けている女性の姿が見えた。

 

「あ、本当だ……おーい、木更さーん!」

 

 

 

 

 

木更は、自身の経営する会社へと向かう道中、一つため息を吐いた。

 

昨日の午後八時頃、蓮太郎から電話があり、ガストレアを横取りしてきた女を会社へ泊まらせる、ということだった。取り敢えず、泊まって良いことにはしたのだが……それよりも。

 

「今月の学費どうしよ……」

 

今の木更は、学費、食費、家賃とその他諸々で頭が一杯だった。"横取り女"の事など、二の次、三の次である。言ってしまえば、どうでもいい。また、次の依頼を確実にこなせばいいだけの話だからだ。

 

「おーい、木更さーん!」

 

そんな事を考えていると、背後から誰かに呼ばれていた。振り返ってみると自転車に乗った蓮太郎と延珠が走ってきた。

 

蓮太郎と延珠は、木更の隣まで来ると自転車を降りた。

 

「よっ、木更さん」

 

「おはようなのだ、木更!」

 

「おはよう。里見くん、延珠ちゃん。今日は早いのね?」

 

「ああ。延珠が早くあの子に会いたいってきかなくってな……」

 

「あの子って……優雨ちゃんのこと?」

 

あの子というと、昨日夜鈴という女と一緒にいた女の子の事だろうと思い言ってみると、蓮太郎は少し困ったような顔をしながら首を縦に振って肯定してくる。

 

蓮太郎の表情から察するに延珠ちゃんが、何かをしたのだと木更は想像する。

 

「じゃあ、行きましょう?いろいろと、話も聞かなくちゃいけないわ」

 

「ああ、そうだな木更さん」

 

 

 

 

 

その後、蓮太郎と延珠、木更の三人は数分歩き「天童民間警備会社」の看板が掛かっている四階建てのビルが見えてくる。三人は、備え付けのエレベーターで三階まで昇っていく。

 

「木更さん。アイツのこと、どう思う?」

 

「夜鈴のこと?それが、分かれば苦労しないわ。何を考えてるのかよく分からないもの」

 

事実、夜鈴の事はよく分からない。無表情で眠たそうな目をしている。ついでに一晩泊めてくれと言う始末だ。得体の知れない者を泊めるのは抵抗があったが、木更には気になる事があった。

 

「というか、二人とも気をつけてよね」

 

「気をつけるって……何をだ、木更さん?」

 

「昨日の夜に調べたのよ東京エリアにある全民警を調べたのよ。そしたら、『黒藤夜鈴』なんて人物は存在しなかったわ 」

 

「どういうことなのだ、木更?」

 

「つまり、東京エリアに存在しない人物よ。他のエリアから来たのかどうかは分からないけれど」

 

 蓮太郎は腰に差しているXD拳銃のセーフティーを静かに解除する。

 

 エレベーターが到着し三人は降りる。木更は扉の前に立つと、ドアをノックした。

 

 だが、部屋の中から返答はなく静まっていた。

 

「寝てるのかしら?」

 

 木更は、仕方なくバックから鍵を取り出し扉を開けて部屋に入る。

 

「あはよう。まだ、寝て……る……」

 

 木更が部屋に数歩入ったところで止まる。どうしたんだと思い、蓮太郎は声をかける。

 

「どうしたんだ、木更さん?」

 

 蓮太郎は木更の隣まで来てみると、固まっている理由が分かった…………どうせなら、分かりたくなかったが。

 

 二人が目にしたものは、“夜鈴が優雨を抱き、唇を重ねていた”。

 

 その光景を見て、蓮太郎も木更と同じように固まってしまった。二人の間から頭を出した延珠も目を丸にして驚いた顔をしていた。

 

 数秒すると、夜鈴と優雨の唇が離れる。夜鈴の方は、目をつぶったままでいる。優雨は重傷だった。顔を熟れたトマトのように真っ赤にし、目は泳いでいる。心ここにあらず、といった感じだった。

 

 それまで寝ぼけていた夜鈴がゆっくりと目を開けて、目の前に優雨が居ることに気がつく。今の状況が理解できず、周りを見ていると蓮太郎達と目が合う。

 

「…………」

 

「…………」

 

 少しの沈黙。誰もが動けないでいると、木更が震えている手で携帯電話を取り出す。横から見てみると、木更が打った番号は、「110」だった。

 

「す、すぐに……警察呼ぶから……」

 

「落ち着け、木更さん!!」

 




最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!
自分的には今回、キマシタワー展開を書いてみました(願望)
よくわからなかったら、ごめんなさい(汗
次回は多分、中編になるやと思います( ̄▽ ̄)


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第四話【考察 中編】

数ヶ月空いての久々の投稿です。
正直、ここまで遅れるとは思いませんでした。
言い訳は、しません。

今作ですが、物語的には進んでません。どうでも良い駄文な会話ですので、優しい心でお願いします。

追記:コメントにて一部を修正しました。


 この状況は何なんだろうか。

 

夜鈴は寝起き早々何故か木更から平手打ちを貰い、現在はソファーに座らされている。その向かい側のソファーには、向かい合うように木更が胸の前で腕を組み、額に浮かぶ青筋が木更が怒っていることを物語っている。その右隣に座る蓮太郎は呆れたようにため息をついていた。

 優雨と延珠は裏で何かしら話し合っているようだ。

 

(まぁ……延珠なら大丈夫だろう。問題は……)

 

 目の前にいる二人(特に木更)だろう。さて、どうしようか。現在、二人は朝のオレの何かを凄く怒っているらしい。それがよく分からないのだから、解決のしようもない。

 

「……状況の説明を求める」

 

 夜鈴はこの場の静かな空気に耐えかねて話を切り出すと、木更の刺々しく鋭い怒気が含まれた声が返ってくる。

 

「それはこっちの台詞なんですがね、夜鈴さん?」

 

「一体、何を怒ってる……?」

 

「惚けたってそうはいかないわ。私たちは、現場を目撃しているんだから」

 

「見たって言われても……な?」

 

 この女……木更が何故ここまで怒っているのか全くわからない。このままでは埒が明かないので木更の事をよく知っているであろう蓮太郎に目を向け助けを求める。

 

「俺に振ってもしょうがないだろ」

 

と、返されてしまう。そして、オレは訳のわからない感じで小一時間ほど木更の説教を受けることになった。

 

 

-----

 

 

「ふぅー。あぁスッキリした!」

 

「それはどうも」

 

木更は小一時間ほど夜鈴を説教して、大きく腕を伸ばしながら、いかにもスッキリした様な恍惚とした表情をしていた。余程ストレスが溜まっていたらしい。

 

「木更さん。コーヒーで良かったか?」

 

そこにコーヒーを淹れた蓮太郎が戻ってくる。木更の隣に座り、コーヒーの入ったカップを渡した。

 

「ありがとう、里見くん」

 

「ほら、お前の分だ」

 

 蓮太郎が夜鈴にもう一つのカップを差し出してくる。それを夜鈴は受け取る。

 

「すまんな」

 

 夜鈴は蓮太郎からカップを受け取ると、コーヒーを一口啜る。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「向こうに居た時に飲んでいたやつとはまた違った味だな。美味い」

 

「そうか? 安モノのインスタントコーヒーだぞ?」

 

 夜鈴が蓮太郎と話していると、木更が思い出したように口を開いてくる。

 

「それはいいとして。貴女、自分の部隊に帰らなくていいの?」

 

「……ああ、そうだった。実は少し、問題があってな……」

 

「問題って?」

 

 夜鈴は木更と蓮太郎にミッションの途中アラガミに不意を突かれて気絶してしまい、気がついたら森に倒れていた事と自分はこの世界の人間ではないことを話した。

 それに対して、二人のは困惑した表情をして首を傾げた。

 

「とてもじゃないけど、信じられない話ね」

 

「だろうな」

 

 二人の反応は概ね夜鈴の予想してた通りだった。自分でも今置かれている状況に納得している訳ではないが、どう考えてもこの結果になってしまうのであった。

 

不意に夜鈴は時計を見る。時刻は、一一時四五分を指していた。

 

「腹が減ったな」

 

「え? あーそうね……。うーん、里見くん何かない?」

 

「残念だけど木更さん。コーヒーぐらいしか無い……」

 

「え……そ、そんな……」

 

蓮太郎はガクッと首を下に落とす。それを聞いた木更も同じように首を下に落とし絶望的とでもいうような表情をしていた。

 

「例のコンビニで買ってくれば、良いんじゃないのか?」

 

「金がねーんだよ」

 

蓮太郎が悔しそうな声音で言う。その言葉で夜鈴はそんな事ならと、ポケットから茶色の封筒を出して、木更と蓮太郎の目の前に置く。

 

「これは……なに?」

 

「昨日のガストレア撃破報酬だ。これで、オレ達を雇ってくれ」

 

「「…………は?」」

 

蓮太郎と木更の声が重なる。二人はこれを予想してなかったようだ。

 

「唐突ね……」

 

「状況から考えるに、それが最善策だと感じた。こちらには優雨の事もあるから、出来れば居候させてほしい。…………駄目か?」

 

木更は胸の前で腕を組んで考え込む。数秒経ったあたりで、真っ直ぐ夜鈴を見据える。

 

「そのお金は貰って良いのよね?」

 

「木更さん!?」

 

「雇ってくれるのであれば、ご自由に」

 

「契約成立ね」

 

木更は夜鈴の前に右手を出す。夜鈴はそれに答えて、右手を出し握手をした。

 

「良いのかよ、木更さん?」

 

「ほっとけないでしょう? それに優雨ちゃんの事もあるし、単純に戦力も欲しかったし。貴女、ガストレアの迎撃に出しても構わないんでしょ?」

 

「もとより、そのつもりだ」

 

蓮太郎は渋々といった感じに木更に同意した。

そして、話の区切りを見計らってか、延珠が顔を出してくる。

 

「話し合いは、終わったのか?」

 

延珠に答えたのは、蓮太郎だった。

 

「ああ。二人とも、暫くここに居ることになった」

 

「それはまことか!?」

 

目をキラキラさせている延珠に対して、蓮太郎は軽く微笑みながら延珠の頭を撫でる。

 

「俺がお前に嘘言ってどうなるんだよ」

 

「やったー!! な、優雨! 聞いたか? これからもここに泊まれるらしいぞ!」

 

延珠の後についてきた優雨が夜鈴に目を向けて「いいんですか?」と聞き、夜鈴はそれに首肯して答えた。

木更が時計を見て言う。

 

「あら、もうこんな時間……。ね、お金も手に入ったことだし、何か食べに行かない?」

 

時計の針は12:00を指していた。一般人なら、そろそろ昼食にする者も居ることだろう。

満場一致で昼食を摂ることになった。

だが、夜鈴は木更に一つ提案をした。

 

「すまん、少しばかり貰えないか? 優雨の服をどうにかしたい」

 

優雨は昨日までのボロ布一枚から、夜鈴の上着一枚へとしか変わっていない。ボロ布よりはマシだが、このまま外へ出るには抵抗があるだろう(前回、路上で裸にされたが……。人は居なかったので、ご心配なく)。

 

「ああ……そうね。ごめんなさい。近くのお店で買ってくるから、ここで待ってて。延珠ちゃん、付いてきてくれる?」

 

木更に対して延珠は自分の胸を叩きながら、自信満々に宣言する。

 

「任せるのだ、木更! 優雨のスリーサイズは、既に覚えておる!」

 

延珠の言葉に優雨は顔を真っ赤に染めていた。

昨日、脱がすのと同時に調べたのだろう。夜鈴は器用な事が出来る子だと思った。

 

「はわわわ……。延珠さん!」

 

慌てて止めようとする優雨だが、時既に遅し。木更と延珠は事務所から出てしまった。

 

「……はうぅ…………」

 

恥ずかしさの所為なのか、優雨は両手を胸の前でもじもじさせながら、顔をそこに隠すように俯かせていた。

 

それを見た蓮太郎は、「なんか……すまん」とだけしか言えなかった。

 



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第四話【考察 後編】

 まだ私のストーリーを読んでくださっている方はありがとうございます。
 半年以上、年を越しての次話投稿、面目ございません。

 今後も不定期更新ですが、完結まではするつもりなので、よろしくお願いします!!


 木更と延珠が優雨の服を買いに出掛けて、一時間。

 

 時計の針は13:00を指していた。

 

 夜鈴、優雨、蓮太郎の三人は事務所で二人の帰りを待っていた。

 

「遅い」

 

 夜鈴は時計を見ながら、そう言葉にする。

 

「……ごめん……なさい」

 

 そこに向かいのソファー優雨が申し訳なさそうな表情をしながら、誤ってくる。木更達が遅いのが自分の所為だと思っての言葉だろう。

 

「優雨の所為じゃない。気にするな」

 

「ああ、気にする必要はねーよ。どっちかっていうと、こっちが謝んなきゃならねぇからな」

 

「……ん。何故だ?」

 

「昨日、その子に延珠が迷惑かけたからな……」

 

 蓮太郎はバツが悪そうに目を背けながら、そう言う。昨日の優雨と延珠の遣り取りの事を言っているのだろう。

 

と、気づいたら自分のカップの中身が空になっていた。

 

 夜鈴はコーヒーの再度頼もうと、蓮太郎にカップを差し出す。

 

「……お前、まだ飲むのか」

 

「ブラック」

 

 蓮太郎はため息をひとつ吐きながら、夜鈴の手からカップを取る。

 

「これで何杯目だよ……」

 

「…………何杯目だっけ」

 

 よく覚えてなかったので、なんとなく優雨に聞いてみる。

 

「五杯……くらいです」

 

「そうか」

 

 これで六杯目、か。知らずにそこまで飲んでいたかと、思い返す。

 

 そこに六杯目のコーヒーを淹れてきた蓮太郎が戻ってくる。

 

「ほら、これが最後の一杯だ」

 

「もう無いのか」

 

 蓮太郎は首を縦に振る。

 

 夜鈴は淹れたてのコーヒーを受け取り、ふーっふーっと表面を少し冷ましてから口につける。やはり、何度飲んでも飽きないな。

 

「ん…………」

 

 コーヒーを飲んでいると、急に優雨が扉の方を向く。

 

「どうした?」

 

「あ、いや、な、なんでもないです……」

 

 優雨の言葉が徐々に小さくなっていく。何かを察した様子だったのは、気のせいか。

 

「ただいま〜。ごめんなさいね、服選ぶのに時間掛かっちゃった」

 

「ただいまなのだ!」

 

「おかえり。延珠、木更さん」

 

 手に紙袋を下げた延珠と木更が入ってくる。そして、延珠は蓮太郎の前まで来ると……

 

「さぁ蓮太郎! おかえりのちゅーだ!」

 

「まだ、昼間だぞ……」

 

「ハッ! 夜なら良いのか……」

 

「良いわけあるか!」

 

 いきなりよく分からない漫才を始めた。

 

「……随分と仲が良いんだな」

 

 夜鈴は二人のやり取りを見ていて、普通にそう思う。夜鈴の何気ない台詞に延珠が腰に右手をつけ、胸に手を当てて自信満々に返してくる。

 

「当たり前なのだ。妾は蓮太郎のふぃあんせ、なのだからな!」

 

「普通に相棒だよ……」

 

 蓮太郎が頭を抱えながら、そう付け加える。蓮太郎の言葉に納得のいっていない延珠が更に絡み、余計にややこしくなったので夜鈴はこの二人に関わるのを止めた。延珠と蓮太郎の漫才は続く。

 

「それで、どんな服を買ってきたんだ?」

 

「あ、そうそう……これよ」

 

 木更は紙袋の中から服を取り出して見せてくる。

 意外にもシンプルな物だった。

 白いTシャツに紺色のジーンズ、白いスニーカーというなんとも普通な服だった。

 

「シンプルだな」

 

「そうね。というか、まず優雨ちゃんの好みを聞くのを忘れてたわ」

 

 そういえば、この二人は聞かずに出て行ったなと、夜鈴は二時間前の状況を思い出す。

 好みが分からなければ買いようが無い。木更の判断は正しいだろう。

 

「優雨」

 

 夜鈴が呼ぶと、優雨はソファーから降りてくる。木更から衣類を受け取り、延珠と一緒に着替えに行く。

 

「飯はどうする?」

 

「近くに私たちの知り合いがやってるラーメン屋があるから、そこに行きましょ? 全員、それで良いかしら?」

 

「俺は構わねーぜ、木更さん」

 

「妾もそれで良いぞ! 優雨も良いと言っている!」

 

 隅の方で優雨の着替えを手伝っている延珠が手を上げながら、そう言ってくる。

 

「らーめん?」

 

 夜鈴は聞いたことのない食べ物の名前に可能な限り想像を膨らませるが、レーションばかり食べていた夜鈴の頭に浮かぶものは、「らーめん味」と書かれたレーションだった。

 

「…………美味いのか?」

 

「そりゃもちろん! ま、食べてみたらわかるわよ」

 

 木更と話している間に優雨が着替えを終え、延珠に連れられやってくる。

 

 優雨は何故か胸元を両腕で抑えていた。

 

「サイズ、大丈夫? 延珠ちゃんに合わせてきたから、一応大丈夫だとは思うけれど……」

 

「案ずるな! 妾の記憶に間違いはない!! 妾は直接触って調べたのだからな!!」

 

 自信満々である。夜鈴は昨日の優雨と延珠の事案を思い出して、延珠の謎の自信に納得がいく。

 

 優雨はそんな自信満々の延珠に対して、赤面しながら「う〜……」睨んでいることしか出来ないでいた。

 

「で、どうした優雨」

 

「え……えっと……その…………」

 

 優雨が腕で隠している胸元を見ると、何かしらの絵が描かれているらしく、その一部分が見える。

 

「恥ずかしがることはないぞ〜。ほれほれ」

 

「え…………」

 

すると、いつの間にか優雨の背後に回った延珠が抱きしめるような姿勢で優雨の両腕を掴む。

 

「それー!!」

 

 瞬間、延珠が優雨の腕を左右に開いた。優雨か一瞬固まるが、すぐに状況を理解し顔を真っ赤にする。

 優雨が必死に何かを言おうとするが、口をパクパク開閉するだけで言葉になっていない。そんな事を知らずに、夜鈴はしゃがんで優雨の服に書かれている絵柄に注目する。

 

「珍しい絵だな」

 

 向こうの世界ではあまり絵という物を見たことがなかった。外周区の子供達が地面に木の棒で書いたものくらいだろう。こんなに精巧に書かれた絵は初めてだった。

 

「良いだろう良いだろう〜? これは、天誅ガールズというアニメのキャラクターなのだ!」

 

 てんちゅうがーるず……? こっちの世界ではそういうのが流行っているのか。そういえば、コウタ隊長はバガラリーが好きだったな。それと同じものなのか?

 

「似合ってるぞ」

 

 そう言って、夜鈴は優雨の頭を撫でる。心なしか嬉しそうだ。

 

「半袖じゃ少し寒いかと思ってパーカーも買ってきたわ。どう、優雨ちゃん? 安いのこれしかなかったから、ごめんね」

 

 木更は紙袋から灰色のフード付きのパーカーを取り出して、優雨に渡した。

 優雨はパーカーに袖を通してチャックを全部締める。

 

「サイズ、どう?」

 

「ぴったりです」

 

「そろそろ行こう。腹が減った」

 

 朝から何も食っていないので、夜鈴の空腹は限界に近づいていた。

 

「そうね。なら、行きましょうか」

 

 

~十数分後~

 

 

 そうして木更の先導の元、五人はラーメン屋に着いた。

 

「本当に此処なのか?」

 

 夜鈴は店を見てから、木更に問いかけたが、結果は「そうよ」と、即答されてしまった。

 正直、美味しい料理を出すような店には見えなかった。

 扉に掛けられている暖簾(のれん)は汚れてくたびれていた。

 

「さ、行きましょ。もうお腹ぺこぺこよ~」

 

 木更がガラス戸を開けて入ると、延珠と蓮太郎も後ろについていった。夜鈴と優雨も不安になりながらも、それについていく。

 入ると中は薄暗かった。一定の間隔に置かれた六つの机にそれぞれ椅子が四つ置かれており、厨房側にはカウンター席が多数設置されている。

 

「二人ともー。ここよー」

 

 店内に入ると、夜鈴は中を見回す。

 中は暗い。ガラス戸から入ってくる太陽光が少しだけが足元を照らしていた。

 木更達はカウンター席に座っていた。カウンター席は五つしか設置されておらず、夜鈴と優雨が座ったら満席であった。木更に従って二人も席に着く。

 

「おじさん! いつものお願い」

 

 木更が注文すると、奥の方から男の声が聞こえ、調理する音が聞こえ始める。

 

「さてと。夜鈴と優雨ちゃんの寝る場所なんだけど、どうしましょうか」

 

「…………事務所で良いんじゃないのか?」

 

 最初から夜鈴は木更の事務所で寝泊まりする気満々だった。しかし、木更は許可を出さなかった。

 

「駄目よ。優雨ちゃんの事も考えないさい? いつまでもソファーで寝かせるなんて、私が赦しません」

 

 右隣に座る優雨を見やると、「わ、わたしは大丈夫です……」と答えてくる。

 

 恐らくオレに合わせて優雨が気を使っているのだろう。確かに優雨をずっとソファーに寝かせるのも悪いだろう。

 

「しかし、部屋を用意するとして当てはあるのか?」

 

「確か……里見くんのアパート。隣の部屋空いてたわよね?」

 

「ああ、空いてたな。多分、大丈夫だと思うぞ」

 

「じゃあ、後で大家さんに連絡してみましょ」

 

 取り敢えず、寝床は確保出来そうだ。後は、ベッドや他にも必要な物があるだろう…………やはり、金がかかるな。

 そう思考していると、「へい、おまちどう!」という男の声とともに目の前に料理が置かれる。

 黒茶色の香ばしいスープにストレートの細麺。上には三枚のチャーシュー、メンマ、そして真ん中にはネギの山が作られている。下から湯気と一緒に吹き上げてくるかのような香りを嗅いでいると、腹の底からいっそう強く空腹感を報せてくる。

 木更達は各々箸を取って食べ始めている。優雨は夜鈴に箸を渡してくる。

 夜鈴は受け取り、優雨の見よう見真似で箸を割って、麺を掴んでみる。

 結果、落ちた。

 胸の高さまで上げられずにポチャンと音を立ててスープの中に落ちる。

 

「どうしたの?」

 

「いや……この道具は初めてでな」

 

「なんだ。お前さん、ハシも使えないのか。ほら、これ使え」

 

 ラーメン屋の店主が少し大きめの銀のフォークを渡してくる。夜鈴はそれを受け取って、ラーメンを食べ始める。

 

「木更さん。この娘は新人かい?」

 

「ええ、そうよ。夜鈴っていうの」

 

「ほう…………」

 

「…………」

 

 夜鈴の目とラーメン屋の男の目が線で繋がり、二人の間に言い知れぬ空気が漂う。

 二人は見つめ合うと、男の口がニヤリと笑う。

 

「ほう……いい目をしている。戦いに飢えているな。だが、いい戦士だ」

 

「…………そんなことはない」

 

「ハハッ。おっとすまない。名乗るのが遅れたな。俺はアノルド・メイトリクス。木更さんとは別の民警をしているが、たまに共同で依頼をすることもあるから、その時はよろしく頼む」

 

「黒藤夜鈴だ」

 

 二人は握手をカウンターを挟んで握手をする。

 夜鈴は食事を再開し食べ進めていると、蓮太郎が口を開く。

 

「木更さん。やっぱり、先生の所に連れてくべきなんじゃねーかな?」

 

 木更は「それもそうね」と言い、夜鈴に向く。

 

「ねぇ夜鈴。これから、菫先生っていう人の所に行こうと思うんだけど、いいかしら?」

 

「菫?」

 

「室戸菫。大学の地下に住んでる先生だ。先生なら何か教えてくれるかもしれねーしな」

 

 木更の言葉に蓮太郎が補足を加えてくる。夜鈴は情報は多いほうが良いと思い、提案を了承する。

 そのまま五人はラーメンを食べ進め、食べ終わってから少し休んで店を後にした。

 

「お、おいしかった……で、ですね」

 

 優雨が満足げに言ってくる。夜鈴は「そうだな」と返した。

 

「さて、私は会社に戻って残りの仕事終わらすけれど。里見くんは夜鈴と一緒に大学へ行ってあげて?」

 

「了解。じゃあ、また後でな木更…………」

 

「ヒュー、キミかわいいね~。ねぇねぇこれから俺たちとデートしようぜ?」

 

 夜鈴たちが木更と別れようとすると、通路を塞ぐように三人のチャラそうな男たちが木更の前に出てくる。

 

「ご、ごめんなさい。急いでるから、そこ退いてくれないかしら?」

 

「おいおい。この娘の制服あのお嬢様学校のやつじゃね?」

 

「うおっマジだ。近くで見るとやっぱ綺麗だねぇ。まぁまぁ遠慮せずにさ、ちょっとだけでも遊ぼうよ~」

 

 言って男は木更の腕を掴む。瞬間、蓮太郎が男たちの間に割って入る。

 

「おい、やめろよ」

 

 木更の腕を掴んでいた男の腕を掴み返して木更から遠ざける。

 

「あん? 野郎に用はねぇーんだ、すっこんでろ!」

 

「……くっ!!」

 

「やめなさい!!」

 

 今にも殴り合いが始まりそうな空気だった。だが、今この瞬間では殴り合いにはならなかった。第三者の介入により、全員の視線がそちらへと向けられたのだから。

 



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