赤龍帝のIS学園生活 (hinozi)
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IS学園へ

第一話です。……何だか久しぶりって気持ちです。

皆さんこんばんわ。おはようございます。こんにちは。
あけましておめでとうございます。

やはり中旬に出すには無理があった。色々とやっては見たが、今までの設定を流用しつつ新しく書いた方がまだやりやすかった。設定なんかもよく見るとまとまってなかったのでそれも新しく作ってを繰り返していたら、もう1/1です。

まあ、久々のご紹介すみましたし、ひとっ走り付き合って頂ければ幸いです。





 新しく始まったドライブ。いざ見てみたらなかなか新鮮で楽しかった。車で移動したり必殺技をするっていうのも斬新で面白かった。鎧武はラストで唖然としたが、今となってはいい思い出だ。

 それに新しい仮面ライダーマッハもキャラが濃かった。初登場の規模がデカかっただけに今までのマヨネーズやバナナなんかよりも倍でインパクトが強かったなぁ~。アメリカはやっぱり派手好きのイメージがあったけど、やっぱりそれか?

 マッハの登場シーンをスマホで見ながら帰り道を歩く。鎧武&ドライブの映画も楽しかった。芸人が変身するとは想像してなかったが結構楽しめた。

 そんなことを考えながら最近新しく舗装された道路を歩きつつスマホの画面から目線を外して周りを確認するが、車も人もない。全くもって安全だ。ガードレールもあるから自転車がこない限りは安心しながら歩きスマホができるってもんだ。

 

「ん? なんだ光ったぞ」

 

 いきなり目の前が眩しくなり、首を上げて真上を見てみると昼間に流れ星が降っている。真っ昼間から珍しいと思いながら帰路をまた歩き出す。

 今日は午前中で終わってよかったが教師が休学の理由を教えてくれなかった。これじゃあ何のために学校に来たんだか。遊びたい盛りの高校生にとっては何とも無駄な時間であった。

 まあ、こっちは四六時中暇だけど。学校は特別楽しいことがあるってわけじゃない。寧ろ学校は義務であって、高校が義務教育あろうがなかろうがもうどうでもいい。前にならえ。つくづく今の社会は向きが重要だな。それで世の中成り立ってるんだから嫌には成らないが、たまには普段と違ったことでもしないと面白くない。

 

「さっきからチカチカ眩しいんだよな。なんで光が強くなってるんだ?」

 

 スマホを消して上を向いてみるとさっきまで流れ星だった白い光が徐々に強く光って、球体の輪が大きくなってる。

 この時点で俺はある結論にたどり着いた。

 

「い、隕石落下キター」

 

 自然と口から洩れて数秒もしない内に意識が飛んだ。すると、だ。俺はガン○ムだとかによく出て来る不思議な世界にいた。全部が真っ白で自分の体があるのはわかるのに、手足にまで神経が通ってない精神世界にいるような感覚を楽しんでいた。

 フワフワしてる。なんだろう、きっと手足を切断された人ってこんな感じなのか?

 

「……ゴホン。やあ、少年。私はサイカキというものだ。君の所属している世界、いわゆる地球の担当者であり管理者だ。まずは君が死んでしまった理由について説明しよう」

 

「……いやいやいや!? まず俺が死んだってどういうこと!! 俺さっきまで学校の帰り道だったのに!?」

 

 家に帰る途中だったんだけど。近くには道路一つもない田舎道のどこに死ぬ要素があるのかが全くわからない。それこそ隕石でも俺にぶつかんないと無理だろ! まさか本当に俺に直撃したとか愉快なことはないだろうな!?

 目を凝らせば靄のような限りなく存在の薄いものがいる。その蜃気楼のような靄が揺れ動くたびに声が聞こえる。どうやって声出してんだ?

 

「実はその通りなのだ。君に小さな隕石が衝突。君は跡形もなくなったよ」

 

「そ、そんな。そんなことが」

 

 隕石にぶつかって死んだ。そんなテンプレイベントが、俺の身に起きた。訳のわからない白い靄を被ってるか知らないが、白い靄。もう白靄でいいや。白靄から声がしてるのも妙な現実がある。普通はありえないことなんだが。

 

「白い靄はいいとしよう。だが被っているとは何だ。君には感知できないだけだ」

 

「そうなのか。というか考えたことが読み取られた? 本当に神様、なのか?」

 

「それはどうでもいいとして。君にはこのまま異世界に行く方法と、このまま現在の世界を生きているようにすること。二つの道がある。……好きな方を選択したまえ」

 

 白靄が全体像は全くの不明で性別もわからない。全くもって謎だらけではある。だけど俺が異世界に転生することができるということは分かった。異世界に行きたいが、一つ気がかりがある。家族に万が一のことが合っては俺が気を休めることができない。

 

「まずは従妹が無事かどうかを教えてほしい」

 

「君の従妹とご両親か。君の家族なら無事だ。従妹は学校に残っていたからね。心配はないさ。ご両親も無事だ」

 

 そうか。あっ、そうだ。なんだってここに俺を連れてきたんだ? わざわざこんな真っ白な世界にまで放り込んで何をさせたいんだ? そのまま俺を放っておけばよかったのに。輪廻とかあるんだろ。それに入れておけば俺の処理はそれで済むだろう。

 

「言われればそうだが、簡単に言ってしまえば君は選ばれたのだよ」

 

「なおのこと胡散臭くなってきた」

 

「話聞け。……君は自分をどう思っているね」

 

「自分をどう思っているって、そりゃ普通の学生だと」

 

 顔はそこそこ。性格も至って普通だし、頭も至って平凡。運動は壊滅的な点以外はそこいらにいる高校生だ。人並みの良心はあると思っているけど実際にケンカの仲裁を実行できるかと言われれば間違いなく足を竦ませて結局知らんぷり。

 無謀なことはしたくはない。でも救いたいけど救わない。それぐらいの良心しかない人間だ。俺は自分で言うのもあれだが、そこまで誇れた人生を送ってはいないはずだ。 だから何でこんなところで神を名乗る白靄と話をしてるのかがわからない。そう思う俺は全く持って普通の人生だと思ってたが、胡散臭い白靄は口を開く。

 

「実は死因によって送る世界にも格付けがあるんだ」

 

「善行を積んだ人が天国に行けるような感じか?」

 

 いまいち理解できないが一番俺にとって理解しやすいイメージを胡散臭い靄に伝えてみる。まあ、これ以上理解するだけの頭脳はない。

 

「当たらずしも遠からず、と言ったところかな? それはあくまでも人生を過程で起きた結果の良し悪しで表現しただけだ。そうではなくて死んだときの前後の状態で各位が決まるんだよ」

 

「良くわからん。何だって死んだときで位が決まるんだ?」

 

 一瞬考えてみてすぐに思考を放棄した。死んだ瞬間で天国地獄を決めるというのが何とも不明だ。流石にこればっかりは話を聞いてみなければわからない。そういえばなぜ各位が付くんだ? 死んだだけで。ていうか死んだんだの俺?

 あっ、用は線か点のどちらかで選ぶってことか? 点と点の間に線を引いたものを人生と見立てて線が人生の過程。両端の点が人生の始まりと終わり。そんなところか。

 

「その通りだ。少なくともバカではなさそうだな。話を戻そう。君にはある素質がある。特に君のは本当に稀有な能力だ。その力は一体どれほどのものになるか、その結果を位として表そうというんだよ。ちなみに特例だ。S評価ではなく、EXぐらいの、な」

 

 俺が死んだときの採点結果を位に表そう、ってことだよな。だからって何かが変わるってわけでもないんだけどな。

 

「そして、その結果は見事に一般の基準の位を合格した。どうだろうか。君のその意志をもって異世界で力を奮ってはくれないか」

 

「お引き受けします!」

 

「君ならばそう言ってくれると思っていた!! 全く持ってありがたい。じょ、ゴホッゴホン! 僕に出来ることならばぜひ言ってくれ。不老不死とか露骨に人という概念からアウトな能力以外なら能力などを融通してやろう!!」

 

 ヤベェ、ヤベェよ。何だこのドッキリ企画は!? 正直コイツの言ってること少しぐらいしかわかんないけど今なら俺許したげるからどうか嘘だっていってくれよ!

 落ち着け、クールになるんだ。まずは異世界で必要なものを手に入れようか。融通してくれると言ってる。ならその好意を素直に受け取らないと。例え色んな能力が欲しいとか安いもんじゃないからな!

 

「それで、君はどんな能力する? 君のゆく世界は『IS』だからいいのを考えるといいよ」

 

「『IS』か。またいい世界だな。じゃあ【赤龍帝の籠手】(ブーステッド・ギア)を貰おう!」

 

 例え他の転生者がいたとしても戦う気はないしな。さらに言えば【赤龍帝の籠手】は保険みたいなものだ。倍増する力とまともにやり合うなんてことはしたくはないだろう。さらに常時倍化って能力もある。戦うにしてもなんてことはない。元々戦う気なんてまるでないんだから。いざとなれば逃げの一択だぜ。これで運動音痴の俺でも生き残れるだろう。後は憧れかな。

 ああ、そうだ。俺の身体能力を最強、最低で人並みにしてもらわないと。これはどうしても欲しい。前まで、というより死んだから前世か。前世で運動オンチだった俺にとっては一度でいいからまともに体を動かしてみたかったのだ。

 

「最強並みの身体能力か。まあ、あの世界には織斑千冬がいるからね。あって困るわけでもないからいいだろう。他にはいるかい?」

 

「俺をこのまま送ってほしい。また学生をやり直すなんて面倒なことはしたくない。それと専用機とかはいい。偶然起動することが出来たってことにしてくれ。それと原作の2巻のシャルロットたちが編入する前からにしてほしい」

 

 気が付いたらまた学生をやっていたのならばある程度は諦めがつくがこうして当事者と話ができるんだ。なら小中と学生をまたやる気にはなれない。新しく始まる人生の高校生活をせっかくの女子高ライフなんだから彼女くらい欲しい。

 付け加えて俺の【赤龍帝の籠手】はどうしようか相談しておこう。あくまでもISと言い切るには無理がある。ISにはコア・ネットワークがあるからな。

 

「ふむ、それでは一応ISコアということにしておこうか。その方が物語もスムーズでいい。それと『赤龍帝の籠手』にちょっと細工をさせてもらうよ。むろんいい意味でだ」

 

「わかったよ。まあ、信じるよ」

 

 白い靄だから何を考えているかは分からないが、こいつはすごい奴らしいから信じる他にない。何となく白靄に対して愉快犯って言葉が脳裏を過ったがどのみち無為な人生だ。まあ、なんにせよ好意としてありがたくゲームを楽しむとしよう。

 

「これから私としては君になるべく原作にかかわって欲しいと思っている。まあ、いやというのであれば無理強いはしないよ」

 

「なかなか話の分かる人じゃねぇか。そういやサイカキって一体何なんだ? 神様とかそんなところか? それとも死神?」

 

「それはいずれ分かることだ。君のことだ。必ずたどり着くだろう。私はその時まで楽しみにしておくとしよう」

 

「あっ? そりゃあ一体どういう、こと…だよ………」

 

そこで俺の意識は途切れた。俺が次に目覚めるのは今見ている現実か、それとも夢の中なのか。それすらも怪しいが、かすかに残ってた意識の中で祈ることにした。

 

どうか現実でありますように。

 




これは前のアレの一話を参考にしたものだ。

序盤は変わらないが、結構付け足すのも多くって苦労してる。流石に毎日投稿する分の予備はないが、中旬の~、って活動報告に書いた奴の分はやってやります。

それでは皆様、よいお年を。Happy new year。


……この作品はあくまでも前作の設定などを流用した作品です。


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新しい世界に休みはない

第2話です。……ああ、生きてるなー。

ジワリとやる。じっくり、確実に、死なない限りは続ける。
だが二月からまた投稿できなくなる。死にたい。


 意識を取り戻した俺は何故か顔が寒かった。訳がわからない。取り敢えず体を大の字に開いて少しでも衝撃の緩和を試みる。だがスピードは一向に緩やかになる気配がない。変わらず落ち続ける。もう諦めてこのまま落ちてみようかな。

 そこで落下の速度で打ちつけられる強烈な風で寝ぼけた頭が元に戻ったのか、恐らく顔面が物凄いことになっていることを絶賛体感中だが、一度冷静になるために叫ぶ。柱の男と同じだ。叫んで溜め込んだものを全て吐き出すと心の整理がしやすくなる。

 

「……なんじゃこりゃぁぁぁあああああああ!!!」

 

 なんでこんなことになっているか訳が分からないと思ったが、すぐに心当たりを思い出す。あの白靄、もう一度会ったら絶対に殴ってやる。その前に俺生きていられるか心配になったけど。

 しかも今気が付いたがパラシュートがない。パラシュートの無いパニックならまだ俺も喚いていられただろうが、そんな余裕はない。地面ははるか先だ。時間はまだある。落ち着いて打開策を見つけないと目も当てられない死体になるだけだ。あっ、【赤龍帝の籠手】(ブーステッド・ギア)があることをすっかり忘れてた!

 

「来い! 【赤龍帝の籠手】(ブーステッド・ギア)!!! …………あれ、何の解決にもなってない」

 

『BOOST!』

 

「……このまま落ちたら……ミンチかなぁ。いや肉塊か?」

 

『BOOST!』

 

 そうこう言っているうちに十秒経過。パラシュートがなくても意外と時間はある。

 十秒ごとに力を倍加させる『赤龍帝の籠手』。神滅具と言われる神器で赤龍帝と呼ばれた赤い龍、ドライグが今俺の中に眠っている。さて、現段階での『赤龍帝の籠手』は身体能力を倍化するだけの『Explosion』の能力しかない。

 そして森がみえた。どうやら地面まで数百キロ、いや数十もないと思う。腹を括って限界まで倍加の能力を引き延ばして生存確率を高めてやる。というかなんでこんなにのんびりしてるんだ俺は。

 

『BOOST!』

 

「考えてるうちに3回目。これで三十秒経過」

 

 まあ、落ちてますが。四回ならなんとか骨折ぐらいで済むかな、落ちてますが何か? 痛いのは嫌だけどいきなり死ぬのはもっと嫌だ。しかもまだ四十秒しか経ってないのに。そしてそんなこんな考えてる最中にまた一回。本当に落ちてます。命に係わることだから三回言いました。

 そしてとうとう見えてきた地獄という名の地面、というより森。流石にここまで来たら根性と肝っ玉に力入れてやるしかない!! 蛇式・五点着地法だ!

 

『BOOST! BOOST!』

 

「これで五回! どうだ!?」

 

『Explosion!』

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!?」

 

 木の枝に絡まって揉みくちゃになりながら最後には奇跡的に五点着地法で大ケガは回避できた。身体が痺れて動けないが、今改めて考えるとまさに奇跡だな。着地した場所から見上げてみればとんでもない大穴が見えていた。俺が降ってきたせいか。

 空が、青いな。

 

「いてぇー」

 

 足腰と手に激痛ではないものの、かなり痛いので実は何回か泣きかけている。今まで感じたことないくらいまでに痛いんだが、痛みが今いる世界が俺の現実なんだっていう実感が湧く。俺は今まで感じたことがないくらいに生きてる感覚がする。

 体育の授業だってほとんど隅っこで気の合う友達と話してた記憶がないし。俺に負けず劣らずの運動音痴だったし。……ウソです。俺よりはるかに運動神経良かったです。

 

「なにわともあれ、生き残った」

 

 きっと体を五回も強化したおかげなんだろう。五回でこれだけなら、あと十回もやってみたらどうなるんだろうか? 少し怖いわ。

 

「アイテテ、それにしても、ここどこだ? どっかの島に着いたみたいだけど」

 

「お、おい! なんかすごい音したぞ!」

 

「こっちから音がしたぞ! 急げ!!」

 

「………逃げるが勝ち!!」

 

 五倍の身体能力で声の方向とは真逆をひたすら走り抜ける。体が自分の物とは思えないほど軽い。それが何よりもISの世界に来られたのだという実感が湧いた。計画なんてまるでないが、それでもとても楽しく思えてきた。

 だが、その時の俺は理解していなかった。俺はこの世界がISの世界なのだということを。そう……ここが単なる島ではないことを。

 

「う、海ぃぃぃぃいいいいいい!? って島なんだっけ」

 

 IS学園が建つ島だということを。

 そこからしばらく放心状態だったが、俺は警備の人に見つかって、身分証明書の提示をさせられたら間違いなく詰む。まずは逃げておこう。

 と思ってたらIS学園の学生証が財布の中に入っていた。ありがとう、白い靄。初めて感謝したいと思ったよ。胡散臭いとか言ってごめん。だが絶対に殴る。いまだに手足が痺れてろくに感触ないんだから。あいつがまともならこんな目に合わなかった。

 

「あ、あのぉ~」

 

「(ギロッ)」

 

「何でもありません」

 

 一向に展開が読めないので警備員さんにお話を聞いてみたら、口を開いた瞬間睨まれた。解せぬ。にしても両脇を掴まれてるおかげで歩きやすい。手足に本当に力が入らなくって困ってたんだ。

 そんなことを考えているうちにIS学園の正面(?)らしきところに到着した。かの有名な野菜人の肩当てがある施設はどこにあるのかすごく気になる 謎が謎を呼ぶが今は気にしない。いつかきっと見る機会があることだろう。

 

「…ようやく来たか。一時間以上遅刻するとはな」

 

「あっ、いや、すみません。まさかこんな広いなんて思ってもみなかったんで」

 

「言い訳は構わん。とっとと付いて来い。貴様は二週間以上の遅れを取り戻さなければいけないのだからな」

 

「はい!」

 

 織斑千冬だ。……おぉ、なんというか。美人さんだ。次元の違う美人だ。うん。

 オーラのようなものを纏っている感じがあって、つい反射的に謝ってしまった。だからといって怖いだけと表現するのも違和感がある。雌豹のようなしなやかさと力強さを備えた女性と言えばいいのか。まあ、原作で最初に女子生徒たちがキャーキャー騒いでたのも納得できる。

 というか、なぜだか知らんが、どもらずに喋れたな。俺って初見の人と普通に話せないのに。コミュ障解消とか嬉しすぎる! それとも白靄が言ってた稀有な能力のおかげか? コミュ障を解消できる程度の能力、流石にこれはアホすぎるか。

 そしてどうのこうのしてるうちに1年1組の教室に到着。どうやって自己紹介しよっかなぁ~。ウキウキワクワクが止められん。ちょっとしたピクニックみたいだ。あ、後で道とか覚えとかないと。覚えるのを忘れてた。

 

「ここがお前の教室だ。少し待っていろ」

 

 1年1組の扉が開いて、閉じる。そして俺は沈黙を保ちつつ待機。付いて行ったほうがよさそうだ。けど鎮圧作業の途中か? そんなことを考えていた数秒後、俺の期待を裏切らず出席簿の角で殴ったとは思えない音が数十回。一度に数十人って、やることが人間離れしてる上にえげつない。

 ちょっと出席簿アタックの惨状を見てみたいので扉に近づき開ける。自動ドアを学校に設置するとかどんだけの金掛けてんだ? IS学園は儲かってそうなイメージはありそうだけど。

 中に入ってみると一人の少年が頭を抱えて机に俯せてる。あれが織斑一夏か。なるほど何か言い知れぬ気配を感じる。……いつから俺は霊媒師になったんだ?

 

「名御叢、なぜ入ってきた。まだ呼んではいないはずだ?」

 

「えっ、いや、何か叩く音があったんで興味が湧いたんですよ」

 

「……まあいい。入って挨拶しろ」

 

そう千冬さんから言われたのでこれから一年間一緒に過ごすクラスメイトだ。俺としても今後の生活は楽しくしていきたい。そのための第一歩だ。しっかりしていかないと。あっ、でもクラス替えとかどうなるんだろ、あるのか?

 

「えー、名御叢真輝(なみずしんき)です! 趣味はゲームと映画。彼女はいないんで、募集中です」

 

『…………』

 

 なんかいきなり、空気が凍った。何度かスベッた経験はあるけれども慣れない。しかもほぼ女子の中で。これは、思ってた以上に相当きついな。

 

『キャァァァアアアアアア!!!』

 

「まさかのソニックブーム!」

 

『一夏君とは真反対の普通系! でもカッコいい!!』

 

『パッとしないけど普通な感じがいい!!』

 

『彼女になるよー。……フフッ』

 

「普通、普通うるさいわ!? それと最後の奴でてこい! その腐った性根叩き直してやる!」

 

 明らかにからかわれた感が否めない。俺が何をしたっていうんだ? 特にこれと言ってしてないぞ。女って怖いわ。すると視界が正面から変わって下を見ている。気が付くと千冬さんから手加減された一撃を受けたらしい。その証拠に後頭部が痛い。でもすぐに痛みが引く軽いやつだ。

それに今気が付いたが着地した時に受けた痛みはすでに治まってるようだ。千冬さんの出席簿アタックが軽い程度済んだのも倍化のおかげか。

 

「貴様の方がうるさいわ。取り敢えず、お前は窓際の一番後ろだ。座れ」

 

「……ハイ」

 

 席に座るまでの道のりが長く感じる。緊張感がとてつもないくらいにプレッシャーとなって襲ってくる。少なからず悪印象は残らなかったし、逆に良い印象を与えられたと思う。

 だがこれを維持していく労力を考えるとなると、頭を抱えずにはいられない。

 ちなみに教科書なども届いてないので、主人公の一夏君が言ってた広辞苑だったか、電話帳だったかどっちでもいい分厚い本をずっと読みふけっていた。見てみると意外と面白い。こういう専門用語ならば数多の小説を読み続けてきた俺の得意分野だ。でも所々分からなくなるので、教科書が欲しいところだ。

 一応一夏には挨拶はした。ホモなんじゃないかと勘繰るほどに食いついてきた。取り敢えず当面はいなしておくとしよう。それがいい。

 

「それでは名御叢、貴様のISの適正テストを兼ねた操縦試験をしてもらう。山田先生、お願いします」

 

「はい、織斑先生。……それじゃあ名御叢君。付いてきてください」

 

 もうすでにトラブルは間に合ってるんですが、ダメですよね。ハイ。

 

 




仮面ライダー同士の対決はもう恒例ですね。飽きるほど見てきたけど中々飽きない不思議な経験。作品が違うってことが一番の要因ってことですかね?

いつかライダー物も書いてみたいなー。


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不思議な兵器

第3話です。

ビックリするぐらいに書けなくてちょっと焦った。
キャラがちゃんと合ってるのか心配だ。



 テスト、つまりこれからISを動かすための試験が始まるわけだが、その会場まで移動するために山田先生の後を付いて行く。軽快な会話の一つもないまま自然と山田先生の後ろ姿に目がいくんだが、手と足が一緒に前に出てるのを見ると緊張が緩む。

 初対面で物凄く緊張するかもと思ってけど山田先生の挙動がおかしなところを見ると吹きそうになるので堪える。

 

「……あの山田先生?」

 

「ハ、ハイ!?」

 

 いつになったら着きますかと聞こうとしたが、やはり驚かれた。一夏がIS学園に来て一カ月以上になるだろう。だけどやはり織斑一夏個人ならまだしも、他の男に慣れるかは別問題か。

 そっちは俺が頑張ればいいのだが、生まれてこの方女性と親しくなった記憶はない。喋ると言ったら従妹か、母親ぐらいのようなものだ。

 ……家族とは仲が良かったんだ。それでいいじゃないか。うん。

 

「そ、そうですね。あと数分くらいでつ、着くと思いますよ」

 

 さっきから目が泳いでいる。これは時間がかかりそうだ。ふぅーむ、何か話す内容でもないんだろうか? あっ、そういえば聞いておきたいことがあったな。

 

「それじゃあ、着くまで質問でもいいですか?」

 

「あっ、はい! 何でも聞いてくださいね!」

 

 どうやら山田先生のスイッチに触れたらしい。先ほどまでの挙動不審な姿から一変して自身に満ち溢れた顔をしている。何かしらのスイッチ触れたんだろうか。

 

「適正テストって何するんですか?」

 

「適正テストですか? 普段は教師と一対一で戦闘をするんですよ。でも他の先生たちはすでに担当を取り持っているでしょうし、事務員さんぐらいしか動かせる人がいないんですよね」

 

「事務員が動かせるんですか!? ISを!?」

 

「はい、IS学園で勤めてる人は全員ISが動かせるように特訓を受けているんですよ! 織斑先生が主導で月に一回してくれるんです」

 

 なるほど。事務員っていうからてっきり轡木十蔵さんのほうかと思ってた。さすがにそれはないか。そして俺のリアクションが山田先生の教師心をくすぐったのか、なぜかさっきよりも倍増しで興奮、もとよりキラキラ目を輝かせていた。

 

「へえー、それって俺も参加できますかね?」

 

「できると思いますよ。織斑先生に直接申し込めば誰だって快く引き受けてくれるはずですよ。でも、特訓が物凄く辛いですよ。それこそ三年生の人だって値を上げるほどなんですよ」

 

「それを毎月ですか。大変そうですね」

 

 手っ取り早く強くなるなら強い人に教わるのが一番だからな。俺としても願ったり叶ったりだ。あの草木生い茂る中を走ってた時、まるでFPSの中の出来事を自分の身体で動かしているようだった。あの感覚からして、俺は間違いなく運動音痴なんかじゃなくなった。

 今までの劣等感が優越感に変わったことを再認識した俺は、一回でもいいから織斑先生の特訓にでも参加してみようと思った。

 

「真輝君も頼んでみたらどうですか?」

 

「あぁ~、考えときます」

 

「そうですか。あっ、更衣室ですね。ここで着替えてください」

 

クセになりつつある無難な言葉に空気を悪くしたが運よく更衣室に到着したようだ。でも先生の話を聞くと、色々と抜けているんだが。

 

「えっと、何に着替えればいいんですか? それにどこに置いてるんですか?」

 

「す、すみません。ISスーツが置いてありますから、それに着替えてください。ベンチに置いてあるはずですので。」

 

「分かりました」

 

 ISスーツはすぐに見つかった。着替えるのも少しばかり手間取る程度でそこまで難しくはなかった。着替え終わったらどこに行くのかを山田先生に聞き忘れて軽く死にたくなったが、適当に他の通路がないかを探すと何個かあったので入ってみる。

 一つ目、トイレの入り口。しかも女性用。そっと閉じることにした。今日、俺は、何も、見ていない。

 よし、二つ目を開けてみよう。用具が色々と入っていた。掃除用具からタオルまであった。タオルを見ると、次の部屋は何となく予想が付きそう。

 三つ目はやはりシャワールームだった。少しいい香りがしたので一瞬名残惜しくなったが、すぐに閉じる。……閉じた勢いで香りがふわりと鼻に付く。やっぱり女子高なんだなぁ~。開けて入りたくなるわ。

 四つ目を開けると観戦する場所だ。イスや立ち見の手すりなんかもあって一目で選手の観戦席だと分かった。シャワーといい、観客席といい細やかだな。これで全ての扉を開け終えた。別の場所か? さっき山田先生に聞いておくんだった。いや聞きに行くか。

 

「あのぉ~、山田先生、ちょっといいですか?」

 

「あれ着替え終わったんじゃないんですか?」

 

「いやそっちは終わってるんですけど、サイズもあってるんで」

 

「それじゃあ、付いてきてください。試験で使うISのところまで案内します」

 

 やっぱりかー。……ちょっと顔が熱い。さっきまで勘違いしてたなんて。いや仕方なかったんだけど、もういいや。黙ってりゃいいことだ。

 黙って山田先生の後について行き、すぐに部屋に入っていく。するとそこには、ISがあった。武骨な印象を思わせる形状のIS、たしか『打鉄』だったかな。

 

「山田先生、これが?」

 

「はい、インフィニット・ストラトス。通称ISです」

 

 既存兵器の全てを上回る性能を持つISが、俺の前にある。そして、女性だけにしか使えなかった欠陥品。なぜ男の一夏が使えるのかは知らないし、俺が使える理由は神のみぞ知っている。別に原作でどうせ明かされるだろうし、作者次第だが時機に解明するだろう。

 こっちの世界でISが売ってるのはどう考えてもありえないけどな。

 

「それじゃあ真輝君、これからこのISを動かしてもらいますね」

 

「わかりました」

 

 素直に話を聞き、ISに近づく。このISを見た瞬間に鳥肌が立つのを感じた。これがきっと運命を感じ取ったときの感覚なんだろうな。ISに触れると全身に電流が流れる。静電気なんて目じゃない電気が俺の身体に流れてくる。

 不快ではなく、むしろ心が湧き立つよう気分だった。それが収まると俺はISに乗っていた。なんとも不思議なもんだ。自分の手足の延長のように感じる。手を動かしてみるとその通りに打鉄の指が動く。ちょっと楽しい。

 

「装着できましたね。それじゃあ、まずはアリーナに降りて一通り自由に動かしてみてください」

 

 普通に歩く動作を思い浮かべながら身体を動かしてみる。スムーズに身体が歩く。格納庫からあと一歩でも進むとアリーナに真っ逆さまだが、飛び降りる。何もない状態で空を降りるよりはちっとも怖くない。

 途中でPICを使ってスピードを和らげるイメージを作ってアリーナに音をたてないように立つ。意外と自分の思い通りに動く。これは思っていた以上に楽だな。

 

 次に宙に浮くイメージ。これも意外と簡単にできた。次に前へ身体を押し出すイメージをISに伝える。ゆっくりと前へ前進していく。速さはイメージ次第らしい。

 一通り空中浮遊を楽しんだ後に打鉄に搭載されてるIS用のブレードを手に持つイメージする。何か白いが出てきて、消えると刀が手に乗っていた。やっぱり不思議だ。

 

『それじゃあ、真輝君。これからISのテストを開始しますね』

 

「わかりました」

 

 刀を白い靄で包んでしまう逆のイメージを思い浮かべると俺の手から消えた。簡単にいけた。ホントすごいな。それにしても誰が相手なんだ? 会長でもくるの?

 

「ハーイ、君が新しい男の子かな?」

 

「oh my god……た、誰ですか?」

 

 俺は聞き覚えのある声に思わず名前を言いかけた。来るんじゃないかと思ってはいたが、まさか生徒会長さんが来ようとは。俺の内心は奥底に収めるとして、会長さんが初っ端の相手はきついんじゃないか? ISで戦うはもとよりケンカなんて初めてですよ。

 

「出会っていきなりoh my godとは失礼じゃないかしら?」

 

 いや、それでもさ。こっちは素人で、そっちは国の代表するIS操縦者でしょ。それにこっちは汎用機ですよ。寄りによって『霧纏の淑女』(ミステリアス・レディ)ですよ。

 ザクとガンダムをガチンコで戦わせるようなもんだろ! 勝てる要素がどこにも見当たらねぇ!

 

「いやいやいやいや、こっち打鉄でしょ! そっちはどう見ても専用機じゃないですか!?」

 

「アハハハ、そうね。諦める?」

 

「諦めるとかそんな次元じゃない気が」

 

「でも決まっちゃったものは変わらないわよ。賽は投げられたってやつよ」

 

 会長さんは心から楽しそうな声で言ってのける。こっちからすれば死刑宣告されたのと一緒だってのに。

 

「それじゃあ、麻耶ちゃん。初めて」

 

『えっ、もうやるんですか?』

 

「いきなり「ヤル」だなんて、もう、男の子なんだから」

 

「違うわ!? そっちのやるじゃない!」

 

『えっと、それじゃあ始め!』

 

 いまだ混乱している最中なのに山田先生のたった一言で、会長さんが一気に接近してきた。本当に始まりやがった。試験っていうから、ある程度動かして終わりなんじゃないかって思ってたのにここまでガチでやるなんて。

 

「もう! どうにでもなれ!!」

 

 向かってくる会長さんに向かってファイトポーズを取る。神様に祈りたくなってきた。

 




今回は長らくお待たせしましたが、次は早く書けるはず。
ようやく勘を取り戻してきたところです。

次話はもっと早く投稿します。ハイ。


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VS学園最強

第4話です。

神器なしの戦いがここまで書きづらいとは思ってもみなかった。



 相手、更識楯無は学園最強で人たらし。尚且つIS学園の生徒会長で対暗殺組織『更識』の頭首を務めている。こうして改めてみるとキャラ濃い。

 今装備しているIS『霧纏の淑女』(ミステリアス・レディ)も装甲はほとんどないが、その分水色のクリスタルで制御される水を自由自在に操って攻守両方を使える便利な能力がある。さらに水に流れを加えることでランスとして使うこともできる。しかもランスにはガトリングを仕込んである。

 やっぱりキャラ濃いわ。ISも物凄く強いし。

 

 更識さん、いや生徒会長って呼ぼう。生徒会長が何の説明なしで突っ込んできたが、相手は千冬さんを除いた最強格の一人でもいる更識楯無こと生徒会長さんが『霧纏の淑女』。水のナノマシンで使って水蒸気爆発を起こす技などもあり、本人の技量も相当高いはずだ。

 接近してきた生徒会長さんを撃退するべく、構えを取ってみたはいいもののどう対処すればいいのか全くわからない。取り敢えず迎撃として俺は殴ってみる。相手は訓練を積んだ女性だ。さらに言えば対暗殺一家の長女。俺の拳が手っ取り早く通用するか。試すに持ってこいの機会だ。

 

「ふふっ、素直ね」

 

 左の軽いやつを一発殴りこんでみるが簡単に躱され、手に持つランスを腹部に受ける。モロに食らったが痛みは襲ってこなかった。これがシールドエネルギーってやつか。略してSE、便利だ。水をそのまま叩きつけられた感じだな。どうやら水の回転をしないで槍のままぶつけたようだ。

 槍で受けた硬直はすぐに直り、俺の反撃の一発はひらりと躱される。うぅーん、これは普通に戦っても負けしか見えてこないな。取り敢えず、あれだな。

 

「守ったら負けか。なら攻める!!」

 

「うん、うん。男の子はそうじゃないと。お姉さんが相手してあげるよ」

 

「……行くぜ」

 

 今度はこっちから一気に接近する。生徒会長さんは構えもせずに自然体。実にこっちを舐めているのがわかる。まあ、今回は負けてもいいが、せめて一矢は報いたい。

 

「…………喰らえや!」

 

 左ブローから右ストレートのコンビネーションはあっさりと今まで通り簡単に躱されるが、俺は生憎と利き手は左だ。本命は左。右で会長さんが身体を下げたせいで、動きづらくなったところを高さで仕留める。右足を踏み出し、片足を後ろに上げながら前傾姿勢で左腕を会長さんの頭に叩きつける。

 が、それも後ろに跳ねられて簡単に躱される。結局地面にクレーターが一個できるだけだった。あれも読まれてたのか。イケたと思ったんだが。

 

「何で躱せるんですか。ホント? まるで軍人みたいな身のこなしするし」

 

「アハハハ、IS学園の娘をただの女の子と思っちゃだめよ。それに私はこのIS学園でも、最強なんだから」

 

「最強。生徒会長でもやってるんで?」

 

「おぉー、意外と察しが良いんだ」

 

 さっきまでは気持ち的にボクシングのようなスタイルだったが、今回は左手を顔の横、右手を体の前に持っていく。まあ、どこぞの元ヤクザさんのスタイルだ。今の俺に堂島の龍ほどの実力はないけど目の前の生徒会長さんに一発でも返したい。

 

「オラァ!」

 

「おっと」

 

 今度は軽い左から右フックの連続パンチで攻める。生徒会長さんにはワンツーは避けられるが、三回目の上から下にハンマーで叩くような左が外れる。そのままでは終わらせず右足を蹴り上げる。防御されたがようやく当たった。少しだけだがSEも削れた。

 そこから右足を軸足に切り替えた左回し蹴りに繋げようとしたが、当たりもせずに空ぶる。やっぱり戦ってみて分かったが、思ってたよりも他人の戦い方を模範して戦ってみると相当戦いやすい。何十回も見てきたのもあるかな?

 

「意外と筋はよさそうだね。鍛えれば伸びそう」

 

「意外は余計だ! 意外は。それにしてもこんなに長いんで? このまま戦ってても埒明かないじゃ?」

 

「それもそうね。それじゃあ、なんだか暑くない?」

 

「暑い? ……Oh my God」

 

「ドカーン」

 

 …………あ、危ねぇー! 事前に『清き熱情』(クリア・パッション)が使えるのを知らなかったらあれで終わってた。俺が作ったクレーターの底にまで水のナノマシンが無くて良かった。いきなりこんな初見殺し使ってくるか!?

 それに思い出してみたら水のヴェールでダメージを無効化するのに俺の蹴りでダメージが当たったら金属と金属がぶつかる音が出て、SEが削れたわけだ。元々纏ってる水がないんだ。多分、この試合が始まる前からナノマシンを漂わせてたんだ。でなかったらこんな大規模の爆発が起こせるわけがない。

ついさっき作ったクレーターの中に俺が入るとは思ってもいなかったんだろう。それでもおかげさまでSEが300を切った。このままじゃマズイ。

 

「あ、あら? 仕留めきれてない?」

 

「素人にそんな初見殺し使ってくるか!? 普通!」

 

「逃げ切ったんだからいいじゃない」

 

「なわけあるか! あのクレーターが無かったら終わってたわ!」

 

「それにしても初めてだわ。『清き熱情』が避けられたのは。ん~、本当に凄い子なのかしら」

 

「もう戦い方なんてどうでもいい! お前のその顔に一発ぶち込む」

 

 もう本当にキレた。普段温厚な俺でもここまでの仕打ちをされてブチ切れないわけにいかない。よくよく考えてみれば、たった一日でいったいどれだけのことが起きた。パラシュート無しのスカイダイビング。織斑先生から俺はほんの数分前まで空から落ちていたのに遅刻扱い。しかも一時間。さらにソニックブームまで食らう羽目に。

 最後に、俺の相手が生徒会長になっているわけを知りたくなったが、そんなことキレた後だ。いまさら気にしようもない。ただ、どうやってこのイライラを晴らそうか。そこに尽きるのだが、丁度いいことに目の前にいる。

 

「ブチ込むだなんて。いやん、真輝君たら」

 

「その、減らず口を! 黙らせる!!」

 

 そうだ。怒りだ。ただ戦ったんじゃあ、普通の域から出ない。何よりも俺が変わらない。神器を思い浮かべながら、最強の自分のイメージすることを忘れてた。

 俺自体には戦闘力がない。でもこの身体は生徒会長に何とかついてこれている。怒りほど簡単で火のかかりやすい感情はない。

 

「(瞬時加速(イグニッション・ブースト)。ぶっつけ本番だけど、行ける!)」

 

 背中から爆発しそうなほど膨れたエンジンから火を放つイメージでダッシュする。速度は普通じゃあ体感できない速さだった。それに合わせて右足を後ろに下げて半身の状態にして溜めた右ストレートを打ち込む。

 さっきまでとは、打って変わって焦った表情をした生徒会長さんの顔面に拳を叩きこむ、つもりが、いつの間にか空中に飛んでいた。いや跳ばされたんだ。相手は古武術から何まで習得した強者。

 ISの機能のおかげで視覚の前後左右、上下すべて理解できる。地面がどこで、どこが空なのかも。

 

「あぶなっ!」

 

 ISのオートバランスが働いたのか、地面に手と膝を付けた状態だが着地できる。楽でいいな。でも慣れたら多分オートじゃなくても十分こなせそうだ。

 後でISをマニュアルで動かしてみようと心に誓った後、素手に変わった生徒会長さんが向ってくる。やはり瞬時加速がいい挑発になったか。

 

「オラァ!!」

 

「ハッ!」

 

 右のフックで生徒会長さんを迎撃。攻撃は外れた。ジャンプして俺の攻撃を躱して蹴りが襲ってくるが、守らず攻めると決めたんだ。どうせ外してもISが守ってくれるんだ。ならばやることはさっきと同じく迎撃。左から鞭のような蹴りを、アッパーでお返しする。

 

「ッ!?」

 

 運よく足に直撃し、生徒会長の体が宙を漂う。丁度いいところにあった頭にめがけて右フックを打つ。首を後ろに逸らして躱されて空しく通過する。俺の腕に手の乗せて逃げようとするが右腕を上げて空中に放り投げる。

 流石にそこまでは対応できなかったらしく、ただ空中を浮遊する生徒会長に勝機を見いだした俺は、振り上げた右腕で腕をつかむ。そして力一杯に腕を引いて俺に向かってきた顔面に左ストレートを叩きつける。

 

「ッゥー!」

 

 決まった。と思った手応えだったが、柔らかな物越しに顔を殴ったみたいで、どうやら瞬時にナノマシンでコントロールした水を顔に集めて防御したんだろう。SEを削りがいまいちなところを見ると、多分そうなんじゃないかとおもう。

 地面にぶつかってバウンドするが、すぐに体勢を立て直すあたり、本当に強いんだということが分かる。とっさの判断もそうだが、あのパンチを水の防御ありだとしてもすぐに立て直すところが凄い。

 生徒会長の目を見るとこの戦いがまだまだ終わらなさそうだ。顔の辺りに両手で握り拳を作って構える。あれだけ良いのを喰らったんだ。今度はまず本気だろう。

 

「やってくれたね。まさか顔に貰うとは思ってなかったわ」

 

「本当に相手が倒れるまで続けるのな。この試験」

 

「基本的には試験官側が生徒側を倒してお終いってのが、普通なんだけど。真輝君って本当に初心者?」

 

「初心者もなにも、こうして動かすのは初めてだよ。でも戦ったことがないわけじゃない」

 

 一方的にボコボコに殴られた経験ならある。最後に相手へ金的をやったのはいい思い出だ。油断したところに男の勲章を潰してやったから、さぞ痛かっただろう。あのガラの悪かったチンピラとの経験が生きるとは思ってもみなかった。

 生徒会長はいい笑顔を浮かべた後にガトリング付きのランスを取り出し、さらに蛇腹剣の両方を出してきた。あぁー、生きてれば御の字だな。

 

「なるほどね。それじゃあ、加減はしないわ」

 

「(一矢報いたからいっか)」

 

 この後ボコボコにされた。そこからの記憶はない。

 




普通が難しい。赤龍帝の籠手を何度書いては消したか。


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悔いなき敗北

この三カ月何をやっていたといわれれば色々ゲームをやっていました。
誤解なきように言えば二カ月研修、一カ月ほどゲームを。

いやね、ファークライ4とか龍が如く0だとかやっていたらこんなに時間がかかっていたんですよ。


二か月とか言っておきながら三か月も忘れていました。
申し訳なく思います。久しぶりの投稿で見てくれる人がいると思って投稿します。
楽しんでいただければ幸いです。


「……知らない天井?」

 

 気がついたら寝ていた。察するに医務室か? 正直俺がどこにいるのかわからないが、素直にベッドに寝そべるとしよう。とくに疲れてないけど何やってんだっけ?

……そうだ。だんだん思い出してきた。

 会長さんにやられて気を失っていたようだ。途中までは善戦していたが、ストレートが決まった後から本気で戦ってきて、一発も掠ることもなくSEを0にされて負けたんだ。悔しさが残る戦いになったけど、初戦であれだけ戦えたんだから胸を張るとしよう。俺は強くなる。まだまだこれからだな。

 このままだとずっとボーとしそうなので、そろそろ動こう。身体はもう動いても大丈夫そうだ。流石は神様特製のボディ。ヤワには出来てない。それにISの絶対防御もある。会長さんもさすがに絶対防御を突き抜けるような攻撃を控えてくれたみたいだ。

 

 俺がベッドから抜け出すと扉が開くような音がした。医師かなと思い、冷たい床に置いてあったスリッパを履いて、邪魔なカーテンを避けて向かう。扉の前で立っていたのは織斑一夏とヒロインの條々之箒、凰鈴音、セシリア・オルコットの四人だった。

 シャルロットとラウラがいない所を見ると、身体能力と俺の転入時期と『赤龍帝の籠手』。白靄はちゃんと俺の要望通りにしてくれたってわけだ。俺の望みを見事に果たしてくれた。

 

「織斑一夏?」

 

「何で俺の名前を?」

 

「ニュースだよ。テレビつけたら誰だって知ってるよ」

 

「そ、そうなのか。なんか照れくさいな」

 

 恥ずかしそうに頬を掻く主人公こと織斑一夏。君のデレなんて誰も期待はしてないって。予め考えていた言葉で簡単に納得してくれた。まあ、この会話だけで分かる奴なんているわけがない。

 

「あ、ああ。ほら、今休みなんだけどお前がどうなったのか知りたくなってちふ、織斑先生に聞いてみたらここにいるって言われてな。」

 

 そういって織斑は屈託のない笑顔を見せる。何だかホッとして見せた笑顔のようで、安心した気分なのが始めて出会ったばかりの俺にも分かった。なるほど素直な性格しているようだ。わかりやすいとも言うが。

 

「なるほど。ってことは俺もこの後の授業でないといけないのか?」

 

「出なくてもいいと思うけど、なんでだ?」

 

「呼んでくるように言われて俺の場所教えたんじゃないの?」

 

「いや、千冬姉が教えてくれた時には何も言ってなかったぜ」

 

 それならいいや。てっきりパシリとして俺を呼んでくるように言われたんじゃないかとばかり考えていたけど、考え過ぎだったらしい。

 すると一夏の後ろにいた條々之さんが喋り出す。

 

「一夏、そろそろ戻らねば授業に遅れるぞ」

 

 さらにセシリアと鈴が乗っかる形で喋り出した。

 

「そうですわよ。一夏さん。いくら優しい山田先生の授業だからと言っても遅れてしまってはかわいそうですわ」

 

「あたしも一夏のクラスに行こうかしら」

 

 なぜ付いてきたんだ。そうツッコミそうになったが、無理矢理口を噤む。一夏あるところにヒロイン有り。誰かしらに朝起きてから就寝時まで丸々付きまとわれていそうなイメージがある。

 なるべく一人の時間を作らないと、色々と辛そうな環境だ。少なくとも寝る前は一人でゆっくりしていたい。そんなことを考えていると一夏の考えがクラスに戻ることへ傾いたらしく、別れを言うとクラスに戻って行く。

 

「結局何のために来たんだ?」

 

 一夏がわざわざ俺のところに来た理由は何となく予想はつくが、まさか一度会って話してみたかった。後でもできることを短い時間だけでも実行しようしたのなら。…そこまで精神的に男を求めているとしたら、そこまで追い詰めるかIS学園。

 エロゲーなんかやってると女子学園に一人なんて結構ある設定だが、実際に入ってみると確かに異質だし、否が応でも目立つ。俺みたいな日陰で目立たず騒がず、面倒を起こしたくない俺にとっては随分と好ましくない。まあ、だからこそ今までにない刺激を求めてきたわけだ。この『IS』の世界は好きだが、選んできたわけではない。

 

「さて、いつになったらここから出ていくとしようか。」

 

 ベッドにまた座って考える。あまり考えなくても、ここから出た後に誰かが入って俺がいなかったらどうしたものか迷うよな。校医が休み時間にどこかいっていたら。などなど色々考えるとやはりここにいるのが一番のような気がする。

 でもこのまま居座って放課後まで放置とか考えるとちょっと寂しい、というか後が怖い。なぜここに居座っているとか言われて織斑先生に怒られそう。純粋にガクブルものである。

 そうやってウンウン唸っていると突然扉が開く音がする。どちらさまだろうか。また立ち上がって扉の方に向かってみる。カーテン邪魔だな。

 

「むっ、起きていたのか。名御叢」

 

「織斑先生」

 

「寝ててもいいんだぞ。初戦であれだけボコボコにされたんだ。まだ痛むだろう」

 

「ケガとかはないんで大丈夫です。いやISって凄いんですね」

 

「そうだな。だが、ISに乗っていても殺す方法はある。よく覚えておけ」

 

「わかりました」

 

 突如殺人予告された。実際には警告なんだろうけど確かにISでもSEが許容できないレベルのダメージを受けると本人にもダメージなりケガを受けてしまう。原作で知ってはいるが、そのケガをする立場になるといかんせん笑えない。

 それよりも織斑先生は何かあってきたのだろうか? 暇な立場でもないだろう。

 

「貴様の部屋のカギを渡し忘れていたからな。女と一緒の部屋は嫌だろうと思って一人部屋の空きがあるので、そこを使わせることが決まった」

 

「わざわざありがとございます」

 

「一人部屋といっても従業員の宿泊場だから遠い上に学生が使う部屋と比べるとあまりいい部屋とは言えん。学生寮の部屋を用意するにはもう少し時間がかかるだろう。それまでの辛抱だ」

 

「いえ一人部屋ってだけでもありがたいです。いきなり同じ屋根の下で夜眠れるか心配ですし」

 

 思ったことを素直に伝えてみると、織斑先生はスッと口の端を上げてカッコよさ溢れる笑顔を見せてくださる。

 

「なるほど。それが普通の男子の考えか」

 

「普通、何がですか?」

 

 一夏と比較してるってことか? 確かに俺は友人にはズレてると言われたことはない。……そう言えば友達と性格なんかに付いて話したことがなかったな。俺もそこまで自分を知ってるわけでもないからな。でも絶対に織斑弟よりは、普通だな。

 

「なんでもない。それと名御叢、もう一つ伝えておかなければならないことがある」

 

「何ですか」

 

「貴様が試験で使ったISが剥がせなくなった。恐らく貴様が使用した打鉄のISコアが気に入ったんだろう。ISのコアにはパーソナリティ、個性があるのは知っているな」

 

 パーソナリティ。たしかISの人格ともみたいものだっけ? 一夏が3巻の福音にやれて白式の中で見た騎士の格好した女性と同じか。結局誰でどんな存在なのかも分からずにこっちに来ちまったけど、9巻以降の展開は俺の手で変わってくるわけだ。

 俺の存在でどれだけ変わっていくか。責任重大だ。

 

「はい。辞書に載ってました」

 

「貴様に懐いてしまった以上、貴様のISとして登録することにした。そのための書類を明日には書いてもらうことになる。今日はしっかり休め」

 

 書類? ……いきなり、反省文みたいなもんを書かされ続けるってこと? えっ、ちょっと待って、いや、普通に言うだけ言って去らないで下さいよ。後、どこに従業員の部屋があるのか教えてくださいよ!?

 

「……行ってしまった。うわぁー、どうすりゃいいんだよ」

 

 思わず独り言を洩らしてしまうほどのピンチだ。そこは誰かに聞けば何とかなるだろう。決めてしまえば、後は実行するだけだ。……だが数秒何も考えない間に冷静になったようで、すぐに状況を見直すことができた。

 よくよく考えてみれば今は授業中。従業員の部屋に行くのはまだ先。それに俺は一応更識楯無にフルボッコにされた身。それに更識楯無と初めて戦ったのだ。俺が気付かないだけで大なり小なり疲れてるはずだ。ましてこの身体は神製の特別な肉体。心理的な疲れを感じないほど元気なだけかもしれない。

 ……運動音痴、だったよな。俺ってバッドを取れば空振り。野球ボールを投げても暴投。サッカーボールに至っては蹴れたら御の字。それぐらい酷かった。知り合いのオタクデブと散々運動できる奴を妬んできた。運動のできる側になれたらどれほど楽しいんだろうと考えていた。

 

「うん。メチャクチャ楽しいじゃん」

 

 アニメやマンガ、小説を読んでいた時とは違った快感。先の分からない展開や魅力的なキャラなどではなく、自分の思い通りにできること。自分の思い通りに動く身体で自分が憧れたキャラとそっくり、真似ることすらできることが楽しいんだ。

 今までできなかったことができるこの喜びは何と言って表現すればいいのか。ただ、楽しさと嬉しさ。その二つが混ざって言葉に仕切れない感情になっている。一生運動なんてできないと思ってた。

 劣等感が一転して優越感へと変わったのが自分でもはっきりと分かった。今の自分がどれだけ嫌なことを考えているのかも理解してるつもりだ。それでも、優越感の方が自身へのやましさを簡単に上回る。

 

「……ホント、世の中不公平だな」

 

 前までこんな気持ち一つ味わえなかった才能のない自分。それなりに楽しいこともあったが麻薬みたいに夢中になれることはなかった。唯一アニメや漫画やラノベくらいだろうか。本当にそれ以外あったか? 前世はそれぐらいの人生だった。

 俺は文字通り生まれ変わった。今までの俺とは違う。俺のことを笑っていたことも今なら嘲笑って許せる。何で最初っから運動神経よくできてなかったとか、運動音痴で生まれたこととかも、今の俺にはどうでもいい。

 なったもんは仕方ない。なって変えられないなら仕方ない。そんな真理を変えられる不条理を変えられる奇跡を俺が手に入れた。あの白靄には本当に感謝だ。隕石で押し潰されたことも笑って許せる気がする。いや、その衝撃波だっけ? まあいっか。

 

「……いつまでもこのままって訳にもいかんよな」

 

 取り敢えず、俺の制服を探して着ないと。

 




今まで質より量で書いてきましたが、やはり中身が良くないと。
というわけで投稿スペースは低くなると思いますが、
質と量ともにもっとすぐれたものにできたらと思います。

次はもう8割ほどできているのでみなしが完了次第、投稿する予定です。


それと全く関係ない話ですけど、
恋姫英雄譚・蜀編。ようやくでましたね。次の投稿終わりにでもやりたいです。


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普通とは違う学園生活

 IS学園に来てから数日が過ぎ、転入生が来るという噂話が広がっていた。俺は白靄がこの世界に放り込んだ結果、戸籍や履歴書などはあるけどどうやってISコアを動かしたか、などが分かってない。という白靄のフォローも微妙な状況だ。あいつ絶対会社とかで平で定年終えるな。多分。

 まあ、結果ISを動かせるという後付の事実があるから心配ないと思う。不安はつきまとうが俺の噂は煙が出る前に一旦鎮火したわけで、今回の噂話のタネではない。今さらながらこの世界での俺の身元は一体どうなってるんだか。俺の身元は前世の通りか、それともないのか。

 備え付けの机に肘を立てて拳に顎を乗せた状態で考えつつ前を見る。男が見える。俺の席が真後ろの列にあって、一夏が教壇の間にいるから男が見えるというわけではない。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 一切の淀みなく自己紹介をしたシャルル・デュノア。まあ彼ではなく、彼女だということは、既に原作を知ってる者ならば一発で誰でも看破できる。

 さて、今のうちに耳栓をしておくか。原作二巻の始まりともいえるこの二人の転入までの数日の間に安眠用の耳栓を買っておいたのだ。購買のおばさ、お姉さま方に頼んでわざわざ仕入れてもらったのだ。

 費用は嬉しいことに学園持ち。俺の財布の中に大した金が入ってなかったこともある。だけど税金を悪いことに使いたくなる政治家の気持ちが何となく理解できた気がした。政治家なんて面倒なモンになる気はないがな。

 

「お、男……?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を」

 

「きゃ」

 

「?」

 

『きゃぁぁああああああああ!!!』

 

 一夏は手で耳を押えて耐えたようだ。こっちは耳栓つけてやっとだってのに。こんな爆弾みたいな殺人ボイスでも考え事ができるなんて。流石主人公。普通の人間とは体の造りから異なるようだ。この耳栓が無かったら俺は悶絶していたところだろう。

 まあ、この身体は妙に五感が鋭いから妙に気を使うんだよな。

 

「男子! 三人目の男子!」

 

「しかもまたうちのクラス!?」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!!」

 

「地球に生まれてよかった~~~!」

 

 俺の時とは違う高評価な歓声に気分が下がる。まっ、まあ、シャルルの本来の性別は女性。その事実が俺の気分を持ち直してくれる。期間限定ではあるが、未来を先読みできるってのもいいもんだな。

 その男装女子のお隣に居られる銀髪が素敵なラウラ・ボーデビッヒ。眼帯と鋭い目つきが合わさってクールな雰囲気を醸し出している。両手を後ろ腰に合わせて丁度休めの体勢になっている。何とも年季の入った姿だ。ぼんやりとそのままラウラと織斑先生の会話が終わるのを待つ。

 

「ラウラ・ボーデビヴィッヒだ」

 

「…………」

 

さっきまでのシャルルの挨拶で湧いていたクラス中がそれだけの言葉で冷え切る。まあ、それを知っている俺はラウラの言葉を聞き流す。そして原作と同じくラウラが一夏を叩き、怒る一夏を無視して傍から聞けば何のことかわからない一言浴びせる。一気にクラスの雰囲気が悪くなるが、織斑先生の仲裁で朝のホームルームが終わる。

 ラウラの詳しい出自や事情を知る俺からしてみれば、一夏への八つ当たりも分からなくもない。初めて会った一夏にすればラウラの仕打ちは理不尽極まりないだろうが一夏のことだから伝えなくてもすぐに許すだろう。

 

「はー、それではHRを終わる。各々は着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 固まった空気を織斑先生が壊して指示を出す。クラスメイト全員、織斑先生の声を聴いた瞬間動き出す。詰まる話、一斉に着替えを始める。男がまだいるとか関係なしに始める。残りたい気持ちが出てくるが、そんなことができるほど俺は勇者じゃない。

 

「おい織斑と名御叢。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ」

 

「一夏! 任せた!」

 

 俺の席は一番後ろの窓側。前に行くより先に着替えシーンを目撃する。今まで音沙汰にはなってないが、何度か移動にもたついて下着をチラッと見たりしてる。

 当初は滅茶苦茶焦ったな。だけどようは見なければいいだけの話だ。

 

「君が織斑君? 初めまして。僕は」

 

「任された! 自己紹介は後だ。まずは移動が先だ」

 

 二人が話しあってる間に教室を出る。IS学園の女子は危機感というか恥じらいってのが薄い。男なんて親以外知らないってレベルの生粋のお嬢様たちばかりだ。仕方ないんだけどやっぱり不用心だし、何より性欲が。

 教室の後ろ扉から出て3秒もしない内に一夏たちも出て来る。それを確認してすぐさま行動を開始する。

 女子に取り囲まれたが最後、ひたすら質問攻めをされる。周りの女子は教室が比較的近いからまだいいが、授業開始のチャイムが鳴る頃にアリーナに着くのは笑えない。そして織斑先生にしばかれる。

そう一夏が遠い目をしながら語ってくれた日を俺は今でも鮮明に覚えている。こうならないように戦術まで練ってきたんだから。とはいっても、やることはとても単純。

 

「真輝! 倍化をかけてくれ!」

 

「分かった!」

 

『Transfer! Transfer! Explosion!』

 

 一夏とシャルロットに譲渡。俺には強化。二人には三回分の身体能力の倍化をしておいた。身体能力は身体の動きを速め、筋力を高めてくれる。倍化なしと比べると100m走の9秒台が1秒台ぐらいになる。月並みだけど本当に凄いと思ったよ。

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の倍化能力は。神器の中でも特別と言われる『神滅具』なだけはある。ただ今の俺だと恐らく百回辺りで限度が来ると思う。それは譲渡も含めて同じはずだ。

 それと教室内で予めに『赤龍帝の籠手』を発動したため既に十回分の倍化ができる。携帯電話で時間を止めて見てみると103秒か。特に何のデメリットもないけど時間をもっと正確に時計無しで計れるようにならないと。

 体内時計ばっかりは俺の感覚の問題だから仕方ないけどこの計測を始めたより5秒も縮まったことを考えれば大分マシだろ。この調子で時間を正確に計りつつ、戦闘ができるくらいになりたい

 

 そんなことを考えつつ障害となる女子生徒たちの津波というか壁というか、とにかく邪魔な女子たちと出くわさないように気を付けながら走っていく。普通なら経験上、もう誰かに会っていてもおかしくないが今の俺たちの身体能力は普段の8倍。俺たちが通る第2アリーナまでのルートを事前に抑えておかないとまず出くわさない早さだ。

いざ出会っても壁走りなんかで回避できる。最近は壁走りにも反応できるようになりつつあるので一つの集団を抜くにもやりづらくなってきた。壁走りの勢いで天井を這いつく勢いで移動ができると思ったが、できなかった。前は出来なかったが倍化が後一回分残ってはいるから……できるか分からないし保存しておこう。

 

「とりあえず男子は空いてるアリーナの更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから早めに慣れてくれ」

 

 シャルロットは手を繋いで一緒に移動しているからどうにも上の空だ。一夏が説明をしながら移動するが、聞いてるようで聞いてなさそう。周辺探索のために聴覚に倍化を譲渡する。五感にやると脳を強化するから無駄に負担がかかる仕組みになっている。だから必要な事以外は全て個別で使い分けるようにしている。

 8倍の聴力で微かな音にも反応できるようになる。すでに女子たちの追いかける音がするがもう遅い。俺らは今、第2アリーナまでもう少しってところにまで来ている。今日は逃げ切ったか。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「えっ、う、うん。大丈夫だよ」

 

「なんかボーとしたけど」

 

「大丈夫だよ。ありがとう名御叢君」

 

 礼を言いながら笑顔を見せる。グラッと来たな。これは破壊力が尋常じゃない。顔が熱くなるのを紛らわせるためにちょっと力を抜いて距離を少し開ける。

 あんなに一点の曇りのない笑顔初めて見た。心に矢が刺さる、なんて馬鹿げた言い方しないと言い表せらんないほどグッとくる笑顔だった。たぶん今顔熱いんじゃないか。触んなくても分かるくらいに熱い。可愛いなぁ~。

 

「うわ! 時間ヤバイな! すぐに着替えようぜ」

 

「お前も中に着ておけばいいのに」

 

「俺はいいよ。なんか妙な感じがして嫌なんだよ」

 

「俺の方は何ともないけどな。アームストロング社のやつ」

 

 あの衆院議員と名前が一緒だから釣られたなんて言えない。

 

「俺もそっちにするかな」

 

「色々と試しておけって。どうせISスーツを買うにしても使うにしてもタダなんだし」

 

 第2アリーナの更衣室に到着した俺たちはすぐさま着替えを始める。一夏はISスーツを毎回着替えるから少し時間がかかる。シャルロットはどうやらすぐに着替え終えたようで俺に話しかけて来る。

 

「忙しくて紹介が遅れたね。僕はシャルル・デュノア。これからよろしくね」

 

「俺は名御叢真輝だ。よろしくシャルル」

 

 握手しようとして出したを手をすぐに掴んで握り返してくれる。やっぱり柔らかい。それに小さな手だ。それでもよほど集中しなければ女だと思わないとすぐには感づかないだろう。男の手でも人それぞれだけど、従妹の手と感触と似たところがある。

 その経験と前世の知識がなければ絶対に気が付かなかっただろう。

 

「大丈夫、なんだか顔色悪いけど」

 

「問題ない。そろそろ行こうぜ。もうちょっとで遅れる」

 

「着替え終わったぞ。真輝」

 

 気が付きたくなかった二つの問題がいきなり急浮上した。忘れたい気持ちでいっぱいなので話をずらす。一夏が上手く乗っかってくれたおかげでごまかせた。でも、よりにもよって一夏にホモ疑惑を持つことになるとは。いい友人でいたかった。

 いやまだ俺の身元の件が何も済んでなかった。

 

「それじゃ行こうぜ。……そうだ、自己紹介が遅れたな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん、よろしく一夏。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「先に行ってるぞー」

 

 そういいながら個人的に重い空気となりつつあった更衣室から出られる。俺が出て少ししてチャイムの音が聞こえ、その音が聞こえると同時に危険信号を受信してダッシュする俺と一夏。そして俺たち二人を追うシャルロットの三人の絵図ができた。

 数日して、その立場が逆転する未来が訪れるのは想像に難くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりしすぎた俺たち三人は急いでアリーナに到着し、何とか罰を免れた。ギリギリ間に合ってよかった。その後一夏は折角間に合ったのに鈴とセシリアと喋ってお怒りを受けた。バカだ。

 原作の如く鈴とセシリア対山田先生の戦いは山田先生の勝利で終わった。どうやって誘導するのかぜひ教授してほしいほど鮮やかな戦いだった。巧みな射撃で二人を激突、体勢を崩し、グレネードがドンピシャでハジケるところまでの過程は見物だ。

 多分俺の今のスタイルからして接近してから殴り合いってのが主流になる筈だ。そのことを考えると山田先生の戦い方はとても参考になる。

 この世界にきてから肉体が良くなったおかげか頭の回転もよくなった気がする。いつまで考え事しても数秒しか経たないから素敵。運動もできて頭も良いなんて出来過ぎも甚だしい。自分の体のことなのに素直になれない俺って子どもらしい。

 

「……それじゃあ搭乗して」

 

『はーい』

 

「それじゃあ始めようか」

 

 まあ、さっきの戦闘のことはともかく専用機持ちがISの実技指導をする。女子校生が一斉に元気よく手を上げて返事する姿を見ると心がゆるむ。引率の教師ってこんな気分なのかな? だがその背格好はスク水に似たISスーツである。改めて観てみると、やっぱり非常に犯罪的な光景だ。

 肝心の指導は滞りなくISの装着から徒歩、着脱までの実技はスムーズに進んだ。彼女たちは素直に俺の言う事を聞いてくれたことと彼女たちが優秀なおかげでもう後一人というところまできた。

 

「……そこでストップ。降り方は分かるな」

 

「えっと、膝を地面に着けてから降りるんだよね」

 

「そう。自分の体をそのまま膝を着けるだけだから。……はい、お疲れ様」

 

 俺の指示通り、膝を着けてからISから降りる。胴体の装甲部が消えて、脚部の足を抜くことで実体のISから降りることができる。ただ専用機を一度でも持つとこの作業が非常に面倒になる。なにせ何をしなくても降りることができるからな。

 

「ドキドキしたよ」

 

「慣れたらもっと楽しくなるよ」

 

 うん、と可愛らしく頷いて離れていき、終了組とキャキャと騒ぎ出す。最後の一人が俺に近づいてくる。

 

「しんきー、よろしくねー」

 

 間延びしたお言葉を聞き、非常に不安を感じる。何かやらかすのではないか不安でしょうがない。布仏本音。のほほんさんで有名だ。おっとり屋、着ぐるみ装備、何気に巨乳とキャラが濃いし、出番もそれなりにあるから覚えている。

 それに身長も周りの女子と比べて一回り小さい。可愛い。日本人は小さいものが好きだと噂で聞いたことがある。本音ちゃんを見た後だとあながち否定できないな。かわいいは正義だ。

 

「よろしくね。えっと、名前は?」

 

「のほほんだよー」

 

「あだ名じゃなくて本名のほう」

 

「えぇ~」

 

「えぇ~、って何だよ。後で教えてな。それじゃあのほほんちゃん。始めようか」

 

「は~い」

 

 名前を教えてもらおうとしたら渋られた。まあ、後で聞けばいいかな。名前を教えてないのに相手の名前を知っていたら怖いはずだ。いや、別に名前で言いたいわけでもないけど、名前を知ってる分なるべくボロが出ないようにしたいからな。

 そうしている間にのほほんちゃんは装着を終わらせる。ここまでは今までの子と一緒でわざわざ指示しなくても装着まで頭に入っているから大丈夫だったけど同じようで良かった。さあ、覚悟を決めろ。と思ったのも束の間。

 俺の懸念とは反対にちゃんと歩けている。運動音痴とか勝手に思っていたが、むしろ今までで一番うまい。歩行の際も左右に体を振って実に危なげに見えるが一定のテンポで脚を前に出して歩いている。歩くときの軸足が揺れていないのが、ちゃんと動かせている証明だ。

 

 ISはあくまでも手足の延長線上の感覚で動かす。簡単に言うと足に鉛を付けて歩くわけだから、素の状態と鉛を付けた状態とのギャップに慣れず体が揺れて不安定になってしまうのだ。

 のほほんちゃんより前の子たちは一歩前に進むたびに体が揺れるから実際に倒れるんじゃないかとハラハラした。そのことを考えればやはり一番うまいんじゃないか。

 

「のほほんちゃんうまいね。練習とかしてたの?」

 

「えへへ、お姉ちゃんがISの使用許可を取ってくれたからなんだー」

 

 なるほど。姉の虚さんの手解きを受けていたのか。確か3年生だったから、ISの使用許可を取ることも教えることについても納得だ。面倒見のいいお姉さんだな。

 

「いいお姉さんだな」

 

「うん。でも時々パーンて頭を叩くんだよー」

 

「それは仕方ない」

 

「むぅー、何でー」

 

 つい口から出てしまった。だけど、かわいい。フグみたいに頬を膨らませて可愛い。頬っぺたツンツンしたいけど今は早く終わらせちまおう。

 

「それじゃあ、そこらで止まって降りようか」

 

「はーい」

 

 のほほんちゃんは素直に返事して降りる。ISの膝を立てないで降りてしまったようだが、もう終わっているので後は織斑先生か山田先生に終了の旨を伝えてお役御免だ。

 そこまで考えた数秒後、にわかに騒がしくなる。元凶はおおよその予想、というか何が起きたのかは既に分かっている。元凶の方を見るとポニテの美少女、條々之箒をお姫様抱っこでISに乗せようとしている。個人的には條々之は美少女ではなく美人だと考えている。全く関係のない話だが。

 

「いいなー」

 

「條々之さん、羨ましい」

 

「ジー」

 

「擬音語を口に出すな。もう終わってるんだからやる必要はない。ご協力ありがとうございました」

 

「しんきー、嫌味ったらしいー」

 

 ハッハッハ、何とでもいうといいさ。……前ふりとかじゃなくて本当に何もなく終わりました。

 

 




前作の保存が完了したので『赤龍帝のIS生活』を削除します。

私の甘い心積もりで作品を書いたために消さなくてはいけないなんて。
これも私の思慮のない投稿を繰り返した報いと思って書いていきたいです。


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まとめられた転校生たち

9日もかかってますよ奥さん。こんなに腕が錆ついてますわよ。


遅れてすみませんでした。こんなに文章書くのができなかったなんて。
なんていうか、色々とグダグダです。


……なぜだ。いや、原因は分かってるんだけど何でこんなことに。

 

「えっと、これからよろしくね。真輝」

 

「ああ、よろしくな」

 

 おそらく過去史上、最高にいい笑顔ができていることだろうと思うがポーカーフェイスの才能でもあるのか、それともただただ笑うしかないのか。恐らく後者だろう。流石にそんなことは分かるようなことだ。

 ハッハッハッハ、ハハハ、ハッ、は……

 

「はー」

 

「?」

 

どれもこれも先生たちのせいだ。

 

 

 

 

 生徒の部屋割りを変えるために面倒な事務処理をこなすためにはどうしても時間がかかる、そう織斑先生と山田先生に言われて俺の今いる従業員の寮を現在3人の生徒が住み込んでいる。俺、シャルル、ラウラの3人である。

 何回か一夏の部屋に行ったことがあるが、仕切りやベッドの大きさや各用品の質が違うってだけでそこまで大した違いはない。強いて言うなら部屋が一回り小さいことだろうか。後はあまり物が置いてないから妙にスッキリしている。

 でも二人部屋というのは同じらしく、ベッドが二つ置かれている。一つ減れば相当スペースができるんだが、そこは諦めよう。一々織斑先生に言うほどのことでもないし、何よりもこれ以上手間を掛けさせたくはない。

 

 ともかく織斑先生に頼まれ、山田先生に泣かれた以上は断るわけにもいかないだろう。直接謝られたわけではないが、どことなく申し訳なさそうな顔をしていた織斑先生はレアだ。それを見られただけで儲けものなんだが、素直に喜べない。

 シャルルというのは偽名で、実はシャルロット・デュノアという女性であることは、現在俺だけ知っている。

 俺の口からシャルルの正体に繋がる手がかりをいつ出すか分かったもんじゃない。俺がシャルロットと口に出すこともあるかもしれない。可能性を上げると本当にキリがない。

 

「……それは後でもいいかな」

 

「? どうかしたの」

 

「いや独り言だ。ともあれ明日もあるからな。シャワーは従業員用の部屋があるから、そこを使えばいい。風呂はここの寮にはないから諦めてくれ」

 

「大丈夫だよ。僕はあんまり汗かかない方だし、気にならないから」

 

「それならいいさ。そうだ。ラウラにも伝えておくから先に寝ててたいなら電気消してもいいからな」

 

「うん、わかったよ」

 

 考えておくに越したことはないが、俺にできることは精々意識してシャルロットの名を口に出さないことだけだ。

 何気なく口から出まかせにラウラの名前を出してしまったが、自分でもいつボロを出すか分からない状況で二人っきり。デュノア社の経営状態を口に出して脅せば絶対にやれる。冗談だけどなんてエロゲー?

 そんなシチュを考えなかったわけではないがあまり嫌われるような行動はとりたくない。ましてや相手は笑えないレベルの幸薄少女だ。傷つけるわけにはいかない。何はともあれ、逃げ出して頭を冷やすには最高の口実だと思う。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい真輝」

 

 なんか、もう新妻に見送られてるようにしか見えない。

 

 

 

 

 

 

 理性が暴走しそうになったが逃げ出すことで過ちを犯さないで済んだ。童貞にはとてもではないが、辛い。

 

「オーイ。ボーデビッヒ。いるか?」

 

「……誰だ?」

 

 ラウラの部屋の扉を叩いて呼び出す。すると扉の前で待ち構えてるのが分かった。素人の俺にも分かるほど警戒心が漂ってくる。少し笑いそうになるが、済ませること済ませてさっさと外の風を浴びるとしよう。

 

「ここで分からないことでもないかと思ってな」

 

「無い帰れ」

 

「シャワー室はここを出てどこにある? 知ってるみたいだからな」

 

「なぜ言わなければいけない」

 

「知ってるならそれでいいけどよ。一夏に対してああも他人に突っ張る奴は大概話を聞かないからよ。ここに一週間以上いるもんの独り言を聞いといた方がいいんじゃねぇかと思ってな」

 

「…………勝手にしろ」

 

 織斑先生の話なら聞いてそうだ。まあ、そんなところも可愛いもんだ。何より『デレ』を知っている身としては凄味なんてもんは一切感じられない。俺の話に相づちを打っていたところを考えるとやっぱり知らなかったんだな。

 

「……ああ、それと一年の寮で朝食を取りたいときは7時からだ。時間制限はないけど授業に遅れると大層な理由がない限りは織斑先生に殺される覚悟をしておけ」

 

「……そうか」

 

「それじゃあ、良い学生生活を」

 

「貴様、名は何だ?」

 

「俺か? 俺は名御叢真輝。それじゃあ、また明日」

 

 別れの言葉を告げてクールに去る。ここでラウラちゃんが扉をバッと開けて引き留めたらさぞドラマチックな展開を味わえるが、そこは軍人さん。それ以前に俺の妄想なので一切追ってくる様子がない。それはそれで悲しいものがある。

 だがこの後待っている大切な時間と現時点では有り得ない妄想と比べれば、この後の大切な時間、実験の方がはるかに大切だ。

 

 

 

 

 

 

「『赤龍帝の籠手』」

 

 そう唱えれば俺の左手に赤くと緑色の宝玉が印象的な籠手が現れる。これからやるのは倍化のテストだ。俺のやること、成すこと全てが2倍となる強化、Explosionと一瞬だったり効果が持続したりと様々な効果を表すTransferとやり方がある。

 実は2~3日でもうおおよそのことは分かってたりする。

 

 Explosionは簡潔に言えば俺の強化。パンチマシーンに殴って150キロから300キロになり、100m走9秒が6秒になったりと、効果はとても簡単。一回なら2倍。二回なら4倍といった具合で増える。ただしスタミナとか曖昧なところは増えない。

 要するにステータスアップの魔法。そんなにポンと体力なんかの上限が上がったらインフレどころじゃなくなるし、今は努力しただけ成長してるのが良く分かるからやりがいがある。

 

 Transferには、抽象的になるが譲渡した対象によって変わる。譲渡した相手の体力、筋力を倍にすることができる。ここまではExplosionと同じ能力だが、その範囲が兵器なんかの無機物にも及ぶ。

 これが『おおよそ』しかわかってない理由だ。いざ詳しく調べてみようと思ったらまずどれから手を付ければいいのかわからなくなり、今は手短なもので試している。

 剣や銃など機能に特化した物を譲渡した場合は、考え無しに譲渡するのと選んで譲渡するのとでは効果がハッキリ違う。

 

 武器に考え無しの譲渡をすると、一撃の攻撃の威力が上がったりする。そこは俺の性格のせいじゃないかと考えた。面倒だし分からないことを考えても無駄でしかない。無意識だとそうなる。そう思って納得する。

 個別による譲渡は確実にその点のみが倍化する。以前近くの小石の硬度を譲渡した物としなかった物で検証してみたが、譲渡しなかった物は一撃で粉砕できたのに譲渡した物はヒビが入る程度にしか通らなかったのだ。

多分それでもヒビを入れるだけでも十分凄いが、先に跡形もなく粉砕してるのでどうにも不満がある。殴っただけなのに。倍化も何にもしてないのに小石を粉砕っておかしくない?

 順調な人外かを体験したが、今は譲渡の実験が先だ。試すのは俺の拳。これで手っ取り早く始める。試すための武器もないんだけどね。今日の実験内容はただ斬るのと譲渡した際にどれだけ切れ味が上がるかである。

 

「まずは一回目」

 

『Transfer』

 

 俺の拳の威力は現在木を揺らす程度が精一杯だ。だけど、2倍の威力を持った拳で気を殴りつければ、ヒビは入るか。次の二回分までの20秒を待つ。

 

『Transfer』

 

「これで二回目、4倍」

 

 近くにあった木をもう一度殴る。威力は先ほどとは段違い。さっきとは別に試した木がヒビの大きさが先ほどの2倍。目に見えて威力が上がっている。それにしても意外と木は頑丈だ。

 三回目、8倍は気に拳がめり込んだ。4倍と8倍の差は明らかだった。2の乗法だと三回目から一気に増加していく。2、4、8、16と増えていく。改めてこの倍化は使うたびに思い知らされる。『神滅具』は強すぎる。

 

「……殴った木どうしよう」

 

 焼いたら目立つため却下。バラバラにして木材加工にでもするか? 持っていく手段がない。あっ、量子変換(インストール)があるじゃないか。でも入るか? と一瞬考えたが難なく入った。いつか暇ができた時に木材加工の会社にでも行こう。

 一夏、シャルル、俺の順で三回ずつ使ってさっきの分も合わせると今日は合計で十二回は使ったかな?

 限界までやったことはないから試してみたい気もするが限界を超えて倍化ができることを考えれば、あんまりやりたくないな。でも俺自身どこまでやれるかってことは知っておいた方がいい。限界を知らないと無茶のしようがない。

 

『強さは正義で、弱さは悪』

 

 弱肉強食。俺は弱いから、弱かったから隅っこで丸まって生きてきた。強さを見つけられなかった人間で、ただ羨望しかできなかった自分には戻りたくはない。いや、戻らない。戻る意味もない。俺は弱かったころより強くなった。

 弱いままの人間でいたくない。あの惨めな人間だったころに戻りたくない。亡国企業(ファントム・タスク)には悪いが、俺の踏み台になってもらおう。その先がどうであれ、奴らに好き勝手されると俺の新しい学生生活が台無しになる。せめて2年生に上がる前には、亡国企業は殲滅する。

 

「…………まずは、強くならないとな」

 

 限界を知るのは日を改めるとして、その前にさっさと量子変換終わらせないと帰れない。

 

 

 

 

 

 最近俺の朝は早い。身体がすぐに疲れを直すからだ。どんなに身体を酷使しても大体3時間ぐらいで目が覚める。惰眠を貪れなくて困る。多分俺の肉体の回復スピードが段違いなんだろう。この異常な回復スピードはすぐに強くなれるようにと思って白靄が付けてくれたんだと思う。

 最近日課になって来た眠気覚ましの運動のために起きてISスーツを着込む。寝るときにはちと窮屈だが、体を動かすのにこれほど最適な服装はない。そのまま下着になるから楽でいい。使ったことないけどスポーツインナーみたいだ。

 

「……ハァー。さて、今日は何をやるか」

 

 4キロの外周を終えたところで行き当たりばったりな計画を作る。テンプレながら腕立て、腹筋、背筋でもやろうかな。

 

「…………終わっちゃった」

 

 携帯を見るとランニングから1時間ほどたった。筋トレの基礎も時間をかけてやれば相当な負担になる。この負担が鍛えられてる気がして楽しい。マゾじゃないよ。

 とはいえ今まで筋トレなんかと縁のなかった俺だ。ここから何をしようかと訓練メニューないのでとても困る。汗もすぐにスーツが吸って体が徐々に冷えるが、やる気は元よりなんちゃって人間の俺はすぐ飽きる。これまでやった内容を毎日やれてるだけ進歩してるんだろうが。

 

「貴様は、名御叢真輝」

 

「おやラウラ・ボーデビッヒ。こんな時間に何を?」

 

「それは私のセリフだ。貴様こそ言った何をやっていた」

 

「朝のトレーニング。最近寝覚め良くてね。どうしてもこの時間帯に起きちゃうのさ」

 

 振り返っていた最中に誰が話しかけたと思ったら意外なことにラウラだった。そういえば軍人なんだっけ。やっぱり明後日早いのかしら。

 

「そう言うラウラも大分早いな。今、5時だぞ」

 

「私はここに来る前は専業軍人だからな。訓練生時代と比べればまだ遅い」

 

「ウソだろ。5時より早いのかよ」

 

「ふっ、私は生まれながら軍の中で育ってきたからな。なんてことはない」

 

 流石です。俺の予想の斜め上を超えている。そういえばラウラは試験管ベビー、ホムンクルスのような生まれ方をしたんだった。軍人以外の生き方がなかったってのは本当に悲しいが、それもここで変わるだろう。命令を聞くだけが人生ってわけじゃないからな。

 

「そうだ。ランニングと腕立て、腹筋、背筋を一通りやった後、何やればいいのか分からなかったんだ。軍隊式を教えてくれないか」

 

「ふっ、軍隊式の訓練を教えろ、か。いい度胸だ。すぐに値を上げるだろうが付いて来る自身があるなら付いて来い」

 

「何から始めるんだ」

 

「まずはランニングだ。最低でも外周20週はやるぞ!」

 

「外周4キロほどあります」

 

「…………行くぞ」

 

 今日は絶対にクタクタだろうなー、と思いながら80キロを2時間で走りきった。今日はExplosion漬けだろうな~。

 




ヒロインについては熟考中。
取り敢えずラウラ、シャルロット、更識姉妹、のほほんさんは一応確定。

千冬さんと束さんだが、未だに据えかねる。俺の手に余る。
だが書きたい。けど書くと~

って具合のジレンマに襲われてます。


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嵐の前から騒々しい

なぜ投稿を二ヶ月もすっぽかしたか。概要を簡単に説明します。

作者「もうIS出そうにないからオリジナルでやろう」
  ↓
「IS新刊発売!」
  ↓
オリジナル意味なくなったorz
  ↓
試験もあるし、ちょっと休むか。
  ↓
さぁーて、ボチボチやるか。(今ここ。

オリジナルは原作に絡めてやることにした。練り直しだ。ヤッタネ。


 ラウラ、シャルルたちが編入してから5日。俺が編入して2週間ぴったし。今日も何ごともなく平穏に過ぎている。

 ああ、シャルルの要望でシャワー室の時間帯をずらして交代で使うことにした。俺とシャルルの使用時間を決め、ラウラにも利用したい時間を聞いてまとめてみたところ、うまいこと一人1時間ずつで収めることができた。

 このまま時間が経過すればシャルルとして、なんてことがありえるかもしれない。

 俺の存在で従業員の寮を利用することが一番の要因じゃないか。それにラウラとは、少しずつだけど仲良くなっていると思う。ラウラが隊長を務める『シュヴァルツェア・ハーゼ』か織斑先生、ISの話ぐらいしかしないので仲良くなったと言えるのか?

 

 まあ、IS学園の中で俺とだけ喋っていることを考えるとやっぱり俺とは仲がいいんじゃないかと思ってしまう。願わくばラウラが無茶なことをしないように。それと一夏が死なないようにいざってときは割って入らないと。

 

「一夏、もっと脇をしめて。それだと撃った時の反動を吸収しきれないから」

 

「あ、ああ」

 

 アリーナの解放日につき、一夏がシャルルに銃を教え込まれている最中だ。原作通りならこの後、ラウラが襲ってくる日だ。正直二人は腹割って話をさせた上で戦わせた方がいいと思っている。ラウラは悪い奴ではない。むしろ良い奴だ。

 その点に関していえば、この数日間一緒に喋ったり訓練をやってきたから断定できる。良くも悪くも純粋。原作で感じた通りの印象だ。感情の揺れ幅が大きい部分もあれば冷静に対応できる部分もある。……俺と話してるときがまさにそれだ。正に眼中になし

って具合に反応されてたな。

 

「そういえば銃は使ったことがなかったな」

 

 一夏たちの姿を見て今まで俺がやって来た戦い方はISを使って空中を移動しながら接近して殴る蹴るの四次元格闘だ。撃たれるか斬られる前に打つ。それ以外にうまい戦い方が思いつかないのだ。基本は身体が自然と発する危険信号を頼りにほとんどの模擬戦を勝ってきた。この身体の第六感は凄い。

 でもやっぱり被弾率も多いし瞬時加速(イグニッション・ブースト)を多用するからSEの減りも速い。『赤龍帝の籠手』で削れたSEを増やしつつ戦うスタイルだったから胸を張れた勝利とは言えない。

 とはいえ、勝ちは勝ちだ。『赤龍帝の籠手』も込みで俺の能力だ。何時の日か正々堂々と戦えたらいいなぁ~。

 

「真輝さんはブレードすら使いませんからね」

 

「数日で一夏以上に戦い慣れてるところは才能かしら?」

 

「ふむ、もしや真輝。貴様ケンカをしていたわけではあるまいな」

 

 暇な篠ノ之箒、鳳 鈴音、セシリア・オルコットの三人が珍しく俺のことで話が。まあ、ちょくちょく話してるから仲はIS学園の中でも五指に入る。というかなんでバレたし、一回だけあるけどこっちが酷い怪我をしただけだからな。

 

「いや、俺は大人しかったからな。こっちの校風が荒れすぎなんだよ。命のやり取りを平然とする学校なんてここぐらいだって」

 

「そりゃそうよ。剣を振り回して銃弾をぶっ放してるんだから。ISを着けてなかったら普通死ぬわよ」

 

「IS以外の現代兵器は既に戦力となさないほどだからな」

 

「バイオ兵器や核などがありますが、いざとなれば大概のことはISで対処可能ですわ」

 

「どんな世紀末になったらバイオ兵器とか使うんだよ。怖すぎだって」

 

 平気な顔で世界危機が話として出てくるのがIS学園の常識。まず元々、ここIS学園はラブコメをする場ではない。世界最強の兵器を扱う人員を教育する場だ。

 IS学園で優秀な成績で卒業した人は自衛隊や要人のボディーガード、挙句の果てにはモデルまでより取り見取りの就職先が待っているのだ。

 女子の会話で偶然聞いた時にどこかのヤクザの組織の取締りをしただの、要人を救っただの話をよく耳にする。その過程に一つは間違いなく人殺しをする場面がある。人殺しは人としてデリケートな話だ。精神的にもくるものが必ずあるはずだ。

 

 三年生の会話を立ちき、偶然聞いた限りでは、やはり進路の問題でそこに関連して悩む人が多いようだ。給料がいいから、悪人だからといって人の命を奪ってもいいのかと悩む生徒も多いそうだ。三年になると大分早い時期からそういった部分を問われるのかもしれない。人としての素質や揺らがぬ精神を。

 

「うぅ~む、それにしても銃か。やっぱ使えるようにしておいたほうがいいか?」

 

「手段が多いに越したことはありませんわ。真輝さんのISは左手以外が打鉄と同様。ならIS用ブレードはお持ちでは?」

 

 打鉄に『赤龍帝の籠手』だけがくっつけた状態なので、灰色のボディに赤の左籠手を取って付けただけの違和感が満載のISになっている。『赤龍帝の籠手』が使える以外は至って普通なのだが、やはり違和感がある。

 

「いやない。パーソナリティに弾かれた」

 

 好きで無手をやってる訳ではないんだが。最初に剣が使えてたら多分そのまま使っていたはずだ。でもそれだと一夏の二番煎じになる訳で、それはそれで嫌だな。

 

「やはり強力なワンオフ・アビリティーを持つだけあって、拡張領域を完全に取られているのだな」

 

「まあ、それに関しては仕方ないわね。色んなもんを倍化なんてふざけた能力で武器を入れる容量があるなんておかしすぎるわ」

 

 俺自身もまだ理解し切れてないんだが、倍化は『赤龍帝の籠手』の能力であってワンオフ・アビリティーではないと思う。『禁手』がワンオフに入るんじゃないかと思っている。倍化できるとはいっても10秒の制約がある。

 それに俺のISのパーソナリティ、個性がIS用ブレードを拒んでいるのであって拡張領域には空きがある。どれを試してみた武器も軒並み受け付けなかった。

 

「まあ使えないものに縋る気はない。やっぱり当面は拳一本で戦うしかないな」

 

「そう考えると、ほんとアンタと一夏って似てるわね」

 

「ワンオフと武器が一つしかないってところか」

 

 言われてみれば確かに。とはいえ一夏のように昔は剣道をやっていて強かったなんて経歴は持ち合わせていない。だが会長さんとの一戦からゲームや漫画のキャラの戦い方を真似てみて、これからの戦いで通用すればそれを通すのもいいかもしれん。

 俺はこのまま色々な戦い方を試していくのがいいかもしれない。ベストなスタイルはこれから作り上げていけばいい。取り敢えずは、龍が如くの桐生さんで戦っていくか。

 

「うん。確かに似てるけど、あいつとは違ってくるだろ」

 

 どう違うかはさて置くとして、俺は一夏ほど鈍感ではないはずだ。俺は恋愛が成就したことはないにせよ経験はある。その経験が生きるかは分からないけれど一夏のような鈍感ではないことは確かだ。

 一夏の鈍感具合はもう病気だ。そのことを考えると俺はまだ真っ当な人間だと胸を張れる。

 

「それに共通点があるってだけさ。俺と一夏は根底から違う」

 

「かなりハッキリと仰りますわね。真輝さん。どうしてこうも男性というのは素直に認めたがらないのかしら」

 

「一夏も弾に似てるって言うとすぐにムキになって否定するわよ。まあ、男なんてどうせ一緒よ」

 

「鈴とセシリアが似てるのと一緒だ」

 

『誰がセシリア(鈴さん)なんかと!!』

 

 息ピッタリだなーと思いつつも口には出さない。犬猿の仲とは言えそうにないな。似たもの同士は息が合うのは本当みたいだ。それに俺から見ればこの二人は結構仲がいい。互いにキーキー言い合っているところをよく見かけるが似た者同士だからこそ。

 仲が悪かったらそれこそ本当に一夏争奪戦が血みどろ、もとい一層凄惨な手管を見れることになるだろう。女同士が本気で争うと醜い。従妹が笑い話として語る女のケンカが笑えないのを覚えている。

 

 そうこうしている内に耳に聞こえてくる銃撃音の中でも一際強い音が聞こえる。

ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』のレールカノンの砲撃音だ。やはり始まってしまったか。この展開ばっかりは避けようがない。

 一夏はシャルルに守られて無事だ。あの対処能力と武器の選択と呼び出しの素早さに驚く。あれだけのことをやるには相当練習と習熟が必要そうだ。俺には到底マネできそうにないな。

 

「なっ、あのドイツ野郎いきなりぶっ放すとか何考えてんのよ!」

 

「一夏さん!?」

 

「一夏! 大丈夫か!?」

 

 原作内容を知っている正直一夏のことは心配だが、やはりそれ以上にラウラの方が心配だ。ラウラは今一人だ。ドイツに仲間がいるからって異国の日本では関係ない。絆が云々は元より、傍に親しいものがいなければ誰だって寂しいのだ。

 陰口は自分でも思っている以上に傷つく。傷ついたことがある者だと、傷が付くことに対して鈍感になる。

 何より原作でラウラの経歴を知っているから一夏以上に心配になる。一夏には箒や鈴にセシリア、シャルル、ついでに俺がいる。けどラウラの仲間がIS学園にいるわけじゃない。人間は現金な生き物で、逆に考えれば目の前に現金がないと不安になる、はず。

 信頼できる仲間が自分の居場所にいなければ、いやでも孤独感に苛まれる。イジメを少しでも経験したことがある奴なら誰でも分かる。たった一人でいるのはそれだけでも辛い。俺も一人でいたことが多かったし、ここでは一人でいることが少なくなったからなおのこと身に染みて分かる。

 

 認めたくはないが、つくづく前世は寂しい人生だったと今はそう思っている。そこまで考えつけばやることは一つだ。今回一夏には悪いが、今回ばかりはラウラの味方をさせてもらおう。学年別トーナメントはラウラと組む。幸いラウラとIS学園で一番近しいのは俺だ。いや織斑先生を除くって言葉が後付けするけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間が経って夕食の時間になった。最低な雰囲気を箒、セシリア、鈴の三人娘が放っていたが、一夏がなんともなさそうにしていたために三人も怒るに怒りきれずそのまま解散となった。ああ、このままだと原作通りになりそうだ。

 

「よう、ラウラ。随分派手にやったな」

 

「真輝か。何か用か」

 

「いやちょっとお話がありまして」

 

 その日の夕食時の食堂でラウラが一人で食っているのを見かける。周りが口々に陰口を語っている中で至極平然としつつ口に食い物を次々と入れていく。さっき傷つくとか思っていてが、このふてぶてしさなら問題なさそうだな。

 思い込みだとは思うが友人として仲良くできればと決心したばかりだ。そのことに嘘偽りはないのだが、どう口火を切ればいいのやら。……やっぱ、これか。

 

「ラウラって、どうしてあそこまで一夏の奴を目の敵にするんだ」

 

「そのことか。教えてやる気はない」

 

 すみません。もう知ってます。

 

「織斑先生のことだろ。察するに、第二回モンドグロッソの決勝戦で棄権したことと一夏が関係している。違う?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定、と受け取るぞ」

 

「……なぜ知っている」

 

 俺の知っている事実、織斑先生が大会決勝を棄権したことに一夏が関わっている。そして織斑先生がその時の借りでドイツに手を貸し、ラウラと出会ったこと。教官として、恩師として育ててもらった織斑先生の経歴に汚点を付けた一夏を許せない。

 前に考えた作り話を披露する。原作知識から当人しか知り得ないことを除いて知ることを言った。推測としては限りなく上出来だ。ただ本人しか知りえないことのみを除いただけで名推理になる。原作知ってるって便利。

 

「おかしいよな。初代ブリュンヒルデが二回目のモンドグロッソの決勝。しかも決勝にまで上がってきたというのにわざわざ決勝戦目前で姿を消した。 “何か”が起き、その借りを返すためにドイツへIS指導のために向かって、IS学園で教師をしてると。誰がどう考えても“何か”があったんだよ。それが一夏だ」

 

「…………」

 

「そっちは一夏に聞けば分かるからいいとして。ラウラ、どうしたい?」

 

 この後起きる事と重なるとは思わないが、そうなるんじゃないかと思って仲間になろう。そのためにラウラからの了承を得ないことには俺も本格的に援助できない。今までは傍若無人とした性格のラウラなら大丈夫だと勝手に思っていたが、これほど陰口があると流石に堪えるんじゃないか?

 

「どう、とは?」

 

「一夏をどうやって叩きのめしたい、ってこと」

 

「どういうことだ。貴様と織斑一夏は協力関係ではないのか?」

 

 男同士だから同じチームか何かと勘違いなされているようだ。俺と一夏は友人ではあるし互いに気楽に付き合える相手として見ている。相手が女だとどこまでもいっても気は抜けないが男だとなぜか気が抜けるんだ。

 そこだけを考えると確かにチームだと思うが、敵対したら話は別だ。お互いに敵としてみれば容赦なく殴り、斬られる仲に変わる。終わればすぐ友達に戻る。

 

 男の友情を真剣に考えると、不思議に思えて仕方ない。どこまでいっても敵にならない。なのに敵になると気を抜かない。

 友人だが、仲間ではない。仲間じゃないけど、敵でもない。男ならわかる男だけの世界ってやつだ。女は全員味方で全員敵らしい。何言ってるのか凄く分からない。

 

「確かに友達だけど別にそこまで親密って訳でもねぇよ」

 

「ならなぜ私に話しかける?」

 

「ラウラは、なんというか、ほっとけないところがあるというか」

 

「同情ならば必要ない。哀れみもだ」

 

「同情や哀れまれる覚えがあるのか。同情されたくなかったらまともな行動しな。お前は逐一目を光らせないといきなり殺しそうでおっかないないからな」

 

「貴様は一体なんなのだ! 説教でもしたいなら他でしろ!」

 

 いきなりテーブルを叩いて立ち上がる。叩いた時の音で周りが驚くけど、相手が目に目に見えて怒っているので冷静に慣れた。ラウラの頭に血でも昇って興奮してるのかはしらないが、協力を取り次ぐためにもこっちは冷静でないと。

 

「まずはお前があまりにも見てらんないから。自分が今やってることを分かってやっているか?」

 

「無論だ! 私は私の考えで動いている! 貴様の小言など不要だ!」

 

「ラウラの考えってのは、正式な試合でも、ましてや模擬戦ですらない相手に弾丸をぶち込むことか? それをやって成功した暁にどうなる? 織斑先生の弟で、世界で二人しかいないIS使いを殺ったらどうなるか。想像もつかないか?」

 

 よくてISを取り上げられて一生虜囚の身になるか。もしくは口にすることも憚れるようなことか。どっちにしろ、二人しかいない貴重な男を殺して無事な訳がない。

 そんなことも抜け落ちてるほどにラウラは危うい。冷静でいられなくなるほどに一夏のことを恨んでる。……よくよく考えれば、原作通りに堕ちたら盲目になるのも無理ないな。最初から一夏のことを考えてるんだから。

 

「…………」

 

「俺が心配する理由が分かったか。ラウラには練習法を教えてもらった恩がある。他にも色々と」

 

「それで、貴様は何をしたいんだ?」

 

「心配だから見張ってる、と言いたいが冷静になったみたいだから放っておくさ。さっきみたいに危険なことはするなよ」

 

 言いたいことは言ったから帰るか。それにこの場にこれ以上いたくない。言い終わってスッキリしたせいかは知らんが、冷静になったらすっごい恥ずかしい。さっさとこれ以上の注目を集める前に退散するとしよう。

 

 なるべく変な噂にならないといいなぁ~。

 

 



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嵐は目前

神器無効化(セイクリッド・キャンセラー)持ちを出すか出さないか。
これは非常に迷うところだ。


「真輝、ちょうど良かった! 助けてくれ!」

 

「お願い。手を貸して」

 

俺は今現在、非常に困惑している。一夏とシャルルの二人が俺の目の前で頭を下げているのだ。何がどうなっているのか?

 感謝の正拳突きにわか風味を千回終えて昼食を買って、部屋で食おうとしたら一夏とシャルルが頭を下げていた。うん。何がどうなってるの?

 

「シャルル、頭を上げろって。一夏何やったんだ? 今なら織斑先生に言わないでおいてやるから」

 

「いや、俺じゃなくてシャルルがな。じゃなくて! 助けてほしいんだ!」

 

「あぁ~、た、助ける? 何を?」

 

「一夏落ち着いて。僕が説明するよ」

 

 覚悟を決めた顔つきのシャルルがポツリと語りだす。一夏にISを教えていていたところ、女であることがバレたこと。一夏と俺のISデータを取るという目論見とシャルルの身の上を喋り、特記事項を盾にIS学園で生活することを決めたこと。

 助けてほしいこと、というのがどうやってこれから誤魔化して生活をしていけばいいか、ということだ。二人とも簡単にバレそうだと考えて俺に頼ってきたわけだ。

 

「なるほどね。また随分とデリケートな話題だこと」

 

 買ってきたパンを食いながら聞き終えると同時に食い終わる。ものすごく真面目に話してくれたけど知ってるから特に驚きもないし腹減ってたし。そう言えばメロンパンを始めて見た時に亀の甲羅を思いだしたのはいい思い出だ。

 

「……えっと、それでどうしたらいいかなって」

 

「まあ、まず俺に相談に来た時点で冷静じゃないね」

 

「うん? あっ」

 

「あっ、うん」

 

 少し悩んだ後にそうか、という顔をした一夏。すぐに気が付き、しまったという顔をするシャルル。二人を見比べて何となく和む。衝動的に俺に相談しようって一夏が提案して焦ったシャルルが流されて俺が来るのを待つところまで想像した。

 

「一夏とシャルルって、ウソ付くの下手そうだな」

 

「うるせえよ。そう言う真輝はどうなんだよ」

 

「割と得意だと思うよ」

 

 こっちは出身どころか元いた世界すら偽ってますから。それに俺の所在もどうなってるか知らないから前の世界の家族構成にして原作の箒の家族が重要人物保護プログラムとかいう拉致監禁するシステムを使って知らないの一点張りで頑張ってる。

 さらには俺の打鉄に生えた『赤龍帝の籠手』についても突然出てきたで分からないフリをしている。多分織斑先生のことだからウソついてることに気が付いてるんだろうな。

 

「俺の話はいいとして、シャルルがこれ以上バレないようにする方法ね。それなら結構思いつくよ」

 

「そうなの?」

 

「さすが真輝だぜ! 相談して良かった」

 

 何を持ってさすがと一夏が言ったのか不明だが、シャルルのことは相当考えていたから自信がある。

 

「シャルルって女であることがバレないように体を見せないでいたんでしょ」

 

「そうだよ。着替えてるところを見せないようにするのが一番だと思って」

 

「俺も最初は体のどこかに傷でもあるのかと思ってたからな。最初は特に気にしてなかったけど、それが自室の中でも監視されて風に警戒してるんだから自然と疑いを持ったな」

 

 常に俺の視線を伺ってくるんだからこっちとしても気が滅入るものがある。シャルルの身元を知ってるからあまり気にしないよう心掛けていたけど気になるものは気になる。

 シャルルの着替えてる姿を一度も見たことがないのも疑う理由に加えておく。男なんだから大なり小なり見られても気にはしてもそこまで問題はないと思う。だがシャルルの警戒の度合いと俺がいない時に着替える早さを考え、見られて困ることがあると俺が思っていたように言う。

 

「それに俺たちと話してるより、クラスの女子と話してるところの方がいきいきとしてた。女好きと考えたけど一週間何の疲れも見えないのは異常だ」

 

 などなどを説明していく。シャルルが怖いものを見るような目で俺を見ていたが無視する。

 

「そういうことで、シャルルが男として振る舞うにはどうしようなく無理があります。わざわざ嘘を付くぐらいならいっそのこと、あああああっ!!!」

 

「な、なんだよ真輝!?」

 

「いきなり大声出してどうしたの!?」

 

 そうだ。いっそのこと男装していることを辞めさせてしまえばいいじゃないか。うん、原作通りだけどいいんじゃないかな。時期は学年別トーナメントがタイミングが良いとして、っていうか原作もろパクリで十分じゃないか?

 とすると細かい打ち合わせが必要そうになる。なるべく同情心を引くような内容がいい。内容はそのままで十分いい。デュノア社と父と義母からシャルルの受けてきたこと。そして実母の死をありのままに伝えるだけで皆から関心を引ける。

 IS学園の女を全員敵に回して、さてはてデュノア社は一体何日持つだろうか?

 

「し、真輝? 何だか悪い顔してるよ」

 

「この顔は弾とかで見たことがあるぞ。ろくでもないことを考えてる顔だ」

 

安心しろ、ろくでもない目に合うのはシャルルの実家だよ。きっと。

 

 

 

「そういえばどうしてシャルルが女だってことにどうやって気が付いたんだよ」

 

「ああ。それは、シャルロット、シャルルの元の名前な。シャルロットとボディーソープが切れたって話をしてて、俺が後で持っていって風呂から上がった直後のシャルロットに会ったんだ」

 

 原作通りになったことに喜べばいいのか泣けばいいのか。

 

 

 

 

 

 

 

 事件から少しして、ラウラがやらかした。

 

 ラウラは説教した日からそれほど間を置かず、ある意味で俺の期待に応えてくれた。一夏襲撃の件から間を置かずにラウラは俺の忠告も無視して原作通りセシリアと鈴の二人を学年別トーナメントに出場不可能にするほどのダメージをISに与えた。

ラウラに肩入れしている俺ではあったが、二人はIS学園で早くできた友人だけどまあ、原作通りで良かったと思う。二人にはもちろん悪いとは思うが、こればかりはねえ。

 鈴たちへの罪悪感より、俺の知る展開どおりに事が進まないことへの不安の方が簡単に上回る。ラウラに感謝するってのも筋違いというか、八つ当たりの結果こうなったというのが適切だからな。

 

「それで鈴たちは大丈夫なのか?」

 

「ああ、山田先生が言うには問題ないらしい。でもISへのダメージが相当大きいらしい」

 

「だが、二人とも出場は難しいかもしれん。ISに問題が起きたそうだ」

 

 お見舞いに行ってきた一夏たちに話を聞く。オシドリのように息の合った一夏と箒の会話を聞きながら鈴とセシリアに安心して息をつく。

……医務室か。俺がここに始めて来て目覚めたのも医務室だったな。あれからもう2週間以上が経つのか。何年のように長く濃密に感じる時間だ。まだそれだけの時間が経っているのか。

 

「それで、ラウラの方はどうなった?」

 

「俺の話は一応聞いてはくれるんだが、どうにもボーっとした感じで俺の話を理解してるかは怪しいな」

 

 一度でダメなら二度目と勇んでラウラを探して見つけて説教でもと思っていたんだが、意外にすんなり話を聞くもんだから面を食らった。今にして思えば流された感が否めん。一夏との試合さえ始まるまでの辛抱。とでも言いたげな対応だった。

何にせよこれ以上の荒事は起きないだろう。そう切に願うしか方法がない。

 

「何にせよ、ラウラとは決着をつけてやるさ」

 

「意気込むのはいいけど、トーナメント戦の方式がタッグになったけどどうするんだよ。相手はいるのか?」

 

「シャルルと組むことにしたぜ。真輝は誰か相手がいるのか?」

 

「俺はラウラと組むことにしたから。そこんとこよろしく」

 

「なぜそんなことをしたのだ貴様は!」

 

 覚悟していたとはいえ、箒さんに怒られるのは流石に怖い。一夏とラウラを戦わせるための露払いと悲劇の回避と言ってむりやり説得させる。これでお膳立ては済んだ。後は、戦うその日までラウラと仲良くなれればいいな。

 そもそもラウラと一緒に戦う予定はないけど、事後承諾何とかならないかな。

 




研修用の荷物は収めた。あと十日もある。よし後は書くだけだ。


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嵐の中に

戦闘シーンがひたすらきつかった。でもいいんじゃないかと思ってる。

次は数週間後になると思います。流し見して話が大体わかれば嬉しいです。
戦闘シーンは本当に流す程度でいいと思います。


 待ちに待った朝が来た。俺は何とかラウラとペアを組むことができた。まあ、ラウラも俺と組む気が合ったから話は簡単に進んだ。

 

「真輝、それでは確認するぞ」

 

「ma'am,Yes ma'am」

 

 学年別トーナメントの作戦を確認。腕が鳴るぜ。細かい戦術は俺には早いとのラウラ少佐からの指示だ。この数日間はラウラとのワンツーマンの特訓で忙しかったから今日で終わりとなると息が付けそうだ。ここ数日本当に休むヒマがなかった。

 朝から40キロマラソンやり終え、筋トレ、格闘訓練をこなしていく。特に格闘訓練はやられっぱなしだ。関節技や絞め技は個人的に諸刃の剣だと思う。天国と地獄を両方味わえるISスーツで密着技は卑怯だ。

 

「織斑一夏は私が抑える。貴様には織斑の仲間を頼む」

 

「了解。押されることはないだろうが、その時は」

 

「……必要とあればフォローに入れ。ただし私の方はともかく、アンティーク持ちの方は強い。貴様が足を引っ張るなよ」

 

「手こずるだろうけど大丈夫だ。そっちもやられるなよ」

 

「それこそありえないな」

 

 自信と慢心は紙一重っていうけど、ラウラを見てると境界線がどこだか分からなくなるな。

 実際格闘訓練で俺が攻撃を当てられたのは最初だけだった。殴る蹴るは避けて関節技や合気道のような搦め手で倒されていた。向かい合って三秒後、地面に転がるなんてこともざらだ。軍隊格闘、CQCをこの身を持って味わったわけだ。

 さらに色んな武器の一通りの使い方や銃の撃ち方なんかも教えてくれた。それにISでのマニュアルでの動かし方も教わった。ラウラからは相当学ばせてもらった訳だが、その時のラウラの思い浮かべると自信か慢心なのか混乱しそうになる。

 

「そうだな。まあ、気を付けるに越したことはない。だな」

 

「無論だ」

 

 そう言い切るラウラはカッコカワイイと思う。

 一夏とシャルロットVS俺とラウラの対決があともう少しで開始を待つだけだ。

 

 

 

 

『BOOST!』

 

 今回の学年別トーナメントで新しく追加された禁止事項が一つある。俺自身への倍化能力を使った強化、譲渡は禁止されている。まあ、他人への譲渡は禁止されてないのでラウラに積極的に使っていく形になる。

 

『真輝、作戦通りに行くぞ』

 

『アイアイ』

 

 俺たちの作戦。それは俺がシャルロット、ラウラが一夏を担当して各個撃破という簡単なものだ。それが俺とラウラが決めた最もシンプルな決着のつけ方。原作通りの展開にする必要はない。それが必要なことだと決めづけていたが、それは俺の勝手な言い分だ。

 楽しむために来たんだ。結果どうなるかは、未来任せ。破れかぶれとも言う。

 

「死ね! 織斑一夏」

 

『Transfer! Transfer!』

 

 ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの二倍に強化されたレールカノンが発射。俺が単機で突っ込んでくると思っていたのか、レールカノンに二人は驚いて散開する。それと同時にラウラが一夏に突っ込んでいく。ラウラは接近しながら続けざまにレールカノンを撃ち、ギリギリで避けられるような絶妙な箇所に射撃を繰り返す。

 最初の譲渡は身体能力へ、次はレールカノンへの譲渡。俺に対して使うのがダメならラウラに譲渡する良いと考えるのは当たり前。強化等が禁止されてから今日まで譲渡しながら訓練をしてきたからな。

 その訓練の成果と一夏とシャルロットのチームに有効な作戦が、分断だ。

 

「お前の負けが見えてきたな。織斑一夏」

 

「俺だってこの一週間何もしてこなかったわけじゃないんだぜ。ラウラ!」

 

 シャルロットと一夏の間に俺とラウラが割って入る。これで分断成功。ラウラと入念な打ち合わせのおかげだろう。後は俺がシャルを押えれば、俺の仕事は終わりだ。

 

「一夏!?」

 

「悪く思うなよシャルル。こっちは勝ちに来てるんだ」

 

 俺とシャルロット、ラウラと一夏の一騎打ちの状態へ開始早々に変わる。一夏はラウラが仕留めてくれる。だが、それ以上に一夏の進化を信じる。こんなところで負けるような奴ではないはずだ。

 ラウラを信頼してない訳じゃない。でも一抹の不安とも呼べるものが一夏にはある。才能の片鱗でも見せれば、こっちもどうなるか分かったもんじゃないな。

 

「真輝、本当に悲劇を起こしたくないの? 真輝がやってることは矛盾してるよ!」

 

「日本ではケンカをするほど仲がいいってことわざがあるんだ。悲劇は、まあ何とかなるでしょ」

 

「何とかなるって、無責任だよ!」

 

「一夏がどうにかするさ。こんなところで終わるなら生き残れやしない」

 

「本当にどうかしてるよ! ……真輝、止める気は?」

 

「ない」

 

 言い切るとシャルロットは静かに目を閉じて武器を出す。俺の説得は無理と判断したんだろう。俺を倒して一夏を守ったほうがいい。この世界の女の子たちが考えることは

想像するに難くない。『男は女より弱いから守らない』と、ってな。

 あんまり男を舐めないほうがいいよ。戦いは本来、男の方が優れてるってことを証明してやる。

 

「行くよ! 真輝!!」

 

「かかってこい!! 返り討ちだ!」

 

 シャルロットの両手にあるマシンガンから弾幕が張られる。俺に近づかせないためのもの。格闘しかない俺にはこれ以上ないほど鬱陶しい。でもそれを掻い潜るための技術を山田先生に頼み込んでとっくの昔に対策済みだ。

 左右に動く的と上下左右に動く的のどっちが撃ちづらいと聞かれれば、誰だって上下左右って答えるに決まってる。ISは宙を移動できるんだ。俺が山田先生から教わったのは地面、空中にいる敵が撃ってきたときの対処法だ。

 

 地面にいる敵なら対処する方向は大まかに上と左右の三方向の分類される。斜めなんかも加えると際限ないけど、地面で正面きって行くよりかは当たりづらい。さらに山田先生いわく緩急を付けて接近されると一段と当てるのが難しくなるらしい。

 空中だとさらに何倍も難易度が上がる。理由は簡単だ。上下左右、四方向に変わるからだ。いかなる体勢での射撃が可能なISであろうとも、人間の感覚がそれに追いつかない。だからこそISの稼働時間が多い人間こそ有利になるのだ。経験は裏切らない。

 俺はそれを、経験差を想像力で補う。良い感じに、頭がクールで心がヒートになっている。今なら行けるな。

 

「追いついてみせろよ! シャルル!!」

 

「侮らないでよ! 真輝!」

 

 何も考えず、ただ早く動くことだけをイメージする。シャルロットはその場で迎撃を考えてるようだけど、本気で動いたときの早さがどれほどの物かは、俺も知らないぞ。

 

 まず上昇、それなりに上がったところで右上、左に少し長めに行って後ろにカーブを描きながら移動。

斜め右下に動きながら前へ。

 気分的に背後に一歩下がった後、降下してすぐに弧を描くような軌道を取り、上昇。

 まっすぐシャルルの方向に突撃、する振りをして止まる。

突撃の際の瞬時加速(イグニッション・ブースト)の勢いを無駄にしないよう後ろに振り向きながら円を描きつつ移動。

 半円を描いたところで斜め下に降下。

 今度は無理に止まって体勢をそのまま後ろ向きに移動。

 背面飛行の状態から体を捩って体勢を立て直して地面に突入。地面に立ち、今度は一気にシャルロットに突貫する。

 

「この!」

 

「さすがだよ、でも残念!」

 

「くぅううう!」

 

 俺の左ストレートを瞬時加速(イグニッション・ブースト)の勢い交じりに殴られてはさしものシャルロットでもタダではすまない。俺の一撃を耐えるにはラファール・リヴァイヴの装甲と防御で十分だ。その分かなりSEは削った。

 俺の一撃を受けて壁にまで押されるシャルロットの苦悶な表情を見て、決めどころだと判断する。さらに接近し、止めを刺す一撃の入れるために殴れる手前でシャルロットの目を左手でふさぐ。

 

「えっ?」

 

 接近するために走った勢い。体の限界まで捻った腰。その全てを支え、伝えるために踏み出す足。その状態を作り、支える目をふさぐ手。

 自分でも驚くほどしっくりとくる体勢だった。どの部分もリラックスして、時間が止まってる錯覚するほどの高揚感で満たされている。今なら、理想の、最高の一撃が打てる気がする。

 

「……くらえ」

 

 自分の声かと不審に思うほどの冷たい声が出た。

 驚きを感じつつも引き絞った体は反動を付けて動く。半身の状態で踏みしめた足から上半身へ、自然と堅く握った拳は下に半円の軌道を進みながら上に振り抜く。アッパーカット。下から上へと振る種類のパンチだ。

 手でおおった目隠しで何をされたのかわからない状況で振り抜かれた俺の一撃は、意識を確実に刈り取る。そう思っていた。

 

 シャルロットは首を仰け反らせて壁を背に座り込む。視界がメチャメチャになっているはず。でも立とうとしては崩れ落ちる。ISの機能越しに見るシャルロットの足は痙攣して動かないはずだ。この意志の強さ、思い当たる節が一つあった。どうやら早々に落とされたようですね。

 

「あ……れ、た、てない……あうっ」

 

「何度立とうとしても無駄だ。SEを突き抜けたみたいだからな」

 

 あのアッパーの時の感覚はどのパンチにも、いやどんな攻撃にも応用が利くはずだ。あの時の感覚は覚えておかないと。それにあのアッパーの体勢はスマッシュやブロー、はてにはストレートにまで使える。パンチ技で最強の威力を出すための体勢を偶然にも編み出したかもしれない。

 その瞬間の感覚を反芻しているとトーナメント中なことを思い出す。そしてラウラの方を見ると、驚愕した。ISが至るところから煙を巻き上げながら膝をつくラウラが見えたからだ。

 

 その近くに、零落白夜を発動させた一夏がいる。息を荒げた状態で、明らかに普通じゃない。もしかしたらと思う。

 

「真輝。テメェエエエエエエエエエッ!!!」

 

「あっ、やっぱり切れてた」

 

 突っ込んできた一夏には背負い投げをくれてやる。しかも叩きつけるのは地面ではなく、壁に向かって叩きつけるために放り投げる。これで治まるだろう。

 シャルロットが近くにいるのをすっかり忘れて一夏に巻き込まれているけどこれで止めになったはず。今は眠れ、安らかに。

 

 遅くなったがラウラに近寄り、状態を確認する。

 

「ラウラ、大丈夫か?」

 

「わ、私は平気だ。だがシュヴァルツェア・レーゲンがすでに修復ができないほどのダメージを負ってしまった」

 

「仕方ない。ISコアさえ無事なら修復も効くはずだ。ISコアを引っ張り出して逃げるぞ」

 

「……これだけのダメージなら起動しないだろう」

 

「ん? どうしたラウラ?」

 

「いやなんでもない。すぐに撤退する」

 

 その後ラウラは取り出したISコアを持って撤退してもらうことになった。まさかこんなことで原作崩壊するとは、予想だにしなかった。

 

『名御叢、一夏! 今すぐにそこを撤退しろ!! 今そちらに』

 

 なんでこうなったのかを探り当てるための記憶を探していたが、織斑先生の一言で断念させられた。突然轟音が響いたからだ。音のする方向を見てみるが、すぐに後悔した。

 

「何でゴーレムがここで出てくるんだよ」

 

 意味不明すぎて笑えてきた。




一応補足。真輝の最後の一撃。

シャルちゃんが意識を微かに保っていたのはSEのおかげです。SEなかったら死んでもおかしくないレベルだけど緩衝材の役割を果たしたためです。


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嵐は鳴り止む

メリクリだ!プレゼントを受け取れ!(小声)

歯の治療して目の治療続きでな(2割)
あと艦これやって、恋姫やったりしてました。(8割)

なんでもします許してください(土下座)



 一夏が暴走したので鎮圧したら無人機のIS、ゴーレムが襲ってきた。一度冷静になって考えてみたらまるで笑えない。なぜこうなった。

 しかも両手の甲から武器が伸びている。なぜ手に持たせず、手の甲にのせる形で装備させたのかわからん。だが槍と斧。俺は【ある物】を思い出さずにはいられない。

 

「もしかして神器か?」

 

 誰も答えてはくれないが、無音の中でそう俺は結論付けた。半分は勘、半分は憶測。

あのゴーレムの腕から生えている槍と斧。あれは神器だ。俺の勘もしくは第六感が危険だと脳内で騒いでいるのが分かる。

 うっすらと寒気がするのが根拠だ。ただあの武器にまとわりつくオーラから一撃で俺の命に係わる攻撃力を有しているのは予想できた。

 

「ふぅー」

 

 自然とファイティングポーズを取る。こんな緊張感は初めてだ。多分この無人機ISより強いのは楯無さんや織斑先生以上しかいない。相手は単なるロボットのはずだが、織斑先生のような強者の雰囲気を醸し出している。

 

 間違いなく槍と斧の正体が原因だ。

聖書のイエス・キリストを刺し殺した槍『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)とギリシャ神話の大英雄、ヘラクレスが倒したネメアの獅子の名を冠した『獅子王の戦斧』(レギルス・ネメア)の二つだろう。無人機ISも中々危ない雰囲気を出すが、あの二つはもっと危ない

 

 どうやってこの二つを取り出したのかは、イヤな想像のオマケ付きでわかってしまった。神器は内臓なんかと違って、普通に取り出すことはできない。だが取り出せないことはない。方法は知らない。だが神器を取り出されたら最後、持ち主の人間は死んでしまう。

 人以外に神器が宿らない。これが原則としてある。他にも俺がハイスクールD×Dの原作知識を持っていることで判明している部分と不明な部分が多くある。それでもいきなり神滅具の登場とは。

 そもそも『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)以外の神器があるのかどうかさえ忘れてた。……この分だと他の神器や神滅具も有りそうだな。

 

「それで、神器を二つ同時に受けなきゃいけないのかよ」

 

 一夏とシャルロットの方は二人とも沈黙。ラウラの方は既に避難済み。IS自体が壊れてしまった状態だからVTシステムが動く心配はない。

 俺と神器持ちゴーレムとの一騎打ちってわけだが。今さら遅いけどラウラに二人を回収してもらえばよかった。

 

「やるか」

 

 二人のことは置いておくとして。ゴーレムが出てきたときからスクラップにするつもりだったから問題ない。それがオマケを背負って来ただけ。

一夏がブチ切れてラウラを倒す想定外があったけど俺に飛び火しなければいい。まあ、導火線に火をつけたのは俺だから、ラウラからすればとばっちりもいいところだな。ラウラも一夏に対して非はある。俺も悪かったが、あいつらはもっと悪い。これを期に反省するといい

 

『真輝! 貴様そこで何をやっている!?』

 

「足止めです。強化はさせてもらいます」

 

『退避しろと言ったはずだ! なぜそこに残っている!』

 

「たしか言われました。でも教師部隊がここまで来るのに時間がかかりますよね」

 

『…………』

 

 沈黙で織斑先生は回答した。多分ハッキングによってハッチやゲートのシステムを根こそぎ乗っ取られたんだろう。原作を知ってる者なら想像に難くない。どこぞの天災な姉が原因だ。

 理由は、俺だな。多分俺の『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)を知ってデータ取りにゴーレムを送り出した。そんなところだろう。

 

「あと何分で教師部隊は来るんですか?」

 

『……今急いでシステムを取り戻している最中だ。最低で後5分はかかる。すまんがそれまでの間、織斑たちを守ってくれ』

 

「あれを片付けるのでご心配なく。一夏たちは必ず生きて戻します」

 

『すまない。頼むぞ』

 

さて、織斑先生にも頼まれたことだし……

 

「ゴミクズとスクラップ。どっちがいい」

 

『Explosion!!!』

 

 久しぶりの2倍強化。体中に力がはち切れんばかりに膨れるのが分かる。この数日のトレーニングは俺をさらに鍛え上げてくれた。軍人仕込みの訓練が合わさって、『強化』は以前の何倍にも強まった気がする。

 

 『Explosion』の身体強化を受けた肉体で一気に神器持ちゴーレムとの彼我の距離を詰める。冗談抜きの一瞬。望遠鏡を覗いたように視界が切り替わる。

 距離を縮めた移動速度を殺さずボディに拳を叩きつける。以外にも堅い。全身装甲と見てくれどおりの重量。戦車を殴ってる気分だ。

 

 もう片方の腕に力を入れて連撃に移る準備をするが、バックステップをする。視界の右端に光るものが見えた。斧を付けた左手をゴーレムは俺との間に割り込ませて連撃を防ごうとする。

 大振りで地面を薙いだおかげでゴーレムの背中が見える。おそらく腹より背中の方が装甲は薄いだろう。足に力を加えて一歩踏み出すと同時にイグニッション・ブーストを()かす。踏み出す足を軸にしつつ勢いそのままに回転蹴りをゴーレムの背中に打つ。

 

 背中をくの字に曲げるゴーレム。無人機らしくダメージを感じさせず、すぐさま元の体勢に戻る。斧で地面を薙いだために体の捻りを戻そうとするゴーレム。それを阻止しようとゴーレムの左腕を掴む。パワーはあるようだ。だが強化された俺のパワーは凌駕できないようだ。

 背中に右手のアッパーとブロー、時々膝蹴りを叩き続ける。死角の背中で攻撃され続けて頭に来たのか、足が地面から離れたところに掴んでいた左手をはちゃめちゃに振り回されてゴーレムとの距離が開く。

 

 これで仕切り直しになった。やはりゴーレムを優るパワーで殴られて効いているのか? 顔が見えないのは少し不気味だ。

 相手が機械であることとダメージを数値化するSEがないことも不気味だ。まさにダメージを体で受けるスタイル。ダメージが人間にまで及ぶ可能性のあるISと違う。SEがないならばゴーレムを止めるためには装甲ごと破壊するか、装甲を剥がして破壊するしか思いつかない。

 

 今度はゴーレムが先に動いた。リーチに優る槍を突き出す。『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)の直撃は絶対にダメだ。それなりに滑らかな機動だが、スローモーション同然に動くように見える。回避はたやすい。

 次の功擊として斧を振りかぶる。これは左に転がって避ける。地面に振り下ろされた『獅子王の戦斧』(レギルス・ネメア)から撒き散らされる強烈なオーラに思わず体を身構えさせる。

 

 煙の中から突き出された槍に対して身を捻って回避。そのまま槍は引かれ、安堵する。さっきの一撃から槍で体を叩かれてバランスを崩した所を次の攻撃に繋げられていたはず。そうなったらと思うとゾッとする。

 

「出し惜しみしてられねぇな」

 

『BOOST!』

 

『Explosion!』

 

 今しがた溜まった分も合わせて『Explosion』を一気に使う。これで俺の力は、さらに倍増して128倍。本当に理不尽な数字である。これまで体力が切れるその時まで、たった2倍のスピード、パワー、テクニック、その他諸々を倍にした。全てを128倍に引き上げる。ホントこれで適わない相手がいるんだからハイスクールD×Dはパワーインフレが酷い。

 

 ゴーレムのパワーと防御力は対したものだ。槍と斧が俺の横を掠める風切り音は本当に怖い。何よりも『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)『獅子王の戦斧』(レギルス・ネメア)から発せられるオーラ。それらが否応なくこちらを緊張させる。

 

 神器の恐ろしいところは持ち主に比例してその能力を強めることと、人によっては『至る』可能性があることだ。

 『禁手』と呼ばれる神器の持つ能力を一段階上の次元に到達させる裏ワザがある。ゴーレムが神器を禁手に至らせる可能性はない。だがゴーレムを操作しているのが本当に篠ノ之束だったら十分に有りうる。

 

 底の知れない正真正銘の化け物であることは間違いない。それに『禁手』を使える可能性だってある。

 

「今のところは上々。でもなぁ」

 

 どうにも相手の動きが鈍い。俺の動きに追いきれていないのが丸分かりだ。俺の動く数秒後に動き始めているように感じる。俺の体感時間も128倍なのだから遅いのは当然。意識一つで時間が止まって見えるのだ。

 『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)の面目躍如だ。

 

 全部の能力が倍化されたためか手足に錘を付けた手袋や靴を履いている感覚がある。ラグを感じる。

 

 どう考えても打鉄(こいつ)の性能不足が否めない。強化の対象に俺の打鉄は含まれないらしく、今まで練習だと『譲渡』で反射速度を強化して使ってきた。

 とはいえ、今までの分の『倍化』はもう『強化』に使用済み。次の『BOOST』まで四秒。それまで二十発は殴れる。

 

「フッ!」

 

 相変わらず堅いゴーレムの装甲板を殴る。そこで気が付いたのだが、ボディを中心に所々に装甲板が微かにめくれている。時間と様子見のため、左のボディーブローから右のストレートのコンビネーション。ゴーレムは後ろに電車道を作りながら後退する。

 めくり上がった装甲板の近くを試しに殴った。また装甲板がめくれ上がった部分を凝視する。

 

「これだ」

 

 思わず呟いてしまうほどに突如降ってきた攻略の糸口だった。本当に堅いんだよ。このゴーレム。流石に攻撃が通らないことに飽き飽きしていたところだ。だが無駄ではなかったと安心する。

 

 その安堵を好機と見抜いたゴーレムは機敏な移動で俺との距離を詰めてくる。その勢いを利用させてもらおう。『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)を突き出して俺を刺し殺そうとする。刺し貫かんと迫る。だが目に見えている俺は重心を落とし、頭を振って紙一重で突きを避ける。

 

 右手の指を揃えて貫き手に--

 

「ウォォオオオオオオ!」

 

 --気合を込めて、目標に突き立てる! 流石に貫くことはできなかったけれど、指に引っかかるぐらいには刺さった。倍化した握力で装甲板の端を握りしめ、引っぺがす。

だが、そうはうまくはいかなかったようだ。少しばかり装甲板を引きちぎりながら数センチの亀裂を作っただけ。

 

『BOOST!』

 

 よっぽど強力な装甲なのだろう。128倍の全力で裂くことができなかったのだから。狙ってやったわけじゃないが、四秒経ったか。本当に丁度いい。

 

『Explosion!』

 

「ッラァ!」

 

 気合をさらに込めて、両手でゴーレムの腹からわき腹、背中までの装甲板を引き剥がす。ゴーレムの横を通り抜け、背中にまで剥がれた装甲板を手刀で切り落とす。

 

 ゴーレムの体が左回転を始め、左手の斧がこちらに向かってくるのが見える。今まででさえ、止まって見えたゴーレムの攻撃。それがさらに倍化して256倍。これでは流石に遅すぎる。もうこっちから動くか。

 

「砕けろ!」

 

 左手にある斧が俺に当たる前に脚を動かして跳ぶ。肘へ飛び膝蹴りを打つと同時に左手を手首に置く。肘への飛び膝蹴りが当たる瞬間、左手に力を込めて関節を折る。

 ただし威力がありすぎてゴーレムの肘が本当に砕け散る。『獅子王の戦斧』(ネメア・レグルス)を付けた手はそのまま地面へと落ちる。

 

 腕を無くしたゴーレムは最後の悪あがきに右手の槍を突き出す。しかも体全体を捩じり込んで突き出された槍だ。今までの比でない速さだ。俺の『強化』が128倍の時の速度くらいだ。つまり余裕で躱せる。

 見えているので心に余裕を持って対処する。躱すと同時にゴーレムの右腕にしがみつく。相手が立った状態の変則三角締めをかける。宙ぶらりんではあるが、そのためすぐに足を絡ませられる。

 

「折れろ!」

 

 技は綺麗に決まって千切れる。折れる、ではなく千切れた。無くなった右腕の肘から機械やら配線などがチラ見している。

 ゴーレムは全くひどい状態だ。両腕の肘から先が亡くなっている。おいたわしやと悲しんでやるべきかな。コイツ、まだ一つも悪いこともしてないけどな。

 

「これでお終い!」

 

 落ちたゴーレムの腕を拾って『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)を突き刺し、『獅子王の戦斧』(レギルス・ネメア)を叩き付ける。

 かわいそうなほど無残な姿に成れ果てたゴーレムを眺める。戦闘を一から振り返ってみると「大したことない」と言った印象に落ち着く。

 

 確かに強かったが、『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)『獅子王の戦斧』(レギルス・ネメア)に気を付けてさえいれば、それほど脅威にはならない。それでも武器を持つ者と武器も何もない、素手で挑む俺には終始相性が悪いといえよう。

 だが結果としてみれば俺の完勝。『強化』も久しぶりに使って試運転させてもらった。いいサンドバックになった。

 

「これで本当に終わりだな」

 

 そう言えばVT-システム一体どうなったんだ?

 

 

 

 

 




「わーい! やっと届いた! 流石天下の黒猫さん!」

「架空の名義で用意した住所と住宅を手放してしまっていいのですか?」

「うんうん、そんな細かいことは気にしなくていいんだよ! さっそく試そう!」

あれは、確かVRゴーグルでしたか? 束様は一体何のためにそんなものをご用意したのでしょう。
 あれよあれよとケーブルとVRゴーグルを接続なさり、被る。

「レッツVR! ……オォー、我ながら現実と遜色ないねー。よーし、倒しちゃうぞー」

 どうやらVRでゲームをなさるようです。でも相手はいったい誰なのでしょう? 束様がわざわざ相手にするような方がおられるのでしょうか? 如何にVRで動かすといっても稼働しているゴーレムの改造型。あり合わせで作ったISです。
 束様が動かす場合、鉄球付きの鎖で繋いだ手錠を両手両足に括り付けて水の中に放り込まれるようなもの。

 さらにVRからの仮想現実のデータを現実空間のゴーレムに移送するまでのラグがあります。その辺りのハード・ソフトの両面は、束様なら抜かりないことを承知しておりますが……

「せい! ……あらっ? あいたっ、ちょっとたんま、この子こんなに強いの!?」

 悲鳴を上げると同時に体をくねらせる束様。顔を機械で覆った状態で。
客観的に見ると何というか、形容しがたい、惨めさが。



その後、面妖なダンスを終えた束様は「次は勝つ」と不敵な笑みをこぼしていました。多分(研究に没頭して)すぐに忘れます。




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主人公のプロフィール・神器

感想に恐怖を覚える日がくるとは(ガクブル





名前:名御叢 真輝(なみず しんき)

年齢:17歳

使用IS:打鉄(ダテツ)

 

 

神器:赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、

『NEW』黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、

『NEW』獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)

 

 

 

性格:基本は温厚かつ他人への気遣いを怠らない。ただし打算を多分に含んでおり、あまり他人を信用しきれない部分がある。友人を作ることは得意ではあるが、親友や恋人を作ることに躊躇する。

 

利害関係で相手との距離を作り、測るクセがある。

 

また自信を持てず、『力』に固執している。相手を倒す『力』がなければ、相手と対等な立場になることができないと考えている。そのため、『力』を持つヒーローに憧れている。

 

 

 

 

『神体』

真輝が死んだ時に消えてしまった肉体の代わりとなる現在の肉体。主人公へ神が製作した肉体でありとあらゆる才能を持つ。

才能の限界は存在しない上、訓練による成長も常人とは比べ物にもならない。

 

肉体的損傷と欠損から回復する機能を持つ。

 

通常時は意識に対して敏感に反応し、無意識の干渉を極力少なくした設計になっている。真輝の危機や意識の気薄な状態で例外として無意識の行動が強くなる。

 

精神状態によって身体能力が上昇する。意識に対する強化が施されているため、感情による肉体の操作が雑になる代わりにパワーが向上する。

 

上記の項目を名御叢真輝は知らない。

 

『NEW』教導モード:知っている技を肉体が自動的に行動する能力。

 

 

 

 

『神器』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

赤龍帝ドライグを封じた神器。神を殺す可能性を秘めた『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれる一つ。

 

自身の能力を倍化『Explosion』と相手の能力を倍化する『Transfer』の能力がある。赤龍帝の籠手を発動させた状態で十秒たつごとに『BOOST』の発生と共に2倍、4倍と乗算していく。

 

『BOOST』は貯めることができ、使用する回数を選ぶことができる。

 

赤龍帝の籠手を発動者の素の体力と『BOOST』が続く限り、幾らでも使用できる。

 

 

 

 

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

言わずと知れたイエス・キリストを刺したことで神殺しの名を冠することになった歴とした槍。(多分)一説にはキリストが磔刑(たっけい)で死んだかを確認するために刺したので厳密には違うが、気にしてはいけない。

 

『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれるように神を殺す槍として有名。そして聖槍としても名が知れているため、悪魔などにも有効。

 

上記以外にこれといった能力はない上、悪魔はこの世界(IS)にはいないので意味ない。真輝はよく切れてヤバい雰囲気を出す槍ぐらいの認識。

 

 

 

 

獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)

 

ギリシャ神話の英雄中の英雄、ヘラクレスと戦った獅子が封じた斧。形はFGOのヘラクレスの霊基三段階目の金斧を当てはめて欲しい。

 

ネメアの獅子と呼ばれる巨大な獅子が封じられている。ヘラクレスの試練で最初に戦ったのがネメアの獅子。その強靭さは矢で射ろうが、棍棒で殴ろうが死なない。

仕方なくヘラクレスはネメアの獅子とキャットファイト宜しく絞め殺すことで試練を達成。肉は上手に焼けましたー。皮はネメアの獅子の爪で剥がされ、服にされた。

 

モンハン(ボソッ

 

(多分)皮は矢で射ても貫けなかったことから矢避けの加護がある。

 

 

 

 

 



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龍を見る目

三人称視点です。

ちょっと治まり悪くなったんで二つに別けます。


『更識楯無』&『織斑千冬』

 

 

「恐ろしいまでの、成長スピードですね」

 

「何、あいつは少々不安定なところもあるが、蛮勇を押し通せるだけの力がある。心配ならお前が面倒を見ろ」

 

「私は多方面で忙しいのでご遠慮します」

 

 暗い部屋の中に、二人の女性が話をしていた。IS学園の中でも特別厳重な地下施設。そこに二人の女性。がいわずとしれた『ブリュンヒルデ』、織斑千冬。そして『学園最強』の名を持つIS学園生徒会長、更識楯無。

 青く薄い、空中に投影されたディスプレイのみが唯一の光源となって二人の間を照らしていた。

 

「何よりこれからもっと忙しくなりそうですし」

 

「……それで、あいつの身元は分かったか?」

 

「いえ、更識だけでは掠りもしなかったので他の者たちにも依頼してみたのですが、一部当たりましたが、どれもハズレでした」

 

「そちらも当てが外れた、のか」

 

「日本政府は彼を、名御叢真輝を『亡国企業(ファントム・タスク)』の手のものと考えているようです」

 

「それはないな」

 

 更識楯無にはある懸念があった。『名御叢真輝』の経歴そのものが経歴書と合致しないということだ。偽造、とも考えられたが、学校も同性同名のもので通っていたし、実際にその学校は存在していた。小中高共に経歴上は。

 だが実際には『名御叢真輝』は在校していなかったうえに出生届すらない。挙句の果てには戸籍すら見つかっていなかった。一部当たりとは同名の存在。だが、同性か同名もしくは両方の人物は確りとした経歴と過去の持ち主ばかりでハズレのようなもの。

 

 存在はしている。そのはずなのに完全に過去を消し、一方で完璧とも呼べる経歴だけを残してIS学園に入学している。織斑一夏の発見に伴って全国のIS適性検査にもちゃんと参加している。これも経歴上ではあるが、楯無の目の前でISを起動してみせた。そしてIS学園に潜り込まれた。

 種のわからないマジックの手際。もたらされる報告に驚愕の念は抑えられなかった。対暗部の看板を掲げている『更識』のトップとしての面子はもはや無いに等しい。

『亡国』の出身の『亡者』と取られてもけしておかしくなかった。

 

 だが織斑千冬は楯無の懸念を断じた。

 

「あいつは、あまりにも後ろ暗いところがない。『亡国企業』(ファントム・タスク)の陰があるならば探りの一つでも入れるだろう」

 

「それはどうでしょう。確かにISや代表候補生に対しては仲良くしているだけです。ですが今は友好関係を作るところで留めておいて、後で裏切る。なんてこともあり得ますよ」

 

「その時はその時だ。我々の目が節穴であっただけだ」

 

「……私まで名御叢君を認めるような物言いですね」

 

 織斑千冬の言葉に引っ掛かり、つい感情を込めた返答してしまう。楯無は言い切ると共に自身を攻める。織斑千冬の言葉を待つ時間が長く感じつつも言葉に表しきれない戸惑いを抱く。

 自分らしくない。そう思いつつ楯無は言い知れぬ不安と期待を募らせていた。これまでの人生の中で、真輝の存在ほど奇想天外な出来事はなかった。だが、一人の実力者として認めるには今はまだ未熟であった。

 

「名御叢と戦ったのはお前だ。ならあいつの底知れなさはよく分かるだろう」

 

「名御叢君が戦いながら強くなっていくのはよく分かります。今度戦ったら色々と手札を切らないと勝てないでしょう」

 

「認めているじゃないか」

 

 楯無はそう言い放つ織斑千冬の口もとが随分と緩んでいることを確認する。これは何を言っても無駄であることは明白であった。

 

「はい、認めますよ。名御叢君は強くなりますよ」

 

「クックック、随分早く素直になるんだな。もっと足掻くかと思ったが」

 

「それで、真輝君をあんなに信用する理由はなんでですか」

 

 楯無は内心ゲンナリしつつもようやく話が進むと安堵もする。

 

 千冬は更識楯無の様子を観察し、真輝への呼び方が変わったことから本当に認めたようだ。そう思って話を始める。

 これからする話は信頼できる相手でなければ、この話はできない。千冬にとって裏の裏まで任せられる相手は極めて少ない。更識楯無は『名御叢真輝』の一件で自信と『更識』の実力を下方修正しているが、真輝の異常性を認知している織斑千冬は例外として話を進める。

 

「名御叢のあの籠手。お前も知っているな」

 

「はい、真輝君は『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)と呼んでいましたね」

 

「そうだ。だが名御叢があれを持っているのはおかしい」

 

「……というと?」

 

 織斑千冬が口にした言葉へ浮かび上がった疑問を顔には出さず、楯無は話の続きを促す。

 

「あれと同じ籠手を、私は知っている。そして一回だけ使ったこともある」

 

「もしかして、『暮桜』が」

 

「そうだ。とてもではないが、強力過ぎて使いこなすのは至難のはず、だった」

 

 千冬は第二回モンド・グロッソで織斑一夏を助け出すために一度だけ使ったことがある。能力を倍にした『暮桜』の力は凄まじく、出力の調整に酷く手間取った思い出があった。だが、そのお陰で織斑一夏を救えたのだから苦労の甲斐があったと今でも感じている。

 

 その話を聞かされた楯無は酷く驚愕した。織斑千冬でさえ一回の強化で手こずった。だが名御叢真輝はさらに数回も強化をこなしていた。その事実は楯無の心を酷く揺さぶった。

 

 名御叢真輝がこの話を聞けばこう思っただろう。それ『『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)じゃなくて、『龍の手』(トワイライト・クリティカル)です』と。

 後、「千冬さんの能力が倍になったら、そりゃそうなりますよ」とも。

 

「……それで、真輝君が『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)を使えることが一体どう繋がるんですか?」

 

『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)には力の元となる精神のようなモノがいる。そのモノが発動を拒むことがある」

 

「……なるほど」

 

 楯無は織斑千冬から語られた内容の理解を後回しにすることに決めた。この時点で理解の範疇を超えていたため、後で理解しようと記憶することだけに留めた。そうしなければ、脳がパンクするだろうと考えていた。

 そんなこと更識楯無の心情はお構いなく、今まで話したことがない織斑千冬の心情を掻い摘むように語る。

 

「当時はあの力に対して、恐れのようなものを抱いていた。あそこまで力を出すことが出来る以上、さらに引き出すことだって出来ただろう。それが何より恐ろしかった」

 

「以外、ですね。もっと力に貪欲な方だと思っていたんですが」

 

「あながち間違ってもいないさ。一夏がいたからな」

 

 そう呟くように溢した言葉と共に織斑千冬は遠い目をした。楯無は思わず納得した。姉弟がたった二人で生活してきたうえで、力が必要だった。それ故に篠ノ之束の生み出したISという存在を受け入れた。そしてISを始めて動かす女性として表舞台に立った。 白騎士事件によって篠ノ之束は良くも悪くも名声を得た。織斑千冬は日々の糧の種を得た。二十歳も迎えていない女性が金銭を得る手段を選り好みできる訳もない。

 

「最近はようやく落ち着いたと思ったんだが、こんなことになってな」

 

「一夏君のことですね」

 

 確かに女性にしか動かせないと断定されてきたISを動かせる男性として突然現れたのだ。全世界がそのニュースに驚いたものだが、一番驚いたのは目の前に世界最強(ブリュンヒルデ)に違いないだろう。

 

「あいつだけなら、まだ手に余ったものの」

 

「真輝君も不明だらけですよねー」

 

「きっと神のせいだ。一度出会ったら殴ってやらねば気が済まない。そもそも国籍と戸籍がないってどういうことだ。そもそも山田先生も……」

 

「そうですねー」

 

 突如始まった愚痴を右から左に流していく。すでにこの時点の前から更識楯無の頭は機能停止していた。心の片隅で頭脳がもう働いていないことに感謝しつつ、この場にいる不幸を呪うのであった。

 

 

 

 

『シャルロット・デュノア』&『ラウラ・ボーデビッヒ』

 

…………覚えること多すぎじゃああああああ!!!

 

 職員寮の一室にて、一人の青年の悲鳴が響く。それを聞いていた二人の少女は、お喋りを中断。悲鳴を上げた青年のことを思い、苦笑する。

 心当たりがある、というより原因を作った銀髪の少女ラウラ・ボーデビッヒは愚痴を吐く。

 

「フン、真輝め。あの程度を覚えるのにてこずるとは」

 

「アハハ、でも一夏が言うには広辞苑レベルらしいからね」

 

「日本語の辞書?だったか。我々とて日本語を覚え、更にあの辞典を覚えたのだ。日本語を最初から覚えている分、マシではないか」

 

「僕は小さいころから教えられてたから大分いいけどね」

 

「私はほとんど丸暗記だ。日本語からドイツ語に翻訳された物をそのまま覚えた。教官に教えていただいた方法だ。イチヤヅケだったか? それだ」

 

 ラウラ・ボーデビッヒの話を聞きつつふと昔のことに意識が向かう。ISの練習の時だけが、父との交流の時間だった。どんな思いで教えてたんだろう。シャルロット・デュノアは、ふと過去を振り返る。

 

「シャルロット?」

 

「あっ、何でもないよ。ラウラ」

 

 突如ボーとするシャルロット・デュノアに対して心配の言葉をかけるラウラ。すぐ返答するシャルロット・デュノアに対してラウラは真輝への愚痴を再び開始する。

 シャルロットはそんなラウラ・ボーデビッヒを見て、兄に甘える妹のようなに感じられた。ラウラがこの職員寮にやってきて少し暮らしが変わった。無論不満よりも満足した気持ちがある。

 

「(ラウラが来てからは真輝とは別々の部屋になったけれど、毎朝起こしに真輝の部屋に行くのに通い妻みたいで楽しみだったりするしね)」

 

「……それにすぐにムキになるところは矯正しなければ。おい、聞いているのかシャルロット」

 

「うん、聞いてるよ。ラウラ」

 

 ラウラはそういって明らかに聞き流しているようなシャルロット・デュノアに対して何か言いたくなるが、ニコニコ顔で見られると何とも言えない気持ちなる。その気持ちに対して、明確な言葉を持ち合わせてはいなかった。

 

 だが真輝に対しては言っても言い足りない気持ちになる。この気持ちはラウラの所属する部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』の副官、クラリッサ・ハルフォーフに聞いたところ『それは隊長が気づくべき心です』とはぐらかされてしまう。

 ラウラは最近よく戸惑うことが良くある。

例えば、格闘技のさいに顔、胸、腹、足に真輝の手が触れると顔が熱くなること。

そして物凄く恥ずかしくなって絞め落としたり、手加減無しで殴ってしまうこと。

真輝の笑顔を見ると頭が真っ白になって数秒間動けなくなってしまうこと。

真輝と話をしていると次から次へと知りたいことが出てくること。

真輝が他の女と話していると心が少し冷えてしまうこと。

真輝の強くなっていく度に心拍が早くなること。

真輝のことを考える時間が増えたこと。

 

 名御叢真輝から発せられる熱を逃がそうと愚痴を加速させていく。

 

「……特にあの赤い手を出した後は酷い! 強化?されていく度に強くなる上にかっこよくなる!! いったいどんな原理だ!」

 

「あっ、それは僕もあるよ。腕の力が強くなっていく度に二倍ずつ強化していくんだよね。あの力は本当に理不尽だよ! あの力使われた後で睨まれると顔熱くなるんだから!! 覚ます間にどれだけからかわれたか!」

 

「シャルロットも一緒か! 私もどれだけ恥ずかしい思いさせられたか!」

 

「そもそもあの腕が悪いんだよ! 無くなればどれだけ安心した生活が送れるか! あの状態で寝られると力強くて振りほどけないんだよ!! 一昨日なんて起こそうとしたらベッドに引きずりこまれて抱き締められたんだから!」

 

「何だと!? そんないい思いをしたのかシャルロット! わ、私だってこの間の特訓でむ、胸に触られたんだからな!!」

 

「そそそそ、そんなことまでしちゃったの! だ、ダメだよ! まだ恋人ですらないのに!」

 

 売り言葉に買い言葉。思わず言い返してしまい、完全にパニックに陥っている二人。二人の自虐を兼ねた羞恥責めは、名御叢真輝とのネタを振り絞るまで続けられた。

 

 

 

 

 

 




真輝「1×2」

千冬「1000(推測)×2」

これだけ差があれば違いますわ。


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龍を見る目part2

簪視点を書いてたら一万字越えた。

しかし間違って保存しないを押した。心折れた。
ムシャクシャして地球防衛してきた(EDF! EDF!)

なので簪視点(簡易版)+@です。



『更識簪』

 

 

 

自室のベッドで上向けに寝転がる少女。彼女は一人の男性を脳裏に思いがけながらも両手両足の指をせわしなく動かし、仮想キーボードに入力していく。

 

 今まで放置せざる得ない問題が山積みであったものの、一人の男性との出会いで多くの問題が解決したのだ。その姿は、彼女が求めてやまないヒーローの姿と相違ない。

 

「名御叢、真輝さんか」

 

 自室にて独り言を口にする。同室の者は友達の部屋に行っており今は不在。そのため心置きなく口にすることができる。憧れとも恋慕とも見分けのつかぬ感情を理解するには日が浅かった。

 今は夕焼けも落ちて数時間ほど。彼は日が昇ってから昼下がりまでの短い時間の間に多くの協力を得られた。簪の一カ月以上に及ぶ孤軍奮闘。倉持技研の不憫な扱い。そして名御叢真輝の説得を直接見聞きした上級生たちの伝手。

 

それらの要因と簪へ向けられた多くの同情と哀憫と羨望、その他諸々が重なり合った結果。

簪の乗る予定の打鉄弐式は9割方完成。当初予定していた機体をサポートする機能のデータ取りに必要なISの申請許可も繰り上げられ、明日には使用可能。更にその基礎データと練習台に名御叢真輝が協力してくれるのだ。

 

「まだ、夢見てるみたい」

 

 あまりに多くの出来事に対して全てを飲み込めずにいる簪。ただ、今までの焦りはない。代わりにあるのは打鉄弐式を完成させること。今の目標はそれだけであった。

そのための準備は周りの人達がしてくれた。今まで無関係であった人たちの思いではあっても、助けてくれた思いを無駄にできるわけがない。

 

「名御叢真輝、さん」

 

 

それはたった数時間前のできごと。

 

 久しぶり薙刀を握りに訪れようとした途中で名御叢真輝に出会った。最近会っていなかった布仏本音が案内役として名御叢真輝を連れていた。

マイペースで相手に臆さない布仏本音のコミュ力はマスコットのように見られがちだ。その実、母性の塊とも呼べる包容力の持ち主。並大抵のことでは驚かない胆力と混ざって大らかな雰囲気を醸し出す。

 大体マスコットキャラも好きでやっているところもあるが、大体は布仏本音の性格が寄る部分があるはずだ。と簪は布仏本音を見ている。

 

 マイペースな点もあってあまりに読みにくい性格をしている。布仏本音は主人でもある簪から見ても不明な点が多い。

 

「フフッ、あっ」

 

布仏本音との過去を思い出し、思わず苦笑。そして思わぬタイプミス。口からこぼれてしまうが、まだ数行にも満たない微々たるもの。簡単に修復できる。

 

話が逸れたものの、名御叢真輝と一緒にいる布仏本音に驚かされた。姉とは違う人たらしを見ても何も思わない辺り布仏本音という少女に信じているのだと思った。

 

 名御叢真輝に話を戻す。

 打鉄弐式の近接武装に薙刀を使うため、久しぶりに薙刀に触れておこう。そう考えて薙刀部にやってきたのだ。そうしたら布仏本音と名御叢真輝の二人に偶然出会ったのだ。驚いた顔の布仏本音とその顔を見て何かを悟ったような名御叢真輝。

 互いに自己紹介を終え、簪はすぐに別れるだろうと思った。すぐさまに話を終えて薙刀部へ向かおうと考えていた。

 

「俺は名御叢真輝です。よろしく簪さん」

 

「わ、私は、更識簪……です」

 

 今思えば、もう少しまともな返答はできなかったのだろうかと自己嫌悪に悩まされる。人見知りと臆病な性格と英雄への思いが祟って緊張してしまった。それでも笑うようなマネはせずに真剣な表情をしつつも優しい目で見ていてくれた。

 

そしてそこから薙刀部までの間、一緒に移動することになった。簪は薙刀部に着くまでの間と思い、一緒に行くことを決めた。

 

 なぜIS学園に入ったのか、好きなISについて、ISの武器や装備の品評、使いやすいISのエネルギー配分。簪と話しやすい話題を振りつつ本音との会話を繋ごうとしていた。

名御叢真輝の質問を投げかけて簪が返答する。そして本音が話を盛り上げ、時に昔話などを持ち出して間を繋げる。

 時折、二人から驚かされる質問を投げかけられたりもするものの、不快に感じることはなかった。

 

「もしかしてだけど、簪さんは整備科志望の子?」

 

「違うけど、どうして?」

 

「機械の油の匂いがしてね。それでと思って」

 

「……臭い、ますか?」

 

 確かにISの組立には専用の機材が必要になる。その機材を使用するために油は必要不可欠だ。簪のIS『打鉄弐式』の組立を行うために一人夜遅くまで利用することも多々あった。整備室は独特な臭いが鼻につくのは事実であった。

 

その臭いがすると言われて途端に恥ずかしくなってしまう簪。整備室を出た後は気になってシャワーを浴びた後だからしないはず。それとも最近動作確認のために整備室でプログラムを弄っていることが原因?

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ああ、気にしなくていいよ。俺の『赤龍帝の籠手』(コレ)については知ってる?」

 

「……それが『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)

 

 簪が『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)を見るのはつい数日前の出来事。神器持ちゴーレムが学年別トーナメントでやってきた時のことであった。

名御叢真輝が皆を救うために自らを囮として前に出る。その姿を見たわけではない。だが、そんな噂がIS学園中に広まる時間は一日と必要なかった。

 

 簪が名御叢真輝に話しかけられても返答した理由の一つとしてある。一体どんな思いで敵に立ち向かったのか。どうやってゴーレムを倒したのか。そのような名御叢真輝への疑問を募らせていた。

 

 まともに会話できたことさえ、不思議だと考えていた簪。それも名御叢真輝の左手に現れた赤い籠手『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)を視界に収めた瞬間に理解ができた。ISに優るとも劣らない武具への好奇心からだ、と。

 

『赤龍帝の籠手』(コイツ)には十秒間に二倍ずつあらゆる力を増やす能力がある」

 

「そんな力が……」

 

「それでちょっと嗅覚が二倍以上になってるんだ。簪から良い匂いの中に紛れてた臭いを嗅ぎ分けたってわけ」

 

「そう、なんだ」

 

 簪は納得がいくと同時に顔が真っ赤になる自覚があった。自身の匂いを一般人よりも何倍も良い嗅覚で嗅がれる。良い匂いと言われたこと。これらの出来事を認識できると同時に一人の少女として羞恥心と感動の板挟みに苛まれる。

 

IS学園は元々女子生徒しかいない。ISを使えるのは女性しかいないのだから当たり前であった。そんな中にいる男性だ。少なくとも一人の女性としてよく見られたい思いがあるのは、簪とてあるわけで。

名御叢真輝から簪はそう見られている、簪はどんなに匂いがしているのか。そのことを考えると頭が沸騰して思考が一気に真っ白にされる。

 

男性に対する抵抗が限りなく低いことを自覚している簪。それでも顔が熱いと自覚できるほど男性に耐性がないとは思えなかった。

 

「……今日は、もう寝よう。うん、寝よう」

 

 今にして思えば、そんな後悔が思い浮かぶ。今日はもう考えることをよそう。顔から赤みが引くのは、簪が思っている以上に長かった。

 

 

 

 

『篠ノ之束』

 

「ふっふっふ、面白い。面白いね」

 

 束は興味が湧いた。自他ともに認める天才、篠ノ之束が理解不能な事態に陥っている。その事実に興味が湧いた。

 

事の発端は『亡国企業』から届いたある杯であった。ISのコアに必要な神器は量産には向かない。そのため、『亡国企業』から受けたオファーは渡りに船だった。

『亡国企業』から貰った杯から抽出されたエネルギー結晶体はISコアに適していた。杯からの抽出限界まで作られた467個のISコアとは別に随時コアを作ること。それが『亡国企業』が出した条件であった。

 

「あれは間違いなく神器を使ってる。ISとは別に神器を持ってるんだ」

 

どう突き止めたのか。やったことは簡単。名御叢真輝のISの素の数値と『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)で上昇した数値を比較すること。名御叢真輝が使われたISのコアは量産用に作られた物。

神器タイプと量産タイプでは発動に必要なエネルギーは一目で異なる。そのエネルギーの量は神器タイプISより小さいものの、質はひどく似通っている。

 

「世界は広いね。まさか束さんよりも神器に精通した人がいるなんて」

 

 なぜ束が知らない神器を持っているのか。入手できた神器数十種類の内、全くISコアとして使えなかった神器の名前を知っているのか。篠ノ之束はその特異な才能を存分に発揮して名前すら知らなかった槍と斧、『黄昏の聖槍』(トゥール・イデア・ロンギヌス)『獅子王の斧』(レグルス・ネメア)の名称を名御叢真輝が呟きを拾ったのだ。

 

束でも知らなかったことを知っている。

 その事実を理解すると名御叢真輝に強い興味が生まれた。神器の研究はまだまだ開発途中。それはISを生み出してから携わり続けてきた束だからこそよく分かっていた。停滞などという言葉は無縁だった束が始めて足を止めて考えた。

 

一人でISを作り上げた。神器という誰も手を出したことのない分野に切り開く先人の栄誉を、とも思っていた。だが既に神器に関して詳しい者がいた。名御叢真輝。束が興味を抱くには十分であった。

 

「興味深いよ。名御叢真輝。遠隔操作だったとしても私に勝ったんだから」

 

――もっと凄いのを用意しないと。

 

天災(篠ノ之束)は嗤う。新しいオモチャに興味は尽きない。だが束の想定に治まるようならば束の目の前に立つ資格はない。隣に立つならばなおさら。

 

「ふふふ、楽しみだな。ねー、箒ちゃん」

 

横目に映ったのは紅に彩られたISがある。愛しい妹へのプレゼント。与えられるその日が近づくことを心待ちにしている。

『????』

 

「どうなっている」

 

????は困惑していた。今まで体感したことがなかった事態に驚愕していた。事の発端は【神】からの要請だった。何時ものように平行世界に発生した相棒、兵藤一誠の手伝いをするのかと思っていた。

 

今回は違って、全く関係ない男が『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)を持って転生したことが原因だった。珍しい、だがいない訳ではない。相棒の皮を被った転生者が????とハイスクールD×Dの世界を共に駆けたことだってある。

 

だが今回は少しばかり異色な世界を過ごすこと。【神】の不手際でとある少年を殺してしまった。そして贖罪のために彼の住む世界とは異なる世界へと送り込んだ。元の世界の修復と辻褄合わせのために三~四世紀はかかること。

そしてここからが????へと頼まれた要請。【神】が殺してしまった少年、名御叢真輝が一年間、サポートすること。

 

それが????が名御叢真輝の持つ神器『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)の中へと宿る経緯であった。

 

「何故、なんだ? なぜ」

 

答えに辿り着かない疑問を考える。だがヒントは存在していた。【神】が????へと語った言葉の中に「世界の修復と辻褄合わせ」とあった。普段そういった不手際や何かしらの不都合が生じた際には被害者などを異世界や平行世界に放り込む。それだけのはず。

 

だが今回は不自然なまでに手厚く能力を与えている。確かに時折【神】の権能を使って多種多様な力を与えることもある。だがわざわざ神の肉体を与え、『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)に手を加えた。そうでなければ、名御叢真輝。彼の者に何か秘密があるのか。

 

「考えても分からんな。だが、名御叢真輝。お前と出会う日を楽しみにしているぞ」

 

どうして????が名御叢真輝に対して興味を引くようになったのか。

なぜ【神】の目に留まったのか。

 

今まで『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)ではありえない能力の強化が行われたから。????はそれが原因だろうと思う。

 

『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)の『BOOST』から『Explosion』は自身の肉体の運動能力・体力等々を全て均等に二倍に引き上げる。それだけならば良かった。

だが問題は『強化』による向上が名御叢真輝の身体能力だけではなく、全て(・・)に及んでいること。

 

『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)の『BOOST』で使用者の全て(・・)を上げることは不可能だ。今日だけでも『強化』が発揮した能力は魅力・カッコよさ・嗅覚・話術・説得・交渉など。

 

名御叢真輝の異常さはそこにあった。使用者の精神、自己へ対する概念や認識の『強化』が施されるという異常事態。今まで数多くの『相棒』を見てきた????としてもこのような使用者は初めてのこと。

 

「色々な相棒には出会ってきたが……やはり」

 

ある推測を思い描いては違うと消していく。????の脳裏には【神】の成す行末と名御叢真輝の正体に不安を募らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 




ドライグはいっつも胃を痛めてるな。


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海だよ海!

EDF5のINFマジキチ。

RDR2予約ktkr!RDRで復習だ!

DMC(HD)でコントローラー投げた。

大体↑のような日々だった。


そして七星朔様。遅れましたが誤字報告ありがとうございます。



臨海学校だー。やったー。

 

「きもちわるっ」

 

「真輝大丈夫?」

 

スカートから晒した太ももの感触と頭がシェイクされる気持ち悪さの板挟みに会いながらバスに乗っている。かれこれ数時間ほど時間が経過したが、未だに終点は見えない。

 シャルロットのおかげで何とかやって来れた。

 

「真輝め、情けない」

 

「でも意外だな。真輝がバス酔いするなんて」

 

「人って意外と妙な欠点持ってるものよね」

 

「まあ、こうして人が集まって移動となればバス移動しかあるまい」

 

「一夏さんは大丈夫ですか。酔ったりしていませんか?」

 

「俺は大丈夫だぜ。セシリア」

 

 昔からバスは苦手なんだ。何故かわからんが。乗り物の中でどうしてもバスだけがダメなんだ。克服しようともしたが結局無駄だった。歳を重ねれば治ると親父に言われたが、そんな耳触りのいい未来よりも今この瞬間を、どうにかしてくれ。

 

「う”あ” あ” あ” あ” あ”」

 

「シンキーゾンビみたい」

 

前から本音ちゃんの声が聞こえる。助けて、助けて。

 

「シンキー、ダイジョブ?」

 

 本音ちゃんに撫でられる。あぁ~、癒され……ない。不思議だね。

 

「ア” ア” ア” ア” ア”。まだぁ、つかないのか」

 

 この地獄から抜け出せるなら何でもするぞー。ほんとうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでこんな朝っぱらから気分悪くならなきゃいけないんだ。到着しても気持ちわるいのは変わらないんだぞ。今は地に足が付いてるからいいものの。後は時間をかけて元の調子に戻していけば、元通りだ。治るまでのガマン。

 

「真輝は後から来るのか」

 

「砂浜に。ああちょっと休めば元に戻るからな」

 

 一夏も一人で水着の美少女たちの中は居心地が悪すぎるか。俺はなるべく時間をかけてナオさせてもらおう。ナオルトイイナー。

 

「それじゃあ僕は着替えて先に行ってるからね。ちゃんと来てね」

 

「分かった。気分が戻ったらな」

 

「もう、仕方ないな。それじゃあね」

 

 シャルロットのおかげで今回のバスは吐かずに済んだ。流石に女子だらけの場所で吐くのは外聞が非常によろしくない。これまでいい関係を築いたクラスの子がいきなりヨソヨソしくなる可能性があるし。いや多分一線引かれる。

 

 昔は良く吐いてたけど、高校に入ってからはあんまり無くなったな。バスに乗る機会が減ったのもあるけど。今回は頭が痛くなって、気持ち悪くなっただけだし。いやそれだけでも十分嫌なんだけどね。

 

「あぁー、地面って本当に素晴らしい」

 

「フッフッフ」

 

「織斑先生すか?」

 

 先に着替えて海水浴に向かう女の子たちと一夏とは一旦別れ、俺は先に自室に行く。シャルロットとラウラに肩を貸してもらい、部屋の前にまで送ってもらう手はずになっている。俺たちの後ろからついてくる織斑先生に案内してもらいながら部屋にたどり着く。シャルロットとラウラの二人には先に海水浴に向かうらしい。ちょっと気を使わせたかなー。

 着いた部屋で寝転がって気分を変えようとしているところに何やら笑い声が耳に届く。首を上げつつ声をかける。部屋の入り口にもたれかかってる千冬さんを発見。絵になるなー。

 

「楽にしてていいぞ。それにしてもお前がバス酔いとは。意外だな」

 

「ずぁー、こればっかりはどーしよーもないですからね」

 

「他にもダメなのはあるのか」

 

「そーですね。乗り物はバス以外特にないですけど飛行機の離着陸は苦手ですね」

 

「飛行機のアレか。確かにアレが嫌いな人はいるな。私はそうでもないが」

 

「そっちはどうでもいいんです。気持ち悪くなるのは飛行機の離着陸だけですから」

 

 首だけあげて千冬さんを見ておく。すぐに気持ち悪さが感じなくなったので体を動かそうとしたが、嗜めなられたので素直に従っておく。気持ち悪さは未だに消えない。大体バスを降りてから数時間しないと治らないんだ。

 

「礼を言ってなかったな」

 

「何の礼ですか?」

 

 本当に何の礼のか分からなかったので聞き返す。千冬さんに何か貸しを作っただろうか? どうも酔うと頭の回転がよくない。全く心当たりが思いつかない。

 

「お前には一夏を助けてもらったからな」

 

「そういえば助けましたね」

 

確かにに学年別トーナメント戦で一夏を助けている。どちらかといえば、シャルロットとラウラのついで、だったりする。シャルロットは俺と戦ってたし、ラウラは味方で爆弾背負ってたし。

 

「ふっ、お前からしては一夏の評価はそんなところか」

 

「いや結構すごいと思ってますよ。すぐに友達になれるところとか、何気なく気使いするところとか」

 

「そうか。よく見ているな」

 

「まあ、前いた学校だと目立たないようにするために人付き合いは選んでたんで」

 

 万人受けする性格はしてないから、あんまり人と仲良くなることが上手くないんだ。だから一夏みたいに人に率先して話しかけられる奴は尊敬できる。きっかけ作るのが苦手なだけで、人と仲良くなれないわけじゃないんだ。

 あと最初になんて話しかければいいのかが分からない。一回仲良くなればトントンなんだが。だからかいつの間にか仲良くなった友達の方が多い。友人を友人だと胸を張れないっていう欠点のようなものがある。

 

 俺の悪い習性だと分かってはいるんだがな。どうにも治らん。そういえばこっちに来てからあんまり気後れしてないな。女性苦手なんだけど。何でだ?

 

「なんだ。そんなにひどい学校だったのか」

 

「学校そのものは酷いわけじゃないんですが、グループ格差が酷くて」

 

「なるほど。教師側の問題ではない、というのは少しばかり安堵できるが。教師としては確りと教育できなかったのかを問い詰めたいところだ」

 

 教員の問題じゃなくて安心できるけど、一教師として学校の問題をどうにかできなかった気になると。

 流石に千冬さんでも学校側の問題を一人でどうにかできるとは思えんが。それに問題をよく起こしてた不良グループの方にPTA、教育委員会の役員がいたからな。問題は学校が率先してもみ消してたっけ。

 

「……う、うむ。それは何というか。不幸だったな」

 

 流石に千冬さんもうちの学校については口出しは難しいようだ。微妙な空気になったところで何か話題はないかを探す。バス酔いによる気持ち悪さは既にない。そろそろ行くか。

 

「おっし、ありがとうございました。千冬先生。やっとバス酔い治りました」

 

「それなら、私もそろそろ行くとしよう。男子更衣室はないからお前はここで着替えるといい」

 

「……あれ、それじゃあ一夏のやつはどこで着替えに行ったんですか?」

 

「……まさか」

 

 俺の疑問に対して何かしらの答えが浮かび上がったのか、水着を片手にすぐ部屋から出ていく。神に愛されている一夏ならどんな結末を迎えているのか。嫌な想像が簡単にできてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬さんが部屋の外に出ていった後、すぐに部屋の中に入ってきた一夏。どうやら一通り歩き回った末に山田先生に連れて来てもらったらしい。

 流石に女子更衣室までは入ってないよな。とジョークを言ってみたら目を背けやがった。まあ言及は勘弁してやった。

 気がつかずに女子と一緒に部屋に入ったんだとしたら、流石としか言いたい。流れるように女子更衣室に入る男なんて俺は知らない。一夏さんホントスゲーっすわ。

 

「もう、勘弁してくれ」

 

「御手洗君とか五反田君に言ったら面白そうだね」

 

「それだけは本当に辞めてくれ」

 

 あいつらに知られたら絶対騒がれる、とか言いつつうなだれる一夏。一夏の友人二人には面識はないものの、一夏を通して互いに知っている。ここ(IS学園)だと男の友人はできないからな。数少ない男友達らしい。

 今の一夏としては数少ない気心知れた友人なんだとか。有名人と化した今、何でも知らないクラスの子がいきなり友達になろうと言ってきたりするそうだ。それが自身の小中学の子ならばまだしも、別の中高校生までやってくるんだと。

 

 そのことを後で話したら千冬さんに話したら教えてくれたんだが、中には口にするのも憚る手口を取ってくる輩もいたそうだ。有名人の弊害だと鬱陶しげに話していた千冬さんは珍しく、イライラしているように見えた。

 ブラコンだなーとか考えたらしばかれた。不思議だよ。

 

「にしても、良い景色だな」

 

「露骨な話題変換。だけど、確かにこの光景は良いものだ」

 

 青い海、白い砂浜。それだけなら日本にはどこにでもある。だが砂浜に目を凝らして見ると水着姿の同級生がいる。そこに溢れるだろうキャッキャウフフな光景を思い浮かべ、バス地獄に揺られ続けたかいはあっただろうと思いたい。

 

「それじゃあ、とっとと行こうぜ。皆を待たせるのは気が引けるからな」

 

「それもそうだな。さっさと行って水着を拝みに行くぞ!」

 

 俺の言葉で笑いながら砂浜への道を歩いていく。一夏との友好関係は良好。俺の知る範疇でISの知識を教え、練習を手伝ったかいはあった。俺も最初は習う側だったけど、【赤龍帝の籠手】(ブーステッド・ギア)で強化すればISの挙動はすぐに物にできたからな。

 まあ、できればこうやって遊べればいいんだけどなー。無理なんだよなー。

 

「今を死ぬ気で遊ぶだけだ! 海だー!」

 

 ようやく到着した砂浜に足をつける。ビーチサンダルと足裏に入ってくる砂の感触がちょっと気になるが、目線を砂浜の美少女たちに目を向ければ気にならない。

 二次元に出てくる美少女たち。色とりどりの水着。日々ISの練習で鍛えられている肉体。健康的なエロさというべきか。エロさよりも前に健全さが伝わってくる。どことなく微笑ましく感じてしまうのは何故だろうか。

 

「これはいいものだ」

 

「何言ってんだ、真輝?」

 

「ハッ? お前知らないの? 壺の人」

 

「壺? それより呼ばれてるぞ!」

 

 マジか、壺の人のことを知らないのか? ウソだろ。今の子ガンダム知らないの? まあ、マさんが出てくるのは結構少ないし。少ないよな?

 

「一夏くーん! 真輝くん! 一緒にバレービーチやろー!」

 

「おっしゃ! やったるで!……一夏、先に行ってろ。後で参加する」

 

「うん? 分かった」

 

 俺が来るのを見計らってやってきた二人組を見る。案の定、言葉にしがたい物体をシャルロットが引き連れてくる。包帯グルグル巻きのラウラ。実際に目にしてみるとインパクトは水着の美少女の比じゃない。

 

「あはは、真輝。ラウラのこと見すぎだって」

 

「うっ、み、見るな真輝」

 

「見るなと言われても、その恰好をどうにかしてから言えよ。取るぞー」

 

 こうなればさっさと包帯をひっぺがすか。毎朝の訓練での機敏さは見る影もなく俺の手で包帯をむしり取られる。中には原作同様のラウラの姿が。だが、改めて見るとその華奢な体躯に目がいく。月並みだが力を入れたら折れそうに思える。

 実際に毎朝ボッコボコにされてる身からすると嘘のように感じるが。それでも軍人であることを除けば、本当に女の子なんだと感じさせられる。

 

「じ、ジロジロ見るんじゃない!」

 

「あっ、すまん。いや、改めて女の子なんだなと思ってな」

 

「フフッ。何言ってるのさ。僕やラウラだって女の子なんだよ」

 

 それはよく知っている。二人とも可愛い女の子だ。とはいえ、今のままではその二人に守られる可能性だってあるわけだ。俺の戦闘能力の八割以上が『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)による強化が主だ。

 だから『神器無効化』《セイクリッド・キャンセラー》があれば、ほぼ無力になるんだ。明日やってくるのは『神器』(セイクリッド・ギア)を独自に取り出すことのできる篠ノ之束だ。

 

 俺が『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)を抜き取られたり、無効化や使えなくする手だってあるかもしれない。

 

 ラウラとシャルロットの二人は俺が守る。簪も守る。本音ちゃんやクラスメイトの皆だって力が限りで守る。強い男として頼りにされているんだ。滾らない訳がない。

 女は男が守る。親父は俺にそう教えた。弱い子は守るのは当然だし、何が幸せになるかは分からないけど、幸せにしてみせる。俺は弱い側から去った。強い側に立つきっかけができたんだ。力は正義だ。子どもだって知ってる真実だ。

 

 二人から向けられた笑顔に誓って傷付けさせてなるものか。

 




ぶっちゃけガノタじゃないと『|あれ(壺)は良い物だ』知らないんじゃない。





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VS銀の福音……の前に

虫歯にはなるなよ! この数ヶ月どれほど痛い思いをしたか。
健康管理、大事。

察してっと思うけど更新はマイペースにやるわ。ゴメンネ。

※『銀の福音』戦をこのまま進めると楽勝なので
超強化フラグのヒントその一:魔法少女



 

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)か」

 

 早朝の鍛錬の後、飯食って、のんびりして、ISスーツに着替えて、砂浜に集まって、天災が出てきた。なんか俺のフラグメントマップを取って変な目で見てた。てか今も真横でジロジロ見られてる。

 

 で、話をシルバリオ・ゴスペルに移る訳だが。俺のISは『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)で簡単に性能差は凌駕できる。相手がアメリカ代表ナターシャ・ファイルスとシルバリオ・ゴスペルなら話は別だが、操縦者は意識ないからIS単体のみ。ならば行動を読み取るなど造作もない。

 

「ようはビームとロケットブースターを背負ったISだろ? 軍用と専用の違いってなんだよ?」

 

「確かに性能は軍用の方が高そうだけど、こっちだって同じISだろ?」

 

 機密情報とか、バラせば監視が付くとか見せながら千冬さんが言っている。せめて事前確認は、ないんですよね。作戦本部みたいなところにいる時点で決まってるようなもんですよねー。

 

 正直、見た限りのシルバリオ・ゴスペルのスペックは俺のISなら性能に追いつくことも追い越すのも容易い。一夏のISは一撃必殺のワンオフを持ってる。

 俺単体でも撃破可能だし、一夏にワンチャン賭けてもいい。皆に『譲渡』して数の暴力にするのもいい。

 

 無理に危ない橋を渡る必要もあるまい。フルボッコにしてやる。

 

「アンタらねぇ。相手はアメリカの新作よ。新作。総合スペックはこっちの何倍も上だし、相手は一対一も一対多もできる相手なのよ。こっちはISのスペックは制限を掛けられてる」

 

「それにあちらはマッハで移動していますわ。接触そのものが困難なのですのよ。私のISはパッケージを利用して接敵できますわ。そして後は……」

 

 鈴、セッシーの二人が俺らの疑問にお答えする。うむ、こう言われれば何とも言えん。だが、と俺が口にしようとする前に声が響く。とても小さな声。だがはっきりと主張している。

 

「それなら、問題ありません」

 

「お前は、確か」

 

「え、えっと、一年四組……更識簪、です」

 

 おずおずと千冬さんに返答する簪ちゃん。かわいい。皆の視線が集まってビクッてする簪ちゃん。かわいい。俺に視線をむけてくる簪ちゃん。かわいい。頷いて深呼吸する簪ちゃん。かわいい。……うん、何で俺見て頷いんたんだ?

 

「……別に、私たちは、全員で、戦えばいいんです」

 

「それは、どういうことだ?」

 

「私たちには、名御叢、さんがいます」

 

「俺の『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)だね」

 

「そうです。私たちは、名御叢さんの『赤龍帝の籠手』で『強化』してもらい、全員で攻撃すればいいん、だと思います」

 

 ヘタった。けど俺が言いたいことは全て言ってくれた。俺はもう満足だ。えっ、簪ちゃんが専用機持ちだけが集まるこの場にいる理由? 二、三年生の整備科が頑張ってくれましたとだけ言っておく。

 

「なるほどな。名御叢の『赤龍帝の籠手』ことをすっかり忘れていた。よし、更識の提案をそのまま」

 

「ちょーっと待った!」

 

 人の耳元で騒がないでください。さっきまで人の顔見続けてただけなのに何で今になって騒いどるんだ。

 

 束ちゃん(そう呼べって言われた)起きた? たしかここで紅椿の機能、展開装甲を教えられるんだよね。でももう出番ないよ。こっちも命かかってるからね。安全第一でやらせてもらうよ。

 

「束。もうお前の出番はない。帰れ」

 

「ちーちゃんはそういうけど! 大切なことを言い忘れたんだよ。何と箒ちゃんのISには『神器』(セイクリッド・ギア)が埋まっているのだ!」

 

「神器?」

 

 そうきたか。この展開は予想外だった。まさか『神器』を発現するんじゃなくて、ISに組み込んでくるか。俺のISと『赤龍帝の籠手』の併用から思いついたのかもしれない。

 

「ンフフッ、説明しよう! 『神器』(セイクリッド・ギア)とは人の魂に宿る不思議なアイテムのことだよ!! さらに詳しくは真君! よろしく!!」

 

 真君って俺か? 振られた得意分野を話したくなるのはオタクの性分だ。

 

『神器』(セイクリッド・ギア)ってのはいわゆる『神』が残したシステムの一部だ。先天的に人間にのみ与えられた能力だ。ただし俺の『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)みたいに発現させるためには、ある程度の実力を必要とする。さらに言えば、自身の中にこんな力が存在する、という確りとした認識が不可欠となる」

 

「へぇ~」

 

 知らなかったんだ、束ちゃん。納得する束ちゃんは置いておく。何か真面目そうな顔をしている皆が気になる。一夏たちの反応に神経を尖らせる。どんな反応するかが怖いわ。

 

 『神器』(セイクリッド・ギア)を説明しきってから反応を探ろう。いや、信じよう。短い付き合いだけど、こいつらを信じよう。ラノベのキャラってだけじゃない。俺がこいつらと接して感じたことを信用すればいい。

 

「種類はかなりある。皆が見たことがあるモノで、俺の『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)や以前襲ってきたISが持っていた『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)『獅子王の戦斧』(レグルス・ネメア)がある」

 

 『赤龍帝の籠手』には、もう慣れたのか普段通りの反応だった。『黄昏の聖槍』(トゥール・ロンギヌス)の名前をあげた時には声が出た。取り敢えず無視して話を進める。

 『獅子王の戦斧』(レグルス・ネメア)は無反応だった。無情だ。

 

「話しを戻すぞ。『神器』(セイクリッド・ギア)はその性質上、所有したほとんど者達が扱い切れずに死んでしまったり、異能として迫害されたりすることもある。そのほとんどがロクな終わりを迎えたことがない」

 

 兵頭一誠って奴を知っていれば、まあ、ロクな人生にならないことは誰だって分かる。退屈が嫌いってやつにはお勧めするけど。四六時中、堕天使や悪魔に殺されるかも分からない人生を望むって奴は相当狂ってると思うぜ。

 

 今度は黙りっぱなしの皆に向かって話を進める。

 

「そして『神器』(セイクリッド・ギア)に限らず、聖遺物や神話の道具や英雄が使った武具なども存在する。居場所は分からないが、『神器』(セイクリッド・ギア)

に負けず劣らず様々だ」

 

「……何と、まあ、壮大な話を聞かされたな」

 

 いち早くショックから覚めたのは千冬さん。まだ呆然としてるところを見ると、やっぱり話すのはダメだったかなと思う。

 

「ねえ、ねえ! 真君! 真君はどうやってさっきの話を聞いたの!? というかどうやって『神器』(セイクリッド・ギア)の存在を知ったの!?」

 

 空気を読まない天災のおかげで俺は『神器』(セイクリッド・ギア)の情報の出どころを喋ることで、いったん溢れ出た感情に蓋をする。

 

「俺の場合は『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)の中にいる存在から聞いたんだ」

 

 まだ実際に会ったことは無いけど、『神器』(セイクリッド・ギア)関連は大体がドライグからの情報だし。ウソは言ってない。

 

「へぇ~、『神器』(セイクリッド・ギア)にも意思が存在するんだ! ビックリだなー」

 

「本当にビックリしてる?」

 

「してるしてる! いやー、今日はいい日だなぁー!!」

 

 束ちゃんから凄く嬉しい、ということだけは良く伝わった。そして未だに専用機持ち組と千冬さんは情報処理しきれてないみたいだ。まだ呆然としてる。まあ、色々とショッキングな情報も多々含まれてるから仕方ない。

 

「ほれ、大丈夫か! 一夏!!」

 

「あ、ああ。大丈夫だ。何て言うか。真輝、お前大丈夫なのか?」

 

「? 大丈夫だけど。俺は元々使えてたし。後は『禁手』(バランス・ブレイカー)を目指すだけだからな」

 

『禁手』(バランス・ブレイカー)?」

 

『神器』(セイクリッド・ギア)には一段階先の状態があるんだ。それを『禁手』(バランス・ブレイカー)と呼ぶんだ。ワンオフ・アビリティーのようなものだと思ってくれ」

 

「そうなのか。なんか凄いんだな。『神器』(セイクリッド・ギア)って」

 

「正直ISも十分凄いとは思うけどな」

 

「確かに」

 

 そういって笑い合う。一夏は持ち前の明るさで俺の事情を彼なりに理解したようだ。俺は何か頼むわけでもなく、皆が理解してくれるだろうと思って話した。一夏もISという下地があったからこそ、『神器』(セイクリッド・ギア)という異常を受け止められた。そう考えている。

 

 ただ女の子たちがどう思うか。そこは少しばかり気になるところではある。

 

「ねえ、真輝?」

 

「どうした。シャルロット」

 

 最初に話しかけてきたのはシャルロット。なぜか悲壮を思わせる顔で俺に話しかける。俺の話から何か感じるところがあったのだろう。

 

「真輝はどうやって、その『神器』(セイクリッド・ギア)を出せたの?」

 

「どうやって? 最初から出せたぞ」

 

「そう、なんだ」

 

「? ん?」

 

「それで姉さん。神器は一体何を入れているんだ?」

 

 用は済んだと言わんばかりにそそくさと離れていくシャルロット。なんからしくないな。もっと穏やかに聞いてくると思っていたが、今回は随分と険しさを感じさせる雰囲気だ。

 

 俺とシャルロットの話が終わったのを見計らって箒ちゃんが束に話しかける。束は困ったような表情をして答える。

 

「いや~、実はね。私にもわからないんだ。真輝君に聞く前に完成させちゃったから、見せることもできないんだよ。取り出せない訳でもないんだけど、私でも流石に時間がかかっちゃうよ」

 

「な、なるほど。それではどうしたら神器が判明するのだろう?」

 

「確りと神器の存在を理解しているんだ。その神器を強くイメージしながら力を込めれば出せるようになるぞ」

 

「そういうものか。感謝するぞ、真輝」

 

「まあ、神器に関してはこの世界で一番詳しいからな」

 

 何であんまり詳しい事情は聞かないでくれると嬉しいなー。無理だな。いつ質問攻めにされもいいように覚悟と説明の練習だけはしておこう。

 

「真輝、学園に帰ったら詳しく話をさせてもらうぞ」

 

「ヒエー」

 

 覚悟が一瞬で消えた。怖い。いや、まだ準備中だし。帰ってからゆっくりやればいい。覚悟には時間がかかるのだ。

 

「それで、真輝の神器で全員を強くして殴り込みか。千冬姉」

 

「織斑先生と呼べ。そうだな。当初は一夏に託すつもりだったが、有利を捨てて戦ってやるつもりもないな。真輝。神器を出して溜め始めろ。時間がかかるのだったな」

 

「一回につき十秒必要です。全員分を加味すれば、七分、420秒下さい」

 

「よし、それでは始めるとしよう。総員、砂浜で準備を開始しろ! 真輝の神器で『強化』が済み次第、『銀の福音』を叩く!」

 

「「「「「「「ハイ(了解)!」」」」」」」

 

「サーイエッサー!」

 

「お前は応えんで良い!」

 

「えぇー、私も混ざりたーい!」

 

 元凶じゃなけりゃ混ぜたんだがな。それにしても、何でコイツ(天災)はこんなに余裕綽々なんだ? こっちは多勢で『銀の福音』を追い詰められるのに。

 

 彼女は準備を始めようと移動を開始している皆の間をするりと抜けてくる。差し出した掌の上でISの量子変換を使って表れた結晶体。にこやかな笑顔で結晶体を俺の目の前に掲げる。

 

「ねぇ、ねぇ。真くん」

 

「それはもしかしてISコア?」

 

「そうだよ。もしかしたら君なら使いこなせるんじゃないかって思ってね。『禁手』、見せてね。楽しみにしてるから」

 

 ますます分からん。俺に別の神器を渡してまで、何をしたいんだ? 束ちゃんから渡された宝石のような結晶体、ISコアはそのまま俺のISに吸い込まれた。特に何かが変わった感じはしないが。

 

「これの名前は私もよく分からないんだよ。というか、ISコアに使われてる神器そのものが、どんな能力を秘めた物なのかさえよく分かんない」

 

「じゃあ、今まで神器がどんなものなのかさえ知らずにISコアに変えていたのか」

 

「その通り! いやー、不思議なエネルギーを発しているモノだってことは理解してたんだけど、まさかISコアに使えるモノの多くが神器を備えてたなんて知らなかったよ」

 

 背筋がうすら寒い感じと話し方から察するに、コイツ抜き取りやがった! 神器を、何らかの手段を用いて、取り出しやがった! しかもモノの多くがって言ったか?

 神器以外にもコアにしてるのか? 魔剣とか聖剣なんかを素材にしてISコアを作れたりするもんなのか? それとも他にあるのか。もっと悍ましい何かが。

 

「それじゃあ、私は箒ちゃんに紅椿の機能を色々と教えてくるね! 今度束さんに色々と教えてねぇー!」

 

そう言って箒ちゃんにタックルかます勢いで去っていく。はぁー、戦闘前だけどつっかれた。

 

 



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