ラブライブ! Another おにぎり自転車と一輪の花 (伊崎ハヤテ)
しおりを挟む

大きな口を広げて食べる君は

そんなこんなで第一話です。

まだ手探りでストーリーは考えていますが、かよちんをかよちんらしく書きたいと思います。
推しの方にも、「これは小泉 花陽だ」と思ってもらえるように努力したいです。
それでは、どうぞ。

※1/7 本文の一部分を修正しました。手伝いを手伝ってたって何だよ。


音ノ木坂にある老舗の御握り屋、『五本指』。そこが伍原 隼の家であった。

「ただいま」

帰宅した隼を迎えたのは母親だった。

「あ、隼! ちょうどいい所に!」

 長身の彼の姿を見た母は助かったと言わんばかりの勢いでやって来た。

「あんた、おじいちゃんの代わりにおにぎりの売り出しに行って来て!」

「は、オレが?!」

 彼の祖父はおにぎりを詰めたボックスを自転車の荷台に積んで隣町の公園で売り出しをしている。そのことを隼は知ってはいたが、自分がやることになるとは思ってもいなかった。

「おじいちゃん、腰を痛めちゃってね。あそこにもお得意さんはいるからやらないわけにはいかないのよ」

「だからってオレがやるのかよ?」

「この店を継ぐならこれも修行の一つだと思いなさい。老舗『五本指』の専務の命令です。行ってきなさい」

 母が専務を名乗ったらもう言う事を聞くしかない、諦めた隼はため息をついた。

「わかったよ、行って来るよかーちゃん」

「専務と呼びなさい!」

 隼は渋々店の入り口へと向かった。

 

「何やってんだろうな、オレは……」

 夕焼けに染まる町を隼は自転車を漕ぐ。後ろの荷台には沢山のおにぎりが入ったボックスと、『五本指』と書かれた旗が乗せられている。

「いきなり代わりをやれだなんて……」

 図体のでかい隼には祖父の使っていた自転車は少し乗り辛くて。足が上手く動かせず、ふらふらと不安定な動きになってしまう。

 乗るのは諦めて自転車から降りて引っ張ることに。スピードは遅いが、速足でいけば時間には着くだろう。

「あ、イッキーだ!」

 そんな隼に声をかけるサイドポニーの女の子。高坂 穂乃果。隼の一つ上の幼なじみだ。

「お、穂乃果」

「その自転車どうしたのー? 旗までくっつけて!」

 穂乃果の指摘に苦笑いしながら自分が陥った状況を説明してやる。

「ふーん、隣町まで出張営業かぁ……。そうだ! 穂乃果も手伝おっか!」

 ずいと顔を詰めてくる。隼は彼女の考えを読む。

「手伝うとか言ってお前、公園で子供達と遊ぶ気だろ?」

「えへへ、バレた?」

「バレバレだ。何年幼なじみやってると思ってるんだ?」

「十年!」

「元気よく答えりゃいいってもんじゃねえ」

 軽い漫談をやっていると、隼ははっとなる。

「やべ、時間がない! オレ行くわ!」

「あ、穂乃果もお父さんから大事な話があるから早く帰って来いって言われてるんだった!」

 じゃあな、うん、と互いに背を向けて走り出す。

「イッキー!」

 突然後ろからの穂乃果の声に足を止め、振り返る。

「ファイトだよっ!」

 両腕を胸の前にやってのポーズ。彼女がよくやるポーズだ。それに対して隼の返しは決まっている。

「おうっ!」

 右腕に左手を置いて力を込める。それを見た穂乃果はにっと笑った。そして今度こそ背を向けて走って行った。彼女のポーズを見ると何となく力が湧いてくるのを感じる。

「急ぐか!」

 自転車を引っ張って走る足に更に力が入った。

 

「着いたのはいいけど……」

 隼は母に指定された公園で立ち尽くしていた。どうすればいいのかよくわからず、スマホで母に指示を求める。するとすぐに返事が届いた。

『しばらくそこで待てばあんたと同じ歳の子が手伝ってくれるはず。その子を待て』

「待てってもな……」

 一度も顔を見たことない奴と手伝いをしろと言われて、はいそうですか、と簡単に了承できるはずがない。隼はため息をついて公園を見渡す。

夕陽が遊具を染めてもなお、子供達はその遊具で遊んでいる。

「最近の子供にしては遊具で遊んでるんだな」

 その様を見て懐かしさがこみ上げる。

―よく暗くなるまで穂乃果や海未、ことり達とよく遊んでたっけ―

「あ、あの――」

 隼の回想を振り払うように声がかけられる。

「んぁ?」

 せっかくの楽しい思い出に水を注された形になった隼は少し不機嫌な返しをしてしまう。

「あ、ご、ごめんなさい! お邪魔でした?」

 声をかけてきたのは、自分と同じ年位の女の子だった。ボブと呼ばれる髪型に、桃色の瞳。チェックのスカートからは黒いタイツに包まれた脚が伸びる。そのスカートの柄は、さっき会った穂乃果と同じもので、隼はこの子も穂乃果と同じ学校の子だと悟った。

「あ、こっちこそ悪い。何か用?」

「あの、御握り屋さんですよね。その旗」

 図体のでかい隼に少し怯えているのか、恐る恐る自転車に付けられた旗を指さす。

「ああ、そうだよ。いつもはうちのじーちゃんがやってるみたいだけどな。今日は腰を痛めて、代わりにオレがやってる」

 極力女の子を怖がらせないように話す。彼女は隼の言葉にえっと息をのむ。

「え、おじいちゃんの具合は大丈夫なんですか!?」

「まあぎっくり腰みたいだし、しばらくは無理そうだな」

「そうなんですか……」

 彼女はしゅんとしている。暫くの沈黙の後、隼は気付く。

「もしかしてキミは、いつもじーちゃんを手伝ってるって子か?」

「あ、はい。小泉 花陽って言います」

 花陽と名乗った女の子はぺこりと頭を下げる。

「キミが手伝ってくれるってお袋からは聞いてるんだけど、何を手伝ってくれるんだ?」

「はい、いつもはおじいちゃんと一緒に『おにぎりはいりませんかー』って宣伝するんです。するとお客さんが来るからおにぎりを売ればいいだけです」

「つまり、呼び子になってくれるってこと?」

「はい、花陽はおじいちゃんにお世話になってましたから、お手伝いしたいんです」

 隼は彼女の瞳を見る。その優しい瞳からは真剣さが伝わってくる。隼はこの子が言っていることに嘘はないと確信した。

「わかった。オレもこの仕事をするのは初めてだから助かる。よろしくな、小泉さん」

「あ、は、はい! こっちこそよろしくお願いします!」

 そのオドオドした態度に初々しさを感じながらも隼は準備を始めた。

 

「みんなー! おにぎり屋さんが来たよー! お腹が空いてる子は集まれー!」

 花陽の声に公園で遊んでいた子供達の視線が一気に隼達へと向いた。そして歓喜の声と共に子供達が押し寄せてきた。

「い、伍原さん! 私がおにぎりを配りますから伍原さんはお金の方をお願いします!」

 さっきのオドオドした少女の面影はどこにもなく、その真剣な眼差しに圧倒される。

「わ、わかった!」

 花陽は開かれたボックスからおにぎりを取り出し、子供達に配っていく。

「はい、どーぞ」

「わー! はなよおねえちゃんありがとう!」

「お礼と、お金は隣のおにいさんにあげてね」

「うん!」

 子供達はおにぎりを受け取ると、隼の方へ行き、百円玉を一つ差し出す。

「おにーさん! これ!」

「はいよ、まいどあり」

 隼は子供達を怖がらせないように笑顔を作りながらそれを受け取っていく。

「伍原さん、双子さん二人分の勘定お願いします!」

「あいよ!」

 少し前に会ってそれほど時間が経っていないのにも関わらず、二人は連携しておにぎりを売っていった。

 

「これで、全部売ったな」

「はい、完売です!」

 ふっと息をつく隼に花陽は笑顔を向ける。その笑顔につられて隼も笑う。

「それで、花陽の分は……」

「え?」

「あ、ごめんなさい、言い忘れてましたね。おじいちゃんは売り物とは別にもう一つおにぎりを用意してくれてるんです。手伝ってくれたお礼にそれを貰ってるんです」

「そうなのか。でも、全て売っちまったな」

「あ、そっか。完売でしたからね……」

 花陽はしゅんとして視線を落とす。本当に残念がっている表情だった。

「ごめんな、勝手がわからなくてキミの分まで売っちゃって……」

「いいんです、花陽が甘え過ぎてただけですから……」

 力なく笑う彼女を見て、なんとかしてあげたいと思った隼はもう一度ボックスの中を覗く。すると大きなおにぎりが二つ。

「そういえば入れてたな……」

 図体がでかい隼が握った大きなおにぎり。大きすぎて誰も買ってくれず、ここでなら売れるかもと期待してボックスの奥に突っ込んでいた。子供達が商売の相手なので売れないなと考え、売り物にしなかったのだ。

「あのさ、じーちゃんが握ったものじゃないんだけどさ」

「はい……?」

「オレの握ったこのでか過ぎるこいつでよければ……」

 隼がボックスから子供達に売った代物よりも三倍も大きなおにぎりを取り出した。それを見た瞬間、花陽の桃色の眼は大きく見開かれた。

「うわぁ~! おっきなおにぎりだぁ~。おいしそう~」

 瞳は輝き、口からは涎が出そうな勢いだった。それを見ている隼の視線に気がついたのか、身を乗り出していた花陽は距離をとる。

「ご、ごめんなさい! 花陽ったら……」

 慌てる彼女につい笑みがこぼれる。そんな彼女に隼はおにぎりを差し出す。

「いいよ、オレが握ったこいつでよければ食べな」

「え、いいんですか?!」

「ああ。オレ一人じゃ売れなかっただろうしな。これはオレからのお礼だ。一つやるから少し休憩しようぜ」

「はい!」

 今までで聞いた中で一番元気な返事だった。

 

「これを毎週手伝ってたのか?」

 公園のベンチに座って隼は花陽に尋ねた。祖父の道楽とも言えるこの仕事を手伝ってくれる人がいたことに驚いた。どうして手伝っているのか不思議に思えた。

「花陽が小さな頃、この公園におじいちゃんがやってきてくれたんです」

 両手で大きなおにぎりを持ち、それに視線を向けながら彼女は語る。

「花陽は、ご飯が大好きでおにぎりも大好きだったから、おじいちゃんのおにぎりを毎週楽しみにしてたんです」

 彼女の視線は自転車へと移る。自転車から伸びる旗が風に揺らめいている。

「そんなおじいちゃんのおにぎりは、花陽以外買ってくれる人はそんな多くはなかったんです。このおいしいおにぎりを、もっと他の人にも食べてもらいたい、そう思ってお手伝いを始めたんです」

 隼の方を向いてにこりと笑う。その優しい笑顔に隼は心が温かくなるのを感じた。

「そうか、毎週じーちゃんがわくわくしながら自転車を漕いでいた理由がわかったよ。小泉さんがいたからなんだな」

「いえ、私なんか! 花陽はいつもおじいちゃんの邪魔をしてんるんじゃないかって心配で……」

「そんなことはないと思うぞ。じゃなきゃ場所を変えてる」

「あ、そうですね……」

 励まそうと肩を叩こうとしたが、驚かれちゃ駄目だと思いなおし、笑顔で応えることにした。

「ま、今日はじーちゃんへの日ごろの感謝の代わりに、オレのおにぎりを食べてくれや」

「あ、はい!」

 元気な返事に笑顔が零れる。

「いただきま~す」

 花陽は三角の頂点を頬張る。眼を瞑って咀嚼している彼女の横で隼も食べることにした。

 自分が握ると大きくなってしまうおにぎり。花陽は見ただけで嬉しそうな顔をしてくれたけど、食べたらどんな反応をするだろうか? それが気になって食べる口を止めて彼女の方を見た。

「ん~……。おいし~♪」

 眼を細め、顔を上気させてぱくぱくとおにぎりを食べている。

「ふんふふ~ん♪」

 美味しいと思ってくれているのか、小さく鼻唄が聞こえてくる。それが嬉しくて隼はおにぎりを食べる花陽を微笑みながら見ていた。

「……? あの?」

「え?」

 突然彼女が食べる口を止め、こちらを見てくる。しまった、見過ぎたか、と隼は後悔した。

「あの、どうして泣いてるんですか?」

「え?」

 花陽に指摘され、眼の下をなぞる。彼女の言った通り湿っていて、涙が流れていた。

「あ、あの! このおにぎり、もしかして大事なものだったんですか? それなら――」

「いいんだ。大丈夫」

 涙を拭い笑顔を作る。それでも彼女は心配そうな顔でおにぎりを持ったままこちらを覗きこんでいる。

「オレはさ、こう、デカイだろ、図体がさ。で握るおにぎりも、こんなにデカくなっちゃってよ。あんまり食べてもらえる人いなかったんだ」

 自分の手にある半分位になったおにぎりに視線を落とす。

「だからさ、こんなオレのおにぎりを美味しそうに食べてくれる人がいて、嬉しかったんだ。だから、かな」

 説明している最中にも視界がジワリと滲む。それを無理やり拭い去り、苦笑い。

「おかしいだろ? こんな身なりの男がさ、こんな繊細なことで悩んでるんだぜ?」

 それを聞いていた花陽はずいと隼に迫った。

「そんなことないです! 誰だって自分が作った料理を食べてもらえなかったら寂しくて、悲しいですよ!」

 少し鼻息を荒くして迫る花陽に隼は驚いていた。普段はオドオドしているのに、スイッチが入ると奥に隠れていた情熱が顔を出す、小泉 花陽はそんな子なんだなと理解した。

「それに、伍原さんのおにぎり、美味しいですよ? 花陽が保障します」

 にこっと笑う彼女の顔が眩しくてまた涙腺が緩む。それを悟られないように隼はおにぎりを食らった。

 

「おにぎり、ごちそうさまでした」

 丁寧に花陽は頭を下げる。ただでさえおいしく食べてもらえた上にお礼までされて、隼は少し戸惑っていた。

「いや、こちらこそおそまつさまでした」

 ふふ、はは、と互いに笑い合って花陽が尋ねてきた。

「そういえば、おじいちゃんの具合は大丈夫なんですか?」

「ああ。ぎっくり腰をやらかして、痛めたらしくてな。すぐにはこの仕事に復帰は無理だろうな」

「そうですか……」

 花陽のしゅんとした顔を見て、隼は口を開いた。

「オレ、来週もここに来るよ。そしたらさ、小泉さんも手伝ってくれるか? またオレのでよかったらおにぎり作ってくるからさ」

「本当ですか?」

 花が咲いたようにぱぁっと表情が明るくなる。それに隼は笑顔で応える。

「おう。元々はお袋に押し付けられた仕事だけど、小泉さんや多くの人にオレのおにぎり食べてもらいたいからな」

「はい! 花陽も伍原、さんのおにぎりをもっと多くの人に食べてもらいたいです!」

「ありがとよ。じゃあ頑張って沢山握ってくるわ」

「頑張って下さい! 花陽、応援してます!」

「さっそく家に帰って仕込みでもしようかな。じゃあ、またな」

「はい、また!」

 一は自転車を引いて彼女と別れた。少し歩いて後ろを振り向いた。ゆっくりと歩く花陽の後ろ姿が見える。

「また、か」

 笑みがこぼれる。これから週に一回の楽しみが増えた。そう思う隼の脚は行きの時よりも軽かった。

 




かよちんの薄い本って本当に少ないや。凛ちゃんよりもないのはどうしてだろう? というか、俺嫁派よりもカップリング派が多いのが現実。やっぱ需要無いのかなぁ、こういうの。では反省を。

 おにぎりの自転車売りって何だよ。自分で突っ込みたくなりました。飴とかアイスキャンディーを自転車で売っていたのは70年代と聞きます。音ノ木はそういった昔の伝統を引き継いでいるという設定でどうか一つ。
 やっぱり困るのはかよちんの髪の表現。メンバーの中で一番微妙な長さなんだよな、彼女。ボブって名称で合ってますよね? 間違っていたら修正します。

 穂乃果編と違ってまだ手探りな感じでのスタートなので、ご意見ご感想お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 30~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。