スピリットアームズ (パワード)
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第1話

 エネルギー、それは様々な所から発生させる。物が破壊される衝撃波や太陽熱、服部がこすれる静電気にまで大小ある。元はギリシアで生まれた「物体内部に蓄えられた、仕事をする力」と言う言葉は文明開化に伴い「機械起動を行うための、補充をする力」になった。

 そして争いが起きた。数少ない資源は食料や宝石にも匹敵する価値となり時の支配者により、略奪、消費、様々な物が虚空へと消えていった。エントロピーと言う言葉がある。一方が行った事がもう一方に干渉し変化して行く事。

 消えてしまったエネルギー、当然大地に変化ももたらし草や木等はもちろん、そこに住む動物は餓死し人も共に朽ち果てていった。神は決して平等ではない、だが不平等でもない必ず“ツケ”は払わされる。そう、必ず。だが払わなくてもいい場合もある。それは神かあるいはそれに匹敵する奇跡を行えた者か……。

 

 

 

 

 見滝原、見晴らしのいい病院の一角に風が流れこむ、草花の香りが窓口から広がり部屋全体に行き渡った。灰色がかった髪が緩やかになびく、しかしベッドの上の彼にはわずわらしく感じた。

 才能が有った。彼には音楽家としてのバイオリニストとしての力強があった。しかしそれも手が動かなければ意味はない、それどころか全身の体が麻痺してしまっている。誰かの手助けがなければ満足に車椅子に座る事さえ出来ない状態だ。

 

「事故、運転手が悪い……」

 

 違う、それくらい分かる。最高の病院を手配してくれたし慰謝料もきちんと払っている。それでも自分から夢と言う“希望”を奪った相手には違いない。幼い彼はとても耐えきれなかった。そう彼は“絶望”していた。

 

――おい――

 

 ふと誰かの声が聞こえた、ような気がした。顔を上げて辺りを見渡す。誰もいない。当然だ今の時間はちょうどお昼を過ぎた頃、幼なじみのさやかは学校で授業を受けている。いつものお世話になっている看護婦さんもちょっと遅めの昼食だ。

 

「はぁ、ついにストレスで頭がおかしく――」

『なってねーよ、残念ながらな』

 

 少年、上条 恭介の声を遮る主は目の前にふわふわ浮いている『宝石』から放たれていた。真っ白な玉子のような形で最大音量のスピーカー似た感じの声が飛んできた。何かのドッキリかサプライズかとかいろんな結論を考えると、また怒鳴ってきた。

 

『何シカトこいてんだよぉ! 喧嘩売ってんのかアアン!!』

 

 ケンカを吹っ掛けられた、しかも宝石に。どちらも彼にとって人生で初めての経験だ。昨日小説を読んだ物語に近い衝撃、目を擦りながら彼は勇気を出して質問してみる。

 

「あ、あの」

『男のクセにさっきからメソメソとマジキメェんですけど……まぁいい用件をさっさと言おう。早速だが俺と融合して『世界征服』しようぜ。どうせ断れやしないし』

「ハアアアアアアアアアア!?」

 

 完全に相手の意識を無視して喋る宝石に対して少年は、今世紀生涯最大級の驚きを示した。この出会いがどんな絶望さえも突き破る希望の物語の始まりである。

 

 

 

 

 服装は茶色系統の学生服、水色の髪が特徴的な少女は病院の廊下を行く。走ったら近くの看護さんに注意をされたから歩く、少し早足になる。手には紙袋、本日新しく入荷したばかりのCDが入っている。鼓動が早くなる、きっとコレで彼は元気になる。また会話してくれる。自分だけを見てくれる。そんな思いをいたぎながらいると彼がいる部屋の前に着く。

 

「すーはーすーはー」

 

 上がる気持ちを落ち着く為に一呼吸、女は度胸と元気が私のキャッチコピー自分に言い聞かせスライド式のドアのぶに手を置き一瞬躊躇して、一気に引く。

 

「こんにちはー! ちょっと遅れ――」

 

 爆発した、それはもう一昔のコントの様に。部屋かからモウモウと煙が立ち込めてきて中が見えない、周りの人達も驚いて集まってきた。

 

「けほけほッ、何よコレ~」

「だ、大丈夫ですか!?」

「ケホッえ、ええ……ケガはありません。目に少し――」

 

 近くの看護婦さんが心配して応えでいると人陰が立っているのが見える。しかしそれはあり得ない、何故ならばこの部屋の主はほぼ寝たきりのはずだったからだ。

 

「はーっはっはっはぁ! 俺様爆誕!! ヒャッホーイ!!」

 

 扉からハイテンション気味の白みかがったグレーヘアーの少年のが飛び出してきた。寝間着はボロボロであちこちスス汚れているが、明らかに普通の人間と違うところ――彼の両腕は“機械”になっていた。銀色に鈍く光るその手先は鋭く、腕から肩までにかけてラインが入っている。義手にしてはどことなく武器に近い形状をしていた。

 

「恭介、その腕……ッ」

「アアン? 誰だテメー」

『あぁ止めてくれ! 名前は美樹 さやか、僕の幼なじみでいつも良くしてくれる。良い子だよ?』

「はあー? 良い子、ねぇ」

 

 腕から体の持ち主の意見に反応してジロジロ見ていると、やや冷静さを取り戻したさやかがチンピラ化した想い人に警戒心をむき出しにする。

 

「あ、あんた恭介じゃないわね! 誰!!」

「俺様、もしくは魔王。だからとりあえずこの世界を征服しようかな? と」

「はぁ!?」

『ち、ちょっと!!』

 

 さやかの質問も腕になった恭介(ほんたい)の制止も無視して主導権がある機械(おとこ)は、通路のど真ん中で俺様を叫ぶ。看護婦さんやお隣の病人さん方はそれはもう可愛そうな目で見ていた――主に精神科病人として。

 

「フム、魔王たるもの他者を屈服しなければな? お前……えーっとさやかとか言ったか? 俺の女になれ」

『ハアアアアアアアアアア!?』

「ハアアアアアアアアアア!?」

 

 まさに新たにな誕生祝いの幕開け、宿命とも言える一対の魂の波長が今、重なる。決して偶然では無いこの出逢いが……以下略。

 

 

 

 

 どこでも通勤ラッシュの状態の朝。見滝原中学校へ通じる道は学生がごった返している時間、三人の少女が歩いている。桜吹雪が舞いコレからの新たな願いを持つ玉子達を祝福しているようだ。

 一人は昨夜、病院にお見舞いに行ったさやか。二人目は志筑 仁美、御家は財閥を持つほどの屈指のお嬢様。そして三人目の鹿目 まどかはごくごく普通の少女、ピンクの髪をツインテールに縛った髪形がチャームポイントで自分は元気しか取り柄が無いと思っているが……。

 

「って事があったのよー昨日、信じられる?」

「まー上条さん、ついに怪我が完治したのですのね!」

「あ、あはは、そこは違うんじゃないかな? 仁美ちゃん」

 

 乙女の話にネタは尽きない、今回の話は当然『上条恭介』だ。いつも通りに見舞いにをしに行ったら爆発してメカメカしい腕の彼から上から目線で告白(?)されたのだから。それでもまどかは思った。

 

「でも、よかった。上条くんから告白されたんだよね?」

「あんなの告白じゃない! なんつーか支配とか侵略とか、昔の教科書にいそうな暴君って感じ!!」

『悪かったな? 暴君で』

 

 さやかが興奮してがら空きの後ろからスピーカーみたいな声が聞こえた。手袋をしている愛しの恭介が元気にいるが、真相を知るさやかは思いっきりドン引きした。

 

「でッ」

『で?』

「でたああああああああ!!」

『ッ! 昨日から相変わらずうぜーな、恭介よお前からも何か言え』

「やあ、仁美さんにまどかさん。おはよう」

『キサマッ!?』

 

 さやかの“腕元”での叫びに怯み主導権を返した恭介に何とか頼むが、無視して淡々とさやかの後ろの二人に挨拶する。そしてその返事に冷静に返す仁美とアタフタしつつしっかり挨拶するまどか。

 

「ふふっ、昨日の仕返しさ」

『ブッ殺す、絶対に殺す』

 

 己が手と喋る男前、端から見ればただのアッチ系の人にしか見えない。それは昨日の病院先での出来事がフラッシュバックをした。

 

「あれが?」

「うん……」

 

 まどかの回答に力無く答えるさやか。そんなこんなしていると仁美は興味半分面白半分で恭介の機械腕に話をかけた。お嬢様気質なのか結構肝っ玉は座っている。

 

「ふふ、面白い殿方……いえ、腕方(うでがた)? ですわね♪ お名前はなんと言いますの?」

『無い、昨日恭介(コイツ)と利害、一致合体したからなぁ……メカ恭介とか?』

「メ、メカ」

「ダサ」

『アアン!!』

 

 引く恭介に馬鹿にするさやか、そしてキレる機械。それは何か情けなくて、可笑しくて、とても楽しくて……その何とも言えない空気はもはや一流の漫才師とどっこい。関西に行けと何処からか空から聞こえてきそうだった。

 

「プッ」

「あははは!」

『笑うな! 笑うなぁ!!』

 

 仁美とまどかの二人の笑い声と半泣き気味の声で叫ぶ恭介の半身が小玉するこのクソッタレな世界、今日で月の始まりになる。

 

 

 

 

「あああ! この世界には神はいないのですか!?」

『で、またか?』

「うん、まあ」

『本日初めて会ったのにもう会いたくないぞ? 俺は』

 

 授業の鐘が鳴りすでに三科目になった。最新式の折り畳み机の前で彼は嘆く。自分が悪を極めるに値する人格だととうぜん自負している。しかし初日からこのようなホステスめいた愚痴を聞かされる羽目になるとは思っていなかった。

 

『教師なら授業しろ授業、寝てるけど。後よろしく』

「あーうん」

 

 まるで長年付き合った相方のあうんは流石の一言、伊に天才と呼ばれていない上条 恭介であった。きっと魔法ではなくカードゲームだったら絶対音感とかしそうである。

 

「グスン、では少し遅れて来ましたが転校生が来ています。どうぞ」

 

 早乙女(さおとめ) 和子(かずこ)、メガネ属性で上条 恭介の担任にして幾度の婚約を得て不戦敗。顔も職もありそこそこの人気はあるのだが、まどかの母にして学生時代からの友、詢子(じゅんこ)に対して焦りを感じている。そして、何とか立ち直り転校生を呼ぶ。

 

「はい、では自己紹介をお願いね?」

「おう! あたしは佐倉 杏子、杏子って呼んでくれ! んでコッチが……」

「……暁美 ほむら、好きに呼べば言いわ」

 

 クラスの男子が喜び女子は好奇心で騒ぐ、後ろに縛った赤毛が特徴の元気ハツラツ系と全体的に落ち着いた印象の大人びた、ものすごい対照的な二人組である。ただどちらも可愛いので人気はすぐに出るだろう。

 

「あーソイツ、いつもそんな感じだから気にすんな」

「あ、あはは。で、では空いてる席は――って上条くんどうしたの? 立って」

 

 いつの間にかホワイトボードの前いる上条 恭介、知ってる人は知っている知らない人は知らない。彼の手袋の下、両腕にはもう1つの意識がある事はとうぜん相棒の制止など無視して自分の欲望を実行した。

 

「フッフッフッ、俺様の時間(エンペラータイム)のようだな? オラァ! 杏子にほむらぁ! 俺の女になれぇい!!」

『ああ……僕のイメージが……』

「き、きまった……」

 

 ビシッ! と親指を立てながらニヒルに決める上条 恭介(の腕の人)に主導権を奪われて絶望する上条 恭介(の本体の人)、ざわめくクラスメイトに放心している我が担任の和子先生、やっちゃったと思う御三家に腐った魚の目で見ている転校生二人。

 

「ア、アホーーーーー!!」

「ひでぶッ!?」

 

 お留守なボディに向かって腰の入ったパンチと共に午前の授業終了のゴングは鳴り響き、完全に伸びた恭介達をさやかは引っ張り教室から退場した。

 

 

 

 

 屋上は学園の方針で設備が整っている。教会風の大きなステンドグラスかあり人気で、学生が自由に使えるため人は結構多いのだが、まだ寒さが残る春現在では使う人は少ない。

 

「ッツー……痛てーんですけど、さやかちゃん痛てーんですけど」

「あんたが馬鹿炸裂させたからでしよ?」

 

 ここにはまどかにさやか、仁美に転校生の二人組のほむらと杏子もいる。黒一点たる上条 恭介の存在は『奴はモテ期に入った』と学園全体すでに噂されているが、半分以上は彼の腕のせいであるのは間違いない。

 

「はいはーい、全く糞うぜーな。そう思うだろ? 恭介」

『もう僕は駄目だ学生生活は終わった。せっかく腕が治ってコレからって時に残りの時間が終わってしまった。僕には初めからチャンスなのどなかった。早く家に帰ってバイオリン弾きたい……』

「あー何つーか御愁傷様?」

『キミのせいだろ!!』

「おぉう! ちゃんと聞こえてるんかい。ま、なるようになるんじゃね?」

 

 半壊した相棒をほっといて、どうでもいいっかといった感じで手元にある弁当箱から口にヒョイヒョイ運ぶ。そして全体を全員の顔と弁当を見渡す。

 

「うん? まどか、だったなその弁当は?」

「うん! パパが作ってくれたの! 食べて……」

「もう食べてる」

「早いよー!」

「俺はショートの苺から食う派だからな? ほう……なかなか、ではお礼に俺からも」

 

 そう言って自分の弁当のふたにおかずを置く。その様々なおかずと言う戦場から歴然の勇者を出す。

 

「さぁ! 我がミートボールを存分に堪能するがいい!!」

「な、何かよくわからない前ふりだけど、ありがとう……あ」

「ふはは、美味かろう美味かろう。何故かよくわからんが料理のレベルはなかなかの物なのだ!!」

「ふふっ」

 

 まどかの満面の笑顔と共にピキッと空気が割れる音がした。振り返って見るとそこには冷徹な暗殺者がいた。

 

「何してるんですの?」

「ふふふ、あたしもおかず食べたいなー」

「おおお、何ですか? 目、目が怖いですよ仁美サン? さやかサン? メーデーメーデー! 至急援軍っ!!」

『敷島の大和心を、人問わば朝日に匂ふ山桜花』

「ちょっ!? それは死ぬ時の――」

「俳句を読むですの!」

「介錯しちゃる!」

「ひっ魔女! 魔女がなんして! ぎゃああああ!!」

 

 相棒のレクイエムと共に弁当箱のおかずは焼け野はらとなった。泣いた。彼は泣いた。自分の力のなさに……。

 

「まあ、ごはんが有るから問題無いんだが。それよりそっちのお二人さんはどうかな? お箸は進んでる……ってなんだそりゃ」

「なんだそりゃって失敬だな! あたしのごはんにケチつける気かい?」

「ケチってどうみても……」

 

 杏子の前には大量のお菓子ばっかりが散らかっていた。それを黙々と食べる、それを昼御飯と称する。

 

「あーサイですか。で、そっちの黒いのは」

「…………」

 

 食べてるのは普通の弁当なのだが何故か凄い殺気を放ってる、もう親の敵のような感じで。そしてちょっと顔を覗き込み、目が合ったら初めて会った時よりものすごい暗い暗黒が広がっていた。流石に少し冷や汗をかいた恭介(腕)だった。

 

「何をした? 俺」

「したでしょ」

 

 と、言うさやかと後方でウンウンと頷くまどかと仁美、彼は完全に自分の犯した過ちを棚に上げていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 下校時間、ようやく自由な時間を手に入れた恭介はゲームセンターに行っていた。多種多様のゲームがあり何でもござれの中でしているのは音ゲー半分格ゲー半分、もちろん“二人”の趣味に合わせてである。

 

「チッもう500円しかねー」

『それでも結構遊んだ方じゃないかな?』

 

 上条家はなかなかの資産家であるが、お金を使うのはある程度の制限がかかっている。『金を使うのではない、金をコントロールする』と言うのが家訓らしい。

 まぁ金も力と言えば力、当然だな? とかそんなこんな思っていると大広場に人が集まってる。どうやら音楽に合わせてパネルを踏むゲームのようだ。野次馬がコンボスゲーだのまた更新しただの可愛いだの綺麗な赤い髪だの。

 

「アアン? おい、あれって」

『うん、今日転入してきた杏子さんだね』

 

 予感と言うのか縁と言うのか、出会いとは気まぐれだな? なんて詩人みたいな事を考えながら叫び呼ぶ。ゲームセンターの爆音と人盛りのせいで大きな声を出さないといけないのだが、五、六回言ったら気づいたようだ。

 ちょうどスコア更新の真っ最中だったらしく当然クリアした。そうしたら仮にも音楽家の恭介(本体)に三味線が鳴ってしまったようで強引なチェンジをして杏子に挑戦を叩きつけた。

 

『まさかこんな事をする奴と思わなかった……どうした?』

「ふん、誰かさんのお掛けで色々吹っ切れたからね」

『あーサイですか』

 

 さて、誰だろうねーと分からないフリをしながらステージの上に立つ。対戦相手の闘気がひしひしと伝わってくる感じがわかる。

 

「じゃあ、あたしが勝ったら何でもお菓子を買ってもらい。あんたが勝ったら……えーっと女になるだったけ?」

「それは僕の台詞じゃない!?」

『いいじゃん別に、どうせ金も底きてるし勝たなきゃヤバいぞ? 真面目に』

 

 キミのせいだろ、と喉から出しかかった時既に『Get Ready』の文字が画面に出る。かなりキワドイタイミングだったがスタートは成功、波に乗っているのか今の所はイーブンに進んでいる。

 

「へーやるじゃん」

「はっ、ほっ、ま、ねっと!」

 

 だが流れが悪いやり慣れている杏子と違い、こちらは慣れていなので無駄動きが目立つ。長期になれば圧倒的にこちらが不利なのは明白だ。ちょうど中盤戦に差し掛かった所でパネルのラッシュが来た。普通ならビギナーラックとはいえ初めてにしては上出来と言えるが、賭けが入ったこの闘いではそんな言葉には意味は無い。

 

『オイ、ちっとヤバいんじゃね?』

「喋るな! 分かっている!!」

「へへっいただきぃ!」

 

 そうして、徐々に引き離された――もう負けたと思った時いきなり隣のスコアは止まった。何だ、と横を向くと耳を当てながら誰かと喋っている。しかし携帯は無い、当たり前だ。いくらほぼ初心者だからと言って手加減出来るようなゲームはしないのはその人格からでも分かる。

 

「ちょっと野暮用が出来た! ワリィまたな!!」

 

 そう言って杏子は走り去ってしまった。主役がいきなり消えたゲームセンターは熱気から困惑に変わっていった。

 

「なんだったんだろう? まったく」

『奴を追いかける』

 

 まるで先程のオチャラケから一転した冷静な相棒の声が聞こえる。

 

「どうしてそんないきなり……」

『何となく面倒事が起きている臭いがする』

 

 だから、と言いかけた相棒の言葉と同時に恭介は駆け出した。

 

 

 

 

 ここは町より少し離れた新築街、新なビルの建造途中が無数にある場所に走って来た。途中で見失ってしまった杏子の後を携帯のモニタリングマップで推測したら

こんな所まで来てしまった。

 

「はぁはぁはぁ……」

『アホよのぉ、あんな激しい音ゲーした後に走るなんてな?』

「だ、だって……はぁ、キミが……くっ」

『あーはいはい、愚痴は後でいくらでも聞いてやるからバトンな』

 

 深く呼吸をし静かに目を閉じゆっくりと目を開ける。眼球が灰色から白に変化する。それ例外は特に変わらない。しかし、そこに存在する魂は大きく変わる。

 

「さぁ、ちゃっちゃっと終わらせて帰るぞ」

『ちょっと、そんな強引に!』

 

 ドカドカ歩く、無論の静止を無視して。でもそれが恭介は嬉しかった。きっと自分1人だけだったら行かない、怖くて恐ろしくて、自分の好きなバイオリンさえ出来ていればよかったと思っていた。

 演奏するだけで皆が僕を見くれていたから、でもそれ以外何もない。夢も親に言われたから初めてた。きっと自分1人だけなら何もしない、ゲームセンターだって行かない。半分魂の抜けた状態の死人だと思っていた。

 

「オイ」

 

 唐突に声をかけられた。

 

「何か不穏なオーラ放っているから言ってやる。貴様が持っている生温い絶望など、この俺がぶっ壊してる!」

『へっ?』

 

 励ましなのか? 驚いた。こんな事喋るなんて思いもよらなかった。

 

「テメーかなり失礼な事、考えただろ」

『ふふっ、さぁね?』

「チッ、行くぞ」

 

 半むくれした顔が、どこか子供っぽくて頼もしくって自分は決して1人じゃないって思えてくる。胸が熱い、本当に何でも出来そうな気がする。少しづつ闇が広がる空間でぜんぜん負ける気がしない、そんな上条 恭介と陽気な腕だけの魔王は進んでいく……。

 

 

 

 

「流石に暗くなってきたな」

 

 携帯をライトモードに設定してビルの一角を進む、外は既に日は沈み搭載された時計は5時半を切っていた。

 

「はい、7時超え確定」

『電話の一本ぐらい』

「めんどくさい」

 

 この辺はご愛敬、頼むならどう謝るかを考えたほうが早いな? なんて余裕な事を考えた瞬間――空間が一転した。まるで小学生が描いた絵本のような世界、迷よい子を誘う迷宮。

 

『な、何だこれ!? さっきまでビルの中に――』

「チッ、不細工なパズルゲーだぜ。作った奴はリンチにして金をムシリ取る」

 

 二人の率直な感想、前者が正常の人格で後者が破綻した人格の回答。とにもかくにも歩みだけは止めない。

 

『携帯も圏外になってる……しかし、これはいったい』

「さーなー、でもこの手は迷路だから出口はあるんじゃね? 後はボスキャラをやるか」

『ボス?』

「ああ、このうぜー世界を作った張本人」

 

 何処からか取り出したポッキーをぽりぽり食べながら喋る。話す内容も尽きかけゲーセンの対杏子戦のあーだのこーだのしゃべり会いなが5分位したとき悲鳴が響いた。

 

「はい悲鳴ーって、どっかで聞いたような。はて?」

『さやかとまどかさんだよ! 早く!!』

「へいへーい」

 

 やる気の無い返事で聞こえた方向に走り抜く、思ったより近かったみたいで通路の先は大広間に出た。肝心の二人は無事だったが招かれざる客もいるようだ。玉のようなものに手足がついたハリボテのぬいぐるみ見たいな外見が無数にいた。

 

「さやかちゃん……」

「ちょっとあんたら、近ずいたら容赦しないわよ!」

「確かに、俺の時も容赦なかったな?」

 

 入り口付近でヒラヒラと手を振ったらどうやら気が付いたようだが、助けに来たはずなのに感謝されるのなら分かるが何故か怒っている。

 

「なにこれ! あんたの仕業!?」

「ちげーよ! 何で俺がわざわざこんなしちめんどくさい事せにゃーならん! やるならもっと露骨にするわ!!」

「なるほど」

「否定しろよ!!」

 

 会っていきなりピンチの空気が破裂した。その流れを塞き止めるように恭介とまどかが仲裁に入る。

 

『ほら、遊んでないで早く。明日も学校あるんだし』

「さやかちゃんも、ね?」

「チッ」

「まぁ、まどかが言うなら……」

 

 とりあえず、落ち着いた所でさやかがどうやって逃げるか? と質問に恭介の闇人格が答た。「殲滅する」そう呟いた瞬間“玉”は引き裂かれた。あるものは空を舞いあるものは壁に吹き飛ばされあるものは原型さえ保っていない。

 その全てが爪による攻撃である。ただ乱暴に振る、それだけで必殺の一撃となる。白銀の一閃が走るたびに圧倒的な破壊と侵略がそこにあった。

 

「うわー……」

 

 さやかが声を出し時にはほとんどが無惨な肉片となっていた。その実行犯は「はふーん」と一息してから手元から箱を出した。

 

「お疲れさまでした。ポッキーでもいかがでしょうか?」

『第一声がそれ?』

「え、えーっと」

 

 完全にノリが感化されてしまった恭介と違い、あまり話ていないまどかかまだ戸惑い気味である。さやかはいつの間にか食べていたが。

 

「モグモグ、んぐッで恭介達はどうしてこんな所に、知っているから来たんでしょ?」

「いや知らん初めてきた。えーっと確か一緒にいた杏子がゲーセンから逃げて……」

『ちょっと!? そんな説明じゃ!!』

「え?」

 

 迂闊、その言葉が現状によく似合う。先程の戦闘から考えもつかないほど間抜けた声で顔をあげると、そこには般若がいた。

 

「信じられない、まだ一日もたっていないのに他の女の子とデートするなんて……」

「恭介くん、それはどうかと思う」

『違う! 僕は決してそんな優柔不断な事は……ッ』

「でも、お前から誘っただろ」

『ちがっ!? 僕のは君と違って健全な学友としての友好関係を!!』

 

 ドつぼに嵌まっている。彼に既に退路はない、ジリジリと質問攻めになりそうになると大きな地震が起きた。不意なアクシデントに倒れそうになった二人をなんとか掴んでふんばる。すぐに揺れは収まったが先程とは違い空間が歪んでいる。

 驚く暇もなく変化は続き奥から『扉が向かってきた』その先には――。

 

「はぁはぁ、チクショウ! マミがヤられちまった!!」

 

 先程とは比べものにならない位の広間の真ん中で杏子はいた。別れた時と全く違う彼女のイメージにあった赤い幻想的な服装がかなりズタズタにされたらしく、どこからどうみても半身不随だ。たまらずまどかは叫んだ。

 

「き、杏子ちゃん……!?」

「な!? 何でテメーらがこんな所にいるんだよ!!」

『君を追ってきたんだよ?』

 

 杏子の姿よりも自分でも分かるほどの冷静な恭介(じぶん)に驚いていた。たった一日で人とは変われるのか? なんて余計な事まで考えるほど頭は冷えきっていた。周りを見る。幼馴染みのさやかが驚き、学友たるまどかは杏子を案じ、その杏子は今にも倒れそうだ。

 だと言うのにまるで負ける気がしない、本当に不思議だと思う。自分の半身を考える。やはり君と言う存在が僕を何か別のモノにしてしまったのではないのか、恐怖心は無いが常に考えこんでしまう。

 

「オイ、さっさとやるぞ」

 

 半分飽きてきたような声の相棒の言葉に気付き天井を向く、何やら大きな大蛇のような胴体と昔風のアメコミに出て来そうなデザインの魔物がいた。

 

「相変わらず不細工だな? さっさと殺すか」

「なっ!?」

 

 高速の一撃、杏子が何か言っていたようだが無視する。そして魔王の第二劇が開幕する、全ての観客の前に立つピエロ(邪悪)として最高のおもてなしを。

 

「さぁ、遊びは終わりだ!!」

 

 自分より何倍の存在を刈る。もう逃げ場など無い、ただの一方的な蹂躙ショー。殴る裂く抉る刻む無慈悲なる暴行、これではどちらが魔物か区別が付かない。戦いとしての憎しみも恐怖も焦りすらもなく、魔王の食卓に並べられた獲物として食い散らかされた。

 

「フハハハ!! さぁ泣けぇ! 叫べぇ! そしてぇ!」

 

――死ねえええええええええ!!――

 

 交差された腕から紅く、紅く、空に舞う。名も知らない魔物は許しすら唱えられず絶命した。それは運命に対しての反逆の狼煙にも見えた。そう全ての絶対を引き裂く――。

 

 

 



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第2話

 タイムジャンパー、それは時間移動。通常なら数秒の停止だが条件付きで最大に設定出来れば一ヶ月は逆行出来る。自分の好きな未来像を実行して改変する事も可能とされている誰もが思い描く理想の世界、だが当然リスクも伴う。

 ――タイムパラドックス、タイムトラベルに伴う矛盾や変化のことであり、具体的には、時間旅行した過去で現代(相対的未来)。本来起こるべき事を消し去る事での反動と言うべきか、数多ある分岐点は全てその結果へと導かれてしまう。

 それでもその能力に思い出でと願いを込めて彼女は走る。例え彼女が覚えてなくても奴から守る。無限の時獄と言う迷宮に迷ったとしても……なびく髪と共に鍛え上げられた足で加速する。今までの経験ではもう少しで最深部に到達するはずだ。次のフロアを右手に――と思った瞬間、凄い揺れが起きた。

 

「巴 マミか佐倉 杏子が仕留めた……」

 

 そう呟いた、同じ魔法少女――彼女にとってはあくまでも被害の一致でしかないが信用はできる。もう安心だろうが油断は禁物と思い闇を切り裂いていく。決して諦めない、今回こそは今度こそは“奴”から守って見せると――。

 

 

 

 

 結界最深部の大広場、あちこち壊れているのだがまだ空間の磁場が効いているみたいだ。大元を仕留めたのだが変化は無い。そのど真ん中で気分爽快で大分満足した魔王 恭介は当初の予定通りに杏子を彼なりに心配した。

 

「大丈夫デスカー?」

「あぁ、大丈夫だ……」

「あん? どったのよさ」

 

 手の内にある小さな宝石、粉々に砕け散ってしまった奇跡を見ながらポツリポツリと杏子は語る。それは諦めにも憎しみにも聞こえ本来は自分がその役割なのだと懺悔しているようだった。

 

「巴 マミ、あたしの同僚で年齢は一個上の先輩で明日にはこっちに転校する予定だったのに……勝手にいっちまいやがって、馬鹿野郎……」

『…………』

 

 恭介は言葉が無かった。自分の知らない世界があり自分の知らない戦いが存在していた事に対して、それでも決して目は振り向かない――自分だけでも覚えておきたかった。それはきっと自己満足なんだろうか? もう一人の自分(白銀の魔王)はどう思っているのだろうか? 意向が見いだせないでいた。

 

「……杏子ちゃん」

「あちゃー、こりゃ勝利に喜べる状況じゃないね」

 

 戦いが終わった事が解ったらしく、駆け寄って来たまどかとさやか。上条 恭介もせめて何かと言いかけて口を開けた時、“奴”が現れた。毛並みが良く真紅の眼とリングから出た耳が特徴的な動物。その生物は杏子を無視しトコトコと恭介の前に寄って来る。その行いに不愉快に感じた恭介、魔王は我が物顔で歩く姿勢に対して嫌悪した。

 

「君達は一体何者なんだい?」

『魔王だって、ちなみに僕はヴァイオリニスト』

「魔法少女でもなく、魔女でもなく?」

「どうみても男だろ。しつけーな、消すぞ」

 

 フッ、とどこか馬鹿にしたこの生物に対して、本能的に臭いと感じた魔王 恭介は完全に臨戦体制に入っていた。次に何かしゃべったら切り刻む事しか考えてなかったが……それを理解した上で奴が喋ろうとした時――。

 

「まどか! ソイツにキュゥべえに近寄らないで!!」

「ほむらちゃん……」

 

 凄い人相のほむらが駆け込んで「奴の願いごとを一切聞くな」と警告してきた。唐突の事柄でまどかは少々混乱していた。が、対して魔王は彼ならでわの反論した。

 

「ならこうすれば良いんじゃね?」

 

 ――手刀による斬首、スパーンと切れ味の良いギロチンみたいにキュゥべえの喉首を切断してしまった。ボーリングの玉みたいに転がって行って実にスカッとしたが、うっかり反射的にやってしまったと思い一緒に来た二人の方を見ると、さやかは声を詰まらせ、まどかは怖がっていた。平和の世界で初めて対峙した光景なら当然の反応だ。

 

「ムダだよそんな事」

『え……』

「何だこりゃ?」

 

 二人(恭介)の背後から新たな白い影……キュゥべえだ。しかし今現在、目の前しかも自分自身の文字通り手で即死させたはずによる疑問、その答えをほむらが続ける。

 

「そうムダなの、“奴等”は無数に存在し全てが1つとして統一している」

「あん? それってパソコンの親機と子機みたいな?」

「いえて妙だけど、そうね……そんな感じ」

 

 何か納得した魔王はキュゥべえの前に立った。それはニヤついた凄い意地悪っ子的な顔になっていた。可愛く首を傾げるキュゥべえは挑発的に言ってきた。

 

「どうしたんだい? また僕を殺すのかい? それとも諦めがついたのかい? 僕としては後者が良いんだけどね」

「あぁ、お前のな」

 

 そう言ってガシッと首筋をわしずかみにした恭介、銀色の鉄腕は光り始め私刑を執行。正義とは無縁の悪魔的な制裁が始まった。

 

『モードダウンロード……確認、危ないので離れていてください』

「な!?」

 

 初めて機械的なキュゥべえの顔が人間染みた焦りを感じた。アームからは本来の宿主である恭介の声ではあるが、とても機械的でまるでナビゲーターのような言葉を発していた。

 

『ダウンロード率51、52、53、54……』

「ほーらほら、早くしないと本当に取り返しのつかない状況になっちゃうよ~ギャハハハハ!!」

「くっ! このぉ離せー!!」

「何……こんな状況……」

 

 快楽(わらう)歓楽(わらう)享楽(わらう)享受(わらう)悦楽(わらう)逸楽(わらう)、決して他者の為ではなく自分自身の為に行う爽快感。杏子の事など完全に忘れて己が絶頂を満たさんと貪る謳歌。

 半ば目を離せない暁美 ほむらは全く状況が掴めない、初めての展開だ。まず『上条 恭介』がこの場所にいる事自体想定外だ。巴 マミだってまだ死なないはずだし、杏子だってもう少し先になってから来るはずだ。

 私はただ大切な友達の『まどか』を守るために気が遠くなるこの一ヶ月を過ごしているのに、そう思う彼女のシナリオは足元から崩れていった。

 

『ダウンロード率95、96……』

「97ぃ! 98ぃ! 99ぅ! あーといーちびょー!!」

「くっ!!」

 

 その一秒の所でカウントは止まってしまう掴んでいたキュゥべえが首を切られて目がむき出しになっていた。正確には機能停止なのだがこんな所で潰すわけない、足元を見るとスペアのキュゥべえがいた。

 

「チッ、別のボディをよこして自殺自演しやがった」

「はぁはぁはぁはぁ……」

 

 掴んでいた無用のキュゥべえを投げ捨て全くもってうぜーと呟いたが、大元のデータ解析は終了していてブラックボックス意外丸裸にしてしまった。データを空中映像化して様々な閲覧を見る。

 

「はーん、難儀な事するねぇー。馬鹿っつーか間抜けっつーか」

「き、君はなんて事をして――」

「分からんね、やったらやり返す。自然界と言うか宇宙の法則じゃん? あんたらの大好きなエントロピー理論で言えば、これも重要な事んだよきっと」

「ふざけるな!!」

「クハハハ! いーねーその“笑顔”写メっとく?」

 

 携帯のカメラモードでキュゥべえのハニーフェイス(怒)をカシャカシャ。完全に見下したその態度にオーバーヒート気味だが言い返すにしても部が悪い状態で、よく有る子悪党が言う捨て台詞を吐くしかない。何処でその情報を仕入れたのだろうか? しかし彼は気付いていない、自分達に食い物としていた同じ“燃料(かんじょう)”が芽生えている事に――。

 

「くそ! 覚えていろ!!」

「ギャハ~! 流石ボクたち人間を育てた親様だぁ! 笑いの心得もしているとは尊大だぁ!! 本当負けちゃよ~!!」

 

 と、脱兎の如く逃げるキュゥべえに無視して笑いこけ転げ回ると同時にようやく魔女の結界は消える。そんな時、杏子の仲間が死んでしまったのを気の毒に思っていたまどかが正して来た。

 

「あの恭介くん……」

「んー? あーそーでした。じゃちゃっちゃと終わらせますか。『巴 マミさんの蘇生会』を」

 

 涙をぬぐいながらとんでもない爆弾をする魔王 恭介。全員が驚く中、今だ倒れこんでる杏子の前に進行。コンビニで買い物をする時のそれ、店員に聞く感覚で訪ねる。

 

「あーなんつーんだっけ? ソレ」

「え……“ソウルジェム”……」

「あーそれそれ、ほんとムダにデータあり過ぎんのよ。少しは整理しなさいとお母さん、毎日言ったのよ! 信じられないでしょ? まったくもー!!」

 

 何故かオネェ言葉になっているが、ツッコミ(上条 恭介)不在なので不発した。魔王は心の中で「恭介ー! 早く帰って来てくれー!」と半分泣きながら願いながら事を進める。無論表面上はポーカーフェイス(泣)。

 

『モードリペイト……確認、サークルの上に置いてください』

「ホイホイっと」

 

 手の平に展開されたウィンドウサークル、その魔方陣の上に半壊したソウルジェムを置く、そしてソレはすぐに来た。空中に浮いたソウルジェムは様々なデータ解析から始まり、それらを全て数値化。そしてカウントダウンが始まった。

 

『5、4、3、2、1――再構築開始』

「おぉー」

 

 それはあっと言う間ソウルジェムを被う閃光で一瞬にして完治してしまった。まどかとさやかはある程度状況を理解していたが、魔法少女のほむらはあり得ないモノを見たといった感じで、同じ魔法少女の杏子は今だ視点が合っていなかった。魔王はしょうがなく顔の前で手を振り次の質問をした。

 

「おーい、とりあえずよぉソウルジェムは復元しましたが……あのぉ本体っつーかマミさんとやらの肉体の方は何処?」

「ソイツ」

 

 杏子に指を指されたのは先程倒した魔物から出たもう1つの魔石、名をグリーフシード。先程の魔物……魔女と言うらしいがソイツに頭から食われたらしい。

 解析の為、魔王は後々面倒くなると思ったので実験と称し、グリーフシードをソウルジェムに変換(本当は復元)、その後中から巴 マミのDNAデータを検出して更に肉体の再構築、『モードサルベージ』をした。

 ちなみにこの時、当然服などなかったからまどかを抜いた魔法少女+αから性犯罪による正当防衛を受け、ある世紀末のヒャッハー系、その汚物として消毒される。しかしそれでもっ! それでもっ! みんなの魔王はめげずに頑張って最期まで逝ってしまいました。※誤字にあらず

 

「ぐぅぅぅ……恭介の提琴(バイオリン)聞いているほうが本当に楽だわ。マジで」

「そうめげる事無いないなのです」

「そうか、優しいなお前は。ありがとうな?」

「いえいえなのです」

 

 優しい言葉をかけてくれる、自分は決して一人じゃない。そう思えてくる……そんな感謝の気持ちと共に猫耳プーケの彼女を見つめる。しかし一つ疑問もある――。

 

「…………」

「…………」

「誰だテメー」

「なぎさなのです! 貴方が1話の時に問答無用で遊びを終わらせた。名も無き魔女なのです(T0T)!」

「お前かああああああ!!」

 

 ――半身、相棒(恭介)に変わってツッコミの絶叫をした。遂にこの場に冷静な判断を出来る者は居なくなってしまった。

 

 

 

 

 ここは鹿目家のマイホーム、今日はお泊まり兼反省会兼マミ&なぎさ復活パーティーをしている。今現在キッチン&広間を強引に布団を敷いて寝泊まり部屋にして出席。いるのは家の主人たるまどかに友達のさやか、転校生のほむらに杏子に一年ずれるが我らがマミさん。そしてキノコのように生えたなぎさと特別ゲストの仁美でお送りします。因みに全員寝間着、結構レアである。

 

「なにそれ」

『様式美っーか、正統派ナレーション? まっ! とりあえず全員無事生還って事でオーケーBEN-K?』

「ベンケーなのです!」

 

 安定性のある恭介のツッコミとゴロゴロ転がりながラッパを吹いてる少女、名を『百江 なぎさ』と言う。どうもマミの再生と同時に元グリーフシードのソウルジェムからDNAデータを引っ張られてサルベージされたらしい。

 しかしいくら魔女から再生出来たとしても、相当の精神でなくては殆どの確率で崩壊していても可笑しくはない。彼女には何かあるのだろうか? と、悶々しているとパーティー用に用意した大量の袋の中からチョコレートドーナツを出して頬張る赤毛のポニーテールの魔法少女、杏子の質問が飛ぶ。

 

「だいたい、むぐむぐ何でんぐ……」

「はい、午後ティー」

「っぷは、すまねぇーマミ恩にきるぜ。裏恭介は魔女とバトれるんだよ」

 

 ――巴 マミ、イメージカラーであるイエローの立てロールが特長で杏子の慌てっぷりを落ち着いて対処出来るほどの人格者。この中で唯一、一つ年上の『お姉さん系魔法少女』。

 そんな彼女でも死ぬ魔法少女の世界、既に覚悟は決めていた……のだが、後から聞いた話しでは信じがたい事だった。自分が蘇生させられると言う魔法少女界前代未聞の事件。あまり感覚は無いのだがとりあえず此処は受け入れる。ただ“死ぬ瞬間の記憶”だけが思い出せないでいた。

 なお“彼等”曰「アームズに有る記録ではどうやら抜いたらしい」との事、そんな記憶が有っても発狂しかねないので慎んで消去してもらった。

 

『裏ってなんだよ。そりゃ魔王が魔女にやられたら話にならんだべ』

「はぁ、君はソレばっかりだね?」

 

 1日ちょいの関係なのに大方彼の性格を把握した恭介、そんなお菓子袋が散乱している布団の上で7人、いや恭介達を入れた8人は会話を弾ませる。魔王は「この状況学園に知られたら終わりだな? 社会的に」何て彼のプライドに反する事を思いながら、ある程度落ち着いたと判断したので伏せていたキュゥべえから強奪した膨大な情報の断片的を紹介した。

 

「って事はー魔法少女からあの化け物みたいな魔女ってのに……なっちゃう?」

「うぅ~コッチ見ないで欲しいのですさやか~」

「いけませんわ? なぎささんが怖がって……」

 

 半泣きのなぎさをあやす仁美は何処か微笑ましい、そしてさやかの意地悪を見ながら恭介はポテチを食べる。“助けない”の判断をする分、悪人フェイスの魔王より爽やか顔の恭介の方が何気に酷い。

 

『あーそうそう、一番重要なことを忘れていたぜ。どうやらその先があるみたいだぜ?』

「その先……?」

 

 恭介の問に魔王は続ける。奴等、キュゥべえの本拠地は深刻なエネルギー不足に悩まされていた。いくら文明が発達してもそれに伴う消耗が激しいと当然星1つの資源は空っけつになる。仕方がないから母星を離れて転々としていたら効率のいいエネルギーを発見した。

 ――地球である。彼等は長期に渡る宇宙の回航のため感情を排除し全てをシステム化、誕生から終焉まで管理していた。皮肉なものだ、とうの昔に捨て去ったモノがここに来て必要になったのだ。

 しかしそれはエネルギー確保として、異質なモノに変換する時の感情のテレパシーの様なものが感知出来る事を利用し、ソレを変換させるシステムを作り上げた。その話を聴いてほむらは呟く。

 

「ソレがソウルジェム……」

「はい、ご名答」

「何ソレ! 人を使い捨ての消耗品みたいに……ッ」

「はいはい、いちいちキレるなさやか。話は終わってねーよ」

 

 どうやらキュゥべえ達は更なる研究を進めていたようだ。母星に帰るため何時までも地球にとどまる訳にはいかない。無限に生み出す絶対的な半永久回路を求めていた。魔法少女から魔女へ、ではその先はあるのか。もしあるとすればソレは決して消費する事はないのではないのか。しかしほとんどが魔女の時にその貯蓄した膨大なエネルギーに暴走して上手くいっていないらしい。

 

『とりあえず俺は……そうだな、女神とでも名付けたな』

「女神?」

『あぁそうだ恭介、少女魔女と来たら女神しかいねぇ』

 

 魔王自身が分かりやすくするためコードネームとして魔法少女を『ファーストシフト』、魔女を『セカンドシフト』、女神を『サードシフト』と命名した。後は女神に変換した時のソウルジェム……その名も“グラントコア”。

 

「グラントって……直訳すると承諾、叶えてやる?」

『あぁ、『契約』からその願いを叶えたきったモノだからな~』

 

 ふーっと一息つき恭介に紙コップを用意させる。ふと周りから奇妙な視線を感じた。

 

「魔王くん……すごい」 

「うふふ、恭介さんの半身さんですもの同然ですわ」

「でも何時も馬鹿だよねー」

「馬鹿なのです!」

「あら、そうなの?」

「まーな」

「愚かここに極まりって感じね……」

 

 順にまどか、仁美、さやか、なぎさ、マミ、杏子、ほむら。半分以上が避難罵倒。喉が乾いたと言われて体を貸そうとした相棒の恭介はカラ笑いしか出来なかった。

 

『お前ら最低だぁーーーー!!』

 

 哀しき魔王の嘆きは星空に、満月の夜は魔法少女達の笑い声と共に夜の闇は深くなっていく――。

 

 

 

 

 翌日の放課後、町外れにて近未来的デザインの市内を全体的に見える山頂に恭介達はきている。移動手段はバス停、なぎさが「限定チーカマ食べたい」だのさやかも釣られて「この当りの廃墟の教会で出るんだってさ、アレが」とか都市伝説をほのめかしたりしていた。ただ杏子がその話題に凄く気まずそうな顔をしているのだが……。

 科学と自然の調和が取れたこの場所で、なんでも「実験したい事がある」と、キュゥべえからもたらされた恩恵が結構グゥレイトなモノだったらしい。

 

「Thank You Incubator Forever」

「あほな事を言っていないで早くしろ!」

「ヘイヘイ」

 

 杏子に急かされて画像パネルを展開しタッピングを開始する魔王、恭介はアシストとしてモレや修正をアームズ内部より行う。セッティングに時間が少しかかるらしく、その時間にほむらが語りかけて来た。

 

「本当に大丈夫?」

「ほう、意外だな? お前から声かけるとは……まぁ大丈夫だろ。ブラックボックスが読み取れなかったのが幸いか、まどかとさやかを“魔法少女”にする」

 

 ウィンドウを見ながら魔王は謎を解き明かす。授業中、恭介との抗議の結果導き出し憶測はこうだ。まず素質ある被験者から願いを聞く、一度目の変換で発生したエネルギーを全て被験者の願いに消費する、最期はソウルジェムにインプットされた願いをベースに最悪のシナリオを起動させる。

 

『後は希望を越える絶望をグリーフシードとして変換、回収するみたい。当然一瞬の願いより永遠の悲しみのほうが感情は大きい、どう考えても詐欺……だよねぇ』

「つまり“願い事”自体が魔女化のトリガーだったわけ?」

「Yes、例えば不老不死ならば自分以外が死んで、金持ちなら世界から暗殺者のご一行が、死者蘇生なら親兄弟によるバイオハザードだな? ケケケ」

「うわぁ……」

 

 器用に演算処理をしながら恭介と魔王は交互にほむらとさやかに言う。さやかにいたっては絶対願いなんてしないと心に誓った。何処かモヤモヤしていたまどかは心の奥底に有ったモノを吐いた。何処かで見た事のある光景に対して。

 

「でもどうして私達も魔法少女になるの? ほむらちゃんや杏子ちゃん、マミさんだっているのに」

「なぎさもー! なぎさもー!」

「あぁソレね? 記録の中に何でも『ワルプルギス』っつーラスボス級の魔女が観測されたんだと、そのルートが丁度コッチにくるんだとさ」

 

 魔王に対してな? とケラケラ笑う姿を見つめるまどか、気になる言葉が有った『ワルプルギス』。ヨーロッパ地方にある春の祭りが行うのが5月1日、この祭りの前夜がヴァルプルギスの夜と呼ばれ魔女たちがサバト(魔女達の夜会)を開き跋扈すると言われている。『死者を囲い込むもの』とも言われていて死者と生者の境界はとても薄なるとも語られていた。

 まだ4月の頭、タイムリミットの月末までまだあるから色々と用意するそうだが……ただ、まどかはとても遠くて、でも凄くつい最近記憶にあるその言葉が頭から離れなられないでいた……次の講義の議題、マミだ。

 

「……もし『魔法少女がいない』で願い事をしたらどうなるの?」

「無かった事になる、出会いもな」

 

 マミの核心的な事にあっけらんな回答、小耳を挟んでいたほむらと杏子は一瞬渋った顔つきをする。

 

「一応分かっていると思うがそれも願いだからな? あぁ『キュゥべえを消す』も同じ、そして何より絶対にろくな結果は生まない。他人行儀の奇跡になんの価値がある? それならば俺は悪魔でいい魔王だしな。欲しいモノを奪って壊す」

 

 言っている言葉は乱暴なのに何故か優しさが見え隠れしている。本心はきっと別にあるのだろうそう思うとマミは嬉しくなった。何気にこれが彼女の同年代男子のコンタクトだったりする(元女学校)。

 

「ふふっ」

「何だキサマ、気持ち悪いぞ」

「いいから早くしてよー」

「うん、私もちょっと疲れちゃった……」

「はいはーい、じゃあ初めてますよー」

 

 さやかもまどかも長話に疲れたと言ったかんじだったのでさっそく実行する。最終プログラムをインストール、決定ボタンを押す。アクセスコードは上条 恭介が管理、魔王的ヒストリーとしては「二人で分割した方が格好いい」だからそうだ。

 

「じゃ、助手の恭介くん後よろ」

『はぁ、またか……コード解放起動!』

 

 アームズの解放をする。銀色に光輝く閃光は昼間の現在でもまぶしい。そして昨夜同様ナレーションボイスの恭介の声が響く。魔王は歯医者口調にて接近、対処のアナライズ実行ののち抜き出しをする。

 

『モードソウルジェム……確認、ターゲットを設定して下さい』

「はーい、ちょっとチクッとしますからねー痛かったら痛って言って下さいねー」

「は、早くぅ……」

「……ッ」

 

 二人とも緊張して目をつぶってしまっている。少し楽しくなってきた魔王はゆっくりと二人の腹部に手を入れる。貫通している状態で顔色を見たが良さそうだどうやら上手くいと核心し手を引き抜く。

 

「ねー終わったー?」

「…………ッ」

「終わった。後まどかよ、そんなに目に力を入れなくてもいいぞ?」

 

 その魔王の言葉に二人はゆっくりと目を開け魔王の両手に有るソウルジェムを見てよろこんだ。ピンクカラーとスカイブルー、マミの時もそうだったがヤハリと言うか魂は持ち主のイメージに反映するらしい。

 

「わーキレイー」

「これがあたし等から……」

「はい、注意事項の説明ー」

 

 一つ目、100メートルより離さない。それが魂をデジタル化したマザコンみたいなモノだから離れ過ぎるとラジコンみたいにプツンって動けなくなる。

 二つ目、言った通りソウルジェムは魂、つまり心臓モロ出しの弱点丸出しなので破壊されると再起不能(リタイア)のドーーーン! ってなるので気を付ける。もし破損してしまった場合は至急仲間の誰かに回収してもらい上条メディカルセンターにご連絡。マミにより既に実証済。

 最後に三つ目、不完全だから願いは叶えられない。が、絶対に油断は禁物。所詮人の作りしモノなので必ず不備がしょうじたり勝手に願いが起動するかも知れない。

 

「あと自分のソウルジェムなので毎日しっかり手入れをしてワックスがけなどしてあげて下さい。日々精進が魂を形作りするからなー」

「いいよ、あんなバッドエンド確定の希望なんて」

 

 さやかの言葉にそりゃそうだと思う魔王はほむら達の方へ向いた。次の実験のテーマ、それは魔女の種子、グリーフシードによる魔力の回復問題である。魔王は手によるジェスチャーで全員集合をする。

 

「はいはーい、お前らは願いを叶えたのでグリーフシードの定期的な浄化が必要でーす」

「絶望を移すため」

「ほむほむ正解、MPとして表示されていたみたいだがな? でもそんなもん不要で万能な俺様アームズで浄化できまーす」

「マジか!!」

「マジです杏子ちゃん、ダウンロードで色々出来てしまいまして本当にキュウベぇさまさまですよぉ」

 

 試してみるか? と言って『ほむら、杏子、マミ、なぎさ(残存する魔法少女達)』のソウルジェムを持つ。“モードドレイン”と言うモード起動した。ソウルジェムの濁りか消えていく、いや銀腕に移動した。と言うのが正解、完了したソウルジェムに彼女らは驚いた。

 

「おー! マジでキレイにしやがった!!」

「本当に……スゴいわね?」

「何かお掃除ロボットみたい……」

「ロボットー!」

「ちょ!? ほむらさーん!!」

 

 何て馬鹿やっているとおずおず仁美が言葉を出した。魔王は彼女を驚かす為と、いい気に成ってるのとで意地悪をしてしまった。

 

「あのー私は……」

「おう、お前にも役割はある。魔法少女になってみたいだろ?」

「はい、ですが素質は無いはずでしたハズですの……」

「うん、そう」

「……ッ!」

 

 心無い言葉にまどかが他の誰よりも先に反応した。本気で怒ってる、当然だ。親友が酷い事をされているのだから……。

 

「魔王くん! それは酷いと思う!!」

「ほう……だがそれだけではな、全くわけわかんねーよ」

 

 真剣な眼差しにふざけた態度の魔王、不意に乾いた音が成った。驚いた、それが率直な感想だった。大人しい子だと思ってた通りの奴だと思っていたのに、この行動に魔王は目を放せなかった。

 目の前で起こっ事に焦りながらさやかは止めに入ったがそれでもまどかは続ける。

 

「まどか!?」

「確かに私だって魔法少女になりたかった。誰かの為になりたかった。でもこんな力なら私要らない! 仁美ちゃんと一緒にまってる!!」

 

 そう言って泣きのがら自分のソウルジェムを地面に投げる。先程の賑わいをみせた空気は一瞬で静まり返えり、その場に泣き崩れるまどかに魔王はある意味敗れた。ヒリつく左側の頬がやけに熱かった、気がした。

 

「……」

「うぅ……ひっく……」

「……あー俺の負けだよまどか、やり過ぎた」

「……ん……え?」

 

 舌打ちしながら「何でこんな面倒な奴に……はぁ」とかブツブツいい、まどかのソウルジェムを拾う。本当に恭介がアクセスコードを管理してもらって良かったと彼は思う。まさかこんな事で人を好きに成るとは思っていなかったし、きっとなんかかんかで感の良い奴だからバレると思ったからだ。完全なる一目惚れだった。自分の性癖が「泣く女」とは思いたくなかった。

 

「ほら、テメーの半身だろうが。死にたくなきゃさっさと取れ」

「え、でも……」

「この俺様が何の用意をしてない分けないだろーが」

「うん」

「あー信じてねーな? じゃあ受けとれ」

 

 けして本心は悟られないようにしつつ本来の予定を遂行する。仁美にほうり投げたソウルジェムに似た形象の宝石、でも何処か無機物に近いデザイン。

 

「あ、あのコレは……」

「名前は『エレメントファイアアームズ』長いからファイアアームズでいいよ。チャージ型だかソイツには魔法が“スロット”されている」

「スロット?」

「試しに起動してみ?」

 

 そう言われて起動した空中パネルには様々なスキルが記録してある。マニュアルタッチパネルかオートボイスコントローラーの二つの方式を採用、と、言うで緊張しながら仁美は初めての魔法放つ。

 

「フ、“ファイアランス”!!」

 

 その言葉にオートで発動した五つの焔の矢は前方の岩を破壊し消滅した。当りは焼け焦げた後がある、外部的な魔法。

 

「あ――コレって!?」

「んあ、ソウルジェムの劣化コピーにして俺オリジナルの魔法だ。だか侮るなかれ、ソイツには色々な仕掛けが盛りだくさんよ。数は少ないがそれ単体でもかなりヤバイ魔法はあるし、魔法が使用不可能になるが拡張性もあり属性を身にまとったり出来るし……更に俺だけの特権も備えている」

「特権?」

「教えねー」

 

 人格的に大人なのだろうがもの凄く子供っぽく感じる。そして過ぎ去る時に一言。

 

「あとな、さっきはすまんかった。やり過ぎた」

「ううん、いいですのよ? 別に私は――」

「駄目だね。失敗を失敗と、敗北は敗北と取らないとその感情に飲み込まれる。特に言葉は重要だからな?

さっきの俺みたいにならない様には注意しろ」

 

 魔らしからぬ王の言葉は厳しく、そして自分を確かに見てくれていると実感出来る不思議な言葉だった。

 

「さて、とりあえず肩慣らしにミッションでもやるかな?」

 

 そう言って魔王は天高い太陽の光を見上げた……。

 

 

 

 

『はーい現在コチラは地獄の一丁目~』

「って何でこんな所行ってるんだよー!!」

 

 半キレ杏子の声がよく響く新米魔法少女達は地下の下水道にいた。近くのマンホールから潜った場所なのだが、足場は鉄製の網目状でその下に排水が流れている。したがって臭いがトンでもなく鼻が曲がりそうである。オマケに別のルートへ行く為には屈む必要性もあり。

 何故こんな所に来たかと言うと、何やら魔女とは別の反応が地下発生していたので肩慣らし権調査をしに来た。ちょうど人数的に8人と偶数で割れたので地上部隊と地下部隊の二つに別れた。

 現在ここにいるのベテラン半分ルーキー半分と言う事だそうで、恭介(爪の近距離)にさやか(剣の近距離)、杏子(槍の中距離)にまどか(弓の遠距離)と意外とパーティとしてはバランスが取れていた。

 

「折角“魔法少女さやか☆マギカ”のお披露目なのに……シメてやる! 絶対ぜーったいシメてやるぅ!!」

「さ、さやかちゃん落ち着いて」

「うーん、ほぼ半日寝た様な感じで頭がガンガンする……」

『うぜー、はー俺も地上がよかった』

「うぅ……そうだね」

 

 公平にとくじ引きで決めた魔王は自分で首を閉めていた。まどかのチャーミングなピンクの衣装も、さやかのスタイリッシュな蒼天な服装も薄暗いこの場所ではぜんぜん見えないし映えない。魔王の相棒にいたっては本調子ではなくツッコミの切れ味も悪い。

 

『だめだコリャ、なんて言いたくないぞ。本当』

 

 とにもかくにも歩まなくては話しにならない。恭介が先頭になってパーティは進む。バージョンアップしたアームズは擬似的に魔法少女のシステムが使用出来る上、ソレを全体マップにに合わせる事が出来る優れモノだ。そして反応はそうとうくない。

 

「うぅ……ダルい」

『だろうな、結構無理していたからな? キツかったら変われ』

「大丈夫……僕も少しは動かないと」

『フン、やっぱり駄目変わる』

「なっ!?」

 

 二つのつながりで腕が光りこの薄暗い世界を一瞬だけ照らす。あいも変わらず言い分を聞いていないその強制的な選手交代に当然反論する恭介のだが、正論過ぎる弁解に口が詰まる。

 

『何故!? 僕だって役にたちたいのに!!』

「アホ、そんな瀕死状態で部隊を全滅させられるか、お前が少しでも余裕があれば任せていたが今回は駄目」

『でも……ッ』

「あーうぜーなぁ! じゃあシンクロでも起動していろ」

『シンクロ?』

 

 そう言って起動したシステム、外見的には変換は無いのだが恭介は動けない。の、だが魔王が右腕を上げるとその感覚が伝わってくる。

 

『……コレは?』

「感覚だけキサマとリンクして俺が動かす、いちいち説明するのが面倒くさい俺と筋トレしたいお前の最高のシステム」

 

 つまりこのシステムがあれば眠っていようが、トイレ行こうが、昼ドラを見ながらセンベイ食ってようが、簡単に某国のベレー帽を被れちゃう優れモノなのだ。

 

「まぁ睡眠学習的なものさ、キサマも将来戦力にならんとな」

『うーん……解った。手を打とう』

「おーけーおーけー流石、我が半身だ」

《地下は大丈夫?》

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

 そんなやり取りをしていたら突然マミの声が頭の中に響く。『魔王たる俺様が~』な感じの人物像を抱いていたマミは意外な一面もあるのだなと思う、彼は案外背伸びした幼い人格者だと思った。

 

《ふふっ貴方でもそんな反応するのね? 多分アームズを経由しているから、魔法少女と同じ力が使えるのよ》

「うーキメェー」

《すぐに馴れるから、コツは頭の中で喋る》

《あ、ん、こ、こうか?》

《そうそう♪》

 

 マミがマンツーマンで魔王を指導、四苦八苦しているとまどか達の声が聞こえた。彼女達は即席でにモノにしていたらしく、本来は魔法少女専用だからか、もしくは彼女達の天性の才能だからか――おそらく後者だろう。

 

《うわー凄いよ。声が聞こえる》

《ふ~ん、簡単ジャンこんなの。何? 魔王出来ないの?》

《う、うるさい! 初め……てなんだ、か、から当たり前だろ、う》

《アハハ、ダサーイあたしらだって初めてじゃん!》

《さやかちゃん!》

 

 止めるまどかを無視しての罵倒、魔王は耐えるしか無かった。まさかこんな能力が備わっているとは勉強不足だったと痛感、少し泣きそうになってると杏子が念話に介入、警戒感があった。恐らくはカンによるもの。

 

《どうやら、ヤッコさんのお出でらしいぜ?》

《あーんー、せかいはせいふくあいうえおっと……はいはいお仕事お仕事、っつー事だから切る》

《えぇ、がんばって》

 

 何とかコツを掴めてきた魔王はあいよ、と言ってマミと連絡を切り必殺仕事人モードに入った。暗闇の足場を少しづつ探り魔王は慎重に進む。

 

《残り9メートル、8、7、6……》

《さやかちゃん……》

《落ち着くのよまどか、あたしが付いてる》

《この杏子様も忘れんなよ?》

 

 そして、前方の曲がり角に一つの蔭が揺らめき見えた魔王、人差しと中指で俺が先行するのジェスチャーを後方に伝えた。静けさが更に増す。魔王は背を壁に当ててそーっと覗いたその先には……先日逃亡した顔見知りがいた。

 

「キサマか!!」

 

 狭い空間、怒鳴り声が螺旋のようにエコーするその言葉に振り向いたのは――。

 

「な!? 上条……恭介ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「様を付けろやバーゲンセールの売れ残りがぁぁぁぁぁ!!」

 

 白い悪魔にして悪徳商法の地球外生命体、キュゥべえとエンカウントをしてしまった。



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第3話

 宿命、それは運命が確定された神々のシナリオ、決して抗う事の出来ない人生のゲーム。切っ掛けは何であれ会ってしまったら全ての事柄にまとわりつく。

 見滝原、最先端技術を流用つつ何処か古風なデザイン。その繁栄の髄を極めるこの大都市にも闇はある。負の感情を全て被い尽くすきらびやかなこの世界に潜む暗黒の大地に二つの魂がぶつかる。魔王はハエの死骸でも見る目付きで見て、下等な人類と思っているキュウべぇは殆ど恨み節に近い声色で疑問を投げつける。

 魔王は思う。多分、本能的と言のかコイツを許したら何処かで自分の“ナニカ”が崩れてしまいそうだった。だから消す己を確立する為に、これは言うなれば試練、過去を決別する為に必要だと。

 

「なぜ僕の居場所を……」

『奪ったデータのせいみたいだよ? だから僕達はある意味、そう君達とは“兄弟”。残念ながらね……さて、キュウちゃん。お仕置きの時間だよ覚悟はいいかな?』

「キュプッ! でも解っているんだろ? 僕は殺せない」

「あぁ、だかしかしその存在もコンセプトが明白に成れば問題ない。パソコンの電子頭脳……そう、肉体で言う中枢神経を破壊する事にした。キサマから拝借したデータを元に超極悪ウィルス(特性魔王印)をぶちこむ、そうすればキサマ等は一瞬にしてお陀仏だ」

 

 楽勝だろ? と言いアメリカンジェスチャーで両手を下げる白銀の悪魔(まおう)戦術の演奏家(きょうすけ)、対して忌々しく思う白き侵略者(キュゥべえ)は切り札を持っているとちらつかせる。

 

「フン、僕も何も用意してないと?」

「だろうな? だが俺に下るなら命だけは許してやる。俺の靴を舐めながら――」

『――僕は宇宙に這いつくばるノミ虫以下のカスですが、貴方様のような禍々しくもカリスマに満ち溢れている、偉大な王の元に死ぬまでどうかコキ使かって下さい』

「って言えばなぁ!!」

「殺す」

 

 コンビネーション挑発、マジギレのキュゥべえ、共に「お前が死ぬべきだ」と思っているから決して交わる事は無い。因みに後ろで「恭介が悪い子になったぁ~」とさやかが嘆いていたとかいなかったとか。

 いがみ合う双方の均衡が途切れた瞬間、行動は実に早かった。ファーストアタック……先手を取ったのは恭介。速攻による全体の指揮を行う、相手のジョーカーを切らさせず初手の手札で潰す気だ。

 

『杏子はもう一人の僕とタッグを! さやかはまどかを援護しつつ後方援護!!』

「脚引っ張るなよ!」

「まどかは大船に乗ったつもりで任せた!」

「魔王くん! 杏子ちゃん!」

 

 魔王の真似で呼び捨てで皆の名前を呼ぶ。気合い最大級の杏子は問題ないとして、後方陣のさやかとまどかには初めての実戦だからか少々不安は残る。自信満々のさやかとは真逆のまどかは心配性らしくつい叫んだ。それが合図か魔王と杏子は戦闘を遂行する。

 銀と紅の閃光(ダブルハウリング)は躊躇なくキュウべぇを捕らえる――が、小動物と同系統の姿見の上、狭い地下空間では思うように思うように仕留めきれないでいた。空振りになる杏子の槍は壁を削りながら火花を散らす。

 

「チッ! ちょこまかと!!」

「まどか! 一撃でいいから奴の脚を止めろ! そうすれば俺が直接ウィルスをお見舞いしてやる!!」

 

 まどかは頷くと弓を構えを行う、キリリっと弦が切れるほどの最大まで引っ張って標準を定める。杏子が逃げ道のある壁際を裂きスピア系統特有の大振り、そこを魔王が追撃によ死角のカバー、恭介がルートへのカウントをパーティー全体へ伝達念話、即席コンビネーションにしては中々のモノ。

 必然的に逃げ回る事に限界を感じたキュウべぇは想定されたルートへ。体調が悪いのにやる事はやっている恭介。天才はヤハリ天才なのか完璧なサーチングをしていた恭介の合図と共に、まどかは弓矢を放とうとした時、ゆっくり顔を上げた“標的(キュゥべえ)”の真紅の瞳が一瞬怪しく光った――。

 

「僕もそろそろ虎の子を出すかな?」

「え?」

「させない!!」

 

 魔法少女による恩恵、身体の反射が大幅に強化されたさやかの剣による碧い斬撃は闇を切り裂く……少し遅れてから水が弾ける音がなり、ゲル状の液体が飛び散ってきた。

 

「ひっ!?」

「うえー……何かぬるぬるしている~」

「フフフ、気に入って貰えたようだね♪」

 

 まどかとさやかの反応に機嫌を良くしたキュゥべえは得意げに尻尾を振る。顔だけ見れば可愛いらしく愛くるしいのだが内容、行い、共に最悪なので知らない人以外だったら絶対に近づかない。

 

「それは『魔獣』、魔女とその使い魔のデータを元に作り出した僕達の魔法少女に替わる新たなる忠実な捨て駒。

コードネームは“レディッシュブラウ”君達 にも分かりやすく言えばスライムって奴さRPGだろ?」

「ケッ! 悪趣味な野郎だ!!」

 

 毒づく杏子に魔王は全体を見渡す、何時のまにやら大量のレディッシュブラウが現れた。地面を這い渡る黄色い眼光のソレはゲームに出る可愛らしい物とは違い、酸を撒き散らしながら公衆トイレにも似た臭いを散布していて、ある意味下水道(このばしょ)にマッチしていた。そのおぞましい光景の中心でキュゥべえを睨む魔王。

 

「俺ごと他の魔法少女を潰す気か……」

「うん、特に“鹿目 まどか”には目を付けていたのだけど君が魔法少女にしてしまったからね。本来許される事じゃない、魔法少女を生み出す事をできるのは僕達だけなんだ。たから君達には悪いけと消えてもらうよ?」

 

 恨むならそこの魔王にしてね? と言って奥に行ってしまった。その相変わらずの手際の良さに流石の魔王も半ば感服した。その反応に杏子は突っかかってきたが恭介の報告に中断されてしまう。

 

「はぁ、本当に逃げ足だけは宇宙一。こんな事なら炎系統の仁美をパーティに入れとけばよかった……さーて、どうする?」

「何て悠長な事いってる場合か!?」

『この先に大型空間を確認! 目標もそちらに移動中!』

「だってさ、行こうか?」

 

 杏子は何か釈然としない顔をしながらスライム群を貫く。魔王は爪撃を放ちながら考える、果たしてこのままマップのホールに行っていいものか? “奴”のカードはこんなザコモンスターだけではない気がしてならない。

 

(この俺を殺るならば他の魔法少女を人質にするか、あるいは更なる切り札を隠し持っているか)

 

 『魔獣』恐らく対魔王用として用意されたのだろう。だから奪ったデータには当然無い。全くうぜーと思いながら頭の中でぐるぐると迷走しているとさやか達が怒鳴ってきた。

 

「ちょっとー! このままじゃあどう見てもじり損じゃない、どーすんのよー!!」

「はぁはぁ……私も……ちょっと……」

「早くしやがれー!!」

 

 ため息、考えて事している時位は静かにして欲しいと思う。ただそんな状況では無い事も分かる。相棒をチラ見すると「この場はとりあえず」の返答が来たので、ようやく決断をした。

 

「チッ、しゃーねー俺が突貫するから付いて来い!!」

 

 そう言ってホールまでの道のりを蹂躙して行った――。

 

 

 

 

「オルァーー! キュゥべえ、てめえの思惑に乗ったぜぇ? 出て来いや!!」

《馬鹿だなぁ、わざわざ自分から死にに行くのは兵士か蟻ぐらいだよ? 出る訳ないじゃないか》

 

 魔獣の通路を抜けて飛び出し啖呵を切った魔王だったが、キュゥべえのごもっともな念話に舌打ちした。ここはどうやら大型排水口のようで今は時間外らしく通行出来るみたいだ。スペースも結構あり横場大体30メートル強、奥まで見える事の無い道を頭上の電灯が照らしている。足元は通路と同じく金網がしかれて滑る事も無い。ただ臭いは一層ます。

 ――だが、先程のスライム郡の臭いよりは全然マシであった。

 

「ホッと、ようやく身体を動かせるぜー」

「まどか~大丈夫?」

「うん……何とか、かな?」

 

 背伸びしてる杏子のあとに魔法少女により強化されているとは言え、初戦にしては結構タフネスなさやかと精神的に舞っているとまどかが続いて出てくる。魔王も恭介が持ち掛けたシミュレートを行うかどうか検討していたら奴の声が念話により放たれた。

 

《さぁーステージも大詰め! メインダンサーの登場!!》

 

 高見の見物をしているキュゥべえは気取った口調で優勢のまま事を決めにかかる。通路の真ん中にキラリと見える物質――『グリーフシード』だ。だがおかしい、データでは魔法少女を母体に魔女化、しかるのちソウルジェムが変換した言うなれば絶望(魔力)のエネルギータンクのようなモノ。

 

「喉から出るほど欲しいもののバズの奴をなぜ? まさか……」

《ふふっ、気づたみいたいだね? 既に回収も終わり中身は無くても使い道がある。そう、君が教えてくれたんだよ?》

「ではさっきのスライム群も――ッ!?」

《魔王 恭介、君には本当に感謝している。“壊れたソウルジェム”も“空っぽのグリーフシード”でも問題ない。何故ならは『君達から吸収すれば問題ない』んだからねぇ》

 

 キュゥべえの悪党全快の言葉、転じてまどか達の体のアクセサリー携帯化したソウルジェムが“浄化”し始めた。まどかは唖然とする。他の魔法少女のソウルジェムも……既に侵略者の戦術的策略は敷かれていたのだった。

 

「二人ともソウルジェムが……」

「何!?」

「えっ? えっ? えっ?」

「杏子、さやか――これが狙いかぁ!? キュゥべえッ!!」

 

 戸惑う少女達に絶叫する魔王、場の流れを掴んだキュゥべえは語る。自分達こそがこの星の支配者であると言うかの様に、あり得ない言葉を発する。

 

《そう、連戦で疲れてきった精神はソウルジェムを濁らせる。まどかとさやかは決して魔女化はしないけど……君は『モードドレイン』って言ってたみたいだけど、それがヒントになった。宇宙に生きる民として資源のリサイクルは大事だからね♪》

 

 正に応酬、データコピーを先にやったのは魔王、君達なんだからね? と言う感じだ。そのソースを媒体して作り出された“魔獣”、つまりその内容は『主が無くなったソウルジェムは粉々』はさっきのスライムに、そしてこれから闇よりい出る者は『無用のグリーフシードから』と言うもの、しかも原料が人間の負の感情ときている。杏子が堪らずキレた。

 

「この糞野郎がぁッ!!」

《おかしいね? 杏子、君は願いを叶えたから定期的な浄化を僕がして上げたんじゃないか、グリーフシード無しで無償でしてあげたんだから感謝して欲しいな。他のクラスの皆には内緒だよ?》

「てめぇがその台詞を吐くなッ!!」

「馬鹿ッ!?」

 

 ――激情、この瞬間世界は爆する。溜まりに溜まった負の感情を破裂させるのには十分、止めに入った魔王の言葉は全てを無にする侵略者の策略により消え去り、そして、禍神の新たな誕生祝いが世界に木霊した。

 

――グオオオオオオオオオン!!――

 

 通路の奥まで続くその全長が計測不明なほどのデカさ、その母体は触手を張り巡らして今にも獲物を捕食する構えでいた。柔くもそのグロテスクな体躯、紫がかったその召喚されしモノの迫力に流石のさやかも驚きを隠せない。

 

「タコ!? でっかいタコォ!?」

《フフ、趣向をこらしてみたよ? 下水道だからね……僕は以外と勉強熱心なのさ》

 

 その圧倒させる海の奇怪なる王は、自分の行いがこの怪物を生む切っ掛けに悔やんでいる杏子を狙い目に定めた。しかし魔王の臨戦体勢は早く伊達に魔女以上だどいう言葉に嘘偽り無く確実に目標を捕らえる。

 

「オラァ!」

 

 魔王の爪撃――切り裂かれた触手は足元でうねうねと踊り、追撃をかましてようやく停止した。他の状況を恭介に任せ杏子を見る怪我は無いようだ。

 

「す、すまねぇ……あたしのせいで……」

「アホゥ! 後悔ならあとでいくらでも出来る! 今は目標だけに専念しろ!!」

 

 呆ける杏子に渇を入れフォーメーションを組み直し総攻撃を仕掛ける。兎に角目障りな触手を片っ端から消し去ったが胞子類の如く無限に生えてきた。その状況に痺れを切らしてキュゥべえが念話で敗北しろと言う。

 

《もう諦めなよ。その『キング・クラーケン』は切っても無駄、直ぐに再生するから》

「フン、怪異の分際で“王”を名乗るか。では本当の“王”の実力……見せてやろうか?」

 

 そう言う魔王はアームズの恭介にモードの起動を承諾させる。今度はこちらの手札を見せる番、恭介は昔みた特撮モノを思い出した。ヤハリ決め技は最後が王道だな、と。

 

《ハハ、今度は何をするんだい? 知っているよ。ソウルジェムを再生させるぐらいしか出来ないんだろ? なんてったって僕達のデータをコピーしただけなんだから!!》

「あぁ、コピーしただけだよ? データはな」

『モードシンクロ……承認、“対象と融合”します』

《ハハハハ……は?》

 

 凄くまぬけたキュゥべえの声と共に魔王は天高く叫ぶ。右腕を上げる。そして恭介は願う『この漆黒なる闇夜を切り裂く希望の光とならん』、魔王は思う『この諦めと嘆きをもたらす罪人に絶望の闇とならん』。

 

『圏内に100Mターゲット確認、誤差修正――転送します』

「シンクロォォ! Fッ! テェェェェェェェイルズゥ!!」

 

 一瞬の光と共に闇に閉ざされしその世界は引き裂かれる。銀色のそのアームのラインは赤く両腕からは“炎が放たれていた”。見よう見まねのゲーセンで会得した技だが、その威力は保証付きだ。

 

「どうしたぁ!!」

 

 焔舞(えんぶ)、魔王はそのまま腕を振り地に這う灼熱の弾丸となって巨大なるその闇を払った。その衝撃に苦しむクラーケン、あたりに焼け焦げた臭いが漂う。

 

『なななな何ですの!? 何なんですの!!??』

「いちいち騒ぐな、その為に“ファイアアームズ”をやったんだろうが」

 

 アームズ(銀色の腕)から驚くのはいつもの恭介の声は無く、地上部隊にいるハズの新米魔法少女ver.MAOUに成った『志筑 仁美』その人であった。

 

「へ……」

「えーっと、仁美?」

「つーか魔王! てめぇ何をした!!」

 

 当然と言えば当然の、魔法少女の反応。相変わらずの魔王は良いとして恭介もグルになってやっている。実に将来が心配である。そして“またまたやらせて頂きましたァン!”な魔王は「うーん、いいリアクションだ」とウットリしながら答える。

 

「見ての通り俺の腕に“仁美”が入っている。正確には『エレメントアームズに引きずり込まれて』だが、因みにさっきのは俺が考えたアドリブの台詞、格好いいだろ?」

 

 ビシッ! と指を立てながらニヒルに決める魔王に杏子は更に質問攻めにする。その状況はサブマシンガンやガトリングガンを連想させるものだった。しかも律儀に答える魔王。

 

「じゃあ地上部隊は!」

「居なくなったって騒いでるだろうな」

「恭介は!」

「寝てる」

『zzzz』

「あとは……う~んと、今日のお菓子は!」

「チーズケーキ、なぎさが煩く言ってたから」

『あの~漫才はそこまでにしておいたほうが……』

 

――漫才じゃない!!――

 

 仁美のボケに魔王と杏子の息の合ったツッコミ、そんなベターな馬鹿をやっていると再生の終えたキング・クラーケンが再度襲いかかってきた。モード起動のためリンクしている恭介ので完全にいないようなものの現状で、変わりに自分がいちいちこんな面倒くさい事を……と思い、巨大魔獣に対してさっさとクタバレと願いながら全体指揮を行う。

 

「チッ、奴のコアは間違いなく『グリーフシード』! ソイツを破壊するか全てを消滅させるだけの火力が必要だ!!」

「って、どーすんのよ! こんなバカデカイのじゃあグリーフシードなんて見つけられないよ!?」

 

 さやかが触手を切り落としながら叫び迎撃を避けながら言う。話聞いてたのか? と言って魔王は手持ちのジョーカーを切る事にした。

 

「フン、当然後者の『超火力』だろ? 仁美“詠唱”を始めろ!!」

『え? あ、は、はい』

 

 初めての戦闘、状況が状況だから今回はそのほとんどのを魔王が担っている。だが、本来ならば他の皆同様、状況に応じた判断をしなくてはならない。話しには聞いていたがここまでのモノとは知らなかった。慣れはじめたまどかやさやかと違い、仁美は未だ戸惑っていた。

 

『えーっと、わ、我焦がれ……』

「えーい、俺が言うから続け!」

『は、はい!!』

 

 イラついた魔王は仁美に激怒、でもしっかりサポートは行う。まず深呼吸をして、落ち着いて、目を閉じて、全てをあるがままに受け入れて……二人の歌声が地下空洞(ステージ)に響きわたる。

 

「我焦れ、誘うは焦熱への儀式」

『我焦れ、誘うは焦熱への儀式』

 

 火柱がこの世ならざるモノを包む浄化の炎、絶望的な世界で穢れきってグリーフシードまで堕ちる。それでも蹂躙され続けた“少女達”への鎮魂歌。魔王のシステムにもいくつか再生させるため条件はある。だがら今回のグリーフシードは決して救う事は出来ない、それでも魂だけはせめて――二つのハーモニーはとても静かな音を奏でる。

 

「其に捧げるは――」

『――炎帝の抱擁』

 

 見滝原の地下、まだ春盛りのこの季節。寒気は地下浸透するこの場の室温がじょじょに上がり空気が加熱していく。地球に大地が生まれる時、火山活動により冷めて冷えて出来る。そう全ての始まりには炎が有ったとされる。その神話よりい出るその名は……。

 

――イフリート・キャレス!!――

 

 魔神の名を冠した灼熱の魔法は解放される。火山によるマグマをも超えるその獄炎なる爆発はあたり一帯を溶かし、地下空洞の“絶望的な願い”を全てを消し去っていった。

 熱く、熱く、熱く、仁美に与えられた力は彼女の内なる想いを反映しているようだった。決して冷める事の無い、たがそれは自分さえも火傷すると言う暗示。彼の『ジャンヌダルク』の様に……。

 

「うわー凄い……」

「って! ここヤバいんじゃない!?」

 

 魔王はさやかのごもっともな意見に賛同して脱出を開始した。後ろから熔岩が迫ってくる状況に怒鳴る杏子。

 

「バカやろー! やり過ぎだぁ!!」

「いいから足使え、足ぃ!」

『み、皆さん頑張るですのッ!!』

「ひぃひぃひぃ!!」

「うえーん! 熱いよー!」

 

 うぜー! うぜー! マジうぜー! と連呼しなが来た道を逆走する魔王、そしてその仲間たち。相棒はシステムによる疲れでこんな環境でもぐっすりおねんね。仁美だけはエールを、背後から殺意が剥き出しになった自分が呼び出した魔法(原因)からこの下水道を走り抜ける――。

 

 

 

 

 学園の屋上、既に溜まり場的な意味合いのこの場にて魔王達はスマホから流れるテレビを見る。まどかとマミは通路で歩いていた先生がまた暴走したらしく止めてに入って、なぎさはマミが保護者として一緒にいたが家に誰もいないのはさすがに不味かったらしくまどかの家でお留守番、そして当然ニュースは昨日の犯罪(事件)が報道されていた。

 

『――原因不明の地下からの爆発は一時全ての水道を使用不可能にし、政府は緊急処置としてその地区にミネラルウォーターの配布を決定、警察本部では『テロ事件の一環ではないか?』の線で調査を進める模様です。

では、次のニュースです。アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の劇場化が決定……』

 

 当たり前と言うか魔法(真実)を知らなかった表の世界では当然の処置になっている。もし公にて魔法が実在していたら一発退場のブタ箱直行便だ。

 

『よかったですね? 恭介、バレなくて』

「君のせいだろ!!」

 

 久々の恭介のツッコミは切れ味を取り戻し、犯罪の主犯は「魔王はーあーくを極めてなんぼー」と口笛を吹いていた。ニュースからの言葉に仁美は嘆き杏子はフォローする。

 

「わたくしにもその一帯があるのですのね……」

「そんな事ねーよ、全部キュウべぇ(あいつ)が悪い」

『かもな? しかし、アームズ(ソイツ)は既にお前の物だ』

 

 また辛くあたる魔王、同じ仲間としてクラスメイトとして杏子は怒る。だが魔王は何時もと少し違った。

 

「……ッ」

「テメー! また――」

『冗談半分で言っていると思うかッ!!』

「魔王!?」

 

 いままでの行動的に杏子の言葉を魔王はやっぱり遮る。しかし何時もと違う雰囲気の魔王の返答に驚いた恭介、それでもアームズからの声の主は続く。

 

『力はしょせん力。確かにあの場はクラーケンを潰すのには重要だったかも知れないし、俺が誘導したからかも知れない。しかし最後の決断は仁美、お前だからな?』

「はい……」

『ん……?』

 

 ――何故か重い空気になっている。疚しい気持ちでもあったのか? 悪党であるはずの自分のらしくない考えをしていると、横にいたさやかは状況を打破する為、別の話題を振る事にした。

 

「あーそう言えばあんたが作った“エレメントアームズ(アレ)”凄かったねー。と言うか威力がソウルジェムの劣化コピーにしてはおかしくない?」

『ああ、それは簡単なカラクリだ。そうだな、恭介よ……杏子のソウルジェムをくっ付けてみ?』

「うん」

 

 恭介は仁美からエレメントアームズを受け取り近くでポッキーを腕を組みながらポリポリ食べてた杏子、そう言われるまま己が半身たるソウルジェムを引き合わせる。絶望たる“黒色”がエレメントアームズに流されていく……。

 

「オイ! コイツは――!!」

『ああ、魔法少女からのセカンドシフト(魔女化)にしてソウルジェムの絶望回収回路、“グリーフシードのデータをベース”に作り出された。言うなれば『魔女の力を行使している』だな』

 

 だからあの強力な魔法が使える。と、のほほんと答える魔王。更にその続きがありデータ元がグリーフシードならば、その“負の感情”に引っ張られると言う可能性。

 それを克服する為には精神的に強固なる意思が無いと飲み込まれる恐れがある。だから魔王は仁美に厳しくなっていた。仁美も結構危険性の高い代物を扱っていたのだ。恭介も「耐性が測定値より高い、ある意味一番魔導師に近い」と補完的な助言をする。

 魔王にとっての魔法使いとは『悪《魔》的な《法》則性に基づき行い、《使い》こなす者』と独自に捉えている。講義に黙って聞いていたほむらは突然、恭介を殴る。どうやら魔王を殴るつもりだったが現主導権の方をしまったらしい。

 

「ぐはぁ!!」

『おぉう!? 大丈夫か?』

「あんた! 何て事を考えて――ッ」

 

 興奮しているほむらを余所に「ぼ、僕は何もしていし、知っていない」と悲しむ相棒をなだめながらボディチェンジをする。続けて“焔の如く”荒れている彼女をなだめる。

 

「はいはい、落ち着けほむら。どうした? お前らしくもない」

「あ、貴方はいったい何者なの? 魔王 恭介! “私の知らない存在”で“魔女をも超越する力”をもっている貴方は――!!」

「下らない問答だな? 俺は魔王だと言っているだろう」

(下らない質問だね? 僕は君達の事を思って言ってる)

「あ……」

 

 その瞬間“ある存在”とダブって見えた。無意識のうちにほむらは魔法少女になって銃口を向けていた。『彼は危ない存在』と、感じ取ったからだ。

 

「ちょッ、ちょい待ちなよ!!」

「ほむらテメー!?」

「あーさやかも杏子もモチつけ、俺が対処する」

 

 そう言う魔王はエレメントアームズをホケットに入れて、その射程内をごく普通に歩いて行った。照準は頭へと狙われているにも関わらず、だ。

 

「な!?」

「安心しろ怪我はさせない、例え魔法少女による治癒を持っていたとしてもな……」

「くっ!」

 

 ――発砲、しかし既に魔王の領域に入ったその射撃はアッサリかわさる。きつく腕を捕まられたほむらは振りほどこうどするが、指定された制服から覗く銀の手はびくともしない。

 

「アホ、障害物も無く乱戦でも無いのに俺にインファイトすんなよ」

「は、放して!」

「ならそのチャカを放せ」

 

 魔王の言葉ソレがトリガーとなった。シールドの裏側にある時間停止魔法その“歯車が逆行”していった。ホケットのエレメントアームズが輝く。一瞬での理解……“共鳴”、彼女のソウルジェムとの共振。

 

「な、に……」

 

 驚く、そんな暇すら与えない衝撃が全身を襲う。そして彼は時の流れを垣間見る――。

 

 

 

 

 ――そこは宇宙に似た空間だった。上も下も無くただ一色の闇が有った、まわりに風船の様なものがプカプカ浮いて回っている。こんな状況なのに“次元に弾き飛ばされた”とか“空間の消滅”とか様々な仮説を立てていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。『暁美 ほむら』だ。だがいつもの勝ち気な口調ではなく、どこか弱々しく内気な少女……そんな音程だった。

 

《あ……あああの……っ……暁美……ほむらです》

「コイツは――」

 

 彼女の、ほむら“達”の声が壊れたテープレコーダーの様に聞こえる。摩りきれる音が少しずつ、少しずつ、偏食していく。回る回る輪廻の如く、螺旋状になって天高く。魔王を中心に“シャボン玉”は過去を旋回する。

 

《私……カッコよくなんてなれないよ……》

 

 自分を応援してくれた言葉、でも無力な私にはそんな勇気はない。貴方の様な希望の光にはなれない。

 

《だったらいっそ死んだ方がいいよね》

 

 人に迷惑をかけて恥じをかいて……そんな事ならば皆消えてしまえば良いのに。楽に為れるのに。

 

《――どうして? 死んじゃうって解っていたのに》

 

 マミさんも死んでしまったのに、最悪の魔女に一人ぼっちで無理だよ。私なんて足手まとい。

 

《私、鹿目さんとの出合いをやり直したい》

 

 魔法少女としての契約。せめてこの子との願い、想いだけは守りたい。それが私の気持ちで……償いだから。

 

《暁美 ほむらですっ!》

 

 ああ、会えた。貴方の願いは絶対に私が守って見せる。絶対に。

 

《鹿目さん! しっりして! ワルプルギスを倒した……のに……》

 

 どうして! 折角あの悪夢から解放されたのに何故こんな結果に……何故ソウルジェムからグリーフシードに!?

 

《みんな……キュウべぇに騙され!》

 

 真実を伝えないと! あの嘘つき侵略者から、でも誰も信じてくれない。本当なのに――。

 

《まどか……!》

 

 馬鹿だった! もっと信じていればこんな事には! 私はまた彼女と約束をして、また永遠の別れをしました。

 

《まどかには絶対に 戦わせない》

 

 死なせない。彼女の約束、彼女の想い、全て私が守り通してみせる。そう、絶対に。

 

《駄目ええええええッ》

 

 ああ、またあの悪魔が囁く。少女達を食い物にしているあの侵略者達に……。

 

《私の戦場は――ここじゃない》

 

 私にとって最早この事件は通過点、彼女を守る為の試行錯誤の場でしかない。

 

《知らないし、知ったことではないわ》

 

 どうせワルプルギスがこの後にくる。貴方は貴方の好きな事をするべきなのよ巴 マミ。この私の様に。

 

《私の世界を守るため、よ》

 

 これで『この世界のまどか』は救われた。やっと彼女との約束も果たせる。

 

《今の声は……》

 

 まさか、彼女が最後に狙ったのは――キュゥべえじゃなくて、まどか?

 

《……う……そ》

 

 私の知らない上条 恭介が、あのキュゥべえを翻弄している。しかも魔法少女の蘇生なんて……。

 

 大量の映像と共にある独りぼっちの魔法少女の記憶、その終着駅にようやくたどり着く。シャボン玉はいつか消えてその中心部には半分透けとおった半球体、人がすっぽり入る位の大きさの特大シャボン玉にほむらがいた。

 うずくまる彼女は顔を上げる。その瞳は何処か虚ろで未来を見失った迷子の子供のようだった。

 

《貴方は、誰?》

「だから魔王だと」

《アイツとは?》

「さぁ? だが俺の同族かもしくは……わかってるだろ、俺の知り得る事柄はそんなものだ」

《まどかを魔法少女にした》

「なら俺を憎め」

《奴等の関係者の可能性》

「なら俺を撃て」

《でも、貴方を殺したらまどかが……》

 

 繰り返す問答、それでもまだ何処か戸惑いを感じる。彼女の絶望を振り払う光、いや切り裂く闇は言う。この漆黒の世界こそが我に相応しい、まるで貴様など不用だと言わんばかりの様に。

 

「下らん」

《え?》

「貴様の記憶には俺がいない、だからお前は敗北した。今の世界は俺がここにいる、だからお前は勝利する」

 

 相も変わらず魔王クオリティ、その反応どうしよもない行動にほむらは笑う。魔王は本気だし本当の事しか言わない。嘘をつく時は敵を欺く時か或いは……。

 

《ぷっ……あはは!》

「オイ! どう見ても笑う場面じゃねーだろがよぉ」

《だって……はは!》

「チッ、ムカつくぜ」

 

 初めてみた彼女の笑顔は記憶の中の“始まり” の彼女にソックリだった――。

 

 

 

 

 学園屋上のテラス、映画を見終えた気分の魔王は長椅子から体を持ち上げる。少し頭痛がしていて喉に乾きを覚える。

 

「う、ん……ここは?」

「あ、目覚めた~」

「うん? さやかか……時間は」

「まだ12時30分を切った所」

 

 まだ、差ほど時間は経過していなかった。精神世界では時間の流れもやはり違うのか? 何て思えたが起き上がる時を駆ける少女を見て直ぐに別の考えてをした。

 

「大丈夫ですの? 暁美さん」

「ええ、何とか……」

「ほむら――」

 

 仁美の介護を受けている彼女に、大丈夫か? と言おうとした時“ソレ”は発動した。そこに恭介の意思は無く実行されて行く。

 

『モードソウルジェム……確認、開始します』

「何だと!?」

 

 今だ運命の輪廻は終わっていなかった。光の中より出(い)でるのは3つのソウルジェム、その暴走は止まらず肉体構築のための基盤となるDNAデータも無いのに、再生のモードが続いて起動した。

 

「な、何故? 基礎になるものが無ければいくら神でも創造は出来ないのに――ッ」

「あるわ、一つだけ」

「ま、まさか……」

 

 ――過去からの記憶、『暁美 ほむらの人生物語』からの登場人物、確かにその中ならば他の魔法少女がいただろう。しかしそんな事が可能性が有るとは言えできるのか? それは改竄より危険でキュウべぇの願いより破滅を呼ぶのではないのか? など様々な分岐点を考えていた魔王だったが杏子の声に現実世界に引き戻された。

 

「な、何だテメー!? 抱きつくな!!」

「キョーコ! お腹すいたー!」

「えーっと、なぎさ二世?」

「魔王もアホ言ってねーで何とかしろ!!」

 

 突如表れた緑髪の少女、身長もなぎさよりちょっと小さい。どうやら先程サルベージされた魔法少女の一人だろう。そうなると他の二人も魔王(自分)の知らない魔法少女である事は確定する。

 

「あ、貴方達は――!」

「ここは……」

「キリカ? そこにいるのはキリカなの?」

 

 驚くほむらの目の前に存在する二人の少女、一つは眼帯をしたショートカットのキツイ目をし、もう一方は白を強調した聖女の様な姿をしていた。ほむらの記憶からの再現、或いは過ぎ去りし過去からの召喚か、ほむらは敵対心を隠さず戦闘態勢に入る。

 元敵の魔法少女、その瞳からは憎しみも感じられた。しかしいつの間にか横に立っていた彼に制される。少しとは言え心を許したほむらは戸惑いながらも任せる事にした。

 

「おう、お前ら『輪廻の果て』にようこそ。代表として俺が歓迎してやるぜ」

「貴方は……」

「あぁ、名前を言って無かったな? “魔王 恭介”世界征服を目論む極悪人だよ?」

「な……ッ」

 

 凄くラフな感じでズケズケと魔王は積極的な挨拶、白い魔法少女は突然の自己紹介に驚いた。唐突な挨拶ではなく、その内容に。そして彼女の“予知魔法”が自分の意思とは無関係に発動する。

 

「くぅぅぅ……」

「織莉子! 大丈夫!」

「あーん? どったのよさ」

 

 織莉子と呼ばれた少女は突然苦しみ出しその場に崩れこむ、駆けより心配するもう一人の魔法少女……キリカは魔王(原因)を見上げる。そこには敵視が有ったが魔王は半分どうでもいいと一つあくびをした。

 

「お前は何をした」

「はぁ、またこの問答か? うぜー」

「答えろ!」

 

 容赦ないキリカの攻撃――袖から伸びるその武器は皮肉にも魔王と同じ“爪”を武器としていた。だが攻めらている側の当の本人は舐めきったふてぶてしい態度で問いただして来る。

 

「ふーん俺と同じ、ね。でもよぉ“魔法少女程度”で魔王たる俺に勝てるかな?」

「くっ!」

「分かる……わけないと言った感じですか。では」

 

 遠慮なく、と防御として使用していたその右腕を思いっきり振る。キリカの体はピンポン玉みたいに入口付近の壁に衝突した。見ていたほむらは唖然とした。確かに魔王と自称するだけの力はあるのは知っていたが、過去の時間にあれほど手こずらされた『魔法少女殺し』が全くの無力だった。

 

「がっ!?」

「キリカ!!」

「ククク、この学園屋上はガラス貼りだからなぁー? まっとりあえず玄関口にぶっ飛ばさせてもらった」

 

 そう言いながら相棒を叩きつけられた織莉子に方向転換してきた。口はパックリ三日月に割れ、見つめるその眼球は白く濁って禍々しく、破壊をするのに躊躇は無い漆黒を纏っていた。あれは“人をモノとして見ている”目、邪魔者は問答無用で断罪する瞳。

 

「ひっ!」

「なに、そうビビるな。貴様が何か要らないものを見たようだが、それはさしたる問題ではない。俺の願いは二つ。

これより貝の様に黙って日々平凡を過ごすか、俺の元にくだるか。一応ソウルジェムを砕くと言う選択もあるが……せっかくの復活祭なのにいきなり消滅させたくはないだろ?」

 

 ――選択肢は無い、織莉子は頷くしか無かった。

 

「あいどうも、じゃあキリカちゃんでも起こすかね?」

 

 とても同一人物とは思えない程のひょうひょうとした口調で行ってしまった。汗か滝の様に流れまさか自分が“巴 マミ(黄銃の魔法少女)”にした事をされるとは夢にも思わなかった。

 魔王(アレ)は今まで見たビジョンでもあり得ないモノだった。本能的に『敵にまわすな』と言われる体験をしたのも初めてだった。鹿目 まどか――彼女を超える闇が存在する、その真実に。

 

「彼はいったい……」

 

 そう言いって去ってしまった方向を見つめる。そこには本来敵対するはずの見知った人物達が集まっていた。凄く不自然な、そして調和が取れていて『輪廻の果て』と言う彼の気がかりな言葉を思い出す。

 

「痛っー、あータンコブ出来てるー」

「えー、だって攻めてきたのはキリカ(コイツ)じゃん。さやかさんよぉ」

「だからって女の子をぶっ飛ばすのは最低!!」

「テメーは男失格だな!!」

「キョーコ! ゆまはちゃんとするから怒らないで!」

「まぁまぁ、皆様もマミさんから頂いた紅茶でもいかがですの?」

「全く、喧しい……」

 

 先程の重たい空気はすっ飛んでいき何故かキリカも馴染んでいた。その状況に『美国 織莉子(過去から来た魔法少女)』は――。

 

「……本当に彼はいったい……」

 

 ――これからの出来事は彼女の魔法でも見通せないでいた。



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第4話

 音楽、それは古来より様々な所で活躍している。種族、ジャンル、宗教にまで関与して全ての生活に関わってくる。多種多様の楽器から踊り子に現在ではバーチャルアンドロイドを利用したソフトウェアまで作られるまでに至る。ハーモニーはDNA、細胞にまでに関わり寝たきりの人間が目覚め回復に行くと言う事例もあるほど、彼、上条 恭介にはバイオリンが才能が担当されていた。

 初めは誉めてもらえるのが嬉しくてやっていた。だが成長と共にその努力は“天才”と言うカテゴリーに区別され、出来て当たり前だと思われる様になってしまった。

 憎んでいた。けど自分にはこれしかないと思い必死にやってきた……だが運命の女神は残酷、その希望さえも交通事故と言う悪夢に見舞われた。誰も見なくなり絶望した。良くしてくれたさやかには酷い事をしてしまった。最初はこれは贅沢者の自分への罰だと思っていた。だからがむしゃらにリハビリをした。けどどんなに頑張ってももうあの頃には戻らない、担当の医者からは死の宣告。

 銀色の両腕を見る。彼が来てから全てが変わった。当たり前の世界から一転して知られざる闇の世界へ、でも彼は絶望を片っ端から壊して行った。欲張りで乱暴者だけど“契約により僕の願いは叶った”――。

 

 

 

 

「うーん、弦が少しユルい?」

『はぁー暇~ヒマヒマ~ヒマラヤ山脈ぅ~』

 

 放課後の音楽室、そこに恭介達はいた。何でも演奏会のステージがあるとか、バイオリン……久しぶりの演奏はもてはやされるだけあって中々のモノ。が『もーいいんじゃね?』と言う魔王に恭介は「君と対等になる為にはこの程度の事柄、クリアしなきゃね?」とチューニングに余念がない。

 そんなもんかねーと暇を言い続ける。動けないアームズ内の魔王は事件が無いから退屈で退屈で死にそうだった。

 

『俺、ヒマダヨー』

 

 何を言っても恭介は聞こえていなかった。芸術家としては百点満点だが、人付き合いとしては赤点――そんな折り不意に外の景色を見た。まだ寒さが残る春場所でのグラウンド、陸上部が大会に向けて走り込みをしていた。気合い入ってるなーと敷地内の木々がある場所を見た。

 本当に適当だった。何か一瞬『白いモノ』が見てた気がする。イヤイヤあり得ねーからと自分に言い聞かせもう一度。次は見えない『ほらな?』と言い聞かせ、またヒマヒマ連呼したら。

 

《煩いよ》

『……恭介?』

 

 聞き覚えのあるいやな声が聞こえた。恭介を見る――と言うか腕がギコギコ引かれているからとても忙しいのは当然。心の中で願う。どうか他の魔法少女でありますように……魔王は勇気を振り絞って念話の解答する。

 

《あんのぉーもしかしなくても……外宇宙おこしのキュゥべえ様でございますか?》

《他に誰がいるんだよ、皆のマスコットのキュゥべえだよ》

《お客様のお掛けになった念話番号は只今使われておりませんッッ!!》

 

 帰れ帰れ! と突っ張ねる魔王だが“悪徳商法”の威名は伊達ではなかった。しつこい、兎に角しつこい。そしてウザイ。どっかの一番最後が『パー』になったり、自立して自慢話ばっかりしたり、食っちゃ寝食っちゃ寝している持ち主の聖剣とタメが張れるぐらい、駄目っぷりを発揮した。

 

『キョウちゃああああああん!!』

「あーもー! 何だいさっきから、集中出来ない――――」

 

 窓にチョコンと外に見える存在、そこには全ての元凶がいた。彼は無力な少年だった。だがしかし今の恭介は『新たな力を手に入れた(ゲーセンの海賊データ、違法です)』、“創られた希望”も“望まぬ魔法”さえも超えるその力を……解き放つ!!

 しゃがみ低い姿勢で走り駆けるその姿はまさに豹の如く、零からのトップスピードによる接近。“グランドセイバー”、一文字に繰り出される手刀はその辺の刃物とは比べられないモノの切れ味である。

 

「どんな絶望だろうと、ただ切り裂くのみ」

「キュッピィ!?」

『ノー!? マイフレンドッ!! ちょい待ちーノ!!』

 

 ――魔王の言葉に1mm、キュゥべえの白い毛は風に乗る。

 

「……なに?」

「あばばばばばばば」

(な、何この子――アレ系? 大人しい奴がキレると容赦ないアブナイ系??)

 

 四肢を切断しウィルスプログラムを撃ち込まれそうなり泡を吹いてるキュゥべえ、アームズ内分でビビる魔王。見た目が天使みたいな性格の奴だと思っていたが、実は堕天使の部類だと今知る。絶対に敵に回したくないと心奥底で思った。

 しかし先程から何かがおかしい、恭介がこんなに好戦的だったはずが無もない。もちろん魔女はいないから“魔女の口づけ”と呼ばれる自滅を魅了するものも無いし、彼自身は至って普通の人間……一部分、『腕』を除いて。

 

「ハァハァハァ――グゥっ!?」

『お、おい……』

 

 苦しみ出しその場合に崩れる恭介、息が荒く両腕を抱える。魔王は最悪の予想をした――仁美は大丈夫だった。が、はたして『上条 恭介は絶望に耐性は有ったのだろうか?』と言うもの。嫌なものと言うのはどうしこうも当たるのか、劣等感、その感情が暴走する。

 

「食らイ尽クせ、ソノ偽リノ希望ゴト」

 

 銀の王の意思を無視して恭介は虚空に吠える。漆黒に染まる彼の瞳は暗黒に満ちていた……今、暴走した彼を止める存在はここにはいない――。

 

 

 

 

 まどかは街中を歩いていた。特に意味は無いらしいのだが、織莉子が散歩したいと言いたので案内している。因みに“過去”から来た魔法少女組は上条の家で厄介になっているそうで、まだ恭介の親達には会っていない。忙しく恭介が直接電話したら二つ返事でGOサインが出た。

 恭介曰、「そんな事に時間を及ぼすならば、もっとバイオリンを引け」と言われたそうだ。本当に親の顔が見てみたいと思った。

 散歩は他に友達としてキリカは当然付き添い、監視としてほむらがいた。織莉子はぜんぜん気にしていなかったが、ほむらは凄い形相で睨んでいてキリカは興味無いフリして殺気丸出しである。

 まどかを除くこの三人の魔法少女は、ある意味この世界で一番お互いを知っている。但し殺し合いと言う形で、何の因果かここに集うとは……やはり神の思し召しか、それとも悪魔の悪戯か――。

 

「貴方、解っているわね?」

「あー織莉子がしないって言ったら私もしない。ソッチから仕掛けなければね?」

「あらそう、じゃあ貴方から仕掛けられたら迎撃に対応しなきゃならないわね?」

「へー、じゃあお言葉に甘えちゃおうっかな!」

 

 そう言って魔法少女になるべくポーンとソウルジェムを投げ出す。ほむらはほむらでスカートのポケットに手を忍ばせている。まるで子供の喧嘩、もしくは西部劇のガンマン対決。この人がごった返しているど真ん中で先に変身した方が……勝者だ。織莉子は止めなさいと言い、当然まどかも当然に止めに入る。過去に殺し殺された二人が同じ事をする。実に因果だ。

 

「子供」

「ストーカー」

 

 目に殺気を宿しピリピリした空気辺り一面に漂う。回りの人々も訳の分からない寒さを感じ、近くにいた鳩や烏は一斉に飛び立った。もしこの場に魔王が居たら「テメーら、うぜーから俺の為に今バトれ。面白いから」とか言いそうである。火に油ならぬ『灯油工場で仁美(のファイアアームズ)』である。兎にも角にもまどかは彼女達を案内していた、だが――。

 

《……けてくれ》

 

 誰? と聞いて回りそうを見渡すが、魔法少女過去組以外いない。まどかは気のせいかな? と思い近頃流行りのアイス店『ハーケンサイズ13』――その名の通り様々なデコレーションが出来る13種類のガラス越しに有るアイス、季節限定もあり今回は“桜アイス”が追加された。

 ここの在庫限りの人気店にて「ここのアイスは二つ頼んでオマケでもう一つ」と、御用達のお得情報を話していると、また聞こえた。

 

《俺はバニラ&チョコ+イチゴの王道……じゃなくて聞けよ!!》

「はぇ!?」

 

 随分余裕がある可愛らしい悲鳴だな、と言うこのノリは魔王。ノリツッコミが格段に上昇した彼は念話でキレる。しかし魔王の切羽詰まった希望の願いは、魔法少女達の絶望に打ち砕かれた。

 

「あら、美味しい」

「まどかが選んだ店よ? 当然じゃない」

「ハロハローキリカだよ? 魔王の注文はしっかり私が頼んでおいたから、後で感想言ってあげるねー」

《うがががががあああああ!!》

 

 買って食っていた。最悪のパターンである。魔王のよく分からない悲鳴をよそに最後まで食べる気だった。まどかも流石にマズイ空気を感じたのか、止めに入ろうとした時――意外な声が念話に入り込んで来た。

 

《助けて! まどか……このままでは本当にッ!!》

「え!?」

 

 キュゥべえ、地球の少女を魔女化してエネルギー摂取を行い続ける宇宙の地上げ屋。その声に全魔法少女が臨戦態勢になった。

 

「よく顔を出せたわね……スペアの用意は充分かしら?」

「貴方は私に欲しいモノをくれた。だから代金の支払はする。ただし私なりのやり方でね」

「長い話しは抜きにして、チャッチャとウィルス打っちゃおうよ。データはコピペしたし」

 

 ほむら、織莉子、キリカ、時の流れより忘れ去られた過去の亡霊達。魔法少女にとって肉体は付属品と言うならばはたして彼女達は何なのか? 死人どころか時を渡り織莉子、それにキリカに至っては蘇生、創造されこの世に生まれ落ちた。たがそれでも判る事はある……元凶はこのままにして置くつもり何て無いと。

 

「ま、待って皆――」

 

 一番まどかが冷静だった。何か違和感があり止めに入ろうとした時、魔王が信じられない事を叫んだ。

 

《チッ、冗談半分の状況じゃない! このままでは“魔法少女が皆殺し”にされるぞ!!》

 

 

 

 

 遠くから町が見える外れ、夕焼けに焼ける人気の少い道路、本来はバスのルートであるその場で魔法少女達は対峙していた。相手は魔王、ではなく『上条 恭介』……だがその少年はいつもの穏やかさは無く、眼球を黒く偏食させ空腹状態のハイエナのように唸り声をあげていた。

 

「グルルルルルルル……」

『いいか? コイツは接近だけしか手段がない。何でもいいから足止めして遠距離だ!』

 

 アームズ内部からの助言、マミはマスケットの照準を胴部にあわせてトリガーを引く、“躊躇禁止”と魔王が怒鳴ったからだ。まさか知り合いが殺しに来るとは思わなかったが、魔王の念話で間一髪の所で生き延びる事ができた。再生できるとは言えそうそう何度も死ねない。

 「後輩の面倒は私が」と言って自分を鼓舞し言い聞かせるがやはり恐い、魔女とは訳が違う。連続して放つ銃口。しかしその全てが“手刀”で切り払われ、恭介の足元には無数の弾丸がへこんで散らばっている。

 

「――あり得ない」

 

 そう言うしか無かった。マミは魔王の戦いを話しでしか知らない。ここまで来ると下手な魔女より実に厄介、伊達に超える存在『魔王』と名乗っていないと痛感した。明後日の方を向いてぶつぶつ言っていた恭介が、突然コチラ見てそのまま加速してきた。

 

「くっ!?」

「ギャハハハハァ!」

 

 後方へ飛翔し乱射するが、その無数の弾丸の雨を避けながら直進。「まだ何も出来ていない」と心で嘆いていたマミに、容赦の無い斬首刀を恭介が浴びせようとした時、その場が爆発し恭介の体は天高くフッ飛んだ。

 

「ギャウン!?」

『おお! やっとたどり着いた……アレ?』

 

 ようやくアイス店の死神地獄から来たと思われたまどか達の団体姿は無く、ちっこい陰が二つ見えた。魔王曰「ヒトロクマルマル、ホシは猫耳の白と緑の二人組だった」と言っていた。そして遂にそのベールが脱がれる――。

 

「魔法少女、なぎさと」

「そして千歳 ゆまの」

「二人でまどマギ!!」

「二人でまどマギ!!」

『――帰れよ』

 

 決め方台詞を余所に魔王は冷静沈着なる対応をした。どっかの日曜でやってる“変身格闘少女熱血ほのぼの系アニメ”の物真似で現れたなぎさとまゆ、「よりによってコイツらかよ」それが魔王の感想だった。

 そして後ろから保護者が現れた。仁美である。どうやらさっきの爆発はファイアアームズにスロットされていた魔法だったようだ。

 バーンストーム、その地に小型火山を発生させる呪文。威力は高いが発生までに少しラグがありビーキーな魔法、誰かがアシストで足止めして使用するのが打倒である。

 

「マミさん大丈夫ですの?」

「ええ、でもどうしてこの子達が……」

 

 もうすぐ春のテストが有り先生に言われた杏子が勉強中、さやかが付き添いで強制的に監督を担当された。杏子がもう少し真面目にしてればとか、さやかがちゃんと注意してればとか、あの赤青コンビはナンかカンかで息が合うらしい。

 まゆは耳飾りが付いた可愛らしいメイスを振りかざすとマミの傷口が一瞬で消えていく、回復系統の魔法。後方支援としては中々の力をもっていた。魔王も「伊達に魔法少女やってねーな」と彼らしい褒め言葉を言う。

 

「へへーん! まゆはやれば出来る子!」

『だからって調子にのるなよ?』

「ああ、なぎさもなぎさも! えーっとコンビニで出だ目玉が凄い!!」

『新作のレアチーズだろ? 親クソだな』

 

 そのニュージェネレーション達に自慢話しをしているとのそっと恭介が起き上がった。焼けた傷跡が無くなりゆっくり魔法少女達を見渡す。

 

「消すマホウショウジョ、偽りノ希望」

 

 ズリながら歩くその姿はよく知る『上条 恭介』ではなく、魔女やそれ以上の成れの果ての様に見え更なる旋律を覚える。“虐殺の交響曲(シンフォニー)”を奏でる恭介の悪夢は未だに終わらないでいた。

 

 

 

 

「ハァハァ……」

 

 まどか達は走っていた。道路しか見えないこの場、目的地までもう少しで着く。アレから魔王も念話が途切れてしまった……凄く胸騒ぎがする。そんな気がする。

 

《早く! 早く!》

 

 風を切り疾走する中、何故かキュゥべえは先程から急かす。全ての輪廻で決して感情で動かない彼が『焦る』と言う感性を出していた。可笑しいと思ったほむらは一つ“カマ”を掻けてみた。

 

「キュゥべえ、貴方の『ボディ』は持っていないの?」

《――――ッ!?》

 

 ――動揺していた。これでキュゥべえの目的は判明した。何者かに自分のスペア、もろとも今まで培っていった技術を奪われたようだ。情けない話しである。慎重深いあのキュゥべえが『何者か』に出し抜かれたとは。横で聞いていた織莉子に疑問、何故そんな状況で魔王の助けが必用なのかと。

 

《……ハァ、隠してもしょうかないな。僕等……いやもう僕か、とにかく“離反者”が出たんだ》

「離反者?」

《そうだよ織莉子、本来は生まれるはずの無い存在だったんだ。コアである『type1』以外は全部連結して融合消滅してしまったからね?》

「……魔獣」

《本当に勘が良いねほむら、そう原料は負の感情。ソコまでは分かるね?》

 

 知らない情報、あり得ない事が起きている。ほむらは直感で理解できた。本来起きる事が全部頓挫してしわ寄せが起きている事が、それはまるで新幹線が高速でレールから脱線した状況にも似ている。既にこの世界はほむらの『まどかを救いキュゥべえを排除』と言う目的から完全に外れていた。

 原因は解っている。銀色の魔なる存在、アレから狂い始めた。もう時間を戻す事も嘆く事も無い、だが着々と“大いなる何か”が動いている事だけは確信出来ていた。

 キュゥべえは話しを続ける。

 

《僕等は正式名称はなんだと思う?》

「えーっとキュゥべえだよね? 織莉子」

「キリカ、それは名称。たしかIncubator」

《フフッ……“孵卵器”、卵をソウルジェムに見立て孵化させる機械とはよく言ったものだ。でもそれもコノ星での名称、本来は『Invader type9』量産を特化させる為に生産されたエネルギー回収機》

 

 滑稽だろ? と、言うキュゥべえ。今まで自分と言う存在が無かったが、独りになり自分が燃料として否定し続けた物質に成り果てるとは――同情は無いがほんの少し可愛そうと思……わなかった。

 しかし、それでも気になる事をキュゥべえは言っていた。

 

「アレ? キュゥべえが“9”って事は“1”にやられたの?」

《キリカ、違うそれはあり得ない。離反者は新たに生まれたんだ。僕の後だから“Invader type10”……だからジュゥべえだね?》

「うわー安直、じゃあ“1”は誰さ」

《君達のよーっく知っている人だよ。僕ももっと疑っていれば良かったよ。灯台もと暗しとはよく言ったものだね》

 

 ここまで来れば誰でも解る『Invader type1』その存在は――。

 

「魔王、恭介……」

 

 ぽつりとまどかが呟いた。ほむらは思い出すアノ回廊を、『なら俺を撃て』まさかこんなにも早くその願いを叶えなくてはいけないのかと、果たして自分は撃てるのか? 彼は恨まないと思う。何故かそんな気がする。『有りのまま死ねるならそれが本望、俺は魔王だからな?』と言って許してくれそう。

 でも自分は――まどかを見る。この子さえ無事ならば全てを犠牲にしても良いと思っていた。自分が望んでいた知り合いが生きて明日を夢見る希望の世界、あのワルプルギスさえ倒せそうなコノ世界で彼は消える。

 ――途端に怖くなった。それはとっても大事な、例え時間を巻き戻しても二度と手に入らないような気がした。

 

「きゃああああああ!!」

 

 叫び、同時に人が吹っ飛んできた。歯を食い縛るように上げだその顔は仁美だ。服がボロボロ、と言うよりはカマイタチに合ったように切り裂かれていた。前方を見るとマミ達が応戦している。

 

「ハァハァ! コノぉ!!」

「マミに近寄るなのです!!」

 

 銃弾とシャボン玉爆弾による弾幕、しかし恭介は動物園の猿の如く片っ端から切り刻む。避ける、のではなく獲物をいたぶりながら狩りを楽しんでいた。

 

「ギャハハハハハハ!!」

『チッ! このスカタン野郎! 止まれぇ!!』

 

 守るため、ほむらは迷いを捨てターゲットにシールド内部の時を動かしハンドガンを放つ。暴走恭介はいとも簡単に弾くが、お楽しみを邪魔された事への怒りで唸りだした。

 

「グルルルル~~!!」

「ハァ……分かってると思うけど、これはツケよ」

『あぁ、お互い生きていればな』

 

 髪をかきあげて何時もの減らづ口を叩く、そんな魔王はようやく安心できた気がした。キャストは揃った魔王は長引かせるつもりも無く、早速作戦を伝える……。

 

『の、前にそこの“type9”出て来い』

「キュプ~」

「ヘイ侵略者、お待ち!」

 

 何時のまに念話伝達したのかキリカが猫の様に首筋を吊るされたキュゥべえを差し出す。捕まれた方も色々と切羽詰まっていて元気が無い。

 

「やっぱり念話で聞いていたんだね? マスター」

『ああ、まあな? あと俺のはマスターじゃなく魔王と呼べ』

 

 type9とtype1の会話、二人は妙な関係だった。色々話したい事も有ったが時間も惜しい魔王は次は下ごしらえを用意を、まゆの治療を受けてる魔法少女に頼み事をする。

 

『仁美ー死んでないな?』

「はい……な、何とか」

『おーけーおーけー、その図太さと根性は買いだ。早速だがキュゥべえに『エレメントアームズのデータをインストール』してくれ』

 

 そして早速爆弾発言、もはや驚きを通り越して諦めにも近い空気が漂っていた。内容は以下の通り、『Fテイルズをする』これだけである。ただ本来のFテイルズは対象が一人だが、両腕に合身させる事によって強制的に『魔王と恭介の二人の意識を融合』させる、と言うもの。完全なる博打である。

 

『失敗したら当然死ぬな? 精神とか何とかが色々と』

「一応聞くけど確率は?」

『無論50%、聞くまでもない。あとは勇気とか希望で補完するんだな』

 

 ハァと一つため息。ほむらは他に方法が無い事も分かっており、この強引な作戦を飲む事にした。あとはインストールの時間稼ぎ、リミットは“100秒”。ダウンロードを開始の合図に恭介は襲いかって来た。

 

『つー事なので後はよろしく!!』

 

 カウントがスタート。99、98、97……長い1/100の世界の戦いが始まった。暴走した凶奏家は本能的に仁美の方へ、現在パーティー内で唯一の接近が出来るキリカが自慢気の爪を切り裂く。ガードをし残した左腕で円状の切断にかかる、がそれも戦いのセンスとカンで回避し距離を取る。そんな時、キリカはある提案をする。

 

「アッ!! 思い出したけど、昨日のでの事――」

『ごめんなさい』

「じゃー何かチョーダイ」

『俺一日無料券』

「デートのお誘い? だったら明日だね」

『ブフォォオオオ!? 貴方には織莉子さんがいるでしょ!? つーかこんな状況で何言ってんねん!!』

 

 冗談半分で言った魔王の言葉、それを恭介の攻撃をギリギリでかわしながら言う黒い元魔法少女狩り。彼女は適当な事を言うが全て真実であり『面白全部』である。何か不穏なオーラが漂っていたので、一番安全性の高そうな確率で、魔王は試しにまどかを見てみたが……泣きそうな顔をしていた。

 ――心は哀しみに満ちていた。それは全ての魔法少女を救う事が出来なかった悲しみ。マミは信じて戦い何も出来なかった自分の代わりに傷づき倒れ(死んでません)、さやかは守るべき世界に絶望し(強制的に杏子の勉強の手伝い)、杏子はその魔法少女の宿命に立ち向かう(テストの期限が3日後)。ほむら……彼女は無限の時間の流れで自分を助けようとしてくれた(さっきまでアイスに没頭)。

 

「アレ、おかしいな? 涙が出てきちゃった。もう絶望しなくていいのに……」

『ゲハァ!!』

 

 効果は抜群、キリカはニヤリと笑い「計画通り」とか言っていた。無論この戦術を考えたのは織莉子であり、キリカも本当にデートする気でいたからリアリティーが倍増して必殺の一撃となったのだ。

 

「僕は新世界の神となる!!」

「はぁ……」

 

 仁美のよく解らない返事の横で、唐突にキュゥべえが意味不明な事を言い出す。恐らく宇宙から電波を拾ったか、死神(ほむら)にでもとりつかれたのだろう。実際兄弟であるイチべぇの下であり、ほむらも虎視眈々と命を狙っていた。

 

「――――」

「今君達を出し抜く力も無いし、僕の行動はつまり“一時休戦”……」

「そう」

 

 全く諦めていないキュゥべえ、そう言ってる侵略者にほむらはカードリッジをウィルス入りの弾丸に装填する。カチンとハンマーを弾(はじ)きトリガーを引こうとし、流石にまずいと焦るキュゥべえは――。

 

「わ、分かっているよ」

 

 そう言って犬の様に尻尾を垂れ流す。時間は調度半分の50秒、丁度後1分。攻撃が当たらない恭介はダンダンとイライラして来て大声を上げ出した。餌が目の前にチラついていると言うのにからっきしありつけていないからだ。高く飛び上がり邪魔な存在を速攻で消す事にした。標的は織莉子、先程からキリカに予知魔法で伝達し、キリカの全体停滞の魔法で時間を送らせる。相性は抜群、だが司令塔が崩れれば簡単にその戦闘のバランスは崩れる。

 

――ぐおおおおおおお!!――

 

 『Vスラッシャー』対象より高く飛翔し対空、対地、共に落下しそのまま切り裂き反転、再度飛び上がり“V”の軌跡を残し爆発させる最速奥義。キリカも対応したが余りの反応の速さに対応しきれない上、魔法の効果が効いているにも関わらずスピードが追い付けないでいた。

 織莉子は走馬灯の様にゆっくりと時が流れた。父の事、今まで信じた事、魔法少女になった事、最悪の未来を見た事、キリカの事……また、一人ぼっちになっちゃうのかな? など諦めかけた瞬間一つの影が織莉子の前に現れたら。

 

「フン――全く、我が家系の男子ながら情けない。この程度で王を名乗るとはまだまだだな」

 

 白の羽織と赤い袴纏うその男は右腕を上げる、恭介の音速を越えた絶対処断が当たり“そのまま地面に叩きつけられた”。コンクリートはヒビが割れ恭介は苦しみもがく。

 

「立て!」

 

 さらに容赦なく倒れた恭介の首元を掴み、逆方向に脳天から叩きつける。黒いオールバックの男は両腕を上げ交差し“気”を溜めていき、当たり一帯がビリビリとした振動が周囲に響く……。

 

「レイジング――」

 

 空気を一気に吸い覇気を臨界まで上げる。そして、そのまま土手っ腹に地面の石畳ごと叩きつけた。

 

――ストオオオオォォォォォムゥゥゥッ!!――

 

 大地を裂き無数の青いオーラが柱状に登った。その圧倒的な力は這いつくばる者全てを容赦なく叩き伏せる象徴でもあるようだった。あり得ない怒涛の連続、あの魔女も圧倒せしめる存在を制圧してしまった。

 だが魔王と織莉子はその顔に見覚えがあった。

 

『ゲッ!? 親父!!』

「な!? お父様!!」

『……は?』

「……え?」

 

 二つの疑問が交差する。“父”と呼ばれた人物は「DIE YOBBO(死ね、弱者)」と痙攣している自分の息子を見下しながら高らかに笑っていた。魔法少女達から引かれまくっている我が家の大黒柱に魔王はとりあえず自己紹介でもどうですか? と助言をした。

 

「私の事は親父ではなく総帥と呼べと言ったはずだ。フム、だが名ぐらいは名乗っておくか?

我が名は旧名、美国(みくに)……現『上条コネクション』の総帥“上条(かみじょう) 久臣(ひさおみ)”覚えておくがいい」

 

 ――別次元の織莉子の親は覇道を極めていた。



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第5話

 死、それは終焉への旅路、そして人にとっての永遠のテーマである。活動が停止し肉体からは生気をじょじょに失う。ついには腐り初めハエが飛び回り悪臭が漂うしまつ、それでも時が過ぎれば肉は虫等に食われ骨と化し、砂や土に帰る。時の独裁者や魔術師、錬金術師、などの最終目的であり、聖書や邪神教程にも死に纏わる事柄が多々ある。

 “The Eternal Life”……昇天、永眠、復活。仏教でさえ4つの苦しみの一つとされ(生・老・病・死)、さらには輪廻転生や或いは「冥土へ旅立つ」「黄泉に赴く」「帰幽(幽界へ帰る)」他、出したら切りが無い。

 外宇宙より飛来した存在の宇宙船、及び活動燃料として生産させた『魔法少女』、その偏食体である魔女から生まれ落ちたグリーフシード、“嘆きの種”と名付けられた物質は本来は全ての次元で生まれ続けられる……筈だった。

 人間界にとってワンランク上の個体と成ってしまった彼女達は、果たしてその存在は本当に不老不死か、それとも未練がましい希望にすがる亡者か、まだそれを理解出来る時ではないのかも知れない――。

 

 

 

 

 いつまに寝ていたのか、魔王は重いまぶたを開ける。体がダルい、スゴくのどが乾いて仕方がない。ほのかに線香の匂いがし全体を見渡す。最後の記憶では道路で大の字になった記憶があったのだが、白と黒のツートンカラーで彩られた部屋、正面には大量の白いユリが飾られていた「純潔」「威厳」が花言葉の供花が。

 

「んん……ここは、葬式か?」

 

 体を起こし立ち上がる。制服はボロボロ、おもに腹部の部分が綺麗サッパリ無いのだが体に傷は無い。まゆ辺りが治癒魔法でもかけたのだろう。しばらく疲れなどでボーッとしていると扉の向こうからピョコンとキュゥべえが出てきた。敵意は無いし、魔王はとりあえず話してみる事にした。

 

「やぁ、起きたね? マスター」

「だから魔王だと……まぁいい、お陰さんでな? ぼちぼちと言った所だ。で、現状はどうなった」

「はい、恭介さんのお父様がいらして、とりあえず暴走は押さえられました。その後、私とキュゥべえさんのアームズでの融合。そうしたらこの様な場所に……」

 

 キュゥべえと一緒に見回りをしてきて戻って来た仁美はゆっくり後に続ける、大きな写真には活発な青みがかった少女が、その墓標の名簿を見る――『美樹 さやか』と書かれていた。魔王はつい冗談に笑ってしまった。

 

「杏子の勉強会で疲れ死んだか? ひゃははは」

「魔王さん!」

「はいはい、分かってるって。ほむらの時もそうだったが、既に起きた“過去の出来事”だと思っていた――だが違う、だろ? キュゥべえ」

「うん、そうだね。どうやら僕達は“平行世界”へ来たらしい……しかも『未来』のね」

 

 そう言ったキュゥべえは何処と無くご機嫌だった。尻尾を仕切りに振り、早くその力を試したい様にも見えた。

 

「ほんと、しかし皮肉なものだよ。全てを失ってから『半永久回路(エレメントアームズ)』を手に入れられるとは……」

「ま、世の中そんなもんさ。欲しければ欲しい程手に入らず、要らないと感じた瞬間からアッサリ手に入るもの――だな」

「まどかさんも? ですのね」

「ぐッ!? 痛い所を突くな、仁美」

 

 魔法少女は皆いじわるでワガママな奴が大急ぎだ。と、魔王は心の中で思って、同時にキリカもそうだったがなんで『まどかが欲しい』とバレているのか不思議だった。何度も自分の顔を触る。

 

(顔か、ヤハリ顔に出ているのか??)

「ふふっ」

 

 仁美の小悪魔的な笑いに「実は一番まずい事をしてしまった」のではないか? と一瞬魔王は思った。だがすぐに頭を切り替えて現状打破を考えた。理由は分かる『上条 恭介』、己が半身が先程から声が聞こえない。恐らく“この世界”のどこかにいるのは確実している。

 日付は4月の中盤も過ぎ、あと一日か二日か或いは今日中か……もう少しで『ワルプルギス』がやって来る。本来の時間より二週間も早くなっている時点でキュゥべえの推測は当たっているだろう。

 さやかの死亡の原因は不明だが恐らく魔女化、なぜならばスマホのラジオモードから“4月12日から行方不明”と“ホテルで無傷の死体”と報道されている。その日付はとっくに過ぎていて今の日付は4月13日。傷もグリーフシード化したならば魔法少女ではないから肉体も関係ない。

 本来の世界では今頃、杏子とテストで悪戦苦闘しているだろう……真面目にやっていれば、の話しだが。魔王は「うぜー、恭介テメーのせいだからな」と心で溜め息をしミッションを開始させる。

 

「じゃあ僕は仁美と先行するよ。多分この世界には“二人の僕達”がいると思うけど、僕は他の個体とリンクが途切れているからサーチされ無いし、僕からは全体感知マップで行動がまるわかりだから大丈夫、本当にアームズさまさまだよぉ♪」

《キュゥべえさん、私にアームズをくださった時の魔王さんと同じ事言ってる……》

《む……》

 

 念話から仁美の手厳しい指摘、魔王もこの同類に返す言葉も見当たらずただ黙るしかなかった。

 

 

 

 

 さっそく行動を開始、スマホで大嵐との危険空域注意報が有ったので、めぼしい所は避難場である我が学舎の見滝原中学校と言う事で即効突入。人々が込み合っている中で道中仁美達と別れ散策、ガラス張りの2年の教室も、音楽室も、職員室にもいない。ついでに体育館のロッカーで制服の忘れモノが有ったので拝借した。鹿目家の一家は見えたがまどかは居なかった。結局進展が無いので念話を一本入れる。

 

《Yo-Yo-元気かYo-》

《何やってるんだよ。マスターは》

《いや、だって暇だから》

《ハァ……で、なんだい?》

《そっちは? 因みにコッチはブッブー》

《同じだよ。一旦合流しよう》

 

 屋上にて、と勝手に切れてしまった。自慢のシルバーアームをポケットに突っ込みながら一足先に向かう事にする。階段を一つ一つ登る、ここは自分がいない世界、数多ある『もしも』の可能性の一つにしてアノ記憶の螺旋の断片。間違いなく糞な未来しか思い付かなかった。

 結果としてさやかは死んでいたのだから、他の奴等はどうしているのか、ヤハリくたばったのか、それとも魔法少女になりまだ魔女と戦い続けているのか。たった“俺”と言う破片が無いだけでこうも変わるのか。

 様々な可能性を考えたが、ほむらを思い出した。奴も望まない未来を切り捨て過去にすがり続けた。まぁそれも一挙など自己完結し、屋上の扉を開けた。

 

「チッ、パターン過ぎだろ」

 

 見慣れたテラスの空間で黒い髪を風に靡かせる『暁美 ほむら』が町を見下ろしていた。毒づく魔王は知るか、といった感じでドカドカ歩いて近くの椅子に座ってふんぞり返る。気づいたほむらはこちらを見る。

 

「上条 恭介、何故貴方がここに? 避難警告は聞いていないの?」

「アアン! 何で俺様がテメーに命令されなきゃならんのよ。馬鹿か、死ね」

 

 いきなり罵倒された、この世界のほむらは不思議なモノを見る目で見た。つい先日『美樹 さやか』の葬式では信じられないものを見た顔つきで泣き、仁美を選んだ当然の報いだ……と心の中で思っていたのだが、今の彼はその事を忘れているどころか別人のようだった。

 

「でよー話変わるが“魔法少女”になった存在って誰よ? マミと杏子は確定しているから、後はまどかだけか? 仁美は100パーねーし。さやかは死んだし」

「な!?」

 

 相変わらずの爆弾宣言、何も知らないで“希望”を叶えてもらい、さやかもろとも杏子を戦死させている筈の彼が何故、もし本来の世界のほむらがいたら「そのヒヨコの様にうるさい唇を閉じないと、鉛玉をお見舞いするわ」とか言ってきそうである。あだ名はモチロン『暗殺少女ごるご★マギカ』。

 

「プッ」

「な、何がおかしいの!!」

 

 つい新ネタを別世界の本人に重ねて笑ってしまった。これは危ないと、強引に顔を締め直す。警戒心むき出しのほむらに魔王は悟る。

 

「あーあー今ので確定か、残りはまどかだけね。で、キュゥべえは何処よ?」

「何処まで知っているの……」

 

 貴方は何者、その言葉はこちらのキュゥべえの念話に書き消された。魔王のみに聞こえる様に設定された念話からの情報だと、この世界のキュゥべえがそそのかして“まどか”を魔法少女にするらしい、同時に騒音が鳴り響く。それは動物園……いやサーカスのパレードを連想するものだった。絵本に書いたような象やライオン、馬車にピエロが行進している。地鳴りがこちらに響いて来た。繰り返される絶望、ほむらの嘆きを無視し冷々淡々とキュゥべえは続ける。

 

「そんな、来るにはまだ早すぎる……」

《どうする? 目的は“上条 恭介”の発見及び捕獲だけど》

「type9、行き掛けの駄賃だ。ヤレ」

 

 親指を立てて首切りのジェスチャーで命令、キュゥべえはその言葉を了承し進軍。たった二人と一匹の軍団は侵略を開始した。魔女の尖兵に光る閃光の剣がシャワーの様に降り注いだ。与えられた力は『エレメントホーリーアームズ』、聖なる刃の名は“イグニートジャベリン”。

 キュゥべえに負の感情のリスクは効かない、それどころかソレ自体をエネルギーとして来た存在、遠慮なくその力を発揮する事が出来る。

 魔法少女を絶望のドン底に叩き落としたシステム、まさか自分が使用して相性は抜群とはキュゥべえにとっても嬉しい誤算だった。使えば使うだけエネルギーが勝手に増えていくのだから、笑いが止まらない。

 

《フッフッフッ、ハッハッハッ、ハーッハッハッハッ!!》

《って、俺の大好きなキャラの真似してんじゃねー!!》

 

 念話での全力突っ込み、危なく声を出してやろうとした。まだこの空気を壊す訳にはいかなかったからだ。振り返ったら当然の如くほむらは驚いていた、しかし魔王にとってはそれは些細な事、早速本題に入る。

 

「さっき言った事は全部忘れてくれ、それよりさっき“俺”を見なかったか?」

「…………え」

「え、じゃなくて俺だよ俺。記憶が飛んでしまったんだよ。“忘れ物”を取りに行かなきゃな? 何処だ」

 

 

 

 

 傍目八目、囲碁から生まれたことわざで、第三者のほうが、物事の是非得失を当事者以上に判断できるということ。体育館付近の通路にいると仁美が念話して来たので、ほむらとは「ごめんなさい、俺ちょっと用事思い出した」と言ってその場を強引に切り抜けた。

 

「すげぇ、俺天才だ。今なら博士号全部コンプ出来そうな勢いだ」

「馬鹿言ってないでほら早く、ワルプルギスはもうすぐだ!!」

 

 頭の上に乗ったキュゥべえと共に走る。仁美も後方から少し離れて走りながら全体確認をしてもらっている。リミットは『ワルプルギスの夜』が登場するまで、かなりキワドイ状況だがお目当てをようやく見つけた。この世界の恭介だ、どうやら一人でいるようだ。

 

「やぁ」

「え?」

 

 挨拶と同時に爪で切り裂く――鮮血が噴水のように実に綺麗で鮮やかで印象的だった。トッペルゲンガー、同じ自分が会ったら死ぬってのも変な感じだが兎に角これで目的は達成、さっさと自分に収納しようとしたとき『上条 恭介』の遺体は光に包まれた。

 すぐに光は消えたがこれは見覚えのあるモノだった『エレメントアームズ』、その物質は金色に輝いていた。グリーフシードがソウルジェムの変質体でエレメントアームズはそのコピーなら十分に可能性はあるのだが……その時外側の窓から逆さまになった大の魔女と対峙している魔法少女“だった存在”がいた。

 

「あぁ、なるほどそう言う事ね」

 

 直感的にこの光景を見せる為に未来へ飛ばされた、と理解できた。魔王はその人物を知っている。『鹿目 まどか』その姿は何時ものピンクをベースにしたフリフリの魔女ッ子ではなく、大人びたウェディングドレスに近い姿に、魔王が欲っして止まない原点が其処に有った。

 ヤハリ本能的に、そして推測に自分は間違っていなかった。彼女が魔法少女の最終型にして女神たるサードシフトの覚醒者、そして純粋に男として渇望した象徴だったのだから……。

 

「チッ、お楽しみには後に――か」

 

 エレメントゴールドアームズを強く握りしめたまま魔王達は光に包まれる――。

 

 

 

 

「俺と結婚してくれ、まどか」

「はぇ!?!?」

 

 元の時間軸、道路の真ん中で愛を叫ぶ。目覚めた魔王は実に早かった。伊達に何度も世界を股にかけて起床を繰り返してなく、今彼の手にはしっかりと愛しき人の両手が握られていた。魔王には勿論“あの”まどかと違うのも分かっているが、現在のまどかは必ず交差すると確信していて前のように半端をする気はない。手に入れる機会は間違いなくこの4月の最後――“ワルプルギス”の召喚まで。

 直接見て気づいた。あれはただの魔女ではなく『リセット』を行う存在だと、何者かが用意した“まどかを女神化にするため”のシステム、何かしらのミスがあれば“暁美 ほむら”が時間飛翔(リセットボタン)をして繰り返す。

 この事は恐らくキュゥべえも知らない、アイツはあくまでも端末に過ぎないのだから。

 故に今回の未来も無かった事にされているはずだ、現在のほむらを見ても魔王の介入を知ってる感じはない。十中八九その記録は消されてるのは見て取れる。“魔王”が基板となるこの『円環の理』、その『輪廻の果て』でまどかが希望も絶望をも超越した存在になるその時まで……。

 

「何だ? 信じられないのか? では証明してやる」

「な、ん……」

 

 面倒だから強行策をする。何か言おうとしたまどかだったが強引に手を引かれ口づけで喋れなくした。一秒二秒と経過し十秒程なってもノーリアクションだったので魔王は興味本意に少し目を開けて見てみる。

 そこには顔をイチゴのように真っ赤っかにしているまどかが必至に目をつぶっていた。そんな彼女を見ていたら急にアホらしくなって開放、何度も息をするまどか、魔王は一つ溜め息をした。

 

「所詮、中学生か」

「あ……」

「あん?」

「貴方ねえーーーーー!!」

 

 他の魔法少女よりいち早く正気に戻ったほむらが先陣を切って喋った、つーかキレ出した。魔王は別世界の「ごるご★マギカ」を思い出してついまた笑ってしまっう。

 

「ククク……」

「な、何がおかしいの!!」

(同じ事言ってるッ)

 

 笑いをこらえていたが、ぬぅっと目の前に和服の親父が表れた。忘れていた、真っ青になりながら顔を見上げとすごくご機嫌な顔をしていた。

 

「フフフ……それでこそ、それでこそ我が上条家の跡取りよ。お前の半身は軟弱者だったがソレぐらい強欲でなくて何が魔王か、その調子で唯我独尊を――」

 

 最後まで言おうとしてたら急に騒音が、パタラララとプロペラを回して空中移動出来る現代の乗り物、カラーリングは金色。

 

(このオッサン、ヘリをチャーターしやがった)

 

 垂れ下がるはしごに捕まり高笑いしながら退場していく己の親に、行きもこれで来たのだろうと思もった。同時に一気に疲れも溢れ帰った。

 

「…………疲れた」

「えぇ、今日は見逃してあげるわ」

 

 ほむらも声に張りが無く、他の面々も半分目が死んでいた。色々あったがとまれかくまれ解散する事になった。魔王はふと一つ気になる事が。

 

「そう言えば、あの二人はどうしたんだろ?」

 

 

 

 

 魔王は気になると言う名目で上条家を脱走した。間違いなく“総帥”がいるからだ、長期出張だったのに突然帰ってきたから逃げようと決意したのだ。

 織莉子は話しをしたいらしくキリカも当然付き合う。まゆは疲れ果てて、キリカにおんぶされながら帰って行った。ほむらは目を回したまどかと仁美を肩車で担ぎタクシーを呼んだ。乗り込む時の彼女の瞳は「コロス」と言ってるのが目に見えて分かった。ちなみにキュゥべえも連れてかれ「タスケテ」とアイコンタクトで言っていたが死にたくないから無視した。

 ――で、杏子のお家はマミと同じホテルであり、お泊まり駄賃として、まゆと同じく眠っているなぎさを運ばされるハメになった。

 

「オッシャ! 終わっ……た~!」

「うんうん、これでテストも問題ない――って、ありり?」

「何だよ、全部合ってるだろ!!」

「コレ、ずれてる」

「…………あ」

 

 着いたので早速扉を開けてみると杏子が魂を吐き出していた。真っ赤の髪が真っ白になっていた杏子にさやかは顔をペチペチ叩くが等分戻ってきそうも無い。マミはマイペースになぎさを奥へ連れて行き布団へ運んだ。

 

「あえて言おう、アホだろ」

「!!!!」

 

 本来ならば慰めるべきシーンなのだが彼は魔王、容赦ないトドメの一撃をさした。『殺れる時に殺れ』、コレが全ての悪党の鉄則である。杏子は泣きながら体育座りで“のの字”を書いた。反撃されると思っていた魔王は杏子の意外な一面につい“面白い”と思ってしまった。さやかも教え子? にこんな酷い仕打ちをしている片想いの片方をにらめつけた。

 

「あーはいはい、じゃあジャンクフードでも買いますか。近くは時間的に閉まってますから、電車で行くからなー」

「え~、あたしもぉ?」

「……ハァ、奢る」

「やったー! じゃねじゃね最近のリメイクされた“ラ・ピッツァ”に出てるエピマヨが――」

 

 煩くなりそうだったので、さっさとホテルをあとにする魔王だった。

 

 

 

 

「この糞野郎……ッ」

「ふー食った食った」

 

 太陽が完全に落ちた帰りの電車で魔王は嘆く、ジャンクは袋一杯に買えたのだが財布の中身を“さやかのピザ”でほとんどすっ飛ばされてしまった。確かに旨かったがおかわりをされるとは見通しが甘かった。引き返すにも注文を勝手にされてしまい、払わざれる負えなかった。

 

「俺ってほんとバカ」

 

 上機嫌のさやかの隣で魔王は着くまでふて寝する事にした。何時でも起きれるように意識は保っていたが、流石に今日は疲れたのかウトウトしてしまう。そんな時、前の黒服の男二人組の話しが聞こえる。

 

「稼いだ金はきっちり貢がせないと、女ってバカだからさぁ……」

 

 魔王はさやかの肩によしかかる。少し甘い匂いがした、ような気がした。さやかも緊張していて背筋をピーンと伸ばす。「緊張? 恭介じゃないのにあり得ない」と心の中で思う。

 

「犬か何かだと思って躾けないとダメっすよね?」

 

 スースー寝息を立ててる横顔がどこか子供とか仔犬っぽかった。恭介の方も入院中に寝顔は何度か見た事があったが、あっちはどちらと言うと物静かで凛々しい、同じ顔なのに全く別人に見えた。

 

「油断するとすぐ籍入れたいだの言い出すからねー」

 

 彼は決して誰も愛さない、自分は罪人だと理解しているからだ。恭介はさやかも仁美も見ずバイオリンの事ばかり考えていた――気がする。ここ最近は変わりつつあったが、それでも“恋”より“壁”を選んでいた。

 

「捨てる時がホント、ウザイっすよねぇ……」

 

 でも優しい、恭介も魔王も。「わたしはどっちの彼が好きなんだろう」と考える。恭介はきっと自分の道を極めてからではないとコッチを振り向かない。魔王は見てくれる、でも何処かはぐらかす感じはあった。勿論『恋人』とか『結婚』何てモノをするか? と聞けば二つ返事でYESと返ってきそう。それでも私だけを特別扱いはしない。皆としそう、わりと本当に。

 二つの心を持った少年は光と闇、決して相容れない鑑合わせのような彼。グレーがかった前髪が少し揺れる。近い……気がしたような感じもした。口元が少し熱かった……気もした。

 

「って、ストーップ!!」

「先輩やっちゃたっすよー! 近頃のJCパネェっすよー!」

「ふがっ!?」

 

 魔王はいつの間に眠っていたのだろう? と言う感じの顔で起きた。隣のさやかは光の無い瞳孔をしていて「アレ、もしかしてピザが足りないのか?」とか明後日の方向で思考回路をフル回転していた。そこで気付く、もう一つの可能性……それは『魔女化』願いも叶えてないし、ソウルジェムもぜんぜん濁っていない。だが魔王は知っている。

 ――あの未来だ、十二分に考えられる。負の連鎖は引っ張られるモノ、次元を超え犯されるのを……。

 

(さやかをこの手で殺す? ふざけるな、ふざけるなよ“元凶”。貴様がその愚かな幻想を抱くならば――もろともコロシテヤルヨ)

 

 まだ寝ぼけている魔王、目の前のホスト二人組にマジモンの殺気を飛ばした。どす黒く禍々しいまでの憎悪と言う波動を辺り一面に放つ、魔王の威名は伊達ではなく魔術とは無縁の耐性が無い一般人乗客達が次々と倒れたいった。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!? タンマタンマ!!」

 

 さやかはとっさに止めに入る。さっきとはうって変わって別人のようにRPGのラスボスオーラ全開で出しまくってる片想いの人、キリカ達の時もそうだったが結構危ない人なんじゃないかな? とかなり心配した。

 

「はぇ? さやかじゃん、どったの??」

 

 さやかを見た瞬間、凄く腑抜けた声を出した。魔王の頭には大量のクエスチョンマーク、さやかは溜め息が勝手に出た。ブレーキが効かない訳ではないが、容赦ない、許さない、遠慮ない、のないない尽くしで“ワルプルギス”が出る前に見滝原が破壊される所だった。

 

「な、何コイツは!? お前の知り合いか!!」

「いやいやいや! こんなヤバさMAXの奴ら知らないっすよー!!」

 

 魔王は少し驚く、まだ半ボケしているが“アレ”に耐えうる耐性、もしくは精神がある事に。一歩近づくと知的眼鏡系チャラ男が「や、やんのかコラー! この見滝原の夜王たる俺等“ホスト七星”をナメんなよぉッ!!」と虚勢を張っていた。こんなダセー名前の奴等が七人も、と思いつつ眠りを邪魔したから一発シメようとした。

 だが、それとは別にさやかは落ち着かせる為に手が魔王のを掴む。と、同時に魔王のポッケでずっとうんともすんとも言わなかったアームズ化した恭介が光出した。

 

「え、え、え~~~!?」

「まーたーかーよー」

 

 驚くさやかの声をバックに魔王のクセに「労働者基準法に違反している!」と内心で訴えながら、本日二度目の飛翔をした――。

 

 

 

 

 さっきと同じ夜の電車に大の字で倒れていた。魔王はおかしいと思った、またどっかに飛ばされると覚悟していたのだが、凄く拍子抜けした。

 

「ちょっとー! お、も、い~~」

「お、さやかか? これはすまん」

 

 魔王の体重が下敷きになっているさやかに全部乗っかっていた。素直に謝る魔王はさっさと立ち上がる。パンパンとホコリを払い辺りを見る。特にコレと言ったものは無い。そんな時、隣の車両から声が聞こえた。

 

「稼いだ金はきっちり貢がせないと、女ってバカだからさぁ……」

「犬とか何かだと思って躾けないとダメっすよね?」

「油断するとすぐ箱入れたいだの言い出すからねー」

「捨てる時がホント、ウザイっすよねぇ……」

 

 どっかで聴いたような実にお馬鹿な話しをしているこの声は、さっきの『ホスト七星』と名乗った二人組。大麻でもやっているのか同じ内容をもう一度喋っている。自慢話しはそれしか無いのかと思う魔王だった。

 

「あっあたし、あんなアホは切る」

「まーそれが普通なんだが俺と恭介は?」

「そ、そんなの魔王に決まっているじゃん!!」

 

 さやかのあからさまな反応に「えー何ソレー」と、ベタベタ過ぎの展開もツマラナイから『魔王(弁護人)』は『さかや(被告)』に真実を叩きつけた突き付ける事にした。

 

「…………寝顔にキス」

「~~~~~~ッ!?」

 

 杏子に引き続き実に“面白い”と思う魔王。顔を赤くしたさやかは“必ずやこの悪魔に天罰を下してやる”と心、奥底で逆裁を誓う。

 

「ねぇ、その女の人の話……聞かせてよ」

 

 さやかの声が聞こえた。ただし“隣の車両”から、魔王は今日の日付をスマホで見ると『4月12日』……“さやかが絶望に染まる日”だった。魔王はこちらのさやかを見えないように抱きしめ、ついでに耳を銀の両手で塞ぐ。恋人の素振りをして隣の様子を観察する。

 

「お嬢ちゃん中学生? 夜更かしは良くないぞ?」

 

 事情をなにも知らない彼等は優しく言う。やっている事は最低だが仮にもホストのトップランナー、女の射止める扱いには自信を持っている。しかし今の『美樹 さやか』の絶望までは止はまらない。

 

「その女の人、あんたの事が大事で喜ばせたくて頑張ったんでしょ? なのに犬と同じなの? あいがとうって言わないの? 役に立たなきゃ捨てちゃうの?」

 

 この世界ではどうやら失恋したらしい、魔王は更に腕の中のさやかをキツくし、「フン、男としても音楽家としてもこの世界の恭介は落第点だな」と感想を抱く。

 

「何コイツ……知り合い?」

「いや……」

 

 あ~あ黙ってりゃ良いのに、と魔王はこのストーリーのエンディングを最後まで見る。映画館ではその場面、場面での流れのようなモノが有り、よくある事を『何故にやるのか?』とすると『そうしないと物語か動かないから』だからである。この状況ではこの後は必然的にこうなる。

 

「ねぇ、世界って守る価値あるの?」

 

 青空色のソウルジェムは黒く濁り偏食していた。

 

「あたし何の為に戦ってたの?」

 

 体から噴出する魔女独特のオーラ、それらが撒き散らされる。

 

「教えてよ、今すぐあんたが教えてよ」

 

 魔法少女の姿、本来のキュゥべえが待ち望む姿にもうすぐなる。

 

――でないとあたし、どうにかなっちゃうよ?――

 

 ガタンガタンと電車が走る。少ししてから次の駅前へついた、“さやか”は自分の剣で『赤い線路』を引きながら降りていった……。

 

「ふぅご愁傷様、ってアレ?」

「――――ッ」

 

 空気でも吸えなかったのか? などと仮説を立てながら離してみると、コチラのさやかはぷるぷる震えていた。

 

「あんたねぇ……」

「閉まってしまう。俺達も降りるぞ」

「あ、ちょっと待ちなさぁーい!!」

 

 ――本当に“魔王(おれ)”と言う存在だけで、こうも変わるんだな? と、思った。



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第6話

 願い、それは夢、未来を夢見る子供なら誰もがする出来事であり、本来叶えられない己の身の丈以上の願望。そして人生の終着駅、親から子へ贈られる祝福か受け継がれる血の業か、どちらにしても確実に“ソレ”は受け継がれる。降り積もる雪の如し、何層にも何層にも世代を重ねても消え失せる事はない。

 ソウルジェム、美しさを放つ宝石のような魂、数多ある平行世界で積み重ねられた“絶望”と言う願い。魔法少女の嘆きは果てしなくグルグルと永遠に続きサーカスのように躍り回る。決して止まらないピエロのダンスパフォーマンス、それもようやく終わる。

 ――フォートシルバー、永遠に楔打つ光と言われたその銀の色に込められた願いにまだ彼は知らない、知らなかった。これからが本番であり真実と呼ばれる“記憶(メモリー)”を見つけるまでは……。

 

 

 

 

 夜、チカチカと蛍光灯が光る駅前の100円自販機で魔王はホットコーヒーをのむ、無論ブラックなのだが気付け薬で飲むためゲロマズと答え、チョコがあれば問題なかったと言っていた。さやかはコンソメをチョイス、寒さが残るこの季節には身に染みる。見回りしていた駅員に顔を見られて驚かれた時には、魔王はチラリとさやかを見てその用途に頷き「さっきのは妹です」と息ピッタリで即答した。ちなみホスト七星は救急車に運ばれました。

 

「と、言う訳で当然、残念なさかやを追います」

「何となく分かったけど……平行世界とは言え本人の前で言うのはどうかとー」

 

 『望みが叶った者(さやか)』と『叶わなかった者(さやか)』、見えない未来と知っている過去が入り交じる現在ではどちらが幸せなのだろうか、相反する二つの“希望と絶望(エネルギー)”は何を生むのか……とにも魔王のスケジュールは決まっており、一度キュゥべえの反応があったまどかの家に行こうと言い出した。どうしても確かめたい事があるらしい。

 あせる気持ちを抑えさっさと飲み干し、ジュース缶を専用ゴミ箱に突っ込んで来た道を逆送した――。

 

 

 

 

 思ったより時間がかかった。すっかり夜中になり時刻は7時を切る。『鹿目家』と立てられた看板の前に魔王とさやかはいる。そう言えば第一回反省会以来だなー、何てしみじみしているとさやかが先程から気になる事を聞いてみた。

 

「で、まどかの家に着いたけどどうするの?」

「はい、復習ですね? さっきも言いましたが、用が有るのはキュゥべえくんだけです。分かっていると思いますが……さやかくんはここまですね?」

「えーでもー」

「えーじゃありません」

 

 何処から出したか『銀パチ先生』と書かれたプレートを胸に付け、当たり前と魔王は言う。この世界のさやかは恐らく魔女化は確定しているし、魔王は『上条 恭介』の暗証コードがなければ蘇生は不可能。本来死者を現世に降臨させるのはしないつもりだったのだが、余りのあんまりな結末についやってしまったと思っている。後悔、は無いがキュゥべえを含めた俺達『インベーダーズ』のせいだからと結論している。

 記憶はまだ無い、恭介と融合する前の記憶がゴッソリ抜け落ちている。あの杏子を追いかけた時の最初の魔女結界にて、キュゥべえからインストールした“99%”のせいだろ。ブラックボックスの“1%”が解析出来なかった。きっとそこに『俺の記憶』があり恐らくこれが最終目的なのだろう。

 今は一歩づつ前に進んで行くしかない……魔王は一呼吸をし庭から侵入、音を立てずにまどかの部屋の前に、点灯していない薄暗く、哀しみに満ちた少女の世界から憎しみのこもった声が聞こえる。

 

 

 

 

 この次元列のまどかの憎しみによる絶叫が部屋一杯に木霊する。しかし、あくまでも電話対応でもしているようなキュゥべえの声、だが突然の第三者の蓬来にて書き消された。

 

「何が得な取り引きなの!? あんまりだよ!」

「僕たちはあくまでも君たちの合意をえて行動しているんだけどね?」

「あなたに騙されただけじゃない!!」

 

――確かにな、そりゃ詐欺だろうぜ。もう少しアフターサービスしとかないと顧客……逃げるぜ?――

 

 台詞は決まっていた魔王だったが、窓口からよじ登っている途中ですごくカッコ悪い登場、静かに外から見ていたさやかにも「馬鹿」と言われていた。魔王は呆けるまどかに「頼む、さっさと引っ張れこの野郎!」と言いあわててに引っ張り上げられる。サンキュ、と魔王は言い次には疲れたから水をくれと厚かましさ全開でまどかに強要してきた。目をぱちくりする桃色寝間着姿のまどか。

 

「えっと、恭介くん?」

「なんだい君は……」

「ケケケ、世界をまたぐキュゥべえ様に知らない事が有ったとは……この魔王、勉強不足でした」

 

 まどかはまだ足も満足に歩けなく“願い”で両腕を治してもらったハズの部分が機械的な物になっているのが不思議だった。そんな彼はおでこをペチンと叩き、昔ながらのケチな商売人風に挑発する。しかしキュゥべえは機械的に問いかける。

 

「一般人、しかも男性の人間に僕の姿が見えるなんて……」

「俺もだぜ、まさか無料でエントロピー講座をやっているとはな……」

 

 一瞬、部屋が静まり返りまどかはあたふたしていた。二分三分膠着状態だった――このままじゃ進まないので、やれやれと言った感じで魔王から先手を切り込む。

 

「チッ、その疑問は『ほむら』にでも聞け、何か分かるだろうよ。こっちの質問はただ一つ、お前の名前は“9から来ているのか”?」

「暁美 ほむら? うん……何故、彼女が出るのかは後にして僕の名前は“Incubator”だよ」

 

 そうか、と言った魔王は急に笑い出す。オカシクテ、オカシクテ、タマラナイ――そんな感じで。今のキュゥべえは分からないが、“本来”の彼をよく知るまどかさえ唖然としていた。魔王は少ししてから落ち着きキュゥべえの方を向く、ソコには聖人の様に優しい顔があった。ありがとう、とお礼をすると言いながら平行世界の同類に腹を銀色の腕で刺す。

 

「いきなり酷いな? 僕は死なない、だいたいコレのどこが“お礼”なんだい? わけがわからないよ」

「あーん? 冗談、コレからあげるのさ」

 

 新たに出現した背後にいるキュゥべえに魔王は答える……魔王は安心しろと言って元キュゥべえだったモノを突き刺したまま『type1』たる象徴のアームズ、銀色に発光に秘めたるその“悪意”を解き放つ――。

 

 

 

 

「な、なんだこりゃ……」

 

 杏子は目を丸くし動揺を隠せないでいた。さやか救出前に公園で腹ごしらえをしていたら、突然空から大量のキュゥべえが落ちてきたのだ。冬の季節は終わり、もうすぐ夏に入るこの季節で場違いの雪が降る。

 

《ゲヒャハハハハハ! まるでゴミの様な光景だなぁオイ! 折角だからウィルスの試し撃ちしたらよぉやっぱこーなったかぁ~、ホント次からは気を付けなきゃあな!!》

「誰だテメー!!」

 

 知らない人間、しかも“男”が念話をしてきた。間違いなく異常な事が起こっている事が理解できたが、内容が想定不能、計測不可能な状態の中に実行犯がそのナゾに介入してくる。

 

《俺かぁ? うーんと“さやかが魔女化”した原因の一端、一番のな》

「原因……っつー事はさやかをフッたのはお前かぁ!!」

《グッド、この世界では中々の切れ者の様だな。次は“テスト欄”をズラさないよう気を付けるんだな?》

 

 全く詫び入れの無い恭介――のそぶりをする魔王。杏子は当然堪忍袋の尾が切れる。当たり前だ、気にかけていた、この世界での“仲間”を無用の長物の様に扱かい魔女化を決定付けてしまったのだから……魔法少女に変身した杏子は憎悪の瞳で槍を振り回す。

 

「どこにいる! 今すぐに突き殺してやる!!」

《鹿目 まどかさんのご自宅、さやかの友達の家さ。殺せるモノなら殺してみるんだなぁ……まぁ、お友達が“どうなるか”は知らないが》

「このぉゲス野郎おおおおおッ!!」

《ククク、ハハハ、アーッハッハッハッ!!》

 

 まさに外道、杏子の感情を糧に最高に愉悦を堪能している魔王。杏子はやり場の無い悲しみを大声で泣き叫んだ。こんな奴が生き残り、小さな幸せさえも棄ててしまった彼女は、絶望を撒き散らす“厄災”に成り果てしまっている。涙を流しながら地面を何度も叩いた。

 

《アーッハッハッハッあぱぁん!?》

《このバカチン!!》

《コ、コレは……コンソメの、缶??》

 

 その状態を楽しみ、悦楽者の笑い声の主は“ありえない人物”によって塞がれた。呆ける杏子に変わり、まどかがその人物の名前を言う。

 

《さ、さ、さやかちゃん!?》

《死んだと思った? 残念! さやかちゃんは無敵でした!!》

 

 

 

 

 鹿目家、まどかの部屋中で魔王は正座をしていた。いや、させられていた。頭にはタンコブがモチの様にぷくーっと膨れていた。無言で仁王立ちをしているの“さやか(青鬼)”に魔王はささやかな反論をする。

 

「でもよー、さっちゃん。オラ魔王だよ? 人に不幸を与えないとイメージ的にやばいよ?」

「でももへったくれもない! 人として超えてはいけない一線てのはあるの!!」

 

 きゅ~ん、と叱られた犬の様に落ち込む魔王。まどかも杏子も全く状況が掴めていない。死ぬ事が確定した人間と何も知らない人間が、まるでずっと前からやっているようなこの雰囲気を――。

 

「腕立て伏せ100回!!」

「あーんまーりだぁー」

 

 腕立てを強要された魔王は泣く泣く実行。敵は身内にあり、とはよく言ったものである。少なくとも向かい風の悪い流れを変えるため杏子に話しをする。

 

「はっはっはっ、さっきっはっはっ、悪るノリはっはっ、してはっはっ」

「……止めされろ」

「はい、止め」

「ありがとうだワン」

 

 さやかの命令で止まる魔王、彼にはプライドは無く面白ければそれでいいと言った風習がある。一呼吸してからキリリと凛々しい顔立ちで髪をかきあげ空に舞う汗がキラッと光る。

 

「ああ……汗をかいた俺って、U・TU・KU・SI・I……」

「……本当に突き殺す」

「あ、あーはいはい、分かったっつーの杏子ちゃん。そのチクチクやめーや」

 

 からかい過ぎてしまって殺気が本気だった杏子の槍先を向けられる。今度はヤベッと心の冷や汗をし、魔王はようやく本当の話しをする。

 

 

 

 

「つまり、平行世界から来たって事?」

「Yes、本来ならば予定をクリアしたら、さっさとオサバラする予定だったんだがね」

「マミさんも生き還ったしね?」

「え!?」

「おーっと、先に“生き還った”ではなく“引き上げた”ね」

 

 さやかの言葉に驚くまどか、さらに即行で魔王は返した。その微妙なニュアンスはさやかも「ん?」と思わせたが魔王はそのまま続ける。

 

「まーそれは置いといて、これからの予定はおぼろ気ながら見えた。さやかを“シフター”にする」

 

 そう言って白き悪魔はキュゥべえの死体そっちのけで窓から飛び降りていった。早く来いと外で叫ぶ魔王に、魔法少女二人とまだ覚醒していないこの世界のまどかは眉をひそめて外に出る支度をした。

 歩きながら語る。自分の世界を、その構図を、全てを言う事はしないが最も気になる事は『希望と絶望を知った二人のさやか』である。恐らくこの世界に来たのは幸せ絶頂のさやかに、補完的に絶望を知って魔女化――いや“魔女使い(セカンドシフター)”になる為だと魔王は推測している。

 魔法少女の“ファーストシフト”、魔女を“セカンドシフト”、女神を“サードシフト”と定めた時……既に見えていたのだ。ファーストは希望をエネルギーに、セカンドは絶望をエネルギーに、そして恐らくは女神化の条件はそのどちらも知る場合のみ覚醒出来るのだと。

 実にシンプル、実に分かりやすいと魔王は思う。だが普通の条件下ではなされない。本来なら精神がエネルギーに耐えきれず崩壊する恐れてしまうのだが『アノ時のまどか』はキュゥべえに願い+αで“その同時”をクリアするモノをしたのだろう。だが、恐らくソレは強引なやり方であり正攻法ではないのだ……。

 

「正攻法、正攻法ね……何だろ? まさか、愛?」

 

 んなアホなと思う魔王はまどかを見るしかめっ面で、魔法少女だろうが何だろうが理由がある。それが解れば今すぐにでも女神化は可能だろうと推測する。どこだ、どこにソレが隠されている? 魔王はなめまくる様に足先から太もも、胴体に胸、首に唇に髪の毛まで見たくった。

 

「がっ!?」

 

 頭に衝撃が走る。また同じ所にタンコブが出来て鏡餅みたいになっている。気づくとまどか涙目になり怯えてさやかの後ろに隠れた。

 

「ふぇ~ん」

「あ、あんたまどかに何て事を……ッ!!」

「何って……真実への探求が好きだからです」

(へ、変態だーーー!!)

 

 この世界の杏子の口元をトランプのダイヤさせ新たな絶望感を与えた。上条家にはマトモな人間はいないのか? 答えは『きっといない』のであるだろう。異性より音楽を優先させる恭介、恋愛さえも研究材料にする魔王、派手ならば何でも良い久臣。

 何処からか「お父様ぁー」と悲しそうに聞こえたが気のせいである、きっと。

 

 

 

 

 魔王はようやく本筋に意気込み結界の門を開く、だがソコには望まぬ先客が待ち受けて愕然とする。

 

「マスターピンチだヒントが欲しい、セレクトボタンを押してくれ」

 

 この世界のさやかが魔女になった結界の中でキュゥべえに出会った。この世界の侵略者達は先程、魔王が“つい”皆殺しにしてしまった。

 なぜ自分達のキュゥべえだと分かるかと言うと、仁美から「私も他の魔女少女みたいな変身が欲しいですわ」と要望があり洋風の『ガントレット』か和風の『籠手』をセレクト出来るようアップデードしたからだ。アームズなだけに腕に関係するモノをチョイス。

 更に一種のブースト属性を付加、ガントレットには『どこでもキャンセル』、全ての魔法を途中で中断し別の魔法で連続出来るシステム。籠手には『スーパーキャンセル』を、魔法から詠唱無しに大魔法を使用可能と言うモノ。

 このアイデアは前の平行世界に行った時、キュゥべえが魔法を連射していた時のインスピレーションから生まれたモノである。

 そんな結構な功績のある白きガントレットを装着した白き侵略者は、ほむらに猟師で獲物を捕らえられたウサギの如く、耳をむずんと握られていた。

 

(何でアイツ、メタルっぽいスニーキング的なコスプレしているんだ?)

「暁美 ほむらに捕らえられたこの時間帯、僕はずっと侵略を取り上げられていた……」

(勝手に語り出すし)

 

 魔王はなかば切りの無いツッコミに半分諦めかかった。その時、第三の来訪者がその内容に口添えする。

 

「それは、私が帰って来たほむらさんと一緒に足りなくなった調味料を買いに電車に乗りに行ったから」

 

 魔王から射程100M、キュゥべえからの情報でアームズが反応して巻き込まれた、と言う本来の世界のマミ。当然まどかは驚く、どちらの世界でも一度死んでいるのだが“邪神”により再誕――いや回収された存在だ。

 

「フン、これでメインキャストは一通り。か」

 

 魔王がキメている前でキュゥべえが手足をバタつかせて騒ぎ出す。自由になりたいなりたいと、半分はマスターのせいだとしつこく繰り返す元詐欺師。

 

「早く助けてくれよマスター! 本当に色々と……!」

「黙りなさい」

「マ、マミッ! ティロフィナーレを撃ち込めぇ! 僕は魔法少女ばかり作成していたが、それでも自分の意志で行動していた……ちなみに今朝の朝食、サラダバー!!」

「うぜー、放したれほむら」

 

 魔王に結局は色々と恩が有るほむらは、仕方なしといった感じで放す。キュゥべえVer.輪廻の果て――正式名は『invader type9』で魔王の血統を引く、アームズを手に入れてからますます感情が豊になり、何処と無く魔王に似て来た気がする。

 

「えーっとアレが?」

「うん、こっちの世界のキュゥべえ……」

 

 まどかの質問に力無くさやかは答え「アレ? 何このデジャヴ」と一瞬戸惑った。瞬間、扉が連続的に開き魔女の間に来る。オーケストラの演奏と共に在りし過去に思い出に耽る哀しみの一人の人魚がいた。

 

「ホラよ、出番だぜ?」

「判っているって!」

 

 そう言うさやかであるが、魔王は一度彼女の瞳を見る。そのサファイアの宝石のように決してブレない硬い信念が宿っているが、もし砕け散ってしまった場合、目の前の結果以上の悲劇が訪れるのではないのか? 意識とは無関係に本音が声に出していた。

 

「…………あー、イヤなら止めろ。俺とは違ってお前は――」

「大丈夫って言っているでしょ? これは文字通りわたしの問題だから」

「それは俺とは無関係の自分の意志か?」

「モチのロン♪」

 

 少し沈黙が続き口を開けて「好きにやれ」と魔王は戦闘体勢に入る。この世界のまどかと杏子にキュゥべえを配置、さやかをセンターに置きほむら&マミのダブルガンナーでグループを組んだ。

 ようやく自由の身になったキュゥべえの方は、まとかの肩に乗って前足で顔をかく猫科特有の仕草をした。見た目はウサギとネズミのヌイグルミみたいな感じではあるが……。

 

「あの……本当にキュゥべえなの?」

「見ての通り僕はキュゥべえ、ただし君達と知っているのとは大分違うけどね」

「さっき一杯、空から落ちてきて……」

「やっぱり、魔法少女は僕がいないと生まれない。だから補完的に呼ばれたのか」

 

 まどかがそう言うとキュゥべえはクスクスと笑い出した。別とは言え自分が殺されたのに笑うキュゥべえに、まどかも杏子も“やっぱり同じ”と思うとキュゥべえの口から意外な言葉が出た。

 

「マスター……あぁ、この世界では恭介と言った方が分かるかな? きっと“まどかを取られて嫉妬”したんだよ」

「し、嫉妬ぉ!?」

「そうだよ杏子、マスターはああ見えて結構純情なんだよ」

《よけいな事を言うな! 貴様も消すぞ!!》

 

 魔王から念話で脅しが入る。だがそれこそキュゥべえの本領発揮、聞いてもいないのに止めずに真実を言う。この瞬間からキュゥべえは対話による『騙し屋』から個人情報を丸裸にする『サイバー犯罪』に現代的ジョブチェンジをした。どちらにしても、ろくでもない。

 

「それで、僕達の世界でキスもしたんだ」

「な!?」

《ちょっと、どういう事なの? 聞いてない》

《あーあーあー、それはな本日付で立て続けにしたのよ》

《って事は、あたしは二番目……》

《わぁー! 絶望に染まっちゃらめぇ!!》

 

 この世界の魔女化したさやかが連動して魔王(恭介)を重点的に攻撃をし始める。まどかは「わたしのせいで、さやかちゃんが魔女に……」と言って暗くなり、杏子は「やっぱり、あの時突き殺すべきだった」と自分の得物を強く握ったりしていた。

 お前らなぁ! と余所見していると、人魚の魔女の攻撃がチョットだけカスってしまった。ほんの少し怪我の内にも入らない傷ず。皆は心配してくれたが魔王は別の事を心配した。

 ――ゴールドアームズが無い、目当ての物は少し離れた足元に、すぐに見つけ取りに行こうとしたら別の誰かに拾われた。その顔に魔王は驚く、本来の筋書きにはいない人物。

 

「な、何にいいいいいいい!?」

「君か? 僕をここへ呼んだのは……」

 

 顔を上げた人物はこの世界の『上条 恭介』だった――。

 

 

 

 

 今より少し前、恭介は仁美と別れ学校にいた。まだ少しバイオリンを引いていたかったからだ、腕はある、あるのだがさっきからモヤモヤしていて全く演奏に集中出来ないでいた。

 仁美から告白されたが少し待ってくれと、やはり心の整理は付けたかった。それにさやかの事も……どちらを好きになるにしても一度会いたかった。そんな気がした。気が付けば街の住民街を歩いていた。

 

「ハァ、馬鹿」

 

 一瞬さやかの姿が見えた。が、見失ってしまった、近くにいるハズ。そう思い走った、あてもなくしゃにむにになりながら。

 

「はぁはぁ……そうだ次見かけたら、ちゃんとお礼言わなきゃCDの」

 

 そう言ったら空からたくさんの“ヌイグルミ”が降ってきた。その何処か幻想めいてる光景は始めて見るハズなのに、確かに何処か、そう何処かで見た気がした。

 

《この世界の僕》

 

 突然頭の中から声が聞こえた、知っている、これは“僕自身の声”だ。

 

《僕は彼に憧れていた。このままでもいいかな? とも思った。でも駄目なんだ、彼と……もう一人の僕なんだから彼と同じにならなきゃ!!》

 

 言っている意味が判らなかった。でも理解は出来る、これこそが“僕の追い求めていた事”なんだと。

 

「わかる、わかるよ僕! バイオリンも僕だけどそれだけじゃない! 僕はなりたい!」

《なら言う通りについておいで、道は僕が教える》

 

 言われるまま恭介は歩く、右に左に真っ直ぐに……そして不思議な扉の前に立つ。何でだろ? 全く知らないのに当たり前のように出来る。さっき“僕”が言っていた“彼”に関係しているのか、きっとそれはこの先に行けば分かる。

 入るとそこは落書きのような空間で、ユラユラと揺らめいていた。歩きながら“僕”は語る。

 

《大丈夫、彼が通った後だから心配は無いよ》

「それより僕は何をすればいいの?」

《簡単、宝石を取ればいい。それだけで開くよ》

「開く?」

《そう、(きみ)は『始まりの螺旋』だからね》

 

 また知らない言葉が出た。“僕”はこの姿になって分かったと、ようやく彼と対等に成れると言った。きっと僕もなりたい物はそれなんだと感じた。

 5分か10分か、扉が見える。“僕”は「もしこの先に行くのがイヤなら……」と言いかけたが、拒絶した。始めて“自分から望んだ事”なのだから――。

 

 

 

 

 黄金に光る絶望の結界の中で魔王は舌打ちした、これが恭介がやりたかった事なのだと、まさかこんな方で自分から離れるとは思わなかった。最初はさやかの覚醒が理由だと思っただが足りなかった。違ったのではない、『上条 恭介』も覚醒するのだった。

 強さが、光が溢れる時よく知る声が聞こえた。ゴールドアームズを展開した恭介だ。まるで自分の文字通り半身、似て非なる所か同一人物。

 

――モードエクシード……確認、さぁ始めようこの螺旋街道を!!――

 

 全ての世界が金色に染まる。原点に帰る。魔王はカンだったが「それでは繰返し」だと気付く。あの“ほむらの記憶”を見たから、魔王も咆哮した。

 

――モードシンクロ……確認、なめんな! テメーの想いごと!!――

 

 上書きされるようにアームズが銀色に輝く、熱く、激しく、いつのまにかまだ持ち主が確定していないエレメントアームズが展開される。黄のサンダー、青のアイス、紫のヒュドラ、そして黒のシャドー。

 そんな中に一つの影がキュゥべえを黒っぽくしたような奴が現れた。

 

「オッス、オイラはジュゥべえ。ようやくオイラのマスターが覚醒したよ、でもソッチと同じだと見分けがつかないな……」

「……ハァ、やっぱりと言った感じか? つまり“俺と恭介”それに“キュゥべえとジュゥべえ”は対等な存在」

「ハハ、さすが1番目! そうだ、上条 恭介は『invader type2』! そして“チェーンゴールドアームズ”すべてを拘束する力の所有者!!」

 

 ジュゥべえの言葉に気になる点が、魔王は少しでも自分の記憶に関する事を引き出そうとする。

 

「エレメントじゃねぇのか?」

「だぜ、ソウルジェムやエレメントアームズは所詮コピー、ちなみに魔王のは“フォートシルバーアームズ”だってさ♪」

 

 こんな状況なのに魔王は何処かワクワクしていた。なぜか知らないが、ずっと待ち望む世界がようやく出来た。心の中で思えて仕方がなかった。

 

「さぁ! 古くも新しい、新世界の誕生だ!!」

 

 ジュゥべえの声を皮切りに光が一瞬にして闇に、そして次第に世界が見えてきた。どうやら魔女の結界があった場所だ。他の魔法少女も倒れていたが息はある。

 まどかが最初に目覚めてこちらを向く、まだ別世界なのか? と思うと顔をイチゴのように赤くした。

 

「ま、ま、魔王くんと……キス……」

 

 キュ~と効果音が付きそうな感じでまどかは倒れた。おかしいこの世界ではまだまどかと“そんな事”していないと、そう頭の中で迷走していると今度は杏子が叫んだ。

 

「あ、あ、あとテストまで二日ああああ!!」

「ま、まさか……」

 

 魔王は急いでスマホを見る。時間は『4月12日』ではなく本来の時間軸の次の日、『4月14日』と記録されていた。どこから遠くで「また、学校でね?」と恭介の声が聞こえた……。



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第7話

 痛み、それは生きる証、生への渇望。母親が子を産み出す時からソレは既に始まり、幼児期、少年期、青年期、大人へと様々な虐め屈辱や体罰、理不尽な状況でも堪え忍び経験とし糧とし未来へ繋がる道しるべとする。

 だがその痛みに耐え兼ね、引きこもりや薬、果てには自殺を行う者まで出る。生をその身に宿した時、既に試練は始まっているのである。諦めない心が、夢に突き進む信念が、進化と成りて自身を成長させていく。

 絶望に染まった回り続ける『円理の理』、そして全ての初動『始まりの螺旋』、見えぬ先を終わらせる『輪廻の果て』三層に別れた分岐点が、全ての平行世界が、繋がる時物語は完結する。

 

 

 

 

 名を魔王城、古からの闇が渦巻く世界を凪ぎ払う為に一人の少女が疾走する。通路を照すランプが蒼く揺らめき光がと届かぬ暗黒の道しるべと、しかし失った友達の想いをソウルジェムに込めてマイロードを産み出す。

 

「はあああああ!! ビームッニーキックゥゥ!!」

 

 深紅のレッグアーマーからの三槍が白き悪魔に向かう。『佐倉 杏子』過ぎ去った過去の出会い、そして思い出、彼女から託された力を今! 解き放つ!

 

「まだ判らないのかい? 全ネットワーキングで接続している僕を殺しても無数のスペアボディがあるって」

 

 キュゥべえは死ぬ事は、無い。だがそれが命取りだった、もう少し相手に用心を心得ていればもっと違った結果だったのだろう。『巴 マミ』それに『暁美 ほむら』らが解析したデータを元に完成させた対インベーダー用の切り札。

 

「こ、これは!? まさかウィルスを完成していたなんてッ!!」

 

 苦しみ出す白き悪魔、打ち込まれた楔は全てのネットワークを破壊しつくす。そう全てを……彼女は目をそらさない、振り向かない、ただ前を向き歩み続ける。キュゥべえはゆっくりとその奥へと進む魔法少女の姿を見続けた。

 そして別の視線があった。通路から配置されたカメラを通して部屋で監視をする3つの影、その内二人は侵入者と同じ魔法少女、そしてキュゥべえと同じ姿の黒き刺客が口を開ける。

 

「キュゥべえがヤられたようだぜ? 織莉子、キリカ」

 

 無数のテレビ画面から様々な映像が流れ出る。どの場所でもキュゥべえ“だった”存在が横たわる。織莉子と呼ばれた少女は一つテーブルのカップを一口、次なる一手を考える。

 

「分かっているわ。ジュゥべえ……彼は四天王の中でも最弱……全く、これでスケジュールを新しくしなければならない」

「たった一人にヤられるなんて正に恥だね♪ “あのお方”はこのままお通ししろだって」

 

 隣に座っていたキリカの言葉通り、まどかを写された画像は『魔王の間』と書かれた。その先にはまどかは元同級生であり、仲間であった人物が待つ。

 

 

 

 

 重たい扉を力一杯押す、少しづつ開き光りが指し大間へ。奥から入る虹色の光はステンドガラスの光、何もない殺風景の部屋は王たる孤独な有り様を示すかのよう。中心に大きい椅子に座る者、名を“上条 恭介”。

 

「……貴方が本当に恭介くんなの?」

「フム、確かに俺様が恭介だ……が」

 

 ――思う付しがあるように、恭介と言われた器を乗っ取った魔王は静かに語る。

 

「実はな、俺様を倒すには六つの『エレメントアームズ』を集めないといけない――と思われているが本当は別にそんな事も無く、普通にぶん殴れば倒せる」

「私からも言いうよ。実は私は貴方の事がまだ好かどうか分からないから、仁美ちゃんとさやかちゃんとは別にドロドロの恋愛劇にはならないからね?」

「ウグッ……そ、そうか」

 

 お互いにもはや言葉は不要、後は拳と拳をまじ合わせるのみ。魔王は真っ白なマントを剥ぎ取り天へと投げる。魔力により瞳は白く光り、銀色の義手を握り開きを繰返し力加減を確認。

 

「私の新しい“進化(魔法)”を見せてあげる……」

 

 まどかも深紅の一回りも二回りも大きいな腕『タイタスアームズ』を転回、ピンクカラーの魔力がリング状態に成り開放する。心の中で「さやかちゃん、仁美ちゃん、ごめんね?」と呟き迷いを振り払う。

 お互いの瞳に相手の顔が写る。信念があり、果たすべき願いを強く秘めていた。決して譲らない、もう後戻りも出来ない、それでもいつかまた別の世界があればその時は――まどかは紅蓮の軌跡を残し疾走する。

 

「ビームゥラリアットおぉぉぉぉぉ!!」

「さあ来いッ、鹿目 まどかぁぁぁ!!」

 

 たとえ、この白き魔王を倒してもまだ残りの四天王達が暗躍している。それでもまどかは信じる。魔法が、奇跡が、世界を救うと願って……スピリットアームズのご愛読ありがとうございましたーー。

 

 

 

 

 目覚まし時計と鳴り響きまどかは目を覚ます。スゴく汗だくに成り息が荒い、濡れていた枕に視線をやると下から本が一冊が出た。『アームズマスターマオウ』、イメージが凄く濃厚に出き見覚えのあるタイトルがソコに有った。

 こんな事をする人物、いや存在をまどかは知っている。棚に並ぶクマやカッパのヌイグルミに紛れてチョコンといた。尻尾をフリフリ可愛く振っている地球外生命体、キュゥべえである。そのつぶらな瞳が合った時ボソッと一言いってきた。

 

「……まそっぷ」

「わ……」

 

――私の希望は消えないんだからーー!!――

 

 部屋の外から「まどかー! うるさいよー!」と母、詢子の声が聞こえる。兎に角まどかは顔を洗いに起きる。一刻も早くいこの嫌な汗をぬぐいたかった。洗面所で顔を洗いながらリボンを選ぶ、キャリアウーマンたる詢子も「仕事ばの上司がしっかりしていれば……全く」など愚痴りながら仕度を済ませる。

 手探りで探しモノをしているようだったから、まどかも渡そうと手拭いを探すが見つからない。何時もなら用意しているのに、忘れたのかな? なんて思っていたら後ろからよく知っている声がし詢子は「アラどうも」と探しモノを取った。

 

「ヒャ!?」

「まどか、仮にも客人で恩人にその反応はどうなのよ? 後よ、まどかに似合うリボンは俄然……赤だな」

「お、分かる?」

「勿論ッスよぉ。やっぱりハデハデでモテモテッスからね!」

「ははッ! イケるねぇ君は~」

 

 ハッハッハッ、と魔王と詢子は並んで笑う。まどかは“凄くおかしい”と思う、何故かよく分からないが絶対に違う、間違っていると断言出来た。魔王、彼のせいで少しづつ侵食されているのが分かった、無論ドリフ的な変な方向で。

 なお、何故魔王がここにいるかと言うと杏子以外全員ぶっ倒れていたので、最初ほむらがしていたの時同様にタクシーを呼び運んだからである。まどか、さやか、杏子にマミ更にほむらもいて魔王含めると六人。お掛けで二台も呼ぶはめになった。

 そして、魔王の財布が無くなり仕方がなく近くのATMでおろした。魔王は泣きそうになったそうな……。

 

 

 

 

「えーっと、魔王くんだったねーー魔法?」

「はい、知久さん。本当は“感情増幅返還装置”なんてメカメカしい名前だったりしますが、まぁ便宜上は」

「へー……で、コレで使えるわけ」

「そうッス詢子さん、コレはコピー品で『エレメントアームズ』現存する奴の更にコピー……と言ってもわけワカメですね?」

 

 こんがりトーストに半熟目玉焼き、そして千切りキャベツなどオードソックスにしてご機嫌な朝御飯を頂戴しながら、魔王な大まかな内容を話し三つの色が付いていない無色のアームズを出す。

 因みにコレ等は上条家が総帥、恭介達の父親が使用していたイミテーション、言うなれば『アームズレプリカ』。ファイアの仁美、キュゥべえのホーリー、そしてシャドーを強奪していったジュゥべえが所有しているのがプロトタイプの『アームズオリジン』。

 当然レプリカだから平行世界へ行けないし、魔王とFテイルズ(合体)も出来ない。それでも強力な事には変わらない、贋作が本物に劣ると誰が決めた? 実際に暴走状態とは言え恭介を制圧したのだから、結局は使用者に左右されると言う事ーー魔王は話しを続ける。

 

「とにかく、まどかが何かを隠している事を知りたそうな顔をしていました……からな?」

「うん」

「おーけーおーけー、ではコレ等を差し上げます」

 

 まどかの了承を得た魔王はアッサリその魔石を鹿目家に献上してしまった。詢子は少し驚いた。

 

「え? いいの?」

「はいッス、“自分の身は自分で守れ”が家訓ッスから」

「うん? もしかして『上条コネクション』とか知っている?」

「はい、自分は上条の人間です一応」

 

 そう魔王が言うと詢子は手をつかんできた。エプロン姿の夫、知久氏は長年で判っていたが、魔王とまどかは驚いた。因みに次男坊のタツヤはキュゥべえと一緒に御飯を食べている。

 

「貴方、まどかと結婚しなさい!」

「はぁ!?」

 

 唐突な提案、と言うか何処から出したのか『婚約届』なんてものを魔王の前に見せる。仮にもまだ中学生である魔王達にやる行為ではない。二子の母にしてキャリアウーマンたる詢子は破願の笑みでわらい出した。

 

「フフフ、この手があった! 玉の輿、玉の輿しよ!! これで一瞬にして会社の社長に!!」

「それは政略結婚ッス!!」

「あら、まどかはこんなに可愛いのにーー嫌なの」

「いやいや、そんな凄まれても。だいたいカンで分かると思いますが自分外道ッスよ?」

「別に他の人とも結婚しようが、好きになろうが問題無いじゃない。貴方、仮にも魔王なのでしょう?」

 

 ぐぅの根も言えない魔王はまどかを見た、が首を横に振られてしまった。退路は無い、魔王は泣く泣く鹿目の許嫁にさせられてしまった。情けない、凄く情けない闇の王の威厳はまるでなかった。

 

「はい、キュゥべえあーん」

「あーん」

「おいしい?」

「うん、人間のお袋の味ってのもわかって来たよ」

 

 どの世界よりも一番マスコットらしい姿の最凶最低最悪の騙し屋、改めサイバー犯罪者のキュゥべえがタツヤと共にのほほんとしていた。自分の主人を見捨てるのは流石、魔王の使い魔の事だけはある。そしてタツヤもこれが日常茶飯事か全く動じてない、将来が楽しみである。

 なんにしても、この悪い流れを変える為には自分で動くしなかない。王は常に孤高、ならばーーと魔王は決意を振り絞り行動する。

 

「……あ、親父ッじゃなかった総帥ですか? うんうん、鹿目さんち……うん、で婚約……え? 良くやった?? いいのかカンパニー乗っ取られても!? は? “上に立つ者は有能な人材ならばどんな野心家でも利用する”しかも、それを格言に新たに追加って……おーい! もっしもーし!!」

 

 魔王は電話の向こうの相手に勝手に切られた。恐る恐るまどかママを見ると、そこには菩薩のような温かな微笑みがあった。《逃げちゃいなよ、逃げちゃいなよ》と頭の中に念話でキュゥべえが囁く。

 

「本気でバラしたろうか? ワレ」

 

 たが魔王はそれが不利益で無駄だという事もわかっている。伊達にキュゥべえのマスターをやっていない、実に計算された行動と同時に人間としては最低の行い。

 とにかく成ってしまったのは仕方がなくさっさと食事を済ませる。既に時刻は朝“七時四十分”を切り学校へ行く時間になる。トーストを口に強引に入れ牛乳で流し込む。

 

「チッ、タイマーがやべぇな……まどか、俺は先に出る」

「わ! わ! 私も!!」

 

 バタバタと魔王とまどか、後ろから「いってらっしゃい」と聞こえた。開く玄関からは春のそよ風が流れていた……。

 

 

 

 

 まどかは冷や汗をかく。重圧した空気が張り付く2年の教室、魔王は恭介と並んで座る。同じ顔、同じ声、同じ背丈、違うとしたら腕の金か銀の色と性格あと髪型。恭介はソフトに仕上がっているがオールバックに成っている。なんでもコレが御家代々伝わる習わし、父親である久臣もワックスでガチガチのオールバックで登場していた時もその髪型だった事を魔王は思い出した。脱走は正しかったのである。

 だか、それとは別に異様な空気が充満していた。他の生徒達も興味津々しで見ていたが、学園物あるまじき状態にドキドキである。むろんヤバい方向で。

 

「婚約者……ってお前、普通この流れだったらさ、俺が『なぜ裏切ったんだ!』とか言って、お前が『僕が僕である為に君は邪魔なんだ』とかなんとかでラストバトルのがお約束だろーがよ」

「ソッチだって今日キリカとデートなんだろ? 僕が暴走した時に“俺一日無料券”とか言って墓穴、掘ったらしいじゃないか。まどかとはどうするつもりなんだよ。その辺はハッキリとね」

「貴様……」

「……なに」

 

 ピリッと辺り一面のガラスの壁が揺れる。金銀コンビに対なるモノクロツインズの付き人? が宥める。

 

「マスター、落ち着きなよ」

「ミスター、そうだぜー?」

 

 止めに入るには入るのだが、「ま、この辺で妥当だろ」といった感じで解決させる気はゼロ。ちなみにジュゥべえのいった“ミスター”とは恭介の事で『type2』と『まの次』のダブルネーミングである。

 ともかく、今後の事を色々と考えていた魔王はこの挑発に全部飛んでいきぶちギレた。教室を飛び出しマミ、織莉子、キリカのいる3年へ。学校で噂の片割れが突貫をかけてきた。

 

「オルァ! キリカいるかぁ!!」

「おー魔王ー♪ む……どうしたの」

「デート、しろ」

 

 やらかした、キャアアアと言う女性陣とおおおおと言う男性陣、魔王は知らないが誰が一番最初にゴールインするか話題に成っていたりする。で、そのつどの出来事を給食とかのオカズやゲーセン、カラオケの支払い等の賭け事の対象にされていた。

 因みに一番人気“美樹 さやか”、二番目に“鹿目 まどか”が上がっている。コレは魔王の場合で恭介は仁美の声などが上がっているが、やっぱり魔王の方が面白いらしい。

 だが恭介も変わって行く、その問題となる“婚約者”とやらは呉 キリカの親友……『美国 織莉子』。この世界の彼女の父にして上条・コネクショントップ、久臣が“父親になる”の条件を突き付けてきた。「仮に私の娘であるならば、私と同じ立場になってもらおうか。嫌ならば出ていくがいい」と。

 つまりその身は“美国の人間”では無く“上条の人間”そう言っているのだ。邪魔者は消す、だから病院に入院になった恭介に対して放置していたーー生きる気力の無き者、困難に足掻こうとしなき者、それらはどんな悪行よりも最も重き罪人である。

 なお、まゆやキリカは恭介達の知人で更に『平行世界から来た』だから問題無いとの事。面白いと思った、ただそれだけで他に何もしない。後は死ぬまで自由に生きろ、結局は彼も人の親だったりするのである。

 

「いいけど~」

「フン、織莉子が気になるかって感じか?」

 

 よこ目で隣の織莉子を見る。その話題の本人はいたって冷静で何者にも動じない、といった態度で座っていた。まだ知り合って間もないが“何か変”と思ってとりあえず突っついてみた。

 

「織莉子さん」

「はい」

「ぜんぜん見てもらえなかっただろ」

「!!!!」

 

 ブラフ、魔王はこんな時はそれっぽい事言えば勝手に相手が崩れると何かの探偵ドラマを思い出した。同時に織莉子が生粋の『ファザコン』である事が判明した。彼女をよく知るキリカも「あの死ぬ事さえ微動だにしない織莉子が一発ノックアウトとは~」と後日語っていた。

 魔王は初めて出会った時のようにパックリと三日月の口をして、相手の望む言葉を囁く。

 

「ククク、なぁ~に簡単だよぉ……親父は結局面白ければいいんだ。ただしそれは親父に対して“こうなって欲しいのだろう”と思う事はダメ」

 

 魔王は目を白く爛々と輝かせ、耳元で少しづつ少しづつ、ゆっくりと織莉子を洗脳するかのように。ヤサシクヤサシク、助言をした。

 

「あーまず、婚約は破棄せずウンと言って上条家の人間になる。次に親父から『総帥』の座を引きずり下ろす。当然絶対出来ないがー。

“フン、私の娘を名乗るにしてはまあまあだな”、と言わせればこちらのモノ。それと、何かしらの『欲望』を持つことだぁね」

 

 言っている事は正しい、正しいのだがどっかの『サイバー犯罪者』みたいだなぁとキリカは思った。まどか達と共にいたインベーダーの白い方は「へくちッ」とその姿に相応の愛くるしくクシャミをしていた。

 ーーあと少しで堕ちる。確信した魔王はシメの仕上げに入ろうとしたその時、背後から殺気を感じた。あり得ない、今“この場”を支配している環境で動ける者など……。

 振り向くと、そこにはその立てカールが特徴の黄なる魔銃使いにして織莉子、キリカと同じ3年のお姉さん系魔法少女『巴 マミ』がいた。魔王は舌打ちをする、先程確認したはずなのになぜ? と疑問視する。

 

「フフ、後ろ取っちゃったわね♪」

「いつ、ここに」

「貴方と同時に入ったの。ただしもう一つの扉から」

 

 迂闊、学校の教室は黒板側と掃除ロッカー側の前後にある。当然、最新鋭で出来ているガラス貼りこの学校も同じコンセプトで出来ていた。一秒、苦悩する時間を経て魔王は分の悪い交渉を開始する。

 

「……何が用件だ」

「ん~じゃあ、私と“デート”とか?」

「ダニィ!?」

「はいそこまで、んーダメダメ先着順だよぉ?」

 

 何時のまに取って来たのか、教室によくあるデカイ黒板用三角定規で魔王とマミの間を裂くする。別に無くても最新液晶パネルなのでデータを入れれば、勝手に図式は表示されるのだが奇妙な話し、つまりこれも俗にいう学校の七不思議である。マミは光無き瞳てキリカを見つめる。

 

「ーー邪魔」

「してるの」

(恐ええよ!!)

 

 魔王は現状で打破するキーは織莉子しかいない、と彼女を見るが「うんうん、やっぱりお父様は上にいるお方、流石です」とブツブツ言って没頭していた。やはり先に潰しておけばよかったと後悔しているが、時間も無い。退路、退路、退路、思い付くべき事をシミュレートしていく。

 見える、頭に新人類的な光が走り気配を感じたその先を見る……恭介が廊下からこちらを見ていた。そして無言で去る時に彼は背中で言っていた。

 

『――――ついて来れるか』

 

 魔王は気づく、俺はバカだった何を悩むのか闇の者は闇らしくいるべきだと。別に出来ない事ではない、難しい事でもない、そう取るべき行動はただ一つ。その道は初めてからそれに特化していた覇道回廊ーー。

 

「ハッ! 冗談……テメーの方がついて来い!!」

 

 

 

 

 放課後、魔王は和風カフェにいる、障子や畳みなど日本古来の和風テイストが光る世界。あーだこーだ考えるのは止めてノリで現状打破にする事にした。スケジュールはやはりゲーセンやショッピング、映画鑑賞が妥当と『初心者でもわかるABCーデート編ー』にてチェック、出版は上条コネクション……今気付いたら結構スポンサーや何やらやっているんだなぁーと魔王は思った。

 

「ちょっとーデートなんだから、そんな本閉まってよー」

「へいへい、分かりましたよっと」

 

 キリカの言葉に愚痴りながら攻略本をしまう。魔王はイチゴ桜餅を食べる、ベースはよくあるイチゴ大福なのだが桜の独特な薫りとソレを崩さないギリギリのラインの塩加減が絶妙で「ほぅ」と唸らせた。

 キリカは抹茶オレを頼んだのだが、更にドバドバと角砂糖を投入。魔王はプロレスのパイルドライバーの如くいい気分から一気に嫌な気分になった。

 

「キリカさん、下品ですよ」

「えー? 同年代なのに先輩面、止めてくれない?」

「あーはいはい、止めろ止めろ。マミもそうツンケンすんな」

「キリカさんに肩入れするのね……」

「やーい! フラれたー♪」

 

 魔王は「まさかこのまま一日させられるのか?」と始まったばかりなのに既に疲れていた。キリカは織莉子以外の魔法少女には余り仲良くしない、魔法少女になったのもその辺の“願い”のせいだろうか、チラリとテーブルの上にいる同胞に念話をする。

 

《type9、別同体とは言え貴様の後始末をしている》

《でも、この状況を招いたのはマスター……君自身だからね?》

 

 近頃食っちゃね食っちゃねばかりの家猫モドキが、並行世界同様ウィルスを注入しようと思った。隣の席では実に穏やかに茶をすすっていた。

 

「ふぅ……」

「やれやれ、似た者同士……と言う奴かな?」

「そうね、貴方とは性別抜きにして話せそう」

 

 織莉子の初めての話し相手、キリカだけしか心を許せる人がいなかったから驚いている。この世界の久臣が父親だからか、性格も似ている点があるのかも知れない。ある意味、恭介と織莉子は姉弟(きょうだい)なのだ。今は婚約者同士であるが。

 

「ミスター、ミスター」

「なんだい? ジュゥべえ」

「“魔獣”の反応がする」

 

 現在“インベーダーズ”の母艦システム管理者はジュゥべえ、そのシステムが勝手に『何処かの誰か』に使用されていると言われた。しかしピンチの時こそ急がず焦らない事を恭介は理解している、伊達に『type2』の看板は背負っていない。とにかく相方に話しをと後部座席を、見る。

 

「ほら、魔王が美味しいって」

「さぁ、遠慮せずたーんと食べてね♪」

 

 キリカとマミに強引に追加のイチゴ桜餅を投入されていた。魔王はガポガポ言いながら「いらない、こんなラブコメいらない」と軽く半分意識が飛んでいた。恭介はそんな有り様の“No.1”に一言。

 

「遊んでいないで、すぐに行くよ」

「ガーポ! ガポガガ!!(ねーよ! さっさと助けろ!!)」

「type9である僕が翻訳するね? えーっと『分かった! 残り完食したら!!』だって♪」

「ガポ~!?!?」

 

 ニコニコと言う白き悪鬼、織莉子も明らかに嘘八百なのは理解出来ていたが、キリカが喜んでいたので知らんぷりした。ジュゥべえは「オイラの分残してね」とマミに頼む。そして一番の被害者である魔王は意識が切れるまで胃袋に大量の餅を詰め込まれた。

 

 

 

 

「うぷっ……キメェ……」

「だらしがないなー、そんなんじゃ女の子をエスコートなんて無理だよ?」

「テメー等のせいだろうが!!」

 

 ご立腹の魔王は腹をさすりなながらキリカに怒鳴り付ける。反応は一つだが五人も団体で行けば目標が逃げる恐れるがあり、チームを二つに分けた。『チームシルバー』は魔王とマミそしてキリカ、『チームゴールド』は恭介と織莉子の二人だけだ。危険があれば即撤退してもいいと言う条件付けで行動している。

 今回のミッションはあくまでも調査、深追いは無意味だとtype9、10はコメントする。町の内部の裏路地だというのに静かだ、よく言う『嵐の前』って奴かな? なんて思っていたら前から一人の影が。どうやら誰かと戦っているようだ。

 

「先攻」

「あ! 魔王さん!?」

 

 マミが何か言ったが気にせず突入、苦戦している少女はショートヘアの先端がはねっ毛があり良くいる町中の女の子。同年代か? と全体を見ると腕に籠手が装着されていたーー『エレメントアームズレプリカ』。

 呆けた一瞬に魔王は敵対者から土手っ腹をもらってしまい、げはぁ、と全酸素が吐きだしたが胃袋からは出なかった。フィジカル的なダメージよりメンタル的なダメージは無事だった。レッドゾーン一歩手前だったが。

 

(闇の貴公子が女の前で下呂ったら、ホスト七星を馬鹿にできんからな)

 

 気を取り直して目標を補足、自分よりも大きいおおよそ5M強はあり騎士のようなアーマーを付ける。シールドもランスも完備、爪しか攻撃手段が無いのでは手のつけようもない。さて、このうざ過ぎる展開をどうしたものか、と考えているとマミとキリカがやって来た。

 

「はぁはぁ……」

「もー! 私より勝手な奴なんていないと思ったのにー!!」

「ズレてるズレてる、そこ違うだろ」

 

 息が荒いマミとは違いキリカは元気全開だった。同じ魔法少女でもステータスに差があるようで、特にキリカはピカ一、話しでは元の世界でもほむら達が束に張ってイーブンだったらしい。

 そんな時助けに入った“魔法少女”はキリカを見て驚いた。

 

「え? キリカ?」

「え……りか」

《えーと、キュゥべえ君。解説》

《コホンーー僭越ながら。名前は『間宮 えりか』元はキリカの友達だったけど昔、引っ越しが嫌で万引きしたらしい。で、キリカが止めに入ったのだけど誤ってその罪を擦り付けちゃった。

当然それが原因で関係が悪化、えりか自身も親の離婚とか何とかでストレスがあった。だけどどう見ても“タイミングが悪かった”としか言い様が無いね?》

 

 あいどーも、と『QB先生人生解説講座』の念話を修了させる。元の知識やら職業病とは言えプライバシーもへったくれも無いな? と魔王は思った。さっさと魔獣をやりたかったからキリカに近付く。

 

「悪いな、後悔は後回しにしてくれ」

「んむぅ!!」

 

 おもむろに接近した魔王はキリカの唇を奪う、しかもディープで。離れて見ていたキュゥべえは何となく分かったが、謝罪の言葉を考えていたえりかは呆然とし、マミは先を越されたと思った。

 十秒ほどに舌をくねらして堪能する。仮にも魔法少女限定元殺人鬼とは言え美少女なら尚更、満足した魔王は離すキリカとの間から一閃の蜘蛛の糸が引かれる。

 

「ふ~……よし!」

「よ、よし! じゃなぁーい!!」

 

 顔真っ赤にし息を荒くしているキリカから珍しくツッコミが入る。仮にも乙女の純情をこんな形で散らしたのだから、むろん魔王は無視「立ち直り早いな」と思いながらさっさと次の下準備に入る。これで準備は整ったのだから。

 

「接続は成功だーー我が欲望は、エントロピーさえも食らいつくした。さぁ、開放するがいい……その素晴らしき力をッ!!」

 

 天へ腕を伸ばし掴み取る、数多ある願望の果てを。

 

「射程内100M! 修正完了! 久々にいくぜぇ!!」

 

ーーシンクロ・F・テイルズッ!!ーー

 

 閃光は一瞬、暗闇は無限、鉄のコンクリートで固められた牢獄に罪人は降り立つ。魔王のフォートシルバー……銀の両腕からキリカと同じ魔力で出来ている爪牙が伸びていた。

 

『な、な、な、な!?』

「フム、思ったより問題無いな。あぁ一応言っておくがこの『結合された世界』では“コレ”がスタンダードだから」

《な、訳ないよ。全ての世界の記録でも『魔法少女と合体』なんて君だけだよ》

 

 腕内部で驚くキリカに魔王の冷静な解説、そして突き出しのキュゥべえ。本来なら“了承”をえたエレメントアームズオリジンでしか出来ないのだが、全ての並行世界が一つになってから普通に出来るようになったらしい。

 条件は上記の他に追加で『魔王の契約』ちなみに契約とは口付け、古来から魔術といてば“コレだ!”と魔王自身の偏見である。あと別にディープじゃなくてもいい。

 

「オルァ!!」

 

 射程が変幻自在、凝縮自由が利くたロングクロー。実にいいと魔王はしみじみ感じた。アーマーナイトのランスかわし、切り裂く衝動に感動しつつ攻めまくる。

 

「あれは、いったい」

「あぁ……私も……」

「あのぉ?」

「アッ! アハハ、こほん……えぇアレが彼なの」

 

 即席で“お姉さん”を作ったマミではあるが、なんかもう色々ダメである。もし、Fテイルズに“オブ”が付いたら、間違いなく巴 マミは新しく『天然』の称号を手に入れる事になるだろう。

 追い風の魔王は姿勢を低くし速攻を決める。

 

「遊びはーー」

『終わりだぁ!』

 

 アーマーナイト、“ファントムロード”は迎撃に向かうが当たらない。単純計算で魔王にキリカを足したようなもの、それが弾丸となるのだから無理もない。接近を許した時点で決着は着いている。

 

「なけ……」

『泣けぇ!』

「さ、さけ」

『叫べぇ!』

「そsーー」

『そしてぇぇぇ~』

 

ーー死ねええええええええ!!ーー

 

 沈黙、ターゲットを滅多切りにしたのは全部魔王……なのだが台詞を取られてしまった。まだ、見せていないのに変、おかしい、ストレスが結局解消出来なかった。

 

《あぁ、僕がキリカにマスターの好きなゲームを教えて上げておいたよ? 連係に相手の好みは重要事項だからね》

「よ、余計な事すんなよおおおおおおお!!」

 

 感謝してよね? と言うキュゥべえに絶叫した。魔王が絶望に染まるのも近いのかも知れないーー。



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第8話

 契約、それは約束の言葉、信じる者が行えば決して揺るがぬ誓いとなり、悪意ある者が行えば破滅への契約書となる。おとぎ話から神々からの使いや、悪魔降臨の儀式の生け贄、人間社会を構築するためにも契約は必要不可欠だ。

 やり方は実に簡単、誓いを立ててソコに名前を記入するだけ、だが馬鹿には出来ない。もし謝った選択を行えば、たったそれだけで多額借金の返済や他者の重罪のおっかぶり、はたまた影武者等に仕立てあげられる恐れもある。

 どんな些細な契約にもかならず信頼出来る人間、または事務所等に相談すべし。死にたくなければの話だがーー脱線したが『魔法少女』彼女らにも該当する事でもある。

 数ある可能性を模索せず安易な方法を取ってしまうのは愚か、しかし人間誰しも弱味を握られてしまうと頷いてしまう。だから決して非難罵倒は出来ない、出来るはずもない。もしその“間違った”選択をしても屈しない心があればもしかしたら、本当の奇跡にも出会えるのかもしれない……。

 

 

 

 

 自然の光が降り注ぐ世界と人工物の大地……相反する空間、闇の王に対峙するのは愚か者かそれとも勇敢なる戦士か。一人の男が合間見え空を裂き拳で未来を切り開く勇者はその名を上げる。彼は黒い制服をマントのように首にくくりつけて“番長”のような格好。

 

「中沢 かずま……いや、俺の魂の名は『昴 霧斗(すばる きりと)』だ!!」

「あーうぜー」

 

 魔王は率直に思う。キリカとFテイルズ(がったい)を行いアーマーナイトタイプの魔獣を消したら次は変なのが現れた。しかしこの中二臭い名前(実際中学生)は何処かで聞いた事がある、確か前にゲーセンでいった時に見たスコアのトップランカーだったはずだ。知る人が聞けば判る質問をしてみた。

 

「……くたばりぞこなったか」

「ーーッ!! てめぇの都合で生きちゃいねーよ」

「ほう」

「フッ」

 

 何か波長が合ったらしい、魔王は「時間があれば色々と話したいな」珍しくそう思う。しかし、かずま……いや霧斗も『エレメントアームズレプリカ』を装備品赤いガントレッド。

 構成はほぼ同じなのだがオリジンタイプは手から肩までにラインが入る近未来的に、レプリカはチューブでエネルギー供給をする。量産はやはりレトロ臭く、制作者の意向である。

 そんな彼に対して魔王は親しみを込めて「上条にいる魔王と言う者ですが」と言ったら急に怒りだした。

 

「俺に向かってそれを言うとは……魔王! 貴様は俺の敵だぁ!!」

 

  一応思い当たる事は一つ、せっかくなので彼のランクを落とした無論“上条 恭介”の名義で「それですか?」と聞いたらそれもあると。

 他に何か有ったか思い返すが全然記憶に無い。キリカの友人のえりかは言う。『プレイアデス聖団』という団体があり彼がそのリーダー、そして私達は『フォグ・スイーパー』ーー霧を掃う者だと。

 わざわざ相手のゲー名に合わせる事も無いだうに、と魔王は思う。律儀な人格の持ち主か、もしくはフォグ・スイーパーのリーダーもゲーマーなのかも知れない……。

 

「アリエネー」

「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねー!!」

 

 問答無用で殴りかかってきた。炎拳による攻撃、頬にヒリヒリと焼けつく……魔王も遠慮なく仕掛ける。斜め上、突き上げるようにキリカの魔爪で切り裂く。しかしとっさに腕を十字にクロス、傷跡は残したが防御をして耐えきった。

 

「っと、ヤバいヤバい」

「チッ……やっぱ知ってますか」

『え~? カッコ付けてないで、ジャンジャン攻めればいいじゃーん』

 

 シルバーアームズ内部のキリカの意見は最もなのだが、ゲーマーのレベルが同等クラスだとそうも言ってられない。ファーストアクションーー最初の一手をミスる事により、猛烈な反撃の洗礼を受けてしまう。こちらの切り札の突進型乱舞技『八稚女』は先程の魔獣戦で見せてしまったので種切れ、あとは相手に合わせたカウンターか奇襲などの新戦術を用いるしかない。

 イーブン、と言いたいがコッチはキリカと合身状態というチートなのに笑えない状態、魔王は“悪魔”でも作り手で使い手ではないのだ。何か無いのか? とキリカに尋ねると『速度停滞魔法』が使えると言われた、キュゥべえからも聞かなかったから悪いとタイミング良く言われた。

 

「んな事言われなくても、判ってるっつーの」

 

 己がミスは功績で取り返す。早速使用してみると魔王及びキリカ以外全ての時間が、その動作が、ビデオのスロー再生の如く流れる……勝った。しかしせっかく気の合う奴と出会ったのだから殺す気はなく、しばらく再起不能状態にしようと近づいた刹那、横から魔力の光弾が飛んできた。

 冷えきった脳髄は反射的にその弾丸を切り払う。視線は上へ……黒い大きなハットが特徴的な少女が立たずんでいた。手にもつ十字架のロッドをこちらに突き出してくる。

 

「お兄ちゃんを! やらせない!!」

「あーキメている所悪いのだが、下丸見え」

「え?」

 

 無かった、スカートが。その細い紐の様な下が丸出し、だが魔王たるもの女の身支度の時間に合わせる時もある決して仕掛けないジェントルメン。彼女が急ぎ掃きそして『take2』を発令。

 ――先程と同じ登場シーン、コンテナの上で魔法少女が木霊した。主に腹部が不調気味の魔王も吐き気を堪えて負けじと台詞の応戦する。

 

「お、お兄ちゃんを! やらせない!!」

「ならば貴様ら兄妹の鼻水を飲み尽くしてくれるわぁ!!」

「は?」

 

 ……意味不明、魔王は突然“わけわがらないよ”的な言葉を発っし眼前の魔法少女は困惑する。色々混乱している魔王(主に腹)はキュゥべえに騙されて、その助言をうのみにしてしまっていた。

 

《そうそう、で次は……》

「恭介が演奏する中、俺のアクロバティックな白鳥の湖を見て思いっきり引いた後は、バナナも一瞬で凍る氷風呂をくらいやがれぇ!!」

 

 踊り子と魔術師を足したような別の魔法少女の物語、この世界でも“おやじ”はいるが、腰のみによる北風に乗って来る踊りも無いし自分自身に似た剣を生み出す事も無い。

 ハッ、と我に帰った魔王は進行呼吸をし冷静、先程のカリを返してもらうよう目の前の少女に『take3』を要求した。

 ――改めてのカット、少女の瞳には魔王がそして魔王には少女しか映っていない。そう、これからは始まるであろう最後の戦い。

 

「お兄ちゃんを! 犯らせない!!」

「俺と接吻(けいやく)してFテイルズをやってよぉ!!」

「そこまでよ、止めなさい!!」

「え!?」

 

 『take4』は阻止されてしまった、何時の間にか停滞魔法は切れて気付くとマミが制止に入る。ほとんど線のような衣装の露出が高い魔法少女はなぜか驚き、少しやりすきたかな? と魔王も溜め息をした瞬間、胸が苦しくなった……これは記憶、記録、果てなき輪廻の歴史。

 ーー名称“中沢 かずみ”コードネーム『マレフィカファルス』の十三番目の試験体、死体の和紗ミチルに魔女を詰めたクローン。ミチルの記憶を投入すると魔女と対峙した場合、魔女化の記憶が目覚め暴走する危険がありこの十三体目には無い。

 この世界ではやり直された“十三回目”であり、全ての並行が連結しオリジナル、レプリカ共に“一つ”として完成してしまっている。

 固有能力は□□□□で持続時間が十三秒、しかし“魔女化(セカンドシフト)”になると十三体の自分を召還でき最大『発動時間百六十九秒』となる。そして彼女が最後にして『現在(いま)』を司る最新式の“invader type13”。

 

「かっ……はっ……!!」

 

 息がつまる、吐きそうになる、コレはーー目の前の魔法少女に“なった”人形を見る。分からない、といった表情の瞳の奥には無数の世界が広がっているような気がした。

 ――貴様が同胞とはな、ポツリと呟いた魔王は大方だがようやく分かった。この世界を構成しているカラクリ、そしてナゼこの世界で完結しているのか? と言う疑問に。

 こんなくそったれ野郎にマミや融合解除されたキリカが叫ぶ中、健気に思える魔王は笑みを浮かべながら意識が深く闇の中へといくのを感じた。

 

 

 

 

「むう……ここは?」

 

 布団の上で魔王は目を覚ます。一室のデザインそして下の畳みには見覚えがある、確か和風カフェ『味手道(みすどう)』最高の味を手に入れる道という謳い文句のこの店にいた……キュゥべえとの連絡は取れない、100M離れているらしく俗に言う圏外。並行世界、しかしこの世界は既に一つにまとめられているし、後の可能性は自身が飛ばされる事。一人喫茶店にいるのがその証拠である。

 ずっと考えても仕方がないので部屋から廊下へ、どうやら二階の仮眠室にいたらしく、木製の階段を降りて一階のフロアへ、まだ明るいのに人がいないのは可笑しい。だが来客用の別室からガヤガヤとしたので扉を開けると恭介がいた。知らない魔法少女と共に。

 

「た、助けて……」

 

 恭介は魔王に救いを願う。共にいる織莉子は何処から出したか自前の紅茶セットを飲んでいる、問題はその他の二人。帽子、アームカバー、メインドレスまで上から下まで黒、もうひとりは頭の後ににチャイニーズ的なリングをつくりソウルジェムが入ったアゲハ蝶型リボンから連なる紫をベースにしたドレスアップ。顔も悪くなくむしろ美しい方なのだが表情がどす黒い笑みをしていてどう見ても悪役。

 

「ボスケテーー!?」

 

 何かラスボス風の奴等が『上条 恭介』に集まってしまった。魔王はガチョーンとコマンドー風味に驚く。『チームゴールド』は魔王と同じくナイトタイプの魔獣とやり合ったらしい、ソウルジェムの破片もグリーフシードも無く発現したとジュゥべえは言う。

 内容は以下の通りーー問題なく戦闘も終了し、織莉子と相談し報告しようと念話を入れる直前、この魔法少女達が戦っていたそうだ。黒い方が『聖 カンナ』、そして紫が『日向 カガリ』。

 恭介は念話状態の織莉子に固有魔法で予測を頼む、おおよその能力が分かれば対処も容易いのは、魔王と共にいた時間は伊達ではない。接触支配と記憶操作、実にやっかいな能力だ……知らなければ。

 まず厄介な操作型(カガリ)を仕留める。獲物はブーメラン系統の武器チャクラム、そのリングの四方から出た刃ならば接近でもある程度の対応力はある。しかし刃物ならばコチラの本分、奇襲を掛けた恭介は走り風になる、交差ぎわで問答無用に持つチャクラムを叩き落とし追撃サマーを食らわした。

 立て続けに接触型(カンナ)にも仕掛ける。この世に新たに産み出された魔獣、魔法の糸で複数体を操るその姿はまさにパペットマスター……だが今回は相手が悪かった。使い魔のジュゥべえも助言する必要性が無く事を思い出して愚痴る。

  

「オイラのご主人様は化け物だぜ、まったく」

 

 先手必勝、攻撃モーションに入る前に全てを一刀両断にする。躊躇が無いのが相手を効率よく戦意喪失させる方法だから、呆然としたカンナに容赦無く金色の手刀を当てる。「……わかるよね?」恭介の一言で決着は着いてしまった。やり方が魔王にソックリだったのが恭介にとっては何かイヤだったらしく不機嫌になっていたとの事。

 

「で、その圧倒的な力に惚れられたと……良かったじゃんモテ期到来オメデトウ」

「君のせいーーなのか?」

「オイオイ」

 

 足の速さは魔王さえも超えるのにツッコミの速度は半減していた。インベーダーズのツートップが揃いも揃ってダメマックス、ダメックスである。恭介は元より魔王は気持ち悪くなってきた。さっきからずーっと我慢している。胸の奥底から出そうで出ないこのキモチ。

 

「吐きそうだ……」

 

 とにかく外に出る。少しは気が紛れる可能性が芽生えたからだ、玄関の扉を開くと『荒廃した町並み』がそこにあった。エレメントアームズは起動していない、のだが明らかに何かヤバそうな匂いがプンプンしていた。

 

「うん」

 

 そう言った魔王は見なかった事にし扉を閉め恭介の所へ戻った。早かった、とカンナが腹痛の時に優しいココアを入れてくれて「見た目と違っていいやつだな?」と言いながら飲む。カンナはヤレヤレと首を振り言ってきた。

 

「OK、次ふざけた事言ったら砂糖の他に毒もオマケで入れてあげる」

 

 実に心地よい殺意、魔王はその感覚が何処と無く自分に似ていて嬉しかった。まさか一日で気の合う奴と二人も出会うとは、同時に疑問もーー何か、何かとても違和感が感じる。

 

「うーん、おたくもインベーダーズ?」

「いん……ふーん何それ」

「あーあー、ジュゥべえ見たいな奴」

 

 そう言ってテーブルの上にある黒い毛玉を指す。自分の主以外は無視、なんて事はせずこの店の主力である餡ドーナッツ、カツカツと食べている途中でもキチンと礼をする。魔王は正直な所、我が強すぎるキュゥべえとチェンジして欲しいと思った。

 

「羨ましくなんか無い、無いからな」

 

 本音が出ていた。しかし反応は無し、全員恭介の味方だからである。初めて人の“優しさ”が解った気がし少し泣きそうになった。

 

「折角、外が『楽しい』事になっているのにまだ行かないの?」

 

 ーーどうなの恭介、カガリが続けるこの言葉がトリガーとなりキィンと鉄の音が鳴る。カンナがカガリと同じ“チャクラム”で仕掛けていた、接続魔法『コネクト』と魔法少女では珍しく名前がついて恐らくこの魔法効果の副産物だろうがそんなトンでもだと当然リスクが生じる。

 恐らく記憶、未来型のキュゥべえとは別の猫改型ロボットその魔法のポッケ、瞬間記憶認識炭水化物パンがいい例だろう頭のキャパシティが持つ分けが無い。忘れてしまった場合は再度、接続魔法をかける。

 だがカガリも負けていない、先程から攻撃を受けていない。記憶を瞬時に改竄し幻影を放つ、それでも仕留めきれない。なぜならカンナもコピーをし同じ事をやっているからだ正に狸と狐のバカ試合。

 

「お待たせ、恭介……新しいのが入ったわ」

 

 まるで他人事の様に、白い魔法少女は坦々とティーカップに蒸らしたての紅茶を入れる。紅茶同盟のマミから貰った特注の葉っぱらしく、ここのお菓子と中々のミスマッチしていた。特に甘すぎずさっぱりとした串団子や桜餅がベスト無論飲む時はストレートで。極寒の北国より寒さに魔王と恭介はガチガチと震えビビりまくる。

 

「ノン、悪手だねそれは」

「……ふぅん、恭介イヤがってるの分かんないんだ」

 

 さっきまでの盛り上がりはなりを潜め、虚ろな視線を織莉子に。しかし二人の憎しみを何とも思わないように織莉子は続ける。

 

「知らないまま死ぬのもかわいそうだから教えてあげる。私と彼は『婚約者』なの」

「既に手を打っていた、か」

「私が欲しいモノはいつも邪魔が入る……いつもいつもいつも!!」

 

 魔王は念話で《どう見てもヤバヤバだぞ、コレ》と本能のまま脱走する気持ちをグッと堪えて話す。このままでは歴代風のボスキャラのバトルロイヤルが開催してしまう、のだが肝心の恭介は無表情のまま瞳孔が開いていた。

 

《AIBOooooooooooo!?》

 

 絶望的な状況からの絶体絶命、望みは断たれた……かに見えた。ゴゴゴゴゴと魔力の波動が高まるのを感じ次第に大きな揺れたが起きる、ラッキーだせとっつぁんと二人共思ったのは秘密。

 エンゲージ、この偏食した世界からの来訪者が来たようだ。景気良く店の扉を破壊した進入した敵は紅のバイザーを装備、グレーの髪と白生地の制服、頭と同じ灰色の腕からチューブが見え内部から銀色に発光するエネルギー。装備品でアームズレプリカ使用者なのは分かる、だが初めての相手なのに魔王はすごく何処かで見た事のある風貌。

 

「へ? 俺、つーか俺達!?」

 

 『上条 恭介』がいた。しかも三人も、カンナもカガリも「ッシャ!」と喜んでいたが織莉子が冷静にアレは敵だとカップをテーブルに置き言う。

 しかしこの狭い場所では戦闘もクソもない、場所を強制的に変えるため魔王と恭介はヤクザ蹴りで二体の『上条 恭介』を外へ吹き飛ばした。あとの一体も息の合ったツインラリアットをかます。

 

「へッ、一昨日来やがれ!!」

 

 中指を突き上げ挑発、クスリと笑う恭介も後に続く。外の世界は全てが焼け落ちビルは傾き地形は抉れ硝煙の匂う、「何処のバットエンドだ」と言う魔王の言葉に織莉子は続ける。

 

「見た事があるわ……」

「実際にか?」

「いえ、私の魔法で」

 

 予知、つまりこの世界では『過去』の出来事。魔王は謎解きと平行して現在パーティを再チェック、戦闘凶のカガリは論外で恭介も絶賛ラブコメ中、この手の話しに合うのは“マッドネスドクターカンナ”か“ホワイトマジシャンガール織莉子”だけ。

 

「……かなり失礼な事」

「思っている分け無いじゃないか、ハハハ」

 

 何か悪意的なモノを感じたのかカガリがチャクラムの刃をチラつかせ、恭介が制止させる。少しやつれた恭介は『ヤメテクレ』と睨みつけてきた。

 

「へいへいじゃ、ヤッコさんを殲滅させますか」

 

 のろのろと起き上がる魂の無いその姿はまるで生きる屍、動きが満身な状態の彼等を警戒しつつ魔王はカンナに問う“ジュゥべけ”とは何者かと。こんな時に謎かけ? と言うカンナだったが質問には答える。

 

「回収したキュゥべえの死骸とグリーフシードで創造したキメラ、『incubator ver.dependent』直訳して従属するインキュベーター略してジュゥべえ」

「だろうと思ったよ、この世界では一体のキュゥべえが感染して出来た『invader type10』十番目の侵略者。シャドーアームズも搭載されている」

 

 記憶の混雑、世界の連結による歪み。ともなればこの“現象”も恐らくは……魔王はこの現象に『ナイトメア』と名付けた。人で言う所の夢、いや悪夢をこの世界に見せている。

 カンナも気になる言葉、色々あったが『シャドーアームズ』と言う存在だ。そっちは何か造ったのかと魔王の帰ってくる言葉にグリーフシードをコピーした『イーブルナッツ』と呼ばれるモノを作成したーーと。

 

「成る程成る程、つまりお前が創作したそのナッツの完成品がアームズって分けだ」

「で、そっちもキュゥべえの死骸から?」

「んーや、生きてる状態から『データを吸収』した」

「んな!?」

 

 驚く、魔王の「だって解析とかめんどくさいじゃーん」との言葉に自分以上の狂気を感じた。一応付け足すとコレらはイカサマとかカンニングの部類で、しかも99%しかコピー出来なかった。

 残りの1%に“俺好み”を突っ込んだら、絶望を攻撃に変換できソウルジェムの絶望も無限に吸収可能な『永遠に使用出来るグリーフシード』が出来たとあっけらんに魔王は言った。因みに現在はバージョン2.5、である。

 つまり元々グリーフシードみたいに近づけなきゃ駄目だったエレメントアームズは、この前のアップデートにより射程100M伸び魔法少女、またはそれらに該当する存在からの負の感情を無尽蔵に吸収していたのだった。

 たがらキュゥべえやジュゥべえも最高にウハウハでwinwin、そんなモノが複数もある見滝原の魔法少女達は魔女化しない、と言うかむしろ出来ないのである。さぁ、君も今日から魔法少女だッッ!!

 

「何そのチート!?」

「キャラが崩れてるぞ? カンナよ」

 

 ま、それでもリスクはあるかな? と魂無き存在……『ナイトメア恭介』に視線を向ける。あまり考えたく無いがアレらは間違いなく“上条 恭介”本人であり暁美 ほむらがやり直し過ぎ去った並行世界。

 魔法少女を知り絶望したか、もしくはワルプルギスの夜による行進で死んだか、様々なリセッターとなった時の魔術師はどう思うのか魔王は多少なりとも気になった。

 しかしアームズオリジンの反応は無い、それはきっと輪廻の果てで初めて産み出された『唯一絶対』であり、世界の基盤となるモノだからだろうと。

 全く知れば知る程ウゼー事になっていくなーと魔王は半分諦めていた。だがこのナイトメア現象も自分の記憶に関係しているのは間違い。

 

「取り敢えず、模擬はすんだのだろう? 容赦なく潰す」

 

 エリミネイター、例え同胞だろうと邪魔ならば消すだけ。一体目のナイトメア恭介が仕掛けた、ガードをする魔王と同じ爪を武器にしているだけあって接近は中々のモノ。他の二体が左右後方に回り込みをかける。

 

「チッ、フォーメーションか? 小賢しい」

 

 二体目の攻撃、一体目のを後方回避したその先に追撃をする。左腕を犠牲にガード、しきったと思ったのだが腹に激痛、三体目が先程の返礼とばかりに蹴りを放った。

 

(は、はら、はらは駄目ぇッ!!)

 

 今日は厄日か、さっきから腹部ばかり狙われている気がしてならない。ロープの先のバトンタッチを探すが誰も彼も知らんぷりしていた。特にカンナとカガリは凄く悪い顔をしている。そう、分かっている上での悪行。

 

「お、お願い……」

「オーマイゴッ! これは妖精さんからの囁きかな?」

「じょおーだん、そうしたら妖精の王様にご挨拶しなきゃ、ね♪」

「あら、新しい予知が出たわ? 速くしないと死んじゃうかも」

 

 のどから『貴様ら』の文字が出かかったが飲み込み土下座した。プライドなどくれてやる、かなぐり捨てる姿勢、神々しいまでのその姿はまさに王と名乗るに相応の素晴らしい形。古より覇王は統べてを極めると書物にも書いてある。

 ーー“Kneeling down on the ground”千差万別に感謝を、森羅万象に慈愛を、数多ある生命に祝福を、そしてその“土下座する”の言葉と共に未来へ歩んでいく……。

 

「クッ! 馬鹿やっていないで手伝ってくれ!!」

 

 気付くと恭介が一人で頑張っていた。悪い悪いと魔王も戦闘に立つ、そこからは呆気ない程簡単に倒せた。織莉子が予知し、カガリが幻をかけ、止めにカンナが支配による拘束、一方的な私刑でしかなかった。

 魔王は次の目的として、はぐれたマミとキリカを探す事にした……ついでにキュゥべえも。さて、と立ち上がると目の前に白饅頭の様にくるまっている。キュゥべえである。

 

「オイ」

 

 呼び掛けに反応してキュゥべえが起き上がる、ただ何処か妙で何かをブツブツと言っていた。

 

「僕と契約して魔法少女になってよ」

「はぁ?」

 

 魔王は変な声をあげる、だがキュゥべえは何度も何度も同じ様に繰り返し言う。明らかに可笑しい、本能が、感覚か、奴を早くこの世から消せと何度も警告していた 。

 

「ぼくとぼくとボボボボクククククとけいけいけいけいけいやくややややく」

「チッ!!」

 

 イカれたCDプレイヤーの音声を、いや雑音を鳴り響くキュゥべえに対し魔王は容赦なく切り裂こうとした、だが遅かった。

 キュゥべえの肉体は急激に膨張し、一気に魔王よりも遥か高くなった。この世界はワルプルギスに敗れた見滝原町を再現した空間、当然人は住めなくなり人はいなくなる。

 キュゥべえも別の所へ燃料調達に行くが、そんな事を繰り返し行えば森林伐採の如く人間も減少する。人間を産む為には男と女がいなければならない。そんな当たり前の事をキュゥべえは知らない。知るよしもない、統べてをネットワークで繋げその肉体はクローンによる量産加工をしているのだから。

 キュゥべえの『ソウルジェム育成計画』は初めからご破算していたのだ。もしここにアームズを装着した“彼”がいたら「そんな事も知らないでやっていたのかい? 無知とは恐ろしいね」と言いそうである。自分の事なのに。

 

「暴走……」

「だぁーな、カンナちゃん何か分かる?」

「フーレイッ!」

「“万歳”ね~カンナ君、後で教室に来なさい」

 

 お手上げをしている支配の魔法少女に『銀パチ先生』のバッチを着けた魔王がプンプン、大まかな憶測は既にしてある癖にその態度、こう見えて実は本当に怒っていたりする。

 魔王のアームズに情報が入っている。type13、かずみと呼ばれる少女からの情報を展開する、項目は『イーブルナッツ』。カンナとは別件があったのだ。

 ーー量産するたび人間の少女が日に日に減少しソウルジェムが生産が不可能、必然的に新たな燃料を求めた。感情を吸収する技術と複製する技術、ソウルジェムとグリーフシードをベースに作成イーブルナッツと呼ばれるモノが完成した。

 しかし肝心の“希望”が無い、今までは成長途中の女性を利用していた。難しい言葉と真実をつき出せば実に簡単に騙せていけたからだ。しかし今の世界では希望は消滅し成人男性や女性、少年しかいない。

 契約をして行く方法もあったが全然エネルギー回収が出来ていなく不効率的、灯台もと暗し別の感情があった“絶望”と言う物質。

 後は簡単だ絶望を回収しつつ、最も大きい周波数を検出した存在を母体とし生産し続ければいい。上条 恭介、彼に魔法少女および『美樹 さやかの失踪』の真相を話せば完成。

 だからこそ、そこには誤算があった。恭介自身“絶望”と言う感情が押さえきれず自分の腕を刻み続けた。涙もかれ、夢もあきらめ、統べての奇跡を憎みながら腕を毎日毎日包丁で刺した。

 死ぬ事の出来ない永遠の命を侵略者から与えられ、刺しても刺しても再生される。キュゥべえの言葉「君がバイオリンを引きたいと願ったからだろ?」、憎悪が臨界へといきキュゥべえの中にあった『イーブルナッツ(絶望回収回路)』は弾けた。

 

「全く迷惑な事してくれるぜ」

 

 グチる魔王。犬の始末は飼い主が、悪魔の種は芽を出し花を咲く“キュゥべえ”と呼ばれる殻を脱ぎ捨ててーー魔獣の誕生の瞬間である。



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第9話

 結界、それは人と自分を隔てる境界線。聖なる領域と俗なる領域を分け、秩序を維持するために区域を限ること。元来、仏教用語であるが、古神道や神道における神社なども、同様の概念があることから、言葉として用いられている。大和言葉では端境(はざかい)やたんに境ともいう。

 ゲームではよく防御手段や相手を拘束するための補助的なモノとして、魔術では悪魔召喚や儀式、封印などに用いられる。さて、『魔女の結界』なるモノがあるが本来は魔法少女だった存在を“悪しき方向”で具現化、願望を表したモノなのだがこれは本当に悪い事なのだろうか?

 人は弱いもの、己が望み決して手に入れられないものを望むのは本当に悪い事なのだろうか? それが結果的に災厄しか残らないとしても、自分を示すことには何かしらの“意義”がある。だが、それに満足し気付いた時には既に遅い。それも人なのだろう……。

 

 

 

 

 廃墟、コンクリートは抉れビルは傾き車がまるでオモチャのようにひっくり返っている街並み。いや、もはやそれは“町”と呼べるような物ではなく、一種の焼け野原……向こうまでずーっと見える地平線は夕日で赤く染まる。ここは幻想の世界 、誰かが見ている夢の世界。

 眼前にはモンスター。デカイ、それが答え。膨張したキュゥべえの肉体を引きちぎり産み出された、冒険ものではお約束のドラゴン全長10M強、いやソレ以上のサイズかも知れない……明らかに自分の伸長を超えており太い爪も、鋭く角の後ろからみえる背中の羽を加えれば更に大きい。

 ただしその肉体は悪臭を放ち鼻に突き刺さる。どこぞの決戦兵器並みに「コイツ、腐ってやがるぜ」。

 織莉子の用意した紅茶の香りも消え失せ、つーんとくるその臭いはアノ“下水道”を思い出させる……爆発させてしまったが。戦術予報のinvader type10、対象のスキャニングをしデータをピックアップ、項目を展開した。

 

「チャオッス! オイラ、ジュゥべえ。あれはドラコンゾンビ。見ての通り腐っているから物理攻撃は全く効かない、聖なる魔法か元になった“イーブルナッツ”を砕くしかない」

「キュウウウゥゥゥゥべええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 天高く咆哮、無論キュゥべえが消滅した事に対してではなくホーリーアームズ所持者がここに居ない事に対して。よりにもよって相性抜群の存在が居ない、お約束過ぎてアリエナイワロエナイと魔王は叫んだ。

 

「ほむらじゃねぇが、要らねえ時に居て必要な時に居ねぇなぁ!!」

 

 クソが、怒りを吐き捨ててドラゴンゾンビに対峙。外装を削りイーブルナッツを掘り起こすしかない、魔法少女は後方援護。「力仕事は男と決まり女は黙って待つ」と織莉子が良いこと言ったみたいにしているが、本音は「臭いし何かヌルヌルしているから近寄りたくない」である。

 とにかく遠距離から削って行くしかない。依然カガリはチャクラムで牽制、織莉子は魔術による浮遊水晶から魔力精製させる遠隔操作『オラクルレイ』の刃を展開。カンナは器用にその二人からコピーを行い物量作戦。

 恭介は使い魔である『黒い籠手(アームズ)』ジュゥべえを肩に乗せ指揮を取る。問題は魔王、キュゥべえが居ないから飛び道具は使用不可能だし他のシンクロ出来る魔法少女はいないから武器も無い。つまり何も出来ない。

 

「もしかしなくてもぉ~魔王って役ただず? 現在進行形で」

「ガッ!?」

 

 ーーゲット、クリティカルトリガー。カガリが心の臓を抉る言葉を放つ、その刃は現実ではなく幻想、しかしその内容は幻ではない。

 

「俺って主役だよね? 戦闘で何も出来ないって……」

「次回から『恭介のバイオリン弾き』が始まります。見てね?」

「ヤ~メ~ロ~」

 

 恭介のボケによりなし崩しに魔王は観戦を決め込む、カードがなければ手札は作れない。一度状況をシャッフルするため試しに恭介に任せる事にした、後ろから応援だけはする。

 

「フレー、フレー、きょ・う・す・け! フレフレ恭介! フレフレ恭介!」

 

 当然全員から煩いだの気持ち悪いだの言われ黙る。恭介からはごみ捨て場を見る目でコチラを見てきた。ここには魔王の仲間はいないーー静かにする事にした。

 魔王にはずっと思っていた事がある、力が半減したような気がするのはやはり“恭介(おれ)”と言う存在と分離したという可能性。恭介の能力は『エクシード』と言っていた、恐らく人間の限界を強制的に引き外す能力と推測。

 

「……セット!」

「ラジャ、ダークセイバー!!」

 

 実質よくやっていると思う、持てる能力を全て回避に費やし人差し、中指、その2本を伸ばしトリガー替わりに目標に合わせる。肩に乗ったジュゥべえが唱えた魔法は死角から出ては消える闇の刃はその名を示していた。だが決めてに欠ける。

 ーー詠唱、アームズオリジンには“切り札”がプログラミングされている。シャドーは物質魔術を行使するからドラゴンゾンビには向いていない。呪文と言う言葉、『開けゴマ』や『いたいのいたい飛んでけ』等も呪文だったと言う説がある。

 元々攻撃のみスロットされていた魔法の他に補助的な魔法もバージョンアップした時追加スロットされている。現在ジュゥべえが全員にかけている魔法『スペル・レインフォース』もそう。

 効果は魔法系攻撃の強化、特に織莉子は予知魔法に特化していて魔力をばか食いする。絶望の濁りは逐一ジュゥべえのアームズに吸収されるがソレでも使い過ぎると頭が痛くなる、魔女化の心配は無いが油断大敵だ。

 

「……そう言えばさやかはどうなったんだ?」

 

 魔王は気になる事を思い出す。恭介の挑発に乗ってしまったのですっかり忘れていたが、ようやく思い出す。朝のミーティングで確かだったが我らが担任の“万年お見合い”の早乙女 和子先生。新しい彼氏が出来たらしい。

 で、暴走してテストの担当者が居なくなり一週間伸びた。杏子は万々歳だったとか、さやかもついて行き“教会”に行く事になった。

 

「仲間のよい事で」

 

 魔王は暇潰しに残りのアームズを出現させ、お手玉のようにヒョイヒョイと手遊びをする。このくすんだ紅の空でも青、黄、紫がキラキラと綺麗に輝きを放つ。恭介、織莉子、カンナ、カガリ。交わる事の無い輝石……なんて、決めてる場合でも無いと次なる一手のため目を閉じ瞑想を始めたーー。

 

 

 

 

 ーー同時刻、さやかは杏子に連れられて佐倉教会跡地へ行っていた。魔法少女になった事、家族の事、そしてソコからなるべくしてなった悲劇の事を……『他者から貰った奇跡』、魔王が前にコチラに来る時に言った言葉を思い出させる。そして今、ツケが支払われるべく壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

「フフフ、僕と契約のサインをすれば……織莉子さんにも喜んで貰える品をご用意させていただきます」

「オリコ~オリコ~」

「騙されないで!!」

 

 キュゥべえ、黒いハット帽とスーツを着こんで『貴方のココロのスキマ、お埋めします』と書かれたタスキを付けた我らが憎きマスコット。

 プレイアデス聖団の団長『中沢 かずま』(ゲー名昴 霧斗(すばる きりと))から動物御用達、毛繕いマッサージマッシーンを貰える条件として誰でもいいから勧誘してくれと。

 手始めに呉 キリカ様を、用意された二つの箱に『初心者でもわかるABCー友情愛編ー』と『世界の紅茶フルセット』、胡散臭い名前なのは見ての通りなのだがキリカの三味線に引っ掛かったのと織莉子離れで無理していた反動で入会しようとしていた。

 なぜ織莉子と離れて暴走しなかったのかと言うと、魔王……彼の前で弱味を見せるのは即“社会的”に死を意味するのは見ていて分かっていたからだ。そして今いないので『織莉子依存症』が発病した。

 止めに入るのはえりか氏、状況が目まぐるしく代わる中自分の犯した過ちの謝るタイミングを逃しつつも、友達に二度『そっち方面』に行かせないよう食い止めていた。

 

「えーっと、マミさん?」

「大丈夫、私も理解出来ていないから」

 

 さやかはマミに訊ねたが速答による回答。当事者のマミも理解していなく“飛ばされた”としか把握できなかった。ここには居ない魔王(かれ)が原因なのは見てれば確かなのだが……。

 

「もぐもぐもぐ……美味しいリンゴ」

「勝手に食うな!!」

「もぐもぐもぐ……兄貴も食るンゴ」

「ああもう! コイツら何だってんだ!!」

 

 杏子の怒鳴り声が響き渡る。彼女が買って供え物としてのリンゴ入り紙袋を『中沢兄妹(かずま&かずみ)』が勝手に食べてしまっていた。当然知りもしない黒い番長と少女の二人組は制止を無視しガツガツ貪り実に罰当たりである。

 腹が減っては戦は出来ぬ、知らぬ存ぜぬではすまないのだろうが取り上げようとしたら二人とも子犬の様に涙目になり取るに取れなくなっていた。

 渋い顔で目的地の古ぼけた教会を見ていたら髪を靡かせるそよ風が、最初はただの春風だと思っていた杏子だったが、それは時を追うごとに勢いを増して来た。木々の木葉が巻き上げられる中、どか聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「いけませんね? 神に使える者としてその様な言葉使いでは……」

 

 パチン、その音で風が一斉に止み朽ち果てた教会の前に人の影。あり得ない、何故ならばその人物達は既に“死んでいる”のだから。

 

「と、父さん……」

 

 杏子の掠れるような言葉に彼女の蒼い神父装の父、『佐倉 夜桜(さくら よざくら)』は静かにたたずむ。口で何かを言おうとしても動かず降着状態の杏子にドッシーンと衝撃が走る。下を見ると小さな赤毛のポニー『佐倉 モモ』がいた。

 

「お姉ちゃーん!!」

「モモ、走り回ると転んで怪我をしますよ?」

 

 続けておっとりとした風貌の母、『佐倉 レミ』が続く。供え物を用意し、墓参りしに来た杏子は混乱している。事情をある程度聞いていた隣のさやかが一つ気づいた事を言ってきた。

 

「ねぇ杏子、あんたの家族一同の“アレ”」

「アレ……?」

「だからぁ! ほら、腕! 腕!」

 

 しきりに指差すその先、ほんわかとした一家団欒には似つかわしくないゴツイ魔学起動兵装『エレメントアームズ』を装着していた事だ。

 一度唖然としたが“あいつ”ならばしでかしそうである。うれしい半分「後で事情を捻り出す」と心の中で決めた杏子、そして魔王の預かり知らぬ所で苦労はまた一つ増えた。

 そんな事態でもお構い無く割り込みをかける。夜桜は声の主の顔を見ず静かに目を閉じている。だが相手先の想いはよく見えていた。

 さっきまでリンゴを食べていた中沢の兄、パンパンと拳を鳴らし戦う気満々だ。強い奴が目の前にいる、それが戦う理由だ。妹のかずみも止める気は無く観戦を決め込んでいる。

 

「あんた強いんだろ? 俺とヤろうぜ!!」

「やれやれ、せっかく再会だと言うのに……したがないですね」

 

 夜桜はスッと前に腕を伸ばした先に空を、太陽を、宇宙を、讃歌するがの如く世界の主に捧げる。

 

――さぁ、神に祈りなさい――

 

 地を蹴り疾走するかずま……いや、霧斗。場が過熱していく、肩から手に伸びたらチューブから熱く自慢の拳に火炎を宿し挨拶がわりに思いっきり顔面殴った、ハズだった。

 背後にいた。別にほむらのような時間操作でもなく、カガリのような幻術魔法でもない。風に乗って“ずばやく移動した”、それだけ。繰り返す連打に木葉を連想させる動きで避け続ける。

 

「はぁはぁはぁ」

「それで終わりですか? では私も教会の後片付けをしなくてはいけませんので……」

「ざけんな! まだ終わってねーよ!!」

 

 リミッター解除、突き上げた右手から火柱が立ち登る。力を出し惜しむつもりは――無い。ただこの一撃に全エネルギーを集中させるだけ。

 眼前に宿る灯り火、そしてその先にいる敵、夜桜は事が終わるまで動かないつもりらしくその場を離れない。

 右腕を大きく上げる、後を引く火の粉が更に火力は増しいる事を示す。『大蛇薙ぎ』、伝説のヤマタノオロチを薙ぎ払うための拳。

 

「焔に……食らいやがれええええ!!」

 

 振り払った紅蓮は夜桜に直撃した。こんどは回避は“しない”してないのではない、こう言う輩は完膚無きに倒さなくては何度も起き上がる系統だと知ったからだ。

 必殺の一撃、勝利を確信した霧斗は「俺の、勝ちだぁ!!」と力強く上に拳を突き上げた。杏子は茫然とする、自分の父親が倒れた事では無く“以前立ち続けている”と言う真実に。

 その身を竜巻の中心とし高速で回転させるその姿はまさしく“暴風壁”、風のバリアを思わせる。スナップによる停止、中からは全くの無傷の夜桜がいた。

 ――ぬるいですね、そう言い残し高速による拘束。首元を掴み片手で上げ風を呼ぶ、暴れる霧斗を余所に次第に荒れ狂う旋風。先ほどと同様に教会の十字架に祈るかのような声で……。

 

「お別れです」

「ぐがああああああ!!」

 

 霧斗はズタズタに切り裂かれた、夜桜が呼んだ竜巻は内部がカマイタチとなりその時間はものの数秒。制服は傷だらけになり、風が止んだ夜桜はまるでゴミでも捨てるかの様に霧斗は離す。そして一礼。

 

「神のご加護が有りますように……」

 

 

 

 

 流れが悪い、決して負けているのでは無いのだがずっとこの調子で永遠と続いている。織莉子、カガリ、カンナがバックダンサーによる物量援護で恭介とジュゥべえが先行しつつ指揮を取る。問題はドラゴンゾンビ、削っても削ってもダメージが中々通らないから“心臓部(イーブルナッツ)”まで到達出来ないでいた。

 

「拙者に任せてくれまいか?」

「誰だアンタ!!」

「ツ、ツバキ!?」

「だから誰だ!!」

 

 言動が古風と言うか“ゴザル”的な、服装は赤を強調した和服の少女……そして魔王、カガリ、魔王。ヒョイヒョイとアームズオリジンで手遊びしていたら光って三方向に消えた。魔王を良く知る恭介と織莉子は「また何かやった」と言われ、魔王はブンブン首を振りながら無実を訴えた。

 そしたら、その一つが戻って来て光り彼女が表れた。装着しているアームズは『エレメントアイスアームズ』、氷を司る力を秘めている。カガリは信じられない顔をしていたが、恐らくこの円環の理の最果てに導かれたか、ナイトメアの残留しから拾われたか……。

 エレメントアームズはグリーフシードをベースに作られている。つまり、前身たる元々のソウルジェムのデータが入っており彼女は“疑似魔法少女”といった存在となっていた。

 

「申し送れた。拙者は美琴 椿(みこと つばき)、“ヒュアデス教会”の者で候」

 

 知らんがな、と魔王は思ったがまた知らない組織名が表れた。『プレイアデス聖団』『ヒュアデス教会』『フォグ・スィーパー』、ほむらからもたらさせた情報から逸脱していてわけがわからなくなっている。正に『インキュべっている状態』である。

 ただ“ヒュアデス”、この言葉が出て来たときカンナが一瞬ビクッとなったのは見逃さなかった。間違いなく関係がアリアリだと魔王は結論付けた。

 

「うぅーん」

「どうしたんだい?」

「あ、恭介。何かしゃべり方と言うか、言葉使いが変、前はあんなゴザル調じゃなかったのに……」

「あぁ、そりゃアームズのせいだな?」

 

 アームズには一種の興奮剤のような効果がある。ソウルジェムが悦びをグリーフシードが悲しみをブーストとしエネルギーとしているならば、アームズは怒りを原料としている。『闘争本能』を強制的に引き出しその人物が成りたい自分を自己暗示し、それを現実化にした。

 本来ならばそれだけでは戦う事だけの戦闘凶と化すのだが、魔王がリミッターとし別のベクトルに転換すべく消化させたのが人格。人格が皆『魔王』のような物だったら負の感情などもろともしない。

 結果、アームズ使用者はベースになった人格にインプットされた『魔王テイスト』が入り殆どの確率で“俺様”が出来上がる。

 因みに濃度的には0.01%にも満たない。のだがこのような人格変貌者が表れる。なお、このような経歴があるのは『恭介が暴走したから』との事。

 

「醤油の一滴より少ないのに、不思議だ」

「……殺していい?」

「わああ!? まったまった!!」

 

 魔王は露点ずらしを開始、今は目の前の敵が先決と強引に変えた。ドラゴンゾンビ、あれだけのチャクラムや魔法剣の雨あられを受けてピンピンとしている。遠距離からは猛毒のブレスを吐き、接近ならばその重量で押し潰す。

 もじ通り“腐ってもドラゴン”である。足止めでも出来れば話は楽なのだが……。

 

「…………」

「任せるでゴザル」

「わかるのか、つーかマジでゴザりやがった」

 

 溜め息、ソレが油断だったのかも知れない。魔王の体は貫かれた。“ソレ”は見覚えのある物……『アームズ』自分が産み出した輝く結晶、その具現したグレーの腕が腹から延びていた。

 

「な、なんじゃこりぁ……」

 

 先程始末したはずナイトメア恭介、その一体が再起動したらしい。かなりヤバイ状況なのに逆転とかの事ではなく、魔王まったく別の事を考えていた。

 キュゥべえ、ナイトメア恭介が本来の彼にソックリだという事に。『死んでも換えがきく』『魔法少女はなぜ生まれる』『願望と絶望』『キュゥべえは侵略者』……“侵略者”ふと気になる事が浮かぶ、キュゥべえは本当に侵略者なのか? 彼の母星を見た事が、ない。

 だいたい本当に他の惑星を侵略したと言うならば、当然我々“地球人”と近い存在だっていたはずだ。彼の母艦を見たことが、ない。

 もし宇宙船があるならば何処にソレを隠す? 太古より存在していると言われているが、この膨大な“宇宙(そら)”で地球一つ消えたぐらいで寿命が縮まるのか? むしろこの“地球(ほし)”の寿命の方が……。

 

「あ」

 

 わかった、わかってしまった。ならばキュゥべえが居続けるのもわかる。本当に侵略者ならばまず『全ての生命を駆逐、あるいは奴隷』にしてからさっさと別の星に行くのが理想的だからだ。

 そして“膨大なエネルギー”が必要なのもわかる。この世界が続く限り当然必要になる、それは円環の理(エントロピー)がひっくり返る程の……。

 

「サードシフト」

 

 魔法少女が持っていた希望と魔女をも超える絶望を共に所有している存在、女神。ならば“鹿目 まどか”を生け贄に維持して行けと言うか。取り込まれてしまった“本来の姿の”恭介を見る。

 無言で喋る事は無い、その様に魔王の心臓部を引き抜いた。何処かで見たことがあった、あれは恭介とはぐれて過去の並行へ行き恭介にやった事だ。

 因果応報とは言えやっぱり魔王は思ってしまう。“ライトアップされた噴水の様にルビー色で綺麗だな”と。

 

 

 

 

「魔王……!!」

「叫ぶな、仮にも俺の半身だろ?」

「ここは?」

「あぁ、お前は初めてだな? どうやらココが本元らしい」

 

 暗い世界、そこに二つの輝きを放つ。銀色のアームズを装着している魔王と金色のアームズを装備している恭介。今は二人しかいない。

 

「ココが“何処か?”と聞かれたら“分からない”、と答えるしない」

 

 だが、と魔王は続ける。暁美 ほむら、彼女と接触した時に来た事がある。あの時は彼女の“過去”の記憶だけが無数にシャボン玉状にそこかしこにあった。

 しかし今は無い、おそらく魔王が作り出した空間……いや結界と言うべき物か。原理は『ナイトメア』と同じであり『魔女の結界』と同じであると。

 その人のみたい物が実体化する、世界。望む世界が作り出せる場所なのである。

 

「ちょっと待って、ソレじゃあまるで……」

「『魔法少女の契約』みたい、か? だろうな、そして“キュゥべえ”の存在も同じ」

 

 キュゥべえ、彼の存在がいっつも気になっていた。無限にいて換えの体があり何処にでも行ける。だがそれを『魔法少女』にあてはめたら、凄く納得が行く結果が生まれた。

 

「『キュゥべえが魔法少女』、『体の射程が100M』そして『ソウルジェム』……魔法少女とキュゥべえは同じシステムで出来ている。だから痛みも消せる」

「でもソレじゃあ、“ソウルジェム”は何処に?」

「100も離れればそれでジエンド、知っているだろ? ずっと足下にあるのだから」

 

 まさか、と恭介は言った。青い水の惑星“地球”、それがそれこそがキュゥべえ達の『母艦』であり『ソウルジェム』だった。恭介はあんぐりと口を開きっぱなし、魔王はその珍しい姿にスマホが無い事が実に残念だと思った。

 

「いきなりスケールがでかくなったなぁ、と自分でも思えるよ。だから維持に大量のグリーフシードが必要、だがな」

 

 キュゥべえ自身にそのメモリーは無い、意図的に消されたか初めてからインプットされていないか。所詮したっぱ、使いっ走りに過ぎないのだ。どこかに本体がいてソコから指示を受けている。

 マスター、一番可能性があるのは自分だと魔王は言う。インベーダーズのトップだし他者に馴染む為には『記憶の消去』をしている方が色々と効果的だと自分自身でも思う。

 

「さて、色々と分かって来た事だし現実世界にでも帰りますか?」

「体はどうする?」

「刺されて死んだ。奪ったのだろう、仕方がないから“元の鞘”に戻る事にした」

「それって……」

 

 上条 恭介と一体化する。魔王は語る、戸惑う事は無い何も恐れる事も無い、俺達は元々一つの存在だったのだがら――。

 ゆっくりと伸ばした金の腕が伸びる。魔王の体に触れるとチャポン、と水に触れるような波紋が広がっていった。自分の瞳に自分が映る、荒れ狂う始まりの螺旋と輪廻の果てが再度一つへと向かう。

 光が広がり全てを満たす、悪夢は消え絶望は彼方へと時間は流れて行く。たとえ自分の過ちがあったとしても、その先に希望を託せればそれでいい。王らしいじゃないか、と。

 

「無論自身の欲望は絶やさないがな」

「ふふ、そうだね――」

 

 

 

 

 闇から風景が広がって行く。古ぼけた教会とさやかや杏子など知っている人物が多数、あと知らない神父が片手で竜巻を呼んでいた。消えた風の中からズタボロにされた番長を投げ捨て、右手を胸にそえ深くお辞儀をしていた。

 

「神のご加護が有りますように……」

「なんだこのオッサン」

 

 一体化した魔王 恭介は率直な感想。腕は右が金で左が銀、しかも目が白と黒のオッドアイとかなり“アレ”な姿になっていた。俗に言う痛い系。

 元がイケメンじゃなきゃ間違いなく笑われている酷い格好、恭介は意外とそう言うものには無頓着らしくあまり気にしてはいなかったようだ。

 

「何あれ……悪趣味の極地?」

「魔王、知り合いだから言ってやる。それは止めとけ」

「うっせーよ!!」

 

 さやかと杏子のもっともらしい感想に半切れした。すきずきでこんな格好をしている訳では無い、と言っても“魔王だから”の一言で片付けられてしまった。

 変声をあげる魔王は何故にこんなイメチェンしたのか愕然とし、誰にぶつけれはいいから判らない怒りでぷるぷる震えた。

 

「ぎががが!」

『仕方ないよ、元々イメージそんな感じだし』

「しろよサポート!?」

 

 魔王のツッコミ、近頃恭介のボケが多くなった気がする。そんなアホやっていると森に囲まれた教会の方で壊れる音がした。バキバキバキと鳴り、教会に穴が空いた。

 吐血している夜桜氏(オッサン)をよそに、もうもうと立ち込めるホコリから立ち上がる人影が見える。

 

「けほけほ、シット! 空から落ちるなんて!!」

「うぅ……今日はなんて日」

「拙者は問題ござらんが皆は大丈夫か?」

「ええ、体を動かせる位には」

 

 ナイトメア空間からのカンナ、カガリ、ツバキ、織莉子の魔法少女四人組である。皆自慢の魔法装飾がススだらけで特に白を基調とした織莉子はトンでもない事になっていた。

 間違いなく魔王と言う“分岐点”が無くなったからか引っ張られて落ちて来た、と推測される。これでメデタシメデタシと言いたい所だが、そうや問屋が卸さない。

 ついでにドラゴンゾンビも召喚された。木製の破片を押し退けて表したその姿は相変わらずの大きさ、「うぜー来んなよ」と愚痴りそうになりながら迎撃体勢をとる事にした。

 そして、ついには年期の入った佐倉教会の一軒家が跡形も無く消え地平線となった――。

 

「魔王てめえええええええええ!!」

「杏子!? 俺のせいじゃねー!!」

 

 ダッシュ&ジャンプ、問答無用で顔面をぶん殴られた魔王の悲鳴と共にボスキャラ、ドラゴンゾンビとの第2ラウンドが開始された。



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第10話

 同調、それは相手と歩幅を合わせること、それが崩れるとは即ち社会が崩壊する事を意味する。けして難しい事ではないが、慣れるまでの道なりが思った以上にたいへんである。

 それは相手の癖、行動、好きな物嫌いな物、今日の天気から悩み事まで……全てを把握する事は出来ない。出来ないが、予測する事は出来る。まず目線、コレで50%は理解出来ると言ってもいいぐらいだ。後は今までの経験と現在の環境、最後は感覚――。

 その点、音楽をやっている『上条 恭介』は天性の能力者だ。だが、その力ものめり込んでしまえば元も子もない。視界が狭まる時、真実が見えなくなり闇が広がる、目の前に転がり落ちている事にも気づかずに……。

 

 

 

 

 見滝原、中央区より少し離れた場所にホテルに“時を駆ける少女(あけみ ほむら)”はいた。学友であり魔法少女でもあるまどか並び仁美は始めて入った。

 様々な情報が空中に展開し一昔のSFチックなどちらかと言えば、男の子が住むような印象を受けた。サークルタイプのテーブルを軸足にコンパスのような椅子が二つ。

 他には何もなく人が生活しているとはとても思えない。真剣な眼差しのほむらは二人に紅茶を出す、仁美は無言で一口のみまどかも釣られて飲む。その姿を静かに見ていたほむらは一つのパネルを展開させる。

 が、一瞬躊躇をする。自分は先に見ているからか気持ちの整理は着いているつもりだ……一気にパネルを押し起動させる。

 

――項目『invaders』

 type0グライントコア→ペンギラム、振子

 type1魔王→シンクロ、同調

 type2恭介→エクシード、臨界

 type3まどか→サークル、円環

 type4なぎさ→バブル、泡沫

 type5すずね→セーブ、記録

 type6カンナ→コネクト、結合

 type7あいり→オンリーワン、唯一

 type8カガリ→オペレーション、操作

 type9キュゥべえ→ネゴシエーション、交渉

 type10ジュゥべえ→フィクション、 虚構

 type11織莉子→フォーサイト、未来

 type12ほむら→リスタート、過去

 type13かずみ→パラレル、現在

 

 自分達の名前と数字の羅列、そして始めての名前が出た。「これは?」とまどかは口にしそうとしたが、仁美は黙って首を振り制す。

 漆黒にのぞく眼差し(ほんとう)を打ち明けるように髪をかきあげて次のパネルを展開、今度は映像は無く黒いまま。どうやらボイスレコーダーのようだ――再生をほむらは行う。

 

『先に……“今の俺”にはこの事は知りません、の上でうぜーだろうが最後まで聞いてくれ。これを流しているのならひとまず第二段階は終了したと言う事だろう。既に魔法少女を元にしたtype9エネルギー回収機、その役割は終えているはずだ。そして、長い長~いプロローグだった『Puella Magi Holly Quintet』は全ての世界を結合する第一フェイズを経て今回の第二、そして第三フェイズへと移行したと推測される、ヤハリ最終楽章までは……』

 

 そこでプツッと切れ後はザーザーと流れる。聞えていたのは恭介の声、いやこのしゃべり方は――魔王。カップをテーブルに置きゆっくりとほむらの口が開く。

 

「このデータは私も知らない、気が付いたら入っていたの」

 

 ほむらにとって繰り返す時の流れで学校から帰り日課となっていた『ワルプルギス』の進行ルート、その再チェックをしていると強制割り込みでインストールを開始された。データファイルには『エレメントアームズオリジン全開放確認』と書かれていて、発信源はやはりと言うか魔王から。

 先程から念話や携帯電話でコールを行っていたのだが繋がらず、他の魔法少女に電話を行いようやく出たのがまどかと仁美である。なぎさとゆまもいたのだが、明らかに厄介事なので見送った。

 何と言うかほむらには疑問があった、魔王と出会ってからの“見滝原(このまち)”から魔女が一斉に消えたのだ。そう、まるでステージは次の段階に進んだようなそんな気配を肌で感じていた。

 

「type3……」

 

 まどかが言う魔王と同じ名前、魔法少女を食い物にしていたキュゥべえ。話ししか知らないが並行世界が一つになった時、『魔女化したさやか』をその身で確かに体感した……のだが、記憶が霧がかかったようによく覚え出せないでいた。

 そう言えば一つ上の先輩である『巴 マミ』もこの生き返った時に、死んだ時の記憶が無くなっていたと言っていたのを思い出す。

 隣に座っていた仁美の心の奥には不思議な気持ちが湧いていた。知らずに生きていて、暗闇を知り、そしてこれからの事を考える。当たり前で当然の事をまどかと出来る、それが凄く嬉しく感じた。

 ファイアアームズオリジン、ソウルジェム特有の卵形をそのまま尖らせたような赤い宝石。きっと別世界の“私”は魔法少女になる事も、まどかやさやかの苦悩も、恭介の本当の気持ちも分からないまま『ワルプルギスの夜』に襲われていたと。

 

「恭介さん、魔王さん……私は」

 

 想いにふける仁美、その姿を見つめるほむらは知っている。繰り返す世界で彼女が魔法少女と成りうる存在ではないと、いつか言っていた過去のキュゥべえの言葉『因果率に共鳴して魔法少女は強くなる』。強大な力、それはまさに“想い”と比例して大きくなる。

 この世界のキュゥべえは完全に別物に変化してしまった。魔王が文字通り『魔法少女達の悲しみ』を破壊してしまったからだ。だがらほむらに頼んだのかも知れない。「もしもの時はお前が撃て」という願い事。つまり魔王のフォートシルバーアームズのコアを破壊しろという内容。

 皆が悲しむ事を分かっていてやらせようとしている酷い人間、でも分かる……この『完成された世界』では誰もが一度は死を経験しているがそのうち一人は弾かれる存在を、なぜならば彼は“死んでいないからだ”。

 『まどかを守るためなのだろう?』遠くからそう聞こえたような気がした。今までの行いもキュゥべえへの憎しみも全部“想定内”の事として決められていた。そんな事がいまだに信じられないでいて、それでも嫌っていいから最後までやり通せ、と。

 

「……本当に最低……」

 

 ――大切なまどかの大切な人を殺す。まどかの願いを受けて彼女をこの手にかけてしまった事もある、だが今は違う。もはや殺す必要が無くなってしまった。魔女化になる心配もキュゥべえによる勧誘も、あとはワルプルギスの夜打倒……それで終わりだと思っていたのに。

 

「ほむらちゃん……」

 

 何かを感じたまどかはソっと手を握る。魔法少女の事を告げず自分で全てを終わらせようとしたあの頃、今も変わらず一人で抱え込んでいたようだ。魔王を思い出す「欲しいものを手にしたいならば、まず破壊する」無茶苦茶な言動だったが一理ある。

 彼女、暁美 ほむらは魔法少女の能力でもなく、誰からの命令でもなく、己の意思で初めて“過去との決別(リスタート)”を行った。まどかに悩みを打ち明けると言う強い意思で――。

 

――ニァオ――

 

 猫、その独特の鳴き声が聞こえた。振り替えってその姿は黒く扉が「開いていたのだろうか?」と思いながら仁美は優しく抱き変える、首にはタグが付いていてひらがなで『えいみー』と書かれていた。

 

「――――ッ!?」

 

 まどかの心臓は羽上がり“何処か”、そう何処かで見たことがある名前だった。それは夢の中……滅びを呼ぶ逆さの災厄の魔女が見滝原の町に来る前、そして暁美 ほむらよりも更に初めて出会ったキュゥべえとの契約の時だった。

 

 

 

 

――汝、美の祝福賜らば我その至宝、紫音の楔に繋ぎ止めん――

 

 『アブソリュートゼロ』絶対零度と名付けられたその魔法、町はずれの森の中でツバキの唄が響き渡る。腐蝕竜に吹き荒れる季節外れの猛吹雪は壊れた木片やガラス繊維、その哀しみを覆い隠すように降り積もった。

 だがそれでも人は人間は“誤解”と言う思惑が交際してしまう。『呉 キリカ(あるもの)』は邪心(とも)の為にキュゥべえに魂を売り渡そうとし、『中沢 かずま(あるもの)』は一方的な挑発(しんねん)をもって佐倉 夜桜に向かい散っていき、また『魔王 恭介(あるもの)』は今までの行い(きぼう)を、それにより佐倉 杏子から真の絶望を知る事となった。

 杏子(まじょ)は今だにご立腹のようで何を言っても聞き入れて貰えず、魔王も教会の破壊は自分のせいでは無いのに殴られた事に対しては不満満々(ふまんまんまん)だった。

 

「殴ったね! 親父には……やられたか。じゃあ、お袋にも殴られた事は……ないよね?」

『うん』

「――有り難う、お前だけが俺の味方だよ……」

 

 恭介(うで)魔王(から)だ、二人の友情が深まる。木々達の葉が風に揺れてまるで祝福しているようだ、小鳥はさえずりリスやカエルが見つめている。そして猛獣の叫びが木霊し辺り一面の木の葉をぶっ飛ばしてきた。

 魔獣、冷凍マグロのように氷ついたゾンビ竜は今だにしぶとく生きていて少しずつだかヒビが入る。物理攻撃は全くと言って良いほど効かないRPGに例えるならば全部“1”しかダメージを受けていないからだ。しかもあの重量、持久戦ならば明らかに不利。

 ――では、とお待ちかねのキュゥべいを探す。「コレ?」と差し出されたす巻きにされた地球外生命体の九番目を出される。魔王は感謝の意を唱えながら取ろうとしたらヒョイッ、と手から離れた。

 日向 華々莉(ひなた カガリ)、魔法少女であり幻術の能力を持つ。魔王の眉間にシワがより“このパターンは”と脳内トレースをした。辞書には『相手より先手』――魔王にとって当然の言葉を発した。

 

「キュゥべえはくれてやるから、さっさとあのデカブツを処分しろ」

 

 あ、と言ったカガリは言葉が詰まる、ニヤリとする魔王はここ一番でドヤ顔をした。近頃ろくな目に会ってない魔王、気分をよくした彼は一つ軽やかに唄い出す。

 

「何で魔法少女って勝手な奴が多いんだ? 何で魔法少女って勝手な奴が多いんだ? ドゥワッハッハー!!」

「私のせいで死んだのね?」

「そうなのね?」

 

 カンナに釣られてしまった魔王だが一瞬「ん?」となった。意味が分からないと聞いた相手先はフッと笑い答える。ナイトメア空間で魔王を殺したのは機能停止をしたあの魂の脱け殻の恭介、それは魔法で操れたらしく肉体の方に死んでもらったと。

 当然怒る魔王だったがカンナが“手にした情報”では魔王と恭介がセットじゃないとマズイと記されていたとの事。本当は人が良さそうな恭介を殺そうとし色気で近づいたら本当にホレてしまい“仕方がなく”魔王を殺したそうだ。

 「結果が同じならオールナッシン」と言うカンナ、本当に魔王似ていたが何かムカついた。同族嫌悪と言うか根本的に自分に重なるところが多々ある。となれば……。

 

「で、そちらはジュゥべえの強奪か?」

「正解、元の鞘と言うのが二重丸」

『じゃ――ジュゥべえ』

「ミスター……オイラ行くぜ」

 

 そう言って申し訳なさそうにジュゥべえがカンナの肩に乗る。あーあーあーと言いながら上条 恭介の片腕の方シルバーレフトは、スナップしつつもう片方ゴールドライトへとチラ見する。何か知っているみたいで「ゴメンね?」と謝って来きて少し頭が痛くなっていた。

 ――全く話は変わるが泣き崩れている佐倉家の大黒柱、夜桜を慰めている妻レミ。その娘の佐倉 モモは泣く訳でもなく織莉子、キリカ、えりかと一緒に杏子が供え物として持ってきた袋の元祖駄菓子、『ねるねるねるね』を練っていて中々のタフネスを持っていた。

 教会の大破、その事に関しては無論魔王にも少なからず後ろめたさがあったので上条コネクション経由による保健を裏口ルートで手配を完了。そして杏子ママ、レミに通達済みなのは流石と言うか抜かりは無い。

 ゲームランカーで聖団リーダーのかずまはズタボロのまま目を回し倒れ、妹のかずみとなぜか手伝わされているマミと杏子がうちわを懸命に扇いでいた。

 カガリも復活したツバキと色々な事、コレか事を話している。何処か継ぎ接ぎだらけで死んだ人間、それも魔法少女でも無い者達が生きて現世を歩いているならば、他の魔法少女や関係者もいる可能性が出てきた、と言う事。

 死んでいた方も今までは“普通に生きていた”と主張していた。別の並行世界からの可能性が全て交わっているのだから、キャストが全員生きていても不思議では無い。

 

「そう言えば恭介……いつ魔王と一緒になったの? シンクロはエレメントアームズか魔法少女だけたよね……まさか、掘」

「っていません。ハッテン場所にも公園のベンチで“やらないか”もしていません」

「じゃあ文字通り1P使っちゃったんだ」

『そう、さっき聞いた通り……ね、もう一人の僕』

「ぶ~ダメだよ? 仮にも恭介の体なんだからそんなにホイホイ死んじゃったら」

「チッ、二人でダメ出しすんな」

 

 もはや肉体の死など超越してしまったさやか、過去の世界では魔法少女=ゾンビと結論ずけてしまい、恭介とは恋をする事は出来ないと嘆いた同一人物とはとても思えられない。価値観が変わると人は変わるとよく言ったものだ。

 奇跡も魔法も有りはしない、ただ現実を受け入れるのみ。さやかだけではなく他の魔法少女も考え方が変わりつつある。

 

「さて、さっさとキュゥべえに詠唱させてさっさと帰るかなぁ~」

 

 “よっこらしょういち”とかなり古い江戸っ子の決まり文句をいいキュゥべえに近づく。グルグル巻きになったロープを引き剥がし口元のガムテープを取る。プルプル震えるキュゥべえはペコリと主に挨拶するとお約束の爆弾を投下した。

 

「……マスター“僕達”が暴走したよ」

「んなの見りゃわかるっつーの」

「じゃなくてクーデターだ『ジュゥべえの後』にだよ。それって攻撃するって事何じゃないかな?」

 

 状況整理、キュゥべえが管理システムを奪われたのはあの地下水道の戦いの最中。別動隊のマミ達が黒いキュゥべえ……つまりジュゥべえを見つけたと言っていた。その時に暗躍して乗っ取りに成功したのだろう。

 ネクスト、ジュゥべえは誰かにシステムを利用されたと言っていた。invadersの誰かなのはアームズレプリカを見ればわかる、データを利用し作製した犯人がいるからだろ。普通の人間はもちろん魔法少女でさえ介入出来ないのはDNAデータを経由しなければならないからだ。

 主な例は恭介、彼がいなければフォートシルバーアームズの能力半減によるセーフティがかかってしまい、魔女どころか魔法少女にさえ太刀打ち出来なくなってしまう。そこで出るのがチェーンゴールドアームズ、つまり恭介のエクシードとは恭介自信ではなく他者の力を解放する力。

 だが、それでもフルパワーを出していないのは魔王も理解している。キーワードになるモノそれは当然『バイオリン』、恭介が奏でるメロディが“始まりの螺旋”を起動出来するはずだ。

 課題休憩――魔王は恭介がいない時期があった頃『魔法少女に土下座をしてしまう』と言うふざけたバグが発生、本来なら心許した相手のみに行うクセのようなモノなのだが、強引に魔王と恭介が分裂した反動で処構わず土下座してしまう状態になっていた。

 ジャンケンの上下関係と言うか、こんな事を他の知り合いとかにバレたら魔王は失墜確定まちがいなしだろう……魔王は話しを進める。

 

「で、この魔獣どころかナイトメアも?」

「うん♪」

(なぜそこで喜ぶ)

 

 嫌な表情をした魔王にキュゥべえは満開な笑顔を見せる。色んな意味で王でありトップと言う事は外見はきらびやかなモノに見えても王とは結局、最終決断役であり相談係なのだ。

 なお、こんな関係に見えるがコレでも魔王を敬っている(自分から情報を教える事)。絶対に以前のキュゥべえを知る者ならば驚きモノだろう。

 

「そう言えばさ~カンナとカガリの学園ってどこだ、知っているだろ?」

茜ヶ咲(あかねがさき)にあすなろ市、電車で行ける距離だよ。なぜそんな事を……」

「……ゲヒャ♪」

 

 口元を吊り上げ笑うをする魔王はキュゥべえの疑問を無視し詠唱を“ジュゥべえと共に”開始させ、同時に恭介には『もう終わった』から寝ねてていいと促す。恭介自身も色々と疲れたので御言葉に甘えた。

 ……もう少し警戒すべきだった。天使は人間に対し正しき方向に行くため厳しい試練を与えるが、悪魔は人に優しくソッと静かに後悔の蜜の味をすするのだ。

 

「其は忌むべき芳命にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ、招かれざる者よ」

「我招く無音の衝裂に慈悲は無く、汝に普く厄を逃れ術も無し」

 

 不意にカガリは問う、なぜ物理召還魔法も行うのかと。魔王は答える、約束は守るその二匹はくれてやる。目をゆっくり開けコチラを見た目は右目は黒の輝きは失せ、左目のホワイトアイが光を増してゆく。

 ――持ち帰れるといいなぁ、この台詞が発射の合図。キュゥべえはひび割れが大きくなりつつある氷付けのゾンビドラゴンに光の柱を。

 そして、ジュゥべえが放たれた魔法は魔獣とは明後日の方向、無数の巨大隕石がふたてに分かれ飛来していった。ここまで来れば馬鹿でも分かる……おもむろに魔王はスマホを起動しラジヲチャンネルをニュース番組に合わせる。

 

『緊急速報です! 突如飛来した隕石はあすろな市にある学園に衝突したようで現在目下調査中との事!! ああ!? 更に隕石群の飛来を確認!! 進路は茜ヶ咲中学!! 生存者の安否が待たれています――」

 

 そこでスマホの電源を切る。フウと一息してたんたんと帰る準備をする魔王にカガリはチャクラムで切りかかってきたが、全開状態の魔王の敵ではなくあっさりと地面に叩き付けられた。魔王の全体重の下になり顔を銀の左手で押さえられながらも必死にカガリはもがく。

 

「ぐぅぅぅ!」

「何が不満だ? 約束通りキュゥべえとジュゥべえはやる」

「なぜ……こんな!!」

「ククク……貴様にしては随分と可笑しな台詞を吐く、“知ったぞ?”ツバサの復讐の為に魔法少女に成ったとか……」

「!?」

 

 カガリは驚き目を開く、止めてと小声ですがる彼女に対し魔王は知った事かと言う感じで続ける。

 

「それで……えーっと『すずか』か? ソイツの記憶を操作して……酷いな、妹のダチを皆殺しにしたのか」

「止めてええええええ!!」

 

 頭を抱え込みガクガク震え、当のツバサ本人は全くわからなかったが、怖がるカガリに近づきそっと抱こうときた時、突き飛ばす。繰り返し「私にそんな資格はない」といい放ちその優しさを拒絶をする。

 その様子に興味を無くした魔王は今度はカンナの方に振り向いた、一瞬ビックっと震えたが魔王は思っていた事とは別の言葉を発する。

 

「どうやら貴様の行動は俺のテストタイプのようだ。5人組の魔法少女にグリーフシードのコピー、そして実験……あとそんなに身構えるな」

「……オゥセンキュー、いくら何でも過去のトラウマをほじくり返されたくないからね」

 

 そう言いつつカンナはかずみの方を見る。彼女は彼女で何か思い出そうとしていた。魔王はおもむろにカガリにの頭を撫でるとさっきの事が嘘のようにスヤスヤと寝始めた。

 

「フム、ヤハリまだセカンドに行けないか……過去に一度“魔女化”しているはずだから可能かと思ったのだがな……」

 

 そうブツブツ言いながら歩く魔王、目線を下に向けて進んでいたら“通せんぼ”をしている存在に気づく。巴 マミに美国 織莉子、そして呉 キリカだ。

 魔王は邪魔臭いなと感じながらも、電車ですれ違う客のように避けるとその先をふさいで来た。

 

「……何だ、邪魔だな」

「分かるわよね」

「二つの学園の事だろう? マミ、既にここの教会と同じく保健は降りているぞ、何も問題無かろう」

「そうじゃない、そうじゃないよ」

「私たちの母校、元が付くけどね」

 

 続くキリカと織莉子、そして無言で立ち尽くす杏子。魔王はため息をし数歩後ろに下がり距離を置く……ノーモーションだがそれは戦闘体勢であり眼前の魔法少女を“敵 ”として認識している。

 

「前にも言ったが『無傷にして捕らえる』あれは取り消す、今回は叩き潰す。ただしソウルジェムは壊さないし肉体も破壊しない、極力な」

 

 低めの姿勢で突撃する魔王、一番接近が得意なキリカから責めてきた。突き上げる爪がキリカの爪を捉え圧していく、状況が悪いのは分かっていたが数秒足止め出来ればいい。

 マミ、織莉子、二人の魔法少女が魔王を中心に左右対称に分かれマスケットとオラクルレイを放つと同時にキリカは離脱する。金と銀の腕(そうしょく)の王は腕を大きく振り風を呼ぶ、夜桜とは別のどちらかと言えば風呂敷の要領で弾丸を弾く。

 だが、何発かは被弾した。魔王は恭介のスピーディーな戦士とは違いパワーファイター……力を持って相手をねじ伏せるのが基本スタイル。

 

「どおおおりゃあああ!!」

 

 煙から飛び出した魔王を狙って杏子が頭上からの一閃、ぎりぎりで回避し攻守交替と行こうとしたが杏子も馬鹿ではない。右足なら右下、左手なら左中、ゲーセンのダンスパネル感覚に違い動きで得意の中距離を保ちつつ魔王が進むであろう配置を予測しソコを攻撃する。

 さらにはアドバイザーである織莉子もテレパシーによる予知を行い鮮度をあげていく、キリカとは違い射程がある分杏子の方が一歩、魔王より有利だ。

 恒例の舌打ち、ステータスでは魔王(コチラ)が上でもベースとなる肉体は人間、いくら強化されようがいつかはバテる時が来てソコを狙ってくる。戦術としては正解だ――このまま行けば、の話だが。

 

「じゃあ織莉子でも――」

「行かせる……ッ!」

「とでもぉぉぉぉ!」

 

 魔王の言葉に紅槍と黒爪が襲いかかる。タッチダウン、勝負は決まったと思われる最中――抜け目の無い魔王は右手を出し召喚した物は『バイオリン』。弾き始める曲は“アヴェ・マリア”ラテン語で「こんにちは、マリア」と名付けられたその曲は恭介の十八番で次のステージに予定しているモノだ。

 魔王がいつも恭介の隣で聞いていたからその序曲は……どうせ全部鳴らせないし鳴らす必要も無くそれで十分だからだ。

 

「モードエクシード……開放、対象は当然この俺“魔王”だ」

 

 魔王の回りにフィールドのようなものがバチバチと発生し杏子とキリカの攻撃を防ぐ。それはあたかも『演奏中はお静かに』と言うべきモノで破れないでいた。無論こんなモノは能力でも無くただのエネルギーが放出しているだけの副作用、本当の能力はこれがだ。

 

「――力が新たに開放される、臨界を超えるエントロピー。そして己が祈りを捧げ、成立したのは契約……」

 

 ゆっくり目を開ける視線は何か訴えている様にも、そして悲しんでいる様にも見えた。唄うその詩はキュゥべえが魔法少女に契約する時の決まり文句。

 “彼等”の祖もと言える魔王ならば言える、言って当然なのだ。あとは拡張した能力で――と回りを見渡し始めるが……。

 

『……何をやっているんだい、魔王』

「う……」

 

 右目が黒々と輝き出し恭介が目覚めた。それは当然だ、勝手に人様の能力(もの)を使用するのはモノ取りと同じ犯罪だ。しかも寝ていたから大分体調が良く、魔王の考えが手に取る様に分かる。

 

「でもよぉ~」

『判るよ、この完結する“結合された世界”で次に来るワルプルギスを倒しても……いや、その先から()でる存在は――』

「フン、ソコまでわかっているならば」

 

 ベースとなる素材はアイスアームズ適合者、美琴 椿と無限の剣戦の美樹 さやか。左の腕を、銀の輝きを加速させモードシンクロを起動させる。

 

「さぁ、今度のFテイルズはチョッチ違うぜ?」

 

 光りが収縮されると、魔王はさやかの剣を握りしめていた。融合し他の魔法少女の力を自分の物とする、ソコまではよく知るシンクロだったが何か嫌な予感がした杏子。その静止を無視してキリカは斬りかる。

 衝撃と共に受け止めた剣先からは湯煙が立ちピキピキとキリカの爪を侵食していった。冷たく感じるその正体はアイスアームズ、その属性を上乗せし、防御がそのまま拘束している状態は正しく『攻防一体』である。

 

「シンクロの新能力、ネームはシンプルに“モードエンチャント”とかどう?」

「と、取れない~と言うか冷たッ!!」

「そらそうだ、そう言う能力だからな」

 

 のんきな言葉使いだが一刻と行く程()てついていく。結構ピンチだったりするキリカを助ける為、マミは死角となる魔王の背後に行き弾丸を撃つ。

 だか、その弾丸は跳ね返りマミ自身に危なく当たるところだった。杏子の方向にも飛んでいったらしく「何やってんだ!」と槍を振り回しながら怒っていた。

 ――リフレクト・ソーサリー、アームズスロット魔法の一つで足元に発生した魔法陣が一定時間展開し消えるまでは大抵の魔法を弾くという性質を持つ魔法。

 

「無論、お前の切り札『ティロ・フィナーレ』クラスの魔法なら無理だろうが、な」

「なら!!」

「当然させる訳が無い――()け、クールダンセル。我が敵を破砕しろ」

 

 剣を持つ精霊を構築、魔女の使い魔のデータを元に産み出したスロット魔法の一つ。光に反射しきらきらと輝く幻想的なその姿は魔王にしては珍しく洒落た魔法。

 魔王が別にさやかと合体したからとかではなく元々そう言う魔法なのだが……さやかは少し、と言うか大分嬉しかった。

 尚、なぜ恭介以下二名が喋らないかと言うと恭介の気配りで音声をオフにしているため。そしてもっとメタな言葉でいえばシリアスをぶち壊さない為。

 恭介とさやかとツバサのみでの限定的ながら念話は出来る。ツバサはなるほどと今後の戦術として、恭介とさやかは何処か気まずい雰囲気を出していた。

 

「クソ、キリカァ!! まだかよッ!?」

「ううう……杏子ぉ~まるで冷えきった夫婦関係のように寒々だよぉ~」

 

 引っ張っても引っ張っても取れない、四苦八苦している黒の魔法少女に赤の魔法少女の叱咤が飛ぶ。

 オラクルレイの閃光をバックライト変わりに杏子はマミのガードに入る。数は3体、対使い魔戦……その感覚と同じなのは見ての通り。マミがティロ・フィナーレを展開、その時間稼ぎをするのが三人の魔法少女の仕事だ。

 が、マミはエネルギーチャージとその場を離れず、キリカも魔王の策略で動けない。実質杏子と織莉子しか動ける者は居なかった。

 

「さぁ、破って見せろ……この状況を、な」

 

 クスリと笑う魔王の横顔は何処か愛し子を見る親の様にも見えた。



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